HANMER×HANMER (としを)
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HANMER×HANMER♯1

「良いのだな‥ユージロー?」

「なぁ、ストライダムよ。俺は今楽しみでならねぇんだ」

「うむ‥武運を祈る‥」

「エフッ…エフッ…エフッ…」

 

百聞は一見にしかずッッ! 百見は一触にしかずッッ!!!!

 

葉巻を咥えた白人の大男が恐らくは最新鋭である見た事もない卵を上下に少しだけ大きくしたような球体の機械のハッチを閉める。中には見るからに尋常ならざる者の雰囲気を醸し出す、服装からすると恐らくは軍人であるこの大男。

 

軍服と勲章から判断するに米国の海軍、階級は大佐。その軍人がユージローと呼んだ人物は目を瞑り口角だけを上げ直立している。まるで上等なスープを口に含んだ時の様に‥

 

ガシャンッッ!

 

大男が胸で十字を切り、ガラスの向こうにいる白衣を着た研究者達に合図を送る

 

ストライダム「5, 4, ,3, 2,,,1」

 

1のカウントと同時にレバーが下され、その球体はまばゆい光と白い煙りだけを残し、その場から姿を消した‥

 

ストライダム「シーユーアゲイン‥ユージロー、お前の行く世界で強者と会える事を祈っている…」

 

ここは米国が秘密裏に開発している時空研究所である。

もちろんオフィシャルではないが日本に住むある高名な権力者、徳川光成氏の援助により開発はかなりの段階まで進んでいた。昨年初めて猿での時空間移動に成功ッッ‥!!

 

いや、成功と言えば聞こえは良いが戦況で言えば1勝1敗とうところか…

過去2回の実験の結果、タイマーでセットして送り込んだ最初の機体は現世に帰ってくる事は無かった。だが2度目の実験では無事帰還。到着点の座標は出資者である老人が唯一出した条件により、米国ではなく日本の東京都、徳川氏が所有する自宅の近くの土地になっている。

 

もっとも、その機体をまた米国に持ち帰り調査することになるのだが莫大な資金を提供した徳川氏がたった一つ提示した条件がそれだ。従わない訳がない。

あちらの世界のどの場所に降り立つか…座標は解らないので誤差はあるが、こちらの世界での誤差は程度が知れている。

 

広い土地を所有する徳川氏の庭程度で十分であったが、ありがたい事に東京ドーム2つ分程の土地を購入し、更地にし、新たに研究者が駐屯出来るように研究設備、宿泊施設なども用意してくださり時間が経った今ではその場でも十分な研究が出来る程の施設となっていた。

 

2度目の実験で帰還した猿は別段変わった様子もなく、身体にも異常がなかった。機体周辺に付着した植物の種子、動物の糞などからその世界の生命の存在も確認し、酸素濃度や気候などはこちらの世界と酷似していたという…‥

そしてこの世界に並ぶもののない地上最強の生物、範馬勇次郎がまだ見ぬ世界の強者に胸を躍らせることなど至極当然の事であった。

 

少し考えたら解る事であったのに、久々に出会う友との食事会でついうっかりと口を滑らしてしまった事を、ストライダムは悔いていた‥

 

涙目の理由を蒸した葉巻のせいにしながら男は再び胸で十字を切った。

 

 

範馬勇次郎、もはや説明不要の地上最強の生物。

 

その漢が今、ハンターハンターの世界くじら島に舞い降りたッッ!!!

 

「4、5、4、5(シコシコ)っと」

 

ガシャン、

 

内側から機械のロックナンバーを入力後解除し地上に降り立った。身体が軽い。

 

酸素もあるし、気温も適温だ。時空を飛び越えた事による身体への影響をゆっくりと少しずつ確認していく、指先から手首、肘、肩、首、足の指から足首、膝、股、股関節、一通りの異常のないことを確認していると後方から、勇次郎の世界ではおなじみのホッキョクグマのような生物が襲いかかってきた。

 

「邪ッッッッ!!!!」

 

一喝でその生物を怯ませた勇次郎は、自身の身体の異常な軽さを感じている。

どうやらこの世界は勇次郎が本来いた世界よりも大分重力が軽いようだ。

まるで演舞のように型を行い再度身体の動きを確認する。重力が少ないせいかいつも以上に身体が動く、先ほどまで勇次郎の一喝でガタガタと震えていた野生のキツネグマも勇次郎の動きに合わせるようにしっぽを振りながら真似事のような事を行っている。

 

一通り身体の動きを確認し終えた段階で自身が空腹であることに気がつく。

キツネグマが勇次郎を歓迎するかのように付いてこいと、しっぽを振りながら森の中の沼に連れていく、高台から辺りを見渡す限りどうやらここは海に囲まれた孤島のようだ。勇次郎の為にキツネグマが魚を捕獲してくれようとしていたが、それよりも早く勇次郎は服を脱ぎ全裸で獲物を求め沼の中に潜っていった。

 

「きた!!きたきた!きたァーーーーっ!!!」

 

対岸の岸辺で釣りをしていたとんがり頭の少年が釣り竿を上げるとそこには大の大人が5人掛りでも釣り上げるのが難しそうな大きな魚が掛かっていた。

 

と思ったがその大魚は瞬間、絶命した。

 

「えっ???あれ!?人??」

 

勇次郎の毒牙にかかった大魚を岸に上げ驚いた少年は言葉を失っていた。

 

「おじさん誰??」

 

耳抜きをしながら勇次郎が答える

 

「ほう…幼いながら中々の筋力だ」

「ちょっと何言ってるかわからないよ。俺はゴン=フリークス!おじさん名前は?」

「勇次郎…範馬勇次郎だ…」

 

この沼の中で何をしていたのか、そもそもこの筋骨隆々の全裸で中年の怪しい漢の風体をみても物怖じすらしない少年。勇次郎は興味を持ったのか聞かれた名をそのまま発した。

 

ゴン「一つ確認なんだけど、おじさんがこの沼の主を倒したのって、オレの釣り竿に掛かって水面に上げた後だよね?」

 

そんなことにどんな意味があるのか解らず、しかも名前を名乗ったにも関わらず、おじさんと呼ぶこの少年に先ほどのやりとりは意味があったのかと思いながら、キラキラとした目で確認する少年に勇次郎は答えた

 

勇次郎「あぁ、そのようだな」

ゴン 「やったぁぁぁーーーーー!!!!」

 

言葉を最後まで発する前に少年は歓喜した

喜ぶ少年に少し戸惑いを感じながら、そのペースに呑まれていく勇次郎。

 

ゴン「おじさんが証人になるから家に付いてきてよ!御馳走するよ!」

 

大魚を肩に抱え込むと少年は凄い勢いで駆け出し、野生のキツネグマが勇次郎の足下に名残惜しそうに身体を擦り付けているのを少年は横目で見ていた。この世界に何も情報のない勇次郎は唯一の接点である少年の後に続く他なかった。

 

ゴン「さぁ約束通り主を釣り上げたよ!今度はミトさんが約束を守る番だ!!」

 

 

少年がミトさんと呼ぶ女性は恐らく少年の保護者であろう。

少年が背負う大魚にも驚いたが後ろに続く身の丈190cm前後はありそうな筋骨隆々な全裸の漢の圧倒的な存在感に恐れを感じていた。どうやらこの二人の間でこの大魚を釣り上げるかどうかの何かしらのやり取りがあったと察した勇次郎は夕食を共にしながらこの世界の事、ハンターという名の職業などある程度の事を理解した。

 

ハンターという言葉を聞いた瞬間、勇次郎に殺気が走ったがそれは一瞬だけであった。

きっとあまり良い思い出がないのだろう

 

闘技場で調子に乗って暴れてたら麻酔銃を打ち込まれるとか…

 

一通り話を聞いた後にお茶を啜りながら勇次郎が疑問を投げかける。開放感からなのかいまだに全裸である。

 

勇次郎「小僧よ、俺もハンターになれるのか?」

 

話を聞く限り、この世界で身分証や金銭を持たない勇次郎にとって、宿泊施設や食事などがほとんど免除されるプロハンターという職業はとても魅力的に感じた、何よりも強者と出会う一番の近道になるとそう確信したのだ。

 

ゴン 「なれるよ!だってコンがおじさんに懐いてたもん!良いハンターっていうのは動物に好かれるんだって!」

勇次郎「よし、ゴンと言ったな?貴様もハンター試験を受けろッッ!!そして俺を試験会場まで連れていけッッ!!」

 

よく解らない勢いのままハンター試験応募カードというカードに勇次郎が指紋を押そうとしたところでゴンが遮った

 

ゴン 「それはダメだ!俺の保護者はミトさんだもん、ミトさんに認めて貰えないと受けることは出来ないよ」

勇次郎「強情な小童だ…ならば貴様が許可をしろッッッッ!!!!」

 

勇次郎の髪の毛がみるみる内に逆立っていく過程でミトさんと呼ばれる女性がプレッシャーに負けてカードへ人差し指の指紋を押した。その横に勇次郎もさりげなく自分用のハンター試験応募カードを並べる。

 

ミト 「服も着てくださいね…」

 

そのときの状況をミトさんは後に涙ながらにこう語る

 

「本当に…今ここに生きてるのが不思議なくらいです…子供のわがままですよ?

どこの家庭にもよくあるただのわがままなのに…あの人きっと私があそこで許可を出してなかったら…この家もろとも全てを壊すくらいの気迫を感じたんです…私怖くて…だって全裸ですよ?一刻も早くこの島から出て言って欲しかった…ゴンが付き添うってことを後になって思い出した程…それくらいその場をなんとしてでも丸く納めたかったんです…」

 

 

 

 

範馬勇次郎、無事ハンター試験応募完了ッッッ!!!!

 

 



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HANMER×HANMER♯2

「船長!船底から浸水です!!」

「チィッ!客席で転がってる役立たずのアナルでもつめとけ」

「取り舵一杯!!飛ぶぞつかまれ!」

 

今年のハンター試験開場があるといわれているザバン市への向かう船は嵐の中を航海していた。

多くの受験者が船長のこれから2時間半後にさっきの倍近い嵐の中を航行するというアナウンスを聞き、救命ボートで近くの島まで引き返してゆく。

船員を除く残った乗客は4名

先ほどの嵐の中もハンモックで安らかに眠っていた独特のマントのような民族衣装に身を包んだ金髪で線の細い美形の青年。勇次郎の世界であればコンビニでビニールに包まれ販売している通称ビニ本、と言われる本を片手にニヤニヤとしている、身長は190以上だろうか?丸いレンズのサングラスを掛けた黒髪で黒スーツの青年。

 

そしてゴンと勇次郎

船長が志望動機と名を聞いた。

 

ゴン「俺は父親が魅せられた仕事がどんなものかやってみたくなったんだ!」

 

元気よく答えるゴンであった。

 

金髪の少年は名をクラピカといい、賞金首ハンター志望。志望の動機は2つ。

一つは自身の同胞、クルタ族という部族を皆殺しにした盗賊グループ、幻影旅団を捕らえる為。

クルタ族が狙われた理由はその瞳にある。感情が昂ると瞳が燃えるような深い緋色になるという特異体質を持っていて、この状態で死ぬと緋色は褪せずにそのまま残る。

緋色が刻まれた眼球は「緋の眼」と呼ばれ、その色は「世界七大美色」の一つと評され、闇市場にて高額で取引されているという。奪われた同胞の緋の眼を集めることも二つ目の動機だ。

ハンターでなければ入れない場所、聞けない情報、出来ない行動というものがあるらしく、勇次郎はその青年の話をハンモックで眼を閉じながら聞いていた。

 

もう一人のスーツの青年の名はレオリオ

志望動機は金。クラピカの動機を聞いた後ではその答えは至極シンプルに聞こえた。

正義感の強いクラピカはレオリオに突っかかるが、どうやら金と言いながらもその背景には過去に医療費が払えずに大切な友を亡くしており、悔しい思いをしたレオリアがシンプルに考えた結果、自分が医者になり多くの人を救うという暖かい理由があった。医者になる為にはさらに莫大な金がいる。その為にハンターを志した。

それを聞いたクラピカは素直に非礼を詫び、またその真摯な態度や信念をレオリオも心地よく感じ、勇次郎が眠っている間にゴン、レオリオ、クラピカは様々な話をしながら航海を楽しんだ。

 

レオリオ「なぁゴン、お前の連れは…その、親父さんとかじゃないよな…?」

クラピカ「私もそれは気になっていた、あの者の動作や雰囲気は明らかに異質、あちら側の人間なのでは…?」

ゴン  「二人とも何言ってるの?おじさんは俺が釣り上げた人で、オレがハンター試験を受けるようにミトさんを一緒に説得してくれたとってもいい人だよ!」

クラピカ「…何もいうまい…」

レオリオ「ゴン、仲良くしてくれよな…」

 

ゴンへ投げかけた質問への回答は、勇次郎に対する謎をさらに深めただけに終わった

既に服は着ているがやはりそれでもその存在感は異質だったようだ。

 

実際にクラピカが幻影旅団の話を打ち明けた際に誰よりもこちらの話に耳を傾けていたのは、他でもない勇次郎であった。あの曲がったことの嫌いそうな船長でさえ勇次郎に対しては腫れ物を扱うように名前は愚か志望動機さえ確認しなかったのは意外であった。

 

目を瞑りながら、勇次郎が呟く

 

「A級首の盗賊…幻影旅団か…」

 

案の定、口元はニヤけている、この世界にやって来て早くも強者の存在を認識できた事。

その事でハンター試験への期待、そしてこの世界のまだ見ぬ強者への期待に胸を震わせながら今はただただ眠った。

 

◆ドーレ港◆

 

ゴン「船長いろいろありがとう!!元気で」

船長「うむ達者でな、最後にわしからアドバイスだ、あの山の一本杉を目指せそれが試験会場にたどりつく近道だ」

ゴン「わかった、ありがとう」

 

ゴン達一行が会場があるザバン地区とは反対方向の山の一本杉に向かうと聞いて勇次郎が言った。

 

勇次郎「小僧、ここでお別れだ」

ゴン 「?? おじさんは一緒に行かないの?」

勇次郎「あぁ、港に近づくにつれて匂いが濃くなってきやがった。俺の好きな香りだ…」

ゴン 「ちょっと何言ってるかわかんないや、でも大丈夫ならオレは船長さんの言う通りに一本杉に向かうね。」

ゴン 「おじさん、またねーー!絶対ハンターになろうね!」

 

ゴンが言葉を言い終えるより先に勇次郎は一本杉とは反対のザバン地区の方へ向かっていった。

ハンター試験の会場まではゴンと行動を共にするつもりであった勇次郎であったが当初の目的を忘れてしまったのか。

野生の本能が強者の存在を示す、その実力をその肌で感じていた。

食事より、睡眠より、性欲よりも闘争を求める勇次郎にとって、それは仕方のないことであった。

最高級の食材の香りに引き寄せられるように闘争を求めた勇次郎は、ゴンの元を離れたのであった。

勇次郎と離れることができた、クラピカとレオリオはどこか安心したような表情をしていたのはうまでもない。

 

 

◆ザバン市◆

 

「いらっしぇーい!!ご注文は?」

「ステーキ定食」

「焼き方は?」

「弱火でじっくり」

「あいよー、お客さん奥の部屋どうぞ」

 

ここは食い物屋、ごはんというお店だ。

 

勇次郎と別れた後のゴン達一行は船長に言われた通り一本杉を目指し歩みを進めた。

道中にも試験のようなもので篩いにかけられたりもしたが、無事にパスし、一本杉に住むナビゲーターのお眼鏡に適い試験会場まで連れて行ってもらう事になったのである。ナビゲーターと主人の先ほどのやりとりが何かしらの暗号だったようだ。

 

「1万人に一人、ここにたどり着くまでの倍率さ お前たち新人にしちゃ上出来だ。それじゃがんばりな、ルーキーさん達。お前たちなら来年も案内してやるぜ」

 

まるで今年は受からないみたいな言い方をされたレオリオがステーキを頬張りながらむっとする。

どうやらこの個室はエレベーターのようになっていてこのまま試験会場へたどりつけるようだ。

数百万人が毎年受けるハンター試験の試験会場へ行くためのルートがまさかこのような小さな定食屋となっているとは誰しも考えはしないであろう。

 

ゴン「あれ??でもこの床変だね。なんかテーブルの下に穴が空いてるよ?」

 

クラピカとレオリオは顔を見合わせた。

 

 

ーーーー数時間前ーーーー

 

◆ザバン市◆

 

「いらっしぇーい!!ご注文は?」

 

勇次郎「ここだ…俺の好きな香りだ…いるんだろう?」

 

【強い男には匂いがある】その訳の分からない理論を持っている範馬勇次郎は匂いだけでドーレ港からここザバン市の定食屋までたどり着いたのであった。その匂いはこの場から特に強く感じられる…それも残り香のようにこの場で途切れている…

 

「あの…ご注文は…?」

 

勇次郎「もういい加減によぉ 実力見せてくれよォォォ!!!」

 

「…お客さん奥の部屋どうぞ」

 

一応ハンター協会から篩い掛けを命じられている身として、問答のやりとりをしたが…

漢の醸し出す威圧感や風体からガタガタと震えてしまい、見た目に似合わず何故か媚びてくるこの気持ちの悪い中年を前にそう邪険には出来ず、個室に通し試験会場行きのエレベーターの操作をした。

 

勇次郎「ヌゥンッッ!!!」

 

ドゴォォォーーン!!!!!

 

巨大な音に驚いた亭主は急いでエレベーターを緊急停止し個室を覗いたが床には大きな大穴が空いており

そこに漢の姿は既になかった…

 

その時の光景を後に食い物屋「ごはん」の亭主は後にこう語る

 

いやぁね…私も職業柄ね…いろんな人間を見てきてるんですよ…

こう見えてもね、若い頃は腕っ節も強かったし、ヤンチャもしましたよ?でも料理で飯食ってこうって思ってから店も構えて…こうして今年はハンター協会から栄誉ある試験会場への手引きまでさせて貰ったんです…

え?肉ですか?もう焦げまくっててただの黒い塊になってました。

だってそうでしょ?店に入ってきた瞬間から解りましたよ…あぁこの人普通じゃないなって。

怒らないのかって?普通ならそうですよね。頑張って建てた自分の店の個室に穴開けられてるんですから。

でもねぇ…不思議と腹が立たないんです。多分理解出来ないかもしれないですけど…

あの人がどうやってあの一瞬で穴を空けたのか解らないですけど…なんていうか憧れてしまったんですよ…私は…

 

 

地上最強の生物、範馬勇次郎、無事ハンター試験会場に降り立ったぁッッッッ!!!

 

 



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HANMER×HANMER♯3

うす暗い地下道のようなドーム型の空間に人数にして400人くらいであろうか。

この段階でかなりの倍率を勝ち抜いてきた者達だけに皆、特有の雰囲気を持つ者達が集まっている。

あの定食屋からエレベーターで100階程降りたところにここまで広い空間があることに驚きを隠せない3人。

 

豆の様な不思議な体型をした係の人間から番号札を渡される。

先ほどから受験者たちが胸元につけている丸いプレートに番号だけが書いてあるシンプルなものだ。長い道のりであったがこれでやっとハンター試験を受ける為の会場へたどりつけたという事に安堵するゴン達一行。

 

「よっ!俺はトンパ よろしく」

 

16番の番号札をした小柄で小太りな男がゴンたちに気さくに話しかけてきた。

なんでもこの男は10歳からもう35回もテストを受けているらしく、同じく常連の者たちを簡単に紹介してくれた。そして要注意人物として、受験番号44番のヒソカというピエロのような仮装をした奇術師の男には近づくなと…

 

「ぎゃあぁ~~~~~~っ」

 

ヒソカ「アーーラ不思議♥ 腕が消えちゃった♠」

 

トンパがヒソカという男の危険性を説明しているところに、早速惨劇が起きていた。

床に跪き絶叫をしている受験者の肘より上の部分のが鋭利な刃物で切断されたかのように消えてなくなっている

 

ヒソカ「気をつけようね♦人にぶつかったらあやまらなくちゃ♣」

 

数秒前に人の腕を切り落としたはずのヒソカはどこ吹く風でその場を去って行った。

回りの受験者は明らかにドン引きしている、トンパによると去年合格確実と言われながら気に入らない試験官を半殺しにして失格させられたようだ。

 

試験官の他にも20人もの受験者を再起不能にしているようだ。

それともう一人、315番の男にも同様に注意しろ。理由は見たら解ると。それだけを言い終えると、おっと、そうだ。と今気がついたかのようにおもむろにポケットをゴソゴソとまさぐるトンパ

 

トンパ(そうだった…もうないんだったな…)

 

あからさまに落胆するトンパに疑問を感じたゴンであったが最初からハンター試験で恐らくは一番のベテランであるトンパから情報を聞けたことは幸運な事であった。ただのいい人になってしまったトンパはまぁ頑張ってくれよ…と肩を落としトホホ顔で立ち去って行った。

 

ゴン  「いい人だったね!」

レオリオ「あぁ、ベテランっていうとそれだけ受かってないってことだからなんとも言えないがいい奴だったな」

クラピカ「要注意と言った二名には極力近づかぬようにしなければな」

 

クラピカの提案でトンパが言う要注意人物として挙げた2名の内の1人、44番のヒソカはもう確認することが出来たが315番の男の姿形くらいは早めに確認しておくべきということになり3人はなるべく自然に受験者達の中から315番のプレートをした男を探し出すことにした。

 

(いい人?とんでもねぇ、自分が一番タチが悪いくせによ、”新人つぶし”のトンパ)

 

どこかの受験者が小さな声で呟いていた。

それもそのはずだった、3人の中では既にいい人としての認識のトンパであったが、35回も試験に挑戦して本試験においても成績が上位なはずなのに中々合格出来ないのは別の目的に気をとれてすぎているからだ。

プロハンターへの夢や希望を持って試験に挑戦する新人が夢破れ絶望する様を見ること、それを何よりの生きがいとしている歪んだ人間である。先ほどポケットをまさぐっていたのも、試験開始前にトンパ特製の超強力な下剤入りのジュースを配ろうとしていた為であった。

そのジュースは一口飲めば3日はウンコが土石流のように止まらなくなり、5本も飲めば脱水して死んでもおかしくないような代物。それを今回は試験会場にやってくるルーキーに配りビチグソまみれになる新人を笑おうと会場に2ケースも持ち込んでいた。

 

だが。。。。

 

トンパ(あのくそったれ!!さっきのズッコケ3人組だってなんの不信も持ってなかった…ジュースがあればゲリピーで3人そろって苦悶の表情をみせてくれるはずだったのに!!!あの野郎のせいで…)

 

視線の遠く先には壁際に脂汗を浮かべ、目は真っ赤に充血し顔中の全ての筋肉をミキィィィィっと硬直させ血管を浮き上がらせている男が静かに立っていた。

胸につけたプレートは315番。お決まりの黒い道着に身を包みそっと静かに立っている。

男の回りにはトンパ特製の缶ジュースが2ケース、48本もの空き缶が転がっていた……

 

 

範馬勇次郎、試験開始前に絶体絶命ッッッッッッ!!!!

 




古い洋館と呼ぶには生活感がないその部屋に男は居た。
入り口付近にあるコートハンガーには背中に逆十字を背負った黒いコートが無造作に掛けられている。
アンティーク調の深い紅色の4人掛け程のソファーに横たわりながら、額に十字の入れ墨をした男が手元のランプのみで本を片手に寝そべっていた。

もう数ページで読み終わろうという所だろうか。男の表情を見ると目から涙を流しているのが解る。
最後のページをめくり読むと、男はそっと本を閉じ、ソファーの前のローテーブルにそっと置いた。
余韻に浸っているのかその姿勢のまま両手を上に掲げ、そしてその後、そっと祈るように目を瞑った。

男の名前はクロロ=ルシルフル

この世界では史上最凶と悪名高い盗賊団、「幻影旅団」の団長である
この部屋で安らかに寝そべる男が起こしたとは到底思えないような残虐な行為に手を染めており、世界中のマフィアから恐れられるA級首の犯罪者集団。その幻影旅団の事を良く知る者は彼らの事を「蜘蛛」と呼ぶ。団長を蜘蛛の頭、団員を12本の蜘蛛の足に見立てた13人で構成され団員は身体のどこかに自分の団員ナンバー入りの蜘蛛の入れ墨を入れている事もその名の由来だ。活動は主に盗みと殺し、稀に慈善活動も……

prprprprpr……

クロロのズボンのポケットに入っていた携帯が鳴った。
画面も見ずに通話ボタンを押す

「もしもし、団長?」
「珍しいな、シャルか、お前の方から俺に連絡してくるなんて、仕事か?」
「いや、ちょっと団長が好きそうな物が手に入ったものでね」
「好きそうなもの?」
「あぁ、団長もライセンス持ってたよね?ハンター専用サイトとかって最近見たりしたかな?」
「いや、やけに勿体ぶるな。話せ」
「実は数年程前になるんだけど、ある少数部族住む森に光とともに不思議な乗り物に乗って新種の猿が現れたってニュースがあったんだ。ハンターサイトでもその取り扱いは、ほんの少し。ちょっと茶目っ気のあるニュースだったからね。」
「物好きなやつだな」
「それはお褒めの言葉として頂いておくね!光とともに現れたからってその猿はその部族から神格化されているみたいだよ。嘘か本当かは解らないけどまぁハンターサイトの情報だから信憑性は高いよね、さすがのオレもそれを見に行く程物好きではないからね」

先ほどのお返しとばかりにクロロがシャルと呼んだ男が憎まれ口を叩く

「それで、わざわざ猿の話をする為に俺に電話してきた訳ではないのだろう?」
「まさか!本題はこっち。その猿がどこから来たのか?っていう話なんだけど…」
「まさか人類の歴史の話をここで議論したいか?」
「いや、遠慮しとく。その手の話は団長とすると長くなりそうだからね」
「あぁ、助かる」

ここで一息、クロロが深めに息を吐いた。

「それで、それは今ホームにあるのか?」
「さっすが団長話が早い!どれくらいでこっちまで来れそう?」
「2日程だ、また何かあれば連絡をくれ」
「は~い!ではではお楽しみに!」

pu---pu---pu---


クロロは電話を置いた。しばらくの思考の後、シャワールームに入りシャワーを浴び身支度を整えた。
先ほどまで、下ろしていた前髪をオールバックにするとずいぶんと印象が変わる。
入り口付近に掛けていた逆十字のコートを羽織ると、その部屋を後にした。

クロロが話していた男の名前はシャルナーク。
クロロと同じく旅団員でありながらハンターライセンスを所持する数少ない団員。
活動は主に補佐や情報処理に回る事が多い。頭の回転も早く、さまざまな分野の知識にも精通している為、クロロからの信頼も厚い団員の一人だ。シャルナークが自分の懇意にしいる情報屋からその機体がブラックマーケットに流れたと聞き、一度見てみたいと思い、その場に居たコルトピとノブナガを誘い暇つぶしに盗みにいった訳だった。
その機体は確かに見た事もないような形をしていたがシャルナークは自身でなんとか出来るという自信があった。
だが残念ながら扉は外側から破壊されており、システムにも異常があるようで操作も出来ないようだ。
その部族がその光を見たときに中から音がするのを聞いて、人が入っていると思った彼らは急いで外側から扉を破壊し、中を覗いた所、小さな新種の猿が入っていたというのが事の顛末である。後はクロロが来るまでに修理を終え、仕組みを理解する事に興じれば良い訳であったが…

「コレを作った人は天才だな…うぁ~~やばい!団長呼んじゃったのにこれじゃあ無駄足になっちゃうよ…」

勇次郎の世界から実験で最初にこの世界に飛んだ機体、帰還することが出来ずに失敗に終わった1号機の実験は成功していた。タイマーで帰還するように入力していたのであったが、扉を壊した際にメインのシステムにも障害が発生したようだ。そして、元の世界に帰ることなく今は幻影旅団の手に渡ってしまったのであった…


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HANMER×HANMER♯4

冷たい風が吹き荒れる、体感以上にその風を冷たく感じさせるのはクロロが降り立ったその場所の環境のせいであろう。そこは流星街と呼ばれ、この世の何を捨てても許される場所。

ある独裁者の人種隔離政策に始まり、1500年以上も前から廃棄物の処理場になっている地域だ。

政治的空白地帯で公式には無人とされているが実際には多数の住人が暮らしている、人口は推定で800万人。

捨て子や犯罪者、住処を失った民族などが集まることで多人種のるつぼとなっている。幻影旅団のメンバーの大半がこの街の出身者である。クロロもまたその一人。

 

シズク「団長!早かったね!」

 

廃棄物に溢れたこの街に似つかわしくない明るい声で、もの寂しい空気がガラッと変わった。クロロに声を掛けたのは眼鏡を掛けた、黒髪ボブでジーンズを履いた女の子、幼い顔立ちに似つかしくない女性らしい体系を黒ニットのセーターがよりいっそう際立てていた。

 

マチ 「私たちの他にも何人か集まってるよ」

クロロ「お前達も来ていたのか」

マチ 「私はちょっと前に来たところよ」

 

先ほどのシズクのふわふわした雰囲気とは一点し、声の発声の仕方から僅かだが気の強そうな面を感じる猫のように可愛らしい顔立ちをしたもう一人の女の子。前髪と顔回りには髪の毛を残し、ポニーテールのように後髪をまとめ上半身だけ半袖の白い道着を着ていて、腰の辺りで締めた帯の余りをヒラヒラと靡かせていた。

柔道着のようなもので、下は道着ではなく膝より上のスパッツであろうか?恐らくは動き易いという理由でそうなっているのだと思うが太ももは丸出しだ。

 

久しぶりの再会に近況などを話しながらシャルナークのいるアジトへ向かう。

そう、見た目からは想像できないがこの2人も悪名高い幻影旅団の団員であった。

 

アジトについたクロロを見ると、少しバツの悪そうな顔をしたシャルナークと小柄で長髪のコルトピ。

それともの凄く肥大した筋肉をこれでもかというくらいアピールした上半身裸のウボォーギンの3人がトランプをしていた。キレてるキレてる。

 

ウボー「うぉぉーーー!団長じゃねぇか!元気だったか?」

団長 「1年前にも会っただろう」

シズク「団長、1年って一般の感覚からしたら結構空いていると思います」

マチ 「そう?私はそう思わないけど…」

ウボー「めでたいな!酒でも盗ってくるか!」

団長 「ありがたい話だが、お前に付き合うと終わりが見えないので今回は遠慮する。それよりも…」

 

視線の先には、卵のような形をした機械がある。なるほど。確かに今までに見た事のないようなものであった。

扉があったであろう部分は強引に捻りおられたような跡があり、その他の部分も傷やへこみが見て取れた。機体の周辺に散らばる様々な工具、おそらくシャルのお手製であろうなくなってしまった扉の代用品のようなものが転がっている所をみると、色々と試行錯誤していた様が想像できた。

 

シャルナーク「団長…あの凄く言いにくいんだけど、ちょっとオレの手には終えなかった…」

 

バツの悪そうな表情の理由はそこにあった。わざわざ呼び出してしまった責任を感じているシャルナークを尻目にクロロは機体に触れてみる。

 

シズク「ねぇそれなんなの??」

ウボー「うぉっ!なんだそれ!?」

マチ 「あんたまさか今まで気がついてなかったの?」

コル 「…………」(同じく今気がついた)

 

先立ってシャルナークから聞いていた情報によると突然光につつまれて出現したというこの機体。

実際にこの眼で確認する前には何かしらの念能力による干渉を第一に、考慮にいれていた。

むしろ、この世界ではそちらの方が可能性が高い、念能力はその人物の特性や資質に由来するものが大きくもし仮に物質移動の能力者がいるのであればそれは貴重で重宝する能力だ。クロロ自身も実際にこの目で見る前はそれを疑っていたし何かしらの手がかりでだけであっても、その能力は今後の盗賊としての活動にも多いに役立つ。是非自身のコレクションにも加えたいとも思っていた。

 

これだけの物体を瞬間的にある程度の距離を移動するとなると相当な能力者だ。そもそも可能なのか?重い誓約を掛けたらあるいわ…

 

だが、中に猿が入っていたという事を踏まえると疑問も残る。猿を移動させることが目的ならば猿のみを移動させた方が明らかにたやすい。この機体を使わねば発生しないような何かしらの誓約か?あるいは中に猿を入れることでしか発動しない契約?前者の場合は、それならそれが他者の手に渡って良い訳がない。これほどの機体を一機作るのに掛かるであろう途方もない時間と手間を思うとその線は薄い。ましてや使い捨てではあるまいし、それが今ここにあっては本末転倒だ。

 

後者の場合は…いや、馬鹿馬鹿しい…猿を入れる事で発動する?なんの意味がある。大体能力の一部に猿人類を組み込むなんてそんな人物がいるなら、是非一度顔を見てみたいものだ。

 

神字などで能力の補正を行っているかは第一に疑って機体の側面などを「凝」で視たがそれも確認出来なかった。

念能力の事は一先ず、切り捨てて考えよう。それにこの複雑な機体を見ると、機体自体が何かしらの移動手段を持っていると考えるのが妥当であろう。

 

触れると少し冷たく、初めて触れる鉱物で覆われていたそれ。

拳で軽くトントンと叩いてみる。強度は申し分なく音の跳ね返りから密度や比重などを予測する。

機体を一瞥し、一周すると破られた扉のあった場所から中へ入ってみる。ディスプレイにボタンが2つ。そしてテンキーのようなものもの。下の方には配線のはみ出している部分やコードが飛び出した箇所もあった。

 

爪や歯で引っ掻いたような傷があり、猿が中に居たのは確かなのであろう…外れたパネルの裏にはロゴのようなものが刻まれていた。暗号か?とも思ったが他の部分にも同様に同じロゴがあることからメーカーか何かのロゴなのであろうと推測する。

 

だがこれほどまでに水準の高いものを作っているのに、全く見た事も聞いたこともない。外れたパネルを手にとった際に違和感を感じた…

 

そしてその違和感の正体は各辺にあるネジ穴のスクリュー。

 

逆なのだ…ネジの規格はこの世界では世界各統一されているはずだった。

異なる文明を持つ国であっても輸入、輸出などの為に統一されているネジのスクリューをあえて逆にして作るメリットはない。思考が一巡し、導きだした答えは

 

クロロ「この世界のものではないのか…?」

 

飛躍しすぎたか…声に出したつもりはなかったのだが、気がつくと思考が言葉となって外に出てしまう程熱中していた。解らないことだらけだ。見落としたことはないかもう一度外に出て隅々まで確認しようと機体を降りた所で

 

シャルナーク「正解!ビンゴだよ団長!」

 

少ない情報からよくぞ気がつきました、さすが我らの団長ですというような笑顔をしている。

他の団員は明らかに置いてけぼりとなっている。キョトン顔のマチがとっても可愛いがそれはひとまず置いておきクロロとシャルナークが話を続ける。

 

シャル「オレもね、この世界のモノだったら機械に詳しい知り合いもいるし、協力したらなんとかなるかなぁ~って思ったんだけどね。」

クロロ「なにやら確信があるようだが、まだそこまで言い切れる段階ではないのではないか?」

シャル「いや、もう裏はとってあるんだ」

 

 

コツ…コツ…コツ……

 

 

アジトの入り口からハイヒールが床をコツコツと叩く音がする。一定のリズムで聞こえるそれは、この足音の持ち主の身体能力や肉体のバランスの良さを物語る。女性にしてはかなり大柄、胸元を大きく開けたスーツを素肌に着ている。鷲鼻と長い睫毛が印象的な一見するとモデルのようなスタイルをしたグラマーな女性だ。

 

その名をパクノダ。彼女もまた幻影旅団の団員だ。

 

パク 「久しぶりね、みんな元気だったかしら?」

ウボー「パク、お前も来てたのか?」

パク 「ええ、少し所用で出かけていたけどあなたより先に来ていたのよ。シャルとコルトピにはもう昨日会ったし、ノブナガにもね。」

シャル「ノブナガは今朝早くに出かけちゃったけどね、実はオレ、団長に連絡するより前にパクには声を掛けてたんだよ」

 

なるほどな。シャルが確信を持ってそう言える意味を理解したクロロだった。

 

今回は全員に招集を掛けた訳ではなく団長とパクノダ以外の団員はもともとここに居た者、たまたま連絡がとれた者、近くで暇を持て余していた者、クロロに逢いたかった者や、お祭りと勘違いした者など理由はそれぞれであった。ノブナガというこの場にはいない団員の名を聞いてウボォーギンの表情が少しだけ変わったようだったが。パクノダが話を進める

 

パク 「今回集まることが出来るのはこれで全員かしら?」

シャル「うん!早く見せて欲しいな」

パク 「良かった丁度6人ね、ええ、きっとみんな驚くわ」

 

そう言うと、パクノダの手には先ほどまでなかった筈のリボルバー式の拳銃が握られていた。

撃鉄を起こすとなんの躊躇いもなく団員達に向かって引き金をひく。

 

パクノダ「記憶弾(メモリーボム)

 

放たれた弾丸は6発、美しい軌道を描きながらその場に居るパクノダを除く旅団員の額を打ち抜いた。

 

パクノダは特質系の能力者。

人や物体に触れることでそこに残る「記憶」を読み取る接触感応能力(サイコメトリー)

対象に触れながら質問することで、知りたい情報も入手できるという大変便利な能力であった。全員が念能力者で構成されている幻影旅団の中でもその能力はシズクと共に「レア」とされており緊急時にはその生存を優先されるのは暗黙の了解となっている。最も戦闘員ではないにしても実力で旅団員に勝てる念能力者など世界でも数えるくらいとなるのでその心配は無用であるが…そしてたった今使用した能力「記憶弾(メモリーボム)」は具現化した弾丸に記憶を込め(自分の物でも引き出した記憶でも可能)それを拳銃に詰めて撃つ事で撃たれた相手はその記憶を得ることが出来る。

 

記憶を撃ち込まれた、クロロ、シャルナーク、コルトピ、シズク、マチ、ウボォーギンは言葉を失っている。

 

事前に会っていたシャルナークだけは口頭でパクノダから話のみ聞いていたが、記憶を撃ち込まれるのはクロロが来てからがいいということでこの日を待っていた。どれくらい時間が経過しただろうか?この人数の顔見知りが集まっているのにも関わらず、誰も口火を切らない。お祭り男のウボォーギンでさえも、頭の整理を行っている。

 

最初に沈黙を破ったのはやはりこの男

 

クロロ「面白い…行くか…」

 

異世界に行くというのに、まるで自宅の庭先に出るかのように簡単に言う、それだけクロロにとって日常は日常ではない生活を送っているのだろう。

 

シズク 「下調べなしに行動するのは危険なのでは?」

ウボー 「俺は団長に付いていくぜ!!」

マチ  「私もちょっと興味あるな」

コル  「………」

パク  「それが命令なら従うわ、きっとこの世界にないものだってあるし、お金になるんじゃないかしら?」

クロロ 「個人的な戯れになるかと思ったが今後、この案件は旅団としての活動にシフトする、シズク、コル、いいな?」

シズク 「うん!命令っていうなら」

コル  「………(コクリ)」

 

否定的だったシズクと、無言のコルトピに一応確認をクロロがとった。

 



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HANMER×HANMER♯5

シャル「みんなの期待を裏切るようで悪いけど、それは無理だよ…」

 

会話に参加せずにいたシャルナークが言い難そうに伝える

この世界の物であったのなら修復も可能であろう。だがこの世界にはない理論や部品、鉱物を使用して作られたこの機体は修理が不可能であった。目の前に異世界に向かう為の乗り物があるのにやるせない、お預けを食らってしまった子犬のような表情をしながら、皆を説く。

 

一番残念なのは彼なのかもしれない。

異世界が実在するって確信が持てたし、これからも何かが送られて来てチャンスがあるかもしれない。だからそれまで待とう。期待を捨ててはいけない。もちろん個人的には今まで以上にアンテナを張っておくつもりだ。パクノダには機体が現れた島に行って貰い一度、乗っていたという猿に触れてきて貰えないか?とお願いすると、もう時間も経過しているみたいだし、言葉を話せないお猿さんの原記憶を呼び起こすことは出来ないから無駄足よ。と言い放たれた。

 

シズク 「残念…せっかく乗り気になったところなのに…」

ウボー 「シャル、お前絶対なんとかしろよ!!」

マチ  「まぁそんなに落ち込む程のことではないわよ」

 

一同、落胆は隠せないが場の空気はもう方法ではなく、結果の話題になりそうだったところで背を向けていた機体にクロロが再び向き合った。右手に先ほどまで持っていなかった本を具現化しパラパラとページが捲られる。

 

おなじみのクロロの念能力「盗賊の極意(スキルハンター)」を発動させていた。

自身は特質系という特殊な系統に属している。具現化した本に他人の能力を封じ込め、自在に引き出し使える。また盗まれた者はその能力を使う事が出来なくなる。盗む為には様々な誓約があるが盗賊団の団長というにはまさにぴったりの能力である。

 

取り出した短冊にスラスラと筆を走らせ、一言

 

クロロ「”オレ様が 殴ったものは 元通り”」

 

そう書いた短冊を握った手にオーラを込めて機体を殴る。

 

流離の大俳人(グレートハイカー)」(詠み記した俳句は実現する能力)

 

すると見る見るうちに、機体の傷やヘコミがなくなり、存在すらしてなかったはずの扉までついていた。

 

クロロ「シャル、何か問題はあるか?」

 

完全に諦めムードになっていたシャルナークに笑顔が戻る。

一同が初めて見る能力だったので恐らく最近盗った能力だろう。でも詠み記した文句が実現するって反則的な能力です…というシズクに利便性はあるが実戦での応用は難しく色々と誓約が多い。話をしていると面白い男だったので気に入ってしまい。使う事はないと思いながらも思い出として一応盗ませて貰ったんだと、その男を思い出すように遠くへ視線を馳せるクロロ。使わないのに想い出として能力を盗むなんて盗まれた方はたまったものではない…。

 

ここ数日、苦労して修復を試みたシャルが苦笑いをしている。

 

ウボー 「それで一体だれが最初に行くんだ?オレが行ってもいいぜ!」

マチ  「あんたが行っても喧嘩しに行くだけでしょ?団長かシャルが行くべきよ」

団長  「パクノダ、欠損した破片や一緒に飛んできた部品などがあるかもしれない、やはり一度島へ行って確認を頼む」

パク  「わかったわ、ついでにお猿さんにもご挨拶をしてくるわね」

シャル 「パクの能力はレアだから安全が確認出来るまでその方がいいね」

団長  「現地に向かうのは、ウボー、マチ、シズク、コルトピ、俺を含めて5人だ」

団長  「コルトピ、念のため5つはいけるか?」

コル  「50は平気」

団長  「いや、5つでいい」

 

個性の強い変わり者が多い幻影旅団の中で、普段から無口な性格のため自分を主張する機会の少ないコルトピだが、その能力はユニークかつ強力だ。自身の能力を披露する絶好の機会に恵まれて張り切ったが5つだけと聞いて、長い髪の毛で顔が隠れていて表情は読めないが少し残念そうだった。

 

神の左手悪魔の右手(ギャラリーフェイク)

 

左手で触った物体の複製を右手で具現化する能力で、機体の複製があっという間に5つ出現した。コピーした贋作は作成から24時間後に消滅するのでここからは時間との戦いになる。クロロが簡潔に指示を飛ばしながら機体に乗り込むように先ほど命じた5人に促す。

 

団長  「シャル、俺に何かあれば今後の事を頼む」

シャル 「あーーはいはい、そんな事だと思ったけど次は絶対オレも行くからね!」

団長  「ああ、ウボーとマチはシズクとコルトピの護衛だ、慎重にな」

マチ  「ええ、わかったわ」

ウボー 「任せとけ!!!」

団長  「今回の目的は主に偵察と情報の入手、その過程で珍しいものがあれば集めておけ、最後にシズクがまとめて回収の後、撤退」

マチ  「極力、戦闘は避けるってこと?」

団長  「俺が許す、殺せ。邪魔するやつは残らずな」

 

扉のハッチを閉めながらクロロが言った。その言葉を聞きウボォーギンが歓喜している。扉は既に閉められたが喜び叫ぶ大声がに外まで聞こえていた。マチとシズクは静かに目を閉じて扉を閉める。コルトピは既に乗り込んでいた。

一斉にボタンを押す、パクノダのメモリーボムのおかげで内側からの操作はとても簡単に理解出来た。

 

操作に関してはボタン1つで行き帰り出来るという簡素なものだった。いや、これだけ簡素に作れるということは、それだけの文明があると評価をすべきだ。もっとも最初に猿を送った研究者達は猿に操作させるともいかないのでタイマーでシステムに帰還設定をしていたようだ。

 

今回に限りはそれがいい。いくら研究したところでもこのシステムを理解するのは骨が折れそうだ。それこそ無限に異なる時空の世界が存在しているのだろう。だがシステムは理解できない。で、あるならばそうやって最初からその他の世界を切り捨てて考える方が楽で良かった。この世界とこの機体がやってきた世界。二つを行き来出来る。それだけで素晴らしい。オリジナルがある限りコルトピさえいれば何度でも行き来が可能となる。

 

光と共に団員5名を乗せた機体がその場から消えていった。

残されたのはオリジナルの機体が1体。

そして、パクノダとシャルナークだけであった。

 

シャルナークが携帯で時刻を確認すると、AM 4時44分

縁起が良いねっとはにかんで笑いながら今回顔を出していない団員の一人フランクリンに電話を掛けた。

この機体の重要さが解ったのだ、他に自分たち以上に情報を掴んでいる人間がいるとは思えないが何かあったときに自分一人では心もとない。用心に越したことはないだろう。

 

電話をすると、ちょうど団員のフェイタン、フィンクスと居るようなので一緒に来て貰うようにお願いした。大仕事になるような予感がしていたからだ。ノブナガという団員は一緒に機体を盗んだ後、どうしても外せない用があると言っていた。

パクノダと顔を合わせた後、もう少ししたらウボォーも来るのに…と伝えたが団長命令以外ではアイツと顔を合わせたくないと笑いながらアジトを後にした。最後にまぁ久しぶりにアイツのマヌケ面でも拝んでやるかと言っていたので用を済ませたら帰って来てくれるだろう。パクノダは私はお猿さんに挨拶ね。と、やれやれ顔で出口に向かう。フランクリンはともかく、残りの団員に言葉で説明するのは骨が折れそうだと思ったのでパクノダには残って貰いたかったシャルナークであったが団長命令なので仕方がない。

距離的にはそう離れている場所ではなく飛行船で数時間、文明の浅い部族しかいない森の中と聞いているが、念のため誰か付ける?とパクノダに聞くと、

 

一瞬考えるように間が空いて、首を横に振った。名前の出ていない残りの団員の事を考えたのだろう。察した。

 

一人でハイキングを満喫するわ、と後ろ手で手を振りコツコツとハイヒールの音を真っ暗な通路に響かせ、姿が見えなくなり、やがてその音も聞こえなくなった。

 

 

 

幻影旅団ッッッ!!!!!!ついにバキワールドに殴り込みィィィッ!???




時はゴン達が315番の漢を発見したその少し前…
香りが濃くなって来やがった…そう言いながら地下への100階分の距離をどこかの死刑囚の外国人がマンホールから地下基地へ降りるときのように壁に指を馳せ、ブレーキを掛けるように降りてゆく勇次郎。
重力が少なく、身体能力は以前より明らかに飛躍している事。
それと同時に勇次郎を満足させるに足りる実力を持った猛者の香りが徐々に強くなっているのを感じていた。
お決まりのポーズで着地をした勇次郎に度肝を抜かれる係員…何も言わずにその姿勢のまま佇む勇次郎に対し焦って間を埋めるように係員がハンター試験の受験者ですよね…?という言葉を投げかける。
奇しくも自身が求めた場がハンター試験の会場であった事を理解する。

勇次郎「フフフ…どうしても俺をハンターにしたい何かがあるようだ。甘んじて受けようッッ!!」

係員がその漢の言葉を聞くと震える手で番号入りのプレートを渡す。

「どーぞ…」

勇次郎は渡された315と書かれたナンバープレートを不思議そうに眺めていた
訝しげに疑問を抱くその漢に、係員は何か失態を犯してしまったかと恐怖を抱いていたが、

「郷に入っては郷に従えか…」

そうぼそっと呟くと、他の受験生同様に胸に付けた。それもそのはずであった。勇次郎の居た世界ではナンバーで認識などとんでもない。

範馬勇次郎は範馬勇次郎なのだ。曰く、「オーガ」、曰く、「地上最強の生物」異名の数は数知れず、一様にして、そのままの存在自体が自身の証明になった。
だがこの世界に対する勇次郎の期待値はクジラ島での年端もいかぬゴンの跳躍を見た時から既に高まっている。ましてやこの場に感じ取る事が出来る2名の強者。ハンターになれば強者と出会える確率がグンッと上がることは船上でのクラピカの話を聞いて確認済みである、それを思えばここでの識別の為のプレートを付けるという行為などなんでもなかった。

胸にナンバープレートを付けると一人の小太りな男が声を掛けてきた、対面したいのお前ではない…

トンパ「よ!あんたルーキーだな!お近づきのしるしに…」

ジュースを片手に近づいた男から匂いの主と戦う前に喉でも潤そうかと強引に奪いとる勇次郎。

勇次郎「ふ、笑わせるッッ!!この程度で俺様の喉を潤せると思うかッッ…?」

トンパはただの中年のルーキと思い、なんの策もなく近づいた事を酷く後悔していた。
目の前に立つ漢にヒソカと同等、もしくはそれ以上の危険性を感じ取ったのだ、言われるがままにトンパが持って来ていた超強力下剤入りのジュースのケースを置いてある場所に案内した。
なぁに、どんなに危険な漢であってもこの下剤入りジュースさえ飲ませてしまえば…この場以外でもう出会うことはないだろうとの計算であった。ダンボールケースが二つ並べてある場所に胡座を掻くと勇次郎は最初にトンパから奪い取った1缶を一息で飲み干しその場に転がし、ダンボールをまるで半紙でも破るかのように指でビリビリと破き、もの凄い勢いで全ての缶を飲み干しその場に転がすという一連の流れを繰り返す。

ヒソカ「0点…♦2点…♦3点…♦0点…♦」

まるで受験生を吟味するかのように、点数を付けながら勇次郎の前をヒソカが横切った。

勇次郎が最後の1缶を飲み干し床に転がしたその刹那、時間が止まった。

ヒソカ「………………!!!!!!!♥」

お互いの実力を本能で感じ合った二人、見つめ合う、船がドーレ港に着いた時から恋い焦れていた香りの正体がそこにあった。この世界に来て対面する初めての実力者。それもそうそう出会える事がない程の最高級の相手だ。実力はもちろんのことなのだが、それ以上に勇次郎はヒソカから奇妙な雰囲気を感じていた…

好敵手を見定めた2人は視線交錯するその空間の中でニヤリッと微笑み合っていた。

トンパ「でわ、失礼致しますっ!!」

もの凄い早さでトンパがその場を離れていった。

それを合図にするかのように立ち上がる勇次郎、既に臨戦態勢に入っている2人。
その時であった…ニヤリッと微笑む勇次郎の表情がみるみる内に硬直してゆく、先ほどまで発していた殺気が瞬間ゆるんだ。だがヒソカはそれでも警戒を怠らない。

なぜなら勇次郎を既に強者として認めていたからだ。だが…様子は違ったようだ。先ほどの緊迫感が嘘のように薄れて行く様をみて、勇次郎が既に別のモノと戦っていると理解した。

ヒソカ「残念…♥また今度だね…♦」

言い残し去ってしまった。
だがそれどころではない…人として、大人として…最も危険な緊急事態だ。
最も勇次郎にとってそういった概念があるかどうかは甚だ疑問ではあるが、バキの世界では圧倒的な力で地上最強の生物として君臨しているこの漢が大便を漏らすという事は死活問題であった。
偉そうに息子に恋愛や食事のマナーについて話した所で、「でもお前ウンコ漏らしてんじゃん!」その一言で全てを否定される。
偉そうに自身の闘争に関する心構えや思想を説いた所で、「でもお前ウンコ漏らしたんでしょ?」その一言で全てを否定される。

強烈な下痢、その状態を年に一度は体験する、ある高名な人物を著者は知る
本人の希望により名前は伏せるが、その人物曰く、本当に強烈な下痢対しての対策は一切ないと断言出来る。
そう語尾を荒げてはっきりと言う。近くに便所がない場合はもうその時点で全てが終わっていると。襲い来る強烈な腹痛、ノックの音を響かせ、いつ扉を開けるとも解らぬその悪魔に素手で太刀打ちするのは不可能であると…
勇次郎は戦っていた。大人だから、大人だから、自分は大人だから、そんな事を思考しているかどうかは定かではないが直立し、顔の筋肉は硬直して血管を浮かび上がらせている。溢れでる脂汗、ノーガード状態で連打されるボディーブロー、それを全て気をつけの姿勢で耐えている。

先ほどまで目の前に居た極上の獲物の事などもはや考えることすら出来ずに生唾を飲み込む

そして…残酷にも時は来た…この日一番のノックの音が体内で響いたのであった…
勝負ありッッ!!!誰もが終わったと、そう思える状況

だがッッ!!!!大惨事は起こらなかったーーーァァッッ!!

否ッッッ!!

起こさなかったッッ!!

トンパ曰く、1口も飲めば3日は土石流みたくうんこが止まらない。
大切な事なのでもう一度言おう、1口も飲めば3日は土石流みたくうんこが止まらない。それをこの漢は48本も飲んだのだ。地上最強の生物としてのプライド、息子への威厳、様々な事を考えたかどうかは定かではないが、この地上最強の生物は己の持つ一番信頼出来る武器。
肉体という最強の武器に裏切られるということが許せなかった。そしてその裏切りに打ち勝つ術は肉体でしかない。

肛門の括約筋に己が持てる最大の筋力と神経を注ぎ、力を込めた。

ダムの決壊を己が絶対的に信頼出来るその筋力で塞き止めているのであった。

ゴン「あぁ!!おじさ~~ん!良かった!おじさんも会場に着けたんだね!」

勇次郎の胸元に着けられた315番のプレートを確認したクラピカとレオリオは、ゴンを強引に連れ戻し、愛想笑いをしながら後ずさりをした。勇次郎の状態を理解した訳ではないが空間が歪む程の異常な殺気に今は関わるべきではないと判断したのだった。

勇次郎にゴンの声は届いてなかった。今はただただ括約筋に全ての神経を注ぎ耐えるのみである。


ジリリリリリリリリリリリリリリリリ

けたたましい音でベルが鳴り、ベルの持ち主の鼻下にダリのようなユニークなヒゲを蓄えた紳士的な初老の男性が話を始めた。

「ただ今をもって、受付時間を終了いたします」
「ではこれよりハンター試験を開始致します」

名をサトツという一次試験担当官。もちろん、ライセンスを持つプロのハンターだ。
一次試験は二次試験会場までこのサトツに付いて行くこと。場所や到着時刻は伝えられず、ただただサトツについて行くというものだった。ペースがグングンとあがっている。
さしずめマラソンのような状況だ。持久力はもちろんのこと、どこまで走ればいいのか解らない心理的負担、精神力も試されるような試験だった。それプラス、いつになったら収まるのか解らない最強の敵である便意、常に括約筋に全力で力を入れている勇次郎は一言ぼやいた


「おもしれぇ…」


大丈夫なのか勇次郎ッッッッ!??下痢のままハンター試験開始ッッッッ!!!


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HANMAR×HANMAR♯6

「坊や……待ちなさい…」

 

年の頃はゴンと同じくらいであろうか、短パン姿でスケボーを抱え、99番のプレートをつけたツンツンとした銀髪とツリ目の大きな瞳が印象的な少年はキルア=ゾルディック。実はこの少年は伝説の暗殺一家ゾルディック家の三男である。

 

この年齢でハンター試験を受験するというだけでも特別だという事が理解出来るがキルアはもっと特別。いや、特殊な少年だった。生まれた時から暗殺の英才教育を受けており、実際に人を殺めた経験も持つ。特殊な生活環境のせいか年の割に表情にどこか冷たい印象を受ける。ハンター試験を受験したきっかけは、ものすごい難関と言われているから面白そうだと思った。という単純な好奇心であった。

 

「待ちなさい…」

 

幻聴??そう思うより鮮明に、はっきりと声が聞こえた。

その声が自分に向けられていると確信した時に振り返ったキルアはそれを後悔することになる。

 

そこには血走った眼で鬼のような形相をした中年のオッサンが気をつけの姿勢でプルプルと震えていた。

 

現実の世界であれば、すぐにお巡りさ~ん!と交番に逃げ込まなくてはならないような状況であるのだが、ここはハンターハンターの世界、勇次郎からどこか父親に似た威圧感を感じてしまい、蛇に睨まれた蛙のように動けなくなり、手招きをする勇次郎に引き寄せられるように距離をつめていく

 

 

勇次郎「それを貸しなさい…」

キルア「それってこのスケボー??」

勇次郎「貸しなさい…」

キルア「ここに置いておくね、じゃあオレ急ぐから!」

 

勇次郎の脇にスケボーを置き、目的は自分ではないと安堵の表情を浮かべ、そそくさとその場を立ち去った。

 

(あのオッサンはマジでヤベーな…)君主危うきに近寄らず。特殊な環境で育ったキルアは勇次郎の危険性を一瞥しただけで察知し、年齢の近そうな少年が前の方に居たので、キルアにとって勇次郎というダークホース以外は至極退屈なこの試験の暇つぶしと先ほどのやりとりで高ぶった気持ちを鎮める為に一緒に行動することにした。

 

 

ーーーーーー80km地点ーーーーーー

 

(バカな!!バカな…!バカな…!バカな…!

 

そんなバカな!!オレにかなう奴なんて一人もいなかった、勉強も!スポーツも!!全てトップだった!!オレ以外の人間なんてただのクズ!!オレに利用されて捨てられていくだけのガラクタだったはず!!)

 

今まで自分の思い通りに世界が回っていた187番のニコルは産まれて始めての挫折を味わっていた。

新人がここまでこれて、しかも急遽始まった耐久レースの80kmまで走れたのだ。十分に賞賛に値する結果であったのだが、後に涙ながらにこう語ってくれた。

 

きっと死ぬまで忘れることなんて出来ないですよ…え?何がですって?声ですよ声。こう見えても体力には自信がありました…でも、もう限界なのかなって…エフッエフッエフッ…って今でもその声はずっと耳に残っていて…えぇ…たまにうなされますよ。

 

後ろの方から何か気配を感じて少し振り返ってみたんです…信じられますか…?眼なんか真っ赤に充血させて…あれ筋肉なんですかね…?顔が強張っていました…鬼のような顔をした男です。その男がこう…なんていうんですか、こう…床をクロールするように物凄いスピードでオレを追い抜いていったんです、これ、本当なんですよ。

 

追い抜かれた時にお腹の下にスケボーを置いているんだって気がついたんですけどね…あの男はスケボーを使っているとは言っても腕の力だけですよ?足なんかピンッって綺麗に真っすぐ浮いてました…あの姿勢ってやってみたら解ると思うんですが、腹筋や背筋、大腿筋に物凄い負荷が掛かるんですよ…

 

その状態で80km…しかも笑いながら、あぁ…いるんだなって、鬼みたいな化け物はいるんだって…来年ですか?受けませんよ…あんな化け物がいるなんて知ったら自分の事がとてもちっぽけな人間に思えてしまったんですもの…

 

 

禁じ手ッッッッ!!範馬勇次郎ッッッ!!

