俺のダンジョン攻略は間違っている (アカウントパージ)
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1話目

「―――っ!!」

 

 俺は目を覚ました瞬間、恐怖に顔を引きつらせながら飛び起きた。汗が全身を伝っていて、身体は強張っていた。手先が震えて肩で息をするような、悲惨な状態だった。

 

「はあ…はあ…」

 

 しばらく目を閉じて尻を地面につけたまま呼吸に専念してみる。深く酸素を吸って、そしてゆっくりと吐き出していると次第と落ち着いてきて、俺はうっすらと目を開ける。

 

「…ここは?」

 

 目の前には壁。背後には森。そして頭上には青い空。

 

 ―――何処なのだろうか、ここは。

 

 思い出そうとするも、その労力はすべて徒労に終わる。そして気が付く。俺の頭は何やらおかしい。

 

 今より前の記憶が一切ない。自分が何をしていたのか、どんな生活をしていたのか、何も分からない。

 

「いや…」

 

 否、少しだけ覚えている。まるで砂漠の真ん中で小石を見つけるような、そんな感覚で俺は自分の名前を口に出した。

 

「シュウ。俺の名前はシュウ…だったか…?」

 

 違うような、合っているような。

 

 まあいい。一番最初に出てきたっていう事は、俺の名前はシュウなのだろう。ならば深くは考えまい。

 

 もう一つ思い出せそうだ。それは俺が高校生であるという事だ。いや、社会人だったかな…何もしていなかったようにも思える。ええい、なんだこれは。どうやら記憶が混乱しているようだ。

 

「…」

 

 まあいい。いや、よくはないが、今はこれ以上考えても無駄だと本能が察した。とりあえず俺は目の前の壁に手をついて立ち上がる。

 

「うっ…」

 

 くらり、とめまいを覚えつつも、俺は何とか立ち上がる。自分の服装を見下ろしてみると、皮の鎧に腰にはショートソードが提げてあった。

 

 そして辺りを見渡してみる。

 

「人はいないか…」

 

 とにかく、人を探そう。ここに倒れていたという事は知り合いも近くにいるという事だろう。

 

 俺は歩き出した。

 

 

 

 

 

 

「ああ?記憶喪失だぁ?んなもん知るかよ。事情があるんなら巻き込むんじゃねえ、クソガキが!」

 

 最後に話しかけた中年の男性の罵りを真正面から受け止めて、俺はため息を飲み込んだ。

 

「すまない、時間を取った…他を当たってみる」

「ああ、そうしろそうしろ」

 

 手をひらひらとさせながらどこかへ行ってしまう男性を見送って、空を見上げる。茜色に染まっていた。青の次が赤なのだから、次は黄色だろうか。いや、青の次が黄色で、その次が赤だったような気がしなくもない。

 

「大穴で白色かもしれないな」

 

 つぶやきながら歩き出す。

 

 あれから数時間。分かったことがある。

 

 一つは、ここは街だったという事。あの壁は街を囲う防壁だったようで、俺は歩いた先にあった門から街に入ることができた。中心に長大な摩天楼を拵えた巨大な街で、多くの人々が武装をしていた。

 

 そういえば俺もショートソードを持っていた。恐らくこの地域のファッションのようなものなのだろう。

 

 もう一つ、ここに俺を知る人間はいない、という事だ。多くの人に話しかけたが、困ったように首をかしげる人や邪険に扱ってくる人しかいなかった。名前を告げても知る者は誰もいなかった。

 

「分からないな…何故俺はここにいたんだろう」

 

 誰も知る者がいないという事は、ここに訪れるのはこれが初めてという事だ。

 

 つまり俺はどこかから単身やってきて、行きついた先で頭でも打って記憶を失ってしまった、というのだろうか。

 

 ―――違和感しかないな、それは。

 

 

 

 閑話休題。もう一つ知った事がある。

 

 それは、武装している者はその殆どが『冒険者』である、という事だった。

 

 冒険者が何かは分からないが、俺も武装をしている。つまり俺は冒険者だったのではないだろうか。

 

 だとすれば、冒険者が良く集まる場所に行けば何かが分かるかもしれない。それに、これ以上この辺りで聞き込みをしてもいい結果が出るとも思えない。

 

 そうと決まれば早速調べよう。冒険者たちに話を聞き出す為に、俺は人が多いメインストリートへと紛れ込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 摩天楼の足元ともいえる地域に、それはあった。

 

「じゃあな、坊主!頑張れよ!」

「ああ、ありがとう」

 

 何故か俺が冒険者になりたい若者だと信じて疑わなかった人の好い男性に手を振って、案内された先に足を踏み込む。

 

 ここは『ギルド』と呼ばれる、冒険者を含む『ダンジョン』に関する物事を運営する場所なのだそうだ。

 

 ダンジョンとはあの摩天楼―――バベルというらしいが、その足元の地下に広がっているらしい。中には化け物が多くいて、それを討伐するのが冒険者なのだと―――あの男性は教えてくれた。

 

 冒険者とは戦う者を指す言葉だったらしい。物騒な職業だ。本当に俺は冒険者だったのだろうか…?

