ひこうじょう PPP編 (くにむらせいじ)
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第1話「飛べる鳥」

 
 まえがき

 くにむらせいじ(別名『SEY_Y』又は『SAY_Y』)です。

 これは、以前書いたSS『ひこうじょう(通常版)』の別視点版で、PPP(ぺパプ)を中心にしたおはなしです。特にフルルに重点を置いています。

 『ひこうじょう(通常版)』と、『ひこうじょう PPP編』は、表裏の関係になっており、どちらを先に読んでも構わないです。ただ『PPP編』は、『通常版』の裏側で起きていたおはなしなので、『通常版』を読まないと分からない部分があります。その逆もちょっとだけあります。

 文章が下手なうえに無駄に長いです。内容はあらすじに書いた通り、「“見る側”の物語」で、需要がほとんどない作品だと思います。
 「“見る側”の物語」以外の要素もけっこう入っています。一応終盤は盛り上げたつもりです。

 筆者は飛行機が好きなだけの素人です。いろいろと間違っているかもしれません。




 

 黒い巨大セルリアンとの戦いのあと、かばんたちを島の外に送り出すための代替案を探していたツチノコは、島の海岸にある飛行場の格納庫に、ヒトが残していった飛行機(双発のプロペラ機)を発見した。 ※1

 

 

 

 飛行機が発見されてから数日後。飛行場の管制塔の2階(窓のある最上階)。

 

 壁際の床に、アルミ製の箱が置いてあった。それは低い椅子ほどの大きさで、肩掛け用のひもがついていた。箱には、何かのシンボルマークや文字のステッカーがいくつか貼られていた。

 ツチノコのピット器官の透視映像では、箱の中にごちゃごちゃしたものがぼんやり映っていた。

 ツチノコが箱の蓋の二つの止め金を外して、蓋を開けた。

 

 ツチノコは目を見開いて驚いた。

 

 箱の中には、デジタル一眼レフカメラや交換レンズ、一脚などの撮影機材※2 が詰まっていた。

 

 

 

 ツチノコは飛行機を飛ばせるように修復と調整をしようとしたが、かばんたちの出発には間に合わなかった。

 

 かばんたちが島を旅立った後も、ツチノコは飛行機を飛ばすことをあきらめず、飛行機を飛ばすこと、それ自体を目的として、島のフレンズたちに協力してもらい、飛行機の修復を続けた。

 アフリカオオコノハズク(はかせ)とワシミミズク(助手)の協力で、図書館の本と、格納庫に残されていた整備マニュアルから知識を得た。アメリカビーバーの設計、タイリクオオカミによる図面の作図、オグロプレーリードッグの工作、その他多くのフレンズたちが協力して、劣化や損傷した部品の代用品の調達や製作、機体の調整などが行わた。

 

 飛行機は、飛行可能な状態に近づいていた。

 

 修復後の初飛行時の機長はツチノコ、機上整備員はオグロプレーリードッグとアメリカビーバーに決まった。しかし副操縦士が決まっていなかった。多くのフレンズたちに声をかけて、副操縦士選抜試験と、操縦訓練が行われることになった。

 

 

 ステージの楽屋。

 

 楽屋にはPPP(ぺパプ)のメンバーと、マーゲイがいた。

マーゲイ   「というわけで、みなさんに副操縦士選抜試験、ならびに操縦訓練に参加していただきたい、とのことです」

コウテイペンギン(コウテイ) 「それって、すごくむずかしいんじゃないか?」

マーゲイ   「参加は強制ではありません。もし興味があって、スケジュールの都合が合えば、とのことです」

イワトビペンギン(イワビー) 「おもしろそうじゃねーか。受けてみようぜ」

ロイヤルペンギン(プリンセス)「PPPのPRになるかもしれないわね。でも、一回の訓練に丸一日くらいかかるのよね? スケジュールは調整が難しいんじゃないかしら」

ジェンツーペンギン(ジェーン)「しばらく大きいイベントはないですから、レッスンを削ればなんとかなるんじゃないですか?」

マーゲイ   「最初のシミュレーターの試験だけなら、スケジュール的には問題ありません。ただ、その先は難しいかもしれません。あまり危険なことはしていただきたくないですし……」

 

フンボルトペンギン(フルル) 「もぐもぐ……空を飛んでみたいよねー」

 

 ジャパリまんを食べていたフルルが突然言った言葉に、他のPPPのメンバーとマーゲイはハッとして、驚いた。

 

プリンセス  「PPP(ぺパプ)が空を飛べるのよ! やってみようじゃない!」

 

 

  [ 操縦訓練 第1回 ]

 

 操縦訓練と試験には、温泉宿 ※3 のシミュレーター(ゲーム)が使用された。

 

 温泉宿の玄関前に、キタキツネとギンギツネがいた。それに加えて、操縦訓練を受けに来たフレンズや、ギャラリーが15名ほどいた。

 

ギンギツネ 「中に入りきらないじゃない……」

 ギンギツネが遠くを見た。

ギンギツネ 「なんかあやしい恰好の子たちが来たわね……」

キタキツネ 「あの子たち、ぺぱぷだよ」

ギンギツネ 「まさか。アイドルがこの訓練に参加するわけないでしょう」

フレンズA 「あの毛色は……ペンギン?」

フレンズB 「ぺパプ? ぺパプが来たの!?」

フレンズC 「本物だ! 5人そろってる!」

フレンズD 「顔についているものはなんだろう?」

 PPPのメンバーはサングラスをかけて、マスクをつけた格好で温泉宿にやってきた。

プリンセス 「ばれてるじゃない!」

 PPPのメンバーの声は、マスクのせいでくぐもった声になっていた。

マーゲイ  「なんででしょう? はかせたちが 『(はかせの声色で)サングラスとマスクを貸してあげるのです。これをつければ目立たずに行動できるです』 『(助手の声色で)完璧な変装なのです。われわれはかしこいので』 とおっしゃっていたのですが……」

コウテイ  「むしろ余計に目立っている気がするぞ……」

イワビー  「息苦しいし良くみえねー……こんなの取っちまおうぜ」

マーゲイ  「せめて中に入るまでは付けていてください」

 PPPのメンバーが温泉宿に入り、サングラスとマスクを取ると、中にいたフレンズたちから歓声があがった。それと同時に、強い閃光(フラッシュ)がPPPのメンバーに当てられた。

イワビー  「おわっ!」

プリンセス 「なに!」

コウテイ  「目が……」※4

ジェーン  「なんですか!? いまの!」

フルル   「ぱぱらっちだね」

イワビー  「フルル、わからないことば使うんじゃねーよ」

マーゲイ  「撮影は許可をとってからおねがいします!」

 

 

 フレンズたちが代わる代わるシミュレーターの座席に座り、短時間ずつの操縦訓練を行った。  ※5 教官役はツチノコだった。

 

 

  ---- ト キ ----

 

 シミュレーターで、トキが飛行機を操縦していた。しかし、飛行機はふらふらと左右に旋回を繰り返していた。

ト キ   「動きがにぶい。思うようにいかない。それに、気流が読めないわ」 ※6

ツチノコ  「やはり鳥系はダメなのか……」

 

プリンセス 「つぎはわたしたちの番ね」

ジェーン  「鳥の子たち、みんなうまくいかないみたいですね」

コウテイ  「わたしたちにできるだろうか……」

プリンセス 「そんなの、やってみなけりゃわからないわ」

フルル   「むこうにジャパリまんいっぱいあったよー」

イワビー  「緊張感のかけらもねーな……」

 

 トキの訓練が終わり、トキがシミュレーターから降りてきた。

ショウジョウトキ「これ、なんか気持ちわるいですよね」※7

ト キ   「なんでこんなものに乗るのかしら」

フルル   「飛びたいからだよ」

 

ト キ   「シンプルな答えね。じゃあ、なんで飛びたいの?」

 

 

 

 つづく

 

 

 

 

 

 

 

 

※1 飛行機と飛行場の詳細は、第1話のあとがきに書いてあります。

 

※2 撮影機材の詳細は、「あとがき・設定」(第10話扱い)に書いてあります。

 

※3 「温泉宿」と書いていますが、あそこは宿ではなく入浴施設だけなのでは?とも思います。「温泉」だけだと「源泉」と混同しそうなので「温泉宿」の表記にしています。

 

※4 室内でサングラスを取った瞬間に、強力なストロボ(フラッシュ)を正面から当てられると、網膜を痛めるかもしれません(特に夜行性のフレンズは危険かも)。そこまでいかなくも、赤目になる可能性が高いです。今回は、廊下の角に隠れていたカメラマンが斜め横からフラッシュを当てたのですが、コウテイはたまたまそっちのほうを見てしまいました。

 

※5 本当はひとりずつしっかりと時間をとって訓練したかったのですが、人数が多すぎたため、短時間ずつの操縦訓練になりました。それでも一日では終わらず、「操縦訓練 第1回」は、三日間にわたって行われました。その後は回を重ねるごとに人数が減っていき、「選抜試験 第2回 兼 操縦訓練 第4回」で、ひとりに絞られました。

 

※6 シミュレーターの設定は無風になっています。従って風を読む必要はないのですが、鳥系のフレンズは、体で空気の流れを感じられないと飛びにくいようです。

 

※7 「ひこうじょう(通常版)」でも思ったことですが、ショウジョウトキの喋り方は、登場時はですます調でも、この頃にはくだけた喋り方に変わっているのではないか?とも思います。でもアニメではセリフが少ないので、よくわかりません。

 




 あとがき

 読んでいただきありがとうございます。


 以下の設定は、以前書いたSS『ひこうじょう(通常版)』と同じです。

 使用機体の設定

 中古の ビーチクラフト キングエアC90(C90GT) に、ラッキービーストとリンクできる改修を施したものです。主にパークの職員の移動用に使用されていました。塗装は塗装は白と青のツートンカラーで、後部胴体側面とエンジンナセルに、けもフレのシンボルマークが入っています。垂直尾翼の右側には青緑色の羽、左側には赤い羽のマークがあります。
 コックピットはグラスコックピットではありませんが、計器の一部がディスプレイになっています。
 元々は3機あり、1機が島を去って、予備機が残され、残りの1機は本土の整備工場にあります。機番は、予備機がJA83JP、島を去ったほうがJA82JP、整備工場にあるのはJA81JPです。

↓こんな感じです。

【挿絵表示】
ビーチクラフト キングエアC90(C90GT) ジャパリパーク仕様

 本当は軍用機、戦闘機が好きなんですが、なぜこんな地味な飛行機を選んだのかというと、「ジャパリバスの飛行機版」にしたくて、「6~10人乗りで、扱いやすくて、小さな飛行場でも運用できて、比較的生産数が多く、現在国内で使用されていて、今後も使用され続けるであろう機種」を選んだ結果、この機体になりました。
 けもフレはファンタジーなんだから、オリジナルの飛行機でもいいじゃないか、とも思ったのですが、それだと映像を思い描くために「デザイン(設計)」をしなければいけないので、こうなりました。


 飛行場の設定

 公式設定では、多分飛行場は存在しないと思います(私が知らないだけで、実はあるのかも)。 この飛行場は海岸にあるという設定です。明確な位置の設定はありませんが、アニメ1期12話の、船が沈んだあたり(キョウシュウの東側?)に近いと考えています。
 ここの海岸に作られた理由は以下の通りです。
 ・フレンズのいる陸地の上を低空飛行するのを避けるため。
 ・島の中央部の山岳地帯への衝突、山岳地帯のおこす乱気流を避けるため。
 ・サンドスターの影響による気候や現象(強い日差し、強風、砂嵐、降雪など)を避けるため。
 ・長い平坦な土地が確保できるため。
 ・港に近いため。
 ・向かい側にゴコクエリアがあるので、波が弱い(かもしれない)ため。
 欠点は、潮風により設備や航空機が痛みやすいことと、津波が来たらアウトなことです。(防波堤はありますが、低いです。)
 滑走路は、海岸線に平行に走っていて、平坦な砂浜を利用し、少し海を埋め立てて建設されました。長さは1200mくらいです。滑走路番号は01/19です。 飛行場の位置が曖昧なため、海岸線と滑走路の関係がおかしいかもしれません。滑走路が短いため、ジェット機の運用は困難です。滑走路の海側に、簡単な防波堤があります。滑走路と平行にのびる誘導路は無く、エプロンと滑走路が直結しています。

 格納庫は、キングエアC90GTが2機入って少し余裕がある大きさです。ホイストがあります。格納庫裏の少し離れた所に燃料貯蔵タンクがあります(傷んでいましたが、中身は無事でした)。
 エプロン(駐機場)は小型旅客機(737クラス)が2機駐機できるくらいの広さです。
 管制塔は最小限のもので、格納庫と繋がっています。レーダーや無線設備もありますが、故障して機能していません。
 電源は、温泉の地熱発電や、太陽光発電が利用できました。

↓飛行場の設定画(地図)です。物の大きさの比率は、いい加減です。トラフィックパターンが書いてありますが、SS本編と矛盾するかもしれません。内容的に、この通り飛ぶ必要はないと思います。

【挿絵表示】




 [ 初投稿日時 2018/06/02 19:00 ]
 


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第2話「理由」

ト キ   「シンプルな答えね。じゃあ、なんで飛びたいの?」

 

フルル   「空に行ってみたいから」

プリンセス 「なんか漠然としてるわね……」

イワビー  「ペンギンが飛ぶんだぜ。すげーじゃねえか」

コウテイ  「飛ぶ理由は、それだけで十分だろう」

ジェーン  「そうですね。とってもすてきなことだと思います」

 

 

  ---- プリンセス ----

 

プリンセス 「けっこう、難しいわね……」

ジェーン  「なんか、ふらふらしてますね」

 プリンセスが操縦する飛行機は、不安定に左右に揺れていた。飛行機は左に旋回をはじめ、高度が下がっていった。

プリンセス 「あれ? まがってる? ……だめ、なんで下がるの!? 落ちる!」

ツチノコ  「旋回するな。機首を上げて、パワーを……」

プリンセス 「やってるわよ!」

 プリンセスの操縦する飛行機はゆるく左に旋回しながら高度を下げていき、海に墜落した。

ツチノコ  「まあ、最初はこんなもんだよな」

 

 

  ---- イワビー ----

 

イワビー  「おおお! 上がる上がる! きっもちいいぜー!」

 イワビーが操縦する飛行機は、離陸後、急角度で上昇していった。低い雲が近づいてきた。

プリンセス 「すごい……。 よくこんな急上昇できるわね……」

ツチノコ  「無茶するな! 失速するぞ!」

 低い雲を抜けた瞬間、突然機体が不安定になり、飛行機は急降下した。

イワビー  「おわああ! 言うこときかねえ!」

 イワビーはスティックをガチャガチャと動かしたが、飛行機は操縦不能のまま回転しながら落下して、林に墜落した。

コウテイ  「ハイジャンプ、ということか」

フルル   「花火みたいだねー」

プリンセス 「その例えはなんかちがう気がするわ……」 ※1

 

 

  ---- ジェーン ----

 

ジェーン  「えっと、あれ、どうやるんでしたっけ?すみません。手順をもう一回確認します」

マーゲイ  「準備は大切ですからね」

ツチノコ  「慎重なのはいいが、ちと不安だな……」

 ジェーンの操縦は、離陸直後は不安定だったが、慣れると安定してきた。ジェーンは、着陸のために飛行機の進路を滑走路の方向に合わせようとしたが、うまくいかず、飛行場のまわりを数回旋回した。飛行機はなんとか滑走路の延長線上に乗り、ゆっくりと降下していった。

ツチノコ  「高い……無理に降下するな! 着陸復行(ゴーアラウンド)だ!」

ジェーン  「ごーあら?」

ツチノコ  「上昇するんだ! 早く!」

ジェーン  「……上がらない! ……間に合いません!」

 飛行機は深すぎる角度で降下して、滑走路の中ほどに墜落した。

コウテイ  「これ、めちゃくちゃむずかしいぞ……」

 

 

  ---- コウテイ ----

 

ツチノコ  「いい感じだな。そのまま右へゆっくりと旋回……どうした?」

コウテイ  「…………」

 コウテイは、白目をむいて気絶していた。

ツチノコ  「気絶してるー!!」

イワビー  「わかってたけど、このタイミングかよ……」

 コウテイが操縦する飛行機は、パイロットが気絶した後も、なぜか安定して直線飛行していた。

ツチノコ  「どうなってんだ……なぜ落ちない……」 ※2

プリンセス 「ある意味天才ね……」

 飛行は安定していたが、旋回も着陸もできなかった。

ツチノコ  「いったん休憩して、もう一回だ」

 

 

  ---- フルル ----

 

 フルルは、離陸と水平飛行では安定した操縦をみせた。

ツチノコ  「すげえ、初めてでこんなに……」

マーゲイ  「これは、隠れた才能ですか!?」

フルル   「機内食にジャパリまんがほしいなー」

ツチノコ  「そんなもん出ねえよ! ……次は、着陸だ」

 フルルが操縦する飛行機は、進路を滑走路に合わせ、ゆっくりと降下していった。

ツチノコ  「もうちょっと下げろ。コースがずれてる! ……行き過ぎだ! 角度が深い……」

 フルルの操縦する飛行機は、滑走路の中央から大きく右にそれて、ドスンと荒っぽく着陸した。右の主脚が滑走路わきの草地に接地し、飛行機はまっすぐに滑走できず、さらに右にそれて、滑走路を逸脱して停止した。

