ダンジョンで情報を探るのは間違っているだろうか (怠惰ご都合)
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過去の事実

想像力が止まらず、そのまま投稿しました。
何故「ダンまち」になったのか自分でも判りませんが、これからよろしくお願いします。
読んでいただけたら嬉しいです。


 設定集

 

 ルミト・ラネッサ

 性別:男

 年齢:17歳

 所属:ヘファイストス・ファミリア

 種族:ヒューマン

 Lv.2

 力:H143

 耐久:I80

 器用:F322

 敏捷:G214

 魔力:G247

 

 

 

 《魔法》

 【スケール・ヴェール】

 詠唱:【猛り生命(いのち)に静寂を。果てなき希望への糧となれ】

 ・基本アビリティを一つだけ1段階上下させる

 ・自身が設定した対象に効果を付属

 ・効果の時間・対象設定数は自身での決定が可能

 

 【フォッグ・チェイン】

 詠唱:【刃を通さぬ幻の壁。姿を定めず、主を護る盾となり矛となる。時にそれは己への戒めとなるだろう】

 ・付与魔法(エンチャント)

 ・自身への攻撃を緩和

 ・使用後、一定時間使用不可となる

 

 

 《スキル》

 【戦歴報酬(リザルト・コラートロール)

 ・戦闘終了時、ドロップアイテムの発生が起こりやすい

 ・発生率はモンスターの討伐数に依存

 

 

 

 

 

 

 

 ミレア・サナシア

 性別:女

 年齢:17歳

 所属:ヘルメス・ファミリア

 種族:エルフ

 Lv.2

 力:H175

 耐久:G241

 器用:H162

 敏捷:F312

 魔力:I72

 

 

 

 《魔法》

 【ギルティ・バインド】

 詠唱:【嘆くは己が侵した罪。誇るは自身が開いた道】

 ・被弾者の動きを拘束

 ・拘束中、体力を継続で減少させる

 ・対象数は一つ。対象消滅・解除時等にて再使用が可能

 

 【インバーテッド・ロード】

 詠唱:【絶望は希望へ。不安は信頼へ。あなたの為の道は私の力となり道標となる】

 ・使用は一日につき、一度だけ

 ・対峙したモンスターの数だけ氷刃が出現

 ・モンスターにヒットした数の分だけ再出現する

 

 

 

 《スキル》

 【一度教訓(ワンス・レッスン)

 ・初見モンスター戦に限り、自身の能力に補正

 ・パーティメンバーに付与する場合においても初見でなければ能力は補正されない

 

 

 

 

 

 

 ルミト

 

 主人公

 発展アビリティ『鍛冶』を持っており、武器は自身で作ったものを使用。

 与えられた工房に何度もミレアがやって来て困っている。

 基本的には一人での行動を好むが、ミレアに振り回されることが多々ある。

 

 

 

 

 

 

 ミレア

 

 ルミトとは幼馴染。

 発展アビリティ『魔導』を持っている。

 よく、同郷の出身のルミトを振り回す。

 注意されても懲りずに工房へと入っていく。

 武器はルミトが作ったものを使用。

 

 

 

 

 設定はこんなところですね。

 それではプロローグに移っていきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 迷宮都市オラリオ。

 通称『ダンジョン』と呼ばれる地下迷宮の上に築かれた巨大都市。

 都市やダンジョンを管理する『ギルド』を中核にして栄えるこの都市ではヒューマンも含めあらゆる種族の亜人(デミ・ヒューマン)が生活している。

 

 そんなオラリオに来て2年が経過した今でもあの日の事は鮮明に覚えてる。

 僕の、僕とミレアの故郷が滅んだ日の事を。

 

 

 

 僕たちが育った村ではあらゆる種族の人たちが生活していた。

 エルフ、ドワーフ、パルゥム、アマゾネス、獣人、いろんな人が毎日を楽しく生きていた。

 僕とミレアも幼馴染として、一緒に遊んだり、怒られたりした。

 毎日が楽しかった。

 この村でずっと生きていけると思っていた。

 ・・・・けど、それは叶わない夢だと思い知った。

 それは、いつものようにミレアと遊んでいた日の事だった。

 遊び疲れ、互いにお腹の虫が鳴いたのを確認し、村に帰る。

 しかし、そこで目にしたのは地に伏せたまま動かない村の人々と夥しい血の量だった。

 その中には、当然僕の両親とミレアの両親も含まれていた。

 膝から崩れ両手で顔を覆うミレアとただ呆然と立ち尽くす僕に出来る事は何一つなかった。

 

 

 

 

 

 

 それからしばらくして、かつて父からオラリオの話を聞いたのを思いだした。

 そこには『神』と呼ばれるヒューマンとも亜人(デミ・ヒューマン)とも異なる、次元がいくつもかけ離れた超越存在(デウスデア)がいて、そんな『神』から『恩恵』を受け【ファミリア】として生活している人たちがいるという事を。

 

 「・・・・ミレア、オラリオに行こう」

 

 「・・・・嫌よ!」

 

 「ミレア!」

 

 「嫌!私は父さんたちと一緒にいる!」

 

 ミレアは泣きながら答える。

 それでもルミトは諦めず、何度も問い続ける。

 

 「いつまでもここにいたって、何もわからないじゃないか!」

 

 「・・・・・でも」

 

 ミレアの消え入りそうな声を受け止めつつ、ルミトの口は動き続ける。

 

 「このままじゃ犯人も!原因も!何もかもわからないままだ!それに色んな人達がいるオラリオに行けば情報の一つや二つ、見つかるかもしれない!」

 

 「・・・・・」

 

 「何も理解できないままここに残り続けるよりもそっちのほうがいい!」

 

 やっと、ミレアが顔を上げた。

 

 「・・・・・・本当?」

 

 「ああ!だから行こう!」

 

 「・・うん」

 

 ミレアはゆっくりと頷いた。

 

 「じゃあ、必要最低限の物だけ持ってすぐに出発しよう!」

 

 「……ええ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 準備を終えた二人が集まった時、ミレアの父の手の中に二本の鍵を見つけた。

 

 「これ、どこの?」

 

 「・・・私、知ってる。来て」

 

 ミレアの後を追うと、彼女の家に辿り着いた。

 彼女は中に入ると奥へと入っていくと、地下への入り口まで辿り着く。

 ドアを開け、階段を下りていくと二つの箱を見つけた。

 

 「あなたはそっちの箱を開けて」

 

 ミレアはそう言うと、鍵を一本差し出してくる。

 ルミトは何も言わず受け取り、鍵穴へと差し込んだ。

 カチリという音を聞き、箱を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 中には一冊の本が入っていた。

 ミレアの方も同じようだ。

 

 「さ、行くわよ」

 

 ミレアは本をバッグに仕舞うと先に行ってしまった。

 ルミトも急いで仕舞い彼女の後を追った。

 村の人全員を埋葬し、二人は村を発った。

 

 

 

 

 

 

 




次回はいつ投稿出来るかわかりませんが、早く出せるように頑張ります。


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目前の現実

思いの外、早く投稿出来たと思います。
短いとは思いますが、楽しんで頂けたら嬉しいです。


 「懐かしい・・・・・・って言ってもまだ二年かぁ」

 

 ルミトは自分で作った武器や防具を纏めながら、二年前の事を思い出していた。

 

 

 

 あの後、何日か経ってオラリオについた二人は別々の【ファミリア】へと入団した。

 ルミトは大勢の鍛冶師(スミス)を育成し一級品の武具を製作して世界中にその名を轟かせている【ヘファイストス・ファミリア】へと入団し、ミレアはあらゆる情報を知る為【ヘルメス・ファミリア】へ入団した。

 

 

 

 そして現在、入団当時の回想から戻り、素材を切らして絶賛手持ち無沙汰中のルミトは何をしようか悩んでいた。

 

 「何よ、しんみりしちゃって」

 

 そう、毎日当たり前のようにルミトの工房へと入り、こうして声をかけてくるミレアをどうやって追い出そうか悩んでいたのだ。

 

 「・・・別に何でもないよ」

 

 「そ。なら、今から【ダンジョン】に行きましょ」

 

 「嫌だね」

 

 「じゃあ、素材も無いまま何を作るつもりなのよ?」

 

 「・・・・・・」

 

 「意地張ってないで行くわよ!」

 

 「・・・はいはい」

 

 最初の反論は意味をなさず、ルミトは結局付き合わされてしまう。

 渋々、工房を出て廊下を進み、自らの主神であるヘファイストスに一言伝えようと彼女の部屋へ入ろうとした時、部屋の中から話し声が聞こえてきた。

 どうやら先客がいるようだ。

 

 「ヘスティア、教えてちょうだい。どうしてあんたがそうまでするのか」

 

 「・・・あの子の、力になりたいんだ!」

 

 「今あの子は目標の為に、危険な道に足を踏み入れようとしている!。なんの力にもなってやれないボクの代わりにあの子の助けになる武器が必要なんだ!」

 

 そして、ヘファイストスが椅子から立ち上がる音が聞こえる。

 その音を聞いただけでルミトは主神の行動を把握した。

 

 「・・・・やっぱり優しいね、ヘファイストス様は。困ってる人を放って置けないんだからさ」

 

 ルミト自身、ヘファイストスに救ってもらったからわかる。

 そしてその優しさは【ファミリア】の皆も知っている。

 

 「何してんの?早くしてよね!」

 

 先を歩いていたミレアが戻ってきた。

 ルミトはノックをしてヘファイストスの部屋へ入る事にした。

 

 「・・・・ヘファイストス様、ルミトです。入っても?」

 

 「ええ、いいわよ」

 

 ガチャっという音と共にルミトはドアを開ける。

 中には二人の神がいた。

 右目を眼帯で隠した赤髪のヘファイストスと、ツインテールに結った髪をぴょんぴょんと跳ねさせている幼い容貌のヘスティアだ。

 ルミトは何回かジャガ丸くんの売店でヘスティアを見た事があるからすぐにわかった。

 

 「今からダンジョンに出てきます」

 

 「あら、ルミト。珍しいわね、あなたが出掛けるなんて。一体どんな風の吹き回しなの?」

 

 「・・・・・別に。切らした素材を集めに行くだけですよ」

 

 「そう。気をつけてね」

 

 「それじゃ、行ってきます。ヘスティア様、失礼しました」

 

 挨拶をして扉を開けようとするが、ルミトはその前に足を止め一言付け加える。

 

 「ああ、それとヘファイストス様、優しすぎですよ。部屋に入らずともわかります」

 

 後ろで口をぱくぱくさせる主神も構わず、ルミトは部屋を出た。

 扉の前ではミレアが壁に寄りかかり立っていた。

 

 「じゃ、行きましょ!」

 

 「はいはい」

 

 そして二人はダンジョンへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ああ、もう!全然切りが無いじゃない!」

 

 「愚痴はいいから手を動かしてよ!先に進めないじゃないか!」

 

 ダンジョンへと進んだ二人を待っていたのはキラーアントの群れだった。

 数は五匹前後。

 わしゃわしゃと群れた姿からはおぞましさすら感じる。

 そして厄介なことに、キラーアントは瀕死の状態に陥ると特別なフェロモンを発散し、仲間を呼びよせてしまう。

 だから、早く仕留めないといけない・・・・・・のだが。

 

 「本っ当に減らないわね、こいつら!」

 

 瀕死の個体に止めを刺せず、数が増える一方である。

 

 「仕方ないなぁ、もう!」

 

 ルミトは魔法の使用を決意する。

 現在二人がいるのは7階層。

 今回の目的地である10階層までの道のりはもう少し。

 しかしこんなところで止まっていては、いつまでたっても進めないのだ。

 ルミトはやむなく『詠唱』を唱える。

 

 「【猛り生命(いのち)に静寂を。果てなき希望への糧となれ】」

 

 唱え終わるとそれは淡い光となりミレアを包み込む。

 これはあの日、村を発つ前に手に取った本から得た魔法。

 あの本は読むだけで資質に応じた魔法が発言する「魔導書(グリモア)」だった。

 ミレアの方も同様だ。

 後に本人から聞いた。

 魔法名は【スケール・ヴェール】。

 効果は基本アビリティを一つだけ1段階上下させる事が出来る。

 今回対象としたのはミレアの魔力。

 これにより、魔法の威力が少しだが向上する。

 

 「【嘆くは己が侵した罪。誇るは自身の開いた道】」

 

 ミレアは足元に魔法円(マジックサークル)を出現させながら詠唱を開始。

 詠唱を終えると突如現れた光が瀕死の個体を拘束する。

 これがミレアが「魔導書(グリモア)」から得た魔法。

 【ギルティ・バインド】。

 相手を拘束し、体力を減少させるという効果を持つ。

 対象を拘束したことを確認した二人は、残りのキラーアントの殲滅にかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・・・終わっっったーー!」

 

 「あー疲れた。

 

 キラーアントの群れを片付け、他のモンスターがいない事を確認した二人は休息を取っていた。

 周囲には倒したモンスターの魔石が散らばっていた。

 

 「ほらミレア、早く魔石を回収するよ」

 

 「えー、もうちょっと休んでからでも」

 

 「取り分の割合変えようか?」

 

 「わかったわよ。やるわよ!」

 

 モンスターにとって生命力の『核』である『魔石』には、魔力が込もっており、『ギルド』に持っていけば換金してくれる。

 故に冒険者にとっては主な収入源となるのだ。

 

 「ほら、早く終えて10階層に行くよ。『ドロップアイテム』が欲しいんだからさ」

 

 「・・・・・は~い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔石を回収した二人は途中で何回か戦闘を挟みながらも、無事に目的地である10階層へと辿り着いていた。

 

 「それで?お目当ての物は何なのよ?」

 

 「今回はねぇ、『オークの皮』」

 

 「オークって・・・・・・ホントに言ってるの?」

 

 「そうだけど?」

 

 二人が話し込んでいるとズズンと地響きが近づいてくる。

 そして二人は三体のオークを視認した。

 どの個体も天然武器(ネイチャーウェポン)を持っている。

 

 「・・・・はぁ。仕方ないわね。早く終わらせるからね」

 

 「そう言ってもらえて助かるよ!」

 

 ルミトは槍を、ミレアは弓を構え、それぞれオークとの戦闘を開始する。

 

 




それではまた次回。


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君との日常

久しぶりの投稿になります。


 ルミトはミレアが本日二回目の詠唱を唱えたのをオークと対峙している中で聞いた。

 使用する魔法は【ギルティ・バインド】のようだ。

 恐らく三頭目を足止めするのだろう。

 そんな事を考えながら、ルミトはオークに傷を与えていく。

 そして、目の前のオークが倒れたのを確認すると、すぐに次の対象へと向かった。

 ミレアは詠唱を終えると、ルミトと共に二体目を倒し、拘束中である三頭目へと向かっていった。

 

 「これで終わり・・・なのよね?」

 

 「うん。《オークの皮》も回収できたから戻ろうか」

 

 魔石と『ドロップアイテム』をすべて回収し、二人は地上を目指した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 7階層の中場でブルー・パピリオを見つけた。

 透き通った4枚の翅を持った蝶のモンスター。

 7階層の中でも絶対数の少ない希少種(レアモンスター)だ。

 

 「・・・ねぇ、見たわよね」

 

 ミレアの声が聞こえてくる。

 正直なところ、続く言葉は判っている。

 

 「『ブルーパピリオの翅』、取るわよ!」

 

 「・・・・・」

 

 ・・・・知ってた、というか予想通りだった。

 今までにも彼女とパーティを組んでそのたびに同じ事を言われてきた。

 自分の《スキル》だから仕方ないとは理解しているが、彼女がここまでだったかと思うと、素直に納得しかねてしまう。

 

 「・・・・・昔と一緒、なのかなぁ」

 

 「早く決めてよね!」

 

 「・・・・はいはい」

 

 ミレアに急かされるまま僕は【スケール・ヴェール】を唱えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔法で強化された彼女の【インバーテッド・ロード】がブルーパピリオに命中した。

 ブルーパピリオは消え、魔石と『ドロップアイテム』だけが残った。

 

 「さ、帰りましょ!。分け前は後で決めるわ」

 

 上機嫌で前を歩くミレアに呆れていると、大きなカーゴを見かける。

 

 「・・・・・?」

 

 「・・・どうしたのよ?」

 

 思わず足を止めているとミレアが戻ってきた。

 

 「・・・ほら、あれ」

 

 「あぁ、今年もやるのね」

 

 「知ってんの?」

 

 心当たりがあるような素振りをしているから訊いてみることにする。

 

 「怪物祭(モンスターフィリア)って言ってね、年に一回開かれる【ガネーシャ・ファミリア】主催の催しなのよ」

 

 「【ガネーシャ・ファミリア】がねぇ」

 

 「えぇ、ああやってダンジョンから引っ張ってきたモンスターを調教(テイム)するの。それで調教(テイム)の流れを見世物(ショー)にしてる。それが怪物祭(モンスターフィリア)ってわけ。確か明日だったわね」

 

 「へぇ~・・・・・ん?」

 

 ミレアの説明に感心している中で、一つの疑問が湧いた。

 彼女は僕と同じ日にオラリオに来て以来、【ファミリア】の用事が無い日はほぼ毎回僕に絡んでくる。

 オラリオに来てから催しを見る暇もなかったはずだ。

 ・・・・・失礼だが、ミレアがそんな情報を知っていたとは思えない。

 つまり、

 

 「受け売り、だろ?アスフィさん辺りの」

 

 「・・・・・・・さ、戻るわよ!早くしてよね!?」

 

 ついさっきまで自信に満ちていた顔が一瞬で消えた。

 彼女は勢いよく急旋回したかと思うと上の階層へと上がっていった。

 そこで、自分も今までに催しの類を見ていない事に気付いた。

 

 「・・・・まぁ、確かに見てみたい気はあるね」

 

 一人だけで行くのもアレだ。

 せっかく説明してくれたんだから誘ってみよう。

 

 「ミレアー」

 

 「・・・・・・?」

 

 呼びかけると元気なさそうに振り向いた。

 

 「まださ、よくわかんないからもっと教えてよ!一緒に見ながら、さ」

 

 その一言を皮切りに、彼女の表情は変化した。

 嬉しそうだったり、恥ずかしそうだったり様々だ。

 それでも、あの日のような顔だけはしなかった。

 楽しそうに笑うミレアと共に、僕は地上に戻る。

 ・・・・・ミレアは昔と同じで、何も変わってなんかいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・・・・・で、ルミト。随分と珍しい事もあるのね、あなたが自分から他の【ファミリア】の子を招くなんて」

 

 あの後、ギルドで換金を終えても、ミレアは【ヘルメス・ファミリア】には帰らなかった。

 何度理由を聞いても答えは返ってこず、ただ笑っているだけだった。

 諦めてホームに帰ってきた・・・・・・のだが、廊下でヘファイストスに見つかってしまい今に至る。

 

 「・・・・え~っと、ですね」

 

 必死に言い訳を考えようにもミレアがいるせいで思い浮かばない。

 それどころか、下手を打てばずっといじられるだろう。

 ・・・・毎回、温かい目で見られながら。

 

 「・・・・・・・ひょっとして、今日言った事まだ根に持ってたりします?」

 

 「そんなことはないわよ・・・・・半分くらいは」

 

 半分は本気だったようだ。

 

 「まぁ、冗談はこのくらいにして。怪物祭(モンスターフィリア)、見に行くんでしょ?」

 

 「そう・・・ですね」

 

 正直、どうして知られているのか判らなかった。

 この(ひと)の前では喋っていないのだから。

 

 「丁度いいじゃない。行ってくるといいわ」

 

 「・・・・」

 

 「普段から出不精の貴方にはいい息抜きになるはずよ」

 

 「・・・・はい」

 

 そう言って、ヘファイストスは自室へと向かった。

 作業に戻るのだろう。

 

 「・・・・・ホント、優しいんだから」

 

 二年前のあの時と同じ。

 突然目の前に現れた子供の話を聞いてくれて、理由も聞かず【ファミリア】に受け入れてくれて、隣にいたヘルメス様にミレアの【ファミリア】入りの口添えまでしてくれた。

 感謝しきれないくらいの恩がある。

 あの時会っていなかったら、今頃どうなっていたかわからない。

 けど、色んな意味で救ってもらえた。

 ただの偶然に過ぎなかったかもしれないけど、感謝してる。

 ヘファイストスの姿が見えなくなったのを確認しルミトはミレアをつれて工房に戻ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 




次回はどこまで書けるか判りませんが、お楽しみに。


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祭りと兎と

久しぶりの投稿になります。
半年近く待ってて頂いて申し訳ないです。


「・・・・・・で、来てはみたものの、人が多すぎやしない?正直言って、この数は想定外だよ」

 

 翌日、ミレアと共に怪物祭(モンスターフィリア)を見に行く為にホームを出たのだが、道が人で埋め尽くされていた。

 因みにあの後、ミレアは工房に泊まった。

 その際にベッドを奪われ、床で寝るはめになったのだが、・・・・今は置いておくとしよう。

 

 「・・・・そうね。さすがにこの数は予想外だったわ」

 

 ミレアも同意見のようだ。

 まぁ自分から誘った手前もあるから、今更辞める気はないのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・・あ、ヘスティア様じゃんか」

 

人混みの中で、ミレアとはぐれないようにペースを落としていたルミトは、ジャガ丸くんの屋台でヘスティアの姿を確認した。

因みに『ジャガ丸くん』とは、芋を潰して揚げた料理・・・・らしい。

オラリオに来てから何度も見る事はあったが、よく考えれば食べた事は一度もなかった。

これを機に挑戦してみるとしよう。

 

「ゴメン、ちょっと待ってて」

 

ミレアに一言伝えて、僕は屋台へと近づく。

 

「やぁ、いらっしゃい!・・・・・・ってこの前いたヘファイストスのところの子じゃないか」

 

「や~、どうもです。それで、あれからいいのはできました?」

 

「ああ!バッチリさ!さて何にするんだい?」

 

「うーん、実は初めて食べるからどれがいいのかわかんないんですよね。ヘスティア様にお任せします。あ、二つで」

 

「そうかい初めてか!ならボクのオススメを用意しよう!」

 

そう言いながら調理を始めていく。

あまりにも慣れた手つきで行うものだから、思わずこの(ヒト)はホントに神なのか考えてしまう。

 

「・・・・・・それで、今日は彼女とデートかい?」

 

突然の一言に、思わず噎せた。

 

「・・・・・えっ、なんで」

 

動揺を隠せず真顔になり、声もさっきより低くなってしまった。

 

「なーに、失礼な事を考えてた気がしたから、ちょっとからかってみただけさ!」

 

どうやら鎌をかけられたようだ。

・・・・・・一部ではこの(ヒト)の事を『ロリ神の祟りこと北通りの天災』とか言っているがあながち間違いないでもないのかもしれない。

 

「む、また失礼な事を考えている気がするぞ。はい二つで60ヴィリスね」

 

「アハハ・・・・、はい」

 

「うん、丁度だね」

 

「・・・特徴さえ教えて頂ければ僕が武器を渡してきますよ?」

 

「いや!せっかくだけど気持ちだけで十分さ!何よりボクからちゃんと渡したいからね‼」

 

「そうですね、ジャガ丸くんありがとうございます。それじゃ」

 

「・・・・キミも楽しむんだよ~!」

 

ジャガ丸くんを受け取って、ミレアのところに戻る。

 

「・・・・何を話してたのよ?」

 

「デート楽しめってさ」

 

その瞬間、さっきまでの不機嫌な顔が一瞬で赤くなった。

 

「・・・・ッ!?」

 

「・・・照れてんの?」

 

「・・・そんな事・・・・ないわよ」

 

赤くなった顔を隠すように、ミレアは勢いよくジャガ丸くんを受け取って食べ始める。

相手の前で素直にならないのは、彼女の昔からの癖だ。

久しぶりに見れたその反応が、嬉しかった。

そんな事を考えながら一口かじると、ミレアから視線を感じた。

 

「・・・・アンタも変わってないのね」

 

「・・・ん?」

 

「なんでもないわよ!」

 

嬉しそうに笑いながら、ミレアはそう答えた。

そんな彼女の横顔をこっそり見て、僕は思った。

自分も昔と変わっていないのかもしれない、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

始めて見た怪物祭(モンスターフィリア)は圧巻だった。

観客の数もさることながら迫力が予想外だった。

・・・・とまぁ、感動のしすぎから語彙力のなさが伝わってしまうが、今は許してほしい。

やがて、楽しい時間は騒ぎへと変貌する。

どうやら、【ガネーシャ・ファミリア】が捕まえていたモンスターが街に脱走したらしい。

既にガネーシャ様が他の【ファミリア】へモンスターの討伐を要請したようだが、それでも時間はかかるだろう。

ルミトは外の様子を見に行こうと考え、ゆっくりと立ち上がる。

しかし、ミレアに袖を掴まれてしまった。

 

「外に行こう・・・・なんて考えてないでしょうね」

 

「・・・どうしてわかっちゃうのかなぁ」

 

「バカな行動して神様たちに注目されるわよ?」

 

「ヘルメス様・・・・・みたいな?」

 

「・・・・否定はしないわ」

 

・・・・ヘルメス様、信用されてないんですね。

一柱の男神の扱いに苦笑してしまう。

 

「・・・アンタ一人でなんて行かせないから」

 

「・・・・・」

 

思いがけない一言に思考が停止してしまった。

てっきり止められるとばかり思っていた。だが、彼女は『連れていけ』と確かにそう言ったのだ。

そして、彼女の意志が固いのは瞳を見ればわかる。

 

「なんていうか、頑固だねぇ」

 

「何を今更言ってんのよ、お互い様でしょ」

 

そんな風に軽口を叩きながら二人は闘技場を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

出口の付近ではギルドの職員があらゆる対応に追われていた。

市民との問答や他の【ファミリア】への協力要請、避難誘導とやることは多いだろう。

ふと、人溜まりの中でよく知る人を見つけた。

窓口受付嬢のエイナもどうやら例外ではなく、他の職員と同様に対応している。

普段、落ち着いて受付をやっている彼女の慌てている姿は、少し意外だった。

 

「・・・・どうかしたの?」

 

後ろからミレアの声が聞こえる。

 

「ううん、なんでも・・・・」

 

なんでもない、そう口にしようとした瞬間、物凄い速度で“何か“が真横を通り過ぎた。

 

「・・・っ‼」

 

「・・・・くっ!?」

 

突風が襲う中で、ルミトははっきりと目にした。

二人の真横を通り過ぎたのは、Lv.5【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイン。

ここオラリオで二大勢力として、【フレイヤ・ファミリア】と共に冒険者の最前線に立っている【ロキ・ファミリア】の中核を担う人物。

彼女がモンスターを倒していく度に市民が安堵の表情を浮かべる。

彼女が4体目を倒すと、現在地とは反対方向で建物が崩れる音が聞こえ、同時に巨大な蛇のようなものが現れた。

遠目でよく判らないが、淡い黄緑色だと思う。

アイズの様子を見て、ルミトは驚いた。

あのアイズが、先程までの落ち着きを忘れ、どこか慌てているような表情をしているのだ。

そして、彼女は蛇のようなものへと向かった。

追いかけようとしたが、目の前を白髪の少年がヘスティア横に抱き抱えたまま走り去った。

何処か兎を彷彿とさせる印象だった。

そしてシルバーバックが白髪の少年を追って走っていく。

あの方向は『ダイダロス通り』。

オラリオに存在する迷宮。

幾重にも行われた区画整理の果てに、入り組んだ広域住宅街。

どう見ても危機的状況なのに、ヘスティアは嬉しそうにしていたのは、まぁ気のせいだと思って・・・・

 

「ヘスティア様、嬉しそうだったわね。ひょっとしたらあの子に惚れたりしてね?」

 

どうやら、全然気のせいじゃなかったようだ。

 

「・・・・あぁ、だよね」

 

「少し羨ましい・・・・とか?」

 

「まっさか~。ミレアがいるのに、そんな事考えてたら罰が当たるって」

 

「・・・・・あっそ」

 

「【ロキ・ファミリア】も確かに気になるけど、まぁヘスティア様の方を見に行こうか」

 

照れているミレアにそう言って、ルミトはシルバーバックが向かった先へ走る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やっと追い付いたと思ったら少年がシルバーバックに

突撃槍(ペネトレイション)を決める場面だった。

何の捻りもない基本的な技。

ただ魔石を壊すだけのシンプルな技。

しかし、見たところあの少年はLv.1。

到達階層は5階層といったところだろう。

それでも、自分の倍近くの大きさもあるモンスターに立ち向かうのはなかなかできる事ではない。

普通なら躊躇うものだが、あの少年はやってのけた。

シルバーバックが灰へと還り、風に乗って何処かへ飛ばされていく。

カランと、残った漆黒のナイフが石畳の上を転がり、歓喜の声が響き渡る。

 

