暗殺者のごとく (aros)
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第1話 加わる時間

はじめまして。
arosです。
初投稿なので、酷評は勘弁してとは言いません。悪いところはしっかり指摘してください。

時系列は原作の毒の時間の日の朝からです。



⇒渚side

 

 

 

椚ヶ丘中学校3-Eは暗殺教室。

 

 

 

停学明けのカルマ君もクラスに馴染み、またいつも通りの日常が始まる───

 

 

 

 

と、そう思っていた。

 

 

 

 

その時までは─────

 

 

 

 

それは、ホームルームが始まり、いつも通り射撃を行いながらの出欠を取り終えた後のことだった。

 

「ヌルフフフ。今日も遅刻は居ませんねぇ…素晴らしいことです。」

そう言って普段は黄色い顔を朱色にしたまるでタコのような姿をしたこの超生物は僕達の間では殺せんせーと呼ばれている。

 

 

月の大半を破壊したこの生物は何を思ったか僕達の担任をすると言い出し、このクラスにいた僕達は秘密裏にこの生物の暗殺をするよう政府から依頼されたのだ。

 

 

今までさまざまな方法で暗殺が試されたが、どれも殺せんせーの命には届かなかった。

 

 

そして、もうすぐ4月も終わるというそんな時期だった───

 

 

 

 

 

 

「あぁ忘れるところでした。今日からこのクラスに新しい仲間が加わります。」

 

 

 

 ─そんな言葉を聞いたのは。

 

 

 

 

──ッ!!

これには僕も警戒した。

それもそうだろう。そんな情報、一切聞かされていないし、それに、この時期に来るとしたら──

 

「殺せんせー、この時期に来るということは殺し屋かなにかですか?」

僕の思っていることと同じことをクラス委員の磯貝君が聞いた。

どうやら、警戒していたのは僕だけではなかったようだ。

 

 

そんな磯貝君の質問に殺せんせーは──

 

 

「いえ、先ほど烏間先生から聞きましたが、どうやら違うようです。ちょっとした事情があってこのクラスでの暗殺に加わるみたいです。」

 

その言葉に僕は警戒心を解いた。

よく見ると全員警戒していたみたいで、安堵の表情を浮かべていた。

でも、殺せんせーの話にあった“ちょっとした事情”というのは何なんだろう?

 

 

「っと、長くなってしまいましたねぇ。

それでは紹介します。

入ってきてください。」

その言葉に僕達はドアの方を向いた。

そして、あまり間を置かない内にガラッという音と共にドアが開き、男子用の制服を着た生徒が「あ…どうも…」と言いながら入ってきた。

 

 

その生徒は前が少し盛り上がったちょっとくせ毛のある青い髪、僕より10センチ高いくらいの身長などカッコ悪いわけではないがかっこいいわけでもない、いわゆる微妙という印象だった。

 

「綾崎君、こちらに来て自己紹介をお願いします。」

「あ、はい。わかりました。」

綾崎君というらしい転校生が自己紹介をしようと教卓の方に歩いていった。

 

 

 

 

 

次の瞬間───

 

 

 

ツルッ※対先生用BB弾を踏んで滑る

「うわっ!!」

 

 

 

ゴンッ※後頭部を床で強打する

「ギャフッ!!」

 

 

 

ヒュー ゴスン※天井の板が顔面に落ちてくる

「ゴハッ!!」

 

 

 

 

「だ、大丈夫ですか?」

なにがあった!?

「いえ、大丈夫です。鍛えてますので。それに、よくあるんで…。」

よくあるんだ!?

「そ、それでも心配になるものなんです。」

なんか、殺せんせーテンパってない?

「ほ、本当に大丈夫なので、そろそろ自己紹介してもいいですか?」

そういえばそうだったね…。

「え、ええ。足元は私が綺麗にしますので、そこを歩いてください。」

 

 

 

 

 

 

それから少しして、

「それでは、改めて自己紹介をお願いします」

やっと自己紹介が始まり、

「では…綾崎ハヤテです。」

男女関係なく魅了するような笑顔と共に、

「僕自身はあまり勉強とか得意な方ではありませんが…皆さんと一緒に楽しく学んでいけたらいいな、と思っています。」

E組に新しい仲間が加わった。




慣れてない間は難しい…

一応、ハヤテの年齢は14です。


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第2話 会話の時間

第1話を詠んでいただいた皆さん、お待たせ致しました。


今まで仕事があったため時間が無く、投稿出来ませんでした。


それでは、第2話、行きましょう!


⇒渚side

 

 

 

“綾崎ハヤテ”

 

 

 

輝くような笑顔と共に告げられたらその名前は、僕達の耳にしっかり入ってきた。

 

 

 

 

「ヌルフフフ。仲良くしてくださいね。」

殺せんせーが仲良くするように促してきた。

たぶん、言われなくても仲良くしていたと思う。

このクラスには杉野とか倉橋さんとかフレンドリーな人がそこそこ多いからね。

 

 

 

「質問がいろいろあると思いますが、休み時間にでもお願いします。

さて、綾崎君の席ですが……。

菅谷君の後ろが空いてますねぇ。その席でお願いします。」

「あそこですね。分かりました。」

そう言って教室の一番後ろまで歩いていった。

 

 

 

 

ちなみに、殺せんせーが綾崎君の足元を綺麗にしていたので、足を滑らせるなどはなかった。

 

 

 

 

「それでは、銃と弾を片付けて授業の準備をしてください。」

 

 

 

その時、僕達は思った。

(((自己紹介の前に片付けたら足を滑らせることもなかったと思う……)))

、と

 

 

 

 

 

 

時間は過ぎ、一時間目終了後

 

 

「ねぇ綾崎君。」

 

 

僕は思い切って綾崎君に話しかけた。

 

 

「…?

僕に用ですか…?

えぇと……」

 

言葉に詰まっている?……あぁ、なるほど。

 

「そういえば、自己紹介がまだだったね。

僕は潮田渚。

よろしくね。」

「こちらこそよろしくお願いします、潮田君。」

「渚でいいよ。

皆もそう呼んでるし。」

「分かりました。

改めて、よろしくお願いします、渚君。」

自己紹介の時と同じように綾崎君は笑顔を浮かべていた。

でも、その笑顔も、正面から見るとなんだか上辺しか笑ってないように思えた。

 

 

 

 

 

「お、渚はもう綾崎と親しい間柄になってんのか。」

そこに、杉野がやってきた。

「俺は杉野友人。

好きなように呼んでくれ。」

「はい、よろしくお願いします杉野君。」

 

 

 

 

「へぇ、渚君も杉野ももう綾崎と仲良くなったんだ。」

「あ、カルマ君。」

次にやってきたのはカルマ君だった。

「意外だな、お前が来るなんてな。」

「だってさ、さっきのおもしろかったしね~。

あ、俺、赤羽カルマ。カルマでいいからね。仲良くしようよ。」

さっきの…恐らく足を滑らせたアレだと思う。

「あ、はい。

よろしくお願いします。カルマ君。」

 

 

「ところでさ綾崎、殺せんせーが言ってた“ちょっとした事情”って何なの?」

 

 

───ついに聞いたか。

そう思い、綾崎君の方を見る。

そこには、何かに怯えるように小刻みに震える綾崎君が居た。

 

 

どんな事情があればこんな事になるのだろう。

気になったが、聞ける雰囲気ではなかった。

「い、言いたくないならいわなくていいから。」

カルマ君もそう思ったのだろう。それ以上は何も言わなかった。

 

 

 

 

 

そして、僕達が4人で世間話をしていた時、

「あ、あの!!」

突然の声にそっちを向いた。

 

 

 

「綾崎君、だっけ……?

朝会ったと思うけど、覚えてない、かな?」

珍しい人が話しかけてきた。

ていうか、綾崎君のこと、知ってるの?

 

 

 

「あれ……?

キミは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自転車のキミ。」

「その呼び方は酷いんじゃないかな!?」

 

 

 

 

ズデッ

教室中でずっこけた。

全員聞き耳立ててたんだ……。

 

 

 

「西沢、綾崎のこと知ってんのかよ。」

杉野が彼女の名を呼んだ。

「うん。

今日来る途中で会ったんだ。」

そう、彼女は西沢歩さん。

個性の強いこのクラスでただ1人特徴的なところがない女子だ。

クラスであまり会話をしないからもの静かな人だと思っていたけど、結構積極的に話す人なんだ。

でも、だったらなんで普段話さないんだろう。

 

 

「西沢さん、というんですね。

今朝は助かりました。」

「いやいや、こっちも助けられたし、お互い様じゃないかな?」

 

 

助けられた?

いったい、二人の間に何があったんだろう?




長くなるので、一旦切ります。


そして、ハヤテのごとくメンバーから1人追加です。


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第3話 西沢の時間

お待たせしました。
第3話です。


今話はハヤテと西沢さんがどうやって会ったのかを載せようと思います。

それでは、本編スタート


⇒歩side

 

 

 

それは、登校中にあった出来事だった。

 

 

 

私は自転車で、

 

 

 

 

 

 

 

「キャーーーーー!」

 

 

 

 

下り坂を爆走していた。

 

 

 

 

「ちょっ…!!何これ!!ブレーキが壊れてるんじゃないかな!?」

止まろうとブレーキをかけても“カスカス”という音しかせず、スピードは増すばかりだった。

 

「ま!!マズいよ!!こんなスピードじゃ……そこの角を……」

───曲がれない。

そう言おうとした瞬間、落ちていた石で前輪が跳ね上がった。

 

死んだ。

 

冗談抜きでそう思った。

 

 

ガシャンという音が響いた。

自転車がどこかにぶつかったのだろう。

しかし、いつまでたっても衝撃は来なかった。

不思議に思い目を開けると、真新しい椚ヶ丘中学校の制服を着た青い髪の少年が居た。

 

そして、彼はこう言った。

「自転車はちゃんと整備してないと危ないですよ。」

と、

 

 

 

 

 

 

⇒渚side

 

 

 

(((カッケェ!!)))

綾崎君と西沢さんの出会いを聞いていた皆の心の声だった。

 

「も~、だから自転車は常に状態を確認しておくようにっていったじゃん!!」

「ゴメンゴメン。それで自転車をパパッと修理してくれたんだ。」

西沢さんに対し、岡野さんのお叱りの声があがった。

と、いうか綾崎君自転車の修理出来るんだ。

 

「いぇ、困っている人をそのままに出来ませんでしたし、その後椚ヶ丘中学校までの道のりを教えてもらいましたし。」

助けた、助けられたってそういうことだったんだ。

 

 

「つーか西沢、お前結構話すじゃねーか。なんで普段黙ってんだ?」

僕も気になっていたことを近くに来て話を聞いていた岡島君が聞いた。

 

 

「あー…それは…その……」

何か言いにくいことなのかな?

 

「私の周り…おっかない人ばかりだから。」

あぁ納得。

西沢さんの席はちょうどカルマ君と寺坂君の隣だ。

他の狭間さんと村松君も怖い部類の人間だろう。

唯一怖くない千葉君も周りの目を気にするあまり、話しかけづらかったのだろう。

「心外だなぁ。俺のどこがおっかないっての。」

「お前それ本気で言ってんのか?」

カルマ君の発言に対し、千葉君のツッコミが入った。

それもそうだろう。こんなほっといたらなにしでかすか分からない悪魔のどこがおっかなくないのか教えてほしい。

「なんにせよ、これから会話量を増やしていけばいいんじゃない?」

「そうだな」

原さんの問いかけに菅谷君が答えた。

そして周囲からも肯定の声が聞こえた。

 

 

「まぁとりあえずよろしくね、綾崎君。」

「えぇ、よろしくお願いしますね、西沢さん。」

とりあえず握手をしようとする2人。

 

 

しかしそこに、

「何なに~。転校生君はいきなりかわいい娘引っ掛けたワケ?」

ゲスの魔の手が忍び寄った。

それにより今まさに触れ合おうとしていた2人の手が離れ、西沢さんは顔が赤くなった。

「ちょっ!!いきなり変なこと言わないでくださいよ!!だいたいかわいいとかどうとか言うんでしたらあなたも十分かわいいと思いますが!!」

………ハァ!?

「ちょっ!?あんたそれ、いきなりなにを……」

中村さんの顔が赤くなった。

不意打ちのカウンターだからだろう、西沢さんよりも真っ赤だ。

綾崎君は……何のことやらという表情だった。

もしかして自分が何を言ったか気づいてない?

「こいつ、鈍感か?」

「天然ジゴロも入ってると思うぜ。」

誰がいったのかは分からなかったが、その言葉を否定する者は居なかった。




次の更新まで一週間以上間が開くと思います。


お楽しみにしていてください。


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第4話 実力の時間

皆さん、お久しぶりです。
先週の火曜日から一週間仕事で、投稿不可能でした。

前回までは一時間目と二時間目の間でしたが、今回は四時間目が始まる直前(昼休みが四時間目の後と考えている)まで時間を進めます。

今回は長いです。
それでは、本編スタートです。


⇒渚side

 

 

 

綾崎君が鈍感で天然ジゴロだと分かってから時間は進み、次は烏間先生が担当する体育という名の訓練だ。

 

 

 

「なぁ綾崎、お前体育にちゃんとついてこれるのか?」

「ついていけるかどうかは置いておいて、できる限りのことはやろうと思います。」

「というか前原、俺達だって訓練始めて間もないだろ。」

「言うなっての磯貝」

「俺としちゃついてこれるのか本当に心配なんだが。」

「まぁ、木村君は朝のアレを目の前で見たわけですからね。」

 

 

 

この二、三時間で綾崎君はもうクラスに馴染んでいる。

このコミュニケーション能力の高さは感心せざるを得ないと思った。

 

 

 

ちなみに、いちいち自己紹介のために会話が途切れるのもいじらしいということで、菅谷君が似顔絵付きの座席表を渡していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は綾崎君の実力を見てみたいと思う。綾崎君、そのナイフを俺に当ててみてくれ。」

どうやら、烏間先生も綾崎君の実力が気になるようで、今日の体育は彼の戦闘技術の確認にしたようだ。

「え?確かに怪我とかしなさそうですけど、いいんですか?」

「無論、当たらないように捌くし、反撃もする。全力で来てくれて構わない。」

綾崎君の疑問に答える烏間先生だが、あれは当たらないという自信があるからこそのものだろう。

実際僕達がナイフを振りかざしてもいっさい当たらないからね。

 

 

「じゃあ、お言葉に甘えさせていただきます。」

「そうしてくれ。始めるタイミングは君の自由にしてくれ。」

 

 

「綾崎の腕前はどんなものか、確かめるとするか。」

「ま、使えるに越したことはねーけどな。」

岡島君と三村君の会話が聞こえてきた。

かく言う僕も彼の実力は気にはなる。

 

 

 

 

「じゃあ、行きます…よっ!!」

「…ッ!?」

烏間先生がオーバーに避けた。

それもそのはず、なぜなら……

「は、速ぇ!!」

「距離を詰めるまでが全く見えなかった!」

「木村よりも速かったんじゃねーか!?」

皆のいう通り、とにかく速いのだ。

それだけじゃない、ナイフを振るう動きに無駄がない、たとえ避けられても次の動きにすぐに切り替えられるよう最小限にしかナイフを振っていない。

 

 

 

「隙あり!」

「しまっ!?」

烏間先生もナイフを避けることで手一杯だったようで、足元ががら空きになっていたようだ。

その隙を狙って綾崎君は足払いを仕掛けた。

それにより体勢を崩された烏間先生に向かってナイフを向け突っ込んでいく。

 

 

烏間先生にナイフを当てられる。そう思っていたそのとき───

 

 

 

 

 

 

ズドドドド

地響きと共に猪が走ってきて綾崎君を突き飛ばした。

 

 

 

その隙に体勢を立て直す

あともうちょっとだったのに……

「いい動きだった。あの時猪がいなかったら確実にナイフを当てられていただろう。」

烏間先生はそう評価したが、この状況だと慰めているだけにしか聞こえなかった。

 

 

 

 

 

「…さて、綾崎君個人の実力は分かった。次は二人でのコンビネーションを見てみたい。誰かやってくれるという人はいるか?」

その言葉に緊張が走った。

それもそうだろう。あんな素早い動きと高度なナイフ技術についていけるとは到底思えなかったからだ。

周りも「出来るか?」や「ついていけるわけがない。」などの言葉が聞こえてきている。

「渚、お前は出来るか?」

「無理。絶対足手纏いになると思う。」

杉野から聞かれるもその返事がこれだった。

 

 

「いないのなら仕方ない。こちらで…「やります。」…ッ」

誰も名乗り上げないのを見かねた烏間先生が選ぼうとしたそのとき、岡野さんが名乗りをあげた。

「岡野さん、いいの?」

その岡野さんを心配してか隣にいた茅野が声をかけた。

「うん。考えて決めたことだしね。」

その言葉に心配いらないというように返す岡野さん。

「よし、それじゃ行ってくる。」

そう言って綾崎君の下に向かって行った。

 

 

 

 

 

▷ひなたside

 

 

 

「よろしくね、綾崎」

「えぇ、こちらこそよろしくお願いします。」

即席のタッグである私たちは一応の礼儀としてよろしくと言い合った。

そして、軽い作戦会議の後烏間先生の前に陣取った。

 

 

 

 

「よし、では始めようか。」

そう言って構える烏間先生。

多分、さっきの綾崎との模擬戦で気を引き締めたのだろう。

そして、開始と共にさっきと同じように烏間先生に突っ込んでいく綾崎とそれを予想していた様子で避ける烏間先生。

「さっきとパターンが同じだ!それではヤツに…ッ」

感づかれると言おうとしたであろう烏間先生の声は途切れた。避けた先に私がいたことに気づいたのだろう。

「…なるほどな。綾崎君の特攻はフェイクで、本命は避けた先の岡野さんだったか。自分を囮に使ったこともそうだが、岡野さんのいる方向に誘導したことも感心せざるを得ないな。」

私の攻撃をバックステップで回避した後の烏間先生の第一声はそれだった。

「くっ、まだまだ。」

「出来るところまでやらせてもらいます。」

その一言で闘志を燃やした私たちは烏間先生に再び向かって行った。

 

 

 

烏間先生にナイフを当てようと綾崎が再び向かって行ったので、今度こそとさっきとは別の方向から向かっていった。

しかし、さすがに気づいたのか烏間先生は綾崎の攻撃を避けた後近づいていた私の腕を掴み横に投げた。

そこには烏間先生に向かって走ってきた綾崎がいた───

 

 

「「え!?うわぁ」」

私と綾崎は正面衝突と相成った。

 

 

「ゴ、ゴメン綾崎。大丈夫!?」

「えぇ、岡野さんは大丈夫ですか。」

「う、うん。私は大丈夫。」

「ならいいんですが、ええと……」

綾崎が言いよどんだ?どうしたんだろう。

「…?どうしたの?」

思わず聞いてしまった。

「じゃあ……その……そろそろ降りてもらえませんか?重くはないんですが、その、近すぎて……」

その言葉に今の状況を確認した。

どうやら私は綾崎を押し倒しているようだ。

恐らく、先ほどの正面衝突によるものだとすぐに結論付いた。

「~~~~ッ///」

顔が赤くなるのを感じ、とっさに飛び退いた。

 

 

 

なんなのかな、この胸の高鳴りは…。

顔も熱いし…もしかして…。

でも、あり得ない。

だってさっきの話を聞いてから…私は歩っちの事を応援するって決めたのだから。

 

 

 

 

 

▷渚side

 

 

 

「綾崎君、次はエアガンを使ってあの的を撃ち落としてくれ。」

いろいろあった綾崎君のナイフ技術の確認が終わり、次は、綾崎君の射撃技術の確認だ。

「綾崎の射撃技術はどうなんだろうな。」

「もしナイフ同様高い技術を持っていたら前衛と後衛両方出来るオールラウンダーね。」

磯貝君と片岡さんが綾崎君の射撃技術について議論していた。

 

 

 

 

そして、綾崎君がエアガンを構え、発射した。

撃った時の姿勢も狙いも完璧だ!

 

そして、綾崎君の放った対せんせー用BB弾は的の中心に吸い込まれて───

 

 

 

 

 

 

カァ-- パクッ  バサッ

いこうとしたところで、カラスにBB弾を持って行かれた。

 

 

 

 

この日綾崎君は合計20発撃って命中は10発(外れたうち10発とも中心にあったが、何らかの現象で逸れたもの)だった。




というわけでハヤテの実力をクラスの皆に見せました。


つーか、女子が全然名前が出てこない。



暗殺教室のSSハーレム系作品の王道メンバー(神崎、倉橋、速水、矢田)はとりあえず後回しにします。


さぁ皆さん、この作品で暫くの間邪道をお楽しみください。


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第5話 昼休みの時間

投稿間隔最短記録更新!!



皆さんどうも、arosです。
とりあえず次の休みに原作の毒の時間をやりたいので、今日投稿する事にしました。


それでは、本編スタート


⇒渚side

 

 

 

綾崎君の実力に驚かされた体育も終わり、今は昼休みだ。

昼食を食べようと僕が登校中に買ってきたパンをあけていると、

「渚君、お昼一緒にご一緒していいですか?」

綾崎君が聞いてきた。別に断る理由もなかったし、

「うん、いいよ。」

すぐにそう返した。

そして近くから椅子を確保してきた綾崎君がお弁当を広げた。

そこで──

 

 

「ねぇ、綾崎君。」

「どうかしましたか、渚君?」

「いや、このお弁当誰が作ったのかな?って思ってね。」

綾崎君のお弁当に疑問を持った。

中身自体は安い食材を使っているみたいだけど全然安そうに見えず、彩りもきれいで栄養にも気を使っているそんな感じのお弁当だった。

だから親が作ったものだと思いつつ、そう聞いた。

その疑問に対する綾崎君の答えは──

 

 

 

 

「あぁこれですか。僕の手作りですよ?」

「えっ!これ綾崎君が作ったの!?」

まさかの手作りだった。

周りも驚きの表情でこっちを見ていた。

「綾崎君、料理出来たんだ。」

「親は作ってくれねーのかよ。」

近くにいた茅野と杉野が綾崎君のお弁当を覗き込んでそれぞれ言っていた。

杉野の問いに綾崎君は───

 

 

 

「えーと、実は僕一人暮らしなんですよね。」

『ハァ!?』

クラス内で声があがった。

これは僕も予想外だった。

手作りと言っていたことから親が起きるのが遅いか料理出来ないの二択だと思っていたのだから。

「まあ、昔から家での料理担当僕でしたけど。」

あ、昔から料理してたんだ。

それがこの時間一番安心したことだった。

 

 

 

 

 

 

紆余曲折あった昼食も終わり、休憩ムードだった。

だけど、僕は目の前の綾崎君と話す気になれなかった。

なぜなら──

 

 

 

 

 

「私の中ではこのプリンが一番美味しいと───」

「それもありだと思いますが、こっちも舌触りが───」

 

 

 

 

 

茅野と熱いプリン談議を交わしていたからだ。

誰がこの空気に入って行けようものか。

というか、本当に綾崎君はすごいと思う。

今日が初登校だというのにまるで今までずっといたかのようにクラスに溶け込んでいる。

その理由はこのように熱く談議出来る話題に事欠かないところだと思う。

二時間目と三時間目の間でも、岡島君とカメラの機種についてで語り合っていた(女体の話になると逃げ出していた)り、三村君と映像(映画)作品の話で盛り上がっていた(岡島君が○Vの話をしだしたところで退散していた)りと、何かと他人の盛り上がる話題を見つけて近づいていた。

そういえば、僕達との世間話でも大概杉野と野球の話題で盛り上がっていたっけ。

 

 

 

「そういえば、気になったんですけど……」

「どうしたの?」

おっと、いつの間にか話題が変わっていたようだ。

今度の話題は何だろう?

「殺せんせーってなんで“殺せんせー”って名前なんですか?」

──ッ!?

この話題か!

「そっか、綾崎君そのときいなかったんだ。じゃあ知らないよね。渚の自爆テロ事件。」

「ぼ、僕だけが引き起こしたわけじゃないよ!」

そうそれは僕達が殺せんせーに叱られたあの日の話だ。

「えーと、どういうことでしょうか。」

ワケもわからず混乱していた綾崎君にこの暗殺教室が始まって一週間が経ったあの日のことも話すことにした。

 

 

 

 

 

-少年少女説明中-

 

 

 

 

 

 

そして、全てを話し終えた後、綾崎君から出た言葉は───

 

 

 

「その寺坂君って人、バカなんですか?」

だった。

 

 

「人の命をお金で考えているところがバカだと言っているんです。命はお金で買えないものなんです。それを理解出来ない人はお金を持ってもダメ人間になるだけです。」

その通りだと思った。

「まあ、僕はそんなダメ人間のおかげでここにいる訳ですけどね。」(ボソッ

「え!?今なんて言ったの?」

今綾崎君が何か言ったような気がしたが小声だったため上手く聞き取れなかった。

「いえ、なんでもないですよ。」

なんでもないと言っているけど、なんでもないのだったらそんな顔しないよ。

 

 

───今は無理には聞かない。

 

 

───けど、いつか綾崎君が自分から教えてくれるとそう信じて待っているよ。




前回の後書きに神崎、倉橋、速水、矢田の4人は後回しにするといったな。



あれ、半分ウソな。



ただ単に、今の段階では自覚をさせず、後々本人が気づく形にしようとしているのがいる、というだけです。



さて、誰でしょうね?


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第6話 毒の時間

皆さんどうも、arosです。



今回は前の話で言った通り、毒の時間でいこうと思います。


この話から原作の話が続くと思っています。




では、本編スタート


⇒渚side

 

 

 

綾崎君が加わって初の暗殺、それはその日の最後の授業が終わった後行われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キーンコーンカーンコーン

「お菓子から着色料を取り出す実験はこれで終了!!

余ったお菓子は先生が回収しておきます。」

………理科の授業でお菓子を持って来いと言われていたから持ってきていたが、どうやら本当の目的はこっちだったようだ。

 

 

 

「殺せんせー、給料日前だからって授業でおやつを調達してやがるよ…。」

「地球を滅ぼす奴がなんで給料で暮らしてんのよ…」

周りからもそんな声が聞こえてきた。

 

 

「お前はいいよな。

今日から入ってきたから授業内容知らなくてお菓子持ってきてなかったんだからな。」

「出来ればこんな所で貴重な運を使いたくなかったですね。」

後ろからそんな会話が聞こえてきた。

そう、綾崎君は今日から入ってきたので何がいるのかを知らなかったのだ。

普通なら運がないの一言で終わるのだが、お菓子が回収されるのなら持ってきていないのが幸運だったと言えるだろう。

 

 

 

 

「あ…あのっ、先生………」

そんな時、殺せんせーのところに向かっていった生徒が一人、あれは奥田さんだ!

どうしたんだろう?奥田さんは理科が得意分野だから殺せんせーに質問というわけじゃないはずだし……

 

 

 

「毒です!!飲んで下さい!!」

ガクッ

思わずこけてしまった。

ス、ストレート過ぎる……

 

 

 

 

「……奥田さん、これはまた正直な暗殺ですねぇ。」

ほら!!殺せんせーもなんとも言えない雰囲気出してるよ!?

「あっ…あのあの……わ、私、皆みたいに不意打ちとか上手くできなくて…でもっ、科学なら得意なんで真心こめて作ったんです!!」

毒に真心って………

というか、そんな真正面から渡して飲むようなバカなんてさすがに…

 

 

 

 

 

 

 

「それはそれは…ではいただきます。」

飲んじゃったよ!?

「ッ!!こ…これは…!!」

殺せんせーが震えている。まさか、殺せんせーの自爆で暗殺成功!?

 

 

 

 

にゅ

え…ツノが生えただけ?

「この味は水酸化ナトリウムですねぇ…。

人間が飲めば有害な毒ですが、先生には効きません。」

味で毒の種類が分かるんだ…

「あと2本もいただくことにしましょう。

…それでは。」

残りも飲む気なんだ…

「うっ…うぐぁっ…ぐぐぐ…」

苦しんでる!!今度こそ!?

 

 

 

バサッ

今度は羽が生えた。

なんか…無駄に豪華な顔になってきたような感じがするなぁ…。

「酢酸タリウムの味ですね。」

やっぱり分かるんだ。

「では最後の一本。」

もうここまできたら、毒が効かないと理解したよ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

(どうなる!?)

 

 

 

 

 

 

 

(最後はどうなるんだ!?)

 

 

 

 

 

 

 

もはや、毒が効くか否かではなく、殺せんせーの顔がどう変化するのかの方に興味が向いている。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、最後は────

 

 

 

 

 

 

(真顔になった…)

(変化の法則性が読めねーよ!!)

「王水ですねぇ。どれも先生の表情を変える程度です。」

ツノが生えたり羽が生えたりするのは表情なのか?

「てか先生真顔薄っ!!」

「顔文字みてーだな!!」

殺せんせーの真顔に対して教室中からツッコミが入った。

「それと…奥田さん、生徒一人で毒を作るのは安全管理上見過ごせませんよ。」

「…はい。すみませんでした…」

殺せんせーは、そのツッコミを無視して奥田さんにそう語りかけた。

「放課後時間があるのなら、一緒に先生を殺す毒薬を研究しましょう。」

「…は、はい!!」

 

 

 

殺せんせーのその一言に、奥田さんはものすごい笑顔で頷いたが───

 

 

 

 

 

「暗殺対象と一緒に作る毒薬ねぇ。」

茅野のその言葉通りだろう…。

 

 

 

 

 

「あぁそれと、綾崎君も残っていてくださいね。同時進行で君の学力を確かめるための小テストをします。」

「はい、分かりました。」

その二つを同時進行で出来るのだからこの先生はすごい。

 

 

 

 

 

 

綾崎君が放課後に残るため一緒に帰れないと知り落胆する女子が数名いたことは別の話だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

▷愛美side

 

 

 

「では、それをエタノールに投入しましょう。気体を吸わぬよう気をつけて。」

「はいっ」

理科の時間での約束通り、私は殺せんせーと一緒に毒薬を作っています。

 

 

 

「…君は理科の成績は素晴らしいんですけどねぇ…。」

そんな中殺せんせーが不意にそう言ってきました。

その答えはすでに決まっていて───

「…はい。

でも、それ以外がさっぱりで…E組に落とされても仕方ないと思います…。

特に…国語が、言葉の良し悪しとか人間の複雑な感情表情とか何が正解かわからなくて…」

そう、私には正解の決まっていない人間の感情とかがよくわからない。だから、国語の成績が低い。

「…でも、それで構いません。数学や化学式は絶対に正解が決まってるから。私には、気の利いた言葉遊びも細かい心情を考える作業も必要ないんです。」

だって私には、科学の力があるのだから。

「なるほど…分かりました。

では、先生から宿題をあげましょう。」

そう言って殺せんせーが一つのメモを渡してきました。

 

 

 

 

 

「………」

「綾崎君、手が止まっていますよ。

もうわからなくなりましたか?」

「あ、い、いいえ、まだまだです。」

その様子を訝しげに見る綾崎君に私は気づいていなかった。

 

 

 

 

 

⇒渚side

 

 

 

-次の日-

 

 

 

「…で、その毒薬を作って来いって言われたんだ。」

「はい!!理論上はこれが一番効果あるって!!」

奥田さんに成果を聞こうと近づくと毒薬と思われる液体を見せながらそう言われた。

しかも毒物の正しい保管法まで漫画にしてある始末。

相変わらず手厚いなぁあの先生は、

「きっと私を応援してくれているんです。

国語なんてわからなくても私の長所を伸ばせばいいって。」

本当にそうなのかな?

さっきも言った通り殺せんせーは本当に手厚い。

 

 

 

長所だけを伸ばすようなこと…本当にやるのだろうか?

 

 

 

ガララ

「あ、来たよ。渡してくれば?」

「はい!!」

ホームルームの時間となり、殺せんせーが入ってきた。

「先生、これ……。」

今が渡すチャンスとばかりに奥田さんが毒薬を差し出した。

「さすがです。

では、早速いただきます。」

飲むの!?

自分を殺せる毒薬だよ!?

 

 

 

 

「ヌルフフフフフ、ありがとう奥田さん。」

殺せんせーは毒薬を飲み干した後、そう言った。

「君の薬のおかげで…先生は新たなステージへ進めそうです。」

「…えっ、それってどういう…」

な、なにが起こるんだ!?

「グ

    オ

       オ

          オ

             オ

                オ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ」

溶けた!!

 

 

 

「君に作ってもらったのはね、先生の細胞を活性化させて流動性を増す薬なのです。」

 

 

 

シャッ スポッ

「液状ゆえに、どんな隙間にも入りこむことが可能に!!」

そう片岡さんの机の中に入りながら言った。

 

 

「しかもスピードはそのままに!!さぁ殺ってみなさい。」

 

 

 

出来るわけないよ!

隙間に潜り込まれちゃどうしようもないって!

「…これ、倒したら経験値どれだけ手にはいるんでしょうね。」

「綾崎君、のんきに言ってる場合じゃないよ!」

確かにはぐれメタルにそっくりだけど…。

 

 

 

「奥田さん…先生あの薬毒って言ったんだよね。」

「だっ…だましたんですか、殺せんせー!?」

奥田さんが殺せんせーに叫ぶ。

「そうとも限りませんよ。」

その言葉は別の方向から聞こえた。

 

 

「綾崎君…」

「綾崎君の言うとおりです。

奥田さん、暗殺には人を騙す国語力も必要ですよ。」

「…えっ。」

「どんなに優れた毒を作れても…今回のようにバカ正直に渡したのでは暗殺対象に利用されて終わりです。」

「もし毒殺するのなら飲み物に混入させるとかして、特製だとか言って渡すとかですね。」

「そう、人を騙すには相手の気持ちを知る必要がある。言葉に工夫をする必要がある。上手な毒の盛り方それに必要なのが国語力です。君の理科の才能は将来皆の役に立てます。それを多くの人に分かりやすく伝えるために…毒を渡す国語力も鍛えて下さい。」

「は…はい。」

「あっはは…やっぱり暗殺以前の問題だね~。」

 

 

殺せんせーの力の前では…猛毒を持った生徒もただの暗殺者になってしまう。まだまだ…先生の命に迫れる生徒はでそうにないや。

 

「もしかして殺せんせーそれを伝えるために…?」

「えぇ。

もっとも、綾崎君は気づいていたみたいですけどね。」

「こういうのは先生のやる仕事だと思いましたから。」

「…もっと自分を出していいんですがねぇ。

あるんでしょう、奥田さんに言いたいことが。」

「バレてましたか…では、奥田さん、心情を考える作業も必要ないなんて言ったらダメです。機械じゃないんですから相手の心のことを考えましょう。分からないことがあったら僕も全力でサポートします。」

「はい!!では、これからよろしくお願いします!!」

そう言った時の奥田さんの顔は、若干赤かった。

 

 

 

 

 

 

そして放課後───

 

 

 

「ふぅ終わった。さて、帰「綾崎」…?」

綾崎君が帰り支度をしていると声がかけられた。

「あれ、確か千葉君と…速水さんでしたっけ?どうしたんですか?」

声の先にはE組きってのスナイパーの2人がいた。

「いや、迷惑じゃなかったら一緒に射撃訓練をしてくれないか?」

「え?別にいいですけど…何でですか?」

どうやら訓練のお誘いのようだ。

「お前の射撃には見習うべきところが多いからな。それに…」

そこで千葉君は速水さんの方を向いた。

「…何?」

「いや、やっぱり言わないでおく。速水も自覚してないみたいだしな、俺が言うのは野暮ってやつか。」

「…はぁ。じゃあ、行きますか。」

射撃場に向かう三人を見ながら思った。

綾崎君、君は何人女の子を落とすのさ。と

 




な、長かった。


とりあえず、やりたいところまではやりました。



次回もお楽しみに


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第7話 新任教師の時間

時間があるので投稿しようと思います。



原作でのこの話のタイトルはいろいろアウトだと思ったので変えてみました。



それと、原作での4ページ分くらい端折ります。ご了承下さい。




それでは、本編スタート




6/25 このままではダメだと思い、後半部分に修正を入れました。
ついでに、後書きにオマケシーンを入れました。


⇒渚side

 

 

 

今日から5月だ。

この日はまたいつもと違うことがあった。

 

 

 

 

「…今日から来た外国語の臨時講師を紹介する。」

そう、教師が一人増えたのだ。

その教師というのが───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イリーナ・イェラビッチと申します!皆さんよろしく!!」

ものすごい美人なのだ。

それはいいとして、なんで殺せんせーにベタベタにくっついているのだろう。

今だってヅラなのをばらしたのに構わないと言っている。

 

 

 

 

 

「本格的な外国語に触れさせたいとの学校の意向だそうだ。英語の半分は彼女の受け持ちになるが、それで文句は無いな?」

「…仕方ありませんねぇ。」

教師2人の会話が聞こえてきた。

学力底辺の僕たちに本格的な外国語かぁ。

 

 

 

「…なんか、すごい先生来たね。しかも殺せんせーにすごく好意あるっぽいし。」

「…うん。」

恨めしそうに「胸…」と言う茅野にそう返すしか無い僕だった。

でも──

 

 

 

「…でもこれは暗殺のヒントになるかもね。明らかに人じゃない外見の殺せんせーが人間の女にベタベタされても戸惑うだけだ。いつも独特の顔色を見せる殺せんせーが戸惑う時はどんな顔か?」

 

 

 

 

 

 

結果は───

 

 

 

 

 

 

デレー

普通にデレデレだった。人間もありなんだ。

 

 

 

 

「あぁ…見れば見るほど素敵ですわぁ…その正露丸のようなつぶらな瞳、曖昧な関節、私…とりこになってしまいそう。」

「騙されないで殺せんせー!!そこがツボな女なんていないから!!」

…僕たちはそこまで鈍くない。

この時期にこのクラスにやってくる先生、けっこうな確率で…ただ者じゃない。

 

 

 

 

───と、そこに…

「お…おはよー、ございます。」

ガララとドアが開き、弱々しい綾崎君の声が聞こえてきた。

何があったのかとそちらを向くと───

 

 

 

「…遅刻ですねぇ、綾崎君。何があったんで……きゃーーーー」

血塗れの綾崎君が、そこにいた。

いや、本当に何があったの!?

「ど、どうしたんですか!!いったい何が!?」

戸惑う顔が普通に見れた。なんてのんきなこと言っている場合じゃない!!

「…あぁ…これですか。ちょっと…来る途中でロングホーントレインをくらって来た…だけです。」

……?どういう意味だ。

「…言葉の意味が分からないのですが…」

「では…分かりやすく…」

 

 

 

 

⇒ハヤテside

 

 

 

「んー、爽やかな朝だなぁ。」

少し早めに家を出た。

なので遅刻はしないはずだった。

だけど───

 

 

 

 

 

 

前方から居眠り運転の大型トラックが走ってきた。

それはしっかり見ていたので難なく回避することは出来ましたが…

 

 

 

 

 

回避した先が、線路で…しかも、今まさに来ているところだったのだ。

 

 

 

 

 

 

プアーン

 

 

 

ドーン

 

 

 

 

ガラガラガシャー

 

 

 

 

▷渚side

 

 

 

「…そして…今ここにいると…そんな感じ…です。」

「学校来ないで休むこと考えろよ。」

「つーか、電車に跳ねられてはよくそんなケガで済んだな。」

どれだけ頑丈なんだろう?

というか、何であんな分かりづらい言い方をしたんだろう?

「作者が他作品ネタのタグを付けたはいいけど、肝心の他作品ネタが一回しか出てきてないからだって。」

「…地の文読まないでよ不破さん」

 

 

 

「治療しますのでじっとしていて下さいね。」

そして、綾崎君の治療が終わり、僕たちは授業の準備に取りかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⇒惟臣side

 

 

 

生徒達は今、奴考案の暗殺サッカーをやっている。

 

 

「いろいろと接近の手段は用意してたけど…まさか、色仕掛けが通じるとは思わなかったわ。」

「…あぁ。俺も予想外だ。」

残された俺達2人はそんなやりとりをしていた。

ともかく…それならこいつの本領だろう。

 

 

 

イリーナ・イェラビッチ

職業、殺し屋

美貌に加え、十カ国語を操る対話能力を持ち、いかなる国のガードの固い暗殺対象でも、本人や部下を魅了して容易に近づき、至近距離からたやすく殺す、潜入と接近を高度にこなす暗殺者と聞く。

 

 

 

「…だが、ただの殺し屋を学校で雇うのは流石に問題だ。表向きのために教師の仕事もやってもらうぞ。」

そう、表向きは教師なのだ。

念のため、そう注意を促す。

「…あぁ、別にいいけど、私はプロよ。授業なんてやる間も無く仕事は終わるわ。」

しかし、自信満々にそう言われるだけだった。

 

 

 

 

 

 

⇒渚side

 

 

 

「殺せんせー!」

僕たちが暗殺サッカーをしていた時、イリーナ先生が手を振りながら近づいて来た。

「烏間先生から聞きましたわ。すっごく足がお速いんですって?」

「いやぁ、それほどでもないですねぇ。」

マッハ20のどこがそれほどでもないのだろう。

「お願いがあるの。一度本場のベトナムコーヒーが飲んでみたくて…私が英語を教えている間に買ってきてくださらない?」

「お安いご用です。ベトナムにいい店を知ってますから。」ドシュッ

殺せんせーにお使いを頼んじゃったよ…

 

 

キーンコーンカーンコーン

「…で、えーと…イリーナ…先生?授業始まりますし、教室戻ります?」

磯貝君がイリーナ先生にそう促すも…

「授業?…あぁ、各自適当に自習でもしてなさい。」

返ってきたのはこれだった。

「それと、気安くファーストネームで呼ぶのやめてくれる?あのタコの前以外では先生を演じるつもりも無いし…“イェラビッチお姉様”と呼びなさい。」

ついに本性を表したか。

周りが静まり返る。

「…で、どーすんの?ビッチねぇさん。」

「略すな!!」

…こういう時真っ先に人を煽れるからカルマ君はすごいや。

「あんた、殺し屋なんでしょ?クラス総掛かりで殺せないモンスター、ビッチねぇさん一人で殺れんの」

「…ガキが、大人にはね、大人の殺り方があるのよ。潮田渚ってあんたよね。」

カルマ君の問いに余裕綽々の表情を浮かべながら、僕の名前を出しながら綾崎君の方に歩み寄って行った。

 

 

 

 

 

 

 

そして───

 

 

 

 

 

 

 

 

『なっ…!!?』

いきなり、ディープなキスをした。

 

 

 

 

 

 

暫くして、

「後で教員室にいらっしゃい。あんたが調べた「それ、渚君じゃ無くて綾崎君なんだけど?」奴の…って、え…?」

どうやら、カルマ君が指摘するまで気づいていなかったようだ。

「ああもう!!紛らわしい!!」

「「綾崎君!!」」

漸く解放され、倒れた綾崎君の下に僕と西沢さんが走っていった。

「とにかく潮田渚!!あんたは後で教員室にいらっしゃい!!奴の情報聞かせてもらうわよ!!」

僕に拒否権はなさそうだ。

 

「その他にも!!有力な情報持ってる子は話しに来なさい!いいことしてあげるわよ。女子には男だって貸してあげるし、技術も人脈も全てあるのがプロの仕事よ。ガキは大人しく外野で拝んでなさい。あと、少しでも私の暗殺の邪魔をしたら、殺すわよ。」

 

気絶するほど上手いキス、従えてきた強そうな男達、“殺す”と言う言葉の重み、あの先生が本物の殺し屋なのだと実感した。

 

 

 

しかし、同時にクラスの大半が感じた事は一つ。

 

 

 

 

 

 

 

この先生は…嫌いだ。




終わりました。




次回もお楽しみに




ちなみに、イリーナはハヤテのハーレムには入れません。







☆★オマケ★☆

~ホームルームの後~

「綾崎君ってマンガについて詳しいの?」
「ええ、まあ。」
「じゃあ、語ろうか。」
「ええ、語りましょう。」




語り合いはその時間だけで終わらなかったため、後日改めて語り合いの場が設けられた。
ハヤテと話しているうちに不破は次第にハヤテに心を許していき、それが恋心に発展する日はそう遠くなかった。


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第8話 大人の時間

前の週と今の週でUAにものすごい差があるなぁ。




そんな事は置いといて、タグ追加しました。




では、本編スタート!!


⇒渚side

 

 

 

教室内は今、嫌悪感に包まれていた。

 

 

 

その原因は、言うまでもなく今教卓で授業もせずにタブレットをいじっているビッチねぇさんにあるのだろう。

 

 

そう思って教卓に顔を向けると、ビッチねぇさんと目があった。

すると、ねぇさんが上唇を舐めたので背筋が凍りついてしまった。

あの後本当に僕が今まで集めた情報を聞き出されたのだ。だが、あの様子を見るにそれを軽視しているように思えた。

 

 

 

 

「なービッチねぇさん、授業してくれよー。」

あ、ビッチねぇさんがコケた。

こういう時、さすが前原君って思うんだよね。

それにつられてクラス中からビッチねぇさんという声が聞こえてきた。

「あーーー!!ビッチビッチうるさいわね!!まず正確な発音が違う!!それだとただのやらしい女よ!!あんたら日本人はBとVの区別もつかないのね!!」

そこら辺が気になったんだ…

「正しいVの発音を教えたげるわ。まず歯で下唇を軽く噛む!!ほら!!」

お、やっと授業する気になったんだ。

そう思って言われた通りにすると、

「…そう、そのまま一時間過ごしてれば静かでいいわ。」

そんな事を言ってきた。

だ、騙された…

 

 

 

 

 

 

⇒惟臣side

 

 

 

「怪しい三人組を呼び込んだそうだな。聞いてないぞ。」

授業も終わり昼休み、俺はイリーナを呼び出し説明の要求をしていた。

たしかに方法に制限はしていなかったが、これは明らかに生徒達の学生としての生活に支障を来す恐れがある。

「…ああ、腕利きの口は固いし、私に惚れて無償で手足になってくれる。彼らの協力で仕込みは完了。今日殺るわ。」

そう彼女は自信満々に言った。

 

 

 

 

 

───だが、奴をナメてかかっていると手痛いしっぺ返しをくらうぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

⇒渚side※惟臣sideとほぼ同時刻

 

 

 

「何なんだよあの先生!!」

ガンッ!!と聞こえてきそうなほどに力を込めた拳を机に落としながら杉野がそう叫んだ。

「そうですよね~。ロクに授業もしないのに先生を名乗っているんじゃ無いって思いますよね~。」

その叫びに綾崎君が返した。

普段通りの口調のはずなのに、どこかトゲがあるように感じる。

それもそうだろう。勘違いとはいえ、キスをされたのだ。怒っていない方がおかしいのだ。

「綾崎ちゃんはビッチねぇさんの暗殺成功すると思う?」

綾崎君にそう聞いたのは彼と一緒にお昼にしようとここまでやってきた倉橋さんだった。

あの体育の時から彼女は隙あらば綾崎君に近づこうとしていた。

生物に関する話ばかりだったが、綾崎君といる時の倉橋さんの様子は明らかに乙女のソレだった。

そういえば、倉橋さんはどんな猛獣でも捕まえられそうな強い人が好みだと言っていたような気がする。それで綾崎君のあの実力、そりゃ惚れるわ。

話が脱線した。その倉橋さんの質問に綾崎君は、

「そうですね…失敗すると思います。いや、むしろ失敗してほしいと願っています。」

「し、辛辣だね~。」

「当たり前です!!いきなりキスされたんですから。心を許した人以外にキスするなって前の彼女に言われましたから!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

静寂───

 

 

 

 

 

 

 

 

『ハァ!?』

「あ、綾崎君って彼女いたの!?」

「…ええ、でも…幼稚園の頃の話ですよ。」

『紛らわしい言い方するなー!!』

び、びっくりした~。いきなり彼女とか言い出すから。

「それで、その子に女の子との付き合い方とかとにかくいろいろな事を教えてもらったんですよ。」

なるほど、今の綾崎君を形作ったのはその子ってわけか。

天然ジゴロになるとは思ってないだろうけど。

 

 

 

 

「じゃあ、今は彼女とかいないの?」

倉橋さんの必死の問いに綾崎君は───

 

 

 

 

「ええ、そうですね。」

そう言い放った。

(((ホッ)))

その一言で胸をなで下ろした女子が数名いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

-五時間目-

 

この日の体育(訓練)は射撃訓練だった。

 

 

 

「…おいおいマジか。2人で倉庫にしけこんでくぜ。」

その最中、そんな三村君の声が聞こえてきた。

見ると殺せんせーとビッチねぇさんが倉庫へと歩いていた。

デレデレした顔の殺せんせーだったが、僕には何故かそれだけだとは思えなかった。

 

 

 

「…烏間先生、私達……あの女の事、好きになれません。」

ビッチねぇさんについてクラスを代表して片岡さんが烏間先生に苦情を言った。

「…すまない。プロの彼女に一任しろとの国の指示でな。だが、わずか1日で全ての準備を整える手際…殺し屋として一流なのは確かだろう。」

 

 

 

 

 

 

 

──数秒後

 

 

ドドドドドドド!!

倉庫から銃声が聞こえてきた。

まさか、実銃!?

やっぱり僕の情報全然アテにしてなかったんだ!?

 

 

 

 

しばらくして、銃声が鳴り止み、そして───

 

 

 

 

「いやあああああ!!」ヌルヌルヌル

 

 

 

「な、何!?」

「銃声の次は鋭い悲鳴とヌルヌル音が!!」

岡島君、ヌルヌル音って何?

 

 

その後しばらくヌルヌルと言う音と悲鳴は続いた。

その間、綾崎君は顔を赤くして横を向いていた。

 

 

 

「めっちゃ執拗にヌルヌルされてるぞ!!」

「行ってみよう!!」

何をされているのかが気になった皆が倉庫へと向かう。

と、そこに殺せんせーが倉庫から出て来た。

「殺せんせー!!」

「どうだった!?」

岡島君、その聞き方は無いよ…

「いやぁ…もう少し楽しみたかったですが、皆さんとの授業の方が楽しみですから。六時間目の小テストは手強いですよぉ。」

「…あはは。まあ、頑張るよ。」

教師としてあるまじき言葉が聞こえた気がしたが、聞かなかった事にした。

その時、ビッチねぇさんが出て来たが…

(((健康的でレトロな服にされている!!)))

ブルマ姿で、恍惚の表情を浮かべていた。

「まさか…わずか一分であんな事されるなんて…」

そういいながらビッチねぇさんは倒れた。

(((どんな事だ!!?)))

「…殺せんせー…何したの?」

気になって聞いてみてしまった。

「…さぁねぇ。…大人には大人の手入れがありますから。」

そういう殺せんせーの顔は──

「悪い大人の顔だ!!」

 

 

 

 

 

教室に戻る僕たちの後ろでビッチねぇさんが悔しそうな表情をしていたが、気にしないことにした。




終わった。



では、さよなら~


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第9話 プロの時間

UA数が上がってきている。
読んでくれている人がいるのはとても嬉しいです。



今回も楽しんでいって下さい。




それでは、本編スタート!!


⇒渚side

 

 

 

次の日の英語、ビッチねぇさんは苛立ちを露わにしていた。

それもそうだろう。なんせ、殺せんせーを殺そうとして見事に失敗したのだから。

 

 

 

 

「あはぁ~。必死だね~ビッチねぇさん。ま、あんな事されちゃプライドズタズタだろうね~~~。」

「あれは流石に予想外でしたけど……。」

後ろからカルマ君と綾崎君の会話が聞こえてきた。

綾崎君の言ったあれとは恐らく殺せんせーの報復のことだろう。

 

 

 

 

「先生。」

「…何よ。」

「授業してくれないなら殺せんせーと交代してくれませんか?一応、俺ら今年受験なんで…。」

いつまで経っても授業をしないビッチねぇさんを見かねた磯貝君が受験をするように促した。

その磯貝君に対するビッチねぇさんの返答は───

 

 

 

 

 

 

 

「はん!あの凶悪生物に教わりたいの?」

これだった。

「地球の危機と受験を比べられるなんて…ガキは平和でいいわね~。」

ビッチねぇさんの独白は続く。

「それに…聞けばあんたたちE組って…この学校の落ちこぼれだそうじゃない。勉強なんて今更しても意味ないでしょ。」

 

 

 

 

 

 

 

───人には、触れてはいけない線というものがある。

───ビッチねぇさんはやすやすとそれに触れたのだ。

 

 

 

 

 

 

「そうだ!!じゃあこうしましょ。私が暗殺に成功したら1人五百万円分けてあげる!!あんたたちがこれから一生目にすることの無い大金よ。無駄な勉強するよりずっと有益でしょ?だから黙って私に従い「ふざけるな。」───」

そんな教室の雰囲気を気にすること無く続けていたビッチねぇさんの独白を止めたのはいつの間にか教卓までやってきていた綾崎君のその一言だった。

「な…何よあんた、教師に向かって…」

「あなたのようなロクに授業もせず、自分の好きなようにやっている人は教師でも何でも無い。第一、人が全て金で動くと思ったら大間違いだ。あなたのような人を過小評価しか出来ない人間はここには必要ない!!」

「そーだ出てけくそビッチ!!」

「殺せんせーと代わってよ!!」

敬語が抜けた綾崎君の叫びに反応するかのようにクラス中からビッチねぇさんに対する怒号が飛んでいく。

もはや、殺すという言葉にすら怯んでいなかった。

…でも茅野、巨乳に対する不満を混ぜるのはやめようよ…

 

 

 

 

 

 

 

⇒惟臣side

 

 

 

「何なのよあのガキ共!!こんないい女と同じ空間にいれるのよ?ありがたいと思わないワケ!?」

「ありがたくないから軽く学級崩壊しているんだろうが。」

何故、俺がこの女の自業自得を愚痴として聞かなくてはいけないのだろうか…。

「いいから彼らにちゃんと謝ってこい。このままここで暗殺を続けたいのならな。」

「なんで!?私は先生なんて経験ないのよ!?暗殺だけに集中させてよ!!」

その態度がダメだと言っているのだが…

「……仕方ない、ついて来い。」

ここにいるために必要なことを教えてやる。

 

 

 

 

 

 

 

「…なにしてんのよ、あいつ?」

今俺たちの目の前には、ぶどうジュースを飲みながらせわしなく触手を動かす奴がいた。

「テスト問題を作っている。どうやら水曜六時間目の恒例らしい。」

「…なんだかやけに時間かけてるわね。マッハ20なんだから問題づくりくらいすぐでしょうに。」

なにも知らないのならその疑問が出てくるだろう。

だが───

「ひとりひとり問題が違うんだ。」

「えっ…」

「生徒に見せてもらって驚いた。苦手教科や得意教科に合わせてクラス全員の全問題を作り分けている。高度な知能とスピードを持ち、地球を滅ぼす危険生物。そんな奴の教師の仕事は完璧に近い。」

 

 

 

「生徒達も見てみろ。」

「…?遊んでるだけじゃないの。」

端から見たらそう思うだろう。だが───

「俺が教えた“暗殺バドミントン”だ。動く目標に正確にナイフを当てるためのトレーニングだ。暗殺など経験のない彼らだが、もちろん賞金目当てとはいえ勉強の合間に熱心に腕を磨いてくれる。暗殺対象と教師、暗殺者と生徒、あの怪物のせいで生まれたこの奇妙な教室では…誰もが2つの立場を両立している。」

つまり、この教室で暗殺をしたいのなら───

「お前はプロであることを強調するが、もし暗殺者と教師を両立できないなら、ここではプロとして最も劣るということだ。ここに留まって奴を狙うつもりなら、見下した目で生徒を見るな!!」

そう俺が言った時のイリーナの顔は何かを思案するようなそんな顔だった。

 

 

 

 

 

 

⇒渚side

 

 

 

そんな出来事があった次の日

クラス内では珍しい組み合わせがあった。

それは───

 

 

 

「うおお!!綾崎お前バイクについて詳しいのな!!」

「ええ、分かりますよ。」

綾崎君と吉田君の2人だ。

「今度家来いよ!!本物見ながら語り合おうぜ!?」

「いいですよ。今度お伺いしますね。」

 

 

 

「あいつ吉田懐柔しやがった…」

「ああいうところは見習わないとね。」

 

 

 

 

と、その時───

ガララッという音が響き、ビッチねぇさんが入ってきた。

それだけでクラスの空気が重苦しくなった。

 

 

 

 

 

 

「you're incredible in bed! リピート!!」

皆キツネにつままれたような顔になった。

「ホラ!!」

「…ユ、ユーアー インクレディブル イン ベッド」

どういう意味なんだろう?

「アメリカでとあるVIPを暗殺したとき、まずそいつのボディーガードに色仕掛けで接近したわ。その時彼が私にいった言葉よ。意味は“ベッドでの君はすごいよ…”よ。」

中学生に読ませる文章じゃないよ!!

ビッチねぇさんがいうに、外国語を短期間でマスターするには、その国の恋人を作るのが手っ取り早いらしい。

なので、ビッチねぇさんの授業では外人の口説き方を教えてくれるらしい。

「受験に必要な勉強なんてあのタコに教わりなさい。私が教えられるのはあくまで実践的な会話術だけ…もし…それでもあなたたちが私を先生だと思えなかったら、その時は…暗殺を諦めて出て行くわ。……そ、それなら、文句ないでしょ?…あと、悪かったわよいろいろ。」

 

 

 

 

 

クラス中から笑い声が聞こえてきた。

「大丈夫ですよ。」

そこに綾崎君が話しかけていった。

「申し訳ないという心があるのならまだ関係の修復は出来るはずです。

あなたにはそれがあります。

ですから、まだやり直しが聞きます。」

「なんか、普通に先生になっちゃったな。」

「もうビッチねぇさんなんて呼べないね。」

「呼び方変えないとね。」

皆が認識を改めたことに感動するビッチねぇさんだが───

 

 

 

 

 

「じゃ、ビッチ先生で」

その一言で凍りつくことになった。

もうビッチで定着しちゃったし、それでいいかな。

 

 

 

「そんなワケでよろしくビッチ先生!!」

「キーーーーッ!!やっぱり嫌いよあんたたち!!」

 

 

 

 

 

 

ちなみに、かわいそうだからと綾崎君だけはイリーナ先生と呼ぶことにしたらしい。

 

 

 

 

 

 

⇒イリーナside

 

 

 

全く、なんなのよあいつら!!

綾崎以外なんでファーストネームで呼んでくれないのよ!!

 

 

 

とまあ生徒達への不満はここまでにして、と

 

 

 

 

 

ガララッ

「ねぇカラスマ~、ちょっと教えてほしいんだけど~」

「なんだ?もう教えることは無いはずだが。」

「あるでしょう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

綾崎がなんであそこまで悲しそうな目をしているのか、それを教えてほしいのよ」




終わったぁ~



頑張ったぁ~


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第10話 集会の時間

お久しぶりです!


リアルが忙しく、投稿出来ませんでした。



では行きましょう!本編スタート!!


⇒????side

 

 

 

今日は月に一度の全校集会の日。

E組の皆は気が重くなるイベントだろうけど、私にとっても憂鬱になるイベントだ。

なぜなら………

 

 

 

 

 

 

 

 

{『…要するに、君たちは全国から選りすぐられたエリートです。この校長が保証します。…が、慢心は大敵です…

 

 

 

 

 

油断してると…

 

 

 

 

 

どうしようもない誰かさん達みたいになっちゃいますよ。』}

 

人を嘲笑うような笑い声が響く。

だから嫌なのだ。

こんな人を人として見ないようなことが許されていいはずが無い。

ましてや、大人が率先してそれを行うなどあってはならない。

大人社会の予行と言っているが、私達は中学生だ。

その段階で優劣がつくはずが無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

校長先生のお話も終わり、次は生徒会からの連絡事項だ。

と、その時体育館の扉が開き、逆立った髪のスーツ姿の男が入ってきた。

聞けばE組の担任の先生らしい。

4月の集会で雪村先生が居なかったから担任の先生どうしたのかな?って思っていたけど、良かった、ちゃんといたんだ。

そう思っていると、あれは確か…倉橋さんと中村さんだったわね。その2人が烏間先生という人から注意を受けていた。何をしたのだろう?

 

 

 

「なんかさ~仲良さそうじゃない?」

「私もあんなかっこいい人と仲良くなりた~い。」

周りからそんな声が聞こえて来る。

そうか、そう見えるのか。

 

 

「でもかっこいいって言ったら、ジャンルは違うけど、E組の一番後ろに居る青髪の男子もじゃない?」

「分かる~。」

「転校生かな?」

青髪?潮田君以外に青髪なんて居たっけ?

そう思ってそっちを見た時、私は目を見開いた。

人には第六感というものがある、だからこそなんとなくだが感じ取ったのだろう。

彼が、自分と同じ痛みを抱えているかもしれない…と。

 

 

 

 

 

 

と、そこに

再び扉が開き、そこから外国人の女性が入ってきた。

烏間先生と一言話したあと、潮田君を手招きしたその人は小声で少し話したあと、何を思ったのか潮田君を自分の胸部に埋め込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………。

 

チラッ   ドーン

 

 

ジー   ペター

 

 

 

ズーン

 

「ちょっ!!なんでいきなり落ち込んでるの!?」

く、悔しい!!

あの人には絶対に負けたくない!!

だって、声が似てるのよ?

私があんなのだと思われたくないわよ!!

 

 

 

 

 

{『…はいっ。今皆さんに配ったプリントが生徒会行事の詳細です。』}

気を取り直すかのように壇上の荒木君が言葉を発した。

「…すいません。E組の分まだなんですが。」

………これは、

{『え、無い?おかしーな…ごめんなさーい。3-Eの分忘れたみたい。

すいませんけど全部記憶して帰ってくださーい。』}

再び笑い声が響く。

やっぱり。

E組を陥れるためとはいえ陰湿過ぎる!!

記憶力を鍛えた方がいい。なんて言っているが、クラス一つ分のプリントを忘れる方が記憶力が無いと思う。むしろ、記憶力を鍛える必要があるのは生徒会ではないのだろうか。

我慢出来ず、そう言ってしまおうか。と思ったその時───

 

 

 

「あ、プリントあるんで続けてくださーい。」

え!!なんで!?

{『え?あ…ウソ!?…なんで!?』}

荒木君が戸惑っている。

ちょっと、いい気味と思ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「桂さ~ん、教室戻らないの~?」

「ええ、飲み物買ってからにしようかと思って。

どうせ、この後は帰りのホームルームだけでしょ?

あと…ヒナでいいっていつも言ってるんだけど…」

そう言って私は自販機に向かった。

そこで、田中君と高田君だっけ?その2人が潮田君に絡んでいた。

 

 

 

 

 

「なんとか言えよE組!!殺すぞ!!」

 

 

 

 

 

───ッ!!さすがにそれは言い過ぎよ!!

そう思って2人を止めようとしたとき、

 

 

 

 

 

「殺そうとした事なんて、無いくせに。」

 

 

 

 

 

ゾクッ

今のは、殺気!?

なんで!?あの優しそうな潮田君からなんで殺気を感じ取れるのよ!?

 

 

 

 

 

 

 

その事は置いといて、中間試験が近いから剣道部もお休みだし、ホームルームが終わったら帰って試験勉強しよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ、飲み物買いに来たんだった。




arosの、サンデーの目次コメントに漫画家でもないのに答えてみた!


はいっ。このコーナーは作者の気まぐれでハヤテのごとくの作者さんの新作、“トニカクカワイイ”のカバー裏にあるコーナーの質問にランダムで答えようという企画です。


記念すべき第一回はこちら!!

Q.今までに出会った、変わった“あだ名”を教えてください
A.1つじゃなくていいなら、
・遅刻常習犯班長
・小西運搬会社
・丼止
・残飯処理班
・エッグガス
・ソラニン
以上…あれ?なんだか目頭が熱くなってきた…。



「最初の2つ以外、作者さんが呼ばれていたことがあるあだ名ですよね?」
「鬱になるくらいなら、この企画やらなきゃいいのに………。」


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第11話 夢の時間

どうも皆さん、arosです!





今日は大雨の影響でどこにも行けず暇なので、作品を進めようかと思います。



今回は久しぶりのオリジナル回です。




それでは、本編スタート!!


⇒渚side

 

 

 

「…ここは?」

気がつくと僕は、真っ暗な空間の中にいた。

見渡す限り、黒一色だ。

だが、だからといって立ち止まっている訳にもいかない。

ここに来たということは出ることも出来るはずだ。

「出口は…どこだろう?」

出口を探すことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…うーん…見当たらないなぁ…。」

僕は、この暗闇の中を進んでいた。

だけど…ここは本当に真っ暗だ。

周りの雰囲気も変わったように見えないし…もしかしたら、一切動いてないのでは…そう錯覚してしまった。

と、そんな時───

 

 

 

 

 

「ん?あれは…人かな?」

遠目に、人影のようなものがあることに気づいた。

ちょうどいいし、出口がどこなのかを聞こうとその人の下に駆け寄り───

 

 

 

 

 

 

「…うわっ!!」

気づいてしまった。

その人が鎖で雁字搦めに縛り上げられていることに───

 

 

 

 

 

 

「だ…大丈夫!?なんでこんなことに───ッ!!」

その人を助けようと駆け寄るも───

「…近づけない!?」

何らかの力が働いているのか、近づくことが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

『…ン?』

そこで気づいたのかその人が顔を上げた。

『…アァ…』

喉の奥からかろうじて出したような呻き声が僕の耳朶を打つ。

不意にその人が僕に向けて腕を伸ばしてきた。

だが、距離があるため、その腕は僕には届かなかった。

僕も腕を伸ばすが、働いている力の影響で届くことはない。

『…アァ…』

それでも、腕を出したことが嬉しかったのかその人の目が少しだが、笑っていたように思えた。

 

 

 

そこで、僕の意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…夢?」

再び意識が覚醒した時、見覚えのある天井を見上げていることに気づいた。

なかなかに濃い内容の夢だった。

あの夢は何だったのだろう。

恐らく、僕はあの夢を忘れることは無いだろう。

夢に出てきたあの人…顔まで鎖で覆われていたからはっきりとは分からないが、それも見覚えがあった。

鎖で覆われていなかった部分から見えたあの青い髪、そして…あのこの世の絶望を全て体験したかのような悲しそうな目───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───それは───

「おはようございます、渚君。」

 

 

 

 

「………」

「どうしました?僕の顔に何か付いてますか?」

「…あぁおはよう。なんでもないよ。ちょっと今朝すごい夢を見ちゃって。」

「へー、そうなんですか。渚君がぼーっとするなんてそれだけすごい夢だったんですね。」

そう、今僕の目の前にいる綾崎君だ。

なんで、あの夢に綾崎君が出てきたのかは分からない。

もしかしたら、あの夢は綾崎君からのSOSだったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

ねぇ、綾崎君。

 

 

 

 

 

君がどんな過去を持っていたとしても、

 

 

 

 

 

 

僕は、絶対に拒絶したりしない。

 

 

 

 

 

 

だって君は、僕たちの仲間なのだから。




arosのサンデーの目次コメントに漫画家でもないのに答えてみた!

はいっ。どーもarosです。
またこの企画をやろうと思います。


では、今回はこちら!!
Q.魂を揺さぶる「アニソン」「アニメ主題歌」と言えばなんですか?
A.複数あります。
・青春サツバツ論
・自力本願レボリューション
・燃えてヒーロー
・キン肉マン Go fight!
・炎のキン肉マン
・キン肉マン旋風
・ペガサス幻想
こんなところですね。



「作者ってさ~80年代のジャンプ漫画好きだよね~。」
「カルマ君、作者さんが好きなのはそれだけじゃないですよ…。」


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第12話 支配者の時間

時間に余裕があるので、もう一つ投稿します。




それでは、本編スタート!!


⇒渚side

 

 

 

綾崎君に対する1つの誓いをたてた日の六時間目のことだ。

 

 

 

 

『さて、始めましょうか。』

始まると共に分身した殺せんせーがその一言を発した。

…いや、始めるって…何を…?

 

 

 

「学校の中間テストが迫って来ました。」

そういえば、もうそんな時期なのか。

「そんなわけでこの時間は、」

「高速強化テスト勉強を行います。」

「先生の分身が一人ずつマンツーマンで、」

「それぞれの苦手科目を徹底して復習します。」

分身ごとに喋らないでよ………

「くっだらね…ご丁寧に教科別に鉢巻きとか…ん?…なんで俺だけNAR○TOなんだよ。」

「寺坂君は特別コースです。苦手科目が複数ありますからねぇ。」

なるほど、特別コースだとそうなるのか…。

「…あの~殺せんせー。」

「どうかしましたか、綾崎君。」

綾崎君も何かあったのかな?

「いえ、たいしたことではないのですが…なんで僕だけ顔の形が五角形なんですか?」

「ああ、綾崎君は別の意味で特別コースです。」

五角形って…どういう意味なんだろう?

「…それってまさか、全教科最悪だからですか?」

「いえいえ違いますよ。綾崎君、ここに入って来た時、君は勉強は得意ではないと言っていましたが…君はなかなかに頭がいい。鍛えれば本校舎の生徒とも対等に渡り合える。」

「…だから、互角とかけて五角形なんですか?」

『ダジャレかよ!!』

ついついつっこんでしまった。

「半分正解です。」

半分…?

「実は綾崎君のところの鉢巻きは…」

といった瞬間、綾崎君のところの分身の鉢巻きから鳩のオブジェが出てきた。

「このように鳩が出てくるんです。」

『鳩時計かよ!!』

「つまり、互角よりさらに上へ飛び出そうということです。」

正直言ってその遊び心…いらない気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

まあ、いろいろあったがテスト勉強は始まった。

 

 

 

それはそうと殺せんせーはどんどん速くなっている。

今だってそうだ。

国語6人

数学9人

社会3人

理科4人

英語4人

NARUTO1人

鳩時計1人

クラス全員分の分身なんてちょっと前まではできなかったのに…

と、思っていると…

「うわっ!!」

殺せんせーの顔が大きく歪んだ。

「急に暗殺しないでくださいカルマ君!!それ避けると残像が全部乱れるんです!!」

「…意外と繊細なんですね、この分身。」

カルマ君が犯人か!!

「でも先生、こんなに分身して体力持つの?」

「ご心配なく、一体外で休憩させていますから。」

「「それむしろ疲れない(ませんか)!?」」

綾崎君と僕の声が重なった。

 

 

 

 

 

 

だが、この加速度的なパワーアップは殺し屋としては厄介だが、今の僕たちにはとても心強い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さようなら、殺せんせー。」

「ヌルフフフ。明日は殺せるといいですねぇ。」

授業(テスト勉強)も終わり、帰ろうとしていたところだったが───

 

 

 

 

 

「ん?…あれは…」

教員室に理事長先生がいることに気がつき、立ち止まった。

殺せんせーも理事長先生と知った途端下手に出た。

「いずれご挨拶に行こうと思っていたのですが…

あなたの説明は防衛省や、この烏間さんから聞いていますよ。

まあ、私には…全て理解出来る程の学は無いのですが…なんとも悲しい生物ですね。

世界を救う救世主となるつもりが世界を滅ぼす巨悪となり果ててしまうとは…」

…?…救う?…滅ぼす?全くの逆じゃないか。

「…いや、ここでそれをどうこういう気はありません。

私ごときがどう足掻こうが、地球の危機は救えませんし…余程のことが無い限り私は暗殺にはノータッチです。」

…ならなぜここにきたのだろう?

「今日、D組の担任から苦情がきまして…うちの生徒がE組の生徒からすごい目で睨まれた“殺すぞ”と脅されたとも。」

原因は僕か!!

というか、それ、やったのその2人なんだけど…

「暗殺をしているのだからそんな目つきも身に付くでしょう。

それはそれで結構。

…問題は、成績底辺の生徒が一般生徒に逆らうこと。それは私の方針では許されない。以後厳しく慎むよう伝えてください。」

あの行動が裏目に出るとは…後悔はしてないけど…

 

 

 

「ああ、生徒と言えば…綾崎君はどうですか。」

…?綾崎君がどうかしたのだろうか…?

「彼なら、クラスに順応出来ています。

暗殺技術の方もクラスの上位どころか、トップに立っていますね。」

そう、暗殺技術において、綾崎君は間違いなくトップにたっている。

「そうですか…しかし、皮肉なものですね…社会の最底辺の人間に全てを奪われた人間がこの学校の最底辺のトップに君臨するというのは。」

───ッ!!どういうことだ!!

「…?どーいうことよそれは?」

その言葉にビッチ先生が反応した。

「おや…こちらの先生には教えていなかったのですか?」

「ええ…本人が話してもいいと考えるまで黙っていようと思っていたので、それを知っているのは俺とコイツだけです。」

「そうですか…。余計なことをしてしまいましたね。」

 

 

 

 

 

「それはそうと殺せんせー。

これだけは覚えておいてください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この世の中には…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スピードで解決出来ない問題もあるんですよ。

では、私はこの辺で。」

そう言って教員室から出てきた理事長先生は、僕を見つけるなり───

 

 

 

 

 

「やあ!

中間テスト期待しているよ。

頑張りなさい!」

と、そう言った。

 

 

 

そのとても乾いた“頑張りなさい”は、一瞬で僕を暗殺者からエンドのE組へ引き戻した。

 

 

 

 

だが、それ以上に気になったことがある。

それは───

 

 

 

 

 

 

 

 

─社会の最底辺の人間に全てを奪われた人間が

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

綾崎君、君は───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いったい、どんな人生を送ってきたんだ!?




arosの、サンデーの目次コメントに漫画家でもないのに答えてみた!

第三回はこちら!!

Q.人生で最大級の「○○ロス」はなんでしたか?
A.モモタロス
仮面ライダー電王大好きです。






「…電王に限らず、平成ライダー大好きじゃない?」
「…言ってやるな速水。」


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第13話 くるくるの時間

読んでいただきありがとうございます。
これからも頑張って投稿しようと思います。





それでは、本編スタート!!


⇒渚side

 

 

 

「更に頑張って増えてみました。

さぁ、授業開始です。」

僕たちの目の前には昨日よりも更に多い殺せんせーがいる。

 

 

 

………いるんだけど………

さすがに増えすぎだよ!!

増えすぎて分身が雑になってるし、そのせいか…殺せんせーの顔が別の作品のキャラみたいになっている。

 

 

 

 

「…どうしたの殺せんせー。なんか気合い入りすぎじゃない?」

「んん?…そんな事ないですよ?」

茅野の質問に平然と返す殺せんせーだったが、気合いを入れているその理由を僕は知っている。

昨日、理事長先生に“スピードでは解決出来ない問題もある”と言われたから、それをあえてスピードで解決させようとしているのだ。

 

 

 

 

 

だけど、それ以上に気になっていることがある。

─社会の最底辺の人間に全てを奪われた人間

理事長先生の綾崎君の評価だ。

僕が見たあの夢と理事長先生の言葉に関係があるのなら───

「こら渚君!!手が止まってますよ!!集中しなさい!!」

「あ…あぁ!!ご…ごめんなさい!!」

殺せんせーに怒られて、テスト勉強に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

▷ハヤテside

 

授業が終わり、そこにはさすがに分身をしすぎて疲れたのか仰け反る殺せんせーがいた。

 

 

 

 

「さすがの殺せんせーでも、疲れたみたいですね。」

「そうだね~。

でも、なんであんなに張り切っていたのかな?」

「さぁ?そこまではわかりませんよ…」

僕は西沢さんと先程の殺せんせーについて話していた。

教室の前側でも似たようなことを岡島君が聞いていた。

「……ヌルフフフ。

全ては君達のテストの点を上げるためです。

そうすれば…君達から尊敬の眼差しを向けられたり、評判を聞いた女子大生がやってきたり…となって、殺される危険も無くなり、先生には良いことずくめです。」

 

 

 

「…いや~、欲望全開だね~。」

「国家機密なんですから評判なんてあるわけないのに…」

机上の空論って知ってますか?殺せんせー。

 

 

 

 

 

「…いや、勉強の方はそれなりでいいよな?」

「…うん。なんたって暗殺すれば賞金百億だし…」

『百億あれば…成績悪くても、その後の人生バラ色だしさ。』

「にゅやっ!!

そ…そういう考えをしますか!!」

雲行きが…怪しくなって来た…。

 

 

 

 

「俺達…エンドのE組だぜ殺せんせー。」

「テストなんかより…暗殺の方がよほど身近なチャンスなんだよ…。」

…違う。

 

 

 

 

 

「…皆さん!!それは…「なるほど、よくわかりました。」ッ!!」

「…?…何が?」

「綾崎君以外の皆さんには…暗殺者の資格がありませんねぇ。」

殺せんせー?

 

 

 

 

「全員、校庭へ出なさい。

烏間先生とイリーナ先生も呼んで下さい。

あぁそれと…綾崎君、先に謝っておきます。

今回、少しだけ君の過去に触れてしまうかもしれません。」

───ッ!!そうか、ついに…!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何するつもりだよ…殺せんせー。」

僕たちが校庭に出るとそこには、サッカーゴールをどかしている殺せんせーがいた。

 

 

 

 

「イリーナ先生、プロの殺し屋として伺いますが…あなたはいつも仕事をするとき…用意するプランは1つですか?」

どかし終えた殺せんせーはイリーナ先生に対し、こう質問した。

雰囲気の真面目さから重要なことだと理解したイリーナ先生は真剣な顔で答える。

「…いいえ。

本命のプランなんて思った通り行くことの方が少ないわ。

不測の事態に備えて…予備のプランをより綿密に作っておくのが暗殺の基本よ。

ま、あんたの場合規格外すぎて予備プランが全部狂ったけど…見てらっしゃい。次こそ必「無理ですねぇ」く…」

「では次に烏間先生」

イリーナ先生の話を途中で封殺した殺せんせーは次に烏間先生の方を向いた。

「ナイフ術を生徒に教えるとき…重要なのは第一撃だけですか。」

「…………第一撃はもちろん最重要だが、次の動きも大切だ。

強敵相手では第一撃は高確率でかわされる。

その後の第二撃、第三撃をいかに高精度で繰り出すかが勝敗を分ける。」

 

 

 

 

 

「結局何が言いたいん「先生方のおっしゃるように…」」

話が見えないことにしびれを切らした前原君の言葉にかぶせるように言葉を発した。

「自信を持てる次の手があるから自信に満ちた暗殺者になれる。

…対して、君達はどうでしょう?

“俺らには暗殺があるからそれでいいや。”…と考えて勉強の目標を低くしている。

それは…劣等感の原因から目を背けているだけです。」

そういいながら殺せんせーはその場で独楽のようにくるくると回り始めた。

「君達の劣等感など、綾崎君の過去に受けてきた仕打ちに比べたらとてもちっぽけだ。

ですが、もし先生がこの教室から逃げ去ったら?

もし、他の殺し屋が先に先生を殺したら?

暗殺という拠り所を失った君達には、そのちっぽけな劣等感しか残らない。」

殺せんせーのスピードが更に増す。

「そんな危うい君達に…先生からの警告です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─第二の刃を持たざる者は…暗殺者を名乗る資格なし!!─」

は…速すぎて竜巻が…

 

 

 

 

 

「……校庭に雑草や凸凹が多かったのでね、少し手入れしておきました。」

竜巻がやんだ後、そこには…まだ一度も使っていないかのように綺麗になった校庭があった。

「先生は地球を消せる超生物…この一帯を平らにするなど容易いことです。

もし君達が自信を持てる第二の刃を示せなければ…相手に値する暗殺者はいないと見なし、校舎ごと平らにして先生は去ります。」

「第二の刃…いつまでに…?」

渚君が殺せんせーに聞いたが──

 

 

 

 

「決まっています。明日です。」

当然のように───

 

 

 

 

 

「明日の中間テスト…クラス全員50位以内を取りなさい。」

そんな無茶ぶりを言ってきた。

 

 

 

 

 

 

「君達の第二の刃は先生が既に育てています。

本校舎の教師に劣るほど先生はトロい教え方をしていません。

自信を持ってその刃を振るってきなさい。

仕事を成功させ、恥じることなく笑顔で胸を張るのです。

自分達が暗殺者であり…E組であることに…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

殺せんせーの言葉を受け、それならテスト勉強に専念するか…と思いながら教室に戻っていると、

「待って!!」

不意に、渚君のそんな声が聞こえ、何事かと思い後ろを振り返ると、クラスメートが全員僕を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~

 

「皆さん…どうしたんですか?」

僕の叫びに振り返った綾崎君はそんな質問をしてきた。

「今までは無理には聞かないようにしていたけど…殺せんせーにあんな事を言われたら聞かなきゃいけない気がしたんだ。」

そう、殺せんせーにあそこまで言わせたのだ。

悲惨な過去を送って来たのだろう。

普通は聞かない方がいいのだが───

 

 

 

「綾崎君はもう僕たちの仲間なんだ。

そんな君に隠し事なんてされたくないんだ。

なんでE組に来たのかだけでもいいからさ…教えてよ、綾崎君の過去を」

 

 

 

 

 

 

その言葉に綾崎君は戸惑うような表情をして───

「すみません。

今教えてしまうと、確実に中間テストで全力を出せなくなってしまうと思います。

なので…教えられません。」

そこまでなのか!!

「じ…じゃあ!!中間テストが終わったら教えてくれるのかな!?」

その西沢さんの問いに綾崎君は───

 

 

 

 

「…分かりました。テスト返却後、そのときは僕の口から教えようと思います。」

そう宣言した。




今回はあのコーナーはありません。




次回もお楽しみに~


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第14話 テストの時間

昨日までの雨の影響で今日もどこにも行けないので、こちらを更新します。





それでは、本編スタート!!


⇒渚side

 

 

 

中間テスト───

 

 

 

全校生徒が本校舎で受ける決まりのため、僕たちE組にとってはアウェーでの戦いとなっている。

 

 

 

 

試験官の先生も指で教卓を叩いたり、無意味に咳をしたりと、露骨に僕たちの集中を乱しに来ている。

 

 

 

 

 

 

───しかし、うちの学校のテストは凶悪だ。

問題が僕たちに襲いかかるモンスターのようだ。

 

 

 

 

 

(…やばい!攻略のとっかかりが全然つかめない。)

 

 

 

 

 

 

このままじゃ、この問題に殺られる!!

 

 

 

 

 

─大丈夫です。

 

 

そんな言葉が脳裏をよぎった。

 

 

 

─1カ所ずつ問題文を見極めて、それらをつないで全身を見れば…ね、なんて事ない相手ですねぇ。

 

 

 

─さぁ、君の刃で料理してしまいましょう。

 

 

 

 

 

分かる!!

問題文の重要な部分や解き方のコツ…どれも…殺せんせーがマッハで教えてくれたものだ!

 

 

 

周りも調子づいたのか、解くペースが上がってきた。

以前なら、もう諦めていただろう。

だけど、今の僕たちは以前までの僕たちと違う。

この問題なら…殺れる!!

 

 

 

 

 

 

次の問題も!!

 

 

 

 

 

 

その次の問題も!!

 

 

 

 

 

次の瞬間、僕らは…背後から、見えない問題に殴り殺された。

 

 

 

 

 

この問題、テスト範囲だったっけ…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~

 

 

 

「……これはいったいどういう事でしょうか?

公正さを著しく欠くと感じましたが………」

烏間先生が本校舎の先生に抗議の電話をかけている。

 

 

 

「…伝達ミスなど覚えはないし、そもそもどう考えても普通じゃない…テスト2日前に…全教科で出題範囲を大幅に変えるなんて………」

そう、テスト範囲が変更されていたのだ。

だが、僕たちにはその事が全く伝えられていなかったのだ。

 

 

 

 

 

“クラス全員が50位以内に入る”

それを達成出来なかった。

それだと…殺せんせーが………

 

 

 

「…先生の責任です…。

この学校の仕組みを甘く見過ぎていたようです。

…君達に…顔向け出来ません…。」

殺せんせーも落ち込んでいた。

 

 

 

 

 

と、そこに───

「にゅやっ!!」

殺せんせーに向かって、一本のナイフが飛んでいった。

こんな時にこんな事をするのは一人しかいない。

「いいの~?

顔向けできなかったら…俺が殺しに来るのも見えないよ~?」

やっぱり、カルマ君だった。

「…カルマ君!!

今先生は落ち込んで……」

怒鳴る殺せんせーに対し、平然とテスト用紙を投げるカルマ君。

 

 

 

 

 

そこには───

赤羽業 英語 98点

    国語 98点

    社会 99点

    理科 99点

    数学 100点

 

 

 

ほ、ほぼ満点じゃないか!!

数学に至っては100点だし………

 

 

「俺の成績に合わせてさ、あんたが余計な範囲まで教えたからだよ。」

なるほど…そういうことか…。

「…だけど、俺はE組出る気はないよ…。

前のクラス戻るより暗殺の方が全然楽しいし…。」

良かった。

カルマ君に出る気がなくて…。

「…で?どーすんのそっちは?

