ここに書くのは私の日常である。
て、そこの紅白の! 勝手に人んちの物を持ってくな!
黒白のも勝手にお茶を入れようとすな!
お前らここはオレんちやぞ!?
てか、最初ぐらいカッコよーさせてくれてもええやんか。
――神様、今日も幻想郷の現実は厳しいです。
異世界での暮らし方 第1話
オレこと大月 秋がここ、幻想郷という今まで住んでいた日本と微妙にずれた世界に落ちたのは約1年前。色々あって落ちて、色々あってここに住み着いたのだが詳しいことは割愛させてもらう。今では立派な魔法使いとなっちゃったりして、幻想郷にある人里の近くに店を構えている。
「で、なんで2人ともここにおんねん」
「たまたま目の前を通りかかっただけよ。ついでよついで」
店に来たのに何も買う様子がない、ちと変わった巫女服着とるこいつの名前は博麗 霊夢。幻想郷に唯一存在している神社の巫女さん。幻想郷に異変が起こると解決しているらしい。主に弾幕言語で。
「そうそう、ついでにお茶をご馳走になろうと思ってな」
明るい笑顔ふてぶてしくお茶を要求するこっちの名前は霧雨 魔理沙。一般人だと確実に気が狂うと言われている魔法の森に住む魔法使い。かなりええ性格をしとる。
「ああ、そういう意味のついでなんや―――帰れお前ら。シッシッ」
何も買う気がないのにおられても商売の邪魔やから、さっさと帰れと追いだすように手を振る。
「うわ、せっかく来た友人にお茶も出さずに追い返すのかよ。ひどいぜ」
そう言う割には悲しんどる顔してへんがな。むしろニタニタと笑うとるがな。そこは嘘でもええから傷ついたフリしようや。
「友人ならお茶を集りにくんな。むしろ手土産持ってこんかい」
「あら、秋さんはうちに来るとき滅多に手土産もってこないけど?」
「お賽銭減らしてもいいんやったら考える。ウチの売り上げの2割収めとるんよ?」
実は、何度かお賽銭を催促されとるうちにかわいそうになって入れたんよ昔。思えばそれが間違いやった。オレは賽銭を入れる人という扱いになって、入れないと捨てられた子犬のように悲しい顔をされるようになってもうた。あれを無視するのは精神的に厳しいもんがある。
それ以来、月に1度はお賽銭を入れているのだが、どうやら生活に困るほど貧乏ではないらしい。それを知ってもお賽銭を入れているのは、外を出歩く時にこの紅白が偶に護衛してくれるからそのお礼。1人やと妖怪に襲われるからな、この幻想郷だと。
「あ、揚げ足取っただけで持ってこいと言ってるわけじゃないのよ? 美味しいお饅頭が食べたいなとは思ったけど」
「ふむ、何か小さく呟いてたけど物分りのいい巫女さんは好きやよ?」
「私も、ちゃんと参拝してお賽銭入れてくれる人は大好きよ?」
「それは私へのあてつけか霊夢?」
それぞれ睨み合い、空気が重くなる。こう、喧嘩始まる5秒前と言うか何と言うか。ほら、2人とも目が笑ってないしね。
「クク」
「フフ」
「ハハ」
「「「良い度胸だ(や・ね)表に出ろ(なさい)」」」
全員いい笑顔を浮かべてしばらく黙った後、勢いよくドアを開け放ち外に出て行った。紅白と黒白が。
もちろんオレは外には出ない。なんせ弾幕張られへんからね! ここ幻想郷での喧嘩は弾幕ごっこと呼ばれるもので行われるのが殆どだ。弾幕はナイフだったり針だったり魔法だったりと多種多様だ。もちろん、オレみたいに弾幕ごっこが出来ない奴もおるから必ずしも弾幕ごっこが行われるとは限らない。
けど、ああ言ったらあいつらのことやら外に出るやろし、そのまま熱中して弾幕ごっこをしだすからオレのことは忘れてるやろ。
計 画 通 り
さて、あいつらが戻ってくるまでに『おいしい』お茶でも入れとこかね。
「で、ほんまにお茶を集りに来たん?」
「私はそうよ? しっかし、相変わらずせこいわねこの『おいしい』お茶」
紅白はそう言うと、お茶が入った湯呑みを複雑そうな顔で見つめている。
「だーらっしゃい! 家事スキルのないオレに正道のおいしさを期待すなっ。てかイヤなら飲まんでええよ? プライド傷つく人とかもおるんやし」
紅魔館とこのさっちゃんは、毎回飲んだ後に眉間に皺よせて何か葛藤しとるしな。やめればええのに、自分の理想の味と自分の味との差を確認するのに良いと行って偶に飲みに来るんよね、あのメイドさん。
「ほな黒白はどないな御用件で?」
まさかこっちもお茶を集りにきたんやないやろな。そうやったら店先で対応せずに奥の居間に招きたいんやけど、散らかってるんよね。
「あー、もうその呼び方については気にしないぜ。この箒に今までとは別の文字を刻んで欲しいんだ」
「頑丈じゃなくて別の文字?」
「ああ」
オレの仕事は物に文字を書くこと。オレの『文字に力を与える程度の能力』を活かした仕事や。
この能力はその名の通り、自分で書いた文字限定やけど文字内容を能力とし、書いた対象にそれを付加することができる。
『燃える』と書いたら書かれた物は燃えるし、『固い』と書けば豆腐でも固くなる。もちろん例外もある。『不老不死』とか『絶対無敵』とかが良い例やね。どんなものか想像できないので効果が出ないのだろと思うとる。
そして、黒白の箒にはひたすら『頑丈』と彫刻刀で刻んである。黒白のマスタースパークを当ててもまだまだ使えるぐらい頑丈になっている。それを見た黒白は複雑な顔をしとったけど。そりゃ自分の十八番の魔砲で破壊出来んかったら、ちと自身無くすわな。
ちなみにこの『おいしい』お茶も、湯呑に『おいしいお茶の容器』と書いとるから誰が入れても誰が飲んでも飲む人好みの味になる。故に色んな人に邪道と言われるわけで。そういったことが言えるんは家事が出来るからであって、苦手なやつの気持ちは分からへんに違いない。家事苦手でもおいしいもん食べたいんねん、悪いか!?
練習すればいい? めんどいし失敗した時の材料がもったいなくてできへん。そこまで懐暖かくないわ。
「ふむ、何を刻めばええんかな? と言っても、もうその箒は刻む場所ないから新調せんとあかんけど」
「それなら今度新しいの持ってくるから、それに頼むぜ」
「あい、わかった」
「今度は速くなるようにして欲しいんだ。この箒だと出せるスピードが頭打ちなんだ」
いや、今のままで良いと思うんやけど。生身でアンブロシウスと並走するつもりか? これ以上速くなって突撃すると、そろそろ交通事故起こして誰か死ぬんちゃう? 赤い屋敷の門番とか門番とか門番とか。
「えー、まだスピード出すんかいこのスピード狂め」
「歩みを止めたらそこで人間は終わりだからな。私はまだまだ上を目指すぜ」
……ハァ、まったくこの漢娘は。嫁の貰い手は大丈夫なんかねぇ、お兄さんは心配だよ。
――ん、なんか大丈夫な気がする。あれだ、オレの世界のボーイッシュでスポーツ得意なやつと同じ匂いがする。
「まあええわ、おもしろそうやから付き合うたる。お値段やけど」
「友達料金で頼むぜ?」
「1週間オレの分も昼と夜の飯作れ、もちろん友達料金や」
「それでも1週間もか!?」
黒白が驚愕して聞いてくるが、これでも安い方やろ。こいつ専用のマジックアイテムを作るのに、1週間分の飯だけで済むんやぞ。友達価格じゃなかったら、優に数ヶ月は遊んで暮らせるぐらいの報酬貰うところやからな。
「おう、1週間や。そんだけ時間かけておまえさんの納得のいくもん仕上げたる。だから、その間の飯よろしくってことや」
「うーん、それなら仕方ない、か。よし、1週間飯の面倒見てやるぜ」
「交渉成立や。ほな明日から行くんでよろしゅうに」
「ああ、待ってるぜ?」
どの木を材料にして箒を作ろうかと目を輝かして考え始めた黒白を見ると、こっちも嬉しくなるなあ。そんだけ期待してもらってるなら、その期待にきっちり答えんと。
はて、珍しく紅白が何も喋らへんな。もしかして寝たんか?
……あっ。
「あ゛ぁぁぁぁぁ! オレの楽しみにしてた饅頭がっ。何勝手に食べとるんや紅白!」
「あら、私はちゃんと言ったわよ? 『美味しい饅頭が食べたい』って」
たしかに言ってた、小さくやけど言ってた。言っとったけど、何で勝手に食べちゃうかなこの理不尽暴虐巫女は!
「それをどうやって見つけたんよ!?」
「勘」
「勘!?」
勘でお前は人ん家のお菓子の仕舞っとる場所が分かるんか! 無駄に鋭い勘やな、おい。
「霊夢、私にも寄越せ」
お前もか黒白!? くそう、今度からは『大月秋以外には見つけられない』と包装紙に書いとかんと。
「はい、どうぞ。これでお終い」
「最っ悪や。お前らホンマ最悪や。涙が出てくるぐらい最悪や。もーええ、それはやる。せやから出てけ、オレは寝る。今日を生きる気力が無くなった」
今日は不貞寝したる。
さらば饅頭、今月厳しいのに思わず買ってしまった饅頭よ。どんな味やったんかなぁ? どんな食感やったんかなぁ? 漉し餡やったんかな、粒餡やったんかな? せめて夢の中で食べられへんかな?
「まあまあ、また買えばいいじゃない。ムシャムシャ」
「そうそう、これはおいしいからまた買う価値はあるぜ? アム」
そして遠慮なく人の饅頭を食べる少女達。あのね、君たち。それお兄さんが朝早くから並んでようやく手に入れた饅頭なんやけど。え、おいしい? そりゃ良かったな……て、違うやろ。
「帰れー!!! 紅白、後日お前の神社には『お茶がおいしく飲めなくなる神社』と書いといたる! 黒白、お前の家には『閻魔が思わず説教しに訪れたくなる家』と刻んだる!」
「ちょ、ちょっと秋さん本気!?」
「私達が悪かった。だから少し落ち着け。な、な?」
今更慌てても態度変えても聞く耳もたん! この紙を二人に貼り付ける!
『素直に家に帰る』
『全力に帰る』にすると幻想郷の住人は家の壁をぶち抜いて一直線で帰りそうやから怖くて出来ません、ハイ。この紙は迷惑な客用に常備しているのである。
「か、体が勝ってに帰ろうと!?」
「魔理沙、この紙を剥がせば。あ、あれ、取ろうと出来ない!?」
2人は紙を剥がそうとするが、もちろんそれは想定済み。ちゃんと『家に帰るまでは剥がせない』とも書いとるから。
「ちくしょう。秋、明日待ってるからな!」
「羊羹なら用意しといてあげるからまた神社に来なさいよー!」
そう言って二人は帰って行った、強制的に。なんや、紅白は反省しとったみたいやからここまでやらんでも良かった、か? んー、でも偶にはこうやって反省してもらわんとこっちが持たんからまあえっか。
そんなことがあったが、箒を作る為に黒白の家に通い続けて3日目。
仕事は順調。あ、初日においしい飯を食べさせてくれたのでお仕置きは無しにした。べ、別に餌で飼いならされてる訳じゃないからね、そこんとこ間違えんように。
「で、順調に箒を壊し続ける黒白さん。わざとか、ハラスメントか、人間舐めとんのかああん?」
「簡単に壊れる箒が悪いんだ。全力を出せない箒に意味は無いからな」
「うう、まさかエネルギー効率良くしただけで箒が耐えられなくなるとは思わんかった」
よりスピードがでるように『思いは伝わる』と刻んでさっそく試乗してもらったんやけど。このモノトーンウィッチ、いきなり壊しおった。スピード上がったのでどこまで行けるか試したら箒が耐えられなくなったらしい。
ええい、普通の魔法使いは化物か!? というか、普通の魔法使いなら箒壊れるほどの出力は出されへんぞ普通。
「さすがは私だな」
「威張るなあほう。普通の魔法使いの名前返上せえ。世の中の普通の人に謝れ」
「いやいや、私は普通の魔法使いだぜ?」
「普通の魔法使いは箒が壊れるほどの出力出せないし、あんな魔砲も撃たれへん」
でもって、箒に跨って突撃かまして人ん家の魔導書を掻っ払ったりもせえへん。そう言うと黒白は目を逸らした。多少は自覚してるんかい!
「で、でも、自作人形と会話したり引きこもりだったり複数の属性操れたりしないぜ?」
「パチュリーのことか!!! じゃなくて、まあ、そう言われると普通な気もしなくもないな。いやいや流されたらあかんやろ」
「それはともかくどうするんだ? また壊れたじゃないか」
不利とみるやすかさず話をすり替えおったよこの魔法使い。でも、実際どうしようかねえ?
刻む文字を変える――いや、変えても出力が上昇したら壊れそうやから却下。
刻む文字の量を増やす―――もう限界まで書きこんどるから却下。
柄を長くして刻む場所を増やす――この長さが使いやすいらしいので却下。
「そうやねー。あ、箒やったら別に金属製でも問題ないよな?」
「問題ないと思うが、金属製? 重くならないか?」
「そこは問題あらへんよ。この文字使いに任せなさいな」
次に使う箒を持って霧雨邸を後にする。
まず最初に目指すは――河童の住処
その2日後。
やっと出来たよ試作品の箒が!
木製の箒の柄を金属で覆ってみた。芯となる木製部にはエネルギー効率を上げる文字をひたすら刻み、金属部には強度を上げる文字を書いてもらった。
以上。
「さあ黒白、河童とセンセーに手伝ってもらったこの力作を思う存分使ってみるがいいさ」
「昨日は来ないと思ったらそんなことしてたのかよ。今度こそ壊れないんだろうな?」
「それは問題あらへん。むしろお前さんに使いこなせるかな、ん?」
力作なのは間違いないんやけど、かなりのじゃじゃ馬になってるんよ。いや、相互理解できたら素直でええ子なんやけどね?
「言ったな。しっかりとそこで見てろよ!」
「魔法使いは人の望みを叶えてこそ魔法使いやよ? しっかり見といたるから、その箒を作って良かったと、オレに思わせてえな」
「いいぜ、その願い叶えてやるよ」
黒白は自分を信じきっている顔しとった。
けど、どうせしっかり見るならドロワーズじゃない方がええけどな! しゃーないやん、オレかて男の子なんやから。これは全世界の男子共通の思いに違いない。あ、いやそうでもないんか?
そして
黒白は空へ飛び立ち
箒に振り回され
地上に墜落
母なる大地と熱烈な抱擁を交わすこととなったのであ~る、まる
やれやれ。夢を叶えるにはまだ時間がかかるみたいやね、普通の魔法使い。まだ料金の1週間まで時間あるから調整したるわ。
「おら、黒白何寝とんねん! さっさと起きて調整すんぞ。約束の1週間まではあと2日しかないんよ」
「う~ん、こいつは予想以上のじゃじゃ馬だぜ。て、1週間で終わりかよ。職人なら最後まで付き合ってくれてもいいだろ」
黒白がぶーたれるが、オレはお前さんの専属職人ちゃうから、他にも仕事あるんやけど。でもまあ、作った作品を仕上げへんのも気持ち悪いというか、それでは職人としてあかんし。
「ほな延長分の飯よろしゅうに。いやー、今財布厳しいから助かるわ。おおきに黒白。自分で作るよりも人の作った飯の方がおいしいもんな。とことん付き合うたる。あ、次は鯛の塩焼き食いたいんやけどどう?」
「秋、調子に乗るなよ。マスター……」
なんか八角形の物体取りだして魔法使おうとしてはる!?
「待てい、黒白、今は対弾幕用装備ちゃうからそれはマズ――」
「スパァァァァァク!」
なんかものすごくぶっといレーザーが迫ってきてる!?
こうして、避ける事も叶わずオレも母なる大地と熱烈な抱擁を交わすのであった。オレはマザコンちゃうから全然嬉しくないわ!
というより、黒白。マスタースパークを、後ろ向きに打ったら、簡単に、スピードアップ、できるんちゃう……か?
結局オレは9日間黒白の所に通うことになった。調整は終わり、箒の形状も黒白の癖に合わせたものに仕上げた。
が、未だに扱いこなせてないらしい。扱いこなせた時には秘蔵の酒でも持って行って祝ったろうかなと思う。
ブログだと読みにくいとの声があったので、こちらでも投稿することにしました。
とりあえず今日中に3話まで投稿する予定です。
行間と誤字脱字修正しました。
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第2話
今日も黒白が元気に地面に抱きついとります。
少しは制御出来るようになったものの、 相変わらず真っ直ぐにしか飛ばれへん。
本質を理解すれば簡単に曲がれるようになるんやけどなぁ。
自分で理解せんと意味ないから本質については教えへんけど ね。
その箒と理解しあうことが出来たならば良き相棒となれることを、この文字使いが保証しよう。
――神様、願わくば彼女たちが良き相棒とならんことを
異世界での暮らし方 第2話
黒白の練習を見た後、オレ達は神社に行くことにしたんよ。ほら、前回羊羹くれる言うとったさかい。黒白は勝手に着いて来ただけやけど。そして、案の定妖怪や妖精やらに襲われましたとさ。
「よし決めた。秋の羊羹は私が少しもらうぜ?」
「ええわけないやろ。何でおまえさんにあげなあかんねん?」
それはオレが紅白にもらう予定の羊羹であって、お前さんにあげる羊羹ちゃうぞ。なのになんで当たり前のように手をこっちに伸ばしとんねんお前。
「今、私が撃退した妖怪と妖精の数を言ってみろ」
「ええと、たくさんやね」
「じゃあ秋が撃退した数は?」
「――ゼロ、やね」
呆れた目でこっち見てくるけどやね、弾幕張られへんのに撃退できるかい。いや、できなくはないんやけど!?
「じゃあ秋が無事なのは私のおかげだ。感謝してもらってもいいと思うぜ?」
「……く、黒白、助けてくれて、おおきに。よ、良かったらオレが貰う羊羹、少し食べるか?」
「黒白?」
ああ、その笑顔がめっさ怖いよ黒白。可愛い顔が台無しやよ? あと何でミニ八卦炉を取りだすんでせうか?
「魔理沙さん助けてくれてありがとうございましたよかったらボクの羊羹食べますか?」
「いやぁ、悪いな秋。遠慮なくもらうぜ」
全然悪いと思ってないやろおまー。さっきよりも顔が輝いとるがな。くっそう、紅白の用意しとる羊羹が楽しみやったのに。こいつに食べられたら、オレが神社に行く意味あらへんがな。
「ああ、今日の嫌な予感はこれだったのか」
「細かい事気にしていたらいい男にはなれないって。さあ、神社はもうすぐだから急ぐぜ」
「分かった分かった。だから背中を押すな襟掴んで空飛ぼうとすんな首がしまる」
こうしてオレは、初めて黒白の名前をちゃんと呼ぶはめになったんや。今回しか名前で呼ばんけど。ホンマ高い護衛になってしもうたなあ。勝手について来ただけやのに駄賃要求するとか悪質すぎるわ。
「霊夢ー、お茶が欲しいぜ?」
「紅白ー、羊羹もらいに来たで?」
……
…………
「「あれ?」」
いつもならすぐに「うるさい!」とか言って物が投げつけられるか、迷惑そうな顔して本人が出てくるのに何も言ってこうへん。おっかしいなあ。裏手にでも行っとるんか?
「留守、か?」
「紅白がそう簡単に神社から動くかいな。しかもまだ昼にもなっとらんのに。寝とるに1円」
「それじゃ賭けにならないな。とにかく探すか」
もしかしたら変な物食べて倒れてるかもしらないし、念の為にも紅白を探そうという事になった。倒れとったら、先日変なキノコを差し入れに持ってきた黒白のせいやな、きっと。
すると、黒白が目を逸らしながらそんな危ないキノコは持ってきてないと言いおるから、本当に変な物が混ざっとったんかもしれん。
「ちと心配したkどすぐに見つかったしホンマに寝とるとは。この神社ええんかこんなんで?」
「大丈夫、霊夢だからな。それよりこうも無防備に寝てると悪戯したくならないか?」
「イタズラって漢字で書くとエロく感じるんは何でやろ? それはともかく顔に落書きでええんとちゃう? 筆もマジックもあるし」
これが無いと能力使われへんからね。忘れる=地獄への近道を通ることになりかねへん。文字書けないと何も出来へんからなあ。
「じゃあ早速やろうぜ」
「ホイ、マジックどうぞ黒白。芸術性の高いの期待しとるよ?」
「何で私がするんだ!? 普通秋がするだろ、マジックの持ち主はお前じゃないか」
はあ、この魔法使いは忘れてるようやね、オレが文字使いということを!
「オレが書くと――洒落にならんよ?」
「そ、そうだった。私だけでやるのはイヤだから別のに――」
「おやおや、黒白ともあろう方が言ったことを覆すんか? それとも紅白が怖いんか? ならしゃーないなぁ、別のにしよか」
「なっ!? くっ。変えなくていい、やってやるぜ!」
「それでこそ黒白や。では早速やろか」
「あら、もう話し合いはいいのかしら?」
「おう、後は書くだけ……え゛っ」
下を見ると、寝てたはずの紅白の目がパッチリと開いていた。そして、いつもよりキツイ眼差しでこちらを睨んどる。えっらいご機嫌斜めやなあ、おい。
「あらー、起きとったんかいな。そうならそうと言ってくれたらええのに」
「二人がうるさいから起きちゃったのよ。さて、覚悟はいいわね? 昼寝中の巫女を起こした罪は大きいわよ?」
「そんな罪聞いた事がないぜ!?」
「せめて言い訳ぐらい聞こうや!?」
「この神社では私がルールよ。では判決を言い渡すわ。デッド オア ダーイ」
この後、寝起きで期限の悪い巫女に気の済むまでしばかれました。
寝起きの巫女は冬眠から覚めた熊と同じぐらい危険です。
本人もやりすぎたと思ったのか軽く謝っていました。
軽くで済まされてしまう辺り、僕達の扱いはどうなっているのでしょうか?
「で、魔理沙はまだ新しい箒を乗りこなせてないの?」
「まだまだやね。毎日地面に抱き付くか接吻しとる」
「それでも大分曲がれるようになったんだ。モノにするのももうすぐだぜ」
「そうなの、秋さん?」
「んー、曲がれるようにはなって来たけど本質を理解してるとは言われへんね」
「な!? ほ、本質? 本質ってなんだよ聞いてないぞっ!」
騒ぐ黒白をなだめつつ、適当に喋りながらお茶をしてるとそいつが現れたんや。
「やっと見つけたわ」
そう、紅魔館という吸血鬼が主の館にいるたった1人の人間で、完全で瀟洒なメイド、さっちゃんこと十六夜 咲夜さんである。本人に面と向かってさっちゃんと呼ぶと切り刻まれるので、からかうときにしか言われへん。この人、時を止める事が出来るから気づけば血達磨になってるから洒落にならないんよね。あれはどうしようもない。
「誰を探してたんだ? 霊夢ならほとんどここに居るのは分かってるだろ?」
「今回は霊夢じゃなくて、そこの逃げようとしている文字使いよ」
「ンゲッ」
「秋さんを?」
「そう、秋よ。ちょっとお嬢様にお使いを頼まれたから、その間の館の掃除と警備をしてもらおうと思って」
やっぱしかー!! あの館は鬼門や、行ってたまるかっ。今まで無事に帰れたことないねんぞ。はっ、今日のイヤな予感はこっちやったんか!
「断る!」
「あら、お給料は弾むし、美味しい料理も出すように伝えてあるわよ?」
「その後おいしく血ぃ飲まれそうやし人権無視してこき使われそうやし遊ばれそうやからイヤや!」
「きっと全部体験談ね」
「相当つらかったのか、思い出して少し壊れてるぜ。見ろよ、咲夜を指さそうとしてるのに血を抜かれるのを怖がって指す方向がずれてるぜ」
怖かった、ホント怖かった。お嬢は指先から飲めばええのに、わざわざ威圧感出してゆっくりと近づいて動けなくしてから首から飲みおった。とうとう死ぬのかと、もしくは人外と成り果てるのかと本気で思ったわ。しかも飲むときの音が艶っぽいと感じたのは一生の不覚っ。オレはロリコンやない、断じてない。
「今回はそんなことしないわよ」
「本当に?」
「本当よ。そんなに信じられないかしら?」
「幻想郷には真顔で嘘つくことが出来て、尚且つ楽しむやつが多すぎんねん」
(((……た、たしかに)))
あ、全員心当たりあるのか明後日の方向向きおった。やっぱしここは危ないなあ。
「こ、今回は本当に大丈夫だから来てくれないかしら?」
「吸血せえへん?」
「しないわよ。お嬢様も笑いながら了承してくださったもの」
「弾幕ごっこに巻き込まれへん? 教養ないのに執事の真似事させられへん? 無事に家に帰れるん?」
「全部大丈夫よっ! そろそろ怒るわよ!?」
あかん、さっちゃんの目がつり上がってきた。駄々こねて雇う気無くさせんのは失敗か。このままやと本気で怒って、気絶させられてそのまま紅魔館に連れてかれかねん。
「うーん、ならええよ、働くわ」
「そう、良かったわ。なら早速着いて来てちょうだい」
「早速かいな。へいへい、行きますよ。紅白、黒白、またな。羊羹おいしかったわ」
「気をつけてねー」
「死ぬなよー」
こうして二人のやる気のない声援を背に、さっちゃんにつれられてオレは紅魔館へ向かった。
「秋さん、気づいてないのかしら? 自分自身がトラブルメーカーだから、騒ぎからは逃げられないってことに」
「気がついてないフリしてるだけだろアレは」
聞こえない。聞こえないったら聞こえない!
館に到着すると同時にさっちゃんは消えた。たぶんお嬢に報告してさっさとお使いとやらに向かったんやろ。
ところで、おいしいご飯言うてたけど、ここに住んでる人間ってさっちゃんだけやんな? 間違えて妖怪しか食べられへん食材使ったりせんよな?
……夕飯までにさっちゃん帰ってくるんやろか? 帰ってこんかったら――覚悟せんとあかんかもな。
「で、門番さん。オレってどこに連れてかれるん?」
「お嬢様のところですよ。それと以前名前教えましたよね?」
「ああ、そうか、お仕事教えてもらわんとあかんもんね。わかってたんよ、わかってたんやけど行きたくないわー」
「咲夜さんが教えられる時間があったら良かったんですけど、お急ぎだったので。で、私の名前は無視ですか?」
「いやいや、無視してるわけやないよ? ホン ミンリン」
「誰ですかっ!?」
「自分の名前を忘れるたらあかんよ?」
「私の名前はホン メイリンですっ!」
あかん、やっぱこいつおもしれー! この人、というか妖怪の名前は紅 美鈴。紅魔館の門番さん。中国の伝統衣装っぽい服装してる武術の達人さん。幻想郷では珍しい穏和な性格の人や。
「そやったね。で、お嬢の部屋通り過ぎた気がするんやけどええんかホン ミンメイ?」
「どこかの歌姫みたいな名前ですね!? あれ、私何言ってるんだろう? ええと、ではここがお嬢様のお部屋です。私は仕事に戻りますので」
「チッ、ここまでか。おおきに、ほなまた後でなー。そんときはもっとからかう事を約束するわ」
「そんな約束いりません!」
哀愁漂わせて去っていく門番さんの姿はやけに似合ってた。いい人なんやけど弄ってオーラが出てるんがあかんと思うんよ。ついついからかってまう。彼女以上の弄られキャラはもう現れないに違いない。これはオレとさっちゃん共通の認識や。
――近い将来、その認識が覆されることを、オレはまだ知らんかった。
そしてお嬢に言い渡された仕事(掃除)をこなしてます。箒とモップに『自動』と書いて要所要所に配置。実に楽な仕事や。さすがに雑巾は文字を書くと後で消せないんで自分でやってるんやけどね。この館でかいからしんどいわ。こんなのを毎日こなすさっちゃんすごいわ、鉄人やね。
思わず最終手段使いたくなるけど、バレたらお嬢や紅白、黒白その他大勢にこき使われそうやからやられへん。さすがにド○えもん扱いはイヤやねん。せやからさっちゃん、早く帰ってきてえな。オレ肉体労働派ちゃうねん、3分運動したらカラータイマー点滅すんねん。
――願いもむなしくさっちゃんは帰って来んかった。どうやら休暇を与えるつもりで使いに出したらしいんで、帰るのは明日なんやって。心配しとった夕飯は門番さんが作ってくれた。おいしゅうございました。この人、何気に万能よね。出来ないことってあるんやろか。料理出来るし門番も出来るし壁の修理もやってんの見たことあるぞ。
「お口に合って良かったです。人間用に料理したの初めてですから」
「んなっ!?」
何安心した顔してえげつないこと言ってくれるんですか。その台詞は今までからかってきたことに対する仕返しだと思いたい。本気ではないと思いたい。……中身、なんやったんやろなぁ。
「聞きたいですか?」
「いえ、結構ですっ」
やっぱしこの人も紅魔館の住人や。恐ろしや恐ろしや。
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第3話
ここはどこ? 私は大月 秋です。
只今絶賛迷子中ですin紅魔館。
昼間は案内がいたから迷わずに掃除できたけど、今は案内がいません。
地図を貰ったけど、この館は明らかに地図より広いです。
なんか結構色あせているのでさっちゃんが空間を弄る前の館の地図ではないでしょうか?
まあ、そんなことはどうでもええから誰か助けてくれへんかな、迷子の放送かけてもええからっ!
――神様、なんでこの年になって迷子になってんのやろか?
異世界での暮らし方 第3話
夕食後は警備をしろと言われとるんで、門番さんと共に門の前で話してます。いや、だって、話してないと寝そうやねん。それに警備ゆーても門番さんがおったらなんとかなるんよね。オレは真っ当に戦うと弱いからなぁ……
それでもここにおるのは館内の警護、というか見周りが出来へんからや。うん、あんなに広い空間地図なしでうろつかれへんから。迷子なるから。実際迷子なったしな!迷子になっとんのを偶然通りかかった妖精メイドさんに助けてもらって、迷子になる要素のない門に来たというわけや。
「――なので、どうしても必要になったら咲夜さんは能力を使って年代物のワインを作ってるんですよ」
「なんでもありかあの完璧超人。けど、そんなことやっといてオレのお茶をせこいと言うのってどうよ?」
「ア、アハハハハ。それよりこんな風に話してても大丈夫なんですか?」
「あからさまな話題転換やね。門に『通行禁止』って書いといたから心配ないよ。さすがに空まで効果は及ばんけど」
「ハア、秋さんもなんでもありじゃないですか。そんな便利な能力持ってるのに何で戦闘能力低いんですか?」
いや、溜息つかれても。門番さんの言う通り、オレの能力はかなり便利だ。文字さえ書ければ大抵のことは可能なんやから。しかし、戦闘になるとてんでダメ。弾幕張れないのもあるけど一番の理由は、
「だって文字書くのって時間かかるやん」
「へ?」
そんな豆鉄砲喰らった鳩みたいに驚かんでも。そんな驚くような事やないし、ちょっと考えれば門番さんもすぐ分かりそうな理由なんやけど。
「能力を使う為に何かに文字書く間に1撃もらってアウト。あらかじめ文字書いた物を持ってても相手に当てるスキルがない。故に出来るのはひたすら防御して隙作って逃げることだけ。ま、生き延びることが出来ればええから何の問題もあらへんけどね」
「あれ、でも以前魔理沙さんと一緒に図書館に来た時私負けましたよ?」
「ああ、あの時ね」
黒白が珍しく図書館に連れて行ってくれる言うてくれたから、素直に箒に乗ったんがあかんかった。まさか図書館の前やなくて図書館の中まで連れてかれるとは。
「黒白が対弾幕装備しとけ言うからね、『当たると爆発』って書いた木片大量に持っとったんよ。後は黒白が強襲かけて、合図された瞬間それをばら撒いたと――景気がいいね?」
「うっわー、そんなえげつないことしてくれたんですか」
「なら、最高速の黒白に跳ね飛ばされるか弾幕喰らうか、はたまた門番さんの射程外、というか上空からいきなりマスタースパーク喰らった方が良かったん?」
「どれもいやですよぉ……」
オレもそう思う。でもきっと、この先ずっと門番さんは黒白が訪れる度に吹っ飛ばされると思うんよ、高確率で。
ん? 毎回吹っ飛ばされてもピンピンしとって、さっちゃんに強烈なお仕置きされてもしばらくすれば復活する門番さんって、実はすごい? でも、吹っ飛ばされてお仕事になってないんやからすごくはないか。
「なんか、失礼な事考えませんでしたか?」
「考えてへんよー。ただ、メイド服着てない妖精が空飛んどるなあと思っただけで」
「それは侵入者ですよ。そういうのは早く連絡してください!」
「まあまあ、怒ってないでお仕事お仕事。さっさと不審者倒すか説得するかしてえな。自慢やないけど戦闘になったらオレは役に立たへんよ?」
「わかってますよっ!」と言うて門番さんは飛び立って行った。いや、ホント役に立てなくてすんません。その代わり怪我したら治療はしっかりとやらせてもらいますんで。
さて、今の内に罠の数増やしますか。文字の書けそうな石は、と。
「で、オレはいつまで警備してたらええのん?」
「聞いてないんですか?」
「聞かされてないんです。流石に眠いんやけど」
「大丈夫ですよ。人間訓練漬けで睡眠時間10分しかない生活を送っても大丈夫だ、と外の世界の本に書いてましたから」
「その本どこで読んだんや!?」
打ち切りになったんか完結したんか未完で忘れ去られたのか気になるやんか! というか忘れられてもうたんや、あのシリーズ。初めはコミカルで楽しめたのに、後半になるとシリアスに路線変更した辺りで読むのやめたんよ。だからその後どうなったのかわからへんけど結末だけ知りたいわ。
「えっと、以前咲夜さんが見せてくれたんですよ。『外の人間でもこんなに働けるんだから、妖怪ならもっと働けるわよね?』と」
「どこからつっこめばええんや、それは。その本に書かれてるんは実話でもないし伝記でも日記でもないただの空想小説やからね」
「え、そうなんですか!? なら人間は睡眠時間10分で大丈夫というのも」
「嘘やね。そんな生活送ってたら死ぬわ」
「でも咲夜さん見てたら本当だって信じちゃってもいいじゃないですかっ」
た、たしかに。あの人いつ寝てるんか分からんぐら働いとるもんね。でもあの人を基準に人間を考えたらあかんと思うんよ。だってあの人完璧超人ですよ?
「信じたくなる気持ちは分かるけど信じたらあかんから。そんなん出来んのさっちゃんぐらいやから。特に紅白がそんなこと出来るわけないやろ」
「あ、無理っぽいですね」
そんな風に門番さんと喋って、偶に侵入しようとするやつが来たら追い払っての繰り返しをしていたら、やっと寝る許可が出た。なんでも、そろそろ妖怪が本領発揮できる時間帯になるから戦闘力のない人間は危ないらしい。
いやあ、このまま朝まで働かされるんかと思ったわ。やっとお嬢もオレが能力以外はいたって普通の一般人(外界ver.)と認識してくれたみたいやね。
そしてオレが寝る客室に案内されたのだが。
「このベッド持って帰ったらあかんやろか、フカフカすぎるわ」
さすが自称貴族、上等なベッド使ってるやん。
それに比べて我家のは……かなりボロボロ、そろそろ買い換え時かもしれへん。
「今回の報酬、このベッドにならんやろか」
そんなことを考えているうちに、ベッドの心地よさに負けて眠るのであった。
翌朝、いつの間にか帰って来ていたさっちゃんに起こされた。
「おはようございます咲夜さん。いつ帰ってたんですか?」
「朝5時頃に帰ってきたのよ。そういえばいきなり地面が沈んだり、隆起したり、門を通れなかったりしたのはどうしてかしら? あれのせいで中々館に入れなかったんだけど。説明してくれるかしら?」
あ、しもた。さっちゃんがそんなに早く帰ってくるとは思わんかったから、朝起きたら解除しよう思って罠とかそのまんまやったんや。というか、完全にオレの仕業とバレとるね。さっちゃんの目が据わっとって怖いわ。オレの能力は便利やけど、文字が見つかったらすぐ誰の仕業か判るのが難点やね。
「えーと、ですね。それには山より低いけど海より深いかもしれない理由が」
「忘れてたとかじゃなくて?」
「いやいや、そんなに早く帰ってくるとは聞いてなかったんでそのままにしてたんですよ。門番さんとメイドさんには咲夜さんが帰ってきたら連絡するように頼んでたんやけど……」
あれ、さっちゃんの顔が固まってもうた。何か変なこと言ったか、オレ? もしかして怒らせてしもたんか、説教ですかお仕置きですか!?
「美鈴は寝てたわ。それで秋さんを尋問しようと思ってすぐにこの部屋に来たのよ――時間を止めて」
「ああ、それやったら誰にも見つからないわな」
「ええ、見つからないわね」
そこで清々しい笑顔を浮かべても誤魔化されへんよ? というか、時を止めて人に見つからないようにしてまでしてオレを尋問したかったんかい。何て能力の無駄遣い!
というか、普通そこはオレやなくて寝てる門番さんを起こして事情聞くんちゃうんか!?
「で、全面的にオレが悪いんかな?」
「……いえ、そういう訳でもないわね」
「じゃあ、お互い不問にするということで」
「しょうがないわね。今度からはここの住人のことも考えて罠を設置するように」
さっちゃんは苦笑しながらもオレの提案を受け入れてくれた。いやあ、そもそも門番さんが起きとったら何の問題も無かったんやけどね。ま、お仕置きを回避出来て良かった良かった。蹴られたり殴られたりするならともかく、刃物で刺されたり斬られたりすると洒落にならへんからね。殴られたりするより痛いもんなあ、あれ。
お、いいこと思いついた。もしかしたら、自分の体に『紅 美鈴』と書けばあの異常な回復力と頑丈さを手に入れれるんちゃうやろか? いや、下手したら女性化して更に妖怪化もしてまうかも。とりあえず保留しとこ。
その後、案内役のメイドさんをつけてもらって、館に仕掛けた罠と自動掃除用具を回収することに。
いや、本当はさっちゃんが帰ってきたから家に帰ろうと思うたんやけど、報酬貰ってないんよね。あのベッドが欲しくなったこともあってさっちゃんに報酬の話をしたら、「お嬢様が起きるまでお待ちください」と言われたんよ。なんで、こうやって仕掛けを解除して帰る準備をしている、と。お嬢が起きるんはどうせ夜になってからやし、時間はあるでなあ。
あ、メイドさんそこ罠あるから危ないよ~。それにしても、こんなに罠仕掛けたっけ? ま、いっか。どうせ罠がなくてもここの住人が出張れば問題無いわけやし。
メイドさーん、残る掃除道具はあと2つなんで次の場所へ案内お願いしまーす。
こうして道具を回収し終わり、門番さんと喋ったり図書館で本を読んだりしてお嬢が起きるのを待って報酬について交渉した。結果、あのベッドと食料をいくつか貰えることになったんよ。これで生活が豊かに! ボロボロの布団で寝んですむし、お米と極度に薄めた味噌汁以外が食べられるわ!
ベッドはどうやって持って帰るのかと聞かれたので、ベッドに『空飛ぶベッド』と書いて、貰った食料を載せて家に帰りました。さっちゃんとお嬢が呆れた顔で見てたんが忘れられへん。そんなにおかしいか!? 引き篭ってる紫色の魔女は若干羨ましそうな目で見てたのに!
なんだか悲しくなったので、紅白と黒白を宴会をすることにした。喜ばしいことに、オレが紅魔館に行って初めて無傷で帰ってこれた記念日でもあるんで秘蔵の酒を振舞って朝まで騒ぐことにしようと思う。
タピさんにかかってこいよーと言われたので今日中に投稿しました。
勝てるかあの人に。
あの人、自分が上位陣にいるって事を自覚して欲しい。
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第4話
最近、初めて幽霊を見ました。
初めてですよ、初めて。
幻想郷に来て1年と少し、今まで見た事ないから幻想郷には幽霊いないと思っていました。
触れないので妖怪より怖いです。
――神様、魔法使い妖怪幽霊の次は宇宙人あたりが登場ですか?
異世界での暮らし方 第4話
もうとっくに春のはずなのに、一向に桜が咲く気配があらへん。日本人としては桜を見ないと春を感じられへんのよね。だから早く咲いて欲しいもんやけど、未だに雪降ってるもんなぁ。
あ、紅白が佐保姫とかの神様あたりに祈ればなんとかなるんじゃ? あれでも巫女やし。今度頼んでみよ。
「というわけでどうよ紅白?」
「メンドクサイ」
「躊躇わずに言い切りおったよ、この全自動怠惰補給式グータラ巫女」
「長いわね、イマイチ」
「駄目だしされた!?」
何でここに紅白がいるかというと、我が家にあるとある物が目当てなんよ。
「あ~、こんなに簡単に使える炬燵があるなんて、外の世界も中々良いわね」
「さいで。ほなもうしばらく使いたかったら足を伸ばすのやめい。この電気炬燵はそんな余裕あるほど大きくないねん。胡坐か正座が足ずらすかせえ」
「確かに小さいわねこの炬燵。もっと大きいのはなかったの?」
「入荷したら連絡するよう霖之助さんに頼んどるよ」
そう、この巫女の目当ては我が家にある炬燵。炬燵ぐら神社にもあるだろうに、こっちの方が楽だと言って週に3回は来る。特に人里で買い物したら必ず来る。
……神社の炬燵、燃料が無いというオチちゃうやろな。いや、そもそも炬燵あるんか?
それはともかく、我が家の炬燵やけど、香霖堂で見つけたので買ってきたんよ。もちろん電気式。電気は同じく香霖堂で買ったバッテリーから供給。バッテリーには『いつでもエネルギーMAX』と書いとるんでバッテリー切れの心配もなし! やはりオレの能力は日常でこそ輝くわ。
「ところで秋さん、蜜柑がまだ売ってたから買ったんだけど食べる?」
「ん、頂こか」
あとで冷凍みかん作っとこ。
そんなこんなで5月になりました。それでも春が訪れる気配がないんはなんでやろね? おかげで商売繁盛しとるんは嬉しいんやけども。
人里で寒くて鼻水たらしてる子供がおったから服に『防寒』と書いたら、『防寒』と書いてくれという依頼が殺到したんよ。文字を書くから服がよごれるのに、ここまで依頼があるとは思わんかったわ。中には家に書いてくれという人もおったけど。家を新築するまでの繫ぎにするそうな。おかげで今月は人間らしい食生活が送れるわ。
「で、今度は何の用や咲夜さん?」
「ちょっとそこまで行って冬を終わらせてくるから、お嬢様を預かってくれないかしら?」
「Pardon?」
「ちょっとそこまで行って冬を終わらせてくるから、お嬢様を預かってくれないかしら?」
わーい、一字一句そのままに言いおった。てか、預かってって、従者の言う台詞か?
ちなみにそのお嬢様。生粋の吸血鬼にして幻想郷でもかなり上位の実力者である。その実力を無駄に使ってオレをいじめる困った幼女でもある。カリスマはあるんやけど精神年齢が、ね。大人気ないという言葉が良く似合う大人とでも言えばええんやろか。
「ごめん、よく聞こえんかった」
「――」
無言でナイフを首に当ててくるんはやめようや。ちょっと手が滑ったら、妖怪ちゃうんやから簡単に死んでまうって。
「な、なんでうちで預からなあかんのかなあ!? 館におるか紅白のおる神社にでも行ったらええやん」
「館の暖房用に買った燃料がそろそろ切れそうなのよ」
「ほうほう」
「それで暖がとれて、なおかつお嬢様を預けても安心な場所を考えるとここぐらいなのよ」
あー、確かに。お嬢と一緒にいても平気な人って少ないわな。でもオレはいつ血を吸われたり殺されそうになるか心配で心配で安心できへんよ?
というか、やっぱり神社には暖房器具ないんか。
「せやから神社はあかんの?」
「あそこで暖がとれると思ってるの? そもそも暖がとれたら、あの巫女が頻繁にここまで来るわけ無いでしょう」
「……ごもっともで」
だよね、神社で暖とれたらずっとそこから動かんよねあの巫女はっ。
「それで、肝心のお嬢は?」
さっちゃんが天井を指差す。
天井? まさかぶら下がっとるんか?
「ん? おらんや……っ!?」
「頂きます」
いきなり吸血された!?
天井を見上げた瞬間、横から衝撃を受けて吸血されました。騙したなさっちゃんっ!
「んー、相変わらず可も無く不可も無くな味ね。ぎりぎり合格ラインかしら。もっと良い食生活しなさい。がぷっ」
「毎月シビアな生活してるんでね、食生活はおろそかになるんよ。それに食生活を良くするよりも本代に回す方が有意義やし。というより、何回も牙を刺されるの痛いんで満足するまで喋らんといてお願いやから」
こぼれる血が床汚してるから! でもって可も無く不可も無くな味ならそんなに飲まんといて。後で『浄化』せんとあかんなー、これは。
「お二人とも大変仲がよろしいようで安心しましたわ。それでは秋さん、お嬢様をお願いいたしますわ。お嬢様、すぐに冬を終わらせてきますので」
「期待して待ってるわ。がぷっ」
「痛っ。だから何度も噛み直すなと。あ、咲夜さんわざとらしく口調変えて去って行かんといて。せめてこの人外ロリを引き剥がしてからに、ってこら、飲むスピード早めんな!」
オレの訴えも虚しく、さっちゃんは空へと旅立っていった。残ったのはオレと、オレの血を大量に零しつつ飲むちんまい吸血鬼ことレミリア・スカーレットのみ。
……あれ、ストッパー不在?
貧血で倒れる手前まで飲まれてしまいました。ああ、もう頭がフラフラする。とりあえず『治癒』と書いた包帯巻いてます。初めは『治癒』と書いた紙を貼ったんやけど、流れる血で紙が真っ赤に染まって効果が消されてしもたんよ。ついでに増血剤も飲んどこ。血が足りない、全然足りない。
ちなみに、床が血まみれになってもうたんで『浄化』したら、吸血鬼のお嬢はちょっとダメージを受けたみたいや。前方不注意で壁に頭をぶつけた程度の痛みと、二日酔い程度の気持ち悪さだったそうな。それだけで済むのがすごいわ。
「で、何か楽しめるものはないのかしら人間?」
「炬燵に入ってのんびりしとけばええんちゃうかな。咲夜さんが動いたんやったら今日明日にでも春になるさかい、炬燵楽しめる最後のチャンスやよ? 運が良かったやん吸血鬼」
あ、お嬢の額に青スジが。顔も引き攣っとるね。
「随分とふざけた呼び方をしてくれるわね」
「人類最古の復讐法に則って呼んだだけやん。イヤなら人間という種族名で呼ばんかったらええんよ」
「――ハァ。秋、何か飲み物が欲しいわ」
え、さっき満足するまで血を飲んだんとちゃうん?
「血は、飲み物にならへんの?」
「さっきのは食べ物としての血よ。飲み物としてじゃないわ。それとも、もう一度飲ましてくれるのかしら?」
「今度こそ貧血で倒れるわっ! 紅茶でええよね? どんな味になるかは飲む人次第やけど」
「それでいいわ」とのお言葉を頂いたので、さっそく紅茶を入れますかね。といっても、コップに水入れるだけやけど。いやー、楽ちん楽ちん。
「ほい、お待たせ」
「全然待ってないわよ。で、それが――咲夜の言ってた『私に喧嘩を売ってる紅茶』ね」
「いや、確かに卑怯とか外道と言われることは多々あるんやけど、別に喧嘩売ってるわけやないって。能力を有効活用してるだけやん」
「無駄遣いの間違いでしょう。まったく」
そんなことを言いつつも飲んでくれるのであった。感想は「たしかに卑怯ね」とのこと。みんなして卑怯卑怯言わんでもええやん。卑怯なんやけどさ!
