ハイスクールD×D 転生者達は未来を求める (セキシキ)
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01 始まりは一つの出会い

初めに言っておきますが、この話はとあるSSの影響を多大に受けています。またハイスクールD×Dと言いつつ原作キャラが出ていません。

お読みの際はこれらの点をご了承のうえお進みください。


「三縞真悟です。趣味は読書と骨董品集めです。駒王町に来るのは初めてなのでまだ不慣れですが、どうぞよろしくお願いします」

 

本日、ここ駒王学園に転校してきた俺の第一声は、割とありきたりな自己紹介だった。

 

付け加えるならば、少しばかり超能力じみた力を持ってて前世の記憶がある転生者であるのだが、流石にそれを公言するわけにはいかなかった。病院送りにされるのが目に見えている。とは言え、この世界には恐らく転生者である何て系列が霞むほどの際物達がわんさかいるだろうが。

 

何を隠そう、俺が生まれ変わった世界は『ハイスクールD×D』、人智を超えた怪物達と怪物じみた超人どもが跳梁跋扈する冗談みたいな世界だ。

 

一応熱血バトル物ではあるが、主人公が脳みそ白濁してんじゃねえかってくらい煩悩全開だし、パワーアップも殆ど煩悩、時にはヒロインの胸をつついて覚醒するという出鱈目加減、おっぱいアニメと名を欲しいままにした人気作である。

 

そんな世界に例の如くカミサマとやらに、「逝ってら~」と物凄く軽いノリで送り飛ばされた俺は、何か特典っぽい能力を引っさげてそれなりにやってきた訳である。そしてこの度、家族の引越に伴い駒王町在住となったのだ。

 

勿論断って一人暮らしをすることも出来たのだが、長年疎遠になっていた両親がせっかく歩み寄ってくれたのにそれを無碍にすることは出来なかった。俺のせいで家族仲が破綻したというのにそれを無視できるほど、俺の面の皮は厚くなかったということなのだろう。

 

閑話休題。

 

さて、転入先は原作主人公である兵藤一誠とは違うクラスのようだ。後は力を隠して変なところで出くわさないように気をつければ平穏無事な日々をーーーー

 

 

「ごめん、少しいいかな?」

 

 

内心でガッツポーズをしていたところ、やんわりと声を掛けられた。これが女の子であったならラブコメの予感にドキがムネムネするのだろうけど、野郎相手だと何の感慨もない。

 

「俺は久遠聖人。せっかく同じクラスになれたんだ、これからよろしくお願いするよ、三縞くん」

「お、おう。よろしく、久遠」

 

差し出された手を恐る恐る取り握手を交わす。流石二次元の世界、こんな物語とかでしか見たことがないやり取りが実在するとは……!

 

「おっとそうだった、放課後時間は開いているかな?うちの部活を紹介がてら、色々と話してみたいんだけども」

 

 

……これはまた急な話だな。普通もう少し話してから誘うもんだと思うんだが……最近の若者はコミュ力高いんですね。とは言えまあ、流石に断るかなあ。今んとこ部活入る気ないし、下手に入ったとこが裏世界の住人の巣窟になってたらいやだし。

 

「あー……悪いんだけど、まだ荷物の片づけ済んでないからそっちやらないと―――」

「いやいやそう言わずに。せっかく仲良く成れそうなんだ、色々と積もる話をしようじゃないか―――同じ転生者の誼で、さ」

「なっ……!?」

 

こいつ、最後に何て言った!?聞き間違いでなければ、俺と同じ転生者ってことか……!?確かに他の転生者がいないと言われたわけではない以上可能性は考えていたが……それ以前に、なんで俺が転生者だと知ってるんだ!?

 

「で、どうかな?俺としては、是非受けて欲しいものなのだけれど」

 

突然の事態を前に内心パニックに陥っていた俺に、久遠はにっこりと微笑んで答えを催促してくる。最後の一言を小声で伝えてきたから、周囲の目がない場所で話をしたいんだろうが……こちらの情報がバレている以上ここで断っても根本的な解決にはならない。同じクラスだから毎日顔を合わせるし、悪魔や堕天使に情報をリークされれば最後、命を狙われるか保護という名の隔離措置を取られることになるだろう。故に、俺がここで取るべき最適解は彼の積もる話とやらに付き合って俺の情報を拡散しないという条件を飲ませることだ……こいつ確信犯のくせに何が受けて欲しい、だ。

 

「……わかった。行くよ」

「本当かい!?いやありがとう!断られたらどうしようかと思ったよ!」

 

此奴……っ!

 

敗北を認めるとともに、いつか絶対に泣かしてやると誓った瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

「着いたよ。ここが我々の城、古典研究部さ!」

 

廊下を歩いてしばらく、校舎の端にある部屋の前で久遠は高らかに声をあげた。部屋の扉にはそのまま『古典研究部部室』と書かれた張り紙があった。目的地はここで間違いないようだ。

 

「うるせぇ」

「ひっで」

 

思わず口を突いて出た俺の言葉に、何が愉快か久遠はカラカラと笑い、部屋のドアを開いて中に入る。

 

俺もそれに続けて中へ足を踏み入れる。部室の大きさは大凡教室の半分ほどで、中央に大きめの長机が一つあり壁際には疎らに本が詰められた本棚が鎮座している。---あれ、何かよく見たら魔導書みたいなの置いてね……?

