夕焼け空の見守り手達 (片倉政実)
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番外回 キャラクター設定

政実「どうも、片倉政実です」
鷹明「どうも、羽沢鷹明です」
政実「ここでは、鷹明達主人公組と咲也達のようなオリジナルキャラの設定を書いていきます」
鷹明「えーと、確かイメージCVみたいなのも一応決めてここに書いてあるんだっけ?」
政実「そうだね。尚、イメージCVに関しては、作者がある共通点を決めた上で当てはめていった物なので、他にあっている人がいると思った方がいましたら、感想などに書いて頂けると嬉しいです」
鷹明「さて……それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・鷹明「それでは、どうぞ」


【メイン主人公】

 

 名前:羽沢鷹明(はざわたかあき)

 年齢:17

 性別:男

 イメージCV:阿部敦

 所属校:羽丘学園中等部→羽丘学園高等部

 クラス:3-A→2-A

 部活動:演劇部

 趣味:読書、音楽鑑賞、菓子作り、料理など

 特技:ピアノの演奏、声帯模写

 好きな物:平和、家族や友だち、日なたぼっこなど

 嫌いな物:騒がしいもの、孤独など

 

 

 ガールズバンド『Aftergrow(アフターグロウ)』のキーボード担当である羽沢つぐみの兄で、ガールズバンド支援グループ兼学生バンド『Twilight(トワイライト)』のリーダーであり、バンド内ではキーボードを担当。

 幼少期は、自分から他人に話し掛ける事すら出来ない程の引っ込み思案だったが、青司と兎亜との出会いをきっかけにその性格は徐々に変化した結果、今では物静かだが明るい性格となり、青司達との間のみならずボケる知り合いに対してもツッコミを入れていくまでになった。しかし、鷹明本人は自覚が無いものの、少々天然なところがあるため、その時だけは青司からツッコミを入れられている。

 両親が営む喫茶店――『羽沢珈琲店』の手伝いを昔から積極的にしている事から、コーヒーなどを淹れるウデや料理のウデは高く、鷹明が淹れるコーヒーを大好物と称する青司以外の友人からもコーヒーを淹れて欲しいと頼まれる事が多い。

 演劇部では、主に裏方を担当しているが、同じ演劇部に所属する瀬田薫から時々練習相手を兼ねた演技指導を受けている事もあり、演技力自体はそれなりに高い。そのため、やむを得ない場合においては、役者として舞台に上がる事もある。

 

 

【サブ主人公】

 

 名前:美竹青司(みたけせいじ)

 年齢:17

 性別:男

 イメージCV:森久保祥太郎

 所属校:羽丘学園中等部→羽丘学園高等部

 クラス:3-A→2-A

 部活動:剣道部

 趣味:料理、昼寝、ガーデニングなど

 特技:手品、渾名付け

 好きな物:鷹明が淹れたコーヒー、食べる事、家族や友達など

 嫌いな物:理不尽、曇り空など

 

 

 ガールズバンド『Aftergrow』のボーカル兼ギター担当である美竹蘭の兄で、ガールズバンド支援グループ兼学生バンド『Twilight』の副リーダーであり、バンド内ではボーカルとギターを担当。

 幼少期に兎亜と偶然出会った際、お互いに何となく仲良くなれそうという理由で仲良くなり、その直後に鷹明とも同じ理由で友達になった。その後もそのわけ隔てなく接する性格で、先輩後輩関係なしに次々と交友関係を広げているが、基本的には鷹明達と一緒にいる事が多い。

 友人に対して2つ名のような渾名をつける事を特技と自称しており、何か特徴がある友人や自らそれを求める友人に対しては積極的につけていくが、鷹明達――鷹明の名前を縮めて『タカ』と呼ぶ以外は、しっかりと名前で呼ぶようにしている。

 勉強はあまり好きでは無いが、授業を真剣に聞かなくともテストでは好成績を収める事が出来るため、授業中は居眠りや落書きをしている事がある。

 鷹明達5人組の中では、主にボケを担当しているが、鷹明が天然な言動をした時だけは、鷹明とは逆でツッコミに回っている。

 

 

 名前:宇田川兎亜(うだがわとあ)

 年齢:17

 性別:女

 イメージCV:生天目仁美

 所属校:羽丘学園中等部→羽丘学園高等部

 クラス:3-A→2-A

 部活動:女子バスケットボール部

 趣味:料理、

 特技:現在は無し

 好きな物:家族や友達、食べる事、鷹明が淹れるコーヒーなど

 嫌いな物:ハッキリとしない物、曇り空など

 

 

 ガールズバンド『Afterglow』のドラム担当である宇田川巴と『Roselia(ロゼリア)』のドラム担当である宇田川あこの姉で、ガールズバンド支援グループ兼学生バンド『Twilight』のメンバーであり、バンド内ではボーカルとギターを担当。

 青司同様、分け隔てなく接する性格のため、幼少期に出会った青司と鷹明とはすぐに友達となり、その後も次々と交友関係を広げ、現在では男女関係なく友達が多いが、基本的には鷹明達と一緒にいる事が多い。そして、ノリが良い上にとても世話好きなため、クラスメートが抱える問題にはよく首を突っ込んでおり、そういった経緯から一部を除いたクラスメート達からは『姉御』という愛称で親しまれている。

 

 

 名前:上原太陽(うえはらたいよう)

 年齢:15

 性別:男

 イメージCV:代永翼

 所属校:羽丘学園中等部

 クラス:1-B→3-B

 部活動:演劇部

 趣味:料理、裁縫、菓子作りなど

 特技:ぬいぐるみ作り

 好きな物:家族や友達、甘い物、日向ぼっこ、鷹明が淹れる紅茶など

 嫌いな物:昼寝やのんびりタイムを邪魔される事、雷など

 

 

 ガールズバンド『Afterglow』のベース担当である上原ひまりの弟で、ガールズバンド支援グループ兼学生バンド『Twilight』のメンバーであり、バンド内ではドラムを担当。

 元々は、幼少期のひまりに連れられてきた事で、鷹明達と出会う事になったが、後の『Afterglow』のメンバー5人が遊んでいる際に鷹明達に面倒をみてもらっていた事がきっかけで、鷹明達と仲良くなった。

 基本的には誰とでも仲良くなれる性格をしているが、特に同い年である桃との仲は良く、二人が揃って話をしている様子が周囲にとってはとても微笑ましく見え、見ているだけで心が穏やかになる事から、鷹明達からはその二人の様子が作り出す物を『ぽわぽわ空間』と呼ばれている。

 普段は大人しく明るい性格をしており、あまり怒る事は無いが、昼寝中に無理やり起こされたり楽しみにしていた物を横取りされたりした際は、ニコニコと笑いながら怒り出す。

 

 

 名前:青葉桃(あおばもも)

 年齢:15

 性別:女

 イメージCV:南條愛乃

 所属校:羽丘学園中等部

 クラス:1-B→3-B

 部活動:家庭科部

 趣味:散歩、読書、料理、昼寝など

 特技:現在は無し

 好きな物:家族や友達、日向ぼっこ、鷹明が淹れるココアなど

 嫌いな物:急かされる事、雨(嫌いというよりは苦手)

 

 

 ガールズバンド『Afterglow』のギター担当である青葉モカの妹で、ガールズバンド支援グループ兼学生バンド『Twilight』のメンバーであり、バンド内ではベースを担当。

 太陽同様、元々は幼少期のモカに連れられてきた事で、鷹明達と出会う事になったが、後の『Afterglow』のメンバー5人が遊んでいる際に鷹明達に面倒をみてもらっていた事がきっかけで、鷹明達と仲良くなった。

 話し方はハキハキとしており、様々な物に常に興味を向ける好奇心旺盛な性格をしているが、時々姉のモカのような少し間延びした話し方をわざとする事もある。

 基本的に誰にでも分け隔てなく接するため、友達自体はとても多いが、特に太陽との仲は良く、太陽と一緒にニコニコと笑いながら話す事で、様々な人物の心を穏やかにする『ぽわぽわ空間』と呼ばれる物を作り出す。

 

 

【その他オリジナルキャラ】

 

 

 名前:奥沢咲也(おくさわさくや)

 年齢:17

 性別:男

 イメージCV:赤羽根健治

 所属校:羽丘学園中等部→羽丘学園高等部

 クラス:3-A→2-A

 部活動:男子テニス部

 趣味:音楽鑑賞、読書、料理など

 特技:現在は無し

 好きな物:家族や友達、甘い物、鷹明が淹れるコーヒーなど

 嫌いな物:寒さ(嫌いというよりは苦手)、湿気

 

 

 ガールズバンド『ハロー、ハッピーワールド!』のDJ担当である奥沢美咲の兄。

 鷹明達とは、羽丘学園の入学式で出会い、その日の内に仲良くなった。その後も鷹明達とはクラスメートであり、昼食も一緒に取る事もある。

 妹の美咲とは、別々の学校に通っているが、これは花咲川女子学園が女子校だったためで、花咲川女子学園が羽丘学園のような共学だった時は、花咲川女子学園に行く予定だった。しかし、今の鷹明達との羽丘学園での学校生活をとても気に入っており、自分の選択は間違ってなかったと感じている。

 太陽と桃とは鷹明経由で仲良くなり、太陽は甘い物が大好きという共通点がある上、時々他のメンバーも混ぜてスイーツ巡りをしている。

 

 

 名前:花園恵明(はなぞのよしあき)

 年齢:17

 性別:男

 イメージCV:佐藤拓也

 所属校:羽丘学園中等部→羽丘学園高等部

 クラス:3-A→2-A

 部活動:サッカー部

 趣味: ウサギの餌の創作、料理、ランニングなど

 特技:ウサギの種類当て

 好きな物:家族(ウサギも含む)や友達、運動全般、鷹明が淹れるコーヒーなど

 嫌いな物:雨、辛い食べ物など

 

 

 ガールズバンド『Poppin′Party(ポッピンパーティー)』のギター担当である花園たえの兄。

 咲也同様、鷹明達とは羽丘学園の入学式で出会い、その日の内に仲良くなった。その後も鷹明達とはクラスメートであり、昼食を一緒に食べる事もあり、休日にはどこかへ出掛ける事もある。

 妹のたえとは、別々の学校に通っているが、これは花咲川女子学園が女子校だったためで、花咲川女子学園が羽丘学園のような共学だった時は、花咲川女子学園に通う予定だった。しかし、今の鷹明達との羽丘学園での学校生活もとても気に入っており、自分の選択は間違ってなかったと感じている。

 妹のたえ同様、ペットのウサギ達をこよなく愛しており、生徒手帳にはウサギ達の写真が入っている。

 

 

 名前:白金凛人(しろかねりんと)

 年齢:13→15

 性別:男

 イメージCV:高垣彩陽(たかがきあやひ)

 所属校:羽丘学園中等部

 クラス:1-B→3-B

 部活動:弓道部

 趣味: ネットゲーム、音楽鑑賞(主にクラシックやゲーム音楽)、読書、料理など

 特技:現在は無し

 好きな物:家族や友達、紅茶や甘い物、静かな時間など

 嫌いな物:曇り空、ルール違反、暗いところなど

 

 

 ガールズバンド『Roselia』のキーボード担当である白金燐子(しろかねりんこ)の弟。

 太陽達とは、入学式の日に出会い、そのまま話をしている内に意気投合し、友達となった。その後も太陽達とはクラスメートであり、一緒に昼食を食べたり休日にどこかへ出掛けたりする事もある。

 姉である燐子とは、それぞれ別の学校に通っているが、これは花咲川女子学園が女子校だったためと姉に甘えがちである自分を変えるため。そして、燐子とあこが知り合ったきっかけとなったネットゲームが自分も好きなため、時々二人に混ざって一緒にプレイをしている。尚、基本的にはゲームは1日1時間派だが、燐子あこ両名から頼まれた時やイベント開催期間中は例外。

 

 

 名前:市ヶ谷有珠(いちがやありす)

 年齢:13→15

 性別:女

 イメージCV:矢作紗友里(やはぎさゆり)

 所属校:羽丘学園中等部

 クラス:1-B→3-B

 部活動:書道部

 趣味: 写経、読書、芸術鑑賞、料理など

 特技:書道

 好きな物:家族や友達、緑茶と菓子など

 嫌いな物:湿気、極端な温度など

 

 

 ガールズバンド『Poppin′Party』のキーボード担当である市ヶ谷有咲(いちがやありさ)の従妹。

 太陽達とは、入学式の日に出会い、そのまま話をしている内に意気投合し、友達となった。その後もクラスメートであり、一緒に昼食を食べたり休日にはどこかへ出掛けたりなどしている。

 従姉の有咲とは別の学校に通っているが、これは自分の家が花咲川女子学園よりは、羽丘学園の方が近かったため。

 有咲がツッコミ気質なのに対し、有珠はボケ気質であり、有珠のツッコミを結構気に入ってるため、隙あらばツッコミをさせるためにボケ発言を口にする。しかし、有咲自身の事も好きなため、人目も憚らず有咲に甘える一面もある。

 

 

 名前:白鷺聖也(しらさぎせいや)

 年齢:13→15

 性別:男

 イメージCV:渡辺明乃(わたなべあけの)

 所属校:羽丘学園中等部

 クラス:1-B→3-B

 部活動:サッカー部

 趣味: 演劇鑑賞、サッカー観戦、運動、料理など

 特技:リフティング

 好きな物:家族や友達、晴れの日、紅茶と甘い物など

 嫌いな物:曇り空や雨、曖昧なものなど

 

 

 ガールズバンド『Pastel Palettes(パステルパレッツ)』のベース担当である白鷺千聖(しらさぎちさと)の弟。

 太陽達とは、入学式の日に出会い、そのまま話をしている内に意気投合し、友達となった。その後もクラスメートであり、一緒に昼食を食べたり休日にはどこかへ出掛けたりなどしている。

 姉である千聖とは別の学校に通っているが、これは花咲川女子学園が女子校だった事や自分の姉の事で周囲から騒がれる事が嫌いなため。しかし、千聖の事は素晴らしい姉だと思っており、嫌いというわけでは無いため、家では勉強を教えてもらったり慰労のために何かを作ったりと関係は非常に良好。

 千聖の幼馴染みである薫とも親交はあるが、聖也はどちらかと言えばツッコミ気質なため、薫の発言に対してはしっかりとツッコミを入れながらも多少呆れている節がある。しかし、その演技力や人を惹きつける力には憧れを抱いており、演劇部の舞台がある際は、予定が無い限りは見に行くようにしている。




政実「以上がキャラクター設定となります」
鷹明「作中で新しいオリジナルキャラや情報が出たら、更新はしていくんだっけ?」
政実「そうだね。まあ、他のところでも同じ事を言っておいて、中々更新出来てないから、こっちもそうなりそうだけど、何とかやってみるつもりだよ」
鷹明「分かった。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしています」
政実「さてと、それじゃあそろそろ締めていこうか」
鷹明「ああ」
政実・鷹明「それでは、また本編で」


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序章 物語の始まり 第1話 籠の鳥の羽ばたきと物語の始まり

政実「どうも、初めましての方は初めまして、他作品を読んで頂いている方はいつもありがとうございます。作者の片倉政実です。
今回から、今作品の投稿を始めさせて頂きます。色々と至らない所はあるかもしれませんが、皆さんに楽しんで読んで頂けるよう頑張って参りますので、応援の程よろしくお願いします」
鷹明「どうも、この作品のメイン主人公の羽沢鷹明です。これから作者と一緒に頑張っていきますので、同じく応援の程よろしくお願いします」
政実「さてと……それじゃあそろそろ始めていこうか」
鷹明「ああ」
政実・鷹明「それでは、第1話をどうぞ」


 まだ小学生にもなっていなかったくらい小さかった頃、喫茶店を営む両親が忙しそうに見えたため、小さいながら何か手伝えないかと思い声を掛けた。すると、両親は揃って「こっちは大丈夫だから、近所の公園で遊んできなさい」と言い、俺は少し気は進まなかったものの、その言葉に素直に従った。この頃、俺は引っ込み思案な性格だったため、仲の良い友達というのは一人としていなく、外で遊ぶという事も中々やりたがらなかったため、いつも家で一人で本を読んでいたり妹の相手をしたりしながら遊ぶか両親の仕事風景を眺めている事しかしていなかった。なので、両親からすれば公園で同い年の子と何かのきっかけで仲良くなり、その子達に引っ張られる形でも良いから、外で遊ぶようになって欲しいという思いがあり、こんな事を言い出したんだと今でも思っている。そして、そのまま一人で公園の近くまで来た時、公園内から同い年の子達が上げる楽しそうな声が聞こえ、俺はその場に静かに立ち止まった。

「はあ……本当に不安だなぁ……。友だちは欲しいけど、誰かに話し掛けるなんてとてもじゃないけど出来ないし……」

 そんな事を独り言ちてみたものの、このまま帰る事も出来なかったため、俺は暗い気持ちを抱えたまま再び歩を進めた。そして、そのまま公園内に入ろうとしたその時だった。

「おーい! そこのお前!」

 後ろからとても大きな声が聞こえ、それを疑問に思いながら後ろを振り向くと、そこにいたのは同い年くらいに見える活発そうな顔付きの黒い短髪の男子ととても綺麗な顔立ちの長い青みがかった黒髪の女子の2人で、2人ともとても良い笑顔を浮かべながら俺の事を見ていた。

「……僕に何か用?」

 少しだけ警戒心を抱きながら小首を傾げて訊くと、2人はそれに対して同時に小さく頷き、男子の方がニッと笑いながら楽しそう様子で答えた。

「へへっ、お前が面白そうな奴だと思ったからちょっと話し掛けてみたんだ!」

「面白そうって……どこが?」

「んー……どこがっていうわけじゃなく、何となくだな。な、アンタ」

「そうだね。何となく仲良くなれそうだったからとりあえず話し掛けた。これが1番近いかもしれないね」

「何となく仲良くなれそうだったから……」

 何というか……スゴいなぁ。そんな理由で知らない子に話し掛けていけるなんて僕には出来そうもないから、そういう事が出来るのはちょっと羨ましいかも……。

 名前も知らない2人に対してそんな羨望にも似た思いを抱いていた時、俺はふとある事が気になった。

「……あれ? そういえば、君達は友達同士なの?」

「んー……まあ、似たようなもんだよな?」

「うん。と言っても……ついさっき、この近くで出会ってちょっと話したくらいだから、まだお互いの名前も知らないけどね」

「そ、そうなんだ……」

 そういえば、さっき男の子の方が女の子の方を名前じゃなく『アンタ』って呼んでたっけ……。そう考えると、本当にこの子達ってスゴいのかも……。

 2人の事を見ながらそんな事を考えていたその時、不意に俺の目の前に2人の手が伸び、それに俺が驚いていると、2人は笑顔で頷きながら静かに口を開いた。

「そして、お前もこれからは俺達の友達だ」

「その通り。まあ、まだ君の名前も知らないけど、これから名前を教え合えば良いし、それほど問題はないよね」

「友達……」

 呟くようにその言葉を口にし、しばらく2人の手をボーッと眺めた後、俺はニコッと笑いながらその手を取った。

「……うん! これからよろしく!」

「おう! これからよろしくな!」

「ふふっ、これからよろしく」

 これが俺――羽沢鷹明(はざわたかあき)と大切な幼馴染みである美竹青司(みたけせいじ)宇田川兎亜(うだがわとあ)の出会いであり、今までの生活ではあり得なかった出来事が待つ扉を開けた瞬間でもあった。

 

 

 

 

「……ふう」

 それから約10年後、羽丘学園の中学3年生となった俺は、父さん達が営んでいる喫茶店――『羽沢珈琲店』のカウンター席に座り、目の前に置かれた珈琲を飲みながら穏やかな午後の一時を満喫していた。羽丘学園は、最近まで近くにある花咲川女子学園のような女子校だったんだが、俺達の一代前から男女共学の学校へと変わった。そのため、小学校の時から変わらずに兎亜達とも同じ学校に通う事が出来、色々大変ではある反面楽しい毎日を過ごしている。そして、今日は週末のため、学校は休みであるんだが、時間的にまだ店が混み始める前だった事もあり、店内にお客さんの姿はあまり無かった。

 ……まあ、()()()がいる時に混まれてもちょっと困るし、ラッキーと言えばラッキーだったかな。

 そんな事を思いながら、俺は隣に座っている奴――青司に視線を移した。そして青司は、そんな俺の様子には目もくれず、いつものように淹れてやった珈琲を軽く一飲みすると、とても嬉しそうな声を上げた。

「……うん、いつも通り美味い! やっぱりタカが淹れてくれる珈琲は最高だな!」

「そりゃどうも」

 青司の感想に小さく笑いながら答えていると、青司は不意に俺の方へ顔を向け、真剣な表情を浮かべながらこう言った。

「……タカ、俺のために毎日珈琲を淹れてくれないか?」

「……ほぼ毎日淹れてるだろ。それにいつも言ってるけど、それの元ネタは味噌汁(みそしる)だし、その発言は色々な誤解を生むから、あまり言うなって」

「ははっ、すまんすまん。タカが淹れてくれる珈琲を飲むと、ついついこの言葉が出てきちまうんだよ」

「……さいですか」

 いつも通りのこの掛け合いに軽くため息をついた後、俺は再び珈琲へと視線を移し、珈琲が入ったカップを静かに持ち上げた。青司達と出会ったあの日から、俺は青司達と一緒に遊ぶようになり、それと同時にお互いの弟妹とも知り合うようになった。その数年後、俺達の弟妹達別の友達を家に連れてくるようになり、それがきっかけでその子達の弟妹とも知り合った事で俺の性格は徐々に変化し、交友関係も少しずつ広がっていった。少し詩的な表現をするなら、あの日の青司達の言葉や出会いは、内気な性格という鳥籠に閉じこもっていた俺を籠の外にあるへと誘い、次第に遙かなる大空へと羽ばたかせてくれたと言える。

 ……もっとも、こんな事を青司達に言うのは中々気恥ずかしいから、直接言うつもりは今のところないけどな。

 そんな事を思いながら俺が珈琲を口へ運ぼうとしたその時、店のドアが開く音が突然聞こえ、俺達は同時にそちらへ顔を向けた。そしてそこにいた人物が誰なのかを知った時、俺達はその人物に声を掛けた。

「おっ、兎亜じゃないか」

「兎亜、昨日ぶりー」

「うん、昨日ぶり。2人とも」

 その人物――兎亜が軽く手を上げながら答えた瞬間、兎亜の後ろから更に2人の人物が姿を現すと、青司はそれに少し驚きつつ兎亜に再び声を掛けた。

「なんだ、太陽に桃もいたのか」

「あはは、まあね」

 そして、兎亜は2人の人物――上原太陽(うえはらたいよう)青葉桃(あおばもも)を前に出すと、ニカッと笑いながら太陽達の肩を軽くポンッと叩いた。

「さっき、山吹ベーカリーに寄った帰りにちょっと公園を通り掛かったら、2人でベンチに座りながら仲良くぽわぽわーっとしてたのを見掛けてね。それでちょうどパンがあったから餌付けをしたんだけど、そしたらこんな風にだいぶ懐かれちゃったんだ。だから、ここは私が責任をもって、ウチの新しい家族として迎え入れようかと思うんだけど、どうかな?」

「餌付けって……捨て犬とか捨て猫じゃないんだから」

「……兎亜。そうは言うけどね、どうせアンタは結局世話を放り出すんだから、その子達は元いた場所に戻してらっしゃい!」

「いやいや、元いた場所じゃなく、家に帰してあげろよ……」

「そんな……! ちゃんと世話はするよ! あこと巴が!」

「いや、人に任せずにお前が世話をしろよ! さっき責任を持って世話するって言ったのはなんだったんだよ!」

 幼馴染み達のコントのようなボケラッシュに思わず思い切りツッコミを入れてしまっていると、青司と兎亜は顔を見合わせてから同時にクスリと笑い出した。

「流石はタカだな。いつも演劇部の()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を相手してるだけの事はあるぜ」

「あははっ、確かにね。私や青司はもちろん、あの二人にもツッコミを入れてたら、ツッコミのキレが良くなるのも当然だからね」

「歩くエンターテイメントに自由気ままな天才、ねぇ……」

俺はその二人の顔を思い浮かべながら小さくため息をついた。この二つの言葉は、青司が癖で命名したある人物の事を指す2つ名みたいなものであり、元々は青司と兎亜だけがそう呼んでいたんだが、当の本人達はそれを結構気に入っているらしく、自己紹介の中にその2つ名を入れている所を割と目にするようになった。