 

 中に入ってみると、冒険者たちがカウンターに向かって何やら手続きをしていたり、物を交換しているのが見えた。

 

 

 そういったものを眺めながらカウンターに向かうと、そこにいたギルドの人間の一人が話しかけてきた。

 

「ギルドにようこそ、本日はどういったご用件でしょうか?」

「あ、ああ…実は、俺は冒険者なんじゃないかと思ってここに来たんだが…」

「…?えっと…?」

「すまない、自分でも分かっていないんだ。ただ、初めて目を覚ました時、剣を持っていたから…冒険者だったんじゃないかと」

「ええっと…申し訳ございません。話が見えないのですが…初めて目を、というのはどういった意味でしょうか」

 

 首をかしげる女性に、申し訳ない気分になりながら今日の出来事を話してみた。

 

「記憶喪失、ですか。そして剣を持っていたから、冒険者かもしれない、と。なるほど…確かにそれは大ごとですね…お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

「シュウ。ただのシュウだ」

「シュウ様ですね。少々お待ちください」

 

 そういって彼女はカウンターの奥へと行ってしまう。俺はハラハラしながら帰ってくるのを待っていたのだが、数分後、帰ってきた女性は申し訳なさそうな表情を浮かべていた。

 

「申し訳ございません、ギルドの名簿にはあなたの名前はありませんでした…」

 

 つまり、冒険者ではなかった、と。

 

 また振り出しに戻ったな…。

 

「そう、か…」

「いえ、まだわかりません。申し訳ございませんが、こちらに来ていただけますか?」

「?」

 

 彼女についていくと、そこは人気のない暗がりだった。

 

「背中を見せていただけますか?」

「何をするつもりだ?」

「冒険者ならだれもが持っている、『神の恩恵』を確認させていただこうかと。もし『神の恩恵』があったら、少なくともファミリアに入っていたという証拠になるので」

「そうか…じゃあ頼む」

 

 俺が背中を見せると、女性は服をめくりあげた。そして背後でしばらく俺の背中を眺めて、「…何なの、これ…?」とつぶやいた。

 

「…どうだった?」

「…ふう」

 

 彼女はすぐには答えず、まずは服から手を放して俺の背中を隠した。そしてしばらく顔を曇らせて、そのあとに口を開いた。

 

「…結果から言いますと、『神の恩恵』はありました」

「本当か?」

「はい。ただ、おかしな点といいますか…その、空っぽ、なんです」

「…どういう事だ?」

「背中に刻まれた『神の恩恵』には、その人の能力…どれだけ強いかを数値化したステイタスと呼ばれるものが刻まれているはずなんです。ただ、あなたにはそれがなかった。まるでガワだけ刻まれたような…」

「それは、普通にある事なのか…?」

「とんでもない!こんな事初めての事です」

 

 俺だけがおかしい。彼女の反応はそんなことを端的に示していた。

 

「それに、どの神に神の恩恵を与えられたか、その証もありませんでした。これは一体何なのでしょうか…」

「…あなたでさえ分からない事だ。俺にはもっと分からないだろうな」

 

 顔を向けてきた彼女に、俺はそう返す。

 

「…そうですね。ただ、一つだけ確かな事が分かりました。ミスタシュウはどこかは分かりませんがファミリアの一員だった。これは…恐らく、確実といえるでしょう」

「そうか…」

 

 俺はファミリアの一員だった。今はそれが分かっただけでも御の字だろう。

 

「ここまでしてくれてありがとう。感謝する…そうだ、あなたの名前を伺いたいのだが」

「私はギルドの職員の、エイナ・チュールです、ミスタシュウ」

「エイナ・チュールか。再三になるが…ありがとう」

「…礼だなんて。結局、何の力にもなれませんでした」

「いや、ファミリア?というものに入っていたという事が分かっただけでも大きな進展だ」

 