「そんなのに頼らなくても済むように、少しは練習したら?」
「したくてもお金が、ね。あんましこの商売儲からんからさ」
「副業でもしたらいいのに。どうせ暇でしょ」
いや、まあ、暇なんやけどね。認めたくないけど。
「働こうにも雇ってくれるようなとこがないやん」
「人里なら雇ってくれそうなところぐらいあるでしょう」
「昔爆発事故やってしもたからね。それが尾を引いてるから今でも一部の人は良い顔せえへんのよ」
通りがかっただけで店の奥に避難するもんな、靴屋のおっちゃん。奥さんに引っ叩かれてすぐに戻ってくるんやけど。そんな人がおるから、オレを雇う人はおらんのちゃうかな。客足遠のくやろから。
「あんたそんなことしてたの。ま、頑張って就職先見つけなさい」
「おいおい、そこは私のところで雇ってあげるとか言うとこちゃうの?」
「うちには優秀な従者がいるもの。今まで通り、臨時で雇ってあげるからそれで満足しなさい」
「へいへい、そのことに関しては感謝しとるよ。無事に家に帰れたらの話しやけど」
紅魔館に行くと、トラブルに巻き込まれやすいんよね。半分は自業自得やけど、残りは目の前におる吸血鬼の気まぐれや。
いきなり何かして楽しませろなんて言われても無理やから。弾幕ごっことか出来へんから。避けて防いで必死に逃げて何でいつの間にか「鬼ごっこin紅魔館――オレ以外は全て鬼」になってんのかなっ!?
「あら、いきなり震え出してどうしたの」
「いやちょっとトラウマが再生されて」
「トラウマの多い人間ねぇ」
呆れた目でみんなトラウマ製造機その2! 雇ってもらったことに対する感謝の念を上回る恐怖を植えつけてくれた恨み、いつか晴らすからな!
具体的には年相応の服とランドセル、ついでに黄色い帽子を装備させて天狗による撮影会を開催するということで。タイトルは「明日から待ちに待った小学生。友達100人できるかな」に決定。……インパクトに欠けるね?
「何か不快な気配がするわ」
その通り!
そんなこんなでもう夕方に。
「咲夜遅いわねー」
「そうやねー」
ああ、炬燵は。
「ちょっとそこまでって、いったいどこまで行ってるのよ」
「そうやねー」
最高や。
「そもそも、何でこんな娯楽の少ない所にいないといけないのよ。館で待っていればいいじゃない」
「そうやねー」
この炬燵の中にある下半身の温かさと。
「燃料が切れるかもしれないからって、切れないかもしれないじゃない。それに、寝てたら暖房がなくても気にならないわ」
「そうやねー」
外にある上半身の寒さとの差が。
「咲夜は過保護すぎる」
「そうやねー」
たまらんわぁ。
「……あんた、ちゃんと話聞いてる?」
「聞いとるよー」
聞き流しとるけどなー。
「楽しませることが出来ないなら、せめて話ぐらい聞きなさい」
「だから聞いとるって。できれば愚痴以外が望ましいんやけどね」
「あんたがしろっ!」
客をもてなす立場としてはそうするべきなんやけど、そろそろ話のネタが尽きてきてるんやけど。それになんか、外の世界の話が無くなったら、興味が無くなって雇ってもらえる確率が下がりそうでお兄さんピンチの予感がビンビンですよビンビン! なんせ、お嬢の話し相手のついでとして雇われることがあるぐらいやもんな。
「しゃーない、紅白以外には喋ってない、オレがどうやって幻想郷に来てしまったかについて語りましょうか。それでいかがかなお嬢様?」
「なんというか、随分とまあ古典的な方法で来たのね」
というのがお嬢の感想。以前この話をした紅白も「古典的」と言って驚き呆れとった。
「やろ? 紅白も驚いとったわ――どこからツッコミ入れたらいいのか分からない、と」
「あまりにもバカバカしすぎて誰にも分からないわ。どうして人間のくせにそこまで非常識になれるのかしら」
「非常識の塊である妖怪に言われたないって」
「あんたはその非常識の塊に、非常識と言われるほどのことをしてやって来たのよ」
「でも古典的やろ?」
「今になってそんな古典的方法で来たのが非常識なのよ。ハァ」
た、ため息つかんでもええんちゃう? いや、確かに自分でもあきれる方法で幻想郷に来てもうたなと思ってるんやけども。
「それで、外の世界に帰る予定はないの? 幻想郷に来てもう1年経つけど」
「この能力あるのに帰っても、学校にも行かれへんし何の仕事も出来へんって」
授業の内容をノートに書くことも出来ない、企画書も書けない、名前も書けない。字を書かない日はないといっても過言じゃない世界でどうしろと。や、引篭もれば別なんやけどね。
「ふーん。ならもうちょっと真剣にどうやって暮らすか考えなさい。ちゃんと路銀を稼がないと、食糧が買えなくなって人間は死ぬわよ」
「おやおや、お嬢が人間の心配をするとは珍しいやん。これは本気で気をつけないとあかんやん」
「ええ、そうしなさい。これ以上アンタの血が不味くなると飲む気がなくなるもの」
「ですよねー」
くそう、誰かまともにオレの心配をしてくれる人や妖怪はおらんのか!?
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第5話
とうとう冥界にまで来てしまいました。
予想と違って明るい場所です。
見事な桜まで咲いてます。
なのに死後の世界らしく人魂はうようよといる。
――神様、この場所は和んでいいのでしょうか、それとも死後の世界ということで恐怖を感じた方がいいのでしょうか?
異世界での暮らし方 第5話
「お嬢様、お迎えに上がりましたわ」
そう言ってさっちゃんはお嬢を連れてさっさと帰って行った。それはええんよ、うん。お嬢と2人でおるんは緊張するし。けどなさっちゃん、もしかして今回は報酬なしですかよ!? 本気でタダ働きかい。お嬢、結構な量の飯食べていったんやけど。運良く最近儲けが良かったから、まだ食料買うお金あるからええけどさ。しっかし良く食べたよなあ、あいつ。冷蔵庫の中が空っぽになってるやん。
そう思っていた時期が私にもありました。
「秋、何やってるのさっさと行くわよ」
「ああ、すまんすまん、すぐ行くわ」
なんと、さっちゃんとお嬢から昨日のお礼に花見に誘われたのだ。しかも場所が分からないだろうからってお迎えにも来てくれた。お嬢が見に行くぐらいやからさぞかし見事な桜に違いない。でも、ついこの前まで冬やったのにちゃんと桜の花は咲いとるんやろか? 桜ってそんな急激に花咲かしてたっけか。
「誘っといてなんだけど、あんた空飛べたかしら?」
「いんや、オレは飛ばれへんよ」
「ならどうするのよ。言っておくけど、飛べないとしんどいわよ」
「これを使う」
取りだすは全長2m程度の紙飛行機。これに『飛行機』と書けば実際に空を飛ぶという訳さ。問題は胴体着陸しか出来ないってことやけど。
黒白みたいに箒に乗って空を飛ぶってのも有りなんやけど、あれを男がやると痛いのよね、股間が。この前貰ったベッドに乗って行くのは勿体無いから却下。あれで外出するとどんどん痛む。
「その折り紙で?」
「そう、この紙飛行機で。『飛行機』と書けば本当に飛ぶんよ」
「飛行機?」
あ、そっか。幻想郷には飛行機なんて無いんやった! モデルになっとる飛行機が分からんかったら紙飛行機も分からんか。
そりゃそうやんな。幻想郷に飛行機使って行くほど距離離れた場所なんて無い筈やし、燃料もない。でもってここでは遠出するような人は大抵が空飛べるもんなぁ。そりゃ飛行機なんて発明されへんわ。だって必要ないんやもの。河童達も作ってなかったはずやし。
「飛行機ってのは、外の世界にある空飛ぶ乗り物のことでな。でもってこれは飛行機に似せて作った折り紙。こいつに『飛行機』と書けば本物のように空を飛ぶんよ。で、オレはこれに乗って行くと」
「へぇ、こんなのでねえ。まあ、大丈夫なら何でもいいわ。咲夜、秋の準備も出来たから行くわよ」
「はい、お嬢様。しかし……」
ん、なんでこっちを意味有り気に見るんかな。心配せんでもこれはちゃんと飛ぶし、2人についていける速さは出せるんよ? たぶん。
するとさっちゃんはとても悩ましげな顔をして口を開いた。
「妖精達に襲われた場合、秋はどうしましょう」
「え、守ってくれへんの!?」
「そうね、放置していいわ。良心は痛まないし」
「少しは痛もうよ良心、誘ったのはそっちやん!」
「私は異変を起こしたことのある吸血鬼よ? 良心が痛まなくても――おかしくはないわね?」
「た、たしかに。いやいや、納得したらあかんやんオレ」
そう、ここで納得したら自分自身の力で弾幕ごっこを切り抜けなあかんやん。慣れない紙飛行機に乗ってる状態でなんとかなるとは思えんからなぁ。紙飛行機自体には戦闘力なんてないし。
いや、弾幕ムリでもエス○バリスやブラック○レナみたいに障壁張って突撃したらなんとかなるかも。うーん、今回は保留にしとこ。紙飛行機の耐久力が分からんから下手したら自爆してまう。
というか、ほんとちょっとは痛めよ良心。さっちゃんも「さすがですお嬢様」ちゃうやろ。たしかに妖怪としてはそれでええんかもしれんけど、人誘っといてそれはあかんがな。
「いえ、お嬢様。たしかにそれが1番楽なのですが、秋がいなくなると良い玩具、じゃなくて遊び相手がいなくなりますわ」
「え、心配すんのはそこ?」
「そ、それは困るわね」
「ホンマにそういう認識なんかいっ!」
この野郎、本気で悩みだしたぞ。毎度毎度俺が無事に帰れなかったんは、やっぱりわざとやったねんな! せやから無事に帰れそうな時は、毎回呼び止められて血を吸われてたんやなオレ。
「あ、ちゃんと大切な客人兼それなりに有能な雑用係と認識しているわよ?」
「咲夜さん、有能でも雑用なんやねオレ」
「もっとおいしい血になったら評価を高くするわ。勿論おやつとしての」
「そんな評価はいらん!」
ええい、まともな認識がほとんどないな。1つも否定できんのが情けないんやけど。いや、でもさっちゃんにそれなりに有能と思われてるんは嬉しいんよね。たとえ雑用としての有能やとしても!
それと、おいしくないなら貧血寸前まで吸うな吸血鬼。でもっておいしくなったらこれ以上吸う気かお前さん。死ぬぞ、血液不足して死ぬぞオレが。
するとお嬢がいつまでたっても出発しないのにいらついてきたのかさっちゃんをせっつきだした。
「ま、秋の評価なんてどうでもいいわ。咲夜、さっさと花見に行くわよ」
「はい、では行きましょうか。邪魔する妖精は適当に追い払えばいいでしょう」
さんざん貶しておいてそれはないやろお嬢。まあしかし、さっちゃんが蹴散らしてくれるなら安全やね。流れ弾にだけ気をつければええやろ。その流れ弾も、さっちゃんの後ろにお嬢がおるから、流れ弾の1つも許さんやろうけど。
「ほな、この前手に入れたお酒を持って行きますかね」
「それ、おいしいんでしょうね?」
「天狗のお墨付き」
「咲夜、秋に流れ弾が行かないようにしなさい」
切り替え早っ!? でもってお酒1つで待遇が変わるオレってどうよ。
しかし、これで身の安全は完全に確保された。持ってて良かったおいしいお酒。でも、まさか知り合いの天狗がおいしいと言ってた銘柄が人里にあるとは思わんかったわ。随分昔に飲んだみたいなことを言ってたのにバザーで売っとったやん。
「だってお酒は流れ弾1つで瓶が割れるけど、あんたなら頑丈だから平気でしょう」
「ええ、最近では美鈴並に頑丈になってきていますし」
「や、さすがに門番さんと同じにされるんはちょっと無理があるんとちゃうかな」
たしかにこっちの世界に来て1年、体力とかが増えてもやしっ子からは卒業出来たんよね。でもって服に防御関連の文字を書きまくっとるから頑丈ではあるんよ。ただ、それでも流石に門番さんと同レベルはないわ。オレはさっちゃんにお仕置きされてすぐに復活なんて出来へんもの。黒白のマスタースパーク直撃しても笑って起き上がるあの人の真似なんてオレは出来へんぞ。
こんな会話をしつつ、オレ達は花見に向かうのであった。
あれ、そういえば目的地ってどこなん?
結局、お嬢に喧嘩を売るような妖精はおらんかったのか、一度も弾幕ごっこに巻き込まれず順調に進めた。なんや心配しすぎたわ。
そして、さっちゃんがあれを登れば目的地だと言って、長い、長い長い階段を指差した。
「ああ、なるほど。たしかにこれは空飛ばんときっついわ」
いったい何段あるんやこれ。こんなん歩いて登ったらどんだけ時間掛かるか分からんし、転げ落ちたら最悪死にかねへん。おまけに翌日になったら筋肉痛で動かれへんようになりそうやね。外の世界にある金刀比羅宮の石段と比べると、どっちの方が長いんやろ。あれも奥の院まで登るとしんどかったなあ。
「ええ、だから秋が空を飛べて助かったわ。もし無理だったら……」
「無理だったら?」
「ロープで縛って、私かお嬢様がぶら下げて運ぶつもりでしたわ」
「それはなんともまぁ、過激やね」
ほら、と言ってさっちゃんはロープを取りだして見せた。うっわぁ、本気ですよこの人達。紙飛行機が飛んで良かった、ほんと良かった。ロープ1本が命綱なんて怖すぎるわ。しかもこいつらの事やから、ロープを足首に結んでオレは逆さになって運ばれたに違いない。で、途中で木の枝にぶつかるように飛ばれたり、揺すられたり、ロープの紐をわざと緩めたりするんだろうなあ。
でも、お嬢はともかくさっちゃんはオレをぶら下げて運ぶなんて出来るんやろか? さっちゃんって人間やから、この距離運んでたらめっさ疲れる思うんやけど。
「ま、無事飛べたんやからそのロープしまおうや咲夜さん。現在進行形で飛んでるんやからいらんよねロープ」
「じゃあ飛べなくなったらいいのね?」
「お嬢、そんな期待を込めた目で見るんは止めてえな。そんな期待に応える甲斐性なんて持っとらんよ」
だから目を爛々と輝かせて紙飛行機を見つめんといてください、空から落ちたら死にます。オレ単体では飛ばれへんねん。いくら何でもこの高さから落ちたら即死やから。いや、ホントに無理だからそこまで頑丈ちゃうから紙飛行機揺するんやめてえ!
紙飛行機を落とそうとするお嬢を宥めつつ、階段を無視して上って行った。さっちゃんは微笑みながら見てるだけでお嬢を止めてくれへんし。ちなみに階段は数えてられへんかった。数えつつ飛んでたら酔ってまうわ。
「ここが目的地ですわ」
さっちゃんに連れられて着いた場所には満開の桜と、ものすごく見覚えのある紅白と黒白が。
「おお、これは見事な桜やね。うちの近くには桜咲いとらんから誘ってくれておおきに咲夜さん」
「喜んでもらえてなによりですわ」
「で、なんでおるん紅白に黒白」
さっちゃんは隠れた名所って言ってたのにおかしいやん。オレと親交ある人の大半がここにおるやん。もしかして、弾幕ごっこが強いやつしかこれないとかいう場所か?
「なんでって、ここの主人に招かれたからよ」
「そうそう。むしろなんで秋がいるんだ?」
「オレは咲夜さんに招待されたんよ。あまり人の知らない綺麗な桜を見に行きませんか、と」
すると、2人はなんか納得した顔をして頷いた。
「運が良いわよ秋さん。ここの桜を知っている人はほんとに少ないのよ」
「ああ、なんせついこの前までは立ち入り禁止だったからな」
「なのに今は入れるんかい。ま、楽しめれば理由なんてどうでもええんやけどな」
「まったくだぜ」
そう言って笑い、黒白と紅白は再び酒を飲み始める。いやあ、良い呑みっぷりで。こいつらの肝臓どうなってんねん。料理ないのに飲み続けるとか、お兄さんは厳しいですよ。
しかし、2人とも招待された言うてたけど誰に招待されたんやろ? ここの地主さんやったら後で挨拶に行かんと。オレ、顔も名前も知らんけどな。
「楽しんでる秋に、もう1つ良い情報を教えてあげるわ」
「なんなんかな、お嬢? あんまり聞きたくないんやけど」
だって、お嬢の目が愉しげに笑ってるんやもん。お嬢がこの表情をする時は大抵碌なことが無いんよね。で、お嬢はオレの反応見て大笑いする、と。
以前、強引に弾幕ごっこふっかけられて、被弾して動けなくなったところにのんびりと、実にゆっくりと歩いてきて血を吸いおった時もこんな目しとったなあ。
「ここがどこか知ってる?」
「いや、知らされずに来たから分からへんよ。誰かの私有地ということは分かったけど」
「そう。咲夜が教えてくれたんだけどね、ここは」
「ここは?」
「冥界って言うのよ」
……はい?
「冥界?」
「そう、冥界」
「死後の世界の?」
「そうよ。良かったわね、死ぬ前に来れるなんて、人間が普通に生活してたら体験出来ないわよ?」
いや、吸血鬼も来られへんのちゃうかな。じゃなくて。
「な、なんですとーーー!?」
「おお、良い反応だぜ」
「そうね。でも知らせずにここまで連れてくるなんて、あんたたちも人が悪いわね」
「お褒めに預かり恐悦至極ですわ」
「反応楽しい秋が悪いのよ。これだからからかうのを止めやれないわ」
ああ、幻想郷の女性陣は今日も強いです。
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第6話
巫女が飲む。
魔法使いが飲む。
吸血鬼が飲む。
メイドが飲む。
亡霊が飲む。
半人半霊が飲む。
――神様、こんな面子に混じって酒を飲むのに違和感を覚えなくなってきたのですが、そろそろ自分を一般人と称するのは無理なのかもしれません。
異世界での暮らし方 第6話
紅白と黒白と合流して話をしとったら、ここの住人らしき声が聞こえてきた。
「あら、見た事のない顔が1つあるわね。妖夢、あれは誰かしら」
「幽々子様、私に聞かれても分からないのですが」
「妖夢が呼んだんじゃないの?」
「いえ、違いますって。そもそも私が見た事のある人間は、そこにいる3人だけです」
現れたのはたぶんここの主人やろうなあ。
ピンクの髪した頭に渦巻模様(?)が描かれている帽子を被ってる女性と、銀髪で刀を2本持っとる女の子。銀髪の女の子の近くにはなんか人魂が浮かんどるんやけど慕われとるんやろか。
さっきの会話からすると、ピンクの髪の毛の人が主人で銀髪の人が家来なんやろね。取り合えず銀髪の子は要注意。刀使えるような肉体派は天敵や。
「という訳で、あなたは誰かしら?」
「どういう訳かはわからないけど名乗りましょう。初めまして、僕の名前は大月 秋。人里から歩いて5分の場所で店を営んでいるので良かったら来てください」
「秋さん、その言葉使いは控えめに言って気持ち悪いわ」
「ああ、聞いてて鳥肌がたったぜ」
ひどっ。それはあんまりとちゃうか紅白に黒白。さっちゃんとお嬢も、何も腕さすってまで気持ち悪がらんでも。というかお嬢、貴様は今のオレと似たような事をしょっちゅうやってるからな。
まったく、初対面の人には礼儀正しくせんとあかんがな。そんな事も分からんとはこの傍若無人の集団め。あ、嘘です言い過ぎました各々武器をしまおうか。
「そうね。さっき私達が現れるまでと同じ口調で構わないわよ。その方が楽しそうだもの」
「はぁ、そうですか。ほなご期待通りに。オレの名前は大月 秋。設定年齢19歳、蟹座のB型。人里から歩いて5分の場所で少し変わった店を営んどる能力以外は極普通の一般人や。周りの面子と違ってが個性が薄いのが悩みやけど、ま、これからよろしゅうに」
「あ、あの、設定年齢って何なんですか?」
「それに、あなたも十二分に個性豊かと思うわよ」
いや、だってスク○イドの台詞は一度は言いたいのが多すぎて。アニメは無理やろうから、せめて漫画版が幻想郷に流れて来おへんかな。
いくら幻想郷が刺激には満ち溢れてるとはいえ、好きな漫画の一つや二つないとツライんやけど。だってオレはインドア派やし。幻想郷での刺激といったら妖怪に見つからないように移動したり、見つかったら全力で逃げたり、飢え死にしないように野山駆け回って山菜探したりするのがメインやから家の中で暇潰せるもんが欲しいねん。
おっと脱線してもうた。
「細かいことは気にしない気にしない。いい大人になれへんよ?」
「私達の方が長生きしていると思うわ。まあいいわ。私の名前は西行寺 幽々子。ここ、白玉楼の主よ。宴会に招待してなかったけど歓迎するわ」
「私はここで庭師をしている魂魄 妖夢と申します」
「幽々子さんに妖夢さんね。うん、覚えた」
ピンクの人が幽々子さんで銀髪の人が妖夢さんというらしい。
ちなみに、初対面の人にはさんづけをするようにしている。だってオレより幼く見えても年上の場合が多々あるからな、幻想郷では。良い例でいうとお嬢がそうやね。幽々子さんは年上っぽかったけど、どうも妖夢さんも年上っぽいなあ。
そんな訳やから、さすがにオレも初対面からあだ名で呼んだりはせえへんのよ。ある程度仲良うなって、多少弄っても大丈夫なラインを見極めたらあだ名つけるつもりやけど。
「あら、別に幽々子でかまわないのに」
「ほなそうさせてもらうわ。幽々子、妖夢、お酒とお菓子持ってきたからどうぞ。オレが持っとったら酔った黒白かお嬢に略奪されてまうんで」
と言って、持ってきたものを妖夢に渡す。運が悪いと弾幕ごっこ挑まれて持って行かれるんよね。もしくはいつのまにかさっちゃんの手にお酒が移動していたり。
けど、この2人ならそう易々とは奪われへんやろ。紅白と知り合いで冥界なんて所に住んでるんやから、きっと弾幕言語で語り合うことが出来る人達に違いない。
「あら、ありがとう。さっそく皆で頂きましょうか。妖夢」
「はい、さっそく盛り付けますね。あれ、なんで焼き芋があるんですか。今は春ですよ?」
「ちょっと前までは冬だったぜ」
「春だろうが冬だろうが関係あらへんよ。オレの能力使ったらどの季節の物でも育つから」
「どんな能力なんですか!?」
そんな会話をしつつ宴会は始まった。とりあえず妖夢、そんな詰め寄らなくってもオレの能力ぐらい教えたるから。え、季節関係なく芋が育つなら食費が浮く? こんな庭つきの屋敷に住んどる人からそんなひもじいセリフ聞かされるとは思わんかったわ。後でその符売ったろか?
「なんですと!?」
紅白によって、幽々子と妖夢が今回の異変の犯人だと教えられた。ついでに黒白とさっちゃんは出遅れたということも。しかし、2人が本当に紅白と弾幕ごっこできるような人物だったとは。しかも紅白に喧嘩売っても平気なレベルの。うーん……人は見かけによらんなあ。妖夢はともかく、幽々子は見た感じこんなのほほんとしとんのに。まあ、それ言ったらお嬢もただの幼女やったな。
「2人とも、オレは弾幕ごっこ出来へんし身体能力等もこの世界の一般人以下なんでそこらへん気をつけてな」
「え、秋さんは弾幕ごっこ出来ないんですか? よくここまで怪我1つ無く来れましたね」
「咲夜さんが優秀だったとだけ言っとくわ。それと、オレは燃費悪いからあんまし弾幕張れないんよ」
呆れた顔されてもなあ。なんせ弾幕の1つ1つが文字を書いた紙やからね。弾幕用に使うぐらいなら逃走用に使った方が効率ええんよね。というか弾幕ごっこしてもすぐ弾切れするわ。
「秋、そんなことよりだな」
少し顔を赤くした黒白が話しかけてきた。それなりに飲んでるのに少ししか赤くなってないんがすごいわ。
「なんでお前は異変を解決しようとした時にいなかったんだ!」
「いや、おっても意味ないやん。それとお嬢の世話しとったの」
「お前がいたら霊夢より先に解決出来たのに!」
あぁ、やっぱ悔しかったんや。だからと言って、こうなったら自棄酒だとその酒飲むのやめよう、勿体無いしオレまだ飲んでない!
「ちょっと魔理沙、秋さんがいたら何で私より先に解決出来るのよ。秋さんは弾幕ごっこでは役に立たないわよ?」
「いやいや、こう見えてブースターとしては結構優秀なんだぜ。なんせ『加速』と書けば好きなだけ加速するし勝手にバリアも張ってくれるからな」
「へえー」
そんなびっくりした顔で見られても。てかさっちゃん、しまったその手があったかとボソッと呟やいたやんな今。でも悪いけどさっちゃんには協力出来へんのよ。
「驚いとるとこ悪いんやけど、ブースターとして役に立てるんは黒白限定やよ」
沸き起こるブーイング。おいおい。
「あんたらオレおらんでも、もう十分に強いやん」
「それは魔理沙でも変わらないわ」
「何か独占契約でも交わしたのかしら?」
「魔法使いと妖怪と悪魔との契約は極力しないようにしとるからそれは無い。返済が怖すぎる。そうやなくてやね」
「なくて?」
「黒白の箒しか――二人乗り出来るもん無いやん」
「……ああ、確かに」
皆理解してくれたみたいやね。いくらブースターとして役立っても、オレを連れて移動する手段が無いということに。黒白以外は皆何も使わずに飛ぶもんなあ、羨ましいぞ。
「あのー」
「はい、妖夢君何でしょうか」
妖夢が質問をしたそうに声をかけてきたので当ててみた。
「よ、妖夢君って。それは置いといてですね。お店で『加速』や『バリア』と書かれた紙は売ってないんですか?」
「売っとるよ」
一番人気の商品やもの。配達が忙しい兄ちゃんや子供の怪我を心配する親御さんにお勧めです。
「ならそれを買って使えばいいだけの話では?」
「妖夢、それじゃ意味が無いわ」
「え、そうでしょうか」
「そうなのよ。私達が自分で使おうとしたらそっちに意識がいってしまうわ。それならいつも通り避けることに集中した方がいい。彼が一緒に乗って、彼が勝手に能力を使ってくれるから役立つの。だってその分相手を追い詰める事に集中できるもの」
幽々子の言う通りや。ただ、文字の書き方によっては自動で発動するようにも出来るんやけどね。
ん? 妖夢なら半霊の方に発動任せれば大丈夫な気が。
「ちなみに、バリアはただのサ――ヴィスや。撃墜されたらオレまで落ちるからな」
「それに、秋が弾切れしたら盾に使えるという特典まであるぜ」
「ちょっと待て。そんなん付けた覚えないし、オレが頑丈になってきた言うても耐久力があるんやぞ」
何そんな特典があるのがさも当たり前のように言うとんねん。こいつ、そんな恐ろしいことしようとしとったんかい。いやいや、そんなサムズアップされても。
「大丈夫。使い終わったブースターは切り離すだけだぜ」
「洒落にならんっ!」
オレはVFシリーズのアーマードパーツ扱いですかよ!? いや、確かに使用済みのブースターは邪魔でしか無いけど。
「あら、仕える主人の盾になるのは光栄なことですわ」
「咲夜さんはそうかもしれんけど、オレにはそこまでして守りたい相手も仕える主もおらんのでしばらくは己の身が第一かな」
そこまで思える相手がおるんは羨ましいけどな。
まあ、今はそれよりも。
「あ」
「すまんな幽々子。卵焼きは大好物なんよ。最後の1つは頂いた」
この卵焼きが甘口だったのがいけないのだよ。ちょうど良い甘さで最高やと思います。
「秋、落ち着いて話し合いましょう。取り合えずその卵焼きをお皿に置きなさい」
「あむ」
「あ、ああ……」
おいしゅうございました。
あれ、何か幽々子が俯いてブツブツ言うとる。
「あ、あの、幽々子?」
「秋、あなたはやってはいけないことをやってしまったわ」
何かめっさ恨みこもっとる!? こいつ、見た目はこの面子の中で一番大人っぽいのに予想外に大人気ないなあ、おい。
「だからあなたには後悔してもらおうと思うの」
「どうやって?」
「こうするの。あむ」
「ぎゃー!」
一瞬で残っていた焼豚6枚全部一気に食べられた!?
「こっちも」
こ、今度は里芋の煮っ転がしが。
「これも頂くわ」
「ちょ、ちょっと待てあほー!」
「幽々子様、食べたいならまた後日食べられますから全部は食べないでくださいっ!」
「秋だけならともかく私が食べようとしてたのまで食べるな!」
「全くもう。少しは落ち着いて食べなさいよ。あ、妖夢お茶のお代わりちょうだい」
「咲夜、私達が食べる分を確保しなさい」
「はい、お嬢様。どれの確保を優先しましょうか?」
こうしてかなりの量があったご馳走は、そのほとんどが幽々子のお腹に収められたのであった。
ああ、楽しみにしとった、さっちゃんの作った豚の角煮が。滅多に食べられないのになあ。
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第7話
なんというか、あれは敵だ。同志だけど天敵だ。どうにもならない。
――神様、ラスボスってあーいうのを指すんですね。
異世界での暮らし方 第7話
今日も今日とて客が来ない。春になったから、冬には売れに売れた『暖』も売れんもんなあ。夏じゃないから『涼』を売るにはまだ早いし。後何日お米食べれるか調べんと。
またさつまいも生活になるんは避けたいんやけどなあ。今度はじゃがいもにしよか。
「こんにちは、秋さん。相変わらずダレてるわね」
「この机の冷たさの良さが分からんとは。嘆かわしい、嘆かわしいぞ紅白。けどもしも分かってるならほっといてくれオレは寝る」
「お客さん連れてきたのに?」
「お客さん?」
はて、紅白に連れてきてもらわんと来れない人っておったか? 人里の住人は全員ここ知ってるんやけど。白玉楼のあの2人は紅白に案内されんでも安全にこの店まで来る実力はあるから、わざわざ紅白が連れてこうへんやろし。
もしかして、新たにオレみたいな迷子が現れたんか? それなら怪我治す符を譲るぐらいはさせてもらうけど。
「で、そのお客さんはどこにおんねん」
「私の後ろに決まってるじゃない……あれ、いない!?」
紅白は相手が自分の後ろにいる事を疑ってなかったからか、「紫ー、紫ー、どこ行ったのよー」と言いながら外に出て探して始めた。せやけど何や入れ違いに店の空間に亀裂みたいなんが入って、そこから人が現れおった。入ってきたじゃなくて現れたというところが警戒心くすぐるわあ。
これ、きっと紅白の言う紫さんやろ。あいつの知り合いにまともな人はおらんのか。せめて普通に玄関から入れ、玄関から。
「で、あんさんが紫さんかいな?」
「ええ、私が霊夢の探している紫さんで間違いありませんわ」
「ほな質問なんやけど、紅白ほっといてええんか?」
珍しく必死に探しとるよ? いつもなら諦めて帰るかお茶飲むかしてんのに。
「紫ー、ちょっとどこにいるのよー」
「構わないわ。だって」
「だって?」
「ゆーかーりー」
「必死になって探している霊夢が可愛いんですもの。滅多に見れない光景よ?」
な、中々ええ性格しとるなあ。さすが紅白の知り合い。
「そこ、呆れた顔しないの。それにあなたはあの霊夢を見て可愛いと思わないの?」
「そーやねえ」
紫さんに言われて、紅白を観察してみる。
「出てきなさいよ紫ー」
「どうせ隠れてこっち見てるんでしょう、いい加減出てきなさい!」
「あ、あれ、本当にはぐれちゃったのかしら」
「でも、ここに着地するまでは後ろにいたし」
「もしかしたらこの壷の中に……いるわけないか」
「あーもう、どこに行ったのよ紫ー」
ああもう和むなコンチクショウ! いかん、緩む頬を何とかせんと。しかし、あの焦って探している姿を見ると自然と頬が。たしかにこれは滅多に見れない光景やなあ。
「もう一度聞くわ。あなたは可愛いと思わないのかしら? ま、その顔を見たら聞くまでもないわね」
「そ、そんなことないのですよ」
「……」
「……」
「本当に?」
「……少し可愛いなと思ってしまいましたごめんなさいっ!」
「秋さん、さっきから誰と話してるの? あれ、紫!?」
声聞こえとったんならすぐ気づこうや紅白。なんや今日の紅白調子おかしいんちゃうか。
「紫、あんたいったいどこ行ってたのよ。探したじゃない」
「あら、私はちゃんとあなたの後ろについてきてこの店に入りました」
「そういう台詞はちゃんと玄関から店に入ってから言わんかい」
当店は正面玄関からの入店を推奨しております。なんせ防犯用の文字をたっくさん書いといたからな。玄関以外から入ると仕掛けが発動するんよ。あれ、でも紫さんには発動してないんはなんでやろ? 文字は……消えてへんから発動してるはずなんやけど。
「全くもう。私に見つからないように入ってまでして何を話してたのよ」
「必死になって探している紅白は可愛いな、と」
「んなっ!」
「私の名前を呼んで探し回るなんて、年相応でいいじゃない」
「紫まで!?」
「あの紅白にあそこまで頑張って探してもらえるとは――想われとるね」
「うらやましいでしょう?」
紫さんは自慢気に言ってくれるが、オレにだって外の世界に行けばそれ以上に心配して探してくれる人おるもんね! てか、そろそろ連絡取らんと。あいつ心配性で天然さんやから、何しでかすか不安になってきた。
「何言ってるのよ、そんなことな――」
「ゆーかーりー」
自分に『ものまね名人』と書いた符を貼り付けて、紫さんを探していた霊夢の声真似をする。
「なっ」
「もしかしたらこの壷の中に……いるわけないか」
「ど、どこからどこまで見てたのよ」
「「最初から最後までそりゃもうバッチリと」」
紫さん共々ニヤリと笑い紅白を見る。紅白は見られていた事が恥ずかしくて言葉が出ないのか、口をパクパクと動かして固まっている。その様子を見ていたら、急にこちらを指さして怒ってきおった。
「あんたたち、性格悪いわよ!」
「だって妖怪ですもの」
「それに、ここの人間も大抵は性格が悪いぞ」
良い人はおるんやけど、結局は意地悪やからなぁ。もしくは出歯亀なんよね。困ってる人をほっとけないのにどうして素直に助けないのやら。
「それで、本当に私について語り合ってたの?」
「「むしろ紅白(霊夢)がからかうといかに楽しいかについて?」」
「声を揃えて言うことじゃないわ。あーもう、バカばっか!」
「怒るな怒るな――小皺が増えるで」
「それは大丈夫。だって私は素敵な巫女だもの」
「巫女なら小皺が増えへんの!?」
「巫女だもの」
「巫女さんすげーっ!」
「あら、ならそのことを売りにしたら、もしもの時の博麗の巫女の後継者選びも楽になるかしら」
「そんな理由で立候補者増やしてええんか紫さん」
「性格に難があったら理想の巫女に修正するから大丈夫よ」
今までそういうこともあったらしい。ところで紫さん、あんた何歳や。てか、やっぱ人間ちゃうんやね。
「そうして出来たのがこちらの霊夢になりますわ」
「え、私って性格修正されてたの!?」
「恐ろしい、恐ろしいほど方向が間違っとる修正やな! こんなんに任せて幻想郷の平和は大丈夫やろか!!」
「嘘ですわ」
「「良かった。ホント良かった!」」
こんなゆるい性格のが理想な平和維持担当ってなんか、ねえ? もうちょっとキリっとしてた方が。いや、たしかに普段はのほほんとしているように見えるから量産されたら平和になるんかもしれんけど。
無愛想やからアカンか。
「はあ、もう私は帰るわ。紫、約束通り連れてきたんだから今度の宴会の準備、手伝ってもらうわよ」
「ええ、ちゃんと藍を手伝いに出させるわ」
道案内の代金にするほど大変なんか、宴会の準備って。そういえば、いっつも誰も手伝わないって言っとったな。それにあの人数での宴会やからたしかに大変やなあ。頑張れ紅白。陰から生暖かい目で見守っといたるから。
紅白は紫さんの答えに満足すると帰っていった。……て、オレ、紫さんと2人きりですか!? この人たぶん人外ですよ、オレの能力無効したっぽいんですよ、危険レベルMAXですよ!! さらにかなりの美人ですよ!? 幻想郷だと美人には棘ありまくりなんですがこの人もそうですよね、きっと。紅白ー、カムバック! オレキケン、スグカエレ。
結局、この怪しい美人さんと2人で話すことになった。といっても話している内容は普通の会話。そう、日常会話なんよね。ここ、お店なんやから商品について聞かんか普通? 自分で言うのもなんやけど、一目で分かる商品なんてそうそう置いてないんやぞ、この店は。
「さて、そろそろ本題に入らせてもらうわ」
「やっと、やっとか。前置きどんだけ長いねん。しかも結局商品についての質問はなしかいな」
「だって必要ありませんもの」
「見ーてーるーだーけー」
買う気がないのに来たんかい。店の主人としては迷惑な話やね。お菓子の1つでも持ってきてくれたら話は別やけど。
しかし、うちの商品以外の理由初めての人が訪れるとは――愉快な話かやっかいな話しか、どっちなんやろ。
「あなたの能力が幻想郷に危機をもららすから排除しに来た、って言ったら?」
「えらくスケールのでかい話やなぁ、と驚き呆れる」
「あら、それだけ?」
「それだけやね」
いきなりそんなこと言われても反応出来るかいっ。そもそもオレの能力でどうやったら……て、めっさ方法あるやんか!? やる前に紅白達に退治されるんがオチやけど。
それにしてもマズイ。このままやったらオレ、即あの世に突撃コースやん。能力使ったら何とかなりそうやけど、この人オレの能力無効化したっぽいしなあ。はて、どうやって切り抜けよか。
「結界に『穴』を開けられたり、『破滅』みたいなことを書かれたら困るのよ。私は幻想郷が大切ですもの」
「オレは外の世界では暮らされへんからそんなことせえへんよ?」
「それでも、可能性は無くなりませんわ」
うおっ、なんか紫さんからのプレッシャーがとんでもないことになっとるやん。部屋軋みだしおったで。これは家の強化も無効化されたかな。てか、あの深くなった笑みが怖い。これ、黒白が神社に着陸失敗して、集めとった枯葉が吹き飛んだ時に紅白が浮かべた笑みとおんなじや。これは、あれか、逃がすつもりも生かすつもりもないということかいな。
「言っとくけどな、ただではやられんよ」
「私に勝てるつもりなの?」
「それは無理やろ。ただ、1発殴る。でもって痛い目を見てもらう。それぐらいなら出来るんちゃうかな?」
「なら見せてもらうかしら」
そうして緊張感が高まってきた。ああ、どないしよ。勢いと虚勢であんな虚言吐いたけど、痛い目見せるんは簡単にできるんやけど殴れるかどうか。そもそも接近出来んのかも怪しいんよね。こりゃ本気でここで人生終了か。死ぬ覚悟なんて一切出来てへんのやけど、ね。
「やっぱり止めたわ」
「はい?」
え、なにこの展開。そんな簡単に止めてええの?
「だって、めんどくさいもの。それに、あなたは幻想郷を壊そうとするような人物じゃないのは、霊夢の話やさっきまでの会話でも分かっましたもの」
「ほな、さっきの会話と空気はなぜ?」
「いくら止めるとはいえ、念のため脅しておいた方がいいもの。それぐらいあなたの能力は危険なものなのよ。あと、あなたが怯える姿は楽しかったわ」
「ええい、この性悪め。オレのシリアスを返せ。数ヶ月に1度しか無いんやぞ」
ほんと、さっきまでの空気はなんやったんや。無駄に殺気ばら撒きおってからに。見ろ、足がガタガタ震えとるやんけ。机と椅子のおかげで紫さんの視界からは隠れとるけど。
「あと、彼女に感謝しときなさい」
「彼女?」
「ええ、霊夢が呼んだのかは知らないけど、外から私のことを狙ってるもの。私、というよりこの建物を、かしら。もしもの時は彼女があなたごと私を攻撃してたわ」
そう言うと紫さんは怪しい笑みを浮かべ、空間に亀裂を入れてそこから帰って行った。「言っておくけど、霊夢をからかっていいのは私だけの特権よ?」との言葉を残して。ふざけんな。紅白をからかってきた歴史はこっちの方が長いんやぞ。
それにしても、彼女とは誰のことや。霊夢の交友関係って意外と広いから特定できへんわ。そう思っていたら、扉が勢い良く開け放たれた。ああ、誰か分かったわ。
「よ、悪友。生きてるか? 霊夢に頼まれて様子を見に来たぜ」
「おう。お蔭で助かったよ、悪友」
「そうかそうか。ところで、飛ばして来たから腹が減ったぜ」
「ふむ。パチもんのおいしいお茶と、ホンマもんの美味しい茶菓子があるんや。上がって食ってけ。ついでに飯も食いに行こう、この前良いお店を見つけたんや。オレの奢りやよ?」
まあ、偶には素直に感謝するのもやぶさかではないわ。さて、この前センセーから貰ったお菓子はどこに置いたかな、と。
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第8話
妖夢が常連に進化した。
妖夢がたまにおかずをくれるようになった。
――神様、うちにも家政婦、いや、メイドさんが欲しいとです。
異世界での暮らし方 第8話
今日はなんと、冥界から妖夢がやって来てます。白玉楼で初めて出会った時に宣伝しとって良かったわ。
「そんなわけで、ようこそミス・ブシドー。気にいるもんあるかわからんけど、存分に見ていってえな。なんなら作るし」
「はい。なら、幽々子様にも面白いものを見つけてくるように言われているので見繕ってもらえますか? あと、私は武士道を学んでいるわけでは無いのですが」
「なんですと!?」
それやったらせっかく考えたあだ名使われへんやん。いや、そんなに深く考えてないんやけど。
というか、武士道関係ないんやったら、その刀がいつか理不尽にオレに振るわれる可能性があるんか。黒白と違って大人しそうな性格っぽいから、そこまで危険視せんでもよさそうやけど。
「でも刀使っとるがな」
「いえ、剣術を使うのであって武士道は学んでません」
「つまり……不意打ち上等?」
「どうやったらその結論になるんですかっ。間のものが色々と抜けてますよ!」
「おっと失礼。そやね、辻斬り最高が抜けとったわ」
「どっちもどっちです! それに辻斬りなんてしませんよ」
なんかそのうちしそうな気がするんやけど、気のせいやろか。こう、拳で分かり合うならぬ、斬れば分かるとか言ってやりそうなんやけど。
妖夢におもしろいものを、とリクストされたんで探してきました。主に試作品やね。作ったはいいけど、人里の人たちには受けが良かったんよね。黒白たちにはよく売れるんやけど。せやから試作品止まりで量産はしとらんのよ、これらのおもしろアイテムは。さて、妖夢には気に入ってもらえるんかね?
「これなんてどうや? 童話再現シリーズ1『赤づきんちゃん』」
「これが、ですか? ただのマッチにしか見えませんが」
「ここ良く見てみ」
「『赤づきんちゃんのマッチ』?」
説明しよう!
このマッチは、『赤づきんちゃんのマッチ』と書くことによって、使った人は自分が望む幻覚を見ることが出来るようになったのだ! マッチが細くて筆で字を書くのはしんどかったと言っておこう。
「幻覚見るだけなら別におもしろくも珍しくもないのですが」
「リアルすぎて脳が錯覚起こします」
「は?」
「火傷する幻覚見たら、ホントに火傷します。何か食べた幻覚見たら、胃はホントに食べたと誤解する。たんこぶ作った幻覚みたら本当にたんこぶが出来ている。そんな不思議なマッチやねん」
「それは使い方によっては便利かもしれませんね」
ちょっと納得したところで悪いんやけど、問題点もあるっちゃーある。マッチが燃えていって文字が1文字でも無くなったらただのマッチになるということ。文字が力を持っとるわけやさかい、その文字が消えると効果もなくなるんよね。これは他の商品にも言える欠点なんやけど。
でもってもう1つ。
「3回使ったらあかんよ。あの世からお使いくるさかい」
「危ないじゃないですか! 私は半人半霊だからまだ平気ですけど、一般人には危険ですよ!?」
「大丈夫大丈夫。連れてく振りしてもらってるだけやから。驚かすのが目的やし」
あの死神、暇ならやってみるかい楽しいかもよ、と聞いたら喜んで手え貸してくれだで。驚かす方法は自由。ただ、誰かが3回マッチを使ったら現れてくれればいい。そんな雇用条件。2人して閻魔様にバレないかビクビクしてます。あの人のお説教はツライんよ。長いし、かと言って全て正論でこちらのことを思って言ってくれてるから反論も出来ないから。
「え、えーっと、シリーズということは他にもあるんですよね。それを見せてください」
「ええよええよー」
しっかし、これではあかんのか。あの微妙な顔からしたらあかんのやろなあ。けど、ある意味これがもっとも大人しいやつやったんやけど。うん、残念やねえ。
一度倉庫に行って他のやつを探す。童話再現シリーズは一纏めにして仕舞ったけど、どこに纏めて置いたっけか。ん、あそこか。
「お待たせー」
「何で同じシリーズなのに一緒に持ってこなかったんですか?」
だって大きい物もあるから一片に運ぶんしんどいねん。何回かに分けんと無理やって。全てがマッチサイズちゃうからなあ。
「だってそのマッチはたまたま机にしまっとっただけやもの。他のはどこに置いたか忘れとった」
「お店なんですから、ちゃんと整理整頓しましょうよ」
「おや、本音と建前が逆に」
「絶対わざとでしょう」
妖夢が呆れた顔をして呟いた。うん、そろそろ真面目に商品の説明しよう。帰られたら困る。そろそろ餓死の可能性出てきたから何とかして買ってもらわんと。出来ればリピーターになって欲しいんやけどね。常連さん大歓迎。
「童話再現シリーズその3『王様の耳はロバのっ――』」
「何でそこで切るんですか!?」
いや、だってさ。
「完全再現しても自白剤もしくはロバ耳になるだけやん」
「まあ、そうですね」
「そんなんおもろいか?」
「……おもしろくありませんね」
そうやろそうやろ。ただの自白剤なんておもろないし、ロバ耳も幻想郷ならいそうやし。てか、馬耳と見分けつかんわロバ耳なんて。
「せやから効果をちょっと変えて出来たのがこの錠剤や!」
「どう変わったんですか? 文字が小さすぎて読めないのですが」
「簡単に言うと、秘密を喋りたくてしょうがないのに肝心な部分が喋れないようになりました」
「そ、それってずっと秘密にしておくことよりもかなりしんどくありませんか?」
しんどいやろうねえ。なんせ喋ろうとしてるのに喋れないんやから。書いた文字は『喋りたい、でも喋れない』。まんまやね。
一度黒白へのお仕置きに使ったんやけど、つらそうやったもんなあ。秘密の前置きとかはすらすらと喋れるのに、肝心の秘密の部分にさしかかると言葉が出なくなるんやもの。
「罰ゲームとして最適かと」
「そんな罰ゲームやりませんよ」
「もしくは秘密吐かされそうな時に飲むと喋らなくて済むで?」
「拷問だったら命が確実に助かりませんね」
え、幻想郷に拷問する人おるんか? 拷問する人なんていませんよ、というツッコミくる思うたんやけど。ああ、紫さんならやるかもしれんなあ。お嬢もさっちゃんにさせるかもしれんなあ。
「それで、どうやろか?」
「……次のをお願いします」
ですよねー。使い勝手悪いもんなあ、これ。
ほな次は……もう順番でええわ。
「童話再現シリーズ4『白雪姫が食べたリンゴ』」
「ただの毒リンゴじゃないですか! 次!」
説明する前に妖夢に遮られてしもた。くっ、やはりストレート過ぎたか。
「なんでそんな危険な物作ったんですか。間違って食べたら大変なことになりますよ」
「なんでって、そんなんオレを食べようとする妖怪への迎撃用に決まってるやん――腹ペコルーミアとか洒落にならん」
人と妖怪が同じ釜の飯を食べるようになったり、弾幕ごっこが出来ても人を食べる妖怪はいるんでね。もしもの時用に作ったんやけど、効果確かめるために実験するわけにもいかんから本当の効果は不明。不安要素が残っとるから使わずにお蔵入りになった一品や。
「これはどや。童話再現シリーズ8『かぼちゃの馬車』」
「ただのかぼちゃ……ですよね?」
そう、取りだしたるはただのかぼちゃや。しかし、これには仕掛けがあってやね。
「最初から馬車やったらかぼちゃの馬車ちゃうやん。変身、いや変形か? ともかく最初はかぼちゃで後から馬車にならんとね」
「変なところに拘ってますね」
妖夢さんや、変やなくて細かいと言って欲しいのよ。拘るからこそ良い品が作れるんや。それに、ふざけたもんこそ手を抜いたらあかんと思うんよ。
「ふざけた品やのに手を抜いて作ったら、それはただのつまらん品にしかならへんよ。それはともかく、その商品は地面に叩きつけると馬車になるんよ」
「はあ、それで馬はどうするんですか? まさか、ねずみを用意してるとか言いませんよね?」
「言わへん言わへん。だって用意したんは馬車だけやもの」
「これだけでは使えないなんて、嫌がらせですか!」
「あほう、自分が食ってくだけで精一杯やのに他の動物飼ってられるかい! ねずみが餓死するか飯になってまうわ」
「意外なことにまともな理由!?」
「ちなみに昨日、お米が無くなりました」
「結構貧乏なんですね」
その憐憫の目で見るのやめれ。同情するなら金ください。いや、ほんと。
昨日ご飯炊こうとしたらお米なかったんよね。とりあえず正月に作ったお餅があったからそれ食べたんやけど。次は醤油か砂糖が無くなりそうなんよね。また黒白んとこでお世話になろうかねえ。
「そんな訳で、何か買ってってーな。オレがお米買えるぐらい商品買ってってくれるとありがたい」
「そう言われてもこんなものばかりではちょっと」
「いやいやいや、面白さ気にしなかったらまともなもんも置いてるから。むしろ一般人にはそっちしか売っとらんから」
「本当ですか?」
妖夢が怪しい物を見る目でこっちを見てくるんで、急いでまともな品を持ってこよ。
「じゃあ、このマッチと冷蔵庫を買わせてもらいます」
「まいどあり! 冷蔵庫の方は後日お届けさせてもらうわ」
やった、やりましたよ、お買い上げ確定ですよ。冷蔵庫はともかく、マッチが売れるとは思わんかったわ。
「いえ、これさえあれば幽々子様がお腹をすかしてもその場凌ぎが出来るので」
「お菓子でもあげればええやん」
「量が足りないんですよ。食べる時は買い置きしていた羊羹等のお菓子が全滅するんです」
妖夢は疲れきった声でマッチを買った理由を教えてくれた。そ、そんなに食べるんかあの亡霊嬢。けど、食べるというわりには太っとらんよね。亡霊だからか?