……まあ、それはさておき……今は太陽達の方だな。

ふうと息をついてからゆっくりと席を立ちそのまま太陽達に近付いた後、二人の頭を軽く撫でながら太陽達に話し掛けた。

「太陽、桃。お前達もそろそろこのフリーダム幼馴染み達に一言言ってやっても良いんだぞ?」

「ううん、大丈夫だよ、タカ兄。僕達も何だかんだで楽しいから」

「うん。これはもう恒例行事みたいなものだから、無いと逆に物足りないくらいだもんね」

「も、物足りないって……」

 そうか……既に太陽達もこのフリーダム幼馴染み達に侵食されていたのか……。

 羽丘学園の後輩であり幼馴染みでもある太陽達のほわほわとした笑顔を見ながら俺は心の中で嘆息した。短めな茶髪のストレートヘアでやや女顔の太陽と灰色がかったショートヘアの桃は、俺の妹のつぐみや青司の妹の蘭ちゃん、そして兎亜の妹の巴ちゃんの友達である上原ひまりちゃんと青葉モカちゃんの弟妹で、2歳年下ではあるものの、青司と兎亜と同じ幼馴染みだ。元々はひまりちゃんとモカちゃんに連れられてきた事がきっかけで二人と出会ったが、俺の時と同じように青司と兎亜が瞬時に心の距離を詰め、それに続く形で俺も太陽達と仲良くなった。そして、つぐみ達が仲良く遊んでいる間に俺達が世話を焼いたり一緒に遊んだりしている内に更に仲良くなった結果、俺達の事をタカ兄、青兄、兎亜姉と呼んでくれるまでになった。因みに、先程名前が出てきたあこちゃんは、兎亜の妹の内の1人であり、太陽達と同じように昔からの知り合いのため、俺達にとっては立派な幼馴染みだ。そして姉である兎亜とはもちろん、青司ともとても気が合うらしく、最近はこの2人と巴ちゃんをカッコいい物の対象にして、自分なりのカッコ良さを日々模索しているのだという。

 ……青司達は本当に面倒見は良いけど、今みたいに突然ふざけ始めるから、そのせいで太陽達もどんどん良くも悪くも影響を受けていくんだよなぁ……。

 青司達の影響力の大きさに再び嘆息していると、青司が突然何かを思い出したように声を上げた。

「……っと、そうだ。これを忘れるところだったぜ」

「忘れるところだったって……何かあったか?」

「ん、まあな。実は……このメンツが揃った時に話したい事があったんだよ」

「話したい事……?」

「そうだ。という事で……皆、ちょっとこっちに来てくれ」

 いつになく真剣な表情を浮かべる青司の手招きに従い、俺達は青司が座っている席へと近付いた。そして俺達が充分近付いたと感じた青司は、コクンと頷いてから静かに口を開いた。

「その話っていうのが――」

 この青司の言葉がきっかけとなり、俺達にとってまた新しい物語が幕を開けようとしていた。




政実「第1話、いかがでしたでしょうか」
鷹明「今回は、俺達の簡単な紹介と導入回だったな。ところで、一応俺がメイン主人公って事にはなってるけど、そうなると青司達はサブ主人公って事になるのか?」
政実「そうだね。因みに、今回の話は鷹明視点だったけど、話によっては他の四人の内の誰かの視点でストーリーが進行する事になるかな。そして、その時には前書きと後書きもそのメイン視点の主人公に担当してもらうつもりだよ」
鷹明「分かった。そして最後に、この作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けるととても嬉しいです」
政実「さてと、それじゃあそろそろ締めていこうか」
鷹明「そうだな」
政実・鷹明「それでは、また次回」


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第1章 夕影、鮮明になって~見守り手達の目覚め 第2話 迷う思いと兄の想い

政実「どうも、Afterglowの曲の中では一番Scarlet Skyが好きな片倉政実です」
青司「はい、どうも、美竹青司です。Scarlet Skyは確かに名曲だよな。それに、この曲が出た時のストーリーも良かったしな」
政実「そうだね。因みに、2番目はHey-day狂想曲かな」
青司「そっかそっか。さってと……んじゃあそろそろ始めてくか」
政実「うん」
政実・青司「それでは、第2話をどうぞ」


「さぁーてと、本当にどうしたもんかねぇ……」

「そうだな……」

「うん、本当にどうしようか……」

 始業式から一週間が経った頃の昼休み、俺と兎亜はタカの机の周囲に集まり、タカ達と羽沢珈琲店で話した内容について頭を悩ませていた。そして、頭を悩ませている内容というのは、俺達の事では無く、俺達の妹達についてだ。俺の妹――蘭を含めた幼なじみ5人組は、昔からとても仲が良く、一緒に遊びに行ったり勉強会をしたりしている所を割と目にするんだが、なんと今回のクラス分けで蘭だけが別のクラスになってしまったのだという。タカの妹であるつぐみ――つぐや兎亜の妹である巴達は、蘭に対して慰めの言葉などを掛けてくれたらしいが、当の本人はかなり落ち込んでしまっており、家で話し掛けてもいつもよりも素っ気ない態度を取られてしまっている。

 ……まあ、気持ちはよく分かるけどなぁ。俺もタカと兎亜と別のクラスになんてなったら、流石に授業を受ける気にすらならねぇだろうし……。

 そんな事を思いながら昼飯のパンを一口齧っていた時、タカが少し呆れた様子で俺の顔をジッと見ているのに気付いた。

「ん……タカさんやどうしたかね?」

「いや……お前はいつも授業を真面目にうけてないだろと思っただけだよ」

「まあそうだけど……何で俺が考えてた事が分かったんだ? はっ……まさか、遂に(さとり)のような能力にでも目覚めたのか……!?」

「……能力でも何でも無い幼なじみのカンみたいなもんだよ。というか、授業くらい真剣に受けたらどうなんだ? いくらあまり勉強をしなくても成績が良いからって、そのままだと内申にも響くだろ? 」

「んー……そうしたいのはやまやま山手線なんだけどさ、俺はどうにも授業を受けてると眠くなる体質みたいなんだよなぁ……」

「……青司、それは体質じゃない。あくまでも青司が授業に興味が無いだけだ」

 俺の言葉にタカがやれやれといった様子で答えていたその時、近くからクスクスと笑う声が聞こえ、そっちの方に顔を向けると、そこには見知った顔が三つ並んでいた。

「おっ、日菜に咲也(さくや)恵明(よしあき)じゃん。お前らも俺達の昼食会に混ざるか?」

「んー……うん、せっかくだしそうさせてもらおうかな? ねっ、二人とも」

「ふふ、そうだね」

「そうだな」

「へへっ、そうこなくっちゃな!」

 俺の声に日菜達は静かに頷いた後、昼食を持って来るために一度それぞれの机へと戻り、その間に俺達はタカの席の周りの机を人数分向かい合わせた。そして、日菜達が戻ってきた後、少し脱線していた話し合い兼昼食会を再開した。この三人、氷川日菜(ひかわひな)奥沢咲也(おくさわさくや)、そして花園恵明(はなぞのよしあき)とは1年の時から同じクラスで、入学式の日に何だかんだでウマが合った結果、こうして一緒に飯を食ったりそれぞれの趣味の話なんかで話すようになった。因みに、この三人にもそれぞれ姉妹がいるんだが、俺達とは違って別の学校――花咲川の方に通っており、花咲川が羽丘のように共学になっていたら、咲也と恵明は向こうに通っていたかもしれないと前に話していた。ただその後に、今のように俺達と一緒に学校生活を送るのはとても楽しいから、結果としてこっちに通う事にしたのは正解だったと続けて言ってくれたのは、俺的にはとても嬉しかった。

 タカ達のようにいつも傍にいてくれる存在は、もちろん貴重な上に嬉しいもんだが、咲也達みたいに()()()()ではなく、()()というちょっと別の視点から意見をくれる存在も同じように貴重な上にとても嬉しいからな。

 そんな事を考えていた時、タカ達から話を聞いていた日菜達がそれぞれ少々困った様子で声を上げた。

「うーん……気持ちはとてもよく分かるけど、こればかりはどうにもねぇ……」

「そうだね……本人からすれば、とても重大な事ではあるけど、クラス分けは先生達が決めてる事だろうから、何か本当に仕方ない理由が無い限りは、個人の意思を尊重する事も出来ないだろうしね」

「ああ……もし、そんな事がまかり通ってしまったら、同じような事を言い出す奴が必ず出て来るからな。それを防止するためにも、そういった事は絶対に出来ないしやってはいけないんだろうな」

「やっぱりそうだよなぁ……自由気ままな天才の閃きを持ってしても無理となれば、本当に難しい話になるよな」

「本当に悪いけど、そうなっちゃうよね……」

 自由気ままな天才こと日菜がとても申し訳なさそうな様子を見せる中、咲也が何かを思いついた様子で声を上げた。

「ねえ、因みに……青司の妹さん――蘭ちゃんの学校生活の様子とかって今どんな感じなの?」

「えーとな……クラスには中々なじめてない上に授業中にフラッといなくなって帰ってこない事も多いみたいだ。んで、家でもあまり元気が無いし態度もいつもよりも素っ気ない感じだな」

「そっか……」

「……このままそれが続くようだと、家の方にも連絡が行く可能性があるな」

「だよな……だから、そうなる前にどうにかしてやりてぇんだが、良い感じの案が何も浮かばなくてな」

 さてさて……本当にどうしたもんかなぁ……。

 その後も俺達は昼飯を食いながら様々な事を話し合ったが、結果として良い案が出る事は無く、モヤッとした気持ちが残ったままで昼休みは終わりを告げた。

 

 

 

 

 放課後の部活終わり、タカ達と一緒に帰ろうと思い昇降口で一人ボーッとしながら待っていた時、突然「……あ」という声が背後から聞こえ、それを不思議に思いながら振り向くと、そこには驚いた様子で俺の事を見る蘭の姿があった。

「おっ、蘭じゃねぇか。お前、今帰りか?」

「……そうだけど、それが何?」

「ははっ、素っ気ねぇ返事だなぁ。そんなにツンツンしてっと、その内髪型までツンツンしたのになんじゃねぇ?」

「ならないから。そう言う兄さんこそ今から帰り?」

「おう、タカ達と一緒に帰ろうと思ってな。お前だって、つぐや巴達と帰るんだろ? 何なら、一緒に帰ろうぜ?」

「……まあ、別に良いけど。その方が皆も喜ぶと思うし」

「うっし、なら決まりだな。それじゃあとりあえずこの事について全員にメールを回すとするか」

 俺は制服のポケットから携帯を取り出し、蘭を除いた全員に対して集団下校についてのメールを送った。そして、携帯を再び制服のポケットにしまった後、「これでよし」と独り言ちてから少し暗い表情を浮かべている蘭に話し掛けた。

「さてと……アイツらが来るまで兄妹で仲良く話でもしてようぜ」

「話って……何を話すの?」

「うーん……そうだなぁ」

 俺は何について話すかを悩むフリをしながら例の件についてどう切り出したものか悩んだ。しかし、いくら悩んでもしょうが無い上、蘭をいつまでも待たせるわけにもいかないため、「……しょうがねぇか」と独り言ちてから例の件について話を始めた。

「蘭、最近学校生活が上手くいってねぇんだよな?」

「……別に。というか、それは兄さんに関係ないでしょ」

「……まあ、確かにこれは蘭の問題だし、お前の言う通り俺には関係ない話かもしれねぇ。けどな、俺はお前の兄である以上、お前に悩みがあるなら解決してやりたいと思ってる。たとえ、俺にはどうにも出来ねぇ内容だったとしても、出来る限りの事はしてやりたいと思ってる」

「…………」

「俺はお前じゃねぇけど、いつも傍にいる奴がいない事で感じる淋しさや哀しさみてぇなのは分かってるつもりだ。だから、お前が話したいと思った時で良いから、お前の気持ちを俺に全力でぶつけてこい。そん時は、俺も全力でそれに対して答えてやるからさ」

「兄さん……」

 俺の言葉に、蘭はとても驚いた様子を見せていたが、やがていつものような落ち着いた表情に戻ると、「……うん」と小さな声で答えた。

 ……今はこれで良い。本当ならさっさと蘭の中にある思いを吐き出させてやり、気持ちを楽にしてやるべきなんだと思う。けど、下手に急いで全てを台無しにしてしまっては、本当にどうしようもなくなってしまう。だから、今はこれでも上出来だと思うしか無い。今の蘭達に必要なのは、まずは蘭自身がつぐ達に自分の思いを伝え、アイツら5人がしっかりと話をした上でそれについての答えを出す事。そして、俺達が為すべき事は、コイツらの事に対して今日のように俺達なりの答えを探しながら支えていく事だからな。

 黙り込んでしまった蘭を見ながらそんな事を考えていた時、校舎内から「あ、二人ともいたよ」という声が聞こえ、揃ってそっちに顔を向けた。すると、そこには嬉しそうに俺達の事を見るつぐやひまり、そして何かを察した様子で俺達の事を見ているタカやモカの姿があり、それに対して俺が笑いながら手を振っていると、蘭は皆から視線を逸らさずに「……ねえ」と俺に話し掛けてきた。

「ん……何だ?」

「さっきの事、一応お礼は言っておくよ。ありがとう」

「……へへっ、どういたしまして。まあ、さっき言った事は取り下げる気はねぇから、好きな時に俺に対してドーンと話してくれよ?」

「……うん、分かった」

 蘭が小さく笑いながら答えていると、巴やひまりが少しぎこちない笑顔を浮かべながら蘭へと近付いていき、俺はそれを見ながらスッと後ろへと下がった。すると、いつの間にかタカ達が揃って近くへと寄ってきており、その中でもタカが代表してこっそりと話し掛けてきた。

「……俺達が来るまで、例の件について話をしてたのか?」

「ああ。だが、アイツ自身がまだ気持ちの整理が出来てねぇのは分かったから、好きな時にでも話してくれれば良いとは言っておいた。臆病なようかもしれねぇけど、今のアイツにまず必要なのは、自分の気持ちとしっかりと向き合う事だからな」

「……そっか。そういう事なら私達もそうする事にするよ」

「だね。それに、モカ姉がこの件について何か気付いた事があるみたいだし、まずはそれの結果待ちになりそうだね」

「まあ、試しに訊いてはみたけど、いつものようにはぐらかされちゃったしね」

「そうそう。どんな訊き方をしてみても、『んー……まあ、モカちゃんに任せておいてよー』としか言わなかったんだよね」

「ん……分かった。んじゃ、俺達はとりあえずアイツらの様子を見守る事に専念しようぜ。んで、アイツらだけじゃどうにもならなかったり何か話してくれたりした時は、それに対して全力で当たる。お前達もそれで良いか?」

「ああ、もちろん」

「この場合、それくらいしかやりようがないからね」

「僕に何が出来るかは分からないけど、その時が来たら僕なりにやってみるよ」

「私も同じく。この問題は、絶対にハッピーエンドで終わりたいからね」

「うん、そうだよね。お姉ちゃん達には、いつも笑っていて欲しいし、あこも出来る事があるなら全力で力を貸すよ」

「ああ、ありがとな。うっし……そうと決まれば、今日のところはささっと帰りますかね」

 そして、話をしている蘭たちに対して少し大きめの声で呼び掛け、それに対して蘭達が答えた後、俺達は赤く綺麗な夕焼け空の下を思い思いの話をしながら家に向かって歩き始めた。




政実「第2話、いかがでしたでしょうか」
青司「今回は、俺達の交友関係の一部の紹介と俺達兄妹が心の中で思ってる事を少しは見せ合えた回だったな」
政実「そうだね。因みに、これからも程度や場面は違えど、お互いの思いをぶつけあうシーンは出て来る予定だよ」
青司「ん、りょーかい。そして最後に、この作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けるととても嬉しいです」
政実「さてと……それじゃあそろそろ締めていこうか」
青司「おうよ!」
政実・青司「それでは、また次回」


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第3話 一緒にいるという事

政実「どうも、Afterglowメインのイベントでは、『夕影、鮮明になって』が一番好きな片倉政実です」
兎亜「どうも、宇田川兎亜です。そういえば、この章はそれを元にした話になってるけど、他のイベントとかバンドストーリーを元にした話もこれから出て来るの?」
政実「そうなるかな。もっとも、全部が全部というわけじゃないけどね」
兎亜「そっか。さてと、それじゃあそろそろ始めていこっか」
政実「うん」
政実・兎亜「それでは、第3話をどうぞ」


「……さてと、とりあえず見守る事にしたは良いけど、ここからはどんな風に見守っていったらいいかな……」

 翌日、皆と一緒に登校をしていた時、私がポツリとそんな事を呟くと、隣を歩いていたタカが顎に手を当てながら「そうだな……」と言い、少し考えた後に難しい表情を浮かべながら言葉を続けた。

「昨日決めた事から考えるなら、つぐみ達5人が自分達でこの問題を解決できるように時々俺達の意見を言い、 悪い方へ行きそうになったら軌道修正を加えていくのがベストだと思う。この問題は、あくまでも5人で解決しないといけない問題であるわけだから、俺達が手を貸しすぎるのは流石にマズい。だから、干渉し過ぎずほっとき過ぎずのギリギリのラインでやっていくしかない」

「……まあ、そうだよね」

「それにしても……意外だな。兎亜ならそういう事は分かってると思ってたから、こういう事を訊かれるとは思ってなかったよ」

「ん……まあ、分かってはいるんだけど、巴達がこの事で悩んでいるのを見てたら、私も少しだけ不安になってきた……のかもしれない」

「不安、ねぇ……まあ、その気持ちは分からなくもねぇぜ? 昨日は口にはしなかったけど、俺だってお前達と離れる事になったら、今みたいに落ち着いて生活できるか微妙なところだからな」

「……まあ、寂しさは確かにあるかもな。あの日からずっと一緒にいたわけだから、一緒にいるのが当然みたいな気持ちはあるし……」

 タカは少し先の方を歩いている巴達に視線を移すと、「……当然、つぐみ達も同じだったんだろうけどな」と少し寂しそうな声で言った。一緒にいるのが当然、これから先の事を考えるなら、この言葉は子供っぽい言葉なのかもしれない。けど、今の巴達やあこ達の気持ちを考えるなら、そんな風に言う事は出来ない。

「……だからこそ、私達が少しでも巴達やあこ達が一緒にいられるように支えるのが一番ではあるわけだしね。たとえ、これが子供っぽい考えだったとしても」

「そうだな。まあ、その前にまずは蘭自身が自分が抱えてる気持ちをアイツらに言う必要はありそうだけどな」

「確かにな。けど、それはとりあえず本人のタイミングに任せるしか無いよ。下手にせっつくと、それこそ悪い方へ行きかねないからさ」

「んー……まあ、そうだな。俺もアイツには、好きなタイミングで言えっては言っちまったし、今は静観に努めるとしますかね。けど……」

「……けど?」

「いつも一緒にいる奴が近くにいなかったらどう思うかっていうのについての情報や意見は、今の内に集めといて損はないんじゃね? 俺達だって他人事では無いわけだし、もしその時が来た時の覚悟を決める意味でも誰かには訊いとくのも手だろうな」

「誰か……ね」

 その瞬間、私の脳裏にある2人の顔が浮かび、この2人なら良い答えを返してくれそうな予感がした。

「……うん、それならあの子らに話を聞いてみようかな」

「あの子らって言うと――ああ、アイツらだな」

「なるほど、確かにあの2人なら良い答えをくれそうな気がするな」

「でしょ? それじゃあ、休み時間にでもあの2人に話を聞いてみるから、2人は巴達の事について考えておいて。それで、良さげな案が浮かんだら、後ろにいる太陽と桃とあこにも連絡をしておいてくれると助かるかな」

「おう、了解! 俺達の頭脳が合わされば天下無敵だからな!」

「……何だか違う気もするけど、まあ良いや。とりあえず考えるのは俺達に任せておいてくれ、兎亜」

「うん、頼りにしてるからね、2人とも」

 2人はそれに頷いて答えた後、早速真剣な様子で話し合いを始めた。その2人の様子にクスリと笑ってから、私は件の2人にどう話を切り出すかを考えながら学校へ向かって歩き続けた。

 

 

 

 

 業間、私はタカ達を残して1人廊下へと出た。そして、隣のクラスの方へ足を向けようとしたその時、話そうと思っていた2人が丁度教室から出てきたので、「ふふ、ラッキー♪」と独り言ちてから2人へと話し掛けた。

「お疲れ様、お二人さん」

「……ん? あ、兎亜じゃーん。お疲れー」

「……お疲れ様、というほどでも無いけれど、とりあえずお疲れ様」

「うん、ありがとうね、リサ、友希那」

 2人――今井リサがニコニコとした表情で、そして湊友希那が怪訝そうな表情を浮かべながら返事をしてくれた後、私はそれに対してニコリと笑った。リサと友希那とは、別のクラスではあるけれど、私だけじゃなくタカ達とも1年生の頃からの付き合いだ。最初は、私がリサと仲良くなったんだけれど、その後に友希那がリサに無理やり連れて来られる形で引き合わされた。そして、私と青司でいつものように距離を詰めていき、今みたいな仲の良さになった。

 この2人も幼なじみみたいだし、私達が求めている答えとまでは行かなくても、何かヒントになる答えは出してくれる気がする。そう思って2人に頼る事にしたけど、果たしてどうなるかな……?

 そんな事を思っていた時、リサが不思議そうな様子で私に話し掛けてきた。

「ところで、あたし達に何か用だったの? いつもなら鷹明とか青司とかと一緒にいるのに、1人でいるなんてかなり珍しいじゃん?」

「うん、ちょっとね。まあ、ケンカをしてるわけじゃないし、2人にある事を頼んでるから、私だけ別行動みたいな感じかな」

「ある事……?」

「そう、それでなんだけどさ……2人は今同じクラスだけど、もし別のクラスになったらどうする?」

 私が話を切り出すと、リサは少し哀しそうな顔をしながらそれに答えてくれた。

「うーん……友希那と別のクラスかぁ……。あんまり想像はしたくないなぁ」

「そうかしら? 今は運が良いから一緒のままではあるけど、いつかはそういう事もあると思うわ」

「い、いや……あるのはあたしも分かってるよ。けどさ、友希那と別のクラスになったら、絶対に寂しいと思ってさ。いくら休憩時間とか帰りに一緒になれるとしても、いつも一緒にいた分の雰囲気とか感覚とかみたいなのはやっぱりあるから」

「リサ……」

 哀しそうなリサの言葉に、友希那は少し驚いた表情を浮かべた後、静かに微笑みながらその頭にポンッと手を置いた。

「ゆ、友希那……?」

「ありがとう、リサ。そこまで私の事を思ってくれて、私はとても嬉しいわ」

「……ふふ、当然でしょ? 友希那はあたしにとって大切な存在だからね。これからもあたしは友希那の事を支え続けていくつもりだよ」

「ええ、よろしく頼むわね、リサ」

「うん、任しといて♪」

 仲良く微笑み合う2人の様子に心がポカポカしてくるのを感じながら、私は今朝のタカ達との会話に出てきた不安に対して答えが何となく出たような気がした。

 一緒にいた分の雰囲気とか感覚とかか……確かに私もタカ達が一緒にいてくれる事で、だいぶ安心してる気がする。だから、私にとってタカ達は、とても大切な友達であると同時に、一緒にいて安心できる存在なんだろうなぁ……。

 タカ達の顔を思い浮かべながらそんな事を考えていた時、今度は友希那が不思議そうな様子で私に話し掛けてきた。

「それにしても……貴女にしては珍しい質問だったけれど、何かあったの?」

「あ、うん……実はね――」

 私は巴達5人に今起きている事や今朝のタカ達との会話を友希那達へと話した。すると、リサは「あー……なるほどね」と納得顔で言い、友希那は「……そういう事だったのね」といつものような落ち着き払った様子で言った。そして、すぐに小さな笑みを浮かべると、手を私の方に置きながら言葉を続けた。

「……恐らく、私達に手助け出来る事は無いと思うけれど、話を聞く事くらいは出来ると思うから、今の静観している状況から何か変わって、自分達じゃどうにも出来ないと思ったその時はまた話しに来なさい」

「そうそう、友希那の言う通りだよ、兎亜。それと……その5人はさっきのあたしみたいな寂しさを感じてるんだろうから、何かそれを紛らわせられるような物を見つける手助けをしてあげるのも良いかもね」

「寂しさを紛らわせられる物、かぁ……。うん、それもタカ達と話してみるね。リサ、友希那、ありがとうね」

「どういたしまして、兎亜」

「さっき友希那も言ったけど、私達も話を聞く事くらいは出来るから、何かあったらまた相談してよ?」

「うん、そうさせてもらうね」

 ニコリと笑いながら答えた瞬間、授業開始のチャイムが鳴り、私達は顔を見合わせた。

「……っと、そろそろ席に戻らないと。それじゃあね、2人とも」

「うん」

「ええ」

 そして、2人と別れた後にすぐ教室へと入り、席に戻りながらタカ達にアイコンタクトを送ると、タカ達は微笑みながら静かにコクンと頷いた。

 ……ふふっ、やっぱり幼なじみ力っていうのは、スゴく偉大だよね。さて……そろそろ『別の行動』も起こす時かな?

