GS美神の世界でサバイバル (京太郎)
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番外:まさかのIS(インフィニット・ストラトス)の世界へ

いただいた感想の中に、付喪神の専用機になったら面白いのにといただいて
思いついたのはインフィニット・ストラトスでした。
ちょっと書いてみたので、読んでいただければ幸いです。


番外:まさかのIS(インフィニット・ストラトス)の世界へ

 

 

 

 

 

本当にいろいろと有りまして、なんとかGS免許は取得できました。

ただ、所属を六道家にするのか、妙神山にするのかでかなり揉めましたが・・・・・・

まぁその辺りの話はいずれするとして

 

今日は美神さんに呼ばれて、美神除霊事務所に向かっている。

ASEへの依頼が高額なので、僕に直接頼むつもりなのかもしれない

もちろん、他の用事かもしれないが、そうこうしているうちに到着した。

 

人工幽霊1号に挨拶をして中にいれてもらう。

美神さんは所用で、外出をしているがすぐに戻ってくるので

中で待っていてほしいとのことだ。

 

 

そして部屋に入ると電源コードにつながれたマリアが充電されていた。

 

あれ?これは平安時代や中世に飛ばされるフラグでは?

 

しかし、自分は腐っても転生者、こんな見え見えのフラグには引っかからない。

そしてあの転移は電気変換資質持ちの美神母子がいて初めて成立する。

よって、今僕がマリアを触っても転移はしない。

 

おっと、触ること自体がフラグだって?

僕もそう思う、だから電源ケーブルを跨いで奥にあるソファーに座わって美神さんを

待つことにしよう。

 

そして、ケーブルを跨いだ先に何故かバナナの皮があった。

何故こんな所にバナナの皮がと思う前に脚を滑らせ、態勢を崩しマリアに触れてしまった。

その瞬間に電撃が体を走り抜け、気を失ってしまった。

 

 


 

 

 

気が付き、目を覚ました。

美神事務所で気を失ったはずなのに、なぜか公園のようなところで仰向けにあっていた。

近くには、こちらを心配そうに見ている警察官が無線で連絡を取っていた。

 

 

 

僕が目を覚ました事に気が付いた警察官に、GS免許を提示した。

 

「GSの横島優です。事故に巻き込まれてしまい気を失ったようです。」

 

通称、GS資格、正式名称は対心霊現象特殊作業資格

法令の定めるところによると、除霊作業中、特に指定がなければ常時免許証の

携帯義務が課せられる。

 

これは身分証の代わりになるとともに、万が一悪霊に食われた場合、遺体の照合を

するためだ。

なので、この免許証は極めて強力な神秘を帯びている。

身体は無くなっても、この免許証だけは残るというのがもっぱらの噂だ。

 

また、警察官、消防士、災害救助に派遣されている自衛官などに対し

心霊現象に関し国民に生命の危機がある場合のみ、避難誘導等の措置を依頼できる。

 

あと大きなところでは、霊銃、霊刀等の銃刀法に関する物も大幅に免除される。

GSは霊銃といえば拳銃、小銃の携帯もできるのだ。

まぁ弾丸の弾頭が精霊石を使う場合が多いので弾丸が高すぎて使うGSはあまりいない。

 

さて、GS免許を提示したまでは良かったのだが、なぜか警察官は苦笑い

 

「私も子供の頃にGS美神はアニメでも見ていたがね。

その免許証も良く出来ているじゃないか(笑)

 

見たところ学生服を着ているから学生証を見せてもらえるかな」

 

え!?GS免許が中二病扱いされた?

 

しどろもどろになりながら高校の学生証を提示すると

 

「周りの防犯カメラも確認したけど、特に事件性はないようだから

怪我が無いようなら行ってもいいよ。

紛らわしいからこんなところで寝ないように、あとGSごっこは他所でするようにね」

 

そう言って、空間ディスプレイを閉じて警察官は去って行った。

 

んん?空間ディスプレイ? そんなもの2019年にも無かったぞ

 

一体、どこの世界線に来てしまったんだ?

 

 

 

 

 

美神除霊事務所にも寄ってみたが、除霊事務所は無かった。

それに浮遊霊、地縛霊、妖怪や物の怪の影も形も見えない

神社仏閣に寄っても、神聖な気配はあるものの、御霊自体は全く見えない

霊視は結構得意だと思っていたのに、本当に少ないのだ。

 

 

幸いなことに自宅はそのままあったので、今のテレビを付けるとそこには

興奮した様子のアナウンサーがある事柄を繰り返し放送していた。

 

「女性しか動かすことが出来ない、ISを織斑一夏さんが動かしました。

男性がISを動作させることに成功しました。

繰り返しお伝え致します・・・」

 

まじかよ。ここISの世界線だったのか・・・・・・

 

そりゃ、科学万能な世界だけあって、霊とか神秘の存在が希薄になっているはずだよ。

この世界の主人公は織斑一夏だから、横島忠夫が存在していないのか、それとも世界意思が

手放さなかったのか

 

なんにせよ、僕は男だからISを動かすことは出来ないから、この世界では

女尊男卑にだけ気を付ければ、普通に暮らしていけるだろ

それに、そのうちGS美神の世界に戻れるかもしれないし。

 

 

 

男性IS操縦者の織斑一夏が発見されてから、異例の速さで全国で順次男性操縦者の

適正検査が実施された。

 

 

僕の通っている高校でも、ついに適正検査が実施される

ついでに言ってておくならば、机妖怪の愛子さんもこの世界では

神秘が足らずに存在していなかった。

 

体育館に全男子が集められ、ISに繋がれた検査機材に次々と触れていく

当然のように誰も反応せず、流れ作業のように続々と検査機器に触れていく

中には我こそはと、意気込んでいる者もいるが例外なく玉砕している。

 

そして、僕は一人冷や汗をかいている。

体育館に入ってから、ずっと声が聞こえるのだ。それも複数の子供が話している様だ。

 

GS美神の世界なら浮遊霊が、そこら辺にいるので、気にもしていなかったが

 

『この人も僕の声が聞こえないみたいだね~』

 

『あの、織斑って人も僕らの声が聞こえてないみたいだけど、お母様の指示だからね』

 

『やっぱり、この人達は僕らの声が聞こえる人はいないのかなぁ』

 

 

ここにいるぞ!って叫びたいけど、叫んだ瞬間に人生が終わります。

 

どんどん列がISに近づくにつれISに御霊が封じられている、そんな印象を受ける。

 

しかし人間の御霊ではないような、違和感があるのだが・・・

 

 

そして、ついに僕の順番になってしまった。

 

躊躇していると、検査官の女性が早くしなさいよ。

どうせ動かないんだからこのクズって目で見てくる。

画一的に「横島優さんですね。この検査機材に触れてください」そうアナウンスをする。

 

覚悟を決めて検査機材に触れた。

 

その瞬間にISの声が鮮明に脳内に響く

 

『こんにちわー名前も無いISで~す』

 

こちらも霊力を込め脳内でこんにちわ、横島優です。と返事をした。

 

 

『・・・・・・・え?』

 

『ちょっとみんな集合!僕らの声が聞こえる人がお母様以外にもいたーー!!』

 

ちょ、ちょっと待ってそんなにいっぱい話されてもわからないよ。

 

『ご、ごめんね。また今度ゆっくりお話ししようね』

 

 

しかし、ISに触れてわかったことがある。

 

ISには御霊が封じられていると思ったが、渋鯖人工幽霊のような感じだ。

 

この世界には神秘が極端に少なくなっているが、それでも女性のほうが

比較的強い霊感を備えているのだろう、そしてISと感応する能力、

つまり巫女として能力が適正ランクに反映されているかもしれない

前の世界でも霊能者には女性が多いことから女性にしか乗れないのだろうと思う。

 

そして僕に表示されたIS適正は”EX”だったのだ。

 

IS世界での生活が今、始まる。

 




付喪神、専用機というキーワードだけで書いただけなので
本編には一切関係していません。

ISコアに人格があるって言う設定は結構多いから、いいよね。


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1.目覚めは撲殺から

1.目覚めは撲殺から

 

 

 

 

いつもの様に疲れて仕事から帰宅し、少し酒を飲んで風呂に入り

ベッドに横になると気がついたら目覚まし時計が鳴り響き朝を告げている。

そんな生活が続いていた。

そんな中、本当に久しぶりの休日に自宅から1歩も外出する気は起こらず、ネット通販で全巻まとめ買いをしたGS美神極楽大作戦を全巻読んでいた。

 

「本当に横島君はすごいな。荷物持ちから始まり、最後は魔神アシュタロスを討伐するなんて」

「こんな霊能力があれば、ちょっとは違った人生だったんだろうなぁ」

 

そんな事を考えながら、休日の日差しが心地よく昼寝をすることにする。

たまにはこんな贅沢もいいだろうと思いながら。

 

「いかんな、昼寝をしてしまったせいか、全く眠くない。」

「明日も会社があるのに・・・」

 

何気なく眠気が来るまでおとなしく横になっていたが、ふと昼寝をした時に見た夢を思い出していた。

昼寝前に読んでいたGS美神極楽大作戦に登場する横島君の霊能力の文珠が何故か自分が使える夢を見ていた。

 

夢のことだから内容は本当に意味不明だったが、文珠の使い方、作り方は何故か克明に覚えていた。

彼が漫画の登場人物で、自分は現実に生きている。もちろん夢で覚えている通りに

文珠を作ろうとしてもできるわけもない。

もう30歳も超えたおっさんが今更中二病かよと思わず自嘲したくなる。

そういえば、夢は何故見るのだろうか、何かのテレビ番組で見たのか、本を読んだのか、それとも

HPを見たのかどこでみたのか詳細は覚えていないが

 

曰く、夢は脳が寝ている時に記憶を整理するための作業をしている状態で何も意味がない。

 

曰く、夢は精神が体から抜け出し、平行世界または多重世界を旅をした記憶を思い出している。

 

曰く、前世の記憶を再体験している。

 

脳科学的なものからひたすら怪しいオカルト系まで諸説あるが

現実に生きている自分は脳が記憶を整理しているだけだろうと考えていた。

そうしている内にようやく眠気が訪れ、先ほどまで眠れなかったことが嘘のように

急激に眠気が襲い意識を失うように眠りについた。

 

 

 

 

 

 

「20時のニュースをお送りいたします。最初のトピックスですが」

「名古屋市のアパートから男性の遺体が発見されました。」

「この男性の勤務している会社では、以前から過重労働が問題となっており、男性の過労死の疑いも持たれています。」

「また室内に荒らされた形跡はなく、警察では事故と事件の両面で捜査を続けています。」

「過労死問題も政府の働き方改革の重要事項となっており、世間の注目を集めそうです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よ・・・!」

 

「よこs・・・・・・!」

 

 

目覚まし時計とは違うが、何か大声のようなものが耳にはいり、目が覚めていく。

目を開くと赤い髪の女性が特殊警棒のようなもの振りかぶり、自分の頭へ振り落とされたのを確認して

信じられない激痛を感じ、頭部からヌメるような感覚を覚え手で拭ったが、手についた血を見てまた意識を失った。

 

 

「横島ー! 寝たふりをやめてさっさと起きなさい」

 

「ちょっと横島、本当に時間が無いから、遊んでないでさっと起きて準備しなさい。」

 

 

横島の身体を揺さぶるが身動き一つとらない。

 

 

「やだな、横島君本当に時間が無いから起きてよ。」

 

 

神通棍で頭部を殴打され、出血を伴い意識を喪失しているため非常に危険な状態である。

 

 

「あぁーこれはやばいかしらね・・・」

「とりあえず、事故ってことで病院に運びましょう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再度、目を覚ますと白壁に囲まれた病院のような場所だった。

ベットに寝かされて身動きを取ると、頭が割れるように痛みを発している。

 

 

「知らない天井だ」

 

 

有名過ぎるセリフを30歳超えのおっさんが吐くにはちょっと痛いものだったと自覚し

あたりを見渡した。

病院のようだが、何故こんなところにいるのだろうか?

最後に見た記憶があるのは、赤い長髪の女性が自分に特殊警棒のようなものを振り落とした姿だ。

茫然自失の状態でしばらく過ごしていると、病室のドアが開いた。

 

 

「良かった。横島君目が覚めたのね。」

 

 

そう言って笑顔で赤い長髪の女性が自分に声を掛けるてくる。

 

 

「部屋を間違えていませんか、横島って誰ですか?」

 

「横島君、あなたのことじゃない」

 

「間違っていますよ。自分の名前は・・・」

 

 

自分の名前がまったく思い出せない。

思い出そうとすると頭が割れるように痛い。

 

 

「名前を思いだそうとすると、頭が割れるように痛い」

 

「そんな嘘よ・・・」

 

 

赤い髪の女性は画面を蒼白にしてそうつぶやいた。

そんな女性を横目で見ながら、割れるように痛む頭を抱えながら視界が黒くなっていき、また自分は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続くのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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2.神様登場

2.神様登場

 

 

気が付くと、先ほどの病室とは違い何もない真っ白な空間だった。

ネット小説ではよくある神様降臨のパターンなんだろうが、白い空間がひろがっているだけで

自分しかいない。

幸い重力があるのか、立っているような感覚は感じられる。

夢で無いとしたら頭がおかしくなってしまうような感じするする。

そんな空間だった。

 

時計がないので、どれだけここにいたのかもわからないが、

3人の人物が在らわれた。

たぶん神様か、それに類する方なのだろうと思い頭を下げる。

 

「お待たせしてすみませんね。頭を上げてください。突然こんなことになってしまい我々も慌てていたのです。」

 

「そうやで、とりあえず話しやすいようにフランクにいこ」

 

「まずは自己紹介ですね。私の名前はキリストといいます。キーやんと気軽に呼んでください。」

 

「わいはサタン、さっちゃんでええで」

 

「私の名は仏陀、ぶっちゃんでお願いします。」

 

思わず告げられたビックネームに驚き、以外と神様軽いなとバチ当たりな事を考えてしまう。

しかし、本当に神様にそんな気軽に接してもいいのか戸惑っていると考えを読んでいたのか

サタン様が答えてくれる。

 

「ええて、ええて、ここは夢の中みたいなもんや、君の他におらんし楽にしてええよ。」

 

本当に良いみたいなので、まずは現状を尋ねてみた。

 

「ちょっと前まで、異世界召喚やら転生やらでやたら日本人の引き抜きが多かったのですが

天照のあーちゃんがブロックしていたおかげで最近はそんなこともなかったのですが、

召喚できないと連発してきたせいで術式がおかしな干渉してしまったことと、

偶然とも言えるようなタイミングで貴方の魂が抜けてしまったことで召喚していた世界とは違い

事故のようにこのGS美神の世界に召喚されてしまいました。」

 

「普通なら魂が抜けても覚醒すれば夢を見ていたと思うのですが、今回はタイミング悪く多重世界の壁を超えてしまいました。」

 

「最近はなかったから、あーちゃんも油断しとったんやな、君に謝っておったで」

 

どうやら自分は寝ていたつもりだったが、過労のあまり魂が抜けてしまったようだ。

 

「あの、元の世界に戻れるのでしょうか?」

 

戻ったところで、どうせ社畜の会社員なので大した未練もないが、PCのHDDだけは処分しておきたかった。

戻れないなら仲の良い友人が気をきかせて処分してくれていることを願うしかない。

 

「召喚された時に発する時空振動を感知した時点で探知をしてみたが、時間の流れが違うせいで貴方の身体は荼毘に伏されており、残念ながら戻り先がないのです。」

 

「君の懸念してるHDDは友達がフォーマットかけてくれたみたいやで」

 

もう元の世界の身体は火葬されてしまい、元に戻ることは出来ないようだった。

 

「あなたには幾つかの選択肢を提示できます。この場で決めていただく必要はありますが、ゆっくり考えてください」

「一つはこのまま元の世界の輪廻転生過程に入ること」

 

「召喚されてしまったGS美神の世界線でこのまま生きること」

 

「まったく違う世界に転生すること。」

 

死んでしまったものは仕方ないと半ば諦めの境地で元の世界の輪廻転生過程を選ぼうとしたが

死ぬ前に読んだGS美神の冒険のことが頭によぎり、未練を残す。

それに疑問に思うことがあった。

何故、3柱の神様達はわざわざ自分のために降臨していただき、選択肢まで提示していただいたのか?

そんな事を考えていると今度はぶっちゃんが答えてくださった。

 

「私とキーやんが立川で休暇をとっていましたが、あなたにはその時にお世話になったのです。」

「あなたが出張で立川に来ていたとき、会社には内緒ですよと電気の修理をしていただきましたよね。

私たちのことは仕事外の出来ごとで無視をしても構わなかったのに、困っていた私たちに快く対応していただいて嬉しかったのです。」

「そのせいで時空振動に気づくのが遅れ、さっちゃんからの連絡を受けてから確認したので遅れてしまい結果として、貴方には残念なことになり申し訳なかったですが」

そういってぶっちゃんとキーやんはこちらに頭を下げる。

 

「それにあーちゃんからの詫びもあったからの、そんでわいらがきたわけや」

 

そんなぶっちゃんとキーやんの姿に恐縮してしまう、立川の事は覚えている認識阻害の効果だったのか

お二人とはわからなかったが、困っている姿を見て仕事が増えるのがわかっていたがどうしても見捨てられなかった。

 

 

「天照様はご降臨されないのですか?」

自分は日本人らしい宗教観で特に特定の信仰はしていなかったが、神道の考え方は好きだったため

せっかくのこの機会に天照様にお会いできるならば、お会いしたかった。

 

「あぁ、あーちゃんなぁ 君どちらかといえば神道を信仰しておったやろ、そのせいであーちゃん特に張り切ってな」

「そうなんです。まさにブチギレ状態で、私の可愛い子をこんなに目に合わすと言って怒ってました」

「私もあの状態のあーちゃんには近づくのは控えたいですね」

「それで恩もあったので私たちが来たわけです。」

「それにこの世界ならあーちゃんにも会えるで」

 

そうさっちゃんがさらっと重要なことを漏らす。

たしかにGS美神の世界は悪霊、怨念、魑魅魍魎が跋扈する世界かもしれないが、神様や魔族もいる世界でもあるのだ。

会いに行ける神様というのも素敵かも知れない。

それに何故ここまでGS美神の世界を推してくるのかとても気になる。

社畜の会社員としての経験が、頭に警報を鳴り響かせる。

 

「実を言うとですね。折檻を受けて横島君の魂が抜けたところに攻撃的な霊波の煽りを受けて消滅してしまったのです。」

「そこに召喚されたあなたの魂が横島君の身体に憑依したわけです。」

 

まさに衝撃の事実だ、しかし横島君がいなければGS美神の世界は成立しないだろう

 

「たしかにそうなんですが、すでにこの世界は横島君無しで成立してしまい、未来も不確定、白紙の状態になりました。」

「平行世界が新たに生まれたってことやな、だから君の好きにしてもええで、それに君がはいった程度で世界は壊れへん、せやかてそのまま横島君がおるほうが都合がええ」

 

横島君の身体に自分が憑依している状態らしい世界の状態しては不自然な状態になっていないようで、そのまま好きに生きても、野垂れ死にしても世界は回るようだ。

とは言え、この世界は魑魅魍魎が闊歩する世界、ましてや主人公の横島君は人外ホイホイ、憑依したただのおっさんでは事件に巻き込まれれば生き残ることは難しいだろうというのは想像に固くない。

事件に巻き込まれれば生き残ることは難しいだろうというのは想像に固くない

ただのおっさんでは妄想ブーストで霊力は上がらないし、ギャグパートなら次のコマで怪我が治ることもありえない。

いまも美神さんに頭をかち割られて入院しているわけだしなぁ・・・

 

「君の考えていることもわかるで、まぁある意味わいらはそのために来たんやけどなぁ」

 

「この世界で生きることを選んでくれるなら恩もあるあなたの為に力を授けます。」

 

「あーちゃんからも宜しくとお願いされていますし、召喚事故の慰謝料という面もあります。」

 

この世界で生き抜くことを決心したら、神様達は力を授けてくれるらしい。

これならこの世界でも生き抜くことはできるか。

 

「しかし、世界を壊すような力は無理やで」

「それにその体ならいずれは文珠を使えるようになると思いますよ。」

「さて、どんな力を望みますか?ちなみに科学と霊力は相反しますよ。」

 

科学と霊力は相反するということは、文殊を選んだ場合は一方通行などの超能力は使えないということだろう。

その逆もしかりだ、超能力を選んだ場合は文殊への到達は不可能になるんだろう。

 

「その考えであっています。血反吐吐いてのたうち回ることになります。」

 

やはり科学と霊能力の相性は悪いみたいだ。

除霊具が高いのは科学の世の中に、霊能のような訳の分からない、実在するが観測することが困難な能力であり、それを科学で再現するために高価になってしまうようだ。

それを科学で再現するために高価になってしまうようだ

 

「とりあえず、欲しい能力があれば言うだけ言ってみればいいで」

「そうですね。魂の容量があるので全てを叶えるのは困難ですが」

「わかりやすく言えば、魂というメモリの容量があるので、どれだけアプリをインストールできるかということになります。」

「君の場合、多重世界の壁を超えたせいで名前も剥奪されて白紙の状態だから結構はいるで」

 

GS美神は漫画の世界とは言え、そこに住んでいる人たちは現実世界と同じこと、ただ元の世界に霊能力という要素が加わっただけの世界、物理法則も同じだしどんな能力なら大怪我をせずに生き延びることができるだろうか?

要素が加わっただけの世界、物理法則も同じだしどんな能力なら大怪我をせずに生き延びることができるだろうか

やはり逃げるための能力は重要だろう、しかし空間移動などの超能力では文殊が使えなくなってしまう・・・

いや、そもそも危険につっこんでいくことが間違っている。

前回の人生では出来なかったことをしたいが、普通に生活ができればいい大前提が違うんだ。

 

「では相談させてください。自分が欲しい能力と才能はD-LIVEの斑鳩君の運転技術、スプリガンの御神苗君の身体能力とそのポジティブな精神力が欲しいです。

当然文珠を作成する能力は欲しいですが、霊能力を鍛えて行くしかないと思っています。」

 

D-LIVEの斑鳩君の驚異とも言える運転技術があれば、現代において何かしらの仕事があるだろう。

それにスプリガンの御神苗君のポジティブな精神力にも憧れを覚える。

あれだけポジティブなら人生は明るく過ごせるだろう。

 

「なるほど、アーマードマッスルスーツなどの装備品はないですが、それは大丈夫ですね」

 

「はい、彼の精神力に憧れているので、装備品については二の次です。」

 

「魂の容量的にも大丈夫ですね。サービスで元の世界で獲得した電気技術の経験値はそのまま生きているようにしておきます。」

 

「それでは貴方に力を授けましょう」

 

自分の身体が一瞬発光し、頭に運転技術の感覚などが溢れてくる。

これが力を授かったということなのだろう。

 

「では、これから頑張って生活してください。本当に頑張って・・・」

「(いや、君が巻き込まれんように生活するなんて無理やろ・・・」

「あなたの活躍を神界から見守っていますよ。(立川からかもしれませんが・・・)」

 

さっちゃんがなにか不穏な事を呟いたように聞こえたけど、視界が白くなっていき意識が遠くなっていく。

退院して普通の生活に戻ったらまずは、伊勢神宮にお礼のご報告にお参りにいこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




巻き込まれないように普通の生活を目指すことにしましたが、その身体は人外ホイホイの横島君、トラブルにはこと欠きません。


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3.美神令子との応酬

3.美神令子との応酬

 

 

 

意識が覚醒し、うっすらと目を開けると白い壁が視界に入ってきた。

まだ、神様にお会いしたあの空間かと思ったがどうやら病室のようだ。

周りを見渡してみても、誰もいない。

日は登って室内は明るいが、時計が無いので時間がわからない。

どうしようもないので、ナースコールを押すことにする。

しばらく待っていると、パタパタと足音が聞こえる。

 

「横島さん目を覚ましましたか?あなたが倒れてから丸一日経過しましたがお加減は大丈夫ですか?」

 

「頭が痛いが大丈夫そうです。それと横島とは誰ですか?」と伝える。

 

「先生をお呼びしますので、そのまましばらくお待ちくださいね。」

 

そういって看護師さんは酷く慌てた様子で病室をでていく。

 

待っている間に先ほどの邂逅を思い出すが、本当に力を授かったようだ。

身体能力は御神苗君ほどでもないが、運転技術、知識は頭の中になる。

今までは絶対にできなかったが、ヘリに乗っても操作はできそうだ。

そんな感じでちょっと浮かれていると、白衣を着た男性が病室に入室してきた。

 

 

「横島さん、気分はどうですか?」

 

先ほど看護師さんに伝えたように、頭が痛いが大丈夫そうですと伝えると

 

「よかったです。頭部に打撲があり、一時は意識不明、脈拍も弱まりここが峠かと思いましたが

なんとか持ち直せたようです。」

「ところで横島さん、先ほど看護師に横島とは誰ですか?とお尋ねになられたそうですね?」

 

自分が横島君の体に憑依していることはすでに認識している。

この世界には元の世界ではあった、自分の戸籍が無いであろうことも想像に固くない。

それにその氏名を思い出せない・・・

自分はこの世界では社会的に死んでいるも同然なのだ。むしろ生まれてすらいない。

最初は御神苗とでも名乗ろうと思っていたが、横島君に憑依したことが判明した。

これまでの横島君の態度も自分が憑依したことで未来が変化してくる。

今の時代、あのセクハラは完全に警察のご厄介になる未来が見える。

それを誤魔化すにはいっそ、記憶が失くなったとでも言って、生活したほうが何かと自由が効くだろうと思う。

この記憶を失くしたフリが今後どうなっていくのが判断できないが、少なくとも頭部を負傷しているので性格が変わっても疑われることはないだろう。

 

 

「はい、酷く混乱しています。自分の名前、住んでいる場所、自分に関することが思い出せないです。

思い出そうとすると頭が割れるように痛みます。幸い日常生活を送れそうですが・・・」

 

「そうですか。まずは簡単な検査をしましょう、ちょっと待っていてください。」

 

そう言うと医師は部屋から出ていく。

 

医師が書類の挟まったバインダーを持って、戻ってくると色々と質問を投げかけてくる

自分の姓名氏名、住んでいる住所、家族構成、通っている高校について等多岐に渡って質問された。

頭部を怪我しているのでその痛みを感じながら、わかる質問には素直に答え、それ以外は素直にわからないと答える一応矛盾はないはずだ。

 

「一応横島君と呼ばせてもらうよ。君は自身のことに関する記憶を失っているようだね。通貨や国の名前は分かっているようだから日常生活には問題はないだろう」

「まず頭部の怪我のために3日程度静養をしなさい。その間に思い出すこともあるだろう。でも無理はいけないよ」

 

そう言って、医師は病室から出ていく。

 

さて、とりあえず3日の猶予はできたが、これからどうやって生活していこうか

まずはやはり、横島君のご両親にご報告しないとまずいだろうなぁ。

たしか、横島君は一人暮らしだったはずだし、筋をとおしておかなと後々面倒なことになりそうだ。

しかし、あなたの御子息は折檻により亡くなりましたとは口が裂けても言えない。

美神さんに個人的には恨みもないし、自分としてはこのまま事故ということで話を合わせて

流してしまってもいい。ただ横島君のような極貧生活はするつもりはサラサラないので

無論慰謝料というか口止め料はいただくつもりだけど

 

実際のところGS免許取得しているのか、取得前なのかで話は変わりそうだが

どちらにせよ。GSは諦めて平穏無事な生活を目指すことにしよう。

まずは美神さんと相談だな、そこまで考え傷を癒すために目を閉じた。

 

 

 

 

 

物音がして目を覚ますと病室に美神さんがお見舞いに来てくれた。

こうやってみるとスタイルの良い切れ長の目を持つ美人だ。

横島君が執着するのもわかる気がする。

そんな事を考えていると、美神さんから声がかかる。

 

「横島君、心配したのよ。そのくらいの傷いつもならすぐに治るじゃない」

 

そうか、まだ美神さんは横島君が亡くなったことは知らないのか

 

「すみません、横島とは僕のことだと思いますが、あなたは誰で僕とはどんな関係の方ですか?」

 

そう答えると、美神さんは顔を顰めてこう答えてきた。

 

「私の名前は美神令子、GS美神よ。あなたは私の丁稚でGS見習いってところかしらね」

 

「GS見習いということは、僕はGS免許の取得はできているわけですね。」

 

「ええそうよ。しかし本当にあなた記憶がなくなっちゃったの?」

 

「そのようです。自分に関することは一切に記憶にありません。」

「最後に見たのはあなたに頭をかち割られるところまでです。」

 

「それは横島君がセクハラをしてきたからでしょ」

 

「仮に僕がセクハラをしたとしても、頭を殴打して記憶を失うまで殴るのは常識的にどうかと思いますよ。」

「この件は事故として処理をしていただいても結構ですが、口止め料と慰謝料はお願いします。」

「それと僕の両親を呼んでください。まだ両親の顔を見ていないので、この怪我のことを話していません。」

 

「い、慰謝料って横島、あんた私を脅すつもりなの!?」

 

「いえ、そんなことはありません。あくまで事故だったのでしょう?」

「ただ、怪我をした従業員に対して治療費や見舞金があってもおかしくはないでしょう。」

「それに未成年のアルバイトが事故とはいえ、記憶を失うような怪我を負うというのは事務所的にどうなんでしょうね?ねぇ美神令子さん?」

「以前の横島君は記憶を失ったことにより、死んでしまったも同然なんですよ。それを理解していますか?」

 

そこまで言うと、丁稚の分際でと怒り出すが、流石に手は出してこない。

 

「治療費、慰謝料の件は僕の両親と話してください。すみませんが頭が痛いので寝させてください。」

 

そう告げると、目をつぶって寝る体勢に入る。

実際頭が痛いのは、本当なのだ。いきなり頭をかち割られる方の身にもなってほしい。

 

美神さんはしばらく自分のことを睨んでいると、病室をでていった。

横島君の両親に電話連絡をしておかなければならない、幸いなことに生徒手帳に電話番号が記載されていた。

ご都合主義此処に極まりだが、ありがたく思う事にしよう。

しかし対応を相談するつもりだったのに、自分も頭をかち割られた事を思ってる以上に怒っているようだ。喧嘩別れのようになってしまった。

 

 

 

 

 

美神サイド

 

丁稚の分際で勝手なことばかりと、憤りを感じたが、

「以前の横島君は記憶を失ったことにより、死んでしまったも同然なんですよ。それを理解していますか?」

この一言を聞いて、冷水を浴びせられたように血の気が引いた。

いずれ記憶が戻り、元の横島君に戻るかもしれないけど、戻らなかったら

肉体的には無事でも精神的には私が殺してしまったことになる。

そう思うと、無事に記憶が戻ってくるのを祈るしかない。

ほんの数日前にはセクハラ小僧と思って折檻したことすら懐かしく感じてしまう。

 

「私はGS美神令子なのよ。しっかりしなさい」

 

そう呟いて自身を鼓舞する。

 



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4.母の愛情

4.母の愛情

 

 

 

 

 

 

 

 

また、そのまま寝ていたようだ。

横島君のご両親に今回のことを連絡をするべく、立ち上がる。

電話を探しながら時差に気を付けないとすでに就寝しているかもしれないと思う。

 

 

「いや、ちょっと待てよ。時差の前にナルニアってどこにあるんだ?」

 

 

そもそも、ナルニアって地球上のどこにある国なんだろうか

元の世界ではナルニアなんて国はなかったはずだ。通称国連、国際連合加盟国を全て覚えている訳も当然ないがナルニアなんて国は聞いたこともない。

こちらから行こうにも場所がわからない、それに場所がわからない以上どれだけ時差があるかもわからない。

御神苗君の精神を受けているせいか、非常に冒険心が疼く、一度は行ってみたい。

 

 

そういえば、ザンス王国もどこにあるんだろうか、イメージ的には太平洋の孤島という感じだが

これも元の世界には無い国だ。

元の世界では命懸けになるような未知の世界なんて無かったが、この世界は体の奥底からぞくぞくするような好奇心が沸き立ってくる。

 

 

深呼吸をして一旦気分を落ち着ける。

いま、高揚したところで何の意味もないし、横島君は極貧生活だったはずなので冒険に行く金も無いだろう。

まずは一つ一つ問題を解決していこう。まずは電話を探さないと・・・

 

 

電話機を見つけたので、時差のことは忘れて電話してみよう。運がよければ電話に出てくれるかも知れない。

数コールした後に繋がった。

 

 

「もしもし、横島さんのお宅ですか?」

 

 

「おい、お前忠夫か?美神さんから連絡があって除霊中の記憶喪失と聞いたぞ、大丈夫なのか」

 

 

「自分自身に関することはほとんど記憶にありません。あなたは僕のお父さんなんですか」

 

 

「お、お父さんってお前、いつも親父って呼んでいただろう!」

 

 

「落ち着いてください。僕自身も記憶が失くなり混乱しているんです。」

 

 

深いため息が受話器越しに聞こえる。

 

 

「そうか、まずは自己紹介をしよう、お前の父の横島大樹だ、母は百合子という。」

「いったい、どんな状況なんだ?」

 

 

「先程も話しましたが、自身に関することは殆ど覚えていません。ただ日常生活を送る分には問題はなさそうです。」

 

 

「そうか、やはりこんなことになるなら、首に縄をつけてもいっしょに連れてくるんだった・・・」

「百合子が美神さんからの電話のあと、すぐに日本に出立した。日本時間の明日にでも病院につくだろう」

「今後の話は百合子としっかり話してくれ」

 

 

電話越しに誰かの声が聞こる

 

 

「大樹さーん、誰と電話なのー?」

 

 

「すまんな忠夫、俺はいまとても忙しいから じゃぁな」

 

 

そう言ってブツっと電話が切られる

まさか一人息子がこんなことになっているのに・・・

 

 

明日来日してくれるようなので、今日はゆっくり休むとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日になり、百合子さんが朝から来ることはないだろう思っていたが、来院したのは夕方になってからだった。

そして開口一番でこう言ってきた。

 

 

「美神さんのところは、今日付で辞させてもらったよ。」

「退職金の代わりと言ってはなんだけど、治療費と慰謝料ももらってきて上げたからね。」

 

 

そうか、来院が遅くなったのは、美神さんところによってきたせいか、流石に行動が早いな。

 

 

「あなたが、僕の母の百合子さんですね。」

「美神さんのところのアルバイトについては、分かりました。僕も記憶がない状態では危なくて仕事ができませんからね。」

「いずれやめようとは思っていました。それに今彼女にはあまり会いたくないので貴方にお願いしようと思っていました。」

 

 

同じ容姿でまったく違う性格の息子はそう告げてくる。

事故だったとは言え一人息子を日本に置いて来たことに対する怒りが今更のように自身に湧いてくる。

途中に可愛い感じの看護師さんが病室に訪れても、これまでのように見向きもしない。

あれだけ美神さんに拘っていた子なのに、まったく未練がなさそうなんて本当に人が変わってしまったようだ。

私の直感がこの子は忠夫ではない、そんな感じがした。

それでつい口からこんな言葉が溢れでた。

 

 

「あなたは本当に忠夫なの?」

 

 

その言葉を聞いた瞬間、忠夫がとても辛そうな顔をした。

やはり親に信じてもらえなかったのはつらかったのだろうと私はその時そう思った。

しかし、意外にも忠夫からは別の言葉が出てきた。

 

 

「すみません、貴女の息子の忠夫君は今はいません。無論この身体は遺伝子上は貴女の子供で間違いありません。」

「ただ記憶や経験を喪失しているので、僕は忠夫君の抜けた身体が自己防衛的に作り上げたゴーストのようなものです。」

「実際には違うかもしれませんが、僕はそう感じています。」

「忠夫君の記憶が復活したら、僕はその時に消える、そのような幽霊のような代物なんです。」

「怪我が回復したらいずれ忠夫君は戻ってきます。安心してください。」

「それまで僕が忠夫君のフリをして代わりに学校にいけば、彼の学歴にも傷はつきません。」

 

 

そうやって、私を安心させようと怪我が治れば忠夫は戻ってくる、大丈夫だと言葉は少ないが必死にこの子はいっているが、

私の母としての直感はすでに忠夫はこの世にいないように感じていた。

それにこの優しい子は私の為に嘘をついているとも思った。

 

 

「貴方に名前はあるの?」

 

 

彼にそう尋ねた。

 

 

「僕は過去のない幽霊みたいなものなので、名前はありません。先程も言いましたが生命維持のための幽霊みたいなものです。」

 

 

そう答えてくる彼のなんでもなさそうな顔を見て、忠夫のことがオーバラップしただ抱き締めて泣いた。

 

 

「もうわかってしまったわ、忠夫はもうこの世にはいないのね。」

 

 

彼はそんなことは無いと言いかけたが、すまなそうに被りを振り

 

 

「僕にもわからないんです。彼の記憶が戻ってくるのかどうか」

「ただ、あなたが本当に辛そうなので、僕はこのまま消えればいいと今は思っています。」

「僕が消えれば、きっと元の忠夫君に戻ると思うから」

 

 

そう言って彼はおずおずと私を慰めるつもりなのか抱き締めてきた。

 

 

「あなたは優しい子なのね。そうだわあなたは優と名乗りなさい。」

「忠夫の双子の弟ということにすればいいわ」

 

 

名案だとばかりに百合子さんがそんなこと言ってくる。

 

 

「百合子さん、名を付けるという行為はこの世で最も強い言霊なんです。その存在を肯定して在り方まで決めてしまう

そんな行為なんです。忠夫君が戻ってこれなくなりますよ。」

 

 

百合子さんの泣く姿をみて、自分は偶然とはいえ忠夫君の身体に憑依するなんて、なんと馬鹿なことをしてしまったんだと思い、諭すように百合子さんに告げる。

 

 

「もう名前をつけてしまったわ、あなたは横島 優なのよ。忠夫の双子の弟の優、忠夫とは違いナルニアにいっしょに着いてきたの」

 

 

百合子さんに名づけられた瞬間、この世界に認められたように存在が固定されたような感じがした。

今まで半分夢のことのようだったふわふわした感じが失くなり、この世界に対して現実感が増した。

 

 

「まずは怪我を早く治しなさい。怪我が治るまでは日本にいるわ、だって優が心配なんだもの」

 

 

そういって、百合子さんは笑いながら頭をなでてくる。

自分が僕になった瞬間だった。僕は息子を亡くし、とても悲しいはずなのに、僕の事を肯定し認めてくれた百合子さんを絶対に裏切ることはできない。

 

 

病室を出ていこうとする。百合子さんに声をかけて引き止める。

 

 

 

 

「これは言わないでおこうと思っていました。これ以上貴方たちの家族を壊すつもりは毛頭ありませんでした。

しかし、百合子さんに対する裏切りは僕は許せそうにありません。大樹さんがこれをチャンスとばかりに浮気しているみたいです。」

 

 

 

 

優がそんな事を言ってくる。流石にうちの宿六も可愛い息子が記憶を失っている時にそんなことはしないだろうと思うが、万が一ということがある。

安心を得るために、一応彼に電話をかけてみた。

 

 

「おう、忠夫か父さんいま忙しいから後にしてくれ」

すぐに背後から声が聞こる

「大樹さーん、もう今いいところなんだから電話なんてでない・・・」

 

 

「あなた、忠夫が記憶を失って別人のようになっているのに、何をしているのかしら?

もういいわ、あなたには愛想が付きました。その彼女と仲良くしてなさい。離婚よ私は優と日本で暮らすわ」

 

 

「ゆ、百合子!?それに優って誰なんだよ」

 

 

「あなたには関係ないわ、あとで弁護士をよこすわ」

 

 

それだけ告げて電話を切る。

一人息子が怪我をして、まして記憶喪失になっているときにあの宿六は浮気だなんて、完全に愛想が尽きたわ。

 

 

夫は元はただの他人だが、優は家族だ。それに優は私を裏切らないと言ってくれた。

忠夫がいなくなったことは本当に悲しいが、同じ容姿の性格もいい優がいてくれる。

 

 

「ふふ、あぁ私の可愛い優、あなたと暮らすにはあのアパートは狭すぎるわね。さっそく他を手配しないと、それにあのバカに離婚届をおくらなくちゃ、待っていてね私の優」

 

 

 




あれ?なぜか百合子婦人がヤンデレ気味になってる・・・


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5.退院とアルバイト探しと初除霊

5.退院とアルバイト探しと初除霊

 

 

 

 

 

百合子さんに名前を付けてもらって、世界にその存在が固定されたからなのか、

はたまた忠夫君の回復能力なのかどれかは分からないが、翌日には怪我は回復した。

 

退院前の検査でカエル顔の医師は驚いた顔で驚異の回復力だとそう呟いていたのが印象的だ。

その医師から回復能力の解明の為に、血液の採取を依頼された。

僕も原因が分かれば知りたかったので、血液の採取に同意をした。

献血程度の血が抜かれたが、どうせ今日はもうアパートに帰って寝るだけだ。問題は無いだろう。

 

そうこうしている内に、百合子さんが退院の付き添いに病院まで来てくれた。

忠夫君のアパートの場所がわからないので表示に助かる。

 

病院から出ると、スルリと百合子さんが腕を絡めてきた。

胸が当たっている。百合子さん胸が当たっていますよ。これは当ててんのよってやつですか

顔が赤面してくる。

「百合子さん、その、胸が当たっています。」

 

「まぁ優ったら、私みたいなおばさんなのに、それに百合子さんって私は貴方のお母さんなのよ。」

 

「そんな百合子さんはとても綺麗で魅力的です。」

そうにっこり笑って百合子さんに告げる。

 

 

やだ優は息子なのに、一瞬ドキっとしてしまう。頬も赤くなる。

夫は好きだったのだ、それが似た顔の優に言われれば若い頃を思い出し心がときめく。

「私の目の黒いうちは、優は他の女になんてあげないわ」

 

 

忠夫君が住んでいたアパートに行くと思っていたが、そこは新築のマンションだった。

理由を聞くと、離婚したので僕と一緒に暮らしてくれるそうだ。

隣に住んでいた花戸さんやおキヌちゃんのことを考え、戸惑っていると百合子さんが

「私と一緒に住むのは嫌なのかい?」

 

と聞いてくる、そんなことは無い。

「百合子さんみたいな、綺麗な方と一緒に暮らすなんて、緊張してしまいます。」

 

「さっきも言ったけど、私はお母さんなのよ。百合子さんじゃなくてお母さんと呼びなさい。」

「・・・百合子さんと呼ばれると私が間違いを起こしそうだわ」

「引越しの時に隣の花戸さんにはご挨拶をしておいたわ、それに新しい住所も連絡しておいたから安心しなさい。」

 

 

まぁいいか、綺麗なお姉さんと住めるんだし

まずは、部屋の荷物を片付けようかな、忠夫君の部屋だからエロ本がわんさかデル来るかもしれないが・・・

とりあえず頑張って片付けよう。

百合子さんが、家賃や生活費を出してくれるかもしれないけど、自分の小遣いくらいは稼げるように何かアルバイトを探さないと

明日から学校に登校だし、出席日数もあぶないかもしれない。

 

 

 

 

 

翌朝、学生服に着替え百合子さんにお弁当をもらって登校の準備をしている時に気がついたが

学校の場所がわからない。

百合子さんに聞きに行くと、笑われた。

「優、あなた変なところで抜けているね。双子の弟が転入するんだから私も一緒にいってご挨拶と説明するわ」

 

「そうなんですか、母さんありがとう。」

 

「いいのよ。優、さぁ遅れる前に行きましょう」

 

 

 

 

 

何事もなく学校にし、到着転校の手続きをする。

そして僕の担任に挨拶をした。なんと忠夫君が在籍していたクラスに僕も転入するそうだ。

「初めまして、横島 優です。双子の兄がこの学校で大変ご迷惑をかけていたと聞いています。」

 

「・・・・君は本当に横島の弟なのか?」

 

「はい、兄がご迷惑をおかけしてすみませんでした。僕は今までナルニアに両親についていったのですが現地の政情が不安定になり

危険を伴うようになってきたので、日本に戻ってきました。慣れるまでの間ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします。」

 

「うぉおおぉ 横島の弟がこんなにまともだなんて!」

「いや、君が悪いわけじゃないのはわかっているんだが、どうしても横島と聞くとな」

 

「なんとなくわかるから大丈夫です。」

 

「そう言ってくれと助かるよ。では教室に行こうか」

 

「じゃぁ優、母さんは帰るから頑張りなさい。今晩はカレーよ。」

 

 

 

 

 

教室の前に到着し、担任の先生が「合図をしたら入ってくるように」と言われたので待っている。

 

自己紹介だろうが、いつになっても慣れるものではない

担任から呼ばれたので教室に入る。忠夫君と勘違いしているのか教室からどよめきの声があちこちで上がる。

 

教壇の上に立ち、クラスメイトを見渡して自己紹介をする。

 

「初めまして、皆さん、横島 優です。双子の兄が大変お世話になったと聞いています。」

「僕は両親についてナルニアに着いて行きましたが、現地の政情の不安定化にともない、日本に戻ってきました。」

「これからよろしくお願いします。」

 

 

「「横島に双子の弟がいたなんて聞いてないぞ」」

「顔は横島君だけど、落ち着いてちょっといいかもー」

「いや、でも横島の弟だぞ」

「ちょっとみんな、落ち着いて横島君の弟が茫然としているわ」

そういってクラスをまとめてくれたのは机妖怪の愛子さんだった。

 

「私は机妖怪の愛子よ。横島君にお世話になって今ここにいられるわ。ところでお兄さんの横島君はどうしたの?」

 

「兄は除霊中の事故で怪我を負い、今は静かなところで療養中です。なのであまり騒がないであげてください。」

 

そうだ、忠夫君の記憶が戻れば社会復帰することになっていた。復活が難しいことは百合子さんしか知らないが、僕の存在が世界に固定されてしまったいま

復活はむずかしいかもしれない・・・

 

「そうなの、わかったわ、横島君の弟君といつまでも呼ぶわけにいかないから優君と呼んでもいいかしら」

 

「もちろんです。愛子さん こちらこそよろしくお願いします。」

 

 

「さてもういいかな、横島優君、君の席は愛子君の隣だ。彼女にしばらく面倒見てもらえ」

担任の先生に座席を指定されたので、そこに腰掛ける。

まずは今日一日頑張ろう。

 

 

 

 

私は机妖怪の愛子だ。横島君が学校にきたと思ったら、その弟の優君だった。

横島君の弟だけあって、妖怪の私にも優しくしてくれる。

横島君に会えないのは残念だけど、落ち着いた感じのする優君も素敵だ。

こんなに私は惚れっぽかったかしら。

分かりづらいけど優しい横島君と落ち着いた感じ優しそうな優君、あぁ私はどうすればいいのかしら、青春だわー

 

なにか、愛子さんがクネクネしてブツブツ青春と呟いしているが、流石は青春妖怪なんだろうか

現物をみるとちょっと引くが、とりあえず放置でいいのかな?

 

放課後になり、掃除当番の人に掃除仕方を教わりながら、一緒に掃除をする。

 

 

 

 

下校途中に本屋を見つけたので立ち寄る。

オートバイの雑誌を見つけたので百合子さんにもらった小遣いで数冊買う。

元の世界でもオートバイは大好きだったのだ。

高校を卒業してから、大型自動二輪免許を取得して、働き出してもお金が貯まれば好きなオートバイにつぎ込んだ。

20代の頃はまだ暇があってので、最終的にはスズキの隼を購入してあちこちに出かけた。

スズキのバイクは他のメーカーに無い魅力があって好きだった。

友達には鈴菌保菌者といじられていたが、なんだかとても懐かしい感じだ。

この世界でも日本の4大メーカーはあるんだろうか、またスズキのバイクに乗りたいものだ。

 

それに高校2年なので、年齢的には普通自動二輪の免許なら取得できる。400ccまでだがオートバイに乗れるのは

魅力的だ。実際に日本の道路には400~750くらいのミドルクラスのバイクがちょうど良く思っている。

アルバイトを頑張ってまずは免許代を稼ぐことを目標としよう。

 

 

 

帰宅して、今で買ってきたオートバイの雑誌を読んでいると百合子さんが声をかけてくる。

「優、そろそろ晩御飯よ。あら何を読んでいるのかしら、まさかいかがわしい本じゃないだろうね」

 

「ゆ、百合子さん、そんな本じゃなくてオートバイの雑誌です。」

 

「あら、優はオートバイが好きだったの?」

 

「はい、頑張ってアルバイトをして自動二輪の免許をまずは取りたいです。」

 

「ふーんそうなの、じゃぁ知り合いの伝手があるからその教習所を紹介してあげるわ。」

「教習所代も出してあげる。16年分の誕生日のお祝いよ。」

「それに自動二輪をとれば、18歳の時に車の免許も学科無しでとれるからすぐに取れるわよ。」

「ただし、学校にはちゃんと通って。放課後に行くのよ。」

「あと、百合子さんじゃなくて、お母さんよ優」

 

 

 

 

百合子さんに教習所の代金を出してもらえて、喜び勇んで早速教習所の門を叩いたが

他の受講生と比べて、僕にだけ何故かやたら厳しい。

いや、入校当初はみんなと一緒にスラロームや一本橋、波状路なんかで練習していた。僕も前の世界の時と比べても

斑鳩君の能力のおかげか結構乗れてるとおもっていたけど、最近は僕だけアクセルターンやウィリーとか映画でやるようなバイクスタントのよう操作技術を習得した。

急制動にしても、水をまかれスリップするような過酷な環境での限界のブレーキング

ある時は、レーシング場に連れて行かれ徹底的に周回を回されて扱かれた。

ある時は、山や岩場に連れて行かれひたすらオフロードバイクやトライアルバイクに乗り不整地の走行練習

山に行った時には明らかに不似合いなオンロードバイクでダウンヒルを走り抜けた。

 

どう考えてもおかしいだろうと思い始めた時、今度は教習所の一室に閉じ込められ座学の勉強が始まった。

応急処置や救命救急ならまだわかる。なんで銃に撃たれたときの対処法や拘束された時の縄抜けまで勉強するのか分からなかったが・・・

教習所の教室では教本が山積みになり、教官が入れ替わり立ち替り入室して授業を進めていく。

免許試験センターで試験を受けた時には緊張感よりも解放感のほうが強かった。

こんな状態でもしっかり試験には合格していたので自分を褒めてあげたい。

 

正気に戻り後で百合子さんに聞いた話だが、あらゆる分野のスペシャリストを集めた国際人材派遣会社、Almighty Support Enterprise 通称ASEが経営している

ドライビングスクールだったらしい。一般人も教えるが、専用の養成コースもあったそうだ。

最初は本当に一般のカリキュラムだったらしいが、マルチドライバーの能力を持つ僕はあっさりその才能を見抜かれいつの間にか

養成コースに転向、教官たちの悪乗りもあって、見る見るうちにオートバイに関する技能を習得したそうだ。

平和に生きるつもりが、まさにどうしてこうなった・・・

 

まぁ運転技術が向上しただけならいいかと胸をなでおろすと、百合子さんが「貴方ASEのアルバイトになってるわよ」と言ってくる。

保護者の百合子さんにASEからこのまま就職しないかとアプローチがあったらしい。

確かにアルバイトを探さないととは確かに言っていたけど、操縦訓練で疲れきっている時に生返事で答えていたので

社員ではなく、アルバイトにしておいたと答えてくれた。

いやでも、悪いことばかりではない、ASEのアルバイトになったおかげで教習所の代金は安くすんだのだ。

それにASEの車両も貸出してもらえそうだ。

危険だけではない、良いこともきっとあるはず、そう思いたい。いやそう思っていないとやってられない。

そういえば、ASEの任務の時は特例で自動車も公道を走行できるそうだ。バックに多国籍企業アーカム財団がいるらしく、非常に強力な権力をもっている。

まぁアルバイトだし、余程大丈夫だろうとおもっていた矢先のことだった。

 

 

 

学校にいる時に、携帯電話が鳴った。ASEからの連絡だった。

半壊したビルに女性1名が取り残され、内部の崩壊も激しく通常の手段では救助に行けない。

そこでトライアルバイクで急行し、女性を救助するプランが立案された。

もちろん危険なので拒否もできるとのことだったが、ビルの倒壊がいつ始まるかわからず、女性も意識を失っているらしく危険な状態らしい。

他のASEドライバーも軒並み海外か日本に居ても遠隔地におり、駆けつけるのに時間がかかる。

現場近くに登録されたばかりだが、オートバイの操作に関しては問題なく、マルチドライバーの片鱗を見せた僕がいた。

人命救助ならと、OKを出したところ、本当に近くにいたようですぐにASEの車が学校に横付けし、エージェントが迎えに来てくれた。

 

 

今ならわかる。後悔先に立たずとはこの事を言うのだと。

ASEが用意したトライアルバイクにのって、人命救助と気合をいれてビルに突入し、要救助者は割とすぐに発見できた。

見つけたのは肩で髪を切り揃えた、少し幼い感じの女性だ。

六道冥子さんだ、発見した瞬間に除霊現場での式神の暴走だと理解した。

式神が暴走しても冥子さんは無事だが、なんらかのアクシデントがあり気絶してしまったのだろう。

 

冥子さんを救助し、さて脱出だと思った瞬間、僕の生存本能が警鐘を鳴らした。

十二神将によって、全ての悪霊は殲滅されたと思い込んでいたが、まだ残っていらしい。

よりにもよって、冥子さんを狙っているみたいだ。中途半端に除霊をされ怒りが沸いているみたいだ。

こんなことなら霊能力の使い方をもっと真剣に修行しておくんだった。

世の中、こんなはずじゃなかったことの連続だ。絶対美神さんのところに行って霊能力の使い方を教えてもらおう。

そのためにはまず逃げて生き残ることが優先だ。

 

悪霊の攻撃を避け、冥子さんが目を覚ましてくれることを期待しながら、とにかく逃げ続ける。

しかし、気絶しているのか熟睡しているのか一向に目を覚ます気配は感じられない。

そうこうしているうちに、死角から悪霊が壁を抜けてタイヤに絡みついてきた。

やばいと思った瞬間にはタイヤがロックし、そのまま滑るように転倒してしまう。

 

僕も冥子さんにも怪我が大したことなくてよかった。

くそ、袋小路に追い込まれた。ビルから飛び降りるか、いやダメだ高すぎる。

絶対何がなんでも生き残るんだ。なにか方法がないか考えろ。

 

一重、二重と悪霊に取り囲まれる。

悪霊の一斉攻撃を受けた瞬間から走馬燈なのか時間が遅く感じた。

まさか走馬燈ディレクターのSDさん登場なのか・・・

 

死を意識瞬間に体の奥底で鼓動を感じ、跳ね上がる。声が聞こえる。

「・・・・・・・・・・・・やる」

 

「・・・・・・ければくれてやる」

 

「ちからがほしければくれてやる」

 

「力が欲しければくれてやる!!」

 

眼前には六角形の霊気の盾が隙間なく複数現出した。

悪霊がぶつかってくるが、ヒビ一つ入ることなく、極めて強固なさまが見て取れる。

あの声一体、なんなんだ。

 

今は要救助者がいる。逃げることが第一だ。幸いエンジンもかかる。

盾を眼前に展開したまま一気にビルの外に駆け抜けた。

 

外で待機していたASEのスタッフに冥子さんを引き渡す。

あとはビルの悪霊だが、自縛されているのかビルからは出てこない。しかし倒壊したら悪霊が散らばらないとは限らない。

しかし、僕には悪霊を祓う手段がない。そう思っていたが、何故出来るかわからない、でも出来る、そんな気がした。

 

一体一体悪霊を払うことは出来ない。ビルを土地ごと浄化することにした。注連縄も紙垂も、除霊、祓具そのものが何もない。

そもそもASEの任務は冥子さんの救助だったのだ。

 

無い物は仕方がない神域の境界として霊気の盾を連結し、ビルを円で囲う

 

手に霊気を込めて、柏手を打ち、円の内側を簡易的に場の禊をした。

それだけで雑霊は払われた。

 

「祓い給え、清め給え 祓い給え、清め給え」

 

祝詞を歌い上げ言霊を発する。神道の禊は世界でも希な祓い清める事に特化している。

あらゆる一切の禍事、罪、穢れを祓い清める絶対結界、穢れ(悪霊)が近寄ることさえ許さない。

 

「高天原に坐す 掛けまくも畏き天照皇大神 

 

平に平に伏して願い奉る 

 

諸々の禍事、罪、穢れ、恨み、妬みを

 

祓い給え、潔め給えへと

 

恐れ恐れ申す」

 

一瞬、日の光が円の内側を照らし出し、盾で囲んだ結界内が一切の穢れを許さない神域とかした。

悪霊が存在すること出来なくなり、祓い清められた。

 

 

そこまで確認した後、霊力を使いすぎたのか僕は気絶した。

 

 

 

 

 

六道家メイド隊、冥子お嬢様専属のフミで御座います。

横島様は悪霊を祓い気絶してASEスタッフが運んで行きました。

一二神将の暴走により、半壊になったビルからの救助をASEに依頼したところ

やってきたのは横島様、いつもとは何やらご様子が違いましたが、バイクに乗りビルに突入していきました。

しばらくしてから、確かサイキックソーサーといった盾を展開してお嬢様を救助された横島様が戻ってまいりました。

 

驚愕したのはその後で御座います。

横島様がビルをサイキックソーサーを多重連結して円を囲み、その場で神域を展開し悪霊祓いました。

一部始終を冥奈奥様にご報告せねば。

 

 

 

 

 



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6.鍛えよ

6.鍛えよ。

 

 

 

 

 

難しいはずはない、不可能なことでもない。

元よりこの身は収束と圧縮に特化した霊能力

 

この場に散った無数の霊力の残滓、そして束ねるは星の伊吹とガイアの霊力

悪霊よ。恐れずに掛かってこい!! もしかすれば我が身に届くやもしれんぞ!

