のんびり巡ろうシンオウ地方(仮) (ユキノス)
しおりを挟む

ある日ある時フタバタウン

初めての方は初めまして、そうでない方はこんにちは、ユキノスです。

この小説は、懐かしきダイパプラチナの、言うなればSS小説になります。久々にポケスペ見てたら、「すげぇ……こんな話が書けるのか……」と感激しまして。書いてみる事にしました、ええ。
という訳で、いつかはチャレンジしたかったポケモン小説。その中でも1番大好きで、今でもやっているダイパプラチナの話を選びました。個人的に「こうしてみたいな」と思った事を書いていますので、「ここ原作とちげーじゃん!」みたいな意見は御遠慮ください。

初っ端からくっそ長い前書きですが、楽しんでいただければ幸いです。
ではどうぞ。


「おーい、コウキー!」

外から僕を呼ぶ声がした。寝ぼけ眼をこじ開け、窓も開けると、もうかれこれ8年来の付き合いになる幼馴染――ジュンが、笑顔で手を振っている。

「ふわ……おはよジュン、どうしたの?」

「どうしたもこうしたもねーよ、テレビ点けろテレビ!『赤いギャラドスを追え!』やってんぞー!」

「えっ、嘘!?ありがとう、すぐ見る…どわあ!」

慌てすぎてベッドから落ちてしまい、ジュンの「大丈夫かー?」という声が聞こえる。

窓口から親指を立てているのを見せ、リモコンのスイッチを入れる。すると丁度そのチャンネルだった様で、赤いギャラドスについての調査と、その結果が映し出されていた。

「なぁんだぁ………見付からなかったんだ、残念」

「コウキ、朝から何をドタバタやってるの?ジュン君と一緒なら分かるけど、貴方今1人よね?」

「……あ、お母さん。おはよ」

「はいおはよう。朝ご飯出来てるから、着替えて食べちゃいなさい」

「はーい」

タンスから服を取り出し、パジャマを脱いで着替え、そのパジャマをお母さんに投げ渡す。ややしかめっ面をされたが、そこはご愛嬌という事で。

「……よしっ」

「家の中で帽子は被らない。何度も言ってるでしょう」

「いつものクセで……」

「ニャー」

小突かれたと同時に、お母さんの足元をするりと抜けて来たニャルマーが、僕の足に頬を寄せた。このニャルマーはお母さんのポケモンで、このニャルマーと一緒にコンテストを総ナメにしていたんだとか。今は訳あって居ないが、お父さんに「これはとっても凄い事だぞ」と何度も聞かされた。

「よしよし、おはようニャルマー」

「ニャーン」

喉元を掻いてやると、ゴロゴロと喉を鳴らして喜んでいる。因みに関係無いけど、僕はガーディの方が好きだったりする。そのお陰か、ニャルマー以外にもガーディが居る。数年前、お父さんが「ジョウト地方にたまたま居たから捕まえて来たぞ!」と言って、モンスターボールと共に渡してくれた時の興奮と言ったら凄かった。

「ガーディは下?」

「ええ。散歩に連れて行ってくれるのを、うずうずしながら待ってるわよ」

「わあ、それは早く行かないと」

踏み外さない様に、でも最大限急ぎながら下に降りると、ちぎれんばかりに尻尾を振ったガーディが飛びついてきた。

「キャンキャン!」

「おおっ、と。よしよし、ちょっと待ってな」

ガーディを一旦鎮め、朝ご飯を大急ぎで食べる。陽気なガーディだが、僕の言うことはしっかりと聞いてくれるから、信頼されているのだろう。ちょっと鼻が高い。

「ご馳走様。よーしガーディ、待たせてごめんな。行こう!」

「キャウーン♪」

ドアを開け、ダッシュし始めた途端、ジュンの声が聞こえた。

「おーいコウキ!湖の方行ってみようぜ!」

「うん、分かった!ガーディ、良いかい?」

小首を傾げ、それから大きく頷いたガーディの賢さに改めて凄いと思いながら、ジュンが勢いよく出てきたのにぶつかった。実はよくある事だったりする。

「いっ、たたた……ジュン、ダッシュは距離を考えて……」

「いちち……悪い悪い、201番道路集合な!遅れたら罰金100万円だ!」

「んな無茶な!……行っちゃった」

でもよくよく考えれば、時間を指定されていない訳で。つまり、遅刻というのは実質有り得ない訳だ。

「……やっぱり根は優しいんだなぁ……っといけない、走ろう!」

「ワンッ!」

 

 

「遅ーい!」

「ええ!?」

ここまでワンセット。ジュンの方が圧倒的に足が早いので、大抵こうなってしまうのだ。

「まあいいや、赤いギャラドスって湖に居たよな?」

「へっ?」

話題がかなりすっ飛んでいるので、思わず素っ頓狂な声を出してしまう。……コホン、確かあれは『怒りの湖』という名前の湖だった様な……まあ兎に角、湖である事は事実。

「うん、居たね」

「でさ、シンジ湖も何か居るらしーんだ。スゲーポケモンが!」

「ああ、確かにお婆ちゃんが言ってた!なんか、シンオウ地方の守り神とか何とか……」

「それだ!そいつを今から捕まえに行くぞ!」

「ええ!?」

何ともまあ、罰当たりな事を考えたものだ。しかしジュンが無茶を言うのは初めてではないので。最早慣れてしまっているのも事実。

「で、でもモンスターボール無いし……」

「うっ……仕方無い、会いに行くぞ!」

「おー!」

「キャーン!」

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「そう言えばさ」

「うん?」

「シンオウ地方の守り神って、どんな見た目なんだろうね?」

「そーだなー……なんか、カッコイイ見た目じゃないか?」

「おおー、楽しみだなあ……ってあれ、誰?」

女の子とお爺さんが、何やら変わった変わってないと話しているみたいだけど、よく聞こえない。何せ木の陰から聞いているのだ。

「わっ、こっちに来た!」

「いやいや、流石に何もしてこないって……」

「失礼、通してもらおう」

「ごめんなさい……ちょっと通りますね」

2人が去っていくのを見送り、向き直った瞬間、ジュンと同時に「あっ!」と声をあげた。

「あのお爺さん……鞄忘れちゃってるよ……」

「でも草むらの中だぞ?危険だから入るなって……あ、でも、お前のガーディが居るから大丈夫じゃないか?」

「うーん……でもどうだろう……ガーディ、戦える?」

「クゥーン……」

「自信無いって。どうする?」

「……ええい、バッと行ってバッと帰って来よう。行くぞ!」

「う、うん!」

互いに目配せして、「せーの!」の掛け声と共にダッシュで鞄の所に向かい、鞄を回収――する直前、2匹のムックルが襲い掛かってきた。

「うわわっ!?」

「くそっ、あっち行け!……そ、そうだ鞄!鞄の中に何か無いか!?」

「えーとえーと……も、モンスターボールが3つ!」

「よし、それ使わせてもらおう!」

迷わずボールを掴んだジュンが、そのボールを投げると――

「ポチャー!」

青くてちっちゃい、ペンギンみたいなポケモンが。

「……これだ、行けっ!」

「ヒッコ!」

僕が投げたものからは、茶色っぽくてお尻から火が出ているサルみたいなポケモンが出てきた。

「ガーディ、こっちに来て!……えーと、『ひっかく』!」

「コァァァッ!」

サル(名前が分からないので、申し訳無いがそう呼ばせてもらう)がムックルの顔を引っ掻き、驚いたムックルが距離を取った。

「よし!とりあえず――」

――いや、『たいあたり』だ!

「避けろ!」

「ヒコッ!」

姿に違わず、俊敏な動作で横っ飛びしたサルは、ムックルの事を凝視している。……いや、睨んでいる?

サルの顔を見たムックルが、少し怯えた様子で突っ込んで来る。やっぱり、あれは『にらみつける』だ。

「凄いな、こいつ……狙って狙って……今だ、下から『ひっかく』!」

かつてP―1グランプリで見たエビワラーのアッパーの様に、下から掬い上げる様に引っ掻かれたムックルは、か弱く鳴きながら逃げていった。

「……ふぅー……」

いきなりどっと疲れが出て、その場に座り込む。

「終わった……か?」

「みたい……お疲れジュン……」

「クゥーン……」

何も出来なかった事を申し訳無さそうに擦り寄ってくるガーディを撫でながら、サルをモンスターボールに戻す。ジュンも同じ様に戻して座り込み、手を後ろについて空を仰いだ。

「なんか……ポケモントレーナーってすげえんだな……」

「うん……こんな事を何度もしてるんだもんね……」

疲れ切った状態で、2人揃って微妙な顔で笑った。

だがそんな顔も、一瞬にして凍りついた。

「あっ、あったあった!良かったー、博士に怒られる所……だっ、た……?」

女の子が漏らした安堵の声が、段々とフェードアウトしていくのは、この状況を見たからだろう。

開いている上、3つのボールの内2つが無い鞄。疲れ切った顔で、草むらに座っている、ムックルの羽根が所々に付いている2人組。その手には、鞄にあった筈のモンスターボール。

これを見て、女の子も何があったかを察したのだろう。

「え、えっ?もしかして貴方達……ポケモン使っちゃった!?」

ジュンと顔を見合わせ、ガーディも同時に頷く。それを見た女の子は、何かを恐れる様な顔になった。……ごめんなさい。

「どうしよう……博士怒るかな……と、とりあえず鞄は持って行くね」

最早泣きそうな女の子が、鞄を持って足早に戻っていくのを見た僕達は、何だかいたたまれない気持ちになった。

「……とりあえず、俺達も戻ろうぜ」

「そうだね……ごめんねガーディ、家に帰ろう」

「クゥーン……」

「……このポケモン達、返さなきゃだよね……」

「でも、どうやって返すんだ?俺達、あのじーさんの住んでる場所知らないぜ?」

「確かに……仕方無い、また今度考えよう」

――キュウウーン!

「「!!」」

バッ、と立ち上がったジュンが、湖の縁に立ち、辺りをキョロキョロと見回した。

「……今の、聞こえたか!?」

「うん、聞こえた!今の声……守り神だよ!」

「ああ!……でも、どこにも居ないな……」

「きっと、僕達がまだまだ、って事なんじゃないかな?」

「そうか……よっしゃ、もっともっと強くなって、凄いトレーナーになったらまた来るからな!待ってろよー守り神!」

「それまで僕達を見守ってて!絶対にまた来るから!そして……」

「「いつか、捕まえてみせる!」」

高らかに宣言したその声に、守り神はもう一度鳴いて答えてくれた。まるで、待ってる、と言わんばかりに。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「ただいまー」

「あらお帰り。……あら?そのボールは……」

「うん、実は……」

事情を説明した後、「人のものを勝手に使うんじゃありません!」と怒られる事を予想した僕は身を縮めたが、お母さんは僕の頭に手を置いただけだった。

「コウキ、その人は恐らくナナカマド博士よ。ここからすぐ近くのマサゴタウンに研究所があるわ」

「マサゴタウン……」

草むらを挟むが、それでも歩いて30分掛からない。……これで「キッサキシティに研究所がある」なんて言われていたら、その時は諦める所だった。良かった良かった。

「そう。だから、返しに行くならそこへ行きなさい」

「うん、分かった」

「ほら、貴方の帽子と鞄。それからこれ、ランニングシューズ」

「わあ……お母さん、これ買ってくれてたんだ!」

「ええ、思いっきり走ってきなさい。お昼ご飯を食べて、食休みをしたらね」

「うん!」

因みにガーディは、『かみつく』『ひのこ』『にらみつける』が使えるらしい。それとさっきのアレ、自信無いんじゃなくて単にめんどくさかっただけみたい。こいつ、上手なサボり方を知ってる……。




1話目から4000字オーバーとか書いた事無かったです()
今まで書いたのは平均2000字ぐらいだったので、この小説では1話を長めに書きたいなと思っとります。
ではまた次回。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

マサゴタウンのコワモテ博士

こんにちは、ユキノスです。
本編に関係ありませんが、皆さんは博士の話を聞いていた時、「ここにモンスターボールがある!ちょっとボールの真ん中のボタンを押してみてくれい!」と言われるまでボタンをガチャガチャ押してて、「そのボタンじゃない!」と言われた事はありませんか?俺はしょっちゅうあります。もうアレ普通に飛ばしたい……
ではどうぞ。


靴のつま先で床を叩き、ガーディとサルのモンスターボールがベルトに付いている事を確認する。冒険ノートが入った鞄は持った、帽子も被った、あとは……特に何も無かった。

「うん、行ってきまーす!」

「行ってらっしゃい、気をつけるのよー」

ドアが閉じる寸前、そんな声が聞こえた。

「あ、おばさん!ジュンって居ますか?」

「ああ、ジュンなら今2階に居るよ。あの子も()()()に似て向こう見ずと言うか無鉄砲と言うか……」

「……?むこーみず?」

「あらごめんなさい、もうちょっとだけ早かったかな?…ジュンー!コウキ君来たわよー!」

2階から「今行くー!」と聞こえたので、階段の陰に隠れて驚かせてみる事にする。

「わっ!」

「どぉわぁああ!……こんのやろー、おどかすなよ!」

「あはは、ごめんごめん!お邪魔しましたー!」

「行ってくる!」

走りながら振り向いて見ると、おばさんが手を振っていた。それを笑顔で振り返してから、201番道路のT字路に来た――ところで急ブレーキをかけた。

「……お前、先行けよ。なんつーか、その……俺、もう少しこのポケモン(こいつ)と一緒に居たい」

「それは僕もだよ。ガーディも居るけど、このサルも中々に気に入ってくれてるみたいだし……そうだ!」

「んお?」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

「……お前…………」

僕の意見を聞いたジュンは、しばらくぽかんと口を開けていた。我ながら良いと思ったんだけど、これは駄目だったかな……と思い始めたその矢先、みるみる内に笑顔に変わっていくのを見て、ほっと安心。

「それだ!それだよ!なんでもっと早く気づかなかったんだ!?」

「いやー、希望が見えたね!」

なんてやいのやいのと話していると、等のナカカマド……じゃない、ナナマカド……でもない、ナナカマド博士が、草むらの向こうから現れた。

「「……あっ」」

今の会話を聞かれていたとなると、かなりまずい。何せ、許してもらえるという前提で話を進めていたのだ。今のを見て許さないと言われたら、その時はもう諦めよう。そう2人して決心した。

「……キミ達かね、ポケモンを使ったのは」

「「は、はいっ」」

「名前を、聞かせてもらえるかな」

「お、俺はジュン。こっちは……」

「コウキです。ナナカマド博士、大事なポケモンを使ってしまっ……」

博士に手で制され、言葉が中断される。続いて、博士はその灰色とも白とも言えない髭を触りながら、名前の復唱をした。

「……なるほど、ポケモンを使った理由は何かね」

「俺達は鞄を届けようとしたんだ。だけど、突然ムックルが襲ってきて……どうしようってなった時に、『鞄の中に、何か使える物は無いか』と思って……」

「モンスターボールを使い、ムックルを撃退したと」

「そういう事」

「では、最後に1つ聞こう」

博士の顔つきが変わり、怒らせたかもと思ったので、ちらりとジュンの方を見る。ジュンの方も「俺はホントの事を言っただけだ!」と強く(目で)訴えていたので、まあ確かに合ってるか、と納得。

「キミ達にポケモンを渡したとして、キミ達は何をしたいのかね」

「……それは、将来の夢的なアレですか?」

「『アレ』が何を指すのかは分からないが、つまりはそうだ。そのポケモンと共に、何がしたい」

「俺は……」

「僕は……」

「「いつか凄いトレーナーになって、シンジ湖の守り神に会いに行く!」」

この答えには、流石のナナカマド博士も驚いた様だった。僅かに目を見開き、次いで薄く微笑むと――

「合格だ。キミ達にそのポケモンを与えよう。――着いてきなさい」

そう言ってUターンして去っていくナナカマド博士を追わないという選択肢は、微塵も無かった。

「「やっ……たぁー!」」

同時に跳び上がり、乾いた音を立ててハイタッチをする。それを見ていた博士は、先程よりも大きな笑みを浮かべていた。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「おぉ……ここが研究所……」

「あれ、意外に人が少ない……」

「…………」

研究所の中に入った途端、いきなり黙り込んでしまった博士の後を小走りで追いつつ、ジュンがこそっと耳打ちしてきた。

「良かったな、ポケモン貰えて」

「うん、ほんとに。……でも、なんで研究所まで来たんだろ」

「俺に聞かれても分からない」

「……さて、ジュン、コウキ」

「は、はいっ」

「うん?」

博士は、机の上に置いてある赤い板の様な物を2つ持って、僕達の目の前に差し出した。

「これは『ポケモン図鑑』、出会ったポケモンが順次記録されていくというハイテクな機械だ」

「は、はあ……」

「でもよぉじーさん、それ見たとこ新品だろ?俺達にどうしろってんだ?」

かなり失礼にも思えるジュンの言動にも、博士は右眉を上げただけだった。エヘンと1つ咳払いをすると、僕達にポケモン図鑑(コレ)を渡す理由を詳しく説明してくれた。

「そう、新品だ。そしてこれは、シンオウ地方のポケモンの総数である150匹分が記録出来る」

「……?」

()()()()()()()()()()()()()()。となると、ガーディの様な普通シンオウ地方に居ないポケモンはどうなるのだろうか。

「博士、ちょっと良いですか?」

「む、何だ?分かりづらかったか?」

「いえ、そういう事ではなく……ちょっとコイツを見てください」

そう言ってガーディを出すと、ナナカマド博士は「ほう」と呟いた。どうやら、僕が言わんとしている事を察したらしい。

「このガーディは、本来ジョウト地方のポケモンです。その場合、図鑑に登録はされないんでしょうか?」

「うむ、良い質問だ。まず、ガーディはシンオウ地方に居ない為、シンオウ図鑑()()登録されない。だが……」

博士は、ポケットから小さいチップを取り出した。

「これは、図鑑をアップグレードさせる為の物だ。このチップには、シンオウ地方だけでなく、ホウエン地方、カントー地方、ジョウト地方のポケモン全てを記録出来る程のデータが詰まっている」

「4つの地方……」

「全部の……!」

「ん?でもじーさん、そんなスゲーもんがあるなら、何で今入れねーんだ?」

「それは簡単だ。最初から400匹以上を記録させるとなると、まだお前達には酷だろう」

「よ……!」

「よん、ひゃく!?そんなに居るのか!?」

「だからこそ、まずは小さな目標を課する事にした。それが達成出来た時、この『全国図鑑』のチップを渡そう」

「……だってよ、ジュン」

「おーうおうおう、分かったぜじーさん!ささっと埋めて、必ず全国図鑑まで達成してやらー!」

「僕も、全部のポケモンに会いたいです!だから、その時までチップは取っといてくださいね?」

「ああ、約束しよう。さて、そうなれば……ヒカリ!こちらに来てくれないか」

「はーい博士、今行きますね」

「あっ、あの時の!」

「あれ、キミ達だったんだ。まあ半分ぐらい予想はしてたけど……コホン。ヒカリです、博士の研究助手してます」

「ヒカリにトレーナーとしての基本を教えてもらうのだ。更に詳しく学びたいなら、コトブキシティにあるトレーナーズスクールへ行くと良い」

「わっかりましたー」

「最後に、ポケモン図鑑とわざマシンだ。『おんがえし』という技が入っている」

「あ、はいっ」

図鑑を手に乗せられて思ったけど、図鑑って意外と軽い。軽量化出来てるのかな?その内『勝手に動く図鑑』とか出来そう。

「よーしコウキ!早速競走だ!どっちが先に図鑑を埋めるか!」

「臨むところだ!負けないぞ!」

「……ところで、お前達。ここが研究所だという事を忘れてはいないだろうな?」

「「ゔっ……」」

「完っ全に忘れてた顔だね……」

「次からは気をつける様に。私からは以上だ」

「あ、ありがとうございました!」

何だかこれ以上あれこれ騒ぎ立てるのは悪いと思ったので、お礼を行って足早に研究所を出る。最後に博士が何か言っていたみたいだが、よく聞き取れなかった。

 

 

「あー、なんか気まずかった……」

「なんかあのじーさん、怒らすと絶対怖いだろ……」

「怒らせる様な事をしたらね。そうでない時は優しいんだよ?」

「へーそうなん……!?」

「?」

先程、博士の助手だと言われていた女の子―確かヒカリと言っていた―がすぐ側に居たとなれば、怖くはなくとも多少身を引くぐらいの事はしても怒られないと思う。

「ななななっ、なんで居るんだよ!?」

「なんでも何も、博士から言われてたでしょ?貴方達に、トレーナーとしての基礎をレクチャーしてくれって頼まれたからよ」

「あ、そう言えばそんな事言ってたかも……」

「はい、それじゃこっちに着いてきてくださーい」

「……何これ?」

「少なくとも、なんか馬鹿にされてるのは分かった」

「それは僕も思った……」

本人は上機嫌だが、それでもこっちは納得いかなかった。5歳児じゃあるまいし……ねえ?

「とりあえず行こうぜ」

「だねー」

オレンジ色の屋根の建物の前で止まっているヒカリを歩いて追い、近くに来た所で解説が入った。

「これがポケモンセンター。ポケモンを回復してくれたり、パソコンが使えたりするの」

「パソコン?それぐらいウチにだってあるぜ?」

「ノンノン、ここのパソコンはね……7匹以上のポケモンを捕まえた時、自動でボールが送られるの!」

「「へーっ!」」

仕組みなぞ分かる筈も無いが、それでも凄いシステムだと思う。逆に、6匹までしか連れて行けないなんて言われたら泣くしかない。

「良かったね、ジュン」

「おう!コウキも、ガーディと別れないで済むぜ?」

「そもそも別れないから、心配要らないよ」

「分かってる。……んで、あっちの青い屋根は?」

「あれはフレンドリィショップ。モンスターボールやキズぐすりなんかを売ってくれるの。ジムバッジが多い程、品揃えが豪華になっていくわ」

「ふむふむ……ジムバッジ……」

「となれば、ジムリーダーと戦う事になるんだろ!?くぅーっ、遂に俺にもそんな時が来たかぁ!」

「燃えてるねー、僕はのんびり行こうかな」

「おう、お前がのんびり行ってる間に、俺がシンオウ地方を制覇してやるぜ!」

「むっ、それは聞き捨てならない。僕がシンオウ地方で1番強くなるんだ!」

「いーや俺だね!」

「ぐぬぬ……」

「ぐぬぬぬぬ……」

「はーいやめー!……全く、仲が良いのは結構だけど、話が進まないから後で」

「「……はい」」

ノーマルに怒られた。でもいつも競い合ってたからなあ……『いつか凄いトレーナーになる!』って。だからそこまでいつもと変わらない事なんだ。

「さて、次はいよいよポケモンの捕まえ方……だけど、その前に。2人とも、親御さんに『トレーナーになった』って事言って来たら?何も言わずに行ったら心配されちゃうでしょ?」

「あ、確かに……」

「う……コウキ、1回帰ろうぜ」

「そだねー、なんか今日だけで行ったり来たりしてる気がするよ。それじゃ、また後で、っだ!」

笑顔で手を振るヒカリに手を振り返していたら、なんと石ころにつまづいてしまった。後ろ向きに走っていた為空を仰ぐ形になり、そこには色々なポケモンが飛んでいた。

「……よーし、いつか捕まえてやるぞー!」

意気込み、足を振り上げて立ち上がると同時に、ジュンに追いつく為にスピードを上げた。




お知らせ:コウキの手持ちポケモン、実はまだ完全には決まってません。なので、「こいつ好きだったから出して!」みたいな意見があれば、感想にてお教えください。実際に出るかも……?

