EDF部となんか愉快な少女たち(+1) (アサルトゲーマー)
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美人で異性の幼馴染…みたいなのは縁起が悪いらしい

息抜きで書きました。多分続きます。


 美人な女性の幼馴染。ああなんと甘美な響きか。

 世の男性諸君は望んで手に入れることも叶わぬ、至宝ともいえるソレ。特に自分を慕っていたり、好意を向けてくれるような存在であった場合は「漫画とかアニメの世界の話でしょ?」と言われること間違いなしな存在だ。

 

 それを踏まえてあえて言おう。

 男である僕には、好意を持って、朝寝坊しているところを起こしに来てくれる、美人で、異性の、幼馴染がいる。

 

「起床の時間だ!朝の治安維持活動に行くぞ!」

 

 ……紹介文の頭に「とっても変な」と付く。

 頭はとても切れる。運動神経も抜群。みてくれだって上位一割に入るレベルだと断言できる。

 

「地球の防衛も一歩から!こういった地味な活動がエイリアンの撃退につながるんだ!」

 

 しかし性格というか、考え方というか…。そう、とにかく残念なのだ。

 彼女の口から時々出てくる「宇宙人」「エイリアン」「コロニスト」「インベーダー」「フォーリナー」その他もろもろによって地球は狙われているらしい。

 

「さあ行くぞ!俺たちEDF部の清掃活動の有能さを見せる時だ!」

 

 ウオオオオオー!と一人で雄たけびをあげる彼女を冷ややかな目で見つめながら僕は思う。

 彼女は、変人だ。

 

 彼女の名前は結城一(ハジメ)

 そして僕は一般仁(ジン)

 

 美人で同い年の幼馴染が変人でつらい。

 

 

 

 

 

 EDF部。アースディフェンスフォロー部。

 このけったいな名前は僕の幼馴染である少女ハジメが考えた部活名である。

 初期案ではフォローではなくフォースとなる予定だったけど、先生に再提出を求められたとか。さもありなん。

 

「よし、ひとつやったぞ」

 

 カラン、と小気味よい音が響く。それは彼女が手に下げた袋に空き缶を放り込んだ音だ。

 

 こういった清掃活動がなぜ治安を守ることにつながるんだろうかと、僕は昔、彼女に質問したことがあった。

 なんでも「割れ窓なんちゃら」とかで、軽犯罪とかを徹底的に取り締まることによって凶悪犯罪を未然に防ぐ事ができるらしい。整理が行き届いた部屋は散らかしにくいだろう?と言われて妙に納得してしまった僕はいつの間にか彼女の清掃活動に巻き込まれていた。

 

「敵を倒したぞ!」

 

 カラン、と小気味よい音が響く。

 

「もう一匹やったぞ!」

 

 カラン、と小気味よい音。

 

「殲滅完了だ!」

 

 カラン。

 

 …彼女の頭の中はどうなっているのだろう。覗くことができたのならきっと街中がスターシップトルーパーズ並みの戦場になっている光景が見えるに違いない。

 

「そっちの戦果はどうだ?」

 

 そう促されて僕は手に下げたビニール袋を掲げる。中身は大体彼女と同じくらいといった所だろう。

 

「おお!やるじゃないか!じゃあそろそろ撤退しよう」

 

 撤退許可が出た。許された。

 結構前の話ではあるが、僕は最初のあたりはかなりテキトーにゴミを拾っていた。そして彼女の言う戦果とやらが芳しくないと撤退が許可されなかったのだ。

 そんなわけで今や僕はゴミ拾いのプロ。平均して彼女と同じくらいゴミを拾えるようになったので、赤いヘルメットを賜った。

 隊長の称号と一緒に送られたそれは非常に心躍らない。しかし使わないとスネるので、気乗りしないけどバイクに乗るときに一応使わせてもらっている。

 

「ビークルに乗ってくれ」

 

 バイクに乗った彼女にハイハイと返事をしながらサイドカーに乗り込む僕。

 

 隣を見ると、朝っぱらから清掃活動をしたサイドカー付きバイクを乗り回す女子高生がニカッと笑った。

 やっぱり彼女は変人だ。

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 

「起床の時間だ!」

 

