オサレになりたい!名倉くん (オロパタジン)
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オサレじゃないよ、オシャレだよ

泥沼化した就活の疲れを癒すために、合間に書いて見ました。
初3人称視点なので期待しないでください。


 名倉は死んだ。

 

 死因は交通事故。

 

 事が起きたのは、実家が経営している寂れた神社の掃除をした帰りである。バイクに乗っていた名倉は、背後の彼を煽る車に接触されてそのまま転倒。

 

 バイクの下敷きになりつつ、車に轢かれるコンボを決められた名倉の体は、節々がひしゃげ血を止めどなく吐き出す。

 

 アスファルトに皮膚を引き裂かれ、白い骨が顔を覗かせる。誰が見ても手遅れだと悟ることだろう。

 

 

  名倉を轢き殺した男性は、その惨状を見て顔を青く染める。そして救急車も呼ばず凹んだ車に乗りその場を後にした。

 

 過失ゼロで事故死するはめになった名倉は、事故を起こした相手を恨みつつ、自身の不幸を意識が無くなるまで嘆いていた。

 

 

(あぁ。来週から大学生として、オシャレな東京に……)

 

 

  田舎道で轢かれたため、名倉が発見されるのはかなり先だろう。しかし名倉は生きることを諦められなかった。辛うじて動く口を動かして、助けを求める。

 

 

「だれ か、 しに た な」

 

 

 道路両脇の生い茂った木々が風に揺れ、名倉の声はかき消された。近くに人がいてもその声は届かなかったであろう。

 

 

 しかし、意識を手放す直前に彼は誰かの声を聞いた。

 

 

『出来る限りのことはします』

 

 

 

 人が居ないはずなのに、声を聞いたのである。そしてその直後、名倉は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「あれから、もう10年ちょいか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 名倉は生まれ変わっていた。前世の日本のような場所に生まれ、苗字はまたしても名倉だった。だが、生まれ変わる前と後では彼自身や世界で異なる部分が大量にあった。

 

 世界の変化としては、人間に個性というチカラが備わっている点が一番大きい。個人が力を手に入れた影響で、ヴィランと呼ばれる犯罪者が大量に出没するようになっている。それに対抗するようにヒーローという職業が生まれており、幼少期の名倉を大いに困惑させた。

 

 

 やけに特撮に力入れているなあとテレビを見ていたら、ただのニュース番組であることに気づいた時、幼い彼は目と口を限界まで開いた。そしてそれを見ていた名倉兄から、しばらくの間たいそう怖がられたらしい。

 

 それからこの衝撃を分かち合える仲間は現れないだろうと感じた名倉は、頻繁に夜泣きをするようになった。精神が肉体に引っ張られていたようで、幼少期の名倉の涙腺はゆるゆるであった。

 

 

 

 

 次に名倉の変化であるが、これは前世で死ぬ直前の未練が影響しているようであった。

 

 不幸を嘆き、オシャレな東京で楽しく暮らしたいと思って死んだ。何とも小さな未練であるが、生まれ変わった名倉の生活環境や体の変化は、この小さな未練を全て叶えてくれていた。一部を除いて。

 

 

 

 まずは不幸。前世では踏んだり蹴ったりな最期を迎えた彼は、大企業の社長の次男として生まれた。生まれた時から勝組だ。

 

 幸運エピソードは他にもある。席替えをすると可愛い女子が隣になる、急いでいるときは一度も信号に引っかからない。自販機の下に手を入れれば500円玉が手に入り、混み合った電車に乗ってもすぐに座れるなどなど。

 

 豪運とまではいかないものの、今世の名倉は運が良かった。

 

 

 

 幸運はとても喜ばしいことであったが、2つ目のオシャレな東京で暮らしたいという未練が悲劇を引き起こしていた。

 

 

 

 

 結論から言えば彼はオサレになっていたのである。

 

 彼はオシャレな東京で暮らしたいと思っていたが、決してオサレになって東京で暮らしたい訳では無かった。ただ、成長するにつれて見覚えのある顔立ちとなり、ドンピシャな個性も発現した今では、まあいいかと受け入れている。

 

 寝て起きたら誰かが整えたようにオサレな髪型になることと、意識して喋らないとオサレな発言をしてしまう以外には、彼に不満は無かった。

 

 

 

 

 最後に、生まれ変わりをした事についてだが、もう名倉の中では結論が出ている。

 

 

 あのとき聞こえた声は、実家で祀っていた神様で、不幸で不幸で仕方なかった自分を出来うる方法で救ってくれた。

 