ツチノコ  「実機なら(あし)が折れたかもな……」

フルル   「…………」

 フルルは無表情で、うつむき加減だった。

プリンセス 「え? ……フルル、どうしたの?」

マーゲイ  「お、落ち込むことないですよ!」

イワビー  「おまえすげえよ。上がってすぐに落ちたやつもいたんだぜ?」

ジェーン  「着陸、むずかしいですよね。初めてでここまでできれば十分だと思いますよ」

コウテイ  「最後までやりきったんだ。自信をもっていい」

 フルルが顔をあげて、PPPのメンバーの方を見て、やわらかい表情になった。

フルル   「おなかすいたなー」

プリンセス 「……いつも通り、よね……」

フルル   「いつもどおりだよ」

 

 

  ---- コウテイ (再挑戦)----

 

 休憩して再挑戦したコウテイの操縦は、気絶した時よりも不安定だった。

コウテイ  「だめだ、どうすれば」

コウテイの操縦する飛行機は、低空で上昇と下降を数回繰り返したあと、海に墜落した。

ツチノコ  「さっきの安定感はなんだったんだ?」

 

 

  ---- マーゲイ ----

 

 マーゲイの訓練前。

マーゲイ 「……はあ、はあ、この棒、みなさんの汗が、ぬくもりが……ふふふ、うへへへ……」

 マーゲイはスティックをにぎって、恍惚とした表情をしていた。

ツチノコ 「変態かおまえ!」

 マーゲイの離陸は不安定だったが、水平飛行では非常に安定した飛行をみせた。

プリンセス「こっちも意外な才能かしら?」

 だが、着陸では侵入高度が低すぎたうえに、滑走路の端ギリギリを狙って下りたため、滑走路手前の林に墜落した。

マーゲイ 「やっぱりフルルさんはすごいです……」

 

 

 その日の訓練が終わった。

 

 シミュレーターのそばに、ツチノコとタイリクオオカミ(以下オオカミ)がいた。

オオカミ 「今日はいい顔がたくさん見られたよ」

ツチノコ 「人数が多すぎたな。あすも記録をたのむ」

 ツチノコがオオカミの手元を見た。

ツチノコ 「それ、スケッチじゃなくていいのか?」

 オオカミは、標準ズームレンズと外付けストロボ ※3 を付けたデジタル一眼レフカメラを両手で持っていて、カメラのストラップを首にかけていた。

オオカミ 「味気ない気もするけど、記録するだけならこれでいいんだよ。いいものをくれたね」

 

 

 温泉宿の畳敷きの部屋に、PPPのメンバーとマーゲイが座っていた。

マーゲイ 「人数が多いとむこうに迷惑かもしれないですね。スケジュールの都合もありますし」

コウテイ 「それなら、今後はフルルにPPPの代表として、飛行訓練をやってもらう、というのはどうだ?」

ジェーン 「いちばん上手でしたからね」

プリンセス「そうね。それがいいわ」

イワビー 「やったなフルル! PPP代表だぜ」

フルル  「…………」

マーゲイ 「では、今日は予定通りロッジへ向かいましょう」

フルル  「もうちょっと練習したいな」

フルル以外「ええー!」

プリンセス「なんで? わたしたちの中で一番うまくできてたじゃない」

フルル  「あれじゃ、飛べないから」

マーゲイ 「お気持ちはわかりますが、もう時間も遅いですし……」

イワビー 「練習ならきょうじゃなくてもできるぜ?」

フルル  「ほかの子に、まけちゃうから」

コウテイ 「……なんとかしてやりたいな」

ジェーン 「……ここに泊めてもらうことって、できないですか?」

マーゲイ 「ギンギツネさんに、交渉してみましょう」

 

 

 夜。

 

 シミュレーターで、フルルがひとりで訓練していた。そこへ、風呂へ向かうキタキツネとギンギツネが通りかかった。

ギンギツネ 「熱心ねえ」

キタキツネ 「ぼくもあそびたい」

ギンギツネ 「お客さんが優先よ。あしたにしなさい。それに、あなた訓練が必要ないくらいうまいじゃない」

キタキツネ 「ギンギツネはへただよね。飛びかたが気持ちよくなかった」

ギンギツネ 「わたしは、飛行機で飛ぶ、っていうのがどういうことなのか、いまだによくわからないから」

キタキツネ 「ぼくがおしえてあげる。だいじょうぶ、やさしくするから。いっしょに気持ちよくなろう?」

ギンギツネ 「……あ、あとでね……」

 ギンギツネは顔を赤くして目をそらした。

プリンセス 「あなたたち、なんの話してるの?」

ギンギツネ 「!」

 ギンギツネが驚いてビクッとなった。プリンセスが奥の部屋を出て、廊下を歩いてきた。

ギンギツネ 「……これは、えっと……キタキツネが、飛んじゃうくらい気持ちよかった、というか……その……」

キタキツネ 「ちがうよ、ギンギツネはへただから、あとでぼくが気持ちいいことをおしえてあげるんだよ」 ※4

プリンセス 「……なかよし、なのね……」

ギンギツネ 「ちがうわよ! いや、ちがわないけど!」

 プリンセスが、シミュレーターの方を見た。フルルはわき目もふらず、訓練を続けていた。

プリンセス 「すごい集中力ね……」

 

 

 その後、フルルは毎日のように、温泉宿でシミュレーターの操縦訓練をした。

 

 ロッジのイベントスペース ※5 に、PPPのメンバーが集まっていた。

プリンセス 「あの子、今日もいないの?」

ジェーン  「きのうも温泉に泊まったそうです」

マーゲイ  「熱心なのはいいのですが、レッスンの予定がずれてしまいますね」

プリンセス 「本業をわすれてしまっては困るんだけど……」

イワビー  「あいつ、なんであんなに必死なんだ?」

コウテイ  「なにか理由があるんじゃないか?」

ジェーン  「PPPの代表だから、責任を感じているんでしょうか」

イワビー  「そんなこと気にするタイプじゃねーだろ」

プリンセス 「代表になるまえ、最初の訓練のとき、あの子、すごく落ちこんでた……わたし、あの子のあんな顔はじめて見たわ……」

マーゲイ  「表情が消えてましたよね」

イワビー  「ちげーよ。そこじゃねえよ」

コウテイ  「わたしたちに励まされたあとの顔、痛々しかったな」

ジェーン  「ちょっと心配ですね……」

 

 

 数日後の温泉宿。

 

  [ 副操縦士選抜試験 第1回 兼 操縦訓練 第2回 ]

 

 PPPのメンバーとマーゲイが、フルルの試験を見守っていた。

 

 手順通りの離陸。安定した直線飛行、高度を保ったゆるやかな旋回。

ツチノコ  「前よりはるかに安定してる……」

 そして苦手だった着陸。フルルが操縦する飛行機は、一回で滑走路の延長線上に乗り、微調整をしながらゆっくりと降下していった。飛行機は進路を滑走路のセンターラインに合わせて、滑走路端の着陸位置へ下りた。軽い衝撃と共に主脚が接地した。機体はほとんどバウンドせず、少し滑走して前脚が接地した。そしてそのまま滑走路の中央を走り、滑走路に十分余裕を残して減速した。

ツチノコ  「文句なしの合格だ。どうやってこんなに上達したんだ……」

 フルルがシミュレーターを降りて、PPPのメンバーがそれを迎えた。

イワビー  「いえーい! やったぜフルル!」

プリンセス 「フルル、よくがんばったわ!」

コウテイ  「おめでとう。やはりわたしたちとはレベルが違うな」

ジェーン  「一生懸命練習した結果ですね。ほんとうにすごいです」

マーゲイ  「……ぐす、ぐす……フルルさ……ぐす……すばらしい、です……みなさんの、友情に……感動しました……」

プリンセス 「マーゲイ! 鼻水をふきなさい!」

 強い閃光(フラッシュ)が、PPPのメンバーに当てられた。

オオカミ  「いい顔いただいたよ」

 廊下の角に隠れていたオオカミが、カメラを手に現れた。

イワビー  「またかよ!」

マーゲイ  「……ひどい顔、撮られちゃったあ……」

ツチノコ  「オレは写る必要なかっただろ……」

 写真の背景に写り込んでしまったツチノコは、顔を赤くしてそっぽを向いた。

フルル   「ぱぱらっちだね」

コウテイ  「……フルル、なんでこんなにがんばるんだ?」

ジェーン  「ペンギンが空を飛べたらすてきだから、ですよね?」

イワビー  「だよな!」

プリンセス 「でも、それだけじゃないわよね? この子の必死さ、ふつうじゃないもの」

 

フルル   「空には、会いに行きたいひとがいるから」

 

プリンセス 「フルル……」

イワビー  「あいつか……」

ジェーン  「一番のファンでしたからね……」

コウテイ  「いや、ファン以上だろう」

プリンセス 「……フルル、空に行ってもね、あのひとには……」

 プリンセスの隣に立っていたイワビーが、プリンセスの足をこつん、と蹴った。

 マーゲイがうつむいて、目元をこすった。

マーゲイ  「……ぐす…………」

 コウテイがマーゲイを見た。マーゲイの顔はひどく暗かった。

コウテイ  「マーゲイ? どうした?」

マーゲイ  「……なんでも、ありません……」

 

 

 

 つづく

 

 

 

 

 

 

 

 

※1 PPPのメンバーは、ライブなどのイベントで花火を見たことがあるので、花火がどんなものか知っていました。

 

※2 自動操縦ではありません。

 

※3 外付けストロボは、シミュレーターの稼働中は邪魔になるので使いませんでした。

 

※4 この夜は、ギンギツネのほうが教える側になってしまったようです。

 

※5 勝手に設定を作りました。屋内で、床や壁の作りは、アニメでキャラクターが集まって会話していた部屋(食堂?)と同じで、宴会場くらいの広さです。フルルが温泉宿で操縦訓練を行っている間、PPPのメンバーはここでレッスンをしていました。

 




 あとがき

 読んでいただきありがとうございます。

 「ひこうじょう(通常版)」では、フルルはこんなに飛ぶことを熱望している感じではなかったのですが、「ペパプ・イン・ザ・スカイ!」の影響でこうなりました。


 [ 『第2話』 初投稿日時 2018/06/03 20:35 ]
 


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第3話「飛べない鳥」

 ロッジのイベントスペース。

 

プリンセス「早まったってどういうことよ!? あしたのはずでしょ!」

コウテイ「さっきはかせから連絡があったんだ。あしたは風が強くなりそうだから、早めるって」

プリンセス「時間は?」

コウテイ 「昼過ぎだ」

イワビー 「早く行かねーと終わっちまうぞ!」

ジェーン 「どうしましょう、もう間に合いませんよ!」

 

 

  [ 副操縦士選抜試験 第2回 兼 操縦訓練 第4回 ]

 

 海岸の飛行場のエプロン(駐機場)

 

 今回の試験は、シミュレーターで成績の良かったフレンズが、実機を使ってハイスピードタキシー(滑走路上での高速地上滑走)を行うものだった。

 

 エプロンには双発のプロペラ機が駐機していて、胴体後部左側のドア ※1 からキタキツネが乗り込むところだった。

 飛行機から少し離れたところに、フルルとマーゲイが立っていた。

マーゲイ  「すみません。ほんとうに」

 マーゲイは表情が暗く、声も暗かった。

フルル   「しょうがないよ」

 一方で、フルルはいつも通りに見えた。

 

イワビー  「フールルー!!」

 PPPの4人がフルルとマーゲイのもとへやってきた。

ジェーン  「……はあ、はあ、フ、フルルさんの番は?」

プリンセス 「……おわっちゃった、の?」

コウテイ  「ま、まってくれ……はあ、はあ……」

プリンセス 「結果は? どうだったの?」

 

フルル   「試験、受けられないんだって」

 フルルは、いつも通りの顔だった。

 

プリンセス 「え?」

イワビー  「なんだよ、それ……」

コウテイ  「どういうことだ?」

マーゲイ  「残念ですが、わたしの判断で棄権しました」

プリンセス 「!」

コウテイ  「……シミュレーターまではいいが、その先は難しい、と言ってたな」

ジェーン  「……ここまで、ってことですか?」

プリンセス 「マーゲイ、ちょっと来なさい……」

マーゲイ  「はい……」

 プリンセスは、マーゲイの手を引いた。ふたりは格納庫裏へ歩いていった。

フルル   「ふたりになったら、プリンセスがおそわれちゃうよ」

イワビー  「そりゃ、逆だろ」

ジェーン  「プリンセスさん、ほんきで怒っているときの顔でしたね……」

コウテイ  「マーゲイの命があぶないぞ」

 

 

 格納庫裏。

 

 プリンセスとマーゲイが向かい合っていた。

プリンセス 「なんで棄権させたのっ!? あの子、すっごくがんばってたのに!! 会いに行きたいひとがいるって……」

マーゲイ  「すみません! 安全のためです」

プリンセス 「そんなあぶないことじゃないでしょう!?」

マーゲイ  「わかってます。みなさん入念に準備していますし、安全なのでしょう」

プリンセス 「だったらなんで、なんでこんなことしたの!?」

マーゲイ  「あれは過去に例のないものです。ここから先はシミュレーターとは違います。予期せぬトラブルも起こりえます。とても悩みましたが、マネージャー、いえ、ファンとしては、メンバーの安全は絶対にゆずれないです。そのためには、わたしは恨まれても悪者になってもかまいません。万が一でも、三代目PPPが4人になってしまう可能性なんて、あってはならないのです」

プリンセス 「そんなこと……わかるけど! わかるけど、さきに相談なさいよ……」

マーゲイ  「言えなかったんです……」

プリンセス 「…………」

マーゲイ  「あの飛行機があと何回飛べるのかはわかりませんが、初飛行のあとでもチャンスはあります。あの飛行機は8人乗れるそうですから、十二分に安全であることが確認できたら、そのときは、PPP全員で飛びましょう」

「あの子はお客さんじゃなくて、じぶんで操縦したいのよ?」

「もちろん、そのときはフルルさんにパイロットになってもらいましょう。フルルさんと、もう一人のパイロットの操縦で、お客さんは、PPPのメンバーと……わたし。これで7人です」

プリンセス 「それ、なんだか夢みたいね。PPPがみんなで空を飛ぶなんて」

 

フルル   「飛べないPPP(ぺパプ)は、ただのペンギンだよ」 ※2

 

 唐突にフルルが現れた。

プリンセス&マーゲイ「フルル(さん)!」

 

 

 エプロン。

 

 飛行機の左のエンジンが始動され、左のプロペラが回転を始めた。

 

 

 格納庫裏。

 

イワビー  「こそこそしゃべってんじゃねーよ」

 イワビー、ジェーン、コウテイも、格納庫の角から裏へまわってきた。

プリンセス 「…………」

マーゲイ  「全部、聞かれちゃいましたか?」

ジェーン  「ごめんなさい。聞いちゃいました」

コウテイ  「でも、隠すような話ではなかったぞ」

フルル   「あいた席には、あのひとに乗ってもらいたいな」

ジェーン  「ほんとうに、夢みたいですね……」

 

 

 エプロン。

 

 飛行機の右のエンジンが始動され、右のプロペラが回転を始めた。

 

 

 エンジンスタートから20分ほど経った滑走路。

 

 キタキツネの操縦による、ハイスピードタキシー試験が行われた。飛行機が滑走路上を走り、数秒間機首を上げた。

 

 

 エプロン。

 

 オオカミが、白い望遠ズームレンズを付けたデジタル一眼レフカメラを構えて、カメラを横に振った。同時にカシャカシャとカメラの連写音が鳴った。 カメラは、レンズの三脚座を介して、一脚に乗せてあった。※3

 

 

 滑走路。

 

 飛行機がエンジンの出力を落として減速し、前脚が接地して、プロペラの音が大きくなり、さらに減速した。プロペラの音が静かになった。十分に減速した飛行機は、滑走路の端でUターンして、戻ってきた。

 

 

 エプロン。

 

 格納庫裏からエプロンに戻ってきたPPPのメンバーとマーゲイが、キタキツネの試験の様子を見守っていた。

フルル   「キタキツネあいかわらずうまーい」

イワビー  「ここから見ただけじゃわかんねーだろ」

プリンセス 「この子が言うんだから、間違いないわ」

ジェーン  「たしかに安定していましたよ。今ちょっと横風がふいてますから、むずかしいはずなんですが」

コウテイ  「フルル以外、キタキツネのライバルはいなかったんじゃないか?」

 

 

 キタキツネの操縦試験のあと、数人の操縦試験が行われた。

 

 

 エプロン。

 

 飛行機のエンジンが止まり、ツチノコが飛行機のドアからタラップを降りてきて、オオカミのもとへやってきた。

 

ツチノコ  「トラブルがあった。きょうはこれで終わりだ。」

オオカミ  「機体の不調か? 他の候補はどうなるんだ?」

ツチノコ  「おまえ、候補生になにか変なこと吹きこまなかったか?」

オオカミ  「なんのことだ? そんなことはしていないよ」

ツチノコ  「妙なうわさが流れてる。……後部座席に、ペンギンの幽霊が出るとか」

オオカミ  「ふふ、たしかに妙だね。おもしろいじゃないか」

ツチノコ  「おもしろくねえよ! 候補生が怖がって試験ができないんだよ!」

 

 エプロンの、飛行機から少し離れた位置で、PPPのメンバーが訓練の様子を見守っていた。

プリンセス 「エンジンがかからないわね」

ジェーン  「なにかあったんでしょうか」

 PPPのもとへマーゲイがやってきた。

マーゲイ  「試験はここで終わりだそうです」

コウテイ  「どうした? なにがあったんだ?」

 

 ペンギンの幽霊のうわさのために、操縦試験は途中で打ち切られ、終了となった。副操縦士は、天才的な操縦をみせたキタキツネでほぼ確定になった。

 