 そんな事を考えながらクスリと笑った後、私は次の授業の準備を静かに始めた。

 

 

 

 

 昼食中、友希那とリサとの会話の内容をタカ達へと話し、その後に現在私達に出来そうな事を簡単に話し合っている内に、いつの間にか昼休みが終わっていた。そして、次の授業の準備をしながらある行動について考えていたその時、この時間の授業担当じゃないはずの担任の先生が静かに教室へと入ってきた。

 ……あれ、どうかしたのかな?

 教室中の視線が先生へと集中した時、先生は全員が静かになっている事を確認してから口を開いた。すると、先生の口から出てきたのは、本来この時間の担当だった先生が急に体調を崩したため、予定変更して自習にする事にしたという話だった。それを聞いた瞬間、私は先生に対しての心配の気持ちもあったけれど、それと同時に少しだけラッキーだという思いもあった。

 ……先生にはスゴく悪いけど、これも良いタイミングだし、どうにかしてやってみるしかないかな。

 担任の先生の話を聞きながら心の中で覚悟を決めていたその時、後ろの方から視線を感じ、私は目だけをそちらに向けた。すると、青司が何かを言いたそうな様子でこっちを見ており、その目から青司が何をする気なのかを察し、私はそれに対してこっそり頷いた。そして、その内に先生の話は終わり、自習中にやるプリントが私達に配られると、先生はそのまま教室を出ていった。

 プリントかぁ……まあ、次の授業の時に提出する物みたいだし、後でタカ達と一緒にやれば良いよね。

 そう思いながらプリントを裏返した後、私は青司の方へ視線を向け、アイコンタクトで合図を送った。そして、それに対して青司はニカッと笑いながら頷いた後、同じくプリントを裏返した。すると、タカはそれを見て小さく溜息をつくと、私達に向かって不審そうな視線を向けてきたけれど、青司がそれに対して簡単な手振りでやろうとしている事を説明すると、タカは呆れた様子で大きな溜息をついた後、仕方ないといった様子で頷いた。

 うん、これで関門は1個突破したけど、後の関門はどうしたものかな……。

 次の関門――クラスの皆について考えていたその時、後ろの席に座っている委員長が小さな声で話し掛けてきた。

「……宇田川さん、まさかとは思うけど、自習中に教室を出ようとしてないわよね?」

「え、ああ……えっと、それは……」

「はあ……良いわ、今回は見逃してあげる。貴女達には幾つもの借りがあるし、貴女達の場合はたとえ抜け出しても悪い事をする感じでは無いからね」

「……ありがとうね」

「どういたしまして。でも、必ず授業時間中には戻ってきてね? 貴女達がいない言い訳をそんなに多くは考えられる自信は無いから」

「分かった。それじゃあ、ちょっと行ってくるね」

「……はいはい」

 そして、私が静かに席を立つと、それと同時に青司も席を立ったけれど、それに対して何か言うクラスメートは1人もいなかった上に日菜や咲也辺りはまるで応援してくれてるような視線を送ってくれた。

 ……ふふ、それならその信頼にはしっかりと応えないとね。

 皆に対して一度頭を下げた後、青司に対してアイコンタクトで合図を送り、私達はこっそりと教室を出てそのまま廊下を歩き始めた。

「……それで? 青司には()()があるんだよね?」

「……へへっ、もっちろん。たぶん、()()()ならあそこにいるだろうぜ?」

「そう。それならさっさと行こっか。クラスの皆がどうにかしてくれてる間に目的を果たさないといけないからね」

「おうよ」

 そして、青司に続いて誰かに見つからないように気をつけながら私達は誰もいない廊下を静かに歩き続けた。

 

 

 

 

 数分後、私達は青司が予想をつけていた場所――屋上へとやって来た。すると、そこには捜していた蘭ちゃんの他にモカちゃんの姿もあり、2人は何かを話しているようだった。

「いた事はいたけど……何でモカちゃんまでいるんだろう?」

「さてな……とりあえずあの2人の会話に混ざらせてもらうとしようぜ?」

「そうだね」

 そして、2人に向かってゆっくりと近付いていくと、青司が少し戯けた調子で2人に話し掛け始めた。

「やあやあ、お二人さーん。俺達はBoys&Girlsなんだけど、そのガールズトークに混ぜてくれないかーい?」

「……に、兄さん? それに兎亜さんまで……!」

「おやおやー? 2人ともサボりとは感心しませんなぁ~」

「ははっ、お前達も同じもんだろ? それに、俺達の方は自習だしクラスの奴らの公認だよ」

「クラスメートの公認って……鷹明さんもよく許してくれたね」

「ふふ、タカもそれだけ心配だったって事だよ」

「つう事で、頼りになる兄さん姉さん達とも少しだけ話をしようぜ?」

「……分かった。ここまでされて断るわけにもいかないからね」

「モカちゃんももちろんオッケーだよ~? 」

「うっし! そうと決まれば、隣失礼するぜ?」

「どうぞどうぞー」

 そして、蘭ちゃん達の隣に立って手摺に寄りかかった瞬間、気持ちの良い風が私達の間を吹き抜け、蘭ちゃんが少しだけスッキリした様子で口を開いた。

「風、気持ちいいですね」

「そうだね。どんな問題もこんな風にスーッと解決できればどれだけ良いかと思うけど、そううまくはいかないからね」

「問題……さては、あたし達の事について隠れて話し合いでもしてましたなぁ~?」

「へへっ……ご名答。まあ、隠しきれるもんでも無いし、いつかはバレると思ってたぜ」

「ふっふっふ~、モカちゃんはカラフルな頭脳を持つ名探偵だからねー」

「あははっ、良いねぇ。そんなにキラキラしてるんだったら、だいぶ楽しそうな感じがするぜ」

 モカちゃんの言葉に青司が楽しそうな笑い声を上げていると、蘭ちゃんは少し呆れた様子でポツリと呟いた。

「……それは正直どうでも良いよ。それで、昨日の会話もそういう事だったんだよね?」

「まっ、そういう事だな。けど、お前に言った事は全部本当の事だ。だから、そこだけは安心してくれて良いぜ」

「…………」

「んで、お前達はさっきまで何の話をしてたんだ?」

「んー……正直に話しても良いけど、蘭の意見も聞かないと……」

「……私は良いよ。どうせ、この調子だと大体バレてるだろうし」

「だってさー。という事で、モカちゃん達の会話内容の全貌をここに公開しちゃいまーす」

 そして、モカちゃんは私達が来るまでの会話の内容を話してくれた。それは、私達が予想していた物とだいたい同じだったけれど、確証が得られた事が私にとっては何だかんだで嬉しかった。

「寂しい、か……。ふふ、やっぱりそういう事だったんだね」

「だな。さっすがは、幼馴染み仲間ってところだな」

「幼馴染み仲間って……他の誰かにも相談をしてたの?」

「兎亜が、だけどな」

「……そっか」

 青司の答えに蘭ちゃんは少しだけ暗い表情を浮かべながら静かに俯いた。そこには、何で話してしまったのかという非難や申し訳なさといった色が浮かんでいたけれど、微かに安心感みたいな物も見えたような気がした。

 さて……目的は一応達成したし、クラスの皆のためにもそろそろ戻らないとね。

 微かな達成感のような物を覚えながらスッと手摺から体を離した後、それに続いて体を離した青司と一緒に蘭ちゃん達へと声を掛けた。

「それじゃあ、私達はそろそろ戻るね」

「目的は無事に達成したし、その事についてはとりあえず干渉し過ぎない事にしてるからな」

「……分かった。えっと……心配してくれてありがとう」

「モカちゃんからもありがとうー」

「へへっ、良いって事よ。んじゃあな、2人とも」

「春とは言っても外にいすぎると流石に寒いだろうし、風邪を引かない程度には気をつけてね」

 そんな言葉を掛けた後、私達は蘭ちゃんを残して屋上を後にした。そして、教室に戻っている最中、「ねえ」と声を掛けると、青司は「んー……?」と少し気怠そうな声を上げたけれど、私はそれには構わずそのまま言葉を続けた。

「私達のやってる事、これで合ってるよね?」

「……さてな。けど、その答えはまだ分かんねぇし、蘭もまだまだ何かを隠してる感じはした。だから、答え合わせはアイツらがアイツらなりの答えを出したその時にならねぇと出来そうにないな」

「……そうだね。んー……何か気を張りすぎて少し疲れたし、家に帰ったらウチのあこニャンで癒されようかな……」

「ははっ、遂にあこが猫化でもしたのか?」

「ふふ、似たような物かな。まあ、正しく言うなら、あこに膝枕をしてあげながらなでなでさせてもらう形だけどね」

「なーる、ソイツはだいぶ楽しそうじゃん?」

「うん、まあね」

 こっそりと教室に戻りながら私は青司とそんな会話を続けた。青司が言うように、私達の行動が正解はまだ分からない。けど、あの5人を支えたいという気持ちは本当の事だ。だから、これからも動向を見守りながら私達なりの行動を取るしかない。

 ……さてと、そうと決まれば今日の帰りにでもタカ達と話し合いをしないとね。

 そう心の中で決めながら私は青司と一緒に教室に向かってこっそりと戻っていった。

 

 

 

 

 帰宅後、私はリビングのソファーに座り、膝に感じる仄かな温かさを味わいながら膝の上に載っているもの――あこの頭を静かに撫でていた。

「ふふっ……やっぱりこうしてるのも落ち着くなぁ……」

「うん……あこもスゴく落ち着いてるよ……」

「それは良かった。さあ、そのままこの兎亜様のなでなでの魔法に更に掛かってしまうがいい」

「なでなでの魔法……うん、それも良いかもね……」

 あこののんびりとした声を聞きながらゆっくりと撫で続けていたその時、「姉貴、ちょっと訊きたい事が……」と暗い表情で言いながら巴がリビングに入ってくると、私とあこの様子を見て小さく溜息をついた。

「……姉貴、またあこを撫でてるのか?」

「そうだけど、巴も撫でる? それとも撫でられる?」

「今はどっちも良い。それでさ、ちょっと訊きたい事があるんだけど良いかな?」

「うん、もちろん。で、訊きたい事って?」

「姉貴も知ってると思うけど、蘭が屋上に行ってる事やクラス替えの件で寂しいと思ってる事はモカから聞いた。だけど、帰り際にひまりが『一緒にいる事って、こんなに難しいことだっけ』って言ってたのがちょっと心に残っててさ」

「……なるほどね。それで、私はどう思うか訊きに来たって事だよね?」

「まあ、そうなる……かな。それで、姉貴的にはそれをどう思う?」

「そうだね……」

 あこを撫でる手を一度止め、私は巴から投げかけられた質問の答えを頭の中から探し始めた。

 一緒にいる事が難しいかどうか、ね……。正直な事を言えば、無理やり理由をつけてしまえば幾らでも誰かと一緒にいる事は出来るかもしれない。けど、それは相手の都合を考えない独りよがりな考え方と言える気がする。つまり、お互いの都合を考慮した上で一緒にいる理由を見つければ良い事になるのかな。

 頭の中で色々な事を考えていたその時、それを聞いていたあこが不意に何かを思いついた様子で声を上げた。

「……ねえ、巴お姉ちゃん達は一緒に何かをしたりはしないの?」

「うーん……やってないし、一緒の習い事をしてみるっていう案も実は帰り道で出てたんだよな……」

「それなら、習い事じゃなくても良いから、なにか繋がりになる物を作ってみれば良いんじゃないかな?」

「繋がりになる物……?」

「そう! あこもオンラインゲームで出来た別の学校の友達がいるし、遊びとか勉強とかでも良いから、何か皆で出来そうな繋がりになる物を色々と試してみれば良いんじゃないかな?」

 そのあこの提案を聞いた瞬間、巴はとても驚いた表情を浮かべたけれど、それはすぐに優しい笑みへと変わり、不意にあこの頭を優しく撫で始めた。

「ありがとうな、あこ。このあこの案は、参考にさせてもらうよ」

「うん、色々大変だと思うけど、巴お姉ちゃんも頑張ってね」

「ああ、もちろんだ。姉貴も話を聞いてくれてありがとうな」

「ふふ、どういたしまして。けど、無理はせずに頑張りなよ?」

「ははっ、分かってるって。それじゃあ、あたしはそろそろ部屋に戻るな」

「うん、分かった」

「了解だよ、お姉ちゃん!」

 巴に対して2人でそんな風に答えると、巴は小さく笑いながら頷き、そのまま部屋へ向かってリビングを出ていった。そして、私はあこをまた撫で始めながら声を掛けた。

「あこ、ありがとうね。あこのおかげで少しは進展が見込めそうだよ」

「えへへ……でも、まだまだ心配事はあるんだよね?」

「うん、でも大丈夫。絶対にこの事は解決できるから、それまでは私達で支えていかないとね」

「うん!」

 あこのキラキラとした笑顔に安心感を覚えながら私はさっきの巴の質問をもう一度頭の中に思い浮かべた。

 一緒にいる事が容易か困難か……この質問も私達にとっては他人事では無いわけだし、この問題が解決した後にでもタカ達と一緒に考えてみる必要はあるかもね。

 そんな事を考えながら小さく微笑み、私はあこから伝わるタカ達とは違った安心感で気持ちが静まっていくのをただ感じていた。




政実「第3話、いかがでしたでしょうか」
兎亜「この様子だと、この章はもう少し長くなるみたいだね」
政実「そうだね。一応、各章はその元々のストーリーの話数分と同じにはするつもりだけど、それはその時にならないと分からないかな」
兎亜「ん、りょーかい。それで、次回の投稿予定は未定で良いのかな?」
政実「うん」
兎亜「了解了解。そして最後に、この作品についての感想や意見、評価などもお待ちしてますので、書いて頂けたらとても嬉しいです」
政実「さて……それじゃあそろそろ締めていこうか」
兎亜「うん」
政実・兎亜「それでは、また次回」


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第4話 思いの表し方

政実「どうも、洋菓子を食べる時はコーヒーよりも紅茶派の片倉政実です」
太陽「どうも、上原太陽です。コーヒーももちろん良いけど、僕も紅茶の方が好きかな」
政実「コーヒーを飲むと頭がスッキリするけど、紅茶を飲む時は何だか落ち着くからね。もっとも、これはあくまでも個人的な感想だから、本当に人によるんだろうけどね」
太陽「だね。さてと……それじゃあそろそろ始めていこうか」
政実「うん」
政実・太陽「それでは、第4話をどうぞ」


 

「ふあ……んー……やっぱり朝は眠たいなぁ……」

 少し大きな欠伸をしながらいつもの皆と一緒に登校をしていた時、隣を歩いていた青兄がクスリと笑いながら話し掛けてきた。

「まあ、確かに朝はスッゲぇ寝みぃよな。もっとも、俺は一日中寝みぃけどな!」

「……だからと言って、授業中に居眠りをしてて良い理由にはならないからな。それに、 昨日の自習時間中の件だって特例で許したような物なんだから、いつでもああやって授業を抜けられると思うなよ?」

「ははっ、分かってるって! けど、アレは本当に助かったぜ。なっ、兎亜」

「うん、おかげで蘭ちゃんが抱えている気持ちを少しは知る事が出来たから、その分の成果はあったんだけど……」

「……アイツ、昨日話した以外にもまだ何か隠してる感じはするし、昨日の親父からの説教もあったからなのか、ちっとピリピリしてる気がすんだよなぁ……」

 そう言うと、青兄は前の方を歩いている蘭姉達5人組の方へ視線を向けた。ウチのひまり姉やつぐみ姉が、どうにか場を盛り上げようと色々な話を振る中、蘭姉は少し難しい表情で軽く相槌を打つだけで、僕達から見ても話が盛り上がっていないのが分かるほどだった。

「実はアイツさ、授業に出てねぇのが遂に親父にバレたみてぇで、今日からしっかりと授業に出るように言われてたんだけど、その時にどうにも何か心の奥底に抱えてる物があるような顔をしてたんだよ」

「心の奥底……」

「ああ、昨日の寂しいって気持ちとは別に、クラスにいたくねぇ――いや、居場所がねぇ理由があんのかもしれねぇな」

「クラスに居場所がない理由……」

 青兄の言葉を小さな声で繰り返した後、僕達はもう一度蘭姉達の方へ視線を向けた。ひまり姉とつぐみ姉が色々な話題を振る中、蘭姉はそれに相槌を打ちながら何かを考えている様子で、3人の姿を巴姉が心配そうに見つめ、モカ姉は真剣な表情で蘭姉の様子を観察していた。

 クラスに居場所がない、かぁ……。今のところ、僕にはそういう経験は無いけど、もしそうなったら桃ちゃん達と一緒のクラスだからじゃない『寂しさ』とはまた別の『寂しさ』はあるかもしれない。どんな理由があっても、独りぼっちだったり距離を取られたりするのはとても寂しいものだから。そしてそれは、僕にだっていつかは訪れる可能性がある物なんだよね。

 そんな事を考えながら隣を歩く桃ちゃん達の事をチラリと見ると、桃ちゃんは僕の視線に気付いた様子で少し不思議そうに小首を傾げた。

「ん……太陽君、どうかした?」

「あ、いや……どんな理由があっても独りぼっちになるのはやっぱり寂しいし、僕にだっていつかはそういう事があるかもって思ってね」

「ふふっ、なるほどね。でも、太陽君ならどんな人ともすぐに仲良くなれるし、それに今は私やあこちゃんだっているから大丈夫だよ。ねっ、あこちゃん?」

「うん! あこ達で良ければ太陽君の傍にいられる時にはいてあげられるから、安心してくれても大丈夫だよ!」

「桃ちゃん……あこちゃん……」

「今の問題の事もあるから、色々不安になるのは分かるよ。でも、私達まで暗くなってたらお姉ちゃん達だって心配するし、私達だけでもいつもみたいに明るくいかないとね。だから、太陽君も名前の通りに太陽みたいに明るく行こう?」

「そうそう。そのぽかぽかとした優しさと明るさにはあこ達も助けられてるし、これからも皆の事を一緒に照らし続けていこうよ!」

「……ふふ、そうだね。ありがとうね、2人とも。でも、2人も何かあったら遠慮無く僕を頼ってね?」

「「うん!」」

 桃ちゃんとあこちゃんの嬉しそうな笑顔に安心感を覚えながら口元を綻ばせていると、それを聞いていた青兄が僕の頭を少し強めに撫で始めた。

「へへっ、結構かっけぇ事言うようになったじゃねぇか。この前まで俺達の膝くれぇまでしか無かったってのにさ」

「いやいや……流石にそんなに小さいわけは無いからな。けど、太陽が成長してるっていうのは間違いないかな」

「うん、そうだね。ただ……太陽がこのままもっと成長したら、最終的には私達を照らすどころか燃やしちゃいそうな感じがするのが不安かな……」

「いや、それは太陽違いだろ!」

「んー……つー事は、太陽の顔に黒子(ほくろ)があったら、そこだけ温度が低いって事で間違いないよな?」

「いやいや、間違いだらけだからな!? そもそもそれは黒子じゃなくて黒点だし、黒子だけ温度が低いなんてのも聞いた事ないから!」

 タカ兄が息を切らしながらツッコミを終えると、青兄と兎亜姉は顔を見合わせながらニッと笑った。

「いやー、さっすがは俺達のツッコミ隊長。ここまでしっかりとツッコミを入れてもらえると、ボケ甲斐があるってもんだぜ」

「そうそう。たまーにリサとか麻弥(まや)にもボケを振ってるけど、ここまではツッコミを入れてくれないからね」

「はあ……お前達、アイツらにまでそんな事をしてるのか……。けど、流石に友希那にはこんな事はしてないよな?」

「ははっ、流石に()()()()()様にはんなことしねぇよ。それに、したところで『貴方達が何を求めているのかがまったく理解できないわ』とか『そういうおふざけなら他に適任な人がいるでしょ』とか言われるからな」

「確かにそうかも。後は……日菜と薫にも出来ないんだよね。日菜なんかはノリノリで乗ってくるし、薫はいつも通りの()()言葉で返してきちゃうし」

「けどさ、俺達2人に日菜と薫が加わったら、最強な気がしねぇか?」

「……それは本当に止めてくれ。お前達のボケの波状攻撃なんて流石に耐えられる気がしないから」

 タカ兄が心から嫌そうな顔をしながら言うと、青兄は「へいへい、了解しましたよ」と少し残念そうな様子で答え、兎亜姉は「まあ、タカを壊すわけにもいかないしね」と小さく笑いながら言った。そして僕達は、そんないつも通りな3人の様子に安心感を覚えながらクスクスと笑い合った。

 ふふ……やっぱり皆と一緒だと落ち着くし楽しいなぁ。まだ色々と不安はあるけど、それはひまり姉達の方が強いわけだし、桃ちゃんとあこちゃんが言っていたように僕は僕なりにひまり姉や蘭姉達を照らしていけるようにしようかな。

 未だに少しギクシャクとした感じのひまり姉や達を見ながら僕は強くそう決心した後、桃ちゃん達と一緒にタカ兄達の話へと混ざっていった。

 

 

 

 

「あー、あー……うん、今日も声の調子は良いみたいだね」

 放課後、演劇部の部室内で今日の声の調子を確認し終えた後、僕はふと部室内を見回した。周囲では先輩達が今度やる予定の演劇の台詞の練習や動作などの確認を行っており、他にもタカ兄達裏方を担当する生徒達との打ち合わせなどでとても忙しそうにしていた。

 当然ではあるけど、やっぱり皆最高の舞台を作るために真剣なんだなぁ……もっとも、その中でも()()()の真剣度合は更にスゴいみたいだけど。

 そんな事を考える僕の視線の先には、鏡を見ながら真剣な表情で物思いに耽っている2年上の先輩――瀬田薫先輩の姿があった。この羽丘学園に入学した後、僕はタカ兄から聞いた話で興味を持っていた演劇部に入部した。そして、その後に自分の特技や趣味を活かすにはタカ兄と同じ裏方の方が良いかなと思い、タカ兄と同じ裏方を志願しようとしていた。しかし、タカ兄からこの薫先輩を紹介された時、僕の顔を見た瞬間に薫先輩は少し驚いた様子を見せると、少し演技掛かった調子で『あぁ……今日はなんて良い日なんだ。ここまで演者をするのに相応しい後輩に出会えるとは、夢にも思わなかったよ……』と言い始め、それを聞いていた薫先輩のファンの先輩達の声にも押される形で、僕はそのまま演者側に所属する事になった。

 最初は向いてないなんて思ってたけど、やってみると結構楽しいし、薫先輩にあんな風に言ってもらえて本当に良かったかもしれないなぁ。

 そんな事を思いながら薫先輩の事を見ていた時、薫先輩は僕の視線に気付いた様子で不意にこっちへ顔を向けると、様々な女子生徒を魅了してきた微笑みを浮かべながらゆっくりと近付いてきた。

「太陽君、どうやら私の事を見ていたようだけど、何か用だったかな?」

「あ、いえ……こうして演じる側になった時の事を何となく思い出してただけです」

「ああ……なるほど。私と君が初めて会ったあの日は、本当に良い日だったと言えるよ。ただ……後で鷹明から君が本当は裏方を志望していたと聞いて、かなり強引な形でこちら側に引き込んでしまった事に罪悪感を覚えていたんだが、やはり今でも裏方に移りたいという気持ちはあるのかな?」

「……いえ、まったく。最初の頃は、僕に演技なんて向いてないと思っていましたけど、こうやって練習を続けていく内に、自分の思いを載せながら演じるという事の楽しさに気付く事も出来ましたし、あの時に薫先輩にああ言ってもらえたのは本当に良かったと思っています」

「……ふふ、そうか。そう言ってもらえて私はとても嬉しいよ。鷹明もそうだが、君もとても良い目をしている。これからの君の活躍に私は期待しているよ」

「はい、ありがとうございます」

 薫先輩にお礼を言っていた時、僕はさっき自分が言った言葉の中の()()()()が少しだけ気になった。

 思いを載せる、かぁ……。蘭姉は演劇には興味は無いだろうけど、何か別の形で何かに自分の思いを載せる事が出来れば、今の状況を打開できる気はするけど、演劇以外だと何があるかな……?