「それで、冷蔵庫は後ほど届けてもらえるとのことですが、いつ頃になるんですか?」
「黒白便で届けるさかい、明日の夕方までには確実に」
「あの重い物を魔理沙さんが運べるんですか?」
「もちろんや」
冷蔵庫に『軽量化』の符でも貼り付ければ無問題やからね。もしくは『重さを感じない』でもええしね。
「秋さんの能力って何でもありですね」
「文字使いも大雑把に言えば魔法使いやからね。魔法使いなら何が出来ても不思議ちゃうやろ?」
「幻想郷の魔法使いはそこまで万能じゃない気がしますけどね」
それではお願いしますと言って妖夢は帰って行った。さて、黒白に手紙を送っとこ。明日は手伝ってもらわんとあかんからね
オレは能力のせいで手紙が書かれへんから、文々。新聞の印刷された文字を再利用せなあかんのよ。これを切り抜いて貼って完成や。後はこれを折鶴にして『思いは届く』と書けば、勝手に黒白のところまで飛んでってくれるんや。結構便利。
さて、今日の売り上げでお米買えるようなったから人里に行きましょか。時刻は夕方。今から買いに行っても、幻想郷にはタイムセールという概念が無から安く買える訳やないんが残念やけど。
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第9話
ここの住人は酒が好きだ。
ここの住人はアルコール分解能力が発達している。
そしてここの住人は、酒に弱いやつにも容赦がない。
――神様、妖夢が倒れたら私が次のターゲットになるのが定番になってきたんですが、なんとかならないのでしょうか。
異世界での暮らし方 第9話
「秋、宴会だぜ!」
「よっしゃ、『酔い止め』用意するからちょい待っとって」
いつものように黒白に宴会に誘われた。ここ、幻想郷ではよくある事で。まさかこの時点で異変が起こっているとは思わんかったわ。
宴が始まり既に2時間。色んなやつが酔っ払っとる。ただ、まあ、酔っ払っとるやつ全員が見た目幼女なんやけどな。うん、幻想郷じゃなかったらありえへん光景やね。
「あら、こんなところで1人寂しく飲んじゃって。楽しんでる?」
「男1人だけやから混ざりにくいっちゅーねん。そっちこそみんなに混ざらんでええんか、ドールマスター?」
初めは紅白なんかと飲んでたんやけど、他のとこに行ってもうたんよ。他の連中とはまだそんなに仲ようないからこうやって1人飲んどるわけや。紅魔館組とは仲良うやってるけど、宴の場で会うと血を飲まれるか、からかわれるかの2択やから最後に取っとくわ。
そんなところに話しかけてきた金髪美人さんはアリス・マーガトロイド。通称七色の人形使い。魔法使いらしいんやけど、人形を操っとるんしか見た事ない。他には何が出来るんやろね?
「しょうがないじゃない、勝負に負けたんだから」
「は?」
何で勝負に負けたからってこっちに来るのか分からん。それが表情に出たのか、人形遣いはあっちを見ろと指で指してきた。
「ああ、なるほど」
「分かってくれたみたいね」
そこには良い笑顔を浮かべて「こっちゃこい」と手招きしているのが数名いた。たぶん行ったら地獄を見る。そして傍らには酔い潰されて倒れている妖夢の姿が。あれか、オレは妖夢の代わりなんか。からかう相手がいなくなったから新しい獲物を求めてるんやね?
「逃げてもええやろか」
「ダメに決まってるでしょう。私がいるからには逃がさないわ」
「おっと、つい心の声が」
あまりにも嫌すぎて思わず口に出してもうたがな。ああ、嫌やなあ。特に時々見せる黒い笑みを浮かべてる幽々子が嫌や。次点であのグループとは別のとこから、オレがどんな愉快な目に会うのかが楽しみでニヤニヤ見とるお嬢が嫌や。
「そんな訳でオレは逃げ――何で糸が体に絡まってるのでせうか?」
「あなたが逃げようとするからじゃない。逃げられたら私が責められるかからかわれるかするじゃないの」
「たしかにそうやけども! というか、糸なんて使えたんですね!?」
人形操るんにも糸使わんのに。何故、WHY?
「指先を鍛えるのにちょうど良かったのよ。人間相手に使うのは初めてだけど、案外上手くいくものね」
「オレを実験台にしおった!? ええい、離せ! あ、こら引っ張るな。こけるから、こけるか――うぉっ」
「つべこべ言わずにさっさと行くわよ」
「イーヤアアアァァァァ」
この後の記憶は無い。無いったら無いんや。
それから3日後、オレは紅魔館におった。
「前の宴会からまだ3日しか経ってへんのにもう次の宴会かい」
「そう言いつつワインを飲んでるから、嫌ではないようね」
完全で瀟洒なメイドさんが現れた。隣におるはずのお嬢は……霊夢と会話中やね。
「ここのお酒と料理はおいしいからね。ところで、お嬢の隣におらんでええの?」
「お嬢様は霊夢との会話に夢中ですわ。だからお嬢様の代わりにお客様を持て成さないと」
「お疲れ様です。頑張ってなー」
今日もさっちゃんは忙しそうやなあ。あ、なんでこんな急に宴会することになったか聞いとこ。いくら宴会好きが多いからって、ちと早すぎへんか?
「なんでこんな急に宴会することになったん?」
「先日の宴会で、「私が一番楽しい宴会を開催できるんだ!」魔理沙と言い合って競い合ってるのよ」
「しょ、しょーもな」
「あと、今回は手のひらの上で踊ってあげるわとも言ってたわね」
と、さっちゃんが疲れた顔をして教えてくれた。
おお、意味深で怖っ。巻き込まれへんように気ぃつけんとあかんわ。てか、お嬢。楽しい宴会開催すると意気込んどったんなら、霊夢との会話に夢中になってないでちゃんと客を接待しようや。ま、楽しそうやから文句は言わんけど。それに、今邪魔したら怒らせてまうからな!
「あ、そういえばパチュリー様から伝言を頼まれてわね」
「ビブリオマニアから?」
「近々写本を頼むからよろしく、だそうよ」
「オーケーオーケー。実入りの良い仕事は大歓迎や」
「今度は死にかけないよう気をつけてくださいな。前回は掃除が大変だったんだから」
「き、気をつけますです、ハイ」
前回写本を作ろうと原本を見たら発狂しかけたんよね。そこを依頼主のパチュリーに助けられたんよ――魔法で吹っ飛ばして気絶させるという力技で。
その際に血が流れたり大量の本が巻き添えくらって吹き飛んだりして、その片付けをしたのがまあ当然のことながらさっちゃんやった訳で。うん、目を覚ました時に見たさっちゃんの顔は、その、門番さんが怖がる理由がよう分かったわ。
というか、読んだら発狂するような危険な魔導書読ませるのに結界を張り忘れるとは、あのうっかり屋さんめ!
「ま、今度は自分でも安全対策してくから安心してーな」
「……その言葉を信じるけど、次に同じことをしたら掃除は自分でしなさいよ」
そんな状況になったら、掃除する余裕なんてあらへんのとちゃうかな?
そんな疑問を残し、さっちゃんは他の客の所へ去っていった。いや、まあ、そんな事態にならなきゃええだけなんやけど、もしやってもうたら本気で掃除させそうやなあ。あの人、お嬢とパチュリー以外には厳しいもんな。あ、このサラダうまい。味覚えとこ。
お嬢に血を吸われることもなく、オレにしては珍しく、珍しく無事に紅魔館から帰れた。その喜びをかみしめて翌日は人里の商人たちと宴会。これはまあ、新年度会みたいなもんや。今年度も頑張って商売しましょう、という気合を入れる宴会でとにかく安全。酔っ払って襲われないし、弾幕ごっこにもならないから安心して酔っ払うことが出来んねん。
で、その翌日。調子に乗って呑みすぎて二日酔いでダウンしとったら――
「「次は私のところで宴会よ!」だそうです」
「突然すぎるわ! っイタタタタ」
妖夢が店にやって来て宴会に誘ってきた。それはええんよ。いつもなら喜んで参加するんよ、料理おいしいし。ただ、タイミングが悪かった。明日宴会する言うても、昨日人里で呑んだところなんよ。一昨日はお嬢んとこの宴会にも参加したことやし、ここいらで一休憩いれんと体がもたへん。
「行きとうない」
「え、なんでですか!? おいしい料理だって出るんですよ?」
「お、お願いやから大声出さんといて、頭に響くから。実はやね」
「実は?」
「つー」
「かー」
「そういうことや」
「なるほど、そういうことでしたか。諦めてくれるかは分かりませんが、幽々子様に伝えておきますね」
通じた!?
オレが驚愕しとる間に妖夢は出て行った。きっと他の人んとこに声掛けに行ったんやろ。しかし、まさか本当につー、かーで通じる人が居るとは! なんや幽々子や八雲さんちの紫さんにも通じそうな気がするわ。人生経験豊富やと可能になるんかも?
それはともかく、素直に帰ってくれた妖夢に感謝しつつオレは再び寝ることにした。あー、頭痛い、気持ち悪い、水をくれー。
でもって翌日。二日酔いも醒め、久々に倉庫の整理をしてたんよ。季節ものも扱っとるから宴会ばっかりしとる訳にもいかんのよこれが。春物と夏物の割合を変更したり、冬物を片付けたり。ちなみに、春物の商品で一番売れたのは花見用アイテムの『桜吹雪』でした。これのせいで桜が散るのが早くなった気がしないこともない。なんせ桜の花びらを強制的に散らして見事な桜吹雪を見せるからなあ。
そんなことをしてたら、お客さんがやってきた。あのスキマ妖怪の来訪や。霊夢がおらんのに来るとは珍しいやん。
「どないしたん?」
「ええ、ちょっと宴会のお誘いに来ましたの」
「またかいな。今度はいつすんの?」
「今日ですわ」
「今日!?」
今日は幽々子んとこで宴会やってるから参加者少ない思うんやけどな。というか、紫と幽々子が同じ日に別んとこで宴会することなんてあるんやねえ。仲良しやから一緒にやると思ってたんやけど。
「ごめんやけど今日はパス。今日開催される幽々子んとこの宴会も断ったんや」
「あらあら。そっちはどうして断ったのか教えてくださる?」
「二日酔いが酷かったんや。」
あ、ものすんごい呆れた顔された。
「二日酔いって、あなたそんなにお酒に弱いの? まだ若いでしょう」
「ええい、若さと肝臓のアルコール分解能力が比例すると思ったら大間違いや! それとそこまで弱くはないわい」
「でもたったあれだけしか飲んでないのに二日酔いよ?」
「いや、たったいうたってやな、二日連続で飲んだら堪えるで……て、なんで知っとるん!?」
「だって見てましたもの」
ストーカーだった。
「人それをストーカーという」
「失礼なこと言わないの。それに、なんであなたのことだけ見てないといけないのよ」
「そ、そうやんな。昨日飲んでたんを偶々見られただけ――」
「私は幻想郷のことならエブリシングエブリタイムお見通しよ!」
ものすんごいストーカーだった。節操のないストーカーだった。
「それはどうでもいいの。あなた、もう二日酔いは治ってるわね?」
「いや、マテやストーカー。どうでも良くないわ。二日酔いは治っとるよ。でも幽々子んとこの誘い断ったから今日は店の整理や。悪いけどそっちの宴会には参加せえへんよ?」
「いえいえ、それなら問題ありませんわ」
そういうと紫さんは怪しく笑い――スキマがオレの足元に展開された。
しかし甘い! 伊達に何度も黒白に付き合うて紅魔館襲撃したり、黒白やどこぞの最速の新聞屋の突撃くらっとらへん! この程度の不意打ち避けれるわい!
……いや、スキマの縁を掴んで落下止めるので精一杯やったんやけどね。
「な、なんとー!?」
「だって、私は幽々子に頼まれてもう一度あなたを誘いに来たんですもの。あなたの二日酔いが治っているならなんの問題もないわ。だから――悪あがきせずさっさと落ちなさい!」
するとスキマの縁をかろうじて掴んでいた手を蹴飛ばされ、オレはスキマへと落ちていった。この不気味な空間や諦めなかった幽々子にも文句を言いたいがとりあえず一言。
「こ、このセメ婆ああぁぁぁ!」
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第10話
最近の宴会は誰かの陰謀によるものらしい。そんなことをしていったい何になるのかさっぱりわからない。とりあえず肝臓の耐久力を上げておこう。
――神様、外の世界では肝臓壊したら安静にしている以外に治療法ないけど、それは幻想郷でも同じなんですかね?
異世界での暮らし方 第10話
「あなたを犯人です」
「誰や、咲夜さんにこんなネタ仕込んだん……って、犯人!?」
いきなりやって来て人を犯人扱いしたのは御存知紅魔館のメイドさん。指をつきつけ決め台詞っぽいのを言うのはええんやけど、それ、ネタやから。全然カッコ良く無いから。いつものキャラと違うんは、連日の宴会で酒飲みすぎたんやろか? さっちゃんに限ってそれは無いわな。
「あら、パチュリー様が『外の世界ではこれがお決まりの台詞なのよ!』と教えてくださったのだけど、違ったの?」
「あんの出不精知ったか鉄面皮魔法使いィィィィィィーーー!」
何を教えとるんやあの引きこもりの魔女っ娘め! そして何故そんな知識があるんかな!? どうせあの図書館にある本から手に入れたんやろうけどな。前から思ってたんやけど、あの図書館のラインナップってどうなっとんねん。漫画や小説が普通に置いとるぞ、あそこ。
「まあ、ある意味お決まりの台詞やけどな、ある意味。通にしか分からんからやめとき」
「外の人間が言うならそうなんでしょうね。で、あなたが犯人ね?」
「いや、何の犯人やねんな」
「ここのところ3日おきに開催されてる宴会のよ。何か妖気に満ちてるし、いくらなんでも開催されすぎだわ」
さっちゃんの言う妖気は分からんけど、たしかに宴会開き過ぎやね。しかも3日に1度と定期的に行われるし。なんでその犯人がオレになるんか分からんけど。
あと、人を指差すなとは言わんけど、指の代わりにナイフこっちに向けるのやめへん?
「何でオレが犯人になるねん。しかも犯人言うてもどんなことやったんよ?」
「宴会を開かせるように誘導した、といのが罪状ね。あなたが犯人だという証拠は、今まで宴会をした会場にあった妖気と同じものがこの店にもあるからよ」
「なん……だと……」
妖気ってそれぞれ違うもんやったんや。見ることも感じることも出来へんから知らんかったわ。じゃなくて!
「ちょ、ちょう待ちーな。オレ人間。妖気なんて発生せえへんよ?」
「なら匿ってるんでしょ。さっさと出した方が身の為よ」
「なんかもう犯人オレで確定してませんかねえ!?」
なんて返答と同時にナイフが飛んできました。やっぱ弾幕ですか、オラオラですか、答えは体に聞くんですね。で、なんでナイフが迫ってるのに落ちついているかというと。
「ナイフで城壁は崩せへんわなあ」
「くっ」
そう、オレは身体能力高くもないし魔力や霊力もない。なもんで身につけているものにはたらふく文字を書いているのですよ。例えば『城壁』やら『鉄壁』やら。だからオレの防御を破るには城壁を崩すぐらいの威力がないとダメな訳で。うん、ナイフというか刃物なんて怖くないよ、ホントだよ?
例外として妖夢がナイフで斬り掛かってきたら避けるけど。だって妖夢なら斬鉄出来そうやもの。どうなるか今度試してみよか。丸太にでも『鉄壁』と書いて的にしよう。
「さて、咲夜さんの攻撃手段は無効化されたんやし、大人しく引き下がってもらえへんかな? でもってこっちの話聞け」
「いえ、まだ手段はありますわ」
「へ?」
またもや飛んでくるナイフ。せやからナイフは効かへんと言うに。ん!?
「やっぱり避けたわね」
「あ、危な。咲夜さん、頭狙うんはあかんやろ!?」
「あら。ということはやっぱり頭には刺さるのね」
「……」
「……」
チャキっ、という音と共にナイフを構えるさっちゃん。冷や汗流しながら視線を彷徨わせるオレ。
「……撤退!」
「待ちなさい!」
頭は洒落にならんので店の後ろにある非常口から逃走することにした。だって頭には何も着けてないから、文字による防御がないんやもの。ほんとはオレ以外の能力を無効化できる店から出たく無いんやけど、あそこにいると狭くて避けきれんし、何より商品に傷つくからなあ。
はてさて、今持っている防御概念『加護』で後何回さっちゃんの能力を防げるんやろね。誰の加護かはさっぱり分からんけどな!
「頭にささったら死ぬで、死んでまうで、何も喋られへんようになるよ!?」
「死なないように刺すから大人しくしなさい」
「そんなん出来るかあほう!」
「ちょこまかとっ。ああもう何で時を止めてるのにあなたは動けるのよ!?」
止まったら死にますがな。というか、やっぱし時を止めるのを防ぐんは無茶やったかな、もの凄い勢いで防御概念書いた符が灰になっていくんですけど。さっちゃんはその固有能力として、時を止めることが出来る。なので気づけば周りをナイフに囲まれてるなんてことが多々ある。しかし、何の加護かは分からないけど『加護』という符を持っていると、その時を止めるという効果から護ってくれる。
ただ、あんまし乱発されると頭に向かってくるナイフを防ぐ符が足らんようなるんやけどなあ。あと何回耐えられるやら。回数制限あるってさっちゃんに知られたくないんやけどなあ。
「や、やめてー! 顔は女優の命なんでウォッ、より苛烈になってませんかねえ!?」
「まずはそのふざけた口を閉じさせてあげるわ」
「怖い、怖すぎるでこのセメント従者。って、ヒィッ、掠った、今耳掠った!」
「避けるから掠るのよ。ちゃんと当たりなさい!」
「無茶言うなやどあほうっ」
くそう、こんなことならフルフェイスのヘルメットでも用意しとけばよかった。今度霖之助さんとこ行って置いてないか見てこよ。ああでもそんな格好したら明らかに不審人物やな。フード付きのコートと狐かなんかの仮面にするべきか?
まあ、とりあえず『Uターン』か『迷子』でも使うて足止めして逃げますかね。『炎の壁』も用意しとるけど、室外で使っても効果あるか微妙やね。
「まったく、だから死なないように刺すと言ったじゃない」
はい、逃げられませんでした。あかん、さっちゃんとこんなにも相性悪いとは思わんかったわ。
投げた符は効果発動する前に斬られ、発動しても時止めるか空飛んで避けられる。こちとら必死に陸走ってでの2次元軌道しか出来へんというのに、自力で空飛んで3次元軌道出来るってセコイ。今度からは地対空用の符を考えとこ。弾幕ごっこに巻き込まれる時は大抵は黒白に巻き込まれてということやから、空対地用もしくは空対空用の符ばっかやもんなあ。
せやから逃走は無理と判断してさっさと降参しました。痛いのは嫌やからね。いくら死なないと言われても、ナイフ刺さったら痛いっちゅうねん。さっちゃんはなんや、あれだけ攻撃したのに最後まで有効打が入らなかったんが納得いかんみたいやけど。
「それで、本当にあなたが犯人じゃないのね?」
「はい、そうでごぜえます。というか、そこまで酒に強くないんでこんな騒ぎ起こす気にならへんよ」
「そういえばこの前酔い潰れてたわね。なら犯人匿ってたりは?」
「オレ以外を養う余裕なんてあらへんわい!」
「……言ってて情けなくならないの?」
「……自虐ネタにそういうツッコミはやめて、反論出来へんから余計虚しくなる」
自分でも独身男性としてこの発言はどうよ、と思わなくもないんやから。でもなあ、収入が不安定すぎるんよね。しかし、その呆れたというか冷めた目も堪らんなあ。ゾクゾクするわ……って、コレ殺気やん、考えてること読まれたんか!?
ごめんなさい嘘です調子に乗りましただからナイフで頬をペタペタ叩くのやめて!
予想以上に精神的ダメージ喰らったけど、なんとかさっちゃんは納得してくれたみたいや。そりゃさっちゃんうちの台所事情知っとるもんなあ。
「秋が犯人じゃないとすると……時間をかなり無駄にしたわ」
「勝手に人を犯人扱いしといてそれは無いんちゃうかな」
「しょうがないでしょう。宴会にあった怪しい妖気と同じものが店内にあったんだから」
「妖気、ね」
うちの店は妖怪もやってくるから妖気ぐらいあるんやろうけど、オレが参加した宴会におってなおかつさっちゃんが怪しむほどの妖気か。
「なあなあさっちゃん、その妖気って――八雲紫のとちゃう? 一番最後に訪れた妖怪はあいつやよ」
「あの妖怪は違うわ。だって私達の宴会には来てないもの」
「あ、そうなん? あいつが一番怪しそうやのにねえ」
「ええ、一番怪しいけど違うのよ。さて、当てが外れたからどうしようかしら」
2人して頭を抱えて悩みだす。さっちゃんは次の犯人候補は誰かと考え、オレは紫さん以外で店に訪れた妖怪は誰だったかなと思い出していた。そういえば半人半霊が来とったけど、あれって妖気発するんやろか。
「紫さんの1日前に妖夢が来とったよ」
「あいつね。桜見たさに春をあつめてたぐらいだから、今回の騒ぎを起こしてもおかしくは無いわね」
「計画犯は幽々子やったけどね」
「それなら亡霊も問い詰めるだけの話よ」
こうして冥界の連中の容疑が強まった訳やけども。さっちゃんに情報リークしたんバレたら、あいつらに報復されるんやなかろうか。――あれ、もしかして死亡ルート進んでもうた?
「時間も遅いから、帰ってお嬢様の夕食を作らないと。冥界に行くのは明日にするわ」
「たしかに。追われとって気づかんかったけど結構ええ時間やね」
「さっさと捕まっていればもっと早く終わったのよ」
「いやいや、捕まるのと同時にナイフで串刺しはごめんやね」
それにしてもこんな時間になるまで追いかけ続けるとは。あんたはティンダロスの猟犬か? おまけにこっちは息がきれてるのに、さっちゃんは息も切らさず平然としとるし。どんだけタフやねん。まあ、さっちゃんクラスの人相手にもそれなりに逃げられるというのが実証出来たからええとするか。
「私は空を飛んで帰るけど、秋は空を飛べないんだから妖怪に襲われないように気をつけなさい」
「そやね、符もそれなりに消費したから集団で来られたら危ないかも知れんなあ。気ぃつけるわ」
「ホントに気をつけなさいよ。あなたはどこか抜けてるんだから。まあ、危なくなってもあの巫女か魔法使いが助けに現れそうだけど」
心配してくれるのはありがたいんやけど、今んとこ一番オレに危害加えてるのはあんたらです。
「む。確かにあいつらに助けられることが多いけど、そう都合よく助けに現れるかいな」
「現れるんじゃないかしら? だってどう考えても彼女達の方がヒーローであなたがヒロインですもの。もしくは親分と子分ね」
「ハハ、なら後はオレが攫われたらヒロイン確定やね」
「そうね。もしくは、黒幕に挑んで負けそうになったところに彼女達が現れたら、子分確定かしら」
「……洒落にならんから気をつけて帰るわ。黒幕と遭遇なんて嫌すぎる」
「そうしなさい。攫われたり負けて死んだりしたら明後日の宴会に参加出来ないわよ」
「また宴会やるんかいな。肝臓がもたんからさっさと黒幕退治してな」
さっちゃんと別れ、いざ帰ろうと周りを見渡して気づいたんよ。さっちゃんの言う通り、オレはどこか抜けているな、と。
「あれ……ここどこやろか?」
そういえば逃げるのに必死で道なんて確認してへんかったなあ。さて、どうやって安全に帰ろうか?
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第11話
前回、道が分からないので『帰巣本能』と書いたら無事に帰れました。
けれど、外の世界に足が向かずにこっちの家にまっしぐらだったということは、外の家、もしくは居場所が無くなったということなんですかね?
――センセーに言って、正式に戸籍用意して貰うとしますか
異世界での暮らし方 第11話
この前さっちゃんに招待されとった宴にやってきました。場所は博麗神社。お嬢主宰やのに神社が会場なんは、会場に残るという例の妖気をお嬢が嫌ったからか、酔っ払いによって紅魔館が汚れるのが嫌だからか。
「どっちなんやろね、咲夜さん?」
「妖気が嫌だと言ってたわね。なぜか分からないけどあの妖気はしばらく残るのよ」
妖気を追い出すのに苦労したわ、と目頭を押さえながらぼやくさっちゃん。試しに呟いてみたらホントに目の前に現れおったぞ。時間止めて目の前に移動したんやろうけど、どうやって呟き声を聞き取ったんや?
「しばらく残るってことは、ウチの店にも?」
「この前入った時は残ってたわ」
「なんてこったい」
もしかして最近客が少ないんはそのせいか! そうじゃないにしてもなんや体に悪影響あったら困るからオレも『追い出す』ことにしよ。
……あ、最近掃除してなかったことやしまとめて『浄化』した方がお得やね。
「ところで咲夜さん、黒幕どこや? 咲夜さんにオレを犯人と思わせて襲撃させたお礼をせんとあかんのやけど」
「あなたの実力だと、お礼参りは無理だからやめときなさい」
「大丈夫大丈夫、誰も正面からやろうなんて考えてへんから。こっそり後ろから『お酒はダメ、絶対』と書いた符貼り付けるだけや」
「それは効果ありそうね」
「やろ? 他にも『酒は水の味』とか、『酔えない・味わえない・物足りない』なんてのもあるよ」
なんせ黒幕さんが妖気なんてもんを残してくれたおかげでさっちゃんに追いかけられるハメになったんやから、しっかり100倍にしてやり返さんと。八つ当たりな気もするけど気にしない。さっちゃんが「やりすぎたかしら」と呟いてたけどそれも気にしない。
ちなみにこの符、調子に乗った天狗のおしおき用に作ったもんや。あの天狗はザルと呼ばれる人種やったから効果バツグンやったわ。せやから今回みたいに頻繁に宴会開かせるやつにはいいおしおきになるっしょ。
「で、黒幕はいずこ?」
「……いないわ」
「は?」
「倒せなかったからいないのよ! まあ、どこかで見てるとは思うけど」
うわ、すんごい悔しそうな顔。なんでも、黒幕を追い詰めたのはいいけど弾幕ごっこで負けたそうな。さっちゃんを負かすとはやっかいな相手やね。
まあ、紅白が動いたら解決するやろうしほっときゃえっか。異変解決時の紅白はGM権限使ってるのかと言いたくなるほど強いからね。あれに勝てるやつは、そうそうおらんやろ。
「で、再戦せえへんかったん? お嬢に黒幕なんとかしろと言われとったのに?」
「しょうがないでしょう。この宴会の準備もしないとダメだったのよ」
「別にいつもみたいに時間止めればええやん。それに次の日に挑戦するとか」
「追い詰めたのが今日だったのよ。それに宴会の準備を1人でするのはしんどいわ」
「へー、ほー、ふーん」
「な、何よ」
いや、だってねえ?
「いっつも1人で準備しとるようなもんやん。妖精メイドはよう脱線してあんま働かんし」
「あれでも少しは役に立ってますわ。あら、料理が少なくなってきたので追加を取ってきますわ」
「いや、宴はまだ始まったばかり……て、いねえ!?」
消えたさっちゃんは冥界の姫さんとこに料理を運んどった。宴始まったばかりやのに追加の料理を持ってこさすとはさすがやねえ。
ん? 目が合った幽々子と妖夢に睨まれたけど何かしたか?
何かしたかと思いだしてみるが、特に思い当たるフシないよなあ。そもそも数回しか会った事ないから失礼な事してたら覚えてると思うけど。そう悩んでいたら、黒白が酒瓶片手に近寄ってきた。
「よ、酒も飲まずに何やってるんだ?」
「ん、ああ、黒白か。幽々子達に睨まれたけど何かしたかな、と」
「あいつらの食べたかったものでも食べたんじゃないか?」
そんなことで物騒な能力持っとるやつに睨まれるんか、オレ。幽々子の食欲を見ると、その理由で納得できるけど、妖夢は……何でやろ?
黒白が言うには、以前残っていた最後のだし巻きを幽々子の前で食べたら、それはもうイイ笑顔で威圧されたらしい。言葉はいつも通りほんわかしているのに、その浮かべている笑顔がひたすら怖かった、と。後日訪れた時は、妖夢の歓迎がハードモードになってたそうだ。
そういえば前回の宴会で、幽々子と張り合って食べてたよなオレ。もしかして原因それか!?
「あ、そや。黒白、オレ外での居場所が無くなったんで完全に幻想郷に帰化することになったんよ。今後もよろしゅうに!」
「よっし、今度引越し祝いを貰いに行くぜ!」
「あほう、あれはあげるもんで貰いに行くもんちゃうわ」
「なら引越し蕎麦だな」
「蕎麦は無いけど蕎麦焼酎ならあるでー」
と言ってポケットから瓶を取りだす。ここでは酒が役に立つことが多々あるので2本程常備するようにしとる。護衛の依頼料や相手の機嫌をとるのにも使える万能アイテムや。不味かったら逆効果になるんが難点といば難点やね。
「おい、どこから出したんだ。明らかにポケットには入らない大きさだぜ?」
「ん、『四次元ポケット』やからね」
「四次元ポケット?」
「原理は分からんけど、とにかく何でも入るポケットや」
試しに書いてみたらホンマに何でも入るようになった時は感動したわ。ただ、調子にのって入れすぎると、何入れたかわからんようなるんやけどね。
なんか黒白がポケットをじっと見つめてるけど、あげんからな。お前に渡すと際限なく物を盗っていくやろ。
「そいつは便利なマジックアイテムだな、私も欲しいぜ。お、中々酒じゃないか」
「口に出してもあげへんよ。てか、良い酒なんやからガブ飲みすんな、もったいない」
「そんなことを気にしてたら、美味い酒も美味く感じられないぜ」
そう言ってケラケラ笑う黒白。自分でも貧乏くさいと思うけど、それなりに苦労して手に入れた酒なんやからせめてガブ飲みはやめて欲しいというか子供に酒のことで諭されるってどうよ!?
そう言っても黒白は止まらず、どんどん酒を呑んでいく。あーもう、既に半分ぐらい呑みやがったこいつ。本当に良い値がしたんやけどなあ、それ。
「あら、レミリアが開いた宴会で焼酎が置いてあるなんて珍しいわね。どこに置いてたの?」
「違う違う、秋から引越し蕎麦の代わりにもらったんだぜ」
「へ、秋さん引越ししてたの?」
「引越しっちゅーか何ちゅーか。幻想郷に定住するんが決まったんよ」
「なら今後もお賽銭よろしくね。御利益あるわよ?」
「へーへー。今まで通り入れるからしっかり守ってえな」
なんというか、博麗神社とうちの関係って荘園と荘園領主っぽいよね。納めるもん納めりゃ守ってくれるところとか、領主には基本逆らう力がないところとか。
で。気が付けば宴会がオレの引越し祝いになっとった。いや、そういうと語弊があるか。引越し祝いという名目で、オレの持っとった酒を狙うハイエナが周りに集まってきおった。結果、お酒は宴会に参加しとった面子においしく全て頂かれましたとさ。
そして、私が開いた宴会なのにと拗ねる吸血鬼がその場にいたとかいないとか。
その翌日。
「で、何の用かいな妖夢。そんなきっつい目されたら全力で逃げ出したくなるんやけど。ここ、一応うちの店なんやけど」
「実は先日咲夜に襲われまして」
「そりゃ御愁傷様やね。オレも襲われたけど」
「ああ、やはり会ってたんですか。そうですかそうですか」
おおう、なにやら黒いオーラが。それと、刀の柄に手を添えるのは止めよう、怖いから。そんなの抜かれると怖いから、危ないから、死ぬから!
「ど、どした妖夢?」
「彼女が教えてくれたんですよ。秋さんが私達が怪しいと教えてくれたからやってきた、と」
「咲夜さあああぁぁぁぁぁぁん!?」
何してくれてんのあの人は!? オレ怪しいなんて言ってへんがな。そうか、あん時の嫌な予感は当たってたんか!
「そ、それで報復に来た、と」
「いえ、さすがにそんな大人げないことしませんよ。ただ、彼女が去り際に「こいつらじゃないならあいつね」と言っていたので教えてもらおうかと」
「オレが犯人知っとるとは限らんやろ!?」
「斬れば判る!」
「判るかどあほう!」
台詞と共に斬りかかってきたのをとりあえず避ける。やっぱ報復やんけ。てか、普通は斬られたらそこで人生終了、喋ること叶わずなんやけどね! でもって刃物怖っ。
「ええい、相手したるから表出んかい! もしこれ以上店内で暴れて商品壊してみい、全額賠償させるからな」
「……逃げませんか?」
「逃げへんよ。商品傷つけられたら困るし、この店壊れたらもっと困んねん」
「その言葉、信じますからね」
オレの言葉を信用して店の外に出る妖夢。悪いね、妖夢。たしかに逃げはしないと言ったけどね。
「オレが外に出るとは限らんのよね」
妖夢が開けたドアに『入室お断り』と書いて閉める。もちろんオレは店の中。
や、普通に考えて刀持ってるようなやつとまともに戦う訳ないやん。負けるの確定してるし、なにより怖いわ!
「ちょっと、何でドアを閉めるんですか。……あれ、中に入れない。秋さん、逃げないんじゃないんですか!」
「逃げてへんもん、妖夢が外に出ただけやよー」
「く、そんな屁理屈をっ。こうなったらドアを壊して――」
「残念やけど、黒白のマスタースパークにも耐えられるから妖夢には壊されへんのちゃうかな?」
『要塞』化したり、その他色々やっとるからね。こうでもせんと、紅魔館の図書館と同じ目にあって商品や酒が持ってかれるんや。
さて、なんや疲れたから本でも読んで寝よ……と思たけど妖夢が頑張って店を斬ろうとしててうるさいわ! 壁とかいたるところを強化しとるから刀が当たる度にキンキン、キンキンキンキンキンキンキンキン! なんでそこまでやって刀折れへんの!?
「ああもう、うっさいわ! そんなに黒幕知りたいんやったらさっちゃんとこ行ってこんかい、あの人黒幕追い詰めるところまでいった言うとったぞ!」
「……」
「……」
「……」
あ、静かになった。
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第12話
メイドに刺され、半霊に斬られかけ、魔女に魔砲撃たれ、巨大化した鬼に踏んづけられる。
今月はやけに厄介事に巻きこまれることが多かったから、今度厄神様に会いに行こう。
でも、厄神様にはどこで会うことが出来るのだろうか?
――メイドに刺される等自体には疑問を覚えなくなったのは、幻想郷になじんだということなんですかね、神様?
異世界での暮らし方 第12話
「よ、秋。お前が犯人らしいな?」
「二度ネタには死をぉぉぉ!」
「カヒュッ!?」
結局妖夢も黒幕を倒せず、普通に宴会が行われた日から2日目。そろそろ犯人扱いされんのもうんざりしてきたので、店に入ってきた黒白に地獄突きをくらわせた。
2度目やなくて3度目なんやけど、細かい事は気にしない方向で。
「ア、カー、ゲ、ゲホッ。お、おい秋。いくらなんでも地獄突きはやっちゃダメだぜ」
「安心せい、峰内じゃ。って、うそうそ、ついカッとなってやった、反省はしてないからそのミニ八卦炉をしまいなさい」
「たく、なんで挨拶しただけでこんな目に会うんだ? もっと広い心を持って欲しいぜ」
「あれを挨拶言い張るんかおまーは」
喧嘩売ってるとしか思われへん挨拶やったやんけ。まあ、流石に地獄突きは不味かったか?
でもそうなると殴る場所がなぁ。腹はまずいし顔もまずいし。どこぞの鋼の後継みたく横隔膜殴るか?
「やれやれ、あれぐら軽いジョークだぜ。そんなことで怒らないでくれよ」
「これでも我慢した方や」
「おいおい、嘘はいけないな。1発目から地獄突きするやつのどこが」
「仏の顔も3度まで、という言葉は知っとるか?」
「ああ、当たり前だぜ」
「なら――仏にも神でもないオレが3度も我慢する必要ないわな?」
なんせ御偉い神様や、人類救済しようとしたりする仏が3度までなんやもの。人間がそこまで我慢できる訳ないがな。そしてお前は記念すべき3人目や。
そう言うと黒白は呆れた顔をしてこっちを見てきおった。
「相変わらず屁理屈が得意なやつだな。まあそんなことよりだな、お前が犯人なんだろ?」
「ああ、すまんな。お前さんが勝手に食べようとしとったクッキーは新聞屋にあげてもうたよ」
「楽しみしてたんだぞ!? いや、そうじゃなくてだな、この異変の犯人がお前なんだろ?」
「ちゃいますよー」
「嘘をついてもダメだぜ。咲夜と妖夢の2人からちゃんとそう聞いたからな」
ええい、あいつらそんなに黒幕倒せんかったんが悔しいんか!?
オレにいやがらせして憂さ晴らしすんのはやめてほしい。これはさっさと異変解決せんと襲われ続けるんちゃうか、オレ?
あ、あかん。このままやと次あたり紅白がやってきて問答無用でデストロイされてまう。
「その2人にも言ったけど、オレちゃうから。そもそもお前らほど酒に強ないから、こんな異変起こしたないわ」
「他の連中もみんなそう言ってたぞ」
「言っても無駄な気がするけど、紫の方が怪しいで?」
「そっちは霊夢が行って、私が秋の方に来たんだ。私の勘も秋が怪しいと言ってるしな」
残念、紅白の方が良い勘しとるみたいやね。どうやら紅白と黒白は揃って白玉楼に出かけ、幽々子とも弾幕ごっこをしてたそうな。そして幽々子からは紫が怪しいと、妖夢からはオレが怪しいと聞いて、それぞれ別れたらしい。
しかし、ふむ。紅白が動いとるならこれで異変も解決するやろ。良かった良かった。ほな、これで後のことを気にせず符を使えるわ。
今まではまた襲撃されそうな予感しとったから逃げることに専念しとったけど、もうこの異変が終了するのが確定したんなら話は別や。ちょっとばかし派手にいこか。
「しゃーない、人の言うこと聞かん輩には、ちとばかしお灸すえるたるわ」
「お、珍しくやる気じゃないか。でも、いくらなんでも秋には負けないぜ?」
「足元すくわれんよう気いつけやー。でも、弾幕ごっこする前に」
「前に?」
「昼飯にしよう」
その瞬間、店内に電子レンジの音が鳴り響いた。今日の昼飯は、昨日の夜に作った焼そばや。
昼食もおいしく食べ、いざ店の外へ。妖夢ん時と違って今回はちゃんと勝負するつもりや。
「本当にちゃんと勝負するなんて、何を考えてるんだ? 空を飛べないお前が室外で勝てる可能性はほとんどないぜ」
まあ、オレは対空能力低いからな。高いとこ飛ばれたら認識することすらも厳しくて攻撃が当たりにくいし、オレの能力での攻撃がどこまで届くかも問題や。
でもそこは頭使えばええだけで。
「ややわー、黒白。んなもん制限するに決まっとるやん」
地面に『飛行禁止』と書いた立て札を突き刺す。
どんな立て札なのかとか、どこから出したんだという疑問は某水を被ると女になっちゃう漫画のパンダを思い出して欲しい。
「たまには地面駆け回るんも楽しいで? というか、子供なら子供らしく大地走り回っとかんかい、空飛ぶんは子供心を忘れない大人に任せとけ!」
「ただの嫉妬だぜそれは!? とにかく、そんな立て札ぐらい壊せば――」
たしかにあの立て札を壊せば、というより消し飛ばせば効果はなくなるやろね。せやけどその対策ぐらいしとる訳で。
「あ、それ『破壊禁止』な」
「お前、ほんっと性格悪いな!」
これぐらいせんとお前らと付き合っていくこと出来へんっての。しかも、こんな制限かけても、効果はやっと同じ土俵につけさせるだけやからなあ。お兄さん悲しくて涙でてくらぁ。ほんと、空飛べるって羨ましいわ。
でも、地上なら黒白よりオレの方が有利やろ。なんせ黒白と違って、毎日この足で生きとるからな。それに『神速符』も使えば、そんじょそこらの妖怪に負けん程度には機動力上がるし。もちろん、攻撃面では負けるに決まっとるけど。
ま、とりあえずは『神速符』を起動してっと。
「沈めや」
「うおっと、いきなりかよ」
速攻で飛び蹴りかましたものの、箒でガードされる。以前、魔力で身体強化も出来ると聞いとったんやけど、ほんとに出来るんやね。しかも『神速符』で強化してる速さについてきおった。
しかし、これは当たればラッキー程度の意味しかないので本来の目的、黒白の腕に文字を――『マザコン』と書き込む。
「それでやられてくれたら楽やったのに。一気に勝率下がったわ」
「パチュリーならやられてたかもしれないぜ」
「普通の魔法使いのイメージは、あんな感じとちゃうかな」
一般的な魔法使いのイメージと言えば、体力ないのが常識やろ。なのにこうも簡単に防がれるんは、何か納得いかんもんがあるなぁ。
まあええわ。次の手は――
「お返しだぜ。恋符『マスタースパーク』!」
「ちょ、この距離でかっ!?」
次の動作を中止、使う符を変更!
今身につけとるコートは城塞レベルの防御力持っとるけど、もしかしたら抜かれるかもしれん。せやから使う符はこれ!
「転符『こちらはあちら』」
受け止めるんが無理なら他んとこに飛ばせばええんよね。
あちら、というか転送先であるゴミ捨て場には『あちら』という符を貼っており、この『こちらはあちら』と書いた符に当たった物は全て『あちら』に転送されるという仕組みや。今頃ゴミ捨て場にあったゴミは消し飛んどるやろから、ゴミ燃やす手間省けてラッキー。どこぞの妖怪のスキマを見て思いついた符やけど、意外と使えるかもしれんなぁ。
「おいおい、当たって死んだらどうしてくれんねん?」
「死なない程度に加減してるぜ。それより、簡単にスペルを無効化された私の気持ちはどうしてくれるんだよ?」
お互いに笑顔を浮かべつつ睨み合い、そして。
「あれのどこが加減しとんねん。防御の薄い頭に当たったら、確実に毛根が死ぬわっ」
「その時は毛生え薬でも作ってくるから大丈夫。だから、マスタースパークを当てる実験に付き合ってもらうぜ!」
「そいつは世の男性が大喜びしそうやね。でも実験台はお断りやっ」
そして再びバトル開始。黒白は弾幕放ってオレの逃げ道を塞ごうとし、オレは逃げ回りながら文字を書き、隙をみては黒白を蹴り飛ばそうとする。別に火力のない弾幕は避けなくても服が弾いてくれるんやけど、怖いもんは怖いんで。しかも、運悪く服で覆われてないとこ当たったら弾かれへんからな。
しかもこいつ、近寄ったら箒振り回すんやけど、箒って見た目以上に痛いんよ。あの箒の掃く部分、あそこが痛い。前にその部分で顔を殴られたんやけど、無数の引っかき傷ができおった。なんで特に顔に当たらんよう気をつけて避けとるんよ。顔に傷できると、店に来た子供が泣くから困る。
そうこうしてるうちに、書いとった文字が完成や。
「悪いな黒白、この勝負オレの勝ちや」
「はあ、どうしたらそうなるんだ……あれ、何で私は地面に抱きついてるんだ?」
そう、文字が完成した瞬間、黒白は地面に抱きついたんよ、全力で。それはもう、こうギシっと抱きついとる。
「説明しよう。お前さんに書いた文字は『重度のマザコン』。んで、オレが弾幕避けつつ地面に書いた文字は、『母なる大地』と『溢れる母性』や」
「つまり、あー、もういいや、何か落ち着くぜ」
「要するに、マザコンはマザコンらしくお母さんに抱きついとけっちゅうこっちゃな。て、聞いてへんし」
黒白はこっちの話を聞きもせず、エヘヘーと笑いながら地面に頬を擦りつけとる。
んー、自分でやっといて何やけど、効果ありすぎちゃうか? ちと人格壊れてへんかこれ?
「ま、まあええわ。細かい事は気にせずお仕置きといこか」
「ん、お仕置き?」
「そう、お仕置き」
と言って取りだすは昔なつかしラジカセや。香霖堂で売っとったもんを買い取ったんよ。電源は『電源不要』と書いとるから問題あらへん。
「秋、そいつは一体何なんだ?」
「ラジカセ言うてな、録音した音を再生する機会や」
「へえ、そんな機械があるのか。それで、それがどうお仕置きに繋がるのか分からないんだぜ?」
「ここには、超弩級の音痴の歌が録音されとる」
その言葉を聞いてしばらく考えていた黒白の顔が、急に青くなった。たぶん、内容に検討がついたんやろね。
「そうや、お前さんの想像している通り、これからその歌を聞き続けてもらうわ。なあに、歌は2時間しかないけど、繰り返し再生してくれるから安心し。ボリュームも最大や――サービス満点やね?」
「お、おい待て秋。謝る、謝るから。そ、そうだ、前食べたいって言ってた牡丹鍋、作ってやるから落ち着こうぜ、な?」
「んふ、今日は朝まで寝かさないぜぃ」
その日は朝まで黒白の悲鳴と音痴の歌が近隣に鳴り響いていたと言う。人里にも当然響いとったそうやから、後日センセーに頭突きをくらった。いかんいかん、つい近所にある人里のことを忘れとったわ。次からは周りの迷惑考えてやらんと、またセンセーに頭突かれかねん。
そして翌日の宴会。
「あはは、ちょっとやりすぎたよ、ごめん!」
これ、今回の黒幕の第一声な。そしてなし崩し的に宴会に突入したわけやけど、気楽でええね、ここわ。外みたいに嫌な空気が続くこともないから素晴らしい。
で、この黒幕こと伊吹萃香やけど、種族が鬼らしい。ただしでかい角2本生えて、茶髪なロリ。どっからどう見ても幼女ですほんとありがとうございます。
うーん、鬼っちゅーんは赤や青色の肌しとって、ゴリマッチョで腰パン一丁で体毛濃いイメージあったんやけど、全然ちゃうがな。でもな、見た目はたしかに可愛いんやけど、そろそろ美少女やなくて美女が増えて欲しいんやけど。目の保養になるんが幽々子と藍さんぐらいしかおらんがな。あ、いや、鬼神童子みたいに大人な姿になることも出来るんやろか?
そして、そのロリ鬼と話がしたくて近づいてみた。周りには紅白や紫やらがおる。そして顔を赤くして紅白と鬼が口論しとる。
「やほ、紫。その2人は何を言い争っとるん?」
「萃香が、負けたのは全力を出せなかったからだからもう1度勝負しろと言って、霊夢がめんどくさいから嫌と言ってるのよ」
「ふーん、全力でも異変解決時の紅白には勝てへん気が。て、全力?」
そ、そう言えばうちの店に滅多に見ないアレが落ちとった気が。たしかポケットに……あった。
「なあなあ紫さん。あの萃香とかいう鬼って、分身できたりする?」
「できたりするわね」
「ほな、異変起こしてる最中に分身使って人の家を覗き見したりしとった?」
「分身は使ってないけど、それに近いことはしてたかしら」
あ、やべ。あの鬼が全力出せなかったんオレのせいか!?