 

 

「見ろよ」

「おいおい」

「マジかこりゃ」

 

不安を口にする受験生の視線の先には一体どこまで続いているのか解らない巨大な階段が上に向かって伸びていた。そして後方からも声がする

 

「おいおい、なんだこいつは」

「あぶねぇ!!近づくな」

「避けろ避けろ、顔がイッちまってる!」

 

後ろの話題を掻っ攫っていたのは、ご存知、範馬勇次郎、その人であった。

少しでも気を緩めたら、ナイアガラの様にあたり一面をうんこの海にする大惨事を引き起こし兼ねない緊迫した状況は続いている、肛門の括約筋に対して己の持てる最大筋力を導入している勇次郎であったが恐ろしいことに時間の経過により、心なしか表情が穏やかになったように見える、いや気のせいか…

 

だが目の前にそびえ立つ大きな階段を前にいくら勇次郎といえども、心の拠り所としいたそのスケボーは足枷にしかならない。

 

勇次郎「ありがとよ…」

 

キルアを見つけると、プルプルとどこか寂しそうに借りたスケボーを返す

 

ゴン 「おじさん!良かった、おじさんもここまで残ってたんだね!」

クラピカ「もしや…あのような姿勢でここまで来たということは足を負傷したのではないか?」

ゴン 「え?おじさん、大丈夫??」

 

真面目なクラピカは医者志望であるレオリオに診察をするように促す。

レオリオも勇次郎に対する恐怖心はあるが相手が患者であるとなると話は別である、それに苦悶の表情も気になっていた。勇次郎はスケボーから降り、再度気をつけの姿勢のまま、小刻みにプルプルと震える。

 

 

勇次郎 「構わん、先に行けッッッッ!!」

レオリオ「先に行けってあんた、見るからに平気な状態には見えないぜ?」

 

(邪っっっっっっ!!!)と大声を出して、皆を威圧したい勇次郎であったが今はそれが出来ない…

 

キルア 「もしかしてオッサン…」

 

伝説の暗殺者として両親からや祖父、曾祖父からもその才能には太鼓判を押される程の才能を持ったキルアは、勇次郎の主に肛門の括約筋に物凄い緊張が走っていること、発汗の量や質から便意を堪えているのではないかと持ち前の観察眼と勘の良さから察したようだった。

 

キルア 「なぁ、そこまで言うならオッサンの足に何か問題がないか階段を少し上がってみてよ」

 

イタズラっぽく、みんな心配してる事だしさぁと勇次郎に促す。こういう時の表情はまさに年相応に見えるようだった。

 

ゴン  「そうだね!別に問題がないなら俺たちも先に行くから、痛い所とかないのか証明して!」

クラピカ「私もゴンと同意見だ」

レオリオ「医者としてそれが出来ないと許可は出せないぜ」

 

(貴様まだ医者ではないであろうッッッ!!)とレオリオに対して声を張り上げたかったのだがそれも出来ずに階段と対峙した…大人だから…大人だから…必死に笑いを堪えているキルアを、後にどのように料理してやろうかと睨みをきかせようとしたその時、範馬勇次郎に光明が走るッッッ!!!

 

風…突風が吹いた…自身の世界では己の我がままを貫きとおすという事で強さの証明としてきたが

この世界はまた違った世界、そしてこの未曾有の緊急事態ということもあり、己の持つ思考を最大限に巡らせた、その間、時間にして僅か0.2秒。

 

 

ざわざわ…ざわざわ……

 

 

勇次郎「久しぶりに使ってみるか…」

 

口元に少しだけ笑みを浮かべた勇次郎はゆっくりと息を吐き、歩を進めた。

 

勇次郎「どうだ貴様らッッッ!!なんなら俺が先を行ってやるぜッッッ!」

キルア「まさか、肢曲!!?」

 

水を得た魚のように独特の歩法で得意げに階段を駆け出した勇次郎を見て、キルアが口走ったが、その動きはキルアが知っている肢曲とは少し違っていた。大の大人が人前で大便を漏らす様を見てみたかったキルアは少し悔しそうな顔をして、三人と共に階段を駆け出した。

 

勇次郎はコツを掴んだのか、物凄い早さで階段を上っており、気がつくと既に試験官であるサトツのすぐ後ろをキープしていた。先ほどまで便意に生涯で唯一の敗北を期そうとしていた勇次郎に何が起こったのかというと、試験官でありプロハンターのサトツが解説をしてくれた。

 

サトツ「ほほぅ、御殿手(うどんでぃ)ですか」

勇次郎「ふ…よく勉強してやがる」

 

サトツが言った、御殿手(うどんでぃ)というのは琉球王家の長男のみに継承をゆるされた王家秘伝の武術であった。最大の特徴である歩法は天下無敵と言われ、正中線を維持したまま左右の揺れは一切なく、ゆえに打込む隙は皆無!敵は無謀な攻撃を強いられることになる。

 

サトツ自身もジャポンという小さな島国に関する古い書物でしか読んだことがなかったので実物を見るのは初めてである。しかもその難しい歩法を階段で行うなど…この男の体術のレベルに驚嘆していた。

 

ただ驚く事はそれだけではない、勇次郎が行っているのはただの御殿手(うどんでぃ)ではなく、肛門の括約筋に極限まで力を込めながら行っている御殿手(うどんでぃ)なのである。

 

本来であれば相手に打込ませ、その隙を天下無双のカウンターで持って相手を蹂躙する為の奥義であったのだが、正中線を一切の揺れなく維持しながら歩みを進める歩法に勇次郎はこれこそ、便意を我慢する際の最善の歩法であると、永い、永い歴史のある御殿手(うどんでぃ)のその先を見たのであった。

 

(俺に技を使わせやがったッッ…)

 

そう驚嘆する程の強敵を自身の身に宿したまま。勇次郎は闘争を続けていたがそうこうしている内に光が見えてきた。やっと開けた場所に出たようであった。

 

 

その手があったか勇次郎ッッッッッッ!!!!

 



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HANMAR×HANMAR♯7

◆ヌメーレ湿原◆

 

通称’’詐欺師の塒’’この湿原にしかいない珍奇な動物達、その多くが人間を欺いて食料にしようとする狡猾で貪欲な生き物である

 

二次試験会場へはここを通って行かねばならないようだ。サトツが言っただまされると死にますよという言葉の意味を湿原に入り、その一生を終わらせる瞬間に初めて理解した受験生も多い事であろう。

この湿原の生き物はありとあらゆる方法で獲物を欺き補食をしようとする。

標的を騙して食い物にする生物達の生態系…それこそが詐欺師の塒とよばれるゆえんであった。

 

実際にこの湿原を通り二次試験までたどり着くことが出来た受験者は148名でスタートから三分の二程の受験者の多くはこの湿原でリタイアをすることとなった。

 

すぐ前を走る受験生の姿が霞む程の深い霧に包まれた湿原には狡猾な捕食者が多くいた。

 

背中に群生するヒトの姿に似た苺を使い霧で迷いこんだ人間を襲う巨大な亀や、地中に姿を隠し大口を開けて獲物がその上を通るのをひたすら待つ生物、不思議な飛び方で獲物を眠らせ生きたまま幼虫の餌にする催眠蝶など、多くの詐欺師のような生物が受験生の夢と命を狩りとった。

 

そして、深い霧に紛れて一人の漢が動き出すッッッ!!!

 

シルエットからも読者に存在を解らせてしまうその漢ッッッッ!!曰く、地上最強の生物ッ!曰く、オーガッ!!範馬勇次郎、その人であった。

 

やっと地下道から外にでることが出来た勇次郎は、すぐに人ゴミを離れ、なさねばならぬこと、排便を行える場所を探していたのであった。

 

起死回生の浮殿手(うどんでぃ)の歩法も既に限界を感じ始めていた。

 

そしてもう一人…霧に乗じて多くの受験者をトランプを使いまるでそれを鋭利な刃物のように操り、殺戮を楽しむ男がいた。

 

44番の奇術師ヒソカである。

 

眼にも留まらぬ早さで、確実に息の根を止める事ができる急所を最速で最短に切り裂いてゆく、その動きに一切の無駄はなかった。そして、気がつくとその毒牙はいつの間にか列から逸れてしまっていた、レオリオとクラピカにも向けられた。

 

気が狂っている…そう思わせる程の大きな笑い声をあげ、「君ら全員不合格だね♦」 

 

試験官ごっこでもしているつもりであろうか?地面に倒れる受験生に対して言い放つ、その場に立っていたのはヒソカを除く三名

 

403番のレオリオ、404番のクラピカ、78番の武道家チェリー、

 

無知な子供が蟻を潰すかのように受験生と戯れていたヒソカであったが、その三名の命も奪おうと78番のチェリーの頸動脈を切り裂いた。次はどちらにしようかな?などと考えている所に

 

ゴソゴソ…ゴソゴソ…

 

茂みをかき分けてその場にやってくる何かの気配を感じて手を止めた。

その茂みから出てきたのは今まさに排便をする為のベストポジションを見つけ、一張羅を脱ぎ捨て、全裸でファイティングポーズならぬ排便スタイルをとろうと、浮殿手(うどんでぃ)を解除しようとしていた、範馬勇次郎、その人であったのだ。ファーストコンタクトから勇次郎に惹かれていたヒソカは大方の状況を理解していたので、股間をパンパンに膨らましながら

 

ヒソカ「君とは万全の状態でお手合わせ願いたいね♥うん、君たちも合格♥」

 

万全の状態というと今の勇次郎とヒソカの状況からしたら別の意味に聞こえてしまう。

どうやらヒソカは好敵手となると男女関係なく興奮を覚える生粋の変態ピエロだったようだ。ギンッギンッッに膨らました股間を一番楽なポジションに据えると、電話を片手に二次試験会場へと向かってゆく

 

戯れに時間を割き過ぎてしまい、視界に試験官のサトツの姿を捕らえることは出来なくなっていたが、どうやら受験生の中に知り合いが居るようだった。

肛門括約筋に全てのステータスを振っている今の勇次郎ではなく、万全の状態で本気で戦いたいという生粋の変態ピエロ、いや、戦闘狂ヒソカ。天才的とさえ言える身のこなしと、叩き付けられた殺気の凶暴さに、助かったとばかりに胸を撫で下ろすクラピカとレオリオは勇次郎の登場に心底感謝した。

 

レオリオ「はぁ~助かったぜオッサン!あんたが来なかったら俺の人生ここで終わってたと思うぜ!けど何で全裸なんだ?」

 

クラピカ「まるで生きた心地がしなかった。私からも礼を言わせてくれ、だが、なぜ全裸なのだ?」

 

人は見かけによらないぜ!と信頼の証のように勇次郎の肩に腕を回そうとしたレオリオであったが、先ほど向けられたヒソカからの殺気とは比べ物にならない程の凝縮された殺気を感じ取り素早く距離をとった。いつ如何なる衝撃に備え得るだけの覚悟で括約筋に力を注いでいるが、事前に避けられる衝撃は少ないに越した事はない。

 

勇次郎はただ排便をする為のベストポジションを探していた所にたまたま居合わせただけであったのだが、結果としてこの2人を救ったような状況になってしまい、戸惑っていた。ましてや早く二次試験会場まで行こうぜ!とばかりにハリーアップを促すレオリオに殺意すら芽生えていたが、今は便意しか湧かない。

 

プルプルと震えながら、細心の注意を払いつつ一張羅に身を包んだ。人前で便を垂れるなどという愚行は範馬の名を背負うものとして絶対に起こしてはならないのであった。

 

しぶしぶ、再度、力を振り絞りながら浮殿手(うどんでぃ)でヒソカの匂いを辿り会場へ向かう。

レオリオとクラピカはこの最強の助っ人について行けば何も怖いものはなく、二次試験会場につけると確信していた。そうこうしている内に、多くの受験生の姿が見えだした。

 

ずいぶんあっけなく二次試験会場に到着したレオリオとクラピカの姿を見つけると駆け寄るようにゴンが笑顔で走ってきた。

 

その時、括約筋に力を入れながら、勇次郎は異なる世界にいる息子の事を考えていた。

 

 




「~~~~~ぁぁっっ」

勇次郎が父親としての尊厳と一触即発の攻防を繰り返していた、その頃。
地上最強の生物という偉大すぎる称号を持つ範馬勇次郎の息子。

範馬刃牙は大口を開け、欠伸をしていた。

皆の記憶にも新しい、あの日行われた地上最強の親子喧嘩、親子喧嘩と呼ぶにはスケールが大きすぎた。どの家庭と比べても、規模、水準、その全てが最高レベルのそれを終えた刃牙は抜け殻のように日々に辟易していたのであった。

戦闘中でも、食事をしていても、最愛の人を抱いているときにだってそう。

こみ上げた欠伸。

この欠伸を誰か止めてくれ…そう願いながらひたすらトレーニングにて己の身体を苛め抜く日々。
あの日以来、勇次郎の姿を見ていない。時折、異常とも言える程の親バカ振りを発揮したりもするが、普段から父親甲斐のある人物ではなかった為、何の疑問も感じずに日々の欠伸に耐えていた。

それは刃牙だけではない、本当の意味での強者と言われる漢達は表の世界でスポットライトを浴びているプロの格闘家ではなく、徳川家十三代目当主で日本では屈指の権力と財力を誇る、徳川家の末裔の老人が所有する東京ドームの地下格闘技場で日夜行われる熾烈な戦いの為、ここ日本に多く集まっているのであった。

こちらも記憶に新しい、最凶死刑囚達が敗北を求めこぞって日本へ訪れたのもその為であった。
その際に徳川氏に指名された地下闘技場戦士の刃牙を含めた5人。

世界最大の勢力を誇る空手道団体・神心会空手の総帥 「虎殺し」「人食いオロチ」などの異名を持つ、武神 愚地独歩。

実戦合気柔術「渋川流柔術」の開祖。近代武術の最高峰とまで言われる。達人 渋川剛気

若干15歳で五代目藤木組系暴力団花山組二代目組長に就任した、素手喧嘩(ステゴロ)の天才。喧嘩師 花山薫

中国武術界における高位の称号「海王」を受け継ぐ 中国拳法の達人。 魔拳 烈海王


この者達もまた刃牙同様に欠伸をかみ殺しながらの日々を送る毎日であった。
刃牙はいつものように自宅の地下室でトレーニングをしていた。仮想、対、範馬勇次郎戦を想定したイメージトレーニング。イメージは現実となり次第に見えてくる父親の姿。

表情までは見えないがそこにはまさしく地上最強の生物、範馬勇次郎がそこにいた。

小細工は一切なし、お決まりのファイティングポーズから高速での左ジャブを放つ、拳が届くより先に刃牙の視界が真っ暗になる。撃ち込む前に勇次郎の張り手が刃牙の顔面に叩き付けられていたのだった、状況を把握するより先に吹き飛ばされ身体は壁に打ち付けられた。ダメージの大きさから精神が乱れたのか勇次郎の姿は消えてく。

既に何時間経過しただろう、トレーニングの締めはいつもこれ、勇次郎を相手にスパーリング。

絶対的強者の父に一矢報いる為、刃牙の中でこの幻影の父はいつしか実力以上の実力を持ってしまっているのかもしれない…

ストライダム「精がでるな…」

地下へ続く、はしごの上から覗き込むように大柄な白人が刃牙に声を掛けてきた。この白人は勇次郎があちらの世界に行った時に一緒に居た人物だ。

ストライダム「呼び鈴を鳴らしたんだが、応答がなかったので悪いが上がらせて貰った。」

刃牙    「キャプテンストライダム!お久しぶりです!」

ストライダム「トレーニング中に悪いが、少し上がってこれるか?」

ペットボトルの水をガブガブと飲みながらハンドタオルで汗を拭き、ストライダムに日本茶でもいいっすか?と健気に接待をする。かまわんでくれと、既にちゃぶ台を前に座しているストライダムは刃牙にも座るように促した。

こう畏まった場はあまり好きではない刃牙は欠伸をかみ殺しながら座した。
とても言い難い事なんだが…とストライダムは勇次郎が今どのような状況にあるかを刃牙が理解出来るように何度も丁寧に説明をした。ストライダムと勇次郎の関係性は世間一般の親友という括りからは大きく逸脱してはいるが、地上最強の生物とまで言われている者の感覚が一般とかけ離れているのは仕方ない、形は違えども親友と言って良い関係なのだろう。

複雑な心境ではあるが、友として親友の願いを聞き入れたという大義名分はある。
地上最強の生物という異名を誰よりも誇らしく思っていたのは刃牙と同等とも言ってよい。だから勇次郎には常に闘争を求めていて欲しかった。だが…息子の立場となった時にはそれは違うだろう、ましてやその息子は勇次郎を超える為に産まれた時から日夜トレーニングをしているのだ。帽子を脱ぎ刃牙に向かい、額を畳に擦り付けた。米国では馴染みの薄い、土下座である。

日本では最上級の謝罪を意味するこのポーズをプライドの高い米国人のストライダムが行っている意味を考えて欲しい。

ストライダム「スマナイ、本当にスマナイ」

刃牙    「ちょっと待ってくれよ!そんな土下座なんて辞めてくれ」

自分が止めていたら…自分が止めなかったから…ストライダムが泣きながら刃牙に頭を下げ続ける。
立ち上がり狼狽する刃牙であったが辞めさせようとしても辞めないので、深い溜め息をついて、再び対面に胡座をかいた。

数分経過しただろうか、頭を上げないストライダムに対して刃牙が放った言葉は意外であった。


刃牙    「羨ましいぜ……」
ストライダム「ワット……???」

刃牙が欠伸をしながら放った言葉は罵声でも怒声でもなく羨ましいの一言であった。この場に来ると決めた時からストライダムはなぜ止めなかったと、殴られることさえも覚悟していた。批難も全て受け入れようと。そう思っていたので虚をつかれ顔を上げてしまう。

ストライダム「帰ってこないかもしれないんだぞ…?もう会えないかもしれない…」

刃牙    「でもそれはオヤジが望んだこと、あんたが謝ることじゃない」

ストライダム「いや…しかし…私が口を滑らせなければこんなことには…」

刃牙    「一緒だよ、一緒。」

ストライダム「一緒とは…?」

刃牙    「あんた、あいつを誰だと思ってんだ?地上最強の生物だぜ?他の世界があるって知ったらそれはそっちでも地上最強の生物にならないと可笑しいだろ。」

ストライダム「確かに…」

刃牙    「遅かれ早かれ、オヤジはそこに行ったと思うよ。研究所をぶっ壊してでもね」

      「それに帰って来れないって決まった訳じゃないんだろ?タイマーで1年後だっけ?アイツは殺しても死にはしないよ」

ストライダム「確かにそうだ。あの漢がそう簡単に死ぬわけはない。悲観的な事ばかり考えてしまった。1年後に帰ってくる可能性もある」

父親に関して話をしている刃牙はどこか誇らしげであった。心配など微塵もしていないのは虚勢かまたは私に気を使っているのか…幼い頃から知っている刃牙に殴られることまで覚悟して話をしに来たのに、慰められる始末…友の息子の成長を密かに喜んだストライダムだが

次の瞬間言葉を失うことになる。

刃牙    「行く、俺も行くよ。」
ストライダム「ワット……???」

父親がその世界に居るなら、自分もそこに行く。なにか可笑しいことでも言ったかい?という表情をする刃牙に対して、必死の説得を試みるもそれは無駄となる。先ほどは謝らなくていいと言っていたのに早速、手の平を返して捲し立てる、範馬の血を色濃く受け継いだ若干18歳のこの少年に、オヤジが良くて俺がダメっていうのは可笑しいだろと難癖を付けられる。

ここまで来ると脅迫に近い。ましてや原因は自分にある…そこを責められるともう手に終えない。

絶対にこの少年は譲らないだろう。だがそれ以上にまだ見ぬ世界の強敵に目を輝かせている節もある。


ストライダム「血は争えんな…」

そう笑うと、先ほどまで欠伸を噛み殺していた刃牙の表情が変わったッッ…!!!
瞬間、汗が吹き出るッッッ!!!

異常とも言える新陳代謝を誇る刃牙であったが、座している場で急に汗が吹き出ることはない…これはトレーニングで掻く汗とは質が違う。瞳孔が開ききった刃牙は呼吸を整える為の息吹をした。

最初は何か自分が失言でもしてしまったのかと思って焦ったストライダムであったが、どうやら原因は他にあるようだ。


そして…



PIーーーーー!!PIーーーーー!!!!!


ストライダムの専用の携帯電話、緊急連絡ブザーが刃牙の部屋に鳴り響く



刃牙の欠伸は止まっていた…


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HANMAR×HANMAR♯8

◆ビスカ森林公園◆

 

 

ここが二次試験会場となる、湿原を抜けた先にあるこの場所の少しだけ開けた森の中に小屋があり、その入り口に大きく

 

「本日 正午 二次試験スタート」と書いた看板が掲げてある。

 

小屋の中からはなにやらけたたましいうなり声のような音が聞こえてくるが、正午スタートと書いてあるので皆、警戒はしながらも時間が来るのを待っていた。残った受験者はここまでで148名となっている。

 

時間になると扉が開き、中には2人。一人はこのうなり声の発信源、大柄な身体のお腹から音を鳴らす美食ハンターのブハラ。

 

もう一人、ブハラの前のソファーに座る、少し特殊な5本角を生やしたような髪型をした女性。彼女もまた美食ハンターでメンチという名前らしい。この2人が2次試験の試験官のようだ。

勇次郎は気がついているだろうか?この世界の女性は勇次郎の居た世界の女性と比べるととても可愛らしい。

 

是非とも、ここにも範馬の種を蒔いて欲しいものだ。

 

メンチ「二次試験は料理よ!美食ハンターの私達を満足させる食事を用意してちょうだい!」

 

まずはブハラの指定する料理から2次試験がスタートされた。メニューは豚の丸焼き。ここビスカ森に唯一生息する世界で最も凶暴な豚。グレイトスタンプを倒して焼く。この試験内容を聞いた受験生は一斉に森の中で掛けていく、ゴン達一行もそれに続く。

 

だが……ッッ!!!この漢だけは違っていたッッ!!

 

先ほどクラピカとレオリオ、2人と共にここ2次試験の会場へ来る途中に小川を見つけていたのだ。受験生が森の中に向かう中、この漢だけは浮殿手(うどんでぃ)でその小川へ向けて歩を進めていたのだ。

 

そして、ついに、その時は来た。

 

やっとの事で一人になり、そして最高のポジションで開放のカタルシスを迎えられる。

だが百戦錬磨の勇次郎であったがここで誤算があった……便意を我慢している時に一番気をつけなくてはならない事、気の緩み。それが一番起こり易い瞬間とは便所を見つけた時である。

 

安心してしまうのだ…それは心ではなく身体がそう理解してしまっている事…

小川は便所ではないのだが勇次郎からしてみれば既にここにたどり着くまでにもう便所はこの小川であると刷り込みがなされている。

 

ここまで来て、本日2回目の大きな波が勇次郎を襲うッッ!!小川までの距離はあと6メートル。もはや周囲に人の気配はない。浮殿手(うどんでぃ)を解除し、たったの一歩で距離を詰める…だが…

 

2つ目の誤算ッッッ!!!!重力が軽いこの世界では勇次郎が居た世界同様に踏み込むと大きく目算を誤り大きく小川を飛び越えてしまった。まだ身体が慣れていないようだ。

 

勇次郎「ヌウンッッ!!!」

 

今度は自らの腕力で左手で左、右手で右の尻を押さえ込む。

ただ、ただ、自らの腕力で挟み込むようにしながら飛び越えた小川まで細心の注意を払い歩を進め、川の水に両足をつける。勝利を確信し両手を解放!!!

 

だが、その時ッッ!!

 

 

3つ目の誤算ッッッ!!!

 

安心した勇次郎は忘れていたのだッッッ!!まだ服を脱いでないッッッッ!!

 

脱いでいる暇はもうないッッッ!!!大切な一張羅を汚すのは範馬の名折れッッッ!!

 

悪魔達は入り口から既に顔をだしている、その頭が勇次郎の一張羅に付着するより早く勇次郎は動いた。

 

 

「フンッッッッッッッッッッッ!!!!」

 

指で丁度、肛門の部分にだけ穴が空くように、大切な一張羅を破ったのだ。

 

それと同時に

 

 

糞ッッッッッッッッッッッッッ!!!

 

 

物凄い勢いで土石流のように流れ出、溜まりに溜まった物が小川に放たれる。

 

勇次郎の体重は100KGは超えているがその身体をふわりと浮かす程の勢いであった。強引に筋力のみで押さえていたぶん勢いも増している。脱水を避けるため、前屈みになりまだ汚れていない上流の水だけを飲む。臀部は下流に向け、上流からは水を飲む。丁度大型のネコ科動物が、獲物を前にした時のような姿勢だ。

 

この姿勢でしばらく、飲んでは出し、飲んでは出しを繰り返し波を凌ぐ事に成功した勇次郎の顔はとても晴れやかであった。とりあえず次の波が来るまではもう安心していいだろうと思うところまで出し切ると、お尻を素手で洗い小川を後にする。

 

肛門に開けてしまった穴には胸に付けていた315番のプレートを付けて見事に隠した。

 

 

「これで良しッッッ!!!」

 

 

油断は出来ないが既に一度出し切ってしまった勇次郎は目の前を通りかかったグレイトスタンプを蹴り上げ、丁寧に焼き上げブハラの元へ向かった。

 

 




(いてて……足がしびれてきた…なんで…なんで私が怒られているのかしら…私は1つ星ハンターの称号だって持ってる将来を期待されている天才よ!?
でもこの漢に逆らったらどうなるか…サトツが言ってたわね…ずっと「堅」を維持しながら付いてきていた漢がいたって…、

でも違うじゃないっ!!

こいつが行っているのは「堅」じゃないわ…垂れ流じゃない…ただこいつの状態はそんな生易しいものじゃないわ…だだ漏れよ…だだ漏れ!!!

あのおじさんも耄碌したものね。オーラを体内に留めることさえできていないヒヨッ子じゃない…でも…垂れ流しの状態でここまでのオーラの総量って…化け物じゃないのよ…!!!だいたいなんでお尻にプレートを付けてるの?この漢は普通じゃない…)

念とは身体から溢れ出す生命エネルギー・「オーラ」を自在に使いこなす力のこと。
あらゆる生物がオーラを持っているが、それを使いこなせる者はごくわずかに限られる。

常識では考えられない力を発揮できるため、念能力者は一般人から天才や超人として特別視されている。またある分野で突出した力を持つ人物が、本人も自覚しないまま念能力を使っているケースも多く、修行次第では誰にでも習得が可能である。その為、悪用される危険があるので念の存在は一般人には秘密となっているのであった。
ただしプロハンターには相応の強さが求められるため、念の習得は必須となりハンター試験に合格した者のみ習得を義務付けられている。

今年、二次試験の試験官を任されたメンチが先ほど言っていた「堅」とは念の応用技。
心源流の念の基礎「四大行」の「纏」「絶」「練」「発」その中の一つ「練」の状態を維持することだ。
全身を通常よりも遥かに多いオーラで覆うため。防御力の強化に利用する。念の達人同士の戦いには必須とされる技術であり、その持続時間は勝敗を大きく左右するとも言われている。

通常の状態で体の精孔も開かれていない勇次郎はサトツが「堅」を行っていると見間違う程のオーラを常に垂れ流していたのであった。

正座をさせられている2人の前に立つは、範馬勇次郎。
排便を終え、ブハラに豚の丸焼きを提供した際に言い放った。

勇次郎「これだけの人数を前に食事をするとくれば和・洋・中を問わず、ジャケットの着用は必須ッッ!!!まして貴様はハンターの見本ともなろう試験官であろうッッッ!!」

ゴン達一行がブハラの前に並べた豚の丸焼きを食べているところで言い放った。

そこから説教が続き、ブハラとメンチは平謝りを続け、仕方なくジャケットを着用した…もう食欲を失くしていたブハラの試験はそこで終了、ブハラは腑に落ちない顔をし、しびれる足にしかめっ面をしたメンチは自分の試験の説明に入った。

メンチの出すメニューは「スシ」ヒントとして、小屋の中に案内しながら、必要な器具やスシに必要なごはんは用意したという。そしてスシはスシでもニギリズシしか認めない。

多くの受験者はスシというものを知らない。恐らくはこの状況とメンチが出したヒントの中でスシというものを推測する観察眼などを試す試験であろう。

そして奇しくもここに、寿司を自らの国の伝統料理として持つ漢の存在が2名。
受験番号315番の範馬勇次郎と294番のハンゾーであった。

ハンゾーはこの世界ではジャポン呼ばれる小さな島国の忍者であった。忍法という特殊技術を身につけるため、生まれた時から様々な厳しい特殊訓練を課せられてきた。18歳にして雲隠流の上忍にまで昇りつめたその実力は今年の試験ではトップクラスである。世界は違えどジャパンとジャポン。そして忍や寿司などある程度はリンクしている部分もあるようだった。

ハンゾーはニギリズシに必須となる寿司のネタ。魚を捕獲するべく近くの小川に向かう。
先ほどのブハラと同様にメンチがお腹一杯になったら試験が終了ということならば急ぐに越した事はない。もっともブハラはまだ食べることは出来たが勇次郎の出現で食欲を失ってしまったのであったが…

他の受験生が目の前にある調理器具やお櫃に入ったごはんとにらめっこをしている様子を笑いを堪えながら悠々と通り過ぎていくハンゾー。先ほどの試験官とのやり取りを見て警戒対象となった勇次郎から距離をとるように迂回して出口に向かおうとしていたが、その佇まいや所作の美しさに、足を止める事となる。

いや、ハンゾーだけではない。残った70名程の受験生、そして試験官の2人でさえも受験番号315番の勇次郎に目を奪われてしまった…。

佇む漢のその手に突如現れた、魚。幻覚ではない。誰の眼にもそこに魚が現れた。

地上最強の手が慣れた手つきで捌く、包丁で筋目に対して直角に切る。

用意された米があるにも関わらずそれを使わずに空間で実演する。ある筈もない炊飯器の蓋をあける。

確かに実在しない。そこから掻き回す、しゃもじ。酢、砂糖、塩を最高の配分で米に垂らしてゆく。

手を濡らし、素早くそこから米をひと握り、船底型に作った米にわさびを塗込みネタを乗せ、また握る。

ネタに体温が移らぬよう、丁寧かつ素早く、そしてお皿に乗せた完璧な寿司。

そこに寿司は存在しないのだが、誰の眼に見てもそこには米を一口サイズの長方形に握りその上に、わさびと魚の切り身が乗せられた料理が実在するのを感じていた。

空のお皿をメンチの前に差し出した勇次郎が静かに言う

勇次郎「貴様はこの俺を、地上最強を炊事場に立たせた。我が儘というならこれ以上あるまい」

目の前で繰り広げられた行為に唖然としながらも勇次郎が差し出した何も乗っていないお皿に手を向ける。作法にうるさい勇次郎を気にしてか、手を合わせ頂きますの一言も忘れない。箸を使おうかとも思ったがそれはナンセンスであろう。シャリを醤油に付けぬようネタのみを少しだけ醤油に付着させ、一口で口に運んだ。


メンチ「合格よ……」


メンチは驚愕していた。念能力の一種ではないのは対峙するメンチが一番理解している。この漢はまだ念を治めていない…実現しない空間にイメージの力だけで寿司をそこに作り上げたのだ。

それもギャラリーにさえ見えるよう鮮明に具現化して…味も申し分なく…いや、先ほど説教されている時から気になっていた左手についている、何かの苦みさえも感じさせる程強烈に…まぁそれは試験とは関係ない。実際に食べた訳ではないですし…寿司だけにね。

勇次郎の合格の発表を皮切りに、そのイメージがヒントとなり、我れ先にと魚を捕らえに受験生が小川に向かう。自分しか知らないと思っていた寿司の調理法を知っていた者が他にも居たのかと焦るハンゾーも小川に向かう。

惨劇はその後…

結果として2次試験を通過出来たのは315番の範馬勇次郎だけであった…受験生が向かった小川はなぜか茶色に濁っていて、とても生物が生存出来るような状況ではない程の異臭を放ち、試験官であるメンチは勇次郎のエア寿司を食した後、何故か腹痛を訴えもう食べれないという。

これにて、今年の二次試験が終了した。


通過者1名。



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HANMAR×HANMAR♯9

「あいつ ワシより強くねー?」

 

親指と人差し指で輪を作り、そこから覗くように勇次郎を捉えたのはハンター協会会長であり心源流拳法師範のアイザック=ネテロだった。

老齢ながら、半世紀前は確実に世界最強の武闘家であり全盛期を超えた現在でも最強の名にもっとも近い人物であろう。飛行船で二次試験会場の上空から受験生の様子を見ていたネテロが言い放った言葉にご冗談をと返す秘書のビーンズであった。

 

今年のルーキーが豊作であるという情報は一次試験を担当していたサトツから聞き及んではいたのだが、二次試験の合格者が1名だけと聞き少し気になってやって来たであった。飛行船から飛び降りメンチを説き伏せようとした所に事件が起こる。

 

ビーンズの言葉を聞き終わり、飛行船から飛び降りたその後…時間にしてほんの一瞬…

ネテロの視線に気がついた勇次郎がネテロが飛び降りると同時に両の足でその大地を蹴った…この場でその動きを確認出来た者は両者を除くと4名、44番のヒソカ、301番のギタラクル。294番のハンゾーは勇次郎の動きを線でのみ捉え、キルアは殺気のみ感じていた。

ネテロが勇次郎の隠そうともしない殺気を感知したのは飛行船から飛び降りたその後、空中ではいかにネテロといえどもその自由は効かない…

 

勇次郎「ッチェリアァッッ!!!」

 

下から物凄いスピードで鬼が迫ってくる、この漢から視線を外さず、飛び降りたと同時に感じた抑えようともしないむき出しの殺気…辺りの大気すらも歪ませるような獣のごときその姿に、受け、攻め考えたがその紛う事なき圧倒的なオーラを、この距離で初めて垂れ流しのそれと瞬時に悟ると百戦錬磨のこの老兵は勇次郎に向かって呟いた。

 

 

「ほっほ、そりゃ悪手だろ 鬼の人」

 

勇次郎の背中に浮かぶ、ファイティングマッスルは既に嬉々とした鬼の面を出している。

凶悪な拳がネテロの顔面を捉えるまではもう0.1秒も掛からない。勝利を確信した勇次郎であったが、一つの矛盾が頭を過る。

強者同士の戦闘では極稀に起こる時間的矛盾、その老兵が勇次郎に言葉を投げかけ、そして拝み、祈る、この一連の動作はこの上なく流麗且つ緩やかに行われた様に勇次郎は感じたが、否、勇次郎が拳を突き上げた刹那に全てが為された事に疑いの余地はなく、それは勇次郎が己の体感時間を限りなく圧縮し、自らの時を止めるに等しい状態に置くことでしかネテロの動きを目で捉えることが出来なかった事に起因する。

 

つまり真相は

 

 

不可避の  速攻である

 

「百式観音」ハンター協会会長であり心源流拳法師範のアイザック=ネテロの念能力である。

地面にけたたましい音と大きなクレーターを作り勇次郎が叩き付けられ、その場で気を失った。はっきりと勇次郎の動きを視界に捉えていた実力者の2名も同様に、拳を揮う勇次郎とそれを迎え撃つネテロが対峙した後に確認できたのは、その結果のみであった…

 

 

鬼が敗れた……

 

 

その後の試験はネテロの仲裁もあり、スムーズに進んでいく。2次試験の後半はメンチの実演という形で行われた。

マフタツ山に生息するクモワシ、その卵をとってくるというものであった、クモワシの巣へ飛び降りる度胸を要求される課題であったが料理などよりもずっといいとゴン一行は無事に2次試験をパスしたのだった。

 

そして2次試験での奮闘と先ほどのネテロとのやり取りを見て、勇次郎の体調が回復に向かっていると知るや否や恐怖を感じたトンパはここで離脱を申し出た。気を失ったままの勇次郎はネテロの手により手厚く、飛行船のベッドへと運ばれたのであった。

 

 

範馬勇次郎、敗北ッッッ!!!!!

 

勇次郎「グッッ…」

 

目を開けると同時に起き上がる。身体に走る痛み。

直ぐさま体勢を立て直し、上空にいるはずの老兵へ……だが、そこにあるは見知らぬ天井…気持ちだけがそこへ向かっていただけで実際は起き上がることすら出来ていない。置かれている状況が整理出来ずに身体全身に感じる鈍い痛みに包まれていた。突如目の前に現れた紛う事なき圧倒的な実力を持った男に、勇次郎の野生を抑えられることなどできる筈も無かった。

 

ネテロ「ほっほ もう目が醒めよったか」

勇次郎「貴様ッッッッ!!」

 

身体は言う事を効かない…。

 

勇次郎(動けんッッ…)

 

 

目を凝らしてみると四肢を白い煙が押さえ込んでいるのが解った。だがこの煙…煙…??

それもその筈、ネテロの横にはサングラスをした大柄の男が大きなキセルを持ちたたずんでいた。男の名はモラウ=マッカーナーシ。ネテロと親交も深いプロハンターであった。勇次郎の身体を押さえ込む煙はこの男の能力。

 

「紫煙機兵隊(ディープパープル)」

 

巨大なキセルを操る操作系能力者だ。核となるオーラを発し、それを煙りのオーラで覆うと核のオーラに込められた念の操作条件に従って自在に動き回る煙人形を作れる、その数、最大216体ッ…!!

その能力は操作、放出、変化も行う複合能力である。そのことからもこのモラウの実力を高さを伺う事が出来る。

 

もっとも今勇次郎を捉えているものは煙にオーラを込めただけのものであったが、ここまでオーラを凝縮した煙に捕まったが最後、引きちぎれる実力者など皆無に等しい。

 

勇次郎「ぬぅぅぅぅッッッ!」

 

モラウ「やめておけ、お休み中のようだったから鎖以上の強度になるようにゆっくり練らせてもらったぜ」

 

勇次郎「ぐぉぉぉぉぉぉッッッ!!」

 

ネテロ「おーおー怖い顔をしておる、おぬしを呼んでおいてよかったわい」

 

モラウ「腕力じゃ俺の煙を破れねぇ、手足が千切れる前におとなしくするんだな…」

 

勇次郎は焦っていた…この体勢では出来ない。手を上に万歳のようにして両足を少し開いた状態でモラウの煙によってベットに拘束されているのだ…ましてや横たわっている状態では出来ない…

 

浮殿手(うどんでぃ)を……ッッッ!!!

 

勇次郎の最適な括約金へ力を入れる体勢は左右のくるぶしをピッタリと合わせることで完成となる。

このままでは満足に括約筋に力を入れる事さえ阻まれる…

 

勇次郎「ぐぉぉぉおぉぉぉぉっぉ!!!」

 

モラウ「おい、お前いい加減にしねぇと…本当に…」

 

モラウが時間をかけて練った煙のオーラを勇次郎が破ったッッッッ!!!

 

モラウ「バカなッッッッ!!!!」

 

ネテロ「やはりな…とんでも無い化け物を起こしてしまったわい…」

 

この世界に勇次郎がやってきて数日、ネテロの百式観音により勇次郎はついに念能力者として目覚めたていたのであった。いままで垂れ流しにしていた莫大なオーラを誰に教えられるともなく身体に纏っている。それはただの纏であっても一般の能力者の堅に匹敵するようなオーラであった…

 

だが…モラウの呪縛を破った勇次郎はそれと同時に「絶」(体内の精孔を全て閉じオーラ完全に絶つ技)となり。抵抗を辞めた…

 

モラウ「この野郎…俺の煙を解きやがった…」

 

ネテロ「ほっほ 精進が足りんな。まぁやっと話を聞く気になってくれたようじゃの」

 

 

勇次郎「…………」

 

 

 

勇次郎に宛てがわれた病室に異臭が溢れた…みるみると茶色く汚されていく純白のシーツ…ベットから滴り落ちる程の量であった…床には水たまりが出来始めていく…

 

モラウ「…まじか」

ネテロ「…すまんのう」

 

勇次郎は笑っていた。最初は抵抗をしたがモラウの煙を破る為に全身に力を入れていたのだ。それが起爆剤になり…悪魔達が目を覚ます。もう笑うことしか出来なかった。横たわりながら腕を目の上に持ってゆく、男泣きをするような姿勢のまま言い放った。

 

勇次郎「日に二度も敗れる馬鹿がどこにいる…」

 

東京ドーム地下闘技場の最大トーナメント直後に、地上最強の兄弟喧嘩と言われた、2人の息子、範馬刃牙、ジャック範馬との戦いの後、刃牙に破れ自分に挑みに来たジャックに言い放った言葉を思い出していた…

 

勇次郎「(汚れた身体で舞い戻りおって…)それは俺じゃねぇか…」

 

勇次郎「(恥を知れぃッッッ…)エフッ エフッ エフッ」

 

壊れてゆく…

 

1度目の敗北はまぎれもなく、ネテロの百式観音によるノックダウン…

 

2度目の敗北は既に勝利を確信していた。己の身体との戦闘だ。おもむろに立ち上がる勇次郎、立ち上がると身体に付着した汚物がポタポタとおちていく…

 

ネテロ「なんかすまんのう…特例でハンターライセンスをやろう」

 

モラウ「会長それは…まぁでも…そうですな実力は申し分ない…」

 

ネテロ「ほら、これがハンターライセンスじゃ…受け取ってくれ」

 

 

勇次郎は渡されたライセンスを受け取り世話になったな…と部屋の出口に向かう。相変わらず動く度に汚物がポタポタと落ちていく…

 

勇次郎「おっと…こいつは返しておくべきか?」

 

もはや汚物まみれで番号すら確認できなくなった肛門付近の315番のプレートを指差しながら言う。

 

ネテロ「…ワシがさっきしたみたいに、顔面に一発入れられるようになったら返しにきてくれ…」

 

勇次郎「あぁ、そのつもりだ…」

 

 

勇次郎はその背中に哀愁を漂わせ部屋を出て行った

 

 

範馬勇次郎、ハンター試験合格ッッッッ!!!!

 

 



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HANMAR×HANMAR♯10

「試合をしたいとな?」

 

「…はい」

 

「しかし、独歩よ、おぬしの相手となる闘士となるとそれ相応の実力者を用意せにゃならんしのう…」

 

「バキでも花山でも、烈でも、あの渋川のじいさんでも…誰でもいい、お願いします。」

 

「しかしまたどうして」

 

「欠伸です…」

 

「欠伸??」

 

「欠伸が止まらんのです…」

 

 

手入れの行き届いた広さも十分な美しい日本庭園が広がる庭先を一望出来る、大きなお屋敷の応接間であろうか。和服を召したこのご老人はご存知、徳川家13代当主の徳川光成氏である。向き合う眼帯をした漢は武神とも呼び声高い神心会空手の総帥、愚地独歩。

 

刃牙同様にこの漢も何かの欠けた日々に辟易していたのであった。

 

光成「おぬしで何人目かのう…」

 

独歩「はて…?」

 

光成「先日は烈が、そして今朝は渋川が家に来てのぉ、試合を組んで欲しいとワシに言いに来たんじゃよ」

 

独歩「あの烈と渋川のじいさんが」

 

光成「理由は独歩、おぬしと同じじゃった…それにそれだけではないぞ?鎬昂昇も、兄の紅葉もジャックも、克己もガイアも…烈に至っては今日も来ると…」

 

トントンッ

 

「失礼致します!旦那様、花山様がいらっしゃいました!」

 

 

光成「な?一体何が起こっているのやら…連日大忙しじゃわい」

 

独歩「克己の野郎、俺に黙って…ですが皆が皆、一様に何かを感じているということですな。」

 

「旦那様、先ほどあちらからもご連絡がありまして、例のその…機体が帰ってきたとのことです!」

 

光成「なにぃ!?地上最強の生物の凱旋か、出迎えねばな!」

 

独歩「オーガですか?」

 

光成「まぁ説明は後じゃ、独歩と花山もついてきてくれ」

 

 

 

「それが少し様子がおかしいようで…」

 

使用人が言葉を発しようとするも、だまらっしゃいッッ!!とその口を強引に閉ざさせる。

小さな身体を弾ませながら、この場にいる2人を驚かせたいとでも思っているのだろう。笑顔でくしゃくしゃになりそうな顔を必死で抑えている様は滑稽である。

 

光成(予定より随分早いが勇次郎が帰ってきたんじゃ!!ふふっふ…奴の武勇伝を何よりも楽しみにしておったのはワシじゃからな!)

 

訝しげな顔をしながらも光成に尻を叩かれ、言われるがままに車に乗車するしかない2人。光成を乗せたハイヤーの後ろを走る車の後部座席に2人が乗る。

 

独歩「なぁ…アンタも感じているんだろう…?」

 

花山「……………(コクリ)」

 

独歩「鬼が出るか蛇が出るか…まぁもう少ししたら答えが出ると思うが…」

 

花山「……はい」

 

そこからの会話は一切なかった。

光成が面白いものを見せるなど言う際に面白かった試しがない事は同乗する2人が良く知っている。それにこの気配が尋常ならざる者であることは身体が感じており、武者震いなのか震えなのかガタガタと揺れる身体を必死に抑えていた…。

 

奇しくもこの瞬間、ここ、東京にいる猛者達を日々悩ませていた欠伸は皆一様にピッタリと止まったのであった…

 

 

 




内側から番号を入力してロックを解除する。

クロロ「4、5、4、5 (シコシコ)」
ウボー「4!5!4!5!(シコシコ)」
マチ 「4、5、4、5 (…………)」
コル 「4545 (シコシコ)」

ついに勇次郎がやってきた世界に降り立つ幻影旅団の5名。

シズク「あ~~!番号忘れちゃった、、マチなんだっけ?」

ウボー「おい、マチ教えてやれよ!デカイ声じゃないと聞こえないぜ」

マチが何故かウボォーギンを小突くがシズクの護衛を任されている身としては仕方がない。

マチ 「4、5、4、5…」
シズク「え??なに??」
マチ 「あぁーもう!4!5!4!5!シコシコよ!!!」

ガハハと大笑いするウボォーギン、無事にロックを解除したシズクはマチにお礼を言う。
戯れは終わったか?と確認をしながら「盗賊の極意(スキルハンター)」を発動した。

「不思議で便利な大風呂敷(ファンファンクロス)」

具現化した風呂敷に物体を小さくして包み込む事が出来る能力。
能力を使用し機体を包み込み、親指大となったサイズの風呂敷を懐にしまい込む。
戯れ合っているように見えるがさすがは幻影旅団、一様に辺りへの警戒は怠らない。

クロロ「身体に異常があるものはいるか?」

ウボー「全く問題ねぇ!空気もうめぇし良い所だな」

シズク「あのー身体が凄く重いんですけど…」

マチとコルトピもシズクに同意する。

クロロ「同感だ。おそらく重力が違うのだろうな…だが目的に変更はない。なるべく早くに事を済ませる。」

クロロ「コルトピ、お前の念能力でアジトから持って来た石のコピーの場所は感じられるか?」

コル 「…………(首を横に振る)」

クロロが思考する…コルトピの能力でコピーしたものは円の役割も果たす。こちらの世界に来る前にアジトの石をコピーさせ、オリジナルの石を持って来させていたのだった。自身の世界でも未だに未開拓な部分を大きく占めることを知っていたクロロは、この世界が時空間での移動ではなく互いに干渉されていない場合の事を考えていたのであった。つまりは世界地図には載っていない部分、暗黒大陸のどこかであると。

その方がクロロの持つ常識には近く、むしろそちらを願ったようであったが、コルトピの能力でも感知出来ないということは恐らく本当に時空を飛び越えて来たのであろう…おや?武装をした軍人が2名走ってくる。
何やら穏やかではないな。銃口を突きつけてくる。話をする必要もないだろう。

マチに合図を出すと、その場に居た2名の首が締まり、そして、倒れた。

念糸(ネンシ)

マチはオーラを糸状に変化させる能力を使用する。糸の強度は長さと反比例し1メートル以内ならば1トン位の重量を吊れる程の強度となり、逆に木綿糸程度まで強度を弱めれば、地球を一周するほどの長さを紡ぐことも可能。ただし念糸が手元から離れると強度は極端に落ちる。
追跡や拘束、縫合治療、絞殺など、様々な用途に利用でき、応用の幅は広い。

糸により首を絞めたのだが、普段とは違う重力のせいか思うようには動けず、絞め落とすのにいつも以上に時間が掛かってしまった。そうこうしていると車が2台やってきた。こちらの世界の車ともそう大差はないのだな…。面白いものだ。おや?

光成「おぬしら、このワシの私有地で何をしておるんじゃあッッ!!!」

なにやら小柄の男が啖呵を切ってくる。身なりは和風であるが自身の世界でのマフィアのような迫力がある。同じ穴の狢であろう…後ろに続く車から出て来た2名を見てそれが確信に変わった。見るからに堅気ではなさそうな佇まい

そして、この2名は先ほどの者とは違う。いや…気のせいかもしれない…ただ少し気になる存在ではあるな…右目に眼帯をした男がその小柄な男を制し、後ろに下がるよう促す、交渉相手はこの男か?

独歩 「あんたらは一体何者だ…?ここはあそこにいるジッちゃんの土地なんだが…」

クロロ「失礼、散歩をしていたら迷い込んでしまったようだ」

独歩 「そうか、散歩なら仕方ねーーなッッッッ!!!!!」

とても親しげな笑顔を浮かべながら近づき、言葉を言い終える前に左手の手刀をクロロに放つ独歩、それがクロロに届くより早く間に入り、両腕をクロスにして受け止める。ウボォーギン。

ウボォーギンに手刀を落としたまま嗤う独歩が言い放つ

独歩 「おいおい、そんな闘気を帯びてて呑気にお散歩にしゃれこもうなんて事はないだろう。後ろの2人がやられるところも見てたぜ…?」

クロロ「悪いな、この世界の作法にはまだ慣れていないんだ」

独歩 「この世界の作法だぁ…??兄ちゃんよぉ冗談が通じる相手に見えるか…?解るぜ…5人が5人とも…。並じゃねぇ…」

ウボー「カッカッカ!!この世界にも好戦的な野郎が居たもんだなぁ!団長、殺っちまっていいんだろ?」

クロロ「構わん」

クロロはそういいながら、その場を離れ、空を見上げていた


花山 (………グググッッッ!!!)

ウボォーギンとクロロが言葉を交わしている間に花山は独歩の後ろで全身全霊を込めた右の拳を放つべく身体を屈め、グググッッと腰を捻っていた。独歩は屈んで、手刀を受け止めるウボォーギンの膝を踏み台にし、後方宙返りをして花山の後ろに着地する。この状況を想定していた訳でも打ち合わせをした訳でもない2人であったが、独歩が着地をする前に花山の拳はウボォーギンの顔面を捉えていた。

独歩「即席のチームプレイだぜッッ…!!!」

伝説の喧嘩師、花山薫の放つ全力の右ストレートなど絶対に受けたくはない。それ以前に受けが通用しないということは最大トーナメントで証明されている。覚醒前とは言え、空手会のリーサルウェポンともてはやされていた養子の克己が防御に徹していたのに大ダメージを受けたのであった。気の毒に…っと相手の心配さえもした独歩であったが土煙の中でその男は嗤っていた。

受けた拳の衝撃で垂れだした鼻血を舌で舐めながら、そこに確かに立っていた…。
衝撃で2メートルは後方へ動いてはいたが、上体を屈めるでもなくただただそこに立っている。

独歩(バカなッッ!!!ノーダメージだと!??)

撃ち込んだ花山でさえ、この異常とも言える状態を理解することが出来ずにいる

ウボー「さすがにイテェぜッ……念なしならヤバかったかもなぁッッッッッ!!!」

ウボォーギンの反撃により今度は花山が後方10メートルまで吹き飛び…そして倒れた…。今度は独歩に狙いを澄まし、蹴りを放つウボォーギン。

独歩「廻し受けッッッッ!!!!」

そのダイナミックな蹴りを絶対防御の廻し受けで受け流し、同時に正中線に対して四連突きを敢行する…

独歩「馬鹿な……」

またもやウボォーギンにダメージは伺えない…

独歩が意識を失う前、その耳で最後に聞いたのは、マチがウボォーギンに対して言った「アンタ時間掛け過ぎ」という言葉であった。マチの手刀を延髄に食らった独歩はその場で意識を失う。その後にお返しだとばかりにウボォーギンに踏みつけられたが、そこに既に意識は無かった。目の前で繰り広げられた惨劇を理解出来ずにいる光成はその場で膝をつき、声にならない声をあげている。

クロロ「集まってくると面倒だ、行くぞ」

行く宛がある訳でもないが、クロロはその場を離れることにした。時間が限られていることもあるがそれ以上に知りたい事が多すぎる。

先ほどの2名に関しても疑問がある。先の男のあの気迫とパンチ力は常軌を逸していた。
ウボォーギンであっても生身の状態であれば深いダメージを負ったことであろう。そして本気ではないにしてもウボォーギンの攻撃を受け流せる者などもそういない…クロロを持ってしても受け流した男の研ぎすまされた体術は賞賛に値する。だが、あれほどのポテンシャルを持った2人が念を纏ってさえいない垂れ流しの状態であった…生身で対応してさえいたらもっと時間が掛かったであろうから咎めることではないが、マチとウボォーが攻撃に転じた際に幾ばくかのオーラを纏っていたことがただの杞憂である事を祈る。
今はそれよりも知的な好奇心の方が勝っていたのだ。

数時間街を徘徊したクロロ達。最初は目に映るものが全て新鮮に思えたが、映る町並みや人などはさしたる変化はなさそうであった。時折携帯電話のようなものでパシャパシャ写真を撮られたりしたが、おそらく服装などが少し異なって見えたのだろう。
その程度はどうにでもなる。それにしてもこの世界は醜女ばかりが徘徊している…美に関しての異なった認識を調べてみる価値もあるだろう…

街中では念能力者とすれ違うことがなかった。先ほどの2名は恐らくこの世界では名うての実力者だったのであろうかと推測する。念能力を持っているのであれば十分に警戒に値するが、オーラも纏わずに攻撃してくる者に関してはいかに重力が強く、思うように動けなくなっていたとしてもさしたる危険はなさそうであった。
大型の書店を見つけたクロロは面倒を起こさないようにと特にウボォーギンに対して忠告をし、各自自由に散って欲しい物と情報を集めるように指令を出した。


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HANMAR×HANMAR♯11

マチ 「シズク、あんたは何か欲しいものあるの?」

 

シズク「ん~。書物関係は団長に任せるとして、あっちに無いものとかなら欲しいかな」

 

マチ 「なら、一緒にデパートでも行きましょうよ」

 

シズク「いいね!付き合うよ」

 

マチ 「ウボーあんたはどこに行くの?」

 

ウボー「俺はちょっと気になるところがあってな、そこ行ってから珍しいもんでも食うかな」

 

コル 「………」

 

ウボー「お前も行くとこないなら俺に付き合えよ」

 

コル 「………(コクリ)」

 

マチ 「くれぐれも面倒事は起こさないでよね」

 

ウボー「あぁ!」

 

クロロが入って行った書店の前でしばしの談笑を終えた4人の団員は2手に分かれてその場を離れた。

ウボォーギンが目指す場は決まっていた。機体が降りたった場から離れ、団員達と街をしばし徘徊している時にそこにあったのだ。

 

先ほど自身の蹴りを念能力者でもないものに華麗に捌かれた。その捌いた本人の顔を見つけてしまった。

 

神心会館総本部。門下生の数は延べ100万人と言われている。その本部ビルには「虎殺し」と呼ばれる愚地独歩が虎に手刀を見舞う瞬間の看板がビルの壁にデカデカと掲げられていたのであった。ただ者じゃねぇーとは思ったがまさかこれほどとはな…。

 

クロロが居るときにはさすが自粛したが、自由行動となるともはや我慢の必要はない。

さらなる強者がいるのではと淡い期待をもちながら、入り口に佇む。ウボォーギン、その後ろにコルトピであった。

 

「なんだお前ら、でけぇな。入会希望者か?見学か?」

 

入り口に佇む2人に後ろから声を掛けて来た男は、およそ空手家と呼ぶにはふさわしくない、派手な柄のセットアップの上下を身にまとった、加藤清澄と名乗る男。

 

ウボー「お前もここの技使えるのか?」

 

加藤 「俺が使うのはスポーツ空手とはちょっと違うがまぁここでは3段だな」

 

ウボー「あいつより強いやつはいるか?」

 

愚地独歩の看板を指差しながらウボーが聞く

 

加藤 「あ?実戦で館長より強い人間なんてこの地球上にいねぇよ、克己さんなら可能性はあるがまだ若いからな。そうなるとまず俺が…」

 

ウボー「他はクズばっかってことか、暇つぶしにもならねぇんじゃ仕方ねぇな」

 

加藤 「なんだてめぇ…まぁ一般人をケガさせたくねぇしもっと勉強してから出直すんだな」

 

おもむろにウボォーギンの肩に手を乗せた瞬間に加藤は戦慄する…数多の強者と対峙した経験を持つ加藤は触れた瞬間に、その計りきれない戦力差を感じた…だが神心会のデンジャラス・ライオンとの異名を持つ加藤清澄の野生は、勝てないと理解しながらもその本能を抑えることが出来なかった。

ウボォーギンの左肩に置いた右手に力を込め、そのまま後ろに引くと同時に右足の蹴りをウボォーギンの左膝の裏に見舞う。ウボォーギンの身長は258㎝もあるためまずは身体の末端から体勢を崩させようとしたのだった。

 

 

微動だにしない…

 

 

加藤清澄が今まで積み上げて来たものが…音を立てて崩れだす…

正攻法では勝負にすらならない、そう感じた加藤は裏社会で磨きに磨いた急所攻撃。その一端の目つきを敢行しようとウボォーギンの正面に回り目つきを見舞う。

 

加藤 「キャァララァァッッッ!!!」

 

加藤 「ぎゃぁぁぁぁあぁああ!!!」

 

 

目つきを敢行しようとしたその時に加藤の頭部はウボォーギンに片手で掴まれていた。

そのままゴミをゴミ箱に投げ捨てるかのように加藤を道路に放った。

 

入り口に入るなり、大声で叫ぶ

 

 

ウボー「頼もぉぉぅ!!!」

 

 

ウボォーギンの大声に窓ガラスが揺れ、上の階で臨時講師として来ていた、鎬昂昇、渋川剛気の二名。そして組手をしていた、烈海王と愚地克己は幻影旅団がこの地に降り立った時から静かに禅を組んでいた。

 

渋川「まさか、むこうの方から来てくれるとわな、ワシが行きますか」

 

昂昇「お近くで勉強させて頂きます」

 

渋川「やめといたほうがええよ、ワシじゃ勝てん」

 

昂昇「たかが道場破りに達人、渋川剛気が負けるなど日本の武道史をゆるがす大事件です、それはそれで拝見させて頂きたい」

 

渋川「ほほっ、言うようになったの」

 

渋川剛気の目の前に立ちはだかる、幻影の巨大な門。

合気道の道に身を捧げ、ついには真の護身を完成させた渋川剛気が危機へ立ち向かう際に目の前に現れるものだ。

 

 

真の護身を身につけたなら、技は無用。

真の護身が完成したのなら、

危うきには出逢えぬ。

己の危機に気付くまでもなくーー

危機へ辿りつけぬのじゃよ。

 

渋川「さて、行きますか」

 

師の言葉が耳に木霊するが、それさえも吹っ切るように、歩みを進めた。




バキ「いったい何がどうなってるんだ……?」

ストライダムと共に範馬刃牙は日本の徳川邸の近くにある研究所、つまり幻影旅団が降り立った場所へ来ていた。
目の前で倒れる、護衛2人、そして…花山薫、愚地独歩、

バキ「この2人を相手にして勝てる人間なんて…」

刃牙の頭にまず、浮かんだ人間は父である範間勇次郎ただ一人であった…

ストライダム「ユージローではない…」

勇次郎の帰還の日は1年後に設定してある。だから勇次郎である筈はないのだ。

バキ「ジッちゃん!!おい!しっかりしろ!何があったんだよ!」

膝をつき泣きじゃくる光成の肩を揺り動かすが放心状態にあり、とても言葉を話せるような状況ではなかった。
仕方なく救急車を手配し、花山薫と愚地独歩が搬送されるのを見届けると刃牙は光成に付き添い徳川邸へ向かうのであった。その時、神心会では渋川剛気とウボォーギンが対峙していた。

ウボー「おい、あんた強ぇな。さっきの眼帯野郎と同等かそれ以上だ。」

渋川 「ほっほ、これでも達人って言われとるからの。眼帯野郎?まぁええ、一応聞くがこのまま帰ってくれる気はないかのぉ?」

ウボー「ああ、ねぇな」

渋川 「じゃと思ったわい。ここじゃなんだから道場まで付き合って貰って構わんか?」

ウボー「あぁ、案内してもらおうじゃねぇか。あんた良いオーラしてるぜ」

渋川 「??」

渋川と昂昇のあとに、ウボォーギンとコルトピが続く。昂昇がウボォーギンの言った眼帯野郎というのはもしや…と独歩の事を深慮したが今はそれどころではない。己の気を引き締めいつでも行動に移せるよう細心の注意を払いながら2人をエレベーターに乗せた。

既に肌にはヒリヒリとするくらいの圧力を感じている。これは渋川剛気の物ではなく、獣の毛皮を纏ったこの大男からであろう。神心会本部にある、最上階の一番大きな道場。そこに通すと中心には既に座禅を組んでいる烈海王と愚地克己。両端の壁際には黒帯を締めた、猛者達もズラッと並んでいた。

本日は烈海王を臨時講師として選り抜きの猛者達と空手のさらに高みを目指すため中国拳法を学び、神心会空手に取り込もうとしていたのであった。克己から渋川には以前、ドイルという死刑囚が訪れた際に苦渋を飲まされた為、あらかじめ有事の際には自身の元へ連れてくるように伝えてあった。受付からの電話で既に状況を理解していた克己は渋川がこの道場破りを連れてくるということは想定していたのであった。

ウボー「うぉ!大歓迎みたいじゃねぇか」

コル 「………」

克己 「なんだお前?看板でも欲しいのか?」

ウボー「いや、いらねぇ。ちょっと強い奴探しててよ。眼帯野郎より強い奴はいねぇか?」

克己 「眼帯野郎…?お義父のことか?お前…まさかっ?!」

昂昇 「恐らくは…既に…」

ウボー「ちょっと遊んでやっただけだ、トドメをさしたのはマチのやつだけどな」

渋川 「克己さんよ、もう感じておるじゃろ?こやつの力量は…まぁ先にやらして貰ってええかの?」

ウボー「全員いっぺんでもいいぜ!」

烈海王「私は一向に構わんッッ!!」

ウボー「なんだかおもしれぇ奴がたくさん居るようだな」

道場の入り口の横にちょこんと座ったコルトピを合図に一斉に仕掛けた。毛皮を脱ぐと肥大した筋肉が露出する。
まずは1番近くに居た鎬昂昇による斬撃拳。
それを全く問題にせずに、仕掛けられたその腕の上から拳を叩き込むウボォーギン、昂昇の右腕は関節の稼働域を無視した曲がり方をした、続いて烈海王によるは寸頸(通称1インチパンチ)対象の身体に文字通り1インチにも満たない程、拳を近づけた状態から放つ発頸である

烈海王「フンッ!」

この発頸により少し後ろに蹌踉けたウボォーギン。

渋川 「まったくワシが先だと言ったのに…」

渋川剛気が見逃さず、その反動で柔を使いウボォーギンの手首を掴み、状態を屈ませた所に先ほど腕を折られ怒り心頭の昂昇が喉仏に足刀を放つ、ウボォーギンはその場で天井を眺めることになったが、後ろでこのやり取りを見ていた愚地克己だけは気がついていた…

攻撃を食らう時もする時も、常人なら絶命していても可笑しくない程のダメージを受けている筈なのに…その顔は嗤っていた…

克己(化け物め…ッッ!!)