 そんな事を考えていた時、他の演劇部員との話を終えたタカ兄と大和麻弥(やまとまや)先輩が僕達の方へ歩いてくるのが見え、僕は右手を軽く挙げながらタカ兄に声を掛けた。

「お疲れ様、タカ兄。話の方はもう良いの?」

「ああ、軽い業務連絡みたいな物だったからな。ところで、さっき薫と話してたみたいだけど、何を話してたんだ?」

「えっとね……タカ兄が僕に薫さんを紹介してくれた時の事とか今演じる側として活動するのも楽しいって事とかかな」

「なるほど。まあ、演劇部の活動中には、いつも楽しそうにしてたもんな。それに、その楽しそうな様子や頑張っているところを見て、俺達裏方はいつも元気をもらってるよ。な、麻弥」

「はい、その通りです。後、太陽君は薫さんから直々に演者としてスカウトされた期待の新人として、裏方の皆の中で結構話題に上がっていますし、直向(ひたむ)きに演劇に臨む姿勢がスゴく良いとも言われてるんですよ?」

「え……あ、あはは……そう言われると、何だか照れるような……」

「ふふ……照れる必要なんて無いさ。君自身が正当に評価されているだけなんだから、もっと誇っても良いと思うよ」

「そ、そうですか……?」

 麻弥先輩と薫先輩の言葉に、気恥ずかしさを覚えていたその時、蘭姉が廊下を歩いているのが見え、僕は思わず首を傾げてしまった。

 あれ……蘭姉、どこに行くんだろう?

 蘭姉は今朝と同じように難しい顔をしながら歩いていて、カバンを持っているのとは別の手にはペンとノートのような物が見えた。

 うーん……向こうにあるのは、確か屋上だったよね。そういえば、青兄と兎亜姉が昨日蘭姉とモカ姉に屋上で会ったって言ってたし、今日も屋上に何か用があるのかな……?

 そんな事を考えている内に蘭姉はそのまま歩き去り、それに対して「あっ……」と思わず声を上げた瞬間、タカ兄が不思議そうに声を掛けてきた。

「太陽、どうかしたのか?」

「あ、うん……今蘭姉が屋上の方に歩いていくのが見えたんだけど、何だか今朝と同じような難しい顔をしてたから……」

「蘭ちゃんが……?」

「うん、それと手にペンとノートみたいなのを持ってたみたいだよ」

「そっか……今朝と同じ顔をしていたっていうのは、少し心配ではあるけど、部活動中に抜け出すわけにもいかないしな……」

 タカ兄が腕を組みながら心配そうな表情を浮かべていたその時、「行ってきたらどうだい? 2人とも」と言う薫先輩の声が聞こえ、僕達は弾かれたように薫先輩の方へと顔を向けた。すると、薫先輩はニコリと笑いながら話し始めた。

「そろそろ休憩時間にしないとと思っていたところだったからね。その蘭という子の事が気になるのならば、休憩時間の間に様子くらい見てきても問題は無いさ。それに、心配事を抱えたまま何かを為そうとしても、その成果は中途半端な物になってしまう。それであれば、少しでも心配事を無くした方が良いとは思わないかい?」

「薫……」

「事情はまだよく分かりませんが、ジブンも薫さんの意見には賛成です。気になる事があるなら、ササッと解決してしまった方がスッキリすると思います」

「麻弥先輩も……」

 薫先輩と麻弥先輩の言葉を聞いて顔を見合わせた後、僕達は同時に頷いてから薫先輩達の方へと向き直った。

「ありがとうな、薫、麻弥」

「それじゃあ早速行ってきますね」

「ああ、吉報を待っているよ」

「行ってらっしゃいッス、2人とも!」

「ああ!」

「はい!」

 そして、蘭姉を追うために急いで部室を出たその時、「あっ、太陽君とタカ兄だ!」という声が聞こえ、揃ってそちらへ顔を向けた。するとそこには、小さなバスケットを両手で持った桃ちゃんの姿があり、桃ちゃんはとても嬉しそうな様子で僕達へと走り寄ってきた。

「桃ちゃん、その手に持ってるのは今日の部活動で作った物?」

「そう、ココアクッキー! 結構うまく出来たから、皆にお裾分けしようと思ってね。それに、ラッピングなんかも凝ってみたんだ♪」

「なるほどね」

「ところで……何だか急いでる様子だったけど、どうかしたの?」

「実は……さっき太陽が難しい顔をしながら屋上の方に歩いていく蘭ちゃんの姿を見たって言っててな。青司の話の件もあるし、少し様子を見に行こうとしてたんだよ」

「あっ、そうだったんだね……うん、それなら私も一緒に行こうかな。蘭姉の事も気になるし、このクッキーもお裾分けに行きたいからね」

「分かった。よし……それじゃあ行こう、2人とも」

「「うん!」」

 タカ兄の言葉に返事をした後、僕達は改めて蘭姉の事を追うために屋上へ向かって急ぎ始めた。

 

 

 

 

 数分後、屋上へ出ようとした瞬間に突然「返してっ!!」という大声が聞こえ、僕達は思わず顔を見合わせた。

「今のって……蘭姉の声だったよね?」

「そうだな……」

「返してって言ってたけど、何かあったのかな……?」

「かもな。とりあえず屋上に出てみよう」

「「うん」」

 同時に返事をした後、僕達が屋上へ出てみると、そこには顔を真っ赤にした蘭姉の他にモカ姉の姿もあり、モカ姉の手には蘭姉がさっき持っていたノートがあった。どうやらさっきの蘭姉の声の原因は、モカ姉が持っているノートにあるらしく、蘭姉の視線はそのノートに注がれていた。

 だいぶスゴい声だったけど、そんなに大事なノートだったのかな……?

 そんな疑問を抱きながら僕はとりあえず2人に声を掛けてみる事にした。

「えーと……蘭姉、モカ姉、どうかしたの……?」

「んー……? おお、タカ兄に太陽君、それにウチの桃ちゃんまでいるじゃないの~」

「3人とも、どうしてここに……」

「いや、太陽が屋上に向かう蘭ちゃんの姿を見たって言うから、心配で様子を見に来たんだよ」

「そうそう。私達にとってもモカお姉ちゃん達の件はとても大事な事だからね」

「ほうほう~、そういう事でしたかー」

 モカ姉が納得顔で間延びした声を出す中、僕はモカ姉の手の中にあるノートを指差しながら蘭姉に声を掛けた。

「ところで、そのノートは何……? さっき、蘭姉が大声を出してたのは、そのノートに原因があるんだよね?」

「う……そ、そうだけど……」

「声の感じからすると、だいぶ大事なノートみたいだけど、そのノートには一体何が書いてあるの?」

「そ、それは……」

 蘭姉はとても話し辛そうな様子を見せた後、「……仕方ないか」と諦めたように言ってから、ノートの内容について話を始めた。

「実は……そのノートには、詩を書いてるんだ……」

「詩って……蘭姉が?」

「うん……」

「あたしも少ししか読んでないけど、蘭の気持ちが伝わるとても良い詩だと思うよー?」

「う……そんな風に正面から感想を言われると、スゴく恥ずかしいんだけど……」

「まあまあ。けど、今の話を聞いて何だか安心したよ。今朝、青司から昨日の蘭ちゃんの様子を聞いて、かなり心配はしてたけど、こういう形でも自分の気持ちを吐き出せているなら、まだ良い方かな」

「……そう、なのかな……」

「まあ、モカちゃんやウチのつぐみに正直に気持ちなんかを伝えるのが一番だけど、自分の気持ちを心の中に押し込めたままよりは、そうやって何か形にしている方が良いと俺は思うよ」

「……そっか」

「うん」

 少しだけ笑顔が戻った蘭姉に対してタカ兄がニコリと微笑みかける中、僕はふと部室の中で思った事を思い出した。

 あの時、僕は蘭姉にも何か思いを載せる手段があればと思ったけど、どうやらもうそれを見つけていたみたいだね。後は、その詩をひまり姉やつぐみ姉達に見せられれば良いんだろうけど、さっきの反応からすると中々見せたがらないだろうしなぁ……。

 そんな事を思いながら蘭姉達の様子を見ていたその時、モカ姉がこっそりと僕に声を掛けてきた。

「太陽君、何か考え事ですかな?」

「あ、うん……蘭姉がその詩を、自分の今の気持ちをひまり姉やつぐみ姉達にも見せられれば良いと思うんだけど、今の反応からすると中々見せたがらないだろうなぁと思ってね……」

「ふむふむ……そういう事なら、この天才美少女のモカちゃんにドーンと任せておきなさーい。このモカちゃんが、どうにかしてあの詩をひーちゃん達にも見せるようにしてみるからさ~」

「……うん、分かった。よろしくね、モカ姉」

「ほいほ~い」

 いつものように飄々とした様子でモカ姉が答えた後、僕はニコリと笑いながら再び口を開いた。

「それとね、モカ姉」

「うんー……? モカちゃんにまだ何か頼み事でもありましたかな~?」

「ううん、違うよ。モカ姉は充分蘭姉の助けになってるって言おうと思っただけだよ」

 その瞬間、モカ姉はとても驚いた表情を浮かべたけれど、すぐにいつものような表情に戻りながら不思議そうに話し掛けてきた。

「太陽君、何でそんな事を思ったのかなー?」

「ふふ……これでも一応演劇部の役者だからね。モカ姉がいつものみたいな表情を浮かべる裏で、蘭姉が素直に気持ちを伝えてくれない寂しさや蘭姉の事を助けてあげたいって思ってる事は何となく伝わってきたよ」

「……太陽君は、いつもニコニコポカポカしているようで、結構侮れませんなぁー」

「そうかな? まあ、さっきも言ったようにモカ姉は充分蘭姉の助けにはなってると思うよ。どんな形であっても、気心の知れた人が近くにいて話を聞いてくれるのは、本人にとってはとてもありがたい事だからね」

「そっかそっかー……まあ、あたし個人としてはもう少し力になってあげたいけど、今の太陽君の言葉で少しは気が楽になったような気はするよ~」

「それなら、良かった。一応僕達は、今回の件は蘭姉達5人が解決するべき問題だと思ってるから、今みたいな軽い助言くらいしか出来ないけど、相談なんかには乗っても良いとは思うから、何かあったら遠慮無く頼ってね?」

「……うん、その時になったらお言葉に甘えてそうさせてもらうよ~。太陽君、ありがとうねー」

「ふふっ、どういたしまして」

 モカ姉の言葉に対してニコリと笑いながら答えた後、僕はそろそろ部活動に戻らないとと思い、タカ兄と桃ちゃんに声を掛けた。

「タカ兄、桃ちゃん、そろそろ僕達は戻ろうか」

「そうだな。一応、休憩時間ではあるけど、そろそろ戻らないといけないからな」

「だね。だけど、その前に……」

 桃ちゃんはそう言いながらバスケットの蓋を開けると、中からラッピングされた小袋に入ったココアクッキーを2つ取り出し、それを蘭姉とモカ姉に1つずつ手渡した。

「はいっ! さっき焼いたばかりのココアクッキーだよ! 結構うまく出来たから、お姉ちゃん達にもお裾分け!」

「あ、ありがとう……」

「ありがとうね、桃~」

「えへへ、どういたしまして。せっかくだから、太陽君とタカ兄にも今の内に渡しちゃうね。はい、どうぞ」

「うん、ありがとう、桃ちゃん」

「ありがとうな、桃ちゃん」

「どういたしまして。それじゃあお姉ちゃん、蘭ちゃん、私達はそろそろ戻るね」

「うん、分かったー」

「3人とも……えっと、心配してくれてありがとう……」

「どういたしまして。それじゃあな、2人とも」

「またねー」

「蘭ちゃん、またねー。モカお姉ちゃん、また後でー」

 それぞれ蘭姉とモカ姉に言葉を掛けた後、僕達は屋上を後にしてそれぞれの部室へ向けて廊下を並んで歩いていた。その途中、タカ兄は突然何かを思い出した様子で「……そうだ」と声を上げると、不思議そうに小首を傾げながら話し掛けてきた。

「さっき、モカちゃんと話をしていたようだったけど、何を話してたんだ?」

「えっとね、簡単に言うなら蘭姉があのノートに書いていた詩の話とモカ姉は充分に蘭姉の助けになってるっていう話だよ」

「なるほどな。まあ、詩がどんな内容かは分からないけど、きっとあの5人の助けになる気はするよ」

「そうだね。それで、私達はこれからもモカお姉ちゃん達の事は関わりすぎずほっときすぎずの姿勢で良いんだよね?」

「ああ、そうだな。青司が言うように、この件についてはあの5人が解決するべき問題だから、その程々なくらいがベストだと思う」

「うん、りょーかい」

 そんな事を話している内に、僕達が演劇部の部室の前に着くと、それと同時に桃ちゃんがニコリと笑いながら僕達から離れた。

「それじゃあ2人とも、部活動頑張ってね♪」

「ああ、ありがとうな」

「桃ちゃんはこれから皆にこのクッキーを配り歩くの?」

「うん、部長には許可は貰ってるからそのつもりだよ」

「そっか。配り歩き頑張ってね、桃ちゃん」

「うん、ありがとう! それじゃあ2人とも、また後でねー!」

「うん、また後でねー」

「また後でー」

 そして、桃ちゃんが廊下を歩いていくのを見送った後、僕達は再び部活動に励むために部室のドアを静かに開けて中へと入った。

 

 

 

 

「……うん、やっぱり疲れている時の甘い物と紅茶の組み合わせは、スゴく心が落ち着くなぁ……」

 帰宅後、僕は桃ちゃんから貰ったココアクッキーと淹れ立ての紅茶という組み合わせを楽しみながら、リビングのソファーでのんびりとしていた。夕御飯前ではあったけれど、甘い物の誘惑にはどうにも逆らえなかったため、こうしてのんびりとしたミニティータイムを楽しむ事にした。

 ……結局、青兄が今朝言っていたような蘭姉がクラスに居場所が無い理由を探る事は出来てないけど、ひまり姉達の事を見守るという目的から考えるならたぶんこれで良かったんだよね……?

 頭の中に広がる小さな疑問を感じながらココアクッキーを一口齧っていたその時、リビングのドアがガチャッと開く音が聞こえたかと思うと、それと同時に「あ、ここにいたんだー」というひまり姉の声も聞こえ、僕はゆっくりとひまり姉の方へ顔を向けた。

「ひまり姉、何か用事?」

「ううん、特には。ただ、部屋にいないようだったから、どこにいるかなと思っただけ」

「そっか」

「ところで……それは桃ちゃんが配り歩いていたココアクッキーだよね?」

「うん。せっかくだから紅茶と一緒にと思って、帰ってくるまで取っておいたんだ」

「なるほどね。それで、その中にハート型のクッキーなんて入ってたりはした?」

「いや、無かったと思うけど……それがどうかしたの?」

「いやー、太陽と桃ちゃんの仲の良さを考えたら、そういう事もあるかなぁと思ってね」

「……ああ、そういう意味。残念でした、僕達はそういう関係じゃないから、そんな事はありません」

「そっかぁ……けど、もしそうなったら遠慮なく私に相談してくれて構わないからね。モカから聞いたけど、太陽達は私達の事をかなり気に掛けてくれているみたいだし、少しは恩返しの意味も込めてお姉ちゃんらしい事をしたいからね」

「……分かった。もしそうなったら、その時は相談する事にするよ」

「うん!」

 満面の笑みを浮かべるひまり姉に対して、ニコッと笑い返しながら僕は心の中で少しだけ申し訳なさを感じていた。

 ……たぶん、ひまり姉は僕が不安そうにしていたのに気付いて、こういう話題を振ってくれたんだよね。自分だって蘭姉達との事でだいぶ不安を感じてる中で、しっかりと他の人にも気を向けていけている。やっぱりそういう所は、僕も見習っていかないといけないかな。

 さっきの会話からそう思った後、僕は笑いながらひまり姉に話し掛けた。

「ひまり姉、これからも()()()()頑張っていこうね」

「うん、もっちろん!」

 そう笑顔を浮かべながら大きな声で答えるひまり姉の顔を見て、僕は静かに安心感を覚えた。

 ……うん、このまま不安になっててもしょうが無いし、今は僕達が出来る事を精いっぱいやろう。今までお世話になってきた分、今度は僕達がひまり姉達をささえていかないといけないからね。

 そんな小さな使命感を胸に抱きながら、僕はひまり姉達の事に対しての決意を新たにし、それによって湧き上がってくるやる気と勇気のような物を静かに感じていた。




政実「第4話、いかがでしたでしょうか」
太陽「この章もそろそろ後半戦だけど、後何話くらい続く予定なの?」
政実「予定では、後3話くらいかな。ただ、話の進み具合によっては、2話になるかもしれないけど」
太陽「うん、了解。そして最後に、この作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けるととてもうれしいです」
政実「さて……それじゃあそろそろ締めていこうか」
太陽「うん」
政実・太陽「それでは、また次回」


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第5話 音が繋ぐ新しい絆

政実「どうも、バンドを組むなら担当はキーボードが良い片倉政実です」
桃「どうもー、青葉桃です。キーボードって事は、つぐみお姉ちゃんと同じだね」
政実「そうだね。別の所でも話してるけど、短期間だけピアノの練習と発表をする機会があったから、どれをやるかと訊かれたら間違いなくキーボードって答えるだろうね」
桃「ふふっ、そっか。さてと、それじゃあそろそろ始めていこっか」
政実「うん」
政実・桃「それでは、第5話をどうぞ」


 お姉ちゃんとモカお姉ちゃんと屋上で話をした翌日、いつものようにモカお姉ちゃん達5人とタカ兄や太陽君達と登校をしていた時、私が前の方を歩くお姉ちゃん達の様子に注目をしていると、青兄がこそっとした声で私達に話し掛けてきた。

「お前ら……ちっと良いか?」

「……何だ?」

「このまま学校をサボろうっていう提案なら、今日の所は遠慮しておきたいんだけど?」

「いやいや……今日に限らず断るべきだろ、それは……」

「ふむ……学校をサボるってのは、中々魅力的な案だが、残念ながら俺が言いてぇのはそれじゃねぇよ」

「いや、学生が学校をサボる事を魅力的って言っちゃダメだろ……」

「ははっ、まあ……それは置いといて。実はな……アイツらが、週末にファミレスに集まる約束にしてるのを昨日の夜に偶然聞きつけたんだけどさ……」

「うーん……それは別に良い事だと思うけど、ダメなの?」

「いいや、決してダメなんかじゃねぇ。むしろ、俺達からすれば絶好のチャンスって奴だ」

「絶好のチャンス……?」

 あこちゃんが不思議そうに小首を傾げると、青兄はニヤリと笑いながら頷き、こそっとした声で話を続けた。

「その通りだ。ここまで俺達は、蘭達に対してそれぞれ何らかの助言をしてきた。けれど、この状態になってからアイツらが集まっている現場にまだ出くわした事は無い」

「出くわした事が無いって……別にそれは仕方ない事じゃないのか? 家の手伝いとか部活動とかのような色々な事情が重なった結果、そうなっただけなんだし……」

「そうだな。だからこそこれはチャンスなんだよ。ウチの蘭がつぐや巴達に思いを伝えられるかどうかを確認したり昨日の放課後に太陽がモカに対して頼んだ事が上手く行くかを見届けたりする、な」

 青兄がニカッと笑いながら言い、兎亜姉が「……なるほどね」と同じような笑みを浮かべ、太陽君が「……確かにそれは気になるかも」と顎に手を軽く当てながらそう呟く中、タカ兄はジトッとした目で青兄を見ながら話し掛けた。

「……青司、まさかとは思うけど、それについていこうとしてるのか……?」

「まあ、似たようなもんだな。と言っても、そのままついていくんじゃなく、アイツらが座る席の近くに陣取って、話の様子をこっそりと見守る感じだな」

「こっそりと巴お姉ちゃん達の様子を見守る……うん、何だかスゴくカッコいい気がする……!」

「へへっ、だろ? それと……モカにだけはこの事を事前に伝えておく」

「え……モカお姉ちゃんに伝えちゃっても良いの?」

「ああ、見守り中に蘭達が俺達に気付きそうになる可能性もあるからな。もし本当にそうなった場合、モカに事前に伝えておけば何とか誤魔化してもらえるからな」

「……確かに、ウチの巴やひまりちゃん達はそういうのに向かないし、蘭ちゃんはもってのほかだからね」

「そういう事。という事で、その日は出来る限り予定を空けておいてもらえると助かる。無理にとは言わねぇが、人数が多い方が色々と助かるからな」

 微笑みながら言うその青兄の言葉を聞き、私達がやる気に満ちた表情を浮かべながら大きく頷く中、タカ兄は「……仕方ないか」と諦めた様子で小さく溜息をつきながらポツリと呟くと、青兄は満足顔でコクンと頷いた。

「んじゃあ、その日は蘭達が出掛けてから一度タカの家に集合な。それと……モカ以外には、絶対に知られねぇように気をつけろよ?」

『了解!』

「……了解」

 私達が声を揃えて、そしてタカ兄が少し暗い様子で返事をした後、私はタカ兄達と一緒に歩きながら作戦実行の日へ向けてのやる気を高めていた。

 モカお姉ちゃん以外には知られないように様子を見守る、かぁ……うん、ここまで色々と頑張ってきたわけだし、作戦実行の日はお姉ちゃん達が上手くいくように祈りながら見守らないとね……!

 そう思いながら右手を軽く握った後、私はタカ兄達と話をしながら羽丘学園に向けてそのまま歩いていった。

 

 

 

 

 学校に着いてタカ兄達と別れた後、私達は自分達の教室である1-Bへと向かい、話し声で賑わう教室のドアを少し強めに開けて中へと入った。

「皆、おっはよー!」

「おはよう、皆」

「皆、おはよう」

 そして、それに答えてくれる皆に対して頷きながら教室内を歩いていくと、1人の席に集まりながら仲良く話していた友だち達が私達の方へと顔を向け、それぞれ挨拶をしてくれた。

「おはよう、3人とも」

「おはよう。桃は今日も元気だね」

「おはよう、お前達」

「うん、おはよう。凛人(りんと)君、有珠(ありす)ちゃん、聖也(せいや)君」

「おはよう、3人とも」

「3人とも、おはよう」

 私達が挨拶を返すと、凛人君達はニコリと笑いながらコクンと頷いた。凛人君達は、この春から出来た私達の新しい友達で、白金凛人(しろかねりんと)君は黒のストレートヘアの優しい顔つきの男の子で、市ヶ谷有珠(いちがやありす)ちゃんは少し明るめな茶色のセミロングヘアでとても素直な女の子、そして白鷺聖也(しらさぎせいや)君はクリーム色のストレートヘアで言葉が少し粗っぽく聞こえるけど、結構世話好きな性格の男の子。この3人には、実はある共通点があって、その共通点というのが親類縁者がこことは違う学校――花咲川女学園に通っているという物。凛人君と聖也君の場合は、タカ兄達と同い年のお姉ちゃんが、そして有珠ちゃんはモカお姉ちゃん達と同い年の従姉妹がいるらしく、凛人君達がこっちの学校に通う事になったのもそれぞれお姉ちゃんからの自立だったり家がこっちの方だったりと色々みたいだった。

 そういえば……タカ兄のクラスにも凛人君達と同じく姉妹が花咲川に通っている人がいるみたいだし、結構そういう人っているものなのかな?