 

 名倉の結論はこのように、一周回ってとてもシンプルなものとなっている。

 

 

 今の自分は自分では無いのでは?など、考えれば考えるほどマイナス思考の深みにはまっていったので、4歳で彼は考えるのをやめた。一見アホっぽい楽観的な結論は、理解できない現状を誤魔化す意味もあるのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ザワザワと騒がしくなった周りの声に反応する様に、名倉は目を開く。

 

「……そろそろか」

 

 

 彼は今、ヒーローになる為に今世の日本一有名な高校を受験している。これから始まるのは実技試験の説明。周囲では個性豊かな受験生達が、つい先ほど登場したプロヒーローのことを凝視していた。

 

 (まあ、俺の個性と身体能力があれば余裕っしょ)

 

 

 名倉は前世でNARUTO、BLEACH、HUNTER×HUNTERなどのジャンプ漫画が好きだった。しかし前世の彼の運は相変わらず悪かった様で、単行本派の彼はヒーローアカデミアのことを知らない。

 

 

 そして、この試験が彼の個性と相性最悪である事も知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 氏名:名倉 アスキン

 志望学科:ヒーロー科

 

 

 

 

 

 

 彼の受験カードには、ラテン系の顔立ちの、鼻筋が通ったイケメンの写真が貼られている。前髪を上げつつも一部の髪を前に垂らしたキザったらしい髪型をしているが、イケメンの顔にはとてもよく似合っている。そう、これが今の名倉である。

 

 前世ではお世辞にもカッコいいとは言えない、彫りが浅い日本人顔だった名倉は、今ではアニメや映画に出てくるようなレベルのイケメンとなっている。

 

 当然そのくらいイケメンなので、彼が通っている中学校では名倉ファンクラブが存在する。前世でモテなかったため、ラブレターやバレンタインチョコへの対処に四苦八苦したことは、彼にとっては良い思い出のようだ。

 

 ちなみに彼の趣味は、友人達とショッピングモールに行くこと。そして購入した衣服をコーディネートして、鏡の前で決めポーズをすること。側から見たら自分大好きのナルシスト野郎だと思われるだろうが、好きなキャラクターの様な顔立ちになった彼はこの趣味を止めるつもりはない。

 

 

「受験生のリスナァー! 今日はオレのライヴにようこそ!」

 

 

 プロヒーローのプレゼント・マイクの説明が始まると、周囲が静まりかえる。名倉も試験の内容を聞き逃すまいと集中することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 説明が終わった頃には、名倉の頬には冷や汗がにじんでいた。

 

(おいおいおいおい。 試験って言ったら対人戦だろぉがよ!)

 

 

 彼が想定していたのは、中忍試験とか、ハンター試験のような対人の試験。そのため、対人に特化した個性とトップアスリートレベルの肉体を持っている彼は、実技試験の対策をしていなかった。

 

 残念ながらこれから行われる試験は、対人ではなく対ロボット試験。ポイントが割り振られたロボットを倒して、その合計点を競うもの。更に悪いことに、他者への妨害は無し。名倉は始まる前から絶望することになった。

 

 

「……致命的だぜ」

 

 

 なんならプロヒーローと戦えと言われた方がマシだぞと、彼は心の中で叫んだ。そんな彼の心境をよそに、質問タイムも終了。周囲の受験生が一斉に移動を開始しはじめる。

 

 

「……本当に、致命的な気分だよ」

 

 

 移動する学生の混雑が収まってから、名倉は席を立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雄英高校の試験日から数日後、雄英高校の職員達と教師陣が会議を開いていた。筆記試験や実技試験の結果が、予め一般職員によりまとめられる。その上で審議が必要な受験生に対して、意見を出し合うために彼らは集まっていた。

 

 

 途中ゼロポイントの敵を破壊した緑谷の映像に対して、大いに盛り上がりを見せたこの会議も終盤に差し掛かっていた。

 

 

「次はこいつか」

 

 

 モニターの前に現れたのは、2ポイントのロボ1体と延々と戦っている少年だった。背丈は中学生にしては大きく、身体は引き締まっている。

 

 拳が真っ赤になっているところを見れば、個性も使わずに長時間ロボと殴り合いをしていることがわかる。周りの受験生は彼に同情しているのか、横取りする輩は現れない。

 

「名倉 アスキン。 ヴィランポイント4に、レスキューポイントが8だ」

 

「不合格だな」

 

「まあ待て、相澤。こいつ筆記が満点なんだよ」

 