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HANMAR×HANMAR♯12

(おいおい…この男ッッ!!マジか…ウボォーギンじゃねぇのか…?あのちっこいのはコルトピだろ??

なんでみんなツッコまねぇんだよ!ハンターハンター読んでるの俺だけなのか…??

あーヤバい!昂昇さん腕あり得ない方向に曲がってるし…イテェーだろなあれ、だいたいオーラを纏わずに念能力者の前に立つなんて、極寒の地で全裸で震えながらなぜ寒いのか解っていないようなものってウイングが言ってたじゃねぇかよ…これ無理だろ、ちゃんと読んどけよお前ら!克己さんでも死ぬぞ…)

 

勝利を確信している壁際に立つ黒帯の集団の中に一人、冷や汗を止める事が出来ない漢。末堂厚がそこにいた。

 

彼も空手に青春の全てを捧げ「リアルファイトトーナメント空手道選手権大会」で堂々の3連覇を達成した程の実績を持つ強者だ。

もっとも刃牙に破れてからはこの世界でも同期の加藤と共に驚き役に回ることが多かったが、その実力は地下闘技場の闘士と比べたら一段落ちるが恵まれた体格から加藤と共に今後を期待されている存在ではある…と思われる…。

 

そんな末堂厚。毎日のトレーニングの合間の趣味は漫画だった。

中でも冨樫義博先生の書く作品には目がない。

ハンターハンターは連載再開を何よりも心待ちにしていた漫画であった…。

今の状況はそんな彼の予想の斜め上をいっていると言ってよいであろう。

 

末堂(あー烈海王も…吹っ飛ばされた、壁にベコリって漫画じゃねぇか…うっわ…昂昇さん、、痛そー。さば折りでありゃ背骨折られてんじゃねぇか…)

 

圧倒的な力を見せるウボォーギンに対抗出来るとしたら、唯一可能性があるのは渋川剛気の合気道であった。

 

末堂(渋川先生で無理だったら…克己さんには悪いけど逃げよう…頼むぞジジイ!俺は童貞のまま死にたくない!)

 

さば折りで昂昇の身体をメキメキと言わせ、意識を失った所で床に落とす。その後に構えるは達人、渋川剛気。

ウボォーギンが振り下ろす拳をほんの数センチだけ後退してその身を躱す。さらに追撃するも結果は同じだった。

今度は横からの蹴りが眼前に迫ってきた。それを屈んで避ける渋川はすぐに状態を起こし、ウボーギンの顎に必殺のアッパーカットを見舞い、だめ押しの足刀も忘れない。

 

末堂(すげぇー!!合気道すげぇ!これもしかしてもしかする??いや、無理だろうな…だってこいつ本気なら人間を紙みたいに引きちぎるやつだし…)

 

ウボー「面白れー技だな、ちょっと俺の力も見せてやるよ」

 

アッパーカットのダメージは一切見られず、笑みを浮かべ首をポキポキとならしながら起き上がり、オーラを高めるウボォーギン、その膨大なオーラはこの場にいるコルトピ以外には目視さえ出来ていなかったが、ここに居る全ての者がウボォーギンの威圧感が格段に高まったのを感じていた。右手にオーラを込めて床板を殴る

 

 

超破壊拳(ビックバンインパクト)《/b》

 

強化系を100%近く極めたウボォーギンの必殺技、ただの念を込めた右ストレートであるが小型ミサイル級の威力がある。

 

 

 

ズドォォォーーー!!!

 

 

この時、神心会の本部道場の一つのフロアが消滅した。

凄まじい轟音と共に床が抜け窓ガラスは全て割れ、その衝撃で近くにいた渋川の視界は遠のき、克己も手痛いダメージを受けている。

壁際の黒帯の集団も飛んで来た床板やガラス片からダメージを受け、受け身が間に合わなかった者や、腰が抜けて立つことが出来ない者など様々だ…ただ一人を除いて…

 

ウボォーギンがビックバンインパクトを放つ一瞬前に末堂は危険を察知し道場から飛び出し逃走していた…

 

 

 

末堂(逃げろ…ッ!逃げろ…ッッ!こちとら裸足で100M、11秒台だぜッッッ!!)

 

全力で逃走を計る末堂厚、もの凄く輝いている。エレベーターのボタンを連打で押す、押す、押忍。扉が空いて、即刻乗り込もうとすると中には見慣れた顔があった…。

 

末堂「加藤…お前、血だらけじゃねぇかッッ…!」

 

加藤「すげぇ音がしたな…あのでけぇのが暴れてるんだろ…?」

 

末堂「今克己さんが相手してる…俺たちがいても邪魔になるだけだ…それにそのケガ…病院に行くぞ、連れてってやるから」

 

加藤「あ?館長がいない今の状況で克己さんを支えられるのは俺たちだけだろがよぉ!!」

 

末堂(あ?この馬鹿なにいってんだよ、無理に決まってんだろ!オーラも纏えねぇひよっこが!)

 

末堂「だけどよ…殺されちまうぜ…?」

 

加藤「俺たちは武闘派集団だぜ?戦って死ねるなら本望だろがッ…!」

 

末堂(お前…だって俺たちのポジションは噛ませ犬…完全な噛ませだ…メインキャラと違ってボロボロにされるんだよ!)

 

末堂「…………」

 

加藤「俺は一人でもいくぜッ!お前はそこで一生震えてろ!!」

 

末堂(その台詞が既に噛ませ犬感やべーんだってッッ!お前またサンドバックに入れられるぞ……)

 

末堂「…………」

 

末堂は迷っていた。確かに相手があの幻影旅団のウボォーギンということでいつも以上に恐怖を感じてしまっていたのかもしれない…ただそれは奴らの強さを知らないから言えるんだろ…俺だって…

 

チンッ!

 

隣のエレベーターから飛び出して来たのは範馬刃牙。徳川邸に居た刃牙は徳川光成の持つ情報網により都内の監視カメラから降り立った機体に乗っていた5名の姿を捉え、その内の2名が神心会の本部道場に入って行った事を伝えられていた。加藤が無惨に投げ飛ばされる所をビデオで確認し直ぐさまこの場までやって来たのであった。

 

バキ「加藤さんに末堂さん!あのデカイやついるんだろ?どこだ!!?」

 

末堂が指をさすとその方向へ何も言わずに走っていったバキであった。

末堂(うぁ…バキきちゃった…あれ?でも待てよ、主人公登場ってことはこれなんかフラグ立ってる??もしかしてパワーアップとかして都合よく勝っちゃったりするんじゃねぇか?よしッッッッ!!!)

 

壁に手を付きながらゆっくりと進んでいく加藤に肩を貸す末堂。

 

加藤「末堂…お前…」

 

末堂「死ぬ時は一緒だぜ…」

 

調子の良い事をいいながら刃牙の後に続く末堂厚であった。

 

 

範馬刃牙は言葉を失っていた…扉の前に床は無く一つ下のフロアに倒れる多数の黒帯の集団と渋川剛気、鎬昂昇、壁にめり込んだ烈海王。その場で立っている人間は監視カメラで見た毛皮をまとった大男と長髪の小柄な人物、そして辛うじて意識を保っている愚地克己、その三名のみ。直ぐさま飛び降り下の階に着地する範馬刃牙。

 

バキ「てめぇーー何やってやがるッッッ!!」

 

言葉では虚勢を張っているが身体からは冷や汗が止まらない。父、範馬勇次郎と幼き頃に相対した時以上の良い知れぬ恐怖が刃牙を襲っている…

 

ウボー「ちょっとやり過ぎちまったか」

 

刃牙の言葉を無視し、コルトピの方を向き頭をボリボリと掻きながら着ていたいた服が破れ、背中の蜘蛛の刺青が露出している。少し反省しているような顔をするウボォーギンに対し、間合いを詰めその巨大な背中に向かって愚地克己が渾身の音速拳を放つ。

 

パンッ!!

パンッッパンッッ!!

 

失った右腕がなくとも左腕での連続の音速の拳…音の壁を拳が突き破る音を響かせた…だが…

 

ウボー「痛てぇ…じゃねぇかこの野郎」

 

愚地克己、「空手を終わらせてしまった男」とまで言われる漢の最終の武器である、音速拳、通称マッハ突。背骨を含む全身27箇所の関節の回転を連結加速させ、音速を超える打突。

 

この技を持ってしても…ウボォーギンには痛いという感覚しか与えられなかったのだ…。いや、この場合、痛覚を与えられただけ克己の打撃は優秀だったと言えよう…刃牙に追いついてその光景を上から見ていた、加藤、末堂も言葉を失う…。

なかなか良い線行ってたぜ、ウボォーギンが克己に贈った賛辞と共にその身体は吹き飛ばされた…加藤が飛び降り、捨て身の特攻をするも玉砕…。末堂も後に続いたが…相棒である加藤が目の前で吹き飛ばされる様子を見て戦意を喪失してしまった…。刃牙がコンビネーションを叩き込んでいるがそれを意に介さず、ウボォーギンはコルトピと会話をしだした。

 

 

 

ウボー「意外と時間が掛かっちまったな、なんか旨いもんでも食いにいくか?」

 

コル 「………(コクリ)」

 

ウボー「肉が食いてぇな」

 

 

 

加藤(おい…末堂聞こえるか…?)

 

末堂(ん?加藤!お前生きてたのかッ?!)

 

加藤(俺らはよ…いつだって損な役回りだよな…たまにはよ…ビビらせてやってもいいんじゃねぇか…?)

 

末堂(おい!もう喋るなッッ!)

 

加藤(神心会を…館長が血と汗で築いたこの道場を俺らで守ってやろうぜ…なぁ末堂、俺らなら出来るぜ…お前なら…頼んだぜ…)

 

小声で加藤と末堂はやり取りをしていた。もう息絶え絶えになりながらも最後まで、その意地を見せ強敵に立ち向かった加藤を誇りに思うと同時に、末堂は逃げ出した自分を恥じていた。末堂の涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を見て加藤は笑い…末堂の右の拳を握り締め…そして息を引き取った…

 

範馬刃牙が己の持てる全てを集結させウボーギンと戦っている。ウボォーギンの拳を軽快なフットワークで避け、そして連打を浴びせる。その繰り返しが数回続いた。

 

ウボー「なかなか、すばしっこい野郎じゃねぇか!!」

バキ 「ダメージはないのか…?」

ウボー「あ?お前そんなパンチで俺を倒せるとでも思ってんのか?お前ってかお前ら全員だ!」

バキ 「クソッッッ!!」

 

かつて数多の強敵を倒した剛体術の構えをとる刃牙、何かを察して距離を詰めてきたウボォーギンが動くより先にその拳を水月に叩き込む。ダメージの有無は解らないが、それに怒りをあらわにしたウボォーギンはバキの心臓に拳を叩き込む。そして…加藤の後を追うかのように…その瞬間…

 

最強の遺伝子を持つ筈の範馬刃牙の心臓は鼓動を刻むことを辞めた…

 

 

その後ろで静かに佇む男、末堂厚が叫ぶ

 

 

末堂 「今日は死んだっていいッッ!!!」

 

ウボー「ほう…」

 

末堂 「なんでお前がここにいるかは解らないッ!だがそんなのどうだっていいッッ!加藤清澄とは同期の桜、共に砂を噛んだ間柄だッッーー!」

 

その声の大きさと気迫に一応の仁義をつくすかのように余裕しゃくしゃくで振り向いたウボォーギンはみるみると表情を変えた…決死の覚悟で飛び込んでくるこの男の気迫もさることながら…その右腕に込められたオーラの大きさと不気味さに…

 

過去に戦ったどの敵よりも強大で禍々しいオーラ…

戦闘狂のウボォーギンでさえ言葉を失うほどのそれ…選り抜きの旅団員の中でも屈指の肉体の強さを持つウボォーギンでさえ、回避する意外の選択肢は無いほどであった…

 

 

ウボー「やべぇ…まに合わ…」

 

 

不死の王(デンジャラス・ライオン)

 

自身の死と引き換えに親友の右拳に全てを託した加藤の念。発動は一度きり。

 

加藤清澄は己の知らぬところで本部道場の入り口前でウボォーギンと相対した際にウボォーギンのアイアンクローにより念能力に目覚めていた。他の戦士達が意識を失っているのにも関わらず、加藤が意識を保てていたのもこの為であろう。そして念能力の中で最も強力で凶悪な死者の念。

誰よりも負けず嫌いで、誰よりも空手を愛した、加藤清澄は死を誓約に全ての力を最も信頼出来る友へと託したのであった。

 

 

末堂「ケイッッッッ!!!!!」

 

 



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HANMAR×HANMAR♯13

ウボォーギンが神心会の道場の床をビックバンインパクトで踏み抜いた時にマチとシズクは近くのデパートで洋服を見ていた。

 

シズク「マチ、これも似合うんじゃない?」

 

マチ 「あんたとはセンス違うし、これのが動き易いわ」

 

シズク「もっと女の子らしい格好しようよー」

 

マチ 「動き易いのが一番いいの」

 

シズク「もー何しにきたのかわかんないよ」

 

 

 

ズドォォォーーー!!!

 

 

 

シズク「なに??地震?!」

 

マチ 「物凄く嫌な予感がする」

 

シズク「勘?」

 

コクリと頷くマチ。マチの感覚は育った環境なのか生まれつきなのか特別優れていてその勘は良く当たる。旅団員の中でも根拠はないがマチの勘というのはかなりの発言力を持っているようで、パクノダの能力の次に優先されているかもしれない。

逸れても良い様にと念の為、クロロを含む全ての団員に目印として念糸を付けておいたマチはシズクと共にまずはクロロの元へ向かった。距離的にはウボォーギンの居る場所に直接向かう方が早かったが、団長にお灸を据えて貰おうとでも思ったのであろう、先にクロロの元へ向かう事にしたマチは後にそれを大きく後悔する事となる…

 

クロロは相変わらず興味深そうに本を眺めていた。美しく羅列された本棚に並ぶ文書、乱雑に平積みにされている場所でさえ色彩のバランスやその造形に感動すら覚えた。

インクの香りに包まれてクロロは幸せそうに微笑んでいた。漫画コーナーに並ぶHUNTER×HUNTER。その11巻の表紙は儚げな表情をするクロロ自身であったが、それには目を眩れず通り過ぎ、地図のコーナーでひとしきり世界を眺め、歴史書、生物書、考古学、科学書、そして芸術書の画集などを順に手にとっていたら、見慣れた2人がやってきた。

 

シズク「いたいた!団長ー!マチが嫌な予感するんだって」

 

マチ 「ちょっとウボォーが暴れてるかもしれない…」

 

クロロ「お前の勘は当たるからな…居場所は解るのか?」

 

マチ 「ええ」

 

溜め息をつきながら、「盗賊の極意(スキルハンター)」を発動し、機体を包み込んだ「不思議で便利な大風呂敷(ファンファンクロス)」を使用、本棚をそのまま包み込み気になる本を懐にしまった。店にいた客や店員は視界から急に本棚が消滅したことに我が目を疑いしきりに目を擦っている。急ごう、そう言ったクロロに続きマチの糸を凝で見ながら素早く店を後にした。

やはり重力の問題のせいかクロロの元に居た世界のように壁を横走りしたりは難しそうであったため、道路を走る。

なるほどな…そう呟くクロロの眼前には到着した時にウボォーギンの攻撃を見事に受け流した漢の看板があった。既にこのビルの上の階であろうか窓ガラスが割れ、その破片が周辺の道路に散らばっている。

 

マチ「あいつ…」

 

頭を抱えるマチであったが、現時点でウボォーギンの生死が脅かされるような状況など毛程も思っていない。それもそのはずであった。念能力者の中で戦闘に関して一番安定した強さを持つ強化系。そしてそれをほぼ極めたと言っても良いウボォーギン。

 

尚かつ肉体の鍛錬も怠らないその強さには絶大な信頼を持っている。それはクロロもシズクも同じであった。割れた窓ガラスの位置から察するにおそらくは最上階であろう場所に向かう。

 

エレベーターに乗り込み、最上階のボタンを押す。胸騒ぎが強くなる…最上階に到着しなぜか早足になるマチを訝しげに見つめるも後に続くシズク。マチ達が道場にたどり着いた瞬間、陥落した床の下には右腕に禍々しすぎるオーラを纏った漢が今まさにウボォーギンを攻撃する瞬間であった。

 

その漢が纏うそれは百戦錬磨のウボォーギンであっても死を連想させるほど。

 

 

ウボー「やべぇ…まに合わ…」

 

 

末堂「ケイッッッッ!!!!!」

 

 

インパクトの瞬間…目にも止まらぬ早さでウボォーギンと末堂の間。足にその床を踏み抜く程のオーラを込めコルトピが全身を堅の状態で割り込んできた…そして…コルトピの上半身と下半身が半分に分かれ、彼方へと飛んでいく…力を使い果たした末堂はその場で意識を失い倒れ込んだ。

 

マチは自分を責めていた。念糸によって繋げられたコルトピの上半身だけをたぐり寄せ、抱えこんだ。

 

もう少しでも早くに自分がこの場へ立っていれば、ウボォーギンにもコルトピにも繋げられた念糸を引っぱり回避させる事は可能だったからだ。それを察したのかクロロがマチの肩に手を置く。直撃は免れたと言っても大ダメージを受けたウボォーギンはそれでも悔しさを露にし、全力でオーラを開放して叫んだ。

 

 

ウボー「うぉぉぉぉぉぉーーー!!」

 

 

そのまま全力のビックバンインパクトを目の前に倒れている漢に撃ち込もうとした所をクロロが制止した。

 

クロロ「頭を冷やせ、その漢を殺すことはオレが許さない」

 

ウボー「は!?なんでだよ!こいつさえいなければ!」

 

クロロ「こいつさえいなければ、あの時にこうしていたら、自分がもっと早くについていたら、か?過ぎた事を気にしていて何になる」

 

ウボー「このオレのイラつき抑えられるぜ!!」

 

クロロ「ダメだ。そいつは連れて帰る。ルールに従え、後の事はこいつに任せるが結果は同じ事だろう」

 

ウボー「は!?本気で言ってるのか!?そんなのオレは認めねぇ!認めねぇぞ!」

 

マチ 「お前、どの口が言ってるんだ…?」

 

頭に血が上っているのかオーラを放ちクロロにさえ全力の敵意を向けるウボォーギンへ無惨に分かれたコルトピの上半身だけを抱きかかえたマチは冷たく言い放った。それを見て、聞いて、ウボォーギンはオーラを消した。

 

クロロ「ウボォー、お前やノブナガは特攻だ。死ぬのも仕事の1つに含まれる。お前ら自ら進んで捨て石になる事を選んだんじゃなかったか?」

 

ウボー「そうだ…」

 

クロロ「コルトピは戦闘能力ではなくその能力を買って俺が引き入れた、本来なら盾になって守るべき者に俺の忠告を無視し、身勝手な行動をし、特攻のお前が守られた。」

 

ウボー「……」

 

クロロ「旅団の立場を忘れてダダをこねてんのはオレかお前、どっちだ?」

 

ウボー「……」

 

クロロ「何かいうことはあるか?」

 

ウボー「ねェよ…」

 

クロロ「状況が変わった。このまま帰還する。シズク、掃除を頼む」

 

感情を覗かせもせず、一番冷静に事の次第を見守っていたシズクは頷くと自身の能力である、デメちゃんを発動。今まで視てきた念能力と違いふざけた名前であるが。シズクは具現化した掃除機「デメちゃん」を具現化し、武器として使う能力を持つ。デメちゃんはシズクが念じた物を何でも吸い込む。

ただし他人の念や、シズクが生き物と認識しているものは吸い込めない。最後に吸い込んだ物なら吐き出す事ができる。

 

シズク「いくよ、デメちゃん。この部屋中のコルトピ以外の錯乱した死体とその血・肉片および死人の所持品を全てを吸い取れ!!ついでにガラス片と割れてる床板も!」

 

そう言って、スイッチを入れた途端にデメちゃんの口へもの凄い勢いで吸い込まれて行く。先ほどまで乱雑としていた道場は一掃され、倒れている黒帯の数名と、愚地克己、烈海王、渋川剛気、鎬昂昇、そして末堂厚を残しただけであった。クロロは機体を包み込んだ「不思議で便利な大風呂敷(ファンファンクロス)」を発動し包み込んでいた機体をその場に出した。

 

クロロ「さすがはコルトピだ…次に来る時は盛大に弔いをさせてくれ…」

 

コルトピの死によりコルトピの念能力で具現化したこの機体は消滅してしまっているかもしれないと懸念していたクロロであったが、コピーをしてから24時間後に消滅するという制約は死をしても尚有効だったようだ。

時空を飛び越える際の時間のロスがあるのか?

 

もし途中で消滅した場合などの事も考えコルトピを連れて来ていたが、亡き後、いつ消滅しても可笑しくないこの機体に素早く乗り込み帰還するべきであろう。

ウボォーギンに合図をしコルトピを葬ったこの漢を機体に入れるように促した。マチの念糸でスイッチを外から押す。機体はその場で光を放ち消えていった。続いて旅団員も同じように機体に乗り込む。コルトピの上半身はマチが抱えて同乗した。彼方へと飛んでいった下半身は残念だが仕方がない。

 

今のクロロ達には何よりも時間がなかった。皆がそれぞれに想いを抱えながらハッチを閉め、ボタンを押すとまばゆい光と共に機体は消えた。

 

 

薄れ行く意識の中で薄目を開けていた愚地克己、消えてゆくウボォーギンの背中の刺青をしっかりとその眼に焼き付け、そしてまた意識を失った。

 



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HANMAR×HANMAR♯14

俺の名前はノブナガ=ハザマ、こう見えても悪名高き幻影旅団のメンバーだ。腕っ節にも自信はある、タイマンで俺に勝てる能力者はそうは居ないだろうな。シャルから聞いた話で眉唾だが、ある機体の中に新種の猿が入っていてその猿が今この森の中の部族にあがめられているんだとよ、なんでも光に包まれて現れたとか…。

シャルはその機械の方に興味があったみてぇだが、俺は断然猿だ。まだ団員にも知られてねぇことなんだが、俺は無類の猿好き。猿マニアだ。猿って聞くとなんだかわからねぇんだが従えたくなっちまう。その猿が草履とかも暖めてくれるような猿だったら最高だな。

 

袴のような服を着用し、腰には刀を一刀携えている。綺麗に結わえたちょんまげが天に向かって伸びていた。見た目はまさに侍そのものである。顎に蓄えた無精髭をさすりながら上機嫌で森の中を掛けていく。これはノブナガ=ハザマの1時間前の状態であった。

 

現在はというと…

 

「ホギョアアアァッ」

 

(なんだ…??全然かわいくねぇ……しかもオーラ纏ってるじゃねぇか、あそこで転がってるのは…ボノレノフ…?ここはもしかしてギュドンドンド族の集落だったのか…てかボノやられちまったのか?相手はあの猿…?音の塊を無尽蔵に飛ばしてやがる…ちょっと待て、、気がつかれた…おい、こっちに来るんじゃねぇ…想像してた猿と違うんだよ…糞ッ!迎え撃ってやるぜッ!)

 

ノブナガは円を発動し、静かに目を瞑り鞘に納めた刀の柄を軽く握り締め腰を落とした。ノブナガの円の中に侵入した全ての物は最速の抜刀術により一刀両断にされるのであった。

 

「円」というのは纏と練の高等応用技。通常は身体の周囲を数ミリから数センチの間隔で纏っているオーラを自分の必要な間隔まで広げる。これによって円の中にある全ての物の形や動きを肌で感じる事が出来る。猿が声と共に飛ばしてくるオーラの塊を円の中に入って来たものから一刀両断にしていくノブナガ。

明らかに興奮状態にある猿が飛ばすオーラ砲を斬りながら違和感を感じていた。確かに威力は申し分ない攻撃であったが、果たしてこの程度の攻撃にあのボノレノフがやられるであろうか…?

 

冷静に頭を働かせていたが、それならば尚更のこと警戒をしなければと気を引き締めた刹那。ノブナガの円にオーラ砲以外の物が侵入した。明らかに異質な雰囲気を醸し出したその物体に条件反射とも言える程の速度で居合いを見舞った…

 

ノブナガ「バカな………」

 

ノブナガの神速の一閃が止められた。そして居合い切りを発動すると同時に感じた恐怖をも感じさせるオーラの主。その漢が目の前で抜刀される前の俺の腕を掴んでいる…言わずものが確信した。ボノレノフをやったのはこいつだ……

 

ノブナガ「ありえねぇ…」

 

その漢の戦闘能力のことなのか、もしくはその纏うオーラの事か、多くの疑念が頭を過ったが、まずあり得ないのはノブナガの円の半径は4M、それは太刀の間合いと一致している。

 

その中に入った物は問答無用で斬られる。それは居合いを納めた者の価値観から言えば常識であった。ましてやノブナガはその中でも達人とも言ってもよい程の技術を持つ。それをあまつさえ抜刀する前にその手を止める事などあってよい筈はなかった…そして先ほどから刀を抜こうとしているが1ミリも動かす事が出来ない…圧倒的な腕力…

 

 

ノブナガ「てめぇ…何者だ?」

 

 

冷や汗を垂らしながら、言葉をはっしたノブナガにニヤリと笑い佇む漢。

 

 

パクノダ「ノブナガ!!離れて!」

 

具現化した銃から飛ばされた念弾が漢に目がけて発射された。すかさず距離をとるノブナガ。漢は素早い身のこなしで念弾が当たるより早く土煙だけを残し、岩の上に立った。

 

「ほぅ、そんな事も出来るのか…」

 

その漢は少し考えた後、手の平にオーラを集中させた。オーラを右手に集め、そして手の平の上に乗せた。感覚で言うと右手にバスケットボール大の球体を乗せているような状態だ。

 

しきりに「ほぅ…」っと唸ったりしている所を見るにこれが初めての経験なのだということがわかる。

そのバスケットボール大の球体を今度は両手で強引に縮めていく。

 

本来オーラを操る術を知る者であればそんな事をせずともオーラを操ることが出来るのであるが、いや、自らの腕力でオーラを握りこみ凝集させるなどまず出来る筈もないのだが‥この漢はまだオーラの扱いに慣れていないようだ。

強引に力でその球体をサイコロくらいのサイズに凝縮してしまった。

 

今度はそれを左手の手の平に乗せると右手でデコピンをし、そのオーラの塊を弾いた。

 

 

ノブナガ「パクーーーーッッ!!!」

 

 

その漢が凝縮したオーラの塊はパクノダの腹部を貫き、その場でパクノダは血を吐いて倒れた。

 

「勉強料だ、早く治療してやりな。俺は猿と戯れてた所なんだから邪魔するな」

 

そう言い残し、その漢は去って行った。黒い道着に身を包み、お尻には何故か315と書かれたプレートを付けていた。

 

 




乱雑に並べられたベットに見るからに堅気ではなさそうな者達が横たわっている、中には銃で撃たれた者なども居たりと、ここは正規の病院ではないのであろう。
国営の病院へは訳あって行くことが出来ない者、ケガや病気の原因の追及など一切ない。
そのかわりに多額な医療費を請求する闇医者が運営する病院であった。
酸素マスクを付け横たわる女性は旅団員のパクノダ。先の漢に念弾を撃ち込まれ意識不明の重体となった彼女をノブナガが近くの闇医者に連れて来ていたのであった。

ノブナガは困惑していた…彼女を守れなかった自分に対しての負い目はもちろんあったが、それ以上に今まで出会った事のない程の力を持った漢の存在…タイマンでは負けはしない…そう己の力を過信していた事にも腹が立った。おもむろに電話を取り出すと、ボタンを押した。


prprprprprprpr


シャル 「もしもし、ノブナガやっとーーー」

ノブナガ「シャルか、パクがやられた。恐らくボノレノフもやられてる…」

言葉を遮るように淡々とノブナガが続けた。


シャル 「どういうこと?なんで3人が一緒に?」

ノブナガ「俺が知るかよ、場所は解らんが恐らくボノレノフの故郷、ギュドンドンド族の集落だ。」

シャル 「なるほどね。パクは団長の指令で機体が現れた地で情報集するように言われていたんだ。そこがちょうどボノの故郷だったのかもね。容態は?」

ノブナガ「今はパクを連れて闇医者にいる、意識不明の重体だとよ…ボノは解らねぇがおそらくもう…」

シャル 「相手はどんな奴ら?」

ノブナガ「こっちが聞きてぇ…とんでもなく危なねぇ野郎だった。」

シャル 「もしかして一人…?」

ノブナガ「…………そうだ」



丁度その時に機体が1機、シャルの居るアジトに帰還した。続けざまに残りの4機も帰還した。

シャル 「オッケー。今ちょうどみんな帰ってきたんだ。ノブナガはそのままパクに付いててあげて、また連絡する」

ノブナガ「あぁ…」

機体から降りて来たクロロ、ウボォーギン、シズク、そして無惨な姿となったコルトピの上半身を抱き抱えたマチ。ウボォーギンが外側からハッチを開けると見慣れぬ漢が眠っていた。そのままウボォーギンが担ぎ、横たわらせた。

状況が理解できないシャルナークにクロロが静かに説明した。

シャル「なるほどね、ならその漢はコルトピの抜け番って訳ね」

クロロ「あぁ、意識が戻ってから話をするつもりだ」

クロロとシャルナークが今後の事について話を進めているとシズクがデメちゃんが吸い込んだもの出してくるねと言い。アジトを出て行った。

シズクの能力のデメちゃんは最後に吸い込んだものは吐き出す事が出来る。
吸い込んだものがどこへ行くのかはシズク自身も知らないし、別に吐き出さなくてもおそらく無限に吸い込むことが可能であったが、シズクの心情的に死体を吸い込んだ際はなんだかデメちゃんが可哀想になって吐き出さなくては気が済まないようであった。

アジトから数キロ離れた崖の上。下は断崖絶壁の海。

シズク「よし、デメちゃん、吐き出していいよ!」

そこに向かって、吸い込んだ死体とガラス片、床板を吐き出しアジトに戻った。本当はここにあちらの世界のたくさんの物も吸い込んで持ち帰る筈だったが今回は仕方がなかった。
表情からは普段何を考えているかいまいち読む事が出来ないシズクが今何を考えているのかは定かではないがそのままアジトへ戻っていった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

吐き出された黒帯の集団の死体とガラス片、床板、そして、その中に範馬刃牙の姿もあった。

既に心臓は停止している。

医学的にも死体と言って間違いないであろうその身体を、海面に背面を打ち付けた衝撃か?上から落ちて来た死体の衝撃か?はたまた範馬の血か?全ての偶然が奇跡を産み、範馬刃牙の心臓は再び鼓動を刻むことになった。


「範馬刃牙復活ッッ!!範馬刃牙復活ッッ!!範馬刃牙復活ッッ!!」


目が覚めた瞬間に水の中に居た刃牙は、全身の力を抜き、そのまま水上へ浮上し、記憶を辿るが状況を整理する程頭が冴えていない、身体には負傷している箇所も多いようだ‥

そして考えることを辞めて月を見ていた。

今度は心臓の鼓動をそのままに静かに意識を失った。


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HANMAR×HANMAR♯15

ゴン「レオリオ、クラピカ、あっちで隠し扉を見つけたよ」

 

ハンター試験は滞りなく進み、第3次試験を迎えていた。試験内容はトリックタワーと呼ばれる高い塔の最上階から生きて下まで降りてくること。制限時間は72時間。

外壁をつたって意気揚々と降りていったロッククライマーの人が怪鳥に襲われた所をみると外壁を伝って降りることは難しいのであろう。時間とともに人数が減ってゆく受験者に焦りを覚えていたレオリオとクラピカにゴンとキルアが駆け寄ってきた。

 

4つの隠し扉を見つけたようだ。話し合いの後1、2の3で一斉に。

4つの内のどれかが罠であっても恨みっこなしということで同じタイミングで降りた4人。ハンター試験という状況にも関わらず互いを尊重しているこの4人は本当に素晴らしいと思う。

降り立った先は4人が4人とも同じ部屋。照れ笑いを浮かべて短い別れを懐かしむ一同に、頭を丸め早口で捲し立ててきたのは294番のハンゾーだった

 

ハンゾー「いやぁ~待った待った。良かったぜ!お前らが来るまでもしかしてずっとここに一人で待ちぼうけするのかとひやひやもんよ、何にしろこれで5人揃ったし先へ進めるってことだな。おっと、自己紹介がまだだったな俺の名前はハンゾー。よろしくな」

 

ハンゾーからの説明の通りここから5人で腕時計のような形のものに○と×のボタンがついた機械を使用し、多数決で行き先や行動などを決定して進んでいくことになるようだ。

この機械を5人全員がはめると扉が開き、その奥にまた扉があり扉にはこのような表示があった。

 

このドアを

 

○→開ける ×→開けない

 

ピッ

 

このドアを

 

○→5 ×→0

 

満場一致で扉を開けた。最初から行動を共にして助け合ってきた4人だけならともかくこのハンゾーという男とも、なかなか相性が良さそうだ。特に揉めることもなく様々な試練を少し楽しそうに看破した4人は4次試験に進む。

 

4次試験の内容は狩るものと狩られるもの。一人一人くじを引き、引いたくじに書かれているナンバーが自分のターゲットのナンバープレートとなる。

自分が持っているプレートは3点。ターゲットのプレートも3点。それ以外のプレートは1点となり、ゼビル島での滞在期間中の7日間で6点分のナンバープレートを集めた者がこの試験の通過者となる。

この4次試験まで残った受験生は既に20数名という少数になっていた。その為1点分にしかならないターゲット以外のプレートを好んで狙う者などまず居ないであろう。

自分にとって1点分のプレートということは他にそれを狙っている者もいることになるので無用な争いを起こすことにもなりかねない。おのずと勝利への定石は自分のプレートを守りきりターゲットのプレートを奪取するということになる。

 

船が島へつくまでの2時間は自由時間と言い渡され、船の旅をお楽しみくださいという案内人の笑顔に対して、受験生の顔は険しい。誰とはなく自分のプレートは胸から外し懐にしまい込んでいた。皆、誰とも視線を合わせようともせず情報を遮断する。

 

甲板で座り込み佇むゴンの隣に座ったキルアが投げかける。

 

キルア「何番引いた?」

ゴン 「キルアは?」

キルア「ナイショ」

 

このやり取りでお互いに笑顔を見せ、2人の間での緊張が少し和らいだ。

 

キルア「安心しろよ、俺のターゲットはゴン(405番)じゃない」

 

ゴン 「俺もキルア(99番)じゃないよ」

 

せーので見せっこをすることになったゴンとキルアは同じタイミングでくじで引いたターゲットのナンバーを見せ合う。キルアのターゲットは199番。2人とも心当たりはないようだ。

最もキルアがゴンに声を掛けたのはゴンのターゲットが誰か気になっていたのも確かではあるが、この199番が誰か知っていたら教えて貰うつもりでもあった。

 

ゴンが出したプレートを見てキルアがとっさに言う

 

キルア「…マジ?」

 

ゴンのターゲットは44番。奇術師ヒソカのナンバーだった。

プレートから再びゴンの顔に視線を戻すとゴンが震えているのをキルアは見逃さなかった。

 

キルア「嬉しいのか怖いのかどっちなんだ?」

 

ゴン 「両方…かな」

 

ゴンはこれがもし決闘であれば自分に勝ち目はなかっただろうがプレートを奪えばいいということならば何か方法があり、チャンスもあると。そう思うと怖いけれどやりがいはあるとそう言った。まぁがんばろうぜ、生き残れよゴン。といい残しその場を去って行くキルアに対して、親指を立てたゴンであった。

船がゼビル島に到着し、アナウンスが流れる。いよいよ4次試験が開始されるようだ。3次試験のトリックタワーの制覇が早かった者から森に入れるルールになっているようで、その後も成績順、2分間隔で船から島へと降りていくようだ。

 

「それでは一番の方スタート!!!」

 

進行役の女性の元気の良いかけ声で3次試験を1位で突破した44番のヒソカが今ゼビル島へ降り立った。

 

「22番スタート」

 

4次試験の順番通りに数刻後に呼ばれたゴンが元気よく島へ駆け出す。森の中へ駆け出すその足取りは好奇かまたは恐怖か、そのどちらの感情をも持ち合わせ歩を進めて行く。

 

どれだけ歩いただろうか?未だに受験生の誰にも遭遇することはなかった。

ここは思っていた以上に広い島だったようだ。一度だけ後方に気配を感じたような気もしたがそれも気のせいだったのだろう。水辺を見つけそこでやっと一息つきながら服を洗濯することにしたゴン。ハンター試験が始まってから数々の試験を突破してきたゴンの服は泥や砂で大分汚れていた。

 

落ちてゆく汚れを見つめながらどうしたらヒソカからプレートを奪えるだろうかと考えていた。まぁまだ7日もある。しっかり対策をして望めばきっとなんとかなる。ゴンは持ち前の前向きな思考も相まってまずは腹ごしらえにいそしむことにしようと決めた。

 

既にトレードマークにもなっている釣り竿を手に魚釣りを始めた。さっそく何かが掛かったようだ。

 

ゴン「お!!きた!!きたきた!!きたァーーーー!!」

 

どこかで見たような光景である。デジャブ?いやその辺りは気にしないでおこう。なにしろ釣り竿には魚は掛かってなかったのだから。魚の代わりに掛かっていたのは一人の少年。

 

Tシャツに針が引っかかり運良く身体に針はささってなかったが意識のないこの少年は身体中傷だらけだった。

 

ゴン「え!?なに!?ねぇキミ大丈夫?」

 

手厚く看護しながら少年に言葉をかけ続ける。意識のない少年にちょっと痛かったらごめんね?と一応一言断りを入れてから、背中に掌底で喝を入れる。

 

「ゴホッゴホッゴホッッッッ」

 

ゴン「あ、水が出たね!」

 

口から大量の水を吐き、やっと意識を取り戻した身体中傷だらけの少年。

あれからどれくらいの日数が経過しているのだろう?最後に覚えているのは海面から見えた美しい月。少し記憶が混同している。なんにしても助けてくれたのであろう、このとんがり頭の少年にはお礼を言っておくべきだろう。

 

「ありがとう、助かったよ。」

 

ゴン「いきなり水から出てきたからびっくりしたよ、オレはゴン=フリークス!キミの名前は?」

 

バキ「バキ…範馬刃牙だ」

 

ゴン「はんま…あれ?もしかしてバキはおじさんの…?ユージローって大っきな黒い服着た人。」

 

バキ「ユージロー?範馬勇次郎は俺の父親だけど…」

 

ゴン「やっぱり!だと思ったんだ。おじさんもオレが釣り上げたからさ。」

 

刃牙は戸惑う。少しだけ時間をくれとゴンに断りを入れてから頭を整理する。自分は神心会本部の道場であの大男と戦い敗北した。そこまでは解る。確かにその瞬間に一度死んだ。

 

いや、死を意識する程の衝撃をこの身体に感じた。その後、幸運にも意識が戻ると海の上に浮かんでいた…そしてまた意識を失い今に至る。ストライダムの話を参考にすると父親が違う世界に行き、その機械に乗って帰って来たのは勇次郎ではなく、見知らぬ5名。そしてその中の一人が数々の戦友達を相手に猛威を篩った…。

 

バキ「親父がここに…?ゴン、ここって日本だよな?」

 

ゴン「にほん??ちょっとオレそういうのわからないんだよね。でも試験官の人はゼビル島って言ってたよ!」

 

バキ「日本って聞いたことない?アメリカは?」

 

ゴン「う~ん。オレはくじら島っていう小さな島出身なんだ!だからごめんちょっとわかんないや」

 

バキ「そうか、悪い。なら俺の父親の範馬勇次郎は今どこにいるかわかるかい?」

 

ゴン「おじさんとは一緒にハンター試験を受けてたんだけどね、途中でハンター協会の会長とケンカして負けちゃって、そっから姿は見てないんだ」

 

バキ「負けた!??負けたって喧嘩で親父が!?」

 

ゴン「うん。なにがあったのか良くわからなかったけど…その会長に吹き飛ばされて動かなくなっちゃって、どこかに運ばれていったよ」

 

バキ「…………」

 

放心状態となっている刃牙の姿を見て、少し気を使うようにゴンが慌てて言葉を足した。

 

ゴン「あ、あのね、ハンター試験っていうのはプロハンターになる為の試験でオレの親父もプロハンターなんだ。だからオレもハンターになりたくって。ちなみに今は4次試験の最中なんだ。バキはまだちょっとそこで横になってて、オレが魚釣るから一緒にごはんにしよ!」

 

バキ「…‥…」

 

範馬刃牙、若干18歳のこの少年にとって父親の絶対的な強さはむしろ崇拝に近い。

産まれ落ちてから今までの期間ずっと父親を越える事のみに心血を注いで来た。ただただ父親より強く。

その為に様々なことを犠牲にしてきた刃牙は格闘士として恵まれた体格とは言えないその小さな身体で地下闘技場のチャンピオンにまで上り詰めた。

 

ただただ弱い部分、足りない部分を鍛える。

 

そんな生活を送ってきた刃牙ならではのシンプルな発想が行き着いた答えはいかにも彼らしかった。

ゴンが釣り上げた魚をそのまま丸焼きにした物を口に運ぶ刃牙は、その答えを呟く。それが独り言なのか誰かに対して発した言葉なのか、向かい合うゴンは解らなかったが大切な事なんだという事だけは理解でき、静かに聞いていた。

 

バキ「夢…………夢じゃない。確かに感じられるこの魚の旨味。疑りようもないこの胸を叩いた拳の感覚…何度だって驚ける…一体誰が信じる!?

 

異世界の人間と戦った。それもかなりの強者…ストライダム大佐の説明は無教養な俺には難しく…とにかく親父が異世界に行ったということらしい。理屈はともかく…はっきりしていることがある。

 

異世界の人間と立ち会った証拠はこの五体に刻まれている。立ち会った際に解った。こちらの世界とは異なった部分での強さ。この世界で生き残るのは何か違った力が必要…意識が戻ってから感じるこの身体に纏う「何か」おそらくこの力はこの世界で強者を名乗るのならば身につけて当然の嗜みだろう…なんて虫のいい…ツイてる…無茶苦茶ツイてる!!

 

原始の太古からピクルという奇跡がやって来た。

 

戦国の世から「最強」宮本武蔵が俺達の前に。

 

そして今まさに異世界にまで来てしまった俺。

 

理解ったよ……もう理解った…

 

 

時代が…

 

 

法則が…

 

 

神が…

 

 

俺が…

 

 

人類史最強を決定しようとしている!!!

 



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HANMAR×HANMAR♯16

ゴン「なんだか、すっきりしたみたいだね!」

 

バキ「あぁ、ゴン、ありがとう!」

 

刃牙は起き上がり、そして自分の身体がもの凄く軽くなっているのを感じた。それは重力のせいであったが刃牙はこの身体を纏うもやのようなものであると勘違いしていた。だがそれはさしたる問題ではない。明らかに以前より早く動く身体。身体能力の飛躍的な向上。強くなっている…!そしてこの纏うもやのようなものは自在に動かす事が出来るようだった。

 

バキ「ゴンはなんでそのハンターってのになりたいんだ?」

 

ゴン「親父がハンターをやってるって言ったよね?でもオレ、親父の記憶はほとんどなくて、だから親父が魅せられた仕事ってどんなものなのかなぁーって」

 

バキ「そうか…なんだか悪いこと聞いちまったな」

 

ゴン「いや、全然平気だよ!ミトさんっていう母親代わりの人がいてくれたし島のみんなも凄く良くしてくれてるんだ。でもハンターになったら、親父に会いに行こうって思ってる。ずっと死んだって聞かされてたんだけど今も生きてて凄いハンターなんだって。そう教えてくれた人がいたから、どんな人なのか会ってみたくて」

 

バキ「俺もまずは父親探しから始めないとな」

 

2人は顔を見合わせて笑った。偉大な父親を持つもの同士のシンパシーかゴンと刃牙は似たような匂いを感じていたのかもしれない。その状況を物陰から覗き見る人影が複数。

 

197番アモリ、198番イモリ、199番ウモリ、絶妙な連携プレイで常に好成績をあげているという噂のハンター試験常連アモリ三兄弟。

 

この3兄弟の中でゴンをターゲットに持つ者は居なかったが、たまたま焚き火の煙が見え近くまで来てみたら、2人の男が楽しそうに談笑していたところであった。とんがり頭の少年は記憶を辿るとたしか405番?だったような気がすると次男のウモリが言う。もう一人の男は3人の記憶にすらないところを鑑みるとおそらくたいした実力はないのであろう。

 

もしここで2枚のプレートを奪取出来れば、この先最悪、誰のプレートも奪えなかったとしても3兄弟の内誰か一人は次の試験まで進む事が可能となる。長男のアモリはここが勝機と判断し、フォーメーションを組むように指示を出す。

 

姿を現した3人に対して、ゴンと刃牙は警戒態勢に入る。ゴンが警戒をするのは無理もない事であったが部外者の刃牙もが警戒したのは3人のやる気満々といった雰囲気に格闘士としての本能がそうさせたのだろう

 

バキ 「何か用かい?」

 

イモリ「なぁプレートをくれねーか?おとなしくよこせば何もしない」

 

ゴン 「いやだ!!」

 

イモリの蹴りがゴンを吹き飛ばした。

 

イモリ「あーあ言わんこっちゃない。ばっちりみぞおち、ありゃ地獄だぜ」

 

バキ 「ゴン!大丈夫か!?」

 

ゴン 「うん…痛いけど平気。我慢できないほどじゃないよ。でも…これはオレの問題だがらバキは逃げて!」

 

ゴンのその言葉に優しく微笑みかけるバキはそのままお返しとばかりにイモリに対して後ろ回し蹴りをみぞおちに見舞う。イモリは吹き飛び後ろに生えた大木に身体を打ちつけ、起き上がることはなかった。

続いて舞のように美しく上空数メートルに飛び、回転しながら今度はウモリの前に着地、ウモリは当てられた拳に気がつくことさえ出来なかった。着地する前に既に回転を利用しながら裏拳を顎にヒットさせ意識を失わせていたのだ、今度はゆっくりと歩きながらアモリの前に立つ。

 

アモリは刃牙に対して落ちていた木の棒で殴り掛かるもそれを足刀で折るとその頭を優しく掴み、揺する。アモリの脳はシェイクされるように幾度も頭蓋に叩き付けられ脳震盪を起こし意識を失った。

 

キルア「ゴン!!無事か!?」

 

アモリ3兄弟同様に焚き火の煙を見たキルアもその場へ向かっていたようだ。自分の獲物が誰なのかも解らないキルアは手っ取り早く3人分のプレートを集める必要があったからだ。人が居るなら積極的な遭遇は望む所。

 

誤算があるとすればキルアがそこに着いたのはゴンが吹き飛ばされた後であった。すぐ様助けに入ろうとしたが、見知らぬ男の後ろ回し蹴り、その後の舞と見間違うような美しい動きに目を奪われていたのであった。

得体の知れない男の存在は気になったがゴンを守っていたと結論付けると悪い人間ではなさそうであった。

倒れたゴンに手を貸そうとするともう一人見慣れた顔が目の前にあった。3次試験を一緒に攻略した294番のハンゾーである。ハンゾーのターゲットは197番のアモリで試験開始からずっと気配を絶ち、チャンスをうかがっていたようだ。

 

もちろんゴンに何か危機があるのであれば助太刀に入る気でいたが、キルア同様に刃牙の美しい動きに目を奪われていた。

 

ゴン 「キルアにハンゾーも!この島で会えると思わなかったよ!」

 

半蔵 「そうだな。まぁケガが無くてよかったぜ、それより…ゴン、あいつは誰だ?」

 

ゴン 「バキだよ!たまたまこの島に流れついたんだって、オレもさっき友達になったんだ」

 

バキ 「あ、範馬刃牙です…よろしくお願いします。えっと…ゴンの友達…?」

 

急に人見知りを発揮する刃牙であった。

 

ゴン 「うん!オレたちハンター試験の最中なんだ。今はこの島でプレートを奪い合ってるの!あ、そうだ!プレートプレート」

 

ゴソゴソと3人の所持品を漁るゴンの手元には4枚のプレートが握られていた。197番、198番、199番、362番、の4枚のプレートであった。362番のプレートは既に3兄弟が誰かから奪っていたプレートであろう。その4枚のプレートをゴンは刃牙に渡した。

 

バキ 「俺に?」

 

ゴン 「うん!だってこれはバキが取ったプレートだもん。どうするかはバキが決めて!」

 

バキ 「どうするったってなぁ。俺には必要がないものだし、これが得点になるんだろ?」

 

ゴン 「そうだよ、それを奪い合うのが今回の試験なんだ」

 

バキ 「俺には必要ないからなぁ。欲しい人いる?」

 

先ほどまでバキを警戒していて口数が少なかったキルアが自分のターゲットが199番である事を明かす。続いてハンゾーも197番である事を明かすと、快くバキはそれぞれの3点分になるプレートを渡した。これでキルアとハンゾーの2人は既に6点分のプレートを手に入れたことになる。労せずに2人はプレートを手に入れてしまった為にゴンのプレート集めに協力することを提案した。

 

キルア「うーん。ただゴンのターゲットはヒソカだからそいつは難しいかもね」

 

半蔵 「げっ!そいつは運が悪いな。もう5点分はあるんだから1点分のプレートを誰かから奪おうぜ」

 

ヒソカの実力を知る2人の発想は至極当然のことであったが、ゴンはその提案になかなか応じない。

 

ゴン「まだ時間もあるし、頑張ってみるよ。試したいんだ。自分がヒソカ相手にどこまで出来るかを」

 

バキ「そのヒソカっていうのはそんなに強いのか?」

 

ゴン「うん…」

 

バキ「それはそちらの2人から見てもかい?」

 

刃牙がハンゾーとキルアに視線を送る。刃牙は佇まいから既に2人の実力を見抜いていた。特にハンゾーとは立ち会いをお願いしたいくらいであった。

 

半蔵 「お褒めに預かったみたいで光栄だな。ただあいつはヤバい!できれば金輪際近づきたくもねぇな!」

 

キルア「オレも今は勝てる気しないなぁー。あ、バキだっけ?あんたも相当やるけどね。」

 

自分を過大評価しているのかもしれなかったが、刃牙は地下闘技場のチャンピオンであるという確固たる自信もあった。既に1流と呼ばれる格闘家さえ問題にならない程の強さを手に入れているという自負もある。これ以上どうやったら強くなれるのか…それを悩んでしまう程、今の自分は力を、技術を、研ぎすませている。そんな位置にいる刃牙から見てもこの2人は相当な実力者だ。刃牙同様にかなり高い位置にいるであろう、その2人をもってしてもそう言わせる程の実力者…ヒソカ。一呼吸置いて刃牙が問いかける。

 

バキ 「そのヒソカっていう男はもしかして…これが使えるんじゃないか?」

 

バキが身体に纏っているオーラを少し強く発してみた。理論などは解らないが感覚的に身体の周囲で揺れているそれを力強く発しただけだ。オーラの感覚を掴めていない3人には目では見えていなかったが3人とも刃牙から距離をとった。ゴンとハンゾーはたじろぐ程度であったがキルアに至っては遥か後方へ下がっていた。

 

ゴン 「バキ…今何をしたの?」

 

バキ 「俺にもよく解らないんだ、ただここに来てからこれが使えるようになった。きっとこの力を使いこなせるようになったらもっと強くなれるはずなんだ」

 

キルア「それ…多分親父とか兄貴が使ってる技と一緒だ…きっとヒソカもそれを使ってると思う…何かの技だったのか…」

 

半蔵 「それはオーラってやつだな…」

 

バキ 「何か知っているのか?」

 

半蔵 「いや、詳しくは何も知らない。それも今まで忘れてた。ガキの頃に入っちゃいけないって言われてた倉があってな、入っちゃダメって言われるとよ、どうしても入りたくなっちまうんだ。それでそこに入ってた巻物にそんなような事が書いてあったようななかったような。それを使えるようになる方法みたいなのも書いてあったけど、古い記憶だからどうだかな…」

 

キルア「方法って!?どうやったらいいんだ?オレにも使えるのか?」

 

ゴン 「オレもそれを使って強くなれるんだったら使えるようになりたい!」

 

半蔵 「期待は薄いぜ?バキ、ちょっとその状態で俺を殴ってみてくれ」

 

バキ 「え!?この状態で?」

 

バキには心辺りがあった。この世界に来たからこの力が使えるようになっただけだと思っていたが、もしかしたら…。右手のビンタを軽く小突くような稚拙な力でハンゾーの頬を打った。

 

半蔵 「うぉぉぉぉーーー!!」

 

バキ 「えッッ!?」

 

軽く、敬意すら持って優しく叩いただけだ。頬を叩いただけなのにハンゾーは強く地面に叩き付けられた。ハンゾーの実力を感じていた刃牙からしたら本気で攻撃をしても自分と互角かそれ以上の実力だと計っていた。見誤ったか?とも思ったが、そんなことはないだろう。きっとこの力のせいだ…

 

キルア「おい!バキ!そんな本気で殴らなくたっていいだろ!」

 

バキ 「軽く、軽く叩いただけだッッ!きっとこの力のせい…」

 

ゴン 「ハンゾー!大丈夫!?」

 

半蔵 「………なんとか生きてる…でもやっぱりだ…間違いねぇよ。今のオレにはバキの身体を纏ってるオーラがうっすら見えてるぜ」

 

バキ 「実は俺もこれを使えるようになったのはある漢に殴られてからなんだ」

 

半蔵 「決定だな。この状態で殴られたら使えるようになるみたいだ。自分の身体を覆っているのも見えてきた」

 

ゴン 「凄いや!ねぇオレもお願いしていい?ヒソカからプレートを奪いたいんだ」

 

キルア「いや、ゴン待て、ハンゾーにお願いしよう」

 

ゴン 「え!?なんで?」

 

キルアの不安は惜しくも当たらなかった。数秒後には地面に頭から垂直に突き刺さり、地上に出ている脚だけをピンっと伸ばし意識を失っているキルアとゴンを見ながら、ハンゾーが刃牙に対して頭を掻きながら苦笑いを浮かべ、刃牙もそれに続いて笑った。

 



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HANMAR×HANMAR♯17

漢は静かに天井を見上げていた。無機質な天井と薬品の匂いから、この場所は死闘を終えた度に何度も世話になったことがある病院である事を悟る。

また…むざむざ生き残っちまったか…。

 

そう想いを馳せ、窓の外に視線を移すと太陽がちょうど落ちようとしている綺麗な夕焼けの色を角膜で感じることができた。漢はいつか考えたことがある。自分の死に場所。武神とまで言われている自分の死に場所はやっぱり戦いの中でしかありえねぇ…老衰なんてまっぴらごめんだ。いつだって前のめりで攻めて、攻めて、そこで死にたい。もっとも負けて死ぬなんてご免だ。

 

勝ってから死ぬ。ビシッ!と型でも決めちゃってよ。

格好つけて死にてぇもんだぜ。その後ろには妻と、克己は…まぁ声掛けてやってもいいか。

出来の悪い息子だったが最近はめっきり親離れしちまって寂しいもんだぜ…。えっとよ、確認なんだが俺はまだ生きてるんだな…?意識が鮮明になり、ぼやけた視界がはっきりすると先ほどまでとはうってかわって穏やかな顔が一変した。

 

 

独歩「覚えてやがれよ…あの野郎!!!

 

 

 

同じく同じ病棟の違う部屋。ここにいる漢の部屋の前には病院には似つかわしくない見るからに強面のスーツ姿の漢達が数人立っている。微動だにしないその姿勢を崩さぬまま、目の前を通り過ぎる人間を、その存在感で威圧しながら注意深く観察する。恐らくあの漢の護衛であろう。

花山組二代目組長、花山薫。

 

大きな身体をそのままに眠っているのか嗤っているのか表情が伺えない。

 

重体にも関わらず、サイドテーブルにはタバコとお決まりのウイスキーが置かれている。多くの格闘士もそうであるが、文字通り法の外に生きるこの漢は、その者達とは一線を画す。兎にも角にも欠伸が止まったことには違いない。ただこの漢。喧嘩師として喧嘩に負けたまま終わる漢ではないと。

 

それは誰もが知っている。

 

グッっと見開いた血走った眼で飲み終えたウイスキーの空き瓶を握り込み。破裂させた。

 

 

 

花山「ッッッ………!!!

 

 

 

 

買いかぶっていたつもりはない。何を?実力をだ…。

向上心の塊のようなこの漢は地下闘技場で刃牙に敗れてからというもの鍛錬に継ぐ鍛錬。血を分けた実の兄弟である兄。スーパードクター鎬紅葉に勝利し鎬流をさらなる高みへ。

 

数々の武術を取り入れ斬撃拳というオリジナルまで極めたつもりであった…つもりであった…。

 

規格外の存在との戦いは初めてではない。常に強者と切磋琢磨してきた…つもりであった…。

 

だが…己が今まで出会った最強の敵を持ってしても比べるに値しない程の強者の存在が昂昇の信念を揺らがせる…。

武闘家として最も信頼を寄せる身体、その四肢の一端である腕をいとも簡単に折られたのだ…心中は察してやるべきであろう。

 

 

昂昇「俺は…俺は‥弱いのか…?

 

 

 

 

未熟。未熟。未熟ッッッ!!