どうしよ、素直に言っても怒られる気するわ。
「あら、どうしたの? ずいぶんと顔色が悪いですわ」
「じ、実はやね紫さん」
「はいはい」
「こんなものが店に落ちとってやね」
ポケットに入れとったキン消しを見せる。うちの店には『主人の許可なしに玄関以外から入るとキン消しになる』という文字が書いとる。そう、このキン消しは誰かがうちの店に不法侵入した時に出来るんや。
すると、紫の顔が引き攣った状態で固まった。
「えーっと、それはもしかして萃香の一部かしら?」
「たぶんな。ほら、角ついとるし。でもバッファ○ーマンはむしろセンセーな気がする」
「……」
「……」
「あなた――死ぬわ」
「怖っ!?」
光のない目でこっち見て言うのやめて!
というか、やっぱり死にますか。鬼に殴られて死にますか。それともバリボリ食べられてしにますか。
あ、こら紫、憐れんだ目でこっち見んな。待て、合掌するな、南無とか言うな。え、線香は1本でいいか? せめて3本くらいわ。じゃなくて、死ぬの確定なんか?
「だって、鬼は正々堂々という言葉と強い敵と戦うのが大好きな種族ですもの」
「てことは、霊夢達とのバトルを全力で楽しむことが出来ないようにしたオレって、本気でピンチ?」
「だからさっきからそう言ってるじゃない」
命の危機は去ったと思ったら、どうやらそんなことなかったらしい。むしろ悪化してるんちゃうか?
さっちゃんや妖夢に勝つような相手に逃げ切れるやろか。いや、むしろ正々堂々なんて言葉が好きなんやから、逃げたら余計に怒らせそうやな。さて、どないしよかね、この状況。
「さようなら、秋。あなたのことは忘れないわ。この宴会が終わるまでは」
「せめてもうちょい覚えてようや。ところで、黒白から没収した酒があるんやけど?」
「それで?」
「お嬢から巻き上げたワインもあるんよ」
「もう少し誠意を見せて欲しいわね」
ええい、これでもあかのかいっ。死にたくないんで紫を買収してるんやけど、それなりの酒2本でもあかんか。えーと、他に価値のありそんなんは。
「えと、結界の修復を1回手伝います」
「あら、そんなことまで出来るの。便利な能力ね――3回よ」
「多すぎや、1回」
「命助けてあげるんだからケチらないの。2回よ。まだごねるなら捨てるわよ」
「おっとそりゃ勘弁。ほな契約成立で」
「いいわよ。それじゃあついてきなさいな」
ロリ鬼と旧知だという紫が取りなしてくれたおかげで、その場で鉄拳制裁されることは無かった。だかしかし、今度バトルしよーぜということになった。なんてこった、これじゃあ命助かったんか、死ぬのが先延ばしになったんか分からんがな。
そして、その場のノリで萃香と飲み比べすることとなり、見事に潰されました。うぷ、気持ち悪い。
萃香には本来よりもちょっぴり弱体化してもらいました。
伏線は1話の後書きで張られていたんですよ、ホントですって。
この話で秋は魔理沙にも一応勝ったし、萃香を弱体化させるのにも役立ったし、久々に活躍したんじゃなかろうか。
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第13話
語尾を伸ばして発音してしまうのは関西弁の特徴なので、修正しろと言われても修正できないんだ。
そう説明すれば鉄拳制裁はされなかったのにと今更気付いた。
あの拳はほんっとに痛いんだ。
異世界での暮らし方 第13話
目の前に写るは誰しもが苦手とする場所。そして、オレがもう世話になることはないと思っていた場所でもある。そう、その名も寺子屋、子供たちがひーこら言いながら勉強をする場所や。
そういや、東風谷は無事に高校進学できたんやろか? あいつスペック高いのにどっかぬけとるからなぁ。
そんなことを思いつつ、扉を開けてこの家の主に声をかける。
「センセー、頼まれとった問題用紙作ってきましたわ」
「毎度毎度すまないな。ふむ、時間もちょうど良いことだし、お茶にしようか。秋も食べていくといい」
「ごちになりまーす」
生徒でもないオレがここに来たんは、細工をしたテストの答案用紙を、センセーこと上白沢慧音先生に渡すためや。センセーには人里に住んとった時に世話なったし、幻想郷のことについても教わった。そん時の恩もあるんで、安めの値段で仕事を引き受けとる。それに、楽しい仕事でもあるしな。
センセーとちゃぶ台を挟んで座り、今回の細工について説明をする。お、この煎餅美味いなぁ。どこのやろ?
「今回は『カンニングすると20分間笑いが止まらなくなる』にしてみました」
「それならまあ、いいだろう。この前はやりすぎたからな」
オレが頼まれとる仕事は、テストの答案用紙に『カンニングすると○○になる』と書くことや。これによって、カンニングしたやつはすぐバレる。オレ個人としては、バレないようにカンニングする方法考えるんも大切やと思うんやけどね。まあ、そんなこと考えるんは少数派やし、言うたらセンセーに怒られるから言わんけど。
「そう? 結構良かったと思うんやけどなぁ、アフロ。子供もおもしろがっとったし」
「たしかに子供達はおもしろがっていたが、親御さん達から苦情がきたんだぞ――この触り心地は卑怯だ、と」
「いや、それは自業自得とちゃうか?」
「それと、どうやっても髪が元に戻らないから、結局丸刈りにしたらしい」
「ちゃんと注記しとんのにカンニングする方が悪い。というか、いい加減学習せえへんかなあいつら」
毎回毎回カンニングして罰受ける面子が変わらんことに、2人して頭を抱える。マゾなんか、それともセンセーに怒られたいというちょっと性癖ヤバメなマゾなんやろか?
「どないすんのセンセー。これやとカンニング抑止の効果はないで? カンニング発見には役立っとるけど」
「これを機に、みんなが真面目に勉強してくれるかと思ったのだが」
「「はぁー」」
子供の反骨精神と好奇心を見縊ってたのが敗因なんかね。そりゃダメと言われたら余計にやりたくなるわなぁ。それでも諦め悪すぎるけどな。
「もうちょい過激にしたらどうやろ?」
「例えばどんなのだ? 相手は子供なんだから、あまりにも過激なのはだめだぞ」
「カンニングしたら電気ショック」
「初めっから過激すぎる!?」
「カンニングしたら生涯ハゲ」
「カンニングの罰にしては重すぎる!」
「カンニングしたらブルァ!」
「よく分からないがやめておけっ」
「カンニングしたら痔」
「だから相手は子供ということを忘れてないか!?」
「カンニングしたら生涯魔法使い」
「魔法使いが罰になるのか?」
「……しもた、こんなところで世界のギャップが」
「うん?」
そうやった、ここでは職業魔法使いも種族魔法使いも存在するんやった。いいテンポでボケてたのに、こんなことでボケが不発に終わるとは! ツッコミないボケなんて虚しすぎるわ。
「いえいえ、気にせんといてください。ほな気をとりなおして」
「今度こそまともなやつなんだろうな?」
「カンニングしたら」
「したら?」
「負け犬人生」
「だからどうしてカンニングの罰でそこまでするんだ!」
「誘惑に駆られて取った安易な選択が、自分の人生を大きく左右するということを知ってもらいたくて」
「いや、言っていることは間違ってないのだが」
「大丈夫やって。いざとなれば、センセーがなかったことにすればええんやから」
「そんな信頼の仕方は、先生悲しいぞ……」
それでも頼りにしてます、センセーの『歴史を食べる程度の能力』。
その後も話を続け、次回の罰は閻魔様にお説教してもらうことになった。これ、センセーの案なんやけど、この人も結構手加減せえへんよね?
「やっほー、慧音。猪が獲れたから持ってきたよ。一緒に食べよう……て、秋!?」
「やほー、もっこもこ。けっこう大きい猪やん。やっぱ絞め殺したんか?」
「ふむ、これなら3人で食べてもお釣りが出るな」
「だろう。罠を仕掛けてたら引っ掛かってたんだ。それと、誰がもっこもこか!」
扉開いて入ってきたのは藤原妹紅。日本人らしいがとてもそうは思えない髪の色ともんぺが目印の少女っぽい人や。こうして偶に食料を持って、センセーの家にやってくる。
「もこーやからもっこもこでええやん。もこたんはイヤなんやろ?」
「あの、可愛らしい呼び方は私に似合わないというか、その、分かれよ!」
「まさかの逆ギレ!?」
「キレてないっ。バカ秋が女心を分かってないから忠告しただけだよ」
「可愛らしいを否定したのはお前やんけ」
「そもそも秋は妹紅の発音がおかしいんだ。もこーじゃなくて、妹紅。も・こ・う。分かった?」
「せやからもこーで合っとるやん?」
うん、普通に妹紅を発音しとるがな。何の問題があるんや? しかし、どうやらこのもっこもこ、納得がいかへんみたいでこっちに詰め寄って訂正を要求してきおった。
「いや、もこーじゃなくて、もこう」
「もこー」
「もこう」
「もこー」
「もこう」
「もこー!」
「もこう!」
「も・こ・ー!」
「も・こ・う!」
あかん、もう引っ込みつかへん。それはどうやらあちらさんも同じみたいで、目を吊り上げてこっちを見とる。
よろしい、ならば根競べだ。お互い足を1歩踏み出し、額をつき合わせる。そして大きく息を吸い元気な声ではっきりと!
「「もこ――」」
「2人とも、いい加減にしないか!」
あいたたたぁ。いざ勝負、と思った瞬間に頭と額に衝撃が走り、手をあてて蹲る。痛みを堪えて目を開けると、もっこもこも同じように頭を抑えて蹲っとる。そして、こいつも蹲っとるとなると、殴った犯人は1人しかおらん訳で。もっこもこも自分を襲った衝撃の正体に気付き、2人して上を見上げる。
すると、やはりそこには怒れる鬼教師がおった。
「セ、センセー、どつかんでもええがな」
「そうだよ、慧音の拳は結構痛いんだよ?」
「そうは言ってもだな、お前たちはこうでもしないと止まらないだろう」
センセーは困った顔をしてそう言うけど、そんなことないよなぁ? たしかにこの前も制止の声に気付かずどつかれたけど。その前も相手を言い負かすのに熱中しすぎて制止の声聞こえんかったけど。あれ、もしかしてセンセーの言ってること否定できへんよ?
「うん、ムキになって言い返してくるもっこもこが悪い」
「おいおい、ムキになってるのは秋も変わらないじゃないか」
「はいはい、言い分は後で聞くから。ほら、猪の解体は終わったから、2人とも料理を手伝ってくれ」
「オレ、料理下手なんやけどなぁ」
「野菜切ったり、お皿運んだりするくらい出来るだろう。慧音が呼んでるんだから、さっさと行くよ」
もこーに首根っこ掴まれて連行されたんやけど、やっぱこいつセンセーの言うことは割りと素直に聞くよなぁ。オレなんて言うことのほとんどに噛みつかれんのに。村の人ともそんなに話さんこいつと、センセーはどうやって打ち解けることが出来たんやろ?
今回、もこーもちゃんと料理を作れることが判明した。うーん、オレも料理勉強した方がええんかもしれんなぁ。何より、もこーに負けとるというんが嫌や。今度誰かに料理教えてもらお。
「歩いて5分のとこに家あんのに、センセーも心配しすぎなんよ」
「それだけ慧音が気に掛けてるってことだよ、きっと。それに、秋がよく襲われるのも本当のことだし」
や、やめて、そんな憐れんだ目でこっちを見んといて! たしかにお嬢とかルーミアとかに襲いかかられることが多々あるんは事実やけど、流石にすぐそこの家行くまでに襲われたことはないと思うんよ。それでも心配したセンセーが、もこーを護衛につけてくれた結果、こうして夜の道を2人で歩いとる。
「お嬢レベルはともかく、そんじょそこらの妖怪ぐらいなら逃げ切れるようにはなったんやけどなぁ」
「撃退じゃなくて逃げ切るっていうところが不安なんじゃないか?」
「んー、撃退しよう思ったら出来なくはないんやけど、その後リベンジしに店に来られるようなったら困るやん?」
オレは能力もあるし、店が要塞と化してるから平気なんやけど、店に来るお客さんが巻き添えくらったり狙われたりして怪我されたらかなわんからなぁ。特に子供は一部の例外を除いて、妖怪からは逃げられんやろうし。
「そうだなぁ、巻き添えにするとまずいかな。でも、お前さん本当に撃退できるの? 前はルーミアに左腕食べられてたのに」
「男子三日会わざればアテンションプリーズ! オレが昔のまま立ち止っとる思うたら困る」
「へぇ、やけに自信あるみたいじゃないか」
「うん、出合い頭に速攻で頭殴ればなんとか」
「それだけか!?」
この前、鬼っ娘と勝負して分かったんやけど、しっかりと強化してやれば身体能力は鬼といい勝負出来る。せやから、1発でも殴ることが出来たらなんとか撃退できる。ただ、身体の動かし方についてはド素人やから、1発でケリつけれんかったらどんどん勝率下がっていくんやろうけどな。それに、身体能力上がっても反射神経や動体視力はそのまんまやから、自分の動きがあんまし把握できへんし。
今度、そっちの方も強化できるか試してみよ。
「せやから大丈夫。鬼より力弱かったら殴ればなんとかなるって」
「秋、お前もとうとう博麗の巫女や紅魔館のところのメイドの仲間入りをしたんだな」
もっこもこがちょっと体を引いてそんなことを言ってきた。まったく失礼な。まだあそこまで出鱈目な人間になったつもりはないで。
「たかが身体能力強化してるだけやん」
「それで鬼についていけるようになったら充分異常だよ」
もこーは呆れた顔してるけど、そんなにおかしいことなんやろか? あの鬼は「昔の人間みたいなやつだね」とか言って上機嫌になっとったから、そう珍しい訳でもない思うんやけどね。
「その鬼も昔の人間って言ってるだろう。今となっては珍しいんだよ、バカ秋。しかもお前は生まれ持った肉体がある訳でもなく、鍛えた訳でもない。ただ文字を書いただけで身体能力が鬼に近くなるから異常なんだ」
「呪文唱えるだけで強化されたりする魔法使いと大差ないっての」
「それはそうかもしれないけど。まぁ、これから頑張れ。きっと色んな連中に目をつけられるからさ」
そのうち鴉天狗の新聞に鬼との勝負の記事が載るぞ、ともこーが笑う。笑えへん、全っ然笑われへんよその予測。ああ、きっとどこぞのお嬢の好奇心が刺激されて、紅魔館に招待されるんやろなぁ。色々準備しとこか。
それからも世間話をしとったら我が家が見えてきた。
「ほなもこー、付き添ってくれておおきに。妖怪とは出会わんかったけど、助かったわ」
「慧音に頼まれたら断れないからね。だけど、まあ、その、困ってることがあって私にどうにかできることなら、今後も助けてやらないこともないから」
「もこー……」
実はこいつ、センセーに負けず劣らずの良い人なんちゃうか? 文句言いながらもこうやって一緒に帰ってくれるし、普段は口喧嘩ばっかしてんのに助けてやると言ってくれるし。なんというか、漢らしいという言葉が似合いそうやね。もこーは女の子やけど。
「な、なんだよその目は」
「いやー、もこーさんは優しいなぁ思ってな」
「んな!? そ、そんなことないから。お前に何かあったら、慧音が悲しむからだな」
顔を赤くして慌てて喋っても信憑性あらへんって。それに目線が泳いでるぞーっと。
「だから慧音が悲しむからだってば。はぁ、もういいや、私は帰るよ」
「あいよ、お疲れ様。またねー」
「家が目の前にあっても、中に入るまでは油断するなよ。じゃあね」
妹紅は地面を蹴り、空を飛んで帰って行った。やっぱ自力で空飛べるんは便利そうやね。
「ふむ、今度お嬢から館に招待されたら一緒に行ってもらおか。もこーがおったら弾幕ごっこに巻き込まれても守りきってくれるやろ」
「へぇ、ならそのもこーとやらがいない今攫っていくことにするわ。咲夜!」
「はい、お嬢様」
「なんやって!?」
いきなり聞こえてきた声に驚いて振り返ると、そこにはお嬢とさっちゃんがいた。いったいいつの間に? そしてなんでロープで手を縛られてるんでしょか?
「今夜は私の館でパーティよ」
「招待状は昨日、里へ買い物にいくついでに届けさせていただきましたわ」
「パーティの日は明日やなかったか?」
「明日はパチェが仕事を手伝って欲しいって言ってたわ。だから予定を繰り上げたの」
「無茶苦茶やな、おい!」
「秋、さっさと諦めなさいな。それではお嬢様」
「ええ、秋の運搬は任せるわ」
その言葉が終わると、いつの間にか空に浮かんどった。ただし、手を縛ってるロープをさっちゃんが引っ張って浮かんでるんやけどね。
「うおっ、怖っ。命綱がロープ1本で宙に浮かぶって怖っ」
「怖いからと言って、上を見たら殺しますわ」
「はい、絶対見ません咲夜さん!」
「血を吸わせてくれたら、私が直接抱きかかえて連れて行ってあげるわよ?」
「それはそれで恥ずかしいし怖いからいややー!」
こうして間抜けな姿で紅魔館に連行されるのであった。
あー、お嬢? 最近吸ってなかったからって人の首筋を舐めるように見つめるのはやめよか。精神衛生上悪いから。
今日中にもう1回投稿します。
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第14話
紅魔館にある図書館には料理の本から建築の本まで様々なジャンルの本がある。
しかし、やはり最も力を入れて収集しているのは、ここの住人の影響があるので魔導書だと言える。
ただ、その、『ぼくがかんがえたさいきょうのまほう』という本があるのはどうかと思う。
え、中身は戯言が書き殴られてるだけだけど、オレが書いたらちゃんとした魔導書になる?
――神様、ちょっと心動いたオレは、まだ厨二病が治ってないのでしょうか?
異世界での暮らし方 第14話
お嬢のとこに拉致られて宴会が行われた翌日、オレは紅魔館の図書館に仕事をしにきた。
ここに住んどる魔女の依頼で魔導書の写本を作っとるんやけど、それなりの危険性がある代わりに報酬がすごいんよね。質素にしとけば1回の依頼で3ヶ月は暮らせる。
まぁ、宴会しとったら1ヶ月ぐらいで消えるんやけどな。
「で、今回は何を複製すりゃええの?」
「そうね……そこの棚の本をやってちょうだい」
「棚全部!? いくらなんでも多すぎるわっ」
「この前、貴方を後ろに乗せずに魔理沙がやってきて、ストックを根こそぎ持っていかれたわ」
「なんてこったい」
黒白はよくこの図書館にやってきては魔導書を盗んでいく。本人曰く「死ぬまで借りるだけだぜ」とのことやけど、あれは盗むとしか言い様がないわ。
で、魔導書がどんどん盗まれることに危機感を覚えた図書館の住人、つまり目の前におる魔女、パチュリー・ノーレッジがオレの能力に目をつけて依頼を出したのが紅魔館の連中との縁の始まりや。
ちなみにこの魔女、紫色の瞳と長い髪、そしてパジャマのような服装が特徴やね。それと各所につけられた、色が左右非対称なリボン。本人は喘息持ちで身体が弱いとのことやけど、弾幕ごっことなると得意の魔法が雨霰と降り注ぐから舐めてかかると痛い目を見る。
依頼内容はオレが手書きで写本を作る。すると能力のおかげで力ある魔導書がそっくりそのまま、内容も力も簡単に複製できる。そして黒白が図書館に突撃する際は箒の後ろに乗って思考や道を誘導し、複製した魔導書のみを盗ませるという一連の流れが仕事や。
目の前におる魔女が言うには、下手な魔法使いが書くよりもオレがやった方が力ある魔導書が出来上がるらしい。へっぽこ魔法使いが書いた魔導書をオレが複製した場合、原本を越える力を発揮したとも言っとったな、そういえば。
まぁ、オレの能力を活かせる天職なんよね、この魔導書を書くという仕事は。
でも、黒白にはバレんようにすんのが意外と面倒くさくてなあ。あいつ、やけに鼻がいいうえに、知ったら絶対悪巧みしおるからな、アイツ。
「ストックは棚2つ分はあったはずやけど?」
「人形遣いと一緒に来て強奪されたわ」
「あー、ご愁傷様」
よりによって、魔法使い2人組みで来たんかい。魔女の顔が腹立たしげに歪んどるから、きっと弾幕ごっこでやられて倒れてる間に根こそぎ持ってかれたんやろなぁ。
この図書館、現代の図書館とは違い誰にでも開放しとる訳やない。アレクサンドリア大王の図書館や日本帝国時代の図書館のように、基本的には開放してなかったり、限られた身分の人間しか閲覧できへん図書館や。ユネスコ公共図書館宣言なんてない時代に建てられたなら、しょうがないといえばしょうがないんやけどね。まあ、自称図書館やし。
「だから早く書いてちょうだい、早急に、魔理沙がまた来る前に、今すぐ、ナウ!」
「分かった分かった。だから落ち着け、な?」
顔が近い近い! 本を奪われたのが悔しいのか、この魔女にしては珍しく興奮してオレに詰め寄ってきとる。
女性の顔を近くで拝めるんは普通に考えると嬉しいんやけど、瞳から光が消えとるから怖いんやって。こう、いきなり包丁とかでブスっと腹を刺されそうで。あと、そんなに興奮して喘息大丈夫なんですかね!?
「なら今すぐやりなさい。終わるまで帰さないわ」
「セリフだけ聞くと色っぽいのに、全っ然色っぽくない!」
「準備は出来ているわ。今回は前みたいな事故が起こらないように結界も張ってあるから」
「つまり事故が起こるかもしれんってことか!? んなもん複製させんといで欲しいんやけど」
「さあ、やってちょうだい。食事とかは小悪魔が持って来てくれるわ」
「最後まで無視ですかこのやろう」
魔女は言いたい事だけ言うと、いつも通り椅子に座って本を読み出した。時々顔を上げてこっちを見てきてさっさと作業しろと催促までしてきおる。ああもう、分かりました、さっさと作業しますよ、はぁ。
4時間後
「手、手が、手がぁぁぁ!」
つる、そろそろ手がつる! 字の書きすぎで手が痛い! というか指に力が入らんねんんけど。
なんで科学の発達したこのご時勢にこんな卒論を手書きでやってた大学生の気分を味わわなあかんのよと思うわけやけど神様どうよ。て、幻想郷におる神様やったら外の世界のことなんて分かるわけないかっ!
「あら、思ったよりも早く限界になったのね」
「外の世界におった頃はパソコンあったから手で書かんでもよかったからなぁ。こんなに手を酷使したんは小学校の漢字の練習依頼やわ。そんな訳で休憩――」
「手を出してちょうだい。治療するわ」
「――え?」
「その程度の痛み、簡単に治療できるもの。痛みが取れたら作業できるわね?」
「んな殺生なっ!」
この魔女、疲れたら回復魔法使って延々と働かすつもりか!?
この読めもしない文字をただひたすらに書き写すってしんどいんやけど。でもって、いくら痛みとれてもテンションがもたんのやけど。こんな理解できへん文字見てもなんもおもしろないわ。
「おもしろくないのは、貴方がその文字について勉強しないからよ」
「勉強したくても辞書の類を貸してもらえないんですけどねえ!」
「だって、貴方が力を付け過ぎないように辞書等は貸さないと、レミィとどこぞの妖怪が協定結んじゃったんだもの」
「お嬢と協定結べるほどの力を持っとって、なおかつオレの能力を危険視してるとなると……紫か!?」
「まぁ、その協定もレミィが結んだから私も一応守ってるだけなんだけど」
「ほな――」
「ダメよ。貴方とレミィだったら、優先度はレミィの方が高いもの。でも」
「でも?」
「辞書は貸せないけど、私が口頭で教えるのは禁止されてないわ」
「禁止されてないっちゃされてないけど、グレーゾーンやん。そんなことしてええの?」
「私は貴方がどこまで出来るようになるか興味があるの」
それに、貴方の能力が上がれば上がるほど写本してもらえる本も増えるわ、と魔女はにやりと笑いながら答えてくれた。
どうやら魔女は知識欲を抑えきれんから、禁止されてない方法でオレに文字の知識を与えてくれるみたいや。しょうみ今以上のヤバイ本は遠慮したいんやけど、文字読めたらこの作業も少しは楽しくなりそうやし、習ってみよかね。
「教えてくれる言うんなら教えてもらうわ。で、授業料は?」
「私の好奇心を満たすためだから、そこまで高額な要求はしないわ。それに、魔導書の写本を作ってもらうついでだし」
「そっちがそれでええならかまへんけどな」
「ただし、これだけは守ってもらうわ」
「お、おう」
なんや真剣な表情になりおったぞ。やっぱ危険なことあるんやろか?
ルーン文字みたいなんもあるかもしれんし、知れば知るほど狂気に侵されるとか?
「私が教えるんだから、魔理沙に教わるのは禁止よ。それとあの人形使いにもよ」
「はい?」
「私は貴方が私の教えによって成長していくのが見たいの。そこに他人の手が加わるなんて論外よ。それに、教え方が違ったせいで変な理解の仕方をして怪我するかもしれないわよ?」
「あんたはどこの芸術家や。……ま、安心し。他の魔法使いよりも魔女さんの知識を信頼しとるから」
図書館に引き篭もっとるだけあって、知識量はかなりあるからなあ。その知識量はセンセーにも引けを取らんやろ。どっちの方が知識が豊富かは知らんけどな!
しかし、そんな人に教えてもらうのに授業料なしってのは、なーんか心苦しいな。
「その信頼の仕方は悪くないわね。さて、今はそのことよりも、治療をして続きを書いてもらうわ」
「いや、お願いやから休憩をやね」
「パチュリー様、秋さん、お茶の時間にしませんか?」
ありがとう小悪魔様! 今ならあなたが女神様に見える!
「いやほんま助かったわ。おおきに小悪魔さん」
「あはは、パチュリー様は本の事になると人が変わりますからね」
「そんなことないわ。ちょっと熱くなってただけじゃない」
パチュリーと一緒にいることが多い、赤い髪の毛した小悪魔さんがタイミング良くお茶とお菓子を持って来てくれたので、これ幸いと休憩に。いやぁ、ほんと小悪魔さんには感謝せんと。
ただ、作業を中断させられた魔女の小悪魔さんを見る目には殺意が篭っとったね、うん。図書館に入ってきた小悪魔さん、顔を青くしてオロオロしとったし。おぉ、怖っ。
ちなみにこの小悪魔さん。名前やどういった経緯でこの紅魔館にいるのかを聞いても、人差し指を立てて「それは秘密です」と言って教えてくれへんのよね。あんたはどこのおかっぱ魔族やねん。
「あれでちょっと?」
「ちょっと、よ」
「嘘だ!」
「本気でやらせようと思ったら、洗脳ぐらいしてるわ」
「パチュリー様ならやりかねません」
「おっかない魔女やなぁ」
幻想郷の知り合いの中では比較的おとなしい魔女でさえこれやもんなぁ。なんというか、手加減するレベルが外と違って過激派が多いよな。一番過激なんは紅白かどこぞの半人半霊かな。
紅白はすぐに御札が飛んでくるし、半人半霊は怒っても慌てても何してもツッコミが斬撃やし。あいつらの夫になる人はそれに耐えられんとあかんのか、しんどそうやね。どっちもおっそろしい姑がおるし。
「そこまで言うならしょうがないわ。お菓子没収」
「まだ食べてへんのにっ!」
「あ、あの、パチュリー様? そんなことで怒らなくても」
「それ以上文句を言うならロイヤルフレア」
「「すみませんでした!」」
小悪魔さんと2人して即刻謝る。いや、だって既にスペルカード片手に構えてるんやものこの魔女。
「くそう、今から仕事の続きやるからオレの分のおやつ食べるなよ、絶対だぞ。食べたら味覚音痴にするからな!」
「それはあなたの頑張りしだいよ。仕事が遅かったら胃袋に消えるわ――小悪魔の」
「え、私なんですか!?」
「こんな量の本、どんだけ頑張っても遅くなるわっ!」
秋が仕事に戻るのを見届けて、取り上げていたお菓子をテーブルに戻す。まったく、ちゃんと治療すると言ってるのに何で休もうとするのかしら。
「本当にこんなことしてよかったんですか? 秋さん、変な笑い声をあげてますけど」
「問題ないわ、偶にあることだもの。ところで、疲労に効くお茶でも淹れてきてくれないかしら。時間は2時間後ぐらいでいいわ」
「……素直じゃないですねぇ。いつもそうやって心配してあげたらいいじゃないですか」
そうしたら好感度が上がりますよ、と小悪魔は笑うけど、なんで私が秋の好感度を上げないといけないのよ。
「心配してるんじゃなくて、2時間後には私が疲れるはずだから飲みたいだけよ。写本が間違ってないかは私が確かめないとダメなんだから」
「はいはい、そういうことにしておきます」
秋の能力が有能なのは認めるけど、時々誤字脱字があるから私が確認をしないといけないのが難点ね。でも、悔しいけど秋が魔導書を書いた方が力のある魔導書が出来上がるのよね。
「ところでパチュリー様」
「何かしら?」
「秋さんが開いている本から、何か出てこようとしてるのは気のせいですか?」
「えっ!?」
小悪魔の言葉に驚いて秋のいる方を見てみると、そこには本から出てこようと。いえ、呼び出されようとしているナニカと、その場から動かないバカが。おかしい。こういった事故がおこらないように、ちゃんと結界を張ってあるのに。もしかして、秋が書いた文字によって結界が切り裂かれた?
「秋さん、急いでそこから逃げてください!」
「いやぁ、そうしたいんはやまやまなんやけどね。足に力が入らんから立つことすら出来んのよ。いやぁ、困った困った」
「笑ってる場合じゃありませんよ!」
何か2人が騒がしいけど、とりあえずこんなこともあろうかと用意していた魔法を発動させる。
ほんっと、トラブルに愛されてるわね。魔導書絡みの事故を何度も体験するなんて、滅多にないわよ?
「ポチっとな」
その一言と共に、秋の姿が消えた。無事に転送できたみたいね。成功するかは半々だったけど、上手くいってよかったわ。
「パ、パパパパパチュリー様!? 秋さん消えちゃいましたよ、食べられちゃったんですか!?」
「まだ完全に出てきてすらないのに食べられる訳ないでしょ、落ち着きなさい」
「でも消えちゃいましたよ?」
「非常事態が起こったら転送されるようにしといたのよ」
「はぁ。秋さん、絶対に驚きますよ。それでどこに転送されたんですか?」
「紅魔館で一番強い存在のところ。つまり、レミィか咲夜のところよ」
レミィか咲夜の近くにいたら、何だかんだ言ってもあの2人が助けてくれるわ。まぁ、後で血を吸われたり、騒動に巻き込まれるかもしれないけど、死ぬよりはマシよね。
「あ、あの。お嬢様は昨日の宴会のせいで二日酔いで寝込んでるんですけど」
「なら咲夜のところに転送されてると思うわ」
「お嬢様より一足先に酔い潰されていました」
「ということは?」
「能力を使う余裕すらないみたいですね」
困ったわ、まさか2人同時に使い物にならなくなるなんて想定外よ。まずいわね、もしかしたら秋の転送先は……
「さっさとアレを送り還すか消滅させて、秋を救出しに行くわよ」
「あ、あの、もしかしなくても秋さんは」
「妹様のところに行った可能性が高いわね」
気がつくとそこは――どこやろか?
「あら、また知らない人間。しかも咲夜みたいにいきなり部屋に現れるなんて。もしかして咲夜の弟か子供?」
「あの人の伴侶はまだ見たことないなぁ。それに、咲夜さんに彼氏出来たらお嬢が大暴れするんちゃうかな」
「それもそうね。ところで――」
「「あんたダレ?」」
気付けば知らん部屋で宝石みたいなんがぶら下がっとる羽を付けた女の子と2人っきり。なーんか、嫌な予感がするんよね。
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第15話
久々に綺麗なお花畑で会長と再会したんで殴ろうとしたら、姉さんに止められました。
どうやらお互いに死にかけて三途の河に来てしまったそうな。
とりあえず姉さんに死ぬにはちょっとだけ早いと言われて現世に送り返されたけど、ちょっとだけなのか、早いのは?
異世界での暮らし方 第15話
いきなり転送された先で出会った少女とお互いに自己紹介して分かったんやけど、この少女はお嬢の妹でフランドール・スカーレットというらしい。
お嬢は髪が青色やけど、この少女は金色。おまけにお嬢の羽は蝙蝠っぽいんやけど、妹さんのは木の枝に宝石がぶら下がっとるような感じの羽や。
妖怪となると、姉妹でもかなり容姿に違いがでるんやねぇ。やっぱ人間より個性強いからやろか?
「ふーん、もしかしてお兄さんが、咲夜の言ってたお姉さまが最近興味を持ってる玩具?」
「誰が玩具や、誰が」
「だって、この館に訪れていてなおかつ未だに生きてる男って、その玩具しかいないもの」
「分かっちゃいたけど、どんだけデンジャラスやねんこの館!?」
「だって吸血鬼が主の館なんだもの」
妹さんはケラケラと笑いながら言うけど、か弱い人間からしてみると笑う要素が全っ然見つからんのやけど。
しょっぱなからフレンドリーで平和的な妖怪ってのも中々想像出来へんから、恐ろしい吸血鬼の館ってのは正しい姿なんやろうけどな。
そんな所に何度も訪れとるけど、紅白達と違って弾幕ごっこ出来へんのによく今まで生きてこれたなオレ。何の神様が祀られとるか知らんけど、博麗神社にお参りしとるご利益か?
「なのに、何であなたはまだ生きてるのかしら?」
「いきなりやな、おい」
「やっぱり、話と違って本当は人間って強いのかしら。この前来た霊夢や魔理沙も強かったし」
「いやいや、あいつらは別格ちゃうかな。普通の人間の枠で考えたらアカンのちゃうかな」
「咲夜だって強いよ?」
「あの人はむしろ人間なのか疑わしい時があるわ」
なんでそうピンポイントで人外の領域に足突っ込んどる人間ばっか例に挙げるんかな、この少女は。もっと普通の人間はおらんのかい。
「私が見たある生きてる人間ってそれぐらいだもの」
「少なっ! あ、いや、この館には人おらんから当たり前か」
「咲夜が食事に混ぜてくれた血は見た事あるんだけどね」
「んー、中々に想像力かき立てる話をありがとう。でもお兄さん、その話は聞きたくなかったなぁ!」
「それでね、人間の男って初めてなの」
「あんたも人の話聞かんタイプかい」
あと、その「オラ、ワクワクしてきたぞ」な顔止めてくれへんかな。お兄さん嫌な予感しかせえへんよ?
ちょっと前はそんな顔した鬼っ娘に勝負挑まれたし、妙な噂聞きつけた天狗が突撃取材してきたし、黒白に変な薬飲まされたし。
まさかこいつまでオレを玩具にしようというんやないやろね?
そしたら今度は全力で抵抗するぞ。魔女の依頼を受けた時は、念のため装備は万全にしとるからな。
「人間って、男の人の方が身体能力は強いんでしょ? なら、あなたは魔理沙達よりも強い」
「強くない、強ない。すんごい弱いよオレ」
「さあ、私と遊びましょう? 種目は幻想郷で流行りの弾幕ごっこ! お姉さまを楽しませてるように、私も楽しませてちょうだい」
「オレは流行りには疎いんや!」
言い放つと同時に部屋の外へと飛び出る。
部屋の扉にはなんや鍵が掛かってたっぽいけど、緊急やったから文字通り吹き飛んでもらった。悠長に鍵開けてたらたぶん弾幕で蜂の巣にされてたんちゃうかな。あのお嬢の妹やから、おそらく弾幕の威力も緻密さも最上級やろうしね。ま、そもそも鍵なんて持ってへんけどなっ!
「あれ、お兄さん、弾幕ごっこじゃなくて鬼ごっこにするの? いきなり種目を変えるのは禁止だけど、追いかけながら弾幕ごっこすれば両方出来てお得だよね、アハハハハ!」
後ろからそんな声が聞こえてくるけど、全然お得ちゃうわ!
しっかし、なんかキャラ変わっとるような気が。まさかあれが噂に聞く戦闘狂か?
扉吹き飛ばさずに閉じ込めといた方が良かったかねぇ。
「アハ、お兄さんって空飛べないのに弾幕避けるの上手だね! でも、そっちも攻撃してこないと勝てないよ?」
「だから、弾幕ごっこなんて、出来ない言うてるがな」
「もう、またそんなこと言う。お姉様とは遊べるのに私とは遊んでくれないの!?」
妹さんは頬を膨らませて文句を言うてくる。
でも、ホントに弾幕ごっこは出来へんし、お嬢と弾幕ごっこで遊んだことはないんやけどね。というか、いつあいつと遊んだんやオレ?
あー、もしかして、お嬢の吸血行為から毎回必死で逃げてるのを指してるんかな。だとしたら嫌な遊びやなぁ、オイ。
しかし、さっきからずっと逃げつつけとるんやけど、妹さん凄いね。空飛べなかったら、この前の鬼並に身体能力を強化したオレの方が速いと思って『飛行禁止』と壁に書いたのに、走っても余裕でついてくるんやもんなぁ。吸血鬼って身体能力も優れとったんやね。
おかげで現在進行形で、必死こいて足を動かしてます。明日は筋肉痛確定や。
「だから本当に弾幕ごっこは出来へんの、ごめんね。って、また掠ったやんけ!?」
「当たっても平気なくせに文句言わないでよ。けど、それだけ丈夫ならいっぱい遊べるよね」
「黒白のマスタースパーク喰らっても平気なこのコートを舐めんなよ! あ、いや、調子にのってごねんなさい。弾幕ごっこの密度濃くせんといて。頭は、頭はアウトやからっ!」
「ほらほら、この調子でコートに守られてない頭とか狙っちゃうからしっかり避けてちょうだい。それが嫌ならちょっとは反撃しなさい。じゃないと、つまらなくなって壊しちゃうよ?」
妹さんの弾幕が、明らかに頭部を狙う弾道が増えてきた。いやぁ、なんというかこのままでも壊されそうない、オレ?
攻撃手段はあるにはあるんやけど、お嬢用の切札やから、こんなところで使ったら対策取られてまうしなぁ。お嬢用やから妹さんにも効果はあるはずやけど……よし、コートの防御力を信じて逃げ切ろう。
「あーもう、ほんっと邪魔なコートね」
「ハッハー、文字による防御概念を書き連ねたこのコート。撃ち貫けるもんなら打ち貫いてみい!」
「へー、そんなに自信あるなら砕いてあげる。勢い余ってお兄さんも砕いちゃうかもしれないけどっ!」
妹さんはそんなこと言うけど、無理やろそれは。なんせあの鬼っ娘が全力で引っ張っても、妖夢が斬ろうとしても傷1つつかなかった一品やぞ。
中身はともかく、このコートの破壊は紫ぐらいしか無理と思うんやけどね。
「……えいっ!」
「そんな可愛らしい声だしても何にも……んなっ!?」
妹さんが手を握り締めて掛け声だすと、今まで誰にも壊されたことのなかったコートが、右袖だけとは言え消し飛んだ。
おいおい、今何が起こったんや?
弾幕が当たったわけやないし、直接殴られてもない。ただ拳を握って掛け声だしただけでこのコートの防御を破るなんて、ほんと理不尽なやつが存在する世界やなぁ。
頑張ってこのコートを破壊しようとしとった鬼っ娘らが泣くぞ。
「あれ、片袖しか壊せなかった?」
「むしろどうやって壊したんよ?」
「こうやって弱点をえいっと握り潰すの。別に握り潰さなっくてもいいんだけどね」
「えらい簡単に言ってくれるなぁ」
説明と同時に、今度は襟が無くなった。あかん、これオレピンチ?
「簡単だよ? 物を壊すことなんて、太陽が出ている時に外出することより楽だもの」
「そう聞くとえらい簡単なように感じるなぁ。ほな、お兄さんも全力で逃げさせてもらうわ」
「……全力だろうとなんだろうと、さっきから逃げてるだけじゃない!」
何やら余計に妹さんが怒ったみたいで、弾幕の密度が上がってきとるんやけど、全力になったオレを舐めたらあかんで?
右手に水性マジックを。左手にお手製の魔導書を。文字使いの全力、吸血鬼にどこまで通用するか試させてもらおか。
「そんなに怒らんといてぇな。この魔導書使うのは妹さんが初めてなんやから、機嫌直してくれへん?」
「初めて? お姉様にも?」
「おう、どんなのを作るか相談した魔女には見せたことあるけどな。使うんは妹さんが初めてや」
なんせ切札として作ったからなぁ。まさかこんな所で使うはめになるとは思わんかったわ。
魔女にも相談しとった初期の状態しか見せてへんから、本当に誰もこの魔導書の中身は知らへん。だからこその切札なんやけど、今みたいに命の危機に陥った時の為に作ったんやから出し惜しみはせえへんよ?
「へぇ。逃げるっていうのが気に入らないけど、それなら許してあげる。弾幕を少しだけ緩くしてあげるから、頑張って楽しませてね?」
「楽しめるかは保証できへんけどね。ほな――」
言うと同時に回れ右して走り出すと同時に魔導書から『逃げ足だけなら日本一ィィィィィ!』と書かれた頁を破って体に貼り付ける。
オレは今、逃げ足限定で天狗を超える!
「ほなさいならや、明智君!」
「明智君って誰? って、速っ!?」
「おまけにこいつもプレゼント」
目の前に十字路が見えたので右に曲がり、壁に『これより先、吸血鬼は通行禁止』と書く。
水性やから消える可能性があるんやけど、油性で書いたら後でさっちゃんに処刑されるからなぁ。あれはあかん、ほんま怖いから。
「待ちなさい! あ、あれ、何でこの先に進めないの? 何か壁に字が書いてあるけど、これがお兄さんが言ってた文字使いの能力なのかしら」
ああ、もう、オレのアホ。こうなるんやったら、自己紹介でカッコつけて「ただの文字使い」なんて言わんかったらよかった!
でも、壁に書いとる文字が怪しいと分かってもどうしようもないやろ。水で吹いたら文字は消えるけど、吸血鬼が流水じゃないとはいえ水を持ち歩いとるとは考えにくいし。
まぁ、しばらくはそこで立ち往生しといてや。その間に魔女かお嬢のおる所探して逃げるから。
「ああもう、何だかよく分からないけどとりあえず壊しちゃえ!」
「んなアホな!?」
何かが消し飛ぶ音がした。どうやら妹さんが壁ごと文字を壊したみたいやねぇ。
えー、何なんその「半熟とそうじゃないのと分けるの面倒だからとりあえずかき混ぜてスクランブルエッグにしました」的な解決方法。いくらなんでも力業過ぎるやろ。
どうせ壊すにしてももうちょい悩んでからにしてえな。
しっかし、これはあかんわー。思ってたよりも時間稼がれへんかった。吸血鬼というか、妹さんとの相性悪過ぎるわ。紫の次ぐらいに悪いんちゃうか、これ。
あっちは効果範囲を弄って能力を無効化してくるけど、妹さんは文字を壊して効果なくしてくるとは……
「まったくもう。鬼ごっこなのに道塞ぐなんてダメだよ?」
「いやいやいや、鬼ごっこは机倒したりして道塞ぐなんて常套手段やろ。それがあかんなら、かくれんぼしようとしてたってことでどうやろか?」
「ダーメ。2度の競技変更は認めないんだから」
「ハハ、やっぱそうやんなぁ」
「だから、鬼ごっこ続けましょう? 鬼ごっこらしく、今度は全力で追いかけるから!」
「ごっこというか、あんた鬼そのものやんけっ」
「なら余計に人間に負ける訳にはいかないよね。スペルカードいくよ!」
「ちょ、それは待って」
「待たないもーん。禁忌『レーヴァテイン』」
宣言と同時に、妹さんの手に燃え盛る剣が現れた。一応剣という事でええんよなアレ?
あれが本物のレーヴァテインかどうかは今は問題ない。本物だろうが偽者だろうが、当たったらやばそうやもの、アレ。
特に右腕と頭と首みたいな、防御概念の効果がない部分に喰らうと怪我じゃ済みそうにないもんなぁ。
「おいおい、そりゃやりすぎや、過剰戦力や」
「お兄さんの装甲固いから、これぐらいやっても問題ないと思うんだけど。それに、弾幕ごっこと鬼ごっこを一緒にやればあなたもハッピー、私もハッピー!」
「初めっから弾幕ぶっ放してなかったかな妹さん!? あと、弾幕ごっこで感じるオレの幸せってなんやねん……」
妹さんは楽しそうに言うけどな、それは弾幕ごっこを楽しめる実力がある連中の場合であって。
オレみたいな弾幕ごっこが出来ない人間には楽しむ余裕なんてあらへんよ。見てる分には楽しそうやけどね?
それはともかく、あの剣を封じるために壁に文字を書きこんで、と。
「とりあえず『火気厳禁』や」
「えいっ!」
文字によって、妹さんの剣が纏っている炎の勢いが無くなりそうなった瞬間、再び文字ごと壁を消し飛ばされた。そして消えそうだった炎は元通り。
いや、むしろこころもち勢い強くなってるような?
「やっぱりその文字でおかしなことしてたんだ」
「やっぱそうやって無効化されたんか」
あっちはしてやったりといった顔しとるけど、こっちは全然喜ばれへんわ。
まさかなぁ。予想外の場所で、壁を簡単に壊せるようなやつと勝負することになるとは。
なんかこの調子やと逃げ切れる気がせえへんからね、しゃーない。覚悟決めまてこっちも殴りに行きますかね。
幸いな事に、怪我さえ我慢すれば、妹さんを倒せそうな手段がない訳ではないからね。
「はあ、これは痛い目みんとあかんかな」
「あら、これからが楽しいのに降参するの?」
「いやいや、最後まで足掻かせてもらうわ」
「そうこなくっちゃ!」
降参しても認めてもらえるか分からんしなぁ。はぁ、早く魔女かお嬢かさっちゃんが助けに来てくれへんかな。
倒すとは言ったものの、まずどうやって妹さんを追い込みゃええんやろか。
とりあえずはあの剣をどうにかせんとあかんよな。
魔導書から『遥か彼方へ飛び立つ』と書かれた頁などを破いて、オレに斬りかかってきた妹さんの剣に叩きつける。
「紙で防御したって燃えちゃうわよ?」
「ところがどっこい、そんなに世の中甘くないで?」
なんせ勝手に効果が発動せえへんように、一枚一枚結界張っとるからな。おかげで水に濡れることも、火で燃えることもなくなった。
なので、頁が燃えることもなく、剣は勢いよく彼方へ吹き飛んだ。
「へぇ、やるねお兄さん」
「せやろ? ついでにこれも貰っとき!」
「私もそこまで甘くないよっ」
左手に『痛風』と書かれた頁を握って妹さんに貼り付けようとしたんやけど、即座に腕を掴まれ、ギリギリと締め付けられて阻止される。
けどまぁ、今まで予想を裏切りまくってくれた相手やからそれくらい予想している訳で。おまけに身体能力もほとんど同じみたいやし。
「そっちこそ、ボディが甘いわ!」
「んきゃっ」
右手に『意識が飛ぶほど痛い』と書かかれた紙持って、オレの左手を握り締め得意げに笑ってる妹さんに張り手をお見舞いする。
すると、ちゃんと当たって効果が発揮され、妹さんは崩れ落ちた。
あんまし痛そうな悲鳴ちゃうなぁ、オイ。
「痛い目を――見ているかね? ……て、言うタイミング間違えたな、うん」
さすがに言うタイミングを考える余裕まではなかったわ。
しっかし、こう言っちゃあなんやけど、けっこうあっさりと倒せたな。もっと傷負う思てたんやけど。
まぁ、今回は初見やったから簡単に触れることが出来ただけで、次回からはそう簡単には触れさしてはくれへんのやろうけど。
あと、弾幕ごっこにそんなに慣れてなかったんちゃうかな。黒白や紅白やったら、もっとえげつない攻撃してくるし、隙も少ないからな。
なんか、遠距離から攻撃できる方法を増やさんと、2回目以降は逃げることしか出来へんようになりそうやなぁ。
それに、勝ちはしたけど無傷って訳にはいかんかったしな。
「意識が飛ぶ前に、掴んどった腕を握りつぶしてそのまま引き千切るとは。吸血鬼ってーのは凄いね。いや、凄いんは吸血鬼じゃなくてこの妹さんか」
張り手が当たって文字の効果が発揮されるその一瞬の間に、妹さんはオレの左手を見事に壊してくれた。左の肘の先からは今も血が垂れ流れとる。
あらかじめ『痛みに鈍感』と体に書いてなかったら気絶しとったんちゃうかな。勝負には勝ったけど、死にかけなんはむしろオレやん。
とりあえず『止血』しよ……いや、下手に文字で『止血』したら全身の血が止まるんちゃうか、これ?
