インフィニット・ストラトス アルエット・グローリー (イェーレミー)
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プロローグ

イェーレミーです。別作品の更新が滞っているのに性懲りもなく新作投稿します。あっちもこっちもエタるつもりはないですので生暖かい目で見てやってください。


約40年前、空から隕石が降ってきた。普通であれば大気圏突入時の摩擦熱により蒸発と拡散を繰り返して気化する筈なのだが、分裂し世界各地に飛来した。その全てが人が住んでいない場所に落ちてきたので死傷者は0で済んだ。隕石には未知の鉱石であるマナダイトが見つかり、その隕石の落着の影響を受けた星脈世代(ジェネステラ)と呼ばれる新人類が産まれるようになり、普通の人間とは比較になら無いほどの身体能力があり、なおかつ魔術のような超能力じみた物を持っていた。だがその強すぎる力が災いし、人間相手にケンカをしようものなら怪我では済まず最悪の場合死に至らせてしまうため、法律により星脈世代(ジェネステラ)の立場は人間よりも低くなってしまった。ただ、近頃では地位の低さを利用されて冤罪なども増えてきているため、法の改正が必要になってきているという声があがってきている。

 

 

20年前、ある国の研究施設で事故が発生した。その国からのSOSもなく、不自然に思った各国首脳は自国の災害派遣部隊をその国に展開。すると国の中には人っ子一人、生物一匹たりとも存在していなかった。動物園や水族館はがらんどうで何もなかった。しかし人が居たと思われる場所には服が置かれており、ピクニックをしていた跡やレストランで食事だけが置かれていたことから、非科学的ではあるが、生物が消滅したという調査結果となった。

この不可解な事件はその国の名前から取って「リムガルド・フォール」と名付けられた。

 

 

10年前、後に天災として名を轟かせる事になる篠ノ之束博士が、宇宙での作業をしやすくするためのマルチフォーム・スーツ「インフィニット・ストラトス(通称IS)」を開発し、学会で発表した。ただ、その時の科学者達や企業等は一つの会社を除いて反対や無視、批判を行った。束博士に賛成した唯一の会社は翌日、博士自身が見学に来て社長と意気投合。IS開発を支援することを約束した。

しかし、その1ヶ月後に事件が起こった。日本を射程に収めることのできる世界各国のミサイル約2400発が放たれた。日本中は当然恐慌状態に陥り、自衛隊も奮闘したのだが約1/4しか減らせなかった。そんな時に白と黒の謎の人型ロボットが太平洋上に唐突に現れた。彼女らはそんな自衛隊を援護するかのようにちぎっては投げを繰り返し、武器を量子格納したり慣性制御によるロボットアニメのような動きをして無双と呼べるほどの活躍をした。その後、日本を除く世界各国が人型ロボットを捕獲しようとしたが返り討ちに遭った。そして彼女らは現れたときと同じように突然姿を消した。

後日、博士がその人型ロボットがISのテストケースであると発表。世界各国は手のひらをドリルのように返して開発競争に挑んだが、女性しか乗れない欠陥品であると公表し、そのエネルギー源となるコアはブラックボックスであり博士自身にしか作れないことを明かした。世界各国はこぞってコアを要求したが、日本にミサイルを打った国は有無を言わせず少なく分配し、日本とその他の国には多く配った後に博士は雲隠れした。そのままだと拷問されて研究施設で自由のない生活になると考えたのだろう。その推測が当たっているかのように、今現在世界各国が専門の部隊を使って血眼になって博士の所在を突き止めようと躍起になっている。ただまだ見つかっていないところをみると、博士は天才と呼ぶことができる頭脳を持っているのだろう。もしかすると世界各国の探索力が無能なだけかも知れないが。

そして世の中は男性が無能、ISに乗ることができる女性が有能であり、男は子作りするぐらいにしか役に立たないとされ、政治家も会社も偉い人はほとんどが女性になった。

女性が痴漢と叫べば周りの男性が理由も聞かれずに刑務所行き、女性が買い物に来れば手近な男に金を払わせる、といったように勘違いも甚だしいような世紀末社会が誕生した。

 

 

8年前、リムガルド王国の南方に位置する国、エナストリア皇国にて突如謎の巨大ロボット大決戦が始まった。各国首脳はロボットの中でもエナストリア皇国側に味方している物の情報公開を求めたが、エナストリア皇国首相は自分達も情報を知らないと言い拒否した。実際、エナストリア皇国はほぼ全ての内部情報をメディアを通じて公開しており、公開していない土地を広く見積もったとしても巨大ロボットを作るスペースは無く、また出現方法も予告なしで唐突に現れるものだから出現予想地点の算出もできなかった。ISかとも思われたが生体スキャンの結果、有機物が全く無いこととそもそもロボットの中にコクピットと呼べる空間自体が存在しなかったこともあり、ISでは無いことが判明した。そしてその謎の巨大ロボット大決戦は不定期でエナストリア皇国で6回行われた後、始まった時と同様に突然終わった。最後の戦場が宇宙だったこと、終わる寸前に宇宙空間の一部で歪みと異常な重力波が観測されたたため、彼らは某光の巨人ではないけれど、自分達のいる星に帰ったのだろうと予測されている。

ちなみに何度かIS委員会が無理やり介入したが、委員会所属のIS部隊が全滅するという自業自得な結果に終わった。エナストリア皇国から賠償という形で資金を巻き上げようとしたが、IS委員会役員の汚職が何故か次々と判明しIS委員会自体が一度自己破産で潰れた。

 

 

6年前、日本の東京・渋谷にてM7.8、最大震度7を観測する大地震が発生。渋谷は壊滅的な被害を受けた。しかし、隣接地域にはマグニチュード自体観測せず被害もなかったため、渋谷だけが災害に見舞われるという不可解な現象となった。一部の目撃者からは地震発生直前に光の柱のようなものを見たとの情報もあるが、真偽は不明である。

 

 

5年前、第二回モンドグロッソにおいて、優勝者である織斑千冬氏が表彰式を辞退するという事案が発生。一緒に来ていた弟の織斑春人と織斑一夏が亡国企業と思われるグループに誘拐され音信不通になっていた模様。日本政府は情報を出したのだが女権団体によって握り潰され、織斑千冬氏に届いていなかった。そしてドイツ軍と日本のカウンターテロ組織により発見、保護された。織斑千冬氏はその後、ドイツ軍にて一年間恩返しのために働いていた。

後になって噂されるようになったが、この事件はドイツ軍によるマッチポンプだったらしい。理由として織斑氏の旧友である束博士が弟二人の誘拐を知らせたのだが二人の居場所を何故かドイツ軍が先に見つけていたこと、何故か日本政府ではなく織斑氏にのみ伝えていたこと、何故か犯人達もドイツ軍出身だったこと、何故か織斑氏が日本に帰還した直後に犯人達は釈放され元の部隊に配属されたことなどが挙げられ、説明を求め続けているがドイツ軍は理由も述べずに拒否しているため、このような噂がまことしやかに囁かれている。

 

 

4年前、リムガルド王国で「リムガルド・フォール」で居なくなった人達が突如帰ってきた。リムガルド王国はこの時エナストリア皇国が観察していたのだが、何の反応も無く、まるで元からそこに居たかのように戻ってきていた。半年後にほぼ全員の生存が確認され、しかし国王やその王位継承権を持つ息子達は帰ってきておらずまた、国から大金を貰っていた研究者達も確認されなかった。

国民はマスコミなどのインタビュー対象となったが、皆口を揃えて「狐につままれた(意訳)」と発言。居なくなった後帰ってくるまでのタイムラグが無かったと発言する人も居り、非現実的、非科学的ではあるものの、神隠しに遭ったという見解に至った。消滅した後にどこに居たのか、そして彼らはそこで何を見たのか。それは今世紀最大の謎の一つになっている。

 

 

3年前、日本の総理大臣に鷹月宗一郎氏が就任し、フェイクニュースやヤラセ番組を発信し続けるマスコミやメディア、そしてそこに癒着していた女権団を強制的に国外追放する憲法を就任式での演説にて発表。理由としてこれまでのフェイクニュースや収賄、贈賄、詐欺、献金、横領、脱税などのことをしてきたからだと主張しその証拠を提示、インターネットにも同じものをアップロードした。警察が調べたところ、この情報は嘘偽りの無い本物であり過去に抹消され続けた犯罪だと判明した。ネットの住人はこの情報に食い付き、女権団は炎上した。

今まで巨額の利益を得ていた女権団はそれを見てまずは火消し作業に移ったが、根拠の無い全くの出鱈目だとしか言い張らなかった。根拠がないという証拠として有力な収支内訳書を提出しなかったため憶測や噂が飛び交うようになり、否定はするが証拠を出さないため判決は裁判所で行われた。裁判所では女権団は「男だから」、「証拠もないのに」、「嘘をでっち上げられた」などの子供のような供述をし、総理は用途不明なお金の流れを説明するよう求めた(勿論女権団は黙秘権を行使した)。そしてマスコミが食いつきそうな特大ネタを報道するのかと思ったが、一部を除いて大多数は女権団を擁護する報道を行った。しかも録音テープを切り貼りするように編集し、それを証拠に見立てて「裁判での発言」を入手したと発表した。勿論裁判所内は録音録画は禁止されているので偽造されたものだと判明、国民によるニュース番組や新聞へのボイコット運動も始まった。まぁ、元々放送法を無視して多角的な見方をせず論争も政治家批判のみというゴシップ紙レベルの報道をしていたし、放送法が無くなってもニュース番組や各新聞社は自分達が報道することだけが正しくて、ネットなどは全てフェイクニュースであると勘違いしていたようだが。

そうして追い詰められていった(殆ど自滅しているが)女権団は首相暗殺計画を企て実行した。あること無いことを書いて首相を魔王のような扱いにして、暴動を起こさせた。まぁ、未来を見ていたかのように首相は決起集会

の会場として使われた廃ビルにSATを配置して突入させた。任意同行を拒否して銃を突きつけた女権団の人達はまとめて刑務所に送り込まれ、任意同行を受けて承諾した人達に関しては反省の余地ありと見込まれた人を除いて刑務所に連行されていった。ただ、この件で刑務所に詰め込まれた女権団及び女尊男卑思想の人々、さらにはマスゴミの人達が多すぎて、刑務所が女々しい事になってしまい通常の刑務所の仕事ができなくなってしまっていた。なので、首相は口内粘膜のDNAと血液を採取した上で全員日本国籍を特例で奪いパスポートなども使用不可にして国外追放処分にした。なので現在の日本は少し人が減っている。

入国検査に血液検査とDNA検査を追加したことで日本に旅行しにきた人達に対して、安心しておもてなしすることができるようになった。偽造パスポートで入ってきた人達に関しては梱包して着払いで送り返しているらしいが。

そして首相は結婚に関する制限をほぼ全て解除した。なので同性婚や多重婚が可能になった。ただ、制限としていくつか新しく設けられた。まず、多重婚をする場合は江戸時代のように正妻と側室といった物ではなくそのすべての人を同じように幸せにすることが義務付けられた。次に政略結婚を禁止し、政略結婚ではない近親婚が可能になった。ただ近親婚に関しては恋人と同じ感情を互いに持っていること、互いの同意の上(無理矢理ではないこと)というものが追加条件として与えられた。そして多重婚の中でも全員の同意があれば同性婚が可能になり、男性諸君は狂喜乱舞して首相を支持した。女性諸君も願ったり叶ったりの人が多数居たため首相を支持し、支持率は過去最高値を叩き出した。この法案の側面として少子高齢化を抑制する目的もあるらしいが、その結果が分かるのは先の話だろう。

 

 

2年前、世界初のVRMMORPGであるソードアート・オンラインの正式サービスが開始され、約一万人が完全な仮想世界を謳歌していたがその日の内にゲームマスターかつ開発者である茅場晶彦を名乗った謎の人物が自発的ログアウトができないことを宣言しデスゲームと化した。途中色々な試練やバグは有ったものの、2ヵ月前にゲームの舞台であるアインクラッド100層全てをクリアして、約6000人が無事にログアウトできた。そして全ての真実がプレイヤー達の口から明かされた。

デスゲームを宣言し、ソードアート・オンラインの中に閉じ込めたのはアーガス所属の茅場晶彦ではなく、アーガスに代わってSAOサーバーの管理をしていたレクト・プログレスの須郷伸之によるものだった。茅場の後輩である彼はSAOプレイヤーを実験台にして人格操作の研究を進めており、自分がラスボスを倒して被害者を救った英雄として凱旋することで地位を不動のものにしたかったらしい。しかし、プレイヤーとしての腕は三流以下だったため、クリアを目指して最前線で戦う攻略組に正体を見破られクリアまで牢屋の奥深くに入れられていた。総務省の通称「仮想課」はSAO生還者の情報から調査を進めたところ、彼のSAO内での悪行や非人道的実験の数々が見つかり、無期懲役の実刑が確定した。レクトにも昼夜を問わず非難やクレーム、批判が相次いだが、須郷に全ての責任を擦り付けることで回避した。しかしレクトに対する不信感は右肩上がりになったため、レクトはゲーム業界からの離脱を余儀無くされた。ALOは構成員を再編成したアーガスにほぼ無償提供され、ユーザーの声を元にアップデートを開始。SAOのシステムも取り入れられ、茅場によってアインクラッドまでもが復元された。

ALOは名実ともにSAOを超え、VRMMORPGの頂点として登り詰めた。

 

そして、つい先日。世界史上初となる「男性IS操縦者」が3例見つかった。世界初は受験会場を間違えて起動させたという織斑一夏、二人目は一緒に起動してしまった織斑春人。この二人は第二回のモンドグロッソで少し有名になったが織斑千冬の実の弟である。

最後の3例目は日本の倉持技研と双璧をなす会社「ヴァーミリオン・ヴィクトアール」の次期社長と呼ばれている、遠藤拓海である。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「ほえ~、転生者なんてこんなところに来るんだね~」

「私に個人的に関わろうとするのなら蹴り飛ばすわよ?」

「お兄ちゃんの・・・・・・・バカァァァァァ!!」

「今度はっ、届いたっ!」

「おや、君は・・・・・。ああ、私みたいに隠居生活をしているのではなかったのかい?」

「ああそうそう、じいさんは元気?」

「やめてぇぇぇぇぇぇ!!」

「鈴!狙い撃つから射線上に入らないで!」

「私のお父さん?鷹月宗一郎って言うんだけど・・・・知ってる?」

「カリフォルニアロールってないの?」

「動けぇぇぇぇぇ!!」

「ダイシー・カフェにようこそ、IS学園の皆様方」

「あのゲームは、覚醒してN格後派生して6回殴ってハエ付けて1回殴って馬と帰山同時HitさせてN格後派生で6回殴ってフィンガー決めたら大体死ぬってゲームだから」

「例外はない。限界を知れ吸血鬼」

「私が!私達が!ガンダムよ!!」

「喫茶アーネンエルベにようこそ!」

「How amazing wonder land!」

「いやいや~、四肢欠損も元通りにできるけど~、それは副産物だからね~」

「いや、あのゲームをエーテル通信でやる意味あるのか?」

「あでぃおすぐらっしあー」

「ハナカツヲ?ああ、あの?」

「かんちゃん!合わせて!」

「それでもっ!」

「私、まだこの世界を、ろくに知らない。まだ見たこともないものが、あまりにも沢山、あり過ぎるの!」

「私は、私でいる限りお兄ちゃんや、皆のことを裏切り続けてるから・・・・・・。相談なんて、できないよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「タク。私、タクに出会えて本当に良かったって思ってる」

「僕の仲間に、僕の親友に勝手に手ェ出してんじゃねぇよ!」

「ごめんなさい、お兄ちゃん」

「行くよっ、ユニコーン!」

「貫くわ!この槍で!」

「私がここにいられるのは、拓海と束さんのお陰だから。だから、ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは、三人の男を中心とした、絆と真実、嘘と裏切りの物語。




次は近日中に出す予定です。

誤字脱字報告や感想、よろしくお願いします。


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第一話

次回は近日中と言ったな。
あれはウソだ。

いえすみません、書き溜めがないのでこんなに時間がかかりました。後はドルオダとかファンキルとかやってましたイェーレミーです。おはこんばんちわ。

暑くなってきましたね。私的には暑いのは良いんですがクーラーでガンガン冷やしているのはNGなのです。最悪腹が壊れる。

今回は伏線たっぷり?な回です。
良かったら想像してみてください。


あ、誤字報告とか感想とか、超受け付けてるんで、良かったらお願いします。

それでは、どうぞ。


 春。始まりの季節。桜で彩られた近未来的な校舎。そこに向かって走っていくモノレール。その中は車掌と運転士と一人を除いて誰も乗っていない。ほぼ貸切状態である。普通なら今日は平日の筈だし入学式もあるのでがらんどうになるはずは無い。無いのだが、このモノレールが向かっている場所が関係していた。

 特殊国立高等学校IS学園。それがこのモノレールの終着点である。女性しか乗れない事で有名な欠陥品「インフィニット・ストラトス」、通称ISに関連する人材を育成する学校である。そしてそんなところに向かう人物だから用務員の人を除いて男は誰もいない。

 

 ・・・・・・・・・・・・と、思っていた時期が僕にもありました。作業のようにつらつらと考えていたことを忘却の彼方に消し飛ばし、既に何度目かも分からないため息を吐いた。

 

 彼の名前は遠藤拓海。両親はIS事業最古参かつ世界的に有名な「ヴァーミリオン・ヴィクトアール」の社長と社長秘書である。つまり彼は世間的にはお坊っちゃまということになる。もっとも、好きなものがガンダムシリーズとオムライスとラーメンという、世の中のお坊っちゃま像を真っ向から否定していくスタイルなのは彼の生活が原因だろう。

 それはともかく、彼がここに向かっているということはISを動かすことができたということである。一応その情報は世界各国で報道されており、三例目ではあったが連日特番が組まれ、楽しみにしていたアニメとか映画とかが潰されて悲しい思いをした人たちは多いことだろう。

 そして彼は女尊男卑団体に狙われるからと日本政府から護衛をつけると言ってきたが、それは拒否した。何故なら、ここは「世界一夢が見られる国、日本」。既に昔に女尊男卑団体は強制排除しており、今でも見つかり改善の余地なしと判断されれば即国外追放の刑に処されるからだ。しかもその日本政府と言っていた人たちも偽物であり、所謂「オレオレ詐欺」だった。後ろにハイエースが止まっていたため日本政府に連絡、政府の情報によると誰も行かせていないとのことだったため、警察に通報して彼らは御用となった。後日、彼らは男尊女卑の過激派ということが判明し、そのグループが全員国外追放の刑により何処かにドナドナされていったらしい。

 

 閑話休題(それはそれとして)

 

『まもなく、終点。IS学園前でございます。落とし物、お忘れものの無いように、いってらっしゃいませ』

 

 そのアナウンスに、この頃読んでいた漫画(バンデシネ)を愛用のリュックサックに直し、忘れ物が無いように指差し確認した上で席を立った。

 

「IS学園なぁ。誰か知ってる人に会えればいいんだが・・・・・・」

 

 そしてモノレールから出て、ホームを歩くこと数十秒。黒いスーツを着た女性が鋭い目線をこちらに送ってきていた。それこそ、その鋭利な刃物みたいな目線だけで熊一頭位は殺せそうなほどの鋭さを持っていた。

 

「来たな」

「初めまして、織斑千冬先生。あなたは僕の担任ですか?」

「ああ、そうだ。まぁ、他の男子も同じクラスではあるがな」

 

 その言葉を聞いて、一気に胃が痛くなった。・・・・・なんで特異点を集めてるんだよ。守りやすいんやろうけど、守れなかったら被害甚大なの分かってるんかなぁ?