 

「さて、改めて古典研究部へようこそ、三縞真悟くん。どうかな、うちの部室は」

「何かSOS団の部室みたいだな」

「まあ、そっちを参考にしたからね。あまり部屋は大きくないし、変な装飾とかする趣味はないから、シンプルになっちゃうんだ……さ、掛けて」

 

久遠に促され置かれていたパイプ椅子に腰掛ける。久遠は窓際へ歩を進めると、小さな丸テーブルに置いてある電気ケトルへ水を入れお湯を沸かし始めた。

 

「何飲む?一応、コーヒー紅茶緑茶ココア、色々出せるよ。インスタントだけどね」

「要らない。さっさと話とやらをしようぜ」

「つれない……というか慎重だね。まあ話終わったら、飲み物が欲しくなるさ」

 

何故か楽しそうに笑いながら、彼は反対側の椅子に腰掛ける。毒入れられる事を警戒してるのがバレてる……というかなんだこいつの態度、全部見透かしてるような話し方しやがる。

 

と、見咎めるような俺の視線に気づいたのだろう、慌てたように手を振って続けた。

 

「ごめんごめん、ふざけてるつもりはないんだ。フリーの転生者に会ったのは久々でね。しかもそれが同じようにクラスに転入してきたもんだから、少し舞い上がってるんだ。これからは気をつけるよ」

「フリーの転生者……?他にも俺達みたいなやつが……まあいるんだろうけど、フリーってどういうことだ?悪魔とかの勢力に取り込まれてないっていうことか?いやでも在野で隠れて生きるくらい出来るんじゃ……?」

「ああ、原作知識はあるんだね。手間が省けて助かるよ、知ってるのと知らないのとじゃ、説明量が違うからね」

「おい、それってどういう……」

「大丈夫、ちゃんと説明するから。いやー一度やってみたかったんだこういうの!」

 

そう言うと、久遠はどこからか手持ちサイズのホワイトボードを取り出し俺達のちょうど真ん中に置いた。

 

「まず最初、この『ハイスクールD×D』の世界は神に仕える天使、地上に堕ちた堕天使、契約の対価を得て生きる悪魔の三つ巴を中心として描かれている。俗に言う聖書陣営ってやつだね」

 

キュッキュと小気味よい音を発しながら久遠はホワイトボードの中央にそれぞれの勢力の名前を書き入れ、それらを頂点とする三角形を書いた。わざわざトライアングルの中に『聖書』と文字を追加している。

 

「因みに、兵藤一誠はすでにレイナーレに襲われて悪魔になってるよ。そこら辺のストーリーは大丈夫?」

「ああ、散々二次創作読み漁ってたからな。大まかには覚えてる」

「それは重畳。それじゃ続けようか」

 

久遠は再びペンを持ち直すと、ボードへ更に何かを書き足していく。

 

「他の神話群、日本神話を始めギリシャ、北欧、インド、須弥山などの原作に出てきた奴らの他にもエジプト、アステカ、ゾロアスターとかの土着神話はちゃんとあるよ。聖書陣営との和平する気なんてないだろうけどね」

「……聖書陣営に食い荒らされたからか?」

「その通り。支配地域に無理矢理入り込まれて信仰根刮ぎ横取りされたからね。おかげで彼らの規模はかなり小さいよ。神様はいても信者が残ってないから、パワーダウンは免れない。あ、ちなみに有名はケルト神話とローマ神話は壊滅状態だよ。それぞれイギリス聖教とバチカンに本拠乗っ取られてるからね」

 

山奥やらギリシャやらに逃げ延びたみたいだね、とついでのようにいいながらそれらを小さめに書き込んでいく……ってあれ?何でわざわざ外側に書いてるんだ?これじゃあスペースかなり余るぞ?

 

「さてここからが本番だ。取りあえずそうだな……原作で英雄派と呼ばれていた連中だけど、こっちでは禍の団から抜けて『自警団(ヴィジランテ)』と名乗り神話生物から人間を守るために活動しているよ」

「……は?えっ―――はぁぁぁぁぁぁ!?」

 

原作では人間が化け物達に勝てるかどうかを試すために聖書陣営に戦いを挑みながら、仲間を使い捨てにしたり割と外道な事をしまくってた英雄派、そんな彼らが人間を守るために活動して、しかもテロ集団である禍の団(カオスブリゲード)を脱退している?一体何がどうなってんだ!?

 

「英雄派にスカウトされた転生者数人で意識改革起こしたみたいでね?今は神器を持って生まれてしまった人や神話生物の被害者達の保護とかを中心に活動してるんだ」

「何をどうしたら、そんなニチアサの秘密結社からヒーローにジョブチェンジ出来るんだよ……」

「まあそこは、内部改革した奴らの努力の賜物だろうね。二次創作ではそういうの多かったけど、それを実際にやってのけたんだから」

 

言うは易し行うは難し、それを行うのは一種のコミュニティーの価値観を丸ごと覆すことと同義だ。きっと計り知れない努力があったのだろう。復讐や恨みつらみで動いていた人さえも、自由と未来のために戦うヒーローに変えてしまったのだから。

 

「愛と平和のために戦うヒーロー集団みたいになってからは、それに憧れて参加する神器使いが続出してね。保護された人達ですらメンバーに加わり、原作から各段に規模が大きくなってるんだ。幹部とかの入れ替わりはあるみたいだけど、神器使いの数では全勢力トップじゃないかな?」

 

そう言って、ボードに自警団と書き込み大きめの丸で囲む。恐らく組織としての規模を分かりやすく表現していると思うのだが、その大きさは三竦みの半分弱。テロリスト上がりと考えればかなりの成り上がりだろう。

 

「それで次はぁ……英国国教会かな」

「イギリスの国教か。確か本家本元である教会から独立したんだっけ?」

「うん。政治的思惑も絡んでたけど、元々はイギリス国王の離婚問題を皮切りにローマ教会から離脱した連中だよ。原作では特に描写もなかったし教会の一勢力に留まってたみたいだけど、こっちじゃ転生者が入り込んだからねえ」

「えっ何その言い方怖い」

 

さっきの話があるから、転生者が入り込んだって文言だけでいやな予感が止まらないんだが?

 

「現在では"裏"的な意味でも教会から独立して、女王に仕え英国を守ることを第一義にしているよ。彼らにとって最優先されるのは大天使などではなく、誇り高い女王陛下なのさ」

「でも、それならただの宗教抗争だ。よくあることだろ?」

「そうだね、それがイギリスでなければ、特に問題もなかったんだけどねぇ……」

 

何だその凄まじく不安を煽る言い方!?