ではまた次回。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

あなたの名前は?

こんにちは、ユキノスです。
今回もですね、やっていこうと思ってる訳ですけども。ええ。今進んでるのはですね、「旅するって事、家の人に言わないでいいの?行ってきたら?(強制)」の辺りです。3話目でこれってかなり遅いのでは……?分からん……分からんぞぉぉぉ!
ってな訳で、どうぞ。


「たっだいまー!」

「あら、お帰りコウキ」

「お母さん!実はさっき!」

「…とりあえず落ち着きなさい。はい、深呼吸ー……」

「すぅー……はぁー……」

博士にああ言われてからというもの、ずっと興奮しっぱなしだった頭が、深呼吸により鎮まっていくのを何となく感じながら、言いたい事を整理してみる事にした。

「で、ポケモンの件についてはどうだったの?」

「うん、それが許してもらえたんだ!しかも、ポケモン図鑑と一緒にくれたんだよ!」

「あら凄いじゃない、お母さん鼻が高いわー」

「で、あのーその……図鑑を完成させる事を頼まれたんだ。だから……」

「いいのよ、行ってらっしゃい。ただし、念の為マフラーと防寒着を持って、風邪引かない様にね」

「ほんと!?やっ……たー!」

いつの間にかボールから出てきていたガーディと抱き合い、跳ね回りながら喜んでいると、ジュンのお母さんが来た。なんだろう?

「すいませーん、こちらにジュン来てます?」

「あら奥さん!いえ、来てませんけど」

「そう……あの子ったら『ポケモントレーナーになる!』って凄い勢いで飛び出しちゃって……これ渡そうと思ってたのに……」

「あ、なら僕が届けて来ますよ。目的地は一緒なので」

「そう?ごめんねコウキ君、それじゃお願いしていい?多分、コトブキシティに居ると思うの」

「はい、お願いされました」

小包の様な、やや小さめの荷物を渡され、それを背中のリュックにしまう。ガーディをボールに戻し、ベルトに装着。爪先で床を叩いて、「行ってきます!」と言ってドアを開け、駆け出す。

「子供って元気ねえ……」

「そうねえ、人に迷惑掛けなければ良いけど……」

「そこはコウキが、キチンと止めてくれるわよ。あの2人、良いコンビだもの」

「そうね。さて、洗濯物でもしますか……」

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「ジュンの奴、もう行っちゃったのか……よーし、僕も負けてられない!」

草むらを最大限避け、段差を飛び越え、最短ルートでマサゴタウンに戻ってくる。すると、ナナカマド博士が待っていた。ジュンと共に。

「あれ、ジュン!こんな所に居たんだ!」

「おーコウキ、おせーぞ!罰金1億円な!」

「んな無茶な……で、そうそう。はいこれ、おばさんからジュンにって」

「なんだこれ……やった、タウンマップ!って2つも要らねーよ!コウキにやる!」

「うーん、多分おばさんはこうなる事を想定してたんじゃないかな?」

「多分な。んでじーさん、話って何だ?」

それまで微動だにせず立っていた博士は、「うむ」とだけ呟き、咳払いを1つした。

「お前達、ポケモンにニックネームを付けたらどうだ?その方が愛着が湧くだろう」

言われてみれば確かに、どのバトル中継に出ていたトレーナーも、必ずニックネームを付けていた気がする。ジュンは分からないが、僕はいくつか候補がある為頷く。

「うむ。では、どちらに付けるのだ?」

「両方です。ガーディは『ホムラ』、このサルは……」

「ヒコザル、だ。そのポケモンはヒコザルという」

「あ、そうだったんですか……ヒコザルは『カグツチ』にしようかと」

「うむ、良い名ではないか。ジュン、お前はどうする?」

「うーんとえーと、俺は……よし、決めた!お前の名前は『ペンタロー』だ、ポッチャマ!」

「ポチャマ!」

それを聞いた博士は大きく頷き、道を開けた。

「引き止めてしまい悪かったな。さあ、ヒカリにトレーナーとしての基礎を教わってこい。千里の道も一歩から、だ」

「はい、ありがとうございました!」

「あんがとなじーさん!この恩は返すぜ!」

僕らを見送った博士は、また研究所へと入っていった。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「うーん、2人の声こっちまで聞こえてたよー」

「えー、まさかそんな訳」

「そーそー、俺たちの声がそんな遠くまで響く訳ねーだろ!」

「えと、響く、と言うよりよく通るんだよ……」

……ヒカリ、なんかごめん。いやほんとは周辺に住んでる人に謝るべきなんだろうけど。そして口に出すべきなんだろうけど。でもまあ、とりあえずはお咎めが無かったのでセーフ……かな?

「さて、これから2人にポケモンの捕まえ方を教えるよー」

「おお、遂に……」

ちょっとそこで見てて、と言って草むらに入り、出てきたビッパとヒカリのポケモン―ナエトル、という名前らしい―が交戦を始めた。『たいあたり』で吹っ飛ばされたビッパに、ヒカリがモンスターボールを投げる。ビッパが入ったそれは、3回ほど揺れ――ポンッ!という音と共に止まった。

「こんな感じ。ほんとはもっと弱らせたり、あとは状態異常にした方が捕まえやすいんだけどね。……という訳で、2人にはモンスターボールを5個ずつプレゼントしちゃうよ」

「ありがt」

「っしゃ、ガンガン捕まえるぜ!という事で、俺の最強トレーナーへの道が始まるのであった!じゃな!」

そう言い残し、超スピードで走り去っていくジュンをぽかんとした顔で見送ったヒカリが、何となくおかしくて笑ってしまった。

「……ぷっ」

「な、何?」

「いや、なんか間の抜けた顔だったなぁ、って思っただけ。それじゃ、僕も行くよ。またねヒカリ!」

「気を付けてねー!」

草むらを走り抜け、すぐそこに短パンの男の子が居たけど素通り――

「待て待て待て待て!おーい!そこのアンタ!」

「とぁっ、たっ、たっ!」

「目と目が合ったらポケモン勝負!世の中の常識だろ!?」

何言ってんのこの子。真横で目合わせるとか凄いな。どんだけバトルしたかったん……いや、ジュンが話す前に走り抜けてっただけか。それでイライラしてるのか。なるほど。でも目は合ってない。

「いや目合ってないし……」

「今合って……おい、そっと目を逸らすな。さりげなく立ち去ろうとするな」

「ちぇ……分かった、バトルしよう」

「そう来なくちゃ!行けムックル!」

「ピピルピー!」

「さっきサボった分戦ってもらうぞ!行けっ、ホムラ!」

「ワンッ!」

さっきムックルは見ているが、図鑑には登録していなかった為、図鑑を開いて登録する。……えーと、このボタンを押せば良いのかな?

 

ムックル むくどりポケモン

 

たくさんの むれで こうどうする。

からだは ちいさいが はばたく ちからは

ひじょうに つよい。

 

「へえ、そうなんだ……さて、先攻はどうする?」

「お先にどうぞ!」

「おっ、言ったなー?ホムラ、『かみつく』!」

「ガウ!」

「避けろムックル!」

大きく羽ばたいたムックルに、ホムラの牙は届かなかったどころか、反対に吹き飛ばされてしまった。(無いとは思うが)どこかに行っては大変と、慌てて受け止める。

「うわっ……と、大丈夫かいホムラ」

その問いに大きく頷き、再び駆け出したホムラは、今度こそ『かみつく』を当て、そのまま咥えてぶん投げた。……きっと、吹き飛ばされたのが悔しかったんだろうな。

「ガウゥゥゥゥアアアア!」

「うわーっ、ムックル!?」

「い、急ごう!」

ボールの数を見るに、あのムックルが彼の唯一の手持ちだろう。そうでなくても、大事なポケモンでもあるだろう。となると、責任の1つや2つ取らないとまずい。

「確かこっちに……、居た!」

「クゥ〜……」

「ああ、ムックル……」

「ほら、ホムラもごめんなさいして」

「キュウ〜ン……」

「いや、アンタのガーディも強かったよ。ムックル(こいつ)はポケモンセンターで回復してもらうから、そんなに謝らなくても大丈夫さ」

「……そうかい?うーん、でも……そうだ!また今度、お互い強くなってから戦おう!」

そう言ったら俯かれてしまったので、「あれ、なんか傷付けちゃった?」と思い始めた直後、男の子が大きな声で、お腹を抱えて笑いだした。

「あはははははっ、なーに言ってんのさ!そんな事言われたら断れないじゃないか!その勝負、受けて立つ!……俺の名前はユウタ、アンタは?」

「僕はコウキ。よろしく、ユウタ君」

「おう、またなコウキ!」

互いに固く握手して、再戦の誓いを立てる。

彼と後に出会う時、僕はそれこそ目を剥いた。場所が場所だったから、ある意味では仕方ないのだけど。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

ユウタ君と再戦の約束をした後、草むらを掻き分けて歩いていると、1匹のムックルが飛び出してきた。

「うわっ。……僕はムックルと縁が深いのかな?行くよカグツチ!『ひっかく』!」

「コァーッ!」

カグツチの爪が深過ぎない程度に入り、それに怯んだムックルが空高く飛び上がった。

「うわ、眩しっ……しまった!カグツチ、後ろに跳んで!」

「ヒコ!」

素早い動作でバックステップしたカグツチが居た場所に、一瞬遅れてムックルのくちばしが突き立った。

「〜〜〜!〜〜〜〜〜!」

「……えと、抜けないなら手伝おうか?」

ムックルは、「お願いします……」と言いたげな目でこちらを見た。

 

 

「ん〜〜〜〜〜っ、しょ、ん〜〜〜〜〜っしょ!」

案外深く刺さっているらしく、僕1人の力では抜けない。無理に動かすとくちばしが折れてしまいそうなので、ぐりんぐりん回す事は出来ない。……となると。

「ホムラ、カグツチ、周りの土を掘る事って出来る?」

「ワウッ!(ヒコッ!)」

バババババババ、と効果音が付きそうな程に素早く土を掘っていく2人……じゃない、2匹をぽかんと見詰めていて、いや待てぼーっとしてる場合じゃないと思い直す。ある程度掘られた所でストップを掛け、もう一度引っ張ってみる。すると何事も無かったかの様にすぽんと抜けて、勢い余って尻餅をつく。

「でっ……抜けた!」

あとはくちばしに付いていた土を払い落とし、救出完了。さあ放してやろうと思ったが、なんか懐かれている様で離れない。

「……あれ、どうしたんだ?」

「ムクッ」

「もしかして、僕と一緒に来たいの?」

「ムクゥ♪」

「……分かった、一緒に行こう」

こつん、とモンスターボールを当て、赤い光となって中に入っていくムックルは、なんと揺れずにボールに納まった。

「よしっ、ムックルゲット!……そうだな、名前は……『ホルス』!お前は『ホルス』だ!」

新しい仲間も増え、コトブキシティに向かおうと奮起した。……まあ、何度かトレーナーとの勝負を挟んだけど。無事に着きました。




書き始めからかなり掛かってるんですよね、この話。でも、割と忙しかったりもします。期末もあるし、何やかんやパズドラもメモデフも楽s(殴)……はい、出来るだけ早く更新出来る様に精進(?)します。という訳で、また次回。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

トレーナーズスクールの《大物》

こんにちは、ユキノスです。
今回もタイトル通りの話になります。ハイ。(眠い)
ではどうぞ。


「やっぱり……なんかこう、『都会!』って感じがするなぁ」

「あ、コウキ君もそう思う?実は私も思ってたんだー」

トレーナーズスクールまでの道のりは近いが、まあ何か話しておこうと思い、ヒカリと話をする事にした。ポケモンの話、研究の話、互いの親の話………意外と話題は尽きない。

「でさ……あれ、もう着いちゃった。またねヒカリー」

「うん、またねー」

ヒラヒラと手を振って、トレーナーズスクールに入ると――途端、ヒヤッとした空気が押し寄せた。どうやら、思ったよりエアコンが効いていたらしい。

「寒っ……ジュンー、ここに居るのは分かっている、無駄な抵抗は辞めて―――」

「だーっ、お前はなんで昔っからそんな呼び方するんだ!」

「「しーーーっ」」

「うぐ……」

「ぷくく……」

流石にうるさ過ぎたらしく、ジュンが睨まれた。……と思ったら、メガネの男の子とワンピースの女の子が顔を輝かせながら近付いてきて、2人揃って首を傾げる。

「あっ、あの!それって、ポケモン図鑑ですよね!」

「へっ?ああ、これかい?そう、ポケモン図鑑だよ。ナナカマド博士がくれたんだ」

その台詞を聞いた途端――――わっ!と生徒が集まってきた。どうやら――あるいは当たり前の様に、ナナカマド博士に憧れる生徒は多いのだろう。

「見せて見せて!」「うわっ、押すなよ!」「あー見えないー!」「どれどれー!?」

「うわっ、とっ、とっ……凄い人気だね、博士って」

「だ、なっ……あのじーさん、怖いけどすげー人だぜ」

群がってくる生徒に、そろそろ対応し切れなくなってきた所で、パンッパンッ!という乾いた音が響いた。

「はいはい、静かに!席に戻りなさい!」

「「はーい……」」

生徒の間を割って、メガネを掛けた女性が歩み寄ってきた。その顔は申し訳なさそうだったが、少しだけ興味もありそうだった。……この人も博士のファンなのかな?

「生徒達が迷惑を掛けて、申し訳ありません。これからバトルの実習なので、良ければですが参加してみます?」

「……どうする?」

「俺はするぜ、色んなトレーナーとバトルするのはいい経験になるし」

「じゃあ僕もします。……どの辺に居れば良いですかね?」

「校庭に出ますので、そちらで。皆ー、着いてきてー」

「「はーい!」」

見た所新任の先生みたいだけど、中々に生徒からの人気は高いらしい。僕とジュンがトレーナーズスクールに居た時はお婆ちゃん先生だった。人気は同じくらい高かったけど、名前が思い出せない。ええと、確か名前は……キ――

「おーいコウキ!置いてくぞー!」

「あっ、待ってよジュン!」

思考の尻尾がするりと抜けたけど、先生のゴローニャは凄い迫力だったのは覚えている。アレに勝てるのかは分からない、とも。

 

 

 

「はい、皆ポケモンは持ちましたかー?」

「「はーい!」」

皆、元気いっぱいにモンスターボールを掲げている。中には……わお、ムックルにビッパ、コリンクもコロボーシも居る。この辺で捕まえてきたポケモンらしい。

「……僕らはどうする?」

「俺はムクタローで行く。さっき捕まえたばっかだし、実力を見てみたいからな」

「なら僕はホムラで行くよ。流石にここで負けたら笑い者だからね」

3年ぶりに来る校庭は、あの時と変わらない匂いだった。懐かしい…………ジュンもそわそわしてる。

「それじゃあ、2人でペアを組んでくださーい」

「「はーい!」」

生徒達は速攻でペアを組んでしまったので、僕とジュンは必然的にペアに。いつの間にか持ってきていたホワイトボードの上部に、先生がペンで《ダブルバトル》と書いた。なるほど、ダブルバトルの実習だからペア組んだのか。下にはトーナメント表。どんどん下に行って、ペアの名前をくじ引きで決めた後、先生がハッと何かに気付いた様だった。

「ごめんなさい、まだ名前を聞いてなかったですよね。お二人のお名前は?」

「僕はコウキ。こっちはジュンです」

「まあ、コウキ君とジュン君!?うわー懐かしい、覚えてる?」

「え、えっと……どちら様?」

「あっ、そっか……ほら、アイリのお姉ちゃんのアイラだよー」

「「…………ああー!」」

アイリとは、フタバタウンに3件しか無い家の内の3件目に住んでいた女の子である。確か今は、ハクタイに引っ越していた筈……

「ああ、私は皆と離れて暮らしてるの。だから、私が今住んでるのはコトブキマンションよ」

「あ、そうなんだ……ところで、僕らのペアだけ相手が居ないんだけど……」

「あっ……えーとえーと……私だけ、じゃ流石に駄目?」

「えっ、うーん……大丈夫?なんですか?」

「あ、敬語外しちゃって良いよー。ちょっと厳しいかもだけど、私のミスだしね」

「なら、私が一緒に相手になろうかね?」

このゆったりとした、余裕のある声には聞き覚えがある。僕らが生徒だった頃、先生としてトレーナーズスクール(ここ)に来ていた女性――

「キクノさん!」

「はい、久しぶり。3人とも、大きくなったねぇ」

「先生も元気そうで何よりです」

「ほほほ、褒めるのが上手いこと。さて2人とも、準備はいい?今ここに居るのは、ただのお婆さん。程々にお願いねぇ」

口ではそんな事を言っているが、繋がった記憶が正しければ、キクノさんは()()()()()()()()()()()。地面タイプの使い手で、四天王の名の通りシンオウでも屈指の強さだ。……程々にお願いするのはこっちな気がしてきた。

ジュンも息を呑む程のものだが、アイラさんが手を叩いて注意を向けた。

「はーい皆、ペアの人と仲良くしてねー。それじゃ、始め!」

わっ!とポケモンが出てきて、たちまち混沌と化した校庭の隅っこで、僕らは対峙していた。……アイラさんが物凄い浮いてる。

「行くよ、ホムラ!」

「お前の力、見せてやれ!ムクタロー!」

「出てきて、コリンク!」

「頼んだよ、イシツブテ」

「ワウッ!」「ピピルピ!」「ファウ!」「ビリィービ!」

それぞれのパートナーを出し、……ってちょっと待った、キクノさんイシツブテ?いや、ゴローニャよりマシか……

「ねえジュン、今思ったけどこれペンタローに変えた方が良かったんじゃ……」

「それは思った。でもな、こいつ物凄いやる気だったんだ。なら……出してやるのが、トレーナーってもんだろ!ムクタロー、《つばさをうつ》!」

「ピィッ!」

「コリンク、《スパーク》で反撃!」

「ファウ!…フゥゥゥゥアア!」

電気を纏い、ムクタロー目掛けて突進してきたコリンク。タイプ相性はこちらが不利だが、ジュンのムクタローはどうするのか――

「上に飛べ!そっから――《スパーク》が切れた所に、叩きつけてやれぇ!」

「ピィィィッ!」

ズバァン!という翼を当てたにしては重過ぎる音が鳴り、他の生徒もポケモンもこちらを見た。

「けほっ、けほっ……うわ、すっごい……」

「……おやおや、流石はクロツグの息子ね。昔のクロツグにそっくりだわ」

「けほっけほっけほっ、大丈夫か?」

「うん、大丈夫……けほっけほっ」

もうもうと舞った砂埃を払い、こちらもこちらで進めなければならない。そうでなくとも、こちらはタイプ的にイシツブテに勝てそうではないのだ。……あれ?もしかしてピンチ?

「ところで、コリンクは……」

「もう戦闘不能。ジュン君強過ぎるよ……」

「あ、あはは……」

「つー訳で、俺もお前に加勢してやる。足引っ張るなよ!」

「勿論!」

「あらあら、若いっていいわね。イシツブテ、頑張って」

「ビリッ!」

「っ!ホムラ、避け――」

「ムクタロー、ホムラ掴んで飛べ!」

「ピィッ!」

「ふぅ……助かったよ」

「んで……ぶん投げろ!」

「はいぃ!?」

「ワウゥゥアア!?」

マジでぶん投げた。ある意味凄いなこんにゃろう。……いや、今は冷静に……!

「ホムラ、《たいあたり》!」

ぶん投げられた勢いで《たいあたり》の体勢を取れば、相性は悪くともダメージは与えられる筈。そう考えたであろうジュンの作戦を出来るだけ汲み取った――と思う一撃だったが、結果はなんと――

「えっ……」

「ピンピンしてる……!?」

「うんうん、確かに良い作戦だった。それが咄嗟に浮かぶ事も、実行出来る事も、またそれを伝えずに汲み取る事も。――でも、ポケモンの勇気が足りなかった。『ちょっと危険な作戦だけど、大丈夫か?』そう思ったんじゃないかしら。だから、思ったよりもダメージを与えられなかった」

「っ……」

そうだ。いくらこちらが行けると判断しても、ポケモンが行けるとは限らない。加えて、こちらは安全圏で指示を出すだけ。……そんなのでは、信頼してくれなくても当たり前だと言わざるを得ない。他者の攻撃から庇うぐらいの事をしなければ、僕達ならば心の底から信頼はされないだろう。

――どうやら、夢を見ていたらしい。自分()()()チャンピオンになる夢を。

「……すっごく馬鹿げた夢だったんだなぁ、アレ」

「ああ、目が覚めた。俺達は……()()()()()()()()チャンピオンになる為に、旅をしたいと思ったんだ!」

「ホムラ、大丈夫かい?さっきは無茶させてごめんね」

「ムクタロー、少し休んでくれ。ポケモンセンターで傷は治ったとはいえ、まだ捕まえたばっかだ」

うんうん、と頷いているキクノさん。その笑顔の意味は、恐らく本人だけが知っている。

「「……行くぞ!ホムラ(ペンタロー)!」」

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「だーっ、キクノさんつえーな!」

「全っ然勝てない……お疲れ様、ホムラ」

「お前もありがとな、ペンタロー」

ペンタローとジュンが、互いの拳(?)を突き合わせているのを見て、なんだか良いコンビになりそうだなと思った。いや、実質良いコンビなんだろうけど。

「ほほほ、まだまだね。――待ってるわ、ポケモンリーグで」

それだけ言うと、キクノさんは去っていった。数多の助言を残して。

「アイラさん、今日はありがとう。良い勉強になったよ」

「俺もだ、まだまだ学ぶ事は沢山あるなぁ」

「それは良かった。また機会があったら来てね」

「そりゃ勿論。母校だし」

しっかりと握手をして、次の街――クロガネシティに向かう。あそこにはリーグ公認のジムがあり、ジムリーダーに勝利するとジムバッジが貰える。まずはそれを、8つ集める事が目標だ。

「よしっ、行こう!」

「あっ、待てよこの野郎!」

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

2人を見送ったアイラは、電話を掛けていた。ハクタイに住んでいる妹に向けてである。

「……あ、もしもしアイリ?さっきね、コウキ君とジュン君が来てたの。……ごめんごめん、急に来たからびっくりしちゃって。多分、いずれハクタイに来ると思うから。……うん。……うん。……ふふっ、またね」




最後の切り方あれで良かったんだろうか(疑問)。
でもこの小説、オリジナル並にオリキャラ出そうな気がしないでもない。わぁ大変。
ではまた次回。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ポケッチポケッチどこにある?