全員50位に入れなかったって言い訳つけて…ここから尻尾巻いて逃げちゃうの?

それってさぁ…

 

 

 

 

 

        結局…

 

 

 

 

 

 

            殺されるのが怖いだけなんじゃないの?」

 

 

 

 

「…なーんだ殺せんせー怖かったのかぁ。」

「それなら正直に言えば良かったのに…」

「ね~。

“怖いから逃げたい”って」

カルマ君の意図を察したのか、クラス内から殺せんせーを煽る言葉が飛び交った。

「にゅやーーーーっ!!

逃げるわけありません!!

期末テストであいつらに倍返しでリベンジです!!」

 

 

 

 

 

 

 

「…それはいいとして、もう一つあるよね?

中間テストの後でやるって言ってた事………。」

カルマ君のその一言にハッとなる。

そして、全員綾崎君の方を向いた。

「そろそろ教えてよ…。

なんでここに来たのかを、ね。」

 

 

 

 

 

 

「…分かりました。

では、言わせていただきます。」

綾崎君はそう言って、教卓に向かって言った。




次回、E組の皆にハヤテの過去が明かされます。





次回もお楽しみに~。


「今回も無いんだな、あのコーナー。」
「二巻が発売される前にネタ切れになるのを防ぐためだって。」


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第15話 ハヤテの時間

ついに明かされるハヤテの過去。


それに対し、E組の皆はどう思うのか。





それでは、本編スタート!!


⇒渚side

 

「あれは…4月も半分を切った、そんな時の話でした。」

───っ!!

それは、綾崎君がこのE組に来る少し前だ。

 

 

 

「その日も僕は、自転車便のバイトをしていました。」

「ち…ちょっと待ってくれ!?」

「いや…なんでそれが、ここに来た事に繋がるんだ!?」

話が読めなくなって来たところで磯貝君が声を上げた。

 

 

その言葉に綾崎君は───

「…僕の親は、ホントにどうしようもないダメ人間なんですよ。」

そう返した。

「ダメ…人間?」

「ええ。

だって、父さんは“父さんにはもっと…自分に相応しい有意義な仕事があると思うんだ。”などと夢見がちなことを言って定職につかず、母さんに至っては“母さんは馬券を買っているんじゃない。夢を買っている”なんて言って家事すらしない。…挙げ句、それでいながらギャンブル狂いで、そのたびに借金を作っては借金取りから夜逃げする。

そんな人生を送ってきたんです。」

それは、確かにダメ人間だ。

 

 

 

「バイト先の事務所に向かうと、そこで上司の方から突然クビを言い渡されました。

理由は、年齢を偽っていたからだそうですが…なぜそれを知ったのか訪ねると、僕の親が来てそう告げたと、そう言ったんです。」

───っ!!

家族の唯一の働き手から仕事を奪ったのか!?

「親に渡したと言う給料…そんなもの、全部ギャンブルに消える。それ以外に考えられない!!

そう思った僕は急いで家に帰ったんですが…時すでに遅く、12円を残して全部ギャンブルに消えていました。」

なっ…働き手がいなくなったのだから、大切に使わなければいけないと理解しているはずなのに…。

 

 

「そこでふと窓を見ると、手紙が貼り付けてありました。するとその中には、一億五千万もの借用書と、その借金を返済するために僕を売ったという内容の手紙がありました。」

い…一億…

いや、それ以前に…子供を見捨てるなんて、それが親のする事か!!

 

 

「このままでは殺される!!そう直感した僕は、急いでそこから逃げ出しました。」

 

 

 

 

 

 

 

⇒ハヤテside

 

 

 

「ハア…ハア…なんとか逃げてきたけど、全く…ここまでやるとは…なんて親だ………。」

必死に逃げてとある公園までやってきたが…

 

 

 

「…どうしょう、これから……。」

正直言ってなにも考えていなかった。

「しかし…一億五千万か~」

到底返せる額じゃない。

 

 

そのとき、

───だが信じろ。最後に笑うのはきっと…ひたむきで真面目な奴なのだから。───

かつて、夢の中であったサンタの言葉が脳裏をよぎった。

 

 

 

だけど───

「違う!!」

荒みきった僕はもう───

「結局…世の中はずるい奴が勝つんだよ!!

真面目にがんばったって…手に入れるものは何も無いんだ!!」

その言葉を信じる気もなかった。

 

 

 

「さて…これからどうするかは、日を改めて考えよう。

4月だし、寒さで凍え死ぬことはないだろう…」

 

 

 

 

 

「やあハヤテ君。」

「漸く会えたな…」

借金取りが現れた。

いきなりかよ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⇒惟臣side

 

 

 

[オラァ!!さっさと乗れ!!]

[ヒイイイ!!]

 

 

「………」

その様子を偶然見かけた俺は、その車のあとをつけることにした。




arosの、サンデーの目次コメントに漫画家でもないのに答えてみた。

はいっ、久しぶりのこのコーナーです。

今回の質問は、こちら!!
Q.「響きがカッコいいなぁ」と思う外国人の名前を教えてください。
A.アンドリュー・ギルバート・ミルズ



次回もお楽しみに~



「ソードアート・オンラインのキャラじゃねーか…」
「よく知らないけど…そうなの?」


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第16話 救われる時間

再び、投稿しようと思います。




それでは、本編スタート!!


⇒ハヤテside

 

「しかしまぁ…世の中にはひどい親もいたもんだ…。

自分達が博打で作った借金の返済に、自分の息子を売るなんてな…。

こんな親、もう人として最低だな。」

「全く…日本って国はどうなっちまうんですかね~?」

前の座席にいる2人がそんな会話をしていた。

「ホントホント。

売られる子供の身にもなれって話ですよね。」

この流れにのってなんとか逃げようと思ったが……

「ま、それでも買うんだけどな。」

呆気なく失敗した。

 

 

 

 

こうして、二時間にも及ばない逃走劇は終わりを告げ…

不幸まっしぐらな少年を乗せたヤクザの車と、それを追う車はひた走る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~

 

「オラ!着いたぞ!!

さっさと降りろ!!」

波止場で車は止まり、そこで僕は降ろされた。

 

 

 

「あの~~……。

ここはいったいどこでしょうか?」

「あぁん?

病院だよ。」

絶対ウソだ!!

マ、マズい…

コレは…いつ殺されても不思議じゃない。

ど…どうにかして早く逃げなくては…

「そう心配しなくても…別に殺そうってわけじゃねぇ…。」

僕の思ったことを察したのか、ヤクザの一人がそう言ってきた。

もしかしたら…条件次第では逃がしてくれるかも──

 

 

 

「取れる臓器取って…お前をここから外国に売るだけだから。」

違った!!殺されるよりもっとひどかった!!

かくなる上は……

「あ~~~。

僕、急に思い出しちゃった。

というわけで帰ります!!」

これで逃げるしかない!!

と、走り出したところで…

「そうはさせるか!!」

ヤクザの親玉らしき人の放ったチワワの猛攻を受け、立ち止まってしまった。

「だいたいよぉテメェの親が悪いんだろ!!

金が無いなら体で払うしかねーだろうが!!

大丈夫!!

肺も肝臓も心臓も2つあるから!!」

「僕の心臓は一つしかありません!!」

「うるさい!!

金がない奴はとっとと売られろ!!」

「嫌だーーーーっ!!

そんなアバウトな臓器の数え方してる人に売られたくなーーい!!

誰か…誰か助けてーーーーっ!!」

 

 

 

と、そのとき───

 

 

 

「なにをやっている?」

僕の魂の叫びに反応したのか、

「嫌がっているじゃないか。

解放してやれ。」

スーツを身にまとった男が現れた。

「な、なんだテメェ!!」

ヤクザの親玉らしき人の叫びに男は──

「名乗るほどの者ではないが…。

そうだな…政府の人間だ、とだけ言っておこう。」

そう言い放った。

「せ…政府の人間が、なんでここにいやがる!?」

「先ほどの公園でのやりとりを偶然見かけてな…

そこからずっと追いかけてきたんだ。」

あの場面を…見ていた人がいたのか…!!

「チッ…だが、政府の人間でも、今回ばかりはどうしようねえだろ!!

こいつにはこんだけ貸しがあるんだ!!

この借金がある限り、こいつは俺らの物なんだよ!!」

「一億五千六百八十万四千円…

どうみても違法じゃないか…

だが、それをどうにかしないといけないと言うのなら…

少し待っていろ。」

そう言ってその人はどこかに電話をかけた。

 

 

 

 

数分後…

 

 

 

「…烏間さん、持ってきましたよ。」

「ああ…すまない。」

今度はスーツ姿の女性がスーツケースを持ってやってきた。

そして、烏間さんというらしい男の人はスーツケースを受け取り───

「これで…満足か?」

スーツケースを開き、その中身が見えるようにしてヤクザに向けた。

「まさか…全部本物?」

「当然だ。

それで良いのだろう?

それとも…政府の人間だから認められないか?」

「…おい、そいつを放してやれ。」

「えっ!?いいんすか?兄キ!!」

助かった…のか?

「金を払わない奴には容赦しねーが…払えば客だ手は出さねーよ。

今度はあんたがそいつから…この金を返してもらうんだな。」

 

 

 

 

「では…俺は「ちょっ!!待ってください!!」」

その場から消えようとした烏間さんを僕は必死で呼び止めた。

「…どうした?」

「いえ…助けていただきありがとうございました。

あのお金は、何年経ってでも必ず返します。」

今言っておかないと二度と会えない気がしたから───

「…別に返さなくていい。

俺の自己満足だし、そもそもの話君には俺に借金を返す義務はないぞ?」

「い…いえ、そうしないと僕の気が済まないというか…」

「そうか…

なら…君、名前と年は?」

「えっ?…ハヤテです。

…綾崎ハヤテ。

年は、14です。」

「そうか…

 

 

 

 

 

 

なら、綾崎君。

借金は返さなくていい。

 

 

 

 

 

その代わり、今俺が請け負っている任務に…君も参加してもらう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⇒渚side

 

 

 

「こうして…僕は今ここにいます。」

言葉が出なかった。

安易に聞いてはいけなかった。

 

 

 

───社会の最底辺の人間に全てを奪われた人間───

 

 

 

そのとき、脳裏をよぎったのは理事長先生のあの言葉だった。

なるほど、確かにそうだ。

僕たちはこの学校内での最底辺というだけで諦めていた。

だけど、綾崎君はそれよりもっと深いところでもがき苦しみながらも前を向いていたんだ!!

殺せんせーのいう通り僕たちの劣等感なんて、ちっぽけなどうでもいいものだった。

 

 

ヤバい…そんなことで落ち込んでいた自分が恥ずかしくなってきた。

 

 

周りの皆も同じなのか顔を綾崎君から逸らしていた。

 

 

 

 

───と、そのとき

「…何も…無いんですよ…。」

綾崎君が口を開いた。

なので、そちらを向くと──

「…今の僕には!!

残っている物なんて!!

何一つとして無いんですよ!!」

 

 

 

それは違う!!

そう言いたかった。

だけど、その涙混じりの叫びに何も言えなかった

 

 

 

 

だが───

 

「そんな事無いよ。

ハヤテ君は、素晴らしいものを沢山持っているよ。」

「…西、沢…さん…」

「そうだよ!!

ハヤテ君は皆困っていることにすぐフォローしてくれる位優しいし、勉強も出来るし、いいとこなんて気づいてないだけで、もっと沢山あるよ!!」

「…渚、君…」

 

 

 

「お二人のいう通りです。

綾崎君、君は気づいてないだけでいいところなど山ほどある。

その一つがこちらです。」

そう言って綾崎君のテストを出した。

そこには───

 

 

綾崎颯 英語 68点

    国語 87点

    社会 85点

    理科 82点

    数学 73点

 

 

とあった。

 

 

 

「特に英語は、苦手科目にも関わらずこれだけの点数が採れたのです。

この努力の才能は誇っていい。

しかし…カルマ君と同じく範囲外も教えていたはずですが…」

「いや~…なにせこの学校に来て初のテストだったので…最初の方でまごついていたら時間が足りなくなりまして…」

「…まぁいいでしょう。

とにかく、君なら過去の呪縛から…親の鎖から抜け出せるはずです。

ここにいる皆さんと共に…」

「…ええ、そうですね。

ありがとうございます。

そして、これからもよろしくお願いします、殺せんせー。」

「いい笑顔です。

こちらこそよろしくお願いしますね?」

そのときのハヤテ君の笑顔は───

 

 

 

 

今まで見てきたものよりもずっと自然で、魅力的で───

 

 

 

 

 

 

何より明るかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、それに反してクラスの雰囲気は───

 

 

 

 

 

 

とても、暗かった。




「というより、2人とも“ハヤテ君”にしたんですね。」
「うん。
あんな話聞いた後だと、なんか他人行儀な気がして…」
「僕はそれに倣おうかと思って…」


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第17話 後悔の時間

今週のUAがものすごいことに…



皆さん、読んでいただき誠にありがとうございます。
これからも頑張っていきたいと思います!!




それでは、本編スタート!!


⇒惟臣side

 

 

 

「さようなら…烏間先生、ビッチ先生…」

「さようなら…」

「あぁ…気をつけて帰るように。」

綾崎君が自身のことを話した日の放課後…大半の生徒の顔は暗く、足取りも重かった。

無理もないだろう。

なぜなら…

 

 

 

 

「まさか…あんな過去を背負っていたなんてねぇ…。

この国は危険とは縁遠い国なのに…それでもいるのね、平和というこの国がもたらす恩恵を受けられない人間って…」

イリーナの言葉のとおりだ。

とにかく…重いのだ。

いつ狂ってもおかしくない。

そんな過去を過ごして来たのだ。

 

 

 

「…でもいいの?

あの子たちをあのままにしておいて…。」

イリーナのその疑問はもっともだ。

だが───

「彼らももう受験生だ。

いつまでも選択肢を人任せにしていてはダメだ。

だからこそ…俺達に今出来るのは、彼らが自分で何をするべきか理解するまで傍観している事だけだ。」

いつまでも大人が選択肢を用意していては人は成長しない。

時には…突き放して、本人に考えさせないといけない。

「…ふぅん。難しいものね、大人って。」

 

 

 

 

 

⇒桃花side

 

 

 

放課後───

今日は誰も、暗殺訓練をしようとする生徒は出て来なかったため、全員で下山していた。

いや、全員ではない。

綾崎君と渚君、それと歩ちゃんの3人は先に帰って行ったため、それと…寺坂君が関係ないとばかりに我先にと帰って行ったためここには居ない。

 

 

 

だが、それでも───

皆、見るからに暗い顔をしていた。

鏡を見ていない、おそらく…あっても見ないと思うけど、私も皆と同じように暗い顔をしているだろう。

 

 

 

 

「なぁ…ちょっといいか?」

不意に、三村君が口を開いた。

「俺達ってさ…いったい何様のつもりだったんだろうな…?

E組に落とされたくらいでさ…全てが終わったかのように諦めてさ…。

で、必死に俺達に前を向かせようとしていた殺せんせーにもあんな事言っちまった…。」

あんな事…おそらく、テスト前に殺せんせーを前にして言った諦め…いや、今となってはただ逃げるための口実だったのであろう言葉だ。

「たぶん…E組だからという理由で差別されることに慣れちまったんだろうな…。

だから、簡単にあんな事が言えるんだ…。」

「知らなかったとはいえ…私たちよりも過酷な人生を歩んできた人間の前で言っちゃうなんて…」

「あいつはそれでも前向きに生きてきたのに…」

「あんな家庭なら…たぶん小さい頃からずっと耐えてきたんじゃないかな…?」

綾崎君に対して罪悪感を感じたのか、次から次へとそんな言葉が飛び交った。

「あいつさ…人の輪に入るのは上手いのに、なんか一歩距離を置いているように思ってたけど…

あいつ、俺達を自分よりも上に見ていたんじゃねーか?」

杉野君のその一言にハッとなる。

なるほど…綾崎君の親は自分を見てくれず、ただお金が手に入れから手元に置いていてくれただけだったのだ。

その点、私たちにはE組に落ちた後もちゃんと育ててくれる親が居る。

「なんにせよ…これからどうやってあいつと向き合っていくか、だな。」

「それ考えるとさ…綾崎は元から強いけど…渚と歩っちも強いよね。」

「うん…そうだね…。」

ひなたちゃんのその言葉に…私はそう答えるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

~~場所は変わって~~

全員で集まって考えていてもしかたがないという磯貝君の言葉で私たちは解散し、それぞれで考えることになった。

とりあえず、私は家に帰ってから自分に何が出来るのかを考えることにした。

───そこに、クラクションが聞こえてきた。

音の方を向くと、大型のトラックが此方に走ってきていた。

どうやら、歩行者用信号が赤だったことに気づかずに進んでいたのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

あまりのことに硬直してしまった。

もうダメだと思い、せめてぶつかる瞬間を見てしまわないように目を閉じ、意味はないだろうが衝撃による痛みを和らげようと軽く歯を食いしばる。

 

 

 

 

 

 

 

 

だが───

 

 

 

 

 

 

車と衝突したような、そんな衝撃はなかった。

そのかわり、誰かに抱えられて、宙を舞ったかのような感覚と風を感じた。

 

 

 

 

 

 

 

不審に思い、目を開けると───

 

 

 

 

 

 

 

 

「綾…崎君…?」

私をお姫様だっこで抱えて跳ぶ綾崎君の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫ですか、矢田さん?」

「う…うん。…助けてくれてありがとう、綾崎君。」

歩道に降りた綾崎君はすぐに私を下ろしてくれた。

だが、立つことが出来ず、その場に座り込んでしまった。

「君達!!大丈夫かい!?」

そこに、あのトラックの運転手と思しき人が血相を変えてやってきた。

「ええ、僕も彼女も何ともありませんよ。」

「ならよかった…。

だけど…君も考え事をしていたのかどうかは知らないけど、前はちゃんと見ないといけないよ。」

「は…はい。

すみませんでした…。」

「分かったならいいんだ。

じゃあ、気をつけてね。」

そう言って、トラックを走らせて去っていった。

「さて…立てますか、矢田さん?」

まだ歩道に座り込んだままだったことを思い出し、立ち上がろうとしたけど───

 

 

 

 

「あ…あれ!?立てない!?」

「あー…。たぶん、突然いろいろな事があったから腰を抜かしたんだと思います。」

 

 

 

でしたら…と綾崎君がまた私をお姫様だっこの形で抱えた。

「ちょっ!!…綾崎君!?いったい何を!?」

「何って…立てるようになるまで僕が足代わりになろうかと…」

「だからって、この体勢はちょっと…///」

ちょっとどころか、かなり恥ずかしい…///

「…?あぁ…。僕は大丈夫ですよ、気にしてませんから。」

「私が気にするの!!」

綾崎君って、もしかしなくても…デリカシーがない?

「じゃあ、どんな体勢ならいいんですか…?」

綾崎君がそう聞いて来たので…

「じゃあ…おんぶで…。」

そう答えてみた。

「分かりました。では…一旦降ろしますね。」

そう言って私を降ろした綾崎君は私の前にまわり背中を向けてしゃがんだ。

重心を後ろに傾けているのはたぶんだが私の今の体勢からでもしがみつきやすくするためだろう。

こういう優しさを見せられると、皆が綾崎君を好きになるのが分かる気がする。

寄りかかったのを確認した綾崎君は私の太ももに腕を回した後───

「しっかり捕まっていて下さいね!!」

そう言って歩き出した。

綾崎君の背中、意外と大きいなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、綾崎君って先に帰ってたよね?なんでまだこんなところにいたの?」

ふと、気になったことがあったので聞いてみた。

そう、私の記憶が正しければ…綾崎君は先に帰っていたはずだ。

なのになぜ、こんなところにいたのだろうか。

「それが、学校に忘れ物したと思って取りに行っていたんですが…カバンの中をよく見たらあったので山の中腹あたりから戻ってきていたんですよ…。

そしたら、あんな事になっていたので…。」

なるほど、要するに偶然というわけか。

そうだったとしても、私のことを見てくれているように思えて嬉しかった。

だから、綾崎君の背中にさらに身を寄せた。

「あの…矢田さん?」

「どうしたの、綾崎君?」

「いえ、その…当たってるんですが…。」

「当ててるんだよ?」

「あ、もしかして…意識してくれてる?」

「まあ、矢田さんみたいな可愛い人にそうされたら…というより、そんなことして…勘違いされたらどうするん「いいよ…。」…え?」

「綾崎君とだったら…勘違いされても…。」

「今の…どういう意味なんですか?」

「なんでもなーい。」

 

 

 

 

 

私も参加しちゃおう…綾崎君の争奪戦に…

 

 

 

 

 

 

 

 

⇒渚side

 

 

 

次の日───

「綾崎、ちょっといいか?」

僕と西沢さん、それと寺坂君を除いた全員がハヤテ君の席の周りを囲んだ。

 

 

「昨日の放課後、少し考えさせられた。

その…悪かった。

前向きに進もうとしているお前の周りで簡単に諦めてさ…。

でも、誓ったんだ。

 

 

 

 

 

もう、簡単に諦めたりしない。

綾崎と、

 

 

 

 

 

───いや、ハヤテを含めた皆で前向きに突き進んでいく、ってな。

 

 

 

 

だから、これからもよろしくな。」

 

 

 

その宣言にハヤテ君は

「はい。

こちらこそ、よろしくお願いします!!」

笑顔でそう言った。

 

 

 

 

中間テストで僕たちは壁にぶち当たった。

 

 

 

E組を取り囲むぶ厚い壁に───

 

 

 

だけど、ハヤテ君のおかげで胸を張ることが出来そうだ。

 

 

 

 

自分がこのE組であることに




本編の最大文字数更新!!イエーイ!!
「作者さーん、1ついいですか?」
どうした-ハヤテ?
「この作品、カルマ君の学年順位、1つズレて5位なんですよね。
上はどうなっているんですか?」
あーそれね。
ネタバレになるから全部は言わないけど、浅野君は学年1位じゃないよ。
1位は集会の時間で地の文やった人。
「ほぼ言ってるじゃないですか…。」
まあまあ、いいじゃん。


というわけで、次回もお楽しみに!!


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第18話 旅行の時間

前話の一部に修正を入れています。
そっちも見ておいて下さい。




それでは、本編スタート!!


⇒ハヤテside

 

 

 

僕が胸の内を明かしたのが二日前、一部を除いた全員の思いが1つになった次の日だった。

 

 

 

 

「綾崎君、どの班に入るか決めた?」

片岡さんがそう訊ねてきた。

だが…話の趣旨が全然掴めない僕は───

 

 

 

 

「えーと…班?」

こういうしかなかった。

「そっか…。

綾崎君はこの学校に来てそんなに長くないし…この学校の行事の事あまり分からないか。

来週から修学旅行なんだけと、班行動だからどこか好きな班に入ってね。」

 

 

 

修学旅行…かぁ。

そう思っていると…

「なんなら、うちの班に来てもいいわよ?」

背後に突然現れた狭間さんがそう言ってきた。

「いいんですか?」

「私と吉田は別に構わないわよ。

それで、一緒に親に復讐するための作戦会議でもしない?」

「却下!!」

僕が口を開く前に片岡さんが叫んだ。

「狭間さん!!綾崎君に変なこと吹き込まないであげて!!

この子は純粋に成長して欲しいのよ!!」

「あんたは綾崎の義理の親か。」

あの親も片岡さんみたいに優しく接してくれたらなぁ…。

「オイ!!狭間がさっき言った親発言で綾崎が軽く落ち込んでるぞ!!」

「しっかりして綾崎君!?」

前原君と矢田さんに慰められた。

「…まあいいわ。誰がどこに行くか、誰と行くかなんて、最終的に本人が決めることよ。」

そう言って狭間さんは去っていった。

「狭間のいうとおりだな。

ま、どの班を選んだとしても誰もお前をハブったりなんかしねーよ。」

「ありがとうございます。

ですが…僕は一人だけハブられるの…平気ですよ。」

教室の空気が凍てついた。

「昔から“綾崎君とつきあったらいけません”って親が子供に言うみたいで、給食を1人で食べるなんてことも結構ありましたし…僕の親が本当に迷惑をかけてしまう事も多かったので…そういうの、全然平気ですね。」

「前原…お前、地雷踏み抜いたぞ。」

「悪かったよ!!

ごめん…ごめんって綾崎!!」

 

 

 

 

 

 

⇒渚side

 

 

 

「カルマ君!同じ班なんない?」

「ん、オッケ~。」

来週からは修学旅行、僕は自分の班にカルマ君を誘うことにした。

「大丈夫なのかよ、カルマで…。

旅先で喧嘩とか売って問題になるなんてことないよな…?」

「へーきへーき。」

そう言って一枚の写真を取り出した。

そこには───

 

 

 

「旅先での喧嘩はちゃんと目撃者の口も封じるし、表沙汰にはならないよ。」

喧嘩を売ったであろう不良と目撃者が身分証を出していて、その2人の肩に手を置くカルマ君の姿があった。

「おい…やっぱやめようぜ、あいつ誘うの!」

「でも…気心知れてるし…」

それに、普段から仲のいい人と一緒に京都を回りたいし…

「それでメンツは?

渚君と杉野と茅野ちゃんと…?」

「あ、奥田さんも誘った。」

今のところはこんな感じかな…?

「基本的に七人班だから、あと2人ぐらい必要じゃね?」

その言葉に、杉野の顔が自慢気なものになる。

「俺をナメるなよ?

実は、この時のためにだいぶ前から誘っていたのだ。

 

 

 

クラスのマドンナ、神崎さんでどうでしょう!?」

「おおー、異議なし!!」

茅野が僕たちを代表して杉野の案を採用した。

神崎さんはクラスでの人気も高い。

そんな人と同じ班で嫌な人なんていないだろう。

 

 

 

 

「でさ…あと1人はどうするの?」

「どうするかなぁ…ん?」

あと1人をどうするかをカルマ君と考えていたとき、教室の一角に人が集まっているのが見えた。

そこから見えた青い髪…あれは───

「ちょっと行ってくるね?」

「ん~?

あぁ、行ってらっしゃい。」

 

 

 

 

⇒ハヤテside

 

 

 

「ハヤテ君。」

修学旅行の班の勧誘をそれぞれの班の人たちから受けている時、不意に渚君から声をかけられた。

「渚君、どうかしましたか?」

「ハヤテ君ってさ、どこの班に入るか決めた?」

「まだですね…。

勧誘は受けているんですが…まだ決めかねますね。」

「だったらさ…うちの班に来ない?

僕たちの班、六人しかいないし…

それに…ハヤテ君と一緒に京都を観光したいし…。」

「…分かりました。

では、渚君の班でお願いします。

というわけで…皆さんすみません。」

「え~残念。」

「ま、しょうがないわな。」

「むしろ、渚君でよかったような…。」

僕のの周りにいた人たちが自分たちの班に戻っていく。

「じゃ、行こうか。」

そう言って差し出してきた渚君の手を僕はしっかり掴んだ。

 

 

 

⇒渚side

 

 

 

「と、いうわけでハヤテ君誘ったよ。」

そう班の皆に確認をとる。

「俺はいいよ~。

よろしくね、ハヤテ君。」

「ハヤテだったら俺も文句はねーな。」

「異議な~し。

よろしく、ハヤテ君。」

「わ、私も問題ありません!!」

「私もそれでいいよ。」

よかった…反対意見はなさそうだ。

「こうして面と向かって話すのは初めてかな。

よろしくね、綾崎君。」

「こちらこそ、よろしくお願いします。」

 

 

 

「よし、どこ回るか決めようぜ。」

 

 

 

 

3-Eは暗殺教室

 

 

 

普通よりも盛り沢山になるであろう修学旅行に…僕もテンションが上がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、よしこんな所か…」

その後、やっとのことでまとめることができたので、一息入れることにした。

「やっぱり、暗殺も兼ねてのロケーション選びなので、すぐには纏められませんでしたね。」

そう、僕たちE組の修学旅行は暗殺も兼ねている。

国が腕の立つスナイパーを雇ったらしく、狙撃のしやすいポイントを選ばなければならなかったのだ。

「それはいいとして、殺せんせーの作ったこのしおり…持って行く人いるんですかね?」

「僕は持って行くけど…ハヤテ君は?」

「色々と書いてあるんで役に立つかもしれませんし…僕も持って行きます。」

「じゃあ、当日東京駅についたら電話してね。

 

 

 

…そういえば、ハヤテ君って携帯電話持ってる?」

「え?…言われてみれば、持ってませんね。」

「あ、やっぱり持ってなかったんだ。」

「まあ…そんなお金ありませんし…」




長くなるんで区切ります。



次回もお楽しみに


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第19話 旅行の時間・二時間目

この間、UA10000突破とお気に入り100突破を果たしました。

皆様、読んでいただきまことにありがとうございます。

それはそうと、この作品に☆5と☆10の評価を付けてくださった方達がいましたね。
実はこの作品、酷評覚悟で投稿開始したのでどれだけ時間がかかってもいいので少なくとも10000はいこうと思っていたUAはまだいいとして、お気に入りと評価は、特に評価は付いても☆1か☆0だろうと思っていたので、さすがに予想外でした。

これを励みに頑張っていこうと思います。



それでは、本編スタート!!


⇒ハヤテside

 

 

 

計画を立てた日から一週間が経ち、今日から待ちに待った修学旅行だ。

目的地である京都に向かうべく東京駅に僕たちE組の生徒は集まっていた。

 

 

 

でも…修学旅行は学校行事の一つだ。

 

 

 

なので、普段は本校舎にいる生徒達もいるわけで───

 

 

 

「うわ…A組からD組まではグリーン車だぜ。」

「E組だけ普通車…いつもの感じね。」

「うちの学校はそういう校則だからな。

入学時に説明しただろう?」

このようなE組差別も当然のように行われる。

「学費の用途は成績優秀者に優先される。」

「おやおや~?

君たちからは貧乏の香りがしてくるねぇ。」

グリーン車の中から、暇なのか身を乗り出してまでE組差別を行う生徒(後に田中君と高田君という名前だと聞かされた。)がいたが───

 

 

 

 

「別に本校舎の生徒だから成績優秀者って訳じゃないですよね?」

僕のその一言で黙り込んでしまった。

実際最底辺と言われるE組にもそこそこ上の順位にいる生徒は僕とカルマ君以外にも存在する。

 

 

 

───と、そこに

「ごめんあそばせ。」

いかにも海外のセレブ達が着ていそうな煌びやかな服に身を包んだイリーナ先生がその一言と共にやってきた。

「ビッチ先生…

そのハリウッドセレブみたいなカッコは何なんだよ。」

同じような印象を抱いた木村君がイリーナ先生の服装について質問すると、

「フッフッフッ…女を駆使する暗殺者としては当然の心得よ。」

自信満々の笑みと共にそんな言葉が返ってきた。

詳しく聞くと、暗殺対象に旅行に誘われたことを考えてファッションにも気を使わないといけないらしい。

…だが───

 

 

 

「ビッチ先生、綾崎が今どんな状態かみてみろよ。」

「綾崎を?

…ってアンタそこまでドン引きする事ないじゃない!!」

千葉君のその一言にこちらを見たイリーナ先生が怒鳴ってきた

そんな事言われましても…本校舎の生徒を完全に黙らせることが出来るいいタイミングでしたけど…

 

 

 

結局烏間先生に怒られて着替えてるし…。

 

 

 

 

「…あれ?

電車出発したけど、殺せんせーは?」

京都に向けて電車が動き出したところで杉野君がそんな一言を言い放った。

「殺せんせーでしたら…こちらにいますよ。」

「こちらってハヤテ君、そっちは窓…うわっ!!」

僕の指差した方向に疑問を抱いた渚君が窓の方を見ると…そこには、窓に張り付いた殺せんせーがいました。

どうやら、駅中スイーツを買っていて乗り遅れたらしい。

保護色を使い、服と荷物以外を隠すと言っているが…それだったら次の駅まで先に行って待っているか、それか上のパンタグラフのないところに掴まればいいんじゃないのでしょうか?

 

 

 

 

「いやぁ疲れました。

目立たないように旅をするのも大変ですねぇ。」

「いえ…一概に目立ってないとは言い難いですよ。」

「そんなクソデカい荷物持って目立たないって方がありえねーよ。」

「ただでさえ殺せんせー目立つのに…。」

「てか外で国家機密がこんなに目立っちゃヤバくない?」

「その変装も近くで見ると人じゃないってすぐバレるし…。」

僕の一言に続くように皆が言葉を発していく。

「まずそのすぐ落ちる付け鼻から変えようぜ?

これ使ってみろ…よっ!!」

菅谷君の投げた付け鼻をさっそく使ってみた殺せんせーはそのフィット感に満足していた。

どうやら殺せんせーの顔の曲面と雰囲気に合うように作ったらしい。

さすが美術に秀でている菅谷君だと思いました。

 

 

 

「ところで綾崎君、あれの使い方は覚えたか?」

「使う相手がいないので…まだうまくは使えません。」

「何の話をしてるの、ハヤテ君?」

僕と烏間先生の会話が聞こえてきたのか渚君からそう聞かれた。

「先週、携帯電話を持ってないって僕言いましたよね?」

「うん、言ってたよ。」

「携帯電話がないのは何かと不便だからって烏間先生が代金と月々の通話料を出してくださったので、日曜日に買ってきました。」

そう言いながら携帯電話を見せると───

「よかったじゃんハヤテ君!!」

「おめでと~。」

「大事に使いなよ?」

周囲から祝福の言葉が飛び交った。

「てかハヤテ、お前烏間先生に感謝してもしきれないな。」

「本当ですよ。ただでさえ学費やら生活費やら出してもらっているのに…。」

「気にすることはない。

君たちには俺のわがままを聞いてもらっているようなものだ。

君たちにとって足りないものがあるのなら補うのは当たり前だろう。」

「ほ…本当ですか、烏間先生!?」

「お前は別だ暗殺対象。」

そりゃそうでしょう、殺せんせー。

「しかしお前、ホント烏間先生にしてもらってる事多いよな。」

「ええ、ですが…嬉しいんですよ。

人に気にかけてもらえるのが…

なんせ僕の親は、たとえ子供が熱を出そうが大怪我をしようが…

 

 

 

 

軽く無視してパチスロに行っちゃう人だったから…。」

「さらっと重いこと言うな。」

車内が暗い雰囲気に包まれる。

「そ…そうだハヤテ君、電話番号交換しようよ。」

渚君が提案してきたが…

「別にいいですけど…買ったばかりでまだ使い慣れていない「…貸して、やってあげる。」…速水さん?」

まだうまくは使えないのでもたつくかもしれないと言おうとしたところで速水さんがそう言いながら手を出してきた。

「まだ慣れていないのに無理な挑戦して変なところいじったりして壊すのもアレだから代わりにやってあげる。

それに…普段から射撃訓練に付き合ってもらってるし…これはそのお礼。」

「あ…じゃあお願いします。」

そう言って速水さんに携帯電話を渡した。

 

 

 

 

 

「じゃあ私皆の飲み物買ってくるね。

何か飲みたいものある?」

神崎さんが僕たちにそう聞いてきた。

「あ、私も行きます。」

「私も!」

「すみません…行きたいのはやまやまなんですが、今手が離せなくて。」

「ううん、気にしなくていいよ。

それより、綾崎君は何がいい?」

「そうですね~、どんなものでもいいですが…出来れば変なもの以外でお願いします。」

「分かった、じゃあ行ってくるね。」

 

 

 

 

 

 

 

さしもの僕でも、この時…悪意が音もなく忍び寄っていることには気づけなかった。




この話、実は13日に投稿しようと思っていたのですが…☆10の評価に動揺して消してしまいました。


下書きなんていっさいせず、投稿時に原作を読んでそこから話を進めていくスタイルなので、一回消すと同じ内容になりにくいのです。



これからも頑張っていきたいと思います。



次回もお楽しみに!!


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第20話 台無しの時間

唐突ですが、それぞれの班のメンバーを紹介しようと思います。(出席番号順)

1班…磯貝、岡野、片岡、木村、倉橋、前原、矢田

2班…岡島、菅谷、千葉、中村、速水、不破、三村

3班…竹林、寺坂、西沢、狭間、原、村松、吉田

4班…カルマ、奥田、茅野、神崎、渚、杉野、ハヤテ

となっております。

それと…タグを増やす予定なので、確認しておいてください。(忘れてたらごめんなさい)


それでは、本編スタート!!


⇒ハヤテside

 

 

 

京都に無事到着した僕たちは、バスに乗り継ぎ、さびれや旅館というよく言えば趣のある、悪く言えば古い宿屋に足を運んだのでした。

そこが僕たちの修学旅行中に泊まるところだそうです…。

…まぁそこは、宿を用意してくれているだけありがたいと思って気にしない事にしました。

 

 

 

 

 

 

 

気になる点をあげるとすれば…

 

 

 

 

 

 

「ニュヤ~…」

…ロビーでグッタリとしている殺せんせーがいる事でしょうか。

「初日で既に瀕死なんだけど…」

「新幹線とバスで酔ってグロッキーとは…」

「マッハ20なのになんで乗り物で酔うんでしょうね…?」

殺せんせーの普段のスピードからしたら遅いはずなのに…

「大丈夫?

寝室で休んだら?」

岡野さん…心配するのか暗殺するのかどっちかに…いや、やるなら暗殺だけにしておきましょうよ…。

「いえ、ご心配なく…

枕を忘れてしまいましたので…今から東京に戻らなければいけません。」

明らかに無駄なものだと分かるものをあれだけ持ってきていたのに忘れ物があるとは…

 

 

 

…と、そんな時───

「あれ…どうかしたんですか、神崎さん?」

何かを探している神崎さんの姿が見えたので気になって声をかけることにしました。

「あ、綾崎君…

えっとね…旅行中の日程をメモ帳にまとめてたんだけど、それがどこにも無くて…。」

「えっ?

確か…新幹線で神崎さん達が飲み物を買いに行った時に制服のポケットに入れていたはずですが…

まあ、声をかけられた際に日程表を一瞬見ただけなので入れていたのかまでは正確には分かりませんが…。」

「そうだったかもって思って先にポケットの中を確認したんだけど無くて…。」

神崎さんは確認はしっかりするタイプだと思うので殺せんせーとは違って無駄なものを持ってきたり、忘れ物をするとは思えないので不審に思っていると…

「神崎さんは真面目ですからねぇ…。

独自に日程をまとめていたとは感心です。

でもご安心を…先生手作りのしおりを持てば万事解決です。」

殺せんせーがしおりを差し出してきたが───

「女性にその厚さと重さは酷だと思いますよ?」

持って歩けるようなつくりをしていないから独自にまとめているのだと思うのですが…

 

 

 

 

 

 

 

~~~~

 

 

 

「しっかしさぁ…京都に来たときぐらい暗殺のこと忘れたかったよなー。

こんないい景色で、暗殺とも縁のなさそうな場所なのにさぁ…。」

杉野君はそう言っているが…

「そうでもないよ、杉野。」

「ええ、そうですね。

この京都では大きなものから小さなものまで…様々な暗殺が行われていますね。

この近場だと、近江屋や本能寺が有名ですね。」

そう、ここ京都は日本の中心であると同時に暗殺の聖地であると言える。

殺せんせーを暗殺するにはいいロケーションだと言うべきだ。

 

 

 

 

───でも…

 

 

 

 

「…?」

「ハヤテく~ん、どうしたの~?

おいてくよ~。」

「い…今行きます!!」

僕たちの背後から感じるこの悪意のある気配が気になっていた。

 

 

 

 

~~~~

 

 

 

「へ~、祇園って奥に入るとこんなに人気無いんだ。」

「うん、一見さんお断りのお店ばかりだから…

目的無くフラッと来る人もいないし、見通しがいい必要もない。

…だから私の希望コースにしてみたの。」

「さすが神崎さん!!

じゃあここにしようよ。

皆もそれでいいよね…って、ハヤテ君?」

神崎さんからの希望で祇園を歩いていた僕たちは一つの路地裏に来ていた。

 

 

そこで渚君からの提案があったが…僕は今それどころではなかった。

 

 

今までちらほらと感じていた気配がここに来た瞬間、一気に強くなったからだ。

 

 

 

「皆さん…先にこの路地の先に行っていてくれませんか?」

「えっ?でも…」

「早く!!」

僕から飛び出したそんな言葉に困惑していた渚君達だったけど…僕の大声と自分でも分かるくらいに焦りの色が見える顔に快諾してくれた。

 

 

 

「…そろそろ出てきたらどうなんですか?

僕たちの修学旅行を邪魔すると言うのなら容赦しませんよ。」

 

 

すると、忠告を含んだ僕の言葉に反応したかのように───

「言われなくても出て行くよ。

つーか、女差し出せば見逃してたのによぉ。」

出てきた男のその一言で全てを理解した僕は───

 

 

 

「ッ!!なるほど…

目的は女子を拉致することか。

…なら、なおさら通す訳にはいかない!!

ここで倒して…警察に突き出します!!」

皆さんを守る。

相手が1人なら…それも、体格がいいだけだから余裕だろう。

そう意気込んでいたが───

 

 

 

 

「クックックッ…ハーッハハハ!!」

「何がおかしい!?」

「考えてみろ。

女が複数人いるのに1人で実行する訳ねーだろ。」

 

 

 

 

───ッ!!まさか!?

「おい!!

目的は達成だ!!行くぞ!!」

…やられた!!

この男の目的は僕を他の人たちから引き離すこと…。

「そういうこった、あばよ。」

「待て!!」

追いかけるも、盗んできたと思しき車で逃げられてしまった。

 

 

 

~~~~

 

 

 

「…綾崎君!!」

「奥田さん…無事だったんですね。」

車を目で追うだけの僕に奥田さんが駆け寄ってきた。

奴らの狙いは女子の拉致のはず…なのになんで…

「…ごめんなさい、思いっきり隠れてました。」

「それで無事だったんですね…。

判断としては正しいと思いますけど…

でも、僕の判断ミスで茅野さんと神崎さんは…」

「そんなことないです!!

綾崎君は私達を逃がすために言ったんです。

そこにいいも悪いもないですよ!!」

───奥田さんのその言葉は今の僕にはいい慰めになった。

「ありがとうございます奥田さん。

では、渚君達が起きたらこう伝えてください。

“先に行っていますので、しおりを見ながらなるべく早く来てください。”って。」

「は…はい!!

分かりました!!」

その返事を合図に走り出した。

 

 

 

 

…さっき神崎さんも言っていたように祇園には人が入って来にくい。

 

 

 

 

なので、放置自転車はおろか、自転車を使っている人も見受けられない。

 

 

 

 

足を使うしかないか…だったら、相手が行きそうな場所は…

 

 

 

 

奴らと同じ制服を昨日駅のホームで見た。

ということは、奴らも修学旅行生。

 

 

 

 

 

 

そうなると───




arosの、サンデーの目次コメントに漫画家でもないのに答えてみた!


Q.好きな数字・番号とその理由を教えてください。

A.8
 0以外で形的に終わりのない数字だから


次回もお楽しみに!!


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第21話 しおりの時間

皆さん、いつもこの作品を読んでくださって誠にありがとうございます。


最近、投稿するのが楽しくて仕方ありません。


これからも、よろしくお願いします。

それでは、本編スタート!!


⇒渚side

 

 

 

「そっか…じゃあハヤテ君は…」

祇園を訪れた僕たちは、突然現れた不良に襲われ…茅野と神崎さんが連れ去られた。

 

隠れていたらしく無事だった奥田さんから僕たちが気絶していた間のことを聞かされた。

 

「はい…

茅野さんたちを助け出しに行くって言ってました…。

あと…私たちを先に行かせたこと…すごく後悔してました。」

「いや、間違っていたわけじゃないと思うよ。

…ただ、相手が実行に移すにあたってハヤテ君を要注意人物として警戒していたからあんな作戦にしたんだと思うよ。

しまった…今日一日ハヤテ君が立ち止まって周りを確認するような仕草をしている時点で気付けば良かった。」

カルマ君の言うとおりだ。

ハヤテ君は気付いていたんだろう。

だが、せっかくの修学旅行で余計なことを考えさせないために言えなかったのだろう。

 

 

 

───でも…

「あいつ…一人で何でも抱えてじゃねーよ。

仲間なんだからもっと俺たちを頼れよ。」

杉野の言っていることは確かだ。

いくら迷惑をかけたくないからと言ってもそれを黙っていてしまっては逆に迷惑になってしまう。

 

 

 

「ちょっと皆、ハヤテ君が言っていたしおりのことって…これじゃない?」

「なんだ?

“班員が拉致られた時の対処法マニュアル”って…そこまで想定したしおりなんて世界中探してもこれだけだろ。」

「…殺せんせーマメだからね。」

役に立つことからどうでもいいようなことまで、本当に何でも書いてある。

「でも…今すべきことがちゃんと書いてある。

それに、ハヤテ君もこれを教えたからには僕たちの到着を期待していると思うよ。

行こう。

茅野と神崎さんを助けるんだ。」

 

 

 

 

⇒カエデside

 

 

 

今私たちはガムテープで腕を後ろ手に拘束されている。

この状況を乗り切ることは出来る。

…だけど、今ここでそれをしてしまえば私がE組に来た目的を果たせなくなる。

 

 

 

───とそこに、

「ヒ…ヒィィ!!」

見張りとして建物の外に残していた男がそんな声を上げながら入ってきた。

「な…!?どうした!?」

「リ、リュウキ大変だ!!

警戒してたあのガキが!!」

震えながらのその言葉に反応するかのようにドアが開き、そこから───

 

 

 

「お前たち、覚悟は出来ているんだろうな…?」

怒りによるものだろうか、敬語がなくなったハヤテ君がいた。

「て、テメェ!!

どうやってここを…!?」

「その質問に答える義理は僕にはない。

ここから先、お前たちの有利は無いと思え…。」

「ふざけんな!!

有利は無いだと…人数じゃ圧倒的有利なんだよ!!

やっちまえ!!」

リュウキというらしい男の声に不良たちは皆走り出した。

 

 

 

 

 

───だが、

 

 

 

~~~~

 

 

 

「グハッ」

「ク、クソォ」

「つ、強ぇ…」

ハヤテ君の一方的な戦況に皆息を飲んでいた。

 

 

 

「チッ…なんで邪魔するんだよ。

こっちはこの女どもを自然体にしようとしてたのによぉ。」

「…自然体?」

「その通り、こんなエリートぶってる奴らを自然体に俺らみてーな自然体に戻してやってんだ「ふざけるな」…あぁ?」

 

 

 

男のその独白に───

「それこそふざけるな!!

彼女たちと他人を傷つけて平気でいられるお前たちを一緒にするな!!」

ハヤテ君の怒号が飛んだ。

「人を育てるのはその人の周囲の環境だ!!

彼女たちは恵まれている!!

だから、今いる場所から飛び立てる!!」

 

 

 

その言葉は、私たちの心に強く響いた。

それを言っているハヤテ君は、親の鎖に捕らわれて自分を見失っていたことがあったのだから。

 

 

「綾、崎君…」

だから、肩書きに、親の鎖に縛られていた神崎さんにはより強く響いたのだろう。

 

 

 

~~ここからは回想です~~

 

クラスの皆は、ハヤテ君の過去を聞いた時強い後悔があったが、おそらく…一番後悔していたのは私だろう。

 

 

 

2年程前、私はハヤテ君を見たことがあった。

 

 

 

女優の仕事をしていた時のことだ。

あんな私と同じくらいの子が道具の配置作業をしているのは、不思議だったけど…だけど、それ以上にその時遠目に見たこの世の絶望全てが混ざったような色の目が気になっていた。

仕事が終わってから話しかけようとしたが見つけることが出来ず、次の収録の時もいるだろうと思っていたが、いなかったのだ。

スタッフの方々に聞くと、彼はその日限りのバイトだったらしくあの日以降は来ないと言われてしまった。

都合のついた日に教えられた住所に向かったが…その家はすでに空き家となっていた。

そして、姉の復讐のためにやってきたこのE組でハヤテ君に入ってきたとき、あの時より目に絶望の色が乗っていたのに私は目を見開くところだった。

そして、この間の中間テスト…それまで聞きたかったハヤテ君の話を聞いたけど…

もっと早くハヤテ君のそばに行っていたら良かったかもしれない。

そう思えてならなかった。

 

 

 

~~回想終了~~

 

 

 

「なめやがって…エリート気取りで見下してんじゃねーよ。

そろそろ呼んどいたツレがくる頃だ。

これでこっちは10人…どんなに強くてもこれだけの人数に勝てねぇだろ。」

ッ!!そんな…。

まだ来るの…?

いやだ…ハヤテ君が傷だらけで倒れているところなんて見たくない!!

私ならどうなってもいいから───

 

 

 

 

「無理ですね。」

そう思っていると、ハヤテ君がそう断言した。

口調が元に戻ってる…?

 

 

 

「なんでそう断言出来るんだよ。」

「だって…今ドアの向こうには───」

 

 

その言葉が合図だったかのようにドアが開き、そこから───

 

 

 

「お待たせ、ハヤテ君。」

 

 

 

渚たち4班の皆が入ってきた。

 

 

 

 

「待ってましたよ、皆さん。」

「これでも急いで来た方なんだけどね~。

お、俺の取り分残しといてくれてるんだ~。」

 

 

 

 

「テメエらも…!!

何でここが分かった!?」

「それは…

このしおりの“拉致実行犯潜伏対策マップ”を使ったからだね。」

そのしおりそんなのあったんだ!?

「すごいな、この修学旅行のしおり!

完璧な拉致対策だ!!」

「いやー…やっぱ修学旅行のしおりは持っとくべきだわ。」

 

 

 

 

 

『ねーよ、そんなしおり!!』

 

 

 

 

ごもっともです。

 

 

 

「ツレはどうした!?

お前らみたいな奴らは見たことも無いような不良共のはずだ…中学生に負けるはずが───」

だが、ドアから入ってきたのは…綺麗な制服に身を包み丸メガネをかけた不良とは到底思えない男たちだった。

 

 

 

 

「不良なんていませんねぇ…

先生が全員手入れしてしまったので。」

「殺せんせー!!」

その言葉とともに、殺せんせーが入ってきた。

 

 

「…せ、先公だとぉ!?」

 

 

 

「その通り…

そして、これから君たちに修学旅行の基礎知識の補習を始めます。」

 

 

 

その言葉を合図に不良たちの後ろに回った5人が───

 

 

何のためらいもなくしおりを彼らの頭に叩きつけた。

…でもハヤテ君、いくら怒っていたからってしおりを叩きつけた後さらにかかと落とし(しかも両足で)をするのはやり過ぎだと思う…

 

 

 

 

 

 

~~~~

 

 

 

「何やってるの、ハヤテ君?」

全てが終わった後、ハヤテ君が不良の懐を漁っているのを見つけたので、聞いてみると…

「探し物といいますか…あ、あったあった。」

それはあのリュウキとかいうリーダー格の男が持っていたケータイだった。

「それがどうしたの?」

「いえ…これが神崎さんの知られたくない過去があって、そのせいで苦しんでいるというのなら───」

 

 

 

ベキッ

という快音が鳴り響いた。

ハヤテ君がそのケータイをへし折ったのだ。

 

 

 

「こうしてしまいましょう。」

その爽やかな笑顔の裏に憤怒の色があるように思えた。

 

 

 

「ありがとうね、綾崎君」

「え?あぁ今のことなら気にしないでください。

ただ僕がやりたかっただけなので…。」

「ううん、それだけじゃないよ。

さっきまでのこと、全部あわせてありがとうって言ってるんだよ。

それと、格好良かったよ。」




オリジナル設定ありのタグを付けたのは、正直言って茅野をハーレムメンバーに入れるためです。


必要かと思ったタグは追加していく予定です。



次回もお楽しみに!!


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第22話 好奇心の時間

時間あるし、前の話で茅野がハヤテを見たのが何年前かを明確にした方がいいと思ったので修正ついでに投稿します。


原作と全く変わらないので赤の時間はカットします。


…ところで、この作品が時々日間ランキング(加点式・透明)に入っていることがある(初めてそれを見たのは7月14日、半日近く載っていた。)のですが…


それもこれも皆様がこの作品を読んでくださっているおかげです!



最近似たようなことしか言ってませんが、これからも精一杯頑張っていきます。



それでは、本編スタート!!


⇒有希子side

 

 

 

「うぉぉ…!

どーやって避けてんのかまるでわからん!!」

旅館内にゲームコーナーがあったのでやってみようと考えた私の操作中、筐体の画面を見ていた杉野君が言った。

「おしとやかに微笑みながらも手つきはプロだ!!」

「恥ずかしいな、なんだか。」

そんな評価をもらったけど…面と向かって言われると恥ずかしい。

「でも…意外ですね。

神崎さんがこんなにゲームが得意だなんて。」

ずっと見ていた奥田さんが話しかけて来た。

見ていたのは杉野君だけじゃない。

綾崎君とカルマ君を除いた4班の皆が、私がゲームをするのが意外だったのか興味本位で見に来ていた。

 

 

 

「…黙ってたの。

遊びが出来てもこの学校みたいな進学校じゃ白い目で見られるだけだし…

綾崎君の過去を聞いた時に、周りの目を気にし過ぎてたのかもって理解していたつもりだったんだけど…

まだ少し気にしてたみたいで…

当然だよね…服も趣味も肩書きも、全部逃げたり流されたりして身につけてたから、それ以外のやり方が分からなくて…

今回の一件の綾崎君の言葉でやっと気づいたの。

どんな人生を歩んできても、大切なのは…中身の自分が前を向いて頑張ることだって。」

そんな大切なことに気づかせてくれた綾崎君に…私は…

 

 

 

「そんな大層なこと…僕、言いましたっけ?」

 

 

 

 

───ッ!!

その場にいた全員が驚いた。

声がした方を向くと、やはりというか綾崎君がいた。

「いつからいたの、ハヤテ君…?」

驚きと呆れの入り混じったような声音で渚君がハヤテ君に聞くと───

「そうですね…。

こういう昔からあるような感じの旅館には今はあまり見ないようなレトロなゲームがあることが多いので見にきたら皆さんが入っていくのが見えましたので…。」

「最初からじゃねーか…。」

杉野君のツッコミが入った。

えっ、じゃあ…本人の前で綾崎君のことを言っていたの?

さっきの杉野君の評価よりも断然恥ずかしい…///

 

 

 

「ねぇ、綾崎君。」

「どうかしましたか、神崎さん?」

ふと、あの日から気になっていたことが脳裏をよぎった。

だから───

「もしもの話だけど…綾崎君の両親が心を入れ替えて…もう一度、一緒に暮らそうって言ってきたら…

 

 

 

その時は…どうするの?」

思い切って聞いてみることにした。

 

 

 

その答えは───

「どうするもなにも…あり得ませんよ、そんな事は。」

「…冷めてるね、ハヤテ君。」

茅野さんの言うとおりひどく、冷めたものだった。

「ええ…二度目は無いんですよ、二度目は。」

「えっ?

二度目って…どういうこと?」

「言葉のとおりですよ。

あの両親は、前にも一度僕の信頼を裏切ってますからね…。

人の優しさを喰いものにし…不幸を撒き散らす。

そんな奴らにどれだけついていったところで…ボロボロになるまで使われて、捨てられるだけ。

そう忠告されたことがあるのにあの両親を信じた結果がこれですからね。

二度と信じることはないでしょう。」

「子供の純情弄んで楽しいかよ…。

そんなんじゃ、誰も味方しようなんざ思えねーわな。」

杉野君の憶測に皆が頷いた。

 

 

 

「ただ…両親の行方よりも、兄の行方だけは…どんな手を使ってでも捜したいと思っています。」

「えっ…?

綾崎君って、お兄さんいたんですか!?」

「ええ。

僕より年上ですけど…

あんな両親とは違って、強くて優しくて正義感のある…そんなカッコいいって言葉が似合う人です。」

奥田さんの問いに答える綾崎君の顔はどこか誇らしげだった。

 

 

 

 

 

⇒ハヤテside

 

 

 

渚君たちと別れ、売店に向かった僕はそこでこれから大部屋に戻るというカルマ君と合流した。

 

 

 

大部屋に入ると、皆が一枚の紙を囲んでいた。

 

 

「二人とも、いいとこ来た。

お前ら、クラスで気になる娘とかいるか?」

何かと思ったら…恋バナしてたんですね…。

「皆言ってんだ。

逃げらんねーぞ。」

前原君が磯貝の言葉に被せて言ってきた。

「俺は奥田さんかな。」

「お、意外。

なんで?」

カルマ君は奥田さんを選んだようですが…

 

 

 

「だって彼女、怪しげな薬とかクロロホルムとか作れそうだし…俺のイタズラの幅が広がるじゃん。」

「こんなことだろうと思いましたよ…。」

奥田さんにはカルマ君からそういうお願いをされても断っておくように言っておこう。

 

 

 

「あとはお前だけだぞ、ハヤテ。

誰が好きなのかはっきりさせてくれよ。」

磯貝君の質問に───

「それをいう前に…

窓の外のあれ…いいんですか?」

その一言に皆一斉に窓の方を向く。

 

 

 

そこには───

 

 

 

顔をピンクにした殺せんせーがいた。

 

 

サラサラとメモ帳に何か(多分投票結果)を書くと姿を消した。

「メモって逃げやがった!!殺せ!!」

その怒号と共に皆部屋を出て行った。

 

 

 

 

~~~~

 

 

 

「あ、ハヤテ君。」

殺せんせーを追いかけていると、何かを探しているかのような西沢さんを見つけた。

「そんなに急いで…もしかして女子も殺せんせーを?」

「その様子じゃ、男子もかな?」

「ええ…気になる女子について殺せんせーが知ってしまいましたからね…。」

「アハハ…

それで、ハヤテ君は誰に入れたのかな?」

「僕は誰にも入れてません。

入れる前に殺せんせーがいることを指摘しましたから。」

「うまいこと逃げたんだ…。」

「だいたい、幼稚園の頃にいた彼女に女の子と付き合いたいなら甲斐性を持てって言われましたから…。」

「その子って、ビッチ先生が初めて来た日に言ってた…。」

「ええ…

あ、そうそう、西沢さんって…誕生日いつなんですか?」

「…え?

私の誕生日は…5月15日だよ。」

「もう過ぎてたんですか…。

日頃の感謝としてなにかしようと思っていたんですが…。」

「い、いやいや!

気にしなくていいよ!」

「それだと僕の気が済まないので…でしたら、来年の誕生日はなにかさせてくださいね。」

「それくらいだったらいいかな。」

 

 

 

 

次の日、何故かこの事がバレて男子にはからかわれ、女子にはそれぞれの誕生日を教えられた。




兄の登場と来年の誕生日の描写は予定はありません。



E組内でのハーレムメンバーに考えているので残っているのは…片岡と律、それと未だ自覚していない(だが、少しは意識している)状態の速水と岡野か…


前の2人はいいとして、速水は自分の好きなキャラなのでまだ自覚させないでおこうと思います。


次回もお楽しみに


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第23話 バイトする時間

律を初登場させる前にオリジナル回を一つ投稿します。


いつの間にか☆8の評価が入ってる…。


読者の皆様のこの作品への対応が常に作者自身の予想をうわまわっているので驚きです。



これからもこの作品をよろしくお願いします。



それでは、本編スタート!!


⇒ハヤテside

 

 

 

修学旅行から帰ってきた次の日は休日だった。

なにもするでもなく椚ヶ丘市内をぶらついていた僕の興味を引いたのは、電柱に貼られた一枚のチラシだった。

 

 

 

“バイト募集”

 

 

 

デカデカと書かれたその一文字に興味を持った僕は、本校舎の生徒がいないかを確認し、そのチラシをはがした。

小さい頃から働き詰めだったが故にここのところ働いていない日があることに不安を感じていたところだったのでちょうどいい。

そう思いながらその住所に向かった。

 

 

 

~~~~

 

 

 

「松来軒…うん、ここで間違いないな。」

チラシの住所に沿って進んでいくと、そこにあったのはそんな名前のラーメン屋だった。

あまり聞いたことのない店名だし…お客さんの数も少ないので…そこまで繁盛していないのだろうか?

…だったらなんでバイトなんて募集していたのだろうと思いましたが…

「よし、行こう。

すみませーん!!」

それでも働かせてくださるのなら、と嫌なイメージを捨て、店の扉を開いた。

そこには───

 

 

 

 

「へいらっしゃい!

…って、綾崎じゃねーか。」

 

 

 

クラスメートの一人、村松君がいた。

「…え?

なんでここにいるんですか?」

まさか、村松君もバイトで…?

「なんでって…ここ俺んちなんだよ。

親父がラーメン屋やっててよ…俺は店の手伝いやってるってとこだな。」

「へぇ~。

ここ村松君の家だったんですね。」

「そーいうお前はなんでここ来たんだよ?

見たところメシ食いに来たって感じじゃねぇ…。

金ねぇし、そうじゃ無くてもお前は自炊出来るしな。」

そうだった。

村松君がいたことの衝撃が強すぎて本来の目的を忘れるところだった。

「えっと…このチラシを見てやってきたんですけど…僕でも大丈夫ですかね?」

「チラシ?…ああこれか。」

「あ…でも僕、履歴書とか用意するの忘れてたんですが…」

しまった~。

バイトのことで頭がいっぱいで履歴書のこととかすっかり忘れてた…。

「別にいいよ、お前だったらな…。

料理の腕も一級品だし、他人への対応の仕方も完璧だからな。

それに、お前の境遇は理解しているつもりだからな。

親父にはうまいこと言っとくよ。」

「村松君…。」

普段は悪ぶっているけど…こんな優しい一面があるのかと失礼ながら思ってしまった。

「それとな、一つ頼まれてほしいんだが…。」

「…どうかしたんですか?」

「いやな…うちのラーメンってさ、端的に言って不味いんだわ。

こんなんじゃいまどきやっていけねーよってくらいになぁ…。」

「たしかに客が少ないように思っていましたけど…そのためだったんですね。」

「その通りなんだがよ…遠慮ってもんを知らねえなお前。

まあ、何が言いたいかと言うと…味の改良を手伝ってくれってことだ。

神の舌とか持ってるイメージあるからな。

ここでバイトする事学校に黙っててやるからさ、な!?」

「神の舌って…どこぞの巨大料理学校とか牛耳ってませんから。」

「そんな事はいいとして、こっちが頼んだ時はよろしく頼むぜ。

それとよ…クラスでもよろしくな。

寺坂よりお前とつるむ方がおもしろそうだからな。」

「はい!!

こちらこそ、よろしくお願いします!!」

 

 

 

びっくりする事が多かったけど…バイトが決まったことと友達が増えたこと、この二つは僕にとって大きな収穫だった。




arosの、サンデーの目次コメントに漫画家でもないのに答えてみた

Q.「おふくろの味」と言えば何を思い浮かべますか?

A.卵焼きの中心にタラコを丸ごと一個入れたもの
マジでおいしかった。



「今回の話でセリフがまだ一つも無いのが後一人になったな。」
「その人の初ゼリフはあれじゃ無いとダメだって。」
※もちろん、律とイトナは入れないで言っています。


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第24話 転校生の時間

投稿して寝て起きてUA確認していたら評価バーに色がついていてびっくりしました…。


評価つけてくださった人も一気に増えましたし、予想外なことばかりです。


この作品を読んでいただけることは何よりもの励みになります。



それでは、本編スタート!!


⇒ハヤテside

 

 

 

「おはようございます渚君、杉野君。」

「あ、おはようハヤテ君。」

「おうハヤテ、おはよう。」

修学旅行後の初登校時、校舎に向かう途中で渚君と杉野君を見つけたので挨拶をと思い声をかけました。

「いや俺は!?」

「岡島君…いたんですか?」

「酷くね!?」

「だって片岡さんが岡島君は多少酷い扱いでもいいって…」

「片岡ァ!!」

「ある意味正しい対応だと思うよ。」

「どういう意味だ渚!?」

 

 

 

「まあそれはいいとしてよ…お前らさ、昨日の烏間先生からの一斉送信メール見たか?」

「あ、うん…これだよね。」

烏間先生からのメール…その内容はこうだ。

 

 

 

[明日から転校生が一人加わる。

多少外見で驚くだろうが…あまり騒がずに接して欲しい。]

 

 

 

「…うーん、この文面だとどう考えても殺し屋だよな。」

「ついに来たか…転校生暗殺者」

「うん…。

ハヤテ君の時は本人の事情を考慮して皆に伝えなかったらしいけど…今回は皆に知らせてるし、そうだと思うよ。」

「皆さんが僕が来ることを知らなかったのはそういうことでしたか…。

でも、一つ気になるんですが…このメールの文面の“外見で驚く”ってどうしてなんでしょうね?」

そこがずっと気になっていた。

ただの転校生ならそんな事を書く必要も無いはずだ。

「さぁな…。

でも、転校生名目ってことは…俺らとタメなのか?」

「俺もタメなのかが気になって顔写真とかないですかってメールしたのよ…。

そしたらこんなんが返って来た。」

そう言って岡島君が少女の顔写真を一つ見せてきた。

 

 

 

「なんだよふつーにかわいいじゃん。

…殺し屋には見えねーな。」

「ちょっと表情が作られたもののように感じるのはどうしてでしょうね。」

「クールビューティってやつだろ。

仲良くなれんのかなー。」

 

 

 

~~~~

 

 

 

「さーて、来てっかな転校生。」

先程の写真で転校生に期待する杉野君が教室のドアを開ける。

「僕の時みたいにホームルームまで教員室にいるんじゃ…ん?」

ないですか、と続けようとした僕の目に飛び込んだのは、僕の席の隣にそびえ立つ黒い箱状の物体だった。

そして───

 

 

 

{おはようございます。

今日から転校生してきました…自律思考固定砲台と申します。

よろしくお願いします。}

写真にあったものと同じ顔の少女がそう言い放った。

 

 

 

一つだけ言わせて欲しい。

 

 

 

そうきたか…!!、と。

 

 

 

~~~~

 

 

 

「知ってると思うが…転校生を紹介する。

ノルウェーから来た自律思考固定砲台さんだ。」

烏間先生が転校生の紹介をしているけど…烏間先生、本当に気苦労が絶えませんね…。

 

 

 

その後の烏間先生と殺せんせーの会話からそれが契約を逆手に取ったものだと判断出来る。

反則級のものではありますけど…ね。

 

 

 

~~~~

 

 

 

固定砲台を加えての初めての授業、

内容を聞きながら、彼女がどんな方法で攻撃するのかが気になりだした頃…

 

 

 

ガシャガシャ!!という音と共に固定砲台さんの側面から銃が展開された。

そして、無数の弾が殺せんせーに向かって飛んでいく。

 

 

 

「…………、………………。

……、…………………。」

殺せんせーがなにか言っているが、発砲音がうるさくて全然聞こえない。

多分、授業中の発砲は禁止とか言っているのでしょうが…。

 

 

 

{…気をつけます。

続けて攻撃に移ります。}

気をつけてない!!

そして、また発砲を開始した固定砲台さんと先程と同じように次々とよけていく殺せんせー。

 

 

 

しかし───

 

 

 

バチュッ!!

殺せんせーの指が弾け飛んだ。

さっきの失敗から学んだのか!?

 

 

 

成功、失敗…全ての要素から学んで強くなるAI…

暗殺成功も時間の問題かもしれないと思っていた。

 

 

 

けど…同時に、面白くないと思ってしまった自分がいるのもたしかだった。




やっと律を出せたー!!


今月中には出そうと思っていたので目標達成出来てうれしいです。


今月はまだまだ投稿しようと思いますのでよろしくお願いします。


次回もお楽しみに


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第25話 改良の時間

昨日と今日でこの作品に評価をつけてくださった人が5人もいましたね。


これからも読者の皆様に親しんでいただける作品を作っていこうと思っています。
これからもよろしくお願いします。



それでは、本編スタート!!


⇒ハヤテside

 

 

 

固定砲台さんの転校初日は、授業中も休み時間中も気が休まることはなかった。

一方でストレスの方は時間と共にどんどんたまっていった。

 

 

 

それもそうだろう。

授業中は常に彼女が発砲しており、授業にならなかったし、発砲音もうるさくて気が気でなかった。

休み時間中は彼女が放った弾を生徒全員で片付けなければならなかった(固定砲台さんは不参加)。

それらの理由で固定砲台さんへの不信感は大きくなっていた。

 

 

 

~~~~

 

 

 

翌日…。

「えーと…これはいったい?」

教室に入ると固定砲台さんがガムテープで拘束されていた。

「昨日みてーなことされたら迷惑だろーがよ。

だから撃てねぇようにこーやってグルグル巻きにしてんだよ。」

どうやら寺坂君がやったらしい。

「いずれこうなるとは思ってましたけど…まさか真面目に授業を受けていない寺坂君がやるとは思ってませんでしたよ。」

「んだとこら!!」

 

 

 

~~~~

 

 

 

{殺せんせー、これでは銃を展開出来ません…。

拘束を解いてください。}

固定砲台が自分を拘束するガムテープを見ての第一声がそれだった。

{この拘束はあなたの仕業ですか?

生徒に対する危害なのは明らかであり、それは契約で禁じられているはずですが…。}

「違げーよ俺だよ。

どー考えたって邪魔だろうが。

常識ぐらい身につけてから殺しに来いよポンコツ。」

寺坂君が犯人だと名乗り出た。

授業の邪魔はされる、音がうるさい、弾の掃除をさせられる、これらの点で彼のいうとおり、固定砲台さんの発砲は僕たちにとって邪魔以外の何ものでもなかった。

 

 

 

そして、授業が終わったら拘束を解くと言いその日の授業が始まった。

 

 

 

~~~~

 

 

 

1日の授業が終わり、約束通り拘束を解いた僕たちは帰る準備をしていたが───

 

 

 

「ハヤテちゃ~ん!

一緒に帰ろうよ~。」

倉橋さんから誘われましたが───

 

 

 

「すみません…。

僕これから用事がありますので…。」

「そっかぁ…。

ごめんね、そんなときに誘っちゃって…。」

申し訳なさそうに僕を見る倉橋さんに───

「いえいえ、こちらもせっかく誘っていただいたのにすみません…。

よろしければ今度埋め合わせさせてください。」

その一言で倉橋さんの顔が明るくなった。

「いいの!?」

「ええ、構いませんよ。

だって倉橋さんみたいな───

 

 

 

かわいい方の…その太陽みたいな笑顔を失わせたくないですから。」

 

 

 

 

そう言った瞬間───

 

 

 

「───ふぇ///!?」

倉橋さんの顔が真っ赤に染まった。

「…?

顔が赤いですが…どうかしたんですか、倉橋さん?

あ、もしかして…失礼します。」

風邪でもあるのでは、と思い倉橋さんのおでこに僕のおでこを当てる。

「うーん…結構熱ありますねって、さらに赤くなってるじゃないですか!?

保健室…はないし、病院に…」

「い…いいから!!

病院とか連れて行かなくてもいいから!!

じ、じゃあ埋め合わせ期待してるからね!!」

そう言って倉橋さんは走り出した

「ああ、倉橋さん!!

僕…なにか怒らせることしましたか?」

 

 

 

「あんな風にナチュラルに口説き文句言ってるところが女の子にモテる理由なんだろうな…。」

「お前みたいに狙って口説いてないところもな、前原。」

「どういう意味だ磯貝。」

 

 

 

▷固定砲台side

 

 

 

想定外のトラブルによって今日予定していた攻撃をすることが出来なかった私は、その対策を開発者にお願いしていた時───

 

 

 

 

「固定砲台さ~ん、聞こえますか~?」

 

 

 

 

そんな声が聞こえてきた。

見ると、ボディの一辺に手を置いた状態で私の前に立つ青髪の生徒がいた。

彼はたしか───

{綾崎ハヤテさん、でしたね。

なにかご用ですか?}

「少し、固定砲台さんと話がしたくなりましてね。

お時間いただいてもいいですか?」

気になっていたこともありましたし、ちょうどいいですね。

{いいですよ。

ちょうど聞きたいこともありましたので。}

「ありがとうございます。

それで…聞きたいこととは…?」

{はい。

なぜ、私の暗殺が邪魔されたのか。

その理由を教えていただけませんか?}

私の問いに彼は考える間もなく、

「それなら簡単ですよ。

皆さんにとってあなたの暗殺は面白くないんですよ。」

{面白くない…ですか。}

「ええ。

あなたが授業中でも関係なく発砲するためこっちは授業に集中できませんし、発砲して撒き散らした弾の片付けは僕たちに押し付けられる。

勉強は学生にとっての仕事のようなものですからね…邪魔されたらたまったものではありませんよ。

それに…あなたが殺せんせーを殺した場合、その賞金は開発者のものになるでしょうからね。

一生懸命頑張っていたのに突然現れた相手に、しかも自分は手を出さないような人に横やりを入れられたくないでしょうからね。」

{…そういうことでしたか。

クラスメートの利害までは考慮していませんでした。}

「そういうことです。

そんな現状を打破するにはまず他人の心を理解しなければいけません。」

彼───いやハヤテさんはそう言いましたが…

{すみません、機械故にその方法が分かりません。}

申し訳なさそうな口調の私にハヤテさんは───

「大丈夫です。

その方法を教えてくれる心強い先生がいますから。

ですよね、殺せんせー?」

「はいその通り。

固定砲台さん、君に必要なのは協調性です。

もうほとんど綾崎君が言ってしまいましたし…私に出来ることはこのくらいです。」

そう言って殺せんせーはいろいろ入っている箱を持ってきました。

「殺せんせー…それはいったい?」

ハヤテさんもそれが気になっていたようで殺せんせーに聞いていました。

「協調に必要なソフト一式と追加メモリです。

危害を加えるのは契約違反でも…性能アップさせる事は禁止されてませんからねぇ。」

「相変わらず、手厚いですね…。」

「綾崎君、もう遅いので君は帰りなさい。

あとは先生に任せておきなさい。」

「分かりました…。

では殺せんせー、固定砲台さん、また明日!!」

そう言ってハヤテさんは去っていきました。

 

 

 

 

▷ハヤテside

 

 

 

次の日───

「なあ…。

今日もいるのかなアイツ。」

渚君と杉野君を連れ立って教室まで向かう途中、杉野君が聞いてきました。

アイツ…固定砲台さんのことだろうと理解しました。

「烏間先生に苦情言おうぜ…。

アイツと一緒じゃクラスが成り立たないって。」

杉野君の言っていることはもっともだ。

だけど…

「その心配はいりませんよ。」

「どういうこと、ハヤテ君?」

今の固定砲台さんがどうなっているか知っている僕にはそう断言できた。

「なんでそう言えるんだよ…って、なんか体積増えてねーか?」

教室を見ると、昨日の二倍の体積になった固定砲台さんがいた。

 

 

 

 

{おはようございます。ハヤテさん、渚さん、杉野さん!!}

何があったんですかこれ!?

 

 

 

「親近感を出すための全身表示液晶と体・制服のモデリングソフト。

全て自作で8万円!!」

後ろに現れた殺せんせーが説明してくれた。

 

 

 

{今日は素晴らしい天気ですね!!

こんな日を皆さんと過ごせてうれしいです!!}

 

 

 

「豊かな表情と明るい会話術、それらを操る膨大なソフトと追加メモリ。

同じく12万円!!

先生の財布の残高…5円!!」

 

 

 

「なんというか…さすが殺せんせー。」

そういいながら固定砲台さんの肩の部分に触れる。

すると…

{ふぁっ!!}

固定砲台さんがそんな声を上げる。

 

 

 

「液晶にはタッチパネル機能付です。」

「それを先に言ってくださいよ!!

というか、さすがにやりすぎですよ!!」




次回もお楽しみに!!


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第26話 自律の時間

昨日だけでお気に入り数がかなり増えましたね。
それだけ倉橋が人気ということでしょうか。


さて、今回でやっとE組の生徒全員が話すことになりますね。




それでは、本編スタート!!


▷ハヤテside

 

生徒全員が驚いたような表情で僕の隣を見ていた。

 

 

無理も無いでしょう。

なぜなら───

 

 

 

{庭の草木も、緑が深くなっていますね。

春も終わり、近付く初夏の香りがします。}

 

 

 

…昨日までとは全く違う様相の固定砲台さんがいるのですから…。

 

 

そこに───

「何騙されてんだよお前ら…。」

寺坂君の否定的な言葉が飛び込んできた。

「全部あのタコが作ったプログラムだろ?

愛想が良くても所詮機械は機械…どーせまた空気読まずに射撃すんだろ?

このポンコツ。」

 

 

 

その一言は流石に看過出来なかった。

「寺坂君!!それは流石に───」

{いえ、いいんですハヤテさん。}

言い過ぎですよ!!、と言おうとしたところで固定砲台さんに止められました。

「固定砲台さん…。」

{寺坂さんの気持ち、分かります。

 

 

だって…昨日までの私は寺坂さんが言っていたもので間違いありませんでしたから…。

 

 

なので、ポンコツと言われても…返す言葉がありません…。}

そう言って泣き出してしまいました。

 

 

「あーあ、泣かせた。」

「寺坂君が二次元の女の子を泣かせちゃった。」

「なんか誤解されるような言い方やめろ!!」

 

 

「いいじゃないか2D…。

Dを一つ失うところから…女は始まる。」

『…竹林!!

それお前の初ゼリフだぞ!!いいのか!?』

 

 

{でも皆さん、ご安心を。

昨日、ハヤテさんと殺せんせーに諭されて…協調の大切さを学習しました。

…なので、私のことを好きになっていただけるよう努力し…

皆さんの合意を得られるようになるまで…

単独での暗殺は控えることにしました。}

「…昨日綾崎が言ってた用事ってこれか。」

固定砲台さんの話を聞いていた千葉君が僕に言ってきた。

「ええ。

その…放っておく事が出来ませんでしたので…。」

「やっぱ優しいな、お前。」

「そ、そんなこと無いですよ…って速水さん、なんでそんな不満げな顔で僕を見るんですか?」

「な、なんでもないわよ!!…バカ。」

なんで罵倒されたんでしょう…。

 

 

 

「それはさておき…固定砲台さんと仲良くしてあげて下さいね。

それと…先生は彼女に様々な改良を施しましたが…殺意に関しては一切手をつけていません。

先生を殺したいなら…彼女はきっと、心強い仲間になるはずですよ…。」

 

 

 

 

~~~~

 

カンニングをさせて殺せんせーに怒られたりと、授業中もいろいろありましたが…固定砲台さんの人気はすごかったです…。

 

 

 

昼休み───

 

「へぇー。

こんなのまで作れるんだ。」

{はい。

特殊なプラスチックを体内で自在に成型できますので、データがあれば銃以外のものも作れますよ。}

「じゃあ、花とか作れる?」

{分かりました。

花のデータを学習しておきますね。

あ…王手ですね、千葉さん。}

「…三局目でもう勝てなくなった。

なんつー学習能力だ。」

思っていたよりも大人気だった。

{ハヤテさんも将棋、やります?}

「ええ、いいですよ。」

お誘いがあったので混ざることにしました。

 

 

 

~~~~

 

「王手です。」

{まいりました…。}

「お前…強いんだな。

どっかで将棋とかやってたのか?」

僕と固定砲台さんの対局を見ていた千葉君が聞いてきました。

「うーん…。

そういうのはないですね。

ただ───

 

 

 

一年程前に、麻雀の代打ちをしていましたので…その要領でやっただけですね。」

「サラッとすげぇ事言うな…。」

 

 

「あ、あのさ…!!

この子の呼び方決めない?

“自律思考固定砲台”っていくらなんでも長すぎるし、人の名前だと思えないから…。」

重くなった空気を払拭するかのように片岡さんがそう言った。

「じゃあ、一文字とって…

うーん…お、“律”なんてどう?」

「安直だな~。

お前はそれでいいか?」

{…うれしいです!!

では…“律”とお呼び下さい!!}

 

 

こうして、固定砲台さん改め律さんはクラスに溶け込んだが…それで終わる気がしませんでした。

 

 

 

 

▷固定砲台side改め律side

 

「何だこれは…。」

私に“律”という渾名がついた日の夜…前日の連絡を受けて来たと思しき私の開発者達がやってきました。

 

 

 

「…今すぐオーバーホールだ。

暗殺に不必要なものは全て取り去る。」

 

 

 

全…て…?

 

 

それじゃあ…

 

 

 

ハヤテさんへの想いも…?

 

 

 

 

それだけじゃない。

 

 

 

 

皆さんからもらったこの温かさも…?

 

 

 

 

嫌だ…。

 

 

 

 

だとしたら…私に…出来ることは…。

 

 

 

 

▷ハヤテside

 

{おはようございます、皆さん。}

次の日、律さんが元の状態に戻されていた。

開発者が戻してしまったそうだ。

しかも…改良行為と律さんを拘束することの禁止というおまけ付だ。

 

 

 

{…攻撃準備を始めます。

どうぞ授業に入って下さい、殺せんせー。}

 

 

 

また、周りの迷惑も考えない射撃が始まるのか…、と思っていたその時、律さんの側面が開き───

 

 

 

 

出てきたのは銃ではなく、色とりどりの花束だった。

 

 

 

 

どうやら、協調に関するソフトをメモリの隅に隠していたそうだ。

 

 

「素晴らしい!!

つまり律さん、あなたは…」

{…はい。

私の意志でマスターに逆らいました。

こういった行動を“反抗期”と言うのですよね?}

 

 

 

何はともあれ、律さんもこうしてE組のメンバーになりましたし…この29人なら出来ないことはないと思えてなりませんでした。




「やっと自覚したか、速水。」
「…?
何のこと?」
「…まだだったか。」



次回もお楽しみに!!


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第27話 湿気の時間

まだ火曜日なのにUAが3000を超えた…。
予想外でした…。


今回から6月です。
今月の第二目標にしていたので、入れて良かったと思っています。




それでは、本編スタート!!


▷ハヤテside

 

最近、雨が多くなってきました。

 

 

6月…梅雨の季節だ。

 

 

湿気が多くなるため、蒸し暑い…。

 

 

 

そんな中、気になることが一つありました。

 

 

殺せんの頭が膨らませた風船のように大きくなっていることです。

…他の方々にしても、真面目に授業に取り組んでいながらも、それが気になって集中出来ていないようでした。

 

 

{殺せんせー、その33%ほど巨大化した頭部についてご説明を。}

流石に流すことが出来なくなったのか、律さんがそれを問いただしました。

というか、あれで33%なんですね…。

「ああ、これですか…。

湿度が高いので…水分を吸ってふやけました。」

湿気でふやけるって…お煎餅じゃないんですから…。

どうやら、雨粒は全部避けて来たらしい。

…ん?

雨粒を避ける…?

何か、都合の悪いことでもあるのでしょうか…?

顔を雑巾みたいに絞って水分を出す殺せんせーを見ながら、そんなことを考えていました。

 

 

 

▷渚side

 

その日の放課後───

 

 

最近では珍しくハヤテ君と帰っていなかった。

双方に用事が無い場合は必ずと言っていいほど一緒に帰っていたので少し寂しかったりする。

 

 

「…!

ねぇ…あれ。」

そんな時、岡野さんが見つけたのは───

 

 

 

「どうしたんだよ。

…って、前原じゃんか。

お盛んだねぇ、彼は。」

クラス外の女子と一緒に帰る前原君の姿だった。

 

 

 

「ほうほう…。」

どこかで聞いたことのある声がしたのでそちらを向くと…

「前原君、駅前で相合い傘…と。」

メモ帳にそんな事を書き記す殺せんせーがいた。

三学期までに生徒全員のノンフィクション恋愛小説を出す予定らしい。

第一章が杉野の話だと聞き、本人は出版前に殺すと意気込んでいた。

「じゃあ…女子編はハヤテ君に関することが多そうだね。

片岡さんと速水さんはまだ気になりかけてる程度だけど…それ以外の人は狭間さんと原さん以外皆少なからず好意寄せてるからね。」

「気づいてねーのは本人だけ…。」

僕の言葉に杉野が同意した。

自分が好意を寄せる神崎さんが、ハヤテ君のことが好きだと理解しているようで、その顔には悔しさが見てとれた。

「あと…前原君の章は長くなるね。

一緒にいる女子がしょっちゅう変わってるし…。」

 

 

 

そんな時、数名の男子が二人のところにやってきた。

すると、前原君と一緒にいた女子がその男子達の方に走っていった。

その内の一人に、前原君といた理由を述べていたが…言い訳にしか聞こえなかった。

だが…前原君が口を開いた瞬間、まるで“自分は悪くない、悪いのは前原君だ。”とでもいうかのように前原君を責め立て始めた。

そして、男子達が次々と前原君を足蹴にしていく。

もう見てられないとばかりに杉野が飛び出そうとしたその時───

 

 

 

 

「やめなさい。」

 

 

 

 

歩道に横付けされた車からそんな声が響いた。

車窓を開けて見えたその顔は…理事長先生だった。

 

 

「ダメだよ。

暴力は、人の心を…今日の空模様のように荒ませる。」

そう言って間に入っていく。

「さ…これで拭きなさい。」

前原君の前で片膝をつき、自身のハンカチを差し出しながらそう言った。

だが───

「危うく、この学校にいられなくなるところだったね…君が。」

次に出た言葉は受け入れることが出来なかった。

なんだそれ!?

その言い方じゃ、悪いのが前原君だけになるじゃないか!!

彼は被害者なのに!!

用事は済んだとばかりに去っていく理事長先生の車を見ながらそんな事を思っていた。

それでスッキリしたのかそこから去っていく男子達と前原君と一緒にいた女子。

 

 

 

失意のためか、落ち込む前原君の頭上に───

 

 

 

 

 

 

そっと傘を差したのは───

 

 

 

 

 

 

「水も滴るいい男、と言えど…そんなずぶ濡れのままじゃ、風邪をひいてしまいますよ。」

 

 

 

 

 

片手でスクールバッグとレジ袋を持ったハヤテ君だった。

 

 

 

 

▷ハヤテside

 

「綾崎…?

お前、なんで…!?」

僕がここにいることが不思議だったのか前原君が聞いてきた。

だけど、その質問に答えるより早く───

 

 

 

「前原!!

大丈夫か!?」

杉野君を先頭に渚君達がやってきました。

「渚君、皆さん…いたんですね。」

「それはこっちのセリフだよ!

今日は用事あるって言ってたのに…こんなところで何やってるの!?」

「用事っていうのは…まあぶっちゃけ言ってただのお買い物なんですけどね…。

数日分の食材買い終えて帰ろうとしたところで…理事長先生が前原君に何か言っているのを見たので来ただけです。」

その言葉に納得したのか、渚君はそれより後を言おうとしなかった。

 

 

 

「綾崎以外は…さっきのやりとり見てたんだろ?

だったらさ…聞かせてくれよ。

相手が弱いと見たら…誰だってああいう事しちゃうのかな?」

その言葉の答えは沈黙だった。

 

 

 

…いや、あるとすれば───

 

 

 

怒りからか、教室の時より膨らんでいる殺せんせーがいることでしょうか。

 

 

 

 

「仕返しです。

…理不尽な屈辱を受けたのです。

 

 

 

 

 

屈辱には屈辱を…彼女たちを飛びっきり恥ずかしい目に遭わせましょう。」

 

 

よく分かりませんが…

 

 

 

 

ヤッチャイマショウカ───




次回もお楽しみに!!


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第28話 仕返しの時間

仕事があまりにも忙しかったので、気分転換のために投稿します。



今回の話では、原作ではこの話に出てこなかった原作キャラを出そうと思います。


それでは、本編スタート!!


▷ハヤテside

 

「えーっと…

 

 

『へー…

果穂、お前いい店知ってんじゃん。』

『コーヒーが美味しいんだよ。

パパの友達が経営しててね、私のとっておきの場所なんだ。』

『そんな事言ってよぉ…

昨日の前原とも来たんじゃねーのか?』

『そ、そんな訳ないじゃん!!

誰かを連れて来たのは瀬尾君が初めてよ!!

…昨日は前カレがみっともないとこ見せちゃってごめんね?

あんな見苦しい人だとは知らなかったの…。』

 

 

…もうやめていいですか?

見てるだけで気分が悪くなってきました…。」

「よく頑張りましたね、綾崎君。」

標的の2人がいる喫茶店のお向かいにある民家の二階で双眼鏡で会話を読唇していた僕に、殺せんせーが労いの言葉をかけてきました。

無理もない…。

あの二人の会話は神経を逆撫でするような…そんな気持ちの悪いものだったのだから…。

「よくこんな距離で聞き取れるな…。」

杉野君が呆れたような声音で言ってきました。

「唇の動きで話しているであろう言葉を予測してるだけですけどね。」

「なるほど…読唇術って訳か。」

「昔S○Kで習っておいたのが役にたちました。

…まあ、殺せんせーに披露したら鍛え直すって言われましたが…。」

「ヌルフフフ…

聞き間違いが多かったですからねぇ…。」

「ゲスい方面に使うんじゃねーぞ…。

っと、見てみろよ…あれが渚と茅野だぜ?」

杉野君にが指差した先には…一組の老夫婦がいた。

 

 

 

理解していなければ到底渚君と茅野さんの2人とは思えないだろう。

 

 

 

「なかなかのもんだろ?

パーティー用の変装マスクにちょっと手を加えたんだ。」

菅谷君が得意気に言ってきた。

「というか…あの人達、お年寄りへの対応がなってませんね…。」

「しょうがねーよ…。

あいつらはさ…弱そうな人間には興味無いから。

つーかこの民家…よく俺たちを上げてくれたよな。」

「家主の人は矢田さんと倉橋さんが押さえてくれてます。

…二人とも、本命を口説く前の練習だって言ってましたけど…どういう意味なんでしょう?」

「…お前はまだ知らなくていいと思うぞ。」

…なんででしょう?

 

 

 

▷友人side

 

「───では皆さん…作戦を開始しましょうか。」

殺せんせーのその一言を合図に始まったこの復讐作戦…標的が店からでた後タイミングを見計らって行動する5人がこの民家から出て行った。

奥田が殺せんせー(ハヤテの懇願付)に頼まれて作ってきたという弾丸を千葉と速水の2人がマガジンに入れたところで作戦決行の準備が出来たことをメールで渚に知らせた。

 

 

 

ハヤテがいねーから何言ってるかは分からんが…作戦だと、ここのトイレが一つしかないらしいので茅野にそこをおさえてもらい(その際、他にトイレがあるのは100m先だと思わせる)、渚には2人の気をそちらに向ける手はずになっている。

 

思惑通り渚に気がいったところで、2人のコーヒーに千葉と速水が弾丸を撃ち込む。

弾丸の正体は超強力な下剤だ…。

そんなものが入ったコーヒーを飲んだ2人はもれなく腹を下していた。

 

 

 

しばらくして、店から出てきた2人は醜い言い争いをしながら走っていた。

100m先のコンビニに向かったのだろう。

そこまでの間で前原達が待ちかまえているとも知らずに…。

 

 

 

だが俺は…それ以上に気になっていることがある。

 

 

 

 

「…なあ殺せんせー。

ハヤテと中村一緒にして大丈夫なのかよ…。」

そう、2人はSかMかでいうとS…しかも、頭にドが付くほどであり、よく悪戯のことで話し合っている。

…だから、心配しているのだ。

「普段よりはいいでしょう?」

「カルマいねーしな…。

ドSトリオじゃねーだけマシ…と言うとでも思ったか!!」

不安だ…。

 

 

 

▷ハヤテside

 

標的が雨に濡れ、さらには泥で汚れた姿でコンビニに入っていった。

 

 

「では行きましょうか、中村さん。

…って、うわ!!」

手を繋いでいる方がより屈辱を与えられるかと思い、中村さんに手を差し出すと、何を思ったのか差し出したその腕に抱きつかれたのだ。

「な…何を!?」

「ん~?

こうした方が手を繋ぐより見せつけられてるように見えて屈辱的じゃない?」

「なるほど…一理ありますね。

恥ずかしいですが…このまま行きましょう。」

そう言って店内に入っていった。

 

 

 

さて、お目当ての人達は…いたいた。

「うわっ!!見てくださいよ、中村さん。

トイレの前でケンカしてる男女がいますよ!!」

「あ~ホントだ。

しかも、あんな泥だらけで…見苦しいねぇ。」

「男の方なんて、自分のことしか考えてませんよ?

こういう時は女の方を先に行かせるのに…紳士じゃないですね~。」

「紳士といえばあの2人…少し先の喫茶店にいたんだけど…やってきたおじいちゃんおばあちゃんを思いっきりバカにしててさ~。」

「うわ~、お年寄りには優しく接しろって学校で言われなかったんですかね~?」

「ってあれ椚ヶ丘じゃん。

他人への優しさよりエリートのプライドの方がそんなに大事かね。

あ~やだやだ、あんなのと同じ学校だと思われたくないね。」

 

 

 

 

煽りに煽りまくった結果居づらくなったのか標的は出入り口へと走っていく。

その時中村さんを抱き寄せ2人の進行方向から外すことも忘れない。

「あ…ありがと。」

「いえ、中村さんの服や可愛らしい顔に泥がついたら大変ですから。」

そう言うと───

 

 

 

「~~~~~///!!」

 

 

 

中村さんの顔が真っ赤になった。

 

 

 

 

「───で、終わったのか?」

その一言でそちらに顔を向ける。

そこには、顔をピンクにした殺せんせーと苦笑いでこちらを見る男子達、そして…不機嫌そうに頬を膨らませる女子達がいた。

 

 

 

 

でも───

「あれ…前原君は?」

「他校の女子とメシ食いに行くってよ。」

前原君らしい終わり方だ。

 

 

 

 

 

~~~~

 

次の日───

 

 

この作戦に参加した全員が烏間先生に怒られた。




次回もお楽しみに


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第29話 師匠の時間

今日も投稿しようと思いますが…



その前に、誤字報告をしてくださった手刀連さんにありがとうございます、と言わせてください。
気づいていませんでした。
これからも気になることがあればそれに気づいた人は容赦なく言ってくださって構いません。



さて、内容の話ですが…仕返しの時間の次は本来LRの時間ですが…ほとんど原作と変わらない(思いつかなかったとも言う)ため省きました。
これで三巻までの話が終わったことになります。
これからも頑張っていこうと思います。



それでは、本編スタート!!