プリンセス 「ペンギンの幽霊?」

イワビー  「なんだよそれ、こえーよ」

コウテイ  「妙に親近感のわく幽霊だな」

ジェーン  「試験が打ち切られるなんて、よっぽどですね」

フルル   「さっきそれっぽいのいたよ」

フルル以外 「ええー!!」

プリンセス 「なに言ってるのこの子!?」

ジェーン  「フルルさん、それって飛行機の中で見たんですか?」

フルル   「ぼんやりしてたけど、うしろの席にいたよ」

イワビー  「たしかにそれっぽいぜ……」

コウテイ  「マーゲイはフルルといっしょに乗ったんだろ? なにか見なかったか?」

マーゲイ  「うしろの席にはだれもいませんでしたよ」

プリンセス 「それって、もしかして……」

オオカミ  「君たち、ちょっといいかな?」

 PPPのもとへ、オオカミが歩いてきた。彼女は、標準ズームレンズを付けたカメラを両手で持ち、首にストラップをかけていた。

 

 

 操縦試験が打ち切られてから1時間ほど経ったエプロン。

 

 オオカミが、PPPのメンバーのスケッチと写真撮影を行っていた。背景は飛行機だった。そこへマーゲイがやってきた。

マーゲイ  「いいですねえ、それ。使ってみたい!」

 マーゲイはカメラを興味深そうに見ていた。

オオカミ  「かまわないよ。だだ、貴重なものだから、こわさないでね」

 オオカミが、首にかけていたストラップをはずし、カメラをマーゲイに渡した。

マーゲイ  「これがあれば、PPPのみなさんのかわいい姿を記録して、いつでも、いつまでもながめることができる……ふふ、うへ、ぐへへへへ」

オオカミ  「……本当にこわさないでくれよ?」

マーゲイ  「使い方をおしえてください!」

オオカミ  「はかせたちに教えてもらったんだが、正直、わたしにもわからない部分が多いんだよ。お手本を見せるから、ちょっと返してね」

 オオカミはマーゲイからカメラを受け取ると、使い方の説明を始めた。

オオカミ  「最初はぜんぶ自動でいいだろう。右手は、ここをにぎって、人差し指をここ、シャッターボタンの上へ、左手はレンズをこう、下からささえるように…………」

 

 マーゲイはPPPのメンバーを、立ち位置、ポーズ、アングルを変えて撮りまくった。飛行機を背景にして撮るだけではなく、コックピットに座ったPPPのメンバーを、外付けストロボと広角ズームレンズを使って撮影した。オオカミは撮影のアドバイザーになった。

 

 飛行機の翼のそばに立ったコウテイとプリンセスを、マーゲイが撮影していた。

マーゲイ  「プリンセスさんはそのまま、コウテイさんはプリンセスさんのうしろから肩に腕をまわして、もっとくっついてください……笑顔で!」

 コウテイとプリンセスは、指示どおり、くっついて笑顔になった。ふたりの顔は少し赤かった。

マーゲイ  「いいですよー、最高です!」

 ほかのPPPのメンバーが、その様子を見守っていた。

イワビー  「ふたりとも顔があけーな」

ジェーン  「なんでマーゲイさんはあのふたりをくっつけたがるんでしょう?」

フルル   「定番だからー」

イワビー  「どっちかっつーとマイナーだろ」

マーゲイ  「つぎは、つばさに座ってみましょう!」

ツチノコ  「オイ! やめろ!」

アメリカビーバー(整備・技術担当、以下ビーバー)「つばさに乗ったらこわれちゃうッスよ!」

オグロプレーリードッグ(整備・技術担当、以下プレーリー)「乗ってもこわれない個所があるであります」

ツチノコ  「ここから…………この線までだ」

 ツチノコが歩いて、翼の上に乗ってもかまわない範囲を指差した。

プレーリー 「のぼるにはこの脚立を使うであります」

 プレーリーが、飛行機の前に置いてあった脚立を持って来た。

ビーバー  「やめときましょう……。あぶないっスよ……」

ツチノコ  「ひとりくらいなら大丈夫だ。ただ、動翼は踏むなよ! 絶対に踏むなよ!」

ビーバー  「怖いこと言わないで……不安になってくるッス……。動翼のほかには、このふちの黒い部分もあんまりさわらないでほしいッス。それから、エンジンカウルの…………」

ジェーン  「どうよく、ってなんですか?」

コウテイ  「わかるように言ってくれ」

プレーリー 「動翼というのは、つばさの動く部分であります」

ビーバー  「主翼では後ろのふちの部分、ここと、ここッス」

 ビーバーが主翼の後縁のフラップとエルロンを指差した。

ビーバー  「ここはは薄くてとってもデリケートッスから……」

フルル   「これが下にうごくんだよ」

 フルルが、主翼の後縁のフラップを両手でつかんで、ぐい、と下に引っ張った。 ※4

ビーバー  「あああーー!」

ツチノコ  「なにしてんだオマエエエ!!」

コウテイ  「すごい反応だな。ちょっと大げさじゃないか?」

 ボコン、と主翼の上から音がした。

イワビー  「こんなもん使わなくてものぼれたぜ?」

イワビーが主翼の上から、下に置いてあった脚立を見下ろしていた。立ち位置は主翼の中央よりやや翼端に近い位置だった。

マーゲイ  「やった! 今の撮れました!」

プレーリー 「おそらくすごい写真が撮れたであります!」

ツチノコ  「飛び乗ったのか!? コノヤロー!」

ビーバー  「しかもそんな端のほうに! つばさがしなってるッスよ!」

 イワビーの乗った主翼が少し下にしなって揺れていた。

フルル   「ここは角度が変わるんだよ」

 フルルがプロペラブレードの先端をつかんで、ねじる真似をした。 ※5

プリンセス 「この子けっこう詳しいのね。さすがだわ」

 ツチノコとビーバーが、プロペラをいじるフルルを見て驚いた。

ビーバー  「やめて! 本当にあぶないっスよ!」

ツチノコ  「オマエは何もさわるなああああ!!」

 

オオカミ  「ほら、またシャッターチャンスだ。こういう時は連写を」

 騒がしい飛行機の方を向いて、オオカミが小さなスケッチブックでスケッチを、マーゲイがカメラで撮影をしていた。カシャカシャと、カメラの連写音が鳴った。

マーゲイ  「はあ、はあ、すごい……いい写真がいっぱい……うへへへ……」

 

 

 スケッチと写真撮影が終了した。

 

 PPPのメンバーとマーゲイ、オオカミが飛行機の前に集まっていた。

オオカミ  「君たちに頼みたいことがあるんだ」

ジェーン  「はい? なんでしょう?」

マーゲイ  「受けるかは内容次第ですね」

 

オオカミ  「初飛行の日、海の上から飛行機を撮影してほしいんだ」

 

プリンセス 「ええ! わたしたち、カメラの使い方なんてわからないわよ?」

イワビー  「むしろ、そういうの苦手だぜ?」※6

オオカミ  「君たちは泳ぎが得意だろう? 海側から撮ったほうが順光になるから、きれいな写真が撮れるんだよ」

ジェーン  「じゅんこう、ってなんですか?」

オオカミ  「太陽の光が撮影者のほうから被写体に当たる、ということだよ。反対に、カメラが太陽の方を向いてしまうことを逆光といってね、そうなるときれいな写真を撮るのがむずかしくなるんだ。今回の場合は、エプロンからだと逆光になるんだよ ※7 」

イワビー  「むずかしいこと言われてもよくわかんねーよ」

プリンセス 「それなら、水棲の子とか、飛べる子のほうが適任なんじゃないかしら?」

ジェーン  「わたしたち、立ち泳ぎはあまり得意ではないんです」 ※8

マーゲイ  「アイドルは撮られる側で、撮る側ではありませんよ」

コウテイ  「どうしてわたしたちに頼むんだ?」

オオカミ  「君たちは飛行機を、飛べる子以上に理解している。特に、フルルさん。それは多分本能だよ。空を飛んでいたころのね」

コウテイ  「わるくない依頼だが、どうする?」

マーゲイ  「空を飛ぶかわりにはなりませんが、いいと思いますよ」

イワビー  「これは、フルル次第だぜ」

ジェーン  「フルルさん、どうしますか?」

フルル   「やってみたいな」

プリンセス 「決まりね」

 

 

 

 つづく

 

 

 

 

 

 

 

※1 キングエアC90には胴体後部左側にドアがあり、外側に下向きにドアが開き、ドアの内側の面がタラップ(階段)になります。胴体中央右側には脱出口(窓のまわりが外れるもの?)があるようです。

 

※2 赤い豚のひとはフレンズとは逆の状態ですね。ちょっと違う気もしますが……。

 

※3 横方向の流し撮りなら、一脚があると便利です。オオカミは、試行錯誤しつつ、シャッタースピードを遅めにしています。

 

※4 引っ張っても多分動きません。キングエアC90の他の動翼、エルロン、ラダー、エレベーターは地面から高い位置にあるので、フルルの手は届かないと思います。

 

※5 手でプロペラをねじっても、多分ピッチ角は動きません。以前なにかのイベントで(たしかP-3Cの)プロペラをいじっている人を見かけましたが、エンジンがすぐに始動できない状態とはいえ、一般の人は触っちゃだめです(触りたくなる気持ちはわかりますが)。フルルはパイロット候補なので、飛行前の点検で触ったかもしれません。

 

※6 あの手(フリッパー)でどうやってカメラを操作するのかは謎です。意外と伸縮性のある素材なのか、外して指を出すのか……。

 

※7 エアショーで写真を撮る際によく悩まされる問題です。この飛行場の滑走路は南北にのびており、滑走路の西側にエプロンがあり、滑走路の東側が海です。初飛行は午前中に行われる予定なので、太陽は東寄りにあり、海側から撮ると(左側から光が当たる感じになりますが)順光になります。

 

※8 筆者は、ペンギンの泳ぎ方は水中を飛ぶ感じ、と思っており、浮かんで泳ぐイメージはありません。実際にはどうなんでしょう?

 



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第4話「練習」

 
 まえがき

 写真のノウハウみたいなものは、適当に読み飛ばしてしまって構いません。第4話と第5話は、そこを削ると半分も残らないのですが……。



 図書館。

 

PPPのメンバーとマーゲイ、オオカミが、はかせ・助手と向き合い会話していた。

はかせ   「プリンセスとマーゲイは字が読めるですね?」

プリンセス 「少しだけね」

マーゲイ  「かばんさんのようにはいきませんが、多少は」

助 手   「この本を貸してあげるのです」

 助手が机に数冊の本を置いた。

『デジタル一眼レフ入門』『ヒコーキ写真の撮り方』『デジカメ撮影テクニック 初級編』……。

オオカミ  「なかなかむずかしい本をもってきたな」

コウテイ  「これ、読むだけでたいへんだぞ?」

 プリンセスとマーゲイが本を手に取って、ページをパラパラとめくった。

プリンセス 「もう頭が痛くなってきたわ……」

マーゲイ  「専門用語や漢字が多くてほとんど読めないですね……」

ジェーン  「はかせたちはこれをぜんぶ理解しているのですね。すごいです」

はかせ   「あ、あたりまえなのです。われわれはかしこいので」

助 手   「カメラの使い方はあなたたちで勉強するのです。われわれはかしこいので」

イワビー  「理解してねーぜ……」

フルル   「これかっこいいなー」

 フルルが見ていた『ヒコーキ写真の撮り方』のページには、ジェット戦闘機が背中を見せて急旋回している写真があった。戦闘機の背景は青空で、くっきりした雲が散らばっていた。

オオカミ  「そう、その感覚が大事なんだ。本の解説なんか参考程度でいいんだよ。どんな写真が撮りたいのか、それが決まったら……いや、決まらなくてもいい。いい写真が撮りたいなら、とにかく撮って、撮って、撮りまくること。そして撮った中からいい写真を探し出すんだ。シャッターチャンスといい写真を見つける感覚が一番大事なんだよ。……そうですよね、はかせ」

はかせ   「その通りなのです。知識や技術は、あとからついてくるものなのです。本の解説よりも、自分の経験と工夫なのです」

助 手   「少し乱暴な考えかたのような気もしますが、間違いないでしょうね。加えて、本のなかに好きな写真を見つけたら、どんな撮り方をしたのか考えてみるのもいいでしょう」

オオカミ  「同じような写真が撮りたい仲間がいたら、撮り方を教え合うのもいいね。そのあたりは、絵を描くことに似ているね」※1

コウテイ  「しかし、その理屈だと習得するのに時間がかかるな」

ジェーン  「初飛行の日までは、どのくらい時間があるのでしょう?」

オオカミ  「まだはっきりとはわからないけど、二か月くらいだろうね」

プリンセス 「長いのか短いのかわからないわね」

マーゲイ  「レッスンの合間をぬって、なのであまり練習できないですね。途中でライブの予定が入るはずですし、移動の時間もありますよ」

イワビー  「どーすんだよ? 本番は失敗できねーぞ?」

オオカミ  「心配ないよ。エプロンからわたしがスケッチをするから、写真のほうは失敗してもかまわないよ。それに、バックアップとしてビデオカメラがあるんだ」

マーゲイ  「そんなものまであるんですか!?」

オオカミ  「今までほとんど使ってなかったけど、カメラケースの中にあったんだよ」

プリンセス 「びでお、かめら?」

イワビー  「またわかんねーことばが出てきたぜ」

オオカミ  「最初に練習できる日はいつかな?」

マーゲイ  「ちょっと考えてみます。たぶん、近日中には可能かと」

ジェーン  「カメラ、むずかしそうですね……」

フルル   「飛行機よりはかんたんだよ」

イワビー  「いや、おまえやったことないだろ」

 

 

 飛行場のそばの砂浜。

 

 コウテイが望遠ズームレンズ付きのデジタル一眼レフカメラを、マーゲイがビデオカメラ ※2 を海に向けて構えていた。海上を、モデルのトキとショウジョウトキが編隊を組んで、右から左へ通過した。コウテイとマーゲイがカメラを振った。

コウテイ  「見えない。どこだ?」

 カメラのファインダー内には空しか見えなかった。カメラのシャッター音がした。コウテイがファインダーから目を離し、肉眼でトキとショウジョウトキをちらりと見て、再びファインダーをのぞいたが、飛んでいたふたりは目の前を通過して遠くへ行ってしまった。

 カメラの液晶画面には、空だけが写った写真が表示されていた。

マーゲイ  「コウテイさん、はじめてなんですから、そう気を落とさずに……あれ?」

 コウテイは白目をむいて気絶していた。

イワビー  「緊張しすぎだぜ……」

 オオカミが左を見ると、トキとショウジョウトキがPPPのメンバーたちのもとへ戻ってくるところだった。オオカミがふたりを見上げた。

オオカミ  「また同じ動きをたのむよ」

 今度はプリンセスがカメラを構えた。さっきと同じように、海上をトキとショウジョウトキの編隊が通過した。カメラの連写音がした。

 カメラのファインダー内に、一瞬ふたりの姿が見えたが、すぐにフレームの外へ出ていき、空しか見えなくなった。

プリンセス 「えっ! どこ行ったの!?」

 カメラの液晶画面で写真を確認すると、トキとショウジョウトキの足だけが画面の左端に写っていた。

プリンセス 「うまくいかないものね」

オオカミ  「望遠レンズは視野が狭いから、被写体をとらえるのが難しいんだよ。とらえられても、一度見失うととらえ直すのはむずかしい。わたしも最初は苦労したよ」

 今度はジェーンが編隊を撮影した。

ジェーン  「失敗しちゃいました……」

 ジェーンの撮った写真は、ふたりが豆粒のように小さく写った写真に始まり、続いて大きすぎてふたりが画面からはみ出した写真があり、遠ざかって小さくなってしまった写真で終わっていた。

マーゲイ  「遠くから飛んできて、目の前を過ぎるとすぐにちいさくなりますから、ズームを使ってもシャッターチャンスは短いんですね……」

 再び編隊が目の前を通過した。

イワビー  「撮れたぜ!」

 イワビーが撮った写真は、トキとショウジョウトキの頭が見切れていたり、足が見切れていたり、大きく写りすぎてはみ出していたり、小さすぎてしまったりした。その中の1枚だけ、編隊が見切れておらず、ほど良い大きさで、画面中央に写っているものがあった。

フルル   「大きくしてみて」

マーゲイ  「フルルさん、それは……」

オオカミ  「それはちょっといじわるかな」

ジェーン  「これは、ぼやけてるんですか?」

 写真を拡大すると、トキとショウジョウトキの姿がぶれていた。

イワビー  「…………」

コウテイ  「たしかにいじわるだな……」

プリンセス 「この子はなんでそんなことがわかるの?」

オオカミ  「これは、ふたりを必死で追ったけど、スムーズに追えなかったんだね。動くものをぶれないように撮るためには、被写体をファインダーの同じ位置にとらえ続ける必要があるんだ。そのためには、被写体をしっかりと見つめる、というのが大切なんだよ」

ジェーン  「前後の写真を見ると、不安定なのがわかりますね」

イワビー  「思ったよりむずかしいぜ、これ」

オオカミ  「シャッタースピードはいくつになっているかな?」

イワビー  「わかんねーよ」

 マーゲイがカメラの液晶パネルを覗き込んだ。

マーゲイ  「500分の1ですね。シャッター優先で1000分の1くらいにしましょうか?」

オオカミ  「いや、絞りを開放に固定して撮った方がいいんじゃないかな」

コウテイ  「このふたりはなんの話をしてるんだ?」

 イワビーが再び撮影を行い、撮った写真を確認すると、連写して16枚撮影した中に、編隊が見切れておらず、ほど良い大きさで写っていたものが4枚あった。そのうち、ぶれの少なかったものは1枚だけだった。