 

スターライトブレイ

 

 

 

悪霊さんにげてー 超にげてー

はっ!?一気に目が覚めた。なにか他の世界線の光景を見た気がする。

昨日、冥子さんの救助をして、僕は霊能力を使い悪霊を祓った。

それで気絶してしまったんだ。

それでおかしな夢を見てしまったようだ。

 

うわ、汗ビッショリ 学校始まるまでにシャワーを浴びてさっぱりしよう

 

 

 

朝食を作っていたところに優が起きてきた。

優はドライヤーで髪を乾かさないようで、しっとりと濡れていた。

優の瑞々しい肌につく水滴が艶かしい。優のうなじ、優の鎖骨、優のふくらはぎ~

あぁ駄目よ。いくら可愛い優とはいえ、あの子は愛しい我が子、そんな目で見ちゃダメなのよ。

さぁいつもどおりにすまして、優に挨拶するのよ。ファイト!百合子。

「おはよう優、あらシャワーを浴びてきてたのね」

「さぁ朝ごはんを食べて学校に行きなさい。」

 

 

優の学生鞄を持って、玄関まで見送る。あぁなんだか新婚の時の気分だわ

「優、気をつけて行ってくるのよ」

 

「あぁそうそう母さん、学校の帰りに美神さんのところに寄るので、帰りは少し遅くなるかもしれません」

そう告げて、ドアノブを回すが身体が動かない

百合子さんが、僕の肩を握りつぶしかけている

 

「ねぇ優、なんであんな女の家に行くのかな?お母さん不思議だなぁ ねぇ何で?」

 

生存本能が昨日以上の警鐘を鳴らし続ける。

なので洗いざらい全てを喋った。

・GSの仮免があるけど、霊能力はあまり使わないので放置していたこと。

・昨日のASEの任務で悪霊に襲われ、霊能力の力が欲しかったこと。

・修行をするにも、霊能者の知り合いはいないので、美神さんに鍛えてもらおうと思ったこと。

・美神さんのアルバイトだと思っているがASEとの掛け持ちになってしまっているので、辞めるにしろ筋を通しに行こうと思っていること。

心の奥底で聞こえた声のことは黙っておいた。

 

そこまで全て話すと、百合子さんはにっこり笑って肩を離しくれた。

「そうだったの優、今日の晩御飯は貴方の好きなから揚げだから早く帰ってくるのよ。」

「遅くなるようだったら連絡するのよ。あと、これお弁当よ。」

 

うふふ、優ったらあんなに慌てて学校に行くなんて、まだ余裕のある時間なのに

それにしても優ったら嘘はついてないけど、私に言ってないこともあるわね。

まぁいいわ、私の可愛い優・・・

 

 

 

 

 

 

やばかった。なにがやばかったって超やばかった。

殴っ血Kill並にやばかった。正直ちょっとチビるかと思った。百合子ママやばい。

一回死んでいるせいか、御神苗君の生存本能なのか、前はそんなこと感じなかったのに。

まぁいいや、まずは学校に行こう。

 

 

「おはよう愛子さん」

 

「あら優君、早いのね」

 

「愛子さんもねー」

 

「私はこの学校にいるんだもの、はやくて当たり前だわ」

 

「あ、ごめんなさい」

 

「いいのよ。そういう妖怪なんだもの」

 

 

授業が始まり、午前の部が終了する。

ピートとタイガーが一緒に昼を食べようと寄ってくる。

 

「はぁ優さん、百合子さんと住むようになって、まともな昼食をたべれていますのぃ」

 

「ですねー とても美味しそうです。」

 

「そうだ、新しいマンションに引越したから暇ならタイガーさんもピートさんも今度遊びにきてよ。」

 

「おぉ優さん、わっしはわっしはー」

 

「僕もいいんですか?」

 

「え、ピートさんなんかダメなの?」

 

「僕は正体を隠していましたが、実はヴァンパイアハーフなんです」

 

「そうなんだ、だからそんなにイケメンなんだね」

 

苦笑をしながら「横島さんにも同じことを言われましたよ。」

 

「まぁいいよ。二人共僕の友達になってくれたんだし、友達の家に遊びに行くくらい普通だよ。」

 

「ゆ、優君、私達も優君の家に遊びに行ってもいいかしら?」

 

突然横から愛子さんと花戸さんが声をかけてくる。愛子さんと花戸さんかぁとちょっと渋っていると

 

「私が机妖怪だから、やっぱりダメなのかな?」

 

「いや、そんなことはないよ。帰りが遅くなると机を担いで学校に戻るのが大変だから泊まっていってもらおうかなぁって思った。」

 

「優君の家にお泊り、いや百合子さんがいらっしゃるのよ。あぁお母様にご挨拶、あぁ愛子どうしましょう 青春だわー」

 

また愛子さんがブツブツと一人の世界にはいってしまう。

 

「小鳩もダメなんですか?」

 

「もちろんいいよ。小鳩さん可愛いから遅くなったら危ないからね。その時は家まで送っていくよ」

 

「小鳩は横島さんのお嫁さん、結婚式もしたんだしでも本当に結婚した訳じゃないんだし優君のお嫁さんも・・」

 

頬に手を当ていやいやしながら身体をくねらせてる。小鳩さんも一人の世界にご案内

 

「遊びに行くのはまた今度ね。お菓子とか用意しておくし、母さんに一言いっておかないと」

 

後日、4人で家に遊びに来ることが決まった。楽しみだなぁ

 

 

 

 

さて、今日の授業が終わった。美神さんの事務所に向かうとしよう。

「横島さんお久しぶり。怪我は大丈夫だったんですか?」

いきなり声が聞こえる。これがあの人工幽霊一号か

 

「僕は兄じゃなくて弟の優です。よろしくお願いします。なんとお呼びすれば?」

 

「人工幽霊とお呼びください」

 

「美神さんはいらっしゃるかな?」

 

「はい、マスターは本日はお見えになります。優さんがいらっしゃたことをお伝えしますね。どうぞお上がりください。」

 

鍵があき、ドアが自動で開く

便利だな、人工幽霊、家にも来て欲しいくらいだ。

 

人工幽霊の指示にしたがい、屋敷の中を進む

「この部屋にマスターがいらっしゃいます。」

 

ドアを開けると美神さんがこちらを睨んでいる。

「まずはいらっしゃいといいましょう。横島君」

 

「怪我が治りましたので、美神所長にご報告に参りました。」

 

「そう、要件はそれだけなのかしら?」

 

僕は90度に深々と頭をさげる

ここは素直に頭を下げ、ストレートに謝るしかない。なにせやり過ぎとはいえ、その原因は忠夫君にあったのだ。

 

「この度は、美神様に置かれまして、大変ご迷惑をおかけし誠に申し訳ありませんでした。またお見舞いに来てくださったのに

あのような態度をしてしまい。合わせてお詫びいたします。」

 

「あなた本当に横島君?」

 

「いえ、貴女の知っている横島ではありません、未だに記憶が戻っていないのです。いまは双子の弟の優として生活をしています。」

 

「そうなの、横島君、いえ、優君、来てくれて嬉しいわ。もう二度とここには来てくれないと思ったもの」

「それにおキヌちゃんもずっと心配していたのよ」

そういって、美神さんはちょっと涙ぐんでいる。避けずに来てよかった。

 

「おキヌさんには記憶が戻っていないことは秘密でお願いします。」

 

「わかったわ。今日の要件はそれだけなのかしら」

 

「いえ、2,3質問と相談があって今日はきました。」

 

・体の奥底から声が聞こえたこと

・霊能力を鍛えてほしいこと

・またアルバイトさせて欲しいこと

 

「そうね、まず2番目と3番目の答えだけど、ここで霊能力を鍛えるのとアルバイトとして雇うのは無理だわ」

やっぱりダメだったか、しょぼんとして思わず涙ぐんでしまう。

 

「ゆ、優君泣かないで、言い方が悪かったわね。優君の霊能力の適正は収束と圧縮だと思うわ。

私ではあなたのサイキックソーサーや霊波刀の適切な指導ができないのよ。」

 

「それなら基礎だけでも教えてもらえませんか?」

 

「それは3番目の答えになってしまうけど、六道女学院からアルバイトの子を雇ってしまったの。この業界弟子や従業員でないと慣習として指導するのはまずいのよ」

「ごめんなさい、あなたがもう戻ってこないと思ったから・・・」

 

「いえ、いいんです。美神さん僕も貴女の指導を受けたいと思っていましたが我が儘は言えません。

「それにASEのアルバイトスタッフになったんです。美神さんなら特別に内緒で引き受けてもいいですよ」

 

うわ、美神さんの目が¥マークになってる。

「ASEってあの超高額な人材派遣のASE!? 優君どの部門なの?」

 

「マルチドライバーの適正があったみたいで、ドライバー部門です。」

 

「そうなの、特殊な車両とかあったらお願いするわね。」

「そうそう、1番最初のは今見てあげるわ、ASEのドライバーを使えるんだもの先払いしちゃうわ」

そういってウィンクしてくる。

 

美人のお姉さんにそんなことされたら、いくら僕でも顔が赤くなっちゃいますよ。

 

やっぱり、飛びかかってはこないか、でも顔を真っ赤にして優君可愛いわ、なんか少年を誑かす悪女になったみたい。

さて霊視ゴーグルを持ってこないと

 

 

「まずは貴女の状態を霊視してみるわ、ただ私も専門ではないからそこは了承してね。」

かなり分かりづらいけど神霊の御霊それに、あら新しい守護霊が付いているわね。まさか横島君?

 

「あなたには新しい守護霊がついているわ、一度現出させてみましょう」

 

「守護霊ですか、僕はなにもわかりませんよ。」

 

「元々守護霊というのは本人には見えないし、感じられないものなのよ。その役割は守護しているものを修行させること。

そして功徳があがると、守護霊本人の功徳があがる仕組みなの」

 

 

「この者に宿る守護霊よ、汝その身を一時この世に出現せよ。」

そうすると見慣れた雰囲気の守護霊が私に飛びかかってきたわ

 

「美神さ~ん、やっぱり俺のことを探してくれるなんてやっぱり愛してくれていたんですね。 もうぼかぁぼかぁ愛の告白と取るしか」

 

あ、神通棍で叩き落とされてる。そうか忠夫君は僕の守護霊になってくれたのか

 

「あぁなんか慣れた痛みやわぁ、お前何を俺の体を使っとんねんといいたいところだが、もう守護霊として括られてしまっている

その体は好きに使えばええよ。入れ替わることもないし。それにお前といると何故か女の子にもモテてるみたいだし、寝取られプレイみたいでこうふ、

 

あ、また殴られてる

 

「美神さん、守護霊って祓うことできないんですか?」

 

「う~ん、守護霊というのは神様によって采配されていると聞くから基本的には祓わない方がいいわ」

 

「そうなんですか、忠夫兄さん、優といいます。これからもよろしくお願いします。」

 

「おう、基本的には何もしないけど、後ろから見守っているからな。俺も弟ができて嬉しいし」

 

「忠夫兄さん、この間の除霊で僕に力をくれました?」

 

「あぁやっぱりバレたかぁ、まぁ秘密なんだが、お前の中にはかなり強い神霊がいらっしゃる。その方のお力を少し借りた」

「ただ、何度もできることじゃないからな、頑張って生きろよ。」

 

そういって消えていく。いなくなったとも思っていたが忠夫君が憑いていたか、ある意味これも世界意思なんだろうか

 

「美神さんありがとうございました。忠夫兄さんが守護霊になっているのは内緒にしてくださいね。」

「今日はもうこれで帰りますね。」

 

「あらおキヌちゃんと話して夕飯も食べて帰ればいいじゃない。」

 

「大変嬉しいお誘いですけど、夕飯は百合子さんが作ってくれているので、家で食べますね。」

「もう少し、おキヌさんをまたさせてもらいます」

 

「なら、お茶でも、もういっぱい如何かしら?」

 

「はい、いただきます」

 

「そういえば、あなたこの間除霊したビルだけど何をしたの?今でも下手な神社の神域より清浄な空間になっているわよ。」

 

「あの時は無我夢中で正直何をしたのか、あまりはっきり覚えていないんです。気絶もしちゃいましたし」

 

「そうだったの。あなたの霊能は収束と圧縮が特性だと思ったけど、神道の禊や陰陽術にも適性があるのかもね」

 

それからは和やかに美神さんを実の姉のように感じながら和やかに住む場所が変わったことなど

近況をお話した。

時間になってもおキヌさんが戻ってこなかったので、お暇することにした。

 

帰りに美神さんが、はいっと封筒を渡してくる。

見ると紹介状と書いてある。

 

「私の師匠の唐巣神父の紹介状よ。私は教えてあげられないからせめて師匠を紹介してあげるわ」

 

「美神さんありがとうございます。明日にでも早速行ってみますね。」

 

「いつでも、遊びにいらっしゃい、ただし次は相談料をとるわよ」

そう冗談をいってくる、冗談だよな・・・

今度遊びに来るときにはなにか貢物を持ってこよう。

 

 

「そうそうおキヌちゃん、あなたが買い物に行っている間に横島君が来たわよ。もっとも双子の弟の優君だったけど。横島君そっくりだったわ。」

「横島君を大人しくして、少し幼くした感じかしら」

 

「もうちょっと、早く帰ってこればよかったですー」

 

「住所は聞いておいたから暇なときにでも遊びに行ってみたら」

 

「わーい、美神さん、大好きです。」

 

 

 

翌日学校でピートに美神さんから指導を断られたことを話して、唐巣神父の紹介状をもらったことを話した。

ピートの話だと明日は運が良く教会にいるようなので案内をしてもらい唐巣神父に相談に行く事にする。

 

「やぁ横島優君、ピート君から話はきいているよ。神の家にようこそお茶くらいしか出せないが奥で話そうか」

 

「初めまして、唐巣神父、これは美神さんからの紹介状です。それとチョコレート菓子くらいしかありませんがお茶請けにどうぞ」

 

「君はタケノコ派かい? さてちょっと見せてもらうよ。」

 

「ふむ、横島君が怪我をしている間に他のアルバイトを雇ってしまい、指導できないか、この業界の慣習のせいだね。」

「優君、ここも見ての通りの貧乏所帯でね。ピート君で手一杯なんだよ。とはいえ、神の家に相談に来てくれたんだ。少し道を示してあげよう」

 

「ありがとうございます。神父、正直どうすればいいのかわからなかったのです。少しでも可能性があればそれを活かします。」

 

ふむ、なかなかいい目をするじゃないか、横島君の双子というのも少し怪しいが悪い子じゃないんだろう。

 

「君のお兄さんの霊能を見出したのは妙神山の小竜姫様だとお聞きしている。

武門一林は家族同然というし、弟というとちょっと厚かましいがかもしれないが、無下にされることはないだろう」

 

なるほど、小竜姫様か、人界最高峰の修行場にいきなり行くのも厚かましい気もするが人に頼れないなら神に頼るのもあるか

だめなら、道を示してくれるかもしれない。

それに妙神山なんて、未知を見てくるのもいいかもしれない。

ASEにいってオフロードバイクを借りてこよう。

 

「ありがとうございます。神父、僕妙神山に行ってみます。」

「ところで話は変わりますが、唐巣神父はカトリックの神父様なんですよね?」

 

「あぁ破門されてしまい、ここで勝手に神父をしているが、カトリックを信仰しているよ。」

 

「ヴァチカンのアンデルセン神父をもしかしてご存知ですか?」

 

「あぁ修行に行った時に良くしてもらったよ。彼の苛烈な信仰心は今も覚えているよ。たしか

殴っていいのは異教徒と化け物だけといっていたなぁ、彼なりの冗談なんだろうけど」

 

やばい、イスカリオテのアンデルセン神父はこの世界にいたのか、この調子だとイギリス清教 必要悪の教会や埋葬機関とかもいるかも

好奇心で首を突っ込んだら生きて帰れなくなりそうだ。

 

「しかし、優君よくアンデルセン神父のことを知っていたね。」

 

「えぇナルニアでヴァチカンにカトリックの信仰のために旅行に行った知り合いに、大柄の神父にお世話になったと聞いていたので」

 

「そうか、ナルニアにも神の教えは届いていたか、聖なるかな聖なるかな」

 

「唐巣神父ありがとうございました。今日はこの辺でお暇いたします」

 

「そうか、優君、いま妙神山の紹介状を書いてあげるからしばらく待っていてくれ」

 

そういって唐巣神父は退席した。

数分たってから、紹介状をかいてくれた。

 

「優君、悩みがあればいつでも来るといい、ここは神の家、異教徒であっても閉じる門はないよ。」

 

 

 

 

 



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7.鍛えよ 鍛えよ

・鍛えよ。鍛えよ。

 

 

次の連休に妙神山に行くことにする。

人間に頼れないなら、神様に頼るしかない。小笠原GSや六道GSという手もあるが、小笠原GSは黒魔術、六道GSは式神使いだ。

使用している術式が違うせいで霊力の基礎は習えるかもしれないが、そこからの発展がないかもしれない。

 

ASEで山登りに適した車両を借りくることにしよう。

ちょうど、この間のトライアルバイクを用意してくれた車輌課の課長がいたので、妙神山に連休に基礎修行に行くことを話し、登山にも耐えられるオフロードバイクの使用許可を連休の前日から借りられるように申請しておく。

 

 

優からは課長と呼ばれているが、まぁ俺の名前はどうでもいい。

妙神山という神様がいる場所にどうやら修行に行くらしい。そこでオフロードバイクを貸してくれと言ってきたが、山に向かうのにここにあるバイクでは航続能力が低いだろうからちょっとカスタムをしておいてやる。

ガソリンタンクの容量が小さいからビックタンクに交換して、ついでにキャブレターでは高山病(空気が薄くなり正常に燃焼しない)にかかるだろうからインジェクションのバイクを用意しておく、あとは予備のガソリン携行缶を積むためにサイドキャリアをくっつけておいてやるか、片方には携行缶を積んで、もう片方に着替えなんかを詰め込んでいけば楽になるだろう。

そういえば、アーカム考古学研究所から特殊強化服の試験運用の依頼が来ていたな。ついでだから優に着せて試験させておくか。

 

 

妙神山に向かう前日にASEに車輌を借りに来た。明日は早朝にでかけるので今のうちに用意しておきたい。

 

「よう、優きたな。バイクはばっちし仕上げておいたぜ。あとライダースーツを貸出してやるからそれももっていけよ。会議室に置いてあるから説明も聞いてこい。」

 

そう課長が言ってきた。課長の言うとおりバイクを見てみるが、ビックタンクになっており、スイングアームも延長されており、ヒルクライムにも対応できるようになっている。

サイドキャリアもついて携行缶も積めるのが大きい。流石は課長だな。

しかし、万が一転倒もありえるのでライダースーツの貸出しは嬉しいがわざわざ説明をうけるようなものではないと思いながら課長にお礼を言って。会議室に向かう

 

 

会議室前に到着した。使用中のランプがついているのでノックをする。会議室内から応答の声があったので、入室をした。

中には小柄な壮年の男性と若い感じの女性がいた。

 

「君が横島 優君かな。儂の名前はメイゼル、アーカム考古学研究所の科学者じゃよ。我々が開発した特殊強化服をASEが試験運用してくれるというので、持ってきたんじゃ、さて早速これを着て見てくれ」

 

メイゼル博士といえば、オリハルコン研究の第一人者でAMスーツやオリハルコンナイフの製造に携わっていたはずだ。

 

「サイズは良さそうじゃの。この特殊強化服はオリハルコン繊維と人工筋肉を合わせたパワードスーツでな、小口径の銃弾程度は余裕で弾く衝撃吸収構造と普段の30倍の力をだせるようになっておる。あと大きな特徴として手に霊力を集めて増幅した霊波攻撃もできるように設計してある。」

 

メイゼル博士がスーツを僕に着せながらスーツの特徴を説明してくれる。首の留め金具を締めて首周りの余裕を確認してから、握力計を持って腕に力を込めてくれと指示が出た。

 

腕に力を込めるとメキメキいいながら人工筋肉が稼動して握力計を握り締めていく。

握力計の針は振り切れてしまっている。

 

「うむ、良さそうだの。あとオリハルコンナイフも持ってきのでこれも試験してきてくれ」

 

メイゼル博士にライダースーツと聞いていたことを話し、冗談めかして宇宙人とでも戦えそうですねと話したら。

 

「神族に殴り込みにいくんじゃろ?それくらいの装備は最低限もっていけ」

 

博士は真顔でそんな事を言ってくる。修行に行くのであって間違っても殴り込みではありません。

最後にメイゼル博士にスーツの名前を聞いてみたが試作特殊強化服という仮称で名前はなかったのでアーマードマッスルスーツはどうですかと伝えたら採用になった。

 

「では優君、わしは帰るとするよ。帰ってきたらレポートをよろしくの」

 

そう言って、メイゼル博士はさっさと帰ってしまう。

まさかこんなところでAMスーツが出てくるとは思わなかった。

さて明日は早朝から出発だ、今日は早めに寝ることにしよう。

 

 

 

朝からオフロードバイクに乗って、妙神山を目指す。整備されていない山道に入ってからAMスーツの効果を実感し始めた。マシンをホールドするのにとにかく楽なのだ。これまでよりダイレクトに操作できる。

いつもより速いペースで不整地を駆け抜けていくと早くも妙神山の正門を守護する鬼門が見えてきた。

門の前に到着し、バイクを停めると鬼門が声をかけてくる。

 

「そんな物でこの妙神山にくるとは怠けておるわ」

 

「おうよ。右の鬼門、この左の鬼門の試しを受けて泣いて帰るがいいわ」

 

バイクで来たことを嗜めるように鬼門たちから声がかかる。麓から自分の足で登ってくることも修行の一つだということも理解できるが、自分の技能を使っているのだ。

 

そんな事をかんがえていると、あっさりと鬼門が開き小竜姫様が現れた。

 

「あら、お客様ですか」

 

存外、軽いノリで開門される。そこに鬼門たちの抗議の声があがる。

 

「小竜姫様、そんな簡単に開けられては我らの役目が果たせません」

 

「まぁそう硬いを言うな。そしてそこの貴方、まずはその兜を脱ぎなさい。」

 

小竜姫様にヘルメットを脱ぐように指示されたので素直にヘルメットを取る。

 

「あら横島さんじゃないですか、どうやら雰囲気がちがうようですが、こちらには何をしにきたのですか?」

 

人界では基礎の霊能力を鍛えてくれる場所がなく、神様に頼ろうと思ったことを話し、唐巣神父からの紹介状をお渡しする。

 

「なるほど、美神さんも唐巣神父もすでに弟子がいて、慣習により教えられないということですか、わかりました。この妙神山、修行する者に閉ざす門はありません。しかし試しは受けてもらいます。」

 

小竜姫様から修行の許可がおりて、鬼門の試しを受けることになった。

鬼門と対峙したところで、小竜姫様から開始の号令がかかった。

 

まずは2体いる鬼門の足止めをしなくては。

盾を多重展開して鬼門たちを取り囲み、禊の絶対結界を発動させる。

 

「高天原に坐す 掛けまくも畏き天照皇大神

平に平に伏して願い奉る 

諸々の禍事、罪、穢れを祓い給え、潔め給えへと

恐れ恐れ申す。」

仏門に降り、仏典の守護者となっているが、元々の特性は人々の恐れから生まれた鬼、つまりは妖し(あやかし)ならば穢れを祓うこの結界でも足止めができるはず。

盾により清浄な神気が漏れることを防ぎ、足止めに成功する。

AMスーツを全開にして門に取り付き兆番の楔から門を引き抜き、そのまま門を崖から捨てようとする。

「そこまで!横島さんの勝利とします。」

 

小竜姫様から合格の声がかかったので鬼門の体に門を置く。

 

「では、横島さんこちらにどうぞ。どの修行コースにしますか?それとまずは俗界の服を着替えてください。」

 

下界に戻ってからも、継続的に続けられる基礎コースをお願いした。そして服についてはAMスーツの霊波防御能力、物理的な耐衝撃能力を告げ、このままではダメでしょうかと小竜姫様に問いかけた。

 

「そのなんちゃらスーツが如何に役に立たないものか実践でお見せしましょう」

 

問答無用で斬りかかってくる。無論手加減をしてくれているのだろうオリハルコンナイフで受け流すことができた。何度目かの斬撃を直接受けてしまい試作だったことあるのか、ナイフに欠けが生じてしまった。

その欠けた瞬間に気が抜けたように見えたので、小竜姫様に霊力を増幅したサイコブローを叩き込んだ。

 

 

横島さんなど一撃でかたが付くと思ったが、どういうことだ斬撃を受け流される。

ナイフを切り裂くつもりでかなり本気で放った斬撃もナイフに欠けを生じる程度のダメージだった。

なにより、横島さんの動きが良い。あのスーツのおかげかかなり素早い動きでこちらに対応してくる。あまつさえ反撃も食らってしまった。

こちらとしても神族としての意地がある超加速を使ってでも、あのナイフをへし折ってやろう。

超加速を使うその初動に入った瞬間、待ったの声がかかる

 

「先ほどから何を騒いでおるか、小竜姫よ!」

 

老師と声を上げてから、小竜姫様が老師に対して僕がAMスーツを着用したまま修行をすると言い出したことなどを説明した。

 

「横島といったな。お主のそのスーツ、確かに大した代物じゃ、しかし教えを乞いに来た者が指導者の話をきかんでどうする。」

 

我が意を得たりとばかりに、小竜姫様は頷いているがそれに対しても老師は小言を言う。

 

「小竜姫も所詮は人間と侮った結果がいまの現状よ。初撃から本気で切り伏せればここまで長い引いてはおらんかったじゃろう、弛んでおるぞ。」

 

無意識に侮ったことを指摘され、肩を落としてしまう。素直に着替えておけば良かったと反省をして謝ることにする。

 

「小竜姫様、我が儘を言ってすみませんでした。スーツの性能試験とあなたにスーツの補助があればここまでやれるのだということを認めて欲しかったのです。」

 

「こちらこそすみません。頭に血が上ってしまいこの様なことをしてしまい。もっと何故ダメなのか話せば良かったですね。」

 

お互いに謝罪をして、小竜姫様とは和解ができた。

横でその様子を見ていた、斉天大聖が自分について来いと話しかけてくる。

 

僕だけ斉天大聖について奥の間に通される。

そこには、黒い髪を腰のあたりまで伸ばし、後ろで一纏めにしている

ふんわりしてとても優しそうな雰囲気を発している女性が座っていた。

 

「こんにちは ■さん、いえいまは横島優さんでしたね。(わたくし)の名は天照といいます。」

 

天照、その名を聞いて呆然とした。え、なんでこんなところにいるの?

だが、次の瞬間には平伏をして、自身の名前を告げる。

 

「初めまして、天照大神様、先ほどの前世の名前は理解できませんでした。この世では横島優と名づけていただきました。宜しくお願い致します。」

 

「そんなに固くならなくてもいいんですよ。妙神山は神族の出張所なので本体は流石にこれませんでしたが、分霊の私なら来ることができました。

 

目の前の女性は天照大神の分霊のようだ。しかしわざわざ会いに着ていただけるなんて本当にありがたいことだと思う。

 

「さて、この度は横島さんの召喚を防げず、斯様な仕儀になり大変申し訳なく思います。」

 

そういって、そっと頭を下げる天照大神様。こちらが恐縮してしまうので辞めてほしい

 

「いえ、事故のようなものだと理解しております。むしろ召喚事故で次元の狭間などに行かず、ある意味でホッとしております。」

 

「えぇ、横島さんには召喚の直前でしたが、次元を超えるのに案内役として貴方の魂魄に私の分霊を忍ばせておきました。こちらの世界に来てからも分霊の霊的な防御があり、その加護の力も合わさって横島忠夫さんは守護霊となったようですね。」

 

忠夫君は天照大神様のお力で消滅は間逃れて現在は僕の守護霊となったようだ。ではあの時

キーやんが消滅と言ったのはなんだったのか?

それに天照大神様の分霊がいらっしゃったので、禊の結界があんなにも強かったのだろうか

 

「キーやんは立川で休暇中でしたし、海外の神なので、そこまではっきり観測はできなかったのでしょう。恐らく消滅したであろうと判断したと思いますが、勘違いで希望を持たせるのもどうかと思い、消滅と言ったと思われます。

 

それにあなたには案内役として私の分霊がいるので、詳細が分かるようになっていまし霊能も強化されておりました。そのおかげで本日妙神山にきたわけなんですが」

 

 

流石は天照大神様だ。しかしなんだろうかこの近所に住んでいる美人のお姉さん感は、なぜかすごい親しみを感じる。あれかやはり世界初の引きこもり系神様だからか、天姉様とか呼んでみたい。」

 

「えぇいいですよ。須佐能は乱暴者だったので悲しくなり天岩戸に隠れましたが、あなたはそんなことしませんよね?」

 

しまった。途中から声に出てしまっていたようだ。なんたる不敬をしてしまったのか

 

「はい天照大神様、あなたに乱暴狼藉を働くなど絶対にしません。」

 

「あら横島さん、天姉様でいいのですよ。」

 

コロコロと鈴を転がすように笑う。

 

「それでは、天姉様とお呼びします。時間ができたら今度は神宮にもお会いしに参ります。」

 

「本体も喜ぶと思うわ。姉と慕ってくれるならあなたはは私の弟のようなもの、八咫鏡を授けたいところですが、それは叶いません。すでに貴方には私の加護を与えていますが、さらに強力な加護を授けましょう。」

 

そういって天姉様は僕の額に口づけをしてくれる。

 

「さて、貴方に加護を与えたわ。霊格もあがりました。それにこれで天に太陽がある限りたとえ夜でも月は太陽の光が反射したものどこにいても貴方のことが分かるようになります。

神宮にも会いに来てくださいね。本体も楽しみにお待ちしていますよ。」

 

それだけ告げて、斉天大聖と2,3話したあと天姉様はふっとその場から立ち去った。

その様子を見ていた斉天大聖は呆れたように僕に告げる。

 

「お主もう加護ではなく、寵愛のレベルになっておるぞ。幸い天照殿は太陽神、農耕神で穏やかな気性ゆえよほどのことはないとは思うが、今回のことで他の神々に目を付けられておるかもしれん、気をつけたほうがいいぞ」

 

「ご忠告ありがとうございます。斉天大聖様」

 

心配をしてくださる斉天大聖にお礼を言う。

 

「さて、お主せっかく妙神山まで来たのじゃから、ちょっと修行をしていけ、わしが見てやろう、最上級神魔からもよしなに言われておるし、天照殿の加護もうけたじゃろ、それに弟子の小竜姫も可愛がってくれたみたいじゃしの」

 

「いや、小竜姫様は申し訳なく思っていまし和解しております。それに基礎の修行だけ習えれば十分だとおもっているのですが」

 

AMスーツのパワーを全開にしてもびくともせず、むしろ引きずられていく。

「なに、若い者が遠慮なんてしてはいかん」

 

そういって、このまま異空間に放り込まれた・・・

 

そして、ゲームをしながらそのときを待ち続ける。

恐らく2ヶ月くらい経った頃、異空間から戻ってきた。

老師が自身の宝具である如意金剛を振りかぶり、こちらに向けてくる。

 

「魂が過負荷から開放され、潜在能力が引き出しやすくなっておる。出来なくば死ぬだけじゃ」

 

AMスーツを全力稼動する。2ヶ月以上整備無しできたがどうやらまだ正常に稼動してくれている。

老師の攻撃をオリハルコンナイフで受け流し躱したつもりだったが、小竜姫様に付けられた欠けた部分から刃が折れそのまま吹き飛ばされる。

そのまま、意識がブラックアウトしていった。

 

 

「力が欲しければくれてやる」

 

また体の奥底から声が聞こえる。目が覚めるモヤがかかった感じがするが自分が何をすべきかわかる。

老師が如意金剛で突きを放つ、先程は避けきれなかったが今度は避けきれる

そしてそのまま、老師に刃先だけとなったナイフを心臓目掛けて突き立てる。

だが、ナイフは心臓ではなく老師の腕を刺すだけだ。

 

「お主横島ではないな、貴様何者だ?」

 

答える必要もない、敵は殺す。ただそれだけだ。

このまま殺されるくらいなら殺してやる。

 

幾度かの攻防のあと、ブチっと大きな音がAMスーツから響く

人工筋肉の筋繊維がちぎれたのだろう。途端にパワーアシストの能力が無くなる。

あぁここでおしまいかと棒立ちとなった。

しかしいつまでたっても老師のとどめの一撃がこない。

目を開けて老師を見つめる。

 

老師もこちらを見ながら大喝をいれてくる

「貴様いつまで殺人機械をやっておるか!! 貴様は何者だ!!!」

 

途端にモヤのかかっていた視界がクリアになる。

御神苗君の殺人機械だった精神が僕が死にかけたことで浮上してきたのか

そういうことか、殺人機械の精神に乗っ取られていたのか

だが、こんなところでは死ねない!

 

体に力を入れ、拳を握りこむ

そして力の限り叫ぶ

「僕の名前は横島優だー!!!!!!!」

 

この瞬間に霊気が収束、圧縮されビー玉のような文珠が生成される。

 

「ようやく潜在能力を開放したか、しかしお主もなかなか厄介なものを持っておるの。

イタタ、傷を負ったのなんぞ何百年ぶりじゃわい」

 

おい小竜姫、治療箱をもってこいと老師が小竜姫様を呼ぶ。

小竜姫様が老師の怪我をみて驚愕してから治療に取り掛かる。

老師の治療が完了してから、小竜姫様がこちらに話しかけてくる。

その眼差しは憧れとも畏怖ともつかないそんな表情をしていた。

 

「横島さん、あなたは一体何者なんですか、かの斉天大聖を傷つけることができるなんて、私でも無理かもしれないのに」

 

「僕は横島優です。横島忠夫さんが記憶喪失になり、その体に入ってしまったのが僕なんです。」

 

小竜姫様には嘘はつけない、限りなく真実を話す。

 

「それでは老師に傷を負わせたのはどうやったのでしょうか?」

 

「僕が死にかけたことで普段抑圧している殺人機械として精神が出てきたようです。しかし僕も殺人機械の意思だったのか理解はしていませんでした。」

 

御神苗君のポジティブな精神を見習いたいと常々思っていたが、まさか殺人機械の精神まで付いてくるとは思わなかった。たしかにスプリガンでも最終番まで殺人機械の精神を乗り越えられなかった。

自分もこれから死にかけると殺人機械になってしまうのかと思うとひどく憂鬱になる。

 

「わかりました。優さん、あなたは殺人機械になることを少なからず恐れている。それは間違いありませんね?」

 

「はい、今は酷く憂鬱な気分です。まさかこんなことになるなんて」

 

「では、その精神に負けないように修行あるのみです。私がきっちり面倒を見て差し上げます。」

 

今度は小竜姫様に引きずられていく、AMスーツを全開にしようにも筋繊維が断裂しているせいでパワーがでない。

 

あれ?妙神山所属の神様って脳筋ばっかりなの?

 




なんで、出てくる女性キャラはヤンデレ気質になるんだろうか


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8.鍛えよ。鍛えよ。鍛えよ。

8.鍛えよ。鍛えよ。鍛えよ。

 

お母様、天照様、お元気でしょうか?

僕は妙神山に拉致ではなく、監禁でもなく、綺麗で可憐な小竜姫様と楽しく修行を送っています。

本当なら連休の三日で帰るはずでしたが、どうしてこうなった・・・

 

・・・・・誰か助けてー・・・

 

横島さんが何か惚けて呟いていますね。拉致とか監禁とかこの妙神山には似つかわしくない単語を呟いているので、神剣で後ろからツンツンしたら、今度は綺麗で可憐で慈悲深い小竜姫様って言葉が出てきました。

横島さんはわかっていますね。照れてしまいます。

 

さて、横島さんは取り敢えず置いて、老師との修行により見事潜在能力を開花させました。

それも覚醒した能力はあの伝説の文珠でした。

文珠とはキーワードを込めると力の方向を完全にコントロールする能力です。

かの菅原道真公以外では横島さんだけでは無いでしょうか?

彼の才能は私が見初めたのだと三千世界に知らしめてもいいくらいです。

 

駄目ですね。嬉しくて顔がにやけて来てしまいます。

いけません、話が脱線してしまいましたね。

ここからは本当に真面目に行きましょう。

 

横島さんが老師との荒行を終えて、その精神も肉体も限界を迎えつつありました。

しかしだからこそ、真に限界を超えるにはまたとない機会です。

限界ギリギリのところで生存本能が刺激されれば、殺戮衝動が顔を出すはずです。老師に傷を負わせた時もそうだったと聞きました。

だからこそ、その状態でも殺戮衝動を自身で調伏できれば、今後容易に殺人機械になってしまうこともなくなるでしょう。

これには横島さんの強い精神力が必要になります。駄目かもしれないそう思おう心も私の中にありますが、横島さんを信じています。

 

もちろん休ませてあげたい。でも私は横島さんの為だと心を鬼にして、横島さんを引きずって修行場に連れて行きました。

 

「横島さん、老師との荒行により、あなたの心身、精神はもはや限界を迎えているでしょう。しかしここで限界を超えてこそ心深くにある殺戮衝動に打ち勝つことができるのです。

 

さて、私がお相手して差しあげましょう。死力を尽くしてかかってきなさい。」

 

 

AMスーツを着たまま、小竜姫様に修行場に連行される。立っているのも辛い状態だが小竜姫様は何の関係も無しに切りかかってきた。思わずAMスーツを全開にして盾も前面に多重展開したが、構築が脆くあっさり破られ打ちのめされてしまう。

 

先ほど、老師にも殺人機械になって傷を負わせることに成功した。

老師よりも格下の小竜姫様にも通用するだろう。

生き残るためにはこれしかないそう思い、自身の殺人機械の殺戮衝動に意識を明け渡す。

 

 

横島さん展開した盾を破り、対峙をして気が付く。横島さんの辛そうな顔が無表情に変わり、目がぼんやりとした感じなる。恐らく意識を明け渡したのだろう。

横島さんの動きが先ほどまでとは違い、凄まじく早く鋭くなる。

老師は異空間の生成とその後の手加減で力を失っていましたが、私は万全の状態です。

仮にも武神である私は油断さえしなければ機械らしい思考で最短距離を正確な動きで仕掛けてくる攻撃をいなすことは容易いことです。

会話ができるかわかりませんが、横島さんに語り掛ける。

 

「横島さん、殺人機械になったところで今のあなたでは私には敵いませんよ。機械ではその性能を100%発揮するのが関の山です。

しかし、それを超え力を発揮できるのは人間だけです

120%、130%、それ以上の力を出すのは、人の強い思い、意思が肉体を凌駕するのです。

そしてあなたは他の人にない発想が持ち味でしょう、いつまでも殻に閉じこもってはいけませんよ。」

 

小竜姫様の語りかけが切っ掛けか、自分の意思が体にこもる。

殺人機械の精神も何もをしても勝てない小竜姫様に諦めて殺されることを選んだか

しかし、自分はこんなところで死にたくない。

まだ伊勢神宮で天照様にお会いしていないのだ。

そしてやばくなったら殺人機械に頼っちゃダメってことか、小竜姫様も存外厳しいが、慈悲深く優しいな。

 

「ここまで言れて、鈍い僕でもようやくわかりました。」

パワーアシスト機能の壊れたAMスーツの上着を脱ぐ、これで多少は身軽になるだろう。

そして改めて小竜姫様と対峙する。

 

「賢い選択です。横島さん。先ほども言いましたが死力を振り絞ってかかってきなさい。」

 

AMスーツを脱いだ影響か、これまで痛めつけられた為か小竜姫様の動きが肌で感じられる。

そして今の自分の切り札は文珠数個、これで小竜姫様に勝てなくても一泡ふかせるしかない。

 

霊能力は訳のわからない力だ。そして使いこなすにはイメージが何よりも大事だと美神さんから聞いた。

一泡吹かせるイメージはついた。あとは野となれ山となれ実行するだけだ。

小竜姫様を見つめ叫ぶ

 

「いくぞ、小竜姫!!」

 

 

いいですね。覚悟を決めた殿方の力強い眼差し、横島さんに小竜姫と乱暴に呼び捨てられるのも悪くはありませんね。さぁ横島さんあなたの覚悟を見せてください。

 

 

とある魔砲使いは言いました。大技を撃つときはまず相手を捕まえましょうと

 

{縛}の文珠を使い、小竜姫様のいる空間ごとバインドする。

小竜姫様が様子見だったのだろう、わざわざ付き合って捕まってくれる。

 

「横島さん、捕まえても私には超加速という技があります。あなたが攻撃をするために近づく間に逃げれますよ。」

 

余裕だろうが、高みの見物だろうが、まずは捕まってくれれば良い

小竜姫様は韋駄天族の超加速が使えると今いった。

超加速はあっという間に時間を歪め空間を移動する技だったはずだ。

 

ちょっと中学校の理科を思い出そう。音は空気中を秒速340m/sで移動する。

それを超えるとマッハ1という。超加速はもっと早いかもしれない

 

そして小竜姫様に向けて霊波刀の応用で括弧型の1m程度の長さの砲身を左右それぞれ空中に展開する。

 

「種子島ですか、そんなもの撃ってからでも避けられますよ」

 

折れたナイフの刃を砲身の中にそっと置く

最後に{雷}の文珠を用意して空中に展開している砲身に叩き込む

 

「くらえ小竜姫様、この攻撃は超加速よりなお早いぞ 電磁投射砲!!」

 

「え!?」

 

目を見開いた小竜姫様に耳をつんざく様な轟音と衝撃波を発生して自分を後ろに吹っ飛ばしながら、砲身から飛び出したナイフが空気との摩擦で真っ赤になり空間に一筋の線を生み出す。

 

そう、小竜姫様にご馳走したのは電磁投射砲だ

米軍最新の電磁投射砲はマッハ6を叩き出す。秒速2040m/sだ。つまり1秒間に物体が2km進む。その破壊力はかすらなくても近くにいるだけで衝撃波でダメージを与える

弾丸にしたものはオリハルコン、霊的な者にも効果があるものだ。

小竜姫様が如何に早かろうが6倍近い速さのものは避けられまい。

仮に避けれても衝撃波が空間を粉砕してナイフは進む。

 

そもそも電磁投射砲の原理は簡単だ。前の世界では電気技師をやっていたのでよく理解している。電線に電気を流すとそこには磁界が発生する。学校でも習う右ネジの法則だ。

電磁投射砲はその原理を応用している。そして大電圧、電流が流れれば威力もあがる。

文珠に込めた雷の一文字、落雷は最大電圧は10億ボルト、最大電流は時に50万アンペアに達する。砲身は短いのだ、一瞬でも発動すれば十分

こんな急増品でもこれだけのパワーを込めれば結果は推して知るべし。

今のように簡易電磁投射砲の完成だ。

あぁくそ、一瞬文珠が発動しただけだが、アーク放電で感電してしまったようだ。

腕がいたい。AMスーツは絶縁処理されていたはず、着ておけばよかった。

正直もう霊力を使いすぎて立っているのもしんどいのだが小竜姫様はどうなったかな。

たぶん無事だろうけど・・・

 

静まり返った空間を探してみると撃った場所から離れた場所に腕を十字に組み、頭を守っている小竜姫様が立っていた。

 

「どうですか、小竜姫様これが今思いついた攻撃です。秒速2km/sの弾丸の威力は」

 

さすがの小竜姫様もかなり驚いたようだ。口から声が出ずパクパクしている。完全に無事とはいかずあちこち服が破れている。

 

「よ、横島さん貴方、私になんてものを放つんですか!!」

 

「小竜姫様なら大丈夫という信頼の表れを表現してみました。」

疲れているせいでちょっと皮肉がでてしまう。

 

もう!と言わんばかりに小竜姫様がその場に座り込む

その時、胸のあたりの布が破れその両胸が転び出て(まろびでて)きた。

 

思わず凝視してしまう。小隆起様(誤字にあらず)なんて言われるけど、サラシがなければ中隆起様でもいけるんじゃないでしょうか?え、誰ちっぱいなんて言ってたやつ?

 

「ちょっとこっち見ないでください! 殿方に胸を晒すなどありません!!」

 

「す、すみません、後ろ向きます!」

 

振り向こうとするが、身体が動かない。視線も小竜姫様が両手で隠している胸を凝視したままだ。

 

「早く後ろを向いてください!!」

「全力で振り向こうとしています!!でも身体が動かないんです!!」

 

小竜姫様を凝視したまま、自分の背後から今まで感じたこともない莫大な霊力が立ち昇る

そしてあまりに強力な霊力の為、その思念も肉声のように聞こえてくる

 

(よっしゃーーー!!、よくやったで優!!動くなよーぴくりとも動くなよー動いたら見られへんからなぁ。

小竜姫様のおっぱいやぁ!!!!ちっぱいどころか美乳やんかぁ!!今日はおっぱい祭りやでーーー!! こんなん生きとったら絶対見られへん、ほんまようやったでー優!!

お前が神やったか!!!)

 

忠夫兄さん、エロハプニングで活性化してしまったんですね。煩悩バーストで極大な霊力が発生している。そして守護霊としてのパスを通して僕にも莫大な霊力が流れ込んできてます。

正直、流れ込んできている霊力で身体が張り裂けそうだ。忠夫兄さん霊体だから関係ないかもしれないけど、肉体のある自分にはしんどすぎる、先ほどから霊力を逃がすために文珠を生成しているがフィーバー状態でどんどん生成される。

それでも、この莫大な霊力は収まることをしらない。そして思わず声にあげる

 

「忠夫兄さん、僕が死んじゃうから、霊力を収束するの手伝って!」

 

(ん?もうちょっと見てからでもええやろ)

 

「小竜姫様に祓われちゃうよ。それに他にもこんなエロチャンスあるかもよ!」

 

(よっしゃ、圧縮やな、2人で気合いれて圧縮するでー)

 

ころっと手のひら返しをしてこのパスを通して送られてくる極大な霊力を制御し圧縮を開始した。

 

「圧縮、圧縮、圧縮、圧縮!」(圧縮、圧縮、圧縮、圧縮!!)

 

空気だって圧縮すれば熱を発生する。某一方通行さんはベクトル操作で空気中の水素と窒素を集め、圧縮してプラズマを発生させた。

 

そして僕らが極大の霊力を圧縮したら拳大の珠が出来上がった。

なに、この文珠の親方みたいな珠は?と忠夫兄さんに尋ねてみたがもう気配はなく、その思念も聞こえない。

 

なんかたまに本当にすごいよ。忠夫兄さん。

 

もう自分も限界、その珠を握り締めてブラックアウトした。

 




忠夫兄さん、エロハプニングで大フィーバー、はしゃぎ過ぎて煩悩大爆発でした。

このあと、シリアス気味になるつもりでしたが、どう考えても切りが悪いので今回はここまでです。


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9.その珠の正体は

9.その珠の正体は

 

老師との荒行のあと私と修行をして殺人機械の精神は調伏できました。その後のハプニングで極大の霊力の収束と圧縮を制御しきった横島さん、疲れはまさに限界だったのでしょう。

倒れて意識を失いました。

今は、妙神山の宿坊で深い眠りについています。

 

しかし、横島さんには私の胸を見られてしまいましたし、もうこれは契を結んでいただくしかありませんね!

武神とは言え、私も乙女。婚姻に憧れがないとは言えません。

横島さんもこの間とはどこか感じが変わっていやらしさが隠れ、優しさが表に出てきました。今の横島さんなら吝かではありません。

 

結婚したら朝、横島さんを起こしに行き、一緒に朝餉を食べ、日中は修行とお役目に励み、夜は共に褥を過ごす。

二人きりの時には真名で呼んで貰い、仲睦まじく過ごしたい、膝枕で耳掻きもしてさしあげたい。

私はこれでも結構尽くす女なんですよ。

 

横島さんの寿命の違いも仙人か、神族になって頂ければ解消します。

私が修行をつけてあげれば100年位きっとすぐです。

殿方を私好みに育てるなんて、源氏物語のようで胸が高鳴りますね。

そうだ、横島さんは子供は何人欲しいかな?

私は最低3人は欲しいです。

姉の大竜姫にも結婚の案内を送り付けて、妹に先を越されて悔しがるかも知れませんが私達の式にも参加して祝福していただきましょう。

 

はぁさて、幸せな事を想像して考えないようにしていましたが、あの時横島さんは思念の声を忠夫兄さんと呼んでいました。

では、今の横島さんは記憶喪失ではなく、正常に事態を理解していると考えられますね。

あぁ旦那様に隠し事をされるととても悲しいです。

それにあの時出現した珠は一体どんなものなのでしょうか。ただの霊的な物質なら時間とともに空気中に霧散し消えてしまうはずですが、枕元に置いてある珠は未だに硬質な真球の形状を保ち見てわかるほどの霊気を放っています。

これは老師とヒャクメに見ていただ来ましょう。

まずはヒャクメを呼んで来ましょう。

そこまで思い立ち、横島の頭を撫で、珠を持ち席を立つ。

 

 

 

小竜姫が席を立ち、暫くしてから横島が目を覚ます。

気が付くと布団に寝かされていた。

 

忠夫兄さんの煩悩爆発で小竜姫様にもあの思念が聞こえたはずだ。むしろ神族なんだから聞こえていない方がおかしいだろ。

どうやって言い訳をしようか・・・

いや、もう自体は言い訳できないところまできているだろう。もう素直に全てを話してしまう。最悪嫌われるだろうが、何を言われても仕方がない。せっかく小竜姫様に会えたのにここでお別れと思うと流石に涙腺が緩む。

 

「横島さん、そろそろ目が覚めましたか?」

 

なんと言うタイミングだろうか、涙で目が潤んでいるところに小竜姫様が入室してくる。お別れするにしても、もう少し潔くお別れがしたかった。

まぁ所詮自分なんてこんなものだろうそう自嘲する。

 

「横島さん、何を泣いているのですか?」

 

宿坊に様子を見に来てくださった小竜姫様が泣きそうな自分をそっと抱きしめてくれる。

ますます小竜姫様に対して申し訳ない気持ちが溢れてくる。

溢れる気持ちのままに信じなれないかもしれませんがと前置きをして全てを話してしまう。

 

 異世界から召喚事故でこちらの世界に来たこと。

 前の世界の記憶はあるが、名前は覚えていないこと。

 横島忠夫と入れ替わり、横島忠夫は天照様のお力で今は守護霊になっていること。

 横島忠夫の弟して今は横島 優と名前をつけてもらったこと。

 貴女の弟子だと思っていた男の中身は違う人物だったこと。

 

洗いざらいすべて話した。つっかえつっかえ涙声で話すからさぞ聞きづらかっただろう。しかし小竜姫様は最後まで黙って聞いてくれた。

だが未来のアシュタロスとの戦いは本当にあるかわからないので黙っておいた。これは墓までもっていく自分だけの秘密だ。

 

「言いたいことはそれだけですか?横島さん」

 

感情の篭らない、冷たい声でそう問われる

小竜姫様の顔を怖くて見ることができない、俯いたまま答える。

 

「はい、話せることは全てお話しました。許されるなら最後に一言だけ

僕は一目貴女に会いたかった。

鬼門で初めてお会いした時、可憐なお姿に心が高鳴りました。

服を着替えてと言われたときはこのAMスーツがあれば貴女に良いところを見せられると浅ましいことも考えました。

貴女と立ち会い修行を付けていただいて、その気高く慈悲深い心に触れ好意を持ちました。

でも今は安易な気持ちで此処に来て、小竜姫様の心を煩わせてしまったことを後悔しています。」

 

「横島さん、鬼門で見たときから忠夫さんとは違うとわかっていました。

何時話してくれるのかと待っていましたが、嘘をつかれ少し八つ当たりをしてしまいました。

信頼されていないのかと思い、悲しくもなりました。

最上級神魔しか知らないような秘密なら仕方ないと思います。

横島さん私たち神族は人の外見ではなく、内面を重視します。

老師の荒行を乗り越え、殺人機械を調伏した貴方の強い魂の輝きに心惹かれたのですよ。

それに、横島さん兄弟には私の胸を見られてしまいました。もう貴方に嫁ぐしかありません。」

 

そう言って、にこやかに笑いかけてくださる。

小竜姫様、あなたを武力方面で信頼しないなんてことはありません。マッハ6以上の電磁投射砲をぶっぱするくらいには信頼しています。

しかし、僕は小竜姫様のことを好ましく思っているが、嫁ぐってお嫁さんになるってことだろ、流石にありえんだろ

あれ、両思いだからむしろokなのか。突然のことに混乱してしまう。

 

「申し訳ありません、かつては元服の16歳で結婚もできましたが、今の世は男は18歳になり、保護者である親の承諾が無いと結婚できないのです。」

 

「人界の慣習など関係はありませんが、貴方がそう言うなら残念ですが、今は待つとしましょう。その時にはご両親にご挨拶しましょう。私の両親にも会ってくださいね。

そして貴方の魂の輝きに惹かれてしまう女性も多いと思いますが、幸い竜神族は一夫多妻制です。でも旦那様、私が正妻ですよ。」

 

え?小竜姫様本気ですか?いや正気ですか、異世界からきたって言い出す怪しい男なのに。

このような幸せを享受してもいいのだろうか。

まだ収入も無い学生なのに、絶対に幸せになれるとも限らないんですよ。

 

「さて、横島さんヒャクメが到着したようです。老師と一緒に貴方が作り出した珠を見てもらいましょう。」

 

さぁ行きましょう横島さんと小竜姫様に声を掛けられ、その後をついて行く。

そして通された一室にヒャクメさんと老師がすでに珠を検分していた。

 

「もういいのか?横島よ。先に見せてもらったがなかなか興味深いものだな」

 

「はい老師、おかげさまで多少回復いたしました。」

 

老師に声を掛けられ返答する。老師でもまだ珠の正体はわからないらしい。

 

「ヒャクメ、なにか分かりましたか?」

 

そう、小竜姫様がヒャクメさんに問いかける。

 

「小竜姫、これはなかなか興味深い代物なのねー、こんな物何処で手に入れたのねー?」

 

「他言無用と先に断っておきますが、この珠は横島さんが文珠の生成能力を身に着けたあとにトラブルがありその最中に生成したものです。」

 

そうだったのねーとヒャクメさんが自分を見ながらうなづいている。

 

「では、本人も起きてきたのでこれから本格的な解析を始めるのねー」

そして、鞄からいろいろな機材と配線を珠につけ解析を開始した。

小竜姫様に淹れていただいたお茶を飲みながらしばらく待っていると解析が完了したようだ。

 

「横島さん、貴方とんでもないものを生成してしまったのねー

これは、宝具 如意宝珠なのねー」

 

宝具 如意宝珠とはなんだろうか、自分は宝具とかそれほど詳しくない、小竜姫様と老師をそれぞれ見て知っているか確認をする。それをみて小竜姫様が説明をしてくれる。

 

「伝説では如意宝珠とは龍王様の脳内にあり、己の意のままに願望を成就してくれる宝と言われています。毒や怪我、病気を癒し、渇水の時には水を生み出すと言われています。

実際に龍王様の脳内にはありませんが、それだけ希少で力を持っているという例えでしょうね。」

 

老師が文珠と如意宝珠について補足説明をしてくれる。

 

「ふむ、横島よ。まずは全員の共通認識として文珠とは力の方向を全て制御できる代物ということはいいな。

例えば炎や水、お主の使った雷など自然に有る物は極めて強力に作用するが、物理法則に反する物や概念的なものに関しては世界の修復が働くので短時間、または発動しない。

盾や防などの概念的な物は文珠のエネルギーを使い果たすとその作用も消える。

そして、その行使にはイメージ力が重要になってくる。

まずはここまではいいだろう。

 

問題の如意宝珠だが文珠の欠点が殆どない文珠の最終形態とでも言うべきか、文珠より大規模に、かつより精緻に莫大な力を制御できる代物だ。

横島、お主の意思のままに世界の改編が行える願望機、過程も理論も飛ばして結果が即座にかなえられる。無論文珠と同じく物理法則に反するものは世界の修正力により徐々に元に戻るだろうが、効果は文珠の比ではなく長いであろうな。」

 

老師が詳しく説明をしてくれる、話を最後まで聞いてようやくどんなヤバイ物を生成したのか理解して血の気が引き手が震える。この危険性を例えるなら安全装置の無い核爆弾をいつでも爆発させられるようなものだ。何かあり抑えられない憎しみ悲しみで開放してしまうかもしれない。万が一盗まれ、悪用された場合は手の打ちようがない。

 

隣に座っていた、小竜姫様がそっと手を握ってくれる。

 

手を握ってくれる。手の温かさを感じそれだけでまともに動かなかった思考が回り始めた。

どうやら自分は本当に小竜姫様に惚れていて彼女のことが必要らしい。

 

文珠はその力を行使すれば、霊力が空間に霧散して消える。如意宝珠も同じように消えるならば今この場で使ってしまえば危険は減るだろう。まだ希望は残っている。

 

「横島さん、ちょっとその考えは甘いのねー

私は宝具 如意宝珠と言ったのね。すでにこの存在は固定化して使用しても消えないのね。

もちろん、使えばその力は減じるけどすぐにまた使用できるようになるのね。

でも、分からないのは何故横島さんが如意宝珠を生成できたのかということなのね。」

 

