無意識の恋 Second stage (ミズヤ)
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2周年記念
『ミズヤ二周年記念』無意識の恋〜総集編〜『前編』 無意識の出会い


 はい!どうもみなさん!ミズヤです

 今回は前作、無意識の恋の振り返りをしていきます。前編は第1話から第参章までを、後編は残りをまとめていきます!
 ※コラボや日常は省いてますのでご了承ください。前期のストーリーにコラボは関係ありません。
 あと一部の日常編で、なければならない話の時はまとめてます。

 何もネタが思いつかなかった訳では無いですよ!

真「んじゃ、まずは俺とこいしの出会いから始まるわけだな」

 そうですね。

 それでは前作を振り返っていきましょう!


 これは数年前の奇跡の話。

 俺と無意識の出会いの話。

 

「ん? ここはどこだ?」

 俺、海藤真が目を覚ますと見知らぬ場所にいた。

 

 普通なら不思議がって怖がるだろう。だが俺は違った。

「キタコレ!」

 俺は喜んだ。

 

 だってよ! 考えてみろよ! この状況異世界召喚ってやつじゃないですか!

 とても楽観的だが、俺は興奮していた。

 

 高校でまるでもてず、非リアをこじらせていた俺にとってはチャンスだと思ったからだ。

 異世界転生物のお約束と言えば可愛い女の子が現れる。だから俺もそれを期待して居るのだ。

 だが俺は、

「ロリなんちゃらじゃないぞ?」

 

 可愛い女の子でもあまりにも年下だったら諦める。

 

 可愛い子は確かにすきだ。だがしかし恋愛のそれではない。

 そもそも元の世界でそれやったらクサイ飯を食うことになっちまうからな。

 

 そんな感じで俺は暫くその場で待つことにしたんだが、

「うわー……ここはお約束が通用しないのかよ!」

 それならそうと、ここら辺を探索してみよう。

 

 俺が降り立った地は岩場だった。こっちに来てから目覚めるまで結構あったらしくて体が痛い。だからその痛い体を無理矢理動かして歩く。

 

 しばらく歩くとお屋敷が見えてきた。

 

 その時気がついたのだ。誰かにつけられてることに。

「誰だ」

「あ、バレちゃった!」

 そう言ったら、女の子が姿を表した。

 

 容姿は、黒色の緑っぽいリボンをつけた帽子をかぶり、全体的に緑っぽい服だ。

 

 そして一番特徴的なのが──

「それはなんだ?」

 胸の辺りにコードで繋がれた、閉じた目見たいのが浮いていた。

 

「これは、サードアイ。心が読めるの…...今は読めないけど……」

 これが俺と無意識の出会いだった。

 

 話を聞けばこの子は古明地こいしと言い、このお屋敷に住んでいる人だという。

 そしてこの世界、幻想郷のことも色々教えてくれた。

 その子の前で俺が「家が無い」「金が無くて困ってる」と呟くと「私の家に来る?」と言ってきた。

 うちに来る? って友達か!?

 

 最初は断った。

 だって男が女の子の家でお世話になるなんてダメだろ。

 だけど俺は断りきることが出来なくて最後は押し切られてしまった。

 

 こいしは地霊殿と言う屋敷のお嬢様らしい。

 

 そこにはこいしの姉さんで、心を読むことが出来る古明地 さとりとそのペットの火焔猫燐と霊烏路空という人物が居た。

 

 こいしが経緯を説明すると、何とか嫌悪感を持たれずに受け入れてもらうことが出来た。それに俺は読まれて困るような事は考えてないしな。

 

 そして俺が地霊殿に住むことになってから数日後、幻想郷の空が真っ赤な霧で覆われた。

 幻想郷では異変と呼ぶ俺のもといた世界での事件みたいなものらしい。

 

 だが、事件ならそのまま放っとくわけには行かない!

 

 俺とこいしは異変を食い止めるべく、その発生源に向かった。

 発生源は霧の湖と言う所の近くだという。

 

 そこに向かうと俺とこいしは大妖精とチルノと言う妖精とルーミアと言う妖怪に出会った。

 ルーミアは妖怪なので人間である俺を食べようとしてきたその時だった。

 博麗 霊夢が俺をルーミアから助けてくれたんだ。しかしその後、霧雨 魔理沙によって死にかけた。

 

 その二人は今回の異変を解決しに来たみたいで、俺らも混ぜてもらうことにした。

 

 暫く見ていると湖の近くの館から霧が出ていることに気がついた。

 その霧が出ている館に行くとその館の前に門番らしき女性が寝ていることに気がついた。

 

 だが、寝ているなら好都合。スルーしていこうとすると急に真横から蹴りが飛んできた。

 

「あなた達は誰ですか」

 さっきまで寝ていた門番、紅 美鈴が目を覚ましてしまった。

 

 どうしようかと考えていると魔理沙は突然、恋符《マスタースパーク》を美鈴に向かってぶっぱなし、瞬殺! これぞ正しくワンパンKO!!

 なんか可哀想に思えてきた。

 

 そして俺はそこで初めてスペルカードの存在を知った。

 

 そんなものがある世界で俺は戦えるのか!? 俺を召喚した人は何を思って俺にしたんだよ!

 そんな感じで戦いに関して不安を抱いていると、こいしが更に絶望的な事を言ってきた。

「それと、弾幕ごっこするなら飛べないとかなり不利になるよ!」

 

 そして難なく館内に入る事が出来た俺たち。だが、本番はここからだった。

「なぁ、広くね?」

「そうだね」

 あまりにも外から見た感じより広すぎるのだ。

 

 それに対し霊夢は「空間でも操れる奴が居るのかしらね?」と考えた。

 するとどこからともなく声が聞こえてきた。

「半分正解、半分不正解と言った所ね」

 と言った声が聞こえてきた。

 その直後──数十本のナイフが一斉に飛んできた。

 

 だがそのナイフを何とか避けた俺達は霊夢にその場を任せて先に行った。

 

 霊夢と咲夜の戦いは意外と直ぐについた。

 さすがは幻想郷を守る巫女なだけある。咲夜相手に余裕の勝利。

 

 そして俺達は舘内を探索してたんだが、いつの間にか魔理沙が居なくなってしまっていた。

 だが、あの高火力を見て大丈夫だと踏んだ俺たちは階段を降りていく。

 

 その階段の先には部屋があった。

 その部屋に入るとそこに居たのは──

「私はフランドール・スカーレッド、ここに閉じ込められてるの」

 フランだった。

 

 そのフランは俺達を破壊しにかかり、俺達は必死で逃げる。

 その間に俺とこいしははぐれてしまった。

 

 その頃魔理沙はとてつもなく広い大図書館に来ていた。

 そこで魔理沙はパチュリー・ノーレッジと出会った。

 そして魔理沙とパチュリーは戦うことになった。

 

 こいしは俺とはぐれた後、自分の方にフランが追いかけてきていない事に気がついて俺の方を追ってきている事に気がついた。

 そしてこいしは俺を心配して探そうと少し歩いたら大きい扉を見つけた。

「大きい扉……」

 呟いて開けるとそこは大図書館だった。

 

 そしてそこでは既に魔理沙とパチュリーが交戦中だった。

 そこに俺もフランの攻撃によって壁を突破って飛んできた。

 俺は絶体絶命だった。

 

 実はここでもう発動していたのだ。俺の【致命傷を受けない程度の能力】が。

 その時は痛いが目立った傷は無いようで運が良かったと考えた。

 

 そしてフランが俺にトドメをさそうとした時、パチュリーがフランを水流の檻に閉じ込めた。

 それにより三対一。

 

 何とか魔理沙と俺のコンビによってパチュリーを撃破。

 

 そしてこの館の主兼主犯のレミリアに対し不満を抱いているフランを仲間に引き入れ、最終決戦。

 レミリアと会うや否やフランはレーヴァテインで速攻した。

 

 だが、レミリアはフランの事が大好きだと言う事を告白し二人は仲直り。最終対決は俺達対レミリア&フランになった。

 

 しかし二人が相手だが俺の都合の良さによってレミリアとフランを撃破することに成功し、異変を解決した。

 

 その後、地霊殿でベンチに座りながらくつろいでいると何と、俺の親友の刻雨龍生が上から降ってきて龍生も住むことになった。

 

 俺は痛感した。紅霧異変で俺は実力不足だと。

 だから俺は暫く龍生を連れて修行の旅に出た。

 

 そして俺が居ない間に事件が起きた。

 何と冬が終わらない異変が起きたのだ。

 

 こいしはその異変を解決しようと動き出す。それは霊夢と魔理沙も同じだった。

 

 冥界に主犯が居るという事にたどり着いたこいし達は冥界で妖夢と交戦する。

 しかし魔理沙とこいしのコンビによって妖夢を撃破。更に先に進む。

 

 するとそこには西行寺幽々子が居た。

 

 幽々子対霊夢。戦いは拮抗していた。その時──西行妖が満開になった。

 西行妖は春を代償にして桜を咲かせる。そして満開になってから一時間でこの世に生きるものを殺し始める。

 その事を知っていた魔理沙は焦る。

 

 西行妖が復活し、こいし達に襲いかかる。

 そこに修行から帰ってきた俺と龍生が帰ってきた。

 

 俺と龍生は己の能力を理解して活用出来るようになっていた。

 その能力を使って消耗しているこいし達をかばいながら西行妖と戦う。

 

 そして遂に西行妖に時間内にトドメを刺すことに成功。異変解決をして安心したのだが、それも束の間。直ぐに新たな敵、龍生の父である刻雨成腎が現れたのだ。

 

 彼は俺を圧倒。俺と龍生を病院送りにし、俺に至っては致命傷負ってしまった。

 

 そして俺らが目が覚まさないうちに新たな外来人がやってきた。

 名前は南雲鈴音と南雲音恩と言う南雲姉弟。

 

 その二人は俺らと違って紅魔館でお世話になることになった。

 

 そしてその二人が来た後すぐに伊吹萃香による三日ごとに繰り返される宴会の異変が発生!

 すぐに解決出来たが、その後直ぐに新たな異変が発生!

 

 冬の次は夜が終わらなくなってしまった。

 

 いつも通り霊夢達は異変解決に動き出すが、夜なので妖怪達が凶暴化。

 そこでレミリアに異変解決に行かされた音恩と鈴音と合流。

 

 凶暴化した妖怪達が何回か現れたが、藤原妹紅のお陰で何とか主犯のいる場所、そして真達が入院している病院、永遠亭にたどり着いた。

 永遠亭にたどり着いた。

 

 するとそこに真達の見舞いに来たこいしとさとりに遭遇。

 こいし達も異変解決に加わる事に。

 

 因幡てゐ、鈴仙・優曇華院・イナバ、蓬莱山輝夜などの強敵と死闘を繰り広げ、何とか主犯である八意永琳を倒す事に成功。したのだが、そこにまたもや刻雨成腎が現れる。

 

 そして成腎の能力によって皆が動けない状況に。

 

 万事休すかと思われたが、

「なに俺の大切な人に手ぇ出してんだ! てめぇっ!」

 真が助けにはいることによって今度は追い払うことに成功。

 

 そして全ての力を使い切った真は貧血によって倒れてしまった。




 はい!前編、終了!

 どうでしたか?まぁ、あまり上手くまとめれなかったのですが、ここまでは序章ですね。

 本番はここからですよ〜。

 まぁ、前作を見てない方はなぜ真がハッキリと半人半妖ではなく一応なのか気になった方も多いと思います。

 その秘密が明らかに!?

 そしてどういう経緯で元の世界に戻らなくてはならなくなったのか。

 それでは後編をお楽しみに!
(後編は7月31日(水)公開予定)


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『ミズヤ二周年記念』無意識の恋〜総集編〜『後編』 幻想郷の英雄

 はい!どうもみなさん!ミズヤです

 今回は無意識の恋〜総集編〜の後編です。

 今回は後編なので第肆章から最終章まで書いていきます。(エピローグは含まれてないです。すみません)
 ※コラボや日常は省いてますのでご了承ください。前期のストーリーにコラボは関係ありません。
 あと一部の日常編で、なければならない話の時はまとめてます。

真「でも参章後ってかなり話が濃くなるから更に纏めるのが難しくならないか?」

 ……それではどうぞ!

真「話逸らしたな……」


 龍生の父、時雨 成腎を追い払った後、俺は非常に血が少なくなっていて、更にその状態で激しく動いたせいで傷が悪化してしまい、命の危機に陥っていた。

 俺の能力は出血に関してはどうしようもないのだ。

 

 そして俺は輸血が必要になった。だが、その場には俺と同じ血液型の人物はこいししか居なかった。その為、何とかこいしの──妖怪の血を俺の血液に適合させなければならなくなった。

 妖怪の血を入れ、妖怪になって血を妖怪の治癒能力で増やすという事でしか助からないという状況。

 

 何とかその手術は成功し、俺は目を覚ますことが出来た。

 

 その後、俺は夏祭りにてこいしに告白し、こいしと恋仲になった。

 

 しかし、まだ終わっていない問題が残っていた。

 

「ふふふ、前回の奇襲は失敗したが次こそは成功させる」

 


 

 とある日のこと。

 

 俺とこいしが人里に遊びに行くと人間同士が争っているのを発見する。

 しかしそれは望んでやっている事では無かった。操られて行っていたものだったのだ。

 

 犯人は時雨 成腎。

 

 彼の能力は相手の動きを止められるだけのものではなかった。

 相手の動きを操作できるものなのだ。

 

「操作なら僕も負けてない!」

 そして音恩は操作によって成腎をコントロールしようとするも、音恩の操作はパソコンを使うと言うもの。

 霊力を操れば使える成腎の能力には発動スピードで劣っているため、音恩の能力じゃ成腎には勝てなかった。

 

 そして音恩は成腎の能力に捕まってしまうが、音恩はそれを自分の意思で解き、成腎に反撃をした。

「ぐは! きさま、なぜ動ける!」

「僕だって、操れる能力の持ち主だ。弱点くらい知ってるさ」

 そう。音恩も似た系統の能力を持っている。自分の能力は自分が一番知っていると言うやつだ。

 

 これで対等かと思われたがその時、成腎は拳銃を取り出した。

 普通なら少しだけ気圧される位で済むかもしれないが、音恩にはトラウマがあった。

 それによって音恩は足がすくみ、動かなくなってしまった。

 

 そこに龍生が助けに来た。

 

 成腎の能力は心を操る催眠術。だが、龍生には操る心がない。それによって形勢逆転かと思いきや、成腎の力によってピンチに陥ってしまう。

 

 そこに霊夢や魔理沙、こいしがやって来た。

 しかしそれでも逆転することは出来ず、龍生がピンチに!

 

 そして龍生にレーザーが放たれるとそのレーザーは何者かによって斬られてしまった。

 

 そのレーザーを斬った人物とは──俺、真だった。

 

 その俺はものすごく怒っていた。その理由は、

「1つ、自分の手を汚さずに人を殺ろうとしたこと。

 1つ、俺の仲間の力で殺ろうとしたこと

 1つ、俺の大切な人を傷つけようとしたことだ」

 俺は成腎に対して、他人を操って人を殺そうとしたこと、俺の仲間を使って俺らを殺ろうとした事、そしてこいしに危害を加えようとしたことを怒っていた。

 

「なんだそれ? ヒーローにでもなったつもりか?」

 ヒーロー……ヒーローか……。

「なれんなら、なってやろうじゃねーか! 本当のヒーローに!」

 俺は宣言した。ヒーローになるってな。なら、こんな所で負けてられない。

 

「たしかにやるようだ……だが、お前には効くだろう。停止《止まる世界》」

 成腎はスペルを使ってくる。しかし、

「今何かしたか?」

 俺には通用しなかった。

「貴様。なぜ効かない!」

 実は俺は今、無意識状態でフラフラしてるのと同じだ。だから今は心系の技を無効化出来ているのだ。

 

 そして俺は他にも一人、怒りを覚えている人物がいた。そいつは、

「龍生! 一人で行くなんてみずくさいぞ。確かにお前は昔から一匹狼だ。すぐ一人で突っ走る! だがな、今のお前には横を走って一緒に戦ってくれる仲間が居る! お前はもう、独りじゃ無いんだ!」

 俺は龍生に言い放った。俺は自分を頼ってくれない龍生に対して怒りを覚えていた。

 俺達を頼って欲しかった……。

「俺には、仲間が居るのか?」

 龍生は静かに呟いた。

「ああ、仲間が居る。だから、一緒に頑張ろうぜ!」

「……俺には仲間が居る……一緒に戦ってくれる仲間が居る……」

 あの心が無い龍生が泣いた。心が戻った瞬間だ。

「……やってやろうじゃねーか。仲間を助けるために! 仲間と一緒に! 俺は独りじゃない!」

 龍生の死んだ目に再び光が戻った。

 

「親父! 俺は……いや……俺達はお前を倒す!」

「戯けが!親より優れた子供がどこに居る!」

「俺達が、天へ送り戻してやるよ!」

 

 俺達の戦いはついに決着。

「友情《最強のコンビ》」

 俺と龍生のコンビネーションスペルカードで成腎にトドメを刺し、この戦いは終わりを告げた。

 

 その後しばらく平和だったが、突如それは崩れ去ってしまった。

 

 俺は夢を見た。俺らは懸命に戦うも及ばず、次々に仲間が倒れていく。そして俺自身も……。

 そこで俺は目を覚ました。

 

 不安になった俺は俺が倒れた現場である博麗神社に向かった。

 

 博麗神社に着くとそこには誰も居なかった。大声で霊夢を呼んでみたが返事はない。

 するとそこに音恩がやってきた。そして少し遅れて妖夢もやってきた。

 

 二人になぜ来たのかを聞くと音恩は俺と同じ夢を見たからだという。妖夢は霊夢の手伝いをしに来たのだという。なんの手伝いかは言ってなかったけど。

 

 そして音恩の能力で霊夢を探すと霊夢は妖怪の山に居るということがわかった為、妖怪の山に向かう。

 

 妖怪の山に着くと、霊夢が白狼天狗である犬走 椛と交戦中でピンチに陥っていた。

 そこで俺は霊夢に襲いかかる攻撃を受け止めた。それにより俺と椛は交戦することになり、俺は霊夢・妖夢・音恩の三人に先に行かせることにした。

 なんか霊夢が「青白巫女許さん」的なことを言っていたが意味が分からなかった。

 

 椛は強く、俺よりも剣の腕は凄まじかった。だが俺はスペルカード《フラッシュ》で椛から視界を奪い背後に回って首に剣を突き立てた。

 それにより椛が負けを認めて俺の勝利に終わった。

 

 そして疲れた俺は休憩しながら霊夢達と山頂の神社で合流した。

 

 話を聞くと東風谷 早苗が博麗神社神社を乗っ取ろうとしているとか。それで魔理沙と霊夢は博麗神社を守る為にここに来たのだという。

 

 するとその場で戦うのではなく、三日後に大将戦を行って勝った方の物になると言う戦いをする事になった。

 ルールは三対三の大将戦。つまり、俺・音恩・霊夢・魔理沙・妖夢で二人余るのである。

 

 なので今度メンバーは決めることにした。

 

 そして俺は現状の圧倒的火力不足を補うために修行を始める。

 始めたのだが、俺はメンバーには幻想郷生まれ組を推薦した。これによって霊夢・魔理沙・妖夢で戦うことになった。

 

 そして俺は俺一人で修行していてもこれ以上強くなれないことを見越して妖夢に剣術を教えて貰いに来た。

 まず俺の剣術を見てもらったんだが、色々問題があるらしい。

 

 そんな俺はまず霊力を操る特訓から始めた。

 体全体に装備させるイメージだ。しかし、体の中心から離れれば離れるほど纏うのは難しくなっていき、維持できなくなる。

 

 そんな感じの修行をし、疲れきり腹が減ったと思い帰った俺の目の前に現れたのは衝撃のパープルシチュー。

 驚くべきことにこれはこいしが作ったらしい。絶対に入っちゃいけないものが入っている見た目をしている。それを俺はこいしの前だからと言って掻き込むと一瞬にして床に倒れてしまった。

 

 次の日、皆には安静にしろと言われていたのにフラフラしてる体にムチを打ち、白玉楼に向かう。あのシチューは神経毒みたいだ。

 

 今日は霊力を武器に限界まで流す特訓。なのだが、なんと流した瞬間壊れてしまった。

 なので今の武器じゃダメだと言う結論に至り、香霖堂で武器を調達することにした。

 

 そこで俺は店主である森近 霖之助に反対されるも、妖刀【神成り】を買うことにした。何でも気に入らない人間を呪い殺すらしい。

 そんな刀に俺は「力を見せてみろ」と言われた。つまりは試験だ。この試験に合格しないと大切な人を守れないと必死になって特訓した。

 

 その中で神成りは効率的な霊力の使い方や、一番いい霊力斬の放ち方等を教えてくれた。意外と優しい妖刀さんである。

 

 そして地霊殿に帰ると射命丸 文が書いた新聞があり、皆に今回の件に関わっていることがバレてしまった。内緒にしていたのに……。

 それによって修行していた事もバレ、龍生と決闘することになった。それが刀からの最終試験となった。

 

 最終試験で俺は龍生に勝利したことにより合格。全面的に神成りは協力してくれることになった。

 すると神成りは人の姿へと変わり、紬という女の子になった。

 それによって紬が俺の恋人だとか嘘をつくせいでこいしと一悶着あるんだがそれは良しとしよう。

 

 そして紬が妖刀であることから皆に警戒されてしまったので俺は紬はそんなに悪いやつじゃないということを証明するために俺自身に神成りを突き刺した。

 紬の呪いは俺の能力を貫通するらしい。だからそれで俺が死んだら見境なく殺す刀ってことだ。と言って突き刺すとはらに穴が空くだけで済んだ。これによってみんなに認められることに成功した。

 

 紬が刀になっている状態でも俺は会話出来る。なぜ俺はなのかと言うと他の人には紬の声が聞こえなくなるからだ。

 だからいつも修行中にアドバイスを受けたりして修行してるんだが、多分他人から見たら一人で話してるイタイ奴だろう。

 

 そして試合前日に魔理沙と模擬戦を行った。

 魔理沙の火力は思った通りに火力が高く、ギリギリの戦いに。しかし最後は魔理沙のマスタースパークを俺が斬った事により俺の勝ちに終わった。

 

 当日。盛り上がっている中で人里近くのスタジアムにて第一回戦、【博麗チーム】魂魄 妖夢対【守矢チーム】洩矢 諏訪湖が開始された。

 妖夢の剣筋は紬によると「筋は良いんだけど単純なんだよね」と言っていた。つまり妖夢は単純さゆえに行動パターンを読まれやすいという事だ。

 そしてそのまま妖夢は剣筋を読まれ続けて諏訪子から強烈な一撃を貰い、敗北してしまった。

 

 そして俺はこの戦いの最中に何者かに攫われてしまった。

 

 そして初戦は敗北したが、直ぐに二回戦が始まった。

 

 二回戦目は【博麗チーム】霧雨 魔理沙対【守矢チーム】八坂 神奈子。

 そして魔理沙はいつも通り先手必勝『マスタースパーク』を放った。しかしそれは神奈子の御柱のパワーによって打ち消されてしまう。命中したとしても全くダメージが入ってるような気がしない。

 そして神奈子は強気になり、「お前らに勝って博麗神社を頂く」と言ったその一言が運命の分かれ道となった。

 その言葉に怒りを覚えた魔理沙が覚醒! それによって神奈子を倒すことに成功し、魔理沙の勝利となった。

 

 そして俺はこの試合中にとある真っ暗な空間で目を覚ます。すると、そこには俺そっくりの奴が!?

 そして俺はそいつの目的を知ることとなった。そこでまた気を失った。

 

 次の瞬間、草原にぽつんと立っていた。そこに紬が駆け寄ってきたのだが──

「あの……あなたは誰ですか?」

 俺は記憶喪失になってしまっていた。それも重度の。

 

 そんな中最終決戦、【博麗チーム】博麗 霊夢対【守矢チーム】東風谷 早苗が開始された。

 霊夢と早苗の戦いは弾幕と殴り合いを交互に行うものだった。

 そしてなんと最後の一撃に二人とも当たり、同時に倒れてしまって引き分け。現状維持となった。

 

 そして試合に行っていた人達も合流し、記憶喪失だと伝えるとものすごく驚いていた。

 

 俺にとっては地霊殿とかいう新たな存在に困惑しつつもシチュー食べたいと思ったら何故か頭痛がしてきた。

 

 その後しばらく進展もなく、元旦、初詣の時期となり博麗神社に初詣に来ると何やら地響きのような音が。

 すると紬は酷く脅えだして、「幻想郷はもう終わりだ」と呟き始めた。俺は事情は知らないけどかなりやばい事なんだろう。

 

 そして辺りを見回してみるとそこにはこの世のものとは思えないどす黒いオーラを纏った生物らしいものが居た。

 目は赤くて、睨み付けたものを硬直させるような目力。そして、あまりのおぞましさに気を抜くと意識が飛んでしまいそうになる。正直怖くて逃げ出したかった。

 

 だが、皆が戦ってるのを見ると自然と体が動き、戦闘態勢に入る。

 戦い方は紬に教えて貰いながらだが、以前から鍛えていただけあって体が覚えていたから苦労はしなかった。

 

 そして紬はあいつの正体を語ってくれた。

 あいつは500年前に幻想郷を脅かした魔獣という存在で、その時は完全に倒すことは出来ず、初代博麗の巫女が封印を施したらしい。

 

 それが今になって封印が解けたのだとか。

 

 だがこいつは単体ではざこだ。だが、紫が言うにはまだ本当に恐ろしいやつが出てきていないのだという。その話をしながら怯えている。

 紫の力は知らないが、あのみんなが強いと言う霊夢が紫が怯えていることに驚いているってことは相当やばい状況なのだろう。

 

 だがその封印は誰かが解いたのだと考えたのだろう。幻想入りの時に博麗大結界が歪まなかった俺を疑い始めた。

 疑われ始めたその瞬間、俺は眠気がしてきて眠ってしまい、眠っている間に誰かに連れ去られた。これによって俺の疑いがさらに強くなってしまった。

 

 俺が捕まっている間に俺によく似たやつが霊夢の前に現れた。

 そしてあろうことか霊夢に攻撃をしたのだ。これによって俺への疑いは晴れることの無いものへと変わってしまった。

 

 しかし龍生はそんなに疑いのかかっている俺を弁護してくれた。

 そのおかげで俺は一時的に敵認定を外してくれた。俺は龍生には足を向けて眠れないな。

 

 そしてそんな俺たちの前に俺にそっくりな男が現れた。許せない。

 

 そいつは冥界に居る紬を殺すと言って向かって行った。それを聞いた俺は急いで冥界へ向かう。

 

 俺が冥界に着くと既に紬と俺の偽物は戦っていた。

 

 そして俺は紬が俺の偽物のレーザーでやられそうになったのを見て直ぐに紬とレーザーの中に割って入った。

 そして堪えようとするが、耐えられずに吹き飛ばされて森の木々をなぎ倒しながら飛んでいく。

 

 そしてしばらく動けない様に半殺しにされかけた時、紬が俺を庇って攻撃との間に入った。

 すると紬の技、《能力封じ》によって攻撃が消えた。これは紬の【(れい)()(よう)(しん)、すべての力を封じる程度の神の能力】によるものだった。

 

 神の能力とはその名の通り神が使う能力。神なら誰でも持っている物だが、手に入れる方法が特殊だった。

 その中の一つに人柱になって神になるという物があった。

 

 紬は人柱になって髪になったのだという。

 

 そんな話をしているとそこに龍生、霊夢、妖夢もやって来た。

 

 そしていざ反撃という所で4体の魔獣の一体、(らい)が現れた。

 紬が雷が現れたことによって残りの(えん)(すい)()も現れた可能性があるという事を言っていたため、俺は焦る。もしこいしの前に現れたら……。

 

 そしてその場は妖夢に任せて、霊夢と共に博麗神社に戻ると奇襲を受けてしまった。

 その奇襲してきた奴は──音恩だった。

 

 なぜ奇襲してきたのかと言うと、ポリオンと言う敵の科学者の仕業だ。そいつの能力で俺らは幻想郷の記憶を消され、さらに音恩は新たな記憶を埋め込まれてしまった。

 

 そのポリオンは悪趣味なことに、俺達に妖夢、咲夜、魔理沙・さとり・こいし、妹紅が魔獣にやられる所を見せるためにその六人の居る白玉楼、紅魔館、地霊殿、永遠亭が映っている映像を見せてきた。

 

 妖夢対雷。妖夢は最初こそ劣勢だったものの、急にパワーアップして勝利。

 

 妹紅対炎。妹紅と炎はいい勝負のようにみえたが、炎の方が一枚上手。もうここまでかと思ったその時、組織のリーダーであるダーラが現れた。ダーラは炎に「こんなざこに苦戦するやつなど必要ない」と言って炎を瞬殺した。

 そしてダーラの目的は世界を作り替えて、新世界の神になることだと言った。

 そして俺達に一週間後もう一度来るからその時に戦おうと言ってきた。

 

 咲夜対水。水は実態のない液体の塊の魔獣。その為、咲夜の攻撃は当たらない。万事休すかと思いきや、レミリアが咲夜の事を助けた。そしてその助けるために放った一発が水の弱点である核に直撃。それによって攻略法を考えつく。

 するとそこにフランもやってきて、レミリアはフランに水をおもちゃにしていいと言うとフランは直ぐに水の液体部分を破壊した。すると中から核が出てきてそれも破壊した。

 これにより、勝利することが出来た。

 

 魔理沙&さとり&こいし対土。魔理沙のマスタースパークに取って土属性は最悪の相性。これは他の皆みたいにはいかないかもしれない。

 そう思って俺は音恩の目を覚まさせる。そして音恩に道を通してもらい、地霊殿に向かう。

 地霊殿に着いた俺はこいしに襲いかかるしっぽをみじん切りにした。

 そして土は強かったものの、俺は土をぶった斬り勝利した。

 

 しかし、さとりはまだ俺の事が犯人だと思っているようで攻撃されかけたが、ポリオンを倒してきた霊夢がやって来て事情を説明してくれた。

 

 そこに偽物の俺がやってきた。

 そして戦うも、魔理沙も軽くあしらわれて負けてしまった。

 

 そして龍生は偽物の俺のことをダークと名付けた。

 

 一週間後、壮大な演出とともにダークが現れた。

 そしてそこに俺の仲間たちが全員集合した。

 しかしダークは強すぎて一斉攻撃でびくともしない。そこに俺も来て全員集合。

 

 修行した俺とダークの力はほぼ互角。刀対霊力刀。そしてギリギリのところで俺はダークに勝って気絶させることが出来た。

 

 俺が勝ったところでダーラが現れた。

 

 みんなは俺を気遣ってダーラと戦うも戦力差は圧倒的でダメージすら与えられない。

 そんな姿を見ていて俺はいても立っても居られなくなった。

「紬、最後の戦い。付き合ってくれるか?」

『もちろん付き合うよ』

「そうか……ありがとう」

 そう言って俺は神成りを手に取り戦闘に加わる。

 

 ──が、しかし俺とダーラの実力差はかなりのものだった。

 ダーラも霊力刀を作り出して俺の攻撃を防ぐ。

「もう一度地に送り返してやる」

 そしてダーラは俺を剣の側面で叩いて来た。それにより、俺は地面に倒れ込む。

「お前は最後の楽しみにとっておいてやる。光栄に思え」

 そう言って俺を無視して他のみんなのところに行こうとする。

 だが俺は諦めきれなかった。

「このまま見ているだけなんて嫌だ! 最期の最期まで、臆病で貧弱な人間であることは死んでも嫌だ。絶対にお前に最低限一撃入れてやる」

 そんな言葉を聞いてダーラは「無理だ」と嘲るように晒う。

 

 そしてダーラは語り始めた。

 俺は昔、母さんを殺されて独りになった。その母さんを殺した犯人が「俺だ」とダーラは言い放った。

 

 元々は龍生を仲間に引き入れようとしたらしいが下手なことをすると逆に殺されかねなかったから俺を絶望させて仲間に引き入れようと幻想入りさせたらしい。

 が、こいし等と出会って絶望も消えかけたから誘えなかったのだとか。

 

 そしてそれを聞いたのと、さらにこいしを攻撃されたことによって、俺はその怒りで神のみが使えるとされていたスペルカード《限界突破(ブレイク・ザ・リミット)》を発動出来た。

 これは己を限界まで強化するスペル。体への負担は物凄いが一時的にダーラと互角もしくはそれ以上の力まで上り詰めた。

 

 そして俺がダーラを追い詰めているとダークが復活してしまった。俺はその時にトドメを刺しておくべきだったと後悔した。

 しかしダークはダーラを助けるどころか、攻撃し始めた。

 ダークは俺に協力してくれたのだ。

 

 そして二人で攻撃し、ダーラを消滅させれた。と思ったら次はダークに乗り移りやがった。

 するとダークは自分で銃を作って自分を撃ち、自害した。そのダークの体から煙となってダーラが出てくる。

 

 その煙を元の姿に戻すまいと攻撃するとダーラは爆発した。

「畜生めぇぇっ!」

 そして俺は死んだ……と思っていた。

 

 エピローグに続く。




 はい!総集編の後編終了です!

 いやー。しかし綺麗にまとめられずにめちゃくちゃ長くなりましたね。

 これ以上書くと文字数が大変な事になるのでここで打ち止めです。
 ここから先が気になる方は是非、無意識の恋のエピローグへ。

 まぁ、簡単に説明すると、

 爆発に巻き込まれて死んだと思われていた真は幻想郷の過去へ飛んだ。
 そこで博麗 霊華と出会う。

 魔獣との戦い。そしてダーラによく似た人物。人柱になる紬。

 果たして真の運命は?

 と言った感じですね。

 それでは!

 さようなら


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幻想郷の守り神達
笑わない少女


 はい!どうもみなさん!ミズヤです

 このシリーズは本編のネタバレを含みます。

 今回は本編に登場する燐火(もとい)菜乃花 紗綾の過去を書いていきたいと思います。

 そして度々、神がどうして神になったのかとかもやって行きたいと思います。

 名付けて『幻想郷の守り神達』

 それではどうぞ!


 私はなんの為に生きているんだろう。

 

 毎日、毎日暗い檻の中。毎日拷問される日々。そんな毎日が嫌になってしまう。

 

 いっそ死にたい。人生に希望なんてものもありはしない。

 

 希望なんて持っていいのはひと握りの人種のみだ。

 

 だから私は信じない。

 

 神様というものを

 

 そしてこの世を

 

 恨む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の名前は菜乃花(なのはな) 紗綾(さや)。普通の、ごく普通の寺子屋に通う少女。

 そして私に話しかけている子が楓花(ふうか)。私の親友。

 

 この普通の日常が私は好きなのだ。だから楓花と共に毎日笑い合う。

 私はこの日常が当たり前だ。当たり前の日常は人間では手放してみないとその大切さに気づくことが出来ない。

 そして私はきっとこの日常は崩れることは無いだろうと勝手に決めつけて居た。

 

 ソンナハズナイノニ。

 

 そんな事を思っている私の身には既に危険が迫っていた。

 学校を占拠され、能力を持った男達に捕えられてしまった。

 

 男達は器という物を探していたらしい。

 器っていうのは精神力の強さ。つまりその器を探しているってことは――

 

「あなた達の目的。その器ってどういうこと」

 

 するとナイフを輝かせながら一人の男は言った。

 

「能力って言ったら分かるかな?」

 

 能力ってのは男達も持っている力のこと。

 実は器を持っていなければ能力ってのは発現できない。外から来た場合や怒りによって発現することはある。

 そして強制的に薬によって発現させることが出来る。その場合器というものが無いと能力が暴走してしまう。

 精神力。そんなもんが私達の中に持ってる人が居るとでも思ってるんだろうか?

 

「おらおら連れて行け」

 

 男に腕を掴まれた。

 私はその事にそれに対して恐怖した。もし私に器がなかったら死んでしまうから。

 すると急に場の空気が変わった。

 

「離せ」

 

 楓花が小さく言い放った。

 

「あ?」

「てめぇ。俺達に逆らうのか?」

 

 激昴して楓花に男達が殴りかかろうとすると急に突風によって男達が飛ばされてしまった。

 

「私の親友からその手を離せ!」

 

 それは今まで見たことの無い楓花だった。

 

 穏やかで誰に対しても笑顔を見せる彼女が今、怒った。

 普段怒らない人が怒ると怖いと良く言う。それを今、目の前で思い知らされているようだった。

 彼女の周りで突風が吹き荒れていた。

 

 すると、男達はボスっぽい男を連れてきた。

 

「なるほどなるほど。能力は風、さしづめ【突風を操る程度の能力】と言った感じかな?」

 

 その男は冷静その物だった。

 

「あんたが親玉?」

 

 楓花が聞くと男は小さくうなづいてから自己紹介を始めた。

 

「我が名はハルク。能力者を売り買いしている物です」

 

 能力者を売り買い!? でも、能力者も人間なわけで……それって──

 

「それは人身売買って言うんじゃないの?」

 

 楓花がそう言って睨むとふてぶてしい笑いを浮かべながら何ともない表情で言い放った。

 

「あなたの言う通りです」

「ならもうそんな事させない」

 

 そう言ってハルクの周りが突風で囲まれた。

 するとハルクは「やれやれ」と言ってから指パッチンした。

 その瞬間、突風が消え去った。

 何が起こったんだ?

 

「私の能力は能力の封印。あなた程度の能力では私の能力には勝てませんよ」

 

 そう言ったハルクに楓花は連れていかれてしまった。

 

「他の奴らは適当に売ってしまえ」

 

 ハルクがそう言うと綺麗に声を揃えて「は!」と男達は言って私たちを連れていった。

 


 

 私が連れていかれた先は牢屋だった。

 

『てめぇらにはこれから適性試験を受けてもらう』

 

 牢屋の中のスピーカーから男の声が響いた。その声から察するに、『ら』という事は私以外にも居るのだろうか?

 

「不合格の場合は死だ」

 

 その声が聞こえてくる。すると外が騒がしくなった。

 

「嫌だー! 殺さないでくれ!」「出してくれ!」「死にたくないよ!」

 

 等という叫び声が聞こえてくる。

 そんな状況では私も怯えて隅で小さくなるしかなかった。だって叫び声を上げたってこの状況が変わることは無いんだから。

 

 そして徐々に叫び声が減っていく。

 自分の方に近づいてきているという恐怖。私は蹲って泣くしか出来なかった。

 

「腕を出せ」

 

 そう言って乱雑に私の腕を引っ張ると注射器で何かを注入された。

 なに……これ……体が……熱い! 燃えるように熱い。頭の中に一文字の漢字が浮かび上がった。それは"死"

 死ぬ。それが頭の中に過ぎった。

 楓花……ごめん……。

 その時、風花のあの後ろ姿が脳裏に浮かんだ。

 

「ダメだ……ここで負けちゃ」

 

 すると体の周りに炎が出現した。

 

「炎だと!?」

 

 すると注射を挿してきた男が火だるまになった。そしてどんどん燃える男。

 最初は悲鳴を上げていたものの徐々に大人しくなっていった。

 

 その瞬間、警報が鳴り響いた。そして続々と警備の男達が私の牢屋の中に入ってきた。

 そして取り押さえられる。

 怖い……助けて……たす……。

 

 そしてどんどんと男達は倒れていく。その時、突風が吹いた。

 そこで顔を上げて見てみると、そこに居たのは――

 

「大丈夫?」

 

 楓花だった。

 

「どうして楓花がここに」

 

 そう言うと私の腕を引っ張って走り出す楓花。

 

「逃げるよ」

 

 そう言って楓花が走り出すと誰かに当たった。

 

「うーん。君達、可愛いね」

 

 そう言ってマジマジと私達を見る男。正直言って気持ち悪い。

 ここのお客さんだろうか?

 

「どいて」

 

 楓花は威圧する。

 

「気に入った。君達を買う事にしたよ」

「どいてって言ってるでしょ!」

 

 そう言うと突風が男に襲いかかる。

 すると男の前に一人の男が飛び出してきた。

 そして楓花の突風を全て拳圧だけで弾き飛ばしてしまった。

 

「こいつはバーク。能力は持っていないが少なくとも君達より強いよ」

 

 能力を持ってなくて能力を持ってる楓花に勝てるとでも言う気なの!?

 

「なぁ、お前らの将来の夢はなんだ?」

 

 男がバークと言った奴が私たちに問いかけてくる。

 

「なんであんたに言わなきゃいけないの!」

 

 楓花は強気に出るが、私は怖くて何も言えなかった。

 

「そうか……残念だ」

 

 バークはそれだけ呟くとどこかに消えてしまった。

 

「楓花と言ったな。お前は強いが俺たちの邪魔となる」

 

 男がそう言った瞬間、風花は網に捕まって吊るし上げられる。

 楓花は能力を使おうとするが、なぜが使えない。

 

「この世には電気を通さない絶縁体って物がある。それだ。能力を通さない絶縁体だ」

 

 こいつ、策士。

 私は己の無力さを悔いた。

 なんでいつも私ばっかり守られて。

 悔しい。悔しい。

 

「紗綾。お前はこいつを助けたいなら。俺達を手伝え」

 

 脅し。

 私は正直手伝いたくない。こんな奴らのやる事なんてロクな事じゃ無い。

 だけど私は、

 


 

「今日からお前の名前は燐火だ。そしてお前の仕事は殺しだ」

 

 私はこいつらを手伝うことにした。




 はい!特別編。終了!

 これが燐火の過去です。

 次は誰にしましょうかね。

 選択肢はシャロ、紅蓮、彼方です。

 アンケートにしますのでお願いします。

 それでは!

 さようなら


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奪い奪われることを嫌った少女

 はい!どうもみなさん!ミズヤです

 ついに小説投稿して3周年です!

 いつも読んでくださっている皆様、ありがとうございます。
 出来れば感想などを下されば僕の執筆意欲向上に繋がるので、感想が欲しいんですけどね。

 まぁ、それはさておき、今回は無意識の恋 Second stage 幻想郷の守り神達の第二弾。

 アンケートを取ったところ、シャロがいいと言う意見が御座いましたので、今回はシャロの過去編です。

 燐火編と同様にこの話は読まなくとも本編を楽しむことは出来ますが、読んだ方が面白いというのは確かだと思いますので、読んでくださいお願いします。'

 ということで、

 それではどうぞ!


 これは幻想郷の外の世界の話。

 

 当時、世界は戦争の真っ只中。

 人の命を奪い、奪われる。そんな世の中。

 

 そんな世の中で私は平和を願っていた。戦争なんて無くなってしまえばいい。

 そう思っても、この世の中は戦争を辞めない。私一人が思ったところで、そこはどうにも出来ないのだろう。

 

 ならば、世界を変えることのできる人物になればいい。

 

 戦争のない、平和世の中を作りたい。だけど、そんなことが出来るのは神様くらいなものだろう。

 ならば――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は目を覚ます。

 場所は防空壕の中、冷たい石の壁や天井を見ながら起きる。なんとも寂しい場所だが、私たちが生きるにはここしかないのだ。

 

「ご飯よ」

 

 お母さんが呼んでいる。

 どうやら朝ごはんのようだ。といっても、こんな戦争の真っ只中では満足に食事を取れるはずもなく、毎日保存が効く缶詰だ。

 でも、なかなか美味しいのもあるので、私はそんなに嫌ではない。だけど、お母さんは私に泣いて謝るのだ。

 

『満足にご飯を食べさせてあげられなくてごめんね』って

 

 それを見る度に私の心は締め付けられる。苦しくなる。

 こうなっているのはお母さんのせいじゃないのに、お母さんは私に謝り倒す。

 そんなお母さんを見ていると、悲しくなってくる。

 

 世界はものをかけて戦争という名の殺し合いをする。そうすれば大勢の犠牲者が出るし、どちらにも多大な被害が出るだろうだと言うのに、世界は戦争を辞めない。

 私は平和を願う。だけど、平和を願っているだけではダメだ。そう思った私はお母さんのために、戦争にいって死んだお父さんのためになにができるかを調べることにした。

 

 そんなある日の事だった。

 

「シャルロット。お母さんは少し食料を調達してくるからこの中でいい子にして居るのよ」

 

 そういい残し、お母さんは防空壕の中から出ていった。

 言われて食料の入っていた棚を見てみると確かに残りあとわずかとなっていた。

 食料の缶詰に関してはお母さんが定期的に防空壕からでて集めてきている。かなり危険だけど、生きていく上では仕方の無いことだ。

 

 そして、私はお母さんが帰ってくるのをじっと待っている。何もすることがないので、お父さんが昔良くやっていたという将棋を取り出してきて、一人でもできる崩し将棋を始める。

 これくらいしか暇を潰せるものは無いけど、この時間は嫌いではないので、別に苦痛ではない。

 

 だけど、それから一時間、二時間、五時間、十時間、二十四時間と経過しても一向にお母さんが帰ってくることは無かった。

 それでも私は待ち続けた。

 

 私は薄々勘づいていた。外に出た場合、どのような危険があるかという事をお母さんに嫌という程聞かされたからである。

 これも平和じゃないからこそ怒った悲劇。それによって私は異常なまでに平和に固執するようになった。

 

 そんなある日の事だった。

 

 部屋の中にある本を読んでいた時の事だった。

 なんと、とあるページに神力水というものの紹介が乗っていたのである。

 その紹介文にはこう書かれていた。

 

『飲めば自分の思ったことが出来るようになる』

 

 この一文を読んだ私はこの神力水を手に入れることを誓った。

 この神力水を手に入れることが出来れば、この奪い奪われるこの世界を何とか出来るかもしれない。私はそう考えたのだ。

 

 神力水はとある山の中にあるらしい。ということで、私は勇気を振り絞ってその防空壕の中から飛び出して山に向かった。

 どうやら今は上空にヘリはいなく、今ならば行動出来そうだ。そう思ったため、急いで行動を開始する。

 

 目的の山に向かってかなり長い道のりだけど、戦争相手のメンバーに見つからないように行動する。

 見つかったらその瞬間、私の野望は朽ち果てる。そして、この世界はこのままだ。

 

 そうして、何とか辿り着いた時にはもうヘトヘト状態となっていた。

 神力水があると言われている洞穴に辿り着いたには着いたが、もう一歩も動く気力が無くなっていた。

 だけど、私は最後の力を振り絞って洞穴の中を進んでいく。

 

 恐らく最奥にたどり着いただろう。だけど、私は絶望した。

 なかったのだ。神力水らしき水などどこにも無かった。

 私はもうダメだと思い、地面に倒れ込む。死を覚悟した。

 

 私はもうここで死ぬのだ。

 

「ごめんなさい、お母さん。私ももうすぐそっちに行きます」

 

 そして、強く願う。力が欲しいと。力があれば、こんなことにはならなかったから。

 

 その瞬間だった。最奥の壁が光り始め、小さい窓のように石が開いたのだ。

 そこから覗いているのは小さな小瓶だった。

 青緑の本当に小さい小瓶。

 

 私は何もしていないのに、勝手にその場所が開いたのだ。とても信じられない光景に私は息を飲んだ。

 そして、最後の希望に縋るように私はその小瓶を手にする。

 

 中を覗いてみると、その中には液体が入っていた。

 色的には水のような透明感のある液体。だけど、これじゃなかったらもうどうすることも出来ない。

 

 そして、私はその中の液体を飲んだ。その瞬間だった。

 なんと、体が燃えるように熱くなってきたのだ。

 

「何これ……」

 

 もしかして毒だったとか?

 だとしたらもうここで死ぬ。でも、どっちみち私は死ぬ運命だったのだからどうでもいいか。

 諦めて仰向けになって地面に倒れ込んだ。

 

 暫くすると、熱さもなくなり、さっきまでの疲労も全く感じなくなっていた。

 そして、力が湧いてきているのを感じた。

 

『お前はどのような力が欲しい』

 

 力に気を取られていると、急に声が聞こえてきてビックリする。

 でも、その答えは既にあったので、迷わずにその問いに答える。

 

「誰も傷つけることのない、優しい力が欲しい」

 

 その瞬間、私はさらに力がみなぎってくるのを感じた。

 

『お前には空間を移動する力と対象を治癒する力を付与した』

 

 これが私の人を傷つけることのない力。

 やっと手に入れることのできたその力。早速試してみることにする。

 

 手を縦に振ると空間が裂け、そこに何か怪しげな空間が出現した。

 怪しく思いながらもその中に入るとその次の瞬間には私おもといた防空壕の中にいた。

 

 どうやらこれは移動能力らしい。

 これを使って治癒して回れば失われる命も減るはず。

 

 こうして私はこの能力を使って各地で治療して回った。

 その数ヶ月後、戦争は収束する。そして、私は女神様と呼ばれるようになっていた。

 どうやら治療して回っている姿が神のように見えたらしい。

 

 いや、この力は本当に神になったのかもしれないな。

 

 恐らく私は空間神という部類に入るのだろう。だったら、空間神らしいこととかできないものか。

 そう考え、私は昔に読んだ平行世界の話を思い出す。

 

 もしこの世界とは別の世界があるのだとしたら移動出来るかもしれない。

 そう考えた私は適当に空間を開く。

 

 行先は未定だ。だけど、この世界よりも面白い世界であることを願っている。

 

「へぇ、幻の大地か〜。行ってみようかな」

 

 こうして神、シャルロットが生まれた。

 そして、私はこの本名を捨て、神様として生きることにした。

 その名前はシャロ。

 

 お父さんが着けてくれたあだ名だ。




 はい!シャロ編終了

 シャロのあの力は戦争を無くすために手に入れた力だったんですね。

 あの水は飲めば神様となり、神様の能力を会得することが出来ます。

 ここからの神様たちの話はこんな感じの展開が続くと思います。

 それから、次回のキャラはアンケートはせずに紅蓮を書いていきたいと思います。

 考えたのですが、物語的には紅蓮の過去の方が先で、彼方を一番最後にした方がいいのです。時系列的な問題ですね。
 まぁ、シャロと紅蓮はどっち先でも良かったのですが。

 それでは!

 さようなら


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勝たねば死ぬ。力を求め続けた少年

 はい!どうもみなさん!ミズヤです

 今回は幻想郷の守り神達、紅蓮編となります。

 紅蓮編は今までとは少し雰囲気が違うと思います。

 悲惨な過去を追った燐火とシャロ、果たして紅蓮はどうなのでしょうか?

 それではどうぞ!


「みんな、飯だぞー」

 

 一人の少年が洞窟へ帰ってきてたくさんの子供たちに飯を配る。

 

 子供たちは痩せ細っており、まともな食事を食べれていないというのが伺える。

 

 そして食事をくばっている少年ですらも痩せ細っており、食事を入手するために苦労したのか身体中、すすだらけになってしまっている。

 

 そんな少年は皆が美味しそうに食事をしているのを見てニコニコしていた。全く自分は手をつけずにただそこでじっとしていた。

 

 少年もお腹がすいていたであろう。しかし、少年は自分よりも子供たちのことを優先にしたのだ。

 

「兄ちゃん、これからまた戦いに出る。しばらく帰って来れないかもしれないが、心配しないでくれ。兄ちゃんはまた帰ってくる」

『はーい』

「いい返事だ」

 

 少年は子供たちの頭を撫でると少年は踵を返した。

 覚悟を決めたような表情をうかべる少年。

 

「こいつらを絶対に守れる力が欲しい」

 

 そう呟いて少年は洞窟を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の名前は蓮太郎。どこにでも居る普通の少年だったはずなんだが、ある日両親が辻斬りにあってこの世を去ってしまった。

 両親が居なくなったことによって俺たち兄弟は途方に暮れた。これからどうやって生きていけばいいのか。

 

 俺は長男だ。そのため、みんなを守っていかなければならない。だから俺は食事を求めて旅に出ることにしたのだ。

 だが、そう簡単に行くわけが無い。行く先々で命を狙われる。今の今まで戦ったことの無い俺が直ぐに戦えるようになるわけが無い。

 

 そのため、俺は力を求めた。

 力を求め、数年間師匠の元で剣を習った。そして今の俺がいる。

 

 俺は腰に剣を提げて着物を着て食事を求めて旅をしている。そんな中でも当然命を狙ってくる人はいるもので、そんな時は――

 

「ぐはっ」

 

 高速で剣を抜き、そして切り捨てる。

 やらなきゃやられるのだから誰だってそうする。この世界は弱肉強食。強いものが喰らい、弱いものは喰われるのをただじっと待つしかないんだ。

 俺は喰われない。弟たちを守らなきゃいけないんだから、今ここで俺が喰われるわけにはいかない。

 

 師匠の元で剣術を鍛えた俺がそうそう負けることは無い。たった一人の存在を除いて。

 そいつは俺と同じ師匠の元で一緒に修行をしていたものなんだが、そいつは剣の才能がすごく、わずか数ヶ月で修行を終えて師匠の元を去っていった。

 俺はそいつと手合わせをして一回すらも攻撃を与えることが出来たことがない。それほどの実力者だ。

 敵でなければいいと思っているんだが、あいつは強くなる為ならば何でもするというようなやつだ。悪に手を染める可能性がある。

 

 その時だった。見覚えのある着物を着た男性が居た。

 そいつは紫色で、そして腰に禍々しい剣を提げているやつだ。

 異様な雰囲気を感じとった俺は咄嗟にその場を後にしようとする。

 

「……どうして俺を避ける? れんじゅうろう」

「俺は蓮太郎だ!」

 

 昔のくせで思わず返してしまった。

 そいつはこっちを見ることも無く俺のことを認識してきているようで、かなりやばい状況なのは直ぐに感じとった。

 振り向くとそいつは片目が斬られて潰れており、そしてもう片方の目は充血していた。

 かなり傷だらけの様子で、歴戦の戦士といった風格だ。そしてその風格は俺に威圧感をもたらした。

 

「ひ、久しぶりだな。……郷間(ごうま)

「……」

 

 俺の挨拶を無視して俺の事をじっと眺めている郷間。その様子を見て俺は身構えてしまった。

 気がついたら郷間は俺の目の前に居り、剣が俺の横すれすれに振り下ろされていた。

 

 全く見えなかった。少なくともあの頃は俺でもこいつの剣は見えていた。だが、今は全く見えなかった。

 俺が成長しているようにこいつも成長しているようだ。それも俺の成長なんかとは比べ物にならないくらいの速度で成長をしている。

 

「ぐあぁぁぁっ」

 

 背後から悲鳴が聞こえる。

 郷間が剣を鞘にしまったのと同時に俺は背後を見た。

 するとそこには見知らぬ剣士が居て、胸から血を流して倒れていた。

 恐らくこいつは俺を殺そうとしてきたのだろう。

 

「ふん、俺にばかり集中していないで背後も警戒しろ馬鹿者」

 

 郷間に助けられてしまったようだ。

 有難いが、郷間の目的が全く分からない。今までの郷間だったら俺一人死んだってどうとも思わないはずだ。

 なのに、俺を助けてくれたのだ。

 

「れんしろう」

「蓮太郎だ」

「着いてきてくれないか?」

「? ……わかった」

 

 イマイチ状況が理解出来ていないので、これが危険なところについて行くということなのかもしれないと思ったけども、助けられてしまった手前、俺は断ることが出来ない。

 なので俺は大人しく着いていくしか選択肢はなかった。

 

 しばらくついて行くと洞窟らしきものが見えてきた。

 俺たちが住んでいる洞窟とは違う洞窟のようだ。その中はかなり鬱蒼としており、何が起きてもおかしくないというものだった。

 

 こつこつこつと俺と郷間の下駄の音だけが辺りに響く。

 その時だった。

 

「ふんっ」

 

 郷間が突然剣を振ってなにか飛んできたものを防いだようだった。

 見てみるとそれは矢だった。そんなものが突然何もない所から飛んでくるわけが無い。

 確実に何かがいる。そう確信を持った。

 

「役割を果たしてもらおうか」

「へ、役割?」

「囮だ」

「えぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

 

 役割ってそう言う!?

 それだけ郷間は俺に言い放つと一瞬で郷間は洞窟の奥の方へと走って行ってしまった。

 走るのはやすぎだろう……。

 仕方がない。ここは俺一人で何とかするしかないだろう。

 

 幸いにも俺は洞窟で生活しているから暗いのには慣れているんだ。

 長い洞窟暮らしで身につけた能力を舐めるなよ。

 

 俺はこの薄暗い中でもしっかりと矢の存在を認識して回避するか切り払う。

 一番最初は不意を突かれたため、かなり驚いてしまったものの、慣れてしまえばこんなものは回避するのは簡単だ。

 そして回避しつつ、攻撃してきている奴らに少しづつだが、近づいていく。

 

「終わりだ!」

 

 遂に全員を倒すことに成功した。

 この程度ならば俺でも何とかなるようだ。

 

「しかし、郷間の奴はどこまで行ったんだ?」

 

 敵を全て倒したので、俺も郷間を追って奥の方へと突き進んでいく。

 すると、急に血の臭いがしてきた。そしてその血の臭いは奥に行けば行くほど強くなっていく。

 

「この奥には何があるんだ?」

 

 俺は思わず小走りになる。

 ここまでで分岐している道はない。郷間は必ずこの先に居る。

 

「え」

 

 俺は思わず声を漏らしてしまった。

 洞窟内に明るい場所があったのだ。これは人工的に作られたものだ。

 ここはただの洞窟ではないようだ。恐らくこの洞窟自体が人工的に作られたものなんだろう。そしてこの先にはその秘密が隠されていると確信した。

 なにせ、郷間があれほど急いでいたんだ。何も無いはずがない。

 

 すると男の声が聞こえてきた。

 

「神力水を渡せ!」

「だ……めだ」

「え、」

 

 俺は再び素っ頓狂な声を漏らしてしまった。

 なにせ郷間は男に首元を掴まれている。これはかなりの異常事態だ。

 郷間は俺が思うに相当強いやつだ。しかし、そんな奴があの男に負けたのだ。

 あの男はどれほどの力を持っているんだろうか。

 

 本来ならばここで逃げるのが得策なんだろう。だが、さっき助けられてしまった手前、見捨てて逃げるなんてことは出来やしない。

 俺は震える手を何とか押さえて剣を構えた。

 

「何をやっている、れんじろう! 早く逃げろ!」

「逃げないし、俺はれんじろうじゃなく蓮太郎だ!」

 

 すると男も俺の存在に気がついたようで、こっちを見た。

 

「お前も神力水を狙ってきたのか?」

「神力水?」

 

 聞いたことの無い名前だ。

 

「神力水は一滴飲めばどんな病気でも治り、全てを飲み干すと神に値するほどの力を得ることが出来ると言われている水だ。それを今、こいつが持っている」

 

 言われて郷間の手を見てみる。するとそこには真っ白な瓶がしっかりと握られており、その手は決して離されることは無い。

 恐らくあれが神力水というものなんだろう。つまり、郷間は神力水を手に入れるためにここに来たんだろう。

 

 郷間は俺よりも強さに恵まれている。そんな郷間がどうして神力水を欲しがるのかがよく分からない。

 

「さて、小僧。その手に持っている神力水を寄越せ」

「ふ、お前に渡す神力水はな――がはっ」

 

 郷間にボディーブローを入れる男。その姿を見ていられずに俺は飛び出した。

 郷間が勝てなかった男に俺が勝てるはずがない。そう思ったが、ここで動かないなんて人間失格だ!

 

「がぁっ!」

「無力だ。非常に無力だ」

 

 俺はいつの間にか地べたを這っていた。

 何をされたのか全くわからなかった。だけど、ひとつ分かったことは――次元が違いすぎるということだ。

 

「さて、貴様らを殺して頂くとするか」

「ぐっ!」

「何!?」

 

 郷間は男を蹴り飛ばすと高速から逃れて俺の方へきた。

 

「れんごろう、動けるか?」

「すこしなら」

「なら、これを飲め」

 

 そう言って置いてくれたのは神力水だった。

 郷間はこの神力水が欲しくてこの洞窟に入ってきたはずだ。そしてその狙いはやはり力だろう。

 さっきの説明を聞く限り、俺が少しでも飲んでしまったら神に値するほどの力は得られなくなってしまう。

 だと言うのに郷間は俺の目の前に置いたのだ。

 

「どういうつもりだ」

「いいから、俺が足止めをする。お前はそれを一気飲みしろ」

「え?」

 

 益々郷間の考えていることがよくわからなくなってきた。

 どうして俺に力を寄越す? 力なら自分で使えばいいだろう、俺なんて放っておいて……。

 

「いいから早く!」

「わ、分かった」

 

 どういうつもりかは分からないけども俺は郷間を信じてこれを一気飲みすることにした。

 液体が体に流れ込んできた瞬間にとてつもなく体が熱くなってきた。恐らく傷を修復しようとして発熱しているのだろう。

 それだけじゃない。筋肉が膨張していく。筋力がどんどんと上がっていく。

 

「させるか!」

「もう遅い!」

 

 男が俺に襲いかかろうとした瞬間に郷間は男を蹴り飛ばす。

 少し不安になったものの、託されたものはしっかりとこなさなくてはならない。

 俺がこの力を得て郷間を助ける。

 

 そして遂に最後の一滴を飲み干した。

 

「ぐ」

 

 急に心臓がはねた。それと同時に声が聞こえてくる。脳内に直接語り掛けてくるような感じだ。

 

『お前はどのような力が欲しい』

 

 少しびっくりしてしまったものの、俺は正直に答えることにした。

 

「力が欲しい。みんなを守れるようになる力が!」

 

 その瞬間、更に力が湧いてきたような気がした。

 胸の内から力が湧いてきて収まらない。

 

『お前に空間を移動する力と戦う力を与えた』

 

 今までと感覚が違う。体が軽い、これならば今までの数十倍の速度で動くことが出来る。

 これなら行ける。そう思って二人の方を見てみると――

 

「ごう……ま?」

「一足遅かったようだな」

 

 郷間は力なくその場に倒れていた。俺が神力水を飲むスピードが遅かったため、その間にやられてしまったのだ。

 俺がもっと早い行動をしていれば郷間流行られずに住んだかもしれないのに……。

 

「許さない!」

 

 俺は叫んで走った。そしてそれに合わせて俺は剣を振った。

 その剣は燃え盛っていた。どうやら俺の力が影響して件を燃やしているらしい。

 そして俺はその剣で男を切った。

 

 するといとも簡単に男の首は斬れ、男は全く声を上げる暇もなく絶命した。

 神力水を飲むだけでこうも違うのか。

 

「が、は」

「郷間!」

 

 郷間が声を出した。それに反応して俺は郷間の元へ走って向かう。

 かなり弱っているものの、何とか目を開けて俺のことを認識している様子の郷間。だが、胸を見ているとかなりの出血量だ。これは恐らく男が持っていた剣で斬られてしまったのだろう。

 

「今すぐ人里に連れて行ってやるからな」

「いや、もういい」

「え?」

「俺の当初の目的は達成されたからな」

 

 当初の目的? 達成されたって……あの神力水は俺が飲んでしまった。そのため、達成はされていないはずなんだが。

 

「もともとあれはお前に飲ませるつもりだった」

「え?」

「お前、兄弟を守りたいんだろ? だから力を求めている。そんなお前に俺は感化されてしまったんだな」

 

 郷間がそんなふうに考えてくれていたなんて知らなかった。勝手に俺は降魔に対して苦手意識を持ってしまっていた。

 俺は郷間の手を握る。

 

「お前から貰ったこの力を使って皆を守り続ける」

「あぁ、期待しているからな。蓮太郎」

「郷間!?」

 

 その瞬間、郷間は倒れてしまった。力尽き、天へ登って行ったのだろう。

 最後の最後にやっと俺の名前を言ったな、畜生。

 

「お前の分も生きるからな」

 

 勝たないと死ぬ。この世界はそんな残酷な世界だ。だから俺はこれからも力を求め続ける。




 はい!紅蓮編終了

 今までとは違ってバトルものでした。

 紅蓮の昔のライバル的存在、郷間。本当は良い奴だったんですね。

 次は彼方で恐らくこの幻想郷の守り神たちは終了です。

 それでは!