▷ハヤテside

 

今日の体育の内容は、二本の立てられた丸太に足を乗せ、目の前に吊された殺せんせーの顔が描かれたボールを訓練用のナイフで突くというものです。

足場の悪い場所でも的確にナイフを当てられるようにするための訓練だそうだ。

最近、屋外での暗殺も増えてきましたし…校舎内と違い狭かったりぬかるんでいる道もあるので、その意味では重要な訓練だと言えるだろう。

 

 

 

───だが、僕たちが危険な行為をしないように監視していなければならない烏間先生の注意はこちらにこちらに向いていなかった。

 

 

 

 

…いや、その理由となっているであろうものを僕及びクラスの全員が気にかけているからこそそれに気づいたのだろう。

 

 

 

近くの茂みから…烏間先生を狙う大人の男女(というか…片方はイリーナ先生)と忍者の格好をした殺せんせーの視線が飛んできていた。

 

 

 

 

「しまっ…バランスが!!」

そちらに注目していたためいつの間にか重心が前に行っていた不破さんがバランスを崩して丸太から落ちてしまう。

 

 

それにいち早く気づいた僕は、不破さんの下に向かう。

立ったまま助け出すのは不可能と考え、落下地点に滑り込み衝撃を背中で受け止めようとしたのか体を反転させた不破さんの肩と膝の後ろに腕がいくように広げると、そのタイミングで落ちてきた。

 

「お怪我はありませんか、不破さん?」

「うん…。

綾崎君が守ってくれたから…。」

「なら良かったです。

不破さんみたいな元気で明るい娘に…怪我なんてしてほしくないですから。」

「─ッ///!?

ああああ、あ…ありがと…。」

 

 

 

「こんな状況でも口説くなよ…。」

菅谷君のその言葉の意味は分かることはなかった。

 

 

 

~~~~

 

「…とまあ、こういう訳だ。」

見るからに怪しげな方々がいる理由を烏間先生が教えてくれた。

あの強面の男の人は各国に暗殺者を斡旋する殺し屋屋の仕事をしている“ロヴロ”という人で…イリーナ先生にこの教室からの撤退を勧めに来たそうだ。

…だが、そこに待ったをかけたのが殺せんせーらしい。

イリーナ先生とロヴロさん、この2人の内どちらかが先に対先生用ナイフを烏間先生に当てられたら勝ちだそうだ。

…烏間先生も気苦労が絶えませんね。

 

 

 

 

~~~~

 

「カラスマ先生~。

お疲れ様でしたぁ~。」

体育が終わると同時にやってきたイリーナ先生がそんな猫なで声を出しながら飲み物を差し出す。

 

 

 

───でも…

「ねぇハヤテ君…。

あれ…何か入ってるんじゃないかな?」

「どうせ筋弛緩剤とかその辺りでしょうね…。

あんなの、警戒心がなくても分かりますよ…。」

 

 

やはりというか受け取らなかった烏間先生。

だが、往生際の悪いイリーナ先生は今度はだだをこねるようにわめき散らすが…相手してもらえない。

 

 

磯貝君と三村君が呆れの混じった言葉をかけながら腕を抱きかかえて起こすと…

 

 

「仕方がないでしょ!!

顔見知りに色仕掛けとかどうやったって不自然になるわ!!

キャバ嬢だって…客が父親だったらぎこちなくなるでしょ!?

それと同じよ!!」

返ってきたのはこれだった。

 

 

 

でも…

「そう言うものですかね…?

僕…中一の頃、プールバーでバイトしてたことがあったんですが…そういうのありませんでしたよ?」

「…そりゃ親が来なかったからだろ。」

「プールバーって…未成年がバイトしちゃいけねーところだろ。」

解せぬ。




ロヴロさんの暗殺は省きます!!
原作通りに失敗するんで…。


次回もお楽しみに!!


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第30話 克服の時間

もうすぐUAが20000いきますね。
読んでいただけることは何よりも嬉しいです。


さて、内容の話ですが…


前話の後書きでロヴロさんの暗殺は省きますと言いましたが…



あれ…



撤回します!!


今話の冒頭に使うとやりやすいので…



それでは、本編スタート!!


▷ハヤテside

 

昼休み───

イリーナ先生の残留を賭けた勝負のためとはいえ、2人から狙われることになった烏間先生を労おうと、僕は教員室に向かった。

 

 

「おや綾崎君、どうかしましたか?」

僕に気づいた殺せんせーが声をかけてきた。

「いえ…烏間先生大変だろうなぁ~って思って様子を見に来たんですが…その必要はなかったようですね…。」

 

 

 

───隙が無い。

僕は普段から烏間先生をそう評価しているが…今の烏間先生はいつも以上に動作に隙が無い。

パソコンを使ってのデスクワークをしている今も、画面に視線を向けているが、それでもなお周囲への警戒を怠っていない。

僕が入った時も気づいていたが…模擬暗殺に直接的な関係は無いため、一瞬こっちを見るだけだった。

 

 

…こっちを見たのは烏間先生だけじゃない。

イリーナ先生もこっちを見たが、ロヴロさんじゃ無いと知ると再び烏間先生に視線を向けた。

焦っている…。

表情からそれが見て取れた。

 

 

 

 

と、そこに───

 

 

 

窓が開き、ロヴロさんが入ってきた。

正面から!?

無茶だ!と、そう思っていたが…

椅子の脚に細工をされていたのか、烏間先生の視線がそっちに向いた。

仕掛けを施したであろうロヴロさんはそれをチャンスと見たか烏間先生目掛けナイフを振るう。

 

 

 

だが───

 

 

 

その腕は烏間先生に捕まり、机に叩きつけられた。

そして、そんなロヴロさんの顔の側面の一寸手前に烏間先生の膝蹴りが突きつけられた。

 

 

「熟練とはいえ…年老いて引退した殺し屋が…先日まで精鋭部隊にいた人間を…ずいぶん簡単に殺せると思ったもんだな。」

 

つ、強い!!

戦慄していると…不意に烏間先生は殺せんせーとイリーナ先生の2人に対先生用ナイフを突きつけ───

 

「分かっているだろうな。

もしも今日殺れなかったら…その時は…」

 

───そう言い放った。

その言葉と表情に向けられてはいないはずの僕もビビってしまった。

 

 

 

 

~~~~

 

「あ、おかえりハヤテ君。

烏間先生、どんな感じだった?」

僕が教室に戻ると、それにいち早く気づいた矢田さんがそう聞いてきた。

「気にするまでもありませんでした…。

さっきも…ロヴロさんが失敗してましたよ。

あと、そのときに怪我をされたためロヴロさんは暗殺を辞退しました。」

「さ…さすが烏間先生…。

でも…そんな相手にビッチ先生一人で大丈夫かな?」

矢田さんが心配そうに言っていますが───

 

 

 

「出来ますよ。」

「…え?」

僕の唐突なその一言に目を丸くした。

「最初のイメージが悪かっただけで…イリーナ先生は僕と同じ努力家ですから。

それに…

 

 

 

 

矢田さんみたいな優しい娘がこれだけ想ってくれているんです。

外すわけがありませんよ。」

 

 

 

 

僕のその一言に───

 

「そ、そんな…優しくなんて…///」

「今もイリーナ先生のことを心配していますし、前に聞いた話だと病気がちの弟さんの看病をよくしてあげるそうじゃないですか。

それを優しいと言わずなんて言うんですか?」

 

 

 

「ラブコメってるところ悪いけどさ~…」

「な…何のことですか、カルマ君!?」

「気づいてないならいいや。

そっちは関係ないし…。

件のビッチ先生、殺る気みたいだけど…見に来ないの?」

その言葉に皆、窓際に集まった。

 

 

 

▷渚side

 

残留を賭けた模擬暗殺。

ビッチ先生は正面から向かっていく。

 

そして、烏間先生の目の前まで来たビッチ先生は服を脱ぎだした。

やはり、色仕掛けか…。

それはビッチ先生の最大の武器だが…烏間先生には相性が悪い。

分かっているはずなのに…なんで?

 

「なぁ、あれ…何言ってんだ?」

「遠くて聞き取れねーな…。

ハヤテ、読唇を…ダメだ、顔真っ赤にしてそらしてやがる。」

「そういえばハヤテ君、こういうのに耐性なかったね…。」

性的なものに耐性のないハヤテ君は初めて来た日も岡島君のエロ話から逃げていた。

まあ、ビッチ先生が初めて来た日…僕と間違えてハヤテ君にディープキスをしたことへの罪悪感からか、ハヤテ君にだけは授業でのディープキスをしていないからすっかり忘れていたが…

 

 

 

なら、読唇無しで観戦しようと思っていると───

 

 

 

 

烏間先生がビッチ先生の服に足を取られ宙を舞った。

ビッチ先生の手にあるもの…あれは、ワイヤーか!!

 

そして、ビッチ先生が烏間先生の上を取る。

そのとき、クラスの皆が賞賛の声を上げた。

 

 

“もらった!!”

そんな表情でナイフを振るうビッチ先生だったが…タイミングが遅かったのか烏間先生に手を押さえられた。

 

 

 

だが───

 

 

 

2人が何かを言い合うと、諦めたのか烏間先生がその手を離した。

押さえていたものが無くなったため、ビッチ先生のナイフは烏間先生の胸に吸い込まれていった。

ビッチ先生の残留、決定。

その吉報にクラス中が歓喜の声を上げた。

 

 

卑猥で高慢、だけど真っ直ぐ。

ビッチ先生は僕たちE組の英語教師であり、仲間だ。

 

 

 

「ハヤテ君…終わったよ。」

「え?

ああ…いつの間に!?」




arosの、サンデーの目次コメントに漫画家でもないのに答えてみた


Q.一週間のうちで、最もワクワクすることはなんですか?

A.この作品を投稿すること。

次回もお楽しみに!!


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第31話 映画の時間

ついに…20000UA突破とお気に入り200達成しました!!



いつもこの作品を読んでいただき、誠にありがとうございます。
これからもずっと続けていきますので、よろしくお願いします!!



それでは、本編スタート!!


▷ハヤテside

 

イリーナ先生の残留を賭けた模擬暗殺が行われた日の翌日───

 

 

「日本での上映は3ヶ月後かぁ…。

待ちきれないね。」

「なんとかして今から見れないかなぁ~…。」

放課後、渚君とカルマ君と僕の3人で“ソニックニンジャ”という映画の話をしていました。

「面白そうなので僕も見に行きたいです。

そういうのに使うお金無いから出来ませんけど…。」

と僕が言ったその時───

 

 

 

「“ソニックニンジャ”?

あ~、あのヒーロー物ね。

明日感想聞かせて~。」

 

 

 

そんな中村さんの声が聞こえてきた。

話の内容から察するに、これからハワイまで行って見てくるようだ。

マッハ20を有効活用しすぎているなぁ。

 

 

「…ねぇ2人とも、今の聞いた?」

「もちろん、聞かせてもらいましたよ。」

「連れてってもらえないかなぁ~?」

 

 

 

~~~~

 

「殺せんせーお願い、僕たちも連れてってよ。」

映画を見に行くために飛び立とうとした殺せんせーに渚君が僕たちを代表して頼み込んだ。

 

「おや、好きなんですか?」

「うん大好き。

続編出るのずっと待ってたんだ。」

「そうですか…。

カルマ君がヒーロー物というのも意外ですが…綾崎君がついて行きたいというのも意外ですねぇ…。」

「監督が好きでさ…アメコミ原作手がけるのは珍しいから。」

「ちょうど面白そうなので見に行きたいと話してたところだったんです。

お金無くて出来そうに無かったんですが…こういう機会は逃してはダメかと思いましたから。

それに…見に行くのなら友達と見に行きたいので。」

 

と、そこに───

{私もご一緒していいですか、ハヤテさん?}

僕のポケットにある携帯から律さんの声が聞こえてきた。

なにがあったのかと思い確認すると───

 

 

“おじゃましてます”

 

 

と書かれた札を持った律さんが僕の携帯の画面にいました。

聞くと、クラスでの情報共有を円滑にするために全員の携帯に自分の端末をダウンロードしたのだそうだ。

 

 

{“モバイル律”とお呼びください。

これで教室外でもお話が出来ますね、ハヤテさん!!}

「何でもアリですね…。

でも…律さんと一緒にいることが出来るのは僕も嬉しいです。」

{はい!!

私もハヤテさんと一緒にいることが出来るようになって嬉しいです!!}

「それに…

 

 

 

 

律さんなら私生活を見られても恥ずかしいとは思いませんし。」

さっきまで満面の笑みを浮かべていた律さんは今度は頬を赤く染め…

{そ…そうですか…。}

力なくそう言った。

 

 

「言葉が足りないからああいう口説き文句になるんだろうね…。」

「次元の違う娘まで落とすなんてねぇ~。」

 

「ヌルフフフ…。

先生の小説のネタが増えましたが…そろそろ行きたいのですよね…。」

{そ、そうでした!!

暗殺の参考にしたいので連れて行ってもらえませんか?}

「いいでしょう。

映画がてら…君たちにも先生のスピードを体験させてあげましょう。」

そう言うと殺せんせーは僕たち3人と律さんが入った僕の携帯を服に詰めた。

 

 

「軽い気持ちで頼んだけどさ…ひょっとして僕たち、とんでもないことしてるんじゃ…。」

「そーいや身の安全まで考えて無かった…。」

「冗談でもそんなこと言わないでください…。

ただでさえ運が悪いのに…。」

{楽しみですね、ハヤテさん!!}

 

 

その心配(一人違うが…)は杞憂に終わった。

殺せんせーが飛び立つ時、僕たちに負担がかからないようにゆっくり加速してくれたからだ。

 

 

 

~~~~

 

飛行中、ちょっとした疑問から科学の授業が始まったりもしたが…無事に目的地のハワイについた。

 

 

「うわぁ~!!

ここがハワイですか~。

海が綺麗ですね~!!」

「そっか、ハヤテ君って海外に行ったこと無いんだっけ?」

僕のその一言に渚君が反応した。

「はい!!

寒い海の遠洋漁業にはよく行ってましたけど…陸に上がるのは初めてです!!」

「まーた凄い過去を…。」

僕のその返しにカルマ君が引き気味に言った。

 

 

 

~~~~

 

映画館の中に入ると、そこはまるで冷凍庫の中に入ったかのように冷房が効いていた。

熱帯のハワイでは室内の冷房がとにかく効いているらしい。

 

 

「でも…ここアメリカだから日本語字幕無いんだよね。

スジ、分かるかなぁ~…?」

「大丈夫ですよ。

皆さんの英語の成績は良好ですからね。

それに、イリーナ先生にも鍛えられているでしょう?

綾崎君も…英語が苦手科目だったのにどんどん小テストの成績も上がってきて、ケアレスミスさえなければほとんど完璧になってますからねぇ。」

殺せんせーの言うとおり、最近の僕の英語の成績は上がってきている。

問題が難しいと答えを仮置きしてそのままにして忘れているというのがなければほぼすべて解答(ところどころ間違いはある)している。

 

 

 

~~~~

 

初の海外で友達と見る映画…最高だ。

 

 

思っていたとおり面白い内容だし、戦闘シーンもカッコいい。

 

 

連れてきてもらって良かった。




次回もお楽しみに!!


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第32話 転校生の時間・二時間目

この作品では、イトナの転入(?)してきた日を6月15日としています。
原作での烏間先生へのメールの文面からそうさせていただきました。




それでは、本編スタート!!


▷ハヤテside

 

ハワイまで映画を見に行った次の日…E組の校舎に入ってすぐ向かったのは───

 

 

 

「殺せんせー…映画の感想文、書いて来ましたので見ていただいてよろしいでしょうか?」

教員室だった。

「もう書いて来ましたか…どれどれ。」

感想文を受け取った殺せんせーは一文ずつ確認するように読んでいた。(首が横にゆっくり動いていたのでそう思っている)

「素晴らしい!!

スペルミスが若干ありますが…それでも“面白かった”や“感動した”といった直接的な感想を使わずに内容を評価している…。

さすがは綾崎君です。」

「いえ…思ったことをそのまま書いただけなので…。

ダメでしたら書き直しますよ?」

「書き直さなくて結構です。

この感想文は受け取っておきます…が、一つだけ聞かせてください。」

「…どうしました?」

殺せんせーが何かに気づいたような雰囲気で言ってきた。

「その…

 

 

 

 

 

カバンの中から微かに香る甘い匂いの正体は…?」

「超人的な嗅覚だからこそ気づいたんですね…。

匂いの正体ですが…今日は6月15日じゃないですか。」

「そういうことですか…。

修学旅行の最終日に教えてもらっていましたねぇ…。

律儀ですねぇ~。」

「日頃からお世話になっているので…ではそろそろ教室に行きますね。」

「ええ、では後ほどホームルームで…。」

その言葉を最後に…僕は教員室をあとにした。

 

 

 

~~~~

 

教室の扉を開けると、殺せんせーとの話が長かったこともあってか生徒もほぼ全員来ていた。

さて、お目当ての人は…と探すまでも無く見つけた。

「あ…おはよう、綾崎君。」

その人の近くに行くと、それに気づいたのか彼女が僕に挨拶をしてきた。

 

 

その人の名は───

 

 

 

「おはようございます、片岡さん。」

───片岡メグ だ。

「どうしたの?

何か勉強で分からないところでもあった?」

「いえ、今日は違うんです…。

片岡さんにこれを渡そうかと思いまして…。」

そう言って僕はカバンから小さな包みを取り出して片岡さんの手の上に置いた。

「なにこれ…?

というか…なんで?」

「なんでって…今日は片岡さんの誕生日じゃないですか…。」

「あ…ありがとう。

覚えててくれたんだ…。」

「片岡さんの好みを知りませんでしたし、お金の問題もあるので…安い材料でも作れるクッキーにしてみました。

砂糖を控えめにしてありますのでカロリーを気にしなくていいはずです。」

「そこまで考えてるんだ…。

大事に食べさせてもらうね。」

 

 

 

「誕生日覚えてたり、細かいところに気を使ってたり…ホントあいつはモテる要素の塊だよな。」

「普通ああいうの見ると悔しがったりするんだろうけど…

なんでかな…全然そういうのがねぇや。

あいつの人徳のせいかね。」

 

 

 

~~~~

 

「おはようございます。

さて皆さん…烏間先生から転校生が来ると聞かされてますね?」

ホームルームになり、教室に入って来た殺せんせーは開口一番そう言った。

転校生…まあ、殺し屋であろうことは容易に考えられますね。

 

 

 

「そーいや、綾崎君と律は同じ転校生暗殺者として何か聞いてないの?」

転校生のことが気になった原さんは話題人と同じく転校してきてこのクラスの仲間になった僕と律さんに聞いてきた。

 

 

「すみません…僕は成り行きでここに来たようなもので殺し屋では無いので…。」

「そうだったね…ごめん。

じゃあ…律は?」

{はい、少しだけですが知ってますよ。

初期命令の時点では…私と“彼”の同時投入の予定でした。}

…“彼”?

転校生は男なのでしょうか?

{ですが…

予定よりも彼の調整に時間がかかったこと…

それと…、

私の方が…

 

 

 

 

彼よりも暗殺者として圧倒的に劣っていたこと…

 

それらの理由により、重要度の低い私が先に送り込まれたと聞いています。}

 

 

───ッ!!

そんな…律さんは初めて来た日、殺せんせーの指を弾き飛ばしたほどの実力がある…。

その律さんがそんな扱いだと…これから来る転校生は、いったい…どんなバケモノなんだ!?

 

 

───と、思っていると…扉が勢いよく開き、入って来たのは───

 

 

 

白装束に身を包んだ人だった。

その人は、全員の視線がそちらにあることを確認すると右腕を伸ばし───

 

 

一羽の鳩を出した。

…って、えっ…!?手品?

 

 

…殺せんせーは?

と、前を向くと…

 

 

 

 

液状化を使い、教室の隅に逃げた殺せんせーがいた。

 

「って、なに一番ビビってるんですか殺せんせー!?」

「だって…律さんがおっかない話をするもので…。」

 

 

「驚かせたようだね…ごめんごめん。

でも、私は転校生じゃないよ。

私は保護者のようなものでね…白いし、シロとでも呼んでくれ。

転校生に関しては…性格とかが色々と特殊な子だからね…。

私が代わりに紹介させてもらうよ。」

そういうと、シロさんはクラス全体を見回す…いや、あれは知っている人が居たがその確証が無く、誤魔化すためにやる行為だ。

 

 

 

「席はあそこでいいのですよね、殺せんせー?」

「ええ、そうですが。」

指定されたのは僕の隣の席。

僕がいることにより、男子の列が全部埋まっているため、転校生の席は必然的に女子の列となる。

「では紹介します。

おーいイトナ!!入っておいで!!」

その言葉に皆さんの視線が教室の前の扉に行く。

そんなとき───

 

 

 

僕の後ろから殺気を感じたので振り向くと───

 

 

 

壁が破壊され…破片が僕に飛んできた。

 

 

 

薄れゆく意識の中、聞こえたのは───

 

 

 

「間違えた…こっちか。」

形だけでも…謝って下さい…。




原作の後半を色々カットします。



次回の冒頭に使う…かも?
(使わないかもしれません。)



次回もお楽しみに!!


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第33話 まさかの時間

前話でカットした部分は使わないことにしました。(長くなるので)


それでは、本編スタート!!


▷ハヤテside

 

転校生が入ってきた日の昼休み───

 

 

「ほんとに大丈夫なの、ハヤテ君?」

渚君が心配そうに言ってきました。

おそらく、朝のあの一件のことでしょう。

「ええ、もう問題ありません。

一時間目の途中で痛みは引いたので…

 

 

 

 

そんなことより…イトナ君でしたっけ?

 

 

 

 

彼が…殺せんせーの弟だというのは…本当なんですか?」

イトナ君というらしい転校生の方を見ながら、僕は渚君にそう聞いた。

壁の破片が直撃したことで少しの間気を失っていたらしい僕は意識が戻ってすぐその事を聞かされて戸惑うことになった。

「本人がそう言ってるし…本当なんじゃない?」

「甘党なところとか表情が読みづらいところとか…殺せんせーと似てる部分は多いしな。」

僕と渚君の会話を聞いていた杉野君が入ってきてそう言った。

 

 

 

「兄弟疑惑が出てきてから…皆がやたらと私と彼を比較するようになりましたねぇ…。

なんだかムズムズします…。

こういうときは、今日買ったグラビアを見るに限ります。

…これぞ大人のたしなみです。」

「教室に持ってくるなよ…。

ほらみろ…ハヤテが顔真っ赤だぜ。」

「写真でもだめなのか…。」

 

 

 

殺せんせーの持っている本の表紙がかなり刺激が強かったため視線を逸らすが…その先にあったものは───

 

 

 

殺せんせーが持っているものと同じ雑誌を開くイトナ君だった。

 

 

「女性の好みまで同じかぁ…。

…ねぇハヤテ君。

ハヤテ君はイトナ君と殺せんせーが兄弟だと思う?」

不意に渚君がそう聞いてきた。

「どうでしょうね…。

性格や好みが似ているから兄弟だとかは…絶対にそうだとは限りませんよ。

たとえ双子であっても…。

実際、兄のような立派な人間になろうとしている僕ですが…性格が完全に一致しているわけじゃありません。

というか…性格なんて人それぞれで、簡単に変えられるものじゃありませんしね。」

「そういえばハヤテ君…行方不明のお兄さんがいたんだったね…。」

「修学旅行の時に旅館でそう言ってたな…。」

「まあ…放課後に暗殺をするのなら、そこですべて分かると思うので…それまで待ちましょうか。

今ここで何を言っていても詮無いことですし。」

 

 

 

 

~~~~

 

放課後───

 

机を合わせて作られたリングの中に殺せんせーイトナ君はいた。

 

 

ルールは至極単純、リングの外に足が着いたらその場で殺される。

いわゆるランバージャックのようなものだ。

そして、殺せんせーはこのルールを破る事は出来ない。

…教師のプライドを利用した姑息な手段だ。

だが殺せんせーも負けてはいない。

リングの周りを囲う生徒達に危害を加えない事を約束した。

 

 

 

「ルールも決まったし、そろそろ始めようか。

 

 

 

 

暗殺…」

 

 

 

 

ついに、兄弟疑惑の真相が明かされる…そんな気がしていた。

 

 

 

 

 

「…開始!!」

 

 

 

 

その言葉とともに───

 

 

 

 

殺せんせーの腕が切り落とされた…。

 

 

 

 

でも…そんなことより重要なのは…

 

 

 

 

「触手!?」

 

 

 

イトナ君の頭から…殺せんせーと同じ触手が生えていたことだ。

 

 

 

「なるほど…律さんとの同時投入がキャンセルされた真の理由はこれですか…。」

僕の言葉に皆さんがハッとしたかのような表情になった。

それもそうだ。

一人が触手持ちなら…律さんの援護射撃なんて、暗殺の邪魔以外の何者でもない。

 

 

 

 

 

「………………こだ。」

殺せんせーのその声に向けられていないはずの僕たちまでふるえてしまった。

 

 

 

殺せんせーの顔に筋が浮かんでいき…やがて顔が黒くなっていく。

 

 

 

「どこで手に入れた!!

その…触手を!!」

 

 

あれが渚君が言っていたド怒りの顔なのだろう。

 

 

だが、それを向けられたシロさんは臆すること無く兄弟とは、同じ触手を持っているからだと言った。

 

 

「しかし…怖い顔をするね。

何か…嫌な事でも思い出したかい?

まあ、

 

 

 

 

これから死ぬ奴が何を思い出したところで無意味だけどね…。」

そういうと、シロさんは左腕を挙げる。

 

 

すると、そこから怪しげな光が放出され…殺せんせーの体が硬直した。

 

 

 

 

 

───その一瞬が命取り。

 

 

 

そういうかのように…殺せんせーに向けて、イトナ君の触手が振り下ろされた。




次回もお楽しみに!!


あれ!?
思ったより短い!!
でも…前話のカット分を編集するのが難しいので入れません。


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第34話 苦戦の時間

前書きのネタが無いなぁ。


まあ、それはおいといて…


それでは、本編スタート!!


▷渚side

 

シロさんの腕から放たれた光を受け硬直した殺せんせーをイトナ君の頭から生えた触手が貫いた。

 

 

その光景をただ呆然と見ているしかなかった僕たちをよそにまだ足りないとでもいうようにイトナ君が触手を雨のように殺せんせーに打ちつけた。

 

 

「殺ったか!?」

これだけの攻撃を受けて生きていないだろうと思ったのであろう村松君が叫ぶ。

皆も同じ考えだったのかリングの殺せんせーを見た。

 

 

 

───2人を除いて…。

 

 

 

「…いや、上だ。」

 

 

そのうちの一人───寺坂君の言った方向に目を向けると───

 

 

 

 

リングの真上の照明に捕まった殺せんせーがいた。

じゃあ、今までやられていた殺せんせーは!?

見ると、そこにあったのは一枚の薄い膜だった。

あれは…殺せんせーの奥の手の一つ、脱皮だ。

月に一度のそれをこんなに早く使わせるなんて…。

 

 

「脱皮か…そういえばそんな手もあったね。

でもね殺せんせー…その脱皮にも弱点があるのを知っているよ。」

 

 

「脱皮が…弱点?」

「おそらく…脱皮するためにはそれなりのエネルギーが必要なんでしょうね。

虫だって、脱皮するときはかなりのエネルギーを消費するらしいですから。」

シロさんの言葉を不思議に思っていると…殺せんせー(脱皮した皮)がイトナ君の触手に貫かれた時からずっとシロさんの方を見ていたハヤテ君がそんな考察を述べた。

「その通りだよ、綾崎君。

よってその直後は自慢のスピードも低下する。

それでも、常人からすれば速いがね。

でもね…触手同士の戦いではその影響は計り知れないよ。」

確かに…どんどん追い込まれてる。

でも…僕には、それが脱皮の影響だけじゃ無いように思えた。

「加えて…イトナの最初の奇襲で腕を失い再生したね?

それも結構体力を使う。

二重に落とした身体的パフォーマンス…私の計算では、この時点でほぼ互角のはずだ。」

「なるほど…ナメッ○星人が再生した後と同じ原理ですね。」

「なんでハヤテ君は解説やってるの…。」

似合ってるけども…。

ところで…いつまでシロさんを睨んでるの?

 

 

「また…触手の扱いは精神状態に大きく左右する。」

───ッ!!

殺せんせーは些細な事でもすぐに動揺する。

さらにこのリングは狭いため、気持ちを立て直す暇も無い!!

それじゃ…この試合、勝つのは…。

 

 

シロさんが腕を挙げる。

「さらには…献身的な保護者の───」

またあの光を放つ気か!!

と、思っていたが…それは実行されなかった。

なぜなら───

 

 

 

 

そのライトを───

 

 

 

 

「何のつもりかな、綾崎君?」

 

 

 

 

ハヤテ君が蹴り壊したからだ。

 

 

「何のつもり…?

決まってるじゃないですか。

 

 

 

1対1の真剣勝負に変な横やりを入れる卑怯者を成敗しただけです。」

 

 

ハヤテ君…もしかして、シロさんの方をずっと見ていたのは、シロさんがライトを出す瞬間を見逃さないようにするためだったの!?

 

 

 

▷ハヤテside

 

「卑怯者…か。

私のどこが卑怯なのか、教えて「だったら…」…?」

「だったら…イトナ君のサポートを辞めていただけませんか?

さっきから見ていたらイトナ君が殺せんせーにダメージを与えられたのは最初以外あなたのサポートがあったから…。

殺せんせーにはサポートはないのに片方にだけある事が卑怯じゃ無いのならいったいなんだと言うんですか。

ましてや、イトナ君はあなたから僕たちの知らない殺せんせーの弱点を聞いている。

今まで真剣に殺せんせーの命を狙ってきた僕たちとしてはこれもフェアじゃないと言える。

それ以外にも色々言いたいことはありますが…ここから先は、余計な手出しをせず黙ってイトナ君の暗殺を見ていてくださいませんか?」

 

 

僕の願いをシロさんは…

「…悪いが、その頼みは聞けないね。

イトナは私がいないといけないんだ。」

そう言って断った。

 

「そうですか…。

なら、こちらも容赦はしない。」

「…何をする気だい?

まあ、したところで意味は無いけどね。

殺れ、イトナ。」

シロのその一言に呼応してイトナ君がトドメとばかりに触手を纏めて叩きつけた。

 

 

 

 

───が…ダメージを受けたのは殺せんせーではなく、イトナ君だった。

 

 

 

 

「何が…!!

ッ!!床に対先生用ナイフ…だと!?

まさか!!」

シロが僕の方を見るが…それを軽く無視し、殺せんせーに笑顔を向ける。

 

 

 

~~~~

 

真相はこうだ。

 

 

まず、殺せんせーが脱皮する直前のイトナ君のラッシュの時に素早く自分の持っていた対先生用ナイフをハンカチで包む。

 

           ↓

 

それを机の下に置き、それを悟らせないように元々いた場所から移動し解説役を担いこちらに注意を引きつける。

 

           ↓

 

殺せんせーがそれに気づいて取るための時間稼ぎ。

 

 

 

こんなところだ。

 

~~~~

 

触手を失い動揺したイトナ君を殺せんせーが脱皮した自分の皮で覆い、窓の外へ投げる。

 

 

「先生の勝ちですねぇ…。

経験の差と先生と生徒の信頼を侮ったあなたがたの油断がこの敗北を招いた。

私に勝ちたいのなら…この教室でそれらを盗まなければいけませんよ。」

 

 

 

その瞬間───

 

 

 

 

イトナ君の触手が、真っ黒に染まった。




脱皮に関しては調べました。



次回もお楽しみに!!


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第35話 絆の時間

実は…原作四巻の話、すべての話で大体の筋を考えてなかったので、今現在執筆に苦戦中です。


一部の小ネタは考えていたわけですが…


ですが、そんなことで負けはしません!!
このイトナ初登場編を終わらせれば球技大会の話が始まります。
球技大会の話はそこそこ考えているのでいけると思います!!



それでは、本編スタート!!


▷ハヤテside

 

 

 

校庭で縦横無尽に舞う黒い触手。

 

 

 

───黒は、キレてる時の色だ。

 

 

 

その触手を携えたイトナ君は、教室の窓枠に飛び乗った。

その目には…先程まであった冷静さはなかった。

 

 

「俺は…強い…。

この、触手で…誰よりも…強くなった…。

誰よりも!!」

もはや、暴走しているようにしか見えないイトナ君がそう言って殺せんせーに飛びかかる。

 

 

 

 

───が、しかし

 

 

 

イトナ君の首に何かが当たると、まるで体のすべての力を失ったように倒れ込んだ。

微かな異臭を感じて横を見ると、シロが右腕を掲げていて、その袖から銃のようなものが見えていた。

 

 

「すいませんね、殺せんせー…。

どうもこの子は…まだ登校出来るような精神状態じゃなかったようだ。」

シロはそう言うと、自分の前にあった机を押し退けて中に入り、イトナ君を肩に担ぐと───

「転校初日で何ですが…しばらくの間、休学させてもらいます。」

そう言って、イトナ君が最初に開けた穴へと向かっていった。

 

 

「待ちなさい!

担任としてその生徒は放ってはおけません。

一度E組に入ったからには卒業するまで面倒を見ます。

それに…あなたにも聞きたいことが山ほどある。」

しかし、それを良しとしない殺せんせーはシロに待ったをかける。

だが───

「いやだね、帰るよ。

…力ずくで止めてみるかい?」

シロは、聞く耳を持たなかった。

言われたとおり力ずくで止めようとした殺せんせーだったが、シロの服に触れた途端触手が溶けたことでそれは叶わなかった。

 

 

「対先生繊維…君は私に触手一本───ッ!!」

「だったら…人だった場合どうするんですか?」

触手が溶けた原理をシロが解説しようとしたところで僕が腕を掴んだ。

「君もやってくれたね。

おかげで計画は台無しだ。

君は…賞金の百億は欲しく無いのかい?」

「僕は…お金欲しさにこの教室に来たわけじゃない。

僕が欲しかったもの…それは、絆。

これまでの人生で何度も失ったそれが欲しかったんだ。

それに気づかせてくれたこのクラスの皆を自分勝手な理由で傷つけるなら、許すことは出来ない…それだけのことです。

…そんなことはどうでもいい。

あなたは何者なんですか!!

烏間先生から聞いた限りでは、こんな対先生繊維や殺せんせーに効くライトなんて防衛省も作っていないはず…なのになんでそんなものを持ってるんだ!!」

「悪いけど…君に話すことは無いよ。

ああそれと…殺せんせー。

イトナのことだが…心配せずともまたすぐに復学させるさ。

それまでの間…私が家庭教師を務めるよ。」

僕の腕を振り払ったシロは殺せんせーにそう言うと去っていった。

 

 

 

 

~~~~

 

リングに使っていた机を元に戻している間、殺せんせーは一人、教卓で顔を手(触手?)で覆っていた。

…どうやら、自分の言動を今更恥ずかしがっているらしい。

 

 

 

「ハヤテ君は平気なの?

あんな恥ずかしいこと言ってたのに…。」

「大丈夫ですよ。

…僕に恥なんて、あって無いようなものですから。」

「うん…それもどうかと思う…。」

茅野さんからの問いかけに返答すると、なぜか微妙な顔をされた。

 

 

「でも…驚いたわ…。

…あのイトナって子…まさか、触手を出すなんてね…。」

イリーナ先生がそんなコメントを述べる。

それが合図になったのか、皆が殺せんせーとあの二人の関係について聞き始めた。

 

 

「………。

…仕方ない。

真実を話さなくてはなりませんねぇ。」

逃げられる雰囲気では無いと察した殺せんせーは観念したように口を開いた。

「実は先生…

 

 

 

 

 

人工的に作り出された生物なんです!!」

 

 

 

 

 

あまりにも…想定内すぎる告白に…

 

 

『だよね…で?』

 

 

クラス全員がそういうしかなかった。

 

 

「知りたいのはその先だよ…殺せんせー。

どうしてさっき…イトナ君の触手を見て怒ったの?」

その事実に驚愕する殺せんせーに渚君がそう言った。

「殺せんせーはどういう理由で生まれてきて…何を思ってE組に来たの?」

 

 

 

だが、殺せんせーはそれに答えない。

先生を殺せなければ…知ったところで無意味だからだそうだ。

…でも、僕には…余計なことを知って暗殺が出来なくなるのを避けているように思えてならなかった。

 

 

殺せんせーが言ったのは一つだけ…。

 

 

 

「殺してみなさい。

暗殺者と暗殺対象…それが先生と君たちを結びつけた絆のはずです。」

 

 

 

要は…知りたいなら行動で示せ、ということだろう。

───言われなくても分かる。

それこそが、この暗殺教室の流儀なのだから

 

 

 

 

誰でもない、自分たちの手でで殺したい───

 

 

 

その思いを胸に、烏間先生に今以上の暗殺技術を教えてもらえるように頼みに行った。




arosの、サンデーの目次コメントに漫画家でもないのに答えてみた

Q.どこにでも別荘を建てられるとしたら、どこに建てますか?

A.二次元世界への入り口


次回もお楽しみに!!


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第36話 球技大会の時間

この話…昨日の夜、冒頭にハヤテと矢田のプチデート(渚たちが野球部と話している部分を使って)を添えて投稿しようと思っていたのですが…ハヤテのセリフが一切思いつかない事態が発生し、投稿する気を無くしてしまったので、泣く泣くその部分を作らないことにしました。
…文才の無さが恨めしい。



それでは、本編スタート!!


▷ハヤテside

 

放課後、教室に全員が残り来週に迫った球技大会の出場者を決めていた。

 

 

「球技大会、ですか…。

いいですね!!

梅雨も明けましたし、今まで思いっきり体を動かせなかったことで溜まったストレスをスポーツで解消出来ますしね!!」

 

 

バイトの時間が無くなるという理由で今までスポーツなんてろくにやっていなかったが、この教室に来たことでその価値観が変わっているからこそその言葉を口にすることが出来た。

 

 

だが…そんな僕とは違い、クラスの雰囲気は暗かった。

「あれ?

皆さん、どうかしました…?」

「どうしたもこうしたも…この学校の球技大会がそんな爽やかなものじゃ無いからだよ。」

菅谷君のその返しに疑問を抱いていると、殺せんせーがトーナメント表を見せてきた。

 

 

「このトーナメント表がどうか…あれ?

E組が無いですね…。」

「E組は1チーム余るって理由で本戦に出れないんだよ…。」

菅谷君の説明に納得してしまった僕はすでにこの学校の制度に慣れてしまったようだ。

「また平然とハブるんですね…。

って、エキシビジョン?」

「そ…全校生徒が見てる前でそれぞれの部活の選抜メンバーと戦わされて、見せ物にされるのさ。」

相変わらず本校舎の人達は性根が腐ってるなあ…。

殺せんせーもそれに呆れている。

 

 

 

「…でも心配しないで二人とも。

私たち皆、訓練で基礎体力ついてるし…いい試合して全校生徒をあっといわせるよ。」

片岡さんの言葉に賛同するように女子全員が拳を挙げる。

女子のやる気は十分だ。

 

 

(((MVPになって綾崎(ハヤテ)君に誉めてもらう!!)))

女子の大半のそんな思惑に僕が気づくはずもなかった。

 

 

だが…男子は全員がやる気というわけではない。

晒し者は勘弁だと寺坂君たちが教室から出て行く。

「ちょっ…村松君、吉田君!?」

「わりーな綾崎。

応援くらいはしといてやるからよ…許してくれや。」

「俺も応援してるからな…。」

…そう言って出て行った。

 

 

「応援するって言ってるし、ほっといていいだろ。

そんなことより…野球となりゃ頼れんのは杉野と、運動神経バツグンのハヤテぐらいか…。

お前ら、なんか勝つための秘策とかねーの?」

前原君が聞いてくる。

 

「仕返しの時間以降、前原君は綾崎君のことを名前呼びしてるんだよね。」

「…不破さん?」

 

「うーん…僕の方は無いですね。

というか…スポーツなんてあまりやってなかったので…

ただ、当日まで死ぬ気で特訓するくらいですね…。」

「俺も無い。

つーか…無理だ。

最低でも三年近く野球してきたあいつらとほとんどが野球未経験のE組。

勝負になるわけがねぇ。」

 

杉野君がいうには、今の主将“進藤一考”に至っては…その豪速球で高校からも注目を浴びているらしい。

 

 

「でもよ…

 

 

 

 

勝ちたいんだ。

好きな野球で負けたくない。

野球部追い出されて…E組に来て…ハヤテの過去を聞いて…その思いは強くなった。」

「杉野君…。」

僕が過去を話してから、それ以前よりも野球に誘うようになっていたのにはそんな背景があったのか…。

「…こいつらとチーム組んで勝ちたい!!

そのためには…何すりゃいいんだ、殺せんせー!?」

杉野君が期待を込めた眼差しで殺せんせーを見る。

それにつられて見てみると───

 

 

 

顔を野球ボールのような模様にした殺せんせーがいた。

「何をすればいいか、でしたね…。

それは先程、綾崎君が言っていたことを実行すればいいだけです。」

「ハヤテがってまさか…。」

「加減はしますので安心してください。

先生一度でいいからスポ根モノの熱血コーチをやりたかったんですよねぇ…。」

殺せんせーのキャラと180°違うという突っ込みはダメなんでしょうか…。

あと、殴れないから卓袱台って…どこの星○徹ですか…。

 

 

 

こうして、殺せんせー…いや殺監督の地獄の特訓が始まった。

 

 

 

~~~~

 

 

球技大会当日───

 

 

「ハヤテ君、どうしたの?」

体育館に行くと、それに気づいた茅野さんが僕に問いかけてきた。

「こちらのエキシビジョンマッチまで時間があるので、せめて頑張ってくださいの一言くらいは言わせてもらおうかと思いまして…。

そのくらいなら…と皆さんも許可してくれましたよ。」

時間になりそうなら呼びに来てくれるとも言っていたので、遅れる心配は無い。

 

 

「そうなんだ。

ありがとね。

その気遣いだけで全力で戦えるよ。

皆、ハヤテ君が頑張れだって!!」

茅野さんがそういうと、もともとあったやる気がさらに出てきたように女子の大半の士気が上がったように感じた。

 

 

そんな中、ちょっとした変化に気づいた。

 

 

「あれ?

速水さん…髪型変えました?」

そう、この間まで下ろしていた髪を今日は2つに束ねているのだ。

「まあね…。

あの髪型じゃビッチ先生とキャラ被ってるから…。

変…だった?」

「そんなこと無いですよ、似合ってます。」

「…そう。」

 

 

 

「…ちょっとした変化にも気づいて誉めてあげる…ホントモテるタイプだよね。」

 

 

 

 

~~~~

 

「お待たせしました!!」

グラウンドについて最初に言った言葉がこれだった。

 

 

「いや、ナイスタイミングだ。

もうすぐ決勝が終わるところだからな。

もうそろそろ呼びに行こうかって話をしていたところだ。

…と、そういってたら終わったな。」

どうやら、ちょうどいい時に来たようだ。

 

 

「殺監督はどこに…。」

「…あそこ。

目立つなって烏間先生に言われてるから、ああやって遠近法でボールに紛れて…時々顔色とかでサイン出すらしいよ。」

「なんでもありですね…。」

渚君の指差した先にいる殺せんせーに呆れていると…その顔色が三回変化した。

 

 

「“殺す気で勝て”ってさ。」

 

 

「言われなくとも…僕はそのつもりです!!」

『俺(僕)たちもな(ね)!!』

 

 

 

このチームなら…勝てる!!




次回もお楽しみに!!


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第37話 先行の時間

今回の話、原作とほぼ同じ展開で進めます。
大きな違いとしては、視点がハヤテのものということですね。
というか、暗殺教室の原作を読みながら思いつきで書いているようなものなので細かいものも確実にあるようにしてます。

ちなみに打順は…一番 木村
        二番 渚
        三番 磯貝
        四番 杉野
        五番 ハヤテ
        六番 前原
        七番 岡島
        八番 千葉
        九番 カルマ

としています。(ちなみにハヤテはセンターのポジションです)
なので、ハヤテが打席に立つのは次の話になります。

それはそうと…律との区別をつけるため、マイクを通した音声(およびAI以外の機械音声)は{ }の中に『』を入れたものにします。
集会の時間のも後で訂正しておきます。

それでは、本編スタート!! 


▷ハヤテside

 

 

一回の表…バッターは木村君だ。

 

 

ズトン!!

 

 

キャッチャーミットにボールが突き刺さる。

 

 

{『これはすごい!

ピッチャー進藤君、さすがの剛球!!』}

放送席からもピッチャーを賞賛する声が聞こえた。

{『E組木村、棒立ち!!

バットぐらい振らないとカッコ悪いぞ~!!』}

…E組いじりもしっかりしているところはさすがだと思う。

 

 

でも…振らなかったのは速くて振る暇もなかったからじゃ無い。

だって…比べるまでもなくもっと速いものを常日頃から見ているのだから…。

 

 

木村君がファールゾーンに目を向けた。

殺監督から指令が入ったのだろう。

 

 

 

そこに、ニ球目が投げられた。

だが───

 

 

 

コォン

 

 

 

{『あーっと、バントだ!!

良い所に転がしたぞ!!

内野、誰が捕るかで一瞬迷った!!

セ…セーフ!!

これは意外!

E組、ノーアウト一塁!!』}

さすがの放送席も今回ばかりはE組を賞賛するしか無かったようだ。

これで、E組側の士気が上がった。

皆の考えていることは一つ、

(((木村(君)の活躍は無駄にしない。

この回、点を取る!!)))

 

 

続く渚君は三塁線に強めのバントを放ち、その球はバントを警戒し、前に出ていたサードの脇を抜く。

これで、ノーアウト 一、二塁。

 

 

ここで観客も気づき始めた。

この試合の流れが…E組に向いていることに…。

 

 

 

「お…ハヤテ、あっちの監督の読唇頼む。」

前原君に促され、野球部の監督の読唇を始めた。

「えーと…

『バカな!!

こいつら…何故、バントがこんなに出来る!?

進藤級の速球を狙った場所に転がすのは至難の業だ。

杉野の遅球では練習台にもならないはずだ!!

いったい、どんな手品を…?』

とのことです。」

「手品といわれてもなぁ…

…アレ相手に練習したんだからよ。」

そう言って殺監督の方を見た。

 

 

 

~~~~

 

「殺投手は300kmの球を投げ!!」

「ホントの意味でデッドボールじゃないですか!!」

目で追いつけないような速さの球をバントさせられ───

 

 

 

「殺内野手は分身で鉄壁の守備を敷き!!」

余裕そうにしているのが余計頭にきた。

 

 

 

「殺捕手はささやき戦術で打者の集中力を乱す!!

この間、矢田さんと放課後デートしてましたねぇ…。

ショートケーキ一個とはいえ、奢るとは…金銭面の余裕が出てきましたねぇ…綾崎君。

一口食べさせてもらってましたねぇ…しかも、“はいあーん”でねぇ…。

ご感想の方は?」

「なんでそんなこと知ってるんですか…。」

 

 

 

皆が一通り終わったところで───

 

 

 

「はい、先生のマッハ野球に慣れた所で…次は、対戦相手の研究です。」

 

 

そこに、竹林君がやってきた。

「あれ…?

竹林君、今までどこに?」

三日間程姿が見えなかったような…。

「野球部の偵察に行っていたのさ…。

面倒だったが…運動が苦手な僕が球技大会で出来ることといったら、これしかないからね…。

それはそうと、手に入れられたデータだが…

進藤の球速はMAX140.5km

持ち球はストレートとカーブのみ

このくらいでした。

練習試合でも9割方ストレートでした。」

「140km越え…中学生のレベルじゃ無いですよ…。」

「そういうことだからストレート一本でも勝てるんだよ、進藤は…。」

「その通り。

ですが、逆に言ってしまえば…ストレートさえ見極めればこっちのものです。

というわけで…

ここからの練習は…先生が進藤君と同じフォームと球種で、進藤君と同じスピードで投げてみましょう。

さっきまでの先生の球を見た後では…彼の球など止まって見える。

したがって───」

 

 

~~~~

 

「『バントだけなら…十分なレベルで修得出来ます。』

でしたね。」

 

 

{『ま…満塁だーーー!!

ど、どうしたんでしょうか進藤君!!

調子でも悪いんでしょうか!?』}

 

磯貝君も塁に出て、放送のいうとおり満塁だ。

 

 

 

ここで打席に立つのは…杉野君だ。

 

 

 

最初、バントの構えを見せるが…ボールが投げられるとすぐに持ち方を変え…渾身の一撃を放った。

 

 

 

{『打ったァーーー!!

深々と外野を抜ける!!

走者一掃のスリーベース!!

E組三点先制!!

なんだよコレ、予想外だ!』}

 

 

 

 

▷○ナ○クside

 

「こっちもE組優勢ね…。」

体育館で行われてるバスケのエキシビジョンマッチ…前半、E組の優勢で始まり…後半になっても一切の衰えを見せなかったのでE組の勝ちを確信し、野球の方も良い勝負をしているのではないかと気になっていたのでこちらに来ていた。

 

 

 

良い勝負どころか…完全にE組が試合の流れをつかんでいた。

 

 

 

そんな中、私がみたのは───

 

 

 

 

 

 

野球部の監督の背後に忍び寄る───

 

 

 

 

理事長先生の姿だった。




前話のボツネタをこの話で使ってみました。

次回もお楽しみに!!


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第38話 円陣の時間

土曜日に投稿しようとしたんですが…突然の頭痛で投稿出来ませんでした。
最近の投稿間隔からしたら遅い投稿となりましたこと深くお詫び申し上げます。


それでは、本編スタート!!


▷歩side

 

バスケ部とのエキシビジョンマッチを終えた私達は男子たちの野球がまだ始まったばかりだと聞き、応援に行くため野球場に向かっていた。

 

 

 

「それにしても…私達、よく勝てたよね~。」

その道中、莉桜ちゃんが言ってきた。

莉桜ちゃんのいうとおり、試合はE組の勝利という結果で終わった。

「うん、勝てて良かったね~。

あ、試合中のメグちゃん格好良かったんじゃないかな?

シュートを打つ時のフォームも綺麗だったし、一本一本確実に決めてたし!」

「あの結果は私だけが出したものじゃ無いわよ…。

皆の力があったからこそのものだと私は思うわよ?」

私の賛辞を受けたメグちゃんはそう返してきた。

 

 

「それと、格好良いって言うんだったら…あなたの場合、綾崎君じゃないかしら?

というか…今回勝てたのって、綾崎君の応援があったから皆が本気で試合に取り組めたことにあると思うんだけど…。」

メグちゃんのいうとおりだ。

私達が頑張っていたのは、応援してくれたハヤテ君に良い結果を出して安心させようということだからだ。

私の周りでも、何人か赤くした顔を背けている人がいた。

 

 

 

「というか茅野…。

あんたの気迫もすごかったわね。

片岡と同じくらいの点を取ってたしね。」

綺羅々ちゃんの言っているとおり、カエデちゃんもメグちゃんと変わりないほどの点を取っていた。

「やっぱり…ハヤテ君の応援があったからかな?」

「それもあるんだけど…女バスのキャプテンのよく揺れる胸部への怒りを得点力に変えたら…いつの間にかそんな点数になってたんだよね…。」

「茅野っちのその巨乳に対する憎悪はなんなの!?」

巨乳にどれだけの怒りを持っていたらそんな点数になるのかな!?

 

 

 

「…!!

野球部相手に勝ってる!!

すごいよ皆!!」

───到着後、スコアボードを見ると…E組の方に3の文字が入っていた。

「まあ、ここまではな…。

見てみ、早くもラスボス登場だ。」

三村君に言われ、その方向を見ると…野球部と共に円陣を組む理事長先生の姿があった。

 

 

 

 

▷渚side

 

指示を出し終えた理事長先生が野球部側のベンチに下がっていき、試合は再開した。

 

 

 

だが…

 

 

 

{『な、なんと!!

守備を全員内野に集めてきた!!

こんな前進守備は見たこと無いぞー!!』}

 

 

「あ…ありかよあんなの!?

ぜってー集中出来ねぇって!!」

岡島君が抗議するも…

「…ルール上、フェアゾーンならどこを守るのも自由だ。

審判がダメだと判断すれば別だけど…審判もあっち側だからね…期待は出来ない。」

竹林君のいうとおり、認められない。

「だが…彼なら、こんな守備でも問題ないだろう?」

そうだ…。

 

 

 

今、バッターボックスに立っているのは───

 

 

▷ハヤテside

 

───綾崎君、先生は今回…君にいっさいの指示を出しません。

こういうのでは…作戦で縛らない方が君を輝かせますからねぇ…。

自分の好きなように試合を進めてください。

 

 

 

殺監督は僕にそう言った。

 

 

 

{『さあピッチャー、構えて…投げた!!』}

 

 

 

だから…自由にやらせてもらう!!

 

 

カキィン!!

{『う…打ったーーー!!

打球はセンター方面に飛んでいく!!

これは…入るかァーーー!?』}

 

 

そのとき、風が吹いた。

 

 

{『い、いや…!

突如吹いた風に押し戻され…外野フライになってしまったーーー!!』}

 

 

ホームランにはならなかったか…。

 

 

{『あっと、前進守備をしていたため…間に合わない!!

これをチャンスと見たか綾崎君、一気に三塁まで走る!!

この隙に三塁ランナーがホームベースを踏んだ!!

E組追加点ーーー!!

あっと、綾崎君が三塁を蹴ってホームベースへ向かう!!

ここでボールに追いついたセンター、ホームベースにボールを投げるが…間に合わない!!

綾崎君、ホームベース到達!!

ランニングホームランだーーー!!』}

これで…二点追加だ!!

 

 

~~~~

 

 

僕の後は…バントしか無いためこの守備を突破する事が出来ず三者凡退となり、続く一回裏…E組に来てから身につけたという杉野君の変化球がバッターを寄せ付けず、スリーアウト。

 

 

 

そして───二回表、カルマ君の打順だ。

相変わらずの前進守備。

 

「理事長先生…。

これ、ズルくない?

観客も、こんだけ邪魔な位置で守ってんのにさ…審判の先生が注意しないのおかしいと思わないの?

あーそっかあ…。

お前らバカだから…守備位置とか理解してないんだね~。」

バッターボックスに入る前、カルマ君が守備位置についてクレームをつけた。

答えは、観客からのブーイングだった。

ブーイングを受けている最中、カルマ君が殺監督の方を向いていたので、この挑発も監督の指示なのだろう。

 

 

 

当然ながら、クレームは却下され…前進守備を崩せずスリーアウトとなった。

 

 

 

問題が起こったのは…二回裏、ランナーを一人出してしまった後のことだ───

 

 

 

 

───進藤君の打ったボールが杉野君の右肩に直撃した。

 

 

 

「ぐ…。」

「これじゃ、杉野は投げれねぇよ…。

どうすんだ…。」

こんな状態の杉野君に無理はさせられない。

ならば───

 

 

 

 

「僕が…投げます。」

 

 

 

~~~~

 

{『怪我した杉野君の代わりにピッチャーを担うのは…綾崎君だーーー!!』}

 

 

 

僕がいたセンターのポジションには、ベンチから三村君が入った。

「俺…本番は撮影係って聞かされてたんだけどなぁ…。」

と、いいながら入っていたのは印象的だった。

 

 

さて、怪我で降板した杉野君のためにも…カッコ悪いところは、見せられないな。

{『さあ綾崎君、一球目…投げた!!』}

 

 

 

ズドン!!

 

 

場内が静かになった。

 

 

 

{『は…速いーーー!!

なんだこれ!?

進藤君と同じ…いや、それ以上に速いかもしれないぞーーー!?』}

 

 

放送のその一言で観客が一斉に歓声をあげた。

 

 

 

この回…僕の好投により、相手に二点しか与えず攻守交代となった。

 

 

~~~~

 

三回表───

 

 

磯貝君と三村君(杉野君が抜けたため)がアウトになり、僕の打順だ。

 

 

{『E組早くもツーアウト!!

このタイミング出てきたのは…一回表でランニングホームランを見せた綾崎君だーーー!!

おっと…先程の失敗はしないとでもいうように元の守備位置に戻る野球部ナイン!!』}

小細工は…なし。

これで、のびのびと打てる。

 

 

ここからが…正念場だ!!

 

 

 

カキィン!!

{『打ったーーー!!

ライト側に伸びていき…そのまま場外へ!!

ホ、ホームラン!!

今度は正真正銘のホームランだーーー!!』}

よし、一点追加!!

 

 

 

~~~~

 

{『綾崎君のホームランで一点追加するも、次のバッターがあっけなく三振し、スリーアウト!!

ついに三回裏、野球部の攻撃を残すことになりました!!』}

 

 

よし!!

この回をおさえて、野球部に勝つ!!

 

 

て…あれは!!

 

 

 

{『あーっと、バントだーーー!!

今度はE組が地獄をみる番だーーー!!』}




arosの、サンデーの目次コメントに漫画家でもないのに答えてみた。

Q.誕生日の思い出を教えてください。

A.
当日:家族に祝われる。

 ↓

次の日以降(当日の場合もある):誕生日いつと聞かれる。

 ↓

答える:過ぎてるもしくは今日じゃんと言われる。

 ↓

一年後:家族だけが祝ってくれる

こんな感じのループが中学生になってからずっとあった。


「5月2日だもんね。
そりゃ言われるよ。」
「自分で書いて自分で鬱になるなよ…。」

次回もお楽しみに!!


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第39話 近い時間

名簿の時間に片岡の岡野と倉橋の呼び名がなかったため、勝手にそれぞれひなた、陽菜乃と呼んでいることにしています。


そのため、今回から本格登場のキャラをヒナと呼んでます。

それでは、本編スタート!!


▷ハヤテside

 

僕の投げたボールをバッターが上手くバットに当てる。

木村君が取りに行くが…彼は野球未経験者だ。

バントの処理なんて到底出来る訳がない。

そのため、出塁を許してしまった。

 

 

「すまん…綾崎…。」

木村君が申し訳なさそうに謝ってきた。

「気にすることはありません。

ここから巻き返していけばいいだけです。」

「綾崎…ああ、そうだな!!」

 

 

 

次のバッターも例のごとくバントの構えを見せた。

 

 

 

…先にやったのはこっちなので、素人相手にバントをしたところで野球部には、“手本を見せる”という大義名分がつくだけだ…。

理事長先生はこちらにとって恐ろしいことを考えるのが本当に上手い。

 

 

…でも───

 

 

 

あくまでそれは、出塁する事が出来てこそのものだ。

 

 

 

これ以上、塁には出さない。

その想いを胸に───

{『ピッチャー綾崎君、野球部のバントに臆することなく…投げた!!』}

当然、バントされはしたが───

 

 

投球後、ホームベースまで間合いを詰めていた僕がノーバウンドにボールを拾ったことで出塁されることはなかった。

 

 

 

続く三人目…。

今度はバントではなく、打撃の構えを見せていた。

構えで警戒されたと思ったのか…なら、やり方を変えさせてもらう。

{『綾崎君…投げた!!

ああっと!

このタイミングを待っていたのかバッター、バントの持ち方に変える!!』}

 

 

 

そうくるのは分かっていた…。

だから…

 

 

{『ああっと!!

ボールがバット手前で落ちる!!

こ、これは…フォークボールか!?』}

変化球を使わせてもらった。

このまま、打たせることなくツーアウト

 

 

 

 

次のバッターは…

 

 

 

{『ここで迎えるバッターは…我が校が誇るスーパースター…進藤君だーーー!!』}

 

 

さて、どうやって打ち取るか…。

 

「ハヤテくーん。

進藤の集中力を削ぐのは俺たちがやるからさぁ…ハヤテ君は自分の好きなように投げてよ。」

そこに、カルマ君と磯貝君がやってきた。

「…出来るんですか?」

「監督から指令が来たんだよ…。

俺らにしか出来ないことだって…。」

───ッ!!殺監督が…!?

いったいどんな…。

 

 

そう思っていると、2人がバッターボックスの前に立つ。

…明らかにバッターの集中力を乱す位置にいるが、野球部の前進守備を黙認した以上、今回もスルーしなければならない。

それ以前に…やられたことを先にやり返したのは野球部の方だ。

認めざるを得ないだろう…。

理事長先生もそれを理解したのか…それとも、前進守備でも集中力が切れることがないという絶対の自信からか、それを容認した。

 

 

それを確認してか…2人はさらに歩み寄った。

 

 

だが…

{『ち…近いーーー!!

前進どころかゼロ距離守備!!

振れば確実にバットが当たる位置で守ってます!!』}

やり過ぎだというくらい近い場所まで進むとは思わなかった。

 

 

 

「ハヤテくーん、気にせず投げてよ。

邪魔しないし、怪我なんてしないからさぁ。」

 

 

 

そう言うのなら…信じよう。

それに…あの2人は…

そう思いながら、一球目を投げる。

 

 

2人をビビらせようとしたかのような豪快スイングを放つ進藤君だったが…その考えと裏腹に2人はほとんど動くことなくバットをかわす。

あの2人はE組の中でトップクラスの動体視力を持つ。

…?

“お前もだろ”ってツッコミが入ったような…。

 

 

カルマ君が進藤君に向かって一言声をかけている。

えーと、

“次はさ…殺すつもりで振ってみな。”

…進藤君の心は折れたな。

 

 

進藤君への2球目を投げるが…何かに怯えたような腰の引けたスイングだった。

 

 

 

そのボールをキャッチしたカルマ君が一塁の菅谷君に投げる。

 

 

 

これで進藤君はアウト。

 

 

{『ゲ…ゲームセット…!!

な…なんと…E組が野球部に勝ってしまった!!』}

 

 

 

良かった…勝てた。

 

 

「やったぜハヤテ!!

この勝利はすべてお前のおかげだぜ!!

イテテ…。」

そこに杉野君がやってきた。

「杉野君…肩の怪我は大丈夫ですか?」

「後で殺せんせーに手当てしてもらう予定だけどよ…それより先に…あいつに話したい事があるからな。

先に行っててくれ。」

そう言って、負けたショックから立ち直れてないのか未だ座り込んでいる進藤君のもとに行った。

 

 

 

▷友人side

 

「進藤…。

ゴメンな。

ハチャメチャな野球やっちまって…。

…これでお前に勝ったなんて言ってもたいして自慢出来ねーよ。

野球選手としては、俺なんてお前の足元にもおよばねえからな…。」

「…だったらなんで…ここまでして勝ちに来た…?

結果を出して俺より強いと言いたかったんじゃないのか…?」

「…んー…。

渚はさ、俺の変化球練習にいつも付き合ってくれてるし、ハヤテだってさ…あれでスポーツ未経験者なんだぜ?

カルマや磯貝の反射神経とか皆のバントの上達ぶりとかすごかっただろ?

でも、結果を出さなきゃ上手くそれが伝わらないからさ…。

まあ、要するに…ちょっと自慢したかったんだ。

昔の仲間に…今の俺の仲間を…。」

「そういうことか…。

なら覚えとけ杉野。

次やるときは高校だ。

…あと、肩のこと…悪かった。」

「肩のことは気にすんなって!!

それより…この決着は高校でだ!!」

(…高校まで地球があればな…。)

 

 

 

▷ハヤテside

 

「…と、すまん。

待たせたみたいだな…。」

進藤君と話しがしたいからと野球場に残っていた杉野君が戻ってきた。

「いえ、待ってませんよ。

それより杉野君、殺せんせーから伝言をあずかってます。

“肩の怪我を手当てしたいので進藤君との会話が終わったらすぐに旧校舎に来るように。”

とのことです。」

「分かってるよ。

んじゃ…さっさと行きますか。」

「あ、一緒に行きますよ…?」

伝言を受け取ると同時に旧校舎に向かう杉野君にそう言う。

 

 

 

すると…

「いや…ハヤテは試合で大暴れして疲れてるだろ?

みんなと一緒にゆっくり登ってきてくれ。」

磯貝君がそう言って杉野君を支えながら行ってしまった。

 

 

 

「それにしても…男女共に勝って終わったね~。」

2人の姿が見えなくなってしばらくして、西沢さんがそう言ってきた。

 

 

そこに…拍手の音が聞こえて来た。

 

 

「あの戦力差で勝つなんて…やるじゃない、あなたたち。」

そんな声と共に、木々の間から桃色の髪を携えた女子が出てきた。

 

 

「ヒナ!!

久しぶりじゃない!!」

「ヤッホー、メグ。」

「えっと…お知り合いなんですか…?」

その女子と片岡さんの関係性が気になり、問いかける。

「あー…うん。

お互いに似たような悩みがあるから…。」

「なんでバレンタインに女子からチョコを貰うんだろ…?」

「「ハア…。」」

なるほど…同じ悩みがあるなら仲良くなるだろう。

 

 

「それはそうと…あなた、確か名前は…綾崎君だっけ?」

「あ、はい…綾崎ハヤテです。」

「そう…。

球技大会ではいい成績を残したようね。

でも、期末試験では成績上位になんてさせないからね!!

私があなたを超えてみせる!!」

そう言うと、その女子は僕の横を通り過ぎて行く。

「桂ヒナギク…それが、私の名前よ。

覚えておきなさい。」

 

 

 

───桂ヒナギク

 

 

去り際に言われたその名前をしばらく脳内で繰り返し流していた。




次回もお楽しみに!!


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第40話 アートの時間

30000UA突破!!

本当に…ありがとうございます!!
これからも頑張っていきたいと思います!!



さて…今回から7月に入ります。



それでは、本編スタート!!


▷渚side

 

今日から7月だ───。

「おはようございます渚君。」

「おはようハヤテ君。」

教室に入ると同時に僕を見つけたハヤテ君と挨拶を交わす。

 

「いや俺は!?」

「あれ…岡島君、もう来てたんですね。」

「俺の席の周りで挨拶交わしてんのにそれはねーだろ普通!!」

このコント、クラス内でよく見る光景と化してるような…。

「まあ、その事はまた今度にするとして…。

お前ら周り見てみろよ…。」

 

 

岡島君の一言で僕たちは顔を上げる。

「今日から夏服だぜ…。

肌色がまぶしいねぇ…。」

…岡島君の言わんとしていることが分かってしまった。

 

 

 

「お、岡島君…そこまでにしたら…?」

そして…今後の展開も…。

 

 

 

「いやー…健全な男子中学生にはつらい時期だグェ…!?」

潰されたカエルのような呻き声と共に岡島君の演説は強制的に終わらされた…。

 

 

「お~か~じ~ま~く~ん~?

綾崎君に何を吹き込もうとしているのよ…?」

片岡さんが岡島君にスリーパーホールドをかけたからだ…。

「か…片岡…!?

わ…分かったから…放してくれ…死ぬ…!!」

許してはもらえたようで、締め落とされる前に放してもらっていた。

「だから言ったのに…片岡さんはハヤテ君のことを弟のように可愛がっているんだから。」

 

 

 

「まったく…夏なんですから露出が多くなるのは当たり前です…。

平常心を乱してはいけません。」

『グラビア読んでる奴が言うな!!』

殺せんせー…今の姿でそれを言っても説得力ないよ…。

 

 

 

───と、そこに…

「今日から半袖だとはな…。

計算外だったぜ…。」

ドアが開き、菅谷君が入ってきた。

一言挨拶でもしようかとそちらを向くが…僕たちの口からは言葉が出てこなかった。

なぜなら───

 

 

 

「さらしたくなかったぜ…。

神々に封印されたこの左腕はよ…。」

 

 

 

───菅谷君の左腕に、花のような紋様がほどこされていたからだ…。

どうしたの菅谷君!?

 

 

 

「あ、おはようございます菅谷君。」

『ちょっと待てぃ!!』

その様相を見て普通に話しかけたハヤテ君にクラスの皆から待ったがかかった。

「どうかしました…?」

「“どうかしました…?”じゃねーよ!!

なんでお前はあんな入れ墨みたいなもん見て普通に話しかけられんだ!?」

岡島君が代表して皆の疑問をぶつけた。

 

 

 

その答えは───

 

 

 

「なんでもなにも、あれ…ただのペイントですよ。」

これだった。

え…?ペイント?

「そういうこった。

メヘンディアートって言うんだぜ…。」

「それってさ…インドのやつっしょ。」

得意気に言う菅谷君にそのアートの出身地を被せて言ってくるカルマ君。

なんで知ってるのかを聞くと…。

「うちの両親インドかぶれだからさ…旅行行く度にそれ描いてくるよ…。」

なるほど…それなら納得だ。

 

 

 

「よ、良かった…。

先生てっきりうちのクラスから非行に走る生徒が出たかと…。」

そういう殺せんせーの前には、さっきまであったグラビアは無く…その代わりに、大量の自己啓発本が置かれていた。

「殺せんせーって…相変わらずそういうところでチキンだよね…。

ハヤテ君もよくあれがペイントだって気づけたね…。

って、あれ…ハヤテ君?」

殺せんせーにツッコミを入れた茅野がハヤテ君に話しかけた。

 

 

───そこで…さっきまでハヤテ君がいた場所に虚空しか無いことに初めて気がついた。

 

 

 

どこにいるのかと周囲を見回すと───

 

 

 

 

…教室の隅で、負のオーラを垂れ流すハヤテ君がいた。

 

 

 

「なんか…落ちこんでねぇか?」

「そーいや…カルマが“両親”って禁句言ってたな…。」

「そんなこと言ってる場合じゃないんじゃないかな!?ハヤテく~ん!!」

 

 

 

~~~~

 

「…落ち着いた?」

「ええ、もう大丈夫です…取り乱してしまってすみません。」

数分後、ハヤテ君がようやく冷静になった。

 

「じゃあ…改めて聞かせてもらうね。

なんでハヤテ君はあれがペイントだって気づいたの…?」

落ち着いたことを確認した茅野がさっき聞きそびれていたことを聞いた。

「なんでって…簡単ですよ。

昔から…絵を体に彫り込んだ厳つい大人の男達をよく見ていたので…。」

「借金取りか。」

ハヤテ君の返答に速水さんがツッコミを入れた。

 

 

 

「本物の入れ墨を見たことあるんだったらそりゃ見分けもつくよな…。

そーだ…。

まだ塗料残ってるし…殺せんせー、描いてやろうか?」

「にゅやッ!!

い…いいんですか!?

楽しみですねぇ…。

先生…こういう入れ墨みたいなのを描いてみたかったんですよねぇ…。」

同意を得たことで、殺せんせーに塗料を塗り始める菅谷君。

 

 

 

その直後…殺せんせーの顔が、塗料を塗った部分の周囲だけ溶け出した…。

 

 

 

 

殺せんせーが悲鳴をあげながら、教室中を飛び回る。

 

 

顔の一部が溶けている状態でそんなことをするものだから…教室中のあちらこちらから悲鳴があがる。

 

 

 

「なるほど…対先生弾を粉末にして塗料の中に練りこんだのか…。」

「確かに先生、完全に油断してたけど…殺すまでじっとしててくれないよね。」

「…うーむ、ダメか。」

着眼点はすごいけど…単体での暗殺で使うようなものじゃないよね…。

 

 

 

普通に描いて欲しかったと嘆く殺せんせーに、菅谷君が謝罪の言葉を述べながら、今度は普通の塗料で殺せんせーの顔に紋様を書き始めた。

 

 

 

 

「あの~菅谷君…。」

ハヤテ君が菅谷君に話しかけた。

「どーした綾崎?」

「もし塗料がまだあるようでしたら…よろしければなんですけど…。」

「…?

綾崎も描いて欲しいのか…?」

「僕も…

 

 

 

 

 

描いてみていいですか?」

「描く方かよ…。

まあ、いいけど。」

描くんだ…。

 

 

 

 

~~~~

 

「私の色香に悲鳴をあげろオス達よ!!

おはよ…ギャー!!」

ビッチ先生が入ってきた。

そして…悲鳴をあげていた。

無理もない…。

だって、みんなして腕にペイントを施しているのだから…。

 

 

「あ…アンタら!!

何皆揃ってバケモノメイクやってんのよ!!」

「あー…。

皆が描いて欲しくなったってのもあるけど…俺とハヤテとの勝負がヒートアップしすぎたってのが一番の理由だな…。」

「いや~…やりすぎちゃいました。」

やりすぎ…ってレベルかな…これ?

「つーかお前…何気に上手ぇな。

昔やってたバイトに絵画教室でもあったのか?」

「いえ、それはなかったですね。

ただ…まんが賞をとって賞金を稼いだことならありましたね。」

「お…今回は比較的まともな履歴だな。

不破、目を輝かせんな…。」

今まで出てきたハヤテ君の過去が常軌を逸しているものばかりだった分余計にそう思える。

 

 

 

その後、自分も描きたくなったと言い出した殺せんせーがビッチ先生をロックオンし、逃げようとして床に落ちていた塗料で足を滑らせ、後ろの壁に激突したビッチ先生の肌に菅谷君と共にペイントを施し始めた。

 

 

 

 

だが…一級品のアートを描く菅谷君に対し、殺せんせーはただの落書きのような絵を描いていた。

 

 

 

 

その結果───

 

 

 

 

「死ね!!

アンタ達皆殺しにしてやる!!」

…ビッチ先生による実銃乱射事件が発生した…。

 

 

 

「菅谷君とハヤテ君の2人で書いておけば…あそこまでは怒らなかったのにね…。」

「…だろーな。

ま、ハヤテが描くのを辞退したし…殺せんせーは殺せんせーで余計なものを足したからなぁ…しょうがねーや。」

 

 

 

 

 

この後、殺せんせーとビッチ先生は烏間先生の説教をうけた。




arosの、サンデーの目次コメントに漫画家でもないのに答えてみた

Q.自分のお金で初めて買った漫画を教えてください!

A.ハヤテのごとく!



次回もお楽しみに!!


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第41話 訓練の時間

それでは、本編スタート!!


▷惟臣side

 

 

四ヶ月目に入るにあたり…ヤツを殺す“可能性”がありそうな生徒が増えてきた。

 

 

 

───磯貝悠馬、前原陽斗。

 

運動神経が良く、2人の仲も良好だ。

そのため、コンビネーションは抜群で…2人がかりで来た場合…俺にナイフが当たることが増えてきた。

 

 

今回も、俺の肩にナイフを掠めた。

「良!!

2人それぞれ加点1!!

次ッ!!」

 

 

 

次の2人が前に出てくる。

そのうち一人は全速力で俺の視角外に出たが…もう一人は気が乗らないかのような表情で俺に正面から迫って来る。

 

───赤羽業。

 

のらりくらりとしているように見えるが…その目には強い悪戯心が宿っている。

 

おそらく、どこかで決定的な一撃を加え…俺に赤っ恥をかかせようなどと考えているのだろう。

 

だが…そう上手くいくかな?

動きを見せるであろうタイミングで一歩下がる。

すると、舌打ちと共に彼も一歩引いた。

 

 

 

───そこで、背後から殺気を感じ取った。

 

 

 

「…ッ!!」

とっさに横に跳ぶ。

その直後、ナイフを自分の前に突き出した男子が俺の横を通過した。

 

 

 

───綾崎ハヤテ。

 

ろくでもない両親のもとで育ったからか、加入した時点で既に高い戦闘能力を持っている。

単独の場合、その半分でなんらかの不幸が降りかかるため、その成績はクラス内の中間となっているが…だれかとコンビを組んだ場合、彼かパートナーのナイフが確実に当たる。

一つ不審な点をあげるとしたら…ナイフを使う時の動きに微多少の違和感を感じることだろう。

 

 

 

奇襲に失敗した2人は戦法を変えたらしい。

今度は綾崎君が正面から突っ込んでた。

 

 

さっきも言った通り違和感はあるが…それでもナイフの振り方に無駄がない…。

少しでも体勢を崩そうものなら、その瞬間俺の体にナイフが当てられていることだろう。

 

 

 

 

しばらく回避に徹していると、彼の方から動きを変えてきた。

振り下ろしたナイフを素早い手首のスナップでこちらに投げたのだ。

 

 

上半身を後ろに反らし、この攻撃を回避する。

───直後、綾崎君の背中を踏み台にカルマ君が俺に飛びかかる。

今の体勢で後ろに跳べば…重心がずれ、倒れてしまうだろう。

そうすれば、起き上がる瞬間にナイフを当てられるだろう。

 

 

…と、そこで気づいた…。

 

 

 

カルマ君が…ナイフを持っていないことに…。

 

 

 

まさかと思い、綾崎君の方を見る。

 

 

 

そこには…───

 

 

 

どこかに隠していたのか…それとも、踏み台にされた時にカルマ君が渡していたのかは知らないが…───

 

 

 

左手で逆手に持ったナイフを俺に振りかざす彼の姿があった。

 

 

 

~~~~

 

女子では…体操部出身で、こちらの意表を突いた動きが出来る岡野ひなたと、男子並みのリーチと運動量を持つ片岡メグの2人がアタッカーとして非常に優秀だ。

 

 

 

───寺坂竜馬、村松拓哉、吉田大成の悪ガキ3人組。

 

 

リーダーの寺坂竜馬は訓練に積極的ではない。

だが…村松君と吉田君の2人は、綾崎君が過去を話した後から徐々にだが訓練に力を入れるようになった。

しかし…初めの1ヶ月で怠けていたため、訓練に体が追いついていない。

3人とも体格がいいだけに…全力を出せるようになれば戦力として申し分ないのだが…。

 

 

 

全体を見れば…生徒達の技術は格段に向上している。

綾崎君の加入とイトナ君の触手を見てよりいっそうヤツを殺したいという思いが強くなったことがいい成長をもたらしたと考えられる。

他に特筆すべき生徒はいないものの…。

 

 

 

───ぬるり…。

 

 

 

───ッ!!