こんにちは、ユキノスです。
今回は簡単に言うと、コトブキシティ後半戦。はい、ほんとにそれだけ。悲しい。

それはそうと、今高尾山に来ております。山登りの時は、着替えを持って、水分補給は出来る時にしておいて、帽子はしっかり被ること。熱中症になったら、下りは救急車になりますのでご注意を……。

ではどうぞ。なんかすいません、前書きこんなんで。


「いやー、思ってもみない出会いだったねぇ」

「ほんっとになー、まさかキクノのばーちゃんが来てるとは思わなかったぜ」

「でも、これからの課題は見つかったから良いじゃない」

「だな。よっし、回復させたらクロガネ行くぞー!」

「あっ、ちょっ、待ってー!」

たったか走り出すジュンを追い掛け(大抵追いつけない)、ポケモンセンターまで着いた所で、なんかコートを持ったおじさんが居た。今夏なのに暑そう……

「……なんだ、あのおっさん」

「さあ……なんか物凄く怪しいけど……すいませーん」

「ムムッ!」

サッと振り向いた顔は、お母さんが見ていた刑事ドラマの刑事の様な渋い顔。手にはボールが握られており、臨戦体勢――いや、警戒体勢にある事が見て取れる。

「いや、あの、僕らは怪しい者じゃなくて……」

「……つか、こうして見てるとオッサンのが怪しーぞ」

「ム……そうか。私は……」

そこまで言って、キョロキョロと辺りを見回し、物陰に僕らを誘導したおじさんは、『国際警察』と書かれた手帳を見せ、ギリギリ聞こえる程度の声で喋り出した。

「私は国際警察の……そうだな、ハンサムだ。皆私をそう呼ぶ」

「僕はコウキ。こっちは親友のジュンです」

「んでオッサン、俺達をこんなとこに連れてきて何するつもりだ?」

「イヤ、別に何をしようという訳では……いや、1つだけ良いかな?」

「「……?」」

「――ギンガ団、という集団を見たかね?」

「いえ、僕らはほとんど一緒に行動してましたけど……」

「見てねーな……どんな感じの見た目だ?」

「ああスマン、肝心な事を言っていなかったな。……下っ端は水色のおかっぱ頭に宇宙服の様なスーツを着ている者だ。幹部も同じ様なスーツだが、顔ははっきりしていなくてな……情報、感謝する」

「いえいえ、ところで何故探してるんですか?」

「――人のものを取ったら泥棒」

「はい?」

いきなり何を言い出したんだこの人。いやまあ、警察という仕事上、そういうのは当たり前なんだろうけども。

「ギンガ団は、他人のポケモン……しかも宇宙に関係のあるポケモンばかりを奪っているのだ。彼らの意図は謎だが……捕まえなくてはならない」

「……糸は謎?糸の何が謎なんだよ?」

「ジュン、その《いと》じゃないよ……」

「――ともかく、ご協力ありがとう。また会った時、ギンガ団を見ていたらよろしく頼むよ」

「はい、捕まえられると良いですね」

「そんじゃ、またなオッサン!」

走っているのに足音を立てず移動するハンサムさんを見送り、通りに出ると、CMで見たポケッチカンパニーの社長が居た。なんと凄い。

「やーやーキミ達、ポケッチは良いよポケッチ!」

「は、はあ……どうしたんです、いきなり?生憎お金は持ってないので買えませんが……」

「んーむ、よく出来た子だ!しかぁーし大丈夫!なんと今、ポケッチのキャンペーンでね!無料でポケッチを渡しているんだ!」

「無料で!?」

「……利益とか大丈夫なんですか?」

「はっはっはっ、お客さんに満足していただけるのが一番さ!儲かる儲からないの話じゃなくてね!……という訳で、キミ達にはこの街に居る3人のピエロを探してもらいたい。それぞれクイズが出されるから、それに正解すれば交換券が貰えるからね。それを3枚全て集めてここに来ると、ポケッチをあげちゃうよ!」

「……だってさ。どうする?」

「どうってなぁ……貰えるもんは貰っとこうぜ」

正論である。あって損するより、無くて損する事の方が辛いから。もしもの時使えないと怖いしね。

「つー訳で、ピエロを見付けるんだな?よし、行こうぜコウキ!」

「うん、どっちが先か競走だ!……あ、ジュン足速いからちょっとハンデね」

「チェッ……分かった、10秒待つ」

いーち、にーい、さーん……と数え始めたジュンを視界から外し、まずはずっと見えていたピエロの元へ走る。話し掛けてみると、かなり陽気に笑ってクイズを出してきた。

「はい、ポケッチキャンペーンです!では早速クイズをば!『ポケモンだけでなく、技のタイプにも相性がある?』」

「そんなの簡単だよ、タイプにも相性はある!」

「ピンポンピンポーン♪せいかーい!ポケモンのタイプと技のタイプが同じだと、「技の威力が上がると言われている」……おぉう、物知りですね」

「そりゃまあ、仮にもチャンピオン目指してるし。これくらいは知っとかないとね」

ポリポリと頭を掻きながら言ったが、「応援してるよ!」と言われて「1」と書かれた交換券を貰った。……よし、あと2枚!

「……と思ったけど……疲れた……」

思えば、体力無いのにダッシュしてばかりだったのに疲れてないのがおかしいのだ。と言うか、放課後まで居た時点で気付くべきだった。今は夏なので日は長いが、そろそろ夜になるという事を。

「時間……は分からないのか、今……ああもう、なんでこんな都市に時計置いてないんだか……」

ぶつぶつとボヤいていても仕方ないので、残りの交換券を貰いに行く事にする。……うう、ずっとはしゃいでたからもう眠い……

「……ふぁ……3枚目、と……」

「およよ、大丈夫?物凄い眠そうだけど」

「あ、ふぁい……らいじょぶれす……」

「大丈夫じゃなさそうだけど?ほら、行くよ」

そこから先は覚えていない。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「……ん、んん……あぇ?ここどこ……?」

「あ、おはよう。ここは私の部屋だよー」

「あー、アイラさん……おはよ……」

「……まだ頭寝ぼけてるね。ほら、水飲んで」

「いただきます……んく、んく、……ぷはっ」

うん、美味しい。……さて、何故に僕はアイラさんの部屋(?)で寝ているんだろうか。

「そりゃ簡単だよ、だってコウキ君ほとんど汗かいてないでしょ?……それ、脱水症状だよ。夏場はしっかり水分補給、これ一番重要。チャンピオンになる前に倒れてたら世話無いよ」

「……ハイ、すいません……」

素直に反省。そもそもみずタイプのポケモンを持ってない上、ほのおタイプが2体居るから、そりゃあ脱水も起こすだろう。……なるほど、その辺も考えなきゃダメか。

「ほら、オボンのみ。水分そこそこあるから、食べてみて」

「わぁ……いただきます」

かぶりついてみると、シャクシャクとしていてとても美味しい。ポケモンの体力が回復するのも納得である。

「ごちそうさまでした。ありがとう、アイラさん」

「うん、お礼が言えるのは良い事だ。でもね、無茶はいけないよ。……そんな顔しない、キミには味方になってくれる人なんて沢山居る。それは自信を持って言えるよ。だから、程々に頑張りな」

「……うん、頑張る」

「よろしい」

お裾分けとしてオボンのみとオレンのみを5個ずつ貰い、見送ってもらったからには無茶など出来ない。改めて社長さんに交換券を渡し、青いポケッチを貰った。早速着けてみると、時計に電卓等、色々な事が出来るらしい。……普段は時計にしておこう。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「さて、行こっか」

「キャンッ♪」

よく小さなポケモンを肩や頭に乗せている人を見るが、ホムラは割と大きい為僕には無理である。ごめんねホムラ。アスファルトは熱いから、乗っけてたいのは山々なんだけど。

「……いや、『もらいび』の特性で逆に心地良いのか?うーむ……」

並行して、クロガネジムの攻略法について考えてみる。ジムリーダーであるヒョウタさんの使用タイプは岩、となるとかくとう、みず、くさ、じめん、はがねタイプが有効。……しかし、現状誰もその技を使えるポケモンが居ない。

「んん〜……そ、う、な、る、とー……」

やっぱり真っ向殴り合いだろうか。でも軽いのが多いから危なさそう。

「……とりあえず……あ」

そう言えば、ナナカマド博士にわざマシンを貰っていたんだった。確か、技の名前は……

「『おんがえし』。……懐くほどに威力が上がる技か。……ノーマルタイプだけど、行けるかもしれない」

「ワウ?」

「よし、まずはクロガネに着いてからにしよう。洞窟に入るから、ボールに戻っててくれるかい?」

「クゥ〜ン……」

「そんな顔されても……大丈夫、はぐれない為だよ」

赤い光となってボールに戻っていくホムラ(のボール)をベルトに装着し、クロガネゲートと呼ばれる洞窟に入る。中は外に比べて暗いが、見通しは悪い訳ではない。むしろ、洞窟としては抜群に良い。

――ピチャッ……

「わっ!?」

かなり驚いたが、なんてことは無い水の音だった。それでも音が響く為、かなり驚ける。

「……なんだ、上から染み出……て……」

念の為にと入れていた懐中電灯を付け、上に向けると――ビッシリと、ズバットの群れが並んでいた。

「……あ、あはは……」

バサバサバサッ!

「うぎゃああああああああああ!」

何人かトレーナーが居たが、流石に大量のズバットから逃げている人を捕まえてまでバトルしたいとは思わないのだろう。皆恐ろしげに一歩引いている。

「わっ、ちょっ……だーっ、カグツチ!《ひのこ》!」

「コァッ!」

ボッ、という音と共に火の粉が飛び、数匹のズバットが落ちた。が、それこそ何十匹も居る中で数匹落ちた所で大した変化でもない。さてそうなると……

「ホムラ!ホルス!一緒に手伝ってくれ!」

「ガウ!」「ピイッ!」

「ホムラは《ひのこ》!ホルスは《つばさでうつ》!無理しなくていい、少しずつ仕留めていって!」

嬉しいことに、アイラさんがくれたオレンのみとオボンのみは大量にある。無茶をさせるつもりは無いが、それでも傷を負ってしまう事はある。

「くっ、そ……数が、多い……!」

3匹とも、かなりの数を落としたが……数が多過ぎる。

「イワーク、《いわなだれ》!」

「ウヴァー!」

「わっ……皆、戻って!」

ギリギリ間に合ったらしく、ボールに戻った直後に物凄い勢いの岩雪崩が起きた。……崩落、とも違うらしい。

「げほっ、げほっ、げほっ……」

「……ふう。大丈夫かーい?出られるー?」

「げほっ……は、はーい!うん、しょ……」

1つ1つ岩をどけ、出口から出ると、作業服に安全帽を被ったメガネのお兄さんが居た。……確か、この人は……

「いやぁ、ズバットが大量に活性化したって報せを聞いてね。ジムリーダーとして、見逃す訳にはいかなかったんだ」

「って事は……ヒョウタさん!?」

「おっ、僕の事知ってくれてるんだ?嬉しいなぁ、じゃあ……」

「ハイ!挑戦に来ました!」

「アハハ……いやぁ、最近の挑戦者は元気な子が多いなあ。昨日来た金髪の子も、元気いっぱいだったよ」

「ジュンが?……あいつ、休んでるのかなぁ……」

いや、あのジュンの事だ。休む間も無く走り続けているのだろう。

そう考え、ヒョウタさんと一緒にジムへ向かう事にした。




ポケッチどころかクロガネ着いちゃうっていう。
となると……そう、次回はジム戦です。バトル内容とかは、基本的にはアニメの方を採用しようかなと思ってます。あの使用ポケモン〇体、縦横無尽に動き回るアレです。いや、だって……RPG風にしてると、なんか『ゲームの中』って感じしません?この小説は、そんな『ゲームの中の世界』って感じを取り除いて書いていきたいなと思ってます。
ではまた次回。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ジム戦、VSヒョウタ

こんにちは、ユキノスです。
今回は前回予告した通りジム戦。炭鉱なんて俺は知らない、知らないぞォォ!
……はい、馬鹿な事やってないで、ジム戦どうぞ!

それと、今後もそうですが「こいつこんな技使わなかったぞ!」って言うの無しで!←


「へえ、ポケモンリーグ優勝を。なるほど、それで君の友達も急いでいたのか」

「あはは……そうなんです。でもまだバッジは無くて……」

ヒョウタさんと話しながら、クロガネシティを歩いていく。ここは炭鉱の他に、博物館でも有名な街だ。健全な10歳としては是非とも見学に訪れたいものだが、今はジムに集中しないと勝てなさそう……いや、勝てない。何せ有利なポケモンが居ないのだ、勝てる方が稀だろう。

「あの……戦う前に……」

「ああ、ポケモンセンターだろう?大丈夫、行っておいで。僕はここで待ってる」

「あ、ありがとうございます!それじゃ!」

たったか走ってポケモンセンターへ向かい、自動ドアをくぐる。ヒカリから仕様は聞いていたけど、実際利用するのは始めて。キョロキョロしながら進んでいると、ナース服を着た女性が声を掛けてくれた。

「どうされました?」

「えっと……ジム戦前なので、ポケモンの回復をお願いしたいんですが」

「はい、構いませんよ。では、モンスターボールをこちらに」

「分かりました。……どうぞ」

「少し待っててくださいね」

と言って、くるっと向きを変えた看護婦さん―名札を見るに、ジョーイさんというらしい―が、後ろの機械を操作し始めた。見ると、丁度6つ分の凹みがあり、そこにボールを3つセットした。……え、あれでお終い?

どうやらあれで終わりらしく、テンテンテテテン♪という妙に陽気な効果音と共にボールが光った。

「……はい、これでもう大丈夫ですよ」

「早っ!……あ」

大声を出してしまい、途端に気恥しさが込み上げてくる。顔が赤くなっているのが、何となく予想出来た。

「あ、あのっ……ありがとうございましたっ」

「いえいえ、頑張ってください」

もう応援すらも恥ずかしい。……うう、これで動揺しちゃわないかなぁ……

「あ、そうだ。ホムラ、ちょっといいかい?」

ボールから出した時に首を傾げていたホムラだが、僕が唯一持っている技マシン――《おんがえし》を見せると、なんと納得してくれた。頭良いなぁこいつ。

 

 

「……えー、ポケモン良し、道具良し、心の準備良し、と……」

ホムラがめでたく《おんがえし》を覚えてくれたので、いくらかは楽になるだろう。相性は悪いが、悲しいかなゴリ押ししか無いのだ。

「おっ、来たね。待ってたよ、挑戦者(チャレンジャー)

見る限り、突起のある岩が各所にある岩肌フィールド。……なるほど、ジムリーダーに有利なフィールドなんだろう。これは後も変わらないと考えて良さそうだ。

「お待たせしました、ジムリーダー」

妙に堅苦しいやりとりに、揃って笑ってしまう。……そして、絶対にヒョウタさんの方が年上だろうなぁ。

と関係無い想像を巡らせる僕の思考を、恐らく審判であろうおじさんが引き戻した。

「ウホン。それじゃあ……使用ポケモンは3体。どちらかが降参するか、相手のポケモンを全て倒した方の勝ち。ポケモンの交代はあり。……何か質問はあるかな?」

「いえ、ありません。……、ふぅ……」

「それでは……ジムリーダーヒョウタ対挑戦者コウキ、始めっ!」

「行けっ、ホルス!」

「出番だ、イシツブテ!」

互いに小さいもの合戦―と言っても30センチ対40センチだ―となるが、これはもう機動戦しか無さそうだ。

「ホルス!《でんこうせっか》!」

「ピッ!」

「……ビリィッ!」

凄い速度で突っ込んでいったホルスだが、イシツブテはピンピンしている。

「……流石に、固いか……!」

「イシツブテ、《いわおとし》!」

「ホルス、《でんこうせっか》で逃げろ!」

あちこちに落とされる岩は、それこそ当たったら一発でやられるぐらいの威力となるだろう。それだけは避けなければならない。

「その勢いのまま……《つばさをうつ》で突っ込めーッ!」

「ピ、イィッ!」

ズ、ズズッと動いたイシツブテ。いやいや、ガチガチだなぁ……そうだ、ポケモン図鑑で見てみれば……

 

イシツブテ がんせきポケモン

やまみちに おおく せいそくする。

からだの はんぶんを じめんに うめ

とざんしゃの ようすを みている。

 

「……特に有益な情報じゃない、か……ホルス、《たいあたり》!」

「ビリィッ!」

「なっ……」

反撃として、なんとぶん殴ってきた。たまらずホルスは飛び上がり、ぐるぐると回っている。

「ホルス、こっち来て!」

「ピッ」

何故か頭の上に留まるホルスに、オレンのみを食べさせると、途端に元気いっぱいになった。凄いなぁ……

「ホルス、お返しに持ち上げて――投げ落としてやれ!」

「ピイッ!――ピィアァーッ!」

断言しよう、これは技の撃ち合いではない。だけど、普通に技を出すだけでは、ただの機械と変わらない。

「ビリ――」

ズガァン!と音を立てて、イシツブテが床に激突した。そして――立ち上がらない。

「イシツブテ、戦闘不能!ホルスの勝ち!」

「――よしっ!」

「やるなぁ、キミ。だけど、コイツはどうかな?イワーク!」

「ボルボルァ!」

「うわ、デカッ……!」

「イワーク、《まきつく》!」

「しまっ……!戻れ、ホルス!」

くそっ、イワークのせいで光が届かない……!ホルスの力じゃ抵抗出来ないし、どうする……どうする!

「……!ホルス、()()!」

「何っ!?」

「ボルッ!?」

「そのまま真っ直ぐ上に!――顎を狙って、《たいあたり》!」

実質《スカイアッパー》だろうと勝手に判断してこんな事をしたが、ホルスもかなりのダメージを負っているだろう。

地響きを立て、仰向けに倒れるイワークの立てる砂埃が想像を越えた規模だった。フィールドどころか天井まで舞うなんて聞いてない。

「げほっげほっ……これじゃ《とっしん》……いや、《すてみタックル》だなぁ」

「……まあ、ね。流石にこの戦い方は初めてだなぁ」

「僕もですよ……げほっ、昼ご飯前にシャワー浴びないと……」

「随分と余裕だね、コウキ君――《あなをほる》!」

「背面で!?ホルス、飛べるかい!?」

「ピュウ……」

……駄目だ、さっきの攻撃の反動が大き過ぎて――

ドゴォッ!

「あ――」

「ホルス、戦闘不能!イワークの勝ち!」

……僕は、何をやってる?あれだけ言われておいて、まだ学べないのか?

――それは違う。人間は、失敗から学ぶんだろう?

「っ……」

今の声、誰だ?ヒョウタさんじゃない。声に出てないから。独り言でもない。確証は無いが、言い切れる。じゃあ、あと誰が……

「……カグツチか、ホムラが?……いや、分からないな」

「どうかしたかい?」

「いえ、何も。……お疲れ様、ホルス。ごめんね、無茶させて……」

ボールに戻す前に、ぶつかった頭を撫でる。責めてもの、罪滅ぼしとして。

「……自分のポケモンを大事にする。なるほど、トレーナーの基礎が出来ているな」

「……ありがとうございます。――行くぞ、ホムラ!」

「ワウっ!」

「……何?」

ヒョウタさんの想像通り、ホムラはホルス程の機動戦は出来ない。だが……押し切れる火力は、持ち合わせている。

「ホムラ、《たいあたり》!」

「イワーク、《ステルスロック》!」

「丁度いい、それを足場にして跳べっ!」

「ガルル!」

「馬鹿な、それじゃ勢いが――」

「《おんがえし》!」

ホムラから溢れた光が、口の前に収束し――そのまま噛み付いた。文字通りの爆発を起こしたホムラはくるくると回転しながら着地、イワークはジムの壁に激突して穴を空けた。……修理代、払わないと駄目だよね?

「……イワーク、戦闘不能!ホムラの勝ち!」

「驚いた、まさかそんな威力の《おんがえし》とは思わなかったよ。でもコイツはどうかな?――ズガイドス!」

「ギュー!」

「うぇっ!?ズ、ズガイドス!?」

 

ズガイドス ずつきポケモン

およそ 1おくねん まえに

こだいの みつりんで くらしていた。

てつのように かたい ずがいこつ。

 

もうテンションがアゲアゲどころかハイになり過ぎて叫びそうなレベルで高い。何せ、図鑑の説明通り1億年前のポケモンなのだ。復活させる事が出来た、というニュースを聞いて大喜びしたのは記憶に新しい。なのでハイになるのは許して。

「ズガイドス、《ずつき》!」

イワークの《ステルスロック》を破壊しながら突っ込んできた事に少々驚き、急いで指示を出す。

「ホ、ホムラ!ギリギリまで惹きつけて……今だ、避けて!」

「ズガイドス、曲がって追え!」

「あ待って意外にコーナリング上手い!?えーと……前に10歩、左に30歩、また前に40歩走って!」

「ガウッ!」

頑張って計算して指示してみたが、その通りに動いてくれる辺り流石だと思う。これは《おんがえし》の威力があれ程でも納得出来るね……

「っと、右に53歩、左斜め前に81歩!そしたら、あとは前に走れぇーっ!」

「ギ……ギュー……!」

「ガウガウ!」

流石にズガイドスも疲れてきたらしい。反対に、いつもダッシュで散歩(矛盾してるのは気にしない)していたホムラはまだまだ元気いっぱいだ。

「ズガイドス、頑張れ!」

「ギュァァァ!」

――掛かった!

「ホムラ……右に避けて!」

「ワンッ!」

当たる直前で避けた為曲がり切れず、また熱くなっていたズガイドスは、ヒョウタさんの指示も耳に入らず壁に突っ込んだ。あれこれ細かく指示していたのは、この為だったりする。

「グギャー!?」

「よし、それじゃあ……《おんがえし》!」

熱くなった頭を打ち、まだまだ平気そうではあるが、ホムラを見失ったのなら十分だ。この《おんがえし》は当たる――!