とりあえず先に、千切られた腕をくっつけよか。そしたら出血も治るやろ。
あー、でも意識がボーっとしてきたぞ。そういや、千切られたんは左腕の方か。ハハ、死ぬかもしれん。お嬢、魔女、さっちゃん、はよ来てやー。
「パチェ、こっちで合ってるんでしょうね!?」
「ええ、まだ地下から上がってきてはいないわ。それに、そっちの方から振動が伝わってきたもの」
あの化物を倒した後、二日酔いで寝ていたレミィを起こして秋と妹様を探している。
地下の方から振動が伝わってきたから、2人が弾幕ごっこか何かをしていたのは間違いないんだけど、少し前から振動が伝わってこない。
つまり、2人の勝負に決着がついた可能性が高い。秋、生きているかしら?
そして、角をいくつか曲がった時だった。
「よう、お2人さん。ちと来るんが遅いぞっと」
「お姉様ー!」
「フ、フラン、どうしたの!?」
そこに見た光景は異常だった。壁に背を預けて座り右手を振る秋と、涙を流してレミィに抱きつく妹様。
あれ、何で妹様が泣いてるの?
そして、秋が五体満足なのも不思議ね。
妹様に抱きつかれて、心配しそうな顔をしつつも抱きつかれたことに頬を緩ましているレミィはとりあえず置いとくとして。
「秋、あなた勝ったの?」
「次は勝たれへんと思うけどな。なんとか気絶させたわ」
あら、本当に勝ったのね。
とても疲れた、というか死にそうな顔をしてるけど、妹様相手に五体満足でいられたんだから、疲れた程度で済んだことを喜ぶべきね。一生の運を使い果たしたんじゃないかしら。
「途中で暴れている振動が伝わってこなくなったから、死んでるかと思ってたわ。五体満足で何よりよ」
「いやいや、五体満足に見えるだけで結構重傷やから」
「そんなことより! 秋、一体フランに何をしたのかしら?」
レミィが怒りを全開にして秋に掴みかかった。けど、レミィ? 力を緩めないと秋が死ぬわよ。
まったく、何だかんだ言ってシスコンなのよね。
「ちょ、お嬢、ストップ、ストップ! 腕がまた千切れる、くっついてないんやから」
「黙れ。場合によってはこの場で殺すわよ人間?」
「あ、だから持ち上げたらあか……あっ」
「――え?」
「あら?」
レミィが秋の襟首を掴んで持ち上げた瞬間、秋の左腕がボトっと落ちた。予想外の展開にレミィも私も固まった。どうやら五体満足で生還とはいかなかったようね。
「え、えーっと、秋。あなた左腕落ちたわよ?」
「あんたが持ち上げるから落ちたんやお嬢! 妹さんに千切られたから再生中やったの」
また一からくっつけなあかんと言って、秋が左腕の切断面を合わせて『再生』と書いた包帯を左腕に巻いてる。人間であるはずの彼が、ゾンビの様に簡単に腕をくっつけてるのを見てると、とうとうこいつも霊夢たちの仲間入りをしたんだなと感じてくる。
「よく左腕を千切られたのに、今まで生きてたわね。妹様との勝負が終わってからしばらく時間が経ったと思うけど」
「意識失って倒れそうになってたんやけどね。流石に不味いと思ったから、骨に『不老長寿』と刻んで延命してみたんよ。それで妹さんの事なんやけど」
「そ、そうだった。あんた、フランに何をしたのよ? この子が泣く事なんてそんなにないのに」
「虫歯になってもらいました」
「きゅ、吸血鬼が虫歯……」
秋の答えを聞いてレミィが顔を蒼くして倒れそうになっている。そりゃあ、人の血を吸う吸血鬼が虫歯になっただなんて、笑い話にもならないわね。
しばらく喋れそうにもないので私が代わりに質問をする。
「なんでわざわざ虫歯にしたのかしら?」
「いやぁ、自分の延命に成功したんはええんやけどな。お二人さんが来る前に妹さんが目ぇ覚ましそうやったんでな。何かしらしてこっちを襲う気力をなくしてもらわんと殺されると思ったんよ」
「そ、それで虫歯にしたの。意外とやることがえげつないわね」
秋としては死にたくないから必死だったんだろうけど、吸血鬼に虫歯はあんまりじゃないかしら。
まぁ、妹様が虫歯になってなかったらもう1回弾幕ごっこが開催されてたかもしれないから、間違った手段ではないのだけれど。
「それで、フランの虫歯を治す方法はあるんでしょうね!?」
レミィ、いつの間に復活してたのかしら?
「おう、ちゃんとあるで?」
「それで、どうしたらいいの?」
「妹さんの歯に書いてある文字をな、水で洗う。つまり、歯磨きして文字を消せばええんよ。もしくはナイフとかで文字を消せばええよ」
「ならすぐに」
「ただし、消す作業してる間はめっさ痛いやろうけどな!」
「威張るな!」
結構陰湿なことをするわね。
たしかに秋が右手に持ってるペンは水性だから、水で洗えば消えるけど、虫歯だから触られると当然痛いわよね。
何でこういう陰湿というか、セコイ手段は大量に持ってるのに、正攻法は苦手なのかしら? もうちょっと頭を使えば正攻法の1つや2つぐらい浮かびそうなものを。
「ちょっと秋。フランの歯を磨く間、痛覚を遮断するか麻酔をかけるか何かしなさいよ」
「んー、本当なら安全が確保されたからそれぐらいしてもええんやけど、今は無理やね」
「――断るというのね?」
「おう。なんせお花畑の向こうに会長がいい笑顔浮かべって中指立てとるからな。今から殴りに行ってくるわ」
そう言って右手を軽く上げて、秋は床に崩れ落ちた。左腕がまた分離していないところを見ると、どうやらすぐに千切れない程にはくっついたみたいね。血管よりも肉を再生させることを優先させたのかしら?
「ちょっとパチェ、なんでそんなに冷静なの!?」
「脳の処理が追いついていないだけよ。それよりも医者呼ぶことが先じゃないかしら?」
「そ、そうね。咲夜、すぐに医者を連れてきて……て、咲夜ここにいないじゃない!」
「お姉様ー、歯が、歯が痛いよー!」
「はいはい、良い子だからちょっとだけ待ってね。あ、咲夜ちょうどいいタイミングで来てくれたわね。咲夜、とりあえず医者を連れてきてちょうだい。それと、時間を止めてる間にフランの歯磨きも!」
慌てるレミィにずっと泣いてる妹様。そして意識を失い、おそらくあの世に旅立ちかけている秋。もう、何なのかしらこの空間。あぁ、図書館に帰って本が読みたい。
後日談
「あっ!」
「んげっ!」
「ああもう、2人とも。出会う度に私達の後ろに隠れるのはそろそろやめなさい」
紅魔館では、お互いがトラウマとなって、出会う度に怯えてレミィや咲夜の後ろに隠れる2人の姿が見られるようになった。
妹様はともかく、秋、気持ちはわからなくもないけどその姿は情けないわよ。
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第16話
「彼を手助けしてやってくれないか」と言われたから手伝いに来たんだけど。
なんだ、元気にやってるじゃない。
これは、私と秋を仲良くさせたがっている慧音に一杯食わされたかな?
……え、まだくっついてないから左腕が使えない?
それなら、まぁ、しばらくは手伝ってあげるよ。
異世界での暮らし方 第16話
この前、お嬢んとこの妹さんに左腕を千切られてから今日で3日目。未だ完全にはくっつかないこの左腕の事を心配して、センセーがもこーを手伝いに寄越してくれた。
それはありがたいんやけど、何故にもこー?
「どういう意味だよ?」
「いや、だってもこーって大雑把そうやん。3日続けてカレーでも平気そうやん」
「ほほー。だからずっと力仕事ばっかりやらされてたのか」
もこーが睨んでくるけど、力仕事ばっか任せてもしょうがないと思うんよね。
この人、食べられるならなんだっていいとか言うし、服が破れてても気にしなくてセンセーに直してもらってる場面をよう見るし。そんなやつに掃除や料理なんて任せられるかいな。
別にそれだけが理由じゃなくて、能力で自分の力を強化することは出来きるんやけど、バランス取りにくいし手間もかかるから、力仕事はもこーにやってもらう方が効率がええんも事実や。
「それでも普通はか弱い女の子に、こんな力仕事はさせないんじゃないかな」
「か弱くない、か弱くない。普通のか弱い女の子は妖怪退治なんて出来へんから」
か弱い女の子は妖怪に出会っても平然として弾幕ぶちかましたりしませんわ。
八百屋の大将んとこの娘さんみたく、涙ながしながら逃げるのが普通のか弱い女の子の反応や。
「ちょっと変わったか弱い女の子なんだよ」
「どこがか弱いんやあんさん。むしろ、ヒーローの一言で片付くわ」
なんせこのもこー、人を襲っている妖怪を退治したりすることが多々あるもんで、人里ではちょっとした有名人になっとる。特に子供たちの間では、正義の味方「もこたん」として知れ渡っとる。
「ま、これも人助けやから頑張って商品運んでちょうだいな。正義の味方さん」
「目に映ったから妖怪退治しただけで、別に正義の味方になろうと思ったわけじゃないのに……はぁ」
文句を言いつつも、指示した通りに商品が詰まった箱を棚から下ろしてくれるもこー。このお人好しなところが正義の味方として慕われる原因やと思うんやけどね?
紅白も同じように妖怪を退治しているのに、もこーほど慕われてはいない。慕われとったらもうちょい神社に参拝者訪れそうなんやけど、あいつ愛想悪いもんなぁ。かったるい雰囲気だしてるから余計に近寄りがたいのに気づいとるんかいな?
「で、この箱はどうするんだ?」
「人里に運ぶんよ」
「もしかして私が?」
「もしかしなくても、や。箱に渡す相手書いた紙貼っとるから間違えたらあかんよ」
もこーが「うげっ」と呻いて顔を顰めるけど、それもしゃーないわな。なんせ成人男性でさえ運ぶのに苦労しそうな箱が20個ほどあるんやもの。
こんな事態になっとるんは理由があってやね。夏に売り出した虫対策グッズが予想以上に歓迎され、舞いこんで来る注文にあわせて増産していたこと。そして、それらを客んとこに運ぶ前に紅魔館で死にかけたんで、とっくに運び終わってたはずの品が運び出されずに店の中に残ってるんよね、これが。
「これ、全部私が運ぶのか」
「オレが運ぶと、両手が使えなくなるからな。さすがに文字が書けないとなると危ないんよ」
嫌そうに言うもこーに、お前さん以外に誰がおんねんと返す。
それでも最初は自分で運ぼうとしてたんよ?
だって人里まで歩いて5分の距離やし。
せやのに運ぼうとしたとこで黒白に見つかって止められ、さらにセンセーまでやって来てのお説教。
そして、センセーが、誰か手伝いを寄越すから大人しくしてなさいと言って寄越したのがここにおるもこーや。そう、お前やお前。周り見渡しても誰もおらへんぞ。
せやからこの商品が詰まった箱を運んでもらうことに対して申し訳ないとは思わんよ。だってその為のもこーやもの。
ちなみに、配達先を書いた紙やけど、これは注文に来た人に直接書いてもらっとるからオレの能力が発動されることはない。
もしかしたら字が書けない人がおるんやないかと思ったけど、どうやらセンセーのおかげで外の世界と変わらない識字率を誇っとるみたいや。センセー様々やね、ほんと。
「分かった、分かりました。運んでくるよ。まったく、こんな量の荷物を運ばせるなんて、どれだけ時間が掛かるか分かったもんじゃないよ」
「いや、感謝しとるんよ、ほんまに。ほれ、お駄賃。人里で何か食べてきたらええわ」
「お前は私の保護者か! つまり、それだけ時間が掛かるんだな。あーもう、行ってくる!」
「行ってらっしゃーい」
もこーが飛び立ったのを見届けて、次の商品の生産を始める。
冷○ぴたとか作ったら売れそうやな。でも、冷風を発生させる扇子や団扇なんてのもええかもしれんなあ。あ、それの威力を高めたら護身用にも使えるんちゃうか?
まずは自分用に作ってみよか。
商品を届ける為に何度も何度も店と人里を往復するもこーを見ながら、次の商品を試作し続けた結果、冷え○たっぽいものは完成した。素材は今度雑巾にでもしよかと考えとった布切れで代用したんやけど、今後も布を使うかはちと考えなあかんね。
そもそも、この店にそんなに商品に使っても大丈夫な布ってないしなあ。このまま布で作るとしたら、人里で布の仕入先を見つけなあかんのやけど……あの店主、何で買収しよかね?
そして、冷風発生させる扇子やけど、こちらはちと問題が発生してもうたから改良中。良い案が浮かばんからもこー待ってるんやけど、まだかいな。
「ふぅ、やっと全部運び終わったよ」
「お帰り、もこー。ところで後ろにおるチビッコ共はどしたん?」
もこーの後ろには、人里で見かける子供が6人ほど。どの子も何度か店に来たことのある子やけど、店来る時はいつも一緒におるはず親御さんがおらんのやけど。
この店がいくら人里から近い言うても歩いて5分は掛かるし、妖怪に出会わないとも限らんから、子供だけで来るんは止めて欲しいんやけどなぁ。
「……お、お前のせいなんだからな!」
「何が!?」
「お前が私のことを正義の味方だとか言い触らすから、こいつらを店まで連れて行くように頼まれちゃったじゃないっ」
「いや、そんなに言い触らしてへんよ? あと、口調、口調。元に戻ってんぞ」
こいつは普段は男口調やのに、今みたいに慌てたり焦ったり、とにかく平常心を欠くと口調が変わる。初めて口調変わった瞬間を見た時は、いったい誰が喋ったんか分からんかったなぁ。印象が違いすぎて。
「んん。いや、お前以外に誰が言い触らすんだ」
「もこー、お前さんが、妖怪に襲われてる人をよう助けるから、自然と噂が広がってるんやけど」
オレとセンセーは、その噂を広めはしてへんよ。
ただ、噂について聞かれても否定しないだけや。
「なーなー、兄ちゃん」
「どした、少年?」
「この人がもこたん?」
「んな!?」
子供の1人がもこーを指さして聞いてくる。そうか、もこーはそんなに人里に現れるわけでもないから、人里から出ることの少ない子供は噂は聞いてても本人見たことないんか。
もこーは必死に顔を横に振って違うと言えと伝えてきとるけど、子供を裏切る訳にはいかんでしょ。それに、その方が楽しそうやし。
「そうやぞ、少年」
「って、おいっ! 私はもこたんじゃないからな!?」
「兄ちゃん?」
ああ、ほら。そんな風に強く否定するから子供が泣きそうになってもうたやん、まったく。ええ年した大人が子供泣かしたら、人里の守護者が頭突きしに来るぞ、と習わんかったんかこいつは。
「本名がもこたんじゃないだけやから、そんな裏切られてショック受けたような顔せんでもええからな、少年」
「でも……」
「ええか、少年。正義の味方は本名は名乗らんもんや。もこたんは正義の味方としての通称や。世を欺く仮の名前や。あいつがもこたんなんは間違いないよ」
「お、おい、勝手に設定を捏造するな――痛っ!」
せっかく泣き止みそうやったのに、またもや余計な事を言うもこーの足を踏みつけ、地面に捨てたタバコの火消すかの如くグリグリと踵を動かす。
「秋、い、痛い、それ本当に痛いから!」
「だから少年、聞きたいことがあるなら今のうちに聞くとええよ。なあに、正義の味方やからね。少年達みたいな子供には優しいから遠慮せんとき」
「いいの!?」
「お、おう、いいよいいよそれぐらい。大抵の事なら答えるよ」
子供の無垢な眼差しに負けたのか、もこーがついに折れた。
うん、もう子供を泣かせることもなさそうやから、踏んづけてた足どけたるか。足をどけるともこーに涙目で睨まれたけど、そんなに痛かったか? 今は身体能力を強化してないんやけど。
ん、ああ、親指の付け根を踏んづけてたんか。すまんすまん。
そして、質問に答えるともこーが言ったとたん、店の商品を見とった他の子供達も集まりおった。いや、それはええねんけど、頼むから商品は元の場所に戻してえな。そこ、商品を放り出したらあかんやろ! 爆発したらどないすんねん。
「じゃあさ、じゃあさ」
「ん、なんだい?」
「もこたんウイング見して!」
「ファイア見してファイア。これは余のメラじゃーって見せて!」
「もこたんって先生のヒモなの? ヒモってどういう意味なのかなみーちゃん?」
「ひもっていうのは、その……私には分からないよまーくん」
「……え゛、何この質問?」
子供達が浴びせる質問が信じられないのか、もこーがこっちをゆっくりと、ギギギという錆びた金属が動いたような音を出しそうな感じで振り向いて、どういうことだと問いかけてくる。
お、オレに聞かれてもなぁ。というか、お兄さんもあまりの事態にびっくりして思考が上手く働いていませんですよ?
もこたんウイングとかはともかく、君たち、ヒモなんて言葉どこで習ったんや。というかその言葉が幻想郷にあったことが驚きや。
ヒモ、幻想郷にもおったんやね、昔に。
「ねえねえ、無理なの、出せないの?」
「ヒモって何なのもこたん」
「え、いや、出せない訳じゃないんだけど。えーと、その、助けろ秋!」
「ここに来てオレに振るか、オイ。まあええ、助けたろ」
何か、もこーの表情が切羽詰まってきたんで助け舟を出すことにする。それに、ここでヒモの意味を教えたら、この子らの親とセンセーに怒られそうやし。というか、確実に怒られる。連続でのお説教とか最悪やろ。
「おい、少年達。もこたんウイング見たかったら外でやれ外で。こんなとこでやられたら店が燃えてまうやろ」
「うおぉぉぉぉい、助けてくれるんじゃないのか!?」
「助けるけど、子供の願いは叶えられるもんは叶えんとね。魔法使いやし、オレ!」
「まぁ、ちょっと火を出すだけだから構わないんだけど、もうちょっと名前なんとかならなかったのか? まあいいけどさ。ほら、ちびっ子ども、外にいくよ」
ネーミングセンスの無さに文句を言いつつ、子供達を連れてもこーは店の外に出て行った。
うん、たしかにネーミングセンスはない……というか、昭和の香りが漂うよね。ライ○ーキックみたいに、何でもかんでも名前の後にキックやパンチつければ必殺技になると思ってるんかね?
お、外が明るくなった。ホントに火の羽生やしたんか。
何だかんだ言って面倒見がええよね、あいつ。文句言いつつもオレの手伝いもしてくれとるし。あれでもうちょい愛想良くしたらええのにねぇ。
「さて、と」
あいつらが戻ってくる前に、店をどうにかしよかね。この、『冷風』と書いた扇子使って所々凍ってしまった店内を。
『解ける』と書いたら、凍った所以外にも色々と溶けてもうたんで、結局もこーに丁寧に炎で溶かしてもららった。
凍ってるところだけ溶かして他の部分は1つも焦がさないとか、あいつ、意外と器用なんやなぁ。裁縫しようとしたら針を指に刺すようなやつやのに。
今度センセーと人里のおば様方に頼んで裁縫と料理をマスターさせてみますか。
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第17話
雲一つない夜空、満月、秋。
ここまで好条件が揃ったのならば、後は団子と酒を用意して月見をするしかない。
だからって人の用意した団子を勝手に食べるな魔女コンビ!
異世界での暮らし方 第17話
今夜は雲一つない夜空に満月。いやー、都会と違って空が綺麗やから月だけじゃなく星もようさん見れるわ。さすが幻想郷。
しかし、やっぱ晴れた日の満月はええねえ。過去の日本人は「雲で月が隠れているがそれもまた風流で良いものだ」という俳句を多く残しているが、このお月さんには勝たれへんよ、うん。
ちなみに、風流だと言ってるのはただの強がりだそうだ。そりゃそうやわな。
「で、こんなええ月の夜の何の用や、黒白に人形遣い」
「オイオイ、そう不満そうな顔をするなよ。私たちはあの月を素晴らしい満月にする為に来たんだぜ」
「私はいつものようにこいつに巻き込まれた……て、違う! 魔理沙は気づいてなかったでしょう、立場が逆!」
「それで、仲間を見つけたついでにバックパックを拾いに来た訳だ」
「無視するな!」
人形遣いは私がメインであんたがサブと怒り、黒白はそれを無視して、オレを連れていこうとするのをいいアイデアだろうと胸を張って笑っとる。てか、人形遣いは仲間でオレはバックパックかい。いくらオレが支援特化型やからってバックパックはないやろ、バックパックは。せめて人扱いしてくれへんかな。
それにしてもこの月を更に素晴らしくするなんてどうするつもりや? いくら黒白でも月までは飛ばれへんから直接月に何かするんはちゃうわな。
まあ、何にせよいつも通りこいつに巻き込まれるのは確定、か。はあ、まーた厄介事かい、頭痛いわあ。
「あー、すまん。まさかバックパックって言っただけでそこまで落ち込むとは思わなかったんだ。気にするなよ、冗談だからな?」
「それで落ち込んでるんちゃうわ! いや、ちょっと傷付いたけど、そうやなくてな。て、おーい、謝りつつ団子食うなや」
「秋が作ったにしては美味しいじゃないか」
「酒のつまみと団子を作ることに関してはそれなりの腕になったわね。形はいまいちだけど」
謝罪終了して団子の批評までされた!? もう、好きなだけ食べてええから。話を進めなさい、話を。
「つまり、あの月は少しだけ欠けてる、と」
「そうなんだぜ。欠けてる月より、異変を解決して本当の満月でお月見した方が気持ちいいだろ?」
「アンタたち、メインはお月見じゃなくて異変なのを忘れないでよ」
「はい? 異変はほっといても紅白がどうにかするやろ。それより月や月」
黒白や人形遣いは異変解決に意欲を見せとるけど、オレにとってはこいつらが解決しようが紅白が解決しようがどっちでもええ訳で。なら、オレがやる気を出す理由は満月、しかもこの中秋の名月を邪魔してくれたやつを懲らしめるという事ぐらいしかないわ。
満月なんてオレの能力でどうこうすることが出来ないレア物なんやぞ! ちとばかしキツイお仕置きをしたるわ。『抱腹絶倒』あたりが妥当かな。
ま、もう1つ理由はあるんやけども。
「そうと決まったらさっさと解決に行こうや」
「あら、いくらお月見が邪魔されたとは言っても、秋にしては珍しくやる気があるわね。いっつもは異変に巻き込まれないようにしてるのに」
「明日は友人の結婚式やからな。この異変のせいで間に合んとかなったら、合わす顔がないわ」
「おっと、そういうことなら急がないとな」
そういうと黒白はドアを開けて外に出て行き、人形遣いも後に続いて出て行った。
ああ、そうとも。明日の結婚式に出席する為に、ようやく博麗大結界を全部消滅させずに、一部だけ切り開いて外の世界に出られるような装備を作ったんや。今更異変ごときで出席出来へんとか絶対嫌やぞ。というか、出席出来へんかったら副会長に殴り飛ばされそうやしな。
さて、魔導書とコートを用意して、と。
「マスタースパーク!」
「ん?」
何でこんな所で黒白のスペルカードの宣言が聞こえるんやろ。近くに人里があって、そこにセンセーがおるから、黒白がスペルカード使うような妖怪はあんまし現れへんはずやけど。
異変解決に向かっても大丈夫なように装備整えたから外に出てみると、そこにはマスタースパークで薙ぎ払われたであろう妖怪と妖精の群れが。おいおい、こんだけの数は今まで見たことないぞ。
「うちの近所にこんだけの妖怪がいたとは、驚きやねえ」
「急いでるから今回は特別にマスタースパークで薙ぎ払っておいたぜ」
「言っておくけど、普段はこれだけの数はこの近くには現れないわよ。何故か人里が存在していないから、いつもはやって来ない妖怪までもがこの店を狙ってやって来たんじゃないかしら」
人里がないからその分狙いもここに集中したのね、と人形遣いは説明してくれた。
なるほど、センセーという脅威がいないうえ人里も見つからないから、その近くにあって人間の気配がするうちが狙われた、と。うん?
「いやいやいや、ちょっと待て。人里が存在せえへんなんて、んなアホなあ」
「確かに有り得ないんだけど、見つからないんだからしょうがないじゃない」
「ここまで空を飛んできたんだけどな、いつもならここからでも見える人里が見えないんだ。いやー、おかしなこともあるもんだぜ」
2人とも自分の目で見た光景を話してくれるが、あの人里がねえ。
いくら狭い幻想郷と言えど、里やぞ、里。そう簡単に消える訳ないやん。
でも、こんなことで嘘言う必要なんて無いしなあ。しかも、センセーがおるからあっこが被害を受けるようなことは滅多にないと思うんやけど。
ふーむ。ありえへんことが起こるんが幻想郷名物であり、異変ならではの現象とも言えるしなあ。はてさて。
「なら、とりあえず人里があるはずのとこ行こか」
「ああ、行けば手掛かりぐらいあるだろ」
「もしかしたら、霊夢か誰かがいて情報が聞けるかもしれないわね」
3人の意見が一致したので早速人里に行くことにする。
ただ、紅白に会ったら問答無用で「異変を起こしたのはアンタ達かー!」と襲い掛かられる気もするけどな。なんせ、こっちにもおんなじ事しそうなんがおるし。
2人はそのまま飛び立ち、オレは黒白の箒の後ろに飛び乗る。
ん? なんや人形遣いが物言いたげにこっちを見とるな。
「秋はいつも魔理沙に抱きついてるけど、恥ずかしくないの?」
「変なことしたら振り落とすだけだぜ」
「振り落としたそうな顔すんなど阿呆。あんな、人形遣いさんや。こうでもせんとオレはこいつの運転について行けずに振り落とされるし、抱きしめないとこいつは風圧とかに負けて振り落とされるんねん」
なんせこいつの注文を叶えて箒を改造したものの、未だに満足に乗りこなせてへんからな。最高速を出したら速度に負けて箒から落ちるもんな、こいつ。出力はデカイのに制御が甘いんよ。だから吹き飛ばされないないようオレが『固定』して、おまけで制御も肩代わりしてる訳や。
「まったく、自分で扱いきれる物を注文しなさいよ」
「このスピードで曲がりきれる訳がないという常識に囚われてるこいつが悪い」
「どうせ私は未熟者だよ、ふん」
「拗ねるな拗ねるな。ほらほら、行き先はあっちやぞー」
自分と黒白の体を『固定』してから、こいつの頭を帽子の上から軽く叩いて出発を促す。
「分かった、分かったからから頭を叩くなよ。まったく、帽子がズレたじゃないか」
「文句言ってる割には嫌そうな顔してないわね」
「うっさいアリス! ほら、行くぞ」
「安全運転で頼むわ、運転手さん」
「知るかっ!」
ちょ、ちょい待ち、速い、速過ぎるって。ほら、人形遣いがあっという間に後ろの彼方に――
「ほい、到着したぜ」
「たかが歩いて5分の距離やのに、こんなスピード出す必要ないやろ」
黒白はスッキリした顔で到着を告げてきた。悪いがこっちはそれどころちゃうわ。うぷ、あまりの加速に胃が、胃がきゅっとなって気持ち悪い。
あらかじめ加速のタイミングが分かっとったら覚悟も出来てるから問題ないんやけど、今みたいにタイミング知らせずに急加速されるとキッツいわ。やっぱ自分でスピードの管理が出来へんもんは苦手や。ジェットコースターとか、こいつの箒とか。
「善は急げ、だぜ」
「狭い幻想郷、こんなに急いでどうすんねん」
「お前たちか。こんな夜中に人里を襲おうとする奴……は?」
「いいや、通りかかっただけだぜ」
「いやいや、様子を見に来たんやろが。て、センセー?」
何も無い、人も居ない、消えた人里から現れたのは上白沢慧音。人里で教師をしている人がなんでおるんや。いや、センセーがおるってことは人里のみんなもどっかにおるんやろ。
まさかとは思うけど、地下に人里が隠れてるとかないよな。
「秋。どうしてお前がここにいるんだ?」
「どうしてって、人里が無くなってたから様子見に来たんよ」
「魔理沙と一緒にいるとはいえ、妖怪に襲われたら危ないじゃないか」
「人里が無いから、その分多くの妖怪が秋の店の近くにいたんだ。あのままだったら、いくらあの店が頑丈でも危ない目に合ってたぜ」
「……あっ」
おい、そこでどうして、やっちまったって顔するんかなセンセー。これ、絶対人里が無くなってるんにセンセー何か関わっとるやろ。ちゃんとこっちの目を見て話そか?
「いや、そのだな。人里の歴史を食べて隠したんだが、秋の店に妖怪が集中するとは思わなかったんだ」
「うぉーい、センセーが人里隠してたんかいな、スゴイなー! でもそんなこと出来るんやったらウチの店も隠してくれてもよかったんちゃうかな!?」
「そうしようと思ったが、お前の店は強力な結界か何かで干渉出来なかったんだからしょうがないじゃないかっ。どうしてあそこまで強力なんだ!」
「まさかの逆切れ!?」
まあ、こんなことになった原因は店を要塞化したオレなんやけどね。
以前店で紅白と黒白が喧嘩して、それ以来能力禁止・弾幕ごっこ禁止にしたんやけど、人の善意の行為も妨害してしまうことになるとは。今度改良して悪意だけに反応するようにした方がええか、これ?
そして、センセーがオレのことも気に掛けてくれたんは今の説明で分かるんやけど。分かるんやけど、それやったらオレも人里に避難させて、それから人里を隠して欲しかったわ。そんな時間の余裕が無かったんかもしれんけど。
「そうか、秋を人里に呼んでから歴史を食べれば良かったのか。しかし、私は人里から動けないし、誰を呼びに行かせれば……」
「気づいて無かったんかい!」
今度、香霖堂で携帯おいてないか調べて、置いてたら使えるようにしてセンセーに渡しとこか。もしくは『思いは伝わる』とか『伝書鳩』とでも書いた紙を渡すかやな。
「アンタ達、いったいいつまでそこで騒いでるのよ」
「お、アリス遅かったじゃないか」
「アンタ達が私が追いつけないスピードで行くのが悪いんでしょう!」
「いや、オレは悪くないんちゃうかな。加速したんは黒白やし」
さて、これで全員揃ったし、次はどこ行くか決めんと。どうも人里は異変とは関係ないみたいやしな。と言っても、手掛かりなんて全然ないんやけど。
「ん? このおかしな月の原因を作った奴なら、あっちだぞ」
手掛かりどころか答え貰えるとは思わんかったわ、うん。
就職が決まったので、引越しする事になりました。
その関係で、今月末からしばらく、ネット環境が整うまで執筆する事が出来なくなります。
執筆再開できるようになったら、活動報告にて一報書かせていただきます。
なんか、いつもと変わらないだろうと言われそう。
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第18話
さて、センセーの言っとった方向に進んでいる訳ですが、嫌な予感しかしない。
この辺は竹林しかなかった筈はずだし、腹は痛くなってきたし、どこかで弾幕ごっこしいてるのか綺麗な光が見えるし。
え、弾幕ごっこしている方に行くの!?
異世界での暮らし方 第18話
センセーに教えてもらった方向に進み続けていると、とうとう竹林に入ってしまった。おっかしいなあ、ここらへんは竹しかなくって誰か住んでる形跡は無いんやけど。
もしかして、今回の異変起こしたやつは家なんて無しで生きている野性派の妖怪なんか?
そんな妖怪は態々異変なんて起こさへんねんけどな、普通。おまけに野性派の妖怪は話聞かないのが多いから面倒なんよね。
「おい、アリス、秋、あっちを見ろよ」
「あれ、誰かが弾幕ごっこをしてるわね」
「ホンマやなあ。誰がやってるんやろ」
黒白が指し示している方を見ると、確かに竹林の隙間から何かが飛び交っているのが見えた。誰がやってるんか知る為に、視力強化等の効果があるメガネを掛けて弾幕をよく見てみる。
んー、お札が飛んどるから片方は紅白やな。もう片方は……あの光ってるんはナイフか? ナイフやとしたらさっちゃんなんやけど。あ、メイド服着とるからさっちゃんで確定やな。
にしてはあの2人以外の弾幕も飛び交っとるんが気になるな。
「紅白と咲夜さんが弾幕ごっこしとるみたいや」
「よし、それなら私たちも行って混ざろうぜ」
「いやいやいや、混ざってどうすねん」
「そうよ。私たちの目的はこの異変を解決することなんだから、霊夢と弾幕ごっこしても意味ないでしょう」
「でも、霊夢から情報を聞き出そうと思ったら結局弾幕ごっこになるからいいじゃないか。異変解決時の霊夢は問答無用で襲いかかってくるんだぜ?」
言われてみると、確かに異変解決時の紅白はいつもより攻撃的やったなあ。
思い当たるふしがあるのか、人形使いの方も頭を抱えて悩んどる。きっと以前紅白に弾幕ごっこ挑まれて負けたんやろなぁ、若干顔青いし。
オレ達は紅白達を無視してこの先適当に行ってもええんやけど、何の手掛りも得られずに終わるかもしれん。それならいっそのこと、弾幕ごっこ覚悟で紅白になんか手掛りないか聞いた方が効率がええかもしれん。
紅白のやつは勘がええから、適当に進んでるはずやのに手掛りを得てることが多いんよね。
「しょうがないわね。霊夢達の方へ行くわよ」
「当てもなく黒幕探すよりはマシ……か。弾幕ごっこになったら2人でヨロシク。オレは降りて避難するから」
「そうと決まったらさっさと行こうぜ!」
こうして、オレ達は弾幕ごっこが行われている方へ向かうことになった。
さっさと行ってさっさと異変を解決しよう。黒白の箒は速いしから便利やけど、長時間乗ってると股が痛くなるのが難点やな、うん。
今度後部座席でも取り付けてみよか。了承が貰えたらやけど。
「あら、魔理沙と秋と……アリス、だったかしら?」
「この前の宴会でしか会ってないのによく覚えてたわね」
弾幕ごっこの現場に着くと、何故か幽々子とみょんでリッパーな人が地面に布を敷いて、のんびりと弾幕ごっこを観戦しとった。何やっとんのよあんたら。
「実力者同士の弾幕ごっこは綺麗なんですもの。見ないと損よ?」
「それはそうなんやけど、そっちも異変解決しにきたんちゃうんかい。あ、黒白、オレをみょんな人の横に配置せんといてな。斬られるから」
「オイオイ、私もこの前斬られたんだけどな」
「いきなりそんなことはしませんよ!」
「お黙り、みょん・ザ・リッパー。オレはこの前いきなり斬られそうになったあの恐怖を忘れへんからな」
「た、たしかに問答無用で斬ろうとしたけど、何その変な呼び方」
「お前さんのあだ名やん。外の世界では有名な通り魔より引用。名誉なことやね?」
「全然名誉なことじゃないから!」
「ハハ、諦めろって妖夢。秋は言い出したあだ名はずっとそれを使い続けるからな」
「そんなの嫌だよ!」
「あ、長すぎるから略すか」
「もしかしてみょんって呼ぶつもりですか? みょん・ザ・リッパーって呼ばれるよりマシだけど、フルネームを知ってるとちょっと……」
「いや、リッパーで」
「そっち!?」
酷いあだ名で呼んだりからかったりしとるけど、別に本気でみょんを怖がってるわけではない。ここではいきなり妖怪に襲われるとか、弾幕ごっこを挑まれるとかは日常茶飯事やからな。
こうやってからかうと素直な反応をしてくれるから、みょんをからかうんはやめられへんだけで。からかってるのが分かっとるからか、みょんの主である幽々子もアラアラと笑ってこっちを見てる訳で。
紅白や黒白はけっこうしたたかやから、中々こんな風にからかわしてくれひへんのよね。特に紅白。あいつはからかおうとしても流すか返すかしてくるからな。
紅白をからかうことに関しては紫の方が上手い。どうやったらあの巫女を上手くからかえるのやら。
「そう言うわりには手が震えてるぜ?」
「しゃーないやろ、刃物怖い!」
「え、と、その、ごめんなさい」
「はいはい。貴方達、妖夢で遊ぶのもそれぐらいにしておきなさい」
「そうよ、私達は異変を解決しにきたの。妖夢をおもしろおかしく弄るためにここまできた訳じゃないんだから」
その後も黒白と共にみょんをからかい続けていたら、とうとう幽々子と人形使いにストップをかけられてしまった。ちと時間を掛け過ぎた、というか、脱線し過ぎたか。
黒白を見ると、あちらもバツが悪そうな顔をしとったんでさっさと謝って異変解決に戻るとしよか。
「すまんすまん、ちと脱線しすぎた」
「妖夢の反応がいちいち楽しいのが悪いんだ。さて、それじゃあ異変解決しに移動するか」
「その前に妖夢の頬を弄っている指を離してあげなさい」
「「おっと、すまん、つい」」
「つい、で人の頬を抓らないでよ」
抓られて赤くなった頬を手で押さえて妖夢が抗議してくるが、そんだけ柔らかい頬しとったら、そりゃ誰だって触りたくなるわ。まるで赤ん坊の頬みたいにプニプニなんよ。引っ張ったらどこまでも伸びていきそうな気ぃさえしてくる。
黒白も同じ気持なんか、みょんの頬を名残り惜しそうに見とる。
「で、オレらはどっちに進めばええんかな? オレらがフザケとる間に幽々子から話聞いとってくれたんやろ」
「このまま真っ直ぐあっちに進むわよ。幽々子が言うには、ここにいる面子で反対方向から現れたのは誰もいない、そして全員目指していた方向はほぼ一緒だったそうよ」
流石はオレらの頭脳担当。人形使いは期待通りにちゃんと情報を聞き出してくれとったみたいで、進む方向を指さして教えてくれた。
こういう風にしっかりと仕事してくれる人がおるから、オレも安心して脱線できるんよ。
で、紫も同じ方向を目指していたんなら、ほぼ間違いないやろ。異変を起こした犯人はこの先におる。もし、この先に犯人がおらんのやったら、紫は紅白を上手く誘導して正しい道に連れて行ってるやろうからな。なんせ幻想郷大好きやし、あいつ。
普段の紫は胡散臭いこと此の上無いけど、幻想郷を異変が襲っていてそれを解決しようとしてる時なら信用できる。
紅白も紅白で、勘でこっちは違うと思ったら紫に従ってるやろうしな。
「ほな行こか」
「しっかり掴まっとけよ、秋。ここからは飛ばすぜ」
「急ぐのはいいけど、私が追いつける速度にしなさいよ」
「それは保証できないぜ」
「「いや、そこはちゃんと加減しようよ」」
「あらあら、息がぴったり。貴方達は仲が良いのね」
幽々子の言葉にオレらは顔を見合わして戸惑う。はて、オレらは仲がいいのだろうか?
時々集まって各々の魔法について討論したり、思いついた魔法を実践する為に互いを実験台にしたり弾幕ごっこ挑んだりするぐらいなんやけど。
「秋の店で物色したりもしてるぜ」
「偶に私の家に来て夕食食べたりもしてるでしょう。今度から材料費取るわよ」
「私だって夕食をご馳走することがあるから、払うのは秋だけだな」
「だからお前らが店から商品勝手に持ってくの、時々見逃してるやんけ。それ言ったら、お前らの家を掃除してんのはオレやぞ」
「ほら、仲が良いじゃない」
「「「……おぉ!」」」
「今ようやく気づいたの!?」
みょんは信じられないといった顔をしてこっちを見てくるけど、今までそんなこと気にせんかったからなぁ。
基本的にオレら3人は魔法のことについて話してたら満足してまうし。
しかし、そうか、オレらって仲良かったんや。
「別に仲が良い訳じゃないわ。ただこの面子だと役割分担がハッキリしてるから一緒に異変解決にむかってるだけよ」
「ふふ、あなた耳が真っ赤よ」
「……!」
幽々子の指摘通り耳が真っ赤や。どうやらただの照れ隠しらしい。よく見れば目線もちとずらしとるな。
「ああもう、さっさと行くわよ!」
「あ、おいちょっと待てって。黒白!」
「ほいきた。乗りな!」
図星を指されて顔も真っ赤にして飛び立った人形使いを追いかける形で、黒白の箒に乗ってオレと黒白も飛び立った。
あの冷静沈着だっった人形使いが、こうも感情をストレートに出すとは珍しい光景やね。ま、その方が親しみが湧いてええんやけどね。
「私達は紫達の弾幕ごっこを見届けてからそっちに行くわ。異変解決はよろしくねー」
「え、それでいいんですか幽々子様!?」
「あなたも少しはあの弾幕ごっこを見て勉強しときなさい。滅多に見れないレベルの戦いよ?」
それでええんか白玉楼組!?
まぁ、紫やさっちゃんがおるから時間なんて関係ないんやろうけど。ま、いっか。
「という訳で今回はオレらが」
「異変を解決しましょう。頼りの霊夢は本気でレミリア達と弾幕ごっこしてるみたいだし」
「でもってお宝ゲットだぜ」
「ほどほどにな、ほどほどに」
「魔理沙の取ったお宝は私が貰うわよ。この前、私の魔導書もっていったでしょう」
「それはあんましだじゃないかな!」
うん、確かにオレらは仲がいいんかもしれんな、息ピッタリや。
楽しく会話しているこの時のオレは思いもしなかった。まさか、ホンマもんのウサミミ少女と出会うことになるとは。
減らしても減らしてもそれを上回る速度で追加される仕事。
営業職じゃないのに何件も電話をかけ続ける日々。
そして、上の階から朝昼晩深夜早朝問わず響き渡る足音と泣き声。
そろそろ倒れるか発狂するぞわたしゃ。
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第19話
「おやおや、まさか本当にお師匠様の言った通りに人間がやってくるとは。んー、メンドクサイけど仕方がない、追い払うとしましょうか……て、3人はさすがに無理かな! うん、鈴仙に任せて私は昼寝でもしとこう」
「残念、あれは俺達の幻だ」
「え゛」
「アリスの言う通りに餌を撒いたら、見事に兎を捕まえられたぜ」
「異変を起こすような奴だもの。よっぽどの馬鹿じゃなければ迎撃兵ぐらいいるわよ」
「ほな」
「キリキリと」
「犯人の居場所を吐きなさい」
「ハ、ハハ、お手柔らかにお願いしまーす」
異世界での暮らし方 第19話
「いくら私でも居場所は言えないよ。帰る場所がなくなるのは困るからね」
この降参して捕まったはずなのに、堂々とした態度を崩さない妖怪の名は「因幡 てゐ」。小さい子供の外見をしており、頭にウサミミが生えてるのが特徴やね。種族は妖怪兎。マンマやな。他の妖怪兎の、と言ってもまだ見たことないけどそいつらのまとめ役でもあるらしい。
で、さっきから何やってるかというと、せっかくそれなりの地位にいるっぽい奴が捕まったことやし尋問して黒幕の居場所を吐かせようとしてるんやね、黒白と人形遣いの2人が。
「おい、秋。お前も手伝えよ。『自白』とでも書けば喋るんじゃないか?」
「オイオイ、敵わないとみるやあっさりと降参するような賢い奴にオレの能力バラすな阿呆」
何時まで経っても情報を吐かないてゐに業を煮やした黒白が協力を求めてきた。
それは別にええんけど、頼むからオレの能力がバレそうな発言はやめてくれんかなぁ。ほら、オレって能力がバレるのとバレないのとでは生存率が変わってくるから。勝てるもんも勝てんようなるから。対策とり易い能力なんやから。
ほら、人形遣いかて呆れて頭抱えてるやん。
「魔理沙、お願いだからちょっとは後先考えて発言してちょうだい」
「え、何かまずいこと言ったか?」
「はぁ。あのね魔理沙。ここはこんな迎撃兵がいるぐらいだから相手のテリトリーなの。もしかしたらここでの会話が聞かれてるかもしれないのよ」
「おっと、それはまずいな。こんなのでも私達の切り札だからな」
「ええ、だからこそこんなところでバレたらマズイのよ。弾幕ごっこでは役に立たないけど」
「おーい、そんな認めたくないと言いたそうな顔でこっち見るのやめてくれへんかな。おにーさん傷付くよ?」
けど、言われていることは事実だから言い返せない!
残念なことに、まともな弾幕ごっこで誰にも勝ったことないからな。
鬼っ娘の時みたいに直接殴ってもいいならまだ勝てるけど、鬼っ娘との弾幕ごっこを見てからみんな逃げるようなってもうたし。殴って地面へこましたんが原因か、岩を投げ合ったのが原因か。それとも最後の方はお互い血をダラダラ流して笑いながら顔面殴り合ってたのが原因か?
「そんな簡単に傷付くような柔な心は持ってないだろ。それより、この兎どうする?」
「そうね……このまま無駄に時間取られるのも問題だし、もういっそのこと逃がす? この先に犯人が居るのは間違いないみたいだし、適当に歩いても目的地に着くかもしれないわ」
「あっさり流すねぇ、君たち。ま、ええけど」
逃がすことが決定したので、2人がてゐを尋問している間に作った符をこっそりとてゐの背中に貼り付ける。
黒白達が尋問してくれてたんで、上手くてゐの注意が2人に向いていたのでバレずに済んだ。
書いた文字は『僕も帰ろう お家へ帰ろう』と『兎まっしぐら!』の2種類。
効果の程は黒白や紅白で実験済みで、何の違和感も持たずに家に帰ってくれる。
あとはのんびりとそれを追いかければ大丈夫や。
「おや、逃がしてくれるの?」
「これ以上は時間の無駄やからな」
「まったく、強情な兎だぜ」
いや、それはお前が言ったらあかん台詞ちゃうかな黒白?
「?」
首を傾げるな首を。お前さんが強情なんは、そこの人形遣いはおろか人里の皆さんの知ってるからな。
て、うおーい、話を逸らそうとして何でその兎にミニ八卦炉を向けるかな!?
「話を逸らそうとしてるんじゃないんだ。どうせ逃がすならその前に武力行使してみた方がいいと思ってだな。あっさりと口を割るかもしれないぜ?」
「捕縛して抵抗できないうえにそんな至近距離からマスタースパーク喰らったら、口割る前に気絶するわ!」
「それぐらいちゃんと加減できるって。秋は心配しすぎなんだよ」
その加減を間違えて過去何度もオレを黒焦げにしてきたのに、何でそんなことを自信満々に言えるのかなこの子は!?
ああもう、頼むから人形遣いも頭抱えてないでツッコミに加わってくれ。オレだけやと処理が追いつかんから。
え、頭が痛いから休憩する時間をくれ? しゃーないなぁ、あと2分したら交代な。ん、兎さんどした?
「えーっと、何か身の危険をヒシヒシと感じるから、逃がしてくれるなら早急に逃がして欲しいなー、なんちゃって?」
いやー、酷い目に遭ったと言って帰っていく兎を眺めつつ、オレ達は『光学迷彩』と書かれた符を服に貼りつけた。
これは河童が作った迷彩スーツだったかなんかを見て、オレにも出来ると思って作った符だ。あっさりと成功したのを見て、河童がやるせない顔をしたのも良い思い出や、ホント。
まあ、そりゃ、苦労して作った作品と同じようなんをあっさりと作られたら気力もなくなるわな。ちっとばかし申し訳ないとは思ってるんよ?
「ほな、気づかれないようこっそりと」
「見失わないように距離を保って」
「正々堂々と後ろから狙い撃つぜ!」
「「撃つなっ!」」
どこまで行っても締まらないオレ達であった。
頼むから撃つなよ?
アジトが見えた瞬間アジトごとマスタースパークで薙ぎ払うのもダメだからな?
「も、もちろんそんなこと考えてないからな。ホントだって。あ、その目は信じてないな!」
……お兄さんは君の将来が心配だよ。いや、素直なんはええことやけどね。
少女達追跡中
兎を追いかけていると、竹林の向こうに白玉楼とはまた違った雰囲気の和風建築が見えてきた。何あれ、めっちゃ住みたい。
「あれがアジトで間違いなさそうね」
「ああ、仲間っぽい兎と話してるしな」
「ただ、なあ……」
「「「何でブレザー?」」」
そう、てゐと話している妖怪兎はブレザーを着ていたのだ! そこは普通てゐと同じ服装じゃないん?