 

「何を考えているかは知らんが、行くぞ。ついてこい」

 

 とりあえず口調に対して少しイラッとしたが素直に従うことにした。

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 あのあとは何も起こらず何も喋らずで教室に着いてしまった。この後、産まれたパンダを見る目(AWSみたいな多さの人数)で顔を見られると思うと、ゾッとした。ただでさえ発表などでの人前に出る行為は苦手だというのに珍妙な目線や侮蔑の目線を向けられるとなると、すごく気分が嫌になる。

 

「ここで待っておけ。教室の中で呼んだら来い」

「分かりました」

 

 相変わらずのイラつく口調に怒りゲージが溜まりつつ、どうやって発散しようかと考えていた瞬間だった。

 

『諸君、私が織斑千冬だ』

 

 その自己紹介とともに張り裂けるような黄色い歓声(ソニックブーム)が発生した。強化ガラスでできた窓がビリビリと震えた。しかも中の人の声を聞いていると、「罵って」だとか「北九州から来ました」だの「千冬さんに憧れて!」って聞こえた。女子のアグレッシブさに全僕が引いた。

 

『ああそうだ。これからここにもう一人、そこの空席に入るやつがやってくる。遠藤、入ってこい』

 

 呼ばれたので否が応にも入ることになってしまった。さっきからの発言で分かったが、頭のおかしい人達が何人かいるみたいで胃が早くも不調を訴えていた。とりあえず次の休み時間で何かお菓子を食べようと決めて、腹をくくって教室の中に入った。

 そこには、自分が主役だと言わんばかりに僕を睨み付ける男、ニヤニヤしながらこっちを見て耳栓を用意する我が義妹、女子校に放り込まれたが同類を見つけて安堵の笑みを浮かべる男、こっちに向かって袖を振りながらほんわか笑顔を向けてくる幼馴染み、何故か懐かしい気持ちになってしまう初対面の女の子などが居た。他の人達は何だか値踏みするような目線を向けて固唾を呑んでいた。

 

「では、自己紹介しろ」

 

 イラッ。

 

「あ、はい。わかりました。

 三番目の男の遠藤拓海です。好きなものはアニメとかゲームとかで嫌いなものは生野菜です。ISの事に関してはまだまだわからないこともありますが、これから宜しくお願いします」

 

 その瞬間、一番目の男が耳を塞ぐよう身振りで指示し、義妹に至っては耳栓を着けていた。あっ、これは・・・・・・。

 と思う間もなく。

 

『キャアァァァァァァ!!』

 

 つんざく悲鳴が轟いた。耳を塞ぐ間も無くダイレクトアタックを食らった。流石にこれを生で何度も体感したら鼓膜破れる。何回も叫ばれて被害を受けている男子二人が可哀想になってきた。

 

「遠藤の席は・・・・・・布仏の隣の空席だ」

「わかりました」

 

 空席が一個しかなかったため簡単に理解できた。指定された席に向かい、座ると隣からジト眼で見られた。

 

「・・・・・・・・(むすー)」

「・・・・・・・・・・・・・・(冷や汗だらだら)」

「ホームルームは以上とする。各自、一限目の準備をしておけ」

 

 そんな状態で放置かよ!?あかん。これ絶対客寄せパンダになるって!?

 案の定、織斑先生が教室から出ていくなりほとんどが男子二人の周りに集まった。あれ?こっちに来ないのか?と思ったが、隣の子からいきなり抱きしめられた。

 

「タク」

「・・・・・・・・・本音」

「心配、したんだよ?」

「ああ、分かってる」

「死んじゃったらどうしようって、何度も考えたんだよ?」

「ああ、虚さんから前に怒られたよ」

「かんちゃんの事も心配したけど、タクの事もすごく心配したんだからね?」

 

 そう言って、隣の子――――――――布仏本音は抱きしめるのを止め、拓海に微笑んだ。

 

「何はともあれ、おかえり、タク」

「ああ。ただいまだ」

 

 そうして本音の頭を撫でて・・・・・・・・・ここが衆人環境なのを思い出して周りを見てみた。すると、無糖のコーヒーを飲んでたりにやけ面が見えた。完全に誤解されていた。そして少し離れたところに連れていかれて本音は質問攻めに遭うことになった。

 

「布仏さんは――――「のほほんさんでいーよー」あ、じゃあのほほんさん。この人との関係はどんな感じなのかな?」

 「タクとはー、幼馴染みなんだよねー」

 「心配して抱きしめてたのは?」

 「もしかしたら死んじゃうかもしれないゲームをやってたからねー。仲の良い友達がそんなことになってたらー、誰だって心配するでしょー?」

 

 その言葉に誰もが納得していた。一応プロフィールとかは公開されているし、数ヵ月前にそれが終わったのだから記憶に新しいだろう。

 ――――――――SAO。ソードアート・オンラインというゲーム業界初の完全なVRMMORPGを成し遂げた有名な作品だ。一万人の初期生産ロットは数時間で完売し、一週間後の正式サービス開始日にデスゲームと化した。しかも開発者の茅場晶彦の名を騙り、後輩の須郷伸之によって行われたのはつい最近分かったことなので、当時は茅場が所属するアーガスに被害や警察の捜査、クレームなどで手一杯だったらしい。終わってみれば須郷の非人道的な実験が公開され、手首がドリル回転するかのようにレクトを声高に非難し解散にまで追い込んだ。

 

 「まぁ、少し前に帰ってきたって聞いて思いっきり泣いたんだけどねー。タクはタクで忙しいって思って会ってなかったんだー。そうしたらー、タクがISを動かしたっていうニュースが出て~、家の用事で忙殺されてたんだ~」

 「まぁ、迷惑はかけたと思ってる」

 「じゃあ~、お昼にパフェ奢って~」

 「・・・・・・分かった。常識の範囲内で頼むぞ?」

 「分かってるって~」

 

 そして前払いとしてお菓子(ハイ○ュウ)を渡すとすぐさまにぱーとした笑顔になった。・・・・・・・・現金なやつめ。

 

 「すごく仲が良いんだね」

 

 と、その和やかな雰囲気に何人かが入ってきた。さっきのやり取りを見ていたから入ってきたのだろうか。ちなみに織斑二人の内一人は屋上に幼馴染みと思われる人に連れていかれ、もう一人は腹に一物抱えたような爽やかな笑顔で応対していた。

 

 「ん?他の男のところに行かなくても良いのか?」

 「一人は屋上に行って物理的に会えないし、もう一人はなんか裏がありそうで、ね」

 「なんかついでみたいに見られてるなぁ」

 「まぁ、仕方ないと思うよ?お義兄(にい)ちゃんのネームバリューで言えば、ブリュンヒルデの弟よりは強くないし」

 

 そう言って近付いてきた少女を見た。長い白髪をツインテにして、エメラルドグリーンの瞳をした胸の大きい少女だった。

 

 「僕のこの状況をすごく面白がってたな」

 「そりゃまぁ、他人の不幸は蜜の味って言うでしょ?」

 「僕の義妹(いもうと)がこんなに腹黒い訳がない」

 「元々黒いよ?」

 「自分で言うことじゃねぇよ。全く・・・・・・・」

 

 弾む会話。しかし状況が把握できない/していない人達は目を白黒させるばかりだった。

 

 「ソフィーティアさん!」

 「クラスメイトなんだし名前で良いよ?」

 「フェルさん!遠藤くんとの関係は!?」

 「義兄妹(かぞく)だよ?血は繋がってないから苗字は違うけどね」

 

すると皆は何故か納得した。ここから質問攻めになるのかと考えていたが、この反応は何か違和感のようなものを感じた。その違和感が何なのかに辿り着けなかったため、拓海は考えないことにした。

と、そんなとき授業の始まりを告げる鐘が鳴った。集まってくれた皆に「また後で」と告げ、ほとんど終わっている授業の準備をした。というか、入学式終わったら早よ終わってくれよ・・・・・・

ちなみにお菓子は何とかグミを食べることができたので、糖分不足によるイライラは抑えられそうである。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

授業風景を見てみよう。

少女達は上手く予習できているのか、たまにその時に疑問に思ったことを先生に質問してはいるが山田先生の具体例や身振り手振りを交えた解答により解消されているようだ。では男子三人はというと・・・・・・・・

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

何も分からずにばたんきゅーと倒れているのは二例目の方の織斑春人である。自習すらしていないところを見ると、天才だからついていけるとでも思ったのだろうか?

 

「先生、質問ですがここの――――」

 

率先して質問しているのは一例目の織斑一夏である。こちらは自分の教科書(タウンページより厚い)に大量の付箋を貼っていた。自主学習をして疑問点を付箋に貼り付けているのだろう。質問して解消できた付箋を取り外しているところを見ると、意外と勤勉なのが垣間見る事ができた。ちなみに織斑一夏が質問していることにより、先生への質問することのハードルが下がる副作用があるのか、他の人もどんどん質問していた。今もアストラルさんが質問していた。

 

「この問題は・・・・・遠藤くん。お願いしても良いですか?」

「あ、はい。分かりました。ここは――――」

 

そして三例目の遠藤拓海はというと、生徒と言うより織斑先生の代わりとしてこき使われていた。というのも、

①織斑先生は物を教えるのが下手くそ

②遠藤拓海は世界でも有名なIS等製造会社「ヴァーミリオン・ヴィクトアール」の次期社長と呼ばれている人物であり、ISの歴史などは子供の時から教えられてきたため教科書自体が不要になっている

かつそれらの事は先生方は書類の時点で知っているため頼りにされているのである。彼にとっては良い迷惑だろうが。

 

「では学科試験で全ての教科を満点で通過したソフィーティアさんに少し難しい問題です」

 

と、思考の海に潜っていると山田先生が当ててきた。油断しているとでも思ってるのかな?

 

「問題を打っていきますので、答えを手元のタッチスクリーンで打ってくださいね」

 

そう言われたので、手元のタッチスクリーンに答えを書くことにした。まぁ、先生の手元にあるタッチスクリーンで文字を打ち終わる10秒前に答えを打ち終わったけれど。

 

「まぁ、この問題は解けないとは思い・・・・・・ま・・・・・・す・・・・・・が・・・・・・・・・」

「もう終わりましたよ?早押し問題と同じように先生の文字から推測できる答えを打ちましたが、合ってますよね?」

「はい・・・・・合ってます・・・・」

 

山田先生が自慢気にどや顔するが即座に答えがあっていることを見抜いて、がっくりと肩を落として自信を無くしたかのように疲労の色を隠さない山田先生。ちなみに問題の中身は大学院博士号を取得するための物だった。先生は書いている問題を見てもしかしたらスゴく賢い人なのかもしれないと思った。他の人の反応を見ていると、一人を除いて何が書かれているか分かってすらいないようだった。・・・・・・成る程。彼女が――――。

 

「で、では気を取り直して、次の問いは須方さんに答えてもらいましょう」

 

そうして、時間は過ぎていった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「あぁ、授業をする前に、クラス代表を決めなければいけないな」

「クラス代表とは、中学校などの学級委員を思い浮かべていただければ大丈夫ですよ」

 

きっかけはこんな言葉だった。これが火種となり油を注がれる結末になるとは、この時誰も予想すらしていなかった。

 

「自推他推は問わない。誰かいないか?」

「織斑君がいいと思いまーす!」

「それってどっちの?」

「両方です!」

「はぁ!?俺!?」

「・・・・・・・・」

 

ちなみに他推されてキレ気味になったのが二例目の春人で、無言なのは一例目の一夏の方だ。まぁ、彼は主人公だし、主人公補正とやらもついているのだろう。拓海の事はビックリしたけど、バタフライエフェクトなのかな?

 

「ほぇ~。転生者なんてこんなところに来るんだね~」

「布仏、何か言ったか?」

 

ボソッと言ったつもりだが地獄耳に聞かれたようだ。中身は聞かれて居ないようなので、誤魔化すことにした。

 

「私はタクを推薦するって言ったんですよ織斑せんせー」

まぁ、爆弾は置いておくけどね。

 

「さすがのほほんさん!幼馴染みにいともたやすくえげつないことをやってくれる!そこに痺れる憧れるゥ!」「パーフェクトだ、のほほんさん」

 

私の言葉に同調したのはさっきタクの周りに集まっていた人達だね。英代表候補生は・・・・・・ビットと一緒に身体を動かせない時点でダメかな~。

 

「納得いきませんわ!」

 

噂をすればなんとやら。机を叩きながら勢い良く立ち上がったイギリス代表候補生。日本人として、日本の暗部に仕える者として、彼女の行動を録画しておくことにした。

 

「男が珍しいという理由だけで推薦しないで下さいまし!そのような選出は認められませんわ!大体男がクラス代表とは恥晒しですわ!私に、セシリア・オルコットにそのような屈辱を味わえというのですか!?大体、文化としても後進的な国で暮らさなければならないこと自体私にとっては苦痛ですのよ!?」

「言いたいことそれだけか?」

 

一番槍は意外なところから来た。さっきまで黙っていた一例目からだ。しかも先生にキチンと発言の許可を得てからである。

 

「まず一つ。納得できないなら自推すればいい。ちふ・・・・・織斑先生は自推他推は問わないと言った。なのに何故自推しない?確かに珍しいからという理由だけで他推されるのは見世物パンダみたいでこっちも気分が悪いよ」

「ああそうだ!こっちだってウザいんだよ!」

「ちょっと黙ってろ春人。で、だ。二つ目。日本が文化としても後進的なんだよな?ならイギリスは日本よりも先進国って訳だよな?じゃあどうしてイギリスはBT兵器の試作に留まってるんだ?先進国なんだから単独でイギリスはISを開発できたんだよな?ISコアの量産化に成功したんだよな?モンドグロッソで優勝できたんだよな?確か第一回と第二回のモンドグロッソは織斑先生が、ISコアは篠ノ之博士が分配したんだろ?お前が後進的って言った日本で生まれ育った日本人だぞ?」

「そ、それは・・・・・・・」

「やめとけ、織斑」

 

ここでタクが立ち上がって止めに入った。まぁ、皆が恨み辛みの目線を送っているこの状況を見たのと、織斑一夏――――――面倒だからいっちーと呼ぶことにしよう――――――がエキサイトしすぎてるのを見越したんだと思う。

 

「ああ、悪い。つい熱くなってしまった」

「まぁ女尊男卑の頭のおかしいやつの事は気にしたらダメだろうな。それに代表候補生って沢山居るんだが、その中でどうしてお前だけを覚えなきゃならないんだ?イギリス代表候補生は確か10人ほど居ただろ?確かこの学校の先輩でサラ・ウェルキンって人がいたけどあの人も代表候補生だろ?大体日本で暮らすのが苦痛なら帰れよ。あ、本音。今までの発言録ってる?」

「うん~、バッチリだよ~」

「なら話が早いな。それ日本の外交筋に売ろうぜ。間接的に織斑先生や篠ノ之博士を侮辱して、イギリスはそういう国ですってことを声高に宣言した訳だからな」

「そんな訳はありませんわ!イギリスはそんな国ではありませんわよ!発言の撤回を求めますわ!」

「おいおい。日本を侮辱しておいてそれかよ。代表候補生になるときに教わらなかったのかよ?『代表候補生の発言はその国の発言と変わらない』ってよ。それを差し置いてお前が言った事を噛み砕いて分かりやすく同じことを言ったら発言を撤回しろ、と。何様のつもりだよ」

 

どんどん身体がプルプル震えていくセッシー。それは怒りによるものなのかな?それとも辱しめを受けてるからかな?それとも―――――――――

 

「け、決闘ですわ!」

「は?決闘?」

 

出てきたのは素っ頓狂な言葉だった。時代遅れというか何というか・・・・・、現代ではあり得ないような言葉だ。セッシーが貴族だからというのもあるかもしれないけど、それにしては足りてないものが多すぎる。

 

「決闘なら手袋は?んで、賭けるものは命だよな?」

「は?」

「は?じゃねぇよ。決闘、英語ではduelと言うが、日本語で言うところの果たし合いだ。辞書には確か、二人の人間が事前に決めた同じ条件の元、生命を賭して戦うことってあったはずだ。同じことが書いてるはずだから英英辞典でも変わらないだろ。で、決闘するのか?しないのか?」

「そこまでにしておけ。ミイラ取りがミイラになってどうする」 

 

結構ハイになっていたタクを止めたのは織斑せんせーだった。ただ、止めるならそこじゃないと思うな~。セッシーが言い始めたときに止めるべきでしょー。

 

「先生も面白がってないで止めてください。あいつが止められるべきでしょう?」

「まぁ、そうだな。ただ口喧嘩もいいが、ここはIS学園だ。ISによって決められるべきだとは思わないか?」

「別にいいですよ?ただ、決闘って言うんですから何か賭けないと。あぁ、クラス代表を賭けるのは無いですよ。僕は辞退する予定なので」

「おいまて。お前だけ逃げられるとでも思ってるのかよ!」

「本音。かいちょーはどう言ってるんだ?」

「タクの事は誘うってさ~」

「ってわけだ」

「どういうわけだよ!?」

 

織斑春人がすごく騒がしい。この学校において会長と言えば誰のことかすぐに分かる筈なのに。

 

「分かりやすく言うと、生徒会長がタクを誘うの~。で、生徒会に入った人はそういう立候補するやつに出られないっていうデメリットがあるの~。」

「安心してくれ。売られたケンカは買わせてもらうからな」

 

そう言ってタクは席に座った。何か違和感を感じながらもしぶしぶ織斑春人も座った。そして出席簿を手で叩きながら織斑せんせーが言った。

 

「では一週間後。第二アリーナでクラス代表を決める試合をする。各自準備しておけ。あぁそうそうオルコット」

 

話がこれで終わると思ったら大間違い。最後の最後でラスボスが待っていた。まぁ自分の栄光を侮辱されたらキレるよね~。

 

「後で職員室に来い」

「わ、分かりましたわ・・・・・・・」

「では、授業を始める」

 

そうしてやっとのことで授業が始まったのであった~。まぁ、転生者の天才(笑)は後で消すかどうかを考えよーっと。それじゃあ皆様、おやすみなさ~い。すぴー。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「やっほー、天才さん」

「ん?」

 

お昼休み。私はさっきの問題を簡単に解いた女の子を問い詰めることにした。といっても、向こうも天才だから符丁だけで分かると思うけど。まぁ、敵だったらっていう不安もあることにはあるんだけどね。

 

「私であってる?鷹月さん」

「あってるよ~。お話ししたいんだけど、いいかな?」

「じゃあ、屋上で話す?」

 

まぁ、二人きりになれるのはいいんだけど、流石にそれは不味いかな・・・・・。殺されたくないし。そうだ、アグレッシブかつ隠密に行く方針で行こう~。

 

「時間は取らせないし、みんなで食べた方がいいんじゃない?」

『聞こえてたらの話なんだけどね』

 

見分けるのに便利だと思うから使うけど、やっぱりこの異能は普段から使ってると化け物になりやすくなっちゃうから使いたくないんだよね。裏工作するときにはやっぱり使っちゃうんだけど。

ちなみに対象のソフィーティアさんはというと、少し面食らった顔になったあと、一つため息を吐いた。

 

『・・・・・用件は何?IS学園支部臨時支部長さん?』

 

こちらを見るその眼はエメラルドグリーンから血のような紅に変わっていた。それに話し方も少しキツくなっていた。当たりは付けていたけれどもまさか役職名まで当ててくるなんて。やっぱり天才だなぁ。

 

『そうでございますよ、姫』

『・・・・・・それはやめて。敬語もやめて。っていうか一応それはコードネームだから。タクには隠してるし』

『おにいちゃん呼びじゃないんだね。さっきまで腹黒い妹を演じてたの?』

『・・・・・・どっちも素なんだけどね。フェンリルバイトみたいに仕事と通常を分けてるだけだから。で、ノイソラ?』

『そうだよ~。ノイブラで合ってる?』

『・・・資料にそう書いてたと思うけど。で、昼御飯食べに行かないの?タクの事だから買い方で困ってるとは思うけど』

『ルームメイトだから、後の事はそっちでお願い』

『ん、分かった』

「じゃあ鷹月さん。これからよろしくね?」

「静寐でいいよ。私もフェルって呼ばせてもらうけどね」

「あいさー。じゃあ、行こっか」

 

そうしてフェルを予定通りこちら側に引き入れて、IS学園の地盤を堅めることができた。まぁ後は、私たちを必要とする事件が起こらないのを祈るばかりだけど、ISを動かせる男子が三人も来ちゃったから他の事件が起こりそうかな。問題はあのリインカーネーションだね。能力持ってないけど、誰かと接触してαでも使われたら嫌だなぁ。それ以外の問題は、学食食べて腹ごしらえして、フェルと同じ寮の部屋の中で考えることにしますかね。

そう考えて、静寐はフェルと足並みを揃えて学食に急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

続く!