イワビー  「だめだー成功率が低すぎる!」

ジェーン  「やはりみなさんこういう細かい操作はにがてなんですね……」

オオカミ  「多少のぶれは仕方がないよ。あまり気にせず撮ればいい」

コウテイ  「緊張しすぎると体の動きがかたくなっちゃうのね。踊りとおなじだわ」

 トキとショウジョウトキが海岸に戻り、ゆっくりと降下してきた。

 プリンセスがトキとショウジョウトキを見上げた。

プリンセス 「ふたりともー! つぎはこれを持って飛んでくれる?」

 今度はフルルがカメラを構えて、トキとショウジョウトキの編隊を撮影した。撮った写真を確認すると、3回連写して合計18枚撮影した中に、編隊が見切れておらず、ほど良い大きさで写っていた写真が12枚あり、そのうちの10枚はぶれがほとんどなかった。

オオカミ  「おどろいたな。でも……」

 トキとショウジョウトキの手にはジャパリまんが握られていた。

オオカミ  「なぜジャパリまんを持たせたんだ?」

プリンセス 「オオカミが、しっかりと見つめるのが大切、って言ってたから」

イワビー  「エサで釣ったのかよ!」

コウテイ  「みごとにフルルの潜在能力を引きだしているな」

ジェーン  「フルルさんはこういう機械の操作が得意なんでしょうか?」

 マーゲイがカメラを見た。

マーゲイ  「あれ? シャッター優先になってますね……。設定変えましたか? ……ええ! 250分の1!?」

プリンセス 「なんでそんなに驚くのよ?」

オオカミ  「400mmの手持ちでシャッタースピードが250分の1、というのはかなりぶれやすい。はじめてでこの成功率は驚異的なんだよ。でも、なんでこんなに遅くしたんだ?」

フルル   「あの写真みたいにしたいから」

プリンセス 「あの写真?」

 フルルが、カメラケースの上に置いてあった、『ヒコーキ写真の撮り方』を手に取って開いた。

 そのページにあった写真の飛行機は4発のプロペラ機で、高速回転するプロペラがぶれて写っていた。

オオカミ  「プロペラを意識して撮ったのか……」

ジェーン  「プロペラって、これですよね。撮り方でなにか変わるんですか?」

 ジェーンが写真のプロペラを指差した。

オオカミ  「この写真はプロペラがぶれていて、回っているかんじがするだろう? 早いシャッタースピードだと、これが止まってしまうんだよ」

コウテイ  「でもあのふたりにプロペラはないだろ? なんでフルルはそんな撮り方をしたんだ?」

フルル   「練習だからだよ」

マーゲイ  「練習だからって、いきなりこんなむずかしいことを……」

イワビー  「よくわかんねーけど、フルルがすごいってことだけはわかったぜ」

 

プリンセス 「ほんとうに、この子にはかなわないわね」

 

 

 

 つづく

 

 

 

 

 

 

 

 

※1 飛行場の撮影ポイントに行くと、同じように写真を撮っている方に出会うことがあります。こういった方は、飛行機のことも、写真のことも詳しいです。情報交換するのも楽しいです。同じような写真を目指していると、同じことを考え、同じ場所に行くので、別の飛行場で再会する、なんてこともあります。

 

※2 マーゲイがビデオカメラで撮影した動画は、撮ったその場で確認したときはきれい撮れているように見えましたが、あとでロッジの管理用端末で再生したところ、手ぶれがひどいことが分かりました。

 筆者の撮影は基本ひとりなので、デジタル一眼レフのアクセサリーシューに、小型ボールヘッド付きアームを介してビデオカメラを取り付け、一眼とビデオの光軸を合わせ、静止画と動画を同時に撮影しています。このやり方だとビデオのズームの操作ができないうえに、液晶画面を見ないで撮影するので、撮ったものを見るまではどうなっているのかわからないです。写真がメインで動画はおまけ、と考えています。

 

 



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第5話「協力」

 
 まえがき

 写真のノウハウみたいなものは、適当に読み飛ばしてしまって構いません。



 飛行場のそばの砂浜。

 

フルル   「前から見たほうがかっこいいんだけど、ちいさいねー」

 編隊が向かってくるような角度の写真は、距離が遠くて、ふたりの姿が小さくなっていた。大きく写せたのは、横向きの写真だけだった。

オオカミ  「これを使ってみるかい?」

 オオカミがカメラケースから白い円筒形のものを取り出した。

マーゲイ  「なんですか、それ?」

オオカミ  「テレコンだよ。これをボディとレンズの間にはさむと、今よりも大きく写せるよ」

ジェーン  「シャッターチャンスも増えるってことですね」

オオカミ  「ただ、これは扱いがむずかしいんだ」

フルル   「使ってみたい」

 

 テレコンバーター(エクステンダー)を使用しての撮影が行われた。

フルル   「またぼんやりしてるね」

 テレコンバーターを使用しての撮影では、このボディとレンズの組み合わせではマニュアルフォーカスになるため、ピンボケが多発してしまった。

イワビー  「これ、むずかしすぎるぜ」

ジェーン  「ズームを動かすたびにボケてしまいますね」 ※1-1

コウテイ  「ずっと望遠めいっぱいで撮るか?」

プリンセス 「それじゃ近くに来た時にはみ出すわよ」

オオカミ  「絞って置きピンでもうまくいかないか……」

マーゲイ  「これ以上感度を上げたくないですね……」

 難しいマニュアルフォーカスに加えて、レンズが暗くなるためテレコンバーターは非常に扱いが難しく、これを本番に使うのはあきらめざるを得なかった。 ※1-2

 

 

 砂浜のそばの海上。

 

 PPPのメンバーが海で立ち泳ぎしていた。

コウテイ  「フルル、このくらいの波ならいけるか?」

フルル   「やってみるよー」

 コウテイが、持っていた防水袋からデジタル一眼レフカメラを取り出した。取り出したカメラには、簡易の防水カバーがかぶせてあった。フルルがコウテイからデジタル一眼レフカメラを受け取りった。

ジェーン  「ビデオはわたしがやります」

 ジェーンが、コウテイからビデオカメラを受け取った。こちらも簡易の防水カバーがかぶせてあった。

 イワビーが上空を見た。

イワビー  「おーい、さっきと同じ動きをやってくれー」

 上空には待機していたトキとショウジョウトキがいた。

ト キ   「了解」

ショウジョウトキ「了解です!」

 トキとショウジョウトキがPPPのメンバーが離れていき、その姿は点のように小さくなった。

ショウジョウトキ「ちょっと疲れてきましたね……」

ト キ   「でもこれ、ならんで飛ぶ練習になるわね。ちょっとうまくなったんじゃない?」

ショウジョウトキ「わたしたち、すてきなコンビかもですね」

 トキとショウジョウトキが編隊を組んで、PPPのメンバーのもとへ戻ってきた。フルルがカメラを構え、編隊へカメラを向けた。フルルが少し波に揺られながらカメラを振り、シャッターの連写音がした。

 

 海上でPPPのメンバーがフルルを囲み、彼女が持つカメラの液晶画面に見入った。

フルル   「しっぱいしちゃった」

 フルルの撮った写真は16枚あり、そのほとんどは編隊が見切れていたり、空しか写っていなかった。編隊が見切れておらず、ほど良い大きさで写っていた写真は3枚だけで、そのすべてがひどくぶれていた。

ジェーン  「わたしもうまく撮れなかったです……」

プリンセス 「陸で撮るときとは全然ちがうのね」

コウテイ  「飛行機の動きが読めたとしても、これではまともに撮れないな」

 

 その後、数回海上での撮影練習が行われた。最初よりは安定して撮れるようになったが、成功率は低かった。

 

 

 砂浜。

 

 海から上がってきたPPPのメンバーと、マーゲイとオオカミが会話していた。

ジェーン  「立ち泳ぎはだいぶ上達したんですけど、画面が安定しないんです」

イワビー  「波で浮き沈みが出るんだよな」

オオカミ  「想像以上にむずかしいんだな。不安定な場所で撮影する方法、か………… ん? 誰か来るね……」

 

ジャイアントペンギン「よっ! ひさしぶりだな!」

一同    「うわあっ!」

 岩の陰から突然、ジャイアントペンギン(以下ジャイアント)が現れた。

イワビー  「ジャイアント先輩!」

 ジャイアントが、コウテイが持っていた防水袋に入ったカメラを見た。

ジャイアント「ぼろっちいカメラ使ってるなー。でも今のカメラは良くなったよな。デジカメ使っちゃうとフィルムには戻れないよねー」

フルル   「そうだねー」

ジャイアント「ビデオカメラも、ほんのちょっと前までは、でかくてぇ、おもくてぇ、たかくてぇ、おまけに画質も悪かったもんなあ。もうちょっと前だと、8mmフィルムで、モノクロで、音もついてないのが当たり前だったしなあ」

オオカミ  「……それは、“ちょっと前”の話なのか?」

コウテイ  「なんの話をしているんだ?」

ジェーン  「さっぱりわかりません……」

ジャイアント「しっしっしっ」

フルル   「現像もたいへんだったよね」

イワビー  「なんでお前はそんなこと知ってるんだ? というか、げんぞうってなんだよ?」

オオカミ  「詳しそうだね。不安定な場所で撮影する方法が知りたいんだが、なにかいい案はないかな?」

ジャイアント「海の上から撮るなら、撮るやつをまわりから支えてみろ」

プリンセス 「どういうことですか?」

ジャイアント「まわりのやつが協力して、浮き沈みをおさえるんだ。そうすれば撮るやつは撮影に集中できる」

マーゲイ  「ゆれやすい木の枝の上で眠るときと似てるかもしれませんね。手足をうまく使って、からだをたくさんの点でささえるのがコツなんです。海の上でもひとりで撮るより、何人かで協力すれば、安定して撮れるかもしれません」

プリンセス 「チームワーク、ってことね。わたしたちにぴったりの案だわ」

ジャイアント「それに、海の上からだと、シャッタースピード250分の1はきびしいな。あの写真のような大型機よりも、おまえらが撮ろうとしてる飛行機のプロペラは回転が速いから、320分の1か400分の1で妥協するのもいいかもしれないよ。 ※2 ……この天気なら、感度は160か200だな」

オオカミ  「感度は自動じゃだめなのか?」

ジャイアント「だめじゃないよ。でも感度が自動だとバッファがいっぱいになるのが早いから、連写できる枚数が減るよ。JPEGならたくさん撮れるから、あんまり気にならないけどな」※3

オオカミ  「ほかの注意点としてはなにがあるんだ?」

ジャイアント「そうだなー、あの飛行機は白くてテカテカだから、ピーカンでは露出補正をマイナスにしないと白飛び起こすよ。とくに地上にいるときは背景が暗いから、3分の2段か1段くらい落とすのがおすすめだ」

オオカミ  「海側から撮ると背景が山や林になるから、露出が持って行かれる、ってことだね」

ジャイアント「そうだよ。でも上がったあとは空が背景になるから、露出補正を戻したほうがいいよ。ゼロじゃなくて、マイナス3分の1段くらいにするといいかな。そのへんは好みだね」

オオカミ  「なるほど、勉強になるな。でもそこで露出補正を変える余裕があるか? まんなかで測光すれば機体に露出が合うんじゃないか?」

ジャイアント「測光モードいじってもあんまり変わらなかったりするね。逆に失敗するかもよ」

オオカミ  「マニュアルで露出を固定するのはどうだろう?」

ジャイアント「わるくないけど、初心者にはおすすめできないね。まあ、露出は大外れじゃなければあとで救えるから、細かい事は気にせず撮れよ。ただ、さっき言った白飛びは、要注意だ。あと絞り込みすぎると、センサーのゴミが目立ってくるから気をつけろ」

プリンセス 「このふたりはなんの話をしているの……」

イワビー  「異次元の会話だぜ……」

ジャイアント「じゃーな。まあ、ちょっと練習すればうまくなるよー」

 ジャイアントは岩の陰へ去っていった。

マーゲイが岩の陰を覗き込んだ。

マーゲイ  「消えた!?」

 ほかの面々も岩の陰を見た。岩の陰に、ジャイアントの姿は無かった。岩の隣は林だった。

フルル   「いりゅーじょんだね」

オオカミ  「音もにおいも林の中に消えたな。あのひとは何者なんだ?」

コウテイ  「ジャイアント先輩、としか言いようがないな」

 

 

 海上。

 

 撮影者をまわりから支えて安定させるやり方は、いくつかのパターンを試した結果、以下のような組み合わせに決まった。

 

 写真はフルルが撮影し、フルルの両脇からプリンセスとイワビーが支えて揺れを抑える。

 ビデオはジェーンが撮影し、ジェーンの後ろからコウテイが抱く形で支えて揺れを抑える。

 

 再度撮影練習が行われた。

プリンセス 「すごいわフルル! これもぶれてない! 10枚成功よ!」

イワビー  「もうエサで釣る必要ねーな!」

コウテイ  「ジェーン、どうした?」

ジェーン  「電池切れです……」 ※4

 

 疲れ果てた、トキとショウジョウトキがふらふらと飛んでいた。

ショウジョウトキ「もう……限界……」

ト キ   「これで……さいご……かしら……」

 

 写真の成功率は大幅に上がり、ビデオもしっかりと被写体をフレームに収めることができるようになった。

フルル   「もっと、うまくなりたいな」

 

 

 その後何日にもわたって繰り返された、飛行機のハイスピードタキシーの訓練を、PPPのメンバーが海上から撮影した。

 

 

 ロッジ。

 

 PPPのメンバーと、マーゲイとオオカミが、ロッジの管理用端末のディスプレイを見つめていた。

オオカミ  「やはり飛行場から少し離れた位置がいいんだね」

 オオカミは、管理用端末のディスプレイに、フルルが撮った写真を大きく表示させて、一枚ずつ送りながら見ていった。

ジェーン  「さすがですフルルさん」

イワビー  「かっこいいぜ!」

コウテイ  「またうまくなっているな」

プリンセス 「いいかんじね」

マーゲイ  「すばらしいです!」

オオカミ  「これは、きょうのベストショットだね」 ※5

 ディスプレイに表示された、フルルの撮った写真には、タキシング(地上移動)で向きを変える途中の、カメラに正面を向けた飛行機が写っていた。機体はほとんどぶれておらず、プロペラが回転によりぶれていて、迫力ある写真になっていた。

 

フルル   「みんなのおかげだよ」

 

 

 

 つづく

 

 

 

 

 

 

 

※1-1 ※1-2 「旧」の EF100-400mmは直進式ズームで、ズームとフォーカスを独立して操作するのが難しいです。ズームを操作してからマニュアルでピントを合わせていると、シャッターチャンスを逃してしまうことが多いです。筆者がエクステンダーを使う時は、ほとんどズームを望遠側に固定してフォーカス操作に集中し、感度を高めにして少し絞って撮っています。しかしそれでもピンボケ写真が多いです。しかも暗くなるため早いシャッタースピードが使えず、ぶれやすいです。無理にエクステンダーを使わずに、トリミングした方がいいかもしれません。

 

※2 筆者はプロペラ機やヘリコプターを撮る時は250分の1を目安にしていますが、チヌークのローターや、オスプレイのプロップローターような極端に回転が遅いものは、200分の1以下のシャッタースピードで撮らないと迫力のあるぶれかたになりません。でも私は下手なので、そこまで遅いシャッタースピードだとブレブレの写真になってしまいます。逆に、単発の小型プロペラ機のプロペラは回転が速い(?)ので、エクストラ300のアクロなどでは500分の1くらいを使います。

 

※3 筆者はRAWで撮るので、連写可能枚数がとても気になります。バッファの大きいカメラがほしいです。

 

※4 カメラケースの中にはバッテリーが2本ありましたが、海上へは1本しか持って行かなかったため、バッテリー切れになってしまいました。

 

※5 筆者は、丸一日かけて、何百枚も撮影して、その中に一枚だけベストショットがあればいい、と思っています。

 




 あとがき

 読んでいただきありがとうございます。

 第4話と第5話は無駄な部分が多く、要点だけほかの話に持って行って、丸々カットしても良かったかもしれませんが、書きたかったんです。






 写真の撮り方について、私なりの考えを書いておきます。

 第4話で、「本の解説なんか参考程度でいいんだよ」というセリフがありますが、別に我流で撮れと言っているわけではありません。本の中にも、いい写真を撮るためのヒントはたくさんあります。本やネットなどで知識を蓄えてから、本格的に撮る、というやり方でもいいと思います。
 どんな写真を撮りたいか、どんな写真をいいと感じるかは人それぞれです。撮りやすい撮り方も人それぞれです。それなので、いい写真の撮り方に正解はないです。こうしたらいいかも、というものはありますが。
 趣味の写真なら、マナーを守って、好きなものを好きなように撮ればいい、と思います。

 いい写真を撮るための条件・要素はあまりにも多く、幸運も必要です。第4話・第5話に書いたことは、そのごく一部です。

 私は下手くそな素人です。撮り方は半分我流です。撮りまくって、撮った写真とにらめっこして、こうしたらいいかも、と考えて、それを次の撮影に活かす、というのを繰り返していますが、納得のいく写真はめったに撮れません。自分で「完璧だ」と思える写真、あるいは、たくさんの人が感動するような写真は、一生に一枚撮れるか撮れないかでしょう。



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第6話「離陸」

 初飛行の日。飛行場のそばの砂浜。空には少し雲があったが、快晴だった。

 