あの服装は紅魔館とこの妖精メイドと同じく制服と思ってたんやけど。いや、似合ってるからええんやけどね?
というか、懐かしいなブレザー。少し前までは日常でよく見る服装やったけど、幻想郷に来てからはさっぱり見ぃへんかったからな。
『ちょっと、何で怪しいやつを見かけたのに何もしないで帰ってきたのよ!?』
『鈴仙、さすがに3対1じゃ勝てないって。ここの場所を言わなかっただけでも褒めて欲しいぐらいさ』
『たしかに3対1は無理よね、うん。よく無事に帰ってこられたわね』
ふむ、姿を見せるには今がいいタイミングかな?
「説明しよう!」
「うわっ!?」
「なっ、あなた達いったいどこから現れたのよ!」
「普通にその兎を追いかけてあそこから現れたぜ?」
「てゐ!?」
「し、知らないから。ちゃんと周囲に誰もいないのを確認して帰ってきたから」
「ちょっとした魔法で姿を隠して追いかけてきただけよ。その為に無事に逃がしたんだもの」
「鈴仙、気付かなかったの?」
「そ、そんな、私の目に映らないなんてどんな魔法使ったのよ」
なんかこっちの予想以上に驚いてるんやけど、どした?
姿は隠してたし、人形遣いのアドバイスに従って途中から『認識出来ず』と『消音』の符も追加したから気づかなくて当然なんやけど。
なんせその状態やと、あの八雲紫相手に不意打ちでドロップキックが成功したぐらいやし。
「私の目に映らないような魔法を使ったり、このタイミングで永遠亭に現れるなんて、いったいあなた達はいったい……」
「通りすがりの魔法使いだ!」
「通りすがりでここまで来れたの!?」
最後は尾行したけど来れちゃいました、はい。
毎回異変に首突っ込んでる黒白の勘か運が良かったんやろね。ここまであっさりと辿り着けるとは思わんかったわ。
この場合は運が良いってことでええんかねえ?
「で、何しにきたの? てゐのストーカーならさっさと帰ってちょうだい。てゐ連れて行っていいから」
「鈴仙、何あっさりと私を売ってるのかな、かな?」
「や、ストーカーじゃないんで遠慮するわ。オレはお宝探しに来たんよ」
「私は異変解決のためよ」
「私はもちろんその両方だぜ!」
「貰うというかネコババよね。そして、悪いけどこの先には進ませない! あと、何で欲張りだなーコイツめアハハみたいな顔でのほほんとその魔女を見てるのよ残り2人。どこにそんな微笑ましい要素あったの? というか、威張って言うことじゃないから」
「おー、ナイスツッコミ! 最近ウチのツッコミ達はサボりがちだから、代わりに欲しいな」
「……お願い、てゐ連れて行っていいから帰ってちょうだい」
「……おい、お前さんどんだけ嫌われることやってきたんよ。1回断ってんのに押し付けようとしてんぞ」
「あ、あれ、私そんなに鈴仙に嫌われることしてたっけ? ごめん、今度からはもう少し労るから」
こいつら、仲良いのか悪いのかどっちや?
いや、仲ええんやろね、今までのやり取りからするに。オレと黒白みたいな関係か。
そりゃ頭抱えて払い下げしたくもなるわなぁ。基本トラブルメイカーやし。
オレと人形遣いが揃って同情の目で鈴仙とやらを見つめても仕方がないと思うんよ。
ツッコミ役は大変ですね?
「な、何でそんな目で見られないといけないのよ」
「いや、苦労してるんだなぁ、と。ええと、お名前は?」
「敵に名乗る必要はないわ」
「じゃあラビット・望月で」
「じゃあってなによ、じゃあって!?」
「しゃーないやろ。お前さんがセーラー服なら素直に月野うさぎと呼べたものを!」
「逆切れ!? 何で服装のことであんたに怒られないといけないのよ。それにどっち名前も安直じゃない!」
「安直!? ほほぅ、ならあんさんの名前は360度ぐらい捻った名前なんやろな?」
(((それ、1周回ってドストレートなんじゃ?)))
「鈴仙・優曇華院・イナバよ!」
「「「まさかのミドルネーム!?」」」
「驚くのはそこなの? ウドンゲインってどんな漢字なのかとか、ねえ!?」
「鈴仙、鈴仙。名前自分でバラしてるから。隠した意味ないから」
「……あっ」
「堅っ苦しいやつだと思ってたけど、けっこうおもしろいやつだな、鈴仙・優曇華院・イナバ」
「朱に交って真っ赤になってるわよ、ウドンクイーン」
「ボケもツッコミも出来るとは……やるな、ラビット・望月っ!」
「名前教えたんだからちゃんと呼びなさいよ、特に最後!」
「「「ごめんなさい。で、何の話してたっけ、ラビットさん?」」」
「ああもう、何なのよこいつら!?」
「どうどう。鈴仙、瞳だけじゃなく顔まで真っ赤になってるよ」
「どうどうって私は馬じゃないわよ!」
「誰も馬なんて言ってないよ!?」
「やっぱあんたらおもしれー!」
顔を赤くして怒鳴る鈴仙を宥めるてゐ。一方的に鈴仙が苦労する関係かと思ったけど、意外と持ちつ持たれつなんかね。
相性がええのは良く分かったわ。
『2人とも、全ての扉の封印が終わったわ。これで姫は連れ出せないけど、念には念を入れてそのお客人には帰ってもらいましょう』
「はい、分かりました。そういう訳で、あなたたちにはここで帰ってもらうわ……て、どうしたの?」
「いや、だって、なあ?」
「ああ」
「ええ」
黒幕おるんは確信してたけど、まさか黒幕本人から声掛けられるとは思わんかったし。おまけに、姫と呼ばれる存在がおるとはねぇ。これはお宝も期待出来そうやん。
しかし、姫、ですか。
なんでこう異変起こすやつは姫だったりお嬢だったりするやつがおるんやろね。
やっぱ1人で異変起こすんはしんどいから、カリスマを持ったやつを頂点とする組織での行動になるんか?
「まんまと時間稼ぎに付き合わされたんか。まあええ、今度はこっちの策に付き合ってもらおか」
「ああ。そんな訳でアリス、こいつらの相手は任せるぜ」
「「「え?」」」
なんかえらい驚いてるけど、この面子やと一対多が得意なんはこの人形遣いやからなぁ。得意の頭脳プレーと人形で少しの数の不利は覆せるからなこいつ。
この場は人形遣いに任せて、黒白とオレとで最速で黒幕に突っ込むのがベストやろ。
なんせ扉を封印してまうようなやつが相手や。ほっとけばほっとくほど厄介な罠仕掛けられそやし。
「言ったはずよ。ここから先には行かせない」
「私もいるし、さっきみたいに素通りはさせないよ」
「オイオイ、お前さんらウチの司令塔ナメ過ぎや。むしろ負けた時の言い訳を考えておくべきやぞ」
「ちょっと秋、ハードル上げ過ぎよ」
そうは言うけど、実際問題お前さんには簡単やと思うんやけどな、足止めぐらい。
むしろ、さっさと勝って追いついてきてもええんよ、アリスさん?
「……そこまで言われたらしょうがないわね。すぐに追いつくから、黒幕までの露払いは任せたわ」
「私達を無視するなー! それに、その扉は封印されてるし、その先も私の能力で作った催眠廊下があるのよ。先には進むことは不可能よ」
「フン、オレを誰だと思ってやがる。……黒白っ!」
「おう、この符を扉に貼ればいいんだな」
会話に参加してなかった黒白が符を扉に貼りつけた瞬間、屋敷の全ての扉が粉々に吹き飛んだ。
おぉ、全ての扉を封印したってのは本当やったんやね。
黒白に渡した符に書いた文字は『破』。けっこう色んな場面で使える文字やね。
今回は見ての通り、封印を『破棄』させて『破った』ついでに扉を『破壊』したわけや。
最近、結婚式に行く為に結界を一部だけ切り裂く練習しとったから、封印全体を後先考えずに破壊するなんて楽勝楽勝。
「んなっ!? 紙切れたった1枚で封印が全て解かれたなんて、そんなバカな」
「八雲紫も恐れる幻想郷の結界ブレイカーとはオレのことや! ほな行こか、黒白」
「おう! 後ろに乗りな、秋。アリス、先に行ってるぜ」
『まずい。そんな古い魔法を使う人間がまだ居たなんて。鈴仙、絶対に通してはダメよ!』
「分かってます。けど、この人形が厄介で。ああもう、何体人形いるのよ」
「なら私が相手をするから鈴仙はそっちに集中して」
「あら、よそ見するなんて余裕じゃない」
「ウサっ!?」
ほら、言わんこっちゃない。アリスから注意を逸らしたてゐが、その隙を突かれて被弾しおった。
複数の人形を使うアリスの視野は、展開した人形全てを、自分の後ろにあろうが自由に動かせるくらい広いから、気をつけなあかんよ?
さて、黒白の箒に乗る前に、屋敷の敷居を跨いでまず催眠廊下とやらの効果を『解除』しましょか。
どんな効果があったか知らんから、ちゃんと解除されてるか分からんけど、廊下に書いた『解除』の文字が消えてるから成功してるやろ。
次に廊下に『関係者以外立ち入り禁止』と書く。これでオレらの関係者、つまりアリスしか後を追ってくるのは不可能になった。
紫にはあっさりと無効化されるやろうけどな。
「相変わらず秋の能力は便利だよな」
「そう思うなら紅魔館行って、魔女さんから本借りて勉強してみ? 似たような魔法はかつて存在しとったはずやからな。きっとその魔法について書かれた本もあるんちゃうかな」
「それは良い事を聞いたぜ。さて、秋を乗せて行こうと思ってたけど、この先廊下が二手に分かれてるから別行動にしよう」
「あ、ホンマや。よく見えたなお前。オレ右で」
「なら私は左だ。1人で大丈夫か?」
「大丈夫大丈夫。いざとなったら壁ぶち抜いて逃げるわ」
「秋も幻想郷に染まってきたなぁ。ま、危なくなったら呼べよ、すぐに助けに行くからな」
「頼りにしとるよ、ヒーロー」
「「じゃ、また後で!」」
手っ取り早く黒幕見つけて、お宝を頂くためにオレと黒白は二手に分かれることにした。
オレは走って右側へ。黒白は箒で飛んで左側へ。
お、スピード落とさずにちゃんと90度ターン出来るようになってるやん、黒白。前までやったら曲がりきれずに壁にぶつかってたのに。成長しとるなぁ。
うん、負けてられへんわ。
もし黒幕に遭遇したとしても、1人で倒してみましょかね。危なくなったら逃げればええし。
あ、でも出来れば遭遇しない方向でお願いしますわ神様。
今年も紅楼夢にサークル参加する事になったので、そっち用の小説書いてます。
2話投稿している現代入りを本にしようかと思ったんですが、新規になる予定です。
なのはのSSの続きも書きたいけどカンフル剤が足りないのでどうにかしてください公式様。
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第20話
吹き飛んだ扉、というか障子から部屋を覗いてみるが、これといって宝物も人も妖怪兎も見つからない。
おかしい、黒白が進んだ方からは時々弾幕ごっこしてる音がするんやけど。
……お?
「あら、お客人とは珍しいわね。というか、よく入ってこれたわね。永琳が全ての扉に封印をかけたって言ってたはずなのに」
やばい、まさか宝物じゃなくて黒幕ルートでしたか?
異世界での暮らし方 第20話
何個目か分からない部屋の中にいたのは、やたら美しい黒色の長髪をお持ちの美人さんでした。
ここまで綺麗な黒髪の持ち主は、外の世界でも中々見かけられへんぞ。
「もしもーし、話聞いてる?」
「ん、おう、聞いてる聞いてる。すまんね、あまりにも綺麗な黒髪やったんで見惚れとったわ」
「今まで色んな男性に褒められてきたけど、いきなり髪だけを褒められたのは初めてよ。髪フェチ?」
「かもしれんなぁ。誰でも綺麗な髪は好きやと思うけど。オレなんて髪の毛が手に刺さるぐらい固いから、お前さんみたいな綺麗でサラサラな髪は羨ましいわ、ホント」
「1本あげるから植毛する?」
「いやいやいや、1本だけ植毛しても」
「小さい一歩に見えるかもしれないけど、人類史ではきっと大きな一歩になるわ!」
「幻想郷ではそうかもしれんけど、外の世界ではよくある技術やらから、植毛」
「へー、地上の民も進歩したのね」
「地上の民?」
「私、月の民」
「……あー、なるほどそうきたか。さすが幻想郷、宇宙人までおるんかい」
神様に悪魔までおるからもしかしたらと思っとったけど、ホンマに会えたよ宇宙人。
あと残っとるんは、先史文明の人間やゴジラみたいな怪獣、地底人と異世界人ぐらいか? 怪獣はともかく、他のはそのうち会いそうで怖いわ。
いや、広義の意味ではオレも異世界人になるんか。
「しかし宇宙人ねぇ。幻想入りするほど忘れられた存在か?」
「まだ大丈夫みたいよ。私達は逃げる為にここを選んだから居るだけ」
「逃げるって……同じ月の民から?」
「そうそう。不老不死の薬を飲んだって理由だけで月を追放されちゃって」
「へえ、流石に全員不老不死じゃないんや。良かった良かった……て、不老不死!?」
「私と永琳はね。他は老いるのは遅いけど、死ぬ時は死ぬわよ」
「不老不死がそうホイホイおってたまるかい」
宇宙人ってだけでも驚ろいてんのに、更に不老不死ときましたか。
あの底が見えない紫ですら不老不死ではないのにねぇ。
あ、そういえば条件付きで死ぬとは言え、一応不老不死の吸血鬼がおったな。
このコロコロ笑ってる美人さんも吸血鬼か?
「太陽の光浴びたら灰になるん?」
「ならないわよっ! まったく、私は吸血鬼じゃないってば。あくまで私の能力と、永琳の知恵をもって作った薬で不老不死になったの」
「薬?」
薬ってことは、最近の都市伝説で語られたり映画で出てくるような宇宙人とは違うんか。やつらは元々不老不死だったり謎の科学技術で不老不死になったとかが多いからな。
というか、最近の宇宙人はそもそも月出身が少ないわな、うん。
「そう、薬。一応去り際にこの国に置いていったんだけど、知らない?」
「いや、そう言われてもヒント少なすぎるやろ」
「そういえばそうね。私の名前は蓬莱山輝夜。当時の有力貴族から帝まで私に夢中になったのよ?」
「……なよ竹のかぐや姫!?」
「あー、良かった。ちゃんと知ってるじゃない」
知ってなかったら落ち込んでいた、と安心した顔で輝夜姫は言って額の汗を拭っている。
そりゃ、あんだけ有名な物語の登場人物やからなあ。あの物語がいつ作られたのか正確な年代は分かってないけど、長い間語り継がれて日本中で知られている話やからな。知られてなかったらショック受けるわな。
……て、ちょっと待て!
「嘘やっ!!」
「ちょ、ちょっと、いきなり大声出さないでよ。驚くじゃない」
「ごめんなさい。じゃなくてやね」
「何よー、何が信じられないっていうのかしら」
「当時の美人の条件は、書物に書かれているようにおたふく顔やぞ。現代とは美人の定義は違うんや。現代人のオレが美人と思うあんたが、当時の美人であるはずないやん」
「それ、私の美貌に嫉妬した女達が改竄して伝えただけだから」
「あっさりと歴史を否定された!?」
そんな簡単に通説を否定すると泣くぞ、歴史家が。日々頑張って古文書解読してるんやからさ。
にしても凄まじいんは当時の女性の嫉妬心、か。
今の歴史家が、本来間違っとる情報を正しいと認識している。つまり、そんだけの文献に間違っとる情報を記載せんとあかん訳で。
お前らどんだけ一致団結して歴史改竄してんねん。頑張りすぎやろ、どう考えても。
「それだけ私が美しかったということよ」
「えらい自信やな、おい」
ま、胸張ってドヤ顔してるこいつの言ってることが真実やったら、の話やけど。
「なによ、文句でもあるのかしら?」
「いんや、なーんもないよ」
少なくともこいつが別嬪さんなんは事実やからな。だからといって、その勝ち誇った顔はムカつくわ。
いや、だからあんたが美人なんは否定しないからそんな睨むなって。かといってドヤ顔されても。
ああもう、文句のつけようがない美人やから、調子に乗るなというツッコミも出来へんやん。
……やりにくいなぁ。
「ところで、あなたはどうしてここにやって来たの?」
「えらい今更やなぁ」
「私はここの主だから、一応聞いておかないとね。私達の計画を邪魔しにきたのなら、相手になるわよ?」
その瞬間、輝夜姫から感じるプレッシャーが強くなった。おいおい、返事聞く前から臨戦態勢ですかよ!?
「いやいやいや、ちょっと待って落ち着こうやないの。そういうんは他のやつに任せてるから、黒白とか紅白の仕事やから!」
「じゃあ何しに来たのよ。怪我をして、てゐに連れてこられた訳でもなさそうだし」
なんでも、時々竹林で怪我している人をてゐがここまで連れてきて、永琳という人が治療しているとのこと。
そういえばそんなことを八百屋の大将が言っとったっけ。竹林で兎に助けられた、と。
怪しい茸でも食って幻覚でも見てたと思ったら真実やったんか。
ということは、えらい別嬪なお医者様ってのもホンマか。でも、この姫さん見た後やと、そこまで美人には思えんやろうなあ。
もったいない。
「ん、お宝ないか探しに」
「素直なのは良い事だけど、普通それをここの主である私の目の前で言う?」
「いやぁ、明日友人の結婚式でなぁ。なんかええもんないかな、と」
「そんな目出度い時に盗品を渡すのはどうかと思うわ」
「大丈夫大丈夫、神話やとよくある話やから。敵さん倒してお宝ゲット。そしてハッピーエンドへ。縁起がいいね?」
「それはそうかもしれないけど、あなたは敵を倒してないじゃない」
「オレの仲間が倒せば問題ない! オレの手柄は仲間のもの、仲間の手柄はオレのもの」
輝夜姫は呆れた顔をしとるけど、ポケ○ンを見てみ?
たとえ1ターン目で何もせずに交代しても、貰える経験値は仲良く割り勘されるんやぞ。
世の中そんなもんやって。問題ない問題ない。
「いい言葉のように聞こえるけど、あなたは何か手柄をたてたの?」
「この家に掛かってた結界をまとめて破壊しましたが? 一緒に扉も襖も全部破ってもうたけど」
それに関してはちょっと悪かったと思ってるから。ごめんなさい。
いや、まさか全部破れるとは思わんやん?
全部の扉と襖に封印して、それらを1つの封印に纏めてるなんて考えもつかんかったわ。楽できてラッキーやけど。
「あれはあなたがやったの!?」
唖然としてたかと思ったら、急にケタケタと笑い出したぞこの姫さん。
なんか目尻に涙浮かんどるけど、そこまでおもろいことしたかオレ?
「ハ、ハハ、ハァ。ここまで笑ったのは久々よ。まさか永琳と鈴仙による結界を簡単に破壊するなんて。世界は広いわねぇ」
「むしろ狭い世界やけどな、この幻想郷は」
「茶々をいれないの。せっかく気分が良いから、何か1つぐらい持って行かせてもいいかなと思ってるんだから」
「おぉ、こんな気前ええやつ初めてやぞ」
「で、何が欲しいの? どんなのか言ってくれたら探してあげるわよ」
「そやねぇ」
いざどんな物が欲しいかと言われると困るもんやね。その場で適当に見繕うつもりやったから、具体的には決まってないんよね。
それに、アイツらに贈る物以上に欲しいもん出来たし、そっちにしよか。
だから、それ以上近づいて下から顔覗きこむのはやめい。美人さんに近くで見つめられると照れるやろ。
おい、分かってやってるやろ姫さん!?
「ほな、オレと友人になってくれへん? ついでに時々お酌してくれると嬉しいんやけど」
「友人への贈り物はどこに!?」
「しゃーないやん、それ以上に欲しいもんが出来たんやから」
「……まぁ、酌ぐらいしてあげるし、あなたはやることなすことおもしろいから、友人になるのも構わないんだけど。欲しいものがそんなので、本当にいいの?」
「いやいやいや、姫さんが思ってる以上にけっこう凄いことやと思うよ?」
この姫さん、時の天皇の求婚ですら断った有名人やからな。そんなやつに酌してもらうって、十分に自慢できるような事やと思うんやけど。
まぁ、外の世界では信じてもらえないから自慢できない、幻想郷の中だけでの自慢話になるけどな。
それに、こんな美人にお酌をしてもらえたらそれだけで嬉しいやん。
幻想郷の知り合いで、お酌してくれるようなやつなんて、いつも酔っ払っとる鬼っ子ぐらいやからなぁ。みんな人に注ぐぐらいなら自分のに注いで飲むタイプやし。
それに、お酒を注いではくれるけど、あれはお酌をするというよりか、勝手に人のコップにお酒を注いで呑み比べしてるだけやからな、あの鬼っ子。
「友人……友人、ね。やっぱりあなたはおもしろいわね。求婚されたことは多々あれど、友になってくれと言われたのは初めてよ」
「いやぁ、さすがに初っ端からこんな美人さん口説く勇気はないわ」
「あら、つまらない。こんなチャンス、もう二度とないかもしれないんだから、妻になってくださいぐらい言いなさいよ」
「いやいやいや、姫さんにそれ言った人、全滅してますやん。姫さん撃墜王やぞ」
「叶うかもしれないわよ? あなたのこと気に入ってるし」
顔を見せてるんだから結婚してもいいんだけど、と言ってこっちをニヤニヤして見つめてくるかぐや姫。
楽しそうやな、おい。
「パスで。そう簡単に決めるもんちゃうやろ、結婚は」
「嫌になったら別れたらいいだけじゃない。男が女の家に通わなくなったら離婚成立。簡単でしょ?」
「それは平安時代の場合やからな!?」
「あら、違うの?」
「千年以上経っとるから、そりゃ色々と変わっとるわな。この幻想郷やとどうなってんのか知らんけど」
「ならいいじゃない。黙って私のムコになれ」
「その台詞は色々とマズイからやめい。てか、いったい何でそこまで好感度高いねん」
「だってあまりにも毎日が変わらなさすぎて退屈なんだもの。そこにこんなおもしろそうな人がいたら、傍に置いて囲いたいじゃない」
「美男子だから囲いたいなら納得したけど、おもしろいからってそりゃ芸人に対する扱いやろ!」
「しょうがないじゃない。あなたが理由を欲しがっているから作ったんだもの」
「あら、秋さん。おもしろそうな話をしてるわね」
「「ん?」」
オレと姫さんの2人しかいないはずやのに、別の人の声が。
誰かと思って振り向くと、そこには青筋を立てていらっしゃる紅白が。
おい、何で黒白やなくて紅白がここにおんねん!?
「魔理沙からの伝言よ。疲れたから寝る、終わったら起こせ、だそうよ。それと」
「私もいることをお忘れなく」
「やあ、八雲さん家の紫さん。笑顔が怖いよ?」
「黒幕に辿り着いたら、知り合いがあんな会話しているんですもの、笑顔も怖くなりますわ」
怖っ、笑顔怖っ!
こんなプレッシャー感じる笑顔初めて……ちゃうな、うん。
妹さんに腕ふっ飛ばされた時の先生の笑顔もこんなんやったなー。
「えーと、知り合い?」
「保護者よ」
「待てや紅白!」
「あら、可愛い保護者さんね。初めまして、彼の妻の蓬莱山輝夜よ」
「結婚の承諾してないし申請もしてへんよね姫さん!?」
「ならちょうど良いわ。異変の犯人として懲らしめるついでに、秋さんを任せられるか確かめさせてもらうわ」
「きゃー、助けてダーリン」
「あかん、ツッコミが追いつかへん」
てか紅白、悪ノリしすぎやろ。お前そこまでオレの保護に積極的ちゃうかったやん。
え、結納はうちの神社でよろしく?
おい、まさかのデキレースかお前!?
「呆然としてる暇はあなたにはないわよ?」
「おいおいおい、なんで弾幕浮かべてるんですかよ紫さん?」
「あなたが妨害工作してくれたおかげで、この邸に入るのに苦労したのよ」
「よー言うわ。お前さんなら『関係者』の境界を弄ったら簡単やろ?」
「あんな見えにくいところに文字を書かれたら、内容も分からないもの。それに、そこの月の民と仲が良いみたいだから、あなたはそっち側ということにしたら2体2よ」
「助けてー! 助けて黒白、オレのヒーロー!」
数分後、男の悲鳴が響き渡り、地面に倒れ伏す男女の姿があったとかなかったとか。
「さて、そろそろ行きますか」
今回の異変も無事解決し、永遠亭で宴が開催されている真っ最中や。
そんな中、こっそりと宴を抜け出し博麗神社へと足を向ける。そろそろ幻想郷を出ないと結婚式に間に合わんからな。
幻想郷が日本のどこにあるのかも分かってへんし。
「宴はまだ終わってないのにどこに行くのかしら?」
「ん、ちょっと友人の結婚式にな」
「どうやって、とお聞きしても?」
「ちょいと博麗大結界を切り裂いて。なあに、大丈夫大丈夫。魔法使いに実験に協力してもろて、結界は壊さずに一部だけ切り取ることには成功しとるから」
「それでも万が一ということがあります。その万が一博麗大結界を壊されたら困りますわ」
ですから、と言って紫が指を鳴らすとスキマが開いた。
何度見ても怖いというか、気持ち悪いなあの無数の目。
「特別に送ってあげるから、ここを通って行きなさい」
「帰りはどうすんねん」
「明日の同じ時刻にスキマを開いてあげるから安心しなさい。サービスよ」
「まぁ、それならありがたく」
親切な紫ってなんか怖いなぁ、裏がありそうで。
いや、今回に限って言えば、本当に博麗大結界が壊れるのを恐れてるだけなんやろうけど。
「それでは行ってらっしゃい。帰りをお待ちしておりますわ」
「行ってらっしゃい、行ってらっしゃい、か」
オレの本来の家は外の世界なんやけどねぇ。けどまぁ、この能力ある限りはこっちじゃないと生活しにくいし。しゃーないか。
「うぃ、行ってきます。ちゃんと迎えに来てや」
それでは、しばしの間さようなら幻想郷。また明日。
キリのいいとこまで投下。
この輝夜、非常に動かしやすいです。
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第21話
うちの店には時々妖怪が落ちてくる。
何をとち狂ったか人里で暴れた妖怪が、センセーにお仕置きされて落下してくるからだ。
時々酔っ払った鬼も落ちてくる。
人が能力使えばへべれけにならずに酒が飲めるからって、酒の席に誘うのも程々にして欲しい。
せめて屋根じゃなく店の入口から入ってきて欲しい。
何で毎回着地ミスって屋根にぶつかるんだあいつは。
まあ、そんな訳で店に妖怪が落下してくるのには慣れてはいたけれど、人が落下してくるのは初めてなんだが、どうして欲しいよ、妹紅?
異世界での暮らし方 第21話
のんびりと夕飯を食べとると、「あぁぁぁぁきぃぃぃぃいいい!」と恐ろしい叫び声を上げながら妹紅が店頭に落下してきおった。
流石は正義のヒーローもこたん、結構な速さで落下したのに生きとるやなんて。やっぱ巫女と同じで人間辞めとったんか。でも、服はボロボロやな。
「いや、それあんたにだけは言われたくないから。私は鬼と殴りあいなんで出来ないから」
「おまーらも魔力やら霊力やらで強化したら出来るやん」
「……鬼の攻撃を避けずに真正面から殴りあうのは秋ぐらいと思うけどなぁ」
「そうか?」
紅白なら出来そうなんやけど。
ま、ええわ。何の用かは知らんけど、立ち話もなんやから店入るか?
飯もあるぞ、と。
「じゃ、遠慮なく。ついでに服もボロボロだから着替えも貸してもらえると助かる」
Yシャツだけ貸してやろうかコノヤロウ。
「で、オレの名前呼びながら落ちてきたけど、どしたん?」
「ああ、そのことだけど……輝夜と婚約したんだってな?」
「ブホゥっ!」
な、なんでその事知ってんねん!?
ただ、婚約じゃなくて求婚されただけやけど。
「さっき襲いかかってきた巫女と妖怪から聞いたんだ。秋があの性悪女と婚約したって」
「何適当に喋ってんのこうはァァァっく!」
しかも、何で婚約にランクアップしてんの!?
オレはそもそも求婚を受け入れた記憶は……いや、この結末を予想して紫がホラ吹いたんかもしれんな。何かほくそ笑んでるあいつの顔が浮かぶわ。
「あ、あいつらに襲われたから服ボロボロやったんか。あれ、その割に怪我してへんかったな」
「まあ、私も輝夜のやつと同じで不老不死だからね。怪我ぐらいほっとけばすぐに治るよ」
巫女の噂は聞いてたけど、あそこまで強いとは思わなかったと妹紅は笑っとるけど、あいつ相手にそんな感想を笑いながら言えてる時点で人間辞めてるからな。普通の人間は勝負にもならんからな。
しかも、あっさりと不老不死だとかカミングアウトすんなや。ツッコミ忙しくて驚く暇ないやんか。
というかやな、意外とおんねんな不老不死。紅魔館とこの吸血鬼姉妹も含めると合計5人か。
これ、お嬢の妹さんに殺されかけた時に、不老不死って書いても効果発動したんちゃうか? 不老不死なんて見たことないから効果発動せんと思って不老長寿にして生き延びたんやけど、実際に幻想郷におるなら効果発動したやろ、きっと。
「その時点では私が不老不死だと教えてないし、実際に復活する瞬間を見せた訳でもないから効果発動しなかったと思うけどね。で、婚約したんだろ?」
何か今回の妹紅はしつこいぞ。目も据わっとるし、機嫌も悪そうやし。
輝夜のことを性悪女って呼んどったし、仲悪いんかね?
「や、求婚されただけやから」
「で、それを了承したんだろ?」
「してへんから、ホントにしてへんから」
おい、何やその目は。何でこいつ本当に男かみたいな目で見られなあかんねん。
や、だからと言って信じられないと言いたそうな顔で驚かれても。
「お前は本当に男なのか!?」
「とうとう声に出して言っちゃったよこいつ」
「性格はともかく、悔しいけどあいつは正真正銘絶世の美女だぞ!? そんなやつの求婚を断るなんて信じられない!」
「ええい、否定したら否定したで怒るとはメンドクサイやっちゃな!」
そのまま額を突き合わせて睨み合うこと5分。
ようやくお互い冷静になって話し合うことに。
「ま、まあ、何だ。断ってるならいいんだ」
「断るというか、まずは友達からってことなんやけどね」
「あ゛?」
「いえ、何でもありません」
怖ええよ、もこたん怖ええよもこたん。そんな目を釣り上げんでもええやん。
そもそも、何で妹紅に人の恋路の事で怒られなあかんねん。
「他のやつならともかく、輝夜だけはやめとくんだ。あいつは悪女だからな!」
「んな力説されてもやね」
「実体験で知ってるからだよ! あいつのせいでお父様は、お父様は!」
「お父様?」
待てよ。父親が輝夜に惚れて……振られたんかな? でもって妹紅は不老不死ということは月に帰るまでに日本にいた時の人物やろ。で、妹紅の苗字からして藤原氏ってことは……
「妹紅の父親ってもしかして藤原不比等?」
「え、そうだけど。よく知ってたね」
「そりゃ竹取物語は有名やし、藤原氏は有名な貴族やからな……じゃなくて!」
「じゃなくて?」
「ご、ごごご、ご」
「ご?」
「ご先祖様キターーー!」
「え……えー!?」
流石幻想郷。神様悪魔妖怪宇宙人どころか、ご先祖様とも出会えるとは。
「という訳で、藤原氏の血は限りなく薄いけど末裔の大月秋です」
「えっと、一応先祖になる藤原妹紅です」
どうしよう、こんな昔のご先祖様に会うとは思ってなかったらか、どういう反応したらええんか分からんぞ。
幻想郷に来てから波乱万丈すぎるやろオレの人生。
妹紅もまさか子孫に会うとは思ってなかったらか困った顔を……してへんな。
あれ、さっきまでは戸惑っとったのに。むしろ何か決意した顔してるんやけど。
「よし、秋がお父様の子孫なら尚更あいつなんかと結婚させる訳にはいかないわ!」
「急にお前に娘はやらんと言うお父さんみたいになりおった!?」
「大丈夫、秋にふさわしい人は私が見つけてあげるから」
「お前はいつまで経っても結婚しない息子を心配する母親かっ!」
「慧音なんてどうだ?」
「お前の友人やんけ! しかもオレの恩人!」
「料理も出来て人望もある。ちょっと頭が固いとこがあるけど、良いお嫁さんになると思うよ?」
「たしかに超優良物件やけども! 相手に承諾を得てからそういう話はしようや」
「それもそうか。じゃあ、早速話をしてくるよ」
「ちょっと待てっ」
すぐさま店を出てセンセーの所へ向かおうとする妹紅を捕まえる。
何なの、何なのこれ。オレが父親の子孫と分かってから急に態度変わりすぎやろ。
今までもぶっきらぼうやけど優しかったけど、ここまで世話焼きちゃうかったぞ。デレたのか、デレたのか。これが噂のツンデレですか!?
方向性が微妙にちゃうけどさ!
「なんだよ秋」
「いやあの、オレまだ結婚とか考えてないから。そんな歳でもないから」
「あれ、そうなのか? むしろもう遅い方だと思うけど」
「今の日本では、成人は二十歳を迎えてからや」
「あれ、そうなのか?」
ふぅ、良かった、止まってくれた。
これで諦めてくれるやろ。恋人ならともかくこの歳で所帯持つやつはそんなにおらんぞ。
あ、そういやこの前会長結婚したとこやったわ。
「でも慧音を狙ってるやつは人里にいっぱいいるし、やっぱし話を通しとこうか。」
「里でセンセーと話してたら殺気を感じるんはそういうことか!?」
「な、手遅れになったら困るだろ?」
「何当たり前のようにオレがセンセーが好きって前提作ってんの!?」
「大丈夫だって。慧音も秋のことを悪くは思ってないから」
「人里と関わってるのに、あの人に嫌われるのはよっぽどのことちゃうかな」
「合わないと思ったら別れたらいいんだよ」
「お前もそこらへんの価値観は輝夜とおんなじかいっ!」
「あいつなんかと一緒にするな!」
「怒ってもおんなじ台詞言ってるんやからしゃーないやろ!」
千年以上昔の時代の人やから価値観が合わんなもう!
昔と違ってそんな簡単に結婚とか離婚とか出来へんっての。あれ、でも最近はそうでもないんか?
というか、そもそも幻想郷ってそこらへんの法律とかどうなってるんか知らんなオレ。
頭を抱えつつも妹紅とそこらへんの価値観をすり寄せとると、店のドアをノックする音が聞こえた。
こんな時間に客来るんは珍しいんやけどな。またあの鬼っ娘か?
「あいよー、萃香か?……オブッ!」
「やっほー、秋。いつまで経っても会いに来ないから私から会いに来たわよ。あと、永琳が話があるって」
ドアを開けるなりタックルかましてくれたんは、まさかまさかの輝夜やった。
行動力あるなー、この姫さん。永遠亭からはそれなりに距離あるんやけど。
「タックルじゃなくて抱きついてるだけなんですけどー?」
「危ないことには変りないやろ。あんな勢いつけてたらオレ倒れてもおかしくないやん」
「それぐらい耐えなさいな、男の子」
「オイ、いつまで抱き合ってるんだ」
「あら、何であなたがここにいるのかしら妹紅?」
オレが姫さんに抱きつかれていると、不機嫌な顔した妹紅に引き離された。
いやはや、スマンね妹紅。抱きつかれると引き離されへんのよ、役得すぎて。
うん、だからそんな睨まないで欲しいですごめんないさい。
「お前が巫女をけしかけたからだろ、このバカ!」
「あら、他にも魔理沙とかもけしかけたんだけど、会わなかったのね。残念」
「けっこうえげつないことすんなー、姫さん」
「んー、ちゃんと名前で呼んで欲しいんだけど、いいわ。その呼び方をしていい男性はあなただけよ、ダーリン」
「誰が誰のダーリンだバ輝夜」
「妹紅には関係ない話でしょ」
「大いに関係あるね。秋は私の子孫だ!」
「ほら、そんなに関係ないじゃ……え?」
あ、姫さんが固まった。
さっきまで妹紅と火花散らして睨み合っとったのに、たった一言で空気変えおったぞ妹紅。
しっかし、これが噂の修羅場ってやつか?
若干違う気もするけど。むしろ嫁姑戦争?
どっちにしろオレが体験することになるとは、ね。
いっつも会長が修羅場ってるを高みの見物して笑っとったけど、いざ自分がその立場になると笑えないなぁ。
……もうちょいご祝儀多めにしといたったら良かったか。
そんなことを考えてる間に姫さん復活。妹紅と激しい舌戦を繰り広げ始めた。
やばい、逃げるタイミング逃した。
「もしもし」
「あ、はい。えーと、あなたが永琳さん?」
「ええ、そうよ。姫様たちの事は一時置いといて、商談しましょ?」
永琳さん曰く、人里で薬売をしたいそうな。それも置き薬。
しかし、先日お弟子さんと一緒に売りに行ったらそんなに売れなかったと。
その理由はオレが売ってる『治療符』だとセンセーから聞いてこの店に来た、と。
まあ、そうなってもおかしくはないか。
『治療符』って便利なんよね。どんな症状でも問答無用で治療するから。
症状によって『治療符』が何枚いるかは変わるけど、あれさえあれば風邪から骨折まで幅広く対応出来るからな。そういう風に作ったし。
なんせこの幻想郷、妖怪は知らんけど人里の医療技術は数世紀昔で止まってたからなぁ。おまけに医者も薬師も高齢化しとったし。
流石にそれはまずいってことで、次の世代の医者が育つまでの代用品として『治療符』を作ったんやけど。
ちと、便利すぎたかな?
「なるほどなるほど。ほなオレが符の販売を抑えればええんやね」
「あら、あっさりと引き下がるのね。売れ筋商品と聞いてたから断られると思ってたんだけど」
「元々、次世代の育成が終わるまでの代用品や。腕の確かな医者がおるんなら問題ないやろ」
「初対面なのに私の腕を信用して良いのかしら?」
「姫さんから不老不死の薬作ったんはあんたやと聞いてる。そんなもん作れるなら大抵の薬は作れるやろ」
「そう思ってもらって構わないわ」
「それに」
「それに?」
「オレの符は、オレが生きとる間、オレしか作られへんからね」
なんせこの店で売っとる商品全て、オレの能力で作られとる。そう、オレの能力で。決して技術やない。
つまり、オレが死んだら誰も同じもんは作られへん訳や。
それと比べて薬は次の世代に伝えられる技術や。ちゃんと伝承できたなら、師匠がおらんくなっても薬は作られるからな。
なら、いつ生産が止まるか分からんもんより、技術の伝承が行える薬の流通を確保するほうがええやろ、うん。
しかも、この別嬪なお医者様も不老不死らしいからなあ。技術が途絶える事はないし、この人がどこかに移動しない限りは永遠に面倒を見てくれるお医者様やぞ。
どう考えてもこちら優先ちゃうかな。
「でも、完全には符の販売を止めないのね」
「薬ではどうにも出来ないもんがあるかもしれんしなぁ。緊急用にはええんとちゃいますかね」
なんせ骨折も虫歯も治せるからな。あれは薬ですぐどうこうなる物じゃないし。
「そう、ね。私が手術をするまでの生命維持装置としても使えるわね」
「手術まで出来るんかい。なんでもござれやな」
スペック高すぎやろこの人。まぁ、そんな人がおるなら安心出来るか。
「ほな、今後の人里をよろしゅう頼んます。たぶん出番は多いよ? なんせ鬼と相撲取るのが好きな腕白坊主が多いから」
「あらあら、それは大変ね。主に私の弟子が」
「弟子?」
この人じゃなくて、お弟子さんが人里に来るんか?
お弟子さんもおるなら、人里も安泰かねえ。
「ええ、そうよ。まだ修行中だけど、ある程度の知識はあるから大丈夫よ。手に負えない時は永遠亭に運ぶように言ってるわ」
「あ、そうなんか。で、そのお弟子さんは? 顔知っときたいんやけど」
「あなたがこの前永遠亭に来た時にからかってたウサミミ生えてる子よ」
ああ、あのからかうとおもろい子か。はたして大丈夫やろか?
人里にはオレみたいな人をからかうのが大好きなやつが数人おるんやけど。
「心配しなくても大丈夫よ。だってあの子、人見知りだもの」
「その方が心配や!」
「だから大丈夫よ。いざという時は頑張れる子だもの。それより、あっちのことを心配した方がよさそうよ?」
「……出来れば目を逸らしていたかった」
「でもほら、こっちに歩いてきてるわよ」
その言葉が終わると同時、姫さんは永琳さんにしがみつき、妹紅はオレを引き寄せて後ろに隠した。
おーい、いったいどうしたんや。
永琳さんと話しとる間にどんな会話したんやこいつら?
「永琳! 永琳からも何か言ってやってちょうだい!」
「まあまあ、2人とも落ち着いて。彼にだって好みがあるんだから」
「オレの好み? とりあえず料理が出来て、代筆して欲しい時があるから字が書ける人かな」
どっちもオレには出来へんことやからね。代筆はともかく、美味い飯が食べたいんよオレは。
近いうちに食材持って、黒白の家行ってみよかな。あいつはちゃんとした料理が出来るからな。
「永琳、明日から料理の練習をするわよ」
「それじゃあ簡単な料理からはじめましょうか。それにしても姫様、彼の事が気に入っているのね」
「ええ、秋と一緒にいたら退屈しそうにないもの。永琳の唖然とした顔を見させてくれたのは秋しかいないわ」
「ふん、何があったってお前にだけは秋は嫁がせないからな」
待て、それは色々とおかしいよご先祖様。そして、やっぱし料理は出来へんねんな姫さん。
ああ、いや、そんな気まずそうな顔せんでも。これから頑張れば大丈夫やって!
「あら、モテモテね」
永琳さん、微笑みながらその感想言うんもなんか違う。
というか、普通あなたも輝夜はお前なんぞにやらんとか言うんじゃないんですか?
――おや、私に何の相談もせずに秋の結婚を決めるのはどうかと思うのですが――
「あ、母上。お久しぶりやね」
「ええ、少し人里に用があったので帰りに寄らせてもらいました。というか、あなたも偶にはこちらに顔を出しなさい」
「秋、その方は誰かしら? あなたのお母様と聞こえたんだけど」
「ええ、私が幻想郷で秋の保護者をしている四季映姫です。以後お見知りおきを」
「「……え、ええええ!?」」
その日、時が止まった。
まあ、このネタがやりたかったんですよ。
血の濃さを木にしなければ、藤原氏の子孫はそこらかしこにいるので、何にもおかしくはないですよね。
そして、予想外の人を登場させられたと思ってます。
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第22話
「……」
「……」
「……」
何この沈黙怖い。
「あの、うちの姫さまとお師匠様がこちらにいると……え、何この状況」
こっちも教えて欲しいよラビット・望月。
異世界での暮らし方 第22話
母上が現れてから、もこーと姫さんが固まったまま動かへん。やっぱ閻魔様が保護者ってのは驚くよなあ。
でも、そこ入り口近いんやから、どいてくれへんと母上が中に入られへんねんけど。ほら、母上も困った顔しとるよ?
そろそろ声を掛けようか悩んどったら、固まっとった2人が錆びたブリキのおもちゃみたいな動きでこちらに顔を向けてきた。
いや、固まりすぎやろお前ら。
「ほ、保護者?」
「そうですよ」
「は、母上?」
「おう。義理の、やけどな」
「閻魔様?」
「ええ、担当はここ、幻想郷です」
「「なんでそんな存在が保護者やってるのよ!?」」
まあ、そう思うわな。
なんせ外の世界からやってきたとは言え、オレはただの人間。なのにその保護者が閻魔様やもの。接点ないよな、普通。
そりゃ2人みたいに驚くわ。お医者さんも驚いてるのか顔が固まったまま動かへんし。
母上も同じことを考えたのか苦笑している。
「外の世界におる時にな、満月の夜に井戸から落ちたんよ」
「それが保護者が閻魔様な事とどう関係あるんだよ?」
「まあ最後まで聞きーや。その井戸が地獄に繋がっとってな」
「んなっ!?」
「昔はともかく今は普通の井戸らしいんやけどな、満月の影響で力を取り戻しとったんやとさ」
あ、姫さん達が目を逸らした。正確には姫さんと、えーっと、たしか永琳さんだったかな、がラビット・望月を見つめて、ラビット・望月が目を泳がせとるな。そういえばこいつら月の民とか言っとったな。何か関係しとるんか?
「で、さらに満月の影響で繋がる地獄が幻想郷の地獄に狂ってもうてな」
「けっこう奇想天外な体験してたんだね。さすがは私の子孫!」
それで済ましてええんか、藤原家?
実はこの話には続きがいくつかあるんやけどね。
着地点もずれて地獄じゃなくて三途の川に落ちたとか、完全に沈む前に姉さんに助けられたとか、生身で地獄に突っ込んだからか三途の川に沈んだからかは知らんけど能力が開花したとか。
それと、姉さんが保護者だったけど、ぐーたらだったから母上が怒って保護者が交代になったとか。
妖怪や魔法がありふれとった時代ならよくある事かもしれんけど、科学が発達した現代で起こった事やからなあ。
いやー、我が事ながら波乱万丈な人生送っとるな、おい。
「波乱万丈で済ませるあたり、あんたたち確実に同じ血が流れてるわよ」
「「イエーイ!」」
「ハイタッチしてまで喜ぶところ!?」
混乱の解けたもこー達に入り口近くからどいてもらい、何故か全員で店の奥の住居スペースへ。
もこーらは帰ってもええんやけどなあ。
「んで、どしたん母上? 店に来るなんてけっこう珍しいやん」
「忙しくなければもう少し様子を見に来るのですが。あなたはすぐに楽な手段を選んでばかりで向上心がない。そんな所ばかり小町に似てどうするんですか。以前来た時にお茶ぐらいちゃんと淹れられるようになりなさいと言ったのに、未だに能力を使って淹れているでしょう」
「えーと、ごめんなさい。でもやね――」
「料理等に使うお金がないという言い訳なら去年聞きましたよ。しかし、何か改善しようとした訳でもなさそうね」
あれ、お茶を出したら何か普通にお説教されてますよオレ?
言われてることは正しいんやけど、お説教始まる雰囲気ちゃうかったやん。
「あ、この光景は人里でよく見かけるな。立場だけじゃなくて、本当に保護者やってるんだな」
「人里で見かける光景だと、子供はもっと小さいけどね」
外野うっさい!
見てるなら助けろよ、特にご先祖様。
「姫は人の事を笑えませんよ」
「偶にお師匠様に怒られてますもんね」
「そこ、余計なこと言わなくていいの!」
あ、同類がいた。いや、姫という立場上姫さんの方が情けないんちゃうかな。
「秋、そういうのを五十歩百歩って言うんだよ」
「もうちょい髪の手入れしろ、顔を見せに来いってセンセーが言っとったよ」
「……今度山菜持って行くって慧音に言っといて」
二人揃ってため息を吐く。いやー、あんまし心配かけないようにしよう思ってるんやけど、中々難しいもんやねぇ。
どうも自分の能力は便利すぎて、すぐに頼ってしまう癖がついとるし、それを疑問に思わへん。
使えるんやったらとことん使えばええと思うんやけど、母上は能力に頼らなくてもいい事は使わずにやれと言う。
母上が無駄な忠告する訳ないんやからなんとかしたいんやけど、生憎そんなに収入ある訳でもないし。
「なあ、永琳さん」
「何かしら? ああ、大丈夫。姫の花嫁修業はちゃんとさせとくわ」
「や、そうじゃなくて。治療符の流通量減らすし、ウチの販売経路使ってええし、ウチの店に薬置いてええから手数料として毎月売上の2割くれへん?」
「高すぎるわね」
「今ならオレの『文字に力を与える程度の能力』を使って、薬の作成に必要な植物とかの育成に協力するけど」
「売上の1割と植物等の育成及び保管に掛かる費用、でどうかしら?」
「そのへんが落とし所か。オッケー、それでよろしゅうに。定期収入あると助かるわ」
「こちらこそ、便利な能力の持ち主に出会えて良かったわ。その能力なら、貴重な植物でも安定して確保出来そうだもの」
これでオレは定期的な収入が。永琳さんは定期的な植物の確保が。今後も仲良くやっていきたいもんやね。
……あれ、母上が何か怒っとる?