 

漢の意識は先の3名と比べて一番しっかりとしていたようだ。実力を見誤う愚。

慢心していた…何よりも…気を使わせていたッッ!

同じ舞台に立ちながら、相手に気を使わすという闘士としてあるまじき侮辱を恥じていた。

 

そして己の技、力、戦略、全てが許せない。

 

私の身体を気遣うかのように放たれる拳は実力の何割だったのだろう…功がなったと思い上がっていた自分が何より許せないッ…敗北をし、尚、生きながらえてしまった…奥歯を噛み締める音が外まで聞こえてくる…。

中国武術を舐められたままでは絶対に終わらせることができんッッ!!

数千年間という途方も無い時間を経て、先人達が与えてくれたもの。ある者はそれを途方も無い学問と謂う。

 

その現代の最終形態とも呼び声高い己が負けたことは即ち、数千年にも及ぶ中国武術の敗北を意味する。

 

 

烈「このままでは…納得できんッッッ!!

 

 

 

 

そして

 

 

 

渋川 「ーーーーーー

 

ウボォーギンの超破壊拳(ビックバンインパクト)を最も近くで受けた渋川剛気は未だ意識不明の重体。閉じられた目、その意識の先に何を想うのかは本人のみぞ知る…

 

 

 

最後の病室には横たわる愚地克己を囲うように徳川光成、ストライダム、鎬紅葉が居た。

 

紅葉「愚地克己さん、わかりますね?まだ意識が戻ったばかりで悪いが何があったのか、話して貰ってもいいかい?」

 

克己「あぁ…」

 

一度ゆっくりと目を瞑り、状況を思い出すように断片的に記憶を辿る…夢か現実かすら疑わしかった。神心会にとって過去最大級の未曾有の大事件と大惨事。夢であるなら夢であって欲しいと、この屈強な漢が切望する程。自身の負傷をみるとそれは叶わない紛れも無い現実であると悟る。深い溜め息と共に言葉を吐き出した。

 

克己「入れ墨……腰の辺りにベッタリと張り付いた…そう、蜘蛛の入れ墨だ、11と数字が入っていた…」

 

光成「蜘蛛の入れ墨とな…?」

 

克己「あぁ…俺が最後に見たのはあの男の蜘蛛の入れ墨だ…そいつに‥そいつたった1人に手も足も出なかった‥」

 

光成「よし!奴らで間違いなさそうじゃ!なら早速顔写真と共に緊急で指名手配をするように警察にも手を回そう」

 

克己「ふざけるなッッ!!これ以上神心会に、俺に、親父に…恥の上塗りをさせろっていうのかッッ?!?」

 

空手団体として世界で最大規模に支部を持ち、門下数の数は100万人。決して事前事業で行っている訳ではない。曲がりにも武闘派集団と詠っているその本部道場のトップクラスの実力者が雁首揃えて集まっていた最中に襲撃され、死者も多数。残された者のほとんどが意識不明で病院送りにされたなど、長たる克己には世間に公表することは断じて許せなかった。

 

克己「徳川さん…無礼な言葉を使ってしまい申し訳ありません…ただ、世間に公表するのは俺があの男を取っ捕まえてからです」

 

克己はまだ諦めていなかった。その真っすぐな瞳の奥に復讐の光を宿し。天井を見上げた視線の先に蜘蛛の入れ墨を見る。

 

ストライダム「その事なんだが…」

 

そう切り出したストライダムが、全てを話した。あくまで可能性の問題であり憶測の域は出ていない。ただ神心会を襲撃した男。そしてその者の仲間。現場に居合わせ生き残った黒帯の門下生に写真で確認は済ませてあったようだ。

機械のようなものに乗り消えていったと…。信じたくない気持ちから可能性という言葉を使ったストライダムであったが、ここまでの状況証拠が揃っているとなると言い逃れは出来ないであろう。異世界の住人である事を聞き、徳川光成も目を丸くして、言葉をなくす。

 

その全てを、克己を始め独歩、花山、昂昇、烈、にはその日の内に伝えた。

 

激震が激震を呼び、その噂は瞬く間に地下闘技場を生業とする数々の猛者達の耳にも届いたのであった。

皆、一様に想う事はそれぞれであったが共通して言えること。それは攻撃を受けた5名の身体を覆う何かが以前とは違っているという事。

そのオーラにより回復力が促進されていた事は後に知る事になる。だが、そのお陰で全快し徳川邸に決起集会を行いそれぞれの情報を交換したようだ。

 

 

範馬刃牙、加藤清澄、末堂厚、3名の葬儀はその後盛大に行われた。




まさか自分の葬儀が行われているの事など夢にも思っていないこの漢は現在境地に立たされている。

末堂(おいおい…マジかよ…マチじゃねぇか!本物のマチじゃん!シズクもいるし………めっちゃ可愛い!!反則だろ…こんな美しい女性がこの世の中にいるなんて…あれ?ウボォーギンがいる、ってことは俺の最後の攻撃ってやっぱダメだったのか…噛ませ犬らしく華々しく散ったってことだな。まぁちょっとはビビらせることできたし、こいつら相手によくやったと思うぜ。加藤もきっとそういってくれる。
さてさて、もう走馬灯みたいなのはいいからよ、さっさと相方のとこ連れてってくれや。お、マチが近づいてきた。近くで見るとやっぱめっちゃ可愛いな…そんなに顔近づけて…おい、惚れてまうだろッッ!!それにしてもいい匂いだぜ…神様、最後に夢見させてくれて、ありがとな)

走馬灯と思っていた末堂が最後に見た、顔の造りから瞳の大きさの世界観までも違う美系のマチの姿や匂いをしっかりと脳の記憶中枢の海馬へ刻み、感謝しながらこの世への未練を捨てたところで右頬に鋭い痛みが走った。

末堂「いてててッッ!!」

マチ「こいつ目が覚めたみたいだよ」

椅子に縛り上げられた末堂の顔をひっぱたくマチ。そのまま別室にいるクロロとシャルナークを呼びに行った。

叩かれた頬の痛みから自分がまだ生きている事を悟り現在境地に立たされているこの漢は旅団員の一人であるコルトピを倒し、気を失ったままこちらの世界に連れて来られた末堂厚である。

フィンクス 「こんな奴が本当にそんな化け物みたいな力を見せたっていうのか?」

フェイタン 「とてもそうはみえないね」

フランクリン「おい、お前ら!あんまり近づくなよ、何かあるぜ」

先ほど合流したこの3名は既に話を聞き、大まかな情報は理解している。もちろん個人差はあるがフランクリンという顔に傷を持つ男はしっかりと事態を把握していたようだ。だが他の2名は少し怪しいものだ。クロロとシャルナーク、続いてマチが入ってきた。

入ってきたクロロは末堂の顔を一瞥すると淡々と言葉を発した。

クロロ 「名前は?」

声が聞こえなかった訳ではない。末堂は漫画で見ていたクロロやその他の登場人物が実在する人間として、こうして目の前に存在し、そして言葉を投げ掛けてくることに目を見開き、しばしの動揺から言葉を失っていた。

フェイ 「やはり殺すいいね」
フィン 「オレがやってもいいぞ」 

返答がないことに殺気立った目で睨みつけるフェイタンとぼきぼきと指を鳴らすフィンクス

クロロ 「名前は…?」

もう一度、繰り返された言葉は末堂に対して偽りは一切認めないという強い信念を伺わせたのと同時に、自分が今置かれている状況。そして、この者達が殺人も厭わない、悪名高き幻影旅団だということを理解させた。発せられた圧は小細工は効果をなさないことを再認識させるには十分であったが、奇しくも再び繰り返されたこの言葉は逆に末堂を冷静にさせた。

末堂(生き延びてやる……ッッ!!)

末堂「末堂厚」

クロロ「スエドウ、お前が今置かれている状況は理解しているか?」

末堂 「アンタらが…ふざけている訳ではないってことは解る…そして俺を殺すことに一切の躊躇いもないってこともな…」

クロロ「ずいぶんと冷静なようで安心した。目が覚める前の記憶はあるか?」

末堂 「あぁ…あそこにいるデカイ奴が道場にやってきて、俺の師や友人達を倒し…俺が殴り掛かった所までだ」

クロロ「その後、お前はこちらの仲間を一人殺し、意識を失ったが我々でこの世界に連れてきた。オレらは旅団という盗賊団だ。メンバーは厳選される。例外はあるが団員の人数は13人。団員が入れ替わる際は元居た団員を希望者が殺すか現団員の推薦となる。オレがお前の入団を推薦する。そしてお前は既に元団員の一人を倒した。言っている事が判るか?お前次第となるが、選べ。」

末堂 (元居た世界だと…?ならやっぱりここはハンターハンターの世界…。そこに俺は連れて来られちまったってことか!倒した?ならなんでウボォーギンがそこにいんだよ!!全然覚えてねぇ…クソッ!)

末堂 「選べって…一体何を選べばいいんだ?」

クロロ「入団するか、死か、だ」

末堂 (おいおいおい…選択肢少なすぎるだろ!いい加減にしろよこの野郎…目がマジじゃねぇか…俺が旅団に?旅団ってあれだろ?ヨークシンでマフィアに喧嘩売ったり、クラピカに復讐されたり…あと蟻と戦ったり…とんでもねぇあぶねぇ奴らじゃねぇか…俺で務まる訳ねぇだろ……でも…ここでのNOはない…NOは即、死を意味する……くッッ!なってやろうじゃねぇか!)

末堂 「……する。入団するぜ…。」

クロロ「入団を歓迎しよう。スエドウ。他に何か質問はあるか?」

末堂 「正直に言うと、俺はまだこの世界の事と置かれている状況が良く理解出来てないんだ。さっき連れてきたと言ったがお前らがどうやって俺が居た世界に来たのかだってわからねぇ。ウボォーギンだって生きてるだろ?何がどうなってる?」

暫しの沈黙。。。
クロロ「……お前…なぜウボォーの名を知っている?」

末堂 (しまったッッ……!!!!)

ゆっくりとそしてはっきりと発せられたその声は漢の耳によく通った。そしてその言葉に込められた圧力を自身が元居た世界では活躍の場は無かったが常人と比べれば圧倒的に人間離れしたポテンシャルを持つこの漢は悟る。
失言は即、死に繋がる…これからの発言、行動、その全てに細心の注意を払はなければ死ぬ。脳細胞へこれまで生涯で最大といっても良い程の神経を集中し、言葉を選ぶ。

末堂 (死ぬ気でごまかしてやるッッ……!!!!)

末堂 「それは俺の能力に起因する…クロロ=ルシルフルさんよ」

クロロ「ほぅ…」

末堂 「お前らだって仲間に知られたくない能力の1つや2つは持ってるんだろう…?」

クロロ「あぁ、構わない。お前が元居た世界では念能力のたぐいは存在しないかと思ったがそれは誤った認識だったようだな。」

末堂 「フッ!俺を誰だと思ってやがる!」

クロロ「歓迎しよう」

末堂 「世話になるぜ」


末堂(あっぶねぇーー!!ヤバかったぁーー!!!なんとかなったぜ!俺天才!!漫画で読んだとかいっても殺されるだけだ、沈黙は金!俺だけが知ってる未来で俺はなんとか生き延びてやる!こいつら利用してな!そして‥あわよくばこの世界の美人と・・好きなキャラと童貞を卒業してやるぜぇ!むふッ)

少し前に見せた加藤に対するあの漢らしい姿からは想像が出来ないが末堂にとって冨樫先生の描く女性は加藤の死を越えてゆくほどの衝撃だったのかもしれない……

末堂厚、無事に?幻影旅団に入団ッッ!!


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HANMAR×HANMAR♯18

末堂「うぉぉぉぉ!!!!なんだこりゃぁ!!!!!」

 

鏡を見る末堂。その顔には全面にベッタリと張り付いた蜘蛛の入れ墨。左斜めに向きに顔を覆うように彫られていた。足は喉仏や耳の裏まで届いているようだ。なぜこうなったのか。幻影旅団の団員は皆蜘蛛の入れ墨を身体のどこかに入れている。

 

それにより結束を深める?いや、真相は恐らく結成当時に遡るのであろう。何か深い意味があるのであろうが作中でも未だに明かされていない事実は知る由もない。

ちなみに蜘蛛の入れ墨が象徴する意味は「運命」「幸福」「創造」「忍耐」「恐怖」など。

ある国では「朝蜘蛛は縁起が良く、夜蜘蛛は縁起が悪い」と言われているようだ。朝蜘蛛は来客や待ち人が現れ、福を持ってくる吉兆の象徴されており、反対に夜蜘蛛は泥棒が入る悪い兆しとされている地域も多く、蜘蛛は天気の良い日に蜘蛛の巣をはるので、朝に蜘蛛を見るとその日1日天気も良くて気分良く過ごせると言った意味や、蜘蛛が糸を伝って下に降りてくる姿が泥棒の姿と掛け合わされ、夜に見る蜘蛛は悪い事が起こる兆しとされたようだ。

 

何はともあれ、刃牙の世界から悪名高き幻影旅団に入団した末堂厚がなぜ顔面に入れ墨を入れることになったのかというと少し遡ろう。クロロから入団を歓迎するという旨を伝えられてからすぐに当然入れ墨の話となった。

懇意としている高い技術を持つ彫り師が流星街にはいた。すぐにでもということだったので言われるがままに連れてこられた。付き添いにはフェイタンとフィンクスとシャルナーク、この人選は入団したと言っても未だに信用はされていない事の表れだろう。

 

事実、3人はクロロからも逃げるようなら殺せと言われていた。先の戦いで念能力に目覚めていた末堂は3人と向き合い、そのレベルの差は既に承知している。逃げ出すもなにもこの強者3人に囲まれるように歩くその道中では微塵も隙がなかった。

 

フェイ「お前どこにいれるね」

フィン「別に身体のどこかなら問題ねぇぞ」

シャル「これって毎回ワクワクするね」

 

末堂 (入れたいか入れたくないかだったら間違いなく入れたくねぇよ…大体なんで蜘蛛なんだよ…もはや振り切ってて何も言えねぇよ…)

 

その場で入れ墨を入れる場所を選ぶことにした。だが、誤算がある。大きな身体にはとても似付かわしくないが末堂厚は昆虫、虫、節足動物全般が大の苦手であった。特に蜘蛛などは視界に入っただけで鳥肌が酷い。

何か注文があるか?と促され、自分の視界に入らない所で頼む。そう告げながら一応の確認はしてみる。

 

末堂 「足の裏とかはいいのか?」

 

シャル「う~ん。蜘蛛は旅団のシンボルだからそれを踏むっていうのは良い顔しない団員もいるかもね」

 

フェイ「却下、ワタシたちに任せるいいね。」

 

フィン「寝てる間にあっという間に終わるからよ、ちょっとこの薬でも飲んで寝とけ」

 

飲む飲まないの選択はなく、半ば強制的に口に含まされたその薬を飲み、末堂が意識を失う前に見たのは半笑いの2人だった。

 

シャル「ちょっと…2人とも、、ヤバいって、アハハッッ!!」

 

フェイ「クックックッ…少しは見れる顔になたようね」

 

フィン「あぁ、大分男前になったな」

 

 

顔面にベッタリを蜘蛛の入れ墨を張り付けたこの漢が、後に旅団員としてどのような活躍をするのは今後に期待しよう。




半蔵 「これ、自在に動かせるな」
ゴン 「ホントだ!面白いね!」
キルア「消すことも出来るみたいだぜ」
刃牙 「目を凝らすとよく見える…」

4人が4人とも念能力に目覚めた後の数日はその研究と活用に関して話し合っていた。ただ未知の力への単純な興味という所の方が大きく、この力を使ってヒソカからプレートを奪うという本題も今のゴンは忘れているかもしれない。
天才的な才能を持ったこの4人が能力に目覚めたことは当然と言えば当然であったのだが、4人が行った行為は念能力の目覚めという部分では外法と呼ばれる手口だ。

能力を持つ者からの発でむりやり身体の精孔を抉じ開けるような手法は本来の目覚め方ではない。正攻法であれば瞑想や禅などで自分のオーラを感じ取り、体中をオーラが包んでいることを実感した上で少しずつ開くものである。

天性の才能を持つものでも3ヶ月は有する、しかしこの4人ならあるいは1週間で目覚めることが出来たかもしれない。ただ既に目覚めてしまった4名は知る由もない。
外法で目覚める場合は時間内にオーラを体にとどめるコツを取得できるかに掛かっていたのだが、いとも簡単にコツを掴んでしまった才能は驚嘆に値する。未知のこの力を楽しむかのように出来ること出来ない事を探していた4人の前に現れたのは最悪の客人。

茂みから顔を出した道化師の顔を見るなり4人の顔から笑顔は消えた。

ヒソカは衝動を抑えきれないような不敵な笑みを浮かべながら近づいてきた。

ヒソカ「あぁ…キミ達はいい…♥しばらく会わない内に見違えるように成長したね♥」

半蔵 「おい!お前それ以上近づくな!!」

バキ 「おい…アイツはいったい何なんだッッ!」

キルア「あいつが、ゴンのターゲットのヒソカだよ」

バキ 「アイツがッッッ…!!」

ヒソカ「キミが教えたのかい?♥」

刃牙の方へ質問を投げ掛ける、目の前にいる男に父親並みの威圧感を感じていた刃牙は言葉を発することが出来なかった。

ヒソカ「いや、キミもまだ…青い果実ってところだね…♥誰かに教えられたとかじゃないのか♣」

半蔵 「だからそれ以上近づくなってッッ!!」

ヒソカ「今殺してもいいんだけど…それじゃあ勿体ないからね…♠」

その時ゴンが動いた。

ゴン「うぉぉぉぉーーー!!」

オーラを纏った体で無謀にも全力の体当たりを敢行する。
ゴンの渾身の玉砕を片手で弾くヒソカ、ゴンは突っ込んだ際のスピードの倍以上の早さで元の場所よりずっと遠くに吹き飛ばされた。

キルア「ゴーーーンッ!」

キルアがすぐにゴンの元へ駆け寄ろうとした瞬間に、キルアのその首筋にはトランプが当てられていた。いつの間にか背後に居たヒソカにこの3人の目は追いつかなかった。

ヒソカ「動くと、切る…♠」

キルア「……ッッ!!」

戦慄する空気の中、一歩も動けなくなった3人に対して圧倒的な戦力差を見せつけたヒソカ。

ヒソカ「大丈夫♥言う通りにしていたら今キミ達を殺すなんて勿体ないことはしないからさ♦」

ヒソカ「キミ達が今使ってる力は念っていうんだけど、それは誰かに教わったのかい?♥」

半蔵 「…誰にも教わってねぇよ!」

ヒソカ「やっぱりそっか♣」

半蔵 「これを使って何が出来るのか、どんな力があるのか、こっちが聞きてぇくらいだ」

ヒソカ「一つ条件を出そうか♥そうだねぇ…この試験、いや、ハンター試験が終わるまでその力を使うのはダメ♥大サービスとしてそのオーラを体に纏うだけ。その状態を纏って言うんだけど、それだけならしてもいいよ♥それ以外では調べたり、動かしたりするのも禁止♣」

半蔵 「なんでお前にそんなこと…ッッ!!」

3人を頷かせるには十分なオーラを発して威圧するヒソカに、心底震え上がった。その場は危険だと判断したのか森からは鳥達が一斉に飛び立ち、嵐の前の静けさのような不気味な風が吹いているような錯覚さえ起こさせた。

ヒソカ「…いいかい?念は奥が深い♣我流で生半可な使い手に育たれるくらいなら今殺すよ…♦」

キルア「……ッッ!試験が終わるまででいいんだな…?」

ヒソカ「キミは賢い子だね♥そう。その後は何をしようが自由だ、良い師に巡り会えるといいね♥」

刃牙 「俺は受験生でもないんだけど…俺も同じかい?」

ヒソカ「もちろんさ…♣あと、ゴンがボクのターゲットみたいだけど、このプレート置いておくから渡しておいてくれよ♥」

キルア「アイツは受け取らないと思うぜ…」

半蔵 「あぁ、短い付き合いだがよく解る。今だって俺たちに迷惑を掛けたくないから勝てるなんて思ってもないのにお前に突っ込んでいったんだぜ。」

ヒソカ「仲間想いのいい子だね…♥今みたくボクの顔に一発ぶち込むことが出来たら受けとろう♦それまでそれはキミに預ける♦そう伝えておいてくれ♥」



3人は鼻歌を歌うかのように悠々と去って行ったヒソカの背中をただ呆然と見続ける事しか出来なかった。


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HANMAR×HANMAR♯19

台風のように過ぎ去ったヒソカへの恐怖をそれぞれが胸に残しつつもゴンの元へ駆け寄る、キルア、ハンゾー、刃牙。意識のないゴンを連れてスタート地点、つまりゴール地点近くの安全な場所まで移動することにした。

途中襲って来た受験生が4名程居たが、全て刃牙が体の動きを確かめるようにして返り討ちにしてしまった。

その間もなぜか律儀にキルアがプレートを回収するのも忘れない。

 

危なげなく時間が経過し、ゴンが目覚めると同じくらいの時間にアナウンスが鳴り響く。

 

「ただ今をもちまして第4次試験は終了となります。受験生のみなさん、すみやかにスタート地点へお戻り下さい。これより一時間を期間猶予時間とさせていただきます。それまでに戻られない方は全て不合格とみなしますのでご注意下さい。なおスタート地点へ到着した後のプレートの移動は無効です。確認され次第失格となりますのでご注意ください。」

 

続々とゴール地点に集まった受験生は僅か9名。そして刃牙。

 

ネテロ「9人中6人がルーキーか、ほっほっほ豊作、豊作」

 

ネテロが上機嫌で迎え入れる。そこに見慣れぬ少年が一人いた。キルアがネテロに声を掛ける

 

キルア「あのさ、こいつバキっていうんだけど、この試験は6点分のプレートを集めたら合格なんだよな?はいこれ、全部バキが集めたもんだ」

 

バキ 「キルア…??」

 

バキが集めた6枚のプレートをネテロに渡すキルア。

 

ネテロ「つまりはこの少年を4次試験合格にしろということか?しかしのう…1次から受けてない者を…」

 

半蔵 「ハンター試験っていう危険な場所に一般人を紛れさせるっていうのも問題があるんじゃねぇか?こいつは何も知らなかったぜ?」

 

ネテロ「確かに、ここの島には受験生以外の人間は居ないと認識していた、それはこちらの落ち度になるのぅ。」

 

半蔵 「だろ?大体こいつの実力は俺が保証するぜ?なんならこの試験中ずっと俺についてた試験官に聞いて貰ってもいい」

 

ネテロ「うーむ…納得しない者もおるじゃろうて…多数決で決めさせて貰おうかのう」

 

皆に多数決を促すネテロ。

 

ネテロ「それではこの4次試験に紛れてしまったが6点分のプレートを集めた少年を有資格者と認める者は手を挙げとくれ」

 

ポツ、ポツと手が挙る。挙がった手は全部で6本。キルア、半蔵、ゴン、ヒソカ、クラピカ、レオリオであった。

手を挙げなかった受験生の一人ポックルが異論を唱える。

 

ポックル「ここに来るまでに命を落とした者もいるんだ。それなりの覚悟を持ってみんなここへ来ている。なのに途中参加でこの試験だけ受かったから次に進むっていうのは浮かばれない者だっているのではないだろうか?」

 

ボドロ「ワタシも彼に同意する。それなりの実力を示して頂かないとな。」

 

ゴン 「バキの実力は一緒に行動したオレたちが良く知ってるよ!実力を見せろっていうなら見せることも出来と思うけどちょっと待って!バキはどうなの?ハンターになりたい?」

 

刃牙 「俺はこの世界のどこかに居る親父を見つけたいんだ。」

 

ゴン 「そっか!ねぇクラピカ、ハンターじゃないと入れない場所、聞けない情報、たくさんあるんだよね?」

 

クラピカ「あぁ、人探しということであるならばこの世界で一番効力を発揮するのがハンター資格と言っても良いだろうな」

 

刃牙  「それなら俺も…ハンターになりたいです。」

 

ネテロ 「異論がある2名はこの者が実力を示せば良いということかのう?」

 

ポックル 「そういうことなら構わない」

ボドロ  「そうですな」

ギタラクル「カクカクカク………」

 

ネテロが係の者を促し用意させたもの。それは建材であった。

 

半蔵   「瓦割りか!」

 

ネテロ「そうじゃ。これは瓦といわれる建材、屋根に並べるジャポンという島国のな。極めて頑丈な材質にて古来よりジャポンの拳術家はこの瓦を何枚粉砕出来るのかを実力のバロメーターとしていたようじゃ。

実力のある者は10枚以上をやすやすと粉砕すると言われておる。ここに用意された瓦、実に40枚。ここにそびえ立つ瓦の塔、バキ、おぬしには何枚粉砕できるか実力を見せて貰おう。」

 

実力を見せろ、そう言われて引き下がる訳にはいかない。せっかく仲間が用意してくれた絶好のチャンス。その期待を裏切る訳にはいかなかった。目の前にそびえる瓦の塔の前に立ち、その右の手の平を刃牙はゆっくりと一番上の瓦に乗せた。

 

刃牙(瓦割り……考えてみたら初めての体験…こんなせんべい程の土の塊を…何枚割ったところで何の目安になるっていうんだ?ただ‥キルア、ゴン、半蔵、ありがとう…)

 

刃牙「シュッッッ!!」

 

大きく息を吐くと同時にガッ!と手に力を込めた。そう思うと次の瞬間、けたたましい音をたて40枚全ての瓦が粉砕された。

 

ネテロ「うむ。有資格者ということで問題ないかのう?」

 

ネテロに視線を送られたポックルとボドロは頷くしかなかった。

 

 

範馬刃牙、最終試験に突入ッッッッ!!!




一同「えぇぇーー!??

4次試験を終えた受験生と試験官は最終試験の会場のある地まで、大きな空をゆっくりと泳ぐ鯨のような飛行艇に乗り、空の旅を楽しんでいた。

その飛行艇の中でそれぞれの驚きの声が響き渡る。声の主は範馬刃牙を囲むように並ぶ5名。

刃牙は、最終試験を受ける切っ掛けを作ってくれたゴン、キルア、ハンゾーにお礼を言い、ヒソカを除く多数決に同意してくれた2人。つまりクラピカとレオリオにもお礼を言いたいということで2人を紹介して貰い、律儀に礼を言った。2人とも3人と同じく気持ちのいい人物でどちらも癖は強かったがすぐに意気投合し、互いの経緯など深い部分の話をした。

レオリオ「っていうとつまりだ。バキはこの世界の人間じゃないってことなのか?」

そしてこうなったという訳であった。


一同「えぇぇーー!??


レオリオとクラピカはともかく4次試験でずっと一緒に居た筈の3人も驚いている。まぁゴンの説明では解るものも解らないのは仕方のない事だった。

クラピカ「父親を探していると言っていたようだが?」

ゴン  「そうだよ!バキのお父さんは、ほら、途中まで一緒に居たおじさんだよ!」


一同「えーーーー!!!!


これは先ほどの声ではなくその後もう一つの驚愕の事実である。
どうやってここまで来たのか、なぜそのような事になったのか。記憶がなく解らないということも刃牙は素直に伝えた。違う世界から来たというこの少年が嘘が付けるような人間でないということは5人には短い付き合いながらも既に解っていた。そして父という人間。範馬勇次郎の異質な存在感がリンクする。

勇次郎がこの世界に来た経緯。その原理こそ理解出来なかったが刃牙の居た世界では実現可能な技術である事は理解出来た。クラピカにとって理解出来ない事が理解出来るという事はとても気持ちの悪い事であったが今はそれで十分であった。なぜなら刃牙がこの後に発した言葉がクラピカの胸を大きく打つことになるからである。

ゴンがこの世界に来るまでに何か覚えている事は無いの?とそう聞いた後であった。ぼそぼそと記憶の糸をたぐり寄せるように言葉を口にする刃牙。

刃牙「ジッちゃんと一緒に…花山さんと愚地館長を病院に…それで、カメラだ!カメラに写ってた大男を追いかけて…道場に…加藤さん、末堂さんが居て…みんな倒れちゃって…蜘蛛の入れ墨をしたあの大男に…俺も倒されちゃって…気が付いたら綺麗な月が見えて…あぁ〜ダメだ!!これくらいしか思い出せない…すまない。でも気にしないでくれ。親父がこの世界にいるって解っただけでも大収穫さ。」

クラピカ「バキ…今蜘蛛の入れ墨と言ったか…?」

瞳が深い深い緋色になっているクラピカは刃牙に問いただす。

クラピカ「もしかしてその襲撃犯というのはこちらの世界から来たという事はないか?蜘蛛の入れ墨以外にナンバーなどは?」

バキ  「なんでわかるんだ?蜘蛛の中に数字も入ってたかな。俺はこの世界から来た奴ら、そう思っているよ」

レオリオ「クラピカ、何か解ったのか?」

クラピカ「これはあくまでも仮説であるが、恐らくバキの父親である勇次郎氏が乗り込んだ機械をこちらの世界で旅団が手に入れた。もしくは何者かが手にし、それが現在は旅団の手にあると考えて良いだろう。刃牙の仲間達もあの父親の実力から考えるに相当な者なのだろう?それを相手にそこまで出来る手練など考えると奴らしかいない…それに」

レオリオ「蜘蛛の入れ墨か?」

クラピカ「あぁ…そうだ。まさか奴らが…クッ!!」
キルア 「旅団って、もしかしてあの幻影旅団か!?」
ゴン  「???」
クラピカ「キルアも何か知っているのか!?」

キルア 「いや、親父が仕事で旅団の1人を殺ってるんだけど。その後で言ってたんだ、割に合わない仕事だったって。これって相手に対する最大級の賛辞なんだけど、その後、俺と兄貴に旅団には手を出すなって言ってたんだ…」

レオリオ「話には聞いていたが、すげぇー家だな…」
半蔵  「クラピカ、話してくれ」
バキ  「何か因縁でもあるのかい?」

クラピカは話した、口の堅いこの男が自分の過去を話すということはここに居る者達を仲間と認めていると言って良いであろう。行動を共にしていたレオリオは早い段階で話を聞いていたが、もう一度聞く事で理解を深めた。刃牙はクラピカの生い立ち、その背景を聞き、自分の世界とのギャップにかなり驚いたがその心情は良く理解でき、そしてなんとか協力したいとも思っていた。

バキ  「ただクラピカ、今のままじゃ死ぬだけだよ」

キルア 「俺もそう思うな」

クラピカ「なんだと!?」

半蔵  「いや、落ち着けって、オレらもまだよく解ってないんだが、お前、これ見えないだろ?」

ハンゾーが身体にオーラを纏ってクラピカとレオリオの方を見る。

クラピカ「なんだ?私をからかっているのか?」

バキも同じようにオーラを纏い、クラピカに言う。

バキ 「俺も、みんなも…歯が立たなかった…奴らと戦うには腕力、技術、体力、覚悟、それ以上の何かが必要なんだ。それがこれさ」

クラピカとレオリオには何を言っているのかさっぱりであったが、そこで飛行艇のアナウンスが鳴った。

「えーーーこれより会長が面談を行います。番号を呼ばれた方は2階の第一応接室までおこし下さい。受験番号44番の方、44番の方おこしください」

このアナウンスの後に5人の下半身をべっとりと絡み付くような視線で舐めながらヒソカが通り過ぎた。その熱にあてられたのか5人は気を抜かれ、暫し話が脇道に逸れた。


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HANMAR×HANMAR♯20

ネテロ「まぁ座りなされ」

 

ヒソカ「まさかこれが最終試験かい?」

 

ネテロ「全く関係がないとは言わんが、まぁ参考までにちょいと質問する程度のことじゃよ。まずなぜハンターになりたいのかな?」

 

ヒソカ「別になりたくはないけど資格を持っていると色々便利だから♥例えば人を殺しても免責になる場合が多いしね♠」

 

ネテロ「なるほど、ではおぬし以外の8人の中で一番注目しているのは?」

 

ヒソカ「99番♥405番も捨てがたいけど一番は彼だね♣いつか手合わせ願いたいなァ♦あと、さっき合流した彼もね、くっくっく♥」

 

ネテロ「ふむ…では最後の質問じゃ、8人の中で今一番戦いたくないのは?」

 

ヒソカ「それは405番…だね♣99番もそうだが…今はまだ戦いたくないという意味では405番が一番かな♦ちなみに今一番戦ってみたいのはあんたなんだけどね♠」

 

ネテロ「うむ。ご苦労じゃったさがってよいぞよ」

 

受験生は最終試験を前にネテロと1対1での面談を迎える。

 

ポックル(53番)

 

「注目してるのは404番とあのバキって男だな見る限り一番バランスがいい/44番とは戦いたくないな、正直戦闘ではかなわないだろう」

 

キルア(99番)

 

「ゴンだね、あ、405番のさ、同じ年だし/53番かな、戦ってもあんまし面白そうじゃないし」

 

ボドロ(191番)

 

「44番だな、いやでも目につく/405番と99番だ、子供と戦うなど考えられぬ」

 

ギタラクル(301番)

 

「99番/44番」

 

ゴン(405番)

 

「44番のヒソカが一番気になってる、色々あって/う~~ん。99・403・404・294番とバキの5人は選べないや」

 

ハンゾー(294番)

 

「44番だなこいつがとにかく一番ヤバイしな/もちろん44番だ」

 

クラピカ(404番)

 

「44番/理由があれば誰とでも戦うし、なければ誰とも争いたくはない」

 

レオリオ(403番)

 

「仲良くなった奴らとは恩もあるし合格して欲しいと思ってるぜ/そんな訳で5人とは戦いたくねーな」

 

 

ネテロが座る会議室はシンプルな和室でネテロが座する丁度後ろには「心」と書かれた掛け軸が飾られてあり、受験生は背の低い机を挟んでネテロの前の座布団に座り一人一人面談を終えた。

最後に呼ばれたのは4次試験からの途中参加で最終試験への切符を手にした範馬刃牙。

 

ネテロ「まぁ座りなされ」

 

刃牙 「あ、えっと…失礼します…」

 

ネテロ「さて、巻き込んでしまったようで悪かったのう」

 

刃牙 「いえ、そんなことないっす。感謝してます。あの…」

 

ネテロ「聞きたいのは親父のことかの?」

 

刃牙 「はい…その……えっと倒したって…」

 

ネテロ「ワシのが大分長く生きておるし、まだ目覚めてなかったからのう…もし次に戦ったらどうなるか解らん。」

 

刃牙 「強いんすね……正直、驚いてます…あの人より強い人間がいるなんて…あ、これ、念っていうみたいですね…」

 

ネテロ「既に目覚めてるようじゃの。ワシが言えるのは向上心を持って研ぎすませておけ。それだけじゃ、あと出来ればおぬしにはゴンと行動を共にして欲しい。あやつには助けが必要になる。」

 

刃牙 「あ、はい…こっちからお願いしたいくらいなので…」

 

ネテロ「うむ、もうよいぞ、あと残念ながら親父がどこへ行ったのかはわしは知らんのじゃ、まぁいずれ会うことになるじゃろうしあやつが死ぬことはないじゃろう」

 

刃牙 「はい、その心配はしてないっす。ありがとう御座います」

 

刃牙が去った後、ネテロは少し考え事をしていた。暫く考えた後に電話を取り出しておもむろにコールをする。

 

prprprprprprprpr

 

ネテロ「久しぶりで悪いんじゃが、少し頼まれて欲しい事があってのう」

 

「あらあら、何年か振りに連絡よこしたと思ったらいきなり頼まれ事?ちょっとはワタシの心配とかはないわさ?」

 

ネテロ「ほっほっほ、心配なぞ誰がするかい。3人程鍛えて欲しい者がおるんじゃよ」

 

「アンタがワタシにそんなお願いするなんて、ちょっと興味出て来ちゃうじゃないのよ!でもタダじゃないわよ?」

 

ネテロ「まぁ会ってから決めてみてもええんじゃが、おぬしも気に入ると思うぞ、もう決まっておることじゃし頼まなくても良かったんじゃが早い方が良いかと思っての」

 

「ついに耄碌でもした…?ちょっと何言ってるか解らないわよ」

ネテロは特徴のある話し方をする電話の相手に3人の名前と姿形、そして1ヶ月前後に天空闘技場。というキーワードを伝えると電話を切った。会話を聞くとかなりの信頼を寄せている相手であることは間違いなさそうであった。

自室に戻り、書斎の机の一番下の引き出しを外すとその下には古びた単行本のようなものが数十冊並べられていた。その一つを取り出してパラパラと捲る。

 

ネテロ「運命は変わってきておるようじゃ…」

 

ネテロが読み、開く本の背表紙にはHUNTER×HUNTER…そう書かれていた。ぼろぼろになった本を眺め、顎を撫でながらネテロの瞳に映るのは蟻の王を前にし、右腕と左足を失い、己の左手の指で自身の心臓を突き刺す。ネテロ自身の姿であった…

 




「えげつねェな………」

茂みに隠れて伺う男の口から出た言葉はその惨劇を一言で物語る。

目の前で行われていたのはオーラを纏う大きな猿に対して、一撃一撃を、確実に。重く、重く、正確に打撃を撃ち込む黒い道着に身を包んだ圧倒的なオーラを放つ漢。その一挙手一投足は野生の獣の生への執着を削ぐのに十分と言って良い程の威力を持っていた。

夜叉猿「ホギョアァァ………ヒィッッ……ヒィッッ…」

目には涙を浮かべている…泣きながら逃走を計るもその漢は容赦をせず逃げ道に先に回り込み、水月へ足刀を放つ。満身創痍となった夜叉猿に対して止めの一撃を刺そうかとその心臓へめがけての最凶のストレートを見舞おうと姿勢をとった。

「クソッッ…もう我慢ならねぇ…!!」

茂みに隠れて様子を伺っていた方の男はついに痺れをきらし、自身の念能力を発動、戦う為ではなく守る為に。
男が具現化したのは2体の白と黒のゴリラ型の念獣。

ゴリラ型。

念獣。

決して書き間違いなどではない。男は白と黒、2体のゴリラ型の念獣を具現化し唱えた。

黒の賢人(ブラックゴレイヌ)

男の名前はゴレイヌ、プロのハンターである。見た目は短く揃えた短髪でガッチリとした体系。毛深く、濃い顔立ちをしているがその瞳はとても優しい。ハンターサイトでとある機体のニュースを見て、丁度手がけていた仕事に一段落が付いた所だったので現地まで興味本位で確認に来た所であった。深い森の中であったので飛行艇での移動からは徒歩となった。そろそろ集落か?と地図で確認をしていると、近くで物凄い音と叫び声がする。警戒しながらも近づくとそこにはオーラを纏った猿が口から音の振動のような念弾を飛ばし木々をなぎ倒し暴れていた。

そして、その前に立つ人間の姿をその視界に捉えると、ゴレイヌは直ぐさまオーラを絶って気配を消し、身を屈めた。それほどまでにその漢が発するオーラは警戒に値したのであった。ゴレイヌの能力は白と黒のゴリラ型の念獣を具現化する。どちらも瞬間移動による位置交換の能力を持ち、念獣の操作は遠隔操作(リモート)型でゴレイヌ本人が意識を失うと念獣は消滅する。

白の賢人(ホワイトゴレイヌ)は念獣とゴレイヌの位置を入れ替える能力。
黒の賢人(ブラックゴレイヌ)は念獣と他人の位置を入れ替える能力。

冷や汗を垂らしながらも発動した念能力は、黒いゴリラ型の念獣と他人との位置を入れ替える能力。いずれにしても具現化系、操作系、放出系、と幅広い系統を高い水準で使用する高度な能力と言って間違いないであろう。

勇次郎「なにぃッッ!??」

ゴレイヌの暗唱と同時に、先ほど居た夜叉猿の姿が、自信に溢れた顔をした黒い念獣に変わった。
そしてゴレイヌは、先ほどまで漢の前で死を確信していた夜叉猿を背負い、全速力でその場を離れていった。


ゴレイヌ(死ぬなよ…!!お前は絶対俺が助ける!!)


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HANMAR×HANMAR♯21

勇次郎「なにぃッッ!??」

 

勇次郎は困惑していた。この世界には不可解な事が多すぎる。以前居た世界では自分の思い通りにならないことなどまずなかった。全て腕力で片付けることが出来たからだ。

だがこの世界は違う…夜叉猿が姿を変えたかの様にも見える状況であるが勇次郎は見逃さなかった。この黒い念獣が現れる前に夜叉猿の姿は一瞬消えていたのだ。姿を変えたならば消えることはない。姿を消した一瞬。いや、入れ替わったと言った方が正確なのかもしれない。

 

オーラを纏うこの念獣の姿は確実にこの力やあの力。勇次郎に生涯で初めての敗北を味わせたネテロが使っていたもの。つまり念能力というものに違いない。

 

面白くない…そう思う反面、範馬勇次郎は自分よりも遥かに力が劣る者でも能力を使い強者と擬態するその心意気に奇しくも面白さを感じ初めていた。必要以上にこの夜叉猿を痛めつけていたのも、この念という能力を使って出来る事と出来ない事を確認する為ではあったが追いつめられる程に新たな力で抵抗してくるこの野生の獣との戦いに楽しさを感じ始めていたからであった。

 

最初は勇次郎の居た世界同様に運動神経と筋力にものを謂わせての攻防に徹していた夜叉猿であったが、追いつめられると音の塊を口から飛ばして来たり、念弾というのだろうか?オーラの塊を飛ばしてきた。そして最終的には振動までをも伝えてくるまでに念弾の精度は短時間で飛躍的に向上していったのだった。

 

最も音の塊を飛ばす事になったのは途中で邪魔をして来た男の影響が強いのであろう。

包帯でぐるぐる巻きの男は、その包帯とグローブを取ると身体に空いた穴から音を発して、踊りながら奏でた音を戦闘力に替えて立ち向かってきた。

 

纏う衣服も音によって変化したりと多種多様なオーラの動きは念能力に目覚めたばかりの勇次郎には全てが新しく、参考にもなった。今までは身体に纏うだけであったオーラを増幅したり(練)攻撃に転じる際にオーラの攻防力を移動する術(流)などはすぐにでも応用が効きそうで心が踊った。

 

全てを見せて欲しかったがその包帯を巻いていた男が放った技。「木星(ジュピター)」を受けた際に膨大なオーラの総量を持つ勇次郎であっても練で増量していなかった状態ではさすがにダメージを受けてしまった。音速で放たれた膨大なオーラの塊に怒りを覚えた勇次郎は本気で反撃をしてしまい、その男が再び起き上がることはなかった。

 

少し残念だと思いながらもまた夜叉猿と戯れることにした。その後で出会った2名。一人は身体に纏うオーラの範囲を必要域まで広げ(円)そして刀にオーラを強く纏っていた。物質にオーラを纏う事は(周)という。そんな事も可能なのかと思っていたら、今度はもう一人の手にした銃から弾丸が飛んで来た。銃自体もあれは恐らく念の塊。イメージでつくりあげたものだろう。その弾丸の一発一発にも十分な殺傷力を秘めていた。

 

そして今の状況だ。恐らく何者かの念能力であるこのゴリラ。瞬間的に夜叉猿と入れ替わり挑発的な顔をこちらに向けている。夜叉猿は身体からオーラを放っていたが、このゴリラは存在そのものがオーラの塊のようである。念で出来ているような印象を受けた。だが立ち向かってくるようなそぶりは見せず少し距離を取りこちらの様子を伺っているだけだ、勇次郎が距離を詰めるとその距離分離れた。戦うという気はないのかもしれない。

 

勇次郎「ハハハハハハハハハ

 

歯茎をむき出しにしながら勇次郎は嗤う。その笑顔は本心からのものであろう。

異なる世界にきて、目覚めた力、そして強さの質の違い。全てを受け入れたこの地上最強の男が目指す強さとは…嬉々とした貌の奥に一瞬の怒気を覗かせると。オーラを込めた拳で大地を殴った…

 

けたたましい音が森の中で響き渡る…

 

 

ゴレイヌ「地震かッッッ!??」

 

夜叉猿を背に抱え、既に大分離れた位置に居た筈のゴレイヌが歩みを止める程の揺れを感じた。

 

 

勇次郎「下らんッッッ!!!

 

誰に対しての言葉なのか。それは愚問であろう。目の前に居るのはゴリラ型の念獣であったが決してそれに対してではない。既に視線は他を見ている。この世界に生きるもの、全てに対してのアンチテーゼ。地面に空いた巨大な穴の中でその念獣に背を向け、その場を去る。勇次郎は謂う…

 

勇次郎「闘争とは力の解放だ、力みなくして解放のカタルシスはありえねェ

 

その漢の身体を包み込むように激情の赤い色をした鬼の貌が浮かんでいた…その鬼が睨み付けるのはこの世界の全てなのかもしれない…




サトツ「おや、目覚めましたか」

ゴンが目を醒すと目の前には1次試験の試験官をつとめたサトツの顔があった。
記憶が混同している。ここは?と聞くと最終試験会場横の控え室ですと丁寧に答えてくれた。それを聞き、ゴンはハンター試験の最中に気を失ったことを認識した。

スッと差し出された手と共に

サトツ「合格おめでとうございます」

ゴン 「あーぁ結局負けちゃったのか、ありがとう!」

ガッチリと握手を交わした。

ゴン 「あ、他の人はどうなったの?まだ試験の最中でしょ?」

サトツ「いえ、もう試験は終了しました」

ゴン 「本当に!?」

サトツ「ええ、君はほぼ丸一日寝てたんですよ」

ゴン 「誰が…落ちたの?」

それは…と遠くを見ながらサトツが語りだした。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

4次試験終了から3日後、ここまでの試験を勝ち残った受験生は委員会が経営するホテルに集められていた。配慮により最終試験が終了するまで貸し切りとなっている事をネテロが伝えた。

ネテロ「最終試験は1対1のトーナメント形式で行う、その組み合わせはこうじゃ」

ボードに目隠しとして被せられた布を捲られると。そこにはトーナメント表が書かれていた。それもずいぶんと偏ったものだ。クリア条件は至って明白、たった1勝で合格である。つまりこのトーナメントで勝ち残ったものが一人ずつ抜けていき、最後まで残った者が不合格となる。このトーナメント表によると不合格者はたった一人。そして誰しもが2回以上戦うチャンスを与えられている。

ただ場所によっては5回も戦えるチャンスがある所もあったりと、偏りがあった。
それに誰が誰と戦うかも未だ明かされていない。チャンスの多可は今までの試験の成績とネテロの独断による所が大きいということも受験生の不満を買ったがそれも協会の会長である権力で押し通した。

ネテロ「武術性を重要視するためッッ!公平を期すためッッ!敢えて一回戦ずつの発表とさせて頂くッ!」

対戦カードが既に公平ではないのにここで配慮されても仕方ないと思う一同であったが、きっとそうしたかったのであろう。ネテロが一回戦のカードを捲ると294番と405番と書かれていた。つまり初戦からハンゾーとゴンの戦いとなった。勝敗は相手に参ったと言わせる。ただし相手を死に至らしめてしまったらその時点で失格。ルールを聞いてバツの悪そうな顔をするハンゾーであった。

審判「それでは相手を死に至らしめる以外一切を認めますッッ!第一試合ハンゾーvsゴン、開始ッッッ!!!」

開戦を告げるドラが鳴り響いた。

ゴンがスピードでかく乱するもその上を行くハンゾー。すぐに追いつかれて捕まってしまった。その状態でハンゾーがゴンに投げ掛ける。

半蔵「待て、待て、お前と戦う気はないっつーの!」

ゴン「え?なんで?これが最終試験だよ?」

ハンゾーはネテロの方を向き質問を投げ掛けた。

半蔵 「別に勝負の方法は双方が合意したら何だっていいんだよな?」

ネテロ「あぁ、構わんぞ」

ハンゾーは胸を撫で下ろし、ゴンに言う。

半蔵「オレは正直今のお前と戦っても負ける気は全くない、だが、お前に参ったと言わせる術も思いつかねぇ、だからケガもさせたくねーし、ここは一つじゃんけんで勝負するっていうのはどうだ?」

ゴン「ジャンケン!?」

半蔵「あぁ、シンプルで一番勝敗が解り易いだろ、どっちかが勝てば合格、負けたらそのまま2回戦だ」

ゴン「うーん、ジャンケン好きだけど。戦って負ける気がないっていうのがちょっと気になる」

半蔵「今までの試験や、さっきの動きで実力の差はわかっただろ?」

ゴン「ハンゾーが強いのは知ってるよ、オレにケガさせないように気にしてるっていうのもわかる。だからムカつくんだ」

半蔵「おいおい、これ以上の譲歩はな…」

ゴン「違うよ!ムカつくのはハンゾーに気を使わせてる自分の弱さ!だから…本気でジャンケンをしよう」

ハンゾーの言葉を遮るように、ゴンが言ったが、本気のジャンケン?少し心当たりがあるが……

半蔵「ようやく納得してくれたか」

半蔵がゆっくりと手を前に出し、ゴンに向かって最初はグーと言葉を投げ掛けると。ゴンは腰を屈めオーラを身体に纏っていた。今でこそまだ稚拙なオーラではあるが念能力に目覚めたばかりのハンゾーにとっても、その状態で攻撃されることの恐ろしさは先の実験を通して良く解っている。しかも心なしかそのオーラが少し拳辺りに向かって集まっていくような気がしないでもない。

ヒソカ「へぇ…♥」

見守るヒソカの目が少し虚ろになっている。

半蔵「おい、ゴン!お前どんだけ負けず嫌いなんだよッ!!」

その言葉を遮るようにゴンが続ける

ゴン「最初はグー!ジャンケン・・グー!!!」

ゴンがオーラを込めた拳をハンゾーに向かって見舞うが半蔵は既にゴンの後ろに回っていた。

半蔵「悪いな、ゴン。オレはパーだ。」

そう言ってゴンの首元に手刀を見舞いゴンの意識を失わせた。「参った。俺の負けだ。」とその後にハンゾーは審判に告げ2回戦に進む。ゴンは意識を失いながらもこの時点でハンター試験に合格した。


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HANMAR×HANMAR♯22

タグ不足だったようで一時完全非公開になってしまいました。申し訳ありません。
読んで頂き、感想や評価までつけて頂きありがとうございます。本当に嬉しいです。今後ともよろしくお願いいたします。


結果としてハンター試験に受かった者は、ゴン、ハンゾー、クラピカ、レオリオ、ポックル、ヒソカ、ギタラクル(仮名)、範馬刃牙、範馬勇次郎(例外)

 

以上の9名が第287期生のハンター試験合格者となり、最終試験に残りながらも合格を逃したものは。ボドロ(191番(死亡))そしてキルア(99番)であった…。

 

キルアはポックルとの戦闘開始と同時に、戦っても面白くなさそうという理由で戦線を離脱、そして次の相手となるギタラクルとの戦いに想定外の事が起きた。

 

対戦相手のギタラクルはゾルディック家の長男。つまりキルアの実の兄であった。正体を現した兄のイルミから母と同様に異常な寵愛を受けていたキルアは戦意を失っていた。勝ち目のない敵とは戦うな、兄のイルミが口をすっぱくしてキルアに言い続けた言葉だ。それに兄との実力の差は明白であった。

 

「ゴンとバキと、友達になりたい…」

 

力なく囁かれたその言葉を全否定する兄。2人を殺す。そう言われてもなお、キルアの身体は動かなかった。その時点で資格はないと、そう言われたキルアはその瞳に暗い光を宿し負けを宣言した。

 

その後のレオリオとボドロの試合時にキルアはボドロを背後から殺害。失格となりハンター試験が終了した。

 

キルアの育った環境に関して話だけは聞いていた。想像することさえ出来なかった刃牙は講習会の際にイルミの前に立ち、キルアをどこにやったか問いつめると自らの意思で自宅に帰ったと聞く。世界も状況も違うが自分も一人でトレーニングに明け暮れていた日々を思い出す。

 

ただ一人ではないと気がつかせてくれた仲間がいた、その事を思うと居てもたっても居られなくなる。

そこにゴンも合流し、キルアの自宅に4人で迎えに行く事にしたのだった。ハンゾーは最後まで悩んでいたが、どうしても里に帰らなくてはならない事情があるらしくホームコードを交換して別れた。

 

最終試験の会場から飛行船で3日といった所だろうか、4人の目の前には試しの門と呼ばれる大きな門が立ちふさがっていた。

 

バキ  「俺の世界でいう富士山ってところかな?」

 

ゴン  「フジサン?」

 

バキ  「いや、ごめん、なんでもないや」

 

レオリオ「信じられるか?この先の敷地全部がゾルディック家のものらしいぜ」

 

クラピカ「誰も姿をみたこともない伝説の暗殺一家、顔写真にさえ1億の値がつくとさえ言われているようだ」

 

レオリオ「マジか?くそっ!写真撮っておけばよかった」

 

門の前で騒いでいると守衛が出て来た。大きな身体に巨大な指、タバコが掴めないのかフィルター部分に爪楊枝に刺し、その爪楊枝をつまみ煙草を吹かしている

 

バキ 「安藤さん!!!??」

 

アンドゥー「??俺の名前はアンドゥーだが…どこかで会った事があるか?」

 

バキ   「いいえ、なんでもないです。知り合いに似ていたもので…」

 

刃牙の世界に居た山岳警備隊の安藤とは別人であったがどこかでリンクしていたのであろう。その事を察した刃牙は言葉を濁した。安藤の姿を見た刃牙は遠く違う世界にいる、初めての友。夜叉猿へ想いを馳せた。

 

だがそれは一瞬の事。ゴンが友達を迎えに来たという事を伝えると、それなら扉は空いている。というアンドゥー言葉で現実に戻された。

 

ドビラが空いている??

 

レオリオが力を込めて門に向かうも

 

レオリオ「んぎ……ぎがが……」

 

ビクともしなかった。

 

レオリオ 「ハッハッ……押しても引いても左右にもひらかねーじゃねーかよ!」

 

アンドゥー「単純に力が足りねぇんだ、まぁ見てろ。この門の正式名称は【試しの門】この門さえ空けられない輩はゾルディック家に入る資格なしってことだな。」

 

ハッッッッッ!!!