多分次回も同じぐらいかかるんじゃないかなー。と思ってますので、気長にお待ちいただけると幸いです。


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第二話

やーーーっと書き終わったイェーレミーです。あけおめことよろ!
長く待たせてすまない。これもゲームってやつのせいなんだ。
あと、頭の中でキャラが話したいことを話し出してそれを文章化するという作業のせいでプロットがほぼ役に立ちません!おのれディケイドォォォォ!

というわけで、第2話をどうぞ


時は巡って放課後。クラスメイトが寮に戻るなか、拓海はサクサクと帰る準備をしていた。政府からは「一週間は自宅からの通学となる」と言われているからだ。ちなみに春人は必読と書いてあったはずの教科書をタウ○ページと間違えて捨てたらしく、余っていたものをもらって勉強家の一夏に教えてもらっていた。ただ、飲み込みは早いらしく、山田先生曰く

「この調子で勉強していたら、一年でマスターするかもしれません」

とのこと。そして、嫌な顔をしつつも教えてもらっている春人は貧乏揺すりをしていた。まるで、何かを待っているかのように・・・・・・・

 

「皆さん!あぁよかった、まだ帰ってなかったんですね」

「山田先生、息急ききってどうしたんですか?」

 

と、そんなときだった。息があがった様子の山田先生がやってきた。長い距離を走ってきたのだろう、少し汗をかいていて膝に手を置き頭を下げていた。とりあえず落ち着くまで待ってみることにした。

 

「えっと、ですね。寮の鍵をお渡ししますね」

「・・・・・・ん?一週間は自宅からの通学って聞いたんですが・・・・・」

 

すると聞いていたこととは違うことを言われたので突っ込んでみた。すると

 

「それがですね」

「どうせ政府から特例って事で寮に入れろって言われたんじゃねーの?」

「春人くん、よく分かりましたね」

「いや、ただの予想。俺達はイレギュラーで、家に帰ろうもんなら誘拐されてモルモットだろうし、存在自体が貴重なサンプル。んなら、一応は世界各国の手が届かない場所に置いとこうって考えだろ」

 

春人に発言をカットされたが、つまりはそういうことらしい。とりあえずちらつかせるための素材は取れたことだし良しとしよう。まぁ、このあとの想像もついているのだが。

 

「いい推測だ。だがな」

 

自慢げにドヤ顔をして天狗になっている春人の背後に般若が現れた。迫力としては、ハッスルポーズをすれば金ぴかになって地面から大小様々な石が浮き上がってきそうな感じであった。そして

 

バシィッ!!

 

「目上のものには敬語を使え」

「い、いえす、まむ」

 

織斑先生の得意技、出席簿スマッシュが炸裂した。持ってみた感じ普通の出席簿だったのに、あの音とあの威力はどうすれば出せるのだろうか・・・・・?

 

「それでですね、これが寮の鍵なんですが一つ問題がありまして・・・・・・・・」

「どうしたんですか?」

 

一夏が訊ねると山田先生は大きな胸を揺らしながらその場で頭を下げた。綺麗な謝罪のポーズだった。

 

「ごめんなさい!皆さんを一人部屋にしようとしたのですが、部屋数が足りなくて一人しか確保出来ませんでした!」

「どの鍵が一人部屋ですか?」

「1026ですね。1025と1080が他の人のいる部屋です」

「じゃあ・・・・・」

 

と言いつつ同時に春人も動いた。彼が取ったのは1025、僕が取ったのは1080だ。このとき限りは以心伝心していたように思う。お互いの顔を見合わせてニヤリとしていた。

 

「だ、大丈夫なんですか?」

「僕は大丈夫ですよ。一応仲の良い友達もできたことですし」

「オレも大丈夫だ。兄さんには休むことを覚えた方がいいと思うしな」

「・・・・・・じゃあ、俺もその言葉に甘えさせてもらうことにするよ」

 

そう言って一夏は一人部屋の鍵を取った。ただ、急に決まったことらしいので、荷物とかは持ってこれてないらしい。まぁ、一応キャリーケースを転がしてきたし中に色々とプライベートな物は入れてはいるが・・・・・・・。ちなみに織斑兄弟は姉が勝手に部屋に入って必需品だけを取ってきたらしい。・・・・・・・どんまい。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

そしてその後寮の鍵をもらって織斑兄弟と別れ、学生課で預けていた荷物を受け取った。それはいいのだが。

 

「寮ってどこだよ・・・・・・」

 

拓海はIS学園の案内板とにらめっこをしていた。教室から出るときに山田先生から「道草しないでくださいね」と忠告され、寮の位置が分かっているらしい春人は小声で「一本道なんだから迷うはずないだろ・・・・」と困惑していたが、こちらからすれば案内板を見ずに目的地に着く方がおかしいと思ってしまう。なので案内板を睨んで一人で全部の校舎の位置を把握しようとしていた。その時だ。

 

「あれ、遠藤くん。どうしたの?」

「ん?」

 

さっきまで誰もいなかったはずなのに、いきなり声をかけられた。驚いてバッと振り向いてみると、少女が三人いた。二人はクラスメイト、一人はさっきの食堂で会った人だった。確か名前は・・・・・

 

「ハミルトンさんと夜竹さんと鏡さん・・・・だっけ?」

「あってるわ。よく覚えてたね」

「名前は覚えろって小さい頃から言われ続けた結果だよ。名前って重要だからさ」

「あー、それは分かるかも。言ってしまえば寿限無と同じでしょ?名前がなくなればその人を指し示すものがなくなるから、それすなわち存在が消えるのと同義だーってね」

 

うろ覚えだったが合っていたようだ。っていうか夜竹さんは寿限無なんてよく知ってるな。現代っ子にとってはあんまり知らないというより馴染みがないはずなのだが・・・・・

 

「あ、ちなみに私が寿限無を知ってるのは某まゆげが繋がってる国民的アニメの影響だね。あれのエンディングで初めて知って映像資料とかを調べた結果なんだよね」

 

少し思案してみると当の彼女がネタバラシをしてくれた。確かにそれだと理解はできるのだが、ただあのアニメのエンディングの時って相当古かったような気もしなくはない。まぁ、気にしないでおこう。

そしてただ一人無言を続けているのは鏡さんである。何故かこちらの顔をずっと見続けていて、一言も発しようとしないのだ。このままだと埒が空かないのでとりあえず何か話してみることにした。

 

「鏡さん?さっきからボーッとしてるけど、どうしたんだ?」

「ん?あ、あっ、ごめんっ。ちょっと思考が停止してたみたい。ごめんね」

「いやいや、謝らなくて良いから。ちょっと気が動転してるっぽいからまずは気持ちを落ち着けようか」

「じゃあヒッヒッフーで呼吸してー?」

「夜竹さん。ラマーズ法やめい。それは妊婦さんに対しての呼吸法やったはずや」

「だって弄り甲斐があるでしょ?あと、どうして大阪弁?」

 

指摘されて初めて気がついた。うわっ、僕のポーカーフェイスというかその他もろもろ素が出るの早すぎ・・・・。あと、夜竹さんはわざとやったのか?

 

「ん?あー、悪い。つい癖が出た。家とかリラックスしてるときとか突っ込もうとするとたまに出るんだよ。一応出身は関西だから。ちなみに関西の友達からは東京っぽいって言われるんだよなぁ。多分アニメの影響だとは思うけど」

「別に良いんじゃない?北九州から来てる人も方言のまま言ってるし、無理矢理にでも標準語に直さなくても良いと思うよ?」

「あいよ。それやったら話しやすいアニメ語交じりの関西弁でいくわ。女言葉みたいとか言わんといてや?」

 

別に良いと言われたので大阪弁に変えてみたが、全員目を見張るだけでそれ以上の反応とかはなかった。どんだけ肝っ玉据わっとんねん。

 

「それはさすがに、言わないと思うなぁ」

「で、や。鏡さんはなぜにボーッとしてたん?」

「笑わないで聞いてよ?・・・・・・・・・その、懐かしいって、感じたから・・・・・」

 

理由を聞いて納得した。何故か拓海もそう思っていたのだから。

 

「それなら僕もや。昔に会ったことあるっけ?」

「ううん、これが初対面のはず」

「もしかしたら、前世で夫婦関係だったのかもしれないわね」

「あはは、それならそれで面白いよね。それで・・・・・ハミルトンさんは話し方とか無理してない?」

 

夜竹さんが今度は話をハミルトンさんに振った。当のハミルトンさんは少し目を見開いたあと自嘲するような笑みに変わった。

 

「よくわかったわね。でも、話し方を戻すのはもう少し仲良くなってからにしてくれないかしら?私、ちょっと疑り深くて、ね。それから、ティナでいいわよ」

「それならしゃーないな。誰もがちょっと喋ってもう友達って訳にも行かんしな。まぁ、ハミルトンさんが僕らと友達になったって思ったときに変えれば良いんやない?」

「そうだよー。最初から無理して変えるよりも、自分の意思で変えた方がどちらにとっても不満とかないでしょ?」

「それもそうね。ありがとう」

「どういたしましてー」

「それで、遠藤くんは何してたの?その重そうな荷物は一体?」

 

ハミルトンさんの表情が自然な笑みに戻ったところで、鏡さんが異次元に飛ばしていた本題を聞いてきた。まぁ、隠す必要すらないからすぐさま話したわけだが。

 

「ん?あぁ、一週間は自宅からの通学って聞いたんやけど予定が変更になったらしくてな。今日から寮生活になったんよ。ちなみにこの中に必要なもんが入ってるんよ。まぁ、大体は食材なんやけどね」

「それは・・・・・・・御愁傷様としか言いようが無いわね」

「やろ?で、案内されるまで覚えようとしてなかった弊害がここに来て現れたんよ。寮の場所分からん」

「じゃあ、私達が案内してあげよっか?」

 

すると鏡さんが渡りに舟な提案をしてくれた。その提案はまさに願ったり叶ったりな物だった。即時即決してしまったのは無理もないだろう。ちなみに夜竹さんとハミルトンさんは「流石ナギ!」と褒めて遣わせていた。ありがたき幸せ、とは言っていなかったが。

 

「任せても良いんか?一回行った場所なら覚えられるんだが、土地勘のない場所はどうしても方向音痴になってしまうんよー」

「確かにそれは分かるわ。地図見ないと私も土地を覚えられないのよ」

「ハミルトンさんもそうなのか」

「大まかに土地を覚えるときはそうよ。内部構造とか全部を把握するなら歩いて自分の目で確かめないといけないけれどもね」

 

話していると同類がいたのでホッとした。まぁ、僕の場合は2ヶ月位前までマッピングとかもしていたから余計に癖になっているのだろうが。それはともかく。

 

「ほんじゃまぁ、案内よろしくー」

「はーい、任されましたー。とは言っても、構造とか完全に把握してないから詳しくは自分の目でお願いね」

「大体で大丈夫やよー」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「アリーナに関しては多分授業で使っていくし、放課後で訓練するときにも予約が必要みたいだから省いて、ここが学食だよ。ご飯の注文の仕方は大丈夫?覚えたかしら?」

「ああ。ハミルトンさんが教えてくれたからな。あん時はほんまに助かった。ありがとうな」

 

心配そうに見つめてくるティナに対して拓海は頷いた。実は昼飯を買おうとしたとき、券売機の使い方が分からず途方に暮れたのだ。現金派でたまにプリペイドを使う程度の拓海にとって、入金口のない券売機はどうあがいても絶望でしかないのだ。そんなとき助けてくれたのがティナだった。彼女は分かりやすく説明してくれ、また実演も行ってくれたため事なきを得たのだ。

ちなみに、アリーナとかを少し見て回ったときに偶然静寐と会い、そのまま一緒に歩いている。

 

「どういたしまして。学生証がクレジットカード代わりになるっていう説明は入学式に言ってたけど、遠藤くんは入学式に居なかったのよね?」

「せや。なんでも僕が居る事によって入学式が進まなくなるっていう混乱を避けたかったらしいな。ただ、それやったらそれでここに案内してきた織斑先生とかが説明してくれ、とは思ったな」

「あはは・・・・・・、織斑先生はISの知識よりかは技能面の教師らしいからね。ほら、山田先生は知識面では良いけどあのテンパりを実技にされたら、ね?」

 

ここで入学式の話から静寐が話題にした山田先生に関するエピソードに移っていった。

 

「あー、確かに。それはそれで困ったことになってまうよなぁ」

「でも、山田先生も優秀みたいだよ?元日本代表候補だし」

「確かキリングシールドやったっけ。少し前に代表候補生時代の動き見たけど、あれはヤバイ。ロケランの発射寸前にライフルで弾頭を狙撃して爆発させるとか、グレネードを投げられたときに爆発させずに相手の方に撃ち返すとか、精確な射撃に定評ありすぎなんよ」

「静寐も遠藤くんもよく知ってるよね。私なんか、山田先生が元日本代表候補生だってこと初めて知ったよ?」

「一応アメリカだと有名だったから私は知ってるわ。織斑先生の再来かって言われたほどだし」

「ほぇー。そうだったんだねー」

「まぁ、その辺りの話は本人に聞いた方が良いんじゃないかしら?私達があーだこーだ言っても仕方ないでしょう?」

 

と、歩きながら話し合っていたところでようやく寮の前に着いた。楽しくわいわい話をしながら歩いていると、やはり時間の経ち方が早くて仕方がない。ただ時間が来てしまった以上、お礼を言って部屋に行くべきだろう。そう考えて拓海は彼女達に向き直り頭を下げようとしたのだが。

 

「そういえば遠藤君って部屋は何号室なのかしら?」

 

出鼻をくじくような一撃をティナからくらった。タイミングが悪いとは思いつつも表情には出さず、下げかけた頭を元に戻して答えた。

 

「1080やで。玄関から凄く遠そうやなこれ」

「うぇっ!?」

 

聞いた本人が驚くようなカウンターを繰り出してしまったようだ。ただ、原因が分からないので聞いてみた。

 

「そんなに驚いてどしたん?」

「私とティナと、それからソフィーティアさんが1081号室なの」

 

すると静寐がそう言い、

 

「1079号室は私とアストラルさんとで三人部屋なの」

 

それに合わせてさゆかも答えた。そして何故驚いたかの理由についても察してしまった。つまり、彼女達は僕の部屋のお隣さんということなのである。それは確かに驚くだろう。何故なら世界に3例しかない男性操縦者のうちの一人が寮の隣部屋に住んでいるのだから。

 

「って、夜竹さん。アストラルさんは同じクラスのあの人やろ?あと一人は誰なんや?」

「それが・・・・・・私にも分からないの。三人部屋で、アストラルさんは分かってるんだけど・・・・・」

 

するとその言葉に反応したのか、ナギがポケットの中に入れていたらしい寮の鍵を取りだし何かを見ている。そして意味ありげに顔をゆっくりと上げてこちらを向いた。

 

「三人目は私だね。ほら」

 

と、提示された鍵には1079と書かれており、まさかのここにいる全員がご近所さんと化したのだった。ちょっと笑ってしまったが。

 

「じゃあ、部屋の前まで一緒にいく?」

 

というわけで、ナギからそんな提案がされたが了承したのは仕方のないことだろう。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

そのまま少女四人と部屋の前まで来た拓海だったのだが、ふとこのタイミングで気になったことがあった。それは

 

「相部屋の人って誰なんやろか」

「あー」

 

相部屋が女性なのは分かっているのだが、隣部屋の人が誰かも分かったのだが、肝心の相部屋が誰になるのかはまだ判明していなかったのだ。そしてこんなときに限って賑やかしが来ていた。というか、我が妹だった。

 

「やっほー、お義兄(にい)ちゃーん。そんなに緊張しても何も起こらないよ?」

「あのなぁ。相部屋の人ってことはつまり女尊男卑系女子かもしれんやろ?それに引っ越しが何時になるかは分からんからそれまでずっと一緒に暮らすことになるやろ?そんなこと考えてたら胃に穴が空くぐらいストレスがマッハで溜まるんよ?」

「確かにそれはそうかもしれないけど、でもこれってシュレディンガーの猫でしょ?っていうか女尊男卑系女子って?」

「鷹月さん・・・・・・。シュレディンガーなのは納得できるけどさぁ・・・・・・」

「皆してどうしたの~?部屋に入らないの~?」

「あぁ、本音か。いやさ、相部屋の人が誰かも分からんから不安で胃がキリキリ痛み出してんのよ」

「あー。タクって~、結構人見知りな上に~、心配性だもんね~」

「あれ?布仏さん。あなた、今・・・・」

 

いつの間にか本音と静寐も混じって会話していた。ただ、さゆかは本音の登場の仕方が気になるようで、疑問を呈していた。拓海は見ていなかったので分からなかったのだが。

 

「ん?夜竹さん、どしたん?」

「気のせい、だよね?1080号室から布仏さんが出てきたのは」

「気のせいでも偶然でもないよー。私は~、1080の住人だから~」

「は!?」

 

拓海は驚いてしまった。つまり、本音が相部屋の人ってことである。まず始めに考えたのは「女尊男卑系女子やなくてよかった」であった。ただ、色んな思考回路が色々考えて出した結論が、

 

「ふにー」

 

思考回路の暴走(オーバーロード)による思考停止(ショート)だった。つまり、意識を失って(目の前が真っ暗になって)倒れこんだのだった。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「ん・・・・・・?」

「気分はど~?」

 

目を覚ました拓海が最初に見たのは、本音が心配そうな病状をして覗きこんでいる顔であった。夢かもしれないので、とりあえずその柔らかそうな頬をつまんで引っ張ってみた。

 

「ふにー」

 

すると力が抜けるような擬音が聞こえた。自分の硬い頬をつねり、ゆっくりと本音にぶつからないように起き上がった。すると、目の前に広がる光景に腰を抜かしそうになった。何故なら自分が持ってきたキャリーケースを何者かの手によって勝手に開けられており、中の物が散らばっていたからである。

 

「待てぇい!お前ら何やっとんの!?」

「あ、遠藤くん起きたんだ」

「鷹月さん!?起きたんだ、じゃねぇよ!?何勝手に他人の物漁っとんの!?」

「いや、ピッキングしたのは私だよ?お義兄ちゃん。どうせキャリーケースの中にナマモノ入ってるだろうから救出してただけだよ?」

 

鍵を閉めていたはずなのに、と思えば思考を読んだようにすぐさまフェルに返された。完全に思考を読まれていた。一応フェルの犯行だということは特定できたが、内容が内容であるからお咎め無しという判決に至った。

 

「・・・・・悪い。そういうことなら仕方ないよな。箱に手ェつけてなければ、の話やけど」

「さすがにあれはロッカーの上段に入れたよ。流石に前にこっぴどく叱られたから学習してるよ」

「んならいいんやけど。あとサンキュ。助かったわ」

「どうせ今日はせめて同室の人にご飯作るつもりだったんでしょ?」

 

フェルが嘆息しながら話していた。ただ、実はというとそうではないのが理由である。とりあえず伸びをしつつ立ち上がりながら言っておいた。

 

「いや、最初は近くのホテルから通うって話やったからな。んで飯は用意しないって話してたから、自分で用意するしかなくてな。それが一週間分だったからそんなに入ってるだけやで」