「頼り無いけど、ちゃんと冒険者してるのね」

 

横からミレアの落ち着いた声が聞こえてくる。

 

「・・・・・そうだね。まだ拙いけど、ちゃんと立ち向かってる」

 

まだ汚れを知らない、純粋な少年に僕は何処か懐かしさを思い出す。

そして、少年のナイフには見慣れた【ヘファイストス】のロゴが刻まれている。

あの時、ヘスティアがヘファイストスに頼んでいた代物だろう。

誰のイタズラかは判らないが、結果としてあの少年の存在はオラリオに知れ渡る事になる。

いずれ、名前を知る機会があるだろう。

 

「じゃあ、帰ろっかミレア」

 

「・・・・えぇ」

 

ミレアにそう伝え、僕は工房へと向かうべくダイダロス通りを後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、工房に戻っても一人ではいられなかった。

そう、ミレアまでついてきてしまったのだ。

あんな立ち去り方をすれば、流石に別れるだろうと思っていたが、そうはならなかった。

結局、今日も泊める事になってしまうのだろうと諦めてしまう。

・・・・・結論として、ベッドをもう一台用意する必要があるかもしれない。

やはり床で寝るのは少しきついのだと、自分に言い聞かせ、ルミトは瞼は閉じたのだった。

 

 

 

 

 




次回はいつになるか判りませんが、私自身は早めに投稿するつもりです。
それではまた次回。


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悩みと邂逅

何故かGW明けに投稿する事になりました。
連休中に待っていて下さった方々には申し訳ないです。
・・・まぁ、私自身がGWを満喫していたのが理由なんですがね。
久しぶりに六千字に挑戦です。


「・・・・・ねぇミレア」

 

「・・・・何かしら?」

 

工房にて、ルミトはミレアに問いかける。

もう、彼女の宿泊については諦めた。

・・・・諦めたのだが、泊まる度にベッドを奪われるのは我慢ならない。

それとこれとは話は別なのである。

つまり、何が言いたいのかといえば、

 

「そろそろ、自分が使うベッドは自分で用意してくれないかな!?二日連続で床で寝るのは、流石に身体がきついんだけど!?」

 

ミレアがベッドで、ルミトが床で寝るという今の境遇についてである。

そう、この工房の主はルミトであるのだが、当の本人がベッドを使えないとは如何なものか、というのがルミトの言い分だ。

 

「いいんじゃない?鍛える事ができるんだから。良かったわね、レベルアップに近づいて。ひょっとしたらレベル3になれるかもよ?」

 

しかし、ミレアは満面の笑みでそんな事を言ってのける。

 

「んじゃ、自分でやったらいいじゃんか!?」

 

確かにこのまま続けていたら本当にレベルアップしそうだ。

しかし、それだけはどうにかして避けたい。

 

「・・・・嫌よ面倒くさい」

 

ミレアは相変わらずの笑顔ではっきりと口にする。

 

「さっきと、言ってる事が違うんだけど!?」

 

「・・・もう、じゃあ何?ベッドを一台追加するとでも言うの?」

 

「うん」

 

「ならさっさと買って来たら・・・・え?」

 

彼女もやっと気づいたようだ。

まさか本気だとは思っていなかっただろう。

しかし、僕としてもここで引き下がる訳にはいかないのだ。

そう、安眠の為にも。

 

「・・・・本気で言ってるの?」

 

「うん。だってこのままだったら泊まる度に言い合うからねぇ、多分。それを回避するには一番いい方法だと思うんだ」

 

「え、えぇ確かにそうね」

 

「という訳で、今から摩天楼(バベル)に行こっか」

 

「・・・今から?」

 

「うん。自分の作品の売れ行きも見ておきたいからね」

 

『バベル』は地下迷宮(ダンジョン)の蓋をするように築かれた超高層の塔で、ダンジョンの監視と管理の役割を担っている。

そして、一部の空きスペースを様々な商業者に貸し出している。

当然、【ヘファイストス・ファミリア】も出店している。

更に、【ヘファイストス・ファミリア】は他の【ファミリア】と違って、上級、下級問わず職人に作品を作らせ、それを商品として売りに出している。

当然、熟練の鍛冶師(スミス)の作品と下級のそれとでは性能等に差は出る。

しかし、新米同士が作品を通して専属に・・・・という可能性もある為、【ファミリア】側にとっても悪い話ではないのだ。

 

「あれ、でもあなたの作品ってあんまり売れてないんじゃなかったっけ?」

 

バタバタと準備をしながら、ミレアがそんな事を聞いてくる。

 

「・・・・・・」

 

違う、違うのだ。周りが僕の作品の素晴らしさを理解できていないだけなんだ。

決して、形が歪だとか使いづらいとかで不評な訳ではないのだ・・・・・多分。

 

心の中で自分にそう言い聞かせ、ルミトは彼女の一言を聞かなかった事にし、工房を出たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目的のフロアに来る道中、接客しているヘスティア様を目撃した。

恐らく、この前の我が儘にかかった費用を働いて返すよう言われたのだろう。

しかし、返すのに何年かかるか判らない。

何しろ、天界で『神匠』と呼ばれていたあの(・・)ヘファイストスの作品だ。

費用を完済するのに何百年・・・・というのも十分にあり得る。

まぁここで働いている以上、これから何度も会うことになるだろう。

詳しい話はその都度聞いていけばいいだろう。

そんな事を考えていると、自分の作品の売り場を見つけた。

 

「・・・・・うん、知ってたよ。売れてないって事は」

 

「・・・・はぁ、いい加減諦めなさいよ。何度確かめても結果は同じ。あなたの作品を使うなんて物好き、少数派に決まってるじゃない」

 

実際に自分の目で見てぼろぼろになったところで、ミレアが追い討ちをかけてくる。

泣きそうな気持ちになりつつ、ふと彼女の言葉が気になった。

そう、彼女は『物好き』と言ったのだ。

それが正しいのなら、いつも僕の武器で戦っている彼女もそういう事になる。

 

「・・・じゃあ、ミレアも『物好き』なんだ?」

 

「・・・・べっ、別に!?せっかくあるのに使われないなんて、武器が可哀想だなって!それだけだから!?」

 

彼女は顔を赤くしながら、早口で答える。

 

「へぇ、そうなんだぁ?」

 

「な、何よ!?」

 

「なんでもないよ~?」

 

なんだかんだで、彼女は武器を使ってくれている。

冒険者が武器を使う。

たったそれだけなのに。

そんな当たり前の事なのに。

自分の作った武器が役に立っている。

それが・・・・・嬉しい。

 

「あれ、ルミト君じゃない。どうしたの?」

 

感動していると、エイナが話しかけてきた。

今日は私服のようだ。

普段の制服も似合っているけど、私服も・・・・なんて考えていると冷ややかな視線が突き刺さる。

 

「ちょっとした買い物・・・・ですかね。エイナさんこそどうしたんです?」

 

後で色々と言われるかもしれないが、一先ずミレアの視線を流す事にする。

 

「実はね、ある冒険者の装備を買いに来てるんだ‼」

 

なんともまぁ、いい笑顔で答えるものだ。

それに、冒険者一人の為に買い物に付き合うとは、関係ない人が見ればデートと勘違いされるだろう。

今日、ここに来るまで周りから凄い目で見られたであろう相手が少し気の毒だ。

 

「へぇ、因みにどんな人なんです?」

 

「う~ん、白髪と深紅色(ルベライト)の瞳を持つ少年で・・・ちょっと兎っぽいかなぁ」

 

「ねぇ、ルミト。ひょっとしてあの時の少年の事、言ってるんじゃない?ほら、ダイダロス通りの」

 

エイナの情報から何かを察したのか、さっきまで不機嫌だったミレアが話しかけてきた。

 

「あぁ、あのシルバーバックを倒した子?」

 

「えぇ、聞いてましょう」

 

ミレアに賛成して、僕はエイナさんに聞く事にした。

 

「エイナさん、今日一緒に来た相手って、ひょっとして怪物祭(モンスターフィリア)の時にシルバーバックを倒した子・・・・・だったりします?」

 

「うん、そうだけど。・・・・って何?もしかして知り合い?」

 

「や、ただすれ違っただけなんで。正直なところ名前とか詳しい事は全然」

 

エイナの反応からするに、どうやら当たりのようだ。

ミレアの顔がどこか誇らしげだが、まぁ今は突っ込まなくていいだろう。

 

「じゃあこれを機会に、自己紹介でもしてみたら?装備品は【ヘファイストス・ファミリア】のを見に来てるから、所属鍛冶師(スミス)直々にアドバイスしてもらえると助かるなぁ・・・なんて」

 

「・・・・まぁ、 上手くアドバイスできるか判りませんけど僕でよければ。・・・ということでミレア、ちょっと寄り道だけどいいかな?」

 

「あなたが良ければいいんじゃない?時間はまだあるしね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まぁそんなこんなで、三人で例の少年の装備を身繕う事になった訳だが、当事者がいなければ決まるものも決まらない。

何より、自分以外の鍛冶師(スミス)の作品を薦めるというのは複雑なのだ。

 

「二人とも、これはどうかな?プロテクターに革鎧(レザーアーマー)

 

品探しをしている中、エイナさんの嬉しそうな声を耳にする。

 

「お、いいんじゃないですか」

 

「私もいいと思うわ。他にこれといった物も見つけられなかったからね」

 

「じゃあ伝えてくるね‼」

 

決まるや否や、エイナは小走りで去っていく。

 

「どうするの?」

 

「まぁ、折角だしついてってみようよ」

 

走るエイナの背を見て、二人は後を追う事にする。

歩いて向かうと、やはりあの時の少年がエイナと話していた。

話を聞く限り、どうやら少年は自分でしっくりくる装備品を見つけたようだ。

しかもボックスを抱えているのを見る限り、一式揃えるつもりだ。

 

「そんなぁ、折角選んだのになぁ」

 

「・・・・すいませんエイナさん。でも、僕は・・・・」

 

「ううん、ベル君の装備だもんね。いいよ、ほら気持ちが変わらないうちに買ってきて」

 

「はい‼」

 

そう返事をして、少年は嬉しそうに歩いていった。

 

「・・・・・エイナさん、買ってくるなら今よ?」

 

ミレアが一言呟いた。

 

「・・・・うん」

 

「確かに使うのは彼だけど、彼が心配ならプレゼントしてもいいと思うわよ」

 

その言葉を聞いた途端、先程まで黙っていたエイナが頷いた。

どうやらミレアの言ったように、プレゼントとして渡す為に購入しにいくようだ。

 

「・・・優しいねぇ」

 

「・・・・うるさいわね」

 

「さて、プレゼントならもう一個くらい多く貰っても困らないよね」

 

「確かにプレゼントなら嬉しいけど、あなたの作品の場合は迷惑の間違いでしょ」

 

「ひっどいなぁ。ミレアだって使用者じゃん・・・・一応」

 

「・・・私は慣れたからいいのよ。・・・というか、一応って何よ」

 

「別に。お、これなんて良さそう。まぁ少し変だけど大丈夫でしょ」

 

そんな話をしながら、ルミトは自作品の中から刃先が蛇のようにくねくねと曲がった短剣を見つける。

 

「どっかの誰かさんみたいにひねくれた武器ね。いつ作ったのよ、そんな武器」

 

「・・・・・・なんか最近、辛口だねミレア。作ったのはこの前さ、知らないうちにこの形になっててさ」

 

「・・・へぇ」

 

「んじゃ、見つからないうちに買いに行きますか‼」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人が店から出ると丁度、エイナが 緑玉石(エメラルド)色のプロテクターを渡しているところだった。

 

「お、いいタイミング」

 

そんな事を言って、ルミトは少年に近づく。

 

「無事に渡せたみたいですね、エイナさん?」

 

「うん、ちょっと押し切っちゃったけどね‼」

 

「・・・・・エイナさん、この人達は?」

 

「そうね、まだ三人は自己紹介してないのよね。それじゃ丁度いいから、今やっちゃいましょ‼」

 

「は、はい。・・・・えっと、【ヘステイア・ファミリア】のベル・クラネルです」

 

「僕は【ヘファイストス・ファミリア】所属鍛冶師(スミス)のルミト・ラネッサ。よろしく」

 

「・・・・・【ヘルメス・ファミリア】のミレア・サナシアよ」

 

三人の自己紹介を見て、エイナは満足そうに頷いている。

 

「・・・で、いきなりで悪いんだけどベル・クラネル、君に頼みがある」

 

「は、はい」

 

「これを使用した上で感想が欲しい」

 

そう言いながら、ルミトは先程の短剣をベルに手渡した。

 

「・・・えっ!?いや、でもこれは!?」

 

「突然なのは承知してる。でも、さっきも言ったようにこれでも僕は鍛冶師(スミス)でね。自分の打った武器の評価が知りたいんだ。自分で使っても客観的に見る事ができなくてね」

 

「・・・・・」

 

「勿論、代金はいらない。単純に評価が知りたいだけなんだ」

 

「・・・・解りました」

 

「うん、ありがとう」

 

最初は戸惑っていたが、最後には了承してくれた。

真っ直ぐに見つめてくるベル・クラネルの瞳を見て、僕は安心した。

すると、ミレアがベル・クライネルに近づいた。

 

「あの、ちょっと!?」

 

白髪の少年は顔を赤くしてあたふたしている。

確かに、突然エルフが自分に近づいたら驚くだろう。

外見はいいし、物腰も柔らかい。

加えて、その笑顔は見る人を惹き付けるだろう。

 

「気に入らなかったら、容赦なく壊していいからね」

 

しかし、性格がきつい。

容姿と中身が合っていないのだ。

冒険者じゃなく、商売人だったら成功してるかもしれない。

 

「・・・・あ、あはは」

 

「さて、じゃあ僕達はこれで」

 

「またね、ベル・クラネル」

 

苦笑いしている白髪の少年にそう告げ、僕はミレアと共に歩き始める。

 

「あ、ありがとうございます。その、今度からは名前で呼んで下さい!」

 

そして僕達は二人と別れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・疲れたぁ」

 

あの後、なかなかミレアの気に入るベッドが見つからず、結構歩き回った。

そして最終的に、今あるベッドと全く同じのを買う事となった。

因みにその時、最初から言って欲しいと伝えたのだが、

 

「別にいいでしょ、判ってないわねぇ」

 

なんて言われて、何故か知らないが呆れられてしまった。

まぁ、そんなこんなで買い物を終え、ベッドを工房に運び込み、今は自分の工房でゆっくりしている訳だが。

 

「それで、今日も仲良くデートかしら?」

 

ヘファストス様まで工房に来るのは予想外だった。

自分で言うのもアレだが、こんな変な所に来るのはミレアだけだった為に油断していた。

幸か不幸か現在、ミレアはいない。

 

「まさか?というか『も』ってどういう意味ですか。全く身に覚えがないですよ。そもそも付き合ってすらいないんですから」

 

「・・・・これは少し、彼女が可哀想に思えてくるわねぇ」

 

事実を伝えたはずなのに、何故か溜め息をつかれてしまった。

このままでは気まずい。

話を変えなくては。

 

「あ、そういえばヘファイストス様。今日ベルに、ベル・クラネルに会いましたよ」

 

「あらそうなの。どこで?」

 

「バベルの武器売り場で」

 

「・・・・彼も冒険者なんだから、別に不思議な事ではないでしょ」

 

なんとか話を変える事には成功した。

しかし、このままでは普通の報告になってしまう。

それに、ヘファイストス様の表情に変化がないのも、僕にとっても面白くない。

 

「それがですねぇ、彼が購入した装備、ヴェルフさんの打った作品だったんですよ」

 

その名前を聞いた途端、ヘファイストス様の表情が変わった。

 

「あら、ヴェルフのを!?確か、ベル・クラネルってヘスティアのところの子よね‼」

 

「はい」

 

「結構見る目あるのね‼少し感心したわ!」

 

予想通り、ヘファイストス様の反応が変わった。

そう今の一言で解るように、ヘファイストス様はヴェルフさんに一目置いているのである。

 

「いいこと聞いたし、私はこれで失礼するわね」

 

一息ついたところで、今度はミレアが入ってきた。

武器に服、色々と道具を持ち込んでいるが、気にしたら負ける気がする。

触れるのは止めておこう。

 

「ヘファイストス様、やけに上機嫌だったわね。何かあったの?」

 

「うんまぁ、そんなとこかな?」

 

「・・・・ふーん」

 

それだけ言って、ミレアはベッドに横になる。

 

「それで、明日はどうするのよ?」

 

「うーん、特に欲しい素材はないけどダンジョンに行こうかなぁ、と。・・・・えっ何、ついてくんの?」

 

「当たり前じゃない?」

 

「ヘルメス様は?」

 

「そもそもの話、出かけてていないのよ」

 

「・・・・アスフィさん達は?」

 

「最近忙しいみたいなのよ」

 

「つまり、どさくさに紛れて出て来たと?」

 

「端的に言ってそういう事ね」

 

なんてことだ。

僕の自由は何処へ消えたのだ。

いや、戻ってくる保証もないが、少しでも可能性があるなら期待しているのだが、どうやら無駄みたいだ。

そこで気がついた。

今日はミレアのベッドを買ってきた。

そして工房に運んだ。

ここまではいい。

しかし、ミレアが横になったベッドは買ったばかりの新品ではなく、普段僕が使っていたはずのベッドだっ。

 

「・・・・・ねぇミレア」

 

「・・・・何かしら?」

 

「なんで、僕のベッド使ってるのさ?」

 

「私、新品のベッドだと寝つけないのよね」

 

「うんうん、それで?」

 

「だからあなたはあっちで寝てね?」

 

「ミレアさんミレアさん、全然説明になってないよ!?」

 

「・・・・」

 

既に寝てしまった。

こうなっては仕方ない。

諦めよう。

僕は大人しく、もう一つのベッドで寝る事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何故だ、何故寝れない。

いや、既に理由は解っている。

ベッドが狭いのだ。

決して、サイズを間違えたのではない。

ミレアが横にいるのだ。

確かにさっきまでは隣のベッドで寝ていたはずなのに、気付けば入り込んでいた。

しかも、ただ寝てるだけならいいが、寝相がアレなのである。

寝ぼけていてもそこはLv.2冒険者。

決して必殺の一撃ではないが、避けなければ肉体的にも精神的にも危ない。

 

「こんなに寝相悪かったかなぁ?」

 

どうやら今日も安心して寝れそうにない。

無意識の一撃を避けないがら、明日を迎える事になるとは、なんと不運なのだろう。

 

 

 




因みに私、早くも五月病になってます。
なので、連休中決して怠けていた訳ではないです・・・ハイ。
さて、今回無かった戦闘シーンですが、出すなら次回あたり・・・・かもしれないですね。
それではまた次回。


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経験と確信

前の投稿から半年以上が経過していますが、忘れてた訳ではありませんと念のため。
お待たせして申し訳ありませんでした。


何故だ。

何故こんな事になった。

若い鍛冶師(スミス)が憂いてる理由は、現状にあった。

 

「ミレアさんミレアさん、僕何か悪い事しましたっけ?全く身に覚えがないですが」

 

そう、僕ことルミト・ラネッサは只今、【ギルティ・バインド】にて絶賛氷漬けなのである。

 

「・・・・安心しなさい、今ならまだ許してあげるわ?もう一度聞くから、次は正直に説明するのよ?」

 

何度弁明しようと、ミレアは解放してくれない。

仕方ない。

今度こそ素直に伝えよう。

 

「ふっ、全くしょうがないなぁミレアは。そう、事の顛末は・・・・」

 

「早くしなさい、氷刃撃つわよ?」

 

「アッハイ」

 

なんか最近、ミレアが冷たい目をする気がする。

こんなんだったかなぁ、なんて考えながら、覚えている限りの事を説明する。

 

「・・・・・・つまり、勝手にベッドに入って来たのはあなた・・・・じゃなくて私だと?」

 

「うん」

 

「それで、抜けようにも攻防が激しくて、それすらも不可能だった、と」

 

「うんうん」

 

「成る程、あなたの言いたい事はよ~く解ったわ」

 

どうやらやっと伝わったみたいだ。

これで解放してもら・・・・

 

「・・・・・どうせならもっと上手い嘘を用意しなさいよ」

 

・・・・えませんでした。

 

「まぁまぁ」

 

「・・・・・こんな状況で、何落ち着いてんのよ?」

 

「本当は嬉しくて自分から来たんでしょ。でも恥ずかしいから素直に言えない、とか。違う?」

 

「・・・・・・まぁいいわ。今回の事は無かった事にしてあげる」

 

「・・・・・・あ、なんか許された」

 

「その代わり、今日1日私に付き合いなさい」

 

・・・・そう言っても、いつも付き合わされてるんですけど。こっちの都合は無視だと言いたいのか。

 

「早く用意しないと鍛冶炉、凍らせるわよ?」

 

「すぐに行くから、貴重な商売道具を虐めないで!?」

 

結局、今日も付き合わされることになるようだ。

諦めながら、ルミトは工房を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気付けば中央広場(セントラルパーク)まで来ていた。

 

「え、何。ひょっとして今日もダンジョンに潜るの?」

 

「ひょっとしなくても潜るわよ。昨日、あなた自身が言ってた事じゃない?」

 

おかしいな。質問の答えが疑問系で返って来た気がする。聞き直すのも面倒だから、ここは気のせいという事にしておこう。

 

「確かに言ったけど、それは一人で・・・・」

 

「あれ?あそこにいるのって、ベルじゃない?」

 

「・・・・本当だ」

 

反論を受け付けて貰えず、最近は諦める事にしていた。

そして、ベルを見つけた。

ただ、誰かと話しているようだった。

身長およそ100C(セルチ)。クリーム色のゆったりとしたローブを着ていて性別は判らないが、特に目立つのはその小さな体で背負っているバックパック。背負っている本人よりも明らかに大きい。

 

「あのサポーター、パルゥムじゃないかしら?」

 

「え~、獣人じゃない?」

 

「じゃあ合ってた方が、相手を一日手伝わせる・・・・という賭けをしましょ?」

 

「・・・・・・まぁいいけど。でも、あのサポーターどこの《ファミリア》なのかな?」

 

そんな事を言いながら、僕はミレアの後に続いてダンジョンへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・で?」

 

ダンジョンに潜ってしばらく経過した後に、ミレアが口を開いた。

 

「ん、どうかしたの?」

 

「今日の獲物は?」

 

「特にないけど?普通に探索だけど?」

 

「・・・・・・」

 

答えただけで、急に冷めた目をされてしまった。

おかしいな、解答は間違ってないんだけど。

 

「な、何さ?昨日言ったじゃん。欲しい素材はないって」

 

「・・・・・・つまんなーい」

 

「そんなもんでしょ」

 

「・・・・・・面白くなーい」

 

「ダンジョンは娯楽じゃないもんねぇ」

 

「・・・・・・可愛いくなーい」

 

「それは・・・・・・なんかゴメン」

 

うん、最後のは僕の所為じゃないね絶対。

完全なとばっちりだよ。

そんな風にじゃれ合ってる間にも、周囲には灰の山が量産されていく。

そう、僕たちは下らない掛け合いをしながらもモンスターを狩っていたのだ。

その数は10や20では足りないだろう。

 

「いやいや、ここまで狩れば満足でしょ」

 

現在は10階層の中程まで来ている。

魔石も『ドロップアイテム』も結構な数を回収している。

 

「・・・・・・ふーん」

 

「・・・・『もう少し粘ればレアモンスター出るのに』とかなんとか考えてるんでしょう」

 

「・・・・・・当たり、よ」

 

やっぱりだったか。

どうせそんな事だろうと思った。

 

「今日のところは勘弁してよね」

 

「・・・・仕方ないわねぇ」

 

納得してもらえたようで何より。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで探索を終え、換金も済ませた帰り道。

 

「ねぇミレア、本当にこの道で合ってるの?」

 

「勿論よ。だって、ルルネさんがよく使ってるのよ?」

 

・・・それは答えになってないのではないだろうか。

しかし、この場は任せるしかない。

僕は基本的に大通りしか使わないし、何より、自慢気な彼女に反論しても、ろくな目に合わないのは過去に何度も経験済みだから。

・・・・別に面倒くさいとかそんなんじゃないよ?