 

というかけ声と共に1の扉が空いた。1の扉はこちらの世界で片方2トンあるらしい。

 

アンドゥー「そっちの坊やなら空けられるじゃんねぇか?」

 

アンドゥーが刃牙に視線を向ける。促されるままに刃牙は試しの門に向き合うと3の扉まで空ける事が出来た。だがゴンとレオリオ、クラピカが納得しない。

 

いくら友達を迎えに来たという事でも、家の門さえ空ける事が出来ないようでは認められていないような気がしたからだ。

 

それはアンドゥーのキルア坊ちゃんが帰って来た時も3の扉まで空けていたという言葉が刃牙以外の3人の勘に触ったようだ。1つ数が増えるたびに重さが倍になる試しの門。

 

3の扉とは16トンにもなる。力を入れれば其の力に応じて大きい扉が開く仕組みになっていた。

 

今のままでは刃牙以外はこの敷地に入ることさえ認められていない。その現実を突きつけられた。3人はアンドゥーの提案で扉を開けられるまでアンドゥーが駐屯する山小屋でお世話になることになった。この山小屋での生活は日常がトレーニングとなる、扉や家具はもちろん、湯のみまで全て重量が備わっており、筋力のトレーニングにはもってこいの場所であった。

 

そしてアンドゥーも驚く程の勢いで成長する。保存食であった熊の塩漬けがなくなるまで4人は日々試しの門に挑戦した。

 

皆が皆試しの門を開けるのに20日と掛からず、レオリオに至っては2の扉まで、刃牙は4の扉が動く程筋力を付けていた。そのまま執事室まで歩を進めたが、キルアがこちらに向かっているという事を聞き、皆が喜んだ。

 

久しぶりの再会を喜ぶ一同。

 

キルアがすぐにでもこの場から去ろうということ落ち着かなかったのでゾルディック家の敷地を後にする。

その後の事になるが、クラピカは当初の目的である同胞の眼を集める為にブラックマーケットに関係がある雇い主を探す。

 

レオリオは医者になる為に勉強。ということであった。クラピカは最終試験後にヒソカに「9月1日ヨークシンシティで待っている♦」と聞いたようだ。どうやらヒソカはクラピカの敵である幻影旅団の情報を何か握っているようであり、その情報は信憑性が高いとクラピカは読んでいる。

 

その理由は団員が身体に刻むタトゥー。

 

旅団に近しいものはその団員が身体に刻む蜘蛛のタトゥーをもじって彼らを蜘蛛と呼ぶ。ヒソカは彼らの事を蜘蛛と呼んでいた。其の事からヒソカの情報の信憑性をみたのであった。自分と旅団との因縁を誰かから聞いたのかそれとも話を聞かれていたのかは定かではないが今はその手がかりに掛けるしか方法がなかったと言えよう。

 

 

残されたのはゴン、キルア、バキの3人。9月1日にヨークシンシティーで再会という約束をし、2人と別れた。

 

そして、3人はネテロの描いた筋書き通り天空闘技場へ向かうのであった。

 

 




天空闘技場

勝者のみが上の階に行ける格闘技場、一日平均4000人の腕自慢がより高い階を目指してやってくる。
観客動員数は年間10億を超える。建物内部にはサービス用の各種施設が完備されており高い階級の闘士には1フロア全てを所有する事が出来る。

地上251階、高さ991m、世界第4位の高さを誇る建物だ。

上にいけばいく程ファイトマネーも高くなるということで、連日、腕に覚えのある野蛮人の聖地となっている。ゴン達はここにくるまでに有り金をほぼ使い切ってしまっていたので文字通りゼロからの出発となった。

空の上まで伸びている高い塔の根元につくと、ずらぁああ!!と行列が出来ていた。この列に並ぶものはやはり一般の人とは違い少しは腕に覚えのある者達のようである。

キルア「なぁ、バキって格闘技の経験ってどれくらいあるの?」

バキ 「経験って言っていいのか解らないけど産まれた時から…かな」

ゴン 「へー凄いや!!だからあんなに力もあるんだね」

バキ 「父親を越えることが産まれた瞬間から俺に課せられた使命だったんだ。結局…よくわからないままになってるけど」

キルア「マジ?バキん家ももしかして結構変わってる?」

バキ 「いや、そんなことない、ただ…もっと強くなりたい…こういう場所にくると胸が騒ぐんだ。これだけ大規模な戦いのメッカだ。強い人もいると思うし、念を使える人もいるかもしれない」

キルア「そうだなー上の階に行けば使える人もいるかもな」

列に並びながら順番を待つ、その間にキルアが6歳の頃に200階まで到達した事を聞いたり、かくかくしかじかで借りを作りっぱなしのヒソカへプレートを返さないと気が済まないというゴンの覚悟も聞いた。

その横をガヤガヤとした喧噪に塗れたその場に不釣り合いな刃牙の世界でいうロリーターファッションに身を包んだ少女が横切っていった。無事に受付を済ませた3人は早速試合を組まれた。

「おい、見ろよガキだぜ」「ヘイ、ボウヤ逃げるなら今だぜ!」「遊びじゃねーんだぜギャハハハ!」

ヤジを飛ばす観客の声が聞こえるが反面刃牙の心は踊っていた。試合形式の戦いには慣れていたがやっぱりこの緊張感はいい。戦うまで相手の技や技量は解らない。試合の前は普段よりも自分の回りの空気が重たく濃く感じる。

頭の中は不安で支配され、相手の事を想像する。

自分の攻撃が通じなかったら、どのくらいダメージを受け、どんな風に倒されるのか、考えれば考える程重い空気がからだに張り付く、空気が枷となり自分の身体ではないように重くなる。
だから動き、余計な考えを排除する。舞台に上がる前には不思議と全ての不安から解消され、観客の歓声さえも聞こえなくなる。目の前に立つ相手の息づかいははっきりと聞こえるのに不思議なものだ。

審判「ここ1階のリングでは、入場者のレベルを判断します。制限時間3分以内に自らの力を発揮してください。それでは、始め!!」

お決まりのスタイル

爪先に重心を置き…足は前後の自然体…身体は必然、半身…相手から見る面積は狭まる、前の肩は顎をカバー、相手にとっての障害物になる。利き手も顎の横。発射に備え握りは緩く…前手は攻防兼備、型(かたち)は状況に応じる。編み出したというより、気付いたら身に付けていた…。

そのまま対戦相手の顎に向けて放たれた左のジャブ。それはいとも簡単に相手の意識を奪った。

審判「2056番、50階へどうぞ」

なんなく3人とも50階への入室を許可された。

同じタイミングで50階への入階を許可されたのは、3人の他に、ゴンとキルアよりも年下であろうか、野球部ようなの頭をしてクリクリした瞳、その上にある立派な太い眉毛からは意志の強さを感じさせる白い道着を着た少年も居た。少し驚いたが、キルアも6歳の時にここに居たらしく、この世界では例外ではあれどありえない事ではないのであろう。

「押忍!自分ズシと言います!お三方は?」

年が幾分近そうな3人に丁寧に声を掛けてきた。一通りの自己紹介を済ました3人にズシが言う

ズシ 「さっきの試合拝見しました。いやーすごいっすね!」

キルア「何言ってんだよ、お前だって一気にこの階まで来たんだろ?」

ゴン 「そうそういっしょじゃん」

ズシ 「いやいや自分なんかまだまだっす。ちなみにお三方の流派は何すか?自分は心源流拳法っす!!」

3人 「別に…ないよな」

その言葉にいくばくかのショックを受けるズシであったが、後ろから声を掛けてきた人物がいた。
その男性はズシの師匠のようで、心源流拳法の師範らしい。眼鏡を掛け、寝癖をたててシャツがズボンから出ている。ズシの紹介なくしてはとても武術の達人には見えなかったがネテロが起こした心源流拳法の師範ともなると相当な実力者であるのだろう。3人も丁寧に挨拶をした。

「はじめまして、ウイングです。まさかズシ以外に子供が来てるなんて思わなかったよ、君たちは?」

3人が名を名乗る。

ウイング「ほう、君たちが…」

ちょっと意味深な言葉を聞いて不信に思ったキルアであったが、その場でウイングとは別れファイトマネーを受け取った。1階は勝っても負けてもジュース1本分のギャラだった。ただ階を重ねるごとにファイトマネーは増え、100階で100万ジェニー。

150階を超えると1000万ジェニーも楽に越し、キルアが190階で勝った時は2億ジェニーものファイトマネーを手にしたそうだ。手持ちのない3人にとってここは武術の鍛錬も出来、お金も稼げる恰好の場だというのは間違いないであろう。100階クラスに入れば個室も貰え宿に困ることもなくなる。当面は出来るだけ早く100階クラスに行く事が重要になる。

1階の試合を無傷で終えた4人はこの日にもう1試合組まされることとなった。

アナウンスが鳴る

「バキ様、ズシ様57階A闘技場へお越し下さい」

「ゴン様、マイタ様55階B闘技場へお越し下さい」

「キルア様、ビスケ様59階D闘技場へお越し下さい」


キルア「60階ロビーで待ってるからな」

そういったキルアが60階ロビーにその日に来ることはなかった。


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HANMAR×HANMAR♯23

キルア「参った…俺の負けだ…」

 

キルアのその言葉に審判や観客は唖然とすることになった。

 

数刻前

 

ビスケ(この子がキルアね。あのネテロのジジイが私に鍛えてくれって頼むからどんなゴリラかと思ったら、なかなか美形じゃない、纏ってるオーラもどこか儚げだけど質が良さそうね、ちょっと楽しみになってきちゃったわさ)

 

ビスケ「宜しくお願い致します」

 

対戦相手となったキルアにビスケが猫かぶりモードで丁寧にお辞儀をしたがキルアはそれを無視した。

審判がルールの説明をしている時にも審判に対して発言する。

 

キルア「あ、もう解ってるからいいよ。どうせ俺が勝つんだし」

 

ビスケ(ビキ…ビキ…)

 

笑顔のままビスケの顔は強ばっていった。

 

ビスケ(言うにことかいて、このガキャ、あたしがてめェの何倍生きてると思ってんだスカが!あたしがちょっと本気になりゃオメェなんざ片手でチョチョイのチョイだぞ、決めた!少しだけオメェに現実を教えてやろうと思ったけど、こうなったら修復不可能になるまでメタメタにその高い高い鼻をへし折ってやんよ)

 

開始と同時にキルアがビスケの後ろに回り、首筋に手刀を落とす。

 

ビスケ(へぇー意外に早いし確実に意識を奪いに来たわね、でも残念、こんな攻撃眠ってたって避けられるわ)

 

ビスケはその手刀を躱し、キルアに笑顔を向ける。

 

ビスケ「殺す気でいらしたら?どうせ私が勝つんだけど力出し切らなかったとか後で無様に言い訳されたら後味悪いしね」

 

キルア「あ?あんまり調子に乗んなよ」

 

キルアは先ほどよりも早くビスケに攻撃するがその手刀は再び空を切ることになった。少し頭に血が上ったキルアは真っ正面からビスケに向き合い連打を行う。

 

実況「キルア選手の猛攻!!早い!早い!早い!!驚くべき名勝負がこの少年と少女との間で繰り広げられている!ビスケ選手防戦一方!!攻撃を辛うじて紙一重で躱すのが精一杯です!」

 

そして、その時は訪れた。

 

キルア「参った…俺の負けだ…」

 

観客の誰しもがキルアの勝利を確信していたがその試合をロビーの画面で見ていたウイングは頭を抱えた。

 

ウイング「全くあのお方は…」

 

顔面蒼白で目を虚ろにしながら、キルアはゴンと刃牙と合流した。キルアが負けたというのは衝撃的であったが、50階クラスで戦ったファイトマネーで3人は宿に入り、キルアは一言も話さずにベットに潜り込んでしまった。何があったのかは聞かなかったがよっぽどの相手だったのだろうと推測した2人は何も聞かずに一夜を過ごした。

 

キルアとビスケの攻防はキルアが今まで培ってきた全てを全否定する程の実力差を感じさせた。

 

布団に包まりながらキルアは今日という最悪の一日を振り返っていた。

 

(女に負けた…女に負けた…しかもオレより年下だろ…あいつ一体何者だ…??オレの動きが全て読まれてた…しかも…実況や観客には見えてないのか…オレの攻撃が終わる度に…毎回毎回あり得ない早さで額にデコピンを入れてきやがった…あれはいつでも俺を倒せるっていうサインに違いない…攻撃をする度に訪れる恐怖のデコピン……クソッッ悪い夢なら覚めてくれ…なんだったんだあいつ…こんな侮辱されるなんて…しかも年下の女に…クソッッ…)

 

そして次の朝、悪夢がさらに襲いかかる。

 

呼び鈴が鳴らされた宿の扉を空けるとそこには昨日キルアを弄んだ笑顔の少女とウイングが立っていたのであった。

 

 




ビスケ「はい、腕立ての次はスクワットよ。ゴン何休んでるわさ?回数増やしたいの?」

ゴン 「違うよっ!!汗で滑ってちょっとだけ‥‥」

ビスケ「言い訳はいいからゴンは腕立て100回追加!ほら、集中!!」

刃牙とゴン、キルアの3人はあの日からみっちりとビスケにシゴかれることになった。
もっともキルアだけは最後までフテっている様子であったが、身を持って体感したビスケの実力の底が見えなかったのも事実であった。

キルアが納得した一番の理由はビスケが自分よりも年上であり、ウイングの師匠でもあったということである。
そのことに関してはもちろん驚いたが重要なのは年下ではなかったということがキルアのプライドを保つことに意味を持つ。

刃牙「でも、なぜ俺達に稽古をつけてくれるんだ?」

ビスケ「ある人からの依頼でね。まぁ謝礼はそいつからたっぷり貰うつもりだからあんた達は黙って私のメニューについてきたらいいわさ!」

おほほほっと笑うビスケの目が輝いているのはきっと依頼主からの見返りを思っての事だろうことは容易に想像ができた。不信感を募らせた刃牙にウイングが助け舟を出す。

ウイング「ゴン君とバキ君の二人は今年ハンター試験に合格しましたよね?実はまだハンター試験は終わってないんです」

ビスケ 「ちょっとウイング!余計なこと言うんじゃないわさ!それは全部終わってから話すのが楽しいんじゃないのよ!」

ゴン  「え?どういうこと?ライセンスならもう貰ったよ?」

ウイング「はい。ただ、まだ君たちをプロハンターとして認める訳にはいきません。ハンターにとって最低限の強さは必要になるためプロハンターとしての活動を行う合格者には例外はありますが、まず第一に念を収めて貰う決まりになっているんです。試験を勝ち抜いた君たちなら分かりますね?つまりこの方は協会から派遣されてきたプロハンターですよ。あえてこの方を派遣したということはおそらく会長から直々に言われたんのではないですか?」

それに楽しいとか楽しくないとかではありません。もっと自覚を持ってくださいと。ビスケを睨みつけるように眼鏡を持ち上げる。

ビスケ 「暫く会わないうちに一丁前の口を利くようになったわね‥そういうことよ!だからアンタ達は黙ってワタシのメニューについてくればいいわさ!(最もあのジジイが何の考えもなくワタシに修行を依頼するとは思えないけどね)」

「ハンター十ヶ条」其乃二項にはこうある。

◆ハンターたるもの最低限の武の心得は必要である、最低限とは念の習得である。

つまりは念とはプロハンターを名乗るには必要不可欠な武であったのだ。3人はビスケの執拗なシゴキに耐え。ウイングから10万人に一人の才と言われているズシが舌を巻く程の速度で成長しあっという間に基礎の四大行をマスターしていった。

100階に上がり、専用の個室を手にしてからは修行に追われていたので闘技場での戦いはなるべく控えていた。というよりも、連日、連日、クタクタになるまでビスケにしごかれ、修行後は倒れるように眠る生活を続けた為、組まれた試合を棄権することも多く、闘技場に立つ余裕が無かったといえよう。

そのため、ビスケの思惑通りなのかは甚だ疑わしいが、基礎を収めたそのタイミングで三人はやっと200階に上がった。

キルア「ウイングの言ったとおりだな‥‥」

刃牙 「あぁ‥」

コクリと頷くゴンもそれに続いた。

エレベーターが200階に向かう前に感じられた不気味な念。明らかに敵意はこちらに向けられているのを感じる。

ウイング曰く、200階以上の闘士は全て念能力者であり、それを知らない者は洗礼を受ける。つまり念能力での攻撃だ。念による防御なく念能力による攻撃を受けた者は最悪死に至たることもある。それを知らずに200階に上がった無知な闘士を好んで狙い、容赦なく念を持って攻撃し、勝利を積み重ねるような者も少なくないようだ。

念を学んでまだ日の浅い3人であるがその意味を身を持って感じていた。

そして‥このオーラには身に覚えがあった。

否、あり過ぎる。

ヒソカ「200階クラスへようこそ♥洗礼は受けずにすみそうだね♦︎」

忘れられない顔。ハンター試験で際立った異質さをみせていた道化師ヒソカがそこに居た。

キルア「やっぱりお前かよ!何でここに!?」

ヒソカ「別に不思議じゃないだろ?ボクは戦闘が好きでここは格闘のメッカだ♣︎なんてね♥もちろん偶然なんかじゃなく君達を待ってた♦︎」

ゴン 「まさかそっちから現れるとは思わなかったよ手間が省けた」

ヒソカ「くっくく♥基礎を覚えたくらいでいい気になるなよ♠︎念は奥が深い♦︎」

刃牙 「あの・・俺とも戦ってくれるかい?もちろんゴンの後でいい」

不敵な笑みを浮かべながら去っていったヒソカは去り際に刃牙とゴンにこのクラスで1回でも勝つことができたら挑戦を受けると言葉を残していった。


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HANMAR×HANMAR♯24

◆天空闘技場200階クラス◆

 

このクラスでの戦いは申告制となり90日の戦闘準備期間が与えられる。1度戦えばまた90日間の戦闘準備期間が与えらる。ただし期間内に戦闘が行われない場合、即失格となり登録が抹消され登録が二度抹消されると永久追放となり、二度と闘技場に挑むことはできない。

このクラスをクリアするには10勝が必要。10勝する前に4敗すると失格となり10勝するとフロアマスターに挑戦することができる。 このフロアからファイトマネーは無くなり名誉のみでの戦いとなり、武器の使用も認められている。

 

フロアマスターとは21名の最高位闘士のことを指し、230階から250階までの各フロアをそれぞれたった一人の闘士が占有しフロアマスターに挑戦して勝てばその階のフロアマスターになれる。

フロアマスターになると2年に1度最上階で行われるバトルオリンピアに出場することが出来、優勝すると最上階が優勝者の家となる。世界で最も高い私邸と呼ばれており副賞として毎回超希少なお宝がいくつも贈呈される。

 

刃牙「バトルオリンピアか‥」

 

受付で説明を退屈そうに聞いていた刃牙が反応した。意識をしないかしているのかは不明だったがその口角は上がっている。

 

ゴンとキルアにとってさしてこのクラスの特典や名誉などには魅力は感じられなかった。2人にとってはお金を稼げて手っ取り早く強くなれればいいと思って臨んだのがここ天空闘技場だ。190階クラスで勝利した際には約2億円もの大金が入ったし、それ以前のファイトマネーも階を重ねる毎に増えていった為、暫くお金の心配は要らなそうだ。

 

修行の方も毎日が地獄のようにビスケにシゴかれているが、日に日に強くなっていると手ごたえを感じていた。

念を使っての戦闘というものの経験がない為、キルアはここ天空闘技場で数人と念を使っての経験を積めたらそれで良かった。ゴンもその程度の感覚であったが、ここにきて、まさかヒソカと出会えるとは夢にも思っていなかった。

 

ハンター試験の借りを返すという目的が近づいた。

 

だがそれは後からついてきたことだ。受付で話を聞いてもゴン自身はあまりピンとこなかったし特典や名誉に関して魅力は感じられなかったのはキルアと同様であった。

 

ただ刃牙だけは巨凶、範馬に流れる血を抑えきれなかったのかもしれない。

 

ゴン「バキは興味ある?」

 

刃牙「そういう訳じゃないんだけど・・懐かしいなって」

 

ゴン「懐かしいって?」

 

刃牙「いや・・まぁ好きなんだよ。漢ならべて誰が1番強いんだって、そういうのさ」

 

ゴン「ふーーん」

 

受付の女性に促されて、部屋に案内された。その際に3人の理解力に不安を感じていたのかは定かではないが、対戦には90日準備期間があるので、まずはこのクラスの戦闘を見てみたらどうかと促された。

 

ゴンがすぐにでも戦うといったことに少し抵抗があったのかもしれない。忘れてはいたが刃牙はともかくゴンとキルアは見た目も年齢も完全に子供だった。このクラスまで上がって来たことが普通ではないと理解はしていても、ゴンの子供っぽい雰囲気を見て女性としてはやはり母性が働いたのかもしれない。

ありがたいことに明日の試合のチケットを安く譲ってくれるそうだ。どうやらこのクラスでは人気の闘士同士の戦いで1人はフロアマスターにも近いと言われているカストロという闘士でもう一人は最近このクラスに来た者で破竹の勢いで4連勝しているという。

 

受付の女性はそのカストロという闘士のファンだったようだ。

 

ゴン「ありがとう!なら明日見てみるね!ただオレの戦闘申し込みはよろしく!」

 

親切で言ったつもりが、何も伝わってなかったことに若干イライラしている様子が良く分かった。希望日なしで押し付けられた用紙を明日のチケットと交換のような形で渋々と受理をした。

 

それぞれ案内された部屋に移動する。最初に案内されたゴンの部屋のテレビのモニターには

 

 

戦闘日決定!!

 

225階闘技場にて3月11日午後3:00スタート!!

 

 

と表示されていた。

 

キルア「はやっ!11日っつったら明日じゃねぇか」

 

ゴンの身体の周りを淀みないオーラが包み込んでいた。

 

ゴン「早く実感してみたいんだ、この力で一体どんなことが出来るのか」

 

刃牙 「ゴン、頑張れよ。今日は良く眠る事だな」

 

ゴン 「うん!ありがとう!あ、これさっき貰ったチケットね。オレは行けるか分からないけど何時からかな」

 

刃牙 「なんて書いてあるんだ?」

 

キルア「1時からだってさ。カストロ対ドッポだって、あのおばさんの言うように人の試合見るのもいいかもな」

 

刃牙 「独歩!!?」

 

キルア「そう、ドッポにカストロだとよ、どっちも変な名前だな」

 

ゴン 「あはは。本当だね、カストロって」

 

刃牙 「え!???」

 

チケットを受け取りそれぞれの部屋に移動した。ベットに横たわりチケットを見つめる刃牙は起き上がりそれをサイドテーブルに置く。

 

(まさかな・・・)

 

その疑念は明日になれば解決する。そう言い聞かせた。期待しているのかしていないのか?していないと言ったら嘘になるかもしれない。ただ予感より確かに・・・何かを感じていた。逸る気持ちを抑えきれずにいたが、洗面所に移動し顔を洗い、グラスに注いだ水を一気に飲み干す。

 

またベットに横になり、元にいた世界のライバル達のことを思い出した。頭の中を様々な記憶が走り抜ける。

目を閉じたまま愚地独歩の姿を思い出す。

 

最初に出会ったのは空手のトーナメントの審査員長として、2度目は親父と戦うということでそれを止めに行った。その時はここに来ると分かってた拳、足刃を外せなかった。弱かった自分。

今なら外す事が出来るのかな?などと考えていたら、落ち着いたのかそのまま泥のように眠った。この日もビスケに練を維持するというトレーニングをさせられ体力的には限界に近かった。

 

それは他の二人も一緒のようで横になると同時に眠りに就いたようだった。




『ご覧下さいこの大観衆!!まだ決戦の1時間前だと言うのに会場はすでに超満員です!!

戦績は8勝1敗!休みがちの死神、奇術師ヒソカに破れて以来8連勝でフロアマスターに王手をかけるか武闘家カストロ!!

戦績は4勝0敗!驚くべきは200階クラスに上がり一週とも期間を空けずに破竹の勢いで勝利を繰り返す、眼帯親父ドッポ!

注目の新人と容姿淡麗な美男子との試合、両者のファン層にもはっきりと男女が分かれているようにも感じられます!!

会場のボルテージは既にMAXです!眼帯親父がカストロ選手を相手にどう戦うのか、もしくは今宵も華麗に無敗の親父に土をつけるのかカストロ選手、二人の試合開始までとうとう55分を切りました!!それでは前回のインタビューの様子を見ていただきましょう』

会場に設置された大きなモニターに女性と見紛うほどの整った顔だちの髪の長い男性が映し出された。
熱気に溢れた闘技場にも負けないくらいに実況にも熱がこもる。このフロアからは闘技場を真ん中に囲むように舞台が置かれている作りになっていた。ここまで勝ち残った闘士達の戦いとなると高い金を払ってでも見たくなるのだろう。

キルア「スッゲー熱気!当たり前だけど今日戦う二人も念能力者なんだよな、あの兄ちゃん強いのかな?」

ゴン 「ヒソカとも戦ってるみたいだね、そっから8連勝ってきっとすごい強いんだと思う」

キルア「わかんねぇーよ?念を知らないような奴狙ってコツコツ勝率上げてったのかもだし、ちょっとオレは態度も気に入らないかな」

刃牙 「2人とも炭酸抜きのコーラでいいだろ?おじやがなかったからポップコーン買ってきたよ」

昨晩、早くに就寝した3人はビスケに許可を貰い、今日だけは特訓の休みを貰って観戦をしていた。念能力者同士の戦いを見てみるのもそろそろいい頃だわさね。そう言いながら録画の準備をウイングに任せていた。ただ何が行われるのかしっかりと見てくること。もちろん凝を使ってということだった。

久々の特訓の休みに浮かれているのかもしれない。休みと言ってもこの後にゴンは試合を控えている為、心境は各々違うことだろう。モニターにはビックマウスとも取れるような発言を繰り広げるカストロが写っていた。勝算がないなら戦いませんよ。という言葉に会場に詰め掛けた女性ファンの絶叫が木霊している。どうやらこの二人は試合日を申し合わせて試合を組んだようだ。

ドッポの方がカストロに声を掛けて、この対決が実現したという。

続いてドッポのインタビューが映し出された。

キルア「おぉ!!あのオッチャンめっちゃシブいじゃんか!強そう!オレ眼帯親父に賭けようかな!」

そうキルアが言った後に刃牙が飲み物を落とした。

キルア「おい!バキ!お前何してんだよっ!」

ゴン 「コーラこんなにこぼしちゃうと、ベトベトになって後が大変なんだよね」

キルア「おい、バキ!聞いてんのかよ!」

キルアが悪態をつきながら刃牙の方を見ると、刃牙の視線はモニターに映る漢を一心に見つめていた

インタビューが続けられる

「今回の対戦をドッポ選手の方からカストロ選手へお願いし、申し合わせて試合を組んだということですがその胸中にはどういった想いがあったのでしょうか?」

独歩「胸中?そんなもんねェよ、一個前の試合をたまたま見てたらよ。あの若造が少しは骨がありそうだったから試合後に後ろから襲ってやろうとしたらよ、俺とは試合場でしか戦わねェって、武闘家がそんな馬鹿なこと言うもんで毒気抜かれちまって、なし崩しにこうなっちまっただけだ。あと眼帯親父っていうのは辞めてくれねェかい?俺は虎殺しとか武神とか色々かっこいい通り名があるんだからよォ・・・」

「そういうことだったのですね。まさに奇跡のマッチメイクといえる試合と相成りました。この度の試合の勝算はいかがですか?」

独歩「奇跡ぃ?大げさなんだよおめェはいちいちよォ。武道家は特攻隊じゃない、勝算のない喧嘩はせんよ」

「ありがとうございます。多くの男性ファンが貴方の勝利を願っています!こちら眼帯親父ことドッポ選手のお部屋からお送りさせて頂きました」

独歩「だからおめェよッッッ!」

ここでプッツリとインタビュー映像が途切れている。会場からは大きな笑い声と共に「眼帯親父ィィ~~!!」「ドッポー」「色男ブッ殺せ!」「オイオイオイ」「死ぬわアイツ」など多くのヤジが響きわたった。

刃牙 「間違いない・・・本物だッッッ!!」

キルア「おぃ!バキ!急にデカい声出すとビックリするじゃんかよ!」

刃牙 「あ、ごめん、あの人知り合いだったんだ。俺と同じ世界のさ、そんな気はしてたんだけど嬉しくてつい」

キルア「マジ・・・!?良かったじゃんか!」

ゴン 「おめでとうバキ!これで親父さんの手掛かりに近付けるかもね!」

ゴンとキルアが驚きと同時に喜ぶ刃牙の顔を見て祝福もした。試合までまだ時間あるし炭酸抜きコーラを買ってくると嬉々として走って行った。キルアとゴンが苦笑いをしていると後ろから眼鏡を掛けた男性がキルアとゴンが持つドリンクを見て「大したものですね」と声を掛けてきた。

「炭酸を抜いたコーラはエネルギーの効率が極めて高いらしくレース直前に愛飲するマラソンランナーもいるくらいです」

とウンチクを披露してきたのを二人は華麗に無視をして、試合開始を待つのだった。



次回、カストロ 対 ドッポ 試合開始ッッッ!!


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HANMAR×HANMAR♯25

烈が生きているのに武蔵後編?とご指摘頂きましたが、書いたのが数年前になりまして、おそらく40話くらいまではストックを改変して載せていきます。なので時代背景など今後ずれてくる部分もあると思いますが刃牙道の連載が始まった頃ぐらいとお考え下さい。今後もツッコミ所が色々あると思いますがご容赦下さい。いつも読んで下さりありがとうございます。


『さぁーーーいよいよです!!カストロ選手VSドッポ選手の大決戦!!』

 

マントのついたひらひらした服を身に纏ったカストロと神心というこの世界では聞いたこともないような流派の道着に身を包んだ独歩が対峙する。これから試合を迎える者しては両者随分と余裕を感じられる。その余裕が己を強者せしめる確固たる自信と場数を踏んでいることを匂わせていた。澄ました顔でカストロが語りかける

 

カストロ「感謝するよドッポ、キミは場所を問わず戦いたかったようだが、せっかくの対決にはそれなりの観衆が欲しかった。」

 

独歩  「気に入らねェな・・200階に入ってから楽しい戦いが出来るもんだとばかり思ってたら、最初の1戦以外つまらねェ奴らばっかりで辟易してたんだ。なァ兄ちゃんよォ、少しは楽しませてくれんだろう?」

 

カストロ「言っておくが、ヒソカに敗れてからの8戦、1度として全力で戦ったことはない、全てが奴を倒す為の準備運動に過ぎない!」

 

独歩  「アンタを倒して次に俺がそいつと戦いてェなァ」

 

 

『始め!!』

 

カストロ「行くぞ!!」

 

審判の合図と共にカストロが声を上げ独歩へ強襲を掛ける、それを独歩は鉄壁の防御、前羽の構えで迎え撃つ。

カストロの左の手刀、それを独歩が捌き、間合いを詰めカストロの懐に入り、正拳突きを放つ。

カストロは放たれた正拳を受け1m後方へ引くが、一瞬と時を開けずに今度は左足での蹴りを入れる。独歩はそれが放たれる前に右足でカストロの股関節辺りを押し、倒れたカストロを上から見下ろした。

 

カストロ「・・・・・・ッッッ!!!?」

 

眼帯で覆われていない右目が冷ややかな光を放ち、冷徹にカストロを見下していた。

 

ゴンの試合のチケットは確保したが、人気闘士同士の戦いであるこの試合のチケットが入手できなかったビスケはホテルに宿泊しているウイングに録画を任せ、天空闘技場のとあるフロアで腕を組みながら、映し出されるカストロと独歩の試合をモニター越しに見ていた。

 

ビスケ 「堂に入ってる・・・わさね・・・」

 

ウイング「はい・・何者なんでしょうか・・ただ・・・これはあまりにも」

 

ビスケ 「・・・アンタどっちに賭ける?」

 

ウイング「やめてください。賭けになりませんよ」

 

ビスケ 「アンタはそういうの嫌いだったわね、勝敗はともかく・・あのカストロって男の首筋・・」

 

ウイング「ええ、何かありますね。」

 

独歩ファンの男性客のボルテージは上がりに上がり場内を覆うようなドッポコールの大歓声が広がっていた。対象的にカストロのファンの女性達は悲鳴をあげたり涙目で祈るように手を顔の前で合わせている。

 

独歩 「あのよォ、兄ちゃん、散々勿体振ってこれで終わりってことはないんだろなァ?」

 

ゴクリと生唾を飲み込み、目線を伏せながら服についた土をパタパタと払い、立ち上がるカストロ

 

カストロ「安心し・・・・」

 

カストロの顔面数センチ前で独歩の正拳が静止した。

 

独歩  「空手家前にして目逸らして話すんじゃねぇよ。そろそろ本気で掛かってきてくれねぇかい?って言ってるんだ。」

 

カストロ「すばらしい、あなたはやはりホンモノだ」

 

独歩  「ぬかせや小僧」

 

カストロの目の色が変り、今度は独歩の右側頭部に対してのハイキックを一閃。

それを独歩はしっかりとガードをした。だが気配は後ろ、カストロが独歩の背後から左の側頭部に強烈な蹴りを放つ。みしっと音が聞こえそうなほど、強烈な蹴りを受けた独歩はそのままの勢いで顔面から地面に叩きつけられた。

 

『クリーンヒット!!&ダウン!!』

 

審判がこの試合で初めての有効打とダウンを取った。独歩は未だに立ち上がることが出来ないほどのダメージを負い、カストロは先ほどの借りだとでも思っているのか早く立ち上がれ。と独歩を促している。

 

ビスケ「下手したらあの漢、死ぬわさね。念に関しては全くのヒヨッコよ、もしかして何も知らないのかしら・・・?オーラの総量に差がありすぎる。勝ち目がないわよ。鍛えたら相当な使い手になりそうなのに歯がゆいわさね。」

 

ビスケの言う通りであった。独歩は念に関して誰からも教わっていない。

故に体にオーラを留める纏。そして精神状態に左右されるが高ぶった際に無意識に練を行ったり、あくまで精神力や感情による火事場馬鹿力的な要素でしかない。だがそれも仕方ないと言えよう。念能力に目覚めてからオーラの総量を増やすトレーニングやオーラを移動する為の訓練などは一切行っていない。

 

それが出来るということさえ考えなかったのだ。だが単純に纏と点に関しては達人でさえ及ばない程に研磨されていた。しかしそれだけではこの世界で強者との戦いには太刀打ち出来るはずもない。

 

このクラスに入っての1戦目はともかく2、3、4戦と戦った対戦者は大した使い手ではなかった、独楽を回したり、車椅子で鞭を振り回したり、隻腕だったりと少し独特ではあったが、実力に差がありすぎた為に纏の防御だけで十分に看破ができたからだ。

 

ただこの相手は違う、カストロは曲がりにもヒソカのお眼鏡にかない今殺すには惜しいと判断された程の才能の持ち主だ。

 

いくら体術で上回ったとしても、独歩の攻撃では決定打になるダメージは与えられずに、カストロの攻撃を受けてしまえば纏しか出来ない今の独歩では実力差以上のダメージを受けてしまう。

 

結果、独歩はたった一発の攻撃で地面に唇を押し付ける展開となった。

 

ゆっくりと起き上がり、カストロを見る。

 

独歩「気のせいかい?兄ちゃんが消えたように見えたんだが・・・いや・・それは表現が正しくねェな。目の前にいて俺に蹴りをくれたはずのアンタが一瞬にして背後にいた・・それが一番近い表現だと思うんだけどよォまだ何か違う気がするぜ・・何か基本的な見落としをしている感じがするなァ」

 

カストロ「対ヒソカ戦へのとっておきだ。まさかヒソカと戦う前にお披露目する事になるとは‥謎解きをしているようだが無駄だね、何にせよもう待たない。次は腕をいただくぞ」

 

観客からは「出たぞ虎咬拳」と歓声が響く。

 

カストロは独歩のお得意の天地上下の構えのような姿勢をとり、腰をかがめ下に構えた手を少し体に寄せて両の手にオーラを集めた。

 

集まっていくオーラを目を凝らしてみることが出来た独歩は念能力に目覚めてからこの日初めて凝を行った。

 

そして「なるほどねェ……」と試合中にも関わらず感嘆の声をあげた。

 

 

▪️「虎咬拳(ココウケン)」▪️

 

▪️掌を虎の爪や牙に模し敵を裂く拳法。達人なら大木を真っ二つにすることも可能▪️

 

独歩  「やるよ」

 

勉強料とでもいうのだろうか独歩が無防備なその左腕をカストロの方へ向け掲げた。

 

カストロ「フン、余裕かそれとも罠のつもりか!?どちらにしても腕はもらった。右(こっち)のな」

 

左腕を掲げ切断を覚悟したその刹那、独歩はまた背後に気配を感じた。そして目の前に居たカストロの姿は消え、後ろから出現した気配に掲げた左腕ではなく、右腕を切断された。虎咬拳により右腕が宙に舞い、ボトリと重たい音を立て地面に落ちる。

 

独歩は上腕内側に流れる動脈を圧迫し見事な止血を行いながら深いため息をつく。怖いもの見たさの観客からもどよめきと実際に腕が飛ぶシーンを見たことから恐怖の悲鳴が響いていた。

 

独歩  「嫌だねェ…。この世界の戦いってのはよく分からねぇことばっかりだぜ。もう2度と腕がなくなる経験はしないと思ってたが、今度はこっちの腕がなくなるなんてよォ」

 

カストロ「全てが自分の思い通りになると思ったら大間違いだ。まだ続けるかい?」

 

独歩  「あ?兄ちゃんよ、俺は右腕を失った以外ピンピンしてるぜ?それに兄ちゃんの能力の正体がやっとわかった。お前さん・・・2人いるだろ?」

 

カストロ「・・・流石だな、その通りだ」

 

カストロが種明かしとばかりに自身の分身を露わにした。観客席からは再度どよめきが起こる。刃牙、キルア、ゴンの3人はカストロが攻撃を仕掛けた瞬間に身体が重なって見えたことを錯覚ではなかったと理解した。

 

▪️「分身(ダブル)」▪️

▪️念により作り出された自分の分身を具現化して操る能力。

 

相手の不意をついたり数的有利を作り出すことが可能となるがかなりの集中力を要する。自分が想像する(平常時の)姿を再現してしまうため戦闘中に出来た傷や汚れなどは再現できないという弱点がある。具現化・操作・放出能力の複合技▪️

 

独歩 「昔・・・貫手の稽古がしんどくてなァ、束ねた竹に貫手ェかますンだがこいつがまた痛ってェんだ・・・何度脱臼と骨折を繰り返したことか。いっそ指なんか全部なくなっちまえばいい、そうすりゃ思い切りブチ込めるって・・」

 

「夢が叶ったぜ!!」

 

独歩がカストロとの距離を一瞬で詰め、失った右腕をそのままカストロの顔面にねじ込んだ。

 

「うァァ!無い方の手で殴ったァーーーッッ!!」観客からの声が響くと同時に審判はカストロに対しクリーンヒット&ダウンの判定を下す。

 

ゴン「ねぇバキ、あの人どんな人なの‥‥?」

 

刃牙「説明がいるかい?あのまんまだよ。真っ直ぐで、それでいて狡くて、強くて、俺の世界であの人に勝てる人が何人いるかってくらいの最高の空手家さ」

 

ゴン「スゴイい世界だね・・・」

 

刃牙が笑いながら答えるとゴンのその真っ直ぐな瞳は劣勢であるはずの独歩から視線を外せなくなっていた。

ビスケとウイングもモニター越しにこの眼帯親父のオーラが時を追う毎に力強くなっていく事に気がついていた。

 

独歩がカストロとの距離を一瞬で詰めた能力。

 

▪️「武の神様からの贈り物(ファイティングギフト)」▪️

 

▪️予備動作一切なく、移動が可能となる能力。移動出来る範囲は現在50センチほど。また移動には大量のオーラを有する▪️

 

独歩が200階クラスに入り初めての戦闘で苦戦した際に目覚めた能力の一つだ。武を志す者にとって命とも呼べる間合い。それを予備動作なく詰めることが出来るという事は戦局を大きく左右する事を想像に容易い。事実この能力を用い達人と呼ばれたその対戦者を場外へと吹き飛ばし勝利をもぎ取った。そしてもう2つ・・・。

 

カストロは顔についた血を拭いながら、独歩を諭す。

 

カストロ「多少は面食らったが、戦局は変わらない。その腕も止血をしながら戦う事は不可能だ。ギブアップしないのなら立っていることができなくなる前に次は左腕をいただく。」

 

来いよ。そう促すような笑みを浮かべる独歩に対してカストロとその分身が襲いかかる。先に特攻を仕掛けたのは分身の方だった。が、独歩に近づくとその分身が消滅した。カストロにはその状況が未だ理解出来ない。再び分身を独歩に嗾けるが結果は同じくカストロの意思とは無関係に分身は消滅した。

 

カストロ「ッッッ!!!???」

 

▪️神眼(ゴットアイ)▪️

 

▪️自身の円の中に於いては己を含む全ての能力が無効、つまり絶の状態になる。発動者と対象は肉体のみの強さで戦うこととなる。

 

念能力が未熟な為、現在は数秒ほどと発動時間が短く、発動範囲も独歩の間合いに未だ満たないほど狭い。能力名の由来は稚拙な円の形が真円とはならず上から見ると楕円形となる為、自身の眼帯の形をモジってこの名をつけた▪️

 

独歩  「さっさと終らそうぜ、小綺麗な分身じゃなくて俺の血が付いてる本体で来いよ、そろそろ落ちた腕を氷漬けにしないとヤバそうなんでな」

 

カストロ「‥‥‥‥ッッ!?まだ負けを認めないというのなら良く分かったよ。私はもうお前に近づかない。そうすれば出血多量でもう勝敗は見えているからね」

 

カストロの試合放棄とも取れる発言をし、今度は観客に向かって演説をする

 

カストロ「皆さんッッ私の勝利を認めてください!!この戦いはもう意味を持たない!!これ以上何を見たいのですかッッこれ以上戦ってはドッポが死んでしまいます!もし私に戦えというのならーーー

 

独歩「おい」

 

後ろから声をかけ「武の神様からの贈り物(ファイティングギフト)」で間合いを詰め3つ目の能力。

 

▪️「菩薩の拳(フィストオブセイント)」▪️を発動。

 

▪️念を込めた菩薩の拳。今後はどう成長するか分からないが現状では纏の状態で繰り出される正拳と何ら変わらない▪️

 

愚地独歩が武に身を捧げて手にした答えがこの菩薩の拳。今までで最大のオーラがその身体に宿ったがそれでもまだカストロに致命傷を与えるには至らない。だがッッッ!!その拳が顔面を捉えた瞬間に独歩の後ろから何かが物凄いスピードでカストロの頸動脈に突き刺さった。

カストロは首筋の頸動脈から夥しい程の出血をし、そして糸の切れた操り人形のように倒れた。

 

『勝者ドッポ!!医者を早く!!』

 

凄惨たる幕切れに観客が静まり返る。運ばれていくカストロ。 観客はもちろん独歩自身も何が起こったのかわからず呆然と立ち尽くしていた。観客や審判からは独歩が何かしらの能力を使いカストロを討ったと見えているのだろう。

 

その結果だけは理解できた観客達が時間差で湧き出した。独歩は腑に落ちない顔をしながら再び止血をし、切り離された右腕を拾いあげようと腰を屈めた。その際に石造りの舞台に鋭角で突き刺さる1枚のトランプが目に入った。

 

カストロの頸動脈を引き裂いた血まみれの死神のカード。その死神の顔は心なしか笑っているようにも見えた。

腕を拾い上げ、独歩が舞台を降りようと通路の奥に目をやるとそこに死神の後ろ姿を見た。

 




「ほほほ。刃牙さんや、本物じゃ本物じゃ。」

「俺はそんなことだろうと思ってたぜェ、香典は返して貰わねェとな。」

2人の老人が笑顔で刃牙の肩をポンポンと叩いたり体を揺する姿を見ているのは少し滑稽であった。
天空闘技場の207階のフロアにいる愚地独歩の部屋には見慣れない面子が揃っていた。

ゴン、キルア、刃牙、ビスケ、ウイング。そして愚地独歩と渋川剛気と刃牙だ。

独歩の試合の後に行われたギドVSゴンは当人達の心配をよそに実にあっけなく決着がついた。
ゴンの練はビスケの特訓の甲斐もあり発展途上とはいえ既にギドクラスの能力者の攻撃など問題にならないほどに鍛えられていた為、ギドの攻撃によりダメージを受けることは一切なく無傷のまま勝利を掴んだのであった。そして刃牙が愚地独歩の部屋に行くのに皆を紹介したいということで連れてきたのであった。そこには渋川剛気も居て、散々驚かされた仕返しに独歩を驚かせてやろうと思った範馬刃牙はもう一度驚かされることになってしまった。

だが驚いたのは2人も同じで今回は奇しくも同じ構えだったというところかもしれない。

抜けていた時間、この世界に来てからの一連の流れを説明した両者であったが、その話を黙って聞いていたウイングとビスケは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。

ビスケ「ちょっと待つだわさ、バキあんた違う世界からきたっていうの??」

バキ 「あれ、言ってなかったけ?」

ビスケ「ちょっと世間知らずだとは思ってたけど、そんなこと一言も聞いてないわよ!!」

バキ 「あぁ、話してどうなるって事でもないから気にしないでくれ」

ビスケ「気にするとかそういう話じゃないわさ!!!そんで、オタクら2人ともこっちの世界からきた奴らに仕返しがしたいと?」

ビスケが刃牙に少し呆れたように頭を抱え、一連の話を聞いて一通りは理解したが頭はまだついていってない、だがその世界の住人である2人にも投げかけた。

独歩 「あぁ、あの蜘蛛の刺青をしたあの男だけは許せねェからな。」

ビスケ「やめときなさい、死ぬだけだわさ」

独歩 「武道家は特攻隊じゃい、勝算のないーーー」

ビスケ「勝算がないって言ってるの!蜘蛛の刺青っておそらく幻影旅団でしょ?今のアンタなんか1秒も立ってられないわ、確実に死ぬわさ」

渋川 「お嬢さんや、何か知っているのかい?」

ビスケ「ワタシが知ってるのはそいつらの悪名と全員が凄腕の能力者だってこと、それと今のアンタ達の未熟さね。自殺したいなら別だけど、そいつらが悪名通りの奴らならアンタらの世界で暴れたりもやり兼ねないわさ」

独歩 「口の悪いお嬢ちゃんだな。こちとら仮にも神心会の長だぜェ?言葉は間違えないこった。」

ビスケ「何度でも言ってやるわさ、アンタ達は弱いって言ってんの。今日の試合だって何回死ねた?運良く誰かの助けがあったから勝てたもののあのまま普通に戦ってたらアンタ死んでたわよ?」

ビスケが最後のトランプの解説をビデオを見せながら皆にした。試合開始の時点でカストロの首筋についていたオーラは伸縮自在のオーラを限りなく見えにくくする為にという技を使っており、それをあたかも独歩の攻撃に合わせて伸縮させ独歩の攻撃のように見せていたのであった。

決定打は独歩の「菩薩の拳(フィストオブセイント)」ではなく、このオーラについて飛んできたトランプであると説明してあっけにとられる一度であった。

ゴン 「ヒソカ・・だよね?」

キルア「しかいねぇーだろな」

ビスケ「心当たりがあるようね。どっちにしてもこのトランプの能力者は相当な実力者だわさ。」

ゴン 「でもなんでヒソカがこの眼帯のおじさんを助けたの?」

ビスケ「助けたっていうよりも許せなかったんじゃないかしら、実況が言ってたけど、このカストロっていう男の洗礼をしたのってそのヒソカっていう男なんでしょ?対戦相手を全員殺してるっていう男がこのカストロは殺さなかった。きっと期待してたんだわさ」

ゴン 「期待??」

ビスケ「良い能力者に育って欲しいっていう期待だわさ、きっとそいつは常に好敵手を求めてるのよ。自分の為にね。ワタシもそういうとこない訳じゃいから気持ちは解るわさ、ただその期待を裏切られた。このカストロって多分本来強化系なのよ、でも実際に能力として使用してた「分身(ダブル)」は具現化、操作、放出の高等技。そりゃちょっとガッカリもしちゃうわさね」

独歩 「あのよぉ、その首筋についているっていうオーラが見えねェんだが、本当にオーラがついてるのか?大体、その具現化とか操作、放出っていうのは何だい?」

ビスケ「それが見えないってことが今のアンタの実力ってこと」

先ほどからこの場を仕切る、一番幼く見える少女に渋川剛気の眼鏡が光ったところで刃牙が一言付け足した。

刃牙「あ・・紹介してなかったけど、こっちにいるのはゴンとキルア。俺の友達です。あとその女の子は俺らの念の師匠でビスケ、きっと親父より強いっすよ。」

少し。

ほんの少しだけ空気が重くなったのを感じた。刃牙が父親より強いといってから愚地独歩と渋川剛気はさっきまで全くと言って良いほど意識しなかった身体に緊張を走らせる。だが2人の全ての気持ちを汲んで刃牙が続ける。

刃牙「あの、俺、気がついたんです。あっちの世界でチャンピオンとか言われて調子乗ってた自分がいました。自分の力を信じて疑ってなかったけど、奴らには手も足も出なかった。親父もこっちの世界でもう負けてるらしいって聞いて少し吹っ切れました・・・俺たちは弱いです。少なくとも奴らと比べたらまだまだ・・ただこの念っていう力を覚えて可能性が広がったのも事実です。俺正直言うともう限界まで強くなった気でいたのに、でもまだまだ強くなれる。だから今すごく嬉しいっすよ。」

刃牙が静かに語った胸中に2人の武人は視線を遠くに向け思い返す。三成とストライダムの手ほどきでこの世界に来て数ヶ月、念に目覚めてから少しは強くなった気がしたが、あの蜘蛛の刺青をした大男やその仲間に今の自分が勝てるのか?そう聞かれたら答えを躊躇ってしまう。確かに、今までの力とは違う強さが必要になっていることを日に日に感じていたのは事実であった。地上最強の生物、範馬勇次郎が負けたという姿は想像すらできないが、刃牙が言うのならそれは事実なのだろう。

渋川剛気はそう語る刃牙の姿を見て、前とは違う刃牙の何かに気がついた。

渋川 「刃牙さんや、アンタまた強くなったかい?」

刃牙 「ええ、ビスケに稽古をつけて貰って少しは・・ただまだまだっすけどね。」

渋川 「お嬢さん、ワシもまだ強くなれるかのう?」

ビスケ「アンタがそう願うなら力を貸してあげてもいいわよ。」

独歩 「この歳で弟子入りとは、人生何があるかわかねぇもんだぜ」

ビスケ「ならアンタらからはここに来るまでのファイトマネーの半分頂くわさ、大分貯め込んでるんでしょ?まず水見式やってみて」

ビスケが2人の了承を得る前にさっさと水見式の用意を始めた為、ファイトマネーの半額という法外な請求に突っ込む興を削がれてしまった。全くと言っていいほど念に関しての知識がない為、水見式と言われても意味が分からなかったが急かされるようにグラスに向けてオーラを発した。

渋川剛気は一見何の変化もなかったが舐めてみると、水がとても甘くなっていた為、変化系であるということがわかった。

ビスケ「アンタの能力は知らないけど、変化系ね。オーラを何かに変化させるのが得意な系統だわさ、大体、バキもそうだけどアンタら体術は相当なもんよ。オーラの攻防力がそれについていけるようになったら相当な使い手になるわさ。」

独歩 「このジイさんの能力はちょっと手強いぜ、このクラスに入って最初に戦ったのがこのジイさんだったんだけど苦戦してなァたまたま、その時に俺が「武の神様からの贈り物(ファイティングギフト)」と「神眼(ゴットアイ)」に目覚めたから勝てたものの、そのまま戦ってたら何にも出来ずに負けてたな。」

渋川 「次は負けないですわ、カッカッカ!」

ビスケ「まぁ能力がどんなものにしろ、自系統と合っているならワタシは何も言わないわさ、次はドッポだけどアンタ右腕どうしたの?」

独歩 「あぁ、これな・・・」

独歩の右腕はカストロの虎口拳により落とされたはずであったが、今はしっかりとその右腕が付いていた、少し繋ぎ目に傷は残っているが日常生活で指を動かしたりするのはもう問題なさそうである。その事実に今更気がついた皆は驚いたが独歩もよく解らないという。

カストロと対戦した後、止血をしながら右腕を持ち選手用の通路で急に意識を失い、目が覚めたら腕がついていたというのであった。


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HANMAR×HANMAR♯26

ドッポ対カストロの試合が終わった観客席には顔を隠すかのように包帯をグルグル巻きにした大柄の男がいた、隣には猫目の女性。

 

その大男、表情は見えないが時折鼻を啜る音をさせながら肩を震わせている。

 

「館長ォォ~~~!!!」

 

そう、末堂厚その人だ。

 

顔にベッタリと入った蜘蛛の刺青を隠す為、彼は包帯を顔に巻いていた。今回この天空闘技場に来たのは旅団として次の大仕事の為にマチと共にここ、天空闘技場に居るという男に伝言を頼まれたのと、その男への顔見せの為であった。本来であれば来なくても良かったのであったが末堂たっての希望で同行が実現した。

 

外の世界を見てみたかったのだろう。この漢がこちらに来てからというもの死ぬもの狂いで日々鍛錬を行っていた。組手の相手も暇なウボォーギンやフィンクス、フェイタンにお願いできたし、シャルナークからは動きや力の改善点を的確に教えて貰えた為、一見すると元の世界の末堂厚とは既に見違えるような戦士として成長していたのであった。

 

それに同行相手がマチとなると何かイベントが発生しないのではないかと心のどこかで淡い期待をさせていたのは言うまでもない。旅団として活動を行うことになってから最初は皆に足手まといとして嫌がられてはいたが次第にその愛すべきキャラクターや独特のワードセンスにより男性陣の信頼は勝ち取ることができた。

 

ただ肝心のマチやシズクとはなかなか打ち解けられずにいることを歯痒く思う日々を送っていた。2人はヒソカとの待ち合わせの時間まで少し時間があるということで暇つぶしに試合の観戦でもしようということになったのだ。

 

もちろんチケットはすれ違った人からマチが抜き取っていた。観戦中、驚いた顔をしたと思ったら終始泣く末堂。

 

マチ「アンタ何泣いてるの?気持ち悪い。」

 

末堂「館長ォォ~~!館長ォォ~~!こっちに来たんですね!」

 

マチ「ちょっと知り合いと思われたくないから、死んでくれない?」

 

末堂「あの人は俺の師匠なんだ、館長なんだよ館長なんだ!」

 

マチ「は?あの漢・・・あぁ思い出したわ。居たわね、最初に声掛けてきた漢だ」

 

末堂「マチ・・お願いがあるんだけどよ、あの人の腕直してやってくれねぇか?館長の拳はダイヤモンドよりーー」

 

マチ「3000万ってところかな」

 

末堂「俺の仕事のギャラと足りない分はどんな事をしてでも払う。どんな事をしてでも払う、なんでもする!この身体で払ってもいい」

 

末堂の充血した目による鬼気迫る気迫に押されたのか、マチは請け負うしかなかった。最も身体で払うという意味をどう捉えたかは別だったが、こめかみの血管を浮き上がらせて懇願するこの漢を気持ち悪いと思う以外の感情はなかったのかもしれない。ただ金を払ってくれたらそれでいい。

 

試合を終えて選手通路を通っていく独歩を後ろから末堂が手刀で意識を失わせる。

 

末堂「すまねェ・・・館長」

 

倒れた独歩を優しく抱え、マチに頼むというと右腕を持っているように言われた。そのまま目にも留まらぬ速さで右腕が縫合されていく。マチの能力「念糸縫合(ネンシホウゴウ)」だ

 

マチ「ハイ終わり!血管、骨、神経、筋肉ほぼ100%つなげたよ。お金、ちゃんと払ってよね」

 

末堂「あぁ!恩にきるぜ!たとえ足りなくても、この身体で」

 

マチ「さっさと行くわよ」

 

末堂は通路の端に独歩を手厚く座らせ、何度も振り返りながらその場を後にした。

ダイヤモンドより高価といわれた、愚地独歩の拳がこの末堂厚の機転で繋がったのであった。




張り詰めた空気が漂う、室内にいるのはヒソカ、マチ、末堂の3名。

末堂厚は既にこの世界での実力者とは面識がある。クロロを始めウボォーギンなどはかなりの実力者と言っていいだろう。だが、空間を共にするこの男の狂気は肌でヒシヒシと感じた。過去に戦った最凶死刑囚として日本に乗り込んできた内の1名ドリアン。その狂気と比べるまでもないほどの異質なオーラに息を飲む。

沈黙を破ったのはその狂気の持ち主であった。

ヒソカ「後ろにいるキミはダレだい?♣︎」

マチ 「コルトピの抜け番、新しい団員よ。団長からの伝令とアンタへの顔見せを兼ねて連れてきたの」

末堂 「スエドウだ。ヨロシクな。ヒソカ。」

ヒソカ「わざわざ来なくても良かったのに♦︎」

マチ 「団員だって知らずにアンタに殺されたら面倒だから連れてきたのよ。」

ヒソカ「大丈夫だよ♥好みじゃないから♣︎」

末堂 「・・・・・・・」

マチ 「8月30日正午までに暇な奴改め全員必ずヨークシンシティに集合!!」

ヒソカ「・・・団長も来るのかい?」

マチ 「おそらくね。今までで一番大きな仕事になるんじゃない?今度黙ってすっぽかしたら団長自ら制裁に乗り出すかもよ」

ヒソカ「それは怖い♥ところでどうだい?今夜♥一緒に食事でも・・・」

伝令という用事を済ませると、そそくさと扉を閉め部屋を後にしたマチに続く末堂。その心境は複雑であった。

末堂(おいおい・・・俺はだいぶ強くなったんじゃねぇのかよ・・正直、館長の試合見て今の俺は館長を超えてる。それは明らかに。だがよ・・ヒソカってあんな化物だったのか・・・こりゃ蟻から身を守るっていうよりもまずヒソカに殺されない強さが必要になるじゃねぇかよクソッッ・・・クラピカへの対策に忙しいってのに・・・」

ヒソカ「残念♥あれ、そういえばボク名乗ったかな?まぁいいか♠︎」

通路を歩くマチの後に続いている末堂は何を想うか無言で冷や汗を垂れ流していた。

マチ「あぁーお腹減った、アンタご飯奢りなさいよ」

末堂「ッッッッ!!!はい!!」(今日は死んだっていいッッ!!)


今はいい。この流れに身を任せていたい。そう思う末堂厚。依然、童貞のままであった。

末堂が産まれて初めて女性とのディナーに勤しんでいる間に愚地独歩が水見式を行っていた。

末堂のお陰で繋がったとも知らぬ右腕を使いグラスに手を傾ける。水がチョロチョロとグラスから溢れてきた。

ビスケ「やっぱりアンタは強化系だわさね、これで明日からの修行のメニューが決まったわ。お金を貰うからには私の能力で徹底的に強くしてあげるから覚悟することね。」

次第に暗い顔になっていくゴンとキルアと刃牙を尻目に渋川と独歩の2人は少し照れているようにも見えるがその表情はどこか嬉しそうにも見えた。


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HANMAR×HANMAR♯27

ビスケット=クルーガー

 

見た目は子供に見えるが実年齢は57歳。

本来の姿は筋骨隆々の巨体である。自身の能力によって容姿を変えていると思われる。本来の姿はまだこの5名誰も見ていない。能力のレベルは高く相性の悪い系統もバランスよく使いこなしている。

 

変化系能力者

 

魔法美容師(まじかるエステ)

 

エステティシャンの「クッキィちゃん」を具現化し、様々なマッサージを行う能力。オーラを特殊なローションに変化させることで、美容、健康、疲労回復などの効果が得られる。整体マッサージ、瞑想マッサージ、ロールマッサージなど種類は豊富。

 

桃色吐息(ピアノマッサージ)

 

30分の睡眠で8時間睡眠と同等の疲労回復効果を得られるマッサージ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

刃牙の言うことに納得はしたものの未だにこの小娘が指導を受けるに足る猛者なのかが半信半疑だった独歩と渋川は翌日にその全ての認識を改めることとなった。

 

2人と出会う前に特訓の場として天空闘技場からは80kmほど離れた荒野に3人は拠点を置き、日夜そこでビスケに稽古をつけられていた。独歩と渋川もそこに合流したが、ビスケの実力に未だ半信半疑だった為、手合わせを志願していた。

 

ビスケ「いいわよ、どっからでも打ち込んできなさい」

 

独歩 「願ってもない。アンタが強いことは感じているがどれくらいの差があるかってのが知りてェって思ってな」

 

独歩の気迫に微塵の躊躇も感じさせずにビスケがただ棒立ちしている。その態度がいささか勘に触ったかのように感じられた。

 

独歩 「怪我しても知らねェぞ!!」

 

そう言いながら一気に間合いを詰めた独歩。「武の神様からの贈り物(ファイティングギフト)」を発動。そして必殺の「菩薩の拳(フィストオブセイント)」を披露した。それをビスケは無表情で人差し指一本で防ぐ

 

独歩「なんだとッッッッ!!」

 

その後も独歩の全ての連打を受け止めるも、ガードなど一切しなかった。独歩には見えていなかったが、ビスケが行ったことは自身のオーラを極限まで高めただけである。見ていた3人もビスケの解放したオーラを初めて見るためにかなり面食らっている。

 

キルア「アイツ・・どんだけ猫被ってたんだよ・・」

 

刃牙 「凄まじいな・・(ゴクリ)」

 

刃牙がその攻防に唾を飲み込む最中、ビスケは独歩の連打を澄ました顔で受け続けている中で渋川に視線を向けた。手をこまねくような仕草をして渋川をも誘う。独歩と共に2人を相手にした方が実力の差を見せるには好都合だと思ったのかもしれない。

 

戦況を見守る渋川剛気の目の前には大きな門が出現したかどうかは本人のみぞ知るところにあるが、挑発を受け渋川もビスケへ向い高く跳躍をし、その能力を発動した。重力が元の世界と比べ格段に少ないこの世界だからこそできる、渋川剛気の跳躍だ。4メートルほどビスケの頭上に浮かび上がり。その能力の真髄を魅せる。

 

渋川「独歩ッッ離れろぃッッ!!!」

 

独歩「チッッッ!!」

 

独歩が瞬時に理解、そしてその場を離れた。ビスケの頭上から達人、渋川が足元から落ちる。丁度、ビスケを踏みつけるような姿勢でビスケの頭頂部へ向かって足を振り下ろした。

 

渋川「合気の極み(ミステリアスギミック)!!!」

 

ズドーーーンっっという音と共に土埃が舞っていた。

 

戦況がどうなったのかも見えない状態であったが時間が経つにつれ土埃が消え、その光景がはっきりした。

ビスケが渋川の踏みつけてきた足を片手で受け止めているが、ビスケを中心に地面が陥没しているのがわかった。渋川が凄まじい力でビスケを襲ったと見える。

 

合気の極み(ミステリアスギミック)

 

オーラによって物体や人の比重を変化させる。自身を重くしたり軽くしたり、対象の体重を増減させることも可能。

 

土埃が消え切る前に独歩の能力が発動。

 

 

◆「神眼(ゴットアイ)

 

独歩の円の範囲では念能力は一切使えない。

 

「神眼(ゴットアイ)」の発動と同時に独歩が水月へつま先を打ち込む。それを真正面から受けたビスケはさすがにダメージを負った。

 

はずだった。

 

「まぁ合格ってところね」

 

ゴン 「ねぇ・・これってあまりにも」

キルア「あの野郎、まだ本気じゃなかったのか・・」

刃牙 「斗場さんよりデカイ・・」

 

そこには今までの可愛らしい容姿とは一転し、先ほどよりもさらに強力なオーラを纏う2mはゆうに超える筋骨隆々の巨体がイライラしながら立っていたのであった。




独歩の「神眼(ゴットアイ)」により能力が解除されたビスケは独歩が水月、つまり鳩尾に向かって放った蹴りをその巨体の膝あたりで受けていた。状況を理解できない渋川、独歩はおろか少し付き合いの長いゴン、キルア、刃牙の3人であっても同様である。

その姿を見た独歩は急いで後方へ距離をとる。いや、避難という方が正しかった。

ビスケ「ちょうどいい。受けてみなさい。アンタ達もよく見ておくだわさ」

渋川の足を掴んでいた手を離し、自分の間合いへ下ろすと外で見ている3人にも指示を出し、ビスケが拳を硬で強化し、ゆっくりと、ゆっくりと、渋川の顔へ目掛けて拳を進める。

ビスケ「避けることは許さない。ガードしていいし何をしてもいい、ただ確実に受けなさい。」

ビスケのセリフに冷や汗をボタボタと垂らしながら、受ける為に顔の前に手を持ってくる渋川剛気。
数センチずつ確実に迫ってくる拳。本来の世界であれば、この場所に来ると解っている拳への対処など造作もないことであった。その力を利用し、相手への反撃も可能であろう。ただこの世界では違う、刻一刻と眼前に迫ってくるその拳へ恐怖以上の感情を感じていた。

渋川(お母ちゃん・・・・・)

渋川が「合気の極み(ミステリアスギミック)」を発動し、自身の体重を限りなく軽くした。そしてビスケの拳が動く、その衝撃は凄まじく、渋川剛気は遙か後方の石壁まで飛ばされたが独歩がそれを後ろからなんとか支え、石壁にぶつかるのを防いだ。

折り重なって尻餅をつき、冷や汗の止まらない2人に対して、ビスケが言う。

ビスケ「わかったかしら?」

独歩 「あぁ・・十分だ・・・・」

ちょっと待っておくだわさ、と一声かけて自身の能力を発動して少女の姿に戻り今度は笑顔で説明をする。

ビスケ「念能力者同士の戦いにおいてオーラの総量が勝るということ。それはかなり有利なことなのよ。バキもそうだけどアンタら体術と基礎体力はかなりのものよ、能力だって実戦向きだし理に適ってる。ただ攻撃に転じる際のオーラの攻防力の移動、それとオーラの総量が全然ダメ。我流でここまで鍛えたことは評価するけど、これから旅団を相手にするなら相当気合入れて基礎からやらないと相手にもして貰えないわさ」

独歩「まだ強くなれるかい?」

ビスケ「基礎能力を上げるっていうことはもちろんだけど、アンタの能力って移動に使っているのとパンチは強化系らしくてよくわかるんだけど、ワタシの能力を解除した方の能力はちょっと原理が解らないわさ、資質による所かな?まぁきっと鍛えていけば範囲も広がるし、相当厄介な能力になるわさよ。能力が知られても不利にならない能力って実は結構厄介なんだわさ。基礎をしっかりすることね。」

独歩 「本日より弟子入り、よろしくお願いします。」

独歩が深々と頭を下げる中、渋川剛気も言葉を貰いに行く。

渋川 「お嬢さん、ワシはどうかね?」

ビスケ「ビスケでいいわよ。アンタの能力は重力変化ってところかしら?初見でアンタが強力な能力者だったらちょっとヤバかったかもね。ただ今のままじゃ何も怖くないわさ、ワタシの攻撃を受ける時に体を軽くして威力を殺してたみたいだけど、ならなんで攻撃する為に飛び上がる際に体を軽くしなかったの?」

渋川 「まだ、慣れてなくてのぉ、色々研究中なんじゃよ」

ビスケ「要するに基礎がなってないってことね。相手への重力を変えることができたら結構嫌な能力よ」

独歩 「それならできるよなァ?天空闘技場で戦った時、俺の右足だけ重くされて相当手こずったぜ」

ビスケ「あら本当?やるじゃない!ただドッポはともかくゴウキ、アンタの能力は相手に知られるとマイナスの要素が多いから、倒したい相手がいるのならもう人前で戦うことは避けるべきね。少なくともワタシならもう天空闘技場では戦わないわ。まぁまだ発展途上ってところわさね」

渋川 「感謝するよ、ビスケさんや」

ビスケ「それで、洋服の弁償代はどっちに請求すればいいかしら?」

「・・・・」

一通りの指導が終わると5人合わせてのシゴきが始まった。それぞれの欠点となる部分を集中的に指導され、倒れたらビスケの能力、「桃色吐息(ピアノマッサージ)」で回復し、また修行。系統別の訓練から時折、攻防力の移動に関しての組手を行ったり、能力なしでの立会いを行ったりと人数の理を最大限活かし切磋琢磨する生活を送ることになった5名。

一度ゴンがあの時の巨体の姿の理由を聞いたのだがビスケの物凄い殺気と、知らなくていいこともあるのよ。おほほほっという言葉で流されてしまい、真相は闇に包まれてしまった。だがビスケの指導のお陰で5人は日々確実に実力をつけていた。

修行により5人の面倒を見ることになったビスケはこの時の状況を後にこう語る。

「原石!!」

「目に宿る意志の固さ!まだ内に秘められたままの底深い能力!!それは鍛錬(カット)によっていかようにもその表情をかえることができる‥‥!まさにダイヤモンド!!