 僕の幼馴染の朝は早い。学校に行く二時間も前から僕の部屋に突撃してくる。

 はっきり言って迷惑だけど、強く言うことは僕にはできない。

 僕はノロノロと立ち上がると洗面所で顔を洗い、食卓についた。

 

「今日は味噌汁とサバのみそ焼きとトマトサラダだ!」

 

 非常に悔しい事だが、彼女の作るご飯は美味いのだ。たとえ家にほとんど何も無い日でも魔法のように料理を繰り出す姿は敬意すら覚える。

 ボーッとした頭でテレビに映る姫川クスリテルと本田教授のコントのようなニュースを見ながら味噌汁を飲みつつ考えた。

 

 これって通い妻じゃね…?

 

 テーブルの向かいに座るハジメを見る。おしとやかさの欠片も見当たらない大口でコメを食べる彼女は既にどんぶり飯一杯目を終了するところだった。僕の通い妻のイメージは一撃で爆散。

 

「再装填!」

 

 コメを装填すんな。きっちり2秒でお代わりをすませた彼女は再び飯を食べ始めた。

 彼女は可愛いのにいろいろ残念で、だけど割と何でもできる。そんなアンバランスな幼馴染からどうも僕は目を離せない。

 

 

 

 改めて言うが、僕らは高校生だ。そしてバイク通学が許可されている。

 

「ビークルにまかせろ」

 

 サイドカー付きバイクで通学するようなハイスクールガールはこの町くらいにしかいないだろう、世界ひろしといえどもね。

 

 

 本業の学業は特筆するべきことは一点を除いてなかった。

 その一点というのは体育の時間にハンドボールを裏山まで投げ飛ばしたアホがいたということくらいだ。去年は砲丸を校舎の壁にぶち込んだ馬鹿もいたんだって。

 

「どうした?しっかりしろ」

 

 そんなことを考えてたら最有力容疑者が声を掛けてきた。呆けてる場合じゃないなと僕は椅子に座りなおす。

 

 僕が今居るのはEDF部の部室だ。一般的な教室の半分ほどのサイズで、真ん中に丸机が置かれ、パイプ椅子が5脚。

 今は部員がそれぞれ椅子に思い思いのポーズで腰かけているのが見えた。

 

 まず結城一。僕の幼馴染。非常に男っぽい言動が特徴の問題児。彼女は僕の隣で地図を広げて何かしらを書き込んでいたようだ。

 

 次に神楽縁子。通称ペリ子。青と紫の中間の色をしたバイザーと長い茶髪が特徴のナイスバディ女子。彼女はスマホの動画とにらめっこをしていた。女子らしく蜘蛛が大の苦手だそうで、もし発見してしまった場合は奇声をあげながら排除する姿が見られる。

 

 最後にフェーン・フェンサー。通称おフェンフェン。ロンドンだかパリだかからやってきた留学生だ。それだけでも目立つのに長い金髪はボサボサ、身長が高いから頭をぶつけるらしくいつも黄色いヘルメット、女子のくせに性格がオッサンと属性のビッグベンだ。彼女は何をするでもなく、背もたれをお腹側に回して足をプラプラさせながら一枚の紙を持っている。

 

 あと一人部員…部員?まあ部員とは言い難いが、来たり来なかったりするあと一人の女子と僕と今日は来てない顧問の先生の6人でEDF部の総力だ。

 内訳はボケ5ツッコミ1。バランスが悪い。まるで火力だけ考えて投げる時のことを忘れていたグレネードのようにバランスが悪い。或いは威力を重視しすぎて弾がしっちゃかめっちゃかに飛ぶ銃だろうか。

 全員美人なのはいいんだ。だけどね、もう少し常識を知ってもらいたい。

 

「なあジン。最近EDFの名前が売れてきたんじゃないか?」

 

 それは変な女子高生が話題になっているだけだよ。

 

「ねえジン、これってワタシ?」

 

 糸に巻かれて死ぬんだよ!って半狂乱で蜘蛛追い回してる奴の動画?間違いなくペリ子だよ。

 

「おいジン、なんか壊した備品の請求ってのがきてるんだけど」

 

 知らないよ。どうやったら歩いただけで物を壊せるの。

 ハァーと深いため息を吐く。幼馴染が部活作るからってホイホイ付いていくのはよくないと学んだ僕は清掃活動の新ルートを開拓すべく、ハジメの地図に目を落とすのであった。

 

 

 ところでここに書いてある「安全地帯」って?