こちらの考えを読んだのか、それとも察したのかわからないがヒャクメさんがそう答える。

老師が推測混じりになってしまうが、恐らくはこうだろうと話し始める。

 

「如意宝珠は本来人間には到底扱えぬ代物、小規模の願望機なのだから当然じゃ、しかし横島、お主は天照殿の加護、寵愛を受けておる。

元々天照殿は神道の神だが大陸から仏教の伝来により大日如来とも観音菩薩とも見られてきた。

そして観音菩薩の変化身に如意輪観音がおる。そこに縁が繋がったのかもしれん。

他にも地蔵菩薩殿や虚空蔵菩薩殿、如意輪観音殿もお持ちなので唯一無二ではないが、珍しいことに変わりはない。」

 

 

 

あの優しい天照様の加護を頂戴した結果が街を人類を滅ぼしかねない宝珠の作成だ。

なんという皮肉な展開だろう。本当に世の中はこんなはずじゃなかったことの連続だ。

あぁもうこれは諦めるしかないかな。心中で独り言ち、右手に霊波刀を展開して心臓に当てる。

あとは押し込むだけだ。

 

「なにを馬鹿なことをしているんですか!」

 

当然のように隣に座っている小竜姫様に鋭い叱責とともに止められる。

 

「小竜姫様、貴女も武神ならば、時に止めをさすことが救いだということが有るのは分かるでしょう。

自分で決する事の出来ない情けないヘタレなんです。慈悲を持って一撃で首を刎ねていただきたい。」

 

自分だって死にたくなんてないさ、でもここまで良くしてくれる小竜姫様達を巻き込むくらいならと生きることを諦める。

 

「神族だって、絶望したから足を止めるのではなく、諦観した時に足を止めるのです。

そして横島さん、希望があるからまた歩き出せるわけじゃない。そこに強い意思があるからまた歩き始めることが出来るのです。

それに貴方は私の旦那様になるんですよ。しっかり強い意思をもって如意宝珠を幸せに使えばいいではないですか!」

 

どうして、この人はこんなにも自分のことを思ってくれるんだろう。

迷い子が母親を見つけて泣きつくように、小竜姫様に抱きつきただただ泣き続ける。

 

 

 

 

「これこれ(わっぱ)よ。大の男がいつまでもめそめそ泣いておってはいかんぞ!」

 

「そうだね。せっかく如意宝珠の新たな使い手が誕生したのに何を泣いているのかな」

 

突如として二人組の男性が妙神山に現れた。

老師には見覚えがあったようだ。

 

「地蔵菩薩殿と虚空蔵菩薩殿ではありませんか、妙神山にどのようなご用向きか?」

 

傘をかぶりお坊さんの格好をした地蔵菩薩様が慈愛の眼差しをこちらに向けてお答えになる。

 

「なに、天照殿から仏陀様に如意宝珠の担い手が現れたと連絡があってな。

仏陀様から様子を見て来いと命が下って参ったが、こちらにきたら童が泣いておるではないか、童が泣いておるのは見過ごせぬよ。」

 

日本では地蔵菩薩様は子供の守り神として信じられている。

そして隣にたっている虚空蔵菩薩様のお姿はまるで大学の教授のようだ。立派なヒゲを蓄えており、瞳には深い知性の輝きを感じる。

 

「まぁ泣き止んだなら良しとしようではないか、地蔵菩薩殿

どれ横島殿、私にも生成した如意宝珠を見せてもらえないかな」

 

老師がこちらを確認してきたので、頷く。それを見てから、虚空蔵菩薩殿に如意宝珠をお渡しする。

 

「ふむこれはまさしく、如意宝珠だな。しかし横島殿、なぜ泣いておったのだ?」

 

先ほど思い立った、自分が街を人をそして小竜姫様達を滅ぼしてしまうかもしれない恐怖を虚空蔵菩薩様に素直に話した。

 

「横島殿、そんな事を考えていたか、確かにこの宝珠は使い方を誤ればそういった事態も起こり得るが、小竜姫殿を巻き込まぬ為に自死しようとする横島殿ならそんな心配はせずともよい。

そんなに心配なら使用前に言霊を唱えないと使用できないようにすればいいではないか。」

 

虚空蔵菩薩様が自分を宥め、知恵を授けてくれる。

 

「そうだな。童よ。”如意宝珠に乞い願う 我が意に従い顕現せよ” この言霊を発しないと発動しないようにしておけばよい。どれ設定してしんぜよう。

良し、終わったぞ。それに文珠と違ってこれは童しか使えぬようにしておいた。」

 

今度は地蔵菩薩様が如意宝珠を受け取り、設定をしてくれる。

普段は文珠と同じく体の中に格納しておけるようになった。

「地蔵菩薩殿、虚空蔵菩薩殿、わざわざかたじけない」

 

老師がそう頭を下げる

 

自分も慌てて2柱に頭を下げる。今は金も食料もお渡しできるものが何もないがせめてと思い、お二人に文珠を3個ずつお渡しする。

 

「こんな物しかありませんが、お納めください。」

 

如意宝珠について先輩といっては失礼かも知れないが重要なアドバイスをいただき、安全装置まで付けていただいた。この御恩を少しでもお返ししたかった。

 

地蔵菩薩様と虚空蔵菩薩様がお互いの顔を見て笑い合う。

 

「この様な珍しい物をもらっては何か対価を返さねばならぬな。どれ童よ。加護を与えてやろう。心清く生活しておればより良い日々が繰り返されるぞ。」

 

「そうだね。私も加護を渡そうと思ったが、横島殿の背中には面白い守護霊がいるね。

ふむそうか彼の前世は陰陽師か、宜しいでは私らしく知恵を授けよう。

陰陽師としての知恵を如意宝珠に入れておいた、手に持ち意識すれば見れるようにしてある。何かの役に立つだろう。」

 

対価を頂くつもりもなかったのに、ありがたくも対価を頂いてしまった。

これがお礼ループか・・・

本当に慈悲深い方々だ。

 

「そういえば、もう一人の如意宝珠の担い手の如意輪観音殿はどうなされた?」

 

老師から質問され、もう一人いらっしゃったのかと思っていると、地蔵菩薩様が苦笑してお答えくださる。

 

「如意輪観音殿は、如意宝珠の担い手の誕生だといの一番に飛び出してこようとしたがな、

必ず仏にすると、修行のためにも煩悩を消し尽くすと息巻いておってな。

童はまだ子供だろ、これから人として成長していくのに煩悩欲望の一つも無いと人ではないと思ってな。

今回はふん縛って諦めさせたのよ。どうやらそこの小竜姫殿と良い関係のようだし、間違ってはおらんかったようだな。」

 

地蔵菩薩様に如意輪観音様の分の文珠もお渡しして、お気持ちだけありがたくいただきますとご伝言をお願いする。

 

「では、斉天大聖殿、これで失礼する。童よ、もうメソメソ泣くなよ」

 

そういって、お二方は妙神山より去っていった。

 

 

先ほどから固まっていたヒャクメさんが息をしだした。

 

「まさか、地蔵菩薩様と虚空蔵菩薩が顕現するとはおもわなかったのねー

そういえば横島さん忘れていたけど一回使ってしまえば1年は使えないはずなのね

そして是非使うところを観測したいのねー」

 

自分の心に秘めたあの非想な決意はなんだったのだろう。

 

「ヒャクメ、貴女はなんで本当にそんな大事なことを言わないのですか、仏罰です!」

 

小竜姫様がヒャクメをお仕置きしている。自分ももうヒャクメさんと敬うことはできなさそうだ。

 

しかし、どうせこの力を使うのなら、ここまで心を砕いて下さる小竜姫様の為にこそ、この宝珠の力を使いたい。

 

「小竜姫様、ヒャクメに観測させるためだけに宝珠の力を使うのは惜しいですが、僕はここまで良くしてくる貴女の為なら惜しみなく使いたい。

それにここで力を使えば変に目を付けられることもなく1年は安心して過ごせます。

初めての力の行使は僕の可愛いお嫁さんの為に使いたいです。」

 

ちょっと赤面してしまったが、はっきりと小竜姫様に告げる。

 

「横島さん、私嬉しいです。本当に私の為に宝珠を使ってくれるんですか?」

 

「はい、貴女の為なら喜んでどんな願いでもかなえて見せます。」

 

よかった。小竜姫様も喜んでくれているようだ。

そしてそっと、自分の耳に寄せて内緒話をしてくる。

 

「では、横島さん私は身体の一部がどうしても自信が持てないのです。その、胸を大きくしてもらえませんか。

横島さんも巨乳がお好きですよね。私も胸が大きくなれば深い谷間とともにさらなる慈悲の心が会得できる気がします。美乳というのはどっちつかずの甘えだと思うのです。」

 

なぜ、自分が巨乳好きだということがバレたのか

まぁいい、今はそんな事を考えている場合ではない。小竜姫様に{伝}の文珠を渡す。

 

「その文珠を使い、貴女の理想の大きさを僕に伝えてください。」

 

最初の宝珠の使い道がバストアップとは流石にどうかと思うが、小竜姫様のお願いは断れないし、巨乳になるというなら断る理由もない。

 

そして小竜姫様から理想のバストサイズのイメージが届く。

 

”如意宝珠に乞い願う 我が意に従い顕現せよ”朗々と言霊を紡ぐと宝珠から凄まじい霊気が溢れ出す。

我が意に従い、かの者の願いを成就せよ!!

 

霊気が小竜姫様を取り囲み眩い光が発生する。

そして光が収まり小竜姫様を見ると、見事な山脈がそびえていた。

 

あぁ小竜姫様、そんなに飛び跳ねると立派なたわわが揺れています。

そして忠夫兄さんも刺激してしまったのか、すでに宝珠に力が溜まっていくのを感じる。

 

「小竜姫様、加減はいかがですか? どこか体調等悪くはないですか?」

 

「横島さん、これで何の憂いもなく貴方に嫁ぐことができます。末永くよろしくお願いしますね。」

 

まぁ小竜姫様が喜んでくれてよかったよ。そういえばヒャクメはどこいった?

 

「こうしちゃいられないのね。

横島さんは伝説の巨乳御使(バストアッパー)だったのねー!

天界の悩み多き女神達に知らせてくるのねー!!」

 

そう叫ぶと妙神山から去っていった。

 

 

 

 

 

 




どうしてもシリアスのままでは終われないのです。

そして如意宝珠クラスでないと巨乳にならない、頑固な美乳の小竜姫様も
見事にバストアップ、天界のほかの女神にも衝撃が走りました。

これからもエロハプニングで忠夫兄さん活性化するんですね。わかります。

さて、次回こそ帰宅です。


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10.帰宅

10.帰宅

 

 

連休の三日間で基礎を習い帰宅するはずが、アクシデントが多発して学校は無断欠席してしまうし、家には連絡できないし、ASEにも連絡がしたい。その為に早く帰宅する必要がある。

 

そのことを老師と小竜姫様に告げる。

 

「今回のことで理屈理論は知らずとも霊力の制御は身体に叩き込んだゆえ、身体能力の向上も霊力を循環することも出来ているはずだ。お主は人の枠には入ってはおるが、そして人間というものは異端の存在に容赦しない。

日本はまだ八百万という多神教の概念が息づいておるからまだ良いが他の地では、そうも行かぬ所が多いのもまた事実。

今のお主ではスーツを脱いだほうがその力を発揮できるかもしれんが、不意を突かれての遠距離攻撃からの防御とその力を抑制するために着ておくとよい。

そのスーツがあれば、多少力加減を間違えても、スーツの力と言えるだろう。

まぁ何かあれば、妙神山に来るとよい。」

 

「横島さん、私のことを忘れては嫌ですよ。油断せぬよう気を付けてお帰りください。」

 

鬼門の外まで見送っていただき、オフロードバイクに乗って山道を下る。

特に何の問題もなくASEに到着した。

 

車両課の課長が作業していたので、オフロードバイクの返却をする。

そのまま課長と立ち話で、龍神様と立ち合ったら、AMスーツを壊し、ナイフを折ってしまい。あげく立ち合った龍神様と結婚するかもって話すと、完全にどん引きしていた。

 

「おい、優 何しに行ってんだよ。お前はそうでもないと思っていたが、やっぱり霊能者ってやつは変わっているな。

そうだ、メイゼル博士が来てるから直接謝っておけよ。」

 

分かりました。と返事をして博士に会う。

 

「すみません、殴り込みのつもりはなかったのですが、相手は宇宙人以上でした。AMスーツも筋線維断裂してパワーが出せません。ナイフも折れてしまいました。

大変、申し訳ありません。」

 

「おぉ優君、これはまた派手にやってきたなぁ、まさか壊れて返ってくるとは思わなかったよ。まだまだ改良の余地があったか。頑丈にするのは当然だが、なにか追加してほしい機能はあるかな?

ここまで性能を引き出して壊してくれたんだ。このまま君を専属のテスターとしてお願いするよ。」

 

ならばと、スーツの応答性の向上と頭を守るヘッドギアの作成、ナイフにはナックルガードが欲しいとお願いをする。

ASEでの用事も終わったので、課長に帰ると声をかけて帰宅する。

 

 

 

 

玄関のカギを開けて、ただいまーと声をかけるが返事はない。

リビングまで行くと、ソファーに百合子さんと男性がいた。恐らく大樹さんだろう。

男性がこちらに振り替える。

 

「百合子から話は聞いているよ。忠夫ではなくて優君らしいね。忠夫の父親の大樹だ。

責めている訳ではないが、君が三日で帰宅するはずが、帰ってこれなかったことで百合子がだいぶ参ってしまっていてね。今ようやく寝たところだよ。

 

君相手には気丈に振舞っていたようだが、やはり一人息子を失ったことは深い悲しみだったようだよ。やはり腹を痛めて生んだ我が子は違うのだろう。

黒崎君から聞いているが、百合子の君へ甘えるようなあの態度もまるで中身が変わってしまいどうすればいいのかわからない反動だったようだ。

 

百合子に謝りに来てみれば、君が帰ってきたと玄関まで走ってきた百合子の姿だった。

でも私を見てひどく取り乱したよ。忠夫が帰ってこないとね。

優君、君も霊能者だろ、降霊をして忠夫の姿を一目見れないだろうか?」

 

「わかりました。僕の能力を使えば降霊は出来ると思います。ただ一点間違っていることは横島忠夫さんは昇天しておりません、守護霊となって背後にいらっしゃいます。

百合子さんが目覚めてから始めましょう。」

 

 

 

 

 

 

日も落ち、辺りが暗くなってきた頃、百合子さんが目を覚ました。

そして僕を見つけると抱きしめてくれる。そしておかえりと言ってくれた。

 

「では、大樹さん、百合子さん始めましょうか、横島忠夫さんの降霊を」

 

文珠を二つ取り出す。{現}と{伝}の文字をセットする。

 

文字通り忠夫君が現れ、意思を伝えることを意識して文字を込めた。

 

忠夫君が現れ、その意思が伝わってくる。

 

「親父、お袋、ごめんこんな姿になっちまって

今は優の守護霊になって、優と一緒にいるよ。」

 

その言葉を感じて、百合子さんは積もり積もったものが爆発したのか、ついには泣き崩れた。

その肩を抱き、大樹さんが支えている。

 

「忠夫、親より先に逝く奴があるか、今になって心底ナルニアに連れて行けば良かったと思っているよ。」

大樹さんが後悔を滲ませそう呟く、そして百合子さんは忠雄くんに質問していた。

 

「忠夫、あなたその体でなにか不都合はないのかい?」

 

「大丈夫だよ。お袋。心配してくれてありがとう。霊体は暑さや寒さ、飢えには無縁なんだ。それに優の守護霊になっているから祓わることもないよ。」

 

お互い、言葉が少ないながらも言葉を交わしてく。

そして、文珠の効果が切れてきたのか、忠夫君の身体がだんだん薄くなる。

 

「親父、お袋ごめん、今回はここまでのようだ。

親父、馬鹿なことをしてお袋を悲しませないようにな。

どうせなら、本当に弟か妹を作っちゃえよ」

 

そう言い残して消え去る。

 

「ありがとう、優君。少ない時間だが忠夫に会えてよかったよ。

未練が残るが、ナルニアに仕事を残していてね。戻るしかない。

 

百合子は日本に残そうと思っていたが、憔悴している様子を見るとね。どうしても残しては行けないよ。自然が多いナルニアの方が、心の治療にいいだろう。

 

本当に馬鹿なことをしたよ。息子を亡くし妻の異変にも気づかない。最低の父親だ。」

 

忠夫君は両親の不仲を心配していた。

 

「忠夫兄さんの話を聞いていましたが、本当の弟か妹を望んでいたようですよ。」

 

「あぁ、忠夫に言われたとおり、二度と悲しませるようなことはしないさ。

明日にはナルニアへ百合子と帰るが君もくるか?」

 

「いえ、僕は日本に残ってやることがあります。」

 

そう、僕にはやる事がある。これを成さねば死んでも死にきれない。

 

「良ければ、何をするか聞いてもいいかな?」

 

「はい、霊体の受肉。つまり忠夫兄さんの復活です。もちろん成せるかどうかわかりません。ただ挑戦します。」

 

横島夫妻は驚きの表情を見せる。そして2人でうなづき合う。そこにどんな思いがあるか僕にはわからない。

 

「そうか、ではこのマンションはそのまま使ってくれ。家賃と生活費は少ないかもしれないが毎月振り込む。頼んだよ我が息子よ。」

 

 

 

 

 

今思えば、偶然とは言い難いことが積み重なり過ぎている。

人が亡くなればその魂はアストラルの海に還り溶け合い、輪廻転生の環をめぐるのだ。

しかし、横島忠夫の魂は守護霊として、まだこの世に留まり保持されている。

そして極めつけは如意宝珠だ。小規模の願望機なんてどう考えても偶然の産物ではすまされない。僕は此処にいることさえ、全ては横島忠夫の復活のための駒のようではないか。

世界意思は横島忠夫を諦めていない。そう感じて仕方がない。

ならば、世界を巻き込み、宝珠に願えば横島忠夫の復活も叶うだろう。

世界意思すら落とすとは流石は人外キラーの本領発揮といったところか

 

だが、まるでかの鋼の錬金術師のようではないか。

兄弟の役割が逆ではあるが、弟の僕が兄さんを絶対に復活させる。

物語はハッピーエンドが好きなんだ。

 

 




NGシーン1
よっしゃー自由への脱出だー そもそも妙神山に来ること自体間違っていた。
うっかり雰囲気に流されて、自殺しそうになったり、神様と結婚しそうになったり
どう考えても死亡フラグだから、そんなんありえないし。
小竜姫様の巨乳はおしいけど、忠夫君とちがって乳に自分は命を懸けられん

ひゃっはー!一気に山道をくだって行く。
タイヤのスポークに何か刺さり空中に身体が放り出される。
地面に叩きつけられ痛む身体のまま、振り向くと小竜姫様が立っていた。

「横島さん、貴方のことを信じていたのに・・・ 来世では幸せになりましょうね」

DEAD END


NGシーン2
玄関の鍵を開け、ただいまーと声をかける。
奥から百合子さんがおかえりなさい。心配したのよと出迎えてくれる。
妙神山はどうだったと聞かれたので、可愛い巨乳のお嫁さんができたと。靴を脱ぎながら答える。

ドス

そんな鈍い音が背中から聞こえた。
後ろに手を差し出し手に当たる感覚で背中に包丁が刺さっている、そのことを脳が認識した瞬間から背中から灼熱の熱気を感じ
そして、だんだん血が抜けて体が冷えていった。

私の可愛い優はそんなこと言わないわ。この優は偽物なのよ。

DEAD END


すみません。ヤンデレ分が足りなかったので、ちょっと追加しておきますね。


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11.受肉に向けて~人体錬成の可能性~

11.受肉に向けて~人体錬成の可能性~

 

 

 

 

 

大樹さんと、百合子さんを空港に見送ろうとしたら、学生は学校に行けと言われ玄関までお見送りすることにした。

 

これからしばらくの間、一人暮らしになってしまうが、忠夫君を復活させれば、この部屋で兄弟で暮らしていけばいい。

 

 

まず考えたのは鋼の錬金術同様に人体錬成だ。

 

錬金術師の権威であるドクターカオスに人体錬成の可能性とアドバイスを頂きたい、無論自分でも調べるが、専門家のアドバイスは貴重だ。

 

学校の帰りに厄珍堂に寄る、ここはオカルトアイテムや情報を売っている。ドクターカオスの住所もここで分かるだろう。

 

「あれ、美神ちゃんところの坊主ではないあるか、注文は受けてないあるよ。」

 

「初めまして厄珍さん、双子の弟の優です。どうぞお見知りおきを。」

 

厄珍堂の店主、厄珍さんは忠夫君と勘違いしていた。面識があったようで助かる。

 

「アイヤー、あの坊主に双子の弟がいたなんて知らなかったよ。」

 

「えぇこの間まで両親についてナルニアにいたので、ところで厄珍さん、貴方はこの業界に精通しておりとても詳しいと聞いてやって来ました。

 

厄珍さん、ドクターカオスの居場所を知りませんか?」

 

しげしげとこちらを見つめてくる。恐らく金が払えるのか値踏みをしているのだろう

もしくは、怪しい薬かアイテムの実験台になるかどうかか

 

「坊主の弟なら初来店だし、割引してあげるけど安くないあるよ。」

 

 

そしてカバンからジップロックを取り出した。中身は布キレだ。

 

「分かっています。兄からそこら辺のことは聞いてきました。

このサラシはかの妙神山の小竜姫が巻いていたサラシになります。

開ければ馨しい香りと、そこはかとない龍気を感じられるはずです。」

 

まさに世界意思の仕業だろう、AMスーツのポケットに入っていた。

返却する前に点検した時に入っていたのだ。ブラと違いサラシなので胸側なのか背中側なのかは分からないが、どうやら厄珍さんは興奮していて気がつかないようだ。

 

「坊主、なんでこんなものを持っているあるか?」

 

入手した経緯を適当にでっち上げ、真実を含みながら嘘を付く。

 

「妙神山で修行をつけていただいた時にアクシデントで小竜姫様の服が破れましてね。

その時咄嗟に回収しておいた物です。

これならこだわりの強い厄珍さんでも満足して頂けると確信しています。

そうそう、厄珍さん、小竜姫は更なるアクシデントで巨乳化しましてね。

今ならその時の写真もお付けできますよ。

 

ただ僕も神罰が恐ろしい。持ち込んだ事は厳重に秘匿してくださいね。

僕と厄珍さんとの秘密です。」

 

写真も妙神山では撮っていない。適当な紙に文珠で念{写}した代物だ。

 

「坊主の弟とは思えないくらいの優秀さあるね。

よろしいこの厄珍、同志には誠実に商売するあるよ。

カオスの住所だけでは貰いすぎね。もう1つだけ何か調べてあげるよ。

商売は貰いすぎても貰わなすぎてもダメね。」

 

「ありがとうございます。その時はまたよろしくお願いします。」

 

これはカオスの住所ね。そう言って紙を渡してくれる。

これで住所はわかった。早速向かうとしよう。腹を空かしいるかもしれないので弁当を買って向くう。

 

 

 

 

 

ここがドクターカオスの住所か、さているといいのだが

呼び出しブザーを押す。

 

家賃なら待って頂けないかなとドクターカオスが現れる。

 

「お主は横島だったか、なんの用じゃ?」

 

そう胡散げな声で問われる 

 

「初めましてドクターカオス、横島忠夫の双子の弟で横島優と申します。

ご高名なあなたの名前は兄から聞いております。

今日は錬金術師のあなたに相談したいことがあり、罷り越しました。

お時間よろしいでしょうか?」

 

 

まずはお口に合うと良いですがと弁当とお茶を渡す。

あと、食事が終わったらこれを服用してください。

そう言って{若} の入った文珠を渡す。

 

「お主、これは文珠ではないか」

 

流石、長生きなカオスは文珠を知っていたようだ。

カオスが嚥下すると、見た目は変わらないが効果が現れたのだろう。

 

「おお、ボケていた頭がすっきりするわい、かなり若返ったよ。

 

さて、ここまでして頂いて、この老骨になんのご用だったかな。」

 

ドクターカオスの助力を得るために、守護霊から受肉させ復活させたいことを全て話す。

ただ、異世界から召喚されたことは黙っておく

 

「実は兄がトラブルに巻き込まれ、僕の守護霊となっています。

その兄を受肉させ、復活させたいのです。

 

そこで、錬金術師ドクターカオスに人体錬成についてお聞きしたい。

あとは他に良い手段がないか相談に参りました。」

 

ドクターカオスがふむと、頷き、重い口調で話し始める。

 

「人体錬成か、古今東西問わず死者を復活させることは禁忌となっておる。

何故かと言えば成功しないからじゃ。

仮に出来上がったとしても、それは魂の抜け殻か、雑霊が入ったまがい物よ。

人は死ねばアストラルの海に帰り、輪廻転生をすると言われておる。

アストラルの海にから召喚すれば、すでに他人と混じったものを果たして本人と呼べるのか。

だから、成功することは無いのだよ。」

 

しかし、今回の場合は守護霊となり魂は保全されている。本人の意識もいまだ明瞭だ。

だんだん意識がボヤけてしまう可能性があるので、早く事を運ぶ必要があると思うが。

 

「ドクターこれを見てください。宝具如意宝珠といいます。

この宝具の性能は小規模の願望器、西洋で言うならば聖杯のようなものです。

そして多くの聖杯のようなまがい物ではありません。

すでに、一度妙神山で小竜姫様相手に発動して効果が実証されています。」

 

小竜姫様を巨乳にしたことは別に伏せておいても大丈夫。

 

「お主は本当に何者じゃ?

このドクターカオス、1000年の時を生きてきたが聖杯を個人で所有しておるものなど見たことないぞ。」

 

「僕にも何故か出来たのか分かりませんよ。今にしてみれば恐らく世界意思の介入だと思いますがね。まぁありがたく使いましょう。」

 

 

「そうか、確かに人体を作り出すだけなら人体錬成は可能だよ。

問題もあるがな

人体錬成で生み出したものは、言い方が悪いが生物(なまもの)だ、従って長期間の保存は出来ない。

そして、錬成する時にお主の遺伝子情報を使用するがそれはあくまでもナビゲート、自身で正確な己自身身体を脳や心臓、臓器をイメージして錬成し、

他人が錬成したところで己の身体を正確にイメージできないじゃろ、そして直ぐに魂を移す大儀式を行わねばならん。

 

だからこそ、わしも過去には考えたさ

若い頃の身体の錬成をな

失敗する可能性はかなり高い、正直おすすめは出来んな。」

 

確かにそうだな。ドクターカオスならば、すでに試していそうなことだった。

そのドクターが不完全な不老不死に甘んじているのだ。

失敗する確率は高いのだろう。

 

 

「そうですか、錬金術による人体錬成は難しそうですね。

そうだ、他に長く生きているものはどの様な手段をつかっているのでしょうか」

 

「そうじゃな、神魔妖怪は除外するとして、このマリアのように人形の体を使う、他人の身体を乗っ取る、あとは無機物にその魂を移すとかだな。」

 

なるほど、人形か、僕がその人間に入ればこの体を忠夫君に返すことができる。

世界最高の人形製作者を探すか。当てはあるんだこの世界にいるかどうか分からないが。

 

 

そして、ドクターカオスに現金100万の入った茶封筒を渡す。

少ないかもしれませんが当座の生活費にしてください。

ASEの仕事の報酬の一部をドクターカオスに渡す。

忠夫君の受肉に向けてドクターにが手伝っていただきたい。

あと文珠に{若}を入れたものを数個渡す。これだけあればしばらく頭がスッキリするでしょう。

 

「ワシも、この様な大儀式に立ち会えるとは思わなかった。よろしく頼むぞ」

 

 

 

 




NGシーン
「分かっています。兄からそこら辺のことは聞いてきました。
そしてカバンからジップロックを取り出した。中身は布キレだ。
このサラシはかの妙神山の小竜姫が巻いていたサラシになります。
開ければ馨しい香りと、そこはかとない龍気を感じられるはずです。」

いるはずの無い小竜姫様の声が背後から聞こえる。

「あら、すべて回収し尽くしたと思っていましたが、まだこんなところにあったんですね。
旦那様、欲しいなら私に直接行って頂ければご都合しましたのに。殿方は色々と性癖があるから、それを妻は見てみない振りをするのも優しさだと。
ただとても残念です。他の人にあげるのはマナー違反ですよ旦那様。」

振り向くと神剣を振りかぶる姿が見えた。

DEAD END




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12.受肉に向けて~魂の在り処~

12.受肉に向けて~魂の在り処~

 

 

 

ドクターカオスとの相談のあと、ボケてきたら使ってくれと、帰り際に文珠を数個渡したが、結局のところ対処療法でしかない。

冗談半分でドクターに電脳化でもしたらどうですかと話を振った。

どんな物なんじゃとドクターは興味がありそうだったので、アニメの世界の話ですがと前置きして、電脳化がどんなものかを説明した。

 

ナノマシンを使用して、脳神経細胞とナノマシンを結合させ、電気信号の信号送受信をすることによって、義体を動かしたり、ネットに有線または無線を使ってアクセスできる。そうして記憶も外部装置に保存しておき、いつでも参照できるようになると、概要だけ説明しておいた。

 

 

「お主霊能力はどうやって発生しておると思う?」

 

「詳しくは知りませんが、以前は脳の一部が変化を起こし霊能力が使えると思っていました。でも今は霊能力は魂の力だと感じています。事実妙神山では霊格の上昇により霊能力も力を増しました。」

 

突然ドクターが神妙な顔をしてそんな事を聞いてくるので持論を話した。

この世界に来る前そして霊能力が使えるようになる以前は、霊能力も超能力も脳の一部が変化を起こして使えるようになっている。

つまり霊能力=超能力だと考えていた。

しかし、この世界で霊能力が開花し、実際に使えるようになると霊能力と超能力は似ているが別のもので、霊能力は魂の力だと実感を持って理解するようになった。

そして超能力は脳の開発をした結果だろうと思っている。他にも要素はあるだろうと想像はできる。

 

 

「まぁそうだな。その意見は的を射ていると思う。ではその魂はどこにあるのかな?」

 

その問い掛けにすぐには答えが出なかった。

魂の在り処、魂とはどこにあるのだろうか、古代文明の中には心臓を神に捧げる儀式があるように心臓に宿ると考えていた文明もある。魂とは心臓に宿るのだろうか?

それとも意識が脳にあるように、魂も脳に宿るのだろうか?

はたまた、魂とは肉体に宿るものなのだろうか?

 

「ドクターカオス、魂が人のどこに在るのか、考えたこともありませんでした。

古代文明では心臓に宿ると考え、生贄として捧げました。

今は意識を生み出すと言い方は違うかもしれませんが、脳にあると考えます。

いや、もしかしたら身体に宿るのかもしれません」

 

「そうじゃな、お主が脳に魂は宿るという考えはわかる。

実際、精神を抜き出すときに頭を殴るという行為をするだろう。あれは肉体と霊体の両方に作用するようにできておる。そして意識を飛ばしたほうが霊体が出やすいので頭を殴っておるわけじゃな。

ワシの長年の観測の結果から推測するに、魂とは物理世界と精神世界の間、両方の世界に属している半次元とでもいったところにあると思われる。

だから、生命活動が停止すれば魂は精神世界に戻り、アストラルの海に戻る。

地縛霊などは物理世界に縁をつないでおるから存在できるのじゃ、悪霊が力を持つと物理世界に影響を及ぼすにはこのためじゃな。半分属しているから影響がでるのじゃ。」

 

「ドクターお話は理解できますが、なぜ推測なんでしょうか?

この世界には会える神もたくさんおります。彼らに聞けば早くありませんか?」

 

「はぁ、お主は日本に住んでおるからそう思うのだ。この国は多神教、そして余りにも日常に神々が溶け込んでおる。悪いことをすればお天道様が見ておるとか言うじゃろ。この国の人間は特に意識せずに、生活習慣や考え方に深く根付いておる。

そしてこの国では形こそ多少変わるが他の神々も平気で受け入れる、この寛容さは滅多にないぞ。

 

話を戻すが、他の国では一神教が多いゆえな、なかなかお会いする機会はないのだ。」

 

なるほど、日本の常識は世界の非常識というが、こういう面もあるのだな。

 

「話が長くなってしまったな。生まれた赤子が前世の記憶を持っておることがある。それは魂に刻まれた記憶だ。つまり人形に身体を移す場合、なんの準備もせずただ移動させれば、記憶の欠損を起こすことも考えられる。

 

むろん、魂に刻まれるような強烈な体験は覚えているだろうがね。

最初にでた、電脳化というのはいいアイデアかもしれない。他にも神仏に頼るのも一つの手だろう。

 

肝心の霊能力だが、魂に付随するから身体が変わっても使えるだろうが、霊力を流す経路に元の体との違いがあると、力が落ちるかもしれんな。

 

生活費を得てしばらく落ち着ける。少し考察と検証を勧めてみる。」

 

 

ドクターカオスと相談して大きな3つの項目をクリアする必要があることがわかった。

1つ目は移す先の人体の用意。これは当然だな。

2二目は魂を欠損させず、雑霊などつけず完璧に移動させること。

3つ目は記憶の保持だ。この体は元々忠夫君のもの、彼の記憶は脳に保存されているだろう。

では自分の記憶は魂にあるのかもしれない、しかしここで過ごした日々の記憶はこの脳にもあるはずだ。この記憶がないと生活に支障が出るかも知れない。

 

まぁいい。問題が多いことも、大変だということもわかった。あとは一つ一つ実行していくだけだ。

今日のところはこれで帰ろう。頭が痛くなってきた。

 

 

 

 

 

帰宅し夕食を食べ終わり、しばらくたった後不意に呼び出しのブザーがなった。

この家に来る人なんて、横島夫妻以外思い当たらないが、無視するわけにも行かず来客を迎える。

 

ドアを開けるとメイゼル博士とマーガレット女史だった。

 

「優君、夜分遅くにすまんな。改良したAMスーツとオリハルコンナイフ、あとはオプション装備を持ってきたよ。なかに入れてもらえるかね?」

 

わざわざ装備一式をもって来てくださったようだ。

 

「連絡を頂ければ、こちらから受け取りに行きましたのに、わざわざすみません。」

 

「いやなに、妙な胸騒ぎがしてな。早く渡そうと思って持ってきたんじゃ。

さて、これを見てくれ改良したAMスーツじゃ、前回から耐久性は大幅に向上しておる。

雷を使ったと言っておったから、不導体処理も完璧じゃ。

頭部保護のヘッドギアも持ってきたぞ。無線も付けておいたから通信もできる。

 

そしてナイフだが、要望通りナックルガードをつけておいた。硬度も前回より数段高くなっておる。そうそう折れることはないじゃろう。

 

あとオプションでワイヤーアンカー付きのアームパッド、これなら無手でも刃物を捌ける。

それと拳銃と弾丸各種、これは霊銃として登録してあるから持ち歩くときはGS免許を携帯するように。

銃を収めるホルダーとベストじゃ、これに銃とマガジン必要なら御札もしまえるようにしておいた。各種のポーチは移動もできるから自分で調整してくれ。」

 

博士が持ってきてくれた装備は一人で小銃こそないがテロくらいは簡単に起こせそうな装備だった。

前回よりもすごくというか酷くなっている。こんなの着てこの平和な日本のどこでドンパチするんだ。

いや、でも博士が胸騒ぎがあるといって持ってきてくれたくらいなんだから、ASEの仕事のときでも着ていくようにしよう。

 

「博士ありがとうございます。これで敵は宇宙人だけですよ。」

 

頑張ってこいよ。といって博士は帰っていった。

しまったお茶くらい出せば良かった。

 

 

また、学校帰りに厄珍堂に向かう。

精緻精巧な人体と同じ人形を作る技師はいないか裏の世界の話を聞くために向かう。

そして良ければ紹介してほしい。

 

「こんにちは、厄珍さん。早速ですが前回もう一つ調べてくれるという約束をさっそく使わせてもらいにきました。

人の魂が宿るくらい精巧な人形を作る、人形師を探して紹介して欲しいです。」

 

「坊主何を作る気ね。ダッチワイフなら私も欲しいあるよ。」

 

さすが厄珍さん、エロ方面にはぶっ飛んでいるな

 

「いえいえ、今回はエロ方面じゃないんですよ。」

 

「まぁ坊主との約束あるからね。調べてあげるよ。でもちょっと時間が欲しいね。」

 

調べが付いたら連絡してくださいといい店を出る。

さてあとは厄珍さんの調査能力を信じるだけだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




魂の在り処として魂はどこに宿っているんだろうという事を書きましたが
なんの根拠も無い創作です。
諸説ご意見はあるかもしれませんがさらっと流して頂ければ幸いです。


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13.受肉に向けて~襲撃~

13.受肉に向けて~襲撃~

 

 

 

 

厄珍に捜索依頼をだしてから数日が立つが、いまだに連絡は来ていない。

メイベル博士の胸騒ぎも外れた様子で気が抜ける。

果報は寝て待てと言うし、急いではいるが慌ててはいけない。

 

今日はアーカム考古学研究所からの依頼でAMスーツの稼動試験のデータを取りにASEに来ていた。稼動試験なので当然、フル装備だ。

 

一通り動作確認が終わったところで、開発中の拳銃弾を渡された。

AMスーツ使用を前提にした弾丸1種類と通常時でも撃てる弾丸2種類

 

特殊硬質セラミック弾頭高速徹甲弾、これがAMスーツ使用を前提に装薬が増やされている弾丸だ、弾頭は硬質セラミックでコンクリート、鉄板等を拳銃で抜けるよう開発された弾頭だ。

 

弾頭に精霊石の破片が使用されたソフトポイント弾、悪霊とかにも効く精霊石の欠片が使われている。ソフトポイント弾なので物に当たると弾頭が変形し運動エネルギーを効率的に相手にぶつけられる。貫通力も少ないので霊体にも割と安心して撃てる

 

最後は必要なのか分からないが、硬化ゴムを弾頭にした非致死性の弾丸だ。主に暴徒鎮圧に使うのだが、なぜ支給されたのかはわからない。

 

あとは通常のソフトポイント弾とフルメタルジャケット弾をそれぞれ支給された。

銃は使うことが無いと思うがアーカムから支給されているので断るわけにもいかない。

それよりも日本国内で携帯許可を取っているとは言え普通に拳銃と弾丸が渡されるとは思わなかった。

アーカム財団の力を感じ改めて戦慄する。

 

 

 

試験項目が多く、時間がかかってしまい、夜も遅い時間になってしまったので、送っていこうかと声をかけてくれたが、余りにも綺麗な満月で、AMスーツも着用しているのでこのまま帰りますと声をかけてナイフと拳銃をカバンに詰めてそのまま帰宅した。

 

 

 

 

 

近道になる公園を横切って、家路を急いだ。

今晩は満月だけあって木々はあるが高いビルがないので遮るものがなく周囲はとても明るい。

 

 

自分の進行方向とは逆から着物に革ジャンを着てブーツを履いた女が近づいてきた。

綺麗な顔立ちなのに、変わった格好をしているなとその時はただそれだけ思った。

 

満月の下で尚輝く蒼眼と抜き身のナイフを見るまでは。

 

意識してから体が動いたわけではない、もう反射神経の領域でAMスーツを全開稼動状態にした。そして前から迫り来るナイフをしゃがみそのまま前方へ体を投げ出す。

 

AMスーツの力を全開にしたので女と距離が開く、カバンから素早く銃とナイフを取り出して装備した。

銃には暴徒鎮圧用のゴム弾を取り出し、スライドを引き、薬室に初弾を送り込み相手に銃口を向ける。引き金には指をかけない。

 

貴様何者だ、何故こんなことをすると誰何の声をあげる。相手の顔をよく見てようやく思い出す。両儀式だ。

しかも目が蒼眼になっている。直死の魔眼が発動しているじゃないか、一太刀切りつけられるだけも死にかねない。

なんで、こんなのがこんなところを歩いているんだよ!

 

「橙子が最近周囲を調べられてると感付いて、そして幹也がお前の写真を持ってきた。」

 

くそが、厄珍のやつ探るなもっとスマートに探せよ。なんか変な勘違いをしてるし。

偶然会ったのかどうかわからんが両儀式はやる気まんまんだし

サラシが胸にあたっている部分じゃないかもってことがバレた腹いせか、畜生!

 

「僕の名前は横島優、何かとてつもない勘違いをしているようです。当然、ロンドン魔術協会の執行者でもありません。人形作製師の蒼崎橙子に人形を作成してもらうために探していました。」

 

「ロンドン魔術協会の執行者を知っている時点で一般人ではない」

 

 

しまったーテンパり過ぎて余計なことまで喋ってしまった。

もはや問答無用とばかりに両儀式は斬りかかってくる。

 

応戦するしかない。

”火行符術 熒惑朱雀炎弾符” いわゆるファイヤーボールが飛んでいくが、あっさり死の線を切られたようで消え失せる。

 

無駄だと思っても隙を作るために火行符術と水行符術を混ぜ遠距離攻撃に徹する。

迂闊に接近戦なんてしよう物なら一発で首と身体が泣き別れだ。

 

札を投げる間に何度か発砲もしてみたが、どれもあっさりよけられる。

まったくどういう運動神経と反射神経をしているんだ。

近づけさせないために、銃と札で弾幕を張る。そろそろ目くらましの閃光符を投げるか

うまくいけば、そのまま物理ではワイヤーアンカー、霊的には文珠で捕縛してやる。

直死の魔眼には目にタオルを巻いて巻いておこう。

 

”火行符術 熒惑朱雀閃光符”

 

投げた札が激しい閃光を発する。目をかばったチャンスだ。

この隙にワイヤーアンカーと文珠{縛}で拘束をした。

もちろん、直死の魔眼対策で目にタオルを巻くのも忘れない。

 

イモムシ状態になった両儀式を見下ろす。

ワイヤーで着物の上から胸が強調され、目隠しをしていることで倒錯感がすごい。

如意宝珠にもどんどん霊力が溜まっていくのがわかる。

当分、再使用出来ることはないと思っていたが、案外早く再使用できるかもしれない。

 

さて、質問するかと思ったとき。

お巡りさんこっちです!という声と駆け足の地面を蹴る音が聞こえる。

 

どう考えても変質者は僕のほうだ。女性を拘束して地面に転がしているだ。タオルとワイヤーアンカーを素早く回収して荷物をまとめ離脱を図る。

 

自宅のマンションにたどり着き、精神的に疲れそのまま寝てしまった。

 

 

 

 

朝、玄関の呼び出しブザーがなる。誰だよこんな時間に・・・

そういえば警察は早朝にくるらしいな。

居留守を使おうかと思ったが、警察なら鍵屋も同行して鍵開けをしてくるかもしれん。

幸い扉の覗き穴を見なくても、居間のインターホンから誰が来たか分かるようになっている。

やばかったら、AMスーツと装備をもってASEに駆け込むとしよう。

さて、どんな奴が来たのだろうか?

 

上下に黒色の服をきて、黒縁のメガネを付けた温和そうな男性がディスプレイに表示される。

昨晩会った、両儀式の関係者といえば、この人は黒桐さんか

どんな用事かわからないが、少なくとも殴り込みということはないだろう。

 

一応確認のために、インターホンからどちら様で問いかけると、伽藍の堂から来た黒桐ですと返答が帰ってきたので、鍵を開けに玄関に向かう。

 

「初めまして、横島さん。黒桐と申します。昨晩は式がお世話になったようでお詫びも兼ねて伽藍の堂へご案内したいと思いますが、ご都合如何ですか?」

 

学校が終わり次第向かいたいと黒桐さんに伝えると携帯の番号を教えてくれた。授業が終わったら電話してくれとのことだ。

 

授業が終わり、伽藍の堂へ向かうために黒桐さんに電話をかける。伽藍の堂の最寄駅を教えてもらい、駅で待ち合わせをすることにした。

蒼崎橙子さんに会うのに丸腰では流石に不安なので、札とオリハルコンナイフだけカバンに詰めて待ち合わせの駅に向かった。

 

駅に到着すると先に待っていてくれた黒桐さんが手を振って出迎えてくれた。

伽藍の堂への道すがら、昨晩の話をしたがどうやら両儀さんの勘違いで独断専行した結果らしい。

黒桐さん、ちゃんと彼女の手綱を握っておいて欲しい。ある意味そのおかげで伽藍の堂に繋ぎが出来た訳なんだが。まぁこんなことは言えないけどな。

 

 

黒桐さんの案内で伽藍の堂に連れてきてもらったが、ロンドン魔術協会の封印指定をうけるような魔術師の住処なのに、意外と街中にあるのが以外に思う。

まぁおかしなことをすれば、生きては帰れないだろうというくらいは理解している。

黙って、黒桐さんの後を追ってビルの中にはいる。

 

 

 

部屋に入ると、眼鏡をかけた蒼崎橙子さんが座ってこちらを見ていた。

良かった、眼鏡をかけているなら、初対面から殺しに来ることはないだろう、それに黒桐さんが迎えに来てくれた以上話くらいは聞いてくれると思いたい。

 

「初めまして、蒼崎橙子さん。横島優と申します。

厄珍堂の店主厄珍さんに頼んで貴女に仕事を依頼するために居場所を探せてもらいました。」

 

「はじめまして横島君、早速だけど要件を聞いてもいいかしら?」

 

昨晩の両儀式の襲撃については何も触れてこない。

まぁお互いに触れたくない話題かもしれないので、自分としてはありがたくもあるが、襲撃された側としては釈然としない物を感じてしまう。

 

助力を得るために、橙子さんには全てを話し、こちら側の要望を伝えよう。

・異世界から魂だけでこの世界に来て、この体に憑依してしまっていること。元の体の持ち主は自分の守護霊としてこの世に留まっていること。

・元の持ち主(横島忠夫)にこの体を返したいこと。そして自分はこのまま消えたくないので霊能力が使用でき、成長すらする人形の体を欲していること。

・作成していただく人形はこの体をベースにするが、顔立ちを双子でも識別できるように少し雰囲気を変えて見分けがつくようにして欲しいこと。

・対価として、現金がないので文珠数個を対価としたいこと。

・儀式には如意宝珠を使用を前提に考えているが、良ければ立ち会って欲しいこと。

 

 

 

そしてお互いに合意を得られたのは以下の通りだ。

・人形を作成することは同意、そして顔立ちを変えることも了承。

・儀式の参加については魂の物質化という第三魔法に抵触するかもしれないうえに、東洋の陰陽術、術式は珍しくそれに触れられるので是非参加させて欲しい。

・対価については、文珠でもいいが作成にあたり材料費の購入等で別途5000万を現金を支払うこと。

 

 

自宅に帰り、今日の内容を振り返る。人形師蒼崎橙子さんに自分が入る人形を作ってもらえることになった。

それに関しては望外の成果だ、元々存在するかも怪しかった人形師の橙子さんが存在して、そして人形を作成してもらえる。

ただ、対価として支払う文珠はまぁいい。これは自分の霊能力なので無料で作ることが出来る。

しかし、人形の部品代と作成費用として5000万の現金が必要になってしまった。

ASEの仕事ではすぐに5000万も代金を集めることはできない。

ここは高額収入が見込めるGSとして、多少の危険を承知で金策に走るしかない。

どこの事務所に所属するかだが、美神さんところはすでに六道女子からアルバイトを雇ってしまったみたいだし。小笠原事務所は黒魔術系なので自分との術式似合わない。

唐巣教会は良い言い方ではないが、金にならないので今回は却下だな。

残るは六道事務所だが、式神の暴走が怖いが、今の自分を雇ってくれそうなところはここくらいしか考えらなれない。

 

小竜姫様に事情を話せば金を用意してくれるかもしれないが、そんなのまるっきり紐じゃないか・・・

流石に、神様に金を借りるのは心苦しい、自分のことはなんとか自分で対処しないと。

それに大樹さんや百合子さんにはサプライズとして忠夫君の復活した姿を見せてあげたいので、両親には内緒で金を稼ぎたい。

 

明日、学校の帰りにでも六道家に行ってみよう。

 




NGシーン ~妙神山監禁ルート~

「小竜姫様、横島忠夫さんの復活為に5000万を貸してください」

「わかりました。優さん、貴方のためにお金を用意しましょう」

対価を支払うまで、妙神山から出てはダメですよ。
優さんが5000万で買えるなら安いものです。
ここではお金を稼ぐ手段がありませんからね、返済不能です。
一生私の傍に居てくれるだけでいいんですよ。



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14.受肉に向けて~金策~

14.受肉に向けて~金策~

 

 

自分の体は尋常ではなく、肉体的にも精神的にも疲れきっていた。

色々なことがあった。本当に色々なことがあったが、まずは結論から言えば、5000万円を集めることができた。

身体が動くようになったら、黒桐さんに連絡して支払いの準備ができましたと連絡しよう。

 

さて、なにから話すべきか

やはりこの激動の日々の始まった瞬間から話していくことにしよう。

そう、あれは六道家かASEに行くか迷って、まずはAMスーツ一式を返却するためにASEに寄った時から始まりを告げたのだ。

 

 

AMスーツを返却するためにASEに行き、いつものように車輌課の課長と少し話していた。

課長に今日はどうしたんだって聞かれたので、装備一式を返却しにきましたって、ついでに何か金額高めのミッションがあれば受けたいということをたわいもなく話していた。

ASEは自分が学生であることを考慮してくれ、平日には本当の緊急ミッション以外はいれないでくれていた。緊急ミッションも学校が終わってからとか、午後からとかかなり配慮してくれている。

 

車輌課の内線がなり、課長が呼ばれたので話を中断して課長は電話に向かった。

課長が話ながらこちらをチラチラ見てくるので、自分に関係する話かと思い電話が終わるまで待つことにした。

今にして思えば、この時に帰っていればこんなことにはなっていなかったのかもしれない

いや、帰ったとしてもASEに確保されていたから、結局は同じことになったのだろう。

世界意思からは逃げられないのだ。

 

 

内線で話終わった課長が戻ってきた。自分も挨拶をして帰ろうかと思ったが、課長がお前ヘリと飛行機運転できるよなと突然聞いてくるので、一人乗り用のジャイロコプターと小型ヘリ、飛行機はプロペラ機ならこの間、操縦させてもらって良い評価をもらいましたよと言いかけたところで課長に肩を掴まれ、連絡しておくからすぐに返却したAMスーツと装備一式に合わせて砂漠装備を受け取ってこいと言う。

訳の分からず言われるがままに装備を借り受けて戻ると課長に車に乗せられそのまま空港まで連行された。

そして気がついたら課長はいないしアーカム専用ジェット機で空の上だった。

 

アーカム財団の所有するジェット機が緊急離陸し、高度が十分上がり安定飛行にはいったところで、大型ディスプレイが写りブリーフィングが始まった。

突然こんなことになってすまないと中年の小太りな男性からの謝罪から始まった。

中年の男性は山本と名乗った。

この人が元スプリガンの山本さんかぁ、人の良さそうなどこにでもいる感じの人なのに人は見掛けに拠らないってのはこのことなんだな。

 

現在搭乗しているこの飛行機はエジプトに向かっていると説明があった。このブリーフィングのあと現地到着まで休息して置いて欲しいとの事だ。

さて、肝心のブリーフィングの内容だが、エジプトでとある代物が発見されたことが今回の騒動の引き金だったそうだ。

 

その発見された代物はエメラルドタブレットと言い、そこには古代シリア語でこう書かれていると言われている。

錬金術の基本思想、または奥義が記されたと言われ、賢者の石の製造方法が記載されていたとされる。しかしこのタブレットは存在を確認されたことがなく、現存するのはその翻訳された文章のみとのことだ。

翻訳された文章には賢者の石の製造方法は記載されておらず、もしエメラルドタブレットに賢者の石が製造方法が記載されており、製造ができれば、大量に黄金やオリハルコンが精製できる。

そしてそのエメラルドタブレットが今回エジプトの砂漠にある遺跡から発見されたそうだ。

 

 

アーカム考古学研究所ではAMスーツを初めオリハルコンの実用化に成功している。

しかし、賢者の石自体を精製することはできず、遺跡等からわずかに発見される物のみだ。

このエメラルドタブレットを解析することによって、賢者の石の精製方法が確立出来ると踏んでいたが、現地での小競り合いが始まってしまいエメラルドタブレットはアーカム財団が抱えるA級エージェント達が確保しているが砂漠で立ち往生してしまったとのことだ。

そして自分への緊急ミッションはカイロ国際空港からオスプレイを操縦して孤立したA級エージェント、マックス隊の救出とエメラルドタブレットの確保が命じられた。

 

エージェントが立ち往生した場所はエジプトの首都カイロから南に800kmあたりで、隣国のリビアとスーダンの国境も近い。カイロまでの往復で1600km、オスプレイはカタログ値で航続距離が3500kmとされているので余裕をもって戻って来れる予定だ。

確かにヘリでは航続距離が足らず、航空機では着陸は出来るかもしれないが、離陸は困難だ。

現在のところ敵対勢力は不明だが、噂ではリビアからISILを始めとする民兵の流入も始まり、現地は混沌とした状況下にあるようだ。

自分はエージェントを回収後、速やかにエジプトの首都カイロに戻る

そこからはアーカム財団が誇るスプリガンがその後の守護を担当する。地中海上には最新鋭の海洋調査船ロシナンテも配備されている聞いている。

このロシナンテにはアーカム技術部の粋を集め建造されており、機関には通常の動力もあるが超伝導推進も備え不安定な海上で時速200kmを出すことができる。防備の面ではレーザー兵器も搭載されており、1対1の対艦なら負けることはない。

 

 

課長が何故ヘリと飛行機の操作が出来るか聞いてきたがオスプレイのためだったか

日本でも有名なオスプレイだが簡単に言えばヘリと飛行機のいい所取りを目指した機体だ。

滑走路のない場所でも離着陸ができ、航続距離はヘリよりも長い、搭乗人数も多いので今回のようなミッションにはうってつけの機体とも言える。

山本さんにオスプレイの操作はした事がありませんと言うと、キャビンアテンダントがタブレットを差し出し操縦マニュアルを現地につくまでに覚えて下さいといってくる。

どうやらゆっくり寝ている暇は無くなったようだ。

 

 

 

 

 

カイロ到着前に数時間の睡眠が取れ、頭はすっきりしている。

早速、尾翼にASEのロゴが塗装してあるオスプレイの搭乗し機長席に座り、シートベルトを締めた。

読んだマニュアルを思い出しながら、機体の姿勢指示器を始め各機器の動作を確認する。

正常に起動した。続いてエンジンを点火させ、プロペラを90度回し離陸を開始する。

 

操縦は不安だったが操縦桿を握った瞬間にこいつは飛べると何故か確信を持つことができた。

これが斑鳩君のマルチドライバーとしての特殊スキルなのだろうか

そして勢いを付けるために柄にもなく声にだす。

 

「お前に命を吹き込んでやる!!」

 

プロペラを上に向けたまま垂直に離陸を開始し、ある程度のことで水平に戻しプロペラ機としてエージェント達が待つポイントに向かい飛行を開始した。

操作マニュアルによると、オスプレイの巡航速度は時速400kmくらいのようだ。

操縦桿を通して感じる感触としてはまだまだ出せそうな気がする。

今はマックス隊の救助を優先するために速度と高度をあげる。

 

 

カイロから飛び立ちそろそろ2時間が経過している。GPSからの情報により現在地を確認した。

ブリーフィングとアーカム技術部特性のリンクシステムだとそろそろ目的地の上空付近に到着した。

リンクシステムを使ってマックス隊の精密な場所はわかる。位置情報が変わっていないので、現場に到着したか、もしくは装備が投棄されたかもしれない。

現場の状況を目視で確認するために速度を緩め、高度を目視できる高さまで下げる。

 

 

 

最悪だ!どうやら敵対している勢力に数で押されているようだ。

この機体には武装は積んでいない、上空から機銃掃射でエアカバーできれば救出も楽になっただろうがそもそもオスプレイは輸送機なので無いものに文句を言っても始まらない。

ふと思いついた作戦を試してみることにする。マックス隊がうまく合わせてくれればいいのだが・・・

 

 

思いついた作戦とは垂直離着陸姿勢のまま高々度から一気に降下、地表寸前でプロペラの回転を全開にして、強烈な下向きの気流ダウンウォッシュを発生させて、敵対勢力の体勢を崩すつもりだ。

その機に乗じて、マックス隊が攻撃を仕掛けてくれれば救出も楽になるといいのだが。

 

オスプレイの操縦系を全てマニュアルに切り替える。

プロペラを垂直にして垂直離着陸状態にする。そのままプロペラの回転を緩めわざと機体を失速状態にして降下する。失速を検知して機体がアラートをけたたましく鳴らすがフルマニュアル状態なので自動的に復帰はしない。

敵対勢力の上空でどんどん機体が降下する。失速のアラートが鳴り響くなか冷静に立て直せる高度を見極め続ける。

 

ここだ!そう感じた時にプロペラの回転を全開にして下向きの気流を発生させる。

強力なダウンウォッシュが発生し見事に体勢を崩すことができた。

アーカムが誇る精鋭のA級エージェントマックス隊もこの機を逃さす反撃に出た。

このまま、マックス隊を救助するべくアーカム側に近づきそのまま陣地を飛び越え高度を下げる。ちょうど敵対勢力には背を向けている配置だ。

後部ハッチを開き、機内マイクに向かって叫ぶ

 

「ASEです。アーカム考古学研究所からの依頼で救助にきました!