「あー。監視の都合上、お義兄ちゃんがホテルに入ってもホテルの方で毒とか入れられるかもしれない危険性を考慮して、お義兄ちゃんも交渉した結果ご飯は自分でって約束してたよね~」

「説明乙。それのせいで食材が多かったのよさ。一週間分やったし」

「さっきも言ったけど、本当にご愁傷さまね」

 

そう言って頭を撫でようとするティナである。背伸びをして腕を目一杯伸ばしているのだが、届かない。ついにはその場で跳びはね始めた。

 

「何やってるん?」

「遠藤くん、その身長高過ぎない?」

「自覚はあるんやけど伸びてもうたんやからしゃーないやん。縮めることもできひんねんし」

 

さゆかからの質問を受け流し、ティナの跳ねる頭の上に手を置いてみた。すると一回ビクッとなったが跳ね回ることはしなくなった。とりあえず仮の手段ではあるが、当面の間は他の人が暴れたときにはこうやって止めるようにしようかと心に決めた拓海であった。

 

 

 

ティナの思考回路はオーバーフロー寸前だった。上からの指示でマークするのは三番目で彼にまつわる情報は聞いていたが、まさか結構な天然なためこちらの感情や記憶にダイレクトアタックを仕掛けてくるとは予想できていなかった。込み上げてくる感情を何とか整理しつつ、ジト目で拓海を見た。

 

「遠藤くん、いつまで手を乗せておくつもりなの?」

「あ、悪い。こうしてたら落ち着いてたからそのまま乗っけてたわ」

 

そうして離れていく彼の手。少し名残惜しいと思った自分に驚きつつ、ため息をついた。思考回路も落ち着いてきたところで、彼のキャリーバッグの異物について聞いてみることにした。

 

「そういえばソフィーティアさんが無言でロッカーに小さな箱を入れていたけど、あれには何が入っているの?」

「それは絶対に教えられへんよ。あの箱に名前をつけるならば『思い出箱』やと思うんやけど」

「確かにそれは見せられないわね。ごめんなさいね」

「かまへんよ。あれ見て不思議に思わん人の方が多そうやし」

 

一応中を見ることはダメだったが、その箱の情報を得られただけ充分聞いた価値があっただろう。後で協力する予定の人達に聞いてみることを決めたティナであった。

そしてその直後だった。鍵をかけていたはずのドアから解錠音が聞こえた。全員がドアの方を向き警戒した。本音だけはドアに近付いた。そして誰かによって開けられるドア。そこにいたのは。

 

「・・・・・・あれ?部屋を間違えた?」

「合ってるよ~、かんちゃん~」

 

そこに立っていたのは、水色の髪をセミロングにしてアンダーフレームの眼鏡をかけた赤目の少女だった。その少女を見た瞬間、一瞬だけ拓海が狼狽したのがティナには分かった。ただ、感情的には狼狽というよりも歓喜と興奮だろうか。そして彼女の事は向こうのブリーフィングで資料を見たから覚えている。

 

「ここに集まっている人達は?」

「1組のクラスメートの人がほとんどだよ~。たまに違うけど~」

 

そう言って私にチラッと目配せする本音。糸目が薄く開いてこっちを見る彼女の表情に、背中に氷柱を差し込まれた感覚がしたが、細かく殺気を混ぜて睨み返したら満足そうに口許を緩ませた。・・・・・・・本音って何者なんだろ。

 

「・・・・・・拓海?」

「まさか、簪か?」

 

そしてそこが繋がるのか、とティナは考えた。・・・・・・思わせ振りな感じだったから親友若しくは幼馴染みの可能性を浮かべて正解だったかな。

 

「久し振り、拓海。あれから成長・・・・・し過ぎじゃない?」

「失敬な。僕かてこんなに伸びたいと思って伸びてる訳や無いんやからな?」

「あと、筋肉とか大丈夫?二年ぐらい寝たきりだったでしょ?」

「まぁな。ただAH総合病院のリハビリ担当の人が優秀やったし、結構家でもリハビリは続けてたから軽く運動するぐらいなら大丈夫やで。ただ知識面は今一つやから新しい常識とかあったら教えてくれー」

「もしかして、幼馴染み?」

 

と、ここで痺れを切らしたのかさゆかが訊ねた。心の中でナイスと言っておきながら、二人の発言にこの場にいる全員が集中していた。

 

「簪とは、っていうか簪の家と本音の家とは小学校の頃隣同士でな。中学校入る前に引っ越したんやけど、そこまでは仲良くさせてもらってたんよ~」

「・・・・・・一応文通はしてたから久し振りっていう感覚じゃないけど」

「まぁまぁ~、会うのは久し振りだからね~」

 

その発言で全員が納得した。まぁ納得したフリをして、ティナは心の中で更識とはまだコネクションが無いため個人的に接触しておいて協力関係を結んでおこうと思っていた。

 

「で、簪はどうして帰るの遅くなったん?本音みたいに部屋に居るもんやと思ってたんやけど」

「そ、それは・・・・・・」

「かんちゃんはね~、専用機を一人で作っているのだ~」

「ち、ちょっと本音!?」

 

更識簪というこの人は専用機を作っているということが従者によって明かされた。彼女の名前は日本代表候補生の場所で見たので、専用機がどこで開発されているのかも公開されている。日本の場合は代表・代表候補生共に倉持技研である。その中の代表候補生の序列2位が彼女だ。

ちなみに序列1位は永久欠番となっている。そこには1組の副担任である山田麻耶女史が入っているからである。

 

閑話休題

 

そして専用機を持つような優秀な代表候補生が専用機をもらえないという事態になるというのは非常に珍しい。というのも、犯罪などを行う・不祥事が発覚した(本人が巻き込んだ場合に限る)といった事が発生すると即刻除名や処分が下されるが、彼女はオタクであるということ以外キッチリした少女である。そんな彼女がもらえないということは、他の要因があったとしか考えられない。

 

「もしかして、遠藤くん以外の男性操縦者のせいかしら?」

「・・・・・・・・どうして分かったの?」

「代表候補生の規約とか思い出しても貴女に下される処分が分からなかったからね。それなら規約以外の要因しか考えられなかったから。あ、自己紹介が遅れたわ。私、アメリカの代表候補生をしているティナ・S・ハミルトンよ。気軽にティナでいいわ。よろしくね」

「・・・・・よろしく。私も簪でいい」

 

更識簪との顔合わせは上手くいったところで、頭の上にクエスチョンマークを浮かべている他の人達に説明をすることにした。

 

「まず、IS委員会の取り決めで世界各国は国家代表と序列2位までの代表候補生には専用機が与えられることになっているの。といってもそのほとんどが先進国に当てはまるのと、発展途上国には国家代表というより、複数の国を一纏めにして代表を立てているわ。そしてその後に残りのISコアが分配されたわ。ちなみに日本は分配されたISコアの数が多いわ」

「それは家の会社が賛成したからやろ?」

「ええ。次に専用機が与えられることになる国家代表と代表候補生にほぼ例外はないわ。犯罪歴が有ったとしても国家代表になれば与えられるわ。例外として、与えられた後に犯罪を行った場合にはその立場が剥奪されるために専用機を返却しなければならないという義務が発生するけれども、簪はそうじゃないのよね?」

「・・・・・・うん。そもそも罪を犯したら家から追い出されるし」

「そうよね。それであれば国の規約以外での要因があったことになるわ。そして今年はイレギュラーな事があった」

「おりむーやはるるんやタクの事だね~」

「そうよ。遠藤くんは家の事情も考えると『ヴァーミリオン・ヴィクトアール』が専用機を開発すると思うし、他の二人はそれ以外の日本の企業、まぁ倉持技研が開発すると思うわ。そして日本代表候補生序列2位である簪の専用機は倉持技研が開発するはずだったのよね?」

「・・・・・・・・」

 

無言で首肯する簪。話しすぎで喉が乾いたので専用機からコーラ瓶を取り出して栓を抜き、ちょっと喉を潤した。

 

「ちょっとごめんね。・・・・それで織斑兄弟の専用機開発に人員を割かれた結果、簪の専用機開発が凍結して、それを引き取って自分で開発していると考えたのだけれど、あってるかしら?」

「・・・・・・・ティナは名探偵か何かなの?ほぼ全部あってて怖いよ」

 

すると理解したであろう他の人達が口々に意見を言い始めた。

 

「流石に倉持技研は酷すぎない?」

「技術者としてどうなんだろ?」

「やっぱり倉持が問題を起こしたんだね」

「倉持技研は尻軽だね~。人として大丈夫かな~?」

「一応企業代表だけど、これは流石に・・・・・」

「これはひでぇな・・・・・・」

 

そんな中、ティナにとっては気になる発言が二つほどあった。一応どちらも知識としてはあるが、形式上聞くことにした。

 

「ソフィーティアさんは、ヴァーミリオンの企業代表なのかしら?」

「あー、言ってなかったね。隠すようなことでもないから言っちゃうけど、ヴァーミリオン・ヴィクトアールの企業代表やってるよ~。まぁ、機体は魔改造されてるから原形ほとんど無いんだけどね。それはともかく、鷹月さんも気になる発言だね。やっぱりってどういうことかな?それ、問題が起きること前提でしょ?」

 

そしてその火種は静寐に移った。当の静寐は苦虫を潰したような笑みを浮かべ、一つため息をついてからゆっくりと話し始めた。

 

「私の家が特殊なところで、お父さん経由でそういう情報が入ってくるの。日本の暗部から集めてもらってるらしいんだけどね」

 

ここで表情が硬くなったのは簪と本音だった。そしてその二人に目を合わせて静寐は続けた。

 

「その暗部は更識っていう苗字のところだけど、簪のところだったりする?」

「もしそうだとしたら、どうするのかな~?」

「・・・・・・更識の苗字は珍しいけど他にも存在してるよ?」

 

完全に地雷を踏みに行っていた。もちろん対価を払っていない静寐に渡す情報は無いと言いたいのか、簪ははぐらかし、本音は口調こそ変わらないが視線には殺気を込めていた。拓海はお腹に手を当てているのでストレスにより胃がキリキリ痛んでいるのだろう。流石にそれは不味いと思ったのか、フェルが助け船を出した。

 

「静寐は、まず包み隠さず自己紹介をすればいいと思うよ?そのお父さんの事も含めて」

「うーん、その方がいいよね。あ、先に言っておくけど、今から言うことはここだけの秘密にしておいてね?」

「そんなの~、内容によるかな~」

 

完全に目が笑っていない本音も含めて頷いたのを確認した。なので静寐は声を大にして自己紹介した。

 

「私の名前は鷹月静寐です。よろしくお願いします」

「いや、そのお父さんの名前は?」

「私のお父さん?鷹月宗一郎って言うんだけど・・・・知ってる?」

 

特大の爆弾を添えて。

 




あ、次とその次も伏線回です(予告)


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第三話

こんにちはー。イェーレミーですー。待ってましたか~?
今回は比較的早く(当社比)出せました~。気持ち的にはもうちょっと早く出したいんですが~、文字数+加筆修正のおかげで時間がかかって申し訳ないです~

それではどうぞ~


『えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?』

 

爆弾投下からきっかり一分後。それまで唖然としていた皆は一斉に驚愕を声にした。もちろん、棒読みで言っていた人達も何人かは居たけれど、ほとんどの人は純粋に驚いていた。

 

「同姓同名の人違いってのはやめてくれよ?」

「あー、確かに。その可能性もあるよね。じゃあこうすればいいんじゃないかな?」

 

そう言いつつポケットの中から愛用のテレビ電話用の機械を取りだし軽く目の高さに放った。軽く投げられたことで電源がオンになった機械は小型UAVと同じくホバリングし、指の動きを機械に見せつけるようにして電話アプリを起動。慣れた手つきでお気に入りフォルダからパパを選択しホログラム電話に変更しつつかけた。ホログラムに変更したことで機械の中の部品が稼働し、よくみる待機中の画面が現れた。そして辛抱強く黒電話時代からある待機音を数回待つと、画面上に出るのは自宅でよく見る顔だった。

 

「パパ」

『おお、どうしたんだ?静寐』

 

そこには現在内閣総理大臣であり、私のパパの鷹月宗一郎がいた。画面自体は鏡写しのように裏にも映っている。実のところは非透過設定を面倒くさがって行っていないから映っているのだが、反転しているとはいえ裏からその顔を見ている皆の表情は驚愕に彩られていた。

 

「あー、パパとの繋がり、ばらしちゃった」

『静寐がいいと思ったのだろう?それならば構わんよ。強要されたのならありとあらゆる事を使って』

「大丈夫。自分から言ったし強要されてないから。怖いこと言わないでよ」

『ははは。可愛い我が子が離れたところにいるのだから、心配するのは当然だろう?話は少し変わるがばらした相手はそこに居るのか?』

「あー、挨拶する?」

 

手の動きを読み取らせてホログラムを反転。カメラは内蔵させてるから全員分の顔は見えている・・・はず。

 

『おや、これはこれは。何人かは見知った顔があるな。姿勢を正さなくても大丈夫だ。楽にしてくれ』

「い、いえ!大丈夫です!目上の人に対しての礼儀は必要なので!」

「じゃあ楽にする~」

 

ここで反応が二分した。というより例外が一人。ナギのようにカチコチに過剰になる人は他に居なかったが殆どは姿勢を正していた。本音だけはソフトクリームの先が融けるように寝転んだ。流石に苦笑せざるを得なかった。

 

『本音君は相変わらずのマイペースだな。簪君は・・・・・・もっと思考を柔軟にな。その様子だと仲直りまでまだかかりそうかな?』

「姉さんのことはやめてください」

『おっと。失礼失礼。この頃は親切心の方が先に出てしまうのが癖になってしまうのでな。それから、拓海君は会見の時以来だったかな?』

「鷹月首相が鷹月さんのお父上だったとは。娘さんが居たことも含めて知りませんでした」

『話していないからな。他の人は・・・・・・まぁ挨拶が先だな。初めまして、この日本の内閣総理大臣である鷹月宗一郎だ。娘の静寐共々よろしく頼む』

「いえ!滅相もないです!こちらの方がよろしくお願いいたします!」

『過剰に反応しなくても構わんよ。というよりも君達と話すときは首相という肩書きは無視してもらって構わない。静寐の父親としてここにいるのだから』

 

ナギを宥めつつ朗らかに笑い、内閣総理大臣と同一人物とは思えないような顔になった。

 

「あー、パパ?執務室に居るってことは合間縫ってるんじゃないの?」

『ああ。今少し時間が取れたからな。というよりも静寐が時間を取らせた、の間違いだろう?もうすぐ会見の時間なのですまないが切らせてもらうよ。全く・・・・・、昔に比べて今の方がマスコミの質は上がってはきているが、ゴシップ紙だから問題ないという精神は如何なものかと思う』

「パパ?政治関連の愚痴をこっちに言わないでよ。それは愚痴るよりも本人に言った方が分かってくれるよ?」

『そうだろうな。では、短い時間ではあったがこれで失礼する。今度はお互いプライベートで会うことを期待しているよ』

 

そう言って、短時間だったが通話が終了した。ホログラムを展開していた機械を手のひらに戻し、忘れないようにポケットに入れた。終わってからも少し魂が抜けているのかと心配する程度には皆がぼーっとしていた。

 

「おーい。皆、大丈夫ー?」

「あ、あぁ。大丈夫だ。多分問題ない」

「いや~、びっくりしたね~。まさか本当にそうだとは思ってもみなかったよ~」

 

既に事実を知っていたであろう本音は何時も通りののんびりしていた。ただ拓海も含めて衝撃の事実から完全復活とはいかないようだ。

 

「これでQEDにはなったかな?」

「確かに~。たっちゃんのお得意先だね~」

「・・・・うん。ここまでされると認めざるを得ないね。さっきの静寐の話で出てきた更識は私の家。これは秘密にしておいてほしいんだけど。一応政府直属だから・・・・」

「秘密が多いけど~、何としてでも守ってね~」

「流石に約束を破ったら、その後の方が怖いよ・・・・・」

 

さゆかがおどけてみせた。ただ、この二つの秘密を公開された場合は足がつかないように処理するつもりだけれどもそれはさておき。

 

「それで、楯無さんとは仲が悪いの?もしかして襲名式の日に何か言われたり?」

「っ!」

「あ、おい!簪!」

 

興味本意で爆弾を投げてみると、回避するかの如く簪はダッシュして逃げた。拓海の制止に対して聞く耳持たずと言った風に。完全に地雷原に爆弾を投げ込んだようだ。

 

「流石に今のは遠慮がないというか~、容赦がないというか~」

「完全にやっちゃったみたいね。推理とあってるなら、ちょっと私が行ってくるわ。あと静寐は正座ね。五体倒置でも良いんじゃないかしら?」

「はーい・・・・・・・」

 

本音からは白い目で見られ、ティナは冷ややかな目で見られながら部屋を出ていった。走る音が聞こえないところから察するに、何処に行ったのか分かっているようだったが、そんなことを考えていてもこの気まずい空気が流れるはずもなく。

 

「・・・・・・・ごめん」

 

一言謝ることしかできなかった。せめて、アメリカからの援軍である彼女が二人のことを取り持ってくれることを信じて。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ティナは迷わずIS学園校舎の中にある格納庫に向かった。一応表向きの上司からは、

「日本代表候補生の更識簪は倉持から専用機開発を凍結され織斑兄弟の専用機開発が優先されることになっている。そのため更識簪は彼女の専用機として与えられるはずだった打鉄弐式のISコアを受領し、IS学園格納庫第二整備室にて開発に勤しんでいる」

という情報をもらっているからこそではあるのだが、流石にさっきからこちらを見てくる目線がいい加減鬱陶しくなってきた。・・・・・・・・・・それは後で利用させてもらうことにして。

プシュッ

と圧縮空気の音で扉がスライドし、中には必死になって打鉄弐式と向かい合って吐き出すエラーを修復しようとしている簪の姿があった。

 

「やっほ」

「・・・・・何?どうしてここが?」

 

思いっきり警戒していた。確かにそれはそうだろう。ほぼ誰にも知られていないはずの場所に突然さっき会ったばかりの人が居れば、誰だって警戒する。

 

「私の所属してるところが特殊でね。ある程度は情報もらってるから想像するのも簡単だったのよ。隣に座ってもいいかしら?」

「・・・・・別に」

 

一応許可は取れたので簪の隣に座り、基本動作のシステムプログラムを組み上げているモニターを睨んで修正している彼女を見ていると、口をついて出てしまった。

 

「すごいわね、簪は」

「・・・・・お世辞のつもり?でも姉さんは」

「そのお姉さんを既に越えてるよ?」

「??」

 

こちらの話が分からなかったのか、一旦手を止めこちらを向いてきた。とりあえずは第一段階はクリアかな?