 

「国教会……というか女王直属で神話群から英国を守る秘密組織が出来ちゃったんだ。その名前はその役割からある漫画を由来として付けられた。その名も『王立国境騎士団』、ヘルシング機関とも言われているね」

「……アーカードみたいなのいないよな……?」

 

『HELLSING』に登場し主人公達が所属していた、英国を化け物から守るために戦う秘密組織。そして不死者(ノスフェラトー)死なずの君(ノーライフキング)と畏怖される最強の鬼札(ジョーカー)を引き連れる英国最後にして最強の砦だ。いくら名前を借りているだけと分かっていても、ジョーカーの存在を確認するのは、当然の心配である。

 

「どうだろう、教会と悪魔以外はほとんど敵対しないし、戦って帰ってこれる人が少ないから情報が出回ってないんだ。強い奴はそりゃいるだろうけど、アーカードほど規格外なのはいないんじゃないかな?」

「それを聞いて安心したぜ……死の河なんて出されたら、もうどうしようもないしな」

「まあ、彼らの活動地域はほぼイギリスに限定されてるから、会うことはないと思うよ?イギリスに行ったとしても、敵対さえしなければほぼ無害だって話」

 

久遠は英国国教会と王立国境騎士団の名前を書くと一つの円で囲う。しかしよかった、今のところはまだ危険だと確定してる勢力がほぼないのは救いだ。頼む、このまま何事もなく終わってくれ……!

 

「長くなってきたし巻いていこうか。『財団』と『企業連』は纏めて話しちゃおう」

「纏められる程度の組織力なのか?」

「いんや、規模は聖書陣営と並ぶくらいビッグスケールだよ。ほぼ世界中が活動範囲だからね。ただ活動内容はシンプルでね、財団は超常や異常なモノを確保し管理もしくは破壊する秘密結社。逆に企業連はそう言ったものを自分たちの利益利用を目論む多国籍企業群の連盟。企業連は表向きは普通の大企業の集まりだけど、裏で色々な研究をして表の活動に活かしてるのさ」

 

いきなりスケールがグローバルになって困惑を隠しきれないのですが……まあ異常を排除する・利用っていうそれぞれの理念は十分理解出来るけどさぁ……多国籍企業とか、住む世界が違いすぎるわ。

 

「彼らは自分たちの理念に基づいて異常なモノ……つまり神器や能力者、人外などを収集してるから危険度は一番高いかもね。一応財団と企業連の本拠地はそれぞれ欧州と北米だけど、活動範囲は世界全土。更にはそれぞれが独自の技術や戦力を保有していて平然と投入してくるから、いつ特殊部隊とかが襲ってきても可笑しくない。特にこの町は人外の宝庫だからね、日頃から注意を怠らないで欲しいんだ」

 

やっば……やっば……(語彙力)

 

余りの現状に開いた口が塞がらないわ。何だよ世界規模の秘密組織が襲ってくるって……原作より尚酷くなってねえか!?

 

「後はそうだな、『協会』くらいかな?まああそこは魔法とかの研究のみを目的としてるから、ほぼ害どころか接点すらないんだけどね」

「つまり、魔法使いってことか?でも元々魔術結社とか色々なかったっけ?」

「彼らが他の魔術結社と大きく異なる点は、『人間のための人間による人間の研究組織』であるということさ。灰色の魔術師みたいに悪魔が創設したり、一般的な魔法使いが悪魔との契約を望んだりだとかを嫌った転生者達が作り上げた組織でね、人間の技術に悪魔が介在することをよしとせず、人の手による学術的探求を何より貴んでいるんだよ。だから彼らは自らを魔法使いと区別して、『魔術師』と名乗るっているんだ」

 

随分と粋なこだわりを持った奴ららしい。創設したやつらさては型月とかそこら辺のファンだな?(確信)

 

「さて、大体こんなもんかな?教義に反するモノを殲滅する教会の『異端審問会』とか、日本国内の魔を狩る『対魔機関』とか、転生者の根絶を目指す『狩人』とか。あ、古き良き『暗殺教団』とかもあったなぁ」

「待て待て待て待て待て!!なにまだそんなのあんの!?こわっこの世界こわっ!」

「ははは、大丈夫大丈夫。雑多な組織は色々あるけど、ほとんど活動が小規模で驚異度も低いところばっかだから。逆に言えば、さっき上げたところは少なからず影響があるかもしれないってことだから、注意を怠らないでね」

 

久遠は朗らかに笑いながら組織同士の相関図が出来上がったホワイトボードを端によける。改めて見ると、凄まじい組織の数と規模だな……今まで出くわさなかったのって、もしかしてかなりラッキーなんじゃなかろうか。

 

そこまで思って、ふと浮かんだ疑問を久遠にぶつける。

 

「そう言えば、禍の団ってどうなったんだ?英雄派とか抜けてるし、真っ当な転生者ならあんな泥船絶対に乗らないと思うんだけど」

「…………ああ、そうだった。その話もしなきゃいけないんだったね」

「え、さっきので終わりじゃないの?いやだ、もう聞きたくない……おいやめろ聞きたくないって言ってるだろ!」

 

原作の敵であった神話系テロ組織『禍の団』。ことある事に主人公達の前に立ちはだかった強敵揃いだがその実幾つもの派閥が徒党を組んだだけの烏合の衆であり、トップもお飾り目的もバラバラで明確なビジョンもなし。こう言ってはなんだがただ迷惑なだけの敗北が当然というような連中だった。

 

更にこの世界では英雄派……今は自警団だったか、も離脱しているし転生者もわざわざ組みそうとは思わないだろう。そんな軽い気持ちで聞いたんだけど……なんかヤバそうなふいんき(変換できない)

 

「まず覚えておいて欲しいのは、この世界には勢力図を単独でひっくり返せるような『傑物』が何人も存在しているということ。下手に関われば終わり、何て奴が転生非転生関係なくいるから、気を付けて欲しいんだ」

 

今までの楽しそうな表情から一転して、どこまでも真っ直ぐこちらを見つめる久遠。それを見ただけで、この話題がどれだけ深刻なまでに重要かを否が応でも理解させられた。

 