冷たく静かな青‥!!その頂点に立つコーンフラワーブルーは幻とよばれるほどの希少価値を持つ石の色。このコはまさにそれ!!一見あやうく揺れるその色彩も熱処理によって半永久的な強さを手に入れる‥!!まさにサファイヤ!!

内に秘められた情熱の赤‥!生成の仮定で如何様にも価値を変える石。サファイヤと同じ鉱石からなるそれは約束された色を持つ!古代戦士が身につけると無敵になるとも言われる「ラトラナジュ(宝石の王者)」‥まさにこのコはルビー!!

無骨な拳‥!無骨な身体‥!無骨な顔‥!ただ、なぜか魅力を感じてしまう。運河の真ん中に‥そこにただ居ることで水の流れ、様々な障害物が角を削り丸くする!ただこれだけは決して流されない。それだけの経験と鍛錬を積んだ証が刻まれる‥!!まさに運河の中心に佇む岩!!

最古の宝石と呼ばれ他の宝石と違いカットや研磨をすることなく、人の目を射る輝きを放つ!!その中でも最高の色調のものは孔雀の羽の色に謎らえて「ピーコック」と呼ばれる!硬い殻の中で熟成されたそれは真円に近く熟練されたテリを放つ‥まさにブラックパール!!


あぁ‥‥磨けば光るモノって何故にこうも心ときめくのかしら。うふふふふふふふふふ鍛えるわよォ~~~~」

ゴン、キルア、刃牙、独歩、渋川の順で石に例えられた彼らはその時にビスケがそこまでの愛情を持って鍛えてくれていたとは知らずに日々地獄を見ていたようだ。


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HANMER×HANMER♯28

高級なホテルのロビーと見間違うかのような煌びやかな広い室内、この室内を華やかに彩るのは見るからに高価なシャンデリア。その上に男はいた。

 

ハンター試験を表も裏もパスし念能力を収め、目的の同胞の形見、緋の眼を集めるために斡旋所でヨークシンシティで行われるオークションに強いコネクションを持つ人体収集家を希望したところ、この屋敷にやってきた。そのクラピカがなぜ今シャンデリアの上にいるかというと、簡単に言うと襲われているからであった。面接としてこの場にやってきたと思われる人間はクラピカを含め6名。

 

数刻前にモニターに映し出された漢が言った。

 

「___テメェらがライセンスを持っているかどうかは問わねェ・・・要はこっちの望むものを手に入れられるかどうかだ‥オークション開催まであと1ヶ月ある・・これから渡すリストの中から一つどれでも構わねェ。ここに持ってきなァ・・」

 

そして執事のような男からリストを渡される。どれも人体収集家にとっては価値のあるもののようではあるが一般には趣味が悪いとしか思えないものであった。その中にはもちろんクルタ族の眼球。通称「緋の眼」もリストアップされている。リストが行き渡ったことを確認すると、モニター越しに漢が続けた。

 

「___それをクリアすれば正式に契約し護衛と収集活動を担って貰うッッ・・!それと__強えェってことが雇用の最低条件だッッッ・・・・この館から無事出られる位「最低」な___」

 

顔に傷を持ち、眼鏡を掛けた大男が凄みを利かせて言い放った。こういった仕事を選んだ以上、マフィアなど闇社会に関して積極的に絡んでいく事に関しては同胞の形見を集めるため、覚悟はしていた。ただクラピカが闇社会の住人として最初に見たこの漢はヒソカや勇次郎とはまた違った意味で異質の存在感を示していた。

おそらくはこの漢は依頼主ですらないのであろう。ノストラードファミリーの若頭といったところであろうか?これほどの威圧感を持つ漢でさえ、まだ組のトップではないという事を肝に銘じ、より一層気を引き締めたところで黒装束に身を包んだ集団が襲ってきたのである。放たれた銃弾をクラピカの能力「導く薬指の鎖(ダウジングチェーン)」を発動し防ぎ、攻撃を躱し、そしてシャンデリアの上に避難した。

 

ご存知の通りクラピカの能力は具現化した鎖を右手に用し、制約と契約によりそれぞれの指に異なる能力を持つ。最もその能力の殆どは仇である旅団に対して絶対的に有利な能力となっている。なぜ鎖を具現化したのか、それに対してクラピカは「冥府に繋いでおかねばならないような連中がこの世で野離しになっているからだろう」と語っている。

 

正義感の強いこの男が目的の為、マフィアの飼い犬にさえ志願していること。その心境を考えるといたたまれなくなってしまう。

 

だが現実、ここで認められることが今のクラピカにとって同胞の眼を集める為の一番の近道であることに変わりはない。冷静に上から状況を判断し、黒装束を纏ったこの族を操っていた者を6名の中から断定し、能力を解除させ無事に館を脱出した。

 

帰り際に手の平にじっとりとした汗を掻いていたことに気がつく。モニター越しに見た漢の熱に当てられたのかもしれない。

 

何もかも見透かしたような不気味な瞳、画面越しとはいえクラピカと花山薫とのファーストコンタクトがここで実現したのであった。




花山薫(カオル=ハナヤマ)

15歳で暴力団、藤木組系花山組の二代目組長に就任。現在19歳。
非武装・非鍛錬の美学を持つ素手喧嘩(ステゴロ)の天才、誰が呼ぶともなく全国のヤクザや不良から尊敬の念を込め「日本一の喧嘩師」と呼ばれている。

顔には大きく走った斬り傷の跡を始め、全身に斬り傷や弾痕が多数、背中には花山家に代々伝わる彫られた入れ墨、「侠客立ち(おとこだち)」を背負う巨漢。
ファイトスタイルは桁外れの身体能力に物を言わせた喧嘩といったもので、握力✖️体重✖️スピード=破壊力の方程式から放たれる強力無比な打撃と敵の攻撃をノーガードで平然と受け切り反撃する規格外のタフネスが持ち味。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

暗い室内で椅子に深く腰を掛け、マホガニーの机を足置きにエナメルの靴を鈍く光らせ、その大きな体躯を沈めている。そのままの姿勢で大きな掌で握りしめていた酒瓶を口元へ運ぶ

静寂に包まれたその部屋で電話が鳴った

prprprprprpr-------

漢は表情を変えないままに通話ボタンを押す

花山「‥…」

「どうかね?キミから見てモノになりそうな人材はいたか?」

花山「……1人」

「ほぅ…それは楽しみだ」

花山 「………‥」

「……ま、まぁキミの働きには期待しているよ、ネオンもキミの言うことなら聞くようだし、よろしく頼む 」

花山「……………」

「必要なものがあれば遠慮なく言ってくれ、新しい顧客の情報と今月分の物はこれから送信させてもらうよ。2名増えているがネオンには何とか言い聞かせてくれ」

花山 「………………」

「…では、またこちらから連絡させて貰う…」

切られた電話を机に置きもう一口酒瓶を口元へ運び、濃度の高いアルコールを水でも飲むかの如く喉を鳴らす。部屋の入り口近くにあるFAXがギーギーと音を出し起動し始めた。 その音を響かせたまま数十枚ほどの紙を吐きだした後、起動音が鳴り止み、その部屋は再び静寂に包まれた。

それを確認すると花山薫は机に掛けた足を下ろし、重い体躯を椅子から上げた。送られてきた紙の束を乱暴に手にし、その部屋を出て隣の部屋の扉をノックする。隣の部屋の主は鈍く、重いノックの音で来訪者が花山薫だと解ったようだ。中からの返事を確認し、ドアノブに手をかけ扉を開けた。

部屋の主は10代の後半であろうか?可愛らしい顔立ちをした少女である。突然の予期せぬ来訪者により緊張状態にあるようで、ベットの隅に体を寄せている。

花山「…今月の分だ」

そう言い、扉を開けたものの部屋の敷居は跨がずにその紙の束をそっと床へ置いた。

「……あれ?ちょっと多くない?」

花山「………今月の分だ」

聞こえていない筈はない・・・ただ何を言ったところで、その意見は通らないと判断し素直に従うことが賢明なのことを決して馬鹿ではないこの少女は察した。

「ええ…明日の朝までには終わらせておくわ…それと今月の貴方の占いはそこに置いてあるから…」

一度視線をその部屋の主、ネオン=ノストラードへ向け、扉の横の棚の上に置いてあった1枚の紙を手に取り、そして、ゆっくりと扉を閉めた。

最初の電話はノストラードファミリーの組長、ライト=ノストラード。そして部屋で怯えていた少女はその娘、名をネオン=ノストラードという。組長ということから察するようにこの館の持ち主、そして最初の電話の相手は娘の念能力により一代で成り上がったハンターハンターの世界でいう新興マフィアである。

ネオン=ノストラード

特質系能力者

天使の自動書記(ラブリーゴーストライター)

自動書記による四行詩という形式で、他者の未来を100%的中する占いで占う特質系能力。
予言を書き込む紙に、相手の名前、生年月日、血液型を書いてもらい本人、もしくは本人の写真を目の前に置くことで、占いが可能になる。予言詩は4〜5つの四行詩から成り、その月の週ごとに起こる出来事を暗示している。悪い出来事には警告が示され、その警告を守れば予言を回避できる。

100%的中する占いという娘の能力を手に入れてから片田舎の小さなマフィアに過ぎなかったノストラードファミリーは一転して風向きが変わった、その占いにより、ノストラードファミリーは瞬く間に巨万の富を築き、裏社会における地位も飛躍的に向上したのであった。

積極的にネオンの占いを売り込んでいき今では十老頭にまで顧客を持つようになる。しかし、その成功の裏側で、ライト=ノストラードは切り札である娘のネオンを失うことを非常に恐れており、そのため過剰とも言える人数の護衛を付けている。今回クラピカを含め数名を徴集したのも娘の警護を固めるためであった。十老頭というのはハンターハンターの世界で6大陸10地区を縄張りにしている巨大マフィアの長老達、要するにマフィアのトップであり、文字通り10人いることから十老頭と呼ばれている。

花山薫はこの世界に飛来し、街を徘徊していた際にその風貌なのか雰囲気なのかは判らないがとあるマフィア6名に因縁をつけられた。恐らくは同業者だと思われたのであろうが因縁を付けて来た相手が気の毒とも思える程の圧倒的な腕力で返り討ちにしていたところを偶然にもライト=ノストラードが目にし、声を掛け、無所属ということを知るなり好待遇で引き入れたのであった。その腕力と手腕から圧倒的な速さで昇進し、今では護衛チームのリーダー兼、若頭まで上り詰めてしまった。

最もこの漢の器は娘の能力だけでのし上がった片田舎のマフィアごときでは扱いきれず、今では組長である筈のライト=ノストラードはこの計り知れない器を持つ花山薫に日々肝を冷やしているような状態である。

花山薫にとってもこの世界では一文無しで宿すらなかったため、己の専門である裏社会に早々に飛び込め、衣食住と情報収集にはもってこいの職まで手に入れられたことは目的達成の為には最良の選択であったのかもしれない。

自身の部屋に帰り、ネオンから受けとった予言を読む


流れるように立った場所は貴方にとって馴染みが深く水が合うだろう
今はその流れに身を任せよう
時が来れば自ずと向かう先は蜘蛛の糸へと繋がるのだから

待ち人は緋い目を持ち共犯者となるだろう
離れ離れとなった星々はゆっくりと輝き出すが貴方は変わらず其処で輝く

霜月が佇み、数えきれぬ黒服が地に伏した傍らに貴方は立つ
背を向ける事を忘れてはいけない
その背中には博徒が宿っているのだから

失った筈の星が輝くだろう
獅子は姿を見せないが5つの星は瞬いて線を結ぶように手を取り合う
緋い目から眼を離してはいけない
緋く燃える炎は決して鎮火などしないのだから


一瞥し、その紙をくしゃくしゃに丸めゴミ箱に投げ捨てた


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HANMER×HANMER♯29

バタンッッ!!

 

クラピカは館から帰宅するや否や、ベットに突っ伏した。

少し気を張りすぎていたのかもしれない、モニター越しに見た漢の存在も気になるが今はまず渡されたリストの中から一つを手に入れ認められ、雇われることを第一に考えなくてはならない。

少し開けられた窓から足元に風が吹くのを感じ、カーテンと呼んで良いのかどうかも疑わしい布が少し揺れ、古びた造りの簡素なホテルに泊まっているクラピカの部屋の扉が音もなく空いた。

 

クラピカ「ノックくらいしたらどうなんだ?」

 

やれやれ顔で身体を起こすとそこには片手に紙袋を持った長髪の漢がにこやかに立っていた。

 

「もし寝てしまっていたら起こしたら悪いと思ってね」

 

クラピカ「 まったく………」

 

「食事、まだなんだろ?ちょっと待ってろ」

 

特に警戒しない様子を見るに顔見知りなのであろうか、一応古びたフライパン、やかんと質素なカップやお皿など簡単な調理器具はあるようだがキッチンと呼ぶには簡素な台に紙袋から取り出した硬そうなフランスパンを置き、一つだけ設置されたフライパンの乗ったガスコンロの火をつけ、その上にバターを落とす。そして慣れた手つきでフランスパンへ手刃を。

 

さも鋭利な刃物で切られたかのように2cmくらいの厚さにカットされたフランスパンを香ばしいバターの香りと共にジュージューと音を立てだしたフライパンへ敷き詰めていく。

その間に袋から取り出したサラミをカットし、丁寧にひっくり返したパンの上に置き、上から細切れのチーズをパラパラと塗していった、フライパンを火から離すと今度は水を入れたやかんを火にかける。

 

フライパンへ手を伸ばし一欠片のパンを口へ運び、咀嚼しながら片手にはフライパン、片手には一欠片のパンのスタイルでクラピカの居るベットの方へやってきて持っていたフライパンを突き出す。やれやれ顔で首を横にふるクラピカは顎をしゃくりこれまたダイニングと呼べるのかは甚だ疑問の残る、小さなテーブルと椅子が2脚ある方向を示した。

 

漢はなべ敷き代わりにそのテーブルに置いてあったニュースペーパーを下敷きにフライパンを置き、クラピカがベットから身体を起こしたのを確認すると、コーヒーを煎れにキッチンへと戻っていった。

 

クラピカが椅子に腰掛け、パンに手を伸ばしていると漢がコーヒーと白いお皿をクラピカの前に置き、対面に座り、口を開いた。

 

「で、お疲れのようだが収穫はあったのかい?」

 

クラピカ「一角族の頭蓋骨、龍皮病患者の皮膚、エジプーシャ石墓埋蔵品のミイラ右腕…etc」

 

聞かれた質問に答えずにクラピカが渡されたリストにあった品々を羅列していると漢が遮った。

 

「ん?何を言ってるんだ?」

 

クラピカ「これらの内のどれかを期日までに持ってこれたら正式に採用だそうだ」

 

「なるほどね…それは難しいことなのかい?」

 

クラピカ「さてな、それが理解できるような人間にだけはなりたくはないがリストの中に女優の毛髪という品もあった、その辺りならハンター証を使えばそう難しいことではないだろう」

 

「便利なものなのだな、ハンター証というものは」

 

クラピカ「採用されてからが本番だ、一筋縄では行かなそうな漢もいたしな」

 

「ほぅ…お前の口からそういう言葉が出るとはな」

 

クラピカ「コレクターは常に2つのモノを欲している。一つはより珍しく貴重なアイテム、もう一つは自分のコレクションを自慢できる理解者。人体収集家同士の横の繋がりがあるはずだ、反吐の出る欲望を比べ合う下衆共の交友録、必ず手に入れて一網打尽にしてやる!」

 

クラピカの眼が緋く染まっていく過程を眺めながら漢が宥めた。

 

「おいおい……そんなに興奮するなよ、師匠からお前が無茶しないように頼まれてるんだからな」

 

クラピカ「それはそちらの都合であろう」

 

そしてクラピカの瞳を見ながら漢は思う

 

(本当に綺麗な色だな……「緋の眼」とはよく言ったものだ。見ていると不安になるほど美しく深い緋色の瞳、それは底なしに揺らいでいるようにも見え、その一瞬一瞬で燃えるように色を変えてゆく、男色の趣味も収集癖もない俺でさえ触れてみたいと思ってしまう程だ………)

 

よく見るとこの漢の両腕には紐のようなものが手首から螺旋状に巻きついている。長袖のジャージのような服装をしているのでその紐がどこまで続いているのかは定かではないが両手の袖口から少し紐が覗いているのが確認できた。

 

腹ごしらえが終わると疲れているところ悪いのだが……と漢が切り出した。クラピカもそれは想定内だったようで、上着を椅子に掛けると椅子から立ち上がり。テーブルやベットを部屋の隅へ移動させ、数メートル四方のスペースをベットを立てかけることでやっとのことで確保すると太極拳のようなゆっくりとした動きで組手が始まった。

 

その速度は時間が経過する程に増してゆき、速く、激しく、重くなり、二人の立つ床が汗で水たまりが出来るまで続けられると、どちらからともなく終了した。

 

これは古武道に伝わる流々舞(るるぶ)という稽古で技の流れを確認するため、あえて緩やかに攻防を行う組み打ちである。緩やかに行っていたのは最初だけであったがこれを参考に二人はそれにオーラを込めて行っている。「凝」を使い必要に応じて攻撃力、防御力を加減し攻防力の変化、「流」を可能な限り早く行う。これが戦闘における攻防の基礎となる。

 

同等の技量を持つもの同士でないと有効な効果を得られない為にオーラの総量や攻防力の移動に関してこの二人の実力は拮抗しているようだ、師匠という言葉から察するに同じ師の元で念を収めたのかもしれない。ビスケの元にいる5人も組み打ち相手を変えながら日夜この修行にも精を出しているようだ。

 

目的を終えると、ちゃんとシャワー浴びてから寝ろよと一声掛け、漢は明日も頼むと部屋を後にした。




鎬昂昇(コウショウ=シノギ)

鎬流空手の使い手で「紐切り鎬」の異名を持つ。
紐切りとは体内に存在する無数の紐(血管、リンパ管、腱、神経など)鎬の技はこれらの紐を文字通り断つ。
幼少期から激しい修行を積み主に手足の指が特に強く鍛え上げられたことにより手刀足刀、抜手を「斬撃」と呼ばれるほどの切れ味に昇華させており、その手足から繰り出さられる攻撃が当たれば相手を「斬る」ことさえ可能な斬撃拳と呼ばれるほどの威力を発揮するまでになった。地下闘技場の正戦士である。

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

鎬昂昇は徳川氏の図らいで旅団の襲撃で敗れた戦士が異世界へ渡っていくのを見送っていた。
徳川氏はその力を信じて止まなかった地下闘技場戦士の敗北がよほど許せなかったのか加藤、末堂、刃牙の葬儀の後に復讐に燃える独歩が自分も範馬勇次郎が旅立った世界へ向かう手配をしてくれと直談判しに来たのを一度は止めたが連日、神心会への襲撃、範馬勇次郎の所在の噂を聞いて押し寄せてくる猛者達の対応に、ついには覚悟を決めたのか、異世界への装置、研究へ、私財の40%もの巨万の富を投げうって装置の安全性の確認や量産、改善を行うように図ったのであった。後に徳川光成氏は

「ワシも見てみたくなったんじゃ、皆の勝利や試合をな」

と顔をクシャクシャにした笑顔で語った。

この日は愚地独歩と渋川剛気が新たに開発された複数人乗れる機体で異世界に出発する日であった。丸みを帯びたおうぎ形のような機体に4〜5人の複数が座れる座席がある。最も一回ずつ一機で飛び立つのにも未だに莫大な、それこそ途方もない費用が掛かる為、複数人が搭乗できるように図らい、作らせたものであったが、既に異世界へと出発してしまった花山は実験段階の機体で構わないと凄まれ、先だって一人乗りの機体で既にこの刃牙の世界から姿を消している。

徳川は烈、昂昇、克己も時を同じくして異世界へと向かうのかと考えていたのであるが、烈は中国武術界の頂点、齢146を数える郭海皇が危篤ということで中国武術省へ緊急招集を掛けられ、昂昇は見送り、克己は神心会の長となった今、身が重たくなってしまい親父には少し遅れるがしっかりと業務を片付けてから後に必ず向かうと言う。

そして今日は来ないと思っていた鎬昂昇とその兄、鎬紅葉が見送りにやってきた為に昂昇に気が変わったのかと聞いたところ、それに関しての返事はなく昂昇はどこかうわの空であり、二人の出発を見送った後、徳川に簡単な挨拶をし研究所を去っていった。そして徳川は兄の紅葉を呼び止め、自身の屋敷に招き、お茶を振る舞っていた。

兄の紅葉は天才外科医として活躍しており光成の専属医も務めているがその肉体は極限まで鍛えられていて、ヘヴィ級ボクサーの瞬発性、スプリンターの機動性、アマチュアレスラーの柔軟性、マラソンランナーの耐久性の全てを併せもつ完全なものだ。

刃牙や昂昇に敗れてはいるがあの範馬勇次郎でさえ、そそられていたという賛辞を贈ったほど超肉体、それを本日はスーツに収めているが窮屈そうな胸部は不自然に発達し上腕や脚部もパンパンに膨れており、依然鍛錬を怠っていないことが見てとれる。出されたお茶を正座をしながら両手で持ち丁寧に口元へ運ぶ所作は美しいものであったが、一息つく間もなく光成が口を開いた。

光成「弟の鎬昂昇のことなのじゃが……腕の具合が良くないんじゃろうか…?」

紅葉「いいえ、腕は完全に完治しております。例の事件の後の5名は医学的、生物学的に診ても過去に前例が無い程の異常とも言える回復力で全員がすでに__」

光成「それではなぜじゃッッ!なぜ昂昇は…何というか…こう牙を抜かれたような__」

光成が表情をコロコロと変えながら、言葉を選ぶようにモジモジとしていると紅葉が再びをお茶を啜り、結論に近い言葉を発した。

紅葉「つまり___腑抜けになったのかと?」

光成「いや・・そこまではいってはおらんッッ!ただのぅ___」

紅葉「病室で弟はいつも遠くを見ていました__」

光成「それは・・空手家にとっての命とも言える、腕をいとも簡単に折られ、もて遊ばれたと聞いているからのぅ」

紅葉「全てを諦めているようでもあり、何かを待っているようでもありました__鏡みたいに冷たい偽物の表情の奥で身体だけがそこにあるかのような__」

光成「うむぅぅ・・」

頷いていいのか、頷いてはいけないのか、明らかに年長者であり権力者である光成が、自身の主治医ということもあるがなぜか自分よりも頭の切れるこの紅葉の雰囲気に呑まれ、いつも遜ってしまう。

紅葉「ただ__昂昇が待っているものは他人には与えられないことは確かです。それが何なのか私にも昂昇自身でさえ判らないのでしょう__」

光成「ワシはあんな姿見てられんわ……」

光成は地下闘技場の戦士達のことをまるで自分の息子たちのようにでも思っているのか、深いため息を吐きだした。それは本心からくるものだろう。

本日一番の残念顔を披露したところで次の紅葉の言葉で一点、そのギョロギョロした瞳を三日月のように細め、本日一番のクシャクシャの笑顔を見せる。

紅葉「___今夜、試合を組んで頂けますか?」


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HANMER×HANMER♯30

何をしていても現実感がない__踏みしめる脚にも__耳に入る聲__音__目に見えているはずのモノのかたち__口にする言葉も___息をしていてさえまるで水の中から外界を眺めているようだった。

まやかしに生活を紡いだつもりでいるだけの自分でさえ虚像に感じるほどに__

 

「紐切り鎬」言葉の通りに体内に存在する無数の紐(血管、リンパ管、腱、神経など)を断つ技を主体にしていた鎬昂昇は目に見えない自らの紐に身動きが取れず己の信念を揺るがされる程、雁字搦めになっていた。

 

今日は愚地独歩と渋川剛気の見送りへ、二人の顔を見たらこの枯渇した何かを湧き上がらせるものがあるかと期待していたが、湧き立つ感情は芽生えなかった。

 

帰り道に兄からメールが入る。

 

「pm21:00 東京ドーム地下の地下闘技場に来い」

 

簡素な内容だが兄弟間のやりとりなど、どこもこんなものなのだろう。

兄には逆らえないので行くしかない、恐らく抜け殻のようになっている自分を気にして活気ある試合を見せてその後食事でもしながら説教が始まるのだろうと想像に容易かった。さしたる予定もないし、タダで食事にありつけるのなら断る理由もないだろう。

 

「了解」

 

簡潔に返信を済ませた。街をブラつきながら時間を潰し、夜になると15分前には後楽園に到着していた。家紋の入ったエレベーターへ近づくと老紳士が声を掛けてくる。

 

「鎬昂昇様、お待ちしておりました。皆様がお待ちしております、こちらへ」

 

髭を蓄え、いかにも紳士ですというような身なりをした地下闘技場ではおなじみの見届け人に促され家紋の入ったエレベータへ乗る。

観客席に通されるものかと思ったのだが降りたフロアは選手控え室のある見覚えのある場所だ、普段はけたたましいほど熱狂している観客の熱気が伝わってこないことを鎬昂昇は少し疑問に感じていた。何度か通ったあの長い廊下を踏みしめるように歩く、通路の奥には明かりや人の気配すらしない、ただの待ち合わせ場所にこんな場所を選ぶなよと半ば呆れながら、闘技場へ歩みを進める。

 

ジャリジャリとした砂を踏みしめる、懐かしい匂いがするなぁなどと回想をしている間もなく眩しいくらいのライトが昂昇を照らす。

 

紅葉「10分前に着くとは少しは大人になったな」

 

目の前にはスパッツにタオル地のタンクトップを着た兄、鎬紅葉が滝のような汗を流しながら腕立て伏せをしていた。その後ろには笑顔の徳川光成とその横に丁寧に刈り込まれた頭髪をした白人の大男が腕組みをして座っている。

 

昂昇「兄貴、急に呼び出して一体なんだっていうんだッ!?」

 

紅葉「ウォーミングアップが済むまで待っていて貰えるか?後9分もあるんだ、お前も着替えてくるんだな」

 

昂昇「ウォーミングアップッッ!?一体何の為にッ!?」

 

昂昇と紅葉の温度差のあるやりとりにくっくっくと笑いを堪える白人の大男はジャックハンマー。そのやりとりを見ながら、光成が説明をする。

 

光成「戦うんじゃよ、お主とスーパードクター鎬紅葉の世紀の兄弟対決のリターンマッチじゃ!」

 

一体何を言っているのか理解出来ずに立ち竦む昂昇を置いてけぼりに、紅葉は腕立て伏せの速度を上げた。

 

昂昇「馬鹿馬鹿しい、俺は帰らせて貰うからなッ!!」

 

踵を返し、闘技場を後にしようとする昂昇へ兄が冷徹に言い放つ。

 

紅葉「逃げるのか?お前が無様に負ける姿を見せない為に徳川さんに頼んで今日はギャラリーを入れて貰わなかったんだ」

 

昂昇「そういうことを言っているんじゃないッッ!!何も聞かされずにここへきたんだッ!それに俺のコンディションだって___」

 

ジャック「クックック、コンディショントハヨク言ッタモンダナ」

 

ジャックハンマーが組んでいた腕を解き、腕を頭の後ろで胡座をかくように組み分かり易く呆れた様子を示した。手を広げるとこの漢の頭の小ささと腕の長さがよく見て取れる。本当にデカい。

 

紅葉「残念だ、たった一度の敗北が原因で戦うことさえ怖くなってしまったようだな、それなら昂昇よ、この場を提供してくれた徳川さんに謝るんだ、今の俺は挑まれた勝負にさえ背中を向けることしか出来ない腑抜けた負け犬です。兄さんにはとても敵わないので今日は帰らせて貰いますと」

 

 

来た道をそのまま引き返そうと歩いていた昂昇の足が止まった。

体は動かさずに首だけ3人の方へ向ける、こめかみの血管を浮かび上がらせ、血走らせた眼を見開き、兄の紅葉を睨む。

 

昂昇「誰が腑抜けた負け犬だとッッ!!やってやろうじゃねぇかッッ!」

 




開戦を知らすドラは鳴り響かず、徳川光成が急いで観客席にダイブをし、それを無表情でジャックが受け止めた。

それを合図に鎬昂昇が兄、鎬紅葉へ飛びかかる。両の手を猫科の猛獣のような握りのまま、その手で兄である紅葉の上半身を切り刻む。連打、連打、いや、連撃と言っていいほどの猛攻。
首の後ろ辺りから三日月を描くかのように放たれた、掌を握り込まずに指の第2関節から硬く折り込んだような独特の形からの初撃、続けざまに左手がガードを固めた紅葉の右の腕を切り裂くかのような勢いで打ち込まれる、そしてまた右。今度はつま先を握り込んだ足刀が空気を切り裂くような音を立てて走り抜ける

光成「ほぉー飛ばしよる!飛ばしよる!!」

ジャックに抱えられながら子供のように手を叩いてはしゃぐ光成をジャックが隣の席へ片手でひょいっと置いた。
物のように扱われたことを気にしてる素振りすら見せず、というよりもこの老人は興奮しすぎていて最早他のことは目に入っていないような気がしないでもない。

昂昇(幼き頃は決して倒せなかった大きく、強かった兄。その絶対的な存在を、その肉体を、それを今こうして再び__ッッッッ!!!??)

だが、勝負を決定付けるほどの奇襲とも呼んでもよい先制攻撃をしていたはずの昂昇が瞬時に紅葉から距離をとる。

光成「おやっ?どうしたんじゃ一体?」

違和感___そう__確かな違和感を感じた__この手が兄の肉体を切り裂いたかと思ったがその手応え__硬い__これではまるで___まるで___


昂昇が切り裂いたとさえ思った紅葉の肉体は事実、切り裂かれていなかった。ガードを解く。拳を握り込み両の肘と握り込んだ拳の小指同士を合わせ、それ顎の前に持ってくる鉄壁のガードである。超肉体をその骨格に携える紅葉だからこそ可能な筋肉の要塞。着ていたタンクトップを破り捨て、紅葉は不敵に笑う。

光成「ジャック、お主はどう思う……?」

ジャック「くっくっく、アノ野郎、アレホドノ肉体信仰ヲ捨テヤガッタノカ、スパイダーシルクプロジェクト‥‥完成シテイタトワナ」

瞳が見開かれ、退屈そうでさえあった観戦を立ち上がり、紅葉の肉体を吟味するかのように凝視している。ぽかんと口を開けている徳川にジャックが続ける。

ジャック「蜘蛛ノ糸ノ強度ヲ知ッテイルカ?」

光成「蜘蛛の糸の強度?そんなもん、絡まったらすぐ切れるし考えたこともないのぅ」

ジャック「オヨソ鋼鉄ノ5倍、防弾チョッキニモ利用サレルケプラー繊維ノ4倍ホドダ」

光成「え?そんなに………?」

ジャック「鉛筆ホドノ太サノヨリ糸デ作ラレタ蜘蛛ノ巣ハ理論上ジャンボジェット機ヲ止メラレルホドノ強度ガアルトサエ言ワレテイル。ソレホドノ繊維ダ。医療、軍用、様々ナ需要ガアルタメ近年世界中ノ研究チームガソノ新タナ繊維ノ研究ニ躍起ニナッテイル」

光成「ほぅほぅ、それで……それが一体どういうことなんじゃ??」

ジャック「くっくく、マァ要スルニ人工皮膚ダ。アノ紅葉ノ身体ヲ覆ウ皮膚ハ今、鋼鉄以上ノ強度ヲ持ッテイル」

ジャックの声を聞いていた紅葉が振り返った

紅葉「さすがだなジャック、少し補足させて貰おうか」

余裕の表情で昂昇の攻撃を看破した、紅葉が説明を始めた。

紅葉「強度はもちろんのことその耐熱性も250〜300度程ある。日本ではクモの糸のタンパク質を作る遺伝子を組み込んだ蚕に蜘蛛の糸を吐かせることに成功している。お察しの通り課題はその生産性にある。蜘蛛の吐き出す糸が生産性欠けることから世界中が様々な遺伝子操作を行い多くの生物で試している。例えばそう、バクテリアから蜘蛛の糸を作れないか?とか、ジャガイモから蜘蛛の糸を作れないか?とかね。」

少し得意げにさえ話す、紅葉に対して対峙する昂昇の表情は暗くなっていく。

紅葉「カナダのベンチャーとアメリカ陸軍が協力して2002年に蜘蛛の糸を出す遺伝子をヤギのDNAに入れ、そのヤギの乳から蜘蛛の糸を作ることに成功している。その後オランダの研究者がオランダ法科学ゲノムコンソーシアムと共同で研究を進めている属に云うスパイダーシルクプロジェクトでは、そのヤギの乳から強度の高い人工皮膚を作り出すことに成功。論文を読んだ時は歓喜したよ、これだ。私が求めていたものはまさにこれだとね。
その皮膚は22口径のロングライフルの弾丸でさえ跳ね返すんだ、まだ研究段階ではあるがね。だが私は手に入れた、手術中に手が震えたのは後にも先にもあの時だけだよ」

紅葉「どうだい?兄の新しい肉体の感覚は?今はまだ肩から手首、そして上半身の前部だけであるが昂昇よ、私は今、文字通りに完璧な肉体を手にしたんだッッ!!」

今では常識人として、医師として登場することの多かった紅葉であるが、その顔は以前この場所で刃牙と戦う前の姿。入院患者へ人体改造を施したり、実験体としてその体を弄り回していたあの頃の面影が鑑みえた。

ジャック「ハッハッッハハハッ!!コイツワイイゼッ!面白イモノヲ見セルッテイウノハコウイウコトカ!!」

唖然とする光成を尻目にジャックの笑い声が地下闘技場中に木霊した。

紅葉「今度はこちらから行くぞッ!!」

嬉々とした顔で今度は紅葉が昂昇へ距離を詰め、その腕を十分に振りかぶり、ただでさえ質量を携える紅葉の腕が鋼鉄以上の硬度を持ち昂昇を吹き飛ばす。その一撃は強烈で昂昇は闘技場の囲いまで飛ばされてしまった、尻もちをついたような状態の昂昇に対して嬉々としてストンピングを続けるその姿は最早兄弟と呼べるものではなかった。

辛うじて頭を守り防御をする腕の隙間から昂昇は紅葉を睨んでいた。

光成「なんということじゃ…」

勝負ありを告げる者がいないことにオロオロとする光成はジャックを見て止めてくれと懇願するがジャックはそれを拒否した。

ジャック「安心シナ、何カ面白レェコトガ起キソウダゼ‥」

ジャックがそう口を開くと同時に昂昇は攻撃を受けながら立ち上がった。その体は今まで弱々しく垂れ流していただけであったオーラを力強く纏っている。

紅葉「ッッ!!!??」

昂昇「兄貴、よくわかった……俺が次の一撃で目を覚まさせてやる。刃牙がそうやったようにな」

紅葉「ダメージはないのか・・・?」

紅葉の言葉を無視して大きく前後の足を広げた。軸足を外側へ腰を入れ__体を反らす__大きく美しい三日月を描いた昂昇の右のハイキックは紅葉の顎を掠め、当たったその瞬間には既に紅葉は意識を失っていた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

地下闘技場の医務室のベットに横たわった紅葉。ここに来るのは何年ぶりであろうか、普段から見慣れた簡素な病室のベットだが自分が横になってみると見える世界が全く違うこと今更ながら気がついた。そんなことを考えていると横に居たジャックが声をかけてきた。どうやら意識が戻るまで待っていてくれたようだ。

ジャック「弟ハアッチヘ行ッチマッタゼ」

紅葉「そうか。今何時だ?俺はどれくらい意識を失ってた?」

ジャック「モウ朝ダ、緊急病棟ヘ移スッテ話モアッタンダガ、ドコモ異常ナイミタイナンデ様子ヲ見テイタ。人工皮膚トハ驚カサレタゼ」

紅葉「朝まで眠っていたのか、ふっ、面白いものっていうのはそれじゃないんだ。」

笑いが止まらないような顔をしながら紅葉が自分の腕を顔の前に持っていき確かめる様に確認した後、目を爛々と輝かせている。その顔は弟が異世界へ行った事などに一片の興味さえ持っていないようだった。

紅葉「これがそう。ふふふ、徳川さんには弟が無様に負けるのを見せたくないからとギャラリーを払って貰ったのだが、本当は私が無様に負けるのを見せたくなかったんだ。人工皮膚は準備段階に過ぎない。本命はこれさ。何か秘密があると思っていたのだが予想以上だよ。」

不敵な笑みを浮かべる紅葉の体を淀みなく包むオーラをジャックには見えていないが何か今までの紅葉とは違う気配を感じていた。そして敗者であるはずの紅葉の大きな嗤い声が医務室を包んでいった。その声と顔は明らかに今までの紅葉のモノではなく底知れぬ欲望に塗れているかのような品性のないものであった。


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HANMER×HANMER♯31

天空闘技場から80kmほど離れた荒野とはまさにこのような場所を言うのではないかと思うほどの見事な荒野。都心部から出て山を2つ3つ越えた先にある其処には視界に目に入る建物や道路さえない。広大な大地と星空がただただ広がっていた。人など居るはずもないようなその場で焚き火を囲むように談笑する6名。

 

刃牙「そん時なんて言ったと思う??’’撫でてやる、きなさい’’って喧嘩の最中だぜ?」

 

表情を変えながらオーバーリアクションで声を荒げて話す刃牙に対して、ゴンとキルアはお腹を抱えながら爆笑している。

 

キルア「ちょっバキ、お前その顔なんだよ!おっさんも撫でてやるってッ!ハハハハッッ腹いてぇー」

ゴン「アハハハッ!!バキのおじさんの真似似過ぎだよッ!!」

 

独歩「俺も見ていたがあれはヒデェって思ったぜ」

 

ビスケ「ちょっとドッポ!あんた見てたんなら止めてあげなさいよ!」

 

独歩「止められるかよッッ!!」

 

渋川「ありゃ誰にも止められん、ヒッヒッヒ」

 

火を囲みながら談笑する6名はこの場を拠点に日夜激しい鍛錬を行っている。ビスケを除く5名は天空闘技場の200階クラスの闘士なので立派な部屋をあてがわれているのだが、週のほとんどをこの場で過ごしていた。幸い10kmほど行ったところには泉や森もあり、今ではそこにお手製のベットを作るほどこの修行生活を満喫しているほどであった。ビスケも最初は80kmの距離を行き来することで5名の基礎体力の強化などを狙っていたのであるが、もうその心配などはしていないようだ。

 

もっともビスケだけは時折シャワーを浴びに天空闘技場へ帰ったり街で必要なものを買いに行ったりと行き来をしているようであった、独歩が森から持ってきていた薪を火に焚べる。今日は各自が系統別の修行が終わった後にビスケが買ってきたスコップをオーラで纏い、そのスコップで穴を掘り、その穴が制限時間内に一番小さく、浅かったものが皆が掘った穴を埋め、残りの4人はまた制限時間内に穴を掘り、それが最後の一人になるまで続けられるとまた5人で誰が大きく、深い穴を掘れるかを子供のように延々と競い合っていた。物体を体の延長としてオーラを纏う術は周と呼ばれ、今日はそれを行っていたのであった。

 

渋川が刃牙へ花山薫もこの世界に来ていて、この後も続々と続く者がいるだろうという事を伝えるととても嬉しそうに笑っていた。同時に末堂厚と加藤清澄の死亡も伝えられるとウボォーギンの事を思い出したのかより一層気を引き締めて明日からも頑張ろうと皆に喝を入れた。

 

談笑をしながら各々のことを知り、絆が深まっていくのを皆が皆感じていた。

 

が、その刹那、空気が一瞬張り詰める____

 

聞こえる音はパチパチと音を立てて燃える薪の音のみ、談笑をしていたはずの6名は臨戦態勢に入った。いつでも動くことができるように体にオーラを纏い、有事に備える。

 

ちょうど刃牙の背に位置する方向の暗闇の先からこの燃え盛る炎にまっすぐに近づいてくる気配を感じた。

 

徐々に大地を踏みしめる音さえ聞こえてくる。足音や気配を隠すことさえもしないその人物へ独歩が先端に火の点いた蒔を投げる、それを苦もなく片手でキャッチしたその人物の姿が照らされる。

 

独特な衣装に身を包み笑みを浮かべた佇まいは言うなれば絵画のように幻想的でさえあった。現実感のないピエロのような衣装にメイクアップされたその真っ白な白い肌には頬の部分に涙と星をあしらっていた。星空をバックに燃え上がる炎がその死神の顔を揺れる度に照らす。

 

ゴン「ヒソカ!!??」

 

5人が後方へ下り、焚き火を挟むように一斉にヒソカに対して体を向ける。動かなかったのはビスケだけであった。

 

渋川「なんじゃ・・・こやつは・・・」

 

禍々しいオーラを纏いつつ、狂気的な笑みこちらへ視線を向けるその死神の姿は最早、人と呼んでいいのかさえ躊躇われた。

 

キルア「こいつがヒソカだよ、ゴンがプレートを返したいって言ってたやつ・・」

 

独歩「コイツが………??」

 

ヒソカ「くくくくく、こんなところにいたんだ♥臨戦態勢になるとよくわかる…♣キミたち皆、ずいぶん成長したんじゃないかい?良い師に巡り会えたようだね♥」

 

瞬間、ヒソカがゴンに対して距離を詰め、子供をあやす際に視線を合わせるためにしゃがみ込むのと同じように、ゴンの前にしゃがみ込み、まるで繊細な陶器を扱うかのように優しくその頬をそっと撫でた。

ヒソカを初めて見た時のゾクゾクとした感覚が蘇る。そのまっすぐな瞳はヒソカの眼を一心に見据えていた。その大きな瞳の奥に何かを観たのかヒソカは語りかける

 

ヒソカ「暫く天空闘技場にいないからフラれちゃったのかと思ったよ・・♥約束は覚えているかい?♥」

 

ゴン 「うん!オレはいつでもいいよ!!」

 

ヒソカ「いい子だ♥今のキミとならあそこ(天空闘技場)で戦うのは勿体無いね、1週間後の同じ時間にこの場でどうだい?♦」

 

ゴン 「いいよ!わかった!連絡しないでごめんね。来てくれてありがとう!!」

 

そのやりとりにキルアと刃牙が冷や汗を垂れ流す。立ち上がり、笑顔になったヒソカは暗闇の中へ消えていこうとしたが一人だけ炎の前でお行儀よく座っていたビスケがヒソカに声を掛ける。

 

ビスケ「わかってると思うけど、殺し合いならさせないわよ?あくまで試合形式ってことなら認めるけど」

 

ヒソカ「キミが彼らの師だね♥そんなに勿体無いことしないよ、くっくく、キミならよくわかっているだろう・・♥」

 

そして、死神の後ろ姿は闇と同化していった。

 

気配を感じられなくなってからしばらくして、キルア、刃牙、渋川がその場にへたり込む、突然の来訪者は光の届かない水面さえ見えない湖の底でずっと息を止めていたかのような錯覚さえ覚えさせた。歪みに歪んだ禍々しいオーラ。その一端に触れてしまったのだから無理はない。念を覚えてからビスケ以外では初めて目にした強者が纏うオーラだ。そしてその質は極めて特殊なもの。

 

キルア「ゴン!あんな約束して大丈夫なのかよ!?」

 

ゴン 「こっちから言ったことだし、まぁなんとかなるでしょ!」

 

キルアの心配にあっけらかんと話すゴンだがその顔にはやはり少しの強張りが伺えた。

ビスケに鍛えられ念というものの奥深さを知った、そして成長したゴンが改めて見たヒソカとの実力差は以前より実力をつけたゴンであるからこそ、その差はさらに広がっていたことを感じた。

 

刃牙 「1週間か・・・・」

 

ビスケ「話には聞いてたけどアイツ相当強いわさね、今のアンタじゃ勝てないことはわかってるわね?胸を借りるつもりで思いっ切りやってきなさい!明日からはアンタだけ別メニューにしてあげる」

 

ゴン 「うん!!ありがとう!」

 

キルア「ヒソカとやる前に死ぬなよゴン………」

 

ゴン 「へへへ……頑張るよ、あれ・・?ドッポがいないんだけど・・・?」

 

渋川 「あやつもしやッッッ!!?」

 




ヒソカ「ここまで離れればいいだろう?♥そろそろ姿を現したらどうだい?♥」

暗闇を進む死神の後ろ姿を2度、その目に捉えたこの漢は今度はその背を逃すまいと後をつけていた、天空闘技場で戦ったカストロ戦では最後の最後で茶々を入れられた。その相手が今目の前にいる。

独歩「気を使わせちまったみたいだな・・ゴンにはワリィとは思ったんだがこちとら借りがある」

強張った顔に少しの緊張が窺えるが、その体には以前とは比べものいならないような洗練されたオーラを纏い、構えた。それを迎え入れるかのようにヒソカも独歩には未だ背中を向けたままではあるがオーラを纏う、そのオーラが独歩の纏うオーラと触れた瞬間に独歩が見るからに年下であろうこの男に明らかな格上に対して行うように自ら名乗る。

独歩「愚地独歩です・・・・・」

対峙し、そのオーラに触れた瞬間に分かったのであろうその実力の差。だがこの漢の空手は後退のネジを外してある。ヒソカが独歩の方へ振り返る、静かな暗闇の中で対峙する二人、死神は笑いながら視線を合わせた。

ヒソカ「借りってこの前の試合の事を言っているのかい?あれは別に君の方が面白い玩具になりそうだったからそうしたまでだよ♥」

独歩 「あんな大舞台で大恥をかかされちまった・・・」

ヒソカ「くっくくく、律儀なことだ♥ただ可笑しいな、ボクの記憶が確かなら、キミは勝算のないケンカはしないはず。違ったかい?♦」

独歩 「……………」

ユラユラと揺れながら畝り出すヒソカのオーラとは対照的に独歩のオーラは堅実にその体を揺らぎなく覆っていた。その様子を見てカストロより独歩を選んだ自分の考えは間違ってなかったんだと確信が持てたヒソカは少し考えるように腕を組み、その片手を顎に添えるような仕草をした。

ヒソカ「‥‥‥‥そういえば、キミは殺さないって約束してないな♥」

口角が上がり、そのオーラを解放。まるで合図でもあったのかと思うようにその瞬間、独歩がヒソカに対して後ろ回し5段蹴りを放った。
元々はテコンドーの技で本来相当の熟練者でも空中で蹴りを放てるのはの3段、540度程であろう。5段、つまり一度の跳躍で900度もの回転をしながら強烈に放たれるその蹴りは下段を狙う右足の後ろ回し蹴りから始まり中段、中段、上段、上段とヒソカを襲う、本来の世界では独歩の体重でそれほどの動きを行うのは難しいことだったが重力が軽いこの世界では可能となる。

威力を求めなければその数倍ほど回転する回数は増やせるのであろうが、まずは小手調べ、最初の後ろ回し蹴りがヒソカの腿を掠め、そこから勢いを増していく、美しい回転は速度を速め、2段目の360度の回転を加えられた蹴りは確実にヒソカの脇腹に刺さった、次の蹴りはガードされたが、720度目の蹴りは下から、華麗にすくい上げるかのようにヒソカの顎を打ち抜いた。しかしその顎にはオーラを纏っており硬でしっかりとガードされていたようであったが、気にすることはない、最後の5段目。900度。つまり空中で2.5回転が行われ、遠心力により最も破壊力が込められた最後の蹴りがまだ放たれていないからだ。その蹴りはヒソカのこめかみに吸い込まれ、そしてその意識を確実に奪う筈である。

百戦錬磨であるはずの愚地独歩でさえ、この格上に対する先制攻撃の5段蹴りで勝利を確信していた。
4段目の回し蹴りを終え、最後の後ろ回し蹴りを放つために空中で体を捻る、足先にオーラを集中させたその瞬間、下から見下すかのようなヒソカの視線が独歩を捉えた。上から見下された経験はあれど下から見下された経験は過去にない。圧倒的有利であるはずの独歩の背筋が凍るような不気味な表情をその死神が覗かせた。

最後の蹴りを一刻も早く放たなくてはと焦る独歩に異変‥‥‥‥回転ができない____

ヒソカ「やっぱりボクの目は間違ってなかった。アバラ何本かイッちゃったよ♥」

最後の蹴りを放つ前にその身体は地面に着地してしまった………大げさに折られた脇腹を摩るような仕草をしながら目の前にいる死神は笑いながら言葉を発する。

ヒソカ「動けないだろ?そんなに回転が好きならボクが手伝ってあげようかと思ってさ♥」

体を捻り、すでにモーションに入っていた筈の独歩は目を見開き、冷や汗を垂らす、そして動けない体の状態を再確認し、異変の原因を探ると、自身の体をグルグルと螺旋状にオーラが纏われていた。

ヒソカ「最初の蹴りが脛に当たった時につけておいたんだ♥さぁメリーゴーランドだ♥素敵な景色をプレゼントするよ♥」

ヒソカ「伸縮自在の愛(バンジーガム)

その言葉を発した瞬間に独歩の最初の蹴りで掠めた方の脛からオーラを手に渡し、オーラを掴んだその手を手動のクランクエンジンを掛けるような動作で力任せに後ろに引いた。

独歩の体は先ほどとは逆回転に夜空に瞬く星屑が線を描き出す、物凄い速度で先ほどの4倍、実に3600度ほども回転し三半規管を奪われた独歩はまるでテディベアのように地面に尻餅をついた。その視界はグルグルと回り、姿勢を保つことさえ危ぶまれるような混沌の渦に巻き込まれる。

天と地がどこにあるのかさえ分からないその意識の中で必死に体勢を保とうとしている独歩を見てヒソカは笑い、 冗談さ、キミもまだまだ殺さないよ、これなら1週間後も楽しみだ♥と上機嫌で言い残し、三度闇へ消えていった。

独歩の視界がやっとはっきりとしていたところで、後ろからビスケが駆け付けてきた。

ビスケ「このスカポンタン!!あんた無事なの!?」

独歩 「あぁ・・・・」

そのままビスケに担がれるようにして、焚き火の場所へ戻ったが、途中ビスケ同様に心配で追って来てくれたのであろう皆にも合流しこれでもかというくらい罵倒された独歩は珍しく少しは懲りた様子を見せていたのであった。


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HANMAR×HANMAR♯32

「クソッッッ!!!クソッッ!!フザケンナッッ!クソがッッ!!!」

 

乱雑に散らかる廃棄物の中で、包帯を顔に巻いた大男が悪態をついている。漢は箱状の廃棄物の中で冷蔵庫か洗濯機であろうか?今となっては判断のしようのないその何かを台のようにし、その上に水を並々と注いだグラスを置き、無機物であるはずのそのグラスにこれでもかと言う程のガンをつけていた。

水面には一枚の葉が浮かんでいる。

 

深呼吸をし、漢は両手をグラスに掲げ練を行った。そうすると水面に浮かぶ葉はグラスの中でクルクルと回転を始める。

 

「クソーーーーッッ!!!」

 

一体今ので何回目であろうか、漢はもう100回以上はこの一連の流れを試している。既にその顔は憔悴しきっているように思えるが、そのグラスを台からどけ、今度は違うグラスを置き、そこにペットボトルから水を並々と注ぎ、また葉を浮かべた。よく見ると漢の周りには空のペットボトルや様々な種類のグラスやコップが転がっていた。

「ッシャアッッッ!!もう一回ッッッ!!」

 

漢が意を決して、再度グラスに向き合った。両の手でグラスを優しくつ包み込むように念を練る。

決死の覚悟でその水面に浮かぶ葉を睨みつけるが、そんなことで結果が変わるはずもなく、漢を嘲笑うかのように水面をクルクルと回るだけであった。

 

ガシャンッッッッ!!!

 

漢は拳をグラスに叩きつけた。

 

「クソォォーー!!」

 

悲痛な叫びが絞り出されるように辺りに響き渡った。グラスを打ち砕いた拳を握り締めプルプル怒りに身体を震わせる。

えぇ、そうです。皆さんお待ちかねの末堂厚、久しぶりの登場です。彼の心の声を聞いてみよう。

 

(なんで俺が操作系なんだよッッ!??フザケンナッッ!クソがッ!!神心会でジャンプ仲間だった寺田といっつも話してたハンターハンターで最弱の系統は?って話題でいっつも操作系は雑魚!って話してた俺が操作系って……クソがッ!!強化か特質にしてくれッッ!!!強化!!!特質!!頼むから何かの間違いであってくれ!強化系か特質系で!!頼むぜッ!!もう一回だッッッ!!!)