全員搭乗後速やかにここを離脱します!!」

 

完全に着陸してしまうと、地面の状態により機体が横転してしまう可能性があり、また速やかな離陸ができないため、自衛隊の救助ヘリのように地面すれすれでホバリングをする。

マックス隊が全員乗り込み、声を掛けてくる

 

「おい、ASEのパイロット全員のったぜ!荷物もばっちりだ!」

 

「分かりました。離脱します。」

 

 

プロペラの回転数を上げ、機体の高度を上げかけた時に嫌な予感がして気が付く

少なくとも3箇所からRPGに狙われいる。

RPGは無反動砲とかと同じ携帯式の対戦車榴弾発射機だ

歩兵が戦車の装甲を抜くために開発された武器なので、航空機の装甲なんて紙のようなものだ。

誘導装置などは付いていない分、比較的安価な平気なので世界中の民兵達も利用している。

粗悪なコピーも出回っており、中には起爆しないものもあるようだ。

 

「RPGに狙われています。迎撃してください!」

 

即座に意味を理解し、後部ハッチから反撃を開始する。さすがの手際のよさだ。

 

「すまん坊主!一発打たれた!!」

 

 

たしかRPGの砲弾は弾頭に圧電素子があり、激突した圧力で発電して起爆する

 

操縦桿を握り、機体を撃たれた方向に機首を向ける。それと同時に横に移動をかける

面積を小さくするのは銃撃戦の基本だと学んだ、小さく低くだ。

 

わずかに旋回が遅い、左右のプロペラの同調をわざとずらし、不均衡な状態を作り出し旋回する。

 

お前に魂があるのなら応えろ!!

 

機体が斜めを向いたがなんとかRPGを避けた。そしてマックス隊の反撃により射手も沈黙した。

 

「予定どおり、カイロ国際空港に向かいます。」

 

そう宣言をして、一路カイロを目指し機種を向けた。

 

上空まで上がり安定飛行に入ったところで、コックピットに誰か入ってくる。

 

「さっきは助かったぜ。ASEのパイロット、俺はジミー・マックス

アーカムA級エージェントマックス隊の隊長をやってる、宜しくな」

 

「ASEのマルチドライバーの横島優です。ブリーフィングどおり今はカイロを目指して飛行しています。2時間程度で到着を予定してます。」

 

挨拶を交わすとマックス隊長は隊員の所に戻っていった。

話を聞いていると、まだ子供じゃないか、いやいや東洋人は若く見えるなんて会話が聞こえてくる。

 

 

すっかりリラックスモードになった機内だが、カイロに近づいた時に突如ロックオンアラートが鳴る。同時にマックス隊長がコックピットに乗り込んできた。

地対空ミサイルで狙われている。余程自分たちの持っているエメラルドタブレットを持っていかれると困る輩がいるのだろう。

赤外線誘導をジャミングするフレアを投射して、ミサイルの赤外線センサーを欺瞞する。

第一波のミサイルは回避することができた。

それと同時に速度を最高速度にして逃げるしか方法がない。

 

続けて第二波の地対空ミサイルのロックオンアラートがなる。

先ほどと同じくフレアを投射してミサイルを回避できたが、釣瓶打ちされればフレアが尽きて撃墜される。

第三波が撃たれる前に文珠を使用する。赤外線誘導なので熱を{遮}る

これで誘導ができなくなるだろう。光学照準では狙われるがさっさと逃げるに限る

このまま素直にカイロ空港に向かっても撃墜されるのは目に見えている。

進路を地中海方面に変更する。

 

「マックス隊長残念ながら、カイロ空港には迎えなくなりました。事前のブリーフィングでは地中海にアーカム船籍のロシナンテがいるはずなのでそちらに向かいます。」

 

ロシナンテが発見できなかった場合、地中海の海上でガス欠となり墜落の危険性もある。

燃料が少なくなりロシナンテを発見できない場合はギリシャのアテネに降りることを決めておく。

 

 

幸い今回はアーカム技術部特性のリンクシステムでロシナンテの精密な場所が分かり、飛行甲板に着艦することができた。

しかしこれだけで終われば可愛いものだった。

 

 

 

 

 

 

 




オスプレイの操作については当然ながら知りません。
こんな操縦はできないと思いますが、フィクションなので流して頂ければ幸いです。
またスペックについてもwikiを見て書いているだけなので実機とは違いがあるかもしれません。

NGシーン
ドクターカオスに確保してきたエメラルドタブレットについて何が書いてあるのかを聞いてみた。
そこには確かに錬金術師としての奥義が書いてあるそうだ。

朝は太陽とともに目覚め、食事は3食きちんと取ること。
適度な運動をして、夜は早めに研究にきりをつけて睡眠をしっかり取る。
たまには休暇をとり、リフレッシュをすること。
健康な肉体には健全な魂が宿る。そして良いアイデアも浮かぶ。

え?賢者の石の精製方法は載ってないのか?と聞くと

何を馬鹿なことをいっておる、賢者の石の品質は別にして
あんなもの誰でも作れるじゃろ?


・・・・・流石はドクターカオスおかしな方向に全力で振り切っている。





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15.受肉に向けて~金策2~

15.受肉に向けて~金策2~

 

バクダッドの古代電池

 

 

 

地中海に展開していたアーカム船籍の海洋調査船ロシナンテに無事着艦できた。

オスプレイのエンジンを停止して、飛行甲板に固定をしてもらう。

 

マックス隊長が知り合いを見つけたようだ、自分も一緒に来るように言われ、そのままついて行く。

その相手に親しげに話しかけた。

 

「よう、船長元気そうだな」

 

この人が、ロシナンテの船長、スティーブ・H・フォスターさんか

 

 

「お前も元気そうだな、マックス、しかし驚いたぜ、いきなり着艦させてくれとはな

そっちのASEのパイロットも紹介してくれよ。」

 

おぉそうだなといって、マックス隊長が自分を船長の前に出してくれる。

 

「このロシナンテの船長で、スティーブ・H・フォスター アーカム財団海洋開発部特別最高顧問、通称船長だ。海のことなら右に出るものがいない海洋のエキスパートだよ。

 

そして、船長こっちが今回俺たちを救助にきてくれたASEのマルチドライバーの横島優だ。」

 

マックス隊長が紹介をしてくれたので、そのまま挨拶をする。

 

「初めましてフォスター船長、横島優といいます。 今回は緊急着艦をさせていただきありがとうございました。海上なのにここまで揺れないこの船の性能はとんでもないですね。」

 

「俺のことは船長でいいぜ、着艦のことは気にするな。山本から連絡があったからな。

お前もこの船とは言え海上での着艦を一発で寸分の狂いもなく決めるとはいい腕してるぜ。」

 

船長について来いと言われ、マックス隊のメンバーと一緒に甲板から船内の一室にうつる。

マックス隊長が確保してきたエメラルドタブレットを船長に引き渡す。

船長が責任をもってスプリガンに渡し、研究所で徹底的な調査が行われた後に本社ビルの地下大金庫まで運ぶというスケジュールになっているそうだ。

 

とにかくこれで自分の任務は完了した。マックス隊の面々もこれで休暇に入れるらしく寄港地によるまで自由となるらしい。

自分も弛緩した雰囲気の中でどうやって日本に帰るか考えていた。

そんな中、船長から通信室に来いと呼び出される。

通信室にはいると、そこには船長が先に座って山本さんと話していたようだ。

 

ディスプレイ越しに山本さんに話しかけられる。

 

「横島君、君の機転のおかげでマックス隊が全員無事に生還できたよ。エメラルドタブレットもフォスター特別顧問に渡り、あとは後続のスプリガンに預ければ完了だ。本当によくやってくれた。

 

さて、横島君本当に申し訳ないが、問題が発生してしまった。隣国のイラク、バグダッドにオスプレイを操縦して向かって欲しい。すでにASEには依頼をしてミッションナンバーが発行されているので確認して欲しい。船長には燃料の補給をお願いした。」

 

どうやら、追加のミッションが発生してしまったようだ。

あんまり無理難題で無いといいのだけど、どうもASEとかアーカムが絡んでくるとギャグ要素はなくなるから辛い・・・

 

「横島君本作戦はある品物の奪還作戦だ。施設への潜入、物品の奪還はスプリガンが担当するので君はその往復の車の運転をお願いしたい。詳細は送った資料を見て欲しい。」

 

印刷された資料を見て気になった点をいくつか質問する。

 

・奪還する品物について

バグダッドの電池が今回の奪還作戦の要だ。そもそもバグダッドの電池とは陶器の壺に銅の筒と鉄心がはいっており、そこに電解液をいれることで二つの金属の間に電位差が生じて電流が発生し電池として機能するものだ。

模型を使った再現実験もおこなわれその時は2V程度の電圧が発生したことも確認された。

この電池を直列に繋ぎ、電気メッキをしたのではないかという学説も当時流れたそうだ。

 

しかしこれは超古代文明の物を古代人が模倣しようとして作られた物だ。表向きにはこれがバグダッドの古代電池といわれているが真実は違う。

超古代文明の電池は、現在のリチウム電池等と比べても小型で遥かに充電量が多く、さらに充電時間も短いという性能を誇る。

 

現代社会において充電池は携帯電話から車に至るまでありとあらゆるものに使用されている。軍事においては簡単に思いつくだけでも潜水艦の電池を交換するだけで驚異的な潜水時間を誇るようになるだろう。

こんなものがなんの制限もなく世界に流出してしまえば、産油国との摩擦は必死となる。

 

・奪還を担当するスプリガンについて

フランス出身のジャン・ジャックモンドが担当するそうだ。ライカンスロープの説明はなかったので下手に突っ込むことはやめておいた。取り敢えずイケメンってことだけ覚えておけばいいだろう。

 

・自分の任務について

簡単に言ってしまえば前回と同じだ。ジャンさんと合流してから目的地まで運び、ジャンさんがバグダッドの古代電池を奪還してきたら一目散に逃げる。砂漠での運転がメインとなるため、特殊な運転技術を習得している。マルチドライバーが選出されたようだ。

 

ついでにネットにつながっている端末を借りてASEからのミッションナンバーが発行されているか確認をした。自分に割り振られているID番号とPASSを入力し確認する。

たしかにアーカム考古学研究所からの依頼でバグダッドでの依頼が発行されていたので受諾した。

 

船長から燃料の補給が完了したと連絡をうけ、フォスター船長にお礼を言ってから一路、バグダッド国際空港を目指して飛行する。

 

 

 

 

予定時間より少し早くバグダッドに到着したが、すでに空港で待機していたASEのスタッフから砂漠仕様の4WDのSUVを受け取りジャンさんを待った。

少し待ったあとにジャンさんが現れた。

 

「お前がASEの横島か?俺の名はジャン、ジャン・ジャックモンドだよろしくな。」

 

「はい、ASEの横島優です。よろしくお願いします。」

 

暑いので車に入り、運転を始める。

 

走り始めた車の中で、暫く何かを考え込んでいたジャンさんが突然こんなことを聞いてきた。

 

「なぁ、日本人に優という名前は多いのか?」

 

質問の内容はわかるが、何故そんなことを聞いてくるのがわからなかったので質問に対し質問で返すことにした。

 

「多いかどうかは、わかりませんがそれなりにいるんじゃないですかね?

同じ名前の友人でもいるのですか?」

 

「あぁ、同僚に御神苗 優ってのがいる。世界の神秘を見に行くとかいって今はどこにいるのか分からないがな」

 

 

まじかよ。御神苗さんいるのか・・・

まぁ確かに自分は御神苗さんのメンタルを借りているだけだからご本人がいてもおかしくはないんだけど、会えるものなら一度あってみたいなぁ。

あれ?もしかすると斑鳩さんもこの世界にいらっしゃるのか?

ASEの日本支社でも見かけたことないけど、なにかの長期ミッションに出かけてるのかな?

 

無いと思って探すより、必ず有ると思って探すほうが見つかる率が高いのかもしれない、いや心持ちや意識のかけ方の問題かもしれないが、このミッションが終わったら探ってみるのもいいかもしれない。

 

そんな事を考えているうちに現場近くに到着した。

ジャンさんが車から降りて、すごい速度で車から離れていった。

 

 

 

ボーっと待っていると、遠くから爆音と共に煙が立ち上がっているのが見えた。

なにあれ、超こわいんだけど・・・

 

爆発があってから数分後にジャンさんがアタッシュケースをもって車に戻ってきた。

中身はバグダッドの古代電池のようだ。

 

ジャンさんの指示通りに車を発進させる。

 

追っ手は大丈夫なのかと質問したら、基地ごと壊滅してきたらくることはないという大変頼もしいご回答

こんな楽な任務ならわざわざASEに依頼するまでもないような内容だったが、

今回はジャンさんのおかげで楽だったのだろう。

一応銃撃戦に備えて、銃弾が逸れるように{逸}や矢{避}けの加護を意識して文珠を複数用意しておいたが、使わずにすんで良かった。

 

「全く、お前も優も俺がいなければ10回は死んでいるぜ」

 

え?何か危ないことでもあったのだろうか、そんな疑問を思い、ジャンさんにどういうことか聞いたらあんな目立つところで待っていたら

追っ手に蜂の巣にされるのが目に見えていたので、追っ手が来ないように基地ごと壊滅してきたそうなのだ。

 

一気に血の気が引き、タイヤが砂に取りかけられたがジャンさんが落ち着いた声で

もう終わったことだから気にするなと言ってくれる。

確かに基地に遊びに行くわけでもないのだから、次回からこの手の任務があればしっかり隠れることを意識しよう・・・

 

 

 

その後はなんだかんだ空港まで戻ってきて現地解散、ジャンさんはそのままアーカム財団の専用機で研究所まで移送するらしい。

自分も別便で日本に帰国した。空港からは疲れているところ申し訳ないがという台詞を聞きながらASEスタッフのお迎えで日本支社でアーカム山本さんも含めての今回の2案件の報告をした。

 

もう疲れきっていたので、思わず5000万円欲しいって愚痴がポロリとでてしまった。

 

そこからは当然、何故そんな大金が欲しいのかという話になり、そのまま話すわけにも行かず適当に話を作り上げた。

突発性の病に倒れた兄の治療に尽くしてきたが、先進医療なら完治する可能性がありその治療費が保険適用外なので5000万程度かかると話したところ

 

これからもASEのスタッフとして働いてくれるなら報酬の一部を借金の返済に充てることで5000万の融資をしていただけることが決定した。

まさに瓢箪から駒のできことだ。青天の霹靂とでも言うのだろうか

偶然の事とはいえ、ASEに相談してみて良かった。

 

そして自分の銀行に振り込まれたことを確認した後に橙子さんに連絡を取り、支払う準備が出来たことを告げた。

 

電話口では驚いたようだったが、最高の物を作成するという、力強い回答をいただき、完成を待つことにした。

 

 

 

 

 

 




長らくかかりました。
超古代文明の遺産など、世界の神秘についてもっと詳細に詰めていきたいところです。
結局はサラッと流すような事態になってしまい反省しています。


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16.忠夫兄さんの復活

16.忠夫兄さんの復活

 

 

 

 

お金はASEから融資してもらえることになった。5000万なんてどうすんだよ。サラリーマン時代で5000万っていったら下手したら家を買うレベルだぞ。

前に住んでいたマンションだって1500万の20年ローンだったのに・・・

あぁそういえば、自分が死んであのマンションだろうなったんだろ?

妹あたりが相続してくれてればいいけど、まぁ今となってはどうしようもないんだが

それはさておき、本当に途方にくれていたが大きく前に進んだ気分だ。

 

 

金さえ用意できればあとすることはそれほど多くはないはずだ

・文珠を用意する。

これは普段から精製しているからストックがある。

・如意宝珠を使用可能状態にする。

もう少しという手応えがあるが、再使用できるまでには溜まっていない。妙神山に相談に行くか

・儀式場の整備

雑霊が入らないように禊と文殊で徹底的に清めよう。場所は人形を運ぶ手間を考えれば伽藍の堂を借りてもいいかも知れない。これは要相談だな

 

忠夫兄さんの復活の手順として

1)人形の体に自分がはいる。

ドクターカオスと橙子さんに手伝ってもらおう

 

2)如意宝珠を使用して、忠夫兄さんの霊体を肉体にインストールする

インストールという言い方があっているかどうかわからないが、OSが入っていない状態なのであながち間違ってはいないだろうと思う。

 

自分が人形の体に入ってから、忠夫兄さんを如意宝珠を使用して励起させて如何に早く元の肉体にぶち込めるかがポイントになってきそうだな

 

かと言って練習もできない、ぶっつけ本番になってしまうがここは自分の運というよりも世界意思の加護にすがるしかないような気がしてしょうがない

儀式を始めてしまったら、もう後戻りはできない。事前の準備を完璧に整えよう。

前の仕事でも、段取り8分ってよく先輩にも言われていたしたな。

 

妙神山に行って小竜姫様にアドバイスをいたたくことにしよう。如意宝珠もまだ再使用できるようにはなっていないし、なにか良い方法があるかもしれない。

ASEの仕事で学校にもいけてなかったし、今日のところはゆっくり休んで明日からまた頑張ろう

 

 

~妙神山~

 

そんなわけで妙神山にやってきました。

鬼門に小竜姫様に取り次いでもらう。しばらくして鬼門を開けて小竜姫様がお出迎えしてくれる。

 

「あら、旦那様今日はどうされたのですか?もちろん私に会いにきてくれるだけでも嬉しいです。」

 

え?旦那様って・・・

武神だからなのかそのまま、自然な体裁きでするりと自分の左腕に身体を絡ませる。

柔らかくたわわに実った胸が左腕に当たる、当たるというか沈み込んでいる・・・

目が離せない、顔が赤面して二の句が付けられずにいると

 

「こういうのを人界では当ててるのよ。というのでしたよね。」

 

にこりと笑い、フニフニしながら如何ですか?

 

自分の背後では霊力のバーストが発生し、如意宝珠が凄い勢いでチャージされていく

忠夫兄さん、宝珠も自分も溜まっちゃったよ。(意味深

 

「すみません、小竜姫様本当は如意宝珠の再使用についてと忠夫兄さんの復活について相談にきたのですが、その結構なお手前で如意宝珠は再使用可能になってしまいました。」

 

「あらあら、旦那様ったら」

 

そうコロコロ笑いながら、どうぞと中に通された。

 

 

 

「さて旦那様、横島さんの復活にどんな計画を立てているのですか?」

 

「忠夫兄さんの復活について最初は錬金術などによる人体錬成を考えましたが、

錬金術師のドクターカオスに相談して人体錬成も検討しましたが、現実的ではないことがわかり、現在は人形に僕の魂を移し、そして開いた身体に忠夫兄さんの魂を如意宝珠の力で顕現できるまで増幅して定着させようと思っています。」

 

そうなんですね。と小竜姫様が呟き

 

「横島さんを元の身体に定着する事は如意宝珠の力があれば可能でしょう、しかしあなたが人形に宿るにはどのような方法を考えているのですか?」

 

「人形作成師の魔術師か先ほど話したドクターカオスにご助力を願おうと思っています。」

 

「条件付きではありますが、私が助力できるかと思います」

 

小竜姫様の言う、条件とはなんだろうか?お優しい小竜姫様なので無理難題ではないと思うけど、小竜姫様にその条件を尋ねてみると

 

「儀式をここ妙神山で行うこと、これは私がこの山に括られていることもありますが、ここも神域なので余計な横やりははいりません。

魂のなくなった、身体は雑霊が喉から手がでるほどほしいものです。ここなら霊的な加護もありますから防護は万全ですよ。

それに人形に移ったあなたのサポートもできますからね。

迷惑をかけていると思ってはだめですよ。旦那様を助ける内助の功、何ですからもっと私を頼ってもいいのですよ。」

 

完成した人形はヒャクメに頼んで運んでもらいましょうと小竜姫様が微笑んでそう提案してくれる。

もともと儀式場の選定は悩んでいたところだ、ここで儀式を行えば小竜姫様がサポートしていただける上に、神域ということで霊的な防護も万全だ。

よろしくお願いしますと深ぶかと頭を下げる。

そしてあれから幾日が立ち、ついに待ちわびた人形が完成したと連絡がきたので早速受領に向かう。

 

 

~伽藍の堂~

 

 

作業台の寝かされている自身を型どった人形を見て、その出来映えに改めてその腕前の凄まじさを実感する。

だれがどう見てもこれは人形には見えない、人がただ寝ているだけのようにしか見えない

いや、見る人が見れば呼吸をしていないので胸が上下していないことに気がついて死んでいると思うかもしれない。

しかし、あくまで人が死んでいるように見えるのだ、決して人形だと思う者はいないだろう。

 

顔立ちも確認すると、忠夫兄さんの顔をしているが、たれ目な感じな分、少し違和感があり忠夫兄さんとの見分けもつく顔立ちになっている。

注文通りの仕上がりだ。

 

さて、最初はここ伽藍の堂で儀式を行うつもりだったが、何とかして妙神山まで運び込む必要があった。しかしそれも小竜姫様がヒャクメに話を通してくれたので渡す手はずになっている。

 

「おぉこれが横島さんの人形なのねー

さっそく妙神山に運び込むのねー」

 

妙神山でじっくりと見せてもらうのねー と不吉なことを呟きながら転移をしていった。

これは早めにいかないと、尻の穴までじっくり観察されてしまいそうだ。

 

橙子さんに心からお礼を伝え、残りの代金を支払い、自分も妙神山に急ぐ。

 

 

 

~妙神山~

 

 

文珠で妙神山まで転移してきた。これから儀式にも使用するので、あまり使いたくなかったがヒャクメが自分を忘れて先に転移していってしまったので自分でなんとかするしかなかった。

 

奥に進むと小竜姫様の前でヒャクメが正座しており、頭にはたんこぶがあるように見える

案の定なにかやらかしてお仕置きを受けたのだろう。

本当に小竜姫様には感謝です。

 

 

こちらに気がついた小竜姫様に案内され儀式を執り行う場所はすでに結界が張られており清浄な空気に包まれていた。

もう一段、清浄性を高めるために霊力を込め柏手を打ち鳴らし、禊ぎを行う

 

もはや、神性がないと留まることもつらい環境になったところで儀式を開始する。

 

まずは第一段階、人形に自分の意識、魂を移す作業だ。

 

小竜姫様をちらりと確認したら、にっこりと微笑まれて腰の神剣の腹を自分の後頭部に打ち付けてきた。衝撃で意識が飛ぶ、まさに魂が抜けそうになるとはこのことなんだろうか・・・

なんかもっと優しい感じでいくのかと思っていたに・・・

 

はっと気がつくと目の前には双子山がありその奥には小竜姫様の顔が見える。

これはまさか膝枕をしていただいているのだろうか

先ほどはこれだから武神はなどと不敬なこと思ってすみませんでした。大変結構なお手前です。

膝枕の感触と視覚情報がかなり名残惜しく感じるが、それを後にしてヒャクメに忠夫兄さんの魂の状況を確認した。

この時、少し身体を動かしたが、元から自分の身体だったかのような錯覚を覚えるほどなんの違和感も感じない。

 

「予定通り、横島さんは守護霊なのでしっかりついてきているのね」

 

よし、ここからが本番だ、気合いを入れて作業にかかろう

 

”如意宝珠に乞い願う 我が意に従い顕現せよ”!!

 

自分を中心に濃密な霊力のこもった風というには生ぬるい暴風が巻き起こる。

これにあわせ文珠{増}{幅}の文字を発動させる。

 

如意宝珠とは己の意のままに願ったことを叶える宝珠だ。

いま、ギャルのパンティと願えばギャルのパンティが顕現するに違いない。

 

今は忠夫兄さんの復活に専念する。

 

願いを声に出して、願い事を自分の意志を強く込める

如意宝珠に陰陽師の業を受け継ぐものして強く精密に意志をこめて呪文を発する。

 

「急急如律令、その名は横島忠夫! 我が守護霊の立場から解放され元の身体に戻るべし!!」

 

自分を取り巻いていた暴風が背後にまとまり、激しい光と発しながら収束していき

やがてその光は球状となった。

 

そして、その珠はゆっくりと横島忠夫の身体に吸い込まれて消えていく。

 

その様子を観察していたヒャクメは

 

「如意宝珠とはかくも凄いものなのねー。完全な肉体があったとは言え死者蘇生の大儀式をなしとげたのねー

もう完全に魂魄が身体に定着している。まったく問題ないのねー」

 

そう太鼓判を押してくれた。

 

「では、旦那様、横島さんは宿坊の方に寝かせておきましょう。あなたも制御に霊力を使い切っているので今日はこのままお休みください。」

 

私の出番はありませんでしたね。さぁこちらにと言われ宿坊の布団に入ったとたんに猛烈な眠気を感じそのまま眠りについた。

 

 

翌日、陽の光を感じ目が覚めると横に寝ていたはずの忠夫兄さんはいなかった。

居間に向かうと、小竜姫様の手料理を貪るように食べる忠夫兄さんがいた。

 

食べ終わるのを待ってから、忠夫兄さんに挨拶をする。

 

「おはようございます。忠夫兄さん、初めましてと言えばいいのか弟になった横島優です。

身体の様子は大丈夫ですか?」

 

「朝、小竜姫様からだいたいの話は聞いたけど、守護霊?になっていたときの記憶は曖昧なんだ。目が覚めて小竜姫様が巨乳だったから思わず飛びかかったら折檻受けたけどとりあえず大丈夫だ」

 

復活していきなりなにしてんの?この駄兄

じと目で忠夫兄さんを見ていると

 

仕方なかったんやー あの揺れる巨乳がわるいんやー 飛びかかってしまうやろ普通

などと供述している。

 

そこに、小竜姫様が自分の分の朝食を持ってきてくださったようだ。そして一発の爆弾を投下してくる。

 

「はい、旦那様 朝食ですよ。一日の活力の源なのでしっかり食べてくださいね。」

そういってお膳を渡していただく。

その様子を見て、忠夫兄さんが騒ぎ出す。

 

「おい優、小竜姫様が旦那様っておどれを呼んでるがどいうことや!! おどれ裏切ったんかい!!

やっぱり顔かぁ、顔なんか!? いやでも俺と目元が違うけど同じ顔なんやし、なんで俺じゃいかんのやーー!!!

あの巨乳を弟にとられるなんて、どういうことなんや!!」

 

兄弟初のスキンシップにしては、あまりに騒がしいので攻勢の霊力を発しながら

高町式説得術でOHANASHI デス。

「忠夫兄さん、ちょっと静かにしようか」

 

「お、おう なんかすまんかった・・・」

 

「いいですね。兄さん小竜姫様はだめですよ。それに兄さんには美神さんがいるじゃないですか」

 

「そうや、そうやった、あの巨乳は俺のもんやった。よっしゃ優早速、美神とこにいくで」

 

小竜姫様に落ち着いたらまたすぐに会いにきますとお礼をして妙神山を後にした。

 

 

 

~美神除霊事務所~

 

 

「よっしゃ、行くで、美神さん貴女の横島が今行きますからね。」

 

そういってドアを開けて突撃していく

本当に復活したばかりなんだろうか?

いや、元気なのはいいことなんだけど、新しく住む場所の案内とかもしたいんだけど・・・

自分は後ろから忠夫兄さんを歩いてついて行く

 

「美神さん、この横島忠夫、恥ずかしながら貴女のために蘇って参りました!!」

 

「本当に、横島君なの?」

 

「その巨乳は俺のもんなんじゃー!!」

そういって美神さんに飛びかかる

 

自分が後ろから襟首を掴んで自制させる

 

「はい、駄兄さん正座してください。だめですよ。まだ蘇ったばかりで本調子じゃないんですから

それに美神さんも今度こそ殺しちゃうかもしれないので、嬉しいかもしれませんが手加減してあげてくださいねー」

 

「横島君、今日は何をしにきたのよ」

 

「はい、また美神さんに雇ってもらいたくてきました。」

 

「いいわよ。荷物持ちで時給300円で雇ってあげるわ」

そういって、美神さんが胸の谷間が見えるように腕を組む

 

「はい!わかりまし・・・」

 

駄兄、本当にこういう露骨なエロ関係に弱いな

「はい、駄兄 ストップ、ちょっと時給のことで美神さんと話があるからちょっと席を外して」

 

「おまえ、金のことで美神さんに逆らってもいいことないぞ・・今すぐ謝れば許してくれるから」

 

はいはい、大丈夫だからちょっと外行っててね。話が終わったら声かけるから

そういって、忠夫兄さんを外に追い出す。

 

「さて、美神さんOHANASHIしましょうか、忠夫兄さんの見かけ上の時給は最低賃金よりちょっと上でいいですよ。そうですね切りよく1000円にしましょうか」

 

「ちょっと待ちなさいよ。時給も300円にあげたのよ。横島君も頷いたじゃない」

 

「いやいや、話はまだですよ。見かけ上はと言いましたよね。実は忠夫兄さんの死者蘇生に5000万円程度かかりましてね。いや何、直接の原因である美神さんに請求しようとかそんなことは考えていないんですよ。

しかし、加害者が何もしないというのも心苦しいとお気持ちを察しているわけでしてね。

 

なんだかんだ、忠夫兄さんも仮免持ちですし、業界の相場的にもあり得ない金額ですよね。

別に多く払えとかいってるわけじゃないんですよ。相場通りの金額の一部を兄さんに残りは僕が貯金しておきますので、どうせお金があってもろくなことには使わないでしょうし」

 

あまり言いたくもないですが、警察とかのもみ消し費用よりはだいぶお安くなると思いますよ。

 

思いっきり眉間に皺を寄せ、どっちが得なのか考えた結果とても嫌そうに

 

「わかったわ、横島君は時給1000円、あなたには相場から1000円引いた分を振り込む。それでいいんでしょ!」

 

「はい、もちろん治療費、交通費、食事代など他にもかかる費用はそちら持ちでお願いしますね。忠夫兄さんは死なない程度にこき使ってあげてください。学校にも行かせてあげると助かりますね。」

 

「あぁ!!もうわかったわよ。払います。ちゃんと払いますよ!!

あんたろくな死に方しないわよ。」

 

「もう一回死んじゃってますから大丈夫じゃないですかね。」

 

さて兄さんを呼ぶかな

兄さんを呼ぶためにドアを開けると、おキヌさんに抱きつかれて慌てふためいてる駄兄を見つける。

あれでもてないってよくいってるよな。青い鳥のごとく身近な幸せは見つけづらいてことなのか

 

「兄さん、時給の話がついたから入ってきて」

 

おぉそうか、さぁおキヌちゃんもって声がして部屋に入ってくる

 

「兄さん、美神さんのご好意で仮免もとったし、時給を1000円を上げてくれることになったので頑張って働いてくださいね」

 

「なに、時給1000円、今までの4倍じゃないか、やっぱり美神さん俺のことを愛してくれているんですね~~」

 

そう言ってまた飛びかかろうとするが先ほど同じく襟首を捕まえる

 

「はい、駄兄ステイ、今日は住む家の案内もあるし、これで帰りますよ」

 

では、失礼します駄兄を引きずって美神除霊事務所をあとにする。

 

 

「横島君が蘇ったのは良かったけど、本当にやばいのは弟のほうなのかもね」

 

 

 

 

 

 

あとで分かったことだが、忠夫兄さんが時給アップとともにあっさり採用されたのは

経験者ということもあったのだが、憧れだけでバイトにはいった六道女子の子達が美神さんの除霊について行けず、すぐに辞めていき、時給を上げても定着せず徐々にあがっていたようだ。

そんな事情もあり、すんなり採用と時給アップに繋がったようだ。

 

忠夫兄さんは、時給も上がり家賃などの支払いも無くなったが、相変わらず美神さんのところに入り浸っている。学校もしっかりいっているようなので特に言うこともない。

まぁ兄弟だし、一緒にいる必要もないから自分としても楽でいい。

そうそう、忠夫兄さんも文珠が作れるかと思っていたけど、まだ出来ないみたいだ。

まぁ妙神山で老師の修行を受けたのは自分なんだし、霊能力は魂の力なので魂が違うと出来ないのかも

まぁでも身体は覚えているから、忠夫兄さんも妙神山に修行に行けばそのうち出来るようになるだろう。

 

さて最後に自分のことを少し話していこうか

5000万円の借金については、ASEからの融資と言う形で借りており、ASEに所属してその報酬から支払っていくことになった。

横島夫妻が肩代わりしてくれるとも言ってくれたが、今はなんとか支払いを続けられている。

 

GS免許については、忠夫兄さんが復活したので、当然自分は無免許だ。

せっかくこの世界でいきているのだから、次の試験で取得を目指したい。

そのためには、どこの所属になる必要がある。

まぁそれは追々考えるとしよう。

 

人形の身体になったけど、霊能力は魂の力だけあって今まで通り使えている。

この力とどうやってつき合っていくか

 

忠夫君も復活できたし、とりあえず仕事もあって生きていくには問題ない。

この世界でどうやって生きていくか、しっかり考えて生きていこう。

 




これでとりあえず完結です。
思いつきで書き始めて辻褄合わせに走ってしまった感がぷんぷんします。
そして、辻褄があっていない感もかなり感じています。

今後の展開は特に考えてはいませんが
FGOの清姫が嫉妬可愛いからかけたらいいなぁとか
六道所属ー>GS免許取得からの独立とか
素直に原作のイベントをなめつつ、オリジナルな話をちょこちょこ
書いていければなぁと思っています。




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17.そうだお礼詣りにいこう。

17.そうだお礼参りにいこう。

 

~自宅~

 

忠夫君が復活して慌ただしい日々が過ぎても、次の日にはまた朝がやってくる。

すっかり日常生活に復帰をして学校にもまた通える落ち着いた毎日を過ごしている。

さて学校に向かうにはまだ早いが、朝食をそろそろ食べないと間に合わない時間になってきた。

しかし、忠夫兄さんは昨晩はGSのアルバイトがあったのか帰ってきたのは夜中だったのでまだ起きてこない。休日ならそのまま放置して寝かせておいてもいいのだが、百合子さん生活態度を頼まれている以上、仕方ないので起しにいく。

 

ブラックに勤めていたから分かるが夜勤明けからの日勤は本当につらい、社員が少ないとそのまま一人連続2直勤務とかあってしんどかったなぁ・・・・・・

 

まぁそれはさておき、忠夫君の部屋に突撃して彼を起こす。

部屋もなんか雑誌とかで溢れているし、男子高校生の部屋なんてこんなもんなのかもしれないけどなぁ

 

「忠夫兄さん、朝だよ。朝ご飯食べて学校行くよ」

 

唸っていたが暫く揺するとようやく起きてくる。

 

「朝起こされるなら美女か美少女に起こされたいぜ」

 

「なら、おキヌちゃんに頼めばいいじゃないか、彼女なら喜んで起しにきてくれると思うよ。」

 

「いや、でもおキヌちゃんに頼むのはちょっとなぁ・・・・・・」

 

いやでもしかし、となにか葛藤をしているようだ。

しかし実際におキヌちゃんに頼むのは良いアイデアな気がしてきた。

上から目線で申し訳ないが、彼女には幸せになってほしいし、彼女が復活する前に縁を強く結んでおくという点でもいいかもしれない。

今度、おキヌちゃんにあったときにでも忠夫君を起こしてやってくれとか、

ご飯を作りにきてほしいとおキヌちゃんに話しておこう。

あのアパートから変わったこともついでに教えておかないとなぁ

さて、ボチボチ学校に行く時間になってきた。忠夫君に声をかけて出発するとしよう。

 

 

 

 

~学校~

 

先生には忠夫君が病気から快癒したと報告しその間の補修を受けることで話がついたようだ。自分が兄弟が同じクラスになることはないと思っていたので、別のクラスに編入になるかと思ったが、そのまま同じクラスになった。

先生からは横島兄と弟と呼ばれ区別されている。

教室にはいると愛子さんが待ってましたとばかりに元気に挨拶をしてくれる。

 

そういえば、忠夫君が復活したときについでに席替えをして自分たち兄弟で愛子さんを中心に左右に挟む位置に席が決まった。

その時の愛子さんは横島兄弟に挟まれて、賑やかで明るい兄と大人しい弟とどっちを選べばいいのかしらと頬に手をあて体をくねらせていたのが印象に残っている。

あれ?ひょっとして自分もその対象なんだろうか?

この子自分のこと好きなんじゃないだろうかなんて勘違いは若い子の特権なのでおっさんの自分は冷静にスルー対応しておく。

忠夫君にモテていることを教えてあげてもいいが、見ている分には面白いので当分は黙っておくつもりだ。

もちろん愛子さんが忠夫君に告白したいとか相談されれば親身に付き合うつもりだ。

 

自分も、前世では高校を卒業しているが、工業高校だったので文系の内容はさわり程度しか学習していない。まさかもう一度勉強し直すことになるとは思ってもいなかったが、勉強できる有難みも社会に出てから実感したので、学校の授業をおろそかにすることはない。

なんだかんだ、就職するにも進学するにもいずれにせよ学歴はあったほうがいいのだ。

この先の人生に選択肢が多いほうが望ましい。前世のようにあの時もっと勉強しておけばよかったと社会人になってからでは遅いのだ。

そんなことを思いながら、催眠音波と化している授業に気合をいれて向かう。

 

 

 

~愛子side~

 

 

横島君が事故で入院したと聞いたときは唖然としてしまったが、元気な姿が見れて本当にほっとしている。いなくなってから分かるという事も実感した。

私にとって横島君は大事な人だったということにも気が付けた。

そして、怪我で入院したと入れ替わりにやってきた、横島君と同じ顔で性格が反対の大人しい弟の横島優君。どっちの横島君も妖怪の私にも優しくしてくれた。

それに横島君が怪我から復帰してから、横島君兄弟が同じクラスになって、席替えをしたら

私の両横に横島君達が来てくれたの

神様に本当に感謝したわ。

左を見れば横島君が寝顔を見せてくれてる、なんだかずっと見ていたくなるわ

右を見れば優君がまじめな顔で黒板の内容をノートに取っている。

あぁ私はどっちの横島君を選べばいいのかしら

 

 

 

 

 

 

 

~下校途中~

 

 

学校の授業も終わり、今日はASEの依頼もないのでスーパーによって総菜を買ってかえることにする。炊飯器があるのでご飯だけできれば、あとはスーパーの総菜を皿に移せばそれっぽい夕食に見える。

もちろん料理もある程度作れるが、結局材料が余ってしまうので面倒だしなぁ

やっぱり朝思った通り、おキヌちゃんにたまに作りに来てもらえると助かるな。

 

そういえば忠夫君も復活したところで、天照大神にご報告もかねて、お礼参りに行くのもいいかもしれない。

しかし東京から三重県までどうやっていこうか

前世では名古屋に住んでいたから伊勢神宮まではおよそ200㎞、自動車かオートバイでしか行ったことがない。電車でいくと現地での足に困るからだ。

確か名古屋駅から近鉄でいけたはずだ。そうなると東京から名古屋までは東海道新幹線で名古屋からは近鉄に乗っていくか。

さすがに600kmを越えるとオートバイを運転するのもしんどくなる

やはり遠出の時は電車で行くのが楽かもしれない

まぁ行く当日に乗車券を買えば大丈夫だろと帰り道を歩く。前世では出張が多かったからある意味で旅慣れしている。こんな経験でも役に立つものなんだなと自嘲する。

 

 

信号待ちで待っていると、黒塗りの車の後部座席から声を掛けられる。

 

「あら~~~横島君じゃない、お家まで乗っていくといいわ~~~」

 

あれ?六道婦人の六道冥奈さんとは面識が無いはずなんだが、というか気絶していたので六道冥子さんとも面識はないはず。

 

「すみません、お顔に見覚えがなくて、どちらさまでしたか?」

 

「ASEの依頼で~~~廃ビルから救助された~~~娘の六道冥子の母で六道冥奈よ~~~」

 

「あぁあの時のお嬢さんのお母さんですか、初めまして横島優と申します。」

 

「見たところ~~~学校の帰りなんでしょ~~~お礼にお招きしたいわ~~~」

 

どう考えても六道冥奈さんの話は地雷臭がするのだが、それ以上に自分の直感がこの話はうけたほうがいいと囁いている。

それにお礼というならこの話を一回受ければあとは仕事の話くらいになるだろうし

さらに運が良ければ後ろ盾になってくれるかもしれないという打算も働く。

 

 

「わかりました。六道さんお招きに預からせていただきます。」

 

「本当~~~嬉しいわ~~~さぁ車に乗って頂戴~~~」

 

~六道家に向かう車内~

 

 

「おばさん~~~、横島君に弟さんがいらっしゃったなんて知らなかったわ~~~」

 

弟という話自体がアンダーカバーなので世間には知られていないはずだ。百合子さんと打ち合わせした内容をそのまま話す。

 

「えぇ僕と兄の忠夫は双子なのですが、活発な兄に比べて僕はどちらかといえば病気がちでした。

母が父の仕事でナルニアに行きを決めたときに、僕の療養もかねてナルニアについていきました。

ナルニアの水があったのか今ではすっかり健康な体になれました。

兄は日本に残ったので兄からそういう話がなければわからないのかもしれません。

兄弟仲は悪くないんですよ。今は一緒のマンションに住んでいますし。双子なのでよく似ていると思いますが僕のほうが若干たれ目なので区別はつくと思います。」

 

完全に六道婦人にはバレバレかもしれないが、そういう事にしておいて欲しいのでアンダーカバーをそのまま話す。

 

「あら~~~そうなの~~~大変だったわね~~~」

 

そういってニコニコ笑っているので、了解してもらえたのだろう。

それからは他愛ない話をしてしばらくすると六道家に到着したようだ。

初めて来たが凄い広い、さすがは霊能の大家だけはある。

 

 

 

~六道家~

 

 

応接室に通されお茶とケーキを用意していただき、お茶会を催していただいた。

 

「さぁ召し上がれ~~~家のケーキは美味しいのよ~~~」

 

「はい、いただきます。六道婦人」

 

「六道婦人なんて固いわ~~~冥奈でいいのよ~~~」

 

「わかりました。冥奈さん。ケーキいただきます。」

 

ケーキをいただいたが、本当に美味い。思わず目を見開いて美味しいとこぼしてしまう。

それ見て冥奈さんがニコニコ笑いながら、自身もケーキを頬張る。

 

「いま、冥子も呼んだからすぐに来ると思うわ~~~」

 

あれ?なにこのデジャブ、まさかとは思うが良く2次創作で見かけたこのパターンって冥子さんが部屋に入ってきてなんらかのアクシデントがあり、式神が暴走する状況じゃないだろうか

いや、さすがに物語と現実は違うよな。

そう思えばそう思うほど嫌な予感しかしない。文珠とか見せたくはないけど怪我をしては本末転倒だ。

式神を鎮めるのに神道の禊を行い、結界をはっても式神自体が神格化していれば効果は薄いだろう。であれば荒魂を鎮める魂鎮めのほうが効果的かもしれない。

一応、最悪を想定してポケットの中に{鎮}の文字を入れた文珠を用意しておく。

本当は神道だけで事を収めたいが、バックアップの文珠があれば失敗しても冷静でいられる。

 

ケーキを食べながらしばらくするとパタパタと廊下を歩く音が聞こえドアが開く

冥子さんのご登場だ。さすがに自宅だからこけることなんてないよな。

 

「あぁお母さま~~~冥子もケーキたべたい~~~」

 

「こら冥子、横島優さんに~~~お礼を言わなきゃ駄目よ~~~」

 

パタパタと急ぎ足でこちらのテーブルに歩いてくる冥子さん

そして物語のように自宅でこけることなんて無く安心した矢先に

ガツンという音とともに机が揺れた。

そう、冥子さんが机の脚に小指をぶつけたのだ・・・

そしてしゃがみ込むときにさらに机に頭もぶつけた。そのせいで額がちょっと赤くなってる。

見る見るうちにその大きな瞳に涙が溜まっていき冥子さんはプッツンした。

 

もう一応準備はしていたが、まさか小指をぶつけた痛みでプッツンするとはさすがに予想外だったが、この暴走を止めないと自分にまで被害が及ぶ

 

妙神山で習った通り、丹田で霊力を練り上げ柏手を打つ

柏手の音に霊波が乗り、部屋の神気が高まっていく。

しかし、全力でやりすぎて式神を祓ってしまうわけにもいかない。

 

「祓い給う、清め給う、払い給う、清め給う 

 

ひと、ふた、み、よ、いつ、む、なな、やつ、ここのたり

 

ふるべ ゆらゆら ふるべや」

 

式神の主人を守ろうとするその荒ぶる御霊に語りかけるように

危険は有りませんのでどうか鎮まりくださいと魂鎮めの祝詞を奏上する。

 

祝詞の奏上が終わり再度柏手を2度打てば全ての式神たちの暴走は収まっていた。

口を開けて唖然と気が抜けている冥子さんに式神を影に戻してほしいことを伝える。

 

「冥子さん、式神達を影に戻してください」

 

 

静まり返って室内で声を掛けられて我に返った冥子さんが式神を影に戻し始めた。

 

「おばさん~~~驚いちゃったわ~~~今の神道の魂鎮めでしょ~~~」

 

「冥子もびっくり~~~」

 

「はい、たまたま僕には神道と陰陽術に適正があり、霊力の収束に特化しています。そして妙神山に兄のことでご挨拶に伺ったときにこんな霊能が開花しました。

そしてその時の縁で、驚くことに天照大神に姉と呼んでいいとお許しを得ることができ、小竜姫様には旦那様と呼んでいただいています。」

 

 

そういってから文珠を数個取り出し、机の上に置く

どうせ使っていればいずれはバレることなんだ、むしろバレてはいけないのは如意宝珠は絶対に世間に漏れてはいけない霊能だ。

こっちを守るためにあえて文珠を見せ金にする。

文珠ですら貴重な霊能だから、それ以上があるなんて思わないだろう。

それに後ろ盾として、日本の最高神である天照様と小竜姫様との関係を暴露した。

小竜姫様に至っては婚約発表じゃないのかこれ?

小竜姫様のお眼鏡に適えば側室も持てるみたいだし、いや側室が持ちたいというわけじゃないんだけどね。

今考えても仕方がないことだけど、寿命ってどうなるんだろうか、こんな時に考えることでもないんだけど、人形の身体だからメンテナンスをすればかなり持つのかな

それはさておき、まずはこっちを対応しないと

 

「良ければお納めください。文珠の使い方はわかりますか?

簡単に説明すると使い方は漢字のイメージの念を込め、それを発動しようとして投げると動作します。」

 

「あら~~~おばさん困っちゃうわ~~~私に何をしてほしいのかしら~~~」

 

「いえいえ、美味しいケーキのお礼とお近づきのご挨拶です。」

 

「そうだわ~~~横島君の復帰のご報告にお礼詣りいきなさいな~~~

おばさんが~~~旅費を出してあげるわ~~~ちょっと待っていてね~~~」

 

そういうなり、ささっと部屋からでていく冥奈さん

 

「むぅ~~~横島君お母さまとばかりお話してずるい~~~」

 

「初めましてですよね。双子の弟の横島優です。兄とはちょっと目元が違うでしょ」

 

「本当だ~~~優君はちょっとたれ目なのね~~~かわいい~~~」

 

「冥子さん、式神には気を付けてくださいね。今日は僕がいたから良かったですけど」

 

「優君もお母さまと同じこと言うのね~~~」

 

実際、冥子さんは式神を暴走させて、ビルを廃墟に変えたからなぁ

その時にASEの依頼で救助に行ったのは自分だったし、なんとか意識改善をして暴走を減らしてもらいたいんだが

 

「式神が暴れちゃうと、ほかの人は怪我しちゃいますよ」

 

「そうなの~~~みんな怖がって冥子とお話してくれないの~~~」

 

そりゃビルを崩壊させる式神の暴走が、どのタイミングで暴発するかわからない時限爆弾の近くには誰もいたくはないだろう。

 

「少なくとも僕は大丈夫ですから、頑張って練習しましょう?冥奈さんも手伝ってくれると思いますよ」

 

「優君、お兄様みたい~~~冥子、優君がお兄様だったら良かったのに~~~」

 

「年齢的には僕が冥子さんの弟ですけどね~」

 

「じゃぁ~~~冥子お姉さまって呼んで~~~~」

 

 

ガチャっという音がしたので、振り返ると冥奈さんとメイドのフミさんが一緒に部屋に入室してきた。

 

「あらあら~~~すっかり仲良しみたいね~~~

フミさんに電車の乗車券は手配してもらったわ~~~

あと、これが旅費よ~~~少ないかもしれないけど持って行ってね~~~」

 

そう言って東京から伊勢までの東海道新幹線と近鉄特急の往復分の乗車券と帯付きの札束が机の上に置かれた。

 

「冥奈さん、旅費にしてはちょっと、というかかなり多いんじゃないですか?」

 

「いいのよ~~~先ほど冥子のプッツン止めてもらっちゃったし~~~お礼よ~~~

折角、伊勢まで行くなら熊野詣もしてくるといいわ~~~」

 

「お母さま~~~冥子も優君と一緒に行きたい~~~」

 

「あらあら~~~優君とすっかり仲良しね~~~でも駄目よ~~~

あなたは反省して修業するのよ~~~~」

 

「お母さまの意地悪~~~」

 

やばい、また冥子さんが涙目になってる、まさか本日二度目のプッツンじゃないだろうなぁ

あれか、これは鞭と飴か、飴がいるのか

 

「冥子さんが頑張って修行したら、また美味しいケーキを食べに遊びに来ますから」

 

「冥子さん~~~じゃなくて~~~冥子お姉さまよ~~~」

 

「え?冥子さん?」

 

「冥子お姉さま~~~」

 

え、なにこれループするの?冥子お姉さまって呼ばないと終わらない系なの?

最後はプッツンなの?

 

「冥子お姉さま、頑張ってくださいね」

 

「うん、冥子頑張る~~~」

 

とりあえず、プッツンは回避したが、余計に面倒な事態になった気がする。

あぁフミさんの笑顔が怖い・・・・・・

 

「冥子と優君は本当に仲良しなのね~~~

冥子はこれから修業のだから~~~フミさん優君を家まで送ってあげて~~~」

 

「畏まりました。奥様」

 

 

 

 

~六道冥奈side~

 

いいわ~横島優君本当いいわ~

冥子の式神を軽く止めた、あの神道の魂鎮めの技術もすごかったけど

本人が陰陽術も使えるといっていたし、六道家の式神の術とも相性ばっちりじゃない

それに、隠し玉の文珠もいただいちゃったし、冥子も気に入っているようだし

冥子のお婿さんにぴったりじゃないかしら

 

でも、神族の最高神天照様や小竜姫様と懇意にしているみたいだし、まだ焦るのは時期尚早ね。

最悪、六道一門になってくれるだけでも、その価値は計り知れないわ

 

 

 

 

 

 

フミさんの運転で家に送ってもらう車内でフミさんとちょっとお話をしたのだが

 

「横島優さん、本日はお越しいただきありがとうございました。

奥様も冥子様も喜んでおりましたし、若旦那様とお呼びしたほうがよろしいでしょうか?」

 

そう言って、コロコロと笑うフミさん

なんだかんだ話しているうちにマンションに到着した。

 

「送っていただいてありがとうございます。」

 

「いえ、また冥子お姉さまの相手をしに遊びに来てくださいませ」

 

それではといって、去っていくフミさん

あぁなんか忘れていると思ったがスーパーで総菜買ってくるの忘れた。

忠夫君と飯でも食いにいくかなぁ

 

「ただいま~兄さんもう晩御飯たべた?

まだだったらラーメンでも食べに行こう、冥子さんの家からケーキもお土産にもらったし」

 

 

 

 

 




どうもお久しぶりです。
不定期の更新で申し訳なく思います。

さて、今回から天照様へのお礼詣りの旅が始まります。
そして熊野詣といえばあの人ですね。
出すかどうかは悩んでいますが、バーサーかわいいあの方は
個人的には結構だしたいです。

では、また次回


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18.そうだお礼参りに行こう。2

今回は短くてすみません、でも切りがよかったのでアップします。


18.そうだお礼参りに行こう。2

 

 

 

 

先日、六道婦人のお礼という名目のお茶会にお招きされ美味しいケーキとお茶を楽しんでいると、後からやってきた冥子さんが式神の暴走させるハプニングが発生。

なんとか魂鎮めをして式神が大人しくなった。

何か作為的なものすら感じるがさらにお礼として伊勢までの旅費をいただいてメイドさんに家まで送ってもらった。

霊感なのか直感なのか、伊勢に行ったほうがいいような気がするんだよなぁ

せっかく旅費をいただいたので、週末に伊勢神宮にお参りに行くとしよう

 

 

 

 

~ 東京駅 -> 伊勢 ~

 

 

東京駅から東海道新幹線で名古屋に向かう。

そういえば、前世では指定席をネットで予約して券売機で受け取るシステムからブラシュアップされて最終的にはICカード2枚で新幹線に乗れるようになったし便利になったよなぁ。

たまにグリーンポイントでグリーン車に乗れるのがなんか贅沢に思えたな。

 

さて、券売機でも乗車券を買えるのだが、今回はみどりの窓口で乗車券を購入する。

結構期待していたけど、期待通りグリーン車の引換券だった。

さすがは六道家だな。いや今ならそれくらいの金額は出せるのだがどうしても、グリーン車に乗ると言う発想が出てこない。

 

ありがたく頂戴してまずは名古屋駅を目指す。といっても列車番号さえ間違わずに乗ってしまえば寝ていても安全快適に運んでくれる。大目に見て約2時間の列車だ。

東京を出発して、持ってきた小説を読んでいるが、エアコンの効いた車内環境とこの絶妙な揺れが眠気を誘う。

新横浜を超えたので次は名古屋に止まるのだが、寝過ごすと次は京都、新大阪までいってしまう。

三河安城を通過したというアナウンスで目が覚めることを期待して朝が早かったしちょっと寝てしまおう。

 

結局、三河安城より手前の豊橋で目が覚めた。そのまま名古屋で下車することができた。

前世は名古屋に住んでいたこともあり何か懐かしい感じがする。

そうだ、帰りに住んでいた辺りを探索するのもいいかもしれない。どうなっているか、どんな違いがあるのか楽しみだ。

 

よし、このまま近鉄にのって伊勢を目指す。

近鉄って確か近畿日本鉄道だったよな、うろ覚えな記憶が確かなら日本最大の民営鉄道会社のはずだ。

昔は会社の先輩から大阪出張に行くときは近鉄のほうが安いからそっちに乗って、新幹線の差額をもらったほうがいいぞとか言われたこともあったなぁ

あまり前世でも余り乗ったことがないからすごく楽しみだ。

 

名古屋駅から乗り換えもなく五十鈴川駅に到着することができた。

正直ここからはどうやっていいのかわからない。徒歩で30分くらいだったような気がするが土地勘がないから正直つらいところだ。

今回は潤沢な資金があるからここは一つゴージャスにタクシーで内宮を目指すことにしよう。

 

 

~神宮(内宮)~

 

内宮のタクシー降車場についた。ここからは徒歩で向かう。

内宮への入り口、五十鈴川にかかる宇治橋の手前に大鳥居がある。

ここを超えた瞬間から神域への入っていくのだが、霊能者でなくても空気感が変わるのだ。

もっといえば宇治橋を超えたあたりから清浄な空気になっていくのが肌で感じられる。

玉砂利の感触を楽しみながら右手に折れ歩いていく、途中で手水舎により俗世での穢れを祓い、心を清めていく。

内宮という場所には天照様をお祭りするだけではなく、食事を作ったりする関連施設が沢山あるのだが今回はまず天照様のいらっしゃる正宮を目指す。

 

折角ここまで来たのだから天照様にも一目お会いしたかったが、連絡の方法も知らないうえに、アポイントもとっていないので、一般参拝者と同じように正宮前にて、心中で天照様に忠夫も復活できましたとお礼の言葉と深い感謝の意を込める。

 

一頻り、感謝の念を込めたところで帰路につくかと振り向くと、必死の形相で神職の方が走ってこちらに向かってくる。

なにか大事でもあったのかと思いつつも、一般人の自分には関係ないかと思い道を譲る。

しかし、神職の方は譲った道を塞ぐように、こちらに向かってくる。

 

こちらまで走ってきた神職の方に横島優さんですか?と尋ねられた。

そうですが、なにかありましたか?と問えば

天照大神が貴方に会いたいので、連れてきてほしいとお願いされました。是非お時間あればお願いしたい。

 

もちろん、自分も天照様にお会いできるなら、是非ともお願いしたい、連絡の取りようもなく途方にくれていましたとお答えすると、こちらにどうぞと正宮の中に通された。

 

通された一室に妙神山でもお会いした天照様がいらっしゃる

妙神山の時よりも神々しい感じがするのは、ここが彼女のホームだからだろうか

それにしても、日本の最高神なのに近所の美人のお姉さん感が強いな。相変わらずとてもお綺麗だ。

 

「お久しぶりです天照様。お招きありがとうございます。」

 

「お久しぶりですね。横島さん、今は横島忠夫さんもいらっしゃるから優さんとお呼びしたほうがいいのかしら、それに以前に天姉様で良いと言いましたのにそう呼んではいただけないのですか?」

 

「すみません、以前妙神山でお会いした時よりもなにか神聖な空気感というのでしょうか、輝いて見えると言えばいいのでしょうか、そんな雰囲気になりました。」

 

「あら、優さんったらお上手ですね。ここ神宮は日本の神社の最高位、毎日多く人々が訪れる祈りの場、そういった念を敏感に感じ取っているのでしょうね。」

 

そう言って、コロコロ笑う天照様

そうそう、これだけは忘れてはいけない。

わざわざ伊勢まで来たのは天照様にお礼を言いに来たのだった。

 

「天姉様、ご加護をいただけたおかげで、横島忠夫君をこの世に再度受肉させ、復活をさせることができました。本当にありがとうございます。

その際、私の身体は人のものとは違いますがこれまで通り、天姉様とお呼びしてもよろしいでしょうか?」

 

「私は天姉様と呼んでくれないのかしらと最初に言いましたよ。ずっと八咫鏡を通して見守っていたのですもの、その魂や心は変わっていないと分かっていますよ。

こう言っては貴方に悪いかもしれないけれど、私は長い時を生きる者になってくれて嬉しいわ。

それに人の世に暮らしづらくなれば、ここに来ればいいわ。この日本には八百万の神々がいるのよ。私が人形の神であると宣言をして、祀られれば神格も付くし、言い方が悪いけれども今更動く人形が増えたところで大差はないわ」

 

異国の神ですら受け入れる、なんとも日本らしいというか、大らかとでもいえばいいのか

受け入れて貰えている様で安心した。後ろ盾もできたし、自由に生きれば良いとのお墨付きも頂戴した。

 

「ありがとうございます天姉様。しばらくの間は自由に過ごさせてもらいます。」

 

「それでいいのよ優さん。私も八咫鏡で貴方のことをいつでも見守っているわ。

困ったことがあれば召喚しなさい。分霊だけど直ぐに駆けつけてあげるわ。

こう見えても私結構強いのよ」

 

フンスと拳を握り力を籠める。その姿は可愛いを通り越して尊い。

なにかあっても、絶対に天照様は助けようと思ってしまう辺り、さすがは日本最高峰の神様なんだと変に実感した。

 

「さぁ優さん、せっかく東京から来たのですもの、お茶くらいお持て成しさせていただくわ」

 

機織りや農耕など労働は美徳であるという価値観の神様だけあって、天照様が自らお茶を入れてくださる。

その後は、和やかにお茶をいただき、忠夫君復活の経緯などをお話しした。

そんな中で天照様が手慰みだが今後の未来がどうなるか占いをしてくださった。

天照様曰く私には未来予知のスキルはないらしいが、なにかと良く当たるとのことだ。

もう占いとかいうレベルではなく、それは予言や神託の域なんじゃないだろうかと思うが・・・・・・

 

「そうですね。1~2年以内に大きな騒動が起こる気配があります。あなたはそこで大きな決断を迫られるかもしれません。

あとは、直近というにはあまりに近い数日以内だと思いますが一人の女性と出会うようですね。

そこでも彼女の今後を決めるような選択に迫られるでしょう。

 

あとは、そうね。横島忠夫さんが大なり小なり関わってくるようだわ

彼の動向に注意を向けるといいかもしれないわね

 

簡単だけどこんなものね。という天照様

しかし、今の話を聞いて心当たりが有りすぎる。

大きな騒動とは魔神アシュタロス事件のことだろうし、本来の物語の主人公は横島忠夫君だ。

これから彼を中心にイベントやハプニングが巻き起こるのだろう。

自分の知っている原作知識がこの先どうなるか分からないが、多少なりとも原作通り進むのなら霊能力が使えるだけの一般人枠の自分は相当厳しいだろうな

しかし、ある意味でこんな未知を体験できる機会なんて、元の世界では絶対に有り得ない

かなり好奇心を刺激される。

 

先ずは直ぐに出会うという女の子の未来が幸せになるような選択を探そう

 




NGシーン

私が人形の身体だから、私が優さんのことを用済みだとでも思ったのかしら
そう、あなたのことをずっと見守っていたのよ。
この世界に召喚されてしまい独りぼっちになってしまった貴方は私を責めなかった。
それどころか貴方は私のことを姉と呼び慕ってくれた。
本当に嬉しく思った。そう私は貴方の姉であり、この世界に繋ぎ止めた母でもあるのですもの
弟の、そして子供の成長と生末を見守るのは当然だわ
ずっとずっと見守ってあげるわ、太陽が昇らない日は無いように何かあれば必ず駆けつけてあげる。


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19.そうだお礼参りにいこう。3

19.そうだお礼参りにいこう。3

 

 

~熊野古道~

 

 

無事に天照様にもご挨拶が出来き東京から伊勢まで来たかいがあった。

天照様の予知とも神託ともとれる占いの結果もかなり気になるが、東京を出る前に六道婦人から伊勢に行くならついでに熊野詣もしてくればいいと言葉が脳裏にこびり付いている。

 

あの、六道婦人がわざわざ寄ってこいというのだから、何があるかはわからないが、

きっと何かあるのだろう。

せっかく近くまで来ているのだから調査に寄っていこう。

何も無ければ無いで、熊野詣もついでにしてきましたで完了なんだし、悪い話ではない。

それに人のお金で旅行できるなんてこんなチャンスは滅多に無いだろうからな。

 

 

見鬼くんが無いので、気配を探るくらいしかできないが、木漏れ日の中、心地よい気候の参道を歩きながら怪異の気配を探っているが、悪霊などによる負の雰囲気は感じられない

昔から信仰の対象になっている熊野三山のせいか、聖域となっており神性な空気さえ感じる

 

六道婦人に担がれたか?