「いきなり説教してしまった私も悪いと思いますよ。でも、私と話していたのに他の人と話をしだして、私を無視するのはどうかと思います。というか、滅多に会えないんですから親孝行するべきではないでしょうか。以前会った霊は、偶に会う息子が肩を叩いてくれたり、好物を作ってくれると一家団欒の様子を伝えてくれましたが、あれはもはや昔の光景なのでしょうか」
何かものすんごいテンション下がってはる!?
いったいどんだけ一家団欒の光景に憧れとったの、母上。
とりあえず遠くを見ながら呟くのはやめんかい。みんな軽くひいてるがな。
こういう母上も新鮮でかわええけど、姫さん達が早くどうにかしろと視線で訴えかけてくるんで、そろそろ正気に戻そか。
「おーい、母上、母上様? 話の途中で他の人と話しだしたんは謝るから、そろそろこっち戻ってこーい」
「……む、失礼しました。しかし、元はといえばあなたが途中で人を無視するからいけないのですよ?」
「だから謝ってるがな。というかやね、そんなに一家団欒したいならもうちょい家に帰るか、この店に来たらええやん」
「小町みたいに仕事をサボってここに来い、と?」
おーい、バレとるぞ姉さん。今度お説教されるかもしれんけど……カンバ!
「そうは言ってないけどやな、せっかく休み取れても説教しに出かけたり姉さん達叱ったりしてるやん」
「しかし、家に居てもすることがありませんし」
「それこそ家族とスキンシップ取ればいいと思うんやけどっ!」
「……!?」
や、何でそこでそうすれば良かったと言わんばかりに驚くかな?
家族団欒の光景に憧れてるのにこの事に気づかんとか、どんだけ家族に慣れてないんよ。
まあ、そんだけ仕事に打ち込んでるってことなんやろうけど。
こんな調子やと、実際に子供が生まれた時大変ちゃうかな、と義理の息子は心配してまうよ。
「手のかかる部下と息子がいるので、しばらくはその心配は無用です」
「でも、この前他の閻魔様から縁談進められてなかったっけ?」
「何でその事を知っているのですか!?」
母上が断りまくるから、外堀埋めに来たんちゃうかな。相手も困った顔しとったぞ。
まあ、んなもん知らんと言っておいたけど。
「あの方達は人の息子に何を話しているのですか、まったく。それはそうと秋。大晦日と正月に何か予定は入っていますか?」
「ん? いやー、特に無いかな」
あるとしたら、紅白のとこに顔見せに行くぐらいか。
その事を伝えると、母上はホッとした顔をした。
何か用事あるんかね? 忙しいから買い出しに行って、とか。
「そうですか、それは助かりました。その間は小町仕事を休めそうなので、こちらに泊まりたいのですが……」
「ええよええよー。元々部屋数多いから、好きな部屋使ってくれたらええから」
家族なんやから、そんな遠慮せんでええのに。
ちなみにこの店、人里の外にあるだけあって無駄に敷地は広い。なんせこんなとこ住む人間はオレぐらいやし。
なので居住スペースには、来客用含めて部屋は10室以上ある。
まあ、いくつかは物置と化してるけどな。
「それなら、小町も誘えそうなら誘ってみましょう」
「誘ったらほぼ確実に来るんちゃうかな、姉さんなら」
「それもそうですね」
誘えば喜んで着いて来そうな姉さんを想像して、母上と笑いあう。
上司である母上公認で休めるなら、よっぽどの事がない限り来るんちゃうかな。
明日にでも食器揃えに人里行こか。
「では、伝えることも伝えたので、今日は帰ります。秋、これからは能力に頼り切ってはダメですよ。今までより頻繁に様子を見にきますから、しっかり改善するのですよ?」
「ああは言ったけど母上は忙しんやから、無理せんでええよ?」
「いえいえ、悪い虫がつかないよう注意する意味もあるので」
そう言って姫さんを見る母上。
あー、あれか。嫁姑戦争勃発か?
「もしかして、その悪い虫って私の事かしら?」
「少なくとも家事が出来る女性じゃないと私は認めません」
「あら、別に私が作らなくても、永琳か他の誰かが作るわ。……もちろん、自分でも作れるよう練習はするけど」
「そんな堕落した人に秋は任せられません。ただでさえ、秋は楽な道を選ぶのですから。あなたは料理だけでなく、他のこともやってみるべきです。そうでないと、あなた達の事ですから二人してぐーたらな生活を送ってしまうでしょう。それでは他の人に見捨てられたら最後ですよ」
あ、姫さんが永琳さんに泣きついた。
「それと、藤原妹紅」
「わ、私ですか!?」
「私がいない間、秋の事は任せましたよ。くれぐれも変な虫を近づけないように」
「お、おう、任せといて!」
何かお互い感じるもんがあったんか、握手しとるぞこの2人。
というかやな、そこまで心配せんでも危険なとこには近づかないようにしてるんやけど。
「いいえ、秋はどこか抜けてるので、最悪どこかの妖怪に騙されて食べられかねません」
「ああ、確かにそういうところがあるよね。それと、お前はけっこう危ない連中と関わり持ってるって自覚がないのか?」
ああ、紫のことか?
あれは向こうから接触してきたんやし、あいつから逃げるなんて不可能やろ。
なんせ境界弄るなんてアホな能力持ってるんやぞ。どうやって逃げろと。
「他にもいるだろ。紅魔館の吸血鬼とか」
「そういえば、鬼とも殴り合いをしていましたね。自分の能力を信じるのもいいですが、少し過信しているのでは?」
「え、あ、いや、その」
あかん、地雷踏み抜いたかも。
お説教は、途中で悔悟の棒で叩かれたりしながらもようやく終わった。
あの棒、それなりに重かったから、けっこう心配掛けたみたいやなあ。あれ、罪の重さだけ棒も重くなる仕様やったはず。
そして、現在何故か――
「おー、あれだけいい音して叩かれたのに腫れてないわね」
何故か姫さんに膝枕されながれ頭撫でられてます。
うん、なんで?
お説教が終わった後、意気投合した母上ともこーは2人でどっかに出かけた。なんでも、今後のオレの育成方針について話しあうとか。おいおい。
で、それを呆然として見送っとったら、姫さんに肩を引っ張られてこの体勢に。
「これなら逃げられないでしょう。さあ、結婚するの、しないの?」
「そう急かされてもなあ。うん、まずは友達からで」
「えー」
「おいおい、友達ナメんなよ? 今なら生きるのに疲れて死にたくなったら死をプレゼントしたるサービス付きやぞ」
「……私は不老不死よ。死んでもすぐに生き返るわ」
この体勢やと姫さんの顔が見られへんけど、なんか声に諦めが混じっとる気がする。
おいおいおい、ここは死にたくなることなんて無い、とか言い返すんちゃうんかいな。
しっかし、そんな声聞いたら、諦めるなよと言いたくなるのが魔法使いな訳で。
「それがどうした、と言っとこか。外の世界には不死殺しの武器なんていくらでも伝わっとるわ。オレの能力使ったらそれを再現するぐらい朝飯前やぞ?」
「もし、もしそれが本当だとしたら……今は友達で満足しておいてあげる。ただし、ちゃんとお墓参りするのよ。まあ、私が死にたいと思う日なんて来ないと思うけど!」
「オッケー、オッケー。友達やからな、一年に一回はお墓参りしたるわ」
「もっと多く来なさいよ、ケチっ」
「これ以上は身内用や」
「よし、決めたわ。やっぱり友達なんかで満足するのは止めよ。絶対に妻になってみせる!」
「へいへい、がんばんなさいねー」
「絶対にその気にさせてみせるんだから、覚悟しなさいな」
そう言って笑う姫さんの声は、実に楽しそうで。
「あー、そん時はこっちから告白するんで、よろしゅうに」
どうやらオレは、この姫さんのことが気に入ってるようや。少なくとも、会話を楽しいと思える程度にはな。
とりあえず連日投下はここまでです。
仕事しんどい。
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第23話
みなさんは魔女と聞くと何を思い浮かべるだろうか。
釜で怪しげな薬を作ってる光景?
それとも箒に跨って空を飛んでいる?
魔法を使って戦っている姿を思い浮かべる人もいるだろう。
さて、この幻想郷にいる魔女は何をしているかというと。
「ちょっと、少しは手伝いなさいよ!」
「私は材料を集めて来たから免除だぜ」
「オレは料理が下手やからなぁ。お菓子なんざ作られへんわ」
「魔理沙はともかく、秋は後で罰ゲームね」
「料理もお菓子もないけど、紅魔館とこの図書館で自作した魔導書の写本ならあるよ?」
「「よくやった!」」
飯やらお菓子を食べながら魔法について語る、これがアリス・魔理沙・オレの3人による魔女会の光景である。
オレは魔女じゃなくて魔法使いだけどな。
異世界での暮らし方 第23話
「で、何の写本を作ってきたの?」
「ん。エイボンの書」
「あ、相変わらずエグいのをサラリと持ってくるやつだぜ、まったく」
「と、螺湮城本伝」
「まさかの原本!?」
「アルス・ノトリアもあるよ。てか、何でこんなんをあそこは所持してんねん。吸血鬼住んでる館やろ」
あの図書館の選書はどんな基準なんやろね。まあ、それよりも疑問なんは、どっから集めたきたかってことやけどな。偶に新刊入っとるし、あそこ。
図書館の主であるあの引きこもりの魔女が外に行くわけないし、小悪魔さんかさっちゃんが買いに行ってるんか?
てか、売ってるもんなんか、こんな危険で希少な本。香霖堂になら、数冊ぐらい置いてそうやけど。
「確かにあそこの選書も気になるけど、秋の選書のセンスもおかしいからな」
「こんなの、普通は見ただけで発狂するわ」
2人がおかしなことを言ってくるので、つい鼻で笑ってもうた。誰が普通やねん、誰が。
こんな禍々しい森に住んでる時点で人間としてはおかしいわ。普通はここの瘴気に耐えられへんぞ。
時々この森に迷い込んだ人間が、ラリって人里に戻ってきてるぐらいやからな。自力で戻ってきたのか、妖怪によって戻されたのかまではわからんけど。
「そうね。魔女の私ならともかく、人間のはずの魔理沙は明らかに普通じゃないわね」
いや、お前そんなドヤ顔して言ってもあかんやろ。お前も同類や。魔女だからって、こんなおかしい森に住むやつがあるかい。
「自分で作った人形に話し掛けてるアリスよりマシだと思うけどな」
「なんですって!?」
黒白の言葉に目尻を吊り上げて怒る人形使い。いや、こんなとこ住んでる時点でどっちもどっちやと思うんやけどね、オレは。
人里でも変なとこに住んでる頭おかしい連中として認識されとるし。特に黒白は、わざわざ人里離れてこんなとこ住んでるから余計に、な。
「「お前(あんた)だけには言われたくない!」」
「オレは能力と家族以外はいたって普通や!」
「それだけでも十分普通じゃないだろっ」
「それに、最近は鬼と朝まで酒を飲みながら殴りあったって言うじゃない」
「「え?」」
「……え?」
黒白はお前そんなことしてたのかよという顔でこっちを見てくるけど、オレは知らんぞそんなこと。
いや、酔いつぶれて忘れた訳でもないし、頭殴られて記憶飛んでる訳でもないからそんな疑いの目でこっち見んなや。してへんって。
こんなオレと黒白のやり取りを見た人形使いは、何か変な事を言ったのかと困っている。
「おい、人形使いさんや。いったいその情報、どこで手に入れたよ?」
「烏天狗の新聞よ」
「なるほど……よし、あの文屋今度会ったらシバく」
まーた大袈裟に書きおったな、あいつ。
さすがに一気に両方やったら死ぬっての。片方ずつならやったけどさあ。
まったく、次会ったら羽もいで鍋で煮たる。それか能力使って『シャッターを押すと7回に1回の確率で裏蓋が開く』とでもカメラに書いたろか。いや、鬼っ娘をけしかける方が効果あるか?
というか、見てたなら助けろよあの出歯亀鴉っ!
「いやいやいや、片方だけでも普通じゃないからな。お釣り出るから。弾幕ごっこじゃなくて、純粋な暴力で鬼と渡り合うだなんて、霊夢ですらやったことがないはずだ」
「霊夢なら出来る気もするけど、ね」
「紅白やからなぁ。まあ、とりあえず」
「「「お前に普通じゃないとか言われたくない」」」
「……」
「……」
「……」
「「「表に出ろ!」」」
この会合、結構な頻度でこういった喧嘩になる。
それこそ魔法に対する見解の違いだったり、料理の味だったり、理由は色々や。
なんせ3人とは言え個性強い面子が集まっとるし、魔法使いだけあって自分の理論に自信持ってるからなぁ。
事あるごとに衝突するんよね。
ちなみに、この後は3人で弾幕ごっことなったが、当然オレが一番早く撃墜された。
つまり、オレが一番普通や。分かったか、そこのNot普通のバカ2人。
「秋、お前とうとう手袋も何もしてない素手で弾幕を弾いてなかったか?」
黒白とアリスが信じられない顔をしてこっちを見とるけど、それぐらいどこぞの鬼だって出来るって。多分紅魔館とこの門番さんだって気で強化すれば出来るんちゃうかな。
オレの場合は結界を切った時の経験を生かして、幽霊だろうが何だろうが殴れるようになっただけなんやけど。そこは自分の能力活かしてるだけやから、種も仕掛けもありまくりやぞ?
「いや、あいつらだって流石にマスタースパークを跳ね返してはこなかったからな?」
リッパーなみょんの技を真似しただけやから、オレだけじゃなくてあいつも出来ると思うで? 跳ね返さずにぶった斬るかもしれんけど。斬れないものはあんましないらしいしなあ。
「言っておくけど、今挙げた連中は全員人間じゃないわよ」
「お前って実はウィールドドラゴン種族だったりしないか?」
いつからオレはそんなご大層な種族になったんや、オイ。
たしかに三途の川に体半分以上沈んで能力開花したけど、種族までは変わってへんからな。
……うん、たぶん人間のまま。能力使って不老長寿にはなっとるけど人間やな。
「人間かはともかく、鬼と出会ってから急に人間離れしてきたのは事実よ。弾幕ごっこは相変わらずダメダメだけど」
「相変わらず弾幕は張れないのに、そっちは改善せずに肉体派魔法使いになったときたもんだ。時代に逆行しすぎじゃないか?」
「す、好き勝手言いおってからに、こいつら。ちと真剣に話し合おか。主に肉体言語か暴力言語で!」
あんなんと殴り合いしたら、生き残る為にもそりゃあジャンプの主人公みたいな成長するって。
なんせ初撃で黒白のマスタースパークを防いだコートが消し飛んだんやぞ。慌てて肉体と動体視力と反射神経を強化しましたとも。
黒白も人形使いも、あの鬼と弾幕ごっこで勝負をしたことがあるからか、あいつの拳の威力を思い出して顔を青くしとる。
そうやんなあ、怖いよなあ、あいつのバカ腕力。
でもな、オレはお前らの時みたいな弾幕ごっこ用に威力抑えたやつじゃなくて、本気で殴られたんやけど。
「おいおい、そんな鬼と張り合えるようになったお前と肉体言語で語り合うなんて御免だぜ」
「というか、秋ってサブミッションなんて使えるの?」
「使える訳ないやん。オレに戦闘系のセンスは欠如しとるからなぁ」
「なら肉体言語使えないだろ!?」
「その為の暴力言語です」
「なら肉体言語はいらないだろバカ!」
正統派な魔法使いである黒白達からすると邪道なんやけど、オレの目指す道の一つではあると思うんよね、肉体言語。悲しいことに格闘センスがからっきしやったから諦めたんやけど。
流石は平和な日本の都市で育ったモヤシっ子!
ただ、それでも身体能力を強化できるのはありがたいことには変わりなく。鬼を見習って身体を強化して、素早く近づいて渾身の力でぶん殴ることにした。
まあ、それぐらいしか出来ないとも言うけどな。なんせ強化した身体能力を扱いきれてへんし。
『鬼のような強さ』と書いたから鬼並の身体能力なんになるんやけど、いやはや凄いね。世界が違うわ。
よくこんなんに勝てたな、桃太郎とその家来。尊敬するわ。
「秋は人里で、その桃太郎と同じ扱いされてるんだけどね」
「あの新聞記事のせいやな、まったく。センセーがなかったことにしてくれへんかなぁ」
アリスが苦笑しながら言ってくるが、結局あの鬼には1回も勝ててないんやけど。
これが私の全力全開とでも言わんばかりに巨大化して、一切の躊躇もなく踵落とし喰らってKOされましたとも。
あんな巨大化したやつと殴り合わんといかんと知った時の絶望感ときたら、そらもう凄かったぞ。自分がペシャンコになる未来しか見えんかったからな、うん。
「あの時の萃香はでかいよな」
「あいつより高い位置を飛べば怖くないんだけどね」
「その方法は、自力で飛べない秋には厳しいって」
「……空飛んだら鬼も飛んできて地面に叩き落されたって、紅魔館とこのメイド長が言っとったぞ」
「「怖っ!」」
あの巨体のまま目標にジャンプし、体をしならせて手のひらで撃ち落とす。
さっちゃんから聞いたその時の様子は、まさにアタックを決めるバレーボール選手やった。
さて、そんな鬼の、脅威のジャンプ力を聞いた魔女2人はというと。
「アリス、何か役に立ちそうな記述はあったか!?」
「そんな簡単に見つかるわけないでしょう」
「西洋の魔導書に日本の鬼の記述があるかいな……」
必死の形相で、オレが持ってきた魔導書を見ていたりする。
まあ、鬼についての記述が西洋の魔導書に載ってる訳ないわな。吸血鬼については書いてるかもしれんけど、あれは日本の鬼とは別物やし。
「何で西洋の魔導書ばっかりなのよ。秋も鬼に狙われたことあるんだから対策ぐらい取ろうとしなさいよ」
「紅魔館とこに東洋、てか、日本の書物なんてないやろ。見たことないし」
「なら稗田の家から借りてくるとか、他にも魔導書とか持っていそうなとこはあるだろ。頭が固いぜ」
「残念ながら、紅魔館とこ以外に貸してくれそうな知り合いおらんのでな」
「なら勝手に借りればいいだけだぜ!」
「「それ、借りるって言わない。泥棒だから!」」
胸を張って泥棒宣言をする黒白に、アリスと2人してツッコミを入れてしまう。
何でこうも堂々と言えるかね、コイツは。少しは躊躇うもんやろ。
「魔理沙の言う手段はともかく、あの鬼に対する手段を見つけないといけないのは本当よ」
「ああ、このまま負けっぱなしなのは癪に障るからな」
「あいつに負けない、巨大な人形作るとかどうよ?」
そんなんを糸で操れるかはわからんけど、楽しそうやん。肩に乗って指令を出せたらモアベターと言えよう!
「ざ、材料費がバカにならないわね。というか、そんな人形どこにしまっておくのよ」
「作れるのか!? これは私も負けてられないな」
何故か本気で作ろうとしてる魔法使いと、対抗意識燃やしまくってマスタースパークを連射出来なかと考えだした魔法使い。しまった、こいつら冗談で言っても本気で実行するってこと忘れとった。
「仮にしまう場所あったとしても、持ち運び出来へんから使われへんのとちゃう?」
「そんなの、召喚すれば何の問題もないじゃない」
そっかぁ、そんな簡単な問題なんかぁ。
てか、お前さん、召喚も出来るんやね。
思わず黒白と共に何とも言えない表情で、この多才な人形使いを見つめてしまう。
「2人ともどうしたの? 死んだ魚みたいな目をしてるわよ」
「いいや、別に何もあらへんよ」
「ちょっと隣の芝生が青いだけだから気にしないでくれ」
なんというか、こういう所で才能の差を見せつけられるよね、ホント。
オレも黒白も、そこまで手を広げることは出来んからなぁ。新しいことに挑戦しても習得スピードに差がありすぎるんや、コイツとオレらとでは。
「時間さえあれば、オレらでも出来るんや。時間さえあれば!」
「アリスと違って、私たちの時間は有限で短いからな」
「さっきからいったいどうしたのよ?」
ど、毒づいても相手に理解されへんと虚しいなぁ、おい!
「こうなったらヤケや、食うぞ黒白!」
「このビスケットは私がもらったー!」
「ちょっと、コラ、一人で全部食べるな!」
人形使いが悲鳴をあげるが、黒白と共に気にせず料理を平らげる。ここの料理はオレたちのものだー!
「ああもう、どうしてこんな事になってるのよ。訳が分からないわ! あっ、それは材料が少なかったからちょっとしか作れてないのよ!?」
この日、森に人形使いの悲鳴が響き渡り、いったい何が起こったのかと他の妖精たちと共に騒いでいたとルナチャイルドが言っていた。
どんだけでかい悲鳴あげてんねん、あいつ。
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第24話
最近、人里にて紅白とは別の巫女さんが目撃されるようになったらしい。
紅白とは違い、布教に熱心で人当たりも良いと評判だ。
神社はあの妖怪の山にあるらしいが、参拝する時は巫女さんが安全を保証してくれるという親切設計。
そんな話をウチに遊びにきた黒白が言っていた。
これは、おもしろいことになりそう。
久々に人里に行ってみようか。
異世界での暮らし方 第24話
「そんな理由でやって来たんよ」
「滅多に来ないやつが来たと思ったらそんな理由かよ」
「爆発事故やってもうた身としては居心地悪いんよ。それに、人里は安全すぎておもしろくないやん」
「そんな事考えられるのは、お前さんや博麗の巫女様みたいに妖怪退治出来る人じゃないと無理だよ」
「そーかあ? 考える事は誰にでも出来ると思うよ。ただ、そこから実行出来るか出来ないかの違いちゃうかな」
「そうかい。で、俺に話しかけてきたってことは、何か買っていくんだろう?」
「ん。白菜3つほどちょうだいな」
「あいよ。で、だ。腰の調子が悪いから治してくれないか?」
「了解や。てか、痛めたら早めにウチの店きたらええのに。それか、永遠亭にお世話なるかしいや、悪化させる前に」
せっかく人里に来たんやからと八百屋の大将んとこで野菜を買って、ついでに巫女さんがよく現れる場所も聞いといた。
この八百屋やとお金の代わりに身体の調子悪いとこ治療したり、物を直す事で野菜が買えるから結構重宝しとる。そのやり方でええよと言ってくれる店と、現金じゃないど駄目だと言われる店があるんでなあ。
うちの店の商品がもっと売れたら現金で払えるんやけど、売れ筋の治療符が永琳さんとの協定で売られへんようになってしもたし、ああ生きていくのがツライツライ。
「あー、最近噂の薬屋さんか? 腕は良いと聞いたような」
「ここに薬売りに来とんのが弟子やから、言えば永遠亭まで連れて行ってくれるんちゃうかな。なんやったらセンセーに言えばええと思うわ」
「そうしてもらわないと、俺達みたいな人間はすぐに妖怪に食べられちまうからな。ほらよ、白菜だ」
「ん。ほれ、これ腰に貼っとけば治るわ。すぐに治る訳ちゃうから、風呂上りにでも貼るとええよ」
「ありがとよ。いやー、立ってる分にはいいんだが、しゃがむのがしんどくてな。そうそ、お前さんの探してた巫女さんなら向こうの方で勧誘してるぞ。人だかりが出来てるから分かりやすいはずだ」
「なんでそんな人だかりが出来んねん」
たかが宗教の勧誘やぞ。初日ならともかく、何日も人だかりが出来るとは思わんけど。
「そりゃ博麗の巫女様があれだからな。親しげに話してくる巫女さんも、神様について熱心に語ってる巫女さんも見るのも珍しいのさ」
「納得してしもたけど、それはそれでどうなんよここの住人」
まあ、全てはあのぐーたら巫女があかんのやけど。参拝客が欲しいと言う割には、里で布教せえへんからな、あいつ。いくら神社であれこれやっても、その事が人里に知れ渡らないと意味ないのになあ。
「ま、早速見てくるわ」
「おう、人がたくさんいるから姿はあんまり見えないかもしれないけどな……て、お前なんでひとっ飛びで家の屋根に飛び乗れるんだよ!?」
「身体能力だけならそれなりに強化出来んのよ。こっからの方が見やすいからちょうどええわ」
「いや、お前。本当に人間止めてたんだな」
うっさい、まだ言うほど人間止めてへんわ。紅白達みたいに自力で空は飛ばれへんし、さっちゃんみたいに時間止めたり出来へんぞ。
さて、おっちゃんの言う人だかりは、と。ああ、あったあった。
「どれ、噂の巫女さんは……ん?」
「あの、そんな屋根じゃなくって下に降りてきてもらえますか? 危ないですから……あれ?」
「コチャー?」
「お兄さん?」
「「何でここに!?」
人里で噂の巫女さんはうちの妹分でした……て、なんでやねん!
なんでおんねんコチャー。ここってそんな簡単に来れるようなとこやったか? そうならオレのあの結界切りの苦労はいったいなんやったんや。
「ほ、本当にお兄さんですか? 会長さんの結婚式の後すぐに居なくなったから、どこにいったのかみなさん心配してたんですよ!」
「みなさん?」
「そうです!」
「会長あたりは『なに、あいつがそんな簡単に死ぬような潔い人間な訳がないだろう。三途の河を渡る最中に船頭を脅して引き返させるようなやつだよ? 適当に生活しているに決まっているから、そんなに心配なら墓を作ってお線香でも立てたらどうかね? ふざけるな、とツッコミを入れに帰ってくるだろう』なんて言ってるんちゃうかな」
「なんで一字一句間違えずに当てれるんですか!? あ、本物、このお兄さん本物ですよ!」
「本物本物。お兄さん嘘つかない」
「宿題で嘘の答えを教えられた気がします」
「ありゃ質の悪い冗談だ。もしくは楽ばっかしようとしたコチャーへのおしおき」
「それを言われると痛いですね。ですが、もう同じ事はやりませんよ。ああ、そう言えば会長さんが言っていたお兄さんがいる遠い場所って幻想郷の事だったんですね」
「うんうん、冷静になってくれたようで何よりや。さあ、落ち着いたついでに周りを見てみよう」
「――あっ」
いくら思いがけず再会したからって、布教活動中にオレと愉快に話すのはアカンと思うよ? 里の人たち、ポカーンとしてこっち見とるがな。
その事に気づいたコチャーはおもっきし冷や汗を流している。昔っから言っとるけどな、落ち着いて周りを見て行動しようや、コチャー。
「お、お兄さん、これはどうしたら……て、いない!?」
「じゃあな、コチャー。この里の近くに家建てとるから、時間出来たら遊びに来るとええわ」
「逃げた、妹を弄るだけ弄ったらさらっと逃げましたよあの外道兄貴!」
コチャーがこっちを振り向いた瞬間に踵を返し、屋根の上を跳躍してセンセーの寺子屋に向かって逃げる。
すまん、コチャー。ここまで場が固まっとったらどうしようもないんや。コチャーを救う事が出来なかった悲しみが、涙として頬を伝い流れ落ちてくる。
次があったら、もっと弄れるように精進するから許してくれ。
「で、どうしてここにやって来るんだ?」
「コチャーって1つの事に集中して周りが見えなくタイプなんで、この後ウチに突撃してくると思うんですよ」
「分かっていて自分の家の場所を教えたのか」
「いやー、ひっさびさに弄れるのが来たもんで、嬉しくて嬉しくて」
やっぱコチャーが一番やね。みょんなリッパーも初々しくておもろいけど、コチャーには敵わんわ。
あいつはいつまで経ってもこちらの予想外の行動してくれるからな。次は何をしでかすのか楽しみで仕方がない。
「それにしても、博麗以外の巫女、か」
「絶対荒れますよ。やる気はないのに妖怪退治は自分の専売特許だと思ってますし、神社に人が来ないのを嘆いとるんで」
「私もそう思っている。だからここ数日、胃が痛くてな」
そう言って胃を押さえるセンセー。それ、ストレス性の胃腸炎です。医者の世話になってください。
人里のお医者さんやとストレス性なんてものは分からんかも知れんけど、永琳さんなら理解してくれるから。
「医者に行こうと思ったんだが、そこのお孫さんが寺子屋に通ってくれてるんで、行き難いんだ」
「ほな、永琳さんとこ行けばええやん」
「私が行こうとすると、妹紅もついてくるぞ。それは先方に迷惑がかかる」
ご先祖さま、姫さんに会ったら即座に喧嘩売るもんな。そりゃ無理か。
永琳さんも呆れるほどの気の短さ。でもって姫さんも姫さんで売られた喧嘩は買う人やし。
あんだけ喧嘩してんのに、何であの永遠亭のある竹林は荒地にならんのやろ。あの2人血肉吸って妖怪化してへんか?
「今度姫さんに伝言頼んで薬持ってきてもらいますわ。あと、これ。八百屋の大将が白菜おまけしてくれたんでどうぞ」
「薬はありがたいが、白菜は自分で食べたらどうだ。妹紅も秋の食生活を心配していたぞ」
「オレが料理しても、レパートリー少ないんで。それに、使いきれる分からないんで良かったら貰ってください」
「しかしだな」
「あれやったらご先祖さまに渡してくれたらええですよ。そしたらうちに持ってきてくれるかもしれませんよ?」
「ああ、たしかに持って行きそうだ。なら、一応貰っておこう」
その光景を想像できたのか、センセーはクスリと笑いながら白菜を受け取ってくれた。
よし、後でご先祖さまに連絡して、センセーに料理作ってもらおう。オレより憔悴しとるからな、このセンセー。
「それと、これも渡しとくんで、痛みが酷くなったら飲んでください」
「……この紙切れを飲むのか?」
持っていた紙切れに『痛み止め』と書いてセンセーに渡すと、それを怪訝な顔をして眺められた。や、裏返しても何も書いてへんから。透かして見ても何もないから。
「痛み止めって書いてるんで。胃のあたりに腹の上から貼っても効果はある思うんですけど、飲み込んだ方が確実です」
「すまない。ありがたく頂くよ」
「あくまで応急処置ですからね。後でちゃんと医者の診断受けてくださいよ」
どんだけ釘さしても行かないんだろうなあ。まあ、半分妖怪らしいから大丈夫とは思うけどさ。
ま、これ以上はご先祖さまに任せよか。あの人が一番センセーと仲ええから、オレが言うよりも言う事聞いてくれるやろ。
「分かった分かった。そうだ、貰ってばかりなのも悪い。お茶を淹れてこよう。少し待っていてくれ」
「いやいやいや、そんなつもりで来たんちゃうからええですって……て、行ってもうた」
こちらの制止を気にもとめず、センセーは奥に行ってしもうた。
ホント、そんなつもりで差し入れ持ってきたんちゃうんやけど。ほんま律儀な人やなあ。
たしか、この前外の世界に行った時に買ったお菓子がまだ残ってたはず。ポケットの中に適当に突っ込んだからなあ。
えーと、中々見つからんな。ん? これはコチャーが0点取ったテストの回答用紙やん。こんなとこ入れた記憶ないぞ。
でもってこれは人形遣いんとこの魔導書やん。黒白め、こっそりとオレのポケットに突っ込みおったな。
ああ、あったあった。これやこれ。
「すまない、待たせたな。そこの机を使おうか」
「すんなせんなあ。センセー、バームクーヘンは食べれます?」
「あんまり食べたことはないけど、おいしかったよ」
「ほなコレ食べてしまいましょか」
「あー、お兄さんここにいましたよ!」
お前、何でここが分かったんや。センセーんとこ来てから1歩も外に出てへんぞ。
「風がお兄さんの匂いを教えてくれました!」
「センセー、どうしよう。知らん間に妹がおかしな道に走っとる」
センセーに助けを求めたら、センセーは額に手を当て重く、そして長い溜息をついた。
気持ちはよー分かるけど、どうしたらええんか教えて下さい。オレにはどうしたらええんか分からへん。
何で風で漂ってくる匂い程度でオレが判別出来んねん。
こいつ、ここまでぶっ飛んでなかったのに、オレがおらんくなってから何があったんや。
昔っから天然やったけど、こんな変態じみたことは出来なかったはずやのに。
「兄のお前に出来ないことを、私がどうにか出来る訳がないだろう」
「オレにも予想外過ぎて焦ってるんやけど。センセーなんやから、今までの経験でなんかいいアイデア思い浮かびません?」
「たしかに授業は教えるが、人格の形成に関しては家庭でするものとじゃないか?」
「兄的存在やけど、そこはコイツの両親の仕事やから。まあ、ある程度は面倒見てたけど」
でもって幻想郷に来てからは連絡取れてへんかったからなあ。
こいつの面倒はコチャーとこのご両親と神様、それと会長達が……あっ。
「あの、私を置いてきぼりにして会話進めるなんて酷いですよ。久々の再会なんですからもっと話しましょうよ、構ってくださいよ!」
「だからと言って、背中にもたれかかんなや! 年頃の娘さんなんやからもっと恥じらいをやな」
「お兄さんが構ってくれないのが悪いんですよー、だ。ようやく見つけたのに逃げるし、他の女性と楽しそうに喋ってるし」
「ハハ、随分と懐かれているじゃないか」
どうしてこうまで懐かれてるのか、オレには分からへんのやけどね。
だからセンセー、笑ってないでコチャーを背中から剥がしてください。いくらポーカーフェイスを習得してるからって、こう、色々と理性にダメージくらうとやね。
いつの間にこんなに成長しやがったこいつ!
「やれやれ。そこまでにしてあげなさい。君のお兄さんが困っているぞ」
「お兄さん分を補充するまでは離れません!」
「何なんそれ!?」
「……君の分のお茶も淹れてこよう。今後の事も話たいから、のんびりしていくといい」
そう言うとセンセーはイイ笑顔を浮かべて再び奥に行ってしまった。
に、逃げおったあの人。
「おーい、コチャー。そろそろ離れてーな」
「まだ充電完了してないから嫌です」
「お兄さん色々と困るんやけど」
「そう言いつつも、会長さんが言っていたように無理矢理振りほどかないお兄さんが大好きですよ?」
「……あー、やっぱりあいつらの影響受けとったか」
コチャーのご両親、そしていらん事ばっか教えた神様とやら。
ごめん、もう手遅れです。
オレがあいつらにコチャーの事を紹介したばかりに染まりきってしまいました。
「お兄さん、お兄さん」
「はいはい、なんですか、と」
「離れてあげるので膝枕してくれませんか?」
「普通オレがしてもらう側ちゃうかな!? まあええわ。好きにしてちょうだい」
諦めてコチャーの提案を受け入れると、まあ嬉しそうに笑うこと。男の膝枕なんて、硬くてあんまよくないと思うんやけど、本人が嬉しそうやからええか。
お、枝毛発見。まったく、ちゃんと手入れせえよ。『修復』の文字で何とかなるか?
ところで、センセーいつまで経っても戻ってこうへんのやけど。お茶淹れにいっただけちゃうの?
ん? なんやコチャー。や、耳かきしてって言われても道具が……何で持ってんの。はいはい、やりますよ。ほら、横向け横。
センセー、早く戻ってこうへんかなあ。
鈴奈庵が出てから霊夢の印象変わって一部変更しました。
意外と人里に現れてたんですね……
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第25話
コチャーと再会して数日後、珍しく怒り心頭な紅白が店にやってきた。
いや、怒っている事は偶にはあるけど、顔を見ただけで思わず逃げたくなるほど怒っているのは初めてだ。
最近何かした覚えはないんだけれども、はてさて。
異世界での暮らし方 第25話
「そんなに怒って、どないしたん紅白」
「この前、神社に人が来たの」
「ほう」
あの人里からちと離れとって道中が危なくて、人どころか妖怪の溜まり場になっていると評判の博麗神社に人がっ!
もしや記念に赤飯でも用意せえ言うんか? にしては表情が険しいぞ。でもって赤飯作った経験はないんや、すまんな。
「それはええことやん」
「その人に言われたの。営業停止って」
「うん?」
外の世界ならそれも有るんかもしれんけど、この幻想郷で? この神社にそんなこと言える存在なんておるやろか。
紅白もそこは疑問に思っているようで腑に落ちない顔をしている。
「私もそこがなんか変だと思ったから、人里でその人について聞いてみたのよ」
「人が住んでるんは、オレや黒白みたいな例を除いたらやっぱし人里になるやろからなあ」
「そうしたら人里には住んでないけど、証言は得られたわ……秋さんの妹だってね!」
「なんと!?」
ちょっと前まで怪訝な顔をしてた紅白が、キリっと目を吊り上げてるこっちを睨んできおった。
おいおい、ちょっと待ってえな。それってもしかして、コチャーの事か。あいつ何しとんねん。紅白言うたら、幻想郷で喧嘩売ったらあかんやつ筆頭やぞ。
「待て、ちょう待って。念の為聞くけど、そいつの名前は」
「東風谷早苗。最近、妖怪の山に神社ごと引っ越してきたそうよ」
「あっちゃー」
ほんと、何やっとんねんコチャー。
だからあれほど何かする時はよく考えてから行動しろと口すっぱくして言うたのに。あのド天然め。思い込んだら一直線は止めろて何度も言うたやん。痛い目見んと分からんのかあいつは。
「まあ、そいつがオレの妹分なんは認めよ。で、何でウチに来たん? コチャーはおらんよ」
「いたらラッキー程度にしか考えてないわ」
「ならなんでまた」
「秋さんが唆したのかなって」
だとしたらまず秋さんを懲らしめるわ、と紅白が良い笑顔で告げてきた。
おお、怖っ。そんな真似誰がするかい。勝てない相手と地主には喧嘩売らんようにしてんねんから。
「せえへん、せえへん。何でそんなおっそろしいことせなあかんねんな」
「妹が来たから、そっちの神社に鞍替えしようとか思ったんじゃないの?」
「鞍替えした方がええんか?」
そらそっちからするとオレはあんまし賽銭入れへんし、偶に博麗神社行っても現物渡すほうが多いから歓迎されてないんかもしれへん。けど、今まで世話になってるのに急に鞍替えとかせえへんぞ。
そんな訳で変な事ぬかす紅白の頬に手を延ばす。質素な生活してるのになんでこんな柔らかいねんこいつ。
「なにゅいすひゅのひょ」
「人をそんな薄情者にした口はどんなんかなと思って」
「はにゃしゅいなしゃひ」
「やなこった。おお、伸びる伸びる」
「ひひふぁへんにしゅいにゃしゃ……!?」
紅白が何か技でも使って脱出しようとしたみたいやけど、甘いな。
この店では能力の使用は禁止されとるし、オレに悪意ある行動は出来へんようになっとる。言わばオレがルールとなれる空間や。いくら紅白でも暴れられへ……!?
「毎回毎回、何かある度に乙女の頬を引っ張るのはどうかと思うの」
「だ、だからと言って金的はやりすぎや」
この巫女、油断しとったら躊躇なく金的かましてきおったぞ。
金的、それは男なら誰しもが崩れ落ちる技。オレも例外ではなく、その痛みに膝を屈し、前屈みになって痛みに耐える。
紅白はそんなオレを慌てた様子で見ている。
そりゃ毎回頬引っ張ってるけど、それ以外どうしろと。野郎と違って女性は触りにくいからメンドイんや。
「あれ、秋さん。何で痛がっているのよ? いつもならこれぐらい平気な顔してるじゃない」
「い、いつもならな。ただ、流石に家の中やと、いつもみたいにガチガチに防御固めた服着てる訳ちゃうからな」
「あー、その、ごめんなさい。やりすぎたわ」
「次回から、せめて、腹とかにしてくれる、と、ありがたいわ」
「ええ、そうするわ」
紅白は未だにこちらを心配そうな顔で見ていたが、問題ないことを伝えて妖怪の山に行くよう促した。コチャーのやつが山に神社ごと引っ越してきたと言っとったからな。
そして、この前ウチに新聞持ってきた文屋は、迷惑だけど簡単には追い払えない存在がやってきたと言っとった。十中八九あっこの山におるやろ。
まったく、外の世界だろうと幻想郷だろうとお構いなしに騒動起こすな、あの天然暴走特急。
この痛みが引いたら、紅白追いかけてオレも妖怪の山に行こか。久々のお仕置きや、コチャー。
「ああ、ようやく立ち上がれるわ。痛かったなあ、おい」
蹲ること十数分、ようやく股間の痛みが引いてきたので立ち上がる。なんやあいつ、やけに金的するの慣れてなかったか?
さて、今から出発したら何とか紅白に追いつけるかな。
あいつより先に行ってコチャーと会わんと、コチャーが紅白にしばかれてしまいやからな。でもって、後でオレも怒られる気がする訳で。
ただ、今から店を出発しても追いつけないので裏技使うけども。
オレは空を飛ぶことが出来んから、空き部屋のドアをいくつかの出先のドアと繋げてる。幸い、妖怪の山やとはたてんの部屋と繋いでいるから、数分の遅れぐらいやったら追い抜けるやろ、きっと。
一応行く前に電話しとこか。どこで手に入れたか知らんけど、あいつ携帯電話持っとるからな。
あいつの携帯電話はオレの能力で改造しとるから、幻想郷でも謎の電波が届くんですぐに連絡取れて便利よね。
「もしもし、はっちゃん。いきなりやけどそっち行かせてや。ちょいと神社に用事があってな」
『いいけど、ついでに何か食べるもの持ってきてよ』
さすがぐーたら同盟員、やっぱし部屋におったか。
「オーケー、オーケー。何か適当に見繕って持って行くわ。ん、あったあった。燻製した肉でええやろ」
『上等』
「おや、秋がこの山に来るなんて珍しい。文字が足りなくなりましたか!?」
「あー、文屋の姉さんか。いやなに、ちとここに出来た神社に用があってな」
「ふむ、スクープの予感がしますよ! さあ吐きなさい、すぐ吐きなさい。ハリーハリーハリー! これでスクープ逃したら崖から逆さまに吊るして泣いて文様すみませんネタは全て吐きますと謝るまで回しますよ、超高速で!」
さっきまで空中から話しかけて来てたのに、スクープの匂いがした瞬間に地上に降りて間詰めて来おった。
今のオレは動体視力も強化してるはずやのに挙動が全っ然見えんかったあたりに、こいつが今本気でオレを吊るしかねんと感じさせられる。
「今日もいい具合にエクストリーム入ってるなあ、おい。こっち着いて来てもええけど、もうすぐ巫女がこの山に来るで」
「巫女が!? こうしてはいられません、上司たちに報告をしないと」
あ、おい。あいつ何しに話かけてきたんや。話しかけてきたと思ったらすぐにどっか行ってしもたがな。
にしてもなんて勘のええ天狗や。はっちゃんの家から出たら、速攻で飛んで来おったぞあいつ。
ただ、ミスったなあ。あのままあいつが着いてきてくれたら、道中の護衛になったのに。まあええか。
この山、しかも天狗が住んどるとこの近くやったらそうそう襲われるような事ないやろ、きっと。
そんな事を考えていたらあっさり着きました、社に続く階段まで。
出会ったのは天狗ぐらいやし、その天狗とも顔馴染みやから襲われる事もない。やっぱ組織が治めてる場所ってのはある程度の秩序があるから安全やねえ。
他んとこやとワラワラと妖精が現れて弾幕放ってくるし、場合によっては妖怪に襲われるから気を抜けないといったらありゃしない。実際、紅白んとこ行く時には偶にルーミアとかに遭遇するからなあ。あれは本気でこっち食べようとしてくるから怖い。
と言っても、前回噛み付かれた時はあいつの歯の方が折れたけど。そりゃ要塞と化した服んとこ噛み付いてもアカンわな。涙浮かべて蹲っとる間に逃げさせてもらったわ。
にしても、この目の前に現れた終わりの見えない階段。これ上がらなあかんのかいな。
冥界に行く階段よりマシやけど、ここの社もそれなりの階段やなあ。
外の世界に比べたら幻想郷の人って体力あるけど、程々にせんとツライと思うんやけど。そんな事を思いつつ階段を登っていたら、前方から人が飛んできた。迎えに来るんが遅いねん、コチャー。
「あれ、誰かと思ったらお兄さんじゃないですか。とうとう神奈子様たちを信仰してくれる気になってくれたんですね! さあ行きましょうすぐ行きましょう一緒に住みましょう神奈子様達に紹介しますから!」
「落ち着けコチャー、ステイステーイ」
「ハイ!」
「……躾が行き届いてとるなあ」
おいおい、本当に止まっちゃったよこの娘。しかも止まったのに期待の目でこっち見つめてくるんですがこの娘。
たしかにこいつの兄貴分やってきたけど、何でこんな懐かれてるんかお兄さん不思議ですよ?
さて、こんな純粋な期待を寄せるコチャーにお説教せんとあかんのやけど。こんな期待の目で見てくる妹分にお説教するなんて心が痛む……訳ないわな。
いったい今まで何度こんな展開があったっけか。こいつ純粋な好意で暴走するからなあ、何度でも。
「あんなあ、コチャー」
「はい!」
「お前、紅白んとこの神社言って営業停止とかほざいたやろ」
「……」
あ、目を逸らして吹けない口笛吹きやがったこいつ。
おーい、こっち見んかいド阿呆。人と話す時は相手の目を見て話しましょうって教わったやろ。
それ、無理して口笛吹こうとせんでええからな。というか、口笛吹かれへんかったんかいコチャー。
「だって、あそこはなんの営業努力もしてなかったんですよ! それなら私のとこで接収した方がいいかなと思いまして。そもそも何でその事でお兄さんが来るんですか?」
おい紅白、幻想郷に来たばっかのコチャーにも神社どうにかする努力しろって言われとるぞ。本気でどうにかした方がええんちゃうか。あいつもあいつで偶に改善しようとしてるんやけど、毎回失敗してるのが涙を誘うわ。何で途中まで良い感じやのに、最後で失敗するんやあいつ。
「オレ、あそこの氏子」
「……え?」
「あっこの巫女には世話になってるんやけどな、そいつが今朝やってきたんや。営業停止とか言ってきたのはあんたの妹だろ、と」
「あ、あはははは。え、えーっとですね」
こいつ、あの神社にも氏子とかがいるとか考えてなかったな。明後日の方向見ながら笑って誤魔化しとるぞ。
「まったく、何度も言ってきたけどなあ。もうちょい考えて行動せえや。ああ見えてもあっこは幻想郷にとっては重要な神社なんやから」
「考えたんですよ? でもあの寂れ具合でしたし、信仰もほとんど無かったので」
「人の神社についてよくもまあそこまで言ってくれるわね」
いつの間にか追いついた紅白が後ろにいた。呑気にコチャーと話し過ぎたのか、紅白がいつも以上に勢いづいて妖怪退治したのか。
いくら紅白が空を飛べるからって、こっちは空間繋ぐという裏ワザまで使ったのに追いつかれるとは思わんかったわ。
で、紅白さん。何でオレの肩を握るんでしょうか。ちょ、イタいイタいイタい、どんな握力で握りつぶそうとしてるんやこの暴力巫女!?
「言っておくけど、神社も秋さんからの信仰も全部渡さないから」
「お兄さんお兄さん、両方ともとは欲張りですよこの巫女。悪いですけど、お兄さんはウチの神社で預かります。私の、このワ・タ・シのお兄さんですから。今までお兄さんが大変お世話になりました。この御礼はいつか必ずしますので、潔くちゃっちゃとお兄さんをこっちに返しなさいこの泥棒巫女」
おーい、地味にオレを巻き込むんやめへんか? そんな火花散らして睨み合う内容にオレ入れたら雰囲気台無しやん。
「そうだ。今ここでこの巫女を倒せば神社もお兄さんも私の物に!」
「……秋さん、この子いつもこの調子なの?」
「すまん、ホンマすまん紅白」
どうしてこう、すぐ暴走すっかなあ。
自分が勝ったその先を想像して高笑いしとるコチャーを、紅白と揃って呆れた目で見つめる。ようそこまで妄想できるなあこいつ。
やる気になった時の紅白に勝つのがどんなに難しい事か。黒白あたりが聞いたら憤慨すんぞ。
「はぁ。こいつの相手はオレがしとくから、紅白は先に行ってここの神さんと交渉してき」
「いいの?」
「ええ、ええ。今までもずっと、暴走したこいつ止めるんはオレの役目やったし。譲る気はないよ?」
はてさて、オレが幻想郷に落ちてからどんだけ暴走してたのやら。今度会長に聞くのが恐ろしいわ。
紅白はさっさと神さんと話して、休戦するか弾幕ごっこで負かすかしてき。たぶん神さんをどうにかせんと、こいつも止まらんやろうし。
「なら先に行ってるわ。そいつの相手よろしくね」
「おっと。そこから先には行かせませんよ!」
先に行かせまいとコチャーが紅白に弾幕放つ。それを体を割り込ませて代わりに喰らう。
悪いが防御力高すぎて盾になるのは慣れとるんでな!