「ズガイドス、《しっぽをふる》!」

バチン!と音を立てて、ホムラが吹っ飛ばされた。

「え、ちょ……わっ、と!」

どうにか受け止める事が出来たが、ホムラは今ので目を回している。これは流石に戦わせる訳にはいかないと、ホムラをボールに戻した。

「――最後だ。あまり緊張しないでくれよ……カグツチ!」

「ヒッコ!」

と、着地したと同時に何やらポーズを取り出したので、はて何をしているんだ?と思い首を傾げたら、カグツチも全く同じタイミングで首を傾げた。……なるほど、ね。

「ズガイドス、《いわおとし》!」

「カグツチ、避けて!」

ヒュンヒュンと身軽に避けながら、着実にズガイドスに肉薄するカグツチ。変わらず動きをリンクさせたままだが、これかなり強いのでは。

普通、見てから行動に移すまでは少しタイムラグがある。それをノータイムで出来ているということは――反応速度が尋常ではない。

「《ずつき》!」

「避けて足払い!転んだら……頭に乗って、ひたすら《ひのこ》!」

「くそっ……ズガイドス、振り落とせ!」

「カグツチ頑張れ!」

《ひのこ》を連発していたズガイドスの頭が、赤みを帯びてきたその時、ズガイドスの頭を殴った拳が、一瞬だけ()()()()()()

「……!?」

「今のは……」

という呟きも、審判の声に遮られた。

「――ズガイドス、戦闘不能!カグツチの勝ち!よって勝者、挑戦者コウキ!」

「~~~~っ……やったぁー!」

「ヒコァーっ♪」

「……参ったなぁ、ジムバッジを1つも持ってないトレーナーに負けちゃったか……いや、キミが強くて僕が弱かっただけか。勝利おめでとう、リーグ公認のジムバッジだ」

「わぁ……!」

「次は……そうだな、ナタネの居るハクタイジムを目指すと良いよ。コトブキに戻って、北に進んだら森があるから、それを抜けたらすぐさ」

「分かりました、ありがとうございます!」

確かハクタイには、アイリも居た筈。会うのが楽しみだなぁ……あ。

「あの、壊れた壁の修理って……」

「ああ大丈夫、それはシンオウ地方から出るから問題無いよ」

「あ、そうなんですか」

初耳である。あれ?そうなるとバカスカ壊したらその地方かなり金銭的に危なくない?

「……よし!あと7つ、頑張ろう!」

「ガウッ!」「コァッ!」「ピィー!」

しっかりとポケモンセンターで休み、ジョーイさんには勝った事の報告をして、またコトブキに戻る事にした。……流石にまたズバットに追われるのは遠慮したいけどね?




結論:(安定の)大勝利。
ホムラの恩返しがやけに強い理由は、付き合いが長い&互いに信頼しているからです。絆の力は無敵なのだ!(どっかで聞いたような言葉)
さて、途中で聞こえた誰かの声は誰の声でしょう?まだまだ謎はありますが、1つ1つ紐解いていきたいなと。
ではまた次回。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

銀河を駆ける下っ端は、不良みたいに絡んでくるそうです

こんにちは、「夏休みにどれだけ勉強したかで未来が変わる」を不自然ではと思うユキノスです。
誰かが言った、「学生の仕事は勉強である」と。となると夏休みの勉強は、いわゆる「時間外労働」みたいなものじゃないですか……?休みにすら働かせるってどこのブラック企業ですか……?苦手無くせと言っても、どこが苦手か分からない人は……?
勿論補習とかもありますが、にしたって現代文40ページの数学(ⅠとAを合わせて)60ページ、study supportとか言う意味不明な冊子も40ページ弱、計140ページとかいう数の暴力ほんと嫌い。オンオフの区別ぐらいさせて。オフでもオンにしろとか何(以下略)。


愚痴だけで結構な量でしたが、さて置き本編の話をば。
前回、見事ヒョウタを倒したコウキ一行。ズバットにも襲われず、無事にコトブキに帰ってきたら……
ではどうぞ。


「ふぃー、帰ってきた帰ってきたー」

「ワウッ」

ポケモンセンターでシャワーを浴び、砂も落ちてさっぱりした後昼食を食べた(代金は賞金として貰った分)ので、コトブキに帰ってきた。……が、何やら北の方で一悶着あるらしい。なんでも、変な格好の2人組が、老人に突っかかっているとか……いや、まさかね?

「行ってみよう、まさかとは思うけど」

こくっ、と頷いたホムラと共に走り始め、通りの真ん中で右を向く。丁度街を出る辺りに人混みが出来ているので、アレで間違い無いだろう。

「すいません、ちょっと通りまーす!よい、しょっと……」

謝りながらも人混みを掻き分け、最前列に来た時。……ああ、やっぱりそうだったのかと溜め息が出た。

「我々ギンガ団の研究には、貴方のポケモンの進化についての研究が必要不可欠なのだ!」

「我々に寄越してもらおうか!」

「ダメだと何度言ったら分かるんだ、ええ?」

「は、博士~……」

結論、知 っ て た 。

うん、何となく察してたよ?まさかねとは思ったよ?的中するとは思わないよ普通……ヒカリも大変だなぁ。

「やっ、ヒカリ」

「あ、コウキ君……ごめんね、こんな感じで……」

「いや、うーん……まあ、それはそれとして。ヒカリ、ポケモンの準備しといて。――お兄さん達、ギンガ団だっけ?」

「ほう、我々を知っているのか!」

「ギンガ団に迎え入れてあげなくもないぞ!」

何故そうなった。どんな思考回路や。ヤバい大人怖いわー。とりあえず煽ってみよ。すぐキレそう。

「いや全く、何も、一切知らない。誰。変人?お巡りさーん」

「え、あの、コウキ君……?」

「ムッカー!ムカついた!ムカついたぞ!」

「やはり子供はキライだ!我々でボコボコにしてやろう!」

「あははやだなー、子供の戯言じゃないですかー。……ヒカリ、やろうか」

「ええっ!?もー……どうして私が……」

「だって今ジュン居ないんだもん」

――だからといってなあ……

「いけっ、ズバット!」

「お前もだ、スカンプー!」

「レッツゴーホムラ!何だか知らないけどこの人達見てたらイラついてきた!」

「そんな理由で巻き込まないで!ああもう、ナエトル!」

……ごめんねヒカリ。ほんとごめんね。

 

~10分後~

 

「つ、つええ……」

「なんだこのガキ、強過ぎるぞ……」

ギンガ団の2人組は、謎の逃げ足を発揮して逃げていった。出来る限り2度と来ないでいただきたい。……何故かは分からない――正確には覚えてないけど、ギンガ団というワードには妙にイラッとくるものがある。旅行でエイチ湖へ行った辺りから、『ギンガ団』と聞くと怒りが込み上げて来るのだ。

「ごめんね、ヒカリ……こんな事に付き合わせて」

「あ、ううん!コウキ君がほとんどやっつけてくれたから、私は大丈夫だよ」

「全く……訳の分からない格好で訳の分からない発言をする連中だったな。ところでコウキ、クロガネのジムリーダーには勝てたのかね?」

「ああ、はい。バッチリ勝てました。……余裕ではないですが」

「うむ、タイプの相性だと勝てる方が珍しいだろう」

そう言えば博士はなんでこっちへ来たんだろ。研究かな?

「次はハクタイのナタネさんですかね……あの人も一筋縄では行かなさそうな気もします」

「そうだな、彼女は……」

ヒカリが「暑いから早めに終わらせて」という熱烈な視線を送ってきたので、割と早めに話を切り上げる事にした。……ほんとに迷惑しかかけてないなぁ。

 

 

「いやー、見させてもらいましたよ!凄かったですね!」

「えっと……どちら様?」

「あっ、ワタクシですね、テレビコトブキの者です。貴方のポケモン、実に素晴らしい!」

……あ、これ面倒なタイプかな?

「しかぁーし、そんな素晴らしいポケモンを更にカッコよく、可愛くする方法がこの中に!」

そう言っておじさんが取り出したのは、ハート型の小箱。……怪しい……

「こちらアクセサリー入れになっていてですね、この中のアクセサリーをあっちょちょちょ待って!」

「すいません結構です、アクセサリー入れなら(お母さんのが)家にあるので……」

かなり残念そうな顔だったが、うちのお母さんのアクセサリーの量半端じゃないからね?同じ箱が6個、ぎっしり詰まってるからね?

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「次はハクタイ……だけど、間にソノオタウンがあるのか。花で有名なんだよね、ここ」

はよ行け、と言わんばかりにぺしぺしやってくるホムラを撫で、また徒歩で行く事にする。……自転車欲しいなぁ……確かハクタイにはあったよね、自転車屋さん。

「よし、行こう。洞窟を抜けてしばらく歩けば、ソノオに着くよ」

「ワンッ」

ジュンは恐らく、さっさと走って行ってしまったのだろう。彼ならもう、ソノオに着いた頃だろうか。それとも、ハクタイの森に居るだろうか。

「……いずれ追い付こう。僕らは僕らのペースで、ね」

何を今更、といった風に首を振られた。……度々思うんだけど、こいつ言葉も事情も理解してるよね?




因みに、ナナカマド博士の名言である『ギンガ団のおかしな所指摘』は終わった後という事にしています。そもそも原作だと人混み無いですからね……
さて、コトブキ騒動丸々カットした訳ですが。やはりお母さんのアクセサリーは多いと勝手に想像して、アクセサリー入れ無視して(おい)ソノオへ向けて発った1人と3匹でした。
ではまた次回。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

綺麗な花畑は幻想的だよね

こんにちは、ユキノスです。
今回、タイトルを見た通りソノオタウンに到着しております。え?道中どうしたのかって?
そりゃ勿論カッ……コホン、ちゃんと進んでます。図鑑もしっかり埋めてってますのでご心配なく。
ではどうぞ。


「うわ~、綺麗だねぇ」

「クゥ~ン」

「ポケモンにも感謝しないとね」

「ワンッ」

歩きづくめで足が痛くなってきた所、なんとか日の入り前にソノオタウンに到着。図鑑は埋められたが、道中はトレーナーもちらほらと居たので戦闘した事もあり、全員が疲れている──が、それを補って余りあるレベルで綺麗だった。

 

特に、『夕焼けをバックに咲いたグラデシアの花』は。

 

 

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

ポケモンセンターソノオ

「……まさか宿泊施設もあるとは……ポケモンセンター、凄いな」

「キャンッ」

エスカレーターで2階へ登ると、その先はホテルの様になっていた。……え?それであの見た目?どうなってんのポケモンセンター?異空間?なんかそんなポケモン居そうだけど。

何故かドーナツが思い浮かんだが、そう言えばまだ夕飯を食べていない。ジョーイさん(クロガネとは別人らしい)の話によると、スタッフさんも交えたバイキング形式だとか。なんだかほんとに異空間な気がしてきたぞ。こんな謎の場所があちこちにあるのか……。

「あ、そうだ……ポケモンフードも買わないとね」

「ワウ」

ポケモンフードはスナック菓子の様な食感(らしい)が、ムックルの様に歯が無いポケモンはどうするのだろうか。鳥ポケモン用とかあると助かる……いやあるか。

「ううぅーーー………っ、明日筋肉痛かなぁ……」

僕はヒポポタスを頭に乗せて歩ける様な超人ではないので、コトブキ→クロガネ→コトブキ→ソオンの道を1日で歩く事すら普通しない。例えランニングシューズがあろうと、キツいものはキツいのだ。

「あ、こんにちは」

「どもども。では」

「…………………」

「…………………」

「え、ヒカリ!」

「コウキ君!」

あまりに疲れていたので気付かなかった。普通にヒカリじゃん。……いや、帽子は取っているし、いつも見ているあの服装じゃなかったので、多少時間は掛かってもおかしくなかったかもしれない。……ヒカリも疲れた顔をしているのは、やっぱり昼間のアレだろうか。だとしたら申し訳ない。

「ヒカリもご飯食べに?」

「あ、うん。コウキ君も?」

「それもあるけど、ポケモンフードの調達もね。お腹減ってるだろうし」

こくこくと頷くホムラに、ヒカリがクスッと笑った。疲れ切った顔をしていたが、笑ってくれただけ収穫はあるだろう。うん。

「ふふふ……でも、食堂にポケモンフードもあるから、一緒に行こう」

「あ、そうなの?良かったねーホムラ」

ホムラの頭を撫で、そこそこの人が居る廊下を進んだその5分後。これまた結構な大きさ─宿泊客+スタッフ+ポケモンが入るので当たり前か─の食堂を見付けた。中に入ってみると、普段は見ない髪を下ろしたジョーイさんや、少し酔っているのかややハイテンションで談笑するジョーイさんや、意外と沢山食べるジョーイさんが居た。……ここは何かな、ジョーイさんだらけで狂気を感じるんだけど。

「……ジョーイさんって何者なんだろうね」

「う、うーん……私は分からないなぁあはは……」

「まあとりあえずいいか、食べよう。お腹ペコペコで倒れそう」

「そっか、コウキ君クロガネジムからここまで来たんだもんね」

正確にはコトブキから(以下略)。

「疲れるよほんとに……その上ギンガ団とかいう訳わかんないの来るし……」

「敵意剥き出しだったよね、何かあったの?」

「ああ、うん……よく思い出せないんだけど、昔エイチ湖に行った時……ギンガ団って名乗る連中に……ええと、何されたんだっけ……」

「エイチ湖……?それってまさか……!コウキ君、ユクシー見たの!?」

「え、どうだろう……行ったのは覚えてるんだけど、何があったかは覚えてないんだ」

「記憶が無い……エイチ湖に行ってその記憶が無いって事は、やっぱり会ってるんだよ!いいなー羨ましい……」

これで『シンジ湖の守り神(エムリット)の声を聞いた』なんて言ったら余計質問責めにされそうなので言わない。……しかしユクシーか……確かに聞いた事がある。エイチ湖の守り神として、シンオウ地方では崇められているが、聞いた所によるとかなり小さいとか。

「もぐ……でも、いつかは会えるんじゃないかなぁ……あーでも、アグノムも会ってみたいなぁ」

「私も会ってみたいよー……あーあ、なんでコウキ君ばっかり……」

「さあ……いや、ジュンもだけどシンジ湖が主な遊び場だったからその関係かな?」

「えっ……って事は、フタバタウン出身?」

「うん。お父さんはジョウトの産まれだけど……今何してんだろ」

「そうなんだ……良いなぁ……」

「そんなに愚痴られても……ヒカリもいずれ会えるよ、きっと」

……まあ、一応はエムリットに捕まえてやる宣言してしまった事だし。と言っても、エムリットは遊ぶのが好きみたいだから素直に来てくれるかが謎である。

「……そうね、コウキ君のお墨付き貰ったから会えるかもね?」

「あはは……まあ、苦労掛けてるし……」

「あっ、そこで目を逸らすぅ!それはこっち見て言って!」

「わ、悪かったよ」

カグツチとナエトルがケラケラ笑っているが、ホムラは特に気にしていなさそう。ホルス?……もう食べ終わって寝てる。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

結局ヒカリが解放してくれたのは、あれから1時間後。その間ずっと愚痴を聞いていたが、半分くらいは僕がユクシーに会った事とエムリットに近い場所で遊んでいた事だった。よくもまあ、そんなに浮かぶものである。僕にはそこまでの愚痴は浮かばない。

「……寝るか。明日は何しようか……」

全国的に有名な花畑を見に行こうか。それとも、谷間の発電所にでも行こうか。

というわくわく満載の予定は、見事にぶち壊されるハメになった。

 

 

 

「──んん……何だぁ?」

「クアー……」

何やら外が騒がしいので、目覚ましが鳴る30分前──6時半に目が覚めた。二度寝したら、お母さんに起こされない限り3時間は起きないのが僕なので、そのまま起きる事にする。因みにジュンは、普段は起きるのが僕より遅い代わりに、二度寝する事は無い。

「よいしょっ……あれ、今日何かあったっけ……?」

パンフレット(昨日貰ってきた)を見る限り、何もイベントは無い。……となると、何か異常事態か。

「ホムラ、行ってみよう。力になれるかもしれない」

「ガウ」

朝ご飯はまだ食べていないが、一働きした後のご飯は美味しいという事で。顔を洗い、帽子を被って準備完了。

「よし、行こう!」

 

とは言ったものの、何も情報が無いまま行くのは少々キツいものがある。ジュンが正にそれで、突っ走っていくのを止める役割が僕だった。閑話休題。

「あら、おはようございます」

「あ、おはようございます……何かあったんですか?」

「ええ、実はソノオ名物の《ミツハニー印の甘い蜜》を奪いに来たって不審者が居て……」

「な……」

《ミツハニー印の甘い蜜》と言ったら、ヒメグマが木の蜜を無視して飛んでくるぐらいの高級品。料理に使っても美味しい為、お土産としても人気だが、1瓶ウン千円だったりするので貰った側はソノオにもくれた人にも足を向けて眠れないとか何とか。……話題を戻そう。早朝からそれを奪いに来るとは、何ともご苦労な不審者も居たものだ。1周回って尊敬出来る。

しかし所詮は1周回らないと尊敬出来ないので、普通に考えたら余程の馬鹿か余程の貧乏人だろうか。

「……まあ、とりあえず行ってみます。何かお役に立てるかもしれないですし」

「ありがとうございます。お気をつけて」

「はい、それじゃ」

……まさか昨日の今日でギンガ団は無いと信じたい。いやありそう。何てったって、人の研究成果を奪おうと考えてた連中だ。普通に考えそう。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「……いやほんとにギンガ団だったんかい」

普段はジュンに突っ込まれる側の僕だが、今回ばかりは突っ込ませてほしい。

「我々ギンガ団は沢山のポケモンを必要としている!」

「その為お前の蜜が必要なのだ!」

「そう言われてもねお客さん、こっちだって作るのは大変なんだ。まずメスのミツハニーが少ないのに……」

「さあ早く寄越せ!」

話くらいは聞いてあげないのだろうか。

代わりに説明すると、メスのミツハニーはそもそも個体が少ないので、相対的にビークインになる個体も少ない。つまり蜜が採れる量もそこまで安定させる事は難しく、それが高級品と言われる所以だ。

「ホルス、あのおかっぱ頭の人の周辺を飛んでくれないかい?」

「ピッ」

飛んでいってくれたので、こっちはこっちで恐らく製造者であるおじいさんを助けるべく算段を立てる。ホルスが撹乱している間に、おじいさんを出来るだけ引き離すのが最適だろうか。……いや、この人混みじゃ無理だ。どこかで詰まる。

「なっ、なんだコイツは!ええい、ズバット!《どくばり》!」

「ホルス、躱して《つばさをうつ》!」

「ピィッ!」

《どくばり》を避けて人混みが割れた所で、ギンガ団に突っ込む。単純だが、多分これが意外と効くと思う。

「おぉぉぉぉぉあああ!」

「ぐはっ……子供!?大人の仕事を邪魔するな!」

その言葉が『おじいさんを助けるにはどうするか』という考えを全て押し退け、代わりに1つの強い感情を呼び寄せた。具体的には、物凄くカチンときた。

「……うるさいよ。大人の仕事が泥棒だってんなら、僕は何度だって邪魔してやるさ!その蜜が作られるまでの苦労は知ってるよ。だからこそ、アンタの行動は許せない!それ相応の対価ぐらい払おうと思わないの?『奪え』って言われても、『手に入れろ』って言われても、お金は払うべきなんじゃないの?その辺大人として──人間としてどうなの!?」

「くっ……」

尚も躊躇う様子だったけど、周りには人が居るから逃げられない。ズバットは臨戦態勢だが、ホルスが応戦可能だ。昨日とは違う2人組だが、片方に逃げられたら正直キツい。

「答えてよ。新たなギンガを作るんだか何だか知らないけど、そんなのは勝手にすれば良い。でも、今このギンガにあるこの世界は、泥棒はダメだって分かってるよね?」

「くっ……マユルド!《たいあたり》!」

「ホルス、《でんこうせっか》」

せめて《かたくなる》で耐久戦をするべきではないだろうか。その方が逃げる時間くらいは稼げたんじゃないかな?

「く、くそっ……おい、お前も応戦しろ!2対1ならまだ勝機はある!」

「あ、ああ!スカンプー!」

「ホムラ、《おんがえし》」

マユルドは出してきた方にぶつけたが、スカンプー持ちの方は瓶を持っている為ぶつける訳にはいかない。という訳で、思いきり吹っ飛ばす事にした。

「う、うわぁっ!スカンプー!」

……あの様子だと、タタラ製鉄所まで飛んだだろうか。それは言い過ぎか。

「く、くそっ……覚えてろ!いつかギタギタにしてやる!」

そう言って逃げ出したが、さりげなく瓶を持って行こうとするな。第一、ここまで時間を掛けていたら。また、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「ミィィィィィィ……!」

「お、おい何だこのちっこいの……」

「ミィ────ッ!」

「うぎゃああああああっ!」

あれは……《シードフレア》?となると──その技が使えるポケモンは──

「……シェイミ?」

呟いた時には、既に何も居なかった。ギンガ団?……逃げられたみたい。あれで無事ってのは凄いけどね。




さて、久々に4000字オーバーで書けました。もう普通にこの小説だと4000字を最低目標にしても良い気が。長いならちょいと縮めますね。
ではまた次回。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

谷間の発電所、実はね……

こちらは約1ヶ月ぶりの更新となります、ユキノスです。
前回、シェイミの仕業らしき現象によって救われたコウキ一行。ミツハニー印の甘い蜜、食べてみたいですよねぇ……と思っても、流れる様に発電所へ向かわなければいけません。スト(殴)……ハクタイに行く途中で通りますし。
ではどうぞ。


「……さぁて、と。朝ご飯も食べたし、行こう」

「ガウッ」

花畑では散々だったが、お爺さんからお礼として《ミツハニー印の甘い蜜》を貰ったのは嬉しかった。と言っても旅には使えないので、宅配のお兄さんに頼んで、フタバタウンに送ってもらったが。

「っと、そうだそうだ。ちょっと寄り道して行くよ」

「?」

首を傾げるホムラだが、花畑であれだけ大暴れして詫びの1つもせずに行ってしまっては、それこそシェイミに恨まれるというもの。という事で、水やりをする。……花と言ったら何したらいいか、これしか浮かばなかったんだよ。

 

 

「ごめんね、シェイミ……せめて、こうさせて」

花屋さんからコダックじょうろを借りてきて─と思ったが、普通に譲ってくれた─、花に水をやっていこう──としたが、全部やろうとしたらかなり大変なのは僕でも分かる。なので、僕らが闘った跡だけでも水をやる事にした。

「……それと、結果的に助けてくれてありがとう」

「フン、これに懲りたらミーのお花畑を荒らさない事でしゅ」

「えっ……!?」

サワサワサワサワ、と花畑の一部が揺れ、何か──とても小さい何かが走っていった。とても小さな足跡から図鑑で調べると、そこにはシェイミの名が記されていた。

「──うん、約束するよ。僕はもう、この花畑を荒らさない。……でも、またいつかここに来るね?」

返事は無かったが、拒否はされないと願いたい。

「……さて、発電所に行ってみようか。今日はフワンテが来るって噂だよ」

ボールの中のホムラ達も楽しみらしい。ニコニコして体を揺らしている。

「おぉーーーーい!」

「ん?」

「良かった、はぁ、まだここに居たか……」

「ど、どうされたんです、そんなに慌てて」

歳も歳だからキツいだろうに、大急ぎで走ってきたお爺さん─《ミツハニー印の甘い蜜》を作っているお爺さんだ─。何か用事だろうか。

「まさか、またギンガ団が……」

「いやいやそうじゃない、キミのおかげで皆逃げてったよ。渡したい物があって……ええと、あったあった。ほら、受け取ってくれ」

「……鍵?おじさん、この鍵僕のじゃ……それにこれ、発電所の鍵じゃないですか!」

「ああ、だがワシはもう歳だ。それに、所長も引退したのに鍵なんぞ持ってても仕方無い。発電所の中を見学するも良し、誰かに渡しても良し、使い道はキミに任せるよ、わぁっはっは」

「は、はぁ……」

……とにかく、発電所の鍵を貰えたのは嬉しい。これで見学に行っても閉まってました、なんて悲しいにも程がある。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

筋肉痛の為、こまめに休憩しながら暫く歩き、ソノオを抜けた先に、今にも泣きそうな女の子が1人でぽつんと立っていた。キョロキョロと辺りを見回しているが、何を探しているんだろうか。……いや、待っているのかな?