 

「モスクワの深い霧って知ってるかしら?」

「姉さんの霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)の前の名前・・・・?」

「そう。簪のお姉さんが機体を受領した時の名前よ。あの機体が受領されたとき、完成度は6~7割だったわ。そこから楯無さんは虚さんや開発陣のスタッフなどと一緒に今の専用機を作っていったのよ?」

「え・・・・・」

 

簪は呆然とした。自分の事に必死になっていた反面、他の人の事が疎かになっていたのだろう。そしてそれは重大な勘違いを引き起こすことにもなってしまう。

 

「だから、簪のやっている一からISを作ることは楯無さんよりも凄いことなのよ?」

「で、でも・・・・・・」

 

しかし長い間勘違いし続けた結果、簪は自分を卑下するようになっていたらしい。ティナは一つため息をついた。

 

「はぁ・・・・・、仕方ないですね」

「えっ?」

 

ティナは簪を抱き寄せると、空いている右手に懐からグロック17を取り出した。簪はものすごく驚いた。

 

「簪が自分で自分のことを誉めてあげないのなら、別のアプローチをするまでです」

「ティ、ティナ!?それって実銃じゃ!?」

「そこにいる人、撃たれたくないのならば出てきてくれませんか?」

 

簪の叫びを一先ず無視して、ティナは格納庫の物置から感じた視線に対して声をかけた。しかし呼び掛けには応じない。そういうときは。

 

「こういうときは実力行使と決まっています」

 

そして三発射撃。全弾当たった感覚があった。しかし、いきなり撃ったためか簪から怒号が飛んだ。

 

「ティナ!?実銃を発砲するなんて、それ以前に実銃を携行しているなんて、どうかしてるよ!?」

「勘違いが二つほどあります。まず一つ目ですが、確かにこれは実銃です。しかし、私は特例で銃の携行が認められているのですよ。なんでしたら学校側に問い合わせても構いませんよ?」

「で、でもだからって、誰か分からない人をいきなり殺してしまうなんて・・・・・・・」

「勘違い二つ目ですね。確かに私は発砲しました。しかし、この銃を携行するときに入れる弾は暴徒鎮圧用のゴム弾ですよ?」

 

そう言ってマガジンを抜き、簪に確認させた。この銃に入れているのはゴム弾であり、特徴的なピンク色の銃弾を見て簪はまだ諦めなかった。

 

「そ、それでも、誰か分からない人を攻撃するなんて・・・・」

「まず私は発砲前に通知しました。そして相手方が何も反応を起こさなかったので撃ちました。それに、私がここに入った時点で彼女も入っていましたよ?」

「え?」

「そうでしょう?簪の実姉でIS学園生徒会長の更識楯無さん?」

「跳弾で当ててくるなんて思っても見なかったわよ・・・・・・」

 

物陰から現れたのは、簪と容姿が似ていて、しかし微妙に違う簪の姉、更識楯無その人だった。一発は予想通り額に当たっていたようで、手でさすっていた。ティナは問いかける。

 

「どうして簪を抱いたときに殺気をぶつけてきたのですか?私に突っかかって間に入れば全て解決したのではないでしょうか?」

「そ、それは、その・・・・・・・・」

 

しかし楯無は口ごもった。つまり、そういうことなのだろう。

 

「もしかしてですが、楯無さんは妹の事となると途端にポンコツになるのでしょうか?楯無さんになる前、刀奈さんの時に言った、襲名式で簪に言った言葉を取り消したくて、でも楯無となってしまったために取り消そうにも取り消せなくなってしまって、うやむやになったのだと推理しますがどうなのでしょう?」

「あ、あなたねぇ・・・・・・!!私もあんなことを理由もなしに言ってしまって、その後にどう言い訳をしようか悩んだわよ!でも簪ちゃんは思いっきり心に深い傷を負ってしまったし、私も私で言い訳というか真実を話そうかどうかで悩み続けたわよ!」

「で、その結果、ずるずると時間だけが過ぎていった。というわけですね?」

「うぐっ・・・・・・」

 

ぐうの音も出ないようだった。ジト目で実の姉を見ていた簪だったが、突如あることに気付いてティナを問い質した。

 

「・・・・・・ねぇ、ティナ?話し方がですます口調になっているのはどうして?さっきまで、語尾がわよ、みたいな話し方だったよね?」

「私も聞きたいことがあるわ。どうして私の真名を知っているのかしら?襲名式に簪ちゃんに話した事も筒抜けになっているようだけど、誰からそれを聞いたのかしら?もしふざけた返答をするようなら・・・・・」

「大丈夫ですよ。一つずつお話ししますね。まず簪の言う私の話し方の変化ですが、これが私の本来の話し方だからですよ。録画もされてないようですしこちらの方が話しやすいので戻しているだけです。皆さんと一緒に居るときは先程までの話し方にしますが、お二人のみの場合はこの話し方にさせていただきますね。

 次に刀奈さんの事ですが、私が加入している組織と手を組みたいと思っていまして。それにさしあたって更識のありとあらゆることを調べたまでですよ。そのお陰で会話に困らない程度にはネタを発掘することができましたしね」

 

ティナは自分のことを一つずつ紹介していった。もちろん、隠すべきところは隠して、与えても良い情報は嘘も隠し事も無しで話した。しかしこれだけで追及が終わるとは思っておらず、実際終わらなかった。

 

「貴女の組織ってもしかして、亡国企業みたくテロリストなのかしら?そしてその組織と更識で手を結びたい・・・・?」

「ああ、その事ですか。私が所属している組織とはここの事ですよ」

 

そう言ってティナは制服の裏の胸ポケットから金色に光るバッジを取りだし、刀奈に渡した。それを凝視し、そこに書かれていることを見て二人は驚く事となった。何せそこには「Federal Bureau of Investigation」と書かれており、その下には「DEPARTMENT OF JUSTICE」とあった。それが書かれたバッジとは、パチモノを含めてもあの組織しかないからだ。

 

「え、FBI・・・・・!?」

「ええ。そこの特殊感染症対策課に所属しています」

「なるほどね。FBIとしては更識の情報収集能力を取っておきたい。その代わりにFBIと私達が共同捜査という形でアメリカでの捜索に乗り出せるように手配してくれるのね。しかも、相互監視によって安全性は守られる、と。ちなみにFBIの方は何処まで使えるのかしら?」

「特別協力者として扱うと思うので、FBIで使っているものは全て使えると考えても大丈夫ですよ。なんでしたら今から向こうに連絡してこちらの仕様の現場指揮車を更識に運び込みましょうか?」

「それは・・・・・・・悪くない提案ね。でもお金とか大丈夫かしら?要らぬ心配だとは思うけど、それで運び込んだ場合はもしかしなくてもそっちの負担になるわよね?」

「大丈夫ですよ。その程度であれば無駄遣いにはなりませんし、何より協力者としての関係が結べるのなら出し惜しみはしませんよ」

「こういうことも考えられるわよ?FBIと手を組んだあと、一方的に手を切って、FBIから貰ったものを使ってFBIに攻めいる。そういうリスクの事は考えてないのかしら?」

「お気遣いなく。一方的に手を切ったということはこちらの信用をなくした、もしくはそれによって起こり得る敵対行為に対しても考えていますし、攻撃された場合の対策に関してもありますので安心してもらっても構いませんよ」

 

この辺りの交渉術というのは長年生きてきた経験が活きてくるのと、自分が出ていた小説の立ち回りを参考にすることができるので、ながーく生きてきて良かったと思える瞬間であった。とりあえずバッジは大切なものなので返してもらい、ポケットに仕舞った。銃ももう要らないので左肩に吊ってある隠しホルスターに仕舞う振りをして空気に変えた。もちろんホルスターの中にはダミーとしてガスガンのグロックを入れてある。

 

「そのぐらいで大丈夫でしょうか?」

「えぇ。一応仮契約としてここで結んでしまうわね。一度本家に相談して決めないといけないけれど、私と虚ちゃんに関しては全面協力させてもらうわ」

「ありがとうございます。上司にも良い報告ができそうですよ」

 

お礼を言い、刀奈さんとがっちり握手をした。すべすべだった。

 

「とりあえず簪は、刀奈さんと話をすれば良いと思います。日本人は誰しもココロに秘めた想いというものを無言で察しようとする文化があります。しかし、それで推し量る事は出来るけれど真に伝えたいことは大体の場合伝わらないものです。なので、刀奈さんに思いの丈を全てぶつけましょう?大丈夫です。私は簪の側に居ますから」

 

そう言いつつ簪の肩を抱き力を少しだけ強める。簪は一度首を振ると、刀奈さんと面と向き合った。そしてポツリポツリと話始めた。

 

「お姉ちゃん、私が心に傷を負ったのはどうしてなのか、分かる?」

「それはもちろんよ。あの日、あのとき。私が簪ちゃんに向かって暴言を吐いたからよ」

「うん。それはそうなんだけど、私がお姉ちゃんを遠ざけたのは、あの言葉の裏の意味を受け取ったからなの。あの言葉には、私を暗部から遠ざける意味があったんだよね?」

「・・・・・・えぇ、そうよ。簪ちゃんだけは、この身に代えても、あんな地獄を見せたくは無かったから。簪ちゃんには、ありのままで生きてほしかったから」

「うん。それも分かってる。ただ、あの時私はこう受け取ったの。貴女は暗部に相応しくない、って」

「そ、それは」

「もちろん、お姉ちゃんがそういう意味で言ったわけじゃないのは分かってるし、私のことを影から見守ってくれてたのも何となくは知ってたよ。でも、最初にそう感じてしまったせいで、私は生きることに目標を見いだせなくなっちゃったの。今までやって来た訓練に意味を感じられなくなったり、今まで自分がやって来たことに何の意味があったのか分からなくなっちゃったの

それでも何とか生きたいから目標を立てることにしたの。ヒーロー好きが高じてグッズを買うようになったのも、日本代表候補生になったのも、打鉄弐式を引き取って自分で組み立てるのも」

「姉には出来なかったことを成し遂げて、それに対して褒めて欲しいという気持ちもあったのではないですか?」

「・・・・・・・うん。それは、あるよ。今まで頑張ってやって来た事を否定、されたく、無かったから・・・・・・。私が、一人で、頑張ってきたことを、褒めて、欲しいよ・・・・・・っ」

 

その時の事を思いだし、感情が昂ったのか簪は涙を流し始めた。私は抱いている肩をリズムよく叩いて落ち着かせようとした。寂しいというのは、一種の愛情表現である。寂しいから、それを紛らわすために誰かにくっつき、触れて欲しいと人肌を求める。そして会話することで自分の感情を相手に伝え、伝えられ、正しく理解し感情を受け止める。更識姉妹は姉妹間の意思疏通が疎遠になっていた。だからこういった思い違いや自分の想いを他人にぶつけられなかった。

 

「簪ちゃん、貴女は私が誇る立派な妹よ。だから、もう、無理しないでよ・・・・・・」

「お姉ちゃぁんっ」

 

簪と刀奈が互いに泣きながら抱きついたのを見て、ティナは微笑みながら簪の肩から手を離した。部外者である自分ができるのはここまで。後は本人次第だからだ。そう思ったが返事を聞いていないので打鉄弐式のオペレーティングシステムなどを見て暇を潰すことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさいね。みっともない姿を見せてしまったわ」

「大丈夫ですよ。過去のわだかまりが解けたのですから。それはみっともない事ではないですよ」

「わ、私からも、ご、ごめんなさい。急に飛び出していったりして・・・・・」

「あれは静寐のせいですよ。あんな風に話もせず聞き出そうとすれば逃げるのは当たり前です」

 

 

さんざん泣いて姉妹の絆は取り戻せたようだ。もちろんこれからも話し合いの場を設けるのは必要だろうが、それでも気軽に話せるようになったというのは大きな一歩だ。

 

「ティナちゃん。さっきの話に戻るけれど、私と虚ちゃんが個人的に協力するわ。でも、更識家全体となると会議を開かないとダメになるからちょっと待ってくれるかしら?」

「構いませんよ。それであれば、この番号にかければ私の部署に繋がりますので」

「分かったわ。ありがとう。私のプライベート番号と交換ね」

「ありがとうございます」

 

念願の更識家当主の番号を手に入れた。これで最初に設定していた目標は達成した。次のミッションは、彼女達との共同戦線に参加すること。多分後で自己紹介をするだろうから自動的に成功するだろう。

 

「では、私はこれで失礼します」

「もう、帰っちゃうの?」

「ええ。長く居すぎるとミイラ取りがミイラになったと思われますし、何より私は姉妹喧嘩の仲裁役ですから。事が終われば退散しますよ」

「わ、私も行く」

 

部屋に戻ろうと背を向けると、簪に服を掴まれ引き留められた。振り返って簪の目を見ると本人が行くまで引き留めるという鋼の意思を感じた。なので簪に向き直って抱きしめた。

 

「っ!」

「分かりました。刀奈さんも一緒に着いてきてくれるのであれば簪も一緒にいきましょう」

「原因の一つである私にも事情を説明させる気なのね?」

「ええ。そのぐらいの恥はかいた方がいいと思いますし」

「・・・・・・中々やることがえげつないわね」

「でも、私も、ちょっとは説明するから」

「そうですか。それはよかったです」

 

そこまで言って、簪はティナに嵌められた事を知ったようだ。心優しい簪の事だから、刀奈にキツいおしおきをしようとすれば簪は自分の落ち度もあるので彼女自身もおしおきの一部を肩代わりすると思ったのだが上手くいったようだ。簪はティナをポカポカ叩いた。

 

「ティナ。最初から私にも恥をかかせようとしてたの?」

「ええ。どちらも歩み寄ろうとしなかったものですから。喧嘩両成敗と言うのでしょう?」

「むぅ。ティナのバカ」

「・・・・・・中々に策士なのね、貴女は」

「策士でないとFBIの中で生きていけませんから」

 

そして簪は、打鉄弐式の途中まで行っていたプログラミングの情報をセーブして、待機状態に戻した。待機状態が指輪というのは何ともロマンチックである。

 

「それでは、行きましょうか」

「ええ、そうね」

「う、うん。分かった」

 

そう言って格納庫の施錠をし二人から三人に増えた少女達は、五体倒置しているはずの少女などがいる部屋に向かって歩き出した。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

まさか本当に仲直りさせて帰ってくるとは思わなかったから驚いた。確かに彼女の推理に関しては当てにしたこともあるし、むしろそれで助けられたこともあるのだが、私以外にその推理を披露したことは無かったので、昔に比べて成長しているんだなと感じた。というか、刀奈さんまで説明に連れてくるその行動力は絶対私を真似してるよね。

 

「それで~、かんちゃん~。暗部の事もここに居る皆は知っちゃった訳だけど~、その事はどうするの~?」

「それは、その・・・・・・」

「それじゃあ暗部の事を秘密にしてもらう代わりに、生徒会に入ってもらうのはどうかしら?」

 

色々と簪は説明した。姉の事、ISの事、それから自分の趣味とかも何もかもをぶちまけた。それが終わったあと、自分の従者の問いに対して口ごもった簪に対し助け船を出したのは刀奈さんだった。交換条件を出すのは良い手とは思うが、さすがに具体例がないとそれは通らない。

 

「生徒会に入るとどうなるのかしら?」

 

やはりというべきかティナが質問した。ただ彼女のこの質問は純粋に質問しているのではなく、この場に居る人達を納得させるための仕込みだろう。別に話し方まで変えなくても良いとは思うけど。

 

「ちょっと多いから分けて説明するわね。まず一つ目としてクラス代表にはなれなくなるわ。二つ目に秋に学園祭があるのだけれど、その時は生徒会の出し物を優先してもらうことになるわ。もちろん余裕があるのならクラスの出し物に行っても構わないわ。三つ目に授業中でも生徒会からの呼び出しによって生徒会室に来なければならなくなるわ。ただ公欠扱いになるから欠席の心配はしなくて大丈夫よ」

「それだけ聞いていると生徒会に入るとデメリットしか無いように聞こえるのですが・・・・・・」

「ナギちゃん、ちょっと待ってね。メリットの部分もあるから、それを聞いてから入るかどうかを決めてもらえるかしら?」

「あ、それは・・・・・・ごめんなさい。早とちりしました」

「大丈夫よ。そういう風に聞いてくれるとありがたいわ。家柄もあるのかは分からないけど、分からなかったりしたことを分からないままで放置したりして聞かない人にはうんざりしててね。今のナギちゃんみたいに聞いてくれる人は私にとっても安心できるから。だから不安がらなくても大丈夫よ」

 

そう言って刀奈はナギの頭をナデナデした。その瞬間、張り詰めていた緊張の糸が解れたのか、うっすら涙を浮かべていた。そのまま刀奈はナギを抱きしめた。

 

「ナギちゃんみたいに質問したい人は居るかしら?」

「メリットも聞いてから質問しようと思います」

 

落ち着くまでナギを抱きしめている感じの刀奈に対して、さゆかはまだ決めきれないようだ。全部聞いてからというのも悪くない選択肢である。

 

「メリットとしてはそうね・・・・・一つ目として生徒会に所属するだけで色んな事が免除されるわ。例えばさっき言ったように生徒会から呼ばれれば公欠になるわ。授業内容に関しては私や虚ちゃん・・・・・本音の姉が対応するわ。二つ目に生徒会はバイト扱いになるから給料が出るわ。時間外ならその分お金も増えるけれど、今までより人が増える予定だから夜遅くまでということにはならなさそうね。大体が印鑑を捺すだけの簡単な作業だし、分からなければ私に聞けば解決するから大丈夫よ。あとはまぁ、生徒会室を部活の部屋として使っても良いわよ。もちろん、生徒会メンバーで部活を作るならという制約がつくけれど」

「お給料ってどのくらい出るんですか?」

「まず給料が生徒会に入ったタイミングから時給1200円、プラスタイムカードを押して仕事をしていれば1200円が時給に上乗せ、時間外ならそこに1500円付くわ」

「ずいぶんと高時給やな。護衛でもさせられるんか?」

 

給料について聞いたさゆかは目を丸くし、拓海は気付いた。まぁ、騙して悪いが的な感じに聞こえちゃうよね。

 

「一応生徒会は非常時には避難の先導役にならなきゃいけないけど、それ以外は何もやらないわよ?」

「でも襲撃が来たら真っ先に狙われるところよね?」

「それについては確かにその通りね」

 

ティナが確認を取るとちょっと難しい顔になりながら刀奈は苦笑いした。ティナの気持ちも刀奈の気持ちもよく分かる。

 

「もちろん、その時には絶対防御が働くだけのアイテムを持ってもらうことになるわ」

「あー、もしかして家の会社のあれか」

「ええ。拓海の会社のあの商品をこの学園にも取り入れさせてもらってるわ。確か名前は・・・・・・」

「オニキスか。鉱石シリーズの」

「えぇ、それよそれ」

 

拓海が家の商品を紹介していた。まぁヴァーミリオンの商品は結構幅広いラインナップだから覚えてる方がおかしかったりするんだけれど、拓海は電子カタログを広げながら説明していた。それが一番合理的。そして生徒会の話からオニキスの説明にすり変わった。

 

「あれは開発陣も作るの難しかったって言うてたしなぁ。絶対防御ってISコアのエネルギーを使ってるやろ?んで、そのエネルギーをどうやってIS無しで作り出させるのか、って言うのが開発陣のテーマやったらしいわ。とりあえず試作品として、コアバイパスによるエネルギー譲渡でバリアを人一人覆える物は作れたらしいけども、譲渡するIS側は展開してなきゃいけないわ、バリアは作れるけど威力が高すぎる攻撃とか実体攻撃で割れたり地面が耐えられなかったりして意味無かったんよ。それに一個のバリアで一人しか守れなかったんよ」

「ん~?それの~、何が問題~?」

 

本音が疑問を呈した。確かに一人につき一個持てば問題が無いように聞こえるよね。ただ、致命的な落とし穴があるんだよねあれは。

 

「問題大有りやで。ISのコアバイパスで一人しか守れなかったってことや。つまり、ISの数しか人を守れないってことになる。しかも自由に外に出られるISって専用機しか無いやん?要人警護にISが使われてないのはアラスカ条約はともかく周辺被害が出ないようにするためやし。その上コアバイパスするから専用機を緊急展開したときにエネルギーが最悪無い状態で戦わなあかんかもしれんくなるし」

「確かに、それは問題だね・・・・・・・・」

 

ナギが同調した。ISのエネルギーは有限である。だからモンドグロッソなどの大会でも準決勝と決勝を同日に行う場合は、エネルギーの補給のための時間が設けられている。

 

「やからどうしようか悩んでたら、バイトの子が言ったんよ」

「何て言ったのかしら?」

「機能に制限のついたISを作れば良いんじゃないか?ってな。開発陣にとっては目から鱗やったらしいわ。カップラーメン開発と同じく逆転の発想や」

「で、でも、ISは女の人しか乗れないんじゃ・・・・・・」

 

さゆかの疑問も最もだけど、今自分でその答えを言っちゃったよ?