 

「・・・・・・ん?」

 

「・・・・あら」

 

突如、目の前を小柄な女の子が駆けていく。

その後を、紙袋を抱えたエルフの女性が追いかける。

 

「ちょっと、リュー?」

 

また一人、今度はヒューマンの女性が、これまた紙袋を抱えて走っていく。

 

何か嫌な予感がする。

隣にいるエルフの幼馴染に話しかける。

 

「・・・・・・ねぇ」

 

「少し黙ってなさい」

 

即答でした。

解ってる解ってる、見に行くんだね。

・・・・嫌な予感って良く当たるよね。

 

見に行った先にいたのは、さっきの三人とベル。

どうやら、ベルのナイフがなくなって、盗んだ犯人に良く似た女の子を追いかけたら、人違いだったとか。

なくしたナイフは、女の子が管理してくれてたみたい。

 

「・・・・それで、そこの二人は何の用です?」

 

「リュー?」

 

覗いてたのがエルフの女性にバレた。

割り本気でと気配を消してたのに。

 

「・・・・えーと」

 

「どうも、いつもヘルメス様がお世話になってます《ヘルメス・ファミリア》団員のミレアです」

 

「いえいえ、こちらこそヘルメス様には売り上げに貢献してもら・・・・よくしていただいてます。シルです」

 

今の会話に黒いものを感じた気がするが、聞かなかった事にしよう。

その方が身のためだからね、うん。

 

「私は、リュー。シルと一緒に『豊穣の女主人』で働いている者です。あなたは?」

 

「えっと、ルミトです。【ヘファイストス・ファミリア】所属鍛冶師(スミス)やってます」

 

お二人は酒場の従業員でした。

会話の内容から察するに、普通の人じゃないと思うけど。

 

「ルミトさん、ミレアさん!」

 

「やぁベル」

 

「お知り合い・・・・ですか」

 

「は、はい」

 

「そうですか。それでは私たちはこれで」

 

「あ、はい。またお店に行きますね」

 

軽く挨拶を交わしただけで、リューさんとシルさんは歩いていった。

 

そんな中で、女の子を後ろに庇っているベルを見てミレアが口を開いた。

 

「ベル、ヘスティア様を悩ませないでね。ふふ」

 

うわぁ、悪い顔。

他の人には見せられないね。

 

「あ、あはは」

 

「じゃ、またねベル」

 

「あ、待ってよルミト」

 

「はい、また」

 

ミレアの素晴らしい笑顔(悪い顔)が見れたところで、僕たちは別れた。

これ以上、ベルを怖がらせる訳にはいかない。

ベルの為にも、ミレアの為にも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

工房への帰り道にて、ミレアがこんな事を言ってきた。

 

「ねぇ、ルミト」

 

「・・・・・・な、何さ」

 

「ベルってさ、結構天然のアレ(・・)よね」

 

「あー、無意識で人に優しくしちゃうからね」

 

「そうそう・・・・・・・・あんたみたいな」

 

最後に不本意な事を聞いた気がする。

 

「ごめん、それについては小一時間ほど時間かけて弁明したいんだけど」

 

「帰るわよ。ほら、さっさとしなさい」

 

「・・・・」

 

ミレアは構わず歩いていく。

仕方ないから黙って後に続く事にする。

そんな風に歩いていると、自分の工房に着いた。

予想よりも早かった。

 

「ねぇミレア、早くない?」

 

「別に、いつもと同じよ?むしろ、いつもよりも少し遅いくらい」

 

ミレアはいつも(・・・)と言った。

だから毎回、来るのが早いのか。

結論、彼女は常習犯だった。

 

 

 

 

 

 




お待たせした割に文字数が少ないですが、ご容赦頂けたら幸いです。
それでは、また次回。


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笑顔の為に

気付けば、前投稿から四ヶ月経過しようとしていて、慌てて投稿しました。
待っていて下さった方々には、申し訳ないと思っています。



「ちょっとルミト、あんたいつまで籠ってるつもりよ?」

 

「えー、だってー・・・・」

 

あれから数日。

ルミトはずっと工房で過ごしていた。

人と接する機会といえば、同じく工房で寝泊まりしているミレアだけで、つまり僕の自由は武器を製作中のこの瞬間だけ。

 

「あと、少しは休みなさいよ。倒れるまでそうしてるつもり?」

 

「そんなつもりじゃないよ」

 

「じゃあ何よ、人に迷惑かけるのが好きなの?」

 

「・・・・いやいや勝手に転がり込んで、寝泊まりしてる時点でそれはお互い様じゃない?」

 

「何よ、私と一緒は嫌なのかしら?」

 

「そうは言ってないさ」

 

「なら・・・・何よ」

 

因みにここ最近、ミレアは虫の居所が悪い。

昨日も似たような事を言われた。

どうも彼女の機嫌が悪いのは僕が工房に籠ってるのが原因な様だが、こればっかりは譲れない。

僕だって一応は【ヘファイストス・ファミリア】の団員であるため、製作に取り掛からないと勘違いされるかもしれない。

 

「ありがと」

 

自分は突然そんな事を言っていた。

なんで言い出したのかは解らない。

 

「・・・・な、何よいきなり」

ミレアは驚いて固まっていた。

それはそうだろう。

僕自身でさえ、さっきまで動かしていた手を思わず止めてしまったのだ。

そして、思い出した。

確か少し前にヘルメス様がこんな話をしてくれていた。

 

『いいかいルミト君。女の子の機嫌が悪くて、自分に対して当たりが強くなったと思ったら・・・・とにかく感謝するんだ』

 

『は・・・・・・はぁ』

 

『それは相手が照れているだけだ。決して呆れているからじゃないんだ。“ああ、この子はなんて優しいんだ。こんな子に心配されるなんて幸せだ”と思えばいいのさ』

 

『・・・・』

 

『だから、“心配してくれてありがとう”って伝えれば、きっとその子は照れながらも微笑んでくれるよ』

 

『あ、あのヘルメス様?』

 

『うん、なんだい?』

 

『どうして泣いてるんですか?』

 

『ハハハ、さぁなんでだろうね。まぁまぁ、それよりもこの事は内緒にしておいてくれよ。君以外に知られたら、恥ずかしい』

 

最初は笑っていたのに、途中からグラス片手に泣きながらそう教えてくれた。

涙の理由は解らなかったが、その時はそれ以上は聞かなかった。

多分、そのタイミングは今なのだろう。

無意識に言った事とはいえ、ここで話題を変えても怪しまれるだけだ。

なら今はヘルメス様の教えに従おう。

 

「心配・・・・してくれてんでしょ?」

 

「・・・・」

 

「外に出ないでずっとこうしてるから」

 

「・・・・」

 

「嬉しいよ」

 

「・・・・・ねぇ」

 

「何?」

 

「それ、ヘルメス様に教わったわね?」

 

バレた。

いきなりバレた。

こうすれば、女の子たちをやり過ごせるって聞いてたのに。

 

「安心して。どんな風に教わったのかは大体把握できてるから」

 

つまりは全然安心できないって事ですね。

お手上げだ。

 

「適当に感謝すれば、状況を切り抜けられるとかそんなとこでしょ。違う?」

 

「・・・・仰る通りデス」

 

「ならその話には続きがあるって知ってる?」

 

「・・・・存じ上げません」

 

「ヘルメス様はそれをする度に、アスフィさんに絞られてるのよ」

 

「・・・・・・」

 

これには言葉が出なかった。

そうか、そうだったのか。

あの涙の理由はそれだったのか。

 

「因みに処罰についても知りたいかしら?いつもヘルメス様の謝罪が大音量で聞こえる程なんだけど」

 

「・・・・丁重にお断りします」

 

「まぁそうよね。ならいいわ」

 

そこで、ミレアの表情が少し柔らかくなった。

いつもなら『そんな遠慮しなくてもいいのよ?』なんて言って強制的に執行されるのだが、今回は違った。

“これはひょっとしたら、処罰無しの流れなのでは?”なんて考えていた矢先。

 

「罰として私に付き合いなさい」

 

もっと酷い結末が笑顔で待っていた。

 

「今から出かけるわよ」

 

「・・・・どちらへ?」

 

「外に決まってるじゃない。ほら行くわよ」

 

手を捕まれた。

そのままズルズルと引きずられて僕は扉を出てしまった。

籠りきりで特に運動してなかった運動不足の僕が、その手を振りほどけるはずもなく、大人しく連行されるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

久しぶりに日光を浴びて暫くした頃。

彼女はゆっくりとこっちを向いた。

彼女の身長は、160C(セルチ)で、僕は170C(セルチ)だから、僕が見下ろしている形になる。

 

「それで、何作ってたの?」

 

「・・・・ん、ん~とねぇ」

 

これは正直に伝えていいのだろうか?

怒られる事が目に見えているから躊躇ってしまう。

 

「嘘ついたりしたら、メインストリートで氷漬けにするからね」

 

「・・・・机と椅子」

 

「はい決定。さぁ動かないでねー、下手に抵抗すると危険だからねー。【嘆くは己が侵し・・」

 

「わー待って待って。それはまずいって色々終わるから」

 

「・・・・何が終わるって?」

 

「社会的地位とそれによる名誉なんだけど・・・・」

 

「そんな、あなたのちっぽけな存在なんて知らないわよ」

 

「いや待って本当に待って。やけに辛辣だねどうかしたの!?」

 

答えた途端、問答無用で呪文を唱え始めるミレアと、半泣きになりながら全力で彼女を制止するルミト。

端から見ればシュール以外の何でもないこの状況。

止めたのは、意外にも近くを通り過ぎたベルだった。

 

「・・・・あのー、お二人はこんなところで一体何をされてるんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・チッ」

 

「ありがとう、ベル。助かったすごい助かった」

 

舌打ちをするミレアと物凄い勢いで感謝しているルミト。

この組み合わせを見れば、ベルでなくても困惑するだろう。

 

「えーと、お二人は何をされていたんですか?」

 

「・・・・甘えてるだけ」

 

「はっきり言って命の危機」

 

「・・・・本当に、お二人ってどんな関係なんですか?」

 

お互いの言い分が異なることで、ベルが余計に混乱する。

いや、というか“甘えてる”って何さ。

しかもそれが氷漬けとかどんな甘え方なの。

 

「あの、ベル様?」

 

横からのジト目を必死に受け流しながら、そんな事を心の中で呟いているた時だった。

 

この前ベルと話していたサポーターが、ルクスの後ろからこっそりと顔を出した。

 

「あ、ごめんリリ。今すぐ行くから」

 

「・・・・誰よ?」

 

「・・・・知ってる?」

 

「知らないから私が聞いたんじゃない。なんで質問に質問で返すのよ」

 

「あの、二人とも?」

 

再び言い争いになりかけたところで、またもベルが仲介に入る。

 

「ベル様ベル様、リリは別に構いませんよ。隠しといて変に勘繰られよりも、今伝えた方が後々面倒事にならないとリリは思います」

 

「わかったよリリ、ありがとう」

 

例のサポーターにそう告げて、ベルは僕たちの方に向き直った。

 

「彼女は、リリルカ・アーデ。少し前に個人的に契約したんです」

 

ベルが言い終わると、彼女・・・・リリはぺこりと頭を下げた。

 

「ルミト・ラネッサ、です。これでも一応【ヘファイストス・ファミリア】所属鍛冶師(スミス)宜しくね」

 

「私は、ミレア。ミレア・サナシアよ。所属は【ヘルメス・ファミリア】なの、よろしく」

 

「えっと、リリは【ソーマ・ファミリア】に所属してる犬人(シアンスロープ)です。大したこともできないサポーターですけど、よろしくお願いしますね」

 

フードを外して、笑顔で名乗った彼女は、獣人だった。

そして彼女は笑顔でそう言っていたが、僕にはその笑顔が、張り付けた仮面のように感じられた。

しかし、すぐにフードを被ったので確証は得られなかった。

 

「・・・・で、なんでベル“様”?」

 

「まさか、ベルにそんな趣味があったなんて。これはヘルメス様たちに伝えなければ。いやでも、これはこれで・・・・」

 

そんな事を考えながら、冗談混じりに質問する。

すると意外なことに、ミレアも便乗した。

後半の部分は、何か欲望に聞こえた気がするが、必死に聞かなかった事にする。

聞けばその分、自分に降りかかるような、そんな予感がしたから。

 

「違いますって‼僕も最初は反対してたんですよ‼」

 

「つまりは、押し負けた・・・・と。つまんないわねぇ」

 

「まぁまぁ、やっぱりベルはベルって事だよ」

 

「・・・・・・お二人って、本当に仲がいいんですね」

 

「そこは幼馴染だから」

 

「単なる腐れ縁だよ」

 

「アハハ、ソウデスカ。それじゃ、僕たちはこれで」

 

乾いた笑いをしながら、ベルとリリルカさんはダンジョンへと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・悪かったわね、腐れ縁で」

 

ベルたちと別れて、暫くしてからもミレアは不機嫌なままだった。

ひょっとしたら、一層酷くなったかもしれないが、そこは幼馴染。

こういう時の対処法ぐらい心得ていなければ、『オマエ今まで何してた』って話さ‼

 

「まぁまぁ、そんなにむくれないでよぅ」

 

「・・・・何よ」

 

「彼女、犬人(シアンスロープ)だったよね」

 

「・・・・だから?」

 

そこで僕はニヤリと笑う。

そう、『ベルのサポーターは獣人かパルゥムか』という賭けの話だ。

当たった方は、相手に1日付き合ってもらうという約束で、だ。

当然、僕はミレアをこき使う・・・・予定だったのだが、今回は彼女の機嫌を直す事に役立てようと思う。

 

「あ~もう、わかったわよ‼好きに命令すればいいじゃないの‼ほら、さっさとしなさいっての‼」

 

「今からどこに連れてってくれますか、お嬢様?」

 

そう伝えると、ミレアは黙って俯いていたしまった。

 

「・・・・」

 

「お~い」

 

「・・・・・・」

 

「ね~ね~」

 

「・・・なんでよ」

 

「僕としてはねぇ、君の嬉しそうな顔を見てる方が安心するの」

 

「・・・・ずるい」

 

「だから、君が不機嫌なら笑って欲しいと思うし、泣かれるより笑っててもらいたい。君が笑う為なら、君が望む事を叶える」

 

「・・・・卑怯よ」

 

俯いているレアの頭にそっと手を乗せる。

そのまま、ゆっくりと撫でる。

 

「何よ、こんな時にばっかり」

 

「・・・・・・ごめん」

 

「バカ」

 

「・・・・・・ごめん」

 

俯いたままの彼女と、そんな彼女の頭を撫で続けて謝る僕。

周りからはどう見えてるんだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

柄にもなく、神たちから弄られそうな事をやってしまって、気付けば夕方。

もはや、“1日”どころではなくなっていた。

 

「・・・・・・明日」

 

「なに?」

 

「明日、1日付き合ってあげるって言ったの‼」

 

「・・・・そっか。うん、わかった」

 

「楽しみにしてなさい‼」

 

顔を上げたミレアは、笑顔だった。

それは僕の好きな表情。

 

「じゃあ、帰りましょ!」

 

「・・・・は~い」

 

返事して、僕はミレアの横に並んで歩き出した。

 

 

 

 




ルミトが、いつもより少しだけ凛々しく見えるのは私だけじゃない・・・・ですよね?
・・・・私だけじゃないといいなぁ。
そして、“結局二人が帰るのはルミトの工房じゃん”とか、そういう事を突っ込んではいけない。
実は、気にしてるのは私自身とか、そういうのは心の中に留めておくべきで、後書きに書くべきじゃないですよね。
それではまた次回。


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困惑と喜び

すぐに投稿するはずが、気づいたら前回より半年以上経ってました。
ホントに申し訳無いと思ってます。




 「・・・・う〜ん」

 

 どうしよう、正直なところは何をどうすればミレアが喜んでくれるのか全然思いつかない。

 ミレアは工房で、ニコニコしながら準備とかして。

 因みに僕は廊下でさっきからずっと悩んでます。

 いやだって、ミレアってば

 

 『何でもいいし、どこでもいい。外をぶらついてもいいし、なんだったらずっと工房にいてもいい』

 

 とか言い出すんだよ。

 ホントにどうしたらいいのかな。

 

 「あなたが悩んでるなんて珍しいじゃない。明日は雨かしらね?」

 

 困ってたら、そんな声が聞こえてきた。

 声のする方へ向くと、へファイストス様が自室の扉に手をかけたまま、笑っていた。

 

 「・・・・へファイストス様?」

 

 「そんなところで立ってるなんて、何かお困りかしら?」

 

 ひょっとしたら、何か助けてくれるかもしれない。

 そう思って頼ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・・って訳なんですけど、助けてもらえませんでしょうか?」

 

 「イヤ」

 

 即答されました。

 

 「・・・え」

 

 あまりの反応に思考がついていけなかった。

 

 「だって、答えが出てるんですもの。なら私が出ても邪魔なだけでしょう」

 

 「え、ちょっ・・・・・」

 

 「たまには自分で解決する事ね」

 

 バタン、と扉が閉められへファイストス様は自室へと消えていった。

 

 答えが出てる・・・って言われても、そもそも解ってないから聞いたのに。

 とはいえ、仕方ない。

 こうなってしまっては、もはや自分で答えを見つける他に道はない。

 ここは一度、ミレアの言葉を思い出してみよう。

 落ち着かなければ、攻略できるものも出来ないというものだ。

 

 『何でもいいし、どこでもいい。外をぶらついてもいいし、なんだったらずっと工房でもいい』

 

 わかったかもしれない。

 いやでもそんな事はあり得る・・・・のか?

 僕がいればそれでいい・・・・なんて。

 

 そう思うと急に恥ずかしくなってきた。

 顔が熱くなって、心臓の鼓動が早くなった気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「なんで、そんなに距離を開けてんのよ」

 

 「・・・・・ベ、ベツニ、イツモドオリデスヨ?」

 

 その日の夜、ミレアの顔をまともに見れないまま、寝ようとした時だった。

 

 「なら、なんで疑問形になってんのよ」

 

 「・・・キノセイダヨ?」

 

 ちゃんと答えたはずなのに、余計に疑われるなんて、結構理不尽だなと思っていた瞬間。

 

 「まぁ、いいわ。私がそっちに行くから」

 

 死の宣告が下った。

 

 「は、来るって何!?」

 

 トン、と彼女の足が床につく音が聞こえた。

 

 ゆっくりと、足音が近づいてきて、背中に気配を感じる。

 

 「・・・・・もう少し、奥に詰めてよ」

 

 「・・・あーっと、一応理由を聞いてもいい?」

 

 「言葉にしてもいいの?」

 

 小さい声で、そう言われた。

 僕は体勢をそのままに、ゆっくりと奥へと移動する。

 

 「ねぇ、こっち向いてよ」

 

 「・・・・勘弁してもらえない、かな?」

 

 わかる。

 今の状態でさえ危険なのに、これ以上の注文に答えると、僕は恥ずかしさと気まずさで倒れるのがはっきりと解る。

 

 「昔はよく一緒に寝たじゃない」

 

 確かにミレアの言うとおり。

 僕とミレアは昔から仲が良くて、何をするにも一緒に行動していた。

 でも、それは。

 

 「十年近くも前のことだよ。今とは状況が全然違う」

 

 「・・・・・そう、よね。そうだったわね」

 

 互いに顔を合わせないまま、僕らは言葉を交わす。

 本当は昔みたいに過ごしたい。

 ただ一緒にいるだけなのに、仲良く笑っていられたあの時みたいに。

 それは、成長したからなのか、オラリオに来たからなのか、冒険者になったからなのか。

 もう前みたいには出来ないのかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・・・ん」

 

 背中にのしかかる重みによって、僕は目が覚めた。

 いつもならミレアに無理矢理起こされるところだが、今日は、僕の方が先だったようだ。

 ミレアがいることに気づき、起こさないようにゆっくり動こうとしたときだった。

 

 「・・・・・あれ?」

 

 体が動かない。

 

 「せいっ・・・・えぇ?」

 

 やはり動かない。

 

 「まさか・・・・・あぁ」

 

 もしやと思って首だけ動かすと、見事にしがみつかれていた。

 間に枕を挟んでいたため気づけなかったみたいだ。

 もうどれだけ寝相が悪いのか、どうやって突っ込めばいいのかわからない。

 黙っていれば美人のソレであるが故に、乱暴に振り解くのは気が引ける。

 

 脱出を早々に諦め、呼び起こす事にする。

 

 「・・・ミレア」

 

 「・・・・・・・・・・・」

 

 返事がない。

 だが、たった一度の挑戦で諦めるのは癪だからもう一度。

 

 「ミレア」

 

 「・・・・・・・・・んぅ」

 

 今度は手応えあり。

 ならばこのまま畳み掛ける。

 

 「起きて、ミレア。ほら手を離して」

 

 「やだ」

 

 三度目は拒否されました。

 というか起きてるじゃんか。

 ひょっとしたら最初から起きてたのか?

 心なしか、しがみつく力が強くなった気がする。

 しかし、これで音を上げては、冒険者とは名乗れない。

 無理にでも脱出を試みる。

 

 「・・・・・ふぅぅうんっ!」

 

 「や・だ」

 

 また少し力が強まったような。

 

 「・・・んっぐぅぁぁぁ・・・・ハァ、ハァ」

 

 「や〜だって言ってるでしょ。何、もう疲れたの?」

 

 三度の抵抗も虚しく、僕は勝てなかった。

 ・・・・なんで、寝てるエルフに力比べで勝てないのさ。ダンジョンでの戦闘でも、お互いに前衛と後衛を交代でやってるのに。ヘルメス様、一体何を吹き込んだんですか。

 

 「しょうがないわねぇ」

 

 ミレアは渋々、体を起こした。

 対して僕は、朝からぐったりすることになりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「で、どこ行くのよ?」

 

 「う〜ん、歩きながら決める・・・・じゃあダメ?」

 

 通りに出てそんな会話をすると、少し呆れられた。

 

 「・・・まぁ、いいわ。はい」

 

 そして、右手を差し出された。

 

 「えっと、つまり・・・」

 

 「あなた、考えながら歩くとあっちこっち行っちゃうじゃない。だから手を繋いでてあげる」

 

 いやまぁ、確かにその通りではあるけど、この年で『手を繋ぐ』というのは恥ずかしいと言いますか照れくさいと言いますか。

 しかし今日は、ミレアの為に使うと決めた。

 一度決めたからには行動しなければ。

 

 「・・・・・ん」

 

 ゆっくりと左手を近づけて、ミレアの手を握った。

 

 「ふふ、よろしい!」

 

 多少は恥ずかしいけれど、彼女が笑ってくれたから良しとしよう。

 正直なところ、昨日は恥ずかしさから突き放すような態度をとって、後ろめたさがあった。

 でも、今は別の問題が発生した。

 この状況下で考えがまとまるほど、僕は賢くないのである。

 そんな事を考えていると、ミレアが顔を覗き込んできた。

 

 「・・・・な、何さ」

 

 「アンタの顔、真っ赤じゃない」

 

 「うるさい、あんまり見ないでよ」

 

 「え〜、い〜じゃないの。ほら、ちゃんとこっち向いてよ。顔を背けないの」

 

 こっちは全然良くないっての。

 手を繋いで歩くだけでも恥ずかしいのに、顔を直視なんてできるはずないじゃないか。

 

 「ふふっ、ほ〜ら素直になりなっての」

 

 特に催しがある訳でもないはずなのに、この機嫌の良さはどういう事なのか。

 こっちはあまりにも恥ずかしくて、今すぐにでも駆け出したい位だというのに。

 

 「・・・・因みにわかってると思うけど」

 

 そんな僕の胸中を知ってか知らずか、ミレアが小さな声で一言付け加えてきた。

 

 「恥ずかしいからって逃げ出したりしたら、荒れるからね」

 

 「・・・・えっと、ミレアが?」

 

 「アンタの工房が、よ。それはもう目も当てられない程にねぇ」

 

 なんて脅し方をしてくるんだ。

 逃げようにも逃げられないこの状況。

 いやまぁ確かに言い出したのは僕の方だけどね。

 この恥ずかしさは予想外と言いますか何と言いますか。

 

 「だから諦めなさいって。アンタも冒険者なら一度口にした事ぐらいやり遂げなさいよ。いくら恥ずかしいからって逃げるのは許さないわよ」

 

 「当たり前のように心を読まないでよっ!?なんで考えてること解るの!?」

 

 「秘密。ほら早くしてよね、私だって恥ずかしいんだから」

 

 どこか恥ずかしそうに笑いながらミレアは催促してきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 互いに嬉しいはずなのに、相手にはっきりと伝えられない不器用さ。

 相手に察してもらえれば自ら言わなくてもいいという強情なところ。

 口ではあれこれ言いつつも、結局相手に付き合ってしまう正直になれないところ。

 数え上げれば切りがないが、それでも相手の文句を言わないのは、幼馴染だからだろうか。

 

 「そこまで言ってくれるなら、せめて後もう一声くらい欲しいわね」

 

 「だから心を読まないでって!」

 

 つまりまぁ、それなりに仲良しなのだろう。

 からかい合い、ムキになって反論し合うその関係は今でなければ有り得ないのだから。 

 

 なんてことを考えている時だった。

 

 「・・・・あ」

 

 今まで上機嫌だったミレアが急に落ち込んだ様子がその声音から感じて取れた。

 彼女はそっと僕の後ろに身を隠した。

 どうしたんだろう、そう考えてゆっくりと前を見ると、そこにいたのは。

 羽つきの鍔の広い帽子を被り、旅人風の服装に身を包んだ優男風の男神。

 ヘルメス様、本人だった。

 そしてその隣では、常に落ち着いた様を想像させる眼鏡をかけた女性、《ヘルメス・ファミリア》団長のアスフィさんがいた。

 多分だけど、ミレアが隠れたのは彼女がいるからだろう。

 

 「やぁルミト君、この前のアレ(・・)の効果はどうだったかな?おっと失敬、その様子から察するに聞くまでもなかったかな!」

 

 自分から話しといてこの堂々とした姿、もしこの前の光景を見ている人がいたなら、呆れるのを通り越していっそ清々しいとまで言った事だろう。

 

 「それは、まぁ。察して頂けたら助かります。ところで今日は用事とかないんですか?こんな時間から珍しいですね」

 

 「それについては私が答えましょう。・・・・ミレア」

 

 「・・・・・ッ!?」

 

 びくっ、と彼女が跳ねるのがわかる。

 

 「は・・・・・はい」

 

 「あなた、ここ最近見かけないと思ったら今までどこにいたのですか?」

 

 「・・・・あ、えっと、その」

 

 普段の彼女からは考えられない程に萎縮している。

 

 「アスフィ・・・さん、実は」

 

 「おおっと、アスフィ!すまないが予定を思い出した。もう一つ用事に付き合ってくれ」

 

 張り詰めた雰囲気を破るように、ヘルメス様が突然大きな声で話し始めた。

 

 「・・・何故今まで黙っていたんですか」

 

 「だから今思い出したと言っているだろう!あとミレアには別に用事を頼んであるから、あまり言ってやるな」

 

 そう言われてアスフィさんは深い溜息をついた。

 

 「・・・そうでしたか。すみませんミレア、訳も聞かないまま追い詰めてしまいました」

 

 「いえ、アスフィさんは悪くありません。説明してなかった私が悪いからご迷惑を」

 

 さっきとは変わって謝るアスフィさん(団長)と困惑しつつも安堵して謝罪するミレア(団員)

 

 態度変わり過ぎでしょ。

 

 「おいおいどうしたんだアスフィ!?さっきとは打って変わってしおらしくなったなぁ、疲れてるのか?」

 

 「・・・・誰のせいですか、まったく」

 

 「邪魔したな二人とも、またな」

 

 「・・・・・それでは」

 

 やっぱり流れ変わり過ぎでしょ《ヘルメス・ファミリア》。

 ついていけなさ過ぎて、会話の半分以上空気になってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人が去って少ししてから、ミレアがゆっくりと元の位置に戻った。

 

 「どうしたの、いつもとは調子が違ったけど。ひょっとしてアスフィさん苦手?」

 

 「・・・・・か」

 

 「・・・どうしたのさ」

 

 普段と違って、彼女の声は小さくなっていた。

 そんなに恐れてる相手なのかと思っていると、

 

 「カッコイイ!」

 

 「・・・・・はぁ?」

 

 「ねぇねぇ、今日のアスフィさんカッコ良かったわよね!いやいつもカッコイイんだけど、特に今日は凄かったわ!普段の凛としてるのも素敵だけど、相手を追い詰めるあの雰囲気も堪らないわ!ね、そうよね、ね!?」

 

 盛大に違うっぽい。

 つまり、恐くて萎縮していたのではなくて、憧れの存在を前にして緊張していた、という事のようだ。

 

 「・・・・・はぁ〜、心配して損した」

 

 「ちょっと、話聞いてんの、ねぇってば!」

 

 けしかけたのはヘルメス様。

 偶然を装って会ったのもヘルメス様。

 ミレアを盛り上げるために、憧れの対象(アスフィさん)を連れてきたヘルメス様。

 全部、あの神に仕組まれたかと思うと素直に喜べないというかなんというか。

 しかも、ヘルメス様曰く、ミレアは用事をこなしている途中らしい。

 当分はミレアと一緒なのかと思うと、複雑としか言い表せない。

 しかもまだお昼にもなっていない。

 その上、ミレアは上機嫌だし、ホントにどうするべきだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人と別れて、少ししてからヘルメスとアスフィは路地裏へと入った。

 

 「ヘルメス様、本当に何がしたかったんですか」

 

 周囲への警戒を続けたまま、アスフィは自らの主神へと話しかける。

 

 「おいおい、変な勘ぐりは止せよアスフィ。俺はいつもこんな感じだぜ?」

 

 あくまでも冷静に言ってのけるヘルメスに、アスフィは少し困惑した。

 

 「・・・でしたら偶然を装ってまで調査をしなくてもよろしいでしょうに」

 

 「そう言うなよ、これも依頼主の意向ってヤツさ」

 

 「しかしまさか《ヘファイストス・ファミリア》、その主神自らの申し出とは」

 

 「俺も最初は驚いたさ。しかも、『不器用な二人を後押ししろ』とはいかにも過保護な彼女らしい」

 

 「自分でやれば、それで済む話ではないのですか?」

 

 「それがなぁ?『たまには自分で解決しろ』、と言ってしまっただけに干渉しにくいみたいなんだよなぁ」

 

 「・・・・・・・そうですか」

 

 最後にはアスフィは完全に呆れてしまった。

 彼女は今回、終始振り回されてばかりとなったのだ。

 二柱の意図がどうであれ、彼女が一番損をした事に変わりはないだろう。

 

 そんな神の思惑に気付かぬまま上機嫌なミレアと、早々に疲れつつあるルミト。

 二人の一日はまだ始まったばかり。




今回はこんなにお待たせしたんだから、じゃあ次回は投稿が早いんですね・・・・・・・えぇ(困惑)。
まぁ投稿はします(いつとは決まっていませんが)
にしてもルミト、君力負けして、振り回されて、損な役回りばかりですね。
・・・一体誰のせいなんでしょうね?
それではまた次回。


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夕日と笑顔

挨拶より先にまずは謝罪を。
半年以上経過してから投稿する割に、文字数は本作品中で過去最少となっております。
ホントに申し訳ないです。


 あれから暫く歩いて時刻は昼。

 

 「んぐ・・・・むぐ・・・」

 

 「・・・・・ごくん」

 

 二人は昼食をとっていた。

 

 「いやぁ、やっぱりお昼はジャガ丸くんでしょ!」

 

 「それは認めるけど・・・・」

 

 「けど・・・どうかした?」

 

 一見仲良く座って昼食をとっているように見える。

 だが、少しずつミレアの機嫌が悪くなっていく。

 

 「なんで、そんなに食べてるのに太らないのよ!」

 

 そう、ミレアが不機嫌となっている原因は、ルミトの食事量にあった。

 

 「・・・・そんなに食べてないはずなんだけどな」

 

 「嘘つくんじゃないわよ!」

 

 「嘘じゃないって。むしろいつもより少ないんだけど」

 

 ちなみに個数で言えば、ミレア2個、ルミト5個といったところだろうか。

 

 数で言うなら倍以上。

 これで普段より抑えている。

 しかも全然気にしていないという事がミレアを追い詰めていく要素だろう。

 

 「・・・・成長期ですから」

 

 「私も同い年なんですけどねぇ!」

 

 やっぱり、感情が豊かなミレアを見ると安心する。

 結果として、それが自分に対する怒りであったとしても、二年前(あの時)のような顔ではないから。

 もうあの時みたいな顔はしてほしくないから。

 だから、この一日はミレアの為に使うと決めたのだ。

 

 「まだ半日もあるんだから、今からそんなに飛ばしてたら疲れちゃうよ」

 

 「あー・・・・そうね。まだ半日()あるんだしね」

 

 一瞬落ち込んだように見えたが、あっという間にミレアの表情は変わっていた。

 まるで、何かを企んだ男神様たちのように。

 そう、ニヤリと笑っていたのだ。

 ・・・・・・・・・早まったかな。

 最近、自分で言った事で自らを追い込んでいる気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふんふふー」

 

 隣では上機嫌なミレアがニコニコとしていた。

 

 「本当に、こんなんでいいの?買いたいものとか、作って欲しい装備品とかじゃないのに」

 

 「わかってないわねぇ!これがいいんじゃないのよ」

 

 ・・・・わからない、本当にこれだけでいいっていうのか?