 さようなら


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冷えきった心を温める者

 はい!どうもみなさん!ミズヤです

 この小説も三周年を迎えました。

 ということでついに彼方編です。

 一応、彼方で紬を除けば一番最後に神になったキャラですけど、シャドウの過去も知りたい人がいたら書きます。

 最後にアンケートを残しておくので出来たら投票お願いします。

 それではどうぞ!


 ――あぁ、なんでだろう。

 

 人同士が争い、血を流し、そして一つのものを求めて殺し合う。

 

 ――なんでだろう。

 

 人間とはなんて醜い生き物なのだろうか。

 一人の少女は人間同士で争っている姿を見て心を冷やしながらそんなことを考えていた。

 

 全く笑わない少女だった。人形のようだとすら周囲に言われている。

 表情筋はすっかりと固まってしまっており、これからもずっと笑うことは無いんだろうなと少女は考えている。

 

 報道されている戦争の写真。

 この争いの種となっている存在のことを彼女は知っていた。

 

「ねぇ、かなた」

「なに、ハル」

 

 ハルが名前を呼ぶとかなたは直ぐに目の前に顔を出した。

 スキマという力を使ってやってきたのだ。

 かなたは神である。そんなかなたが友達だからこそハルはこの戦争のきっかけを知ることが出来たのだ。

 

「バカみたい。神力水を手に入れるためだけにそんなに争うなんて」

「そうかな。私は神になってから長いからよく分からないんだけどね、人間にとっては物凄いことなんじゃないかな」

 

 確かにハルもその神力水の凄さに関しては理解しているつもりだった。

 ただの人間が神の力を手に入れることが出来る。それはこの世の全てを支配したのと同義だ。だからこそ、ハルは心が冷めてしまったのだ。

 

 人間の愚かさ、浅はかさに気がついてしまったから。

 そして悪い心を持った人間の手にそれが渡ってしまったら大変なことになるとも気がついていた。

 

 ただ、だからといって自分に何が出来る訳でもない。そう考えて傍観に徹しているのだ。

 

「ねぇ、気がついているんでしょ? あの水は危ないものなの。もしあれが悪用する人に渡ってしまったら……この世界は終わってしまう。簡単に世界を作り替えることが出来るほどの力を得ることが出来るのよ。そんな事のためにあれが存在しているわけじゃない。本当に必要としている人を助けるために存在しているんだよ」

 

 このようにかなたはハルに何度も声をかけているものの、ハルは一度たりとも頷いたことがない。

 それどころか興味なさげに漫画へと集中してしまうのだ。

 

 そんなある日の事だった。

 遂にハルが住んでいる地域にまで戦争の魔の手が迫ってきた。

 町は焼かれ、全てが崩壊してしまった。

 シェルター内だけが唯一の安全地帯。だが、籠ってばかりいてもいずれは食料が尽きて死んでしまう。

 

 なので、両親が食料を集めに行こうとシェルターを開けると、そこには敵国の兵士が立っていた。運悪く、最悪のタイミングでシェルターを開けてしまったのだ。

 

「見つけたぞ。死ね!」

 

 シェルター内に投げ込まれる大量のダイナマイト。

 万事休すかと、そう思ったその時、爆発と同時にハルだけ落ちたのだ。

 どこに落ちたのか? それは分からないが、ハルは気がついたら目玉だらけの場所に立っていた。

 

「危ないところだった。そして済まない。君の両親は助けられなかった」

「かなた?」

 

 ハルは助かった。

 そしてその助けた人物というのはかなただった。

 

 そんなかなたは今、ハルに土下座をしている。

 普通、神が人間にそんなことをするはずが無いのだが、かなたは土下座をして両親を助けられなかったことを謝った。

 だが、ハルの心が冷えていたせいか、両親が死んでも悲しいとは思わなかった。

 

 ただ、その代わり、湧いて出てきたのは怒りだった。この世界への怒り。この戦争への怒り。くだらない争いをしている人間への怒りだった。

 

「こんな世界、ぶっ壊してもいいよね」

「え、ハル?」

「行こう、神力水を奪いに」

 

 そしてかなたはハルに押し切られるがままに超神水の在処へとスキマを繋げた。

 そこは洞窟だった。そしてその最深部、神力水の目の前にやって来ていたのだ。

 

 目の前には小瓶のようなものがあり、直感的にハルはこの小瓶の中に入っている液体が神力水であることを理解した。

 小瓶を手に取ってみるとかなりずっしりとしており、ただの液体なのだが、水よりも重みがあった。

 

 これを飲めば神と等しい力を手に入れることが出来る。

 そう考えてハルが神力水に口をつけようとしたその時だった。

 

 バァンと破裂音がして、背中に激痛が走った。

 ハルはそれが自分が撃たれた痛みなのだと理解した。

 

 激痛で神力水の小瓶を落としてしまう。そして蹲って動けなくなってしまった。

 

 入口方面を見てみると武装した男の人がそこに立っていた。

 その手には銃を手にしており、その銃をハルに向けて発砲したのだ。

 

「はは、ははは、はははは! 神力水は俺のものだ! ついに手に入れたぞ!」

 

 神力水を拾い上げる男性。

 ハルは直感的に察した。この人にだけは神力水が渡ってはダメだと。

 

「くぅ……」

 

 何とか手を伸ばして取り上げようとするものの、男性の力には勝てないのと、痛くて力が入らず、取り上げることは出来ない。

 

「お前は俺が神になったあとたっぷり遊んでやるからな。まぁ、その頃には死んでいるかもしれないがっ!」

 

 男性がゲスな笑みを浮かべた瞬間、その場からぶっ飛んで行って、神力水が地面に落ちる。

 

「ハルにそんな表情を向けるなケダモノ! ハルは私が守る!」

「かなた」

 

 そう、ハルを助けたのは他の誰でもない、かなただった。

 かなたはハルを助けてくれた。このチャンスを逃すまいとハルは小瓶を手に取って蓋を開ける。

 

 パァン。またもや発砲音が鳴り響いた。

 その瞬間、かなたが目の前で倒れた。

 

「うそ、でしょ。かなた」

「私のことはいいよ。私は親友を守れて満足してるんだ。十分神として務めあげたからね。来世は幸せな人生を歩めると信じているよ」

「な、なんでそんなことを言うの」

 

 その時、久しぶりにハルの目から涙がこぼれ落ちた。

 かなたは神とはいえ、急所を打たれてしまったらしく、もう助からない。

 流石に親友が死ぬというのはハルにとっても心を揺れ動かされた。

 

 ぐったりともう動かなくなってしまった親友を見つめて神力水を持つ手に力を入れるハル。

 

「さぁ、それを渡せ!」

 

 再び男性がハルに銃を向ける。いつ撃たれてもおかしくない状況だ。

 その状況でハルは一気に神力水を口に放り込んだ。

 その瞬間、発砲音が鳴り響き、ハルの胸に銃弾が打ち込まれた。

 

「ち、このガキ、飲みやがったな! この神力水は瓶があれば勝手に溜まっていくが、溜まるのにかなりの年数がかかるんだぞ!」

「このガキ!」

 

 力なく倒れているハルと抜け殻となってしまったかなたの体を交互に蹴る男性。

 

『お前はどのような力が欲しい』

 

 ハルの脳内に直接語り掛けてくる声。

 

 ――この不条理な世界を破壊したい。そしてもう大切な人を失わないための力が欲しい。

 

 その瞬間、ハルの体には力が湧いてきていた。

 ハルは起き上がると思いっきり男性を蹴り飛ばしていた。

 

「がはっ」

 

 あまりの衝撃に銃を手放してしまう男性。

 そしてハルは転がっている神力水の小瓶を手に取った。

 

「こんなものがあるから…………こんなものがあるから争いが起きるんだよ! こんなもの!」

 

 ハルは思いっきり地面に神力水の小瓶を叩きつける。

 だが、小瓶は壊れるどころか、割れる気配すらない。

 

「無駄だ、神力水の小瓶は神々が作りし最強の素材だと聞いたことがある。人間が破壊できる代物じゃねぇ」

 

 ニヤニヤと小馬鹿にするような笑みを浮かべる男性。

 その話を聞いてハルは小瓶を拾う。

 

「この神力水の噂が本当ならば、私はこの水を飲んだから神になったということになる」

「……まさか! やめろ!」

「はぁぁぁっ!」

 

 ハルは力を込める。

 すると体の内になにかの力を感じたので掌に集めてみると、その掌にはエネルギーボールのようなものが発生した。

 そのエネルギーボールの中に入っている小瓶はどんどんとヒビが入っていき、やがて粉々に砕け散ってしまった。

 

「あ、あ、あ」

 

 男性はショックで声にならない声を上げる。

 

「そしてこんな世界、もう要らない! 壊れてしまえ!」

 

 ハルはもう一度掌にエネルギーボールを作り出すと、地面にそれをたたきつけた。

 その瞬間、世界の崩壊が始まった。

 大地は割れ、火山は噴火し、海は干上がる。

 

 こうして世界が終わりを迎え、ここに破壊神『彼方』が誕生したのだった。

 

「……仕方ねぇ。直しておいてやるか」




 はい!彼方編終了

 この彼方という名前は親友の神であるかなたから撮ったものだったんですね。

 そして破壊神となった訳。

 基本はこの話を見なくても本編は楽しめるのですが、大切な人を失わないための力というのはかなり本編でも中よな要素となってきます。

 そして彼方編はこれで終わりではありません。

 幻想郷に行ったあとも、彼方にはドラマがあるので、気が向いたら書きたいところですね。

 書くとしたら最終章完結後になります。

 それでは!

 さようなら


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ミズヤ五周年記念
記念第1話 外の世界に行こう!


 はい!どうもみなさん!ミズヤです

 ついにミズヤ小説投稿五周年です! そしてこの小説も四周年となりました!

 ここまで続けてこられたのは皆様のおかげです! 本当にありがとうございます。これからもミズヤとその小説たちをよろしくお願いします。

 よろしければ感想などをいただけると僕の執筆の励みとなりますので、是非感想、評価をお願いします。

 さて、今回の話は特別編ということで、今やっている本編とは別のIFのストーリーを描いていきます。まぁ、今の展開がかなり鬱なので、気分転換と言ったところです。

 時系列的には最終章の前と言ったところですが、本編最終章の真たちにはこの話の記憶はないので、完全に本編と切り離していただければと思います。

 そして今回は事前にTwitterで言っていた通りにセルフ三作品コラボです。
 今回コラボする小説は【東方魂愛想】【東方現代物語 〜最強の相談屋が華麗(物理)に事件を解決する〜】の二作品です。

 この話はハーメルンの執筆仲間と話していて浮かんで来たものなので、その人たちにも感謝です。

 あと、この話に出てくるまちは僕の想像の街です。現実と違ってても許してください。

 全16話となっていますのでこの特別編が解決するまでこの特別編を毎日19時に投稿いたします。

 この三作品のキャラたちがどのように絡んでくるのか、お楽しみに。

 さて、前書きにこんなに書くのは久しぶりですね。

 さてさて、そろそろ本文に行きましょう。

 それではどうぞ!


side真

 

 早朝、俺は魔法の森を抜け、こいしと共に香霖堂へとやってきていた。

 俺の真後ろには紬が俺の服をぎゅっとつかんで必死に香霖堂と逆方向へと引っ張っているが、紬よりも俺の方が力が強いため、そんなことは意味をなしていなく、気にしないで歩き続けていた。

 すでに紬は涙目になって俺の事を見上げてきていて、香霖堂の外観が見えると一気に顔が青ざめてさっきまでよりも必死に引っ張り始めた。

 

「おい、やめろ。服が伸びる!」

「やだあぁぁぁぁぁぁ! 捨てないでぇぇぇぇぇぇぇ!」

「捨てねぇから!」

「嘘だもん! どうせ面倒くさい私のことが嫌になって香霖堂へ返却するために歩いているんだもん! 捨てられたくなかったらいうことを聞けっておどして私の身包みを全てはぎ取って真と森近霖之助の二人で私の事を辱める気だもん! く、殺せ。私の体は好きに出来ても心まで好きに出来るとは思わないでね!」

「お前、想像力豊かだな」

 

 さっきからこんな調子なのだ。隣でこいしは苦笑いをしながら俺と紬のやり取りを静かに見守っていた。

 確かに紬は昔は香霖堂に神成りとして保管されており、ずっと一人で将来現れるご主人様を待っていたという過去があるため、香霖堂は結構なトラウマなのだろう。

 それにしても、紬を辱めたら俺にはこいしっていう妻がいるから、普通に不倫なんだよな。そんなことをしたら地底に居られなくなるだけじゃなくてさとりにぼこぼこにされてコンクリートで固められて海に沈められることだろう。

 

 まぁ、今回香霖堂に向かっている理由は別に紬を返却するために来ているわけじゃない。俺とこいしの二人が霖之助さんに呼ばれたっていうだけだ。俺もどういう内容なのかは一切効かされては居ないが、手紙の文章的にも悪い話ではなさそうだということでそこまで気分は悪くはなかった。

 

 そして行こうとしていると紬が勝手についてきて騒いでいるだけだ。

 

 ついに到着して必死に扉を抑える紬をぶっ飛ばすかの勢いで扉を開けるとカウンターの向こうに霖之助さんが立っているのが見えた。

 

「お、来たね」

「はい、手紙読みました。外の世界からすごいものが流れ着いたって本当ですか?」

「あぁ、これはすごいよ。君たち二人とも絶対に喜ぶ。それじゃ、持ってくるから少し待っててね」

「私たちが喜ぶもの……?」

 

 霖之助さんは俺たちにそれだけを言うと奥の部屋へと行ってしまった。

 手紙には外の世界からすごいものが流れ着いたから俺たちに見せたいとの事だったが、そのすごいものって何だろうか。

 そもそも、いつもは俺たちに見せることはなく流れ着いたものを見つけたら用途を自分で調べてこの店に展示するっていうのが普通なのに、俺たちに見せたいものって何だろうか。

 しかも、俺たち二人が喜ぶって言っているということは俺たちに渡すつもりなのか? すこし気になってくる。

 

 少しすると霖之助さんは帰ってきて再びカウンターの向こう側に立った。

 

「これだよこれ」

「これは……紙切れ?」

「っ! ちょっとまて、これは……っ! 霖之助さん!」

「あぁ、真。君の考えは当たっていると思うよ」

 

 霖之助さんが俺たちに見せてきたものは色々記入されている二枚の紙切れだった。

 この紙切れに見覚えが無いこいしはぴんと来ていない様子だったが、俺はそれを見た瞬間驚愕のあまり目を見開いて凝視してしまった。

 なんでこんなものがこの幻想郷に流れ着いたのかは分からないが、俺は目を疑ってしまった。

 そう、これは幻想郷ではなんの意味も為さないが、これが外の世界だとしたらどうだ? これはまるで夢の、神のような紙切れと言えるだろう。

 

「真、なにこれ?」

「いいか? これはな、外の世界の京都っていう街の無料ペア宿泊券だ」

「え、っていうことはこれがあるならペアで、その……きょうとっていう街で無料で宿泊できるってこと?」

「あぁ、それもこれは温泉旅館だ。地霊殿の温泉郷も確かにいいところではあるが、俺や龍生、音恩、鈴音がもともと暮らしていた日本は温泉大国というだけあっていい温泉があちらこちらにある。外の世界と完全に隔離されているこの幻想郷では質のいい温泉宿の接客や温泉を体験できる機会はそうそうない……霖之助さん。お代なら払いますので、それを打ってはくれませんか?」

「いいけど、これはもともと君たちに譲渡するつもりだったんだ。僕には一緒に行くような相手もいないしね。だからお代はいらないよ」

 

 そういった霖之助さんの目からは哀愁が漂っていた。

 霖之助さん、あなたにいい出会いがあることを願っています。

 

「それではありがたくいただきます」

「うん、君にもらってもらえた方がそのチケットもうれしいだろうしね」

 

 俺は霖之助さんからチケットを受け取ると礼を言って香霖堂を後にした。

 久しぶりに外の世界に行くことになるんだと考えると少しわくわくしていた。こっちの生活の方が気に入ってはいるが、あっちも嫌いではないから遊びに行くのなら楽しみだ。

 こいしと二人で温泉旅館。これは実質ハネムーン……新婚旅行ということだな。そう思うと自然と頬が緩んでしまう。

 二人で家でゆっくりするのもいいけど、たまには一緒に遊びに行きたいところだったからな。

 

「でも、霖之助さんからチケットを貰えたけど、どうやっていく? 紫に頼む?」

「いや、多分紫も忙しいだろう。俺たちの用事の為だけに呼ぶのは忍びない。だから、シャロに頼もうと思う!」

「馬鹿!」

「あだっ!」

 

 突然後頭部にハリセンで叩かれたかのような衝撃が走った。いや、実際に後ろから後頭部をハリセンで叩かれたのだ。

 背後を振り返ってみるとそこにはスキマから上半身だけを出してハリセンを持っているシャロがそこに居た。

 

「なんで紫に頼むのは悪いと思うのに、僕にはそういった感情がないの? 僕だって神なんだから忙しいんだよ? タクシーじゃないんだよ? あんまり僕の扱いがひどいようだと友達辞めるよ」

 

 いつかの他人行儀の仕返しだろうか。自分が一番飢えているであろう友達を辞めると言って来た。どうやらシャロはその発言が自分の首を絞めていることに気が付いていないようだ。

 

「そうですか……残念です。友達であるシャロ様なら友達のお願いは聞いてくれると思ったんですが……」

「うっ」

「親友であるシャロ様なら、親友のお願いは聞いてくれると思ってたんですが……残念です。友達も今日限りなんですか……」

「わかった! わかったから! 友達止めないで!! 他人行儀はやめて! 僕が連れて行ってあげるから!!」

 

 計画通りだ。

 こいしが隣でジト目を向けてきているが、スルーしよう。

 だが、これで外の世界と幻想郷を行き来する手段は手に入れた。

 

「もう……こうして乗せられちゃう僕も僕だけどさ? もう少し神をいたわってくれてもいいんじゃないかな」

 

 文句を言いながらもスキマを開いてくれるシャロさん素敵! 尊敬しちゃう!

 本人に言ったら調子に乗るから絶対に言わないけど。

 

「でも、このまま行って大丈夫かな……正直、今の私の格好は外の世界とかけ離れすぎていないかな……」

 

 言われてみれば確かにそうだ。

 俺の服装は緑パーカーだから何の問題もないが、こいしの服装はゴスロリ服に謎のコードという非常に外の世界の服装とはかけ離れた服装をしている。

 服だけなら大丈夫かもしれないけど、その第三の目のコードを何とかしないとまずいよなぁ……。

 

「し、真。もしかして私の目を取ろうとしてない?」

「真君……僕は見損なったよ。君がそんな残酷なことをするなんて……これは立派なDVだよ。閻魔に言ってくるね」

「そんなことしないよ!?」

 

 いいように使われていることの腹いせか俺の事をからかってくるシャロ。

 しかし、確かにこまった。こいしのコードは第三の目とつながっているものだし、取り外すわけにはいかない。俺も血の覚醒をすれば第三の目が出現するからわかるけど、あのコードには神経がつながっているから安易に取り外すと目玉をくりぬこうとしているのと同じことになる。恐ろしい。

 

「まぁ、外の世界では妖力が使えなくなって妖怪としての力を使えなくなるんだよね。だから力がなくなって結果第三の目も自動的に消滅するから問題ないけどね」

「なら、最初からそう言ってくれ……」

 

 確かに前に外の世界に行ったときは力を失って能力が使えなくなっていたな。まぁ、鍛えた身体能力はそのままだから戦うために鍛えている俺たちの体自身が凶器になってしまうというのはあるけど。

 だが、これで心配は何もなくなった。服装とかも特に気にする必要はないし。

 後はある程度の金が必要なんだが、俺が換金せずにとっておいた外の世界の金を使えば解決するだろう。外の世界の金が幻想郷では使えないのと同じように幻想郷の金は外の世界では使えないのだ。

 

「それじゃ、もう行くか?」

「うん! 楽しみ」

「それじゃ、スキマ開くよ」

 

 そういうとシャロは目の前の空間にスキマを開いて見せた。この先にはおそらく外の世界の景色が広がっているのだろう。

 なんか、久しぶりだ。感覚的には地元を離れて遠くへ行っていたけど久しぶりに地元へと帰るような感覚に近い。そして遠くでできた奥さんを地元へと連れて帰るっていう感覚で少し緊張している。

 

「ありがとう。じゃ、行こうか。紬も待っててな。なんかお土産買ってくるから」

「ありがとう、行ってくるね!」

「行ってらっしゃい! 外の世界のお土産楽しみにしてるよ!」

「楽しんできてね。外の世界で僕を呼んでくれたら迎えに行くからね」




 はい!記念第1話終了

 今までのコラボはこっちの世界にきてもらうっていう物でしたが、今回のコラボは全部自分の作品だということを生かして、真とこいしに別の世界に行ってもらう事にしました。

 まずは京都ですが、あまり京都のことは知らないので、現実と違う部分があったとしてもフィクションとして許してください!

 それでは!

 さようなら


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記念第2話 久しぶりのデート

 はい!どうもみなさん!ミズヤです

 今回の話は買い物デートです。めちゃくちゃ僕の好みが入りました。



 それでは前回のあらすじ

 ある日、突然香霖堂に呼び出された真はこいしと泣きじゃくる紬を連れて香霖堂にやってきていた。

 やってきた真たちに霖之助が見せたのは京都の無料ペア宿泊券だった。なんと、宿泊券が幻想入りしてきていたのである。

 それを霖之助は真にプレゼントし、真とこいしは外の世界に旅行に行く事になったのである。



 それではどうぞ!


side真

 

 俺たちはシャロに礼を言うとスキマの中へと歩を進めた。

 スキマの中は総じて目が大量にあって不気味な空間になっている。絶対にこの見た目にしなければいけないという規則でもあるのだろうか?

 この中を少し歩くことにはなるが、距離はそんなに長くない。

 歩いていくと少しずつ随分とご無沙汰していた機械音や車の音などが聞こえてきて大変懐かしく感じてしまう。外の世界に居た頃は当たり前の環境音だったんだが、幻想郷ではそんなに騒音なんて無いから少しうるさく感じてしまう。

 そして昔住んでいた俺がそう思うくらいなのだから、こいしは余計にそう思ってしまっているだろう。

 

 少し歩くとついにスキマの出口にたどり着いた。

 こいしの様子を伺ってみると、こいしも俺の方を見てにこっと笑って頷いてくれたので、どちらからともなく手をつないで意を決して外の世界へと降り立った。

 

 出てみるとそこは薄暗い路地のようだった。

 久しぶりに見る高層の建物や路面を走る車などに少し感動してしまうが少々、いやかなりうるさいのでこいしは大丈夫だろうか?

 

「こいし、気持ち悪くなったりとかしてないか?」

「うん、大丈夫だよ。でも、結構賑やかなんだね」

 

 この騒音を賑やかという言葉だけで済ませていいものなのかは疑問だが、こいしが大丈夫だというのならば、俺は何も言うことはない。

 こいしの姿を見てみると確かにシャロの言っていた通りに第三の目のコードがきれいさっぱり消え去っていた。だが、やっぱり外の世界だと服装が少し浮いてしまっているように見える。これはまずは服を買いに行った方がいいかもしれない。

 

「なぁ、まずは服屋いかないか?」

「うん、こっちの世界の服も少し気になるから行きたい!」

「んじゃ、行くか。少し検索するから待ってくれ」

 

 幻想郷には電波は飛んでいなかったから幻想郷では滅多に使うことが無かった携帯をここで使うことになるとは……。

 俺は携帯の検索アプリに近くの服屋と入力して近くの服屋を検索する。

 どうやら近くに結構良さそうな服屋があるようだ。

 

「そんじゃ、行くかこいし」

「うん!」

 

 久しぶりのデートだ。

 俺たちは再び手をつなぐと京都の町へと繰り出した。

 


 

 少し歩くと俺たちは服屋にたどり着いた。ここはレディースの服屋だから昔こっちの世界に住んでいたころは恋人がいなかったということもあってこういうところに入ることもなかった。

 だが、今はこいしという一緒にここに入る相手がいるから堂々と入ることができる––だが、それにしても結構羞恥心を煽ってくる。

 別に俺は付き添いなんだし、やましいことをしているわけでもないんだから堂々と何も恥ずかしがる必要はないんだが、アニメや漫画で女の子の付き添いとしてレディースの服屋に入ってソワソワと居辛そうにしていた気持ちが分かったような気がする。

 

「わぁぁ、これが外の世界の服なんだね。どれも見たことが無い服ばかり!」

「好きなの買ってもいいぞ。外の世界の金は全然使ってなかったからあるんだ」

 

 物珍しそうに目をキラキラさせながら服を眺めていくこいし。その光景を見ながら近くにある服を脳内でこいしに着せてみる。

 この店にはこいしの言うとおり、幻想郷では見ない服ばかりだ。だから必然的にどれを着せても初めて見る服装になるわけなのだが、脳内のこいしが可愛すぎて辛い。

 おっとりとした清楚系の服、へそ出しの健康的な服など様々な服があるが、どれもこいしに似合いそうなだなと考えつつこいしについて行く。

 

「うーん……どっちにしようかな~」

 

 やっぱりこいしも女の子だからおしゃれには興味があるようで、とても楽しそうに両手に服を取って悩んでいる。悩んでいるといってもとても楽しそうに笑っているので俺もつられて笑顔になる。

 

「真! これとこれ、どっちの方が似合うかな?」

「ん?」

 

 そういってこいしが俺に見せてきたのは二着の服だった。

 一着は白を基調としたワンピースでとても清楚だと感じるような服、そしてもう一着の方を見て俺は息を吞んだ。

 

「それ」

「そう、お・そ・ろ・い」

 

 俺は見せられたそのもう一着の服は今俺が着ている緑パーカーのおそろいの服だ。

 俺が今来ているのよりも少し薄い緑色で少しぶかぶかとしているせいか萌え袖、そして足まで隠してしまうような丈になっている。

 そしてそれに合わせてこいしが選んでいるのはホットパンツである。しかし、この丈のパーカーを着てしまってはホットパンツが完全に隠れてしまい、まるで下には何もは居ていないように見えてしまうというとてもエッッッッな状態が作られてしまうことに……。

 

「あ、でも、このワンピースはちょっと私には可愛すぎるかな」

 

 そんなことはないんだけどなと思いながら代わりにこいしはワンピースに変わって違う服を持ってきた。

 この服は夏であるこの時期に合わせて半袖となっており、合わせて持ってきたのはこちらもホットパンツだった。

 どうやらこいしはずっとスカートばかりだったからズボンというものを試してみたいけど、足が完全に隠れるのは違和感があるからホットパンツにしたいということみたいだ。

 この服装はとてもいいと感じた。こいしの健康的な性格をよく感じるし、それに何より黒い生地の左胸のあたりに紫色の円があってその中に目の模様がある。あれは非常にこいしのサードアイに酷似していてこいしに合っている。

 

「それいいな」

「でしょ~やっぱり私にはサードアイが無いとねぇ」

「それ、目めっちゃ開いてるけどな」

 

 だが、俺もそれを似合っていると感じたのは事実なので、それにする方向で考えを勧め、近くを見渡してみるといいものが見つかった。

 

「やっぱり健康的な服装っていたらキャップを忘れたらダメだろ」

「ん?」

 

 俺は近くにあったキャップを取り出すとこいしの頭に被せた。

 こいしは突然の出来事に困惑をしていたが、俺は腕を組んで満足げに頷いた。

 俺がこいしに被せたキャップは服の色に合わせて黒色で、後ろが網になっていて髪の色が透けて見えるようになっていた。

 

 その状態でこいしに試着室へ行ってもらい、試着してもらったが非常にいいものを見ることができた。さすがは俺の嫁と言ったところだ。

 そのまま俺は会計を済ませてこいしの服は袋の中に入れて着たまま街に繰り出した。




 はい!記念第2話終了

 真はこいしにゾッコンですからね。あと、僕の癖が入ってしまいました。

 半分真をトレースして半分リアルの僕が入り込んでしまいました。

 そして次回ついにコラボキャラ登場です!

 それでは!

 さようなら


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記念第3話 強者

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 こいしと買い物デートをする真。

 服を試着して真が評価をする。だが、こいしに激甘な真だからどれも高評価だった。

 そのまま服を購入して着たまま再び街へと繰り出した。



 それではどうぞ!


side真

 

 ちょうど時間は御昼時だ。結構おなかが空いてくる時間だった。

 

「おなかすいたねぇ」

「そうだなぁ。近くの飯屋を探して––」

「人がいっぱいいるね」

「……妖怪だからって食うなよ」

「食べないよ!!」

 

 こいしがちょっと不穏なことを言い出したため、一応くぎを刺しておいたのだが、どうやら心配はないらしい。

 それに幻想郷に居たときも一度だってこいしが人間を食べているところなんて見たことが無いからおそらくこいしは人間を食べることはないだろう。

 

 少し食べ物を販売している店を検索してみると、ここら辺に結構食べ歩きできる店があるようだ。

 よく見てみると確かにコロッケとか肉まんとかいろいろある。中には幻想郷では見ないようなレアな食べ物なんかもあるため、さっきからこいしが興味津々に見ている。

 そういえば幻想郷で肉まんとか美鈴が作っているイメージしかないな。

 

 基本的にあまり幻想郷では中華料理は出ない。出るとしても幻想入りしてきた紅魔館や守矢神社ぐらいだろう。

 

「ちょっと肉まん食おう」

「うん!」

 

 ちょっと気になっていたのだろう。俺が提案するとすぐにこいしは頷いて俺の提案に賛成してきた。

 近くにあった肉まん屋で二つ買うと一つをこいしに手渡した。

 

「熱いから気を付けて」

「う、うん!」

 

 すでに包み紙の上から熱さを感じるため、俺はもう十分に分かっているだろうが、念のために言っておく。

 小籠包なんかも初めて食べる人は熱いとわかっていても火傷をしてしまうらしいし、念には念を入れて言っておくのが一番いいだろう。あまりこいしに火傷してほしくはないしな。

 こいしは慎重に小口で熱さを感じない程度に食べていくが、俺は一口かじるとはふはふと口の中の熱気を外に追い出して口の中で冷まして租借し、嚥下する。

 うん、久しぶりに肉まんなんて食べたが、久しぶりに食べると美味いものだな。

 

 するとこいしも俺の食べ方を真似してはふはふと口の中の熱気を外に追い出して冷まして食べていた。ちょっとその姿が可愛いと思ってしまうのは夫婦補正が入っているからだろうか?

 

「んんんんん~~~~~~~っ!」

 

 するとこいしは身じろぎ始めた。

 俺はすぐに何事かと思って慌ててこいしの様子を見たんだが、すぐに問題はないということに気が付いた。なにせ、こいしの表情がとても幸せそうに惚けていたからだ。

 一瞬、口の中を火傷した痛みで身じろいでいるのかと思ったが、美味しそうに食べているこいしの姿を見ているとそうではなく、美味しいという表現だったんだなと自分の中で結論がついた。

 

 ちなみに今こいしが食べているのは普通の中華まんで、俺が今食べているのはピザまんだ。昔はよく学校からの帰り道で龍生と一緒にコンビニで買い食いをしたものだ。

 その時に良く買うのは龍生が焼き鳥で俺がピザまんだった。あれから結構年数が経過しているが、この味、このおいしさは当時のまま全く変わらないなと考えて感傷に浸る。

 

 しかし、ここまでこいしはずっと楽しそうに、嬉しそうに笑ってくれているから本当に楽しんでくれているのだとしたら今回は来てよかったとしみじみ思う。

 

 少し腹ごしらえをした俺たちはついに旅館へと向かうことにして歩いていると突然声が聞こえて来た。

 

「やめて!」

「離してください」

「いいじゃねぇか少しくらいよぉ」

「へへへ、俺たちと楽しいことしようぜぇ」

 

 二人の女の子の声と複数人の男たちの声が聞こえて来た。会話の内容からまず間違いなくナンパだろう。

 見てみると路地の行き止まりで大勢の男で女の子を二人囲っている構図が目に入ってきた。

 幻想郷だろうが日本だろうがやはりこういうことはあるものだ。特にこの安全な日本国内の話だ。変なことをしたって反撃される確率は高くはない。だから余計にこういうことをしやすい環境になっているのだろう。

 あまりこういうことに関わりたくはないものだが、このまま放置していても後味が悪いものだし、こいしがなんだか不安そうで何かを訴えかけるような目でこっちを上目遣いで見てきている。

 

「……こいし、ちょっと待っててくれ」

「うん、頑張ってね」

 

 今さらこの平和ボケした日本人相手に何を頑張ればいいのかが分からないが、とりあえず頑張ることにするか。

 

「あのーお取込み中のところすみません」

「あ?」

「なんだてめぇ」

「痛めつけられないうちに引っ込んでろよ坊主」

 

 俺、もう年齢的には二十歳超えてるんだけどなぁ……。

 まぁ、俺の背格好は完全に高校一年生の時のまま止まっているから舐められても仕方がない。

 

「その人たち、嫌がっているように見えるんですが」

「あ? そんなわけねぇだろ。喜んでんだよ」

「俺たちはこれから遊びに行くんだよ」

「関係ないやつは失せた方が身のためだぞ」

「え、あ……」

「私たちが喜んでいるわけないでしょ––むぐぐ」

 

 金髪の方はこの状況におどおどしている。そして黒いハットをかぶった方は反論をしようとして口を抑えられて口封じをされていた。

 なるほど、物おじしない強さは認めるが、強がってばかりいてもあまりいいことは無いということだな。

 それにしても困ったな……あの男たちからは強者のオーラというのを微塵も感じない。まぁ、この安全な日本国内に住んでいてそんなに戦闘力がある人もいないか。

 おそらく少し喧嘩が強いからって調子に乗っているだけなんだろう。それではあまり応戦したりするとうっかり大けがを負わせてしまうかもしれない。

 

「うーん……喜んでないって言ってるんですし、解放してやってはくれませんか?」

「誰がてめぇの言うことなんぞ聞くかよ!」

「てめぇら、やるぞ」

 

 俺に殴りかかってくる男たちだが、非常にスピードが遅すぎてあくびが出てきてしまう。

 そんな攻撃では俺に当たるはずもなく、俺は冷静にすべての攻撃を対処すると、一気に男たちの間を駆け抜けて二人の女の子の元へとやってきた。

 

「こいし、どうしようか」

「うーん……私が一人抱えるから真がもう一人お願い。それで全力疾走」

「まぁ、それが一番か。二人とも、少し我慢していてくれ」

 

 するとこいしが屋根の上から降ってきた。どうやら俺と男たちが会話をしている間にこいしは屋根を伝ってこっちに来ていたようだ。

 こいしは一人––金髪の女の子の方をお姫様抱っこしたので俺はもう一人の黒いハットの女の子をお姫様抱っこした。

 

「ひゃっ! なに、何なの貴方たち」

「説明は後でということで」

 

 俺とこいしは男たちの間を突っ切ると全力疾走で男たちと距離を離した。

 途中、背後から逃げるなやクズどもという言葉が聞こえて来たが、完全に無視して男たちの追跡を振り切った。やっぱり俺たちの足の方が何倍も速く、男たちの追跡を振り切るのは簡単だった。

 早速面倒くさいことをしてしまったような気がするが、こいしはなんだか満足そうなのでいいとしよう。

 

「あ、あなたたち、足速いのね」

「まぁ、鍛えてるので」

 

 ちなみにクレアも限界突破(リミット・ザ・ブレイク)も使用しない状態だとこいしの方が少し足が速い。

 俺たちはとりあえず男たちが追ってきていないことを確認すると俺とこいしは二人を下ろした。

 

「助けてくれてありがとう」

「助けていただけなければ危ないところでした」

「二人とも無事でよかったよぉ」

 

 まぁ、女の子二人だけであの数の男たちを振り切れるわけがないしな。

 こいしはにこにこと笑みを浮かべながら安堵の息をついた。他人のことを慮ることができるこいしだから俺は好きになったんだ。だから俺はその光景を見ているだけで何となく微笑ましくて笑みが浮かんでくる。

 こっちに来て早々に面倒なことに首を突っ込んでしまったと思ったけど、このこいしの姿を見れただけで十分価値があることをしたと思う。

 

「っ」

 

 その時、俺たちの進行方向から学ランを着て前を開け、頭には使い古されたぼろぼろのキャップをかぶった男が現れた。

 ゆっくりゆっくりと俺たちの方へと歩いてくる男に俺は威圧感を覚え、思わず身構えてしまう。

 こっちの人には能力が無いからそこまで威圧感など覚えるはずがないのだが、それでもあの男には幻想郷ならば俺たちを倒せそうな、そんな凄みがあった。

 

「ここにいたのか宇佐美、メリー……急に通信が途絶えたから心配したぞ––ん? そいつらは?」

 

 帽子の唾を持ち上げて俺とこいしの事をじっくりと見てくる男に少しビビったが、すぐにこの男が悪いやつじゃないってことが分かった。

 ちょっと口調やトーンがぶっきらぼうに聞こえるが、今二人にかけた言葉は心配しての言葉だ。人の事を慮ることができる人に悪い人はいない。

 

「旅行客か。悪いな二人がちょっと世話になっちまったようだ」

 

 この男言葉から「あれ? 保護者なのかな?」って考えてしまうのは俺だけではないはずだ。

 それにしても、今俺もこいしも一言たりとも発言していないというのに、俺たちが旅行客だっていうことをすぐに見極めて来た。

 すると男は二人の女の子を連れて「世話になったな」と一言残すとこの場を後にしていった。いったい何だったんだろうかと思い、俺とこいしは少し硬直してしまったが、すぐに本来の目的を思い出して俺たちも歩き始めた。




 はい!記念第3話終了

 ついに【東方現代物語 〜最強の相談屋が華麗(物理)に事件を解決する〜】のキャラが登場しました。

 今回出て来たのは宇佐見蓮子、マエリベリー・ハーン、輝山一輝の三人で、主人公は一輝なので、この中では一輝が活躍します。

 それと飛鶴ファンの方はすみませんが、飛鶴は出て来ません。

 この後の話もお楽しみに。

 それでは!

 さようなら


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記念第4話 お手柄 相談屋、犯人逮捕に大きく貢献

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 食べ歩きをしていると男たちに襲われている女性二人を発見した真たちは幻想郷で培った身体能力を駆使して攻撃を回避して二人を助け出す。

 助けた後、お礼を言われているときに圧倒的強者の風格がある男が二人を引き取りにきた。

 果たしてこの男の実力は如何に!?



 それではどうぞ!


side真

 

「ちょっと本来の目的忘れちゃってたけど、私たちの目的は旅館だったね」

「まぁ、いろいろあったからな」

 

 時は昼下がり、俺たちはようやく本来の目的を思い出し、ついに宿泊券に書いてある旅館まで来ていた。

 とても立派な和風の旅館で、木製の建物がいい味を出している。年甲斐もなく少しわくわくしてきていた。しかし、それは俺だけではなく、隣にいるこいしも同様のようだった。

 特にこいしは外の世界に来るのは初めてなため、こういう街並みや建物を見たことが無いから新発見の連続だろう。さっきからずっと目をキラキラさせて街並みを見ていた。

 この宿泊券を譲ってくれた霖之助さんに感謝をしなければいけないな。

 

「それにしても立派だなぁ。こんな旅館にただで泊まれるのか」

「しん! しん!」

「落ち着け」

 

 俺の顔に顔を近づけて興奮した様子で行こうと促してくるこいしに少しドキドキさせられながらも俺たちは意を決して旅館へと足を踏み入れた。

 

「す、すみません」

「ん? お! お客さんかい? いらっしゃい。二名かな」

「はい。これで宿泊したいんですけど」

 

 俺はおずおずと霖之助さんから譲ってもらえた宿泊券を取り出して受付に手渡した。

 事前に俺は有効期限なんかも調べておいたけど特には問題なさそうだ。どうしてこんな宿泊券が幻想入りしていたのかは分からないけど、俺たちはかなりラッキーだったようだ。

 

「大丈夫だよ。それじゃ、これ部屋の鍵ね。ごゆっくり」

「ありがとうございます」

 

 この旅館はかなり立派なもので、部屋は広く、部屋には備え付けの露天風呂があるらしい。そのほかにも大浴場ではいろいろな温泉を楽しめるのだとか。

 温泉郷にもいろんな温泉があったりして、清掃の時にたまに入らせてもらっているけど、完全に客として温泉に入るのは久しぶりだから少し楽しみでもある。

 

 部屋は二人部屋の和室だ。

 畳に関しては幻想郷では主流の床だったんだが、俺たちの家と地霊殿には和室なんてなかったから畳を見るのがすごく久しぶりのような気分だ。

 

「ねぇねぇ、真! 真!」

「ん、なんだ?」

 

 こいしが興奮した様子で扉を開いた状態で俺を呼んできた。

 腰を落ち着かせようと思って座ろうとしていたが、こいしに呼ばれたため、すぐに立ち上がって俺も扉の奥を見てみると、そこには木々に囲まれた幻想的な露天風呂が存在していた。

 さすがに海の近くとかではないので、よく外の世界のテレビとかで見るような海を一望できる露天風呂とかではないが、木々が取り囲んでいるため、空気が美味しい。マイナスイオンがこの空間を包み込んでいる。

 

「あとで一緒に入ろう!」

「お、おぉ」

 

 こいしが顔を寄せて目をキラキラさせながら言ってきたため、剣幕に押されてしまった。どうしよう、こいしと一緒に入って自分の欲望を抑えることができるか少し心配だ。

 それに、大浴場のほうの風呂も行ってみたい。まぁ、風呂は一日に何回入ってもいいわけだから今回は存分に堪能するとするか。

 

「ねぇ、真! これって外の世界の新聞だよね」

「あぁ、そうだな。文々。(ぶんぶんまる)新聞よりかは正確なことが書いてあると思うぞ」

 

 そういえば俺はずっと幻想郷に居たから最近の日本で起こったこととか全く知らないんだよな。

 この際だ、何があったのかくらいは確認しておいた方がいいだろう。そう考えて俺は近くにあった新聞を手に取り、テーブルの前に胡坐をかいて座って新聞を開いた。

 この記事にはプロ野球のことや芸能人のスキャンダル、漫画の事について載っている。特に漫画に関してはかなり前で俺は止まってしまっているので、そのあとかなりの巻数が出ているようで少しびっくりしている。プロ野球に関しても知らない選手が結構いるものだ。

 

 そうして新聞を読んでいると俺の隣ぴったりにこいしが女の子座りをして俺の肩に肩を寄せて来た。

 突然のこいしの行動に俺は少しびっくりしてしまったが、これに関しては家にいるときもよくあることなので、特に気にはしない。おそらくいつもの癖で無意識に俺に密着してきているのだろう。

 

「あぁ……真とこうして旅行出来て、幸せだなぁ」

「俺だって幸せだ」

 

 こてんと俺の肩に頭を預けてくるこいし。そして俺はそんなこいしの腰に手を回して抱き寄せた。

 今だけは時間が永遠にも感じられる。この時間が永遠に続けばいいと、そう思ってしまうほどに充実して幸せだ。

 

 そんな甘々な時間を堪能していたが、俺の視界に驚くべき記事が飛び込んできた。

 こいしの持っている新聞の端の方に小さくだが、その記事が載っていた。

 

 ––お手柄、相談屋。犯人逮捕に大きく貢献。

 

 小さい記事なので大したスクープにはならないと判断されたのだろうが、俺にとっては驚くべき記事だった。

 なにせ、この記事の写真に写っている人物はっ!

 

「なぁ、この三人、さっき会った奴らに似てないか?」

「ん~? あ、ほんとだ~」

 

 俺はもう完全に我に返ったが、こいしはまだふにゃふにゃしている様子で、活舌がふにゃふにゃな状態で返してきた。

 左右の女の子二人は完全に俺とこいしがナンパから助けた二人だ。そして真ん中の男もさっきとんでもない力を感じた学ランキャップの男だ。

 なるほど、あれほどの力があれば確かにどんな犯人でも逮捕に導くことはできそうだな。

 

 しかし、相談屋ってサークルなのか……外の世界には長年居たけどこんなサークルがあることは知らなかったな。もしかしてこの大学にしかない特殊なサークルなのか?

 この外の世界にいる間に少しこのサークルについて調べてみてもいいかもしれないな。

 

 ちょっと携帯でこの相談屋の事について検索をしてみると、いろいろと出て来た。

 どうやらあのサークルはとある大学のみにある伝統のサークルで、活動内容としては何でも屋ということらしい。そして依頼を受けて依頼を遂行するために力を尽くす。

 時には危ないこともあるけども、報酬が支払われる。

 そしてこのサークルに入会できるのは学校で推薦されたもののみ。

 

 半分探偵業のようなものをやっているようだ。

 しかし、あの柄が悪そうな男がこのサークルでいいのか? いや、こういう人だからこそこのサークルで活動していけるのかもしれない。活動内容を見てみたが、これは常人の精神では長く続けていくのは不可能だ。

 だが、あの男は長い期間相談屋として活動をしているようだし、むしろあの男にこそあっているサークルなのかもしれない。

 

 まぁ、俺はもう外の世界の住人じゃないから関係ないけどな。あいつらと関わることもないだろう。

 

「ねぇねぇ、ちょっとこっちでの遊びをしようよ!」

「あ、そうだな。せっかく外の世界に来たわけだしな」

 

 この部屋に来るまでの間に卓球台などが置いてある部屋を見かけていた。

 蹴鞠などの昔の日本からあるようなものだったら幻想郷にもあるが、現代スポーツのようなものは幻想郷にはないから何をするにしてもこいしにとっては新鮮なものであるに違いない。

 

「そんじゃ、卓球台があったし、卓球をするか」

「卓球?」

「そう。ルールはやりながら教えるよ」

 

 そういって俺たちは部屋を出て鍵を閉めると卓球台があった部屋へとやってきていた。

 ここは宿泊者が自由に利用できる卓球施設のようだ。ここにいると修学旅行の時を思い出す。

 修学旅行の夜、俺と龍生は旅館の卓球台を貸してもらって一緒に卓球勝負をした記憶がある。その時の結果は俺が惨敗してしまったのだが、あれはかなりいい思い出となっている。

 

 部屋に到着すると早速ラケットとボールを手に取ってルールを説明していく。

 まぁ、こいしは妖怪としての身体能力があるから。すぐに卓球が上達していった。こいしは俺より反射神経があるから俺が打った球は大体打ち返してくる。だが、こいしの球は打ち返せないことが多い。俺たち二人の力だと球が剛速球になる。

 俺が下手なせいであまりラリーが続くことはないのだが、それでもこいしはとても楽しそうににこにこしながら卓球をしていた。

 

 その後も、外の世界でしか見かけない遊びを次々としていった。

 型抜きやパズルなどもしてみたが、こいしは指先が器用だし、頭の回転も速いため、何をやってもすぐに俺よりも上達していく。そんなこいしに夫として誇らしいやら悔しいやら正直複雑な気持ちだった。

 

「はぁ……楽しかった! また機会があったら遊びに来たいなぁ」

「そうだな」

 

 俺も結構外の世界での遊びを満喫していた。これから先はずっと幻想郷で暮らしていくと決めたからこそこいしと結婚したわけだが、こっちの生活が結構俺のDNA的には合っているようだ。




 はい!第4話終了

 実はこの日も相談屋は任務に当たっていて、その道中で蓮子たちが絡まれていた感じなんですよね。

 そして一輝が一人で任務を解決して来ました。

 おそらくこの話ではあまり相談屋要素はないと思います。

 それでは!

 さようなら


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記念第5話 証明

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 旅館にやってくると部屋に行き、さっそく二人で新聞を読みながらゆっくりする真とこいし。

 その後、二人は幻想郷では見かけない遊びをして満喫していた。



 それではどうぞ!


side真

 

 俺たちは部屋へと帰ってきて俺は風呂に入ろうとしていた。こいしから先に入ってと言われたため、俺は素直に従って先に入ろうとしているわけである。

 個室の風呂だというのに脱衣所もしっかりしており、曇りガラス越しに見える露天風呂はかなり大きい。この風呂を独占できると考えると心が躍るというものだ。

 

 俺は完全に服を脱ぎ捨てると露天風呂へと足を踏み入れた。

 俺の身長の三倍はありそうな高さの壁と、その壁の上からのぞく木々が心を穏やかにしてくれる。

 毎日修行修行、そしてたまに異変解決となかなか大変で疲労がたまっていた体を癒してくれる。

 

 まずは体を洗ってから湯船に浸かる。至福の時だ。

 あったかくて体の芯から疲れをいやしてくれる、そんな感じがする。

 全身の力を抜いてリラックスして風呂を心行くまで満喫する。そう考えていたのだが、そんな至福の時間は一瞬にして崩壊した。

 

「入るよー」

「なっ!」

 

 扉の方からはこいしの声が聞こえてきて、俺が返事をする間もなくその扉は無情にも開かれてしまった。

 開かれた扉から見えるのは真っ白でシミ一つないきれいな肢体。もちろん、その人物はこいしだった。

 こいしの体にはタオルなどという野暮なものなど巻かれておらず、そのきれいな肢体を惜しげもなく俺にさらしてしまっていて、俺の心臓の鼓動はうるさいほどに音が鳴っていた。

 俺の中の獣が暴れだしそうになってしまうが、ここは旅先の旅館だということを思い出して何とかぐっとこらえる。

 

「真、あんまり見ると恥ずかしいよぉ」

「わ、悪い!」

 

 こいしに言われてようやく俺はこいしの体を食い入るように見ていたということに気が付いて慌てて顔をそむけた。

 こいしの顔は真っ赤になっていた。だが、俺も同じくらいに真っ赤になってしまっていることだろう。

 

 シャワーを浴び、体を洗って汚れを洗い落としたこいしは無邪気な笑顔でこっちに来て俺の真横に来ると満足げな表情で湯船に浸かって脱力した。

 真横に来られたことによって少し動くとこいしと俺の肌が何も遮るものが無く直接触れてしまうということを考えて俺はもうすでにのぼせてしまいそうだった。

 もうすでに心臓が痛いくらいに鼓動が速くなってしまっている。

 

 するとこいしは突然俺の耳元に口を寄せてささやくように言ってきた。

 

「ねぇ、真。好き……だよ」

「な、なんだよ突然」

「べっつに~。連れてきてくれてありがとう」

「それを言うなら霖之助さんに言ってやってくれ。あの人も喜ぶと思うから」

「でも、真が連れて行く人に私を選んでくれなかったら私は来れなかったから。だって、真の周りには可愛い女の子たちがいっぱいいて、いつほかの子が好きになってしまうか、奥さんとしては不安なのです」

「こいし……」

 

 まぁ、確かにあの場には俺とこいし、紬しかいなかったというだけで探せば仲良くしている女の人は意外と多いものだ。だが、その仲良くしているというのはこいしのそれとは完全に別物だ。良き友人として仲良くしているだけだ。

 少しこいし以外の人と今回の旅行に来ることを想像してみる。さとり、お燐、お空、紬、紗綾。その全員を想像してみて共通することがあった。

 絶対にこいしと旅行している今が一番楽しいということだ。

 

「やっぱりさ、俺の隣にいるのはこいしじゃなきゃダメなんだよ。こいしが横に居て、そして笑ってくれるからこそ俺は頑張れる。どんな異変が起きても戦えるんだ」

「真……ねぇ、証明……して?」

「しょ、証明って……」

 

 頬を赤く染め、うるんだ瞳で見つめてくるこいしが今はとても艶っぽく見えてドキドキしてしまう。

 そうだよな。俺たちは結婚しているんだもんな。

 それに不安になってしまう気持ちもわかる。俺だってこいしの周りにいっぱいイケメンが居たらいつそのイケメンの事をこいしが好きになってしまうか気が気ではなくなってしまう。

 しかし、証明って……あれしか思い浮かばないけどあれでいいのか?

 

「こいし」

「ん」

 

 こいしはこっちを向いて目をつむってきている。これってそういうことだよな。

 俺はごくりと生唾を飲み込むとこいしの頭に手を回して顔を近づけて––

 

「失礼します」

「「っ!」」

 

 ドアがガチャリと開き、一人の人物が部屋の中に入ってきた気配を感じる。おそらくスタッフが食事を運んできたのだろう。

 この宿は部屋に食事を持ってきてくれるようになっており、俺たちがもう帰ってきていることを知っているから時間になったことだし持ってきたのだろう。

 だが、俺たちはそのことを忘れてしまっていたため、今悠長に風呂に入っているわけだが。

 

「お、俺、飯受け取ってくるわ。こいしはゆっくり入ってて」

 

 俺は勢いよく立ち上がると逃げるように風呂場を後にして服を着て食事を受け取った。

 最後にちらっと見えたこいしの表情が少し不服そうに見えたのは気のせいだろうか。

 


 

「おぉ~」

「これまた豪勢だなぁ」

 

 俺とこいしはテーブルの上に並べられた料理を見て俺たちは同時に声を漏らした。

 色々な刺身や自分で焼けるようになっているジンギスカンなどがテーブルの上に並んでいる。海鮮もジンギスカンも幻想郷じゃ滅多にお目にかかれない。特に海鮮は海が少ないため、捕れる量も限られていて最高級食材となっている。

 幻想郷でこんなに大量の海鮮を食べるとなったらいくらかかるか分かったものじゃない。

 しかも、幻想郷ではその捕れた海鮮を新鮮なうちに食べられるか分かったものじゃないので、刺身で食べられることなんてそうそうない。

 

 こいしも初めて見るこの大量の新鮮な刺身に目をキラキラと輝かせている。

 

「こ、これって生のお魚だよね!」

「そうだな。サーモンにマグロ、イカにタコ、ホタテなんかもあるな」

「真はこっちにいたときはよく生のお魚を食べてたの?」

「いや、刺身や寿司といった海鮮類はこっちでもちょっと値が張るからな。寺子屋に通いながら金を稼いで生活していたあの頃は滅多に食べられるものじゃなかった。それどころか一か月に一回しか食べられないシチューが最高の贅沢だったくらいだ」

「へぇ、そうだったんだ」

 

 ちなみにこいしに学校という言葉は通じず、寺子屋と呼称した方が理解が早いので寺子屋といったが、俺は普通の公立校に通っていた。

 あの頃は本当に暖かい食べ物にありつけることが出来たらいい方で、龍生と一緒にバイトをし、学費を稼いで何とか学校に通っていた。

 その中でたまに作って食べるシチューの温かみ、ありがたさが忘れられず今ではすっかり好物となっていた。それは龍生も同じでシチューをうまそうに食っていたが、あいつの一番好きな食べ物は燻製だ。燻製なら何でもいいらしい。

 よく燻製をかじりながら漫画を読んでいたのを覚えている。それと、自分で燻して作り始めたときにはちょっと目を疑ったが、あいつの行動力ならありえないことはないと自分の中で納得させたのを覚えている。あいつの作った燻製は確かに美味かった。

 

「幻想郷でも新鮮なお魚が捕れればいいのにね」

「まぁ、仕方ない。つい最近まで海もなかったほどだ。そしてその海も外の世界と比べ物にならないほどにミニマムサイズ。どう考えても需要と供給が釣り合うはずがない」

「ねぇ、それよりも早く食べようよ!」

「そうだな。腹減ったし」

 

 そして俺は小皿を取るとその中に醤油と端っこにワサビを出す。それを見てこいしは俺の真似をして小皿を手にすると醤油と端っこにワサビを出した。

 そういえば幻想郷では刺身が食卓に出たことはないからこいしは初めて刺身を食べることになるのだろう。

 ちなみに食卓に出てくるとしても川魚ばかりだから海鮮自体初めて食べるんだとしても不思議じゃない。初めて食べる海鮮がなまって言うのはちょっと不安が残るが、いくらこっちでは力が制限されているとはいえもともとは妖怪だからちょっと胃がびっくりしても腹痛になることはないだろう。体の強さは制限されていないわけだし。

 

 ちなみに調味料である醤油とワサビは幻想郷にもちゃんとある。

 

「そんじゃ、いただきます」

「い、いただきます」

 

 俺が箸でワサビを少し取ってマグロの切り身にのっけて醤油に付けて食べると、真似をするようにこいしも恐る恐るとワサビをマグロの切り身にのっけて醤油をつけると緊張を隠し切れない様子で口の中へ思い切って入れた。

 俺はもぐもぐとマグロを租借しながらこいしの様子を見た。

 刺身は生であるから魚本来の生臭さが焼き魚にするときよりも出てしまう。だから、こいしはこの味が苦手ではないか少し心配になった。

 だけど、その心配はすぐに必要なかったことを悟った。

 

「ん-っ!」

 

 口に入れて租借を開始すること数秒後、こいしの顔は笑顔に染まった。

 にこにこと笑いながらマグロの切り身を租借していて、今絶賛幸せをかみしめていますという雰囲気を醸し出している。どうやらこいしの口にはあったらしい。

 

 それを確認した俺は安心して自分の食事を再開する。

 ちなみに俺が一番好きなのはエンガワなので、今回の刺身のラインナップにはエンガワは含まれていないからちょっとがっかりしているところだ。

 

 そして何切れか刺身を堪能すると次にジンギスカンへと目をやる。

 アツアツの鉄板と生の細切れの羊肉。最近は北海道だけじゃなくて、全国各地で食べられてきているというジンギスカン。だが、豚や牛の焼肉と違ってマトンと呼ばれる大人の羊肉はかなり癖があるため、好き嫌いが分かれるものだ。

 ちなみに俺はこの癖が苦手だから自分で食べるとしたらラムと呼ばれる子供の羊肉のほうが好きだったりする。ラムの方が癖が少なくて食べやすいのだ。マトンの癖が苦手な人にはラムをお勧めしたい。

 

 果たしてこのジンギスカンの肉は何なのか。

 緊張しながら鉄板でしっかりと焼いて一切れ食べてみる。

 

「マトンか……」

 

 まぁ、こういうところでよく出てくるのはマトンなので仕方がない。

 だが、こいしの方を見てみると変わらずにこにことおいしそうにジンギスカンを食べているため、こいしの口にはあったらしい。

 それならばと思って俺はジンギスカンの肉をこいしに手渡した。

 

「え?」

「あげる。俺は刺身だけで腹いっぱいになるから」

「いいの?」

「おう」

「ありがとう!」

 

 俺が苦手だから押し付けたっていうだけなのにこいしは嬉しそうににこにこと笑顔を浮かべながら俺からジンギスカンの肉を受け取って食べ始めた。ちょっと罪悪感。

 でも、残すよりはましだ。それに、刺身だけでかなりの量があるからこれだけでも十分に腹いっぱいになれるっていうのは嘘じゃない。

 

「ん? どうしたの?」

「いんや、なんでもない」

 

 幸せそうに料理を食べているこいしを微笑ましく思って見ていたら見ていたことがばれて不思議がられてしまった。

 

「外の世界っていいところだね。ご飯も美味しいし、街並みはきれいだし」

「そう……だな」

 

 俺はあまり外の世界にいい思い出が無いもので、今のこいしの発言を全肯定することは俺にはできなかった。でも、決していい思い出が無かったわけではない。

 俺もちゃんと外の世界にもいい思い出というものがあるし、今現在進行形でいい思い出が作られて行っている。だから、今この瞬間だけはこっちの世界も好きになれそうだと思っている。

 でも、どんなに俺の中でこっちの世界の評価が上がろうと変わらないものが一つある。

 

「でも、やっぱり俺は幻想郷の方が好きだな」

「ん? ほうひへ(どうして)?」

「まず口の中の物を飲み込んでからしゃべろうか……」

 

 こいしがりすのように頬を膨らませて食べている姿を見てちょっと愛おしくなって抱きしめたくなるが、ここでは遠慮して置く。

 そしてこいしは口の中に入っていたものを全て飲み込んでからもう一度「どうして?」と聞いてきたから俺は答えた。

 

「こいしと出会えたからかな」

「私?」

「そうだ。俺はこいしが好きだし、これからもずっとこの気持ちがなくなることは絶対にない」

「––……っ!」

 

 その瞬間、こいしは真っ赤にしてうつむいてしまった。だが、俺はそんなこいしにかまうことはなく、話を続ける。

 

「俺の人生のターニングポイントは幻想入りだったんだ」

「ターニングポイント?」

「人生の分岐点みたいなものだ。そこから俺の人生はガラッと変わった」

 

 はじめは予期していない事態だった。

 目を覚ましたらいきなり知らない場所に居て、知らない場所を探索して、知らない屋敷で知らない女の子に出会って。

 きっかけは俺を利用するためだったのかもしれない。だけどダーラ*1が俺を幻想郷に連れてこなければ俺たちは出会うことすら、俺に至っては幻想郷の存在すら知らないまま人生が過ぎていくところだった。

 

「はは、そう考えるとダーラは俺たちのキューピットだったりしてな」

「あんなやつのことを美化するのはあんまりよくないかな」

「ごめんごめん」

 

 今だからこそ、こうして昔の事を笑って話せるけど、昔は本当に辛くて大変な経験をした。

 

「もう……もう絶対に離さないって誓ってくれるなら許してあげる」

「そうか、なら問題ないな。俺はもう二度とこいしを離すつもりはないからな。こいしが離れようとしても、嫌がっても絶対に連れ戻しに行くから覚悟しろよ」

「真こそ! 私から離れられるなんて思わないでね」

 

 そういって俺たちは二人して笑いあった。この幸せな時間が永遠に続けばいい、そう思って……。

*1
前作のラスボス。自分の計画のために真を幻想入りさせて配下に加えようとしていた。




 はい!記念第5話終了

 この無意識の恋では珍しいお風呂シーンでしたね。

 二人はいつも別々に風呂に入っているため、真の理性が大変なことになり、危うくこの小説にR-18のタグが付くところでした。

 そして二人で一緒に料理を食べるシーン、これも僕の好みが入ってます。

 基本的に真がこいしの事を可愛いなどと言っているシーンは僕の気持ちを代弁していると思っていただいて大丈夫です。

 それでは!

 さようなら


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記念第6話 こいしが消えた日

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 真が風呂に入っているとこいしがあとから入ってきて二人で一緒に入ることに。

 こいしと話している間にこいしは真の周りに女の子が多いから不安になっていることを告白する。

 そしてこいしが一番大切だということを証明してと迫られる真の理性がピンチに!