「とりあえず取り急ぎ教えなきゃいけないのは三人かな」

「とりあえずって……まだいるのか?」

「そうだね、大体6,7人くらいかな?今から上げるのは、その中でも関わる可能性が高い人物だよ」

 

……久遠の真剣な態度に、思わず姿勢を正す。きっとこれは、この世界に生きる連中にとって絶対に忘れてはならないような、大事な話なのだ。

 

「まず一人目は『魔女』。危険度もさることながら、何よりもこの駒王町に住んでるからね」

「この世界の魔女とは何が違うんだ?」

「何もかもだよ。能力強度も次元が違うし、体質なのか魔法などが一切効かないから物理的に打倒しないといけないのに肉体強度も並外れて高い。そして何よりも、絶対に負けないんだ、彼女は。勝利への道がどれほどか細くとも必ずそれを掴み取る。だから敵対した段階でほぼ負けてるんだよ。一体幾つの組織が彼女と相対して消し去られたのやら……」

 

とんでもない話だ。魔法効かないのに頑丈で必ず勝つとか、どこの俺TUEEEEだよ。

 

「二人目は、自ら『奇策士』と名乗ってる男だ。裏で生きるモノ達にとっては、一番のアンタッチャブルだね」

「『奇策士』って……わざわざその名前を肖るのか。もしかして四季崎とかか?」

「さあ?誰も彼の本名知らないからね。彼は『魔女』と違ってどこかに留まらないけど、逆にどこにでも現れる。捉えようとしても絶対に捕まらず、逆に厄介事が降ってくるから、もうだれも彼に関わろうとしないんだ」

「神出鬼没なやつなのか」

「その上傍迷惑だね。彼は戦闘能力はゼロに等しいけど、逆に知略と謀略に長けていてね。自身は手を汚さず他者を誘導し、最終的に滅ぼしているんだ。操られている自覚なく彼の操り人形になっている恐ろしさから『人形遣い』何て異名もあるくらいさ」

「『攻殻機動隊』か……確かに厄介極まりないな」

 

ネットを経由して電脳に侵入し人々を無自覚のうちに操った電脳犯罪者。彼の場合はある意味正義感によるものだったが、それでもその行いは高度な情報犯罪だ。そんな彼の名を肖るような人物……これまた絶対に相手取りたくない奴だ。

 

「因みに眉唾物の噂だけど、この二人、『三度目』の転生者なんだって」

「…………は?三度目?」

「うん。つまり彼らは既に二度別の世界で生きてきて、今この世界で三度目の人生を送ってるんだってさ」

 

やっぱり眉唾物だけどね、何て久遠は笑うが、こちらはそれどころではない。三度目?そんなこと有り得るのか?いや、二回目があったのなら、三回目がない理由にはならないな。『有り得ない何て事は有り得ない』って言うし。

 

それに三回目があるならそれだけの強さも納得だ。何せ別の物語を一度切り抜けた、強くてニューゲーム状態だ。ただ特典として貰った能力を使えるだけ(・・・・・)の俺達よりも遥かに格上なのは、当たり前の話でしかない。いやそれってかなり不味くないか!?もし間違っても敵対することになったら俺程度じゃ手も足も出ないぞ……!

 

「……うん、いいね。」

「くっそ、物理攻撃効くのは助かるけど強度がわからないとなぁ……裏から操られるの何て、相手に知られない程度しか対策思い付かないぞ……」

「思案中悪いけど、話を続けてもいいかい?」

「……あっ、すまん。続けてくれ」

 

いけねえいけねえ、いつの間にか思考の海に沈んでいたらしい。話の最中にそれは流石に失礼だ、気をつけないと。それにしても、久遠が何か満足げな表情だけど一体……?

 

「さて、これが最後だ。彼には特定の呼び名がない、露出する機会も特徴も少なく、これと言って呼び表すことが出来なかったからだ。あえて言うなら『彼』か……本人は嫌がってたらしいけど『本物(オリジン)』くらいかな。彼はね、凡百の非転生者でありながら修行を重ね、百年で夢幻と同じレベルにまで辿り着いた、本物の超越者だよ」

「夢幻って……グレートレッドか!?まじかよ……」

 

ハイスクールD×D世界に於いて最も強大な力を持つと言われている真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)と同格に至った?凡人がたった百年ぽっちの修行で?一体何の冗談だ……?

 

「転生者からは畏怖と尊敬と嫉妬の念を一心に集めてるよ。誰もそんなのに手は出せないけどね」

「そりゃ選ばれたモノって意識が強い奴らからすれば目の上のたんこぶだろうなぁ。確かに本物と言われる資格あるわ。今は何してんだ?」

「オーフィスの伴侶として禍の団のトップしてるよ」

「oh……こりゃ聖書陣営終わったわ」

「まあ殆どの活動は下に任せて、オーフィスとイチャイチャ世界回ってるけどね」

「oh……」

 

まさかの彼女持ち(勝ち組)でした。しかも相手が無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)って言うのがすげえ。もしかしたら、好きな女(龍)のために強くなってたりしてな。強く成れるよ、愛は負けないってことかね……。

 

「そんなわけで、禍の団もまだまだ現役だからね。あまり侮らないように。慢心、ダメ、絶対」

「アッハイ」

「さてと、これで全部かな。何か質問は?」

 

久遠が体を解すように伸びをしながら聞いてくる。その声はさっきの真剣なものではなく、最初の緩い雰囲気に戻っていた。……とは言え、俺にとってはここからが本番だが。

 

「お前はどんな立位置だ?何で俺に話をしようとした?」

「その言葉が聞きたかった!」

「藪医者のモノマネが聞きたいわけじゃないんだが?」

「ええ~?」

 

コイツ……!こっちは真面目に聞いてんのに……!