参道には熊野詣に参る参拝客が道を通っており、本当に平和そのものだ。

こんなところに何の怪異があるのだろうか

調査なんだし、何もなければそれはそれでいいかと思い直し、リフレッシュを兼ねてのんびりと参道を歩く

 

 

ふと、気が付くと辺り一面に霧が出現し見通しが急激に悪くなり視界を真っ白に塞ぐ

こんな標高の低いところで霧が発生するものなんだろうか

道を見失うこと、踏み外すことを恐れその場に立ち尽くす。

 

 

 

この手も見ない濃霧のなか、参拝客が何事もないかのように器用に僕を避けて歩いていく

中にはグループで話しながらこちらも見ずに歩いていくが、僕にぶつかる事はない

彼らにはこの濃霧が見えていないのだろうか

そして、方向感覚を失っていることに気が付き、背筋がゾッとする。

 

僕は御神苗君の能力なのか方向感覚が異常に鋭い

彼曰く、渡り鳥並みの方向感覚があると漫画にあったがそのせいだろう

どんな時でも方角を間違えることはない。

その御神苗君譲りの方向感覚が、この霧が発生してから全く機能していないことに気づいた。

 

これが怪異かと思い、ポケットの中にすぐに使えるように文珠を用意する。

 

しばらくすると若い女性の声が聞こえてくる。

 

「もし・・・・・・もし・・・・・・」

 

誰かに声を掛けているような、そんな声が徐々に聞こえてくる。

この声は霧が出る前は山のさえずりと参拝客の雑踏や話声のみで全く聞こえてこなかった。

そしてその声が大きく聞こえるようになるにつれ、だんだんと霧が晴れてきた。

 

 

完全に霧が晴れるとそこには和服っぽい物をきた金眼緑髪の少女が現れた。

そしてその少女は道行く人にもし、もしと可愛らしい声で声をかけていく

 

しかし誰も気がつかない、まれに何かを感じ取ったのか辺りを見渡す人もいるが気のせいと思い足早にその場を離れていく。

 

この少女が怪異の正体なのかと思い、離れたところから様子を伺う

いきなり豹変して襲われるかもしれないので、ポケットの文珠には{滅}を装填しておく。

 

参拝客が通るたびに、その少女がもし、もし、と声を掛け続けるが

誰も聞こえないのだろう、少女を無視するようにそのまま通り過ぎていく。

 

参拝客がふいに途切れた。

声を掛ける人がいなくなった少女はその金眼の大きな瞳に涙を溜め、何かを堪える様にぎゅっと服を掴み、下を向きながら安珍様とつぶやいた。

 

 

あぁそうだ何故今まで思い出せなかったんだ。熊野詣といえば、清姫伝説じゃないか

もし、あの子が清姫なら、霊能者でないと存在を感じ取れないのだろう

そして、今でも清姫は安珍を待っているのかもしれない、安珍の居場所を聞くために

通りすがりの人に声をかけ続けているのだろう。

 

清姫伝説では安珍は熊野詣での後に清姫を迎えにくると言って出発したのに、嘘をついて逃げ、最終的には清姫がその思いのあまり竜に変化して鐘の中に隠れる安珍を焼き殺してしまう話だ。

 

ふうと肺に溜まった息を漏らしてしまった。

誰も通らなくなったことで、僕の吐いた息は思いがけずその少女の元まで届いてしまったようだ。

 

 

下を向いていた少女が僕のため息に反応して、その顔を上げた。

そして清姫と僕の視線が交錯した。

 

 

 

清姫がこちらを見ながら「もし」と声をかけてくる。

 

自分も清姫を見ながら「はい、どうされましたか?」と返事をした。

 

清姫は初めて話せる人を見つけたという喜びの表情を見せ、こちらに小走りに駆けよってきた。

こちらに駆け寄ってくる清姫を見つめていると、先ほどの涙のせいだろう

潤んだ金眼がどうしても目に付く

僕は女性の涙に弱いんだよ。それで失敗したことはないんだが

前世でも妹に泣かれると如何していいか分からなくなるし、なんとか泣き止んで貰いたいと思ってしまう。

僕の心情は、もう単純に浄化すればいいとは思えなくなってしまった。

いっそ攻撃してくれれば楽なのにとさえ考えてしまうあたりかなり末期だろう。

 

そうこうしている内に清姫がこちらに近づいてきてこう話しかけてきた。

 

「もし、旅のお方、安珍様をお見かけしませんでしたか?」

 

もはや安珍はこの世にはいないと分かっている諦めと、それでも約束を守り転生をして会いに来てくれるという一途な思い感じた。

清姫といえば嘘つきは焼き殺すやばい女性かと思っていたが、実物を見ると愛らしいお嬢さんでただただ一途なだけじゃないか、そんな気がしてくる。

 

 

そしてやはり、清姫は安珍を探しているようだ。

そして伝承の通りだとすれば清姫は嘘が嫌いなのだろう、正直に答える。

 

「申し訳ありません、安珍と言う方は見かけておりません。もしや貴女は清姫さんではありませんか?」

 

「はい、わたくしは清姫と申します。熊野詣でから帰ってくる安珍様が遅いのでここで道行く人に声をかけ、安珍様の行方を尋ねているのですが、誰からも返事がもらえず途方ふくれていおりました。

あなた様は何故わたくしの声が聞こえるのでしょうか?」

 

やはりこの清姫は安珍を未だに待っているようだ。

どうにも不憫で仕方がない

 

「そうでしたか、清姫さんこれから衝撃的なことを言うことになるとは思いますが、嘘偽りは言いません。憶測が混じる部分もありますが気をしっかりもって聞いてほしい。

まず私は霊能者で昔でいう民間の呪い師や祓い師のようなものです。

清姫さんの時代から数えてすでに1000年の時を経過しております。

1000年の時がたてば転生していてもおかしくはないのですが、アストラルの海

いやそうだな、輪廻に戻ったときにすべてを忘れてしまっていると思われます。」

 

 

 

安珍がこの世に居ない、いても会いに来てくれないと理解してしまった清姫は

その金眼の大きな眼から涙をこぼし、声を殺して泣き始めしまう。

 

「わたくし、嘘は何故かわかってしまうのです。

貴方様のお話にはまったく嘘偽りがありませんでした。」

 

泣き崩れ、嗚咽混じりに答える清姫

 

前にも言ったが僕は女性の涙に本当弱い

清姫はどんな状態なのか気になり、{滅}の文珠を{探}に変更して

清姫の状態を確認する。

 

どうやら、熊野の地に括られてはいるが、そのくくりは緩いそして清姫伝説という伝承と祀られていることで半ば神のような存在になっていた。

 

悲しみのどん底といった風な清姫にハンカチを渡して涙を拭くようにすすめる。

泣き止んではいないが話を聞けるくらいまで持ち直した清姫に今、貴女がどんな状態にいるか説明を始める。

 

「さて清姫さんの今の状態ですが、どうもこの熊野の地に括られています。

ただそのくくりは非常に緩い、また清姫伝説という伝承と信仰、そして貴女のその強い思いのおかげで半ば神のような存在になっています。」

 

安珍さんを探しに行くなら、括りを解けますよ。とそう告げる。

 

決められず泣いている清姫を見ながら、そういえばかの安倍晴明は橋姫を式神にしたんだっけとか六道の式神は家族同然だよなぁとか見当違いのことを考えていた。

 

ふと気が付けば、清姫がこちらをじっと見ている。

どうやらつぶやきが聞こえてしまったようだ。

 

 

こちらを見ているので何か話さなければと焦り

清姫を見つめながらこんな事を言ってしまった。

 

 

「そうだ僕の家族(式神)になりませんか」

 

 

 

清姫が顔を上げてこちらを見上げる

清姫のその美貌が段々と赤面してくる

あれ?なにかおかしな事をいったか?

家族とか結婚してくれと言っているような・・・・・・

 

 

 

そんなあって間もない殿方から告白されるなんて、家族ってことは結婚よね。でも結納も祝言も上げていないのに、子供は何人欲しいのかしら、ご家族にご挨拶も・・・・・・

お見合いでは顔も知らぬ殿方と結婚するんですもの・・・・・・・

そうだわ、まだご主人様のお名前を伺っていないわ・・・・・・

 

 

 

下を向いて猛烈な勢いで清姫がつぶやきだした。

あ、これもう手遅れなやつだ・・・・・・

 

真っ赤な顔でこちらを見ながら清姫から開口一番

 

「好き!! ではなくてご主人様のお名前を教えてくださいまし」

 

あかん、あかん、小竜姫様になで斬りにされる

 

「横島 優といいます。優しいという字の優です。あの、そのですね清姫さん」

 

「素敵なお名前ですね。優さま、みな迄おっしゃらなくてもわかっておりますわ

子供は男の子と女の子一人ずつですわよね。

清姫にはちゃんとお見通しですよ。」

 

あかん、なにもわかっちゃいない・・・・・・

誤解されたままではいずれ小竜姫様にもばれて首ちょんぱな未来しか見えない

 

「あのですね。清姫さんせっかく喜んでいるところ非常に言いづらいことではありますが

僕には小竜姫という竜神の許嫁がいます。」

 

腹に雑誌を仕込むわけではないが{耐}の文珠を即座に装填する。

 

「え?そんなことですか? わかりましたわたくしは側室ですね。

末永くよろしくお願い致します。」

 

 

あれ?いいの?清姫さん的にそれは有りだったの?

昔の価値観の人だから、ある程度は許容されるのかなと思っているとぼそりというつぶやきが聞こえてしまう。

 

「側室といえど、正室に勝るご寵愛を頂戴すればいずれはわたくしのものですわ・・・・・・」

 

僕は何も聞こえなかった。そう、何も聞こえなかったんだ。

 

 

 

 

もう後には引けない、清姫には式神としてついてきてもらうことを説明した。

術者の僕と式神は一心同体だと話したらひどくあっさり承知してくれたことが印象的だった。

 

 

「では清姫さん、僕の式神になる術式を展開しますね。」

 

「畏まりました。ご主人様、この清姫、結魂の準備はばっちりです。

それとご主人様、わたくしのことは清姫と呼び捨てにしてくださいませ。」

 

 

本当は式神にするのにいろいろ手順があるのだろうが、もう面倒なので文珠の力でごり押しで進める。

 

{放}の文珠を使い、まず熊野の地から解放した。

 

次に{絆}の文珠を使えばとりあえず式神にできるが流石にあまりに味気ないのでそれっぽい呪を唱える。

 

「汝の名は清姫、我、横島優の式神として仕えるか?」

 

「わたくしはご主人様と結魂いたします。」

 

「よろしい、受諾とみなし清姫を式神とする。」

 

{絆}の文珠が発動し清姫との間に霊力の絆がつながった。

式神を作ったことがないのではっきりわからないが、こんなにしっかりと認識できるような絆ができるものなんだろうか?なにか魂までくっついているような・・・・・・

 

 

 

 

東京への帰り道で新幹線などの文明をみて、目を大きくした清姫の話は別のお話

 

 

 

 

旦那様、小竜姫のことを許嫁と言ってくれて嬉しかったですわ

 

背後からぼそっと耳元から聞こえた小竜姫様の声を聴いて、玉がひゅんっとなったのも別のお話

 

 

 

 

 



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20.そうだお礼参りにいこう。終

20.そうだお礼参りにいこう。終

 

 

 

 

~自宅~

 

はっ!?

飛び起きて辺りを見渡した。ここ数か月でみなれた自宅の自室だった。

 

あぁそうだった、そうだった。だんだん思い出してきた。

昨晩清姫と遭遇して、彼女の身の上話を聞いたり伝承から想像していろいろと相談にしているうちにどうしても彼女をこのまま、この地で一人ぼっちにすることができないと思い。

結局、僕は彼女を式神として連れてきてしまったのだ。

 

昨晩は熊野を出るのが遅くなり、名古屋で新幹線に乗ったのが22時台のほぼ最終に近い列車だ。

何故そこまで遅くなったかといえば、おおよそ清姫が美少女なのが悪い

彼女が歩くだけで周りの人が振り返るほどだ。

それに、彼女が興味津々でいろいろと尋ねてくる。

それは昔の山村と現代ではだいぶ様変わりしているだろうさ

彼女が現代になれるための通過儀礼みたいなものだと思って、知る限り答えふらふらしていたらご覧のあり様だった。

なんとか新幹線に飛び乗って、清姫がいるから迂闊に寝ることもできず家についたらばたんキューだった。

今にしてみれば、清姫を影にいれてしまえば無用なトラブルだったかもしれないが、やっぱりできる限り外にだしてあげたいしなぁ

 

そういえば、新幹線に乗った時に変な感じがしたな、まだ俺はやれるとか諦観とも寂寥感ともいえない複雑な感情を感じたけど・・・・・・

まぁいいやそんなことを今考えても仕方がない。

 

もう1個なにか割と重要なことを忘れているようだけど、なんだったかな?

そういえば清姫はどこにいったんだのだろうか

影の中に意識を向けて見てもいる様子はない。

まさかと思い布団の中に意識をむければ、隣になにやら暖かい温もりがいらっしゃる

心地が良すぎて気が付きたくなかったのか、忘れたかったのか

朝だから清姫起こさないと

あれ?というか今何時だ?

 

 

 

「まだ寝てんのか、そろそろ起きないと遅刻するぞ~お前にしては珍しいな」

 

 

そんな声と共に忠夫君が部屋に入ってくる

そうだ、彼の顔を見て思い出した。清姫という同居人が増えると伝えてなかったな。

あれ?いま清姫は隣で寝ている。これはいわゆる朝チュンという状況では?

 

「ご主人様、もう朝ですか?わたくしが朝餉のご用意をいたしますわ」

 

もう絶対に出待ちしていただろうというタイミングで清姫から声がかかる

なんで、このタイミングなの?これが世界意志なの?

 

「なんで!お前ばかりもてるんじゃーーーー!!!

夜明けのモーニングコーヒーなのか、そうなのか、そうだなんだろ!!

あぁもう神は死んだ!!!」

 

あぁやっぱり忠夫君が暴発したわ

 

「いや、兄さん今起きたばかりだからコーヒーすら飲んでない」

 

「それでも女の子と一緒の布団で寝て起きるなんて朝チュンやないかーーー!!

優、おどれ昨晩帰りが遅いと思っていたらこんな美少女を連れ込むなんて

うらやま・・・けしからんぞーーーー!! 」

 

太陽のバッキャロー!

 

そんなことを叫びながら家を飛び出して行った。

僕も遅刻するから早く家を出ないと

 

清姫に学校という寺子屋のようなものに行くがどうすると聞くと

 

ご主人様のある所に清姫有りです。

それとも清姫はお邪魔ですかと涙目で言われてしまえば覚悟を決めるしかない。

なるべく努力はするけど、駄目なら影の中に入ってねとお願いする。

 

~学校~

 

学校についてから只ならぬ状態の忠夫君に何か吹き込まれたのか愛子から清姫について若干的外れではあるが激しい尋問をくらう

 

「優君、不純異性行為なんて不潔よ。いきなり彼女を連れて登校なんて

しかも朝も一緒のベッドに寝ていたそうじゃないの、高校生なんだから慎むべきよ!

 

もう、優君ときたら私と言う物がありながら・・・・・・でもでも横島君も・・・・・・」

 

最後は教室内が騒がしすぎて聞こえなかったが禄なことではないだろう。

そんな状態で忠夫君はニヤニヤしながらこっちを見ている、内心いい気味だと思っているのだろう。

さて、どうしたものかと思案を巡らせていると隣にいた清姫が静かにだがとても力強く

こう答えて教室内は沈黙した。

 

「わたくしは、清姫はご主人様の妻でございます。

結魂した中、もう死がふたりを分かつまで離れるつもりはございません」

とこう宣言したのだ。

 

愛子もそれを聞き下を向きながらあぁそうなんだ・・・・・・と突然のトーンダウン

本当に意味がわからない。でもなにか彼女から危険を感じるのは何故だろうか

 

そして忠夫君はニヤニヤ顔から一転して机にヘッドバットし始めた

机が血に染まっているが、ほっとけばすぐに直るだろうから放置でいいだろう

弟を罠に嵌める兄にはいいお仕置きではないかと思う。

 

職員室に行き先生に清姫のことを相談したら、学校妖怪の前例もあるので、おとなしく授業を受けるなら問題ないとのことで、登校しても良いことになった。

彼女は僕の式神なので、ある意味で霊能力のようなものだし

でも、公式に許可がもらえるに越したことはない。

 

 

旅費を出してもらった以上、結果の報告を面談なのか書類でいいのか、はたまた電話報告だけでいいのか六道家に聞く必要があると思い電話で予定を確認したら、おばさん暇だから会って話がしたいとのことで放課後にフミさんが迎えにきてくれる

さて、教室に戻って授業を受けよう、そう思い教室に戻るとすでに清姫の机と椅子が準備してある。無駄に準備がいいな

 

座席の配置は僕の右隣になっている。清姫の教科書とかないから誰かかが気を利かせたのだろう。

まぁこの後にそれがさらなる嫉妬の炎を生み出すとはこの時は全然思っていなかったのだが・・・・・・

 

 

~教室~

 

 

 

先生が話す声と黒板の内容をノートに写す生徒達の筆跡音がするだけの静寂に満ちた教室内

だが時折くぐもった女性の艶めかしくどこか甘えた声が本当にかすかに響く

 

「ん・・・・・・・あぁ・・・・・・・」

 

そして、その声の主は僕の右隣にいた。

午前の授業は良かったんだ、清姫が隣にいて教科書を一緒の見ながら受講するだけだった。

教科書を忘れたときに隣の人に見せてもらった記憶が誰にでもあるだろ?

最初はあんな感じだったのだ。

 

机がぴったり寄せてあったが、まだ席の距離は離れていた。

教科書が見れませんとだんだんと椅子の距離が近くなり、ついには僕の右腕に清姫の体温が感じられ、清姫の息づかいまで聞こえるようになっていた。

 

そして僕がノートに書き込むときに動く肘が清姫の豊満な胸に当たるようになってから声が聞こえるようになってきた。

清姫にちょっと離れてといっても、私のことがお嫌いですかと問われれば

僕も男です。胸の感触が心地よくどうにも離れがたい。

如意宝珠のお力もどんどん貯まっていくと言うものです。

 

授業を受けながら、イチャついていたせいだろう、前屈み気味の男子諸君の恨みを相当かったようだ。

 

授業が終わったら速攻で帰る支度をして逃げるとしよう。

明日からもこんなことになるなら清姫には影に入ってもらおうかな・・・・・・・

 

 

~校門前~

 

 

授業が終わってさて逃げるかと思ったらその前に囲まれてしまったよ。

まぁおまえ等すまんかったと思い、素直に謝罪と気が散るなら影に入ってもらうからと

言ったら、清姫に会えなくなることと、僕とのイチャ付きを天秤にかけて清姫に会えなくなるほうが嫌だったようだ。

血涙を流しながら快く道を譲ってくれたよ。

 

 

クラスの男を扇動して、自分は後方からしれっとわら人形で呪詛を送り続けている忠夫君には呪詛返しをプレゼントだよ。

陰陽道には呪詛返しの法も多く残っている。

少しのたうち回るといいよ。

 

なんで、俺に痛みがぁとか叫んでる彼を後目に六道さんのお迎えを校門で待つ

しばし待っていると如何にもという高級車が止まった。

 

フミさんが迎えにきてくれたと思ったら降りてきたのはまさかの冥子さんだった。

 

「優君~~~迎えにきたわ~~~冥子、優君の式神さんに会いたかった~~~」

 

こんなところでぷっつんされたらどれだけ被害がでるかわからないので、六道家でゆっくりお話しましょうと一緒に車に乗り込む。

 

その様子をみていたらクラスメートがエスコートしているように見えたのか

やっぱり優ばかりあんな美人と知り合いになって、しかもお迎えだとーーーー!!

と叫んでいる。明日学校に行くのが今からしんどいが、ぷっつんから守ってあげていることも事実なのだ。なんだったら一度体で痛みを覚えると静かになるんだろうか

 

いや、最近こいつら何やっても死なないんじゃね?位に思ってきたけど万が一ってやっぱりあるしなぁ

 

まぁとりあえずは放置でいいか、さぁ清姫、冥子さんとこの車に乗って行こうか

 

車が動き出してからしばらくしてから冥子さんがおもむろに話を切り出してきた。

 

「優君と式神さんは仲良しみたいで安心したわ~~

冥子お姉さまが~式神と仲良くなる方法を~教えてあげようかと思ったけど

大丈夫そうね~」

 

「まぁご主人様とさらに絆を深める方法があるのですか?」

 

隣で聞いていた清姫が冥子さんに質問をする。清姫には聞き逃せない話題だったようだ。

 

「それはね~式神さんと優君がずっと一緒にいればいいのよ~

そうすれば、ずっと仲良くいられるわ~」

 

「承知しましわ。ご教授いただきありがとうございます。わたくし清姫と申します。」

 

「六道冥子よ~、よろしくね~清姫ちゃん」

 

話が落ち着いたところでどうやら六道家に到着したようだ。

あれ?まさかタイミングを計って到着とかないよね?

チラッと運転をしていたフミさんをみるとにこりと微笑むのみだ

深く追求しても僕が墓穴を掘るだけになりそうだ。フミさんにお礼をして

冥子さんの後をついて行く。

 

~六道家~

 

応接室にはいると六道婦人の冥奈さんがさっそく僕たちを迎えてくれた。

 

「優君いらっしゃい~~そして~あなたが式神になった清姫さんね~

私は六道冥奈よ~よろしくね~

さぁ座って~まずはお茶にしましょ~」

 

そこまで行ったところで、先ほど運転をしてくれたフミさんが紅茶とケーキをもって配膳をしてくれる。

さっきからフミさんの万能ぶりが気になって仕方がないが冥奈さんに今回の旅の内容をざっくりと報告する。

 

天照様に直接会ってお礼が言えたこと、熊野古道で清姫を見つけて話を聞いた結果、式神としてつれてきたこと。

そして勝手に清姫を連れてきてしまい、誰からか文句がでないか心配だということを話した。

 

「優君~清姫さんのことは安心して頂戴~誰か文句をいってきたら私に~連絡して頂戴~

おばさんがメってしてあげるわ~

それに六道家として式神使いが増えるのは嬉しいことだから大丈夫よ~」

 

六道家がバックになってくれるのはありがたいが、無料より怖いものはない

なにか裏があるんじゃないかと思うが、僕程度では冥奈さんの腹積もりは読めない。

 

ちょっと整理してみるか、僕にはどんな価値があるか

天照様と小竜姫様の繋がり、あとは文珠が使える

あれ?これって多少迷惑を被っても十分身内に抱き込みたくメリットだよな。

 

「そうね~優君が今考えている通り~メリットが大きいのも~確かなことなんだけど~

それ以上に~神族の方の機嫌を損ねる可能性も~あなたにはあるのよ~

 

だから~六道家としては~特別肩入れや~引き込みもしないわ~

でも仲良くしてくれるとおばさんうれしいわ~」

 

あれ?地味に心を読まれてる?というか僕が分かりやす過ぎなのか

 

「はい、僕も冥奈さんにはお世話になっていますから、これからも仲良くしてもらえると嬉しいです。」

 

「あら~そう言ってくれると~おばさんも嬉しいわ~

そうだ、清姫ちゃんを守るために~六道GSにアルバイトでいいから在籍しては~どうかしら~

六道家は~式神使いの家だから~式神使いがいてもおかしくないと思うわ~」

 

六道婦人、なんというダブルスタンダード

しかし、清姫を守るというウィークポイントを地味についてくるな。

小竜姫様や天照様もいらっしゃるが、人間界の権力という点ではやはり六道財閥の力は大きい

とりあえず、今回のところは保留させてもらおう。

 

「ASEにマルチドライバーとしてアルバイトですが所属しているので今回は遠慮させてもらいますね」

 

「あら~残念だわ~ でもASEと話が付けば六道GSにもきてくれるのよね~」

 

 

僕はこのとき特に考えていなかったがまさか六道家からASEにアプローチがあるだなんて考えもしていなかった。

後になって分かったことだが、本当に後の祭りだったのだ。

 

え?冥子さんが会話に入ってこないけどどうなっているかって?

彼女ならケーキと紅茶を堪能してそれどころじゃない感じだったよ。

 

 

 

 




どうもご無沙汰しております。
今回も読んでいただきありがとうございました。


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21.合同任務

21.合同任務

 

 

僕は今、ASEからの任務で新大阪駅に来ていた。

今回の任務の性質上、どうしても深夜しか対応できないからだ。

ASEのスタッフに案内され、時間まで待機する控室に通されたのが

そこで目に入ったものは六道冥子さんがパイプ椅子に座って優雅に紅茶を飲んでいる姿だった。

やっぱり育ちのいい人は仕草に出るのだろうか

そしてこちらに気が付いたのだろう、嬉しそうにこちらに手を振っている。

そこで気が付く、まさかASEと六道除霊事務所の合同任務か?

たしかに事前ブリーフィングでは霊能者を一名併せて派遣するという話だったが六道除霊事務所とは聞いていなかった。

いや、逆を言えば冥子さんが来ないとも聞いてはいなかったが、ASE所属の霊能者がくるものだと思いこんでいた。

どうしてこうなった・・・

 

 

 

 

それは六道家に報告に訪れてから幾日たったとある日、ASE所有ビルの一室で今回の任務の事前ブリーフィングが行われた。

ASEへの借金を返す一環なのだが、海外の任務よりは国内の任務のほうが安全だろうと思い受諾した。

 

 

ブリーフィングの内容を大雑把にまとめてしまえば、JR東海管区の新幹線を運転し、JR新大阪から東京までの間で東北新幹線の最高速度である320km/hの記録を更新してほしいと言うものだ。

 

何故このような依頼がASEに着たかと言えば、全ての始まりは

JR東海の新幹線運転指令部に一通の手紙が届いたそうだ。

通常この場所は極秘になっているのにも関わらずだ。

最初は誰か職員のイタズラかと思っていたらしいが、全員に尋ねても誰もこんなことはしていないという。

一応中を確認したところ、東海道新幹線は後から作られた他の新幹線の最高速度でまけていることが悔しい我々はまだやれるという内容だった。

そして差出人はN700と書いてあった。

 

完全に誰かのイタズラだと思い、誰のイタズラか分からないが今後このようなことをするなよと注意をしてその場はお開きとなった。

それから暫くすると、また手紙が届いた。

 

 

東海道新幹線、最高速度の計画は検討して頂けているだろうか?

我々は計画の達成の為に尽力を惜しまない N700

 

 

2度目の手紙に運転司令部はまたイタズラだと思い、職員に尋ねるが誰も名乗りあげない。

言い出しづらいのだと思い、改めてもうしないようにと注意するにとどめた。

 

それから、日が経ち3度目の手紙が届いた。

しかし今度の手紙は今までとは違いで真っ赤な色の手紙だった。

3度も続き、今回は今までとは違い手紙の色まで違う。

流石に気味が悪いと思うが一応手紙の内容を確認した。

 

 

我々の悲願を叶えて欲しい。

協力してくれれば我々は目標達成に命の限り力を尽くす。

どうか、計画を実施して欲しい

だが、協力が無い場合には我々にも考えがある。 N700

 

 

ここに至り、運転司令部も本社に対応を依頼したが、N700Aの運行が始まり従来より営業速度も上がったこと、またそれ以上の速度を求めるならリニアモーターを開発している事などの理由から最高速度の試験はしないと決定し、あくまでもイタズラだと判断した。

 

それからだ、検査場で合格判定された車両が、現場の運用に戻ってからモータの出力が上がらず速度が出ない、車内の電灯が消える、突然車内放送が入る等の

明らかにおかしい不具合が起こるようになってしまった。

現在のところ運航には支障がでていないが、いつもっと重大な不具合が起こるともしれない

 

そこでようやくJR東海本社も重い腰をあげた。

まずはお抱えの霊能者に届いた3通の手紙を見てもらったのだ。

その結果、差出人はN700系新幹線の付喪神だということが分かった。

多くの人が心血を注いで作り上げ、運用している車両なのだ、魂が宿ってもおかしくはない

そう、その霊能者は語った。

 

不具合の起きている車両全てをお祓いすることも検討されたが、膨大な手間とコストがかかること。またJRお抱えの霊能者では対応出来ないとの回答だった。

そこでJR本社は以前、同じような付喪神の幽霊車両の案件で美神除霊事務所に事態の解決を依頼した美神除霊事務所に再度事態の解決に向けて依頼を申し込もうとしたが、あの案件で後処理を担当した部署から待ったの声がかかった。

 

それはまず料金面では法外な料金を請求されたこと。

また、架線の損傷、その修理と復旧、また列車の回収など後処理にかなりの時間がかかり、翌日の営業を圧迫した。

その苦い経験が関係の脳裏によぎったのだ。

 

それに今だに不具合が起きているが乗客に直接的な害が無いことなどから、悪質な付喪神ではないだろという判断から、お望み通り最高速試験をしようと社内で調整された。

 

そこで最高の運転士を社内で探したが、試験車を運転するような運転士も当然在籍しているが、オカルト案件にも対応できるような特殊な訓練を受けた運転士がいなかった。

脱線事故などの最悪の事態を想定してASEに依頼することに決定した。

ASEならば万が一の場合でも補償が効くだろうという打算も当然あった。

 

余談だが、ASEへの依頼料が補償を含め高額にはなったが、それでも前回美神除霊事務所に支払った金額より安く、提示された計画もスマートで納得のいくものであった。

また計画が進行してから、ぴたりと車両の不具合が止まり、やはり付喪神の仕業だったかと関係者は胸を撫で下ろした。

一部の者から、不具合が収まったから計画を中止してしまえばと言う意見も出たが、付喪神の怒りに触れ、さらなる不具合の発生、そして今度はその怒りが乗客に向いてしまうことを恐れ粛々と計画は勧められた。

 

 

またまた余談だが、何故美神除霊事務所の依頼料が高額で、あのような殿様商売でも依頼が絶えないのか考えたことはあるだろうか。

それはオカルトという異常事態に対し、即応出来るからだ。

これが出来る除霊事務所は少なく、また出来る事務所は人気がでる。

不動産業など悪霊が部屋に住み着いているなどの、悪い噂が立つ前に秘密にこっそりとそして速やかに対応したい。

 

しかし他の多くの除霊事務所の場合、事前調査を行い。原因を特定してから自分達で祓うか、手に負えないと判断すればGS協会経由で他の事務所に譲ったり、または斡旋をしてもらい依頼を達成する。

そのため、一般的に解決にかなり時間がかかる場合が多いのだ。

これはわざと受け、つながりのある事務所に仕事を流し、差額をもらうなどの行為にも繋がるため、GS協会でも問題にはなっている。

 

ところが美神除霊事務所は突然現場に放り込まれても大量の霊具を使用することで力業で解決する事が出来る能力がある。

依頼料は高額かもしれないが、解決するまでの時間が段違いという点がかなり大きい。

 

勿論これには向き不向きがあり、地鎮祭など儀式系に特化した事務所もあり、そういうところは既につき合いの長いお得意様がいるので、悪霊を祓うなど攻撃的な依頼を受けなくてもやっていける事務所もある。

美神除霊事務所も、もちろん出来なくはないがあまり得意ではない。

実際は所長の美神GSが堅苦しいという理由で嫌がっているという噂も聞く

 

 

さて前置きが長くなってしまったが、今回ASEが受けた案件は当然だがオカルト案件である。

そのため、マルチドライバー一人ではGS協会から抗議があるかもしれないこと、またASEの企業としてのコンプライアンス遵守のために心霊現象特殊作業免許、通称GS免許所持者の同行が求められた。

 

そこでまず、先ほどから何度か話題に出ているJR東海のお抱え霊能者に悪霊が出た場合の対処を依頼したが、彼女は悪霊を祓うことよりも占いに特化していた。

そのため、緊急時の事態に対応できないと判断された。

美神除霊事務所に依頼すれば前回の二の舞になってしまうと腰が引けた。

 

どこの除霊事務所に合同任務として依頼するかがボトルネックになってしまっていたが、この彼女の発言により事態は一気に進行した。

実を言えばこの彼女、六道女学院の出身でそこでGS免許を取得をした才女だった。

しかし今回の案件は手に負えないと、六道女学院に相談したところ、六道家当主の六道冥菜が応対したのだ。

この彼女にしてみればOBとして軽く相談したつもりが、六道家の当主との面会となり緊張しきりだった。

話を聞いた六道冥菜はにんまり笑いながらこの案件の対応を六道本家で対応することを確約しASEへの協力体制を申し入れるように彼女に指示したのだった。

 

六道冥菜曰く「六道関係者のお願いですもの~無碍になんて出来ないわ~おまかせなさい~」

 

 

そして、冒頭に戻る。これがここに冥子さんがいる理由だ。

たしかに希代の式神使いであり、六道家の誇る十二神将がいれば大抵の事態は解決ができる。

それが解決なのか、壊滅なのかはさておいてになるが。

六道冥菜には他の思惑ももちろんあるが、今回はそこには触れない。

 

 

さて、冥子さんにお茶を一緒にのみましょ~と誘われ、時間までやることもないので隣に座ってお茶を飲んでいたのだが、どうも冥子さんはお姉さんぶりたいようで

僕をかいがいしく世話をしてくれる。

普段から、メイドさんがお世話してくれる環境にいるので新鮮なのだろうか

 

しかしこうやって改めて冥子さんを見ると可愛い系の美人さんだよなぁ

スタイルもスレンダーかと思っていたけど、出るところはしっかり出てるし

普段の性格は名家の出だけあって大らかで包容力もあってなにより優しいお姉さんって

感じだしなぁ

ただ、式神の暴走(ぷっつん)がすべてを台無しにしているのは間違いない

この人、オカルト関係に関わってなければ本当に引く手数多なんだろうなぁ

 

 

「優君、冥子をじっと見てどうしたのかしら~」

 

「すみません、冥子さんちょっとぼーっとしてました。」

 

「も~冥子さんじゃなくて冥子お姉さまでしょ~」

 

そう言いながらも、クスクス笑っている。

清姫には悪いがちょっとの間、冥子さんの相手をして貰おう。

任務の時には冥子と僕の護衛を務めてもらう。

頼んだよ清姫

 

「畏まりました。ご主人様、余人には指一本触れさせませんわ。

・・・特に女人は・・・・・・」

 

背筋がゾクっとした。そうこうしている内に任務開始直前の最終ブリーフィングの時間がやってきた。

 

 

最終ブリーフィングの開始直前に一人の男性が入室してきた

あれ?どこかで見た覚えがあるんだが、D-LIVE関係者か?

 

「よう、お前が今回の計画の運転士か?今回も面白そうなことやるみたいだな」

 

ASEのスタッフがアドバイザーの稲垣さんだと紹介してくれる。

木村ボンバーズ事件、東京モノレール着陸プロジェクト、碓氷線プロジェクトなどの

鉄道に関するプロジェクトにアドバイザーとして参加しており。

本日はたまたま大阪で鉄道のイベントが有り、こちらにいらっしゃっていたようで

せっかくなので参加していただくことになったようだ。

 

「初めまして、横島優です。ASEのマルチドライバーで今回JR東海道新幹線を操縦させていただきます。」

 

では、最終ブリーフィングを始めさせていただきますという言葉とともに

ASEのスタッフが司会を務める。

まず最初に前日に新幹線電気軌道総合試験車、通称ドクターイエローが線路、架線、関連設備の検査を実行し、問題がなかったことが報告された。

今回使用する車両は手紙の差出人がN700だったのでN700を使用することになっている。

なお、今回使用する車両にはATCで許容速度を表示するが自動ブレーキはかからないように設定したそうだ。

ATCの再開はボタン一つで再開できるようにしてある。最悪何かあっても、自動ブレーキで安全に停止できる手段が確保された。

また、CTC(列車集中制御装置)総合指令部より無線により連絡ができる体制を整えた。

 

次に冥子さんには悪霊が憑いていないか、霊視をしてもらったので報告してもらう。

 

「クビラが見た限り~悪霊はついていないわ~ むしろ良い御霊がいらっしゃるわ~」

 

最後に稲垣さんからアドバイスを貰う。

 

「東海道新幹線は1960年代に竣工が開始した古い設計の線路でカーブの半径が2500m以上に設計されている。最近の新幹線は半径4000m以上の設計だから、カーブのきつさが分かるだろう。

まぁなんせ当時は最高時速200km/hを目指していたからそれでも十分な設計だった。

そしてこのきついカーブが至る所にあるのが東海道新幹線の最高速を上げられない理由だ。

 

それでも、多い時は5分に一本の過密ダイヤ、年間平均遅延時間24秒、N700Aに至っては車両傾斜機能を搭載して275km/hの営業速度を達成した。

それはもう凄い路線なんだ。今日もこちらに来るときに利用させていただいたが、毎回初めて乗った時の感動を今でも思い出す。

一応速度が出せそうなポイントは新大阪~米原、岐阜羽島~浜松、掛川~三島、小田原~新横浜の4区間くらいだろう」

 

斑鳩さんも言っていたが、本当にこの人の人生は鉄道一色で構成されているんだな。

さて、最後にJRさんから現在の天候は晴れ、終着駅の東京も晴れで天気によるトラブルは無し、線路上にあるすべての列車は待避線に移動済み、オールグリーンというGOサインが出た。

良し、あとは僕が操縦するだけだ。

 

 

~新幹線 運転台~

 

発車の前に計器のチェックを実行する。

電圧、空気圧を始めすべての項目は正常。

マスコンを握り、こいつは走れると確信する。

 

『こちらCTC、最高速試験車両聞こえるか』

 

「こちら試験車両、感度良好」

 

『CTC了解、では試験走行を開始する。』

 

「試験車両了解、これより試験を開始する。」

 

 

さぁCTCからGOサインがでた。

いくぞN700 お前に、生命を吹き込んでやる!!

 

 

16両編成のN700は臨時回送車としてゆっくり新大阪駅を出発した。

 

最高速トライの1区画目新大阪~米原間はこの車両になれるための区間に使うつもりでいる。といっても2区間目の岐阜羽島~浜松間まで時間としては約40分くらいしかない

 

「斑鳩と比べて、お前の運転はなんというか、大人しいな」

 

一緒に運転台にいた稲垣さんがそう感想をつぶやく

まぁそうでしょうね。今はまだ新幹線の操作になれるためにATCに表示されている速度通りに走っていますから

でも、稲垣さんも気が付いてるみたいだがさっきからジワジワ速度が上がってきているんだよなぁ

もっと早く早くというN700からの意思表示だよなぁこれ・・・・・・

 

操作にも慣れてきたし、車両の感覚も掴めてきたしそろそろ全開走行に移りますかね。

 

「なぁ横島、ATCの速度を大幅にオーバーしているだが、ちょっと速度出し過ぎじゃないか、この先にもカーブがあるいくらなんでもこれじゃあ脱線するぞ!!」

 

「大丈夫です。稲垣さん、いけます」

 

うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 

運転室に稲垣さんの絶叫が響き渡る

 

カーブを抜ければ長い直線区間だATCも270を表示している。

あれ?270の表示が340に変わった?

 

「おい、横島いまATCが270から340に変わったの見たか?」

 

「えぇ稲垣さんしっかりみました

CTCこちら試験車両、ATCが340を示しているそちらで操作したか?」

 

幾らかの間があったあとCTCから連絡が入る

 

『こちらCTC、試験車両のATCは270を指示している。こちらからは340の指示はしていない』

 

やはり、この車両からの意思表示か

幸いまだ直線区間は続いている、それにATCの表示は340のままだ

 

マスコンを最大まで加速にいれる

300を超えてから徐々に加速が鈍くなってきた。

 

お前に魂があるなら応えろ!!

これ以上倒れないマスコンを握り締め、車両を応援する。

また徐々にではあるが加速を開始した。

 

330を突破・・・337・338・339・・・・340・341

 

 

 

 

 

「こちら試験車両、CTC聞こえるか?」

 

『こちらCTC、感度良好、もうすぐ東京駅だなそして凄い記録も取れた。』

 

「東京駅に到着。試験車両、最高速試験完了」

 

『試験車両お疲れ様。』

 

 

 

 

最終的に342kmを記録したそうだ。

導かれるままに操作したので、途中の記憶があいまいだが

隣にでみていた稲垣さんからはやはりASEのドライバーは頭がおかしいという

お褒め言葉をいただいた。

 

稲垣さんとも携帯の番号を交換したので、これから何か鉄道関係のイベントがあれば連絡を取ることにしよう。

 

 

そういえば、冥子さんが大人しいと思ったら、グリーン車でそのまま眠ってしまったようだ。

清姫も一緒に寝ている姿を見て、なにやらほっこりしてしまった。

 

 

さぁ清姫、冥子さん、家に帰りますよ・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




旧国鉄のJ〇をそのまま出していいのか微妙なので
JLという架空の鉄道会社にしました。

お楽しみいただければ幸いです。
では、また次回




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16.5 人形師が見たもの

今回は人形師蒼崎橙子が視点のサイドストーリーです。
感想でご指摘いただいた部分を補完する内容なのです。




 

16.5 人形師が見たもの

 

 

 

~伽藍の堂~

 

 

依頼された横島優の人形が完成した。

 

寝台には私が作成した横島優の人形が横たわっている。

 

もう数時間もすれば、本人がその出来栄えを確認のためにここに訪れるだろう

 

思えば、黒桐が伽藍の堂を探していると言い出したことが今回の事の発端だ。

 

その話を聞いていた両儀が探るのが気に入らないと出て行った。

 

そもそも此処には人除けの結界が貼ってあり関係のない人間は訪れることが出来ない。

 

私が面白い思った依頼しか受けないからこれでもいいのだ。

 

黒桐に見つかる程度の探索者ならば、両儀も本気になることは無いだろう

 

精々、脅す程度で終わるはずだ。

 

そう、私は脅す程度で終わるはずだと思っていた。

 

しかし、簡易的な使い魔を通してその戦闘を見ていたが、両儀が捕獲されているではないか

 

直ぐに黒桐を両儀の迎えにいかせた。

 

帰ってきた両儀は不貞腐れていたが、その様子も私にしてみれば面白く久しぶりに愉快だと思ったよ。

 

もうこれだけでも、探索者の依頼を受けやってもいいと思ったよ。

 

一応黒桐にこの探索者の正体をこの一晩でわかる限りを調べさせることにした。

 

翌日の早朝にフラフラになりながら横島優の調査結果を持ってきた。

 

調査報告を流し読みしながら、相変わらず黒桐のものを探すという一点においては本当に極まっているな。

さてこの横島優だがいくつか不審な点がある。

 

そう、まるで突然この世に現れたかのような不自然さだ。

 

兄となっている横島忠夫の怪我に合わせて、弟として登場している。

 

そして兄は治療のために静養となっているが、入院や出国した履歴もない

 

人は生きていく上で必ず何らかの足跡を確実に残していく

 

それが横島優には何もない、横島忠夫と入れ替わったと言われたほうがまだしっくりくる。

 

まぁ話してくれるかどうかはわからないが、酷く興味をそそる横島優を黒桐に迎えに行かせる。

 

黒桐がぶつくさ言っているが、速く行ってこいと追い出す。

 

 


 

 

やはり私の勘は正しかったようだ。

 

今、横島優がこの伽藍の堂から帰っていった。

 

ここで彼から告げられたことを反芻しながら思いに浸る。

 

横島優は魂だけでこの世界に訪れた異世界人だったわけだ。

 

突拍子もない話ではあるが、私は法螺話だとは思わない。

 

この世には有りえない事など無いのだ。

 

並行世界は魔法使い第二魔法の使い手であるキシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグによって観測されている魔法だ。

 

あの横島優は異世界だと思っている並行世界から来ていると言われれば、どうやってという疑問はあるが納得もできる。

 

もしかしたらあの魔道元帥ゼルレッチの厄介ごとに巻き込まれたのかもしれない。

 

しかし愉快なのは、体を本来の持ち主に返すために守護霊となっている横島忠夫を復活させるというではないか

 

横島優にはわかってないことかもしれないが、それは魂の物質化、第三魔法に抵触している。それがどれだけ偉大なことかも分かっていないだろう。

 

かのアインツベルンでさえ成し遂げていない大儀式を魔法、魔術とは縁遠い

この極東の地で成し遂げる可能性があるというだ。

 

これを喜劇と言わずして何が喜劇だ。

 

愉快すぎて先ほどから嗤いが止まらない。

 

黒桐や両儀がこちらを見て不可解な顔しているがそれすらも気にならない。

 

いいだろう、横島優

 

第三魔法の可能性に賭け、私が持てる全て尽くして最高傑作を作ってやろう。

 

 

 


 

 

 

幾日か日にちが立ちついに、完成した人形を本人が確認している。

 

彼の表情を見る限り、私の渾身の作品は満足しているようだ。

 

横島優と残りの支払い、今後の儀式の話をしていると突如、女性が現れた

 

なんだと!?内心が驚愕に彩られる

 

ここは腐っても封印指定を受けた魔術師の籠る工房だぞ!

 

横島優の人形を作成する前にこの世には有りえない事など無いと私自身が思っていたが

こうもたやすく私の張った結界を通過されるとはな

 

まだ、無効化されるかはたまた力任せに破られたほうがまだ分かりやすい

 

それだけ力をもった存在が横島優のバックにいるのか、それとも横島優自身がそうなのか、これだけのことを簡単にできる存在がただの運送屋扱いとはな

 

良いじゃないか!第三魔法もあながち嘘ではないということがはっきりしてきた。

 

 

あのヒャクメという女性が人形を持っていき、横島優も慌ててここを飛び出していった。

 

しばらくしてからまた先ほどのヒャクメという女性がこの伽藍の堂に現れる。

 

今回も結界は正常に動作、全く嫌になる。

 

「私は神族の調査官ヒャクメ、貴女の作成した人形を儀式の前に微に入り細に入りすべて調査したのね。

人形におかしな仕掛けは無かったのね。よろしい魔術師、貴女の儀式への見学を神族調査官の私が承認するのね。

ただし、今回のことを記録するものは一切携帯しないことが条件なのね」

 

それだけ言うと私の手を取り、即座に転移をした。

 

 

 


 

 

 

転移後、赤い髪の頭に角の生えた女性がこちらに歩いてくる姿が見えた。

 

「ようこそ、魔術師殿ここは妙神山修行場、私はここの管理人である小竜姫

本来では鬼門の試しを受けていただくことになっていますが、今回は旦那様の身体を作っていただいたこともあり、特別に入場を許可します。

 

先ほど貴女をここに転移させた神族の調査官ヒャクメによって、検査を実施しましたが、生身の人体とかわらないと褒めていましたよ。

 

ヒャクメには旦那様を無視して、態と先に人形を回収させましたが、それは検査の時間と貴女を先にここにお招きするためでした。

今は旦那様を迎えに行っていることでしょう」

 

私を転移で連れてきたあの神族の親玉の登場らしい

 

私が見て分かるか分からない程度の魔力しか発していないが、それはおそらく高度に隠蔽しているか体内で循環しているから漏れてこないのだろう。

 

それに横島優のことを旦那様と呼んでいたが、横島優は何者なんだ?

まぁいい、儀式を見学させてもらえるならお行儀よくしておこう。

 

「貴女も見たところその体は人形のようですね。

成長が出来る人形を作れるその腕には素直に称賛を送りましょう。

しかし、失礼だが貴女自身はさほど強くはなさそうだ」

私自身が人形の身体を使っていることを見破った小竜姫殿が疑問に思ったのか質問を受ける。

 

「私自身が最強である必要はなく、必要であれば最強のものを作れば良い

そう私は考えているのですよ。小竜姫殿」

 

「そうですか、少し前に朧という仙人を目指す修行者が西洋魔術師は何かと技術偏重主義だとこぼしていました。

貴女も修行をすれば強くなれますが、そういう信念があるのならば無理にとはいいません。」

 

さて、旦那様も到着したようです。こちらに来てください。

 

そういって小竜姫殿が建物中に進んでいく。

 

 

 


 

 

 

 

 

案内された部屋に入ると注連縄に区切られた空間の中に私が作成した人形が安置されていた。

 

ヒャクメという神族があちこちを触って遊んでいるようにも見える。

 

そこに小竜姫殿が後ろから拳骨を食らわせていた。

 

奥の方を見れば神道でよく見る祭壇も設えてあり、その中央には大きな神鏡も据えてある。

 

そうこうしている内に清水で禊を終えた横島優が部屋に入ってきた。

 

儀式を開始する前にさらに部屋の清浄度をあげるという。

 

彼が祝詞を唱え、魔力、いや東洋では霊力を練り上げそのまま柏手を叩く。

 

神道における禊の魔術特性は一切の不浄を許さず、あらゆる穢れを祓い除く絶対結界

 

この時、祭壇に据えてある神鏡は一際大きく輝き、この部屋を一瞬照らし出した。

 

しかしその一瞬で、霊団であっても刹那の時も持たずに消滅してしまう神気が部屋を満たす。

 

人の身には成しえない、正に神の御業だ。

 

まさかたった今、横島優が奏上した祝詞には天照大神の御名があったが、天照大神がお応えになったと言うのか

 

日本では鏡が持つ魔術的な意味として、日本神話に登場する八咫鏡は天照大神の姿を映したゆえに、天照大神の御霊を移した依り代と扱われるようになった。

ここで大事なのは鏡には光が反射するように天照大神が映るということだ。ならば鏡を介してその御業を行使しても何も可笑しくはない。

 

こんなことあり得ない!そう叫びたかった。

 

神が、それも日本における最高位である天照大神がその御力を振るわれるなど、どれだけ横島優は神に愛されているのだ。これではまるで神の寵愛を受けた者じゃないか

 

準備が整ったと小竜姫殿が腰の神剣にて横島優の後頭部を強かに打ち付けた。

 

その衝撃で横島優の霊魂が身体から抜け出す。

 

すかさずその手の神剣を振るい、魂の緒を断ち切る。

 

そのまま横島優の人形にその魂を込め、二つの文珠を使用した。

 

魂の抜けた身体は肉体は所謂植物状態となり、心臓は動いている。

 

栄養が摂取できなくなり、徐々に衰弱してそのうち肉体の活動が停止し肉体の死を迎えるのだ。

 

小竜姫殿が横島優の魂を込めた人形の頭を膝に乗せ、ヒーリングをかけ、ヒャクメ殿が状態を観察している。

 

その様子を見る限り旨く行ったようだ。

 

 

 

 


 

 

 

暫くの後、横島優が目を覚ます。

膝枕に驚いたようだ。少年らしい可愛いところもあるじゃないか

 

ヒャクメ殿が再度状態を確認をした結果、GOサインを出す。

 

それを聞いた横島優がチラリとこちらを見てから、手のひらに拳くらいの大きさの宝玉を出現させた。

 

呪を唱えた瞬間、結界が消し飛びそうな物質化一歩手前といった濃密な霊力が風というには生ぬるい暴風が部屋に巻き起こる。

 

先ほど小竜姫殿が使用した文珠を今度は横島優が発動させる。

 

そして、先ほどにも増して霊力が強まりすべてを吹き飛ばす爆風と化す。

 

唯一、台風の眼となっている中央で横島優が呪を唱える。

 

今まで吹き荒れていた霊力が横島優の背中で渦巻どんどん纏まり、激しい光を発しながら収束していく。

 

そして部屋に先ほどまでが嘘のように静寂が訪れた室内に七色、いや複雑に輝く珠が横島優の手の中に納まる。

 

そしてその珠は神族が脈動するようにドクンドクンと光を発する。

 

あれが魂の物質化、第三魔法の体現だというのか

 

まさか本当にこの目で第三魔法が確認できるとは・・・・・・

 

横島優がその魂を元の身体にそっと身体に戻すとスルスルと吸い込まれて消えていく。

 

ヒャクメ殿がその身体をすかさず検査する。

 

魂の定着も無事に完了したようだ。

 

そして私は第三魔法の余韻に浸る間もなく来た時と同様にヒャクメ殿の転移によって伽藍の堂に帰還した。

 

あの横島優という少年には興味が尽きないが、神々に愛される存在に手を出せばこちらに神罰が下るだろう。

 

まぁいいさ、身体のメンテナンスを含め時間は無限にある。

 

今は待つとしよう。絶好のタイミングが訪れるまで・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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22.合同任務(グレート・レース)

~~自宅~~

 

その日、たまたま暇だった忠夫君と一緒に居間のテレビで暇つぶしにF1の実況を見ていた。

忠夫君が時給250円でバイトしていた時はとにかく暇があれば、通い詰めていた。

待機時間も時給がもらえていたようで、美神GSのところにいたようだ。

何もなければ、そのままおキヌさんの作る夕食をご馳走される。

最近は、まともな時給になったおかげもあるのか、余暇も自分の為に使えているようだ。

 

特に意識をせずに見ていると、清姫がお茶を淹れ持ってきてくれた。礼を言いカップを受け取る。

忠夫君にも配膳しているあたり、清姫の優しさを感じる。

そしてそのまま、僕の座っているソファーの隣に腰をかける。

 

以前は、清姫がお茶を配膳してくれたりすると、その手を取り

生まれる前から愛していましたー!と飛び掛かったりしていた。

まぁそれはそれで問題なのだが、ご主人様のお兄様なのでとやんわり断っていた。

それに気をよくしたのか、遂に清姫の入浴を覗きにいったのだ。

 

流石にそれは阻止をしようと思ったが、忠夫君の超常的な動きで僕を縛り上げた。

まったく身動きがとれずにもがいていると、風呂場から「転身火生三昧」と聞こえてきた。

 

しばらくすると、いつもニコニコ笑っている清姫が真顔で戻ってきた。

縄を解いてくれる清姫に、一応覗きは大丈夫だったかと聞いたところ、お仕置きしてまいりましたと、そう清姫がつぶやく。

 

宝具が炸裂した、忠夫君だったが翌朝には平気な顔で清姫の作ってくれる朝食を、

食べていたが、清姫が動くと身体がびくっとしていたので、効果覿面だったようだ。

それ以来、清姫には不埒なことはしていないようだ。

 

ただ清姫曰く、あの方は一切嘘を付かず口説きにくるのですと

だから思わず手加減をしてしまいました。とそう聞いたことがある。

 

街でナンパしているのを見かけたこともあるが、一人ひとりに本気だったとは思わなかった。

 

まぁそれはさておき、放送していたF1で事故が起きた。

世界最速の男と呼ばれるヴィスコンティがクラッシュしたようだ。

 

記憶に引っかかるものがあった。

ヴィスコンティが成仏しきれず、午後2時過ぎからサーキットに現れるというものだ。

これは美神GSが受注し、人工幽霊1号が憑依したマシンに乗って、ヴィスコンティと対決する。

最初は美神さんが乗り込んだが、1週目でリタイアした。

忠夫君が代わりに乗り込み、最終的には煩悩パワーで勝利するという

そんな話だったはずだ。

だから、今回も美神GSが受注するものだと高を括り、その場で黙祷を送るのみだった。

 

 

 

 

 

~~サーキット場~~

 

そう、美神GSが受注するものだと思っていたので、今ここに至るまで・・・・・・

いま、僕はヴィスコンティがクラッシュしたサーキット場にきている。

 

そして隣には美神さんではなく、ASEに依頼をした六道冥子さん。

 

最近、ASEからの任務でオカルトがらみのものは六道家からの依頼がやたら多い気がする。

東海道新幹線の合同任務で味をしめたのだろうか

ASEの依頼金額も結構高額だと思っていたが、冥子さんが依頼を失敗しすぎて

免許を失効するという話もあったくらいだし、依頼金額が高額でも

必ず任務を達成するASEは六道家にとってありがたい存在なのかもしれない

 

今回の任務はヴィスコンティとレースで勝負をして勝つことだ。

たしかに僕には霊能力があり、マルチドライバーの能力があるから

F1マシンでも操縦することはできる。

 

しかし、あくまで本職のガチのレーサーと戦うのはしんどい

斑鳩さんなら余裕かもしれないが、僕は能力があるだけなのだ。

とはいえ、これも任務なのだなんとかするしかない

 

 

午後2時を過ぎたころ、サーキット場にF1エンジンの爆音が響き渡る

今日もヴィスコンティが現れたようだ。

 

ピットハウスまで一緒にきた冥子さんが見守るなか覚悟を決めて

コックピットに座り、ピットクルーにベルトを着けてもらい、エンジンをかける。

 

ギアがニュートラルであることを確認して空ぶかしをする。

アクセルの踏み込み具合に合わせリニアにエンジンが反応し心地よい爆音が響く

 

ピットクルーにサムズアップしてさぁ行くかと思った瞬間に脳裏に最大級の警報が鳴る。

 

首を回し背後はミラーを使って辺りを見渡すと今の空ぶかしの音に驚いたのだろう

ミラー越しに見える冥子さんが、半泣きになっている

よく見れば冥子さんの影が泡立っているようにボコボコしている!?