 その後は二人で美味しく夕食を食べた。



 それではどうぞ!


side真

 

 俺たちは飯を食べ終わった後しばらく雑談を交わしてから布団に入って眠りについた。

 こいしがどうしてもっていうから一緒に一つの布団で寝たけど、俺は緊張で全く眠れなかった。まぁ、こいしはぐっすりと気持ちよさそうに眠っていたんだけどな。

 

 そして翌朝––いつも修行やら温泉郷の手伝いやらで今日よりも早く起きているからここまでゆっくりと寝たのは久々だった。

 俺は欠伸をすると昨日、こいしが寝ていたはずの真横へと目を向けた。

 そこにはすでにこいしは居なくて俺の横が寂しそうに開いていた。

 

「そうか……もう起きたのか?」

 

 眠気眼をこすりながらも寝起きで目を覚ますために顔を洗おうと洗面所に向かう。

 それにしてもこいしはどこに行ったんだろうか。浴場からは水の音は聞こえてこないし、トイレの扉は開いていて中には誰もいなかった。

 ちょっと心配になってきてこういう時に能力が使えないのは本当に不便だと感じる。いつもならば無意識を感じ取ってこいしのいる場所を特定できるのだが、外の世界では能力を使えないため、無意識を感じ取ることができない。

 

 それからしばらく部屋の中を探していたのだが、一向にこいしの姿は見当たらない。

 外にいるのか? そう思って外へ出てみると、そこへ猛スピードで走ってくる一人の人物が見えた。

 

「え?」

「あ?」

 

 突然の事、そして寝起きで頭が回っていなかった俺はその走ってきた人物を回避することが出来なくて衝突してしまった。

 

「いてて……わりぃ、大丈夫か?」

「あ、あぁ、だいじょう、ぶ……ってお前は昨日の学ラン!」

「ん? あ、お前は昨日蓮子たちを助けてくれた人か。昨日は本当にありがとうな」

 

 

 俺と衝突したのは昨日見かけたすごい力を秘めている学ランキャップの男だった。確か相談屋の会長とか新聞では紹介されていたような気がする。

 やっぱり何度見ても迫力がある。間違いなくこいつは強く、こっちの世界に居ちゃいけない人材だと思う。

 でも、そんなことよりもまず聞きたいことがあった。

 

「そんなにあわててどうしたんだ?」

「宇佐見とメリーが消えた」

「宇佐見? メリー?」

「あぁ、昨日の黒ハットが宇佐見、金髪がメリーだ。二人とも俺の大切な仲間だ」

「そうなんだ。で、消えたっていうのは?」

「今朝から家にはいない、連絡も途絶えている。二人の身に何かがあったのはまず間違いないだろう」

 

 家にはいなくて連絡も途絶えているということは突如失踪したということか。となると、確かに何かがあったと考えるのが妥当か。

 そしてその二人を探すためにこの人は奔走しているというわけか。昨日もあの二人を探していた様子だし、この人は二人にいつも振り回されているんだろうなと呑気なことを考えたが、すぐに他人事じゃないということに気が付いた。

 そうだよ、俺のところではこいしが消えてしまったんだ。宇佐見さんとメリーさんに何かがあったんだと考えるとこいしにも何かがあったんじゃないかと考えるのが妥当だろう。

 

「まずい。俺も探し人がいるんだ。もしかしたら同じ状況になっているのかもしれない!」

「そうか、なるほどな。お前の探し人も急に消えたっていうわけか」

「あぁ、俺の探し人はこいしっていうんだけど、朝起きたらいなくなっていてな」

「なるほどな。どこを探してもいないわけか。となると確かに状況は酷似している。偶然とは考えられない」

 

 相談屋の男は少し考えると再び俺に視線を向けた。

 

「俺と一緒に一緒に探してくれないか?」

「あぁ、こっちこそ頼む」

「俺の名前は輝山(きやま)一輝(かずき)、相談屋をやっている」

「よろしくな一輝。俺の名前は海藤真だ」

 

 俺たちは名乗りあって握手を交わした。俺たちはこれから同じ目的を達成するための仲間というわけだ。

 だが、これからどうすればいいんだろうか。人を探そうにも手がかりがない。地道に聞いて回るしかないのか? だが、それでは情報を持っている人を見つけるまで時間がかかりすぎる。

 こうしている間にも三人が酷い目に遭っている可能性があっているっていうのに……。

 

「情報ならある。三人がどこへ向かっていったのかも心当たりがある。心配するな」

「そ、そうなのか?」

 

 またまた心の中が読まれてしまった。まるでさとりと話しているような気分になってくる。

 だが、一輝はさとりとは違って外の世界の人間だからそんな能力なんて持っているはずがないんだ。おそらく俺の表情がそれだけ分かりやすかったということなんだろう。

 

 一輝が言うには今からその心当たりがある場所へ行くところだったらしい。そしてその途中で俺に衝突したんだとか。

 行き先が分かっているなら話が早い。

 俺は一輝に案内してもらって走って目的地へと向かった。

 


 

 一輝に案内されてたどり着いたのは京都府外のぼろぼろの神社だった。

 もう何年も手入れされていないようで、人気も全く感じられなくて、ぼろぼろの神社なんだが、不思議と汚いという印象は受けなかった。

 それよりも空間がねじ曲がっているような気配がしてちょっと不気味に感じるし、なぜだか、この神社周辺からは霊力に似た力を感じる。外の世界にはそんな霊力なんて無いはずなのに、だ。

 つまり、ここは幻想郷に最も近い場所なのかもしれない。そして結界が歪み、こっちに霊力が微量ではあるが、流れ込んできているのだろう。

 

「なんだか変な感覚だな。まるで今まで俺たちが住んでいた世界じゃないみたいだ」

 

 どうやら俺と同じ感覚を一輝も味わっているようだった。そのことに俺はまたまた驚いた。

 霊力を持たない人間は霊力を感じ取ることができない。だから空間がねじ曲がっていたとしてもそれを感じ取ることはできないはずなのだが、それを一輝は感じ取っている。

 俺は幻想郷に長いこと住んでいて霊力に慣れているから霊力を使えない外の世界だとしてもこうして感じ取ることができるが、一輝は普通の人間のはずだ。それなのに、なんで一輝が感じ取ることができるんだ?

 

「そういえば、どういう情報を得てここに来たんだ?」

「ん? あぁ、サイコメトリーってやつか? それが俺はできる」

「サイコメトリー!?」

「あぁ、ものに触れるとそのものの記憶を覗くことができる。とはいっても制約付きなんだけどな。自分の念じた記憶しか見ることはできないし、一日以上前の記憶を見ることもできない。だから、完全なサイコメトリーってわけじゃないな」

「そうなのか」

 

 ものに触れることで物の記憶を覗き見ることができる。それは確実に能力だ。だが変だ、なぜか能力が使えないはずの外の世界で能力を使えている。

 俺もこっちに来てから全く無意識を操る程度の能力も使えないから、外の世界では間違いなく能力が抑制されている。しかし、一輝はサイコメトリーという能力を使った技をこの外の世界で使って見せている。

 

「だけど、ちょっと困ったことになっているな」

「どうしたんだ?」

「実は、宇佐見、メリー、そして海藤の連れを誘拐した犯人がここで消息を絶っている。この場所のどれの記憶を読み取ってもここからどこに向かったのかが分からない。足跡がここで消えているというやつだ」

 

 間違いない。今、一輝の言葉を聞いて確信した。

 この場所に結界があり、それが歪んでいるということに少し違和感を抱いていたが、やはり俺の嫌な予感は当たってしまったらしい。

 結界が歪んでいてそこから霊力が出てきているということはまず間違いなくこの結界の先には幻想郷があるのだろう。そしてその結界が歪んでいるということはおそらく、誰かが強引にこの結界をこじ開け、ここから幻想郷へと向かったに違いない。

 つまり、今回の事件の犯人はこの幻想郷のどこかにいるということになる。

 

 だが、そうなると非常に困ったことになる。ここから幻想郷に向かう手段は俺たち二人だけではないということだ。

 さすがに俺もこの霊力も全く使えない状態でこの結界をこじ開けることができる自信はない。そして今まで霊力に触れたこともなく、これを結界だと認識できていない一輝もそれは一緒だろう。

 だけど、一つだけ、たった一つだけこの状況を打開することができる可能性がある。

 

「俺に、考えがあるんだけど、いいか?」

「……わかった。任せる」

「サンキュ」

 

 俺は一言断ってから息を大きく吸い込んだ。そして周囲に響き渡るような大声でこの状況を打開できそうな人物の名前を叫んだ。

 

「シャロぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 

 シャロは帰るときに呼んでくれたら迎えに来てくれると言っていたからおそらく俺の声が聞こえる場所にはいるんだろう。しかし、あの宿泊券は二泊三日の宿泊券だから多分シャロはまだ俺を迎えに来る準備なんかしていなかっただろう。悪いとは思っている。

 だが、今は緊急事態だ。シャロの事情ばかり考えてもいられない。

 

 すると、目の前に突如として目が大量にある空間が空間を割いて出現した。間違いない。

 

「真君、事情は把握してるよ。こいしちゃんが攫われたんだよね」

「あぁ、話が早くて助かるわ。さすが神と言ったところだな」

 

 目の前に開いた空間––スキマの中からシャロが出て来た。どうやらもう準備万端らしい。多分俺たちの行動の一部始終を見ていたんだろう。

 

「お、おい、これはいったいどういう状況だ」

 

 この場に唯一状況が飲み込めていない人物––一輝はこの世の物とは思えない光景を目にして額に汗をかいていた。

 それはそうだ。一輝はずっとこの外の世界で暮らしてきたのだ。こんな非科学的な現象は目の当たりにしたことが無いだろう。いや、一輝のその能力自体が非科学的なものなのだが、そこには触れないことにして––

 

「この人はシャロ。まぁ、俺の友達だ。一輝と同じく特殊な力を持っている」

「なるほど」

「んで、シャロ。状況はわかっているだろうから知っていると思うけど、輝山一輝だ。一輝も大切な人を攫われてしまったらしいから一緒に行動している」

「よろしくねー」

 

 とりあえず軽くお互いの事を紹介して置いて本題に入る。

 

「んじゃ、シャロ、さっそく頼む」

「ん、でも、気を付けてね。この先に繋がっている幻想郷は真たちが今まで暮らしていた幻想郷と全く別の幻想郷だから。だからみんな真のことも知らないだろうし、住民がどれくらいの実力を持っているか未知数だから気を付けて」

「了解」

「ったく……やれやれだぜ。一度にいろんな情報が入ってき過ぎて頭ん中こんがらがっているが、とにかくその幻想郷ってところに宇佐見とメリーは居るんだな」

「そうだね。あんまりいろいろとごちゃごちゃ考えてもあれだし、その認識でいいよ」

 

 一輝はこの段階でいろいろな情報が入ってき過ぎてすでに疲れてきてしまっているようだ。まぁ、確かに今まで生きてきた中で入ってきたことのない会話を一度に大量に聞かされたら疲れるのは当然のことだ。

 だが、一輝はなかなかに理解力が高いほうなのではないだろうか。この難しい会話の中で重要な情報をピンポイントでピックアップして記憶している。

 

「それじゃ、準備はいい? 開くよ」

「大丈夫だ!」

「問題ない」

「じゃあ、オープン!」

 

 シャロがそう掛け声を上げた瞬間、空間の歪みが徐々に大きくなり始めた。それと共に俺たちに高密度の霊力が襲い掛かってきた。

 今まで霊力のない場所に居たから一気に霊力が押し寄せてきたことによって突風のように感じられる。

 そのおかげで少しだけだが、能力が戻ってきている。まだこの場所の霊力量が少ないから能力が不安定だが、この先から確かに無意識を感じ取ることができる。

 こいしはこの幻想郷のどこかにいる。

 

 その瞬間、視界が真っ白な世界に包まれるほどの猛烈なフラッシュに襲われ、咄嗟に目を覆う。そしてそれと同時に俺の霊力が完全に復活し、能力が自由に使えるほどに回復した。

 体の中の霊力だって自由自在に動かすことができる。

 まばゆい光が収まったので、目を開けてみると、そこは先ほど居たぼろい神社ではなく、何度も見たことがあるが、若干違うような気がする博麗神社だった。やっぱりこの場所は俺の住んでいた幻想郷のパラレルワールドのような幻想郷なんだろう。

 

 試しに俺は手のひらに霊力の球を作り出してみる。するとしっかりと手のひらに霊力の球が出現したため、問題なく霊力を操れることを再認識する。

 

「ここは……」

「幻想郷、忘れ去られた者達の最後の楽園。すべてを受け入れてくれる世界」




 はい!記念第6話終了

 こいしが消えてしまいました。

 そしてついに真と一輝の二人が共に行動し始めましたね。

 真はこいしを探し出すために、一輝は蓮子とメリーの二人を探すために!

 再び幻想郷にやってきましたね。しかし、この幻想郷は真の元居た幻想郷とは全く違う幻想郷となっています。

 なぜ真の幻想郷から来た外の世界なのに別の幻想郷ともつながっているかと言うと、別の幻想郷はパラレルワールドなんですよね。

 この神社の結界の歪みが原因で一時的に別の幻想郷とつながるため、その神社が博麗神社へと早変わりするという感じです。

 そしてこの幻想郷は【東方魂愛想】の幻想郷となっています。つまり、今回でやっと【東方魂愛想】の第1話の突然景色が変わった謎が明かされました。

 ここから物語は加速していきます。

 それでは!

 さようなら


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記念第7話 読めてんだよ

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 朝起きてこいしが居なくなっていることに気が付いた真は慌てて探しに出る。

 そこで真は一輝とばったり再開した。どうやら一輝の仲間である蓮子とメリーもいなくなってしまったようだった。

 二人は共に一輝のサイコメトリーで見た心当たりの場所へと向かうと、そこは神社で空間が歪んでいることに気が付く。

 ここで完全に一輝のサイコメトリーで追えなくなったので、一輝は絶望するものの、真はシャロの力を借りて空間、結界の歪みを広げ、幻想郷へとつなげた。

 舞台はついに幻想郷へ。

 はたして真と一輝はそれぞれ己の大切な人を助けることができるのか?



 それではどうぞ!


side真

 

「……空気が澄んでいるな。あまり工業化が進んでいない世界なのか」

「そうだな。確かに現代日本と比べると工業化が進んでいなくて空気も美味いな」

 

 現代日本は工業廃棄物などで大気が汚染されてしまっていて、空気を吸っていてここまで清々しい気持ちになることはないだろう。

 それに、景色がきれいだ。空気が澄んでいると景色がよりきれいに見えるというのも特徴だ。

 

「いい、場所だな」

「そう、だな」

 

 初めて幻想郷に来た一輝もここがいい場所だと思ってくれたらしい。

 だが、いつまでもこうして感傷に浸っている暇はない。早くこいし、蓮子さん、メリーさんを探し出さなければいけないんだ。もしかしたら何かの事件に巻き込まれているのかもしれない。

 

 今回は何の事件とかにも関わらずにのんびりと新婚旅行気分を味わうつもりだったのに、こんなことになるとは……今回の元凶はマジで許さんぞ。骨の髄まで恐怖を叩き込んでやる。

 俺が手をワキワキさせながらそんなことを考えていると一輝が若干引いたような目で俺の事を見てくる。

 

「それにしても霊夢が居ないな」

「霊夢?」

「あぁ、博麗霊夢。この博麗神社の巫女、のはずの女性なんだけど、今日は居ないみたいだな。俺の居た幻想郷の霊夢は基本的に縁側でせんべいを食べながらお茶を飲んでいるんだけど」

「まぁ、今回の目的はその博麗霊夢って人じゃないんだから今回は先を急ごうぜ」

「そう……だな」

 

 俺は若干嫌な予感を覚えつつも、今回の目的は霊夢を探すことじゃないからとにかくこいしの力を感じる方へと歩いていくことにした。

 景色を見ながら歩いていくが、俺の住んでいた幻想郷とほとんど変わらないように思える。確かにちょっと違う点はあるが、そこまで大きな違いはない。

 

 人里までやってきたが、人里の街並みすらも変わらないように思える。

 

 現在はもうすでにお昼時になっているため、食事処からいい匂いが漂ってきている。

 そういえば俺も急いで飛び出してきたから朝食バイキングに参加していないんだよな。だから腹が減ってしまっている。そしてどうやら一輝も同じようで一輝も周囲にある食事処に目を向けていた。

 

「軽く何か食いながら行くか」

「だな、腹が減ってたら大事な時に動けねぇ」

 

 俺の案は即決された。

 俺たちは共に手で持って食べられるものを食べながら歩き始めた。ちなみに俺が買ったものはみたらし団子だ。俺の居た幻想郷でもここのみたらし団子は美味かった記憶があったから買ったが、味は抜群に美味い。ただ、やはり違う幻想郷で作っている人も同一人物とはいえ、完全に思考が同じというわけじゃないから、少し味が違う。ちなみに俺はこっちのみたらし団子の方が好みだ。お土産に帰りに買っていってもいいかもしれない。

 そして隣を歩く一輝の手にあるものはあんぱんと牛乳というまるで張り込みを行う人みたいなラインナップの食べ物だった。

 

「あ、そういや、俺の所属している相談屋って依頼に関係ないことでの暴力は禁止なんだけど、こっちの世界で人殴っても学校にバレねぇかな」

「だ、大丈夫なんじゃないかな」

「よし、じゃあ主犯殴る」

 

 もう殴る気満々の一輝。まぁ、俺も同じ気持ちだ。今回の主犯は許してはおけないからな。

 でも、その装備は探す側の装備じゃないのよ。待つ時の装備なのよ。殴りこむときの装備じゃないのよ、機をうかがうときの装備なのよ。

 

「うん、こっちの食い物も美味いな」

「あんぱんだけじゃ正確に判断することはできないと思うけどね」

 

 あんぱんは正直外の世界も幻想郷も大して変わらないから判断材料としては薄いような気がする。

 

「んで、今はどこに向かってるんだ?」

「あそこ」

 

 俺は食い終わった三食団子の串で俺が目指している目的地を示した。その瞬間、一輝の足が止まってしまった。

 不思議に思って振り返って一輝の様子を見てみると、俺が示した目的地を見ながら口をかっぴらいて驚いていた。

 

「もうすでに不思議なことを体験しまくっているからいまさら城が浮いているだけで驚くところか?」

「そうだよなぁ、ここは現代日本の常識が通じない幻想郷様だもんなぁ、ちくしょう」

「そうそう、常識なんて捨てた方が楽だぞー」

 

 正直俺はもうこの幻想郷を常識に当てはめることを諦めてしまっている。

 

「仮にあそこに俺たちの探し人がいるとして、だ。どうやっていくんだよ」

「え、飛ぶんだけど」

 

 俺はそう言って霊力を操って軽く自分の事を浮かせると俺の事を呆れたような、そして残念がるような表情で一輝が見つめて来た。

 そしてため息交じりで一輝は言った。

 

「お前もそっち側の人間だったか」

「俺は長らくこっち側の人間だからな」

「さいですか」

 

 こうして驚愕したり呆れたりしているが、一輝は幻想郷に来る前からこっちに片足を突っ込んでいるような存在だったわけだが……。

 手品だとか、超身体能力とかそんなちゃちなものじゃない。こいつは自分のその能力を持っていることに全く疑問を抱いていない。むしろ当然かの様にふるまっているが、普通は現代日本にそんな力を持っている奴なんていない。

 俺はそんな一輝の方が異常に感じる。

 もしかしたら俺たちはとんでもない化け物を幻想入りさせてしまったのかもしれない。

 

「っ、おい、海藤。そこの茂みから禍々しい気配を感じるぞ」

「そうだな。これは妖力、妖怪か。ん? この妖力は……」

 

 森を歩いているとすぐ近くの茂みから妖力が漂ってきているのを感じた。しかも、その妖力に混ざって殺気を感じる。

 だが、この妖力は元居た幻想郷でも感じたことがある妖力だ。

 そうだ、こっちの幻想郷では俺たちは面識がない。だから人食い妖怪である彼女が俺たちに襲い掛かってくるのは必然だ。

 

「ん~? あれ~、妖怪も一緒なのか~?」

「お、女の子?」

 

 やっぱりそうだ。あの金髪に大きなリボン。間違いない、常闇の人食い妖怪であるルーミアだ。

 目の前に出て来たから急に襲われるのかと思ったらちょっと不思議そうな目で俺の事を見られた。そして俺の事を見ながら妖怪も一緒って言ったよな。

 つまり、やっぱり俺は幻想郷内では半分妖怪の血を持っているということになるのか。

 

「えっと、君、迷子か? 親は?」

「えーっと」

 

 ルーミアが若干困ってしまっている。

 おそらく今すぐにでも一輝を襲いたいのだろうけど、妖怪である俺が近くにいるため、自分が他人の獲物を横取りしてしまうことになってしまわないかと心配しているのだろう。

 俺が妖怪でよかった。一輝だけだったらすぐにすぐに襲われていただろう。

 ルーミアの見た目が初見殺しみたいなものだからな。

 だが、これはいいチャンスかもしれない。俺は妖怪だと認識されているから俺が襲われることはない。だからいざとなれば俺が不意打ちでルーミアを倒すことができる。一輝にこっちでの戦い方を教えるいいチャンスだ。

 

「ルーミア!」

「へ? 私、名前言ったっけ?」

「こいつは俺の獲物じゃないから別にいいぞー」

「は? 獲物?」

 

 この場で状況が飲み込めていないのは一輝だけなので、俺とルーミアの会話にいくつものの疑問符が浮かんでしまっているようだった。

 そんな一輝を放置してルーミアは俺に問いかけて来た。

 

「そーなのかー? 食べてもいい人間なのか~?」

「は? たべ––」

「いいぞー」

 

 俺は間髪入れずに勝手に返事した。

 するとルーミアはにっこりと一瞬笑顔を浮かべて俺に礼を言うと、すぐさま鋭い獲物を見る目付きで一輝へと視線を向けた。

 

「ありがとうなのだー。それじゃあ、いただきまーす」

「は? ––まじで? 俺食われんの? てか、海藤今勝手に返事したよな。許さねぇからな!」

 

 なんか状況をやっと把握したらしい一輝は脱兎のごとくルーミアから逃げ出した。そしてその背後を飛んでルーミアが追いかけて行った。

 一輝の全力疾走は確かに速いが、空を飛んだ方が障害物が少ないから早く移動することができる。このまま逃げ続けていても一輝に勝機はないだろう。

 

 俺はちょっと一輝の実力に興味があった。あの平和な現代日本であれほどの威圧感を放っている人物とは初めてであったからだ。

 

「まてーなのだ~。逃がさないのだ~」

「ち、闇雲に逃げていても無駄に体力を消耗するだけだな」

「諦めたのか~?」

 

 やっと走る速度ではルーミアに敵わないことを理解して一輝は立ち止まってジッとルーミアの事を見据えた。

 そしてそれを見るとルーミアも一輝の目の前に着地してお互いに向き合う。だが、その表情はお互いに違うもので、一輝は命がかかっているので真剣な相手の動きをくまなく観察するような目だが、ルーミアはもう追い詰めたと思い込んでにこにこ笑顔を浮かべてじりじりと一輝との距離を詰めていく。

 

「それじゃあ、いただきまーす」

 

 そういってルーミアは飛び掛かった。だが、その攻撃は空振り、何もない場所を抱きしめる結果となった。

 速い、おそらくルーミアはなにが起こったか分かっていないはずだ。その証拠に一輝を見失ってきょろきょろと見渡していた。だが、一輝は消えたわけじゃない。一輝はちゃんとルーミアの後ろ(・・)にいる。

 そう、一輝はルーミアの視線を読み、視界から消えるような動きで飛び掛かってきたのと同時にルーミアの背後へと回った。

 

 そしてついにルーミアは一輝の事を見つけた。

 今の一連の流れを見ていた俺は気が付いていた、一輝は霊力などというものを一切使わなくともすでに妖怪であるルーミアを超えるほどの実力を有していると。

 だが、ルーミアはそのことに気が付いていないようで、まだにやにやと笑っていた。

 

「まぐれで回避できたかもしれないけど、今度はそうはいかないのだ~」

「さいですか」

「貴方はただの人間、そして私は妖怪。ただの人間が妖怪に勝てるわけがないのだ~!」

 

 今度は飛びつくのではなく、一輝を連続で殴りつけるルーミアだが、その攻撃は一切一輝には直撃せず、最小限の動きのみで回避していく。

 まるでルーミアが次にどう動くのかが読めている(・・・・・)かのようだ。

 本来普通の人間よりも力も能力も上の妖怪が普通の人間に負けるわけがない。それはルーミアの間違いではない。しかも、一輝の様に外来人で戦い方もわかっていないような人物だとなおさら勝てるわけがない。

 でも、それが一輝ではない場合だ。

 

「はぁ……はぁ……」

「次にお前は『ただの人間ごときにどうしてパンチが当たらないの?』という」

「ただの人間ごときにどうしてパンチが当たらないの? ––はっ!?」

「読めてんだよ。お前の思考がさ!」

 

 ついに一輝は動き出し、今度はルーミアに向かって蹴りを放った。そしてその攻撃にルーミアは反応することができずにそのまま蹴り飛ばされて森の奥へと消えていった。

 俺が知る限りルーミアはいつも人間を襲おうとしたらその相手が強かったり連れが強かったりして返り討ちに合っているようだ。なんか、人食い妖怪なのに、人を食べることができていないなんてちょっと不憫なような気がするが、人間をそうやすやすと食わせるわけにはいかないんだ、我慢してくれ。

 

「それにしても、一輝強いなぁ。その実力があれば全然異変解決でき––」

「お前も森の中に蹴っ飛ばしてやろうか、かぁい()とぉう()しぃん()

「す、すみませんすみません。許してください」

 

 やっぱり俺がルーミアに一輝を売ったから非常に怒っていらっしゃった。このままじゃ俺も蹴り飛ばされてルーミアと同じ運命を辿ることになりかねない。

 その後、帰りにアンパンをコンビニ袋いっぱいに驕るという条件で許してもらえた。




 はい!記念第7話終了

 【東方現代物語 ~最強の相談屋が華麗(物理)に事件を解決する~】を読んだことがある人は今回の話を読んで思ったかと思いますが、一輝が原作の時よりも強化され過ぎじゃない? ということですね。

 これに関しては相談屋として自分から攻撃ができないという枷があり、相談屋としての仕事以外では正当防衛でも攻撃したらダメというのがあったため、かなり一輝の力をセーブする結果になっていました。

 これがついに相談屋のルールが行き届かないところに来たことによってついに一輝の本気を見せることができるようになりました!

 能力的にはさとりに似たようなものですが、さとりほどは制度が良くはありません。せいぜいこのあとこの人はこうしそうだなとぼんやりと浮かぶ程度ですね。

 と言うか他作品でその実力が明かされるって、それでいいのか輝山一輝!

 まぁ、でも強い敵と戦うならルーミアくらい軽く倒してくれないと話にならないですからね。

 それでは!

 さようなら


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記念第8話 上には上が……

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 幻想郷へとやってきた真と一輝

 そこは博麗神社だったが、霊夢は居なかった。

 一輝と共に無意識を感じる方へと向かう真だったが、その道中でルーミアに遭遇。

 真は一輝の実力が見たかったため、一輝をルーミアに売る。

 一輝とルーミアの戦いはルーミア有利かと思われたが、一輝は完全にルーミアの動きを読み切り、圧勝した。

 さぁ、こいしの元まではあと少しだ。



 それではどうぞ!


side真

 

 少し歩き、俺たちはようやく城の真下までやってきた。

 近くで見てみると、その城はなんだか紅魔館と地霊殿を足して2で割ったような見た目をしていることに気が付いた。

 そしてあの城からは膨大な霊力を感じる。おそらく俺たちが空を飛ぶのと同じようにあの城も霊力を使用して空中浮遊をしているのだろう。

 しっかし、あの城を浮かせられるほどの霊力って言ったらものすごい量の霊力が必要になるはずだ。いったい、どれほどの力の持ち主があの城の中にはいるんだろうか。

 

「そんじゃ、俺に捕まってくれ。全力で飛ぶから振り落とされないようにな」

「あぁ、了解だ」

「《マイスペース》」

 

 その瞬間だった。

 突然背後から冷気が襲い掛かってきたため、俺と一輝は飛行を中止し、慌てて飛び退いた。だが、冷気は地面を凍らせ、着地した瞬間、右足が凍り付き、動かせなくなってしまった。

 このままだと俺だけではなく、一輝も凍って動けなくなると考えた俺は勢いよく振りかぶって凍った地面の範囲外まで一輝を思いっきり投げ飛ばした。

 

「なるほど、自分を犠牲に仲間を逃がしたか。追いかけるのもめんどうだからそこで仲良く凍っていればよかったものを……」

「お、お前は……誰だっ!」

 

 俺が問いかけ、瞬きをして目を再度開けた瞬間、俺の首元に刀の刃を突き立てながら俺の目の前にその男は立っていた。

 銀髪で鋭い目つきだ。かなりの威圧感があり、霊力量もこの世界に来てから見た中では一番の霊力量だ。

 それに、一瞬で俺の目の前まで移動してきた。咲夜と似たような能力なのか? わからない。ただ、一つわかることと言えば、俺は今からこいつに殺されるということだ。

 

「妖夢はどこだ」

「よ、妖夢?」

「しらばっくれても無駄だ。この城に妖夢がいることはわかっている。観念しろ」

「っ! も、もしかしてお前も––」

 

 その瞬間、突然視界が傾いた。別に俺が首を倒したわけじゃない。突然の出来事でよくわからなかったが、すぐに理解した。

 俺はこの男の持っている刀によって首を一刀両断されてしまったということだ。相当頭に来ている様子だ。

 様子を見るに、妖夢も攫われてしまってこの男が探しに来たということなのだろう。だが、さすがに事情を聞かずに首を斬るのはどうかと思うんだけどな……。

 しかし、この状況でも動じなくなってしまっている自分が怖い。

 

 なにせ、体が木っ端みじんに爆散したことだってあるくらいだしな。

 

 俺は冷静に斬られた首をキャッチすると再度元あるべき場所に戻した。

 

「いきなり何するんだよ……」

「っ、お前こそなんで死なねぇんだよ。首切られたんだぞ。まさか不死身か?」

「いや、死にはするけどさ」

 

 それにしても今のは切り口が鮮やかすぎて全く痛みを感じなかったな。

 だけど、体的にはかなりのダメージだっただろう。俺の能力、【致命傷を受けない程度の能力】が無ければ今頃死んでしまっていた。

 

「そうか、なら、死ぬまで斬るだけだ!」

「うわっ!」

 

 突然銀髪男は再び刀を振るってきたので咄嗟に俺も霊力刀を作り出して応戦した。

 一撃がものすごく重い。気を抜いたらあっさりとやられてしまいそうだ。

 全力で戦うにはやっぱりこの凍っている足が邪魔だ。だから俺は自分の足を霊力刀で一刀両断させ、その足を新しく生やした。妖怪の血が混ざっているせいで再生能力が異常なんだ。それに、体の欠損は致命傷だ、だから生える。

 

「っ、妖怪か。なるほどな。空砲《空気銃(エアガン)》」

「遠距離!? 狙撃《スナイパー》」

 

 少し距離を取って銀髪男が遠距離の弾幕を放ってきたので、俺は足元にある石ころを手に取って全力投球した。

 お互いの攻撃がぶつかり合い、俺たちの間で大爆発が巻き起こる。その次の瞬間、背後から殺気を感じ、咄嗟に俺は刀を背後に振りながら飛び退くと、ちょうど俺の刀が銀髪男の刀をはじいて銀髪男を弾き飛ばすことができた。

 なんなんだ、この男の能力は。瞬間移動、謎の弾幕、氷のフィールド、全くつかむことができない。

 

 複数能力を持っていると考えていいんだろうけど、全くどんな能力なのかが想像つかない。

 

「霊縛波!」

 

 手のひらに霊力の球を作り出し、一気に銀髪男へと接近し、この霊力の球を叩きつけた。

 

「空符《君と俺との間の空間》」

 

 だが、その霊縛波は銀髪男の周囲に展開された謎の見えない壁によって阻まれ、霊縛波は発動したものの、全く銀髪男にダメージを与えることはできなかった。

 霊縛波は俺の最高火力の技だ。まさかこれを防がれてしまうとは夢にも思っていなかった。

 

「凍てつき永遠の眠りに落ちろ。氷符《アイスロック》」

「っ!」

 

 謎の壁が消えた瞬間、銀髪男は素手で俺の服をつかんできた。その瞬間、俺の体が徐々に凍り始めた。

 今までに感じたことが無いほどの冷気によって急速に俺の体が冷凍されて行っているのが分かる。凍らされた場所の力が全く入らない。体内まで凍ってしまっているようだ。

 徐々に俺の体は凍っていき、ついには顔だけが残った状態になった。

 

「くそ、強いっ」

「終わりだな。空符《アイスブレイカー》」

「がぁっ!」

 

 銀髪男がその技を使った瞬間、俺の体内にものすごい衝撃が走り、体が一気に膨張して破裂し、俺の胴体が粉々になった。

 再び俺は普通ならば死んでしまうような攻撃を受けてしまった。

 俺は死なないけど、そんな攻撃を受けてしまった時点で俺の負けのようなものだ。つまり、俺は2度もこの銀髪男に敗北してしまった。

 だけど、まだまだだ!

 

 破裂した肉片がひとりでに俺の体に集まってきて再び俺の体を形成して再生した。

 だが、今のはものすごい激痛が走った。もう食らいたくないものだ。

 

「わぁ、キメェ」

「ちょっと傷つくんだけど」

「だって、本当の事だからな」

 

 確かに肉片がひとりでに動いて再生するのはきもいかもしれないけど!

 だけど、このレベルの攻撃を何度も食らい続けたらさすがに俺の命も危ないかもしれない。この後強い敵との戦いがあるからとためらっている場合じゃない。

 死んだら、そこで終わりなんだから。

 

「クレア……」

 

 ついに俺はクレアを発動させた。

 心は冷静に、そして霊力を完全に操作できるようになった。さっきまでとは攻撃の質が180度変わってくるぞ。

 

「霊力を完全に隠せる人は初めて見たな」

「俺も、お前ほどよくわかんない能力の奴は初めて見た」

「そうか、じゃあ、死ぬまで何度だって殺してやるよ!」

「っ!」

 

 突如として背後から殺気を感じたため、背後に刀を振ると、ちょうど俺の刀が背後に突然移動した銀髪男の刀を防ぎ、押し合う状態になった。

 すると銀髪男は回し蹴りを放ってきたため、俺も応戦し、蹴りを放つことで蹴りも防いで見せた。

 その瞬間、額に銃の形にした右手の人差し指の指先が当てられた。

 まずい、そう思った時にはすでに遅かった。

 

「空砲《空気銃(エアガン)》」

「だはっ」

 

 指先から離れた超高威力の球は俺の頭を貫通して飛んで行った。その強烈なダメージによって一瞬意識が飛びそうになったが、何とか持ちこたえて体を再生させる。

 そして腕にクレアの霊力を纏わせてクレア装を発動させる。

 

「はぁぁぁっ」

「っ! さっきより重いっ!」

 

 俺はクレア装を纏わせた右腕で銀髪男を殴りつけ、銀髪男は咄嗟に腕をクロスして防御したが、俺は関係ないとばかりにそのままの勢いで殴り飛ばした。

 なんとか今のは至近距離だったというのもあって銀髪男の反応速度を超えて殴り飛ばすことができたが、さっきのバリアみたいなものを使われていたら今のパンチも無力と化していた。

 正直、今まで戦ってきたどんな能力よりも厄介な能力だ。非常に戦いにくい。

 

「っ! かはっ」

 

 殴り飛ばし、殴り飛ばした方を見据えていると背後から刺される感覚がして胸から刀の先端が生えてきていた。貫かれたのだ。

 まさか、殴り飛ばされたあのままの体制から即移動して俺に刀を突き立てて来たとでもいうのか。

 

「へ、今のは痛かったぞ」

「そ、そうか……よかったな」

 

 異常なまでの体感、反応速度、適応速度。どれをとっても人間技じゃねぇ。

 だけど、こんなところで死ぬわけにはいかないんだ。

 

「俺は、平和に新婚旅行をしたいだけなんだよ。だから、それを邪魔する奴は全員ぶったおす!」

「っ!」

 

 俺はついにクレア王を発動させ、胸の筋肉に力を入れる。

 すると俺に突き刺した刀は抜けなくなったようで、すました表情をしていた銀髪男の表情は驚愕の色に染まった。

 そして俺は思いっきり振り返ってそのままの勢いで回し蹴りをして銀髪男を蹴り飛ばした直後、手のひらに霊縛波を作り出すと、がっと握りしめて投擲の体制で構えた。

 

「霊縛波、狙撃《スナイパー》」

 

 霊縛波は通常、使用者の手から離れると霊力が分散してしまって消滅するのだが、狙撃《スナイパー》の速度ならこの距離だったら消滅する前に直撃する。

 霊縛波を狙撃《スナイパー》の力を借りて投げ飛ばすと、そのまま銀髪男に霊縛波が直撃した。

 

「があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 妖忌さんの使う霊縛波は山をも吹き飛ばすほどの威力を持っている。さすがに俺の霊縛波にはそこまでの威力はないが、それでも森を吹き飛ばすほどの威力を誇っている。

 無事でいられるはずがない。

 

 俺はその隙に背中に突き刺さった刀を抜いて投げ捨てた。

 

「く、はぁはぁ……」

 

 さすがの銀髪男も肩で息をしていた。だが、その銀髪男には目立った外傷がない。

 これにはもう笑うしかない。

 

「今のは正直危なかったな。さっきまでとは威力がけた違いだ。危うくバリアが破壊されるところだった。咄嗟にバリアを張って正解だったが、く……さすがにダメージが……」

 

 どうやらバリアで防ぎはしたが、完全にダメージを無効化できたわけではないらしい。腕を抑えているということは腕にダメージを負ってしまったということなのだろう。

 あの男からは妖力が全く感じられないところから察するにおそらく普通の人間だ。簡単に傷が再生することもない。

 このまま押して押して押しまくれば勝てる可能性がある!

 

「霊妖斬!」

「取寄《サルベージ》、霊力斬」

 

 なんと銀髪男がサルベージという技を使った瞬間、俺の真横に捨てられていた刀が瞬間移動し、銀髪男の手の中へ、そしてそのまま霊力斬を放って俺に応戦してきた。

 だが、霊妖斬は霊力斬よりも威力が高い。これなら押し切ることができる。

 

「《瞬間移動》」

 

 その瞬間、突如として目の前に銀髪男が瞬間移動してきて刀を直接振るってくる。

 そういうことか、あの霊力斬は俺の攻撃に応戦するという思考にさせるためのブラフか! 本当の狙いは俺に直接攻撃をすることだったんだ。

 くそ、こいつの瞬間移動、厄介すぎる。

 

 そして俺は咄嗟に刀で防御をするものの、体勢が悪かったため、その威力に押し負けてその場に倒れてしまった。

 まずい。そう思ったが、遅かった。

 銀髪男は俺の体にまたがると両手で刀をもって俺の胸に突き立てると勢いをつけて振り下ろしてきた。

 また負けた。クレア王まで使ったのに勝てなかった。

 

 俺は再度胸に刀を突きさされることを覚悟して目を閉じた。

 その瞬間、女性の声が俺の耳に響いた。




 はい!記念第8話終了

 ついに2つ目のコラボ作品【東方魂愛想】の主人公、空頼裕太が登場しました。

 そして真と裕太の戦いはまさかの裕太の圧勝という結果に終わりました。

 二つの作品のバトルシーンの過酷さを見たら真の方が強いように思えますが、Twitterでもツイートしましたが、能力的には裕太の方が強いんですよね。

 クレア王では裕太の空間を操る能力には敵わないんですね。

 そして最後に聞こえた女性の声とは!?

 それでは!

 さようなら


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記念第9話 新たな仲間

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 目的地である城の真下までやってくると二人を地面をも凍らせる冷気が襲う。

 真は一輝を投げて助けると、攻撃をしてきた銀髪男と戦う事になる。

 銀髪男は常に真の一歩先に行き、クレア、クレア装、クレア王を使用しても銀髪男には敵わず、真は銀髪男に敗北してしまう。

 そして再度刀が突き刺されそうになったその時、女性の声が聞こえてきた。

 果たしてこの声の正体とは?



 それではどうぞ!


side真

 

「ちょっと、落ち着きなさい裕太君!」

 

 どうなっているのか気になって再度目を開けるとそこには、俺に刀を突き刺そうとしている手を必死に抑えている黒髪の女性の姿があった。

 何がどうなっているんだ。

 

「忍冬、止めないでくれ。こいつを殺して妖夢を助ける」

「だから、一回落ち着きなさいって言ってるでしょ! 頭冷やしなさい!」

 

 そしてやっとの思いで女性は銀髪男の事を突き飛ばした。

 あぁ、助かったのか? この女性に助けられてしまった。結局俺は自分の力だけでは今の攻撃にも抵抗できなかった。

 

「全く……裕太君はすぐ妖夢ちゃんの事になると頭に血が上って周りが見えなくなるんだから……君、大丈夫?」

「あぁ、助けてくれたから、な。首飛ばされたり、体粉々にされたり、心臓貫かれたけど、問題ない」

「問題しかないじゃん!」

 

 確かに問題しかない。今、俺は出血多量でかなり意識が朦朧としている。

 やっぱり太い動脈がある場所を斬られるとその分ダメージはデカいな。だけど、半妖の俺の血は黙っていても超スピードで補充されていくからやっぱり問題はない。

 強いて言えば体中痛くて動くのが辛いということか。

 

「あれ? 大きい傷はない」

「なぜかこいつ、再生速度が異常に速いんだ」

 

 俺の体は致命傷を受けないようになっている。だから致命傷になる傷に関してはすぐに再生する。ただ、小さい傷に関しては治すことができないから妖怪の治癒力で回復するしかないんだけどな。

 

「君はなんでここにいるの?」

「……大切な人を取り戻しに来た。力をこの城の中から感じる」

「なるほどねぇ。裕太君……」

「え、あーっと……すまない。早とちりだった」

 

 俺が理由を言うと女性は銀髪男の事をにらみつけ、銀髪男が謝ってきた。

 まぁ、でも銀髪男の気持ちはわからないでもない。大切な人が攫われて無事でいられる人がいるはずがないんだから。そして俺だって今まで見たこと無いような人がこんな異変の主犯がいる場所の近くに居たらそりゃそいつの仲間なんじゃないかと思って攻撃してしまうかもしれない。

 ただ、一つ言うとしたら俺じゃなかったらまず間違いなく死んでいた、ということだ。

 

「いいよ。その人の気持ちもわからないでもないし、突然この世界にあらわれた怪しいやつだっていうことも自覚してる」

「そういや、ついさっき何者かに博麗大結界をこじ開けられたって紫が言ってたな。それも二回も」

「あぁ、その片方は俺たちだ。主犯を追っていたら主犯が開けたらしい歪んだ痕跡が残ってたからそこを再びこじ開けてもらったって感じだ」

「こじ開けてもらった?」

「あぁ、優しい神様に、な」

 

 俺のその言葉に首をかしげる二人。多分こっちの世界の神は地上の人たちとは関わっていないんだろうな。

 むしろおそらくシャロや彼方が異常なだけなのかもしれない。シャドウだって傍観を決め込んでいるわけだからな。

 

「いてて……おーい、大丈夫か海と––って大ピンチ!? いや、そうでもなさそうだな」

 

 俺が投げ飛ばしたダメージが残っているのだろうか。ぼろぼろの一輝がゆっくりとこっちに歩いてきた。

 どうやらあの氷から逃れることはできたみたいだ。よかった。

 間違いなくこの銀髪男は幻想入りしてまもなく戦う敵の強さではないから今の戦いに一輝が巻き込まれなくてほっとした。

 

「あの男は連れだよな」

「あぁ、外の世界で出会って俺たちと同じく大切な人を取り戻しに来たすごいやつだ」

 

 一輝の強さはさっき見た。並みの妖怪相手だったらまず間違いなく負けることはないだろう。

 

「そうなんだ。それじゃ、みんな同じ目的を持った者同士ということね」

「まぁ、そういうことになるか」

「そんじゃ、みんなで一緒に敵地に乗り込むんだから自己紹介をしよう。私の名前は忍冬彩、能力は【肉体を鋭くさせる程度の能力】」

 

 体全体が刃物ということか。

 何も武器を持っていないから大丈夫と油断していたら突然体を斬られる可能性があるというのは怖いが、言ってしまえば体が武器になるから荷物が多くならなくていいっていうのがあるな。

 

「俺は空頼裕太、能力は【思いが力になる程度の能力】、【乗り越える程度の能力】、【空間を把握し、空間を操る程度の能力】、【凍らせる程度の能力】。この四つだ」

 

 なんなんだよこのチートキャラは! 主人公補正が強すぎるにもほどがあるだろ!

 おそらくさっきの戦いで使っていた能力は【空間を把握し、空間を操る程度の能力】と【凍らせる程度の能力】の二つだろう。そして俺たちを凍らせてきたのが【凍らせる程度の能力】、瞬間移動やあの謎の弾幕はおそらく【空間を把握し、空間を操る程度の能力】なんだろう。

 能力がチート過ぎる。そしてさらにはあの戦闘センス。どうやら俺はとんでもない化け物と戦いを繰り広げていたらしい。

 

「それじゃ、次は俺だな。俺はみんなと違って現代日本から今幻想郷に来たばかりだ。輝山一輝という。能力っていうのかは分からないが、相手の考えを読んだり、触れたものの一日以内の念じた記憶を見ることができる」

 

 一輝の能力も中々に強いな。というか、さっきのルーミアの考えを読んでいたのは能力だったのか?

 能力的にはさとり妖怪の物に近いけど、サイコメトリーが使えるっていうのが違う点か。

 

「最後は俺だな。俺は海藤真。別の幻想郷で暮らしていた。能力は【都合のいい状況を作り出す程度の能力】と【致命傷を受けない程度の能力】、あとこの二つは条件付きなんだけど【上書きする程度の能力】と【崩壊させる程度の能力】の四つだな」

「なるほど、俺がどれほど攻撃しても死ななかったのは【致命傷を受けない程度の能力】があったからか」

「そうことだな」

 

 そうして軽く自己紹介が済んだので、次に議題に上がったのはどうやってあの城に侵入するかだ。

 もともと幻想郷住みの俺、裕太、彩は空を飛ぶことができるが、一輝はついさっき幻想郷に来たばかりで飛び方もろくに知らない。

 本当ならば俺が軽く飛び方を教えたうえで一緒に飛んでいく予定だったが、裕太の襲撃があったこともあって時間は一刻を争う事態だ。

 そこで裕太があっけらかんとした口調で言った。

 

「俺が瞬間移動させれば解決だ」

「え、他の人を瞬間移動させることもできるのか?」

「あぁ、俺の体に触れていれば一緒に瞬間移動することができる」

「なるほどな、それなら解決するが」

 

 侵入方法ははっきりしたが、正直言ってあの中にどれくらいの戦力がいるかが分からない状態だ。

 どうやって主犯を叩きに行くかが問題になってくる。正直言って一輝をあの城まで運んでいくことよりも難問だと考える。

 

「それも問題はない。俺の操れる空間の範囲は《マイスペース》の範囲内のみなんだが、この範囲内にこの城の中で一番力が強いやつの霊力を感じる。その中近くには知らない霊力二つとこいしと妖夢の霊力もあるな。間違いない。俺の瞬間移動なら直接ここに移動させることができる」

 

 やっぱりチートだった。

 本来ならばあの城の中を徐々に進んでいくことになるのだが、こともあろうにこの男は直でボス部屋に行こうとのたまったのだ。

 確かにすぐに主犯と戦えるのはかなり助かるが、言っていることとしたらダンジョン攻略をすっ飛ばしてバグ技でボス戦に進もうと言っているのと同じことだ。

 正直俺たち居なくてもこのゆート*1だけで今回の主犯は倒せそうな気がする。

 

「よし、問題はオールクリアだね」

「それじゃあ、行くぞ。みんな俺の体に掴まってくれ」

 

 そして彩は裕太の腕に抱き着いて掴まり、裕太にぐいぐいと引き離そうとされている。

 俺も裕太に掴まろうと数歩歩いて裕太に近づこうとすると、一輝が俺だけに耳打ちしてきた。

 

「転移したらまず地面に何でもいいから破壊力のある技を放ってくれ」

「え?」

 

 それだけ言うと一輝も裕太の肩に掴まったため、残るは俺一人のみとなった。

 ちょっと一輝の言っていたことの意味が分からないが、それを考えている暇はない。一輝も何も考えなく意味深な発言なんてしないだろう。

 それに、同じように宇佐見さんとメリーさんを助けなければいけない一輝が俺に変なことを吹き込むメリットがない。ここは信じてもいいだろう。

 

 その決断をしてから俺も一輝とは反対側の肩に手を置いて掴まる。

 

「それじゃあ、行くぞ。《マイスペース》、そして《瞬間移動》!」

「霊縛波!!」

 

 俺は掴まりながらこっそりと手のひらで霊縛波を作り出し、瞬間移動したその瞬間に俺は城内部の床目掛けて手のひらの霊縛波を叩きつけた。

 すると俺たちはその床を見て驚愕した。

 なんと、瞬間移動したその先は魔法陣の上だったからだ。しかも俺たちが乗った瞬間に発動するタイプの魔法陣だったようで、俺たちが床に降り立った瞬間に光始めた。

 だけど、俺が床に霊縛波を発動して極太のレーザーで床を一撃で粉砕したため、その魔法陣は崩壊し、その魔法陣で発動するはずだった罠は不発に終わった。

 

「きゃああああ」

「うわわわわ」

「ぐっ」

 

 彩、裕太、一輝が床が崩れて体が自由落下を始めたことによって悲鳴を上げる。そして下の階の床にたどり着いた俺たちは額に冷や汗を流した。

 あのまま気が付かずに魔法陣を破壊しなかったらどうなっていたことだろうか。考えるだけでも恐ろしいことだ。

 まさか一輝はこれを読んでいて俺に技を放つように言ったのか? だとしたら一輝はものすごく頭が切れる。絶対に敵に回したくないタイプの奴だ。

*1
裕太とチートを合わせた真考案のあだ名




 はい!記念第9話終了

 このメンバーの中でパッとしない能力は真だけですね。

 裕太も一輝も強い能力ですし、【東方魂愛想】を読んだ人は彩特有の力が強いことを知っていると思います。

 真に関しては耐久力が高いだけなんですよね。確かにクレア王を使えるので戦いの才能はあるのですが、クレアも霊縛波も真しか使えないわけではないので、特有の能力というのが耐久力が高いだけという。

 崩壊させる程度の能力に関してもこいしがいない状態で使用したら自分も巻き込んでしまいます。
 それでもここまで強くなった真ってすごくないですか?

 それでは!

 さようなら


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記念第10話 目的

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 真に攻撃しようとする裕太を彩が止めに入った。

 それによって裕太が真のことを誤解して攻撃していたということが判明した。

 そして真、裕太、彩、一輝の四人は協力関係を結ぶ事に。

 四人で裕太の能力で城の中に瞬間移動をする事にしたが、その直前に一輝が真に床に強力な技をぶっ放すように指示をする。

 そして瞬間移動すると、そこにはトラップの魔法陣が展開されており、真が魔法陣に霊縛波を放った事によって難を逃れる。

 そのことを読んだ一輝の読みの能力に真たちはおののくのだった。



 それではどうぞ!


「済まない。危なかった。まさか移動先に魔法陣があるなんて」

「でも、どうしてわかったの?」

「いや、一輝がやれって言ってきてさ」

「これだけの事件を引き起こす奴だ。不測の事態の事を何も考えていないはずがない。しかも空頼のような移動系の能力保持者がいるこの幻想郷で事件を起こしている奴だ。真っ先に瞬間移動してくることを考えないはずがない。普通ならこう考えると思っただけだ。何も確証はなかったけどな」

「それでも助けられたことは事実だ。ありがとな」

「そんなことよりも俺たちは落ちてしまったんださっさと上がるぞ」

 

 そういうと一輝はダンッと音がなるほどの力で床を蹴ると真上へ飛び上がった。

 あまりにも力が強すぎて床に小規模のクレーターが出来上がっていることは言った方がいいのだろうか。そんなどうでもいいことを考えている間に一輝は上の階へとジャンプで登ってしまった。

 この階層の天井、体育館の天井よりも高いんだけど、それをジャンプだけで登ってしまう身体能力がある時点で一輝も十分こちら側の人間だよなぁ。そんなことを考えながら俺たち三人は腑に落ちないまま飛んで上の階まで戻ってくる。

 

 その瞬間、まばゆい光が辺りを包み込んだ。

 俺たちはその光を直接見たわけじゃないので、目へのダメージはそこまでなく、すぐに目をそらすことによって目は無事だった。

 今の光は何だったんだろうか、そんなことを考えながらこの部屋の奥に鎮座している男を見る。

 

 その風貌はまるで王のようだ。そしてその両サイドには宇佐見さん、メリーさん、妖夢、こいしの四人が入ったカプセルのようなものが置いてあった。

 四人とも服を接がれ、緑色の液体で満たされたカプセルの中に入れられていた。

 口には酸素ボンベのようなものが着用されているため、呼吸はできている状態なんだろうけど、とても無事とは言えない状況だった。

 

「お前が、これをやったのか」

「お前の目的はなんなんだ」

 

 俺と裕太は同時に男へと質問を投げかけると男は一瞬にやっと笑った直後、大声で笑い始めた。

 この状況で大笑いしている男を不気味に感じた俺と彩は同時に一歩後ずさった。だが、裕太と一輝はずっとうつむいた状態で動かない。

 すると男は愉快そうに口を開いた。

 

「まずはよくさっきのトラップを見抜いたと誉めてやろう。そしてこいつらを拉致したのも俺、グレバンだ。理由は簡単。この者たちのエネルギーを回収するためだ」

「エネルギーの回収ですって!?」

「そうだ。この者は潜在エネルギーが豊富だ。潜在エネルギーは個々が持っている成長率の事だ。この者たちは鍛錬すれば鍛錬するだけ強くなる。お前たちもそれは同じだが、お前たちの潜在エネルギーでは足りない。そしてこの機械でこの者たちの潜在エネルギーを燃料として取り出すことができる。この燃料は兵器の燃料としても使うことができる。ここまで言えばわかるかな」

「っ、お前、戦争でも始めるつもりか?」

「大正解だ。俺はこの力を手にし、全世界を手中に収めて見せる! まぁ、こいつらから潜在エネルギーを貰った暁には生命エネルギーがなくなって死んでしまうんだけどな」

 

 ぐはははははと高笑いを始めるグレバン。

 確かにこいしの成長は著しい。少し修行をしただけで俺の戦い方が分かっているとはいえ、俺のクレアについてくるのだから。そしてそれはほかのみんなも鍛えれば同じように急成長するということなのだろう。

 その力を利用して兵器を作って戦争する? そして全世界を手にするだって?

 そんな、そんなくだらないことの為だけにこいしを、みんなを利用しようというのかっ!

 

 怒りでどうにかなりそうだった。

 自分の大切な人の力をそんなことのために利用するなんて、許せない。

 しかも、こいしたちが死ぬだって? そんなこと許せるはずがない。

 

「グレバ––」

「グレバン! もう許さねぇぞ!」

「ちょ、裕太君っ!」

 

 俺よりも先に限界が来たのは裕太だった。

 裕太は刀を鞘から抜き、瞬間移動でグレバンへと急接近をしようと試みた。だが、その試みは失敗に終わってしまった。

 その事件は俺と彩の目の前で発生した。

 なんと、裕太が刀を抜いたその瞬間、裕太は横から脇腹目掛けて飛んできた回し蹴りによってものすごい勢いで真横へとぶっ飛んで行った。

 そして裕太は壁に激突してその場に崩れ落ちた。

 

 そのすべてを背後から見ていた俺と彩はなにが起こったのかはっきりと見えていて驚きのあまり声も出なかった。

 

「なん、で……なんでそうなるんだよ。一輝」

「輝山、君?」

 

 そう、裕太が刀を抜いたその瞬間、裕太の事を蹴り飛ばしたのは一輝だった。

 一輝は何の感情もこもっていない表情で無言のままさも当然の様に裕太の事を蹴り飛ばし、蹴り飛ばした後もだらんと脱力したような体制になって何事もなかったかのようにそこに存在していた。

 

「か、ずき、お前っ! ぐっ」

 

 今の蹴りで不意打ちで食らってしまった裕太へのダメージは深刻だった。

 するとまたもやグレバンがくつくつと笑っているのが分かった。そしてこの状況と照らし合わせ、今何が起こってしまっているのか、そのすべてを理解した。

 つまり、一輝はグレバンによって操られてしまっているんだ。

 

 おそらくきっかけはさっきのまばゆい光だ。

 俺たちは登ってきている最中だったから直接あの光を見ることはなかったけど、あの光を直接見たものを洗脳することができるものなのだとしたら、一輝は一人いち早くジャンプで登ってきていた。だから直接光を見てしまった可能性がある。だとするとかなりまずい状況だ。

 

「俺の能力は【洗脳する程度の能力】。君たちの仲間、一人いただいたよ」

「下種がっ!」

「地面に倒れながら言われても全く怖くないねぇ」

「くっ」

 

 裕太が悔しそうに地面をたたいている。

 本当に一輝は洗脳されてしまったのか? あれほどさっきまで相手の思考を先読みしてトラップなんかもかいくぐってきていた一輝が?

 何の考えもなく一番最初にこの場所に登ってくるか? 一輝ほどの頭脳派となると、それこそおかしな話に聞こえてくる。

 

「さぁ、行け、我がしもべよ」

「イエス、マイマスター」

「っ!」

 

 今度の狙いは俺のようだ。地面を蹴って一瞬で俺に距離を詰めてくると俺に蹴りを放ってきた。

 ついさっきまで外の世界に居たヤツと正面から戦って負けるつもりは毛頭ない。

 蹴りを腕で防御し、もう片方の腕を突き出して突き飛ばそうとした。だが、そこにはもうすでに一輝は居なくていつの間にか一輝は俺の背後に回ってきていた。

 

「次にお前は『いつの間にっ!?』と言う」

「いつの間にっ!? ––はっ! ぐああああああ」

 

 俺は背後に回られたことに反応することができず一輝に蹴り飛ばされてしまった。

 かなりの力があるようで、結構ダメージが大きい。

 俺の思考が読まれている。それはまるでさとりと戦っているようだが、一輝はさとりとは全く別の戦い方をしてくる。

 さとりは相手のトラウマとなった攻撃を出して相手を追い詰める。だが、一輝の戦い方はまるで将棋やチェスでもやっているかのような戦い方で、相手の思考を読み、そして相手の手をことごとくつぶしていって相手の玉を詰ませに行く。そんな戦い方だ。

 俺の今の気分は次々と取られていく自分の駒、そして俺という玉をどんなに逃げても逃げても追いかけて詰ませに来る飛車に狙われている気分だった。

 

 まだまだ体力的には余裕だが、もうすでにチェックメイトを決められてしまっているような気分だ。

 おそらくそんな戦い方をしているのは相談屋で活動していることが大きくかかわっているんだろう。相談屋で犯人を捕らえるときは相手の手をことごとくつぶして詰ませるしかないからな。

 

 これはなめてかかると本当にやられてしまいそうだ。

 

「クレアっ!」

 

 一輝には悪いが、あまり時間がない。早期決着を付けさせてもらう。

 クレアで冷静になって無駄な動きを省けば、まだこっちでの戦い方に慣れていない一輝の動きならば考えを読まれていても対処が間に合うはずだ。

 

「なるほど……」

「悪いけど、丁寧に洗脳解除とかしている暇はないんだ。あとで好きなもんを奢ってやるからよ、ちょっと我慢していてくれっ!」




 はい!記念第10話終了

 一輝が洗脳の力によって敵になってしまいました。

 敵になったら恐ろしい一輝が敵になったのはかなりの痛手ですね。

 クレアを使っていない真の速度くらいなら一輝は思考を読んで先読みし、回避することができるみたいですね。

 前にTwitterで載せたのですが、強さランキングは1位空頼裕太、2位海藤真、3位輝山一輝・冬夏黒葉ですが、この一輝の順位は現代にいるときの順位です。
 現代にいて霊力を使えない状態で黒葉とタイなのは恐ろしいですね。これで霊力を使えるようになったわけです。
 幻想郷に来たら今の黒葉よりは確実に強くなります。

 真対一輝の戦いは一体どうなるのでしょうか?

 それでは!

 さようなら


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記念第11話 真対一輝、先を読む力

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 魔法陣を回避した真たちはついに異変の主犯であるグレバンとの戦いに臨む。

 グレバンの目的はこいしたちのエネルギーを回収し、そのエネルギーで兵器を作成して戦争を巻起こすことだったのだ。

 そんなグレバンの能力は【洗脳する程度の能力】。その能力によって一輝が洗脳されてしまった。

 そんな一輝と真の戦いが今始まる。



 それではどうぞ!