 

「ゴメンゴメン、軽いジョークさ。僕はそうだな、言ってしまえば中立……もしくは外様かな。余程じゃなければストーリーには関わらないし、関わる気もないよ。こうして部活に誘ってるのは、気が合う友人と話せる場が欲しいだけさ。同郷同士じゃないと通じないネタ話とかもあるだろ?」

 

この世界の娯楽は、大体は元いた世界のパチモンしかない。そのせいでかつて使っていたネタが悉く使えず俺も難儀した物だ。どうしよう、すげえ気持ちわかるんだけど……いや、そこで流されてちゃダメだろ!

 

「それを信じれる証拠は?」

「ないよ。強いて言うなら、君の心の中にあるかな」

「クサいこと言いおってからに……」

 

結局のところ、俺の審美眼次第が……人を見る目自信ないんだけどなぁ。

 

顎に手を当てて考えること暫し、俺の出した結論は―――

 

「……部活の活動内容は?」

「そっくりそのまま、古典文学の研究かな。古典読んで時代背景とかを分析するのさ。時々古文書とか漁って、魔法や陰陽道とかも研究してるよ。まあ部員は部長の僕含めて二人しかまだいないけどね……」

「……わかった。三縞真悟、改めて宜しく頼むよ、部長(・・)

「!うん、よろしく、真悟!僕のことは聖人で良いよっ!」

「お、おう。よろしく、聖人」

 

今までの会話から彼を信じることに決めたはいいんだが、何か急にテンション上がってんな……どうしたんだ?

 

心の底から嬉しそうにする聖人(・・)に小首を、傾げていると、彼はニヤリと笑ってこう言ってきた。

 

「それで?何か飲み物は?」

「……緑茶で」

 

それはそれとしてやっぱ腹立つなコイツ!

 

 

 

 

聖人が入れてくれたお茶を飲みながら十数年振りのネタトークを満喫していた時である、軽快な電子音が部室に鳴り響いた。

 

「あ、もしもし~。どうしたのー?」

 

聖人が自身の携帯をカバンから取り出して話始める。流石に内容聞くのはマナー違反だと思うので、聞かないように努めてお茶を啜った。

 

どうやら要件は少なかったらしく、一分足らずで電話が終わったのでそれに合わせて聖人に話を振ってみた。

 

「短かったけど、どうした?」

「うん?ああ、ちょっとした連絡だよ。一誠が悪魔化したのは話したけど、各組織は基本原作進行を静観してたんだ。良いところで得しようと機を伺ってるだけだけどね」

「まあそれが一番得か。それで?」

 

お茶請けの煎餅を齧りながら続きを促すと、聖人は困ったような顔をしながら続けた。

 

「うん、ちょっと問題が発生しててね。本来ならもう駒王に着てるはずのアーシア・アルジェントを、だれも確認してないんだ。本来所属してるはずの堕天使勢力ですら影も形も見てないらしくて、取り込むことすら出来ていないみたいなんだ。それで敵対してる組織通しですら連絡取り合って、行方を探してるんだ。彼女がいないと原作始まらないからね」

「へー、アーシアいないのか……ん?」

 

久遠の話を「皆大変だなー」と締めようとして、聞き覚えのある単語に引っかかりを覚えた。その理由を確かめようと記憶を遡り……思わず頭を抱える。

 

「だからわざわざ僕まで話が回って……あれ?どうしたの真悟?」

 

突然不自然な挙動不審を見せた俺に心配そうに声をかける聖人。言いたくない、言いたくないけど……言わなきゃダメだよなこれは……。

 

少し気後れしつつも、覚悟を決め、ゆっくりと声を発する。気分は懺悔する犯罪者のそれだった……。

 

 

「……アーシアが見つからないの、多分、俺の所為だわ……」

「………………はぁ!!?」

 

聖人の驚いた声、始めて聞いた気がするなぁ……(現実逃避並感)

 

 

 

 

 

 




何のSSから影響を受けたかは皆さんならばきっとお分かりになるでしょう。これを書いたのもそのSSを読んで「こんな世界観の話書きたい」という想いを抱いたからですし。

というか、本来はもっと文量少ないつもりだったんですけどね、興が乗ってどんどん増えていってしまいました。設定厨を調子乗らせるとどうなるかといういい見本ですな。

何かもう色々書きなぐった気がしますがやりたかった事できたし楽しかったので大満足です。あとは皆さんの趣味に会うことを祈るばかりです。一応構想は考えてあるのですが、続くかどうかは私にも分からん。


以下本編の補足及び元ネタ解説です。長いので興味なかったら見なくてもいいよ。

自警団……ヴィジランテ。二次HDDでテンプレとも言える『ヒーロー』に目覚めた英雄派。仮面ライダーをこよなく愛する転生者たちの努力によって人類の自由のために戦う戦士の集団へとその姿を変えた。特に元ネタはないけど、名前の元は多分ウォッチドッグス。

英国国教会、王立国境騎士団……本編の記載通り『HELLSING』よりそのまんま。原典と異なり一族が率いているのではなく複数人で運営される体系的な組織となっている。アーカードクラスの超抜級がいないことを願うばかりである。

財団……人類の未来と平和を守るために活動する組織。人の為に戦うのは自警団と同じだが此方はより人類全体の維持を目的とする。戦闘能力持ちは少ないが、製作系の特典を持つ転生者が特異性質を持つ物品を作り投入することで他組織と拮抗している。その業務内容から企業とは敵対関係にある。元ネタはSCP財団と要注意団体、世界オカルト連合。きっと機動部隊とか出てくれるはず(願望)

企業……表向きは普通に活動しつつ自分たちの利益の為に超常的なモノを蒐集、研究する多国籍企業連盟。1,2世代分図抜けた高い科学技術力を持ち、それらで武装した兵士を動員し世界中で暗躍している。米国を拠点とし、政府とのパイプによって軍すら動員できる影響力を持つ。ほぼすべての組織と敵対中。元ネタはアーマードコアシリーズの『企業』群と対魔忍シリーズの米連。

協会……人の手によってのみ魔法(魔術)を探求することを目的とする研究組織。HDD世界の魔法使いが悪魔前提で成り立っているのが気に入らなかった作者のこだわりによって造られた。ぶっちゃけ初期段階ではこんなのなかった。元ネタは勿論型月シリーズの『魔術協会』

異端審問会……異教徒に対する異端審問という名の殲滅を行う教会の内部組織。ほぼ生身の人間ながら上級悪魔を打倒できる化け物じみた連中で構成されており、人数は少なくともその異名を轟かせている。元ネタはまたもやHELLSINGの『十三課(イスカリオテ)』

対魔機関……日本政府子飼いの特殊機関。元ネタはその名の通り対魔忍だが、あちらの世界とは違い慢心をせず簡単には心折れないプロの集まりなのでご安心。

暗殺教団……多分本編が続いても出てこない。Fateではなく、アサシンクリードのほうのアサシン教団。

ちなみに、『魔女』の原作はすでに決めてあります。みんな、わかるかなー?(唐突な子供番組感)


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02 実は元凶だった男の昔語り

お久しぶりでございます。一話投稿がニ年前とかまじぃ?