「こんにちは、どうしたの?」

「あ、あの……えっと……お願い、私のパパを助けて!」

「……え?」

『助けて』という事は、捕まっている。それは大変だ。

「お父さんがどこに居るか、分かるかい?ゆっくりでいいよ」

「うん……ぐすっ、パパね、発電所で働いてるんだけどね……なんか、よく分からない人がね……」

ギンガ団だ。絶対にギンガ団だ。断言してやる。……あいつら、人を何だと思って……!

「ありがとう、それだけ分かれば十分だよ。僕が行って、キミがパパに会える様に頼んでみる」

「……うん、ありがと」

「だから、キミはソノオタウンで待ってて。少ししたら戻るよ」

それじゃ、と手を振りながら、発電所まで一直線に走る。どうやらギンガ団、盗みだけじゃなく監禁までする様だ。ジュンサーさんが見逃しても、僕が見逃さない。見逃す訳にはいかない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「(……あれ?ギンガ団がポケモンに酷い事した所、見た事あったっけ?)」

恐らくユクシーが関係してそうだ。だが今は発電所へ──

「!! ニャルマー、《ひっかく》!」

「ホムラ、《ひのこ》!」

「ヴニャァァ!」

あっけなくニャルマーを倒し、さあ下っ端を懲らしめようかとしたその時。ガチャバタン!と音を立てて、扉が閉まった。下っ端も中に入ったらしく、中から勝ち誇った様な声が聞こえる。

「はっはー!いくらお前でも、鍵が無ければ入ってこれないだろう!勝負には負けたが、こういう意味では俺の勝ちだ!なぁーっはっは!」

「……言いたい事は、それだけ?」

「……あ?」

お爺さんから貰った鍵で扉を開け、口をパクパクさせている下っ端を睨む。

「ひっ……ま、マーズ様ぁぁ!」

恐らく上司の名前だろうが、そんなの関係無しにスーツの襟を掴む。

「待ちなよ。傷ついたニャルマー、そのままにするつもり?」

「もっ、戻します!すいませんでしたぁぁぁ!」

「全くもう……ポケモンは道具じゃないんだ、ねーホムラ」

全くもってその通り、と言いたげに頷くホムラ──が入ったボールをベルトに留め、マーズという名前らしい上司の元へ行く事にした。一番良いのは、そこにあの子のお父さんが居る事だけど……

「こんにちは、アナタがギンガ団に楯突く子供?」

特徴的な形の赤い髪、1人だけワンピース型のスーツ、下っ端があれこれやっていても何1つしていない。……いや、指示は出しているか。

「……そうだけど。貴女がマーズ?」

「ええ。アタシがギンガ団幹部3人衆が1人、マーズ。発電所のエネルギーを貰いに来たの」

「……目的まで、わざわざどうも。でもね、目的を話されたからって、僕がそれを邪魔しない理由にはならないって事は分かってるよね?」

「勿論。むしろ、アタシたちに逆らう時点でここで引き下がられたらつまらないし。……それはそれとしてさぁ、アナタ中々に可愛い顔してるね」

「それはまたどうも。僕としては、そこで働かされてるおじさんを娘さんに会わせてほしいんだけど」

「うーん、どーしよっかなぁー……私にバトルで勝ったらいいわよ。私達も出ていく。代わりにアナタが負けたら──アタシの子分になってよ。そしたらアタシ大満足よ」

「──!」

悪寒がした、とは正にこの事だろうか。負けるのが怖いから、違う。女性とバトルするのが嫌だ、違う。子分にされた時、どんな扱いを受けるか──違う。

()()()()()()。それが、他の下っ端やジムリーダーとは大きく違う点だった。

「……それじゃあ、外に出ようか。ここだと狭い」

「いいわよ。あー、可愛い子分が増えるの嬉しいなぁー……皆同じ顔なんだもの。ジュピターに自慢しよーっと」

これが、絶対的強者の余裕か。──だから何だ。

余裕は慢心を生む。慢心は敗北を生む。それだけを忘れなければ問題は無い。

「ホムラ、行くよ」

「ガウッ」

「……へえ?珍しいの連れてるのね。行くわよドーミラー!」

ドーミラー。古代から生きているポケモンだが、昔の人はドーミラーを鏡の代わりに使っていたんだとか。

「ホムラ、《ひのこ》!」

「ドーミラー、《ミラーコート》」

「ガァウッ!」

「ホムラ!」

《ミラーコート》は、相手の特殊技を跳ね返す。《ひのこ》は特殊技なので、見事に跳ね返されてしまった訳だ。

「くそっ、しかも風も強い……!」

谷間の発電所は、文字通り谷間にある。そして、谷間はかなり風が強いのだ。だからこそ風力発電が有効な訳だが、戦う上ではかなりハンデをもらう。風上に居るか風下に居るかで、技の出しやすさが格段に違うのだ。

「(どうする、どうする……!ホルスはかなり危ない、ホムラも風を突破出来る程の速さは無い……となると!)戻ってホムラ、代わりに……カグツチ!」

「コァッ!」

「カグツチ、ドーミラーに掴まって!」

「……?」

風上に居るマーズには、こちらの言葉がよく聞こえていない。だが風下のこちらにはよく聞こえる。風上は情報に、風下は行動にそれぞれハンデがある訳だ。

「(でも、カグツチならそれも軽減出来る!……筈)」

「コォアアア!」

「なっ……ドーミラー!《たいあたり》!」

「カグツチ!()()()()()()()()!」

やはり女性に比べて低い声だと通るのか、それともただ単に大きいだけなのかは分からないけど、こっちの動きに合わせてくれたカグツチは受身を取った─正確には僕のそれに合わせてドーミラーを掴んだ─。……となれば……

「カグツチ、ひたすらにやれ!」

「ドーミラー、もう一度ミラーコー……」

ボボボボボボボッ!という音と共に何度も《ひのこ》が放たれ、熱風が風下(こちら)まで来た。

「あっつ……夏にやるもんじゃないなこれ」

「……っ、ドーミラー!」

「………………」

目を(バツ)印にして地面に転がったドーミラーを見てほっと一息。流石に一体だけではないだろうが、それでも一体を無傷で倒せたのは大きい。

「頑張れ、カグツチ!」

「チッ……ズバット!」

「もう見飽きたの来た……カグツチ、ホムラと交代!」

「コァッ」「ガウッ」

で、問題なのがね。ズバット、着地が出来ないんだよ。という事はつまり、風の影響を強く受ける訳。となると自然と近付いてくる訳で──

「ホムラ、《おんがえし》」

うん、まあ知ってた。こうなるの予想ついた。でもごめんね、こっちもあの子に頼まれてるんだ。

「クッ……ああもう、ブニャット!」

「オンミ゙ャー!」

「カグツチ、交代!」

「コァ──」

「《ねこだまし》!」

パンッ!と前足を鳴らしたブニャット。カグツチはそれによって怯んでしまい、少しの間動けない。

「まずっ……」

「《みだれひっかき》!」

「ミ゙ャアッ!」

みだれひっかきが5回、全て命中し、カグツチが吹き飛んだ。

「カグツチ───ッ!」

下で受け止め、状態を見ると傷はやや深いが、オボンの実を食べさせて少しでも傷を──

「グ……ウァ……」

「……?」

治そうとした直前、カグツチの体が光り始めた。

「これは……進化……?のわっ!」

「……これはまた何とも……」

ヒコザルから進化して、モウカザルになったカグツチ。しかし、その息は荒く、白目がある辺りは(あか)かった。




やっと4000字近く来た(白目)。
さてさて、ギンガ団の幹部もそれぞれ性格はゲームと変えております。マーズは面白い事なら首を突っ込みたがるみたいなキャラにしたつもりです。
それと、谷間とは言えあそこまでの強風になるかは正直分かりません(おい)。谷間に行った事が無いので……。

ではまた次回。……マーズ戦は流石に決着つくだろうけど、どこまで進むのやら。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ハクタイの木漏れ日

こんにちは、本編より手持ちやキャラ設定の方が筆が進むユキノスです。
やっぱ設定考えるの楽しいいいいいい(深夜テンション)

とまあそんな訳で、流石に設定ばっかってのもそろそろまずいので進みます。そりゃもう、ええ。はい(目逸らし)。
ではどうぞ。と言うか今回めちゃくそ短いです。


「か……カグ、ツチ……?」

「ウウゥゥゥ……!」

──おかしい。目の色も違っているし、何より尻尾の炎が図鑑で見るより()()()()()()

「まさか……《もうか》?」

「グゥアアアアアアッ!」

「カグツチ!」

言うことを聞いてくれない、炎が強くなる、凶暴化する……間違いないだろう、特性《もうか》だ。

でも。これで勝てたとして、どうしたら落ち着く?

考えろ、考えろ、考えろ──!

「……ッ!カグツチ、《マッハパンチ》!」

バァン!と凄い音がしたが、間違いなく《マッハパンチ》だ。ヒコザルだった時には不完全だったそれが、進化してかくとうタイプが追加されて完全になったのだろう。

「くっ……ブニャット!」

「ミ゙ャ……グゥ」

「倒した……、カグツチ、もういい!」

「グギァァァァァ!」

戦闘不能になったブニャットを、尚も殴り続けるカグツチ。どうすれば、止められる──

──ひとまず、ボールに入れたらどうだ?アレじゃ反動で倒れる。

「反動……?でも、《マッハパンチ》に反動は……」

──違う、《もうか》の反動だ。人間で言うと、血の流れを早めて無理矢理速く動いてるようなものだ、あのままだと……

「戻れカグツチ!」

傷だらけとなったブニャットを殴る直前で、何とかボールに戻ってくれたカグツチにほっとしながら、オボンの実を1つずつ食べさせる。どうやら動けるくらいにはなったようで、ブニャットはヨロヨロとマーズの元へ戻っていった。

カグツチはというと、疲れ切って眠っている。それだけ消耗が激しいのだろう、《もうか》という特性は。

「……まず、謝らせてほしい。ブニャットをこんなにしちゃって……本当に、ごめんなさい」

「…………ああ、なんだそんな事?確かにブニャット(このコ)は、アタシが小さい頃から一緒に居るよ。……でも、ギンガ団(こんな組織)に居る以上は仕方ない、そう割り切ったのさ」

「え……?ちょっと待ってくれよ大切なポケモンなんだろ……!?なら、なんでそんな仕方ないって……」

「アタシ達を拾ってくれるような所が無かったからさ。……なんてね、それじゃアタシらはおさらばするよ」

ブニャットをボールに戻し、ヒラヒラと手を振って発電所に戻るマーズを、ただ呆然と見送るしか無かった。

「……あれは、本音なのか?それとも、ただの嘘?……分からない」

首を横に振り、共に闘ってくれたカグツチとホムラのボールを撫でる。

「さ、回復させたらハクタイに向かおう。森を抜ける事になるから、休み休みね」

……思ったんだけど、ポケモンが居るとはいえずっと1人で話してると気が滅入ってくる……。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「よっ、と……ふぃー、案外疲れるもんだなぁ」

「ガウ?」

時短と、単に景色が見たいが為に岩の上を歩く事にしたが、まあ怖いのなんの。橋に手すりが付いてないとかどこのホラー映画?《ジュペッタの高笑い》?

「うわ……落ちたらタダじゃ済まなさそう、てか死ぬよね」

コクコクと頷くホムラ。こいつは他のポケモンと比べても格段に頭が良いので、流石に分かるのだろう。いや、サイホーンくらいの脳味噌でない限り分かるか。あれどんぐらいだっけ?

「よっと。ちょっと休憩……」

「ああー……ちょっと良いかな?」

「はい、何でしょうか」

申し訳なさそうに話し掛けて来たのは、なんと山男。……まさか道に迷ったとか?

「実は道に迷ってしまって……」

「えぇ……あっ、地図が……」

「逆さまだったか!いやぁうっかり……」

「いえ、90度曲がってました。……何をどうしたらそうなるんですか……」

全くもって謎である。と言うか、ジュンの奴どこまで言ってるんだ?もうハクタイの森入っちゃうけど全然会わない。

「ありがとう、助かったよ!これでやっと帰れる!」

「お気をつけてー。……と、しっかし暑いなぁ……」

夏の日差しはまだまだ高く、ジリジリと僕らを照らしている。……ダメだ、早めに森に入って休もう。

「移動するよ、とりあえず森に入っちゃおう」

「ガウ」

ハクタイの森は夏でも涼しく、また精霊が居るのではないかと言われている。セレビィはジョウトの方なので違うが、是非とも精霊さんに会ってみたい。

……また、寂れた森の洋館は心霊スポットとして人気になっている。今は行かなくてもいいかな、うん。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「……涼しい……」

「ワウー……」

木漏れ日は暖かいが、木々に遮られている為物凄く涼しい。ゲンガーが部屋に来た時みたい。来た事は無いんだけど。

「あ、あの……すいません、ちょっとよろしいですか?」

「? はい、なんでしょう」

「実は、ハクタイシティに行きたいんですが……道に迷ってしまって」

「ああ、そういう事でしたか。それなら、僕もちょうど行く予定なので同行しますよ」

「ありがとうございます!代わりに、傷ついたポケモンは回復しますので……」

「おお、それはありがたい。……さ、行きましょう」

この時は全く気付かなかったが、木の陰──正確には葉の裏に、小型のカメラを仕掛けてあったらしい。というのを知ったのは、かなり後だったけど。




いつもの半分やんけボケェ!(八つ当たり)
まあこれぐらいがキリ良いんで、ハイ()
下手したら次回もう森抜けてそうですけどね←

ではまた次回。今回の後書き滅茶苦茶だなぁ……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

邂逅、現在のチャンピオン

こんにちは、そして明けましておめでとうございます。ユキノスです。なんだかんだ言ってひと月音沙汰無しでしたが、リアルの方も何かと忙しかった為遅れてしまいました。東方の小説は更新出来ていましたが、あれは書き溜めがあったから、そして一番話の構成が固まっていたからでした。まだ落ち着いてはいませんが、少しずつ更新していきたいと思っています。


本編についての話としては、手持ちとその周辺ストーリーが固まってきたので、後はメインストーリーの構想を頑張ります。時間は掛かりますが、どうか最後までお付き合いいただければ幸いです。

ではどうぞ。


ハクタイの森は、森らしく虫ポケモンが結構多い。ケムッソも居るし、マユルドやカラサリスも。他にはスボミーやビッパ、ミミロルなんかも居る。涼しいという事もあり、それらのポケモンを図鑑に登録していたらすっかり夕方になってしまった。《同行者》であるモミさんも居るのに、あちこち寄り道してしまって申し訳ない。

 

「ごめんなさいモミさん、お時間取らせてしまって……」

「いえいえ、ナナカマド博士のお手伝いなんでしょう? 私は連れて行って貰ってるだけだから、気にしないでください」

 

モミさん普通に優しい。30分もあれば抜けられる森を、かれこれ2時間も居座ってたのにニコニコしている。

そう言えば途中サイキッカーズや虫取りに来た男の子達とバトルをしたけど、モミさんはバトルは不得意らしい。ダブルバトルだからというのもあるかもしれないけど、そもそもラッキーは耐えつつ回復するのが真骨頂なので、ある意味仕方無いと言える。

 

「あっ、出口! 良かった、ここまで来れた……あの、ありがとうございます。それで、……もし良かったら、これ使ってください。鈴の音で癒されて、懐いてくれますよ」

「わぁ、ありがとうございます! 大切にします!」

 

《癒しの鈴》はその名の通り(そしてモミさんが説明した通り)、ポケモンに聞かせると癒されるのだ。傷が治る訳ではないけど、精神的にはかなり楽になる。だから懐いてくれる。って、どっかの学者さんが言ってた。

 

お礼にお礼で返して、先にハクタイの森を出たモミさんを見送り、ふと左を見た。すると、ながーい、ながーい……ベロが。

 

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

「ケケケッ♪」

 

ゴース、ゴーストの舌に舐められると魂を吸い取られるという言い伝えがある。本当かどうかは定かではないが、少なくとも試してほしくはない。

そんな事を思い出したのも後の話。今はただ、全力で走った。ちょっとここ最近無いレベルで。だからだろう、そのまま道を踏み外して池に落ちた。

 

「がぼごぼごぼごぼ……ぶはっ、はぁ、はぁ、はぁ……」

「おーい坊主、大丈夫かぁー?」

「は……はーい!」

 

釣り人のおじさんが竿を寄越してくれたので、それに掴まって岸へ戻る。水を吸ってしまった服は重く、出るのにも一苦労だ。

 

「どうしたんでぇ、こんなとこで。森に幽霊でも出たか?」

「はい、大体そんな感じです……ゴースに舐められそうになって、慌てて走って……」

「ボチャン、か。いやー災難だったなぁ、はっはっは」

 

服と鞄とその中身は乾かしている為、おじさんが持っていた寝袋を使わせてもらっている。少し暑いが、何も着てないよりマシだ。何より、シンオウ地方は夏でも夜は冷える。ありがたや。

 

「今俺のポケモンが乾かしてる所だからよ、乾いたらちゃんとした所で寝ろよ?なぁに、俺はこの辺の《ヌシ》ってやつを釣りてぇだけさ」

「あ、ありがとうございます……《ヌシ》って何です?」

「おぉそうか、そんじゃ話してやる。──まず、シンオウ地方にゃ色んな池やら川やら海があんだろ?《ヌシ》ってのはな、その1つ1つに居る……そうさなぁ、一番デカくて一番つえーポケモンの事を言うのさ。ここいらだと、ナマズンやギャラドスが出るって噂だが……外国じゃ、ハクリューやカイリューなんか出るって噂だぜ」

「へぇ……おじさんは、そんな《ヌシ》を釣って回ってるんですか?」

「ん、さしずめそんなとこだな。……お、ちょうど服が乾いたみてぇだ。ちゃんとパンツも乾いてんぜ、心配すんな」

「あはは……そこの木陰で着替えます」

 

豪快に笑って釣り糸を垂らしているおじさんが世界的に有名な人だと知ったのは、また後の話。

因みに、おじさんが連れていたポケモンはオニゴーリだった。水分を凍らせて、あとはそれを落とすだけだったから凄く簡単だったよ。冷たいけど。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

ハクタイシティ ハクタイの森方面出入り口

 

「おっ、来た来た。少年、ちょっといいかな」

「……へ? シ……シロナさん!?」

「ああ待った待った、怪しい者じゃない──って、あれ? おーい? 少年?」

 

シロナさんは、シンオウ地方でポケモンバトルをしている者なら誰もが1度は憧れた(と思う)存在──ポケモンリーグのチャンピオン。圧倒的な強さ、そしてその美貌から、ファンクラブが出来る程の知名度と人気を誇っている人物だ。

そんな人が、僕に用事? 明日シンオウ地方は滅びるのだろうか。いや滅びてほしくないけど。

 

「……実は、このタマゴを預かってほしくて。このタマゴから産まれるポケモンに、広い世界を見せてほしいんだ」

「そ、それは分かりましたけど……でも、なんで僕に?」

「ふふ……それ、ポケモン図鑑でしょ?」

「え?あ、はい」

「実は、私もね……」

 

シロナさんは色々な事を話してくれた。

自分も昔、図鑑を埋める旅に出ていた事。その先で、タマゴの中に居るポケモン(正確にはその親)に出会った事。そして──僕の父さんに、会っていた事。他にも沢山、出会いと別れの話をしてくれた。

個人的には父さんの話が一番気になるが、「今はまだ話す時じゃない」と断られてしまった。

 

「そんながっかりしない、いつかきっと会えるから。……でも、そっか……タケヒコさんの息子さんかぁ……私、負けちゃうかも」

「い、いやいやそんな。勿論チャンピオンは目指してますけど……でも、正直今は勝てそうにないです」

「大丈夫、次のリーグは4月だよ。今7月だから、あと9ヶ月もある。勿論、それだけの期間で簡単に負けたくはないけど……コウキ君。キミなら、リーグに出られる気がする。応援してるよ」

 

ポン、と肩を叩かれ、そのまま手を振って去っていくシロナさんを呆然と眺めていて──不意に、ある事を忘れていた事を思い出した。

 

「あっ、あの!」

「ん? どうかした?」

「……握手、してもらっていいですか」

「──ぷっ、あははは……」

 

そこ、笑わない。僕だって、一応はファンなのだ。バトル的な方だけど。

 

「うん、勿論。いつか、キミと戦える事を願って」

「必ず、ポケモンリーグに出場します」

 

それじゃあね、と笑顔で残し、チャンピオンは白いポケモン──トゲキッス、というらしい──に乗って去っていった。

……おや?後ろから誰かが走ってくる音が聞こえr

 

「おいこらコウキぃ!」

「どわったたたた、っと……ジュン!」

「どーしたもこーしたもあるか! お前だけシロナさんと話しやがって! くぅー、俺も色んな話聞きたかったのによぉ!」

「わ、悪かったって……って、もうバッジは貰ったの? ナタネさんだから苦戦したでしょ」

「ふっふっふっ、俺を甘く見るなよ? 見事、バッジは貰ったぜ!」

「おぉっ、さっすがぁ! ……と言っても、タイプ相性的には簡単に勝てるんだろうけど……それでも、()()()()()()()()()だからなぁ」

 

ハクタイシティのジムリーダーであるナタネさんは、草タイプの使い手。ペンタローは水タイプなので、ムクタローが居るとはいえ厳しい戦いだっただろう。それで勝利を収めたのだから、やっぱりジュンは強い。……リーグでは、ジュンとも戦う事になるんだろうか。

 

「おっ、そうだ。この先にさ……えーと、あれ見えるか?あの石像」

「……どれ? 見えないや」

「こっち来いこっち。ほら、あれだ」

「……………あー!あれか、あれがどうしたの?」

「それがさ、なんかスッゲーのが書いてあったらしいんだよ。それを解読したってじーさんが居てさ、お前も一緒なら見せてくれると思ってさ!」

「うーん……そんなに上手く、わ、ちょっ、押さないでよ!」

 

なんだかんだで久々に会ったからだろうか、ジュンのテンションが上がり気味だ。……ま、楽しそうだしいいかな。他人に迷惑掛けた事は無いし。僕は色々巻き込まれてるけど。

 

「着いた着いた、おーい、じいさ……ん? ……誰だ、あれ」

「え? あの人じゃないの?」

「……ああ。少なくとも、あんなにツンツンした髪じゃなかった」

 

ここからだと影になって見えないけど、灰色のスーツらしき服を着ていて、背中にGの文字があるのは見えた。

 

────ギンガ団!