 

「ああ。ISは女の人しか乗ることができひん。ただ乗ることは出来ないだけであって武器開発や試射、その辺りのテストは出来る。もちろん防御テストもな。それならその防御テストの時に起動するプログラムだけIS作ってしまえばいい。こうなったんよ」

「すごく・・・・・面妖だね」

「・・・でも、それだとISの数が合わなくならない?」

 

さゆかは自分で聞いておきながら引いていた。まぁあれ以外に関しても変態としか言いようがないグループだし、否定しようが無いかな。そしてちょっとした矛盾点に気がつき反論したのはやはりというべきか簪だった。まぁ、そこは・・・・・・ねぇ。

 

「ん?これは企業秘密なんだが・・・・・、ISのコア自体うちで全部解析できたからな。量産の目処ついてるんよ。表向きにはコアは無いって言ってあるけどな。もちろんプログラムの変更をしようもんなら防犯ブザーみたいなバカでかい音とGPSが作動するようになっとるし、そもそもあれをISにしようとすると圧倒的に出力が足りねぇし、直列に繋いだら即爆発するようにしてる」

「・・・・・・・・・・・」

 

あ、皆黙った。けど、それもそうでしょ。刀奈の事とか静寐の事とかがあったからハードル下がったんだとは思うけど、流石にこのタイミングで爆弾をぽいぽい投げられたら、驚きすぎて魂が抜けちゃうでしょ・・・・・。

 

「・・・・・・公表しない方がいい事が、これで三つ目・・・・・」「あ、悪い。いらんこと言うてもうたな」

 

ほらー。さゆかなんかすごくぐったりしてるよー。刀奈と簪にとってはこれで秘密4個目だよー?拓海もちょっとは勘弁してあげた方が良いと思うよ。例えば棚に置いておくとか。

 

「悪い。ちょっと今のは忘れるか、ゴールデンウィークに家に来てくれ。お詫びの物を渡すから。ついでに会社も見学していってくれ」

「え、いいの!?」

 

食いついたのは簪。続いて刀奈さんとティナ、それから本音だった。更識布仏両家に関しては久しぶりの幼馴染みの家に行けるから、ティナは・・・・・・多分技術的興味かな。ジャパニメーションにハマってるしちょっとロボットの造形に拘り持ってるし。あ、気付いてジト目でこっち睨んだ。

 

「それで話は終わりかな?お腹空いたし帰りたいんだけど」

「あ、悪い。食堂は・・・・・この時間開いて無いんやったっけ?」

「開いてないわね。もう閉店時間よ」

「そうなんか・・・・・。やったら、ちょい待ってろ。飯作るわ」

「え!?拓海の手料理!?」

 

時計を見ると20:30を指していた。結構遅くまで話が長くなっていたみたい。静寐がのびをしながら解散に持ち込もうとすると、お詫びになのか拓海が手料理を作ろうと動いた。一応最後に大きな秘密を投げ入れた張本人だし。ちなみに簪はすぐさま反応し、飛び上がった。

 

「腕はともかく振る舞える量は・・・・・そういえば持ってきてたわね」

「ってか鞄の中身色々見てたから分かっとるやろ。僕が気絶したあとのナマモノ救出作戦でよ」

「確かにそうね。簪があんな風に喜んでいるところを見るに、腕も確かなようね。結構舌が肥えている方だし、私にももらえるかしら?」

「おけ。分かった。他はどうや?」

「うーん、私ももらおうかな」

「ほいほい、鏡さんもやな。鷹月さんと夜竹さんはどないする?」

「簪があんな風に跳び跳ねるってことは相当美味しいって事だと思うし、私も参加で」

「あいよー。夜竹さんは?」

「お金ってどうすれば・・・・・」

「ん?あぁ、いいよいいよ。お近づきの印にってやつや。お金とか気にせんといてなー」

「お義兄ちゃんはお祭り気分になりやすいから、結構料理を家でも振る舞うタイプなの。だから、その辺りの真面目な話は放り投げていいよ~」

「じゃ、じゃあ、私もお言葉に甘えて・・・・」

「あいよ。刀奈も参加やろ?」

「それはもちろん!あ、虚ちゃんも呼んだ方が・・・・・・・・良いわよね。事情が事情だし」

「せやなー。とりあえず呼んどいてー」

「あ、その、私のクラスで仲良くなった人を呼んでもいい?さっきチャットで話してたら晩御飯食べ逃したらしくて・・・・・・・・」

「簪ちゃんがさっそく友達作ってる・・・・・・・!?」

「ええで~。多い方が楽しいやろうし」

 

結構な大所帯になった。まぁ、楽しければ全てよし。未来とかに思いを馳せるより、今生きているこの瞬間を楽しまなきゃね。

 

「ちょっとフェルを借りてもいいかしら?」

「ん?飯出来たら呼ぼか?」

「すぐ終わる話だから大丈夫よ」

「って言ってるけど大丈夫か~?」

「あ、大丈夫だよ。今行く~」

 

呼ばれたから行きますか。まぁ、あっち関係なのは確定なんだろうけどね。

そして私は、ティナと共に部屋の外に出た。




さーて、ティナとフェルの会話はどうなるのでしょうか。

次回へ続く!


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第四話

私は帰ってきたー(1年と半年ぶり)

ども。イェーレミーです。就職したりなんやらかんやらで色々忙しかったです。何とか絞り出してきたので、出来たてホヤホヤをご賞味ください。


ティナとフェルは扉から廊下に出て、監視カメラが無いことを確認すると、一歩で屋上に落ちた。

夜風がフェルの髪を踊らせ、ちょっと肌寒く感じる温度ではあるが、二人には全く関係がない。

 

「久しぶり、ティナ」

「お久しぶりですという程でもないですよ、フェル」

「2年ぶり位?」

「ソフィーに会ったときを忘れていますよ。大体昨日ぶりです」

「あー、確かに。っていうかその時に言ってくれれば良いのに」

「単純に忘れていただけですよ」

「本当に?驚かせたかったとかっていう理由があったとか?」

「いいえ、フェルと離れた後ちょっと後悔しましたよ」

「ちょっとなんだ」

「ええ。久しぶりに会えたこともあってわーってなりました」

「そっか。それならいいんだけど。っていうか、昨日会ったのに久しぶりなんだね?」

「うぐっ」

 

和気藹々と進む会話。打てば響くを体現するかのように弾むお喋り。背中合わせで話す彼女たちはまるで、長年連れ添った夫婦のような貫禄があった。

だが次の瞬間、ティナは涙を対物ライフルに変えて、フェルは長剣を持って給水塔の上を睨んだ。そして。

 

「あれ?どうして分かったの?」

「風の音が変わりましたからね」

「今日は月が綺麗だからね。影も綺麗なんだよ?」

「あ、それは予想外」

 

給水塔に腰かけ、金色の瞳を細めて座っている少女がそこにいた。普段は髪を結っているはずの少女は、髪をほどいて長い髪を燻らせていた。

 

「盗み聞きは犯罪ですよ?」

「大丈夫だよ。バレなきゃ犯罪じゃないし、バレる事は絶対無いからね」

「あー、もしかしてこっち側に来てない?」

「いえ、そんな感じでは無いですね」

「なに?二人してこそこそして。何か良からぬ事でも考えてるの?」

「んー、そんなことはないかな?魔法使いさん?」

 

その瞬間、細めていた瞳が少し開かれ、程なく殺気全開で睨む魔法使い。もちろん、対抗する方も殺気をぶつけ合っているため、ARなりCGなりで映像をつけようものなら、つばぜり合いによる火花で辺り一帯がクレーターだらけになっていることだろう。

 

「そういう二人は、何年生きてるの?」

「もう数えるの止めちゃったから何歳か分からないかな」

「またまた、そんなこと言っておいて。本当は分かってるんでしょ?あと、一応二人は先輩になるから」

「概数でいいのであれば大体は分かりますよ。ただ女の子に年齢を聞くのはご法度では?」

「あ、確かに。でも、女の子って」

 

ズドンッ!!

 

魔法使いの会話に覆い被さるようにしてティナは対物ライフルを撃った。しかし魔法使いは撃たれる瞬間に手を体の前に伸ばした。そして、その手に着弾するかと思われた弾は穴に吸い込まれて消えた。

 

「なるほどね。四番目かぁ。すごく相性が悪いね」

「ですね。存在消されるかもしれません」

「そんなことしたら、彼が悲しむからしないよ」

「それならいいんだけど。それで?わざわざ魔法使いがこっちに来るほどの予定ってあるの?」

「懐かしい名前が聞こえたからね。ノイエンミュラーでしょ?」

「あー、なるほどね。私達の後に行ってたんだ。どう?彼女、成長してた?」

「うーん、どちらかっていうと成長してたかな。女性的にはなってたけど」

「身長は伸びて無かったんですね」

「そういうこと。あと、オスカーが写真で見るより細くなっていたよ」

「え!?あのオスカー、減量に成功したんだ・・・」

「まぁ、そんなとこだね。あと、ぐるぐる族がソフィーの弟子になったよ」

「感覚派かぁ。教える側になったときに弟子が疲れるやーつ」

「ですね。久しぶりに会ってみるのもいいかもしれませんね」

「寝るときに行っちゃう?」

「それなら私の穴に入ればいいよ。時間とかも都合合わせられるし」

「流石は四番目。二番目の時間旅行もお手のものだね」

「四番目で呼ぶの止めてよ。ついうっかり社会的に殺しちゃうでしょ?」

「はいはい、分かった分かった」

 

すると給水塔に座っていた少女はそこから飛び降りた。魔法使いと言う割にはローブや杖を持っていなかったが、現代魔法に関してはそういうものだろう。

 

「じゃあ改めまして自己紹介をしましょうか」

「そうだね。それがいいかも」

「では私からしますね。UGN特殊感染症対策部、通称オーヴァード課の捜査長官でアメリカの代表候補生のティナ・ハミルトンです。よろしくお願いしますね」

「じゃあ次は私だね。フェル・ソフィーティアだよ。ティナと同じくUGN特殊感染症対策部に所属してるよー」

「あ、そうなんだ。ちなみに私は自己紹介しないよ。二人の予想は完璧だし」

「すんなりそんなことバラしてもいいの?もしかしたら私が誰かにチクるかもよ?」

「その時は、チクられた人の記憶を消せばいいだけ。そういうフェルも、彼を裏切ってるけど大丈夫なの?」

「・・・・・・まぁ、ね。ただ、XX(ダブルクロス)というよりXXXXX(ファイブクロス)位かなー」

「すごく裏切ってるね」

「それに、UGNには記憶処理の部隊もあるし、情報とかはどうとでもなるからね。それと、私とティナの場合はどこにも忠誠は誓ってないから何とでもなるし」

「ティナはどうなの?」

「私の場合は自由国籍ですから」

「まさしくダブルクロスだね」

「名前はまだバラしたくないみたいだから呼ばないけど、貴女は・・・・・・自由気ままに生きてる感じかな?」

「私宛の依頼とかが入らない限りは、だね。入ったら、世界がどこだったとしても行って依頼を受けるかな。ああそうそう。あと、あおあおには気を付けてね」

「あおあお?」

「うん。髪が赤いのにあおあおって略せる人なんだけどね。ここの臨時講師になってるから」

 

そう言った瞬間、魔法使いがなんの前触れもなく横に吹き飛ばされた。

 

「そんなところに居ると蹴り飛ばすわよー?」

 

声がした方向には燃えるような赤髪の、やる気がなさそうな魔法使いがいた。足を振り抜いた体勢だったため、口より先に手が出たのは明白だった。そしてその女性はフェルとティナに向き直った。

 

「話は聞いてたわよ。・・・・・・・そんなに焦らなくていいわ。貴女たちの秘密は口外しないわ」

「そうなんだ。じゃあ、お願い」

「ではその約束の前払いです」

 

話を聞かれていたのでフェルは慌てたが、五番目の魔法使いに口外しないことを誓われるとすごく安心したように胸に手を当てて深いため息をついた。そのフェルの動きに連動するように、ティナは使わなくなった対物ライフルを札束が大量に入ったジュラルミンケースへと変えた。魔法使いは訝しんだ。

 

「偽札は要らないわよ」

「大丈夫ですよ。私、モノの構造は全て把握してますから」

「偽造って言っても、本物と何も変わらない偽物だからね。偽物が本物に敵わないなんて道理は捨てた方がいいよ?ティナにかかれば億万長者も夢じゃないし。前にラスベガスで無限の財力をもって解体一歩手前までギャンブルしてたし。お金の出所は大体空気から生成してるよね」

「それは嬉しい情報だけれど、気持ちだけ受け取っておくわ」

「分かりました。じゃあこれはお菓子にしますね」

 

ティナはジュラルミンケースごと大量の駄菓子に変え、全てを自分の鞄の中に収納した。

 

「そしてあおあおは私を蹴ったことを忘れる、と。同じ魔法使いなのにどうして私は忘れられるのかな?」

「それは貴女の魔法の側面が忘却だからでしょう?」

「そういえばそうだったね」

 

にへらっとでも言いたげな形で微笑む四番目の魔法使い。話が進まないことを焦れったいと思ったのか、五番目の魔法使いが咳払いをした。

 

「ん、んっ。後出しだから面倒臭いけれど私も自己紹介しておこうかしら。蒼崎青子よ」

「最新の魔法使い、ね。魔法・青についても大体は想像できてるから」

「すごいわね。誰かから聞いた状況証拠だけで推測するなんて、ね」

「そのぐらいならまだ簡単な方だからね。じゃあ密会はこの辺にしとく?時間も長くなったっぽいし」

「帰るときはここに入ればフェルやティナが出てきたところに戻れるように設定しておいたからね。時間は大体10分後でね」

「魔法を使ってくれる本音は?」

「ん?何もないよ。こういうのはお互い助け合いでしょ?」

「ありがとうございます」

「いいよいいよ、お礼なんて」

「久しぶりに四番目が心から照れてるところを見れたし、私も帰るわね。あ、私の担当科目は体育だから、その辺りよろしく」

「お手柔らかにお願いしますね」

「スポーツ万能の生徒に言われても、ね」

 

そう言って青子は屋上の柵を飛び越えて、そのまま落ちていった。あとに残されたのは魔法使いとティナとフェルだった。そのフェルがおもむろに口を開いた。

 

「ねぇ、この茶番はいつまで続ければいいの?」

「え~?もうちょっと続けたかったんだけど~?」

「もう良い気がしますよ。私としても話したいことは結構ありますし」

「は~い。分かった~。じゃあ~、もう演技やめる~」

 

そう言って魔法使いはぐてーと体を空中に寝かせた。それを見てフェルもティナもクスリと笑った。

 

「ほら、そんなにだらしなくしないの。あとであそこに連れていくわ。ティナが」

「あそこは私が開けなきゃ入れないでしょうに。ともかくお久しぶりです、本音。何年ぶりでしょうか?」

「ティナもフェルも久しぶり~。何年かは分からないかな~」

 

そして第四の魔法使いは・・・・・布仏本音はヘラヘラと笑った。そしてぎゅーっと二人を抱きしめようとして、寝る体勢だったのが災いしてぽてっと地面に柔らかく落ちた。そんな本音に対してフェルはその柔らかいほっぺたをぷにぷに突き、ティナは柔らかな髪を撫でた。

 

「すごいよね。何年経ってもこのもっちり感。赤ちゃんのようなぷにぷに肌。そして餅のようなほっぺた。ずっと触っていられるよね」

「確かにそうですね。それにしても、この髪もすごいですよ。結構長いのにさらさらふわふわな感触です。この髪で枕カバーを編めば、安眠間違いなしですよ」

「こら~。私がせっかく高度な技術で保っているものを~、勝手に触らないでよ~」

「では私の髪も触りますか?」

「確かに一人だけ玩具というのは面白くないよね。じゃあ私のほっぺた・・・・・・は硬いと思うから髪触る?」

「二人の髪は変わってないんでしょ~?じゃあ当分は大丈夫~。それに~、隙あらば触りに行くから~」

「分かりました。そのときはお手柔らかにお願いしますね」

「そうだね。まぁ、いつでも触りに来て良いからね?」

「やった~」

 

三人寄れば姦しいとはよく言ったものである。

 

「それで~、ティナのお友だちは元気~?」

「一人はここに呼んでいますね。一応私と同じクラスなので気付くかと。二人は転校して学校に編入させました。後の人たちはお留守番だったり普通にしてたりしますね。私もこっちで出来る仕事は回してもらいますし」

「私も手伝ってるよー」

「後で行ってもいいかな~」

「とりあえずはお義兄ちゃんのパーティが終わってからだね。その後は一応私とティナがここの臨時支部に協力することになってるから、それの顔合わせかな。といっても今いるのは私とティナと静寐ぐらいなんだけどね」

「あ~、静寐もそっち側なんだね~。そういえば~、あの三人は~今も世界中を飛び回ってるのかな~?」

「どうでしょうか。むしろあの小ささを生かして学校に入っているかもしれませんよ。中学生を自称しているかもしれません」

「かもねー。でも小学生でもあり得そうなんだよねぇ。本音のその成長率がどのぐらいなのかというのが気になるとこだけど」

「見た目が小学生っぽいのも~、大変だよね~」

 

一頻り三人共通のネタで笑いあったところで、真面目な顔になってフェルは尋ねた。

 

「あの事に関しては、絶対口外しないで」

「分かってるよ~。流石にあの事に関しては~、黙秘権を行使しないと~、ダメだよね~」

「ティナもそれでいい?」

「大丈夫ですよ」

「二人とも、ごめんね?」

 

とフェルは謝るが、対象の二人はというと苦笑いするだけだった。

 

「何年一緒にいると思ってるんだよ~?その程度で謝らないで~」

「そうですよ。私もフェルのことは頼りっぱなしなので、たまには頼ってください」

「・・・・・ありがと」

「フェルのデレって久しぶりだね~」

「しかもたまにツンツンしてるのがたまらなくいとおしいですよね」

「それそれ~。たまに来るデレとそれが絶妙なコントラストで~、たまらないんだよねぇ~」

「・・・・・・・ッ!?」

 

真面目な話かと思いきやすぐさまネタ話にスイッチバック。話の切り替えの早さは随一と言われた本音の十八番である。

 

「・・・・・帰るよ」

「・・・・拗ねないでください。後で好きにしていいので」

「私も好きにしていーよ~」

「・・・・それで手を打ってあげる」

「やった~」

「ではまた真面目な話に戻りますが。本音と更識姉妹の関係はどういったものでしょうか」

 

そして今度はまた真面目な話に舞い戻った。のだが、あちゃーと言いたげな感じでフェルは頭に手を当てた。

 

「主人と従者だよ~。最も~、かんちゃん・・・・、簪ちゃんと~だけどね~。たっちゃんは~、お嬢様って呼んでるよ~」

「えぇ・・・・・・」

 

そして頭を抱えるティナ。何かあったのだろうか、それを推察しようと本音が考えようとしてフェルが口を開いた。

 

「もしかして、FBIって言っちゃった?」

「なるほどね~」

「間違ってはないし支援ももらえるけど、本当は違うからねぇ」

「・・・・・・・・・はい」

 

観念したようにティナが頷いた。その目は酷く濁っていた

 

「本音?もしかしなくても、バラしてないよね?」

「うん~、もちろんだよ~。不思議な友達二人がいるって言ってるよ~」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「あれ~?どうしたの~?」

 

本音のその言葉に今度はフェルも揃って膝をついて手を地面につけた。俗にいうorz状態である。

 

「だからさぁ・・・・・・。そんな風に言われてると、バレたときのショックってすごく大きいんだよ!?」

「え~、そうかな~?」

「そうですよ。特に親身になっていた人がそういう人ということになれば、最悪本音も含めて疑心暗鬼になりますよ」

「それは~、嫌だねぇ~」

 

だが表情はにへらっとしている。完全に反省する気がないようだ。

 