続かないかもとか言ったけど、脳内で構想がガンガン捗ってしまったので続きます。一話当たりの文章量減らして更新頻度少しでも上げれるよう頑張るので、よかったら見てって下さい。

その分誤字とか文章可笑しいとこがあるかもしれんけど大目に見てね!(懇願)


この話をするためには、俺三縞真悟の生い立ちというか、経歴から話さなきゃいけないんだけど……え、いい?寧ろ聞きたい?もの好きだなお前。まあ、そう言うなら……少し長くなるぞ?

 

俺が生まれ落ちた先ってのが熱心なキリスト教徒の夫婦でさ。ああ、裏に関わってたりとかはしてないぞ?ただ信仰に篤いってだけの、ごく普通の両親だったんだ。

 

そんで当然、俺の生活も二人に合わせて教義中心に回るようになってさ。食事前には天に在す我らが父よみたいなこと長々言ったり、何言ってんのかよくわからんミサに出向いたり、こういっちゃなんだけど毎日キリスト教徒ごっこさせられてる気分だったよ……いや?別にそれについては特に思うことないぞ?両親がよく育つようにってしてくれてたことだし、前世の幼稚園とかでも似たようなことしてたし。まあそっちは仏教だったけど。

 

とまあそんなこんなで特に信仰心とかないまま形だけ熱心にしてたら、何を勘違いしたんか知らないけど海外の修道院?みたいなとこに入れられちまってな。今まで以上に24時間毎日毎日教えを良く守り学びましょうっつってさ、いやぁ辛かった辛かった。無宗教者が行くもんじゃないねありゃ。

 

……っと、愚痴になってたな、すまん。さて続きだな、そこでは信仰に篤い奴と教え守ってるんだかわからないような、言ってしまえば不良みたいな奴が一辺に集められて共同生活させられたんだ。多分お互いのことみて信仰の大切さとか知って欲しいとかそんなところかね。でも、もうそんなこと関係ないですけどね!

 

ライド並感。んで、そん中にアーシアがいたんだよ。アイツ当時から『聖女』として崇められてたみたいで、院の中でもVIP待遇だったな。当時は彼女が何でいたのかわからなかったけど、多分良き信仰者の見本みたいな感じだったんだろうな。あそこ結構な問題児も多かったし、それを矯正する意味もあったと思う。んで、最悪なことに俺はその『手本』の一人として集められてしまったというわけだ。完全に日頃の行いだな。

 

まあやることはいつもと変わらず礼儀作法だけ守って熱心なふりしてるだけだったんだけど、ガキどもの世話がめんどくさくてなあ。共同生活する中で必然的に信徒と問題児が対立してたから、毎日のように喧嘩してたよ。口喧嘩だけならいいんだけど、あやうく暴力沙汰になりそうだったから、仕方なく止めに入ってたんだ。何せあいつら、アーシアが止めようとしても話聞くどころか、ますますヒートアップするんだもの。

 

んで、そんなこと繰り返してたら何か懐かれちゃってな。大人から評価されるのはそう振る舞ってたから当然だけど、一体全体なーんで子供たちに一目置かれたのかさっぱりだ。間入って頭はたいてそれっぽいお説教垂れてただけなのにな。

 

まあそんなこんなで大体一年くらいかな、修道院での生活は。上から解散命令が出て、みんな元の居場所に帰ってったよ。面倒多かったけど、あれはあれで穏やかでいい生活だったなぁ……。

 

……とと、わるいわるい、つい懐かしくて。あーそれでその後か。

 

解散した後は家族のところに戻って今まで通り、敬虔な信徒を演じる毎日さ。ん?辛くなかったか?いや別に、もう慣れきってたからなぁ。ここまで来ると作業みたいなもんだし、適当にそれっぽくしてれば何とでもなったからな。

 

 

ーーーまあ当然、そんな欺瞞すぐに暴かれてしまうんだが。

 

いや、最後までバレなかったよ。原因は俺じゃなくて外部要因でね。ニ年前くらいかな、神の御加護ってやつ?それを授けますとかいう儀式みたいなのやったんだよ。んで、その御加護ってのが信仰心の深さによってより強くなるって代物でさ。

 

 

うん、バレたよね。信仰ゼロだもの、加護なんてあるはずないわな。

 

 

後はまあ転げ落ちるみたいに信用失い、破門されて親泣かせて逃げましたとさ。めでたしめでたしってオチ。その後は日本に戻って完全な一人立ちさ。仕送りもない一人暮らしってのはキツかったけどまあ何とかなったし、何より誰彼憚ることなく自由に出来たから楽しかったけどな。

 

ーーーーっと、しまったしまった。アーシアの話しなきゃいけねえのに、すっかり自分語りしてしまった。悪い悪い。

 

確か、ちょうどアーシアが教会から追放されて少し頃だったかな。日本で世話になってた人に頼まれて、一度ヨーロッパに行ったんだよ。魔法関係の品が必要だからーって灰色の魔術師【グラウ・ツァオベラー】にお使い。お使いついでに面白いものも買ってホクホクしながら歩帰ってたんだけど、そこでアーシアが行き倒れてんの見つけちゃってさー。いやー、一瞬死んでんのかと焦ったけどね。