 

 「・・・・・あなたと一緒に歩いていられる、この状況が嬉しいのよ」

 

 「いやでも、“それだけ”じゃないの?」

 

 するとミレアが足を止めた。

 

 「・・・・・ミレア?」

 

 「“それ自体”が嬉しいの!」

 

 彼女の顔は若干赤く染まっていた。

 

 「未だに私のことがわかってないようね。いいわよ、そっちがその気なら後半日使って教え込んであげるわよ」

 

 「一応はそれなりに理解してるつもりで・・・・・うわっ!?」

 

 そう言い切る前に、ミレアが走り出した為に、危うくバランスを崩しそうになった。

 

 半日で済む内容だといいんだけどなぁ。

 

 

 

 

 




投稿期間はまだしも文字数はどうにかします。
(・・・・投稿期間も改善しろと言いたいところですが)
ギリギリですがなんとか今年中に投稿出来て良かったです。
それでは・・・・良いお年を!


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感謝の意味

珍しく前回から2ヶ月以内に投稿できたことに若干の驚きを隠せぬまま、お久しぶりですと挨拶から。
前回のを読み返して、あまりにも文字数が少なくて自分でも驚いたので、今回は5千字程でご容赦を。
それでは、どうぞ!・・・・・・あ、そうでしたそうでした。明けましておめでとうございます。


 アレ見てよ

 早く来て

 次はアッチ行きましょ

 

 などと、ミレアに振り回されるまま半日が経過した。

 正直なところ、あっちこっち回り過ぎて途中から記憶がないんだけど、そんな事を言おうものならミレアの機嫌を損ねること不可避だろう。

 

 「ぅん、どうかしたの?柄にも無く難しい顔して」

 

 そんな事を言いながら、ミレアは下から覗き込んできた。

 

 急にミレアの顔が近くなったものだから、慌てて顔を逸してしまった。

 顔が熱い様な気がするけど、多分気の所為だろう。そう信じたい。

 

 「ちょっと、ホントに何なのよその反応は。あ〜、さては何か隠してるんでしょ?」

 

 「・・・・まさか?何も隠してなんかないって。僕だって考え込む時ぐらいあるっての」

 

 「なら、どうして目を見て話さないのかしら?」

 

 恥ずかしいから・・・・なんて直接本人に言えるはずないじゃないか。

 そう考えていると、彼女に両頬を抑えられ、無理やり正面を向かされてしまった。

 

 「面と向かって言いなさいってお姉ちゃんと約束したわよね!」

 

 「別に、同い年じゃんか。どっちが年上とか・・・・」

 

 「い・い・か・ら!・・・・あれ、ちょっと顔紅くなってない?」

 

 ・・・・遂にバレた。どうしよう、どうすれば・・・・ 

 

 「な〜によ、まさか下から見上げてくるエルフにドキってしたとか言わないわよね?」

 

 いや、全部言われたよ。ホントにもうどうすんだココから。

 

 「ぅあ・・・・えっとね、急にかわいいエルフが見上げてくるとか思ってなくて、その上、“目を合わせろ”とか言われるとちょっと気恥ずかしいっていうかその・・・・ハイ」

 

 「・・・・ちょっと、何なのよその反応。これじゃ私だけ遠回りしてたみたいじゃないの」

 

 何故かミレアの顔まで紅くなってる様な気がするが、そこまで意識できるほど余裕はない。

 気づかない間に夕方になっていたのか、辺りは少し暗くなり始めていて、迷宮から帰ってきた冒険者の数も増えている。

 取り敢えず、ミレアの手から解放されようと、彼女の両手を握る。

 

 「ち、ちょっと!?こんな所で何すんのよ!?」

 

 そんな様子で、彼女が慌てた事で恥ずかしさが増した気がする。

 うわぁ、温かいなぁ・・・・・・・じゃなかった。誰かこの状況をどうにかしてくれよ。

 ヘルメス様、アスフィさん、見てるんでしょ!?どうせ、どっかの陰から覗いてニヤニヤしてるんでしょ!?お願いですから!?

 

 なんて、心の中で盛大に頼み込んでいると・・・・

 

 「お〜い、兄ちゃんたち、流石に店の真ん前でそんなやり取りをされてるとな、なんの関係もない俺も恥ずかしいんだけど。どうせ寄り付く客もいないけどな、もう止めてくれると有り難いんだが」

 

 なんて、隣から男の声が聞こえた。

 

 「・・・・・・」

 

 「・・・・」

 

 声のする方を向くと、ドワーフのオジサンが座ったまま手を振っていた。

 途端に気まずい雰囲気となる僕とミレア。彼女に至っては完全に真っ赤になり、頭から煙が出ていた。

 

 「いやまぁ、最初こそ止める気はなかったんだけどな?それでも長々と店の前にいられると客が寄り付かなくなる訳だから、止めざるを得ないっていうかその・・・・なんか悪いな」

 

 その後はもう、ミレアの悲鳴が響き渡る事は簡単に予想できるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・・・・・うぅ、もう恥ずかしくて外で出歩けないじゃない」

 

 両手で顔を覆いながら恥ずかしそうに呟くミレア。

 

 「あ、それは助かる。だって工房に来ないって事じゃん」

 

 「アンタの工房から外に出れないって言ってるんですけど?」

 

 ・・・・・・・終わるんだが?何がとは言わないけど、僕の生活終わってしまうんだが?

 

 「はっはははぁ!いや、今のは兄ちゃんの言い過ぎだと思うけどね!で、どうだい?何か買ってやくれないかい?」

 

 この状況下で促すとはなんたる勇敢さ。このオジサン、只者ではないな。

 オジサンの足元を見ると、指輪や首飾りなど、神様たちの言うアクセサリーという物が陳列していた。

 

 「あら素敵。これ全部、手作りなのかしら?」

 

 「おうおう、そうだとも。ここにあるのは全部、俺が拵えた物よ!」

 

 確かに一個一個に意匠が凝らされている。

 これがホントに手作りだとなんて素晴らしさか。

 

 「あ、ねぇルミト。コレとコレ凄くない?パッと見別々の意匠なのに、2つ合わせると1つの記号になるのよ!?」

 

 ミレアが目を輝かせて2つの指輪を見せてきた。

 

 「はっはははぁっ!お目が高いなお嬢ちゃん!その2つはこの中でも自信作でよぉ!」

 

 その時、僕は見てしまった。

 値札にはとんでもない桁が堂々と書かれていた。

 

 「・・・・まぁその分だけ値は張るんだけどな」

 

 「ぐ・・・・」

 

 値段を知った途端、ミレアの心が折れた音が聞こえた。

 

 「・・・ごめんなさい、邪魔したわね」

 

 諦めたミレアは立ち上がり歩き出した。

 彼女の背中のが遠くなっていく。

 慌てて立ち上がって追いかけようとしたとき、ふと思いついた。

 

 「そうだオジサン、ちょっと頼みがあんだけど聞いてくんない?」

 

 

 「んぉ?そいつぁ構わねぇけどよ、お嬢ちゃん行っちまったぞ!?」

 

 「・・・・・・・その彼女の事で、ちょっと協力して欲しいんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、いつの間にか私はルミトの工房に帰ってきていた。

 

 「ミレア〜、ちょっと・・・・待ってよ〜」

 

 後ろからはルミトの呼ぶ声が聞こえてきた。

 

 「・・・・遅かったじゃない」

 

 「えっとその、人混みに飲まれて」

 

 「普段籠もってばっかりだからじゃないの」

 

 「・・・そうかもね。あ、ゴメン。ちょっと思い出したから少し籠もるね」

 

 なんて言いながらルミトは工房へと入っていった。

 そのままベッドに座りさっきの指輪を思い出す。

 偶然とはいえ、あの場所で見つけた指輪が特に印象に残っていた。

 しかし結構な値段もしていた。

 買えないわけではないが、やはり少しだけ躊躇ってしまった。

 

 「・・・綺麗だったなぁ。でもなぁ・・・・」

 

 そのまま少しの間、考えた末に。

 

 「・・・・・よし。ルミト、私ちょっと出てくるね、すぐに戻るから」

 

 「・・・・は〜い」

 

 私は再び、外に出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「はぁっ・・・・はぁっ!」

 

 目的はさっきの指輪。

 ひょっとしたらもう売れてしまったかもしれない。

 でも、ただ諦めるだけなんて嫌だった。

 

 「お、よぉさっきのお嬢ちゃん。そんなに息を切らしてどうしたんだ?」

 

 「あ・・・・・あの・・・はぁ・・・はぁ」

 

 「まぁもう店じまいだけど、お嬢ちゃんの息を整える位の時間はあるからよ、取り敢えず落ち着きなって」

 

 「・・・あ、ありがとう・・ございます・・・・ふぅ」

 

 「んで、どうしたんだい?」

 

 「さっきの指輪2つを買いたくて、戻って来たんですけ・・・ど」

 

 しかし、私はそこで気づいてしまった。

 さっきまであったはずの指輪2つは・・・・もうなかったのだった。

 

 「あっちゃー、タイミング悪かったな」

 

 「まさか・・・・」

 

 「ああ、丁度お嬢ちゃんたちが去ってった後にな、買ってった人がいてな。なんかその・・・・悪いな」

 

 「・・・・そう、ですか。突然押しかけて・・・・・失礼しました」

 

 無いものはしょうがない。

 一言告げて私は重い足取りで工房に戻ることにした。

 

 「すまねぇな、お嬢ちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・・・ただいま」

 

 「あ、やっと戻ってきたぁ!遅かったね」

 

 戻ってくると丁度、ルミトが工房から出てきた。

 

 「えぇ・・・・もう用事は済んだの?」

 

 「ほんの少し前にね」

 

 「そう・・・・・悪いけどもう寝るわ」

 

 「待ってよぉ、見せたい物があるんだけ・・・・・」

 

 「ゴメン、明日にして」

 

 ルミトの言葉を遮って私はベッドに向かおうとした、その時だった。

 

 「ならせめて、そこでちょっと止まって目を閉じてて。すぐに済むから」

 

 「・・・・ならさっさとしてよね」

 

 珍しく食い下がってくるルミトに呆れて、渋々従うことにする。

 もう早く忘れたいってのに。

 そんな事を考えていると、ルミトが後ろに立って何かしようとしているのを感じる。

 

 「・・・・何しようとしているのよ?」

 

 「秘密!まだ目を開けちゃだめだからね」

 

 「・・・・・ホントに何なのよもう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「終わったから、もう目を開けていいよ」

 

 そう言って、ルミトの声が少しだけ遠くなった。

 

 「・・・・一体なんなの・・・・よ?」

 

 ふと、自分の首に違和感を覚えた。

 手を伸ばすとそこにはさっきまで諦めていた、あの模様が半分だけ刻まれた指輪がネックレスになって、自分の首にかかっていた。

 

「丁度さっき完成したんだ。どう、驚いた?」

 

 「・・・・何で?」

 

 「1日付き合うって決めたから」

 

 「・・・・・どうして?」

 

 「君が欲しそうに見つめてたから」

 

 「・・・・・・」

 

 「君が、ミレアが嬉しいと・・・・僕も嬉しいから」

 

 何でこいつは、いつもはだらしないのに、こういう時はこんな事して、恥ずかしいって解ってるのに、こんな事を言ってくれるんだろう。

 

 こんな奴だから、私は・・・・・。

 

 涙が溢れ、胸がキュウと締め付けられる。

 

 「ど、どうしたの!?驚かせすぎた!?」

 

 そんな私に驚いたのか、ルミトがアタフタしている。

 さっきまで、あんなに笑顔だったのに急に困りだして。

 

 「ホントに、大丈夫!?ゴメンね、少しびっくりさせたかっただけで・・・」

 

 「・・・・違うの」

 

 「・・・・・ふぇ?」

 

 不思議だった。

 泣いているはずなのに、嬉しくて笑っている自分がいることが。

 何よりも不思議だった。

 

 「な、何が間違え・・・ってうわっ!?」

 

 ルミトの言葉を遮って、気づいたときには彼に抱きついていた。

 

 「ぇ・・・・・な、何!?」

 

 「・・・・・ありがとう」

 

 それ以外に言葉は不要だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふんふふ〜ふ〜」

 

 背中越しにミレアのご機嫌な雰囲気を感じながら、ルミトはベッドで横になっていた。思い出していたのは、さっきの露店にてミレアが落ち込んで離れていった時の事。

 

 「・・・・・・協力って何すんだよぉ?さっきのお嬢ちゃん泣かせたいってのかぁ?」

 

 「逆だよオジサン、・・・・・喜ばせたいんだ」

 

 「・・・・」

 

 「多分だけど彼女は、後でもう一度来ると思うんだ。さっきまで見てた2つを買いにね。でもせっかくだから僕から渡したい」

 

 「ふぅむ・・・・ということはワシはお前さんが買ったってことを黙っておればよいと、そういうことだな?」

 

 「そういうこと」

 

 そこで、ドワーフのオジサンは少し考え込んだ。

 

 「あと、この2つを首から下げれる様に材料も一緒に買わせてほしい」

 

 「別にそれくらいならオマケしてやるが・・・・」

 

 「ううん。さっきまで店の真ん前で邪魔してた訳だから、そのお詫びに」

 

 「お詫び・・・と言う割には随分と注文が多いではないか」

 

 「あ〜まぁ、それは・・・・その」

 

 「わっはっはっはぁ!まぁいい、協力してやるわ!」

 

 そこでオジサンは盛大に笑って協力してくれる事になった。

 

 「・・・・ありがとう」

 

 「にしてもお前さん、どうしてそんな手間のかかる事をしようなどど。直接渡せばよいではないか。こういっちゃあなんだが、お前さんたちの関係ならそんまわりくどい事をせんでもいいと思うんじゃが」

 

 「そうなんだけどさ、昔から知ってる間柄だから直接とか恥ずかしくて。なんなら驚かせたいかなって」

 

 「・・・・面倒な性格じゃのう」

 

 「自分でもそう思うよ。はいお代」

 

 「ほいよ。じゃあ後は任せな。上手くやれよ」

 

 「うん、ありがとう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 確かに今日は1日付き合ってもらうとは言ったが、正直言って、ここまでやってもらえるとは思っていなかった。

 

 私ばっかりこんなに貰ってばっかりでいいのかな。

 そんな事を考えて目の前で横になっているルミトに声をかける。

 

 「ねぇ、もう寝た?」

 

 「・・・・寝てる。だからコレは寝言ね」

 

 驚いた。まさか返事が来るとは思っていなかったから。

 

 「ふふっ、起きてるんじゃないの」

 

 そんなに反応に思わず笑ってしまった。

 

 「・・・・どうかしたの?」

 

 「なんで、ここまでしてくれるのかなって」

 

 「・・・さっきも言ったじゃん。ミレアが嬉しいと僕も嬉しいから。ただ喜んでもらいたいって・・・・ホントにそれだけだよ」

 

 「でも、私ばっかり・・・・」

 

 「違う、それは違うよ。だって、いつもここ(工房)にいてくれるじゃん。ヘルメス様たちの所(ホーム)に帰らないで。 いつも言えないのは恥ずかしいからで、ホントは感謝してる・・・嬉しいんだから。・・・・寝言だからね」

 

 「・・・・・っ!?」

 

 それを聞いて、驚きのあまり言葉が出なかった。

 だってそれは、ルミトも私のことを考えてくれているって事・・・だと思えたから。

 

 自分の顔が熱くなっているのがわかる。

 自分の顔が紅くなっているのがわかってしまう。

 今だけは、ルミトがこっちを向いてなくて助かった。

 見られたら、これからどう接したらいいかわからないから。

 ひょっとしたら、もう今日みたいなことは無いかもしれないと、思ってしまったから。

 

 「・・・・・ありがと」

 

 こんな気持ちのままで、私は寝れるんだろうか。

 明日、ルミトに“おはよう”ってそう言えるだろうか。

 

 ゆっくりとルミトの背中に両手を近づける。

 そのままギュッと服を握ると、微かに暖かくなって安心する。

 今ぐらいは・・・・いいよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数時間後。

 ふと、背中に違和感を覚えて手を伸ばそうとしたら、何かに触れた。

 

 「・・・ん?・・・・ぅん!?」

 

 寝ぼけ眼で見てみたらミレアの顔が近くて驚いた。

 慌てて向き直るも、反応はない。

 どうやら寝ているようだった。

 

 「え・・・・えぇ〜」

 

 察するに、さっき触れたのはミレアの手のようだ。

 深く考えず寝ようにも、もうすっかり目が冴えてしまっているため、それもできそうにない。

 

 一体どうしてこんなことになったのか。

 そう考え続ける事、更に数時間。

 気づいた時には窓からは朝日が差し込んでいた。

 

 




ルミトよ、君いつからそんなに出来る子になってしまったんだ。
久しぶりに筆(?)が進んだと思ったらルミトがとんでもないアレになってますね。第一話とはまるで違う気がしますが、安心して下さい。同一人物です・・・・多分。
それでは、また!
今年もよろしくお願いします。


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悪戯と君の顔

きっかり一ヶ月での投稿に前回とは比べようがない程驚いてますのは、何を隠そうこの私です。
今の投稿間隔に『ぶり返し』がいつ来るのかビクビクしてますが、それは一旦放置です。
それでは、どうぞ!


 「・・・・くぁ」

 

 結局アレ以降は寝ることができず、考えることしかできなかった。

 うわ、すんごい眠いってのに目が冴えてるとか何コレ。

 

 「んしょ・・・っと」

 

 未だに寝ているミレアを起こさないように、静かに体勢を変える。正確にはミレアに向き合う。

 村にいた頃はお互いに遊んでるだけで十分楽しかった。

 近所の大人に悪戯して、一緒に怒られた。

 かくれんぼをしてて、木の上に隠れたはいいが降りられなくて泣いてるミレアを見つけた。

 こっそり後ろから近づいてミレアをびっくりさせようとしたら、逆に驚かされた。

 “冒険だ”なんて言って二人で洞窟に向かったのに、風の音が怖いからって入り口のところで引き換えした。

 走って転んで泣いたときには、変にお姉さん振られて慰められた。

 

 「・・・・ふむ」

 

 そっとミレアの頭に手を置いて、静かに撫でる。

 確かに、撫でるのも悪くない。

 こう、満たされる感じが・・・・そんなことを考えていると、くすぐったいのかミレアがちょっと動く。

 もう一回撫でるとまた動く。

 これ、面白いな。

 このまま起きるまで続けてみようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・・・マズイ」

 

 反応が面白くて暫く続けているとマズイ事になった。

 ミレアが起きた訳じゃない。

 では何がマズイのか。

 ミレアは丸くなっていた。

 しかも、頭が僕のお腹より少し上の位置まで迫っていた。

 ・・・・起きたら氷漬けにされる事、間違いないな。

 では、ここで変えてみよう。

 頭を撫でると動くようだが、頬をつつくとどうなるのだろう。

 後が怖いなぁ・・・・まぁ止めないけどね。

 

 

 「・・・・つんつんってね」

 

 2回ぐらいやってみると、すっとミレアの手が動いた。

 

 「ほれほれ」

 

 更に2回つつくとミレアの両手が、僕の手を掴んだ(・・・)

 

 「・・・・おや?」

 

 包んだ、ではなく掴んだ。

 おかしい・・・・さっきまでと反応が違う。

 

 「うりうり」

 

 それでも続けると段々力が込められていき、ミシミシと軋んでいく。

 

 「・・・っ!?」

 

 痛みのあまり顔を顰めてしまう。

 いくら力加減が利かないからってこれはおかしい。

 ほ、本当にエルフかこの子。

 とにかくこのままだとエリクサーのお世話になること間違いない・・・・・こうなったら!

 

 「こ・・・のっ!」

 

 撫でる事にする。

 考えはこうだ。

 撫でるのを止めてつついた事でこんなに痛い目に遭っている。ということは再び撫でる事でこの痛みは消えるだろう。

 そう思っていた・・・・・のに。

 

 「イタタタタタタッ!」

 

 僕の考えた通りにはいかず、寧ろ悪化している。

 そしてこの時、気づいた。

 いくらなんでもこの力は故意でなければ納得いかない。

 つまり・・・・・

 

 「・・・・・おはよ」

 

 「おはよう!」

 

 ミレアは起きている、ということだ。

 しかもご機嫌。

 まぁ返事の速いこと速いこと。

 

 「よく眠れた?」

 

 「えぇ、お陰様で目覚めスッキリよ。なんだったら《魔法》撃ち込んだって外さない自信あるわ!」

 

 「できれば、僕以外を狙ってくれると助かるなぁ。さっ、起きよっ・・・・・ぐぇ」

 

 「起きるのはいいけどね、その前にこの状況を説明するのが先じゃない?」

 

 く、首が。

 体を起こそうとしたら服の襟を掴まれて、すんごい苦しい。

 

 「・・・・・」

 

 「話さないって言うなら、ずっとこのままだから。寧ろどんどん引き込んで行くから」

 

 どうする。

 無理に逃げようとすれば【ギルティ・バインド】で拘束されて終わりだ。

 かといって“反応が面白いから”と正直に伝えても同じ道を辿るだろう。

 

 「大人しく白状したほうが・・・・・」

 

 抵抗は諦めよう。抵抗は諦めよう。

 このままミレアの気が済むまで大人しくしていよう。

 ばふっ、とベッドから音がなる。

 そして隣では口を開けたままミレアがこっちを見ている。

 仕掛けるならここしかない。

 

 「な・・・・・何よ?」

 

 「かわいかった、から」

 

 「・・・・ぇ?」

 

 「くすぐったそうにしてる姿が、かわいかったから。本当は撫でてたんだけどね、つつかれてる方がいじらしくて」

 

 「ふえぇ・・・」

 

 ミレアの顔が段々赤くなっていく。

 

 「な、いきなり何てこと言うのよ。別に、嬉しくなんて・・・・で、でもぉあなたがどうしてもって言うなら、私は・・・そんなぁ」

 

 と思ったら今度は自分の世界に旅立ってしまった。

 なんか、昨日あたりから変だよね。

 そんなにいいことあったのかな。

 誰か知ってたら教えてね。

 まぁそれはともかく、抜け出すなら今のうちだ。

 幸いにも、彼女は両手で顔を覆ってゴロゴロしているから楽に出られるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・・さてと」

 

 実は昨日、正確には首飾りに取り組んでいる時考えていた事がある。

 今の自分には魔剣が打てるのか。

 何度試せば成功に至るのか。

 仮に完成したとしてどのくらいの威力があるのか。

 ひょっとしたらできないかもしれない。

 結局完成しなくて心が折れるかもしれない。

 

 「まぁ、物は試してからってね」

 

 等分の間ミレアはあのままだろうから、実行するなら今しかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 素材を熱して槌で叩いて伸ばす。

 形が変わるまで何度でも。

 少し伸びたらまた叩いて伸ばす。

 ただひたすらこれの繰り返しだ。

 

 「・・・・あっつ」

 

 甲高い音が鳴り響き、叩いたところは微かに平らになる。

 形は決まっている。

 持ち運びしやすいナイフ。

 切っ先鋭く、邪魔にならない大きさ。

 

 「・・・・っ!」

 

 願うのは今も扉の先で喜んでいるであろうミレアの手助け。

 2種の魔法で攻める彼女だが、止めは得物によるものが多い。

 つまるところ、彼女の魔法は“攻撃手段の1つ”でしかない。

 故に圧倒的な力で『決める』大型魔法を持っていない彼女は手数で戦うしかない。

 かと言って“今すぐ習得して”というのは無理な話だ。

 だから、彼女の手数を増やすためのこの行動は「パーティーメンバー」として最適と思えるのだ。

 

 正直、無謀なこの行動は所詮一時しのぎでしかない。

 しかも、『魔剣』とは魔法を撃てるとはいえ、威力はオリジナルたる『魔法』に及ばないし、使用頻度が多ければ限界を迎え砕け散る。

 

 「余計なお世話・・・・ってまた、言われるのか、なっと!」

 

 実は『魔剣』を打とうとしたのはこれが初めてではない。

 今までにも何度も打とうとしたのだが、その都度ミレアに見つかり、却下されてきた。

 

 “私が力不足だって言いたいの?”

 “アンタがソレ作ったとしても、マトモに使える前に砕けるのがせいぜいよ”

 “アンタがいればそれで私は十分だっての”

 

 ちなみにこれらが今までに言われてきた内容。

 前の2つは傷つくし、最後のはよくわからんな。

 僕、大して強くないのにそんなに当てにされても困るんだけど。

 

 「ま・・・・それでもやるんだけど、ねっ!」

 

 ここで、属性について少し考える。

 全てを薙ぎ倒す風か、悉くを燃やし尽くす程の炎か、跡形もなく流しさる水か。

 彼女が完全な後衛ならそれでもいいだろう。

 しかし、場合によっては前衛も行う彼女に合わせるならどれも違う気がする。

 

 「だったら、決まりっと!」

 

 常に先手を取れる程に速く、時に目眩ましで怯ませ隙を作る。

 その2つが可能なソレは雷。

 前衛後衛のどちらにしろ、攻守ともに役立つ属性。それも、彼女の戦闘(バトル)(スタイル)と相性のいいものを。

 

 「じゃあ・・・・・もうひと踏ん張り、っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「よしっ・・・じゃあ休憩、ふう」

 

 一区切りついたところで少し部屋を出る。

 流石にずっと立て籠もっていても集中力はそんなに続かない。

 それにミレアの様子が気になる。

 今までの経験上、何かしら理由づけて侵入してきた彼女だが、今回に至ってはそれがない。

 流石に心配になるというものだ。

 

 「ミレア〜やけに静かになったけど、ひょっとして寝て・・・」

 

 ちらっと覗いてみたが、その姿がどこにも見当たらない。

 扉の陰で待ち構えているのか、ベッドの下に隠れているのか、棚の陰に潜んでいるのか、このどれかかと思ったのだが、どこも違う。

 

 「一体どこに・・・・・あっ」

 

 この工房唯一の出入り口たる扉が空いている。

 それが示すのは来客か、ミレアが出ていったかの2つはなのだが、来客の予定など今までにも数えるほどしかなかったから、恐らく・・・・というか絶対後者だコレ。

 行き先は恐らくヘファイストス様だろう。

 以前にも楽しげに談笑しているのを見かけた事がある。

 その時の話のネタは僕だった気がするから、今回もそうだろう。

 そんなに自慢したくなる内容なんて最近は・・・・・思いっきりある。

 

 「っ!」

 

 急げ、ミレアが全てを話す前に。

 間に合え、話を聞き終えたヘファイストス様がニヤニヤする前に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヘファイストス様の部屋が見えてきた。

 しかしミレアの姿は見当たらないからどうにか防げただろう。

 後はヘファイストス様にミレアを追い返すように伝えて・・・・

 

 『それでですね、聞いて下さいよヘファイストス様ぁ。ルミトってば、寝てる私に悪戯しようとして、バレないように必死に隠すんですよぉ!かわいいじゃあないですかぁ』

 

 『あら、あの子がそんな事するなんてちょっと意外ね。でもどうして知ってるの?』

 

 『それはもう、寝たフリだからに決まってるじゃあないですか!私がルミトよりも遅くに起きるなんてありえませんよ。仮にそんなことしようものなら、ルミトのかわいい寝顔が見れないじゃないですかぁ!』

 

 扉を開けようと伸ばした右手を過去最速で引き止めて、脇の壁に立つ。

 ・・・・防げてないじゃん!

 しかも間に合う以前に手遅れだし!