 サングラスとマスク、それに加えて灰色の長いコートを着たPPPのメンバーとマーゲイが、林の中の細い道から砂浜に現れた。

イワビー  「だれもいねーな……」

コウテイ  「はあ、はあ……。みんな飛行場のほうへ行っているんだろう……。あとは、海の上だ……」

 コウテイが海を見ると、少し離れた所にイルカやクジラなどの海獣のフレンズたちが浮かんでいて、飛行場を見ていた。

ジェーン  「わたしたちと同じことを考える子もいるんですね」

プリンセス 「やっぱり意味ないわよこの変装……。それに、すごく蒸し暑いわ……」

フルル   「ジャパリまんいっぱい隠せるよー」 ※1

 フルルがコートを広げると、中に隠してあった小さなバッグや、内ポケットにたくさんのジャパリまんが入っていた。内ポケットの数が異様に多かった。

イワビー  「隠してどーすんだよ! なんでお前だけそんなにポケットがあるんだ?」

コウテイ  「……取っていいか? ……暑くてもう限界だ……」

マーゲイ  「だめです! 海に入るまでは付けていてください」

 林の中からがさごそと音が近づいてきた。

コウテイ  「この音は……」

イワビー  「だぜ……」

ジャイアント「よっ!」

 林の中からジャイアントペンギンが現れた。

フルル   「ジャイアントせ……もごっ」

 プリンセスが、フルルの口をマスクの上からおさえた。

マーゲイ  「えっと、どちらさまでしょう?」

ジャイアント「おまえらよくそんな暑苦しい恰好してられるなー。コウテイが死にそうだぞ」 ※2

プリンセス 「またバレてるじゃない!」

コウテイ  「このひとの前で隠し事は通用しないんだな……」

ジャイアント「しっしっしっ……。だれも見てないし、そんなもん脱げよ」

マーゲイ  「……もう変装はいいでしょう……」

 PPPのメンバーは変装を解いた。

ジャイアント「ちょっとだけアドバイスだ。飛行機はけっこうスピードが早いから、支えてるやつも協力してがんばって追えよな。緊張してかたくなると見失うぞ。パイロットも無茶しそうだから気をつけろ。飛行機を追うのに夢中になって、太陽を見るなよ」

フルル   「気をつけるよー」

プリンセス 「パイロットが無茶しそう?」

イワビー  「なんかいやな予感がするぜ……」

ジャイアント「あと、運が良ければあいつに会えるかもな。……というかそこにいるな」

マーゲイ  「あいつ?」

コウテイ  「ここに、いる?」

ジェーン  「なんのことですか?」

フルル   「気にしちゃだめだよ」

プリンセス 「そうね」

イワビー  「余計気になるじゃねーか……」

ジャイアント「じゃーな。カメラ海に落とすなよ。絶対に落とすなよ。フリじゃないぞ」

ジェーン  「落としませんよ! 怖いこと言わないでください!」

 ジャイアントは飛行場の方へ去っていった。

コウテイ  「あのひとも初飛行を見に来たんだろうか?」

プリンセス 「気にしても、しかたないわ……」

 

 飛行場の方から飛行機のエンジンスタートの音が聞こえてきた。

マーゲイ  「時間通りですね」 ※3

プリンセス 「いくわよ! ここはフルルが!」

フルル   「え? え?」

コウテイ  「掛け声だ」

フルル   「おー」

イワビー  「そうじゃねーよ!」

ジェーン  「フルルさん、なんでもいいですから、気合を入れるような言葉を」

フルル   「……えっと、とーるぞー」

一同    「おー!」

 

 

 初飛行のメンバーは以下の通り。

 

・ 機  長 : ツチノコ

・ 副操縦士 : キタキツネ

・ 機上整備員: アメリカビーバー・オグロプレーリードッグ

・ 付き添い : ギンギツネ

・ チェイサー(随伴機): トキ・ショウジョウトキ

・ 管  制 : アフリカオオコノハズク(はかせ)・ワシミミズク(助手)

・ 地上整備員・記録係(エプロン側): タイリクオオカミ

・ 地上整備員・マーシャラー    : ハシビロコウ

・ 記録係(海側): フルル (写真撮影)・イワビー・プリンセス(フルルのサポート)

           ジェーン(動画撮影)・コウテイ(ジェーンのサポート)

 

 

 海上。

 

 PPPのメンバーが、海上で立ち泳ぎして待機していた。そこは、滑走路を挟んでエプロンの真正面で、少し飛行場から離れた位置だった。低い防波堤があるため、エプロンにいる観客はほとんど見えなかったが、管制塔と、格納庫と、高い所にいる鳥のフレンズが見えた。そのほかの背景は、林と山と空だった。イルカやクジラなどの海獣のフレンズたちは、PPPのメンバーよりも前の、飛行場に近い位置に浮かんでいた。※4 PPPのメンバーは、今までと同じく、プリンセスとイワビーがフルルを両脇から支え、コウテイがジェーンを後ろから抱く形で支える、という形で組んだ。弱い波があり、PPPのメンバーは少し上下に揺れていた。エプロンには飛行機が駐機しており、二つのプロペラを回していたが、脚まわりが防波堤に隠れて見えなかった。

イワビー  「まだ動かねーのか?」

コウテイ  「いつも以上に慎重だな」

ジェーン  「初飛行ですから、無理もないですよ」

 ジェーンが、ビデオカメラの液晶画面を開き、電源を入れた。

プリンセス 「動いた!」

 フルルがデジタル一眼レフを構えた。フルルは、カメラのストラップを首にかけていた。ジェーンがビデオカメラを構えて、録画を開始した。

 デジタル一眼レフのファインダーに、ゆっくりと滑走路へ向けてタキシングしていく飛行機の姿が映った。数回シャッターが切られた。飛行機は滑走路に乗り、ゆっくりと滑走路の端へ移動していった。滑走路の端に着くと、ゆっくりと向きを変えていき、一瞬カメラに正面を向けた。カメラの連写音がした。飛行機が滑走路の離陸方向へ機首を向け、止まった。※5

 

 プロペラの音が変わり、大きくなった。飛行機が左のエンジンの出力を上げ、すぐに落とした。一瞬静かになり、再びプロペラの音が大きくなった。飛行機が右のエンジンの出力を上げ、すぐに落とした。再び静かになり、アイドリングの音が響いた。

 

 フルルがカメラを少し上へ向けた。飛行機の上には、チェイサーの、トキとショウジョウトキが浮かんでいた。フルルがカメラを飛行場の方に向けた。そちらには、はかせと助手が浮かんでいて、はかせが緑色の巨大な旗を下げていた。フルルはファインダーごしに、ジェーンはカメラの液晶画面ごしに、ほかの三人は肉眼で、それを見つめた。

 

 アイドリングの音が長く続いた。

 

 はかせが緑色の旗を上げた。

 

 フルルとジェーンがカメラを飛行機に向けた。

 

 飛行機のプロペラの音が変わり、大きくなった。飛行機が動き始めた。飛行機は徐々に加速していった。

 フルルとジェーンがカメラを横に振った。飛行機はさらに加速していき、機首を上げた。カメラの連写音がした。

 

 飛行機の主脚が、路面から離れた。

 

プリンセス&イワビー&コウテイ「飛んだー!!」

 

 やや急角度で上昇していく飛行機を、フルルとジェーンは無言で撮り続けた。ふたりを支えるPPPのメンバーは、ゆっくりと飛行機の方に向きを変えつつ、波に耐えた。

 飛行機が少し不安定に揺れながら遠ざかっていき、点のように小さくなると、同じように点のように小さくなったチェイサーのふたりが、飛行機に追いつくのが見えた。フルルはファインダーから目を離し、海面にカメラをつけないように少し腕をおろして、飛行機が飛び去ったほうを見つめた。ジェーンは録画を止め、少し腕をおろした。

フルル   「とんだ……」

プリンセス 「とうとうやったわね!」

イワビー  「すげー速さだったぜ……」

ジェーン  「息が止まるかと思いました……」

コウテイ  「緊張した……」

ジェーン  「コウテイさん、気絶しませんでしたね」

コウテイ  「海の上で気絶したら死ぬだろう」

イワビー  「フルル! 写真を見せろよ!」

 フルルが持つデジタル一眼レフの液晶画面に、離陸の様子をおさめた写真が表示された。失敗写真もあったが、おおむね成功していた。

イワビー  「さすがフルルだぜ!」

プリンセス 「やっぱりすごいわ!」

コウテイ  「ジェーンのほうはどうだ?」

 ジェーンが持つビデオカメラに、離陸の様子の動画が表示された。それはしっかりフレームに収まっていた。

ジェーン  「大きい画面で見てみないとわかりませんが、うまくいったみたいです」

コウテイ  「みんなで見るのが楽しみだな」

 PPPのメンバー全員が、飛行機の飛び去ったほうを見つめた。飛行機は、かろうじて肉眼で見えた。

ジェーン  「上がるとき、ちょっとふらついてましたね。……だいじょうぶでしょうか?」

 フルルがカメラを構えた。ファインダーに、遠ざかりながら軽く左右に旋回を繰り返す飛行機の姿が見えた。

フルル   「練習してるね」

コウテイ  「予定通りだな」

プリンセス 「とりあえずひと安心、てことね」

フルル   「旋回してるよ」

 望遠レンズ越しに見える飛行機が、ゆるい旋回を始めた。飛行機はゆっくりとUターンして、進路をこちらに向けようとした。

 突然、飛行機が、ガクンと、右に大きく傾いた。

フルル   「かたむいた」

コウテイ  「どうした? なにがあったんだ?」

フルル   「こわれちゃったかも」

フルル以外 「こわれたー!?」

プリンセス 「フルル!! どうなってるの!?」

フルル   「もどった……」

 ジェーンが、ビデオカメラを望遠側にズーミングした。

ジェーン  「高度が下がってますね……」

フルル   「ふらふらしてる」

イワビー  「やべえよ! 落ちるぜ!」

フルル   「よくみえない……海の上、すべって、る?」

イワビー  「飛行機が海の上をすべるってどういうことだよ!」

プリンセス 「きっとそういう訓練なのよ!」

 プリンセスが、若干無理やりに笑顔を作った。

コウテイ  「そんなの予定になかったぞ?」

 

 

 10分ほど経過。

 

イワビー  「すぐに戻るんじゃなかったのか?」

フルル   「ずっと低いまま…………赤いのが飛んでる……」

 飛行機のいるあたりから、赤い点が見えて、徐々に大きくなってきた。

 飛行機が上昇した。

フルル   「あがった」

ジェーン  「ショウジョウトキさん? が、向かってきますね……。あれ? 下になにかありますよ」

フルル   「プレーリーだね」

プリンセス 「プレーリーは、中にいたんじゃないの?」

イワビー  「意味わかんねーよ! なんでふたりが戻ってくるんだ!?」

コウテイ  「なにかすごいトラブルがあったのか?」

 

 ショウジョウトキがプレーリーを抱いて、管制塔の方へ飛んでいった。

 

 フルルがデジタル一眼レフで、ジェーンがビデオカメラで、ショウジョウトキ+プレーリーを撮影した。

フルル   「ちいさい」

 

 ショウジョウトキは、プレーリーを管制塔の屋上に降ろして、飛行機の方へ戻っていった。

 

 

 しばらくして、飛行機が戻ってきた。飛行機を中心に、トキが左側、ショウジョウトキが右側についた、3機編隊になっていた。

 

フルル   「もどってくるね」

 飛行機の姿が徐々に大きくなってきた。大きさが変わっているほかはあまり変化がなく、飛行機は止まっているように見えた。

 フルルがファインダーから目を離し、飛行機を見つめた。やがて肉眼でも翼や二つのプロペラがはっきりと見えるようになった。ジェーンがビデオカメラを飛行機の方に向けて、望遠側へズーミングした。

ジェーン  「安定していますね。あれ? 足が上がってますか?」

 フルルもカメラを構えて飛行機の方に向けた。

フルル   「足が上がってるね」

コウテイ  「足は上げないんじゃなかったか?」 ※6

プリンセス 「余裕があったからテストしたんでしょう」

 飛行機は少し高度を下げて近づいてきた。数回シャッター音がした。

フルル   「下りないみたい」

イワビー  「通過するのか? シャッターチャンスだぜ!」

プリンセス 「ファンサービスね!」

ジェーン  「2、3回やってくれるとうれしいんですけど」

フルル   「アンコール!」

イワビー  「アンコールはまだはえーよ! …………なんだ?」

 プロペラの音が大きくなった。飛行機が加速し、急速に近づいてきた。

 

フルル   「速くなってる」

 

 

 

 つづく

 

 

 

 

 

 

 

※1 フンボルトペンギンは比較的暑さに強いようです。

 

※2 暑い地方に生息するペンギンもいるようですが、コウテイペンギンはさすがにつらいんじゃないかと思います。マーゲイは暑さに強いので、そのあたりがあまり理解できていませんでした。

 

※3 マーゲイは時計を持っていませんが、太陽の位置+体内時計で時間をはかっています。

 

※4 PPPのメンバーが、の海獣のフレンズたちより後方に位置取りした理由は、

・ 防波堤に近い位置だと防波堤が邪魔で地上にいる飛行機が見えにくいため。

・ 滑走路に近いと滑走路上を飛行する飛行機を見上げる感じになってしまい、写真映えが良くない(そういう写真もありだと思いますが)ため。

・ 飛行機が不意な動きをした場合でも、順光側にいられるため。

・ 望遠レンズがあるので多少引いた位置でも問題ないため。

  です。

 PPPのメンバーは、事前の練習でこれらがわかっていたため、飛行場から少し離れた、後方に位置取りしました。海獣のフレンズたちは、飛行場に近いほうが見やすいと考えて、前の方に位置取りしました。

 

※5 この飛行場には滑走路と平行にのびる誘導路が無く、エプロンと滑走路が直結しています。離陸する飛行機はエプロンを出てすぐに滑走路に乗り、滑走路上をタキシングして滑走路の端まで移動し、Uターンして離陸します。着陸はその逆になります。

 

※6 新型機の初飛行ではランディングギア(脚)を下げたまま飛ぶことが多いようです(下りなくなったら困るので)。ただ今回は本当の初飛行ではなく、レストア後の初飛行で、そういう場合に脚の上げ下げをどうするのかは知識不足でわかりません(機種などの条件によって違うかも)。このおはなしでは、ツチノコとビーバーが慎重だったため、脚を上げない予定だった、ということにしています。

 




 第6話「離陸」 あとがき

 読んでいただきありがとうございます。

 第6話のサブタイトルは当初、「スポッターズ」でしたが、それは何か違う、それにわかりにくい、と思ったので、シンプルに「離陸」にしました。



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第7話「機動」

フルル   「速くなってる」

 

プリンセス 「追うわよ!」

 飛行機が、PPPのメンバーの真上近くで機体を傾け、背中を見せて右に急旋回をはじめた。

 

 フルルがカメラを振って、それを追った。カメラのシャッターの連写音が鳴り続けた。PPPのメンバーは、飛行機の旋回円の内側で、旋回の中心から少し外れた位置にいた。

ジェーン  「あっ!」

 ジェーンのビデオカメラの液晶画面から、飛行機がいなくなった。 コウテイがジェーンの体を抱いたまま回転して、飛行機を追うのを助けたが、追い切れなかった。

コウテイ  「だめか!」

 一方のフルルたち三人は、海上で一体となって回転して、飛行機を追い続けた。

 

 飛行機は360度旋回すると、ちょうど飛行場のエプロンの前、PPPのメンバーのほぼ真上で切り返し、今度は左にに急旋回を始めた。

 

 フルルはカメラを上に向けた。

フルル   「はずれた!」

 フルルのカメラのファインダーから飛行機が出ていって、空だけが映った。フルルはいったんファインダーから目を離し、ちらりと飛行機を見て、再びファインダーをのぞいた。飛行機が旋回を終え、遠くへ上昇していくのが見えた。

イワビー  「なんだよいまの!」

プリンセス 「過剰なファンサービスね……」

フルル   「あれはキタキツネだよ」

コウテイ  「パイロットが交代したのか」

ジェーン  「戻ってきますよ!」

 

 飛行機が降下しながら戻ってきた。

 飛行機の両エンジンの排気管から、光の粒と、虹色に輝く四角い泡のようなものが噴き出した。

 

コウテイ  「なんだあれは!?」

ジェーン  「サンドスターです!」

イワビー  「まじかよ!」

 

 飛行機が、スモーク代わりのサンドスター ※2 を引きながら、飛行場の近くへ差し掛かった。

 

フルル   「旋回するね」

プリンセス 「つぎはうまくやるわよ!」

 

 飛行機が、左に急旋回を始めた。先ほどとは逆の動きだが、傾きは90度に近く、旋回半径が小さかった。翼端からベイパー ※1 が発生し、白い筋状の軌跡を引いた。筋状のベイパーは長くのびず、すぐに消えていった。主翼の上面にもわずかにベイパーが発生したが、機体が白いためはっきりとは見えなかった。2本のサンドスターの航跡は、ベイパーとは違って、長く空に残った。

 

 フルルがカメラを振って飛行機を追った。プリンセスとイワビーがそれを支えながら向きを変えて、フルルの撮影を助けた。シャッターの連写音が鳴り続けた。

 

 飛行機が360度の旋回を終え、飛行場の前で切り返して右へ旋回した。

 

 フルルのカメラのファインダーには、機首を右に向けた飛行機の背中が映し出され、背景の雲が高速で横に流れていた。両エンジンの排気管からは、サンドスターが噴き出し続けていた。シャッターの連写音が、断続的に鳴り続けた。

 

 飛行機はそのまま左旋回を続け、ベイパーとサンドスターを引きながら、らせんを描いて上昇していった。

 

 PPPのメンバーは飛行機の旋回円の内側にいたため、フルルたち三人と、ジェーンとコウテイのペアはその場でぐるぐると回転した。

フルル   「めがまわるー」

イワビー  「もう無理だぜ!」

プリンセス 「……終わった?」

 