 

「ああそれは、羽アリとかハチとかの巨大生物に囲まれた時に使える場所だ」

 

 巨大生物って何。どや顔で解説する彼女に僕は心底困惑した。

 

 



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地球も守るし人類の未来も守る…そういう噂だ

 馬と武士は見かけによらぬ、という言葉がある。

 たとえ精悍な見た目の馬がいたとしても実際のところは臆病で足が遅いことがあるし、もやしのような武士であっても実際は矢をかるく切り払えるほどの達人かもしれない。つまりは、見ただけでは正確なところを知ることはできない、ということだ。

 

 ちょうど、僕の目の前にいるお淑やかな見た目の友人のように。

 

「お待たせしましたわ。こちら、仕上がりましたのでお持ちしましたの」

 

 来たぜ、レイ娘だ…。

 スイカの皮をかぶったお祭りボーイズのような感想を抱きながら、目の前の女子を見る。

 

 長い黒髪に緑のリボンがアクセントの清楚美人、高空麗娘。僕はレイ娘と呼んでいる。実家がとんでもないお金持ち。そのためか金銭感覚がおかしくて、EDF部に1万ドルとか2万ドルという巨額の援助をしてしまっている。僕たちが通っている極東支部高校じゃなくて私立夢ヶ島高校に通っている、なぜここに来るのかよくわからないEDF部100不思議のひとつだ。

 

「はい、『かわいそうなソラス』。ハジメさんのアイディアで良い本ができました。こちらは初版です」

 

 レイ娘の手には一冊の本が乗っていた。先ほど聞いたようにタイトルは「かわいそうなソラス」。ソラスは身長40メートルほどの火を噴く怪獣…らしい。

 一言断ってからそれを手に取り、表紙をめくる。児童書でありがちな分厚い表紙は、まるでシルクでも触っているかのように手触りが良い。

 そして肝心の内容は、良くも悪くも刺激的だ。

 人と仲良くしたいソラス。しかし体が大きすぎるソラスは人を踏んでしまうのを恐れて山に引きこもっていた。しかしある日、山に怪我をした人間が迷い込んできて…。人間の手当をしたいソラスであったが、人間はその巨躯に怯えてしまう。なら、せめて人間の住処に帰してあげようとソラスは山を下りるのであった。そして人間を手に乗せて下山したソラスが見たものとは…。

 

 なんとも悲しい結末だ。まさかソラスの親切心があんなことになるなんて…!

 

「あらあら…ジンさん、涙が」

 

 なんてこった。まさかこんな歳にもなって絵本で泣いちゃうなんて。いやでもすごい作品だった。

 だけど一つ、問題点がある。

 

「なんでしょう?」

 

 きょとんとするレイ娘。本当に分かってないようだ。

 この絵本、実は幼稚園に寄贈するための物である。それなのに結末は悲劇。これは駄目でしょ…。

 

 

 

■■■

 

 

 

「うおおー!ソラスぅー!死ぬなー!」

 

 結局、例の絵本はEDF部に寄贈されることになった。それを読んだおフェンが騒いだりしているけど、些末な問題だろう。

 

「で、結局出し物はどうしましょう?」

 

 レイ娘がそう訊ねる。我らEDF部は地球を防衛することに関連するならあらゆる分野で出張るのだ。もちろん子供の教育もその一つであり、ハジメの提案で朗読会を行うことになっていた。だけど肝心の本が駄目になったので別の案を出さなければいけないんだけど…。

 

「はい!航空ショー!」

 

 もーペリ子はすぐ空を飛びたがるー。

 

「ストーム1体験会!」

 

 黒ヘルが積極的に赤ヘルを狙うアレ?だめー。

 

「では、劇などはいかがでしょう」

 

 劇かぁ。これならいいかも。ところで内容は?