 

「待て、コウキ。俺は、お前が昔、ポケモンがギンガ団に酷い事をされてたのを見たって事も知ってる。だけど、今は……抑えるんだ」

「……分かった」

 

こういう時は冷静なんだからなぁこいつ。……今の会話は、間違いなく聞こえているだろうなぁ。

なんて思っていたら、目の前にギンガ団の……確か、名前は──

 

「失礼、どいてもらおう」

 

思い出す前に声を掛けられたせいで、結局分からなかった。でも、必ずどこかで見ている……筈。

 

「あっ! なぁなぁ、俺今ぶつかった時スッゲーの思いついたんだよ! 最強トレーナーになる方法!」

「えっ!? どんなのどんなの!?」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()! これで完璧、リーグ優勝間違い無しだぜ!」

「……あのねぇジュン、それが出来てたら苦労しないでしょ……」

「そんな事言うなよなぁ、夢の無い奴め」

「むっ……夢ならあるもんね、リーグ優勝っていう!」

「いーや、優勝は俺だ! いいぜ、ならポケモンバトルで勝負だ!」

「望む所だ、行くよカグツチ!」

「ムクタロー、行けっ!」

「ヒッコァ!」 「ピュルルピィ!」

「──《ひのこ》!」「《つばさでうつ》!」

 

街中で始めた為見物人が集まってきたが、怪我をしないように注意してもらいたい。割と近くで見てる人多いからなぁ……。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

何気なく見ていた、もう見慣れた風景。フタバともコトブキとも違うそれは、都会感があって、田舎のような落ち着きもあった。

そんな中、チャンピオンがハクタイの森方面に向かっていった。私はバトルをそんなにしないから、見た目と名前だけ知っているようなものだったけど、多分()()()()なら大興奮だったんだろうなぁ……

 

「……ふふっ。ジュンもコウキも、元気かなぁ……」

 

2人が、ポケモン図鑑完成の為の旅に出たのは知っている。ここにはジムもあるので、必ず立ち寄る筈。アイラ(お姉ちゃん)の電話によると、数日前にコトブキからクロガネへ向かったらしい。ジュンは元気いっぱいだったけど、コウキは軽い脱水症状を起こして倒れた、と聞いて大いに慌てたのは記憶に新しい。

 

「いっつも、無茶するんだから……ね、ピクちゃん」

「ピ?」

 

ベランダの手すりに寄りかかり、かなり熱かった為にすぐ離れる。少し涙目になりつつ、長い付き合いになるピッピのピクちゃんと一緒に部屋に戻──った矢先、街が騒がしくなった。急いで冷蔵庫から麦茶を取り出して飲み、窓を開けて街を見下ろした。すると、ポケモン像──確か、シンオウ地方を創ったとされている──の辺りに人だかりが出来ている。

 

「誰なんだろ……気になるね、ピクちゃん」

「ピッピィ」

 

幸い、今日はお母さんが居ない。家の鍵を持って、ピクちゃんとその人だかりへ行くことにした。




アイリ初登場です、拍手!

はい、そんな訳でですね。ちゃんと4000文字書こうとするとかなり(時間が)長くなる事が分かりました。

ではまた次回。出来るだけ早めに投稿しますね()


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

確固たる意志

お久しぶりになりました()、ユキノスです。
前回唐突にバトり始めたこの2人、街中で何やってんだ!って思った方も居るかもですが、なんならこの人たちゲームだと大抵街中バトルなので感覚麻痺起こしそうです助けて……。

ではどうぞ。いつもより少し長め?


「カグツチ、《ひのこ》!」

「《つばさをうつ》で反撃だぁっ!」

 

ジュンは昔からせっかちで、すぐに攻めてくる。 それを読んでさえいれば、実は案外楽に戦えたりする。

 

「カグツチ、ムクタローに飛び乗って!」

「んなっ!? ありかよそんなん!」

「いやぁ、公式戦じゃないからなぁ……どうだろ」

「ムクタロー、振り落とせ!」

「あっやば、耐えて!」

 

すぐにのんびりと考える、僕の悪いクセ。 直さなきゃとは思っても、全然直らないのだ。

 

 

「2人とも、ここが街中だって事忘れてない?」

 

 

2人揃って、ギクッと効果音が付く程肩を跳ねあげた。 バトルに熱中し過ぎて、街中であるという事実をすっかり忘れていたのである。 口の端をひくひくさせながら声のした方を向くと、ジムリーダーであるナタネさんが、満面の笑みで立っていた。 ……米神辺りの血管がビキビキいってるのは、気のせいだと信じたい。 あ、無理? ですよねー。

 

「あ、あの……」

「……はぁ。 まぁ、今回は苦情も被害も出てない事だし……子供が2人、競い合ってただけ、って言えば聞こえは良いし……うーん、まあ……と・り・あ・え・ず! 今ここでお咎めは無しとします。 それに、2人に会いたがってる子も居るし、ね?」

 

《とりあえず》お咎めは無しと聞いて一安心。 ……それでもとりあえずだし、ジムではボッコボコにされそうなのが怖いけど。 ナタネさん、怒ったらジムリーダーで1番怖いって噂だし。

……で、会いたがってる子って?

 

「ほら、いつまでも恥ずかしがってないで」

「え、あ、あぅ……」

 

ひょこっと顔を出してはいるが……隠れてしまった。 あれ、でもあの顔見覚えあるぞ。 3年前まで、3人で色んな事をして、色んな事で怒られて、色んな事で褒められた時、必ず一緒に居た顔。 今はもう引っ越してしまったが、会える事を楽しみにしていた顔。

 

「……アイリ?」

「は? アイリって……え? お前、確か引っ越したって……1個先の街じゃねえかよ! なんだよぉ、すぐ会えたんじゃねえかよぉ」

「……えへへ」

 

笑うと出来る小さなえくぼ、照れた時に頬を掻くクセ、長い間着けていた証として色が落ちてきている髪飾り。 間違いなく、あの時のアイリそのままだ。

 

「久しぶり、コウキ」

「うん、久しぶり。 あ、そこそこ伸びたねぇ」

「ふふ、そうでしょ? それと、ほら! ピクちゃん、進化したの!」

「おぉー! お前も元気そうだなぁ、んー?」

「ピッピ〜♪」

 

あの頃と同じように、むにむにとした頬をつついてやると、思い出してくれたのか抱きついてきた。 こいつは、アイリもそうだが僕にも懐いているのである。 理由は分からない。

 

「そっかぁ、分かってくれたかぁ。 そうだ、ホムラ!」

「わっ、あの時のガーディ! 名前、決めたんだね」

「あはは……中々決まらなかったんだけどね」

「その割には、じーさんに聞かれた時即決だったじゃねーかよぉ、このこのー」

 

幼馴染みが、再会を喜ぶ和気あいあいとした雰囲気を、完膚無きまでにぶち壊した愚か者が1人。

 

「おいお前、そのポケモンを寄越せ」

「え……? この子は、私の……」

「我々にはそのポケモンが必要なのだ! 新たなギンガを創り出す為にな!」

「え、あ……」

 

ナタネさん……はもう帰ってしまった。 街の人……ダメだ、皆関わる気が無さそう。 僕達を、憐れんだ目で見ている。

じゃあどうする? ────決まってる。

 

「……ギンガ団。 ここに居るピッピは、この子の……アイリのポケモンだ。 必要だって言うなら、それらしい理由を聞かせてくれても良いんじゃないの?」

「コウキ……」

「そーだよ。 理由も無しに、初対面の人に対して『寄越せ』だぁ? 俺達みたいな子供でもそんな事しねーぜ!」

 

アイリとピクちゃん(ピッピ)を、守り通す。流石に、人の家までは入ってこない……その筈だから。

 

「……詳しい理由は、俺も知らされていない。 だが! お前達が思っているようなちっぽけな事では断じてない! アカギ様は! 新たなギンガを創り、神となるお方だ!」

「話し合いが通じる相手じゃ……」

「なさそうだな。行くぞコウキ、踏ん張り所だ」

「……うんっ。 行けっ、ホムラ!」

「ムクタロー、出番だぜ!」

 

ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*

 

バトルを始めて、10分程経っただろうか。 既にバトルをしていた上、夏の日射しも相まって、トレーナーも僕達も疲れきっていた。

 

「っ……ホムラ、《おんがえし》!」

「ペンタロー、《あわ》だ!」

「《サイコキネシス》で押し返せ、ユンゲラー!」

「まずっ……がっ!」

「あぐっ……つ……」

「……や、やめて……もうやめてよ……」

 

《サイコキネシス》もそうだが、それぞれの技の威力が高過ぎる。 ……流石は、エスパータイプ屈指の強者って所だ。

 

「ホムラ、立てるかい?」

「まだやれるだろ? ペンタロー」

 

ボロボロでも。 泥だらけでも。 醜くても。 手の届かない星を、掴もうとしても。

 

 

「「早く逃げ()! アイリ!」」

「っ……!? ピクちゃん!?」

「ピッピィ! ピィ、ピピィピィ!」

「……何、してんだよ?」

「ピクちゃん……?」

 

今までずっとアイリの言う事を聞いていたピクちゃんが、突然アイリの元を離れ、僕達の前に立った。 何かを必死に訴えている……けど……

 

「……まさか」

「っ、お、おい! そいつらは、お前を──」

「ピ」

 

振り向いたピクちゃんの親指は、しっかりと天に向けられていた。 そして、ギンガ団に手を掴まれ、すぐそこにあったビルの中へ入っていった。

 

「っ……! クソッ、開けろ! 開けろよ! 開けろォ────────ッ!」

「ジュン……アイリも、ホムラも、ペンタローも……ごめんね」

「謝る事、なんか……何も……っ」

 

───完敗だ。 僕達は、下っ端1人倒せなかった。 ポケモン1匹助けられなかった。 ……悔しい。

拳を道路に叩きつける。 痛い。 アスファルトが熱い。 それ以上に、アイリは辛い。

これ以上、辛くさせたくない。 優しさとか、そういうのじゃなく。 アイリには、笑っていてほしい。

 

「……ジュン。 僕、ナタネさんに挑んで来るよ」

「お前……っ、友達よりジムの方が大事かよ!」

「違う……そんなんじゃない。 ナタネさんぐらい余裕で倒せない限り……あいつらには、勝てない」

 

だからこそ、進もう。 抜けてみせよう。 毒のトゲがびっしりと生え揃った、茨の道を。

 

「……アイリ。 ピクちゃんの代わり、ではないけど……護衛用に、ホルス(こいつ)を持ってて。 必ず、取り返すから」

「……うん。待ってるよ」

「──コウキ、俺も行く。 あいつらのしてる事は間違ってる。 だったら、誰かが止めてやらないといけないだろ?」

 

2人が無理して笑っているのは明白だった。 けど、そうでもしないと病んでしまいそうなぐらい、僕らの心は抉られた。 もう2度と、そんな事が起きてほしくないから……だから、もっともっと強くなる。

 

ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*

 

「失礼します。 ジュピター様、ピッピを連れてきました」

「ご苦労。……さて、始めるとしようか」

口角を吊り上げ、ピッピを機械に縛りあげたジュピターは、きっと上手くいくと信じていた。 それと同時に、一抹の不安も抱えていた。

 

何故なら、()調()()()()()()()()()。 いや、それ自体は悪くない。 しかし、順調に()()()()なのが問題だ。

 

ジュピターは、子供3人からピッピを取り上げる所を見た。あの子らは、何らかの手段で乗り込むか、警察……或いはジムリーダーに助けを乞うだろう。 しかしそうだとして、何故今まで無干渉を貫いてきた? 何か準備していた?

 

「…………チッ」

「ジュピター様?」

「いや……お前は仕事に戻れ。 それと、内部の見張りを厳重にしろ」

「はっ。 新たなギンガの元に」

 

下っ端が消えたのを見届けた直後、自分が歯軋りしている事に気付いた。

私は、何に腹を立てているのだ? たかが子供だ、蹴散らしてやればいいではないか。 警察? ジムリーダー? こちらにはピッピ(人質)が居る。

 

「跳ね返してやろうじゃない。 何もかも!」

 

暗い部屋の中、ジュピターは高らかに笑った。

 

ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*

 

ジムの皆で、今日の事、化粧品等の話をしていたら、チャイムが鳴った。 来客用ではなく、挑戦者の来訪を報せる方の。

 

「……あら? ナタネさん、今日の挑戦者って……」

「え? 今日は昼だけの筈だよ? ……おっかしいなぁ、予約制って書いてあるんだけど……はーい、ただいまー」

 

ちゃんとジムの前に注意書きまでしたのに、読まずに来た輩はどこのどいつだ……と愚痴りながら戸を開けると、そこには真剣な顔をしたさっきの男の子2人が居た。

 

「どうしたの? ウチが予約制だって事、一応分かって……はいるんだ、じゃあなんで?」

「っ……」

 

言葉に詰まった所を見ると、何やら事情はあるらしい。 だけど、この様子だと言えないようだ。

 

「……あー、分かった分かった。 深くは聞かないから。じゃあ、私が帰った後何があったかだけ教えて? 言いたくない所は話さなくていいから」

「……はい。実は……」

 

2人は、本当に詳細に語ってくれた。 物凄く強かったユンゲラーに、何も出来ずやられた事。 ピッピを守る為、それでも立ち上がった事。 でも、結局ピッピが自分から行ってしまった事。

語っている最中、大人しそうな方──コウキくんは泣きそうになっていたけど、それぐらいに悔しかったのだろう。 無力な自分が。

 

「ギンガ団に、あの子のピッピが……分かった、取り返して──」

「待っ……待って……ください」

「俺達も、一緒に行かせてほしいんだ」

「……は?」

 

この子達は何を言ってるんだろう。 たった今、為す術もなくやられてきたばかりだと言うのに。 代わりに行ってほしいのでなければ、何の為にジム(ここ)に来たのか。

 

「無茶言ってるのは分かってる、でも! あいつらがやってる事は、許せないんだ!」

「それに、なんでこんな事してるのか……偉い人に聞ければ、分かるんじゃないかって……」

「はぁぁぁ………」

 

頭痛がしてきた為、米神を抑える。 やられると分かっているのに、挑むというのだろうか。 希望は? 確証は? 根拠は?

色々出たが、どれも無さそうだ。 では、本当に無策で突入するというのだろうか。

 

「───この、馬鹿!」

「「っ!」」

「ふざけてる、あまりにもふざけてる! 今さっきやられました、2回目挑みます、そしたら勝てると思ってるの!? 何も成長せず! 何も変わらず! 負けのイメージを貼り付けたまま! トレーナーズスクールで何を学んできたの!? もっかい年少からやり直せ! 何をすべきか、どうすれば出来るか、全部頭に叩き込んでからもっかい来なさい!」

 

──ああ、()()やってしまった。

 

 

昔から私は、自分を抑えるのが苦手だった。

「お前さんは何かと怒ってばかりだ、もう少し笑ってみな」とイッシュのチャンピオンに言われた事もあるし、エリカさんに「貴女はお節介さんなんですよ」と宥められた事だってある。 ……分かってる。分かってるんだ。 自分が、人付き合いが苦手って事ぐらい。

 

だけど、ジムリーダーにまでなった。 なってしまった。

 

嫌と言うほど沢山の人と話し、バトルして、1つ感じた事がある。それは、「人は学ぶ奴も居れば学ばない奴も居る」という事。

何度も挑んできて、何度も同じようにやられる人も居れば、2度目は喰らわない人だっている。 ここで問題なのが、この2人はどちらなのか? 何故、ジムの人間(私達)ではなく、自分達が行かなければならないのか? この2つだ。

 

「……幼馴染みに良いとこ見せよう、って理由なら、私は受け入れないよ。 あいつらは、そんな生易しい理由で返してくれるような奴じゃない」

「悪いけど、そんな理由で行く程の馬鹿じゃない。 僕だって……僕らだって、ギンガ団の強さは知ってる! だけど、僕には」

 

コウキ君がぽろぽろと涙を流し始めた辺りで、「あ、ヤバい言い過ぎた」と確信────いや、違う。 苦しさなんかじゃない。 彼の目に宿っている光は──後悔、だけではない。

 

「僕には、助けられるだけの力が無かった! ()()()も、今も! そんなんじゃ、なれないでしょう……? チャンピオンなんかに……!」

「……は?」

 

今まで考えていた全てがすっ飛んだ。




何がなんでもチャンピオンとかいう力押しの信念。うーん凄い。 そんな信念、皆さんは持ったことありますか? 俺は無いです(白目)

ではまた次回。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ジム戦、VSナタネ

話数少ないのに何度も言った気がします、お久しぶりです。ユキノスです。

前回ナタネの目を点にしたコウキですが、前書きを書いてる時点では多分またしでかします。ええ、しでかしますとも。
ではどうぞ。


「なれないでしょう………? チャンピオンなんかに……!」

「…………………は?」

 

この子今、なんて言った? チャランポラン? いや違ったわ。現実逃避してる場合じゃない、落ち着け私。

はい深呼吸、……………うん、確認してみよう。

 

「……チャンピオンに?」

「「(コクッ)」」

「君たちが?」

「「(コクッコクッ)」」

「……えーと、ちょっと待ってね?」

 

ちょっと情報量が多くて、いや多くはないけど大き過ぎて処理が追い付かない。

チャンピオンになりたい? 今の、ギンガ団の研究者すら倒せない強さで?

 

「うっ……それは……」

「あ、私声に出てた? いやごめん、でも申し訳無いけど事実なんだよ。……だってさ、チャンピオンっていうのはさ。シンオウの誰よりも強いんだよ。ジムリーダー()どころかその辺のおっさんすら倒せないで、何がチャンピオンよ!」

 

アッハハハハハハハ……と笑ってから、傍から見たら絶対こいつヤバい奴じゃん、というワードが頭を()ぎった。

 

「あ、あははー……っ!」

「あっ、逃げた!」

「待てー! 言うだけ言って逃げるのは大人気ないぞー!」

「私はまだ少女なのぉぉぉぉぉぉぉぉぉおお!」

 

確かに大変大人気ないが、もうあんな事をしてしまった以上許してほしい、てかそれで弄られたら恥ずか死ぬ自信が大いにある。

 

「ううぅ〜……もう外歩けないぃ〜……」

「……ナタネさん、またそれ言ってるんですかぁ? 今月入ってもう3度目ですよぉ?」

「だぁってぇ〜、恥ずかしいんだもぉん……」

 

「(ドンドンドンッ)ナタネさーん、予約していたジュンとコウキですけどー」

「はぁっ!?」

 

え、いや、そんな馬鹿な。予約なんて今日の内はもう来てない筈。

全速力で名簿を掠め取り、目を通していくと、確かに予約が来ていた。3分前に。

 

「そーゆーのはぁ、予約って、言わないのぉ……」

「あぁ、ごめんなさぁい……他に来てなかったのでぇ、入れちゃいましたぁ……」

「何してんの!? てゆーかそれ聞いてないよ!?」

 

***

 

「………えと、入って良いのかな……」

「………まあ、ダメではないだろ、うん」

 

声めちゃめちゃ届いてるんだけど、気付いてないのかなぁ……と責任から目を逸らして、真っ赤な泣き顔でぐるぐる目にしてる様が浮かんでちょっと笑ってしまった。

 

「誰今笑ったの!」

「おわあぁ!?」

「じ、地獄耳……」

「ほらほらナタネさん、落ち着いて落ち着いて」

「えっ? ああ、うん……で、挑戦に来たのね?」

「「はい!」」

「うん、うん、うん……まあ、アレがあってから随分と早い立ち直りだこと。さて、準備出来てる?」

「っ……はい。やります。そして勝ちます。……また怒られたくはないので

「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」

 

余っ程恥ずかしかったのか、ずんずんと奥へ入っていくのを見て、ナタネさんの印象が「怒らせると怖い」から「表情と感情がくるくる変わって面白い」に変わった。

 

「……さて、それじゃ行こうか」

「ガウッ!」

「おっ、頑張れよーホムラ! 俺がしっかりと見届けてまるからな!」

「ガウガウ〜」

「『言われずとも分かってる、口出しすんな』ってさ」

「何おぅ!?」

 

***

 

さてやって参りました、毎度お馴染みスタジアム。お客さん……というかジムの人は皆女性で、少し緊張するのもあるけど……こんなんで負けてちゃ、ダメだよね。

気合いを入れ直すため、頬をぱちんと叩く。……加減間違えた、痛い……

 

「う〜〜……よし、行こう!」

「ロズレイド、《つるのムチ》!」

「おわぁっまだ何も出してないのに!?」

「あ、ごめん。今日はちょっと不機嫌だからさぁ」

「……怖っ。気を付けて、ホムラ」

「ガウッ」

「えー……それでは、ジムリーダー・ナタネ対、チャレンジャー・コウキのバトルを始めます! 使用ポケモンは3体、相手のポケモンを全て戦闘不能した方の勝ち! ……始め!」

「ホムラ、《ひのこ》!」

「躱して《つるのムチ》!」

「避け──」

 

て、の言葉が出る前に、ヒュッ! と空気を切り裂く音がした。あと数センチ前に出ていたら、間違いなく引っぱたかれていたであろう勢いで。それはもう、思いっきり。

もうもうと舞う土煙が晴れた時、そこには1つの大きな窪みがあった。言うまでもなく、《つるのムチ》によるものだ。

 

「うひぃ、凄い威力……ホムラ、油断しないでね!」

「ガウ!」

「《どくづき》!」

「花に触れないで、毒針が出てくる! ……《ひのこ》!」

「一点構成は愚策よ? 《はなびらのまい》!」

「ガッ……グ、ウゥゥウ!」

「ホムラッ!」

 

激しく踊るロズレイドと、それによって舞い散る花弁はとても綺麗だった。……でも。綺麗なバラにはトゲがある、とはよく言ったもんだ。

衝撃でジムの壁に叩きつけられたホムラは、床に力無く倒れた。立ち上がろうとして、すぐにまた横たわってしまう。

 

「ッ……ホムラ、キズぐすりだ。これで……って、そんな悲しそうな顔するなって。お前なら勝てる。約束するよ」

「……ガウ!」

 

拳と前足でグー(?)タッチして、ホムラは再び立ち上がった。その瞳は爛々と輝いている。もしやと思って図鑑を見ると、《ひのこ》が新しい技に変わっていた。

 

「こいつ……、《かえんぐるま》!」

「ガァアウウウウウウゥゥゥアア!」

「なっ……くっ……!?」

 

高速で回るホムラの勢いは、《はなびらのまい》を強制的に中断させた。そのまま無防備な胴体へ、《かえんぐるま》を直撃させ、反対の壁まで吹っ飛ばした。

同じ事をやり返されるとは思っていなかったらしく、目を見開いているナタネさんに、精一杯のドヤ顔で返す。

何故って、こいつは──

 

「『やる時はやる』、それがうちのホムラですから」

「ガウ!」

「……よし、反撃開始だ!」

「させない! ロズレイド、《リーフストーム》!」

「ホムラ! 《おんがえし》っ!」

「グゥウアアアアアアア!」「ロォォォズァァァァァ!」

 

純白の牙と、葉っぱの渦……って言うとなんかダサいな、でも他に浮かばないからいいや……コホン、葉っぱの渦がぶつかり合い、周囲の木々から葉を削ぎながらせめぎ合っている。2匹の放つエネルギーがどんどん膨れ上がって、眩しくて………!