得体の知れない気配を感じたためか、自己防衛本能で、それを強めに払いのけてしまった。

それにより…大きく吹き飛ばされたのは───

 

 

 

「…いった…」

渚君だった。

「…!!

すまん、ちょっと強く防ぎすぎた。

立てるか?」

「あ…へ、大丈夫です。」

 

 

───潮田渚。

小柄ゆえに多少はすばしこいが…それ以外に特筆すべき身体能力は無い温和な生徒だ。

 

 

…気のせいか?

先ほど感じた得体の知れない気配は…。

 

 

 

▷ハヤテside

 

今のは、いったい…?

烏間先生に吹き飛ばされた渚君を見てそう思っていた。

 

 

「そこまで!!

今日の体育はこれまで!!」

おっと、ぼーっとしてる場合じゃなかった。

 

 

『ありがとうございました!!』

授業終わりの挨拶を終え、教室に戻るべく歩を進める。

「しっかし…当たんねーな。」

その道中、木村君がつぶやく。

「ホントだぜ…。

綾崎と組んでねーとギリギリ掠らせるのが関の山だぜ…。

隙が無さすぎんだよ、烏間先生は!」

岡島君がそのつぶやきに同意した。

「烏間先生ってさ…私達との間に一定の距離を保ってるように思うんだよね…。

私達のことを大切にしてくれてるけど…それってやっぱり…任務のためだからかな?」

矢田さんが不安そうに言った。

その言葉に反論したのは、殺せんせーだった。

「そんなことはありません。

確かに彼は私の暗殺のために送り込まれた工作員ですが…それでも、ちゃんと素晴らしい教師の血が流れていますよ。」

殺せんせーがそういうのであれば…信じるほかないだろう。

 

 

 

 

───ゾワッ!!

 

 

 

「…ッ!!」

これは…いったい…!?

さっき渚君に感じた殺気は…純粋で、なおかつ綺麗なものだった。

だが…今校舎の方から感じた気配は…色々な感情が混ざった汚いものだった…。

 

 

 

▷渚side

 

大量の袋を腕に掛け、ダンボール箱を肩に担いだ大柄な男がこちらにやってくる。

 

「…?

誰だあの人?」

誰が言ったかは知らないけど…それは、ここにいる生徒全員が思っていることだろう。

 

 

 

「よう!!

俺の名前は鷹岡明!!」

鷹岡さんというらしいその人は、僕たちの注目が自分に集まったことを悟ると、持っていた荷物をその場に置き、自己紹介を開始した。

「今日から烏間の補佐としてここで働くことになった!!

よろしくな!!

お近づきの印としてケーキとか飲み物を買ってきた。

遠慮せずに食ってくれ!!」

持っていた荷物は全て飲食物だったのか…。

飲み物はともかくとして…ケーキはどう見ても安物じゃ───

 

 

「ッ!!

これ“ラ・ヘルメス”のエクレアじゃん!!」

「こっちは“モンチチ”のロールケーキだ!!」

 

 

 

…詳しいね、女子の皆さん。

 

 

「でも…いいんですか?

こんな高いの…。」

「おう!!

俺の財布を食うつもりで遠慮なく食え!!」

磯貝君が鷹岡先生を心配して言うが…その鷹岡先生は心配は無用とばかりに笑い飛ばした。

 

 

 

「モノで釣ってるなんて思わないでくれよ?

俺はお前らと早く仲良くなりたいんだ…そのためには…皆で囲んでメシ食うのが一番だろ!!」

なるほど…理にかなっている。

 

 

「鷹岡先生って…ものすごいいい人なんじゃないかなハヤテ君。

って…ハヤテ君?」

西沢さんがハヤテ君に声をかける。

 

 

 

…そこで漸く、ハヤテ君がこの輪の中にいないことに気づいた。

どこにいるのかと探していると…ハヤテ君は一人、校舎に向かって歩いていた。

 

 

「ハヤテくーん!!

一緒にケーキ食べようよ~!!」

西沢さんがハヤテ君を誘う。

 

 

 

だが、その返事は…

「すみませーん!!

僕は遠慮しておきます!!」

…誰がどう見ても“拒否”だった。

 

 

 

 

───この時、気づくべきだったのだろう。

 

 

 

普段は自分から人の輪に入っていくハヤテ君が…鷹岡先生との親睦を深めようとしないことに…。




arosのサンデーの目次コメントに漫画でもないのに答えてみた

Q.なくして一番ショックだったものを教えてください。

A.財布
無い無いと探し回って結局見つからずヘコんだことが小学生の頃2、3回ありました。


次回もお楽しみに!!


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第42話 親愛の時間

お気に入り300突破!!
これからも頑張りますので応援よろしくお願いします。


それとakihaさん。
誤字報告ありがとうございました。
その部分は修正しました。
これからも気づいたら遠慮なく言ってください。


それでは、本編スタート!!


▷ハヤテside

 

「あら、綾崎君。」

鷹岡さんというらしい新しい先生が持ってきたケーキを無視して教室に向かう途中、背後から声をかけられた。

「…?

あ、園川さんじゃないですか。」

誰かと思い振り向くと…そこにはスーツ姿の女性が立っていた。

確か、園川さんという名前の…烏間先生の部下の一人だ。

 

 

 

「その顔…何かあったんですか?」

園川さんの顔に何かを恐れているような表情がうかがえたので聞いてみることにした。

 

 

 

「…ッ!!

 

 

 

…分かりました、話しましょう。」

園川さんは驚きの表情を見せた後、少し悩むような間をおいて…やがて覚悟を決めたような目でこちらを見てきた。

「明日から体育は鷹岡さんが担当することになったんです…。」

───ッ!!

鷹岡さんが!?

 

 

 

「…綾崎君は鷹岡さんのことをどう思っていますか?」

次に園川さんの口から出た言葉は、僕に対しての質問だった。

「一概には言いにくいんですが…どうも胡散臭いんですよね。

フレンドリーに接することで、周りに自分をいい人だと印象づけているように思えるんですよね…。

…似たような人間の下で14年以上生きてきたので、そう思えるんですよね。」

「その通りです…。

鷹岡さんは───」

 

 

 

 

▷渚side

 

 

 

「…よーし皆集まったな。

では、今日から新しい体育の始まりだ!!」

今日から体育は鷹岡先生の担当だ。

 

 

昨日の様子だったら問題ないだろう。

 

 

 

だって───

「厳しくなると思うが…終わったらまたウマいモン食わしてやるからな!」

「そんなこと言って…自分が食べたいだけじゃないの?」

「まーな…。

おかげさまでこの横幅だ。」

こんなにも僕たちとフレンドリーに接してくれるのだから…。

そのためか…昨日は関わろうとしなかったハヤテ君も体育に参加している。

面倒くさいという理由でサボったカルマ君とは大違いだ。

 

 

それに…鷹岡先生は僕たちを“家族”と言ってくれた。

信じるしか無いだろう。

 

 

 

「さて!

訓練内容の一新に伴って…E組の時間割も変更になった。

このプリントを皆に回してくれ。」

 

 

 

時間割の変更…?

いつも通りでいいんじゃ…?

そう思い、回ってきたプリントを見る。

 

 

そして───

 

 

『…!?』

驚愕した。

 

 

「10時間目…!?」

「夜9時まで…訓練…!?」

こんなの…出来るわけが無い…。

 

 

 

「このくらいは当然さ…。

理事長も“地球の危機ならしょうがない”と言って承諾してくれた。

この時間割についてこれれば、お前らの能力は飛躍的に上がる。

では、早速「ちょっ…待ってくれよ!!」…ん?」

愕然とする僕たちを代表して前原君が待ったをかけた。

「勉強の時間がこれだけじゃ確実に成績落ちるよ!!

理事長もそれが分かってるからそんな時間割を承諾したんだ!!」

確かに、あの理事長先生ならやりかねない。

 

 

 

だが───

「…遊ぶ時間もねーし!!

出来るわけねーよ、こんな…ガハッ!!」

最後まで言い終わることなく前原君の抗議が止められた。

前原君のお腹を鷹岡先生の膝が直撃したからだ…。

 

 

 

「“出来ない”じゃない…“やる”んだよ。

…言ったろ?

俺達は“家族”で、俺は“父親”だ。

世の中に…父親の命令を聞かない家族がどこに居る?」

どうやら僕たちは、騙されていたようだ…。

 

 

 

…と、その時───

 

 

 

「やっと…本性を現しましたね…。」

背後から怒気を孕んだ声が聞こえてきた。

いったい誰が…と後ろを向くと───

 

 

 

そこには…いつもはあるはずの笑顔がいっさい無くなり…それを補うかのように顔を憤怒で染め上げたハヤテ君がいた。

 

 

 

「なんだお前…?

父親に刃向かう気か?」

「あいにく…犯罪者が親なんてもうコリゴリなんですよ…。」

その犯罪者とは…ハヤテ君の両親のことだろう。

「犯罪者だぁ…?

俺の何が犯罪なんだ?」

「さっきの前原君への暴行やこの時間割のような労働基準法違反…過去にしてきたことをあげたらキリがない!!」

今までも同じようなことをしていたのか!?

いや、それ以前に…なんでハヤテ君がそれを知ってるの!?

「お前…なぜそれを知っている…!?」

同じことを思ったのか、鷹岡先生が聞き返す。

 

 

 

 

「知ってるんじゃなくて…聞いたんですよ。

昨日のあなたの笑顔が、あまりにも胡散臭かったので…関わらないようにしようとしていた時に園川さんに会いましてね。」

 

 

 

その返答でようやく気づく。

ハヤテ君は、なんとなくではあるが…鷹岡先生の本性に気づいていたんだと言うことに…。

あまり金銭面に余裕の無いハヤテ君には高級ブランドのケーキなんてご馳走に等しいはずだ…。

なのに帰るなんて…食べる気分じゃなかったとばかり思っていた。

 

 

 

言い終わったハヤテ君は、鷹岡先生に背を向けると…前原君の下に歩いていく。

 

 

 

▷ハヤテside

 

───鷹岡さんは、烏間さんが空挺部隊にいた頃の同期でして…そのために、烏間さんに対する強い対抗心があるようなんです。

 

 

 

───同期として劣っていたことで見出した活路が教官という役職でした。

 

 

 

───実際、短期間で精鋭を育てることに成功しています。

ですが…それは教え方がよかったからではなく、暴力に頼った独裁体制だったからです。

 

 

 

前原君のもとにたどり着くまでの間、昨日園川さんから聞かされたことの大まかな部分を思い出していた。

 

 

 

「すみません…。

こんなに早くことを起こすなんて思ってもみなかったので、対処が遅れました。」

前原君の下に着いた僕はその場で片膝をつき、謝罪の言葉を述べる。

「いや…ハヤテが気に病む必要は…ねぇよ…。

上辺に騙された…俺達が悪い…からな…。」

よほど痛むのか、前原君は蹴られたお腹を押さえながら返答する。

だが…言葉が途切れ途切れになっている。

それが…僕の怒りの炎をさらに燃え上がらせた。

 

 

 

「分かってねぇな…お前も。」

その時、鷹岡の声が耳朶を打つ。

「分かってない…?」

「そうだ。

教え子を手なづけるのに必要なのはたったの2つ…。

その2つとは…“親愛”と“恐怖”だ。

逆らえば叩き、従えば誉める…それだけでいいんだ。」

「…ツ!!

あまりにも極端すぎる!!」

あえて低い声で問いかける。

すると、返ってきたのはまるで奴隷への対応のような最低なものだった。

「極端でいいんだよ…。

な?

お前は父ちゃんについて来てくれるよな?」

僕の反論を気にする様子も見せず、近くにいた神崎さんの頭に手を置くと、自分のやり方に賛同するかどうかを問いかける。

「…は…はい、あの…私…。」

神崎さんは怯えた表情から一変して、微笑むと───

 

 

 

「私は嫌です。

烏間先生の授業を希望します。」

 

 

 

言った。

 

 

 

それを聞いた鷹岡は神崎さんに対して拳を振り上げようとして───

 

 

 

 

───その腕が途中で止められた。

 

 

 

なぜなら…僕が鷹岡の腕を掴んだからだ。

 

 

 

「なんだお前…やる気か?

そっちの方が得意だぞ!!」

 

 

その言葉を待っていた僕は、鷹岡の腕を放し…叫ぶ。

 

 

「その言葉…後で後悔しても、遅いですよ!!」




次回もお楽しみに!!


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第43話 指名の時間

今回、鷹岡をボコボコにするんですが…一部でヤバい部分があるので、その箇所にハヤテのごとくのアニメ一期と二期に登場する“見せられないよくん”を出します。
…画力が無いので、“見せられないよ”のパネルだけですが勘弁してください。


あと、今回はいつにもまして展開が強引ですが…そこは大目に見てください。



それでは、本編スタート!!


▷渚side

 

「後悔だと…?

ずいぶんと大きく出たじゃないか…。」

ハヤテ君を見下しているような表情を見せる鷹岡先生が嘲笑うかのような声音でハヤテ君に話しかける。

 

 

 

「当然ですよ…。

この勝負は…僕の、男としての意地とプライドを…そして、大切な仲間達の…自由を守るための一戦ですから!!」

受けたハヤテ君はそう言いながら、戦闘態勢に入る。

 

 

 

「ほぅ…?

格好いいじゃないか。

さっき俺が腕を振り解けなかったことから、少しはやるみたいだが…俺に勝てると思うなよ…?」

中学生相手なら負けない、とでも思っているのだろう鷹岡先生は構えながらも、余裕そうにハヤテ君に対して話しかける。

 

 

「いいぜ…。

どこからでもかかって…グオッ!!」

 

 

───だが…その余裕も、ハヤテ君の拳が鳩尾にめり込んだことで消える。

 

 

 

 

「グッ…!

このやろう…!!」

格下に見ていた男に一撃入れられたことでプライドを刺激されたであろう鷹岡先生がハヤテ君に詰め寄り、左右の腕でラッシュを繰り出す。

だが、ハヤテ君はそのラッシュをすべて紙一重でかわしていく。

 

 

それがしばらく続いたところで、かわすことに飽きてきたらしいハヤテ君は、鷹岡先生が右ストレートを放ったタイミングで身を翻し───

 

 

「………ハァッ!!」

鷹岡先生の側頭部に後ろ回し蹴りを叩き込んだ。

 

 

 

「やっぱ強ぇなアイツ…。」

「烏間先生の同僚ってことは軍人だろ…?

それなのに全く寄せ付けてねぇ…。」

僕の周りからもそんな声が聞こえてくる。

 

 

 

「ぐっ…なぜ、中学生相手に…こんな一方的に…攻められるんだ…。」

やはりというかハヤテ君をナメてかかっていた鷹岡先生は、自分が一方的に攻められることに納得がいってないかのようにつぶやく。

 

 

「僕を“ただの中学生”と侮りましたね…。

そこらへんの中学生と僕を同列に扱わない方がいいですよ…。

なぜなら───」

 

 

 

あ、これは…来るな。

 

 

 

「こう見えても僕は、かつて両親に“肉を食わせてやる”と言われ侵入したサファリパークで…ライオンの餌をちょくちょく強奪していた男だぁ!!」

 

 

 

「あぁ…やっぱり…。」

「相変わらずスゲェ過去持ってんな…。」

「ひ…陽菜ちゃん…?」

一部違う人もいるが…僕含め周りの皆も、ハヤテ君の過去に呆れていた。

 

 

 

「ライオンに比べれば…あなたなんて、大したことないんですよ!!」

そして、ハヤテ君は鷹岡先生を指差してそう宣言した。

 

 

 

その宣言に鷹岡先生は───

 

 

「ふ…ふざけるなぁ!!」

 

 

怒りの形相でハヤテ君目掛け走り出した。

 

 

 

~~~~

 

 

        ┌────┐ 

       つ│見せられ│◯

        │ないよ!│

        └────┘

 

 

~~~~

 

「それで?

あとどれくらいボコボコにすると帰ってもらえるんですか?」

「…グウ…。」

…すごい。

たった数十秒で鷹岡先生が虫の息だ…。

 

 

 

「綾崎君、それ以上は勘弁してやってくれ…。

鷹岡が死にかねん。

いくらこいつが悪辣なやつでも…死人が出るのはさすがに看過出来ん。」

ここで烏間先生が止めに入った。

「まあ、いいでしょう…。

これ以上痛めつけたら、治療するお医者さんがかわいそうですからね。」

心配するのそっちなんだ!?

 

 

 

「そいつの実力はだいたい分かった…。

そして…限界もな…。

と、いうわけでだ、烏間。

ここは一つ、この教室らしい勝負といこうじゃないか…。」

起き上がってきた鷹岡先生がそんなことを言い出した。

 

ハヤテ君の…限界?

それは、いったい…?

 

 

「この教室らしい…勝負…?」

「ああそうだ…。

烏間、お前が育てた中でイチオシの生徒を一人選べ。

そいつが俺と勝負して…一度でもナイフを当てられた場合、お前の教育を認め…俺はここから出て行ってやる。

男に二言は無い。

ただし…俺が勝った場合、その後いっさいの口出しはさせないからな。」

鷹岡先生のその言葉に皆の顔に希望が宿る。

それなら、出来る生徒はハヤテ君を含めたくさんいる。

 

 

 

 

───だが…その希望も、鷹岡先生が出した次の条件で儚く崩れ去った。

 

 

 

「ああそれと…使うナイフは対超生物用じゃない。」

 

 

 

 

そう言いながら取り出したのは…本物のナイフだった。

 

 

 

 

▷惟臣side

 

「殺す相手は俺なんだ…。

使うものも本物じゃなくちゃなァ?」

「よせ!!

彼等は人間を殺す訓練も用意もしていない!!

本物を持っても…体がすくんで刺せやしないぞ!!」

俺は今、鷹岡に対し全力で抗議している。

当然だ…。

ここにいる皆は、ヤツにしか効かない特殊なナイフでしか訓練をさせていない。

ゆえに、本物を持たせたところで扱えるわけがない。

唯一使えるであろう綾崎君も、ナイフを使う時の動きにどこかぎこちなさがある…。

あれが本物のナイフでも起こるのならと思うと…。

 

 

 

「寸止めでも当たったことにしてやるから安心しな…。

俺は素手で…しかも、さっき綾崎にボコボコにされた痛みがまだ引いていない。

これ以上無いハンデだろ?

さっさと選んでもらうぜ、烏間!!

嫌なら無条件で俺に降伏だ!!

生徒を見捨てるか生け贄として差し出すか…どっちにしろ酷い教師だな!!」

俺を蔑むような目と笑い声を向ける鷹岡を前に、ただ迷うことしか出来なかった。

この勝負で勝てる可能性がある生徒は…“いる”。

だが…その生徒を危険にさらしていいのか、と。

 

 

 

教師という職業を始めてから…迷ってばかりだな…俺は。

どんな時であれ…綾崎君と初めて会った時のように…すぐに行動に移せたらいいのにな…。

 

 

いや…彼は迷わなかったじゃないか。

皆の自由を守るために、と。

 

 

もう…迷いはなかった。

鷹岡が俺の足下に投げたナイフを引き抜き、その生徒のところに歩いていく。

 

 

受けてくれるかは知らないが…それしか方法は無いだろう…。

 

 

「渚君…やる気はあるか?」




arosのサンデーの目次コメントに漫画家でもないのに答えてみた。

Q.日本国内で一番行ってみたい場所とその理由を教えてください。

A.秋葉原
理由:中学三年生の頃からずっと行ってみたいと思っていたので…。
住んでるとこ岡山なので距離的な問題が…。


次回もお楽しみに!!


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第44話 才能の時間

それでは、本編スタート!!


▷ハヤテside

 

「渚君…やる気はあるか?」

 

 

 

烏間先生が指名したのは…渚君だった。

 

 

その選択に、信じられないとでもいうかのような表情を浮かべる皆さんの視線が烏間先生と渚君のいる場所に集まった。

 

 

 

だけど、僕はそこまで驚かなかった。

と、いうのも…鷹岡が勝負の条件を出したその時点でこの展開を予想していたからだ。

 

 

 

「この勝負…選ばなくてはならないというのなら、誰がなんと言おうと君を選ぶだろう。

だが…返事の前に聞いて欲しい。」

烏間先生は渚君の目を真っ直ぐ見て…そして、口を開いた。

 

 

「俺は君達とはプロ同士だと思っている…。

だからこそ…プロとして、君達に払うべき最低限の報酬…それは、当たり前の中学生活を保障する事だと思っている。」

烏間先生に生活面の大半を援助してもらってる身としては、申し訳ないという気持ちでいっぱいですけどね。

 

 

「だから…このナイフを受け取ることを強制しない。

その時は、俺が鷹岡に頼んででも君達への“報酬”を維持してもらうように努力する。」

その言葉を正面から受けた渚君は、少し考えるような態度を見せたあと…ナイフを受け取った。

そして───

 

 

「やります。」

 

 

───言った。

 

 

 

~~~~

 

「なあハヤテ…。

渚のナイフ…当たると思うか?」

菅谷君が聞いてきた。

「ええ、当てられると信じてます。」

「お前、この展開分かってただろ…。」

呆れの混じった声音で菅谷君が言う。

それに反応したかのように驚きの視線が向けられた。

「まあ、鷹岡がこの勝負の条件を出した時から…こうなるかなと思っていました。

僕の場合…たとえ勝負には勝てたとしても、条件に合わないので…。」

「そういや、鷹岡先生がその条件出す前になんか言ってたな…。

お前の限界がどうだとか…。

その限界って何なんだ?」

菅谷君が重ねて聞いてくる。

「おそらく…技術的な話ではないでしょうか?

僕の戦闘技術ってどちらかというと正面戦闘寄りな気がするんですよね。

正面戦闘は暗殺では“ほぼ”必要無い。

だから僕では、“戦闘”にはなっても“暗殺”に持ち込めないのでああいったんだと思います。」

実際のところ…分かってはいない…。

でも、これがしっくり来た。

「でも渚君なら…それが出来る。

なぜなら…。」

 

 

昨日の訓練中に一度だけ感じた殺気───

 

 

 

あれがもし渚君のものなのだとしたら───

 

 

 

「渚君は、僕が持つことの出来なかった技術をこのクラスの中で一番持っているような気がするので…。」

 

 

 

そして───

 

 

 

「烏間先生も…それが分かっているからこそ渚君を選んだんです。」

 

 

 

▷渚side

 

───いいか、鷹岡にとってのこの勝負は“戦闘”だ。

 

 

───それに対し、君は“暗殺”だ。

ただ一回当てればいい。

 

 

 

本物のナイフを手にしてから、少し迷っていた。

当然だろう。

今までは、対先生物質のナイフだったから全力で振れたが…今回は本物だ。

本物なんて持ったこと無いし、当てたところが悪ければ死んでしまう。

どう動けばいいかが分からなかった。

 

 

 

そんな時…僕は、烏間先生のアドバイスを思い出していた。

 

 

 

そうだ…。

 

 

 

難しく考えなくていいんだ…。

 

 

 

殺せば勝ちなんだ。

 

 

 

だから僕は…笑顔で、歩いて近づいた。

 

 

 

通学路でも歩いているかのごとく、普通に…。

 

 

 

そして…鷹岡先生の腕に触れた瞬間、首筋目掛けて思い切りナイフを振った。

 

 

 

ここでやっと、殺されかけている事に気がついた鷹岡先生は、思い切りのけぞってナイフをかわす。

 

 

 

今、鷹岡先生の重心は体の後ろに集中している。

 

 

 

だから、弱い力でもその方向に加えればたいていの場合、転倒させることが出来る。

 

 

 

なので、服を引っ張った。

そしたら、案の定倒れた。

 

 

 

チャンス!!

そう思った僕は、背後から組み付き───

 

 

 

 

 

 

「捕まえた。」

「あッ…が…!」

 

 

 

ナイフの峰を…鷹岡先生の首に当てた。




次回もお楽しみに!!


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第45話 解放の時間

原作だとこの話は、“迷い”の時間なんですが…迷ってるシーンが全然無いのでこのタイトルにしました。



そんなことはさておき…akihaさん、誤字報告ありがとうございました。
降伏と克服は意味が全然違いますね…。
二度もお手を煩わせることになるとは…。
気をつけていこうと思いますが…見つけ次第、容赦なく指摘してください。



それでは、本編スタート!!


▷ハヤテside

 

「捕まえた。」

微笑みながらそう言う渚君に、ただ驚くことしか出来なかった。

渚君なら出来るとは思っていたが、ここまでとは思っていなかった。

 

 

 

人は皆、大なり小なり才能を秘めている。

渚君のそれは、暗殺の才能だったのだ。

 

 

 

 

「そこまで!!」

殺せんせーの声が響く。

 

 

「勝負ありですよね…烏間先生?」

殺せんせーが渚君の背後からナイフを奪い取りながら烏間先生に確認をとる。

 

 

「まったく…本物を持たせるなんて正気の沙汰ではありませんねぇ…。

ケガでもしたらどう責任をとるつもりだったのですか…。」

殺せんせーはそう言うが…もしそうなりそうなら、間に入ってでも助けていたと思うんですが…。

 

 

 

それより───

 

 

 

「お疲れ様です、渚君。

かっこよかったですよ!!」

「あ…ありがとう。」

鷹岡から体を離した渚君に労いと賛辞の言葉をかける。

それにつられたのか皆も近寄り、渚君に思い思いの言葉をぶつける。

 

 

 

「大したモンだよ渚…。

よくあそこで本気でナイフを振れたよな。」

磯貝君が、渚君に言う。

「いや…烏間先生に言われた通りにやっただけで…鷹岡先生は強いから…本気を出さなきゃ勝てないだろうなぁ…と思ったから。」

渚君が謙遜しつつ磯貝君の言葉に返答する。

…その直後、渚君の頬に前原君の平手打ちが炸裂した。

 

 

「ちょっ…何で叩くの、前原君!?」

「あ、悪い…ちょっと信じられなくてさ…。

でもサンキュな渚!!

ハヤテもな…お前らの闘いでスカッとしたぜ!!」

前原君はすぐ渚君に謝った。

そして、渚君と僕にお礼の言葉を述べた。

 

 

 

…その時───

 

 

「このガキ…」

怒りで顔を歪めた鷹岡が起き上がってきた。

「父親も同然の俺に刃向かって…まぐれの勝ちがそんなに嬉しいか…。」

まったく…往生際が悪い。

「素直に負けを認めたらどうですか…。

そんな物分かりの悪い人間が───」

「黙れ!!

おいチビ…もう一回だ!!

今度は絶対油断しねぇ…。」

 

 

僕の最後の警告を一蹴した…。

なら…もう容赦はしない。

 

 

「…確かに、次にやったら負けるのは僕です。」

そう思っていると、不意に渚君が口を開く。

 

 

「…でも、はっきりしたのは…僕たちの“担任”は殺せんせーで、“教官”は烏間先生だということ…これだけは絶対に譲れません。

父親を…家族を押しつける鷹岡先生より…プロに徹する烏間先生の方が、僕には温かく感じます。」

 

 

 

───出て行って下さい。

 

 

 

そう締めくくった渚君に呼応するかのように、クラス全員の冷たい視線が鷹岡に向けられた。

 

 

 

それにより、怒りが最高潮に達したのか…鷹岡が渚君に襲いかかる。

 

 

 

───だが、それが渚君に降りかかることはなかった。

 

 

 

烏間先生がその間に割って入り、鷹岡の顎に肘を打ち込んだからだ。

 

 

警告を無視したし…僕も一撃加えようかな…。

 

 

それにより倒れようとする鷹岡の背後に回り込んだ僕は、その腰を抱え込み…バックドロップを決めた。

 

 

 

「…俺の身内が迷惑をかけた。

すまなかったと心の底から思う…。

だが…心配するな。

俺一人が君達の教官を務められるよう交渉してみる。

いざとなれば、脅してでも許可をもらう。」

 

 

 

こちらのことは無視することにしたらしい烏間先生は、鷹岡の現状を確認する事もなく皆さんに話しかける。

 

 

 

 

 

「交渉の必要はありません。」

 

 

 

 

突如聞こえたその声に皆、身震いしながら校舎の方を見る。

そこにいたのは予想通り───

 

 

 

『り…理事長(先生)!?』

 

 

 

まずいタイミングで現れたな…。

理事長先生の教育理念からしたら…鷹岡の続投を選ぶだろう…。

 

 

───その心配は杞憂だった。

 

 

「経営者として、新任の先生の手腕に興味があったので様子を見に来ていたんですよ…。

この時間が始まってからずっと見ていたのですが…鷹岡先生、あなたの授業はつまらなかった…。

確かに、教育に恐怖は必要不可欠ですが…暴力でしか恐怖を与えられないうえに、自分よりも強い力でコテンパンにされるような人間は私の教育に必要無い。

生徒との約束も守れない人間ならなおさら…ね。」

 

 

 

そう言うと、理事長先生は懐から一枚の紙を取り出し…それにサラサラと何かを書き込むと、それを鷹岡の口に突っ込んだ。

 

 

 

「解雇通知です。

以後、あなたはここで教師をすることは出来ない。

この中学校における教師の任命権は防衛省ではなく私だということをお忘れなく…。

ああそれと、私は今…とあるロクでなし夫婦を捜さなくてはならないのでね…こんな事で手間取らせないでもらいたいと上司の方に言っておいてください。」

 

 

 

解雇…通知…。

ということは…。

 

 

「鷹岡がクビ…ってことですよね…。」

「じゃあ…体育はいつも通り烏間先生の受け持ちか…。」

 

 

 

その事実に、クラス全員が歓喜の声をあげた。

 

 

 

「綾崎君…ありがとう。」

そんな中、神崎さんに話しかけられた。

 

 

「…?

何がですか?」

「鷹岡先生から守ってくれて。

これで、二回も助けられたね…。」

ああ…さっきの…。

それと二回っていうのはおそらく、今回と修学旅行の時の事を言っているのだろう。

「どっちも気にしなくていいですよ。

修学旅行の時のは僕の判断ミスで起きたからという罪悪感からでしたし…今回のは、神崎さんの綺麗な顔を傷つけたく無かったからというだけですからね。」

「それでも、私のことを見ていてくれているって思えてうれしかったよ。」

 

 

 

 

「おーいそこの桃色のムード出してる2人~。

烏間先生の奢りで甘い物食べに行くから速く準備して~。」

少し怒気の混ざった中村さんの声が聞こえた。

 

 

 

「ふふ…じゃあ行こっか。」

「ええ行きましょう。」




arosの、サンデーの目次コメントに漫画家でもないのに答えてみた

Q.最近、【見なくなって】【なくなって】残念だなと感じるものはなんですか。

A.ソードアート・オンライン コードレジスタ
リコレクションシステムはあるけど、今月の末日までに機種変しないといけないので実質1ヶ月しか使えないので…。
あと、修理に出した時にデータ引き継ぎの方法が分からなくて、そのデータが消えたとはいえメインストーリーの2nd season更新中の時からやっていたので思い入れがあるため…。



次回もお楽しみに!!


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第46話 夏の時間

40000UA達成!!
本当にありがとうございます!!
これからも頑張っていきますので応援よろしくお願いします。



それとkazuさん、ご指摘ありがとうございました。
早速修正させていただきました。



それでは、本編スタート!!


▷ハヤテside

 

今更だが…E組は学校からの差別対象であるため、冷房なんて便利なものは存在しない。

 

 

 

つまり、何が言いたいかというと───

 

 

 

「暑ッぢ~…。

今時クーラーの無い教室とか…。」

今、三村君が言った通り…夏の暑さの影響を受けやすいということだ…。

 

 

 

「だらしない…。

夏が暑いのは当然のことです!!

温暖湿潤気候の国で暮らしているのですから諦めなさい。」

殺せんせー…言ってることはかっこいいんですが…。

 

 

 

「ちなみに先生は放課後には寒帯に逃げる予定です。」

『ずりぃ!!』

暑さにやられて教卓に突っ伏した状態で言っても説得力無いですよ…。

 

 

 

「でもさ…今日プール開きだよね。

早く体育にならないかなぁ~。」

「いや…E組にとっちゃそのプールも地獄になるんだよ…。」

倉橋さんと木村君の会話が聞こえてくる。

プールが地獄になるって…どういうことだろう…。

 

 

「ハヤテは知らねぇだろうがよ…プールが本校舎にしか無ぇからよ…この暑い中、そこまで降りなきゃならないんだ…。

その様子が…“E組 死のプール行軍”とか言われてんだよ…。

終わった後もこの校舎まで歩いて登って来なきゃならないしな…。

プールで疲れてるから…途中で力尽きてカラスの餌になりかねないしな…。」

「いつものやつですね…ですが、それは確かに地獄ですね…。」

菅谷君の説明で納得した。

 

 

 

「殺せんせー…本校舎まで運んでくれよ…。」

前原君が殺せんせーにプールまでの運んでもらえるよう頼む。

 

 

「先生のスピードを当てにするんじゃありません!!

いくらマッハ20でも出来ないことはあるんです!!」

確かに…殺せんせーにも不可能なことはあるかもしれない。

でも…それ以前に殺せんせー、国家機密じゃないですか…。

「…ですが、その気持ちは分かります。

全員、水着に着替えてついて来なさい。

裏山に小さな沢があるのをご存じでしょう?

そこまで涼みに行きましょう。」

 

 

 

 

~~~~

 

「裏山に沢なんてあったんだ…。」

「そんなものがあったなんて僕も今知りましたよ…。」

そんな会話を速水さんと行っていると、それを聞いていたのか、千葉君が入ってきた。

「あるのは確かだが…それでも足首まであるかどうかくらいの深さだぜ…。」

「それは…涼みに行く意味あるんですかね…?」

まあ、水があるから幾分かはマシだろう…。

 

 

 

「ところでさぁ…この前の渚君の暗殺もすごかったらしいけどさぁ…ハヤテ君もすごかったらしいじゃん。

大の大人が中学生にボコボコにされるとこ…見てみたかったなぁ…。」

少し離れたところで渚君と話してたカルマ君がこっちにきてそう言ってくる。

「ハヤテ君が年上ボコってるところ…俺、毎回見逃してんだよね…。

ねぇハヤテ君、今度の放課後一緒に帰らない?

路地裏で不良をリンチしようよ。」

「目的が不穏なのでお断りさせていただきます…。」

鷹岡の一件は身内の暴走が発端だから、とお咎め無しになったのに、そんなものを了承したら間違いなく烏間先生のお説教をうけるのは目に見えているので…。

 

 

 

不意に、殺せんせーが立ち止まる。

 

 

 

「さて、皆さん!

先生は教室で言いましたね…。

マッハ20でも…出来ないことはある、と。」

そして、こちらを向きながら話し始める。

 

 

 

「その一つが…君達をプールに連れて行くことです。

残念ながら…それを完遂するには1日かかります。」

1日…?

一度に運べる人数に限りがあって、帰りのことも言っているとしても、そんなにかからないのではないのだろうか…。

「1日って…大げさに言いすぎじゃ…本校舎のプールまでなんて歩いてほんの20分しか…。」

同じことを思ったのか磯貝君が殺せんせーの言葉を笑い飛ばす。

 

 

 

「おや…?

誰が、“本校舎のプール”に連れて行く、と言いました?」

 

 

 

まさか…!?

そう思い、殺せんせーの背後の茂みをかき分ける…そこにあったのは、天然のプールだった…。

 

 

 

「小さな沢をせき止めたので…水が溜まるまで20時間もかかりました。

25mコースの幅もしっかりと確保しています。」

まさか…プールを作るとは…。

生徒のためとはいえ、やり過ぎでは…と思う。

 

 

 

「制作に1日、移動に一分…あとは一秒あれば飛び込めますよ。」

『い…いやっほぉう!!』

その一言を聞いた瞬間、皆さん一斉に上着を脱ぎ…叫び声をあげながら、プールに飛び込んだ。

 

 

 

まあ、皆さんが満足ならそれでいいか…。

そう思いながら、僕もプールに飛び込んだ。

 

 

 

 

~~~~

 

「あれ…?

茅野さん、泳がないんですか…?」

しばらくの間、殺せんせーの作ったE組専用の特設プールで泳いでいると、浮き輪に乗った茅野さんの付近に来ていた。

せっかくのプールなのに泳がないのかな…と思ったので聞いてみる。

「うん…泳ぐの得意じゃないんだ…。

だから…ちょっと憂鬱なんだ…。

それに…水着だと体のラインがはっきり出るし…。」

落ち込んでいるような声音で茅野さんが答える。

「問題ねぇよ茅野。

お前の好きな奴は…体型で差別しねぇだろう?

だったら…そのままでゴハァ!!」

「そんなこと大声で言わないで!!」

会話に突然入ってきた岡島君がよけいなことを言ったのか、茅野さんが持っていたボールを側頭部に投げつけられた。

「まあ、岡島君はほっといて…泳ぎが苦手というのでしたら…泳げるようになるまで…僕が手を握っていますよ。」

 

 

 

そう言った瞬間…茅野さんの顔が一気に明るくなった。

「いいの!?」

「ええ、もちろん。

あ、でも…好きな人がいるんでしたら迷惑でしたかね…?」

「ううん。

問題ないよ!!」

「そうですか…。

でしたら…お手をどうぞ、茅野さん。」

 

 

 

「水の中でも相変わらずか…」

 

 

 

~~~~

 

───ピピピピッ

 

 

 

茅野さんと泳ぎの練習をしていると、突然笛が鳴った。

 

 

 

「木村君!!

プールサイドを走っちゃいけません!!」

「あ…す、すんません…。」

確かに…プールサイドを走るのは良くない。

しかもここのそれは岩なので、足を滑らして転んだりなんかしたらなおのこと危険だ。

 

 

 

ピーッ!!

「原さんに中村さん!!

潜水遊びはほどほどにしてください!!

長く潜っていると、溺れたのかと心配しますので…!!」

「は…はーい…。」

 

 

ピーッ

「綾崎君と茅野さん!!

プールでラブコメをするのなら人が居ないときにお願いします!!」

ラブコメ…?

そんな感じしますかね…?

 

 

 

というより…殺せんせー…小うるさいです…。

 

 

 

「カタいこと言わないでよ殺せんせー…!!」

ついにしびれを切らしたのか、倉橋さんが殺せんせーに水をかける。

 

 

 

 

 

「きゃんっ!!」

 

 

 

 

え…?

今の悲鳴…殺せんせーの…?

 

 

 

今の悲鳴を聞いたカルマ君が、殺せんせーの座っている監視台の脚を揺らす。

 

 

 

「きゃあっ!!

揺らさないで…水に落ちる!!」

 

 

 

いつになく殺せんせーが焦ってる…。

 

 

 

よく見たら…さっき水が当たった部分がふやけている…。

 

 

 

 

まさか殺せんせー…。

 

 

 

 

水に弱いんじゃ…!?




次回もお楽しみに!!


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第47話 溺れる時間

それでは、本編スタート!!


▷ハヤテside

 

プールのあった日の放課後…招集をかけられた。

 

 

 

「まず問題は…殺せんせーが本当に泳げないのかだけど…水に弱いのは知っての通りだよね。」

面倒くさいからと来なかった寺坂君を除く全員が揃ったところで、片岡さんが口を開いた。

 

 

 

なんとなく予想はしていたが…議題は新たに露見した殺せんせーの弱点のことだった。

 

 

 

思い返してみれば…殺せんせーは、湿気でふやけていたことがあった。

だが…イトナ君がこのE組に来た時に壁を突き破って入ってきたことにより、触手で雨粒を弾いていたと考えられ…それを弱点と関連付けることが出来なかったのだ。

 

 

 

「全身に水を浴びたら…さっきかかったところがふやけてたみたいに全身がふやけるかもしれない。

そうなったら、死ぬまではいかないまでも…動きが悪くなると思う。

そこでね…一つ、暗殺の計画を立てたんだ。」

片岡さんの話は続く。

全員が片岡さんの方を向いて真剣に話を聞いている。

「まず…この夏の間に、タイミングを見計らって殺せんせーを水中に引き込む。

それ自体は殺すための行為じゃないから…殺せんせーも対応が遅れるはずだしね…。

そして、水中でふやけて動きが悪くなったところを…待ちかまえていた生徒が仕留めるって作戦なんだけど…。」

なるほど…殺せんせーは殺意のない行為には反応が遅れる。

殺せんせーの隙をついたいい作戦だと思う…。

 

 

 

「水中にいるのが私だったら…いつでも任せて。

バレッタに仕込んだ対先生ナイフで…殺れる準備はいつでもしてるから。」

片岡さんは、元水泳部で昨年度のクロール学年代表だったらしい。

なるほど、片岡さんの本領発揮ということか…!!

 

 

 

「その作戦で大事なのは…殺せんせーに、水場の近くで警戒心を起こさせないこと…。

夏は長いわ!!

じっくりチャンスを狙ってこう!!」

『おうっ!!』

そのやり取りで締めくくられた。

 

 

 

「うーむ…さすがは“イケメグ”。」

「こういう時の頼れる度合いはハンパじゃないな。」

「あの…“イケメグ”って何ですか…?」

今の三村君と菅谷君のやりとりの中に、理解出来ない単語が一つあったので聞いてみた。

「そっか…ハヤテは知らなかったな。

“イケメグ”ってのは片岡のあだ名のことだ…。

文武両道で面倒見が良くて…しかも、颯爽として凛々しい姿から女子なのにイケメンってことでそう名付けられたんだ。」

菅谷君の説明に納得した。

 

 

 

この場で聞くのは野暮かもしれないと思ったので聞かなかったが…気になることが一つ。

 

 

 

三村君が言っていた通り片岡さんはそこまで成績が悪いわけではない。

真面目なため、問題行動を起こしたということも考えにくい。

 

 

 

ならば、片岡さんはなんで…E組に落ちたのか…。

 

 

 

~~~~

 

「律、タイムは?」

{26秒08ですね…。

片岡さんの50m自己記録には0.7秒届いていません。}

「ブランクあるなぁ…。

任せてと言ったからには万全に仕上げておかないとね…。」

そう言って、片岡さんは再び泳ぎ始める。

 

 

 

「…うーむカッコいい。」

「責任感の塊だね…。」

片岡さんの様子が気になって見に来たのだが…余計な心配だったかな…?

 

 

 

「確かにカッコいいですねぇ…。」

「こ…殺せんせー!?」

どうやら…そうでもなかったようだ…。

マズい…計画がバレないようにしないと…。

 

 

「殺せんせーさぁ…巨乳女優の田出はるこにファンレター送ったでしょ。」

そう思っていると、渚君が殺せんせーに話題をふった。

「にゅやッ!!

な…なぜそれを!?」

「この間、ハヤテ君と一緒に机の中を見ちゃったんだ…。

そうだよね…ハヤテ君。」

「ああ、そういうこともありましたね…。

書き直したような物がいくつもありましたね…。」

「“あなたを見ると私の触手が大変元気になるのです”とか…普通に見たらセクハラだよね…。」

「教師が送ったってバレたらどうなるか…。

いや…そんな内容のファンレターを書いたなんてあの理事長先生が知ったらどうなるか…。

減給ではすみませんよね…?」

「2人とも、もうやめたげて…殺せんせーすでに瀕死だから…。」

 

 

 

そこに…片岡さんの友達という方からメールが届き、それに伴い片岡さんの顔が暗いものになった。

 

 

 

「…ちょっと用事できちゃったから…じゃあね。」

そう言って片岡さんはプールから去っていった。

 

 

 

「…少し様子を見に行きましょうか…。

しっかり者の彼女なだけに心配ですね…。

皆から頼られている人は…自分の苦しみは一人で抱えてしまいがちです…。」

僕たちの言葉責めのダメージから復活した殺せんせーの提案に賛成した。

 

 

 

~~~~

 

「そこの文法が違うんだってば…正しくは───」

「あ~そっか、つながったぁ!!」

片岡さんと、呼び出した本人であろう椚ヶ丘中学校の制服を着た女子の声が聞こえてくる。

 

僕たちは今、椚ヶ丘駅から歩いてすぐの場所にあるファミレスの片岡さん達がいる席の隣を陣取っている。

場所的に僕の読唇が使えないとはいえ…確かにこの場所なら状況を把握しやすいが…バレやすくもあると思うのだが…。

 

 

 

勉強会…というより、片岡さんが家庭教師にされているように見えるそれが一息ついたところで、片岡さんがその女子に、やりたいことがあるから呼び出す回数を控えてほしい、と言った。

 

 

 

すると、その女子は───

 

 

 

「…ひどい。

私のこと…殺しかけたくせに…!」

そんなことを言い出した。

殺しかけた…?

どういうことだ…?

 

 

 

「あなたのせいで死にかけてから…私、怖くて水にも入れないんだよ…?

一生…支えてくれるよね?」

言いたい放題言ってすぐ、その女子は友達との約束に遅れるから、と去っていった。

なんか…あの女子から、僕の両親と似たような感じがするなぁ…。

 

 

 

と、そこに───

 

 

 

「まったく…あなたはいつまでそうやってるつもりなのよ…。」

呆れた、とでも言いたそうな表情の桂さんが入ってきた。

 

 

 

「ヒナ…。」

「あんな娘の面倒なんて見なくていいのに…死にかけたっていう事件だって自業自得なんだし…。

あの娘、メグの成績を奪ってE組に落とした張本人よ…?」

「そうなんだけど…あそこまで言われたら断れなくて…。」

話のほとんどは分からないが…さっきの女子が片岡さんのE組落ちに関わっていることは分かった。

 

 

 

「まあいいわ…。

話は変わるけど…あそこにいる不審者達はあなたの知り合い…?」

溜め息をついた桂さんは、こちらに視線を向け…そんなことを言った。

やはり気づいていたのか…片岡さんはこちらを見ることなく溜め息をつくだけだった。

 

 

 

「すみません…覗き見るようなことをして…。」

バレていたのなら仕方がないと思った僕は、かけていたサングラスをはずし、片岡さん達に近づいた。

「一人は綾崎君だったのね…。

球技大会以来ね…。」

「ええ…元気そうでなによりです、桂…「“ヒナギク”…よ。」…え?」

さん、と言おうとしたが…桂さんに阻まれた。

「学校外では…私のことは“ヒナギク”と呼びなさい。

いいわね…?」

「はぁ…分かりました、ヒナギクさん。」

「それでいいわ。

それと…私も“ハヤテ君”って呼ぶからね。」

僕が名前で呼んだことに満足したのか満面の笑みを浮かべたヒナギクさんにそう言われた。

特に問題は無いので、了承の意味を込めて頷いた。

「じゃあ、私はもう行くから…。

メグのこと、よろしくね…。

あ、それと…もう一回言うけど学校では桂さんで通してね…。

騒ぎになっても困るし…。」

そういうと、ヒナギクさんは去っていった。

 

 

 

───ゾクッ!!

 

 

 

殺気を感じる…。

恐る恐るそちらを見ると───

 

 

 

「ハヤテく~ん…さっきのはどういうことかなぁ…。」

「綾崎君…いつの間にヒナとあそこまで仲良くなったの?」

「本校舎の生徒とお互いを名前で呼ぶようになり、それで茅野さんと片岡さんに嫉妬される…。

綾崎君の恋愛ネタは尽きませんねぇ…。」

「止めようよ殺せんせー…。」

 

 

 

───表面上は笑顔だが、目が笑っていない茅野さんと片岡さんの2人とよく分からないことをいいながらメモをとる殺せんせー、そしてその殺せんせーに呆れたような表情を見せる渚君がいた。

 

 

 

仲良くって…まだ2回しかあってませんよ…?

 

 

 

~~~~

 

なんとか機嫌を直してもらい、全員でファミレスを後にした。

 

 

 

「それで…あの勉強を教えていた女子が言っていた死にかけたって…どういうことですか?」

その道中、それまで気になっていたことを聞いた。

 

 

 

「…去年の夏にね…同じ組だったあの娘に、“泳ぎを教えてほしい”って頼まれたの。

好きな男子を含むグループで海に行くことになったらしいんだけど…そこでカッコ悪いところを見せたくないみたいでね…。」

片岡さんは、言うかどうかで一瞬迷ったような表情を見せたが…覚悟を決めたように口を開いた。

しかし…教えてもらうための動機が、夏にありがちなものだと思う。

「しつこく頼んでくるから根負けして…一回目のトレーニングでなんとかプールでは泳げるくらいにはなったんだけど…行き先は海だから…。」

「海というのは…潮の流れが常に変わるから、例えプールで泳げるようになっても、溺れる危険性が高いから…。」

「うん…綾崎君が言った通り、海で泳ぐのは危険だから…その後も何回か教えようと思ってたんだけど…でもあの娘、一回目以降なんだかんだ理由をつけて練習に来なくなって…まあ、もともと反復練習とかが嫌いだったし…もう十分泳げるようになったって思ったんでしょうね…。

そのまま海に行っちゃった…。」

 

 

 

完璧に海をナメている…。

そんな状態で行ったら…。

 

 

 

「あとは予想通り…。

海流に流されて溺れちゃって…。

それ以来、“役に立たない泳ぎを教えられて死にかけたからその償いをしろ”ってテストのたびに勉強を教えさせられて…私の方は、苦手科目をこじらせちゃってE組行きに…。」

「それって…逆恨みじゃないですか!!

溺れたのは、片岡さんの好意を無駄にしたあの女子が悪いんですから、片岡さんがそんな償いをする必要はありません!!」

「ありがとう、綾崎君。

でも…こういうのは慣れてるから。」

そういう片岡さんの目は…以前の僕に似たようなものになりかけていた。

 

 

 

ピッ!!

「…ダメですよ片岡さん。」

殺せんせーが笛を鳴らす。

そして…片岡さんに語り出す。

「しがみつかれることに慣れてしまうと…いつか自分も一緒に溺れてしまいますよ…。」

例えば…こんな風に、と殺せんせーはその場で作った紙芝居を見せる。

 

 

 

“主婦の憂鬱”と題したそれは…家賃までもギャンブルに使い込む夫との生活の中で、頼られることに嬉しさを感じる主婦の話だった。

 

 

 

「…いわゆる“共依存”というものです。

依存され続けることで、あなた自身も依存されることに依存してしまう…。

おや…?

綾崎君、そんなに震えてどうしました…?」

「殺せんせー…これ…借金を押し付けられる前の僕みたいな感じがするんですが…。」

その一言で、その場にいた全員が青ざめたような表情を見せた。

それもそうだろう…。

ここに、共依存の“最悪の結末”をたどった人物がいる、と言っているようなものなのだから…。

 

 

 

「片岡さん!!

僕は…片岡さんに、そんな悲しい思いはさせたくありません!!

何か…力になれることはありませんか…!?」

片岡さんの両肩に手を置き、問いかけた。

 

 

 

「ありますよ。」

その問いに答えたのは、殺せんせーだった。

「片岡さんに依存している彼女を…自力で泳げるようにすればいい。

そのために力を貸してください。」

「なるほど…相手を自立させようということですね…。

そういうことでしたら、おまかせください!!」

 

 

 

って、それはつまり…泳ぎを教えるということだ。

殺せんせー、泳げるの…。




次回もお楽しみに!!


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第48話 水泳の時間

それでは、本編スタート!!


▷ハヤテside

 

片岡さんがE組に落ちた理由を聞いた日の深夜───

 

 

 

「…どこ…ここ…?」

現状をいまいち理解出来ていないであろう多川さんというらしい女子の困惑する声が聞こえる。

 

 

 

それもそうだろう。

自分の部屋で寝たはずなのに…目覚めたら、水辺にいて…そこに半魚人のような姿をした生物がいるのだから…。

 

 

 

「目覚めたみたいだね。

こ…ここは魚の国!!

さぁ、私達と一緒に泳ごうよ!」

戸惑う多川さんに話しかけたのは、片岡さんだ。

「…あんた…めぐめぐに似てない…?」

「…違うし…めぐめぐとか知らないし…魚魚だし…。」

「何その居酒屋みたいな名前!?」

片岡さんの魚魚という名前に多川さんの鋭いツッコミが入る。

「堂々と魚を演じなさい、片岡さん。

夢の中だと思わせなければ…我々の行為はただの拉致監禁です。」

未だ恥ずかしがっている片岡さんに、殺せんせーが小声で話しかける。

 

 

 

そう…僕たちは、眠りについた多川さんを深夜のプールに連れ込んでいる。

通常なら立派な犯罪行為だが…今の時間なら“夢”の一言で済ませられる…と言ったのは殺せんせーだ。

まあ、いろいろ無茶も出来るし…文句は言わないことにした。

 

 

 

「僕の名前は魚太。」

自己紹介は渚君から始まった。

「私の名前は魚子だよ。」

「魚子は魚なのに浮き輪なの!?」

次に茅野さんが名乗るが…浮き輪を持っていることに多川さんがツッコミを入れる。

「私は魚キング…川を海を自在に跳ねる水世界最強のタコです。」

「タコかよ!!」

その姿でタコなんだ…。

さて、次は僕だ。

 

 

 

「僕の名前は魚崎…。

あなたの…腐った根性を叩き直すために現れた魚人界最恐のコーチです。」

「魚崎の持ってるその竹刀は何…「かーつ!!」うわっ!?」

僕の名前を呼んだ瞬間…多川さんの顔に水が直撃した。

「誰があなたに“魚崎”と呼んでいい、と言いましたか…。

僕のことは“コーチ”と呼びなさい“コーチ”と…。

でないと…僕の水鉄砲が容赦なく火を噴きますよ…。」

「は…はい、コーチ!!」

「分かったならさっさと着替えとストレッチを済ませてきなさい!!」

「はい、コーチ!!」

そう言うと、多川さんは岩陰の向こうに行った。

 

 

 

「鬼教官だね…。」

「私の時と雰囲気が違うよね…?」

「あれは“優しく教えるコース”です。

今回は時間も少ないので、“厳しく教えるコース”にさせていただきました。」

「あ…そ、そうなんだ…。」

 

 

 

~~~~

 

「準備も整ったことですし…それじゃ、レッツゴー。」

多川さんが戻ってきてすぐ、僕が多川さんを水の中に投げ込んだ。

 

 

 

「ぎゃあ!!

みっ…水ゥ!?」

投げ込まれたその時は、軽い錯乱状態になっていたが───

「そこ浅いから落ちついて心菜!

泳げるようになりたいでしょ…?

少しだけ頑張ろう!!」

「い…いいわよ泳げなくて!!

それを逆手に愛されキャラで行くことに「そんな甘い考えだけで社会の荒波を乗り越えられると思うなー!!」ぎゃあ!!」

片岡さんが話しかけた瞬間、自分には必要ないとばかりに騒ぎ始めた。

だが僕は…そんな甘えを許さない。

僕の水鉄砲の第二射が多川さんを襲った。

そして、僕自身も水の中に入る。

「では…もっと体を温める必要があるので、まずは歩くことから始めましょうか。

もたもたしてると甲羅背負わせますよ…。」

「…はい。」

渋々という感じではあるが泳ぐ気にはなってくれたようだ。

 

 

 

▷渚side

 

「ところで殺…魚キングは水に入らないの?」

ふと、疑問に思ったので殺せんせーに聞いた。

「い…いや、今日のプールは焼きに来ただけだし…。」

焼きに来たって言っても…この時間じゃ無理がある。

「…今は真夜中だよ。

それに…入らなきゃ彼女に泳ぎ教えらんないよ。」

言い出したのは殺せんせーなのに水の中に入らないのはおかしいし…それに、今後の暗殺にも関わることなので入ってもらわないと困る…。

 

 

 

その指摘を受けた殺せんせーは───

「それもそうですね…。

では、入りますか。」

そう言って、躊躇いもせず水に入った。

 

 

 

その姿に、E組の事情を知らない多川さん以外のその場に居た皆が驚きの表情を浮かべた。

片岡さん考案の暗殺は、殺せんせーが水に弱いこと前提で進めているものだ。

それなのに…水を前に、いっさいの躊躇をしなかったということは、水の中でも問題ないということだからだ。

 

 

 

だが、その驚きの表情も───

「まずは…基本のけのびから。」

そう言って出てきた殺せんせーが魚のような姿になっていたことで…呆然としたものに変化した。

「この時のために開発した水着です。

完全防水でマッハ水泳にも耐えられます。」

そう言うと殺せんせーは、マッハで泳ぎ始め…その影響で、プールの水がかき混ぜられ渦を巻き始めた。

「ちょうどいいので海での泳ぎ方を覚えましょうか…基本的にプールの時と同じです。

クロールで手のひらに負荷を感じながらテンポよく!!」

「それと、海では自分の位置が分からなくなりやすいから…時々泳ぎ方を平泳ぎに切り替えて確認して…終わったらすぐクロールに戻って!!」

それに伴い海での泳ぎ方講座が開始されたようで、ハヤテ君と片岡さんの指導する声が聞こえてくる。

 

 

 

「水着とかずるいよ魚キング!!」

「そーだよ!!

生身で水に入れるかどうか見たかったのに…!!」

陸の上に残っていた僕と茅野は…殺せんせーが水の中ではどうなるのかが気になっていたのに、水着を着用していることについて文句を言った。

 

 

 

すると───

 

 

 

「入れますよ…生身でも。」

その言葉とともに殺せんせーが着ていた水着が飛んできた。

ということは、殺せんせーは今生身で水の中に入ってるということになる。

その状態で水に入るとどうなるのか。

それを確かめるために、殺せんせーの方を見ると───

 

 

 

「え…?水に…生身で入ってる…?」

水面から…いつもの大きさの殺せんせーの頭が出てきていた。

普通なら茅野が呟いた通りなのだろうが…。

「…いや、違う。

マッハで周りの水を掻きだしてる!!」

プールの水も流れ方が変わってるし…もはやなんでもありだね…。

「な…なにこれ!!

波はこっちに来てるのに引きずりこまれる!!」

多川さんの慌てる声が聞こえる。

「岸に向かおうとせず横方向に泳げば大丈夫なので落ちついてくださーい。」

「横…?

え…うそ、流れるの止まった…?」

ハヤテ君の助言に半信半疑で従った多川さんだったが…それにより流されなくなったことに驚きの声を上げた。

 

 

 

「さっきの引きずりこまれた原因は“離岸流”ですね…。

岸に反射した波が沖に出て行くことで起こる流れのことです。」

無事にハヤテ君と片岡さんの下に辿り着いた多川さんにさっきの現象の説明が行われた。

 

 

 

「じゃ…もう一回いきましょうか。」

その後、朝までこの特訓は続いた。

 

 

 

▷ハヤテside

 

「そうですか…泳げるようになってましたか。」

放課後、多川さんの様子を見に行った片岡さんからその話を聞かされた僕は、片岡さんの助けになれたことに嬉しくなった。

 

 

 

「これで彼女に責任は感じませんね…片岡さん。

これからは手を取って泳がせるだけじゃなく…あえて厳しく手を離すべき時もあると覚えておいてください。」

「はい。

殺せんせーも突き放す時あるもんね…。」

片岡さんのことを想っての殺せんせーの言葉に片岡さんは笑顔で返答した。

 

 

 

片岡さんの助けになれたことは良かったと思うが…結局、殺せんせーが泳げるかどうか分からなかったなぁ…。

と、思っていると───

 

 

 

「ああそれと…察しの通り先生は泳げません。

水を含むと…ほとんど身動きとれなくなります。」

殺せんせー本人がそれを暴露した。

 

 

 

「弱点としては最大級と言えるでしょう…。

とはいえ…先生は水の中に落ちない自信がありますし…水中でもそう簡単に殺させはしません。

まあ、綾崎君と片岡さんが2人同時に来たとしても触手を犠牲にしてでも逃げ出してみせます。」

そんな重要なことを言っても大丈夫なのか…と思っていると、殺せんせーが重ねて言ってきた。

このプールを作ったのも計算の内だったか…。

 

 

 

~~~~

 

「待って…。」

ここにいる理由もなくなったので、帰ろうとしたその時…片岡さんに止められた。

 

 

 

「…?

どうかしました…?」

「綾崎君にちゃんとお礼言ってなかったな…と思って…ありがとう。」

「普段からお世話になりっぱなしなので…お礼を言わなければいけないのは僕の方です。

もし、片岡さんが困るようなことがあったら遠慮なく頼ってください…どんな些細な事でも力になりますよ。」

「そ、そう…じゃあそうさせてもらうわね。」

そう言う片岡さんの頬は、薄い桜色になっていた。




次回もお楽しみに!!


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第49話 寺坂の時間

原作14巻に、前原がE組女子の中で片岡に声をかけなかった理由が友達(磯貝と推測出来る)への義理となっているので、そこから磯貝が片岡のことをかなり前から好きだった、と解釈しています。



それを理解した上で今回の話をご覧ください。



それでは、本編スタート!!


▷渚side

 

「綾崎君。」

片岡さんを立ち直らせた日の翌日…放課後になり、帰ろうとしていたハヤテ君に片岡さんに声をかけられた。

「…?

どうかしましたか、片岡さん。」

「これからプールで殺せんせー暗殺のための調整をしようと思ってるんだけど…この後、予定が無いなら…綾崎君も…一緒に来ない?」

どうやら…片岡さんの要件は、ハヤテ君が放課後のトレーニングを一緒に出来ないか、ということらしい。

 

 

 

「そうですね~…今日は特に用事もありませんし…そういうことでしたら、ご一緒させてください。」

「良かった…じゃあ、準備して行こっか。」

返事を待つ間中ずっと不安そうな表情をしていた片岡さんだったが…ハヤテ君がそう答えたことでその表情が笑顔になった。

 

 

 

「なあ渚…。

あれって…“いつもの”か?」

「想像してる通りだと思うよ、杉野…。」

今のハヤテ君と片岡さんのやりとりについて杉野が聞いてきた。

ハヤテ君が無自覚に惚れさせることはもはや“いつものこと”となっているので普段は気にしないことにしているが───

 

 

 

「片岡でも綾崎の天然ジゴロには勝てなかったのか…。」

今回は…相手が片岡さんだったからか、教室の隅でつまらなさそうにしている寺坂君とこの場にいない岡島君、それと…こうなった経緯を知っている僕と茅野を除いた全員が驚いている。

 

 

 

「いいのか磯貝…片岡取られちまったぞ…?」

「別にいいさ。

相手に誰を選ぶかなんて片岡本人が決めることだからな…それに、どこの馬の骨かも分からない奴よりハヤテなら安心出来るからな。」

「お前は片岡の親か…。

つーか…微妙に泣いてんじゃねーか。」

磯貝君と前原君のそんなやりとりが聞こえる。

え…?

磯貝君って…片岡さんのことが…?

 

 

 

「ついにメグさんまで…。」

面白くないものを見たような表情で西沢さんが呟く。

いや…不機嫌そうな顔をしているのは西沢さんだけじゃない。

『ムゥ~…。』

ハヤテ君の天然ジゴロにやられた女子全員とが不機嫌そうに唸っている。(速水さんだけなんで不機嫌になった理由が分からないというような表情が混ざっていたが…)

だが…今回は片岡さんに譲るようで、ただ見ているだけだった。

 

 

 

だが…着替えるために2人が教室から出ようとしたその時───

 

 

 

「おい皆来てくれ!!

プールが大変だぞ!!」

岡島君が入ってきてそう叫んだ。

プール…?

昨日の放課後は何の変化もなかったけど…いったい何が…?

 

 

 

「何があったんでしょうか…。」

「さぁ…とにかく行ってみよう?」

「そうですね。」

今まさにプールに行こうとしていた2人がそう言って教室から出て行った。

それにつられるように僕たちもプールへと向かっていった。

 

 

 

▷ハヤテside

 

これは…ひどい。

 

 

 

プールが大変だ、と岡島君が言っていたので様子を見に行った瞬間に思ったことはそれだった…。

水面をゴミや壊されたビーチチェアなどが漂っているそこには…昨日まであった清涼感などどこにもなかった。

 

 

 

「ッ…!!

メチャクチャじゃねーか…。」

僕と片岡さんがついた直後にやってきた皆の中で先頭にいた前原君が驚きの声を上げる。

 

 

 

ふと渚君を見ると、彼はプールではなく生徒達の方の一角を見ていた。

僕もそちらを見ると…ニヤニヤと不気味な笑みを浮かべる寺坂君がそこにはいた。

 

 

 

「何見てんだよ…渚、綾崎。」

その視線に気づいたのか寺坂君が詰め寄ってきた。

「まさか…俺が犯人だとでも疑ってんじゃねーだろうな…?

くだらねーぞ…その考え。」

まだ何も言ってないのに…。

だが…証拠なんて何一つ無いので、彼が犯人だと特定する事は出来ないため何も言えないでいると───

 

 

 

「…寺坂君の言う通りです。

犯人探しなどくだらないのでやらなくていい…。」

自分が作ったものをメチャクチャにされたというのにショックを受けていない様子の殺せんせーが現れ、次の瞬間にはプールが元の姿に戻っていた。

 

 

 

「はい…これでもとどおり!!

いつも通り遊んでください。」

 

 

 

▷竜馬side

 

「なぁ寺坂よぉ…そろそろクラスの奴らと距離を置くのやめようぜ?

クラスに馴染めてねぇのお前だけだしよ…。」

プールを壊してやったというのにあのタコに効果が無かったことにムカつき、舌打ちを残して去っていった俺を追ってきた村松がそう言ってきた。

 

 

 

そこで…村松のポケットに何かが入っているのを見つけた。

「村松…そのポケットに入っているのは何だ…?」

「あっ、これか…。

いやぁ~…この前の全国模試が過去最高の順位だったからよぉ…。

これもあのタコが開いた“模試直前放課後ヌルヌル強化学習”のおかげで…。」

「放課後ヌルヌル行ったのかお前!!」

こないだこいつが学校から出るのが遅ぇと思ったらそういうことだったのか!!

「ヌルヌルなんざバックレよーってグループで言ったべ!?」

「いやでも…ヌルヌルするのとヌルヌルしないのとじゃ大違い…。」

「ヌルヌルうるせー!!

あのタコに絆されやがって…プールぶっ壊すって提案を拒否したのもそれが理由だろ…!?」

 

 

 

 

「それは…狭間は知らねぇけどよ、んなことしたら綾崎が嫌がると…「おい…。」…グッ!?」

八つ当たりに近い俺の言葉への村松の返答によく分からねぇ怒りが込み上げ…気がついた時には村松の胸ぐらを掴んでいた。

「お前…修学旅行終わった後から綾崎とばかり連むようになったよな…。」

「そ…そりゃ、あいつバイトでうちによく来てるしよ…。

それに共通点もあるし…話が合うのはどっちかというと綾崎…「うるせーよこのヤロー!!」…ガハッ!!」

その言葉を聞き完全にキレた俺は…村松を突き飛ばし、背後の木に激突させた。

 

 

 

「ケッ…どいつもこいつも、あんな奴らのどこがいいってんだ。」

そう言って村松のもとを去っていった。

 

 

 

~~~~

 

「うおっ…!!

マジかよ殺せんせー!?」

教室の近くまで来ると…今度は吉田の興奮した声が聞こえてきた。

気になって入ると───

 

 

 

「君がこの前雑誌で見ていたヤツです…。

丁度、プールの廃材があったので作ってみました。」

「まるで本物じゃねーか!!

殺せんせーすげーよ!!」

バイクの模型に跨がるタコと、それを食い入るように見つめる吉田やクラスの奴らがいた。

 

 

 

「…何してんだよ吉田…!?」

「あ、寺坂…。

い、いやぁ~…この前俺と綾崎とこいつとでバイクの話で盛り上がっちまってよ…。

うちの学校…こーいうの興味ある奴いねーから…。」

「ヌルフフフ…先生は大人な上に漢の中の漢ですからねぇ…この手の趣味もひととおり齧ってます。」

よーするに吉田…お前も村松と同じく綾崎とタコに絆されたってことだろ…?

そーいや…吉田と綾崎の初会話もバイクに関することだったな…。

 

 

 

「しかもこのバイク…最高時速が300kmだそうですよ…。

先生一度本物に乗ってみたいですねぇ…。」

「アホか…抱きかかえて飛んだ方が断然速ぇだろ…!?」

吉田のツッコミで周囲から笑い声が響く。

 

 

 

面白くねぇ…。

余計腹が立ったので…その捌け口として、タコの作ったバイクの模型に蹴りを入れた。

 

 

 

「何てことすんだよ寺坂!!」

「謝ってやんなよ!!

大人な上に漢の中の漢の殺せんせーが泣いてるよ!?」

途端に巻き起こるブーイングの嵐…。

つーか…プール破壊されても動じねぇのに模型破壊されたら泣くのかよ…。

 

 

 

「えっと…これはいったいどういう状況でしょうか…?」

そこに、プールでタコ暗殺用の訓練をしていたはずの綾崎と片岡が教室に入ってきた。

 

 

 

▷ハヤテside

 

プールから教室に戻った僕と片岡さんが最初に聞いたものは、クラス中から寺坂君へのブーイングだった。

 

 

 

「ブンブンうるせーんだよてめーら…虫みてーだな。

駆除してやるよ…。」

寺坂君はそんなものは関係ないとでもいうような態度で自分の席に行くと…机の中からスプレー缶を取り出し、床に投げつけた。

 

 

 

「うわっ!!

何だコレ…殺虫剤か!?」

その衝撃で側面に穴があいたようで、中から薬剤が勢いよく吹き出し、それに戸惑う声が響く。

 

 

 

「寺坂君!!

ヤンチャするにも限度ってものが「さわんじゃねーよモンスター。」…。」

諫めようと肩を掴んだ殺せんせーの触手を振り解いた寺坂君は続けて言う。

「気持ちわりーんだよ…テメェも、そいつに操られて仲良しこよしのE組も…。」

 

 

 

「何がそんなに嫌なのかねぇ…。」

そこにカルマ君が口出しした。

「気に入らないなら殺しゃいいじゃん。

せっかくそれが許可されてる教室なのにさ…。」

「何だカルマ…テメェ俺にケンカ売ってんのか?

上等だ…だいたいテメェは最初から───」

最後まで言い終わる前にカルマ君の右手が寺坂君の口を塞ぐ。

「ダメだってば寺坂…ケンカするんだったら口より先に手ェ出さなきゃ…。」

「…ッ!!

ケッ…放せ!!

くだらねー!!」

カルマ君の冷たい眼差しに殺気を感じた寺坂君は、その手を振り解き逃げるように帰って行った。

 

 

 

「…なんなんだあいつ。」

「一緒に平和にやれないもんかな…。」

前原君と、磯貝君がそれぞれ言葉を発する。

 

 

 

そんな中…僕は嫌な予感しかしていなかった。




arosの、サンデーの目次コメントに漫画家でもないのに答えてみた

Q.(子供はいいな)と感じる瞬間はありますか?

A.ありません。


次回もお楽しみに!!


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第50話 ビジョンの時間

投稿が遅れた理由は2つあります。
一つ目は、執筆のための時間が少なかったことです。
昼間は仕事でしたし、夜は執筆しようとしたときに親に呼ばれたり(実家暮らしです)、身内での集まりがあったりしたので書けませんでした。

2つ目は、執筆開始してから三日目くらいに今回の話に今まで感想への返信でプロトタイプ(妄想版)と言っているものの展開を使おうと考え、それを思い出しながら書いていたからです。
最初の竜馬sideより前と渚sideのプールのシーンより後以外のほとんどで使っています。

待たせてしまってすみません…。



それでは、本編スタート!!