「・・・・・・静寐との会話が終わったら三人に話すよ。本音のことだから虚さんにも言ってるんでしょ?」

「あ~、バレた~」

「・・・・・・フェルは大丈夫なのですか?」

「もうこんなの必要経費だよ。コラテラルダメージだよ」

「・・・・・では、私は何も言いません」

 

二人が頭を抱えつつ、本音は愉悦な顔でそれを見つつ、三人は本音が作ったゲートをくぐった。

 

 

「そういえば前にリンネから聞いたんだけど、忘れ物置いてきたんだって~?」

「・・・・・それが?」

「忘れ物を取りに行くんだったら~、来年の冬アニメが始まるぐらいに行けばいいかもね~」

「あぁそういう?」

「今はそのときではないというやつですね?私達もそんな気がしていたので、今は行きませんよ」

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

5分ほど経ってから、フェルとティナと本音が帰ってきた。フェルとティナを追いかけるようにして出ていったが、そもそも別件だったらしい。要らないのに気を使ってくれたみたいで大きめのジュースを買ってきてくれていた。ちなみにフェルとティナのお話に関してはつつがなく終わったらしい。

そしてその簪が作った友人を呼んだのだが・・・・・

 

「えーっと・・・・、皆さんお揃いでどうしたんでしょうか・・・・」

「あれ?クラスメイトのアストラルさん?」

 

何故か一組のアストラルさんが来た。その後ろにいるちみっ子が簪の友達らしい。

 

「はじめまして。妹がお世話になっています。姉のレナです」

「え?姉?」

 

まさかの姉だった。ちみっこい上にあんまり似ていないが姉妹・・・・なのはお互い様だからこの話はもうやめておこう。

 

「これはご丁寧にどうも。僕は」

「知ってます」

「あ、それはどうも」

 

なんだろうか。つっけんどんな返答しか返ってこない。知らないところで何かがあったのだろうか。

 

「あ、ごめんなさい!その、レナは・・・・・、話すのが苦手で・・・・・・」

 

と思ったら、話したいことが多すぎて詰まってるやつだこれ。確かに、3人しかいない男性操縦者の内の一人に呼ばれたとなると、そりゃそうなるわ。声優に会った時とか、本当に限界化したし。

 

「ち、ちょっとユイ!?」

「なんとなーく分かったわ。それやったら別にかまへんよー」

「むぅ・・・・・・・」

 

レナの反応としては、何か引っ掛かりを覚えるけれどもとりあえず脇に置いておいて。鍋をかき混ぜつつうどんをひと煮立ちさせれば完成。

 

「中々に豪華よね」

「ナマモノは早い目に使わないと腐るからな」

「確かに」

「いい匂いだねぇ〜」

 

今日の献立はフグ鍋である。もちろん、トラフグは高くて手に入らないため、別の食用フグであるが。それでもフグであることには変わらないので、高級食だと思っていた人達は驚いていたが。

 

――――――――――――――――――――――――

 

『ご馳走様でした(!)』

「ほいほい。お粗末さまでした」

「やっぱり拓海は立派な主夫になるわよ」

「主夫ってお前なぁ・・・・・。共働きならともかく、ヒモは勘弁してくれよ・・・・・」

 

料理を食べ終わって拓海が食器を洗おうと回収したのだが、実家が大衆食堂らしいナギや、よく家でも料理をする刀奈や簪達が少しでもお礼をということで洗ってくれることになった。・・・・・・そんなことをすると、タクの事だからこれのお礼をって言い出すよ?タクって律儀だから、相手の善意にもお礼をしようとするし。

 

「お義兄ちゃん?邪な事とか考えてない?」

「失敬な。確かに皆薄着だから少しは考えたけどさ。その辺の煩悩は退散させたから大丈夫なはずや」

「悩殺しに行った方がいいのかしら?」

「いや、それされたら流石に通報するわ」

 

というか、話し方まで変えなくて良いはずなのに、ティナってば他人モードになってるし。流石にこの中で知人がレナと私とフェル位しかいないから、なんだろうけど。というかレナは何時私達のことに気がつくのかな?

 

「っていうか〜、ナギナギってスゴく手際が良いよね〜」

「実家が実家だから、洗い物は得意なんだ。料理の方はまだまだ修行中だけど」

「もうちょっと皆と仲良くなったら、ナギのその店に行ってみたいね」

「けど、今からもうちょっと先までは無理・・・・・・かな。お父さんもお母さんも世界一周旅行に出かけちゃってて、何時帰ってくるのか分からないんだよね」

「そうなんだね〜」

 

ナギの素性は調べてみたから騙されることは無かったけど、ほとんどは騙されたみたい。害もないから放っておくけどね。流石に裏を調べようとしても出なかったから放置してるんだけど。私の情報網をくぐり抜けるとすれば・・・・・・・やっぱりあの人しか居ないかなー?

とりあえず、あの事を教えなきゃいけないし、彼女達の紹介もしないといけないからねー。

 

「ん?このBGMは?」

 

唐突に流れた着メロにタクが辺りを見回すけれども見つからない。だって

 

「あら。家の仕事のメールね」

「ですね。しかもかなり急を要するようです」

「お、お姉ちゃん?」

「大丈夫よ。簪ちゃんも連れていかないとまずい案件なのよね」

 

更識姉妹がかなり慌て始めたのを見て、その他大勢は不審がった。当たり前の反応ではある。

 

「どしたん?何かあったんか?」

「えっとですね。更識に対して緊急招集がかけられまして。余程のことがない限りは無いのですが・・・・・」

「内容が余程の事だったってことですね?」

「ええ、そうなのよ。だから、私の部屋に行くわね?」

「そりゃかまへん・・・・・というか喋ってたりしてたらもうこんな時間か。じゃあ自由解散にするか」

 

たまーに鋭いタクがこっちにとって良い案を出してくれた。こういう時は嬉しいんだけどね〜。突発性難聴とか起こさないからまだ良いんだけど、それでも鈍感だからまだまだ修行して欲しいなぁ〜。

 

「今日はありがとうございました。鍋料理、美味しかったです」

「アストラルさん・・・・・だとどっちを指してるか分からんな。ユイさんもレナさんも、何時でも寄ってってかまへんで〜。一応クラスメイトなんだし、困った時はお互い様やし」

「それは・・・・・・ありがとうございます」

「私からも。ありがと」

 

そう言って、ユイとレナは出て行った。まぁ、レナはこの時間になるとほとんど休眠モードになるから仕方ないんだけどね。

 

「夜竹さんも鷹月さんも鏡さんも、食器洗いしてくれてありがとうな」

「い、いやいや。お礼を言うのはこっちの方だよ」

「美味しいご飯も食べさせて貰えたし」

「何より色々お話が出来て嬉しかったよー」

 

じゃあまたあしたーって言って三人も帰っていった。と言っても隣だから帰る必要はほとんど無いはずなんだけど。

 

「ほんっと、お義兄ちゃんって義理堅いよねー」

「そうね。貴女のお兄さんは真面目すぎるわよね?」

「だって堅物じゃないけど生真面目だからねー」

「それどっちやねん。褒めてるんか貶してるんか」

「どっちでもいいでしょー?じゃあ私も帰るね〜」

「ご馳走様でした。今度は私が奢る番ね」

「いやいや、対価は求めてへんから」

 

そんな感じでティナとフェルも帰った。

 

「じゃあ拓海。簪ちゃんと本音ちゃんを借りるわね?」

「いや、モノじゃないんだからさぁ・・・・・・」

「じゃあ、行ってくる」

「気ぃつけてな〜」

 

タクはタクでやる事があるはずだし、1人残して全員が部屋から去った。誰と通信してるかは知らないけど、脅威でも無いしほっとこ〜。




次はあれですね。説明会になると思います。

ではでは〜


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第五話

皆様、あけましておめでとうございます(遅)

現在のコロナの影響によりリアルの事情が輪をかけて酷くなってまして、投稿が遅れましたことをお詫び申し上げます。

今回はただの事情説明会です。やっとこさこの辺りの設定を書くことが出来てちょっぴり満足してます。

え?ゲームしてただろって?そりゃパニシングとか原神はやるし、ファンキルは6周年だし。いっぱいガチャしました。

それではどうぞ。

追記
色文字とかエフェクトとかをお試しで使ってみました。


拓海達と別れた更識姉妹と布仏姉妹は刀奈と虚の部屋に入り、ベッドに腰掛けた。

 

「それで?何があったのか聞かせてもらえるのかしら?本音ちゃん?」

「え、さっきのメールって本音の招集メールだったの!?」

「ええ、しかも皆を騙すようにしないといけないというふうに書いてましたね。そんなに重要な事なのでしょうか?」

 

三者三様の反応があり、3人の顔が本音の方を向く。その件の本音はにへらっといつものように笑った。

 

「ま〜ね〜。たっちゃんとかんちゃんとお姉ちゃんには言ってたでしょ〜?私が何億年生きてるって〜」

「確か・・・・・魔法使い、だったっけ?アーネンエルベでよく会うおじいさんと同類って言ってた気がするけど」

「この世に五人しかいない魔法使いの1人、よね?魔法というのがどれほど貴重なのかは分からないけれど」

「でも、情報の正確性や切り札としては優秀なので私が居る意味が分からないんですよね・・・・・」

「お姉ちゃん〜、卑屈にならないでよ〜」

 

実は、更識の情報網は本音1人で賄われている。未来予知にも似た推理と情報収集能力、さらには作戦立案能力により本音が情報担当になってからは、総理大臣の協力もあってか更識の名前が世界中に轟くようになったのである。そのためか、虚は妹に対して引け目を感じるようになっていた。本音自身は自分の力が無ければ出来ていなかった事とだと常々言っているので、虚自身は極力気にしないようにしてはいるのだが。

 

「もしかして、何か事件でもあったのかしら?」

「うーん、事件ではあるかな〜」

「勿体ぶらずに教えて?」

「分かった〜。前に教えた不思議な親友が居たっていう話は〜、したことあるよね〜?」

 

その親友の話はまだ更識姉妹の仲が良かった時によくしてくれたものだ。英雄譚、とまでは行かないもののその親友と本音との珍道中には刀奈も簪も虚もスゴく興味を惹かれたものだった。それと同時に歴史の裏側で何が起こっていたとか、どんな秘密結社が動いていたか、さらには世界中を巻き込んだ事件をどんな風に解決したのかなど、当時の写真付きで細かく説明してくれたため、彼女達の歴史のテストは常に満点だった。これが原因で、虚が真面目になったり刀奈が楯無を引き継ごうとする事になっていたりする。

 

「うん。お姉ちゃんと喧嘩しちゃったから、お姉ちゃんとお話は聞けてないけど・・・・」

「そうね。もしかして、そのお話をするために呼んだのかしら?」

「ちょっと違うかな〜。さっきこの学校で会ったんだよ〜。だから〜、紹介しようと思って〜」

 

すると、反応は二分された。

 

「え!?そのお友達と会えたの!?本音の話とか聞きたいんだけど!?」

 

興味津々、といったように目をキラキラ輝かせながら本音を見る簪と、

 

「まさか、その為だけに呼ばれたのかしら?それなら忙しいのだし、また後でにしてくれないかしら?」

「緊急任務と思って来てみれば・・・・・・肩透かしを食らいましたよ・・・・・」

 

呆れながらため息をついてベッドに寝転ぶ刀奈と虚で分かれた。本音はにへらっと笑ったままだった。

 

「ま〜ま〜、騙されたと思って〜、話を聞いて欲しいんだけど〜?」

「明日も明日で忙しいのだし、私は寝させてもらうわよ」

「えー?ちょっとだけ、ちょっとだけだから。ダメ?」

「そうですよ。私としては話さなければならないことが沢山あるのですから。幸い時間はたっぷりとありますし」

「あれ?フェルにティナ?2人も用事なの?」

「用事がなかったらこの部屋にお邪魔してないよー」

「本当に、頭を抱えたくなりましたよ・・・・・」

「ティナ〜、さっき頭を抱えてたよね〜?」

 

和気藹々と、ティナとフェルと簪と本音が話し始めた。刀奈も虚も、微笑ましい光景だったから、おじゃま虫である2人は退散しようと、入り口まで歩いてドアに手をかけて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「・・・・・・・・・・えっ?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その異常性に気付いた。

入口は鍵が閉まっている。本音が力を使った様子もない。留守から自室に帰ってきたのだからベランダに続く窓も開いていない。盗聴器の類が無いかどうかをISで走査した上に、その時に生体反応が無いことも確認した。それでも、何度瞬きしても、彼女達は存在する。彼女達はそこに居る。部分展開してハイパーセンサーで彼女達を確認すると、生体反応があった。つまりこれは、彼女達が何らかの方法でもって、この部屋に入ってきたということに他ならない。

 

「ねぇフェルちゃん。ティナちゃん?少し聞きたいことがあるのだけれど、ちょーっと良いかしら?」

「ん?いいよ?」

「構いませんよ?」

「ん?・・・・え?あれ?」

 

ここに来て、簪も目の前の異常に気がついたようだ。ティナやフェルをてしてし叩いてみたり、何度も凝視したりしている。

 

「この部屋に、どうやって入ったのかしら?」

「そこにドアがあったので」

 

質問を投げかければ機械のようにすぐレスポンスが帰ってきた。しかも、ティナの指さす方向は浴室に向かうためのドアである。室内構造的にもそこからの侵入は不可能であるため、ISを展開して槍を突きつけた。

 

「お姉ちゃん!?」

「答えてもらうわよ?ティナちゃんもフェルちゃんも、私達を油断させて何かをするつもりだったのでしょうけど。2人とも、仲良くなりたかったのだけれどねぇ」

「仕方ないなぁ」

「ですね」

王手(チェック・メイト)です。投降してくれませんか?」

 

虚は常備している小刀をティナの背後から首筋に当てて宣言した。だからこそ気づいた。目の前に居るのは人間などではなく人間の皮を被った化け物だという事に。

 

「あはは。チェック・メイトっていうのは詰みを表す言葉なんだよ?私達にとってのチェック・メイトっていうのは、アレになる時ぐらいかな?まぁ、私が私であるうちは絶対にならないしさせないけど」

「私達のようなモノにとっては、この程度は児戯ですね。あぁ、納得も理解も必要ないですよ。一応、本音とは違った形で真理に辿り着いたので。あるがままに受け入れることをオススメします」

 

虚は握っていた小刀の感覚が突然消失した事に疑問を持った。そしてティナを警戒しつつもその手を見て驚愕した。自分が持っていたのは一握りのだったからだ。穴の空いた樽にワインを入れたかのように、砂は指の間から零れ落ちていく。そしてティナに一瞬だけでも隙を見せた彼女を待っていたのは、さらなる驚愕だった。いつの間にか、心臓に向けて銃が向けられていた。誰に?ティナに。どうやって?右手で保持し左腕を輪のようにして、さながらニュータイプ撃ちをするガンダムのように。その銃は?何処から取り出したのか不明、予備動作も不明。何もかもが不明だった。

 

刀奈は今の状況に困惑するほかなかった。

 

「フェル・・・・・・ちゃん・・・・・!?」

「刀奈ー、それで全力なの?機械の力を使っててそれなのは、ちょーっと情けないんじゃないのー?」

 

フェルは唐突に槍の穂先を片手で掴んだ。それだけだ。それだけのはずなのだ。だがしかし、そこから槍はISの力をフルパワーにして使っても、ピクリとも動かなかった。ブースターを吹かして瞬時加速(イグニッション・ブースト)もしているというのに、座ったままのフェルは涼しい顔で槍を掴んだまま離さない。彼女の何処にこんな力があったのか、一応親友だったはずなのに刀奈は知らなかった。

 

 

 

バキンッ!!

 

 

 

と音が鳴ったと思うと、刀奈の持っていた槍の穂先が捻じ切れていた。ゾッとした。素手でISの装備を破壊したのだった。ブリュンヒルデや天災は元から超人だから理解出来るが、今目の前で起こっているこれはなんだ?

 

簪は絶句しながらも見ていた。フェルの華奢な腕で姉の専用機の槍を折るところを。虚の小刀が砂に変わり、何処から取り出すことも無く、その場で作成したかのように銃を持ったところを。そして今更ながらに気付いた。ティナとフェルは本来この部屋には居ないはずの存在だということに。だが痼のような疑問が残った。どうやって彼女達は来たのか、では無い。何故この部屋に来たのか。さっきまで話し合っていたのだから、その時に話すことは出来たはず。だが彼女達に何らかの秘密があるのなら、話が変わってくる。誰にも聞かれたくないからこの場所を選んだ、のだろう。けれども何故ここに?他にも場所はあるはず・・・・・。と考えたところで、1つの可能性に行き着いた。さっき本音はなんと言っていた?確か『親友がここに居たから紹介する』だったはずだ。つまり、

 

「フェル、ティナ、答えて。本音の親友は、2人なの?」

 

するとティナは一瞬だけ目を見開いたがすぐさま微笑みに変わった。フェルはというと、少し驚いた顔をして簪の方に振り返った。

 

「簪ちゃん!?それは有り得ないわよ!?」

「そだよー」

「かんちゃん大正解〜」

 

思いつきで言ったことだったが、それが正解だったらしい。それを咀嚼して思考して。

 

「え、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

後に残ったのは驚愕だけだった。

 

――――――――――――――――――――――――

 

「あ、ティナ。虚さんの小刀と刀奈の槍、元に戻しておいてー」

「フェル?私は猫型ロボットではありませんよ?」

 

言いながらも、ティナは槍を元通りにして、砂になった小刀は刀身を黒くして暗闇の中での視認しにくさをあげた上で元に戻した。

 

「性能をあげることも出来ますが、今はこの程度でも大丈夫でしょう」

「な、何が起こって」

「はいは〜い。説明するから〜、てきとーに座って〜」

 

色々と起こったことに反応する間もなく、本音がゆるーい声で何時ものように話した。もちろん、これからが本題なのだろう。全員が適当に座ったのを確認すると、口を開いた。

 

「自己紹介は〜、多分必要ないから〜、ティナ〜。お任せするよ〜」

「ありがとうございます本音。ではそうですね、さっきの話の修正からいきましょうか」

「さっきの話とは、一体何のことでしょうか?」

 

刀奈と簪がティナと話していたこと自体は知っているが、中身はまだ共有出来てなかったから虚は訊ねた。だがその答えは意外なところから飛んできた。

 

「ん?あー、ティナがFBI所属で、更識と協力したいって言ってたはずの話だね」

「あの場に居なかったフェルが言うだけで胡散臭さが増したわよ?」

「フェル、勝手に口走らないでください。補足説明程度なら別に構いませんが、引っかき回さないでください」

「りょーかーい」

 

疲れたように溜息をつき、ジト目でフェルを見るティナ。フェルはというと、本音に抱きつかれて頬ずりされたりわしゃわしゃ撫で回されたりしていた。本音はどちらかというとそういうのをする側ではなくされる側のはずなのだが。

 

「さて。まずは情報の修正からですね。簪。刀奈さん。すみません。厳密にはFBIではありませんでした。ただ更識と協力関係を結べるという点は問題無いので安心してください」

「前居たところがFBIだったからね。数年前にUGNに部署ごと異動になったばっかりなんだし、まだ慣れきってないんじゃないかな?」

「・・・・・ですね。たった数年程度の事ですし、まだまだ慣れていないのかもしれません」

「ゆーじーえぬ・・・・・って、ユニバーサル・ガーディアンズ・ネットワークのこと?」

 

簪がUGNという言葉に反応した。殆どは反応できないはずだが、更識という家柄もあって反応できたのだろう。もちろん、知っているのは表向きの情報だろう。裏社会で名を轟かせている更識家であってもだ。

 

「ユニバーサル・ガーディアンズ・ネットワーク、略称UGNは、世界中で慈善活動をしていることで有名な組織ですよね。ですが、特殊感染症対策部でしたか?そんな名前の部署は聞いた事が無いですよ?」

「それは当たり前ですよ。なぜなら、その慈善活動というのは表向きの顔ですからね」

「表向きの顔ってあなたねぇ・・・・・」

「いやいや、更識にも表の企業としての顔と裏のカウンターテロ組織としての顔があるでしょ?それと同じっていうだけだから」

 

そのフェルの言葉に刀奈達は反論できない。実際に更識家も表向きは由緒正しい問屋だからだ。実際はカウンターテロ組織としての仕事の中の人や物や金の動きを見て商売をしたのが始まりとされているからである。

 

「そういえば、20年ほど前に考古学者が中東で事件に巻き込まれて亡くなりましたね」

「フィランダー博士の事ね。いきなり話が飛んだけれど、何の関係があるのかしら?それと、あの話は事故じゃなかったかしら?」

「UGN発足のきっかけですからね」

「20年ほど前、彼はこの世界が変わってしまうほどのモノを発掘しちゃったんだ。でも、自爆して、そのモノを世界中に撒き散らしちゃったんだよ。そのほとんどは燃える飛行機の中で焼失したんだけど、一つだけ、ばらまかれたものがあるんだ」

「その何かがばらまかれたとして、公表・・・・・・しないのは、何かの意図があっての事ね?」

 

刀奈のその言葉に、フェルは苦笑した。そして次の瞬間、ゾクリと背中に氷柱を刺されたように感じるものがあった。目の前にいる親友が、ナニカ別のモノになったような感じがしてしまった。フェルのだったはずの目が、の双眸が睨むことなく刀奈達を威圧していた。

 

「まぁね。あの時考古学者は古代に封印されたウィルスを発掘しちゃったんだ。それが爆発に巻き込まれて全世界に拡散、世界中の何もかもに感染したんだよ。ただ、世界中の八割は無症状だから、まだ良かったんだよね。まぁ、残り2割が大変なんだけど。そのウィルスの名前は背教者(レネゲイド)ウィルス。そしてそのウィルスの症状が出た人をこう呼ぶんだよ。人を超えし者、オーヴァードってね。私達のような化け物はそう呼ばれるの」

 

そう言ってフェルは自虐的な笑みを浮かべた。もちろんそんなことを言われて咀嚼できる訳もなく。

 

「人を超えし者、オーヴァードですか・・・・・・。随分と仰々しい呼ばれ方ですね・・・・・・」

「まぁ、虚さんがそう言うのも無理はないかな。じゃあティナ、よろしく」

「仕方ないですね・・・・・」

 

パァンッ!!