 飛行機が旋回上昇を終え、直線飛行に移った。サンドスターの噴射が止まった。

 縦のらせん状になったサンドスターが、キラキラと光りながら、ゆっくりと空に溶けていった。

 

ジェーン  「コウテイさん!」

コウテイ  「…………」

 コウテイはジェーンから手を離し、気絶していた。しかしなぜか彼女は直立姿勢を維持して浮かんでいた。

 

 飛行機が、再び降下してきた。サンドスターの噴射が再開。降下により加速した飛行機が上昇に転じ、垂直上昇、を通り越して背面になり、そのままの勢いで降下に転じ、上昇を始めた所に戻って、PPPのメンバーの真上近くで、垂直の円を描いた。

 

プリンセス 「……宙返り?」

イワビー  「フルル、今の撮れたか?」

フルル   「ちいさかった」

 

 サンドスターの噴射が止まり、飛行機が再度上昇していった。

 

ジェーン  「すみません! こっちはあきらめます!」

 ジェーンが、コウテイが持っていた防水袋にビデオカメラを入れ、波に揺られていたコウテイの体に抱きついて安定させた。

 

 飛行機が反転して、滑走路に向けて急降下してきた。

 

プリンセス 「また来るわよ!」

 

 サンドスターの噴射が再開した。

 飛行機が、海側から見て右から左へ、滑走路上を低空で通過しつつ、エプロンの前でグルグルと右回りに2回連続ロール(横転)して、すぐに回転方向を変えて、左回りに2回連続ロールした。シャッターの連写音がした。

 

イワビー  「おおお!」

フルル   「かっこいー」

プリンセス 「むちゃくちゃするわね……」

 

 飛行機は、サンドスターの噴射を止めてまた上昇した。

 

ジェーン  「ビデオ向きだったんですけど……」

 

 飛行機が、クイックに反転して降下。サンドスターの噴射をスタートした。

 そして、海側から見て左から右へ、滑走路上を通過。通過しながら、水平 → 90度横倒し(背中見せ)→ 背面 → 横倒し(腹見せ)→ 水平と、90度ずつ一時停止しながらのロールを行った。((フォー)ポイントロール)

 

プリンセス 「今の! よかったんじゃない!?」

フルル   「いいかんじー」

 

 飛行機は、サンドスターの噴射を止めてまた上昇。反転して降下。サンドスター噴射スタート。

 そして、海側に背中を見せるように、90度横倒しになった。機首は少し上を向いていた。

 

プリンセス 「背中よ!」

イワビー  「シャッターチャンスだぜ!」

 

 飛行機が背中を見せて、90度横倒しのまま、海側から見て右から左へ、滑走路上を通過。

(ナイフエッジ・パス)

 

フルル   「おいしー」

 

 飛行機は、サンドスターの噴射を止めて上昇した。

 

ジェーン  「なんで背中をこっちに向けたんでしょう?」

 

 飛行機は、反転して降下。サンドスター噴射スタート。海側に腹を見せる向きで、90度横倒しになった。

 

イワビー  「またくるぜ!」

プリンセス 「おなか?」

 

 飛行機が腹を見せて、90度横倒しのまま、海側から見て左から右へ、滑走路上を通過。

 

フルル   「これもおいしー」

 

 サンドスターの噴射が止まり、飛行機がまた上昇した。

 

ジェーン  「海と陸に、うらおもてを両方見せた、ってことですね」

イワビー  「ファンサービスだぜ!」

プリンセス 「やるわねキタキツネ……。わかってるじゃない」

 

 飛行機は、やや緩い角度で、高高度へ上昇していった。

 

フルル   「たかーい」

プリンセス 「なんであんなに上がるの?」

ジェーン  「今までの感じだと、たぶん、急降下すると思います……」

 

 飛行機は、十分に高度をとると、反転し、ゆるくS字に旋回して、飛行場近くまで戻ってきた。

 

イワビー  「デカいのが来るぜ!」

コウテイ  「……はっ!」

 コウテイが意識を取り戻した。

 

 飛行機が、飛行場前の海へ向かって急降下を始めた。

 

フルル   「はやーい」

イワビー  「海に突っ込むぞ!」

プリンセス 「はやく上げて!」

 

 急降下していた飛行機が、低空で機首をガクンと引き起こして上昇に転じ、U字を描いた。“U字の底”で、飛行機の翼の上面から激しいベイパーが発生し、一瞬、飛行機がベイパーに包まれた。飛行機がロケットのように垂直に上昇した。上昇しながらドリルのように連続ロールを行った。

 

フルル   「花火みたいだねー」

プリンセス 「正しい例えね……」

 

 飛行機のロールが遅くなり、同時に上昇速度が落ちていった。

 

イワビー  「あのときと同じだ! 失速するぞ!」

 フルルは、カメラを真上に近い角度に向けていた。

フルル   「とまるね」

 

 プロペラの音が静かになった。

 

プリンセス 「止まる?」

 

 飛行機が一瞬、空中に停止した。

 

ジェーン  「止まった……」

イワビー  「止まったぜ……」

 

 真上に投げた石が落ちるように、飛行機が機首を上に向けたまま後ろ向きに降下した。

 

コウテイ  「落ちた? 後退した?」

 

 すぐに飛行機がくるりと回転し、機首を下に向けて降下を始めた。プロペラの音が戻った。

 

フルル   「キタキツネあいかわらずうまーい」

イワビー  「いや、そんなレベルじゃねーだろ……」

 

 飛行機が不安定な回転を始め、海に向かって、ゆっくりと木の葉のように落ちていった。その動きは、ロールとスピンが混ざったような奇怪なものだった。降下するコースも直線ではなく、らせんとジグザグが混ざっていた。滅茶苦茶な方向に噴射されたサンドスターは、すじ状にならず、太く縦長の雲状に広がった。

 

ジェーン  「制御できてませんよ!」

コウテイ  「落ちるぞ!」

プリンセス 「あぶない!」

イワビー  「ダメだ!」

 

 フルルは無言でカメラを飛行機に向け続け、シャッターを切った。

 

 飛行機が海面近くで体勢を立てなおし、機首を引き起こし、海面に突入する寸前でわずかに上昇し、水平飛行に移った。

 すぐに、飛行機が大きく右に機体を傾けて急旋回を始めた。PPPのメンバーからは飛行機の背中が見えた。シャッターの連写音がプロペラの音にかき消された。飛行機の右の翼端がかすかに海面に接触し、海面に白波を立てた。左の翼端からは筋状のベイパーが発生した。サンドスターの航跡が、海面近くに曲線を描いていった。

 

プリンセス 「向かってくる!」※3

 飛行機がPPPのメンバーに一瞬正面を向けた。そしてPPPのメンバーの前を右から左へ、腹を見せて海面に白波を立てながら通過した。

PPP一同 「うわあっ!!」

PPPのメンバーは驚いて後方に倒れた。

 

 フルルが、プリンセスとイワビーに引っ張られるかたちで後方へ倒れた。フルルの手からカメラが離れ、それはすぐに海に沈んだ。フルルの首にはカメラのストラップがかかっており、フルルはカメラにうしろ向きに首を引っ張られるように海に沈んだ。

プリンセス 「フルル!」

 フルルは、首に絡まったストラップを両手で外そうとしたが、そのはずみと、フルルが水中で回転したことにより、カメラが水中で勢いよく回転し、ストラップがねじれてフルルの首を締め付けた。フルルの口から、ごぼ、と泡が海上に上がった。

イワビー  「やばい!」

ジェーン  「フルルさん!」

コウテイ  「追うぞ!」

 

 フルルはカメラに引っ張られるように、逆さまに沈んでいった。

 

 

 

 つづく

 

 

 

 

 

 

 

 

※1 ベイパー(ヴェイパー、べーパー)とは飛行機の周囲に発生する霧状のものです。飛行機のおこす気圧の低下により発生します。湿度が高い場所で、飛行機が激しい機動を行った際に発生しやすいです。今回は海上なので湿度が高く、ベイパーが発生しやすい条件でした。筋状になって後方に流れるものをベイパートレイルと呼ぶこともあります。これはあまり長く後方にのびず、すぐに消えてしまうことが多いです。回転するプロペラの、ブレードの先端から発生することもあります。似たものに飛行機雲(コントレイル)やアクロバット機のスモークがありますが、発生する原理が違います。

 本当にキングエアC90からベイパーが出るのかはわかりません。そもそもこんな激しい機動を行うような飛行機ではありません。

 

※2 サンドスター噴射(スモーク)について説明します。

 アクロバット機が出すスモークの代わりに、サンドスターを噴射しています。

 飛行機の燃料タンクの一つに、サンドスターを混ぜた燃料が入れてありました。(サンドスタータンク)客席(前から1例目、右側)の下のレバーを引くことで、サンドスターを混ぜた燃料をエンジンへ送り込めるようになっています。サンドスターを混ぜた燃料をエンジンで燃やすと、一時的に推力が増します(謎のパワーアップ)。回転数アップよりも、排気による推力増加が大きいです。また、排気にサンドスターのキラキラが発生して、長く後方に流れます。すじ状になったサンドスターは、ゆっくりと広がって、風に流されながら、大気に溶けて消えていきます。線として見られる時間は、風などの条件によって違いますが、30秒くらいです。

 

※3 飛行機とPPPのメンバーの距離は少し離れていましたが、飛行機の見た目の迫力と音で、向かって来るように感じました。

 




 第7話「機動」 あとがき

 読んでいただきありがとうございます。

 この機体(キングエアC90GT)でアクロバット飛行をするのはありえません。このおはなしでは、修復の過程で機体を改造したことと、キタキツネが天才すぎたため、ということにしています。正直に言うと、これらはアクロバット飛行をさせるための設定です。詳細は『通常版』に書いてあります。『PPP編』ではそのあたりが説明できていないのですが、『PPP編』ではそれほど重要なものではないことと、それを書くと『通常版』と重複するうえに、無駄に長くなってしまうため、書きませんでした。



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第8話「着陸」

 PPPのメンバーが海に潜り、沈んでいくフルルを追った。

 ジェーンとイワビーがフルルに追いついた

ジェーンがフルルの体を支えて、イワビーがフルルの首に絡まったストラップを外そうとした。

だがねじれたストラップは思うように解けなかった。

イワビー  『ダメだ! とれねえ!』 ※1

 プリンセスとコウテイが追いついた。

コウテイ  『むりにやるとよけいに締まるぞ!』

プリンセス 『ここはわたしが! みんなはフルルを引き上げて!』

 頭を下にして潜ったコウテイが、フルルを背中から羽交い絞めにして、逆さまになっていたフルルの体を戻し、持ち上げた。ジェーンは、前からフルルの両足を抱いて持ち上げた。イワビーはカメラのレンズ部分をつかんで持ち上げた。フルルは薄く目をあけてぐったりとしていた。ジェーンがフルルの顔を見上げた。

ジェーン  『フルルさん! しっかりして!』

 プリンセスがフルルの首に絡まったストラップを外そうとしたが、うまくいかず、左手でカメラのボディをおさえて、右手で、ストラップの根本のカメラにつながっている部分を、思い切り引っ張った。

プリンセス 『おねがい! はずれて!』

 

 突然、何かが高速で向かって来た。色は白と黒で、泡を引いており、小さな魚雷のようだった。

 

フルル以外 『うわあっ!!』

 それは一瞬で、プリンセスの手の上を通り過ぎて、すぐに見えなくなった。

 カメラのストラップの根本が切れた。イワビーが、自信が驚いたことと、ストラップが切れた勢いで後方へ飛んで、フルルから離れた。

プリンセス 『切れた!』

 カメラが、イワビーの手から滑り落ちた。プリンセスがカメラを、押しのけるようにしてフルルから離した。彼女は、イワビーがカメラから手をはなしたことに気づいていなかった。

 プリンセスが、ストラップを引っ張ってフルルの首から外そうとしたが、ストラップはプリンセスの手をすり抜けた。カメラが落下し、ストラップがフルルの首からするりと外れた。

イワビー  『なんだ今の! ……おわっ、カメラが!』

 ストラップの切れたカメラが、海中深くへ沈んでいった。フルルがそれに気づいた。

フルル   『カメラ、カメラが……』

ジェーン  『フルルさん、息が!』

イワビー  『しまった……カメラを追うぞ!』

コウテイ  『カメラはもうあきらめろ! 上がるぞ!』

プリンセス 『フルルを頼んだわよ!』

 イワビーとプリンセスがカメラを追って、海中深くに潜っていった。

コウテイ  『やめろ!』

ジェーン  『だめです!』

 

 イワビーとプリンセスは薄暗い海底にたどり着いた。海底は急な斜面になっていた。

イワビー  『まずい、転がり落ちたかも』

プリンセス 『どこかに引っかかってない?』

 ふたりは海底の段差にカメラが引っかかっていないか探したが、見つからなかった。ふたりは徐々に深い所へ進んでいった。周囲はさらに暗くなっていった。

 イワビーが苦しそうな表情になった。

イワビー  『だめだ、深いぜ……。それに息が……。いったん上がるぞ……』

 イワビーが海底を離れた。だがプリンセスは海底から上がらなかった。

イワビー  『おい!! ついてこい!!』

 イワビーがプリンセスの手を取ろうとしたが、プリンセスはイワビーの体を上へ突き飛ばした。

イワビー  『ぐはっ!!』

プリンセス 『先に上がって! 穴があるわ!』

イワビー  『むちゃ……するんじゃ……ねえ! ……だめだ、もう無理……』

 イワビーが海面へ向け上がっていった。プリンセスは斜面を下り、さらに深く潜っていった。深い所に真っ暗な穴が開いていて、プリンセスはその穴の中へ入ろうとしたが、入り口で止まり、手で口をおさえて、顔をしかめた。ひどく苦しそうな表情だった。

 

 突然、何かが高速で穴の中から飛び出してきた。先ほどと同じ、白と黒のなにかだった。それはプリンセスの目の前を通り過ぎて、海上へ向かって行った。プリンセスは驚いてうしろ向きに飛び、穴から離れた。うしろ向きに飛んだプリンセスを、再び潜って来たコウテイ ※2 が、抱き留めて羽交い絞めにして、引き上げていった。

 

 

 海上。

 

 プリンセスとコウテイが海上に上がると、それをほかのメンバーが迎えた。

プリンセス 「ぶはっ!」

 コウテイは、プリンセスを羽交い絞めにしていた腕を離し、ぐったりとしたプリンセスを優しく抱いた。

プリンセス 「はあ、はあ、はあ……」

イワビー  「無茶しやがって……」

 イワビーが、疲れた様子でプリンセスの方を見た。

プリンセス 「はあ……。そっちも……きつそうじゃない……」

ジェーン  「急に上がりましたけど、大丈夫ですか?」

コウテイ  「からだは痛くないか?」

イワビー  「へーきだぜ」

プリンセス 「この程度で、ペンギンが、潜水病になったらお笑いだわ……」 ※3

フルル   「よかった……。あとでちゃんと診てもらってね」

イワビー  「ごめんなフルル、カメラ、落としちまって……」

プリンセス 「あれは、コウテイでも暗すぎて無理だわ……」

フルル   「いいよ、ぬれちゃったらもうだめだから」

プリンセス 「……たぶん、助けてくれたのよね。あのびゅーんってやつ。深い所にもいたのよ? なんだったのかしらね……」

 

フルル   「……あれー?」

 フルルが右腕を上げた。

PPP一同 「ええー!!」

 フルルの右腕には、カメラのストラップが巻き付いていた。その手は、沈んだはずのカメラの、グリップを握っていた。フルルが持ち上げたカメラから、水がしたたった。カメラにかぶせてあった、簡易の防水カバーの中には水がたまっていた。

 フルルが右腕からカメラのストラップをほどいた。ストラップの切れた部分と、カメラの金具が、紫色のやわらかいプラスチックの輪でつながっていた。

プリンセス 「むらさきの、腕輪?」

コウテイ  「識別票、だな」

ジェーン  「これって……あのひとですよね」

イワビー  「あいつ、粋なことするじゃねーか」

 フルルは、紫の腕輪を見つめた。

 

 プロペラの音が聞こえてきた。PPPのメンバー全員が音のした方を見ると、飛行機を中心に、トキが左側、ショウジョウトキが右側についた3機編隊が、滑走路上を右から左へ通過するところだった。

 

 3機からサンドスターが放出された。飛行機から2本と、左右のチェイサーから、合計4本のサンドスターの航跡が、空に引かれていった。

 

 フルルが反射的にカメラを構えたが、ファインダーをのぞいても、白っぽいぼやけたものしか見えずなかった。電源スイッチはONのままだったが、シャッターボタンを押してもカメラは無反応で、ファインダー内の表示も消えたままだった。フルルがファインダーから目を離すと、離した目から涙がこぼれた。フルルは3機編隊を見つめた。

 

 飛行機が大きく翼を振った。

 

フルル   「会いたいひとは、空じゃなくて、海にいたんだね」

 

 3機編隊が滑走路上を通過し終え、飛行機が翼を振るのをやめ、3機編隊が遠ざかっていった。

 サンドスターの噴射が止まった。

 

イワビー  「フルル、それはちがうぜ」

フルル   「え?」

コウテイ  「合っているが、ちょっとちがうな」

フルル   「え? え?」

ジェーン  「そうですね。ちがいますね」

フルル   「えーー!」

 

 3機編隊は、かろうじて飛行機の形がわかる大きさにまで、小さくなった。

 

プリンセス 「ちょっとこわい、いえ、うらやましいわね」

 フルルがプリンセスの方を見た。

フルル   「そっちのほうがうらやましいよ」

プリンセス 「え?」

 プリンセスが下を向き、自分を抱いているコウテイの腕を見て、顔を赤くした。コウテイは、いつの間にかプリンセスに体を密着させて、プリンセスを強く抱きしめて、あごをプリンセスの肩に乗せていた。プリンセスがコウテイの腕をつかんだ。