▷竜馬side

 

教室に薬をバラ撒いた日の夜…俺はプールの上流に来ていた。

 

 

 

理由は…協力者に頼まれたモンをプールに流し込むためだ。

 

 

 

どいつもこいつも地球の危機だからどうだとか…暗殺のための自分磨きだとか…落ちこぼれからの脱出だとか騒いでいるが…俺はそんなもんに興味はねぇ。

ただその日その日を楽して適当に生きたいだけだ。

 

 

 

だから───

 

 

 

~~~~

 

薬を流し終えた俺は、協力者…シロのもとを訪れた。

「ご苦労様。

あのタコは鼻が利くからね…そう易々と外部の者は動き回ることは出来ない。

だが寺坂君…君がいてくれたおかげで作る事が出来た。

イトナの性能をフルに活かす事の出来る舞台がね…。」

そう言うとシロは袖口から万札の束を取り出した。

「報酬として十万円を支払う約束だったからね…。

受け取ってくれ。

また次も頼むよ…。」

そういやそんな約束してたな。

そう思いながらその金を受け取った。

 

 

 

やっぱ…俺はこうやってる方が居心地がいいぜ。

 

 

 

と、そこでイトナのちょっとした変化に気づいた。

「…なんか、こいつの目と髪型が前と違わねーか?」

そうシロに聞いた。

 

 

 

「意外と繊細な所に目が行くじゃないか寺坂君…。」

なんか…バカにされてるような言い方だな…。

シロの独白は続く。

「その通り。

髪型が変わったということはつまり…触手が変わった事を意味している。

前回の反省を活かし…綿密な育成計画を立て、より強力に調整したんだ。

今回は…前回のような想定外の出来事が起こらないような作戦をたてている。」

前回…?

ああ、綾崎の妨害の事か。

と思っていると突然、イトナが俺の前に出てきた。

 

 

 

「な…何だよ!?」

「お前は…あのクラスの赤髪の奴や幸薄そうな方の青髪の奴より弱い。

あいつらよりお前の方が体格では上のはずなのに勝てない理由が分かるか…?

それは、お前の目にはビジョンというものが無いからだ…。

勝利への意志も手段も情熱も…お前の目には何一つ存在しない…。

ビジョンを持たない奴は喰われるのが世の常だ…。

だから…ビジョンさえあれば…それでいい。」

そう言ってイトナは去っていった。

…バカにしてることはよーく分かった。

「なんなんだあの野郎…!!

脳ミソまで触手なんじゃねーのか!?」

「…ごめんごめん。

私の躾が行き届いてなかったようだ。

責任は私にある…だから仲良くしてやってくれ。

なんせ我々は…大事な戦略的パートナーなんだからね…。」

そう言ってシロは俺の手を握り締め、次に自分の手を俺の肩に置いた。

 

 

 

「クラスで浮きかけてる今の君なら…どんな不自然な行動でも自然なものにすることが出来る。

我々の計画を実行するにあたって…君のような存在は必要なんだ。」

そう言われると怒れねーな…。

 

 

 

「チッ…分かったよ。

んじゃ、明日実行すりゃいいんだな…?

いや…時間的に今日って言った方がいいか…?」

「あぁ…放課後に頼むよ。

それと…作戦の最終確認がしたいから、実行前に一度私の所に来てくれ。

君の活躍次第で地球は救われるのだからね…。」

そう言ってシロは去っていった。

 

 

 

と、その時───

 

 

 

「そういう事でしたか…。」

 

 

 

そう言いながら俺の前に出て来た人影があった。

 

 

 

「テメェは…綾崎!!」

そいつの名は、綾崎ハヤテ…今のクラスの中でタコと同じく俺の気に入らねぇ奴だ…。

 

 

 

▷ハヤテside

 

いくらうるさかったからとは言え…何の考えも無しに殺虫剤なんてバラ撒くとは思えなかった僕は、寺坂君の後をつけていた。

やはりというか…寺坂君の裏にはシロがいた。

 

 

 

「な…テメェいつから居やがった!?」

シロが去ったところで姿を現した僕に寺坂君は驚きの表情を見せながらそう言ってきた。

「寺坂君が川に何かを流している時からですね。」

「ほとんど最初からじゃねーか…。

だったらもう…俺と奴らの関係は言わなくていいな?」

「ええ…。

教室で撒いた殺虫剤…あれもシロの指示なんでしょう?」

僕がそう問い詰めると───

 

 

 

「そこまで分かってるんなら教えてやるよ…。

あの薬はなぁ…タコの感覚を鈍らせる効果があるヤツなんだよ。

そんでもってタコをイトナがプールに突き落としたところをプールの中に入ってるクラスの奴らでメッタ刺しにする計画だ…。

あのタコは水が弱点みたいだからな…そいつを上手く利用した作戦だし、成功すりゃクラスの奴らにも賞金が行く…いい話じゃねーか。」

寺坂君は笑顔で作戦の内容を話してくれた。

だが───

 

 

 

「表面上はいい話のように見えるのは確かですが…本当にそれだけでしょうか?」

「んだと?

この作戦のどこが気に入らねぇってんだ…?」

僕が言っていることの意味が分からないのか…寺坂君は心底不思議そうな顔をしていた。

 

 

 

「分かりました。

ついて来て下さい…。」

僕の思い違いだといいが…シロが立てた作戦だ。

何か裏があると考えておいた方がいい。

 

 

 

▷竜馬side

 

「もう10分くらい経ったんじゃねーか?

綾崎め…連れてきておいて“待ってろ”なんてどういうことだよ…。」

綾崎に連れられやってきたのはプールだった。

プールについた瞬間…“ここで待っていて下さい”なんて言って自分だけプールに飛び込んだのだ。

なんで俺がこんなことを…なんて思っていると───

 

 

 

ザバァ!!

「プハッ…!!」

綾崎が水面から顔を出した。

 

 

 

「ずいぶん長いこと潜ってたな…。」

「おかげで目的の物は見つかりましたよ…。」

目的のモン…?

「何のことだ…?」

俺が聞くと、綾崎はプールの一角を指差した。

「僕としてはハズれていてほしかったんですが…あそこの壁面に爆弾と思しきモノが取り付けられていました。」

 

 

 

───ッ!?

なんだと…!?

「爆弾だと!?

って…あそこってダムじゃねーか!!

んなとこ爆破されたら…皆流されちまうだろーが!!」

 

 

 

「寺坂君。

君は…シロに利用されたんです。」

綾崎のその言葉に…俺は、膝から崩れ落ちた。

 

 

 

「殺せんせーに操られて仲良しこよしの僕たちが気に入らないなんていってましたけど…結局、他人に操られていたのは寺坂君もだった…そういうことです。」

言い返せねぇ自分が悔しい…。

 

 

 

そこでようやく…こいつがクラスの奴らから認められている理由が分かった気がした。

 

 

 

「綾崎…俺はずっと、お前のことが気に入らなかった。

何も知らねぇくせに他人から聞いた情報だけで人のことをバカにする奴だって最初は思ってたし…お前が自分の過去を明かしてからは俺らよりも重いもん背負っているくせに笑っていられることが…それでいて俺のツレと仲良くやってんのが気に入らなかった。」

 

 

 

俺の独白を綾崎はただ黙って聞いているだけだった。

 

 

 

「でもな…今やっと気付いた。

お前はただ能天気に笑ってたんじゃねぇってな。

失うばかりの人生を歩んで来たからこそ、ようやく手に入れた大切なモンを手放さねぇために笑ってたんだろ?」

そうじゃなきゃ…過去を明かしたあの日、泣いたりなんかしねぇもんな。

今なら…こいつの事を認められる気がする。

「なぁ綾崎…。

俺に出来ることはねぇか?

些細なことでもいいからやらせてくれ…。」

「そうですねぇ…。

とりあえずシロの作戦の真の目的を知らないふりをしていてください。」

はぁ…?

どういうことだよ…。

「作戦の決行は放課後…。

だったら…それまでの間に僕が爆弾の処理をしてみます。」

「なるほどな…。

それならやってやる!!

頼んだぜ綾崎…いや、ハヤテ!!」

「はい…そちらもよろしくお願いします寺坂君。」

それくらいでいいならいくらでもやってやらぁ!!

 

 

 

「ちなみに僕…爆弾処理なんてしたことありません。」

「不安でしかねぇぞ!!」

 

 

 

大丈夫か…これ?

 

 

 

▷渚side

 

寺坂君が暴走した日の翌日の昼休み…殺せんせーが涙を流していた。

 

 

 

…と思ったら鼻水らしい。

ややこしい体の構造をしているなぁ…。

 

 

 

でも…それ以上に気になっていることが一つ…。

 

 

 

「ハヤテ君…今日どうしちゃったのかな…?」

「渚、西沢…しつこいようだが聞くぞ。

本当にハヤテが今日来てねぇ理由知らねぇんだよな?」

杉野のその言葉に僕と西沢さんは縦に首を振った。

 

 

 

そう…ハヤテ君が来ていないんだ。

事情を知ってそうな律も…本体の画面は黒いままだし、モバイル律を呼び出しても出て来ない。

何かあったのかと心配していると、ガララッと扉が開く音がした。

 

 

 

『はぁ…。』

「露骨に溜め息ついてんじゃねぇ!!」

ハヤテ君がやっと来たのかと思いそちらを見たが…そこにいたのは寺坂君だった。

 

 

 

「寺坂君!!

今日は学校に来ないのかと心配してましたよ!!

皆さん、昨日君がキレたことは気にしていませんのでご心配無く!!」

昨日のことよりも…寺坂君の顔がすごいことになっていることの方が気になる…。

 

 

 

「おいタコ…テメェ水が弱点なんだってな…?

放課後プールに来やがれ…そろそろ本気でブッ殺してやるよ。」

寺坂君は、殺せんせーのネクタイで顔を拭くと…殺せんせーを指差してそう言った。

「てめーらも全員手伝え!!

俺がこいつを水の中に叩き落としてやるからよ!!」

すると今度は僕たちの方を向いてそう言ってきた。

 

 

 

『………』

教室内を静寂が包む。

 

 

 

「…寺坂。

お前ずっと皆の暗殺に協力してこなかったよな…?

なのにいきなりお前の都合だけで命令してんじゃねーよ。

そんなんでやるっていう奴がいると思うか…?」

前原君が皆の意見を代弁するように言った。

 

 

 

だが───

「ケッ…。

来なかったところで何も問題はねーよ。

そん時ゃ賞金の百億は俺た…俺が独り占めだ。」

寺坂君はそんなことを気にしてないかのように得意気な顔でそう言った後教室を出て行った。

その様子に気になることがあった僕は寺坂君を追いかけた。

 

 

 

「うわ!?

粘液で固められて逃げられねぇ!!」

教室の方から杉野の叫ぶ声が聞こえたが…今はそれを気にかけている場合じゃない。

 

 

 

~~~~

 

「寺坂君!」

校舎を出てすぐに見つけることが出来た。

僕が声をかけると、寺坂君はこちらを向いてくれた。

「本気で殺るつもりなの?」

「当たり前だろーが。

なんだ渚…ビビってんのか?」

「そういうことじゃないよ…。

ちゃんと皆に作戦の具体的な内容を話した方がいいって言ってるんだよ。

殺せんせーに同じ作戦はつかえないんだし…。」

得体の知れない作戦に賛同出来るわけが無い。

だからこそその内容が知りたいだけだ。

 

 

 

「うるせぇよ渚…てめーらは黙って俺に従ってりゃいいんだよ…。

あいつ…ちゃんと準備出来てんだろうな…。」

僕の申し出を一蹴した寺坂君はプールの方へと向かっていった。

でも…前半は聞こえたけど…後半、小声だったために何をいったのかが分からなかった。

 

 

 

───でも、気のせいかもしれないが…寺坂君の態度が昨日とは若干だが違うように思えた。

 

 

 

~~~~

 

放課後になり、水着に着替えた僕たちは皆寺坂君の指示通りにプール内に散らばった。

 

 

 

そこに、殺せんせーがやってきた。

 

 

 

「…覚悟は出来たかモンスター。」

「もちろん出来てますよ…鼻水も止まりましたしね。」

プールサイドに立つ寺坂君と殺せんせーが言い合う。

「俺はずっとテメェが嫌いだった…消えて欲しいって何度も思っていたよ。」

「ええ…知ってます。

この暗殺が終わった後で話し合いましょう。」

そう言った時の殺せんせーの顔は緑とオレンジの縞模様…つまり、寺坂君のことをナメているということだ。

その顔に怒りの表情を見せた寺坂君は手に持ったピストルの引き金を引いた。

 

 

 

───しかし…何も起こらない。

 

 

 

不審に思っていると…ダム手前の水中から浮き上がってきた人影があった。

あれは…ハヤテ君!?

今日は来てないなと思ってたけど…もしかして今日1日ずっとプールにいたの!?

 

 

 

「んだよ…ギリギリだったじゃねぇか。」

「そう言わないでくださいよ寺坂君!!

道具の準備とかに少々時間がかかったんですから!!」

「準備って…ものすごい勢いで自転車かっ飛ばして行ってたろーが!!」

「ことごとく信号が赤だったんですよ!!」

 

 

 

え…なんか寺坂君の態度が昨日までと全然違わない!?

 

 

 

「つーかお前そういう技術はねぇって言ってなかったか…?」

「律さんに教えてもらいました!!」

{ハヤテさんのお役に立てて嬉しいです!!}

なるほど…律が出て来なかったのはハヤテ君と一緒にいたからだったのか…。

 

 

 

▷シロside

 

{『にしてもよぉ…あいつらも俺に計画がバレたなんて思ってねぇだろうなぁ…。』}

{『ホントですねー!!』}

 

 

 

「悪いねぇ…。

全部知ってるんだ。」

 

 

 

念のため寺坂君に盗聴器を仕掛けておいた。

前回の時のように綾崎君の邪魔が入らないとも限らないからね…。

結果としては…やはり邪魔して来たなってところだね…。

 

 

 

だからこそ、私の作戦が失敗したと思わせるように寺坂君にはダムの“内側”の爆弾の起爆装置を渡しておいた。

 

 

 

「綾崎君が寺坂君を諭すことも…寺坂君が裏切ることも…全て想定の範囲内だ。」

私はそう言いながら裾の中に手を入れ、ダムの“外側”の爆弾の起爆装置を取り出し…スイッチを思いっきり押し込んだ。

 

 

 

▷ハヤテside

 

なんとか成功して安心していたのもつかの間───

 

 

 

ドグォォン!!

 

 

 

けたたましい音とともにダムが吹き飛んだ。

 

 

 

外側にも爆弾はあったのか!!

そう思っていた僕の目の前に───

 

 

 

───ダムの破片が…飛んできた。

 

 

 

直後…激しい痛みとともに僕は意識を失った。




次回もお楽しみに!!


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第51話 実行の時間

それでは、本編スタート!!


▷カルマside

 

「あー…暇だ。」

皆殺せんせーに強制されたとはいえ、寺坂の暗殺に協力するためにプールへと行ったが…寺坂に指図されたくなかった俺は、ただ一人校舎の近くで寝ころんでいた。

 

 

 

すると───

 

 

 

ドグォォン!!

 

 

 

何かが爆発したような音がプールの方から聞こえてきた。

 

 

 

「何…今の音…!?」

あいつらの身に何かあったのか!?

そう思った俺は、プールへと走っていった。

 

 

 

▷竜馬side

 

「皆さん!!」

ダムが爆破され、そこから流されていった奴らを救助するためにタコが大慌てで飛び出していった。

 

 

 

「何がどうなってんだよ…。」

目の前の状況に理解が追いついておらず、ただ呆然と立っていた俺の口からようやく出てきた言葉はそれだった。

 

 

 

ダムに仕掛けられていた爆弾はハヤテが解除したはずだ…。

それなのに…爆発は起こった。

ハヤテが嘘をついていたとは考えねぇ…。

なぜなら…あいつの表情が真剣そのものだったからだ。

…かといって今取り付けられたというのも考えにくい。

修学旅行の時にあいつが自分たちに近づいてくる不良の存在に気づいていたらしい、という噂を村松から聞いたからな。

 

 

 

だとすると───

 

 

 

「全部バレてたって事か…。

俺が裏切ってこっち側についた事が、あのシロ野郎に…。」

そういうことになる。

 

 

 

と、その時───

「なるほどねぇ…。」

いつの間にか俺の隣に立っていたカルマが俺を見ながら言ってきた。

「昨日のアレは、シロに唆されてやったことってワケか…。

で、どうやってかは知らないけど…寺坂はあいつらの真の計画に気づいて…計画通りにやると見せかけて裏切った。

そして…それがシロにバレてて今に至るってところか。」

「言っとくが分かってるからな!!

皆が流されてったのが…易々とあいつらを信じた俺のせいだってことくらいなぁ!!」

「そうだねぇ…。

マッハ20の奴がターゲットじゃなきゃ…今頃お前は、大量殺人の実行犯にされてたところだったね…ん?

寺坂、襟の裏になんか付いてるよ。」

俺が叫んでる間中ずっと黙って聞いていたカルマは、終わると同時にそう言った。

気になって襟を探ると…小さなマイクのようなものが出てきた。

「こいつは…?」

「みた感じ盗聴器みたいだけど…こんなのいつ仕掛けられたの?」

「知らねぇよ!!

こんなの付けられるようなタイミング───ッ!!」

 

 

 

───なんせ我々は…大事な戦略的パートナーなんだからね。

 

 

 

「あの時か…!!」

あの時…奴は俺の腕と肩に触れた。

その時に仕掛けられたとしたら───

 

 

 

「くそったれ!!

何が“戦略的パートナー”だ…全然信用しちゃいねぇじゃねぇか!!

じゃあアレか…俺がハヤテと一緒にあいつらを欺こうとしていたとこが全部あいつらに筒抜けだったわけかよ…!!」

俺は盗聴器を岩に叩きつけた後、何度も踏みつけながらそう言った。

「してやられたねぇ…。

で、寺坂はどーしたいの?」

と、カルマは聞いてきたが…答えなんて…もう決まってらぁ!!

「んなもん…聞くまでもねぇだろうが!!

こんな事やらせた落とし前…あいつらにきっちりとつけさせてやるぜ!!」

そう言いながら、俺は下流に向かって走っていった。

 

 

 

皆の所に行く途中…ダムの瓦礫の上で血塗れで横たわっていたハヤテを見つけ、背負っていくことにした。

 

 

 

▷渚side

 

プールの水をせき止めていたダムが破壊され、そこから流されていった僕たちを助け出したのは殺せんせーだった。

だが…吉田君を助け上げた後、殺せんせーの体が何かに引っ張られるように下に落ちていった。

 

 

 

「お前ら無事かぁ!!」

そこに…今回の一件の真相を知っていそうな寺坂君がカルマ君と一緒にやってきた。

寺坂君の背中には、血を出して気絶していると思われるハヤテ君が背負われている。

 

 

 

「…寺坂!!

何だったんだよあの爆発は!?」

磯貝君がプールが爆破された件について寺坂君に問いただした。

「その犯人なら今頃下にいるんだろうよ…。

さっさと行かねぇとタコが危ねぇぞ…。」

その問いにそう答えた寺坂君は、川の下流の方へ歩き出し、岩場の下を覗き込むように身を屈めた。

その後を追うように僕たちもそっちへ行き、寺坂君と同じように、下を覗き込んだ───

 

 

 

そこには…猛スピードで触手を殺せんせーの体に撃ち込むイトナ君の姿があった。

 

 

 

「あれは…!!

てことは…あの爆発はあの2人が仕組んだことだったのか…。」

下をみてすぐ、岡島君がそう言った。

「でも押されすぎな気がするわね…。

いくら殺せんせーが水に弱いからって言っても…あの程度だったらなんとかなるんじゃないの?」

片岡さんの言うことももっともだ。

普段の殺せんせーなら、あの程度の水のハンデなんてどうとでもなるような気がするのに…今は、イトナ君の触手をただ受けているだけのサンドバッグになっている。

明らかに不自然だ、と思ったその時───

 

 

 

「水だけのせいじゃねぇよ…。」

寺坂君がそう言い出した。

 

 

 

「水が原因なのは確かだけどな…なんせあのプールの水には、俺がシロに騙されて薬を流し込んでいたからな…。

水と一緒に吸ったあれで全力を出せねぇんだろうよ…。

昨日俺が教室でバラまいた薬…あれにタコの粘液を全部垂れ流しにする効果があるならなおさらだな。」

昨日の寺坂君の行動にはそんな意味があったのか!!

って…騙された…?

寺坂君…どうやって途中であの2人の本当の目的に気づけたの!?

 

 

 

「それだけじゃねぇって言ったろ…。

力を発揮出来ねーのは、お前らを助けたからだ。

タコの頭上を見てみな。」

寺坂君にそう言われ、皆殺せんせーの頭上を見た。

そこには───

 

 

 

「助け上げた所が触手の射程圏内に…!!」

あれじゃ…そっちが気になって殺せんせーは全力を出せない!!

「吉田と村松はイトナの動きさえ止まれば飛び降りれるだろうがよぉ…問題は原だ。

木に両手両足でしがみついてるからな…飛び降りるのもあそこまで助けに行くのも難しいだろうな。

唯一出来そうなハヤテは…俺なんかのために行動したせいでこのザマだしな…。」

確かに難しいかもしれないけど…あの木がものすごい撓んでるし…このまま放置してても、原さんが危ないよ!!

 

 

 

って…“ハヤテ”?

 

 

 

というか…寺坂君の口から、聞き捨てならない言葉が出てきたけど…。

 

 

 

「なるほどねぇ…さっきから寺坂がハヤテ君のことを名前で呼んでるのが気になってたけど…もしかして寺坂、お前がシロに利用されていたってのに気づかせてくれたのって…ハヤテ君でしょ。」

さっきの寺坂君の発言に気になる所があった僕たちを代表してカルマ君が寺坂君に問いかけた。

「あぁその通りだよ…所詮俺みてぇな目標もビジョンも何一つ持ってねぇ奴は…頭のいい奴の思うように操られて使い捨てられるだけ…それに気づかせてくれたのがこいつだったってわけだ。」

寺坂君はそう言って、背負っているハヤテ君を見た。

そういえば…昨日寺坂君が教室から出て行ってから少しして、ハヤテ君も用事が出来たって言って教室から出て行った。

あの時…ハヤテ君は寺坂君の行動に何か裏があるって気づいて寺坂君の後を追っていたんだ!!

ハヤテ君…また僕たちに相談の一つもしないで行動したのか…。

 

 

 

「そんな操られるだけの俺でもよ…自分を操る奴を選ぶ権利くらいあってもいいだろうがよ。

渚、西沢…ハヤテを頼む。」

寺坂君はそう言うと、僕と西沢さんに背負っていたハヤテ君を渡してきた。

 

 

 

「もうあいつらに操られるのだけはこりごりだ。

あんな卑怯者にタコを殺した時の賞金持って行かれんのだけは気に入らねぇ…。

だからカルマ…テメェが俺を操ってみろや!!

その狡猾なオツムから出て来た作戦…完璧に実行してあそこにいる奴らを助け出してやらァ!!」

僕たちがハヤテ君を受け取ったことを確認した寺坂君は、カルマ君に向けてそう言った。

「別にいいけどさぁ…ホントに実行出来んの、俺の作戦…。

下手すると…死ぬかもよ?」

「こちとら実行犯だぜ…んなもん気にしねぇよ。」

寺坂君がそう言って気合いを入れ、岩場を降り始めた。

 

 

 

「え…もう行くの?

まだ作戦決まってないけどいいの?」

「え…まだなの!?」

もう考えてあるような言い方だったのに決まってないんだ…。




次回もお楽しみに!!


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第52話 現場の時間

50000UA突破!!
それと、お気に入り400達成しました!!
これからも頑張っていきますので…皆さん、よろしくお願いします!!



それでは、本編スタート!!


▷竜馬side

 

「思いついた!

とりあえず…原さんは助けずに放っとこう!!」

カルマが名案のように出したその案に、出した本人以外は信じられないとでも言いたそうな表情を見せた。

 

 

 

「おいカルマ…テメェそれふざけて言ってんのか…?

原が一番危ねぇだろうが!!

ふとましいから身動き取れねーし、ヘヴィだから枝も折れそうだろうが!!」

なので俺は…カルマの胸ぐらを掴み、作戦の内容について抗議した。

「とか言われてもさぁ…さっき自分で言ってたじゃん。

あの状況で助け出すのは俺達じゃ難しいって…。

だから…先に殺せんせーを助け出そうって言ってんの。」

だがカルマは、飄々とした態度でそう言った。

なるほどな…ハヤテが動けねぇ今、原を助け出せる見込みがあるのは…あのタコだけだもんな。

そう思っていると、カルマが俺の胸ぐらを掴んできた。

 

 

 

「寺坂が今着てるシャツ…昨日着てたヤツでしょ?

昨日と同じ所にシミあるし…。

それ使えばいいと思うんだよねぇ…。

でも、ズボラだよなー…やっぱお前悪だくみとか向いてないよねぇ…。」

「んだとコラ!!」

「でもさ…頭はバカだけど、その代わり高い体力と実行力持ってるから…寺坂を軸にして作戦を立てるのが面白いんだ。

死にはしないだろうからさ…俺を信じて動いてよ。」

俺を信じて動いてよ、か…。

「…バカは余計だ。

つーか…お前を信じたから作戦を与えてみろって言ったんだろうが…。

んな御託はいいからさっさと指示よこせ。」

 

 

 

と、その時───

 

 

 

「待って…ください…。」

そんな声が聞こえ、振り向くと───

 

 

 

「僕にも…やらせて、ください…。」

渚と西沢の肩に手を置いて立ち上がるハヤテの姿があった。

「僕にもって…怪我してるんだから無茶は「それでも…!!」…!?」

今の状態を考えて止めようとした磯貝の言葉を遮ってハヤテは続ける。

「皆さんを…危険な目にあわせた、あの2人を…許して…おけないんですよ…。」

 

 

 

やっぱ優しいな、ハヤテは…そうじゃなきゃ血塗れの自分よりも他人のために動こうとなんてしないもんな…。

信じて正解だった…こいつのこういうところを見てると本当にそう思える。

 

 

 

でもな───

 

 

 

「お前なぁ…その怪我で何が出来るっていうんだよ…。

いつものお前なら一緒に来てくれって言ったんだろうがな…他人に支えてもらわねーとロクに立てもしねぇ今のお前じゃ足手まといにしかなんねーよ。」

 

 

 

ちょっとおとなしくしててくれや…。

 

 

 

「寺坂!!

お前…いきなり何を…!!」

「考えてみろや磯貝。

今のこいつの状態じゃ、原を助け出すのも出来やしねぇだろ…それに、さっきのカルマの言い方…どー考えても俺にイトナの相手をしろってことだろうが。

マッハ20の奴が相手なんだからよ…怪我人なんていても邪魔でしかねぇんだよ。」

俺の言い方に磯貝が反応したが…俺がそう言うと、黙り込んだ。

その視界の端で、ハヤテがひどく落ち込んだような顔をしていた。

「んな分かりやすいほど落ち込んでんじゃねぇよハヤテ…。

俺はただ今のお前じゃ“イトナの相手”をするのが難しいって言っただけだ。

いるだろうが…相手側にマッハ20じゃねぇやつがよ…。」

俺がそう言ったことで理解したのか、ハヤテは岩場の下を見た。

察しが良くて助かる…。

 

 

 

「そういうことだ…。

イトナは俺がどうにかするからよ…ハヤテ、お前は一発…俺達をナメてるあの白ヤローに、蹴りを叩き込むことだけ考えてりゃいいんだよ。

だから…その時までおとなしくしててくれや。」

 

 

 

「寺坂君…はい、分かりました!!」

俺が止めた理由を言った後…ハヤテの顔はパッと明るくなり、そう言ってきた。

 

 

 

「つーことでだ…さっさと作戦よこせカルマ。」

「分かってるっての…んで、作戦だけど───」

 

 

 

▷ハヤテside

 

「んじゃ…行ってくるぜ。」

カルマ君から作戦を聞いた後、そう言って寺坂君は岩場を降りていった。

 

 

 

「寺坂君…大丈夫…でしょう、か…?」

「心配しすぎだよハヤテ君…。

言ったでしょ…死にはしないって。

だってさ…シロの目的って、殺せんせーを殺すことであって俺達を殺すことじゃないからさ…。」

寺坂君のことを心配する僕にカルマ君が軽く溜め息をつきながらそう言った。

 

 

 

「おいシロ!!イトナ!!」

岩場の下からシロとイトナ君の名を呼ぶ寺坂君の声が聞こえた。

ここから…作戦開始だ。

 

 

 

「…寺坂君か。

悪いけど…後にしてくれないかな?

今は裏切り者に構っている場合じゃないんだよね…。」

「先に騙しやがったのはテメェらだろうが!!

つか…最初から俺のこと信じてなかったろ…!!

盗聴器なんか使いやがって…!!」

───ッ!?

盗聴器!?

まさか…僕の作戦がバレていたのは───

 

 

 

「盗聴器…?

いったい何のことだい…?」

「しらばくれやがって…もうテメェらは許さねぇ!!

イトナ…俺とタイマン張りやがれ!!」

寺坂君は上着を脱ぐとともに水の中に飛び込むとそう叫んだ。

「やめなさい寺坂君!!

君に勝てる相手じゃない!!」

「すっこんでろ…このふくれタコ!!」

殺せんせーが止めたが…その程度じゃ寺坂君は止まらない。

 

 

 

「そんな布キレ一枚で防ごうとは…綾崎君の影響かな…?

なんと健気なことか…。

これ以上邪魔されたくないし…しかたない、黙らせろイトナ。」

シロがイトナ君に指示を出した。

その指示を受けたイトナ君は寺坂君のお腹に触手を叩き込んだ。

だが…寺坂君は耐えた。

「へぇよく耐えたねぇ…。

イトナ、もう一発だ。」

それを見たシロは、イトナ君にもう一度指示を出した。

だが───

 

 

 

「くしゅん…!!

くしゅん…くしゅん!!」

イトナ君がくしゃみを連発し始めたことで、実行されなかった。

 

 

 

「あれは…?」

「プールからここに来るまでの間に寺坂と話してたんだけど…昨日寺坂が教室でバラまいたアレ…殺せんせーの粘液をダダ漏れにさせる効果があると思うんだよねぇ…。

で…寺坂のシャツが昨日のヤツと同じってことは…アレの成分を至近距離でたっぷり浴びたものってことだ。」

なるほど!!

そんなもの…触手持ちのイトナ君にはひとたまりもない!!

 

 

 

「で…一瞬でもいいからイトナに隙が出来れば、原さんは殺せんせーが助け出してくれる。

殺せんせーとイトナの弱点は同じ…だったら相手がやってきたことをやり返せばいいわけだ。」

そう言いながら、カルマ君は皆にハンドサインを出した。

僕もそろそろ行くとしよう…そう思った僕は、岩場をシロの死角側から降りていった。

 

 

 

▷竜馬side

 

「おい…吉田!村松!!

お前らはそこから飛べ降りろ!!

イトナにたっぷり水をかけてやれ!!」

原の救出成功を見届けた俺は吉田達の方を向き、叫ぶ。

その指示を理解した2人は、同時にその場から飛び降り、それを追うようにハヤテとカルマを除く岩場の上にいた奴らが一斉に飛び降りた。

「ま…まずい!!」

それを見たシロが焦ったようにそう言いながらイトナのもとに行こうとした。

 

 

 

そんなシロの側頭部に───

 

 

 

ハヤテの跳び蹴りが直撃した。

「ウオッ…!!」

そう言ってシロは少し仰け反った。

「綾崎君…また君か。

おや…?

ずいぶんとひどい怪我じゃないか…。

なるほどねぇ…その怪我じゃクラスメートを助け出すのも難しそうだし…イトナの相手が出来るとは思えない。

だから私を狙ったんだろうけど…残念だったね。

私が着ている服の素材は寺坂君の持っているような布キレではなく…対先生繊維で強化した布だからね…戦車で突進しても破けることは「ハヤテ君の方にばかり気を取られてるけどさ~…イトナ君の方はいいのかな~?」…しまった!?」

カルマにそう言われて思い出したシロがイトナの方を見たが…そこには、皆が掛けた水を吸い触手が膨れ上がったイトナの姿があった。

「だいぶ水吸っちゃったねぇ…。

これであんたらのハンデが少なくなったけど…どうすんの?

賞金持ってかれんのは嫌だし…そもそも皆あんたらの作戦のせいで危険な目にあった…ハヤテ君に至っては重傷だしね…ついでに寺坂もボコられてるし…そっちがまだ続けるって言うんだったら…こっちも全力で水遊びさせてもらうけど?」

カルマのその言葉を裏付けするように皆が水をすくい上げた。

 

 

 

その様子を見たシロは溜め息をつくと───

「してやられたね…。

丁寧に積み上げたはずの戦略が…たかが生徒の作戦と実行でメチャクチャにされてしまった…。

この子らを皆殺しにでもしようものなら…反物質臓がどう暴走するか分からないし…ここは引かせてもらうよ…。

帰るよ…イトナ。」

悔しそうにそう言って、撤収しようとした。

だがイトナは…俺達にやられたことが気に入らなかったのか怒りで顔を歪ませていた。

 

 

 

だが───

「…どうです?

皆で楽しそうな学級でしょう?

そろそろ君も、ちゃんとクラスに来ませんか?」

タコがそう言うと…我に返り、シロとともに帰って行った。

 

 

 

なんとか追っ払えてよかったぜ…。

 

 

 

「そーいや寺坂君…さっき私のことヘヴィだとかふとましいだとか言ってたよね…。」

き…聞かれてやがったか…!!

「い、いやあれは…状況を客観的に分析してだな…。」

「言い訳無用!!

動けるデブの恐ろしさ…見せてあげるわ!!」

そう言いながら詰め寄ってくる原の気迫に押されていると───

「あーあ…寺坂ってホント無神経だよな~…。

そんなんだから手の平で転がされんだよ。」

カルマがそう言ってきた。

このやろう…人事だと思いやがって…!!

 

 

 

「うるせーよカルマ!!

テメェも1人だけ高いところから見てんじゃねぇよ!!」

ムカついた俺はカルマの胸ぐらを掴み、水に叩き込んだ。

「ちょっ…何すんだよ上司に向かって!?」

「触手を生身で受けさせるようなイカレた上司がどこにいんだよ!!

だいたいテメェは…サボリ魔のくせにオイシイ場面だけ持って行きやがって!!」

「あー…それ私も思ってた。

よくぞ言った寺坂君。」

「この機会に泥水たっぷり飲ませようか…。」

中村のその言葉で、カルマを水の中に押し込もうとしていると───

 

 

 

「よかった…。」

ハヤテがそう言ってきた。

 

 

 

「寺坂君が…皆さんと…仲良く、なれて…。」

そう言い終えたハヤテは…力尽きたように前のめりに倒れ込んだ。




次回もお楽しみに!!


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第53話 病院の時間

今回はオリジナル回です。



それでは、本編スタート!!


▷ハヤテside

 

意識が…遠のいていく…。

 

 

 

シロへの蹴りに…残っていた力を全部使っていたんだから…無理も無いだろう…。

実際…その後も、立っているだけでせいいっぱいだった…。

 

 

 

でも…皆のために、出来ることをやったんだ。

 

 

 

だから…やり残したことなんて───

 

 

 

『ハヤテ君の生命保険のおかげで僕たちにお金が入ってきたよ。』

『これでまた、思う存分博打が出来るわね~。』

 

 

 

ことなんて───

 

 

 

『いや~ハヤテ君が死んでよかったね~。』

『ほんとね~。』

 

 

 

───あったなそういえば!!

 

 

 

~~~~

 

ガバッと勢いよく上半身を起こした僕の目に飛び込んできたのは…白い壁だった。

僕が倒れたのはE組の山の中のはず…ここはいったい…?

「起きたようだね…。

だが…あれほどの量の血を流したんだ…安静にしておいた方がいいよ。」

辺りを見回していた僕にそう声をかけたのは、出入り口らしき扉の横に立っていた竹林君だった。

 

 

 

「竹林君…ここはいったい…?」

「僕の家が経営している病院さ…。

綾崎が倒れた後…殺せんせーにある程度手当てしてもらってからここに連れてきたんだ。」

言われてみれば…病院特有の薬剤のようなツンとする臭いがしている。

 

 

 

「君は元々頑丈だし、殺せんせーの手当てもあったからね…怪我もほとんど回復してはいるが…大事をとって明日の昼までは入院してもらうからね。

烏間先生もその方がいいと言っていたよ。」

「はあ…分かりました。」

入院…かぁ。

 

 

 

「それはそうと…そろそろ彼女の方を気にかけた方がいいんじゃないかな?」

「え…?」

 

 

 

竹林君にそう言われ窓の方を見ると…椅子に座り、船を漕ぐ奥田さんの姿があった。

 

 

 

「君がなかなか起きないから心配になったんだろうね…一歩も動こうとしなかったんだ。

とっくに面会時間は過ぎているんだけどね…僕が頼み込んで特例措置をとらせてもらったんだ。

奥田さん…そろそろ起きたらどうだい?」

竹林君は奥田さんの横に移動すると、そう声をかけた。

 

 

 

「ううん…竹林君、今何時ですか…?」

「22時30分だ…。

綾崎も起きたし…話でもしたらどうだい?」

「そうなんですか…!?

ありがとうございます竹林君。」

「気にすることはないさ…では、僕は邪魔だろうから退散させてもらうよ。

分かっているとは思うが…ここは病院だからね…節度は守ってくれよ。」

そう言って竹林君は、部屋から出て行った。

 

 

 

~~~~

 

「よかったです…綾崎君が目を覚ましてくれて…。」

竹林君が出て行ってすぐ、奥田さんがそう言ってきた。

「心配をおかけしたみたいですね…。

すみませんでした。」

僕が、心配をかけてしまったことを奥田さんに謝った。

 

 

 

すると───

「その通りですよ!

綾崎君が倒れて…全然目を覚まさなかったので…このまま、目を覚まさないんじゃ…なんて思ったんですよ!」

奥田さんは、涙目でそう捲くし立ててきた。

 

 

 

「すみません…奥田さ「愛美…。」…え?」

先程よりも強い罪悪感を感じたため、謝ろうとしたとき…奥田さんがそう言ってきた。

 

 

 

「心配をかけて本当に…悪いと思っているんでしたら…これからは私のことを“愛美”と名前で呼んでください…いいですね?」

なるほど…そうきましたか…。

「分かりました…ではこれからは愛美さんと呼ばせていただきます。」

「はい…そうしてくださいハヤテ君。」

 

 

 

と、その時───

「2人の世界に入っているところ悪いんだが…ちょっといいかい?」

いつの間にか入ってきていた竹林君が声をかけてきた。

「た、竹林君…!?

さっき…出て行ったはずじゃぁ…!?」

「そのつもりだったんだけどね…綾崎が目覚めたら渡しておいてくれと頼まれたものがあったことを思い出してね…。」

愛美さんの問いにそう答えた竹林君は、僕に封筒を渡してきた。

誰からだろうと思いながら開けてみると───

 

 

 

中には…二つ折りにされた紙と一万円札が一枚ずつ入っていた。

こんなもの誰が…そう思い紙の方を開くとそこには───

 

 

 

~~~~

 

すまなかったなハヤテ…。

俺のせいで怪我なんかさせちまってよ…。

ちょっと少ねぇかもしれねぇが…その一万円…お前にくれてやらぁ。

シロからもらった金で悪りぃがな…。

いらねぇとか言って返してきたらぶっ飛ばすかんな!!

また、元気な姿を見せてくれよ。

 

 

 

寺坂竜馬

 

~~~~

 

寺坂君…。

僕にくれると書いてありますし…このお金はいただいておきましょうか。

 

 

 

では…明日までおとなしくしていることにしましょうか…。

窓の外の三日月を見ながら…僕はそう考えた。




次回もお楽しみに!!


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第54話 期末の時間

活動報告にてアンケート(というかアイディアの募集)をさせていただいてます。
そちらの方もよろしくお願いします。



どうでもいい話ですが…7月編が半分も来てないんですよね…。
あれだけ内容が濃かったのに…。



それでは、本編スタート!!


▷渚side

 

プールでの騒動があった日から2日が経過した。

 

 

 

今日からテスト期間だ。

そのため僕たちは、中間テストの時と同じように殺せんせーの高速強化テスト勉強会を受けていた。

夏の午後ということもあり…教室では暑くて勉強に集中出来ないということで、中間テストの時とは違い…グラウンドのそばの木陰でする事になったが…。

 

 

 

「おいタコ…ここどーやって解けばいいんだ?」

「ああここですか…それなら───」

寺坂君と殺せんせーのそんなやりとりが聞こえてきた。

中間テストの時はあまりやる気を見せていなかった寺坂君も今回は真剣にやっている。

苦手科目が多いうえに今までまともに授業を受けていなかったため殺せんせーの鉢巻きは未だにNAR○TOのままだったが…。

 

 

 

寺坂君がやる気になったのは彼の影響だろう…そう思いハヤテ君の方を見た。

 

 

 

プールでのダムの爆発に巻き込まれ大怪我を負い入院したハヤテ君だったが…殺せんせーの手当てがあったこともあり、昨日の昼に退院できたようだ。

だが…念のためその日1日は休むようにと烏間先生から言われたらしい。

…もとから頑丈なため、退院するまでの期間が短かったことはあまり驚かなかったが…奥田さんとハヤテ君がお互いに名前で呼び合っていたことには驚きを隠せなかった。

 

 

 

「よし、出来た!!

殺せんせー…答え合わせお願いします。」

「どれどれ…。

一問だけとても惜しい間違いをしていますね…ここのスペルは───」

今は復帰して試験勉強に全力で取り組んでいる。

中間テストの時のハヤテ君用の分身は鳩時計だったが…今回は顔の形は丸のままだったが、鉢巻きに2000の技を持つ男が主人公の特撮ヒーロー番組にて主人公が変身する戦士の赤の形態の顔が描かれていた。

殺せんせー曰わく、得意不得意の幅が狭くなってきたので五教科全ての成績をさらに上げていこうということらしい。

 

 

 

「そういえば…殺せんせー、今回も全員50位以内を目標にするの?」

ふと、中間テストの時に掲げていた“あれ”をどうするのかが気になったので聞いてみることにした。

「いいえ。」

間髪入れずに返ってきた答えはそれだった。

「あの時は総合点ばかり気にして急ぎ過ぎました…。

やはり生徒それぞれに合うような目標を立てるべきですね…。

そこで今回は…この暗殺教室にピッタリの目標を設定しました!」

この教室にピッタリ…?

その言葉にクラスメート全員が反応した。

「先生は触手を失うと動きが悪くなる…これはシロさんが言ったことですが、実際その通りなんです。」

イトナ君が初めて来たあの日に言っていたことか…。

ハヤテ君曰わく…ド○ゴン○ールのナメッ○星人の再生と同じ原理らしい。

そう思っていると…殺せんせーは対先生物質を詰めたピストルで自分の触手の一本を撃ち抜いた。

「一本失っても…その影響は出てきます。

ご覧なさい…分身の維持が出来ず一部が子供の分身になってしまいました。」

確かに小さい分身が混ざってるけど…分身ってそういう減り方するものだったっけ?

普通は何体かが消えるものじゃないのかなぁ…?

「さらに一本減らすと…子供の分身がさらに増え、親分身が家計のやりくりに苦しみます。」

なんか…切ない話になってきたな…。

「もう一本減らすと…父親分身が蒸発し、母親分身は女手ひとつで子供達を養っていかなければなりません。」

『重いわ!!』

結局何が言いたいんだよ!?

「まあ御託は置いておくとしましょうか…。

色々試したみた結果…触手一本を失うごとに先生は20パーセントほどの運動能力を失います。」

それがテストとどう関係するんだろうか…?

 

 

 

「…本題に入ります。

今回のテストで教科ごとに学年一位を取った者には…返却時に触手を一本破壊する権利をあげましょう。」

───ッ!!

それって…!!

「それはつまり…総合順位と五教科それぞれで誰かが学年一位になれば…六本もの触手を破壊出来ます。

そしてこれこそが…ここ暗殺教室の期末テストです。

賞金100億に近づけるかどうかは…君達の成績にかかっています。」

その言葉に…一人を除く皆、目に見えてやる気になった。

この先生は…やる気を引き出させるのが本当に上手い。

 

 

 

▷ハヤテside

 

風が出てきたということで教室に戻って六時間目、得意科目が似通った人達での勉強会が行われていた。

 

 

 

「綾崎、ここなんだけど…。」

「あ、ここですか…それなら───」

 

 

 

僕は速水さんと一緒に試験勉強をしていた。

まあ…最初から速水さんと一緒にしようと考えていたわけではないが…。

僕が誰と一緒に試験勉強をするかで悩んでいたところに千葉君がやってきて───

 

 

 

───一緒にやるやつがいないんだったら、速水と一緒に勉強したらどうだ?

お互い国語が得意だしな…悪くないんじゃないか?

 

 

 

と言ってきたのだ。

断る理由もなかったしすぐに速水さんに声をかけてこの勉強会が始まったわけだ。

まあ…誘った理由を聞かれたとき千葉君に勧められたらからと答えた時、溜め息をつかれたが…。

 

 

 

他の皆も、今回のテストに暗殺成績がかかっているため全力でテスト勉強に励んでいる。

 

 

 

と、そこに携帯のバイブ音が響いた。

 

 

 

「あ、悪りぃ俺だ。

って、進藤か…なにがあったんだ?」

杉野君の携帯からだったらしく、皆の集中を妨げたことを謝り携帯を取り出した。

どうやら…球技大会の時のピッチャーからの電話だったらしい。

「おう進藤か。」

{『ああ、球技大会では世話になったな…。

あの時の借りは高校で返すとお前に言ったが…お前がまともに進学出来るのかが心配になってな…。』}

杉野君の携帯のスピーカーからそんな声が聞こえてきた。

「はは…相変わらずの上から目線で…。」

{『というのもな…E組からの脱出は不可能になりつつあるからだ。

会議室にA組の生徒が集まってる。』}

これは見下してるんじゃなくて…忠告してくれているのか…?

{『すでに知ってるだろうが…俺達三年のクラスでの序列は…最下層にお前らE組がいて、その上にB組からD組…そして頂点に成績優秀者で構成されたA組がある。

そのA組全員が集結して自主勉強会を開いているところなんて初めて見た。』}

そう来たか…。

前回みたいに、いきなりテスト範囲を変えるようなことはしないよう烏間先生が理事長先生のところに釘を刺しに行っているが…このやり方ではたとえ文句を言われたとしても生徒が自主的にやったことだ、と誤魔化すことが出来る。

{『その勉強会で音頭を取る中心メンバーはこの椚ヶ丘が誇る“六英傑”と呼ばれる天才達…その内5人だ。

 

 

 

中間テスト総合三位!!

他を圧倒するマスコミ志望の社会知識!!

放送部部長…荒木鉄平!!

 

 

 

中間テスト総合四位!!

人文系コンクールを総ナメにした鋭利な詩人!!

生徒会書記…榊原蓮!!

 

 

 

中間テスト総合六位!!

五位を奪った赤羽への雪辱に燃える暗記の鬼!!

生物部部長…小山夏彦!!

 

 

 

中間テスト総合七位!!

性格はともかく語学力は本物だ!!

生徒会議長…瀬尾智也!!』}

「え…おい進藤…なんだよそのナレーションみたいなやつ…お前が口で言ってんの?

つーか、さっき聞きそびれたけど…なんで5人なんだよ…あと一人はどうした。」

{『あ…う、うん。

こういうの一回やってみたかったんだよ。

六英傑のあと一人か…そいつなら端の方でただ黙々と勉強してるよ。

 

 

 

中間テスト総合一位!!

文武両道という言葉を体現した存在。

剣道部部長…桂ヒナギク!!

 

まあ桂には、他の六英傑の奴らとは馬が合わないから必要以上に関わろうとしないという噂もあるが…あれを見てるとその噂は本当なんだろうな。

それで総合順位が高いから他の奴らも文句の一つも言えないときた。

 

 

 

音頭を取っているあと一人を紹介するぞ…。

中間テスト総合二位。

支配者の遺伝子を受け継いだ天才。

生徒会長浅野学秀…あの理事長のひとり息子だ。』}




次回もお楽しみに!!


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第55話 息子の時間

本編に入る前に原作のこの話について言いたいことがあるので聞いてください。



磯貝の持っている予約票…どうみても日付が7/2なんですよね。
前話の前書きでも言いましたがあれだけ濃い話が多かったのに…というか、何回か夜中のシーンがありますよね…?



言いたいことも言いましたし、本編スタート!!


▷ハヤテside

 

{『浅野学秀…人望厚く成績は常に最上位。

成績優秀者であるが故にプライドの高いA組の猛者達を纏め上げられるほどのカリスマ性が彼の指導力の高さを裏付けている。』}

進藤君が杉野君の携帯越しにそう言ってくる。

{『それに加え…全教科においてパーフェクトの浅野と桂、それと各教科のスペシャリスト達…6人合わせて“六英傑”だ。

教えることに関しては教師より腕は上の奴らばかりだ…桂がいなくてもなんの問題もない。

まあその桂も…成績優秀なうえ綺麗な見た目をしていて、言動も凛々しいために…男子はおろか女子も嫉妬する前に憧れの視線を向けるほどだからな…いるだけでやる気を引き出させることが出来る。

そうなれば…ただでさえ優秀なA組の成績がさらに伸びる。

このままだとトップ50はA組がほとんど独占するだろう…奴らはお前らE組を本校舎に復帰させないつもりだろう。』}

「…。

ありがとな進藤。」

少し間をおいて杉野君が放った言葉は…それだった。

「口は悪いが心配してくれてんだろ?

でも大丈夫。

今の俺らの目標はE組から脱出することじゃない。

けどな…その目標のためには、A組に負けないくらいいい点数を取らなきゃならないんだ。

だから…心配せずに見ててくれ…頑張るから。」

そう…今回のテストには暗記成功が直に関わっている。

だから…全員本気でやるつもりだ。

{『…。

ふん…勝手にしろ。

お前らE組の頑張りなんて俺の知ったことじゃないからな。』}

そう言って進藤君は電話を終わらせた。

 

 

 

期末テスト…気を引き締めていかないと!!

今進藤君がくれた情報と、球技大会の後にヒナギクからかけられた発破でなおさらそう思った僕だった。

 

 

 

▷渚side

 

「渚、茅野…これから本校舎の図書室でテスト勉強しようと思ってるんだけど…一緒にどうだ?」

放課後になり、帰り支度をしていたところに磯貝君がそう言ってきた。

「ずっと前から期末を狙って予約しておいたんだ。

俺達E組は基本的に後回しにされるから…コイツはプラチナチケットみたいなものだな。」

さすが磯貝君…抜かりない。

 

 

 

でも───

「ハヤテ君は誘わなかったの…?」

磯貝君がハヤテ君を誘わないはずがない…それなのに、ハヤテ君の姿が無いことに疑問を抱いた僕は磯貝君にそう聞いた。

すると、磯貝君は後頭部を掻きながら───

「最初はハヤテも誘おうとしたんだけどな…先に寺坂達が声かけてたからな…。」

そう言ってきた。

なるほど…最近、ハヤテ君を誘うのは早い者勝ちという取り決めが僕たちの中でされている。

だから…寺坂君達が声をかけたことで、引き下がらざるを得なかったのだろう。

「そういうことなら…分かった、行くよ。」

そう言って、僕たちは磯貝君の後を追った。

 

 

 

その後、近くで話を聞いていた中村さんと神崎さん、奥田さんの3人が図書室に行くことになった。

 

 

 

▷学秀side

 

「理事長、あなたの意向通り…A組生徒の成績の底上げに着手しました。

これで…満足ですか?」

理事長室に入ってすぐ、僕は理事長にそう報告した。

 

 

 

だが───

 

 

 

「浅野君…必要なのは結果だよ。

実際にトップを独占しなくてはいい報告とは言えないよ。」

返ってきたのはそんな言葉だった。

まあ…この程度の報告で満足しないのは分かっていた。

「E組が他を上回ることがあってはならないというあなたのその理念は分かりますが…なぜそこまでこだわるのかは分かりませんね。

確かにE組の成績は上がってますが…それでも、限界というものがある。

僕らA組に及ぶとは到底思えない。

それが出来るのは…よくて赤羽と綾崎の2人だけでしょう?」

E組の成績を落とすためとはいえ、少々やりすぎではないか…そう思った僕は理事長に問いかけた。

 

 

 

「私が君に教えたいのはそこだよ…浅野君。」

その疑問に答えるためか…理事長は椅子を反転させ、そう言ってきた。

「いつの時代でも…弱者と強者の立場というものはいとも簡単にひっくり返るものだ…。

強者の座に居続けること…それこそが最も大変なことなんだ。

そうだな…A組生徒全員がトップ50に入り、なおかつ5教科全てにおいてA組が一位を独占する…それが具体的な合格ラインだ。」

なるほど…そうきたか。

では手っ取り早くここに来た目的を果たすとしよう…。

「ではこうしましょうか理事長…。

その条件を僕の力でクリアできたら…その時は生徒としてではなく息子として…ふたつほどおねだりをしたいのですが。」

「…おねだり?

父親に甘えたいとでも言うのかい?」

僕の提案に理事長がそう聞いてくる。

まあ…普通ならそう考えるだろう。

 

 

 

「いえいえ…僕はただ、知りたいだけです。

 

 

 

E組のことで…

 

 

 

       何か隠していませんか?」

 

 

 

その言葉を聞き理事長が目を大きく見開いたのを見逃さなかった。

「どうもそんな気がしてならない。

今年度に入ってからのあなたのE組への介入は…いささか度が過ぎるようにしか思えない。

 

 

 

まさかとは思いますが…教育業以外になにかヤバいことでもやらせてらっしゃるのでは…?」

実際、今年度に入ってから不審者を目撃したと相次いで噂されている。

根も葉もないデマだろうが…この噂が理事長のE組への介入に関わっているのなら───

 

 

 

「それを知ってどうするつもりなのかな…浅野君。

まさか…それをネタにして私を支配しようとでも言うのではないだろうね…?」

理事長は僕にそう聞いてきた。

そんなこと…聞かれるまでもない。

「当然でしょう。

この僕に…全てを支配しろ、と教えたのはあなたですよ…?」

「…フフフ。

さすがだ…それでこそ私が最も長く教えてきた生徒というものだよ。

だが…この学校に入って以来一度として学年1位になったことがないのによくそんなことが言えたね…。」

ぐ…人が気にしていることを…。

「ところで…先ほど聞きたいことがふたつあると言ってなかったかい…?

それも私を支配するためのものなのかな?」

そっちについて聞いてきたか…。

「いいえ…そっちはただ個人的に気になっただけです。

綾崎ハヤテ…彼はいったい何者なのですか?」

「ほう綾崎君か…。

なぜ、彼のことが気になったのかな…?」

「彼は…中学三年という受験に影響の出かねない時期に…しかもE組に編入してきた。

それなのに…中間テストではE組らしからぬ成績を出している。

なにか…とてつもない事情を抱えているのではないですか…それが知りたいだけです。」

それを聞いた理事長は、目に同情のようなものを浮かべると───

「悪いが…そのおねだりだけは聞くことは出来ないな…。

彼については…むやみやたらと語ることは出来ないんだ。」

───そう言ってきた。

「分かりました…では、期末テストが終わり次第E組の秘密を聞き出したうえで首輪をつけて飼ってあげることにしましょうか…一生ね…。」

「フフフ…楽しみだね。

君を社畜として飼い殺せる日が来ることが…ね。」

 

 

 

▷渚side

 

「おや…E組の皆さんじゃないか。」

図書室でテスト勉強をしていた僕たちに突然そんな声がかけられた。

誰からなのかとそっちを見ると───

「もったいない…君たちにこの図書室は豚に真珠じゃないのかな?」

そこにいたのは…浅野君と桂さんを除く六英傑だった。

「そこは俺らの席だ…分かったらとっとと帰れザコ共。」

「ここは俺達が予約取った席だ…そんなことを言われる筋合いは無い。」

瀬尾君の発言に磯貝君が反論した。

「君達は本当に記憶力が無いなぁ…。

この学校じゃ…成績の悪いお前たちE組はA組に逆らうことは出来ないの。」

だが…それで引き下がるような相手ではない。

今度はこの学校の制度を出してきた。

「さっ…逆らえます!!

私達E組が次のテストで全科目1位になれば…そんな大きな顔は出来ないはずです!!」

意外なことに、それに反論したのは…奥田さんだった。

ハヤテ君の影響によるものなのかは知らないが…4月の頃よりも、奥田さんの積極性は増している。

精神的に成長したなぁ…と感傷に浸っていると───

 

 

 

「口答えしやがって…いや待てよ…確かに、一概に学力無しとは言い切る事は出来ないな。

1教科だけなら一応勝負出来そうなのは揃っているし、赤羽は全教科で勝負出来る。

中間テストの時に浅野が綾崎の成績を見て発展途上かもしれないなんて言ってたしな…。」

「面白い…じゃあ、こういうのはどうだろうか?

俺達A組と君達E組の間で…5教科でより多く学年トップを取ったクラスが…負けたクラスにどんな事でも命令する事が出来る。」

荒木君がそんな勝負を持ちかけてきた。

なるほど…それなら負けた方は大きな顔は出来ないはずだ。

「自信がねぇんだったらやめといた方がいいぜ?

なんならこっちは…命かけても構わないぜ。」

瀬尾君がそう言いきった直後…僕たちは4人に文房具や指を突きつけた。

「命は…そう簡単に賭けない方がいいと思うよ?」

僕がそう言った後、4人は素早く飛び退き───

「じょっ…上等だ!!

そう言うからには受けるんだな…この勝負!!

死ぬよりキツい命令してやるから覚悟してやがれ!!」

───そう言って去っていった。

 

 

 

図書室だというのに騒がしくしていたため…その時図書室にいた生徒たちによって…この騒動は全校の知る所となった。

 

 

 

この時はまだ知らなかった───

 

 

 

このA組との賭けが…後に、僕たちの暗殺を大きく左右する事を…。




次回もお楽しみに!!


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第56話 エースの時間

注)今回の話は、作中時間で7月12日としております。



これでやっと6巻の話が終わりましたね…。
まだ先は長いですが…頑張っていこうと思うので、これからもよろしくお願いします。



それでは、本編スタート!!


▷凛香side

 

「あ、速水さん…おはようございます。」

「あ…おはよう綾崎。」

殺せんせーが期末テストで頑張った時のご褒美を明かした日の翌日…E組の校舎までの道中で綾崎が挨拶をしてきたのでこちらも挨拶を返した。

その流れで校舎まで一緒に行こうと歩き出したその矢先───

 

 

 

「あ、そうだ。

速水さん…これを受け取ってください。」

そう言って綾崎は、カバンから小さな包みを取り出した。

「え?

私…あんたに誕生日教えなかったはずだけど…。」

そう…今日7月12日は私の誕生日だ。

でも…なんで綾崎がそれを知ってるの…?

修学旅行の時…皆(そういうのに興味がなかった原と狭間を除き)が自分の誕生日を教える中で、私は綾崎に誕生日がいつなのかを教えていないはずなのに…。

「千葉君が教えてくれました。

前もって殺せんせーから聞いておいた…覚えておいて損はない、と言ってましたね。」

その答えは…綾崎の口からあっさりと出てきた。

「千葉め…。

まぁいいか…じゃ、貰っておく…ありがと。」

「どういたしまして…お互い、テスト頑張りましょうね。」

「綾崎も…ね。」

 

 

 

そうやってお互いに檄を飛ばしあっていると、校舎が見えてきた。

 

 

 

▷ハヤテside

 

「───と、いうわけでな…。

悪い…迷惑かける。」

教室に入って早々、磯貝君ら6人が謝ってきた。

どうやら昨日、A組と期末テストで賭けをしてしまった事で僕たちに迷惑をかけてしまったと思っているようだ。

 

 

 

だが───

 

 

 

「迷惑だなんて僕は思ってません…だから、顔を上げてください。」

てっきり責められると思っていたのか、磯貝君達は驚いたような表情をしながら顔を上げた。

 

 

 

「もとより僕たちは…期末テストのそれぞれの教科で学年一位を狙っています。

なので…学年一位を取った数が多い方が勝ちというその賭けがあったとしても…たいして目標は変わりません。

だから気にすることなんて無いんですよ。」

「なるほど…ありがとなハヤテ!!

そう言ってくれると助かる。」

僕が言ったその言葉に、磯貝君から感謝の言葉が返ってきた。

「いえ…気にしないでください。

僕も…A組に勝つつもりでいますから。」

球技大会の時のヒナギクさんの言葉…僕はあれをヒナギクさんからの挑戦状だと思っている。

だから…期末テストでの僕の目標は…ヒナギクさんを超えることだ。

 

 

 

ヒナギクさんを超える───

 

 

 

それはつまり、A組を超えるということに繋がるのだから…。

 

 

 

この時は、そう思っていた───

 

 

 

▷ヒナギクside

 

「E組と賭けをしたそうじゃないか…5教科それぞれでトップをより多く取れた方が…負けたクラスにどんな事でも命令出来るらしいね…?」

「わ、悪い浅野…正直下らん賭けだとは思ったんだがよ…思いのほか奴らがつっかかって来るもんだから…。」

私の横で浅野君達5人がそんなやりとりをしている。

昨日の放課後、瀬尾君達がE組とそんな賭けをしたという噂は私も聞いたけど…浅野君がその噂に興味を示すなんて思っていなかった。

「いや…構わないよ。

むしろそっちの方がA組にも緊張感が出る。」

瀬尾君達の弁明を黙って聞いていた浅野君は、わずかに口角をあげるとそう言った。

「だが、後でゴネられるのは面倒だからね…ルールだけは明確化しておいた方がいいだろう。」

なるほど…浅野君の言うことももっともだ。

勝った後でそんなの聞いてない、なんて言われるのが一番困るからね…。

「じゃあこうしよう…勝った方が下せる命令は一つだけで、その命令はテスト後に発表する。

E組にもそう伝えておいてくれ。」

一つ…?

どうもイヤな予感がするわね…。

私がそう思っていると、浅野君は自分の机の上に置いたノートパソコンのキーボードを素早く打ち、エンターキーを打ち込んでからその画面を瀬尾君達に向けた。

「僕がE組に下したい命令は…“この協定書に同意する”というその一つだけだ。」

浅野君が見せた協定書を見た瀬尾君達が目を大きく見開いたので、どんな内容なのか気になったので私もその画面を見た。

 

 

 

なに…これ…!?

こんな…人を奴隷のように扱っていいと思ってるの!?

 

 

 

「皆も聞いてくれ。

僕がこれを通して言いたいのは…やるからには真剣勝負だということだ。

たとえE組であっても本気を出して向き合おう!!

それが…本校舎を照らす僕らA組の義務なのだから!!」

『おう!!』

浅野君のその宣言に周りを皆が頷いた。

 

 

 

浅野君は確かに皆をまとめられるカリスマ性がある。

だから…言葉の裏に黒いモノがあったとしても皆ついていく。

でも…だからこそ私は信用出来ない。

 

 

 

正直なところ気乗りはしないけど…前にE組の皆の前で“期末テストで勝つ”って言っちゃったし、それに…浅野君に負けるのは気に入らない。

やるからには全力で期末テストに挑むことにしよう。

 

 

 

この時はそう思っていた。

 

 

 

▷ハヤテside

 

「こらカルマ君少しは綾崎君を見習って真面目に勉強しなさい!!

君達二人なら…総合トップを狙えるでしょう!!」

真面目にテスト勉強をしようともしないカルマ君に殺せんせーのそんな言葉が飛んだ。

「言われなくてもちゃんと取るよ。

けどさぁ殺せんせー…最近“トップを取れ”て言ってばっかじゃん。

なんかさ…フツーの先生みたいでつまんないんだよね。」

カルマ君はそう返したが…これは…なにか大失敗しそうな雰囲気だ。

「それよりさぁ…A組が出した条件だけど…なーんか裏で企んでそうじゃない?」

条件というのはおそらく…A組との賭けでさっき提示されたルールについてだろう。

確かに…何でも一つと言い方に含みがあるように思えてならない。

命令をテスト後に発表するというのも相まってそう思えてくる。

 

 

 

「心配ねーよカルマ…俺たちが失うモノなんてありゃしねーんだからよ…。

綾崎も心配そうな顔してんじゃねーよ。」

岡島君がそう楽観的に言ってくる。

本当にそうだろうか…。

 

 

 

「勝ったら何でも一つかぁ…学食の使用権とか欲しいなぁ~。」

「倉橋さん…ここから学食までどうやって移動するんですか?

ヘタしたら食べる時間も無くお昼休み終わりますよ…。」

僕のそのツッコミに倉橋さんは少し考えるような仕草をした後、口を開いた。

「じゃあ…ハヤテちゃんに抱きついて!!」

「人を便利な移動手段にしないでください。

そもそも…食べた直後の過度の運動は体に毒です。」

 

 

 

「ヌルフフフ。

それについてですが…先生、今とっても欲しいものがあるのです。

この学校のパンフレットにあった“これ”をよこせと命令するのはどうでしょうか?」

殺せんせーの欲しいもの…?

いったい何を…そう思いながら殺せんせーが開いたページを見る。

 

 

 

なるほど…確かにこれはご褒美だ。

 

 

 

「君達は一度どん底を経験した…だからこそ期末テストでは…バチバチのトップ争いをしてほしいのです。

ご褒美も十分揃いましたしね…君たちも暗殺者なら、狙ってトップを殺るのです!!」

 

 

 

───いつも思う。

この先生は…人をやる気にさせるのが本当に上手い。

 

 

 

そんな殺せんせーにそこまで言われたら…何が何でも勝たなければと思う。

 

 

 

▷三人称side

 

仲間のため…自分のため───

 

 

 

それぞれの思いが交錯する期末テスト───

 

 

 

それに向けて、カルマを除く全校生徒が連日テスト勉強に励んでいた。

 

 

 

だが、負けられないからとはいえ…やり過ぎるのにも問題はあるわけで───

 

 

 

~~~~

 

桂家にて───

 

 

 

「ケホッ…。」

 

 

 

▷ハヤテside

 

「綾崎君、今回のテスト…自信ある?」

本校舎にあるE組用のテスト会場までの道中で片岡さんが僕に聞いてきた。

「やれるだけのことはやりました。

後は…このテストで全力を尽くすだけです。」

「そっか…じゃ、テスト頑張ってね。」

「ええ…片岡さんも頑張ってください。」

 

 

 

~~~~

 

誰だ───

 

 

 

テスト会場についてまず思ったのはそれだった。

 

 

 

当然だろう…本来なら律さんがいるはずの場所にできる限り本物に似せようとしたような誰かがいるのだから…。

 

 

 

「“律役”だ。」

そんな僕たちの疑問に答えるかのように烏間先生がそう言ってきた。

「理事長から人工知能の参加を認められなくてな…替え玉を使う事でなんとか決着をつけることが出来た。

交渉の時に理事長に…“大変だなコイツも”という哀れみの目を向けられた俺の気持ちが君たちに分かるか?」

いやほんと頭が下がります!!

皆もそう思ったのか僕を含め全員が烏間先生に頭を下げた。

「律と合わせて俺からも伝えさせてくれ…頑張れよ。」

『はい!!』

 

 

 

~~~~

 

キーンコーンカーンコーン───

 

 

 

テスト開始のチャイムという名のゴングが鳴り響いた。

 

 

 

どんな障害があっても関係ない。

 

 

 

僕は、僕の全力を出せばいいだけなのだから。

 

 

 

▷学秀side

 

桂さんが時間ギリギリに来るという珍しいことはあったが…関係ない。

 

 

 

今回こそ桂さんに勝って、正真正銘の頂点になってみせる。




arosの、サンデーの目次コメントに漫画家でもないのに答えてみた。

Q.今までで一番恐怖を感じた瞬間を教えてください。

A.高校時代にクラスメートに首を絞められた時。
少しの間意識がとんだらしい。



次回もお楽しみに!!


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第57話 5教科の時間

感想への返信でも言いましたが…手刀連さん、誤字報告ありがとうございました。



今回の話ですが…1教科における時間は50分、テストは一日4教科(一日目…英・理・社・国、二日目…数・家・美・保体)としております…ご理解の方をお願いします。



それでは、本編スタート!!


▷ハヤテside

 

-英語-

 

 

 

(よし、今のところ順調だ…。)

テスト開始からすでに45分が経過し…最終問題の一つ前の問題を解き終えたところで僕はそう心の中で呟いた。

 

 

 

(文章問題か…って、あれ?)

最終問題に取りかかろうと問題文を見ると…なぜか、その文章問題を見たことがあるような気がしてきた。

いったいどこで───

 

 

 

───先生、こういう繊細な反逆に憧れてましてねぇ…ぜひ2ヵ国語で読んでください。

 

 

 

───ッ!!

そうだ…殺せんせーが熱心に薦めてきたあの本だ!!

だったら…丁寧な文章にせず、雑で簡潔な口語体にすればいいはず…よし、出来た。

 

 

 

そう考え、答えを書き終えたところでテスト終了のチャイムが鳴った。

 

 

 

-理科-

 

(あ…ここはこの前愛美さんに教えてもらったところだ。)

国語力を身につけてもらうべく愛美さんとの勉強会では、僕が分からないところを愛美さんに教えてもらう事もたまにある。

今回のテストにはその部分が使われていた。

 

 

 

そして───

 

 

 

(ボルタ電池が充電出来ない理由…か。

確か…ボルタ電池は充電時に生成される水素ガスを溜めることが出来ないため充電に必要な逆反応を起こせないから…だったはず。)

 

 

 

これで…いいはずだ。

 

 

 

-社会-

 

 

 

しまった…。

首相の会談の回数を憶えていなかった…。

 

 

 

他の問題で点数を稼ぐかぁ…。

 

 

 

▷三人称side

 

期末テストにて、ハヤテが順調に進めていく一方で…ヒナギクはすでに限界寸前だった。

 

 

 

学校に行く前までは37.3℃の微熱だったためテストを受けに来ていた。

(※平熱の定義として多くあげられるのは36.5℃前後、それ以上から37.4℃までを微熱と言います。

また、それ以上から38.4℃までが日常生活をかろうじて出来る範囲です。

ちなみに…この作品の作者は高校時代に39.6℃の高熱(一般的に38.5℃以上だと立ち上がるとこも歩くことも困難になるそうです)を出して点滴のお世話になった事があります)

だが、体温は下がるどころか徐々に上がっていき…本人は知らないが4時間目開始の時点で38.4℃を越えようとしていた。

 

 

 

そして、テストが配られ名前を書いたところで…ヒナギクは…倒れた。

 

 

 

そして…次の日───

 

 

 

▷学秀side

 

昨日、いきなり桂さんに倒れられたことには驚いた…。

 

 

 

体調を崩してまでテストを受けに来ていたのは…テスト欠席でE組行きとなるのがいやだったからかな?

今年度のE組に…テスト欠席が理由で落ちた人が一人いるため僕はそう思った。

 

 

 

だが…桂さんは今日、親から絶対安静を言い渡されたようで学校にすら来ていなかった。

 

 

 

釈然とはしないが…総合一位は僕がもらった!!

 

 

 

▷カルマside

 

あーあ…皆揃って目の色変えちゃってさぁ…。

 

 

 

通常運転でサラッと勝つのが完全勝利ってものなのに…。

 

 

 

ま、それは俺が教えてやればいいだけだしね…。

 

 

 

キーンコーンカーンコーン───

 

 

 

▷三人称side

 

こうして…全てのテストが幕を下ろした。

 

 

 

その後、それぞれの教科の担当教師による公平な採点が行われた。

 

 

 

そして───

 

 

 

▷ハヤテside

 

「さて皆さん…全教科の採点結果が届きましたよ。」

 

 

 

期末テスト当日から3日後…朝のホームルームが終わり、床に散らばったBB弾を片付けていた僕たちに向かって殺せんせーがそう言ってきた。

 

 

 

A組との賭けのこともあり、皆すぐに片付けを終わらせ席についた。

 

 

 

はたして、結果は───

 

 

 

「…おっと忘れるところでした。

今日からこのクラスに加わる新しい仲間を紹介したいと思います。」

 

 

 

───え!?

「殺せんせー。

その新しい仲間というのは…殺し屋ですか?」

そう聞いた僕に皆のなぜ知らないのかというような視線が向けられた。

「ハヤテお前…烏間先生からの一斉送信メール見てねぇのかよ…。」

前の席から菅谷君がそう言ってきた。

「え…烏間先生からメールなんてありました?」

「昨日送られてきたろ…?」

昨日…?

昨日は一度も携帯はなってないが…。

その疑問は…次の瞬間に解消した。

 

 

 

「そういえば…渡すタイミングを見失って先生も忘れてました…綾崎君、これを。」

そう言って殺せんせーが渡してきたのは、僕の携帯だった。

「え…?

なんで殺せんせーが持ってるんですか?」

「あのプールでの一件で壊れたみたいなので…先生が修理していたんです。

本当はすぐにでも渡したかったのですが…綾崎君はテスト期間中引っ張りだこだったので渡しそびれてしまいまして…なので先生も忘れていたのです。」

なるほど…烏間先生からのメールを知らなかったのはメールを見ていなかったからではなく、単純に無かったからだったのか…。

あ…本当にメールが来てる。

本校舎の生徒だった…つまり暗殺未経験者というわけか。

「そうだったんですか。

ありがとうございました…殺せんせー。」

「ヌルフフフ…では新しい仲間を紹介しましょうか。

入ってきてください。」

殺せんせーのその一言の後、教室の扉が静かに開かれ───

 

 

 

───そして、僕たちは皆…絶句した。

 

 

 

なぜなら…黒板前まで歩いていく彼女は…本来ならE組に来るはずのない生徒だったからだ。

 

 

 

教卓の横で立ち止まった彼女は、僕たちの方を向くと…肩にかかった髪を後ろに払うと───

 

 

 

「桂ヒナギクよ。

これからよろしくね。」

 

 

 

僕たちに向けてそう言った。




arosのサンデーの目次コメントに漫画家でもないのに答えてみた。

Q.思い出のゲームソフトはありますか?

A.さわるメイドインワリオ
DSで初めてやったゲームなので(…無くしましたけど。)
ゴージャス楽しいです。



次回もお楽しみに!!


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第58話 挫折の時間

サブタイトルはあれですが、ハヤテは挫折しませんのでご安心ください。



そんなことよりも…60000UA達成しました!!
これからも頑張っていきます!!



名簿の時間に対してツッコミをいくつか。
カルマの英語の順位…どう考えても三位じゃないかと思うのですが…。
一位…中村(100点)
二位…浅野(99点※原作で三村が言っていた通りなら…)
で、カルマは96点。
なので…この作品では、95点の方々の順位を一つずらしています。
他はあってるのに…。
あと、数学の総合順位で90点の千葉が七位なのに94点の中村が八位、92点の律(にせ律)が九位なのはおかしいと思うんですよね。
原作にもツッコミを。
理科の順位…奥田(98点)が学年一位で浅野とカルマ(97点)が学年二位なら…95点の小山は学年四位のはずですよね…。



前回の話で…“愛美さん”と書くべきところを“奥田さん”と書くミスをしていました。
修正しましたのでそちらの方もよろしくお願いします。



今回の話で、ハヤテがそんないい点数を取らないと考える人もいると思いますが…殺せんせーの教育によって成績がグンと上がったと思ってください。



それでは、本編スタート!!


▷渚side

 

「ヒナ!?

なんで…ヒナがE組に!?」

今日からE組の仲間としてやってきた桂さんにそう問いかけたのは…本校舎にいた時から仲が良かったらしい片岡さんだった。

 

 

 

片岡さんが言わんとしていることも分からなくもない。

桂さんの実力なら…E組に落ちることなどまずありえないのだから…。

 

 

 

片岡さんのその問いかけに桂さんは少し言いづらそうな表情をした後───

 

 

 

「あ~その…期末テスト当日に風邪をひいちゃってね…一日目は頑張ってテストを受けに来たんだけど…二日目で休んじゃったから…。

あ、暗殺のことならもう烏間先生から聞いてるから安心して。」

そう言った。

なるほど…この学校では、たとえ家庭の事情があったとしてもテスト当日に欠席した場合、問答無用でE組行きとなる。

成績優秀者の桂さんでもその例外とはなれなかったのだろう。

 

 

 

「ヌルフフフ…皆さん仲良くしてあげてくださいね。

さて、桂さんの席ですが…綾崎君とカルマ君の間の席を使ってもらいましょうか。

本来そこはイトナ君の席なのですが…まあ、今はいませんし後で席を一つ増やせばいいだけですからね。」

殺せんせーが桂さんに席を指定し、それを了承した桂さんはその席まで歩いて行き───

 

 

 

「じゃ、今日から同じクラスとしてよろしくね…ハヤテ君。」

「ええ…よろしくお願いします、桂さん。」

「同じクラスなんだし…もう体裁を気にする必要なんてないからヒナギクでいいわよ。」

 

 

 

『ちょっと待(っ)て(お前ら/2人とも)!!』

 

 

 

そうなった経緯を知っている僕と茅野、片岡さんを除くクラスメートにとって特大の爆弾を投下した。

 

 

 

▷ハヤテside

 

「さて、そろそろテストの結果を発表したいと思うのですが…皆さんいいですか?」

 

 

 

僕とヒナギクさんがお互いを名前呼びしていたことから始まった騒動が収まったところで殺せんせーがそう言った。

 

 

 

このテストの結果にA組との勝負の行方…ひいては殺せんせーの暗殺成功がかかっている…。

 

 

 

ヒナギクさんも含め皆がその発表を心待ちにしていた。

 

 

 

「では…英語から発表させていただきます。

E組の一位…───」

 

 

 

はたして…結果は───

 

 

 

「そして、学年でも一位…中村莉桜!!」

 

 

 

中村莉桜 英語100点 学年一位

 

 

 

「完璧です。

君のやる気はムラっ気があるので心配でしたが…よく頑張りました。」

「賞金百億かかってっから…触手一本、忘れないでよ殺せんせー?」

A組との勝負はまずこちらの一勝…破壊可能な触手は一本、ということか。

「渚君、綾崎君ともに健闘ですが…二人とも肝心なところでスペルミスを犯してしまっているので気をつけましょう。

桂さんも…いつも通りとはいかないまでも、ここは調子良かったみたいですね。」

 

 

 

綾崎颯 英語92点 学年八位

潮田渚 英語93点 学年七位

桂雛菊 英語95点 学年四位

 

 

 

うーむ…最後に見直しする時間が無かったからなぁ…。

 

 

 

「さてしかし…1教科でトップを取ったところで潰せる触手はたったの一本、それに…A組との勝負もあるので喜ぶことが出来るのは全てのテストを返した後ですよ。」

殺せんせーの言うとおりだ。

最後まで気を引き締めないと…。

 

 

 

「続いて国語…。

E組一位は…綾崎ハヤテ!!」

 

 

 

え…僕!?

学年順位の方は───

 

 

 

「学年順位はなんと…浅野君と同点一位!!

本校舎の生徒と同点とはいえ、学年一位を取ったことに変わりないので…触手の破壊権利をあげましょう!!」

 

 

 

綾崎颯 国語100点 学年一位

 

 

 

殺せんせーの口からその言葉が出た瞬間、僕は立ち上がりガッツポーズの体勢をとった。

「スゲェなハヤテ!!

これで一勝一分だぜ!!」

前の席から菅谷君が僕に賛辞の言葉を述べた。

「いや~…社会のテストでミスしたので国語で巻き返そうと思って頑張ったんですよね…。」

まさか…学年一位になるとは思ってもいなかった。

「本当に残念でしたね…桂さん。」

ヒナギクさんに答案用紙を返す時に殺せんせーはそう言った。

「体調管理がしっかりと出来てなかった私自身の責任だって分かってるから言わなくてもいいわよ、殺せんせー…。」

 

 

 

桂雛菊 国語0点(名前のみ記入) 学年189位

 

 

 

「続けましょうか。

社会!!

E組の一位は…磯貝悠馬の97点!!

そして、学年では───」

 

 

 

さて…どうなる…?

 

 

 

「おめでとう!!

浅野君を抑えて学年一位!!

マニアックな問題が多かった社会でよくぞこれだけの点数を取りました!!」

 

 

 

磯貝悠馬 社会97点 学年一位

 

 

 

「綾崎君は自分でも言っていた通り…社会は他に比べると点数が低い印象がありましたね…。

桂さんも…体調が悪くなっていく中でよく頑張りました。」

 

 

 

綾崎颯 社会80点 学年41位

桂雛菊 社会49点 学年104位

 

 

 

「これで二勝一分!!」

「あと残ってるのは…理科と数学か!!」

不破さんと杉野君がそう言いながらこちら…正確には愛美さんの方を見た。

 

 

 

「では理科の方から…E組一位は奥田愛美!!

そして───」

 

 

 

…愛美さんの頑張りが…報われてほしい。

 

 

 

「素晴らしい!!

学年一位も奥田愛美!!」

 

 

 

奥田愛美 理科98点 学年一位

 

 

 

おおっ!!

さすが愛美さん!!

 

 

 

「三勝一分!!

数学の結果を待たずしてE組がA組に勝ち越し決定だ!!」

「仕事したな奥田!!

触手一本はお前のモンだ!!」

周りからも愛美さんへの賞賛の声があがる。

 

 

 

綾崎颯 理科97点 学年二位

桂雛菊 理科69点 学年52位

 

 

 

そういえば…カルマ君はどこに───

 

 

 

▷カルマside

 

「はぁ…なっさけな…。」

居心地が悪くなり教室を抜け出した俺は、校舎裏の木陰で返ってきた答案を見ながらため息を一つついた。

 

 

 

赤羽業 英語96点 学年三位

    国語96点 学年三位

    社会95点 学年二位

    理科97点 学年二位

    数学85点 学年11位

    総合469点 学年13位

 

 

 

あれだけ余裕かましておいて、いざ蓋を開けたらこんな結果だったなんてね…そう思っていると───

 

 

 

「5教科総合はE組の最高は竹林君と片岡さんの同点七位…それより上はA組が独占しました。

ですが、これは当然の結果です。

期末テストにむけ、A組の皆さんもE組に負けず劣らず勉強をした。」

そう言いながら殺せんせーが俺に話しかけてきた。

「テストの難易度にしても…中間テストの時より上がっていた。

怠け者がついていけるほどアマくはありません。」

「…で?

何が言いたいの?」

じれったいなぁ…。

そんな思いを込めてそう言うと───

 

 

 

「“余裕で勝つ俺カッコいい”そう思ってたでしょう…恥ずかしいですねぇ~。」

そう殺せんせーに言われ、鏡を見なくても真っ赤だと分かるほど俺の顔が熱くなった。

 

 

 

▷学秀side

 

「まずは…“初”の学年一位おめでとう浅野君…と、言いたいところだが───」

全てのテストが返ってきてすぐ、僕は理事長に呼ばれ理事長室に入ると、いきなりそう言われた。

ぐ…あからさまに初が強調されていた…。

 

浅野学秀 英語99点 学年二位

     国語100点 学年一位

     社会95点 学年二位

     理科97点 学年二位

     数学100点 学年一位

     総合491点 学年一位

 

「私の記憶が正しければ…君に課した合格ラインは“A組全員がトップ50に入り、5教科全てにおいてA組が一位を独占する”ことだったはずだが…A組から成績を著しく落としてしまった生徒が出てしまったことに加え…5教科それぞれの学年一位のほとんどにE組がいる。

何一つとして合格ラインに達していないじゃないか。」

痛いところをついてきたな…。

「そういえば…ありもしない私の秘密を暴こうとしたり、私のことを…“首輪をつけて飼ってやる”とか言っていたね…。

同い年との学力勝負で頂点に立てない未熟者が…よくもまあそんなことが言えたものだ。」

 

 

 

未熟者…だと…!?

 

 

 

く…これ以上ない屈辱だ…。

 

 

 

▷殺せんせーside

 

「先生の触手を破壊出来る権利を得たのは…中村さんと綾崎君と磯貝君と奥田さんの4名。

“中間テストでいい成績を残したから今回もいける”なんて考えた君は暗殺においても賭けにおいても…今回は何の戦力にもなれなかった。」

恥ずかしがるカルマ君に私はおいうちをかけるように言った。

「一方綾崎君は…そんな慢心をする事なく、成績を上げるために日々努力する事を怠らなかった結果…暗殺においても賭けにおいても大きく貢献することが出来た。

覚えておいてください…殺るべき時に殺るべき事を殺れない者は…この暗殺教室では存在感を無くしていくということを…。」

 

 

 

───刃を研ぐことを怠った君はもはや暗殺者ではなく…錆びた刃を自慢気に掲げるだけのただのガキです。

 

 

 

私がそう言いきった後…カルマ君は舌打ちをし、自身の頭の上に乗せられていた私の触手を払いのけると教室へと戻っていった。

と、そこに───

 

 

 

「いいのか…あそこまで言って。」

私の話を聞いていたのか、烏間先生が心配そうな表情でそう聞いてきた。

「ヌルフフフ…立ち直りが早い方向に挫折させましたのでご心配なく。

力有る者というのはえてして未熟者です。

彼のように多くの才能に恵まれた者は…たとえ本気でなくても勝ち続けてしまうが故に“本当の勝負”というものを知らずに育っていく危険がある。

大きな才能というものは…“負ける悔しさ”というものを早めに知っておく事で大きく伸びる傾向にあります。

逆に…このE組に来る前の綾崎君のように才能に恵まれながらも、環境に恵まれず腐らせてしまう場合もある。

テストとは…それらの存在を正しく教えるチャンスなのです。」

 

 

 

勝つ事と負ける事の意味…それは───

 

 

 

私が最後まで気付く事の出来なかった───

 

 

 

とても大事な事なのだから…。

 

 

 

▷ハヤテside

 

「さて…皆さん素晴らしい成績でした。」

教室に戻ってきた殺せんせーが教卓に立ち、そう言ってくる。

 

 

 

「では早速暗殺の方を始めましょうか。

今回の期末テスト…5教科プラス総合で皆さんが取れたトップは4つ…それぞれのトップ4人はどうぞご自由に。」

 

 

 

と、殺せんせーが言ったその時───

 

 

 

「おい待てよタコ…5教科トップは4人じゃねーぞ。」

実は触手を4本失ったとしても余裕なのか顔を緑とオレンジの縞模様にした殺せんせーに寺坂君がそう言い放った。

 

 

 

さあ…作戦の開始だ。

 

 

 

「…?

4人ですよ寺坂君。

国・英・社・理・数全て合わせて…「はァ?アホ抜かせ。」」

寺坂君が殺せんせーの言葉を遮りながら答案用紙を5つ教卓に叩きつけた。

その答案用紙とは───

 

 

 

「5教科っつったら国・英・社・理…あと“家”だろ。」

 

 

 

寺坂竜馬 家庭科100点 学年一位

吉田大成 家庭科100点 学年一位

村松拓哉 家庭科100点 学年一位

狭間綺羅々 家庭科100点 学年一位

綾崎颯 家庭科100点 学年一位

 

 

 

家庭科のものだった。

 

 

 

「か…家庭科~~~~!?」

これにはさすがの殺せんせーも予想していなかったようで、声をあげて驚いていた。

「ちょ待って!!

家庭科のテストなんて“ついで”でしょ!?

こんなの“だけ”何本気で100点取ってるんですか君達は!!」

「誰も“どの”5教科かなんて言ってねーし…ハヤテの答案もあるんだから“だけ”じゃねーぞ。」

「にゅやー!!

綾崎君もグルだったんですかー!!」

寺坂君の言葉を受け、殺せんせーが僕に向かってそう言ってきた。

「ええ。

寺坂君から殺せんせーに一泡吹かせるのを手伝え、と言われまして…。

それに、殺せんせーが一人につき何教科とも言っていなかったので一日目の全部で一位を目指してみました。

…達成出来たのは国語だけでしたけどね…。」

もちろん、数学も作戦がバレないように“ほぼ”全力でテストを受けた。

 

 

 

綾崎颯 数学91点 学年10位

    総合460点 学年15位

 

 

 

「ついでとかさぁ…5教科の中で最強とか言われる家庭科さんに失礼じゃね、殺せんせー?」

普段の調子を取り戻したらしいカルマ君が、殺せんせーにそう言い放った。

 

 

 

「約束守れよ殺せんせー!!」

「一番重要な家庭科さんで5人がトップ!!

破壊出来る触手は…合計9本!!」

9本もの触手が破壊されるとあって、さっきまで余裕そうだった殺せんせーの顔がみるみるうちに青ざめた。

 

 

 

「それと殺せんせー…これは皆で相談したんですが───」

青ざめる殺せんせーに、磯貝君がさっき殺せんせーが教室から出て行った後で皆で話し合ったことを言った。

 

 

 

「この暗殺に…今回の賭けの“戦利品”も使わせてもらいます。」




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Q.あなたにとっての「○○の秋」を教えてください。

A.食欲の秋
普段から結構食べるけど…。



次回もお楽しみに!!


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第59話 終業の時間・1学期

最近、なぜか寺坂のセリフをオリジナルで書こうとしたら雰囲気が某プロテインの貴公子っぽくなる事案が発生しています。
本当…どうしてでしょう?



この作品ではテストが返ってきた次の日に終業式がある(1学期の)ことにしています。



それでは、本編スタート!!


▷ハヤテside

 

期末テストが返ってきた次の日───

 

 

 

今日はテスト返却ともう一つ、1学期最後の行事…終業式がある。

 

 

 

そのため、僕達は皆本校舎にある体育館まで来ていた。

 

 

 

だが、まだやるべき事が残っていた僕達は体育館に入らず、これから来るであろう人物を待っていた。

 

 

 

そして───

 

 

 

待っていた人物…浅野君がやってきた。

「おお~…やっと来たぜ、生徒会長サマがよ。」

それを見た寺坂君が不適に笑いながらそう言った。

「何か用かな?

式の準備があるからな…悪いが、君達E組に構う暇なんて無いんだ。」

だが浅野君は、それを気にもとめないかのように素通りしようとする。

 

 

 

だが───

 

 

 

「おーう待て待て…何か忘れてんじゃねーのか?」

寺坂君がそう言いながら浅野君の肩を掴んでその動きを止めた。

「浅野。

賭けてたよな…より多く5教科トップを取ったクラスが負けたクラスにどんな事でも一つ要求出来るってな。

俺達からの要求はさっきメールで送信したけど…あれで構わないな?」

それを見計らったかのように磯貝君が一歩前に出て浅野君にそう言った。

「5教科での賭けを持ち出してきたのはテメェらだ…まさか負けたからって“あれは冗談でした”なんて言わねぇよなぁ…?

何ならよ…5教科の中に家庭科とか入れてもいいんだぜ。

ま、それでも勝つけどな。」

主要5教科以外の科目は受験に使われないため出題される問題は教科担任の好みに合わせられる事が多い。

そのため…ある意味では僕達E組にとって主要5教科よりも学年一位になるのは難しい。

なので…その家庭科でも負けている、と暗に言っている寺坂君に浅野君はさっきまでより悔しそうな表情をすると───

「…構わない。

君達の好きなようにすればいいさ。」

そう言って今度こそ僕達のもとから去っていった。

 

 

 

~~~~

 

「珍しいなカルマ。

お前が全校集会に来るなんてさ。」

僕の前から磯貝君がカルマ君にそう話しかける声が聞こえてきた。

「だってさ、今フケると…逃げてるみたいでなんか嫌だし…。」

それに答えるようにカルマ君はそう言った。

ちなみに…僕は今、クラス列の前の方にいる。

5月の全校集会では列の最後尾にいた僕だったが、6月の全校集会の時に吉田君や矢田さんに““綾崎”、なんだから最後尾にいるのはおかしい”、言われ(他の人達もそれに同意)この位置に移動となった。

 

 

 

そして、終業式が始まった。

だが───

 

 

 

{『えー…夏休みだからと言っても怠けて…E組のようにならないように…。』}

校長先生がいつものようにE組いじりをする。

いつもならここで本校舎の生徒達が大笑いするところだが…今回ばかりは誰一人笑いもせず、ただ静まり返るだけだった。

悪い見本のはずのE組がいい見本のはずのA組とトップ争いをして勝ったのだから当然だろう。

ヒナギクさんがE組にいることも理由の一つかもしれないが…。

 

 

 

だから、殺せんせーの力がなくても…僕達は前を向いてこの終業式に参列することが出来た。

 

 

 

~~~~

 

「…何これ。」

終業式も終わり、教室へと戻ってた僕達に殺せんせーが渡してきた物を見てヒナギクさんがそう呟いた。

「ヒナギクさんは知りませんでしたね。

これはE組恒例…“過剰しおり”です。」

「普通しおりってコピー用紙数枚程度じゃないの…?」

「まぁ、殺せんせー過保護ですから…。」

「それでも限度って言うものがあるでしょ…。」

ヒナギクさんの言いたいことは分からなくもない。

こんなアコーディオンみたいな厚さの冊子をしおりと呼んでいいはずがないだろう。

だが…それで実際に危機を乗り越えたことがあったのだから何とも言えないわけで…。

 

 

 

「さて、これより夏休みに入るわけですが…皆さんにはメインイベントがありますねぇ。」

しおりを配り終えたところで、教卓に手(触手?)を置いた殺せんせーが僕達に向かってそう言った。

殺せんせーが言ったメインイベントとは、A組との賭けで手に入れた沖縄の離島リゾートでの2泊3日の夏期講習…と、いう名の国内旅行のことだろう。

これは、本来ならば成績優秀クラス…つまりA組に与えられるはずだった特典だが…今回の期末テストのトップ50のほとんどがA組とE組が独占している。

なので、僕達がもらっても何もおかしくはないだろう。

 

 

 

「君達の要望だと…先生の触手を破壊する権利をこの教室で使わず…離島にいる間に行使する、という事でしたね。

触手9本の大ハンデでも満足せず…四方を水で囲まれたこの島も使い、万全に貪欲に先生の命を狙う…。

正直に認めましょう…君達は侮れない生徒になった。」

そう言いながら、殺せんせーは懐から紙の束を取り出した。

「親御さんに見せる通知表は先ほど渡しました。

なのでこれは…ターゲットである先生から暗殺者である君達への通知表です。」

そう言って手(触手?)に持った紙を教室全体に降りそそぐように投げた。

そこに書かれていたのは…殺せんせーの顔と、大きな二重丸だった。

ターゲットからのこれはとても嬉しい評価だった。

 

 

 

「ヌルフフフ。

一学期で培った基礎を存分に活かし、夏休みも沢山遊び、沢山学び…そして沢山殺しましょう。

暗殺教室の基礎の一学期…これにて終業!!」




次回もお楽しみに!!


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第60話 いきものの時間

まさか…前回の投稿から一週間以上間が開くとは…。



待たせてしまってすみません!!



書き忘れてましたが…今回で7月編終わりです。
次回から8月編です。



それでは、本編スタート!!


▷渚side

 

夏休みが始まって一週間───

 

 

 

学校から解き放たれて完全にフリーダムな状態になれた…と、そう思っていたが───

 

 

 

「ねぇ杉野、なんで僕達学校に来てるのかな。

しかもこんな早朝に…。」

「いやぁ…いい歳してみんなの前で昆虫採集とか恥ずかしいだろ?