「お前の相手はオレやぞ、と」
「んな!? そ、そこまで彼女を庇いますか肩入れしますかそっちがいいんですか。それなら弾幕ごっこで負かしてこっちに改宗してもらいます! その際にちょーっと怪我をしてもらえば、ずっと私が面倒を見て、また前みたいに心配する事もなくなりますよね」
「誰やコチャーをヤンデレに育てたんは!?」
最後に会った時はただの天然ぎみの暴走列車だったんが、何で数年会わないだけでヤンデレに覚醒してるんですかねえ! お兄さん不思議でならないんですが。
あの高校にもヤンデレはいなかった筈やけど。
「それではさくっとお兄さんを倒してあの巫女を追いかけましょうか。神奈子様達に迷惑をかける訳にもいきません」
「……うん?」
今こいつ、オレを簡単に倒せると言いましたか?
いつからオレはお前ん中でそんな簡単に超えられる存在に成り下がったんかな。
よし、その伸びに伸びきった鼻を折る為に叩きのめそう。本来なら紫用に置いておきたかった切り札も切ったるわ。
「おい、コチャー。誰がさくっと倒せるって?」
「里の人に聞いてますよ。お兄さんが弾幕ごっこ出来ないって。でも、幻想郷での勝負ですから弾幕ごっこ挑んでも卑怯じゃないですよね?」
コチャーの悪どい笑み、これどこかで見た笑顔だと思ったら会長とそっくりやんけ! どうしてそう似たらあかんやつに似てしまうかなあ、お前さんは。あんな根性ねじ曲がったやつ見習ったら嫁ぎ先も友人も無くすぞ。
「悪いけど、兄に勝てる妹は存在せえへんで?」
「師だっていつかは超えられる存在なんですよ? 兄ぐらい簡単に超えてみせます」
たしかにいつかは超えられるかもしれんなあ。なんせ空飛べるぐらい才能あるみたいやし。ただ、それは今とちゃうわ。
その既に勝った気になってる顔歪ませたる。
「よう吠えたな。その言葉撤回させたる!」
「吠えてるのはお兄さんの方ですよ。弾幕も放てないのにどうやって空を飛んでる私を落とすつもりなんですか?」
「あー、それなんやけどなコチャー」
「はい、何ですか。今更降参は受け付けませんよ?」
「そんな高いとこ飛んどるからスカートの中見えとるよ?」
「ふぇあ!?」
コチャーが顔を真っ赤にしながらスカートを押さえて高度を下げてきた。そして、完全に地面に足をつけてからこちらを睨んでくる。
や、位置取り考えーやそこは。相手が下におったらスカート履いてりゃそういう事もあるやろ。
「み、見ましたか?」
「悪い、嘘や」
「嘘?」
もっとも、コチャー履いてるのってロングスカートやから、ほぼ真下にでもおらんと見えへんけどな。
コチャーは呆気にとられた顔してボーっと突っ立てるが――これで近づいて殴れるね?
「あ、ちょ、せこっ。お兄さんセコい、さすがお兄さんセコい!」
「恥ずかしがる感性があって、お兄さん安心しましたよ?」
「そう言いつつ何で抱きついてくるんですか!? お兄さんも恥じらいを持ちましょうよ!」
「それはな――」
――お前を投げ飛ばすためさ
「鬼符『大江山悉皆殺し』」
オレは書いた文字に力を与えることが出来る。『火』と書けば書いた対象は燃えるし、木刀に『聖剣』と書けば悪魔でも切れる刀になるだろう。
故に、スペルカードとは相性がいい。なんせ書いてしまえば使えるんやから。例えそれが誰かの持ち技だったとしても、オレがそのスペル名を書いてしまえば再現できる。まあ、再現できるだけで使いこなすのは無理やから、さっちゃんや鬼娘みたいに自分の能力使ったスペルカードは再現できへんのやけど。
しかし、このスペルカードならオレでも再現出来る。
以前3回ほど自分で喰らったし、これに必要とされるのは身体能力ぐらいやからな。なんせこの技は――
「まずは1回」
「あいた!」
相手の腰を抱え、振り上げてから地面に叩きつけて――
「2回目っと」
「はうっ」
先ほどより高く跳び上がって地面に叩きつけて――
「これで最後!」
「……」
――自分の跳べる限界まで跳び上がって、勢い良く地面に叩きつけるだけなのだから。
さすが力自慢の鬼のスペルカードだけあって、まともに喰らったコチャーが起き上がってこない。
もしかしてこいつ、今まで負け知らずで痛みに慣れてないんか?
「だから言ったやろ。そんな簡単に越えられる存在に成り下がった覚えはない、と。というか、オレに負ける程度で紅白に喧嘩売ったらあかんって。あれはホント人の枠外れてるから」
「……」
あら、気絶しとるがな。おいおい、スペルカード1枚で気絶とか情けないぞコチャー。
というか、お前さん起きてくれんと神社まで抱えて行かんとあかんのやけど。
とりあえず、揺すって頬叩いて起してみるか。おーい、起きろー。
……ダメだこりゃ。
ブログのログインパスワードを忘れてしまった!
これでストックもあと1話分のみです。
新規で1つぐらい書くかなあ。
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第26話
意識を失ったコチャーを背負い、社へ続く階段を登る。
ひたすら昇る。
無心で登るる。
登り続ける……そろそろ着きませんかね。こいつ昔と違って重い。
異世界での暮らし方 第26話
コチャーを背負いながら階段を登り続けるものの、流石にこれはしんどい。もう何十段目かなこの階段。
「いい加減起きろやコチャー」
「起きてますよ?」
「落としてもええかな妹分?」
「いーやーでーすー」
起きてたわコイツ。寝たふりとは図々しくなったやないの。
このまま背負っていくのはしんどいから、コチャーをおぶっていた手を離して地面に落とそうとすると、こちらの体の前に垂れている腕を首に巻きつけてしがみついてきおった。
ああもう、無駄な抵抗せんとさっさと自分で歩かんかい!
「さっきお兄さんが地面に何度も叩きつけてくれたんで、体が痛くて歩けませーん」
「めっちゃ元気そうやなお前!」
「あー、叩きつけられたところが痛いなー」
「こ、このやろう」
白々しく背中が痛いと訴えるコチャー。
痛いから社までこのままおぶって行けと言う。
言っておくけどなあ、念の為『回復』と書いて治療したんやぞ、おい。
ああこら、横向いて吹けない口笛せんでええから。お前さん髪の毛長いんやから、こっちの顔にかかってくすぐったいっての。
「それにほら、女子高生を背負えるなんて役得ですよ?」
「副会長の方がデカかったぞ、と」
「んなっ!?」
何でそんなこと知ってるんですかとコチャーが騒ぐが、あいつサブミッションもこなせる暴力肯定型女子高生やぞ。そら嫌でも知ることになるって。
だから腕に力込めて首絞めるのは止めよう、あれは不可抗力だ。
「少しは、照れたら、どうなんですか。この、鈍感、にぶちん!」
「だからさっきからさっさと降りろと言うてるやろどあほう!」
せっかく気づかないフリまでしたんやから、その間に降りて欲しかった。
て、何で嬉しそうに笑って体押し付けてくるかなこの娘は!?
お年頃の女の子なんだから、もうちょい恥じらい持ちなさい、恥じらいを。
「副会長さんより小さいのに動揺するんですか?」
「あー、それでも平均的なサイズよりは大きいんちゃうの? 平均値なんて知らんけど」
「もちろん平均より大きいですよ」
「……そうやって兄の反応見るの楽しい?」
「はい、とっても!」
イイ笑顔ですねこのやろう。返せ。昔の純朴で可愛かったコチャーを返せ!
誰やコチャーをこんな打算や人の動きを計算して行動できるようにしたんは。こう、もっと何も考えず発言する天然なとこが可愛かったのに!
それが今ではこうやって、ニヤニヤしながらオレの反応見る余裕までありますがな。
「もうすぐで社に着きますから、もう少し頑張ってくださいお兄さん」
「このまま背面跳びして階段を滑り落ちたろか」
「ちょっ、なんて危ない事考えるんですか!?」
オレは身体能力強化してるから滑り落ちても多少痛いだけやけど、コチャーはそれだけじゃ済まないだろうなあ。
さっきも背中から地面に強打してるし、ダメージさらに倍やな!
その事に思い至ったのか、コチャーがこちらの肩を揺らしながら実行しないですよねと必死に話しかけてくる。さて、どうしよか?
ふと下を見ると、延々と続く階段。結構上ってきたなあ。これでも、あいつの家までショートカットしたのにまだ着かんか。もう10分以上は登ってる気がするんやけど。
「もう少しで着きますよお兄さん、というか、飛べば早いですよ?」
「普通の人間は空を自力で飛べません。これ大事」
「お兄さんが普通?」
「よし落とそう」
「キャーっ」
こいつ全然怖がってねえ!
キャーとか叫んだのは最初だけで、後は笑いながらしがみついてくるだけやん。
どうしてこんな風に育ってしまったんかなあ。
「まあまあ、境内まではあと少しですから」
「ホンマかいな」
「本当ですって。あの階段登れば到着ですよ」
それでもあと数十段はありそうなんやけどなあ。
しゃあない、我慢して背負って登ろかねえ。降ろそうとしても抵抗されて、無駄に疲れるだけやし。
「背負っていったるから、感謝するように。具体的にはこの後での飯を所望する」
「お酒もありますよ?」
「用意ええなあ、こんちくしょう!」
「と、到着!」
あれからコチャーを背負ったまま階段を登り、ようやく境内に着くことができた。いくら体力などを強化していても、人を背負って登るのはしんどい。
「お疲れ様でした。それでは喉も乾いているでしょうし、お茶でも淹れてきますね……あれ?」
「ありがとさん。ついでにとっとと降りてくれると助かるわ。しんどいから座らせてくれ……お?」
コチャーが変な声をあげて固まったので、なんだと思ってコチャーの指し示す方を見ると、紅白と知らない人が熾烈な弾幕ごっこを繰り広げていた。
いや、人というかいつものパターンだと妖怪か。でも、ここ神社だし妖怪な訳ないか。
紅白の神社はよく妖怪が酒飲んどるけどな、あれは例外やろ。たぶん。
ところで、紅白と別れてから今までそれなりの時間があったんやけど、もしかしてずっと弾幕ごっこ続けてるんか?
「あの紅白と長時間やりあうとか、やるなあ、あの人」
「ええ、まさか神奈子様とやりあえる人間がいるとは思いませんでした。彼女は本当に人間ですか?」
「ん?」
「あれ?」
何かがおかしいとコチャーと顔を見合わし、同じタイミングで首をかしげる。
あれ、コチャーの知り合いか?
様付してるぐらいだから、もしかしてもしかするとコチャーとこの祭神かあの人!?
「おい、妹。あっこで紅白とやりあってるのがお前んとこの神様?」
「あ、やっと分が抜けましたよ。じゃなかった、そう、そうなんですよ! で、あそこで神奈子様とやりあってるのが――本当に人間ですか?」
「知らんのか? 本気になった紅白は、弾幕ごっこなら妖怪にも神様にも負け知らずやぞ」
「なにそれ怖い」
「神様の方が怖いやろ。常識的に考えて」
こうなってそうだったから、のんびりと階段上がったり、コチャーとくだらん話して時間遅らせたのに意味なかったやんけ。
階段を登り終え境内に入ると、紅白がえらい威厳のある人と勝負をしていた。コチャーが言うにはその人がこの神社の神さんらしいけど、とうとう現代でも信者のいるような有名な神様ともやりあえるようになってしもたんか。今後はあいつの機嫌損ねんようにしよ。
「で、どうするよ?」
「さすがにあの弾幕ごっこの中に乱入はしませんよ。私も疲れてますから」
「疲れてなかったら乱入してそうよね、君……ん?」
あれ、今神様と目が合ったような。
と思ったら何やら紅白に向かって待ったとばかりに手を挙げて話しかけている。
「おい、お前んとこの神さん、何か弾幕ごっこ中断して話し掛けてるけど?」
「いったいどうなされたんでしょう? 神奈子様は軍神なので、勝負に水を差すことはなされない方なのですが」
コチャーが首をかしげていると、向こうの話し合いが終わったようで、何やら神さんが後ろにあるでっかい柱を……え?
「コチャーバリアー!」
「え、え、え!?」
神様がこちらにぶっとい柱を投げつけてきたので、咄嗟にコチャーを盾にして防いでしまった。
そして、コチャーは迫り来る柱を、自分たちの周りに風を巻き起こして弾いてみせた。
この妹分、こんな事出来たんやねえ……よく今まで吹っと飛ばされんかったな、過去の自分。
「いったい何してくれやがるんですかこのバカお兄さん!」
「あんなもん投げられたら、つい近くのもんで防ごうとしてまうやろっ」
「だからって大切な妹を盾にするのはどうかと思います!」
「お前さんとこの神さんなんやから、お前さんがどうにかするべきやろー」
「それは、たしかにそうなんですけど……」
「ああ、ただしオレから離れるなよ」
「また盾にするつもりですかっ!」
「あー、ちょっといいかい?」
コチャーと口論しとったら神さんが口を挟んできたので、コチャーと共に後にしてくれと伝えて再び口論を始める。
何か神さんが俯いて震えてるけど後や後。まずはこの確実に柱を吹き飛ばせる盾を確保せんとな。
ということで、コチャーの肩を掴んで確保する。逃がさへんよ?
「あー、うん、よし。そこの人を無視してじゃれ合っている2人」
「ですから」
「後にして言うてるやろ」
「まとめてお説教だよ!」
何故か突然神様が怒ったのでうわあと叫んでコチャーを盾にし、コチャーもうわあと叫んで風を巻き起こす。
この神様、言うたとたん弾幕ぶちかましてきおったぞ、おい。
なんて短気な神様だ。武神やったらこっちの準備が整うまで待ってくれてもええやん。何この神様外道ぎみですか。
弾幕はコチャーの風でかき消せたものの、バイオレンスな事をしでかしてくれた神様をコチャーと共に恐れおののいて見つめる。
「躊躇なく妹を盾にするお兄さんも、そうとう外道ですけどね」
「盾が喋る訳ないから聞こえんなー」
「ひどいっ!」
「あんたたち余裕だねえ。もっと激しくしてみるが耐えられるか!」
「ちょ、ちょっと神奈子様何考えているんですか!?」
神さんが宣言通り弾幕の密度を濃くすると、それに慌てたコチャーが前に出て弾幕を放ち応戦し始めた。
すると、だんだんオレとコチャーの距離が開き始め――
「そっちが隙だらけだよ!」
「あっ」
――神さんが盾のいなくなったオレに向かって投げた柱が腹に直撃した。
「うん?」
「お、お兄さん!」
「あー、早苗。なんであいつは何もせずに喰らったんだい?」
「あの、神奈子様。お兄さんは弾幕ごっこ出来ないんですが」
「……え?」
「あー、痛かった」
「え?」
柱が腹に当たった痛みから開放され、ようやく立ち上がれるようになって周りを見ると、何故かコチャーと神さんが唖然とした顔でこちらを見ていた。
いったいどしたん? あれ、普通ここは安心するとこちゃうかね。
首を傾げて不思議がっていると、物騒な物を投げつけた張本人の神さんが恐る恐る話しかけてきた。
「なんとも、ないのかい?」
「いや、痛い言うてますがな」
「お兄さん、何で無事なんですか?」
「だから、痛かった言うてるやん」
「いやいやいや、普通、神奈子様の御柱が直撃したら最低でも骨が折れてますよ。なんで痛かったで済んでるんですか!?」
コチャーが訳が分からないと叫んでいるけど、むしろそんな危険な物を一般人に投げつけるとかお前さん正気かと、神さんに聞きたいのですがオイ。
それに、一応被害出とるんやけどな。
「ほら、コートのボタン1個ちぎれてるやろ?」
「それだけかい!?」
神さんが驚いとるけど、これでもかと文字書き連ねて要塞並に固くなったコートが傷つくってよっぽどやからな?
あの鬼と殴りあった時でさえ、コートは無傷やったのにどうなっとんねん。
あ、コチャーが紅白に話かけとる。あいつが敵認定した相手に自ら話しかけるなんて珍しいなあ。
昔はオレや家族に怒られん限りはそんな事せえへんかったのに。これが成長ってやつか。
「あの、お兄さんはいつからあんな規格外になったんですか?」
「最初からあんなんだったんじゃないかしら」
おい、お前ら。風巻き起こせるコチャーや、鬼にも勝てる紅白ほど規格外ちゃうわい――いや、そんな疑う目でこっち見られても。
「余所見していいのかい?」
「アイター!」
コチャー達の方を見ていたら、神さんに柱叩き込まれて再び地面を転がるハメに。
あー、痛い痛い。コートが頑丈だからって、中の人も頑丈と思うなよこのヤロー、バカヤロー。
あぁ、あかん、胃の中身吐きそう。でも吐いたらもったいないオバケがやってくるから我慢せんと。あいつしつこいからなあ。
「いや、どうして痛いで済むんだい。もうこうなったら泣くまでひたすら御柱を叩き込もうか」
「鬼かアンタは」
「神様だよ」
「せやったせやった――コチャー、この神さん怖い助けてえ!?」
「ところで霊夢さん。うちのバカお兄さんがご迷惑おかけしませんでしたか?」
「そんなことはないから、あげないわよ」
おい妹、今露骨に目と話題を逸らしたやろ。て、うおっと。また柱飛んできおった。
ちょっと余所見した瞬間にぶち込んでくるなんて、ほんっと容赦ないなあこの神様。
さて、この状態どうすっかねえ。
「てことで、もうこうなったらあらゆる手段を取ろうと思うんやけど、ええかな神様!?」
「できる事があるなら何でもすると良い、人間!」
「よっしゃあ!」
許可が出たし、こちらの準備が整うのを待ってくれるみたいやから、ありがたく準備を行うことにする。
まずはコートに仕込んでいたナイフを取り出し、柄に「布都御魂剣」と書く。これにて準備は完了。後は神を狩るだけや。
ハハ、幻想郷に来てからゲームと現実の違いが分からんなあ!
「準備は出来たね? ならかかっておいで、見定めてやろう!」
「なら要望通り、殺して解して――て、これはむしろ死亡フラグか。まあとにかく後悔させたるわ!」
で、まあその結果やけど。
「人間が神様に勝つなんて無理ですよねー」
「良い勝負してたじゃないですか。神奈子様は楽しそうに笑ってましたよ」
コチャーはそう言うけど、神さんに手加減されたうえであっさり負けましたとさ。
人間が敵うかい、あんなもんに。
御柱を布都御魂剣で切り裂きながら近づいたものの、やはり無理があったようで、避けも切り裂けもしない見事なタイミングであの御柱を叩きこまれて、今もこうして地面に横たわっている。
文字で防御力上げてなかったら死んどったんちゃうかなこれ?
「そんな事ないですよ。ほら、霊夢さんも神奈子様と良い弾幕ごっこしているじゃないですか」
「むしろ紅白が優勢よね」
何であいつ神様相手に余裕なん?
オレが神さん相手に戦っている間にコチャーと弾幕ごっこ繰り広げとったのに、疲労ないんかあいつ。
コチャーはオレの隣で、同じようにぐったり倒れとんのに何でや。
やっぱあいつ人外で、オレはまだまだ人間の枠内やろ。
「いえ、お兄さんも十分に人外名乗れますから」
「空飛んでるお前らの方が人外ちゃうかな。人は空を飛べないんだよ」
「私、現人神ですから!」
「はいはいそうですねー」
「何ですかそのやる気のない返事は!」
コチャーがじゃれついてくるのを引っぺがし、再び空を見上げる。そこにはやはり神様相手に美しい弾幕ごっこを繰り広げる紅白がおる。
あの神様、厄神様とか相手にならんぐらい戦いが上手いんやけどなあ。
いったいどう育ったらあんなんと戦えるようなんのさ。
「あ、神様が落ちた」
「え!?」
決めた。オレ、もう二度と弾幕ごっこなんてせえへんからな。
ストック切れました。
次から完全新作ですねえ。
社畜生活がつらいです。
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第27話
膝枕というものをご存知だろうか。
そう、男子なら誰もが一度は夢見る可愛い女の子にしてほしいあの膝枕だ。
それを何故可愛い女の子枠のコチャーにオレがしてるんでしょうか神様?
ーー役得だね!
ーーもう一発御柱を叩き込もうかい?
……返事がきた!?
異世界での暮らし方 第27話
紅白が神様を撃ち落とした後、恒例の宴会が始まった。
何故か洩矢神社で。
こんな山の上で誰が参加するのかと思ったら、この山に住む天狗や河童が中心で、そこに違和感なく混ざる黒白。
「黒白、お前ほんっとどこにでも現れおんなあ」
「人を言葉にしたくないあの虫みたいに言うのはどうかと思うぜ」
「何のことか分からんなあ。その唐揚げとこっちの卵焼き交換せえへん?」
「いいけど、どうせならあーんして食べさせてやろうか?」
黒白がニシシと明るい笑顔を浮かべながらこちらをからかおうとするが、残念ながら今回はそれやっちゃあいかんやつなんよ。
ああ、後ろにブラコン気味な我が妹分が。
「お兄さんには私が食べさせてあげますので、あなたがする必要はありませんーー分かりましたか?」
「お、おう、分かった、分かったからその人を殺せそうな目線はやめてくれると嬉しいぜ。秋、お前の妹、弾幕ごっこしてた時よりも怖いぞおい!?」
「オレに言われても困る」
「お前の妹だろ!」
「妹分であって妹ちゃうわ!」
黒白が料理の乗った皿を器用に片手で保持したままこちらの肩を掴み揺らしてどうにかしろと言ってくるが、そんなのは育ててきたあの神様に言うべきちゃうかな!
というか、えらく鬼気迫った顔で迫ってきとるけど、お前、神様と弾幕ごっこしとる時は笑顔なんやからこんなコチャーぐらい怖くないやろ?
すると、更に顔を近づけながら怒鳴ってきた。
「お前にはあれが分からないのか!? 参拝客が一人も来なくてイライラしている霊夢並のプレッシャーをぶつけられてるんだぞ!」
「あんなおっそろしいのが二人もいる訳ないやろ。現実見ようぜ?」
「お前にはあの真っ黒な笑みが見えないのか! あ、もしかしてこれ私だけに殺気向けられているのか!?」
「大変やなあ、黒し――」
「お兄さあん、そこの魔法使いとばっかりお話してないで少しは私ともお話ししませんか?」
「うぉお、なんか知らんけど鳥肌が!?」
黒白と言い合いをしていたらコチャーが後ろからしなだれかかってきた。これだけなら色っぽいかもしれんが、そこから腕を前に回し、そのまま首に絡めて締めてくるのはどうかと思うんやけど!
ほらあ、黒白もドン引きしてるから!
あ、こら黒白逃げるな、置いていくな、相棒だろ!?
飲んでた酒も料理が乗った皿も置いて、四つん這いからの全力疾走とか本気過ぎないかお前!
「すまん秋、ヤンデレは洒落にならないっ」
「お前人が目を逸してた現実を最後に突きつけんなどアホっ」
「ヤンデレじゃないですぅ。ただのデレデレなブラコンですよー」
「いやいや、色々とおかしいし顔近い息がこしょばいーーて、くっさ。おい酒くさくないかコチャー!?」
真横にあるコチャーの吐息から香るのは明らかに酒の匂い。
おい誰だ飲ませたのまだ未成年やぞ。幻想郷なら関係ないやろうけど。
あと、その色っぽい動作から絞め技かましてくるのは副会長の手ほどきやな。おい、何教えてんだあのバイオレンス夫婦の脳筋担当!
この息苦しさを感じさせない程度に首を締め付けて動きを封じつつ、より身体を密着させて意識向けさせるとかいう高等技術、ただの天然な妹分に出来る訳ないよなあ。前はそのまま気絶させられたしな。
そうやってコチャーに身動きを封じられていると、いつの間にか近くに座り酒を飲んでいた神様が不機嫌そうに話しかけてきた。
「お前さんがいつまで経っても話しかけてこないから、やけ酒してしまったんだよ。許してあげなさい」
「お父さん!? て、ステイステイ、御柱投げるのやめましょう? この酔っ払ったコチャー庇いつつ避けるとか出来へんから」
「なんでこの人間はそこでお父さんと言うのかしら。せめてそこはお母さんでしょう」
「ハッ、娘と一緒に現れた男に不機嫌になって殴ってくるような人はどう考えてもステレオタイプな娘を取られて怒るお父さんでしょうに。現れたの兄貴分やけどな」
「ほおう、あんだけ殴られてもまだ喧嘩売る根性は買ってあげましょう」
「お に い さ ん」
神様と睨み合っていると、放置されたと思い拗ねたコチャーがもっと私とお話しましょうと首の締め付けをキツくしてくる。
おいこいつこんなに酒癖悪かったの? ほんと誰や飲ませたん。はいはい、お話するから首の締め付け緩くしてね喋りにくいから。あと、他の人にやる時はもっと手加減するように。おにいさんじゃなかったらとっくに気絶しとるからな。
「離れろとは言わないんだね」
「役得やから当たり前やろ」
「素直なのは良いこと、と言いたいんだけどねえ」
どこで早苗の育て方間違えたかしらと嘆いているけど、間違ったと思ったのなら今から修正すればええんやないかな。
あと、コチャーから香る酒と同じ匂いが神様が持ってる盃からするんやけど。おいこら、目を逸らすな顔を背けるな目と目を合わせてお話しましょう?
ああうん、今のは神様に向けて言った言葉だからお前さんが前に回って抱きついてまでして目を合わせる必要はないからな?
「最初からこうしておくべきでした。こうすればお兄さんの視界を独占できます!」
「ブラコンが過ぎると思わんか神様!?」
「……なんでこうなったかは私も知りたいよ」
重々しくそう言うと、神様は深いため息をついて額を抑えた。
そして、コチャーは太陽のような笑みを浮かべて唐揚げを食べさせようとしてきている。お前さん、酔っ払うと周囲をこれっぽっちも気にしないマイペース人間になるんやなあ。お兄さん初めて知ったわ。
「はいお兄さんあーん」
「……それ毎回せんとあかんのか?」
「だめです。はい、あーん」
「……美味しいからええけど」
「結局食べるのかい」
呆れた顔で言うけどさ。久々に会った妹分のちょっとした我儘聞くぐらいは良いかと思うんよね。今日は祭り、宴会、ハレの日。これぐらいはええんちゃうかなあ。
「かっこよさげに言っているけどあんた、頬が引きつっているって自覚してるかい?」
「黒白といい神様といい、どいつもこいつも現実を叩きつけてくれるなあ!」
「はい次は磯辺揚げです!」
「お前ほんとマイペースやなあ。にしてもチョイスが渋い」
「ちなみに今まで食べてもらったのは全部私が作りました。どうですかこの完璧な妹力」
「妹力ってなんやそれ」
「可愛くて、料理が上手で、世話焼きです。ツンデレかデレデレかはお兄さんの好み次第ですよ?」
え、お前さんツンデレ出来るん? デレデレしか付属してないんじゃないんか。
どっちが良いですかと聞いてくるコチャーに対して言えたのはそれだけだった。無理すんなって、今更ツンデレとか無理やって。
神様も同感なのか、しきりに頷いている。
それに対してコチャーは、ツンデレぐらい出来ますよーと頬を丸く膨らませてそっぽを向いたいる。
「では試しにツンデレの披露をどうぞ」
「ーー」
「?」
「早苗、無理しなくてもいいんだよ?」
気づけば周囲で酒を飲んでいた天狗や河童たちも飲むのを止めて、固唾をのんでコチャーを見ている。
「ーーようやく会えたお兄さんにツンとか必要ないですね。はいお兄さん、次はポテトサラダですよ。て、何ですかみなさんそんな大きなため息をついて」
「はい解散」
「私その枝豆欲しいんですけど!」
「その清酒は私のですよ!?」
「あれ、え、何ですかこの反応。私何かおかしいこと言いましたか?」
「秋、何か言うことありませんか? 新聞におもしろおかしく載せるのでそこらへんも考慮してお願いします」
「愛が重い。へい、文屋の姉さん。一言しか喋ってへんのにやたら文章書いてるやないの」
「こんなの盛ってネタにするしかないじゃないですか。あ、私の個人的感想が多く含まれているので秋の言葉は一言一句変えていませんのでご安心を」
「出来るかあほう! それ燃やしたる……あの、コチャー、膝からどいてくれんと動かれへんのやけど」
「はいはい、そんな鳥より目の前にいる可愛い妹に集中してくださいねー。内容によっては見逃しますので後で見せてくれますよね?」
「おっとこれは検閲の予告ですよ。さっさと逃げるべきでしょうか」
でもこんなネタの発生源から遠ざかるなんてもったいないですし、と悩む文屋。
いや、悩んでないでさっさと逃げた方が良いって。さっきからそっち見とるコチャーの目が、魔導書盗んだ黒白を見る引きこもり系魔法使いと同じやから。たぶん手加減なく初手で最大火力ぶっ放してくるやつちゃうか。
ところでコチャー、ほんとそろそろどいてくれんか。え、次は手羽先? 烏天狗の未来の姿?
逃げた方がええんちゃうか文屋の。
「うちの娘がヤンデレな件について」
「どう考えても教育失敗していますよね」
「かなり前から失敗してるからそこは許してあげて」
この神様、子育てについては駄目だと満場一致で関係者一同から太鼓判を押されとるからな。どっかズレてると思っとったら神様やったからしゃーないんやけど。
コチャーに次々とおかずを口に突っ込まれながらそんな事を考える。
やたらコチャーが教えられている知識が古いと思ったら、そら古の神様が教えてたらそうなるわなあ。
「悪かったとは思っているんだよ?」
「神奈子様は悪くありません! あ、急に大声を出したら吐き気がーー」
「おいおいおい、落ち着けコチャー、我慢しろ、ここでリバースすると悲惨なことになるぞ、主にオレが!」
「早苗、すぐにトイレに連れて行ってあげるから我慢するんだよ。さすがに女の子がここで吐くのは絵的に不味いよ!」
「これ無理かも」
「文屋ァ、高速でトイレまで!」
「えぇ……良いですけど運んでる最中にリバースはやめてくださいよ?」
「が、頑張りま……うぇ」
「ほんと止めてくださいよ!?」
そう悲鳴をあげると、文屋はコチャーを抱え風となった。さすが鴉天狗、抱えるとこまでしか見えんかった。
なんかコチャーの悲鳴が響いとるけど大丈夫やろか?
「で、その後戻って来た妹分に膝を占拠されて動けなくなっている、と」
「戻ってきたら一目散に占拠されてなあ」
「あっはっは、これは傑作だ。おかしくて酒が進むねえ!」
「おかしくなくても酒飲み続けてるやろ。主成分が酒の鬼のクセによう寝言いいおるわ」
「私以外の鬼もこんな感じなんだけどねえ」
やだ鬼って怖い。
横に座ってひたすら酒を飲むこの鬼、突然隣に現れてそれからずっと酒を飲んでいる。かれこれ2時間ぐらいはひたすら飲んでいるんじゃないかこれ?
「まだ2時間じゃないか」
「まだちゃうから。もうだから」
「え?」
「え、ちゃうわ。何でそんな度数高いの飲み続けていられんの」
「え?」
「え、ちゃうわ。妖怪の肝臓すごないか」
たぶん人間なら肝臓壊すよね。人の膝の上で寝てるコチャーなら確実に一口で倒れる酒を2時間飲みっぱなしとか死んでまうやろ。
そんなことないと思うけどなあと鬼は言うけど、それまで周りにいた天狗もドン引きして遠くの方で飲んでるやんけ。え、話を振るな話題にするな?
「……」
「なんだい、喧嘩なら買うよ!」
「お前さん、あの無駄にプライド高い天狗に何やったん?」
「あー、今回は何もしないって言ってるんだけどなぁ」
鬼がチラリと天狗を見ると、天狗たちは一斉に目を逸らした。いやあ、全っ然歓迎されてへんなあ! 黒白や紅白よりも歓迎されてないんちゃうかこれ!
ついつい鬼を指さして笑っとったら拳を顎にもらいました。
「あ、あがががが」
「人を指さして笑うなんて失礼だねぇ。人じゃないけどさ」
「お、おぉ、脳天に響き渡るこの痛さ。酔いが醒めるやんけこの阿呆!」
「それは悪いことをしちゃったねえ」
鬼はケラケラ笑っとるけど、いい気分で酔ってたのを醒まさせられたこっちの身にもなってほしいんやけど。笑い事ちゃうからな。というか、よう顎砕けんかったな、おい。
そんな風に鬼とじゃれ合っていたら、天狗たちが更に遠くへ離れていった。なんでや。
「そりゃ普通の人間、どころか天狗の顎すら砕けるような拳をくらっても痛いで済ますあんたにドン引きしているのよ」
「え、でも神様だって耐えられますよね?」
「そりゃ私は軍神だから当たり前よ」
「アハハ、ようこそこちら側へ。天狗のお墨付きだなんて、明日には新聞に乗るんじゃないか秋」
「なるほどーー良い酒やるからあの天狗の集団叩きのめしてくれへん?」
「ちょっと秋さん、なに恐ろしいこと唆してるんですか!?」
いや、オレに天狗叩きのめすとか出来へんし? それに膝の上で眠るコチャー起こす訳にもいかんからここから動かれへんし。
「良い酒が飲めるなら仕方ない。でもここではとっちめないと言っているから、明日でも大丈夫かい?」
「ほら、ほら、本気になってますよ!?」
「大丈夫大丈夫、新聞記事にならない程度に叩きのめしといて、全員」
「秋さーん!? 書きません、書きませんからそれ以上唆すのやめてくださいよ!」
「天狗相手に妥協と安心は駄目絶対。言葉の裏をかいて絶対記事にするって知っとるからな!」
「天狗の事よく分かってるじゃないか」
そりゃ今まで色々やられてますからなあ。
ほんっと狡猾やからなこいつら。何度言葉の裏かかれて仕事させられたか。
思い出したら腹立ってきたな。酒追加するから念入りに叩き潰してくれへん?
天狗たちが冷静になって話し合おうと言っとるけど、冷静になった結果がこれなんで諦めてくれへんかな。ほら、もう鬼に酒渡しもたし、な?
「な、じゃありませんよ! 何でもう渡してるんですか……」
「前払いやけど?」
「気前がいいやつは大好きさ!」
「うわぁ、なんて立派な虎の威を借る狐なんでしょう」
「あんた、自分ではやらないのかい?」
神様、それは無理ってなもんや。なんせ戦闘センスないからなあ!
それだけの身体能力があるのにもったいないと神様がため息をついとるけど、こちとらただの人間やからね?
どっかの妹分みたいに現人神だったり、どっかの高校生みたいに剣道や空手やってる訳ちゃうから期待されても困るというか。
「私が鍛えてあげようか?」
「そんな普通から遠ざかっておまけに異変に巻き込まれそうな要素はノーセンキューですって」
「無理強いはしないけど、もったいないねえ」
「ところで秋、一つ気になってるんだけどさ」
「鬼が気になるようなもんあったか? あ、残りの酒はあいつら叩きのめしてくれたら渡すけど」
「いや、そうじゃなくて。その膝の上にいる女の子は? 叩きのめしたら受け取りにいくから用意しといてね!」
「これは妹分」
「愛しげに頭なでたり、髪の毛梳いているけど?」
「え、可愛い妹相手ならこれぐらいするやろ。今は酔いつぶれておとなしゅうしとるし」
「へぇ、外の世界だと妹相手にそんなにデレデレするんだ。今度あの月から来たやつに教えてあげようか」
「うおぃ、ちょっと待とか!」
「いいや、待たないね。この宴会が終わるまでは待つけどさ」
「ええい、何が望みや。て、おい、お願い話を聞いて。何を神様と意気投合してんの? あ、え、何で意気投合した相手と突然弾幕ごっこ始めてんの? ちょ、あかん巻き込まれるから逃げる時間ぐらいくれませんかねえ!?」
この後、神様と鬼の弾幕ごっこに天狗共々巻き込まれて被弾した。被弾した相手に御柱叩き込んでくれた神様は、神様ではなく鬼だっりせえへんかなあ。
「いや、軍神だから手加減しないんだよ」
「アイタタタ、そんなもんですかねえ。ところで麦わら帽子が似合うオタクはどちら様で? このままだと巻き込まれるかもしれへんから離れた方がええよ?」
「んーとね、早苗が巻き込まれたら可哀想だから、私があんたもついでに守ってあげるよ」
「え?」
これがこの神社における神様その2と初遭遇した瞬間だった。
今年は紅楼夢に参加しないのでこちらを更新。
前話までは個人サイトで掲載していた分ですが、この話からは新規投稿分になります。
久々に投稿したので、感想お待ちしております。
ところで早苗さん魔改造しすぎた気がしなくもないんですが大丈夫ですかねこれ?
今までで一番酷いのはお酒飲んで酔っ払っているからです。普段はここまでデレてないので。
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第28話
一人暮らしをしたことはあるだろうか?
静かで、誰にも邪魔されずに自由に過ごすことができる。
そう、思っていたんですがねえ?
――なんかごめん。
――止めても聞かないから諦めておくれ。
世は無常也。
異世界での暮らし方 第28話
「お、に、い、さーん!」
「はいはいおはようさん。今日も元気でよろしい。でも玄関は静かに開けような」
「はーい」
今日も今日とて妹分がやってくる。
この子、ほぼ毎日やってくるけどええんか? 人里で布教してるんは知っとるけど、こう、他にすることないんか。
コチャーが玄関を閉めて、ここが我が家であるかのように違和感なく店舗スペースから奥の居間へ足を勧め、当たり前のようにお湯を沸かしお茶を入れようとしているのを眺めつつ、そんなことを考える。
はて、何でそこまで我が家の配置を把握してんのこいつ?
「お兄さーん、そろそろ茶葉がなくなりそうですよ」
「あれ、そうなん? いつもならもっと保つんやけど」
何でやそんなに飲むペース早くなってたか?
今日もお兄さん好みの濃さですよとコチャーが渡してくれたお茶を飲みつつ原因を考える。
たしかに最近知り合いが来ることが増えたけど、そんな早くなくなるほどではないよなあ。
「んー、今日もいい濃さで淹れることができました!」
「せやなあ。完っ全に好み把握されてるんやけど」
「そうでしょうそうでしょう。どうですかこの完璧な妹力」
「だから妹力ってなんなん」
「そして、これ、お兄さんも大好きなお店のお煎餅です!」
そうそう、この煎餅がこのお茶に合うんよね。でもその事をお前さんに言ったことあったっけ?
言ってたとしても、店の場所まで伝えたことはないはずやけど。
「教えてもらったことはないですけど、常備されてますし、そのお茶と一緒に食べている頻度が高かったのでどこのお店か調べてみただけですよ?」
今日はようやくそのお店を見つけることが出来たので、布教の帰りに買ってきたとコチャーは言うが、たしかあのお店、開店するかは気分次第だったはずなんやけどなあ。具体的には店主の腰の調子次第。梅雨の時期はほとんど開いてない。
ええんかそれで。いや、美味しいけど。
「ようやく買えました!」
「察した」
「でもこの煎餅の為ならやむなしです。お兄さんこそ、よくこのお店見つけましたね」
「あぁ、そのお婆さん、うちのお客さんなんよ」
買ってくの、ほぼ毎回腰痛用の商品やけど。たまにボケ封じのも買ってくから、あの店後継者が見つからんかったら潰れるかもしれんなあ。
そういや子供さんとか、お弟子さんとか見たことないなあ。本格的にあかんのちゃうこれ?
「今のうちに買い貯めしておきます?」
「しても湿気てまうから保存できへんやろ」
「お兄さんが永久保存とでも書けばなんとでもなると思うんですが」
「コチャー、お前頭ええなあ!」
「おや、珍しくお兄さんが素直に褒めてくれましたよ! これは記念に今晩の料理は豪華にしましょうそうしましょう」
コチャーが上機嫌で何を作ろうか悩みだしおったけど、そんなに褒めてなかったっけ?
そんなことないよなあ。褒める時は褒め……てたの幻想郷来る前かー!?
そういえばこっち来てからテスト勉強とかないから褒める機会減ってるわ、うん。
あれも作りたいこれも作りたいと未だにウンウン唸りながら悩んでいるコチャーの頭を撫でつつ、これからはもうちょっと褒めていこうと決意。とりあえず今日の料理はしっかりと褒めよう。さすがに罪悪感がですね……
「ななななんと、頭を撫でてもらえるご褒美まで!? デザートもつけてしまいましょうか!」
「テンション高いなあ。とりあえず落ち着こか」
「大丈夫です落ち着いています私は冷静です」
「それ大丈夫じゃないやつのセリフや」
「お兄さんがいけないんですよ。なんですかツン期が終わったツンデレですか。デレ期突入ですか。ようやく神社で同居始めますか!?」
ツンデレちゃうし、ツン期とかないし、同居はせえへんというかお前さん既にうちに入り浸ってないか?
勢いよく立ち上がって、こちらに詰め寄ってくるコチャーの顔を手で押し返して座らせようとしとるんやけど、なんやこいつこんな力強かったか?
全然押し返されへんやん。むしろこっちが押され気味?
「コチャー、ステイ」
「はい!」
おとなしく座り直してくれたので、ひとまず財布を取って冷蔵庫の中身を確認する。
多少の肉と野菜はあるけれど、何か豪華なものを作るには足りないってとこやな。
コチャーを見ると期待してる目でこちらを見てとるし、これでいつも通りのを作る言うたらがっかりさせてしまうわな、うん。
「よし、人里に買い物いこか」
「らじゃー!」
なお、道中何を血迷ったか襲いかかってきた妖怪や妖精がおったけど、全てハイテンションなコチャーによって吹き飛ばされたことをここに記す。小型の台風かこいつ。
「あれ、母上?」
「母上!?」
「おや、帰ってきましたか。いつもなら居る時間なので、遠出しているかと思い帰るところでした」
「慣れたやりとり!?」
人里で予算の許す限りの買い物をして我が家に帰ると、そこには待っていてよかったですねと微笑む母上が。地獄で沙汰を出すのに忙しい母上がこっちに来るとは珍しいやん。何かあったっけ?
そして、あの人どこの誰ですか向こうでもお母様とはお会いしたことないんですよと鬼気迫る表情で迫りこちらを揺するコチャー。落ち着け落ち着けとりあえず揺するな視界が揺れゆれユレれれれ。
「吐くわボケェ!」
「あいたあ!」
とりあえず初手コチャーの頭叩く。相手は正気に戻る。
ポイントは身長の差を利用して斜め上から手を振り下ろし適度に衝撃を与えること。強すぎると脳細胞潰れてしまうからやめとこな。
「いきなり相手の頭を叩いてはいけませんよ」
「これツッコミやから大丈夫セーフ!」
「それならいいのですが」
「それでいいんですか!? いえ、私はお兄さんにかまってもらえるならいいんですが」
「むしろお前がそれでええんか!?」
「何か問題が?」
いや、お前さんがそれでええならええんやけど……ええんか?
どこで育て方間違えたかなあ。でも、向こうにおった時はここまでじゃなかったし、やっぱあの神様のせいやな。
おや寒気。
「秋、あなた何か変な存在に喧嘩でも売りましたか?」
とりあえず変な干渉があったので払っておきましたが、と母上が事もなさげに言う。いや実に頼もしい母上やなあ。
……え、何それここの結界ぶち抜いて干渉してくるんかあの神様ズ。こっわ、結界強化しよ。
で、なんやコチャー。そんなつっつかんでもええやん。
「お兄さん?」
「おーけーおーけー、こちらのクールビューティーな女性が母上。三途の川飛び越えて地獄にヒーロー着地してから保護者になってもらっとる大恩人」
「私が秋の母です。もし幻想郷から離れることになっても親と思ってくれていいんですよ?」
なぜかドヤ顔で胸を張る母上と威嚇するコチャー。
「で、こっちが幻想郷来る前にできた妹分のコチャー」
「私が、妹の東風谷早苗です! 今後ともよろしくお願いしますお母様」
何故か勝ち誇った顔して胸を張る妹分と、悔しげにコチャーの胸部装甲を見る母上。えっと、その、母上?
「包容力がある私なら、お兄さんを包み込むことできますよー?」
そう言うとこちらの頭を胸に抱こうとするコチャー……を避けてその口に煎餅を3枚ほど突っ込む。
「はいはいそこまで。何でいきなり母上に喧嘩売っとんねんお前は」
「む。喧嘩を売られたとは思っていません」
「はいはい、そういうことにしときましょ。母上もお茶飲みます? 手抜きやけど」
「お兄さん私と扱い違いませんか!?」
『美味しいお茶の入ったヤカン』と書かれたヤカンにお湯を淹れようとすると、突っ込まれた煎餅を食べきったコチャーが叫ぶ。食べるの早ない? いい煎餅なんやからもっと味わって食べたらええのに。
マザコン、このマザコン、と叫ぶコチャーを放置してとりあえずお湯淹れて、と。湯呑の数あったかいな? あの魔女どもに使ってるやつは専用やからーー一応あるわ。良かった良かった。
「いつか親離れして巣立っていく母親よりも、いつまでも、そう、死ぬまで離れることのない妹の方がお得ですよ!」
「そんなアピールの仕方は予想外やわ」
「あの、秋? さすがに昼間からお酒飲ませて人里を歩くのはオススメできませんよ?」
「飲ませてへんよ!?」
人里まで5分とはいえ、妖怪と遭遇することもあるんですよと心配する母上。いや、それはそうなんやけどな?
「私が傍にいてお兄さんに怪我をさせる訳がないじゃないですか。それはさすがに怒りますよ?」
「ほう?」
そして、急に真顔になってカッコいいことを言う妹分。できるなら普段からそうしてくれんかねえ。
母上はそんなコチャーを驚いた顔で見つめている。そして、何か納得したんか頷き始めた。今のどこに納得できる要素が?
でもってなんでコチャーは自慢げな顔をしてるんや。
「及第点、としておきましょうか」
「何が及第点なんや……」
「もっと高評価でもいいんですよ?」
「あなたは少し調子に乗りやすいのが欠点です」
それでも、秋よりは妖怪や異変にも対処できるでしょうと言い、母上は安心した表情でお茶を飲んで顔をしかめる。
どうせ手抜きしたお茶やのに美味しく感じられるのが納得いかんのやろ。ごめんやけど慣れてとしか言えん。
「この店から出る時は、できるだけこの少女か博霊の巫女と一緒にいるように。そうでないと、また巻き込まれたり食べられたりするかもしれませんよ?」
「こいつらと一緒にいる方が巻き込まれそうなんやけど」
「お兄さん単独でもそれなりの巻き込まれ率だと思います!」
「そんなことないですー。厄神様に厄払いしてもらっとるからお兄さん単独だとそこまで巻き込まれませんー」
「その結果、厄神様でも祓えないどぎつい厄が残って巻き込まれているんじゃないですか?」
「あんまし見たくない現実叩きつけるとお兄さん泣いちゃうよ? いやまだ泣いてないから母上も頭撫でなくていいですから。いや、ちょ、恥ずかしいから! コチャーも撫でようとすな!」
振りほどきたいけど母上相手にそんなことはできへんし、妹分は妹分でこっちが身動き取れへんのをいいことに撫でてこようとするし、ほんまにもう!
とりあえず撫でてこようとするコチャーの頭を身長差利用して押さえつけて妨害して、と。
「やっほー、秋。御先祖様が様子を見にきたよー。手土産に竹林て狩ってきた猪もある……よ?」
「あー、これはアカン。さらに面倒くさくなるやつや。お兄さんは詳しいんだ」
玄関が開くと同時に元気な御先祖様が登場。
服が汚れてないから、今回は姫さんと殺し合いはしてへんみたいやな。毎回うちで洗濯したり修復することなるから、いつもこうであってほしいわ。
で、母上とコチャーを見て固まっとる、と。
続いてこちらの頭を撫でようとしていたコチャーさん。御先祖様の声を聞いて撫でようとするのをやめ、御先祖様を視界にいれて固まっております。
そろそろ動き出すんちゃうかな。あぁ、面倒くさい。
「なんか人増えてるー!?」
「また女性の方ですかー!?」
「とりあえず気絶させるか、記憶失わせるのは有りやろか?」
「当然無しですおバカ。有罪になりますよ」
「ですよねー」
これどうしたらええねん、教えて神様。
書いてと言われて、鬱々した日々の隙間にチマチマと書いていたのですが、三連休でそんな日々から開放されたので、なんとか書き切れました。
珍しく休日出勤がない三連休でした。
盆休みはないので更新は一年後くらいです。
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