プリンセス 「ちょっと! もうだいじょうぶだから、はなしなさいよ!」

コウテイ  「あ、ああ、わるい」

 コウテイが顔を赤くして、プリンセスを放した。

ジェーン  「あっ! ビデオ撮るの忘れてました!」

 

 

 

 3機編隊が、左に旋回して戻ってきた。

 

プリンセス 「見えたわ!」

イワビー  「遠すぎてよくわかんねーよ」

 編隊が、遠くの海上を右から左に、滑走路と平行に直線飛行 ※5 しているが見えた。コウテイが、再びジェーンを後ろから支えた。コウテイが振り返って飛行場の方を見ると、助手が巨大な矢印のパネルを持って浮かんでいるのが見えた。矢印は左を向いていた。

コウテイ  「滑走路は変わっていないな」 ※6

 ジェーンがビデオカメラを飛行機に向けて、望遠側へズーミングすると、飛行機が脚を下げるのが見えた。

ジェーン  「足がおりました!」

フルル   「着陸するね」

 

 3機編隊がゆるやかに左に旋回して、滑走路に進路を合わせた。

 

 ジェーンが3機編隊をビデオカメラで追った。

 

 飛行機がゆっくりと高度を落としていき、着陸した。機体はバウンドせず、スムーズにに滑走路を走った。プロペラの音が大きくなり、飛行機は減速していき、すぐに静かになった。チェイサーのふたりは高度を保ったまま飛び、上から飛行機を見守りながら、滑走路上を通過した。

 

フルル   「きれいな着陸だね」

 PPPのメンバー全員が、飛行機を見つめていた。

プリンセス 「フルル、こんどはあなたの着陸が見たいわ」

 

 十分に減速した飛行機が、滑走路の端でゆっくりとUターンを始めた。

 

コウテイ  「……それは、中からか、外からか、どっちだ?」

ジェーン  「迷いますね」

イワビー  「両方見ればいいじゃねーか」

 

 

 

 初飛行翌日のロッジ。

 

 オオカミが、水没した一眼レフカメラの、内部に残った水を可能な限り抜いた。

 

 一眼レフカメラから抜いたメモリーカードを、オオカミが、軽く濡らした綿棒で掃除して、付着した塩分を除去していった。

 

 一眼レフカメラは、その後数日かけて乾燥させたが、電源を入れることも出来なかった。ファインダーをのぞいても、内部に残って固まった塩分が原因で、ほとんど何も見えなかった。分解修理は困難で、交換部品も無く、このカメラで再び写真を撮ることはできなかった。

 

 

 初飛行から数日後のロッジ。

 

 ロッジの管理用端末の前に、オオカミが座っていた。そのうしろにPPPのメンバーとマーゲイが立って、管理用端末のディスプレイの液晶画面を見つめていた。

 画面には、ジェーンが撮影した飛行機の離陸の動画が表示されていた。

プリンセス 「ちゃんと撮れてるじゃない」

マーゲイ  「ジェーンさんすごいです! コウテイさんのサポートも良かったのでしょう。さすがのチームワークです!」

 動画は細かいぶれがあったものの、きちんと飛行機をフレームにおさめて追っていた。

フルル   「ちょっとがたがたしてるね……もぐもぐ」

 フルルはジャパリまんを食べていた。

イワビー  「そういうこと言うなよ……。つーか食べてんじゃねーよ」

ジェーン  「緊張して手がふるえちゃいました……」

コウテイ  「あの悪条件でよくここまで撮ったな」

オオカミ  「すばらしいよ。資料的価値も高い。写真やスケッチでは、わからないこともあるからね」

 

 そのあと急旋回のシーンの動画が再生された。最初の急旋回の動画は、飛行機が直線飛行から機体を傾けて右に旋回を始めて、画面右に機首を向けた飛行機の背中が映り、すぐに飛行機がフレームから出ていって、ジェーンの「あっ!」という声が入って、しばらく不安定に揺れる空が映り、コウテイの「だめか!」という声が入って、カメラが下がって海が映って、動画が終わった。

プリンセス 「いきなりあんな動きされたら、ついていけないわよね」

マーゲイ  「でも飛行機が傾く動き、いいじゃないですか!そこが撮れただけで十分ですよ!」

 

 次の急旋回の動画は、飛行機が機体を90度近く傾けて左に急旋回を始めて、飛行機が画面左に機首を向けて背中を見せながら旋回をしていき、正面気味になってカメラに近づいてきて、カメラが真上を向いて、飛行機がフレームからはみ出し、切り返して旋回方向を変え、そのあとは飛行機が再びフレームに収まって、画面右に機首を向けて背中を見せて、背景の空が高速で流れ続けた。

イワビー  「すげーすげー、かっこいいぜ!」

 突然画面が大きく揺れて飛行機がいなくなり、カメラが下がって海が映り、ジェーンの「コウテイさん!」という声が入って、動画が終わった。

コウテイ  「わたしはここで気絶したんだな……。すまなかった」

ジェーン  「あれは仕方なかったですよ。緊張していたところにこの回転ですから」

フルル   「目がまわったね。おもしろかったよ」

プリンセス 「こんどぐるぐる回る振り付けをやってみない?」

コウテイ  「やめてくれ……」

 

 次の動画は着陸シーンだった。飛行機が脚を下げて、遠くでゆっくりと旋回し、滑走路に向かってゆっくりと下りてきて、着陸する一連の流れがしっかりと記録されていた。

オオカミ  「こちらも資料的価値が高いね。離陸と着陸の両方の動画が撮れたのは大きいよ。今後のフライトの参考になるね」

 

 最後の動画には、砂浜で楽しげにはしゃぐPPPのメンバーが映っていた。

イワビー  「こんなの撮ってたのかよ!」

ジェーン  「終わったあとね。ちょっとはずかしいわ……」

オオカミ  「みんないい表情だね」

コウテイ  「だれが撮ったんだ?」

ジェーン  「動きが激しいのに安定した画面ですね……」

プリンセス 「わたしは撮ってないわよ。……映ってるでしょ? ……さっきのはイワビー…… これはフルル……となりはグレープ……ジェーンもいる……うしろにいるのはコウテイね……」

 フルル以外全員が、マーゲイの方を見た。

マーゲイ  「……これは、PPPのPVに使おうと思って……」

フルル   「もぐもぐ」

 フルルは、ジャパリまんを食べながら画面を見つめていた。

 

オオカミ  「こんどはこっちを見てみよう」

 オオカミが、一眼レフカメラに挿入されていたメモリーカードをつまんで見せた。

 

 その場にいた全員が、それに注目した。

 

 

 

 つづく

 

 

 

 

 

 

 

※1 「じゃぱりまんがり」では水中で会話してるっぽいシーンがあるので、ペンギンのフレンズは、水中で会話できるようです。不思議です。

 

※2 コウテイペンギンの潜水能力は鳥類最高だそうです。

 

※3 フレンズの体は基本的にはヒトと同じ、という設定なので、潜水病(減圧症)になる可能性はあるかもしれません。今回は水深が比較的浅かったことと、それほど急激に引き上げたわけではなかったので、問題ありませんでした。

 

※5 「遠くの海上を右から左に、滑走路と平行に直線飛行」しているのは、飛行場のトラフィックパターンの、ダウンウィンド・レグです。滑走路の着陸側にまわるため、滑走路の使用方向とは逆方向(南から北)に飛んでいます。

 

※6 滑走路の使用方向は風向きによって変わります。基本的には向かい風で離着陸します。この場合は風向きが離陸時と変わっていなかったため、滑走路の使用方向も離陸時と同じでした。この時は南風で、滑走路番号は19でした。従って、初飛行は、北から南に向かって離陸して、滑走路の北側から侵入して着陸しました。

 

 



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第9話「空と海」

 オオカミが、メモリーカードをカードリーダーに差した。

 

オオカミ  「生きていたんだよ」

 

 画像閲覧ソフトで、撮影データをサムネイル表示させると、全ての画像が表示された。※1

プリンセス 「生きてた……」

イワビー  「すげえ! ぜんぶ残ってるぜ!」

ジェーン  「奇跡ですね」

コウテイ  「あのひとのおかげだな」

マーゲイ  「よかったですが、みなさん、もうあんな危険なことはしないでください……」

フルル   「プリンセスのことは忘れないよ」

プリンセス 「死んでないわよ!」

 オオカミが写真を大きく表示させて、一枚ずつ送りながら見ていった。

 

 機首を上げて、離陸滑走中の飛行機の写真。

ジェーン  「こっちの離陸もいいじゃないですか!」

コウテイ  「スピード感が出ているな」

フルル   「ちょっとぶれちゃったね」

 

 ショウジョウトキが、プレーリーを抱いて飛んでいる写真。ふたりの姿は小さく写っていた。

マーゲイ  「なんですかこれ?」

フルル   「なんだかわからないけど、とったよ」

ジェーン  「プレーリーさん、機内にいたはずなのに、どうして戻ってきたんでしょう?」

プリンセス 「なにかトラブルがあったって聞いたわ」

オオカミ  「あれは、飛行中に故障がおきてね。プレーリーが外に出て修理したんだ」

PPP   「外に出て修理!?」

マーゲイ  「い、いつもの冗談ですよね? オオカミさん」

オオカミ  「冗談ならよかったんだけど、今回は本当なんだよ」

コウテイ  「あっちはあっちで大変だったんだな……」

イワビー  「死人がでなくてよかったぜ……」

 

 背中を見せて、ベイパーとサンドスターを引きながら旋回する飛行機。

イワビー  「かっこいいぜ!」

プリンセス 「あのぐるぐる回ったところね。よく撮れたわ」

コウテイ  「気絶したところだ……」

マーゲイ  「すごい枚数ですね……ずっと連写していたんですね」※2

 

 宙返りで急上昇していく飛行機の写真。そして一瞬の背面飛行の写真。

 サンドスターの航跡が、曲線を描いていた。※3

フルル   「これは小さいね」

プリンセス 「すぐに高くあがっちゃうから、むずかしかったわね」

マーゲイ  「トリミングすれば、いい写真になりますよ!」

 

 滑走路上での連続ロール。

フルル   「しっぱいしちゃった」

 連続ロール中の写真にはブレがあり、主翼の端が見切れたりしていた。

プリンセス 「動きが激しすぎたのね……」

マーゲイ  「シャッタースピードが遅いとむずかしいですよ」

コウテイ  「これは見られなかったな……」

 

 (フォー)ポイントロール(90度ずつ一時停止しながらの360度ロール)。

ジェーン  「逆さまになってます!」

イワビー  「これ、ほとんどブレてないぜ」

オオカミ  「ちょっと暗くするといいかもね」

フルル   「ビデオで見たかったなー」

コウテイ  「うっ!」

プリンセス 「言っちゃだめよフルル!」

 

 ナイフエッジ(90度横倒し飛行)の背中。

プリンセス 「背中、大きく撮れたわね。ピントもばっちり」

フルル   「ごちそうさまでした」

ジェーン  「操縦むずかしいですよ、これ」

イワビー  「どうやったらこんな飛び方ができるんだ?」

フルル   「かたっぽだけパワーをあげたみたい」※4

 

 急降下から急上昇に転じ、“U字の底”で飛行機がベイパーに包まれた瞬間の写真。

イワビー  「すげえ、あの瞬間撮れたのか!」

オオカミ  「一瞬のシャッターチャンスだったのに、きれいに撮れているね。さすがだよ」

 

 ロールしながら急上昇したあと、一瞬空中に停止した飛行機の写真。

プリンセス 「すごい動き、というかこれ止まってたわよね」

フルル   「これも小さいね」

オオカミ  「写真では、動きを説明するのがむずかしい時もあるんだね」

ジェーン  「ごめんなさい! ビデオが撮れれば良かったんですけど……」

コウテイ  「わたしのせいだ……」

オオカミ  「だいじょうぶだよ。スケッチにどういう動きをしたのか書き込んであるんだ」

 

 不安定に回転しながら、木の葉のよう降下していく飛行機の写真。

フルル   「ぶれぶれだね」

 写真に写った機体の向きはバラバラで、ブレが激しかった。

オオカミ  「これは、どうしてもぶれてしまうよ。ランダムな動きからね」

ジェーン  「怖かったですよね、これ」

イワビー  「マジで落ちるかと思ったぜ」

プリンセス 「よく立て直せたわよね」

フルル   「キタキツネはちゃんとコントロールしてたよ」

フルル以外 「ええー!!」

プリンセス 「この子が言うんだから、間違いないのね……」

ジェーン  「ギリギリで立て直せたのではなく、制御不能になっていなかったんですね……」

コウテイ  「それであんな奇怪な動きをしていたのか」

イワビー  「ばけものだぜ……」

 

キタキツネ 「ぼく、ばけもの?」

ギンギツネ 「ちょっと、お邪魔するわ」

 画面を見つめる7人が振り向くと、ギンギツネがいた。そのうしろにはキタキツネが隠れていて、顔をのぞかせていた。

イワビー  「おわあっ! ……ばけもの、じゃなくて、けものだぜ!」

コウテイ  「どうしたんだ? ふたりとも」

ギンギツネ 「隠れてないで、前へ出なさい」

 ギンギツネが振り向いて、キタキツネに前へ出るようにうながした。キタキツネがギンギツネの前へ出た。

キタキツネ 「……ごめんなさい……。ぼくのせいで……たいへんなことに……。プリンセスが、しんじゃって……」

プリンセス 「だから死んでないわよ!」

ギンギツネ 「あなたなに言ってるのよ……。ここにいるでしょう」

プリンセス 「謝らなくていいわ」

ジェーン  「あれは、わたしたちがびっくりしすぎちゃったんですよ」

コウテイ  「あとでイルカの子に聞いたんだが、わたしたちと飛行機は、けっこう離れていたそうだ」

イワビー  「迫力がありすぎてビビっちまったんだ」

 オオカミが振り返った。

オオカミ  「みんな緊張していて、飛行機の動きに集中していたから、実際より大きく見えたんじゃないかな」

プリンセス 「あなたはみんなを楽しませようとしたのよね。ファンサービス。エンターテイナーとして、一番大事なことよ。むしろ見習わなきゃいけないくらいだわ」

マーゲイ  「でも、楽しませるにしても、安全にやってほしいです……。ちょっと位置がずれていたら、と思うと……」

プリンセス 「マーゲイ!」

ギンギツネ 「キタキツネには、ぜんぶ見えていたんですって。そうでしょう?」

キタキツネ 「……海のうえに、みんながいたから、カメラ、もってたから……」

イワビー  「カメラ!?」

コウテイ  「そこまで見えていたのか!」

ジェーン  「こちらを見て、安全な距離を保って、あの動きをしたんですね……」

イワビー  「やっぱりばけも……のじゃなくて、けものだぜ!」

フルル   「あやまらなくていいよ」

プリンセス 「ちょっと遅かったわね……この子」

イワビー  「ちょっとじゃねーだろ……」

ジェーン  「遅くないですよ」

コウテイ  「そうだな。遅くない」

フルル   「あのときのキタキツネ、すごかった。かっこよかったよ」

キタキツネ 「ぼく、うまくできてた? きもちよかった?」

フルル   「すっごくきもちよかったー。いろんなことしてくれて」

キタキツネ 「いっしょに飛んだら、もっときもちいいよ。フルルとひとつになりたい」

フルル   「よこになってまっすぐ飛ぶの、やりかたおしえて」

キタキツネ 「いっぱいおしえてあげる。こんどはフルルがぼくをきもちよくしてね」

ギンギツネ 「あなたそのきもちいいって言うのやめなさい」

キタキツネ 「ギンギツネには強すぎたね。フルルとなら、もっとはげしいのもできるよ」

ギンギツネ 「あれ以上!? だめ! やさしくしなきゃだめよ!」

フルル   「はげしいのやりたーい!」

ギンギツネ 「わたしみたいに気絶しちゃうわよ! 足腰立たなくなっちゃうんだから!」

マーゲイ  「……いい…………」

 マーゲイが鼻血を垂らして倒れた。

プリンセス 「なんというか、その……」

 プリンセスは顔を赤くしていた。

 イワビーは、フルルとキタキツネを見た。

イワビー  「このふたり、似てるぜ……」

ジェーン  「PPPが飛ぶときのパイロットは、もう決まりですね」

コウテイ  「このふたりが一番安全だろうな。……ふつうに飛べば」

プリンセス 「ファンサービスは遠慮しておくから、ふつうに飛んでね?」

キタキツネ 「“ふつう”に飛んでいいの!? やった!」※5

フルル   「たのしみだねー」

 

オオカミ  「みんな、ちょっと画面を見てくれるかな」

 オオカミが振り返った。

キタキツネ 「ん?」

ジェーン  「そうでした! 途中でしたね」

プリンセス 「わすれてたわ……」

コウテイ  「マーゲイ、おきられるか?」

マーゲイ  「な、なんでしょう……」

 マーゲイが立ち上がった。

イワビー  「なんだ? すげーもんが見られんのか?」

フルル   「キタキツネもいっしょに見ようよ」

 その場にいた全員が、画面に注目した。

オオカミ  「キタキツネはいいところに来てくれたよ。これは、みんなに、特にふたりに見てもらいたいんだ」

 オオカミが画面に向き直って、マウスをクリックした。

 

 一枚の写真が画面に表示された。その場にいた皆が目を見開いて驚いた。

 

オオカミ  「これは、今回のベストショット、いや、ホールインワンだよ」

 

 

 ロッジのイベントスペース。

 