 

 

発砲音がした。ティナから。フェルに。フェルはベッドに倒れ、ベッドには胸から溢れた血が滲み始めた。完全に即死である。

 

「ティ・・・・・・ナ・・・・・・・!?」

「何を・・・・・・しているのかしら・・・・・・!?」

「撃てと言われたので撃っただけですよ?」

「その、銃は、何処から、取り出したのですか!?」

「素材なんて周りにいっぱいあるでしょう?」

 

ティナの言うことは何かがおかしい。一般常識が欠けている、そんなレベルではないほどに。しかし簪にとっては味方だと思っていたティナが、親友のフェルを撃ち殺したのだ。恐怖から、それよりも何か大事なものを踏みにじられた気がして。

 

「い、いや・・・・・いや・・・・・・イ」

「はいはい、叫んだらお隣さんの迷惑になっちゃうでしょ?」

 

叫ぼうとしたら何処からか手が伸びてきて簪は口を塞がれた。刀奈と虚が簪の背後を見て驚愕している。ティナは薄らと微笑み、本音はニンマリとしていた。そして簪は背後を振り返る。

 

「ん?簪、どうしたの?私の顔に何か付いてる?」

「フェ、ル!?」

「そだよー?」

「撃たれ、えっ!?」

 

そこには何事も無かったかのように佇むフェルの姿があった。ベッドに染み付いていたはずの血も何も無く、さっき撃たれた事が無かったと思える。時間が巻き戻ったのか、本音が巻き戻したのか。そう思って本音の方を見ても首を横に振るだけ。

 

「でも、良かった。死んで、なくって」

「え?1回死んだよ?」

「えっ?」

「1回死んだんだよ?本音ぐらいじゃない?心臓を撃ち抜かれても無かったことにして死なないのって」

「いや〜、それなら撃ってきた人を遡って消す方が便利かなぁ〜」

 

事も無げに言っているが、その内容は異質そのものだった。1回死んでいる?ならば目の前の彼女は一体なんだ?

 

「あ、今簪ってあれでしょ。私が死んでたはずなのに、今こうして話してるからここにいる私は何なのか、とか考えてるでしょ」

「ど、どうして」

「どうして分かったのかって?さっき言ったでしょ?私もティナもオーヴァードだからだよ」

「フェル、それでは説明不足ですよ。オーヴァードにはエフェクト・・・・簡単に言えばポケモンの技ですね。それを組み合わせて異能を使うのですが、中には単体で使うものもあるのですよ。今のはオーヴァードであれば誰でも使えるエフェクト、リザレクトですね。身体が消滅していたとしても復活するエフェクトです。簡単に言えば死者の完全な蘇生ですね。残念ながら回数による限度はありますが」

 

驚愕に次ぐ驚愕。本音はもう既に知っているからのほほんとしているが、3人は鉄砲水のように溢れた情報量でパンクしそうになっていた。流石と言うべきか、その混乱状態からいち早く脱出したのは刀奈だった。

 

「それなら、フェルちゃんの血はどういうことなのかしら?肉体の損傷の回復、もしくは身につけているものも修復するのはまぁ納得も理解もできていないけれど分かったわ。けれど、さっきポケモンで例えていたのだし、ポケモンで言う所のタイプとかもあるんじゃないかしら?」

「素晴らしい洞察力ですね。その通りです。現在オーヴァードには13種類のシンドローム、ポケモンでいうところのタイプが確認されています。人によっては1種類、2種類、3種類のシンドロームを保有しています。それぞれ、ピュアブリード、クロスブリード、トライブリードと呼びますね。3種類が混ざりあっているため器用貧乏なトライブリード、1種類だけのため特化しているピュアブリード、ピュアとトライの間のためどちらかに特化していたり混ざりあっていたりするクロスブリード、と言う方が良いでしょうか」

「難しいわね」

「知らない言語を学ぶようなものですからね。そう感じるのは当然ですよ。そして先程の13種類ですが、それぞれに特徴が存在します。光を操るエンジェルハイロゥ、時と重力を操るバロール、電気を操るブラックドッグ、血を操るブラムストーカー、肉体を獣化させるなどして強くするキュマイラ、肉体を軟化させるエグザイル、波を操るハヌマーン、砂と元素を操るモルフェウス、脳が異常発達するノイマン、領域を操るオルクス、熱を操るサラマンダー、体内で薬物生成が可能になるソラリス、カービィの如きコピー能力や影を操るウロボロスの13種ですね」

「ちなみに私はブラムストーカーとノイマンのクロスで」

「私はバロールとモルフェウスのクロスブリードですね」

「だから血を操って、ベッドに染み込んだはずの血を体内に戻したんだけどね」

 

言ってネタばらしをするフェルだが、反応は薄い。もちろん、その程度のことであれば想定の範囲内ではあるのだが、反応されないというのは誰だって悲しいものである。

 

「あ、あれ?簪?虚さん?刀奈?おーい」

「さすがに、脳の処理が追いつかない・・・・・・・」

「そりゃ、そもそもの作りが違うんだし」

「それに、先程のティナさんの銃がどこから出たのかというのも気になります」

「それは簡単ですよ。ここに材料がありますから」

 

そうしてティナは指を指した。だが、その方向には何も無い。強いて言うならば壁があるぐらいだ。

 

「何もないじゃないですか」

「何も無ければどうして人間は生きられるのですか?」

 

虚の問いかけに対してティナは逆に謎かけのような問いを重ねてきた。どういうことなのかと考える虚に電流走る。フェルを撃った時、彼女は「素材なんていっぱいある」と言った。そして、「ここに材料がある」「何も無ければ人間は生きられない」とも言った。彼女らが自分達の常識に当てはまらないのだとすれば。

 

「まさか、空気から作成しているのですか!?」

「ええ、そのまさかですよ」

「ですが!錬金術では等価交換を乗り越えられないはずですよね!?」

「だってティナがやってるのって錬金術じゃないし。化学反応ですらないし」

「空気中の窒素を銃にしているだけですし」

「それだと銃の反動で壊れないかしら?」

「・・・・・お嬢様。ティナさんはもしかすると、そもそも元素自体を作り替えているのではないでしょうか?」

「操る、の方が正しいですね」

「ティナ〜、お菓子ちょ〜だ〜い〜」

「仕方ないですね。では、これをどうぞ」

「わーい」

 

虚は疲れたのか、突っ込みの鋭さも無くなってきた。そして、本音にお菓子を要求されたために今まで持っていた銃を本音に投げ渡すティナ。ギョッとする更識姉妹。さっきまでその銃口から硝煙が立ち上っていたのである。しかしそんなことはお構い無しに本音は大きな口を開けて。

 

「いただきま〜す」

「ほ、本音っ!」

 

サクッ

 

「「えっ?」」

 

金属で出来た銃をそのままバリボリと貪り食うのかと思えば、聞こえてきたのは快音だった。それも、ウエハースを食べているような。

 

「うんまーい!今回はホームランバーみたいにしたんだね〜」

「ええ。刀奈さんも簪も、お菓子を食べるというのに変な顔になりましたからね」

「ちょ、ちょっと待って。ティナ。その銃って、フェルを撃った物、だよね?」

「そうですね。フェルを撃った物でしたね」

「どうして食べられるようになってるのよ!?」

「さっきティナが言ってたでしょ?元素を操れるって。だからその力で銃を食べ物に変えたんだよ。ティナなら角砂糖を水爆にしたり、砂漠をオアシスにしたり、ボールを太陽にすることだって児戯なんだよ」

「そんなの、人間じゃ」

「人間じゃないから出来るんだよ?確かに私達は人の姿をしてるけど、中身は全く別だったりするし。1番特徴的なのはキュマイラとエグザイルかな?キュマイラの人は車を片手で持ち上げたり肉体を変化させて獣になったりするし、エグザイルの方は○NEPIECEのルフィみたいに手足を伸ばしたりNARUT〇の君麻呂みたく骨で戦ったりするし。

「・・・・・・・・」

 

刀奈は色々と言われて処理落ちに陥ったようだ。簪は何かを考えたあと、何かに気付いて顔を青くした。

 

「ねぇフェル、ティナ。その異能、公表しない理由って、もしかして強力なデメリットとかあるんでしょ。さっきも、フェルがフェルである内とか言ってたし」

「・・・・あるよ。とびきり大きなやつがね。ウィルスってさ、大抵は人間の免疫力が抵抗することで熱を出したりするわけでしょ?」

 

フェルは苦笑しながら説明する。だがその内容はよく聞くウィルスへの免疫力による抵抗だった。つまり、この後フェルが言うことは、未知の感染症をばら撒いてしまう、ということなのだろうと予想しながら簪は黙って聞く。ただ、フェルがフェルである内、というのが何処で入ってくるのかわからなかった。

 

「でも、普通のウィルスみたいに、肉体を侵食して最悪殺す、っていうわけじゃないんだよね。もしそうだとするとレネゲイドウィルスは多分もう絶滅してるはずだし。レネゲイドウィルスの場合は、宿主の精神を侵食して人間性を殺すんだよ。自分の欲望を叶えることしか考えない化け物、ジャームにするために。肉体はオーヴァードになった時点でナノ単位で作り変わってるから、あとは自我を作り変えれば、大量殺戮を行い続ける殺戮者の完成って訳。まぁ、エフェクトを使わずに居れば何とかなるんだけど」

「例えば、誰かと恋人になっている人がジャームになったとします。すると、ジャームにとってはその恋人以外邪魔だと思うので殺すわけです。もちろん、自分がジャームだと分かっていないからいつもと同じように暮らすのですが、イラついたことがあれば惨殺したりしますね。つまり、人間から理性や倫理観や常識を排除した化け物を想像すれば一応基本は押さえられますね」

「SIDSD、あ、英語で略さずに言うとでSpecial Infectious Disease Strategy Department、まぁ特殊感染症対策部の略称なんだけど、ストレス発散用として電子制御かつVRゲームの中で擬似的にジャーム化出来るんだよ。依存性が高いからそっちで満足しちゃってる節もあるんだけど、だからこそ実際にジャームになるっていうのは忌避感を覚えるかな」

「それって今度見ることとかは出来ますか?」

 

簪はその強烈なデメリットを聞いて、顔をさらに青くして恐怖に陥った。だがそれとは別に、ティナの擬似ジャームとやらになった姿も見てみたいと思ってしまった。

そしてここでやっと復活した虚は、色々ありすぎて考えが追いつかなかったのか、それとも化け物の想像がつかなかったのか、いつもの虚らしくない質問をした。キョトンとするティナ。額に手を当てて苦笑いするフェル。ギョッと目を向く更識姉妹。にんまりとした笑みを崩さずに薄目を開く本音。

 

「今日・・・・・はちょっと遅いし、明日でも良い?別に空いてる日があれば一応見せられるけどね。そんなに気になったの?」

「いえ、その・・・・はい」

「それはそうですよね。特に布仏ですからね」

 

その言葉にサッと顔を青くしてティナの方を見る虚。その表情は鮮やかな恐怖だけで彩られていた。主人である刀奈も、簪もさらに目を剥いた。

 

「本音の親友なのに、その辺のことは知らないとでも思ってた?」

「もちろん、更識や布仏が生まれた時もその場に居ましたよ」

「というか、1番最初に布仏当主になったのは本音だよ?そこから分家とか生まれてたけど、3人は教えて貰ってたでしょ?」

「え、えぇ・・・・・・・・」

「そりゃ2億から歳数えるのはやめたけどさ、記憶力は良い方だからいつ、何があったとか、結構事細かに覚えてるよ」

「ナチドイツのことも?」

「まさか機械化兵が大量に製造されてるとは思ってなかったね」

「表にあった月がまさか偽物で、質量兵器とは思いませんでしたね」

「あー、あったあった。アレの時が1番最後だったっけ?みんな で協力プレイしたのは」

「一応会っていることには会っていますからね」

「もしかして〜、スグリンとかソラーとかヒメのこと〜?私あの時から数えると2回ぐらいしか会えてないんだけど〜?羨ましいなぁ〜いいなぁ〜」

「SIDSDに行く時にでも呼ぶ?」

「やったぁ〜」

「ピ、ピラミッドの事とかも覚えているのかしら?」

「いや、アレは忘れる訳には行かないよ。スフィンクスは目からビーム出すし口元を変形させてレールガン撃ってきたもん。ティナが初めてリザレクトした時じゃない?アレ」

「まぁ、その代わりアレのおかげでビーム兵器もレールガンも作れるようになったので感謝しかないですね。ピラミッドの上部が開いて滑走路が出来上がったのには浪漫を感じられずにはいられなかったのですが」

「分かる〜。でも〜、スグリやソラの技術を〜オーパーツとして使うのはキレたから滅ぼしちゃったよね〜」

「あの時、本音の本気を見たよね。外見はそのまま中の生物だけを殺す、なんて何処のバグかと思ったね」

「流石にあの芸当は私には無理ですよ」

「私も無理ー」

「アマネ辺りだとどうなんだろ?」

「兵器に対して傷を与えずに、というのは難しいですよ。元に戻すというのならアマネよりもリンネの方が、でしょうね」

 

和気藹々と会話が繋がるが、フェル達が会話を繋げていく度に刀奈や簪、虚にとっては彼女達が本音と同じ時間を過ごしていたということを理解せざるを得なくなった。

 

「・・・・・その様子だと、他にもいるのね?知り合いかどうかは分からないけれど」

「2人だけでSIDSDを名乗ってるわけじゃないよ。支部はないけれど、本部もしっかり存在してるし」

「それなら、呼びましょうか?ワームホールとどこでもドアと、どちらがいいか教えてもらえれば」

「じゃあ、ワームホールかな」

 

刀奈が話を逸らすためか話題を変えてきたが、ここのメンバーを驚かせるためには誰が良いのか。2人には既に3人の姿が思い浮かんでいた。過去に会った陰湿かつ邪悪かつひねくれた魔女のように、口元は三日月のような笑みを浮かべて、彼女達を呼び出すためにいつもの使い慣れたスマホから、彼女達に連絡を取った。返事はすぐに来た。全員がOKとのことだった。

 

「ティナ」

「分かってます」

 

合図をすれば床に穴が空いた。もちろん、実際に穴が空いた訳では無い。ワームホールとして座標を固定したのである。

 

「はーい!呼ばれて飛び出てどどどどーん!天っ才っ殺戮系美少女の紅葉雪音ちゃんをお呼びかなー?」

「雪ちゃん!?」

「あり?フェル?・・・・バラしたの?」

「もち。だってそりゃ、本音経由でバラされたし。それに、被害は最小限の方が良いでしょ?」

「それはそうなんだけどにゃー」

「え、本当に雪ちゃんなの?」

 

初めに勢いよく飛び出てきたのは紅葉雪音という少女だった。彼女、というより紅葉家というのは更識と共に日本の暗部を担う片翼である。更識は諜報や暗殺など手を広げているが、紅葉は暗殺とその後始末のみを仕事とする。そのため更識のように表の顔は存在せず、政府の命令や金で雇われて暗殺をすることを生業としている。もちろん、お互いに協力しなければ成功しない任務も存在している。つまるところ、彼女とは幼馴染なのだ。それも、ズブズブと深い沼にハマっているぐらい。

 

「ゆ、雪、さん・・・・・」

「んもー、簪ちゃん?さん付けはやめてって言ってるでしょー?同じ年代なんだしにゃー」

「・・・・・・・ゆ、雪」

「よく出来ましたにゃー」

「同年代って・・・・・。いやいや、雪は20超えてるでしょ?お皿を鑑賞しながらそれを肴にしてお酒飲んでるし」

「だから驚いたんだよー?20歳過ぎてるのに高校に潜入しろ、だなんていうのがティナから言い渡されたんだしー」

「えぇ・・・・・・」

 

今いる更識家と布仏家のメンバーの中で1番の年長者である虚よりも年上ということに、虚自身引いていた。それはそうだろう。今まで同じ年代だと思っていた親友が、実は既に成人していただなんて聞くと、今までの話し方や何やらが失礼だったかもしれないというふうに考えてしまうからだ。もちろん、彼女がそれを嫌う思考である、というのは重々承知の上なのだが。

 

「それで?フェル、もしかして私達と共同戦線を組む流れにしたの?」

「そういうこと。雪は理解が早くて助かるよ」

「というより、それ以外の選択肢が無いだけだからねぇ。そうなったら、今までやってこなかった紅葉家の全力バックアップの元、世界の更識と呼ばれるほどの実力になった更識家のパワーバランスをさらにこっち側に崩せるにゃー。オーヴァードの能力で検索とか予測とかを」

「その辺は私がするからだいじょぶ〜。更識の情報網は私が要だし〜」

 

えっへん、というふうに胸を張る本音。これが2億以上の歳を重ねた女の子?である。

 

「本音ちゃんが味方なら心強いにゃ〜」

「ねぇフェル。あとの二人も、私達の知ってる人なの?」

「よく分かりましたね。その通りですよ」

 

そう言って、残りの2人も出てきた。本音も含めた4人は、それぞれの驚き方で感情が彩られた。

まぁ、この密談により彼女達の関係が密になったのは言うまでもない。

 

「で?殺戮大好き家系の虚さん?どうする?明日見に来る?見に来るんだったら色々向こうのメンバーに伝えておかないといけないんだけど」

「お願いしても、いいですか・・・・・」

「分かりました。では、そのように」




布仏家に殺戮大好き設定が追加されたよ!


とりあえずここからは巻きで行けたらいいなぁ(願望)


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