 

文珠の{鎮}を生成し投げようかと思ったが、座席にベルトで固定されていて

身動きがとれない!!

即座にサムズアップしている手を剣指に替え、絶叫するように魂鎮めの呪を唱える

 

「急急如律令!我、式神に命ずる!急ぎ急いで陰に戻られませい!!」

 

泡立った影が収まるのを確認する。間一髪で、暴走は収めることができた。

レースを始める前に死に掛けるってなんなのさ・・・・・・

最近、暴走とか死にかけることが無かったので忘れていたが、

流石、冥子さん敵に回すと恐ろしいが、味方に付かれても自滅しかねない

 

任務が始まる前に強制終了になりかねない。もういっそGS免許を取るべきなんだろうか

 

「冥子さん、びっくりさせてごめんなさい。もう大丈夫なのでちょっと行ってきますね。」

 

そう言って手を振る。

 

「もう冥子びっくりしちゃったわ~~優君もしっかりね~~」

 

そう言って、冥子さんも手を振り返してくれる。

本当にそのしぐさを見る限り、良家のお嬢様なんだけどなぁ

 

さぁ行こうか、お前に魂を吹き込んでやる!

 

 

ピットエリアからでて周回コースに入る

流していただけのヴィスコンティに追いつけたが、こちらに気が付いたのか

ここからが本番だと言わんばかりの全開走行に移る

 

こちらも全開走行に移り、ヴィスコンティに追撃を掛ける

 

 

~~ピットハウス~~

 

レースも中盤に差し掛かった頃、ピットの中でタイヤ管理をしているスタッフがおかしなことに気が付き、他のスタッフに声を掛ける。

 

「なぁ持ってきたタイヤが思った以上減らないんだが」

 

「あぁそれはドライバーの横島さんが思った以上にタイヤ交換をしないせいなんだが

ちょっとこれを見てくれ」

 

そう言って、二人で横島優が走行している画面を見ると

まるでリプレイ動画を見ているかのように周回を重ねる横島の姿だった。

 

「なぁこれは世界最速のヴィスコンティに勝てるんじゃないか」

 

「あぁいけるかもな、でもあと一歩たらん」

 

 

~~周回コース~~

 

そんな会話をピットクルーがしている頃、優も世界最速には後一歩届かないことを感じていた。

 

美神が用意したマシンには人工幽霊1号が憑依し、忠夫の爆発的な妄想力を燃料にして勝利をもぎ取った。

しかし今回はそのどちらもない。

 

なのでピットインする回数を極力減らす努力をしてヴィスコンティに食らいついているが

あと一歩届かない。

 

文珠を生成するにも、全開走行している最中に他に意識を割くことができず

また生成できたとしても、前にいるヴィスコンティに文珠を投げて届かせることができない。

 

最終ラップが近づくなか、夕暮れの大きなオレンジ色の太陽を見て

やはり天照様にお助けいただく方法以外ないかと。

最初から考えていたことだ、何もせず勝てればよかったが

流石は世界最速まで上り詰めた男の走り違う。

このままでは勝てないのは残り周回数とタイム差からも明白だ。

 

冬木の街のセカンドオーナー曰く、無ければ有る所から持ってこればいい

 

「祓い給え、清め給え 祓い給え、清め給え

高天原に坐す 掛けまくも畏き天照皇大神

平に平に伏して願い奉る

五十と巡りし道の中にある、御霊に天照皇大神のご慈悲を願い奉る」

聖人が歩いた道が今でも伝説に残るように

世界最古の結界を張り巡らす、そのために今日は最初から同じように

走ってきたのだ。

簡単に言えば僕が走ってきた道が結界となる。

 

結界の中に太陽の柔らかい陽が差し込む

その光を受け、ヴィスコンティのマシンが闘争を忘れたかのように

速度が落ちる。

 

抜かすには今しかない!

 

お前に魂があるなら応えろ!!

 

アクセルを全開にして最後のホームストレートを走りきる。

 

ゴール間近で追い抜き、そのままチェッカーフラッグが振られる。

チェッカーフラッグは今日走った全ての者達の健闘を称えるのだ。

 

ヴィスコンティとそのマシンは夕暮れの逢魔が時の中に溶けるようにして消えていく。

チェッカーフラッグを共に受けた戦友を思い、満足した顔をして成仏した。

 

 

 

 




皆様、お久しぶりです。

ASEのオカルト絡みの案件にも一人で対応したほうが
むしろ安全なのではと、思い始める優でした。


~NG1~

逢魔が時の中に消えるヴィスコンティを見送り
夕暮れの陽炎の中に天照様のお姿を見つけた。
そのままお辞儀をすると天照様がニコリと笑い

「もっと、姉の私を頼ってもいいのよ。
陽の有るところ、私に届かないところはないわ」



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23.GS資格取得に向けて

23.GS資格取得に向けて

 

 

 

 

ぷっつん式神使いのお嬢さんとの合同任務は、神経を使い過ぎてすり減りました。

オカルト案件ということで、霊能者とドライバーという役割分担のもと仕事を

進めていくつもりですが、結局は僕が解決しているようなものです。

いっそ、その分の金もくれと言いたいところ・・・・・・

でも、これも契約なので致し方なしと思いますが、こんなことなら

最初から全て自分でこなしたほうが、むしろ楽で安全な気がしてきました。

 

それもこれも、僕がGS免許をもっていないから、こういうことになるんです。

いや、オカルト案件をすべて断れば解決と、かなり思わないでもないです。

 

ただそうすると、あのぷっつん娘が家まで来そうなんですよねぇ・・・・・・

対応を間違えて自宅が壊滅とか笑うに笑えません。

その後、六道家の保証のために家とか用意されたら、あれ?これ社宅じゃね?とか

六道家に泊めていただいて、しばらく生活しようものなら、事実婚とか、

そうなる可能性がある時点で、全てお断りするのも辛いのです。

 

その点、僕がGS免許を取得すれば、すべて業務委託をしていただければ

一人で解決することも可能です。

もちろん、この業界では駆け出しの見習いですから、除霊の経験なんて数える程です。

アドバイスは欲しいところなので、現場にいかず、安全な後方でリスクアセスメントをして

危険の洗い出しを事前に行えば、いきなり現場に放り込まれるよりも

だいぶ安全も確保できるでしょう。

 

というか、ぷっつん式神使いと現場に行くほうが命の危険を感じるのは

何故なんでしょうかね?

あのお嬢さんは霊能の大家のはずなんですが・・・・・・

 

さて、GS免許の取得にあたり、忠夫君にも聞いてみました。

どこに、どうやって応募すればいいのか?

そうしたら、美神さんが全て手続きをしてくれたので、さっぱりわからんとのこと

 

仕方ありません。たしかGS協会が試験の監督をしているはずなので

応募要項を取り寄せて確認してみましょう。

 

 


 

 

数日して、応募要項と応募用紙が届いたので、さっそく確認していきましょう。

原作を読んだときと試験内容は変わらないようですね。

 

通称、GS資格、正式名称は対心霊現象特殊作業資格という名称で

一度の資格試験で合格定員は32名、もっと合格枠を増やせばいいのにと思いますが

どうやら、この免許証事態に絡繰りがあるようで、グロい話ですが

 

万が一、悪霊に食われ遺体も残らないような状況でも、現場にはこの免許証だけは

ほぼ残っているそうなんです。

 

それは、この免許証には極めて強い神秘が宿っているかららしく、この免許証の

製作がどう頑張っても、半年で30枚前後しか作れないからという噂です。

 

本当かどうかわかりませんが、法令を見る限り、除霊作業中では特に指定が無い限り

常時免許証の携帯義務が課せられているあたり、信憑性を感じてしまいますね。

 

他にも、細々とありますが大きなところでは

警察官、消防士、災害救助に派遣されている自衛官などに対し

心霊現象に関し国民に生命の危機がある場合のみ、避難誘導等の措置を依頼できることや。

 

霊銃、霊刀等の使用に限り銃刀法に関する物も大幅に免除されるそうです。

まぁ弾丸の弾頭が精霊石を使う場合が多いので弾丸が高すぎてそう簡単に所持できないと思いますけどね。

 

試験内容ですが、1次試験は霊波測定でここで応募人数が128名まで絞られ

2次試験からの対戦形式のトーナメントで合格を決めるという、割と脳筋は資格ですね。

良くわからない物に対応するために、実力が有る者に資格を与えるという理念はわかりますが、

流石に脳筋過ぎな気がしますね。

関連法令とかは資格授与後に講習会があり、そこで勉強するようです。

さて、ささっと応募用紙に記入してしまいましょう。

この手のものは面倒がって後でやろうとすると大概余計に面倒になるものなのです。

なになに、氏名、年齢、現住所とまぁこの辺りは普通ですね。

え?所属事務所?どこにも所属していなんですが、空白では駄目なんですかね?

応募用紙の記入例を見ても、書いてあります。

あ、注2と書いてありますね。えぇっと注2の項目はと・・・・・・

 

これは困りました。このオカルト業界は古くからの名残も有り、徒弟制度を採用しています。

まぁ確かに、免許取り立ての新人が除霊に行くよりは、師匠同伴のほうが依頼者も安心できるでしょう。

そして見習い時代は所謂、仮免許という扱いで本免許の取得は悪霊100体を除霊しなければいけないようです。

この時所属している事務所が、見習いの監督業務が課せられます。

また、見習いが失敗した場合の保証を所属事務所が行うので、必ずどこかに

所属する必要があるみたいです。

ブラックな事務所だと、いつまで経っても本免許を発行してくれないとか有るそうです。

それも、業界内では問題になっているようですね。

話が逸れてしまいましたが、所属事務所ですか、困りましたねぇ・・・・・・

 

 

えっと、妙神山所属じゃ駄目ですかね?

 

 




GS免許取得について、動き出しました。

なるべく間を開けずに書いていきたいと思います。


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24.GS資格受験 ~清姫 強化(狂化?)~

さて、所属先を妙神山と書いてもいいか、まずは小竜姫様にお墨付きを

頂かなければいけないだろう。

 

忠夫君にも内緒にしているが、このマンションと妙神山は、ゲートで繋がっている。

もちろんこの先も人に話すつもりはない。

 

決められた手順に沿ってゲートを起動させ、妙神山に移動する。

小竜姫様もこちらに来れればいいのだが、大義名分が無いとそう簡単にはこちらには

来ることが出来ないようだ。

 

僕の気配を感じたのだろう。小竜姫様がこちらに歩いてくる姿が見えた。

 

「あら、旦那様いらっしゃいませ。本日はどうされたのですか?

私に会いに来てくださったのですか?」

 

小竜姫様に会いたかったのも有りますが、と前置きをして、GS免許を取るために

どこかの事務所に登録する必要があり、妙神山所属としても良いか聞きに来ました。

 

「妙神山所属と名乗るのは構いませんが、私は俗世のことには疎いので

管理監督はできませんよ。それに私はGS資格を持っていません。

あくまでも私は武神、戦うことと戦う術を教えることが本分です。」

 

「旦那様が所属しているエースという、会社は所属先足りえるのではないですか?」

 

そうですね。いつもご指導をいただきありがとうございます。小竜姫様

一度戻ってASEや他とも比較検討することにします。

お礼をして、帰ろうかと席を立とうとした時、小竜姫様に呼び止められる。

 

「GS試験に出るとなれば、当然清姫も式神として出るのでしょう?

旦那様は術者として後衛にいて、いざとなれば前後が入れ替わり前衛も務める。

 

さて、清姫さんは神話も付き、英霊に近くはなっていますが、しかし元は豪族の娘

武芸は嗜む程度しか、知らないでしょう。

どうです?ここで修業をしませんか?異空間での修行なら、旦那様は数分お待ちいただく

だけで終わりますよ。」

 

清姫は僕のほうをチラリと見てくる。

戦わせるために連れてきた(憑いてきた?)訳ではないが

確かに小竜姫様の言う通り、前衛で相手を足止めしてくれれば、僕も陰陽術を使いやすい。

いざとなれば、前後スイッチして僕が前衛になればいいし。

確かに悪い話ではない。清姫は嘘を増悪している。

本心から思っている事を話す。

清姫、僕は君に戦ってほしくはなかったが、GS試験では文珠や如意宝珠を隠すため

式神使いとして出場したい。

それに今後、除霊の場に立つときも共に戦えれば嬉しいし、安心できる。

小竜姫様と修行をして、戦えるようになってくれないだろうか?

 

「畏まりました。ご主人様、わたくしも乙女として、武芸は一通り嗜んでおりました。

しかし、わたくしのようなか弱い細腕の女では、戦場に立つご主人様のお役にたつことも

ままならないと悔しく思いましたが、ご正室様にご指導いただけるなら

この清姫、ご主人様の為ならば例え火の中、水の中!

今、見つめ合っただけで、この清姫は理解致しました。確信致しました!!

わたくしたちの心は繋がっていると。この信頼と愛の前では何も心配もいらないのだと!!」

 

清姫に握られている腕が軋みをあげている。

流石はバーサーカークラス、どこが女の細腕なんだと突っ込みたいが

男は黙って我慢、清姫に頑張ってと応援する。

 

小竜姫様も清姫にご正室様と呼ばれているで、むしろ気分よく隣室の襖を開け

清姫を誘う。

 

「旦那様、これより先は清姫さんの修行の場となります。

決してこの襖を開け、覗いてはなりませんよ。」

 

そう告げて、小竜姫様と清姫は隣室に移動していった。

何をしているのか興味はあるが、童話鶴の恩返しの如く、約束を守れず

鶴を失うのはあまりにも惜しすぎる。

言いつけを守り、ここで大人しく待っているとしよう。

 

 


 

 

~小竜姫side~

 

清姫さんと共に異空間にやってきました。

清姫さんは横島優さんを安珍の生まれ変わりと思いこんでいる節があります。

今はいいかもしれませんが、将来そのことに気が付き、旦那様に嘘を付かれた

などと勝手に思い込み、致命的なすれ違いをしてしまうかもしれません。

 

このことを知れば、旦那様は名の通りお優しい方です。きっと止めに入るでしょう。

しかし例え、恨まれ疎まれようとも優さんを危険にさらす存在を

そのような危険な女は、この小竜姫が許しません。

 

だいたい、旦那様と同居しているだけでも、羨ましいのに

先ほども、旦那様の腕を絡めて仲睦まじい姿を見せられて、ご正室様などと

持ち上げてはいますが、寵愛は私にあると、まるで見せつけるようではありませんか

 

えぇえぇ、これは決して私怨などではありませんとも。

あくまでも、旦那様の身の為なんですから、仕方ありませんよね。

 

「さて清姫さん、修行を始める前に解決しておくべき問題があります。

私も武神の端くれ、持って回った言い方は好きではありません。

優さんは安珍という方の生まれ変わりではありません」

 

きょとんとした顔をした清姫さんは

「ご正室様は何をおっしゃいますの。わたくしを揶揄うならやめてくださいまし

ご主人様、安珍様は熊野の地まで約束を果たして

わたくしを迎えに来てくれたではないですか

安珍様とご契約をしてからは夢のような世界で、優しくしていただいて

わたくしは安珍様のためにお食事を作り共に頂き、陽のある時は常に傍に寄り添い

安珍様がご就寝されたら、わたくしも同じお布団にはいり、時々お情けも

頂き、朝を迎えれば安珍様を起こして差し上げているのに

 

知っていました?安珍様は一度寝てしまうと朝まで起きませんのよ。

安心してくださいまし、お子はご正室様が最初というのは理解していますわ

安珍様はいまだに女の身体を知らぬ身ですよ。

わたくしは、たまに精を啜らせていただくだけですわ。」

 

そんなに羨ましいことをしておいて、この程度しかしてないですから

大丈夫ですよって、その態度!ますます許しておけません!!

 

いや、違います。やはり優さんと安珍を混同していましたか

真実を突きつけ、狂ってしまうならば、やむを得ません。

慈悲の心で、神剣の一撃をもって葬って差し上げましょう。

 

「再度告げます。

優さんは安珍という方の生まれ変わりではありません。

貴女自身が竜と成り、道成寺の鐘に籠る安珍を魂諸共焼き払った最後を、

覚えていないとは言わせませんよ。」

 

「ご正室様、嘘をおっしゃらないでください。ご主人様は安珍様の生まれ変わり

それでいいではありませんか」

 

「いいえ、安珍は貴方に嘘つき、迎えにはきませんでしたが

優さんは貴方を思い誠実に嘘をつかず、生活してきたのではないのですか」

 

清姫さんは俯き、その表情を隠してしまいました。

そしてぽつりと呟くように、そして段々とその激情が露わとなりました。

 

「えぇそうですとも、分からない振りをしておりました。

 

安珍様が愛しくて、恋しくて、愛しくて、恋しくて

でも、安珍様に裏切られて

悲しくて悲しくて悲しくて悲しくて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて

憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎

 

だから、魂諸共焼き殺しました。」

 

 

「あの時、わたくしの未練も焼き尽くしたと思っていましたが、熊野の地で優様にお声がけ頂いた時に、あぁこの方が安珍様だったらと何度思ったことか

 

そしてまた、未練が沸きました。

だんだんと、優様を安珍様の生まれ変わりと思うようになったのです。

 

そして、優様には既にご正室様がいらっしゃいました。

何故、わたくしではないのかと、出会いの差だけで正室と側室が別れるのであれば、せめてご寵愛だけは全てわたくしのものとしたかった。」

 

なるほど、まるで当て付けるかのようなと思っていましたが、本当に当て付けでしたか

 

自覚しているならば、私とて武神ではありますが、1人の女、好いた男性に裏切られる悲哀とその激情は分かります。

そうならば慈悲と寛容を持って接しましょう。

 

「分かりました。では自覚をしているならば、これ以上はいいません。

ただ、この先優さんと安珍を混同し優さんを悲しませることがあれば、私は貴女を打ちに行きますからね」

 

さて、それでは本題の修行に入りましょう。

 

貴女に合いそうな武器をまずは見つけなければいけません。

 

まずは刀を始めとする刀剣類を振ってみましょうか・・・・・・

 

妙神山にある武器を一通り振っていただきましたが、薙刀と変わった所では

鉄扇に適正がありそうですね。

 

あらあら、清姫さん一通り振った程度でばててはいけませんよ。

これはまだ適性を見ているだけなんですから、ここからが本番ですよ。

 

決して意趣返しとかではないですからね。

さぁ優さんのために頑張ってください。

 

 

 


 

 

 

お、襖が空いて小竜姫様が戻ってきた。

けど、清姫が戻ってこないな、小竜姫様、清姫はどうしたんですか?

 

「清姫さんなら修行で霊格があがり、礼装が変わってしまったので

少し恥ずかしがっているようですね。

慣れれば自由に礼装を交換できるのですが、しばらく練習が必要かもしれません。

また、清姫さんは薙刀と鉄扇に高い適性があったのでそちらを修行しました。

 

彼女自身は嗜み程度と言っていますが、十分に実戦で通用します。」

 

 

 

襖の影から清姫が顔だけをひょっこり出し、こちらに確認をする。

 

「ご主人様、わたくし、はしたない恰好をしておりますが、嫌わないでくださいませ」

 

大丈夫、どんな格好でもきらわないと言うと、襖から出てきてその礼装を見せてくれる。

 

 

和服に水着、有りだね。

清姫かなり着やせしていたのか、小竜姫様には敵わないが

それでも立派なたわわです。

 

水着には詳しくないのだが、黄色のビキニにたれ袖のある着物をまとい

ところどころに、水着と同色のリボンを配置している。

 

控え目に言って最高としか言えない。

これほどのものを持っていたとは、清姫、恐ろしい子・・・・・・

 

「あのご主人様、何かいってくださいまし、わたくし恥ずかしくて死にそうです。」

 

羞恥心から顔を真っ赤にしている清姫、これはこれでいいものだと思う。

 

ごめんなさい。清姫が魅力的過ぎて見惚れてしまいました。

GS試験の会場で他の男に見せたくないとそう伝える。

 

「ご安心くださいませ、清姫は身も心もご主人様のものですから」

 

一度は言われてみたい、セリフランキング上位の言葉を聞けるとは思わなかった。

しかしこれは、こちらが思わず赤面してしまう。

 

お互いに顔を見合わせてクスクス笑い、清姫は安心したのかいつもの和装に戻った。

 

「いつもの礼装に戻れたようですね。しかし薙刀を使うときには、先ほどの礼装のほうが動きやすいと思うので、そこは適宜判断してください。」

 

そう、小竜姫様が清姫に伝える。

 

「畏まりました。ご正室様。」

 

あぁそうだわと言って、清姫が小竜姫様の手を取り隣の部屋に移り内緒話を始める。

 

写真のような物を渡しているようだが、何が移っているかまではわからない

微かに聞こえる単語は、寝顔、入浴、・・・・・・・

 

何が写っているか、わかってしまったがわからない振りをする。いいね。

それにしても、修行といって離れている間に仲良くなって良かった。

 

よく目を凝らせば、天照様も一緒にいるではないか

見間違いかと、目をこすればもうその姿はなく、僕の隣にいた。

 

「ふふふ、清姫さんには良い物を貰ってしまいました。

どうやら清姫さんは薙刀、槍をお使いになるそうなので、天沼矛を貸しましょうか?」

 

いえ、神話の、しかも国生みの矛をポンポン貸さないでください。天姉様

借りたところで、僕の霊力では支えきれません。

 

「それもそうですね。清姫さんが自身で持っていた薙刀も、年月が経っているので、

十分な神秘を蓄えていますよ。」

 

それだけいうと、次の瞬間にはいなくなっていた。

 

まぁとりあえず、清姫の武器も用意しなくてよくなったのでいいことにするか

あまり深く考えてはいけない領分だと思う。

盛り上がっている、小竜姫様と清姫の姿を見て、今しばらく待つことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 




清姫は優のことを安珍の生まれ変わりだと思い込もうとしていたところ
小竜姫様に軌道修正された話でした。流石はご正室

FGOでは安珍殿を一途に思うという描写があり
優を安珍と勘違いさせたまま、月日が経ちやはりこの方は安珍様ではない
と暴走するのも有りかなぁと思いましたが、バーサー可愛い清姫を
書きたかったので、今回で安珍殿は手打ちにしたいと思います。


優が寝てしまった後にナニをされているか、詳細は書きませんので
想像力で補っていただければ幸いです。

では、また次回



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25.所属事務所を選択せよ。

25.所属事務所を選択せよ。

 

 

 

 

清姫と一緒に妙神山から帰宅した。

清姫の強化もできたし、今後の方針も見えてきたし

小竜姫様には本当に感謝しかない。

 

「清姫も僕のために修行してくれてありがとう。

これでGS試験も安心して受験できるよ」

 

「ご主人様の為ならわたくし、どれだけでも頑張れますわ!」

 

清姫も頑張ってくれているしGS試験に合格したら、

お祝いに小竜姫様と清姫に何かプレゼントをして、少しでもこの気持ちをお返しをしよう。女性への贈り物になにが喜ばれるかわからないけど

とりあえずはASEに行って、所属事務所として良いのか確認に行こうかな

 

 


 

 

ASEに着いていつもの通り車輌課の課長に相談してみる。

そうすると俺ではわからんから総務にいけと総務課を案内される

それもそうだなと、総務課に赴き、総合案内受付にいたお姉さんに要件を告げた。

 

受付の方に個室に案内をされ、担当者を待っていると

しばらくして、物腰の柔らかい話しやすそうな雰囲気の

恰幅の良い男性が部屋に入ってきた。

 

「いやぁ~どうも横島さん、お待たせして申し訳ございません

今回お話を伺わせていただく、鈴木と申します。あ、これ名刺です。

 

私も横島さんの事は良く存じ上げていますよ。

横島さんのおかげで我がASEも、日本ではシェアが取りずらいオカルト業界の分野で

六道という大店のお客様からご依頼を頂けまして、最初は小口のご依頼でしたが

だんだんと大口のご依頼をいただけましてね。

お得意様から今や上お得意様といった次第でして、この分野を開拓していただいた横島さんには感謝感謝です。

 

本当に、横島さん様々といったところでして、本当に足を向けて寝れませんよ」

 

鈴木さんの話に圧倒されてしまうが、流石はASEというべきか

こんなところも一流の営業マンを揃えているのだろうか

これだけ気分よく気持ちを挙げられてしまえば悪い気がする人間がどれだけいるのだろうか

 

鈴木さんにさっそくですがと前置きをして、GS資格を取得しようとしていること

それに伴い、ASEに所属事務所になってもらえないかという相談をした。

 

「なるほど、横島さんのお話はよくわかりました。

結論から申し上げると、ASEとしてはお力になることは難しそうですな。

 

そもそも、GS協会自体が昔ながらの徒弟制度ありきの体制をとっておられるため

その所属先の秘伝、秘儀、また一子相伝のような作法、仕来りというものが有り

正直に言いましてオカルト業界自体は、開けた業界ではないのです。

 

数少ない中に、六道女学院が霊能科を持っていますが、本当に例外でして

そのような意味でも、この業界のご依頼をASEに持ってきていただいている

横島さんには感謝しておるわけです。

 

横島さんのご存知の通りASEの理念として、どのような分野でも一流の人材を

派遣するというものでして、特にオカルト分野ではスポット契約が非常に多いのです。

 

今回のように、横島さんのことを師事、監督していただくとなると

かなり長い間の拘束期間が予想され、ASEに登録されている他の霊能者の方も

嫌がる方が大多数と思われます。

特にこの日本のエリアでは民間の除霊事務所がかなり幅を利かせておりましてね。

ASEも霊能者の方の人材確保には、本当に骨の折れる状況でして横島さんのような

優秀な方が資格を取っていただけるとなれば、ASEとしては大歓迎です。

 

もちろん、横島さんの任務のスケジュール調整なども行いますし、それなりに割高になってしまうと思いますが、一応ご紹介できる人材もおります。

 

一度、派遣可能なリストをお出しするのでご覧になられますか?」

 

そうか、僕も所属しているがASEは派遣会社なので、人材の管理監督、仕事の手配を

してくれる会社だった。

一応、鈴木さんが持ってきてくれたリストを確認させていただく。

 

リストに載っている人はとても高額で、ちょっと払える額ではなかった。

しかし考えてみれば、自分の秘伝の技術が漏れる可能性があるのだ、どうしても

高額になるのだろう。

そんな中でほぼ、無償といっても良い金額の女性がいた。

名前は魔鈴めぐみさん、ただ所属はASE英国となっている。

この名前には見覚えがある、同一人物なら正しき魔女として美神さんと揉めて

対立をしてしまった人だ。

 

鈴木さんにも確認をしてみる。このほぼ無償といってもいい魔鈴めぐみさんについて

お尋ねする。

 

「魔鈴めぐみさんですか、たしか最近、ASE英国に登録していただきました。

現在では遺失している、中世魔法技術を専門に研究されている方で

僅かな記録を頼りに、独学で中世の魔法を身に着け、今でも失われた魔法を発見し続けている才媛ですな。

 

そういえば、現在はASE英国ですが、近々日本で活動されるとお聞きしましたよ。

しかし、この資料にはGS免許をお持ちか記載されていないですね。

魔鈴さんにはGSとしての能力より魔女としての知識を発揮して活躍して欲しく

GS免許は二の次となっているようですね。」

 

 

魔鈴めぐみさんが日本にいないとなれば、魔鈴さんへの依頼は諦めるか

GS協会に行って、アルバイト募集の案内が無いか聞いてくるとしよう

 

対応してくれた鈴木さんにお礼をいって、GS協会に向かう。

 

 

 

~GS協会~

 

 

GS協会会館に着くと、早速受付に向かうがそこにはスポーツ新聞を広げた

おじさんがタバコを咥えていたが、どうやら火はついていないようだ。

 

「すみません、GS資格を取得したいのですが、霊能事務所を紹介して

いただきたいのですが、どちらの窓口にいけばいいのでしょうか?」

 

はぁ~~っと深いため息をおじさんがつく

「なぁ坊主、馬鹿なことを言うもんじゃないよ。

だいたい、霊能者ってものは血筋が命なんだよ。そして子供の頃から修行に明け暮れて

なるもので、どこかの流派に属しているもんだ。

 

事故とかで後天的に霊能に目覚めることもあるが、良いところ霊が見える程度。

最悪は悪霊に乗っ取られて自滅だよ。

 

悪いこと言わないから、その程度でGSなんて目指さないほうが良い。

さぁわかったらさっさと帰んな」

 

窓口を聞いただけで何故か説教されてしまう。

影に居た清姫がかなり怒っているようで、影が波打っているのがわかるが

ここで清姫を開放してしまったら、惨劇間違い無しだろう

 

そのおじさんも今は、俺の若い頃はという割とどうでも良い話になっており

本題とはまったく関係なくなっている。

 

僕は普段、霊力のほとんどを如意宝珠に貯めているので、外に出てくる

霊力は一般人より少し多い程度しかない。

そこでこのおじさんは、勘違いしているのだろう。

まぁそれはそれでありがたい忠告ではあるのだけど・・・・・・・

もう清姫を抑えるのも、霊力を抑えるのもやめてしまったほうが話が早いだろうか

などと半ば本気で思っているときに、背後から声がかかった。

 

「あらあら~~この子なら大丈夫よ~~」

 

六道冥奈さんが背後からニコニコ笑いながらこちらの寄ってくる。

 

「ろ、六道婦人!?え?この坊主、いやこのお坊ちゃんは」

 

「優君~GS資格が欲しいなら~六道除霊事務所に入るのが近道よ~

六道女学院の~ノウハウも~教えちゃうわ~」

 

そして、持参していたGS資格の応募用紙にささっと六道除霊事務所と記入して

おじさんに渡していたが、もうおじさんは頷くことしかできなかった。

 

「さぁ~優君、申請もおわったわ~行くわよ~」

 

冥奈さんはお買い物デートよ~っと、そう言って僕の右腕に身体を絡め

有無を言わさず、フミさんの運転する車に連れ込まれた。

 

最初に着いたところはテイラーで、霊的加護の付いたオーダーメイドスーツを仕立て貰うために採寸をする。これに合わせてワイシャツ、ベスト、ネクタイ、コートなどの衣類に

それぞれ刺繍がしてあり霊的な加護が付いている。

靴も大事なのよ~とオーダーメイドするようで、合わせて採寸をされた。

恰好だけ見れば第4次聖杯戦争のセイバーの黒スーツだと言えばわかるだろうか。

 

完成したらまた迎えにいくわ~と、自宅まで送ってくれた車を見送り

どうしてこうなったと頭を抱えそうになる。

 

しかし、考えても見れば、見習いにこれだけの装備を

提供してくれるというのは大手でしかありえないだろう。

冥子さんのプッツンという一点にさえ目を瞑れば、資金豊富な六道家は

米帝プレイが可能で、正直に言えばかなり魅力的だ。

忠夫君なんて、今だにGパンGジャンにトレードマークの赤いバンダナを思えば

かなり恵まれていると言えるだろう。

その冥子さんも常日頃からプッツンしているわけではない。

 

数日して、スーツ一式が完成したと連絡があり、いつものように迎えがきた。

六道家に到着し、さっそくスーツを着て驚いた。

自分も前世では社会人としてスーツの一着、二着、革靴くらいは持っていたが

着心地が全然違う。堅苦しいものだと思っていたが、上手に逃げがつくってあり

激しい運動をしても、まったく苦にならない。なんというか馴染むというのだろうか

そして何より、霊的加護が付与されており、多少の邪気、瘴気くらいなら問題にならない

神聖さを保っている。

下手な神社仏閣に勝るとも劣らない神聖さが、霊力を回せばさらに増すだろう。

試着したスーツ姿を見てもらうために冥奈さんのところに向かう。

 

「まぁ~カッコいいわね~見違えたわ~~うふふ~素敵よ~」

 

そして、指輪を入れるような箱から六道家の紋をあしらった

徽章を取り出し、スーツに取り付けてくれる。

 

「この徽章は~聖別された銀十字を~溶かしたもので~これだけでも結構な~

神秘を内包しているのよ~

六道のお仕事に行くときには~仕事着としてスーツと必ず徽章を付けてね~」

 

そしてこっちがGS試験用の装備一式よ~と出してくれる。

 

破魔札や神通棍を収めるホルスターと取り付けてみたが

動きを阻害することなく、なおかつ取り出しやすく、本当に良く考えれている。

 

「本当は~精霊石弾頭の~拳銃もあるんだけど~GS資格とるまでは~

銃刀法違反で捕まってしまうわ~

あとは~個人個人の~相性もあるから~好きな霊具を持ち出してね~」

 

この霊的加護など各種の設定から選べるスーツを六道グループから発売するらしく

僕が支給されたものは、フラグシップモデルのようだ。

 

最近めっきり出番の無い、AMスーツに比べ筋力増幅システムはないが

純粋に対霊装備ならこちらのほうが優れている。

それに霊能者は霊力により、自身の肉体能力を向上させることができるので

装備が軽くなり、回避メインで考えれば、こちらのほうがいいのかもしれない。

 

こうして僕は、もっとも避けていたはずの六道家のお世話になり、GS試験に挑むことにした。

プッツンさえ無ければ、豊富な資金からくるバックアップ体制、連綿と続く家柄に相応しいオカルトの知識量と高額なお給金、上流階級の人なので大らかな人格

本当になにもかもが六道家は素晴らしい。

そう、プッツンさえなければ

 

逆に考えるんだ、これから修行して貰い、プッツンを無くす...減らせば素晴らしい職場になる・・・・・・・といいなぁ・・・・・・

 




なんだかんだと所属事務所を悩んで、結局は六道家になりました。

次回からようやく、GS試験の話を書いていきます。
というか、GS試験受けるだけなのに回り道しすぎだろう・・・

ではまた次回


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26.GS試験に向けて

前回何故、横島優を妙神山所属にしなかったのか、いくつか理由があります。
1.神族が下界に除霊事務所を開設するのか

GS美神の作中では神族と魔族はハルマゲドンを回避するため、デタント状態にある。
神社仏閣は別として、神族が公式に人間界に拠点を有しても良いのか
まじめな神族である小竜姫がデタントを破る可能性があることをするのか疑問がある
メドーサなどは非公式に白龍会などを拠点として持っていたようだが・・・

2.監督者となる小竜姫がGS資格を有しているか

GS資格というだけあり、見習いGSを管理監督するのは、GS資格を有する者
だと考えている。(美神、横島忠夫の関係)
おそらく、小竜姫はGS資格を所持していない。

3.損害補償金を担保できるのか

見習いGSが失敗をして、損害を発生させた場合の保証金を負担できるのか
美神がへまをしたら私も責任を負うというセリフがあり、だいたいの場合は
金銭での補償となると思われる。
妙神山には小判はあるが、現在の日本円の用意に時間がかかると考えられる。

4.GS協会に加入しているのか

割と偏った私見ですが、協会に加入しているかどうか
〇〇協会という会員費を徴収し、年に何度か業界紙を発行する。そしてこの協会にはいって
いないと認定を与えませんという縄張りのようなものが、どことはいいませんが
実際にかなりあります。
そのため、協会に加入していないであろう、妙神山は認可されないと考える。

いろいろと書きましたが、最強戦力の一角である、妙神山が出張ってくると
下界で事案が発生した場合、妙神山だけで片がついてしまい、物語が膨らまない
というのも大きな理由です。


さて、ここからはNGシーンです。


小竜姫様にご許可を頂き、意気揚々とGS資格受験申込書を持参して、GS協会に赴いた。

GS協会の会館に入ると、そこにはタバコを吸い、だらしのない恰好で
スポーツ新聞を読んでいるおじさんがいた。

霊視をするまでもなく、そのオーラは澱んでおり、まともに霊能を発揮できるとは
とうてい思える人物ではない。
しかし、気を取り直してGS資格受験申込書を提出した。

とても、面倒で嫌そうな顔をしながら、確認を始めたが、記入の不備を見つけたのだろう
何がそこまで嬉しいのか分からないが、不認可の印をドンと押し付け、申込書を
突き返してきた。これでまた書き直しだ・・・・・・

不認可の理由もわからず、突き返されても、直しようがない
どこが悪いのか聞いている。

「記入の不備があるようですが、ご指摘をいただきたい」

「生意気な聞き方をするガキだな、お前の書いた所属事務所だ。
そんな事務所は協会には登録されていない」

「神族が運営しておられる、修行場で小竜姫という一柱が管理人をしており
その片を師と仰ぎ、認めていただいております。そこら辺の事務所より
よほど由緒正しいと考えますが」

「GS協会とはすべてのGSを正しく管理下に置き、運用する組織だ。
そもそも、神がGS資格をもっているのか
神の気まぐれに付き合う必要を感じられん」

この科学万能なこの時代に、神にすがる必要もなく
悪霊や心霊現象など、精神が病んでいるだけだと言い切られ

下世話な話だが、その神は金を払えるのかと

尊敬をしている小竜姫様を虚仮にされ、GSなど糞くらえだと思った瞬間
背後から声がかかる。

「では~六道所属なら問題はないのでしょう~六道財閥はGS協会に対して
多大な貢献をしているわ~
試験申込書は後日~六道から送るわ~」

そういうだけ言って、僕の腕をひっぱりこの場から離れたが
去り際にチッという舌打ちが聞こえた。本当に嫌な奴だ。




嫌なことがあったことも忘れた位、日が経ったある日、用事があり
GS協会に行くことがあった。またあの嫌な奴があるのだろうと、若干気を落として向かうと、今度は愛想の好い女性が受付に立っていた。

六道に戻り、冥奈さんにあの時の感じの悪い受付がいなくなっていたと話すと

「あら~そうなのそうなっていると~思ったわ~
あの御方は~普段は滅多に障る御方ではないのだけど~
貴方のことを~特に気にかけているわ~
その加護はとても強くて~まるで寵愛をうけているような~
そんな貴方のことを~理由もなくけなしたとなれば~

一生、彼には陽が当たることは無いでしょうね。

日の当たらぬ人生~日陰者という慣用句があるけど~

光が当たらないということは~光の反射がないということ~
何をしても人に認められないし~そもそも認識されなくなってしまうわ~
人間社会にいるのに~誰も返事もしてくれず~真の孤独を味わうことになるわ~
まともな~精神でいられるかしら~

年間どれだけの人数が~行方不明になっていると~思うかしら~
勿論~犯罪にまきこまれた等あると思うわ~
でも~確実に神隠しと呼ばれ~忽然と姿を認識できなくなる人もいるわ~

優君、貴方は本当に愛されているわね。

神に親しみを持つなとは~いわないわ~
ただどんな時でも、畏敬の念を持ち続けなさい~

日本の~神様は恵をもたらすことも~災いをおこすことも両方あるの~
和魂も荒魂も本質的には同じ神なのよ~
そして人間には~理解できない価値観を持っているものよ~

GSもそう、あの世とこの世を繋ぐ者として常に中道でありなさい。
とても難しいことだけど、どちらかに加担すれば必ずいつか報いをうけるわ。

さて~おばさんの講義は終了よ~
今日のケーキは何かしら~」

冥奈さんが途轍もなく大きく、そして怖く感じた
これも冥奈さんの一面なんだろう、お辞儀をして部屋を退出する。


~冥奈SIDE~

さて、余計なちょっかいを出してこないか調べさせたけど
どうやら、逆恨みで目に余るようなことを、仕出かそうとしていたようね。
それが御方の逆鱗に触れたみたいね~

優君は無事なことだし、もう見ることもなさそうね。
そう思った瞬間には彼のことを思い出せなくなった。

あら?これは誰だったかしら~
思い出せないわ~年は取りたくないものね~

フミさん、個人情報のようだから~しっかりシュレッダーにかけておいてね~



僕の覚えているオカルトの知識は陰陽術を始め神道系のものが多く

そして、知っている内容がとても古い。

 

最近の神通棍などの霊具は勿論無い時代の知識なので、最新のオカルト業界の

知識を覚える必要がある。勉強不足だが実際に便利な霊具も多いようだ。

 

資格試験の2次試験はトーナメント形式の対戦であり、これらの霊具や術式の知識を

蓄えることで相手の手の内を見ぬことに繋がり、GS資格試験でも役にたつ。

 

そして、時代が変われば妖怪や悪霊も時代に合わせて変化するようだ。

これも勿論、古くから変わらない妖怪もいるが、新種の妖怪も出てくる。

除霊をするにあたり、力任せではいずれ壁に行きあたると

いまは知識を付けることを優先して、教育を受けている。

資格が取れれば、現場での実習が増えていくのだろう。

 

試験対策として、一度だけ1次試験である霊波測定を想定して

普段、如意宝珠へ蓄えている霊力を止め、全力で放出したことがある

その時は、十二神将が驚き暴走したため、それ以来霊波測定はしていない。

冥奈さんには十分すぎるという太鼓判をいただいた。

式神を驚かせてしまい、暴走させてしまったが、冥子さんに比べるとまだまだだと思う。

 

最初の頃は資格試験対策として式神と模擬戦闘をしていたが

今ではそれも殆どなくなっている。

 

突然話はガラリと変わるが、僕は普通に飼育されているペットの中では断然犬が好きだ。

生前も、実家ではマルチーズを飼っていて、本当に可愛がっていた。

そのせいもあってか、十二神将の戌の式神であるショウトラが一番最初に懐いてくれた。

そうなると可愛いもので、良く撫でてやるようになり、甘えてくると

さらに撫でますようになった。

 

六道家に通うようになり、門をくぐるとショウトラが僕を出迎えに来てくれる。

撫でていると、前世は酉年生まれだったせいか、亜音速で飛ぶことのできるシンダラが

次に空を駆けつけてくる。

あとは、雪崩を打ったように十二神将がきて、もみくちゃにされる。

 

言っておくが、彼らはじゃれているだけかもしれないが、人間はそんな遊びでも死ぬ。

こちらは霊力を全開で回し、身体能力を上げ、防戦に努めるのだが物量に押し負けるのが

毎回のパターンで、最後はショウトラのヒーリングで癒されるまでがワンセットだ。

 

一度だけ、十二神将に攻撃を仕掛けてみたのだが、衝撃が冥子さんに伝わり気絶。

そして、その後は十二神将の大暴走が始まった。

あれ以来、絶対に攻撃をせず、回避か防御のみに専念している。

わざわざ、模擬戦闘をしなくてもこれだけで、十分以上の模擬戦闘になっている。

 

この時気が付いたのだが、霊波を纏い撫でるとどうやら、彼らはとても気持ちがいいようだ。

これは清姫にもかなり効果的だった。

いつの頃から始まったか正確には覚えてはいないが、いつものように出迎えに来てくれた

ショウトラをしゃがんで撫でていると、横から服を引っ張られた。

ほかの十二神将は突撃してくるので、はて?と思い服を引っ張っている方をみると

そこには垂れた犬耳を付けた、清姫が四つ這いになりこちらを見つめていた。

そして彼女はこう僕に囁くのだ。

 

「ショウトラではなく、ご主人様のことを一途に愛する

雌犬の清姫だけを可愛がってくださいまし、撫でてくださいまし」

 

四つ這いとなり、首輪をもって見上げる清姫は酷く倒錯的だ。

四つ這いになることで、露わとなる太もも、愛らしく揺れているヒップ

そしてなにより、襟の隙間が大きく開き、たわわに実る谷間が覗き見える。

 

正直に言おう、控え目にいっても最高にエロ可愛い

うちの清姫わんわんはエロ可愛い、これはこの世の真理だ。

思わず鼻から愛が溢れそうになり、思わず目を背けると

清姫はさらに抱き着いてくるのだ。

 

「最近ショウトラばかり撫でて、清姫には全然かまってもらえません。

もっともっと清姫だけを構ってくださいまし」

 

そう言って、ショウトラがヒーリングで舐めてくるように、清姫も僕の頬をペロペロと

舐めてくる。

 

ショウトラにするように、霊波を込めて清姫の頭を撫でると、クゥ~ンと

犬の鳴きマネをしてさらにすり寄ってくる。

終わることのないワンワンパラダイスの開幕だ。

 

この身体は人形といえど、ベースは横島忠夫

あまりの出来事に霊力があふれ出し、式神の経路を通して清姫に流れ込む

このことによって、清姫もとんでもないパワーアップを定期的に繰り返すことになった。

 

 

清姫を散々撫でまわし、ショウトラへの嫉妬も消え、満足したころに

清姫を見ると、自分のしたことに対し顔を真っ赤にして、恥ずかしがっているが

その姿もまた愛おしく見えるのだ。

 

 

この様に、順調に?力と知識を蓄え、清姫とも絆を強めて

GS資格試験に挑むこととなった。

 

 




前書きが長すぎて、本分のほうが短いという本末転倒な感じですね。

清姫は犬っぽいと思って、書いた後に清姫 犬と検索したら
すでに本家で既出だったのですね。

なんというべきか、本当に日本は未来に生きてる
そう思わざるをえないという感じです。

さて、次回こそは本当にGS試験本番
清姫無双が始まります。



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27.GS試験本番~初日~

いつも、誤字脱字の報告ありがとうございます。
アップする前に見直しているつもりなんですが・・・



27.GS試験本番~初日~

 

 

 

雲一つない晴天となり、GS資格を受験するには絶好の日よりとなった。

前日から六道家に泊めてもらい、明け方に起床して水を被り禊をしたあとに

六道指定の霊装(スーツ)に着替える。

予定では、本日の1次試験、2次試験第1試合が終わったら、今日も泊めてもらい

夜は、対戦相手の傾向と対策をしながら、明日も頑張りましょう会か

または、残念でしたまた次会となる予定だ。

六道家の全面バックアップなので、なんとか一発で合格したい。

 

さて、霊装に着替えるわけだが、装備品にはネクタイもある。

腐っても元は社会人であった自分は、ネクタイくらいはなんとか結ぶことはできる。

しかし、六道婦人の眼からは歪んでいたのだろう、ささっと解き結び直してくれる。

 

「優君~こっちにいらっしゃい~ネクタイが歪んでいるわ~」

 

「あぁ~お母さまずるい~私が優君に~ネクタイ結んであげったかったのに~」

 

そう言って、冥子さんが若干すねているが、冥奈さんは当主の特権よ~と

歯牙にもかけない。

 

こんなイベントに必ず突っ込んでくる清姫は、珍しく大人しくしている。

どうやら、ネクタイの結び方がわからず、手が出せなかったようだ。

冥奈さんも清姫に結び方を教えている。

今は冥奈さんの結び方をしっかりと、目に焼き付けているようだ。

今度、適当なネクタイで清姫に練習をしてもらおう。

いや、迂闊なことをすると、一日中ネクタイの結び方で終わることもあるやも・・・・・・

 

「ご主人様の身嗜みを整えるのは、妻の仕事、つまりわたくしの仕事、

今後はわたくしにお任せくださいまし」

 

そう言って、フンスと鼻息荒く気合をいれる、これは一日ネクタイ結び練習コース

かもしれない。

 

どこか緊張していたのだが、通常通りの清姫を見て、変な緊張感も霧散する。

お礼に清姫の頭を撫でて、用意していただいた朝食を食べに行く。

 

「ご主人様~もっともっと撫でてくださいまし、これだけで足りません」

 

時間が余りないので、ステイ(待て)清姫さん、また今度。

 

「ご主人様はじらし上手で我慢ができません。

でもそんな鬼畜なご主人様も、わたくしはお慕いしております」

 


 

冥子さんが救護班として参加することもあり、GS試験会場までは一緒に車で連れて行って

くれることになった。

 

車で移動している間に、GS資格試験についてさらっとおさらいしておこう。

朝食の時に冥奈さんに教えていただいたが、今回も前回に引き続き1800余名が

受験するようだ。

 

GS資格試験は1次試験と2次試験に分かれている。

1次試験は霊波測定をして上位者の128名が次の2次試験に通れる。

2次試験はトーナメント形式で優勝までいけば全7試合となる。

 

初日の今日2次試験、第1試合をして、受験者は64名まで絞り込まれて本日は終了

明日から第2試合~第7試合まで行われるが第2試合を勝った時点で32名となり

GS資格が付与されることとなる。

 

では残りの試合は何故、実施されるとかといえば、成績付けだ。

今後の仕事に影響を及ぼすので、受験者は上位を目指す。

また、欠場してしまうと、GS資格が剥奪されてしまうので、試合にはどうしてもでるしかない。

僕としては上位入賞するつもりは、全然無いので第2試合を勝てば、適当なところで

負けるつもりでいる。初志貫徹、無駄なリスクは負わない、怪我をしない。

 


 

会場に到着し、さっそく受付を済ませる。

今回の受験で僕に割り振られた番号は223番だった。この受験番号はランダムで

割り振られている。

これは公式には認められていないが、受験番号がランダムだと言いつつ、運の良さで

番号が決まっているらしい。

僕は、もっと後ろの方の番号だと思ったが、運がよく前のほうの番号だったので安心した。

この受験番号を気にすることには、勿論理由がある。

 

それは1次試験は一度に全員を見ることができないため、40人ごとに分かれて

審判が受験者をふるいに掛ける。

審査の方法は霊波の強度を測定する機械と、審判が感覚で選出する。

おおよその合格目安はあるのだろうが、それは教えてもらえなかった。

 

1度の審査が40名として、受験者が1800余名だと

およそ45~47回は審査をすることになる。

1回あたりの合格差はこれもだいたい2~3名、もちろんその組に合格者0もいれば

多いこともあろうだろう。

最悪なのは実力があるのに、運が悪く後ろの方の番号だと、合格者が定員となってしまい

合格できないこともあるようだ。

その場合の救済措置はあるのか聞いたが、何処の業界でも多かれ少なかれあることだが

験を担ぐと言ったことや、運というものをこの業界は非常に重視している。

なので、運が悪いというのは実力、才能が欠如していると思われる。

良く言う、運も実力の内という言葉が真実としてまかり通っているのだ。

運の悪い奴はGSに向かない。

嘘だろうと思ったが、今ではそういうものだと考えることにしている。

 

ふと思い出したのだが、確か原作で忠夫君がGS試験を受験する話があったが

あの時は忠夫君は13番、美神さんは7番だった。

ピート、タイガー、ドクターカオスもみな50番以下だったので、運の良さが

良くわかる。

 

そういう訳で前のほうの番号でよかった。

若い番号から審査は進んでいくので、僕の審査は6組目だ。

 

 

6組目を呼ぶ声がかかり、40名がぞろぞろと審査会場に入っていく。

足元には白線は引いてあり、そこに全員が並び、審判の掛け声とともに

霊波を放出する。

 

それでは始めてください、と言う号令とともに、全員が霊波を放出する。

思った以上に、他の人の霊波が低い。しかしこのレベルより大きめに出して

も合格基準が分からないので、合格ラインに届いていないかもしれない。

その場合は全員が不合格になるだけだ。

本当なら次の2次試験のために、実力は隠しておくべきなのだろうが

ここでケチって不合格になってしまうのは笑えない。

 

前に一度だけ、六道で練習した時のように、如意宝珠への霊力供給をとめ

霊力を全力で放出する。

こういう時はあれだ。リリカルマジカルがんばります!これが私の全力全壊!!

自分で言っておいてなんだが笑えてくる。

その笑いを堪えて、一気に霊力を放出する。

 

失格のコールが続く中、最後まで無事に残り2次試験に駒を進めることができた。

 

 

 

~審判SIDE~

 

 

黒ずくめスーツを着た223番の受験者だが、それほど霊波がでていないので

不合格にしようかと思っていたところで、隣の審判から声がかかる。

 

「あの223番の胸についている徽章を見てください、あれって六道家の紋ですよね」

 

言われて、よく見れば、確かに六道の紋が徽章としてあしらわれている。

223番の申込書を確認すると、所属事務所は六道除霊事務所と記載されている。

六道除霊事務所は式神姫一人の除霊事務所だったはずだが、あの223番に何か

あるのかと、注目していると突然ニヤリと笑いだした。

その瞬間から爆発的な霊波が放出されるようになり、他の受験者の大小など

全く、分からなくなってしまった。

 

六道にあんな秘蔵っ子がいたなんて、これまで聞いたことなかったが

一つ確信したのが、今回のGS試験は荒れるということだ。

 

~SIDE END~

 

 

 

1次試験を無事通過したが2次試験の第1試合は午後からということで

食事をとりに行こうと、会場を出ようとしたところで、冥子さんから声がかかる。

 

「優君~お昼ご飯を食べにいきましょ~優君が凄いかも~ってみんな言っていたわ~

頑張ったご褒美に~冥子お姉様が~ご馳走してあげるわ~」

 

さぁいくわよ~と僕の手を引いて先に行く

会場近くの、僕だけではほぼ入ることが無いような高級店にためらいもなく入り

給仕を受ける冥子さんを見て、本当に良家のお嬢様なんだとしみじみ思う。

そして、冥子さんは清姫にも同様にご馳走してくれるのだ。

清姫は式神なので、食事をしなくてもいいのだが、自宅では清姫の作ってくれた食事を

一緒に食べているので、冥子さんの気遣いが嬉しい。

 

そして清姫も名前のとおり、豪族の娘なので本当の御姫様だ。

やはり相応の教育を受けているだけあって、食事の所作はしっかりしている。

この面子だと僕が一番だらしくなくなってしまう。

 

 

 

冥子さんと清姫との食事を終えて、試験会場に戻ってきた。

冥子さんは2次試験が始まるここからが本番なので、頑張ってね~と言い残し

救護班の待機場へと戻っていった。

 

2次試験の開始時間前に会場にはいる。ここからはスカウトなど業界関係者や

オカルト好きな一般人などが観覧席から見学することもあり、GS協会記録部広報課が

試合の実況を行う。

 

また試合解説役として、厄珍堂の店主、同志厄珍が呼ばれていた。

 

トーナメント表はオカルトを使った不正を防ぐため、くじ引きではなく

審判長が64試合をラプラスのダイスを振って決定する。

ラプラスのダイスとは、あらゆる霊的干渉をよせつけず、このサイコロで決められたことは

絶対公平かつ運命だと言われている。

 

第1試合のすべての対戦相手が決まり、あとは僕の試合まで待つだけだ。

 

ちょっとまてよ。道具の持ち込みは一つルールで決まっている。

清姫は僕の霊能扱いだから除外するとして神通棍、お札のどちらを持ち込もうか?