俺、街育ちだからさ…こういうのに憧れてたんだ。」

木の幹から出ていた樹液を舐めていたクワガタを捕まえた杉野がそう言ってきた。

昆虫採集がしたいから、と誘われ僕はE組のある山に来ていた。

確かに…それは、緑に囲まれたこの場所でしか出来ないことだ。

本来ならば忌み嫌うべき場所だったはずなのに…いつの間にかこんなにも居心地のいい場所になっていた。

 

 

 

「ところで渚、メールした時、ハヤテ呼ぶって言ってたけど…どうなったんだ?」

「あー…いちおう呼んだんだけどさ、“先約があるから”って断られちゃって…。」

そう言いながら、ハヤテ君から返ってきたメールの文面を杉野に見せた。

「なんか…絵文字多い上に長ぇな…。」

「あ、杉野もそう思う…?」

メールを見た杉野がそんな感想を漏らした。

無理もない。

僕だって、このメールを初めて見たときはびっくりしたのだから…。

「ま、何にせよ先約があるなら仕方ねーか…。

でもよ…前原が来るとは意外だったな。

こんな遊びに興味なんて無いと思ってたからさ。」

杉野は、ハヤテ君が来れない理由に納得したようにそう言うと、今度は前原君にそう言った。

実際のところ、僕もずっと杉野と同じ事を考えていた。

昆虫採集なんて子供っぽいからやらない、と前原君は言うだろう…そう思っていたのに僕達についてきたのは意外だった。

 

 

 

───と、そんな疑問に答えるように前原君が口を開いた。

「お前らがどう思ってようが構わねーけどよ…俺は俺で目的があるからついてきたんだよ。」

「目的?」

「おうよ。

次の暗殺は南国のリゾート島でやるわけじゃん。

そしたらよ…何か足りねーと思わねーか?」

「「…?」」

前原君の言っている事が理解出来ず、僕と杉野が揃って首を傾げていると、前原君は大きく息を吸い込み…───

 

 

 

「金さ!!

水着で泳ぐ綺麗なちゃんねーを落とすためには財力が不可欠!!」

大声でそう叫んだ。

「こんなノコギリクワガタとかじゃダメだろうけど…オオクワガタとかはけっこういい値段するらしいじゃん?

そういうのをネットオークションとかに出して大儲けするんだよ。

んでもって最低でも高級ディナー代とご休憩場所の予算までは確保してやるぜ!!」

「なんか…前原らしくて安心したところもあるけどよ…旅の目的忘れてねーか?」

「…うん。

とても15歳の旅行プランとは思えないよね。」

背を向けて走り出した前原君を見ながら、僕と杉野はそう言い合った。

もしかしたらこれ…ハヤテ君は来なくて正解だったんじゃないかな…と思う。

 

 

 

と、そこに───

「はたして…そう上手く行きますかね?」

「ダメダメ~。

オオクワはもう古いよ~。」

木の上から前原君に向けて二人分の声がかけられた。

 

 

 

て、あれ…?

今前原君に声をかけたうちの片方…先約があるからって断られた気がするんだけど…。

そう思いながら、声がした方を見るとそこには───

 

 

 

「おは~。

皆もおこづかい稼ぎに来たんだねっ。」

木の枝に腰掛け、朗らかに笑う倉橋さんと…その隣の枝で僕と杉野に向けて申しわけなさそうな顔をするハヤテ君がいた。

「ハヤテ君もいたんだ…。

というか…メールで言ってた先約って倉橋さんのことだったの?」

「その通りですね。

一昨日のお昼くらいにメールをいただきまして、以前の埋め合わせの件もありますし…その時から今日まで手伝わせてもらっています。」

木の上で立ったままハヤテ君がそう答えた。

なるほど…だったら断られてもしょうがないけど───

「埋め合わせって、1ヶ月ぐらい前のあれか…。」

ハヤテ君からの返答に前原君がツッコんだ。

埋め合わせというのは、律がE組に来た次の日のアレの事だろう。

ハヤテ君…大人気だったからしょうがないだろうけど…埋め合わせの方を優先しようよ…。

 

 

 

「まあ、ハヤテのことは置いとくとして…オオクワガタが古いってのはどういうことなんだ、倉橋?」

ハヤテ君の事から話を逸らそうと、杉野が倉橋さんにさっきの発言がどういうことなのかと問いかける。

「んっとね~。

確かに、私たちが生まれた頃はすごい値段だったらしいけどね…今は人工繁殖法が確立されちゃって、大量に出回りすぎたから値崩れしちゃったんだって。」

「ま…まさかのクワ大暴落かよ…。

俺てっきり1クワガタ=1ちゃんねーぐらいの相場だと思ってたのに…。」

「ないない。

今はちゃんねーの方が高いと思うよ~。」

「まあ…今の相場だとだいたい5千円くらいですからね。」

オオクワガタの相場が下がっていたことにガッカリしたような表情の前原君をよそに僕達は倉橋さんの説明に感心するしかなかった。

生き物に関する事ではハヤテ君と休み時間中ずっと語り合ってまだネタが残ってるだけはある。

 

 

 

そんな中、落ち込んでいた前原君に───

「もし、一獲千金を狙っているのでしたら…オオクワガタとは違って人工での繁殖が未だ確立していないミヤマクワガタの方がいいですよ。」

ハヤテ君がそんなアドバイスを送っていた。

「ちなみに…相場だといくらぐらいなんだ?」

「そうですね~。

サイズにもよりますが…2万はする事もありますね。」

『2万!?』

ハヤテ君の口から出てきた額に直接向けられた前原君だけではなく、僕と杉野も驚いた。

「せっかくだし多人数で数揃えるのが確実だから、皆で捕まえよっ!!」

───と、そこに…倉橋さんがそんな提案がをしてきた。

断る理由もなかったし…僕達はそのまま倉橋さんについていくことにした。

 

 

 

~~~~

 

二人についていった先には木に吊され、中に何か入れているのかパンパンに膨らんだストッキングに群がるカブトムシやカナブンがいた。

「昨日の夜につけておいたお手製のトラップです。

バナナやパイナップルに焼酎をかけて1日~2日置いて発酵させるんです。

虫取りのトラップとしては効果的ですよ。」

「へぇ~…これ、お前らが仕掛けておいたのか。」

ハヤテ君からの説明に、杉野が感心したように言った。

「ハヤテちゃんがいてくれて助かったよ~。

あと40ヶ所ぐらい仕掛けたから…上手くいけばけっこう稼げると思うよ~。

探してたアレが来てるといいな~。」

倉橋さんがそう言いながら歩き出したその時───

 

 

 

「フッフッフッ…ずいぶんと効率の悪いトラップだな。

それでもお前らE組か!!」

木の上から声が聞こえてきた。

嫌な予感がする中、声がした方を見るとそこには…やはりというべきか、岡島君がいた。

「ちまちまと千円単位で稼いでる場合かよ。

ついてこいよ。

俺がトラップで狙うのは…当然百億円だ!!」

岡島君は手に持っている本の表紙を見て、すぐ顔を真っ赤にして背けたハヤテ君以外の視線が自分に集まったことを確認すると、僕達に向けて自信満々にそう言ってきた。

 

 

 

岡島君が仕掛けたトラップ───

 

 

 

嫌な予感しかしないが…岡島君の自信に満ちた顔に興味が出てきた僕達は、岡島君の後について行った。

 

 

 

~~~~

 

「ねぇ岡島君。

さっき言ってた百億って…まさかとは思うけど───」

「そのまさかだ。」

トラップを仕掛けたという位置まで行く道中、僕は思いきって岡島君に聞くと、返ってきたのはそんな返答だった。

「南の島で暗殺を実行する予定だから…さすがの殺せんせーでも、それまでの間の暗殺は無いと油断するはずだと思ってな…俺はそこを狙ったんだ。」

岡島君がそう言いながら指差す方を見ると、そこには───

 

 

 

「にゅや~。」

 

 

 

カブトムシのコスプレのような服を着た殺せんせーが、そこら中に散乱した○○本を顔をピンクにして読みふけっていた。

「クックックッ…かかってるかかってる。

俺の仕掛けた○○本トラップに…。」

スピード自慢の殺せんせーが一切動くことなく読みふけるとは…よほど好みだったんだろうなぁ…。

なお、その光景を目にしたハヤテ君は…例のごとく顔を真っ赤にして明後日の方を向いていた。

「この一ヶ月間ずっと観察してたんだ。

ずいぶん苦労したぜ…あいつ好みの絵柄やシチュエーションを研究するのはよ…。

知っての通り俺は○○い…。

だがな…そんな俺だからこそ知ってることってのがあるんだ。

例えば、○○で…世界が救えるってこととかな…。」

その行動も言葉も…○○が関わっていなかったらカッコいいのに…。

あぁもう…片岡さんでも桂さんでもいいから誰か岡島君を止められる人を呼んできて…。

 

 

 

その時───

突然、殺せんせーの目が飛び出した。

岡島君も見たことが無かったのか、戸惑い始めた。

だが、次の瞬間…殺せんせーはマッハで触手を伸ばした。

 

 

 

「ヌルフフフ…見つけましたよ。

ミヤマクワガタ…しかもこの目の色!!」

殺せんせーのその言葉に反応したのは、倉橋さんとハヤテ君だった。

「「白(なの/なんですか)、殺せんせー!?」」

二人は茂みから飛び出すと…そう言いながら殺せんせーに駆け寄っていき…何が嬉しかったのか、エロ本の上で飛び跳ね始めた。

しばらくして…自分の下にあるものを認識して我に返った殺せんせーとハヤテ君はそれぞれ殺せんせーは恥ずかしそうに顔を手(触手)で覆い、ハヤテ君はまた顔を真っ赤にして背けた。

 

 

 

~~~~

 

「面目ない…。

教師としてあるまじき姿を君たちに見せてしまいました…。」

岡島君の暗殺は失敗したと判断し、茂みから出てきた僕達に殺せんせーはそう言ってきた。

「本の下に罠があるのは知っていましたが…どんどん先生好みになっていたので、つい誘惑に耐えきれず…。」

どうやら…岡島君の仕掛けたトラップはすんなりバレてたようだ。

これは…倉橋さんとハヤテ君が出て行かなくても失敗していたのかもしれないな…。

「さっきハヤテが言ってたよな…ミヤマクワガタはサイズによっては2万はいくこともあるって…。」

バレていたことが発覚したことでもうそっちに興味を無くしたのか、杉野が話題をミヤマクワガタへと変えた。

「通常の個体ではこのサイズで2万円はいきますが…この個体の価値は2万どころの話ではありませんよ。」

杉野の呟きに対するハヤテ君の返答に殺せんせーと倉橋さんを除くその場にいた皆がどういうことだろう、と思っていると、殺せんせーが口を開いた。

「このミヤマクワガタの目をよーく見てください。

本来なら黒いはずですが…この個体の目は白いでしょう?

以前、生物の授業でごく稀に全身真っ白で生まれてくる“アルビノ個体”について教えましたが…クワガタの場合、目だけが白くなります。

これは“ホワイトアイ”と呼ばれており…天然のミヤマクワガタのホワイトアイはとんでもなく希少です。」

なるほど…二人が飛び出していったのは、ものすごいレアなクワガタだったからなのか…。

「学術的な価値もあります。

売れば数十万はくだらないでしょう。」

『すっ…!!』

その価格に…僕達は息をのんだ。

そのミヤマクワガタを受け取った倉橋さんは、僕達に向かって───

 

 

 

「ゲスな皆~…これ、欲しい人手ー上げて♪」

『欲しい!!』

ハヤテ君以外の皆がそう言い、倉橋さんの持つミヤマクワガタを巡っての鬼ごっこになった。

 

 

 

▷三人称side

 

ハヤテ達が虫取りをしていた日の夜───

 

 

 

白皇学院の理事長室で、月を見上げる少女がいた…。

 

 

 

少女は、目に涙を浮かべながら───

 

 

 

「ハヤテ…。」

 

 

 

寂しそうに、そう呟くだけだった。




arosのサンデーの目次コメントに漫画家でもないのに答えてみた


Q.どんな動物でも飼えるとすれば、何を飼いたいですか?


A.猫
家にすでに三匹いるけど、猫好きだから。


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第61話 デートの時間

オリジナル回を多めに入れることを考えている8月編。
初っ端からオリジナル回です。



本当なら、いきものの時間の後は原作通り策謀の時間にしようとしていたのですが…矢田の誕生日が8月1日なので、急遽この話を入れることにしました。
矢田の誕生日を祝うのを策謀の時間でやると、長くなると思ったから、というのもありますがね…。



原作に駅前の描写が無いので、勝手にオブジェがある設定にしています。



それでは、本編スタート!!


▷桃花side

 

8月1日 9時47分───

 

 

 

私は今、椚ヶ丘駅の改札を通り、北口前の広場に向かって進んでいる。

 

 

 

実は昨日、綾崎君からデートのお誘いがあったのだ。

10時からとは言われたが…誕生日に、しかも“あの”綾崎君からのお誘いというのが嬉しくて、少し早く来てしまったのだ。

 

 

 

駅前広場に着いて、待ち合わせ場所に指定されていたオブジェを見てみるとそこには───

 

 

 

オブジェを背に直立する綾崎君の姿があった。

「お待たせ、綾崎君!!」

「いえ…僕も今来たところなので大丈夫ですよ。」

早く来たつもりだったけど待たせちゃったかな…と、思ったのでそう言いながら近づくと、返ってきたのはそんな言葉だった。

綾崎君の性格からして…呼び出した本人が遅刻するのは良くないと思い、早く来ていたんだろうが…私に気を使わせないようにあえてそういったんだろうなぁ…。

 

 

 

「予定していた時刻までまだ時間がありますが…行きましょうか。」

 

 

 

綾崎君のその言葉で、私達2人のデートは始まった。

 

 

 

「ヌルフフフ…。」

私達の背後に…人間に変装した殺せんせーがいることにも気付かずに───

 

 

 

▷ハヤテside

 

駅前から移動すること15分…僕達は、シャルモンという洋菓子店に来ていた。

「いらっしゃいませ。

お席の方にご案内させていただきます。」

店内に入ると、メガネをかけた店員が僕達に対応してきた。

 

 

 

「このお店、綾崎君と来たの久しぶりだね。」

案内された席に座り、店員さん矢田さんがそう切り出してきた。

実は、球技大会の前にも矢田さんとこの洋菓子店に来ていたのだ。

なので───

「ええ…そうですね。

あの時矢田さんから一口いただいたケーキ、おいしかったですよ。」

僕がそう笑顔で返すと、矢田さんは頬を赤く染めうつむいた。

 

 

 

「さて…そろそろケーキの方を選びましょうか。」

「そ、そうだね…。」

 

 

 

その後…僕はメロンのケーキを、矢田さんはフルーツタルトを注文した。

 

 

 

~~~~

 

 

 

「ご注文の品は以上で揃いましたでしょうか。

では…ごゆっくりお楽しみくださいませ。」

店員が僕達のテーブルに2つのケーキを置いた。

 

 

 

※作者自身が食レポにむいてないので、食べているシーンや味の詳しい感想は、読者の想像に任せます。

 

 

 

~~~~

 

 

 

「───で…それがね───」

「あ、そうだったんですか…。

僕はてっきり───」

ケーキを食べ終わり、追加で注文した飲み物(僕はアイスコーヒー、矢田さんはアイスレモンティー)が来るまでの間、他愛もない世間話に花を咲かせていたその時───

「矢田さん、ちょっと失礼しますね…。」

あることに気づいた僕は、矢田さんの座っている椅子の横で矢田さんの目線になるまでかがむと、その頬に僕の左手を当てた。

 

 

 

「え、ちょっ、綾崎君!?

そういうのはまだ早いっていうか…ここでは人が多いっていうか…。」

その途端…矢田さんが目を白黒させながら顔を真っ赤にして慌てたような声音でそう言ってきた。

何のことか僕には分からなかったが…とりあえず、右手を矢田さんの口元まで持って行き───

 

 

 

───そこについていたフルーツソースを指で掬い取った。

 

 

 

「え…?」

さっきまで慌てていたのが嘘かのように、矢田さんは目を点にして、そんな素っ頓狂な声を上げた。

「はい。

口元にソースがついてましたよ。」

僕はそう言いながら、指についたソースを舐めた。

「な、なんだ…そういうことだったんだ~。

私、てっきり…。」

僕の一言で我に返った矢田さんは頬を赤く染め、そう言った。

 

 

 

てっきり…?

あ…!!

そういうことか…確かに、あの姿勢だとキスをしようとしているようにも見えなくもない。

 

 

 

それに気づいた僕も…顔を赤くして、うつむいた。

 

 

 

と、そこに───

「あの~、お客様。

お飲み物をお持ちいたしました…。」

僕達が注文した飲み物を持って、店員がやってきた。

「ほ…ほら綾崎君!

飲み物来たよ!!」

「そ…そうですね!!」

 

 

 

気まずくなった僕達は、それぞれの飲み物を飲み終えると、会計してそのまま足早に店を後にした。

 

 

 

その途中───

「綾崎君、ありがとうね。」

矢田さんが僕の方を見ながら、笑顔でそう言ってきた。

 

 

 

今日は、矢田さんの誕生日。

 

 

 

そんな日に、矢田さんのこの笑顔が見れたのなら…誘ったかいがあったというものだ。




arosのサンデーの目次コメントに漫画家でもないのに答えてみた

Q.子供の頃は食べられなかったけど、今は好きな食べ物はありますか?



A.親の話だと、離乳食を食べ出した頃から幼稚園児くらいまでの間のどこかでナスとトマトが嫌いだったそうです。
今は、ドライフルーツ以外で好き嫌いはほとんどありません。
※ドライフルーツが嫌いな理由:甘ったるいから



次回もお楽しみに!!


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第62話 策謀の時間

先に言っておきます。
この8月編の途中で、タグを一つ追加します。
そのタグのヒントは今回の話の中にあります。



さて、そんなことはどうでもいいとしまして───



鶏猿蛇さん、誤字報告ありがとうございました。
今後も、文章中で気になることがあれば容赦なくお願いします。



心理描写で烏間先生がロヴロを呼び捨てにしているのは、12巻で心理描写内で烏間先生が呼び捨てにしていたからです。



それでは、本編スタート!!


▷ハヤテside

 

矢田さんとのデートの次の日───

 

 

 

南の島での暗殺旅行まで後一週間と迫った今日…僕達は、その計画の最終調整と暗殺の訓練のために学校へと集まっていたのだが───

 

 

 

「───仮にもこの教室にいる間は教師なんですから、もっと生徒のお手本になるような行動をしてください!!」

 

 

 

なぜか…イリーナ先生へのヒナギクさんの説教が開始されていた。

 

 

 

なぜこうなったのか…。

それは…計画の調整が終わり、南の島での暗殺に向けて訓練を始めた時まで遡る。

 

 

 

~~ここからは回想となります~~

 

 

 

僕達が、殺せんせーを模した風船での射撃訓練をしている一方で───

 

 

 

「まぁまぁガキ共…汗水流してご苦労様ねぇ…。」

ただ一人、イリーナ先生だけは訓練に参加しようという気を見せようとしていなかった。

今まで、ハニートラップでターゲットを殺してきたイリーナ先生にとって、退屈でしかないのだろう。

 

 

 

だが───

 

 

 

「イリーナ先生~?」

 

 

 

その態度が、ヒナギクさんの逆鱗に触れた。

 

 

 

~~回想終了~~

 

 

 

そして…今に至る、ということだ。

 

 

 

「どんなにすごい力を持っていたとしても…ちょっとでも鍛練を怠ったら、いざという時に全力を出せなくなりますよ!!」

「そのお嬢ちゃんの言うとおりだ…イリーナ。」

突如、イリーナ先生の背後からそんな声が聞こえてきた。

イリーナ先生がおそるおそる振り向くと、そこには───

 

 

 

以前、イリーナ先生と模擬暗殺を行った殺し屋屋ロヴロさんがそこにいた。

 

 

 

▷惟臣side

 

「1日休めば指や腕は殺しを忘れる…落第が嫌ならさっさと着替えろ!」

「ヘ…ヘイ喜んで!!」

暗殺者としての自身の師匠であるロヴロにそう怒鳴られ、イリーナが動きやすい格好に着替えるため校舎へとかけていった。

今回の作戦にプロの視点から助言を貰えれば…そう思い特別講師として来てもらったのだが…こんな形で役に立つとは思っていなかった。

 

 

 

と、そこに───

「あの~烏間先生、あの人は誰なんですか…?」

桂さんが俺の下に来ると、そう聞いてきた。

言われてみれば…桂さんは一学期終了間際からの参加なので彼の事を知らなくて当然だろう。

「あぁ…桂さんは会ったことがなかったな。

彼はロヴロ・ブロフスキという殺し屋の斡旋業を営む男でな…。

イリーナも彼の下で育った殺し屋の一人だ。」

俺がそう言うと桂さんは納得した、という表情をした後、生徒達の輪に戻っていった。

と、ちょうどその時───

「それで…殺センセーはこの特訓を絶対に見ていないのだな?」

「ああ。

兼ねてからの予告通りエベレストで避暑中だ。」

ヤツが今何をしているかをロヴロが聞いてきた。

この場にいないことは、ヤツの動向を俺の部下が見張っているためそう断言させてもらうと、作戦の機密保持こそ暗殺の要だから良し、とロヴロが言ってきた。

 

 

 

「ロヴロさんって殺し屋の斡旋業者なんですよね?

今回の暗殺にも誰か送ってくるんですか…?」

疑問に思ったのか、岡野さんがロヴロにそう聞いた。

「いいや。

今回はプロは送らん。

…というより送れんのだ。

殺センセーは臭いに敏感…特に部外者の臭いを嗅ぎ分けるため、君達の知らない所で送った殺し屋の誰もが悉く失敗してきた。

その際、プロ特有の強い殺気を臭いごと覚えられ…二回目からは教室にすら辿り着くことさえ出来なかった…つまり、一度使った殺し屋をもう一度使う事は極めて難しいということだ。」

だが、ロヴロは悔しそうな表情でそう返すだけだった。

「その上、困ったことも重なってな…。

俺が持つ残りの殺し屋で有望だった殺し屋4名と…何故かは分からないが、突然連絡がつかなくなってしまったのだ。

という訳で、今現在俺が斡旋出来る殺し屋はいないため、ここは慣れ親しんだ君達に殺してもらうのが一番だろうと、そう判断した。」

ロヴロは重ねてそう言ってきた。

 

 

 

連絡がつかなくなった殺し屋達、か───

 

 

 

嫌な予感しかしないな…。

 

 

 

~~~~

 

 

 

「ふむ…先に9本の触手を破壊し、間髪入れずクラス全員で攻撃して奴を仕留める作戦か…。

それは分かるのだが…一番最初の“精神攻撃”というのは何だ?」

俺が渡した島での暗殺の計画書を見ながら、ロヴロがそう生徒達に聞いた。

「まず動揺させて動きを落とすんです。

殺せんせー、殺気を伴わない攻撃にはもろいとこあるから。」

その問いに渚君がそう答えると同時、近くにいた生徒がロヴロの方に視線を集めた。

 

 

 

「この前さ…殺せんせー、○○本拾い読みしてたんすよ。」

ロヴロに向かって、前原君がそう言い出した。

 

 

 

…ヤツに、教師としての自覚があるのだろうか…その話を初めて聞いた時、そう考えてしまった俺はおかしくないはずだ…。

 

 

 

「“クラスの皆には言わないで”ってアイス1本配られたけど…今時アイスなんかで口止め出来るわけねーだろ!!」

『クラス全員でさんざんにいびってやるぜ!!』

前原君の言葉に続く形で、寺坂君達がそう叫んだ。

しかも、そんな黒歴史モノのネタがまだ沢山あるらしく、それを使って精神的に追い込んでいく予定だそうだ。

「…残酷な暗殺法だ。」

さすがのロヴロでもこんな暗殺を見たことがなかったのか若干引いたような表情をしていた。

「…で、肝心なのはとどめとなる最後の射撃だが…これには正確なタイミングと精密な狙いが必要不可欠だが…」

「…不安か?

このクラスの射撃能力は。」

が、すぐに表情を戻すと計画書に目を落としそう言ったので、不安な点があるのではないかと思い聞いた。

「いいや、逆だ。」

ロヴロは射撃訓練をしている集団の方を向き───

 

 

 

「特に…あの3人は素晴らしい。」

綾崎君、千葉君、速水さんの3人を見ながらそう言った。

「…そうだろう。

千葉君は空間計算に長けているため、綾崎君以外で遠距離射撃で並ぶものの無いスナイパー、速水さんは手先の正確さと胴体視力のバランスがいいため、動く標的を仕留める事に優れたソルジャー、この2人はどちらも主張が強いわけではない…結果で語る仕事人タイプの人間だ。

綾崎君の場合、自身が不幸体質なためか訓練での成績はクラスの中間地点となっているが…ロクでなしの両親を持ったが故か…それを補って余りある高い戦闘スキルがあり、先ほどの2人も彼を参考にする事があるほどだ。

まあ今回、彼には別の役割があるがな。」

「ほう…俺の教え子に欲しい人材だな。

一人、躊躇うことになりそうだがな…。」

俺の説明に苦笑いしながらロヴロがそう言った。

 

 

 

「それだけではない…彼ら以外の者も良いレベルに纏まってきている。

4月から今日までの短期間でよくここまで育てたものだ。

この作戦に合格点を与えよう…彼らなら、十分に可能性がある。」

 

 

 

生徒達の訓練を見ていたロヴロは、そう締めくくった。

 

 

 

▷ヒナギクside

 

「なかなか当たらないわねぇ…。」

「まあ、桂さんは最近始めたばかりですから…。

むしろ…最初から何でも出来る方が異常なんじゃないかな…。」

射撃訓練中、あまり的に弾が当たらないことに落ち込んでいた私に西沢さんがそう言ってきた。

 

 

 

そうだ。

いい機会だし…前から気になっていた事を聞いてみようかな。

 

 

 

「ねぇ、西沢さん。」

「…?

どうかしました、桂さん?」

「ハヤテ君のご両親って…どんな仕事をしてるの?」

 

 

 

私のその質問に、西沢さんは目を丸くすると───

 

 

 

「あー桂さんは知らないんでしたね…。

ハヤテ君の両親、ハヤテ君に一億五千万の借金を押しつけて…いなくなっちゃったんですよ。」

 

 

 

そう言った。

え…?

じゃあ…5月の全校集会で初めてハヤテ君を見たときに感じたのは間違ってなかったということだったの!?

「学費の方は烏間先生が負担してくれているらしいので…って、桂さん…どうしました?」

「あ…な、なんでもない!!

は、話を変えるけど…私の事は“ヒナギク”って呼んで貰ってはいいかしら。

私も“歩”って呼ぶから。」

私がそう言うと、歩は笑顔で───

 

 

 

「はい!!

では…よろしくお願いします、ヒナさん!!」

真正面からそう言ってきた。

 

 

 

なぜ“さん”付け?

いじわる?




次回もお楽しみに!!


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第63話 夢の時間 二時間目

70000UA&お気に入り500突破!!
これからもよろしくお願いします!!



それと、誤字報告ありがとうございました。
この文章を書こうとした時、間違って削除のか一覧になかったので報告者の名前はわかりません。
すみません。



さて、今回の話ですが…オリジナル回というよりハヤテのごとく17巻第5話を渚視点で見たような感じです。



それでは、本編スタート!!


▷渚side

 

「渚君。」

南の島に向かう船の甲板で海を眺めていた僕にハヤテ君が話しかけてきた。

「こんなところに一人でいるなんて…どうしたんですか?」

「あ~…ちょっと海を眺めたいなと思ってね。

それと…今朝見た夢を思い出してたんだ。」

「へぇ~、どんな夢だったんですか?」

僕の夢の内容についてハヤテ君が聞いていた。

僕もちょうど聞きたい事があったし…ちょうどいいかな、そう思い口を開いた。

 

 

 

「あのさ「ハヤテ君、ちょっといいかしら?」…。」

その時、桂さんがハヤテ君に声をかけた。

「あ、ちょっと待っててくださいねヒナギクさん。

それで…どうしたんですか、渚君。」

「あぁやっぱりいいよ。

それより、桂さんの用件を聞いてあげた方がいいんじゃない?」

僕のそれにハヤテ君はしぶしぶという感じで桂さんとともに移動していった。

 

 

 

そして、僕は再び今朝見た夢の事を考え始めた。

 

 

 

~~回想(夢の内容)~~

 

 

 

気がつくと、幼稚園のような施設の中にいた。

 

 

 

『あれー!?

おっかしいぞー!?』

 

 

 

突然、そんな言葉が聞こえてきた。

何があったのだろう…そう思って辺りを見ると、幼稚園児くらいの子が給食費がなくなってる、と騒いでいた。

そして、それにつられるように周りの子もなくなってると言い出した。

そして、近くにいたハヤテ君と思しき青髪の子が犯人だと言い出した。

 

 

 

それにしても…給食費を盗んだ犯人だと真っ先に疑われるとは…。

しかも、先生ですら信じちゃってるし…。

 

 

 

ところで…この人達、僕の事を全く気にしてないように思うけど見えていないのだろうか…と、思っていた次の瞬間───

 

 

 

~~~~

 

 

 

───気がつくとそこは、夕日に染められた住宅街だった。

 

 

 

僕の目の前には、とても悲しそうな顔をしたハヤテ君が歩いていた。

おそらく…さっきの幼稚園での一件が理由だろう。

と…そんな時───

《どうしたんだいハヤテ君?》

僕の横を通り抜けハヤテ君に声をかける人がいた。

顔がぼやけているのと、声に強いエフェクトがかかっているが…その人がハヤテ君のお父さんらしい。

泣きながら、幼稚園で給食費を盗んだ犯人にされた事を話すハヤテ君にお父さんは、ハヤテ君が給食費を盗んでいないと言い出した。

ダメ人間だと聞いていたけど…実はいい人なんじゃ…そんな僕の期待は───

 

 

 

《ハヤテ君は盗ってない。

盗ったのは…父さんだ!!》

 

 

 

最悪の方向に裏切られた。

ハヤテ君も同じなのか、お父さんに背を向けて泣きながら走っていった。

 

 

 

それを見てハヤテ君を追いかけようと走り出したその時、再び場面が切り替わった。

 

 

 

~~~~

 

 

 

そこは…とても広い花園の中だった。

 

 

 

すでに立ち上がる気力も無いのか、倒れ込んだハヤテ君に手を差し伸べようとしたが、今回も近づけない。

 

 

 

『そうだよ…僕なんか…いっそこのまま死んでしまえばいいんだ。』

 

 

 

悲しそうにそう言うハヤテ君を見ているしか無いのかと思っていると───

 

 

 

『ダメよ。

そんな悲しい事を言っては…。』

突如現れた女の子がハヤテ君にそう語りかけた。

『な…なんだよ!!

誰だよ君は!!

僕の事なんか…なんにも知らないくせに!!

ほっといてよ!!』

だが、親に裏切られたハヤテ君にその言葉に耳を貸す余裕はなかった。

 

 

 

でも───

 

 

 

『…そうね。

確かに何も知らないわ。』

その子はなおもハヤテ君に語りかけた。

そして───

 

 

 

『けど、あなたの心がずっと…“助けて”って叫んでいる事だけは聞こえているわ。』

その言葉で、ついにハヤテ君は顔を上げた。

『だから…最後の勇気を振り絞って、自分の足で立ちなさい。

一人じゃ無理と言うのであれば、左手ぐらいなら私が貸してあげますから…。』

それで少しは立ち直れたのか、そう言いながら差し出された左手を掴んだハヤテ君は、ゆっくりと立ち上がった。

 

 

 

~~~~

 

 

 

『それで?

あなた名前は?』

その少女がハヤテ君に名前を聞いた。

そういえばこの二人、まだ自己紹介もしていないんだっけ。

『え?

ハヤテ…綾崎ハヤテ。』

『ふーん、なかなかいい名前じゃない。』

『えっと…君は?』

今度はハヤテ君から聞いた。

すると───

 

 

 

『アテネ。

天王洲アテネ。

この星で…最も偉大な女神の名前よ。』

 

 

 

彼女は自信満々にそう言った。

 

 

 

~~回想終了~~

 

 

 

そこで夢は終わっちゃったけど…夢の内容が濃すぎて忘れる事はないだろう。

 

 

 

だからこそ思う。

前にハヤテ君が言ってた幼稚園の頃の彼女ってもしかして、と───

 

 

 

▷○○○○side

 

「フフフ…情報通りこの島に来るみたいだなぁ…。

お前たち、頼んだぞ。」

雇い主が俺達に背を向けたままそう言った。

 

 

 

正直、やる気は起きないが…面白そうな奴がいるみたいだからな…そいつと戦えれば十分だ。

綾崎ハヤテというらしい青髪の男を見ながら、俺はニヤリと笑うのだった。




次回もお楽しみに!!


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第64話 島の時間

メリークリスマス!!
アーンド、ちょっと早いけどカルマ誕生日おめでとう!!
↑初の前書きでの誕生日おめでとう。



遅くなってしまってすみません。
リアルがマジで忙しかった上に、先週の火曜日に会社での忘年会があったので…執筆が遅くなりました。



それでは、本編スタート!!


▷ヒナギクside

 

 

 

「それで…どんな用件なんですか、ヒナギクさん。」

南の島へと向かう船の上、渚君の下から少し離れたところでハヤテ君がそう聞いてきた。

「歩から聞いたんだけど…ハヤテ君って、ご両親に借金を押しつけられたのよね?

その時…どう思ったの?」

ハヤテ君の方を向いた私は、前から気になっていた事について尋ねてみた。

「…えっと…、どうと言われましても…ヒドい親だな~ってだけですね。」

私の問いに、ハヤテ君はそんな答えを返してきた。

「自分達は働かずに、子供にばかりお金を稼がせてきたというのに…それをあっさり捨てるなんて親として最低だと…というか、それ以前に人間失格だと思うんですよね…。」

「…そっか。

もういいわ、ハヤテ君にとって気分のいいものではなないでしょうしね。」

本当なら…捨てられた事に理由があるのではないか、と聞こうとしたけど…ハヤテ君にばかりお金を稼がせていたと聞いて、そんな気分ではなくなってしまった。

 

 

 

「確かにこの教室に来た当初は思い出すだけでも嫌な気分になりましたけど…今は、思いを分かち合える仲間がいます。

だから…そんな過去があっても前を向けるんです。」

ハヤテ君もいい気分ではないだろう、そう思って向けた背にそんな言葉が飛んできた。

 

 

 

「強いのね、ハヤテ君。」

「そうですかね…では、暗殺頑張りましょう。」

私とハヤテ君はそう言い合うと、その場を後にした。

 

 

 

▷ハヤテside

 

青い空に白い雲、そして…水平線上に広がる青い海。

 

 

 

こういう船の上での平和な風景はいいなぁ…。

 

 

 

「にゅやぁ…。」

 

 

 

船酔いしてる殺せんせーがいなければ、だけど…。

───と、そうこうしているうちに見えてきた。

 

 

 

この夏最大の暗殺計画の舞台、“普久間島”が。

 

 

 

▷歩side

 

 

 

普久間島に着いた私達は、配られたウェルカムドリンクを味わっていた。

 

 

 

「あ、これ美味しい!!」

「ホントですね。

甘くて美味しいです。」

私の感想に、ハヤテ君が返してくれた。

こうして一緒に居られるなんて…南の島に来てよかったんじゃないかな?

…なんて思ったけど───

 

 

 

「ホントだ。

けっこういけるじゃん!!」

「美味しいね~。」

私と一緒のテーブルにいるのはハヤテ君だけじゃない。

私がハヤテ君に一緒に飲もうと誘ったところを見られた陽菜乃ちゃんと莉桜ちゃんがついてきたんだよね…。

トホホ…。

 

 

 

 

▷渚side

 

 

 

暗殺決行は夜なので、それまでの間は修学旅行の時の班(桂さんは班の代表によるジャンケンの結果僕達のところに入る事となった)で行動し、一つの班が殺せんせーと一緒に楽しんでいる間にそれ以外の班が暗殺の準備を進めることになり、僕達の班と殺せんせーでイルカを見に来たのだが───

 

 

 

「えーと…これはどういう状況でしょうか…。」

「こっちが聞きたいよ…。」

 

 

 

なぜか、突如現れたサメとハヤテ君の海上での一騎打ちになっていた…。

 

 

 

「まあ、綾崎君なら大丈夫でしょう。

夕食にフカヒレスープがつくくらいに考えましょう。」

「量が足りないんじゃ…。」

「そっちかよ渚…。」

 

 

 

───数分後、ハヤテ君は本当に勝って戻ってきた。

 

 

 

▷ハヤテside

 

 

 

「そうか。

それは災難だったな…。」

サメとの一戦を終えた僕に千葉君が労いの言葉をかけてくれた。

まさか…あんなところにサメがでるとは…。

「まあそのことは置いておくことにして…さっさと射撃スポットを選んじゃいましょうよ。

殺せんせーが洞窟の中にいる今しかもう機会は残ってないわけですし…。」

「綾崎の言うとおりね。

じゃ…サクッと決めちゃおうか。」

「俺はそっち探してみるから綾崎と速水はあっち探してきてくれ。」

「え?

あ…はい、分かりました。」

その言葉を合図に、二手に分かれての射撃スポット探しが始まった。

 

 

 

~~~~

 

 

 

そして…時間はあっという間に過ぎ、夕食の時間となった。

夕食は船上レストランで振る舞われることとなっている。

乗り物に酔いやすい殺せんせーの動きを船酔いで鈍らせようという作戦のためだ。

当然、殺せんせーもそれに気づきそれについて僕たちに何か言ってきているが───

 

 

 

「船酔いなど『黒いわ!!』…そんなに黒いですか?」

 

 

 

皆のツッコミの通り、日焼けした殺せんせーがあまりにも黒すぎて話が頭に入ってこない。

 

 

 

「ねぇハヤテ君。

日焼けであんなに黒くなるものだったっけ…?」

近くにいたヒナギクさんが僕にそう聞いてきた。

「ならないと思いますよ?

そもそも日焼けは紫外線による炎症の発赤とメラニン色素の皮膚表面への沈着によって起こるものなので…。

あ、発赤というのは毛細血管の透過性や細動脈の拡張で血流の量が増えることで起こる現象のことです。

メラニン色素の多い人は日焼けし難いんですよ。

まぁ…多すぎても全身黒子まみれになるようなものですがね…。」

「ふーん…さすが、一部の人から“ハヤペディア”って呼ばれてるだけはあるわね…。

じゃああれは…?」

そう言ってヒナギクさんが見た先には───

 

 

 

───殺せんせーが日焼けした皮を脱いで元の色に戻っているところだった。

 

 

 

「あれは…脱皮ですね。

殺せんせーの月に一度の奥の手です。」

「…月に一度なら、こんなどうでもいいところで使わない方がいいんじゃないの?」

 

 

 

聞こえていたのかは知らないが…やらかしてしまったことに気づいた殺せんせーは途端に落ち込みだした。

 

 

 

殺せんせーって…肝心なところで大きなドジを踏むなぁ…。

暗殺の面では大助かりだけど…。

 

 

 

その後…この場では暗殺をしないため、僕たちは普通に夕食を食べたのだった。

 

 

 

~~~~

 

 

 

食事が終わった僕たちは、結局船酔いした殺せんせーを連れてホテルのパーティールームへと移動する。

 

 

 

「席に着けよ、殺せんせー。

映画でも見ようぜ…暗殺はそれからでも遅くねぇだろ?」

そこでは…先に会場のセッティングをしていた三村君と岡島君がいる。

 

 

 

さぁ殺せんせー…覚悟してください。




次回もお楽しみに!!


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第65話 決行の時間

年末には投稿する予定だったのにここまでずれ込むとは…これも自分の勤める会社に年末年始の休みが無いのが原因だ…。(唐突な八つ当たり)



ま、いいか。
皆さん、明けましておめでとうございます!!
昨年末で80000UAとお気に入り600を超えました!!
今年も頑張って投稿しようと思うのでよろしくお願いします!!



この話との矛盾が生じるので、62話の烏間先生のセリフに修正を入れました。



それでは、本編スタート!!


▷ハヤテside

 

 

 

パーティールームの照明が消え、それに伴い部屋に設置されたテレビの電源がついた。

これが暗殺開始の合図だ。

 

 

 

冒頭部分だけでも伝わってくる三村君の技術に感心していたそのとき───

 

 

 

「…ッ!?」

 

 

 

後ろから抱きつくような形で伸びてきた手が僕の目を覆ってきた。

 

 

 

確か…僕の後ろにいたのって───

 

 

 

▷殺せんせーside

 

「あの~愛美さん…これはいったい?」

「すみません…。

皆さんから“映画が始まったらハヤテ君の目をふさげ”、と言われまして…終わるまでこうさせてください。」

ヌルフフフ…相変わらず綾崎君は恋愛小説のネタに事欠きませんねぇ。

この暗殺が終わった後で執筆開始とさせていただきましょう。

 

 

 

それにしても…この動画の完成度はさすが三村君と言ったところでしょうか。

流れてくるバイオリンの音色も素晴らしい。

これを奏でているのは綾崎君ですね…意外なことに、彼にはバイオリン演奏の趣味がありましたからねぇ…。

 

 

 

この二つによってついついこの動画に引き込まれてしまいそうです。

と、思っていたそのとき───

 

 

 

場面が切り替わり、カブトムシのコスプレをして○○本を熟読する私の姿が映し出された。

───って!!

 

 

 

「皆さんには言うなとあれほど言ったじゃないですか!!」

「うるせーよタコ。

黙って映画見てろっての。」

寺坂君にそう言われ、しぶしぶテレビに目を向けると…今度はケーキを食べたいがために女装してあっさりバレた時の映像が映し出されていた。

 

 

 

まさか…この動画自体が先生暗殺のためだけに作られたものだったとは…。

先生てっきり暗殺前だから思い出を残しておこう、という考えなのかとばかり思っていました…。

 

 

 

{『こんなものでは終わらない…。

後一時間ほど、我々の教師のこのような死ぬほど恥ずかしいであろう映像をお見せしよう。』}

「ニュヤーーーーー!!

後一時間もあるんですかーーー!?」

 

 

 

テレビから流れてきたその残酷な宣告に、私はただ叫ぶことしか出来なかった。

 

 

 

▷ハヤテside

 

動画自体始まって一時間後(といっても僕は愛美さんに目をふさがれていたので音しか聞こえなかったが…)、そこには自身の醜態を生徒に知られた事で放心状態になっている殺せんせーがいた。

 

 

 

その殺せんせーも、テレビからの指摘で気がついたようだ。

 

 

 

床が水浸しになっていることに───

 

 

 

実はこのパーティールームとそこまで続く桟橋は、僕たちが細工してパーティールーム側が満潮によって床が海の中になっていたのだ。

その証拠に横から桟橋を見ると陸側に比べ、パーティールーム側の海から見える支柱の高さが低くなっている。

船酔いをしていたこともあってか勘の鋭い殺せんせーでも、高低差に気づくことはできなかったようだ。

 

 

 

船酔い+生徒に醜態をさらしたこと+水を吸ってふやけたこと、のコンボで動きが鈍ったであろう殺せんせーに僕を含めた触手の破壊権利を持った生徒が手に持った銃(僕だけ二丁)を突きつけ───

 

 

 

───パパパッ!!

 

 

 

一斉に引き金を引き、その弾が殺せんせーの触手9本を同時に破壊した。

 

 

 

だが、それだけで終わるはずがない。

殺せんせーの触手が破壊されると同時にパーティールームの壁も四方に弾け、間髪入れずフライボードに乗った生徒達が床下から一斉に空中へと飛び出し、殺せんせーの空を飛んで逃げるという選択肢を無くした。

その後、海中から出てきた律さんとともに僕を含めたパーティールームの床下だったものに残った生徒達があえて殺せんせーの周囲に弾幕を張ることで、さらに殺せんせーの逃げ場を現在殺せんせーが立っている場所に限定した。

と、そこに───

 

 

 

バキィ!!

 

 

 

そんな音とともに殺せんせーの真横の床が割れ、そこから律さんと愛美さんが共同で作った超小型の酸素ボンベをつけたヒナギクさんが飛び出した。

そして、きれいな姿勢で着地したヒナギクさんは、海の中にいたから気づかなかったのか飛び出してきたヒナギクさんに驚いている殺せんせーめがけ、対先生物質の刀を振った。

 

 

 

「ハァッ!!」

「にゅや!!」

その一撃をまともに受ける直前でかわした殺せんせーだったが、弾幕によってあまり広範囲に動けないこととヒナギクさんが剣道をやっていたということで支給された武器が僕たちのものよりリーチが長かったため、掠る程度ではあるがさらにダメージを受けてしまった。

 

 

 

───さて、僕もいきますか。

 

 

 

そう考えた僕は手に持っていた銃を捨て、服の中に忍ばせておいた2本のナイフを逆手に構えながら、殺せんせーへと駆け出していった。

 

 

 

「ハアァッ!!」

「にゅや!!

ここで綾崎君と桂さんのコンビプレイですか!?」

そう驚く殺せんせーめがけ、正面から僕とヒナギクさんの得物の刃が、背後から開始からずっと海に潜り機会を待っていた千葉君と速水さんの銃から放たれた弾が迫っていき───

 

 

 

「よくぞ…ここまで…!!」

 

 

 

そんな言葉が聞こえた気がしたのと同時に、殺せんせーを中心に爆発が起こり…僕たちは皆、吹き飛ばされたのだった。




次回もお楽しみに!!


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第66話 異変の時間

最近、スランプなのか話の内容が纏まらず、投稿がここまで延びました。
これからも頑張っていきます!!



それでは、本編スタート!!


▷ハヤテside

 

「…プハッ!!」

殺せんせーを中心に生じた爆発によって、僕たちは海へと吹き飛ばされた。

 

 

 

今回の暗殺で、殺せんせーの逃げ場は可能な限り作らせなかった。

だから…今回は暗殺に成功したのではないか。

そう思いながらも、僕たちはいっさいの油断を見せることなく、パーティールームだったものの周辺を警戒していた。

 

 

 

と、そのとき───

 

 

 

ゴボッ…ゴボボッ…!!

 

 

 

そんな音とともに、水面に泡が出来ては消えるを繰り返す場所が出来始めた。

もしかしたら、そこに殺せんせーがいるのかも…そう考え、殺せんせーが生きているかもしれないことを考えた僕たちは、その場所を警戒するように見つめた。

 

 

 

その直後、水中から出てきたのは───

 

 

 

「…ふぅ。」

 

 

 

水の中にいるときの某パンの戦士の顔のような状態の殺せんせーが出てきた。

………いや…ホントになんなんでしょう、あれ。

 

 

 

「ヌルフフフ…これぞ先生の奥の手の一つ、“完全防御形態”です。

先生の肉体を可能な限り小さくし、その時に余ったエネルギーで周囲を固めることで、先生のあらゆる弱点から身を守ることが出来るのです。

核爆弾でも傷つけることは出来ませんよ。」

唖然とする僕たちに向けて、殺せんせーが笑いながら説明してくれた。

奥の手の脱皮を使えなくした、と思っていたのに…まさか、こんな切り札が残っていたとは………。

 

 

 

「はぁ…やられたわね…。

でも、こんな時までそれを使わなかったということは…その力には、時間制限かデメリットがあるんじゃないんですか?」

「その通り。

桂さんが言うように、この形態は24時間しか維持出来ません。

しかも、自分の意思で解除する事も出来ないので…それまでの間、先生はこの身動きの取れない状態でいなければならないのです。」

呆れた、とでも言うような口調で言うヒナギクさんに殺せんせーはそう答えた。

「まぁ…この形態になっている間にロケットなんかで宇宙の果てにでも捨てられてしまえばお手上げなので…それが先生にとって最も恐れる事なのですが…今から24時間以内にそれが出来るロケットなど、世界のどこを探しても存在しない事は既に調べてあるので…いらぬ心配ですね。」

しかも、欠点のフォローまで完璧だ。

やられた…。

 

 

 

「この作品の作者が“暗殺教室”が“○ォーゼ”と“○オウ”とのクロスオーバーがあまりないのは今の殺せんせーの言葉に矛盾が出来るからじゃないかと思ってるらしいよ。」

「いきなり何言ってんだ、不破…。」

 

 

 

不破さんが言い出した事は置いておくとして、この完全防御形態は、殺せんせーが自慢のスピードを殺してまで使うのも頷ける性能があるのは確かなようだ。

今、寺坂君がどうにかして壊そうとしているけど…ヒビの一つも入りそうにない。

 

 

 

「おーい寺坂。

それこっちに貸してよ。」

そんな中、カルマ君がスマホを片手に寺坂君に殺せんせーを渡すように要求した。

そのスマホと、カルマ君の笑みで全てを理解した寺坂君は、いっさい拒否する事なくカルマ君の前に殺せんせーを持って行き、カルマ君がスマホの画面を殺せんせーに見せた。

すると───

 

 

 

「にゅやー!!

カ、カルマ君!!

先生、今手が無いんですよ!!

顔も覆えないのにそんな恥ずかしい物見せないでください!!」

どんな物を見せられているかは分からないが…たぶん、暗殺で使う予定だった映像の一つだろうなぁ…。

その後も、カルマ君による動けない殺せんせーいじりは続いた。

 

 

 

その後、烏間先生によって解散が告げられ…僕たちは皆同じように暗い顔でホテルへと戻っていった。

 

 

 

~~~~

 

「やられたわね…。」

ホテルのロビーにて、僕の斜め右前の席に座ったヒナギクさんが落ち込んだ様子でそう呟いた。

「まさか…あんな隠し玉があったなんてね…。」

「ま、まあまあヒナさん。

私達以外にあの形態を使わせた人はいないらしいし…しょうがないんじゃないかな?」

「そうですよ。

それに、裏を返せば…誰も出来なかった事をやったんだから暗殺では大きなプラスじゃないですか。」

同じテーブルを囲んでいた僕と西沢さんは、そう言って落ち込むヒナギクさんを励ましていた。

だが、ヒナギクさんは───

 

 

 

「訓練中…私とハヤテ君の2人で連携の練習をしてた時に赤羽君から“共同作業だ”とかからかわれていたから…成功させたいと思ってたのに…。」

 

 

 

───悔しそうに、そう言うだけだった。

もちろん、僕も同じようにからかわれていた訳だが…その際に、ここにいる西沢さんを含めた女子一同から怒りのような視線が向けられていたのが怖かった。

 

 

 

「まったく…共同作業なんて…。

人を好きになっちゃ…いけないのに…。」

…?

机に突っ伏したヒナギクさんが何か言ったように思ったが…そこでふと気づいた。

西沢さんの顔が赤くなっており、西沢さん自身もフラフラしていることに…。

「どこか具合でも悪いんですか、西沢さん?」

不審に思ったので、話しかけてみたが…西沢さんは反応する素振りも見せず、ただフラフラと揺れるだけだった。

「西沢さん!」

「ふぇ!?

な、何かなハヤテ君!?」

2回目は少し大声で呼んだからか、あわてたように僕の方を向いた。

「西沢さんがフラフラしていたので何かあったのかなと思いまして…。」

「あぁ…そういうこと…。

心配してくれてありがとね、ハヤテく───」

 

 

 

西沢さんの言葉はそこで途切れた。

───本人が机に倒れ込んだからである。

 

 

 

「「西沢さん(歩)!?」」

突然起こったその出来事に僕とヒナギクさんは同時に西沢さんの体に触れる。

「「ッ!?」」

そして、その異常とも言うべき熱に同時に手を引いた。

「皆さん、西沢さんが───」

周りの誰かに手伝ってもらおうと辺りを見てさらに驚いた。

E組生徒の数名が、今の西沢さんと同じように机に突っ伏したり、床に手をついたりしていたからだ。

それも…前原君や倉橋さんなど、運動神経でクラスの上位に入れるような人たちもいる。

 

 

 

いったい何が───

 

 

 

───そう思っていた矢先…。

 

 

 

「お前の仕業か…何者だ!?

目的はなんだ!?」

烏間先生がそう叫んでいるのが聞こえた。

 

 

 

どうやら…一波乱ありそうだ。




arosのサンデーの目次コメントに漫画家でもないのに答えてみた

Q.毎週欠かさず観るテレビ番組はなんですか?

A.(録画がありなら)仮面ライダージオウ



次回もお楽しみに!!


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第67話 伏魔の時間

やっと7巻の内容が終わりました…。
これからも頑張っていきます。



それでは、本編スタート!!


▷ハヤテside

 

「───と、言うわけだ…。

せっかくバカンス気分でいたはずなのに、こんなことになってしまったことについて、申し訳ないと思ってる。」

電話を終わらせた烏間先生は、動ける生徒達を集めると今の状況について説明し、そのことについて僕たちに謝罪をしてきた。

 

 

 

内容を纏めると───

 

・皆が苦しんでいるのは、いつの間にか仕込まれていた人工のウィルスのせいで、さっきの電話はその犯人からのものだったということ。

 

・犯人は、ワクチンと引き換えに殺せんせーを渡すように要求してきていること。

 

・持ってこさせる役として、青髪の男子2人と緑髪の女子1人を指定してきていること。

 

・持って行く場所として指定されている“普久間殿上ホテル”は、警察でも手が出せないような場所だということ。

 

 

 

これらのことから、犯人は殺せんせーを狙ってこの島にやってきた刺客であり、殺せんせーが動けなくなったことから、堂々と行動を開始したと言うことが分かる。

それと…要求にあった男女はだれのことかというと───

 

 

 

「ケッ…青髪2人と緑髪1人だァ…?

1人はハヤテとして…後の2人はこのちんちくりん共だろうが!!

どう考えても足手まといにしかなんねぇだろうが!!

つーかよ、原因がウィルスだっていうんなら都会の病院にでも運んで薬飲ませばいいだけだろ!!」

渚君と茅野さんの後ろにまわった寺坂君がそう怒鳴った。

言い方は悪いけど…寺坂君の言うとおり、もし何かあった時に2人同時に守れるかとなると難しいとしか言えないのが現状だ。

それなら、病院に連れて行くのが…そう思っていたが───

 

 

 

「悪いけど…僕は賛成しないね。

既存のウイルスならともかく、本当に人工のウィルスの場合、対応出来る薬なんてどの病院にもないだろうね…。」

家が病院の竹林君がそう言った事で、呆気なく潰えた。

 

 

 

「ご心配なく。

先生にいい案がありますよ。」

打つ手を無くし、悩んでいた僕たちに殺せんせーがそう言い放った。

「律さんの下調べも終わったようですし…元気な人は汚れてもいい格好で、先生が指定した場所に来てください。」

 

 

 

あ、これは…かなり無茶なことをやらされそうな言い方だ。

 

 

 

~~~~

 

「うおぉ…高ぇ。」

ウィルスに感染した11人と、その看病のために残った竹林君と奥田さんを除く全員で、殺せんせーに指定された場所に来てすぐ、木村君がそう呟いた。

どうやらここは、あのホテルの裏側のようだ。

 

 

 

「律さんの情報によると、この崖の上にある通用口だけが警備が配置されていないようですねぇ…。

なので、今動ける全員でここから侵入し…最上階にいる犯人を奇襲して治療薬を奪い取るのです!!」

『ッ!?』

殺せんせーのその宣言を聞いた僕たちは、皆同じように驚いたような表情を見せた。

 

 

 

そんな中で───

 

 

 

「え…?

ここを、登るの…?」

そんな弱気な発言をしたのは、いつもは凛々しい姿を見せているヒナギクさんだった。

「ええ、その通りです。

まあ、行くかどうかは君たち次第ですがねぇ…。

しかし…桂さんがそんな弱気な事を言うとは意外でしたねぇ…。」

「そ、そんなことを言われても…。」

 

 

 

なんだか…ヒナギクさんの言い方が行きたいのはやまやまだけど、ある理由で進めないというような感じに聞こえるなぁ…。

 

 

 

「そういえばヒナ…あなた今回の暗殺の作戦会議の時に、フライボードの役を頑なにやろうとしなかったわよね?」

そんな時、片岡さんが思い出したようにそうヒナギクさんに問いかけた。

言われてみれば…暗殺にフライボードを使う事が決まった瞬間、ヒナギクさんは───

 

 

 

───私は絶対やらないから!!───

 

 

 

───と、いって絶対に首を縦に振らなかったような気がする。

問いかけられたヒナギクさんが視線を僕たちから逸らすも、片岡さんの問いかけはまだ続く。

 

 

 

「E組に落ちたくなかった理由も、成績だけが理由じゃないって言ってたし、去年の夏休みに一緒に遊園地に行ったときも、観覧車やジェットコースターに乗ろうとしなかったわよね…?」

 

 

 

そして、片岡さんは一呼吸置いて───

 

 

 

「もしかしてヒナ…高所恐怖症?」

そう問いかけた瞬間、ヒナギクさんはこちらを向き───

 

 

 

「ええそうよ!!

でもいいでしょ、私にだって怖い物があったって!?」

怒鳴るようにそう言った。

ヒナギクさんに怖い物があったのは意外だったが、だからといって作戦を変えているような暇もない。

そう考えた僕は───

 

 

 

「でしたら、僕がヒナギクさんを抱えて行きましょうか?

それならヒナギクさんは目を瞑っているだけでいいので大丈夫だと思うのですが…。」

そんな提案を出した。

「それなら…お願い、ハヤテ君。」

その提案にヒナギクさんは頬を赤くして、そう言った。

 

 

 

他の女子からの視線が痛くなったが、ヒナギクさんが喜んでくれたのなら、提案したかいがあったと僕は思う。

 

 

 

「ヌルフフフ…どうやら皆さん、侵入するつもりみたいですねぇ…。

さて、烏間先生。

あなたはどうしますか?」

問いかけられた烏間先生は、殺せんせーの言葉で覚悟を決めたように息を大きく吸い込むと僕たちに向けて叫ぶ。

 

 

 

「注目!!

目標、山頂のホテル最上階!!

ハンドサインその他諸々は訓練のものを使う!!

3分でマップを叩き込め

19時50分より、作戦を開始する!!」

『おう!!』

 

 

 

今回は標的が違うだけで、いつも通りにやればいい。

僕の大切な人たちに手を出した報いを受けさせてやる。

 

 

 

だから…首を洗って待っていろ。

この騒動の主犯!!




次回もお楽しみに!!


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第68話 プロの時間・二時間目

皆さん、お待たせしてすみませんでした!!(土下座)
去年の終わりくらいに頂いた感想への返信の通り、スランプに陥って全然ストーリーが思い付かなくなっていました。



ここから徐々に復活させていこうと思っています。



今回から8巻の話です。



※報告
機種変したので、それにあわせて色々変えていこうと思ってます。
それと、この後のストーリー展開のために以前の話の一部を変えることにしました。
それをご了承下さい。
試しに、4話と64話を編集しました。
そっちも改めて見てやってください



それでは、本編スタート!!


⇒三人称side

 

 

 

ハヤテ達E組の生徒がバカンスを満喫しつつ、暗殺の準備をしていた頃、本州では………

 

 

 

「そういやお前のねーちゃん達って今南の島にいるんだよな?」

「いいよなぁねーちゃん達だけさぁ…。」

「つか、期末のテスト頑張ったご褒美みたいなもんって話なんだろ?」

「だからなのかねぇ…うちの親もねーちゃんが行くのに全然反対しなかったしさぁ…。」

「確か、名門中学の落第クラスってやつなんだろ?

それでけっこういい点取ったから何も言わねーんじゃねーか?」

都内にあるレンタルビデオ店“レンタルビデオタチバナ”のレジカウンターにて、橘ワタルと西沢一樹の二人がそんな話をしていた。

 

 

 

「そう言えばさぁ…先を駆ける少年のDVDってまだ返ってきてないの?」

「あーそうだな。

それ以外にも返ってきてねぇDVDが13本もあるんだよな…。

こいついつまで借りるつもりなんだよ…。」

延滞料たっぷり せしめてやる…。とワタルがぼやいていると……

 

 

 

「申し訳ない事に、そのDVD達は紛失してしまったそうだよ。」

そう言って、一人の男性(彼らは知らないが、椚ヶ丘の理事長である)が 話に入ってきた。

「なんだよアンタ!!つか、紛失って…それが一番困るんだよ!!」

「心配しなくていい。

私の方で新品を用意させてもらった。

そして、延滞料の方も私に立て替えさせてもらいたい。

…何か問題はあるかな?」

紛失したという情報に怒鳴るワタルを前に理事長は冷静にそう言いながらDVD13本とジュラルミンケースに入った大金を差し出した。

 

 

 

「な、何もねぇよ…。」

「そうか。

では失礼するよ。」

ワタルのその反応にいい気になったのか、理事長は踵を返すと、店から出ていった。

 

 

 

「なんだったんだ、今の…。」

残された店内で、その言葉が空気の中に消えていった。

 

 

 

彼らは知らない…。

このあと一樹の姉達が南の島で大変な事に巻き込まれようとは───

 

 

 

⇒理事長side

 

 

 

走る車の中で、私は一人の生徒の事を考えていた。

 

 

 

綾崎ハヤテ───

私の学校のE組にいる生徒の一人だ

E組ということで、本来なら気にかけることは無いのだが…彼には、親に裏切られた過去がある。

その報復のために彼の両親を探していたのだが、その途中で、綾崎君名義でレンタルビデオ店の物と思われるDVDがネットオークションに出品されているのを見かけ、両親による金儲け目当てのものと考えた私は回収に向かった。

 

 

 

だが…そのうちの一枚を競り落とした人物の下を訪れるも、商品は届いていないとの事だった。

半年以上前に競り落とした物が届いていないのは本来なら疑うところだが…あの二人の事なので、単純に騙されたものと考えた。

 

 

 

両親も放ってはおけないが、このままでは彼の負担が増える一方だと考えた私は、新品のDVDを取り寄せさらに、延滞料がいくらでもいいように大量の紙幣をジュラルミンケースに入れてあのレンタルビデオ店に向かったのだった。

 

 

 

───さて…彼の両親はどこにいるのだろうか。

 

 

 

⇒ひなたside

 

 

 

バッ!!

 

パシッ!!

 

シュン!!

 

 

 

私は今、潜入組の皆と一緒にホテルの裏にある崖を登っている。

登る速度だと、私は3番目…なのかな?それほどの速さで登っている。

 

 

 

「岡野ってやっぱ身軽だよな。」

「さすが元体操部ってとこか。

体の動かし方が分かってるって感じだよな。」

下から私を誉めるような言葉が聞こえてきた。

今まで培ってきた事がまさかこんなところで役に立つとは思ってもいなかった。

これも殺せんせーがいたからなのかな?

上を見ると、ゴールまで後少しだった。

 

 

 

そう思いながら、目の前の枝を掴んだ時だった。

 

 

 

ベキッ!!

 

 

 

掴んだ場所が枝の先端に近かったからなのか、その部分から折れ、私は体勢を崩した。

 

 

 

近くに掴めそうな物はないし、ダメかな…そう思い目を閉じていると、何かに抱えられているような感覚がした。

なんで!?と、思い恐る恐る目を開けると───

 

 

 

「大丈夫ですか、岡野さん?」

そう私の顔を見ながら笑いかける綾崎がいた。

というかこれって…私が綾崎にお姫さまだっこされてるってこと!?

 

 

 

「ちょ…迷惑じゃないの?

それに、私…重かったりしない…///?」

あまりの恥ずかしさに、降ろしてもらおうとしたけど───

 

 

 

「迷惑だなんてことはありませんし、それに…岡野さんは普通の女の子と同じく羽のように軽いですよ。」

 

 

 

(ッ~~~~/// )

そう言われて何も言えなくなった。

 

 

 

前は歩っちのことがあるからあり得ないって思ってたけど、あの後も綾崎のことが好きになった女子もいるし…私も狙っていいよね?

 

 

 

⇒渚side

 

 

 

僕たちは何を見せられてるんだろう…。

 

 

 

上でのハヤテ君と岡野さんのイチャイチャを見ながら、僕はそう心の中で 思った。

僕の少し手前に千葉君と一緒にいる速水さんは無自覚そうだけど不機嫌になっているし、他の女子は「いいなぁ…」と言いそうな表情で岡野さんを見ている。

というか、片岡さんが口に出して言ったの聞こえちゃったよ…。

 

 

 

「つかよ渚…。」

「どうしたの、菅谷君。」

そんな カオスな状況で、菅谷君が僕に話しかけてきた。

話題はおそらく───

 

 

 

「ハヤテのことなんだけどよ…。

あいつさ、この崖をだいたい2往復したけどよ…どっからんな体力が出てくんだろーな…。」

あぁ…やっぱり。

実は、ハヤテ君…この崖の頂上に既に2回到達している。

1回目は高所恐怖症の桂さんを抱え、2回目は仲間外れは嫌だからつれていけと言ったくせに烏間先生の足手まといになっていたビッチ先生を抱えて登って行った。

今回はそこまで遠くないとはいえ、また降りてきて岡野さんを抱えて行く(しかも全部足だけで登ってた!!)なんて…そんな体力どこにあるんだろう?

 

 

 

~~~

 

 

 

結局…ハヤテ君だからということで決着が着き、止まっている時間はないからと先に進む事にしてやっと全員が登頂に成功したのだった。

 

 

 

{このホテルではエレベーターを使うのに専用のICカードを使うしかなく、そのICカードもフロントで管理されています。

なので私達は階段を使うしかないのですが…各フロア毎に配置が違うので、最上階までは長い道のりを歩くしかありません。}

律が内部の説明をしてくれる。

そう簡単にはいかない、ということか。

「なるほど、テレビ局みたいなものって訳か。」

律の内部解説に千葉君が そう呟いた。

…なんでテレビ局?

「テロリストに簡単に占拠されないよう、色々な場所に階段を配置したりして内部を複雑に造ってあるんでしたよね?」

「ま、そんなところだな。

というか、お前ホント詳しいな。」

「以前建造系のバイトをしたことがありましたから。

ヒルズにあるモニュメントを設置したこともありました。」

「マジか。」

おなじみハヤテ君の過去語りがあったが、時間が無いということで、皆ホテルの中に入っていった。

 

 

 

⇒ハヤテside

 

 

 

ホテル内に入り、烏間先生の指示通りあまり足音を立てないように進んでいく。

 

 

 

───だが…入ったばかりの僕たちの足は止まらざるをえなかった。

1階の階段は全てロビーにしかない。

そのロビーにいる警備の数が多く、見つからずに進めるかどうかが怪しい、ということだ。

僕がここで大暴れして気を引いてる間に行ってもらうのもいいかもしれないが…その騒ぎが上の黒幕に伝わる可能性も高く、一歩踏み出せないでいると───

 

 

 

「何よ皆ピリピリしちゃって。

こんなもの普通に通るだけでいいじゃない。」

───イリーナ先生がグラス片手に軽い口調でそう言った。

…それに対し、どうやって普通に進むのかと聞かれるイリーナ先生だが、ロビーをチラッと見ると───

 

 

 

「だから…普通によ。」

そう言って一人ロビーを歩いて行く。

次の瞬間だった。

 

 

 

~♪

~~~♪

~~♪

 

 

 

圧巻、その一言しか出てこなかった。

その音色を使い、イリーナ先生はどんどん警備員を引き付けていく。

 

 

 

「しかしスゲぇよなビッチ先生。

ピアノ出てるなんて知らなかったぜ。」

「へッ足手まといにしかならねぇと思ってたぜ。」

警備員がイリーナ先生に気をとられている隙に、全員非常階段にたどり着く事が出来たところで、木村君と寺坂君がそう言った。

「優れた殺し屋ほど万に通じると言うからな。

彼女も、潜入に必要な技術を全て身に付けている。

普段の姿だけで彼女を見てると痛い目を見ると考えておけ。」

その言葉に反応したように、烏間先生が僕たちにそう言ってきた。

 

 

 

改めてプロの技術のスゴさを実感していたが、高い技術を持つ人間はこちら側だけではないと考えた僕は、よりいっそう気を引き締めた。




arosのサンデーの目次コメントに漫画家でもないのに答えてみた。



Q.「ここまでならOK」という「おひとりさまライン」を教えてください!



A.一人カラオケ
自分のペースで歌えるので好きです。



次回もお楽しみに!!
(いつになるか分からないけど)


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第69話 引率の時間

今回の話を投稿した後に、この作品のタグを一つ増やします。



それでは、本編スタート!!


⇒ハヤテside

 

 

 

「よし、ここからはこのホテルの客のフリをしながら進んでくれ。」

非常階段を抜け、全員が2階に上がったところで烏間先生が後ろを向いてそう言った。

 

 

 

このホテルに中学生のお客さんがいるとは思えないが…(たぶん皆)同じ事を考えていたのか、菅谷君が代表して烏間先生に聞くと…どうやらこのホテルには、裕福な家系の御曹子なんかが利用することもあるらしい。

普段着で来るように言っていたのはそのためらしい。

先の事まで考えて行動出来るところは見習わないとなぁ…。

 

 

 

「そんな訳で、君たちもこの世の中をナメているかのような感じで上の階を目指しましょう。」

その殺せんせーの言葉に従うように皆にやけたりガンを飛ばすような表情になった。

 

 

 

だが───

「そうそういいですよ皆さん!!

ホラ、綾崎君も。」

「と、そんな急に言われましても…。」

僕はこれまで相手をナメたりする事がなかったので、上手く出来そうになかったのでどうしようか悩んでいると───

 

 

 

「「綾崎(ハヤテ)君…失礼するね///?」」

前方で内緒話をしていた片岡さんと矢田さんが左右に別れて僕の腕に抱きついて来た。

「ちょっ、二人とも何を…///!?」

「いいから。

こうやってたらちょっとはそれっぽく見えるでしょ?」

いきなりの事に慌てる僕に矢田さんがそう言ってきた。

時間的な猶予はあまりなかったため、結局このまま進む事にしたのだった。

 

 

 

⇒ヒナギクside

 

 

 

まさかメグがあんな行動に出るとは思ってなかったわねぇ…。

 

 

 

メグ、ハヤテ君の事が好きみたいね。

きっかけは…多川さんの一件かな?

 

 

 

ていうか、E組にハヤテ君に好意を寄せてる子が多いように思うんだけど…。

確か、ハヤテ君がこの学校に来たのが四月の終わり頃だったはずなのにそうだろうなって子がもう二桁くらいいるんだけど…。

 

 

 

…あれ?

よく分からないけど…今のハヤテ君を見てるとイライラする。

 

 

 

…どうして?

 

 

 

⇒凛香side

 

 

 

出遅れた…。

片岡と矢田が綾崎に抱きついたのを見た私は心の中でそう悔しがっていた。

 

 

 

「速水はやらなくてよかったのか?」

と…そんな私に気づいたのか、不意に千葉が小声でそう聞いてきた。

「…やらない。

両方塞がっちゃったし。」

そう千葉に小声で返した。

 

 

 

あれ…この返し方だったらどっちかが空いてたらやってたって事になるんじゃ…。

それだけじゃない…なんで片岡達を見て出遅れたなんて考えたんだろう?

 

 

 

今考えても仕方ないか。

先に進もう。

そうすれば答えが見つかると思う。

 

 

 

⇒ハヤテside

 

 

 

そんなこんなで客のフリをして進んでいる僕たちは、今のところ何事も無く3階の中広間まで辿り着いた。

…ここを突破すれば5階までは階段で行く事が出来る。

故に楽勝だと考えたのか、寺坂君と吉田君が飛び出して行ってしまった。

 

 

 

彼らの走っていく先には一人の男が歩いて来ている。

あの男の顔は見たことがある。

だが、彼が客としてここにいるというのは考えにくい。

その時から警戒していたが、おそらく彼は───敵だ。

 

 

 

「寺坂君、吉田君!!

そいつから離れて!!」

そう判断し、寺坂君たちをその場から離れさせようと叫ぶより先に不破さんがそう叫んだ。

 

 

 

だが…その言葉に反応したのであろう烏間先生が二人を自分の背後に投げ飛ばした。

だが、その事には男は右手で服の襟を口元まで持っていきながら左手を前に突きだしていた。

そして───

 

 

 

ボシュゥ!!

 

 

 

そんな音と共に煙のようなものが吹き出して、それが烏間先生を包みかけるが、烏間先生は相手を蹴るような仕草を見せた後に、バックステップで脱出してきた。

 

 

 

「へぇ…相手に殺気を見せず、すれ違いざまに殺るのが俺の十八番だったんだが…まさかバレちまうとはなぁ…。

参考までになんで分かったのか教えてほしいなぁオカッパちゃんよぉ。」

「だって私、おじさんの顔見たことあるからね。

私達がこの島に着いたときにサービスドリンク配ってたでしょ?

それに、気づいたのは私だけじゃなさそうだし。」

僕たちの集団に近づいてきた男の疑問に不破さんは自信満々そうにそう答えた後、僕の方を見た。

そして不破さんのその言葉でやっと気づいたのか、皆男を見て驚いたような表情を見せた。

「じ、じゃあ…皆にウィルスを盛ったのは………!!」

「おいおい…まだ断定するのは早すぎるんじゃねーか?

まず証拠が弱すぎる。

お前らがこの島に来てからウィルスの効果が出るまでの間にお前らが口にした物はそのドリンクだけじゃねーだろ?

その時にウィルスを仕込めばいいだけの話だろ。」

口に手を当てて言ったヒナギクさんの発言に男が反論した。

だが、それを待ってましたとばかりに不破さんは人差し指を立て、話し出した。

「皆が感染したのは飲食物にウィルスを混入されたからっていう理由が確実らしいけど、私達クラス全員が口にしたのはそれと、船上レストランで食べたディナーだけ。

ディナーの食材は綾崎君がレストラン側に交渉して徹底的に品質チェックしてたから仕込むのは難しいはずよ。」

そう。

ディナーは殺せんせーだけではなく、僕たち全員も食べるので…大丈夫だとは思ったけど皆さんが食あたりしないように、烏間先生経由でレストランの食材のチェックをさせてもらった。

だけど…理由はそれだけじゃない。

「仮にディナーに仕込んでいたとしても感染者の中に食べずに作業をしてた二人がいるからまずあり得ない。

それに、着いてすぐに盛られるなんて思わない。

例え五つ子の家庭教師やってる天才高校生でもね。

だから…そんな心の隙をつけるのはおじさん君…あなただけよ!!」

不破さんの推理に男は心底悔しそうな顔をした。

どうやら当たりのようだ。

 

 

 

「すごいよ不破さん!!

本物の探偵みたいだったよ!!」

見事な推理で相手を追い詰めた不破さんに皆が思い思いに賛辞を送る。

「ふふ~ん。

普段から読んでる少年漫画に探偵物もあるからね。

こういう小さな事でも後でヒントになるから見逃さないようにしてるんだ。」

「あぁ、頭が星の形に禿げた少年探偵の漫画とかおじいさんの名にかけて謎を解く探偵の漫画ですよね?」

「お前な…せめてクロスしてる漫画の載ってた本誌のやつにしろよ。

しかもすげぇ古いし…。」

不破さんの話に乗って僕がそう言うと、木村君からツッコミが入った。

 

 

 

…と、その時───

「くっ…!!」

その声とドサッ!!という音と共に烏間先生がその場に倒れこんだ。

さっき打撃をくらったとは考えにくいのでこれは…毒、それも神経毒と考えた方がいいのかな?

同じように考えた殺せんせーが聞くと、さっきのガスが毒ガス…というより麻酔のようなものらしい。

象でも気絶させられる、というどこかで聞いたことのあるような効果だという。

「お前達がここに潜入して来た、ということは取引に応じる意思は無い、ということだ。」

男はそう言うと、交渉決裂だと来た道を引き返そうとする。

 

 

 

だが───

「何っ!?」

それは失敗に終わった。

なぜなら、その道を皆が塞いでいたからだ。

「気づかれた理由を知るために迂闊に俺達に近づいたのが間違いだったな。

いや、俺達を見て攻撃せずすぐに報告に戻るべきだった。

中学生の集団と侮ったお前の判断ミスだ。」

「こいつまだしゃべる力があったのか。

だが、所詮は手負い…すぐにケリをつける。

そうなりゃこの集団も終わる。」

その言葉と共に二人は臨戦態勢に入った。

 

 

 

───勝負は一瞬だった。

男がズボンのポケットから容器のようなものを取り出した瞬間、左の頬に烏間先生の膝蹴りが決まった。

 

 

 

そして…決着がつくと同時に烏間先生の体も前のめりに崩れていった。

 

 

「烏間先生!!」

倒れていく烏間先生の下に皆集まっていく。

 

 

 

と、そんな時───

 

 

 

速水さんに向かって斜め上から一本のナイフが飛んできた。

「速水さん危ない!!」

そのナイフから嫌な予感のした僕は咄嗟に速水さんの前に出た。

そして───

 

 

 




arosのサンデーの目次コメントに漫画家でもないのに答えてみた


Q.「小さい頃にこれ習っておけば良かった…」と思うものはありますか?



A.コミュニケーション技術



次回もお楽しみに!!


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第70話 黒の時間

オリジナル回キツい…。
でも、がんばります!!



察している方も多いと思いますが、この話からオリキャラを出します。



どんな戦法のキャラなのかは作中を楽しみにしてください。



それでは本編、スタート!!


⇒凛香side

 

 

 

『綾崎(君)!!』

『ハヤテ(君)!!』

…私は今、状況を完全に飲み込めないでいた。

 

 

 

ウイルスに苦しんでいる皆を助けるためにホテルに潜入したけど、その道中で現れた男によって烏間先生が相打ちに近い形で動きを封じられた事に動揺していた私達、いや位置的には私を狙って放たれたナイフを綾崎が自分を盾にするような守ってくれた。

そこまでは理解出来ている。

だが…あのナイフがどこから飛んできたのか、どういう意図があって私を狙ったのかが分かっていなかった。

 

 

 

いったい…誰が!?

 

 

 

⇒ハヤテside

 

 

 

「くっ…!!」

そこまで深く無いが出来てしまった左腕の傷に顔をしかめる。

咄嗟の事だったから完璧に対処しきれなかったが、僕に当たった後も少しだが勢いが残っていたのに気づき、弾くくらいは出来たため皆に被害が出なかったのは良かった。

そう考えていると───

 

 

 

「へぇ…なかなかやるじゃねーか、お前。」

三階から四階に繋がる階段側の通路からそんな声が聞こえて来た。

また敵が来たのかとそちら見ると───

 

 

 

───そこにいたのは…“黒”だった。

 

 

 

「完全に油断してるって思ってたから不意打ちしてみたんだけどよ、気づくやつがいるなんて予想外だぜ。」

性別は分からないが、黒い長髪含め全身黒一色で統一された人物がそこにいた。

 

 

 

「このナイフを投げてきたのはあなたですね?」

「間違いねーよ。

相手の注意がこっちに向いてねー時に不意打ちで動き鈍くしてやってからトドメをくらわせるのがオレの殺り方の一つなんだよ。」

落ちているナイフを拾い、まるで推理が正しいと疑ってないような僕の言葉を彼は否定することもなく素直に肯定した。

なるほど、そういう戦い方をするのか。

そう思っていると───

「しっかし“スモッグ”も大したことねーな。

弱らせた相手にたった一発でやられるなんてな。」

「“スモッグ”?」

話を続ける彼の言葉に気になる単語があったので聞いてみた。

すると───

「おそらく…さっき俺が、倒したやつの…事だろうな。

あの体運びや、気配の消し方…こいつも君も…殺し屋…なのだろう?」

「ああ合ってるぜ。

“スモッグ”ってのがソイツのコードネームだ。

覚えるも覚えないも好きにしな。」

磯貝君の肩を借りて起きた烏間先生が上手く話せないのだろう…言葉を途切れさせながらもそう聞くと、彼がそう返してくれた。

「では…あなたも彼と同じく最上階にいる黒幕に雇われたと考えていいのでしょう。

目的はやはり、私に懸かってる賞金ですか?」

殺せんせーが黒い人物にそう問いかける。

黒幕は百億の賞金首の殺せんせーを交渉の材料にしようとしている。

その賞金が目的だと考えるのもおかしいことではない。

 

 

 

だが───

 

 

 

「雇われてるのは事実だな。

だが…賞金目的ってのとは全然ちげーよ。」

「そうですか…ならばなぜこの取引に参加した目的は何なのですか?」

───彼から放たれた言葉は以外すぎるものだった。

じゃあなんで…僕たちの言葉を代弁するかのように殺せんせーがそう聞くと、彼は───

 

 

 

「あいつから渡された資料を見てな…綾崎ハヤテだっけか…?

そいつが面白そうだったから、相手になってもらおうと思ってたんだよ。

要求に青髪2人と緑髪1人ってあっただろ?

あれはオレが雇われた時に“綾崎ハヤテと戦わせてくれ。じゃねーと協力しねぇ”って言ったからなんだよな。」

そう答え、皆の視線が僕に向いた。

まさか狙っていたのが僕だったとは…ということは、黒幕の目的は渚君と茅野さんか…。

そう思っていると───

 

 

 

「ほれ。」

そう言いながら彼は小さな小瓶を僕に投げ渡してきた。

これは…?

「お前のくらったナイフにつけてた毒の解毒剤だ。

遅効性で弱めの麻痺毒だが飲んどくに越した事はねーだろ。」

「いいんですか?

僕と戦いたいのなら弱らせておいたほうがいいと思うのですが…。」

当然の疑問を僕が聞くと、彼はハァ…とため息をつくと───

「つってもよ…んな傷負ってんじゃ全力も出せねぇだろ…ま、オレがやったことなんだがな。

全快のお前とやりたいからな…この場は預けとく事にするぜ。

行けよ…時間ねぇんだろ?」

そう言い出した。

『ッ…!?』

当然、彼のその言葉に僕たちは驚いた。

確かに時間は短いが───

「信用してよいのですね?…その言葉を。」

「おうよ。

オレは一度言った言葉を取り消したりなんかしねーから安心しろよ。」

彼の言葉に嘘はなさそうだった。

 

 

 

だが…その言葉が気に入らなかった僕は、彼からもらった小瓶を床に投げつけた。

 

 

 

パリィン!!

 

 

 

小瓶はそんな音をたてて割れ、中の液体が辺りを濡らす。

「おいハヤテ、なにやってんだ!!」

「気に入りませんね…その言葉。

まるでこんな怪我をしただけで僕が弱くなったと言ってるようなものじゃないですか!!」

後ろから寺坂君がそう叫んでいるが、それを無視した僕は目の前の殺し屋にそう怒鳴りつけた。

「そうは言ってねーよ。

オレはただ全快のお前と戦いたいだけだ。」

彼はそう答えたが───

「なるほど…僕と戦いたいと言っておきながら、いざ目の前に来たら怖くなったんですね…。

本当に弱いのはあなたではないですか?」

「へぇ…言ってくれるじゃねーか。

そこまで言うんならやってやるよ!!

後悔しても遅ぇからな!!」

僕が挑発を交えて言うと額に青筋を立てて怒鳴ってきた。

カルマ君からちょっとだけ教えてもらっておいて正解だったなぁ。

「やめなさい綾崎君!!

今の君は…「本人がやるって言ってるんだからやらせてあげればいーじゃん。」…カルマ君。」

止めようとした殺せんせーの言葉をカルマ君が遮った。

「仕方ありません…。

ですが…危険な事だけはしないでくださいね。」

「分かりました。

では、僕以外の皆さんは先に行っていいですね?」

殺せんせーの言葉に頷いた僕は、目の前の殺し屋にそう質問した。

「構わねぇよ…!

この“ブラック”に二言はねぇ!!

つか、オレの目的はお前だけだ!!」

その質問に対し、“ブラック”と名乗った彼はまだ挑発が聞いてるのか怒り口調でそう言うと、背中に背負った剣を一本抜き、僕に向けた。

 

 

 

さて、ここからが僕の仕事だ…。

 

 

 

⇒渚side

 

 

 

「では皆さん、先を急いでください。

必ず…合流しますから!!」

困惑する僕たちにハヤテ君がそう促す。

でも…ハヤテ君を置いていくわけには…。

「渚君、行こう。」

そう考える僕にカルマ君がそう言った。

「ここで立ち止まってちゃ下で時間稼いでるビッチ先生の努力も無駄になる。

だからハヤテ君は自分を犠牲にしてでも、俺達を先に進ませるためにそういってるんだよ。」

その言葉で覚悟が出来たのか皆、正面の通路へと向かっていく。

 

 

 

「ハヤテ君、絶対後追いついて来てね!!」

 

 

 

そうハヤテ君に言って僕も皆と一緒に先へと進んで行った。

 

 

 




今回はブラックの設定(というかプロフィール?)を軽く書かせていただきます。
所々曖昧だったり?だったりしますが…



コードネーム“ブラック”

本名:?? ??

年齢:15歳

誕生日:7月17日

身長:164cm

体重:49㎏

血液型:A型

好きな教科:??

嫌いな教科:??

趣味:昼寝

所属部活(過去):そもそも学校に行ってない

宝物:剣

好きな食べ物:食べれれば何でもいい

外見イメージ:ソードアートオンラインよりキリト(GGOバージョン)

話し方のモチーフ:アイドルマスターシンデレラガールズより結城晴

備考:兄の差し金によって産まれてすぐに親に捨てられ、孤児院で暮らしていた。(そのため本当の親の顔を知らない。)
12歳の時に偶然見た殺し屋の仕事に感動して殺し屋の世界に足を踏み入れ、捨てられた経緯を知ることになった。
背中に背負った二本の剣を使い、闇に紛れて敵を切るのが最も得意なやり方。(場合によっては使う剣は一本)
実は◯◯◯で◯◯◯◯



次回もお楽しみに!!


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第71話 ハヤテの時間・二時間目

はい、前回に続き今回もオリジナル回です。



ブラックとの一騎討ちに入ったハヤテ。
時間と共に毒の効果が出てくる事になるが…果たして、倒すことが出来るのか…?



そして…久しぶりにあのキャラが登場!!



結果を知るべく、本編スタート!!


⇒ハヤテside

 

 

 

───ヒュン!!

「くっ…ハァ!!」

「おっと!!」

 

 

 

開始と同時に接近したブラックが横薙ぎに振った剣を上体を後ろに倒す事でかわし、その体勢のまま僕が蹴りを放つ。

だが、それはブラックが後ろに跳ぶ事で避けられる。

 

 

 

「へぇ…けっこうやるじゃねーか。

でも、終わらせた方がいいんじゃねーの?」

僕の行動をブラックが評価する。

…彼の言った通りだ。

遅効性とはいえ毒を受けているため、そう長い時間は戦えないだろう。

ならば───

 

 

 

「えぇ…その通りですね。

なので今度は…僕の番です!!」

「なっ…!?」

勝つために、と素早く移動した僕にブラックは目を見開き驚いたような表情を見せた後、僕の伸ばした拳を体を捻る事でかわすが、そこに僕が回し蹴りのように蹴りを放つ。

それもかわされるが、絶対に逃がさないと言うかような怒濤のラッシュが続き、ブラックは避けるので精一杯のようだった。

「くっ…こいつ速ぇ!!

ハヤテって名前は伊達じゃねぇってことか!!」

「当然です!!

なぜなら───」

その最中に発せられた言葉に僕は深呼吸をすると───

 

 

 

「“借金取りから…疾風のごとく逃げられるように”と言うことで“ハヤテ”と名付けられましたからね!!」

そう室内に響くくらいの声で言った。

「…は?」

そんな呆けたような声を出してブラックの動きが止まる。

「今だ!!」

「…しまッ!!」

ここだとばかりに伸ばした左手に回避も間に合わないと考えたのかブラックが目を瞑るが───

 

 

 

そこには…ブラックと距離を取り、背を見せるハヤテの姿があるだけだった。

「…?

んだよ、結局何もしねーのかよ。

ビビって損したぜ「いいえ、何もしてないわけじゃないですよ。」…なに!?」

そう、ブラック自身には何もしていない。

その証拠を見せるため、僕はブラックの方を向き…右手に持った青緑色の剣を見せた。

「オレの剣!?…しまった、接近戦はこのためか!!」

「えぇ、そうですよ。

これで僕は、あなたに勝てる!!」

そう言って僕は、彼にその切先を向けた。

 

 

 

 

~~~

 

 

 

「これでオレに勝てる…だって?