 職員達にどよめきが広がる。それもそのはず、雄英高校の問題は特殊な問題がいくつも散りばめられており、大の大人でも満点をとることが困難なのだ。

 

 カンニング出来る個性なのではないか、と職員達が意見を出す。しかし、調べて出てきた彼の個性は、そのようなものではない。ますます動揺が広がっていった。

 

 この結果は、名倉の努力と運の良さが生み出したもの。

 

 名倉は大学受験終了直後に死んだ頭脳を引き継いで、ヒーローを目指しコツコツ勉強を続けてきた。その甲斐あって殆どの問題を自力で解いたのである。

 

 そして、数問あった分からない問題のマークシートを勘に任せて埋める。そうすることで、筆記試験満点の偉業を成し遂げたのだ。

 

 

 

 

 職員の一人が挙手をして発言する。

 

 

「話し合う程の内容なのですか? いつも通り筆記試験成績優秀者として、普通科の合格にすればよろしいかと」

 

「今までの優秀者はそれで済んだんだが、こいつの場合はちょいと厄介なんだよ。 合計点がヒーロー科の暫定合格者に入り込んでんだ」

 

 

 職員の質問に対して、ブラドキングが資料を見ながら回答していく。実技が10点程度のレベルの生徒を、果たしてヒーロー科に入れて良いのだろうか。その議題に対して、実に20分ほど意見の出し合いが続いた。

 

 

「結局お前はどう思う?」

 

「実力の無い奴がヒーロー科に来ても合理性に欠くだけ。俺は普通科を押す」

 

 最後にプロヒーローが意見を出したところで、校長に視線が集まる。

 

 

「みんなの意見は聞かせてもらったよ。僕も彼をヒーロー科ではなく、普通科として迎え入れたいと思う」

 

 

 そして雄英高校校長が自身の意見を述べることで、名倉についての議題は終了することになった。

 

 

 

 しかしこれはある意味で、雄英高校の今年度最大の判断ミスとなってしまう。

 

 名倉 アスキン、雄英高校普通科に特待生として合格。後に歴代最強の普通科と呼ばれるこの男の物語は、始まったばかりである。

 

 

 

 

 

 




致命的と言わせたいだけの話です。


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友人達

 オリジナルキャラクターがもう一人出てきますが、モブに名前をつけただけなので覚えなくて大丈夫です。

 説明だらけで読みにくいかも。


 

 

 

「なあマスオ、俺結局どうすりゃいいと思う?」

 

 尾白猿夫は、変なアダ名で呼びかけてくる友人に目を向ける。彼の友人の名前は名倉アスキン。尾白と同じ中学の中では有名な男だ。

 

 同学年の女子の三割ほどが名倉ファンクラブに入会しており、尾白の中学の男子達からはあまり好かれていない。モテない男子達が突っかかっていっても、大人のようにあしらう。そんな名倉を見て、女子の人気が増していくという負のスパイラルが、彼らの中学では出来上がっていた。

 

 

 名倉は前世を合わせると30歳程なので、中学生を相手取るのはお手の物である。同時に中学生に欲情する性癖も持ってないので、彼女は出来ない。ファンクラブが卒業まで解散しなかったのは、この様な理由があるからだった。

 

 

 そんな特殊な立場の友人と二人で、尾白はファミレスに来ていた。雄英高校ヒーロー科の合否判定が出てから2日経った昼間の事である。

 

 「飯奢るんで相談に乗ってくれ」というメッセージを受け取った尾白は、倍率300倍を突破してご機嫌であった為、深く考えずに了承した。

 

 

 

 ご機嫌な尾白を待っていたのは、不機嫌な名倉だった。

 

 名倉が落ち込んでないのが唯一の救い。落ち込んでいたら奢られるのも嫌になってしまうからだ。

 

 

 

 

 

 

 

「人の将来を左右する質問だから、ちょっと難しいよ」

 

「けっ、他人事かよ。 いいよなぁマスオは、機械に強い個性でさぁ」

 

「……君に言われると嫌味に聞こえる」

 

「寝づらそうだし、座りづらそうだから正直微妙な個性だよな」

 

「やっぱり嫌味じゃないか」

 

「悪い悪い、ちょっとイライラしてたわ」

 

 

 

 

 尾白に出会う前、名倉は(精神年齢)年下の集団の中で生活することで、ストレスが溜まっていた。更に、自分のファンクラブも出来てしまい、(精神年齢)年下からほぼ毎日のように変な絡まれ方をされる。名倉の精神は日に日に疲弊していった。