 

そして、数刻後、再度グラスが割れる音がした。

 

(ウォォォォーーーー!!!!!なんとかしてくれッッ!!・・・・落ち着け、落ち着け俺・・・よく考えろ。クレバーになれ………思い出せ……。ハンターハンターで操作系だった奴。パッと思いだせるのだと、ズシ、イルミ、シュート、ヴェーゼ、モラウ辺りか、あとプフとかゴレイヌも操作系だったよな?蟻の師団長にも何人か居たな確か。

 

マジか、思ったよりいやがる‥まぁいいか、さて、この中で最強はイルミかプフで間違いないだろうが・・・参考にならねェじゃねぇかッッ!!どっちも俺とは資質が違い過ぎる!!イルミはゾルディックだし、プフなんて蟻の王直属の護衛軍…もっと参考にならねぇ・・・。

いい線いってるのはモラウ、ゴレイヌ、シュート辺りだけど。。。あいつら操作系なのに具現化系、放出系、変化系……色々応用し過ぎててダメだ。俺がやると多分、ヒソカにメモリの無駄使いとか言われてぶっ殺される…… あ、やばい………詰んだ………俺死ぬかもしれねぇ……

 

とりあえず生き残ることを考えて、体術、念の基礎と攻防力の移動、あとはオーラの絶対値の底上げ、それはやってきた。多分今の俺は時間掛かったが原作でいうとグリードアイランドクリア時のゴンやキルアくらいまでは鍛えられると思う………うん、多分な………多分………希望的な部分もあるが…間違いねぇ、漫画の世界に入ったから勝手に自分が主人公だと……俺は特質系か強化系だと思ってたから………能力。つまり発の鍛錬は全く行ってなかったぜ………クソッッ!!この先どうやって生き残っていけばいいんだ………

 

能力なしのポテンシャルで生き残れるやつなんて強化系か主役クラスしかいねぇだろこの世界………しかもそのポテンシャルも心許なくて………扱いにくい操作系ってよ………あぁ終わったわ。俺、終わった……)

 

「へぇー意外、スエドウって操作系だったの?オレと一緒だね」

 

ーーーーーーーーーーーーーー

シャルナーク

 

操作系能力者

能力名:携帯する他人の運命(ブラックボイス)

付属のアンテナを標的の体に刺すことで能力が発動。アンテナが抜けない限り、標的は術者のロボットと化し、携帯を通じて操作をすることが可能になる。

 

またアンテナを自分自身に刺すことで戦闘力を飛躍的に上昇させることが出来る。しかしその反動として能力を使い終わった後に肉体にかなりの負荷が掛かる。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

興奮し過ぎていたのか、自分の世界に入りすぎていた末堂厚はこんな閑散とした場に人がいるとは思わずに周囲への警戒を怠っていた。すでに最後の水見式の前から背後には人影があったようだ。その事に気が付かない程、没頭してた末堂厚は焦った様子で振り返る。

 

末堂「なんだシャルか、あ、忘れてたけどお前も操作系だったな…」

 

数刻置いて、今度は泣きながらシャルナークに末堂が抱きついた。

 

末堂「シャル!!辛かったなぁ!お前も辛かっただろッ…よく頑張ったなッッ!!」

 

シャル「おい!おいって!ちょっと辞めろ気持ち悪いだろッ!!」

 

涙と鼻汁、それと嗚咽でグシャグシャになった顔をシャルナークの胸に擦り付けて縋り泣いている末堂厚。

 

シャル「誰かに見られたら勘違いされるじゃないか!分かったから!話なら聞くからまず落ち着いてくれよ!!」

 

必死に末堂を引き剝がし落ち着かせ、少し距離を取り、さぁ何があったんだい?と話すように促した。

末堂が旅団に入団し、今でこそウボォーギンやフェイタン、フィンクスなどからは修行なのかイジメなのかは定かではないが、組手と称したサンドバックのようなポジションにいる、何発耐えられるか、何発入れられるかが専ら今の賭けの対象になっている、最もオッズは常に末堂が0なので賭けは成立していないような状況ではあるが、何度でも立ち向かってくるし、そこそこの暇つぶしにはなるので遊び相手として可愛がられているのは間違いないだろう。

 

そして、そもそもこの短期間になぜ末堂が全力ではないにしても彼らの遊び相手にまでなれるようになったのかというと、常に生死と隣り合わせの理不尽な組手はもちろんであるがその功労者として一番に名前が挙がるのは間違い無くこのシャルナークである。

きっかけは末堂がウボォーギンの組手と称したサンドバック状態になっている際にフィンクスとフェイタンに焚き付けられてシャルナークが悪戯で末堂にアンテナを刺したのだった。

 

まだオーラの扱いに慣れていなかった末堂が急に達人のような動きを見せたため、完全に手を抜いて子供をあやすかのように組手をしていたウボォーギンはその急な変化に対応出来ず、末堂の正拳突きで吹き飛ばされてしまったのである。

 

大笑いするフィンクス、フェイタン、シャルナークであったが、この日から何かを掴んだのか。毎日シャルナークにアンテナを刺して操作して貰い、動きやオーラの操作を体で覚え、そしてアンテナを抜き自分で反復。それを延々続けた。体に刷り込ますようにして無理矢理覚えさせるような正に邪道な修行方法であったが、ひたむきに頑張る末堂のその姿勢をシャルナークは嫌いにはなれなかったし、むしろ純粋に強さを求めるその姿勢に好感さえ持っていた。それに戦力の底上げは旅団にとっても必要なことでもあったので自分の時間を削ってまで面倒を見ていたのだ。

 

その甲斐もあってか、基礎の4大行に加えて硬、流、堅、周、円、などの応用も一通り網羅した。中でも堅に関しては自分では意識せずとも脳と体のリミッターが制御して途中で辞めてしまうのが普通だが、シャルナークの操作によりオーラが枯渇して気絶するまで続けるという死と隣合わせな無茶な鍛錬を毎日繰り返したお陰でオーラの絶対量は現在も尚、飛躍的に増え続けている。

 

シャル「さぁ、何があったんだい?」

 

まるで無人島に取り残され数十年振りに人と出会ったかのようなウルウルした目をする末堂へ投げかける。

 

末堂 「操作系であることに不満を感じたことってないか……?」

 

シャル「あぁーなるほどね。 確かに、ウボォーとか見てると強化系の単純な強さは羨ましいなって思ったこともあるよ、オレの能力なんか単純だし誰でも代わりが効くからなぁ。」

 

末堂 「だよなぁ………俺が忘れてたくらいだからな………。」

 

シャル「ん?忘れてた?」

 

末堂 「いや、なんでもない。ただ操作系ってよ…なんていうか夢がないよな…」

 

シャル「まぁ派手さはないよね。でもそれは資質によるところも大きいし、悩んでも仕方ないんじゃないかな?だからオレは他の部分で、みんなをサポート出来たらって割り切ってるけどね」

 

末堂 「シャルは色々なことできるからいいじゃねぇか…俺なんか…」

 

シャル「まぁまぁ、生まれ持った系統は努力でなんとかなるようなことじゃないから。能力に頼らずとも強ければいいんじゃい?あれ?でもスエドウの能力って団長から、名前を含む何かしらの対象の情報を得る特質系能力、もしくは瞬間的にウボォー並みのオーラを込めたパンチを繰り出せる強化系能力者だって聞いてたんだけどな」

 

末堂 「あぁ……あの時は口八丁手八丁で何とか誤魔化さないと殺されてたかもしれないからな、まぁハッタリだよ。」

 

シャル「え?でもそれじゃあ説明つかないこともあるよね?」

 

末堂 「シャル、お前とは一番長い時間を過ごしてるから、解って貰えると思うけど。誤魔化したのはあの場を生き残る為だけについた嘘であって他意はない。誓って他意はない。ただ俺が話せるのはここまでだ。もしそれが気に食わないっていうんだったら、今すぐこの場を去ってもう2度とお前らに顔を見せねぇよ。だから信じてくれとしか言えない。」

 

シャル「ふーん。それが旅団にとってマイナスになるようなことじゃないならいいけど?」

 

末堂 「ありがとよ。お前には感謝してる。もちろんマイナスになるようなことは一切ないぜ、それに最初はビビってたが今の環境やここでの生活だって悪くないって思ってるぜ。」

 

二人は顔を見合わせて笑った。

末堂は純粋に同類を見つけた事。単純にそのの優しさへ感謝の意味で笑顔を向けたが、シャルナークはこの一瞬で様々な事を考えていた。

 

末堂が言えないと言ったことをどう思ったかは定かではないが、今まで一番近くでこの漢を見てきたシャルナークは末堂が自分達を欺いたりなど出来る人間ではないような気がしていた。あの日の話を聞く限り、自分達が襲撃し末堂の仲間を殺し、勝手にこの世界に連れてきたにも関わらず末堂の瞳には最初こそ憤怒や恐怖などが伺えたが今は純粋に強くなりたいという色しか映っていなかった。それ以上に、何かしらの念能力による干渉を受けているのではないかという方を心配した程である。

 

マチやシズクに対しては分かりやすい程の明らかな下心と自分やウボォーギンに対しては確かな信頼を寄せているのを日々感じていたからかもしれない。

 

例えそれが虚偽であったとして、旅団に対し復讐を誓っていたとしても、今の末堂の力では到底叶わないことであったし、もしそうであってもそれはそれで面白いとさえ思った。初期のメンバー以外は実際に腹の底では何を抱えているかわからない者も少なからずいる事ではある。

正式な活動以外は何をしいても干渉しないのもルールの一つ。ヒソカが良い例だ。

まぁいいかともう一度笑顔を向け、そういえばと付け足すようにシャルナークが末堂に投げかけた。

 

シャル「確かに操作系は強化系と比べて能力のバランスは悪いけど、やり方にもよるよ?ある事をしたら限定的ではあるけどね。」

 

末堂 「あ!!制約と誓約かッッッッ!!!?」

 



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HANMAR×HANMAR♯33

シャル「それ本気で言ってるのかい?」

 

末堂を前にシャルナークが驚愕した表情を見せていた。

「制約と誓約」つまりルールを決めてそれを心に誓う、「遵守する」と。そのルールが厳しい程使う技は爆発的な威力を発揮する。

 

先ほどまで真剣な話をしていた為、場の空気は少し重たい。その制約次第であるが末堂が行いたいと言ったことは操作系である自身を操作し、その系統を変えるというものだ。

 

シャル「自身を操作して自系統を変える??そんなのどれほどの制約が必要なのかも想像さえできないよ」

 

末堂「だが、俺がこの世界で生きていくのはもうそれしか方法がない。」

 

シャル「そんなことないと思うけど………だいたいもし系統を変えれたとしても、その系統で使える容量が100%なのかどうかも分からないし…それ、かなりのギャンブルだと思うよ」

 

末堂 「あぁ……だが俺の潜在能力でお前たちと対等になるにはそれくらいの危険な橋を渡るしかねぇんだよ……」

 

シャル「まぁ確かに操作系でしかできない裏技かもしれないけど…オレは操作系ってそんなに悪くないと思うけどなぁ、でも興味はあるよそれ、面白そう!ちなみにどの系統になりたいの?」

 

末堂「特質系に決まってらァ!!全ての系統を100%発揮できる能力、オーラを食らうほど強くなる能力、透明になれる能力、対象の能力を盗み自在に使える能力、挙げたらきりがねぇ!完全に勝ち組じゃねぇか!!」

 

立ち上がり、多くの人員を先導するまさに革命家のような素振りでシャルナーク一人に演説をする末堂は覚えている限りの特質系能力を口にした。きっと頭の中にはリスクのことなど既になく今は夢見る特質系になり、どんな能力を作り上げるかとしか考えていないのであろう、ポリポリと頬を人差し指で掻きながらシャルナークが疑問を投げかけた。

 

シャル「ストップ!ストップ!!特質系への憧れはもうわかったからさ、自系統を変更するほどの強力な制約だよ?一体どうするつもり?」

 

思い出したように、末堂が表情を変える。再び座り込み、そして頭を抱え込んだ。時間にしてどれくらいであろうか、集中しているのかブツブツと時折つぶやくのを対面に座るシャルナークはニコニコしながら飽きもせずに、眺めていた。すでに小一時間ほどは経過している。そして時は来た。

末堂は大げさなほどに音を立て、己の顔を両手でパンパンと叩いて立ち上がり、覚悟を決めた凛々しい顔を覗かせた。シャルナークはゴクリと息を飲み、末堂の次の言葉を今か今かと待っていた。

 

そして末堂厚が発したルール。それは・・・・・

 

末堂「一生童貞でいいッッッ!!」

 

意を決した覚悟、それを言ったことによってむしろ清々しい程の顔を見せていた。

 

シャル「アハハハッ!!スエドウ、ちょっと待って!ハハハッッ!!」

 

緊張と緩和。緊縛した状況からその状況からあまりにもかけ離れた現象や言動があると人は笑ってしまう。置かれていた状況と結果とのギャップが高いほど効果を発揮する。一頻り笑い終えたシャルナークが深呼吸を終え、忠告をした。

 

シャル「あぁ笑ったー。あのさ、制約って厳しい程効果を発揮するっていうのはわかってるかな?多分その制約はちょっと軽すぎるかと思う」

 

末堂 「軽いッッ!!??生物として定められた種の保存を裏切るくらいの制約だぞ??」

 

シャル「悪い、言葉が足りなかったかな。多分普通の人にとっては結構重い制約に入ると思う、ただ末堂にとっては重くないっていう話だよ。お分かり?」

 

怒りに顔を歪めた末堂であるが、今この怒りに任せてシャルナークに襲い掛かったとしても返り討ちにあうのは分かりきっている、必死に怒りを堪えるために深呼吸を行い怒りを鎮めた。

 

末堂 「命を掛ける・・・制約を破ったら命を掛けるッッッ!!」

 

言葉を絞り出すようにして発した。だが即刻の却下が言い渡された。

 

シャル「無理、だって条件変わってないじゃん。だいたい命掛ける掛けない以前にまず、その制約自体が軽すぎるっていう話をしてるんだって、大切なことなんだからもっと考えて話そうよ」

 

ガシャンッッ!!!!!

 

シャル「お、危なっっ!!おいおい落ち着けって!!」

 

ついに堪忍袋の緒が切れたのか末堂はシャルナークに向かって全力で蹴りを放った。その蹴りは空を切りシャルナークが座っていた廃棄物を吹き飛ばしたがまだ怒りが収まっていないのか周囲にある廃棄物に対して破壊活動を行っている。それを呆れた顔で見守るシャルナークはちょっとはっきり言い過ぎたかとバツの悪そうな顔をして見守っている。

 

本日何度目になろうか、末堂が怒りを鎮める為の深呼吸という名の息吹を終え、再びシャルナークの対面に立った。

 

末堂「一生童貞を守るというのは前提条件でしかないッッ!! 俺は一生禁欲をするッッ!!もしそれを破ったら命を掛けるッッ!!これでどうだッッ!!?」

 

シャル「禁欲っていうのは自慰行為のことかな?」

 

末堂 「その通りだ!!」

 

シャル「ちなみに月にどれくらいするの?」

 

末堂 「「毎日4回、週28回、月に換算すると約112回だッッ!!」

 

シャル「オッケー、それなら十分な制約だ、ちなみに自覚なしのものはカウントする?」

 

末堂 「ん?夢精のことか?それはノーカンだ!!」

 

自らを追い込むようなルールを己に、このままの勢いで末堂はシャルナークにやり方を聞いた。

己を操作し、自系統を特質系へ変更する。そしてその制約はすでに話していた通りの内容だ。それを心に誓い「遵守する」と。

 

「遵守する」そう心で誓った瞬間に末堂厚の体を大量のオーラが包み込み、そして末堂厚は意識を失った。

シャルナークは心配で駆け寄ったが、心臓がまだ動いていることを確認し終えるとゆっくりと末堂を抱えた。本当はすぐにでも今日の出来事を仲間に話したかったが今はまだ自分の中で消化しきれていなかったし、同じ操作系だった者の好で黙っておこうと思った。ましてや命を掛けたほどの制約と誓約になるとそれは即、死へ繋がる問題だ。ふざけているようにしか見えなかったが恐らく本人は大真面目で強くなろうと純粋に思っていたのであろう。

 

シャル「コイツまだまだ強くなるな、きっと。」

 

そう呟きながら今日あった出来事を思い出し、和かな顔で本拠地へ戻っていった。




ヒソカが刃牙達の談笑中に訪れたその日、一人獲物を追うようにヒソカへ闇討ちを仕掛けた愚地独歩は皆と合流し、落ち着きを取り戻した後に対峙した際の様子をこう語っている。

独歩「勝ったと思った………これは驕りでも怠慢でもねェ……最後の蹴り、後ろ回し五段蹴りが奴の顎を打ち抜くイメージを既に持っていた……けどよ…動かなかっくなっちまったんだ……身体がよォ……こう……ぐぐぐ………っと締め付けられちまってよォ………後で気がついたぜェ……あ、これはオーラだってな………でもそん時にはもう遅くてよ……ヤツがそのオーラを引っ張って、手から離したと思ったら景色がグルグル回って……気がついたら地面に尻餅をついてやがった………ん?いつオーラをつけられたかって?気がつきもしなかったがヤツがご丁寧に言ってやがったなァ……最初の蹴りを受けた時だってよ……」

一頻りの罵倒を皆が独歩に浴びせた後に少し落ち着いた独歩がその時の状況を皆に語っていた。

ビスケ「想像以上に厄介な能力だわさ………」

ゴン 「え??なんで?ビスケはカストロとドッポが戦った時のビデオでもうヒソカのオーラは伸縮自在なゴムやガムみたいなオーラって見破ってたじゃん!」

キルア「意識してたら攻撃をする際にも受ける際にもそのオーラをつけられるってことだろ?」

ゴン 「あ!!」

ビスケ「その通り!ゴンが強化系である以上、肉弾戦は必至。どんな状況であってもアイツのオーラには捕まっちゃうって事になるわさね……」

ゴン 「んーーーどうしよう。」

ヒソカの伸縮自在の愛(バージンガム)の全貌を理解した一同は1週間後に控えるゴンとヒソカの戦いになんとかして打開策を練っていた。ヒソカにとっては大切な宝箱の中の一つの玩具。ゆっくりと熟すのを待つ果実、どのような解釈なのかは本人以外には解らないがその玩具の成長具合、またはその果実の成熟度を図るというところであろうか、だたビスケは同じ変化系能力者としてなのか少しだけヒソカに近しいモノを感じており、ヒソカという人間は例え命のやり取りはしないという前提であったとしても、気分次第で前言を覆し、それを自分なりの意見で正当化さえする人物だと感じていた。

刃牙の世界でも度々使用される、強さとは、我儘(ワガママ)を押し通す力。要する処の自分の意志を貫き通すということ。

それを単純な肉体の強さや腕力で表現している。それを答えとするならばヒソカが例え試合形式といえどゴンを殺したいと思い、それを実現させたとしても、戦い、強者であった者がルールを破ろうが対等の条件である以上咎められることではない。
特にこの世界は刃牙いた世界と比べ、命に対する価値観がかなり異なっているように感じる。

渋川「ちょっといいかのぅ………?」

渋川剛気が口を開いた。

渋川「ずっと試したいと思ってたことがあるんじゃが中々機会がなくてな…ビスケの嬢ちゃんはゴンが殺されないかどうか心配しているようだが…ゴン、勝算はあるぞ?お主さえよければだがな。」

ゴン「え!?本当!?なになに?」

皆の心配を他所にゴンだけは能天気に渋川の秘策をワクワクしながら待っている

渋川「あの男と戦うにあたってこちら側の有利な部分はなんだと思う?」

ゴン「んーーこっちの方が応援が沢山いるってこと?」

ゴンが頭の後ろに手を当てながら答えるとキルアが入ってきた

キルア「まず、ヒソカの能力を既に知っていること。ヒソカはゴンの能力を知らないこと、ゴンは本気でやってもいいけど、ヒソカはゴンを殺せない。んーーあとは予めこの場所に罠とかを仕掛けられる。こんなところかな?」

渋川 「ほっほっほ、若いのに末恐ろしい子だ。全部正解だがもっと根本的なところよ。刃牙さんならわかるかいな?」

刃牙 「………驕り、油断、自分が強者であるが故にヒソカはゴンを自分よりも圧倒的に弱い存在として戦いの場に立つ。」

圧倒的に強者であり、地上最強の生物と呼ばれる範馬勇次郎を父に持ち、格上と呼ばれた猛者達と幾多も立合った経験を持つ刃牙はそう言い切った。

渋川「その通り!」

ゴン「わかってることだけど、なんかむかつくーー!」

頬を膨らませて怒りを表現するゴンであったが渋川の自信とその答えが未だにリンクせずに少し不安そうにしている。同様にビスケもその答えがわからないようで渋川の秘策を早く話すように促した。
無理もない。将来的にはどうなるかは解らないが、たった1週間で今のゴンがヒソカを超える実力を手に入れるのはまず不可能に近かったからだ。

渋川「まぁ何も言わずにゴンを1週間預かっても良いかの?二人で秘密特訓でもしてみましょうや、少なくとも彼奴を驚かせることくらいは出来ると思うぞ」

ビスケ「まぁここで頭を捻っても何か解決策が出る訳でもなさそうだし、自信もあるようだからアンタに任せるわさ。ただワタシはちょいちょい覗きに行くからね!」

渋川「構わんよ、ただ独歩、刃牙、キルアには秘密な、1週間後のお楽しみということで」

ブーイングをするキルアを余所に渋川がゴンの肩を組み、それではちと借りてくぞい、と言い残し森の中へと入っていった。その自信に溢れた表情が何を意味するのかは1週間後に解ることになる。

何だか腑に落ちない顔をしながらブツブツとキルアが文句を云う、秘密にされたことが悔しかったようだ。

キルア「ゴウキのあの自信なんだよ、今のゴンがヒソカに勝てるなんてありえないぜ」

刃牙 「どんな秘策があるのかは分からないが・・・あの人は……ハッタリを言わない!!」


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HANMAR×HANMAR♯34

時は来た、それだけだ。

ゴンと渋川がまるで世界戦に臨むボクサーとそのセコンドのような状態で佇んでいた。渋川の両の手はゴンの肩へと添えられており、緊張により強張ったその筋肉を揉みほぐすようにその手を動かしていた。目の前には圧倒的な威圧感を見せながら笑顔で佇む奇術師ヒソカ、その構図が出来上がっていた。

 

キルア「やっぱ、ヤバイかもな……」

 

ゴンと渋川の後方でその様子を固唾を飲んで見守る一行は事の重大さに今更ながら気が付いたようである。あの日ヒソカがこの場へ訪れ、ビスケ以外の3人、つまり刃牙、キルア、独歩は1週間ぶりにゴンと渋川の姿を眼にした。久しぶりに見た二人がどのような策を施し、どのような鍛錬をしていたのかをその様子から探っている。

 

刃牙「ゴン……何か変わったところあるか?」

 

独歩「見たところ何も変化はないようだがなァ……だが見てみろよ、あのジイさんの自信に漲った面をよ」

 

ビスケ「まぁそれはね……博打には変わりないけど、今のゴンがアイツに勝つにはあれしかないんじゃないかって思ったわさ。ただ……うーーん。やっぱりあのヒソカって男ちょっと危険すぎるわさ 」

 

キルア「おい!まだ秘密なのかよ!いい加減その秘策っていうの教えてくれてもいいじゃんかよ!」

 

ビスケ「まぁ見てれば解るわさ、それに……いや、何でもない。ほら、そろそろ始まるわよ!」

 

渋川剛気はその手をゴンから離し、そしてゴンに何事か一言掛け、そのまま皆のいる場へ歩を進めた。

都心部からは大分離れており、辺りには対峙する二人とそれを見守る4人以外に人の気配はない。時刻はもう少しで日が沈むくらいの時刻であった。戦いの時間は決めていなかったが、ゴンがこの場へ姿を表すよりもずっと前からヒソカはその場でゴンの到着を待っていた。

 

座り込み、ニコニコしながらキルアや刃牙、独歩のいつもの修行風景を見守っていたが、その視線にいい加減嫌気がさしたキルアがゴンと渋川を呼びに行き、今に至る。

 

皆の元へ不敵な笑みを浮かべ帰ってきた渋川へキルアが投げかける。

 

キルア「おい!ゴウキ!本当に大丈夫なんだろうな?」

 

渋川 「ほっほっほ、まぁ見てみんしゃいよ、魔法は既にかけてある」

 

笑顔でその場を交わす。

 

ゴンの真っ直ぐな瞳はヒソカを見つめていた。額には冷や汗が一雫。

その視線に応えるかのようにヒソカがその禍々し過ぎるオーラを纏いゴンを見つめた、陽が丁度地平線に半分ほど顔を隠している。日没まで後僅かといったところだろうか。茜色に染まる空の空白を埋めるようにまばらなうろこ状の雲が不気味な色彩を放っていた。

 

ヒソカ「クックック♥そんな目で見つめるなよ♠興奮しちゃうじゃないか…♥」

 

額から垂れた冷や汗が地面に滴り、その汗が土に吸い込まれた。そしてゴンの身体を纏うオーラが力強さを増す。

 

ヒソカ「ハンター試験で会ったときとは見違えるようだよ♥念について…どこまで習った?」

 

ゴン 「?基礎は全部、あとは教えないっ!!」

 

ゴンのオーラを目にしたヒソカの股間がはち切れんばかりに膨張していた。

 

ヒソカ「さぁ………やろう♥」

 

二人の距離は6mほど。ヒソカのオーラとそのプレッシャーにゴンは寒気を感じていた。

背筋に温度のない虫が這いずりまわるような感覚と共に、手足の血液が一斉に引いていくような恐怖。

 

ーーーー見ろ、ちゃんと見るんだ!

 

ーーーー見据えて!

 

ーーーー目を逸らすな!

 

ゴンは後ずさりしそうになりそうな、その恐怖を振り払うように息を呑み、ふーとそれを大げさに吐き出した。

 

ーーーー凄いオーラとプレッシャー……けど、やってみないと解らないっ!

 

ゴンが身体に留めていたオーラを練により漲らせる。

 

ゴン「よし!来い!」

 

ヒソカ「 勘違いするなよ♠ゴン、キミが挑戦者さ♥」

 

その言葉を受け、ゴンの額からもう一粒の汗が落ちる。

ヒソカの言葉はこちらから掛かって来いということである。あくまで挑戦者はゴンであり、自分がその場を動くかどうか、それはその動きを見て決めるということであろうか。

 

ゴンは腰を屈め、片手を握り締め、その手を覆うようにしたモーションに入る。

 

ゴン「ジャンーーーケーーーーン…………」

 

ゴンの握り締めた拳にオーラが集まる。その凝縮されたオーラの総量は既に中堅ハンター並みと言っても過言ではないだろう。

 

キルア「初っ端からか……けど……距離があるぜ?」

 

渋川 「うむ………」

 

渋川も渋い顔でその様子を伺っていた。渋川だけに。

 

ゴン 「パー!!!!」 

 

ーーーーーーーーーーーーー

◆ゴン=フリークス◆

説明不要なこの物語の主人公の一人。(強化系能力者)

 

 

ジャジャン拳

「最初はグー」の掛け声で構えを作りオーラを高めた後、じゃんけんに見立てた強化系(グー)、変化系(チョキ)、放出系(パー)の技を、状況に応じて右手から放つ。構えが明らさまで隙が大きく技のタイミングを計られやすいという欠点もあるが、それを逆手に取ってフェイントを入れることなどもでき、また「あいこで」の掛け声で連続して技を繰り出すことも可能。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「パー!!」の掛け声と共にゴンの右手の掌から繰り出されたバスケットボール大の何の仕掛けもない念弾がヒソカへ向かって飛んでいく、そのサイズや威力はじゃんけんの掛け声により込められた念とは比べるべくもないほどの小さなものであった。生粋の強化系であるゴンの必殺のジャジャン拳、そのグーの威力はビスケを持ってしても驚くほどの破壊力を持っているが、念の流れや細かな操作を苦手とする為に未だ、自系統のグー以外は思ったほどの威力と精度を持っていない。

 

放たれた念弾を虫でも払うかのごとく右手で払いのけたヒソカ。

 

その表情が読めない、逆光のせいなのかとも思ったがそれは違うのだろう、真っ暗になった顔には怒りの感情が垣間見える、纏うオーラも荒々しくなった。

 

ヒソカ「ゴン、キミには失望したよ………♣︎」

 

ヒソカ「キミ、強化系だろ?♦付け焼刃の放出系の攻撃がボクに通用するとでも?♣︎」

 

ゴン 「何でそれを……!!!??」

 

ヒソカ「やっぱりか、でももうダメだよ、今殺す事にした♥」

 

ヒソカの顔は真っ黒になり、憎悪、憤怒、歓喜、慈愛、そのどれとも形容のし難い表情となりゴンの息の根を止めるべくその大地を両の足で踏み上げた。

 

ゴン「ジャーーーンケーーーン……」

 

それを迎え撃つべくゴンが再びジャジャンケンの構えを取った。

 

ヒソカ「ガッカリだよ……さよなら、ゴン♣」

 

渋川「勝った・・・・」

 

渋川がそう呟いた瞬間に側で見ていた皆が渋川の方を振り向く、皆がその回答を得る前にゴンのジャジャン拳が放たれた。

 

ゴン「グーーー!!!!」

 

大地が____抉れた____

 

文字どおり抉れたのだ。ゴンのその拳から放たれたオーラを込めたパンチは今まで見たゴンの必殺のジャジャン拳のパンチとは比肩するべくもなく破壊力は数十倍ほども増していた。

そのパンチの威力は小型のミサイルほどの威力があり、土埃が舞っている中でその大地がゴンを支点として弧を描くように抉れているのが視界が定まらない現状の今でさえはっきりと見て取れた。

 

その土煙の奥に人影、

右腕、否、右の肩口からその先を失ったヒソカが最高の笑みを浮かべその場に佇んでいた。

 

キルア「・・・・・・・・・・・」

 

刃牙 「・・・・・・・・・」

 

独歩 「・・・・・・・・」

 

3人は言葉を失っている中で渋川剛気が口を開いた。

 

渋川 「ほっほ、やりおった、やりおった」

 

ビスケ「こんなに上手くいくとわね」

 

キルア「ちょっと待てよ!!なんだよこの威力!!ゴンのやつ一体何をしたんだ!?」

 

その疑問を刃牙が答えた。

 

刃牙 「こんな話を聞いたことがある……握力✖︎体重✖︎スピード=破壊力ッッッ!!!」

 

キルア「んだよッッ!その方程式!!!?」

 



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HANMAR×HANMAR♯35

ヒソカ「あぁ、握力✖︎体重✖︎スピードね……♥」

 

キルア「アイツも知ってんのかよッ!!」

 

砂埃の奥で重傷を負ったヒソカがゴンから視線を外さずに自分の肩口を舌で舐めながら投げかけた。

 

ゴンは無言でヒソカを見つめている。

 

ヒソカ「拳が当たる瞬間に嫌な予感がしたんだ♠なんだかこれは受けちゃダメだって、そしたら期待通りだよ♦ほら、腕飛ばされちゃった♥」

 

ヒソカがいつの間にか伸縮自在の愛(バンジーガム)で手繰り寄せていたのか吹き飛んで行った右腕を左手で掴み、手を振るように振り、笑いかける

 

ヒソカ「体重……かな?♥」

 

体重(ウェイト)

 

動物の個体の質量を表すその言葉。

こと格闘技においても重要な要因を示す。

 

最も厳しく分けられているのはボクシングであろう、たったの1ポンド(450g)の上下さえも厳しく管理され、軽量級に至っては3ポンド毎に階級が変わるような規定がなされている。

なぜそれほど細かな分類が必要なのか?それは体重が勝敗に大きく関わってくるからに他ならない。

 

格闘経験者と一般人、それを比べるとなるとリングの上で戦うとなれば運動能力や筋力、体力、技術、など含め、ある程度の体重差などがあっても経験者が勝つことになるのは間違いないであろう、しかし、大人と子供。それほどの差があればどうであろうか?全力で向かってくる赤子を本気で迎え討つ父親が居るであろうか?

 

ボクシング      90.719kg 以上

キックボクシング 86.1kg以上

総合格闘技 93.0~120.2kg

プロレス       100kg以上

 

上記のリストは各格闘技においてのヘビー級の基準である。

恵まれた体格を持つ人間が運動能力を損なわずに活動できる限界がおおよそこの辺りとなるのではないだろうか。

刃牙の兄であるジャックハンマーはスーパードクター鎬紅葉の元、骨延長という裏技を使い、元々193㎝/116kgという恵まれた体格であったが現在は243cm/201kgという規格外の巨躯になっている。

 

なぜそこまでしたかを考えると答えが見える。彼の場合はウェイトの方ではなく高さの方に着目していたが、高さに伴い重さも増える。全ての敵を上から見下ろす。単純に考えて質量を携えたものが強い、大きく重いものが強い、それを地で行なっている。

 

時速40km程で飛んでくる鉄球、その重さが1gと1kgであれば前者は払いのけられても後者はその衝撃で重傷を負うのは不可避であろう。

そして今現在のゴンの体重、それは3トンを軽く超えている。

 

渋川剛気の合気の極み(ミステリアスギミック)により体重を大幅に増やしている為である。

この1週間、渋川は自身の能力の強化、ゴンは耐えることができる限界の体重で技を繰り出す訓練をしていた。最もそれほどの体重で素早い動きなどができるはずもなく、最初にヒソカから掛かって来いと言われた時は敗北を認める他なかったが運良くヒソカの野生がゴンに近づいてきてくれた。

だが、この1発でヒソカの戦意を喪失できなかったのはとても痛い。

 

ちなみにであるがハンターハンターの世界での巨漢といえば、この二人。

 

ウボォーギン 身長258cm 体重189kg

フランクリン 身長219cm 体重225kg

 

この二人のデタラメな体格を理解して尚、ゴンの3トンを超える体重の異常さが理解できるであろう。

 

キルア「ゴンのやつスゲェ破壊力だったけどこのあとはどうするんだ?」

 

渋川 「ないよ。」

 

キルア「は!?」

 

渋川 「あるわけないわ、カッカッカ!」

 

渋川がゴンにかけた合気の極み(ミステリアスギミック)を解除し、元の体重に戻した。

 

渋川 「ゴンやーー!後は気の済むまでやったらええッ!」

 

口元に両手を添え、遠くに声が届くように渋川剛気は笑顔でエールを贈る、それを冷や汗を垂らしたままゴンはヒソカから視線を逸らさずに渋川へ後ろ手で親指を立てた。

 

ゴン 「よし!ヒソカこっからが本番だよ!」

 

ヒソカ「その前に受け取るものがあったと思うけどいいのかい?♥」

 

ゴン 「うん!ポッケに入ってる、けどまだまだ!後で返す!」

 

ヒソカ「いい瞳だ♦さぁ楽しませてくれよ♥」

 

ゴンと渋川の奇策はヒソカの天才的な格闘センスにより躱されてしまったがそれでも右腕を吹き飛ばすほどの奇襲となった、今の実力差から言って大金星と言えただろうがヒソカが戦意を喪失するどころか戦いが始まる前より漲ってしまっている、そしてゴンもやっと体が軽くなり、少し固さも取れたように見えた。

 

渋川が秘策をゴンに授けたその日、ゴンはそれを反対をした。

だが渋川とビスケの説得により、この1週間は渋々その意見に従っていたのだ、ただゴン自身は自分の力だけでこのヒソカと戦いたいと思っていた為、表情が冴えてきたのは事実だろう。渋川の能力を利用させて貰ったとしてもあのヒソカに一撃を食らわせたのだ。そしてダメージも見て取れる。それが自信にも繋がったのかもしれない。

再び息を大きく吐き、今度は高い高い頂へ向かいその歩を進めた。

 



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HANMER×HANMER♯36

書いたのが数年前になりますので時代背景が大分異なります。


アメリカ合衆国に存在するアリゾナ州立刑務所(別名:ブラックペンタゴン)収監される囚人は全米中の凶悪犯、その中でも選りすぐりの犯罪者達の巣窟となっている。

ブラックペンタゴンと言われるのもそうした犯罪のエリート達が集まることから揶揄してそう呼ばれていた。その厳戒体制が敷かれている刑務所に続々と黒塗りの車が入って行く。

第44代アメリカ合衆国大統領バラク・オズマ氏の乗る専用車。「キャデラック・ワン」を囲むような陣形でゲートを潜り抜けた。オズマの表情は物凄く軽やかでご機嫌にジョークをこぼしたりしながら通された部屋に入室する。

 

部屋の主はミスター・アンチェイン(繋がれざる者) ビスケット・オリバであった。

囚人でありながら、豪華な自室を持ち、食事はもちろんの事、酒、タバコも嗜み私服での生活。優秀なハンターとして依頼があれば自ら凶悪犯罪者をハントしに行く。

事実このアリゾナ州立刑務所に収監される凶悪犯の多くはこのオリバがハントした者たちである。

高級なソファーに腰掛け、葉巻を咥えたその姿に驚く素振りさえ見せず、オズマは対面に腰掛けた。

 

オリバ「再会を祝して用意させたんだ、まぁ飲みな」

 

乱暴に開けられたシャンパンをグラスへと注ぐ。ラベルに書かれていた文字から判断するにクリュッグ・クロ・ダンボネの1995年ヴィンテージであろう。女性のウェストほどもあろう巨大な腕を動かし片手で注がれたそれをオズマは唇を湿らす程度に嗜んだ。

 

オズマ「久しぶりだな、変わりはないかい?」

 

オリバ「あぁ、退屈してはいるがな、また日本にでも行きたいものだ」

 

後ろに控えるオズマの秘書がチラッと腕時計を確認したのを見たオリバが深い溜息をついた。

 

オリバ「教育がなってないな、対談中に時計を気にする素振りを見せるなんて秘書として最低だ」

 

オズマ「まぁそんな事を言ってくれるな。彼はこう見えてとても優秀な人材だ。それに場所が場所なのだ分かってくれ、そうそう長居もできない。早速本題に入らせて貰おうか」

 

オリバ「ハッハッハ!先ほどの非礼を詫びよう、全く持って優秀な秘書だ。」

 

オズマの秘書が表情を変えずに目を閉じた。そしてオリバが続けた。

 

オリバ「要件はおおよそ理解している。コードネーム《アポロ21》俺に一体何をさせようっていうんだ?」

 

オズマ「・・・・・・ッッ!?驚いたよ……キミのその情報網にはな…これでも国家機密事項なんだが…」

 

オリバ「米軍の特殊施設が日本の徳川光成氏と共同して、時空の研究をしているっていうことは数年前から引っ掛かっていたんだ、ましてやあの老人は原人だ宮本武蔵だと面白いことに色々と関わってきやがる。チェックしていない訳がないだろう。日本に訪れた来訪者とファイティングゴット、愚地独歩、ジャパニーズヤクザ、花山薫が戦った映像も入手してあるぜ。」

 

オズマ「キミに隠し事は出来ないようだな………」

 

オズマが息を飲む。ミスターアンチェイン(繋がれざる者)として、全米の犯罪者への抑止力として今は機能しているためその存在を認知し、このようなデタラメな生活を見て見ない振りをしていたがさすがにここまでの武力を携え、その知識量と博識さも脅威となればいずれアメリカにとって範馬勇次郎並みの存在になるのではないかと静かに震え、今度は喉を潤すようにグラスを口へ運んだ。

 

オズマ「説明が省けて助かるよ……異世界。かつて行なわれた人類初の月への有人飛行計画。アポロは当初、20号まで予定されていたが予算の関係で17号までしか遂行されなかった、それを受け継いでつけられたコードネーム《アポロ21》このプロジェクトに私からはキミを推薦したい。早い話がハントだ。」

 

オリバ「誰をハントしろと?」

 

オズマの顔がにやけている。次の言葉を発したくて仕方がないように唇の端を緩ませ、目尻が下がる。

 

オズマ「オーガこと、ユージローハンマ。キミの友人だよ。」

 

オリバ「ハッハっハ!!感情が顔に出てるぜ、大統領。」

 

オリバ「詰まる所、地上最強の生物、オーガと地上最自由である俺、アメリカにとっての目の上のタンコブの両者を厄介払いしたいって訳だろ?」

 

ニヤニヤしながらオズマがそれを否定する。

 

オズマ「全く!何を言っているんだキミは?!ユージローハンマと米国は友好条約を結んでいる。言うなればキミと彼の関係と同じだよ。ハントと言ったが私達はキミに彼を連れ帰って欲しいのさ。」

 

オズマが大げさに人差し指を立て、チッチッチと大袈裟なジェスチャーでそれを否定する。だがその顔は笑いを堪えきれないという風に口元が緩んでいた。そこで秘書がもう一度腕時計を確認すると、オズマはそれを合図にしたかのようにオリバにも聞こえるように秘書に時間を確認し、それを聞き、芝居掛かった態度でおっと、もうこんな時間かっと立ち上がった。

 

オズマ「詳しいことは局長に既に話してある、書類もまとめてあるから確認してくれ、シャンパンをご馳走様。またの再会の際には私が故郷のビールを用意させて貰うよ、またがあればの話だがね。それでは健闘を祈る」

 

むすっとした顔で葉巻を咥えたままのオリバをオズマは一度も振り返りもせずにその部屋を後にし

帰りの車の中では上機嫌で鼻歌を歌っていた。自身の任期中に2つの難題を片付けたという自分に酔っている様である。

 

オズマ「ジョージにもビルにも出来なかった偉業を私は行ったんだ!分かるかい?外部に漏れたら信用を失うどころではない、国が潰れてもおかしくない危険を私が未然に払ったんだ!それも地上最強と地上最自由を2つともだ!歴代の大統領の中で国民に語られずとも、その功績は永遠に評価される偉業をまさか私の任期中に全うできるとはね!ハッハッハ!徳川氏には感謝してもしきれないさ!ハッッハッハ!」

 

オリバは自室でモクモクと雲を作りながら、シャンパンを飲み干した。

突然の大統領の訪問から大方当たりはつけていたが……オリバの頭の中ではマリアに何と説明したらよいかを考えていた。この計画に興味がないわけではなかったのだ。知識欲もさることながらビスケット・オリバは体験主義者だ、何でも自分で経験したことを信じ、それをこの眼で見たいという欲求はあった。

範馬勇次郎が先立って旅立ち、その後も続く者も多いという話は聞いていたので彼が帰ってきて話を聞いてから自分も異世界へ向かおうと旅行気分で考えてはいた。ただオズマのこのやり方がどうも気に入らなかったようだ。

 

オリバ「秘書は優秀だがlame duckは変わらねェな。オーガ帰ってこないと思ってやがる……フッフッフ!いいだろう……俺とオーガにビールを奢らせてやるぜ。待ってなオズマ」

 

決意を決め、自信にみなぎった顔をしたオリバ。しかし一転頭を抱え、再びマリアに対する説明を考えていた。




ハッ!!呃啊フンッ!!喝啊ハッ!!呃啊フンッ!!

黒竜江省、白林寺。中国武術界における高位の称号「海王」を受け継ぐ者を多く輩出しており、言わずと知れた中国武術界での名門である。
多くの者達が大量の汗を流し、掛け声を出しながら訓練に勤しんでいた。いつもと何ら変わらない百林寺の日常だ。その上空をパラパラと音と風を撒き散らしながらヘリコプターが旋回している

烈海王は困惑していた。
聞かされていた中国武術界の頂点である郭海皇の危篤、日本にヘリを寄越してまでの緊急招集。
齢146を数える高齢ということもあり、既に覚悟はしていた。だが、このありふれた日常風景には疑問を抱く。

与える影響の大きさから下の者達には伝えられていなかったのか?否、運ばれた場所にそもそもの問題だ。
病院ではなく、古巣の百林寺。
上空からロープを垂らし、それをつたい、勢いよく器用に着地をした。
出迎えた巨漢はご存知、劉海王。この漢もまた100歳を超えておるが鍛え込まれた肉体から、その年齢は想像できない。魔拳、烈海王を育てた名手である。そしてその巨体の背後からパチパチパチと乾いた音が聞こえてくる。

烈「やはりですか……」

郭「信じた?のぉ?信じた?」

烈のレリコプターからのロープを使った着地に賛辞を贈りながら、その枯れ枝のようなか細い腕で、手を叩いて笑っている。劉海王は分が悪そうに片手で頭を掻いていた。

別室で豪勢な食事を摘みながら、ムスッとしたお馴染みの顔で烈海王が座っている。目の前に出された油淋鶏(鶏肉の甘酢がけ)をモニュモニュと音を立て咀嚼しながら話を聞いているようだ。テーブルを囲むのは郭海皇、劉海王、烈海王、そしてもう一人。

劉「まぁそう怒るな烈よ、緊急の呼び出しっていうのはあながち間違いじゃないのだ。」

烈「老師の死を引き合いに出すなど、あんまりではないかッッッ!?」

竹を割ったような性格の烈がこうなることは薄々と感じていた劉はその迫力に少々たじろいでいる。

劉「それは私のアイデアではなくて・・・」

郭「ホッホッホ、説明の手間が面倒臭くてなァ、だがお主は迅速にこの場に来た。それで良いのじゃよ」

烈「そこまでして私を日本からここに呼び出した訳を未だ聞いておりませんッッ!それに・・・」

烈が視線を送った先に座して、スープを啜っている漢には見覚えがあった。
大擂台賽にて中国連合軍として共に戦った漢。

郭「儂が120の時の子、春成の親友の龍君じゃ、覚えておるか?」

忘れる訳がなかった。勝敗で言えばビスケット・オリバに負けはしたものの、そのポテンシャルは相当なもの。そして、この醸し出す雰囲気は格闘士としてのものではなく、常に生死の境で立っているような独特の近寄り難さと、眼には常に殺気が漂っている。9歳の時に師と出会い15歳〜19歳まで全台湾擂台賽で連続優勝。記憶が確かであれば、台湾の黒社会のルール無しの賭け試合で25年間無敗を保ち、表裏合わせると15歳のデビューから30年間無敗。あの範馬勇次郎が刃牙に「学べ」と言ったほどの漢。

烈「凶人・龍書文、忘れるも何もその名は幼き時から聞いておりました。先のオリバ氏との一戦も結果ほどの実力差はなかったとみております………いえ、決して全米最強を過小評価するつもりはありませんが、むしろ実力では書文氏が優勢。10度戦い一度勝てるか…その一度をオリバ氏が強引に引き寄せたというような立会いであったと感じております。」

ピクっと書文の瞼の上の筋肉が動いた。だが表情は変わらずにスープをまた一口。

郭「終わった立会いにケチをつけるのもなんだが、儂も同じような見立てをしておる」

書文「結果が全てです……。」

謙遜するように書文が口を開いた。

郭「まぁそんなことはいいんじゃが、烈よ、証明してはみんか?」

烈「何をでしょう?」

郭「ケチのついてしまった我ら中国武術の強さをじゃ」

烈「ご存知だったのですね………」

強さの証明。その言葉を郭海皇の口から聞いた途端に烈は全ての状況を理解した。自身が異世界からの来訪者に手も足も出ずに敗北をしたことが既に耳に入っていること。そして新たに身につけた新しい力。それを今すぐにでも発散したいという事。

烈「願ってもないッッ!!まだ私を信じてくれているッッ!!その期待に応えますッッ!!」

郭「徳川氏から既に話は聞いておる、中国と徳川家の永い歴史の中での語られぬ事実、公になれば歴史が変わるほどの重大な秘密がある。その証拠の一つと引き換えにここへ2つの機体を手に入れておる。ホッホッホ。本来は来るべき外交の切り札として我が国が長年抱えていたものではあったのだが、無理を言って儂が掻っ払ってきたんよ。本当は儂が行きたかったんじゃが、海皇の儂が席を外すわけにもいかんのでな」

烈「ご懇意に感謝致します。ですが機を待たずとも私は向かうつもりでした」

郭「わかってないようじゃの、ここ中国から行くということに意味があるのじゃよ。お主と龍君の二人にだ」

その言葉の意味を飲み込み、烈は立ち上がった。そして中国武術そのものと言っても良い郭海皇へ深々と頭を下げ、対面に座っていた龍書文の元へゆっくりと近づき、手を差し出したのだ。
差し出された手を前に書文も立ち上がりその手をガッシリと握り返した。

その刹那ーー

烈「御免ッッッッ!!!」

手を握ったまま烈が書文の腹部へ掌底打ちを一撃見舞った。書文の体は宙へ浮き、後方へ飛ばされそうになったが烈が握り締めたままの手に力を込めその場に留まらせる。書文の顔は苦痛に必死に耐えているような苦悶の表情を覗かせるがその場へ倒れてしまいそうになるのを気力だけで辛うじて保っているようだ。膝が震えている。烈が握っていた手を離し、脇の下へ両手を入れ抱えあげるようにし、再び椅子へ座らせた。

劉「烈ゥッッ!!貴様何をしているのだッッ!!」

一見血迷ったのかと思う程の烈の奇行に、師である劉海王が怒りを露わにする。

烈「これは最低限必要な事。それほど強く打ってはおりません。書文氏、そう気を張らずに今はゆっくり眠ってくださって結構です」

その言葉を合図に龍書文は瞼を閉じ、意識を失った。

郭「今一瞬違う気配がしたような……まぁなんでもいいが仲良くやりんさい。」

烈「はい!必ずや中国拳法の最強を証明して参りますッッ!!」

満面の笑みで烈が応えた。


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HANMER×HANMER♯37

見渡す限りの景色がすべて海、大海に佇む鯨のような形をしたその島でゆっくりと時間が流れてゆく

一番見晴らしの良いくじらの頭の丁度真上で、とんがり頭の少年が大きくググッと両の手を大空へ掲げながら伸びをし、そのまま天然のベットへ体を預けた。それを見た二人も同じように体を預け、空を眺める。足はそれぞれ別の方角を示し、頭同士が一番近くにある。短針が2つ、長針が一つ、そんなあべこべな時計のような形でそれぞれ何も言葉を発したりもせずにただただ、空を眺めている。しばらくすると、思い出したかのようにとんがり頭の少年が口を開いた。

 

ゴン「あぁーー!悔しい!何であそこでオーラ使い果たしちゃったんだろ!」

 

ゴン、キルア、刃牙の3人はゴンの故郷であるくじら島で束の間の休息を楽しんでいた。といいながらもそれぞれの系統別の修行であったり、ビスケがしっかりと修行のメニューを組んでくれていた為に鍛錬は欠かさない、ただ指導者の目がないというだけで些か開放感に溢れているように感じる。

 

キルア「っっんだよ!またその話かっ!!仕方ないだろ、あれだけオーラ使ってたらそうなるよ。でもジャンケンチーでヒソカの伸縮自在の愛(バンジーガム)を斬ったときはもしかして……?って思ったけどな。」

 

ゴン「だよね!あそこまで上手くいくとは思ってなかったから正直オレもビックリしちゃったよ!」

 

刃牙「あれずっと考えてたことじゃなかったのか?」

 

ゴン「ううん、出来るかな?って思ってやったら本当に切れちゃった」

 

ゴンが子供のようにその時の状況を体で表現する、チー!!と掛け声を言いながら手刀のような形をした手を大袈裟に振るい、バシュッ!!バッシュッ!と口で効果音をつけていた。

 

あの日の立会いは善戦はしたものの、結果だけを見ればまだまだヒソカの域までゴンは達していなかったと言えよう。渋川のミステリアスギミック(合気の極み)が解除された後、ゴンはヒソカの能力に翻弄され続けた。最後にはヒソカの伸縮自在の愛(バンジーガム)をゴンのジャジャン拳のチーで切断した後、後ろに回りこみ、必殺のグーを見舞おうとオーラを右手に込めた所、オーラが使い果たし、その場で意識を失った。

 

ヒソカがゴンのズボンのポケットを弄り、プレートを取り出すと、キルアに対して「これで借りはなしだ。今度は本気でやろうと伝えておくれ♥」と言うと、手を振りながらその場を後にした。途中、一度立ち止まり、刃牙に向かって、「そういえばキミともやろうって話をしてたよね?今、やるかい?」と問い掛けた、刃牙は口を噤み、

 

「いや、俺はいい・・・」

 

そう呟いた。ヒソカは「そうか、残念♠」と言い残し去っていった。

 

キルアの耳には不思議と刃牙のその言葉がずっと耳に残っていた。

その夜、意識を取り戻したゴンを含め、5人で今後について話をした。

 

ゴンは不甲斐ないながらもヒソカへプレートを返すという、とりあえずの目標は達成したので一度故郷へ合格の報告を兼ねて帰ると言い、キルアと刃牙はそれについていくことにした。

ゴンはビスケと渋川と独歩も連れて行きたかったようであるが、渋川と独歩はまだビスケに稽古をつけて欲しいようで、ビスケもそれに同意した。

 

もっともこれで終わりということではなく、その後はどうするかという話の流れで、ゴンが9月1日にヨークシンシティに行くことになっているという旨を伝えるとビスケもその頃にヨークシンに用があるようで再会の日は近そうであった。だが携帯を持っていたのはビスケとキルアの2人だけであって、4人は2人から説教を受けることになった。

見た目からしたら最年少の2人からゴンを含めてではあるが、大の大人達が正座をして説教を受けながら苦笑いを浮かべる図は端から見ると、とても奇妙に映った。

 

その夜、キルアがふと目を覚ますと夜の闇の中へビスケと刃牙が消えていった。何事かとは思ったが特に気には留めずにそのまま翌朝を迎えると、派手に顔を腫らした刃牙がおはようと寝ぼけ眼を擦っていた。

 

その顔を見て散々笑ったり冷やかしたりはしたが、原因が何であるかは最後まで聞けなかった。

 

舞台は再びくじら島に戻り、そういえばと思い出したかのようにキルアが刃牙へ問いかけた。

 

キルア「そういえば、刃牙さ、あの夜ビスケと何してたんだ?翌朝顔パンパンに腫らしてたけどなんかしてたんだろ?」

 

刃牙 「あぁ……あれか……うんまぁ」

 

ゴン 「えー!?あれ蜂に刺されたとかそういうのじゃなくてビスケにやられたの!?」

 

刃牙 「いや、まぁ……ちょっとね」

 

キルア「……あ!!やべっ!そういえば、ミトさん洗濯の時間がどうとか言ってなかったか!?」

 

刃牙の煮え切らない返事に何かを感じたのかキルアが話題を逸らした。

キルアは産まれ育った環境なのか、その過程でなのか、そういった感覚は人一倍察する人間のように思う。刃牙は年上ながらもキルアのそういった何気なく、気付かないかもしれないような小さな気遣いに尊敬の念すら感じていた。もっともゴンに関しても別の意味でそういった感覚に驚かされる部分は多く、刃牙は産まれて初めて出来た、年下の友人と一緒に過ごす生活に毎日の充実感を感じている。

 

範馬刃牙は今でこそ、共に拳を交えた格闘士達に繋がりを感じて友と呼んでいたが、この2人くらいの年齢の時に出来た初めての友は人ではなく、夜叉猿であった。そんな刃牙だからこそ年の離れた2人を下に見ることも上に見ることもなく対等に付き合うことができるのであろう。

キルアとゴンも同じように対等な仲間として友達としてこの関係がずっと続くものだと今は疑いすらしていなかった。

 

キルアの言葉に焦ってミトの待つ自宅へ駈け出すゴン、それに続いてキルアも起き上がり駆け出した。

 

ゴン「バキーー!!早くーー!急いで!!」

 

もう遠くに見えるゴンがこちらを振り返りながら手を振っている、そのゴンとキルアの後ろ姿に対して起き上がり、刃牙は音になるかならないか位の小さな声で「ありがとう。」と呟いた。




3人は何やら両手の掌でちょうど覆うことができるくらいの立方体の箱とにらめっこをしていた。

昨晩の事である。
3人が食事を終え、ミトとお婆さんとゴンの昔話で盛り上がった。ここくじら島にはゴンと同い年くらいで同姓の友達など小さな島だったのでいなかった為、保護者である2人もそれはそれは喜んでお接待をしてくれている。すでに何日か経っている為に刃牙とキルアの事もゴンと同様に息子同然の扱いを受けており、刃牙もキルアもそういう気を使わない、いわゆる普通の家族の団欒というものがとても新鮮で初めての体験であり、居心地が良かった。

眠る前にミトが席を外し、自室に行き手にしたものを机に置きながら口を開いた。

ミト「ジンから預かってたものよ。あなたがハンターになったら渡してくれって」

それがこの箱である。

その日は様々な話をして盛り上がったし、朝早くからビスケに課せられていた修行のノルマをこなし、午後は釣りをしたり、森で追いかけっこをしたり、お腹いっぱいになるまでミトが振る舞った美味しいご飯を食べたのでぐっすり眠りについたが、朝になり、一体この物体はなんなのだろうということで3人がその箱を中心に胡座をかき首を捻っていた。

なぜか。

キルア「これ、どーやって開けるんだ?」

ゴン 「うん、いろいろ試したんだけど、どうしても開かないんだよ」

キルア「ちょっと力入れていいか?」

ゴン 「いいよ、オレもやったから」

キルア「んがっ!!」

腕に筋を浮かべ、全力でその箱を捻るようにキルアが力を込めたがその箱はビクともしなかった。

キルア「ムリっ!! はい、バキ、パス!!」

キルアが投げやりに刃牙へその箱をパスする。刃牙も同じように力を込めたがビクともしない。

刃牙 「 お湯とかかけてみるか?」

キルア「・・・・・・・・・・・」

ゴン 「・・・・・・・・・・・」

沈黙が流れた

キルア「ハンターになったら・・・か、そーかもしかして」

刃牙 「ん?」

キルア「まだ試してないことあるぜ」

ゴン 「え?」

キルア「ハンターになった今、なる前には持ってなかったものがあるだろ?」

刃牙 「念かッッッッ!!」

ゴン 「あ!!」

ゴンに手渡されたそれに、息を飲み、ゴンが両手に念を込めると先ほどまでビクともしなかったその箱を覆おう、鉄の棒がバラバラに分かれ中身が姿を現した。

箱の中にまた箱があった。だがこの中身の箱は先ほどまでの無機質なものではなく、カードが入るような隙間があった。迷いもなくゴンはその隙間にハンターライセンスを差し込む。

カチッと音を奏でながら空いたその箱の中には指輪とテープとROMカードが入っていた。


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HANMER×HANMER♯38

「捕まえてみろよ、お前もハンターなんだろ?」

 

箱の中に入っていたテープを再生するとそこにはゴンの父親であるジンの肉声が吹き込まれていた。

10年以上も前からハンターライセンスを入手しないと開けることが出来ない物を、いつの日か息子の手に渡ると想定し、用意していたと思うとその思慮の深さに驚嘆する。

 

ゴンがプロハンターになり、念を習得する。自分の顔さえも覚えていないような赤子が無限にもある可能性の中から記憶にすらない父の背を追うことになるなど誰が思うであろうか。

 

実際には試験を受けるもっと前に森でカイトと出会い、ジンの話を聞いたことが1つのきっかけになっていたのかもしれないが、その出会いでさえ限りなく奇跡に近い。

 

ジンがゴンに残した唯一の物。

もしかするとジンはこれがゴンの手に渡らないかもしれないと考えていたのかもしれない、ただジンという男はそれはそれで良しと考えそうだ。

だが、実際にその箱は10年以上もの時を越えて今、ゴンの手の中にあった。

そう考えるときっと、ジンはこうなるであろうことが読めていたのだろう。そしてその先までもしっかりと。

 

テープの内容は父親らしいことができなかった懺悔のようなものでもありながら、挑戦的なものであった。もし会いたいなら全力で自分を探してみろというものだ。そして自分は会いたくないという意思表示も然り、今思えば大きくなった息子と全力で世界を股に掛けた鬼ごっこを楽しむような、そんな少年染みた心情も鑑みえた。それは気恥ずかしさからくるものなのかは定かではないが、そんなジンの声を聞いているゴンの表情はどことなくワクワクとしているようにも見えた。

 

キルア「ふふん、お前の親父も一筋縄じゃいきそーもねーな」

 

刃牙 「いい親父だな、俺も親父と鬼ごっこ・・・・いや、ないない」

 

一瞬、天井を仰いだ刃牙が幻想を振り払うように首を振った。

 

ゴンがテープを停止するスイッチを押し「ゴハン食べよう!」と扉のノブに手を掛けるとテープがキュルキュルと巻き戻しを始めた。

 

キルア「ゴン!!止めたテープが勝手に動き出したぞ!!」

 

刃牙 「デッキにオーラが!?」

 

キルア「念!!念でテープを巻き戻してる!!」

 

ゴン 「まさか現在!?どこかで!?」

 

キルア「まさか!念を込めたんだよ10年以上前に!停止ボタンを押したら巻き戻すように!」

 

慌てふためく3人を他所に巻き戻りきったテープは今度はカチっと音を立てて録音のボタンが押された。

 

刃牙 「今度は録音し始めたぞ!?」

 

キルア「そーか!!消す気だ!自分の音声を!!」

 

ゴン 「ダメだ止められない!コードも抜いたのに!」

 

キルア「悪いなゴン!壊すぜ!!」

 

そう言いながらキルアがデッキを全力で殴った。ドゴォォっと音を立てながらデッキが地面に叩きつけられたが念でガードされている為、ビクともしない、その後も様々な方法でデッキと格闘するが録音が完了するまで3人はどうすることも出来なかった。

 

一応、再び再生をしてみたがデッキと格闘する3人の声がオーバーダビングされており、ジンの肉声は完全に消滅していた。

 

それだけ自分の手掛かりを残したくなかったのだろう。音声からだけでも相当なデータが得られる。

身長・体重・性別・年齢・顔の造形やら持病の有無、相手の心理状態だって読み取れる、背景の雑音から録音した場所が特定出来ることも多い。だがジンが警戒したのはもっと別のこと。

 

念能力だ。機械よりはるかに優秀な解析が可能な念能力の持ち主がいてもこの世界はおかしくない。

例えば声を聞いただけで相手の全てが解る能力など。

 

キルア「手強いな」

 

ただ声を聞いただけだったが、キルアはここまで周到に用意をしているジンに対して一筋縄ではいかないと再認識をした。

 

ゴン「ん」

 

それを察したかゴンも口を一文字にしっかりと閉じたまま返答とも取れぬ声を出した。

 

箱の中に入っていた残る手掛かりはあと二つ。指輪とROMカード




『ごっ58億!!?』

パソコンの前で目が点になる刃牙とキルアとゴンがいた。

指輪に関しては内側に神字のような模様が見えたので念のため手をつけずにまずは手掛かりの多そうなROMカードが取り掛かった。というのもキルアにはそのROMカードに見覚えがあった。

離島で自然と共に過ごしたゴンにとっては縁のないもので終始すっとんきょんな表情をしていたゴンと、すでに欠伸を噛み殺している刃牙を尻目にキルアが言った。

キルア「え?知らねぇーの?ジョイステ。これゲーム機専用のROMカードだよ、ジョイステーションっての」

キルアはパソコンを使いあっという間にジョイステーション本体とROMカードを注文し、再度、あっという間に手に入れてしまった。どうやらジンから受け取ったそのROMカードの中身はグリードアイランドというゲームのセーブデータだったようだ。

ゲームの名前が判明し、そのゲームを注文しようと調べるが該当件数は0件。

ゴン 「どーなってんのかな」

キルア「うーーん、1つも在庫がない…つまり売り切れか、このゲーム自体市場に出まわってない可能性もある」

刃牙 「ふぁ〜〜。なんだ?ゲーム探してるのか?最強列伝ってクソゲーなら知ってるけど…」

キルア「………とにかく調べてみっか、”ゲーム年鑑”なら今まで出た市販のゲームが全部載ってるから」

器用にキーボードを操作するキルアを刃牙が物珍しそうに眺めていた。

キルア「あった!ちゃんと正規のルートで販売されたゲームソフトだ」

※グリードアイランド※
・ハンター専用ハンティングゲーム
・制作発売元 株式会社マリリン
・発売年度 1987年


『ごっ58億!!?』

キルア「なんちゅーデタラメな値段だ!?」

ゴン 「販売個数100コってのは少ないの?」

キルア「っげー少ねーよ、ゼッテーなめてる!!」

刃牙 「…ッフ、どうやら最強列伝よりは売れてないみたいだな。」

その場の雰囲気と2人に合わせてとりあえず空気を読んで一緒に驚いてみた刃牙がつぶやく。

その後キルアが方々へ問い合わせたが、結果はやはり芳しくなかった。
”ゲーム年鑑”に問い合わせるも、絶版と伝えられ、あまつさえ開発した会社は既になくなっているとのこと。中古市場にも出回っておらず、オークションに告知を出すも、あっという間に金目当てで偽物を売りつけようとする輩から1万件近くのアクセスがあった。

最後の手段として、渋々ながらも実の兄のミルキにグリードアイランドのメモリーデータのコピーを条件に有力な情報を2つ手に入れた。

一つはハンター専用サイト。
もう一つはヨークシンのオークションに今年グリードアイランドが数本、あるいは数十本流れるというウワサだ。

ミルキから送られてきたアドレスにアクセスし、ゲームの項へ飛ぶとグリードアイランドを見つけた。
クリックすると情報提供料として2000万を要求されたが確かな情報を伝えてくれた。