 終わった。

 悟った今なら予想できる。

 当分の間いじられて何かと質問される。

 すんごい恥ずかしいから困る。

 

 「・・・・あ〜時に主神様よ、手前はいつまでここにいるのが正解だ?」

 

 ・・・・・予想したよりも人が多いな。

 今の声は聞き間違えようもない。

 名を椿・コルブランド。種族は『ハーフドワーフ』でLv.5。

 【単眼の巨師(キュクロプス)】のニつ名と、最上級鍛冶師(マスター・スミス)の称号を冠する【ヘファイストス・ファミリア】の団長。

 自作の試し切りという体で迷宮(ダンジョン)に潜り続けて第一級冒険者に上り詰めたおかしい女性(変わり者)

 ヘファイストス様とは反対の目に眼帯をしている。

 一見不真面目に見えるが作品に対する熱意と実力はオラリオ屈指だ。

  ・・・・・付け加えるなら、僕をからかう想像力はヘファイストス様にも引けを取らない。

 普段はとても楽しそうにミレアの話を聞く団長が“もう行っていいか?”と言い出すということは全て筒抜けになっているのだろう。

 つまり今ヘファイストス様の部屋では、ヘファイストス様・団長・ミレアが話し込んでいる事になる。

 あれ、コレひょっとしなくても詰んでます?

 どうしよ・・・どうする、正直ダンジョンいるほうが遥かにマシな位だ。

 ここはいっそのこと何も知らない振りして工房に戻るべきか。そうだそうしようそれがいい。ウン、何も聞いてないし何も知らない。さぁ戻ろう。見つかる前に早く・・・・・

 

 「なぁ、お前もそう思うだろうルー吉よ?」

 

 「ぴぃ!?」

 

 ガチャッと扉の音が聞こえるよりも先に団長の腕が僕の首に絡んだ。

 

 「何をそんなに驚く?ルー吉の事だ、主神様の部屋に入ろうとしていたのだろう。だったら手前と共に入れ。というかお前がおらんとからかい甲斐がない」

 

 「だっ団長!?僕はそんなつもりじゃなくて、えとえと、たまたま通りかかっただけで・・・・」

 

 「ふっふっ何を誤魔化す?どうせ入る機会を伺っていたのだろう?手前が手伝ってやるからさっさと来い」

 

 「ぴゅいっ!?」

 

 逃げようとしたのだが、ミレアにも力で敵わない僕がLv.5の力に逆らえるはずもない。

 くそっ、ホントに振り解けないな・・・ぐぇ。

 

 「安心しろ。お前が手前に力で勝てないことなど、とっくに承知しておる」

 

 抵抗虚しくずるずると引きずられ、部屋に入ることになってしまった。

 

 




さぁ前回から格好良くなりつつあり、その上今回は悪戯もしたルミトよ、飴の次は鞭と相場が決まっているのだよ(何様)。
・・・・・まぁ、それ考えんの私なんですけどね(遠い目)。
それでは、また次回!


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思いやりと困惑

お久しぶりです。最近は月一投稿にしてみした(尚、今回の投稿では微妙に日にちがズレていますが気にしてなんていません・・・・多分)
大体いつも一緒な二人ですが、今回は実はそうでもなかったりします。


 

 「あらルミト、かくれんぼはもうお仕舞いなの?もっと彼女から話を聞きたいから、まだ隠れていてもいいのよ?」

 

 ヘファイストス様が笑いながら口を開く。

 もしかしなくてもバレてるぅ。

 

 「ちなみにヘファイストス様、どこまで聞いちゃいました?」

 

 「昨日の朝から今日の目覚めまで」

 

 「おう、手前も全てを聞いた。確かに面白いがな、もう少し素直に行動しても良かったと思うな。まぁ当分の間、からかいの話題には困らんからいいがな。のう主神様よ?」

 

 「えぇそうね」

 

 全部じゃん。

 しかも団長には感想まで言われるとか、恥ずかし過ぎてイマスグニゲタイ。

 ミレアに助けを求めるも、目があった途端彼女は急に不機嫌になった。

 

 「で、何しに来たのよ」

 

 「・・・急に態度変わったね。さっきまであんなに上機嫌だったのに」

 

 「別に何も変わってなんかないっての。ふん、何よ椿さんにくっつかれただけでニヤニヤしちゃって」

 

 別にニヤニヤしてた訳じゃないんだけど、寧ろすっごい子供扱いされてるみたいで恥ずかしかったんだけど。

 

 「なんだ自分だけされなかったのが、そんなに悔しかったのか。存外、素直な奴だなミレアよ」

 

 「ちょっ、私は別にそんなつもりじゃ!?」

 

 あぁなんだ、そんなことだったのか。

 

 「ほらルミト、黙ってないでアンタからも何か言いなさいよ!」

 

 「・・・・・別に団長が態々しなくても、僕がいくらでも頭撫でたりしてあげるのに」

 

 「い、いきなり何言い出すのよ!?」

 

 「あれ?だってミレアが言えって・・・・」

 

 「そういうことじゃないの!」

 

 「ひょっとして・・・・嫌だった?」

 

 「べ、別に嫌なんて一言も口にしてないし、でもそれはそれで違ってくるし、ホントは嬉しいけど、でも・・・・・きゅう」

 

 顔を真っ赤にしながら倒れそうになるミレアをどうにか支える。・・・・なんかわかんないけど幸せそうだし、まぁいいや。

  

 「・・・・ほう」

 

 「・・・・・あらあら」

 

 あれ、なんか間違えたかな?

 ミレアは目を回してるし、ヘファイストス様も団長もさっきとは別の意味でニヤニヤしてるし、

 

 「あの・・・・・どうかしました?」

 

 「ミレアも大変ねぇ」

 

 「うむ、ひょっとしなくても『階層主』より厄介なこと極まりないな」

 

 尋ねればそれはそれで憐れまれるし。

 ・・・・戻ろう。

 そうすれば、少なくとも今よりはマシだろうから。

 

 「じゃあ、失礼しました・・・・・んしょ」

 

 ミレアを起こさないように静かに背負って扉に向かおうとする。

 

 「ルミト、一ついいかしら?あぁ、そのままでいいから」

 

 「・・・・はい」

 

 「せっかくなら正面で抱きかかえてあげなさいな・・・・・・きっと喜ぶから」

 

 「よくわかりませんが、わかりました?」

 

 返事をしていて思った。

 でもそれだと扉開けれないのでは・・・・・

 

 「安心しなさい。扉は椿が開けてくれるから、ね?」

 

 「おう、主神様程ではないが手前も協力しよう」

 

 一体何に協力するって?

 

 「ほれ、行った行った」

 

 「じゃ、じゃあ失礼しまし・・・た?」

 

 バタンと閉められた扉の向こうでは、二人の笑い声しか聞こえなかった。

 ・・・・そういえば、この抱え方どこかで聞いたような。

 確か、そう。神様たちが『お姫様だっこ』とか言ってたような・・・・・。

 そんなことを考えながらルミトは工房に戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミレアを起こさないように静かに歩きながら、ようやく工房に戻ってこれた。

 

 「・・・・んしょっと」

 

 静かに扉を開けて、ベッドまで運ぶ。

 いやまぁ全然軽いから別にこのままでもいいんだけどね、僕としては。

 大体こういう時のミレアはなんか顔が赤くなるから、きっと嫌なんだろう。

 

 「・・・・・ぅ、んぅ?」

 

 しかし、ベッドに寝かせようと一歩近づいたタイミングでミレアは目を覚ましてしまった。

 

 「あ・・・・や、やぁ」

 

 未だにはっきりしていないのか、目はうっすらとしか開いていない。

 微かに夢見心地で見上げてくるその様子に、なんとも言えない気持ちになるが・・・・いや待て落ち着くんだ。逆に言えば、今ならまだ“夢だった”で済むかもしれない。

 

 それには再び、ミレアに寝てもらうしかない。

 

 「・・・・・よ〜しよし」

 

 何度もミレアの頭を撫でる。

 なるべく刺激を与えないように、静かに髪の上を滑らせる。

 

 「んゅ?」

 ぴくりと、思わず手を止めてしまった。

 なんだ今の声!?

 今までミレアと行動してきたが、初めて聞いたぞ。

 待ってヤメテ?

 そんな、猫みたいに目を細めて反応しないで!?

 

 「んしょ・・・・・よしよし、はぁ」

 

 どうにかベッドに下ろして再び撫でると、今度は丸まってしまった。

 ・・・・・・猫じゃん。

 

 「さて、と」

 

 再び槌を取ろうにも、今の心情で再開するとか無理だ。

 こういう時は一人でダンジョンに潜って気持ちを落ち着かせるに限る。

 確か、以前ミレアに内緒で打った魔剣があったはずだから、ソレを持っていこう。

 猫のように丸まっているミレアを起こさないように静かに扉を閉めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんだかんだで、一人でのダンジョンは久々だ。

 普段はミレアと組んでるから忘れそうになるけど、ここオラリオに来たばかりの頃はいつも一人で来ていたりする。

 

 「・・・・・よしっと」

 

 今回持ってきた装備は魔剣が三振りに、完成させて以降しばらくの間、工房に放置してた片手剣。

 魔剣はどれも試作段階だったから形状や属性はバラバラ。

 短剣型の氷や、片手剣型の炎だったり、あとは大剣型の雷。

 ・・・・・重いし、ガチャガチャ音がするし、やっぱりミレアと来るべきだったかな。

 いやでも、今中断してるやつに活かすには必要だし、誘ったとしても拒否されるだろうし、これで良かったんだよウン。

 それに完成すれば、なんだかんだで文句を言いながらも受け取ってもらえそうな気がするんだよね、なんとなく。 

 まぁ誰とは言わないけど、どっかの椿さんのように試し切りな訳だから目的の階層とか『ドロップアイテム』云々・・・・とかは考えていない。

 

 「というわけで、しゅっぱ〜つ」

 

 ちなみにミレアには内緒で来た訳だから、怒ったミレアが追いかけてくるとかは・・・・・考えたくないなぁ。

 そんな事を考えながらも、ただ次の階層を目指して歩く。

 ビキビキと右側の壁が音を立てる。

 ダンジョンにおいて、これはモンスターが生まれるということ。

 つまり、今から始まるのは戦闘だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モンスターの数はゴブリンが二匹にコボルドが一匹。

 幸い上層ということがあって、モンスターの数も強さも悩む程じゃない。

 

 「相手の数が多い方が、 使い勝手を試すには丁度いいってね!」

 

 最初に使うのは大剣型、雷の魔剣。

 先手を取りたいっていうのもあるし、先に進むなら大きさ的にも重さ的にもそこそこある物から先に使っていく方が消耗を防げるだろうから。それに、どのくらい速度で上回れるのか知っておきたい。

 

 「そらっ!」

 

 力一杯大剣を振り下ろすことで、刀身から雷が撃ち出される。

 その威力はゴブリンを二匹まとめて倒すだけでなく、壁に穴を開けた。

 その光景を見ていたコボルドは真っ先に突っ込んできた。

 

 「っ、しょっ!」

 

 自分の腹目掛けて迫る鋭い爪を避けて、すれ違いざまに片手剣で一閃。 

 断末魔を上げて、コボルドはドサッと倒れた。

 

 「・・・・ふむふむ」

 

 通常、魔剣は魔法ほどではないが、それなりに威力を発揮する。そして、数回使うことでその役目を終え、砕け散る。

 今のところ、この大剣にその兆候は見られないが、それでもあと1、2回が限界といったところだろうか。

 

 「検証あるのみってね!」

 

 コボルドから魔石を回収しサイドポーチにしまう。今回はいつものようにバックパックを持ってきている訳ではないので、魔石や『ドロップアイテム』に関しては特別配慮してないが、まぁ換金できる代物だからあるに越したことはない。遠慮なく回収するさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのまま次の階層を目指して歩き続けていくと再び、壁からモンスターが生まれる。今度はウォーシャドウとニードルラビット。どちらも3匹ずつの計6匹。ウォーシャドウは新人冒険者、ニードルラビットは上級冒険者の命を狩り得る危険があると有名でで、つまりこの状況は軽く危機である。しかもそれに拍車をかけるのは、そのモンスターたちが自分を挟むように生まれてきたことだ。前後を同時に相手にするのは、第一級冒険者でも苦労すると以前どこかの酒場で耳にしたことがある。

 ということは初心者に毛が生えた程度のレベル2である自分一人では大変困難な状況である。

 幸いなことはすべての個体が壁から抜けきっていない事ぐらいだろう。

 仕方ない、もともと今日は魔剣の使い勝手と今後制作する際の参考に・・・・・という目的で魔法を使うつもりなどなかったのに。

 

  「痛い思いはしたくないからなぁ。・・・・【猛り生命(いのち)に静寂を。果てなき希望への糧となれ】」

 

 【スケール・ヴェール】を発動させる。

 上げるステータスは器用。とはいえ基本ステータスの1つが1段階上昇したから何が大きく変わる訳でもないが、あるとないとでは勝手が違うのもまた事実。

 そして、モンスターと戦闘する際に注意する点として挙がるのは、モンスターは互いに連携しないということ。

 都合よく解釈すれば、常に個の力で圧倒できると受け取れる。しかし、正しくはその逆だ。それは1対1を何度も切り抜けなければならないということだ。

 

 “ダンジョンでは常に最悪を想定して動け。レベルが上がったからといって決して過信するな。慢心した瞬間、それは冒険者ではなく、ただの愚か者だ”

 

 これは、僕とミレアの担当アドバイザーである彼女(・・)の言葉。冒険者と担当アドバイザー、その付き合いは2年と決して長いとは言えないが、その言葉にはいつも納得してしまうし、実は同じ村で育った幼馴染だったりする。

 最近は会っていないが、まぁそのうちに、早ければ今回の試験探索が終わったときにでも会うだろう。

 

 「・・・・・・・っ!」

 

 地面に降り立ち、雄叫びを上げながらウォーシャドウがその長い腕を振り下ろしてくる。片手剣でも防げなくはないが、長さではやはり不利。迫る腕を左の大剣でいなし、自分と近くまで近づいた頭部を右の片手剣で貫く。

 

 一息つく間もなく、二匹目のウォーシャドウとニードルラビットが同時にその切っ先で今にも我が身を穿とうと迫りくる。

 

 大剣を前に振り下ろし、ウォーシャドウを真っ二つにする。その勢いのまま、前方へ移動し背後から迫っていたニードルラビットを避ける。    

 そして3匹目のウォーシャドウを片手剣で魔石ごと消し去る。

 

 「・・・・・ふぅ」

 

 一息ついて、向きを変え、未だ3匹健在のニードルラビットを見据える。

 

 「よっ、と!」

 

 先程同様、大剣を振り下ろし、雷を撃ち出す。その速さは先の戦闘で既に確認済み。上層でなら十分に通用した。

 飛びかかる二匹に命中し、消滅させた。

 

 「もう一度・・・・・あ!?」

 

 再度撃ち出そうとしたが、今撃ち出したのを最後に大剣は砕け散ってしまった。

 やはり魔剣は、長く使う事ができない。しかも威力も耐久も低いのは、自分が打ったからだ。以前椿さんのを目にする機会があったが、アレには到底及ばない。

 

 「ゴメンね」

 

 それでも尚、自分を助けてくれた大剣に謝罪し、残る1匹に向き直る。

 モンスターは命惜しさに逃げることはない。一度敵とみなした相手を葬るか己が消されるか、その決着がつくまで全力で襲いかかる。そしてそれは、上層でも同じこと。

 せっかく解決仕掛けた数的不利を、長引かせてまた繰り返す訳にはいかない。一撃でモンスターを仕留める必要がある。

 助走をつけて飛びかかるニードルラビットを、こちらも対抗するため走って迎え撃つ。

 あと数セルチで額に迫ったその角を・・・・・【スケール・ヴェール】で自身の敏捷ステータスを1段階下げ、しゃがむことでやり過ごす。自身の頭上を通り過ぎるのを確認し、立ち上がりその白く小さい背中を後ろから片手剣で突き刺した。

 カランっと魔剣が乾いた音を立てて地面に落ちた。それを回収し、他の倒したモンスターの魔石もサイドポーチに入れ、先程砕け散った魔剣に感謝を伝える。

 

 「・・・・・ありがと」

 

 この探索はまだ終わりじゃない。まだ2本の魔剣は残っている。つまり、どの階層まで使えるのか試さなければいけない。

 次の階層を目指して、ルミトは足を動かした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・・・・ルミ、ト?」

 

 おかしい、たしかにさっきまで一緒にいた気がするのに、今この空間には私しかいない。また下らない獲物でも打っているのかと覗いてみるも、やはり彼の姿は見当たらない。

 

 「一体どこ・・・・・に?」

 

 ぐるりと周囲を見渡してみると、あることに気がついた。

 アレが、なくなっている。以前彼が作ってくれた魔剣がない。それも3振りともすべてが、だ。

 

 確かにあの時は要らないと突っぱねたがそれは、彼が勝手に打ってくれたからだ。本当は嬉しかったのだが、その時は『私がいるから大丈夫』という意味で断った。

 違う、本当は『ルミトがいれば、他には何も要らない』と言いたかったのに、素直に伝えるのは子供っぽく恥ずかしくて言えなかった。最近はずっとそうだ。彼を前にすると、嬉しいのに恥ずかしくて、ありがとうと伝えたいのに、実際に自分の口を出る言葉は一言多くて、いつも自分の心に素直になれなくて後悔してる。ヘファイストス様や椿さんに伝えるときは、素直に嬉しいと言えるのに、いざ本人を前にすると言えなくなる。

 それに彼が椿さんや、他の人たちが彼と親しげにしているのを目にすると、心がざわざわして、また素直になれない。

 

 「・・・・・ルミト」

 

 多分、彼はダンジョンに行ったのだろう。

 彼のことだ。エルフのクセに、魔力をそこそこしかなくて、魔法もそんなに使えるわけでもない。そんな私の手助けになるだろうと、内緒で私の戦闘(バトル)(スタイル)に適した魔剣を完成させるための試しに向かったのだろう。

 

 ダンジョンは決して油断したまま向かってはいけない。いや、彼にとっては油断ではないが、集中を妨げる一つではあるだろう。もしそれが原因で彼にもしものことがあったら私は・・・。

 それとも、私自身が孤独になりたくなくて彼にいつも引っ付いているのが、駄目なのか。

 わからない、いつも考えいるのにずっとわからないまま。彼がいる間はいいや、そう考えて結局いつも先送りにしているだけだ。エルフは年齢とともに成長しても見た目は大きく変化しないというが、一方私は幼い頃から変われない(・・・・・)だけだ。仮に変わったら彼が離れてしまうのでは、ついつい考えてしまい、動けずにいる。ルミトは昔と違って、頼り甲斐のある人に変わったというのに。

 

 「私は、どうしたらいいの?」

 

 ・・・・今日も私は動けずにいる。

 

 

 

 




ちなみに今回は、前回の後書きで言った通り、前半ではルミトへの鞭を入れました。(実は第三者による温かい介入なだけ)
あと今回は、ルミトが普段より冒険者してたりしてなかったりでした。伝わりにくかったら申し訳ないです。
それでは、また次回!


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押し寄せる恐怖

一ヶ月ぶりですねお久しぶりですと作者です。実は前回の続きにも関わらず、終わりどころを見つけられないまま文字数が倍以上に増えてる(つまり過去最多の文字数な)訳なんですけども、まぁ誤差ですよ誤差(投げやり)
ちなみに、なんだかんだで投稿が1週間伸びたのは内緒ですよ(遠い目)


 時間が経てど、それでも私は動けずにいる。ダンジョンに向かうべきなのかもしれないけど、それでは今までと変わらない。ただ、ルミトの邪魔をするだけだ。

 

 「ルミト、急にごめんなさい。ちょっといいかしら、聞きたいことが・・・・あら?」

 

 体を起こしたたままベッドの上で動けずにいると、ヘファイストス様が扉を開けた。

 

 「今はあなた一人なのね、ミレア?」

 

 「はい、私が起きたときには既にいなくて」

 

 「・・・・また(・・)何も言わずにダンジョンに行ったのね。まったく、一言くらい口にしてから行きなさいって、何度も言ってるのに!」

 

 そう、ヘファイストス様の言うように、ルミトは何も言わずに出かける事がある。いつも何も言わずにダンジョンに行こうとするから、私が同行するたびにヘファイストス様に言うようにと強制している。だが、今回はそれも出来なかった訳だから、当然ヘファイストス様には何も言わずに出ていったのだろう。まぁ今回に関しては、どうしてダンジョンに向かったのか想像がつくから多少はマシだろうか。

 

 「それで、あなたは行かないの?」

 

 「・・・・・っ!?」

 

 あまりに突然で、言葉に詰まってしまった。それを口にしたら、否定されるのではないか。

 

 「・・・行けません」

 

 どうにかして声に出せたのは、その一言だけだった。

 

 「どうして?いつも一緒にいるじゃない。パーティメンバーでしょう?」

 

 「・・・置いていかれるのが怖いから、です」

 

 「・・・・普段、あんなに楽しそうにしてるのに、何をそんなに恐れてるの?」

 

 「彼は変われているのに、私はいつまでも変われないままなのが。変われないまま、置いていかれるのが怖いから、」

 

 「一体いつからパーティメンバーがついてく側になったって言うのよ。どっちが上か下、先を行くとか後をついていくとか、そんなんじゃないのよ。あなたは【ヘファイストス・ファミリア】が『武器を押し付けて代価を巻き上げる』なんて一方的な商売をしてるのを、一度でも見たことがあるかしら?」

 

 「・・・・・いいえ」

 

 【ヘファイストス・ファミリア】の人と冒険者がやり取りをしているのを何度か見たことがあるが、彼らが横暴な態度だったことは、私の記憶では一度もない。ちなみにルミトに関しては商売云々以前に、客が寄り付かない為に例外である。

 

 「そう、互いに対等であろうとすることが、自分の作品を受け入れてもらい、その過程を経て専属になる。それはダンジョンでのパーティにおいても同じじゃないかしら?」

 

 「・・・・・」

 

 「変わりたいのなら、変わればいいじゃない。実行するには難しいけれど、言葉にするほど楽ではないけれど、“変わりたい”とそう思えなければ、何も行動できないわ」

 

 「・・・・・・私たち()は不変の存在だけど、あなた(子ども)たちは違うでしょ?」

 

 それは私たち(神々)からすれば羨ましいものよと、ヘファイストス様の目が訴えている。

 

 「・・・それに、いつまでも無鉄砲に行動するあの子に世話を焼いてくれるのは、私としても安心できるわ。その結果としてちょっとくらい加減を間違えたとしても、それであの子が反省してくれるのなら、私としては嬉しい限りね」

 

 だから、行ってあげてと。彼についててあげて、ダンジョンで無茶しないように見張ってて欲しいと。そう言われたように感じたのは間違ってない。

 

 「私が・・・・ですか。はっきり言って、私は強くありません。安全を願うなら【ヘファイストス・ファミリア】の団員の方が・・・・」

 

 「そうでしょうね。それでもあの子の、ルミト・ラネッサの事を知っててその上であの子の世話を出来るのは、オラリオ(ここ)に来る前から知り合いであるミレア・サナシア、あなたにしか出来ないのではないかしら?」

 

 その言葉が私の心を覆っていた悩みを吹き飛ばしてくれた。同じ【ヘファイストス・ファミリア】の団員やオラリオ2大派閥が彼とパーティを組んだとして、それは戦闘における戦力としては十分過ぎる程だが、それだけだ。単純に彼を心配しての事ではない。なら、その役目は私自身が背負うべきだ。それに・・・・仮にそうなってしまった場合、私は冷静でいられる自身がない。

 

 「あと、これは余計な一言かもしれないけど・・・・」

 

 ようやくダンジョンに向かう決意ができた。この気持ちが揺らがないうちに、そう思って準備し始めた最中、ヘファイストス様が何か言いかけた。

 

 「・・・・はい?」

 

 「お揃いの首飾りまでしておいて、相応しくないなんて、こっちが聞いてて恥ずかしくなるわ」

 

 「・・・・・・・あっ!?」

 

 ヘファイストス様が苦笑いでそう口にすると、その言葉の意味に気づいた私は、急に顔が熱くなった。椿さんと話していたときには気づかれていたのだろうか。確かにあの時はルミトも入ってきたていから、その可能性は十分にある。

 

 「だから、悩むくらいならさっさと行きなさい」

 

 「・・・・はいっ!」

 

 準備を済ませ足早に工房を出て、ダンジョンに向かう。またいつも通りルミトの隣を歩くために。またいつもみたいに彼と冒険をするために。

 

 「・・・・・まったく、本来ならこれは彼女の主神であるヘルメス(あなた)の仕事でしょうに。普段は干渉するくせにこういうときに限って放任なんだから」

 

 静かに呟く、ヘファイストスの愚痴は、幸か不幸か誰にも聞かれることなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「結構降りたかなぁ、ちょっと休憩してもいいかなっと!」

 

 別に急ぐほどでもないしのんびり行こう、そう考えてすぐ横の壁に魔剣で炎を撃ち穴を空ける。

 ダンジョンを傷つけることで再生を優先させ、その分だけモンスターの産まれるタイミングを遅らせることが出来る、というのは担当アドバイザーのお言葉だ。今までにも使ってきた手ではあるし、実際にその通りなのだから文句を言うなど以ての外だ。今日も担当アドバイザーに心の中で感謝しながら休息を取る。

 

 「・・・・・どうしたもんかなぁ」

 

 未だに一振りしか試してないのだから、無理に等しいのだが、ミレアにどんな魔剣を持ってもらうのがいいかわからない。わからないまま戦闘で魔剣を使って、その結果失ったのだから、流石に焦る。

 

 「まぁでも、確かに彼女の手は早いけど雷っていう印象はないかな・・・・・・いやいや、そもそも魔剣って印象でどうこうする物でもないし。今までにも断られてきたんだから“何がいい?”なんて聞けないし・・・・はぁ」

 

 きっと魔剣を受け取らないのには、何か理由があるんだろうけど、それでも構想が固まらないとやはり落ち着かないのだ。というかそもそもの話、冒険者って大抵は強い武器や魔剣に憧れるのではないだろうか。しかし、今までに何度も接してきたが彼女がそのようなことを口にしたことは一度もない。まったく、何が彼女をそうさせるのか、理解できない。

 

 「・・・・・どうしよ」

 

 声に出しても誰が教えてくれる訳でもなく、考えても答えを見つけられる訳でもない。詰まるところ、お手上げなのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 工房を出て来たはいいものの、ルミトがどの階層にいるのかわかるはずもない。かと言って闇雲に探せばいいということでもない。こういう困ったときには担当アドバイザーである彼女に聞くのがいいだろう。そう思ってギルドに向かい、目的の人物がいるかどうか見渡す。

 

 「およ、一人で来るなんて珍しいじゃない。どうしたの?」

 

 後ろからから聞き慣れた声が聞こえ、そのまま振り向くと彼女が立っていた。

 

 耳をピンと立てた白い猫人(キャットピープル)でギルドの制服に身を包んだ彼女は、サーニャ・ラーミノア。年は19で身長は私とそう変わらないが、ややおっとり目なその雰囲気から幼く見られることが密かな悩みだとか悩みではないとか。私とルミトの担当アドバイザーである受付嬢の彼女は、実は同じ村の出身だったりする。

 と言っても一緒だったのはほんの数年で、それ以降は彼女は家族でオラリオに引っ越したから、私達がオラリオに来たときには驚いたものだ。それでも覚えていたのは、よく遊んだ間柄というのもあるし、村自体が小さかったというのもある。

 

 「サーちゃん、実はちょっと相談したいことがあって」

 

 「なによ、またルミトの事なの?」

 

 「・・・・・・うん」

 

 「相変わらずルミトの事となるとわっかりやすいわね。それで?」

 

 「ルミトと一緒にいてもいいのかなって、相応しくないんじゃないかなって、実は最近思ってて・・・・」

 

 それを声に出した途端、彼女の雰囲気が変わった。

 

 「なに馬鹿なこと言ってんの!?ルミト(あの子)に言われたの!?信じられない!?どうせ工房に籠もりっきりで、出かけるのが嫌だからってそんなこと言ったんでしょう!今から連れてくるから少し待ってて・・・・」

 

 「待って待ってサーちゃん!?違うのよ、別にルミトに言われたから凹んでるんじゃなくてね!自分で考えちゃっただけなのよ。だから行かないでホントに待って!!」

 

 踵を返して制服のまま、出ていこうとする幼馴染を慌てて引き止める。このまま工房に行かせてしまったらルミトがいないことがバレて、オラリオ中探し回り、最終的にはダンジョンにまで向かってしまう。そうなってはルミトが無事では済まない。昔喧嘩した時みたいに引っ掻き傷や咬み傷をいくつもルミトにプレゼントしてしまうかもしれな・・・・してしまうだろう。下手したらルミトの命が『ドロップアイテム』と化してしまうかもしれない。ルミト大丈夫、私が助けるからね!