 俺がそういうと、エイナはとりあえず納得したのか微笑んだ。

 

 それから、エイナには様々な事を教えてもらった。

 

 この街の名前は『迷宮都市オラリオ』。ダンジョンを中心に栄えた街で、多くの人間が、そして神々が暮らす世界で唯一の場所らしい。

 

 神は人間に『神の恩恵(ファルナ)』を授け、経験値(エクセリア)と呼ばれるものを目に見えるものにし、人の能力を上昇させたり、新たな力を与える。

 

 そして神の元には多くの人間が集い、『ファミリア』という集いを形成する。

 

 多くのファミリアはダンジョンを攻略する事を目的とするが、中には生産や遊戯など、一つの分野に精通するファミリアも少なくないという。

 

「ミスタシュウ。これからどうするつもりですか?」

 

 そこまでの話を聞いて、わざわざソファにまで座って話をしてくれていたエイナが、一つ俺に問いを投げかけた。

 

「…これから、か」

 

 俺は少し逡巡して、答えた。

 

「…ファミリアに入り、冒険者になる。そうすれば、何かを思い出せるかもしれない」

「…はい、無関係という訳ではないでしょうから。記憶を取り戻すきっかけになる可能性は、多いにあるでしょう」

「ああ」

 

 頷いて、俺はソファから立ち上がった。

 

「エイナ、ありがとう。わざわざ時間を取らせて済まなかった。後は自分一人で何とかしてみるよ」

「待ってください」

 

 エイナは俺の手を掴んだ。

 

「…外はもう夜です。今日目を覚ましたのでしょう?泊まる場所はあるのですか?」

「…夜?」

 

 俺は首をかしげた。

 

「外、もう暗いでしょう?」

 

 窓を指さすエイナ。本当だ、空が黒くなっている。

 

「…黒くなるのか。それは…予想外だったな」

 

 俺は小さくつぶやいた。

 

 

 

 

 

 

 朝が来た。昨日は結局ギルドの待合室をエイナが貸し出してくれて、そこに泊まった。

 

 俺はすぐに準備を済ませて、邪魔にならないようにすぐに外に出た。エイナには朝早くに来ていた職員に礼を言付けしてくれるよう頼んだ。

 

 ファミリアに入るためには…神に認めてもらわなければいけないんだったか。

 

 エイナの言葉を思い出しながら、俺は神を探す為に歩き出した。



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2話目

「帰れ帰れ。お前みたいなガキはもう間に合ってんだよ」

 

 そういってドアを閉められるのを、俺はただ眺めるしかなかった。

 

 

 

「しまったな…まさかこんなに難航するとは…」

 

 どうやら俺は少年、と言ってもいい背格好をしているようで、戦闘系のファミリアは今の所全敗だ。神に会える事も少なく、もし会ったとしても、『顔が暗い』だの『ひょろい』だの『無個性』だのとバッサリと断られる事がほとんどだ。

 

「ふう…」

 

 俺はそろそろぱんぱんになってきた足を休めるために建物の影の場所に腰を下ろした。

 

 もうすでに太陽は真上まで迫ってきている。半日ほど歩き回ってファミリアに入れてくれそうな神を探したのだが、それらはすべて徒労に終わっている。戦闘系に入りたい俺だが、そんな俺自体が戦闘をあまりしたことのないような華奢な身体に少年のような見た目をしているから、戦闘系ファミリアはすべて門前払いだ。

 

 

 

 目を閉じる。疲れた身体が暗闇に沈んでいく。すると同時に、俺は何か得体のしれない恐怖にさいなまれる。

 

 昨日の夜も同じだ。目を長く閉じていると、このように恐怖が身体全体にまとわりつく。一体何に恐怖しているのかは分からない。自分に対してなのか、それとも他者に対してなのか、それすらも。

 

 ただ一つだけ分かることは、俺はそれに恐怖すると同時に、それの事を深く憎んでいる、という事だけだ。何故憎んでいるのかも分からないが、ただ心を黒く染め、突き動かす何かが俺にはある。

 

「っ…はあ…はあ…」

 

 耐えられる直前まで耐えて、そして俺はゆっくりと目を覚ました。

 

「わっ」

 

 そして、目の前に白い何かが迫っているのが見えて、咄嗟にそれを掴んでいた。同時にかわいらしい声が頭上から落ちてくる。

 

 顔を上げると、そこには一人の少女がいた。黒い髪の毛を二つに纏めて、白い服を着た少女だ。

 

「…すまない」

 