 何となくそんな事を考えていた時、凛人君が何かを思い出した様子であこちゃんに話し掛けた。

「あこちゃん、姉さんがオンラインゲームのクエストの件で少し相談したい事があるから、暇な時があったら連絡して欲しいって言ってたよ」

「クエストの件……あ、もしかしたら昨日の夜にちょこっと話してた奴の事かも。うん、分かった!」

「オンラインゲームかぁ……ウチの姉さんだったら、『仕事』の関係で関わらなければあまり手をつけなそうなイメージだな」

「あはは……そうかもね。まあウチの場合は、何だかんだで手をつけてそうかな」

「従姉妹の人はそういうのは好きな方なの?」

「うーん……好きかまではちょっと分からないかな。けど、そういうのをやってそうなイメージはあるかも」

「そっか。私達も始めてみたい気持ちはあるけど、それに本格的にハマっちゃったら抜け出すのに苦労しそうだから、手を出しづらいんだよね……」

「確かに普通の生活にまで影響しちゃうくらいハマっちゃう人もいるけど、あこやりんりん――凛斗君のお姉ちゃんはその辺はしっかりとしてるからね。それに皆だってその辺は大丈夫な気がするし、もし始める時に声を掛けてくれたら色々と教えてあげられるよ!」

「うん、その時は是非お願いしようかな」

「うん、任せてよ!」

 あこちゃんが胸をポンッと叩きながら言うと、その様子に太陽君達はクスリと笑いながら静かに頷いた。こんな皆との毎日は、私にとってはとても楽しい物だし、タカ兄達やモカお姉ちゃん達との毎日にも劣らない程だと思ってる。そして、本当なら蘭お姉ちゃんだってクラスの人達とこんな風に話したり笑い合ったりする毎日を送る事は出来るはず。けれど、青兄が言うようにクラスに居場所がないのかまた別に理由があるのかは分からないけど、今の蘭お姉ちゃんはそういう事が出来ずにいる。

 今度あるお姉ちゃん達の集まりでそれがどうにかなるかはまだ分からない。でも、蘭お姉ちゃんも含めて皆にはいつも笑顔でいてもらいたいから、今までお世話になってきた分、私達が精いっぱい支えていかないといけないよね。

「……うん、どんな形になったとしても精いっぱい頑張って支えていこう」

 皆に聞こえないような声でポツリとそう独り言ちた後、私は再び太陽君達の会話へと混ざっていった。

 

 

 

 

 作戦実行の日、モカお姉ちゃん達が出掛けていった後、私達は予定通り一度タカ兄の家に集まっていた。そして青兄の作戦通り、モカお姉ちゃんには事前にこの事を話していて、どのファミレスに行くかもしっかりと聞いていたため、準備はバッチリと出来ていた。

「さてと……モカには話は通してあるし、こうして6人全員が集まる事も出来た。後は蘭達に気付かれねぇように同じファミレスの中に入って、こっそりとその様子を見守るだけだが……」

「ん、何か不安な事でもあるのか?」

「いや、不安っつーか……俺達6人がまとめて入ったら、明らかに不審がられるだろ? だから、3人ずつで組み分けをしようと思う」

「組み分け……?」

「そう。そうやっておけば、いるのがバレた時でも不審がられる可能性をかなり下げられるからな。本当なら、咲也とか恵明とかも混ぜればもっとバレにくく出来っけど、アイツらの貴重な休日を使わせてまでやらせるわけにもいかねぇからな」

「まあ、確かにそうだね。それで、どんな風に組み分けをするつもりなの?」

「一応、男女で分けようと思ってる。変に凝った組み合わせにすると、明らかに怪しまれちまうからな」

「なるほど……という事は、僕がタカ兄と青兄と同じで……」

「私が兎亜姉とあこちゃんと同じだね」

「えへへ、そうだね。それで、お姉ちゃん達の事はいつまで見守るつもりなの?」

「蘭達がファミレスを出るまでだ。もっとも、その前に話が良い方に進めば、その時に終わりにするつもりだけどな。あくまでも、俺達がやりたいのはアイツらの話の流れを見守る事であって、アイツらを束縛する事では無いからな」

 青兄がとても真剣な顔で言うと、それに対してタカ兄と兎亜姉は同じように真剣な表情で頷き、私達も続く形で同時に頷いた。その時、青兄の携帯電話がブルッと震え、「……来たかな?」と呟いてから青兄は携帯電話を確認した。そして、画面を見ながら静かに頷いた後、私達へと視線を移してから口を開いた。

「よし……行くぞ」

『了解』

 それに対して同時に返事をした後、私達は作戦を実行するために動き始めた。

 

 

 

 

 十数分後、モカお姉ちゃん達がいるファミレスに着き、まずは私達女子組が中へと入った。そして、モカお姉ちゃん達が座っている席の近くに座り、モカお姉ちゃんに着いた事を報せるメールを送ると、すぐにそれに対しての返事が届いた。

「……『りょうかーい』だって」

「そっか。それにしても……巴達の顔、スゴく楽しそうな感じだね」

「うん。最近、5人が集まる時間が登下校くらいしか無かったみたいから、やっぱり嬉しいのかもしれないね」

「だね」

 下校時は皆色々な理由があるから、中々一緒に帰る事が出来ていなかったけれど、登校時は青兄と兎亜姉が電話連絡で大体のタイミングを合わせて一緒に登校出来るようにしていた。けれど、やっぱりこんな風に落ち着いた状態で集まるのはまた違うのかもしれない。

 ……今日の集まりで、モカお姉ちゃん達の事が進展すれば良いなぁ……。

 そんな事を考えていた時、兎亜姉の携帯電話がブルッと震え、それと同時に兎亜姉が携帯電話を確認すると、「……男子組も席に着いたってさ」と微笑みながら私達に声を掛けてきた。そして、ごく自然な動きでテーブルの上に立てられていたメニューを手に取ると、それを静かに開きながらニコリと笑いかけてきた。

「話がどんな風になるか分からないし、何か頼んでおこうか。何も頼まずにいるよりも頼んでおいたほうが怪しまれないし、カモフラージュにもなるからね」

「うん、分かった」

「あこも了解だよ、兎亜お姉ちゃん」

「うん、それじゃあ早速選んじゃおうか」

「「おー!」」

 そして、それぞれメニューを選んだ後、それを待ちながらモカお姉ちゃん達の話に聞き耳を立てた。最初はなんてこと無い雑談から始まったモカお姉ちゃん達の話だったけど、ひまりお姉ちゃんがカラオケの話をし出した事で、話題はバンドの事への変わった。その瞬間、つぐみお姉ちゃんの表情が少し変わり、モカお姉ちゃん達がそれぞれやってみたい楽器を上げ、ひまりお姉ちゃんがつぐみお姉ちゃんに話を振ると、つぐみお姉ちゃんは少し立ち上がりながらとても真剣な顔で声を上げた。

「バンド……。バンド……やろうよっ!!」

 その言葉にモカお姉ちゃん達や私達が驚く中、つぐみお姉ちゃんが更にバンドをやろうと言い出すと、蘭お姉ちゃんが驚いた表情のままつぐみお姉ちゃんにどうしたのかと訊いた。すると、つぐみお姉ちゃんは5人が中々集まれていなかった事やどうしたら集まる事が出来るかを考えていた事を話し出し、それに対して蘭お姉ちゃんがまた驚いてると、巴お姉ちゃんが静かに頷きながら皆で話し合っていた事や蘭お姉ちゃんが最近元気が無かったことに触れ、蘭お姉ちゃんは少し申し訳なさそうな様子を見せた。そして、モカお姉ちゃんがニヤリと笑いながら昨日蘭お姉ちゃんが屋上で書いていた歌詞の話に触れると、焦り出す蘭お姉ちゃんとは対称的に兎亜お姉ちゃんがクスクスと笑い始めた。

「何と言うか……つぐみちゃんがバンドの話を始めてくれたのは、本当にラッキーだったね」

「そうだね。でも、つぐみお姉ちゃんが話を切り出さなかったらどうするつもりだったんだろう?」

「うーん……謎だね……」

「ねー……」

 まあ、モカお姉ちゃんの事だからどうにかしたんだろうけど、もし教えてくれそうだったら後で訊いてみようかな?

 そんな事を考えている内に私達が注文した物が届き、モカお姉ちゃん達の席では蘭お姉ちゃんが少しだけ顔を赤らめながら歌詞が書かれているノートを取り出した。そして、つぐみお姉ちゃん達は蘭お姉ちゃんの歌詞ノートに目を通すと、目を輝かせながら歌詞の良さなどに触れ、蘭お姉ちゃんはそれに対してそんな事ないといった様子で答えていたけど、その顔はどこか嬉しそうな風に見えた。その後、蘭お姉ちゃんが作詞とボーカルをやれば良いんじゃないかという巴お姉ちゃんの言葉で、お姉ちゃん達のバンド計画は着々と進みだし、結果としてバンドを組むという事で完全に決まったようだった。

 お姉ちゃん達のバンドかぁ……ふふっ、何だかスゴく楽しみかも。

 満員の客席の中でお姉ちゃん達がライトを浴びながら演奏をして、その音などで更にお姉ちゃん達が絆を深めていく様子を想像しながらお姉ちゃん達の様子を見ていた時、同じようにお姉ちゃん達の様子を見ていた兎亜姉が安心したようにクスリと笑った。

「蘭ちゃん……ようやく笑顔になってくれた感じだね」

「そうだね。何かこうやってモカお姉ちゃん達が楽しそうにしている様子を見ていると、ここまで頑張って来て良かったって感じがするよね」

「うんうん、そうだよね。一時はどうなるかと思ったけど、こうして巴お姉ちゃん達が笑っているのを見てると、こっちまで嬉しくなってくるしね」

「ふふ、そうだね」

 そんな事を話しながら楽しそうに話すお姉ちゃん達の姿を見ていたその時、兎亜姉の携帯電話がまたブルッと震え、兎亜姉は携帯電話へと視線を移してから画面を確認した。そして、安心したような笑みを浮かべると、画面を私達の方へと向けた。そこには青兄から送られてきた作戦の終了と撤収を告げる旨の文章が書かれてあり、それに対して頷いた後、私はあこちゃんと一緒に頼んだ物を急いで食べながらモカお姉ちゃんにメールを送った。そして、食べ終わると同時に私の携帯電話がブルッと震え、携帯電話の画面を確認してみると、そこには私のメールの内容に対しての『りょうかーい』と『ありがとうね』というお礼の言葉の2つが書いてあり、その言葉を見た瞬間に私の胸の奥が静かにポカポカとしてきた。そして、携帯電話をしまってから出る準備が整った事を確認した後、私達は楽しそうに話し続けるお姉ちゃん達を残してそのまま席を立った。会計を済ませてから外へ出てみると、そこにはタカ兄達男子組の姿があり、私達がそのまま男子組の方へ歩いて行くと、青兄が優しく微笑みながら兎亜姉へと話し掛けた。

「これで一安心……だな」

「そうだね。音と楽器が繋ぐ新しい繋がり、ってところかな」

「はは、そうだな。それにしても……つぐみが自分からバンドを始めようなんて言い始めたのはスゴく驚いたよ」

「ふふっ、そうだね。でも、こうして新しい事に挑戦していこうとしているのは、やっぱりとても嬉しいよね」

「だね。お姉ちゃん達のバンド……ふふ、やっぱりスゴそうだよね」

「当然だよ! なんて言ったって、あこ達のカッコいいお姉ちゃん達のバンドだもん!」

「ははっ、そうだな。さてと……これからどうする?」

「そうだね……タカは午後からお店の手伝いなんだっけ?」

「ああ。だから、それまでなら予定は空いてるぞ?」

「そっか……んじゃ、適当にその辺をブラつくとするか。んで、昼飯もそのついでに食っちまえば良いしな」

「そうだね。今日は巴達がバンドの結成を決めたおめでたい日だし、無理にならない程度にぱあーっといこっか」

「はあ……まあ、今日くらいは良いか。それじゃあ、太陽達の分も含めて俺達で割りという事で良いよな?」

「へへっ、もちろんだぜ!」

「当然だね」

 え……さっきの分も払って貰ったのに、これ以上払って貰うのは流石に悪いような……。

 そんな風に言いながら話をどんどん決めていくタカ兄達に対して声を掛けようとしたその時、私の視線に気付いたタカ兄がニコリと笑いかけてきた。

「気にしなくても良いよ、桃。俺達が好きでやってる事だからさ」

「そうそう。だから、お前達は大人しく俺達に奢られとけよ」

「いつか桃達に可愛い後輩が出来たときにでも同じ事をしてあげれば良いだけだからね」

「タカ兄……青兄……兎亜姉……」

「へへっ……んじゃあ、行こうぜ。アイツらのこれからを祈るためにもな!」

『おー!』

「「了解」」

 そして、様々な人が行き交う街の中を私達はお姉ちゃん達の話をしながら歩き始めた。

 

 

 

 

 その日の夜、私が自分の部屋でレシピ集を眺めていた時、コンコンというノック音が聞こえ、それに対して「どうぞー」と答えると、「失礼しまーす」と言いながらモカお姉ちゃんが部屋に入ってきた。

「お姉ちゃん、私に何か用だった?」

「んー……まあ、そんなところ~」

「そっか。あ、それと……バンド頑張ってね、お姉ちゃん。私達はお姉ちゃん達のバンド活動も支えていくつもりだから」

「おー、中々頼もしいですなぁ~。それなら、お言葉に甘えて桃達にはこれからも色々とお世話になろうかな~」

「うん、じゃんじゃん頼ってね♪」

「うん、そうさせてもらうよー。でも……」

「でも……何?」

 小首を傾げながら訊くと、モカお姉ちゃんは突然私にハグをし始め、それに対して私が不思議に思っていると、耳元でモカお姉ちゃんが優しい声で言葉を続けた。

「桃も何かあったらあたし達の事を頼ってね」

「え……い、いきなりどうしたの?」

「んーん、別にー。けど、1つだけ言わせてもらうなら、あたし達だって桃達にはいつも笑顔でいてもらいたいだけだよ」

「笑顔……」

「うん。桃、何だか肩に力が入りすぎてるような顔してたから、ちょっと心配だったんだよー」

「……うん。私、お姉ちゃん達には絶対にうまくいって欲しかったから……」

「その気持ちはとても嬉しいよー? でも、あたし達からすればね、桃達が笑顔でいてくれる事だって大事なんだよ~。だから、何か困った事があったら、遠慮無くあたし達やタカ兄達を頼りなよー?」

「……うん、分かった。ありがとうね、お姉ちゃん」

「いえいえー、こちらこそあたし達を心配して、支えてくれて本当に()()()()()()

 その言葉を聞いた瞬間、ファミレスで送られてきたメールを思い出し、私はまた胸の奥がポカポカしてくるのを感じた。何気ないありがとうの言葉でも、心がこもっていれば言われた人を幸せな気持ちに出来、笑顔にも出来る。そんな事を思いながら私は胸の奥の『ポカポカ』とモカお姉ちゃんから伝わる『ポカポカ』の2つを感じながらとても幸せな気持ちになっていた。

 暖かい……この暖かさは、たぶん一生忘れない気がする……。

 そして、モカお姉ちゃんは私から離れると、私の顔を見ながら優しく微笑んだ。

「それじゃあ……桃、お休みー」

「うん、お休み」

 私が返事をすると、モカお姉ちゃんはコクンと頷いてから部屋を出ていった。そして、私はそれを見届けた後、さっきのぽかぽかを思い出しながら独り言ちた。

「……うん、これからも色々な人をポカポカさせられるように頑張ろう。太陽君やタカ兄達、お姉ちゃん達にも頼りながら」

 その声が部屋の中に響き終えた後、私は幸せな気持ちを感じながら静かに微笑んだ。




政実「第5話、いかがでしたでしょうか」
桃「前回は後2・3話でこの章が終わるって言ってたけど、この調子だと次回で終わりそうだね」
政実「恐らくそうなるね。だけど、最後まで気を抜かずに精いっぱい書くつもりだよ」
桃「うん、了解。そして最後に、この作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けるととても嬉しいです」
政実「さて……それじゃあそろそろ締めていこうか」
桃「うん」
政実・桃「それでは、また次回」


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第6話 夕焼けと夕暮れ

政実「どうも、夕焼けと夕暮れのどちらも好きな片倉政実です」
鷹明「どうも、羽沢鷹明です。まあ、どっちにもお互いの良い所があるからな」
政実「うん。夕焼け空の下を歩くのも好きだけど、夕暮れにのんびりとするのも好きだから、どっちが良いって訊かれても決められないかもしれないね」
鷹明「そっか。さて……それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・鷹明「それでは、第6話をどうぞ」


 

 つぐみ達がバンドを組んだ数日後、いつも通り皆で登校をしていた時、隣を歩いていた青司が満足顔で体を上へグーッと伸ばしながら俺達に話し掛けてきた。

「んー……にしても、今日も良い天気だな。こんな良い天気だと、気分も良くなるよな」

「そうだな。それに、つぐみ達の件も何とかなった分、尚更そう感じるな」

「ふふ、そうだね。本当に最初はどうしようと思ったけど、結果として万事解決したわけだし、これで一安心……かな?」

「僕はそれで良いと思うよ。最近のひまり姉は、前よりもスゴく楽しそうだからね」

「ふふっ、ウチのモカお姉ちゃんもかな」

「もちろん、巴お姉ちゃんもそうだよ!」

「そっか……ふふ、本当につぐみ達の事を解決できて良かった……」

 チラリとつぐみ達の方へ視線を移すと、つぐみ達はバンドの事で話し合いをしており、その誰もが心からの笑顔を浮かべていた。

 ここまで来るのに良くも悪くも色々あったけど、終わりよければ全てよし、つまりはそういう事……かな。

 そんな事を思っていた時、演劇部の()()()()の顔が不意に浮かんできたため、俺は思わず苦笑いを浮かべてしまった。そして、表情を苦笑いから微笑みへと変えながら再び青司達の方へ顔を向けたその時、青司が何やら考え事をしているのが見え、俺はそれに対して疑問を覚えた。

「青司、どうかしたか?」

「……いや、ちょっとな」

 ニヤリと笑いながら答える青司の様子に、俺の中で危険を知らせるサイレンが鳴り響いたような気がしていると、それを見ていた兎亜が同じくニヤリと笑いながら青司に声を掛けた。

「……どうやら、また面白そうな事を思いついたみたいだね」

「んー……まあ、そんなところ……かな? ただ、これはまだまだ先の話だから、俺がちゃんと話をするまではお預けだな」

「お預け、かぁ……。でも、青兄の表情からスゴく面白そうな事なのは分かるし、それまで楽しみにしてようかな?」

「そうだね。でも……これだけは訊きたいんだけど、それは()()()()()()()()()()()()()()()事?」

 桃が小首を傾げながら訊くと、青司はそれに対してニヤリと笑った。

「……それ、訊いちゃう?」

「うん、訊いちゃう♪」

「そうだな……関係はあるけど、今のアイツらに対して何かをするみたいな事では無いな。まあ、アイツらに関係があるのは間違いないけどさ」

「そっか……それなら太陽君が言ったようにそれまでのお楽しみにしてるよ」

「ああ、そうしとけ。ただ……この前、ここにいる全員が蘭達の楽器代に手を貸してるのは知ってるけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「……青司、お前本当に何を企んでるんだ……?」

「へへっ、内緒だよ内緒♪ というか、せっかちな男は嫌われるぜ?」

「……それは別に良いけどな。まあ、そういう顔をしてる時のお前は、悪事とか悪戯とかに走る事は無いのは分かってるから、これ以上は訊かないけどさ」

 諦め気味に言うと、青司はニカッと笑いながら俺の肩を強めに抱いてきた。

「ヘへ、サンキューな。タカならそう言ってくれると思ってたぜ?」

「まあ……いつもの事だからな。けど、その時になったら全部話してくれよ?」

「おう、もちろんだぜ! この美竹青司、嘘をつく気だけは無いからな!」

「……今まで、結構な数の嘘をついてきた気がするけど、まあ良いか……」

 青司の考えに多少の不安はあったものの、楽しそうに笑う青司の姿を見ている内にそれは段々どうでも良くなり、最後には不思議な事に不安よりも楽しさの方が勝っていた。青司は昔から自分の楽しさに他人を巻き込む事が得意であり、その巻き込まれた奴が感じている楽しさも次々と伝染していき、最後には誰もが楽しそうに笑っているなんて事が結構あった。もちろん、兎亜も同じような事が出来るが、こればかりは青司の方が凄いと俺は思っている。

 ……俺が内気の鳥籠から出て来られたのは、青司と兎亜が無理やり引っ張り出してくれたからではあるけど、こういう楽しさの伝播(でんぱ)も理由の一つなのかもしれない。そう考えると、青司達のこういうところだけは、本当に見習わないといけないよな。

 楽しそうに笑う青司達の事を見ながらクスリと笑った後、俺は再び青司達の話に混ざり、その楽しさを感じながら学校へ向かって歩いていった。

 

 

 

 

「……ふふ、その感じだと妹さん達はもう大丈夫そうみたいだね」

「へへっ、まあな!」

 登校後の教室での事、俺達の今朝の話を聞いてニコリと笑う咲也に対して、青司は少しだけ胸を張りながらニカッと笑って答えた。今回のつぐみ達の件で、俺達は咲也達や友希那達、そして薫達に相談に乗ってもらったり助けてもらったりしたため、つぐみ達がバンドを組む事にした翌日に問題が解決した事はしっかりと話をした。ただ、それ以降も咲也達はつぐみ達の様子を気に掛けてくれている事もあって、今日のようにつぐみ達の話をする事が前よりは確実に増えている。

 まあ、心配をしてもらってるのはありがたい事だし、良い事ではあるよな。

 そんな事を考えながら一人で頷いていた時、恵明が少し驚いた様子で静かに口を開いた。

「……それにしても、お前達の問題解決力には本当に驚かされるな。クラス内や学年内で起きた問題の解決は前々からしていたが、いつも一週間弱で解決をしてしまうからな」

「あはは……まあ、今回に関してはあくまでも俺達は相談に乗ったり話を聞いたりしたくらいで、最終的にはつぐみ達が()()()()()()()()()を見つけたわけだから、俺達が解決したとは言い難いけどな」

「ううん、そんな事は無いとあたしは思うよ。鷹明達が親身になって話を聞いたり支えてあげたりした分、妹さん達は助かってたと思うし、これは妹さん達と鷹明達で解決した事だって言っても良いと思う」

「日菜……うん、ありがとうね」

 日菜の言葉に兎亜が微笑みながら答えていたその時、不意に咲也が「バンド、か……」と呟き、それを聞いた青司が楽しそうな物を見つけたと言わんばかりの様子で話し掛け始めた。

「おや? 咲也さん、もしやバンドに興味が出てきちゃった系? もしかして、誰か誘って自分もバンドを組んじゃう系?」

「ううん、そういうわけじゃないんだけど。趣味の1つが音楽を聞く事だから、ライブハウスのバイト先を探してみるのもありかなと思ってね」

「ライブハウスのバイト……かあ。咲也がバイトするライブハウスで蘭達が演奏をする……へへっ、なんかスッゲえ楽しそうな予感がするな!」

「ふふ、そうだね。僕もそれが実現するのを楽しみにしてるよ」

「まあ、そのためには咲也がバイトするライブハウスを見つけて、つぐみ達がライブを出来るまでに演奏の腕を上げないといけないけどな」

「そうだな。ところで……」

「ん、どうしたの?」

「バンド名はもう決まってるのか?」

 恵明のその疑問を聞き、青司は不意に顎に手を当てた。

「バンド名……そういや、蘭はまだ決めてねぇって言ってたな」

「けど、バンド名ってそんなすぐに決める物でも無いし、つぐみ達が決めたい時に決めれば良いんじゃないのか?」

「そうだね。ただ……」

「ただ……?」

「その記念すべき時に立ち会えるなら立ち会いたいとは思うかな」

「……ふむ、確かにな。よし、それなら今日の放課後にアイツらの練習風景をこっそり見てみようぜ。もしかしたら、練習中にそういう話になるかもしれねぇからな。あ……もちろん、しっかりと部活は終わらせた上でな」

 青司がまた楽しそうな様子で言う中、俺はその青司の言葉に疑問を抱き、その疑問を青司へとぶつけた。

「……青司、こっそりとやる意味はあるのか?」

「ああ、もちろんだ。俺達が参加しても、アイツらは別に嫌な顔をしないのは分かってる。けど、今みたいな始めたばかりの時に俺達が見てたら、たぶんいらないプレッシャーを感じると思う」

「…………」

「タカも分かってるとおり、俺達はあくまでもアイツらを見守る側であり、サポートをする側だ。だから、アイツらが困ってたり助けを求めてたりしたら手を貸すけど、アイツらが自分達の力でどうにか出来そうなら、静観に徹する。つまり、今回はひとまず、アイツらの様子をこっそりと見てた方が良いんだよ」

「……なるほどな。とりあえず()()()()()()()()は分かったけど、()()()()()()()はどうなんだ?」

 ジトッとした視線を向けながら訊くと、青司はさっきまでの真剣な表情を崩し、ニカッと笑いながら答えた。

「こっそりと何かをするって……なんかカッコいいだろ?」

「……はいはい、そうですね」

 ……はあ、やっぱりそんな事だろうと思った。まあ、本音の半分は本当に真剣だったわけだし、そこだけは良しとするか。

 そんな事を思いながら小さく溜息をついた後、俺はつぐみ達のバンドの見守り計画について青司に問い掛けた。

「それで、部活が終わったらどこに集まれば良い? つぐみ達の場合、しっかりと部活が終わった後に屋上にでも集まってそうだから、バレないようにしながら集まる場所が必要だろ?」

「そうだな……よし、それなら演劇部の部室が良いな。全員がバラバラとどこかに集まるよりは、誰かがいるところに集まった方が、集合をしやすいからな」

「……分かった。それじゃあ太陽には俺が伝えるから、桃への連絡は任せたぞ?」

「おうよ! それに関しては、この美竹青司様にバッチリ任せとけ!」

「ああ、任せた。それじゃあ兎亜は、あこちゃんへの連絡を頼む。そして部活が終わったら、つぐみ達に見つからないように演劇部の部室まで来てくれ」

「うん、了解」

 俺の言葉に兎亜が頷きながら答えると、それを見ていた咲也達がクスクスと笑いながら話を始めた。

「いつも青司達が先導して何かやっているから忘れがちだけど、何かをやる前は絶対に鷹明がまとめて指示を出してるんだよね」

「そうだな。言ってみれば、鷹明が青司達のリーダーみたいな感じだからな」

「そうそう。青司達が変な方に行かないようにしながら、しっかりと目的を達成できるように鷹明がコントロールしてる感じだもんね。よっ、名リーダー!」

「お前達……そういう事を言うと、コイツらが悪ノリするからあまりそういう事は――」

「へへっ、さっすがは俺達のリーダー、羽沢鷹明ってところだな! 俺達以外からもそう思われてるなんて、まったく羨ましい限りだぜ!」

「頼りにしてるよ、私達のリーダー様♪」

「はあ……遅かったか。と言うか、そんなにリーダーリーダー言うなら、少しはそのリーダーが苦労しないようにしてほしいところなんだけどな……」

「えー……俺達はしてるつもりだぜ? な、兎亜?」

「そうそう、タカに計画のまとめと指示出しに集中してもらうために、私達が計画の立案と実行をしてるわけだし、結構苦労しないように気を配ってるつもりだよ?」

「いや……そもそもそういう計画自体を立てないでくれた方が助かるんだけど……?」

「それは無理だな。困っている奴がいたり何か面白そうな事があったりしたら、それを見過ごせないのが俺達だからな。それを無しにしようなんて言ったら、俺達の存在意義すら無くなるぜ?」