 

 「サーちゃん、お願いだから話を聞いてー!?」

 

 精一杯の力で彼女を行かせないように物理的に引き止めながら、ミレアはそう決意する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・・っくしゅん!どうしたんだろう、何故か嫌な予感と冷や汗が止まらない。休憩し過ぎて体冷やしたのかな。だとしたらもう一度動くまで。さぁ休憩終わりっと!」

 

 未だに試してない二振りの魔剣と、魔剣を装備し直し立ち上がる。今いるのは上層だ。どうせ性能を試すのだからどの階層まで通じるのか、併せて試しておいてもいいだろう。

 

 “どうせまた、たいして考えないまま一人でダンジョンに潜ったわね。あれほど考えてから行くように伝えたってのに。えぇ良くわかったわ、そっちがその気なら私にも考えがあるから。お説教程度(・・)の生易しいもので済むとは思わないことね。ふふっ久しぶりに腕がなるわね!”

 

 脳裏に担当アドバイザーの笑顔が浮かぶ。マズい、アレはヤバい。寝ぼけたミレアとはまた違った意味で恐怖を感じる。というか下手したら階層主にも匹敵する程の相手だ。無傷で済むなど、今までに一度もなかった。正直、説教という言葉責めでも結構精神を抉られるのだからそれ以上のこととなると考えたくない。・・・・そもそも、冒険者を恐怖させるアドバイザーとか、よくギルドが採用したものだ。苦情とかないのかな。まさか需要があるとでもいうのだろうか、恐ろしや幼馴染。

 

 などといずれ遭遇するであろう恐怖に怯えながら足を動かしていると、壁から再びモンスターが産まれる。

 

 「・・・・インプ2匹にハードアーマード1匹か」

 

 インプは上層のモンスターにしては珍しく知恵があり、同種族だけでなく、他種族のモンスターとも連携してくる厄介な相手だ。ハードアーマードに関しては、とにかく硬い。背中を覆う鱗を持ち、身を丸くして回転しながら突進してくる。だが、それも物理しか対抗する手段が無い場合。今回は魔剣を試すのだから、多分なんとかなるだろう。

 

 「厄介ではあるけど、サーちゃん(彼女)と比べれば遥かに楽かな。正直、あの人だと対抗手段ない訳だし」

 

 正直言って、物理も魔法も通じない幼馴染と比べたら、目前に迫るモンスターたち等とかわいいものだ。とはいえ油断するつもりはないが。

 最初に襲ってきたのは2匹のインプ。その小さな体格を活かしてすばしっこく駆け回り、左右同時に攻めてくる。右は片手剣で、左は短剣型の魔剣で防ぐ。とはいっても一瞬ならいざ知らず、長時間もの間両方を防ぐにはそれなりの腕力が必要な訳で、 Lv.2といえど流石にキツイ。とにかくこの状況をどうにかしなければ身動きできないままハードアーマードにふっ飛ばされてしまう。左手の力を抜き、短剣を落とすことで拮抗していた力を無くし、インプを引き寄せる。その鋭い爪を首を前に倒すことでやり過ごし、通り過ぎたところを、右の片手剣で引き止めていたもう1匹のインプとぶつける。

 

 「・・・・ギャッ!?ギッ、ギ‼」

 

 鋭い爪を戻し損ねていたのか、その爪は対角線上にいたインプの魔石を貫いた。

 慌てて体勢を整えようとするが、それを見過ごすほどの余裕はない。そのまま片手剣で切り裂こうとしたのだが。

 

 「・・・・・があっ!?」

 

 ギィンッ!と、突進して来たハードアーマードの硬い鱗に防がれてしまった。その衝撃によって僕の体勢が崩れたのは想像に難くない。

 

 「ギギィッ!」

 

 その光景を見ていたインプが笑い、再び攻めようと飛びかかる。その横にいたハードアーマードも続き、転がってくる。

 

 「・・・・ついてるなぁ、それっ!」

 

 体勢が崩れたのは本当にマズかったが、唯一良かったのは、崩れた方向が落とした短剣の側だったことだ。

 衝撃を利用し、短剣を拾うとそのまま距離を取る。そしてモンスターたちが、それぞれ重なったのを確認し氷弾を撃ち出す。

 

 「・・・ギギッ!?」

 

 「グオォッ!?」

 撃ち出した氷弾には勢いがあったし、モンスターたちもそれなりの速度で迫ってきていたことから、その氷はモンスター2匹を纏めて貫いた。

 今回は流石に一度使っただけでは砕け散ることはなかったが、それでも使用できる回数に限界があることは事実。どうせ使うのだから最後まで使い倒さなければ、せっかく創り出された魔剣に申し訳が立たない。

 

 「さっ、まだまだ行きましょうかっと!」

 

 剣を鞘に納め、『ドロップアイテム』がないことを確認し更に下の階層へと足を進める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「なーんだ違ったの?それならそうと早く言ってくれれば良かったのに」

 

 「いやいや、言い切る前に行こうとしたのサーちゃんじゃないの」

 

 「それもそうねー」

 

 久しぶりに幼馴染と会ってから数分後、ルミトをひっ捕まえようとダンジョンに向かう彼女をようやく引き止めること&向かいのソファに座ってもらう事に成功したが、その疲労度たるやモンスターの大群との戦闘をいくつも乗り越えたときのソレにも劣らない程である。

 

 「じゃあ何の相談に来たの?」

 

 「実はね、ここ(オラリオ)に来てからもう2年くらい経つんだけど、私自身、村にいたときから何も変われてないの。でもルミトは変われてる。それで私だけが置いてかれてるように感じてしまって・・・・・焦ってるの」

 

 「・・・・はあ。そんなに困ってるようには見えないけど」

 

 「ひどいっ!?本当に困ってるのよ!?せっかく頼って来た幼馴染をそんな風に扱わなくてもいいじゃないのよ!」

 

 「あっはははゴメンゴメン。でもこの前までなかったわよね、そんなに素敵なネックレス。一体どうしたの?」

 

 「・・・・・ぁ、それは・・・その、ぅん」

 

 それを指摘されたその途端、あの時のことを思い出してしまい顔が熱くなっていくのを感じた。

 

 「ふーん、まぁいいわ。二人揃ったらたっぷり聞かせてもらうから。いやぁ楽しみね、一体どういうつもりでソレを渡したのか、ルミトから聞き出せると思うと待ち切れないわぁ。それで、ミーちゃんだけが変われてないって思っちゃたったんだ?」

 

 「・・・うん」

 

 ルミトごめんね、サーちゃんがルミトに怪我させないように防いだつもりだったのに、それ以上のダメージを負うことが決定しちゃった。

 

 「私からしたら全然そんなことないと思うけどね。正直言って『悩んで損した』って後悔すると思うわよ?」

 

 「・・・・ぇ、でも村にいたときとは全然・・・・」

 

 「それはそうでしょうよ。私も村にいたからわかるけど、取り巻く環境が違うから。自然とソレに順応しようとなるってものでしょ?現に貴女だって3人で遊んでた時とは違うじゃないの」

 

 「う・・・・・ん」

 

 仕方ないのだろうか。確かに3人仲良く遊んでた時は、特に何も考えなくても楽しめていた。でも今は様々なことを考えなければならない。

 

 「今は色んな事を考えなければならないけど、結局のところパーティ組んでダンジョンに行ったり、一緒に工房に籠もる程になる仲良しじゃない。つまり根本的には何も変わってなんていないのよ。それでも変わったように感じるのはそれは変化じゃなくて“成長”したって事よ?」

 

 変化じゃなくて“成長”。確かにそうなのかもしれないけど、それは彼の種族がヒューマンだからであって、対する私はエルフ。よく魔法の扱いに長けていると評価され勝ちで、特徴といえば長命なくらい。しかも長命が故にその成長速度も遅い。

 

 「言っておくけど、“ヒューマン”だから“エルフだから”とかそんな些細(・・)な問題考えるだけ無駄よ無駄!!そもそも寿命は種族上の特徴であって欠点じゃないの。あと成長速度に関しては生まれ育った環境が左右するものだと私は考えてるわ」

 

 「・・・・・」

 

 「だから、考えるだけ無駄っていうのはそういうことよ。わかった?」

 

 「・・・・うん」

 

 「どうせミーちゃんのことだから、その辺もちゃんとヘルメス様・・・・・・ないけど、ヘファイストス様あたりに相談してるんじゃないの?」

 

 極稀に、この担当アドバイザー(幼馴染)がこっちの心を読んでいるんじゃないかと思うほど鋭くなる時がある。確かにヘファイストスに相談はした。・・・・えっ、何故ヘルメス様には伝えなかったのかって?だって見かけるたびにアスフィさんに責められてる――主にアスフィさんによる一方的な肉体言語的な意味合いで――(ひと)が相談事で頼りになるとどうして思えるのだろうか。つまり、そういうことなのである。

 

 「勿論、ヘファイストス様にも相談したわ。『まずは変わりたいと望んで、次にそのためにはどう行動すればいいのかを考えればいい』って、そう言われたの」

 

 「いかにも、【ファミリア】の主神が言いそうな事ね。あぁ、別に悪い意味じゃないの。私とは違う考えがあるのが、流石だなって思っただけよ・・・・まぁそれは置いておいて、話を整理するとヘファイストス様に言われたように考えては見たけれど、具体的には思いつかなかったから幼馴染()に聞きに来たって事なのね」

 

 「うん」

 

 「なら、さっきも言ったけど悩む必要なんてないわ。私から見たら貴女だってルミトに負けないぐらい成長してるんだから、大丈夫。気にするだけ無駄よ・・・・これもさっき言ったわね」

 

 「・・・・サーちゃん、ありがと」

 

 「ふぁ〜い、どういたしまして」

 

 相談事が無事に解決したのを確認した向かいに座る幼馴染は一つ伸びをし、立ち上がると思ったのだが、

 

 どうやら開放してもらえるのは、まだまだ先のようだ。ルミト、私全てを話さない自身ないわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 特に魔剣に頼ることもなくいくつもの戦闘を越え、より下の階層へと歩みを進めるうちに、ふと疑問に思った。ここは何階層なのだろうか、と。あぁ、これが『試し切りを繰り返すうちにのめり込んでしまった』というやつか・・・・等とどうでもいい事を考えていると壁からビキビキと、今日で何度目かのモンスターが産まれる瞬間の音を聞いた。

 壁を裂いて出てきたのは放火魔(バスカビル)の異名を持つ大型の黒犬。その名はヘルハウンド、パーティーを全滅に追い込む程のモンスター、それはつまり、ここが中層であることを意味していた。

 

 「・・・・・うわ、キッツイなぁ」

 

 俊敏なだけでなく、何よりの特徴といえばその口から放たれる

火炎放射(地獄の業火)。しかも今か今かと飛びかかろうとしているその数は2。1匹ですら厄介なのに、複数となれば危険度は遥かに跳ね上がる。

 

 「っ・・・・いきなりかよ!?」

 

 吠えること(挨拶)することすら惜しいのか、2匹は開幕早々に火をを吐いてきた。通常ならサラマンダーウールという火の精霊サラマンダーの加護を受けた装備で防ぐ――ちなみに結構な値段がする――のだが、そこまで想定していた訳ではないから避けるしかない。

 

 「・・・くっ!?」

 

 体勢を崩しながら氷弾を打ち出すも、2匹は左右に別れることでソレを避け、こっちを挟み込んだ。

 

 「ガアアアァァァァッ!!」

 

 奇しくも先のインプのような位置関係になるが、その危険性は比ではない。同時に飛びかかり、正面は首を、後ろからは右足首に狙いをつけて襲いかかる。同時とは言ったが、飛びかかりから牙を覗かせるまで全てがまるっきり同じな訳ではない。若干後ろのほうが早いといったところか。

 

 「・・・・こっ・・・・のっ!?」

 

 右脚を蹴り上げることで、正面のやつを蹴り飛ばそうと考え、かつ自らバランスを崩すことで必然的に首を後ろに引き、正面から迫る牙を避ける事に成功する。後ろからのやつは少し前まで足があったところを過ぎ去っていく。器用のステータスを上げておいて良かった。ウォーシャドウのときに上げてなかったらきっと今の曲芸じみた回避動作は不可能だっただろう。

 正直どこまで避け続けられるかわからないが、対抗手段がない訳ではない。

 

 「・・・・・できるか?」

 

 再び迫りくる火炎放射を避けながら短剣型の魔剣と片手剣を構える。体の向きも、さっきとは変える。さっきは正面と背後を同時に確認しようとしていたが、今度は左右に見えるようにする。左のヘルハウンドが距離を取ってから火炎放射を、右からは再び噛みつこうと走り寄る。

 

 「ガアアァァァァッ!」

 

 「ふっ!」

 

 右から迫るヘルハウンドを体を半回転させながら真横に蹴り飛ばし、ついでに炎を避ける。

 

 「ギャゥッ!?」

 

 何度かバウンドしたヘルハウンドが体勢を立て直そうとする前に、右手に持つ片手剣を投擲する。放たれた剣は、防がれる事も避けられることもなく、その身に吸い込まれ、地面に深々と突き刺さった。

 急いで、剣を引き抜きに駆け寄ろうとするが、それよりも先に跳ね飛ばされてしまった。

 

 「ぐあぁっ!?」

 

 自分を吹き飛ばしたのは勿論、さっきまで火を吐いていたもう1匹。仰向けになり、すぐに起き上がろうとするも既にその牙は目前に迫っていた。距離があるからいいかと思ったのだが、そうはいかなかった。下げたままの敏捷ステータスが影響していたのだろうか。いやそれを考えるのは後だ。少なくとも今かやるべきは、この状況を乗り越えることなのだから。

 

 「・・・・っ!?」

 

 魔剣で防いではいるが、その鋭い牙はギリギリと迫りつつある。短剣であるが故にリーチ面で不利。それを悟ったヘルハウンドがその口を大きく開き、業火を放とうとしたその瞬間。

 

 「へっ、やっと口を開けたな。待ってたよ?」

 

 短剣をその口に入れ、氷弾を放つ。放たれた氷弾はその黒い体を貫通。ポッカリと穴の空いたその体はドサリと音を立てて横に倒れた。

 

 隙を見せないなら誘えばいい。例えば今みたいに、敢えて自分が不利に陥ったかのように立ち回り、相手に有利な状況を、勝利を確信させる。

 

 “モンスターだろうが冒険者だろうが、勝ちを確信したときは最大火力で始末しようとしてくるけど、それは『絶対に自分が有利だから』と思って油断しているからなのよ。つまり、相手に隙がなければ、こっちから誘い出せばいいのよ。アンタ得意でしょ、そういうの”

 

 これが作戦なのだが、例の幼馴染に教わった訳で決して自分で考えていた訳ではない・・・・恥ずかしながら。というか、“得意でしょ”とか言われて、はいそうです・・・・とは誰だって自慢気に言えるものではないだろうに。まったく、なんてことを聞くんだあの幼馴染は、僕にそんな、相手のことを弄ぶような事が出来るとでも思っているのだろうか。心外な。

 

 「・・・・それでもいざ実践するとなると焦るなぁ、やー怖かった。特にあの牙、尖すぎて何回冷や汗かいたことか。ふっ・・・・あれ?」

 

 ぼやきながら片手剣を引き抜こうとするも、予想していたよりも深くまで突き刺さっているのか、なかなか抜けない。

 

 「ぐっ、この!・・・・・・うぁーダメだ、全っ然抜けない。おっかしいなぁ」

 

 諦めて座り込む。こうなってしまっては放置するしかないだろう。いやでもそれは・・・・せっかく自ら仕上げたものだし(工房の片隅に放置してたのはともかくとして)放っておいては他の冒険者の邪魔になるだろうし、場合によってはモンスターが引き抜いて、そのまま武器として扱うかもしれない。

 

 「それはなんか嫌だなぁ。自分の作品(やつ)が他の冒険者を害するものになるんだったら、今引き抜いていくのがいいし」

 

 しかし、そのまま大人しく黙って片手剣を引き抜かせてくれるほどダンジョンという環境は易しくない。

 

 「・・・・くっそ」

 

 再びダンジョンがそれを阻もうと刺客を生み出す。

 間抜けなことをした冒険者を排除せんとダンジョンより派遣されたのは4匹のアルミラージ。全身が白く赤い目を持つ、二足歩行の兎は。いずれの個体も天然武器として石の斧を持っている。その手に持っている得物はともかくとして、白い体躯に赤い目?おかしいな、割と最近どっかで見かけたような・・・・・・

 

 「うわわっ!?ちょっ、ま・・・危なっ‼」

 

 ふとベル・クラネルが脳裏に浮かびかけたその瞬間、4匹の兎は揃って石斧を投擲してきた。咄嗟に片手剣型の魔剣を剣帯から抜き弾く事に成功する。

 

 「今はもう少しだけ待ってて欲しかった・・・・・かなっ!」

 

 お返しとばかりに氷弾を撃ち出す。放たれたソレは一番端にいた個体に命中。

 

 「よし、じゃあもっかい・・・・・ぁ」

 

 もう1匹狙おうと短剣を振り上げた途端、しかしもう一度氷弾が放たれることは無かった。切っ先から柄まで全てにヒビが入り、留まることはなくソレは粉々に砕け散った。

 

 やはり魔剣はその力を行使する度に限界を迎えやすくなる。その原因は大きさなのか、はたまた扱う属性によるものなのか詳しいことは、多くの鍛冶師が当たり前のように製造し、多くの冒険者が扱うようになった現在()も尚、解明されていない。

 

 とにかく、片手剣は使えず魔剣も残り一本となった今、このまま魔剣を使ってしまえば避けられた際の対抗手段を失うことになる。先程弾いた石斧を拾い、それで今尚突き刺さったままの片手剣、のすぐ近くを削る。削るというより掘るに近い動作だがそんなことを気にしている場合ではない。

 

 「・・・・・・やった!」

 

 単純な力で引き抜くのは無理だったが、石斧でどうにか周囲を堀り進めることで抜くことに成功した。

 

 「さぁさぁ待たせたねベル()たち、これで一方的に反撃出来るって・・・・・・・あれ?」

 

 しかし獲物を地面から引き抜いたのは、どうやら僕だけではなかったようだ。いざ対面し直し意気揚々と近寄ろうとした時に気づいてしまった。モンスター(彼ら)も石斧を地面から引き抜いていた。唯一の救いは、個体数が一つ減ったという位だ。

 

 「・・・・・時間かけ過ぎた」

 

 間違いなく彼女に怒られる。一時的に得物を失っただけに飽き足らず、相手に武装させる暇を与えてしまった。ここまでやらかしてしまうとミレアが助けてくれる事すら絶望的かもしれない。

 ミレア、助けてぇ。

 

 

 




そしてサラッと新キャラが登場したことで、ルミト君に降りかかる危険性が跳ね上がる始末。・・・・ルミト君、強く生きるんだよ(切実)
まぁもう一話続くんですけどね。それが意味するところは・・・まぁお察しの通り、ルミト君が危機なだけです(オイ)
そんでもって今までにもあったミレアの心境を、実はもう一段階深堀してみたり、そんな今回でした。
それでは、また次回!



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幼馴染と板挟み

お久しぶりです一ヶ月ぶりですね、と近頃同じ挨拶を繰り返してばかりです、どうも作者です。なんか最近アレですね、ルミト君が危機に瀕してばかりですね、一体どうしてなんでしょうね(すっとぼけ)
・・・・はい、お察しの通り今回も我らがルミト君はピンチなんです。


 「わっ、ちょっ、暴れるなベル!?つーかそろそろ斧投げるの辞めろって、どんだけ引き抜いてきたんだ・・・って危なっ!?」

 

 3匹のベル()に投げつけられる石斧を避け続ける。どうしても当たりそうなやつは片手剣で弾く。

 

 「よしっ・・・・・って、しまっ!?」

 

 しかし弾きながら近づくと、対応するのにはそれなりに速度を上げて反応しないといけない。石斧を2つ同時に投げつけられ、それを壁側に弾き飛ばす。しかし、右手の片手剣で勢いよく弾き飛ばしてしまったために、その陰に隠すように、時間差で迫ってきた石斧を弾く事が出来なかった。いや、正確には間に合わなかったのだ。どうにかして柄の部分だけ引き戻したのだが、それが仇となった。勢いよく飛んできた石斧がぶつかった衝撃で片手剣が右手から放されてしまった。

 

 「うわわっ!?」

 

 当然、すばしっこいベル()たちが、その隙を見逃してくれる筈もない。その鋭い角を向けて飛びかかってくる。

 

 「・・・・なーんてね」

 

 敢えて足を前に滑らせ、体を仰け反らせる事で避ける。そのまま頭上を過ぎ去るアルミラージの腹目掛けて雷の魔剣(3本目)を引き抜いて切り裂いた。

 

 「別に魔剣だからって、剣として物理的に使えない訳じゃないんだよ?・・・・・まぁモンスターの君たちには解らないだろうけど、ねっ!!」

 

 立ち上がり、そのまま魔剣を投げつける。放ったソレは片方のアルミラージを貫いた。それを隣で目撃したもう一匹は恐れたからか、はたまた動物としての闘争本能か、手ぶらになった冒険者目掛けて真っ直ぐ走り寄り石斧を振り上げる。

 

 「確かに手ぶらになったけど、冒険者が石斧を持てないなんて、誰が決めたのさ!」

 

 さっきまで突き刺さっていた片手剣を掘るために使用した石斧を拾い、横方向からアルミラージの体にぶつける。直撃したことでアルミラージは吹っ飛ばす事は成功したが、天然武器(ネイチャーウェポン)だけあって脆かった石斧は砕け散った。しかし、あくまでも一時的な対応であって、確実なソレではない。それなりの速度で向かってきたのもあって、横方向から吹っ飛ばされたアルミラージは地面を何度もバウンドし壁にまで至る。だがすぐに起き上がり、再度飛びかかろうと体勢を整えようとする。

 

 「・・・・今のうちー」

 

 相当なダメージがだったのか、体勢を整えるのに時間がかかっているアルミラージを確認し、この隙に先程別の個体に投げつけたままの魔剣を回収する。

 

 「さぁ、準備は出来たかな?」

 

 別に階層主ではないが、見れば見る程ベル(知り合い)に似ているために、少し強張ってしまう。

 

 「・・・・・ッ!」

 

 アルミラージが動くと同時に魔剣を横に振り払う。撃ち出された炎は何にも防がれることなく、正面からアルミラージに命中した。ソレが動かなくなったのを確認し、片手剣といくつかの魔石を回収する。先の二本が2〜3回使用したところで砕け散ったのを考えるに、3本目もあと1、2回使ったら同じことになるかもしれない。だとすれば、これ以上進むのは危険な訳だから、そろそろ戻るのが最善だと言える。

 

 「じゃあ撤収・・・あっそうだ。色々と換金するときに久しぶりにサーちゃんに会うのもいいかもしれない」

 

 しかし、この考えが最悪手だと気づくのは既に手遅れになってからのことであるのだが、目的を達成した上に予想していた通りの結論に至り興奮していたルミトが、それを思いつける筈もない。それほど時間が経たないうちにモンスター(幼馴染)に(説教的な意味で)締められることなど知らぬまま、自ら遭遇しに行くルミトなのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私、結局全て話しちゃった。とはいえ、ルミトもお揃いのネックレスをしていることまでは伝えていない。これすらも言ってしまったら間違いなくイジられる。だからバレないようにしないと。そう決意を固めた矢先の事だった。

 

 「・・・・サーちゃん、いるかな?いてくれたら話を聞いてもらい・・・たいんだ、け・・・・」

 

 呑気な冒険者(よく知る愚者)の、気の抜けた一声が全てを台無しにしたのは言うまでもないだろう。後にミレアは愚痴る。“人の覚悟を台無しにするのは百歩譲ってまぁいいとして、せめて時と場合を選べ”と。まぁ、当の本人にとってはいつも通りの偶然であるためそれも無駄なことなのだが。

 そして、全てを悟った愚者と、獲物を仕留める雰囲気を醸し出している幼馴染との攻防が始まるのは簡単に想像がつく。

 ちなみに、今回と同じ様な攻防が今までにも幾度となく行われてきたが、ルミトが勝利した(逃げ切った)事は一度もない。故に、今回の結末に関しても言葉にするまでもないだろう。

 ・・・・・・・ルミト、後で沢山慰めてあげるからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 幸いなことに帰りはモンスターに遭遇することもなく、最後の魔剣も砕け散る事はなかった。さて、魔剣の試用も済んだことだし後はもう一度取り組む訳だけど。その前に今回ダンジョンで得た魔石の換金と幼馴染への愚痴でも・・・・・・と思っていたのだが。

 その光景を見た途端、僕の体はかつて無いほどの反応速度を見せた。思考と反射が同時に働いた、そう思える程に速かった。今日のダンジョンでの連戦なんて比じゃない位だ。

 

 「【猛り生命(いのち)に静寂を。果てなき希望への糧となれ!!】」

 

 選ぶのは勿論“敏捷”。焦りから詠唱速度が早くなるのは仕方ない事だろう。寧ろ当然と言っても過言ではない。今だけはステータスの上がり幅が1段階しかないのが悔やまれる。できることならレベルアップしたことになって欲しい位だ。そんでもって彼女(強敵)の“敏捷”を1段階下げる。

 

 一体何を見たのかだって?それは勿論圧倒的な捕食者だね。一見おっとり目な雰囲気の猫人(キャットピープル)だけど、何よりもアレは目がヤバい。今だけは臨戦態勢の虎人(ワータイガー)狼人(ウェアウルフ)と見間違えたっておかしくない。つまりそれほどまでの圧を受けた。

 

 いやいや窓口嬢なのだからギルドにいるのは当たり前だって?確かにその通りだ。なんなら逃げる必要だって皆無。・・・・だがそれは、“ミレアが泣いていて、それを慰めているサーちゃんがいて、その場面にルミトという餌(原因)が出くわさなければ”という条件に限っていなければならない。ぼんやりとでもいいから考えてみてほしい。いかにも『私が原因です』と自ら名乗っている人物が、被害者と、それを慰めている第三者に喜々として遭遇してしまった場面を。その後に何が起こるのか、言葉にしなくてもわかってもらえるだろう。

 

 だからこそ、今だけは捕まるわけにはいかない。捕まればソレは自らの社会的立場を失うことを意味しているのだから。そうなる前に是非とも逃げなければ。せめて、せめて出直そう。今日は状況が悪かったんだウン。そうに違いない。そうと思い込まなければ生きていけない。

 

 「あらあら、ルミトじゃないの偶然ねぇ?一体どこに行こうとしていたのかしら?何もいきなり走り去るなんて冷たい事しなくたっていいでしょう?ちょっとお話していきましょうよ?」

 

 そんな願いは叶うはずもなかった。頭をがっしりと掴まれ、聞こえてくるその声はひどく冷たい。振り向かなくてもわかる。その目はきっと光を灯していない。映っているのは何処までも深い闇に違いない。かつて幾度となく体験してきたからこそ断言できる。この状態の彼女は危険そのもの。近づかれたら生命の保証はない。そう、だからこそ逃げるのだ。結局、いつも最終的には捕まってしまうと解っていても、いや解っているからこその行動なのだ。無駄だと、同じことだと理解していても、『お説教は出来るだけ後回しにしたい』と身体が芯から叫んでいるのだ。

 

 「あらあら、魔法の無駄遣いだというのに私に対して阻害魔法(デバフスキル)。全く、無駄だと解り切っているのに、いつまでも経っても懲りないのねぇ。そもそも、あなたの魔法は冒険者にのみ有効だと、何度も教えてきたじゃない。にも関わらず、非冒険者の私に使おうだなんて、往生際が悪いわよ?」

 

 ミシミシと掴まれた頭が悲鳴をあげる。マズイ、このままでは自分の体がいつ《ドロップアイテム》と化してしまうか判らない。

 

 「【は、刃を通さぬ幻の壁。姿を定め・・・・ず、主を護る盾となり矛と、なる。時にそ・・・・れは己への戒めとなるだろう】」

 

 せめてもの抵抗に【フォッグ・チェイン】を発動させるが、それでも悲鳴は止まない。詠唱が途切れそうになったのは、それだけ頭部に対する圧が(物理的に)強くなったからである。

 

 「な、なんで?」

 

 「そもそもただの(・・・)窓口をやってる私に魔法が効く訳ないでしょう。だって私、冒険者じゃないんですもの。あなたの魔法は冒険者には適用されるけど、それ以外の人にはなんの効果も与えないのよ。あなたが知らない筈ないでしょうに。・・・にも関わらず、私にも使おうだなんて、あらあらまた1から説明してあげないといけないのかしらね?」

 

 動揺し過ぎてつい質問してしまったが、彼女は丁寧に解説してくれる。こういうところが好かれる理由なんだろうな・・・・・ってそうじゃなくて、感心してる場合じゃなくてっ!優しい言葉を使っているけど、これは結構アレな証拠。それだけでなく普段よりも早口になっていることから断言できる。終わった。

 駆け出し冒険者におけるミノタウロス、中層における階層主、つまりそれ程までに危険度が高いモンスター(幼馴染)。普段パーティーを組むミレアですら、勝てない相手な訳で、一度も勝ったことがない二人が組んだところで手も足も出ないだろう。つまり対抗する手段は、非情にも存在しない。

 

 「やぁっっっと捕まえたわぁ。さぁいらっしゃい、3人で仲良くお話しましょうよぉ!!そんなに遠慮することないでしょ、全くいつまで経っても恥ずかしがり屋なんだから」

 

 「いや、あの恥ずかしいとかそんなんじゃなくて、寧ろ拒絶と言いますか何と言いますか。とにかく下ろしてくれない?この体勢、足が引き摺られてて痛いんだけど」

 

 頭を片手で掴まれたまま、まるで重い荷物のように引き摺られれば足だけでなく、他の場所も痛くなってくる。

 

 「なぁんだ、ごめんなさいね。私としたことがうっかりしてたわ」

 

 良かった、なんとか通じたみたいだ。やはり直接言わなければ伝わらないということだ。さぁ、後は彼女が手を離した隙に、もう一度逃げ出せば・・・・・・

 

 「そうよね、やっぱりこっちの持ち方の方が安定するものね。あなた、良く解ってるじゃない。例え、もっとキツイことになるとはいえ、自分よりも相手のことを思いやる、その心意気。感動したわ!さっきも言ったけど遠慮は不要よ。思いっ切りやってあげる。ふふっ相変わらず軽いわね、昔と変わらないわぁ」

 

 ・・・・・おん?何やら不吉な単語が聞こえた気がするんだけど気の所為・・・・じゃないなコレ!?寧ろ引き摺られてた方が マシなまであるよ!?えっ、一体どんな体勢になったかって?言わせないでよ恥ずかしい。うわすっご、今日気絶したミレアを工房に運んだ時の抱え方って、こんな視点になるんだね・・・・・どんな罰則だよコレぇ!?