 

ズドォォォオオン!

 

と大きな爆発を起こし、互いに吹っ飛び、しかし踏み留まった。どちらも息があがっているが、まだ闘えそう──

 

「ロ、ズ、ァ……」

「……ロズレイド、戦闘不能!ホムラの勝ち!」

「よっ……しゃあああ! やったなホムラーー!」

「ジュン! お前さっきからずっと黙ってるから寝てたのかと思ったー!」

「阿呆! 俺はお前じゃないんだぞー! ほら、2体目来るぞ!」

「……行けっ、チェリム!」

「ホムラ、《かみつく》!」

「《はっぱカッター》で突き返して!」

「ムー……」

「うえぇ!?」

 

***

 

(……さて、どう出るか)

 

私がジムリーダーとしてしてきた事。もっと言えば、唯一最初から出来た事。それは、他者の分析だった。相手のクセ、言動、表情……それらから読み取り、相手がどんな人物かを見極める。私はそれが大の得意だった。

沢山の人とポケモン(コンビ)を見てきて、沢山の分析をしてきたけれど。

 

「《かえんぐるま》に切り替え!」

「ガア!」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()コンビは初めて見た。

 

 

普通、《かみつく》から《かえんぐるま》には繋がらない。前者は口で噛む為に顔を前に出すけど、後者は全身で回転する為に顔は引っ込めないといけないから。

そして、それはどちらも分かっている筈。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

そんな人、私は会った事無い!

 

「……ああ、最っ高! チェリム、《にほんばれ》」

「ムー……」

「気を付けて! アクティブに動いてくるよ!」

「リムッ!」

 

チェリムのフォルムチェンジを、初見で……いや、最初から知っている。その証拠に、ポケモン図鑑は閉じられているし、チェリムを出してから開いていないのはこの目で見ている。

ゾクゾクしてきた。汗が背中を伝う。口元から自然に笑みが(こぼ)れる。

 

「ははっ……俄然興味が湧いてきた! 後でみっちり聞かせてよ! ──《はなびらのまい》!」

「ギンガ団追い払った後になら、いくらでも!」

「リムッ!」

「ガ、グ、ウゥ………!」

 

あんな事言って。強がっている訳では無さそう。それはさて置き、キミの相棒(ホムラ)はロズレイドによって弱らされてる。その中で、もう一度《はなびらのまい》は直撃。

 

さぁて、どうするコウキくん?

 

***

 

《はなびらのまい》は直撃、キズぐすりがあったとはいえホムラにはまだダメージが残ってる。となると、これ以上はキツいだろう。

 

「ホムラ、戻って!」

「ひゅー、あっぶねぇなぁ……って、お前今3体目居ねえじゃねえかー!」

「……え、だってホムラだろ、カグツチだろ、ホルス……あ゛ーーそっか!アイリに預けてるんだ!」

「どーすんだバカヤロー!」

 

ジムの人たちが盛大にコケて、「またかコイツは……」と言いたげな顔でジュンが提案してきたのは、(ジュンからの)ポケモン貸与、1度降参してホルスを連れてまた来る、続行の3つ。その中でなら……

 

「続行!」

「ま、そりゃそうだよな。聞いてみただけだ」

 

冷静なジュンとは裏腹にざわめく観衆の中で、1人の大きな笑い声が聞こえた。ナタネさんだ。

 

「あっはははははは、何それ何それ! 2体で挑んでくる人なんて初めて! これで私が負けたら、なんでも1つ言う事聞いてあげるわ!」

「……だとよ。舐められてんぜ」

「ははは、まあ簡単に勝てるとは思っちゃいないよ。代わりに、本当に勝ったら……言う事、聞いてもらいますからね!」

「ヒコァ!」

「《かえんぐるま》!」

 

ポジフォルムのチェリムは確かに俊敏に動く。でも、それ以上に速いカグツチなら勝算はある!

 

「リムッ……!」

「くっ……《マジカルリーフ》で反撃!」

「《ひのこ》で撃ち落とし……いや、そのまま突っ込んで!」

 

よく考えるんだ。チェリムは既に《はなびらのまい》を終えている。という事は、しばらく《混乱》している。そして今、《マジカルリーフ》は──全てチェリムに向いている。なら、ここから何が予想出来るか? 答えは簡単、()()()()()()()()()()()()()だ。

 

「カァァァア!」

「リムムムム………ムィーッ!」

 

全方位から《マジカルリーフ》を喰らい、真正面から《かえんぐるま》を喰らったチェリムは、その場にぽてっと倒れた。数秒待って、審判が戦闘不能を告げた時、大きくガッツポーズした。ホムラがある程度削っていたのもあるだろうけど、ほぼ無傷で倒せたのはかなり大きいだろう。

残るはあと1匹、最後に出てくるのは──

 

「行くわよ、ナエトル!」

「カグツチ、油断しないで」

「ヒコッ」

「《はっぱカッター》!」

「避けっ……うおっ、速い!」

「そりゃあ、ね。鍛え方が違うもの」

「どーだろうねぇ、鍛え方なんて皆違っても違和感無いし。……あの、ちょくちょくこっち飛ばさないでくれます?」

「あ、バレた? 《ギガドレイン》!」

「うわ意図的にって酷いなぁ、《マッハパンチ》!」

「コァッ! フゥゥアア!」

「エウッ!?」

「《ひのこ》!」

「ッ、《タネばくだん》で掻き消して!」

 

爆発。土煙。それらで視界が遮られる中、カグツチの尻尾の炎がよく見える。……いや、それって……!

 

「ナエトル、《かみつく》!」

「カグツチ、避けて!」

「ナエッ!」

「アグッ……!」

「カグツチ!」

「ッグ、ウウ……」

 

爆風も土煙もほとんど来ない僕からでもギリギリカグツチが見える距離なので、あの中に居るカグツチがナエトルを見付けるのは困難。それは分かってるけど……

って、あれ? あのピリピリした感覚、どっかで……

 

「……あっ、もしや……」

「《もうか》か。でも、私のナエトルも《しんりょく》が出てるから、まだ勝負は分からないよ!」

「……臨む所です! って言っても、まだ言う事聞いてくれないんですけど……」

「その内聞いてくれるわよ! 《はっぱカッター》!」

「か、《かえんぐるま》!」

 

言葉に反して、繰り出されたのは……えっちょっと待って、これ《かえんほうしゃ》!?

まずい、その先にはナタネさんが……!

 

「ナタネさん避けて────ッ!」

「え? うわぁぁあ!? あ、熱っ、熱っ……」

「ペンタロー! 《バブルこうせん》!」

「痛たたたっ、これ結構痛いのね!?」

「え、ああ、ごめんなさい……」

「いやあのちょっとカグツチ止めるの手伝ってくれますかー!?」

「え? え、あ……な、ナエトル、戦闘不能! カグツチの勝ち! よって勝者、コウキ!」

「《バブルこうせん》!」

「ヌガァ!? ………ファ」

「や……やっと止まった……ありがと、ジュン」

 

笑顔で親指を立てるジュンに同じポーズで返し、カグツチをボールに戻して、ナタネさんの方へ駆け寄る。服が一部焦げてしまっているけれど、火傷の方は無いようで一安心───ガスッ!

 

「うぅいっ……つ……!」

「……あのね、いくら私でもベタベタ触られたら恥ずかしいの。火傷なら無いよ、お陰様で全く当たらなかったから」

「そ、それは良かったです……」

「……ま、皆もケガしなかったし。キミは正々堂々闘って、正々堂々勝った訳だし。このフォレストバッジを与えます! ……あ、ジムの修復は手伝ってね」

「……ハイ。ありがとうございます、ナタネさん」

 

どういたしまして。と力無く笑っていると、とてもじゃないけどさっきまで豪快に笑ってバトルしていた人には見えなかった。まあ、僕もめちゃくちゃ疲れてるんだけど……あ、そうだ。

 

「そう言えば、こう言ってましたよね? 『私が負けたら、なんでと1つ言う事聞く』って」

「う……うん、言ってたけど……」

「じゃあ、そのお願い今使います」

「へ? な、何?」

 

ごにょごにょと耳打ちで『お願い』を聞かされたナタネさんは、目を丸くして「そんなので良いの?」と拍子抜けした様子だった。




かなり駆け足で始まって終わったジム戦でした。どうしてこうなった。
戦闘描写、案外難しいんですよね……絵があると説明不要なものも、字だけだとキツいですし。

さておき、ナタネさんのイメージがぶち壊された方、大変申し訳ございませんでした。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ピクちゃん救出作戦

「ぐぁっ! つ、つえぇ……」

「ほら行くよ、早めに終わらせたい」

「「は、はいっ」」

「(コソッ)……なぁ、コウキ」

「ん、どったの?」

「俺らの出番無くね……?」

「このまま終わり、ってのもなんか申し訳無いしね……」

 

確かに、『手助けをしてほしい』とは言ったし、それに従うという条件でジム戦をして勝ったのも事実だ。事実だよ。……でも、強過ぎないかな?

 

「ロズレイド、《つるのムチ》!」

「《エアカッター》!」

「《どくばり》で撃ち落として!」

「おい待てなんだよそりゃあ!? おい! 無視すんなコラーー! ……こちら2階、侵入者だ! 女1人とガキ2人! 滅茶苦茶強い、応援を頼む!」

 

***

 

「……なんか可哀想になってきた」

「あら、お友達のピクちゃんは取り返さなくて良いの?」

「と、取り返します! 絶対! ……そうですよね、こんなでも悪い奴ですし。それとジュン、いきなり黙ったけどどうした?」

「いや、なんも。ただ、どうぶっ飛ばすか考えてただけだ」

「やる気はあるのね? なら良し。っと、下がって!」

「っお、わぁ!?」

「んがっ! ってぇ……」

 

角を出た途端、目の前に《エアカッター》や《どくばり》、《サイコキネシス》が飛んできた。ナタネさんが止めてくれなければ、あれの全てに当たっていたかも……と考えると、冷や汗が出てくる。

どれくらい居るんだ……と少しだけ見てみたが──

 

「いぃ!?」

「お、おいどうした?」

「少なく見積もっても20人は居る、即座に突破……ってのは無理そう」

「……そう。今何階?」

「えっと……3階ですけど」

「じゃああと少しで最上階ね。いい、私がアレを食い止める。2人はその間に行って」

「で、でも……」

「いいから! ……早く行って、後ろからも来る」

 

そう言われて振り向くと、大声で喚きながら大勢のギンガ団が来ているのが見え……えっ嘘挟み撃ち!?

 

「行こう!」

「〜〜〜……わ、分かった! ナタネさん、ご無事で!」

「誰にもの言ってんの、一緒に倒しちゃうよ!」

「うぇ、それだけは勘弁」

「それと、この子持ってって!」

 

その言葉と同時に、1つのモンスターボールが投げられた。目いっぱい手を伸ばしても、掴むには少し足りなかったので、ボタンを押して中身を出す。光と共に落ちてきたのは──ナエトル!

 

「どわっ、たったっ!?」

「馬鹿お前、落ちてくる10キロを普通に持てる訳無いだろ!?」

 

事実だけど酷い言い草である。って、このナエトル……ジムで戦ったのとは別個体?

とにかく、今は急いで突破しないと!

 

「ナエトル、《はっぱカッター》!」

「エウッ!」

「うわぁあ!?」

「待て! 逃がずぐぇっ」

「どーこ行くのかなぁ、アンタ達の相手は私なんだけどなぁ……?」

「ひっ、ひいいい!?」

 

ぎゃあああああ………という断末魔が、さっき階段を塞いでいた内の1人のものであると分かり、心の中で合掌。僕らは僕らで、あの扉の先に……!

 

「開けやがれこのやろ、っと、と……おお?」

「……妙に親切に開けてくれるね?」

 

男女問わず水色のおかっぱ頭のギンガ団で、紫の縦長団子ヘアーとはまた何とも言えないヘンテコ具合。隣に居るのは、これまた特徴的な頭をしているスカタンク。──いや、あれは尻尾か。

それはともかく、この女性が幹部に……さっきピクちゃんを奪わせた犯人と見て間違い無いだろう。

 

「ようこそ、ギンガハクタイビルへ。私はギンガ団幹部のジュピター。まずは歓迎するわ」

「そりゃまたどーも……。俺達がここに来た理由、アンタなら知ってんだろ?」

「ええ。そこのピッピでしょう? ピッピは宇宙から来たポケモン、そう言われているわ。だから、調査の為に譲ってもらいたいと()()()しただけ。それに、話を聞く限り自分から来たって言うじゃない、この子。偉いわよねぇ、我々の調査に協力してくれるなんて」

 

ピクちゃんの方を見てみると、機械の中でぐったりしている。……なんの調査をすれば、そうなるんだ! それに……

 

「……『お願い』」

「ん?」

「今、そう言いましたよね。『お願いしただけ』だ、って」

「ええ。それが何か?」

「──ふざけるな」

「……はあ?」

「ふざけるな、と言った! お前達は、親に『嫌がっている子供から無理矢理にでも奪え』とでも教えられたのか!?」

「おい、コウキ」

「だとしたら?」

「取り返すだけだ! 行くぞカグツチ!」

「ドーミラー、《ねんりき》」

「がっ……ぐう!」

「コウキ! 落ち着けよ! おい! ……カグツチだって、そんな風にやりたくないだろ!」

「……悔しくないの? あんだけの事されて、ピクちゃんも取られて、挙句の果てに助けを呼ばなきゃここまで来る事すらままならない! そんなんで──」

「悔しいよ! ああ悔しい! でもよ、それは俺達()()()()()()! 復讐の為に戦わされるポケモンの気持ちにもなってみろよ! レッドさんだって言ってただろ! 『ポケモンは道具じゃない』って!」

「っ……」

「目を覚ませよ! いつもの、ノンビリしてニコニコしてるお前が! 一番ポケモン(コイツら)の力を出せるんだよ!」

「……ごめん。ちょっと、カッとなってた」

「喧嘩は済んだかしら? 《かえんほうしゃ》」

「「どわーっ!?」」

 

***

 

「うるっさい! 何し……ちょっ、暑! 何これ、確かに今夏だけど……」

「その《暑い》じゃなくて!」

「……チッ、騒がしいのが増えたわね」

「実はこれこれこういう理由で………」

「ふーん、じゃあ倒せば良いじゃん」

「いやまあそれで間違っちゃ居ないんですけども」

 

こういう時冷静なのは流石ジムリーダーと言わざるを得ないが、今回ばかりは僕も冷静にならないといけない。深呼吸して、笑顔を作って、カグツチとグータッチ。

「やっと落ち着いたか」と言わんばかりの笑みを浮かべ、くるっと敵に向き直った第二の相棒(カグツチ)に、もう気の迷いは無かった。

 

目を閉じる。もう一度深呼吸。目を開く。状況を見る。カグツチなら、装置まで辿り着けるかもしれない。でも、そうするとドーミラーの相手は? スカタンクの対応は?

元がどくタイプで、尚かつ《かえんほうしゃ》まで使えるスカタンクを、ナタネさんにぶつけさせる訳にはいかない。敗北はしなくとも、苦戦を強いられるだろう。

ドーミラーには、ホムラで対応しよう。それなら、《ねんりき》による大ダメージはある程度和らぐ。

そうなると、スカタンクは必然的にジュンが抑える事になる。フォローはナタネさんに頼もう。装置を壊すのは、さっきの通りカグツチだけで大丈夫。ダメならナエトルも投入。

 

──大丈夫、出来る!

 

「ジュン。ナタネさん。いくつか、お願いしたいんですが……」

「いいよ、聞く」

「お前からのお願いは、大体無茶振りだからなあ。んで、何が望みだよ?」

 

さっき思いついて、頭の中だけで組み立てた事を、小さな声で伝える。2人とも真剣に聞いてくれる事に感謝しつつ、聞こえる程度の早口で──

 

「《どくガス》」

「はい避けた避けた! 吸ったら死ぬよ!」

「ヒェッ……えと、じゃあ伝えた通りに!」

「「任せろ(て)!」」

「カグツチ、あの装置を壊して! ホムラ、ドーミラーに《かえんぐるま》!」

「スカタンク、《かえんほうしゃ》。ドーミラー、《ラスターカノン》」

「ペンタローは《バブルこうせん》、ムクタローは《でんこうせっか》だ!」

「ロズレイド、()()()()() リーフストーム」

 

……ん? ズバット? そんなのどこに……あっ居た! お前角っこに居たのかよ!

 

「チ、流石はジムリーダー様ね。一瞬で見抜かれるとは思わなかったわ」

「そう思うなら降伏してもらえないかしら。私もね、後処理なんてしたくないの」

「あら残念、後処理するのはただのトレーナーになってからでもよろしいのではなくて?」

「嫌。私はただやりたくてジムリーダーやってんの。悪い?」

「ふふ、私だってやりたくて研究しているわ。悪いかしら?」

「おいコウキ、この人たち会話がこえーんだけど!」

 

ごめん、爆発音とか衝撃で音がほとんど聞こえないんだ。ジュンの声がせいぜい聞こえるぐらい。

 

ホムラは苦戦している様子は無い。むしろアレ弄んでない? 余裕かよ。

ナタネさんは、ロズレイドでスカタンクを翻弄している。……普通にぶつけても良かったのでは?

ジュンはもうやる事無いようなので、救出の手伝いをしてもらう事にしよう。

 

ズバット? さっきの一撃で倒れましたよ、ええ……ついでに天井に大穴開けて……。

 

「ジュン、こっち手伝って!」

「お、おう! ペンタロー、《はたく》攻撃!」

「カグツチは《マッハパンチ》、ナエトルは《かみつく》! ホムラは《おんがえし》!」

「ロズレイド、《マジカルリーフ》!」

「くっ……でも、さっきの《リーフストーム》が効いてるか。──まだ、こちらを倒すには至らない」

「随分と、しぶといのね」

「お生憎さま、しぶとさだけで生き残ってきたの。時間稼ぎも出来た事だし、私は退散させてもらうわ」

「何を……、待て!」

 

さっき《リーフストーム》がぶっ壊した壁から、ヘリコプターの音と共にハシゴが降りてきた。ジュピターはそれに掴まると、ポケモンを全て戻し、余裕の表情で飛び去っていった。

 

「くそっ、逃げられた……」

「いや、ピクちゃんを持ってかれなかった分マシだよ。さ、急いで助けよう」

「……だな。あいつらについては、また今度だ」

「いや、出来ればまたも何もあってほしくないんだけど……」

 

がちゃん、という音と共にロックが外れ、晴れて自由の身となったピクちゃんは、お腹周りをさすった後、僕らに飛びついてきた。

 

「ピッピー!」

「おわっと、ごめんごめん。よし、帰ろう!」

「あー疲れた、早く帰ってシャワー浴びよ……汗だくになっちゃった」

「うぇ、そう言えば俺達も……」

「もうすぐ夕方だし、今日はハクタイに泊まろっかぁ」

「まあ、夜に出歩くのもアレだしね。……と、あれ? そこに居るのは……」

 

奥の方で音を立てて転がった人物に、思わず「ひっ」と声を漏らす。しかし目を凝らしてみると、人……に見える。

捕まっていたのであろうその人は、口をテープで塞がれ、体を縄で縛られていた。ナタネさんがテープを剥がし、その顔を見ると──

 

「じんりきさんじゃない! どうしてここに?」

「た、助かった……いやなに、ワシの孫がミミロルを奪われたってんでな」

「単身取り返しに来た、と。どっかの誰かさん達といい、無謀ったらありゃしないじゃない。どうして私に連絡くれなかったのよ」

「い、いやぁワシもカッとなっとったもんでな。それについては、本当にすまんかった」

「……なら良いです。腰に気をつけてね」

「ああ、勿論じゃよ。そこのおふたりさんも、ありがとうよ」

「いえ、僕らはほとんど何も……」

 

僕らの話は一切聞かず、ほっほっほっと笑って階段を降り始めたじんりきさん。うーん逞しい。……よく見たら足すっっっっっごい筋肉ついてるじゃん! 何したらあんなにつくんだろ……。

 

「おお、そうそう。キミ達、後でわしの店に来なさい。良いモノをあげよう」

「い……」

「良いモノ? なんだろ」

「さあね。ただ、私からはそのナエトル()をプレゼント。大事に育てなさいよー」

「へ? ああ、ありがとうございます…………ん、え゙ぇっ!?」

「そんなに驚かなくても……。大丈夫、人懐っこいから」

「いや、そういう問題ではなく……。え、良いんですか? 僕が貰っちゃって」

「良いの良いの、キミの事気に入ったみたいだし。それじゃ、バッジ集め頑張ってね」

 

ヒラヒラと手を振り、階段を軽やかな足取りで降りていくその背中を、2人してぽけーっと見つめるだけしか出来なかった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

あの時と同じように

前回の投稿から実に10ヶ月以上ぶりです。お待たせし過ぎにも程があるし皆話忘れてるでしょ。


「ピッピー!」

「ピクちゃーん! 良かったぁ怪我とかしてなくて……心配したよぉ……」

 

ハクタイビルから帰る時、いつの間に逃げたのか中はもぬけの殻だった。途中、ギンガ団達が書き残していたメモや研究レポートなんかを見つけたけど、よく分からない事ばかり書かれていたので見るのをやめた。

 

で、今はピクちゃん護送任務を無事遂行した所。幸いケガは無くて、ほんとにお腹が苦しかったぐらいだったそうで、元気に走って主人に抱きついているのを見ると、昔から仲良しだったのを知っている身としては目頭にくるものがある。

 

「2人とも、ほんっとにありがとうね! お礼にご馳走するから! ね、ママ」

「ええ、もちろん。3人揃うの久しぶりだわぁ、楽しみにしててね」

「アイリママ! お久しぶりです」

「おばさんも元気そうで何より。ドレディアもな!」

 

アイリのお母さんことアスカさんは、かつてイッシュ地方の『ポケモンミュージカル』で人気を博した凄いヒト。

その相棒であるドレディアとはイッシュ地方に留学していた時に会ったらしく、一目惚れでゲットした──というのはかなりの数聞いている。

しかしある時、ライバルの1人と1匹の謀略にはまり、それをキッカケに現役を引退したとか。

 

「こんにちは、ドレディア。……僕らのこと、覚えてる?」

「大丈夫、覚えてるわよ。だって、アイリがしょっちゅう……」

「わ、わーっ! お母さんおナベ焦がしちゃうよ!」

「あらいっけない、じゃあお部屋で待っててね」

 

はーい、と3人(とホムラとドレディア(2匹))が返事した後、アイリが嬉しそうに部屋へ招くので着いて行く。可愛らしい家具を揃えた部屋の中に、1つの写真立てを見つけた。

幼い頃の3人が、川の字に寝ている写真。はて、いつのだったか……と記憶を漁ろうとした所で、写真立てが奪われた。

 

「………み、見た?」

「……少しだけなら」

「〜〜〜! わ、忘れて忘れて!」

 

そう言いながらぽかぽか叩いてくるけど、別に写真1枚でそんなに恥ずかしがることないだろうに……。

 

「おっ、どうしたどうした? 写真か?」

「わーっ、見ちゃダメ!」

「え、でも」

「めっ!」

「………は、はい」

 

普段は快活なジュンも、アイリと両親には頭が上がらないのは昔から変わらない。でもアイリは僕に頭が上がらない(アイリママ談)ので、見事な三竦みが出来ているのだ。…となると、アイリはいずれくさタイプのポケモンを手に入れる?