 俺はグッと拳に力を込めるとグレバンへと走り出した。するとやはりさっきの裕太の時と同じように俺の前へと立ちふさがってくる一輝。

 そしてその力を込めた拳をそのまま一輝に振り下ろした。

 

「っ!」

「忘れたか? 俺には思考が読めているんだよ」

「だけど、今度は見える!」

「ぐっ!」

 

 俺の一発目のパンチは回避されてしまった。だけど、回避動作中だと思うように動けない、その隙を突いて俺は二発目の攻撃として蹴りを放った。

 その蹴りは足で受け止められてしまったが、これは俺の動きがこいつの先読み行動に間に合ったことを意味している。

 つまり、一輝に思考を読まれても一輝の動きよりも早くに攻撃ができれば一輝に攻撃を入れることができるということだ。

 

 この蹴りは止められてしまったが、次こそはぶっ飛ばしてグレバンをぶっ飛ばす。

 

「はぁ、はぁ……くっ」

「まぁ、そうだよなぁ。ここに来る前に海藤、お前は空頼と激しい戦いを繰り広げていた。そのあとにそのクレアを使っている。体力の消耗も激しいだろう」

「はぁ……はぁ……問題、ない!」

 

 図星だった。

 裕太との戦いの後、すぐにこの戦いに来ているから正直ダメージは全然抜けてないし、正直霊力も枯渇気味だ。

 だけど、負けるわけにはいかないんだ。こいしを、助けるんだ!」

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

「っ!」

 

 俺は一輝に連続でパンチを繰り出す。それを次々と避けていく一輝だったが、やはり俺の速度の方が上回っているから二発に一発は俺の攻撃が一輝に当たり、それを一輝は防御する。

 だが、やっぱり一輝の思考を読む能力は厄介でなかなか当たらないし、疲労からか一輝が防御する隙すらも無いほどのスピードというものが出ない。

 

「はぁ……はぁ……」

「限界なんじゃないか?」

「まだまだぁっ!」

 

 諦めずに連続でパンチを繰り出すが、いずれもその攻撃は有効打にならない。

 

「隙あり!」

「ぐあっ」

 

 一瞬の隙を突かれ、俺は蹴り飛ばされてしまう。

 一輝のスピードやパワーでは俺に殴り合いで勝つことはできないが、相手の考えを読む力によって俺と渡り合うほどに実力を底上げしている。

 

 やるしかない。

 俺はクレアの霊力を腕に纏わせ、クレア装を発動させた。

 防御されるなら、その防御を打ち砕く攻撃力を手に入れれば問題は解決する。

 

「っ!」

「だぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 先ほどよりも早い速度で強いパワーで一輝を殴りつける。もちろん一輝は先ほど同様に腕をクロスして防御したが、さっきよりも強いパワーによって今度こそ一輝を殴り飛ばすことに成功し、一輝を壁にたたきつけた。

 何とか一輝をどけることができた。あとはグレバンを倒せば異変は解決だ。

 

「はぁ……っ!」

 

 俺は再度足に力を込めてグレバンへと急接近しようとしたその瞬間、真横から強い衝撃を受け、今度壁に激突するのは俺の方だった。

 蹴りが飛んできた方を見てみると、そこには先ほど俺が壁に蹴り飛ばしたはずの一輝がそこに立っており、俺は目を見開いて驚愕した。

 間違いなく壁には激突した後が残っているので、俺が蹴り飛ばしたのは確かだ。だけど、もう一輝は俺の方に接近してきて俺を蹴り飛ばしてきたということになる。

 反射神経と体感の化け物かよ。

 

「本気を出せよ。俺は舐めてかかって倒せるほどやわじゃねぇぞ」

「そんなこと出来るかよ」

 

 一輝はただ操られているだけだ。そんな奴を相手に本気で戦えるかよ。

 もしかしたら本気で戦ってしまったらこっちでの戦いには慣れていない一輝には致命的なダメージを与えてしまうかもしれない。

 そうなったら宇佐見さんやメリーさんに申し訳が立たない。

 

 だから俺はこのままクレアで戦い続ける。

 クレアならギリギリ一輝の反応速度を超えて攻撃することができる。クレア装まで使ってしまったらもしかしたら一輝に致命傷を与えてしまうかもしれないから、一輝との戦いではクレア装を封印することにする。

 

「海藤、私も戦うよ」

「あぁ、お願い。彩はグレバンを頼む。俺は一輝を抑えておく。裕太も頼む!」

「うん、わかったよ」

「了解」

 

 裕太もそこで立ち上がって彩と共にグレバンへと走り始めた。

 それを見て一輝は二人を止めようと動き出したのだが、その前に俺は一輝の進行方向に先回りして立ちふさがる。

 

「お前の相手は俺だ」

 

 すると今度は一輝が俺に連続攻撃を繰り出してくる。

 パンチを腕で防御し、蹴りを足で防御していく。俺のスピードは間に合っているし、おそらく速度で言ったらクレアを使っている俺の方が上のはずなのに、全く反撃のチャンスが見えない。

 それに、スピード的には俺の方が上だけど、全く回避できないから防御するしかない。おそらく俺の思考を読んで次にどこに動くのかを把握しているから俺が回避することができない攻撃を繰り出せているんだろう。

 

 だけど、俺のスピードがあるから一輝の攻撃は逆にこっちに有効打が入っていない。いくら先読みできるとはいえ、攻撃を放った直後に間に合うほどの速度で防御したら流石の一輝も対応できないだろう。

 このまま時間稼ぎをして一輝をどうにかあっちに行かせないようにするんだ。

 

「時間稼ぎ、ねぇ。なぁ、海藤。お前は本当に空頼と忍冬の二人だけで勝てると思っているのか?」

「……どういうことだ?」

 

 彩の力は知らないけど、裕太とはさっき戦ったから身を以てあいつの力は思い知らされた。

 あいつは俺のクレア王をクレアを使わずに倒してしまうほどの実力の持ち主だ。仮にも一輝がグレバンに敗北するところなど想像ができない。

 

「戦符《刀化》!」

 

 そう考えて見てみるとちょうど彩がグレバンに攻撃しているところだった。

 彩は能力を発動してグレバンを殴りつけると、グレバンはその攻撃に反応して即座にかわすが、ちょっと彩の速度の方が早いようで、拳が頬をかすっていた。

 するとかするだけでグレバンのその頬には鋭利な刃物で切りつけられたような傷が出来上がり、血が垂れ始めた。

 おそらくあれが彩の能力である【肉体を鋭くさせる程度の能力】の力なのだろう。

 

 そしてそれに続いて裕太がグレバンが回避した方向に移動して刀を構えて斬りかかる。

 流石にその一撃は回避が難しかったようで、胸に大きな切り傷が出来上がった。

 あの二人は次々と攻撃を繰り出し、グレバンに隙を与えない戦いを繰り広げている。どう考えてもあそこから負けるとは思えない。

 

 するとグレバンは腰から二本の短剣を取り出して彩のパンチと裕太の刀を受け止めた。その瞬間、彩はグレバンのことを睨みつけた。

 

「狂符《キルグレア》!」

「グフゥっ!」

 

 するとグレバンの体に無数の切り傷ができた。

 今のはおそらく斬撃を飛ばしたのだろう。威力的にはあまり高くは無いようだが、遠距離の敵にも攻撃できるっていう点ではかなりいい技だ。

 

 そこでついにグレバンが動き出した。

 グレバンは力任せに短剣で二人の攻撃を弾き飛ばすと二本の短剣をクロスさせて構えた。

 そしてその短剣に霊力が流れていくのを感じる。あれは間違いなく俺たちが霊力斬を使うときの霊力の動きと全く同じものだ。

 それを二つ放とうとしている。

 

「裕太! 彩!」

「クロス・霊力斬!」

「っ! 空符《俺と君との間の空間》」

 

 俺が二人の名前を叫ぶと同時にグレバンの短剣から霊力斬が放たれ、クロスしたばつ印のまま二人に向かって飛んで行く。

 すると突然その霊力斬は見えない壁に直撃して消えてなくなった。おそらく俺と戦ったときにも使っていた裕太のバリアなのだろう。やはりあのバリアは強力だ。

 

「はぁ……はぁ……ちょっと焦った。この筋肉ゴリラが!」

「お前たちの力は弱い。簡単に弾けたぞ」

 

 今のは裕太のバリアが勝利したが、よく目を凝らして見てみると、裕太の目の前の空間に少しひびが入ってしまっているのが見える。

 つまり、グレバンはただ霊力斬を二発当てただけで裕太のバリアにヒビを入れてしまったことになる。

 さっき裕太のバリアに攻撃を阻まれて思ったが、あれは並大抵の攻撃じゃ傷をつけることもできないバリアだ。

 霊力斬は確かに霊力操作も重要だが、もう一つ、筋力によってもその威力は左右される。だが、基本的には霊力の操作力だけで威力をあげることができるから、そこまで重視していなかったが、筋力だけであれほど霊力斬の威力を底上げしてしまうとは……。

 

「どうだ、海藤。これがマイマスターの力だ」

「確かに単純な筋力じゃどう考えても勝ち目はない。だけど、裕太たちの力は単純な筋力だけでは語ることはできない!」

 

 そして俺はパンチを一発放つものの、回避されてしまったため、もう一発をすぐに放った。するとその攻撃は防御をしてきた。やはり有効打を与えることはできないか。

 

「確かにそうだ、厄介だ。だから俺はお前を倒してマイマスターの援護に行く」

「何?」

「さっきから海藤はずっと俺の前でクレアを披露してくれているけど、いいのか?」

「……何が言いたい」

「それ、俺にクレアの使い方を教えているようなものだぞ」

「っ、まさかお前!」

 

 その瞬間、一輝から放たれている霊力が徐々に徐々に薄くなり始めていることに気がついた。




 はい!記念第11話終了

 一輝、めちゃくちゃ強いですね。

 真の力は一輝よりも強いですが、先読みの力がどれ程戦いに影響してくるかがわかります。

 先読みできるかできないかでかなり勝敗が変わってくると言っても過言ではありません。

 そして最後のシーンの意味とは?

 それでは!

 さようなら


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記念第12話 クレア王対クレア、一輝の実力

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 ついに真がクレアを発動させた。しかし、一輝の先読みの力によって苦戦を強いられる。

 一方、裕太と彩はグレバンとの戦いを始めるが、グレバンの圧倒的パワーの前に二人のパワーは無力化されてしまった。

 そして真がずっとクレアを発動させていた事によってなんと一輝は更なるパワーアップを遂げる。



 それではどうぞ!


 今に始まったことじゃないはずだ。おそらく俺と戦っている間、俺がクレアを使い始めてからずっと一輝は俺と戦いながらずっと霊力操作の修行をしていたんだ。

 

 なんていうやつだ。

 一輝のようにこっちの戦いに慣れていない人にとっては俺のクレアと戦うのだって至難の技のはずなのに、俺と戦いながら修行も同時並行するなんて、正直不可能の領域に近い。

 

 そして一輝の発言によって俺はようやく一輝の周囲に離れている霊力が薄くなっていることに気がついた。

 一輝は俺との戦い、そして裕太たちの戦いをミスディレクションの素材として利用し、俺を周囲の霊力から注意を逸らしていたんだ。

 なんてやつだ、俺は本当にとんでもない化け物を幻想入りさせてしまったようだな。

 

「ありがとよ、これで全ての材料が整う」

 

 その言葉を最後に完全に一輝から離れている霊力が消え失せた。

 その代わりに一輝の体からはものすごい獰猛な獣と対峙しているかのような威圧が放たれ始めた。

 これはクレアの特徴、完全に霊力を隠すことができ、霊力に一つの感情を混ぜることによって相手により自分のその感情を普段以上に感じさせることができる。

 

 間違いない、一輝は今、クレアを使用した。しかも、こっちにきて霊力のことを知ってからまだ半日も経過していないこの状況で、空を飛び、弾幕を使うことを覚えるよりも先にクレアの方を会得しやがった。

 

「まったく……それは俺が何日もかけても会得できなくて、土壇場でようやくできるようになった技なんだから、それをこんなに簡単に会得されると困るんだよな」

「悪いな、海藤。でも、俺もお前に手心を加えている暇はないんだ」

 

 クレアを使用したらおそらく俺のクレアの力なんて心を読んで先読みする力によって俺のクレアなんて軽々と超えているだろう。

 本当にこいつは化け物だな。

 これを使うつもりはなかったんだけど、やらないと普通に負けそうな気がするから、絶対に負けないためにも使う。

 

「クレア装」

「なるほど、クレアを纏うのか」

 

 クレアを纏うというのはかなりの高技術が必要となる。一朝一夕で使えるようになる技じゃない。

 クレアという力に慣れた上で、慎重にクレアを操作しないと使えない技だ。

 さすがの一輝でも使うことができないだろう。

 

「確かに俺にはクレア装を使えるようになるほどの技術がまだない」

「お前を倒してあの二人の援護に行く。それから洗脳を解くから、我慢していてくれ」

 

 そして俺は腕にクレア装を集中させ、筋力を増強させて今までよりも強い力で一輝を殴りつけた。

 その攻撃を一輝は腕で防御したものの、今までの攻撃とは違って耐えきることができずにそのまま俺の拳に殴り飛ばされて壁に激突した。

 だが、その後すぐに一輝は立ち上がって俺へと急接近してくる。

 一輝がクレアを使用したことによってさっきまでのスピードより段違いに早くなっており、俺はそれに反応することができずに殴り飛ばされて今度は俺が壁に激突して尻餅をついてしまった。

 

 咄嗟に殴られる寸前にクレア装の鎧で防御を試みたが、それでもなかなかのダメージだった。

 

「えっ」

 

 前を見てみると、視界が狭まってきており、何かが風を切りながら俺の顔面に迫ってきているのが見えた。

 それが一輝の足だということを理解した頃には俺の顔面に足に蹴られ、壁にものすごい力で叩きつけられていた。

 

「かはっ」

 

 一輝が足を避けたことによって俺は体が自由になり、ダメージによってそのまま前のめりに倒れてしまった。

 今の一撃はまったく反応できなかった。おそらく俺を殴り飛ばしたと同時に追撃を加えるために走り出していたんだろう。

 まったく反応できなかったため、今の一撃はもろに食らってしまい、尋常じゃないダメージを食らってしまった

 しかも、今の一撃は裕太が繰り出してきた数々の攻撃とは違って致命症にはならなかったため、肉体のダメージがまったく回復しない。

 

「その程度なのか? もっと本気を出せよ」

「くっ」

 

 裕太の先読みの力、厄介だ。それに、その身体能力も外の世界ではあってはいけない規格外の身体能力。

 正直、今のクレア装のまま戦うのは厳しい。

 一輝のクレアは俺のクレア王と同じくらいの力を持っている。

 

 やるしかないのか……。

 

「じゃあ、次こそ本気を出してやるよ……クレア王」

「…………………………」

 

 ついにクレア王を発動した。

 クレア王はクレア装のようにクレアを重点的にまとって体の一部分だけを強化するのとは違い、能力を全体的に大幅に向上させる技だ。

 さっきまでとは比べ物にならないくらいに俺は強くなった。

 

「さぁ、そこを通してもらう!」

「いや、通さない!」

 

 俺の拳と一輝の拳がぶつかり合い、クレア王を使用している俺の力の方が上回って一輝のパンチを弾き飛ばした。

 そしてそのまま鳩尾に一撃を加えて気絶させようとしたものの、一輝は咄嗟に飛びのいて回避されてしまった。

 

 やっぱり思考を読むことができる相手との戦いは厄介なもので、この力の差が心を読むことによって一気に縮まってしまう。

 

「海藤、集中しろ。集中して相手のことを観察するんだ。そして相手が何を考えているのかを考えるんだ」

「い、いきなりどうしたんだよ」

 

 突然一輝が俺にアドバイスを始めた。

 よくわからない。何が目的なんだろうか。

 今、一輝は洗脳されていて俺と戦っている最中だ。それなのに俺にアドバイスをするのはちょっとおかしいような気がする。

 

 ちらっと裕太たちの方を見てみると、どうやら裕太の能力が強いおかげでまったく苦戦はしていないようだった。

 むしろかなり圧倒しているように見える。

 バリアではグレバンの攻撃を防ぐのには怖いが、直撃するよりも先に回避してしまっているような感じだ。どんなに強い攻撃も当たらなければ意味がないというやつなのだろう。

 

「妖夢を、返せぇぇぇぇぇぇぇ!」

「がっ、ぐ、ぐはっ、だはっ」

 

 グレバンは裕太の連続攻撃を受け、何度も何度も血を吐き出していた。あれならば俺が一輝を止めていれば勝てそうな雰囲気だ。

 というか、ちょっと待て、もうすでに俺の時のように一輝はグレバンに何度も何度も致命傷を与えているように見える。

 時折、グレバンも白目をむいて気を失っているように見えるが、その直後、すぐに復活して攻撃の対処を再開している。

 

 その度にグレバンの傷が完全回復しているようだった。

 その違和感には一輝も気がついているようで、かなり焦っている様子だった。だが、そんなに焦りの混じった攻撃をしてもいつかはボロが出るもので––

 

「ぐあああああああ」

 

 ついにグレバンのカウンターが裕太に炸裂し、裕太は膝から崩れ落ちた。

 それを見た彩は勝負に出る。

 

「MAXモード!」

 

 彩がそう叫んだその瞬間、彩の目の前に大剣が隕石のごとく降ってきて地面を抉る勢いで地面に突き刺さった。

 

「死なないなら、死ぬまで殺すだけ! さぁ、覚醒の時来たれり。悪魔の大剣、デーモンソード」

 

 そういうと彩は少し自分の親指を噛み、血を出すとその血が出た親指を大剣に押し付けた。

 その瞬間、血が剣に吸収され、さらにその剣は赤く一瞬光り輝いたかと思ったら形が変わり始めた。

 あの形は間違いない、鎌だ。まるで死神が持っているような鎌。

 刃が紫色で持ち手の下部には茨のような模様が浮かんでいる。

 

「あは、あははははははははは! お前を切り刻んで血を出させてこの子の栄養にしてあげる!」

 

 彩は狂ったように笑うと馬鹿でかい鎌を持っているとは思えないようなスピードでグレバンに接近し、その鎌を振り下ろした。

 だが、やはり鎌が重たいのか思うように素早い攻撃ができないのか、グレバンはその鎌を短剣で受け止めてしまった。

 そしてそれを弾き、彩を蹴り飛ばした。

 

「うああああああああ」

 

 しかし、途中で体勢を立て直して再び攻撃の体勢に入ると、鎌で思い切り横薙ぎをしてみせた。

 するとその軌道に大きい霊力の斬撃が出現し、普通の霊力斬のように飛んでいくのではなく、空気中にとどまった。

 そして彩が指をパチンと鳴らしたその瞬間、その霊力の斬撃は放たれ、グレバンへと飛んで行った。

 

 それをグレバンは先ほどのクロス・霊力斬で対抗するために霊力を溜める。

 さっきの霊力斬は裕太のバリアですらヒビが入る威力なのに、突破できるわけがない。

 

「クロス・霊力斬!」

 

 ついにグレバンのクロス・霊力斬が放たれてしまった。そしてそのクロス・霊力斬と彩の放った霊力斬がぶつかり合い、彩の霊力斬がかき消されてしまうのかと思ったその時、クロス・霊力斬が彩の霊力斬に吸収されてしまった。

 それによって彩の霊力斬に茨のような模様が出現し、巨大化してさらにグレバンへと飛んでいく。

 

「ぐああああああああああああああ」

 

 そしてついにその霊力斬はグレバンの胴体を一刀両断し、消滅した。

 

「どんな霊力でも吸収してしまう霊力斬、吸血・霊力斬といったところだね」

 

 彩に一刀両断されたことによってグレバンはぐったりと倒れて動かなくなった。

 ついにグレバンに勝利した、俺はそう思ったのだが、その次の瞬間、霊力のようなものが糸のように切り口から伸びてつなげてしまった。

 そしてそのまま起き上がって目を覚ますように意識を取り戻すグレバン。

 どう考えたって今のはおかしい。俺のような能力を持っていなければ今のは致命傷となって人間だったら絶対に助からない。

 どういうことだ。

 

「コンティニューだ」




 はい!記念第12話終了

 なんと一輝がクレアを発動させました。今まで外の世界にいたから使えなかっただけで素質はあったんですよね。

 そして一輝は相手の思考を読むことができるから相手の注意を逸らすことが得意です。そのため、今の今まで真に気が付かれずにクレアの修行を行うことができたんですね。

 そしてグレバンとの戦いはようやく決着がつき、勝利したかのように思われましたが、グレバンがコンティニューをしたことで振り出しに戻ってしまいました。

 どうやって倒せばいいんだ!?

 そういえば【東方現代物語 〜最強の相談屋が華麗(物理)に事件を解決します〜】はジョジョネタがあり、一輝はジョセフのネタを多用しているというのに、現代だからあのネタをやる瞬間がなかったんですよね。
 どれだけやっても死なないって敵キャラがいませんでしたし、そもそもあんまり戦えない環境だったので。

 こんなところで今回はここまで!

 それでは!

 さようなら


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記念第13話 コンティニュー、そして覚醒

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 なんと真の見よう見まねでクレアを発動させてしまった一輝に真はため息をついてしまう。

 一輝がクレアを発動させた事によって真のクレア装でも敵わなくなってしまう。

 そしてついに真はクレア王を発動させるものの、決定打に欠け、互角の戦いを繰り広げる。

 グレバンとの戦いはついに彩が本気を出し、グレバンを一刀両断して倒した、そう思われたものの、なんとグレバンはコンティニューをしてしまうのだった。



 それではどうぞ!


「コンティニュー?」

「あぁ、マイマスターはコンティニューすることによって何度殺されても生き返ることができるんだ。ただし、寿命は例外だけどな」

「そうその通りだ。俺は能力を二つ所持している。一つはさっきも言った通りに【洗脳する程度の能力】。もう一つが【コンティニューする程度の能力】だ。これによって俺は何度も殺されても何度も生き返る! もはやお前らには勝ち目はない。俺はお前たちの力尽きるまで待ってからじっくりと殺してあげるよ」

 

 なるほど、さっきからずっとグレバンはコンティニューをし続けていたのか。だから一向に死ぬ気配がなかったということか。

 それって俺の能力よりも圧倒的に強いな。俺の能力は致命傷を受けないだけで、死ぬときは死ぬ。だけど、グレバンは寿命以外に死ぬことは絶対にないということだ。

 

 しかし、この状況はかなりまずい。

 このままでは本当に俺たちが力尽きるまでグレバンに待たれて殺されてしまう。

 実質不死身の相手をどうやって倒せばいいんだよ……。

 

「集中しろ、相手の考えていることが何かを考えるんだ」

「だから、なんなんだよ! 霊縛波、狙撃《スナイパー》」

 

 ついに苛立った俺は手のひらに霊縛波を作り出すと、霊縛波をグレバンへと投げつけた。

 すると、霊縛波は見事グレバンへと直撃し、爆発を引き起こしてグレバンを消滅させることに成功したが、無からグレバンが出現し、やはりこの攻撃でも倒すことはできなかった。

 

「言っただろ? 死なないって。諦めろ、俺が世界最強の生物なんだからな!」

 

 だめだ。倒す方法がない。

 一体どうすれば……。

 

「っ! ぐあああああ」

 

 そんなことを考えていると横から飛び蹴りが飛んできて俺は蹴り飛ばされて壁に激突する。

 その衝撃で俺は思わずクレア王を解除してしまい、一気に大ピンチに陥った。

 

「戦いの最中によそ見とはいい度胸だな」

「く、か」

 

 身体中が痛い。だけど、思いの外、肉体へのダメージは最小限に抑えられているため、なんとか立ち上がってこのまま戦えるが、いまの状況では俺は一輝には勝てない。

 クレアまで使えるようになった一輝に今の普通の状態では勝てない……。

 

 集中か……。

 どうしようもなくなった俺は一輝に言われたことを実践してみることにした。

 一輝に集中し、一輝が何を考えているのかを考え始める。

 

 そのとき、先ほどよりも明らかに苦しそうな表情になっているこいしの姿が視界の端に入った。

 

「こいし!」

 

 思わず俺の意識がこいしの方に逸れてしまった。

 その瞬間だった。

 

 ––戦いの最中に意識をそらすとは……もう一発蹴りをお見舞いしてやる––

 

 その声が頭の中に響いてきた。

 すると一輝が俺に向かって蹴りを放ってきた。

 今までだったら普通に食らっていたのだが、今はなぜだか事前に攻撃する意思のような声が聞こえてきたため、俺はそれを回避することができた。

 

「っ! おい、それは」

「あ」

 

 指をさして少し驚いたようにする一輝に言われて気がついた。

 なんと、もう二度と出てくるとは思っていなかった俺のさとり妖怪として第三の目が胸元に出現し、それがコードで俺の体に繋がっていた。

 間違いない。今の声もこの第三の目の力だ。一輝の考えをこの第三の目で読んだからこそ俺は一輝の攻撃を回避できた。

 

 この力は血の覚醒だ。

 

「久々だな、この力は」

 

 一輝の考えが読める。

 すると驚くことに俺は気がついた。だけど、それは口には出さずに心の中にとどめておいた。

 なぜならそれが一輝の望みだし、俺も実際それが一番いいと思ったからだ。

 

「なるほど、俺の心を読めるのか。なるほどなるほど。さぁ、行くぞ海藤!」

「あぁ、一輝!」

 

 俺は一輝の心が読める。だから俺は分かっていた。

 これで俺たちの演技(・・)は終わりだ。

 

 一輝が飛び蹴りをしてきたため、俺が手のひらを構えると一輝は俺の手のひらに足の裏をつけて力を込める。

 そしてその状態で俺はスペルカードを放った。

 

「狙撃《スナイパー》」

 

 俺は一輝を手のひらではたき飛ばす。もちろんグレバンに向かってだ。

 そして一輝も一輝で俺の足の裏を蹴り、お互いの相乗効果で空を切る速度で一輝はグレバンに向かって飛んで行った。

 この速度はグレバンの速度じゃ反応しきることはできない。

 

 一輝は空中で体勢を整えてグレバンへと飛び蹴りを放った。

 

「ぐはああああああああああああああああああああ」

 

 一輝の飛び膝蹴りはグレバンの腹に直撃し、そのまま二人で飛んで言って壁に激突してそのまま壁を破壊して外に飛び出した。

 ここは浮いている城の最深部だ。なので、外に飛び出したら空中に投げ出されてしまうことになる。

 だが、このままでは一輝のみが落下して死んでしまうことになる。

 

「お前は次に『貴様、なぜ俺を攻撃する!?』という」

「き、貴様、なぜ俺を攻撃する!? ––はっ!」

「お見通しなんだよ! 最初から何もかも! だから俺は黒いコンタクトレンズをしておいたんだ。本当は明るい場所でも視界を確保できるようにと用意していたものだが、ここで役に立つとはな。そしてお前の光が直接視界に入らなければいい。だから光を遮っていた俺は光を直視していても洗脳されなかったということだ」

「ま、まさかそんなことが!」

「あり得るんだよな。俺の好きな戦い方は相手の攻撃を尽く潰して行くことだ。そして、この瞬間を待っていた!」

「だが、お前らは本気で戦っていた!」

「敵を欺くにはまずは味方から、だ。海藤の奴もついさっきまで知らなかっただろうさ」

 

 そう、俺も心を読んでようやく気がついた。

 裕太たちとは一輝は戦うつもりがなかった。なぜなら、下手すると裕太たちが死んでしまう可能性があるから。あいつは自分が死んでもいいと考えていたけど、仲間が死ぬのは許せないようだ。

 だからいっぱい攻撃しても死ぬ可能性の低い俺を選んで攻撃してきていた。

 

 本気で攻撃してきていたのは俺を欺いて俺にも本気の戦いを演じさせるため。

 そしてここまで待っていたのは俺の血の覚醒を待っていたんだ。

 

「これで全ての準備が整った」

 

 そういうと一輝は俺に合図をすると俺は一輝の考えを読んで再びため息をつきたい気持ちになってしまったが、抑える。

 正直言えば一輝の考えが本当に実現可能なのかも怪しいところなのだが、今まで一輝の考えが外れたことはなかったため、俺はその作戦に乗っかることにした。




 はい!記念第13話終了

 【コンティニューする程度の能力】、強すぎますよね。どれだけ攻撃しても殺すことはできない。

 ちなみにたまに真は死なないと思っている方もいるみたいなのですが、真は耐久力が高いだけで死にます。

 爆散しても消滅しても死にませんが、ダメージが蓄積すると死にます。

 そしてついに血の覚醒が発動しました。本編で一度だけ出て来ましたね。

 ちなみに本編ではもう血の覚醒を出すつもりはありません。真にはクレアと《限界突破(ブレイク・ザ・リミット)》で頑張ってもらいます。

 まぁ、血の覚醒は気に入ってはいるんですけどね。

 それでは!

 さようなら


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記念第14話 失敗

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 裕太と彩はグレバンの【コンティニューする程度の能力】に苦戦を強いられてしまう。

 一方、真と一輝の戦いはなぜかずっと真に語りかける一輝。

「集中しろ、相手の考えていることが何かを考えるんだ」

 真も隙をついてグレバンに霊縛波を投げつけるものの、グレバンを倒すことはできない。

 その時、一輝に隙を突かれて真はクレア王を解除してしまう。

 そしてついに真は血が覚醒し、さとり妖怪になる。

 そんな真を見て一輝は一瞬で作戦を考え出し、真もその考えを読んで協力してグレバンへと攻撃をし、一輝はグレバンを自分ごと城の外に追い出し、空中へと身を投げる。

 そして一輝はついに全ての準備が整ったと言った。



 それではどうぞ!


 俺は一輝とグレバンを追って壁に空いた穴から飛び出した。

 一輝がそれを見るとクレアの力を存分に生かして力強く上空に向けてグレバンを蹴り飛ばし、反動で一輝は勢いよく落下していく。

 すると突然一輝は空中にぶつかって落下が止まった。そしてその場に一輝は立って見せる。

 城の方を見てみると裕太がこっちを覗いて手を伸ばしてきていることから、これは一輝のバリアを応用した足場なのだということに気が付いた。

 

 それを見て俺も一輝と同じように一輝の横のバリアの上に立つ。

 もう一輝の作戦は完全に把握している。そして一輝も同じように俺の思考が読めるのだからおそらくもう俺が把握していることに気がついているだろう。

 正直、成功するかどうか怪しいところだが、俺もこれ以外今のメンバーであいつを倒す方法は思い浮かばないって言うのが事実だ。

 

 やるしかない。

 

「行くぞ、海藤。準備はいいか?」

「俺としてはお前の方が心配だけどな。それも俺が長い間をかけて修行してようやくできるようになった技だ。それを使うための霊力操作難易度はクレアの比じゃないぞ」

「大丈夫だ。さっきお前と空頼が戦っているのを見ていたからな、使い方は分かった」

「本当に嫌な奴だな、お前は」

 

 普通は使っているところを見たからといって使えるようになるようなものじゃないのだが、実際に一輝はクレアまでも使ってしまった。

 本当に嫌な奴だよ。

 

「行くぞ!」

「おう!」

 

 俺たちは横並びになり、俺は右手に、一輝は左手に霊力の球をつくりだした。

 そしてそのまま俺たちはジャンプし、俺は空を飛んで、一輝は裕太が作り出すバリアを順番に飛び移って降ってきているグレバンへと接近していく。

 

「お、おい、お前らやめろ!」

「これだけのことをしでかしてくれたんだ。やめろと言われてやめるばかがどこにいるんだ?」

 

 一輝の言葉通り、俺はこいつを許す気は毛頭ない。

 一輝が再び真横に戻ってきたのを確認すると、俺はトドメとばかりに一輝の足の裏を思い切り蹴り、グレバンへと飛ばした。そして俺も速度を上げて一輝に追いついて共に霊力の玉を構えた。

 

「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

「これで最後だ」

「永遠の苦しみを味わえ!」

『霊縛波!!』

 

 俺たちは共に手のひらの霊力の玉、霊縛波をグレバンへと同時に叩きつけた。

 すると俺の手のひらの霊縛波からレーザーが放出され、グレバンをぶっ飛ばしていった。

 俺たちの作戦はグレバンを霊縛波でぶっ飛ばして宇宙空間に放り出してしまおうと言うものだった。

 だけど、一発だけの霊縛波ではもう二度と地球に帰ってこれないほどの距離まで飛ばすことは不可能だ。だから一輝の霊縛波の威力も合わせて二つの霊縛波の威力でもう二度と帰ってこれない距離までぶっ飛ばす。これが俺たちの作戦だ。

 

 俺の霊縛波は成功し、ぶっ飛んでいった。そして一輝は俺の技の真似をするのが得意だ。これなら成功しただろうと思って一輝の方を見て俺は目を見開いて驚愕し、絶望した。

 

「おい、それ」

「……やっぱりすげぇなお前。ぶっつけ本番で成功するわけないよな。だって長い期間をかけてお前がやっとの思いで習得した技なんだからな」

 

 その手のひらには未だに霊力の球が握られており、俺の霊縛波のようにレーザーが出ることはなく、その場にあるだけと言う感じだった。

 そう、霊縛波は完璧な霊力コントロールによって初めて成功するものだ。失敗すると手のひらの中で霊力が暴れて暴発するか、レーザーが出ないのどちらかになる。

 

 つまり、一輝の霊縛波は失敗だ。

 

 このままじゃあいつは地球の重力が届かないところまで飛んでいかないから、そのまま降ってきて落下死、そしてコンティニューしてしまう。

 

「はは、お、お前は次に『もうだめだ……』と嘆く」

「もうダメだ……––って、ウルセェよ!」

「悪りぃ、俺のミスだ」

 

 俺たちはもうベストを尽くした。これでダメだったんだからもう何もできることはないだろう。

 そして力なく一輝は腕をおろして霊縛波を手放した。

 するとその霊縛波は発動者の手から離れたことによって徐々に消滅し始める。

 

 グレバンは俺の霊縛波によってかなりの高さまでぶっ飛ばされたようで、その威力で一度死んだっぽいが、空中で生き返り、再度降ってきているのが見えた。

 やっぱり今の一撃では宇宙空間までは届かなかったようだ。

 

 もう、あいつを倒す手段は何も思いつかない。一輝も必死に思考を凝らしているようだったが、全く案が思い浮かんでいないのが思考を読んでいてわかる。

 

 俺たちの負けだ––そう思った瞬間、奇跡が起こった。

 なんと、ゴゴゴゴゴと大気が揺れる音が響き渡り始めたのだ。

 

「な、なんだ!?」

「これは……」

 

 すると俺たちのちょうど真下の地面が徐々に徐々にひび割れ始めているのが見えた。何かが地上で始まろうとしている、それはこの場にいる全員が理解したが、それがなんなのか、全く想像がつかなかった。

 その瞬間、地面が完全に破壊され、その奥からついにその何かが姿をあらわした。

 俺と一輝はその何かにぶっ飛ばされて飛んできた岩石に激突し、岩石の勢いで身動きを取れないほどの力に見舞われながら岩石に乗ってさらに上空へと飛んでいく。




 はい!記念第14話終了

 今回、ついに決着がつくかと思われましたが、まだ続きます。

 一輝の作戦が失敗し、大気圏外へとグレバンを追放することができませんでした。

 実力ではみんなはグレバンに負けることはないのですが、その能力のせいで大気圏外に追い出すしか方法がないんですよね。

 しかし、この状況はかなり絶望的です。

 二人の霊縛波の力がなければ吹き飛ばすことはできないですからね。

 しかし、クレアを使うこともできた一輝ですらも使えないほどに霊縛波の難易度って高いんですよね。

 どうなってしまうんでしょうか?

 それでは!

 さようなら


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記念第最終話 何から何まで計算ずくなんだぜ!

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 一輝を追って外に飛び出す真。

 一輝は上へグレバンを蹴っ飛ばし、二人で協力して霊縛波を放ってグレバンを大気圏外へと追放しようと考える。

 しかし、一輝の霊縛波は不発に終わってしまい、その作戦は失敗してしまう。

 その時、地上ではものすごい出来事が巻き起こっていた。



 それではどうぞ!


「ま、間違いない。噴火だ!」

 

 するとその割れた地面からものすごい勢いで溶岩が飛び出してきて城を上空へとぶっ飛ばしてグレバンがぶっ飛んできた城によってさらに上空へと飛ばされていくのが見えた。

 

「そうか、ここは昔火山だったんだ。だけど、ずっと噴火していなかったせいで新たな地層がこの山を埋め立て、平地となったんだ。だけど、どうして今になって」

「多分一輝が落とした霊縛波の影響だ。あの霊力のエネルギーがこの火山の目を覚まさせ、火山活動を再開させたんだ」

「そうか。だから突然噴火を!」

 

 俺たちはさらに上空へと飛ばされていく。

 霊縛波で宇宙へと飛ばすことはできなかったが、霊縛波がこんな形でいい影響を及ぼすことになろうとは考えても見なかった。

 これで俺たちもものすごい勢いでぶっ飛ばされているからまったく身動きをとることができないが、グレバンも身動きを取れず、この勢いならいける。

 

「ぐ、ぐぬぬぬなんという凄まじいパワー。う、動けん!」

「そうさグレバン、お前は『これも貴様の計算のうちか!』という」

「これも貴様の計算のうちか!」

「当たり前だぜ! この俺、輝山一輝。何から何まで計算ずくなんだぜ!」

 

 一輝はそういうが、これは実際は偶然の産物だ。俺たちはこの真下に火山があることも知らなかったし、一輝が霊縛波を失敗することを想定に入れていなかった。

 完全にこの地球に助けられた。

 だけど、グレバンが悔しがるなら訂正しなくてもいいか。

 

 一輝が拳を向けてきたので俺も拳を作り出して互いの拳を合わせた。

 

「二人とも、生きてっか?」

「あ、裕太」

「なんとかギリギリだったな。早く脱出するぞ」

 

 突如俺たちの前に出現した裕太が俺たちに手を伸ばしてくる。

 岩の上に立っているが、この圧力に裕太も膝をついてしまっている。それに早く脱出しないと脱出できなくなってしまう。

 そして俺は裕太の手を掴むが、一輝が一向に手を伸ばす気配がなかった。どうやらこの圧力によって気を失ってしまったようだ。

 そりゃ普通の人間は気を失っても仕方がない圧力だからな。そう考えて俺は一輝の手首を掴んだ。

 

「よし、《瞬間移動》!」

 

 裕太が瞬間移動を発動させ、俺と一輝は岩石の上から脱出し、空中へと放り出された。

 だが、裕太も飛べるようだし、一輝は俺が背負い、飛んで地上に降りていく。

 上を見てみるともう遥か彼方まで飛んで行ってしまっていてあれほど大きかった城がもう米粒のように小さくなっていた。

 

「はぁ……はぁ……グレバンの霊力がどんどんと離れていく。ありゃ本当に大気圏を突破するな」

 

 裕太は度重なる瞬間移動によってかなり疲れ、息切れを起こしている状態でなんとかそう口にした。

 周囲を見渡して見てみるとそこは拓けた草原で、俺たち三人以外にも彩と体にタオルを巻いて肌を隠しているこいし、宇佐見さん、メリーさん、妖夢の四人もそこにいた。

 いや、居たというよりかは未だに気を失っている様子だが、どうやらちゃんと息はあるようでホッとする。

 

「終わったな」

「そうだな」

 

 今頃グレバンのやつは宇宙空間をさまよっていることだろう。

 

「そういえば、あの中に霊夢たちが居たから一緒に連れてきたぞ」

「え、霊夢たちが?」

 

 見てみるとジト目でこっちを見てきている霊夢とぜーはーと息を切らしている魔理沙がそこに居た。

 どうやら俺たちよりも先にあの城の中に乗り込んではいたらしい。

 本来だったら途中で霊夢たちと俺たちは合流するはずなのだが、俺たちは道中をすっ飛ばしてグレバンの元に行ってしまったから途中で見かけなかったのだとか。

 

「それにしてもあんたたち無茶するわねぇ」

 

 霊夢は城が飛んで行った方向を見ながらそう言った。

 あれは本当に偶然の産物ではあったが、下手したら俺たちも死んでいた状況だったから返す言葉もない。

 

「そ、それじゃあ、この四人も目を覚ましたら異変解決の宴会をするぞぉ!」

 

 どうやら魔理沙はどこの世界でも宴会好きのようだった。そして霊夢の表情をみるに、その宴会を準備するのはやはり霊夢のようだ。

 でも今の俺はそんなことよりもまずはまずは気になる事があった。

 

「みんなってさ、あそこに連れ去られたの、覚えているのかな」

「いや、覚えていないと思う。グレバンの考えを読んだ時、どうやらあいつはみんなの気を失わせた状態で連れてきたらしいからな」

「そうか、なら好都合だ」

「好都合?」

「あぁ」




 はい!記念第15話終了

 例のジョセフさんのラストシーンですね。ジョジョネタをやるならこれをやりたかったのですが、なかなかできなかった感じですね。

 無意識の恋 Second stageですが、このネタが出来て満足です。

 これにて異変は解決!

 次回はエピローグとなります。

 それでは!

 さようなら


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記念エピローグ

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 なんと一輝の不発に終わってしまった霊縛波が地上に影響をもたらし、噴火を誘発させた。

 それにより、なんとグレバンを大気圏外まで追放する事に成功する。

 ようやく異変が解決したのだ。



 それではどうぞ!


「う、うーん……」

「あ、起きたか」

「うん、おはよぉ真」

 

 こいしが目を覚ました。場所は外の世界の俺たちの旅行先の布団だった。

 俺のことを見つけたこいしはニコッと笑顔を向けると今の時間を確認した。

 今の時間は夕暮れだ。どう考えてもあの時間に寝て起きるしては遅すぎるような時間だ。時間的には12時間以上寝ていたという計算になる。

 

「あ、あれ、もう夕方? そんなに寝てたっけ……」

「……あぁ、ぐっすりだったよ。よっぽど疲れていたんだな。寝顔、可愛かったぞ」

「も、もう、恥ずかしい……でも、本当にずっと寝ていたんだっけ? なんか、一回起きたような気がする」

「夢を見てたんじゃないか?」

「そうなのかなぁ〜」

 

 その疑問を抱くのも別におかしくはない。

 本来なら俺よりも先に起きて俺の寝顔をずっと見ているような子だ。それなのに、今の今までずっと寝ていた、しかも疲れていたんだとしてもこの夕方まで寝ているという状況は少し違和感を抱いても不思議じゃない。

 

 そう、俺はこの事件を全て夢にすることにした。

 この楽しい旅行に来たというのに、こんな辛い思い出に塗り替えられて欲しくないから、こいしの記憶にはこの旅行はずっと楽しかったとして記憶に残して欲しいから、だから絶対に話さない。

 そして俺は宴会に誘われたけどお断りして帰って来た。どうやら一輝も賑やかなのはあまり得意じゃないとのことで一輝も俺とともに帰って来た。

 

 これで全て元どおりだ。

 

「うん、多分夢だよね。あのね、今日見た夢は私が悪い人に連れさらわれてしまうってものだったの」

「うん」

「でもね、真が仲間を連れて一緒に助けにきてくれるの」

「そうだな」

「私ね、夢だったとしても嬉しかったな。やっぱり真は私を助けにきてくれる」

「当たり前だろ。お前は俺にとって命よりも大切なんだからな」

「ふふ、でも自分の命を投げ打ってまで行動するっていうのは反省してよね」

「……善処します」

「あー、またそうやってごまかして!」

 

 こいしはニコニコしながら俺の胸をぽかぽかと叩いて抗議してくる。

 やっぱり俺はこいしのことになると本当に自分の命のことを考えられるかがわからなくなってくる。自分の命を捨ててこいしを救えるなら俺は喜んでこの命を差し出すことだろう。

 

「あ、真この傷は?」

「ん? あぁ、ちょっと階段を踏み外しちゃってさ」

「大丈夫なの!?」

「問題ない。日頃から鍛えてるからな」

 

 今となってはこいしを救う事が出来たのだからこの傷も誇らしい。まぁ、ほとんどグレバンとは関係なく裕太と一輝にやられたものなんだが、二人とも頑張ってくれたことだし、今回は多めにみよう。

 ちなみに、俺と一輝、裕太で霊縛波を当てるために奮闘しているときに彩が四人のカプセルを破壊して救出し、タオルを巻いてくれたみたいだ。

 

「そんなことよりもさ、今近くで花火大会やってるらしいんだよね。行くか?」

「行く!」

「それじゃあ、行くか」

 

 俺もさっき近くで花火大会があるということを知った。

 昔、こいしと一緒に行った夏祭りが楽しかったななどと考えながらこいしに提案すると、こいしが行きたいと言ったので俺たちは出る準備をして一緒に花火大会会場へと向かった。

 


 

「ん〜おいひい」

「祭りの食い物は店よりはクオリティが高くないものの、雰囲気でなんとなく食いたくなるんだよな」

 

 こいしと二人でレンタルの浴衣を着て花火大会に来た。

 数々の屋台があり、こいしは食べ物の店を巡っており、次々と俺は横で出来たての焼きそばを頬張っているこいしを見てリスみたいで可愛いなと思いながら一緒に歩く。

 

「真は何か食べないの?」

「そうだな、この後も夕飯があるからな、俺は腹のスペースを残しておくよ」

「あ、そうだった! 忘れてた!」

 

 忘れていてちょっとショックを受けた様子のこいし。

 これだけ食べていたら晩御飯があまり入っていかないかもしれないな。

 まぁ、それもいい思い出となるだろうしな、やっぱり平和が一番だ。

 

「あ、もう少しで花火が始まるからあそこに移動しよう」

「ん? うん」

 

 そう言って俺たちが移動したのは少し中心から離れた空き地だった。

 ここには近くに建物なんかがないから花火をよくみることができる。しかも、あまり人がいないことから、意外と穴場なのかもしれない。

 そんなことを考えながら空き地に来ると端っこの方に一人だけポツンと立ってコーヒーを飲んでいるのが見えた。

 

「こいし、悪いけどちょっと待っててくれるか?」

「う、うん。わかった」

 

 そういうと俺はポツンと一人たたずんでいる男へとゆっくりと歩いて行って話しかけた。

 

「よっ、さっきぶりだな」

「あぁ、海藤か」

 

 そこにたたずんでいたのは一輝だった。

 一輝は騒がしいのがあまり得意じゃないと言っていたから祭りなどには来ないと思っていたのだが、浴衣を着ているのをみる限りどうやら一輝もこの花火大会にやって来ていたようだ。

 俺が話しかけたことによってようやく俺の存在に気がついたようで、すぐに隣にある自販機へ小銭を入れるとコーヒーを一本購入して俺に差し出してきた。

 

「いいのか?」

「今回は世話になったからな。礼だ」

「いや、それをいうなら俺も世話になったんだけどな。まぁ、でもくれるならもらっとくよ」

「あぁ、貰ってけ貰ってけ」

 

 ぶっきらぼうに言っているが、人の心が読めるからか人の気持ちには人一倍敏感で気遣いも良くできる。

 ちょっとしか見ていないから詳しいことはわからないけど、宇佐見さんとメリーさんも一輝を好いている様子だった。

 それは一輝の人柄によるものだ。

 

「何笑ってんだ?」

「いや、別に。お前って面倒見いいよな」

「多分、うちに(義妹)がいるからだろうな。でも、まぁ、あいつは俺よりもしっかりとしてるから心配する必要はないんだけどな」

「そうなのか」

 

 確かにそんな雰囲気があるもんな。あの人たちが一輝のことを好いているのもわかる。

 

「そういえば宇佐見さんとメリーさんは?」

「あそこだ」

「え? あ、いた。みんなで来てたんだな」

「あぁ」

 

 宇佐見さんとメリーさんもこいしと同様に俺たちとは少し離れた場所にいた。そしてこいしのことを見つけると三人で一緒に話をし始めた。

 三人はそこまで深い関わりはないけど、こいしと二人は一度助けた件で知り合っているから、遠くて聞こえないけど、昨日の話で盛り上がっている様子だった。

 

 そんな感じで三人のことを見ているとついに花火が上がり、夜空に大きい花を咲かせて見せた。

 久しぶりに打ち上げ花火なんて見たが、やっぱり花火は綺麗だなと思う。

 そしてこいしたちを見ていると打ち上がった花火を見て三人で盛り上がっている様子だった。

 やっぱり女の子は綺麗なものが好きなんだなと遠目で見ていて思う。

 

「お前は次に『こういう光景はやっぱりいいな……』としみじみと呟く」

「こういう光景はやっぱりいいな……––はは、また読まれたか」

「読まなくてもわかる。俺もその気持ちはわかるからな」

「そうか」

 

 そんなこんなで花火大会も終わり、昨日と同様に風呂に入って晩飯を食べて寝て、俺たちの温泉旅行が終わった。

 途中大変なことがあったからどうなるかと思ったが、こいしは終始ニコニコしていて楽しそうだったから終わりよければ全て良しだと考えて今回の旅行は大成功だったと感じた。

 

 そしてシャロの力を借りて元の幻想郷に戻って来た。

 

「どう? リフレッシュできた?」

「あぁ、ありがとな、今回の旅行に付き合わせちゃって」

「いいよ」

「これ、お土産だ」

 

 そういって俺はお礼にシャロにお土産を渡した。

 シャロへと買って来た土産はバームクーヘンだ。シャロは普段、結構甘いものをよく食べているからバームクーヘンなどのお菓子がいいと思った。

 このバームクーヘンは抹茶味のものだ。抹茶味が京都らしくていいと考えたからこれを選択した。

 

「ありがとう! これからも何か困ったら言ってね!」

「おう、頼んだ。親友よ」

「しん、ゆうっ!」

 

 俺の言葉にすっかりご機嫌なシャロは俺たちに手をふってスキマの中に帰って行った。

 それから俺たちは並んで共に地霊殿へと向かう。もちろん、地霊殿のみんなにお土産を渡すためだ。

 今回の旅行のこと、これから先一生忘れることはないだろう。一輝たちや裕太たちなどのいい奴らと知り合ったことも絶対に忘れない。




 はい!記念エピローグ終了

 今回の記念話は長かったですね。

 ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

 引き続き本編の方は投稿を続けますので、そちらの方も読んでいただければと思います。

 本編の方は毎週火曜日に投稿中です。

 それでは!

 さようなら


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第零章 プロローグ
第1話 スカウト


 はい!どうもみなさん!ミズヤです

 ついに僕が作品を投稿しはじめて一周年です!

 そして長らくお待たせしました。

 第二期始まりです!

 この作品は初投稿作品であるので一番思い入れがある作品だと言えるでしょう。

 そして初っぱなからコラボと言う…なに考えてるんだろう?まぁ、ちゃんとコラボ書いていきますよ!

 ではまずはプロローグと言うことで!

 それではどうぞ!


 数年前、俺は幻想入りをした。

 その世界で数年間様々な異変を解決しながら生活した。

 そして恋をした。

 しかし、ある事件をきっかけに俺は過去へ、そしてついには現代に帰ってきてしまった。

 もう、あそこへは帰られない。俺はこの世界で元気に暮らすと幻想郷にいる俺の彼女にそう誓った。

 

 そこで俺の幻想入りの、幻想郷の恋物語、無意識との恋物語は幕を閉じた。

 

 …と、思っていた。

 

 さぁ、もう一度始めよう。

 

 無意識との恋物語の第二章を…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「逃げたぞ!追えー!」

 

「そうそう捕まってたまるか!」

 

 警察から逃げる犯人

 

 この男はとある犯罪を起こし警察から逃げている真っ最中

 

 そこに忍び寄る影が一つ

 

 その時

 

 走って逃げている犯人の目の前に急に一人の男が飛び出してきた。

 

「どけぇーっ!」

 

 と、叫びながら犯人は男に突進するが、いとも簡単に押さえ込まれる。

 

 そして犯人は男の手の中で暴れる。

 

 しかし抵抗も虚しく逮捕される犯人

 

「ご協力感謝する」

 

「いつもありがとう」

 

 と、お礼を言われる男

 

「いえいえ、気にしないで下さい」

 

 この男は以前幻想郷と言うところに幻想入りしたことがある。

 

 その時には能力や霊力を手にいれたが、こっちに戻ってきてから使えなくなり、運動神経だけそのままだったのでその高まった運動能力を有効活用し、人助けや、先程のように警察の手伝い(犯人が逃げたときに追う)をしている。

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

side男

 

 俺は犯人を捕まえたあと自宅に帰ってきていた。

 

 そしてベットに座り込む。

 

 その時

 

「真君、こっちの生活も頑張ってるね…」

 

 と、2度と聞くはずが無いと思っていた声が聞こえてきた。

 

 これは幻聴なのだろうか?否、俺の耳にははっきりと届いた。

 

「シャロ…」

 

「ピンポーン!大正解!覚えててくれて嬉しいな!面識はほとんど無いけどね」

 

 うん。確かに面識はあのとき一回だけだからな。

 

 っと、この俺に親しげに話しかけているのは時空神で時空を越えられる人、シャロだ。

 

 この人は時空上でただ一人のため俺と話したのはこのシャロで間違いない。

 

 確か紫しか知らなかった人物だよな。

 

 いやぁ…懐かしいな…じゃなくてだな

 

「用件はなんだ?」

 

 と、俺が問うとシャロはどうしよっかな~?と勿体振り始めた。

 

 もったいつけずに早く言えよ。

 

「聞きたい?僕、すごく面白いこと思い付いちゃったんだ!」

 

 と、本気で浮かれた子供のようなテンションで嬉しそうに話す神様

 

 神様ってこんなに威厳が…もっと神様って威厳があるイメージが…うん。たぶんシャロだけだろうね。

 

 と言うか俺の布団の上に急にすとんと現れて俺の顔にぐっと自分の顔を近づけるのはやめてほしい。どう反応すれば良いか分からない。

 

 一応、俺は異世界に彼女が居るんだぞ?皆から見たら俺が「俺の嫁」って言ってるように見えるかも知れないけど俺は真剣にそういっている。事実だからな。

 

「早く話せよ」

 

 と、俺は急かす。

 

 するとやっとシャロは話し始めた。

 

「ふふふ。実はね?多世界混合対幻想郷選抜チームバトルを開いてみたいと思うのよ!」

 

 と、シャロは本当に楽しそうに話す。

 

 シャロが男っぽい格好をしているとしても女の子がそんなに嬉しそうにしてたら可愛いと思ってしまう自分が居る。

 

 と言うか多世界ってどういう基準だ?

 

 と、俺が心の中で問うとその問いに答えるように話し始めた。

 

「まぁ、そうだよね。じゃあ多世界選抜の世界を発表!まずはここのパラレルワールド」

 

 ほう…幻想入りをさせるのか…

 

「二つ目から四つ目までは君の居た幻想郷のパラレルワールド!」

 

 なるほど…今までこっちの幻想郷に流れ着いた人達みたいにこっちに連れてくるのか…

 

「そして最後、ここ」

 

 ここ?

 

「ここってもしかしてこの世界ですか?」

 

 と、聞くとシャロは「うん」と頷いた。

 

 なるほど…何となくシャロが来た理由が読めたぞ!

 

 なるほど…あれだな…うん。

 

「と言うことで海藤(かいとう) (しん)君、この世界代表として出てくれない?」

 

 うん。そう来ると思ったよ。

 

 特に断る理由も無いんだよなぁ…これが

 

「ああ、別にいいけど」

 

「ありがとう~!」

 

 と、嬉しそうな声を出すシャロ

 

 その瞬間、体が浮き始めた。

 

 戻るのか…あの世界に…

 

 まだ実感が沸かない…2度と戻ることが無いと思っていたあの世界

 

 その次の瞬間、俺は草原に居た。

 

 そして目の前に一軒の家が見える。

 

「その建物の中で待っててね」

 

 そうか…懐かしいな。

 

「ただいま…幻想郷」




 はい!第1話終了

 次回は幻想郷での話になります。

 多分次回は真やらが出てこないと。

 コラボ開始は次の次の話からです(多分)

 そして溜め書きの量の多さが半端無い。

 それとリア友から海藤 真の絵を貰いました。

 
【挿絵表示】


 カッコいい

 それでは!

 さようなら


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第2話 スカウト~幻想郷~

 はい!どうもみなさん!ミズヤです

 今回は幻想郷での話です!

 次回からはコラボ開始ですので楽しみに?していてください?(自分でハードルをあげていくスタイル)



 それでは前回のあらすじ

 ついに始まった無意識の恋の第二期

 真は外の世界で色々と活躍していた。

 そんな真の前にシャロが現れ、幻想郷で開催される大会に出てみないか?と提案する。

 特に断る理由も無かった真は承諾し、数年ぶりに幻想郷に帰ってきた。



 それではどうぞ!


 真が幻想郷に連れてこられた同時刻、幻想郷は

 

「お姉ちゃん!あっちの仕事終わらせてきたよ!」

 

「ありがとう。こいし。そろそろ休憩にしていいわよ」

 

 と、姉妹で仲良く話す二人。

 

 ここは地底の温泉宿。温泉郷。

 

 数年前のある異変によって掘り出された天然の源泉を使った天然温泉だ。

 

 かなり幻想郷内では評判も良いようで毎日毎日客足が絶えない。

 

 泊まらなくとも温泉を目当てで来る客も居るからだ。

 

 なので毎日大忙し。

 

 そしてこの宿は地霊殿と言う所で暮らしている人が経営をしている。

 

 この姉妹もそうだ。

 

 と、そこに

 

「こんにちは」

 

 と、どこから途もなく空間が裂け一人の女性が出てきた。

 

「紫?ちょっと心臓に悪いからその登場はやめてくれない?」

 

 と、桃色の髪の女の子、古明地(こめいじ) さとりは言った。

 

 するとドタドタと少女が走って来た。

 

「何々?」

 

 と、緑色の髪の女の子、古明地(こめいじ) こいしは言った。

 

「その前に」

 

 と、言ってから金髪のどこから途もなく現れた女性、八雲(やくも) (ゆかり)は空間の裂け目に首を突っ込んで何かを言った様だ。

 

 すると中から大勢の男女(女性の比率ぱねー)が出てきた。

 

「何よ紫」

 

 と、紅白の巫女服を来た少女、博麗(はくれい) 霊夢(れいむ)は聞いた。

 

 恐らく何も知らされずに集められたメンバーなのだろう。

 

「まぁまぁ霊夢。これから言うわ」

 

 と、紫は一拍置いてから話し始めた。

 

「大会よ」

 

 その言葉にこの場に居る者は皆固まってしまった。

 

「大会よ」

 

「聞こえてるわよ」

 

 二回言った紫に対してすかさず霊夢はツッコミを入れる。

 

「そもそも何ですることになったのよ」

 

 と、霊夢は紫に聞く。

 

「それはね。私の友人にシャロって友人が居るのだけど」

 

 と、紫が言った瞬間、こいしはあるものを思い出した。

 

 それは数年前に貰った大好きな人からの最後の手紙だった。

 

 そこに書いてあったのだ。“シャロ”と言う名が

 

「で、気まぐれにね。大会を開きたいと言ってきたのよ」

 

 全員がこれで大体を把握した。

 

「でね。色んな世界から選抜されたチームと幻想郷の選抜チームで5対5の大将戦をしようって事になったのよ」

 

 すると霊夢は1歩前に出てから言った。

 

「私達もなめられたものね」

 

 霊夢がそう言った瞬間、紫は「そう言ってられるのも今のうちよ」と意味深な事を言った。

 

「だからメンバーを4人決めておいて」

 

 そしたら金髪の少女霧雨(きりさめ) 魔理沙(まりさ)が驚いてこう言った。

 

「5人じゃないのか!?」

 

 すると紫はふふっと笑って「一人はもう決めてあるのよ」と言った。

 

「景品はここの無料入場券ね」

 

 そう言ってからまた空間を裂いてどこかに行った。

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

sideこいし

 

「勝手なことを…」

 

 と、お姉ちゃん

 

 だけど面白そうだよね。

 

 早苗達が来たときのようなのは嫌だけど、これは大した問題じゃないし、普通に楽しめそう!

 

 誰を選抜するんだろう…

 

 すると上から一枚の紙が降ってきた。

 

 それを霊夢がキャッチする。

 

 それを霊夢が読み上げる。

 

「現幻バトル大会 ルール

 

一。ドーピングの禁止。ドーピングでの身体強化はダメ

 

一。スペルカード以外の武器、または道具(スペルカードに必須の道具は含まない)の使用禁止。

 

一。一回の試合で一人につき飛べる時間は合計一分までそれ以上飛ぶと強制失格。

 

一。殺害禁止

 

一。闘技場から落ちて下に体が着いたら失格

 

ふーん。ちゃんとルールがあるのね。ってか私達には3番目が厳しいわね。浮遊を制限とはやるわね」

 

 うん。これで決めるのの参考に出きる。

 

「じゃあ。早苗、妖夢、魔理沙、私ね」

 

 と、勝手に決める霊夢。ってか強い人を適当に選んだだけじゃ?

 

 と言うか妖夢はどうなの?武器使用禁止なんだよ!

 

「私ダメですよ!武器使えないですし」

 

 そう妖夢が言うと霊夢は

 

「霊力で作った刀なら良いんじゃない?あの…ダークが使ってた」

 

 確かにあれは霊力だから武器じゃないけど…それってかなり妖夢に負担がかかる気が…

 

「あとすこしでそれは完成するので良いですよ」

 

 ええー!練習してたの!?

 

 すごいな…たぶん真とダークの戦いを見て負けられないって思ったんだろうね。

 

 それで実際に行動に起こせる妖夢はすごいよ!

 

「じゃあこのメンバーで決まりだな」

 

 そして魔理沙がこの場を締めた。

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 地獄

 

 この幻想郷には地獄と言うものが存在する。

 

 そこには過去に重罪を起こしたあと死んだものが送られると言う。

 

 そこには当然ながら閻魔様も居る。

 

「閻魔ー!居る?」

 

 と、シャロは地獄に来て呼び掛ける。

 

 するとすぐに返事が帰ってきた。

 

「ここは自室じゃなくて仕事場なのだからそうそう居ないってことは無いけども?」

 

 と、一人の女の子がシャロに寄っていく。

 

 その少女の名は四季(しき) 映姫(えいき)・ヤマザナドゥ。閻魔様だ。

 

 しかし、想像とは違い、見た目は…そう。ロリだ。

 

 背は低く、緑髪が特徴の少女だ。

 

「ごめん。で、頼んでおいた人は居るかい?」

 

 と、シャロが聞くと、映姫は指をカスッとならした。

 

 そして映姫は顔を赤くしたがすぐに魔方陣が現れ、その中から一人の人物が出てきた。

 

 その人物を見てシャロはにやっと笑う。

 

「こんな罪人の俺に時空神さんがなんのようだ?」

 

 と、男は神を目の前にしていると言うのに一切臆せずそう言った。

 

 するとシャロは一瞬驚いた表情となった。

 

「なぜ僕が時空神だって分かったの?」

 

「地獄にはその手の本が大量にあるんでな。一通り目を通しておいた」

 

 するとシャロは「なるほど!」と納得したようだ。

 

「じゃあ、ここから本題なんだけど…君…生き返って現幻タッグバトル大会に出てみない?ダーク君…いや、今はライト君だっけ?」




 はい!第2話終了

 最後の人物…さぁて、これからどんな戦いになるのか?

 そして次回からはコラボ開始です!

 コラボしてくださる方。ありがとうございます。

 それでは!

 さようなら


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第壱章 現幻バトル大会 コラボ~三作品~
第3話 集いし5人の戦士 


 はい!どうもみなさん!ミズヤです

 今回からコラボ!

 と言うことでコラボ者達のしょうかいを始めます!

 まずはこの人!
 かくてるさん!元もこもちさんですね。一回コラボしたことあります。
 コラボ作品が『東方想幻華』です!

 次はこの方
 深緑 風龍さん!この方も一回コラボしたことあります!基本的にR18作品を書いている方です。
 コラボ作品が『Subterranean Electron World』です!

 最後はこの方
 ホワイト・ラムさん!なぜこのような大物がコラボ申請をしてくださったのか僕も驚きが隠せません!
 コラボ作品が『やめてください!!師匠!!』です!

 このお三方とコラボしました!



 それでは前回のあらすじ

 ついに東方キャラの登場

 かなりgdgdしていたと思われる回。これで読者が半分近く減っただろう。

 幻想郷メンバーに大会に出ることを促す紫はメンバーを4人選抜させる。

 そして、大会のルール。これがどう戦いに影響するのか!?



 注意です。

 コラボキャラのキャラ崩壊が物凄いです。

 コラボキャラが使ったことのないような独自技を使うことがあります。

 それでも良い方は

 どうぞ!


side真

 

 久しぶりに帰ってきた…幻想郷に…

 

 久しぶりの幻想郷…それだけで涙が出てきた。

 

 今でも鮮明に幻想郷での暮らしを覚えている。

 

 こいしに何度も会いたいと思った。だが来れなかった。それが今、俺はあの幻想郷の土を踏んでいる。

 

 感無量だった。

 

 でも、さすがの俺だってわかる。今、あいつらに会うべきではないと…

 

 だけど、多分大会時には会えるよな。楽しみすぎる。こんなに心が踊ったこと無いだろう。

 

「よっしゃ!気合い入れて行くぞ!」

 

 そして俺は建物に入ろうとドアノブに触れようとしたとき。

 

 急に勢いよく扉が空いた。

 

 そして考える間も無く

 

 ガツン

 

「ぐわっ」

 

 と、俺は素っ頓狂な声をあげてそのまま後方に倒れる。

 

 俺は何事か?と思って扉を見るとそこには銀髪で黒の長ズボンに白いシャツ、その上に赤いパーカーを着ている男が立っていた。

 

 なんと、先に来ていた人の様だ。この人が扉を開けたと言う訳か…

 

「なにやってんだ?お前」

 

 と、悲惨な物を見る目で見てきている。

 

 って!俺は好きでここに倒れてる訳じゃねぇっ!