「いや……人助けとか面白い事の手助けとかが存在意義って、物語のヒーローじゃないんだから……」

 青司達の口から次々と出て来る言葉に対してツッコミ混じりの言葉を返していたが、段々疲れを感じてきたため、俺はこれ以上のツッコミを入れる事を諦めた。

「……はあ、分かった。けど、加減や程度は考えてくれよ? 出来る限りはこれまで通りに付き合うけど、あまりにも多かったら流石に無理があるからな」

「へへっ、分かってるって!」

「うんうん、そこに関してはしっかりとやるから、大船――ううん、宝船に乗ったつもりでいてよ」

「それが泥で出来た宝船じゃない事を祈ってるるよ……」

 溜息交じりに青司達の言葉に答えながらも、俺の心は青司達の言葉に対してワクワク感を覚えていた。

 まあ……青司達と一緒の日々は、色々大変ではあるけど、その分楽しい事も多いわけだし、さっきの言葉の通り出来る限りは付き合ってやるか。もっとも――。

「……俺にどこまで出来るのかは分からないけどな」

 誰にも聞こえない程、小さな声でポツリと呟いた後、俺は楽しそうに微笑む青司と兎亜に対して小さく微笑んだ。

 

 

 

 

「はは、なるほど。確かにキミがリーダーならば、安心感はスゴいだろうね」

「そうですね。鷹明君は、いつも落ち着いていますし、どんな時でも的確な指示を出してくれますから、青司君と兎亜さんの言う事も分かる気がするッス」

 放課後の部活の片付け中の事、太陽と一緒に今のつぐみ達の様子について話した後、ついでに今朝の青司達との会話についても話すと、薫達は納得顔でそんな事を言い出したため、俺は軽く溜息をつきながら薫達に話し掛けた。

「……そう言われるのは嬉しいけど、それはあくまでもアイツらが自由すぎた結果なんだけどな……」

「鷹明、それは青司達が君を心から信頼しているからだよ。君の事を心から信頼しているからこそ、青司達はいつだって安心して行動をする事が出来るんだ。もっとも、君的にはもう少し落ち着いて欲しいと思っているようだけどね」

「……その通りだよ。別に今のアイツらが悪いとは言わないけど、突拍子もない事を突然言い出す事があるから、その辺は少し考えて欲しいとは思ってるかな」

「あはは……鷹明君も結構大変なんですね。自分もそっちのクラスの日菜さんと話をしていると、その発言の自由さに困る時はありますけど、その分自分じゃ思いつかない事なども言ってもらえるので、勉強になる事も多いですよ」

「そうだね。いつも好奇心も旺盛で行動力もあり、様々な事をすんなりとやってのけてみせる。流石は青司が名付けた通りの()()()()()()()()と言ったところかな」

「……そっか、最初はどうなるかと思ったけど、青司の言うとおりに引き合わせてみたのは、どうやら正解だったみたいだな」

 麻弥と薫の反応に俺は胸を撫で下ろしながらその時の事を想起した。事の発端は、去年のある日の昼休み中に、青司が麻弥と薫の事を話題にした事だった。話題にしたと言っても、青司が薫にピッタリな渾名を思いついたから、今度は麻弥にもつけてみたいと言っただけなのだが、それがきっかけで日菜が麻弥と薫に興味を持ち、どんな人達かちゃんと知りたいから一度会ってみたいと言った事で、青司と兎亜がそれを面白がり、自分達で麻弥と薫にも話を通して三人が顔合わせをする機会を作った。尚、その話を麻弥と薫の両名に切り出した際、麻弥は少し困った様子を見せていたのだが、薫は結構乗り気だった上に麻弥を自分で説得し始めた事で、麻弥も日菜と会ってみる決心を固め、その顔合わせは実現する事となった。そしてその結果、麻弥と薫は日菜と仲良くなり、それに味を占めた青司と日菜の紹介で咲也と恵明とも仲良くなり、更には兎亜の紹介で友希那とリサとも仲良くなるという当初の目的からは離れた事になったが、本人達はその出会いに満足している様子だったため、俺は特に何も言わなかった。

 まあ、別に悪い事では無いし、こういった関係性っていうのは後々になって大切になってくるから、青司達の行動は結果として良かった事になるんだろうな。

 そんな事を考えていた時、廊下の方から楽しそうな話し声が聞こえ、俺達は揃ってドアの方へ顔を向けた。すると、話し声の主――青司がドアの陰からヒョコッと顔を出し、俺達の事を見つけると、ニッと笑いながら声を掛けてきた。

「よっ、お前達。演劇部はまだ片付け中か?」

「まあな。けど、すぐに終わらせるからそこで待っててくれ」

「ラジャー、キャプテンタカ。俺達お助けし隊のメンバー達は、話をしながら待ってるから、あまり急がなくても良いぞ。じゃあな」

 青司の顔が引っ込んだ後、俺が「お助けし隊って何なんだよ……」と言いながら溜息をついていると、太陽はそれとは対称的に楽しそうな様子で話し掛けてきた。

「たぶん、僕達にあこちゃんを加えた六人のチーム名じゃないかな? ほら、ひまり姉達のバンドも名前は無いけど、僕達六人にも名前は無かったし」

「いや……だとしても、わざわざつける必要はあるのか?」

「うーん……そこは僕にも分からないけど、きっと青兄には何か考えがあるんじゃないかな? 今回のひまり姉達の件は何とかなったけど、この先のことは分からないし、今朝も何か考えてる事がある感じだったから、もしかしたらそれに関係してるのかもしれないよ?」

「なるほど……」

 太陽の予想が合っているとすれば、青司の行動にも納得はいく。納得はいくけど、それが合っているという事は、俺が予想している事以上の事を青司が考えているという事にもなる。

 アイツ……本当に何をするつもりなんだ……?

 青司が考えている事について軽く考えてみたものの、すぐには答えが出る様子は無かったため、俺はその事をひとまず置いておく事にし、深呼吸をして気持ちを切り替えた。

「……さて、青司達を待たせるわけにもいかないし、さっさと片付けてしまうか。早くしないと計画自体が終わってしまうしな」

「うん!」

 満面の笑みを浮かべる太陽に対して微笑みながら頷いた後、俺は薫達の方へと顔を向けた。

「本当にゴメンな、二人とも。相変わらず何がなんだか分からない状況ばかりにしちゃって……」

「ふふ、別に構わないさ。おおよそ、今回も青司の思いつきで何やら楽しそうな事をしているんだろう? だったら、私達はそのサポートをするだけだ。そうだろう、麻弥?」

「はい、薫さんの言う通りッス。いつも鷹明君達には、何かと助けられていますから、こんな時くらいは自分達の事を頼って下さい」

「まあ、それでも申し訳ないと言うのならば、いつでも良いから今日の話を聞かせてくれ。君達が話してくれる話は、戯曲のように儚くどこか心に訴え掛けてくる物があるからね」

「二人とも……本当にありがとう。よし、それじゃあさっさと片付けてしまおう!」

「うん!」

「はい!」

「ああ」

 そして、俺達は他の部員達と協力しながら片付けを始め、約5分後には部室の片付けを終える事が出来た。その後、簡単なミーティングを行い、部長の号令で帰りの挨拶を終え、部員達がそれぞれの荷物を持って次々と帰っていくのに続いて俺達も部室を出た。そして、ドアの方へ視線を向けると、そこには俺と太陽を除いた全員が揃っており、ドアにもたれ掛かっていた青司が「よっ、お疲れさん」と声を掛けてきたため、俺は右手を挙げながらそれに答えた。

「ああ、お疲れ様。兎亜達もお疲れ様」

「うん、お疲れ。薫に麻弥もお疲れ様」

「ああ、お疲れ様、皆」

「お疲れ様です、皆さん」

「「お疲れ様です」」

 それぞれ言葉を交わし終えた後、薫と麻弥が昇降口の方へ体を向ける中、俺と太陽は青司達の方へと移動した。そして、薫は俺達の方へ顔を向けると、ウインクをしながら声を掛けてきた。

「それでは、私達はこれで失礼するよ」

「皆さん、さようならです」

「ああ、またな」

「おう、またな!」

「二人とも、またね」

「「「さようならー」」」

 薫達の挨拶に答え、薫達が昇降口の方へ歩いて行くのを見送った後、青司は俺達の事を見回しながら楽しそうな笑みを浮かべた。

「うっし……それじゃあ早速、蘭達がいる屋上に行こうぜ」

「それは別に良いんだけど、つぐみ達にバレないように見守るための算段はついてるのか?」

「いや、まったく? けど、息を潜めて静かに見てれば何とかなるんじゃね?」

「何とかなるんじゃねって、お前なぁ……」

 青司のあまりのノープランっぷりに呆れていると、兎亜が俺達の間に入りながら俺に話し掛けてきた。

「まあまあ、本当に何とかなるかもしれないし、とりあえず試してみようよ。確かに見つからないように見守るのが目的だったけど、見つかったらその時には、巴達の相談に乗ってあげたり話を聞いてあげたりすれば良いんだからさ」

「兎亜……分かった。まあ、ここに溜まったままよりは、とりあえず試してみた方が確かに良いか」

「そうそう、その方が良いよ。それに、早く行かないと巴達が帰っちゃうかもしれないしね」

「……っと、それもそうだな。兎亜の言う通り、蘭達が帰っちまう前にどうにか作戦を遂行しちまわねぇといけねぇし、さっさと行くか」

「そうだな。よし……皆、それじゃあ行こうか」

「おう!」

『うん!』

 皆の返事を聞いた後、俺達はつぐみ達がいるであろう屋上に向かって歩き始めた。そしてその途中、青司がこそっと「……兎亜、さっきはサンキューな」と言い、兎亜がそれに対してニコリと笑いながら「どういたしまして」と返しているのを聞き、俺はこっそりと笑っていたのは青司達には内緒だ。

 

 

 

 

 数分後、屋上へ続く扉に到着した時、皆に息を潜めるように合図を出し、皆が見やすいように調整しながら扉を静かに開けた。すると、屋上には俺達が予想していた通り、つぐみ達の姿があり、蘭ちゃんとモカちゃん、そしてひまりちゃんの傍にはケースに入ったそれぞれの楽器が置かれていた。しかし、当の本人達は楽器の練習をしているわけではなく、夕焼け空の下で何やらつぐみの周りに集まって何かの話し合いをしていた。

「……皆で話し合いをしてるみたいだな」

「だな。けど、何を話してるかまでは流石に聞こえねぇな……」

「……あれ? つぐみちゃん、何か手に持ってない?」

「……あ、本当だ。何だか四角い物を持ってるみたいだね」

「うーん……何だろうね、あれ……」

「ねえ、タカ兄。タカ兄はアレが何か分かる?」

「アレは……たぶん、電子辞書じゃないかな?」

「電子辞書って事は……何かを調べてるって事になるけど、もしかして本当にバンド名を決めてるとこなんじゃね……?」

「可能性は高そうだね……けど、あの様子はどうやら難航してるみたいだね」

 ひそひそ話をしながらつぐみ達の様子を窺っていたその時、不意にモカちゃんがこちらに顔を向けたかと思うと、不思議そうに小首を傾げながらジーッと俺達の事を見始めた。

 ……あ、もしかしなくてもこれ――。

「バレてるな……」

 諦め気味に独り言ちた時、まるでその声が聞こえているかのように納得顔で頷いた後、モカちゃんはニヤッと笑いながら俺達の事を指さし大きな声を上げた。

「みんなー、あたし達だけじゃ中々決まらないし、ここはあそこにいる助っ人達にも手伝ってもらおうよ~?」

『……え?』

 つぐみ達の声がシンクロし、視線がこちらに集中した瞬間、青司は「……バレちまったら仕方ねぇな」と楽しそうな笑みを浮かべながら言い、制服のポケットをごそごそと探り始めた。そして、小さなメモ帳を取り出してペラペラとページを捲り、あるページで手を止めると、俺達の前に出ながら楽しそうに大きな声を上げた。

「ははっ! バレちまったからには仕方ねえ、こうなりゃやる事は一つだけだ!」

「やる事って……青司、お前何をする気だ?」

「へへっ、そんなの決まってるだろ? という事で……皆、今からメモを1枚ずつ渡すから、自分の番になったら前に出てきて書いてある事を読んでくれ。それで、読む時は大きな声じゃなくても良いから、しっかりと感情は籠めてくれよ?」

「読んでくれって……まったく意味がわからな――」

「良いから良いから。ほら、まずはタカからだ」

 俺の疑問を遮りながら渡されたメモを手にし、俺は仕方なくメモの内容を読み上げた。

「えーと……『困り顔は鷹の目でバッチリ見つけるクリムゾンホーク、羽沢鷹明』」

「次は俺だ! 『不安も悩みも全て受け止めるブルースカイ、美竹青司』!」

「そして、次は私だね。『助けの声は長い耳で聞き逃さないカナリィラビット、宇田川兎亜』!」

「次は僕だね。『暗い気持ちを暖かく照らし出すグリーンサンシャイン、上原太陽』!」

「次が私だね。『心と体に安らぎをもたらすピンクパフューム、青葉桃』!」

「ラストはあこだね! 『安楽の刻を告げるヴァイオレットネクロマンサー、宇田川あこ』!」

「『困っている者を助けるは、我らが使命! お助けし隊、ここに参上』!」

 そんなどこかの戦隊ヒーローのような小っ恥ずかしい登場時の台詞のような物を青司が言い終えた後、モカちゃん以外の四人はポカーンとした表情を浮かべた。それはそうだろう。何故なら、自分達の兄弟がいきなり現れたかと思えば、突然戦隊ヒーローの口上のような物を言い始めたのだから。

 ……というか、言わされた俺も結構恥ずかしいんだけど、これ……。

 つぐみ達の視線を浴びながら言い知れぬ恥ずかしさを感じていると、モカちゃんがこっちに近付いてきながらとても楽しそうな様子で青司に話し掛けた。

「青兄ー、さっきの奴は思ったより本格的な名乗りでしたなぁ~」

「へへ、だろ? まあ、本当は絶対に見つからねぇ方法を考えてたんだが、それが中々思いつかなくてな。んで、気分を変えようと思って、途中から見つかった後の事を考え始めた結果、どうせならこういう登場にすれば面白いんじゃねぇかと思って、この名乗りの口上を考えたんだよ。まあ、名乗った時のゴロの良さとか色々な事情とかを考慮した結果、俺と桃と太陽以外はベースになる色の類似色になったり色の後ろの言葉も種類がばらけたりしたけど、俺的には結構うまく出来たと思うぜ?」

「うん。モカちゃん的にもさっきのは楽しかったし、こういうのもたまには良いもんだねー」

「ははっ、だよな!」

 モカちゃんと青司が楽しそうに話す中、俺は恥ずかしさを堪えながらつぐみ達へと近付き、未だにポカーンとしているつぐみ達に話し掛けた。

「えーと……四人とも、大丈夫……かな?」

「う、うん……大丈夫だよ、お兄ちゃん。ただ、ちょっとビックリはしたけど……」

「……うん。ビックリはしたけど、それ以外は大丈夫だよ……」

「あたしも大丈夫だけど……鷹明さんの方が大丈夫じゃなさそうだよな……」

「……うん。タカ兄……本当にお疲れ様」

「……うん、ありがとう」

 太陽達はまだしも、兎亜までノリノリだったからな……。あの状況で、そのノリについて行けてないのが俺一人だけだったのは、本当に辛かった……。

 さっきの事を思い出し、一人で溜息をついていたその時、いつの間にか太陽達を連れて近付いてきていた兎亜が巴ちゃんに声を掛けた。

「ところで、さっきは電子辞書を見ながら何をやってたの? もしかして、バンド名決め?」

「あ……ああ、そうだ。一応、何個か候補は挙げてたんだけど、どれもイマイチでさ」

「ふーん……例えば?」

「えーと……ウルトラヴァイオレットとかストラトスフィアとか……後は、オムニスだったかな?」

「『紫外線』に『成層圏』、それに『万物』か……」

「何と言うか……カッコいいけど、意味を聞くと不思議な気分になる物ばかりだね」

「うん、そうだね。やっぱり、こういうのは名前の響きや意味も大切だけど、何か自分達に関係する物の方が良い気はするよね」

「自分達に関係する物……」

 そう呟いた後、蘭ちゃんは不意に空を見上げ、「……そうだ」と何かを思いついた様子で独り言ち、俺達の方へ向き直ってから静かに口を開いた。

「みんな……『夕焼け』はどうかな?」

「夕焼けか……うん、確かにあたし達が練習をしてる時間は、いつも夕方だからあたし達に関係する物って言えるかもしれないな」

「うん、それに……ほら」

 そう言いながら蘭ちゃんの視線の先に向けると、そこにはとても綺麗な夕焼けが広がっており、その光景に屋上にいた全員の視線が釘付けになった。

「わあ……! スゴい綺麗な夕焼けだね……!」

「おー、これは中々ですなぁ~」

「バンド名に夕焼けとか夕日を意味する単語を入れたら、今日こうやってバンド名を決めていた事を夕日を見た時に思い出せる気がするんだ」

「へえ、良いんじゃねぇの? 俺はそういうの結構好きだぜ?」

「うん、私も好きだよ。えーと、それで夕焼けは……」

 つぐみはすぐに電子辞書で夕焼けの意味を持つ英単語を調べ、「あ、あったよ!」という声を上げた瞬間、全員がつぐみの手の中にある電子辞書の画面に映る英単語に視線を向けた。

「えーと……サンセットに……」

「イブニング……」

「……ん? アフターグロウ……か。なあ、『Afterglow』はどうかな?」

「『Afterglow』……うん、あこはカッコいいと思うよ!」

「私も賛成! なんかバンド名っぽくてスゴく良いと思う!」

「よし……決まりだな。それじゃああたし達はこれから『Afterglow』だ!」

『うん!』

 巴ちゃんの声につぐみ達が笑顔で答えた後、つぐみ達――『Afterglow』の五人は揃って夕焼け空に視線を向けて楽しそうに話を始めた。

 ……無事にバンド名が決まって良かった。これで、本当に一安心ってところかな?

 夕焼けに照らされながらきらきらとした目で話を続けるつぐみ達を見ていたその時、不意にトントンと肩を叩かれ、それを不思議に思いながら振り向いた。すると、そこには満足顔で俺の事を見ている青司達の姿があり、それに対して微笑んでいると、青司はそれに対して静かに頷いた。

「……これでどうにかなった……かな?」

「ああ、そうだな。それにしても『Afterglow』か……ははっ、何かスゲぇカッコいい名前になっちまったもんだよな」

「うん、そうだね。そうだ……ねえ、私達もチーム名を決め直しとく?」

「え……いや、そもそもチーム名は必要なのか?」

「必要でしょ? これから先、巴達関連で集まる時にチーム名があった方がやりやすいからね」

「……うん、僕もそれが良いと思う。それに、お助けし隊も嫌いじゃないけど、せっかくだから何か僕達も関連した名前が良いもんね」

「お前達……はあ、分かった。それで、どんなチーム名にするんだ?」

「うーん……何が良いかな?」

「巴お姉ちゃん達が『夕焼け』だから、その兄弟みたいな名前が良いんじゃないかな? それな『夕焼け』に近い名前でも良いと思うよ?」

「なるほど……夕焼けみたいな名前ねぇ」

 そう言いながらカバンから電子辞書を取り出すと、青司は軽く鼻歌を歌いながら電子辞書を操作し始めた。そして――。

「おっ、これなら良いんじゃね?」

 と、とても楽しそうな声を上げた瞬間、俺達は電子辞書の画面に視線を向けた。すると、そこにあったのはある一つの単語だった。

「『Twilight』……意味は夕暮れとか黄昏とかだったな」

「ああ、あっちが『夕焼け』ならそれを陰から支える俺達は夕焼けの後に訪れる時間帯――『夕暮れ』が良いんじゃないかと思ってな」

「……ふふ、そうだね。それに、『夕焼け』と『夕暮れ』は言葉の見た目も似てるし、私はスゴく良いと思うよ」

「僕も『Twilight』が良いと思うよ、青兄」

「私も『Twilight』に賛成!」

「あこも良いと思うよ! まあ、あこは追加戦士枠だから、正規メンバーでは無いけど、何かあった時にはしっかりと駆けつけるよ!」

「ああ、頼んだぜ。さて……後は我らがリーダー様の意見を聞くだけなんだが、リーダー様はどう思う?」

 その瞬間、青司達の視線が俺に集中し、絶対に意見を言わないといけないような空気になってしまっていた。

 ……まあ、反対する理由も無いし、何だかんだで『Twilight』っていう名前は嫌いじゃないしな。

 そう思いながらクスリと笑った後、俺は頷きながら自分の意見を口にした。

「俺も『Twilight』が良いと思う。言葉の響きや見た目も嫌いじゃないしな」

「よし、決まりだな。それじゃあこれから俺達は、ガールズバンド『Afterglow』支援グループ兼周囲の困り事解決グループの『Twilight』だ!」

『うん!』

「ああ」

 青司の言葉に返事をした後、俺達は揃って空を見上げた。時間の経過により、空は少しずつ暗くなっており、徐々に夕暮れへと近付いていた。

 ……いつか、何かで疲れてたり暗い気持ちになってたりした時、この夕暮れを見て今日の事を思い出そう。そうすれば、きっと元気になれるだろうから。

 大切な幼なじみ達と見上げる空は、いつもよりも綺麗でどこか安心感を覚える物であり、俺はそんな空を見上げながら静かに微笑んだ。

 

 

 

 

「――なんて事もあったよな! いやー、あの時の俺は若々しかったなぁ……」

「いや、今も十分若いからな? 高校生がそんな事言ってたら、本当に年を気にしてる人から説教を喰らうぞ?」

 春風が吹き抜ける四月頃、懐かしそうな様子の青司に対していつも通りツッコミを入れた後、目の前で湯気を上げている珈琲の香りを嗅ぎながらふうと息をついた。今日は休日なのだが、混み始める時間にはまだ早かった上、つぐみは『Afterglow』の練習へ行き、両親は揃って奥の方にいるため、店内には俺達しかいなかった。あの『Afterglow』と『Twilight』が結成された日から早二年、俺と青司と兎亜は高校2年生になり、『Afterglow』の五人は高校1年生に、太陽と桃とあこちゃんは中学3年生になった。そして、この二年間で俺達の生活や周囲の状況は色々と変化した。咲也がライブハウスでバイトを始めたり、巴ちゃんの影響であこちゃんもドラムを始めたりと、色々例を挙げる事は出来るが、一番変わったとすれば『Afterglow』の五人の演奏の腕が格段に上がり、文化祭でのライブなどをするまでになっていた事だろう。もちろん、俺達『Twilight』はそれぞれ自分達の姉妹の事をメインで支えていたが、特に青司は友希那に蘭ちゃんのボーカルレッスンをしてもらえるように頼んだり、咲也がバイトを始めたライブハウスを進めてみたりと何かと世話を焼いていた。

 まあ、青司の気持ちは分からなくは無いよな。俺もつぐみの練習に付き合ったり家の手伝いを代わったりしてたわけだし。

 そんな事を思いながら二年間の事をボーッと思い出していたその時、兎亜が不意に青司に話し掛けた。

「……で、集まった本当の理由を教えてもらっても良いかな? 別にあの日の思い出話をするためだけに集まったわけじゃないんでしょ?」

「ん……まあな。それじゃあそろそろ本題に入るか。今回集まってもらったのは、『Twilight』の活動内容を増やそうと思ったからだ」

「活動内容を増やすって……具体的には?」

「そうだな……まずは、支援対象の増加だな。当然だが、俺達は蘭達『Afterglow』の支援がメインで結成されたグループだ。けど、最近俺達の知り合いや知り合いの姉妹が次々とバンドを結成してるだろ?」