 イベントスペースには、飛行機の修復や初飛行に関わった、たくさんのフレンズが集まっていた。舞台の大きなスクリーンに、プロジェクターの光が当てられた。まずジェーンが撮った動画の上映が行われ、そのあとフルルが撮った写真がスライドショーで表示された。舞台の上にはPPPのメンバーが立っていて、動画と写真の解説をしていた。舞台の端で、スライドショーの操作をしていたオオカミが、プリンセスの方を見た。

 

プリンセス 「待たせたわね! つぎが今回のベストショット、奇跡の一枚よ!」

 

 その写真がスクリーンに表示されると、観客からどよめきが起こった。

 

 

 その写真には、わずかに右の翼端を海面に接触させ、水しぶきをあげながら急旋回しつつ、カメラに正面を向け、猛スピードで向かってくるような飛行機の姿が、画面からはみ出さんばかりに写っていた。

 

 機体の角度が正面になったことで、二つのプロペラの回転ぶれが大きく写り、大きな存在感を放っていた。

 

 海面に接触していない左の翼端からはベイパーが発生していて、細長い白い筋が、急旋回のカーブを描いて後方へ流れていた。

 

 主翼の上面からもベイパーが発生していて、ベイパーは背景が暗いためはっきりと写り、翼が霧をまとっているように見えた。

 

 プロペラブレードの先端からもベイパーが発生していて、プロペラの外周にベイパーのリングができていた。

 

 両エンジンの排気管からサンドスターが噴き出していて、それは機体後方へ流れて、画面の左端に見切れていた。

 

 フロントガラス越しに暗い機内が写っており、パイロットの、ツチノコとキタキツネの「いい顔」が写っていた。

 

 ピントはしっかりと機体に合っており、機体のぶれもほとんどなく、特にフロントガラスまわりがシャープに写っていた。

 

 快晴の、やや斜めの順光だったため、写真全体の色がまぶしいほど鮮やかで、バランスよく陰影ができて、立体感のある写真になっていた。

 

 背景は上半分が青い空、下半分が青い海だった。空にはくっきりとした雲が少しだけかかっていた。遠くには山も写っていた。画面は水平がとれておらず、少し傾いていたが、それがかえって迫力を増していた。

 

 

 振り向いて写真を見ていたプリンセスが、フルルの方を見た。

プリンセス 「フルル、この写真に名前をつけるなら、なにがいいかしら?」

 

フルル   「……そらと、うみ!」

 

 

 

 

 

 

 「そらとうみ」の次に写っていた写真では、飛行機が下に見切れており、その次の二枚は空しか映っておらず、次の一枚は一面が暗い青色で、最後の一枚は真っ黒だった。

 

 

 

 オオカミが書いた漫画、「ひこうじょう」の背表紙には、フルルが撮った「そらとうみ」によく似たイラストが描かれていた。

 

 

 

 「そらとうみ」は、A4サイズで印刷され、ビーバーとプレーリーが作った木製の額に入れられて、ロッジの食堂、温泉宿のシミュレーターのそば、飛行場の格納庫の中に飾られている。

 

 

 

 壊れたカメラは、管制塔の窓のそばに置かれ、飛行場を見守り、空と海を見つめている。

 

 

 

 

 

 おわり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※1 メモリーカード(作中に登場するのはSDカード)を水没させてしまった場合でも、乾燥させれば読めることもあるようです(筆者は水没させた経験がありません)。ただ、海水は結構きびしいと思います。真水で洗うか、オオカミがやったように綿棒で塩分を除去すれば読めるかもしれません。あと、水没後のメモリーカードを使うと、カードリーダーが故障する可能性もあります。

 また、サムネイルで表示できても、ファイルが壊れていることがあるかもしれません。

 

※2 「ずっと連写」といっても、連写可能枚数には限りがあるので、断続的な連写になります。

 

※3 PPPのメンバーは、宙返りを斜め下から見ていたので、写真に写った航跡は円形になりませんでした。上空(宙返りの頂点)で折り返してくるような写真になりました。

 

※4 以下は、ナイフエッジ・パスに関する解説です。これは、筆者のいい加減な知識によるものです。間違っているかもしれません。

 

 機体が90度横倒しになるナイフエッジでは、主翼で発生する揚力による飛行が困難なため、次の三つの方法で飛行します。

 

〔A〕胴体などで発生する揚力を使う。このために、進行方向(水平方向)より機首を少し上(空の方)に向ける。

〔B〕推力軸を、進行方向(水平方向)より上に向かうように傾ける(機首を上に向ける)。これにより、機体を持ち上げる力を得る。

〔C〕弾道飛行する(勢いで飛ぶ)。

 

 ナイフエッジでは、〔A〕〔B〕〔C〕に加えて、全部の舵面を駆使して、横倒しの姿勢を維持しつつ、高度を保って直線飛行します。ちょっと地味な科目ですが、難度は高いようです。あと、背中を見せる科目なので、写真映えが良いです。

 

 作中でフルルが言っていること、片方のエンジン(横倒しで、下になった方)の出力を上げたのは、〔A〕と〔B〕のためです。実際に、F-15のデモフライトで、片方のエンジンだけアフターバーナーをたいて、ナイフエッジを行っているのを見たことがあります。双発機ならではのテクニックです。

 でも、単発機でもナイフエッジは可能です。F-15はナイフエッジが苦手らしく、上の例では、苦手な部分を補うために、左右のエンジンに推力の差をつけていたのだと思います。それなので、双発のプロペラ機で推力の差をつける必要はないかもしれません。

 なぜフルルが左右のエンジンの推力の差に気づいたのかは謎です。

 それ以前の問題として、キングエアC90でナイフエッジを行うこと自体がありえないです。こんなことができたのは、機体を改造したことに加えて、キタキツネが天才すぎたためです。

 

※5 キタキツネは、リミッターを解除するつもりです。

 




 
 あとがき・設定が長いので、それは別の話(第10話扱い)として投稿します。


 [ 『第9話』 初投稿日時 2018/06/03 22:42 ]
 


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あとがき・設定

 

 読んでいただきありがとうございます。

 

 以前書いたSS『ひこうじょう(通常版)』を、“見る側”から書いてみたい、と思って書きました。『通常版』よりも、さらに趣味に走りました。“飛ぶ側”だけでなく、“見る側”にもドラマがあるんだよ、と言いたかったのですが、結局“飛ぶ側”に傾いてしまいました。

 もう一つの書きたかったことは、フルルとあのひとの関係で、それが物語の軸になるように書いたつもりです。

 

 フルルが撮った写真「そらとうみ」には、私が、こんな写真が撮れたらいいな、と思う要素を、これでもかと詰め込みました。ただこれはビジュアルが無いとつらいですね。私の下手な文章で、どこまで伝わったでしょうか?

 

 相変わらず、小説でも台本でもない変な書き方をしています。どういう物語なのかを説明することに集中し、セリフ回しを中心にして、自分の書きやすいように書いた結果、このような形になりました。ちゃんと伝わっているのか不安です。加えて改行などが変なので、読みづらいかもしれません。

 

 

 細かいことメモ

 

 フルルを主人公にしたかったのですが、結局、PPPのメンバー全員が主人公みたいになりました。プリンセスが主人公のようでもあります。

 

 ほとんどPPPの5人(+マーゲイ)が一緒に行動しているので、全員にまんべんなくセリフを与えようとすると結構大変でした。

 

 あの等身大パネルのエピソードを読者が知っている、という前提で書いてしましました。知らなくてもネット等で調べられるようなヒントを書きました。説明不足にも説明しすぎにもならないバランスって、これでいいんでしょうか……。

 

 『ペパプ・イン・ザ・スカイ!』の『やくそくのうた』に大きな影響を受けました。あんなの反則です。

 

 キャラクターの口調や性格が間違っていそうなところがたくさんあります。意外と難しかったのがイワビーです。一番大事な、フルルのセリフも難しかったです。

 

 タイリクオオカミが筆者に近いキャラになっている気がしますが、狙ったわけではありません。

 

 最近はあまり写真を撮りに行っていません。古くて故障寸前、というより半分故障している機材を更新して……と考えていますが、だいぶ先の話になりそうです。

 

 

 

 

 

 撮影機材などの設定

 

 撮影機材は誰かの忘れ物(あるいは意図的に置いていった物)で、管制塔で発見された。

 

 

 アルミのカメラケース

 

 ギリギリ飛行機の国内線の機内持ち込みが可能なサイズ(縦250×横420×高さ330)。ボロボロで、表面に何かのシンボルマークや文字のステッカーがいくつか貼ってある。肩掛け用のひもがついている。蓋の止め金は二つあり、蓋はヒンジで上に開く。角にクッション材が貼ってある。頑丈で椅子替わりに使える。カメラバッグと比較すると重い。撮影機材はこの中に詰め込まれていた。

 

 

 スチルカメラ ボディ:Canon EOS60D

 

 旧式のデジタル一眼レフカメラ。十分使えるが、最新機種に比べて画素数が低く(1800万画素)、連写速度が遅い(約5コマ/秒)のが欠点。記録メディアはSDカードで、64GBのメディアが挿入されていた。発見された時点でのシャッターレリーズ回数は30万回ほどで、すでに耐用回数(10万回)をはるかに超えており、シャッターユニットが壊れる寸前の状態だった。電源スイッチと背面のダイヤルの内部が摩耗しており、動きが少し固くなっていた。センサー(ローパスフィルター)は比較的きれいな状態だった。予備のバッテリーが1本あった。 

 

 

 望遠ズームレンズ : EF100-400mm F/4.5-5.6L IS USM

 

 使いやすい望遠ズーム。『II』ではなく、『旧』の EF100-400mmで、直進式ズーム。フィルム全盛時代の設計の旧式機種だが、十分使える。

 初飛行の撮影で、海上まで持って行ったレンズはこの一本のみだった。(海上でのレンズの脱着が困難なため)

 

 

 標準ズームレンズ : EF-S18-135mm F/3.5-5.6 IS STM

 

 使いやすい標準ズーム。USMではなくSTMだが、AFはそこそこ早い。

 飛行機を背景にしたPPPの撮影と、飛行機の復元の記録で使用した。

 

 

 広角ズームレンズ : TAMRON SP10-24mmF/3.5-4.5 Di II

 

 超広角ズーム。後ろに引けない場所で撮影するのに便利。ややシャープさに欠けるが、絞り込めばそれなりに写る。

 飛行機を背景にしたPPPの撮影と、機内のでの撮影、飛行機の復元の記録などで使用した。

 

 

 テレコンバーター : エクステンダー1.4x II

 

 EF100-400mmと組み合わせて使うと最大560mmの超望遠になる。

 撮影練習で使用したが、ボディとレンズの組み合わせの関係でマニュアルフォーカスになるため、ピンボケが多発してしまった。それに加えて暗くなるため、扱いが難しく、初飛行の撮影では使用されなかった。

 

 

 外付けストロボ(フラッシュ) : スピードライト 380EX

 

 フィルム全盛時代の旧式機種。電池まわりの配線が接触不良を起こしていて、電源がうまく入らない時があるが、それはたたくと直る。

 シミュレーターの訓練と試験の前後(シミュレーターの稼働中は、フラッシュは邪魔になるので使用しなかった)、飛行機の復元の記録、機内でのPPPの撮影など、主に室内、機内の撮影で使用した。

 

 

 ビデオカメラ : Victor GZ-E150-B

 

 安物のビデオカメラ。小型軽量、画質はいまいち。手ぶれ補正がデジタルで弱い。ビューファインダーがないので、動く物を望遠で追って撮影するのは難しい。記録メディアは内蔵メモリー又はSDカードで、64Bのメディアが挿入されていた。内蔵マイクに、前の持ち主の手製のウィンドジャマ―(ただのスポンジ)が付いている。互換バッテリーが2本あった。

 

 

 一脚 : Velbon ULTRA STICK V60+SLIK SBH-120 DQN

 

 六段式一脚。アイレベル一脚だが縮長が300mm強で、カメラバッグにも入る。脚自体をねじってロックするタイプで、慣れれば素早く伸縮できる。雲台はクイックシュー付きの小型自由雲台(ボールヘッド)

 三脚が発見されなかったため、動かないものの撮影には一脚が使用された。主に飛行機を背景にしたPPPの撮影や、機内での撮影に使用した。カラーコーンと重しを使って一脚を垂直に立てて、セルフタイマーを使用して記念撮影をする予定だったが、カメラが壊れてしまったため記念撮影は行われなかった。

 

 

 カメラの防水カバー

 

 アルミのカメラケースにカメラと一緒に入っていたレインカバーを、助手とタイリクオオカミが改造して製作した。完全防水ではなく、防滴レベルのもの。

 

 

 防水袋

 

 食品保存用のチャック付き密封袋。温泉宿にあったもの。

 カメラを撮影ポイントへ運ぶ際に、防水カバーだけでは不安なため、この袋に入れて運んだ。 (二重の防水対策をした。)

 

 

 写真、動画の閲覧を行ったパソコン・写真の印刷を行ったプリンター

 

 ロッジと温泉宿の管理用端末と、一緒に設置されていたプリンターを使用した。温泉宿にあった写真プリント機も使用された。

 

 

 フライトシミュレーター

 

 温泉宿のゲームコーナーにあったもの。ゲームだが本格的なシミュレーターに近い。単座。動揺装置は無い。画面はけっこう大きい。操縦桿はジョイスティックタイプ(センター)。ラダーペダルがある。シートには背もたれが無い。選択できる機種が豊富だが、ミリタリー系が中心。

 

 

 ロッジのイベントスペース

 

 屋内で、床や壁の作りは、アニメ10話でキャラクターが集まって会話していた部屋(食堂?)と同じで、宴会場くらいの広さがある。フルルが温泉宿でシミュレーターの操縦訓練を行っている間、PPPのメンバーはここでレッスンをしていた。小さめの舞台があり、舞台の背景にプロジェクター用のスクリーンがある。天井にプロジェクターがあり、パソコンなどを接続してスクリーンに表示させることができる。大人数で写真や動画を見る時はこれを使用した。

 

 

 

 飛行機の設定画

 

 飛行機と飛行場の詳細設定は、第1話のあとがきに書いてあります。

 

 ねじれて見えるとか、バランスがおかしいとか、いろいろ変な所があります。フロントガラスと排気管は意図的に大きく描いています。

 

 

【挿絵表示】

ビーチクラフト キングエアC90(C90GT) ジャパリパーク仕様(改造前)

 

 

【挿絵表示】

ビーチクラフト キングエアC90GT改 ジャパリパーク仕様(レストア後の初飛行時)

 

 

【挿絵表示】

ビーチクラフト キングエアC90GT改 ジャパリパーク仕様 初飛行時の機内設定など

 

 改造後では動翼が大きくなっています(微妙に色が違います)。でもこんな改造したらバランスが崩れそうです。強度の問題もありますし、エルロンリバーサルとかおこしそうな気がします。垂直尾翼の羽の先端(動翼にかかっている部分)は再塗装したため微妙に色が違い、塗りムラや刷毛の跡が残っています。

 

 

 

 アクロバットの飛行ルート

 

 

【挿絵表示】

 

 ↑SS「ひこうじょう」シリーズに登場する飛行場の設定画(地図)に、アクロバットの飛行ルートを記入したものです。SSを書くにあたって、飛行ルートを検証したメモです。

 飛行ルートや物の大きさの比率は、いい加減です。SS本編と矛盾するかもしれませんし、いろいろと無理があって現実的ではないルートだと思います。

 重要なのは海面スレスレの飛行とPPPの位置なので、それ以外のラインは薄くしています。

 

 

 本作の、飛行機や飛行場などの設定、物語やテーマなどを、ご自分の作品(SS・漫画、イラスト等)に使って頂いても構いません。改変しても、切り刻んでもOKです。需要は無いと思いますが。

 

 

 撮影機材が使用された経緯

 

 

 誰か(前の持ち主)によって使用されていた。(かなり酷使されていた)

 

 誰か(前の持ち主)がアルミのカメラケースごと管制塔の2階(窓のある最上階)に忘れていった。(あるいは意図的に置いていった)

 

 ヒトが島を去ってから、長期間にわたり管制塔に放置された。

 

 かばんたちが島を旅立つ少し前、飛行場を調査していたツチノコが発見した。

 

 最初は、ツチノコが飛行機の復元の記録で使用した。博士と助手が、図書館で調べつつ、撮影機材の使い方をツチノコに教え、ツチノコ自身も図書館で使い方を調べた。

 

 その後は、主にタイリクオオカミが使用するようになった。使い方は、博士と助手とツチノコが教えた。タイリクオオカミは、持ち前のセンスと図書館で得た知識によって、写真の腕を上げていった。

 

 操縦試験の日に行われたPPPの撮影で、マーゲイがカメラに興味を示した。撮影会の写真の7割ほどはマーゲイが撮影した。

 

 タイリクオオカミが、初飛行の日に海上からの撮影を頼みたい、と、カメラをPPPに託した。

 

 フルルとPPPのメンバーによって、海上から初飛行の様子が撮影されたが、事故により一眼レフカメラが水没し、壊れてしまった。カメラが壊れてしまったため、飛行後に予定されていた記念撮影はできなかった。(代わりにタイリクオオカミがスケッチを行った。)

 

 水没したカメラ以外の撮影機材(ビデオカメラ等)は、飛行機の撮影や、PPPのPVの撮影などに使用され続けた。

 

 水没したカメラは修理できず、管制塔の2階(窓のある最上階)の窓際に、レンズを外(飛行場の方)に向けて置かれる形で保存された。その後、このカメラは二度と撮影に使われることは無かった。

 

 長い長い年月が経った後、この一眼レフカメラは、管制塔と共に朽ち果てた。

 

 

 




 
 [ 『あとがき・設定』 初投稿日時 2018/06/06 18:06 ]
 


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