 

「あ、そうだ! トレーナーズスクールでさ、キクノ先生いたじゃん?」

「あーいたいた! すっごい強かったよねぇ」

「そりゃそーだろ、四天王なんだから。で、この前コトブキに行った時会ってさ! コウキと2人で挑んだんだよ!」

「で、どうだったの?」

「いやぁ、それが……」

 

僕とジュンがこれまでの旅の話、アイリがハクタイに来てからの話。それぞれがいなかった空白の時間であった話をお互いにしていたら、あっという間にご飯が出来ていた。

 

3年前と同じ仲間と、同じご飯を食べる。昔は日が暮れるまで遊んで、当たり前のように寝泊まりしていたけれど、今となってはそれも難しい。『大人になる』ってこういうことなのかな……とカレーを食べながらしんみりしていると、横から伸びてきたスプーンがコウキの皿から肉を奪っていった。

 

「食わないならもーらいっ」

「あっコノヤロ! 最後にとっておいてたのに!」

「さっさと食わないからだぞ。あーむっ、んん〜うんめぇ!」

「ちぇー、昔っから変わらないんだから……さっ!」

「おっと。へへ、カグツチは速くてもお前はまだまだだな」

「ぐぬぬ……」

「2人とも、食事中だよ」

「「あっ、はい……」」

 

その光景を見ていたアイリママと、ポケモンフーズを食べていたホムラ達が楽しそうに笑い、3人も釣られて笑っていた。

その後は交代で風呂に入り(服はアイリパパのものを使わせてもらった)、アイリの「久しぶりに3人で寝よーよ!」という提案により、アイリの部屋で川の字に寝る(左から、ジュン、コウキ、アイリ)ことにした。

 

「……なんだか、変な感じ。今こうして寝てると……2人が、とってもおっきくなったんだなって」

「そんなことないよ。僕だってすぐカッとなっちゃうし、ジュンだっていつも突っ走ってるし…」

「そーそー。俺たちは変わってないぞアイリ」

「むー……変わったもん」

「「……?」」

 

ジュンと2人で顔を合わせ、首を傾げる。全く身に覚えがないので、アイリに聞いてみると、返事の代わりにぺちぺち叩かれた。

 

「2人とも、とっても強くなった。3年前だったら、ピクちゃんが取られた時点で泣いてたもん」

「それは……」

「まあ……そうだよな。ピクちゃんはあんまり戦闘向きじゃないし、俺はポケモン持ってないし……まともに戦えるの、ホムラぐらいだもんな」

「そのホムラも、当時はほとんど戦えなかったからね……。まあ、これに関してはまだ認めてくれなかったのかな、って思うけど」

「今ではとっても良いパートナーだもんね。……ね、コウキ、ジュン。──私ね、いつか……ぽけもぅ、いーうい……」

「……寝ちゃったね」

「起こさないどこうぜ。色々あったんだ、疲れてるだろ」

「そりゃ勿論。じゃ、僕らも寝よ。おやすみ」

「おやすみ」

 

今日は本当に色々あった。シロナさんと会って、アイリと再会して、ピクちゃんが取られて、ナタネさんに怒られて、ジム戦に挑んで、ハクタイビルに突入して、ピクちゃんを助けて……そうだ、ナエトルに名前付けなきゃ。でもそれは、明日で良いかな……

普段は一番寝るのが早いコウキだが、今日は逆に一番遅かった。両隣りから聞こえる穏やかな寝息が、頬をくすぐる感触は中々に心地いい。

 

(アイリ。僕とジュンは、また色んなとこに行かなきゃいけない。また会えるのは、いつかわかんないけど……また、こうして寝ようね)

 

2人の人差し指をきゅっと握り、コウキはそっと瞼を閉じた。




次回更新はいつか、と言われても、正直わかりません。ですが自身の進路も考えないとなので、ある程度は受け入れてくださると助かります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

あなたの隣を歩きたい

こんばんは、そして例の如くお久しぶりです。3ヶ月半……ひでぇもんだ。

最近前書きは挨拶以外書いてないのですが、今回は書かせていただきます。
なんと、進路が決まりました!ヤッター!

以上です!(え)


「コウキ」

「すぅ……」

「コウキ」

「んん……むにゅ……」

「もう……朝だよ、起きて」

 

コウキは元々、そんなに朝早くから起きられる子ではない……というのは、3年前から変わらない。

というのも、眠りにつくのが遅い代わりに、眠ったら中々起きないのだ。布団をひっくり返したりしない限り、安らかな顔で眠りこける。だからこそ、ジュンに『ネッコウキ』なんてあだ名が付けられたわけだが。閑話休題。

 

アイリは、コウキがしっかりと握っている人差し指を離せず、起きているのに布団から出られない状態になってしまった。なので仕方なく──と本人は言い張っている──、コウキの頬をつついて遊ぶことにした。

 

「もちもちで柔らかいねぇ、コウキのほっぺ……」

「んー……んみゅ……」

「おはよー、朝だよー。起きてー」

「ぅ……はょ……」

「うん、おはよ。朝ごはん出来てるって」

「んー……分かった……」

 

……まだ寝ぼけているらしい。首がふらふらと不安定に動いている。

 

「……うりゃっ」

「ふみゃ!? やっ、ちょっとっ、くすぐった……」

「起きろー、起きろー、起きるのだー」

「わ、分かっ、起きた、起きたから、あっ、やめっ、てっ……」

「うむ、よろしい。ぱぱっと着替えて、朝ごはん食べよ?」

「う……うん……じゃあ、後ろ向いてるね」

「うん。……そろそろジュンが不機嫌になりそうだし、コウキも今着替えちゃいなよ。服はここにあるし」

「え? あ、ああ、うん……」

「言っとくけど、こっち見たら罰金100万円ね?」

「わ、分かってるよ」

 

耳まで真っ赤にして後ろを向くコウキが思いの外可愛らしく、もう少しこうしていたかったが、痺れを切らしたジュンが「起きろー、俺もう腹ぺこだぞー」と急かしに来たのでやめた。

 

***

 

「「「ご馳走様でした!」」」

「はい、お粗末さまでした。2人はこれからどうするの?」

「えーと……1度クロガネに戻って、そこからテンガン山を抜けて……」

「ヨスガシティかな。ジムもあるし」

「だね。でも、ここはサイクリングロードだから通れないし……」

「まあ、来た道を戻るしか無いか……。って言っても、かなり長いぞ? 歩いてきたからこそ分かるだろ?」

「うん。だから、まずは……」

「自転車ね。よーし、おばさんに任せなさいっ」

「「……え?」」

「ママ……?」

 

そう言うと、アイリママはいそいそと誰かに電話を掛け始めた。

 

「あ、もしもしじんりきさん?

「もしかして……」

「い、いやいや、自転車って結構良いお値段だった筈だろ? それを奢ってくれ、なんて流石に……」

「確かこの前、最新型自転車の宣伝してくれる方探していらっしゃいましたよね? はい、ピッタリな子が見つかって……あ、いえ3()()お願いできますか? ……本当ですか!? ありがとうございます! はい、では失礼します」

 

がちゃり。

 

「……マジかよ」

「『購入』じゃなくて『宣伝』かぁ……それだったら惜しまないや……」

「ママ凄い! って、3台って事は私のも?」

「勿論。だって2人はもう行っちゃうし、ハクタイでの宣伝役が要るでしょ? 今日の午後3時頃には用意するって言ってたから、それまでこの街を観光しててね」

 

……そう言えば、イッシュに行ったのも完全な独断だった──と、アイリのおばあちゃんが言っていた気がする。行動力の化身とは、この人のことだろう。多分。

 

***

 

「って訳で、今日は私がハクタイを案内するね。と言っても、あんまり無いんだけど……あ、でもテンガン山にちょっとだけ入れるよ。……ちょっとだけ」

「あー、何だっけ……確か崩落か何かで今通れないんだっけ」

「うん。だから今、岩を取り除いてるらしいけど……硬くて砕けないから、まだ時間はかかるみたい」

 

数日前、テンガン山の数ヶ所で謎の崩落が起きたので、一部の道が通れなくなった。通れなくなった原因が、全て『大きく硬い岩が1つ、道を塞いでいる』……というものなので、『謎の』が付いているらしい。

 

「だよねぇ……まあ、何もしないよりは断然良いよ。涼しいだろうし」

「そだね。じゃあ目標、テンガン山!」

「「おー!」」

 

そうして和気あいあいと歩いている3人を、窓から眺める人物がいた。その人物は肩を落とすと、ポツリと呟いた。

 

「地下通路も、あるんだよー……探検キットあげるよー……」

「……オヤジ、そう肩を落とすなよ。いつか彼らも、探検キットに頼る時が来るさ」

 

***

 

「……思ってたより暗いね。カグラ、頼むよ」

「ヒコッ」

 

尻尾の炎を明かりに使わせてもらうと、洞窟の天井が照らされた。そこにいたズバット達が一斉に飛び立ち──

 

「ペンタロー、《バブルこうせん》!」

「カグラ、《ひのこ》!」

「ピクちゃん、《うたう》!」

「「えっ」」

 

ドドドドドドッ! という音を立てて、周辺にいたズバット達がみんな地面に落ちてきた。……今ので起きないって、結構深い眠りなんだなぁ……。

 

「えっ、て何よ! ピクちゃんだって技くらい覚えてるもん!」

「いや、そうじゃなくてですね。アイリさん、もしかしたら、なんですが……」

「あの時《うたう》を使っていたら、もしかしたら連れてかれることはなかったんじゃないかなぁ、と思って……」

「………あっ…………」

「……まあ、あの時僕らみんな混乱してたから仕方ないよ。あの状況で冷静になれるの、結構難しいでしょ」

「うぅー……フォローありがと……」

 

いや待てよ? あの時ってピクちゃんが自分から捕まりに行ったんだよな? ………ピクちゃん、もしやその時わざと使わなかった?

 

「ピ?」

「いや、まさかね……。じゃあ、行ける所まで行こうか」

「「おー!」」

「しーっ、ズバット達が起きちゃう」

「「………(コクッ)」」

 

なんて言ったが、割とすぐに『謎の岩』の辺りまで来てしまった。作業員さん達とポケモンが頑張って取り除く作業をしてるので、離れた所で見ていることに──と、作業員の1人がこちらに気付いた。「おーい!」と手を振りながら、作業を中断してこちらへ駆けてくる。作業員の知り合い……居たかなぁ……? あっ、居た!

 

「やっぱりキミたちだった! こんな所でどうしたんだい?」

「ヒョウタさん! お久しぶりです」

「自転車が用意出来るまで時間潰しに来たんだ。そしたらさ、ズバットがわーって……」

「ああ、ピッピの歌声が聞こえたのはそれが理由だったんだね。そちらのお嬢さんのかな?」

「あっ、はい! アイリっていいます、よろしくお願いします」

「うん、よろしく。そう言えば、もうナタネさんの所には行ったのかい?」

 

その質問をされた瞬間、僕とジュンは顔を見合わせ、にんまりと笑いながらバッジケースを見せた。

 

「おお、フォレストバッジ! おめでとう、次はどこに挑むつもりだい?」

「次は……ヨスガですかね」

「そうだな、ゴーストタイプのジムリーダーだ」

「となると……」

「いや、それだったら……」

「………(ペシッペシッ)」

「痛っ、ちょ、ごめんって。グレッグルみたいに拗ねないでよ、ほら」

 

両手でアイリの頬を挟むと、ぷひゅっ、という音とともに溜まった空気が吐き出された。その様子がおかしくて笑っていたが、何やら言いたいことがあるらしい。

 

「あの、ヒョウタさん。無理に、とは言わないんですけど……」

「うん、なんだい?」

「私に、ジムバトルを挑ませてくださいっ!」

 

えっ。

 

「「えぇぇぇぇ!?」」




進路が決まった以上、多少なりともペースを戻さないとですね。今度はあまりお待たせしたくない……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

アイリの挑戦

メリー明けまして七草!皆さんは豆撒きしましたか?チョコについては自分がダメージ喰らうので聞きません。……いやあの、1年以上も更新無くて申し訳無いです…。


「え、ちょ、アイリ?」

「ジムバトルってお前、マジか?」

「マジもマジ、大マジ! 私も2人と旅したいの!」

「僕としては、挑戦なら受けるけど……」

「ほらーヒョウタさんもこう言ってるよー?」

「……どーする?」

「うーん……と、とりあえず手持ち見ようか」

 

岩陰に隠れ、アイリのモンスターボールを確認する。持っていたポケモンは2体。ピクちゃんと、ホルスだけだった。

 

「……技は?」

「ちょっと待ってな……えーと、ピクちゃんが『うたう』『めざましビンタ』『つきのひかり』『ムーンフォース』。ホルスが『たいあたり』『つばさでうつ』『でんこうせっか』『そらをとぶ』……だな」

「うーん、となると……」

「ううん、大丈夫。私だって、トレーナースクール卒業生だよ? 2人の助言が無くたって出来るもんっ」

 

見てて、と言って笑いかけた彼女の顔は、薄暗い洞窟の中でも分かるくらい自信に満ち溢れていた。

 

***

 

「お待たせしました〜」

「お、話は終わったみたいだね。それじゃあ始めようか! ……って言いたかったんだけど……『洞窟が崩れちまう!』って猛反対を喰らっちゃって」

「えっ……」

「ま、まあまあそんな顔しないで……。だから、キミたちがクロガネに戻る時に挑戦を受けるよ。サイクリングロードを通れば早いしね」

 

そんなに残念そうな顔してたかな、私……。でも、確かに2人とまた離れるのは嫌だ。ずっと、一緒に居たい。

でも、何もしなかったら2人ともどんどん離れてっちゃう。物理的にも、精神的にも。

 

「だから私から行かないと……」

「……おーい、聞いてるかい?」

「わひゃっ!? へっ、あっ、はい!」

「うん、ならよかった。僕は一足先にジムに向かってるよ」

 

ぽん、と頭を撫でて、そのまま洞窟の出口へ歩いていくヒョウタさんを呆然と見送り、このままじゃいけないと頬を叩いた。

 

「……よしっ!」

「何が「よしっ!」なのかは置いとくとして、だ。流石に今の状態から勝つのは難しいんじゃないか?」

「むぅ……。それはそうだけど……でもあんまり待たせるのも……」

「そのために僕らが居るんだよ。ジム突破の手伝いくらいは出来るだろうし」

「うん、ありがと。お手柔らかにね?」

「それはどうかなー、場合によっては……って感じだけど」

 

昔のコウキはザ・全肯定みたいな人だったのに、変わっちゃったなぁ……と思いつつ。

 

「まぁそれは置いといて……。そろそろ自転車が用意出来てるんじゃないかな」

「おっ、もうそんな時間か。じゃあサイクリングロードで練習がてら、色んな人と勝負してみようぜ」

「ジュン、僕らよりアイリ優先だよ? ジム挑戦前に少しでも勘を取り戻させないと」

「わーってるよ、ほら行くぞ!」

 

***

 

じんりきさんの所には、ピッカピカに磨かれた真新しい自転車が3台、大事そうに置かれていた。

 

「これが……」

「すっげー、ピッカピカだぁ! おっちゃん、ほんとに俺達が乗ってって良いのか?」

「良いとも、全国に乗っていく事が宣伝になるんだからね! そっちのお嬢ちゃんのは色が違うんだぞ」

「わぁ……ありがとうございます!」

 

何度も振り返ってお礼を言いながら、サイクリングロードまで自転車を押して行った。……え、乗れるのかって? 大丈夫、全員乗れるよ。

 

***

 

「ピクちゃん、ムーンフォース!」

「ぴぃー!」

「うおっ……と。いやぁ強いな! 俺の完敗だ」

「いえ、こちらこそ対戦ありがとうございました」

「──ねえアイリ、次はホルスだけで戦ってみたら?」

「……? なんでぇ?」

「え、いやそれは……」

 

正直、ピクちゃんの戦いは見事なものだった。長い時間を掛け、互いに信頼しているからこその強さだろう。

だが、ホルスは加入したばかりだ。しかも、僕が使っていた時期も短い為、戦闘慣れもしていない。ということで──

 

「あー、よーするに扱い慣れておいてってこと?」

「ああうん、そゆこと。もちろん僕らも特訓には付き合うけど……」

「戦い方はポケモンにもそれぞれだからなー。同じムクホークでも、地上戦が得意な奴も居るし」

「あー、そう言えば居たね……父さんのムクホーク……」

 

右翼を折られて飛べないから、と地を走り、無事な左翼で相手を叩き落とし、鍛えられた脚で蹴り飛ばす様子を2人で浮かべ、ぶるりと身震いする。

 

「……お父さん、今カロスに居るんだっけ」

「うん。『メガシンカを研究してくる!』って、プラターヌ博士の所に行っちゃった」

「凄いねぇ……また珍しいポケモンとか送ってくるのかなぁ」

「前回はホムラだったね。……ガーディって、そんなに珍しいかな?」

「いや、どうだったか……。まぁ、次行こうぜ次」

 

サイクリングロードを下る途中のトレーナーに片っ端から声を掛けて勝負すること、早1時間。元々トレーナーズスクールでも上位の実力だっただけに、ホルスの扱いに慣れるのにはそう時間も掛からなかった。それどころか、爪を立てずにアイリの腕に留まるぐらいである。

 

「お、おぉ……完全に懐いてる」

「元々人懐っこい奴だったんだろーぜ、な!」

「ムックゥ!」

「いっで!? こ、こいつ〜……」

 

……何故かジュンには懐かなかったけど。

 

***

 

結局、最終的にサイクリングロードのトレーナー全員を倒してしまったアイリと共に、クロガネジムまで帰ってきた。ポケモンセンターで回復もバッチリしたので、準備万端といった顔である。

 

と、僕らが戦った時に審判をつとめてくれたおじさんが出迎えてくれた。普段は受付や、炭鉱で作業をしているらしい。

 

「おっ、暫くぶりだなチャレンジャー! フォレストバッジも手に入ったようで何よりだぜ! と、その子は?」

「ああ、今日のチャレンジャーの……」

「カツラギ・アイリです! ヒョウタさんご本人にお話してると思うんですけど……ヒョウタさーん! 来ましたよー!」

「そんなに叫ばなくても聞こえるってーの」

 

ちょっと待ってな、と目配せして無線機を手に取り、ヒョウタさんに通達している。ポケモンリーグの規定により、挑戦者の力量に合わせて使うポケモンの強さや数が違うので、そこを合わせているのだろう。

 

「……よし!待たせたな嬢ちゃん、ジムリーダーはこの奥だぜ! あ、そうそう。2階から見るのは良いが、手助けは禁止だぞ」

「はいっ。……それじゃ、行ってくるね」

「おう、俺らは2階で見てるわ」

「頑張ってね!」

 

弾けるような笑顔と共に、彼女はスタジアムに入っていった。

 

***

 

「ピクちゃん、『うたう』!」

「イワーク、地面に潜るんだ!」

 

バトルを初めてから十数分。何となく分かってはいたが、対岩タイプに主力となる技が『目覚ましビンタ』であり、ピクちゃんも別段素早い訳ではない為、苦戦を強いられていた。遠距離から放てる『ムーンフォース』も、地面に潜られては当たらない。……ハッキリ言って分が悪い。

 

「うーん……コウキ、どう思う?」

「勝てなくはない……だろうけど難しいかなぁ。この後控えてるのがズガイドスだとしたら、尚更消耗は避けた方が良さそうだけど……」

「現状ピクちゃんで有効な手は無いんだよなぁ……コウキも喰らったろ?あの威力」

「喰らった喰らった。今もっかい戦うのは嫌だなぁアレ」

 

カグツチが新技──あの後『マッハパンチ』だと判明したアレを放たなければ、恐らく負けていただろう。そう考えると未熟さを思い知るが、今の問題は僕じゃない。

 

「くっ……『ムーンフォース』!」

「『いわおとし』!」

 

「ああっ、塞がれた! そんな使い方アリかよ!?」

「全然思い付かなかった……凄いね」

「感心してる場合じゃねえよ! そろそろ『ムーンフォース』のPPが……」

 

「『目覚ましビンタ』!」

「「……へ?」」

 

今何をした? 『ムーンフォース』を出して……その陰に隠れて近付いて……

 

「囮にした……? あんまり当たらない『ムーンフォース』を連発してたのはこれを狙って……?」

「ぷっ……はははっ、なぁんだそりゃ! おいコウキ、あの戦い方お前に似たんじゃないか?」

「え、僕に?」

 

まさか、とは思ったが……思い当たる節があるので否定出来ない。あの状況で、咄嗟に同じ事をするかと言われたらするかもしれない。

 

「とにかくっ! 怯んだぞ、やっちまえーっ!」

「『うたう』! そして……『目覚ましビンタ』!」

 

うとうとした所を思いっきり打ちのめされ、盛大な土煙と共に壁に激突するイワークに対し、「むん!」という効果音の付きそうな顔で仁王立ちするピクちゃんが見えた。

 

「イワーク、戦闘不能!」

「いよっし、まずは1体!」

「でも次は……」

「待てコウキ、ヒョウタさんが今まで使ったポケモンって覚えてるか?」

「……え?そりゃあ、イワークだろ? イシツブテだろ? あとズガイドスじゃ……」

「ノンノンノン、もっと前に見てるだろ俺たちは!」

「あ……? ……あっ!」

 

居た。ポケモンリーグでの戦いで、確かに()()()()()()出していた。という事は、当然その進化前も居る訳で──

 

「行けっ、タテトプス!」

 

タテトプス。アイアンヘッドでピクちゃんに、いわタイプでホルスに対して有利で、かつ防御の高いポケモン。

 

「……ヤバいな」

「うん……満身創痍のピクちゃんに、防御が低くて抜群が取れないホルスじゃあ……」

 

「さぁ、どうする?」

「くぅ……っ」

 

アイリ自身もそれはよく分かっているのだろう、顔に焦りが見えている。果たして、どう勝つ……?




初めて小説書いてからだいぶ経つんですが、未だにこの短さで1話区切って良いのか分からないんですよね。空いた時間に見るにはちょうど良いのかもしれない……?


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。