ちょっと悩んでから幅広く対応できる札をホルスターに突っ込み、取り出しやすさを

確認しながら待っていると、ついに223番と呼ばれたので、試合をするコートに赴く。

 

コートに向かう途中、一緒に戦ってくれる清姫にも頑張ろうねと頭を撫でる。

 

「あぁご主人様がわたくしを見て、撫でてくださる。わたくしのことを思って

下さっている。もっともっと褒めて撫で撫でして欲しくなってしまいます。

 

さぁまずは邪魔者を片付けると致しましょう。」

 

 

僕の第1試合の対戦者は2mを超す筋骨隆々の大男、名前は蛮・玄人

原作では美神さんに秒で片付けられていたが、美神さんが強いから圧倒していただけ

だと思い、油断をせずかかることにする。

 

試合のコートにはいり、審判の開始の号令がかかる。

 

そして蛮選手から余裕だと言わんばかりのヤジが飛ぶ

 

「こんな霊力も無い、女に守られている小僧と小娘が相手とは、俺はなんてついているんだ!」

 

この時点で清姫に流れている霊力が増え、清姫ランサーへと礼装が変化する。

 

「10%だ!10%の力で相手をしてやろう」

そういって霊力を放出し始めたやいなや、清姫がぼそりと一言

 

「わたくし、嘘は嫌いです」

 

持っている薙刀に霊力を注ぎ込み、石突きで蛮選手の股間を強打した。

ゴツっと骨を砕くような音が会場に響き、泡を吹きながらその場に蹲る蛮選手

 

追い打ちをかける様に、清姫からもう一言

「ご主人様をけなし、わたくしに嘘をつくとは、その罪、万死に値します。」

 

薙刀を振りかぶり、蛮選手を斬首せしめんと振り下ろしかけたところで

審判から勝負あり!のコールがかかる

試合中なら事故で終わるが、試合が終わったあとは罪に問われるし

第1試合から斬首なんて僕は見たくもないし、望んでもいない。

 

後ろから清姫を抱き寄せ、耳元に「もう終わったよ」っと声をかけた。

 

「愛しいご主人様がそうおっしゃるなら、今回はこれで勘弁してさしあげますが、次にわたくしに嘘をついた場合は処します。

 

さぁさぁご主人様、言うことをちゃんと聞く、わたくしにご褒美をくださいまし。

撫で撫ででも、も~っとすごい事でも、わたくしはどーんとこいっですわ」

 

流石に衆人環視の中で、頭を撫でる以上のことをする気もなく

 

「みんな見てるから家に帰ってからね。」

 

そう清姫に囁くと、周りを見渡してから、顔を羞恥で真っ赤に染めあげ

影の中へと消えていった。

 

第1試合は清姫のおかげで、それこそ秒で終了したが、明日以降は式神使いとして

他の選手も対策をしてくることだろう。

清姫に負けないように頑張らねば

 

 

 

~実況&厄珍 SIDE~

 

「各コートで試合が開始されました。

第1試合ですが、厄珍さんどこか注目の選手はいますか?」

 

「あそこの和服をきた式神の少女のいるコートはどうあるか?」

 

「あのコートの六道除霊事務所の横島優さんですね。」

 

「おぉ、同志横島あるかー 厄珍堂のお得意様あるよー」

 

「少女の礼装が変わり槍を装備しましたね。これからどんな展開になるのでしょうか」

 

ゴツ!

 

「・・・躊躇いとかまったく無かったあるな、男にとっては致命的な一撃あるよ」

 

「蛮選手、鮮やかに決まった一撃で口から泡を吹いております。

おっとここで審判から試合止めのコールです」

 

「同志横島も、すごいのを連れているあるなぁー尊敬に値するあるよ」

 

「1次試験の審判からも六道の秘蔵っ子ではないかという、発言もあったようで

今後の試合展開が楽しみな選手であるといえるでしょう」

 

 

~SIDE END~

 




今回でGS資格取得は終わるはずだったのですが、初日分しか進みませんでした。
私の書いていることを要約すれば、清姫やばい、だけなんですが
どうも、話が進みません。

予定ではあと1~3話でこの話は終わる予定です。

では、また次回


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28.GS資格受験~二日目~

28.GS資格受験~二日目~

 

 

 

前日に引き続き、今日も気持ちの良い晴天となった。

昨日と同様に、明け方に起床して水を被り禊を済ませた後に

六道指定の霊装に着替える。

 

昨日と違うと言えば、ネクタイは清姫が締めてくれたくれたことだろうか

多少歪んでいるように見えるが、僕が結ぶより上手に結べている・・・・・・

ちょっと凹むが、何より、練習してくれた清姫の気持ちが嬉しい。

 

清姫にお礼を告げる。

 

「わたくし、ご主人様の妻でございますから、他の女性の手をお借りしませんわ」

 

そう言いながら、最後にキュっとネクタイを絞るのだが、地味に力が入っており

少し苦しい。

昭和のドラマに有りがちな、ネクタイを締めあげながら、浮気を問い詰められる夫の図

ではないだろうか?

いや、こんなことを考えるのは止そう。

今日もGS資格試験がある、あと1勝すれば、GS資格が付与される。

何としても今回で取得しようと気合を入れる。

 

 

六道家で朝食を頂いた後、昨日と同じく会場まで車に乗せて行って貰うことになった。

冥子さんは引き続き、救護班として車に同乗する。

今日は有力な新人のスカウトも兼ねて、冥奈さんも一緒に会場に向かう。

 


 

車は何事もなく試験会場に到着した。ここからはそれぞれの行動となる。

冥子さんは救護班の詰め所に、冥奈さんは観客席か、用意があれば恐らく貴賓席に移動するのだろう。

僕はもちろん2次試験第2試合があるので、試験の受付をして、最初の試合コートの番号を受け取る。

幸いなことに試合は最初なので、会場入りして時間を潰すことにする。

 

ただ、六道家の車を降りたあたりからずっと見張られている?

いや、そこまではいかず、見られている位があっているのだろうか

殺意や呪いをかけてくる雰囲気でもないので、判断に困るところだ。

向こうから手出しをしてこない以上、無視するしかない。

いっそ手を出してきてくれたほうが、手っ取り早いとさえ思ってしまう。

前から思っていることだが、こんな鉄火場でも冷静に対応できる御神苗君の

能力はすごい。

前世では暴力なんて無縁の民間人だったのに、こんな冷静に判断ができるなんて

能力の恩恵は計り知れない。

 

さぁさっさと人の多い会場に向かおう、そこでは手出しをしてこないだろう。

 

 

~2次試験、第2試合~

 

 

2次試験開始の呼出しがかかり、各受験者が試合コートにはいる。

当然、僕も割り当てられた試合コートに入る。

この1勝すれば、資格が付与されることからか、昨日よりも熱気というか

気合の入ってる受験者が多いように思われる。

 

僕の対戦相手も同じくえらく気合が入っているが、問題は僧侶なのだ。

ご存知の通り、清姫伝説の最後は安珍が道成寺に逃げ込み、そこの僧に鐘の中に匿われ

、その後清姫に鐘ごと焼き殺されるという最後なのだが、何と言うべきだろうか

 

坊主憎けりゃ袈裟まで憎い。

 

まさにこの言葉通り、清姫のトラウマスイッチをこれでもかと叩き込んでしまったようだ。

先ほどから、下を向いているので、その顔は見えないが独り言は聞こえてくる

 

安珍様を匿った僧に似ている。あの寺であの僧が匿わなければ・・・

あぁ安珍様、安珍様、安珍様・・・・・・・

 

 

と、こんな感じに一人で勘違いして大炎上しちゃっている。

目の前の僧侶さんには非常に申し訳ないが、僕の精神安定のために

潔く散っていただきたい。

過去に経験した嫌なことを突然思い出して、嫌な気持ちになることってあるよね。

本当にこればっかり仕方ないし、過去は変えることは出来ない。是非もないよね。

よし、なんとかとどめを刺す前に清姫を影に戻そう。

 

仮に何かあっても、試合中なら事故で済む

 

 

そして、僕は対戦相手よりも清姫にビビっていると、開始の号令がかかった。

 

眼にも止まらぬ速さというのはこういうことを言うのだろう。

開始の号令が下った瞬間に、清姫は僕の横から消え、手に持っていた鉄扇で僧侶の

顔をぶっ叩いていた。

 

まるで、砲撃のような爆轟が響き、僧侶は錐揉み回転をしながら飛んでいく

そして結界など最初からなかったように結界を破り、吹き飛んでいった。

アニメで見る様に人間ってあんな風に飛ぶことがあるんだ。

そんな感想を持ったところで清姫がまた、ぼそりと呟く

 

「これより逃げた、僧を退治します」

 

清姫さん、逃げてないです。貴女がぶっ飛ばした上に、完全にオーバーキルです。

僧侶はぴくぴく動いているから死んでは無いと思うけど

審判も呆然として終了の合図をしないだけで、もう終わってるから

 

慌てて清姫を影に入れようとしたが、清姫に拒否され影に入ってくれない

清姫を止めるために、後ろから抱きしめる。

ここで、審判から試合終了の合図とGS資格付与を告げられるが清姫は止まらない

 

「ご主人様、離してくださいまし、あの僧に誅を・・・んっ・・・」

 

試合終了の合図が出てしまった後に、あの僧に危害を加えてしまえば

事故ではなく、事件になってしまう。

いや、事故を起こすつもりも僕はサラサラなかったのだが、やってしまったものは仕方がない。

 

正気に戻らない清姫をどうしようかと、僕も相当に慌てていた。

後ろから抱きしめ留めていた、その清姫から”チュウ”と言うことが聞こえたので

清姫にキスをした。

 

キスから始まるミラクルってあるんですね(錯乱)

 

だんだん、清姫の身体から力が抜けてきた。

 

「もうご主人様、この様な衆人環視の中でだ・い・た・んですわ」

 

そう言って、甘えてじゃれついてくる清姫を連れて試合コートから出た。

 

伸びている僧侶はいつの間にか、救護班に回収されたようだ。

 

第2試合も勝ったことでGS資格が授与されたことだし

後は勝っても負けてもどちらでもいい。

独立して事務所を開設するわけでもないし、そもそもASEのオカルト絡みの任務の

時に六道除霊事務所と組まないために資格が欲しかっただけだしなぁ

 

ん?僕は今、六道家所属?

よし、このことを考えるのは止めよう、死にたくなる・・・・・・

 

何のためにこのGS資格を欲したのかを、今更思い出し軽く鬱になったところで

第3試合の呼び出しがかかり指定されたコートに向かう。

 

 

~第3試合~

 

 

第3試合の相手は六道女学院の選抜生徒だった。

何故六道女学院の生徒か分かったかと言えば、その彼女に只今、絶賛罵倒中だからだ。

女子高生に罵倒されるなんて、ある業界ではご褒美以外の何物でもないだろうが

僕にはそんな趣味は全くない。

 

彼女曰く、オカルトの名門である六道家に男が所属するなど相応しくない

曰く、冥子お嬢様とどこの馬の骨とも分からぬ輩が同乗するなどあり得ない

曰く、曰く、曰く

 

とにかく彼女は僕が六道所属の秘蔵っ子として受験しているのが、気にくわないらしい

彼女にも学院選抜の意地と誇りがあるんだろう、それを見ず知らずのぽっと出の

フツメンが、冥子お嬢様に近づいて大きい顔をしていれば、腹が立つというものだ。

そして、恐らく朝感じた視線はこの彼女のものだろう

 

頑張って苦しい修行をして、学院の選抜試験を勝ち抜いて、GS資格まで取得したのだ

それは一方ならぬ思い入れもあるだろう

 

まぁ彼女の言い分も僕は理解できなくもない。

しかし、僕の隣にいる清姫さんは静かに切れていた。

 

先ほどの僧侶は衝動的な怒りだったが、今回は冷静に怒り狂っている。

ニコニコ笑いながら、笑えないほど霊圧が高まっているのだが

目の前でお喋りしている彼女はまったく気が付いている様子もない。

そして、この一言が致命的だった。

 

貴方程度の霊能者でも、優しいわたしが荷物持ちとして使ってさしあげますわ

 

そして無慈悲にも、試合開始の号令が下る。

 

 

結果は当然の如く、僕の勝利に終わった。

元は豪族の姫とはいえ英霊に勝てる存在など、なかなかいないだろう。

試合内容を敢えて言うならば、惨劇が起こったとしか言いようがない。

清姫に鉄扇で叩かれて結界に叩き付け、その後にその細腕のどこにそんな力がと思ったが

片腕でつるし上げ、降参と言えぬようにひたすら鉄扇で頬を張り続けた。

完全に心が折れ、泣きながら許しを乞うてきたところで、清姫が扇子で口元を隠しながら、

何かを相手に囁き、その場に崩れ落ちたところで、審判からようやくストップがかかった。

 

口は禍の元という言葉を彼女は身を持って理解したはずだ。

そして僕は、六道婦人のお叱りを恐れたが、仕方ないわねぇと苦笑いだけで終わった。

 

 

~第4試合~

 

この試合を勝てばベスト8に残れるが、正直なところを言えば優勝などどうでもいい

ただただ、清姫が暴走することなく、事が終わってくれればそれでいいと思い始めていた。

 

そして、第4試合の相手はある意味では因縁の相手となった。

忠夫君の心眼が開花して霊能が目覚める試合となった、くノ一の久能市氷雅だ。

 

彼女も、忠夫君のことを覚えているだろう、こちらの顔を見るなり顔を引きつらせていた。

少なくとも、身内位の判断はつけているし、少しの油断もせずにかかってくることだろう。

試合開始の号令がかかり、今まで通り清姫が飛び出すかと思っていたら

こちらを侮辱する訳でもなく、清姫のトラウマに触るわけでもないので

至極冷静に僕の指示を待つ態勢だった。

奇しくも今回の資格試験でようやく、まともな試合運びになりそうな一戦だ。

 

図らずとも久能市もこちらを警戒して、手持ちの霊刀を正眼の構えを取り、

先制の居合切りをしてこなかった為に、初手はお見合いをする形となった。

 

「清姫、薙刀で相手を牽制、僕に近づけないでくれ」

 

「畏まりました。どのような女であろうとご主人様には、指一本触れさせません」

 

そう言って、清姫も薙刀を正面に構える。

薙刀のほうが、リーチが長いので間合いを広く取れる分、こちら側が有利になるのは

言うまでもない。

清姫は薙刀の腕は二流と言っているが、小竜姫様に聞いたところでは、溢れんばかりの殺気と容赦の無さから、戦場では無双を誇るだろうと武神である小竜姫様のお墨付きを貰う腕前だそうだ。

 

確か原作では、真剣白刃取りの後に、一発ギャグで気を散らして、霊刀を叩き折り

霊的格闘モードに衣装チェンジしたところを、煩悩砲で一撃という感じだった。

 

真剣白刃取りは出来るかもしれないが、その後の一発ギャグは僕にはできない。

 

いや、やれば出来るかもしれないが、流石に相手も警戒をしているだろうし

ここは正攻法で攻めることにする。

 

「その顔に見覚えがありますわ、あなたには申し訳ありませんが、

あの時の恨みを晴らさせていただきます。

今回の為に、また霊刀を用意しましたのよ。

ここまで数人斬ってきましたが、あなたの斬り心地はどうかしら。」

 

 

それだけ話して、あとは一気呵成にこちらに切りかかってくるが

清姫が上手に受け流し、防御をしてくれる。

 

このまま清姫にすべての試合を任せてもいいかもしれないが

この先オカルト業界で仕事をしていくかもしれないので、一応、1試合くらいは活躍をしておかないと

 

まずは人を斬ったことにより、穢れを孕んでしまった霊刀を払う。

神道において穢れは忌避されるものであり、また神と対面するためにあらゆる穢れを払い除く絶対結界。

 

「払い給う、清め給う、払い給う、清め給う」

 

通常ならこの後に、どこどこの神様、こういった理由でお力をお貸しくださいと言った内容を奏上する。

そして御力のほんの一部を借りて、その権能を行使するのだ。

 

しかし、天照様の御力に限っては奏上をしなくても、行使できてしまう。

マリア様が見てるではなく、天照様が常に見てるのような状態だ。

 

あまりに便利過ぎて依存してしまいそうだが、今はありがたくそのお力をお借りする。

剣指に霊力を込め、お願いをする。

 

「天照大神に乞い願う、霊刀の穢れを払い清め給え!」

 

相手の持つ霊刀の穢れと共に霊力が払われ、ただの脆い刀になると予想していた。

 

現実はどうなったかと言えば、カッと霊刀が光り輝き、刀がドロドロと溶けだした。

 

刀の穢れを払うつもりが、まさか刀が溶けるとは思ってもいませんでしたよ。

結果的に霊刀を無力化することには成功したが、天照様、ちょっとサービスし過ぎじゃないですかね。

 

余りと言えばあまりの出来事に、目を見開いて呆然としていた久能市さんも

柄にまで熱が伝わって手放しているし・・・・・・

 

「急急如律令!符の力を持って捕縛せよ!」

 

符に力が解放され、久能市さんを捕縛することに成功した。

そこにすかさず清姫が薙刀の刃を首に当て、審判を見やる。

 

ほんの2,3秒だが審判が逡巡したのをみて、さらに首に刃を当てると首から一筋の赤い血が流れる。

 

それを見て、審判はようやくこちらの勝利を下した。

 

女性には割と容赦がない清姫が首を切り落とさ無くて胸を撫で下ろした。

 

 

 

ベスト4を決める第5試合と準決勝の第6試合は特に印象に残るようなこと無く勝ち進んだ。

それと言うのも最後の決勝戦の印象が強すぎた。

 

なんせ、最後の決勝戦の相手は、正に陰陽師であるという式服を着た相手だった。

試合コートで対峙した瞬間から、清姫のことを肉欲にあふれた目で見てきた上に、こう大上段からのたまったのだ。

 

「その式神は、六道のまがい物より、正当な陰陽寮の系統である私にこそふさわしい。

飼ってやるから、今すぐに渡し、土下座して命乞いをすれば殺さずにすませてやろう」

 

いやいや、この世界にきて割といろんな人を見てきたつもりだけど

前世と合わせても、ここまで見事なかませ犬というか、道化は初めて見た。

 

とはいえ、ここで僕があっさりと負けてしまえば、その大口も本当になってしまう。

しかし、霊視してみるかぎりでは霊力もそれほど多くはない上に、霊力を隠しているようにも全く見えない。

何故ここまで大きな態度がとれるのか、それ以前にこの程度の実力でどうやって決勝まで上がってこれたのか、疑問が尽きない。

 

相手の恰好を見て、脳裏を掠める記憶があった。

原作だったか、何かの二次創作だったか忘れたが、本人に全く実力がないのに、

金額の高い強烈な符を用意して財力だけで、試合に臨む米帝プレイをする受験者がいたという話だ。

財力も力の一つだと認められていたようだが、その後に除霊現場で、霊障事故が多発し本人の実力も重要であると、試合で使用できる札の合計金額の上限が改められたという話を思い出した。

 

そのパターンであるならば、陰陽寮出身といっているので、試験に使わないような1億クラスの極めて高額な札を所持している可能性が高い。

 

となれば、開幕直後に強烈な破魔札の攻撃があるだろう

ここまで予想し、清姫には手出し無用と伝えたところで、試合開始の号令がかかる。

 

予想通り、開幕から致命的な一撃を浴びせてくる。

 

「貴様が死んだ後に、式神はじっくりと可愛がってくれる!」

 

そう言って、1億の破魔札をこちらに投げてくるが、破魔札というの簡単に言えば爆弾だ。

自分の霊力で着火し、破魔札という爆薬を起爆する。

札の金額が高くなるほど、高威力になるのだが、これは作る手間の問題らしい

極端な例だが手榴弾とミサイルとでは、破壊力も金額も違うこと同じだ。

 

破魔札の生産は国内では陰陽寮がほとんどのシェアを抑えている。

彼にはその陰陽寮のバックアップがあるのだろう。

 

さて、話が大きくそれてしまったが、破魔札が起爆するまでには間がある。

先ほどの爆弾に例えると導火線のような部分があるからだ。

 

自分の霊力で導火線に着火し、その間に破魔札相手に投げる。

そして、導火線が爆薬に点火し起爆する。

 

ということは、導火線の段階で消火してしまえば、起爆しない。

虚空蔵菩薩から陰陽師としての知恵を頂いた自分なら破魔札の構造くらいは

手に取るようにわかる。

 

「急急如律令!符の力を散らしめよ!!」

 

こうして、導火線部分の霊力を散らしてしまえば、起爆することはない。

再利用できないよう破っておく。

というか、腐っても陰陽師ならば陰陽五行の式を利用した符くらい使ってきなさい。

 

火属性の攻撃というは、燃やすという事象から2次被害も大きくなる場合が多く使い勝手は悪いのだが、生物相手には非常に効果的だ。今回は試験ということもあり、しっかり結界も張ってあるので遠慮なく火属性の攻撃ができる。

 

火は古来より、物を焼き尽くすという事象から一切合切の穢れ不浄を焼き尽くす意味合いを持つ、そして全ての不浄を怒りの業火で焼き滅ぼす仏の化身、不動明王

その不動明王は大日如来の化身とも言われている。大日如来は天照大神と同一視もされている。

 

つまり何が言いたいかと言えば、縁が巡り巡って天照大神の加護をもっている僕は火属性と、とても相性がいいのだ。

 

「火行符術!すべてを燃やし尽くせ!」

 

太陽神、天照様の加護を受け、鉄をも溶かす熱量を発する炎弾を清姫を奪おうとする

愚か者に投げつける。

 

相手はギリギリで躱せたみたいだが、その炎は触れずとも服に火が付き、その火は火傷を発生させ火を消そうと無様にのたうち回る。

この無様な様子を見て、自分から清姫を奪うなどと言った相手に、怒りが募る。

 

 

「僕から清姫を奪うなら、もっと根性を見せてくださいよ。

そんな所でのたうち回っていないで、さっさと立ち上がってかかって来いよ。

 

あぁ清姫をよこせだと!ぶち殺すぞ!この三下が!!」

 

しかし、未だに相手は芋虫のように蹲っている相手を見て、一気に興が醒める。

もうさっさと捕縛して、審判から勝利判定をしてもらおう。

 

陰陽五行は勿論万遍なく使えるが、相性の良い火属性の相生の関係にあるのは

火生土、物が燃えればあとには灰が残り、灰は土に還る土属性。

火属性の霊力の残滓が残っている内に、その力を高める土属性の符を使用する。

 

「土行符術!土よ相手を捕まえろ!」

 

僕が投げた符術の力が解放され、相手を土が捕縛する。力だけでは決して破ることのできない土の結界だ。

見事に捕縛されこの期に及び、早く離せだの卑怯だのと、見苦しく言い訳を始める。

それならさっさと抜けだせばいい、出来なければ試合は終了だ。

後ろに控えていた清姫に合図を送り、久能市の試合のように首に薙刀を当て審判を見る

 

「横島選手の勝利!!」

 

審判から勝利の判定が下り、土の結界を解き、相手に背を向けて清姫と一緒に

試合コートから出ようとしたところで、相当な威力の破魔札を投げつけられる。

 

ここで誤算だったのは、余りにテンプレ過ぎて、流石に無いだろうと思っていたが

お約束のような展開だ。

 

こちらもテンプレ通りにわざと、その攻撃を食らってあげようじゃないか。

しかし、わざわざ清姫まで、危ない目に合う必要は無いので、隣居た清姫の肩を

押して、爆心地から遠ざける。

 

先ほどは雑魚過ぎて興が醒めたが、うちの清姫を寄越せと言ったことを、

許してやるほど僕は寛大ではない

希望を持った所でしっかり絶望に叩き押し心折り、体に恐怖を教育してやる。

 

投げられた破魔札が起爆し、爆音と土煙が舞い上がる

 

「やったぞ!やってやったぞ!私をバカにするからこんなことになるのだ!

私を虚仮にした天罰が下ったのだ!!ざまあみろ!!!

 

さぁ式神こちらに来い、私が存分に可愛がってやろう!!」

 

 

土煙が晴れず動く影も見えないだろう、完全に僕を始末したと油断しまくっている。

まぁ今のうちに一人で滑稽に盛り上がっているといいさ

 

そんなことよりも完全に僕の想定外だったのは清姫だ。

腰が抜けたようにペタンと地面に座り込み、その大きな瞳からハラハラと涙が頬を伝う

 

「安珍様に続いて、優様も早逝されるなんて、わたくしと関わる方はわたくしを置いて先に逝ってしまう。これではまるでわたくしは、死神のようではありませんか・・・・・・」

 

こんなつぶやきが聞こえ益々罪悪感が募る。

僕の予定では、清姫が激怒して、ご主人様になんたる不敬!万死に値します!って辺りになると思っていたが、まさか泣かれるとは思いもしなかった。

 

確かにシチュエーションだけ見れば、致命的な一撃を辛うじて庇ったようにしか見えないよな。

これ以上引っ張るのは、些か悪趣味になってしまうようだ。さてネタ晴らしをするか

 

霊力を腕に込めて風を纏い腕を振り、土煙を一気に払う

 

無傷の僕を見て、清姫が抱き着いてくる。

 

「あぁご主人様、わたくし・・・わたくしあの爆発を見て、ご主人様の無事を祈りつつも、もうお会いすることが出来ないのではと、思ってしまったのです。

ご主人様も、わたくしを置いて逝ってしまうと・・・・・・」

 

「僕だけなら加護の力で何とでもなったので、とっさに清姫を庇ったのですが、その結果が悲しませてしまったようで申し訳ない」

 

「いいのです。わたくしのご主人様が無事ならそれで」

 

あぁ良かった。清姫が泣き止んでくれた。

さて、僕の性のような気もするが、清姫を泣かせてくれた愚か者に天罰を与えようか

 

どこかの魔砲使いは言いました。大技を出す前にはきっちり捕まえましょうと

先ほど使った土行符術でも、十分相手を捕縛できたが、一応隠し玉を持っているといやなので、念には念を入れてしっかり捕縛しておきましょう。

ホルダーから4枚の符を取り出し、陰陽師を囲むように東西南北に符を投げる

 

「東に青龍、西に白虎、南に朱雀、北に玄武

 

四神相応がひとつ、捕縛結界の陣!」

 

四神の御力をお借りして、相手を捕縛する結界だ。

この捕縛結界ならば、神族魔族であろうとも捕縛できるだろう

さて、清姫さん腐った目で見られた鬱憤を、思いっきり晴らすといいよ。

 

「清姫、宝具の使用を許可する」

 

「畏まりました。ご主人様見ててくださいましね。

 

道成寺鐘百八式火竜薙!行きます!!」

 

 

 

道成寺の鐘に陰陽師を閉じ込め、火で炙り、黒ヒゲ危機一髪のおもちゃ如く、槍でめった刺しにする。

 

試合終了後のことだったが、六道家と事を構えることを避けたか抗議は一切なかった。

 

今回の試験では見事に優勝を掴み、六道家に式神使いの陰陽師横島有りと畏怖を持ってオカルト業界に名前が売れ渡ったのであった。

 

 

 



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29.元始風水盤1

GS資格試験から幾日か経ち、僕は六道除霊事務所で冥子さんとお茶をしながら

過ごしていた。

それは、何故かと言えば六道除霊事務所に見習いGSとして在籍しているからだ。

忠夫君がGS免許を取得した後も、美神除霊事務所に所属したように、管理監督者、所謂師匠のお墨付きを得てようやく一人前のGSとして認められる。

 

 

それでも、仕事が無ければわざわざ事務所に行く必要が無いと、僕はそう思っていた。

仕事先に、仕事もないのに行っても相手も困るだと普通は思うだろ?

 

そもそも忠夫君の場合は、時給が低すぎて仕事が有ろうが無かろうが、事務所に入り浸っていたのは、待機時間も時給を貰っていたからだ。

今はGS業界の平均時給を貰っているから、入り浸る必要はないのだが、それでも今までの様に入り浸っている。最近はオカルト関係の本を読んでいると、この間おキヌさんが嬉しそうに話していた。

こんな事は絶対に本人には言えないが、なんだかんだ経費が上がった!と文句を言いつつも、今まで通り待機時間分の時給を払っている上げたり、晩御飯をご馳走してあげている辺り、美神さんも人が良いのだと思いたい。

 

それはさておき、話を戻すと、冥子さんはどうやら忠夫君が美神さんの所に入り浸っているのを見て羨ましかったようだ。

当然のように、僕も事務所に入り浸ると思っていた様で、かなり楽しみにしていたみたいだ。

仕事のある日は来てくれるが、それ以外の日はまったく事務所に顔を出さない僕に対して

冥子さんはそれはもう本気で泣きながら拗ねたのだ。

 

下校時間を狙って、学校に六道所有の高級車で乗り付け、冥子の事が嫌いになったの~

とか冥子(の家のケーキ)は飽きたの~とか泣きながら僕に縋りついてきたのだ。

もう少し言い方を考えて欲しい。完全に復縁を迫る男女のそれだ。

 

その後の事は思い出したくもないが、男子諸君が完全に敵に周り、女子生徒からもかなり冷たい目で見られ、まさに針の筵状態だったが、今はなんとか誤解は解けている。

おかげでGS免許の取得まで、バレてしまったのだが……。

 

そんなこともあり、何も用事がない日はなるべく六道除霊事務所に寄るようにしている。

今も、ニコニコで冥子さんはケーキを食べながら、僕の学校の宿題を見てくれている。

普段抜けているのに勉強は出来るのだから、こういう所は良家の子女と感じる。

 

話がずれたついでと言っては難があるが、お茶をして勉強を見てもらう位、暇が何故あるのかと思うだろう。

六道除霊事務所に所属してから分かったことだが、実際のところかなり暇なのだ。

それというのも、六道除霊事務所は一般からの依頼を受けていない、依頼は六道財閥グループの不動産分など六道系列からの依頼しか受けていない。

まれに一般からの依頼も受けてはいるようだが、それもどこかのグループ会社が仲介をしている。

たまにグループ会社からくる仕事も、最近では一度更地にしてから建設し直すので、いっそ壊してくれた方が楽でいいという依頼が多い。

勿論、こんなことは冥子さんには言えるわけもないが・・・・・・

 

ぶっちゃけて言えば、仕事なんてしなくても生きていける、いい所のお嬢様だ。

 

さて、そんな彼女とお茶をしているときに、唐巣神父の教会に泥棒が入り、かなり荒らされたという話題が出た。

冥子怖い~などと言っているが、万全のセキュリティと十二神将の守りを突破する泥棒なんぞ、そうはいないだろう。

しかし、唐巣神父の教会が荒らされたと聞いた時、元始風水盤の話を思い出した。

原作通りに話が進むならば、近々忠夫君が美神さんと香港に連れていかれるだろう。

恐らくは着替えとかの荷造りをするのだろう。

まぁ、美神さんと忠夫君に任せておけば大丈夫だろうと思っていた。

 

 


 

 

 

~アーカム財団専用ジャンボジェット機 副操縦席~

 

 

 

今僕は、アーカム財団専用ジャンボジェット機の副操縦席に座っている。

元始風水盤は原作通り、美神さんと忠夫君に任せておけばいいと思っていた。

しかし現状はどうなっているかと言えば、アーカム財団の専用機それも副操縦席に座っている羽目に陥っている。

隣には年配の機長さんが座っており、気の毒そうな顔でこちらを見ている。

そして後ろには腕を組み、その美貌でこちらを見ているティア・フラットさん。

 

どうしてこうなったかと言えば、スプリガンの中で魔女の異名を持つティア・フラットさんが香港に派遣されることになったのだが、現地の状況を鑑みると荒れることが予想されるので、ASEに荒事になっても対応できる、パイロットの依頼がはいった。

ジャンボジェットなんて操縦したことが無いと、話してもシミュレーションはあるだろうと

そしてASEはアーカム財団の子会社なので、断ることは無い。

ついでに言えば僕もASEのスタッフなので、勿論断れない

 

いや、一度は断ったのだけど、普段から超古代文明の遺跡にある、えげつないトラップを相手にしているスプリガンにとって、マンションのセキュリティなんて有って無きが如し

ティア・フラットさんに拉致られて、気が付けばジャンボジェットの操縦席にご案内

そして今は、離陸前の最終チェックを行っている。

 

こういう事にも慣れているのか機長から、では機体のチェックをしましょうと声がかかる。

 

「機体電圧」そう問われたので、計器を見て返答する「正常」

 

「燃料」、「正常」

 

「警告灯チェック」、「異常なし」

 

「酸素系」、「正常」

 

「油圧系」、「正常」

 

「エンジンコントロール」、「正常」

 

「操舵」、「正常」

 

エンジンに火が入り操縦桿を通して機体の状態を把握する。よし、この機体は飛べる

 

管制塔より連絡がはいる

 

「こちら管制、アーカム専用機はA滑走路より予定時間に離陸してくれ」

 

「こちらアーカム専用機、了解。これよりA滑走路に向かう、どうぞ」

 

機体が動き出し、まもなくA滑走路に到着する。

時刻は予定時刻のオンタイム

 

「こちらアーカム専用機、A滑走路オンコース」

 

「こちら管制、現在、微風のみで穏やかな状況だ。では良いフライトを」

 

僕は、ここで一つ決意をする。

騒動に巻き込まれないためにも、待機と言う名目で絶対空港からは出ない

そう、絶対だ!

 

 

 

~香港空港 美神ご一行~

 

 

大きなリュックサックを背負った忠夫が香港ーーー香港ーーーーと叫びながら、空港内で写真を撮りまくっている。

それを横目に見ながら、香港という所は、空港にそっくしですね~と天然ボケ気味のおキヌちゃんがフワフワと浮きながらいる。

おキヌがふと外を見れば、ACと大きいロゴを付けた飛行機が駐機している。

 

「横島さん、横島さん、ポポポーンの飛行機も止まっていますよ」

 

ポポポーンという単語に興味を持ったのか、美神もおキヌちゃんが指さす方向を見やる。

そして、ちょっと引きつった顔をしておキヌちゃんの疑問に応える。

 

「おキヌちゃんあれは公共広告機構のロゴではないわ、アーカム財団の専用機よ」

 

「美神さん、ポポポーンではなく、あーかむ財団ですか?ところであーかむ財団ってなんですか?」

 

「あぁそうね~アーカム財団というのはね、流石に横島君も知っていると思うけど、揺りかごから墓場までを地で行くような巨大複合企業よ。その表の顔はね」

 

ちょっと横島君もこっち来なさいと呼びつけ、横島とキヌちゃんにさらに説明を続ける。

 

「さっきも言ったけど、学校など教育機関も運営したり社会福祉にも貢献している巨大複合企業が所謂表の顔ね。

やばいのは、たまに博物館に古代文明の展示を主催しているアーカム考古学研究所よ。

 

まぁここだけ聞けば、遺跡の発掘成果を展示している金持ち道楽のような団体だと思うけど、彼らにしてみれば展示している発掘品は一般人に見せても構わない程度の物しかないのよ。

たしかに歴史的に非常に価値の有る物なんでしょうけどね」

 

これだけは頭に叩き込んでおきなさい。横島に念を押す。

 

「アーカム考古学研究所は一つの理念に基づいて活動しているわ

深海から発掘された一枚のプレートにはこう書かれていたそうよ。

そのプレート自体はどんなものか、私も見たことが無いし分からないけどね。

 

世界中にある、我らの文明の断片を遺産として残そう

だが、もしも君たちにそれを受け取る資格がなければ、全て封印して欲しい

悪しき目的に使う者達から守って欲しい

我らと同じ道を歩んではならぬ とね。

 

アーカム財団はこの古代文明からのプレートを真に受けて、世界中で遺跡の発掘とその保護を行っているわ。

アーカム財団の複合企業事態は全部おまけのようなものよ。

 

そしてやばいのは、アーカム財団が擁する特殊エージェント、遺跡の財宝を守護する

妖精、通称スプリガン。裏社会では有名な存在よ。

こいつらに会ったら、絶対に敵対しては駄目、すぐに逃げなさい」

 

「美神さんなんで、そんなやばげな連中に詳しいすか?」

 

「私たちが扱っているオカルトアイテムも年代が古くなれば、その物には神秘が宿るわ

そしてその手の物を収集するコレクター集まるマーケットがある、その中でも危険だと思われるものは、アーカム財団が適正価格で買い漁っていくのよ!

私が、この美神令子がコレクター好みのアイテムを高値で売ろうと思っても

アーカムの連中が出てきたら、みんな買い控えるの!!

そして、適正価格か悪い時はそれより安くなるよ!!

本当に商売あがったりだわ!!!」

 

はぁはぁと荒い呼吸を暫くして落ち着いてきたのか最後にこうボソッと呟いた。

 

「嫌がらせ程度に、スプリガンの弱点を探ってやろう思ったのよ。

でも、逆に私が恐れを感じたわ。絶対に手を出しては駄目」

 

そしてまた原価割れは嫌~と頭を抱え叫び取り乱す美神とおろおろしているおキヌ達と

本当に大丈夫なのかとジト目で伊達雪之丞が美神たちを見つめる。

 

 


 

 

~香港空港 横島 優~

 

 

小火器で武装したハイジャック犯には有効な操縦席の扉も、素手のスプリガンには全く役に立たないことを実感した横島優です。

 

それと今更感があるけど、この特別専用機は普通のジャンボジェットに見えてえげつない装備がわんさか積んである。

具体的には対地、対空レーザー兵器とか、この装備も波長と出力を落とせば、測地用の観測装置に見えるので税関とかは普通の飛行機として通るみたいだ。

 

それとジャンボジェットの見た目をしておきながら、その機動力がやばい。

海洋調査船ロシナンテは海上で200km以上で疾走するが、この飛行機は僕が確認しただけで、反重力装置を搭載してあり、空中で直角に曲がれる、まるでSFみたいだろ。

真後ろからミサイルを撃たれても、機体後部のチャフとその機動力だけで余裕でミサイルを振り切れる。

現代の普通の戦闘機相手なら、まず負けることは無いだろう。

 

機内にある会議室で今回のスプリガン出動に対するブリーフィングが開始された。

 

さて、ブリーフィングを始めようと言って、ティアさんが口火を切った。

 

「これはアーカム所有の偵察衛星が捉えた、香港島周辺の地磁気を映像化したものよ」

 

香港島の一部地域に最初は赤い点だったものが、徐々に大きな赤い渦になっていく

映像だった。

 

「見てもらっての通り、地磁気に乱れを感知してから、重点的に監視をしていのだけれど、ここ最近、一気に地磁気、磁場が乱れが進行したわ。

大規模な霊的現象が発生するば、地磁気が乱れるのは貴方も知っての通りだけど、ここまで著しく乱れると、異界への門が開きかねないわ。

そして情報部は、次の満月に異界への門が開くと推測しているわ。

そうなってしまえば、東アジア一帯は地獄へと沈んでしまうでしょうね」

 

なにか、質問はあるかしら?そのような感じの視線を受ける

 

「ここまでもろバレの大規模な反応があるなら、各国の特殊部隊、エージェントはうごいてないのですか?特に米国辺りは熱心だと思いますけど?」

 

「良い質問ね。お膝元の中華人民解放軍を始め、植民地時代の宗主国である英国、英国諜報部、特殊空挺部隊、米国の海軍特殊戦群それに機械化小隊の一部も現地に入って、すでに暗闘が繰り広げられているわ。

まるでいつぞやのリバースバベルを思い出すような状況ね」

 

はぁと大きなため息をつくティアさん

そして、自分の思っていた原作以上に現地はホットになっていることを実感する。

 

「そして、この状況を作り出しているのは魔族と呼ばれる者達の仕業よ。

魔族の一部が地脈の流れを操り、この世の秩序とバランスを書き換える元始風水盤を作成しているわ。

このまま手をこまねいて、満月の夜を迎えてしまえば東アジア一帯は地獄に落ちる、それ以上に危ないのが中華人民解放軍ね。彼らはこのまま解決しなければ、ここに核を打ち込むつもりよ。核が撃たれてしまえばなし崩し的に第三次世界大戦に発達しかねないわ。

 

我々アーカムとしては、この現状を座視することは出来ません。

元始風水盤の針の奪取、そして元始風水盤の破壊を目的とします。

 

そして、貴方がこの場に呼ばれたのは、どんな乗り物でも瞬時に乗りこなすことが出来るASEのマルチドライバーであること、まただいぶ系統が変わってしまったとはいえ、風水術の流れをも取り入れ、様々なアジアの技術を取り入れ、日本独自の体系化した陰陽術の使い手であること」

 

そしてティアは頭の中で貴方のスプリガンとしての適性をみる試金石として有効かもと、初代アーカム会長の腹黒さがにじみ出ていた。

 

「貴方のAMスーツと装備一式はそのコンテナにはいっているわ」

 

ティアさんに促され、AMスーツを着装する。そしてコンテナの奥に武器類が入っているの見つけたのでついでに点検を開始した。

小銃と拳銃、そしてナックルガード付きのオリハルコンナイフを装備する。

 

うわ、流石アーカム、リッチだな。弾倉を確認すると通常弾に合わせて精霊石の弾頭がついている弾丸も弾倉に収まっている。手早くすべての弾倉をマガジンポーチに格納する。

ついでに、こんなこともあろうかと持ってきた自作の破魔札も空いているポーチに格納する。

 

「良し、これで僕の敵は宇宙人だけだ」

 

こう呟いたところをティアさんに聞かれクスクス笑われる。

 

「貴方、御神苗と同じ名前だけあって、同じようなことを言うのね」

 

ひとしきり笑った後、さぁ行くわよ。とティアさんに促され部屋を出た。

 




ご無沙汰しています。
読んでいただきありがとうございます。

活動報告にもちょっと書いておきますが
またちょこちょこ書いていきますので
よろしくお願いします。


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30.元始風水盤2

30.元始風水盤2

 

 

~屋敷前 横島優~

 

僕はあれからティアさんは連れられて、原作の最後に火角結界で囲まれたあの屋敷を見渡せる雑木林の茂みに伏せて辺りの様子を伺っている。

 

屋敷の周辺では、元始風水盤を確保しようと各国軍の銃撃戦が始まっており、銃声と悲鳴がやむことは無い。

 

なにココ?超怖いんですけど・・・・・・少なくとも一般人を連れ来るとこじゃないよね?

 

そりゃ魔女と呼ばれるティアさんとか、特殊技能持ちのスプリガン連中なら撃たれても平気かもしれませんけど、こっちは撃たれたら死ぬんですよ・・・・・・・

 

え?AMスーツ着てるから平気平気?一応私も撃たれれば死ぬ?

 

嘘ですよそんなの、300年以上生きているトシ・・・・・・か弱いお姉さまならそういうこともありますよね。きっとメイビー

 

なんで美人のお姉さまアイアンクローで身体を持ち上げるのは勘弁してください。

と言うか、声を出していないのに何でわかるの?

顔を見ればわかる?まじ?なにそれ魔女怖い

 

生言ってすみませんでした。AMスーツ付属の無線内蔵ヘッドギアを付けていても、頭蓋骨がミシミシ言ってるんで本当に勘弁してください・・・・・・

なんだよ、このヘッドギアはAMスーツ相当の防弾性能がないのか?

え?小口径弾はほぼ弾く、抜かれるのはアンチAMスーツ弾頭(オリハルコン弾頭)くらい?

そもそも、アンチAMスーツ弾で撃たれれば、頭が消し飛ぶ?

 

すんません、すんません本当にそろそろ勘弁してつかぁさい

頭蓋骨が割れる~~

 

・・・・・・・

 

ようやく解放された、頭蓋骨がひょうたんの形になってないだろうな・・・・・・

まさかティアさんに年齢ネタは禁止だったとは・・・・・・

 

あ、なんかヘリで増援がきてるし、USNAVYって米国海軍じゃないですかー

うわ、赤外線レーダー付きの人狩り用の攻撃ヘリも同行してるし、えげつ無い

ちょっと離れて良かったぁ

いや、手持ちの装備だとAMスーツ全開で手榴弾投げれば落とせるかもしれないけど、

いやいや、やっぱりあんなの流石に無理ゲーです。

 

 

あれよあれよと言ってる間に米海軍が屋敷に取り付き、扉を爆破処理して、突入を開始した。流石に、手際がいいやね。

なにか、ケリー・レイヴンウッド少佐に扉を破られたこと思い出すわ、今回来てないよな

 

さて、何時までもここで待機していたいところだけど、後ろで怖いお姉さまも見ているし本当に仕方ないけどそろそろ行きますか

 

「清姫、僕の背中の守りは君に任せるよ」

 

「常日頃、大和撫子の如く三歩下がった場所から、はたまた影の中から隠密的にすら見える献身的な後方警備をしております。ご主人様のうなじも、キュッと引き締まったお尻も、この清姫にご安心してお任せくださいませ」

 

なにそれ?ちっとも安心できる要素が皆無なんですけど

最近やたら静かだなと思っていたら、大和撫子という概念を知ったようだ。

 

いや、清姫さん大和撫子を目指さなくても、もう十分清姫さんはカワイイですよ・・・・・・

などと、現実逃避をしているとティアさんが大きく咳ばらいをする。

はぁ諦めてそろそろ行きますかね。だいたいの部隊が屋敷に突入して静かになったことだし。

 

「では、第一目標 元始風水盤の破壊、第二目標は針の奪取を目指して屋敷に突入しましょう」

 

そうティアさんにも声を掛け、小銃を前に構え屋敷への移動を開始する。

 

 

 

 

屋敷に張付き特殊部隊によって破られた扉から鏡越し中をこっそりと覗き見る。

玄関部分には敵兵がいないことを確認してから前進を開始した。

 

ブリーフィングの内容に従い、地下に移動することをティアさんに相談する。

 

「ティアさん、だいたいやばい物を隠すときは地下と相場が決まっているので、地下に移動しますよ」

 

「えぇ依存はないわ、ブリーフィングでは言いませんでしたが、私と逸れても私を気にせず任務を遂行してください」

 

え?逸れるようなことがあるのか?

 

「わかりました。とりあえず地下を目指しましょう」

 

 

事前情報の通り、地下への階段を発見したが、流石に退路を確保している

 

ハンドサインでティアさんに敵兵2名をどうするか確認する。

 

あっさり殺れってサインが帰ってくる。おお怖い

 

小銃にも拳銃にもサイレンサーついてないから使えない、殴って無力化するか

清姫とはラインが繋がっているからタイミングを図るのは簡単だ。

 

『清姫、敵を無力化する。僕は右、君は左だ』

 

『畏まりました。ご主人様、合図をお願いいたします』

 

敵兵の意識がそれた瞬間を狙い、清姫とまったく同時のタイミングで突入し敵兵を無力化する。

トライデントのCOSMOS(機械兵士)とは違い脳内にオリハルコンを仕込んでしないが、同じように式神と精神波の通信ができる。

まったく、西洋人は技術偏重主義というか、修行すればもっといろいろ出来るというのに

あれ?この修行脳は妙神山・・・ いや今考えるべきことではない。

 

 

敵兵を縛り上げ、拘束しておく。甘いかもしれないが人を呪わば穴二つと言う言葉もある

違う言い方なら因果応報とかだろうか

恨み、妬みはなるべくなら貰わないほうが良い。特にこんな幽霊やら霊現象が普通にまかり通る世界なのだ。

どこで、どんな呪いを受けるかわからない。

 

さて、小銃を構え直し地下への階段を降りようとした時に、ティアさんがいないことに気が付いた。

 

『清姫、ティアさんがいないが打合せ通り先行する』

 

『畏まりました。ご主人様、しかしどちらに行かれたのでしょうか』

 

『え?清姫も感知していないの』

 

『ご主人様も把握していませんの?』

 

まじかよ。僕はともかく英霊の清姫にすら感知させない隠形って 魔女マジ怖い

 

 

 

 

地下に降りてきたが、余りに静かすぎる。

かなり嫌な予感がする。しかし元始風水盤が発動するにしても、まだ月が昇るには早すぎる。

 

前進を続けると心ここにあらずと立ち尽くしている敵兵を見つけるが様子がおかしい

 

「くそ!清姫、先に突入した連中はゾンビにされている!槍を装備して無力化しろ!!」

 

この言葉を聞き、清姫が槍を装備する。

その姿を見て、僕は清姫の援護を開始するため、小銃の薬室に込めてある通常弾をそのままに、精霊石弾頭の弾倉を取出し装填し撃った。

初弾は通常弾なので、ゾンビとなった敵に全くダメージを与えていないが

次弾からは精霊石弾頭なので、なり立てのゾンビに深刻なダメージを与え灰となる。

 

僕はゾンビとなった連中に射撃を加え、この射撃を合図に清姫が吶喊を開始し、勢いをそのままに敵兵の首を落としていく。

 

 

ゾンビとなってしまった以上、屠る以外に彼らを救う手立てはない。

神道の禊をしてもいいが、この先の展開が読めない以上、余分な霊力は使いたくない。

破魔札も持ってきてはいるが、こっちも温存しておきたい。

あまり霊力がない人でも使える精霊石弾頭はこういう時に便利だ。

ただコストが凄いかかるのが問題だけどな。今回はアーカムから支給されているから安心して使えるけど。

 

しかし、軍の連中はなんで心霊装備を整えていないんだよ。

この場でゾンビになってるのは殆ど人民軍じゃないか

ということは、この先には米海軍がいるってことか?

 

この付近のゾンビを一掃して、清姫にクリア報告を聞く

 

「清姫、状況報告」

 

「はい、ご主人様、この付近の屍は一掃しました。ご主人様のお尻もこの清姫が万全を期してお守りしていますわ」

 

とりあえずは敵も倒してほしい。いや尻というか身体も守ってほしいな。

清姫と前衛を交代しポイントを押さえて前進を再開する。

 

 

 

足元に鏡の破片が散らばっているエリアに到着した。

原作では勘九郎が鏡から出て攻撃を仕掛けるトラップエリアだったが、軍の連中が面倒になって軒並み破壊したのだろう。

この様子だと戦闘工兵も混ざっているのかもしれない

 

正直、鏡の迷宮は面倒だと思っていたが、破壊してくれているのはありがたい。

ただ、破片が散らばっているからどうしても足音がなってしまう。

ここを抜けるまでは隠密行動は無理だろう、さっさとぬけてしまおう

出口までの通路がしっかりできてるし、幸いな事にここにはゾンビも敵兵もいないみたいだ。

途中でも思ったがやはり静かすぎる。この先鬼が出るか蛇が出るか

しかし、与えられた任務を完遂するためには前進をしなければならない。

 

 

 

鏡の迷宮を抜けた先は、岩肌がむき出しの洞窟のようになっていた。

原作でも、元始風水盤はこの洞窟のエリアに設置されていたはずだ。

このエリアに到着してから、おかしなことに微かに剣戟の音が聞こえる。

軍の連中が先に到着して、戦闘行動を行っているなら、銃声が聞こえるはずだ。

 

物陰に隠れ、かがみながら膝撃ちの姿勢をとり、辺りを厳重に観察する。

そこで、僕が目撃したものは既に石板から解放されている美神達一行と

激しく剣と槍を打ち付けあう小竜姫様とメドーサの姿だった。

 

その様子を見る限り、劣勢なのはメドーサのようで、相当頭に血が上っている。

しかし、原作でも狡猾なメドーサのことだ、あの怒り心頭の姿もブラフかもしれない。

根が正直な小竜姫様の寝首を掻かれぬように何時でも加勢できるようにする。

ライフル弾の弾丸は音速を超える、この距離で精霊石の弾頭ならば十分に隙を作ることが出来るだろう。そう思い一発の精霊石弾丸を取り出しグッと握り締め霊力を注ぎ込む。

かの幼〇戦記で散弾に魔力を注ぎ込むシーンがあったが、あれと同じ事をやる。

 

「かしこみ、かしこみ、天照大神に申し上げる。その御力を御与えください」

 

手を開き、握り締めていた弾丸を見ると神気が感じられ、闇の中にあっても薄っすらと発光しているのが見える。

手早く、弾丸をライフルに込め、発射可能な状態にする。

これで、一発だけだが強力な弾丸を射撃できる。小竜姫様なら十分に生かしてくれるだろう。

そして意識をまた小竜姫様とメドーサに戻す。

 

 

 

メドーサが振るう槍を、小竜姫様が軽やかなステップを踏み躱していく、まるで舞っているかのようにその武を披露している。

そして、槍を回避する為のステップや小竜姫様の攻撃が、小竜姫様の立派になったたわわを上下左右にまるでそこだけ無重力状態であるかのように飛び跳ねる。

あぁ何というわがままボディなんだろうか、ずっと見ていたい、いや違う

小竜姫様に援護するために、全体を見ていなければいけないのに、どうしても立派なたわわに眼が引き寄せられる。

何という魔性、何というわがままボディ、小竜姫様恐ろしい子!

 

それはメドーサも同様のことを思っていたようで剣戟を交えながら絶叫している。

 

「くそ、あんたは妙神山に括られているせいで、この地ではそう長くは存在も出来なければ、その武を全力で出すことも出来ないはずじゃないかい、何時までいるんだい

 

だいたい、あんたその胸はなんだい、さっきからぷるんぷるんと、ちょっと前まで小乳姫のあだ名を独占していたじゃないか。一体全体どういう絡繰りなのさ」

 

そうすると小竜姫様が少し離れ、神剣を持たない左腕を使い胸を寄せて持ち上げ、深い谷間を見せつける。

 

「さぁ私の限界時間は後5分でしょうか?それとも30分でしょうか?はたまた24時間?

もしかすれば、この胸に霊力が籠っているのかもしれませんね。

いずれにせよ、あなたを邪魔するには十分な時間があります。

 

それに、あなたより若くて大きくなってしまった私に嫉妬しているのかしら?

私の旦那様との愛で大きくなりましたのよ。あらあらそう言えばあなた、魔族に落ちても未だに独神でしたかしら?

ごめんなさいね。あなたより若い私のほうが先に結婚することになりそうで

私の結婚式はご招待しまので、是非いらしてくださいね」

 

ひゅー小竜姫様が煽っていくスタイルを始めてみたかも

小竜姫様の胸には霊力が詰まっていたのか、増設バルジみたいな?

あぁメドーサはもう完全に頭に血が上っているな

他を見れば、美神さんは目が点になっているし、忠夫君は前屈みにになってる

まぁ彼は煩悩が霊力の源だし、良くはないがとりあえずは良いことにして置くけど、お仕置き決定だな。

 

「もはやこれまで、小竜姫と遊んでいる時間は無いようだね!勘九郎、風水盤を発動させな!これで東アジアは魔族の手に落ちる!!」

 

高らかに笑い声を上げ、手を振り上げ合図を送る、しかし一向に発動する気配がない。

 

「勘九郎まだかい、さっさとおし!」

 

今まで、元始風水盤を守るように背を向けていたメドーサが、いつまでも風水盤を発動させない勘九郎の様子を見るために振り向くと、そこには針を奪取したティアさんがニッコリ微笑み、こちらに手を振っている。

腐ってもスプリガン、外してはいけない時は絶対にミスをしない。

 

流石は魔女、さす魔女、途中の軍隊さんはどうしたんですか?

え?撃ってきたらやり返した?撃っていいのは撃たれる覚悟のあるやつだけだ?

私は先に撤退する?また後で会いましょう?

 

それだけ無線で告げると、周りの景色に溶ける様に消えていった。

撤退支援も無しに自分だけささっと逃げるなんてちょっとずるくないですかね

 

ティアさんのおかげで、元始風水盤が発動することは無くなったが、依然として魔族二人が残っている。

 

あ、メドーサが頭を抱えて絶叫してる

 

「あぁ!!!どうなっているのさ、くそくそくそ、もういい勘九郎、計画は中止だ!