 

「痛てててて」

 

 と良いながらズボンの砂ぼこりを払いながら立ち上がる。

 

「ん?お前、この建物に居るってことはお前もスカウトされたのか?」

 

 と、聞くと男の表情が変わった。

 

「お前もって事はお前もか?」

 

 そう聞かれて俺は「そうだ」と答えた。

 

 やはりこの男はシャロか紫のスカウトを受けてここに来たらしい。

 

「ってか。名前分からないとお前って言葉でゲシュタルト崩壊しそうだ」

 

 と、笑いながら俺が言うと男もそうだなと言った。

 

 じゃあ、提案した俺から名乗ろう!

 

「俺は海藤 真だ」

 

 と、俺が名乗ると、また表情が変わった。

 

 本当に表情豊かな奴だな!

 

 と、心のなかでツッコミを入れておく。

 

「お、お前が噂の海藤 真か!?」

 

 なんか血相変えて驚いているんですが…この人と俺って知り合いだっけ?初めて会ったような気がするんだが…

 

「ああ、どの噂かは知らんがその真であってるだろう」

 

 なんか知らんけどものすごい驚かれたな。何かしたっけ?

 

 シャロはここ以外から集めるって言ってたから知ってるはずが無いんだけどな…

 

「ああ、すまん。ちょっと驚いちゃってな。俺の名前は愛原(まなはら) (かなで)だ。よろしく!」

 

「ああ、よろしく」

 

 手を差し出してきたので握手する。

 

 と、そんなことをやっていると、上空から声が聞こえた。

 

「わー!落ちる~」

 

 落ちる?そう聞こえた気がして上を見る。

 

 すると、何かが落ちてきているのが分かった。

 

 それを見つけるや否や奏は俺から数m距離を置いた。

 

 そして

 

 ドシーン

 

 そのモノは俺に直撃し、俺は下敷きになる。

 

「良かった。ここにクッションがあって」

 

 と、立ち上がる落ちてきた人物。

 

 その人物を見ると俺は驚いた。

 

 なぜなら

 

「ガルッチ!?」

 

 そう、ガルッチだったのだ。本名ラーク・バスター・ガルッチ。以前この世界に迷い混んできた人物だ。

 

 ちょっと両手両足の鱗みたいなのが気になるけど見た目はガルッチだった。

 

「違う」

 

 と、ガルッチは否定した。

 

 え?どういう事?

 

「俺はアザトース・ゴジラだ。呼び方は何でも良いがへn」

「じゃあガルッチな」

 

 と、俺は少し食いぎみにそう言った。

 

 俺には昔のイメージがあるからどう頑張ってもガルッチにしか思えなかった。

 

「なんかお前ら漫才をやってるみたいだな」

 

 と、笑う奏

 

「俺は愛原 奏だ。よろしく」

 

 と、俺にしたように自己紹介をする奏

 

 奏は基本的に友好的なのだろうか?

 

 その時

 

 急に俺達の間にスキマが現れた。

 

「やめてください!死にたくない!師匠!俺の逃げ場を無くすように弾幕を放つのは止めてください!勝てなかったら死ぬなら行かなければ良い!やめて!芳香噛みつかないで!うわぁっ!」

 

 そんなやり取りがスキマから聞こえたあと、一人の男性が出てきたと言うより飛び出てきた。

 

 いったいこのスキマの奥で何があったんだ?

 

 と、そんなことを思っているとスキマからシャロが出てきた。

 

「ちょっと思ったより抵抗するから紫の能力を使わせてもらったよ。それじゃ、あと一人だね待ってて」

 

 抵抗していたのか?何で抵抗してたんだろう?

 

 と、思って近づいてみる。

 

「こ、殺される…師匠に殺される」

 

 と、ずっとこの調子だ。

 

 俺達は取り合えず建物内に入ったが、この…黒いズボンに紺色の中華風の上着、首に青と赤色のツギハギデザインのマフラーを着けた男はずっとこんな感じで呟いている。

 

「大丈夫か?」

 

 心配になり、声をかけてみる。

 

 すると、我に帰ったようで正気を取り戻した。

 

「すみません。お見苦しい所を…私は詩堂(しどう) (ぜん)です。仙人をやっています。よろしくお願いします」

 

 と、話してみると結構礼儀正しいようだ。

 

 それに続いて俺達も自己紹介をした。

 

「よろしくお願いします。真さん。奏さん。ゴジラさん」

 

 そんな会話をしていると、背後に気配を感じた。

 

 嫌な予感がし、俺はその場から床を蹴って離れる。

 

「気配を…」「全く…」「感じなかった!」

 

 と、奏以外はその場から離れた。

 

 いまいち奏だけが状況を掴めていない様だった。

 

「やぁ、皆さん。ごきげんよう…俺は広野(こうの) 誠哉(せいや)と、言います。以後お見知りおきを」

 

 と、頭を下げる誠哉と名乗る人物

 

 どうやらこの大会はただじゃ済まなそうだ。




 はい!第3話終了

 今回からコラボスタート!

 それで、多世界混合選抜チーム視点と幻想郷チーム視点は交互に書くと思います。

 奏君のキャラはこう言う奏君も見てみたかったってのが大きいですね。

 それでは!

 さようなら


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第4話 復活の最恐

 はい!どうもみなさん!ミズヤです

 今回は幻想郷チーム視点です。



 それでは前回のあらすじ

 幻想郷に降り立った真はまず最初に奏と出会う。

 そして見た目の雰囲気に少しだけガルッチらしさ残っているアザトース・ゴジラ

 仙人の詩堂 善

 そして嫌な予感がする広野 誠哉

 果たして大会はどちらのチームが勝つのか



 それではどうぞ!


sideこいし

 

 私達は現幻バトル大会に向けて準備を進めていた。

 

 無料入場券なんて物を景品にするせいでその日は旅館を貸しきりにしておかなくちゃいけないし、色々とやることも一杯あって一つ一つ片付けるのが大変。

 

 いつも真が居なくなって怠けていた龍生も今回ばかりは働いている。

 

 ここ数年。真が居なくなって静まり帰っていた地霊殿メンバーも、今ばかりは昔の賑やかさを取り戻している様な気がする。

 

 でも、頑なにお姉ちゃんは私に料理をさせてくれないんだよね…どうしてだろう?

 

 理由を聞いても「知らない方が良いこともあるのよ」って言って教えてくれないんだよね…

 

 でもまぁ、良いんだけどね。別に

 

 楽しければ何でも良い!

 

 この大会は私たちにとってまた賑やかな日々を送るチャンスなのかも知れない。

 

「お姉ちゃん!」

 

 と、お姉ちゃんの名前を呼んで駆け寄る。

 

 すると、お姉ちゃんは「なに?こいし」と、聞いてきた。

 

「霊夢たち、今頃大会に向けて何をしているのか気になるから見に行ってきていい?」

 

 と、聞くと、「今は少し空いてるから良いわよ」と、言ってくれたので霊夢たちの様子を少し伺うことにした。

 

 それで地底を飛び出して博霊神社へ

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「せっかく来たならお賽銭入れなさいよ!あんたら!」

 

「なんだよ!いつもいつも賽銭賽銭って!貧乏巫女が!」

 

 と、酷い状況だった。

 

 いま、霊夢が玄関前に立って魔理沙と妖夢、早苗を見下ろしている感じ。

 

「情けない…同じ巫女として…そんなんだから参拝客が増えないんですよ!」

 

 あの守谷がって信じられないかも知れないけどなぜか信仰だけはあるんだよね。

 

 そして妖夢は苦笑いをしている。

 

「と言うか、あと一人いるはずでしょ?何で居ないのよ!」

 

 と言う霊夢

 

 確かに5人一組のチームな訳で今居るのは霊夢・魔理沙・妖夢・早苗のみ。

 

 本来ならあと一人居るはずなんだけど居ないみたい。霊夢たちの口振りからしてまだ会ったこと無いのかな?

 

「やっほー!みんなー!」

 

 と、どこからともなく一人の少年?少女?曖昧な人が出てきた。

 

 その声がせっかくシリアスになり始めていたのにその雰囲気をぶち壊す。

 

 急に出てきた物だから霊夢たちは飛び退き戦闘体制に入る。

 

「あー。そんなに警戒しなくても良いよ。僕は悪いやつじゃないから」

 

 と言うが霊夢たちは警戒を緩めない。

 

「あんた…誰?」

 

「僕はシャロ。神だよ。宜しく」

 

 と、良いながら辺りを見回すシャロ

 

「随分と廃れたね…先代の時はかなり人間で賑わってたのに…」

 

 と、どこか懐かしそうに呟くシャロ

 

「えー。あんた、お母さんを知ってるの?」

 

「だって僕、神様だからね」

 

 と、笑う。

 

「っとそんなこと言いに来たんじゃなかった。紫からきいてるでしょ?あと一人の存在を」

 

 と言うと漸く警戒を解く霊夢たち

 

「紫の事を知ってるってことは偽物じゃ無さそうね」

 

 と、呟く霊夢

 

「やっとあと一人の調整が終わったよ…今日から本格的に作戦会議?に出席出来るよ!」

 

 そう言ってシャロは空間を引き裂いた。

 

 その中から一人の男が出てきた。

 

『なっ!』

 

 ここに居るすべての人が驚いた驚いた。

 

 なぜならそいつは

 

「久し振りだな…」

 

「ダーク…」

 

 ダークだったから。

 

 でも昔とは違ってあの殺伐とした雰囲気はなく穏やかだった。

 

 そして霊力を全く感じない。

 

 普通なら微弱ながらも近くにいたら霊力は押さえてても感じるはず。

 

 なのに全く霊力を感じない…

 

 どういう事?

 

「もしかして…あんたが五人目?」

 

「ああ、そうだ」

 

 と、肯定するダーク

 

「皆、警戒してるけどしなくて良いとおもうよ。もう改心してるんだし」

 

「でもあんなことあったし、今さらそんなこと言われたって…」

 

 確かに…あんなことあったあとだと信用したくても出来ない。

 

「信用か…今の俺には信用など不必要…」

 

 そう言ったあとどこかに行ってしまった。

 

 その時、私の横を歩いていった。

 

「少女。どんなことがあっても諦めなければなんとかなるかも知れんぞ」

 

 そう言って歩いていった。

 

「ねえ!ちょっとどういう意味?」

 

 と、引き留めて聞こうとしたけど、そこにはもうダークは居なかった。

 

 諦めなければ…ね。それってどういう意味なんだろう…

 

「大会はいよいよ3日後だよ。準備万端にしておいてね」

 

 そう言ってシャロは消えた。

 

「まさか…ダークが最後の一人だなんて…」

 

「でも、あいつは死んだはずだろ?」

 

「それについては私が説明するわ」

 

 と、そこに紫がスキマの中から出てきた。

 

 すると霊夢は「はぁ…聞いていたのね」と言う目で紫を見る。

 

「あいつの今の名前はライト…地獄ではそう呼ばれていたわ。光の真って意味で。地獄では唯一善行を積むものとして知られていたのよ。で、あいつがなぜここにいるかというと生き返らせたからよ」

 

「生き返らせた!?そんなことが!」

 

 と、魔理沙は叫んだ。

 

「幽々子の力を借りたのよ」

 

 と、言った。

 

 確かに幽々子の能力【死を操る程度の能力】なら出来るかもしれない…

 

「ちょっと待ってください!幽々子様は何も」

 

「まぁ、時が来るまでは内緒にしてたからね」

 

 なんか凄いことになったな…

 

 そんなこんなで3日間が過ぎていくのだった。




 はい!第4話終了

 こいしヒロインの小説が増えてほしい。切実に

 次回は多世界チーム視点です。

 そして次回で大会前の話は終わりです。

 それでは!

 さようなら


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第5話 怪しい男 誠哉

 はい!どうもみなさん!ミズヤです

 今回は選抜チーム視点です。

 どうやら選抜チームでは色々な事件が起こるようですよ?



 それでは前回のあらすじ

 古明地 こいしは霊夢達の事が気になり、博麗神社に向かう。

 そして博麗神社でかつて敵として戦った人物、ダークの姿があった。

 ダークは自分自身の事をライトと名乗った。

 果たしてライトは敵なのか?見方なのか?



 それではどうぞ!


side真

 

 どうしてこうなった…

 

 俺は今現在森を歩いている?

 

 なぜかって?

 

 なぜなら…

 

 いや、これは実際に状況を見てもらったほうが早いと思う。

 

 そう…あれは数時間前の話しだ。

 

─※─※─※─回想─※─※─※─

 

「誰だお前は」

 

 と、俺は急に背後に現れた男に聞いた。

 

 すると男は

 

「嫌だなー。今名乗ったじゃないですか~」

 

 こいつの話し方いらっとするな。

 

「じゃあ聞き方を変える。お前は何者だ」

 

 そう言うと、男はケタケタと笑いながら

 

「俺はただの人間ですよ。少なくとも力は…ね」

 

 と言った。

 

 力は?どういうことだ…

 

 嫌な予感がする。不思議な男だ。こいつは本当はヤバい奴なんじゃないかと言う考えが頭の中を駆け巡る。しかも気配を消すなんて…

 

「それにしてもここは良いところだね。空気も澄んでいて、美味しい。なぁ、少しここの周りを見てきても良いか?」

 

 と、誠哉と名乗る男は聞いてきた。

 

 俺はこのまま許可しても良いのか迷っていた。

 

 しかし

 

「なぁ、良いじゃないか。俺もこの幻想郷を少し観光してみたいし」

 

 と、状況を掴めていないマイペースな奏がそう言ってきた。

 

 はぁ…仕方がない…

 

「わかった…じゃあ2時間後ここで集合で良いか?」

 

 あいつの本性を見るいい機会かもしれない俺は誠哉の監視をするとしよう。

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

人里

 

 この森、人里の近くだったのか…これは観光には丁度いいな。

 

 そう言えば奏もこの幻想郷に来たことがあるみたいだな。

 

 まぁ、その時は観光してる時間が無かったって言ってたな。

 

 その時

 

「うぇーん」

 

 と言う泣き声が聞こえてきた。

 

 声のした方向を見るとそこには風船が木に引っ掛かってしまって木の根本で泣いている子供が居た。

 

 可愛そうだ。

 

 俺が取って上げようと一歩を踏み出したその時

 

「はっ!」

 

 と、掛け声を上げて誠哉は走りジャンプをして風船をキャッチした。

 

「はい。どうぞ」

 

 と言って誠哉は風船を子供に返す。

 

 すると子供は「ありがとう」と言って走り去っていった。

 

 あいつ…

 

 あのときの嫌な予感は何だったんだと思うほどの良いやつ。

 

 でも、まだ俺にはなにかが引っ掛かる。

 

 何か隠してるんじゃないかって

 

 その後も尾行していったが珠に善行をしつつ、観光を楽しんでいるだけにしか見えなかった。

 

 そして誠哉が人混みに入っていってしまって見失ってしまった。

 

「ったく…あいつ…どこに行ったんだよ…」

 

 しばらく誠哉を探していると善とガルッチが一緒に居るのを見かけた。

 

「あ!真さん」

 

 と、こちらに駆け寄ってくる善

 

 ガルッチは善と行動を共にしていたらしく、渋々こちらに近づいてきた。

 

 仕方ない…あいつは諦めてこいつらと観光するか…

 

 そのあと時間までガルッチや善と一緒に観光した。

 

 途中で仙人だと言う善の師匠の話を聞かせてもらった。

 

 善の師匠は無理難題を言ったり、選択肢と言えないような選択肢を提示したり、死にかけたことも何度もあったらしい。

 

 こ、怖い…

 

 今回も善が連れてこられるときに、なんか知らんがシャロが後付けで仲の良い者なら勝った場合、旅館に来て良いと言ったらしい。

 

 その瞬間、善の師匠が善に勝てなかったら修行をもっとハードにすると言われたらしい。

 

 『善にとって修行をハードにする=死』らしく、すごくこちらに来るのを抵抗したらしいのだが、師匠と芳香?っていう子に無理やりスキマの中に押し込まれたらしい。

 

 なんと言うか…ドンマイ

 

 そんなこんなであっという間に2時間が過ぎた。

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 俺達は例の建物に帰ってきていた。

 

 ここには善、ガルッチ、誠哉、俺が居た。

 

 あれ?誰か少ないような…

 

「奏が居ねーっ!」

 

 どういうことだよ!集合時間から20分も過ぎてんだぞ!

 

「真さんが探しに行ったらどうですか?」

 

 と、善が言ってきた。

 

「だな。恐らくだがこちら側に居るってことは暫く幻想郷から居なくなってたんだよな?でもそれでもここはお前のほうが詳しいんじゃないか?」

 

 確かに俺のほうが詳しいからな…しょうがない…探しにいくか…

 

─※─※─※─回想 終─※─※─※─

 

 と言うことがあって今に至る。

 

 ったく…どこで何をやってんだ?

 

 と、考えながら歩いていると、一つ案を思い付いた。

 

 携帯は…ダメだな…きっと圏外で使えない…

 

 一応連絡先は交換したけど使えないよな…

 

 でも一応かけてみるか…

 

 かからないと思うがとりまやってみっか。

 

 プルルルプルルル

 

 ガチャ

 

 え?

 

「はい。奏です」

 

「あ、真です。どうも」

 

「ああ、真か、突然知らない電話番号からかかってきてビックリしたよ」

 

 そこびっくりする前にここ幻想郷だぞ?ここで電話がかかってきたことにびっくりしろよ。

 

 と言うかさっき教えただろ…

 

「どうした?」

 

「その前に、お前、変だと思わないか?」

 

「何が?」

 

「ここ、幻想郷。電話がかかってくるはずがない。圏外」

 

 俺がそう言うとやっと気がついたかの様な声色で「あっ!」と言って「そうだった」と笑いながら言った。

 

 こいつ、本当に今まで気がついてなかったんだな。なんと言うか…天然?マイペース?そんなところが奏にもあるなんて驚きだな。

 

「でも何で電話がかかったんだろうな」

 

「うーん…そうだ!幻想郷は常識に囚われてはいけないんですよ!」

 

「何急に早苗みたいなことを言い出してんだ。だけど私物は常識の範囲内でいて欲しいんだが…」

 

 まず霊力で充電できることからおかしいけどな

 

 だが今回はこの非常識に感謝を!だな。

 

「取り敢えず、集合時刻過ぎてるぞ」

 

 そう言うと、「あー」と、申し訳なさそうな声色で言った。

 

「実は俺…道に迷ってしまった(・・・・・・・・・)んだ」

 

「・・・はぁっ!」

 

 と、とてもでかい声を出しながら驚いてしまった

 

 こいつ…通りで…

 

「周りの特徴を教えろ」

 

「スッゴく美味しい団子屋があるよ。はむ。むぐむぐ」

 

「食ってんな!お前!俺と電話しながら!」

 

 待ってろ!今すぐ行って取っ捕まえてやる!

 

 ってか団子屋ってさっき俺達が行った場所じゃねーか。

 

 そして急いで行き、金を支払い終わった所を回収した。

 

 そして奏がまた道に迷わないようにして誠哉が変な行動を起こさないように見張りながら大会まで修行をするのだった。




 はい!第5話終了

 今回で大会前の話が終わると言ったな?あれは嘘だ

 今度こそ次回で大会前の話は終わります

 それでは!

 さようなら


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第6話 ついに始まる現幻バトル大会

 はい!どうもみなさん!ミズヤです

 今回で大会前の話は終わります。



 それでは前回のあらすじ

 真は誠哉は警戒すべき人物として、監視をする。

 しかし怪しいところはなにも見当たらない。

 そして天然の奏

 常に多世界チームはドタバタしています。



 それではどうぞ!


大会三日前

 

 皆、両チームとも最後の修行に精を出していた

 

「くらえーっ!恋府《マスタースパーク》!」

 

 と、魔理沙のミニ八卦炉から極太のレーザーが出てくる。

 

「力押しで博霊の巫女を負かせると思ったら大間違いよ」

 

 と、霊夢はすんなりとマスタースパークを避けて

 

「霊府《夢想封印》」

 

 霊夢は夢想封印を放つ。

 

「魔府《スターダストレヴァリエ》」

 

 その夢想封印をスターダストレヴァリエが相殺する。

 

「あんた…相変わらずパワーバカね」

 

「えへへ。それほどでも無いんだぜ」

 

「褒めてないのだけど…」

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

一方、多世界チームは

side真

 

「へぇ…霊力刀ね…確かに霊力で作り出した刀は武器判定か微妙なところあるけど霊力だから体の一部って事になるのかな?」

 

 と、俺は奏と話していた。

 

 内容は霊力刀の事だ。

 

 奏も刀使いらしい。それで、なんか意気投合して刀の話をしていた。

 

 奏の刀は咲名千里と言う女の子が宿っているらしい。いわば分身…みたいなものだと言う。

 

 俺の刀…どうしてっかな…

 

 ここまでの会話で分かってると思うけど、俺は刀を主な攻撃手段としている。

 

 昔は素手で戦っていた時期もあったが、流石に無理があったため刀を使うことにした。

 

 刀の名前は妖刀【神成り】。そして、奏の刀と同じく女の子が宿っている。

 一つ違う点を上げるとすれば、刀自身が女の子が変化したものだと言うこと。名前は紬。神様らしい。

 

 と言うような感じだ。

 

 一通り説明した所で本題に戻る。

 

 俺と奏が今話していたのは霊力刀が武器に入るかどうかと言う話だ。

 

 入らなかったとしたら、これは俺と奏にとってはとても大きいだろう。

 

 そんな感じだ。

 

 他のメンバーは善が瞑想、誠哉が観光(何回目か忘れた)、ガルッチが誠哉の付き添い。

 

 ガルッチは『ったく…何で俺がこんなことを…』と文句を言いながら誠哉の監視…もとい付き添いをやってくれるんだから良いやつだよな。

 

 俺が行けばよかったんじゃと思うかも知れないけど、今日は奏と約束してたからしょうがないね。

 

 しかし、奏に少し霊力刀の作り方を教えると直ぐに覚えたな。あれ、結構難しいはずなんだけど

 

「じゃあ、最後の仕上げだ。俺と一戦どうだ?奏」

 

 と、俺は奏に勝負を申し込んだ。

 

 仕上げと言う名目で俺は奏の力量を確かめたかったのだ。

 

 正直、霊力刀をすぐに完成させた奏の力を見たくなった。

 

「良いぞ。ルールは?」

 

「例のバトル大会のルールに乗っ取って『武器なし、ドーピング無し、飛行は合計一分』でどうだ?」

 

「分かった。それで行こう」

 

 そして一定の距離を離れて立ち止まる。

 

「じゃあこの石が地面に落ちたら開始」

 

 俺はそう言って石を拾い上げる。

 

 そして石を落とす。

 

 暫しの沈黙が訪れた。

 

 俺達の視線は落ちていく石へと注がれる。

 

 そして石は落ちていき、ついに

 

 カタン

 

 その音により開始が告げられた。

 

 そして同時に動き出す。

 

 お互い、お互いに向かって走りながら霊力刀を作り出す。

 

 そして

 

 カキィィィィン!

 

 俺達の刀が合わさることにより二本の霊力刀は甲高い音を奏で、衝撃波が辺りを包む。

 

「やるな」

 

「お前もな」

 

 そう言ってお互いにバックステップをして距離をあける。

 

 分かってたが奏も相当な手練(てだ)れのようだ。

 

 じゃあ少し俺も本気を出すかな?

 

 しかし、流石に何年も戦いから離れていたんだ。俺にはブランクがある。少しずつこの試合で慣れないとな。

 

「じゃあ俺の第一スペルを見せてやるよ。狙撃《スナイパー》」

 

 そして、そこら辺の石を拾い上げる。

 

 そして、狙いを定めて投げる。

 

「こんなもの!」

 

 そして、その飛んできた石に奏は斬りかかる。

 

 そしてその刀が石に接触した瞬間

 

 ドカーン

 

 突如として石が爆発した。

 

「石を爆発させる技か!」

 

「いや、これは本当は爆発させるための技じゃない。とてつもない威力の攻撃を与えるための技だ。投げることによりすごい風圧が石を襲う。そこに壁等の障害物。刀も含まれるが、接触することにより反対からの圧力が加わる。これは慣性の法則で一定の方向に進もうとするがとてつもない力で押さえ込まれることになる。その両側からの力に耐えれずに石くらいの固さのものは壊れると言うより内側から破裂して爆散し、周囲にダメージを与えると言う願ってもない追加攻撃が備わったのだ」

 

「長々と技の説明ご苦労さん」

 

 そう言えばあいつらにも言ったことがなかっな。

 

 まぁ、爆発は偶然起こったって事だな。

 

 まぁ【都合が良い状況を作り出す程度の能力】これのおかげだろうな。

 

 さて、奏はどんなスペルを使うなかな?

 

「そう言えばこっちに来てからスペルを使えなくなったんだよな…多分この世界以外で作ったスペルは使えないのかな」

 

 それじゃ、霊夢たちと真っ向勝負って事か?

 

 それってきつくね?

 

「よし、大体の実力は把握できた」

 

「ああ、真が強いってことも分かった」

 

 っと、たぶん俺の相手は霊夢達だ。となると俺の手の内は知られていることになる。なら、

 

「そう言えば奏。無地のスペカってあるか?」

 

「あるけどどうして?」

 

「俺はここに昔居たんだ。つまり手の内を知られているってことになる。だから新しいスペルを作ってあいつらを驚かしてやろうと思ってな」

 

「なるほどな。じゃあ良いぞ」

 

 そして俺は一つの新たなスペルを作った。

 

「どんなのを作ったんだ?」

 

「本番まで内緒だ」

 

 そして、大会本番を迎えた。

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

『レディース&ジェントルマン!お待たせいたしました!現幻バトル大会開幕です!』

 

 いぇーい!

 

 と、盛り上がる観客

 

『実況はいつも清く正しい射命丸(しゃめいまる) (あや)と』

 

犬走(いぬばしり) (もみじ)です…』

 

 元気な文とぐったりしている椛。たぶんもみじは文のテンションに着いていけてないのだろう。

 

『解説はこのお二方!地霊殿の主である古明地 さとりさんとその妹である古明地 こいしさんです!』

 

『ヤッホー!こいしだよー!』

 

『何で私が…ぶつぶつ』

 

 こちらもテンションが違うようだ。

 

 こいしとさとり…

 

『では早速、第一試合を開始したいと思います。両者ともに決めてきた順番によると…第一試合!幻想郷チーム″東風谷 早苗″選手。対する多世界チームは″広野 誠哉″選手!』




 はい!第6話終了

 次回からはついに大会がスタート!

 第一試合は早苗対誠哉。果たしてどちらが勝つのか!?

 それでは!

 さようなら


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第7話 第一試合 早苗vs誠哉 誠哉の実力

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 各々最後の特訓をしていた。

 霊夢と魔理沙は手合わせをしてみたり、真と奏も手合わせを。

 そして、この世界で作ったスペルカードしか使えないことが判明

 多世界チームに大きなハンデが加わった。



 今回からバトルスタート!

 果たして勝つのは早苗か?それとも誠哉か?

 運命のバトルが今始まる。

 それではどうぞ!


side真

 

『第一試合!幻想郷チーム″東風谷 早苗″選手。対する多世界チームは″広野 誠哉″選手』

 

 そして、誠哉はフィールドに上がる。

 

 すると早苗は誠哉をまじまじと見る。

 

「あなたが私の相手ですか?ひょろひょろすぎて相手になる気がしないんですが」

 

 と、ちょっと煽り文句を誠哉に言う。

 

「ご心配には及びません。恐らくあなたが退屈することはありません」

 

 と、返す誠哉

 

 その瞬間誠哉がニヤリとしたのを俺は見逃さなかった。

 

『それでは始め!』

 

 と言う合図と共に早苗は動き出す。

 

 しかし、誠哉はピクリとも動かずじっとしている。

 

 そして、早苗は誠哉の背後に回り込み、地面をおもいっきり蹴って誠哉に近づき

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

side霊夢

 

「早苗は肉弾戦を申し込む気ね」

 

「そうですね。そしてあのひょろ男が早苗に勝つはずはありません!」

 

 そう。どう考えてもあのひょろひょろ体型で早苗に勝てるはずがない。

 

 勝てるはずがないのに…何この嫌な予感。

 

 その瞬間ひょろ男がニヤリと口元を歪め左手で握りこぶしを作ったのが見えた。

 

 危ない!

 

「早苗!今すぐそいつから離れて!」

 

 私がそう言った瞬間早苗は戸惑いながら地面を蹴って背後に飛ぶ。

 

 そして早苗が飛んだ瞬間、さっきまで早苗のいた場所にひょろ男が殴りかかっていた。

 

「ちっ…避けられたか…」

 

「霊夢、何で分かったんだぜ?」

 

「勘よ。そしたら攻撃をしてくるモーションを始めたような気がしたから指示したまでよ」

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

side真

 

 流石霊夢だ。今のを完全に読むなんて

 

 さて、この状況で誠哉はどうするか…

 

「やるな、あそこの司令塔も、あの体制から交わせるお前も」

 

「だてに巫女やってませんから」

 

 あれ?巫女ってそう言う職業だっけ?

 

「次はこちらから…」

 

 その瞬間、誠哉の目が光ったような気がした。

 

「さぁてと…百人《分身》」

 

 と、誠哉がスペルを使った瞬間、おびただしい量の分身が早苗を囲った。

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

side霊夢

 

「何よあれ」

 

 フランの《フォーオブアカインド》とは比べ物にならないくらいの分身の数

 

 これは厄介ね。しらみ潰しに攻撃するとしてもきりがない。しかも攻撃してる間に本体にステージから突き落とされるかも知れない。

 

「早苗のやつ。結構ピンチなんじゃないか?」

 

「そうですね。下手すればやられます」

 

 早苗はどうするんだろう。

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

side真

 

『おおっと!早苗選手の周りを誠哉選手の分身が囲った!』

 

『これはすごい数の分身ですね』

 

「甘いなあいつ」

 

「そうですね」

 

 と、ガルッチと善

 

 なぜスペルを持ってんだ?

 

 もしかしてあの短期間で作って習得しちゃったのか。

 

 完璧にするにはもう少し時間が要る筈だけど

 

 流石だ。あの二人も分かったか。この技の弱点に。

 

 そして、あの霊夢がこんなにも分かりやすい弱点がわからないはずがない。

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

side霊夢

 

 どうにかあの技の弱点を見破らないと…

 

 ん?そう言えばさっきから何で攻撃してこないんだろう…

 

 そう考えていると急に分身がひとつに集まり、本体が露になった。

 

 そして

 

「おらぁぁぁっ!」

 

 と、あいつは殴りかかる。

 

 そして早苗は防御するも少し飛ばされる。

 

「ちょっとあなたの攻撃重くないですかね?」

 

 そしてまたあいつが分身を作り出す。

 

 もしかして、分身を作り出してる間は…!?

 

 でも、敵の技の弱点を伝えるのは戦いとして公平さが失われるんじゃ?

 

 あー!もう…もどかしいわね。

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

side真

 

 どうやら霊夢にも分かったみたいだな。

 

 さぁて…早苗はこの事に気がつけるかな?

 

「あなた…どうして攻撃してこないんですか?」

 

 と、早苗

 

「別に今ここで攻撃してやっても良いんだぜ」

 

「いえ、そんな強がりは良いです。出来ないんですよね?攻撃」

 

 と、早苗が言うと『何!?』と驚く。

 

 流石幻想郷選抜チームだ。こんな簡単弱点位簡単に見破れるか。

 

「さぁ、その技を解いてください」

 

 早苗がそう言うと誠哉は分身を解く。

 

 そして解いた瞬間、誠哉は殴りかかる。

 

 しかし

 

「あなた程度の力の持ち主はこの幻想郷には五万と居ます。あまり幻想郷をなめないで下さい!」

 

「ごふっ!」

 

 早苗は誠哉の鳩尾に蹴りを入れる。

 

 そして誠哉は蹴られた部分を押さえながらうずくまる。

 

「ふ、ははは。あーははははっ!」

 

 と、突然笑い出す誠哉

 

「何がおかしい!」

 

「そろそろ本気出してやるか…」

 

 そう言うと、場の空気ががらりと変わった。

 

 誠哉の本気…か

 

「これが本気だ。減速《スロータイムLv1》」

 

 と、スペルを使う誠哉

 

 しかし、何も変わった様子がない。

 

「何ですか?はったりですか?はったりごときで私が挫けると思ったら大間違いですよ」

 

「気を付けて!早苗!」

 

 と、叫ぶ霊夢の声が聞こえる。

 

 俺もただ、誠哉がはったりをかましただけには思えない。

 

「さぁ、一気にけりをつけますよ!」

 

 と、早苗が誠哉に近づこうとした瞬間

 

「遅いねぇ…」

 

 と、いつの間にか誠哉が早苗の背後に回り込んでいた。

 

「この技はネタバレしちゃうとだな。世界の時間を2分の1倍速くするものだ」

 

 2分の1倍速く…って半分のスピードにするってことじゃないか!

 

「しかもこの技にはなLv4まであって最大16分の1倍まであげることが出来る。つまりはお前らじゃ俺のスピードに着いてこれないってことだ」

 

 なんだよ。そのチート能力!

 

「さぁ、ここからが本当の戦いだぜ?」




 はい!第7話終了

 いやー。こんなに戦闘シーンが長くなったのははじめてです。

 それでは!

 さようなら


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第8話 まさかの決着 早苗対誠哉

 はい!どうもみなさん!ミズヤです

 今回も丸々一話戦いです。と言うか大会中は戦いが多くなるので当然ですけどね。



 それでは前回のあらすじ

 ついに始まった現幻バトル大会

 初戦は早苗対誠哉

 二人の実力はほぼ同じ…かと思われたが

 誠哉の能力【スピードを操る程度の能力】が戦況をひっくり返した。

 早苗、万事休すか?



 それではどうぞ!


side真

 

 あんなのがあったら早苗に勝ち目など無いじゃないか?

 

 そうか!

 

 あのとき、いきなり背後を取られたのはこの技のせいだったと言うわけか!

 

「じゃあ、行くぜ!」

 

 だんっ!と地面を蹴った誠哉は前方に大きくジャンプする。

 

「結界!」

 

 そして早苗の結界と誠哉の拳がぶつかり合う。

 

 ドカーン

 

「なかなかやるな。その技…貰った」

 

「何をおかしな事を…私は幻想郷チームとしてあなたに勝ちます。」

 

 そして早苗は弾幕を放つ。しかし

 

「結界」

 

 バシッバシッと何か見えない壁にぶつかって消える。

 

 まるでそれは早苗の結界のよう…ん?待てよもしかして、まるでじゃなくて本当になのかもしれない。

 

 その技貰った。この言葉の意味が相手の技をコピーできると言う意味だったのかもしれない。

 

「俺は把握能力が非常に高くてな。一瞬で相手の技の弱点や発動方法がわかるんだ」

 

 なるほど。それで早苗の結界を…

 

 すると早苗は弾幕をやめ、肉弾戦に切り替えた。

 

「なら、その結界を突破する威力で攻撃すれば良いだけ」

 

 すると誠哉も結界の発動を止めた。

 

 そして早苗と誠哉の拳がぶつかり合う。

 

 すると

 

「いった~い!」

 

 と、早苗が拳を押さえながら叫ぶ。

 

「昔。俺は身体を硬化出来る能力の持ち主とあったことがある。その時に硬化を覚えたんだ。そんな俺と正面から拳をぶつけ合うのは得策とは言えねーよな?」

 

 うん。チートです。

 

 もはやチートです。

 

 誠哉強すぎるだろ!

 

「なら、秘術《グレイソーマタージ》!」

 

 すると早苗の周りから追尾型の弾幕が現れた。

 

「結界」

 

 しかし、パシュンパシュンとことごとく誠哉の結界により弾幕を止められてしまう。

 

 しかし

 

「これを待っていたんですよ!開海《モーゼの奇跡》」

 

 そして早苗が飛び上がり誠哉が結界を解く前に上から物凄い勢いで落ちてきて拳で結界を打ち砕いた。

 

 誠哉も予想外だったようで硬化する間もなく早苗のパンチをもろに食らった。

 

「ぐはぁっ」

 

 そして誠哉はぶっ飛んで行ってしまうがギリギリで踏ん張り、ステージから落ちることは避けられた。

 

「やるじゃねーか…減速《スロータイムLv2》」

 

 すると、また誠哉が速くなる。いや、誠哉が速くなったのではない。俺たちが遅くなったのだ。

 

「俺の動きに着いてこれるか?」

 

「あなたこそ」

 

 そう言って早苗は一枚のスペカを取り出した。

 

「奇跡《神の風》」

 

 すると、早苗の周りに弾幕が出現して、ついに早苗の周りを完璧に弾幕が囲った。

 

 その次の瞬間、早苗の周りを囲っていた弾幕が弾けるように四方八方に飛んでいった。

 

 なるほど…考えたな。

 

 四方八方に攻撃すれば相手が早くても関係ない。

 

 そして、早苗の読み通りに誠哉に直撃した。

 

「お前…」

 

 すると、物凄い形相になった。

 

「ここまで俺に食いついてきたやつは初めてだ。例に良いものを見せてやろう」

 

 あ、あいつ、早苗に攻撃されたことで逆上してないか?

 

「隕石《世界の終わり(エンド・ザ・ワールド)》」

 

 すると、頭上からドでかい隕石が落ちてきた。

 

 そしたら急にステージにシャロが乱入してきた。

 

「《転移》」

 

 すると、隕石が光り、次の瞬間、隕石が消え去った。

 

「誠哉君。あなた、反則負けね」

 

 と、シャロは誠哉に言いはなった。

 

 初戦は敗北か…

 

「ふざ…けるな…ふざけるな!」

 

 そして、シャロに殴りかかる誠哉

 

 その瞬間、俺の体は勝手に動いていた。

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

side霊夢

 

 隕石を止めた男?の子にあいつが殴りかかろうとしたとき、フードを深く被った緑色のパーカー男が飛び出してきた。

 

 フードを被っているから良く顔が見えないけど…なんか見たことあるような気がする。

 

 すると、パーカー男は奴の拳を片手で受け止めひねった。

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

side真

 

 こいつ…

 

「痛てーな。大将さん」

 

「暴れられちゃ困るからな」

 

 すると、片手で誠哉は霊力刀を作り出して斬りかかってきた。

 

 こいつ…!俺と奏の模擬戦を見ていやがったな!

 

 だから俺も対抗して霊力刀を作り出し、誠哉の霊力刀を受け止める。

 

「お前を倒して邪魔したやつをぶっ殺す!」

 

「そんなこと…させるかぁぁぁっ!」

 

 そして、俺は刀に力を込めて押し返す。

 

「くらぇぇぇっ!」

 

 と、斬りかかってくる誠哉

 

 それを少し横にずれるだけでかわす。

 

 そして、首に手刀を食らわした。

 

 そしたら誠哉はそのまま前方に倒れ、意識を失う。

 

『おおっと!誠哉選手が暴れだしたと思ったら謎のパーカー男選手が飛び出してきて誠哉選手を圧倒する実力で倒した!』

 

 って、俺って謎のパーカー男で登録されてんの?

 

 と、ジト目でシャロを見ると

 

「その方が面白いかな?って思って」

 

 まぁ、良いか…

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

sideこいし

 

 あれ?あの人見たことあるような気がする。

 

 顔が見えなくてもなんとなくわかる。

 

 そして、あの人を見てるとどうしようもなく胸が苦しくなる。

 

 あの人は…もしかして!

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

side真

 

「お疲れ」

 

 と、労ってくる奏

 

「もう、マジで問題の後始末なんて面倒だからやりたくない。だからもう、問題を起こさないでくれよ」

 

 そう言えば、勝手に飛び出していっちまったな。昔の動きが体に染み付いてるからかな?人助けが

 

『それでは第一試合。幻想郷チーム。東風谷 早苗選手の勝利!』




 はい!第8話終了

 勝ったのは早苗でした。しかも決め手は反則

 なぜ反則かと言うとあれが当たるとみんな死んでしまうので殺害禁止と言うルールに反してしまうからですね。

 それでは!

 さようなら


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第9話 剣士対剣士 精神力の戦い

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 ついに第一回戦目は終了した。

 決めては誠哉の反則で早苗の勝ちとなった。

 しかし、その結果に気に入らない誠哉は逆上するが、真が誠哉を倒し、その場は何とかなった。



 今回は第二試合です。

 果たして誰対誰何でしょうか?

 それではどうぞ!


side霊夢

 

「お疲れ早苗」

 

 と、魔理沙が早苗に水の入ったペットボトルを投げ渡す。

 

 それをなんとかキャッチする早苗

 

「次は私ですね。私も勝利を()て来ますよ!」

 

『では第二試合に移りましょう。では、第二試合。幻想郷チーム魂魄 妖夢選手。対するは多世界チーム。愛原 奏選手!』

 

 そして、妖夢がステージに登る。

 

 そして、相手の奏もステージに登った。

 

 愛原 奏…知ってる。一度こっちの世界に来たことがあるから。

 

「その前に」

 

 と、奏は付け加えて

 

「シャロさんだっけ?霊力で作り出した刀ってありかな?」

 

「うーん…微妙なところだけど一応霊力だからいいよ」

 

 と、シャロは言った。

 

 これで妖夢は全力で戦える。

 

「わかった」

 

『それでは第二試合。スタート!』

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

side真

 

 ついに戦いが始まり、二人とも霊力刀を作り出してお互いに間合いを積めて斬る。

 

 かきぃぃぃんっ!

 

 と、甲高い音が鳴り二人の霊力刀が合わさる。

 

 しかし、残念な所はこっちでは奏、善、ガルッチの3人はスペルが使えないってことだ。

 

 だが、奏は剣術でスペルを補えるくらいの実力がある。

 

「以前約束したよな。妖夢」

 

「はい!今度戦おうって。それが実現できて嬉しいです!そして、同時にわくわくしています。剣を合わせただけで伝わってくる衝撃。奏さんがすごい人だと言うことが伝わってくる。奏さん、私はあなたを倒して更に強くなって見せます!」

 

 そして、奏はそうかよっ!と、言って妖夢を弾き返す。

 

 奏の実力は俺も見たが、あれは簡単に行けるような強さじゃない。

 

 奏も色々と乗り越えて今の実力を手に入れたんだ。

 

「じゃあ、行くぞ!」

 

 と、奏は地面を蹴って横に飛ぶ。

 

「何する気だ!」

 

 と、ガルッチ

 

 あの技は!

 

「これは真に教えて貰った技!翻弄させて相手の背後を取る!」

 

 と言いながら妖夢を翻弄して妖夢の背後を取る奏

 

 すると、妖夢は奏を見失ったようだ。

 

 この技は左右にステップしながら徐々に間合いを積めてある程度のタイミングで相手の横、すれすれを通り抜けて相手の視界から抜ける技だ。少しでも近すぎて相手に当たってもダメだし、遠すぎて大回りしすぎても相手の目で追われてしまうと言う高度な技だ。

 

 まぁ、教えた本人があまり使ったことが無いんだけどな。

 

 そして、背後に回った奏は体を180度回転させて地面を蹴って妖夢に近づく。

 

 そして、奏が斬る寸前に妖夢は奏に気がついて奏の斬撃をかわす。

 

「危なかった…なかなかやりますね。では、今度はこちらから」

 

 と、妖夢は背後にジャンプしながら霊力斬を放つ妖夢

 

 しかし、奏はそれをいとも容易く回避する。

 

「妖夢。君は確かに強い。だけど、妖夢の強さは単純すぎる。つまり、ただ強いだけって事だ」

 

 そう言って刀を妖夢に向ける。

 

「今の私でもここまで手こずる相手が居るなんて…世界は広いですね」

 

 手こずるってのは剣術での戦いって意味だろう。

 

 俺の場合、能力は強力で負けるはずが無いが、剣術だとまだまだ妖夢に勝てる気がしない。

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

side龍生

 

「奏も妖夢ちゃんもすごいな。あの二人に勝てる気がしないよ」

 

 と、俺が呟くと

 

「何言ってるんですか…弾幕勝負で霊夢さんに匹敵する強さを誇る龍生さんが…」

 

 と、音恩から突っ込みが入った。

 

 この前、霊夢と弾幕勝負したんだが引き分けになった。

 

 その事を言ってるんだろう。

 

 それにしてもあの二人の戦いを見てると真と妖夢を思い出すな。

 

 妖夢には剣術で勝てる気がしないって自分を過少評価してるけど俺にとってはそんなこと無いと思う。

 

 さて、この二人の戦い、どうなるかな?

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

side妖夢

 

 やっぱりすごいよ奏さんは

 

 私が考えもつかない戦法を使ってくる。

 

 でも…だからこそ燃えるんです!

 

「はぁぁぁっ!」

 

 と、私は走って近づき霊力刀を振り下ろす。

 

 しかし、簡単に刀で受け止められてしまう。

 

 やっぱり、所詮は男と女。力の差は目に見えている。

 

 なら、技術で対抗するしか無い!

 

「行きます!奏さん!これが私の全力です!人府《現世斬》」

 

 そして、私は奏さんに向かってまっすぐ突っ込む。

 

 そして、斬撃を食らわす。

 

 しかし、奏さんはつらそうな表情ひとつせずすべてかわす。

 

 そしてやっと

 

「うっ!」

 

 一発かすった!

 

「しょうがないな…やるか」

 

 そして、奏さんが突っ込んできた。

 

 すると、刀が炎を纏い始めた。

 

 あれはまずい!

 

 私は咄嗟に防御した。

 

 しかし、

 

 バリィィィン

 

 その音が聞こえた瞬間、私の霊力刀は割れてしまった。

 

「霊力の硬度は精神力に比例する。俺の方が少しだけ精神力が勝ったようだな」

 

 その言葉が聞こえたあと、私は脱力したように倒れた。

 

「私の…負け…ですか…」

 

『決まった~!決まりました。第二試合。多世界チーム。愛原 奏選手の勝利!』

 

 やっぱり強かった…世界は広かった。私は井の中の蛙だったようですね。

 

 初心を思い出して修行しなおしますか。

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

side真

 

「お疲れ。奏」

 

 と、水を奏に渡す。

 

「強かった。妖夢は」

 

「あんだけ圧倒しておいて良く言うよ」

 

 と、奏にたいして突っ込む。

 

「妖夢は今後もっと伸びる素質がある」

 

「だな。弟子の立場で偉そうだけど、俺もそう思う」

 

 そして、第二試合目は終了した。

 

「そう言えばあれはなんだ?」

 

「ああ、そう言えば言ってなかったっけ?あれは俺の能力【現象を操る程度の能力】で作り出した炎を纏わせたんだ。発火現象になるのかな?」

 

 なかなかにすごい能力だな。

 

 それに比べて俺のは戦闘で強くなる能力じゃないのが辛い。

 

『では、次は第三試合。幻想郷チーム霧雨 魔理沙選手。対するは多世界チーム詩堂 善選手』




 はい!第9話終了

 次回は魔理沙対善です

 果たしてどちらが勝つのか!?

 それでは!

 さようなら


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第10話 魔理沙対善 抵抗の能力

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 第二回戦、妖夢対奏

 序盤は実力が拮抗しているかと思われたものの、経験や精神力の差で妖夢を圧倒した奏の勝利となった。

 そして、妖夢は昔を思い出して、修行し直すことを決意するのだった。



 今回は魔理沙vs善です。

 それではどうぞ!


side真

 

『第二試合。幻想郷チーム、霧雨 魔理沙選手。対するは多世界チーム、詩堂 善選手』

 

 そう呼ばれ、善は立ち上がる。

 

「あまり気乗りしませんが行ってきます」

 

 と言いステージに登る善

 

 そして、魔理沙も同時にステージに登る。

 

 さて、善はどんな戦いを見せてくれるんだ?

 

「よろしく」

 

「よろしくお願いします。一度私は違う世界の魔理沙に負けているのでこっちでは是非とも勝ちたいところですね」

 

「言ってくれるじゃねーか。言っとくか、こっちも負ける気は更々ねーからな」

 

 と、火花を散らす二人

 

 すげぇ、今までの奴等とはまた違った迫力があるぞ?

 

 さぁ、魔理沙は結構手強いぞ…

 

『それでは第二試合』

 

「弾幕は…」

 

『霧雨 魔理沙選手対詩堂 善選手』

 

「パワーだぜ!」

 

『開始!』

 

「先手必勝!恋府《マスタースパーク》!」

 

 と、魔理沙は十八番(おはこ)であるマスタースパークをいきなり放つ。

 

 忘れてた…魔理沙は結構な戦闘狂(バーサーカー)だった。

 

 魔理沙のマスタースパークは壁に当たる直前で消えてなくなる。

 

 そして、マスタースパークに沿って煙が上がる。

 

「どうなったんだ?」

 

 と、奏

 

「今の、結構ヤバイんじゃないか?」

 

 と、ガルッチ

 

 俺も今のはさすがに死ぬまでとは行かなくとも吹っ飛ばされて即KOされててもおかしくないと思う。

 

 そして、だんだんと煙が晴れて見えるようになった。

 

「危なかった…」

 

 と、どのような手を使ったか知らないが煙の中から善が出てきた。

 

「お前、今どうやって!?」

 

「抵抗です。私の能力で魔理沙のマスタースパークに抵抗したんです」

 

 すごいな。抵抗力って

 

「抵抗か…へへっ…おもしれぇ能力だな。倒し概があるぜ!」

 

 あー!魔理沙のバーサーカーが発動した!

 

 説明しよう。魔理沙はバーサーカーモードになることにより攻撃力が上がり、より好戦的になるのだ。

 

「では、次は私から行かせて貰います」

 

「よしこい!お前の全力をぶつけてこい!」

 

 そして、善の足から赤い靄みたいなのが出始めた。

 

「気功翔脚」

 

 その瞬間、善が大きく飛び上がった。

 

「なんだ?」

 

 そして、少ししてから落ちてくる善

 

 善はドロップキックを魔理沙に食らわす。

 

「ぐっ!」

 

 しかし、魔理沙はガードする。だが、威力が高かったようでかなり後方に飛ばされる魔理沙

 

 かなりギリギリの地点で止まった魔理沙は箒に乗って浮き上がる。

 

「確か飛べるのって一人一分までだよな」

 

 と、奏

 

「ああ、今大会初浮遊だな」

 

 そう、今まで飛んだ人は誰一人居なかったのだ。

 

 善はどうするんだ?

 

「上か…」

 

「行くぜ!魔府《スターダストレヴァリエ》」

 

 そして、善の上空から弾幕が降り注ぐ。

 

 善って弾幕出せないのかな?じっとしてるけど

 

「私の能力は抵抗です。ダメージ軽減を得意とします。なので効きません」

 

 そして、バシンバシンと弾幕が奏に当たるが、弾幕は壁にでも当たったかのように跳ね返る。

 

 何あれすごい!抵抗ってすごい!痛覚とかも軽減するのかな?いいな…俺の外傷を少なくするだけで痛覚はそのままだからな。

 

「なら、最大火力ならどうだ!!魔砲《ファイナルマスタースパーク》」

 

 と、最大火力のマスタースパークを放つ。

 

 これは避けようとしても極太だから避けられない。さすがに抵抗しようとも無理あるんじゃ?

 

 と、考えていると善の右腕から電流が走り、赤いオーラみたいなのが出ている。

 

 何をする気だ!?

 

 そして、善はそのまま右手でファイナルマスタースパークを殴った。

 

 すると、なんとマスタースパークが押し返されているではありませんか!?

 

 善…強い!

 

「ふっ、こちとらだてに何度も死に目にあってませんよ!」

 

 

 そして、完全に善が押しきり、マスタースパークは消えてしまった。

 

「師匠の修行から比べたら余裕過ぎます!」

 

 善も苦労人だな…

 

「このやろう!恋府《マスタースパーク・ロケット》!」

 

 すると、魔理沙はミニ八卦炉を後ろに向けて打って加速し、奏に突撃する。

 

「受け止める!」

 

 そして、魔理沙の体当たりが当たる直前

 

『しゅーりょー!勝ったのは多世界チーム詩堂 善選手!』

 

 と、突然の終わりを告げられた。

 

 終わり…こっちが勝ったのか?

 

「何でだぜ!まだ決着は着いてないんだぜ!」

 

「魔理沙ちゃん。浮遊…1分越えたよ」

 

「…」

 

 すると、シャロの言葉を聞いた魔理沙は青ざめる。

 

 そしてわなわなと震えだした。恐ろしい形相で

 

「あ…あ…あ…やっちまった~!」

 

 なんか釈然としないな…

 

 魔理沙、時間を忘れていたな。ルールの中に浮遊一分以内しかしてはならない。と言うのがある。

 

「これで喜んでいいのでしょうか?」

 

 と、困惑する善

 

 一応勝ったことには変わり無いからいいんじゃないかな?

 

 だけど、こんな負け方をしたとなったら霊夢が怖そうだな。魔理沙…ドンマイ

 

「まーりさー!」

 

「ま、まて霊夢!土下座するから許してくれ!」

 

「魔理沙!あんたがそんなにバカだとは思わなかったわ!このバカ!」

 

「パカバカ言うなよ!謝ってるじゃないか!」

 

 なんか喧嘩を始めたなあの二人。

 

 しかし魔理沙のなにも考えない性格は知ってたけどまさかここまでとは

 

「なんか釈然としませんが勝ってきましたよ」

 

 と、帰ってきた。

 

 やはり善も釈然としないらしい。

 

 ちょっとこの終わり方はな~

 

『で、では続きまして第四試合。幻想郷チーム。博霊 霊夢選手。対するは多世界チーム。アザトース・ゴジラ選手』

 

 霊夢か…って、ここで霊夢ってあっちの最後の一人は誰なんだ?

 

「じゃあ行ってくる」

 

 果たして幻想郷、弾幕勝負最強の霊夢対ゴジラの戦いはどうなるのだろうか?




 はい!第10話終了

 次回は霊夢対ゴジラの戦いです。

 ちなみにガルッチとゴジラは同一人物だそうです。未来ガルッチと言ったところです。

 それでは!

 さようなら


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第11話 無敵と闇 勝利は誰の手に?

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 ついに始まった第三回戦目。

 魔理沙対善

 善は仙人の身体能力を駆使して魔理沙と戦う。

 そして、盛り上がってきたところで突然の終了が告げられた。

 理由は魔理沙の飛行時間の制限越えでの反則負けだった。

 残る試合は2試合、まだどちらが勝つのかわからないぞ



 それではどうぞ!


side真

 

「じゃあ行ってくる」

 

 続いての戦いはガルッチ対霊夢

 

 だが俺は一つ気になることがある。それは霊夢がここで出てくるならあと一人は誰だ?ってことだ。

 

 てっきり俺は霊夢が大将だと思って霊夢と戦う気満々だったんだが。

 

 と、ここで、みんなはもう気がついてると思うけど俺が大将です。何でももともとこの世界に居たことがあるからだそうです。『そんな簡単に決めちゃっても良いのか!?もっと情報を集めてからでも!』俺はそう言ったが、俺の意見が受諾(じゅだく)されることはなかった。

 

 そんなわけで俺が(無理矢理)大将になったのだ。

 

 そんなことはどうでも良いんだよ!

 

 実は霊夢が本気を出すと妖怪の賢者でさえ敵わないらしい。

 

 さて、一度ガルッチの実力を見たことがあるが、あの力で霊夢に勝てる気がしない。

 

 まぁ、あれからどれだけ強くなったかによるけどな。

 

『では!第四試合。幻想郷チーム博霊 霊夢選手。対するは多世界チームアザトース・ゴジラ選手。開始!』

 

「じゃあ、こっちから行かせてもらう」

 

 そしてガルッチは地面を蹴って一気に間合いを積める。

 

「あら、私と体術での戦いをご所望なのかしら?」

 

 そう言い、霊夢は地面を蹴って横に飛び、回避してガルッチの腕を掴む。

 

 霊夢、体術も結構強いんだよな…

 

「捕まえたわよ」

 

「そうか…」

 

 ガルッチはそれだけ言うと、霊夢に蹴りを食らわす。

 

 霊夢は油断をしていたためもろに食らい、手の力が揺るんでしまったためガルッチに腕を振りほどかれ逃げられる。

 

「お前、なかなかやるな…」

 

「あんたこそ」

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

side幻想郷チーム

 

「つっえー。あの霊夢と渡り合うなんてかなり強いんだぜ」

 

 幻想郷チームは本気じゃないとは言え、あの霊夢と渡り合うゴジラを見て驚いていた。

 

 何せ霊夢は幻想郷最強と言われてるのだから。

 

「霊夢さんもすごいですがゴジラさんと言う方もすごいですね。私たちでは勝てる気がしません」

 

 しかし、霊夢には弾幕がある。体術では互角でも弾幕勝負で霊夢に勝てるやつは居ない。

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

side真

 

 やるなガルッチ

 

 ただいま、霊夢とガルッチは超高速で殴りあっている。

 

 さすが体術でも強いやつは強いんだな。

 

「さーて。そろそろ本気で行くわ!霊府《夢想封印》」

 

 霊夢がスペルを使うと、ホーミング性の弾幕がガルッチに襲いかかる。

 

 しかし、それらをジャンプしたり横に避けたりし、華麗に回避する。

 

「行くぞ!」

 

 あれは!あの時に使った戦法?だ!

 

 ガルッチは片手に弾幕を作り出し、そして投げた。

 

 ビュン!

 

 しかし、その弾幕は(くう)を切るだけで霊夢には当たらなかった。

 

「今のは少し危なかったわ」

 

 と言うも霊夢は一切疲れている様子は無かった。

 

「私は長期戦が苦手だからそろそろ決着を着けさせて貰うわよ!《夢想天生》」

 

 そして、うっすらと霊夢が透ける。

 

 あれは!霊夢の最強のスペル。夢想天生!

 

 耐久スペルで発動している間は霊夢に攻撃が入らないと言うチート技!

 

「ほう…夢想天生か」

 

「あなたでは私に勝つことなど出来ないわ」

 

 そう言い、霊夢はお払い棒をガルッチに向ける。

 

「そろそろ始めるとするか…本気の戦いを」

 

 ガルッチがそういった瞬間、当たりが暗闇に包まれる。

 

 これは!?

 

「ルーミアの能力!?」

 

「違う。似ているが俺のは少し違う。この能力は【混沌、闇を司る程度の能力】操るだけのルーミアよりもより強力だ」

 

 闇…確かに闇なら辺りを覆い尽くし、霊夢の視界を奪うことにより攻撃が当たりにくくなる。

 

 対霊夢には有効かも知れない。

 

「ちなみに、俺はくっきりとお前の姿が見えている。お前に勝ち目などない!」

 

 だけどガルッチから攻撃することも出来ないんだよな。

 

 どうする?ガルッチ

 

「そうね。真っ黒よ。正直焦っているわ

 

 だけどね

 

 あんたの位置ははっきりと捉えたわ」

 

 そう言うと、突然ガルッチの悲鳴が聞こえてきたあと少しずつ闇が晴れてきた。

 

 すると、腹を押さえているガルッチと、恐らく殴ったあとだろうと思われる拳を握った霊夢が見えた。

 

「なぜ」

 

「声よ。あんたの声と歩いたときの足音を頼りに攻撃したのよ」

 

 やっぱりスゲー

 

 霊夢はやっぱり幻想郷最強だ。

 

「これだけでわかった。今の俺じゃこの世界の霊夢には勝てない。降参する。それにうちの大将の活躍の場を奪うのもあれだしな」

 

 と、俺を見ながら言ってきた。

 

 お気遣い感謝する。感謝するが、その気遣いは要らねーよ!

 

『降参した~っ!これにより、第四試合。幻想郷チーム博霊 霊夢選手の勝利!』

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

side霊夢

 

 私はステージから降りて控えのベンチに向かう。

 

 とりあえず、これで2勝2敗。次で決着がつく。

 

「すごいですね!霊夢さん!」

 

 と、早苗が称賛してくる。

 

 さて、あとはダークだけなんだけど。

 

「何であいつ、まだ来てないのよ!」

 

『お疲れ様でした!それでは最後の試合参ります!幻想郷チーム、ライト選手』

 

 そう言った瞬間、少し上にある観客席から飛び降りてきた男が一人

 

 そして、ドンッと言う効果音をならしながらステージに着地する。

 

 あいつ…まさか

 

「あいつダークじゃない?」

 

 やっぱり…あいつ静かに入場できないのかしら?ってか何で観客席に!?

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

side真

 

 最後の相手は…

 

 ドンッ

 

 え?ダーク?まじで?

 

 これはかなりの大物を持ってきましたね。

 

 負ける気は無いけどな

 

『気を取り直しまして、対するは多世界チーム謎のパーカー男選手』

 

 やっぱりその登録名なのね…

 

 そんじゃやりますか。

 

 そしてステージに俺も登る。

 

「さて、始めるか…最終決戦を」




 はい!第11話終了

 今回はゴジラと霊夢の戦いでした。ゴジラはコラボキャラですが、ここの霊夢はかなり強いって事で許してください。

 それでは!

 さようなら


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第12話 ついに終幕 現幻バトル大会

 はい!どうもみなさん!ミズヤです

 今回で大会が終了します!



 それでは前回のあらすじ

 第四回戦目、霊夢対ゴジラ

 霊夢とガルッチは序盤は同じくらいの力で殴りあっていた。

 だがしかし、ゴジラは突然降参宣言をして霊夢の勝利となった。

 現在2勝2敗。これが最後の戦いだ。



 それではどうぞ!


side真

 

「負けないからな」

 

 と、俺

 

「こっちこそ」

 

 と、ダーク

 

 そして俺とダークは睨み合う。

 

『それでは最終試合、スタート!』

 

 まずはお互い様子見で動かない。

 

 何をしてくるんだ?そう考えていると、霊力刀を作り出し、突っ込んできた。

 

 だから俺も霊力刀を作り出し、応戦する。

 

 かきぃぃぃんっ!

 

 と、甲高い音を奏で辺りを衝撃波が包む。

 

 そして刀で押し合う。

 

「お前、いつまで隠す気だ?」

 

 と、突然聞いてきた。

 

 やっぱりダークにはバレてたか…

 

「取り合えず隠せるところまでは隠せって言われてるし」

 

「そうか…なら」

 

 ダークはそう言って俺のフードに手を伸ばしてきた。

 

 しかし俺はその手を回避する。

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

side霊夢

 

「すごいわね。あの力。それにしても他の世界から来た人にダークに敵うやつは居るのかしらね?」

 

 と、ステージに居る謎のパーカー男に聞こえるくらいの声でそう言った。

 

 すると、パーカー男は肩をブルッと震わせた。

 

 やっぱり怪しい。

 

「どう言うことだぜ?」

 

 と、気がついてない魔理沙

 

「とにかく、存在が怪しいのよ」

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

side真

 

 ビックリした…

 

 やっぱり霊夢にも気づかれてたか…

 

「よそ見してると命を落とすことになるぞ!」

 

 そして何度も斬撃を放ってくる。

 

 それを俺は弾いたり交わしたりして捌く。

 

「霊力斬!」

 

 そして俺は霊力を刀に込めて、霊力斬を放つ。しかし

 

「おいおい。どこ狙ってんだよ。俺はここでただ立ってるだけだっての」

 

 俺は霊力斬を放つも、ブランクのせいか霊力をうまく扱えなくて霊力斬が弱々しくなったり、あらぬ方向に飛んでいったりしている。

 

 くそっ!肝心な時に!

 

「そろそろ観念しろ!」

 

 くそ!フードを取られてたまるものか~!