 

 そんな精神状況の中、大人びた性格かつファンクラブに対してどうこう言わない尾白と、中学三年にして出会ったのだ。志望先も同じだったため、名倉はめちゃくちゃ尾白を気に入った。

 

 

 

 名倉は仲良くなった人にしか個性の詳細を教えない。友人となった尾白は彼の個性について知ることになったが、彼に勝つビジョンが未だに見えていない。尾白の中では、ヴィランになって欲しくない友人No. 1だ。

 

 

 

 名倉の個性の名前は致死量。恐ろしいほど簡単に人を殺せる個性である。

 

 生物は同じ物質を体内に摂取し過ぎると死に至る。名倉はその死のラインを操作することが出来るのだ。自分のラインだけでなく、他者のラインも操れるので、一度その能力の対象になってしまえば触れる事なく殺されてしまうであろう。

 

 その応用としてあらゆる攻撃に対し、自分の死のラインを上昇させる事で無効化する事も可能である。更に、攻撃を受けた後ラインを上昇させることにより、その傷の回復を早める事もできる。

 

 正確には相手の霊圧に対する致死量のラインを操作することで、攻撃を無力化するという仕組みだ。だが、個性発現者達も霊圧に似たようなエネルギーを使って異常現象を起こしていたので、個性に対しても問題なく使用可能となっている。

 

 ほぼ不死身なのに、防御力無視の即死攻撃を放てる個性。オールマイトを除いた全ての個性の中で、一番強力なものなのではないかと尾白は思っている。

 

 

 

 

 

 ちなみに名倉の死にたくないという願いにより、今の個性と外見になったのだが、彼は未だに気付いていない。

 

 

 

 やや不貞腐れ気味の名倉を尻目に、尾白は二つある合格通知を手に取った。一つは尾白の元にも届き、何度も何度も穴が空くほど見た通知。もう一つも、尾白にとって聞き覚えのある名前が書いた通知だ。

 

 

 

「雄英高校の普通科と、赤山学院大学付属高校のヒーロー科かあ。確かにこれは迷うね。」

 

 

 中堅高校のヒーロー科と、超有名高校の普通科。果たしてどちらに行った方が友人の為になるのだろう。名倉がヒーローを目指していることを知っている尾白は、入試より難しい問題だと感じた。

 

「ちなみに、名倉はどっち行こうと思ってるの?」

 

「コネが出来そうな雄英かなぁ。 あーでも、実戦練習が出来るヒーロー科の方が良いのかなぁ」

 

 

 腕を組んで一人で考え出す友人に苦笑いしつつも、尾白は自身の意見を述べることにした。

 

 

「俺は雄英に来て欲しいかな。 教員全部プロヒーローの所って滅多にないし、実戦練習も放課後俺とやればいいと思う」

 

「……」

 

 尾白の言葉を聞いて、名倉は片眉を上げたまま固まった。

 

 

 

 

 

 

 

「それに何より、ライバルが居ないと俺がつまらない」

 

 雄英高校という最難関を共に目指してきた尾白と名倉は、勉強も組手も走り込みも一緒に行っていた。そもそも難関過ぎて、記念受験が多い雄英高校を本気で目指すものは少ない。試験に向け切磋琢磨した二人はお互いを認め合っていたのである。

 

 

 

 そんなライバルからの言葉を聞いた、名倉の口角は釣り上がる。

 

 

 

「いいぜ、乗ったわその話。 ……オジサン久々にテンション上がってきたよ」

 

「名倉って本当に俺とタメだよね?」

 

 

 

 名倉の年齢詐称疑惑が、尾白の中で一層深まったところに、注文していたハンバーグジャンボサイズがやってくる。

 

 

「お前結構遠慮ないよな」

 

 

 尾白は、友人の非難を他所に目の前のご馳走に手をつけることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 名倉が雄英高校普通科に進学することに決めた日から月日が流れて、季節は初夏。寒くもなく暑くもない、過ごしやすい気候の中で、今日も雄英高校では多くの学生が学業に取り組んでいる。

 

 

 そんな何気ない日の昼間のお話。

 

 

 

 

 美味しそうな匂いが充満した騒がしい教室の片隅で、三人の男達が席をくっつけ集まっている。その内の一人、ボサボサ頭で目の下にクマを作った少年が、購買部で買った焼きそばパンを頬張る。

 

 頬張ったパンを飲み込むと、痺れを切らしたのか彼は口を開く。

 

 