 

そんでここであったんのも何かの縁ーって数日間彼女に付き合って、そこで助けになればと思って幾つかマジックアイテム渡したりしたんだけどさ。その中に透明マントみたいなものもあって、多分見つからなかったのはそれだと思う。あれ、視覚だけじゃなくて聴覚嗅覚に加えて赤外線とかの光波とかも遮断する代物だから、索敵に引っかからなかったんじゃないかな。

 

……え、その後?いや、普通に別れたけど。面倒見ようとは思わなかったのかって?いや思ったけどさ。俺も生活に余裕なかったし、アーシアも何も言わなかったし。

 

……解ってるよ、それくらい。でもさ、それは俺じゃなくて、愛と勇気を胸に戦う主人公君の役割だと思うんだ。それを横から掠めとるのは、ただの恥知らずさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「とまあこんな感じかな。透明マントモドキで逃げ切れるとは思えんが……何か質問は?」

「正直アーシアの件どうでもいいから真悟の家庭事情掘り下げていい?」

「いかんわどあほう。そっちがアーシアと俺の関わり聞いてきたのに主旨変わってんじゃん!どうでもいいの俺の事情は!」

「そんなこと無いわ!アタシそう言う話弱いから……うぐっ、ひぐっ……あ、もう駄目想像しただけで泣きそう。辛かったでしょうねぇ……っ」

「おいやめろ、俺にはラノベヒロインみたいにお涙頂戴な不幸話なんざないってか誰だお前は!?」

 

 

 

うっかりアーシアと関わりがある事をばらしてしまい、仕方なく過去語りを敢行した俺であったが……コイツラちょっと自由すぎない?しかも話してる間に知らない人増えとるんやけど。誰やコイツ。

 

「ああ、紹介してなかったね。彼女は高木音寧、さっき話したもう一人の部員だよ」

「音寧です!これからよろしくね、真悟君!」

 

高木音寧(たかぎおとね)という名前らしい彼女は片手を上げて溌溂とした様子で話し掛けてくる。

 

ミディアムヘアの黒髪に黒目と容姿は典型的日本人な少女なのだが、何故か学生服の上から黒いローブととんがり帽子を装備している。因みにAPPはざっと14程度、クラスで3番目くらいの美少女という奴である。

 

「で、その格好何?コスプレ?」

「ふふん、聞いて驚け見て笑え!こう見えてわたし、魔法使いなんです!」

「見たまんまだが?」

 

ドヤ顔してる所悪いんだが、ねるねるねるねのCMに出て来そうな格好されたらそうとしか見えない。というか、ここまでテンプレートだと最早ギャグだな。

 

「とりあえず渾名ねるねるねるねだな」

「やめて!割と散々言われて傷付いてるんだから!」

「会う転生者皆から言われてるよねぇ」

「まったく、失礼にも程があるよ!」

 

じゃあ格好変えろよ……。

 

俺達が何でもない会話を続けていると、二回手を鳴らす音が甲高く響いた。

 

「はいはい、冗談はこれくらいにして、話進めるよ?」

「あいよー」

「……ねぇ、私は冗談ではないんだけど。聞いてる?ねえ!?」

 

音寧が聖人にしがみつき肩を揺さぶる中、聖人は全く動じずお茶を啜る。うん、二人の関係性読めてきたぞぉ!

 

「んで?話し戻すって言っても、俺大体話したぞ?」

「つまり、真悟はアーシアの足取りは分からないし連絡も取れない。そういうことでいいね?」

「ああ、偶然行き会っただけだからな。あいつ連絡手段なかったし、もう会うこともないだろ」

「……連れて帰ってくればよかったんじゃないの?こういったら何だけど、確実に付き合えたと思うわよ?」

 

……音寧の言葉に思わず口を噤んでしまう。確かに、あの時アーシアに「家に来るか?」と一言言うだけで、謂わばお持ち帰りが出来ただろう。転生者としてはそっちのほうが正しいんだろうけど……なぁ。

 

「原作に関わらないようにしようってのもあったけど、それ以前に女の子を装飾品みたいに扱うのは、ちょっとなあ。しかもアーシア、普通に知り合いだし……」

 

よくある二次創作のように、女の子侍らせてハーレムとか出来るなら、前世でとっくにやってるわ。流石に人をゲームのヒロインよろしく攻略対象として見るのは抵抗がある。あの時俺の目の前で息衝き、話したアーシアは決してラノベのキャラなどではなかった。

 

「それに生活に余裕があったわけじゃなかったしな。今でこそ親と暮らし直してるけど、二人は敬虔な信徒だからアーシア受け入れるの難しいだろうし」

「フーン……ま、よくあるオリ主みたいに都合よくは行かないよねっ」

「え、なんでそんなにウッキウキなんだ?」

「転生者って、どうも原作キャラを人間ではなくキャラクターとして見ることが多いからね。そういう人って、そもそも疎まれることが多いんだ」

「新しい部員がまともな人で良かったなーって思って!」

「ああ、なるほどな」

 

確かに、原作キャラと仲良くしてあわよくば……ってのは多そうだな。正直、俺も彼らをキャラクターとして見てるってところは否定できないしなあ。アーシアの場合は、面と向かって話したことがある知り合いだから人間として見てたってだけだし……。

 

でもそうか。確かにキャラとして上から目線で接してたら、嫌われて当然だよな。俺も相対するときは気を付けないとな……いや、原作に関わる気はないけれども!