 

 「・・・素敵」

 

 「カッコいい」

 

 「・・お姉様」

 

 なんかあっちこっちで似たような感想が聞こえて来るんだけど気の所為じゃないよね!?いいか周りで目を輝かせてうっとりしてる名も知らぬアンタら。絶っっっっ対に間違えてるからな!どんな幻想を抱いているのか知らないし知りたくもないけどね、この幼馴染に憧れるのだけは辞めとくべきだよ!じゃないと気付いたときには既に手遅れになるんだから。何がとは口が裂けても言えない、というか言いたくないけど!あと、コレすんごく恥ずかしいんだぞ!羨ましいとか見当違いも甚だしいっての。ったく、誰だよこんなのミレアにやったの・・・・・・自分じゃん。

 

 「・・・・あはは」

 

 ちらっと顔を向けるとサーちゃんの後ろを歩くミレアが恥ずかしそうに手を振ってきたんだけど、一体何をどうしろと!?

 そしてガチャリと扉の開く音を聞いて僕は思い出してしまった。そう、お説教はまだ始まってすらいないのだ。つまりこれからが地獄。なんだったら今までのは前座ですらない。サーちゃんからすれば、ただのお遊びにも満たない位だろうよ。

 

 「は、早く下ろして下さい。既に手遅れだと理解してはいるけど、これ以上されると恥ずかしくてお外歩けなくなっちゃう」

 

 「あら良いじゃない!きっと心優しいミレアちゃんがお世話してくれるわよ。安心して、私も時々遊びに行ってあげるから!!」

 

 「人を小動物みたいに扱うの辞めてよねホントに!!そうなりたくないから下ろしてって言ってるの!あとどうしてミレアは顔を赤らめてるのさ!?」

 

 「えっ、だってサーちゃんが言ってる事って・・・・つまり、そういうことなん・・・」

 

 「うわ辞めて、聞きたくないぃ!?ゴメンって本当に謝るから、やっぱり全部言わなくていいからぁ!?」

 

 そして為す術なく個室へと運び込まれ、扉はガチャリと閉められる。これで逃げ場は完全になくなってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さて・・・と、ねぇルミト?私が考えてること、解るわよねぇ?」

 

 壁際に座らされ、正面からは笑顔で迫られる。い、一体何がマズかったんだ?ミレアを困らせた事か?ミレアに内緒でこっそりダンジョンに向かったことか?それともパーティーメンバーの意志を無視して黙って魔剣を造った事か?ひょっとしてサーちゃんに会うのを避けていたことだろうか。どれだ?思い当たるのが多すぎて言い出せない。それどころか聞かれてもないのに自白をしたら更に追い詰められるに決まってるから。

 ちなみにどうして椅子ではなくて壁際に座らせられているのかって?前に一度窓から脱走したからだよ、失敗したけど。だってサーちゃんの問い詰め方怖いんだもん。上げてから落とすというか、一度落としてから更に畳み掛けるというか、なんかそんな感じで責めてくるんだよ。

 

 「もう一度聞くわよ?私が考えてること、解るわよねぇ?解るでしょう?・・・・・解るって言いなさい」

 

 「・・・・全然一度じゃないんだけど」

 

 「何か言ったかしら?」

 

 「ナニモイッテマセンデスハイ」

 

 こっわ!?言葉だけじゃ伝わらないと思うけど、この人今日会ってからずぅっっっっと笑顔のままなんだよ!?面白くて笑ってるんじゃなくて笑顔を貼り付けたままなの!!

 

 「まぁ聞きたいことは沢山あるけど、まずは軽めのやつから選んであげましょうかしらねぇ。・・・・・・・ルミト、とっても素敵な首飾りしてるのねぇ。まるでミレアとお揃いじゃない」

 

 ・・・・・・全然軽めじゃないよサーちゃん。寧ろこの状況で一番聞かれたくないやつだよソレ。ほら後ろを見てよ。ミレアなんて顔真っ赤になってるじゃん。

 

 「普段そういうお洒落を全くしないあなた達が、急にしだしたら“まぁお年頃よね”で済むところよ。私も察するだけで、特に深堀りするつもりはなかったわ?でも、『同じ日に、同じ意匠』をしたものを選ぶというのは“偶然”の一言で済ますには都合が良すぎると思わない?」

 

 にこやかだけど、有無を言わさないこの雰囲気。どうしよう、逃げられない。そもそもどうしてこうなった?普段心優しい彼女が、一体何故ここまで豹変してしまったのだ?・・・・ダメだ、何も解らない。

 

 (サーちゃん、そろそろその辺で・・・・・)

 

 (何言ってるのよミレア、ここまできてそれはないでしょ。折角の機会なのよ、ここで聞き出さないで、いつ聞くって言うのよ?)

 

 (・・・・・・・・一体何を話してるんだ?なんかよく解らないけど置いてきぼりにされてる気がする)

 

 僕には聞き取れない距離で幼馴染二人が話している。話している間だけサーちゃんの表情は穏やか(いつもの)になる。ということは、この問い詰め方はサーちゃんが意図していたものではなく、ミレアに何かを知らせるためにやっているのだろう。

 

 (それは、そうだけど。でもこんな聞き方しなくても、ルミトなら素直に教えてくれるって)

 

 (甘いって、それで放置したからここまで鈍くなったのよ、コイツは。傷付きたくないから知りたくない、その気持ちも解るけどパーティーメンバー、それも何年も一緒に育ってきた幼馴染なのよ。こういう時ぐらい遠慮しちゃダメよ)

 

 よくわからないけどサーちゃんが何かを言うたびに、ミレアの表情がころころ変わるの面白いな。

 

 「話を戻しましょう。お揃いの首飾りはどうしたのかしら?」

 

 「・・・・プレゼント」

 

 「あらあらそうなの、ふぅん?」

 

 サーちゃんの顔が人を揶揄うときのヘファイストス様みたいになってる気がするんだけど気の所為・・・・じゃないよね。

 

 「ならどうして渡そうと思ったの?」

 

 「それは日頃の感謝として・・・・・」

 

 「正直に答えた方が身のためよ?」

 

 「・・・・・」

 

 有無を言わさない雰囲気を出してやがる。なんでこの人、人を問い詰めるときに限って圧が強くなるのさっ!?しかも僕のときだけだし。他の冒険者と話すときはおっとり系なのに、一体僕が何をしたというのだろうか。

 

 うぅ、こうなったら仕方ない。やりたくはなかったが奥の手を出すしかない。

 

 「言わないと、ダメ?」

 

 涙目になりながら見上げる。これをすれば大抵の人は許してくれるってヘルメス様が教えてくれ・・・・

 

 「早くしなさい?」

 

 ・・・・終わった、あれぇおかしいな。なんか最近ヘルメス様に教わった極秘スキルが悉く無効化されているんだけど。

 

 「・・・・・・大切だからだよ、ミレアのことが。いつも世話焼いてもらってるのに僕は何も返せてないから。それが嫌だなって。あと最近ミレアに引っ張ってもらってるばかりで、置いていかれたらどうしようって、不安になったから。でも、素直に口にするのは恥ずかしくて、照れてるところを見られたくなかったから驚かせてバレないようにしました、デス」

 

 「へぇ?」

 

わああああぁぁぁっ!?恥ずかしいよ顔が熱いよ心臓がバクバク鳴ってるよ!?真っ直ぐ二人の顔を見れないよ!

 

 「・・・・・・だ、そうよミレア?」

 

 「きゅうぅぅぅぅ」

 

 あれ、なんでミレアが赤くなってるの?それに縮こまっているように見えるんだけど。そんでもってサーちゃんの後ろに隠れて服を掴んでるけど、なんか小さい頃に戻ったみたいだ。今でこそお姉さん的な言動のミレアだけど、昔3人一緒に遊んでたときはいつもサーちゃんの後ろをついてったのは懐かしいな。

 

 (良かったわねぇ、気の所為みたいで。ほら、いつまでモジモジしてるのよ?ここまでしてあげたんだから、照れてる場合じゃないでしょ?)

 

 (うぅ、でも)

 

 「ははっ、なんか懐かしいね!」

 

 「何がよ?」

 

 「・・・・・?」

 

 「村で一緒に遊んでた時みたいだなって思ったの。いつもサーちゃんの後ろを歩いて恥ずかしそうに笑ってるミレアと、そんなミレアを励ましてるサーちゃん。で、その二人に何故か座らされてる僕。ねっ、懐かしいでしょ?」

 

 「ふふっ、本当ね!」

 

 「・・・・うん!」

 

 「やっぱり二人は笑ってる方が良いよね!こっちも元気になるっていうか暖かくなるっていうか」

 

 「・・・・・・・っ!?」

 

 あれ、やっと笑ってくれたと思ったのにまたミレアの顔が赤くなったんだけど。

 

 「・・・・・相変わらず、そういうところは変わらないのねルミト。少しくらい自分の心に素直になりなさいよ」

 

 あれぇ?一体何を間違えたんだ?ただ褒めただけなのに、なんか怒らせるようなこと言ったかな。

 

 そしてルミトは気づかない。説教が長引く原因となったのは自らの発言であるということを。

 

 

 

 

 

 




そんでもってルミト君のピンチはもうちょい続きます。でもピンチになる度に成長している気がするのは、ちょっと頼もしかったりもう少しピンチにさせてみたかったりで複雑です。
ちなみにサーちゃんこと新キャラのサーニャ・ラーミノアですが、お気づきの通りお姉さん的ポジションを意識してます。立場的にはサーニャ>ミレア>ルミトな感じ設定してます(嗚呼、ルミト君の立場がどんどん弱くなっていく)
伝わりにくいのは、ま〜アレですね作者の文章力がアレなせいですね。
それでは、また次回!


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甘い言葉と願望

自分にしては珍しい事に、ここ最近続いてる月1投稿、そしてそれに驚きを隠せない作者です。
・・・・・・・すいません嘘です、ホントは一回投稿しませんでした。文章では言い表せない程なんです(ちなみにサボりの一言ですべて解決しますが・・・・・あ)
前回に続き、今回もピンチな予感。


 (良かった、置いていかれたくないって思ってたのは私だけじゃなかったのね)

 

 説教されているルミトを見ながら安心する。自分だけだと思っていたのだが杞憂だったようだ。さっきの言葉を思い出して再び心が暖かくなる。

 

 

 『変わりたいのなら、変わればいいじゃない。実行するには難しいけれど、言葉にするほど楽ではないけれど、“変わりたい”とそう思えなければ、何も行動できないわ』

 

 

 『傷付きたくないから知りたくない、その気持ちも解るけどパーティーメンバー、それも何年も一緒に育ってきた幼馴染なのよ。こういう時ぐらい遠慮しちゃダメよ』

 

 

 ヘファイストス様とサーちゃんの言った通りね。変わりたいと思えなければギルドに来なかった。遠慮しなかったからルミトの本心を聞くことが出来た。

 大切だって言ってもらえたのが嬉しかった。

 笑顔でいると心が暖かくなるって言ってくれた。

 変ね、たったそれだけなのに、心臓がドキドキしてる。頬が緩んで嬉しくなる。顔が熱くてじんわりしてくる。

 ルミトと目が合う度に心臓がキュウっと締め付けられる。

 嗚呼、問い詰められる度にルミトがどんどん小さくなっていく。止めに入りたいのは山々なんだけど私から言い出した手前、サーちゃんには言い出しにくいの、ごめんね。

 

 (でも、そっかぁ。同じこと考えてたんだぁ・・・・・えへへぇ)

 

 そう思ったら頬が緩んでしまうが、バレないように必死に堪えるから変な顔になってるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 壁に追い詰められ、これ以上引くことの出来ない体勢で、他にどんな事を言及されるのか覚悟を決めるしかないと諦めていた。

 獲物を狩る準備を整えたサーちゃんはにんまりと笑って小声で話しかける。

 

 (で、いつまでこの体勢でいたらいいの?)

 

 (そうねぇ、もう暫くかしら)

 

 (いや、さっきからずっと同じこと言ってるじゃん)

 

 そう、実はこのやり取り既に3回目なのである。一体なぜ、と誰もが疑問に思うであろうがその理由ははっきりしている

 

 (お説教はいいの?他にも言われるかと思ってたんだけど)

 

 (そのつもりだったけど、なんかどうでも良くなっちゃった)

 

 (えっなんで!?)

 

 (アレを見てみなさい)

 

 サーちゃんが示した方向には顔を赤くしたミレアが幸せそうな表情をしていた。お気づきであるようにこれが理由である。詳しいことは知らないが、さっきの首飾りを渡すに至った自分の心情を曝露してからずっとあの状態なのである。いやなんで?客観的に判断すると正直恥ずかしいというか可哀想というか、まぁそんな感じのやつなんだけど。

 

 (・・・・・何あれ、ひょっとして怒ってるの?顔真っ赤なんだけど)

 

 サーちゃんは残念そうにため息をつく。

 

 (無知って罪よねぇ。いやでもこれはいっそのこと気づかせない方がいいのかしら。下手に修整しても結果が怖いからやっぱりこのままにしましょう。ね、ルミト)

 

 (いや何の事かさっぱり理解できないんだけど?)

 

 (あなたはこのままでいればいいって、それだけのことよ・・・・・よしよし)

 

 そう言って静かに人の頭を撫でるサーちゃん。

 

 (あれ、ひょっとして僕だけ置いてきぼりにされてるの?ちょっと残念なやつって思われてたりするの?)

 

 (いいえ違うわ)

 

 良かった。そんなに酷い扱いはされてないみたいだし安心して・・・・・・・・

 

 (あなた、自分が思っているのより相当残念なやつよ)

 

 ・・・・・・・・あれぇ?

 

 (要は、ミレアに笑ってて欲しいか悲しんで欲しいかどっちの方を望むかって事よ)

 

 そんでもって、なんでもないかのように扱われてるし、工房は幼馴染に居座られるし、本来頼れる筈のアドバイザーは僕だけ責めてくるし、僕の安寧の地は一体どこにあるの?ひょっとして存在しないから創れとでも言うのだろうか。神様に祈るしかないのかも・・・・・・・いやでも、そもそもあの方(ヘファイストス様)もミレア側だし却下だよなぁ。寧ろもっと苦しくなるだろうし。うんうん、詰んだねこれ!

 僕が一体どんなとんでもない事をやらかしたんだろう。いやだってやらかしたのは確定でしょ。だって現にこんなに恐ろしい状況になってるんだから。

 

 (で、どっち?)

 

 このまま続けるんだ。そんでもって僕の意見は皆無ですか。でもそんな聞き方、僕の選択はとっくに決まってる。

 

 (・・・・・・笑ってて欲しいよ)

 

 (えっ、なに聞こえなかった。ごめんもう一回言って?)

 

 返答が早いなあ。それにどうして急に聞こえなくなってるの?さっきまでは普通に成立してたよね会話。サーちゃん、なんでこのタイミングでそうなるの?ひょっとしてもうそんな年齢になっちゃったのかな?だとしたら、ごめんね僕の配慮が足りてなかったよね。うんうん今から気をつけ・・・・・

 

 (まさか、失礼な事考えてたりしないわよね?仮にそうだったとしたらちょーっと(・・・・・)歪になるわよ)

 

 考えた途端ガシッと頭を掴まれる。撫でるでもなく包み込むでもなく掴む。サーちゃんがそれを選択したということは、つまりそういうこと。

 

 (ちっとも全然これっぽっち考えてなんてしないから手を離して下さいお願いですから、ホント許して痛いイタイいたい)

 

 ミシミシそしてメキメキと頭蓋が悲鳴を上げ、それを声で伝えたいのも堪えて心から解放を願う。

 

 (早く答えなさい?)

 

 (笑ってて欲し・・・・・)

 

 (は、何を?もうちょっと大きな声で言いなさい?)

 

 ・・・・・嘘じゃん。さっきのと声量一緒なのに、こんなに態度違うことある?しかもさっきなんて声に出してすらいないし、考えただけであんな痛い思いしたってのに、それに対してこんな・・・・こんな雑な扱いなんて。

 

 「笑って欲しいです!ミレアの事が大事です!一緒にいたいです!」

 

 「きゅいっ!?」

 

 自棄になって叫ぶとミレアが小動物みたいな声出して倒れたんだけど。なんかボフッて聞こえてた気がするし、あと薄っすらだけど湯気出てない?

 あれ、いいの?これマズイんじゃないの?ねぇ満足してないで早く教えてよサーちゃん!?

 

 「・・・・・これからよミレア」

 

 「満足気にうんうん頷いてないで、どういうことか早く説明してよ!?」

 

 「あーハイハイ、アンタもよくやったよくやった・・・よしよし、この調子だからね」

 

 「いや何をどう維持しろと!?あとなんで撫でてるの!?」

 

 「よーしよしよし、いい子いい子ー」

 

 「あやすよりもさっさと説明して欲しいな!?」

 

 「後はそうねぇ、さっきアンタにやったみたいに抱きかかえてあげれば完璧ね」

 

 「・・・・えっ!?」

 

 「何よ?」

 

 「今日やったばかりだよ?」

 

 「いつ?」

 

 「ヘファイストス様の部屋で全てを曝露された後」

 

 「なんでそんなことになったの?」

 

 「寝起きに頭撫でたり、頬つんつんしたから」

 

 「・・・・・・」

 

 なんで黙るの、そう思った瞬間、何かを悟ったサーちゃんは一度天井を見上げて大きく息を吐いた。

 

 「ひょっとして・・・・駄目だった?」

 

 尋ねるとサーちゃんは再び視線を合わせてこう告げた。

 

 「最高!」

 

 楽しげに笑いながら告げる幼馴染に対して僕が抱いたのは唯一つ。

 ・・・・・・・・だから何が?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・・・ダンジョンよりも疲れたんだけど」

 

 サーちゃん(階層主)はやはり強大だった。終始圧倒されっぱなしでなんの抵抗も出来ず、まさに打つ手なしだった。

 時間帯としては昼と日没の間くらいだから、外はまだ明るい。今日もミレアを連れて帰る事になっちゃったなぁ、と考えると同時に夕食についても悩まなければいけない。別に自分一人で生活する分には装備品の製作を優先して多少は食べなくても構わないんだけど、最近はミレアも一緒だからそうもいかない。というかそうさせてくれない。何処かに寄るにしても何を買うか決まっている訳でもないし。

 

 「・・・・・はぁ」

 

 背中でおぶられたまま寝ている・・・・・もとい気絶しているミレアをちらっと覗く。両手が塞がってるから今朝のようにイタズラ出来ないけど、見慣れたその顔は人を安心させてくれる。

 

 「・・・・・・」

 

 そもそも何故おぶって帰る事になったのか、それはサーちゃんの強制によるものだった。

 

 『いやぁ、アンタも偶には良いことするじゃない、見直したわ!』

 

 『・・・・』

 

 『にしても、そっかぁ実行済みだったのね』

 

 『うん。だから目が覚めるまでここで待たせてもらいたいんだけど』

 

 『ならいっそのこと、おぶって帰りなさい』

 

 『・・・・・えっ!?』

 

 『まさか知らないの?』

 

 『いやヘルメス様に教わってるからそれについては全然心配ないんだけど、いいの?』

 

 『・・・・・・なんで私の楽しみ奪うのよあの(ヒト)

 

 『どういう意味?』

 

 『とにかく!朝みたいにやっててミレアが起きたら大変でしょう?考えてみなさい、仮にミレアが慌てたらその後はどうなると思う?』

 

 『・・・・・両手塞がってるから耐えることもできずに仲良く倒れる』

 

 『そういうこと。だったらミレアが起きてもある程度支えられる体勢でいた方がいいでしょ!』

 

 『確かに』

 

 『・・・・・・・あとその方が私としても面白いし』

 

 『なんて?』

 

 『あっ、私用事思い出したから戻るわね!じゃあ、またね!』

 

 というのがサーちゃんに最高と評価されて以降のやり取りである。なんか言ってることの半分くらい意味不明だったけど、説明すらされなかったよ。気づいたときにはもういなくなってた、というか逃げられたし。・・・・・まぁいつものこと過ぎてもう諦めたけどさ。

 

 「困ったなぁ」

 

 両手が塞がってるにもかかわらず、買い物には行かないといけない。不思議なこともあるもんだ。正面で横抱きしたことはある(今日のが初だった)けど、おぶるのはなんとも落ち着かない。ひょっとして顔が見えないから、とかそういう事なのかな?よくわかんないけど。

 

 「・・・うぅ、ん」

 

 背中でミレアがもぞもぞ動いているのが伝わってくる。うんうん、ごめんね寝心地最悪なやつで。ただ、もうちょっとだけそのままでいててくれると僕もこれ以上恥ずかしい思いしなくて済むんだ。理由?往来で人をおぶっていればそれなりに目立つ、それだけだよ。相手が怪我してるっていうなら問題なんて皆無だろうさ。でも外見的に無傷の人をおぶってるのって、普段より人の目を意識しちゃうんだ。

 

 「サーちゃんはああ言ってたから従ったけど、せっかくの寝顔が見れないのは不安だなぁ。ね、ミレア?」

 

 まぁ寝てるから返事なんてないんだけどね。はぁ寂しい。

 それでも・・・・・・・小さい頃から知ってる君の体温は、いつも僕の不安を吹き飛ばしてくれる。だから、今朝みたいにイタズラしちゃう。そのことを知ったら君は、どう思うのかな?

 

 (もう少しの間だけこのままでいられたらいいのに)

 

 自分の顔がすぐに近くで売り買いされている果物のように赤くなっている。バレないように早く帰らないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (なんで、こんなことになってるの!?)

 

 目を覚ますとルミトに背負われていた。そればかりが頭の中を駆け巡って、どうしてこうなっているのか考える余裕なんてなかった。確かサーちゃんがルミトに問い詰めてると思ってたら、急にルミトが急に大切だとか、一緒に・・・・とか言い出してそれで、倒れちゃったのね。今日は朝から驚かされっぱなし、というか振り回されてばかりね。

 

 (嬉しいけど、起きてるってバレたら降ろされちゃう。知らない間にこんなことになってて驚いたけど、多分サーちゃんが変な事を吹き込んだからでしょ。でもせっかくの機会だからなんとか気付かれないようにしないと)

 

 ちらっと目を開けると陽が沈みそうになっている。どうやらもうすぐで日没なのだろう。ということはルミトは買い物に寄るのではないだろうか。少し前に作業に集中し過ぎて食事を抜いたことが何度もあると、うっかり零していたのを問い詰めて改善するように要求したことがある。しかし、説明しても本人には響かなかったからその時は無理矢理食べさせた。だって、改善させないと、『1日抜いても平気になった』とか言い出しそうだし、気付いたら倒れてたなんて事になりかねないから、(自分の行動が強引だった事は認めるけど)心配だった。それ以降、少なくとも私がいるときは食事を抜かなくなったから進歩したと言えるだろう。 

 

 (嬉しいけど・・・・・それ以上に恥ずかしい!?)

 

 顔が熱くなっていくのがわかる。どうかバレませんようにと願う中で、ふと考えた。

 

 (不安定で落ちるのかと思ったけどそうでもないのね、この体勢)

 

 規則正しく伝わってくる振動が、ほんのり赤くなっているその顔が昔と違って少し寂しい。

 

 それでも、小さい頃から見てきたあなたの必死な顔が頼もしくて、こんなにも私を安心させてくれる。ちょっと無愛想だけど、どこまでも優しいあなたと一緒にいたくて、だけど素直に伝えるのは恥ずかしいから変な絡み方をしてしまう。それを知っても、あなたは変わらないでいてくれるのかしら?

 

 (この状況がもっと続いてくれたらいいのに)

 

 周りの会話よりも自分の心臓の方が騒がしい。どうかバレないようにと願うけど、同時にもう少しゆっくり帰って欲しいとも思ってしまう。

 

 

 

 

 

 




いつもはルミト視点でしたが、今回はミレアの視点を多めにしてみました。実はピンチなのはミレアの方だったり(まぁいつもと大差ないんですけど・・・・・ハッ!?)
そして今更ですがミレアが照れやすく倒れやすいことに気付きました。今回多少は進歩しましたがルミトがそれに気付くのとミレアに耐性がつくの、どっちが先になるんでしょうね。唯一の救いはサーニャがミレアの味方だということぐらいですかね(ルミトからすればそれだけで十分過ぎるレベル)
それでは、また次回!