 

「泣いた赤蟻です」

 

 泣いた赤蟻ね。……アリだって?

 僕は思わずレイ娘を見た。

 

「はい、アリです」

 

 

 

 

 

 

 

 どうしてこうなるんだろう。そう思わずにはいられない。

 ここはサンドロット幼稚園。名前の通り、大きな空き地のように見える巨大なグラウンドが特徴だ。

 

「いけー赤蟻!かてー!」 

「黒蟻負けるなー!」

 

 そして象よりでかい巨大生物がど真ん中で取っ組み合いの大喧嘩をしている。

 正確には巨大生物型の乗り物だ。黒蟻にハジメとペリ子が、赤蟻にレイ娘とおフェンが乗り込み、ド派手なバトルを演じているという訳だ。

 余った僕は舞台演出をしている。えーと、次のシーンはこのボタンだな…。

 

 ドガガガガッ!という音と共に地面が隆起する。しかしただの演出なので隆起した地面はあっという間に元に戻った。

 ええ…一体どんな技術なんだよ。と昔は思ったものだけど今となっては「まあレイ娘だし」で済む。慣れとはげに恐ろしきものだ。

 

 舞台はいつの間にかクライマックス。黒蟻は背中から羽が生えてブンブン飛んでるし赤蟻は赤黒蟻に進化している。少年漫画ばりの戦闘力インフレで園児たちも大興奮だ。

 当然舞台裏の僕も大忙し。ドーンハンマーみたいな衛星レーザーのためにサテライトおばさんと連絡とったり、ガンシップおじさんに弾幕を要請したりでてんてこ舞いだ。ちなみに衛星もガンシップもレイ娘提供だ。お金持ちってすごい、改めてそう思った。

 

 

 

■■■

 

 

 

 そんなこんなで劇はつつがなく(少なくともEDF部としては)終了した。コマンドーやトゥルーライズを観た後のようなスッキリ感はあったけど泣く要素あっただろうか?もっとターミネーター2とかラストアクションヒーローを見習ってほしいと思うような脚本だった。

 

「今日はみんな楽しんでくれたか?」

 

 ハジメが園児に向かってそう言うと「たのしかったー!」「めっちゃすごかったー!」と口々に聞こえてくる。たしかに園児向けだったら単純明快なほうがいいよな。メッセージ性があったかどうかはともかく。

 

「楽しんでくれてありがとう!我らEDF部はいつでも君らと共にあるぞ!ところで我々に興味が出たんじゃないか?我らEDF部はいつでも体験入部や見学などを受け付けている、ほかにも入部者には様々な特典が……」

 

 そして始まるランニングマンのエンディングばりのEDF部宣伝。園児でも入れる高校の部活ってなんだよと思いながら小さな椅子に座った。

 思ってたより疲れが溜まっていたのか、大きなため息が出た。それを見ていたレイ娘が飲み物を差し出してきてくれる。

 

「どうぞ、ジンさん」

 

 ありがとうと言って缶飲料を受け取り、プルタブを開ける。アシッドサイダーと書かれたそれは見た事のないパッケージだ。

 

「わが高空カンパニーの新商品プロトタイプです」

 

 ああ、どうりで見たことないわけだ。口を付けるとほんのりした甘さと刺激的な酸味が舌を刺す…が、それもほんの一秒だけのもので、あっという間に爽やかな後味に変化していった。ありていに言えば美味い。

 二口、三口…と飲んでいき喉を潤す。すると缶はあっという間にカラになってしまった。なんだか体が軽くなるような、スッキリしたおいしさだったな。

 

「ナノマシンが体調を調整してくれますので、疲れた日に最適ですよ」

 

 え、なんだって?

 

「ナノマシンです」

 

 そんなのゲームとか映画でしか見たことないよ…。人体に影響はないの?

 

「過剰に摂取しなければありませんよ」

 

 全部飲んじゃったよ…。悪戯に成功したといったようなにこやかな笑顔を見ながら僕は頭を抱える。

 

 高空麗娘、おしとやか美人。しかしその実金銭感覚ゼロの箱入りお嬢様で、趣味はイタズラと派手なドンパチ。

 美人の友人が変人でつらい。

 

 



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