 

「まあそれは置いておくとしてだ。アーシアの件、結局どうすんの?」

「真悟は連絡取れないし場所もわかんないんでしょ?なら僕たちは静観でいいでしょ。わざわざ関わる必要はないしね」

「ふーん。お前はそれでいいの?連絡回ってくる程度には他の連中と繋がりがあるんじゃねえの?そっちへの義理立てとかさ」

「……。嫌、あくまで連絡網っていうだけだから大丈夫さ。別に取引とかしてるわけじゃないから、情報共有の義務はないさ」

 

だから気にしないで、と笑う聖人。まあ、俺に出来る事なんもないし、それ以外にないわなあ。

 

「しかし、堕天使勢力もアーシア囲ってないのか。これ原作どうなるんだ?」

「さあねえ。兵藤一誠は悪魔化してるし、大筋は問題ないんじゃない?この混迷とした世界で『原作』が意味を持つかは疑問だけどさ」

「あー……」

 

よく考えればそうだよなぁ。勢力図全然違うから、どこまで原作に沿うか未知数なのか。

 

「英雄派のイベントなんて影も形もないしなぁ」

「下手したら禍の団関連全部なくなるかもよ?」

「いやそれは流石に……ないよな?え、ないよな!?」

「原作数十巻分の内容なくなるとか、もう別作品よねぇ……」

 

いや、そう思うなら少しは焦れよ!何でそんなのんびりお茶飲んでんの二人とも!?

 

あれか?もうどうしようもなくて諦めてんのか!?

 

「ま、のんびり行こうよ。どうせ私ら外様だし〜?」

「原作乖離がどのくらいかを楽しむのもこの世界の醍醐味さ。外野からワイワイヤジ飛ばしながら、お菓子片手に見物するのも乙なものだね」

 

すげえ、完全にゆったりたっぷりのんびりムードだ。縁側でお茶啜ってるおじいちゃんおばあちゃんみたいになっとる……。

 

……いや、待てよ?よくよく考えたら、俺も元々は原作に絡まず、のんびり外野から眺めようとしてたな。世界観ぶっ飛びすぎてすっかり忘れてたが。

 

じゃあ、このまま物語を静観してても、本来の予定とは変わらないのか……?

 

「なーんだ、焦って損した。ジュースとかってあるか?喋りすぎて喉乾いたわ」

「冷蔵庫の中に一通りあるよー。お好きにどーぞ!」

「さんきゅー」

 

原作の舞台に飛び込んじゃったからどうしようかと思ったけど、これなら問題ないな!話が合いそうな(ネタ的な意味で)奴とも出会えたし。

 

何か原作が跡形もなくなりそうな気配はするけど、もうそんなの関係ないですけどねっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて。

 

 

三縞真悟が呑気にコーラを一気飲みしていたまさにその頃。

 

「あの、ありがとうございます!わざわざ道案内まで……!」

「いやいやいや!こっちから頼んだことだからさ!気にしないでくれよ!なあ彩都!」

「おう。どうせあのまま学校行っても遅刻だったしな。遅刻もサボりも大差ねぇ!」

「そこは気にしろよ!そんなんだからお前、先生に目ぇつけられてんだぞ!?」

「お前には言われたくねえよ覗き魔イッセー!」

「あははっ、お二人とも仲良しなんですね」

 

件の追放された元聖女、アーシア・アルジェントは、原作主人公である兵藤一誠とその親友である瑞風彩都(みずかぜあやと)との邂逅を果たしていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこは、一切の光もない暗闇に閉ざされた場所。一寸先すら見えない暗黒の中で複数の気配が身を焦がす程の興奮と熱情を滲ませていた。

 

『ナニカ』を今か今かと待ち望む彼等のうちの一人が、勿体ぶった口調で口火を切る。

 

「諸君。駒王町にて、アーシア・アルジェントが遂に発見された」

 

おお、と気配達から声が漏れる。そこに含まれるのは感嘆と歓喜。遂に来た、満願成就の夜を目の前にした鬼共のように。

 

「遂に始まるのだな」

「数十年間の苦労が報われると言うものだ」

「どうする?今から部隊を差し向けて間に合うか?」

「周辺の街に即応可能な部隊は配置済みだ、問題ない」

「これでアーシアは我々のモノ」

「待ちに待った時が来たのだ……」

「下品なんですが……その……」

「言わせねえぞ?」

「ファミチキ下さい」

「「「誰だ今の」」」

 

 

 

「静粛に」

 

 

 

ただ一言。それだけで雑然としていた場と空気は一瞬で静まり返った。

 

「年甲斐もなく興奮する気持ちは理解するが、場を弁えよ。重要な会議の席だ」

 

壮年の男性と思われるその声に、あれ程までの熱情を放っていた者達が次々に謝意を示す。ただそれだけのやり取りで、この場における彼の立場がどれだけ重いものかわかるだろう。

 

そう、『彼』こそが彼等を率いる長。生まれ持った才能とカリスマ、そして尋常ならざる努力によって『組織』を作り上げた男なのだ。

 

「この時の為に、我々はあらゆる努力をなし、綿密な計画を立ててきたのだ。後は実行するのみ」

 

『彼』の言葉に、その場にいる全員が息を飲む。

 

「兵を動かせ。駒を進めよ。霊長の頂点は誰か、蝙蝠モドキの寄生虫共に思い知らせるのだ」

「「「応ッ!!」」」

 

王たる『彼』の言葉に、その臣下にして同志は異口同音で答える。

 

彼等が目指すは世界の頂き。あらゆる技術を進歩させ、数多の神秘を食い漁り、死した神が座る玉座に人の身を据えること。

 

即ち、世界の覇者は自分達人間であることを知らしめることこそ、彼等の野望であり最終目標なのだ。

 

「兵藤一誠の死と復活が開幕の号砲ならば、アーシア・アルジェントを巡る戦いこそ劇の第一幕。本来ならば主人公の門出となるイベントを、人の手で奪い取る」

 

さながら謳うように、『彼』は言葉を紡ぐ。それは周りへの呼びかけでありながら、『彼』自身その語りに酔いしれているかのようだった。

 

然り。それは一人の男がひたすら持ち続け焦がれ続けた夢であるが故に。

 

化物(クリーク)が主役の舞台は今宵、人の逆転劇へと姿を変える。さあ、征くぞ諸君。仕事の時間だ」

 

そう言って『彼』は、彼等は、裏世界で『企業』という名を轟かせる一大勢力の重鎮達は、力強く立ち上がった。

 

 

 




久しぶりに投稿画面みたら使用楽曲の欄があってビビる…なにその機能知らない。


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