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自分だけが放置

熱しやすく冷めやすい作者にしては珍しく、最近続いてる月1投稿。どうも作者です。今回は、珍しくルミトが責められないシーンです(珍しいというか、もしかしたら初なのでは?)
ということは、珍しくor初めてピンチじゃない(かもしれない)ルミト!(深夜テンションが故に情緒不安定)


 「で、なんで落ち込んでんのよ?」

 

 ヘファイストス様の声がよく響く。

 

 「・・・・・ふぇ?」

 

 「勝手にいなくなってたと思ったら、さっきからボーッとしてるんだもの。声かけたくもなるわよ」

 

 この(ヒト)相変わらず口調はキツイけど、なんだかんだで相手のことをよくみている。子どもが落ち込んでいれば大抵の神様は放置か揶揄うのだが、この(ヒト)は声をかけてくれる。

 

 「・・・・えっと、実は今日色々とありまして。そんでもって帰りが一緒になったんですけど、考えてたことが何も伝えられなくて。もっと配慮すれば良かったのにって後悔してまして。正直、何も手につかなくて」

 

 「ならそんなところで突っ立ってないで工房に籠もっていればいいじゃないの。炉に向き合っていれば自然と体が動いてくれると思うわよ?」

 

 確かにヘファイストス様の言う通り、ずっと扉の前で立っていても何も変わらない。なら体を動かすのも一つだろう。

 

 「そうしたいのは山々なんですけどね、入れない状態なんですよ」

 

 ただし、それは扉の向こうが平穏な場合に限る。

 

 「あらどうして?ひょっとして何か壊したの?それとも炉の火が引火して作品が燃え尽きたとか?」

 

 「・・・・・・・ではないんですけど、その」

 

 「わかったわ、言葉では表しにくいのね」

 

 流石に神様だよなぁ。こういうときはすぐに察してくれるからこっちとしても非常に助かる。理由に関しても聞かないでいてくれるから悩んでる身としてもありがたい。

 

 「安心しなさい、中で何が起こっていようと別に怒ったりしないわ。だからちょっとだけ様子を見させて欲しいの。構わないかしら?」

 

 「・・・・助かります」

 

 ガチャリと扉を開けて、ヘファイストス様は静かに工房へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・・えへへへへ」

 

 何度思い出しても、その都度頬が緩んでしまう。あの大人びた筈なのに幼さの残る横顔が、子供の頃とは違って大きくなった背中が、昔と変わらず安心できる体温が、私を幸せな気持ちにしてくれる。

 

 「・・・・・・・」

 

 幸か不幸かルミトは私が寝たままだと勘違いしてくれているから、騒いで起こさないようにと工房を離れているために今この空間は私一人だけ。つまり、こうやってうっかり(・・・・)寝ぼけてベッドを移動して、その上でゴロゴロしてたとしてもバレることはない。今までにも何度もしてきたけど、本人からは離れるように言われるから不完全燃焼なんだけど、今回に関してはそんな心配しなくても問題ない。

 

 「はぁ・・・・・・いい」

 

 本当は炉に向き合っている時も一緒してたいんだけど、それは危ないからとルミトが許してくれない。その時の顔が、普段の顔よりも3割くらい増しで格好良く見えてるから、止められても近くに行きたいというのが本心。まぁでもそれを伝えると困らせちゃうと思うから実行できたことはないけど。あと単純に、怒らせて追い出されたら困るし。

 

 「うぅぅぅぅぅ・・・・・」

 

 「・・・・・・・・・・・・・」

 

 普段冷たく当たるのだって、そうしないと頬が緩んじゃうし、顔赤くなっちゃうし、何言われても従っちゃうから。そうなったら今みたいに接してくれなくなっちゃうかもと不安に襲われる。ひょっとしたらパーティー解散されちゃうかもだし、幼児みたいに扱われてしまったら・・・・・・・いやでもそうなったらもっと近づきやすくなるのでは、だけどもしかしたら・・・

 

 「・・・・・・ぅぅぅんぅ!」

 

 え、選べない!? 私は一体どっちを選べばいいの!?どっちも正解かもだし、ハズレな気もするし!でも両方とも幸せなのは解り切ってるし!

 

 「〜〜〜〜〜〜〜っ!」

 

 行き場のない熱量が溜まっていく。なんとか爆発しないように顔を伏せて脚をバタバタさせて消費していく。

 

 「今までは空気読んで黙ってたけど流石にそろそろ限界だから言うわよ?・・・・・・ずっとこの感じでいられると、もう私どうしたらいいかわかんないんだけど、どうしたらいいと思う?」

 

 しかしそれを解決するよりも先に、別の悩みに直面してしまった。

 

 「うひゃあっ!?」

 

 「・・・・・お邪魔してるわよ」

 

 「いっ、一体いつから!?どうやって入ったんですか!?なんで勝手に入ってるんですか!?そんなっまるでヘルメス様みたいに神出鬼没なっ!一体いつから!?」

 

 「・・・・アナタが笑いながらゴロゴロしてる辺りからいたわよ?ちなみにルミトから許可は得てるし、なんだったらここ、あの子の工房だからね。あの子が良しといえばそれで十分じゃないの。そろそろ落ち着きなさい、焦り過ぎて同じこと2回も言ってるわよ?」

 

 自分の恥ずかしいところが知られてしまった。

 

 「そ、それは焦るに決まってますって!醜態を晒してしまったんですよ!?それも衝撃なレベルの!」

 

 「・・・・・いやいやご丁寧に説明してくれてるところ悪いけど、割と前から気づいているからね私?」

 

 「えっ!?」

 

 「だからまぁ、今更って感じよ?」

 

 ひょっとしたら知られているのではと思っていたが、それをいざ改めて告げられると恥ずかしいことこの上ない。

 

 「〜〜〜〜〜っ!?」

 

 さっきと状況は異なるが、奇しくも同じように顔を伏せて脚をバタバタさせてしまう。

 

 「あとさっきは思わずスルーしちゃったけど、ヘルメスってそんなことしてんの?ちょっとそれは知り合いとして看過できないというか、同列視してほしくないから今すぐ訂正してくれるかしら?」

 

 「えっ?神様って皆こぞって娯楽に飢えているんじゃないんです・・・・か?」

 

 「大抵の神が常に娯楽を欲しているっていうのは・・・・・まぁ否定しないけど、全員がそうなわけじゃないからね」

 

 ヘファイストス様はどこか遠い目をしながら、残念そうに答えます。気の所為かしら、その瞳に光が灯っていないような。

 

 「ちなみに、さっきうっかり滑らせちゃったヘルメス様の話について詳しく補足しますと、私は被害に遭ったことはないですけど、主にアスフィさんが」

 

 「・・・・・・あっそう」

 

 ついに愛想笑いすらも消えてしまったんですけど、私は悪くありません。だって事実ですから・・・・・・・頻度は少ないですけど。常に何処かに(無理やり)連れられる印象がありますし。

 

 「ですけど、そんな高頻度な訳ではないですし・・・・ね?」

 

 「・・・・・・・」

 

 とうとう何も言わなくなったんですけど、これ大丈夫なやつですよね!?私は悪くないですよねっ!?あっでもこれ、結果的に話題変えれたんじゃない!?

 

 「・・・・・うーん」

 

 ほらほら何か悩んでるからこのまま他の話題に持っていけば私は助かるわよね!そうとなればこの流れに乗っちゃえば完璧よ!ありがとうヘルメス様、多分出会って以来久しぶりに感謝してるわ!

 

 「まぁそれは今度会った時にでも詳しく聞くとして、さっきの奇行についてなんだけど」

 

 ・・・・・・・詰んだ。流石は神様、駆け引きはお手のものだと言うのか。

 

 「私は別に見なかったことにするから、全然気にする必要ないのよ?」

 

 「・・・・・・・はぇ?」

 

 ど、どういうこと!?あまりに衝撃過ぎて変な声出ちゃった。いやだってそうじゃない?客観的に見ても引かれる程の事をしでかしてるのにお咎めなしなんて想像出来ないわよ!

 

 「嘘じゃないわよ?」

 

 「えっ、いやでも・・・・・えぇ?」

 

 「本心よ。今朝も言ったけど、あの子の世話焼いてくれるならそれだけで御の字なのよ。だから多少のことは目を瞑ってあげるわ。寧ろ今よりもっとやっても良いくらいよ」

 

 「・・・・・・怪しい」

 

 「今の貴女に怪しいと言われるのは複雑なんだけど、まぁ聞かなかったことにしてあげる。その気持ちもわからないでもないけどそうね、どうしたら信じてもらえるかしら。・・・・・そうだこれでどうかしら」

 

 「言っておきますけど疑り深いですよ私は」

 

 そう、エルフという種族はプライドが高いばかりに己の種族以外を見下す習性がある。特に厄介なのは己が認めた者以外に肌を触られるのを嫌うというものだ。とはいえそれも全てのエルフに該当するわけではない。顕著な者もいれば全く気にしない人もいる。ちなみに私に関しては、育った環境が関係しているのもあるために完全に後者だと言える。

 

 「こんなんでも一応はエルフですし、納得させるにはそれ相応の理由と証拠が必要ですよ?」

 

 「この工房、不思議だと思わない?人通りの多い廊下に近い上に、人の行き来が多い主神(わたし)の部屋に比較的近いのに騒いでも全く文句を言われないのよ?どうかしら、これでも証拠にはならないかしら?まだ足りないなら・・・・・」

 

 「それでなんの話でしたっけ!?あ、安心して下さい。私ヘファイストス様の話なら全面的に信じますから!疑うなんてそんな恐れ多いことしませんから気にしないで下さい!」

 

 「・・・・・その立ち回りの速さ、あなた間違いなくヘルメスの子よね。今はっきり確信が持てたわ」

 

 「・・・・・・そこで納得されるの嫌なんですけど」

 

 「だってその通りなんだもの」

 

 「何か言いました?」

 

 「そういう時だけ食いつきが速いじゃない。もうそれこそ確たる証拠なのよ。まぁいいわ、信じてくれたならそれでいいわ。じゃあ、そういうことだから」

 

 ヘファイストス様は工房を出ていったけど、終始揶揄かわれっぱなしの私がそれ以上を聞き出せるはずもなく、私は再びこの空間で一人となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・・・・どうでした?」

 

 「いつも通りね」

 

 なるほどいつも通りなのか。つまり冷静で時々当たりがキツくて、前触れもなく急に顔を赤くする。それなら特別心配しなくてもいいか。

 

 「言っとくけどあなたの知ってるいつも通りと、私の言ってる“いつも通り”は真逆だからね」

 

 「・・・・・・ぇ?」

 

 何か大切なことを見逃している?小さい頃からの知り合いであるこの僕が?ミレアの事を知らない?

 

 「あれぇ!?」

 

 「うんまぁ、でしょうねって感じよ」

 

 ヘファイストス様は想定通りと言わんばかりにウンウン頷いている。

 

 「確認してきても?」

 

 「まぁ今すぐ入っても大丈夫よ・・・・っていうかそもそもあなたの工房だからね」

 

 「・・・・・」

 

 「気付いてないのはあなただけよ、アレ」

 

 「・・・・それ、さっきサーちゃんに言われたばかりなんですけど。どういう意味なんですか?詳しく聞こうとしても教えてくれなくて・・・・」

 

 「でしょうね。自分で気づいた方がいいと思うの。もしくは何も知らない方がいいのかも」

 

 「・・・・・全く同じ事言われた」

 

 「じゃあ、あとは自分でどうにかしてね」

 

 扉を呆然と見続ける僕を特に心配することもなく、寧ろ何処か楽しそうな表情をしながらヘファイストス様は自室へと入っていった。

 

 「・・・・入るか」

 

 ミレアなら答えてくれるかも、なんて考えながら僕は工房の扉を開けた。

 

 

 

 

 

 




そして例に漏れずルミトだけが置き去りにされます。はい、いつも通りですね。そう、ミレアが恥ずかしがるのと、照れるのは、ルミトからすればどちらも「あれ、調子悪いのかな」っていう認識なのです。その割には自分から照れさせてるような気がするのは作者だけではないはずです。(鈍いの一言で済ませていいのか、これは)
それでは、また次回!


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心と向き合って

久しぶり過ぎて半年というか約1年ぶりの投稿にキャラの扱いを忘れかけてました・・・・はい、遅くなりましたスイマセン。ちなみにこれまで同様文字数が安定しないのは、深夜テンション以外何者でもないハズです(決してサボりとかではないですよ・・・・多分)


 

 「お断りよ」

 

 扉を開けた途端に拒絶されたんですけどなんですかねコレは。

 

 「・・・・・もう平気そうで良かったよ。ところでさっき・・・・」

 

 「お断りだって言ったでしょ」

 

 口を開いた途端に否定されたら、もうお手上げ何ですけど。一体何をどうすれば良かった良かったんでしょうかね。もう何もかも分からなくなっちゃった。

 

 「ところで話が・・・・」

 

 「話しかけないで」

 

 「・・・・・・」

 

 「喋らないで」

 

 もう声を発してすらいないのに止められたら、ホントに何も出来ないんですけど・・・・どうしたらいいの!? 

 

 「今日見たものは忘れなさい。そうすればお互いに幸せよ」

 

 それは不可能だよ。あれだけ濃い出来事の連続、忘れられたらそれはそれで幸せだろうけど、なんか寂しいから嫌だなぁ。

 

 「忘れちゃっても、いいの?」

 

 「・・・・・ぅ」

 

 あっなんか悩んでる。葛藤してて表情が次から次へと変化してる。迷ったり喜んでたり落ち込んだり、色んな表情につんつんしてみたい・・・・・じゃなくて、もう少し眺めていたくなる。

 

 「覚えてた方が嬉しいって思うのは、僕だけなの?」

 

 いかにも悲しいという声音で、切なそうな雰囲気を醸し出して訊ねる。ふっふっふ、こうすればミレアは承諾してくれるって知ってるもんね。今までにもこうして乗り越えてきたんだ。今回だっていつもみたくいけるに決まってる。

 

 「・・・・・・・っ!?」

 

 「ミレアは違ったの?そんなつもりは・・・・・・・最初から無かったの?」

 

 「・・・・・・・」

 

 もう一押しといったところか。僕としてはまだまだミレアの困ってる顔を見ていたいけど。流石にこれ以上は後が怖いからそろそろやめておこうかな。各方面から責められたくないし。あっ、ちなみに今まで言ってたのも全て嘘って訳じゃないからね。ホントだよ、本当に思ってるんだよ・・・・・・・・半分くらい。だから決して嘘じゃないからねウン、だから怒らないでよ?

 

 「なーんてね。ごめんごめん、ちょっと揶揄いたくなっただけなんだ」

 

 「私だって・・・・・もん」

 

 「?」

 

 「私だって嬉しかったもん。自分だけじゃないんだって、自分の勘違いじゃないんだって嬉しくてなったわよ。今日だけじゃないわ。今までのだって嬉しかった。それで、今日のことはあなたもそう思ってくれたんだって、同じ気持ちになってくれたんだって、・・・・・・・だから」

 

 ・・・・・・あれ、ひょっとしなくてもこの状況はマズくないか?追い詰めてたハズが、実は追い詰められてた・・・・・なんて冒険者として恥ずかしい事この上ないんだけど。しかも無意識とか質悪いな、攻略法あるのかなコレ。・・・・・・そもそも、どうしてこんな事になってるのだろうか。もしかして、ミレアには何かしらの理由があるのかな。

 

 「ねぇミレア、ミレアは僕の事をどう思ってくれてるの?」

 

 ま、まぁそこまで重要な内容じゃないだろうし?多分普段みたいなすれ違いだろうし?

 

 ミレアは静かに顔を上げた。その表情は普段と変わらない。一度決めたことは曲げずにやり遂げるという強い意志を瞳から感じる。だけど唯一つ、いつもと違うのが一点。見慣れたハズのミレアの顔が若干紅くなってるような気がする。

 

 「・・・・・」

 

 「・・・・・・・」

 

 空気が重苦しくなっていくのがわかる。ひょっとしたら聞くべきではないのかもしれない。これを知ったら、答えを得てしまったら、今までのように接することが出来なくなるかもしれない。これまでの思い出が辛いものに変わってしまうかもしれない。だから、聞かない方が良かったのかも・・・・・なんて思ってしまう。

 

 「・・・・・・教えてほしい」

 

 だけど、一度でも、一瞬でも考えてしまったら、もう止められない。後悔するのかもしれないけど、だけど・・・・知りたい。

 

 「ずっと、あなたと一緒に・・・・・・いたい。ダンジョンの為だけのパーティーだけじゃない。一緒に過ごして、笑って、泣いて、同じことを分かち合いたい。嬉しい事も悲しい事も、楽しい事も、辛い事も。今だけじゃなく、これから何年何十年先も一緒に暮らしたい」

 

 言葉が出なかった。だって嬉しかったから。今まで一緒に過ごしてきて、小さい頃から遊んで、喧嘩して、仲直りして、また喧嘩して。それを何度も繰り返して。だけど嫌いになる事は一度も無かった。ううん、その逆だ。自分も同じ気持ちだから。

 

 「・・・・良かった」

 

 「・・・・・?」

 

 「だって僕も・・・・同じ気持ちだから」

 

 「っ!・・・・・・それって!」

 

 「だけど、ごめん。・・・・・今は待って欲しいんだ」

 

 だけど、それは今じゃない。それを叶える前に、まだ達成してない事があるんだから。

 

 「・・・・・・どういう、こと?」

 

 「勿論、嬉しいのは本心だよ。でも、今じゃないんだ」

 

 「待って欲しいって、何?何を待つって言うの?いつまで待ってろって言うのよっ!?」

 

 「あのね、ミレ・・・・・・ッ!?」

 

 言葉が出なかった。だってミレアが泣いていたから。硝子のように澄んだ瞳から、いくつもの滴が頬を伝っていたから。今までにも幾度となく見てきた光景なのに、今回に限っては言葉では表せない程の鋭い痛みを心に感じた。

 

 「・・・・・・・今日は、もう帰るね」

 

 「待っ・・・・・・」

 

 呼び止めるよりも先にバタンと音を立てて扉は閉まった。僕は何がしたかったんだろう。ミレアを悲しませないように行動してきたのに・・・・・・その結果がこれだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どれくらいの間、立ち尽くしていたのだろう。どれくらいの間、動けずにいたのだろう。どれくらいの間、ミレアを追えずにいたのだろう。わからない。けれど、このままにするのも、嫌だった。

 扉を開けると廊下ではヘファイストス様が立っていた。忙しいだろうに、自分が扉を開けるまでの間、ずっと待っていてくれたというのか。

 

 「・・・・・泣いてたわね」

 

 ああ、ミレアは泣いていた。ううん、僕が・・・・・ルミト・ラネッサが泣かせたのだ。声が出なかった。返事が出来なかった。

 

 「どうしたの?・・・・・なんて、理由は敢えて聞かないわ。だけど・・・・自分が何をするべきなのか、何を伝えるべきなのか、解るわよね?」

 

 静かに頷く事しか出来なかった。

 

 「不変である()たちと違ってあなた(子ども)たちは成長もするし衰えもする。その変化は時間が必要だけど、あなたたちが自分から掴まないといけないモノ。だから、不変である私《神》が手を加えるのは決まりには抵触しないけれど、だからといって協力する行為は筋が通ってないの」

 

 言いたい事は解る。自分で解決しなければいけないという事も理解している。なら、自分の言葉で伝えなければ。ミレアの事をどう想っていて、今どうしたいのか、これからどう接していきたいのか・・・・・・・・ミレアの気持ちをどう受け止めるべきなのか。

 

 「理解してるなら、私から言うことは唯一つ。・・・・・・・自分の気持ち全てを素直に伝えるまで、帰ってくるんじゃないわよ?」

 

 自分の気持ち全て・・・・・・その言葉を心に刻み込む。

 静かに頷いて、外を目指す。向かう先は当然、ミレアの所属している《ヘルメス・ファミリア》、その本拠(ホーム)である『旅人の宿』。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 確信がある訳では無い。もしかしたら帰ってきていないかもしれない。街のどこかにいるのかもしれない。・・・・・・でも、不思議と他の候補地が頭を過る事は無かった。

 

 「やぁルミト君、どうしたんだい突然?普段から出不精で通してる君が、ダンジョン以外に足を運ぶなんて珍しいじゃないか。誰か探してるのかい?」

 

 『旅人の宿』を囲む柵のところで特徴的な帽子が目に入った。

 帽子を被っているのは当然、ヘルメス様。一見して温厚に振る舞っているが言葉の端々からは、僅かに怒りを感じる。

 

 「ミレアに・・・・・会わせて下さい」

 

 「・・・・・・・」

 

 「伝えないといけない事が、あるんです」

 

 「今日はやめておいた方がいい。彼女の主神である立場上、これ以上彼女を悲しませて欲しくない」

 

 ・・・・・止められる事は解っていた。飄々としていて掴みどころがないと言われることの多いヘルメス様だけど、眷属(こども)を大切にしている。決して自身の娯楽の為に悪用することはないし、強要することもない。寧ろ尊重していると言ってもいいくらいの神格者でもある。

 

 「・・・・お願いします」

 

 「俺も直接話を聞いた訳じゃないけど、あの子が落ち込んでるのは嫌というほどわかる。君のところから帰ってきた時はいつも上機嫌だったあの子が、今日は無言だったんだぜ。ただショックを受けただけであんな表情をする子じゃない。解るかい、あの子は泣いて帰ってきたんだよ?」

 

 「・・・・・・・・」

 

 「それなのに、君はもっと彼女を悲しませようというのか?」

 

 何も言い返せない。

 わかってる。さっきの一言がミレアを悲しませた事くらい。

 自分のいい加減な気持ちが、ミレアを追い詰めてしまった。

 

 「悪いけど、ミレアからは会わせないで欲しいって頼まれてるんだ。追ってきたら、返すようにってね。例えあの子(ミレア)と旧知の仲である君でも、今回ばかりは会わせる訳にはいかない。・・・・・・・・さぁ、今日のところは帰るといい」

 

 帰るしかないのかな。これ以上、ミレアを悲しませたくないなら、会わないほうがいいのかな。

 

 『自分の気持ち全てを素直に伝えるまで、帰ってくるんじゃないわよ?』

 

 だけど、今このタイミングを逃したら、もしかしたらもう二度と伝えることが出来ないかもしれない。

 ヘファイストス様の言うように自分の気持ち全てを素直に伝えないと、一生後悔するかもしれない。

 ・・・・・・・・・それは嫌だ。自分が独りになるのは構わない。元から外に出て騒ぐ性格でもないし、ダンジョン探索といっても武器や防具の為の素材を集めるくらい。

 でも、ミレアを独りにするのだけは・・・・・・嫌だ。サーちゃんがいるとはいえ、落ち込んだ彼女をそのままにして自分だけ何食わぬ顔で会うなんて、出来ない。何より、彼女に対して失礼な行為だと思うから。

 

 「ほら、どうしたんだい?帰らないのかい?」

 

 「・・・・・・嫌です」

 

 「うん?」

 

 「嫌なんです」

 

 今まで一緒に来てくれていた彼女に対して、自分の気持ちが落ち着くまで待って欲しいなんて、失礼以外の何物でもないから。

 

 「何が嫌だっていうのかな?生憎と俺も今は忙しい身でね。アスフィ達はダンジョンに出ているし、他の子たちもお使いで出払っていてね、今このホームの留守を預かる身として動けるのは俺しかいないんだ。・・・・・だから門番で忙しい俺はここを離れる訳にはいかないし、君の対応をずっとしている訳にはいかないんだ。悪いんだけど、早く決断してくれるかな?」

 

 変な気分だ。責められている筈なのに、そんな感じがしない。

 

 「・・・・・あぁそうだ、今から言うのは全て俺の独り言だ。別に同調して欲しい訳でも反論して欲しい訳でもない。本当に偶々(・・)愚痴をこぼしたくなっただけだから、雑に聞き流してくれて構わない。・・・・・・・・・嫌だって言うなら直接本人に言いに行くといい。ここで考えてるよりも、その方がずっとすっきりするんじゃないかな。ミレアなら自分の部屋にいるよ。俺としては気不味いままの君たち二人を見てるよりも、今まで通りの雰囲気で接してる君たちを見てる方が安心できるんだ」

 

 なんて言ったらいいんだろう・・・・・・・・・促されてるような、そんな気さえもしてくる。

 

 「おっと、思わず長くなってしまった。何故だろう、アスフィたちがいなくて寂しくなったなったからだろうか。あぁ忙しい忙しい」

 

 そう付け足すと、ヘルメス様は帽子を深く被り直した。

 まるで、話はこれで終わりだとでも言うかのように。

 

 「・・・・・・・・ありがとうございます」

 

 「あーあー聞こえない聞こえない。さて、そろそろあっちの方の見回りもするかね」

 

 ヘルメス様は、大きく伸びをしてまるで無関心かのように振る舞っている。そして、大きな独り言を残してホームの反対方向へと歩いていった。

 

 ヘルメス様の背中に向かって礼をして、深呼吸を一つし覚悟を決める。

 自分の気持ちを全て、素直に伝える。

 ミレアを独りにしないために、自分にできる全てを行うことを心に誓う。

 そして、足を動かした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《ヘルメス・ファミリア》の本拠(ホーム)である『旅人の宿』に来ること自体、今回が初めてというわけではない。ミレアを訪ねて来た事もあるし、ヘファイストス様やヘルメス様の用事で来た事だってある。

 だが、今回みたいに個人的な事情で訪れるのは初めてだ。

 少し歩いて、目的地であるミレアの部屋を目指す。

 何度も来たことがあるのに、見知らぬ地でもないのに、一歩踏み出す毎に足が重くなっていく。

 それでもミレアの顔を直接見ないで引き返すのだけは嫌だから、一歩、また一歩と足を前に出す。

 それから少しして、ミレアの部屋、その扉の前に辿り着いた。

 

 「・・・・・ミレア」

 

 「帰って」

 

 返って来た言葉は短い。それはそうだろう。傷付いてそれでも誰にも見られないようにと部屋に戻ってきたのに、訪ねて来たのは自分を傷付けた本人なのだから。

 

 「返事してくれなくてもいいんだ。ただ、今から話す事を聞いて欲しいんだ」

 

 ついさっき彼女の話を拒んだばかりなのに、自分の話を聞いて欲しいだなんて、どれだけ身勝手なことか解ってる。だけど伝えたいんだ、この気持ちを。

 

 「オラリオから離れたところに、名も無き村が一つありました。地図に載ってるかも怪しい村では様々な種族の人たちが狩りや畜産、農業などで生計を立て、オラリオと交易をして毎日を楽しく過ごしていました」

 

 「・・・・・・・」

 

 「そんな小さな村に、一人のヒューマンの男の子がいました。男の子は臆病な性格で月の出た夜でさえも怖がる程でした」

 

 「・・・・・・・・」

 

 「でも、彼は一人ではありませんでした。彼には親が、村の大人たちが、1つ年上な獣人の女の子が、そしてなにより・・・・彼の隣にはいつもエルフの女の子がいました。もちろん村には他にも子どもたちがいましたが、特に歳が近いのはその二人でしたから、男の子はよく二人と一緒に遊んでいました。走って転んで泣いて笑って、危険だからと止められていた小屋に忍び込んで、バレて怒られて」

 

 「・・・・・・」

 

 「そんな光景がずっと続くんだって・・・・そう彼は信じていましたが、現実はそう上手くいきませんでした。ある日、仲の良い獣人の女の子が、その子の両親と共にオラリオに移住することになったのです。決して、村との折り合いが悪くなったとか、禁じられていた事をしでかしたとか、そんな事ではありません。将来村の発展の為に、オラリオで直接商売をするためでした。いずれ村の大人たちがオラリオでも生活できるように、そのための基礎を築く為の行動でした。勿論それは村の大人たちも了承していましたが、男の子にしてみれば仲の良い友が離れていくという事実しか理解できませんでした」

 

 「・・・・・・・」

 

 「そのうち会えるから・・・・・そう言われても素直に納得できるほど男の子は大人ではありませんでした。泣きながら獣人の女の子と別れの挨拶と、また会う事を誓った男の子でしたが、それでも直ぐには割り切れませんでした」

 

 「・・・・・・・」

 

 「でも、そんな彼をエルフの女の子が何度も慰めてくれたのです。落ち込む彼に毎日会いにきました。雨の日も、風の強い日も、雪の舞う日も、雷の鳴り響く夜も。何度も何度も訪ねてきたのです。そして、彼の心に響いた言葉は唯一つ。数多の慰めの言葉の中でも、たった一つ」

 

 いつか、私と一緒にオラリオに行きましょ!私と一緒に冒険者になるの!あの子も誘って、3人でパーティーを組んで、村の大人たちに自慢しましょう!

 

 「励ますためだけの、なんの確証もない言葉だったかもしれません。男の子と外で遊ぶために誘っただけなのかもしれませんでしたが、彼からすればそれこそが、希望となったのです」

 

 未だに扉越しからは、なんの言葉も返ってこない。だけど続けよう、いつか響く事を信じて。だからこそ続けよう、再び彼女が笑ってくれるように。

 

 「ねぇ、知ってるかなミレア。その村のヒューマンの男の子はね、エルフの女の子がいつも隣で笑っていてくれたから、臆病じゃなくなったんだよ。気づいてたかな、最初は女の子の後ろをついていっていた男の子が、いつからか隣で歩くようになってたんだよ。だからこそ、あの日あの瞬間、落ち込んでいた女の子を励ます為にオラリオに行こうって誘ったんだよ。それまで話でしか聞いたことのない目的地だったけど、その子に生きる理由を与えられるならって・・・・・決めたんだよ」

 

 「・・・・・・」

 

 「あの日あの時、女の子の絶望しきった顔を見た瞬間、男の子は心に誓ったんだ。絶対に、彼女を悲しませないって。もう悲しんで欲しくないって。例え、それが自分のせいでなかったとしても、自分がいない場所で悲しむ事になったとしても、それだけは嫌だったんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 




今回は今までのようにはいかなかったルミト。そして自分の心に素直になり始めたミレア。つまりこれからの行動次第で関係が気不味くなるかもしれない二人です(詳しいことは次回までの自分に期待します。頼んだ、これからの作者・・・・・・えっ)


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