「おい、机くっつけて来たんなら何か喋れよ」

 

「ご、ごめんね」

 

「お前はいつも巻き込まれてるだけだろ。 おい名倉、聞いてんのか?」

 

 

 ボサボサ頭の彼、心操人使が顔を向けた先には、豪華な弁当をガツガツかきこんでいるイケメンがいる。前髪をオールバックにし、一部を前に垂らした独特な髪型をした彼、名倉は心操に睨まれ名指しで呼ばれた事で初めて箸を置いた。

 

 リスのようにした頬を動かして、咀嚼をしている彼は納得がいかないことを表情で表現する。その後、口の中の物を飲み込むと、コップ付き水筒のコップに、カフェオレを注ぎながらもようやく返事をした。

 

「小さい頃教わらなかったか? 食べながら喋っちゃあいけませんってよぉ。 ママの言いつけ守れないなんて、致命的だぜ?」

 

「じゃあ何のために毎回席くっつけてんだよ、アホ」

 

「食べ終わったらお喋りしたいでしょうが!」

 

 

 普通科に入学して以来名倉と心操、そして偶々心操の隣席であったモブ顔の佐藤は、こうして昼食を共にしている。きっかけは誰も覚えていないが、友人関係などそんなものである。

 

 イケメン二人(とモブ一人)の食事を、ギラギラした目で見つめる女子生徒の姿もちらほらある。だが、彼らは気にする素振りを見せない。

 

 

 「話変わるけどよ、そういやなんで心操は普通科来たんだ? ヒーロー目指してんだよな」

 

「お前も目指してて来てるじゃねえか」

 

 

 心操と名倉は、個性の害悪さと実技試験の不満をそれぞれ持っていた。佐藤を巻き込んで仲良くなった彼等だが、そのおかげで意気投合。短期間でかなり親交を深めていた。佐藤を置き去りにして。

 

 心操と名倉が意見を出し合い語り合い、途中途中で一般的意見を有している佐藤がツッコミを入れる。この流れが彼らのいつもの会話である。

 

 

 

 「だってよぉ、教師陣全てがプロヒーローとか中々無いぜ? しかもツテでヒーロー事務所合格してる奴も結構いるじゃん」

 

 前半は尾白の受け売りだ。名倉にとって尾白の存在は意外に大きいらしい。

 

 

「まあ、そうだな」

 

「でも二人なら他校のレベルの高いヒーロー科に、合格出来たんじゃない?」

 

 

 佐藤の何気ない質問に、名倉は青海苔がついた歯を見せながら笑みを作る。

 

「優秀な講師陣に、今年はオールマイトが加わるんだぞ。 他校のヒーロー科なんか霞むわ。」

 

 友人を呼び出すほど悩んでいた名倉は、自身の選択が正しかったということを強調するような発言をした。尾白が聞いていたら呆れているだろう。

 

 

「確かに、合否判定の映像に映った時は驚いたね」

 

 佐藤は普通科生徒向けに撮影された、キラッキラの映像を思い出す。スーツのオールマイトもカッコよかったなと思っていると、心操が会話に加わる。

 

 

「名倉は雄英体育祭狙いだと思ってたんだがな」

 

 心操がニヤリとしながら、名倉を見やる。普通科の生徒も参加できる、最大のコネ作りの場。そして、現代日本のオリンピックに変わる人気を誇る大会でもある雄英体育祭。その名を出すと佐藤を除く二人の口元が緩む。

 

 

「わかってるじゃないの、心操クン」

 

「クン付けすんな、きもちわりい」

 

 

 佐藤にとっては負け確定の疲れる大会という認識であるが、この二人にとってはどうやら違うらしい。また自分が蚊帳の外になり少し寂しくなった佐藤は、気を紛らわす為に好物の冷凍食品の唐揚げを頬張った。

 

 

「ヴィラン襲撃で休止になりそうだったけど、開催することにしてくれて本当に嬉しいぜ。 今から去年の映像見て作戦立てるぞ」

 

「トーナメントまで残らなきゃ意味ないし、今回は協力してやるよ」

 

 

 彼ら(佐藤を除く)は普通科教室の片隅で、雄英体育祭に向け闘志を燃やす。

 

 

「優勝するのは俺だがな」

 

 

「いや、俺だ」

 

 

 

 

 俺ではないなと、佐藤は心の中で呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 名倉の個性はイレイザーヘッドに激弱。

 佐藤くんの下の名前は考えてません(無慈悲)



 書きだめ尽きたので、次の投稿はかなり先です。





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