 すぐに白い何かがその少女の手だと理解し、手を放す。

 

「いや、いきなり触ろうとしたから、びっくりしたんだろう?こっちこそごめんよ。ただ、ちょっとうなされているようだったから、ついね」

「…ああ…少し悪い夢を見ていたんだ。起きたからもう大丈夫だよ」

「そうかい?それはよかった」

 

 上半身を壁から持ち上げ、そして少女と改めて目を合わす。そして俺は目を微かに見開いた。

 

「…あなたは神か?」

「ん?…ああ、そうだよ。ボクは神ヘスティア。ヘスティアファミリアの主神さ!」

 

 胸を張る少女―――否、神ヘスティア。俺はすぐに立ち上がった。

 

「神相手に無礼を働いた。許してほしい」

「いやいや、そんなに畏まらなくてもいいんだよ?神とはいっても、ちょっと前に地上に降りてきて、友神の元でグダグダしていたら追い出されて、つい最近やっと一人ファミリアに入ってくれる子ができたような、へっぽこ神様だから…だから…」

「…よくわからないが、そんなに落ち込まないでくれ」

 

 自分で言って自分で傷つくという高度な自虐を披露してくれた神ヘスティアに、俺はついそんなことを言ってしまっていた。

 

「君は優しいいい子だね…だけど大丈夫さ!ボクの唯一の子どもであるベル君とは、そりゃもうラブラブだから!これはこれで幸せな日常だようん!」

 

 どうやら空元気ではない、本心の言葉のようだ。見た目的には幼い少女が無邪気にもほほを緩ませてはしゃいでいるように見えて、ほほえましい。

 

「それはそうと、どうしてこんなところで寝ていたんだい?」

「ああ…それは…ファミリアを探していたんだ。だが、どこも門前払いで…少し休憩している所だ」

「…ほう?」

 

 ヘスティアの目がキランと光ったような気がした。

 

「なるほどなるほど、君は冒険者志望という事だね?」

「ああ、そうだな。俺は冒険者になりたい」

「ほうほうほう!」

 

 神ヘスティアは胸をそらして、こうのたまった。

 

「なら簡単だ!ボクのファミリアに入るといい!」

「…あなたのファミリアに?」

 

 思ってもみなかった言葉に俺は目を何度か瞬かせた。

 

「ああ!零細ファミリアでいいのなら、だけどね。さっきも言ったけど、ボクのファミリアは本当に小さいんだ。だからいつだって人材不足だし、なんだったら常時ファミリアに入ってくれる人募集中状態なんだよ!」

 

 「ね?どうかな?どうかな?」と手を両手で包み込んで顔を寄せてくるヘスティアに、俺は一つ頷いた。

 

「…もし入れてくれるというのであれば、喜んでついていこう」

「本当かい?!やったあ!今日はごちそうだぜベル君!」

 

 ここにはいない誰かに祝砲を上げつつ、ヘスティアはこちらに顔を向けた。

 

「ボクはさっき言ったけどヘスティア。君の主神になる神だ。君の名前は?」

「俺はシュウ。ただのシュウだ。…よろしく頼む、神ヘスティア」

 

 こうして俺はヘスティアファミリアへと加入することになったのだった。

 

 

 

 

 

 

「凄いです、神様!こんなに早く新しい団員を連れてくるなんて!」

「ふふーん!そうだろうそうだろう!ボクにかかれば団員を増やす事くらいなんともないのさっ!惚れ直してもいいんだぜ、ベル君…?」

「流石です神様!」

 

 二人してはしゃぐ目の前の二人から、俺は視線を外した。

 

 何の飾り気もない灰色の壁。ボロボロな家具。狭い部屋。

 

 どれもこれも見た事のないものばかりだが…少なくとも、昨日泊まったギルドの休憩室よりかはずっと快適じゃなさそうだ。

 

「あ、僕はベル。ベル・クラネルって言います…その、よろしくお願いします!」

「ああ、ベル。俺はシュウだ。こちらこそよろしく頼む」

 

 握手を交わす。これから同じファミリアの仲間となるのだ。顔と名前はしっかりと頭の中に叩き込む事にする。

 

「さて、顔合わせも済んだし、さっそく『神の恩恵』を刻もうじゃないか!シュウ君?とりあえずベッドに寝転がって、背中を見せてくれないかい?」

「ああ、そのことなんだが…」

 

 俺は自分の背中を見せた。

 

 