【グリードアイランド】

※念能力者が作ったゲーム
そいつ(等)は100本のゲームソフト全てに念を込めた、ゲームをスタートすると念が発動。プレイヤーをゲームの中にひきずりこむ。プレイヤーがゲームの中で生きている限り、ゲーム機はたとえコンセントを抜いても動き続ける。死ねば止まる。特質系の能力者?制作者の真の目的は不明。どうも複数らしい。匿名を条件に所有者の一人が証言してくれた。このゲームは念能力者以外プレイできない。セーブポイントさえ見つかれば戻れるらしいが・・・私は50名のハンターを雇い(そのうち3名は証を持つプロだった)ゲームのクリアを試みたが還ってきた者はいない。誰一人

ヨークシンシティで開催されるオークションには8月14日までに7本のグリードアイランドが競売申請登録されている模様。最低落札価格 89億ジェニー※


このサイトはハンター専用サイトで「狩人の酒場」というらしい、粋なバーテンダーが情報屋という設定となり、対話形式で必要な情報を引き出せるというもの。

ハンター専用サイトの情報量の多さと信頼度はネットでは最高峰で通常サイトでは考えられない貴重なお宝が行き交ってるらしいとミルキが教えてくれた。

ーーーーーーーーーーーーー

『はちじゅう・・きゅうおく・・』

発売時定価の58億ジェニーから30億ジェニーも上乗せられた89億ジェニーが最低落札価格となっていた。
当初の58億ジェニーでさえ目が飛び出るような価格だったが、もはや言葉が出なかった。
オレらの入り込む余地ねーよ!と頭を抱えるキルアにゴンが言う。

ゴン 「ねぇこれってオレ達も参加できるのかな?」

刃牙 「ただ俺達が天空闘技場で稼いだお金は3人合わせても12億ジェニーくらいしかないぞ?」

キルア「そうだぜ、見ただろ!?最低でも89億!77億も足りないんだよ!」

ゴン「買う方じゃなくて売る方だよ、オレ達も何かお宝を探して競売に出すんだよ!」

ゴンの意外な指摘にキルアが顎に手を当てて一瞬考える

キルア「うまくいけば大もうけできるかもな!!よーし増やせるだけ増やしてみるか」

刃牙 「俺はそういうのに縁がないから任せるわ、金はここに入ってるから使ってくれ」

ゴン 「うん!!ありがとうバキ!」

パソコンの画面を次に進めると、ゴンの目が止まった。


※総合入手難易度ーーーーーG(易しい)

幻のゲームと呼ばれているが あくまで一般レベルでの話。
公の競売にも姿を見せ始めたことから「探す」意味での難度は
最も易しいH、金銭面を考慮に入れ総合はGとした。(何しろ
100本というソフト数は貴重品というには多すぎる。現存するプロ
ハンターの約6人に一人が所持できる計算になるのだから)※

これを見て負けず嫌いの3人が奮起しない訳はなかった。

キルア「ふん・・・面白いじゃん、ゼッタイ手に入れてやろうぜ!!」

ゴン 「おう!」

刃牙 「いっちょ、やってやるか。」

3人は一般のフリーマーケットとオークションサイトで12億ジェニーを元手に資金の調達を初めた。
89億を稼ぐというのは至難の技だが、12億を元手に資金を増やす。

増やすというこの行為自体はそれほどの資金があればそう難しい事とは思えないが、詐欺師に騙されてあっという間に資金さえを失ってしまった。

ゴン 「残り・・・いくら?」

キルア「・・・3人合わせて1626万ジェニー、くそーあのジジイまんまとだまされたぜ!!」

刃牙 「最初の壺は2倍で売れたのになー・・・」

キルア「小金をもうけさせて信用させてから大金をせしめる、詐欺の常套手段だからなー」

その発言にゴンが噛み付く、気がつくといつもの口ゲンカが始まり一人取り残された刃牙はポリポリと頭を掻きながらため息をついた。それを合図のように口論は一旦集結したようだが、話の雲行きがあやしい。

ゴン 「よーーし勝負だ!!」

キルア「おーーやったら」

ゴン 「オークションまでの残り2週間で誰がいっぱいお金を稼げるか」

キルア「おーーお」

刃牙が止めに入るが、啀み合った二人を止めるのは刃牙にも難しい。

ゴン 「それぞれ542万ずつ持って8月31日夜9時の時点で多い人の勝ち 」

キルア「面白え、もし負けたら!?」

ゴン 「勝った人の言うことを一つ何でもやる!!」

キルア「乗ったぜ、カンプナキまでに負かしたら、バキもいいな!?」

刃牙 「え!?ちょっと待て、俺も入ってるのか!?」

『いちについてよーいドン!!』

あたふたする刃牙の足元には、きっちり3等分された542万ジェニーが置かれており、
キルアとゴンの二人は勢いよく反対方向へ駆けていった、あっという間に後ろ姿さえ見えなくなってしまい。戸惑う刃牙は一瞬考え、笑った。


刃牙 「金儲けか、考えてみたら初めての経験だな」

一線を引きながら二人のやり取りを見ていた刃牙であったがその体の中に滾るものを感じていた。
グラップラーは一旦廃業とし、期日の2週間はギャンブラー刃牙としての一歩を踏み出した。

刃牙 「度肝抜いてやるッッッ!!!」



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HANMAR×HANMAR♯39

薄暗い森の中に人影が3つ、内一つの影は巨人のように伸びている。

最もその隣に伸びる影も常人とは比べるまでもない身体の厚みを誇る巨躯だ。

その二人と対峙するかのように向かい合うもう一つの影は頭部から天に向かって真っ直ぐ伸びる棒状のものを蓄え、そしてこれまた棒状の何かを腰辺りに携えているようであった。

 

 

ノブナガ「アンタらで間違いないか?」

 

紅葉  「人間が一基、破壊(こわ)れてしまってるそうですね。」

 

紅葉の挑発が気に入らなかったのか警戒心を持って睨みを利かせたノブナガと紅葉との間に巨人が割って入る。

 

ジャック「オイオイ、オレ達ワビジネスノハナシヲウケテキタンダ、オワッテカラニシナ」

 

紅葉がジャックへ微笑み、そして今度は外用の笑顔をノブナガに向けた。それがノブナガの怒りに拍車を掛けたことは言うまでもないが、ノブナガも理由があって此処にいる。フーッと息を吐き怒りを鎮めた。

 

ノブナガ「成功すれば金は言値で払う、情報屋から買った情報だから間違いはないと思うが、お前ら腕は確かなんだろうな?」

 

紅葉  「 ええ、勿論ですとも、ご安心ください。」

 

紅葉が自信満々の不敵な笑みを浮かべ、今度はノブナガの目をしっかりと見て言った。

明らかな皮肉であろう。

 

ノブナガ(なんかコイツ気に入らねぇーな・・・依頼じゃなければ首刎ねてるところだぜ、ただコイツもそうだが、それよりも…隣のデケェーやつ・・・雰囲気が普通じゃねぇ、どっちにしろロクなもんじゃねぇな…ってオレが言えた事じゃねぇーか、まぁさっさとパクノダを治して貰えたらオレもホームに帰れるからな、オレがいねぇーと他の奴らはバカばっかりで締まりがねぇから、さすがにそろそろ心配だぜ)

 

ノブナガ「見たとこ隣の兄ちゃんは用心棒かなんかか?ん?」

 

紅葉  「用心棒?ハッハッハハ!まぁそんな処だ。ただ連れてきて正解だったよ。アンタ相当デキるだろ?一人で来てあんなに風に睨まれたら足が震えてしまう所だったよ」

 

ジャック「クックック」

 

ノブナガ「……よく言うぜ、まぁ黙ってついてきな」

 

そこから暗い森の中を一言も話さずにただただ歩いた。20分ほど経っただろうか舗装されている道に出るとその先にプレハブの小汚ない建物が見えてきた。

 

外からは見えにくい位置にあり、上空からも森の木が生い茂り、見えないような形となっている。元々はこの地域に住む民族とこの大陸の政府が開拓の為、長期に渡り戦争を行っていたようであるが、結果は政府側が結託した原住民達の抵抗に開拓までに掛かる時間と費用と人員を天秤に掛けた際、割に合わないと感じ撤退した。

 

この建物は政府側が医療所として使っていた場所をそのまま使っている、営業の許可を持たない闇医者の運営する病院のようだ。

 

ノブナガ「ここだ、一階が診療所、二階が病室となっている。診て貰いたい連れは二階の9号室にいる」

 

中に入ると、病院の清潔なイメージとはかけ離れており、紅葉が溜息を吐いた。

 

紅葉  「ジャック、なぜ病院は白を基調としているか分かるかい?」

 

ジャック「考エタコトモナイナ、清潔感ガアルカラカ?」

 

紅葉  「まぁ半分正解だ。衛生上の問題で敢えて汚れが目立つ色にしているっていうのもあるよ」

 

ジャック「確カニ、アンタノ病院ハ白衣モシーツモ全部白ダッタナ。手術室ダケガ違ッタ」

 

紅葉  「あぁ、それは視覚効果に関係しているんだよ。手術中に我々医師は赤い血液や内臓を長時間見続けるからね、集中して濃い色を一箇所を長時間見つづけた後に白い背景に視線を外すと赤の補色である緑色の残像が残り易いんだ(補色残像効果)といってね。

 

残像が生じると目が慣れるまで手元がはっきり見えないことがあるから手術室の壁や床はグリーンやブルーが多いんだ、手術着も白衣じゃないだろ?」

 

ジャック「ナルホドナ」

 

紅葉  「そして衛生面の観点から言わせて貰うとこの病院は病院とは呼べないな保健室程度の設備しかないんじゃないか?」

 

ノブナガ「(・・・やっぱりコイツ気に入らねぇな)ここはワケありのゴロツキしかいないからな、あくまで応急処置レベルだろ、ただ金を積めば積んだだけ手厚く看護して貰える、許可がある訳ではないが医師や対応のレベルも金次第って訳だ。二階は違うぜ?」

 

そう言いながら階段を登り扉を開けると先程とは比べ物にならない清潔感のあるフロアが視界に入った。

 

紅葉  「ほぅ、これはこれは。」

 

ノブナガ「俺の連れは9号室にいる、一番奥の部屋だ」

 

そう言って歩き出し、9号室の前の扉のノブにノブナガが手をかけた。

扉を開けると外からは1階とは同じ建物とは思えないほどの室内が広がっていた。

30畳ほどの室内ではあるが、置かれているソファーやデスクは決してきらびやかな訳ではないシックなものだがその質の良さをただそこに存在することだけで解らせる。

 

入って直ぐ左手側に向かい合うソファーとその間にデスクがあり、奥にはキッチンや冷蔵庫もあった。右手側には白いカーテンに囲まれている空間。おそらくここに患者がいるのだろう。囲われているサイズからしてベットはキングサイズ。デスクの上には花瓶が置かれ、まだ数日であろうか水々しい白いガーベラが一輪挿してあり、その花がシックな室内の中で一際目に入った。

 

ジャック「悪クナイナ」

 

ジャックがソファーにドカッと座り長い足を絡ませるように4の字を作り、腕を組む。2〜3人掛けのソファーなのだがジャックがその領域を占領した。座った振動で白いガーベラが揺れ、花瓶の中で向きを変える。

 

ノブナガ「あっちだ」

 

ノブナガがソファーに座ったジャックに上から見下すように冷めた視線を送り、紅葉を右手側のカーテンの方へ顎でしゃくった。

 

カーテンがシャーッッっと心地よいスライド音を立てて開かれると、長い睫毛が印象的な女性が眠っていた。 口には酸素マスクをつけて、心拍数や脳波なども横にあるモニターで確認ができるようになっていた。

 

紅葉  「カルテを診せて貰えるかい?」

 

おそらくこれも医師から買い取ったのだろう。ノブナガが懐から取り出したカルテを紅葉に投げる。

 

パラパラとカルテを眺め、一言だけ失礼、そう意識のないパクノダへ断り眼球運動を見たり、布団を捲り、患部である腹部をはだけさせ、なぞるように傷口に触れた。

 

紅葉  「適切な処置ではないでしょうか?この病院に運ばれて彼女は幸運でした。」

 

ノブナガ「だが、意識が戻らねぇ……医者に言わせれば目覚めるのは明日、何年、何十年後か…それも解らないそうだ。動かすのはよくねぇってことで毎日バカみたいに高い入院費を払い続けてる始末だぜ。」

 

 

ポンッ!!

 

 

部屋の奥で乾いた音がした。

 

ジャックが冷蔵庫からシャンパンを開けたようだ、戯れにコルクを親指と人差し指でまるでコインのように平たく潰し、デコピンの要領でシンクに弾き、そのままラッパ飲みをする。カランカランと甲高い音を立てて踊るコルクの音に被せるよう、額に青筋を浮かべながら舌打ちをし、ノブナガが紅葉に問いた

 

ノブナガ「おい、治せるか?」

 

その質問を鼻で笑い、紅葉が腹部に触れる。

 

□「試合中にオペ開始(オペレーションスターティング)」□

 

□念により細胞を活性化させる能力

 

細胞や神経などを念によって活性化させることができる。医師である紅葉の知識と経験により初めて可能になる。活性化可能なものは血液や皮膚、臓器、毛髪や爪に至るまで。直接自身の念を送り込むことによって発動するので患部に触れる必要がある。発動にはかなりの集中力を有する。また、条件次第ではその逆、死滅させることも可能。□

 

 

触れた箇所にオーラが集まり、患部を覆おってゆき、ノブナガがゴクリと唾を飲み込む音が聞こえたような気がした。

 

ジャック「オイ、アンタ、コッチデイッパイヤロウゼ?」

 

ノブナガはそれを無視して紅葉を凝視する。

 

フッと息を吐きジャックが再びソファーに体を預け、2本目のボトルが空く音が部屋に響き、2度目の振動で花瓶に挿された白いガーベラが元の位置に収まった。

 



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HANMAR×HANMAR♯40

大きく息を吐きながら紅葉がタオルで顔の汗を拭いていた。

能力の発動にはそれなりの集中力が必要となるようだ、顔の汗を拭き終えると涼しい顔で言う

 

紅葉  「明日、何年後、何十年後だって?腕は悪くないがここの医者は人体の神秘を何も解っていない。」

 

ノブナガ「どういうことだ?返答次第では……」

 

ノブナガが持っていた刀の入った刀袋の紐を解いてゆく、ゆっくりと、そして確実に紅葉とノブナガとの空間の空気が重くなる。

 

紅葉  「私がここに来なければ彼女が目覚めることは一生なかったと言っているのだ」

 

ノブナガ「‥‥…………!?」

 

紅葉  「破壊されていた神経細胞と神経線維の一部を1ミクロンの誤差なく修復した。おそらく打ち付けた際に外傷はないが頭部にもダメージがあったようだ。腹部の方は女性なのでサービスで傷口も元通りに治しておいたよ、ほら、もう目覚める」

 

紅葉がそう言うと、パクノダの長い睫毛がピクピクと動いているのが見て取れとれた。

 

ノブナガ「パク!!おい!起きろ!!」

 

自分よりもパクノダに近い位置に居た紅葉を押しのけ、ノブナガが駆け寄り肩を揺すった。

眉間に皺を寄せながら一度強く目を閉じ、その数瞬後にパクノダの目がパッチリと開く。

 

ノブナガを制し、紅葉が酸素マスクや脳波計、点滴を手慣れた手つきで外してゆく

 

紅葉  「ごきげんよう。お目覚めはいかがかな?」

状況を理解するよりも早く、ノブナガの声が耳に入っていたので少し安心していた。そして薬品の匂いや目の前にある器具などから病院にいることを知り、既に安全地帯にいるということを理解したパクノダは答えた。

 

パクノダ「今回ばかりは死んだかと思ったけど、救われたようね。」

 

紅葉  「ええ、お身体を労わって下さい」

 

無表情で口を動かしたパクノダに作られたような笑顔で返す紅葉は汗を拭いたタオルをカバンにしまって歩き出した。

 

紅葉  「では入金は指定の口座に。ジャック、用は済んだ。行くぞ、」

 

入り口近くのソファーで、あらかじめ冷蔵庫に入れられていたアルコールと食料のほとんどが床に転がっていたのを少し呆れたように見ながら紅葉が扉に手を掛ける。

 

それに続くようにジャックは立ち上がり、大きく伸びをした。扉に頭をぶつけないように片手で扉の高さを確認しながら屈むようにくぐる。

 

あまりにも事務的かつ素っ気無い幕引きに少し呆気にとられ立ち竦んでいたノブナガは今しがた気が付いたかのように、2人を追いかける、幸い2人の背中を部屋を出て数歩行ったところで、その視界に捉えることが出来た。その背中に声を掛ける。

 

ノブナガ「おい!ノブナガ=ハザマだ。腕を疑って悪かった。アンタには救われたぜ。」

 

紅葉  「シノギ=クレハと申します。あれだけの殺気を受けながらの手術は初めてだったので肝を冷やしましたよ」

 

ノブナガ「カッカッカッ!!報酬は弾んどくぜ」

 

紅葉  「これが私への直通です、また何かあれば次回からはこちらに。」

 

カバンから一枚の名刺を取り出しノブナガの方へ歩み寄り、渡した。

 

パクノダの身体のどこかにある蜘蛛の刺青を紅葉が確認したのかは定かではないが、そのまま背を向けて歩き出した紅葉は小さな声で(何かと縁がありそうなのでね。)そう呟いた。

 




シャル 「パクノダの意識が戻ったって!?」

ノブナガ「カッカッカ!あぁ!気に入らねぇ奴だと思ったが腕は確かだったぜ!もうピンピンしてらぁ。早ければ4日程でそっちへ戻れそうだ。」

シャル 「それは良かった。みんなにも伝えておくね!ちょうど全員に召集が掛かったんだ」

電話口で嬉しそうにパクノダの復活を告げるノブナガが、シャルナークからの言葉を聞いてさらにニヤけた。

ノブナガ「解った。今日にでもここを立つ」

意外にも旅団員の全員が一同に会するのは3年と2ヶ月ぶりになる。 団員の1人1人がプロハンタークラスでも上位の能力者となる為に、請け負う仕事が数人で事足りることから、全員で取り掛かることは多くなかった。

団長であるクロロが気まぐれ且つ、その消息が掴みにくいということも原因の一つではあるが、前者の方が的確であろう。

能力の利便性を除き、その時、その場で捕まった者を連れて行けば遂行が困難な仕事はそう多くない。

3年2ヶ月前とは3人メンバーが異なっている。4番ヒソカ、8番シズク、そして我らがスエドウ=アツシ。

ノブナガも浮き足立っていたのかシャルナークとの電話から3日後にはアジトに着いていた。
あの森の中で起こった出来事をウボォーギンやフィンクスに話すと、冷やかすかのように大笑いされ、そこでまたバチバチの喧嘩が始まる為、本拠地からこのアジトへきてからは末堂の負担はいくらか軽減されたかのように思われる。だがそれ以上にパクノダにビクビク怯えながらの生活が始まった。

原作を読んでいる彼は、オークション時にヒソカの企みが団員にバレなかったことから、 団員同士ではそうそう能力の使用はないだろうと高をくくってはいるものの、もし仮に自分の能力や、その制約が周知されてしまっては死活問題となろうことを恐れている。

それ以前に恥かしくて死んでしまいたい。

誰もそんな事には興味がないことをこの漢は未だに理解できていない事が凄いが、兎にも角にもそこから数日後にクロロが戻り、旅団員12名(ボノレノフ:消息不明)が一同に会した。

クロロ「久しぶりの者も初めての顔を合わす者もいるだろうが、よく集まってくれた。」

旅団は本拠地の他に、世界中に仮宿のようなアジトを持っているのが伺える。
ここは古い廃墟となったホテルのような建物だ、その催し会場であったであろう場所の壇上にクロロが。団員は各々好きな場所に立つ。末堂厚は既に長い時間を共にし、修行をしたり茶化されたりしている中で、過ごした時間の短いクロロ、ノブナガ、ヒソカを除く男の団員には一種の仲間意識のような物を持っていたが、こういう畏まった場に会すると、その意識を改め無ければならないと思った。

クロロが醸しだしている緊張感なのか、別の何かであるか不明であるが、そう広くないこの場のピリピリした空気に押し潰されそうになっていたからだ。

クロロ 「ボノレノフの姿が見えないようだが?」

ノブナガ「奴は殺られた、おそらくな」

クロロ 「何があった?そう簡単に殺られるとは思えないが?」

ノブナガ「相手は人じゃねぇ……ありゃ獣…いや…鬼だ…俺とパクだって危なかったぜ?たった一人にだ」

ウボー 「テメェーが情けねぇーだけじゃねぇか。震えてんぞ足?」

ノブナガ「んだとテメェー!!」

ウボォーギンが笑いながら茶化すが、その場の空気を変えようとした彼なりの優しさなのかもしれない。
ましてやウボォーギンとノブナガの二人はよく組まされることが多く、その実力は他の誰よりも理解し合っている。

クロロ 「ウボォー少し黙れ、あまり話が掴めないな、つまりたった一人に手も足も出なかったと言うことか?その分だと油断をした訳でもなさそうだが?」

沈黙のまま言葉を選ぶノブナガにパクノダが助け舟を出す。

無理もない、状況を説明しようにもあまりにも身に起こったことが信じられず、未だにノブナガは起こった事態を夢であったかのように、そう思いたいとさえ考えているのだ。

パクノダ「私の能力……あまり見せたくなかったけど、いいわ」

パクノダが具現化した銃を構えた。既に知られている初期の団員には見せても構わなかったが新しく入った団員や能力を知られていない団員には触れることで対象から記憶を読み取ることが出来るだけの能力だと思われていたかったからだ。

パクノダ「まずは結成時のメンバーから行くわね。記憶弾(メモリーボム)」

打ち込まれた弾丸がパクノダの記憶をそれぞれの額に。そこに現れた映像はまさに鬼。

その後、残りの団員にも等しく弾丸を撃ち込む。

話を右の耳から左の耳で聞き、ノブナガをからかっていたウボォーギンやフィンクス、フェイタン、フランクリンも、その記憶を上質なワインを口に含み、舌で転がすように、それぞれの脳内で何度も愛でた。

ウボー   「戦ってみてぇ!!」
フィンクス 「つえーな、コイツ」
フェイタン 「買いかぶりすぎね、ノブナガが弱過ぎただけよ」
マチ    「ちょっとアンタ達本気で言ってんの!?」
ヒソカ   「クックック………」
フランクリン「オーラの量は大したもんだ」
シズク   「あまり出会いたくはない人種ですね」
シャル   「これだけデタラメなのに…まだ念を覚えてない……?」
クロロ   「……………。」




スエドウ  (刃牙の親父じゃねぇかッッッ!!!)


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HANMAR×HANMAR♯41

末堂(オイオイオイ!!どーゆーことだッッッ!!!なんで範馬勇次郎までこの世界にいやがるッッ!館長も奴も来てるってことはもしかして他にも・・・?しかもあのオーラ・・・背筋が凍ったぜ・・・俺とは質が違う・・・。

ただ・・前の世界では完全に実力だけがものをいう世界だった・・・俺がどんなに背伸びしても克己さんや刃牙には勝てないってことは解りきったことだ。

でもよ・・・ここはハンターハンターの世界だぜ?念があるッッッ!! 完全に自力至上主義の世界じゃねぇーんだ。

ましてや範馬勇次郎が地道に鍛錬するようには思えねぇーし、誰かを師に学ぶって姿勢は考えられねぇーからな。元の世界では前に立つことさえ出来なかったが・・・この世界の俺は一味も二味も違うぜ!?

 

俺の前で這いつくばる範馬勇次郎・・・最高じゃねぇかwww!!

 

いやいや……落ち着けよ、無理無理、俺は格闘バカじゃないから生死を掛けて戦いたくはない。会わないなら会わないに越したことはないんだ。やっぱ怖いからなるべく会わないように、会わないように日陰を生きよう・・ 。

 

ヒソカやクロロなら勝てるのか・・?分かんねぇ・・実際に対峙したノブナガはもう駄目なんだろうけど、あいつ円の半径4メートルだし・・・扱い的には他の奴らより1枚劣るのかもな・・?

ネットでは旅団の中ではあの一言が原因でもはやネタ枠になってるけど・・・。

他の団員の反応を見るに好戦的な奴らは勝算がない訳じゃなさそうだな・・・旅団が範馬勇次郎と戦ってるところ見れるなら1原作ファンとしては見てみてぇなぁ。)

 

パクノダの記憶を撃ちこまれてから見えた映像。範馬勇次郎をあらかじめ知っていた末堂の反応は他とは違った。そしてもう一人。

 

ヒソカ(クックックック・・・どこに行ってしまったのかと思ったら・・・❤︎しばらく見ない内にこんなに美味しそうに実るなんて・・❤︎あぁ・・・あの時戦わなくて良かったよ❤︎でもまだ早い・・・もっともっと美味しく実ってから・・・❤︎)

 

他の団員がそれぞれの品評を行っていたが、その記憶を脳裏で何度も再生しているのかヒソカの念が暴走した。範馬勇次郎の凶悪な念に記憶で触れ、おさまりがつかなくなったのか本人の自覚なしに凶々しいオーラを纏わせている、その光景に気がついた皆は喋るのを辞めた。

 

一瞬包まれた静寂をクロロが切り裂いた。

 

クロロ「 面白そうな人材ではあるが我々に危害を加えようという訳ではないようだ。ボノレノフとこの者に関しては今回の仕事が終了次第、事に当たろう。勘の良い者は感づいているだろうが、今回招集を掛けた理由は年に一度開催される世界最大の大競市なのでな。あまり時間がないんだ。」

 

マチ 「ヨークシンシティで開催されるドリームオークションね。どこを狙うの?やっぱり古書全般?」

 

フェイ「違うね。きとゲームね世界一高いゲームソフト何本か売りに出されるよ」

 

末堂 (このやりとりの現場にいるってちょっと感動するな。昔読んだ時は俺もガキだったし旅団カッケーー!って思ったシーンだ・・・フリも綺麗過ぎるくらい決まってるからなぁ。さぁ来るかッッ!?)

 

 

クロロ「全部だ。地下競売のお宝丸ごと全部かっさらう」

 

末堂 (キタキタキタ!!そしてその後も!!)

 

ウボー「本気かよ団長、地下の競売は世界中のヤクザが協定を組んで仕切ってる。手ェ出したら世の中の筋モン全部敵に回すことになるんだぜ!!団長!!」

 

ウボォーギンが立ち上がり、最後に問いかけるように団長。と言った声のボリュームはスイッチがおかしくなったステレオのように室内へ反響し、クロロの耳にも届いた。クロロは試すように笑みを作り。

 

クロロ「怖いのか?」

 

ウボー「うれしいんだよ・・・!!命じてくれ団長、今すぐ!!」

 

クロロ「オレが許す、殺せ。邪魔する奴は残らずな」

 

ウボー、末堂「おお!!」

 

ウボォーギンは興奮の為か、震えながら唇を噛み締め、血を流していた。それほどまでに世界を敵に回してまでの大暴れの大捕物に興奮しているのだろう。雰囲気に流されて末堂もウボォーギンに呼応した。

これほど非常識な宣誓に旅団員の誰一人として苦言を呈するものはいなかった。いや・・・

 

末堂(ヤベェー、さすがに生でこの名シーンを見ると興奮しちまったぜッ!ただ・・心の底からやりたくねぇ・・・これからどうなるんだ?マフィアや淫獣は問題ないと思うが・・クラピカ・・はぁ、まぁなるようにしかならねぇだろうけど・・着いてくしかねぇな。・・死にたくねぇ。)

 




実戦型柔術「本部流柔術」師範。本部以蔵曰く、
花山薫だけが持つ、天井知らずな矜恃。
己の肉体への信仰から武器を持たない格闘士の世界で唯一実践流を追い続けた本部がそれぞれの人物を時代の宝と称し、刃牙へ説いた言葉の中で花山薫だけが受けた唯一無二の個性(オリジナル)だ。

きょうじ
【矜持・矜恃】
自分の能力を信じていだく誇り。プライド


花山「正式に合格だーー」

この異質な漢が肘をつきながら低い声で言い放った。数日前にクラピカは依頼のリストの内一つ、名女優セーラの毛髪を入手し正式に採用となった。
任務はヨークシンまでのボスの護衛。無事にボスをホテルの部屋まで送ること。

ボスというのは名ばかりでまだ20歳前後の少女。彼女はノストラードファミリーの組長の娘で凄腕の占い師という一面の他にも人体収集家という側面も持つ。

娘の能力でここまでのし上がった組長のライト=ノストラードはこの娘のネオン=ノストラードの能力を失うことを心底恐れているのがこの護衛の任務からも伺える。

そして人体収集家という側面を持つ多感な年齢の娘が自ら世界最大のオークションで競りの雰囲気を楽しむといったワガママを聞きたいという、親心もあり、ファミリーの親として、一人の娘の親としての感情が交錯しているのが護衛の数や待女の数から見て取れる。
片田舎のマフィアがここまでのし上がったのは娘の能力による部分がかなりの要因を含む為、妬みや恨みから命を狙う輩が多いようだ。

花山「ヨークション郊外のリンゴーン空港まで専用飛行船で行く、移動時間約35分。そこからホテルまでは専用車を使う、移動時間約90分。新入り3人は陣形の一番外を囲む。何か質問は‥‥?」

花山が端的に心の奥底にズドンと響く声で言い放つ。
この花山薫はノストラードファミリーの若頭というポジションに居ながら、その腕っ節の強さから今回の護衛のリーダーも兼任しているようだ。

この世界に来て数ヶ月だが既に花山薫が根城にするノストラードファミリーのシマ周辺では喧嘩師:花山薫の異名が広がっており、悪戯に手を出してくる酔狂な輩などいなかったのだ。存在自体が抑止力にもなるのだろう。

新入りの3名の内の2名はその雰囲気に圧倒されており、言葉を挟む余裕すらなさそうだ。唯一冷静に分析をしている彼を覗いて。

クラピカ「ボスを狙う人物の心当たりは?」

花山  「‥‥‥‥‥‥‥‥‥。」

クラピカ「要は実際に行動を起こすかもしれな人物の心当たりだ。」

花山  「‥‥‥‥‥‥‥‥‥。」

クラピカ「敵が絞れれば動機・性格・環境がわかり対策が立つ。対策があれば護衛の安全度が増すだろう?」

花山  「‥‥‥‥‥‥‥‥‥。」

クラピカ「(なぜ質問の有無を聞いたんだッッ!?)」


クラピカの中で小さな疑念の水滴が今、大きな波紋となって心を波立たせていた。

その後、待女から護衛の対象であるボスのネオンを紹介された。


ーーーーーーーーー

<何もかもが値上がりする地下室 そこがあなたの寝床となってしまう

 上がっていない階段を降りてはいけない 他人と数字を競ってもいけない>

ーーーーーーーーー

花山「これが最初の4行だ。このくだりから始まる詩が他に3遍、つまり4人の顧客に同じ占いの結果が出た。その4人の共通点は今年の地下オークションに参加する予定がある。」

  「地下競売に出ると命が危ないという占いか…‥」

花山「おそらく」

雇い主であるノストラードファミリーボスの娘のネオンは凄腕の占い師という肩書きと、もう一つ人体収集家という一面も持つ。

クラピカが数ある以来の中から斡旋所で今回の仕事を選んだ理由はそこにあった。

全ては目的を果たす為、狂わしい程に自己を犠牲にする……。

花山薫と電話口に話しているのはネオンの父親であるライト=ノストラード。今回のオークションに参加する顧客の占い全てに眠ることに関しての言葉が入っていた。
今までのデータから見るに眠るに関する言葉は病や死の暗示を示す。

花山薫は顧客への送信に警告も忘れずつけることを告げ、部下へ投げた。

100%当たる占いは回避も可能。オークションに参加せず、下りの階段を降りなければ問題はないという旨。だがオークションに参加し、落札した場合の売り上げの一部はコミュニティー側に入る。

勢力争いの激しいアンダーグラウンドの世界で顔を売る絶好のチャンスでもある為、警告があったところで参加を辞退するマフィアはいないであろう。

このオークションに参加する権利を持つことだけで彼らにとって大きなステータスになる。
花山はライト=ノストラードから娘のネオンを競りに参加させるなという旨も告げられた。
ネオンは自分の未来を視ることが出来ない。いくら警護を固めても不測の事態に何が起こるか対処できない今はそれが無難であろう。オークションで何かが起きることは解りきったことなのだから。

それを告げようとネオンの扉をノックし、扉を開けた。

花山「ボスから連絡があった、お前は今年オークションに参加させない。目的の物は俺達が落札するからリストを書いておけ」

ネオン「いやッ・・・・わかったわ・・・・。」

目的の物を手に入れるという以上に、今年は競売の臨場感を楽しみにしていた部分が大きいネオンにとっては相当ショッキングなニュースだったが花山薫の圧力でそれを言われると従うしかないとわかっていた。

組長の娘ということで欲しいものは何でも手にしてきたきたし甘やかされて育った。
自分の立場や身の振り方も心得ている。

父からの寵愛。

自己の能力。

それを理解した上で、今までワガママ放題に生きてこれたが、この漢がやってきてからというものどうも上手くいかないのが最近の悩みだった。

ネオンの書いたリストを手に部屋を出ると、花山の付き人であろうか概ね、この護衛チームの副リーダーであろうダルツォルネという男に手渡し、指示を出し部屋に篭ったようだ。

首尾よく部屋に集められたクラピカ達新人は指示を受ける。

ダル「早速、次の仕事だ。地下競売で次に述べる品物を競り落とす。金に糸目はつけない。
必ず手に入れる。

<コルコ王女の全身ミイラ>

<俳優ソン・リマーチ使用済みティッシュDNA鑑定書付き>

<クルタ族の眼球 通称:緋の眼>」

モニターに映し出される品の画像を観ていると、不意に映し出された緋の眼にクラピカの鼓動がトクンッと高鳴る。
その音がクラピカと同じくして護衛チームに入ったミュージックハンターのセンリツの耳に不協和音のように残った。

ダル「一つ!!何者かが地下競売を襲うという情報が入っている。いかなる不測の事態をも臨機応変に対処し「目的物の入手」を大前提に行動せよ!」

会場の中は全て「信頼」で成り立っているらしく、コミュニティー側も防犯ビデオ等は使ってない。
地上のイザコザは全て忘れるのが暗黙の掟となっており、それだけに何かが起きた時は各自の証言が重要視される。
この言葉は裁判所での宣誓証言よりもはるかに重い。だからこそ会場内での印象は大切となる。
絶対に些細なモメ事も起こさない為に仲間以外との会話さえ慎むのが無難だろう。

下手をすれば全世界のマフィアを敵に回すことになる。

新人のクラピカは先程のホテルまでの護送任務も、陣形の一番外。
今回の任務も正面口側の監視と至って重要とは思えない配置につかされている。

いち早くこの組織の内部に取り入って情報を得たいのだが現状に逸る気持ちを抑えきれずにいた。

ダル「それでは任務開始!!」


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HANMER×HANMER♯42

「オラァ!!!クソッッ!!」

 

「いいぞー兄ちゃん!やれやれ!!」

 

「スッゲーな本当に擦りもしねぇじゃんか!」

 

繁華街のど真ん中で男の怒鳴り声と歓声が聞こえる。

二人の男を取り囲むように人集りが出来ていた。中心にいるのは先程怒鳴り声を上げていた男と我らが範馬刃牙だ。最後に放った男のテレホンパンチが空を斬るのと同時に時間を告げるベルが鳴った。

 

刃牙「はい!ここまでッッ!アンタ良いパンチしてたよ!」

 

「ハーハーハー………よく言うぜ……!一発も当てられなかったチクショー!持ってけ!」

 

肩で息をする男から刃牙へ1000ジェニーが手渡された。

 

刃牙「へへ、毎度!」

 

汗ひとつ流さず呼吸の乱れもない刃牙は人差し指と中指で、差し出されたその1000ジェニーをピッと引き抜いた。

 

刃牙が行っているのは俗に言う殴られ屋だ。そして、30秒1000ジェニーで刃牙の顔面に一発でも当てる事ができたら100万ジェニーという条件がついた条件競売というもの。普通は怪我などを考慮して互いにグローブをつけて行うものだが、刃牙も相手も素手で行っている。

 

グローブをつけることにより手首のしなりや手首から先の動きが制限されたり、普段グローブをつけ慣れていない素人からしたら重く、大きなグローブをつけて30秒間パンチを繰り出すのは相当堪える。

これは手を出せなく不利な立場になる殴られ屋にとって最低限必要なことになるのだが、刃牙はそれを除外した。

 

理由はグローブを購入する金額をケチったためである。刃牙はここまで30秒の時間を告げるベルにしかまだお金を使っていない。そのベルも500ジェニーほどで購入した安物であった。

意外に倹約家な面を見せた刃牙はそろそろ店じまいか。っと地面に置いていたその安物のベルをカバンに入れ、ポケットから取り出した今日の稼ぎを乱暴にカバンに押し込んだ。すべて1000ジェニーであるがかなりの厚みがあり、今日1日の盛況ぶりを伺わせた。

 

そんな矢先に一人の少女が声を掛けてきた。

多くの客を相手にしていたが女性の挑戦者は初めてだったので刃牙は少し驚いたのか吟味するようにその女性と視線を合わす。

 

「1000ジェニーが100万ジェニーになるって本当ですか?」

 

面食らった表情の刃牙にさらに追い打ちを掛けるような言葉を投げかける。年齢は刃牙と同じくらいだろうか?

黒のタートルネックに女性らしい曲線を際立たせ、眼鏡を額に乗せて声を掛けてきた為か目の焦点が定まっていないようでウルウルとした大きな瞳が印象的だった。

 

刃牙「え?あぁ……まぁ30秒で俺の顔面に一発でも当てる事が出来たらだけどね」

 

「もう終わりですか?」

 

刃牙「やります……?」

 

「やります」

 

シュッと音を立て人差し指と中指に1000ジェニーを挟んだ指を刃牙に差し出した。

 

ギャラリーの酔っ払い達が少女の挑戦に悪ノリのヤジを飛ばすのが滑稽だったが当の本人は何も気にしていない様子だった。

 

刃牙「じゃあ俺がスイッチを押したらスタートということで、このベルが鳴ったら終わりです」

 

「はい」

 

刃牙「じゃあスタート!」

 

多くの挑戦者は時間の制限がある為スタートと同時に距離を詰め、やみくもにパンチを繰り出してきたのだがこの少女はゆっくりと刃牙の方へ歩いてきた。大きな瞳のその視線は判断できないが歩いてくるその動きに刃牙はごくりと音を立てて唾を飲み込む。幾多の闘士と戦ってきた経験から培われた相手の強さを測る物差し、それが危険信号を差している。

 

「エイッッ!!」

 

刃牙の顔の横、右肩辺りにビュッッと音を立て風が吹いた。

 

刃牙「ッッッ!!」

 

咄嗟に身体を捻りその攻撃を交わした刃牙は安堵していたが、その攻撃は避けるまでもなく拳が空を切っていたようだ。

 

「やりますね」

 

刃牙「いや、あれ避けなくても当たってなかったみたいだけど……ていうより時間制限があるからもっと打ってきなよ」

 

既に刃牙は少しワクワクしているようで、本日初めて重心を前後左右どこにでも動かせるようにステップを踏みだしていた。刃牙の気持ちとは裏腹にその少女は考え込むようにして沈黙していたが急に思い出したように刃牙に問いかける

 

30秒の制限時間内に罵声を浴びせられたりはあったが普通の会話をしてきたのもこの少女が初めてであった。

 

「あの、さっきスイッチを押したらスタートでベルが鳴ったら終わりって言いましたよね?」

 

刃牙「え?あぁそう言ったけど?」

 

「ならベルが鳴らない限り終わらないってことですか?」

 

刃牙「いや、そういうことじゃなくて30秒だから……うん、まぁそういうことになるかな」

 

「あと何秒くらいありますか?」

 

刃牙「もう5秒もないんじゃないかな?会話してても俺はいいけど、早く打ってきた方がいいんじゃないか?」

 

刃牙がそう言い切ったあたりから少女が刃牙の方ではなく荷物とベルが置いてある方向へ歩いていった。

 

刃牙「あっっ!」

 

ベルの付近で立ち止まりにっこりと笑った少女がしゃがみ込みベルを手にしようとしたがその手は空を切った。

 

その瞬間にベルが鳴り響き30秒が経過した事を告げる。

 

刃牙「終わり……だけど?」

 

「そうですね、失礼しました」

 

不思議な経験をした刃牙だったがその少女がそそくさとその場を去っていき、声を掛けたかったがそう思った時にはもう姿が見えなくなってしまっていた。この世界には強い人がたくさんいるんだなぁと噛みしめ(そういえばあの子可愛いかったなぁ……)と心の中で呟いた。

 

 

ーーーーーーーーー

 

シズク「攻撃は避けられるし、なぜベルを手に取れなかったんだろう…100万ジェニー欲しかったなぁ」

 

フランクリン「眼鏡掛けてないからじゃないか……?」

 

シズク「あ!!!!」

 

ーーーーーーーーー

 

帰りに道に露店で様々な出来合いの食料と飲料などを買いこみ、宿泊しているホテルに戻った。

今日の稼ぎを数えると16万7千ジェニー。後半はヤケになったリベンジャーばかりになり、最初に1万ジェニー払うから3分殴らせろなどという者もおり、数時間でなりの収入となった。

だが刃牙の反応は違ったようだ。

 

刃牙「こんなもんか…… これじゃ2人には勝てないなぁ。いいアイデアだと思ったんだけど……」

 

先ほど購入した特大タッパ入りのおじや(梅干しを添えて栄養バランスもいい)を口に運びながら手に取ったコーラのキャップを勢いよく開けた。

 

プシューー

 

刃牙「こ!??ッッ!!!これだァァッッッッ!!!」

 

刃牙はすぐにそのコーラのラベルに書いてある会社に連絡をする。

 

すでに口元からは笑みがこぼれており何か企みがあるのが伺えた。

 

 

 

 




キルア「あ〜〜〜あ。4コーナーでムームーダンスがこけなきゃ12倍で入ってたんだよな〜」

ゴン 「バクチで一発当てようとするのがまず間違い」

キルア「っせーな!お前こそ2週間で1万5千!?路上に空き缶置いただけでもそれよりは稼げるぞ!!

ゴン 「勝ちは勝ちだもんねー。って言ってもまだバキが来ないとわからないけどね」

キルア「 まぁ勝ちみたいなもんだろ。アイツもコツコツ金稼ぐタイプには思えないし俺と同じで0か100だと思うぜ?」

ゴン 「もう直ぐ来ると思うから待ってようか、レオリオも来るはずだから」

ゴンとキルアが久しぶりの再会を喜び合う。些細な口喧嘩から別行動になり、賭けの勝敗を楽しそうに話しているところを見ると、既に賭けの方がメインになっていて揉めた原因などは忘れているようだ。
二人は市場の真ん中にある広場の噴水の縁に座って、刃牙とレオリオの到着を待っていた。

レオリオはともかくとして、時間になっても来ない刃牙を二人がそろそろ心配になってきたところでこの大衆的な市場にはふさわしくない黒塗りの大きなリムジンが二人の前に止まった。

キルア「あ〜ぁ、こんな場所にあんなデケェー車で入って来やがってみっともねぇな」

運転席が開き、白い手袋をした身なりの良い老紳士が扉を開け目の前にレッドカーペットを敷く。

10メートル程であろうか?そのカーペットのロールの先がちょうど二人の前で終わり、道が出来上がった。
先程まで慌ただしく行き交っていた人々もスターでも来るのかと立ち止まって視線を集めている。

たまたまカーペットが目の前まで来た為にキルアがからかってやろうか?とイヤらしい顔でゴンに促すがそれを止めなよ、と制す。大方、金持ちが庶民の市を物珍しそうに見学にでも来たんだろうと思っていたようだ。
そして後部の扉が開き現れたのは見慣れないジャケット姿の範馬刃牙。

キルア「へッッ?!ッッて、バキじゃん!!お前何やってんだよ!?」

ゴン 「え?バキ!?久しぶり!どうしたの!?」

刃牙 「これはこれはキルアくんに、ゴンくん、元気だったかい?」

驚く二人を無視して、お得意のスカし顔をした刃牙が鼻息荒げにワザとらしく質問をした。

キルア「これはこれはじゃねーよ!どういうことだって聞いてんだよ!?」

刃牙 「これを見て分からないか?賭けは、俺の勝ちだッッッ!!」

ゴン 「ちなみに……いくら稼いだの!?」

刃牙 「細かい計算はしてないが今のところ89億くらいかな?ただ明日、明後日にはもっと増える計算だ」

キルアはすでに開いた口が塞がらない状態になっており、ゴンに至っては頭からボンッと爆発音が聞こえた。

刃牙 「説明する前に我が社の役員達を紹介させてくれ」

そういうと後部の扉からまたまた見たことのある顔が「よっ!」と顔を出した。

ゴン 「レオリオ!!」

そしてまだ2人。懐かしい顔が見えた。

渋川 「ひっひっひ、お二人とも元気かの?」

独歩 「オイラも忘れるなよ?」

キルア「ゴウキもドッポも!?ちょっと待てよ!色々説明しろよな?」

頭の回転の早いキルアもこの状況を並べられて、答えを導きだすことは出来なかった。ただ皆の身につける服装や小物は見るからに良い生地や素材を使っていて、リムジンから何からとかなりのお金が掛かっているのが分かった。

刃牙 「あぁそうだよな。まずは先に名刺を渡しておくよ。」

差し出された名刺には<株式会社グラップラー 代表取締役社長 範馬刃牙>と書かれていた。
なおさら意味が分からない。

刃牙 「最初から説明するさ…………」

一体、刃牙の身に何があったのかしっかりと説明させて頂こう。

殴られ屋で何とかお金を増やしていた刃牙であったが、現実的にこのまま資金が少し増えたところでとてもグリードアイランドの購入資金になるとは思えなかった。ゴンとキルアとの賭けにも度肝を抜いて勝つには考えた先に、あの時目に止まったコーラ。これが刃牙の頭の中で稲妻のように駆け巡った。

すぐさまコーラの販売会社へ電話をし、ボトルの入手経路を聞き、有り金すべてを叩いて空のボトルを購入。独歩と渋川にコンタクトを取った。

事情の掴めない二人は刃牙のいる部屋に入るとダンボールに入ったたくさんの空のペットボトル。
驚く二人は刃牙から説明を受ける。

♪タタタッタタ〜タラタッタッタッタ〜

株式会社グラップラーの朝は早い。遅咲きの桜が咲くここヨークシンのホテルの一室で伝説が生まれようとしていた。
まずはホテルの水道から水を汲む。
それを渋川剛気が練。
変化系である渋川が練を行うと水が純度の高い砂糖水のように甘くなる。

そして範馬刃牙が練。
具現化系である刃牙が練を行うと水に不純物が現れる。
そう、刃牙が練を行うと水が質の良い炭酸水になる。

そしてそれを愚地独歩が練。
強化系である独歩の練により砂糖水の量が一気に増える。

それをボトリング。

最初はこの工程で商品を作っていた3名であるが、刃牙が言う

「まだだ・・・何かが足りない」

職人気質がある刃牙は現状に満足できないでいる。

もう一つ、

後もう一つピースが揃えば………

壁にぶち当たると彼は散歩をする。頭をクリアにして一旦問題を頭から切り離してただただ歩く。
そんな風にしていると不意にアイデアに閃いたりする。

ふと立ち止まり、風に舞う桜吹雪を眺めていたら不意に声をかけられた。振り向くとゴン達と合流する前に数日早くに到着して街で遊ぼうとしていたレオリオだった。とりあえず纏と練は出来ると言うことなのでホテルに連れて帰り、水見式で練をさせてみる。

パズルのピースが揃った。

水が見る見る色を帯びて黒っぽい色になる。

刃牙「これだッッッ!!! 」

3人ががっしりと握手を交わすがレオリオに理解できないでいた。
刃牙の悩みは色。3人での作業により味は完全なるコーラ。 いやそれよりも旨いかもしれない。
原価は一体いくらであろうか?
水はホテルの水道水。あとは勝手に増やすことが出来る。

唯一の悩みは色だった。コーラだと言っても信じて貰えない。だって色が無色透明なのだから、それに着色するだけの金はすでになかったのだ。味は良い、あとは黒ければ大衆に馴染みのあるコーラだ。

レオリオが色付けしたコーラをグラスに注ぎ3人で飲み干す。

今度はがっしりと抱き合った。

世界が変わる。完璧な甘さ、喉が痛くなるほどの細かな炭酸、そして黒曜石のような美しい色。それが無限に増やせる。原価は既存の商品とは比較にならない。

刃牙「これを市場に出回るものの半値で売ろう。会社名はそうだな………株式会社グラップラーっていうのはどうかな?」

独歩「いいんじゃねェか?世界のシェアを総取りしちまおう」

渋川「カッカッカッカ、卑怯とはいうまいね」

レオリオ「よく分かんねぇーが協力するぜ、練の修行にもなりそうだしな」

以上が刃牙がいかにして巨万の富を築いたかの顛末である。


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HANMAR×HANMAR♯43

キルア「つーーことは・・・グリードアイランド落札までに少なくとも倍は用意したいんだけど行けそうか?」

 

とりあえずの状況は整理できたキルアが刃牙に問いかける。

最低落札価格は89億ジェニーとなっていたが競売というシステムを取っている以上は軍資金が大いに越したことはない。

 

ゴン「オレとキルアも手伝えるかな?」

 

刃牙「あぁ頼む!世界中から注文が殺到してて困ってるんだ。二人が入ってくれたら生産スピードは数倍になるよ。」

 

キルア「ビスケにも声かけたらどうだ?アイツのマッサージがあればオーラも回復できるし、まぁ相当吹っ掛けて来そうだけど……」

 

刃牙 「その手があったかッッ!!」

 

既に6人が結託し、そこにビスケも加わり体制はさらに磐石になりそうであった。

 

キルアが携帯を取り出し、そういえばアイツもヨークシンに用があるって言ってたなとつぶやきビスケへコールする。

 

prprprprprprprpr

 

ビスケ「あら、久しぶりだわさ!元気してた?!」

 

キルア「あぁ、ちょうど今ビスケの話になってさ」

 

ビスケ「系統別の修行は毎日ちゃんとやってる?!」

 

キルア「やってる、やってるから」

 

ビスケ「ゴンはちゃんと苦手な変化系の修行もしてる!?」

 

キルア「あぁーー!!わーったからちょっと話を聞いてくれ!」

 

久しぶりの原石達からの連絡についつい老婆心が出てきてしまい、早口で捲し立てるビスケにキルアが本来の目的を告げる

 

キルア「今みんなとヨークシンで合流したところなんだけど、ビスケも用があるって言ってたろ?もし近くにいるなら合流しないか?ちょっと仕事の話もあるんだ」

 

ビスケ「・・・・・みんな?そこにアホドッポもいるわささ?」

 

キルア「あぁ、ゴウキもあとリオレオってハンター試験で一緒だったヤツもいる」

 

ビスケ「・・・・・ドッポに代わって!!」

 

キルア「ドッポに?」

 

ビスケ「いいから早く代わってちょうだい!!!」

 

然りげ無く名前を間違えられたレオリオが突っ込む間もなく、キルアは電話越しのビスケの声のトーンから底知れぬ何かを感じたため、素直にご指名の愚地独歩へ電話をパスする。

 

独歩 「おぅ、どうかしたかい?」

 

ビスケ「このハゲーーーーー!!」

 

ビスケの罵声は電話を持つ独歩の周囲にいた皆に耳を凝らさずともよく聞こえた。

電話を耳から離し、先ほどの罵声でダメージを受けたのか耳に指を突っ込みながら嫌々な皺を眉間の辺りに寄せながら答える

 

独歩 「ずいぶんな挨拶だ・・・・」

 

ビスケ「おい!このハゲチャビン!アンタ、ズシに何言ったわさ!!ウイングが手塩に掛けて育ててたのに今部屋に引き篭もりっぱなしで何を言っても聞く耳持たずに黙々と・・」

 

独歩 「ズシ?あぁアイツは若いのになかなか見込みがあるからな。黙々となにしてるんでェ?」

 

ビスケ「よく分からない記号を書き続けてるわさ!!部屋中紙だらけよ!おかげでウイングも自信喪失して引き篭もりになりそうだわさ!」

 

独歩 「ハッハッハッ、こいつはいい!まるで若い頃の俺を見てるようだぜェ」

 

ビスケ「アンタねぇ・・・・」

 




刃牙とゴン、キルアの3人が一旦ビスケの修行を終え、クジラ島へ向かってから数日後。
独歩と渋川はいつものようにビスケにみっちりと扱かれていた。
その合間合間に感じる視線。もちろん3人は気が付いていたが、その視線に敵意は微塵も感じられなかった為にそのまま放っておいた。むしろ逆に尊敬の念を持って熱い視線を注がれていたようだ。

その視線の正体はズシ。ウイングの弟子として天空闘技場で心源流拳法と念を極めるべく日夜トレーニングに精を出していた。幼いながらも既に150階にさしかかろうとしていることからその実力は明白だ。ただ……ある試合を見てからというものこの少年は修行に身が入らなくなっていた。

天空闘技場で行われた1戦。カストロvs独歩、この試合を目にしたことがこの少年の運命を大きく変えることになった。

目を奪われた。

武神、愚地独歩の美しいまでの所作、そしてどこまでも泥臭いその姿に。

たった1戦の出会いはズシにとって心源流拳法との決別を意味した。独歩の道着に書かれている神心会。 それをマジックで自分の道着にも書くことでウイングに伝えたつもりになっていた。

ズシ(師範、申し訳ないっす!だって・・・見つけてしまったんすッ!!)

だが「神心会」いくら調べても何の足取りもつかめない。肝心の独歩もあの試合以降姿が見えなくなってしまった。
困り果てたズシがあるとき買い物帰りのビスケの後ろ姿を見た。独歩の姿が見えなくなってから同様にビスケや刃牙、キルア、ゴンの姿も見ることがなくなったのでもしやと思い声を掛けようとしたが、早い、早い、とても追いつけずに姿を見失ってしまった。
だがビスケが消えて行った方向だけはわかる、闇雲にその方向へずっと歩いた。

そしてついに見つける。

髪はないが神々しい所作で汗を流す、武神愚地独歩の姿を。

数日間は遠くからその動きを見守るだけで声を掛けるのも躊躇われた。

それから数日後、ついに視線に嫌気がさした独歩が声を掛ける。
というのも最初は遠くから隠れて見ていたズシは日に日に距離は近くなる始末、最後の方はもはや隠れているのかどうかなどわからない程、荒地のはずの荒野に緑の枝を持って、匍匐前進のような体制で熱視線を送っていた為、気が散って仕方なかった。独歩が動くたびに隠そうともしない感嘆の声が耳に入るし、荒野で緑は余計に目立つ。


独歩「なんだァ?てめェ・・・」

ズシ「押忍!自分ズシといいます!師匠!自分、天空闘技場で師匠の試合を見て痺れたっす!弟子にして欲しいっす!」

渋川「カッカッカ、独歩よ、見込みありそうな童っぱじゃないか」

渋川が自分の事ではないと無責任な言葉を発する。
独歩は頭を掻きながら、面倒くさそうとも照れているとも取れる態度で答えた。

独歩「弟子ってもよォ、俺も今は見習いみたいなもんだからな・・・」

ズシ「師匠!!」

独歩がやんわりと断りを入れるが、ズシはメラメラと燃えた瞳で真っ直ぐに独歩を見つめる。

ズシ「ちなみに師匠の流派は何ですか?自分は心源流拳法っす!」

独歩「腕に覚えがあるのか、ならお前にはお前の師匠がいるんじゃないか?俺は神心会空手だ」

ズシ「からて?自分もそれに入りたいっす!!」

独歩「・・・流派を変えるってのは並大抵の覚悟がないと出来んぞ?」

ズシにとってその言葉は火に油を注ぐごとく、文字通りに瞳の炎が大きくなっただけであった。

渋川「まぁ、流派を変える変えないはひとまず置いておいて、空手を少し教えてやったらどうじゃ?」

ズシ「押忍!光栄っす!」

独歩が俺も今修行中だから面倒は見れないぞ?と溜息をつきながら構えをとる。
両足を肩幅程度に開き正面に左拳を突き出す。そして握った右拳は掌を上向きに、脇腹の横へ。
ふぅーと聞こえるように息を吐き時間が止まったと思えるほどの静寂に全神経が包み込まれる。
足の指先から足首、膝、股関節、腰、背、肩、肘の関節をフルに使い、右の拳が放たれ、左の拳があった場所へ、左の拳は元々そこにあったかのように脇腹の横へ。

武神、愚地独歩の正拳突きである

その動きを見て、ズシは額から汗を垂らし、口を開けたままフリーズしてしまった。

独歩「こいつを1万回、左右と合わせて2万回。毎日だ」

独歩はそう言い放ち、渋川へ手をこまねきその場を逃げるように去っていった。
渋川と独歩がズシから30メートルほど離れた辺りで

ズシ「押忍!!!!」

やっと現実に帰ってきたズシの大きな声が聞こえ、渋川が笑った。


※※※

小指から順に握って行き、親指は人差し指と中指に掛かるように。
小指と親指で、薬指・中指・人差し指を挟むように固く握り、そこから力を抜いた状態が拳となる。

半身で構え、引き手をしっかりとり突きを繰り出す。上半身だけでなく腰の回転を意識し

放つ。

ここまでは一度見ただけでクリアをした。すでにズシのいる場には汗で地面の色が濃く変わり、踏み込みの際に生じる地面との摩擦で土がめくれあがっている。
師匠である愚地独歩に課せられた毎日2万回の正拳突き、気をととのえ 、構え、放つ。

この一連の動きを毎日、2万回。

最初は深夜まで及んだ苦行であったがひた向きに突きだけを放つ毎日。尊敬する師匠が最初に教えてくれた型。ズシにとっては唯一の繋がりだ。腕が上がらなくなり、肩は熱を持つ。筋肉が気持ちとは裏腹に痙攣をし、出さなければならない足も鉛のように重くなり前に出ない。

ただこの苦行でさえズシにとっては喜びでしかなかった。

ズシ「師匠に近づくっす!!」

そんな毎日が続いた。日に日に慣れる体。いつしか日が沈む前には2万回のノルマを終えることが出来るようになった。そして考える時間が増えた。

独歩がヨークシンシティに旅立つ数日前。あの日以来姿を見せなかったズシが先回りして正座をしていた。

独歩「おや?あの時の坊主か、こんなところで何してやがる?」

ズシ「押忍!師匠、言われた通りあの日から毎日正拳突き2万回続けたっす」

独歩「・・・・?お前…本当にあれから毎日2万回続けたっていうのか?」

独歩は押し付けた無理難題を既に忘れていたようだ。ちょっと見て欲しいっす。そう言うとズシは鍛錬の賜物である正拳突きを独歩に披露する。

ズシ「セイ!ウリャ!」

教科書に載せてもいい程の見事な正拳突きだった。

独歩「ほう・・・見事なもんだ。これで俺が教えることはもうないだろ。精進しろよ」

そのままその場を去ろうとしたがズシの一言で足が止まった。

ズシ「光栄っす!ただ・・・拳って本当にこれでいいのかなって気になって聞きに来たっす」

独歩はその一言に驚愕した。自分も正拳突きを打ち続けていつも疑問に思っていた。拳の形はこれでいいのか。そしてその答えにたどり着いたのは齢60歳。この少年は10そこそこでその疑問を抱いていた。それも空手に触れてまだ間も無い。

独歩はズシの肩に優しく手を置き、胸元から紙とペンを取り出した。
そこに何かを書きズシに渡す。

ズシ「0.9???師匠、これは一体なんすか?」

独歩「俺の世界での数字だ、その後に9を書き続けるといつか1になる。いつか、必ず1になる」

ズシ「1に・・・なるんすか?」

独歩「あぁ、悪いな、元の世界だったら弟子にして稽古つけてやりたかったが、まだオイラも強くなりてェんだ、精進しろよ」

ズシ「元の世界?」

独歩はズシの頭を優しく撫で、笑顔を向けヨークシンシティに旅立って行った。

書き続けるという言葉を言葉のままに鵜呑みにしたズシは今も0.9の続きを部屋に引きこもり書き続けてている。

ズシ「0.99999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999....................」


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