 

 しかし、俺はあっけなく捕まってしまう。

 

「さあ、こいつの素顔大公開だ!目に焼き付けて驚くが良い!」

 

「や、やめろー!」

 

 しかし俺の抵抗もむなしくフードを取られてしまう。

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

sideこいし

 

 謎のパーカー男のフードがダークによって剥ぎ取られて素顔が露になった。

 

 そしてその素顔を見て私は驚いた。

 

 なぜなら、もう二度と見ることが無いと思っていた顔だったら。

 

 そして、涙が出てきた。

 

『あやややや!これは大スクープ!なんと!謎のパーカー男選手はなんとあの英雄。海藤 真だったー!』

 

 と、文も興奮ぎみみたい。

 

 真…

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

side真

 

 いやー。バレたな。うん。まぁ、良いか。

 

 そして、俺を手放すダーク

 

「さぁ、第2ラウンドと行きますか!」

 

 そう言った瞬間

 

 ビュン!

 

 と、空を切る音が聞こえた直後、俺の胸が貫かれていた。

 

「弾…幕…」

 

 と、前方に倒れる。

 

「は、ははは、ははははははは!この俺の邪魔をするからこうなる!今からこの場に居る奴ら全員を殺す。そいつは手始めの最初の獲物だ。邪魔をしてきたからな」

 

 と、そう言い、不気味な笑い方をする誠哉

 

「て、てめぇっ!」

 

 と、怒るダーク

 

「次はそこのお前だ!」

 

 そしてステージに上ってくる誠哉

 

 俺は完全に死んだと思い込んでいるらしい。

 

 だから俺は誠哉の視界から外れたのを見計らい、誠哉の背後へと回り込んだ。

 

「おまえ、いつから俺が死んでいると錯覚していた」

 

 と、俺が言うと誠哉はものすごく驚いたようだ。

 

「お前、完全に心臓を貫いたはずじゃ!?」

 

 ああ、そうか言ってなかったな。

 

「俺の能力は【致命傷を受けない程度の能力】だ。つまり、即死しないと言った感じだ。この意味がわかるよな?」

 

 そして誠哉が振り返った直後、俺は誠哉の腹を殴った。

 

「ぐはっ!」

 

 そして、ダークは誠哉に回し蹴りをした。

 

「ぐっ!」

 

 そしてどんどん後退していく誠哉

 

 そしてどんどん俺とダークで交互に誠哉に攻撃していく。

 

 やがて、ステージのギリギリまで誠哉を追い込むことに成功した。

 

 すると、誠哉の背後にスキマが開いたのが見えた。

 

 俺とダークはアイコンタクトして頷いた。

 

 そして

 

「「くらえぇぇぇっ!」」

 

 そして俺とダークでダブル飛び蹴りをして誠哉を突き飛ばす。

 

 そして誠哉はスキマの中に吸い込まれていった。

 

 俺とダークは飛び蹴りをした勢いでそのままステージから落ちる。

 

『試合終了!引き分けだ!』

 

「「はぁっ?」」

 

「二人とも、ステージから落ちたよね?」

 

 あっ!

 

 やっちまった!

 

「この場合。両者に宿泊券をプレゼントします!」

 

 こんなのってありか?

 

 結局最終的な結果は2勝2敗1分となった。

 

 一応誠哉もこっちのチームだが、あんなやつに賞品が与えられるわけもなく、俺達が希望した人数分だけの券が配られた。

 

 ちなみに俺は地霊殿メンバーと龍生、音恩、鈴音、そして紬を希望した全部で9枚だ。

 

 奏は5枚、ガルッチは1枚、善は3枚希望した。

 

 俺達がそんなやり取りをしていると、急に実況席からこいしが飛び降りてきた。

 

 いきなり飛び降りたらあぶねーじゃねーか!

 

 そして俺はこいしを受け止める。

 

「う、う、本物だ…本物の真だ」

 

 と、俺の胸で鳴き始めるこいし

 

 俺も感無量だった。こうしてこいしと抱き合っているこの瞬間が夢なんじゃないか?と錯覚するほどに

 

「熱いね。二人とも」

 

 と、言われ、俺とこいしは顔を赤くさせ肩を震わせる。

 

 しかし、互いに離れようとはしなかった。

 

「だけど、真くん?この券の温泉旅館はこいしちゃんたちの経営してる所なんだから、券を取る必要は無かったのに」

 

 え?そうだったっけ?

 

「と、取り合えず形だけもらっておきます」

 

 そして俺とこいしは暫く離れることは無かった。




 はい!第12話終了

 次回から旅館での話に入ります。一応コラボは旅館編が終わったら終了です(長い)

 それでは!

 さようなら


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第13話 温泉郷 奏と真と二人のこいし

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 ついに始まった最後の試合

 真とライトはほぼ同じ実力を持っていたため、なかなか勝負が決まらなかった。

 その間に目を覚ました誠哉が真の心臓を貫いた。

 しかし、そこは真。そんなことでは死なず、ライトと協力して誠哉をもとの世界に帰した。

 そして、その時に二人同時にステージから降りたため引き分けとなって、両チームに賞品がプレゼントされることになった。



 今回から旅館編スタート!

 さて、どうなるのか!

 それではどうぞ!


side真

 

「へぇっ!ここが今晩泊まれる宿か!」

 

 と、興奮ぎみの奏が言った。

 

「し、師匠…もう少し離れていただけるとありがたいのですが」

 

「それは無理な相談ね。だって反応が面白いもの」

 

「やっぱり…」

 

 と、奏とその師匠と思わしき人物が戯れている。そっとしておいてあげよう。

 

「まさか私と」「私が」「「合うことになるなんてね♪」」

 

 こいしとさとりが二人居るってのもなんだか不思議な感じがするな。

 

 あとはその他色々だ。

 

「オーイ!俺を忘れるな!」

 

 と、頭を叩いてくるガルッチ

 

「いって~!なにするんだガルッチ!」

 

「何度も言ってるが俺はガルッチじゃない!アザトース・ゴジラだ!ってそう言うことじゃなくて、俺のしてることの紹介は!?」

 

 あ、忘れてたってか、ガルッチは一人で黙々と歩いていただけだったから紹介するまでも無かったじゃねーか。

 

 と、叩かれた頭を押さえながら歩いてると奏がこっちに来た。

 

「おい、真。あのダブルこいしを見ろよ。和むだろ?」

 

「確かにな」

 

 これは良い物をみた。

 

 二人で笑顔で話しながら歩いているこいしとこいし。

 

 これは目の保養になる。

 

「はい、男子組はこの部屋ね」

 

 と、さとりが部屋を指した。

 

「そうか」

 

 俺はそう言って部屋に入ろうとする。それはガルッチと善も同じだった。

 

 しかし

 

 俺達はガシッと後ろから捕まれた。もちろん決まっている。

 

「龍生…この手を離してくれないか?」

 

「皆、こんなに簡単に女子との同室を諦めても良いのか!?」

 

 その数秒後、一緒に歩いていた女子達からの一斉攻撃が龍生を襲ったのは言うまでもなかった。

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「結構良い部屋じゃないか」

 

 と、俺が部屋を見ながらそう呟いた。

 

 部屋は地霊殿からは一切想像もつかない和室

 

 そこそこの階層の部屋を借りることが出来たので眺めは最高

 

 その部屋で端で陣取る二人

 

 ガルッチは端で窓の外を眺め、善は瞑想をしながら呟いていた。

 

「煩悩退散煩悩退散」

 

 狂気すら感じられる。

 

 実は先ほど善は龍生の言葉につられそうになったが、龍生がぼこぼこにされているのを見て我に帰ったようだ。

 

 それからあんな状態だ。

 

「なぁ、真は彼女居るのか?」

 

「なんだ?急に」

 

 と、いきなり奏が恋ばなを振ってきたのでビックリした。

 

「良いじゃねーか」

 

「それを聞くときは自分から言うのが礼儀だ!」

 

 俺は恥ずかしくてそう言った。

 

 これで、奏も恥ずかしくて言わなければ俺の勝ちだ。

 

 そう思っていたが

 

「俺の彼女はあのこいしだ」

 

 ねぇ、何で言うの!?ねぇ、何で!?これじゃ俺も言わなければいけなくなっちまったじゃねーか!

 

「もう片方のこいしだよ」

 

 と、俺は観念して言った。

 

「おおーっ!偶然だな!」

 

 俺としてはそれどころじゃない。

 

「って言うか、俺の場合彼女って言うか奥さんだな」

 

 え!?

 

「マジでか?」

 

「マジマジ」

 

「飯はどっちが作ってるんだ?」

 

「基本的にこいしかな?」

 

 ……こいつ…苦労してるんだな。

 

「何で憐れみの目を向けてるんだ?こいしは別に料理下手じゃ無いぞ?」

 

 バカな!?あのこいしが料理下手じゃない…だと!?

 

「何でそんなに驚いて…あ」

 

 なにかを察したような奏

 

 今度は俺が憐れみの目を向けられる番だった。

 

 やめろー!そんな目で俺を見るな~!

 

「ところでどこまで行ったんだ?」

 

 こいつ…何てことを聞くんだ!?

 

「もしかして他人には言えないようなところまで行ってたり?」

 

「違うわ!まだ抱き締めたことしか無いわ!」

 

 なにそのあり得ない的な反応は!?

 

「お前、キスもまだだったのか!」

 

「悪いか!」

 

「それって男としてどうなんだ!」

 

「知らねーよ!そんなこと!」

 

 と!言い争って居ると二人のこいしが入ってきた。

 

 ちょっと不思議そうな顔をして

 

「なに二人とも言い争ってるの?」

 

 と、俺たちの言い争っている姿を見て言う。

 

「いや、その」

 

 と、俺が口ごもってると

 

「真が彼女に対してキスもまだしてないんだって!」

 

 と、勝手に言いやがった。

 

「それって本当!?彼女はね、やっぱり待ってるんだよ!それに答えるのが彼sモゴモゴ」

 

 と、後ろに居るこいしが顔を真っ赤にして、しゃべってるこいしの口を一生懸命押さえる。

 

 反応からするにしゃべってる方が奏の方のこいしで押さえてる方がこっちのこいしだな。

 

 ってか見分けるのムズいな。

 

 その時

 

「パパ~!」

 

 と言う声が聞こえたから扉を見る。

 

 そこには女の子が居た。

 

「夏恋どうしてここに!?」

 

「ママのあとを付いてきたんだよ!」

 

 と、そこで気がつく。

 

「パーパー?マーマー?」

 

 と、ゆっくり錆びたロボットのようにギギギと奏の方向に首だけ向ける。

 

「ああ、うん。この子は俺とこいしの愛娘の夏恋だ」

 

「よろしく~!」

 

 と、元気が良いご様子。

 

 なに?奏とこいしはそこまで行ったの!?大人だな~

 

 龍生曰くへたれ(・・・)な俺とは大違いだ。

 

「あ!そろそろ私、旅館の手伝いしないと!」

 

 と、こいしが部屋から出ていった。

 

「あ、俺も手伝う」

 

 そしてつられて俺も出ていき、こいしに付いていく。

 

 このメンバーと一緒だったら退屈しなさそうだ。

 

 さて、手伝いに行きますか!




 はい!第13話終了

 ついに始まった旅館。

 いきなり作者にいじられるコラボキャラ。本当にすみません!

 そして善とがる…ゴジラの出番が少なくてすみません!

 善はまだましなんですが、ゴジラのキャラが掴みにくい。

 それでは!

 さようなら


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第14話 料理

 はい!どうもみなさん!ミズヤです

 ちょっと今回はコラボキャラの出演がかなり少ないです。

 なんか奏君と真の会話が個人的に書きやすいと言う印象がありまして奏君は他の方より多くなってしまってます。

 僕が未熟なせいでみんな公平に出演させることができないんだぁ!

 すみません



 それでは前回のあらすじ

 いきなり作者にいじられるコラボキャラ

 これには流石の作者もHANSEI

 そして二人のこいしを見て和む真と奏

 そして恥ずかしがるこいしも可愛いと思う真なのでした。

 

 それではどうぞ!


side真

 

 俺は今厨房に居た。

 

 そして俺の目の前にはまがまがしい料理たち

 

 俺は息を飲む。

 

 人生最大のビンチ!!に俺は立たされていた。

 

 そう、前作を読んだ人なら分かるだろう(メタイ)

 

 何を隠そう。これはこいしの手料理だ。

 

 以前ホワイトシチューを作ってもらったが、最終的にパープルシチューとなった。どうしてこうなった。

 

 それからこいしに料理を作らせないようにしていたらしいが、ついさっきこんなことを言われた。

 

「お願いします。姉としてあの子の料理の腕を上げたいんです!」

 

 殺す気か!

 

 まぁ、確かにこいしの手料理が下手を通り越してヤバいものになってるが、こいしにうまくなってもらって手料理を食いたいってのはあるからな。

 

「あのーこいしさん。ちなみにメニューは?」

 

「味噌ラーメン!」

 

 …知ってたよ。知ってたけどあえて言わせてもらおう。

 

 これはラーメンであってラーメンではない何かだ。

 

 沸騰もしてないくせにぼこぼこと言っているスープ。完全に俺に危険を知らせてきている。

 

 ちなみにこれ…インスタントなんだよね。

 

 生麺から茹でる前にお湯を注ぐくらいなら出来るだろうと思ってやってみた。

 

 しかし、

 

 俺の考えは甘かったようだ。なぜお湯を注ぐだけでこうなる?

 

 お湯に何か入ってたのか?

 

「こいし、アレンジはするな。袋に書かれている事だけやれ」

 

 と、俺は飽きれ気味に言った。

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「お待たせ~!」

 

 リトライ

 

 もう一回作らせてみた。

 

 具無しのただのラーメンでアレンジはするなときつく言っといたから大丈夫だよな?

 

「見た目は普通だな」

 

 やっと普通なのきたー!と思って一口啜る。

 

 すると、脳に電流が走るような衝撃が来た。

 

 苦い

 

 そう、苦いのだ。

 

「こーいーしー?」

 

 と、ジト目でこいしを見る。

 

「あ、えと…そう!隠し味!隠し味だよ!」

 

 苦い隠し味って…全然隠れてねー!

 

 それにインスタントにやるようなもんじゃないだろ!

 

 その時

 

「手伝いに来たよー!」

 

 と入り口から紬が入ってきた。

 

「あれ?真とこいしだけ?もしかしてお邪魔だった?」

 

 と、寄ってくる紬

 

「あ、ラーメン?」

 

「まぁ、一応」

 

「あれ?真食べないの?」

 

 ちょっと胃腸薬を…

 

「じゃあ私が食べるね」

 

 え!?

 

「待て!紬!」

 

 俺が言い終わる前に紬は食べ始めていた。

 

「美味しい!」

 

「え?」

 

 紬…もしかして味音痴?

 

 いつも美味しいものは美味しいって言ってたから気がつかなかったけど…この子何でも美味しいって言うんじゃ?

 

「私は神なんだよ!何でも美味しく食べられる舌を持ってるんだ!」

 

 便利だな!神って

 

 取り合えず俺がヤバいと判断したら紬に押し付けよう。

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

その夜

 

 俺のこいし料理強化は辺りがすっかり暗くなるまで続いた。

 

 因みに成果は、俺の腹にダイレクトアタックしてこないまでには成長した。が、味が人間の食べるものとは思えない。

 

 疲れた。胃薬持ってて良かったな…

 

 何で胃薬持ってるのかって?

 

 永琳先生、まじで気が利くな~。一回俺が腹から破裂(!?)したとき搬送されて永遠亭で哀れな人を見る目で見られたけど、そのあと有無を言わさず胃薬(永琳作)をくれたからね。あの永琳先生がタダで

 

 お陰で腹から破裂(!?)せずに済んだよ。

 

 ※真じゃないと死んでます

 

「大丈夫だったか?」

 

 と、奏

 

 実は休憩中に奏とこいしの事を話しているといきなりこいしが出来を確かめてくれ!って休憩中なのに来たから決死の覚悟で食べたら奏の目の前で腹から爆散してしまったんだ。

 

 その時に搬送を手伝ってくれたのは奏だからすごい感謝してる。

 

 因みに善とガルッチもその部屋に居たから、二人とも俺がバーン!と言って破裂したときに驚いてこっちを見たんだけど、返り血を浴びたこいしと奏と俺の(自主規制)を見たときに青ざめてたな。見苦しいを見せてしまった。

 

 そのあと瞬時に回復したときはドン引きされたな。

 

 まぁ、そんな経緯がありました。

 

「まぁ、大丈夫だ。俺は猛毒盛られても死なないから」

 

 と、苦笑いで言うと奏も苦笑いをしていた。

 

 まぁ、あれには永琳先生は劇薬が入ってるのと同じと言っていたからな。

 

 それでも俺はこいしの手料理を諦めたくない!

 

「頑張れよ」

 

 と、肩にトンと手を置いて言ってきた。

 

 すると、奏はこんな提案をしてきた。

 

「気晴らしに風呂に入りに行かないか?」

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「ふぅ…生き返る」

 

 やっぱり風呂は最高だな。一日の疲れが一気に吹っ飛ぶ気がするよ。

 

 これで明日からも頑張れる。

 

「しっかしまぁ、お前の体はどうなってんだ?そんなヘロヘロの体のどこにあんな力が有るんだか。更には散り散りにぶっ飛んだ奴が意思を持っているかのように動いてくっつくし」

 

「確かにヤバい光景だな。力は多分妖怪の血も入ってるからだな。妖怪っつっても覚り妖怪でこいしと同じように無意識を操る系で心は読めない。まぁ、本人よりは劣るけどな」

 

 俺は一度死にかけている。

 

 理由は出欠多量だ。さすがに能力でも出欠多量はどうしようも無かったらしい。

 

 そこで俺に課せられた運命ってのが、このまま死ぬかそれとも妖怪になって生き残るか。

 

 妖怪になれば自信の回復能力で血を作り出せるらしい。

 

 そこで俺と唯一同じ血液型だったこいしから少量血を貰って永琳先生の【ありとあらゆる薬を作り出す程度の能力】で作り出した妖怪になる薬を俺に投与した。

 

 これで俺はただ妖怪になるはずだった。

 

 だけど俺がまだ自信の血が残っていたことで俺の血と妖怪としての血が反応を起こし、俺を半人半妖にした。

 

 誤算はそれだけじゃない。

 

 これは永琳先生も知らないことだが、こいしの血と俺の血が愛称が良かったようで、なぜかこいしの能力【無意識を操る程度の能力】の弱体化版みたいな能力が俺についた。

 

 これはステルスするときには便利だけど俺が使うと結構体力必要なんだな。

 

 何時間も使うなんて考えられない。

 

 まぁ、そんな経緯で今の化け物染みた体が出来上がったわけです。

 

「そろそろ飯の時間じゃないか?」

 

 と奏

 

「そうだな戻るか」

 

 俺はこの体のお陰で大切な人を守れる。

 

 みんなには感謝しないとな。




 はい!第14話終了

 前書きでも言いましたが公平に出演出来なくてすみません。

 なるべく公平にって思ってるんですがね。

「よし、ミズヤは後で絞めとくか」

 真さん!

「随分と久しぶりだな。主」

 と、取り合えず閉めてからで

「いや、気が変わった。いま締める」

 ちょ!ちょっと真さん!怖いです!

 うわぁぁぁっ!

 この日、幻想郷中に悲鳴が響き渡ったと言う。

「それでは!さようなら」


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第15話 迫る幻想郷滞在リミット

 はい!どうもみなさん!ミズヤです

 ついにあと旅館編は二回となりました。

 そして最後は次章への繋ぎの話にしたいのでガッツリコラボを書くのは今回でラストになります。



 それでは前回のあらすじ

 こいしのまともな料理を食べるために、こいしの料理の練習を手伝うことにする真

 しかし、こいしの料理を食べたことにより、一回体が爆散して永遠亭に搬送される。

 果たして真にこいしのまともな料理を食べることができる日は来るのだろうか?



 それではどうぞ!


side真

 

 俺と奏は今、風呂から上がって食堂に行くところだ。

 

「腹へった~」

 

 と、奏

 

「だな。メニューは何だろうな」

 

 俺が手伝おうとしたらさとりに「あなたは今日はお客さんなんだからゆっくりしてて」と言われた。

 

 今日は貸しきってあるとか言ってたからそんなの別に気にしなくても良いのにな

 

 さとりはすぐ思い詰める癖がある。まぁ、似たようにこいしもすぐ思い詰めるんだけどな。

 

「おっ!良い匂いだ」

 

 まぁ、あのさとりの料理だからな。さとりの料理は俺が自信を持って保証できる。

 

 そして食堂に入ると、ガルッチ、善御一行、奏御一行、そして幻想郷チーム御一行が居た。勿論龍生や音恩、鈴音も

 

 そして幻想郷チームはすでに食べ始めていたが、一人すごい勢いの人が

 

「一ヶ月ぶりのまともな食事よー!」

 

 なんて惨めな巫女なんだ。

 

 あまりにも可愛そうだ。

 

 今度飯でも奢ってやるか。

 

「霊夢さん。よく噛まないで喉を詰まらせませんよね。ある意味すごいですよ」

 

 あまりにも必死すぎる紅白巫女を目の前にして紅白巫女を尊敬している青白巫女ですら少し引いている。

 

「霊夢、噛まないと体に悪いぜ?」

 

 そう言うお前も紅白巫女の事を言えたもんじゃないだろ白黒魔法使い!

 

「いやー。最近金欠ぎみだからこう言うイベントは助かるぜ~。なかなか客入りも悪いし」

 

 惨めだ。

 

 ここまで惨めな商売見たことがない。

 

 確か魔法店って言ってるわりには何でも屋な店だったよな。

 

 ってか店の場所が悪い。

 

 まず、森の奥地に入ってくやつなんてそうそう居ない。

 

「幽々子様も落ち着いてください!」

 

 幽々子に至っては飢えた猛獣の如し、

 

 幻想郷の主要人物餓えすぎだろ!

 

「パパ~!」

 

 と、奏の娘さんである夏恋が手招きして奏を呼んだので、俺に「じゃ」とだけ言って夏恋のもとへ向かった。

 

 なんかもうね。幻想郷チームがカオス過ぎて手に終えない。

 

 それから終始あの中で一番の常識人だと思われる妖夢が助けてほしそうにこちらを見ている。助けますか?NOとやっていたのでちょっと泣きそうになって可哀想だったな。

 

「ようこそ、地獄の始まりへ」

 

「本当に地獄に行きそうだから怖いよ…」

 

 そう言えばダーク。今はライトって言ってたっけ?ライトは端で一人で食ってるな。

 

 あいつは昔の俺みたいだな。

 

 龍生以外とつるむことを拒んでた時の俺にそっくりだ。

 

「ライト。一緒に食わないか?同じ思考回路持ち同士ならつるみやすいだろ」

 

 俺は放っとけなくて声をかけた。

 

「っち。勝手にしろ」

 

「じゃあ勝手にさせてもらう」

 

 しかし、気まずい。同じ思考回路同士ならコミュ症なのも同じことで話しかけづらい。

 

 しかも以前は敵同士。仲良くするのが難しい。

 

「真、お前はこれからどうしたい?」

 

 と、いきなりライトは聞いてきた。

 

 全くこれからの事とか考えてなかったな。この大会の事で頭が一杯だった。

 

「この宿泊が終わったら現代に帰ることになるとかそんなことも考えたりしてる。もう俺はこの世界の住人じゃないんだから。だけど」

 

 そして一拍置いて言った。

 

「出来ることならこのままこっちの世界でみんなと暮らしたい」

 

 そう言うとライトは目を瞑った。

 

(だってよ。時空神さん)

 

 そして俺とライトは飯を食い終わった。

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 しゅっ

 

「…悪いねぇ」

 

「畜生ーーー!」

 

 本気になりすぎだろ。ババ抜き位で

 

 俺達はみんなでババ抜きをしていたのだが、今は善から奏がトランプを引いたら運悪くもジョーカーを引いたんだ。

 

 それだけでこの奇声は

 

 え?俺は何でそんなにこと細かく分かってるのかって?

 

 俺は【都合が良い状況を作り出す程度ののう…もとい、オレノウンガヨカッタカラソッコウデオワッタヨ。

 

 え?ずるじゃないのかって?ほとんど言っちゃってるって?

 

 勘の良い奴は嫌いだよ

 

 まぁ、そんなわけだから今は傍観者って事だな。

 

「次は俺か」

 

 そうしてガルッチは奏からトランプを引く

 

 しかし、ガルッチが引いたのはスペードの6だった。

 

 そして揃ったため山に捨てる。

 

「僕か」

 

 そしてトランプを引く。

 

 すると音恩の持ってた最後のトランプと同じ数字を引いたので音恩は上がった。

 

 次は龍生から善が引く番

 

「これか?」

 

 引いて見てみる。

 

「あーなかなかうまくいかないな」

 

 どうやら違う数字だったみたいだ。

 

「どれだ?ぐぬぬ」

 

 ジョーカーは奏が持ってるんだろうが…

 

「これだ!」

 

 すると奏のトランプはあと、二枚だった所に

 

「よっしゃ」

 

 なんと数字のトランプが被ったため捨てることが出来た。

 

 そしてガルッチがジョーカーを引いて奏上がり。

 

 こんな感じで進んでいき

 

「よっしゃ。揃った」

 

 善も上がり

 

「お疲れ」

 

 ガルッチも上がった。

 

「さぁて、罰ゲームの時間ですよ龍生さん」

 

「お、俺ちょっと急用を思い出して」

 

 しかし、全員で取り押さえて、なぜか音恩が持ってたデスソースをコップ一杯分一気のみさせた。

 

 この時、男の悲鳴が響き渡ったのは言うまでもない。

 

「やべえわ、体のあちこちが痛い」

 

「んじゃ、おやすみ~」

 

 と、俺は龍生を無視して布団に入った。

 

 そしてみんなも各々の布団に入っていった。

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 寝れない。

 

 そう、なぜか今日は眠れなかった。

 

「ちょっと外の空気でも吸いにいくか」

 

 俺が玄関から出ようとしたとき、こいしの後ろ姿が見えた。

 

 どこに行くんだ?

 

 俺はそう思い、少しつけていくことにした。

 

「星空がキレイ」

 

 ここ地底だけどな。星空って言っても良いのかわからない。

 

「ねぇ、真もこっち来て」

 

「バレてたのか…」

 

「無意識の反応が追ってきてるって思って、無意識をつかえるのって私と真しか居ないからね」

 

 なるほど…

 

「真、二人だけでこうするのって数年ぶりだね」

 

 なんか俺が座ると、こいしが横に座って俺に肩やら頭やら預けてきてドキドキする。

 

「そ、そうだな。また、こうすることが出来て嬉しいよ」

 

「私も」

 

 俺はもしかしたらもうすぐで帰らなくちゃいけなくなるかもしれない。

 

 だから精一杯今の時間を楽しむことにした。

 

 今度は本当にもう二度と来れないかもしれないのだから。




 はい!第15話終了

 次回でついにコラボ終了です。

 かなり長い長編コラボでしたねw

 僕的には好き勝手書いてた記憶しかゲフンゲフン
 イッショウケンメイヤラセテイタダキマシタ

「ミズヤ。まだやられ足りないか?」

 メッソウモゴザイマセン

 それでは!

 さようなら


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第16話 終わりと終わりの始まり

 はい!どうもみなさん!ミズヤです

 今回でコラボおしまいですが、コラボは序盤しかやりません。

 あとの残りは次章への繋ぎの話となっています。



 それでは前回のあらすじ

 奏とともに食堂へ行くと豪勢な料理が並んでいた。

 その料理を食べながらかつての敵、ライトと話をする。

 そして、真はこの世界に残りたいと言う気持ちを露にする。

 残り時間はわずかだ。



 それではどうぞ!


side真

 

 翌日

 

 あの後、俺とこいしは暫く夜風を浴びた後、寝室に戻った。

 

 終わりか…

 

 1泊2日…短いようで長く感じたな。それだけ濃い1日だった。

 

 まぁ、ボーンしたのを一日もたたずにその日の内に動けるようになるってのは化け物なのかもしれない。

 

 そのせいで余計長く濃い一日に感じたんだな。

 

 集合場所は丘で、もうそろそろ集合場所に行こうかな?

 

 そう思って周りを見渡す。

 

 あれ?誰も居ない。

 

 みんなどこに行ったんだ?

 

 取り合えず集合場所に行くか。

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「これで全員だな」

 

「ああ、だが真はどうするんだ?」

 

「真君はこの世界に必要だと感じたんだ。だから置いていく」

 

 あれ?みんな既に集まってないか?

 

 え?もしかして時間間違えた?

 

「でもまさか真君がこんなに行動が早い人だとは思わなかった。せっかく集合時刻を遅く伝えたのに」

 

 俺はあわてて走る。

 

 うわっ!遅れるとか最悪だ!いそげいそげ!

 

「神域《結界》」

 

 よっしゃ!やっとついた。

 

 これで結界の中に入れば

 

「遅れてすま」

 

 がんっ!

 

「いってー!」

 

 俺が魔方陣に入ろうとすると弾き飛ばされた。

 

 え?これってお前の場所ねーから。とかこの魔方陣、9人用なんだ。

 

 とかそんな感じか?

 

 ハブられたのか!?

 

「真君。君はこれからも幻想郷で暮らして良いよ。この世界は君がいた方が笑顔になれるもの」

 

 そう言い残してみんなは帰っていった。

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「ってことで、俺はこれからもこの世界に居れることになった。これからもよろしく」

 

 俺がみんなにそう言うと、こいしが抱きついてきた。

 

「良かった。本当に…このまま真が帰ってしまったら、今度は本当に会えなくなるような気がして…」

 

 そして俺も優しく抱き返す。

 

「安心して。もう会えなくならない。離れていかないから」

 

 この時、その場に居たもの達はこう思った。

 

(俺(私or僕)も居るんだけど)

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

sideシャロ

 

「そうだ。久しぶりにタイムパトロールを」

 

 そして僕は数年後の未来へ飛ぶ。

 

 すると僕は開講一番とてつもない光景に言葉を失った。

 

 辺り一面焼け野原になってて建物もほとんどが崩れ、廃墟と化している。

 

 もう、誰一人として人は残っていないかのように見えた。

 

 その時

 

「助けて…」

 

 そう聞こえて後ろを振り返る。

 

 するとそこには未来の僕が居た。

 

 おかしい。僕は一つの世界につき、時空上に一人しか居ない。

 

 つまり

 

「未来の僕はこの光景を伝えたくてわざと僕の転移先をこっちにしたんだね?」

 

「うん」

 

「で、誰が?」

 

 その時、嫌な霊力を感じた。

 

 だけどこの霊力を僕は知っている。

 

「まだ生きていたか。しぶとい時空神だ。って増えてないか?あー。パラレルワールドの…」

 

 なんと、そこに居たのは青いパーカーに身を包み、フードを被った真だった。

 

「雑魚が何人いようと関係ない。俺は俺の考えのもと動くだけだ」

 

 そしてパラレルワールドの真、もといパラレル真は手をかざしてとてつもなくデカイ弾幕を作り出す。

 

 あの大きさじゃ避けきれない。

 

 未来の僕でも敵わないくらいに強くなったって言うの?

 

 少なくとも僕の時間軸の真君は僕に攻撃を与えることすら出来ないはず。

 

「もう、この世界は終わり。僕たちじゃ真を倒すことは出来ない。だから、そっちの世界は頼んだよ。真を真君をこんな人殺しにしないであげてね」

 

 そう言って一歩前に出る未来の僕

 

「真、今回の戦いはあなたの勝ちですどうぞ煮るなり焼くなりしてください!」

 

「安心しろ。今のお前は弱っている。じっくりとなぶり殺しにしてやるからな」

 

 そしてさらに弾幕が大きくなっていく。

 

 僕でも勝てない敵…もしかしたら

 

「行って過去の僕。過去を救えるのは過去の僕しか居ない!」

 

 そしてパラレル真はニヤリと笑う。

 

 その笑みだけですべてを恐怖させる。そんな威圧感があった。

 

 怖い。怖い。殺される…

 

「まだそんなに喋れるだけの体力が残っていたとはな…さすがに手を抜きすぎた。今度は本当に死ぬかもしれないな」

 

 そしてパラレル真は弾幕を放つ。

 

「今日こそ時空神。お前の息の根がとまる日だぁっ!」

 

 僕は辺りを見渡す。

 

 辺り一面焼け野原、建物は崩壊し、とてもじゃないけど人間が住めるような環境ではない。

 

 僕はこれを見て決断した。

 

 真君を…みんなを笑顔にしてくれる真君をこんな人にはさせないし、ましてやこんな世界にはさせない。

 

 絶対に僕が食い止める。

 

 決断をしたときには目の前に弾幕が来ていた。

 

 近づくだけで体がボロボロになるような威力

 

 だけど、未来の僕は最後まで臆することなく戦ったんだ。

 

 未来の僕の意思を無駄にするわけにはいかない。

 

 そして僕は自分の世界に時渡りした。

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 キラーン

 

 ドンッと体制を崩しながら自分の世界へ帰ってくる。

 

「大丈夫か!?」

 

 まだその場に居た真君に助けられる。

 

 草原だ。

 

 元の世界に帰って来れたんだ。

 

「どうしてこんなにボロボロに!?」

 

 そして私は安心して気を失った。

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「消し炭と化したか」

 

 しかし、妙に気がかりだ。

 

 俺の弾幕が直撃する前に神力が消えた。

 

 逃げたか?

 

 いや、ただ逃げただけなら消えないし、第一今のを避けられるはずがない。

 

「越えたか」

 

 それなら近くに時空の亀裂が…あった。

 

「ついに見つけたぞ。パラレル時空神の世界。ふふふ。フハハハハハハハハハハハ」

 

 第壱章 完




 はい!第16話終了

 次回から新章に入ります。

 なんとパラレルワールドの未来の真が敵に!?

 そして現在の真達はどうするのか!?

 それでは!

 さようなら


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第弐章 正対負 ~恨みと信頼~
第17話 迫る危機


 はい!どうもみなさん!ミズヤです

 今回から新章突入します。



 それでは前回のあらすじ

 シャロ達に置いていかれて真は幻想郷に残ることになった。

 一方パラレルワールドの未来では未来の真が死の世界へと変えてしまった。



 それではどうぞ!


side真

 

 俺は気を失ったシャロを連れて永遠亭に来ていた。

 

 散歩してたら急に上から落ちてきた。

 

 そしてシャロはいきなり気を失った。

 

 気を失う前に見せた安堵の表情からして恐らく安心して気を失ったんだろう。

 

 しかし、何があったんだ?

 

 シャロほどの人物がここまでボロボロになるなんて…

 

「お待たせ。悪かったね。いきなり倒れて」

 

 すると奥から先ほど倒れたはずのシャロが出てきた。

 

 まぁ、俺も同じようなもんだし驚かないけどな

 

「なぁ、何があったんだ?」

 

 するとシャロは顔を俯かせた。

 

「僕、パラレルワールドに行ってたんだ」

 

 そこですべてを聞いた。

 

 パラレルワールドの未来であったことすべて。

 

 俺が世界を滅ぼすために動いていた。

 

 シャロでも敵わなかったこと。

 

 俺はそれを聞いて歯を食い縛るしかなかった。

 

 俺がそんなことを…

 

「真君はみんなのヒーローなんだから。こんなことしないでね」

 

 でも、俺はそんな話を聞いて逆に興味が出た。

 

 なぜ未来の俺はこんなことをしたのか。

 

 その時

 

 嫌な霊力がこの世界に出現したのが分かった。

 

 この方向は…人里の方向か!?

 

「真君。君は避難誘導に専念して」

 

 そう言ってシャロは飛んでいってしまった。

 

「大丈夫だろうか?」

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 取り合えず文に伝えて危機を知らせた。

 

 恐らくこのシャロの焦り様。間違いない。未来の俺だ。

 

「お主。悪の味方か何かか?」

 

 と、急に話しかけられた。

 

 悪の味方?

 

「おじいちゃん失礼だよいきなり」

 

 と、後ろから紬くらいの見た目の女の子が出てきた。

 

「お主の霊力。悪の霊力と似ている。この里の近くの平野にいるであろう悪に」

 

 そうか…ってこの人霊力がわかんのか?

 

 霊力とかが分かるのは妖怪や手練れだけだと思ってた。

 

 もしかして一般人にも分かったり?

 

「わしは霊媒師。霊力を読むことなど造作もない」

 

「私はまだ未熟だし、読めないけどね」

 

 そう言うことか…

 

 これほどの邪悪な霊力と俺の霊力がそんなに一致してたら警戒するのも無理は無いな。

 

 霊力の質は一人一人違うんだ。

 

 だから霊力を使った行動も得意な行動、苦手な行動。それぞれ違うんだ。そして敵はパラレルワールドの俺とは言え俺だ。同じ霊力を持っているのだろう。

 

 厄介な相手だな。

 

 恐らく俺と能力は一緒。致命傷を与えることはまず無理だ。

 

 呪いの類い?

 

 いや、それも効くかすらも怪しい…

 

「お主は敵なのか敵じゃないのかどっちだ」

 

「少なくとも俺は敵じゃないと思ってます」

 

 そう言うと、霊媒師のおじさんは未来の俺が居るであろう場所へと歩いていった。

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

sideこいし

 

「真遅いな~」

 

 ずいぶん前にちょっと出掛けてくるって行ったっきり暫く帰ってきてない。

 

 その次の瞬間

 

「無意識が増えた!?」

 

 すると紬も気がついたみたいで驚いて立ち上がった。

 

「真!?」

 

 私たちは慌てて地霊殿を飛び出した。

 

 真の霊力と無意識が二つあって、もう片方は嫌な感じがする。

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 私と紬は嫌な感じがする方に向かった。

 

 そして着くと真っ先に視界に写ったものは、

 

「し、ん?」

 

 それは真がシャロの胸ぐらをつかんで持ち上げている光景だった。

 

 シャロはボロボロで誰がどう見ても満身創痍だった。

 

「にげ…て」

 

 と、私と紬に避難をうながす。

 

「ちっ、こいしと紬か…」

 

 すると真は一拍置いてからこう言った。

 

「今回は見逃してやる」

 

 そう言って真はシャロを離してどこかに行った。

 

 真…どうして

 

「あいつはパラレルワールドの未来の真。真の可能性」

 

 そして私たちはパラレル真について教えてもらった。

 

 あのパラレル真はパラレルワールドの未来の世界を壊し回ってて、どうしてだかこっちの世界に来る術を見つけ出し、こっちの世界に来たんだって。

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

side真

 

 未来の俺が移動を開始した?

 

 そして霊力の単知力を強める。

 

 すると、シャロの霊力、神力が極端に弱くなっており、近くにこいしと紬の霊力を感じる。

 

 取り合えず急がないとヤバイかも知れない。

 

 そして急いでみんなの元へ向かう。

 

「こいし!紬!シャロ!」

 

 すると三人は俺に気がついたみたいで、こっちを向く。

 

「「「真!」」」

 

 シャロはボロボロで地面に倒れている。

 

 未来の俺…

 

 許さねぇ

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

???

 

「おい。悪」

 

 と、呼ばれパラレル真は呼ばれた方を向く。

 

「誰だ貴様」

 

「お主を成敗しに来た陰陽師だ」

 

「愚か者が…調子にのるんじゃないぞ」

 

 そして陰陽師は数珠を取り出す。

 

「じいさん。俺は霊じゃないぞ」

 

「わしの得意分野は霊退治ばかりじゃないんだぞ」

 

 そうして走ってパラレル真に近づく陰陽師

 

「はぁ、全く元気なじいさんだぜ…死にな」

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

side女の子

 

 おじいちゃんはこっちに来たはすだけどどこに行ったんだろう。

 

 おじいちゃんはいきなり走っていって置いていかれたけど…

 

 その時私の視界に最も見たくないものがあった。

 

「おじいちゃん!?」

 

 おじいちゃんが血まみれで倒れてる。

 

 お、じいちゃん

 

 しなないで!




 はい!第17話終了

 次回から真達とパラレル真の戦いが始まります。

 それでは!

 さようなら


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第18話 守るべきもの

 はい!どうもみなさん!ミズヤです

 今回は数日後の話となっています。



 それでは前回のあらすじ

 なんとこちらの世界に入り込んできたパラレル真

 そして、シャロがやられてしまった。

 果たしてシャロが敵わない相手を倒すことは出来るのだろうか?



 それではどうぞ!


side真

 

 未来の俺が現れてから数日が経った。

 

 あれから未だに未来の俺は動きを見せていない。

 

 良いことなのだが、俺は不安になっていた。

 

 未来の俺が今この瞬間にも何をしているのかがわからない。

 

 相手の行動がわからないほど怖いものは無い。

 

 今までの異変でそれは経験している。

 

 それは強い相手なら尚更

 

 今回の敵はシャロほどの神でさえ勝つことが出来ない強敵。

 

 シャロと戦ったことがないから正確なシャロの強さは分からないけど霊力、神力を感じて少なくとも今の俺では全力でも勝てないことは確かだ。

 

 そのシャロが勝てないなんて

 

 不安要素が積もるばかりで、最近はあまり眠れてない。

 

 どちらも俺なのにどうしてここまで差が出来てしまったんだ?

 

 ガチャ

 

「真?」

 

 と、急に俺の部屋に入ってきたこいしは驚いた表情をしていた。

 

「妖力と霊力が混ざり合ってぐちゃぐちゃ。どうしたの?」

 

 どうやらいつの間にか俺は霊力と妖力を出して部屋を充満させていたようだ。

 

 さらに無意識のためバラバラに出されて気配がぐちゃぐちゃになってしまっていたため、慌ててこいしは駆けつけたのだと言う。

 

 心配させちまったな。

 

 俺は大丈夫だ。とこいしの頭を撫でて外に出た。

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 未来の俺はかなり今の俺の力を超越えしているらしい。

 

 どうすれば良いんだ。

 

 そう考えながら歩いていると草原に出た。

 

 俺はこの世界が好きだ。

 

 人も妖怪も妖精も(のどか)な雰囲気も、この世界のすべてが好きだ。

 そしてこの世界には俺の愛すべき人が居る。

 

 だから今まで守るべく戦ってきた。紅霧異変、春冬異変、永夜異変、狂人異変、博霊神社争奪戦、幻想郷危機異変。これまで俺はこれらに関わり、戦ってきた。

 

 それはパラレルワールドの俺とは言え同じはず。

 

 だが今回の異変はそんな俺が起こした異変。複雑な心境だ。

 

 俺としてはどうこの異変に関わっていけば良いのか。

 

「それなら」

 

 と、いきなり背後から声がした。

 

 俺はその瞬間、嫌な予感がして180度回転しながら飛び退く。

 

「それなら俺の仲間に成れよ。海藤 真」

 

 その人物は青いパーカーを着ていて青と赤のオッドアイの人物で嫌な霊力を放っているが間違いない。

 

 こいつが未来の俺だ。

 

「どう言うことだ」

 

「俺と一緒にこの世界を破壊しよう。仲間なんて持っていても無駄。仲間が死んだときの辛さが増えるだけだ。それなら俺達自信の手で殺そうってこt」

 

 俺は未来の俺の頬をかすめるくらいの角度で狙撃《スナイパー》を放った。

 

「ふざけんじゃねぇ。そんな話しお断りだ。何が楽しくて自分の大切な人達を己の手で(あや)めなくちゃいけねーんだ」

 

 すると未来の俺の目がキラリと光った。

 

 その瞬間、俺と未来の俺は真っ黒な霧に覆われた。

 

 く、苦しい…肺が圧迫されているみたいだ。

 

「これは俺の霊力だ。どうだ?真っ黒だろ?これは正しい心の持ち主が浴びると頭痛や吐き気に見舞われるらしい。俺はこれを(あん)府《漆黒の霧(ダークスモーク)》と名付けた」

 

 ついには俺はまともに立つことが出来なくて膝を着いてしまった。

 

「はぁ…はぁ…くっ、はぁ…」

 

「これで分かったか過去と未来の俺の力の差。お前はこのまま俺が触れなくとも死ぬ。だが今殺すのは惜しい。この俺に立ち向かうかよーく考えておくことだな」

 

 その瞬間、霧が晴れて視界がはっきりとしてきた。

 

 同じ俺でもここまで違うなんて…

 

 強い…

 

 殺されるのとは別の恐怖心、圧倒的な威圧感(プレッシャー)

 

 あいつと対峙したとき悟った勝てるわけが無い。

 

 どんな修行を積んだらあんなに強くなれるんだ?

 

 だけど一つ感じ取った事がある。

 

 俺を勧誘するとき、あいつは悲しそうな顔をしていた。

 

 仲間が死んだときの辛さが増えるだけだ。特にこの言葉

 

 あいつは知っているんだ。仲間が殺される辛さが悔しさ。

 

 あいつは俺達が思っているような根っからの極悪人じゃ無いのかも知れない。

 

 これを知って余計に興味が出てきた。

 

 あいつの過去が知りたい。

 

 そう思いながら立ち上がると遠くの方に人影が見えた。

 

 あれは…あ!この間の子だ!

 

「おーい!」

 

 そう呼び掛けながら近寄る。

 

 そして俺の顔をちらっと見る。

 

 その時、女の子の顔が涙で濡れているのが見えた。

 

 泣いていたのか?何で?

 

 そう言えば陰陽師のじいさんも居ない。

 

 女の子一人だけで草原にポツンと座り込んでいた。

 

「どうしたんだ?」

 

 気になって聞いてみた。

 

 すると驚くべき回答が帰ってきた。

 

「おじいちゃんが…死にました」

 

 俺は歯を食い縛った。

 

 あのじいさんが死んだ。この子を残して

 

「私のおじいちゃんは奴に殺されました。見るも無惨な姿になるまで攻撃されて」

 

 俺は俺のことを言われてる気がしてならなかった。

 

 俺は何も言葉をかけてやることが出来なかった。

 

 あいつは俺の未来の姿。そんなやつが人殺しをしたとすれば誰だってそう思う。

 

 それに俺は知っている。

 

 身内を殺される悲しみを。だから俺は女の子を帽子の上から撫でてあげた。

 

 今の俺にはこれが精一杯の励ましだった。

 

「地霊殿に来るか?優しい人が多いぞ」

 

 俺はあいつを見たとき恐怖し怖じ気づいた。

 

 だが、あいつには負けてはならない。勝たなくちゃいけない存在だと改めて実感した。




 はい!第18話終了

 今回は勧誘であったり、陰陽師の死が発覚

 そして真が決断した回でした。

 それでは!

 さようなら


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第19話 圧倒的な強さ

 はい!どうもみなさん!ミズヤです

 今回は弐章に入ってから出番がなかった不憫なライトに視点を置きます。(他のキャラ?知らんな)



 それでは前回のあらすじ

 なんと真の前に現れたパラレル真

 そして、真を勧誘しようとするが真は断る。

 すると、真は力の差を見せつけられた。

 果たして本当にこの世界はパラレル真によって破壊されてしまうのか?



 それではどうぞ!


side真

 

 俺は女の子を連れて地霊殿に帰ってきていた。

 

 するとすぐに俺に蔑まれた視線が集まってきた。

 

 あれ?どうしてこんなに皆さんからごみを見るような目で見られているんでしょうか?

 

 とても…鋭利です。

 

「まさか…真がそんな人だったなんてね。ロリコン」

 

 グサァッ

 

「私と言う人がいながら他の女の子を連れ込むなんて!ロリコン」

 

 やめて!さとりのはふざけて言った感が有るけどこいしのはリアルだから!

 

「そうだよ!私と言う人がい」

 

「待ってみんな!違うんだって!」

 

「無視しないで~!」

 

 と、俺の服を掴みながらすがってくる紬

 

 今のはお前が悪い。

 

「さぁて、紬?香霖堂に行こうか?」

 

「やめてー!捨てないで~!」

 

「ふっ、あはは」

 

 と、女の子が笑った。

 

 さっきまで泣いていたのに目尻に涙を浮かべながら泣いている。

 

「面白いね皆」

 

 すると、紬ががっくりと肩を落とし、膝と手のひらを床につけて

 

「わ、私が面白い…だと」

 

 と、ものすごい勢いで落ち込み始めた。

 

 なんだよその乗り!

 

「取り合えず紬。何でそんなにテンションが高いんだよ」

 

「んー?歓迎の乗り?」

 

 おかしいだろぉー!

 

 もうやだこの子。悪乗りしちゃってるよ。

 

 そして俺達は皆自己紹介をした。

 

「私は…金糸雀(かなりあ) (ゆう)。よろしく」

 

 とりあえずは元気を取り戻してくれて良かった。

 

 強いな。優ちゃんは…じいさんが殺されたあとだと言うのに

 

 皆も優ちゃんに元気付けてくれてありがとう。

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

一方山奥

 

 ここはライトが修行しながら暮らしている山

 

 今も尚、滝行をしながら瞑想をしている。

 

 そして珠に上流から木片だったりが落ちてくることがある。

 

 その場合、ライトは殴り壊している。

 

 いつも通りに滝行をしていたが、その次の瞬間

 

 ライトは嫌な予感がして霊力刀を作り出して回転切りを放った。

 

「いやぁ…怖いね。ダーク。いやライトだったか?」

 

 そして切れた木の後ろから真に良く似た人物が現れた。

 

 しかし、その霊力は嫌な気配を放っている。俺でさえ驚くくらい。そして既に殺気を放っている。

 

 しかし妙だ。これほどの殺気を放っておきながら迷いを感じる。

 

 何を迷っているんだ?

 

 しかし、今は関係ない。様子を見て、少しでも妙な行動を起こしたらすぐに斬る。

 

「取り合えず何しに来たんだ?」

 

 と、俺は無難に聞いてみた。

 

「いや?別にちょっと懐かしくなってな」

 

 そして俺の横にやってくる。

 

 そして俺の横でこう呟いた。

 

「最初に殺したからな」

 

 その瞬間、俺の体に悪寒が走った。

 

 殺される…

 

 威圧だけでここまで相手に恐怖を与えるなんて…

 

 そして俺は霊力刀を作り出して斬りかかる。

 

 しかしバックステップで斬撃をかわされる。

 

「またお前と戦えるなんてな…すぐに死なないでね。前に殺したときは…すぐ死んじゃったから」

 

 そして目が輝き、凶器的な笑みを見せる真に良く似た人物

 

 前に俺を殺したことがあるような口振りだ。

 

 もしかして、パラレルワールドから来たとかそんな感じか?

 

「簡単に死なないでくれよ?」

 

 そして殴りかかってくる真に良く似た人物

 

 そして俺は横に飛んで避けようとする。しかし

 

 う、動かない…

 

 足が一切ピクリとも動かないのだ。

 

 恐怖で体が硬直するなんて俺らしくないじゃないか…

 

 そしてもろに拳を食らう。

 

「がはっ!」

 

 そして少し飛ぶか、何とか体制を保つことが出来た。

 

 そして霊力刀で斬りかかるが、

 

 ピタッ

 

「お前の斬撃はこの程度だったか?」

 

 指二本で止められ、どんだけ力を加えても動かない。

 

 何て力だ。

 

 すると真に良く似た人物の背後から真っ黒な霧が出てきて覆われた。

 

 く、吹き飛ばされそうだ。

 

 そして眩しい日光を遮るように片腕を目の上にかざす。

 

「ほう。お前は精神力が強いんだな」

 

 こいつ…何言ってるんだ。

 

 それよりも、意識を強く持たないと意識が飛びそうだ。

 

「強い…強すぎる」

 

「お前は変に中途半端な力を手に入れてしまった」

 

 そして霊力刀をばっきり折られた。

 

 そして胸ぐらを捕まれる。

 

「それがお前の敗因だ」

 

 そして腹パンされて俺は地面にうずくまる。

 

「がはっ。はぁ…はぁ…」

 

 実力が違いすぎる。

 

 勝てるわけが無い。

 

「これで終わりにしてやる黒府《闇の波動(シャドウ・バースト)》」

 

 そして俺は霊力砲を食らいそうになって気を失った。

 

 その瞬間、ライトの真下に隙間が開き、隙間の中に落ちた。

 

「ちっ、次は逃がさん」

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「え?ライトが?」

 

 俺はシャロから知らせを聞いてビックリした。

 

 シャロによると、山中(さんちゅう)でライトとパラレルワールドの俺との戦いがあったらしい。

 

 ライトも抵抗したが、圧倒的な力の前にねじ伏せられたようだ。

 

 ライトの実力は知っている。

 

 知っているが故に俺は驚いている。

 

 こんな生ぬるい俺なんかより強いライトが手も足も出ないなんて

 

「シャロ速く連れていってくれ!」

 

 そしてシャロが作り出した隙間に入って永遠亭に向かった。

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「ライト!」

 

 俺はライトが居るであろう病室に隙間を繋げてもらって飛び出した。

 

「騒がしいな…頭に響くだろ」

 

 と、布団から起き上がってきたライト

 

「複雑骨折だ。悔しいぜ。殴られただけで骨折って」

 

 俺は改めてあいつの強さを目の当たりにした。

 

 腹に大量の包帯が巻かれており、腕は固定されていた。

 

 強くならなきゃいけないんだ。

 

「ライト…俺は修行する」

 

 するとライトは悔しそうな表情に変わった。

 

「奇遇だな…俺ももっと修行しようと思っていたところだ」

 

 そして俺は握手した。

 

「いててて!」

 

「あ、ごめん」




 はい!第19話終了

 次回からパラレル真に挑むため修行を開始します。

 それでは!

 さようなら


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第20話 神のタイプ

 はい!どうもみなさん!ミズヤです

 今回から次回位まで修行です。



 それでは前回のあらすじ

 身内をパラレル真に殺された優は地霊殿メンバーの仲間入りを果たす。

 一方、ライトは修行中にパラレル真に勝負を挑むが、圧倒的な強さの前に捩じ伏せられてしまう。



 それではどうぞ!


side真

 

「しかし、シャロがモノ本の神が勝てない奴にただの人間の俺達に勝てるのか?」

 

「二人とも人間じゃないけどね」

 

「「えぇっ!」」

 

「いや、そんなに息ぴったりで驚かれても」

 

 俺達はライトの怪我が治り次第修行を始めた。

 

 それでライトが普段隠ってる山に俺とシャロも共に修行をするために来たのだが俺がそんなことを言い出して、そんな会話になった。

 

「真君は半人半妖でライト君は人造人間じゃないか」

 

「「な、なんだってぇっ~!」」

 

 と、取り合えず大袈裟に驚いてみる。

 

 ここ最近の出来事が色々とありすぎて少し忘れかけてたけど、俺は半分妖怪で、ライトはポリオンが作った人造人間だ。

 

 というかそこが重要なんじゃないよ。

 

「それよりも、皆は僕に過度な期待をしているのかも知れないけど、未来の僕がどうなのかは知らないけど僕は戦闘向きの神じゃないからね」

 

「な、なんだってぇっ~!」

 

「もういいよ!その反応!」

 

 俺は正直驚いている。

 

 シャロが戦闘向きじゃないなんて!

 

 と言うか神に戦闘向き戦闘不向きなんてあんのか?

 

「二人とも知らないようだから教えてあげる。この世には三つのタイプの神が居るの!」

 

「三つ?」

 

 この世には三つのタイプの神が居る。

 

 力・妖・知

 

 この三種類のタイプがある。

 

 基本神一人につき一タイプ

 

 そしてタイプによって得意なこと苦手なことが違う。

 

 力の場合、戦闘や力仕事などが得意だが、呪文や治癒が苦手なタイプ

 

 妖の場合、呪いの類い、相手にじわじわとダメージを与える技が得意だが力を必要とする仕事や治癒が苦手なタイプ

 

 そして知の場合、相手を癒す力、呪術や治癒が得意だが戦闘が″大″の苦手なタイプ

 

「こんな感じで神には得意不得意があるんだよ。ちなみに僕は知ね。癒すのが得意だよ。うーんあと妖なら皆がわかる範囲なら紬ちゃんかな?ほら、呪い殺すのが得意とか言ってなかった?」

 

 今ではそんなことしてないらしいが、俺が紬のご希望に添えなかったら俺も呪い殺すつもりだったらしいしな。

 

 ってことは戦うのは出来るが援護位しか出来ないと、全線では戦えないってことか

 

「皆はまだ力の神は会ったことは無いみたいだけどそうだね…僕がまだ親しい方の神だったらグレンってのが居るよ」

 

 グレン?

 

「そう。名前の通り炎が扱える神で戦闘が滅法得意神何だけど、猪突猛進ってかごり押しタイプ何だよね」

 

 あ、なるほど…何か苦労の様子が目に浮かんできた。

 

「あいつ、突撃して大ダメージを受けて戻ってくるからそのせいでどれだけ僕が頑張ったか」

 

 そしてシャロは遠い目をした。

 

 うん。今まで何度も怪我をしてすまみせん。

 

「そして、異例の存在もいてね。すべてのタイプを持っている神も居るんだよ」

 

 すべて?

 

「その神は全能の神。だけど誰も見たことが無くてね…存在すら怪しいのよ」

 

 そいつの名は

 

 シャドウ…

 

「そう、シャドウ。闇を司る神。だけど困ってる人や頑張ってる人は放っておけないって言う優しい人って言う噂もあるよ」

 

 優しいのに授かった能力は闇

 

 悲しい奴だな。

 

「まぁ、そんなわけで奴との戦いの時。僕は前線には出れないよ」

 

 そうか…じゃあシャロは治癒に回ってもらうとして…最前線で戦うのは誰だ?

 

「それは君達に決まってるじゃないか」

 

「当然のように心を読むなよ!お前は覚り妖怪か!」

 

 ったく。

 

 まぁ、俺とライトの二人前線って案は俺も賛成だ。

 

 出来るならあいつは俺達自信の手で倒したい。

 

 俺の手で眠りにつかせたい。

 

 あいつはパラレルワールドとは言え俺なんだ。だから俺の事は俺自身でけりをつけたい。

 

「ふっ、あいつには色々と借りがあるからな…」

 

 と、ライトが隣で悪い顔をしているのが見えた。

 

「そのためにも!修行あるのみ!」

 

 まぁ、そんなことはわかりきっている。

 

 修行をしないとあいつには勝てないと

 

 現段階で神に勝つ力がない俺達

 

 最低でもシャロを越えなきゃいけないんだ。

 

 ものすごい高いハードル

 

 絶対に越えなきゃいけないハードル

 

 しかしその様はまるで絶壁

 

 上が全く見えない絶壁

 

 こんなもの…越えられるのか?いや、越えられるのかじゃない。越えなきゃならねーんだ。越えて見せる。シャロを越えたその先の世界で俺達はあいつに勝つんだ。

 

 俺はそう決心した。

 

 早速修行を開始した。

 

 しかしその内容は過酷なものだった。

 

 ロッククライミング。水泳。重りをつけてのフルマラソン。さらには紐無しバンジー

 

 相当辛いものだった。

 

「頑張れー♪」

 

 シャロめ…高みの見物をしやがって。

 

 既に重りが500kg。1tの半分の重さ

 

 さすがにきつい

 

 フルマラソンってのも厳しいよな。

 

 これをシャロは筋力と脚力のトレーニングと言う。

 

 紐無しバンジーは俺だけだが、決定力、度胸を鍛えるためのものだと言う。

 

 どうしてそれが修行になるのかが分からないが、取り合えず、

 

 俺を何度も回復させて雲よりも高い位置から突き落とすを繰り返すのはやめてもらえませんか?

 

 正直精神力が持ちません。

 

 俺が即死しないからっていい気になりやがって…

 

「そろそろ重りをもっと重くするよ」

 

 ゲッ!

 

「あのー。それってどれくらい?」

 

「そうだね…じゃあ今の1.5倍ってどう?」

 

 1.5倍…750kgじゃねーか!厳しいわ!

 

「分かった」

 

 何を承諾してんだよ!

 

 これじゃ俺も承諾しなきゃいけなくなるじゃないか!

 

「それじゃ」

 

 その瞬間、俺のベストにつけてる重りがさらに重くなった。

 

 あれ?以外と立てる。

 

 最初の頃よりは重りの重さの上昇にも慣れてきたんだな。

 

「じゃあそれをつけたままロッククライミングね」

 

 死ぬ!腕が死ぬ!

 

 そうして俺の修行はまだまだ続くのだ。




 はい!第20話終了

 次回も修行です。

 それでは!

 さようなら


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第21話 力

 はい!どうもみなさん!ミズヤです

 今回は修行大半ですね。



 それでは前回のあらすじ

 このままだとパラレル真の足元にも及ばないと感じた真とライトはシャロの下修行をすることにした。

 そんな中、二人はシャロに神のタイプについて教わった。

 力、妖、知

 これらで得意な戦い方が変わると言う。

 そして、シャロの言っていたグレンと言う人物は果たしてどんな人物なのだろうか?



 それではどうぞ!


side真

 

「ぜぇーはぁーぜぇーはぁー」

 

 俺は疲れたんだ…

 

 もう腕がパンパン。今度こそこの状態でロッククライミング何てしたら次こそ死ぬ。

 

 しかしその隣で俺とは真反対の人物がいた。

 

「真…お前は弱いな…短期決戦は強いけどスタミナが無いよな」

 

「そうだねー。都合良くスタミナを鍛えられれば良いんだけど」

 

 自慢じゃないが、この重りベストフルマラソンのせいで常人よりはスタミナがあると思うよ。

 

 と言うか修行が厳しいだけだよ。

 

 何でこいつ、こんなにスタミナがあるんだよ。

 

「んじゃ、真だけ1tの重りでフルマラソンだな」

 

 その瞬間、世界にピキピキとヒビが入って世界が割れる感覚に見舞われた。

 

 ああ…何て世界は理不尽なんだ。

 

 その瞬間重りの重さが更に重くなった。

 

「ぐぎゃーっ!」

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「そろそろ二人の力を確かめたいから二人で重りを着けたまま戦ってくれる?重りは1tで」

 

 そう言う実技的なの初めてじゃないか?

 

 と言うか、やっとここまで来たんだな。

 

「よし、じゃあルールは?」

 

「体術以外禁止です」

 

 この俺が体術でライトに勝てるわけないじゃないですか~

 

「よし分かった」

 

 何であなたはやる気なんですかねぇ?

 

 ったく…わーったよ。

 

「やるよ!やればいいんだろ!」

 

 そして構えを取る俺

 

 武器無しで戦ってた頃が懐かしいな。

 

「じゃぁ、よーい始め!」

 

 その合図と共に俺達は円を描くようににらみ合いながら回る。

 

 先手を取るのは不利か。

 

 どう考えても先手を取ろうと動き出すと、この重りが邪魔になってスピードが出せないだろう。

 

 そうなると捕まって連撃を食らうのがオチだ。

 

 それはライトも同じ考えのようだ。

 

「ちっ!」

 

 するとライトが痺れを切らして突っ込んできた。

 

 殴りかかってくるが、重りのせいでかわせそうにない。

 

 なら

 

 バシッ!

 

 と手のひらでライトの拳を受け止めた。

 

 すると驚いた。

 

 俺自身の筋力が上がってるのを実感したのだ。

 

 これが…ロッククライミングの成果

 

 震えが止まらない。

 

「ふっ、やるな」

 

 と、俺から離れるライト

 

 そして連撃を放ってくるライトだが、俺はそれらをすべて受け止めるか弾くかして防いだ。

 

 チラッとシャロに視線をやるとシャロが頷いていた。

 

 どういう頷きかは分からないが俺達は戦うだけだ。

 

 ビシッ!バシッ!