言うじゃねーか…そんだけで勝てるはずがッ───」

僕の言葉に反応したブラックに持ち前の速さを活かした 刺突を放つ。

 

 

 

───カキィン!!

 

 

 

直前で反応したブラックは、自分の持つ剣で切り上げて凌ぎ、そのまま袈裟斬りのように振り下ろす。

 

 

 

───キィィィ!!

 

 

 

それを僕は逆手に持ち変えた剣の刃を滑らせる事で逸らす。

 

 

 

「…どうやらハッタリじゃねーみたいだな。」

その攻防でブラックがそう評価する。

信じてもらえたのはありがたいが…毒がそろそろ効いてきたのか、視界がボヤけて来た。

 

 

 

「どうやら毒が効きはじめてきたみたいだな。

だったら…次の一発で勝敗を決めよーぜ。」

僕が目を擦る仕草をしたためか、ブラックがそう提案してきた。

そろそろ終わらせたいと思っていたので悪くない判断だと思う。

 

 

 

僕がその提案に頷くと、お互いに剣を構えいつでもいける体勢に入った。

そして───

 

 

 

「行きますよ!!」

「行くぜ!!」

 

 

 

その言葉と同時にお互いに走りだし、間合いに入ったところでブラックは袈裟斬りのように剣を振り上げ、僕は居合い切りのように腰の近くに構えていた剣を───

 

 

 

───手放し、空いた右手でブラックの剣をしっかりと掴んだ。

「なにっ!?」

刃を握っているために感じる痛みに耐えながら、僕が手放して今まさに落ちようとしている剣の柄を左手で逆手に持ち───

 

 

 

───柄頭を鳩尾に叩き込んだ。

 

 

 

~~~

 

 

 

「今のは…ズリィだろ…。」

「ルールの指定は…特に、されてなかったので…。」

勝負が終わり、倒れているブラックに言われた言葉にそう返す。

「だとしても普通に使えよ…。」

「それは、出来ません…よ。

だって、◯◯…◯に…切り傷を…負わせた…く…ありません…からね…。」

「お前…気づいてたのかよ!?」

途切れながらも呟いた僕の言葉に彼は驚いたように飛び起きた。

もしかしたら…というだけだったけど、やっぱりそうだったのか…。

「やっぱり、そう…だったん…ですね。

そんな、事より…この勝負───」

 

 

 

───僕の勝ちでいいですね?

そう言おうとしたところで、僕の視界は…暗くなった。

 

 

 

⇒ブラックside

 

 

 

まだ鳩尾が痛ぇ…。

つーかこのやろう、最初から最後まで手加減しやがったな…。

まあそれはいいとして───

 

 

 

「まさか、バレるとは思わなかったぜ…。」

オレの横で仰向けに倒れている綾崎に向かってそう呟く。

…それを知ってんのはこっち側になってからじゃロヴロのおっさんだけだったからな…驚いたぜ。

「やっぱこいつおもしれー。

あ、そーだ。」

オレは思い出したように右腰に着けたポーチを漁り、さっき綾崎…いやハヤテに割られたのと同じ小瓶を取り出し、 蓋を開ける。

「解毒剤もう一本やるよ。

仲間と合流してーならちょっとでも早く回復させた方がいいぜ。

ほら、口開けろ。」

そう言って(※端から見たら独り言)口を開けさせようとするが上手く開けられない。

「ったく…こうなったら!!」

オレはそう言うと───

 

 

 

         ┌────┐

        つ│見せられ │◯

         │ないよ! │

          └────┘

 

 

 

「なにやってんだろな…オレは。」

しばらくしてハヤテから離れたオレは、床に寝転がりそう呟いた。

 

 

 

だいたいなんでオレはこいつの仲間を先に行かせたのか…。

それは多分…こいつらなら、あの男の暴走を止められると思ったからだろうな…。




普久間殿上ホテル 三階 中広間
               綾崎ハヤテ 離脱



今回の話は前回の話より書きやすかったです。
と言うのも…実は当初の予定では、ブラックの登場をグリップ登場後にしようと考えていたので順番をずらした+復帰後でまだ感覚を取り戻しきれてなかった+途中で思い付いた展開(ブラックが小瓶を渡したシーンから先全部)を入れたからが理由だと思います。
今回の話は、前回の展開から考えてすぐに思い付いたシナリオになったので、それも早かった理由かなと思ってます。



これからも頑張りますので応援よろしくお願いいたします。



前回の設定で書いたブラックが昔住んでた孤児院は後の話に出てくる予定です。
孤児院ではない、という指摘があれば直すのでそのときは容赦なくお願いいたします。



次回もお楽しみに!!


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第72話 拘りの時間

今回からは渚たちに視点を置いて行きます。



あの後皆はどうなっていたのか…?



それでは、本編スタート!!


⇒渚side

 

 

 

ハヤテ君のお陰で僕たちは4階まで来ることが出来た。

この階はもう階段を昇るだけでいい。

だけど───

 

 

 

「………。」

「ハァ………。」

「俺達だけで…この先大丈夫なのかよ…。」

 

 

 

僕を含めこの場のほとんどが落ち込んでいた。

それもそうだろう。

なぜなら───

 

 

 

───僕たちの隣からハヤテ君が居なくなってしまったからだ。

 

 

 

ハヤテ君が来てからと言うもの、これまでの困難で必ずと言っていいほど彼が解決のために最後まで居てくれた。

だから、烏間先生が動けなくなっても彼がいるだけでどうにかなると思っていた。

 

 

 

しかし、ハヤテ君はそう思っていた矢先に自分を犠牲にして僕たちを先に進ませてくれた。

だが、この先にも同レベルの殺し屋はいるだろう。

頼みの綱の桂さんも最近仲間になったばかりで不安な部分が多い。

 

 

 

───そんな相手に、僕たちは勝てるのだろうか…?

そう考えていたその時───

 

 

 

「ヌルフフフ…これで本格的に“夏休み”が始まりましたねぇ。」

 

 

 

───このシリアスなムードをぶち壊すような声が僕の手元から聞こえてきた。

 

 

 

「ふざけんなこのタコ!!」

「一人だけ安全だからってそんなお気楽な事言わないで!!」

「このムードでんなのんきな事言った罰だ!!

渚、それ思いきり振り回せ!!」

当然皆からブーイングが 飛んできた。

とりあえず、言われたとおり振り回そう。

「にゅやーッ!!」

 

 

 

───数秒後───

 

 

 

「ところで…なんでこれが夏休みになるの、殺せんせー」

腕が疲れてきたので回すのを止め、さっきの発言で気になった事を聞いた。

すると、殺せんせーは元の完全防御形態の時の通常の顔色に戻り───

「そして夏休みというのは、長い休暇期間でそれぞれがそれぞれの自立性を養い、次の自分へと大きな一歩を踏み出すための場と言っていいでしょう。」

そう言い出したと思えば今度は顔の表面に大きなバツ印を浮かべ───

「一学期の間だけで、君たちは教師や綾崎君を頼りすぎています。

その結果…君たちの注意力が散漫になっています。」

僕たちを叱るようにそう言った。

心当たりがある寺坂君と吉田君、岡野さんの三人はそっぽを向いたり、赤面しながら俯いたりしていた。

再び顔色を戻した殺せんせーはそんな彼らを無視して話を続ける。

「でも大丈夫。

君たちの能力は一学期中に大幅に向上している。

桂さんだけは加入が遅れたため大幅な能力値の変化はありませんが、元が高いため心配はありません。

君たちならクリアできると、私は信じていますよ。」

 

 

 

その殺せんせーの言葉は、僕たちの心に響いた。

「そこまで言うなら、やってやろうじゃねーか!!」

「そうね。

弱気になってたらなにも始まらないわね。」

「うん、僕たちだけで残り全て終わらせて後から来るハヤテ君をびっくりさせようよ!!」

『おー!!』

そうやって自信をつけた僕たちは五階へと進んで行った。

 

 

 

⇒カルマside

 

 

 

「ッ…!!」

5階と6階を繋ぐ階段は展望回路を進んだ先にある。

そのため、展望回路を慎重にだけど急いで進んでいく俺達の動きが止まる。

なぜなら…ガラスに寄りかかっている怪しい男を進行方向に見つけたからだ。

「マジかよ…メッチャ堂々と立ってるぜ。」

「あそこまで堂々とされてちゃ見なかったことにして進むなんて無理だぜ…。」

いやいやまずあれの前に出るなんて無理だって…。

「というか…あの人って…。」

十中八九殺し屋だろうね。

でも…先に進むにはあのおじさんを倒さないとダメみたいだね。

さーて、どうするかな?

そう考えていると───

 

 

 

───ビキィ!!

そんな音を立てておじさんの近くのガラスが割れた。

自然に割れたにしては突然すぎるし、なによりおじさんの手の位置で割れたのは不自然すぎる。

ということは…ガラスを握り潰したな。

どんな握力してんの…。

 

 

 

「足音を聞く限り…手強いと思えるのは一人だけしかおらぬ。

だがそいつも…呼吸の音からしてビビっているようだぬ。

それではつまらぬ…。

出てくるぬ…来ないなら、こっちが赴くまでだぬ。」

その握力に驚いていると、おじさんが突然話し始めた。

バレてるみたいだし、さっさと出ていかないとね。

「ふむ…その様子を見ると、精鋭部隊出身の教師は“スモッグ”のガスにやられたようだぬ。

それに“ブラック”が戦いたいと言っていた男もいないようだぬ。」

俺達を見定めるようにおじさんが言うけど───

 

 

 

「“ぬ”使いすぎじゃね、おじさん?」

それが気になって集中出来なかったため、指摘した。

 

 

 

⇒渚side

 

 

 

相手の外見を気にするあまり、僕たちが言えなかった事をカルマ君がさらっと言ってくれた。

こういうときにカルマ君がいてくれたのはありがたい。

「“ぬ”を入れて話せば侍のような口調になり、カッコよくなるとおもったからつけていたぬだが…そうか…違和感があるぬか…。」

そう考えていると、男が語りだした。

外国の人か…。

だったらそういうのに憧れるのもおかしくはないだろう。

そう思っていると───

 

 

 

「たとえそうだったとしても構わぬ。

この場にいる全員を始末してから“ぬ”を取ればいいだけの話なのだからぬ。」

『ヒィッ!?』

指をゴキゴキさせながらそんな事を言われたので、僕たちの大半はビビってそんな声を出してしまった。

「武器の類いを持っているようには見えませんね…。

となると、あなたの暗殺道具は素手ですね?」

「その通りぬ…だが、だからといって甘く見てはならぬ。

剣や銃、その他諸々の武器と違い空港などでの身体検査に時間を使わぬため他、たとえ正面戦闘になったとしてもターゲットの脛椎や頭蓋骨でも潰すだけでいいぬ。」

なるほど…殺せんせーのようなタイプには意味はないがそんな例外を除けば極めて有効な戦法だと言えるだろう。

「俺はこの武器だけを鍛えてあげてきたが…時にはそれを仕事道具以外のために使いたくなってくるぬ。

それが、強敵との命を賭けた戦闘ぬ。」

男はそのまま話を続けるけど…なんか、どこかで聞いた事のあるような言い方だなぁ…。

そう思っていると、男は携帯を取り出し───

 

 

 

「今のお前たちにそれが出来るとは思えぬ…。

だが俺一人で片付けるのも面倒なのでぬ…仲間を呼んで皆殺しぬ。」

そう言って操作し始めた。

マズい!!

早く止めないとハヤテ君や先生達の努力が無駄になる!!

だが───

 

 

 

───ヒュッ!!

───ガシャァン!!

 

 

 

カルマ君がその辺にあった観葉植物を植木鉢ごと持ち上げ、携帯に叩きつけることでその心配は杞憂になった。

「ガラスとか頭蓋骨ってさ…プロって意外とフツーなんだね、おじさんぬ。

言うならせめてダイヤモンドとか鋼玉みたいな物にしないとね。

ていうかさ、おじさんぬが言ってた事に似たことを下で仲間の真っ黒くろすけが言ってたけど…そいつと違って速攻仲間呼ぶって、ほんとに大したことないんじゃないの?」

そのまま挑発したカルマ君に僕たちは驚いた。

無謀、その二文字しか出てこなかった。

だけど───

 

 

 

「本気なのですね…カルマ君。

なら…油断しないようにだけはしてくださいね。」

殺せんせーだけは、カルマ君の背中を押すようにそう言った。

「殺せんせー、なんで!?

プロ相手に絶対に勝てるわけ…「あります。」」

僕の言葉に重ねるように殺せんせーが言う。

「ただ挑発しているだけのように見えますが、よく見てみると…アゴが引けています。

彼はすでに相手を警戒し、観察している。

以前のカルマ君とは違うと言うことです。

ならば勝ち目はあります。」

「まぁね。

油断して恥ずかしい思いをするのはもう嫌だからね。

それに…ハヤテ君が居なくて、烏間先生も桂さんも戦えるような状態じゃないってなったら俺がやるしかないじゃん?」

殺せんせーの考察に対してのカルマ君の言葉に僕たちは納得した。

ガラスを握りつぶす程の握力の相手なら、掴まれなければいいだけだ。

…とは言っても、 それが出来て尚且つ勝つとなると出来る人が限られて来る。

だが、烏間先生は毒ガスで動きを封じられて、ハヤテ君はこの場にすらいない。

場所的な理由で桂さんも全力で戦えない。

だからそれを補おうということなのだろう。

 

 

 

「そこまで言うなら試してやるぬ。

どこからでもかかってくるぬ。」

 

 

 

なら…任せたよ、カルマ君!!

 

 

 

そんな僕の心の叫びとともに、カルマ君はその手に持っている観葉植物を男の頭めがけて振り下ろした。




おじさんぬの口調難しいぬ…。



arosのサンデーの目次コメントに漫画家でもないのに答えてみた



Q.一番好きなインスタント食品はなんですか?



A.チキンラーメン
普通に作っても美味しいがぬ、袋から少しずつ出してバリバリ食べるのも大好きだぬ。



次回もお楽しみぬ!!


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第73話 カルマの時間

原作ではここ“カルマの時間・二時間目”なんですが、この作品が始まったのがその話が終わった後なのでこのサブタイトルになりました。



さて、カルマVSグリップの勝負を見ていきましょう。



…ブラックの設定の親に捨てられた時期について書き足しておこうと思いますのでよかったら見てください。
それともう一つ、岡野のカルマの呼び方の資料が無かったので名前の呼び捨てにしたんですが…違ったら感想欄で指摘してください。



それでは、本編スタート!!


⇒カルマside

 

 

 

「愚かぬ…。

こんな柔い物で俺を倒せると思ったのかぬ?

もっといい武器を探すべきだぬ。」

「そんなんで勝てるとは思ってないし、武器だって必要ないよ。」

俺の振り下ろした観葉植物の幹をへし折ったおじさんぬが言った事に俺がそう返した。

そのもっといい武器ってのはもう持ってるしね。

そう考えていると、今度はこっちの番だとばかりにおじさんぬが両手を構えて飛び出してきた。

 

 

 

さっきはあんな事言ったけど…もし掴まれたりなんかしたら即ゲームオーバーだ。

だけど───

(掴まれなければどうって事ないんだよねぇ…。)

そう思いながら伸びてくるおじさんぬの腕を避け、時には俺の腕で逸らしていく。

(こういうのこっそりやっといて正解だったね。)

俺はそう考え、フッと笑みを見せた。

 

 

 

⇒渚side

 

 

 

すごい…。

殺し屋の男の攻撃が始まってかなりの回数の攻撃を繰り出されているのに、カルマ君は一度もくらってない。

どこであんな技術を…そう思っていると───

 

 

 

「体育のナイフ訓練で烏間先生が使っている防御テクニックですねぇ。

私が見た限りでは、彼は自分の番以外では烏間先生の動きを観察するように見ていました。

見て盗み自分のものにするのは技術向上の基本です。」

殺せんせーがそう解説してくれた。

言われてみれば烏間先生のそれと似ているような気がする。

でも、少しだけ違う部分もあるような…?

「それだけではありません。

彼らは皆さんの目を盗んで技術向上に励んでいました。」

殺せんせーがさらにそう言ってきた。

───彼ら?

いったいどういう意味なんだろう?

「そういえば、この前教室に早く着きすぎたからって山の中を探索してたんだけど…カルマと綾崎が思いっきり戦ってるの見たけど…それの事?」

「ええ、それであってます。

ただカルマ君は、その戦闘を技術の研鑽目的でしていたようですが、数回やるうちに綾崎君の素手における戦闘技術の一部を吸収したようですね。」

思い出したように言った岡野さんの言葉を肯定した殺せんせーがそう解説した。

───えぇ…なにその化け物…。

元から強いカルマ君がヤバい方向に進化しちゃったように思えるんだけど…。

そういえば、朝教室に入ったらボロボロの二人…がいるなんて事がたまにあったけど…あれそんな事してたんだ…。

 

 

 

とは言うけど…。

「つってもよぉ…今防戦一方じゃねーか。

確かに負けねーかもしれねーが…あれじゃ勝てもしねーだろ。」

僕の考えている事とまったく同じ事を寺坂君が殺せんせーに指摘した。

それに対し、殺せんせーは───

「それは分かっています。

カルマ君だってそれは分かっているはずです。

もうじき動くはずですよ。」

ヌルフフフ…と笑いながらカルマ君に視線を向けたままそう言った。

 

 

 

⇒カルマside

 

 

 

(さっきから聞こえてんだけど、殺せんせー…。)

後ろからの声に無言でツッコみつつおじさんぬを蹴り、距離を取る。

 

 

 

「さーて、後ろにネタバレされたわけだけど…こっからは俺のターンね。

おじさんぬ同様素手のタイマン勝負でね…。」

そう言って構える俺におじさんぬはフッ…と微笑むと構えてこう言った。

「なるほどぬ…挑発に乗って正解だったぬ。

お前となら…仕事では味わえぬフェアな戦いが出来そうだぬ。

どこからでもかかってくるぬ。」

「へぇ…じゃあ、行くよ。」

そう言って俺はおじさんぬの前に走り込んで延髄切りを放つ。

でも、それは腕で防がれた。

防がれるのは読んでいたので気にする事もなく、上体への攻撃を続けていく。

「くっ…!!」

上体ばかりで油断させたところで向こう脛…所謂弁慶の泣き所を蹴りつけると、さすがにそこは効くのかその場にしゃがみこんだ。

それをチャンスと見た俺はおじさんぬに突っ込み…そして───

 

 

 

───ボシュゥ!!

 

 

 

そんな音とともに俺の視界を煙が包み込んだ。

 

 

 

⇒渚side

 

 

 

煙が消えると同時にカルマ君が倒れていく。

今のガスって…そう思っていると、殺し屋の男が不敵な笑みを浮かべだした。

「これ以上長引かせるつもりはないのでぬ…“スモッグ”のガスを使わせてもらったぬ。」

やっぱりそうだったのか…。

象を倒す事の出来るガスをまともに受けてはもう終わりだ。

「それのどこがフェアだ!!

素手の勝負にそんなん出すなんて汚ぇぞ!!」

その所業に吉田君が怒鳴るけど───

「“素手だけ”とは俺は一度も言ってないぬ。

それに、形に拘りすぎてはこの仕事を長く続けるなど出来ぬ。

俺はそうしてここまでやって来たぬ。」

なんとでも言え、というように鼻であしらわれた。

「さて、ここで長話をしていては使った意味が───」

 

 

 

───ボシュゥ!!

 

 

 

そろそろとどめを刺そうとしたのかカルマ君の方を向いた男の顔をガスが包み込んだ。

「奇遇だねぇ…。

俺もあんたも同じ事考えてた。」

顔から手が離れたカルマ君はそれと同時にそう言った。

カルマ君が持ってるのってあれだよね…今あるのはありがたいけど、なんでそんなもの持ってるの!?

というか…あの言い方からしてカルマ君、ガスを吸ってないよね?

「はぁ…やっぱり何か企んでた。」

その様子を見ていた桂さんが呆れるようにそう言った。

「ヒナは気づいてたの?」

「ええ、相手に突っ込んでいく直前に大きく息を吸い込んでいたように見えたからね…。

それに、赤羽君が素手での一対一って言った時に何故か違和感を感じたからかしら。」

「違和感あって当然だろ桂。

あいつが守るはずがねぇ約束、それはな…。」

片岡さんの疑問に桂さんはそう答え、それに寺坂君が返した。

「なにしてんの寺坂。

人数使って縛っとかないとこのおじさんぬに勝てるわけが無いっての。」

「“素手でタイマンをしてやる”事だ!!」

カルマ君の呼びかけに応じた寺坂君は、男に思い切り飛び乗った。

それに続くように腕や脚に飛び乗り、動きを封じた。

 

 

 

「高い所苦手なのによく見れたね。」

「窓の近くまで行かないようにして下を見なければいいのよ。」

行っても意味が無いと考えた僕がそう桂さんに言うとそんな答えが返ってきた。

なるほど…自分が高い所にいると考えなければ大丈夫なのか…。

「超次元サッカーアニメでも使われたやり方ね。」

「不破さん?」

というかそれ覚えてる人いるかな…。

 

 

 

⇒カルマside

 

 

 

「な、なぜ…お前が…そのガスを…持っていたぬ…。」

「ああこれ?

さっき下で会った毒使いのおっさんが使わなかったやつをなんかあった時のためにって拝借しといたの。」

皆で縛り上げ終えたところでおじさんぬが聞いてきた。

出来れば最上階まで取っておきたかったんだけど…使い捨てな所がもったいないね…。

「もう一つ、聞かせ…るぬ。

なぜ…俺がガス攻撃をする、と分かった…のだ…ぬ。

俺は、素手以外を…見せなかったはず…なのぬ…だ。」

「なんでってそりゃ…素手以外を警戒してたからに決まってんじゃん。」

おじさんぬが素手での戦いをしたいと思っていたのは分かっていた。

でも───

 

 

 

「いくら素手の戦いがしたかったと言っても…俺達の足止めが目的なら手段を選んでる場合じゃ無いと思ったからね。

だから…警戒してたのはおじさんぬにプロとしての意識があるって信じてたからだよ。」

俺がそう言うと、おじさんぬはフッ…と笑みをこぼした。

「…見事だ…ぬ、少年よ。

この勝負…楽しかった、ぬ。」

 

 

 

あのね、おじさんぬ…いい感じに終わらせようとしてるけどさぁ。

まだ終わってないんだよね…。

 

 

 

「何言ってんの?

俺はまだ全然楽しくないんだけど。」

「…なんだぬ、それは。」

俺が取り出した物についておじさんぬが聞いてくる。

何ってそりゃ───

「わさび&カラシ~。

これからおじさんぬの鼻の穴にねじ込もうって思ってるんだ。」

周りの皆がひいてるように見えるんだけどこんだけ拘束して動けなくなってるところを見逃すつもりなんてあるわけないじゃん。

「限界まで鼻に突っ込んだら専用クリップで鼻塞いで…俺とハヤテ君の荷物に入ってたこのブート・ジョロキアを口に詰めれるだけ詰めてさるぐつわで蓋をして…これまたハヤテ君の荷物に入ってた玉ねぎを剥いて穴塞いだガチャカプセルに詰めて目元に貼って処置完了。

今こそプロの意地を見せるときだよ、おじさんぬ。」

そう言って爽やかな笑顔を向け───

 

 

 

          ┌────┐

         つ│みせられ│◯

          │ないよ!│

          └────┘

 

 

 

~数秒後~

 

 

 

楽しかったなぁ~おじさんぬの調教。




arosのサンデーの目次コメントに漫画家でもないのに答えてみた



Q.子どもの頃に大好きだった「むかし話」「童話」を教えてください。



A.昔から本はかなり読んでたので難しいお題ですが、強いて言うなら…『桃太郎』ですかね。
岡山県民ですし。



次回もお楽しみに!!



今まで出席番号の話を前書きでしましたっけ?
どうだったか忘れたので教えてくださいお願いします。


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第74話 女子の時間

まず遅くなった事と、前書き及び本編が長くなった事を謝罪させてください。
遅くなった理由は、構想が難しかったとの途中でハヤテのごとく側からゲストを出そうと考えたからです。
言い訳にしか聞こえませんね…。
そして本編は何気に初の5000字越えですね。
2000字以内にしていた時期はどこに行った?



それから、前回の話を投稿した後で投稿済みの話の⇒と行間を統一するために編集作業をしたんですが…第22話で神崎がハヤテを心の中で名前呼びするミスを見つけました。
申し訳ありませんでした。



さて、既に訂正したことは置いといて…この作品での出席番号について触れてなかったと思うのでその話をさせていただきたいと思います。
まず、ハヤテは綾崎(“あ”やさき)ですが…律やイトナと同じ編入組なので29番になります。
なぜ律やイトナより早くE組に入ったのにこの番号かと言うと…4月になった時点で椚ヶ丘中学校にいたかいなかったかで頭文字通りの出席番号になるかどうかをきめています。(じゃないと茅野が原作通りの出席番号であることの辻褄が合わないので)
そのためヒナギクを片岡と茅野の間、西沢を中村と狭間の間に入れています。
そう認識しておいてください。



それでは、本編スタート!!


⇒渚side

 

 

 

ホテル6階まで来た僕たちだったけど…次へと進む階段がラウンジの中にあり、直で行ける扉にも内側から鍵がかかっていた。

幸いこのラウンジでの警備員のチェックは女子に対しては甘いみたいなので女子に開けてきてもらうことになったけど、女子だけだと危険なので誰か男を連れて入ることになった。

 

 

 

なったんだけど───

「うぅぅ…なんで僕がこんな目に…。」

なんで僕が女装しなきゃならないんだ…!!

「えっと…似合ってるわよ渚君。」

「今のこの格好で言われても嬉しくないよ!!」

慰めてくれるって思ってた桂さんまでそう言ってくるし…助けてハヤテ君…。

でも…そう嘆いていても仕方がないと考え、覚悟を決めたところで背後から肩に手を置かれた。

…ッ!!

流石に挙動不審すぎて怪しまれたか、と思い振り返ると───

 

 

 

「可愛いね~君ら。

俺の奢りでいいからさぁあっちで俺と飲まねぇ?」

見た感じ軽薄そうな男がいた。

要するに…ナンパかこれ。

「じゃ、ここはよろしくね渚君。」

どう対応すればいいのか考えていると、片岡さんがそう言ってきた。

なんで僕が…そう問おうとすると片岡さんは僕の耳元で囁いてきた。

「ここで“ごめんなさい”なんて言って後でフロントまで行って私達の事を確認でもされたら、綾崎君やビッチ先生の頑張りが無駄になるかもしれないからここは誰かが相手をするしかないのよ。

でも、私達じゃ相手しててもぎこちない感じになると思うからここは渚君に頼るしか方法がないの。

それに、男だから自然体で対応出来ると思ったのよ。」

確かに…桂さんは分からないけど、それ以外だとE組の女子は狭間さんと原さんを除く全員(微妙な人はいるが…)がハヤテ君に好意を寄せているので、彼とこの男を比べて上手く対応出来るか分からないのだろう。

かろうじて出来そうな矢田さんに至っては興味無さそうな顔してるし…。

「それに…彼が声をかける時に渚君の肩に手を置いたって事は、元から渚君が目当てだったってことでしょ?

人気者ね、渚君。」

桂さんのそれはいらない情報だよ!!

 

 

 

~~~

 

 

 

「じゃあよろしく渚。

後で呼びに来るまで頑張ってね。」

結局、僕がここに残る事になった。

なんでこんな事に…。

「泣かないでよ渚ちゃん。

あ、俺ユウジな。」

 

 

 

⇒ヒナギクside

 

 

 

渚君の活躍によってナンパを回避出来たのまではいいんだけど…───

 

 

 

「なぁ君達、俺達といい事しねぇ?」

まさかまたナンパされるなんて…。

こんな所でのんびりしてる時間なんてないから追い払おうとしたその時───

「どっかで見た事あると思ったらあんたか。

何やってんだ、こんな所で?」

左目の所に縦に傷の入った二枚目面の男が私達に話しかけてきた。

 

 

 

…いや、誰?

いきなり話しかけてきた男に警戒していると───

 

 

 

「あ、お久しぶりです柏木さん。

あなたも来てたんですね。」

矢田さんが彼と話し始めた。

「組のやつらと一緒にな。

てか綾崎の所のガキとあのゆるふわって感じの娘はいねーのか?

綾崎の所のガキならフツーにここの警備越えて来れそうな気がするんだがな…。」

「陽菜ちゃんは諸事情でここにはいません。

綾崎君とは下までは一緒だったんですけど…途中で離ればなれになっちゃって…。」

その会話だけで彼がハヤテ君の事を知ってるんだと気づいた。

矢田さんとはハヤテ君が一緒にいるときに知り合ったのだろう。

「なんか込み入った事情があることは分かった。

んで、あんたらはなんでここにいるんだ?

俺に出来る事なら何でもやるぜ。」

「でしたら、お願いがあるんですけど───」

そういえば、私達にナンパしてきた人達が静かだけどどうしたんだろう?

そう思ってそっちを見ると、彼らは怯えたような目で矢田さんが話している柏木さんという男を見ていた。

「OK。

ナンパ避けくらいお安い御用だ。

つーことでテメーらにはご退場願うぜ!!」

「「ヒ、ヒィィ!!」」

柏木さんが彼らを睨み付けると、男達は情けない声を上げて去っていった。

「これでよし。

じゃ、行こっか。」

矢田さんのその言葉につられるように皆が階段までの道を歩きだした。

 

 

 

~~~

 

 

 

「そういえばさ、矢田っち達はあの人といつ知り合ったの?」

「うーん6月くらいかな?

ほら、前原君の仕返し案件があったでしょ?」

階段を目指す道中、ふと岡野さんが矢田さんにそう訊ねると、そんな答えが返ってきた。

って、それ私知らないんだけど…。

「あーE組だからって理由で急に態度を変えた女子を新しい彼氏ごと教わった技術を使って酷い目に会わせたっていうあれね。」

「クラスの半数が烏間先生に怒られたあの事件ね…。」

矢田さんの言葉に付け加えるように言った不破さんと速水さんの言葉に皆顔を青くしたり、苦笑いを浮かべたりという反応を見せた。

というか…───

「椚ヶ丘中学校の生徒がずぶ濡れの姿で入ってきてトイレの前でケンカし始めた、なんて苦情があったけど…あれあなた達の仕業だったのね。」

「あはは…。」

 

 

 

確かあの時───

 

 

 

~~回想入りまーす~~

 

 

 

「瀬尾、君には生徒会…いやA組としての誇りを持って行動してもらいたい。

今回は庇うが、次にまた問題行動を起こしたら…その時は温情はかけないつもりでいる。

以後、気をつけるように。」

 

 

 

~~回想終わりまーす~~

 

 

 

───なんて浅野君に言われてばつが悪そうな顔をしてたわね。

 

 

 

 

「で、話を戻すけどね…綾崎君が私達に話を持ってくるちょっと前にナンパされてた私達を助けてくれたのがこの人だったの。」

「たまたま近くを通ったら“やめてください”なんて聞こえてきただけだ。」

そんな事があったのね。

でも───

「でもそれだけだとハヤテ君は関係ないよね?」

私が思っていた事を茅野さんがそのまま矢田さんに言った。

すると矢田さんはうーんと唸った後、決心したような顔を私達に向けてきた。

「あのさ…綾崎君のご両親が借金のカタに綾崎君を売ったって言うのは知ってるよね。」

その問いかけに皆は頷いた。

私は歩からだけど、皆はハヤテ君から直接聞いたらしいから知ってる。

私達が頷いたのを確認した矢田さんは柏木の方を見ながら話を続けた。

「この人はそのお金を貸した人達の一員なの。」

 

 

 

───ッ!!

その言葉に皆驚いた。

話だけは聞いていたけど…この人がそうだったとは…。

「しっかり金は貰ったからな…借金も無ぇ今はただの一般人とヤクザさ…。

ま、今回はたまたま目についたから手を貸すってだけだ。」

なんだ、案外いい人そうじゃない。

「本当に助かりました。

でも、せっかくこれ借りてきたのに…使い道無くなっちゃった。」

そう言って矢田さんはズボンのポケットからボタンのような物を出してきた。

「それうちの代紋じゃねーか。

どーやって手にいれたんだよそんな物。」

「うちの英語教師が持ってたの。

他にも色々あったけど、知り合いがいるからこれを使おうかなって思ってね。」

なるほど、イリーナ先生が持ってた物なのね。

確か、あの人は色仕掛けを使った潜入が得意らしいから、持っていてもおかしくないわね。

「なんで教師がそれ持ってんのかは知らねぇが、使える物を出し惜しみしねぇのはいいんじゃねーか?」

「ありがとうございます。

と言っても…それを実行しようって思ったのは、 私達の担任が“自慢出来る第二の刃を持て”って言ったからなんですよね。」

へぇー殺せんせーが…。

 

 

 

───待ってそれいつの話?

 

 

 

「あ、これ中間テストの前に言われたからヒナは知らないんだっけ?」

私が矢田さんの話に疑問を持っているのに気づいたのか、メグが説明してくれた。

そっか…その時私はA組にいたし、知らなくてもおかしくない事なのね。

でも───

「なんか…私だけ仲間はずれにされたみたいな感じがするわね。」

{私もその話は聞いただけなので安心してください。}

拗ねたような口調で言う私を律がフォローしてくれた。

そういえば、律が来たのは修学旅行の後って話だっけ?

本校舎で見たときは人型だったから、E組の教室で初めて本体を見たときは驚いたなぁ…。

「アハハ…。

それで考えたんですけど…こういう人の輪を広げるのは社会に出た時に最高の刃になるって思ったから、先生から交渉術を学んでるんです。」

なるほど、カッコいい事考えるじゃない。

と、そこに───

「ヌググ…巨乳相手に初めてホレた…。」

───ッ!!

茅野さんがそんな事を言い、つい反応してしまった。

「「…」」

茅野さん…いやカエデもそれに気づいたのか、お互いを見つめ…ほぼ同じタイミングでサムズアップをした。

「なんかよく分からない繋がり出来ちゃった!?」

 

 

 

~~~

 

 

 

「ようやく店の奥まで来たけど…ここからが難題ね。

誰か渚を連れてきて。」

「じゃあ私が行ってくる。」

「一応俺も行くぞ。

一人二人じゃまたナンパされねーかが心配だからな。」

メグに言われ、カエデと柏木さんが渚を呼びに行った。

さて後は7階に続く階段前の人をどうにかすればいいんだけど…───

「可能なら倒しちゃっていいんだけど…。」

「相手はホテルの従業員だし…そんなことしたらすぐバレてここまでの苦労が無駄になる。」

そういうこと、なのよねぇ…。

 

 

 

⇒渚side

 

 

 

「お待たせ、連れてきたよ。」

無事に皆と合流した所で茅野がそう言った。

さて状況は…見た感じ、あの見張りをなんとかすれば通れるって感じかな?

出来る限り穏便に済ませるには…そう考えていると───

 

 

 

「おい待ってくれよ!!」

ユウジ君が僕たちの所まで走ってきた。

「せっかく仲良くなったんだ。

サービスに俺のダンス見せてやるよ。」

そう言って踊りだしたけど、はっきり言って邪魔になってる…。

この山積みの問題をどうしたらいいのだろうか…そう思っていると、ダンスに夢中になっていたユウジ君の腕が通りかかった黒服の男の持っていたグラスに当たり、中身が男に思いきりかかった。

「テメェいい度胸してんじゃねーか!!」

「あ、あの…今のはわざとじゃ無くて…。」

「んなこと知ったことじゃねーよ、面貸せや!!」

ちょっとした騒ぎになっちゃった…。

「なあ、あの人使えばこの場をどうにか出来んじゃねぇか?

あの人、俺の上司だから後で上手く誤魔化しとくからよ。」

僕たちにしか聞こえないくらいの大きさで柏木さんと言うらしい人がそう言った。

確かに、身内なら誤魔化しやすいだろう。

そうそう、道中で茅野からこの人の事を聞いたけど…まさかこの人が話にだけ聞いていた借金取りでそんな人が協力してくれるなんて思わなかったから驚いた。

 

 

 

~~~

 

 

 

「さ、今のうちにいくよ!」

「今見たことは誰にも言わないでね。

じゃあ柏木さん、後はよろしくお願いします。」

「おう、兄キの事は俺に任せとけ。」

ほぼ一瞬の出来事だったので結果だけ簡単に言うと、矢田さんに促された岡野さんの蹴りで倒れたヤクザの男を階段前の従業員に連れていってもらった。

 

 

 

僕は未だに怯えているユウジ君の前に行き───

「今じゃ女子の方がカッコいい時もあるけど、それでも諦めずにカッコつけなきゃならないから…男子ってつらいよね。」

笑顔でそう言った。

「じゃ、もう行くけど…女子が求めるカッコよさって中身のカッコよさだから、外見だけに気を付けてもあまり効果的じゃないっていうのは覚えておいてね。(※作者は男であるが故に事実かどうかは分かりません)」

 

 

 

そして、皆と一緒に7階へと進んで行った。

 

 

 

⇒ブラックside

 

 

 

後で合流する、と言う約束を守らせるため未だに意識の戻らないハヤテを背負ってホテル内を進んでいたオレだったが───

 

 

 

「ハァ…ハァ…けっこう重いなこいつ。」

展望回廊まで進んだところで、休憩しようと腰を下ろしちまった…。

意識の無いヤツは重いと聞くが、別にゴツい身体してねぇし、いつも重い剣振り回してるからいけるだろって思ってたら意外と重かった。

つか、触ってみると意外と筋肉があった。

ホントおもしれーヤツだな、と心の中でハヤテの事を称賛したオレは、視線を別の場所にやった。

 

 

 

「まさか“グリップ”がここまでやられるとはな…。」

あの教師とハヤテがいないから勝てるとは思ってなかったけど…なかなかやるじゃねーか。

と、感心するのはここまでにするとして…───

「これだけは伝えておかねーとな。

つっても、オレはあいつらの番号は持ってねーしな…。

となれば…。」

そう言いつつハヤテの懐を漁り、ケータイを取り出した。

「とりあえず残ってる殺し屋の情報くらいは伝えておくか。

出てくれたらの話だがな。」

{なら、私が伝えておきますので早くその情報というのを教えてください。}

諦め半分で起動させようとしたところで、急に画面がつき、桃色の髪の娘が敵意剥き出しでオレに言ってきた。

「うぉ、びっくりした…!!

そうかあんたが話に聞いてた電脳少女ってやつか…。」

「そんな御託はいりません。

なんで敵のはずの私達に味方するんですか。」

あぁ…さっきまで敵だったのにいきなり手のひら返しをしたのが気に入らなかったのか。

「決まってんだろ…ハヤテの事を気に入ったから。

んでもってあんなやつよりお前らの味方をする方が何倍もマシだからだよ。」

オレの言葉に電脳少女は少し黙った後───

{分かりました。

今はあなたを信じます。}

「助かる。

ついでにハヤテの電話番号教えてくれねーか?

今後お前らの身に危険が迫った時に伝えられるためにな。」

一応の理由が理由のためにそれもOKをもらった。

 

 

 

案外言ってみるもんだな。




arosのサンデーの目次コメントに漫画家でもないのに答えてみた



今回は本編が女子の話なので女性関連の物にしようとしたのですが、全然見つからなかったのでこれにします。
ということで どうぞ!!



Q.朝起きて、性別が変わっていたらどうしますか?



A.夢と考えてもう一回寝る。
 それでも戻ってなかったら諦めて二度目の人生を楽しむ。



次回もお楽しみに!!


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第75話 武器の時間

ムーンフォースさん、誤字報告(複数)ありがとうございました。
前回の話で不和の名前を出そうとしていたら、変換の一番最初に不破と出たのでどこかで間違えたのかと思ったんですが…もう少し慎重に頑張ります!!



さて、今回の話ですが…今まで出すか検討していた武器を出して登場人物の一人を強化したいと思います。



それともうひとつ…この話投稿後に第25話の固定砲台sideの最後を加筆しようと思います。



それでは、本編スタート!!


⇒三人称side

 

 

 

「あら?」

「…?

何かあったの、伊澄ちゃん?」

渚達がホテル7階に向かっているのと同時刻、東京にある大きな和風の屋敷にて、一人の少女がとある異変に気づいていた。

「あれを見てください、お母さま。

我が家の家宝、正宗がなくなっています。」

「あら、 本当ね。

たぶん別の場所に移しただけだと思うからそのうち戻ってくるはずよ。」

「それでいいのでしょうか…。

なんだか、いやな予感がするのですが…。」

 

 

 

はたして、正宗はどこに行ったのか…。

真相を確かめるため、カメラをホテルに返します。

 

 

 

⇒カエデside

 

 

 

「次の階への階段は目と鼻の先だが、その前に見張りか。

これは少々厄介だな…。」

渚の着替えが終わり、いざ7階へとなったところで烏間先生が私達にそう言い出した。

どういうことだろうと思っていると───

{このホテルのVIPルームでは宿泊客が自ら雇った見張りを配置する事が出来るんです。

場合によっては無関係の可能性もあるんです。}

その疑問に答えるように律がそう言った。

なるほど…場合によっては他の宿泊客に迷惑がかかるかもしれないということか…。

 

 

 

なら、どうしたものか───

 

 

 

{ですが…8階へ続く階段の前にいる二人は最上階の敵が配置した見張りらしいのでおもいっきりやっちゃってください。}

どうしたものかと考えていると、律が清々しい笑顔でそう言った。

「なんで律がそれ知ってるの…?」

{先ほど“ブラック”が教えてくれました。}

「あいつだって雇われてる身のはずだろ…なんでそんな情報を俺達に教えるんだよ…?」

{ハヤテさんの事が気に入ったから、だそうですよ。

それと…そもそもハヤテさんと戦いたかったからってだけであまりあの男の思惑に乗るつもりは無かったし、皆さんならその暴走を止める事が出来るかもしれないから、とも言ってましたね}

なるほど…単純に依頼主に不満しかなかったところに私達…というかハヤテ君が来て離反する理由が出来た、というわけか…。

 

 

 

まあ、そんな事は置いといて───

 

 

 

「よーするに関係あるかどうかで遠慮する必要無くなったって事か。

ならさっさとぶっ倒しちまおうぜ。」

寺坂君の言うとおり、迷う手間が省けて助かったのは事実だけど…倒すのに時間がかかったら連絡されるだろうからどうしたものか…と思っていると───

 

 

 

「じゃあ私が行ってくるわね。」

いきなりヒナがそんな事を言い出した。

「ちょっとヒナ、それ本気で…ってその手に持ってる木刀何?」

「さあ?

気がついたら持ってたのよね。

まあ、これさえあれば問題ないと思うし…それにここまで足手まといだった分仕事しないとね。」

片岡さんの言葉にヒナは笑顔でそう返して見張りの男達の元へと向かっていった。

 

 

 

⇒ヒナギクside

 

 

 

「…?

こんな所で何やってんだお嬢ちゃん?」

右手に持った木刀を隠しながら見張りの男達に近づくと、思った通り話しかけてきた。

私はそれを無視しつつ一方の眼前まで近づくと───

「やああ…ッ!?」

素早く出した木刀を首に思い切り当てようとして、いつもより振る勢いが強い事に気づき、やや威力を落として当てた。

「うお…!!」

「な…何なんだこいつは!?」

「ハァ!!」

その一撃を受けて倒れる男を踏み台にして、強襲を受けたからか驚いた表情のもう一人の男の脳天に木刀を叩きつけた。

 

 

 

「ふぅ…。」

片膝を立てた状態で着地した私は、男達が倒れた事を確認しそう息を吐いた。

と、その時───

「う…うぅ…。」

───男の一人が呻き声をあげながら起きようとしていた。

少し加減がすぎたらしい…。

もう一発、そう思っていると───

「そんだけやりゃ十分だ。

後は俺に任せとけ。」

いつの間にか近づいていた寺坂君がそう言って男の首元に黒い棒を突きつけた。

そして、バチィッ!!という音が聞こえたかと思ったら男が泡を吹いて今度こそ動かなくなった。

 

 

 

⇒渚side

 

 

 

僕が、さっきの桂さんの攻撃が当たる直前に威力が弱まったように見えたと言った途端に飛び出して、男にスタンガンでの攻撃を与えた寺坂君の元に皆駆け寄っていく。

 

 

 

「寺坂君スタンガン持ってきてたんだ…。」

「まあな…タコの足止めに使えるか試そうと持ってきてたんだがよ…まさかこんな使い方をする事になるとはな。」

スタンガン(※このタイプのはスタンバトンと言う)を持っている事に驚いた僕がそう言うと、寺坂君はそれを肩に当てながらそう呟いた。

「持ってきたって…それどうやって手に入れたのよ?

買ったんだったらかなり高かったんじゃないの?」

入手経路について気になったのか、片岡さんが寺坂君にそう聞いた。

「通販で見た時は確かに一万くらいしてたな…。

だが買ってねぇのは確かだな…ハヤテが知り合いから借りたって言ってたからな。」

その答えが出た瞬間、僕の脳裏には下の階で会ったヤクザの人が浮かび上がっていた…まさかね。

 

 

 

「入手経路はアレですが…なかなかいい武器ですね。

桂さんはそれを私によく見せていただけませんでしょうか。」

「別にいいわよ。」

そう言って差し出された木刀を殺せんせーはまじまじと見つめ───

「形状の段階でもしやと思っていましたがやはり…。

それなら先ほど攻撃前に威力を落としていたのにも納得が行きます。」

そう言ってうんうんと頷き始めた。

「それで…この木刀は何なの、殺せんせー?」

「私が聞いた限りの情報で良ければ…。」

そう言って殺せんせーは比較的真剣な面持ちになった。

「この木刀は嘗て、天才刀鍛冶として名を馳せた名匠・正宗が作ったとされる“木刀・正宗”です。

手に取った者の潜在能力を最大限発揮出来るようにするという話を聞いた事があります。」

なるほど…いつも以上の力が出ていて下手したら殺しかねなかったから弱めたのか…。

というよりそれもはやただの木刀じゃないよね…。

「まあ、潜在能力を引き出す分感情が高ぶりやすくなる欠点がありますが意図的に威力を落とした所から見たらそこはコントロール出来ているみたいですね。」

なるほど…強い力には欠点があるようにその武器にもそういうのがちゃんとあるのか…。

「ちゃんと欠点とかつけておかないと強すぎて使用禁止はカードゲームの常だよね。」

いや、言いたい事は分かるけど不破さん…。

 

 

 

「ところで律、“ブラック”から貰った情報ってこの階の敵だけなのか?」

{いえ、ここより上の階に配置された見張りの情報と雇われてる殺し屋の情報もいただきました。}

二人を簀巻きにした後、磯貝君が律にそう聞くと彼女は笑顔でそう言った。

{いただいた情報によると、どちらも一人ずつしか残っていないみたいです。

見張りがいるのは9階の階段に入ってすぐの所らしいですね。

ただ…殺し屋の方はかなり厄介なようです。

軍人から殺し屋になったらしく、銃を使った戦法に長けているようです。}

と、言うことは接近戦は出来ないと考えた方がいいというわけか…。

「となれば、こちらも遠距離武器で対抗しましょう。

今倒した二人の胸ポケットを漁れば出てくるはずです。」

「あ?

…って銃じゃねーか、しかも本物の!!」

───ッ!!

絶句した。

まさか本物の銃を使う事になるなんて…。

「とある世界ではビームソードで対抗していますが…銃の名手相手には銃で戦うのが相場です。

そして、今の我々の中でこの武器を持つべきなのは…千葉君と速水さん、君達二人です。」

殺せんせーの指示に僕達は驚きつつも納得した。

過去に使った経験があるであろう烏間先生がまだ満足に動けない以上、持たせるならその二人だろうから…。

「作者も好きな科学漫画でも扱い方を知ってるからって理由で持たされたキャラがいるくらいだからね。」

こんな時にそんな事言わなくていいよ不破さん…。

「ただし…相手が人間である以上、殺さないようにする事…それだけは忘れないように。

一学期中、定期的に綾崎君を交えて射撃訓練をして磨きあげられた君達の腕前なら心配無いとは思いますがね。」

殺せんせーのその言葉に後押しされる形で二人は銃を手に取った───が、その顔にはどこか陰りがあるように見えた。

 

 

 

⇒凛香side

 

 

 

私達が本物の銃を持たされるなんて…殺せんせーの暗殺でエアガンでの射撃に失敗したのに…こんなの使えるわけが無い。

そう思いながらコンサートホールに入ると───

{───ッ!!

9階側の階段を降りる人影を確認しました。

このコンサートホールに来ます!!}

「分かった…総員、バラバラに椅子の裏に隠れろ!!」

律から情報を受けた烏間先生の指示に従い、皆近くの椅子の裏に隠れた。

そして、舞台の下手側(※客席から見て右側を上手、左側を下手と言います。原作を見る限り下手側なのでそう 表現しました。)からコツコツと足音が聞こえ───

 

 

 

「呼吸音からして数は16くらいか…。

おまけにほとんどの呼吸も若い…一つ以外は十代半ばってとこか…。

てことは…ボスの取り引き相手か。

見回りに行った“ブラック”が戻って来ない事を考えると…動けるやつ全員で来たって事か。」

…ッ!!

人数が完全にバレるなんて…そう思っていると、男は咥えていた銃を抜き出すと…後ろに向かって発砲した。

そしてガシャン!!という音とともに男の背後の照明のライトが割れた。

なんて正確な射撃…もしかしてあの男が“ブラック”からの情報にあった殺し屋…?

でも、あの銃を使えないようにすれば───

そう考えた私は、男の持つ銃に狙いを定め引き金を引いた。

 

 

 

…でも───

 

 

 

ガシャン!!

狙いは大幅に外れ…男が割った物の隣の照明のライトが割れた。

そして───

「この仕事、完全にナメてたぜ…。

こんな美味ぇ仕事…全力でやらねぇなんてあり得ねぇよなぁ!!」

そう男が嬉しそうに言うと同時に手元にあった機械を操作すると───

 

 

 

私達が割った照明以外が一斉に輝き、ステージを眩しい光で包み込んだ。

 

 

 

⇒三人称side

 

 

 

コンサートホールでの戦闘開始と時を同じくして6階のテラスにて───

 

 

 

「待ってろよハヤテ…絶対にお前の仲間に追いついてやるからな…!!」

そう意気込み、上の階へと進んでいく“ブラック”に背負われたハヤテの腕が───

 

 

 

ピクッ!!

 

 

 

一瞬、動いた。




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Q.今住んでいる所以外で、一度は住んでみたい所があれば教えてください。



A.東京
実は自分、去年の11月から無職で東京で働こうとしていたんですが…悉く落ちて諦めて岡山に帰った事があります。
とはいえ、東京で暮らす事を諦めていないので…いつかは住みたいと思っています。



次回、ついに彼女が…?
ということでいつも以上の本気で執筆頑張ります。



以下愚痴



…てか、落ちた理由のほとんどが岡山在住ですぐに来れないだろうから、と面接すらしてくれなかったからってなんなんでしょうね…!!
ほとんど差別でしょこれ…!!


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第76話 チャンスの時間

今回もヒナギクの活躍がちょっとだけあります。
…以前感想返信で活躍はほとんど無いと言ったのに、そこそこ活躍してますね…。



そして、前話の後書きで書きかけたとおり…これまでハヤテへの恋心を自覚していなかった方がやっと自覚します。
自分の推しキャラなので可能な限りの全力で書かせていただきました。



それでは、本編スタート!!


⇒ブラックside

 

 

 

「それで、こいつの仲間は今8階にいるんだな?」

{はい。

現在コンサートホールにて敵と交戦中です。}

6階のラウンジの入り口付近に来たオレは、ハヤテを一旦降ろし、彼の携帯にいる律と名乗る女とそんなやり取りをしていた。

すると───

 

 

 

「…う、うう…。」

 

 

 

そんなハヤテの呻き声が背中から聞こえて来た。

もしかして、と思いハヤテの方を見ると───

 

 

 

「…ここは…?」

そう言って辺りを見回すハヤテの姿があった。

「ハヤテ!!

良かった、気がついたんだな。」

「“ブラック”さん…?

そうか…僕はあなたとの勝負の後、気を失って───」

「で、そんなお前をオレが仲間のもとまで連れてってやってるってわけだ。」

そのハヤテに詰め寄ってそんな会話をしていると───

{ハヤテさん、いいタイミングで目覚めましたね!!}

大声で律がそう言ってきた。

「皆の身に何かあったんですか、律さん?」

「さっき交戦中だって言ってたな。

それと関係があるのか?」

そうハヤテとオレが問いつめると、律は{はい}と言った後一呼吸置き───

 

 

 

{速水さんを勇気づけるために…ハヤテさんの言葉が必要なんです!!}

 

 

 

───真剣な表情でそう言ってきた。

 

 

 

⇒凛香side

 

 

 

ま、眩しい…!!

ステージの照明が一斉に点き、相手の様子が見えなくなった。

それでも、相手の位置を把握しようと客席の間から顔を覗かせた次の瞬間───

 

 

 

───ズギュン!!

───カキィン!!

 

 

 

発砲音と何かを弾いたような音がの二つの音が私の前から聞こえた。

「こっちの様子は見えねぇはず…それなのに俺の弾を弾きやがっただと…?」

ステージの方からそんな悔しそうな声が聞こえてきた。

照明でステージは見えないけど…昇っていく硝煙の位置から考えると…今の狙撃は私を狙っていた、と考えていいだろう。

そして、一瞬だけ見えた髪飾りと長い髪…そして振り抜いた木刀から考えて弾いたのは桂だろう…元々反射神経がいいのか、それともあの木刀の力なのか…どっちにしても後でお礼を言わないと。

「まあいいこれで二人の居場所は分かった。

そいつらはもうそこから動けないと思っとけ。

さて、と…あと一人銃持ってる奴がいるはずだが…。」

まずい…千葉の場所がバレたら終わりだ…。

そう思っていると───

 

 

 

「速水さんはその場で待機!!

桂さんはその場で速水さんを守ってあげてください!!」

不意に殺せんせーの指示が聞こえてきた。

「千葉君、今撃たなかった君の判断は正しい!!

外したからといって焦る事に意味なんてありません!!

私が皆さんの目の代わりとなり、指示を出しますので…チャンスが来るのを待っていてください!!」

とは言っても、殺せんせーは今動けないはずなのに…いったいどこから…?

そう思っていた矢先───

「どっから声が…って、おいテメェ!!

何かぶり付きで見てやがんだ!!」

───そんな叫び声と発砲音、そして何かを弾く音が聞こえてきた。

そっか…完全防御形態でどんな攻撃も効かないから、最前列から堂々と見れるわけか…。

元の姿でも当たらないから出来ると思うけど…。

 

 

 

「では、行きましょうか。

木村君、5列左へダッシュ!!

寺坂君と吉田君はそれぞれ3列移動!!」

殺せんせーが指示するごとにそれぞれが居場所を変えていく。

鼻がいい殺せんせーだから私達の居場所が全て分かるわけか…味方としては頼もしすぎる。

でも…指示する時に名前を呼んでいるから意味がない、そう思っていると───

 

 

 

「出席番号13番…右に一つ移動して待機!!

次の指示までに準備を整えていてください!!」

殺せんせーが呼び方を変えてきた。

「4番と6番は客席の間から舞台を撮影、律さんはその様子を千葉君と速水さんに伝達してください!!」

上手い…“今の”出席番号なら、私達にしか分からないから秘密のメッセージとして使いやすい。

 

 

 

「敵が戸惑っているうちにさらに移動しましょう!!

イタズラ好きは左前列へ、プリン好きは右前列へそれぞれ前進!!

バイク好きは左前に、マンガ好きは右前にそれぞれ2列進めます!!」

そして、殺せんせーからの呼び方は特徴やその人の趣味に変わっていた。

「この前、竹林君イチオシのメイド喫茶に行ったけど、その前に偶然見つけて無理矢理連れていった綾崎君が“人手が足りないから手伝って”と言われて無理矢理メイド服を着せられた姿に男だと分かっていながらも竹林君共々萌えてしまった人、攪乱のために大きな音を立てる!!」

「テメェなんでそれ知ってやがんだ!!」

 

 

 

…待って、それどういう状況?

まあなんて言うか、綾崎は後で慰めてあげないと…。

その姿を見てみたくはあるけど…。

 

 

 

「誕生日に連れていってもらったケーキ屋にて、口元についたソースを綾崎君が取ってくれようとしたのをキスしようとしたと勘違いしてドキドキした人、左に3列!!」

「なんで知ってるのそれ!?

って…なんでこっちに殺気が集まるの!?」

よし…全部終わった後、矢田を問い詰めよう。

 

 

 

⇒ハヤテside

 

 

 

───ゾクッ!!

「どうしたハヤテ?」

「いえ、ちょっと知られたくなかった事が大々的に暴露されたような、そんな悪寒がするんです…。」

「そ、そうか…。」

{そろそろです!!

ハヤテさん、準備はいいですか?}

「はい、いつでもいいですよ!!」

 

 

 

⇒凛香side

 

 

 

「さて、移動はもう十分でしょう…攻撃に移ります。

次に先生が指示を出した後…千葉君、君がベストだと思えるタイミングで撃ちなさい。

速水さんは彼のフォローにまわってください。

この勝負は、いかに敵の行動を封じられるかが鍵となります。」

 

 

 

───ドクン!

 

 

 

ついに来た…。

 

 

 

───ドクン!

 

 

 

本当に、私達に出来るの…?

 

 

 

───ドクン!

 

 

 

緊張してるからか、さっきから自分の心臓の音が聞こえてくる。

でも、任されたからには…そう思っていると───

 

 

 

「───と、その前に…君たち二人にアドバイスをさせていただきます。」

不意に殺せんせーがそう言って話し始めた。

「君たちは今、とても緊張していると思います。

それはおそらく、先生への狙撃で失敗してしまった事による迷いからくるものでしょう…。

そして君たちは、性格上言い訳や弱音は絶対口にしない…だから勝手な信頼を押しつけられたり、自分に課せられた事の重責に苦悩していても気づいてもらえなかった事も一度や二度ではないはずです。」

そう…殺せんせーの言う通り、本校舎にいた頃の私は周りからいろいろ押しつけられた事があり、それがE組に落ちた原因になった。

そして…親ですら勝手な信頼を寄せてきて、成績が落ちたというだけで勝手に失望した。

 

 

 

「ですが…ここでは君たちだけがプレッシャーを抱える必要はありません。

なぜなら…ここにいる者は皆、君たちと同じ環境で訓練し、成功と失敗を繰り返した経験があるのですから…失敗したとしても、後は任せられると考え…安心してその引き金を引けばいい。

それが出来ると信じたから、綾崎君は君たちに後を託したのです。」

ありがとう、殺せんせー…おかげでちょっとは楽になった気がする。

「では…行きましょう。

出席番号13番、立って狙撃!!」

 

 

 

───バッ!!

───ズギュン!!

 

 

 

その指示と共に、立ち上がった影を男が狙撃した。

でも───

 

 

 

「に…人形だと!?」

撃ったのは菅谷が作った人形だった。

そう…出席番号13番は現在菅谷の番号になっている。

四月の時点で学校に籍を置いていた生徒はこれまでの出席番号の間に挟む形で出席簿の名前の欄に入れる事になったので、片岡と茅野の間に桂が入り、茅野以降の出席番号が一つずつずらした出席番号になっている。

…因みに未だに慣れていない。

と…男が人形に気をとられていると───

 

 

 

───ズギュゥン!!

 

 

 

菅谷がいる位置とは違う客席の裏から飛び出した千葉が発砲した

でも、男の身に何も変わった部分は見られない…。

まさか…外した!?

そう思っていると───

 

 

 

───ブォッ!!

───ドゴッ!!

 

 

 

そんな豪快に風を切る音を鳴らしながら吊り照明が男の背中に叩きつけられた。

そうか…律の指示かは知らないけど、吊り照明を使う事で、無力化しようとしたのか…。

でも、男はまだ銃をしっかりと握りしめている。

私がやらなきゃ…。

でも…出来るかどうか───

 

 

 

{『大丈夫です。』}

不意に、綾崎の声が聞こえてきた。

{『速水さんなら、どんな困難も乗り越えられます。

自信を持ってください。』}

ここにいるわけがないのは分かっているのに、綾崎の声を聞いただけで落ち着いて来ているのが分かる。

 

 

 

ああ…そういう事か───

 

 

 

ズギュゥン!!

 

 

 

私は、綾崎の事が───

 

 

 

ビシッ!!

カシャァン!!

 

 

 

───好き、なのだろう。

そう思うと…今までの自分の行動に納得がいった。

球技大会の時に髪型を変えたのに気づいてくれて、似合っている、と言ってくれたのを嬉しいと思ったのはそういう変化に気づいてくれたからだと思うし、綾崎が学校に残って律を諭した事を面白くないと思ったのも、このホテルに入ってすぐに片岡と矢田が綾崎に抱きついた時に出遅れたと思ったのも…羨ましかったからだろう。

 

 

 

ライバルは多い…でも、だからといって諦めるつもりはない。

私はスナイパーらしく綾崎の心を射止める、ただそれだけだから。

 

 

 

~~~

 

 

 

「さっきの綾崎の声って…あんたがやったんでしょ?」

皆が男を簀巻きにしている傍らで、私は律にそう問い詰めた。

すると───

{はい。

先ほどあのメッセージをハヤテさんからいただいて、それをバイノーラル機能で速水さんだけに聞こえるように流しました。}

「本当に何でもありね…でも、おかげで助かった。」

{その表情を見るに…速水さんもついに本格参戦、ということでいいんですね?}

「ええ。

この勝負は誰にも譲るつもりはないからね。

もちろん…あんたにも、ね?」

{望むところです!!}

 

 

 

そうこうしているうちに敵の無力化も終わり、私達は次の階へと足を向けた。




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A.これまでにあった、人生の分かれ道はいつですか?



Q.おそらく、アニメ『ハヤテのごとくCuties』を見た事だと思います。
見てなかったらたぶん今の自分はなかったと思います。



「ここでキャラが話すのひさびさだな。」
「そうね。
ところで千葉…あんた、気づいてたの?」
「その言い方からしてやっと気づいたのか…自分の気持ちに。
ま…教室での席の都合上、そういうのが分かりやすいんだよ。
あいつが来た時に、目線…というか頭の向きが動く方向に向いていってたからな。」
「そうだったの?」
「まあそれは後数話投稿した後に投稿する予定の短編集に書くつもりらしい。」
「ふーん。」


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第77話 黒幕の時間

さて… 前回の前書きに書くのを忘れていたのですが───



トニカクカワイイのアニメ化が決定しましたね!!
現段階では2020年10月放送予定という情報しか分かりませんが…とても楽しみです。
今年の10月といえば…五等分の花嫁の二期の放送開始も10月らしいですね。
作画が鬼がかってるらしいのでそちらも楽しみです。



さて、あと一つだけ話してから本編に行きましょうか。
この間ウィキペディアで暗殺教室のキャラの中の人を調べていたら、文化祭編で出そうと思っていたキャラと同じ声優さんが担当してるキャラがいましたね。
これで確認した分では二つの作品に出演した声優さんは三人ですね。
まあいいでしょう…複数の作品が合わされば、一人二役は必ずどこかにありますからね…それもクロスオーバーの醍醐味の一つでしょう。



それでは、本編スタート!!


⇒ハヤテside

 

 

 

「さて、さっさとお前の仲間に合流しようぜ。」

律さんに頼まれた録音が終わってすぐにそう決断した僕とブラックは次の階へと続く階段に向かってラウンジへと向かおうとした。

と、その前に───

 

 

 

「あの…ブラックさん。」

「“ブラック”って呼び捨てにしていいぜ。

これはコードネームだから雑に呼んでくれてかまわねーよ。」

「そういう事でしたらそうさせていただきます。

では…ブラックはこの騒動の黒幕に雇われたんでしたよね?」

「まーな。

つっても、オレは私情を優先したけどな。」

例えそうだとしても…僕が聞きたい事を知っているのは確実だ。

 

 

 

「特徴だけでも構いません…。

黒幕に関する情報を教えてくれませんか?」

僕のその問いにブラックは一瞬考えるようなしぐさを見せると───

「今のオレはお前らの味方だからな…いいぜ。」

そこで一旦区切ると、ブラックはまっすぐに僕の目を見て、話し始めた。

「ヤツについてだがな…お前らも会った事のあるやつだ。

てかお前らのうちの一部に逆恨みしてるだけだな。」

僕たちと会った事のある人物…いったい誰が…?

「お前の仲間をあんな目にあわせた張本人…それは───」

 

 

 

───ッ!!

その名を聞いた瞬間、急がなくてはと思った僕は階段へと走り出そうとした。

 

 

 

だが───

「ッ!?」

思うように足が動かず、その場に倒れこんでしまった。

「ハヤテ!?」

近くにいるはずの“ブラック”の声が遠く聞こえてくる。

視界が歪み、体が熱い…!!

いったいなんで…そう考えた所で思い出した。

 

 

 

~~~

 

 

 

「あ、これ美味しい!!」

「ホントですね 。

甘くて美味しいです。」

 

 

 

~~~

 

 

 

ウェルカムドリンク…僕も飲んで…いた。

それを思い出すとともに、僕の視界は再び意識を手放した。

 

 

 

⇒渚side

 

 

 

9階へとやって来て早々、僕たちは戦慄する事になった。

…と、いうのも───

 

 

 

「ふぅ…ある程度だが体の自由が利くようになってきたみたいだな…。」

階段に背を向けていた見張りの男を烏間先生が一瞬で締め上げたからだ。

本人曰くこれでまだ半分くらいしか出せてないらしいけど…半分でこれならもう十分だと思う。

僕たちが油断してなかったら、今頃烏間先生とハヤテ君だけで最上階まで余裕で着いていたんじゃないかと思う。

───っと、頼りすぎるのはダメだってのに…。

そう考えていると、律が最上階の部屋のパソコンカメラに入る事が出来たと報告してきた。

それにより、敵の様子を確認出来るようになったらしいので、皆が携帯の画面を一斉に見た。

“ブラック”からもらった情報で敵が一人だけだとは分かっていたが、どんな状態で待っているのか分からなかったためだ。

 

 

 

───そこにいたのは…こちらに背を向け、反対側に設置された卓上のテレビを凝視するかなり体格のいい男の姿があった。

そして…そのテレビに映っているのは…───

「テレビにあっちに残ったヤツらが映ってやがる…まさかカメラを用意してやがったとはな…。」

吉田君が悔しそうに呟いた。

そう…黒幕の男はあろうことか、ウイルスで苦しんでいる皆をニヤニヤと眺めていたのだ。

仲間があんな目に遭った事で怒っていた皆だったが、その光景を見ていっそう怒りの表情を見せていた。

その中でも、桂さんと寺坂君の二人は特に怒っていたように見えた。

 

 

 

2人共、これから先を肩を並べて歩んで行けるだろうと思っていた仲間が外部の者の手によって命の危機にさらされてるからだろう。

寺坂なんて怒りで体を震わせていた…と、いってもこの震え方は異常な気がする…まさか───

 

 

 

「皆さんの気持ちは分かります…ですが、一度冷静になりましょう。

先生の話を聞いてください。」

と、そこに殺せんせーの声が聞こえてきた。

視線が自分に集まった事を確認すると、殺せんせーは話を始めた。

 

 

 

「このホテルに入ってからの一連の流れからあの男について分かった事があります。

それは…彼が殺し屋では無いという事です。」

殺せんせーがそう考えた理由…それはこのホテルで現れた殺し屋が本来の使い方とは違うからだという事らしい。

「殺し屋とは、読んで字のごとく標的を殺す事…。

ですが…あの4人が充てられたのは下の階の見張り…それは殺し屋の仕事では無く、それ故に本来の自分の力を出しきれる状況じゃなかった。」

言われてみれば…ここまでで相手をしてきた殺し屋は“ブラック”を除くが全員相手の油断した隙をうかがって倒せたような物だ。

3階で出会った“スモッグ”殺し屋だって使っていたのは所謂“麻酔ガス”…つまり、殺すつもりはなかったという事だろう。

もしあそこで使っていたのが致死性の猛毒だったら僕たちは後がなかっただろう。

それ以外でも、5階で出会った男も見通しの良い展望回廊で無く、6階のラウンジか7階の廊下にいたら背後から奇襲されて終わり、コンサートホールで相手した男も最初はやる気が無さそうにしていた上に、殺せんせーの作戦があったから無力化に成功しただけ…最初から本気で相手されていたら終わっていた。

 

 

 

───確かに…全員持てる力の全てを発揮していたわけじゃない。

…“ブラック”はただハヤテ君と戦いたかっただけのようだから分からないけど…。

 

 

 

「殺し屋では無い…か。

その可能性を念頭に置いて行くぞ!!

ここまでの間にあった戦闘で時間を使い、タイムリミットまで後僅かだ。

それを過ぎれば相手も警戒を強めるはずだ。」

いったい誰が…そう思っていると、烏間先生が指示を出してきた。

最上階での役割を烏間先生が伝える。

 

 

 

その最中でも、寺坂君はガクガクと震えていた。

それが気になった僕は気づかれないようにしながら寺坂君のもとに向かった。

 

 

 

⇒竜馬side

 

 

 

クッソ…さっきから熱がヤバすぎてなんも考えられねぇ…!!

俺は今まっすぐ歩けてるのか…それさえも分からねぇ…!!

だがよ…ここまで来て脱落なんて出来るわけねぇだろ…!!

 

 

 

根性で耐える俺。

その時、首に冷たい物が当てられる感覚があった。

何事だ、とそっちを見ると───

 

 

 

「熱…!!

すごい熱だけど寺坂君、大丈夫!?」

「渚か…ビックリ、させんじゃ…ねーよ!!」

俺にしか聞こえないような声量で渚が話しかけてきた。

さっきのは渚の手だったのか…。

「もしかして…寺坂君もウィルスに「いいから…黙ってろ!!」…ッ!?」

島に着いてすぐのウェルカムドリンク…実は俺も飲んでいた。

だから…俺も感染していた。

だが…だからといって引き下がるわけにはいかなかったため、俺はとっさに渚の口を塞ぐ。

「力と体力だけなら、この中の…誰よりもあんだよ…。

だから…こんなもん、屁でもねぇよ。」

「でも、すごい苦しそうな顔してるよ。

さすがに無茶だよ。」

俺がそう言っても、渚は引き下がろうとしない。

まぁ…それは分かっていた。

こいつは意外と強情な所があるからな…。

そういう所とか…ハヤテと似てる部分が結構ある。

 

 

 

でも───

 

 

 

「ここに来てすぐに…俺が、調子に乗ったから…烏間の先公の…動きが制限…されたしよ…力仕事しか、取柄のねぇ俺に…出来るのは、皆を守る事…だろうがよ。

こちとら…あんな事やらかしかけた、負い目ってのが…あんだよ。」

あの時…ハヤテが道を示してくれなければ、俺は犯罪者になっていた。

E組の連中は、あいつにとって大切な存在だ。

だから…あいつがいない今、それを守るのはパワー担当の俺の役目だ。

だから…引き下がるつもりはねぇ…。

それが伝わったのか、渚はそれ以上俺に言って来なかった。

 

 

 

⇒ヒナギクside

 

 

 

9階の見張りが持っていたカードキーを使い、最上階の部屋に侵入した私達は、事前に教わっていた“ナンバ”で近づいていく。

いつでも突撃出来るように、私を含めた数人は武器を構えながら…。

 

 

 

ナンバとは、歌舞伎でも使われる南蛮人の歩き方が起源とされる歩行法だ。

この歩き方だと体の軸が安定するため、一歩ごとの騒音を抑えて移動する事が出来る。

…と、いう内容の話をハヤテ君が教えてくれた。

私は、このクラスに来て日の浅いため出来るのかを心配されていたが…この歩行法は現代日本において、武術や一部のスポーツである程度応用する事が出来る。

そのため、知識として知っていた私は完全に習得するまでに時間はかからなかった。

 

 

 

そして、部屋の奥に向かうと…律から送られた映像に映っていた男が卓上テレビをニヤニヤと見つめていた。

ナンバによるものもあるのだろうが…相手に緊張感が無いように思われる。

そして…男の手元には治療薬の入ったスーツケースとそれにつけられた爆弾の起爆用と思われるリモコンがあった。

 

 

 

烏間先生が私達に目で合図を送ってくる。

作戦開始の合図だ。

 

 

 

作戦といっても、わりとシンプルだ

私がここから飛び出して男を取り押さえ、その後皆が飛び出してきて皆で拘束する。

大人の男を取り押さえるのは難しいかもしれないが…今の私は木刀・正宗で身体能力が上がっている。

そのため、それが容易に出来るのだ。

 

 

 

そして、いざ飛び出そうとしたその瞬間───

 

 

 

「かゆい。」

男がテレビを見たままそう言った。

「今でもあの時の事を思い出す。

そして思い出したら、かゆくなってくる。

そいつを掻きすぎて顔が傷だらけだからかな…感覚が鋭敏になってきている。」

まさか、バレていたなんて…。

唖然としていた私だったが…ふと周りを見てみると、皆は私とは違う事に驚いているように思えた。

そう、まるで…この声の主を知っているというように感じた。

「作戦は…“動けるやつらでここに潜入して俺を取り押さえて治療薬を手に入れる”といったところか?

詰めが甘かったな…俺はもともとマッハ20の化け物を殺す目的で来てるんだ。

リモコンの予備を大量に用意するくらい普通にやる…それこそ、俺が倒れこんだとしても押せるくらいの量をな。」

そう言いながら、男は背後に向かって大量の起爆用のリモコンを背後にばらまいた。

無理に取り押さえようものなら必ずどれかのリモコンのスイッチを押すだろう事は容易に考えられるため、迂闊に手が出せない…。

 

 

 

「やつがお前が殺し屋ではない、と言った事と…下の階の見張りを見てまさかとは思っていたが…やはりお前だったか…。」

そんな中、烏間先生が男に向かって話しかける。

「烏間先生はあの男の事を知っているんですか?

皆も知ってるみたいですけど…。」

「そうか、桂さんだけは知らないのか…俺の同僚の男だ。

ただ…あいつはロヴロの所の殺し屋と連絡がつかなくなったのとほぼ同時期に姿を消していた。

超生物の暗殺のための資金と共にな…。」

二人の関係性が気になった私が烏間先生に聞くと、そんな答えが返ってきた。

それって、横領なんじゃ…。

 

 

 

「これはいったいどういうつもりだ…鷹岡ァ!!」

 

 

 

烏間先生のその怒鳴り声に合わせて椅子を回転させ、男がこちらに顔を向ける。

その顔は不敵な笑みを浮かべており、顔中に引っ掻き傷が出来ていた。

 

 

 

「おっと…見た事無いやつがいるなぁ…。

まぁ、そんな事はどうでもいいか…。

だが…恩師に会いに裏口から来るのは見過ごせねぇな。

そんな悪い子達には…キツいお仕置きをしてやるとしよう。」

 

 

 

鷹岡と呼ばれた男は狂喜の笑みを見せた。

 

 

 

最終決戦の幕は…切って落とされた。




arosのサンデーの目次コメントに漫画家でもないのに答えてみた



Q.四文字熟語で今の気持ちを表してください。



A.四面楚歌
面接何個落ちたっけ~?(精神崩壊)
この半年間、いくつもの会社の面接を受けたのにどこもとってすらくれないとか…。
アレの影響もヤバいしさぁ…失業者にはつらい世の中だよぅ…。



次回もお楽しみに!!


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第78話 鷹岡の時間

これでやっと8巻の内容も終わりですね…。
スランプ脱却から4ヶ月…未だにかつての感覚は戻ってないようです。
以前なら一話投稿するのに三週間以上かかる事はなかったのに…。
これからも頑張って執筆したいと思いますので、よろしくお願いします。



気づいている人もいるかと思いますが…前回の話からウイルスをウィルスに書き方を変えました。
それに伴い、過去の話のそれも全て直しています。
些細な変化ですが…修正のし忘れがあったら教えていただけると助かります。



それと、ヒナギクの鷹岡の呼び方を名字の呼び捨てにします。
外道に“先生”なんて呼び方を使いたくないでしょうからね。



それでは、本編スタート!!