「そういえばそうだったな。えーと……確か恵明の妹さんと太陽達の友達の従姉が一緒のバンドに入ってるんだよな」

「それと……友希那達もバンドを組んだって言ってたし、そのバンドにはあことあこの友達、それと日菜のお姉さんも入ってるよね」

「後は……麻弥さんと日菜さん、それと聖也君のお姉さんとここでバイトをしている若宮さんがメンバーのアイドルバンドもあるし、薫さんも最近バンド活動に誘われて参加する事にしたって話してたよね」

「そう考えると……結構バンド活動してる知り合いとかその兄弟って多いんだね」

「そうだな。という事で、これまで通り『Afterglow』をメインで支援していくけど、他のバンドも支援出来る時は支援していきたいと思う。もちろん、支援の方法は変えずにな」

「基本的には静観で、助けを求められた時や本人達だけじゃ無理そうな時には手を貸す、だな」

「その通りだ。まあ、俺達の勝手なお節介かもしれないけど、『Afterglow』や知り合い達はもちろん、知り合いの姉妹達の困り事も放ってはおけないからな。という事で、この四月から支援対象を増やしたいと思うけど、タカはどう思う?」

「そうだな……本当ならそういう事はあまりしない方が良いとは思うけど、青司の気持ちは分からなくは無いし、支援対象が迷惑に感じないように気をつけながらやるなら俺は反対しないよ」

「オッケー! それじゃあ本題の二つ目に行くか」

「二つ目……?」

「ああ、そうだ。皆、二年前に俺が内緒にしてた事があるのは覚えてるか?」

「内緒にしてた事……ああ、そういえばあったよね」

「うん、その時は内緒って言ってたけど、お金だけは貯めといて欲しいとも言ってたよね」

「おう、その通りだ。そして、そろそろその話をする時だと思ったから、今日はこうして集まってもらったんだよ」

「ふーん……それで、その話って何なんだ?」

「ふっふっふ……では、発表しよう! 俺達『Twilight』は、近い内にバンド活動を始めようと思う!」

 その言葉を聞いた瞬間、俺は青司の言葉が信じられなかったが、兎亜達はとても楽しそうな様子を見せた。

「へえ……バンド活動かぁ。それなら私は……うん、ギターが良いかな」

「それじゃあ僕は……ドラムに挑戦してみようかな?」

「おー、チャレンジャーだね~。それなら私は、ベースにしてみようかな。えっと、タカ兄はピアノやってたからキーボードで、青兄はボーカルとギターでしょ?」

「おう! あ、俺と兎亜のWボーカルも面白そ――」

「ちょ、ちょっと待て!」

「ん、どうした?」

「どうしたもこうしたも無いって! バンド活動ってどういう事だよ!?」

「つまり、そういう事だよ」

「いや、薫の真似してる場合じゃなくて! 何でバンド活動をするなんて話になるんだよ!?」

「んー……そうだな。強いて言えば、『Afterglow』を支援するためとやってみたくなったからだよ」

「……やってみたくなったからはまだ分かるけど、『Afterglow』の支援のためってどういう事だよ……?」

「俺達『Twilight』は、あくまでも『Afterglow』の支援をメインとしたグループだ。それはこれまでもそうだし、これからも変わらない。けど、『Afterglow』の支援をするという事は、生活面だけじゃなくバンド活動面での問題にも関わる事になる。その時に楽器やバンドの知識が無かったら、支援をするどころか逆に迷惑を掛けかねない。だから、俺達自らがバンドを組んだり楽器の演奏や練習を始めたりする事で、その問題を無くそうと思う。それに、他のバンドの支援もする時にもその経験や知識は役に立つかもしれないしな」

「…………」

「そして、この五人が奏でた音楽がどんな物か周囲にどう受け入れられるかスゴく興味があるし、『Afterglow』のように俺達の居場所や心の拠り所の一つとしたい。二年前の件は、俺達だって決して他人事じゃ無かったからな」

「青司……」

「「青兄……」」

「まあ、こう長々と話したけど、決して無理強いはしないぜ。誰か一人でも乗り気じゃないのに推し進めるなんてのは絶対に間違ってるからな。だから、この計画に反対の奴は名乗り出てくれ。一人でもそういう奴がいるなら、この計画は今すぐ無かった事にするからさ」

 微笑みながら言ってはいるが、青司の目は明らかに本気であり、俺達の内誰か一人でも欠けるようなら本当にバンド活動の計画を無くそうとしているのが分かったため、俺達はこの雰囲気の中で中々話し出す事が出来なかった。

 ……まったく、青司は本当に突拍子も無い事を言いだすよな……。けど、青司の気持ちはスゴい伝わってくるし、青司の話に反対するつもりもない。青司が感じている事は、俺だって感じていた事だからな。だったら、やるべき事は一つしか無いな。

 自分の気持ちを再確認し、決意を固めた後、静まり返った空気の中で俺は口を開いた。

「……青司、お前のその提案に乗らせてもらうよ」

「タカ……ははっ、珍しいじゃん。お前が最初に俺の提案に乗るなんてさ」

「……本当にな。俺の本当の役目は、お前と兎亜が行き過ぎないようにブレーキを掛けて、太陽と桃がお前達に引っ張られすぎないようにする事なのにな。けど、お前のさっきの言葉や気持ちは、心にスゴい伝わってきたよ」

「……そっか」

「ああ。だから、俺はお前のその提案に乗らせてもらうよ。このグループ――『Twilight』のリーダーとして、皆の居場所や心の拠り所を作り、守り続けるため。そして、お前のブレーキであり続けるために精一杯羽ばたいてみせるさ」

「ははっ……カッコいい事言ってくれんじゃんよ、タカ。……まったく、あの時の内気で俺達についてくる側だったタカはどこに行ったんだろうな」

「さてな……たぶん、()()()()が開けてくれた鳥籠の扉を潜って、笑顔で迎えてくれる()()()()()の向こうにでも飛んでったんだろう」

「……そっか。それなら、その青空としては()()()()()()()をもっと高いところまで誘ってやらないとな。もっとも、その分のサポートは任せるけどな」

「ああ、任された」

 そんな会話を交わしながら俺達が笑い合っていたその時、元気な兎――兎亜が悪戯っ子のような笑みを浮かべながら話し掛けてきた。

「ふふ……それじゃあ私は、そんなカッコいい鷹に負けないように力一杯走り出さないとね」

「それなら僕は、いつものように空の上からポカポカとした()()()で皆の気持ちを暖めようかな」

「ふふっ、それなら私は()()()()()()()()()で皆の心に安らぎをもたらしていくよ」

「……どうやら、皆の気持ちは一つみたいだな」

「ああ。それじゃあタカ、リーダーとして号令を頼む」

「分かった」

 青司の言葉に頷きながら答えた後、俺はゆっくりと皆の事を見回し、皆の目の中に決意の炎がメラメラと燃えているのを確認してから、ゆっくりと口を開いた。

「皆、これからは新生『Twilight』として、家族並びに友達や周囲の人達のために、精一杯力を尽くしていこう!」

『おー!』

 俺の号令に対して青司達が声を揃えながら拳を勢い良く上げて応えたその時、店の奥の方からクスクスと笑う声が聞こえ、俺はそちらに顔を向けた。すると、そこには父さんと母さんの姿があり、二人とも俺の事を見ながら静かに微笑んでいた。

「……まさか、さっきの俺達のやり取りを見てた……とか?」

「うん、バッチリ♪」

「鷹明、お前の熱い思いは最初から聞かせてもらっていたよ」

「え……さ、最初から……?」

 うわ……そう考えると、さっきまでの発言がスゴく恥ずかしい物みたいに思えてきた……。何か羽ばたくとか守り続けるためとか言ってたし……。

 あの日のような言い知れぬ恥ずかしさを感じていた時、父さんと母さんはニコニコと笑いながら俺に話し掛けてきた。

「鷹明、お前のバンド活動や青司君達との活動を父さん達は応援してるからな」

「小さい頃、鷹明はスゴく内気で自分から友達を作ろうとしなかったけど、今の鷹明はそれとは逆で自分からやりたい事に向かって歩き始めてるし、こんなにも良い友達が傍にいる。だから、今は自分のやりたいように精一杯やってみなさい。お店の手伝いをしてくれるのは助かるけど、親としては子供が自分のやりたい事に向かって歩いていくのを見たいからね」

「父さん……母さん……」

 二人のその微笑みと言葉は、俺の心に深く染み渡り、俺の中で燃えていた決意の炎を更に強くしたような気がした。

 父さん達にも応援してもらってる以上、そう簡単に諦めたり止めたりは出来ないよな。もっとも、諦めたり止めたりするつもりは、今のところ絶対にないけど。

 そんな事を考えながらクスリと笑った後、俺は両親の顔を見ながら静かに口を開いた。

「……二人とも、本当にありがとう」

「「どういたしまして」」

 両親の返事を聞いた後、俺はもう一度青司達の事を見回し、皆のやる気に満ちた表情に対してコクンと頷いてから右の拳を固く握った。

「……よし、それじゃあ改めて……皆、新生『Twilight』としてこれからも頑張っていこう!」

『おー!』

 青司達は再び拳を上げて応えた後、お互いの顔を見ながら笑い合い、俺はその様子を見ながらクスリと笑った。

 これから色々と大変にはなるだろうけど、この五人ならきっと大丈夫なはずだ。

 暖かな日差しが射し込む穏やかな春の午後、俺達は新しい絆の形を手にし、また新たな一歩を踏み出したのだった。




政実「第6話、いかがでしたでしょうか」
鷹明「色々言いたい事はあるけど、まず1つ。なんで屋上でバレた時の戦隊ヒーローの名乗りみたいなので、俺と兎亜だけ赤と黄じゃなかったのは何でなんだ?」
政実「それなんだけどね、鷹明の場合は某鳥モチーフの戦隊のレッドと被るからで、兎亜の場合は某スクールアイドルの中の人が出てた戦隊のゲストキャラと被るからだね」
鷹明「あ、なるほど……。それで、この章は今回でラストなんだよな?」
政実「そうだね。そして、次回のちょっとした一話を挟んで、次の章って感じかな」
鷹明「分かった。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしてますので、書いて頂けたらとても嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さてと、それじゃあそろそろ締めていこうか」
鷹明「ああ」
政実・鷹明「それでは、また次回」


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間章 第7話 桃色熊の来訪と笑顔のバンド

政実「どうも、ハロー、ハッピーワールドの楽曲の中では、『せかいのっびのびトレジャー!』や『わちゃ・もちゃ・ぺったん行進曲』が好きな片倉政実です」
鷹明「どうも、羽沢鷹明です。ハロー、ハッピーワールド!の楽曲は、聞いてて楽しくなる物が多いよな」
政実「そうだね。そして、今回の話はハロー、ハッピーワールド!の初ライブの数日後――バンドストーリーの第11話の辺りという設定で書いています」
鷹明「まあ、そういう説明は必要だからな。さて……それじゃあそろそろ始めていこうか」
政実「うん」
政実・鷹明「それでは、第7話をどうぞ」


「さぁーて、『Twilight(トワイライト)』の活動内容だけど……まずは何をするべきだと思う?」

 ガールズバンド支援グループ兼学生バンド『Twilight』を改めて結成した翌日、カウンター席に座っている『Twilight』のメンバーの一人である青司からそんな疑問が投げかけられ、俺は大きな溜息をついた。

「何をするべきだと思うって……それすらまともに考えてなかったのか……」

「んー……まあ、そうだな。ほら、一応蘭達『Afterglow(アフターグロウ)』の支援がメインのガールズバンド支援グループではあるけど、支援対象が支援を必要としてなかったら何もやる事が無いだろ?」

「それはそうだけど、俺達は一応学生バンドでもあるんだから、青司達で楽器店に行ってくれば良いんじゃないのか?」

「楽器店か……確かにその案は良いかもしれないな。ちょうど、恵明がバイトをしてる楽器店もあるわけだし」

「そうそう。だから、今から兎亜達を連れて行ってくれば――」

「行くならタカも一緒の方が良いから、今日はいいや。どうせ楽器を見るなら、一度に全員分を見ておきたいけど、キーボード担当のお前がいなきゃ、どのキーボードが良いか分からないだろ?」

「それは……まあ、そうだけどさ……」

 青司の言葉に対して溜息交じりで答えていると、そのやりとりを聞いていた他のメンバー達――兎亜達からクスクスと笑う声が聞こえてきた。

「まあ、今日はとりあえず話し合いで良いんじゃない? 最初から何か行動をするよりもまずはミーティングをした方が良いんだからさ」

「そうだよ、タカ兄。それに、青兄の言う通りタカ兄がお店番を任せられている時に僕達だけで活動するわけにもいかないよ」

「そうそう。だから、今日のところは兎亜姉の提案通りにしてみようよ」

「お前達まで……」

 兎亜達の言葉にもう一度溜息をついた後、俺は自分の今の状況を思い返した。10分程前の事、昼食後に妹のつぐみがガールズバンド『Afterglow』の練習のために外出し、俺は両親の手伝いをするために店の方へと出てきた。すると、両親はこのお客さんで混み始める前の時間帯を利用して、ちょっと買い出しに行ってきたいと言いだしたので、俺はその間の店番を引き受けた。そして、両親が買い出しに出ようとしたその時、ちょうど青司達が店へとやって来て、俺がこれから店番をする事を青司達へ話すと、青司達は一度出直そうとした。しかし、両親達は何を思ったのか青司達に店番の間の話相手になってくれないかと頼み、青司達がそれを快く了承した事で、今に至るのだった。

 まあ……確かにこの時間帯に一人でいるよりは、青司達『Twilight』の皆と一緒にいる方が良いけどな。

 そんな事を思いながらクスリと笑った後、俺はカウンター席に並んで座っている青司達へ声を掛けた。

「それじゃあお前達の提案通り、ミーティングをする事にしよう。ただ、その前に何か淹れてくるけど、皆はいつも通りで良いのか?」

「ああ、もちろんだけど……良いのか?」

「ああ。せっかくこうしてきてくれたわけだしな、それくらいサービスするよ」

「タカ……ははっ、サンキューな」

「ありがとうね、タカ」 

「「タカ兄、ありがとう!」」

「どういたしまして。それじゃあ早速――」

 そして、全員分の飲み物を淹れてこようとしたその時、店のドアが少し強めに開き、「いらっしゃいませ」と言いながらドアの方へ視線を向けた瞬間、俺は自分の目を疑った。何故なら、そこにいたのは――。

「……ピンク色の熊の着ぐるみ……?」

 そう、ドアを開けて入ってきたのは、腹の辺りに模様がついたピンク色の熊の着ぐるみであり、微かに息づかいが聞こえる事から中に入っている人が疲労を感じている事は明らかだった。

 ……店の手伝いを始めて10年くらいになるけど、流石に熊の着ぐるみが来たのはこれが初めてだな……。ん……というか、この着ぐるみ……どこかで見た事あるような……?

 熊の着ぐるみに見覚えを感じていたその時、同じように熊の着ぐるみに注目していた青司と兎亜が同時にニヤリと笑い、静かに席を立ったかと思うと、小さな子供のような笑みを浮かべながら熊の着ぐるみへと向かっていった。

「わー! ミッシェルだー!! 商店街の新しいマスコットでお馴染みのミッシェルだー!!」

「ねえねえ、ミッシェル! 中に入ってるのが高校生って聞いたけど、それって本当なの?」

「え、え……!? いや、それは本当ですけど……というか、いきなり何なんですか!?」

「あー、そうなんだー!」

「同じ高校生として、スゴく誇らしいよねー!」

「そ、それはどうも……って、その小さな子供みたいな声と反応は結局何なんですか!?」

 青司と兎亜の悪ふざけに熊の着ぐるみから焦りを含んだツッコミが飛んだが、青司と兎亜はとても楽しそうな様子で小さな子供の真似を続けた。

 はあ……またコイツらの悪ふざけが始まったよ……。あの着ぐるみの人――どうやら女の子みたいだけど、このままコイツらの悪ふざけに付き合わせるわけにもいかないし、そろそろ止めるか。

 小さく溜息をついた後、俺はカウンターの外へと出て、そのまま青司達に声を掛けた。

「青司、兎亜、そろそろその悪ふざけを止めろ。その着ぐるみの人に迷惑だろう」

「……へーい」

「……はーい」

 二人は同時に返事をすると、少しだけ名残惜しそうに熊の着ぐるみから離れ、そのまま席へと戻った。そして、熊の着ぐるみがツッコミ疲れから肩で息をする中、俺は熊の着ぐるみへと近づきゆっくりと頭を下げた。

「ウチの幼馴染み達がご迷惑をおかけしてしまい本当に申し訳ありませんでした」

「……あ、気にしないで下さい。こういう感じのノリは、一応慣れているので。ただ……ちょっと人を捜していた最中だったせいか、その分疲れが溜まってて……」

「人……ですか?」

「はい……水色の髪の大人しめな人で、さっきまで一緒にいたんですけど、気付いたら忽然と姿を消しちゃってたんです。なので、早めに見つけてあげたいんですけど、ここにそういう人って来てない……ですよね?」

「そうですね……今日いらっしゃっていたお客様の中には、そういった方は見掛けませんでしたね」

「そうですか……はあ、本当にどこに行ったんだろ……」

 熊の着ぐるみがガクッと肩を落とす中、話を聞いていた太陽が小首を傾げながら熊の着ぐるみに問い掛けた。

「あの……そのいなくなった人は、携帯電話を持っていないんですか? 携帯電話を持っていれば、電話をして今どこにいるか訊けると思うんですけど……」

「持ってますけど……今、私の方が持ってないんですよ。この着ぐるみの中って結構蒸すので、携帯を持ってたら流石に壊れちゃいますし、携帯を入れておくポケットも無いので……」

「なるほど……あれ、そういえば何で着ぐるみを着てるんですか? そういう理由があるなら、着ぐるみじゃない方が良いのに……」

「それは……まあ、色々あるんですよ。さてと……それじゃあそろそろ私は行きますね。どうもお邪魔しました」

「いえ……こちらこそ本当に申し訳ありませんでした。あ、あの……もしよろしければ、その人捜しを手伝わせてもらえませんか?」

「……え?」

 熊の着ぐるみが驚きの声を上げる中、俺はニコリと笑いながら言葉を続けた。

「見た所、かなりお疲れのようですし、先程幼馴染み達がご迷惑をおかけした分のお詫びをしたいですから」

「え……でも、悪いですよ……。元々は、私達の問題なのに……」

「いえ、お気になさらないで下さい。この幼馴染み達は、こういう時にこそ役に立つ連中ですから」

 すると、話を聞いていた青司が少し拗ねたような声を上げた。

「えー……鷹明君はそんな事言っちゃうんですかぁ~……?」

「もちろん言う。というか、悪ふざけをしていた張本人なんだから、それくらいはやって当然だし、こういう捜し物はお前にとって大好物だろ?」

「……まあ、な」

 青司はやる気満々といった様子でニヤリと笑うと、そのままスッと席を立った。そして、「行こうぜ」と言いながら兎亜と桃の肩を叩くと、兎亜と桃も同じようにニヤリと笑って席を立ち、熊の着ぐるみへと近付いていった。

「それで、その捜してる人の特徴は他に無いですか?」

「えっと……さっきも言った特徴以外には、髪型がサイドテールでちょっとドジなところがあって、方向音痴で……って、本当に良いんですか? 流石にご迷惑なんじゃ……」

「いいえ、まったく。それに、さっき彼が言ったようにご迷惑をおかけしたお詫びみたいな物なので、気にしないで下さい」

「そうですよ。それに、『Twilight』のメンバーとしては、困っている人を放っておけませんから」

「『Twilight』……あれ、どこかで聞いた事ある名前のような……?」

「あれ、そうなんですか……?」

「はい。たぶん……兄から聞いたんだと思います。ウチの学校――花咲川女子学園(はなさきがわじょしがくえん)では聞いた事ないですけど、兄は羽丘学園(はねおかがくえん)に通ってますし、友達も多いですから」

「羽丘学園に通ってて妹がいる男子……あの、そのお兄さんの名前って……」

「兄の名前は奥沢咲也(おくさわさくや)、それで私はその妹で奥沢美咲(おくさわみさき)と言います」

 その瞬間、俺達が同時に「あー……なるほど」と声を上げると、熊の着ぐるみ――奥沢さんは少し驚いた様子を見せた。

「え……皆さん、兄とお知り合いなんですか……?」

「ええ、まあ」

「咲也は俺とタカ――鷹明と兎亜のクラスメートだし、太陽はスイーツ巡りをする仲……あ、たまに桃もついて行ってるよな?」

「そうだね。だから、ここにいる全員が咲也さんの知り合いって事になりますね」

「そうだったんですね……まさか、こんな偶然があるなんて思いもしなかったので、結構驚きですよ」

「ははっ、確かにそうかもしれないな。……っと、今は迷子になっている知り合い捜しの方が優先だな。えっと……その友達の名前はなんて言うんだ?」

「あ、はい……松原花音(まつばらかのん)さんです。友達と一緒によくこちらに来る事があると前に聞いた事があったので、もしかしたら近くまでは来てるかもしれません」

「ふむふむ……松原花音、だな。まあ、すぐに捜しちまうから、タカ達と一緒にゆっくり待っててくれよ」

 青司がニッと笑いながら言うと、奥沢さんは少し不安そうに俯いたものの、ゆっくりと顔を上げると、「……分かりました、よろしくお願いします」と頷き、スッと脇の方へ避けた。青司達はそれに対して笑顔で頷いて応えると、松原さんを捜しに行くために店を出ていった。

 さて……アイツらが戻ってくるまでに珈琲とココアの準備をしといてやるか。

 ドアがゆっくりと閉まる様子を見ながらそう考えた後、立ったままドアの方を見つめる奥沢さんに声を掛けた。

「どうぞ、座って下さい……って、着ぐるみのままじゃ流石に難しいかな……」

「そ、そうですね……なので、立ったままでも別に大丈夫ですよ?」

「いえ、それは流石に……」

 とは言ったものの、着ぐるみ――ミッシェルのままでは、椅子に座るのは難しそうだったため、俺は腕を組みながらどうしたものか考えを巡らせた。その時、店のドアがゆっくりと開く音が聞こえ、青司達がもう帰ってきたのかと思いながらそちらへ顔を向けた瞬間、俺は再び自分の目を疑った。そこにいたのは、スーツケースなどを持った黒いスーツ姿に黒いサングラスの集団であり、明らかに普通のお客様ではない事が分かった。

 は……? え、え……ど、どちら様……?