 

 音を立てて防ぐ。

 

「防いでばかりじゃ勝てないぞ!」

 

 そしてついに頬に拳を食らった。

 

「がはっ…」

 

 ライトの拳は重かった。

 

 そりゃそうだ。

 

 ライトだって鍛えられてるんだから。

 

「お返しだ」

 

 そして拳を握る。

 

 そして殴る。

 

 すると

 

「ぐわぁぁぁっ!」

 

 と、数十m飛んでいってしまった。

 

 え?

 

「くっそ…馬鹿力が…」

 

 と、ライトが口から出た血を拭きながら言ってきた。

 

 どうなってんだ?俺の体

 

 ものすごいパワー

 

 本当にこれが俺の体だと言うのか?

 

 そう疑わざる終えないのだ。

 

 何がどうしてこんな事に…

 

「ふーん…」

 

 するとシャロがニヤつき始めた。

 

「じゃあ、そろそろ本気を!」

 

 ピー

 

 するとシャロがどこから取り出したのか笛を吹いて終了を合図してきた。

 

「なんだ?」

 

「終了だよ」

 

 何でいきなり?

 

「真君。君すごい力だね」

 

「ああ。自分でも驚いている」

 

「その力は神力のせいだね」

 

 神力のせい?

 

 説明しよう。

 

 真は普通の半人半妖だが、実は以前に自身に妖刀【神成り】を突き刺したときに神力が少し流れてきたのだ。

 

 その神力のお陰でかなりの強さを得たのだが。

 

「君の中に神力が流れて、神力のタイプが変わったみたいだね」

 

 変わった?何に?

 

「力のタイプだね。修行したら一番強くなりやすいんだよ。だからそれもあってすごく強くなったんだね」

 

 そんなことになっていたとはな…

 

 まぁ、あの時の激痛が今に繋がったんだな。

 

 あの激痛も無駄じゃなかったってことだ。

 

「そうか…だいぶ真は強くなったな」

 

 そうライトが呟いた。

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

sideこいし

 

「お兄ちゃん帰ってこないね」

 

 !?

 

「ねぇ…優ちゃん。何で真のことをお兄ちゃんって?」

 

「私が呼びたかったから」

 

 な、なるほど…

 

 しかし、これは辛い。

 

 真がいない頃は手に届く距離に居ないから諦めてたけど、いざ手に届く位置に来るとどこまでも求めてしまいそうになる。

 

 でもそんなので真を困らせるのはだめ。

 

 真は今、私達のために頑張って戦ってくれてるんだ。邪魔するわけにはいかない。

 

「こいしーっ!手伝って~!」

 

 と、お姉ちゃんに呼ばれた。

 

「はーい!」

 

 そしてお姉ちゃんの元に向かおうとする。その時

 

 目の前にパラレル真が現れた。

 

「こいしか…久しぶりだな。その面を拝めるのは」

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

side真

 

 突然として、電流が走ったような感覚に見舞われる。

 

 この嫌な霊力は未来の俺

 

 それはライトとシャロも気がついている。

 

 しかし、出現した場所が良くない。

 

 地底だ。

 

 更に俺にとって最悪な場所。

 

 地霊殿だ。

 

 こいしたちに手出しはさせない!

 

 そして地底に向かって走っていく

 

「俺達も行くしかないな。これは」

 

 待ってろ!こいし!

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「死ぬがよいこいし」

 

 そして霊力を感じたのか地霊殿に向かって歩いている紬を途中で回収していく

 

「終わりだ」

 

 しかし、未来の俺の拳がこいしに当たることは無かった。

 

「俺の大切な人に手を出したら許さねぇぞ」

 

 かくして、決戦の火蓋が幕を開けた。




 はい!第21話終了

 え?こんなにヤバイやつが居るのに何で霊夢達が動き出してないかって?

 多分もう少ししたら動き出しますよ。

 それでは!

 さようなら


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第22話 パラレル真の過去

 はい!どうもみなさん!ミズヤです

 今回はタイトル通りです。



 それでは前回のあらすじ

 真の欠点。それはスタミナが無いことだと分かった。

 それを克服するため、重りを更に重くしてフルマラソンをすることになった。

 そして、ライトと真は手合わせをすることになって手合わせをしてると、突然パラレル真が地霊殿に出現した。



 『』この二重カッコですが、回送中にこのカッコがあったら回想じゃない、回想を聞いてる人達の言葉です。

 それではどうぞ!


side真

 

 俺は刀で未来の俺の攻撃を受け止めた。

 

 さすが【神成り】だ。この未来の俺の攻撃を受けきるなんて

 

 しかし、【神成り】が耐えてくれても、俺の方が限界なんですが…

 

「ほう…短期間でよくぞそこまで…さすが俺だと誉めてやろう」

 

 そして未来の俺は飛び退いた。

 

 やっぱり未来の俺は強い。

 

 だが、俺は一歩もここを退くつもりは無い。

 

「なぁ、そろそろ決心ついたか?俺の仲間になる」

 

 まだこいつ諦めてなかったのか…

 

「断る」

 

 俺は淡々とそう答えた。

 

 するとフードを深く被る未来の俺

 

「じゃあ、交渉決裂だな」

 

 その時

 

「まてーーー!」

 

 と、沢山の声が聞こえた。

 

 そして俺達は外を見ると霊夢達がぞろぞろを空から降ってきていた。

 

 晴れ後仲間って事か?いやいや、シャロか紫の仕業ってことだよな?相変わらず雑な仕事ですなお二人さん

 

『皆来たみたいだね』

 

 すると、皆が落ちるときのドタタタタと言うか音で驚き、さとりが奥から出てきた。

 

「何事!?」

 

 するとさとりは俺と未来の俺の姿を見て驚く。

 

 そりゃそうだ。

 

 瓜二つってかまんまだからな。

 

 だが、俺は緑が好きだったり、普通の黒目なんだが、未来で何があったんだ?

 

「さとりか…それに霊夢達…」

 

 未来の俺は地霊殿の人達を見るときは異様に寂しそうな顔になる。

 

 なぜだ?

 

 慈悲が無さそうに見えて悲しそうな顔をする。表面と内面、表と裏、それらが矛盾している。

 

「ちっ…」

 

 と、俺から離れる未来の俺

 

「どう言うことよ!」

 

「し、真が二人?」

 

「それだけじゃありません!青い方の真から良くない霊力を感じます」

 

 と、困惑した声を出す霊夢、魔理沙、妖夢

 

「くくく、俺はこっちの世界に来て良かった…皆…すぐ死んじゃったから」

 

 そして未来の俺は狂喜染みた表情で笑う。

 

 それを見て、さすがの霊夢達も怯んでしまう。

 

「良いぜ。教えてやろう。何で俺が二人なのか、俺がどうしてこんな殺気を放ってるのか」

 

 そして笑いながら話す未来の俺

 

「俺はこの世界の俺じゃない。パラレルワールドの未来の世界から来た」

 

 その台詞でやはり驚く霊夢達

 

「俺がこんなに殺気を放っている理由か…それは俺の過去から話そう」

 

─※─※─※─回想─※─※─※─

 

 俺は昔、ダーラ等によって幻想入りさせられた。

 

 それはおそらくこの世界の俺も同じことだろう。

 

 そして俺が降り立った場所が、博霊神社だった。

 

 俺は博霊神社で博霊の巫女、博霊 霊夢と出会い、博霊神社に居候することになった。

 

 霊夢は金にがめつかったが、皆に慕われるそんな巫女だった。

 

『ああっ?』

 

『霊夢落ち着け!』

 

 そして時たま起こる異変を解決する霊夢の手伝いをしながら生活していたある日、地底で起こった異変を解決しに向かった。

 

 そこで霊夢とはぐれ、困っていたときに出会ったのはこいしだった。

 

『私?』

 

 俺はこいしに道案内をしてもらいながら、異変の主犯が居るであろう場所、地霊殿に案内してもらったんだ。

 

 すると、異変を解決したあとの霊夢が出てきた。

 

 その後、霊夢と共に博霊神社に帰ったんだが、なんとこいしにつけられてたみたいで、気がついたときにとても嬉しそうな表情をしたのを俺は覚えている。

 

 それから毎日こいしは博霊神社に遊びに来るようになった。

 

 博霊神社に来たと行っても、霊夢に用があるんじゃなくて、俺と話していた。

 

 俺はそんな時間が心地よかったんだ。

 

 永遠に続けばいいと思っていた。

 

 しかし、そんな日々は続かなかった。

 

 ダーラ達の襲来だ。

 

 そしてあろう事か奴らはこいしを人質に取りやがった。

 

「こいしを離せ!」

 

「お前らが悪いんだぜ?俺等に逆らうから」

 

 こいしが殺される…それは、俺が願っていた平和の日常を破壊する引き金となった。

 

 俺は必死に抵抗した。

 

「【神成り】!」

 

「そんなことして良いと思ってるのか?」

 

 そして俺は動かず、助ける方法を考えた。

 

 しかし

 

「まぁ、良い。いつまでもこうしてるのは疲れたからやめだ。こいつを見せしめとする!」

 

 そしてダーラは霊力で銃を作り出して、こいしのこめかみに銃口を当てた。

 

 そして

 

 「真

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大好きだったよ(・・・・・・・)

 

 パァンッ!

 

 破裂音が聞こえた。

 

 その瞬間、俺の心は限界に来た。

 

 こ、いし…

 

「こ、こんな時に言うなよ…俺もだ…俺も大好きだ…こいしぃぃぃぃっ!

 

 その瞬間、俺の中ですべてが吹っ切れた。

 

 まずはダークを地獄に送った。そしてダーラも

 

 そして

 

「大事なものはすぐに壊れる…壊れて悲しくなるくらいなら居ない方が良い!」

 

 そして目から涙が溢れてきた。

 

 俺はその後、俺自身の手で皆を殺した。

 

 霊夢…魔理沙…妖夢…

 

 当然、俺が人殺しになったら紬も敵になる。

 

 だから俺は紬も殺した。

 

 俺は大切な人をもう作りたくない。

 

 壊されるくらいなら俺自身の手で壊した方が悲しみは少ない。

 

 そう思って幻想郷を半壊させた。

 

 神々も

 

 そして未来の生き残りはシャロただ一人となった。

 

 シャロだけはしぶとかった。

 

 俺は気がついたら未来の世界での最強の存在となっていた。

 

 そんなある日、この世界のシャロがこっちの世界に来たんだ。

 

 そしてこっちのシャロは過去のシャロに警告して、過去のシャロを逃がして散っていった。

 

─※─※─※─回想 終─※─※─※─

 

「その後、俺はこの世界のシャロが時空移動する際に出来た時の亀裂をくぐってこの世界に来た」




 はい!第22話終了

 次回から本格的な戦いが始まります。

 なぜか書いてる側である僕自身が回想を書いてる間、泣きそうになってしまいました。

 それでは!

 さようなら


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第23話 略奪

 はい!どうもみなさん!ミズヤです

 今回からパラレル真との本格的な決戦が始まります。



 それでは前回のあらすじ

 ついに明らかになったパラレル真の過去

 全くと言って良いほど真とパラレル真の過去は違っていた。

 死に際にこいしに告白されたことからこいしを殺したやつらに怒りを覚えて強くなったのだとか

 果たして、真達は怒りの超絶パワーに勝つことは出来るのだろうか?



 それではどうぞ!


side真

 

 

「その後、俺はこの世界のシャロが時空移動する際に出来た時の亀裂をくぐってこの世界に来た」

 

 俺は驚いていた。

 

 最初から最後まで俺と違うストーリーだった。

 

 俺が降り立ったのは地底だし、居候してたのは博霊神社じゃなくて地霊殿だ。

 

 こいしが殺される…今の俺もそんな状況になったらすべてを壊す。救う筈が壊す側になってしまうのかな?

 

 未来の俺は悲しい奴だと分かった。

 

 俺が味わったことの無い感覚

 

「これが俺の過去だ。俺はもう大切な人など作らない」

 

「それってヤンデレって事ですよね?」

 

 空気を読めない早苗はそう言った。

 

 その瞬間、ビシッ!と凍てつくような風が吹いたような感覚に陥った。

 

 ば、バカヤロー!

 

「確かにそう言う捉え方もあるから否定はしない」

 

 否定しろよ!俺~!

 

「さて、場所を移動しようか…」

 

 未来の俺がそう言った瞬間、俺たちの足元に隙間が開き、俺達は落ちた。

 

 そして俺達が落ちた場所は、俺と未来の俺が初めて会った草原だった。

 

「ここで最終決戦と行こうじゃないか」

 

 未来の俺はそう言うと黒いオーラを出し始めた。

 

 それを合図に一斉に立ち位置に作く

 

 俺とライトが最前線に、霊夢達は援護に、魔法使い、シャロ等は回復担当で少し離れたところ

 

「【神成り】!」

 

 俺がそう叫ぶと紬は刀に変化した。

 

「懐かしいな…妖刀【神成り】…いや、幼刀だったかな?」

 

『誰が幼力だ!誰が!』

 

 と、紬は相手に聞こえないのを知りながら、抗議の声をあげる。

 

 ちょっと幼刀ってフレーズ、ツボにはまったかもしれない

 

『変なこと考えてないよね?』

 

「ソノヨウナコトガアロウハズガゴザイマセン」

 

『何で片言なのさ』

 

 顔が見えないから分からないけど、恐らく今はジト目をしていることだろう。

 

「まさか、こっちの世界ではダークと俺がタッグを組んでるなんてな」

 

 俺もそれは驚いている。

 

 初対面は最悪だった。

 

 ダークはダーラらの仲間で、霊夢達を傷つけた張本人である。

 

 その頃の俺にこの事を伝えても信じてもらえないと思う。

 

「さて、邪剣【ダーク神成り】」

 

 そして、ダークは霊力で刀を作り出す。

 

「そうか…じゃあ、開戦だ」

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 俺達は開戦を告げられてから、暫く睨みあっこしていた。

 

「来ないのか?ならこっちから」

 

 そして殴りかかってくる。

 

 それを凪ぎ払うように斬るが、いつの間にか懐に忍び込まれて、鳩尾に強烈な一撃を食らう。

 

「が、は…」

 

 く、苦しい

 

「後ろががら空きだ!」

 

 そしてライトが後ろから不意打ち使用とするも未来の俺が後ろに放った蹴りが腹に炸裂し、怯んだところを回し蹴りされてぶっ飛ぶ。

 

「ぐわぁっ!」

 

 どかーん

 

 ライトは山にぶつかって、巨大なクレーターを作る。

 

「こんなものか…残念だ…」

 

 すると、未来の俺のオーラが更に濃くなった。

 

「もう…死ね暗府【漆黒の霧(ダークスモーク)】」

 

「重りはずして!」

 

 あ、忘れてた。

 

 そして俺は真っ黒な霊力の霧に覆われた。

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「真~!」

 

「やめろ!行くな!こいしまで殺されるぞ!」

 

「でも!でも~!」

 

 真が殺される。

 

 それは私にとっても辛いこと…

 

 いつも命を捨ててでも助けてくれるけど、死なない範囲にしてほしい。

 

 その瞬間、真っ黒な霧が弾けとんだ。

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「これでお前は終りだ!」

 

「そうかな?」

 

 そして俺は一瞬だけ、ものすごい量の霊力を出した。

 

「《限界突破(ブレイク・ザ・リミット)》ぉぉぉっ!」

 

 すると、俺の回りから真っ白なオーラが出てきた。

 

 すると、未来の俺は顔をしかめた。

 

「く、く…お前…まさかこんな力を隠し持ってたとはな…」

 

 パシュン!

 

 そして霊力の霧は俺の霊力に押されて弾けとんだ。

 

 そして《限界突破(ブレイク・ザ・リミット)》を解除する。

 

「いやー。ここのところずっと重りを着けて生活してたから軽い!」

 

 そして調子にのって全力でジャンプすると、数m跳ね上がった。

 

 そして、未来の俺の後ろにいつの間にか復活して重りを外したライトが居た。

 

「今度はお前がこうなる番だ」

 

 そして未来の俺は俺達の気迫に押されて怯む。

 

「まさかここまで力をつけていたとはな…予想外だ」

 

 そして続ける。

 

「なるほど…最前線の二人は幻想郷内で最有力の二人か…」

 

 すると、ゴゴゴと地面が悲鳴をあげ始めた。

 

 何が起こるんだ?

 

「そうか…よくそこまで…」

 

 すると、またもや未来の俺の体から真っ黒なオーラが立ち上ぼり始めた。

 

 更に未来の俺のオッドアイが輝きを増した。

 

「略奪モード開始」

 

 そう言った瞬間、未来の俺は俺とライトに手を翳した。

 

 そして、未来の俺の背後に巨大な時計のようなものが表れた。

 

「恋府…」

 

 すると、狂ったように時計の針が回り始めた。

 

「《マスター…スパーク》」

 

 すると、未来の俺の手のひらからマスタースパークが放たれた。

 

 何で未来の俺が!

 

 そして俺とライトは不意を付かれ、もろに食らってしまった。

 

「どういう…事だ…」

 

「これが俺の能力…俺があの瞬間に手に入れた能力」

 

 そして未来の俺は四人に分身する。

 

「わ、私のフォーオブアカインド!」

 

 と、フランが驚きの声をあげる。

 

「【能力を奪う程度の能力】だ!」




 はい!第23話終了

 パラレル真の能力を奪う程度の能力。果たして、真達は勝つことが出来るのか?

 それでは!

 さようなら


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第24話 ピンチと希望

 はい!どうもみなさん!ミズヤです

 皆さん。明けましておめでとうございます。

 今年も僕の小説をよろしくお願いします。

 とまぁ、堅苦しく始まったんですが今年もバリバリ更新していきます。



 それでは前回のあらすじ

 ついに始まった真&ライト対パラレル真

 強い相手だが、なんと修行の成果でだいぶ渡り合えるようになっていた。

 しかし、パラレル真は突如として隠していた能力、【能力を奪う程度の能力】を発動させた。



 それではどうぞ!


side真

 

 奪う…

 

「この能力があるかぎり俺は無敵!最強!何人たりとも俺には敵わない」

 

 あまりにも凄すぎる能力

 

『え!?【能力を奪う程度の能力】!?』

 

 と、紬は知ってるような驚き方をした。

 

「知ってるのか?」

 

『この能力は古に伝わりし、三大能力。略奪、崩壊、幻影。この三つはあまりにも力が大きすぎるがゆえに忌み嫌われてきた。これ等は消滅したと思ってたんだけど』

 

 古…

 

 古くからあった能力か…

 

 何で未来の俺がそんな能力を

 

「さぁ、行くぞ!霊府《夢想封印》」

 

 そして、霊夢の技、夢想封印を放つ未来の俺

 

 地味に追尾性の球があるから厄介だ。

 

 それを俺は避けようとするが、追尾してくるので避けきれない。

 

「あはは。避けろ!避けろ!」

 

 こうなったら

 

「こい!ライト」

 

 そして未来の俺は避けようとするが俺は一切微動たりともしない

 

 そして

 

「《限界突破(ブレイク・ザ・リミット)》更に《上書き》」

 

 そうして弾幕に手のひらを向けて霊力を腕に集める。

 

 そして、一気に発射

 

 すると、そこにあった弾幕がきれいさっぱり消え去っていた。

 

「なんだと?」

 

 みんな驚いている。

 

「どう言うことだ」

 

「これは俺の能力、【上書きする程度の能力】だ」

 

 これを使うと相手の霊力等を上書きして、消すことが出来る。

 

 良くあるゲームのセーブデータと同じだと思えば良い。

 

 セーブデータに上書き保存したらそれ以前のデータは消えて新しくセーブされるだろ?それと同じ感じだ。

 

「上書きか…」

 

 さすがに自分の持ってない力の上書きはできないけどな。未来の俺相手だったら十分すぎる能力だ。

 

「その程度の能力で俺を倒せると思うなよ」

 

 しかし、俺は無視して地面を蹴ってつっこむ。

 

 カキィィィン

 

 そして、俺の刀は防がれてしまうが、回し蹴りで横腹に蹴りを入れた。

 

「がはっ!」

 

 そして、俺が蹴りを入れた方向に飛んでいく。

 

 そこに俺は追い討ちをかけるように弾幕を張る。

 

 そして、未来の俺は空中で体制を立て直して片手と両足で何とか踏ん張り、止まることに成功する。

 

 しかし、俺の放った弾幕はもう目の前に来ていた。

 

 すると、未来の俺は目を光らせる。

 

 そして睨み付けると、一瞬だけすごい量の霊力を出した。

 

 すると、未来の俺の霊力により、弾幕が相殺される。

 

「暗府《漆黒の霧(ダークスモーク)》」

 

 すると、また真っ黒な霧が未来の俺の背後から出てきた。

 

 だけど何か様子がおかしい

 

「知ってるか?霊力ってまとえることを」

 

「ああ、知ってるが」

 

「なら、これは知ってるか?」

 

 すると、未来の俺の背後の霊力の霧がうねうねと動き始めた。

 

 そしてやがて、真っ黒なオーラへと変わった。

 

「こ、これは」

 

 霊力がすごい高い。

 

「これが霊力の鎧だ」

 

 霊力の鎧

 

 ただ霊力を纏っただけじゃなく、更に霊力を高めやがった。

 

「神槍《スピア・ザ・グングニル》」

 

 その瞬間、俺に向かってレミリアのスピア・ザ・グングニルが飛んできた。

 

 やられる!

 

 そう思ったとき、グングニルの動きが止まった。

 

 そしてライトの方を見ると、青白いオーラが出て、片手をかざしていた。

 

「ちっ…」

 

 これは、ライトの新しい能力?

 

「ライト!」

 

「てめぇっ!」

 

 そしてライトに手をかざして弾幕を飛ばそうとしていたところを捕まえる。

 

「確かに、お前の力はすごいよ。俺一人じゃ敵わない相手だ」

 

 だけど、俺達二人にかかれば勝てない相手など存在しない!

 

 すると、ライトがニヤリとしたのを俺は見逃さなかった。

 

 その瞬間、霊力の檻に囲まれてしまった。

 

「やっぱり昔の俺はあまい…やるなら徹底的に?な」

 

 その瞬間、檻に電気が流れてきた。

 

「ア″ぁぁぁぁぁっ!」

 

 いきなり俺に高電圧の電流が流れてくる。

 

「お前は即死しないからな。ショック死もしないだろう。だが長時間高電圧に焼かれ続けたらどうなるのかな?」

 

 こ、こいつ…

 

 すべて計算した上で俺を確実に仕留める策を

 

「む、無理だ。今は手が離せない!今離したら博霊達が!」

 

 そしてライトに近づいていく未来の俺

 

「念力の類いか。小癪な真似を」

 

 そして未来の俺がライトの胸ぐらを掴んだことにより、能力が解除され、霊夢達に飛んでいくグングニル

 

「みんな~!」

 

「大事なものはすぐに壊れてしまうんだ!こんな風にな!」

 

 助けたい…皆を

 

 だが霊力の檻が…

 

「だが、俺はどんなときでも諦めない!絶対にな!《上書き》!」

 

 しかし、上書きの範囲外のため、グングニルに効果がない。

 

「まさか…自分の技で殺されるなんてね」

 

「お姉さま…」

 

 向こうはすでに諦めムード

 

 その時

 

「紅蓮《燃える正義の鉄拳》!」

 

 空から燃える巨大な拳が降ってきた。

 

 そしてグングニルを一撃で粉砕する。

 

 拳が当たったところ一帯は燃え出した。

 

 誰だ?

 

 妹紅じゃ無いよな?

 

「悪あるとこ、また正義あり」

 

 下駄が石を踏むコンコンと言う音が響く。

 

「この技!そしてこの声は!」

 

 シャロだけ分かった様子

 

 すると、少しずつ近づいてきて漸く姿が見えた。

 

 和服に赤い髪、長髪で後ろで結んでいる。

 

 そして黒目の男の人だった。

 

 腰には刀を着けている。

 

「紅蓮の炎を操りし者。紅蓮(グレン)参上!」




 はい!第24話終了

 最後に登場した紅蓮と言う人物。果たして何者なのか?

 そして朗報!
 今までは横線、まぁ ̄←八個で文章を区切っていたのですが、遂に公式に区切りタグが追加されました!

 これは執筆しやすくなる!

 という事でこれからは↓


 で区切って行きたいと思います!

 それでは!

 さようなら


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第25話 炎対闇 力の神の実力

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 【能力を奪う程度の能力】それは凶悪な能力だった。

 幻想郷のさまざまな人の能力を駆使するパラレル真

 しかし、それに対抗して真は【上書きする程度の能力】を発動させる。

 しかし、真達はピンチに陥ってしまう。

 そんなとき助けが入った。

 その助けに入った人物は何者なのか?



 それではどうぞ!


side真

 

 紅蓮?なんか聞いたことあるような…

 

「お前は誰だ!」

 

 と、驚く未来の俺

 

 何で驚くんだ?そっちにもそいつは居たんじゃなかったのか?

 

「グレン!」

 

 と、シャロが駆け寄る。

 

「どうして」

 

「たまたま寄ってみたらこの有り様だ…そうなったらやらずにいれねーだろ」

 

 さっきまでのおちゃらけたムードは何処(いずこ)へ?

 

「おい、未来の俺。あいつを知らないのか?」

 

 すると、困惑しだす未来の俺

 

 どんどん目の輝きを失っていく。

 

「し、知らない。あんなやつ」

 

 と、頭を抱え込む。

 

 何で知らないんだ?パラレルワールドでも大抵は人とか一緒なんじゃないのか?

 

「さぁ、青い悪魔。俺を初めて見たことにより、さぞかし驚いているだろう」

 

 コンコンと未来の俺に近づく。

 

 霊力を感じない。それどころかすべての力を感じない。

 

 極限まで押さえ込まれてるような感じだ。

 

「教えてやろう。なぜお前の世界に俺が居なかったのか」

 

 居なかった?

 

「それは俺が全空間上に一人しか居ないからだ」

 

 空間上に一人ってことはパラレルワールドにも居なくて、紅蓮が居る世界に一人しか居ないってことか。

 

「俺は空間神だからな。自分が司る物ならその中に一人しか居ないんだよ」

 

 なるほど

 

 だからシャロも時空上に一人だったのか。

 

 それにしてもこれは願ってもない″好都合″だ。

 

 未来の俺が知らない相手ってことは対策が出来てない可能性が高い。

 

 ん?好都合?

 

 ・・・

 

 【都合が良い状況を作り出す程度の能力】←これか~!

 

「パラレル真…お前の命運はここで尽きたようだな」

 

 と、胸ぐらを捕まれたままライトは未来の俺に良い放つ。

 

 すると、ライトは凪ぎ払うように投げられた。

 

「がはっ」

 

 そして紅蓮の前に立って睨み会う。

 

 未来の俺にとっては初めての相手。警戒するのも無理はない。

 

「お前はシャロよりは出来そうだな」

 

「さぁて…シャロをここまで手こずらせたお前はどれだけの力の持ち主なのか見させてもらうよ」

 

 そして未来の俺の背後から大量の黒い霧が出てきた。

 

 すると、紅蓮の片腕が燃え出して、どんどん炎が大きくなって腕全体を炎が覆い尽くした。

 

 そしてその霧は紅蓮に向かって伸びていく。

 

「《炎のハンマー》」

 

 そして紅蓮が空を殴ると、デカイ炎の拳が出現して、殴った方向に伸びていく。

 

 そして真っ黒な霧にぶつかって、互いに押し合う。

 

 未来の俺は霊力を強くし、紅蓮は腕に力を込める。

 

 そしてやがて二つの力は相殺しあって、消えてなくなる。

 

 消えてなくなる瞬間、ものすごい衝撃波が辺りを包んだ。

 

「す、すごい。あの霊力の塊と対等にぶつかり合えるなんて」

 

 と、ライトは驚きの声をあげる。

 

 正直俺も驚いている。俺は《限界突破(ブレイク・ザ・リミット)》を使って漸く弾き飛ばせる程度だ。

 

 す、すごい!あれが力の神

 

「すごいなお前。俺にここまでの力を使わせた人間は初めてだ」

 

 と、殴った方の手を開いたり閉じたりする紅蓮

 

 これがシャロの言っていた奴の実力

 

 やっぱり戦闘専門の神って強いんだな。

 

「よっしゃ。わくわくしてきたぜ」

 

 なにこの人、命を懸けた戦いでワクワクしちゃってるよ。

 

 この人戦闘狂(バーサーカー)なのか?

 

 ってか紅蓮で本当に未来の俺に勝てるのか?

 

 未来の俺はめちゃくちゃ強いぞ。

 

「さすが力の神様だ。流石だ。しかし、次はそうはいかないぞ」

 

 すると、未来の俺の体から真っ黒なオーラが出始めた。

 

 そして紅蓮の体からは真っ赤な炎が体のあちこちから出ていた。

 

 こっちまで熱気が伝わってくる。

 

「今度は俺の闇でお前の正義の炎を飲み込んでやるよ」

 

 そう言って、更に霊力を高める。

 

 俺達はそんな二人のやり取りに押し潰されそうだった。

 

「そうこなくちゃおもしろくない」

 

 それに合わせて紅蓮も神力を高める。

 

 そして、二人のオーラがぶつかり合って境目が出来ていた。

 

 俺たち程度の実力じゃ着いていけそうにない。

 

「正義《正義の炎(ジャスティスファイヤー)》!」

 

 そして紅蓮がスペルを使うと、紅蓮が火柱に包まれた。

 

「悲壮《悲しみの闇》」

 

 未来の俺も対抗するようにスペルを使う。

 

 そしたら、未来の俺の周りが真っ黒な闇の柱に包まれた。

 

 そして二種類の柱は拡大していってぶつかり合う。

 

 客観的に見て若干未来の俺が押しているように見える。

 

「飲み込まれてしまえ!」

 

 そして炎の柱が闇に飲み込まれ始めた。

 

 俺は焦っていた。

 

 ここで紅蓮がやられたら今度は本当に太刀打ちできずに全滅させられるかも知れない。

 

 俺たちみんな焦ってるのに対し、シャロはやけに落ち着いていた。

 

「紅蓮…遊んでないで…おー。そうだな…じゃあ、すぐに終わらせないともう回復させてあげないよ」

 

 シャロは紅蓮にそう言い放つ。

 

 え?遊ぶ?

 

 すると、一瞬物凄い量の神力が放たれて、両方の柱が相殺された。

 

「そ、それだけはご勘弁を!」

 

「もしかしたら好物の和菓子ももう食べられないかもね」

 

 和菓子が好きだったんすか!

 

「よっしゃ~!頑張っちゃうぞ!」

 

 シャロさん。もしかしてそれってodosiって奴じゃないですか?

 

 この二人の力関係っていったい…

 

 今までの元気とは違って紅蓮の元気は空元気にしか思えない。

 

「火府《フレイム・フィールド》」

 

 すると、紅蓮と未来の俺の周りが燃え出した。

 

「さぁ、ここからが本当の勝負だ。この世界のため。そして和菓子の為。お前を生かしてはおけない!」

 

 8割方和菓子の為だと思うのは俺だけか?

 

 そして紅蓮対未来の俺のラストバトルが始まった。




 はい!第25話終了

 次回から紅蓮の本領発揮!炎の使い手であり、力の神の実力は如何程か?

 それでは!

 さようなら


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第26話 決着と思いの力

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 ついに始まった紅蓮対パラレル真

 力の神の実力は凄まじいものだった。

 しかし、パラレル真の闇に飲み込まれそうになったその時

 「和菓子が欲しがったら本気を出しなさい」と言うシャロのodosiによって本気を出した紅蓮は炎のフィールドを作り出してそこで紅蓮とパラレル真の最終決戦が行われることとなった。



 それではどうぞ!


side真

 

 未来の俺と紅蓮の周りが炎のフィールドへと変化した。

 

「さぁ、ここからが本当の勝負だ」

 

 そう言って刀を抜く紅蓮

 

 神でも刀を使うんだ。

 

 そして刀が燃え出した。

 

 刀にまとわりつくゆらゆらと揺れる炎はまるで正義を訴えている紅蓮そのもののようだった。

 

「なら、こっちも本気を出すかな」

 

 そして未来の俺がキッと睨むとオッドアイが輝いて背後からデカイ時計が出現した。

 

 そしてその時計は狂ったように針が回り出して、そこから真っ黒な霊力が出てきた。

 

 その霊力は壁のように広がって俺達を囲った。

 

 そして、炎と時計だけが霊力の内で光っている状態だった。

 

「これがお前の本気か…確かに威圧感があるな」

 

 と、笑いながら言う紅蓮

 

「これが俺の本気だ」

 


 

「真…それにしても大丈夫か?」

 

 そして俺は何が?とライトを見る。

 

「電気の檻」

 

 そう言えば入れられてたんだっけ?

 

 そう思って周りを見てみる。

 

 やっぱり檻に電流が走ってバチバチ言っていた。

 

「なんかやばそうだぞ。髪も逆立って電流が走ってるし、」

 

 と、言われて頭を触る。

 

 確かに逆立っている。

 

 これは電流に当てられ過ぎて俺の【致命傷を受けない程度の能力】と化学反応を起こして体制が出来てたり?

 

 となるとお約束は

 

「もしかして、出来ちゃったりするかな」

 

 そう思って近くの石を拾い上げて投げる。

 

「レールガン!」

 

 すると、電気を帯ながらいつもの何倍ものスピードで未来の俺に向かって一直線に飛んでいった。

 

 すると、未来の俺は気がついた見たいで大きく後ろに飛び退ける。

 

 そして未来の俺が避けたことによって未来の俺の背後に当たって爆発する。

 

 そしてその煙は電気を帯てバチバチと言っている。

 

「てめぇっ!」

 

「よし、紬。行くぞ!」

 

 そして俺は刀を弓矢のように構える。

 

「電府《レールガン》」

 

 そして思いっきり投げる。

 

 すると、未来の俺の片腕に突き刺さった。

 

「ぐわぁぁぁっ!」

 

 ドカーン

 

 刀が未来の俺の腕に刺さった状態で爆発したため未来の俺の片腕がふっ飛んだ。

 

「ぐはっ!」

 

 そして爆風により未来の俺はかなりの距離ぶっ飛ぶ。

 

「まさか、電流を我が物にするなんてな」

 

 とライトは感心している。

 

 感心してる場合じゃねーよ!

 

「まぁ、取り合えず」

 

 そして格子を握る。

 

 さすがに電気を帯びれても痛い。

 

 だが俺はその痛みに耐えて格子に力を加えて間を開ける。

 

「おりゃぁぁぁっ!」

 

 俺は目一杯の力を格子に加えた。

 

 すると、腕から白色のオーラが出てきた。

 

 無意識なのか知らんが俺は今、腕に霊力を加えてるのだ。

 

 そして暫く力を加えてるとどんどん格子が歪んで広がり始めた。

 

 そしてついに完全に広がり、人一人通れる広さとなった。

 

「紬!こっちにこい!」

 

 すると、【神成り】は紬に変化してこっちに駆け寄ってきた。

 

「よし、【神成り】」

 

 と、俺のところに来たところで【神成り】に変化する。

 

「未来の俺。これで三対一だ」

 

 と、本気の戦いが始まる前に間に合った。

 

「共闘か…面白い。足手まといになるなよ」

 

 そして俺とライト、紅蓮は三人で未来の俺を囲む。

 

 未来の俺は立ち上がった。

 

 しかし、その表情は敵が三人に増えた事への絶望の表情ではなく。何かを企んでいるような不適な笑みだった。

 

「ふっはは。ふっはっはっは!」

 

 と突然笑いだした未来の俺

 

「この闇のボールの中は俺の縄張りだ」

 

 それだけ言うと未来の俺は綺麗さっぱり消えてしまった。

 

 霊力を感じない…

 

 すると、突然背中に強烈な衝撃が走り、前方に吹っ飛んだ。

 

 そして受け身を取りながら後ろを見る。

 

 するとそこには未来の俺がいた。

 

「いつの間に」

 

 そして俺は倒れて体を引きずって地面を滑る。

 

「この中なら俺はワープも可能だ」

 

 なんだと!ワープされたら敵いっこねーじゃねーか。

 

 どうすれば良いんだよ。

 

「ほう…」

 

 そしてゆっくりと紅蓮は未来の俺に寄っていく。

 

 すると未来の俺は姿を消した。

 

 危ない!

 

 俺がそう思った瞬間、紅蓮は後ろに振り向きながら後ろを殴った。

 

「ぐはっ!」

 

 すると、紅蓮の背後に現れた未来の俺が腹を押さえて後退しはじめた。

 

「おい。力神(りきしん)をあまりなめるんじゃねーぞ」

 

 すごい。動きを読んだのか。

 

 これが力神の実力

 

「じゃあ…そろそろ…業火《ドラゴン・フレイム》」

 

 すると、紅蓮は左手を高々と掲げた。

 

 そしてその左手から火柱が上がって、その火柱が竜の形になった。

 

「ドラゴンファング!」

 

 そしてその竜が意思を持っているかのように動いて未来の俺を飲み込んだ。

 

 そして竜が爆散して未来の俺が落ちてきた。

 

「が、は」

 

 すごい。俺たちじゃ敵わなかった相手をここまで追い詰めるなんて。

 

「さあ、終わりだ」

 

 すると、力尽きたのか霊力の壁が消えた。

 

「まだだ」

 

 そして未来の俺は浮き上がってスキマを開いて手を突っ込んだ。

 

 そして取り出したのは

 

「お兄ちゃ~ん!」

 

 優だった。

 

 そして未来の俺は霊力刀を作り出して優の首に当てた。

 

「それ以上近づくなよ。こいつがどうなっても良いのか?」

 

 優を人質に取られてしまった。

 

 場の空気が重くなる。

 

「くそ!きたねーぞ!」

 

 と、抗議する紅蓮だが、全くもって怯まない未来の俺

 

 誰も手が出せない状況だ。

 

 どうすれば…どうすれば助けられるんだ。

 

「お…兄ちゃん…助けて」

 

「お前には助けられない。今の弱いままのお前にはな」

 

 どうすれば優を助けられる…

 

 俺は考えを巡らせるも全くいい案が浮かんでこない。

 

 その時、俺の手が柔らかいもので包まれた。

 

 俺は驚き俺の手を見ると、こいしが俺の手を包み込むように握っていた。

 

「大丈夫だよ。真なら。これまでだってなんとかなってきたじゃない。お得意の好都合って言うやつで…」

 

 そしてこいしは続ける

 

「安心して、真。ここには真が失敗しても咎める人なんて誰もいない。もしいたとしたら、私が懲らしめてあげる。だから安心して。真が信用できる人だってこと、彼女の私がよく知ってるんだから」

 

 その時、こいしの姿が俺には輝いて見えた。

 

 誰よりも安心できるその言葉

 

 これで俺の迷いは吹っ切れた気がする。

 

「ふん。そんなことで俺をなんとか出来ると思うなよ!」

 

 そう言って剣を俺達に向ける未来の俺

 

 俺は…もう迷わない!

 

「こいし!力を貸してくれ!」

 

 俺がそう言うとこいしはニコッと笑って片手で手を力強く握ってくれた。

 

 これはこいしなりの返事なのだろう。

 

 そして俺とこいしは繋いだ手を未来の俺に向ける。

 

 そして

 

「これが俺たちの思いの力だ!」

 

 その瞬間、俺とこいしの辺りが輝き出す。

 

 未来の俺は驚いて優を掴んでいた手を緩めて落としてしまう。

 

 それをすかさず紫が回収した。

 

 そして危険を察知したみんなは俺とこいしから距離を置いた。

 

「な、なんだ?」

 

 その瞬間、衝撃波が俺とこいしの周りを円を書くように広がり、霊夢達の前で消えた。

 

 そして、数秒後、俺達の地面以外が衝撃波が広がっていった範囲で崩れる。

 

 そしてその中には未来の俺も居た。

 

「ぐ、ぐぁぁぁっ!ま、まさかこんな!こんなことで終わるなんてぇぇぇっ!昔の俺。必ず復讐してやる!覚えてろよ!」

 

 そう、捨て台詞を吐いた未来の俺は崩れ去っていく物と同じように崩れて消えた。

 

「今の能力は!?」

 

 と、龍生が驚いたように言う。

 

「崩壊…ね。古に伝わりし能力。この能力も消滅したと思ってたのだけど」

 

 と、みんなの問いに答えるようにシャロはそう言った。

 

「どんな能力なんだ?」

 

 と、音恩が聞いた。

 

「名前の通り一定範囲に崩壊をもたらす能力よ。能力名の定義に合わせるなら【崩壊させる程度の能力】よ。ただし、発動には条件があってね。二種類あるんだけど。一人の発動のトリガーともう一人の強い思いによって発動される。もうひとつは…いや、これはあってほしくないし言わないでおく」

 

「この場合どっちがトリガー何ですか?」

 

 と鈴音が聞く。

 

「恐らくトリガーは真君だろうね。で、思いが強いパートナーと言うのがこいしちゃん。あの二人が居て初めて成立する能力だね」

 

 俺は霊力の残量がギリギリのため疲れて倒れ込む。

 

「見たか。未来の俺。これが友情。信頼。仲間の力だ。お前の忘れてしまった心の一部だ」

 

 そして俺は気を失うように眠った。

 

 第弐章完結




 はい!第26話終了

 ついに第弐章完結

 そして次回は多分宴会ですかね?

 ちょっと終わらせ方強引だった気も

 それでは!

 さようなら


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第2.5章 日常
第27話 久し振りの第二の主人公と宴会


 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 全力の戦い。全力の戦いといっておきながら戦闘シーンはショボかった!

 そして新たな能力。発動条件がベタベタだ~!

 そんな経緯でパラレル真を倒した真達



 それではどうぞ!


sideこいし

 

 やっぱり真はやってくれた。

 

 パラレル真を倒したあと真は疲れて倒れ込んだ。

 

 それを優しく受け止めて頭を膝の上に乗せてあげる。

 

 ちょっと恥ずかしいけど幸せだなって思ってる私が居る。

 

「お?こいし。膝枕してるのか~?」

 

 と、茶化してくる魔理沙

 

 そして急激に顔が熱くなるのが分かった。

 

「こいしちゃんは真にデレデレだからねー」

 

 と紬まで茶化してくる。

 

「~~~っ!」

 

 恥ずかしくて死にそう。

 

 みんなすごい茶化してくるよー

 

「まぁ、まぁ、みんな。今は二人だけにしてあげよう?」

 

 と提案してくるシャロ

 

 そしてみんな各自帰っていった。

 

 二人だけの空間。

 

 吹き抜ける風が心地良い。

 

 何時間こうしてたんだろう。

 

 気がついたら空が夕日に染まっていた。

 

「う、うーん…こいし?」

 

 真の目が覚めたみたい。

 

「って、こいし!?」

 

 真はこの状況を見て驚いたみたい。

 

 まぁ、そうだよね。起きたら膝枕されてたなんて驚くよね。

 

「おはよう」

 

 と、私は冷静を装って言う。

 

 でも本当はドキドキしてそんな場合じゃ無いんだけどね。

 

「おはようって、この状況は…」

 

 真に確認されて更に顔が熱くなる。

 

「嫌?」

 

 私は真にそう聞いた。

 

 すると、真は目をそらして顔を赤くしながら

 

「別に…嫌じゃない」

 

 と言った。

 

「じゃあ帰ろう」

 


 

side真

 

 うわー!

 

 めっちゃはずい。

 

 いやまぁ、そりゃこいしの膝枕最高でした…ってちがーう!

 

 何考えてんだ!

 

 俺はベッドの上で羞恥によって悶えていた。

 

 ガチャ

 

「何やってるの?」

 

 と、突然こいしが部屋に入ってきた。

 

「いや何でもない」

 

 流石に膝枕されたのがかなり恥ずかしくてもがいていたなんて言えない。

 

「ってかどうしたんだ?」

 

「そうだった。宴会をやるから呼びに来たんだよ!」

 

 そう言えば幻想郷では異変を解決する度に宴会をやってたな。

 

 ってことは博麗神社でやるのか?

 

「じゃあ宴会場行こう?」

 

「宴会場?」

 

「ああ、真には言ってなかったね。この旅館は宴会場もあるんだよ」

 

 そりゃすげぇ。

 

 って事はそこでやるってことか。

 

「ってかこの間そこで夜ご飯食べたでしょ?」

 

 と言われて俺は記憶を探る。

 

 確かに看板に宴会会場と書かれていた。ついに俺もボケだしたらしい。まだ二十歳にもなってないんだけどな。まぁ、高校卒業レベルの年には行ってますよ。

 

 それからバイトをしながら暮らしてたかな。

 

「ああ、あそこか」

 

「そう!じゃあ行こう!」

 

 と、ノリノリなこいし

 

 そう言えば晩餐はしたけど宴会と言う宴会はしてないな。

 

 と言うことは久し振りだ。

 

 これからいつまた帰れって言われるかは分からないけどその時のために俺はこの時を全力で楽しんで思い出を…こいしとの思い出を沢山作ろうと思う。

 

 笑顔のこいしがとても輝いて見えた。

 


 

宴会会場

 

「あんたら遅いわよ!」

 

 うわー。もう出来上がってる。

 

 俺達が会場につくとそこにはすでに出来上がった霊夢が居た。

 

「霊夢さん。ちょっと酒癖が…」

 

 早苗ががっくりと肩を落とす。

 

 そりゃ尊敬する人柄そんなだったら肩も落としたくなるわ。

 

 すると、龍生が立ち上がってこちらに来た。

 

「まこっちゃん。異変解決おめでとう」

 

 とスラッと流れるようにハイタッチを要求してきたので自然な流れでハイタッチをする。

 

 そして数秒してから気がついた。

 

「ってまこっちゃんじゃねー!」

 

 数年ぶりの台詞だった。

 

「久し振りだなその台詞」

 

 はははと笑う龍生

 

 すると音恩と鈴音もこちらに来た。

 

「よ!南雲姉弟」

 

 この二人は姉弟だ。だから戦闘の息もぴったりだ。

 

 正直俺と龍生が束になっても勝てる気がしない。

 

 因みに今、出てきた奴等の能力は

 

 龍生【穴を開ける程度の能力】

 鈴音【把握する程度の能力】

 音恩【ありとあらゆるものを操る程度の能力】だ。

 

 因みに鈴音は体術なら俺より出来る。更に音恩の操りの能力と来たもんだ。勝てるわけが無いよ。

 

「お久しぶりです真さん」

 

「ほんとだよね。真」

 

 因みに音恩は俺に敬語を使ったりさん付けする数少ない人物だ。

 

「今度久し振りに、紅魔館に来ませんか?また勝負しましょう。こいつで」

 

 そして将棋板を取り出す音恩

 

 今こいつどこからそんなでデカイもの取り出した!?

 

「ってかそのメッシュどうした?」

 

 よく見ると黒髪に青のメッシュが入っていた。

 

 こいつ厨二病じゃなかったと思うんだが

 

「これは姉ちゃんが勝手に」

 

「えー!だってそれ入れた方が絶対ねん君カッコいいもん!」

 

 ああ、なるほどね。

 

「それならさ」

 

 といきなりこちらに来た龍生。

 

 今度はなんだよ。

 

「おん君達も地霊殿来いよ。まこっちゃんも良いよな」

 

 と、龍生が言った瞬間

 

「まこっちゃん言うな!」

「おん君言うな!」

 

 俺と音恩は口を揃えてそういった。

 

 俺達がそんな話をしてると仲間外れだと思ったのか俺の袖をクイクイと引っ張ってきた。

 

「それよりも行こう?」

 

「そうだな」

 


 

数分後

 

「そのお酒の強さは健在だね」

 

 俺はどれだけのんでも酔ったことが無い。

 

 まぁ、こいしが飲んで寝たあと寝顔を見るのが一つの楽しみだから良いんだけどな。

 

「真」

 

 そして俺はなんだ?と言う。

 

「これからもよろしくね」

 

 とニコッと笑う。

 

「ああ」

 

 俺は照れ臭くてそう言った後、こいしの頭を撫でた。

 

 その後案の定こいしが寝てしまい俺の膝に倒れ込んで来てこいしの寝顔を堪能したのはまた別の話し。




 はい!第27話終了

 久々の音恩と鈴音のちゃんとした登場

 これで少しは初見でもなぐも姉弟のキャラが掴めたと思います。

 後一話位書いてから次章に入りたいと思います。

 それでは!

 さようなら


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第28話 温泉郷の日常と真

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 こいしの膝枕に恥ずかしさを感じながら喜ぶ真

 そして宴会!第二の主人公と言われながら活躍と言う活躍が無かった音恩とその姉の鈴音。その二人が本格的に活動開始

 そして宴会は無事過ぎていきましたとさチャンチャン♪



 それではどうぞ!


side真

 

 温泉郷の朝は早い。

 

 朝4時に起きて仕込み。それからルームメイキング。それから風呂掃除。

 

 これらをすべて朝7時の開店までに間に合わせる。

 

 朝7時。俺は看板と暖簾を持って外に出ると看板を立て掛けて暖簾を玄関前にかける。

 

 これで準備完了

 

 ここまでで約3時間

 

 かなりの大きさの旅館なのでかなり早いんじゃないですかね?

 

 そして朝飯

 

 まだ朝7時なのであまり人が来ないことが多いのでこの内に俺は朝飯を作って地霊殿メンバーに渡して俺は握り飯を少し食べたらカウンターにつく。

 

 朝9時

 

 まだ早い時間だがちらほらとお客さんが見え始める頃合いだ。

 

 と言ってもこの時間だと風呂だけ目的のお客さんはあまりいなくてほとんどがチェックインを済ませて周辺を見て回るって人がほとんどだ。

 

 たまに紅白巫女が

「泊まらせて!ご飯奢って!」

 と来るので店の外に捨てておく。

 

 11時

 

 さとりの朝の仕事(経営の計算)が終わる時間帯なのでカウンターは妖精メイドに任せて俺は温泉郷を後にする。

 

 まぁ、さとりも中々な働き者だから俺が居なくても経営が回るだろう(ゲス)と言う感じで

 

 そして外に出た俺はと言うと温泉郷から少し離れた場所で俺は屋台をしている。

 

 焼き鳥や焼きそば、たこ焼きにお好み焼き。

 

 一つミスティアに怒られそうなメニューがある。

 

 結構人気はあるようで昼になると人だかりが出来る。

 

 勿論この事はみんなには言ってない。

 

 少し離れたところでやる理由は温泉郷の利益を奪わないため。

 

 ちょっと宿の収入だけじゃ足りなくなりそうな事をやりたいと思ったんだ。

 

 宿の一角でやれば良いと思うじゃん?でもそこら辺は俺自身のやりたいことに関係するんだよな…

 

 時は正午

 

 一番ラッシュが激しい時間帯

 

 この時間帯は俺が欠けただけでも厳しいみたいだが、音恩と鈴音に頼み込んで手伝いに行ってもらっている。

 

 ちゃんとやりたいことも言ってあるすると鈴音はニヤニヤしてたな…

 

 最初あの二人にこの話を持ち込んだ時、音恩にはすごい嫌な顔されたな。

 そして最近音恩に「最近コミュ症治ってきてねぇか?」と言ったところじと目で「それをさせてくれなかったのはどこのどいつですか?」とつっこみが入った。

 

 俺の数年間一人暮らしで自炊していた俺の料理テクをなめんなよ!

 

 地味に勉強しながらレストランでバイトしてたこともあるんだよね。それこそ厨房で

 

 だから料理には結構な自信があります。

 

 午後2時

 

 ラッシュが引いてくる時間帯。いつも3時までには店を畳んでしまう。

 

 今日はいつもより早くラッシュが終わったから俺は店を畳む。

 

 そして地霊殿に帰ってカウンター再開

 

 俺はカウンターだけじゃなく、さとりは俺の料理を買っているのか厨房を任されることが多々ある。

 

 何でもこの温泉郷の店員メンバーでは数人の料理人とさとりと鈴音しか料理が出来ないから人員が足りないのだと言う。

 

 だから俺が来ると厨房がすごいスピードで回るって

 

 俺はいつも何品かまとめて作るんだけど、俺が広々と料理できるために俺専用のキッチンをさとりが作ってくれた感じだ。さとり太っ腹~

 

 午後10時

 

 俺はカウンターを妖精メイドにパスして自分の仕事を始める。

 

 カウンターは0時まで妖精メイドがやってくれる。

 

 0時になったら完全に店を閉める。

 

 俺の仕事は晩飯だ。

 

 晩飯を作ってさとり達に持っていく。

 

 そして廊下の見回りだ。

 

 不審人物が居ないかをチェックする。

 

 そこから廊下の掃除。こればかりは朝やる気になれない。どれだけ広いと思ってんだ。

 

 そして朝飯の仕込みと、味が染みるのに時間がかかる煮物などを作っておく。更に0時になったら暖簾や旗をしまう。

 

 これで朝3時だ。

 

 特に廊下の掃除で大半がすぎる。

 

 そしてそこで俺も眠りにつく。

 

 そして次の日また朝4時

 

 睡眠時間約1時間!!

 

 よくさとりにはこう言われている。

 

「頼みますからちゃんと休養は取ってください。過労にならない程度で」

 

 もう遅い!

 

 こいしにはこんなド直球に

 

「死んじゃうよ!真。頼むからずっと一緒に居てよ!先に逝かないで!」

 

 と、泣きながら懇願されてしまった。

 

 これは非常に悩ましい決断だった。だから睡眠時間を30分も増やしたのだ。え?少ないって?バカな~1時間もあれば十分だろー(錯乱)

 

 でもまぁ、流石に無休ではない。その日に十分休んでるよ。(十分ってなんだっけ?)

 

 優は昼間寺子屋に行ってて帰りに俺の屋台寄るかって言う話になったらしく、それで優にバレたのは良い思い出。

 

 まさかバレるとは思わなかった。

 

 まぁ、ただにして口封じしたんだがな。

 

「あの…真。聞いてますか?」

 

 と、さとりの話しをボーッとしながら聞いていたため話しが入ってきてなかった。

 

「ああ、ごめ…ごふっ」

 

 と、突然吐血した。

 

 あれ?視界が歪んで…

 

「真!?大丈夫!?真!?」

 

 ああ、ごめん…さとり達が心配してた事が起こったかもしれない。

 

 そして俺は倒れる。

 

 あはは…意識がもうろうとして…このまま死ぬのかな?なんてダサい最期なんだよ。

 

 まぁ、これは俺の責任だしょうがない。受け入れるしか無いのか…




 はい!第28話終了

 次章へと繋ぎとしてこの話を書きました。

 最後に倒れた真。大丈夫なんですかね?

 それでは!

 さようなら


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第参章 紅に染まる大地 ~死守する自由と言う名の希望~自由の章
第29話 紅の殺し屋


 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 温泉郷の真の1日

 並みが外れすぎて人間技じゃない。絶対人間辞めてる!

 そして体の事をさとりとこいしに心配される。

 しかし案の定倒れましたとさ。チャンチャン



 それではどうぞ!


side真

 

 う、ここは?

 

 目が覚めるとそこは永遠亭だった。

 

 そうか…あの時倒れて…

 

「漸く目が覚めたみたいね」

 

 と、入り口から永琳先生が入ってきた。

 

 呆れ顔で

 

「そんなに過労になるまで何してたの?」

 

「あはは」

 

 これに関しては本当にすみません。返す言葉がございません。

 

「大事な時期だと言うのに」

 

 ん?大事な時期?

 

「それってどういう?」

 

 すると永琳先生はやってしまった…と頭を抱える。

 

 うっかり口を滑らせてしまったのか…

 

 するとしょうがないと言う顔になって永琳先生は話し出した。

 

「殺人鬼よ」

 

 殺人鬼ぃ?

 

 そんなやつがこの幻想郷に現れたのか?

 

 俺達の知らないうちに

 

「正確には殺し屋ね。近いうちに退治してもらおうと思ってたのよ」

 

 殺し屋が

 

 永琳達は誰だか分かってるらしい。幻想郷では有名なのだと言う。

 

 名前というかコードネームが【(くれなゐ)の殺し屋】燐火。真っ赤な赤い髪が特徴でグレーのパーカーを来てフードを目深にかぶっているらしい。

 

 そして冷徹無情。目標(ターゲット)を殺す事しか考えてないこの世で最もロボットに近い人間なのだとか。

 

「そいつが殺しを…」

 

 でも殺し屋ってことは雇っている人物がいると言うこと。

 

 だとしたら許せない。

 

 殺しを行っている本人もだが、雇っているやつも許せない。

 


 

退院

 

 俺は退院して人里に来ていた。

 

 過労で暫く仕事を止められるなんてざまねぇな。

 

「ははっ」と少し自傷気味に笑う。

 

 だけどこの暇になった時間はどうするかな…

 

 労働していた頃は休みが欲しいと思ってたけど、いざ仕事を奪われると手持ち無沙汰でなんか落ち着かない。

 

 適当にこの里をぶらぶらするか…

 

 まずはこいしに紹介してもらった甘味所

 

 餡蜜やみたらし団子などが有名でこいしのお気に入りでもあるらしい。まぁ、実際に旨い。

 

 あと、俺お気に入りの店。この店はシチューが旨いんだ。

 

 こんな感じで回っていた。

 

 すると偶然ミスティアの屋台を見つけた。

 

「よ!ミスティア」

 

 すると営業スマイルとか言うやつをしながら

 

「あ、真さん。いらっしゃいませ」

 

 そして俺は席に座る。

 

 ってか今日は食ってばかりだな。

 

「じゃあ焼きと」

 

「歌いますよ」

 

「ごめんなさい!」

 

 少々ふざけすぎた。今のミスティアめっちゃ怖かったぞ。

 

 殺気が…ミスティアに本気の殺気を向けられたら常人だったら死ぬね間違いなく。

 

「じゃあ八ツ目鰻で」

 

 そう言うとミスティアは八ツ目鰻を焼きだした。

 

 こんがりと焼ける良い臭いが俺の鼻腔を擽る。

 

 すると待ち時間に隣に違うお客さんが来た。

 

 フードを目深にかぶってフードの隙間から真っ赤な髪が少し出ている。

 

 女性だ。

 

「私にも八ツ目鰻を」

 

 と、落ち着いた声で言うが、若干声に幼さが出てる気がする。

 

 女の子か?

 

 すると突然俺に話しかけてきた。

 

「あなたは人生が楽しい?」

 

 と、

 

 どういう意図なのかは知らないけどこう答えた。

 

「楽しいんじゃないかな?」

 

 すると

 

「そう…」

 

 と、女の子は言った。

 

 何だったんだ?今の質問は

 

「じゃあ色で表すと何色?」

 

 と、第二の質問を繰り出してきた。

 

 色か…なかなか難しいな…

 

「いろんな色が当てはまるな。悲しさの青。だったり、楽しさや情熱の赤だったりだな」

 

 と、答えた。俺の回答はおそらく妥当な所だろう。

 

「そう…私は赤」

 

 淡々と言う女の子。

 

「へー。どういう意味?」

 

 そう聞くが

 

「ご想像にお任せする」

 

 そう言っていつの間にか出されていた八ツ目鰻を食べ終わって屋台から出ていく女の子。

 

 不思議だ…つかみ所が無い。

 

 そして俺も八ツ目鰻にかじりつく。

 

 うん。旨い。

 

 いつも通りのミスティアの味だ。

 

 そして食べ終わって空を見上げる。

 

 まだまだ明るいな。せっかくだし紅魔館でも行くかな

 


 

紅魔館

 

 俺が門につくとそこには音恩が居た。

 

 そして横で美鈴は変な踊りをさせられてる。

 

 そして音恩はパソコンを打っている。

 

 何となく状況が読めた。

 

「音恩、やめてやれ」

 

 と、肩に手を置く。

 

 音恩はパソコンを使ってありとあらゆるものを操る。だから今は美鈴を操ってたんだろう。

 

「僕だってやりたくないんですが咲夜さんに怒られてしまうので」

 

 咲夜に頼まれた感じね。

 

 …まーた居眠りしてたのかこの門番は

 

 だから魔理沙に本を盗まれるんだ。本当に不用心だな。

 

「で、真さんはこんなところへ何しに?」

 

 と、パソコンを弄る手を止めないで聞いてきた。

 

「いやまぁ、お前と約束してたろ?勝負」

 

 すると音恩はニヒヒと笑った。

 

「負けませんよ~」

 

「望む所だ」

 


 

「咲夜、この勝負いつまで続くのかしらね?」

 

「さあ?分かりかねます」

 

「お兄様~!がんばって~!」

 

 いつの間にかギャラリーが増えていた。

 

 と言うものの、会場が紅魔館なだけに俺は完全にアウェイ。

 

 音恩はめちゃくちゃ強いよ。前負けたしね。

 

 だけど負けるか~!

 

 それから数時間。結局決着は着かずに引き分けで終わった。

 


 

 俺は地霊殿に戻ってからすぐに布団に入った。

 

 そして殺し屋の事を考えていた。

 

 パーカーを着てて、フードを目深にかぶって、真っ赤な髪

 

 ん?

 

 なんか引っ掛かるな…

 

 まぁ、良いか…今日はもう寝よう。

 

 そして俺は眠りについた。




 はい!第29話終了

 日常に近い話しですが、ちゃんと新章入ってますよ。

 それでは!

 さようなら


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第30話 次の標的(ターゲット)

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 真が目が覚めた場所は永遠亭だった。

 永遠亭で過労と診断された真はあることを聞かされる。

「紅の殺し屋 燐火が殺しを行っている」と

 そして労働禁止命令が出た真は里をぶらつく。



 それではどうぞ!


side真

 

 今日は珍しく宿は休みだ。

 

 理由はこの近くで殺人が起こったらしい。

 

 犯人は巷の噂じゃ【紅の殺し屋】と言われている。

 

 しかし、俺はその人物の容姿について考えていた。

 

 グレーのパーカー。フードを目深にかぶってて赤い髪

 

 これがどうにも引っ掛かる。

 

 まぁ、今はそんなことどうでも良いけどな。

 

 今はこいしとデート中だ。

 

 めちゃくちゃ幸せなのでそんなこと考えている暇は無いのである。

 

「んー。美味しい」

 

 俺とこいしはこいしお気に入りの甘味処に来ていた。この間も俺一人で来た気が

 

 俺もみたらし団子を頬張る。

 

 旨いな。

 

「真」

 

 と、こいしが読んできた。

 

 そしてこいしは自分のパフェを少し掬って俺の方に向けてくる。

 

「そ、その…あ、あーん」

 

 と、頬を真っ赤に染めながら差し出してきた。

 

 可愛すぎる。

 

「あ、あーん」

 

 そして俺はパフェを食べる。

 

「うん。旨い」

 

 こんなに旨いのはこいしが食べさせてくれたからだと錯覚してしまう。

 

 甘いなぁ。と自分でこの空気を作っておきながらそう思う。

 

 俺が帰ってきてから、仕事のないときは俺にべったりになった。

 

 そんなことしなくても俺はどこにも行かないんだけどな。

 

 こんな平和な日常が好きだ。

 

「それにしても殺人ねぇ…物騒だね」

 

 俺は実際に殺めてしまったことが多々あるんだけどな。

 

 まぁ、全員敵だから関係ないけどな。

 

 そうだ。

 

「あーんの礼だ。その…あーん」

 

 と、自分のみたらし団子を差し出す。

 

 すると、ぱぁっと笑顔になって

 

「あーん」

 

 と、食べた。

 

「美味しいね!」

 

 でもさすがにイチャイチャしすぎたかな。

 

 その時

 

「お二人さん。取り込み中の所、ちょっと良い?」

 

「ふぇぇっ!」

 

 と、突然紫が現れたことによって、甘い雰囲気を作って自分達の世界に入っていたため、こいしがいつも以上に驚いた。

 

 そして俺は飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになる。

 

「ゴホッゴホッ。って一体全体どうしたんだ」

 

 と、聞くと紫は神妙な面持ちで話し出した。

 

「また【紅の殺し屋】が動き出すわ」

 

 またか。ってことは退治命令だな。

 

 一体誰が狙われてんだ?