「あれ?もう『神の恩恵』がある…?こ、これは一体どういう事だい、シュウ君…?」

「ま、まさか…もう他のファミリアに…?」

「違う、そうじゃない。説明をするから、神ヘスティアもベルも泣かないでくれ」

 

 そして俺は今までの事を語って聞かせた。

 

「なるほどなるほど…記憶喪失に、ガワだけの『神の恩恵』…うーん、一体どういう事なんだろうね…?」

「記憶喪失…そんな…」

 

 神ヘスティアは思案顔を、ベルは心配そうな顔を浮かべた。

 

「シュウ君、大丈夫なの…?その、記憶がないなんて…」

「辛くはない…といえばウソになるが。ただ、そこまで悲観している訳じゃない。確かに記憶はないが、俺が俺であることに変わりはないと思うから」

「…!そっか…」

 

 初対面の人間に対して、心配したり安堵したりする。あったばかりだが、ベルは真っ白な人間なのだと俺は思った。

 

「…ただそうだな。俺は知らなければいけないと思っている。背中に刻まれた『神の恩恵』は、俺がファミリアに―――この街に関わりがある事を示しているはずなんだ。きっと失った記憶もそこにあるように思う。だからこそ―――俺は冒険者になってみたい。

自分勝手な理由ですまないが…」

「何を言うんだ。もう君は僕の子どものようなものだ。その君がそう思うのなら、ボクはその願いが叶うように全力で応援しよう。できる事と言ったら、『神の恩恵』の更新か、話を聞いてあげるくらいなものだけどね」

「僕も手伝うよ。新しい仲間なんだから、何でも頼ってね、シュウ君!」

「…ありがとう、二人とも」

 

 

 

 神ヘスティアが言うに、『神の恩恵』を刻む分には何ら問題はないようだ。逆に途中まで刻まれているから自分の仕事が少なくなったという程だった。

 

「よし、できた!これが君のステイタス…だ、よ…」

 

 『神の恩恵』が刻まれて、神ヘスティアがステイタスの内容を記した紙を笑顔で見て、そして固まった。

 

「どうしたんですか神様?」

「…ま、魔法…」

「へ?」

「魔法が発現してるんだよ…!凄い、凄いじゃないか、シュウ君!」

「ええ!?魔法って、あの魔法ですか!?」

「何故ベルの方が驚いているんだ…?」

 

 俺は神ヘスティアから紙を受け取る。

 

 

 

~~~~~

シュウ

LV1

 

力:I0

耐久:I0

器用:I0

敏捷:I0

魔力:I0

 

《魔法》

【理導/開通(シュトラセ/ゲーエン)】

・詠唱式なし

・魔力の量により範囲増減

・手に触れたものの構成を解析する

・把握した物体に魔力を同調・変質させ破壊する

~~~~~

 

 

「中々優秀な魔法じゃないかい?」

 

 そうは言われても、比較対象も知らない俺には分からない。だが、便利なものだとは思うが。

 

「ぼ、僕にも見せてほしいな…なんて」

「こらこらベル君!ステイタスはとっても大切なものなんだから、例え同じファミリア内の仲間でもそう易々と見せていいものじゃないって教えなかったっけ?」

「うっ…え、エイナさんにも耳にタコができるくらい教えてもらいました…」

「だろう?なら我慢するんだ」

「はい…」

 

 しぼんでしまったベル。俺は別に見せてもいいと思っているが、神ヘスティアの言葉を無視するわけにもいかない。

 

「ベル。そう落ち込まないでほしい。一緒に戦うのなら、どうせいつか見る事もあるだろう?」

「…!そ、そうだね!」

 

 すぐに元気を取り戻したベルに、俺は微笑む。ふと神ヘスティアに目をやると、小声で「ぐっじょぶ!」と言って親指を立てた。

 

「さてさて!『神の恩恵』も無事刻めたことだし!そろそろ歓迎会でも開こうじゃないか!これを見てくれドーン!」

「こ、これは…!?じゃが丸君じゃないですか…!?それもこんなに一杯!」

「余ってくれたのを店主さんがくれたのさ!たくさんあるからみんなでお腹いっぱいになるまで食べよう!」

 

 

「それじゃあ、シュウ君加入にかんぱーい!これからよろしく、シュウ君!」

「よろしくね!」

「ああ。よろしく頼む、二人とも」

 

 こうして俺はヘスティアファミリアに無事加入できる事になった。

 

 果たして冒険者になる、という選択は、合っていたのか間違っていたのか。

 

 それは分からないが、この二人と一緒ならば頑張れそうだ。俺はそう思った。

 

 



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