後は任せたよ。小竜姫、今回はあんたの勝ちだ次は容赦しないよ」

 

「お任せください。メドーサ様」

 

それだけ言うと、メドーサはさっさと撤退していく。

 

その姿を見届けてから、勘九郎がおもむろに火角結界を発動した。

 

地下空間にいるにも関わらず、大きな揺れが襲い、火角結界の発動を感じさせる。

 

「アッハッハッハ!貴方たち今回は絶対に逃がさない!このまま道連れよ!」

 

もう駄目や~最後に1発と美神さんに飛び掛かり、美神さんが忠夫君を張り倒すという

もはや一連の芸を見せられて、勘九郎も含め全員の気が緩んだ。

 

どんな熟練者でも敵を倒した瞬間や、目標を達成した時、はたまた気が抜けた時には

隙ができやすい、勘九郎も例に漏れず、致命的な隙を見せた。

 

HCLI社の超神兵レームさんは言いました。戦場では隙を見せる奴から死んでいくと

 

勘九郎の頭部に狙いを定め、躊躇わずに引き金を引く

ヘッドショット、天照大神の神気が籠った弾丸が、頭部を破壊損傷し膝から崩れ落ちる。

しかし、人間より頑丈にできてる魔族だけあってまだ死んでいないようだ。

その証拠に火角結界は停止していない。

 

完全にぶち殺すために、新たに頭部と胴体部分特に心臓に狙って射撃をする。

完全に魔族化していなかったことが幸いしたのか、ついにうつ伏せに倒れこみ、

暫くしてから火角結界は停止した。

 

さて、後は元始風水盤の破壊と撤退だ。

美神御一行はと言えば、向こうから見れば突然死角から射殺された勘九郎を見て

驚き、冷静さを欠いている。

小竜姫様には僕の事がバレバレだったようで、にっこり笑ってこちらを見て

「これも内助の功ですよね。」と呟いた。いつもお世話になっております。

そして解決したようなので、「私はこれで帰ります」と妙神山へ転移し、帰還した。

 

勘九郎射殺の犯人捜しをされる前に、元始風水盤とここから撤退開始だ。

 

美神さんが元始風水盤を使用するとは思えないが、一応破壊しておく

精霊石粉末入りのスモークグレネードと駄目押しでスタングレネードをありったけ投げ込み

視力、聴力、さらに霊力による探知を阻害する。

僕はヘッドギアを付けているので、自動的に防御をしてくれる。

至近でスタングレネードを食らって、しゃがみ込んでいる美神御一行を尻目に

元始風水盤に駆け寄り、C4爆薬をこれもありったけ取り付け、信管を埋め込み

物陰に戻り、そのまま起爆、風水盤を破壊した。

 

霊力を使わないと破壊や浄化出来ないことが勿論あるが、物理で殴れが早いことが多い。

本当にこれだけの爆薬を運べるなんて筋力増幅効果のあるAMスーツのおかげだ。

次回もこんなことがあれば、爆薬マシマシで事に挑もう。

 

起爆の衝撃で爆風が美神達を襲うが、しゃがみ込むか、倒れ込んでいたので、

爆風に押され地面を転がり、粉塵をもろに被っていたが、先ほどまでギャグ空間だったので

大きな怪我は無く、むしろ血気盛んに「一体なんなのよ、もう!!」と叫び声も聞こえる。

あ、忠夫君は美神さんの胸の谷間に顔を突っ込んでる。なんというラッキースケベ

やっぱり、彼は主人公だけあって、ラッキースケベ体質なんだろうか

まぁ、美神さんから「また、あんたわー!」って折檻食らっているけど、どこか満足そうだ。

やっぱり、ギャグ空間の時は絶対に死なないようにできるのかな?

流石に試すことは出来ないけど、ある程度は遠慮せずにやってもよさそうなのは安心出来る。

 

 

これで、犯人が僕だとバレれば、生命と特に財産の保証はない。

いや、忠夫君が食らっているクラスの折檻だと僕の生命も危ないかもしれないが

財産は尻の毛までむしり取られるだろうし、今回は美神さん儲け無しなんじゃないかな?

 

唐巣神父は金なんて無いだろうし、小竜姫様も美神に依頼した様子もない。

 

うわ、背筋にゾクゾクっと今日一番の悪寒が走る。

 

さっさとこの辛気臭い、地下空間から脱出しよう。

キリングゾーンからエスケープだぜー と変なテンションになっているのは気にしないでおこう。

 

 

 

 

~後日談~

 

あの後、僕はアーカム専用機に乗って日本に帰国した。

家に帰ってきた忠夫君の話を聞いたところ、報酬が誰からも出ないことに気が付いて

愕然とした後に、「こうなったら風水盤は私の物よ」と風水盤に駆け寄ったが

僕が爆薬で破壊しておいたおかげで、一切反応せず美神さんがさらに暴れ狂ったらしい。

いや、破壊しておいたのは本当にナイス判断だったなと自画自賛したい。

 

その後、香港で憂さ晴らしのショッピングツアーや映画の出演とかあったそうだが、その辺は割愛しておく。

 

 

そうそう、あれからなるべく美神さんに会わないようにしていたが、冥子さんと打合せがあるからといって、ついでに学校に僕を迎えに来る事件があった。

 

どうやら美神さんはあの時に針を奪取したティアさんの姿を目撃していたらしい。

そして、その後の勘九郎の射殺から複数犯であることを思い足り、彼女の中で決め手となったのは小竜姫様の冷静な態度と物陰を見つめる視線だったそうだ。女の勘なのか霊能者の勘なのか、しかし、まだ黒に限りなく近い灰色と言うことでカマをかけにきたようだ。

 

あの時は、流石に死んだと思いましたよ。

逃げ場のない車内で、直球であなたも香港にいたのって?聞かれるとは思いませんでした。

もう必死にすっ呆けました。凄いジト目でこちらを見てきましたし、誤魔化しきれてないと思います。かなり疑惑を残しているとおもいますが、僕はなんとか今日も生きています

 



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31.横島兄弟の極楽大作戦

31.横島兄弟の極楽大作戦

 

 

 

ある時、僕たち横島兄弟は塀しか残っていない元洋館の跡地前に揃っていた。

忠夫君はいつもの上下Gジャンにトレードマークの赤いバンダナ姿に、霊具の入ったボストンバックと付き添いでおキヌちゃんが来ていた。

僕は何時ぞやに六道婦人に仕立ててもらった。オーダーメイドのスーツ一式の黒スーツ姿に聖別された六道の徽章を付けている。そして付き添いの清姫が一緒に来ていた。

僕たちは所属事務所が違うので滅多に一緒に仕事をすることがない。

一緒に仕事をするにしても、美神さんか冥子さんのどちらか、または両方がついてくる。

しかし、今回は監督者が誰もきていない。

そのせいなのか、忠夫君はちょっと緊張しているようだ。

 

今回の依頼だが忠夫君が美神除霊事務所にバイトを始めたかなり初期、美神さんの色気に騙されて時給も250円の時代、おキヌちゃんもまだいなかった。そんな頃に受注した依頼の後始末が僕ら横島兄弟に回ってきた。

 

悪霊となった相手は鬼塚畜三郎、犯罪組織のボスだった男だ。

当時の話を忠夫君に聞くと美神達は鬼塚の隠したポエム集を屋敷の隠し部屋から発見し、未練を強引に断ち切って鬼塚は無念の成仏を遂げ、あれ以来工事の邪魔をする鬼塚も出ず、依頼完了となり報酬が支払われた。

時給は変わらんかったけど、若者のリビドーを逆手に取った魔女とか、ほっぺにチューをしてもらったとか、アレは俺に惚れとるとか、わりとどうでも良い話も混じっていたけど、概要としてはこんな感じだったらしい。

 

さて、件の不動産会社だが、さっさと取壊し売却をしたいところだが、30年も塩漬けされていた案件で後回しになっており、ちょうどその当時、複数の案件が重なって直ぐに取壊し工事は行われず、買い手がつくまでの間放置されていた。

ようやく買い手も見つかり高層マンションの建築が決定、壁に白骨死体でも埋まっていないだろうなと戦々恐々の中、解体工事を開始した。

解体が進み、上部構造がなくなり、基礎が見えてきたところで建築図面には記載の無い地下室が発見されたのだ。

 

現場の作業員が崩落の危険がない事を確認した上で地下室を確認のため、一歩階段を踏んだところで、鬼塚の悪霊が再度現れた。

これに対し不動産会社は依頼の未完了だとして、美神除霊事務所にたいして無償での解決を強く要請した。

 

まぁかなりの金額を払って、実は終わっていませんでしたではキレるのも分かる

美神としても、割と駆け出しの頃で悪霊を吸引札に吸収や完全に成仏を確認したわけではなく、そう強く出ることもできなかった。

しかし、自分のミスではあるが、不動産会社のいいなりとなり無償対応、ただ働きというのも美神のプライド(守銭奴)が許さなかった。

そこで、忠夫君にGS見習いの修行という名目で解決してこいと忠夫君を送り出した。

 

ここまでは美神除霊事務所側の都合だが、何故も僕まで駆り出されたかといえば、本案件は不動産会社が第三者を交え、本当に悪霊が消滅したことを確認するために、美神さんが六道徐霊事務所に依頼をだした。

もうすでに建物の上部構造がなく更地になっているので、六道冥子所長が担当するはずだったのだが、美神さんが来ないことが分かると「令子ちゃん来ないの?」とやる気が減少し、追い打ちで新作スイーツの発売日に重なっていることがわかるとやる気ゲージは消滅、僕に代打が回ってきたという次第だ。

 

 

~屋敷前 横島兄弟~

 

さて、何時までも門の前に立ち尽くしていても仕方が無いので、忠夫君を促し内部にはいるために、預かってきた門の鍵を開けた。

カチリと小気味のいい音がして、開錠できた。

開幕で襲ってくるとしたらこのタイミングだが、事前の情報通り地下空間に足を踏み入れるまでは襲ってこないのだろう。

 

そのまま門を開けて入ろうかと思った瞬間に、僕の左腕に柔らかく暖かな幸せな感触が襲う。

何事と思い左を見てみれば、清姫がニコニコしながら僕の左腕に抱き着いてきた。

 

「ご主人様、これが世に言うダブルデートですのね。

お兄様はおキヌさんと、そしてわたくしはご主人様とそれぞれ行動を共にして、その中を深める。

男女の中を深めるにはお化け屋敷が定番と雑誌に書いてありましたし、この状況まさにそういうことですのね。」

 

ささ、おキヌさんも義兄様をくっついてくださいまし、とおキヌを促す。

 

おキヌさんもこれ幸いと思ったのか、「ダブルデート初めてです。横島さんよろしくお願いしますね。」と忠夫君に腕を絡める。

 

忠夫君はその感触に、違う違うんや、おキヌちゃんはそんな事を思っていい子じゃないんだとカッと眼を見開きクールを装おうとしているが、残念なことに眼が血走っている。

 

まぁ何でもいいけど、まだ門の鍵を開けただけでこれだけのギャグ空間に突入している今回はむしろ安心安全だと考えてもいいんだろう。

流石に僕も毎回のようにドンパチしたいわけではない・・・

 

 

~屋敷内~

 

 

さっそくひと悶着あったが、門を潜り、鬼塚が逃げないように屋敷に結界を張る。

今回は美神さんが苛つきながら供出してくれた結界札を塀に貼り付ける。

 

門を起点に僕と清姫のペアと、忠夫君とおキヌちゃんでペアを組みそれぞれ時計回りと反時計回りで札を張っていき、交差したところからはお互いの札が正しく張れているか確認をして、門まで戻ってくる流れだ。

 

清姫はささっと僕と腕を組み、手もちゃんと恋人繋ぎで「さぁご主人様御屋敷内を散歩しましょう」とフンフン鼻息荒く歩き出す。清姫サンちょっとステイ。

 

ふと、忠夫君を見れば、おキヌちゃんはさっきの事が恥ずかしくなったのか、お互いに顔赤くして初々しい感じでそっと袖を掴み、僕らと反対側に歩いて行った。

 

お互いに門までたどり着き、結果を確認しあう。

一応お互いに問題が無かったようで安心した。

 

さぁ鬼塚が現れたという地下室にいきますか

 

 

~地下室前~

 

 

地面にぽっかりと穴が開いておりちょっと覗いてみれば、下に降りていくための階段がそこから見える。

現場の作業員が安全の為に設置したのか、穴の周りにはカラーコーンとバーで区画が仕切られており、バーには開口部注意と書かれたビラが付いている。

 

一応周りを霊視してみるが、鬼塚の姿を見ることが出来ない。よっぽど上手く隠れているのか、地下室に入ることがキーになっているのか

そんなことを考えていると、忠夫君がバーを跨いで地下室に降りようとしている。

 

やけに自信満々な彼にどこまで霊能が使えるようになっているのかを確認する。

 

「兄さん、やけに自信満々だけど、すごい霊能でも使えるようになったの?」

 

忠夫君がこちらに振り返り、香港の元始風水盤で発現した霊能の栄光の手を見せてくれる。

 

「ふっふっふっ 見よこの栄光の手をそしてサイキックシールドがあれば攻守ともに完璧じゃぁ。兄より優れた弟などいないのだよ!」

 

なるほど、まだ霊波刀と文珠は使えないみたいだね。

まぁいいや、自信満々のところに水を差すのもどうかと思うし、お手並み拝見と行こう。

 

 

意気揚々と地下室への階段に一歩足を踏み出した途端に鬼塚が姿を表し、散々に罵っている。

ほらさっさと栄光の手でぶん殴っちゃえばいいじゃないと、見学していると腰が引けたのか忠夫君が戻ってくる。

「おキヌちゃん、兄さんのカッコいいところ見てみたいよね。さぁ兄さんおキヌちゃんにカッコいいところを見せるためにも、今度は栄光の手を発動したままで行って、奴がでたら殴ってやればいいんじゃないかな」

 

とりあえず、忠夫君を煽っていくスタイルでいく。

今のところ霊能は兄より優れていると思うんだよ。

 

そうだよな、先に発動してから行けばいいよな!よっしゃ行くぞと行って再度地下に向かう

 

 

「わたくしはご主人様のかっこいいところもみたいですわ」

 

はい、清姫さんステイ、今は忠夫君の番だから

でも、一応懐に釣ってある聖別された銀弾頭の弾丸が詰まった霊銃(拳銃)を取り出せるようにしておく。清姫さんに良いところを見せようとか、そんなのじゃないったら無い。

 

本当は精霊石が良いのだが、流石に精霊石弾頭は高すぎて手が出ない。あれはよっぽどじゃないと撃てない。それに固いところに当たると砕けて回収できないし・・・

銀なら精霊石に比べればまだ、安いし後で回収して鋳つぶせばまた使える。

聖別は唐巣神父にお願いしている。お布施という形で相場位の料金を支払っているが、同志厄珍堂に頼むより安く、なにより品質という面で安心できる。

最近、唐巣神父のお布施が神父の家計の一角を閉めているのではないかと思うくらいだ。

それくらい、聖別済みの銀弾頭の弾丸を持ってきている。

 

完全に腰が引けているが、兄さんまだーと声をかけると、「今いったるわい」と栄光の手を発動したまま再度地下に足を踏み入れる。

先ほどと同じく、鬼塚が大声で罵っているが、忠夫君は栄光の手を発動しているので強気で鬼塚を殴る。

ただビビっているか、それとも上手に霊気を纏うことが出来ず殴るというよりは叩く程度の攻撃しか出来ていない。

やっぱり忠夫君はエロ方面か、誰かを守るときにその力を発揮するのかな

 

パン!パン!と2回乾いた破裂音が響く

音の正体は僕が握っている拳銃からなんですけどね。

 

鬼塚は突然、銀弾頭を頭に食らったせいで姿が保てなくなったのか、その姿を一時消している。

そして、忠夫君はと言えば、腰を抜かし口を大きく開けてこちらをおかしな物を見るような眼で見ている。

 

「おい、優、おm お前それ拳銃じゃないか、日本で拳銃なんて持っていたらしょっ引かれるぞ」

 

「いやいや、兄さんこれは拳銃じゃなくて霊銃。

GS免許保持者は霊銃の所持と、その行使も許可されているよ。

ただ、霊能者が霊銃で犯罪を犯すと、ほぼ死刑並みの刑罰を食らうから使いどころが

かなり面倒な霊具なんだよ。

美神さんから聞いてないの?」

 

「いや、そういえばGS免許取った時に聞いた気がする・・・

あぁだから美神さん銃をぶっ放していたのか、あの時は美神さんだから何でもありかなと思っていたけど」

それだけ言うと何故か遠くを見つめている

 

まぁあの性格だから、いろいろと思う所は有ると思うけどね。

 

「さぁ、鬼塚消えたしさっさと地下室を確認して鬼塚を成仏させよ」

 

兄さん先に行く?と聞くと、今度はお前から行ってくれと返事がくる。

了解、それではさっさと行きますか、まだ階段一歩しか降りてないしね。

 

いつも通り、清姫には背後からの攻撃を守るようにお願いして、今度は僕が先頭になり地下への階段を降りる。

もう出てこないかなと思ったが、一歩踏み出すと鬼塚が出てきたので銃撃する。

 

鬼塚がチャカなんて捨てて、男なら素手でこいなど叫んでいるが、構わずに銃撃する。

 

全弾撃ち尽くしたところでスライドが後退して固定されたので、次のマガジンと交換して初弾を薬室に送り込む。

 

そこまでやって、後ろを振り返ると忠夫君がドン引きだという感じでこちらを見ている。

 

「お前、意外と容赦ない性格なんだな」

 

なに、生易しいことを言っているのか、殺れるときに殺れだよ。

ドラマのように拳銃を突きつけて、舌なめずりなんてド三流のやることだよ。

反撃を食らいたくないなら速やかに殺さないと・・・・・・

 

「情け容赦のないご主人様も素敵です。あぁわたくしもご主人様に攻めて・・・」

 

うん、清姫さんはどこいっても正常運転ですね。

 

鬼塚をやった感じがしないが、姿を見せないので軍用のライトを照らしながら地下室への階段を降りながら、回収できそうな銀弾頭を拾っていく。

 

警戒しながら、階段を降りていくと割と広い地下室にたどり着いた。

中を覗くと鬼塚がいたので、先制攻撃で銃弾を打ち込む。

それと同時に祝詞を唱え、この地下室の穢れを祓い、場を浄化する。

 

鬼塚が動けなくなったところで、忠夫君が吸引札を持って駆け寄り、鬼塚を吸引札に取り込んだ。

この辺りは、美神さんの仕込みもあるのだろうけど、手際がいいな。

 

不動産会社からの依頼通り、鬼塚も回収したしこれで任務完了だ。

さっき打ち込んだ銀弾頭が勿体ないので、壁にめり込んだ弾頭を取り出せる限り回収する。

ナイフで壁にめり込んだ弾頭を取り出していく。

 

忠夫君は何もない地下に飽きたのか、さっさと終わらせて上に上がって来いよと地上に戻っていく。

 

手伝ってくれてもいいのにと思わないでもないが、銃を撃ったのは僕なので黙って作業を進める。

粗方取り出したので、上に戻るかと思ったところで壁の一部が着弾の衝撃で脆くなったのか壁が崩れてきた。

 

不動産会社の話では地下室も潰してしまうという話だったので、問題は無いと思うが一応調べておこうと思い、崩れた壁に近づいて、ある物を見た瞬間に僕の膝が崩れ落ちそうになった。

 

なんで、こんなところに賢者の石があるんだよ!?

アーカム考古学研究所で実物を見たときは、これは遺跡周辺から発掘されるって言ってたよね。

なんで、こんなところから出てくるんだよ。僕は呪われているのか?

しかも結構でかいし、これだけでかいと相当な黄金かオリハルコンが生成出来てちゃうじゃないのか?

 

まさか、不動産会社が賢者の石が出てくるからここを買い取ったのか

鬼塚の資金源が、この賢者の石だったのだろうか?

だとしたら、この売りさばく先はどこだアーカムならまだいいが、トライデントとかだと最悪だぞ。

このまま賢者の石を持って地上に出たら銃撃戦とか嫌すぎるー!

 

軽く疑心暗鬼に陥りながらも、アーカム考古学研究所に賢者の石発見の報告をしようと思い立つ。

そうだ報告連絡相談は基本だよな。

緊張して手が震えるがなんとか気合をいれて、携帯のメモリーから番号を引っ張ってくる。

 

電話ボタンを押して耳に当てと ツーーツーーツーーと無情な音が携帯から響く

なんでだよと思って表示をみると、圏外になっている。あぁくそ地下だから繋がらないのか!

 

とりあえず、この目に着くでかいのだけ持って帰ろう、小さいかけらはあるかもしれないが

この場を離れる方が先だ。

賢者の石をポケットに入れて、一気に階段を駆け上がる。

 

地上でおキヌちゃんと話していた忠夫君が必死の形相で上がってくる僕を見て

 

「おいおい、まだ鬼塚の悪霊でも、でたのか?」

 

そう笑いながら揶揄って聞いてくる。

鬼塚の悪霊のほうがまだよかったよ。ぶち殺すだけなんだから・・・

 

「美神さんに訳も分からずいきなり一千万位入ったアタッシュケースを渡されたのと同じような感じかな」

 

それを聞いて忠夫君も顔を真っ青にして、「分かった俺は何も見てないし、聞いていない。ここには鬼塚の悪霊を祓いに来ただけだ」

そう言って理解を示してくれた。彼の中ではどれだけ美神さんはやばい人なんだろうか

 

 

僕もまずはこのポケットに入れた賢者の石をアーカム考古学研究所に運ぼう・・・

 

 

 

~後日談~

 

賢者の石を移送しているときに襲撃があるかもと、なるべく人通りの多い道を通ったのがよかったのか、それとも僕がビビり過ぎただけなのか、襲撃は無かった。

 

早速アーカム考古学研究所の調査員が鬼塚邸を調査に行ったとのことだったが、これ以上賢者の石が出土することは無かった。

 

調査員の話では、鬼塚邸を建築するときに遺跡を発見したようだが、遺跡の保全と発掘に時間を取られることを嫌い、その当時の担当者を皆殺し、そのうえで口の堅い業者に建築を続行させたらしいということだった。

 

建築関係者にとってみれば、遺跡は工事が止まってしまうため、不発弾並みに見つかってほしくない物かもしれない。

 

 

そうそう、この話を妙神山に行ったときに、小竜姫様に話した。

僕は気を付けないとだめですよ。とかオリハルコンは希少金属ですものね。とかそんな答えが返ってくるものだと思っていた。

 

「あらあら、そんなものが欲しいのですか?」と言われ話を聞くとどうやら、神界や魔界では割と普遍的に出土する鉱物だったようで、それほど珍しいものでもないそうだ。

人間界に遺跡周辺でしか出土しないというのは、過去において神との交流がもっと盛んだったころの神族や魔族が人間界に持ち込んだ名残だったようだ。

 

いい機会なので、ついでに例のプレートの制作者について聞いてみたが、世界には神秘があった方が面白いと思いますよ。とはぐらかされてしまった。

 

最後に、賢者の石は妙神山でも掘れば、でてくるかもしれないと言われた時の、僕のショックはかなり大きかった。

 



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32.横島兄弟の極楽大作戦 プレゼントを送ろう

32.横島兄弟の極楽大作戦 プレゼントを送ろう

 

 

 

~横島家 リビング~

 

 

12月となりめっきりと気温も下がり、すっかり寒くなってきた。

そんなある日、今日は仕事もなく、学校が終わったら家に帰って暖房のきいたリビングで

清姫と一緒にお茶を飲みながら、他愛の無い話をしていた。

 

すっかり、お茶がぬるくなってしまったと清姫が新しく淹れ直してくれたときに、タイミング良く忠夫君が帰ってきた。

 

「お帰り兄さん、ちょうど清姫がお茶を淹れてくれたから一緒にどうかな?」

 

そう言って忠夫君をお茶に誘う

 

暫くして、カップを3つ持って、清姫が戻って忠夫君にも配膳してくれる。

 

「はい、緑茶でよろしいでしょうか?」

 

「清姫ちゃんが淹れてくれるものならなんだって飲むよ」

 

忠夫君も清姫からカップを受け取る。

 

清姫が僕の隣に座り、三人でお茶を飲む。ちょっとホッとした空気になる。

そう言えば、清姫が家に来た始めの頃は、清姫が僕の隣に座るだけで忠夫君が怒り心頭で

呪いのわら人形に五寸釘を打ちつけ、呪ってきたものだ。

 

壁に穴が開くのと、ガチの霊能者が呪えば呪いも本当になるから止めろと言っても、言うことを聞かず、何かあれば繰り返していた。

もう面倒になって事あるごとに呪い返しを行い。忠夫君が呪われ痛い目をみてようやく学習したのか、いい加減見慣れてきたのか僕を呪ってくることは少なく無くなってきた。

 

おかげで僕は実戦でスキルがメキメキ上がり、今では片手間でも十分呪い返しが出来るようになり、彼は彼で自身の呪いを受けることで、ドンドン呪い耐性が着くようになった。

怪我の功名とでも言えばいいのか、彼の呪いスキルも向上して、威力も上がり、呪い耐性もあがりとセルフ訓練という名の苦行のような状態になっている。

忠夫君には教えていないが、彼の呪いのスキルも耐性も僕の見立てでは、小笠原GSのエキスパートクラスには敵わないが、結構いい線いっていると思っている。

そろそろ、一般人には使っちゃ駄目だよって教えておかないといけないかも・・・

 

お茶を飲んで一息ついたのか、忠夫君がおもむろに話を切り出してきた。

 

「なぁ、清姫ちゃんと仲が良いお前に聞きたいんだけど、女の子に喜ばれるクリスマスプレゼントを送りたいんだけど、何がいいかな?」

 

清姫は口に手をやり「まぁお相手は誰かしら」とうふふと笑い

 

僕は僕で、あぁおキヌちゃんに服を送る織姫の話だったかと思い出した。

 

「なに?突然女の子にクリスマスプレゼントを渡したいって、どういう風の吹き回しなの?」

 

「いや、美神さんのところでクリスマスパーティーに誘われてな、その時に美神さんにおキヌちゃんにプレゼントを渡すように言われたんだけど、何を送ったら喜ばれるか悩んじゃって、いつも清姫ちゃんと仲のいいお前に一度相談してみようかと思ってさ」

 

「そうなんだ、おキヌちゃんは幽霊だから余計に悩むよね。

ちなみに清姫は何を送ればいいと思うかな?」

 

「そうですわね。わたくしはご主人様に頂ける物なら、なんでも嬉しく思いますが、おキヌさんも女性ですもの、お洋服とか喜ばれるのではないでしょうか」

 

清姫さんナイスな話題振り、僕もこの流れに乗ることにした。

 

「そういえば、幽霊でも着れる服があるらしくて、織姫さんという、魔力を持った機を織る一族で、噂によると一族でも一番きれいな人が険しい山の中で一人機を織っているらしいよ。それなりに値段がすると思うけど、厄珍堂なら扱っているんじゃないかな?

取りに行くから代金を持ってくれと言えば、安く手に入るかもよ。」

 

織姫、一族で一番の美女と言う単語に反応し、清姫ちゃんもあんなに可愛いし、同じ姫が着くなら間違いないと、ぐふぐふふだらしない笑みを浮かべ、明日厄珍堂にいってくるとスキップしながら自分の部屋に戻っていった。

一応その背中に、織姫さんがいるのは険しい山らしいから足が必要だったら手伝うよ、と声を掛けておいた。

 

 

~横島家 リビング~

 

クリスマスの日まで、あと数日となったある日のことだ。

何時ものようにリビングで清姫とゆったりお茶をしていた。清姫が式神になってくれて初めてのクリスマスをどうしようかと二人で相談していた。

冥子さんから六道家のパーティーに誘われていたのだが、どうにも自分の霊感が何か違うと囁いているのだ。

だから冥子さんには申し訳ないが、素直になにか霊感が囁いていると言ってお断りさせていただいた。

六道家のパーティーに出ないなら、せっかくのクリスマスだけど、清姫と家でゆっくり二人でケーキでも食べよう、ケーキはどこで買ってこようかと相談していた。

そんな時に、忠夫君がバタバタと慌ててリビングに飛び込んできたのだった。

 

12月初旬に織姫の話をしていたので、忠夫君はもう自力で織姫のところに行ったと思い込んでいたが、やはり年内に仕事を片付けておきたいと何処も思うことは同じなのだろう。

美神除霊事務所も相当忙しく、忠夫君も織姫の所に行っている暇がなかったようだ。

 

ただ、同志厄珍のところには話を付けに行ったようで、品物を取りに行ってくれれば、その内の一着は無料で進呈してくれるようだ。

そして、同志厄珍から僕が話した事と、同じような内容で絶世の美女が織っているとか、そのような話を聞き、重ねて同じ内容を聞いたので織姫は絶世の美女で、険しい山で一人寂しく機を織っている、織姫=美女とすっかり洗脳されてしまったようだ。

受け取りの手段は、山を登り、小屋にある小さな窓口から品物を受け取れば終了という簡単なものだった。

 

しかし、クリスマスまでもう日数もなく、途方にくれていたところで、僕がASEのマルチドライバーということを思い出し、助けを求めて駆け込んできた。

 

僕も足が必要なら手伝うよと言ってしまった手前引くに引けず、一応ASEに山岳ヘリが借りれるかどうか電話で聞いてみるねと応えてしまった。

今思えば、この時に断っておけば、あんな恐怖を感じることは無かったはずだ。

 

ASEに電話したところ、まさに天候の悪い急峻な山岳における救助訓練の実施を織姫のいる山で行おうとしていた。しかし予定していたヘリの操縦者が怪我をしてしまい、中止にしようかと話しているところに、僕から電話がかかってきたのだ。

もうここまでくると世界意志の干渉を感じ戦慄すると共に、忠夫君はこの世界の主人公だと強く思う。

 

 

~織姫の住まう山、その麓~

 

電話をしてからASEに連れられ、あれよあれよという間に僕と忠夫君は山の麓までやってきた。

現地には既に山岳ヘリのエンジンに火が入っており、ホットスタンバイで待機していた。

もっと遠くかと思っていたが、意外と近いところにあるのか、時空でも歪んでいるのだろうか?

 

さっさとヘリに乗り込もうと近づくと、横合いから声がかかった。

 

「おいおい、まずはブリーフィング受けようや、斑鳩もやけどマルチドライバーは慌てん坊が多いなぁ」

 

そう声を掛けてきたのは、ASEのエージェントでジェームス・波戸さんだった。

 

すみませんと誤って、波戸さんと握手を交わし、自己紹介をする。

 

今回の訓練受講者は目の前のジェームス・波戸さんだったようだ。

僕と忠夫君が加わったことで、訓練の内容が変更され、天候が変わり山小屋に取り残された忠夫君を救助するという想定訓練になった。

様は、三人一緒にヘリで山小屋に乗り付け、忠夫君は品物を取りに向かい、波戸さんはヘリからロープ降下して忠夫君を回収、そのまま麓まで戻ってくるだけだ。

山小屋付近は突風が吹き荒れ、ヘリの操縦難度はかなり高いが、やること自体は何も難しいことは無い。

 

男三人が山岳ヘリに乗り込み、エンジンの出力をあげるとフッと浮き上がる、風にも強そうな安定感ある良い機体だ。

 

 

~山小屋付近~

 

「いや~しかしほんま助かったわ。ここまで来て訓練中止とは目も当てられん状況やしな。忠夫君も訓練の参加してくれてありがとな」

 

僕と忠夫君は織姫の所で品物を受け取りに行くことが目的で、どちらかと言えば訓練はついでなのだが波戸さんが、お礼を言ってくれる。

 

和気あいあいとした、ヘリの中だったが山小屋が見えてくると波戸さんの意識が引き締まりピリっとした空気が漂ってくる。

まずは一般人の忠夫君でもヘリから降りやすいよう、山小屋に限りなく接近しホバリングをする。

 

「この風の中でほぼピタリと止めるとは、SWATにもなかなかおらん、ええ腕やで」

 

波戸さんからお褒めの言葉をいただきながら、忠夫君を見るとすでに扉を開け

 

「織姫さま~ん、いま、貴女の王子が参りますからね~!」

 

と、ヘリを飛び出していった。完全に人の話を聞いていない・・・

 

僕がヘリに乗る前に山の麓で、織姫様は絶世の美女だったかもしれないが、今回はASEの訓練もあるから、品物を受け取ったらさっさと帰るよ。と言っておいたのにあの馬鹿兄は、あの様子だとどう考えても、扉をぶち破って織姫と対面するだろう。

 

もう山小屋に置き捨てて帰るかなって頭をよぎるが、波戸さんの訓練のために、山小屋から離れロープで降下できる位置に付け直した。

 

織姫の実態を知らない、波戸さんは呑気にも「君の兄さん、えらい気合はいっとるな」と

ヘリから飛び出していった馬鹿兄の後ろ姿を見つめ、自身の降下するロープの最終点検と降下用の装具を素早く取り付け、直ぐに降下出来るようヘリから身体を乗り出していた。

 

 

今回は僕が相当甘かったと言わざるを得ない。後悔ばかりしかないが、まずは今をどうにかするしかない。

織姫の山小屋にダッシュで品物を取りに行った向かった馬鹿兄は、その数分後には行ったときの倍くらいの勢いで戻ってきた。

この時はまだ絶世の美女かと思っていたら、十二単を纏った老婆がいたのだから、それはビビって戻ってくるだろうと、むしろ人の言うことを聞かず、ざまぁ見ろくらいに思っていた。

 

波戸さんがロープ降下で馬鹿兄を救助する想定なので、勿論ジャンプしたくらいでは届かない高さにヘリがいる。

それでも、ぴょんぴょん跳ねて、必死の形相で救助を懇願している馬鹿兄を見て、溜飲が下がる思いだったが、それ以上に違和感も感じ始めていた。

 

「それでは、波戸さん兄も戻ってきたようなので、救助お願いします」

 

そう声をかけ「よっしゃ、いっちょ行ってくるわ」と声を掛け合ったところで二人で固まった。

 

僕らが忠夫君の後ろに見たものは、十二単を着た老婆ではなく、もっと冒涜的な何かだった。

具体的には昔は豊満でさぞ似合っていたのだろうと思わせるが、今となってはシワシワとなった乳房を隠す気があるのか?というショッキングピンクの三角ビキニを纏った老婆だった。

 

「あぁ~ん、マイダリーン、めくるめく熱い一夜をいかが~?」

 

と、徐々に迫ってくる老婆の姿だ。

 

この老婆の姿も恐ろしいが、この吹雪の中、ヘリのエンジン音やメインロータの轟音が鳴り響く中ではっきりと、織姫の声がしっかりと明瞭に聞こえることに戦慄した。

 

「波戸さん、早く救助!」

 

オカルトには慣れていないのか固まっていた波戸さんに声を掛け、救助を促す。

 

一度動き出せばそこはプロだ、あっとゆう間にロープ降下を完了させ、忠夫君にも救助用のハーネスを取り付けていく。

 

「まぁ素敵な殿方が二人になってしまったわ、妾の下の穴が両方とも塞がってしまいまする」

 

波戸さんが泣きそうな顔してウィンチを遠隔で操作し徐々にヘリへと巻き上げられていく。

その姿を見て織姫は三人目、つまり僕の事も認識したようだ。

 

「殿方が三人も妾を求めていらっしゃるなんて、妾の穴と言う穴が塞がれてしまいまする」

 

一体、どこのことを言っているのか、僕にはさっぱり分かりたくない。

 

大の男が三人そろって泣きそうな顔になりながら、それぞれが必死におのれの役割を果たす。

 

ウィンチの巻き上げ速度が遅く、波戸さんと忠夫君がヘリにぶら下がっている状態を好機と見たか、ヘリを落とそうと織姫が身にまとっていた布を、トップレスになりメインロータに向かって投げつけた。

この吹雪の中そんな物がヘリに届くわけないのだが、織姫の妖力なのか執念なのか、風に乗り真っすぐこちらに近づいてくる。

 

「おい、妖怪が攻撃してきたで!」

 

波戸さんが銃を持っていたら、撃っていそうな声をだして僕に警告を発する。

 

”おまえに魂が有るなら応えろ!!”

 

山岳ヘリをホバリングからさらに上昇させるためにエンジンの回転数を上げる。

途端に下向きの強力な風が発生し、投げつけられたブラは何処かに飛んで行った。

しかし、まだ空中で宙吊り状態の波戸さんたちが抵抗となり、ヘリの挙動が不安定になるが

構わず、進路を麓に向けて一目散に逃げだした。

 

 

精神的な疲労は大きかったが、三人無事に山の麓に到着しヘリのエンジンを落とした。

もう疲れた家に帰って、清姫のお茶が飲みたいと考えていたところで、波戸さんから声がかかる。

 

「おい、優あれを見て見ろや・・・」

 

波戸さんの指をさすとこを見ると、ショッキングピンクのブラが後尾のテールローター付近に引っ掛かり、風をうけてゆらゆらとはためいていた。

もう少しで墜落の危機もあったと今更ながらにゾッとした瞬間だった。

 

 

~後日談~

 

あの後、ブラを取り除き、同志厄珍に売り払おうとも考えたが、その場で燃やしておいた。

織姫自体は妖怪でも怪異ではないが、一応ヘリの無事故を祈願してお祓いしておいた。

 

這う這うの体で帰宅し、玄関で影から出てきた清姫に「お帰りなさいまし」と出迎えられ、清姫が淹れてくれた暖かいお茶を飲んでようやく人心地つき帰ってきた気がした。

 

そして、清姫にこんなことがあって怖かったよと笑いながら話したら、清姫は突然真顔になりこう呟いた。

 

「わたくしも、ご主人様に見捨てられたらどうなってしまうか分かりませんわ」

 

あぁそういえば、清姫様もこんな感じの英霊でしたね・・・

 




三連休を利用して、もう一話アップさせていただきました。
楽しんでいただければ幸いです。


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33.式神デスマッチに勝利せよ!

33.式神デスマッチに勝利せよ!

 

 

 

嫌な予感がして眼が覚める、今朝は妙に霊感が囁く

別に寝たはずの清姫が、いつの間にか僕の布団で同衾しているのを忠夫君に見つかり、襲撃を掛けられるのとはまた違った感じがする。

どちらかと言えば、冥子さんの式神暴走に巻き込まれる予兆というか、あの圧倒的な霊波が空間ごと爆砕してくるような、あの死を覚悟するようなあの感覚

 

・・・ブルッと身震いして、身をすくめるが今の段階ではどうしようもない

巻き込まれることを諦めて、六道家から支給されている装備品一式をクローゼットから引っ張り出しベットの上に並べる。

 

黒一色のスーツ上下、ワイシャツ、ネクタイ、一見何処にでも売っていそうなスーツに見えるが、そのどれもが布地から聖別され、刺繍、縫い目まで意味を持たせ、これによって霊的加護を大幅に増幅している。

そして、詳しいことは怖くて聞いていないが、どこぞの大聖堂の銀十字を溶かして作った、六道家の家紋をあしらった徽章を取り付ける。

 

この装備だけでいくらするのか見当も付かないけど、洗い替えも必要よね~と言われ2セット支給されている。

ちなみにクリーニングは六道家にて行われている。家の洗濯機で洗えるわけもないし、街の洗濯屋に持っていけるわけもない。

男の子は汗臭いから~~ちゃんと持ってくるよ~~と言いながら、たまに冥子さんが回収と配達に来てくれる。

 

さて装備と言えば、人通りのある場所では使用は出来ないが、唐巣神父にお願いした聖別済みの銀を弾頭にした弾丸を収めたマガジンと拳銃、あとは自作の破魔札をとりあえず装備する。拳銃は脇に装備し、破魔札はスーツ各所に分けて収める。

後は腰にハンドガード付きのオリハルコンナイフを装備する。小竜姫様に倣って霊刀を一時期、持ったこともあったが、長さの都合で建物の中では扱いにくいこと、多少雑に扱っても頑丈なナイフのほうが取り回しがよく、さらに言えば清姫に前衛を任せることで、除霊作業が安定したことから最近は使わなくなった。

本当ならAMスーツを着たいところだが、あれはアーカム考古学研究所の所有だから、何か任務があればその都度貸し出される。

このオリハルコンナイフだけは、実戦での戦闘証明が欲しいとのことで、常に貸し出されている。

 

 

着替え終わり、ほぼ臨戦態勢のままリビングで向かう。

 

「おはようございますご主人様。あら、本日は凛々しいお姿でどちらにお出かけですか?」

 

台所で朝食を作っていた、清姫がこちらに振り向きながら朝の挨拶を交わす。

家に来た当初こそ、家電の使い方が分からなかった清姫だが、最近は食事に洗濯と家事を一手に引き受けてくれている。

申し訳ないので、自分も手伝う旨を伝えたのだが、清姫にはこう返された。

 

「わたくし、ご主人様の妻として家内のことは全てお任せください。

それとも、わたくしの作る食事はお口に合いませんか?」

 

上目遣いに言われ、可愛い女の子が作ってくれる食事で胃袋を掴まれてしまえば、もはや陥落するより他に道は無い。

こんなの断れるのは、ホモくらいじゃないかな?

 

作ってもらった朝食を食べ、入れてもらったお茶を飲んで一息つく。

そこで、ふと気が付いたが、そういえば今日は忠夫君がいないな、最近勘が良くなってきたからさては逃げたか?

 

「清姫、兄さんは何処に行ったか知ってる?」

 

「義兄様ですか?確か美神さんのところに向かっているはずですよ?」

 

なんだ、逃げたわけではないのか・・・

 

 

 

お茶を啜りながら、もうこのままこの霊感も勘違いで終わればいいなぁとか考えたせいで、フラグが立ってしまったのか、特徴的な冥子さんの霊波が近づいてくる。

しかも、暴走一歩、二歩手前の攻撃的で圧倒的な霊波を感じる。

対応を一歩間違えれば、マンションごと消し飛びかねない。

 

ピンポーン!と軽快な音の呼び鈴が、冥子さんの霊波に固まっていた静かなリビングに鳴り響いた。

 

まだ、呼び鈴を鳴らす程度の理性が残っていたのかと、ちょっと安心する。

良家の子女だけにそういう教育の結果で反射的な行動かもしれないから、気は抜けない。

 

鍵を開けに玄関に向かう。

相手を刺激しないよう、にこやかに穏やかに出迎えるのだ。

 

「いらっしゃい冥子さん、こんなに朝早くからどうしたんですか?」

 

冥子さんの目元が涙で潤み始める。

しまった会話の選択をミスったか、爆弾処理班になったつもりで対応にあたる

 

「玄関でお話もなんですから、どうぞおあがり下さい。お菓子とお茶を用意しますよ」

 

さっと、清姫に目配せをして用意をしてもらう。

 

甘いお菓子とお茶を飲んでようやく、落ち着いたのか先ほどよりは冷静さを取り戻しつつあるようだ。

持っていたカバンから一つの冊子を取り出し、無言で自分に渡してくる。

 

渡された冊子を捲れば、お見合い写真のような一人の男性の写真が貼り付けてある。

あっと声が出そうになるのを必死にこらえたが、これを見た瞬間に思い出した。

このお見合い写真のようなものは、お見合い写真ではなく果し合い写真だ。

冥子さんは式神デスマッチが嫌で逃げ出したのか・・・

ふっと、冥子さんの後ろに気配が生まれる、そちらに意識をやるとメイドのフミさんが現れる。

貴女はどうやって入ってくるんですかね?

 

「メイドで御座いますから」

 

いや、メイドさんだから何でも許されるわけではないんですよ・・・

しかし全無視で、フミさんが今回の顛末を説明を始める。

式神使いの一族に伝わる古いしきたりで、式神を使役して戦い、勝った方は負けた側の式神を所有することができる、但し使役者は直接殺めることは禁止、そういうルールのようだ。

ただ、自分の原作の記憶と違うのは、最後は暴走するが泣き言をいいながらも冥子さん自身が戦ったように思ったが、百歩譲って美神さんのところに行かないのは良い。

 

まさか、同じ式神使いとして代打してほしいということなのか?

 

「はい、横島様に変わってほしいと、冥子お嬢様が望んでおります。」

 

メイドさんは、人の思考まで読めるんですかね?

フミさんはクスっと笑いながら、さぁと出発を促す。

 

「横島様も準備万端のようですし、お時間も迫っております。」

 

いやいや、果し合いの立ち合いとして付き合うのはいいけど、代わりって相手が認めないのではなかろうか?

そんな疑問が脳裏をよぎる。

 

「ご安心くださいませ横島様、お嬢様は覚悟を決められました。」

 

それだけ囁くように言うと、いつもの車に乗り込み車は音もなく出発した。

覚悟ってなんの覚悟だよ。まさか12神将を手放す覚悟じゃないだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

~六道家~

 

フミさんに案内され、その後を付いていくと陣幕と結界が張られた場所に到着した。

 

陣幕の内側には六道冥奈さん、立合人として美神除霊事務所の御一行、そして件の果し合いの仕合人である鬼道親子が待っていた。

 

そして若い男が冥子さん見やり、ついでに自分をちらりと見てから口火を切る。

 

「鬼道 政樹です。よろしゅうおねがいします。」

 

 

なぜか僕は冥子さんに腕を掴まれ、そのまま鬼道さんと対峙する位置に立たされる。

 

「これは鬼道家と六道家の命運を賭けた真剣勝負、関係の無い方はご遠慮願おうか」

 

「横島優君は冥子の代理なの~~優君が負けたら~~冥子のお友達を全て手放すわ~~

でも~優君は絶対絶対負けないのよ~」

 

鬼道家の当主が吠えたと思えば、冥子さんも僕の手を掴んで負けじと言い返す。

売り言葉に買い言葉、冥子さんが十二神将を手放す発言をするとは、思いもよらなかった。思わず冥菜さんを見るが、にっこり笑って静かに佇むだけだ。

十二神将は六道家の金看板、それをただのいち従業員に六道家の命運を任すとはどういうつもりなんだ。

 

「ちょ、ちょっと待ってください。冥子さん何を言い出しちゃってるんですが、僕が負けたら十二神将を手放すって・・・」

 

「いいのよ~負けたらお友達が全ていなくなってしまうから~責任を取って優君のお嫁さんにしてもらうわ~~」

 

ちょっと待てい、このぼんやり暴走娘今すごいことを口走ったぞ。

 

「ほぉ、貴殿は先回のGS試験で優勝を飾った六道家の秘蔵っ子、式神使いの横島殿か

相手にとって不足はないが、突然相手を変えられても困りますなぁ。果し合いは真剣勝負ゆえ相手を変更するなら、こちらも条件を一つだしましょ。」

 

新米を相手にして勝てば六道家の十二神将が全て手に入ると、喜色満面の顔色を浮かべている鬼道父だが、足元を見てさらに物言いをつけてきた。

 

「横島殿が現在使役している式神は、人型を取れる極めて高度なものゆえ使用禁止とする。

ただそれでは果し合いとはならんので、十二神将を除く六道家が保有する物から式神を召喚し戦ってもらいましょうか

あぁ勿論、横島殿が負けた場合には、掟に従いその女性型の式神も頂く」

 

「勿論いいわ~優君は負けないもの~」

 

冥子さん、人の清姫まで勝手に賭けにベットするのは止めてください!

ちょっと冥菜さん、冥子さんにはビシっと言ってやってくださいよ。

チラ、チラと冥菜さんにアイコンタクトを送り、それを受け取った冥菜さんが口を開く

 

「鬼道ちゃん~家に事業のお金を借りにきて断られた腹いせなの~そういう嫌らしいとこ嫌い~」

 

いや、冥菜さんそれはそうなんですが、そういう視線じゃないんです。

なに言ってやったわって顔しているんですか

もうこのぼんやり母娘を相手にできるのはフミさん、貴女しかない

フミさんお願いします。なんとかしてください!

一縷の望みをかけてフミさんを探すと、六道メイド隊の陣頭指揮を取り蔵から刀を始めとする武具、防具を次々と運び出し、整然と並べ始めた。

 

そんなフミさんもこちらを見て、やりましたわとニコリと笑い、どれでも好きなものをお選びくださいと良い笑顔っておっしゃる。

 

いやいや、フミさんそうなんだけど、そうじゃないんですよ。

六道母娘にビシっと言ってやってくださいよ。六道家の命運を自分なんかに賭けるなんて、本当にみんなどうかしている。

 

あまりの事の大きさに及び腰になりながら、清姫を見る。

僕が見ていたことに気が付いた清姫はこちらをしっかり見ながら、いつもの綺麗な笑顔でこう言った。

 

「何時いかなる時も、どんな事があっても、死が二人を別れさせても

輪廻の果てを超えても、わたくしはご主人様と共にあり続けますわ」

 

自分の体に稲妻のような電気が走ったかと思うくらいの衝撃を感じた。

前の世界では生活の為に流されるまま、ブラックな労働条件で仕事をしていたが、

この世界にやって来ることになり、最初は命が惜しいから逃げるために、乗り物の運手技術を求めた。でも本当は少し、いや結構楽しみだったのだ。

だから、どうせなら原作に関われるように、前の世界のように流されるままでは良くないと思い、極めてポジティブな精神を持てるように神様に願った。そう願ってしまった。

 

顔が引きつっていたかもしれないが、清姫を見て精一杯笑った。

それを見て、清姫もさらににっこり笑い、ぽんぽんと優しく背中を叩いて押出してくれた。

 

世界蛇のエッカート少尉は言いました。ボスはどんなやばい時でも常に笑っているべきだと、そして全身義体の少佐も言ってました。上司のオーダーがきついのは信頼の厚い証拠だと思えと。

 

胸を張って、六道メイド隊が並べてくれた武具を一つずつ確認する。

鞘に金銀をあしらった美術品としても価値の高そうな豪奢な刀を始め、霊力にあふれた槍や鉾といった武具、何を切ったのか恨み骨髄といった様の妖刀まで色々と取り揃えている。

防具もこれはまた立派な拵えの甲冑を始め、僕の身長よりも大きい大盾など様々あったが

いまいち、自分の霊感というかこれだと言うものが見つからない。

しばらく見ていると、痺れを切らしたか鬼道父が隅に置いてあった、長い年月の間にくすみ古ぼけた感じのする自分の背丈ほどある大太刀を見て、こんな抜けもしない物にだれが使うのかと鼻で笑った。

 

しかし、自分はその大太刀を見て、長い年月の間にくすみ汚れてしまっているが、それでも尚未だに残る神性と鬼かそれとも大妖を斬ったのか、僅かに残る妖気が見て取れる。

他にも立派な霊刀、妖刀は他にもあったが、ここまで惹かれる大太刀は無かった。

迷わず手を伸ばし、この刀を媒介にして式神を呼ぶことにする。

 

「冥菜さん、この大太刀を頂きたい。」冥菜さんに了承をもらう。

 

式神と一言にいえど、六道女学院で使うような式神ケント紙を使った簡易的なものから

六道家に代々伝わる十二神将まで様々あるが、この刀を媒介に式神にするには神を降ろすくらいの大儀式が必要になると感じた。そして今更だが式神と便宜上言ってはいるが、実態は西洋魔術であるところのサーヴァントに近い物だ。実際術式もサーヴァント召喚の物と酷似している。

 

鬼道さんに向き合い高らかに宣言する。

 

「では、この大太刀を媒介に式神を召喚します。召喚が適ったらいざ尋常に勝負と行きましょう」

 

 

 

神降ろしの儀式のために、この場の穢れを清め祓う

六道家の敷地内なので、しっかりとした結界が貼られ清浄に保たれてはいるが

神域にはまだ足りない。

 

 

手に霊力を込めて柏手を打ち「祓い給え、清め給え 祓い給え、清め給え」と唱える

高天原に坐す 掛けまくも畏き天照皇大神

平に平に伏して願い奉る 

諸々の禍事、罪、穢れを祓い給え、潔め給えへと

恐れ恐れ申す。

 

ちょうど本日は晴天で、天照様の象徴である太陽も昇っている。

貴方の姉なのだから、もっとフランクなお願いでもいいのよと脳裏に聞こえると

この場の穢れ一切が祓われ、神域に近い清浄な空間となる。

 

さて、この大太刀からは神が出るか鬼がでるか

神ならば、この神域となったこの場なら活動できるだろうし、鬼ならば弱体化するので使役も割りと楽に出来るだろう。

 

清姫を式神にした時は清姫の同意があったから、すんなり式神となってくれた。

今回はそんな同意もなく、神乃至はそれに準ずるものを呼び出すのだ。

ありったけの霊力を文珠に込めて{召}{喚}する。

 

自分を中心に霊力のこもった暴力的な突風が巻き起こり、文珠に込められた霊力だけでは足りなかったのか、自分からどんどん霊力が吸われていく。

限界ギリギリまで霊力を絞りきったところで、暴風が止んだ。

思わず脱力してしまい、膝をついてしまうが視線の先にはほっそりとした女性の足が目に入る、どうやら召喚は成功したらしい

足元から辿っていき、視線を上げていくとそこには立派な二子山がそびえ立っていた。

 

「こんにちは、愛らしい陰陽師さん。……あら?座り込んでしまって大丈夫ですか?」

 

はい、と差し出される手を掴み、立ち上がることができてから、その立派なたわわに目が行くのを必死で堪え、漸くその顔を見ることができた。

 

垂れ目気味の優しげな眼差し、長く艶やかな濡れ烏の黒髪、見事なたわわながらスラリとした肢体

 

あの大太刀を媒介にして、母上(源頼光)を召喚してしまった。

あまりに思いがけない人を呼んでしまって思わず見れていると、頼光さんから声がかかる。

 

「あの……源頼光と申します。大将として、いまだ至らない身ではありますが、どうかよろしくお願いしますね?」

 

「はい、横島 優と申します。しがない陰陽師ですがよろ・・・ 危ない母上!!」

 

背後から頼光の胸を揉もうと忠夫君が「この爆乳は俺のもんじゃぁ~~!!」ととびかかってきていた。

とっさに、脳内変換していた母上と叫んでしまう。いや叫んでしまった。

 

人には到底抜けぬ大太刀を軽々抜刀し、雷のように目にもとまらぬ鋭く、そして速い一閃を繰り出すが、ある意味で人を超えた反射神経でマトリックスのように仰け反りかわした。

続けて二の太刀をもって腹から両断しようとしたところで、自分からストップの言葉がかかる。

 

「頼光さん!止まってください!!一応その人は敵ではありません」

 

「この男かつて平安の都で見たことあるような・・・・・・

ところで陰陽師さん、いえ優、いえいえ愛しい我が子。私のことは母と呼んでいいのですよ。先程も母上と呼んでくれましたよね。」

 

目の前で一応兄を真っ二つに両断されるのは回避出来てよかった。

しかし、いい加減この肝心な時に思ったこと話してしまう

失言癖なんとかならないか・・・・・・

考え事の最中に、ぎゅっと頼光さんに抱きしめられ、谷間に顔が埋まる

でへへへ、やっぱり失言癖があってもいいかも・・・・・・

 

その直後、鉄扇を手のひらにぱちんぱちんと叩きつけ、ガラガラベビが威嚇するように清姫が綺麗な笑顔で近づいてくる。

OK、清姫さんちょっと落ち着こうか

この人は母だから、婚約者とかではないから

 

え?胸に顔を埋めてだらしない顔をしていた?

ほら、あれだって、そう!親子のスキンシップだから、ちゃんと清姫も大好きだから、ね。

 

「おい、貴様!先程からこちらを無視して、召喚がかなったならば尋常に勝負せよ!」

 

あぁ鬼道親子を完全に忘れていた。

平安時代における最強クラスの武将が召喚出来た時点で勝ち確定だわ

今より遥かに神秘の多い時代に、鬼を初めとする大妖相手に戦闘を繰り広げ、その当時ですら半神として神性を獲得していたのに、現代では神社に祭神として奉られている。

頼光単体なら負ける要素が見当たらない、有るとすれば術者である、自分が狙われることくらいだろうか?

それも清姫が守ってくれるなら安心だろう

 

「頼光さん、召喚早々で申し訳ないですが、戦闘ですが掟に則った果し合いでもあります。式神以外は傷を付けないようにお願いします。」

 

鬼道政樹が夜叉丸の指示を出す。

 

「君を倒せば全部貰えるんやろ、女といちゃついてるようなやつには負けへん

  いざ尋常に勝負や!夜叉丸いてこませ!!」

 

対する頼光さんと言えば、すでに魔力放出が始まり全身に雷を纏っており、空間放電でバチバチという稲光まで見てとれる。

 

「愛しい我が子とのふれあいを邪魔するとは、万死に値しますね。」

 

そう言いながら、腰に付けている大太刀の柄に手をかけ何時でも抜刀できる体制を取る。

 

そして、夜叉丸が飛び掛かると同時に頼光さんの宝具が放たれる

 

牛王招雷・天網恢恢!

 

神鳴りと共に四天王が現れ、それぞれが強力な攻撃を夜叉丸に繰り広げ、最後には頼光さんの電撃を纏った一撃が夜叉丸を切り裂く

 

式神に対する攻撃の余波をくらい、鬼道政樹もノックダウン

そして、鬼道父を見れば先ほどまでいた場所におらず、遠くに走って逃げている姿があった。

 

夜叉丸が鬼道さんの影に戻ったのを確認する。夜叉丸を貰ったところで使い道もないし、自分自身が正当な式神使いでもないので、そのままお返しすればいいだろうと思う。

さて、一応果し合いには片がついたしこれ以上の戦闘行動も無いと判断していいだろう。

さて、頼光さんを送還するといますか

 

「頼光さんのおかげで、無事に果し合いにも勝つことができました。本当にありがとうございます。それでは送還しますので、暫くお待ちください」

 

「まぁ、私たちは愛し合う母と子の契約を結んだ身の上、貴方を置いて帰ることなんて出来ませんよ。母が虫共から守護して差し上げますからね。」

 

え?母と子の契約なんてそんな契約を結んだ覚えは無・・・・・・

また、ギュッと抱きしめれ顔が胸に埋もれる・・・

 

どうやら、母上が出来てしまったようです。あぁ本当に溺れて駄目になりそう

でもそれ以上に、綺麗な笑顔で近づいてくる清姫さんをなんとかしないと・・・・・・

 



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