 あまりに突然の事だったため、俺と太陽が固まっていたその時、奥沢さんだけは少し安心した様子でその人達に話し掛けた。

「あ……黒服の皆さん、今日もお疲れ様です」

「ありがとうございます、奥沢様。ところで、何かお困りのようでしたが……?」

「あ、はい。実は……今、花音さんをこちらのお二人の知り合いの皆さんに捜してもらっている最中で、その間はお言葉に甘えて少し座らせてもらおうとしていたんですが、どうやらこの着ぐるみのままじゃ椅子に座るのが難しそうなので、少し困っていたんです」

「なるほど……では、こちらの奥の方をお借りして、ミッシェルの着ぐるみを脱がれてはいかがでしょうか? こちらに奥沢様がいらっしゃった際にお召しになっていた服と荷物もありますので、その方がよろしいかと思います」

「あ、なるほど……でも、お店の奥なんて借りる事が出来るのかな……?」

 奥沢さんが不思議そうに小首を傾げる中、どうにか我に返った俺はそれに対して返事をした。

「えっと……たぶん、少しくらいなら大丈夫ですよ。まあ……一度両親に連絡をしてみないといけませんので、ちょっと連絡してみますね」

「あ、はい……本当にすみません」

「いえいえ」

 申し訳なさそうな様子の奥沢さんに対してニコリと笑いながら答えた後、俺はズボンのポケットから携帯を取り出し、すぐに父さんへと電話を掛けた。そして、父さんに現在の事を説明すると、父さんは軽く笑いながら奥沢さん達が店の奥を使う事を了承してくれた。しかし、そのお礼を言った後に少しからかいの色が浮かんだような声で帰ってきたら奥沢さんがどんな人なのかを教えて欲しいと母さんと二人で言い始めた瞬間に俺は電話を切った。

 はあ……いきなり何を言いだすんだよ、父さん達は……。

 軽く溜息をつきながら携帯をしまった後、俺は奥沢さん達の方へ向き直り、軽く微笑みながら頷いた。すると、黒服の皆さんはすぐにテキパキと行動を開始し、女性の黒服の人達がミッシェル姿の奥沢さんを奥の方へと連れて行くと、店内には俺と太陽と二人の黒服の男性だけが残る形になった。

「ふう……これで後は、青司達が松原さんを連れて帰ってくるのを待つだけだな」

「そうだね。ところで……さっきいきなり電話を切ってたけど、何かあったの?」

「……いや、気にしなくて良い。父さん達がちょっと悪ふざけをしてきただけだから」

「あ、うん……分かった」

 そんな会話を交わしていた時、黒服の人達が俺達へと近づき、恭しく一礼をした後にとても落ち着いた様子で話し掛けてきた。

「この度の我々の要望を快く受けて頂きました事、誠にありがとうございます。よろしければ、お二方のお名前を教えて頂けますか?」

「あ、はい……俺はこの羽沢珈琲店(はざわコーヒーてん)の店主の息子で、羽沢鷹明(はざわたかあき)と言います」

「えっと……僕は上原太陽(うえはらたいよう)で、タカ兄――鷹明さんの幼馴染みです」

「羽沢様、そして上原様ですね、畏まりました。それと羽沢様、先程仲間の一人から連絡が入りまして、松原様とお二方のご友人が無事に合流し、こちらに向かっているとの事でしたので、間もなく到着されると思われます」

「あ、そうなんですね……ところで、皆さんは奥沢さんとはどういうご関係なんですか?」

「私達は弦巻家(つるまきけ)に雇って頂いてる者でして、奥沢様は弦巻家のご息女――弦巻こころ様のご友人であり、同じバンドのメンバーなのです」

「弦巻……そういえば、薫が誘われたっていうバンドのボーカルもそんな名前だったような……?」

「はい、その通りでございます。バンドではこころ様がボーカルを務められ、瀬田薫(せたかおる)様がギター、北沢精肉店のご息女であられる北沢はぐみ様がベース、そして松原様がドラムを担当され、奥沢様が先程のミッシェルの姿でDJを担当されています」

「なるほど……という事は、今日はライブかライブの練習があったという事ですか?」

「いえ、本日は新曲のアイデアとライブを行うのに相応しい場所を探すための街中散策の予定でして、奥沢様がミッシェルの姿をなさっていたのは――」

「……こころとはぐみと薫さんが、ミッシェルと私を別物だと考えているからですよ」

「……え?」

 その声の方へ振り向くと、そこには黒と灰色の帽子を被り同じく灰色のシャツを着た長い黒髪の女の子――奥沢さんの姿があり、奥沢さんの表情には呆れの色が浮かんでいた。

「薫達が奥沢さんとミッシェルを別物だと考えているからって……つまり、ミッシェルの中に入っているのが奥沢さんだと分かってるのは、松原さんだけって事ですか?」

「はい、その通りです。あ、それと……私の事は美咲で良いですし、別に敬語じゃなくても良いですよ。羽沢さんからすれば、私は年下なので」

「……うん、それじゃあお言葉に甘えてそうさせてもらうけど、俺の事も鷹明で良いよ。苗字の方だと、妹と一緒にいた時に間違えちゃいそうだからね」

「あ、因みに僕も名前の方で良いですよ、美咲さん。僕の場合は姉がいますし、名字で呼ばれるのはちょっとこそばゆいので」

「……分かりました。それでは、私もお言葉に甘えさせてもらいますね」

「うん、ありがとう。それで、さっきの話に戻るけど、どうしてそんな事になったのかな?」

「そうですね……こころやはぐみ達の事なので、私には何とも言えませんけど、私とこころ達が初めて会った時に私がミッシェルの格好だったのも原因の1つかもしれませんね。それに、いくら私と花音さんが説明してもまったく理解しないので、あの三人的にはミッシェルは着ぐるみじゃなく、本物の熊っていう認識なのかもしれません」

「本物の熊って……弦巻さんと北沢さんは、まだどんな人か分からないから何とも言えないけど、流石に薫がそんな事を思うはずが……」

 苦笑いを浮かべながら否定の言葉を口にしかけたが、日頃の瀬田薫という人物の言動を思い返した結果、段々それが事実である確証が持て、「……あり得るかもしれない」という言葉が口から出てくる事となった。

 ……やっぱり、アイツなら普通にあり得そうな気がする。もしかしたら、弦巻さん達の気持ちを考えてそんな事をしている可能性もあるけど、もし本当にそうだったとすれば、美咲ちゃんと松原さんには話しておく気がするし、今回に関しては本気でそう思ってる気がする……。

「……美咲ちゃん、薫の非礼を本人の代わりに謝らせてもらうよ。本当にゴメン……」

「い、いえ……別に鷹明さんが謝る事は無いですよ。ただ……あの三人も時には良い事を言うんですよね。いつもは、自由気ままな三人組なのに」

「あ、その気持ちは分かるかもしれない。俺も普段から青司や兎亜の自由さには悩まされてるけど、ちゃんとその時その時で一番大切な事は分かってるから、結構気付かされる事が多いんだよね」

「そうなんですよね。まあ……普段からちゃんとして欲しいと思った時は、これまで何度もありましたけどね」

「確かに俺もそういう時はあったかな。けど、それと同じだけそういう強引で自由奔放に見える行動に助けられた事だってある。実際、俺は青司達が話し掛けてくれたり色々と引っ張り回してくれたりした事で、人間的に成長できたような気がするし、そういう時に青司達がいかに頼れる存在で、一緒にいて楽しい存在なのかを周囲に知って欲しいと日々思ってるからね。だから、今は薫達の自由な言動に悩まされ、もう嫌だと思っているかもしれないけど、美咲ちゃんにもいつかはそういう時が来るかもしれないよ」

「来ます……かね? 私、バンドに加わった経緯が半ば強引な形でしたし、現在バンドの脱退を目指して色々考えてるところですけど……」

「少なくとも、俺はそう思うよ」

「……分かりました。せっかくそう言ってもらったので、その言葉はちゃんと覚えておきますね」

「うん」

 静かに微笑む美咲ちゃんとそんな会話を交わしていた時、それを静かに聞いていた太陽が突然クスクスと笑い出した。

「ん……太陽、どうしたか?」

「ううん。美咲さんとはさっき初めて会ったばかりなのに、もうそんなに仲良くなったんだなぁと思ってね。さっきの話じゃないけど、こういう時ってタカ兄よりも青兄の方が先に仲良くなりそうだから、ちょっとだけ不思議かなって」

「うーん……やっぱりグループ内の立ち位置が似てるからじゃないか? 俺と違って美咲ちゃんはハロー、ハッピーワールド!のリーダーでは無いけど、自由人組を止めるという役割は同じだからな」

「なるほどね。という事は、もしかしたらハロー、ハッピーワールド!にも僕みたいな立ち位置の人はいるかもしれないね」

「そうなる……のかな? 太陽の立ち位置っていうと、ボケに回る事は多いけど、普段は皆の事を落ち着いて見てるイメージだけど……」

「うーん……そうなると、花音さんが一番近いかもしれませんね。花音さんは私と一緒でこころ達を止めてくれる側ですけど、結構流される事も多いですし、そういうバランス配分を考えるなら他の三人と私よりは花音さんに近いかもしれません」

「なるほど……」

 となると、残りは青司達と弦巻さん達になるけど、性格や考え方的に青司と弦巻さんがたぶん同じで、男女からの人気の高さや絵になる容姿的に兎亜と薫が同じ、そしてこの調子で行くと桃と北沢さんが同じ事になりそうだから、もしかしたら俺達『Twilight』と美咲ちゃん達ハロー、ハッピーワールド!は、結構似た者同士なグループなのかもしれないな。

 そんな事を考えていたその時、店のドアがゆっくりと開く音が聞こえ、俺達が同時にそちらへ視線を向けると、そこには達成感に満ちた表情の青司達と不安そうな表情を浮かべる水色のサイドテールの女の子――松原さんの姿があり、その姿を見た瞬間、俺はとある事を思い出した。

 ……あれ、この人……よく見たらこの前も太陽達の友達の白鷺聖也(しらさぎせいや)君のお姉さん――白鷺千聖(しらさぎちさと)さんと一緒に来ていた人だ。美咲ちゃんが言っていたように確かによく二人で来てくれてる人だけど、まさか美咲ちゃんのバンド仲間だったなんてな……。

 松原さんの事を見ながらそんな事を考えていた時、満足顔の青司が少し大きな声を上げた。

「たっだいまー、諸君! 『Twilight』の元気印、美竹青司(みたけせいじ)率いる松原花音捜索隊が今帰還したぜー!」

「……お前が『Twilight』の元気印なんて初耳だけど、とりあえずおかえり」

「おかえり、皆」

「うん、ただいま」

「ただいまー」

 俺達がやりとりをする中、美咲ちゃんはすぐに松原さんの元へ駆け寄り、心配そうな様子で声を掛けた。

「花音さん……怪我したり具合悪くなったりはしてませんか?」

「うん、大丈夫だよ、美咲ちゃん。あの……迷子になっちゃって本当にゴメンね……」

「いえ、良いんです。花音さんが無事でとてもホッとしてますから。それにしても……美竹さん達が見つけるまでどこにいたんですか? 私は花音さんがいなくなった後、花音さんが友達とよく行く喫茶店があるって話してたのを思いだして、とりあえずここに来ましたけど」

「あ……実は、私も美咲ちゃんとはぐれちゃった時にとりあえずここに来てみようって思ってここまでずっと歩いてたの。ここで待たせてもらえば、もう誰かとはぐれる事も無いかなと思って。でも……」

「あー……なるほど。ここに来ようとしたは良いけど、更に迷子になっていたところを美竹さん達が発見したって事ですね」

「う、うん……。最初、青司君達に話し掛けられた時、初めての人達にいきなり話し掛けられてどうしようってなったんだけど、三人とも私が安心するような話し方をしてくれて、それで落ち着くことが出来たの。そして、美咲ちゃんがここで待っててくれてる事を聞いて、桃ちゃんと兎亜ちゃんに手を繋いで貰いながらここまで来たんだ」

「まあ、その方が良さそうですね。なんにせよ、こうして再会できたのは本当に良かったですよ。後は……こころ達に連絡をいれないといけませんけどね」

「あ、それなんだけどね……ここに来る途中でこころちゃん達にはもう連絡をしてあるの。だから、もうそろそろ来ると思うよ」

「……分かりました。それじゃあこころ達が来るのを待つ事にし――」

 美咲ちゃんが頷きながらそう言ったその時、店のドアが勢い良く開き、それと同時にとても元気な声が聞こえてきた。

「ミッシェルー! 花音! 迎えに来たわよー!」

「わーい、喫茶店だー!」

「ふふ……やはりここはいつでも良い雰囲気だね」

 そこには目をキラキラとさせた金髪のロングヘアーの女の子とオレンジ色の髪のショートヘアの女の子、そして俺と太陽と同じ演劇部に所属する薫の姿があり、美咲ちゃんはその三人の姿を見ると、大きな溜息をついた。

「はあ……来たのは良いけど、少しは落ち着いてよ……」

「あはは……けど、こころちゃん達らしいと言えばらしいよね」

「そうですね……」

 美咲ちゃんと松原さんがそんな会話をしていた時、金髪の女の子はキョロキョロと店内を見回し、美咲ちゃん達の姿を見つけると、不思議そうに小首を傾げながらも二人へと近付いていった。

「花音はいたけど、ミッシェルの代わりにキグルミの人がいるわね。ねえキグルミの人、ミッシェルがどこに行ったか知ってるかしら?」

「あー……うん、ミッシェルは急に予定が入っちゃったから今日はもう帰っちゃったみたいだよ、こころ。というか、私の名前をいい加減覚えて欲しいんだけど……」

「キグルミの人の名前……? えっと……何だったかしら?」

「……奥沢美咲だよ。一応、同じクラスなんだから覚えておいて」

「おくさわみさき……うん、覚えたわ! たぶん!」

「たぶんって……はあ、まあ良いや」

 金髪の女の子――弦巻さんの言葉に美咲ちゃんが諦め気味に溜息をつく中、薫はオレンジ色の髪の女の子を連れて俺達の方へと近付いてきた。

「やあ、『Twilight』の諸君。こんなにも良い天気の日に君達に会えるとは、ふふ……神様も粋な計らいをしてくれるものだね」

「そうだな。ところで、その隣にいる子が北沢さんで良いんだよな?」

「ああ、そうだよ。北沢はぐみ、我々『ハロー、ハッピーワールド!』のベース担当であり、地元のソフトボールチームのキャプテンも務めているとても元気で頑張り屋さんな子だよ」

「初めまして、北沢はぐみっていいます! 呼ぶ時ははぐみで大丈夫ですよ! 家はお肉屋さんをやってるから、良かったら一度来てみて下さい!」

「うん、分かった。えっと……それじゃあせっかくだし、俺達も自己紹介しとこうか」

「そうだな。んじゃあ、まずはタカから行こうぜ」

「分かった。俺の名前は羽沢鷹明、このガールズバンド支援グループ兼学生バンド『Twilight』のリーダーで、キーボードの担当なんだ」

「それじゃあ次は俺だな……俺は美竹青司、『Twilight』の副リーダーでボーカルとギターの担当だ。よろしくな!」

「私は宇田川兎亜、『Twilight』ではボーカルとギターの担当だよ、よろしくね」

「それで、僕は上原太陽。『Twilight』のドラム担当だよ、よろしくね」

「最後は私だね。私は青葉桃、『Twilight』のベース担当だよ、よろしくね」

 そんな具合に俺達が自己紹介をしていた時、突然弦巻さんが俺達の方へ顔を向けると、目をキラキラとさせながら俺達に話し掛けてきた。

「あら、貴方達もバンドをやってるのね! ねえねえ、ライブはもうしたの?」

「いや、結成したのが昨日だし、各々の楽器もまだ無いから、もう少し先の話かな」

「そうなの……あ、それならウチにある楽器を使えば良いわ! 花音は自前のドラムがあるけど、他の皆はウチにある楽器を使っているし、何なら好きなのをあげても良いわよ。それに、ウチには練習するための場所もあるし、至れり尽くせりと言っても良いわね」

「うーん……確かに魅力的な提案だが、それなら練習の時にだけ楽器を借りるくらいで良いかな」

「あら、どうして? 楽器が近くにあった方が、いつだって練習が出来るから、上達だって早くなるでしょ?」

 弦巻さんが尤もな事を言う中、青司は首を静かに横に振った。

「確かにそうかもしれねぇけど、俺は意見を変えるつもりはねぇよ。楽器を借りっ放しのままが申し訳ねぇとかあんまし迷惑を掛けられねぇとか理由は色々あっけど、一番の理由は()()()()()()()()だって考えがあるからだ」

「楽器は自分の相棒……?」

「ああ、楽器は自分に合った調整をするのが一番だし、練習や演奏を続けていく事で愛着も湧いてくる。それってつまり、自分の相棒みたいになっていく事と同じだろ? だったら、楽器は自分がこれが良いと思った奴を楽器店巡りで見つけて、ソイツを自分の力で手に入れた方が良いと俺は思ってる。だから、勝手な事を言うようだが、自分達にとって納得のいく楽器を見つけるまではその提案を受けたいが、あくまでも練習の時に一時的に借りるだけであってもらったり持っていったりする気は無い。これは俺にとっての信念みたいな物だからな」

「青司……」

 そう弦巻さんに語る青司の目は、とてもまっすぐで真剣な物であり、何を言われようとその意見を変える気が無いのは明らかだった。

 楽器は相棒、か……。何だか青司らしい考え方だよな。

 クスリと笑いながら思った後、俺は青司の方をポンッと叩きながら口を開いた。

「青司の言う通りだな。『ハロー、ハッピーワールド!』の皆の事を悪く言う気は無いけど、つぐみ達『Afterglow』だって自分達でこれだと思う物を選んでたわけだし、俺達だって最終的にはそうしたいところだからな」

「タカ……へへっ、お前ならそう言ってくれると思ってたぜ。流石は俺達の幼馴染みで『Twilight』のリーダーだな」

「まあな。という事で……弦巻さんさえ良ければ、しばらくの間バンドの練習の時にだけ俺達に楽器を貸して欲しい。もちろん、その分の対価が欲しいなら出来る限り払うつもりだ。だから、お願いします」

 弦巻さんに対して頭を下げながら言い、ゆっくりと頭を上げると、弦巻さんは考え込むような仕草を見せた。

「対価、ねぇ……。楽器を貸すのにそういうのはいらないわ。ただ、貴方達にも私達の目的に協力して欲しいかしら」

「弦巻さん達の目的……?」

「こころで良いわよ。それで、私達の目的だけど……それは、世界を笑顔にする事よ!」

「世界を……笑顔に……?」

「ええ! 世界中が笑顔になれば、皆が幸せいっぱいになれるでしょ? 私達はそれを目指して、日々バンド活動をしているのよ」

「なるほど……」

 こころちゃんの言葉に少しだけ考えさせられていたその時、同じく話を聞いていた青司が突然「……ん?」と何かを思いついたように声を上げたかと思うと、肩をポンポンと叩きながら話し掛けてきた。

「……なあ、タカ?」

「ん……どうした?」

「『ハロー、ハッピーワールド!』の目的と俺達の目的って、規模は結構違うけど、どこか似てるような気がしねぇか?」

「まあ……そうかもしれないな。『ハロー、ハッピーワールド!』は世界を笑顔にするのが目的だけど、俺達は『Afterglow』の五人や『ハロー、ハッピーワールド!』のようなガールズバンドの支援などがメインで、他にも羽丘学園の皆や商店街の皆の悩み解決もしてるから、誰かを笑顔にするという点においては、似てるかもしれないな」

「だろ? つまり、『ハロー、ハッピーワールド!』の目的に協力するのは、俺達『Twilight』にとって当然の事だし、『ハロー、ハッピーワールド!』は俺達の同志みたいな物になるよな?」

「同志って……まあ、そうかもしれないけどさ」

 俺達がそんな会話を交わしていたその時、こころちゃんが顔をぱあっと輝かせながら青司に話し掛けた。

「貴方達も皆の笑顔のために日々活動をしてるのね! それってとっても素晴らしいことだと思うわ!」

「へへ、だろ? まあ、さっきも言ったように規模はそちらさんよりは小せぇけど、同じような目的を掲げる同志として、俺的には『ハロー、ハッピーワールド!』の目的には協力させてもらうつもりだ。尤も、俺達の妹のバンド『Afterglow』が困っていた時には、そっちを優先させてもらうけどな」

「それはもちろん構わないわ。協力してもらう以上、それは当然の事だもの」

「へへっ、サンキューな。それで……タカはどうしたい? あくまでもこれは俺の意見で、『Twilight』の行動の最終決定を下すのは、リーダーであるお前だから、お前の決定には従うぜ?」

「……そこまで言われて嫌だなんて言うと思ったのか?」

「いや、思わないぜ? ただ、念のため確認しようと思った、それだけだからな」

「だと思ったよ……」

 青司の言葉に対して溜息交じりに呟いた後、俺は兎亜達の事を見回しながら声を掛けた。

「お前達もそれで良いか? もし、何か意見があるならしっかりと聞くけど」

「ううん、私も賛成だよ、タカ」

「僕も賛成だよ、タカ兄」

「もちろん、私も賛成だよ」

「分かった」

 兎亜達の賛同も得られた後、俺はこころちゃんの方へ向き直り、ニコリと微笑みながら話し掛けた。

「という事で、俺達『Twilight』は『ハロー、ハッピーワールド!』の目的に協力させてもらうよ。これからよろしく、こころちゃん」

「ええ! こちらこそよろしくね、『Twilight』の皆!」

 満面の笑みを浮かべるこころちゃんと握手を交わした後、俺は松原さんの隣で美咲ちゃんが浮かない顔をしているのに気付き、青司にアイコンタクトを送った。青司はそれに対してコクンと頷いて応えると、俺が美咲ちゃんの方へ動くのに合わせてこころちゃんへと近付き、これからの事についての話し合いを始めた。その様子に軽く安心感を覚えた後、俺は美咲ちゃんに話し掛けた。

「なんだかゴメンね、美咲ちゃん。バンドを抜けたいと思っている人の前で、あんな話を進めちゃって」

「あ、いえ……それは気にしないで下さい。話の流れとか青司さんとこころの性格とかからそうなるだろうなとは思ってましたから、別に鷹明さんが謝る必要はありませんよ」

「そっか……それなら良いけど」

「はい。それに、実はちょっと安心してる所もあるんです」

「安心してるって……美咲ちゃん、どういう事?」

「『ハロー、ハッピーワールド!』と『Twilight』が繋がりを持った事で、私達にいざという時にこころを止めてくれる仲間が増えたからです。今日のこの出会いで、私と花音さんには鷹明さんという常識人の仲間が増えましたし、青司さんや兎亜さんというふざける事はあるけど、考え方はしっかりとしている方と出会えたので、この先の不安は結構減ったと思ってます」

「あはは……なるほどね」

「……まあ、今日のこの出会いの中で一番嬉しかったのは、鷹明さんと出会えた事ですけどね」

「え、どうして……?」

「鷹明さんは私と同じような立ち位置にいながらも私とはちょっと違う考え方を持っていて、私に新しい可能性を示してくれましたからね。私にはまだこのバンドを抜けたいという気持ちはありますけど、鷹明さんの言葉で少しだけ考え方を変えてもらった気がするんです。だから、本当にありがとうございます、鷹明さん」

「……どういたしまして」

 ニコリと微笑みながらお礼を言う美咲ちゃんに対して俺が微笑み返しながらそれに答え、それを松原さんがニコニコと笑いながら見ているという和やかな雰囲気が流れていたその時、「タカ!」という青司の声と「美咲、花音!」というこころちゃんのとても楽しそうな声が聞こえ、俺と美咲ちゃんは同時に溜息をついた。

 はあ……本当に良くも悪くも雰囲気ブレイカーな二人組だよな……。

「……それで、どうしたんだ?」

「こころ達『ハロー、ハッピーワールド!』と今親睦会をするっていう話になったんだけど、ここでやってても良いか?」

「まあ、騒ぎすぎなきゃ別に良いけど……」

「というか、私達は新曲のアイデアとかライブ会場探しとかをしてたでしょ? 早く行かないと日が暮れちゃうよ?」

「確かにそうね。ただ、それなら明日でも出来るけど、『Twilight』の皆との親睦会は今じゃないと出来ないし、この親睦会の中で情報交換や情報共有をすればその問題も解決よ」

「こころが思ったよりまともな事を言ってる……!」

「まあ、『Twilight』の皆との親睦会が楽しそうっていうのが、一番の理由だけどね」

「……前言撤回、やっぱりいつものこころだった……」

 こころちゃんの言葉に美咲ちゃんが溜息をつく中、俺はそんな美咲ちゃんを見ながら松原さんに話し掛けた。

「……松原さん、『ハロー、ハッピーワールド!』の方も結構大変そうですね」

「あはは……確かにこころちゃん達の元気と自由さについて行くのは結構大変かも……。あ、それと……私の事も花音で良いですよ? お互いに同い年ですし青司君や兎亜ちゃんもそう呼んでくれてるので」

「……うん、分かった。それじゃあ改めてよろしく、花音さん」

「はい、こちらこそよろしくお願いします、鷹明君」

 花音さんとの会話を終えた後、俺は楽しそうに親睦会のための話し合いをしている青司達を横目に未だに呆れた様子でこころちゃんを見ている美咲ちゃんに声を掛けた。

「美咲ちゃん、たぶんああなった以上、青司もこころちゃんも止めようが無い気がするし、ここはもうこの親睦会を楽しんでしまった方が良いと思うよ。それに、こころちゃんの言う通り、この親睦会は情報共有や情報交換の場にも使えるわけだから、決して無駄にはならないだろうし」

「……ですね。一応、私も『ハロー、ハッピーワールド!』のメンバーですし、どうにかあの三人の事を花音さんと一緒にどうにかしながら楽しんでみますよ」

「うん。俺も店の手伝いをしながらフォロー出来る時はするから、同じストッパー役として頑張っていこう」

「はい、その時はお願いします、鷹明さん」

「ああ、任せておいてくれ」

 美咲ちゃんの安心感に満ちた表情に対してコクンと頷いて答えた後、俺は美咲ちゃんと花音さんの二人を見回しながら再び声を掛けた。

「よし……それじゃあ行こうか、美咲ちゃん、花音さん」

「「はい」」

 二人の返事を聞いた後、俺達も親睦会の話し合いに混ざるために青司達の方へと歩いていった。

 さて……これからは新しい仲間達とも協力しながら今まで通りに精一杯頑張っていこうかな。

 春の日のお客様で混み始める前のちょっとした時間に春風と共に訪れた新しい出会いで、俺の心は春の陽気のように静かにポカポカしてきたような気がし、俺は話し合いに混ざりながら小さく微笑んだ。




政実「第7話、いかがでしたでしょうか」
鷹明「今回はハロー、ハッピーワールド!のメンバー達との顔合わせ回だったけど、これからもこんな感じで他のバンドとの交流回みたいなのはあるのか?」
政実「一応はある予定だよ。既存のイベントを元にした回もあるけど、今回みたいなオリジナル回も時々入れていく感じかな」
鷹明「分かった。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けたらとても嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さてと……それじゃあそろそろ締めていこうか」
鷹明「ああ」
政実・鷹明「それでは、また次回」


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