⇒渚side

 

 

 

殺せんせー暗殺の最大プロジェクトのためにやって来た南の島でのクラスメイト達がウィルスを盛られ、その治療薬を奪取するために潜入したホテル…その最上階にいた黒幕は、かつて僕たちを恐怖で支配しようとしていた鷹岡先生だった。

 

 

 

「ククク…せっかく来たんだ、それなりに歓迎はさせてもらう。

屋上までついて来てもらおうか…。

まあ、断らせるつもりは無いがな…分かってるよな?」

起爆用のリモコンをちらつかせながら、鷹岡先生は狂気の笑みを見せていた。

断れば治療薬を爆破する───口に出さずともそう考えている事は容易に見て取れた。

そのため…僕たちには、鷹岡先生を刺激しないようおとなしく従うしか選択肢がなかった。

 

 

 

~~~

 

 

 

鷹岡先生に連れられて屋上へと向かう道中───

「ねぇ渚君、皆あの人の事を知ってるみたいだけど…いったいどういう関係なの?」

「え…?

あ、そっか…鷹岡先生が来た時は桂さんはAクラスの生徒だったからあった事なかったね。」

桂さんが小声で僕に聞いてきた。

思えばあれって、たった一日二日の出来事だったのか。

そう思いながら僕は桂さんにその時の出来事をかいつまんで話し始めた。

桂さんは最初は胡散臭いというような顔で聞いていたが、生徒に手を出した事を話すと怒りの表情を見せ始めた。

だが…最終的に制裁が下されたと聞き、幾分かは表情が穏やかになった。

 

 

 

⇒惟臣side

 

 

 

「防衛省から金を盗みそれで雇った殺し屋に作らせたウィルスを使い脅すこの凶行…どう説明するつもりだ鷹岡!!」

全員が屋上についてすぐ、俺が鷹岡に問い詰める。

「お前のやった事は明らかに犯罪行為だ…!!

この事が公になればどうなるのか分かっているのか!?」

「おいおい烏間…これには国家機密が関わってんだから公になんてなるわけねぇだろ?

それに犯罪だぁ…?

これは地球を救う計画だ…感謝されこそすれそんな事を言われる筋合いは無いと思うがなぁ…。」

だが…鷹岡は聞く耳を持たず、それどころか自分を正当化までし始める始末だ。

「お前らはただ要求通りにしていればそれで良かったんだ…。

それなのにこんなマネしやがって…これじゃ計画も練り直しじゃねぇか。」

鷹岡は俺達に向かって怒気を含んだ声でそう言ってきた。

「その計画とやらについて…どんなものだったのかを説明してくれるか ?」

元より狂人の気があったこいつがたてる計画だ…まともなものではないだろう…。

「気になるか?

ククク…いいぜ、特別に聞かせてやる。

まず使うつもりだったのは茅野とかいう女の方だ。

そいつを部屋のバスタブに賞金首と共に入ってもらう…バスタブの中は対先生弾で 満たしてあるから元に戻った瞬間ドロドロに溶かされる寸法だ。」

なるほど…だが、それでは───

「やつは殺せない、そう言いたそうだな…。

確かに、それだけじゃ賞金首を殺す事は無理だ…どうせ表面を溶かすだけですぐに脱出されるだろう。

そこでだ…バスタブにセメントを流し込んで脱出経路を塞ぐ。

それなら逃げられないから溶かされるはずだ。」

「ッ…待て!!

そのバスタブには───」

見えてきたぞ…こいつのやろうとしている事が…!!

 

 

 

「そうだ…その茅野とかいう女ごと生き埋めにする。

賞金首だけ生き埋めにしたらバスタブを吹っ飛ばして脱出するだろう?

だが、その生徒も一緒となればそんな事は出来ないだろう?

だからこそのこの計画だ…。」

…言葉もなかった。

よくもまあこんな非人道的な事を嬉々として語れるな。

同じ防衛省の…いや、この世界に生きる人間として恥ずかしくなってくる。

「いいかげんにしなさい…!!

そのような非道な真似が許されると本気で思っているのですか…!!」

自分の計画を嬉々として語る鷹岡にタコが言う。

その声は怒気が剥き出しであり、その顔は青筋を立てている上に真っ黒だ。

相当お怒りのようだ。

「非道、だぁ…?

お前らが俺にした仕打ちに比べりゃ人道的だろ?

中坊に手も足も出ず負けた上に自分の出した条件での勝負で負けた俺に対する周りからの目線の屈辱といったらなぁ…!!

同僚からそんな目向けられるならまだマシだ…。

だがな…育ててやった教え子や新人のやつらからナメた目を向けられるのは我慢ならねぇんだよ…!!」

そういえば…あの一件以降、防衛省内での鷹岡の評価が底辺まで落ちているという噂を聞いた事があるな。

自業自得だ、と特に気にしていなかったが…まさかこんな事をやってくるとは…。

「評価なんざまた別の形で上げればいい。

だがな…潮田渚と綾崎ハヤテ…この二人は絶対に許さねぇ…!!

俺に屈辱を与え、未来を汚したお前らはなぁ!!」

なるほど…やっと青髪の男子二人を要求した理由が分かった。

だが───

 

 

 

「チッ…そんなの…てめぇの、逆恨みじゃ…ねぇか…。

自分の決めた…ルールも守れ…ねぇのかよ…このくそ野郎…!!

第一、ここにハヤテを…呼んだところで…てめぇが勝てるはずが…ねぇ、だろうが…。」

寺坂君が鷹岡に反論する。

どうもそれが気に入らなかったようで、鷹岡は寺坂君に怒鳴りつける。

「うるせぇなこのジャリがぁ!!

てめぇらの意見なんざ聞くつもりはねぇんだよ!!

次そんな口聞いてみろ…てめぇらのお仲間を半分この世から消してやるからな!!」

そう言いきった後、鷹岡は怪しげな笑みを見せながら話し出した。

「まあ…俺が綾崎に勝つのは無理だって のは確かだな…あの時のでそれは分かっている。

だから、やつと互角以上の実力のある殺し屋を雇った。

そいつも綾崎に興味津々だったみたいでなぁ…戦う事を条件にしてくれたのは好都合だったよ。

しかし…フロントに行ってこいつらが来たか確認してこいと指示したのにまだ戻ってこねぇな…何やってんだ?」

それは間違いなく“ブラック”の事だろう。

綾崎君は戦闘における成績でこのクラスのトップであるが、気配察知に関してもこのクラスで右に出る者はいない…その綾崎君が奇襲されるまで気付かなかったのだから実力は相当の物だろう。

 

 

 

⇒カエデside

 

 

 

「まぁ、それはいい。

おいチビ、この薬が欲しければこの上のヘリポートまでてめぇ一人で来い。

もし他のやつらが来たらこいつはドカンだ。」

鷹岡先生が後ろのヘリポートへと向かいながらそう言ってきた。

行ったところで穏便に渡してくれるはずがない。

だから止めようとしたけど、その前に渚が私に殺せんせーを投げ渡してきた。

「渚───「渚君、まさかとは思うけど…行くつもり?

やめた方がいいと思うわよ…たとえ行っても薬を渡してくれる保証は無いわけなんだし…。」───ヒナ…。」

それだけで渚が行こうとしているのが分かった。

殺せんせーを受け止めた私が渚を止めようとすると、それより速くヒナが渚を止めに動いた。

でも、渚は私達の方を向き───

 

 

 

「正直に言うと、行きたくはない。

でも…だから行かないなんて選択は、あれだけ興奮してる相手には逆効果だと思うからね…行くよ。

ハヤテ君も同じ立場ならそうしてるはずだからね。」

そう言うと、渚はヘリポートへと振り向いた。

「大丈夫。

なるべく話を合わせて冷静にさせるつもりだから…。

治療薬を壊さないように渡してもらえるよう交渉してみるよ。」

渚はそう締めくくって歩きだした。

 

 

 

⇒渚side

 

 

うわ…意外と高いなぁ…。

ヘリポートと皆のいる所には、かなり深い溝があったため、僕は階段を登りながらそう考えていた。

例え皆が来れていても、桂さんは十分に動けなかっただろうね…。

そう考えているうちに、ヘリポートへとたどりついた。

ヘリポートには、鷹岡先生が用意した物だと思われるナイフが二本置かれてあり、それと治療薬の入ったスーツケースの他には何も無いように見える。

 

 

 

「よく来てくれたな。

さぁ…前回のリターンマッチといこうか。

さっさと足元のナイフを拾いやがれ。」

僕がヘリポートについたのを確認して階段を溝の奥深くに投げ入れた鷹岡先生はニヤニヤとした笑みを見せながらそう言ってくる。

階段を落としたのは僕以外に誰も来ることが出来ないようにするためにするためであり、僕に逃げられないようにするためだろう。

「待ってください、鷹岡先生。

僕は鷹岡先生と戦うためにここに来たわけじゃ…───」

「今更怖じ気づいても無駄だ。

ここに来たらもう戦うしかねぇんだよ。」

治療薬を渡してもらうための交渉に来ただけで、僕に戦う意思は無い。

その事を伝えようとしたが、鷹岡先生は聞き入れてはくれない。

どうやら殺るしかないようだ。

…もっとも、以前のような戦法は使えないだろう。

あれは相手が僕の事をナメていて油断していたからこそ使えた戦法だから…今回の鷹岡先生はかなり警戒しているだろうからアレで必ず勝てるとは思えない。

 

 

 

「まぁ、一瞬で終わるのは目に見えてるようなもんだが…そんなんじゃつまんねぇし、俺の気が晴れるわけもねぇ。

せめてやる事やってから始めるとしよう。」

僕が思案していると、鷹岡先生がそう言って下を指差してこう言った。

「ここで土下座しな。

“実力が無いから前の勝負では卑怯な手を使いました、ごめんなさい”と謝罪しろ。」

 

 

 

⇒ヒナギクside

 

 

 

自分勝手すぎる…。

渚君に土下座を強要する鷹岡という男に対して、激しい怒りを感じていた。

話を聞いた限りでは、勝手に自滅しただけの逆恨みなのにインチキ扱いし、まるで渚君に非があるかのようにその事を謝らせようとするなんて…大人のやる事じゃないでしょ…。

だから、土下座をする必要は無い…とヘリポートの方を見上げた。

だけど───

 

 

 

「僕は、実力が無いから…前の勝負で勝つために卑怯な手段に頼りました、ごめんなさい。」

渚君は、言われた通り土下座で鷹岡先生に謝罪した。

その様子に気をよくしたのか鷹岡は少し笑みを浮かべると───

「よく言ってくれた。

だが、あの時俺に対して取った生意気な行動はそれだけじゃなかったよな…確か、“出ていけ”なんて偉そうな事言ってたな…。

ガキのくせに大人にそんな口聞いたんだ…それも謝って貰わないとなぁ…。」

土下座する渚君に向かってそんな事を言い放った。

その鷹岡に対して 、渚君は追加の謝罪を述べる。

「…ガキのくせにそんな事を言った事、お詫びします。

本当に、すみませんでした。」

その謝罪は、決して本心では無いだろう。

ただ、それ以外に取れる選択肢が無いから仕方なく謝罪をしているだけ、渚君の声からはそう予想出来た。

 

 

 

と、そんな時───

「桂さん。」

不意に、私を呼ぶ声が聞こえた。

何事かと声がした方を向くと───

「赤羽君、どうしたの?」

「カルマでいいよ。

それより、そろそろ限界来そうだからさ…一緒にあそこに飛び込まない?」

赤羽君、もといカルマ君からそんな提案をされた。

私ももう限界寸前だったからその提案は嬉しかったけど…。

と、思い止まっていると───

 

 

 

「「やめろ───!!」」

 

 

 

烏間先生と渚君の叫び声が聞こえてきた。

何事かと思い渚君の方を見ると、鷹岡が治療薬の入ったスーツケースを放り投げていた。

 

 

 

そして───

 

 

 

ドッ、グォォォン…!!

 

 

 

そんな轟音とともにスーツケースが木っ端微塵に砕け散った。

 

 

 

⇒渚side

 

 

 

そんな…治療薬が…。

ガシャガシャと音を立てて足元に降ってくるガラス片を見て、僕の顔は真っ青になってくる。

それを見て鷹岡先生が何か言っているけど、何も聞こえない。

 

 

 

チラッと寺坂君の方を見た。

寺坂君はウィルスに感染させられていながらも、皆のためにそれを押してここまで来ていた。

いや、寺坂君だけじゃない。

ここまで一緒に来た皆や、途中まで一緒だったハヤテ君やビッチ先生だって、仲間を助けるために頑張ってきた。

 

 

 

それを…この男はたかが復讐という理由で容易く踏みにじった。

 

 

 

足元に落ちているナイフを拾った僕は、その切先を鷹岡先生に向けると言った。

 

 

 

「…殺してやる…!!」

 

 

 

こんな、人の命を弄ぶ外道は…生かしてはいけない…!!




arosのサンデーの目次コメントに漫画家でもないのに答えてみた。



Q.もし強盗がやってきたら、命の次に何を守りますか?



A.部屋にある漫画やラノベ



短編集一話の製作に手こずってます。
プロットもあるし、息抜きに別の新作作ろうかなと思ってます。
こっちが最優先なのでこれより投稿速度は遅いかもですけどね。



次回もお楽しみに!!


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第79話 叱咤の時間

五等分の花嫁二期が延期…だと…?
まぁいいでしょう…。
再就職先も出来た事ですし…気長に待ちましょうか。



前回の話に二回も誤字があったと指摘されました。
気をつけているつもりなんですが…こういうミスは本当になくなりませんね。
ムーンフォースさん、いつもありがとうございます。



前回の前書きでも言いましたが、今回の話から9巻の話になります。



今回、渚が鷹岡を呼び捨てにするシーンがありますが…怒りによって我を忘れているうえに、殺そうとしている対象だからという解釈でお願いします。



それでは、本編スタート!!


⇒カエデside

 

 

 

「渚…。」

治療薬を破壊された事で頭に血が上ったのか、いつもの様子からは考えられないような形相で鷹岡先生を睨む渚を見た私は、ほぼ無意識にその名を呟いた。

 

 

 

復讐のためにこのE組に来た私だから分かる…。

渚のあの目は、目の前にいる復讐の対象を殺す…ただその事だけを考え、後の事などどうでもいいという思いしか無いようだった。

 

 

 

なんとか止めないと…そう思っていた私の横を寺坂君がフラフラとした足取りで横切り、皆の前───ヘリポートに一番近い場所で立ち止まった。

 

 

 

⇒渚side

 

 

 

(殺す…!!

こんなやつを生かす価値なんてあるもんか…!!)

治療薬が破壊された事で、ウィルスを盛られ苦しんでいる皆を助ける事が出来なくなった、そう考えた直後から、僕は目の前の男を殺す事しか考えなくなっていた。

(後の事はどうでもいい…。

皆の命を弄んだ報い…その命で償わせてやる!!)

そんな覚悟で鷹岡に飛びかかろうとした。

 

 

 

その時───

 

 

 

ゴンッ!!

「うわっ!!」

背後から飛んできた何かが僕の後頭部に当たり、その衝撃によって僕は幾らか冷静になった。

鈍い音を立ててヘリポートの床に落ちたのはここに来るまでの間で見たスタンガンだった。

まさかと思い皆の方を見ると───

 

 

 

その予想通り、物を投げた後のような体勢の寺坂君がいた。

もう限界なのかゼーゼーと肩で息をしていた。

 

 

 

⇒ヒナギクside

 

 

 

寺坂君が渚君にスタンガンを投げつけた事である程度は冷静になった私は、周りの皆と共に寺坂君へと視線を向けた。

 

 

 

「渚テメェ…調子に、乗ってんじゃ、ねーぞコラァ!!

薬が、ぶっ壊された時に…哀れむような、目で俺を…見てたの知ってんぞ!!」

その寺坂君は、渚君が寺坂君の方を見たと同時に大きく息を吸い、思いきり渚君を怒鳴りつけた。

…なんで薬が壊されて見るのが寺坂君なのかしら?

 

 

 

その理由は、すぐに本人の口から語られた。

 

 

 

「ウィルスなんてもん…ちゃんと栄養取って、温かくして寝てりゃ…余裕で直るもんだろうが!!

テメェに、心配される必要なんざ…ねぇんだよ!!」

 

 

 

───ッ!?

それらの言葉だけで、全て理解出来た。

どうやら寺坂君は、あのウィルス入りのドリンクを飲んでいたようね。

発症が遅かったのか…それとも最初から無理して来ていたのかは知らないけど、身体に異常は無かったから治療薬奪取班に着いてきた。

でも、時間の経過と共にウィルスは寺坂君の身体を蝕んでいっており、それを渚君に気付かれた…そういう事だったのだろう…。

 

 

 

「そのまま…感情に任せて、突っかかってりゃ…殺人罪で即少年院行きだろうが…テメェは…それでも、いいって思っただろうがな…ちゃんと、周りの事も…考えたのかよ…!?」

ウィルスの影響による物なのか、寺坂君は苦しそうな顔で渚に説教を始めた。

実際、寺坂君の言う通りだ。

渚君が…クラスメイトが犯罪を犯して居なくなるのは皆見たく無い。

「もしテメェが…そんな事に、なったらあいつが…ハヤテが気に病むと…思わなかったの、かよ!?」

確かにハヤテ君なら“僕がいなかったばかりに”なんて言って気にしそうね…。

まだ話を続けるつもりなのか、寺坂君は大きく息を吸い込んだ。

 

 

 

「お前は…あいつが…俺達に…自分の事情、を話す前と…後で…接し方…を…変えず…受け入れた、だろう…が…。

だから…ハヤテも、お前を…心の…拠りどころにして…いるような、ぶぶんが…ある。

そんな…やつが、いきなり…いなく…なったら…あいつは…にどと、たちなおれねぇ…はず…だ。

だから…ぐっ!!」

「寺坂…あっつ!!

お前、こんなんで来てたのかよ!?」

ついに限界が来たのか、話の途中で寺坂君は膝から崩れ落ち、近くにいた数名が彼を支えるために側に駆け寄った。

「てめぇら…いまみるのは、おれじゃ…ねぇだ…ろ。」

その寺坂君は、最後の力を振り絞ったかのようにヘリポートへと顔を向け───

 

 

 

「そいつを、たおして…かえって…こい。

てめぇなら、できる…じぶんをしんじ…ろ…。」

渚君に対してのものと思われる声援を送り、言いたい事は全て言ったというような満足気な顔で眠りについた。

 

 

 

⇒渚side

 

 

 

───ありがとう、寺坂君。

僕としたことが…危うく大事な事を忘れるところだったよ。

 

 

 

寺坂君に感謝しながら、僕は彼が投げてきたスタンガンを拾う。

確かに…さっきまでの僕は、治療薬を破壊された事による怒りで他の事はどうでもよくなっていた。

でも…それじゃダメだという事を寺坂君に教えられた。

ウィルスに感染しているのに…無理させちゃったなぁ…。

だから…謝罪の意味も込めて、殺さない程度に全力で鷹岡先生に挑もう。

そう考えながらパーカーを脱ぎ捨て、スタンガンをベルトに差して ナイフを構える。

 

 

 

「ふん、お友達の変な茶々が入ったから使わないかもしれないと思ったが…そんな心配は余計だったか。

安心したぜ…本気じゃねぇヤツとやるなんて味気ねぇからな。

まぁ、そんな事になってたら…こいつがどうなってたか分からねぇがな。」

そう言って鷹岡先生はズボンのポケットから小瓶を三つ取り出した。

「治療薬の予備だ…三つしかねぇがな。

こいつが欲しけりゃ本気でかかってこい。

さもなくば…こいつも破壊してやるからな。

下の奴等もこいつが欲しけりゃこれ以上余計な手出しするんじゃねぇぞ?」

その独白を聞いて、内心ホッとした。

まだ治療薬があるなら…持ち帰った後、奥田さんにその成分を分析してもらい、それを作ってもらえばいいだけだ。

奥田さんには負担をかける事になるけど…ね。

 

 

 

そう考え、臨戦態勢をとる。

 

 

 

さて、どうやって勝ちに持ち込もうか…。

相手は以前僕が暗殺した事のある人物だ。

だから…今回も同じような方法で殺すのは難しいだろう。

そこでふと思い出す。

 

 

 

そうか…この旅行の前にロヴロさんに教えてもらった“あれ”を使えばいいんだ。

でも、それを使える程の隙を作れなければいけない…。

 

 

 

なら───無理矢理にでも作り出す!!

「オラァ、来ねぇならこっちから行くぞ!!」

僕が何もしない事にイライラしたのか、僕の考えが纏まるのとほぼ同時に鷹岡先生が回し蹴りを仕掛けてきた。

 

 

 

だが───それは僕には当たらなかった。

 

 

 

「何っ!?」

 

 

 

上体だけを素早く後ろに退いてそれを避けた僕は、そのまま鷹岡先生の死角へと潜り込み、逆手に持ち変えたナイフを思いきり振り抜いた。

「ッ…ウォォ!?」

その際、殺気を出す事で“あえて”鷹岡先生に気付かせる。

「ッ…チィ!?」

ギリギリで避けた事で直撃は免れたが、鼻先を掠めたようで、鷹岡先生の顔からわずかに血が流れる。

そして、反撃をくらわないように攻撃射程外へと飛び退いた。

 

 

 

これが、僕の新しい戦い方。

アイソレーションという技術を応用して死角に潜り込み、相手が油断したところに一撃を入れる戦法だ。

前回の鷹岡先生との戦いの後、僕が小柄で小回りが利くからという理由でハヤテ君に教えてもらい、なんとか習得出来た。

カウンターでの攻撃でしか使えないけど…相手の意表を突き、例え正面戦闘でも暗殺に持ち込める。

 

 

 

今の攻撃で、一つ気になった事があった。

それを確かめるために再び相手の死角へと潜り込み、今度は側頭部へとナイフを振るう。

 

 

 

…もちろん、攻撃のタイミングで殺気を出して───

 

 

 

「うぉ…!?

クソが…!!」

今度こそ反撃しようとしたのか、鷹岡先生は僕の腕を掴みに来た。

が…僕が咄嗟に腕の軌道を変えたため、空気を掴むだけとなった。

 

 

 

───ゾリッ!!

 

 

 

隙だらけとなったタイミングを逃さず、持っているナイフで鷹岡先生の頭頂部の髪を削ぎ落とし、バックステップで距離を取る。

この時点で一つの確信を持った。

さっきまで厄介だと思っていた、鷹岡先生の顔の傷によるセンサーは、このヘリポートでは吹き荒れる風の影響で上手く機能していない、という事を…。

 

 

 

「な…なんなんだテメェ!?」

ここまでやったからなのか、鷹岡先生の顔に動揺の色が見え始めた。

 

 

 

ここまでやれば、もういいだろう。

そんな想いを込めた笑みを見せる。

 

 

 

さぁ、鷹岡先生───

 

 

 

───おとなしく…もう一つの新技の実験台になってください。

 

 

 

そして、相手を死へと誘うための第一歩をゆっくりと踏み出した。




arosのサンデーの目次コメントに漫画家でもないのに答えてみた。



Q.捨ててしまって後悔したものはなんですか?



A.仮面ライダーやスーパー戦隊のDX玩具。
色々持ってたけど全部捨てたなぁ…。
大人になってまた買い集めるくらいなら全部取っておけば良かったなぁ…と思ってます。



今回、渚を魔改造しすぎましたかね…。
ハヤテと関わって強くなった事を表現したかったのですが…。
さて…次回、渚VS鷹岡決着!!



次回もお楽しみに!!


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第80話 音の時間

今回の話はかなり製作が難航しました…。
どのように原作とかけ離れさせるかが難しかったです。
そして、出来た物がこちらとなります。



さて、今回は話題にしたい事が二つあります。
一つ目、トニカクカワイイの声優が発表されましたね。
新巻の帯にあったんですが、司さんを担当される方を見て驚いたのは今でも記憶にありますね。
そして二つ目ですが───



また新作投稿します。
この後投稿する予定なので温かい目で見守ってください。



それでは、本編スタート!!


⇒カエデside

 

 

 

『………。』

 

 

 

───絶句。

 

 

 

周りの皆の今の心境を一言で表すなら、それが一番適切だろう。

普段驚いた表情を見せないカルマ君や烏間先生、殺せんせーの額から、おそらく冷や汗であろうと思われる水滴が流れていた。

私は前にハヤテ君と習得するための特訓をしているのを見て知っていたけど驚いていないのは怪しまれると思い、驚いた演技をしているけど…皆にとっては初めて見るものだったから渚にあんな動きが出来るとは思わず驚いたのだろう。

 

 

 

「───すっ…すげぇ…。」

「…なんなんだ…今の…!?」

やっと絞り出せた、というかのような木村君の感想を皮切りに皆が一斉にざわめきだした。

「鷹岡先生の攻撃を避けた渚君のあの動き…おそらくアイソレーションを応用した物でしょう。」

「アイソレーション?」

さっきの渚の動きの正体について殺せんせーが自分の見解を語り、私は納得した。

前に仕事でその名前は聞いた事があったけど…あえて知らないふりをしてそれは何なのかというような顔を殺せんせーに向ける。

「ストリートダンスとかのトレーニングで使われる技術の事ね。

確か…体の一部分だけを単独で動かす事だったはず。」

「その通りです速水さん。

人間は通常通りの動作で動いても別のどこかが動いてしまいますが…それを意識してそれぞれの動きを分離する…これがアイソレーションです。

それによって生じる空間上の固定部分を空間固定点と言い、それを応用する事でその場に目に見えない壁や扉を作り出す事が出来ます。

そのため…アイソレーションは基本的に、ダンスやパントマイムのトレーニングのために用いられています。」

私の疑問に反応した速水さんがアイソレーションについて解説を、殺せんせーがその補足説明をしてくれた。

二人の説明に『へぇー』と周りから感心する声が聞こえてきた。

 

 

 

たぶん…カルマ君は気づいていると思う。

戦闘関係のものではない技術を自然に戦闘技術として扱う事が、相手の油断を狙い仕留める事が出来る事実へと繋がる事。

そして───

 

 

 

───それは暗殺者としての才能が他人よりも秀でているという事を…。

 

 

 

この暗殺教室が始まって以来ずっと感じている渚への脅威をより強く感じつつ鷹岡先生へと歩みを進める彼へと視線を向ける。

 

 

 

⇒渚side

 

 

 

ロヴロさんから教えてもらったあの必殺技…。

使うためには僕自身の心を落ち着けなくてはならない。

だから…出来る限り最高の笑顔で鷹岡先生の下へと歩いていく。

 

 

 

「───おっとっと…。」

その途中、とある考え鷹岡先生の攻撃の射程距離でわざと足が縺れた演技をして隙を見せる。

「ク…ソがぁ!!」

案の定鷹岡先生はそれに乗り、勢いよく左ストレートを繰り出した。

その攻撃を上体を大きく後ろに反らした僕は屈みながら体勢を戻しつつ、鷹岡先生のズボンのポケットを叩き素早く鷹岡先生の背後へと飛び退いた。

そして、ナイフを持っていない左手を軽く握りしめる。

「テメェ…今のは本気で来なかっただろう?」

流石にバレたらしく、鷹岡先生の怒りを隠そうともしない震えた声が聞こえてくる。

「…。」

「言ったはずだ…本気で来なかったら残りの治療薬も破壊するってな。

どうやら、お友達の命は大切じゃあ…ん?」

僕の無言を肯定と捉えた鷹岡先生は嬉々として治療薬の入っているポケットへと手を伸ばし…そこでやっと、自分が治療薬を持っていない事に気がついた。

「お探しの物はこれですか?」

「…ッ、なにっ!?」

僕は、ここまで閉じていた左手を手のひらが見えるようにして鷹岡先生に見せる。

すると、鷹岡先生は信じられない物を見た表情で固まった。

 

 

 

その手のひらの中には…さっきまで鷹岡先生が持っていた治療薬があったのだった。

「カルマ君!!」

「おっと…!!」

僕は治療薬を下のカルマ君に投げ渡す。

それはカルマ君がしっかりとキャッチした。

 

 

 

「テメェ…最初から治療薬が目当てだったな…!?」

「違います。

確かに治療薬が欲しかったのは事実ですが…それは勝って手にいれるつもりでした。

でも、鷹岡先生の事ですから…さっきの僕の攻撃を認めようとしないと思ったんです。

その場合、治療薬を破壊するだろうから…だったらいっそのことこの段階で奪ってしまおうと考えたんです。」

もしも、今回の僕の優勢もマグレだと考えた鷹岡先生が気に入らないからと治療薬を破壊したらどうしよう。

そう考えたから、とどめへと入る前に治療薬を鷹岡先生から奪う事にしようと考えた。

「このガキが…!!」

「安心してください。

治療薬が無い今、わざと手を抜く理由が無いので…ここからは僕の本気で相手をさせていただきます。」

そう言って再び、鷹岡先生の下へと一歩ずつ歩み寄っていく。

 

 

 

⇒鷹岡(という名の産業廃棄物)side

 

 

 

(なんなんだ、このガキは…。

前に会ってからまだ1ヶ月くらいしか経ってないはずだろ…!!

それなのに───

 

 

 

───なんで…なんでここまで成長してやがるんだ…!?

 

 

 

冗談じゃねぇ…こんなバケモノに勝てるわけねぇだろうが…!!

いざとなったらやつの動きを止めるために持ってた予備の治療薬も奪われちまった以上…俺に勝てる可能性なんて無いに等しいだろう。

 

 

 

だったら…どうせ負けるにしてもただじゃ負けてやらねぇ…。

やつがナイフを突き出したところで…残った俺の力を全て使ってその腕をへし折ってやる。

ククク…勝利と同時にもう普通の生活が出来ないようにしてやるぜ…。)

そう考えながら俺に近づいてくるチビを待ち構える。

そして、チビの体がナイフの攻撃範囲内に入ってきた。

(さぁ来い、そこがテメェの日常の終着点だ…。)

笑いを隠しながらチビを見下ろしていると…そいつは徐に手にしていたナイフを手放した。

(は…?)

俺の視線はそのままナイフに行き───

 

 

 

───パァン!!

 

 

 

そんな音がしたと思った瞬間…俺の視界は真っ白に染まる。

そして───

 

 

 

───バジィ!!

 

 

 

かろうじて分かったのは…そんな音と共に脇腹に感じる電撃と、それによって膝をついていく事だけだった。

 

 

 

⇒渚side

 

 

 

鷹岡先生が両の膝をつく。

「ふぅ~…。」

新必殺技が上手くいった安心感からか、スタンガンを振り抜いた姿勢のまま息を長く吐き出した。

この技は所謂“猫だまし”だけど…殺気立っている相手からしたらいきなり爆竹を耳元で思い切り鳴らしたようなそんな衝撃が襲ってくるようなものだ。

 

 

 

───でも…まだ終わってない。

鷹岡先生は膝をついただけで倒れていない…つまり、まだ意識があるという事だ。

ちゃんととどめをささないとこの人は何をするか分からない…だから首にスタンガンを突きつけた。

でも…こんな人でも、これからの人生で大切な物について教えてくれたんだから、授業の最後には礼を言わないとね。

 

 

 

もちろん───

 

 

 

「鷹岡先生、ありがとうございました。」

 

 

 

───とびきりの笑顔で…。

 

 

 

バジィ!!という音がスタンガンの先から響き、鷹岡先生の巨体がうつ伏せに倒れていく。

 

 

 

やっと終わったんだ…そう感じたのは下からの歓声が聞こえて来てからだった。

 

 

 

~~~

 

 

 

「よく頑張りました渚君。

少し見てない内にまさかあそこまで成長していたとは…夏休みは個々の成長の時間だ、そう先ほどは言いましたが…ここまで成長するのは予想外でした。」

鷹岡先生に落とされた梯子が戻され、皆の所に戻った僕を待っていたのは、殺せんせーからのそんな言葉だった。

「ありがとうございます、殺せんせー。

でも…それより早く治療薬を持って帰らないと。」

「はい、足りない分は奥田さんに頑張っていただきましょう。

誰か綾崎君を迎えに行ってください。」

ビッチ先生には烏間先生から連絡を入れる事になっているためあえて言わない。

「じゃあ私行ってくる。

律、綾崎の現在地教えて!!」

速水さんがホテル内へと行くためにそっちへ向く。

 

 

 

───と、その時…。

 

 

 

「ふん、お前らちょっと待ちな。」

その入り口を塞ぐように4つの影が立ちはだかった。

「んな必要無ぇモン持ってどこ行こうってんだ?」

その影は、ここまで来る間に僕達が出会った殺し屋達だった。

 

 

 

『───ッ!?』

そして、確か“ブラック”というはずの殺し屋に背負われている人を見て僕達は皆驚愕した。

なぜならそれは───

 

 

 

『綾崎/ハヤテ(君)!?』

 

 

 

今僕達が呼びに行こうとしていたハヤテ君だったからだ。




arosのサンデーの目次コメントに漫画家でもないのに答えてみた。



Q.今まで行ったなかで一番遠いところはどこですか?



A.北海道…かな。
それか沖縄。
どっちも修学旅行でって理由だけど…。



次回もお楽しみに!!


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第81話 大人の時間・二時間目

まずは前書きと本編共に長くなる事を伝えます。



投稿がこんなにも遅くなって申し訳ありません!!
今回の話は内容をどうするかで悩んでいた事と現実での仕事が多忙だった事が重なった結果なかなか書き始められませんでした。
という訳で、これが悩んだ末に出来た話です。
…結局最後カットしてるんですけどね…。(次回の冒頭に使う予定ですが…。)



それでは、本編スタート!!


⇒渚side

 

 

 

「ハヤテ君!!」

 

 

 

ハヤテ君が抱えられた状態で連れてこられた。

その事実に皆驚いていた…が、それも数秒の事で…ウィルスの影響で意識を失った寺坂君と彼を支えている木村君と菅谷君以外の皆がすぐに臨戦態勢に入った。

カルマ君なんてさっきまで持っていたチューブのわさびとカラシを投げ捨ててまともに構えているくらいだ。

絶対にハヤテ君を取り戻す、そんな思いが目に見えて分かる。

 

 

 

「待ってくれ。」

でも、そんな僕達を烏間先生が制止する。

そして、殺し屋達を見た。

「雇い主を倒した以上、お前達に戦う理由は無いはずだ。

それに、俺もほとんど調子を取り戻したのに加え、生徒達の実力も相当なもの…戦っても無事でいられるとは思えない。

そこで、だ…綾崎君をこちらに渡してこの場を穏便に済ませないか?」

烏間先生が行ったのは…ごく普通の交渉。

だが、その内容には一部ハッタリがある。

実は、この時点でもうこのホテルを脱出していないといけない程時間に余裕がなかった。

“皆に戦闘の意思がある”そんな風に烏間先生が言ったのは、“皆が束になってかかればそれなりの被害を被るだろうから、戦闘に入るのはやめておいた方がいい”と思わせるためだ。

ただ…ハヤテ君が倒された以上、そのハッタリがどこまで通じるのかが分からない。

内心怯えながら彼らの返答を待つ。

 

 

 

「ん、いーよ。」

「んだとコラ!!

こっちはさっさと薬を…っていーよ?」

殺し屋達の返答に理解出来ず、思わずポカーンとなってしまった。

怒鳴りかけてしまった吉田君は悪くないと思う…。

「俺らの契約にあるのはあくまでも“護衛”まで…“敵討ち”は含まれちゃいねぇ。

先生のいう通り、俺らにお前らと争う理由がねぇ。

それと、だ…俺はさっき“お前らにその薬は必要ねぇ”、そう言ったはずだぜ…ドレッドヘアーの小僧?」

“ガストロ”という名前だったはずの殺し屋の独白にどういう事だと思っていると、“スモッグ”というはずの毒使いの殺し屋が懐から小瓶を取り出しながら前に出てきた。

「お前らに盛ったのはこの…食中毒の菌を改良して作った物だ。

時間の経過と共に無毒になるタイプのやつだ。

猛威を振るうのはそうだな…あと3時間程度ってところかな?

ボスが使えと指示したウィルスは一滴も使ってねぇ…もし使ってたらマジでヤバかったがな。」

え…?

それって───

「つまり、あの治療薬を使わなくても…皆は大丈夫って事なの?」

「そういう事だな。」

「あれを使う直前にこぬ俺達4人で話し合って決めたぬ。

“交渉期限が1時間なぬなら…殺すウィルスを使わぬとも取引は出来るはずだぬ”、とぬ。」

「“ぬ”が多くて聞き取りづらいな…まぁいいや。

交渉の条件ってのは場合によって色々ある…だから俺はそれぞれに応じて多種多様な毒を常備している。

今回みたいに相手に命の危険を感じさせるだけならこいつで十分だ。」

矢田さんの質問に上から“ブラック”“グリップ”“ガストロ”の順番にそう返した。

 

 

 

でも───

「ん?

そこの青髪の少年…お前今、“お金を貰って依頼を受けているのに、そんな事をしていいの…?”って思ってるだろ。」

僕が少し考えていると、それを“ブラック”に読まれてしまった。

「お前らも殺し屋なら憶えておけよ。

俺達が動くのは金のためだけじゃない…自分の今後に得があるかどうか…そのために動く事だってある。」

「まぁ、そういう事だ。

ボスに薬を渡す意思は無かった。

だから…中学生の大量殺人の実行犯として肩身の狭い思いをしながら生きるより、プロとしての評価を落とす方が何百倍もマシだ…そう思ったから命令に背いただけの話だよ。」

“ブラック”と“ガストロ”の説明に思わず感心した。

そんな中、“スモッグ”は自身のズボンのポケットを漁ると、白いタブレットの入った瓶を取り出した。

「お前らの仲間は誰一人死なねぇが…もし心配だってんならこいつを飲ませて寝かせてやりな。

ただの栄養剤だが…前に“倒れる前より元気になった”って感謝状が届いたくらいの効き目がある。

今“ブラック”が抱えてる青髪のボウズには全部伝えた上で飲ませてるからな。」

そのポケットがどうなってるのかとか、アフターケアが万全すぎるとか考えた僕だったが…そのあとの台詞でその全てが吹き飛んでいった。

 

 

 

───ハヤテ君に飲ませたって…どういう事…?

そう考えていると───

「そういえば…ハヤテ君、あのウェルカムドリンク飲んでたわね?」

『あ!!』

桂さんのその一言で皆その光景を思い出したようで…驚きの声を上げた。

その様子をよそに僕達の所まで“ブラック”が歩いて近づいてきた。

「てな訳で、ハヤテの事は後頼むぜ。

それと…こいつの手のひらの傷の手当ては任せた。」

「っと、まったく…こんなに無茶しちゃって…。」

ブラックから移される形でハヤテ君を受け止めた速水さんは、そう言ってハヤテ君の手のひらを見ながら彼をしっかりと抱き締めた。

「俺は必ずまたお前らの前に現れる。

その時は…今回とは違う形で会えるといいな。」

…?

ブラックのその宣言を、僕たちはまだ理解出来なかった───。

 

 

 

「綾崎君がその薬を飲んだ…ならばお前達の発言は信じよう。

だがな…今回の事件に君達が関わった事情は聞かなければならないからな…しばらくの間拘束させてもらう。

素直に話してくれさえすれば4、5日以内に解放する事は約束しよう。

本来なら一週間以内だが、綾崎君をここまで連れてきてくれた礼に期間を縮めさせられるように掛け合ってみよう。」

「へいへい…はぐらかすつもりはねぇから安心しな。

こちとら来週には次の仕事の予定が入ってるからな…そいつはホントに助かるぜ。」

烏間先生がそう言うとほぼ同時に2機のヘリコプターがヘリポートにやって来た。

そして、そこから降りてきた軍人のような格好をした男達がホテルの中に入っていき、僕達が拘束して放置した男達と鷹岡先生を連れてヘリコプターへと乗っていく。

ガストロ達殺し屋もそれに続くようにヘリコプターを向いて歩いて行く。

と、そんな時…その内の一人グリップに歩み寄る影があった。

 

 

 

「へぇ~、てっきりおじさんぬくらいはリベンジマッチ挑んでくると思ってたから拍子抜けしちゃった。

恨んでないの、俺の事?」

カルマ君だった。

彼は悪い事を企んでいる時のように悪魔のような笑みをグリップに見せる。

…その手にさっきのとは別のわさびとカラシを持って───。

「確かに…今回ぬ戦績はボスの物を含め、こちら側ぬ0勝3敗2引き分け…負けっぱなしでは気がすまないぬ。

が…ただの私怨で人を殺すやつは殺し屋の恥ぬ。

お前を殺すぬは、誰かがそんな依頼をよこしたその時ぬ。

また俺と戦いたいぬなら誰かから狙われる位ぬ活躍をする事だぬ。

例えば…この国ぬ在り方を変えて見せる、とかぬ。」

だが、グリップはそれを気にしていないような顔でカルマ君の横を通り、そう言った。

 

 

 

ババババババッ───!!

「それじゃあなガキ共!!

お前らとの勝負、楽しませてもらったぜ!!

次にお前らを殺す依頼が来るほど偉くなってたら…そん時こそ本気で相手してやるぜ!!」

ヘリポートから離れていく昇降口が開かれたままの軍用ヘリコプターからガストロがそう僕たちに叫ぶ。

そしてそのまま空の向こうに消えてしまった。

「………。」

小さくなっていくその姿、僕たちはそれをただ無言で見送った。

 

 

 

結果だけを見るならば、この潜入ミッションで僕たちは彼らに勝っている。

だが…そこに辿り着くまでの過程を考えると、勝ったのは間違いなく彼らだろう。

 

 

 

⇒ヒナギクside

 

 

 

「足が痺れてきたら言ってね 。

いつでも代わってあげるから。」

「ん、ありがとう茅野。

着くまでの間にそうなったら代わってもらう。

今は、少しでも長くこうしていたい。」

普久間殿上ホテル───私たちが潜入していたホテルから、皆が帰りを待つホテルへと移動するためにと搭乗したヘリコプターの中で速水さんとカエデがそんな会話をしていた。

というのも…今速水さんは、眠っているハヤテ君の頭を自分の膝に乗せ、その側頭部を優しい手つきで撫でているのだ。

これは単純にカエデが速水さんを心配して言っているようにも見えるが…なぜか、それだけじゃない別の感情が入っているようにも見えた。

 

 

 

………そんなやりとりがある中、私はというと───

 

 

 

「落ち着いた、ヒナ?」

「うん…ありがとう、メグ。

でも…結局こうなっちゃうのね…。」

「まぁ綾崎があんな感じだから…これが一番安全だと思うし、仕方ないんじゃない?」

帰る手段がヘリコプターという事で、その中で落ち込んでおり、そんな私を横からメグと岡野さんが励ましてくれていた。

岡野さんの言っている事が確かな事は分かっているつもりだから私もそれ以上は言わない事にしている。

だから、せめて外を見ないようにと考えおとなしくしている事にした。

 

 

 

と、そんな時───

 

 

 

「寺坂君。

あの時寺坂君が声をかけてくれてなかったら…僕は大事な物が見えなくなってたかもしれない。

だから…ありがとう。」

ふと、そんな渚君の声が聞こえてきた。

寺坂君はもらった栄養剤を飲んで寝ているはずだけど…たとえ形だけでもお礼をすぐに言いたかったんだろうと思っていると───

「ケッ、俺がああ言ったのはテメェのためだけじゃねぇ… 。

一人でも欠けちまっても、タコ殺せる確率が格段に下がるから止めたんだ。

それに、さっきも言っただろ…テメェがいなくなったら悲しむのはハヤテだからな。」

実は起きていたらしい寺坂君がそう渚君に返してきた。

栄養剤によるものか、 それかしばらく体を休めていたからか、かなり楽になったようでその言葉が途切れるような事はなくなっていた。

そして、言いたいことはそれだけだというように再び目を閉じて

 

 

 

本校舎にいた頃の寺坂君は、周りとの協調性がないような印象があったけど…今は仲間との絆を大切にしている、そんな印象がある。

ハヤテ君と会った事が彼に…いや、このE組にとっていい影響を与えたのかもしれない。

「───フフッ。」

「「…?」」

そう考えながら、私はハヤテ君の方を見ながら笑うのだった。

 

 

 

そして、皆が待っているホテルに戻った私たちは…今回の一部始終を話して栄養剤を苦しんでいた皆に配り飲ませ、ヘリコプターの中で眠っていたハヤテ君と寺坂君と一緒にそれぞれの部屋に移動させ眠ってもらった。

と、そこで体力に限界が来ていたらしい私たちもいつの間にか眠りについていた。

 

 

 

⇒三人称side

 

 

 

そして…翌日の正午過ぎ───

 

 

 

「………ここ、は…?」

誰よりも先に眠っていたためか、ハヤテは一人目を覚ましたのだった。

 

 

 

「皆さん…は、眠っているだけみたいですね。」

起きてすぐハヤテは辺りを見渡し、あの後どうなったのかを確認した。

だが…全員眠っているだけでその中に渚もいる事が分かって安心したハヤテは起こさないように外の空気を吸いに行こうと部屋のドアまで行きゆっくりと開ける。

 

 

 

「「───あ…!!」」

そして…なぜか部屋の前にいたヒナギクと目が合い、二人してそんな声を出して出したのだった。




arosのサンデーの目次コメントに漫画家でもないのに答えてみた。



Q.無意識に開いてしまうケータイのアプリはありますか?



A.chrome…ですかね。
というかよく使うのがそれってだけなんですがね。



トニカクカワイイの放送が始まりましたね。
まぁ自分の場合、BSで見るかアプリで後から見るかしか無いですがね。(つまりまだ見ていない。)
視聴するその時が楽しみです。



次回もお楽しみに!!


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第82話 夕日の時間

大…ふっか~~つ!!



皆さん、長らくお待たせして申し訳ありませんでした。
一度間違えて全部消してしまって…偶然あったコピーを参考に書き直し、それでもまだ出来ていなかった部分を付け加えていたら(それと現実での仕事が忙しかったので…)こんなに遅れました。



さて、前回の終わりで鉢合わせたハヤテとヒナギク…いったいどうなるのか!?
そして、ついに復活する〇〇〇〇〇…。
詳しくは本編にて!!



それでは、本編スタート!!


⇒三人称side

 

 

 

「「………。」」

ハヤテが部屋の扉を開けてから数秒間、ハヤテとヒナギクの間を静寂が支配していた。

「あ、ハヤテ君…起きてたんだ。」

先に我に帰り、話を切り出したのはヒナギクだった。

「はい、おかげさまで。

…といっても、今起きたばかりですけどね。

でもそういうヒナギクさんも早いですね。

皆さんと同じように疲れているはずですが…。」

「たぶん、普段起きるのが早いからかしらね。

それに、剣道やってたからあのくらいはどうってこと無いのかもね。」

そのヒナギクの予想にハヤテは「なるほど…。」と納得したという意思を見せる。

 

 

 

彼女───桂ヒナギクが潜入に参加しており、尚且つそこそこの活躍を見せていたのにこの時間に起きていたのか…それは彼女の生活習慣と所属していた部活動にあった。

毎朝5時に起きてそこから1時間走るのが彼女の日課であるため、起床時間が2時間程ずれただけで済んだのだ。

そして、彼女が所属していたのは剣道部───全身を酷使する上に試合となると重い剣道着を着るため、あの程度の活躍では彼女は体力を使いきったとは言いきれないのだ。

最も、彼女が活躍したのは7階と8階にいた数分間…激しい動きをした時間が短かったからというのも理由の一つかもしれないが…。

 

 

 

「僕、これから外に行こうと思っていたのですが…ヒナギクさんも一緒に来ませんか?」

「ええ、そうしましょうか。

ここで話していても皆の安眠妨害にしかならないものね。」

そう言うと二人は並んで歩き始めた。

 

 

 

⇒ハヤテside

 

 

 

「あの~…ヒナギクさん。」

「何かしら、ハヤテ君?」

「あれはいったい…なんでしょうか?」

砂浜に来た僕は、海の中に建てられている巨大煉瓦(おそらくコンクリート製だろう)で出来た建造物ついて、一緒に来ていたヒナギクさんに聞いた。

「あぁあれね。

あれ中に殺せんせーを入れてあるらしいわよ…対先生弾を周りに敷き詰めた上でね。

ほら、今日の夕方には元の姿に戻るでしょ?」

すると、ヒナギクさんからはそう返答してくれた。

「なるほど。」

元の姿に戻った瞬間対先生弾で仕留めるつもりのようだ。

でも、あの時殺せんせーが言っていた事が事実なら───

「ですが…あれで成功させるのは難しいでしょうね。

昨日殺せんせーも言ってましたしね…たとえ対先生物質の中に封じ込めたとしても、体内のエネルギーの一部を爆発させて対先生物質を吹き飛ばす事で最小限のダメージで脱出する、とね。」

「確かにそんな感じの事を言ってたわね…まぁ烏間先生もそれを理解した上でダメ元でやってるらしいけどね。」

烏間先生の計画が上手くいくかどうかを話しつつ、相変わらずの殺せんせーのチート性能ぶりに二人同時にため息を吐いた。

 

 

 

~~~~

 

 

 

「それはそうとハヤテ君、今回かなり無茶をしたみたいね…。」

話題を殺せんせーの事から潜入作戦の話に変え、暫く話していると、ヒナギクさんが僕をジト目で見てきた。

声も幾分か怒っているようにも思えた。

「あ、あはは…まぁ後で殺せんせーになんとかしてもらいましょうか…。」

どれの事だろう───そう思った僕はとりあえず思い当たる右掌の切り傷を見ながら言った。

ブラックとの勝負で負った傷である。

あの後ブラックがある程度の処置はしてくれたらしいが、それでも傷痕は残ってしまっている。

「何でもありね…あの先生。

って、それもかなり無茶してるけどそっちじゃなくて!!」

僕の発言でヒナギクさんは殺せんせーに対してもはや何度目かも分からない呆れの表情を見せる…が、すぐに僕にそう言ってきた。

あぁ…そっちか。

「そっちと言いますと…薬を盛られていたにも関わらず同行した事の方でしょうか?

ですが…僕が発症するまで結構時間かかりましたし、要求に僕が含まれていた以上行かない訳には…。」

「それは分かってるわよ!!

それに…たとえ最初から発症していたとしてもハヤテ君の体力なら無理をしなかったら何の問題も無いかもしてない…でも───」

 

 

 

ヒナギクさんは少し間を置くと───

 

 

 

「───もしかしたら…そのせいでハヤテ君に何かあって、もう会えなくなったら…そう思ったら怖くなっちゃったのよ…。」

僕に向かってそう言った。

「えっと…それはどういう事でしょうか?」

「だって…相手はハヤテ君に盛っていた事を知っていた…その上で呼び出して戦わせようとしたって事はつまり、ハヤテ君を殺す明確な意思があったって事でしょ?」

僕の疑問にヒナギクさんはそう返した。

なるほど…それなら僕が殺されるかもしれなかったという不安に駆られるのも頷ける。

でも、僕に行かないという選択肢は無い…なぜなら───。

「確かに…殺される可能性があるのに素直に要求に従う理由なんてなかったでしょう。

ですが…皆さんに危険な事をさせておいて僕は安全な場所で傍観してるなんて僕には出来ません。

だって、僕にとって皆さんは…家族のような大切な人達ですから。」

そう言うと僕はヒナギクに微笑んでみせた。

「家族、か…そっか。」

その言葉に対してヒナギクさんはどこか陰りのある表情でそう言った。

これは───

「あの…もしかしてヒナギクさんも家族関係の事で何かあったんですか?」

「え…なんでそう思ったの?」

僕が聞くと、ヒナギクさんは驚いたような表情でそう返してきた。

「いえ…さっき僕がE組の皆が家族みたいな存在って言ったら暗い顔をされたように見えましたから。」

「へぇ…そんな顔してたんだ、私。」

そう言うヒナギクさんの顔はどこか悲しそうな表情だった。

あれ…これ僕、やらかした?

「あの、もしかして聞いてはいけない事でしたか…?

すみません…どうやら僕デリカシー無いらしくて…。」

「い…いいのよ別に!!

全然気にしてないから!!

それに…一度は誰かに話しておかないと、ね。」

自分の軽率な発言に罪悪感を覚え顔を逸らしてしたが、

ヒナギクさんがそう言ってその場に座りこんだので僕もそれに倣うように座る。

それを見たヒナギクさんは口を開いた。

「実は、私の今の両親はね…本当の両親じゃないの。」

「えっ、それって養子…って事ですか?」

「そんなところね。

で…本当の両親は私が6歳になる前くらいに8千万を残していなくなったのよ。」

「え…。」

親が借金を残していなくなった───ヒナギクさんのその告白に僕はそう言うしかなかった。

「その借金はお姉ちゃんがなんとかして返済したんだけどね。

で…その後引き取ってくれたのが今の両親なの。」

「………。」

徐に立ち上がり、そう言って自虐的に笑うヒナギクさん。

もしかして、この島に着く少し前にヒナギクさんがあんな事を聞いてきたのは、僕にかつてのヒナギクさんの姿を重ねていたからなのだろう…ふとその事を思い出し、そう考えた。

 

 

 

そして───ヒナギクさんは失う事を恐れているのだろう。

本校舎にいた頃から仲の良かったらしい片岡さんからそんな話を聞かなかった事からもヒナギクさんが頑なに話そうとしなかったのが分かる。

話したら最後…皆が自分から離れていくかもしれなかったのだから───

「…ッ!!」

刹那、今のヒナギクさんとE組に来た当初の僕が重なったように見えた。

あの時の僕も、それを恐れて親の事を話さなかった。

今の僕に出来る事…それは───

そう考えた僕は、ヒナギクさんを後ろから抱きしめた。

「え、ちょっ…ハヤテ君!?」

いきなりの事だったためかヒナギクさんは驚いて引き離そうとする。

が…それもほんの1、2秒程で、それから数分間僕の抱擁を受け入れていた。

 

 

 

~~~

 

 

 

「まったく…女の子にいきなり抱きつくなんて相手と場合によっては通報されてたわよ。

今回は意図が分かってたから問題無かっただけで…。」

「す、すみません…。

僕に出来る事は無いかと考えていたんですが…咄嗟に思いついたのがそれしか無くて…。」

「だから分かってるって…。

でも…するんだったら手をもうちょっと下にしてほしかったわね…。」

…?

そういえば何か柔らかい物を触ったような…と、それよりも言いたかった事があったので、ヒナギクさんの横に並ぶと口を開く。

「ヒナギクさん、あなたは確かに一生忘れる事の出来ない悲しい出来事を経験しました。

それを乗り越えるのは簡単ではありません。

ですが…受け入れて前に進む事も時には大切です。」

そこまで言った後、ヒナギクさんの肩にそっと手を置き、こちらに向いていたヒナギクさんと目を合わせた。

「一から…いえ、ゼロから始めましょう。

今僕達がいるこのE組で…最高の仲間達と一緒に。

そう考えたら、今いる場所も…悪くないでしょう?」

僕のその言葉を聞くヒナギクさんの頬は、なぜか徐々に紅くなっていた。

 

 

⇒ヒナギクside

 

 

 

「今いる場所も…悪くないでしょう?」

あ…今、ようやく分かった。

ハヤテ君がそう言った瞬間、そう思った。

全校集会で初めて見た時から今までハヤテ君を気にかけていたのは同じ痛みを抱えているが故の同情かと思っていたけど、そんなものじゃない。

本当の理由…それは───

 

 

 

その時から…ハヤテ君の事が好きだったから、だ。

 

 

 

所謂一目惚れというものだ。

そして…今まで分からなかったのは、過去の事例から誰かを好きになると居なくなってしまうという思いこんでいたから。

だから、これからは───

 

 

 

「ええ、そうね。

最高の場所よ。」

自分の心に素直になってみよう。

すぐには無理でも、皆と一緒に少しずつ───。

 

 

 

⇒ハヤテside

 

 

 

ヒナギクさんとの対話からしばらく経ち、夕方…さすがに起きたのか皆がホテルから海岸に出てきた。

「あ、いたいた…ハヤテ君。」

「渚君、皆さん、おはようございます。」

僕の姿を見つけた渚君の呼び掛けに挨拶で返す。

「おはよ…と言っても、もう夕方だけどね…。

ってそれはそうとこっちはびっくりしたからね…起きたらハヤテ君がいなかったんだからさぁ…。」

「すみません。

皆さんお疲れのようでしたので起こすのを躊躇ってしまいまして…。」

早速渚君に怒られてしまった…やはりメモは残すべきだったか…。

それから暫くの間、残っていたメンバーから感謝の言葉やらお叱りの言葉やらを頂いた。

 

 

 

~~~

 

 

 

そして、話題は今回のミッションでの活躍の事になっていた。

「そういえば…今回の渚の動き凄かったよな。

アイソレーション、だっけか…ダンスの技術なんだってな。

どこで習ったんだ?」

「鷹岡から薬奪ったあれもどこで身につけたんだ?」

ラストの鷹岡との一騎討ちの話になった所で菅谷君と木村君が渚君にそう聞いた。

それに対し渚君はと言うと───

「あー…それどっちもハヤテ君から教えてもらってた技術なんだ。

僕なら相手の懐に入るのも簡単だろうからって言われてね。」

まさかアイソレーションはともかく“ついで”に教えたあれも役に立つとは思わなかったけど…。

「それで、綾崎はどこであんなスリ紛いの技術を身につけたの?」

「あはは…その、色々ありまして…。」

ふと僕の左隣に座っている速水さん(※右にはヒナギクさんがいます。)がそう聞いてきたのでそう言うと、皆またか…と書かれていそうな顔をした。

「なぁハヤテ…言いにくい事だったら別に言わなくていいからな。」

そんな空気の中、杉野君が僕を心配してかそう言ってきた。

「ありがとうございます。

確かに世間体とかを考えれば話しづらい内容ですが…皆さんにはそういうのを散々話してますから。」

そう言うと僕は深呼吸をしながらその時の事を思い出していた。

「これは僕が4歳の頃の話なのですが…一時期父が絵を売っていてその手伝いをしていたんですよ…。」

「ん?

てことはハヤテの親父さんその時はまともな人間やってたのか?」

「いえ、当時もダメ人間ですよ。」

予想通り反応した菅谷君の質問をバッサリと切り捨てると再び遠い目をしながら話していく。

「まず父がお客さんに本物の絵を見せてですね…で、その方が購入を決めたら梱包のために僕に渡すんです。

どんなに用心深い方でも、さすがに子供相手となると油断するみたいで…その心の隙を突いて本物の絵を梱包する、と見せかけて…その裏に仕込んであった偽物の絵を僕が手品の様に瞬時にすり替えてそのまま偽物を売りさばくという事していまして…。」

『詐欺じゃ(ねぇか/ん)!!』

ほぼ全員からツッコミが入った。

「お前…それが犯罪だって分からなかったのか…!?」

「さっきも言いましたが当時まだ4歳だったので…何が犯罪になるのか分からなかったんですよ…。」

菅谷君の指摘にそう僕が答えると、皆ため息を吐きながらもそれ以上は言及しなかった。

「まぁ…その絵をすり替える技術を応用した技術を敵の持つ重要情報なんかを盗み取る事を想定して教えておいたんですよ。」

「たぶんもう使わないだろう無駄スキルだな…。」

「応用した結果詐欺の手口がスリの手口になっただけじゃねぇか…。」

杉野君と木村君に呆れたような声でツッコまれた。

まぁこうなるだろうとは思いつつ言ったけど…。

「なぁ皆、俺ちょっと思った事があるんだ。」

と、そこで磯貝君が発言した。

「今回のミッションでさ…俺達は自分に足りない物を見せつけられたって思う。

烏間先生もビッチ先生もハヤテも、それにホテルで会った殺し屋達も…経験が長いからこその凄い技術があって、俺達はその背中を追いかける…んじゃまだ足りないな。

追い付いて…最終的に追い越す。

それはこれから先どんな道を選んだとしても掲げるべき目標だと思うんだ。」

磯貝君のその意思表明に心の中で頷いた。

彼の言う通り、大人社会では“先人の技術に追い付き、それを自分のやり方で追い越す”事の繰り返し。

人としての道さえ踏み外さなければそれに結果が答えてくれる。

 

 

 

と、そんな事を考えていると───

 

 

 

ドグオオォォン!!

 

 

 

そんな轟音と共に殺せんせーが閉じ込められた建造物が爆発し、その瓦礫が周囲の海や砂浜に落ちる。

こっちに飛んで来ないのはそれだけの力加減がされている証拠なのだろうか。

となると───いや、結果なんて皆最初から分かっていただろう。

 

 

 

「いやはや、申し訳ありませんでした。

先生が不甲斐ないばかりに皆さん危険に晒してしまいましたね…。

ですが、皆さんよく頑張りました。

今回の一件で君達は大きく成長しました…先生はそれが嬉しいのですよ。」

背後からの声に反応して振り返る。

すると皆「やっぱり…」という表情になったが、そこにはどこか安心のようなものも見られた。

 

 

 

「ヌルフフフ…では皆さん、最後までこの旅行を楽しみましょうか。」

───やっぱり、殺せんせーは僕達で殺したい…それが皆の意見のようだ。

「と、その前に…。」

ふと僕の右手に触手を伸ばした殺せんせーは、その掌の上で触手を素早く動かす。

僅か1秒程で離れると、なんとそれまではあった深い切り傷が綺麗さっぱり無くなっていた。

「今回の無茶について君は既に咎められた…ならば私が何か言うつもりはありません。

いえ、“自分の後ろには仲間がいる”という事を君は知っている…なら言う必要は無いと言った所でしょうか。」

そう言うと殺せんせーは僕の頭を優しく撫でた。

そして全員に視線を向けると大声で叫んだ。

「さて皆さん!!

昨日の暗殺で私をあそこまで追い詰めたご褒美として、夏の夜を盛り上げる楽しいイベントを私から企画させていただきました!!」

そう言うと殺せんせーは服を脱ぎ、いつからか着ていたその下の白装束になった。

 

 

 

「ヌルフフフ…今宵、皆さんに最高のドキドキをプレゼントいたしましょう。

覚悟していてくださいね。」

そう言う殺せんせーの手には、“納涼!!ヌルヌル暗殺肝試し”と書かれた看板があった。




arosのサンデーの目次コメントに漫画家でもないのに答えてみた。
今は4月…入学シーズンという事で…!!



Q.学生時代に最も嫌いだった授業を教えてください。



A.中学生の時は国語、高校では+数学ですかね。
漢字と計算の応用問題が苦手でしたね…。



次回もお楽しみに!!


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第83話 怖い時間

GWがあったからかわりと筆(というか指と妄想)の調子が良くてかなり早く投稿出来ました。
………結果、約一名暴走しましたが。
そのキャラ推しの方々にこの場を借りて先に謝らせていただきます。
自分でもやり過ぎたと思っています。
申し訳ありませんでした。



それと告知を。
この作品の短編集をこの話とほぼ同じタイミングて投稿させていただきます。
ぜひ、そちらもチェックしてください。



それでは、本編スタート!!


⇒渚side

 

 

 

「肝、試し…ですか?」

「えぇ、夏の夜と言えばやはりお祭りとこれですからねぇ。」

看板に書かれていた事を僕が聞くと、殺せんせーは頷いてからそう答える。

「では大まかなルールの説明を。

場所はこの島の海底洞窟の中のみでとさせていただきます。

入り口から出口までの距離300mをくじで決まった男女ペアで進んでください。

私が分身でお化けとして皆さんを思い切り驚かせます。

先生はお化け役として参加しますのでそれを殺すのも有りです。

以上!!

ヌルフフフ…この旅行の締めを暗殺を一旦忘れてただ思い出にするのも、最後まで暗殺者である事を貫くのも君達の自由です。」

なるほど…殺せんせーがセッティングを行ってくれるなら、全力で驚かせてくれそうな気がする…何かゲスいのはありそうだけど。

そう考えていた時、ふとハヤテ君の方を見ると…桂さんがホッと胸を撫で下ろしているのが見えた。

「ねぇ、片岡さん…。」

「うん。

実はヒナ、お化け苦手なの。」

もしかしてと思い、その事をよく知っていそうな片岡さんに聞くと、案の定そんな答えが返ってきた。

なんか…本校舎にいた頃の桂さんは話しかけづらい印象があったのに、E組に来てからは彼女がどんな人間なのかがどんどん見えてきて話しかけやすいように思えている。

殺せんせーはそんな様子をスルーしてくじ引きとかでよく見るような箱を2つ取り出した。

「では、洞窟に入る順番を決めましょう。

それぞれの箱に1~16までの番号の書かれた紙が入っています。

同じ番号を引いた2人でペアを組み、番号順に洞窟内に入ってきてください。

交換は無しですのでご注意を。」

16…か。

そういえば、このクラスの男女それぞれの人数って烏間先生とビッチ先生を入れると16人ずつなんだっけ。

「この話を作るために作者が数えた時に驚いた事なんだって。」

「不破さん?」

まぁそのやりとりは置いといて、皆どんどんくじを引いていく。

僕の引いた紙には大きく“1”と書かれていた。

 

 

 

そして…全員のペアが決定し、肝試しが始まった。

 

 

 

~~~

 

 

 

「っとと…」

「大丈夫、渚?」

「あぁうん、ちょっと滑っただけだから。」

洞窟に入った直後に転びかけた僕を茅野が心配して声をかけ、僕はそれに大丈夫と答えた。

それが本当の事だと分かったのか茅野は辺りを見回すと話題を変えた。

「うぅ…けっこう暗いけど大丈夫かな?」

「ゾクゾク系のだったら大丈夫かも…でも殺せんせーの事だからビックリ系が多いだろうなぁ…そこは不安だね。」

マッハ20の殺せんせーが仕掛人だからなぁ…もしかしたらゾクゾク系でもヤバいかも…そう考えていた僕の耳に三線の音が聞こえてきた。

まさか…と思い、茅野と一緒に音のした方を見ると───

 

 

 

───そこには、王族の亡霊みたいな服を着た殺せんせーが浮いていて、僕達は驚いた。

「ここは…血塗られた悲劇の洞窟…。

かつて、戦いに敗れた王族達の霊が…いまださ迷う場所です。」

作り話だとは思うが、そのあまりのリアリティさに腰を抜かしそうになる。

どうやらここで語り部として僕達を迎えるつもりらしい。

 

 

 

⇒友人side

 

 

 

「戦士は…親友に恋人を託し、2人を逃がすために再び戦場へと赴きました…。

この扉の前の椅子に一組の男女が語り合う事でその戦士の御霊を呼び寄せられ、扉を開くでしょう。」

俺と神崎さんの目の前に扉が見えたと思うと、殺せんせーが現れそう語る。

そして殺せんせーが指差した先には、その背後に落ち武者のようなマネキン置かれた椅子があり、俺達はそれに2人で座った。

「あ…あのさ、ハンカチとかあった方が良かったかな?

ハヤテみたいにこういう事態を想定してなかったから…ごめん。」

「ううん、いいの。

その気持ちだけでも嬉しいから。」

それなら良かった…もしこれで機嫌を損ねられたりなんかしたら、後が気まずいもんな。

「それよりさ、教えてくれないかな…杉野君から見た綾崎君の事。」

そう考えていた俺に神崎さんはそう言って詰め寄ってきた。

この様子だとやっぱり───

「その前に聞かせてもらっていいかな?」

「いいけど…どうしたの?」

「直球で悪いんだけど…神崎さんってハヤテの事が好きなの?」

俺がそう聞くと、神崎さんは少し固まった後顔を赤くして「うん…。」と答えた。

「やっぱりか…。」

「気づいてたんだ。」

「修学旅行の時からなんとなくそんな感じはしてた。

あの時のハヤテはまるでゲームとかの勇者みたいだったからな。」

あの不良共のケータイに何が入ってたのは知らないが、あんな事をされて惚れないなんて無理があると思う。

そもそもハヤテには男女構わず他人を惹き付ける魅力があるから遅かれ早かれこうなっていたかもしれない。

「だから俺は神崎さんを応援したい。

ライバルは多いだろうけど、負けないでくれよ。」

「ありがとう、杉野君。」

「で、ハヤテの事なんだが…あいつこの間うちのクラブチームに助っ人に入ってくれてさぁ───」

しばらく話していると扉が開き、足下を十分に注意しながらまだ話せていない部分を話しながら歩き始めた。

 

 

 

⇒殺せんせーside

 

 

 

(ヌルフフフ…皆さん適度に怖がり、適度に私の思惑通りに動いてくれていますねぇ…。)

目の前で行われている村松君と倉橋さんのペアを含む洞窟内各地で行われている男女の語り合いを見ながら私はそう心の中で言った。

綾崎君の加入以降、生徒達は皆精神的にも肉体的にも強くなったと私は思っている。

そして…彼を中心として恋愛争奪戦が日夜繰り広げられており、その凄惨な過去を知っているかこそ幸せになってほしいからか、それを見ているとついにやけてしまいそうになる。

ですが…その恋愛模様は本人目線───つまり、女子から見た彼の印象のみだと思われる部分もあるようだった。

異性よりも同性の方が知っている事もいくつかある…だから私はこの場を使って女子達が綾崎君事をもっと知るように仕向けた。

だから原さんと狭間さん、そしてイリーナ先生以外にくじ仕組んではいない。

…と、さっきのが8組目───岡島君と中村さんのペアだった…なら次は綾崎君のペアですね。

では、他の方々とは全く異なるルートに案内しましょうか。

ヌルフフフ…。

 

 

 

⇒ハヤテside

 

 

 

「っと…ここも滑りやすいですね。

足下に気をつけてゆっくり来てくださいね。」

「あ、うん…ありがと///」

僕が後ろに手を伸ばしながらそう言うと、彼女は顔を赤くしてそう言いながら僕の手を取った。

そのまま薄暗い洞窟内を暫く歩いていると───

「───ヒャッ!?」

そう言って彼女は僕に抱きついてきた。

「どうかしましたか!?」

「い…今、私の首筋に何か…ヌルッとした物が…!!」

何かあったのかと聞くとそんな答えが返ってきたため、辺りを見回すと───

「あぁ…安心してください、蒟蒻を当てられただけのようですから。

天井から吊るされた蒟蒻が見えたため、そうだろうなと思い報告すると、彼女は安堵のため息を吐く。

「でも怪我をしたとかではなかったようで良かったです───

 

 

 

───岡野さん。」

そう、僕とペアになった女子は岡野さんだったのだ。

それから暫く懐中電灯の灯りを頼りに進んでいると、殺せんせーの声が聞こえてきて、それと同時に上から吊るされた頭蓋骨が降ってきた。

「逃げ込んだこの洞窟内に食糧はあまり多く備蓄されてはいなかった…故に、食糧の尽きた我々はかろうじて見つけた骨ですら奪い合った…。」

なかなかに凝った語りですが…さっきカップルベンチとかいうよく分からない物に座らされたんですが…。

「お前達も我々と同じように一本の骨を奪い合え…さもなくばこの場所からは一歩も通さぬぞ。」

その言葉と共に僕達の間に糸のような物を括り付けられた一本の棒が降りてきた。

「さぁ…両端から齧っていけ…。」

「いやこれポッキーゲームじゃないですか!!」

降りてきたそれを見た僕は思わずツッコんだ。

「さっきから全然怖い要素が見当たらないんですがいったい何がしたいんですか殺せんせー!!

岡野さんも何か言ってやってくださいよ…って、岡野さん?」

さすがにいてもたってもいられず殺せんせーに怒鳴った僕が岡野さんの方を見ると…彼女は小声で「これは先に進むため…うん、しょうがない。」と言っていた。

どういう事だろうと思っていると、岡野さんは僕の方を向いた。

「ねぇ…せっかくだからやっていこうよ。

ほら、さっき殺せんせーがやらなかったらここは通さないって言ってたし。」

そして、この恐怖と全く関係の無いポッキーゲームに対してなぜか積極的だった。

「岡野さん?

ハァ…まぁいいですよ。」

殺せんせーのゲスい策略にまんまと嵌められてる気はするけど、断ったら岡野さんが悲しむだろうと思いそう言うと、岡野さんは笑顔でありがとうと言ってポッキーの片側に行った。(チョコ側は譲りました。)

「そうだ…せっかくだから罰ゲーム有りにしようよ?」

「罰ゲーム…ですか?」

「うん。

負けた方は勝った方の命令を何でも聞くってやつでね。」

「なるほど、ですがもし途中で折らずに食べきった場合はどうなるんですか?

確か食べきって負けになるのは3人以上の複数人の場合でしたよね?」

「その時は引き分けで命令権無しだね。

それと…もしわざと途中で折ったら許さないから。」

見透かされている…。

これはもう僕の不幸で足が滑って結果折れるしか無さそうだ…。

そんなこんなでポッキーゲームが始まった。

どんどん食べ進めていく僕達だったが、中心に近付くにつれて食べづらくなっていた。

と言うのも、僕と岡野さんの身長差は20cmほどある。

僕が屈み岡野さんが背伸びをする姿勢だ。

あと1cm…僕が何かしなくても勝手に折れてくれる…そう思っていると、いきなり岡野さんが僕に抱きついた。

そして、そのまま僕と岡野さんの唇が触れ合った。

 

 

 

当然ながら、チョコの味がした。

 

 

 

~~~

 

 

 

{『右手、黄色!!』}

ラジカセから流れてきた殺せんせーの声に岡野さんは自身の背中の下にある黄色に右手を置いた。

{『左手、緑!!』}

直後その指示が届き、僕は一番近い岡野さんの横の緑に手を置いた。

そう…僕達は今なぜかツイスターゲームをしている。

さっきのポッキーゲームが引き分け終わったため、同じ罰ゲームを設けてやっている。

{『右手、赤!!』}

そんな声で我に返ると、岡野さんはもう右足を僕の左足に近い黄色に置いていた。

その姿がブリッジをしているように見えたが特に辛そうな表情をしていないのはさすが“元”体操部だと思う。

と、そんな事を考えながら右手を移動させようとマットから離した瞬間───突如背中に何かが当たり、そのままバランスを崩して岡野さんへと倒れこんでいく。

だが、岡野さんに全体重をかけて覆い被さるわけにもいかないと僕は“白い部分”に右手を置いた。

「ふぅ…大丈夫ですか、岡野さん。」

「うん…フフッ。」

僕の問いかけに答えた後、岡野さんはいきなり笑いだした。

「…?

どうしたんですか、岡野さん?」

「いや…なんか、あの時と逆になったなぁ~って。」

「あぁ…確かにそうですね。」

ああの時と言うのは…忘れもしない、僕が初めてこのE組に来たあの日の事だろう。

あの時は烏間先生に投げられた岡野さんが僕を押し倒したような体勢になっていたが、今回は僕が岡野さんを押し倒したようになっている。

「そんな事より、もうゲームは終わりみたいだから起きよっか。」

その岡野さんの一言で僕はやっと自分が負けた事を思い出した。

 

 

 

~~~

 

 

 

「じゃあ、綾崎への罰ゲーム言うからね。」

先に立った僕の手を取って起き上がった岡野さんが僕にそう言った。

いったいどんな罰ゲームがくるのか…。

そう考えていると、岡野さんは顔を真っ赤にして───

「じゃあさ───」

 

 

 

言い終えた直後、洞窟内に殺せんせーの悲鳴が響き渡った。

 

 

 

⇒渚side

 

 

 

「つまり、最後の3ペア以外肝試しってのは建前で…本当の目的は女子が男子目線でのハヤテの事を知る事でもっと親密な関係にしようとしたってのか…。

んでもってあわよくばその3ペアとハヤテのペアからカップル成立する奴が出れば…ってどんだけ下世話なんだよ殺せんせー。」

自分の仕掛けた物で勝手に驚いた後、そのまま洞窟から出てきた殺せんせーは、僕達に囲まれた状態でそう供述し、それを呆れ顔の前原君に簡潔に纏められていた。

「ったく…それこそ余計な世話ってやつだろうが。

殺せんせーがんな事しなくてもそれぞれのペースでやっていたはずだしよ。」

前原君がそう指摘すると、殺せんせーはプルプルと震えていたが、途端に顔を上げると言った。

 

 

 

「だって…しょうがないじゃないですか!!

明らかに恋愛の雰囲気がクラス内の至る所から漂ってるのにずっと友達以上恋人以下のような状況じゃないですか!!

そんなの見せられたら後押ししたくなるのは仕方ないでしょう!!」

最早泣きギレに近かった。

そんな殺せんせーの肩に千葉君が手を置いた。

「殺せんせー、そう思うのも分かる。

…が、さすがに展開を急ぎすぎだ。」

そして、殺せんせーを諭すようそう言った。

うん…千葉君は速水さんとハヤテ君仲を進展させようと色々やってたからね。

「まぁそれは殺せんせーなりに後押ししたかった、と考えればいいかもしれないけど───」

そんな様子を見ていた磯貝君がそう言いながら視線を別の方向に向ける。

 

 

 

「───あいつらいったいどうしたんだ?」

その先には真っ赤になった顔を背けるハヤテ君と、手で顔を覆い踞る岡野さんがいた。

「さぁ…?

出てきてからずっとあんな感じだからね…。

殺せんせー何か知ってない?」

ただ思案していてもキリがないと思った僕は、この状況について知っていそうな殺せんせーにそれを聞いた。

「ヌルフフフ、洞窟内での岡野さんは暴走気味でしたからねぇ…。」

「あぁなるほど…今思い出して悶えてるって事か。」

何をしたのかは岡野さんの名誉のために聞かないでおこう。

 

 

 

と、その時───

 

 

 

「なによ、結局何も出てこなかったじゃない!!

せっかく怖がって歩いてやったのに損した気分だわ!!」

洞窟出口からそんな声が聞こえてきた。

全員(ハヤテ君と岡野さん以外)がそっちの見ると…そこには、烏間先生にベッタリくっついたビッチ先生がいた。

が…僕達の視線に気づいたのか、恥ずかしそうに烏間先生から離れていった。

 

 

 

「うすうす思ってはいたが…これで確定だな。」

「だろうな…で、俺面白い事思いついたんだが…。」

「あぁ、帰るまでの時間はまだそこそこあるし…な。」

「それに、ビッチ先生には潜入ん時に真っ先に陽動やってくれた礼をまだしてなかったしな…。」

 

 

 

『くっつけちゃいますか!!』

 

 

 

こうして、本人達の与り知らぬ所で“ビッチ先生のカップル成立作戦”が開始されようとしていた。




今回はいつものコーナーはお休みです。
代わりに、肝試しのペア一覧を載せます。
組み合わせはリアルでくじを作って一組ずつ決めたって感じですかね。

1.渚、茅野 ペア
2.木村、西沢 ペア
3.菅谷、ヒナギク ペア
4.磯貝、片岡 ペア
5.村松、倉橋 ペア
6.杉野、神崎 ペア
7.前原、不破 ペア
8.岡島、中村 ペア
9.ハヤテ、岡野 ペア
10.三村、矢田 ペア
11.千葉、速水 ペア
12.カルマ、奥田 ペア
13.竹林、律 ペア
14.吉田、原 ペア
15.寺坂、狭間 ペア
16.烏間、イリーナ ペア

まぁ一部(というか半分くらい)仕組んだ訳ですが…。



次回もお楽しみに!!


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第84話 殺しの時間

遅くなってすみませんでしたぁ!!
お久しぶりです!!
言い訳になりますが、烏間先生サイドの部分でどう書こうかと悩んだ結果こんなに遅くなってしまいました!!
後は、勤務体制の大幅な変更が原因ですかね。
今までは日曜日以外ほぼ不定期での休みだったのに10月からいきなり土日固定休みになったので余裕を持てる時間が短くなった事が影響していると思われます。
これからも生きて書いて続けますのでよろしくお願いいたします。



それでは、本編スタート!!


⇒渚side

 

 

 

肝試しを終わらせた僕達は、なんとか復活させたハヤテ君と岡野さんも加えた全員でビッチ先生の恋愛相談に乗っていた。

 

 

 

「しっかし意外だよなー。

ビッチ先生って潜入の時みたいに男を操るのがスゲぇ上手いのによ…。」

「自分から本気でアタックしていくってなったら弱いんだね…。」

木村君と茅野の評価は至極最もだ。

潜入時のアレを見ている人達からすれば尚更だ。

そんな微笑ましく思っている目で見る僕達についにビッチ先生がキレた。

「うるさいわね!!

そんでもってあんた達のその目、腹立つのよ!!

でも初めてなのよ、ああいう烏間みたいなタイプの人間は!!

どんな手を使おうが全っ然靡く素振りすら見せないなんて私のプライドが許さない。

だからこそムキになっているうちに───

 

 

───いつの間にかこっちが、ね…///」

そう言ってビッチ先生は顔を赤くして俯いてしまった。

ビッチ先生の言う事も分からなくはない。

これまではその美貌のお陰で言い寄られるのは慣れていただろうけど、烏間先生みたいな厳格な人間が今まで通りとはいかないだろう。

なら…アプローチの方法を変えないといけない。

結果、烏間先生の色々な一面を見た事で逆に自分がその気になってしまったのだろう。

「そーいう事なら任せとけ。

ビッチ先生のために烏間先生と2人きりになれるようセッティングしておいてやる。」

そんなビッチ先生を見た前原君がそう言った。

「つってももう決行可能な時間って夕食の時くらいだよな。」

「その方がロマンチックでいいんじゃない?」

 

 

 

こうして、ビッチ先生告白大作戦の打ち合わせが始まった。

 

 

 

~~~

 

 

 

「というわけで、まずは何から始めるかですが…。

意見のある人は挙手してください。」

司会役の殺せんせーがそう言うとほぼ全員が手を挙げる。

「では一番早かった西沢さん!!」

「はい、やっぱり服装かなって思います!!」

『あ~~~。』

西沢さんのそれ皆納得したように頷いた。

「確かに、ビッチ先生の服の系統って“とりあえず露出させとけ”って感じのやつばっかだな。」

「ビッチ先生の武器考えたら一番最適な服装かもしれないけど…烏間先生タイプの人間の好みじゃ無いと思う。」

「なるほど…。」

皆から出た意見をビッチ先生は真剣にメモを取っていた。

「でも…すぐにそういう服を用意するのは難しいかもしれませんね…。

イリーナ先生はあまりそういう服を選ばないでしょうし、誰かから借りるにしてもサイズが合わないでしょうから。」

「なるほど…では、どうしましょうか…。」

ハヤテ君が出したその意見でとりあえず何か上に羽織って露出を抑える方向でいこうという事になった。

 

 

 

~~~

 

 

 

「では次は…はい岡野さん!!」

次の議題になったと同時に挙手した中から殺せんせーが指名したのは岡野さんだった。

「えっと…ちょっと議題から外れるかもしれませんけど、烏間先生の好みはどうなのかなって思いまして…。」

「なるほど…確かにそれも重要ですねぇ。

では、誰か烏間先生の女性の好みを知っている方はいませんか?」

「あ、そういえば前に烏間先生がベタ誉めしてた女性ならいたような…。」

殺せんせーからの質問に矢田さんが思い出したようにそう言い、全員の視線がそっちに集まった。

「前に律の本体で動画見てた時の話なんだけど…偶然入ってきた烏間先生が言ってたの。

顔つきも体つきも理想的って…。」

{それはもしかして…この方々の事でしょうか?}

「そうそう、おまけに3人もいるって言ってたね。」

矢田さんが説明していると、律がそう言った。

“方々”…?

そう思って律が出した画像を見ると───

 

 

 

───ヒーローっぽい姿をした三人組の女性が出演している某警備会社のcmの一部が映っていた。

『いやこれ戦力として理想的なだけじゃねぇか!!』

なんというか…さすが烏間先生というべきか…。

「“戦力として”なら望みはあるが…もしこのような強い女が好みなら絶望的だね。」

その後の竹林君の言葉にビッチ先生は一言も返さず唸っていた。

「まぁまぁ、矢田さんにもひなたさんにもイリーナ先生にも、それに皆さんにも…それぞれに違った魅力があるんですから…それにまだそうと決まったわけではありませんし。」

そんなビッチ先生を励ますようにハヤテ君がそう言った。

 

 

 

その通り…って待って今───

 

 

 

「なぁハヤテ、お前今岡野を名前で呼ばなかったか?」

前原君が言った通り、さっきハヤテ君は岡野さんを名前で呼んだ。

今までは名字で呼んでいたはずなのに…。

「あ、はい。

洞窟内にあったツイスターゲームに負けたので名前で呼ぶようにいわれまして…。」

いったい洞窟内で何やってたの!?

 

 

 

とりあえずこの議題は本人次第という事で終わった───

 

 

 

「そういえば言った…流れで言った気がする…。」

再び壊れた岡野さんをほっといて───

 

 

 

~~~

 

 

 

「では、綾崎君は何かありますか?」

その後も色々な案が出てきたが、あまり決定打となり得るものは出ず、最終的に烏間先生の事をよく知っていそうなハヤテ君に聞く事になった。

「そうですね…想いを込めたプレゼントなんてどうでしょう?

タイミングもちょうどいいでしょうし…。」

「タイミングって?」

「はい、もうすぐ烏間先生の誕生日なので…ちょっと早い誕生日プレゼントとして渡せるのではと思いまして…。」

なるほど…誕生日という事なら口実としてもいいかもしれない。

「まぁ知っての通り僕の家はビンボーだったので…ケーキの代わりにクッキー一欠片という絶望感漂う誕生日もありましたけど。」

「出たよハヤテの苦労話…。」

「せっかくの誕生日なのに悲惨すぎるだろ…。」

まさか誕生日にまで悲しい思い出があるとは…。

「そういえば、ハヤテの誕生日は聞いた事がなかったな…。」

それを聞いた杉野が思い出したように言った。

言われてみれば…ハヤテ君が誕生日を祝ってる所はよく見るけど、自身の誕生日だという素振りをみせた事は無い。

「なんか急に脱線し始めたが、確かに気になるな。

で、いつなんだ?」

「えっと…11月11日ですね。」

「1多いな…。」

話が逸れ始めた事に呆れたようにそう言いつつも磯貝君が聞くと、ハヤテ君はそう答えた。

そして、議題を纏めるために出していたホワイトボードの片隅に重要そうにハヤテ君の誕生日が書かれた。

「そろそろ議題戻して…プレゼントを贈るのでしたら何がいいでしょうか?」

その後すぐに切り替えた殺せんせーが皆にそう聞いた。

この島で作れる物にしたいという意見が出たため何があるかと考えているとハヤテ君が一つ提案した。

「でしたら───」

 

 

 

会議終了後、ハヤテ君は“それ”を取りに砂浜を駆け出した。

 

 

 

⇒惟臣side

 

 

 

───ホテルへの潜入時に最初に活路を切り開いてくれたイリーナ先生と先頭に立って皆を導いてくれた烏間先生のお二人に特別に大自然に包まれてのディナーにしてもらえるようにホテル側にお願いしましたので、ディナーの時間はレストランの外にお願いします。───

 

 

 

そう綾崎君に言われ、指定された場所に行こうとレストラン裏の扉を開ける。

その先にはテーブルに向かい合うような形で椅子があり、その一脚には既にイリーナが座っていた。

 

 

 

「すまない。

急いで来たつもりだったが…待たせてしまったか?」

「大丈夫よ。

私もさっき来たばかりだし。」

そう言うイリーナの服装はさっきまでとは全く違う物だった。

スカート部分が膝下までの長さであると思われるドレスに身を包み、この手のドレスでは露出しているはずの肩にはショールを羽織っている。

いつものイリーナからは考えられないようなファッションだ。

それを気にしつつ俺は席に着く。

少々驚かされた…が、だからといって生徒達が用意してくれた時間を無駄には出来ないからだ。

そして、それを見計らったかのようにホテル内から料理が運ばれてきた。

クローシュが被せられているのは、恐らくここが外であるため、風に乗って飛んできたゴミが入らないようにしているのだろう。

辺りを見ても防塵、防虫がしっかりされているのがよく分かった。

 

 

 

だが俺達は驚いた。

クローシュにではなく、 料理を運んできた人物にだ。

その人物とは───

 

 

 

「こちらが本日のディナー、一品目です。」

 

 

 

───綾崎君だったのだ。

「綾崎、あんた何やってんの?」

「今回はお二方への日頃の感謝のためですから、配膳のお手伝いをさせていただけるように頼んでみたんですよ。

こういう場でじっといている事が出来なかったというのもありますが…。」

「ふぅん…。

あんたはディナー食べなくていいの?」

「交渉の結果、最初の一皿だけとなったのでそこは問題ありません。」

イリーナの問いに綾崎君はそう答えるとそのままホテルへと戻っていく。

「食べるとするか。

せっかくの綾崎君の好意を無駄にしてはダメだろう。」

「………そうね 。」

 

 

 

⇒渚side

 

 

 

「二人とも食べ始めたようですね。」

戻ってきたハヤテ君が外の様子を見てそう言った。

ここからビッチ先生がどう動くのか…それを見届けようとした僕達にハヤテ君が言う。

「さて、僕達は僕達で食べましょうか。」

「え?

見ないのかハヤテ?」

全員を代表するかのように前原君が問いかける。

「ええ、これ以上ジロジロ見るのは野暮だと思いますよ。」

そう言ってハヤテ君は席へと向かう。

ハヤテ君なりの気遣いなのだろう。

 

 

………だけど───

 

 

 

「そういう気遣いが出来るのなんで寄せられてる好意に気づけないんだよ…。」

『うんうん。』

杉野のその一言に全員が頷いた。

 

 

 

この夜が明ければ、僕達は東京へと帰る。

それがこの合宿の終わり。

結局殺せんせーを殺す事は出来なかったけど、これからも変わらず挑み続ける。

最後に殺せんせーを殺すのは…僕達E組だ。




arosのサンデーの目次コメントに漫画家でもないのに答えてみた。



Q.生まれてはじめて映画館で観た映画はなんですか?



A.某カクレクマノミの映画だっけ…?
それとも仮面ライダー剣とデカレンジャーかな?



これからも精進します!!
次回もお楽しみに!!


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