 

 すると言いにくそうに躊躇ってから口を開いた。

 

「次の標的(ターゲット)は古明地姉妹。あなた方よ」

 

「え」

 

 と、こいしの表情が恐怖に変わる。

 

 今、何て言った?さとりとこいし?

 

「シャロが、真とこいしが別れた直後にこいしが殺され、更にさとりまで殺されると言う未来をみたそうよ」

 

 一体、何故こいしが殺されなくちゃならないんだ。

 

 こんなかわいくて他人思いの彼女が

 

「何でも、さとり妖怪に良くない事を思っている人達が依頼したそうよ」

 

 確かに心を読まれるのは嫌な人は嫌だろう。

 

 だけどそれで差別するのはどうかと思う。

 

 世界の皆がこいし達を否定するなら、俺がこいし達を肯定する。

 

 例え世界を敵に回そうとも。

 

「俺が守るよ。絶対に」

 

 そう言うとこいしは俺に抱きついてきた。

 

「あーあ。今年の夏は例年より暑いわね」

 

 そう言ってどこかに消える紫

 

 さて、どこからでもかかってこい。【紅の殺し屋】俺が相手になってやるからな。

 

 そして今日は絶対に離れないって約束して俺達は甘味処を後にする。

 

 俺と別れたあと。なら別れなきゃ良いんだ。

 

 【紅の殺し屋】がどれほどの実力を持っているかは分からない。

 

 下手すりゃ俺より強いかも。何て言う最悪の状況を考えてしまう。

 

 紬がいつも一緒に居られるとは限らないから覚えた霊力刀。これでどこまで戦えるか。

 

「でもさ、一緒に居るからってそれはヤバイと思うんですが。こいしさん」

 

 そう言うと「え!?」と驚くこいし

 

 当たり前だ。

 

 俺は今、一緒のベッドで寝ようと誘われている。

 

 さすがにそれはダメだろ。

 

 せめて俺が床。こいしがベッドってのが無難な所だろう。

 

 すると目をうるうるさせ出すこいし

 

「真が…真が一緒に居てくれるって言ってくれたのに…嘘つき…」

 

 泣き始めてしまった。

 

 しまったな。やっちまった。女の子泣かすとか…それも彼女を

 

「わーった。一緒に寝るから」

 

「うん!ありがとう!」

 

 まんまと罠にはめられた気がする。

 


 

 寝れない。

 

 そう。

 

 一緒にベッドに入ったは良いけど、緊張して寝れないのだ。

 

 対するこいしは熟睡している。

 

 寝顔が可愛いな。

 

 さて、どうやらこうして眠れないで居る間に招かれざる客も来たようだね。

 

 今回は寝れないで正解だったかも知れない。

 

 ドア越しにびんびん感じるぜ。その殺気に満ち満ちた霊力が。

 

 だが、おかしい点がひとつある。それは殺気しか無いことだ。

 

 どんな極悪犯罪者でも殺意以外の感情も霊力に多少なりとも含まれる。

 

 だが、殺気しか含まれないのだ。

 

 さすがこの世で一番ロボットに近い人物だ。

 

 他の感情を圧し殺しているのか。

 

 念のため、俺は霊力刀を作る準備をしておく。

 

 その次の瞬間、ドアが弾けとんで一人の少女が走ってきた。

 

 手には刀を持っている。

 

 そして刀を振り下ろした。

 

 カキィィィン

 

 と、甲高い音がなって衝撃波が走る。

 

 壁が少し凹んでしまった。

 

 その音で目が覚めたのかこいしはこちらを見てくる。

 

「え?」

 

 と硬直してしまった。

 

「こいし!その窓から逃げろ!」

 

 そう促すと「分かった」と言って出ていった。

 

 こいしが冷静な子で良かった。

 

 と、こいしを追おうとそっちに走っていく。

 

「行かせるわけねーだろ」

 

 そうして進路を塞ぐ。

 

 すると斬りかかってきたのでそれを防ぐ。

 

 絶対にこいしとさとりを守る。絶対にな




 はい!第30話終了

 次回からついに本格的に【紅の殺し屋】燐火との戦いが始まります。

 さて!真はさとりとこいしを守ることが出来るのでしょうか?

 それでは!

 さようなら


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第31話 燃え盛る地霊殿

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 紅の殺し屋が殺しを働いたせいで温泉郷が休みになったためこいしとデートに出かける真。

 その時、紫に次のターゲットは古明地姉妹だと告げられる。

 そして真はこいしを守ることにする。

 ついに燐火との決戦。さて、どうなるのか?



 それではどうぞ!


side真

 

 カキィィン!

 

 俺と燐火は剣を交えていた。

 

 流石はプロの殺し屋。刀が重い。

 

「夜襲とは礼儀がなってないな」

 

 そして何発か斬りかかってくる。

 

 流石だ。猛攻が凄すぎて中々勝負に出れない。

 

「私は殺し屋。人殺しにルールなんか必要?」

 

 そして俺はふっと笑って

 

「全くだ」

 

 そして燐火を押し返す。

 

 しかし、場所が悪いな。

 

 こいしの部屋がボロボロだ。

 

 そんなことを考えながら刀を受けていると、不意に足払いを食らって倒れる。

 

 そこを狙って燐火は胸に刀を突き刺してきた。

 

「ぐはぁっ!」

 

 いってぇぇぇっ!

 

 この能力の欠点と言えば、ダメージは少なくなるけど痛覚は通常通りなんだよ。

 

「ゲームオーバー」

 

 そう言って燐火は俺から刀を抜く。

 

 そしてすぐさまこの部屋から出ていった。

 

「どうすっかなぁ…」

 

 取り合えず

 

「殺させねぇよ。俺の仲間は誰一人」

 

 そして拳を握って天高く突き上げる。

 

 だけど多分だが霊力刀だと勝てない。

 

 やっぱりあいつの力が必要だ。

 

「【神成り】!」

 

 そう言うと壁を突き破って神成りが飛んできた。

 

 それを俺は腹の前で柄を掴んでキャッチする。

 

『呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん!』

 

「もっと普通の登場の仕方は無かったのか?」

 

 そして一回転させてキャッチする。

 

「まぁ良い。出動だ」

 

『りょーかい!きっちりバッチリ倒しにいくよー!』

 

 全然緊張感が無い。

 

 だがそのお陰で俺の緊張感がほぐれてきた。

 

 燐火の現在地は…

 

「まずい!さとりの部屋の前だ!」

 

 これは躊躇(ためら)ってる場合じゃない。

 

 やるしかないんだ。

 

「ごめんみんな」

 

 そして俺は刀を弓矢のように構えて足を引く。

 

「神速《閃光斬り》!」

 

 そして俺はさとりの部屋の方向に壁床貫通しながら向かった。

 


sideさとり

 

 私は今、部屋で作業をしていた。

 

「上が騒がしいわね…」

 

 暫くの間、金属がぶつかり合うような甲高い音が聞こえたあと、急に鳴り止んだ。

 

 何か殺気が混じった…いえ、殺気しかない霊力の持ち主が来てるわね。

 

 そしてその殺気の持ち主はドアの前で止まった。

 

「気がついてるのよ。入ってきなさい。まぁ、大方私の抹殺…と言ったところね」

 

 おかしい…心が読みづらい。

 

 こいしや無意識状態の真よりまだ良いけど、凄く読みにくい。

 

「ふふっ。バレてたのね…」

 

 そうしてドアを開けて入ってくる。

 

 容姿は紅の殺し屋そのもの

 

 まさか

 

「今日はあなた達。古明地姉妹の息の根が止まる日」

 

「古明地姉妹?あなた、まさかこいしも」

 

「古明地妹は謎の男によって阻止された。だがあなたは今一人」

 

 その瞬間、腰から刀を抜いて一瞬で詰め寄ってきた。

 

「チェックメイト」

 

 殺される!

 

 そう思った瞬間、壁が壊れる。

 

 そしてその中から誰かが紅の殺し屋に斬りかかる。

 

 それを紅の殺し屋は防ぐ。

 

「殺させねーよ。俺の仲間は誰一人!」

 

 壁が壊れて出来た煙から真が出てきた。

 


 

side真

 

「また…あなたですか…最近よく会いますね」

 

「は?これで会うのは二回目じゃないのか?」

 

 さっきと今と

 

 何でよく会うって言ったんだ?

 

 俺は疑問を浮かべながら燐火を押す。

 

「じゃあこれで思い出せるかな?」

 

 そして俺を弾き飛ばして、刀を下向きに下ろして俺の方向に走ってきた。

 

 俺は身構えて神成りでガードする。

 

 しかし、それを無視して燐火は刀のすぐ前で止まって身を乗り出して耳元でこう(ささや)いてきた。

 

「あなたは人生が楽しい?」

 

 その一言で俺は思い出した。

 

 こいつ、屋台の

 

「あなたはこう聞きましたよね?私の赤の人生の意味」

 

 それは…

 

 その回答は思いもよらぬ回答だった。

 

 その答えに思わずゾッとする。

 

「それは血の赤って意味。残虐、殺戮、そんな争いによって生まれた血。私にピッタリだと思わない?」

 

 口調は喜怒哀楽を作っているが、表情が一切変わらない、そして霊力も相変わらず殺気に満ち満ちている。

 

「ねぇ、そこを退いてくれない?じゃないとそいつ殺せない」

 

 すると有無を言わさず腹を刀で刺してきて貫通する。

 

「くはっ」

 

 吐血。

 

 俺は腹を貫通しながらも、痛みに耐えながら体制を崩さない。

 

「やっぱり。能力者だったのね」

 

 そう言った瞬間、燐火の髪の毛がギラギラと輝き初めて、フードの外に出てる揉み上げはふわぁっと浮き上がる。

 

 そして燐火が手のひらを上に向けると手のひらから火の玉が出てきた。

 

「お前!」

 

「この火を落としたら、あなたはともかく、彼女はどうなるでしょうね?」

 

 そう言って火の玉を床に叩きつける。

 

 すると一瞬でさとりの部屋は火の海へと変貌した。

 

「あっつ」

 

 しかし、彼女は熱さは平気なのか平然と立っている。

 

 すると熱さにやられたのかさとりが倒れた。

 

 まずい。早くさとりを連れて逃げないと

 

 そしてさとりを抱える。

 

『なんか不味くない?真』

 

「ああ、これは極限にヤバい状況だな」

 

 この部屋には何故か人が通れそうな大きさの窓がない。

 

 先ほどの穴も燐火が立ちふさがっている。おそらく壁を破壊しようとしたらまた防がれるだろう。

 

 ならドアから

 

「それはナンセンスだよ」

 

 そしてドアもメラメラと燃え始める。

 

 ドアノブがギラギラと赤くなってる。

 

 生憎ドアを破壊しようとしても、さとりが防音室を好むせいで、厚い鉄の扉になっている。

 

 今はただの鉄の板だ。

 

 こんな高温の物を切ったら、紬が大火傷を負う可能性がある。

 

「見ててくれよ。これが俺の男気だ!」

 

 そして高温のドアノブを握る。

 

「ア゛ァァァァッ!」

 

 あまりの熱さに大声が漏れる。

 

『真!?』

 

「遂に気が狂ったか」

 

 く、ここで諦めちゃダメだ!

 

「はぁぁぁっ!」

 

 そしてドアノブが回る。

 

 回ったのを見て、勢いよく開けて部屋から飛び出す。

 

 逃げてるとき、後ろを見たが追ってきては居なかった。

 

 そして建物の外に出てきた。

 

 あの地霊殿がメラメラと燃えてる。

 

「お兄ちゃん」

 

 すると既にそこにはみんなが居た。

 

「みんな…くっ」

 

 と、俺はドアノブを握った手を見る。

 

 するとまだ煙をあげていた。

 

 赤くなって血が出てる。

 

 妖怪でも火傷の傷は治せないんだよな

 

 そしたら龍生が覗き込んできた。

 

「ひどい火傷じゃねーか」

 

「そんなことより、さとりを頼む」

 

「そんなことよりってお前…わかった生きて帰ってこいよ」

 

 何故その言葉を言ったのか分からないが、多分龍生には伝わったのだろう。

 

「ああ、言ってくる。紬も着いてきてくれるか?」

 

「もっちろん!」

 

 そして俺は地霊殿裏の森へと走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何で他人のためにあんなに自分を犠牲にできるの?私は知りたい。あなたの思考回路すべてを…まだ殺すよ。あなたのすべてを知るまでは」




 はい!第31話終了

 今回は燐火対真

 鉄を超高温で熱すると真っ赤になるんですよねー。あれを握ったってことです。

 考えただけでも…

 それでは!

 さようなら


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第32話 燃え盛る森  負けるな真

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 燐火との勝負

 次に狙われたのはさとり!

 身を呈してさとりを守る真だったが、何と地霊殿に火を投下されてしまった。

 そして真は大火傷を負いながらもさとりと共に地霊殿を脱出し、地霊殿裏の森へと向かうのだった。



 それではどうぞ!


side真

 

「どう?見つかった?」

 

「ダメだ。無意識すら探れねえ」

 

 そう。俺の無意識の能力がこいしの弱体化バージョンだから、本気でこいしが無意識になったら俺でも探れない。

 

 いつ森に燃え移るか分からないと言うのに…

 

 でもまだここら辺に居る気がする。

 

 その時

 

アオーン

 

 と、動物の遠吠えが聞こえた。

 

 ここら辺には野生の動物やら理性の無い妖怪が多い。

 

 心配だ。

 

「ねぇ、真」

 

「ああ、分かってる」

 

 左右の木々からギラギラとした獲物を見るような視線を感じる。

 

 その時

 

 がしぃぃっ!

 

「殺らせねーよ!」

 

 と、突然襲いかかってきた妖怪の前足を掴んで押し返す。

 

 それを合図に一斉に飛びかかってくる。

 

 これは一人じゃきついな。

 

「初めての共闘行けるか?」

 

「任せてよ!私と真はどれだけの時間、一緒に戦ってきたと思ってるの?」

 

「そうだな。じゃあ背中は任せた」

 

 そして俺と紬は背中合わせになって立つ。

 

 俺は霊力刀を出す。

 

 そして次々に襲いかかってくる妖怪を斬る。

 

 しかし妖怪はどこからわいて出てるのかキリがない。

 

「妖術《ポイズンフィールド》」

 

 すると、一定範囲内の地面が紫色になって、そこからは数本の食虫植物が生えてきた。

 

「ファング!」

 

 紬がそう言うと、食虫植物は大きな口で数体の妖怪を噛み砕いた。

 

 むごいがナイスだ。

 

 何とかちゃんと俺達はお互いのことを守りながら戦えてるんじゃないか?

 

 んじゃ俺も

 

 そして近くの石を拾って、上に投げてキャッチする。

 

「狙撃《スナイパー》」

 

 そして妖怪にあたった瞬間、爆発が起こり、周囲の妖怪を一掃する。

 

「呪府《怨霊の怨み》」

 

 その瞬間、紬の体の回りから火の玉が沢山出てきた。

 

 それら一つ一つが、妖怪の中に入っていく。

 

 そして

 

ぐぎゃぁぁっ!

 

 自傷して倒れる。

 

「お前のスペル怖いよ」

 

「これが私のタイプだからね。しょうがないね」

 

 その瞬間、空から一体の妖怪が落ちてきて不意を着かれる。

 

「まずい!」

 

 しかしその瞬間、近くにあった岩が浮き上がって妖怪にぶつかる。

 

 この能力は!

 

「ったく…お前は注意力が無さすぎる。それでも俺なのか?」

 

「ライト…すまん助かった」

 

 今のはおそらく念力だ。

 

「こいしだろ?連れてってやるよ」

 

「え!?居場所が分かるのか?」

 

「ああ、」

 

 これは思いもしなかった展開。

 

「って、ここは俺が修行してる山だ。つまりはここは俺の庭だ」

 

 

 ここだったのか。

 

「んじゃいくぞ。捕まれ」

 

 そして俺と紬はライトに捕まる。

 

「TP《テレポート》」

 

 その瞬間、俺達はテレポートした。

 


 

「あそこだ」

 

 テレポートの眩しさによって目を瞑ってたおれが目わ開けるとそこは森の端だった。

 

 そしてライトが指を指した方を見るとそこには

 

 背後が木で逃げられないこいしとこいしに木ドン?をしている燐火がいた。

 

「捕まえた」

 

「なん…で無意識が」

 

「私は元々無意識だよ」

 

 そう言ってあごクイをする。

 

 片手に剣を持ちながら。

 

「チェックメイト」

 

 そして剣を振り下ろす。

 

 それを俺は霊力刀で受け止めた。

 

「やっぱり来たね」

 

「あたり…まえだ!」

 

 と、押し返す。

 

 そしてこいしの前で立ちはだかる。

 

「【神成り】」

 

 そして飛んできた神成りをキャッチする。

 

「今回は俺も居るぜ」

 

 と、ライトも霊力刀を作り出す。

 

「火炎《火柱》」

 

 すると燐火からものすごい火柱が飛び出した。

 

 その火柱の火が森に燃え移る。

 

「じゃあねー!」

 

 どこかへ去ってしまった燐火

 

 まずい!

 

 このままじゃ皆焼け死ぬ。

 

 そして焼けた木がこいしに倒れてきた。

 

「こいし!」

 

 そして俺はこいしの身代わりになって、燃え盛ってる木を腕で受け止める。

 

「ぐ」

 

 そして俺はその木を足で蹴り飛ばす。

 

 やべぇ…腕まで

 

『大丈夫?真』

 

「ああ、大丈夫だ」

 

 恐らくこの炎は燐火の技。

 

 だが、燃えるまではただの霊力だが、燃えてしまったらそれはただの炎となってしまう。

 

 つまり上書きが使えないと言うことだ。

 

 その時、俺達の行き先を阻むように木が倒れてくる。

 

 これは本格的にまずいぞ。

 

「はぁ…『念力』」

 

 そしてライトは念力で燃えてる木を浮かせた。

 

「サンキュー!」

 

「ちっ。さぁ、今のうちに行くぞお前ら」

 

 そして森から抜け出そうと走る。

 

 ヤバい…本格的に…煙を吸いすぎた。

 

 火事の時は火より煙の方が危ないとよく言う。

 

 一酸化炭素中毒だ。

 

 ついには鞘に入れた神成りを杖がわりに使って歩かなくては歩けないようになってしまった。

 

 そして

 

 バタン

 

 体が麻痺して動かねぇ…

 

「真!」

 

「ちっ!何でこうも面倒事が増えるかなぁ」

 

 空を飛べばこんなことにならないと思うだろ?

 

 実はこの森、アーチ状に木々の葉が伸びていて覆われてるので上も火の海だから飛べないんだよ。

 

 その時、目の前にワープホールが開いた。

 

「ったく。なにやってるんだ?お前ら」

 

 この声は…

 

「真君!大丈夫!?」

 

「シャロ…紅蓮…」

 

 そのワープホールから空間パトロール中だったシャロと紅蓮が出てきた。

 

「しかしひどい有り様だな」

 

 と、紅蓮は胸の前に手を持ち上げてグッと握り拳を作った。

 

 その瞬間、周辺の炎がすべて消え去った。

 

「こんなもの…とにかくそいつを連れて早く行くぞ」

 

 そう言って俺を担ぐ紅蓮

 

「開けワープホール。俺達を任意の場所まで連れていけ」

 

 紅蓮がそう言うと、目の前にワープホールが出現した。

 

 そして紅蓮がワープホールに入って数歩歩くと地霊殿の目の前に出てきた。

 

 そこに紅蓮は俺を置く。

 

「後はシャロの出番だろ?」

 

「うーん…そもそもとして私の回復力は微々たるものなんだよね。どちらかと言えば妖術の方が得意なくらいで」

 

「はぁ!?てめぇは知の神。知神(ちしん)だろ!?何で回復出来ねぇんだ!もうお前、知神名乗るのやめて妖神(ようしん)名乗れよ!このショタ神!!」

 

 何かシャロがボロクソ言われてる。

 

「私はショタじゃ無いもん!ちゃんとした女の子だもん!」

 

「なら女の子に見られたいならおしゃれとかしてみろよ!」

 

 なにやってんだか

 

「ぐ、あ…」

 

 そしてまた腕が痛くなってきて俺は声を漏らす。

 

「お兄ちゃん!」

 

 と、優が駆け寄ってきた。

 

 そして抱きついてくる。

 

 泣いている。優が…

 

「心配してくれてありがとな」

 

「う、う。死なないで…お兄ちゃん!」

 

 その瞬間、優の両手が光り始めてそれを中心に波状に俺の体に光りが広がっていった。

 

 そして俺の体の痛みが()えていくような気がした。

 

 そして完全に癒えた。

 

 これは!

 

 そして俺は起き上がる。

 

『真!(君)『お兄ちゃん!』』

 

 皆が一斉に驚いた声を出す。

 

「大丈夫なのか?」

 

「ああ、俺も驚いている…が、完治したようだ」

 

 そう言うと紅蓮が口を開いた。

 

「能力…か」

 

 そう言うことか!?

 

 つまりこれは優の能力で

 

「優、これってお前の能力か?」

 

「え?私の能力?」

 

 自分でも気がついてないパターンか

 

『どんな感じだった?』

 

「そうだな。徐々に癒えていくような感じだった」

 

 すると紅蓮はニヤニヤしながらシャロに言った。

 

「シャロ、お前よりよっぽど金糸雀の方が知神向いてんじゃねーのか?」

 

「確かにね」

 

 そこ否定しないのか。

 

「金糸雀。お前の能力は【加護、治癒を操る程度の能力】だ」

 

 回復要員か。

 

「じゃ、これから頼んだぞ。優」

 

「…うん!私、お兄ちゃん達の役に立てるように頑張るよ!」

 

 よし、それじゃ。次の襲撃に備えて置くとするか。

 

「紬も俺の相棒として、これからもよろしくな」

 

「ふふん。私は真が行くとこなら森の中、水の中。それこそ炎の中まで。どこまででも着いていくよ!」

 

 と、握手する。

 

 絶対に殺させねぇよ。

 

 燐火。絶対に負けない。

 

 炎なんかに負けてたまるか!




 はい!第32話終了

 遂に優に能力が!

 かなり有能な能力が!?

 そして真は炎の能力を持つ燐火を倒すことが出来るのだろうか?

 それでは!

 さようなら


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第33話 向けられた殺意  燐火の思い

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 こいしを探すために森に入った真

 そこで真と紬は野生の妖怪に襲われてしまう。

 二人でカバーし会うが、ついに紬がピンチに陥ってしまう。

 そこにライトが助けに入った。

 そしてついに真達はこいしを見かけるも、燐火に殺される寸前だった。

 そして燐火は去り際に森を焼き払っていく。

 やがて真は煙の吸いすぎで一酸化炭素中毒になってしまって倒れてしまう。

 そこを紅蓮らに助けられる。

 そして優の新たな能力、【加護、治癒を操る程度の能力】で真は全回復するのだった。



 それではどうぞ!


side真

 

 あれから数日間。何の音沙汰もなかった。

 

 特にこれと言った事件は無かった。

 

 あったと言えば、霊夢が紫をカツアゲしていたくらいだ。

 

 なにやってんだよ。博麗の巫女。

 

 そして紫はなぜ嬉々としてお金を渡す。拒めよそこは

 

「へーい。屋台やってまーす」

 

 今回の総被害は地霊殿が半壊。森もだいぶ燃えてしまった。

 

 だが、紅蓮が居なかったら全焼コースまっしぐらだっただろう。

 

「お兄ちゃん!お腹空いた~何かおすすめある?」

 

 と、今日も早く終わったようで俺の屋台に寺子屋の皆を連れてきた。

 

「今日は安く豚肉が手に入ったから、豚串でも置いとくか」

 

「相変わらずお気楽商売…って言うかそれ独り言だよね?お兄ちゃん」

 

 と、つっこみを入れられてしまう。

 

「と言うわけで今日は豚串が安いぞ。ついでに焼きそばやらも売ってっから」

 

 と、おすすめを言ってから注文を聞いて作り出す。

 

 鉄板で焼いてるんだが、火力を変えやすい調理機器が欲しいと思う今日この頃

 

「ハイよ。お好み焼き。焼きそば。豚串。かき氷」

 

 今日の連れは大妖精、ルーミア、チルノだ。

 

 優が豚串と焼きそば。大妖精が焼きそば。ルーミアが豚串とお好み焼き。そしてチルノがかき氷。

 

 ちなみにかき氷器なんてハイテクな機会はおいてないから氷を包丁で削っている。

 

 これがなぜ好評なのかが分からない。適当に削っているだけなのに

 

「ありがとう。お兄ちゃん」

 

「お前らが来る度に俺はこいしたちに屋台の事がバレるんじゃないかって気が気じゃ無いんだが?」

 

 そう言いながらもここに通うことを許してる俺である。

 

「じゃーな。気をつけて帰ろよ」

 

 そして皆は食べて帰る。

 

 そろそろ片すかなっと

 

 その瞬間、一瞬で霊力が背後に現れた。

 

 殺気オンリーのシンプル?なこの霊力は

 

「動かないで…なんてね」

 

 と、俺の首に突き立ててた刀をしまう燐火

 

 何の音沙汰も無いと思ったら

 

「何のようだ?まさか俺が油断している間に殺す気か?」

 

「今日はオフ。私は屋台廻りが趣味なんだよね」

 

 殺し屋さんが呑気なことで

 

「じゃ、おすすめ頂戴」

 

 そういえばあの時も屋台に居たな。そう言うことか

 

 そしておすすめを作ってやる。

 

 敵に作るのは複雑だな。

 

 すると急に霊力が消えた。

 

 驚いて燐火を見ると、そこにはまだ燐火は居た。

 

「なに驚いてるの」

 

「いや、急に霊力が消えたから」

 

「この技はかなり難しいけど、マスターすれば知神位には勝てるようになるよ」

 

 そんなのが

 

 そう言えばライトの霊力も時々消えてるような。

 

「はいよ。俺の自信作だ」

 

 と、出すと驚いて箸が止まった。

 

「美味しい」

 

「はいはい。良かったな」

 

 と言って皿を洗い始める。

 

 俺は実際にレストランの厨房に立ってたことがあるんだ。これくらい出来ないと厨房に立てない。

 

「ありがとう」

 

「はいはい。ホントに感謝してんならこいしたちを襲わないでくれ」

 

「それは出来ないかな…友達の為にも

 

 その瞬間、乱れた霊力が出てきた。

 

 悲しみや怒り、その他もろもろが溜まりにたまったような霊力だ。

 

「それじゃあ、ありがとう。美味しかった」

 

 そう言って燐火は俺の屋台を後にした。

 


 

side燐火

 

「ただいま戻りました」

 

 私はそう言って家に入る。

 

 そして私は自室に直行してベッドに蹲る。

 

 いつの頃からだったか、私には人を殺す抵抗が無くなっていった。

 

 理由は小さい頃にこの家に拾われてからずっと殺しをしてきたからだ。

 

 失敗すれば死と同等の苦痛を与えられる。

 

 だから私は逆らえない。

 

「随分荒れているようだな。紗綾」

 

 その瞬間、異常にムカついて枕を投げた。

 

「その名前で呼ぶな!」

 

「物を壊してお前の気は晴れるのか?」

 

「黙れ!黙れ!黙れ!」

 

 と叫ぶ。

 

 嫌だ。嫌だ。嫌だ。

 

 本当はもう殺しはしたくないし逃げ出したい。

 

「どの道、お前は殺るしかないんだ。喩えどんな標的(ターゲット)だとしてもな」

 

 そう言うと私の部屋から出ていった。

 

 随分殺したな…

 

 もう後戻りできない状況。

 

 絶対あの幸せそうな環境を壊さなきゃいけないのか…

 


 

次の日

 

 私が外にいこうとすると

 

「燐火。標的(ターゲット)変更だ」

 

 そう言ってきた。

 

 今までこんなことただの一度も無かった。

 

「次の標的(ターゲット)は~~~だ」

 

 私は驚いた。

 

「出来るな?」

 

「はい。ジーラ様。行ってきます」

 

 そう言って私は仕事に向かった。

 


 

side真

 

 目を覚ますと隣にこいしが居て、その頬は涙に濡れていた。

 

「真…死なないで…」

 

 何か嫌な夢でも見てるのだろう。

 

「ずっと一緒だからな」

 

 と言って頭を撫でると安心したのか穏やかな顔になった。

 

 俺達は地霊殿が直るまで、紅魔館に泊まらせてもらっていた。

 

 ここなら襲われたとしても音恩達が居るし、何よりパチュリーが居るから火事の心配も無いだろう。

 

 逃げ込むなら最適だ。

 

 よ!幻想郷の避難所

 

 その時、

 

「まさかこんなに早くバレるとはな」

 

 そして俺はこいしに「待っててくれ」と言って部屋からでる。

 


 

 門まで行くとひどい有り様だった。

 

 美鈴と咲夜が倒れていて、刀を持った燐火が立っていた。

 

 その瞬間、俺は見つかってしまった。

 

 俺は霊力刀を作り出す。

 

 その次の瞬間、いきなり燐火が襲いかかってきた。

 

 何の躊躇いもなく

 

 今まではこいし等を殺そうとして居た燐火がこいし達が居るであろう部屋に目もくれず。

 

 もしかして

 

「燐火…」

 

「また会ったね。標的(ターゲット)さん」

 

 本気の殺意。

 

 それに対抗するは守りたい心

 

「今度こそ、本当の最終決戦と行こうぜ」

 

 と、弾き返す。

 

「ん。(のぞ)むところ」

 

 そして同時に地面を蹴って斬りかかった。




 はい!第33話終了

 ついに始まった最終決戦

 果たして真は己に向けられた本気の殺意に勝つことが出来るのだろうか? 

 それでは!

 さようなら


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第34話 神をも超えうる力  クレア

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 屋台で会話をする真と燐火

 そんな燐火には思いもよらない事実が

 もう殺したくない気持ちと死にたくない気持ちがぐちゃぐちゃ混ざり会う。

 そんなとき、ターゲットが真に変更

 本気の殺意に当てられた真は燐火に勝つことが出きるのだろうか?

 ついに最終決戦が始まる。



 それではどうぞ!


side真

 

 刀同士がぶつかり合う度に金属音が鳴り響く。

 

 そして体が威圧されて思うように動かない。これが燐火の本気の殺意か

 

「すごいなお前の殺気。威圧感が半端ない」

 

 そう言うと霊力をしまう燐火。

 

「冥土の土産に教えてやろう。この技は神になるために最低条件として神なら誰しもが持ってる技。クレア。この技は霊力を抑えたり、霊力に含まれる感情をコントロール出来る。そして心にも思ってない感情を作り出すこともね」

 

 そして「これがクレア」と良いながら

 

 殺気しか籠ってない霊力を解き放った。

 

 なんて威圧感だ。

 

「殺す。さしちがえても殺す」

 

 そう言いながらも手を開いたり閉じたりしている。

 

 その度に殺気は強くなっていく。

 

 心臓が締め付けられるような感じがして胸を押さえる。

 

「はぁ…はぁ…くっ」

 

 そしてその場で膝まずいてしまった。

 

「このままじわじわと殺してあげるよ」

 

 この霊力だけでわかる。

 

 これは並の精神力じゃない。

 

 その証拠に俺の霊力刀にヒビが入ってきている。

 

 どんな経験をしたらこんなに強くなるんだ。

 

「だけどもう少し楽しみたかったな」

 

 その次の瞬間、燐火は身動きがとれなくなってしまった。

 

「操作《己の赴くままに》」

 

 すると紅魔館から音恩が出てきた。

 

「真さん。なにやってるんですか。一人で飛び出すなんて」

 

 と、叱られてしまった。

 

 更に奥からもぞろぞろと出てきた。

 

「咲夜!」

 

 と、レミリアとフランは驚いて駆け寄る。

 

「クレア。まさか俺以外にも普通の人間で使えるやつが居るなんてな」

 

 そう言ってライトも殺気だけの霊力を解き放った。

 

 そしてその霊力同士がぶつかり合って押し合う。

 

 しかし、ライトが負けてしまってぶっ飛ぶ。

 

 まさかライトより精神力が強いなんて

 

「いってー。いやー。すごいな」

 

 強すぎる。

 

「私にはあなた達では勝てない。絶対に!」

 

「どうかな…久しぶりにやるか…」

 

 何もないところに握りこぶしを作る。

 

「精製《スピア・ザ・グングニル》」

 

 すると俺の霊力からスピア・ザ・グングニルが精製されて俺の握りこぶしのなかに柄。鋭利な方は地面に刺さって出来上がった。

 

 そしてそれを持って飛び上がる。

 

「あれは私の」

 

「スピア・ザ・グングニル。いけぇぇっ!」

 

 そして投げる。

 

 しかし、一瞬で割れてしまう。

 

「こんなもの?」

 

 これは霊力刀では勝てねーわ。

 

「【神成り】!」

 

 そう言って片腕を高々と掲げる。

 

 すると手のなかに一本の刀がやって来た。

 

『やぁやぁ、だいぶ苦戦してるみたいだね』

 

「行くぞ!」

 

 そして俺は刀を握りしめて斬りかかる。

 

「火剣《炎の剣》」

 

 そして俺と燐火は剣を交える。

 

 一撃一撃が重い。

 

 そしてどんどん押されていく。

 

「私は標的(ターゲット)を取り逃がしたことのないエリート。私はあなたを殺す」

 

 しかし、俺には燐火の意思と言うものが読み取れなかった。

 

 まるで元からそこにはなにもなかったかのように

 

「燐火…」

 

 すると燐火の斬撃にたいしての反応が遅れてしまった。

 

 そして俺はかすってしまった。

 

 少しだけ血が出てしまった。

 

「何ボーッとしてるの。それでも情け無用だけどね」

 

 そして刀を振り下ろしてくる。

 

 それを少し動くだけでかわす。

 

「そろそろ本気で行くぞ」

 

 そして睨み付けながら燐火を見る。

 

 そして俺は霊力と妖力を刀に込める。

 

「きれいに光るね」

 

「なぁ、人を殺すって…それを仕事にするってどんな感覚だ?」

 

「何が言いたい」

 

「そこに君の意思はあるのか?俺が勝ったら教えてくれ。君の過去」

 

 すると燐火は笑い始めた。

 

 それもとても楽しそうに

 

「面白いな君は…じゃあ私が勝ったら私も教えてほしいな。君のその行動源」

 

「ああ、約束だ」

 

 そう言って霊妖斬を放つ。

 

 かきぃぃん!

 

 と、燐火は霊妖斬を弾き返してこっちに走ってくる。

 

「《限界突破(ブレイク・ザ・リミット)》」

 

「火炎《ザ・フレイム》」

 

 そして俺を飲み込むように火柱が出現する。

 

「行くぜ」

 

 と、体を焼きながらも必死に力を溜める。

 

 これはまだ誰にも見せたことのない技だ。

 

「雨府《大雨(レイン)》」

 

 そうして天に向かって刀を向けると急に天候が崩れ、大雨が降り始める。

 

 するとすぐに火が消化された。

 

 これが俺の燐火対策

 

 そしてもう一回燐火が火を出すも、一瞬で消えてなくなる。

 

「なるほどね…考えたね。まさか火を封じられるとは思わなかったよ」

 

「これでもう火は使えないぜ」

 

 そう言うと燐火はニヤリと笑った。

 

 するとどんどん火を出し始めた。

 

 その度に蒸発する。

 

 やけくそか?と思うような一見無駄とも思える行動

 

「無駄だぞ」

 

 そう言うと

 

「そうかしら」

 

 と言った。

 

 そして空を見上げる。

 

「ねえ、この煙は使えると思わない?」

 

 どういうことだ?

 

 そしたら、煙の中心で回り始めた。

 

 そして刀を前方へ向ける。

 

「この煙が渦を巻いてやがて災害と化す」

 

 そしてやがて

 

「た、竜巻」

 

「さあ、これはどうする?」

 

 竜巻なんて…どうすれば…

 

 だけどやるしかないんだ。

 

 そして俺は竜巻に突っ込んでいく。

 

「うおらぁっっ!」

 

 そして霊力刀を作り出してクロスする。

 

 その二本の刀で竜巻を受ける。

 

 しかし、どんどん押されていく。

 

 まずいなこのままじゃ紅魔館が…

 

 やっぱダメだな

 

 俺はライトや未来の俺みたいに強くなれない

 

 未来の俺は仲間が殺されたことにより、歪んだ強さや思考を手にいれてしまった。

 

 だが

 

「俺は別の方法で強くなる!」

 

 そして竜巻を×の形に斬った。

 

 燐火は刀を落として背後に倒れる。

 

「今だ!真!止めをさせ!」

 

 と言う声が聞こえてきた。

 

 どうすれば良いんだ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1、止めをさす

 

 

 2、止めをささない




 はい!第34話終了

 ついに決着がつきました。

 そして今回は選択肢があります。

 1番の「止めをさす」は来週の7時

 2番の「止めをささない」は来週の19時にお届けします。

 それでは!

 さようなら


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第35話 決着、そして ~止めをさす~

 はい!どうもみなさん!ミズヤです

 今回は前話の選択肢の止めをさすの続きです。

 止めをささないは19時に公開されるので楽しみにしてください!



 それでは前回のあらすじ

 ついに燐火との最終決戦

 最初こそ劣勢だったものの、途中で現れた数々の仲間の力を借りて、何とかピンチを脱する。

 かと思いきや、何と火が消化されたときの煙で竜巻を作り出して襲いかかってきた。

 そして何とか竜巻ごと燐火に攻撃を与えることに成功し、倒すことに成功。

 果たして真は燐火に止めをさすのだろうか?



 それではどうぞ!


「真!止めをさせ!」

 

 と言う声が聞こえてくる。

 

 本当に殺しても良いのだろうか?

 

 今ここで殺したら後悔するのではないか?と言う気持ちが俺のなかで渦巻く。

 

 その時、

 

「あいつはお前の彼女のこいしを殺そうとしただけにとどまらずさとりも殺されそうになり、多くの人がそいつに殺されたんだぞ!」

 

 その瞬間、俺の中で何かが吹っ切れた。

 

 こいしを殺そうとした…それは俺にとっては許せることじゃない。

 

 俺は光のない目で燐火を見た。

 

 そうだ…殺そう。世界の害悪は…すべて

 

 そこからしばらくの記憶はない。

 

 目が覚めると永遠亭のベッドで寝ていた。

 

 聞いた話によると燐火にたいしてとても人様に言えるようなものじゃないことをしていたらしい。

 

 終わったら不気味に目を見開いて帰り血を浴びた格好で笑っていたらしい。

 

 でも、これですべて終わったんだ。

 

 良かったんだ。これで。と自分に言い聞かす。

 

 結局燐火の過去を知ることが出来なかった。

 

 残ったのは胸の中のモヤモヤのみ、

 

 このモヤモヤは今の俺では一生知ることは出来ないだろう。

 

「あ、真!お見舞い持ってきたよ」

 

 俺は全治一週間らしい。

 

 なぜ妖怪の治癒能力が発動してないか分からないが、恐らく妖力の少なさで治癒能力が低下しているのだろう。

 

「サンキュー」

 

「じゃあ剥いてくるからね」

 

 さすがのこいしでも果物の皮剥き位は出来た。

 

「はい。あーん」

 

 とりんごを爪楊枝で刺して食べさせてくれる。

 

 こんな幸せな生活がいつまでも続けばいいのに

 

 そして俺は退院した。

 


 

「燐火が殺されたか…」

 

 暗い部屋の中、男が言った。

 

「はい!しかし、彼女は我が組織のエリートのなかではまだまだ弱い人材です」

 

 と、男が言うとボスらしき男がにやっと笑いながら言った。

 

「次はお前が行け」

 

 「はっ!」と、返事して一人の男は出ていった。

 

「我々が殺せない相手など居ないのだ」

 


 

「行ってきます」

 

 そう言って俺は紅魔館を出る。

 

 俺は今、地霊殿を直すための大工の仕事を手伝っている。

 

 使える木材とかが残っててだいぶ経費削減できたが、かなり色々なものが焼けてしまってショックだったりする。

 

 そして今日も工事現場に向かうのだ。

 

 工事現場について早速作業着に着替えて釘とトンカチ、あとは片手に木材を持って足場を登っていく。

 

 地霊殿は大きい建物なだけあって普通の建物よりも大変だと地底の鬼もそう言っていた。

 

 皆の思い出の建物が無くなって、これからは今、建設しているこの建物をこれからの思い出にしていくんだ。

 

 ここがエントランス。ここが食堂。等々考えて作っていく。

 

 何故かみんなに間取りを任されたので出来るだけ前の地霊殿を再現していく。

 

「こっちお願いします!」

 

 と言われたのでそちらへ向かう。

 

 今は屋台よりも地霊殿を優先している。

 

 昼は俺が作って持っていく。

 

「いやー。いつもすまないな真」

 

「いや、良いですよ。俺が好きでやってるんだから」

 

 俺が今話しているのは星熊(ほしぐま) 勇義(ゆうぎ)。鬼の四天王の一人

 

 よく酒を飲むのに付き合わされている。

 

「お疲れさまでした」

 

 そして今日の建設はここまでにして解散した。

 


 

 紅魔館に帰ってくると美鈴が倒れていた。

 

 多分居眠りしててまた咲夜にやられたんだろう。

 

 そして建物内に入ると不気味なほどに静かだった。

 

 ん?この臭い…鉄?

 

 俺は嫌な予感がして急ぐ。

 

 すると

 

「咲夜!」

 

 廊下に血まみれで倒れていた。

 

 この鉄の臭い…

 

 そして更に先を見るとフランやレミリア、更には途中の部屋で音恩や鈴音。パチュリー

 

 そしてある期待を願ってこいしの部屋に向かう。

 

 するとそこにはさとりとこいしが倒れてて、さとりがこいしをかばうように覆い被さっている。

 

「そ、んな。さとり、こいし」

 

 と、手と膝をついた。

 

「こいしーつ!うっ!!」

 

 急に胸に鋭い痛みが走った。

 

 見てみると俺は背後から何者かに剣で貫かれていた。

 

 そして

 

「う、て、てめぇ……」

 

「確かお前の能力は【致命傷を受けない程度の能力】だったな。残念だったな俺が相手で…」

 

 そして俺から剣を抜く何者か

 

 あれ?意識が遠退いて…

 

 みんな…すまん…

 

 そして俺は今日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 殺された。

 

 bad end




 はい!第35話終了

 今回は止めをさすでした。

 こちらはbad endです。

 では止めをささないの方は今夜19時公開予定です。

 それでは!

 さようなら


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第35話 決着、そして ~止めをささない~

 はい!どうもみなさん!ミズヤです

 今回は前回の選択肢、『止めをささない』の、続きです。



 それでは前回のあらすじ

 ついに燐火との最終決戦

 最初こそ劣勢だったものの、途中で現れた数々の仲間の力を借りて、何とかピンチを脱する。

 かと思いきや、何と火が消化されたときの煙で竜巻を作り出して襲いかかってきた。

 そして何とか竜巻ごと燐火に攻撃を与えることに成功し、倒すことに成功。

 果たして真は燐火に止めをさすのだろうか?



 それではどうぞ!


side真

 

「真!止めをさせ!」

 

 と言う声が聞こえてくる。

 

 本当に殺しても良いのだろうか?

 

 今ここで殺したら後悔するのではないか?と言う気持ちが俺のなかで渦巻く。

 

 その時、

 

「あいつはお前の彼女のこいしを殺そうとしただけにとどまらずさとりも殺されそうになり、多くの人がそいつに殺されたんだぞ!」

 

 その瞬間、俺の中で何かが吹っ切れた。

 

 こいしを殺そうとした…それは俺にとっては許せることじゃない。

 

 俺は光のない目で燐火を見た。

 

 そうだ…殺そう。世界の害悪は…すべて

 

 そして俺の思考は殺意に支配された。

 

 その時、

 

 燐火が一度だけ動揺したことを思い出した。

 

 何でこんなときに思い出すんだよ…

 

 真っ暗な空間でひたすら地面を叩き続ける。

 

 その時、

 

『真。自分が正しいと思う道を歩めばいいと思うよ』

 

 と、どこからともなく聞こえてきた。

 

 この声は?

 

『さぁ、真。真はどうしたいの?』

 

「お、俺は…燐火を殺して…ぐっ」

 

 急に頭痛が俺を襲った。

 

 確かめたい。あの動揺の理由を

 

「俺は…俺は!」

 

 ピキピキと真っ暗な空間にヒビが入っていく。

 

 そして

 

 パリーンと空間が割れて光が俺を包んだ。

 

 俺は…殺らない。

 

「確かめるんだ。燐火の動揺の理由を!」

 

『そう、それでいい』

 

 その次の瞬間には元の場所へ意識が戻っていた。

 

 霊力刀は手のなかには無かったが、胸に片手で柄を握ってもう片方で押し込むような形で持っていた。

 

 あと少しで燐火の胸に刀が突き刺さると言うところまで来ていた。

 

 そこで俺は踏みとどまる。

 

 そして刀を投げた。

 

「紬」

 

 そう言うと神成りは紬に変わって俺のとなりに降り立つ。

 

「真!どうして!」

 

「情けは要らない。殺すならころ」

「黙っていろ!」

 

 俺がそう言うと萎縮して静かになった。

 

「俺は…こいつを殺さない…俺はこいつが無理にやらされてるように見えたんだ」

 

 そして燐火とみんなを交互に見る。

 

「知りたいんだ。この事件のすべてを…ここで終わらせたら何もかもを失う気がするから!」

 

 そう言うと窓からこいしが顔を出した。

 

「ふふっ。真らしいね」

 

 そして飛び降りてきた。

 

 俺はこいしをお姫様だっこで受け止めて地面におろす。

 

「ねぇ、教えてよ。何があったの?」

 

 言い渋ってるような感じだった。

 

 伝えたいけど伝えれない。そんな感じだ。

 

「まぁ、仕方ないね。私の敗けだもんね」

 

 すると燐火は話し始めた。

 

「私は小さい頃にさらわれたの。そして私は人身売買にかけられた」

 

 同じく燐火の友達、楓花(ふうか)と言う少女もさらわれて人身売買にかけられてしまった。

 

 燐火はその後、ある男性に買われたと言う。楓花も同様に

 

 燐火はその家であることを強いられるようになる、それが殺し。

 

 人殺しを躊躇することなく行えと言うものだった。

 

 逃げ出したかったが逃げられなかった。

 

 逃げれば楓花が殺されるから。

 

 楓花と燐火は隔離されてしまい、燐火が10年間休まずに殺し屋として仕事をし続ければ楓花と燐火を解放すると言う条件を提示された。

 

 だから今の今まで人殺しをしたくなくてもしているんだとか。

 

 だから心を無にして戦っていた。

 

 心を無にしているといつの日にかクレアが使えるようになっていた。

 

 そしていつの間にか強くなってたと言う。

 

「あと一年だったんだけどな~」

 

 と、遠い目をする。

 

「けどもういいや…じゃーね。私はもう殺しもしないし、あなたたちにも関わらない」

 

 そう言ってどこかに走り去ってしまった。

 

「良いの?追いかけなくて」

 

「ちょっと行ってくる。今日はもしかしたら帰んないかもな」

 

 そう言って俺も走っていく。

 

 んじゃ。行きますかね。

 


 

side燐火

 

 負けてしまった…

 

 初めて仕事で負けた。

 

 これは大失敗だ。

 

 帰ったら恐らく私と楓花は殺される。

 

 あと一年だったのに…

 

 楓花…ごめんね

 

 と、涙を流す。

 

 海藤って言ったっけ?

 

 あの人みたいな仲間が私の仲間が居たらこんな風にならなかったのかな?

 

 そして歩いているうちに丘についた。

 

 そこで蹲る。

 

 すると自然と目から涙が溢れ出してきた。

 

 この9年間の地獄から解放されるかもしれないと言う安心と、申し訳ないと言う気持ちと、殺されるかもしれないと言う恐怖から涙が出てくる。

 

 それにしてもあの時の威圧

 

『黙っていろ!』

 

 いや、そんなはずはない。

 

 だってあれはクレアの中でも最上位、力神でも習得するのが難しくて破壊神位しか使えないと言われてる。

 

 だから多分私の勘違い…

 

 それより、もう少しここで心を落ち着けたい。

 

 もし今、あのメンバーに会ったら私が私でなくなるような気がするから。

 

 特にあの海藤に

 


 

side真

 

「ったく、どこ行ったんだ?」

 

 俺は燐火が走っていった方向だけを頼りにして歩いていた。

 

 すると俺は開けた丘に出た。

 

 そこにいた。

 

 真ん中で蹲っていた。

 

「燐火!」

 

 俺がそう呼ぶと燐火は一瞬肩を震わせてからゆっくりと振り返った。

 

 目が腫れていた。少し充血していて目尻には涙がたまっていた。

 

 すると、慌てて目尻を拭く燐火。

 

「何よ。私にまだ何かあるの?」

 

 と、クールを繕う燐火。

 

 ただ俺には少し弱々しく見えた。

 

「良いのか?俺を殺さなくて」

 

 そう言うと燐火は少し自嘲気味に笑った。

 

「私はあなたに負けた。私はこのままきっと解雇だけじゃ済まないでしょうね」

 

 そうして立ち上がり、去ろうとする。

 

 しかし、俺は手首を掴んでそれを阻止する。

 

「離して!」

 

「離さない」

 

 何とか俺の腕を振りほどこうとするが俺は決して離さない。

 

「このまま君を帰したらダメな気がするから」

 

 すると、大人しくなった燐火

 

「あなたに何が出来ると言うの!」

 

 と、うつむきながら怒鳴るような口調で言ってくる燐火

 

「俺が君を救う。君の雇い主を倒して君を自由にする」

 

 すると、その真っ赤な髪が一瞬フワッと舞い上がった。

 

 そして

 

「そんなのダメだよ。あなたの方が殺されるよ」

 

 燐火は止めるように説得してくる。

 

「その言葉。俺を殺そうとしてた人と同一人物だとは思えないな」

 

「とにかくダメ!」

 

 と、子供っぽく言う燐火。

 

 まだ女の子だもんな。

 

 そんな子にこんな現実はあまりにも辛い現実だろう。

 

「どうしても行くと言うなら…私があなたを殺す!」

 

 そして剣を取り出して斬りかかってくる。

 

 それを俺は霊力刀で剣を防ぐ。

 

「おりゃぁぁぁっ!」

 

 しかし、それを軽々と防ぐ。

 

 燐火は半ば自棄になっているようだった。

 

 そんな無理矢理な剣筋に負けるほどデタラメな修行は積んでない。

 

「今の君の剣には覇気が感じられない。なぁ、繕うのはもうやめにして本音を教えてくれよ」

 

 俺がそう言うと燐火は剣を落としてしまった。

 

 そして俺も刀を消す。

 

 すると、燐火は抱きついてきた。

 

 そして俺の胸に顔を埋めて泣き出した。

 

「わた、しは。もう人を殺したくない!」

 

 やっと本音を聞けた。

 

 俺はそれだけで充分だった。

 

「そうか…そうか…」

 

 と、俺は頷く。

 

 だが俺は穏やかな口調で合いの手を打つものの、心は激しい怒りに満ち満ちていた。

 

「もう、縛られるな。お前の意思で行動しろ。自分でやりたいと思うことをするんだ」

 

「う、うう…」

 

 あの紅の殺し屋が泣いた。

 

 あの冷徹無情。感情を持たず、ただただ目標(ターゲット)を殺すことしか考えていないと思われてきた人物が泣いた。

 

「さぁ、一緒に自由になろうぜ″燐火″」

 

 そう言うと俺の服を掴んでる手の力が強くなったような気がした。

 

「俺が倒すよ。君の雇い主。君の地獄の日々、すべての元凶を」

 

 そして俺は優しく包容する。

 

 俺は元凶を絶対に許さない。

 

 死よりも恐ろしい目にあわせてやろう。

 

 その時、

 

 クゥー

 

 と言う可愛らしい音が鳴った。

 

 その瞬間、燐火の顔が耳まで赤くなった。

 

「わ、私じゃない」

 

「いや、まだなにもいってないんだけど」

 

 盛大に墓穴を掘ったな。

 

「まぁ、確かに腹が減ってきたな。よし!」

 

 そして俺は立ち上がる。

 

 それにつられて燐火も立ち上がった。

 

「一緒に飯を食いにいこうぜ。俺が奢るから気晴らしになるかも分からないけどいっぱい食べても良いぞ」

 

 そう言うと満面の笑みを浮かべて

 

「うん!」

 

 その姿は年相応の女の子だった。

 

 to be continued




 はい!第35話終了

 今回は止めをささないでした!

 どうでしたか?

 他の話よりも妙に文章に気合いが入っているような気が

 何か書いてる間に真と燐火のやり取りが楽しくなってしまいました。

 やっぱり何事も楽しくやるのが一番ですよね。

 それでは!

 さようなら


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第惨章 紅に染まる大地 ~死守する自由と言う名の希望~希望の章
第36話 新たな仲間


 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 前回は二種類あった。

 燐火に止めを刺して、その後全員殺されるbad end

 そしてもうひとつが燐火を見逃して元気付けると言うものだった。

 そして真はすべての元凶を倒すと心に誓う。

 その前に腹ごしらえだ!



 それではどうぞ!


side真

 

 俺は燐火と共に晩飯を食いに来ていた。

 

 辛いことを思い出させてしまったから、これだけで気晴らしになるか分からないけど

 

 人里の俺の伝がやってる店だ。

 

「おー。真君。いらっしゃい」

 

「おっちゃん。今日は二人で頼む」

 

「なんだい?こいしちゃんとでも来たのかい?」

 

 以前何度かこいしと来たことがあるので大将はこいしのことを知っている。

 

 因みに大将は俺とこいしが付き合ってることも知っている。

 

「今日は違うんだ」

 

「あれ?じゃあ誰だい?」

 

 そう大将が言うと燐火が入ってきた。

 

 フードは被ってない。

 

「こいつはえーっと…」

 

「私は菜乃花(なのはな)。海藤とは…どんな関係?」

 

 確かにな、前は敵同士で今は同盟的な関係だ。

 

 複雑な関係だ。

 

 というか、俺が燐火をどう紹介しようかと考えたっけ、別の名を名乗ったな。

 

 もしかしてこれが本名?

 

「まぁ、知り合いだよな」

 

「そうね」

 

「そうかそうか。じゃあ注文決まったら伝えろよ。とびきり美味いもんを作ってやらぁ!」

 

 そう言って腕の筋肉を膨らませてその筋肉をもう片方の手で叩く。

 

 このおっちゃんの料理は俺が保証する。

 

 以前、このおっちゃんの娘が妖怪に襲われているところを助けると、お礼にと飯を作って食わせてくれた。

 

 その時の料理がとても美味くて、店をやってるって聞いたからこうやってよく来たりしてる訳だ。

 

「いやー。ここの味は俺じゃ再現できないくらい美味いから期待して良いぞ」

 

「え?海藤でも?」

 

「まぁ、俺は昔ちょっとだけ料理関係の仕事してたってだけだからな。全然違うわ」

 

 そんなことを話していると俺がいつも頼むやつが届いた。

 

 まだ頼んでもないが、いつも必ず最初に頼むものだからすぐ届いた。

 

「注文してないのに」

 

「常連だから俺の頼む料理をしってんだろ」

 

 まず届いたのはきゅうりの漬け物だ。

 

 俺は普段漬け物などあまり食べないが、ここのきゅうりは定期的に食べたくなってしまう。

 

 ちなみに初めておっちゃんの料理を食べたときにもあった。

 

 そして一つ箸でつまんで口にはこぶ。

 

 パリッと言う野菜を噛む音がなる。

 

 この野菜はおっちゃんが作ってるらしい。

 

 取れたてでとても生きがよくて美味い。

 

「うまいぞ」

 

 そう言って差し出す

 

 すると燐火も箸で一つつまんで口にはこんだ。

 

「あ、美味しい」

 

「だろ?」

 

 そしてどんどん食べる燐火

 

 そしてやがて注文した料理が届いた。

 

「これも美味しい…」

 

 燐火の表情は既にもとに戻り、というか最初の表情より楽しそうに見える。

 

 そして暫くそこで色々なものを食べた。

 

 あー。また稼がなきゃな。

 

 一気に俺の財布が涼しくなってしまった。

 

「ご馳走さまおっちゃん。また来る」

 

「おうおう。いつでも来い。あんたなら大歓迎だ」

 

 そして手を降って店を出る。

 

「さて、燐火。帰るか」

 

「帰るってどこに?」

 

「決まってるじゃねーか。紅魔館にだよ」

 

「でも会わせる顔が」

 

 と、また表情が暗くなる燐火

 

「それくらいで人を拒絶するようなやわな奴は俺の仲間にはいない」

 

「帰ろうぜ。皆の元へ」

 

 と、手を差し出す。

 

 するとまた泣き出した。

 

「おい、どうしたんだよ!」

 

「何でもない…」

 

 そして俺の手を握る燐火

 

「着いていくよ。何にたいしても甘々な天然タラシさん」

 

 そう言って俺の手を引いて走り出す燐火

 

「え!?それってどういう意味だ!」

 


 

紅魔館

 

「帰ってきたわね」

 

 俺たちが紅魔館に着くと皆が門の前で待っていた。

 

「0時跨いだのに待っててくれたのか?」

 

 そう聞くと

 

「そんなの当たり前。真が戦ってるのに私たちだけのうのうと中で待ってることなんて出来ないわ」

 

 と、レミリアが言ってきた。

 

 それに皆が頷く。

 

「あ、そうだ。あと一人、泊める人を増やしても良いか?」

 

 そう言って俺の後ろで隠れてた燐火を出す。

 

「やっぱりそうなったわね。ちゃんと準備してあるわよ」

 

 とレミリアは胸を張ってそう答えた。

 

 さすが運命を操れる吸血鬼だ。こうなることも分かってたって事か。

 

「皆!聞いてくれ。俺は燐火と共に燐火達のアジトに乗り込んで潰してくる事にした。だから燐火とは同盟関係になった。俺達とこいつは敵同士じゃない」

 

 そう言うとやっぱりと言う顔でこっちを見られた。

 

「やっぱり真はこうじゃなくちゃね」

 

「だな」

 

「それでこそ真さんです」

 

 そして燐火は正式に一員として選ばれた。

 


 

「燐火はもうダメだな。完全に海藤 真にそそのかされている」

 

 暗い部屋の中、男が言った。

 

「はい!しかし、彼女は我が組織のエリートのなかではまだまだ弱い人材です」

 

 と、男が言うとボスらしき男がにやっと笑いながら言った。

 

「次はお前が行け」

 

 「はっ!」と、返事して一人の男は出ていった。

 

「我々が殺せない相手など居ないのだ」

 


 

次の日

 

 俺が起きると扉の外に霊力を感じた。

 

 無感情?

 

 これは一体誰だ?

 

 そして誰かが入ってきた。

 

「見つけた」

 

 そういった瞬間、窓が霊力の圧によって割れてしまった。

 

 この圧は普通のクレアじゃない。

 

「貴様が海藤 真だな。俺の名は殺し屋隊幹部の一人、コードネーム、能封(のうふ)。あなたの唯一の天敵となりうるものです」

 

 と言って両刃の剣をこちらへ向けてくる。

 

 殺し屋か…

 

 恐らくこいつはリーダーの差し金だろう。

 

 倒す。そしてリーダーも




 はい!第36話終了

 今回は新たな敵、能封が出てきました。

 さて、真は能封に勝つことが出来るのだろうか?

 それでは!

 さようなら


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第37話 新たなる敵

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 燐火の気晴らしのために外食をする真と燐火

 そして真達は燐火を正式な仲間へと呼び込む。

 燐火と一緒にボスを倒すために

 しかしなんと新たな敵、能封が現れた。



 それではどうぞ!


side真

 

 この威圧感。燐火よりすごい

 

 しかし、場所がわりぃな…

 

 部屋んなかだと思う存分戦えねぇ。

 

「海藤…真…コロス」

 

 そして剣を手に突っ込んでくる。

 

 それを俺は霊力刀で防ぐ。

 

「お、重い」

 

 パリィン!

 

 と!霊力刀が砕け散った。

 

 そして俺はまずいと思う前に胸を斬られた。

 

「ぐわぁぁっ!」

 

 精神的肉体的に痛い…

 

 だがしかしいつもの様にダメージを軽減した感が一切ない。

 

 まさか!

 

「やっと気がついたか…俺の能力は【能力を無効化する程度の能力】」

 

 なんだって!

 

 能力無効化はまずい。

 

「つまりお前の唯一の天敵だ」

 

 つまりこいつにはいつもやっているゴリ押し戦法が使えないって事か。

 

 厄介だ。

 

 油断すればすぐに死ねる。

 

 しかし、霊力刀が使えないとなると…紅魔館を壊すのも申し訳ないし

 

 そして後ずさる。

 

「逃がさんぞ!」

 

 そして斬りかかって来る。

 

 それを回避して懐に忍び込む。

 

「しまった!」

 

 そして右手に霊力を集めて腹に押し付ける。

 

「衝撃《霊力の衝撃波》」

 

 そして腕から一気に霊力を放出する。

 

「ぐわぁっ!」

 

 すると能封は霊力の圧に押されて吹っ飛んで扉を破壊して廊下の壁に激突する。

 

 すまん。レミリア

 

 とりあえず相手の剣には俺の霊力刀では勝てないことが分かった。

 

 なら、古来より伝わりしあの戦法を使うしかない。

 

 それは

 

「逃げる!」

 

 そして窓を開けて飛び出す。

 

 そして全身に霊力と妖力を集める。

 

「《狼煙》!」

 

 そして霊力と妖力が暴発して煙が発生した。

 

 その後、起き上がった能封も飛び出してきた。

 

「どこに逃げようと同じこと」

 

 確かに刀は無い。だが

 

 だが、外は俺にとって武器の宝庫!

 

「狙撃《スナイパー》」

 

 いつもの様に石を拾い上げて投げる。

 

 ドカーン!

 

 爆発して煙が発生したが、その上から能封は出てきた。

 

 どうやらジャンプして回避したようだ。

 

 だが、これは想定内。

 

 本命は

 

「今の音何!?」

 

 みんなが出てきた。

 

 その中には紬も

 

「形成逆転だな。【神成り】!」

 

 すると俺の手の中に紬が変身した神成りが飛んできた。

 

 それをキャッチして構える。

 

 そして上からの攻撃を防いだ。

 

「なるほどな」

 

 そして俺からものすごい勢いで距離を置く能封

 

「だがゲームオーバーだ」

 

 何言ってるんだ?こいつ

 

 すると屋上から1人のマントを羽織った男が飛び降りてきた。

 

 そして誰かを脇に抱えている。

 

「終わった」

 

 その脇に抱えている人物を見て青ざめる。

 

「適当な奴をさらってきたぞ」

 

 現実逃避をしたくてみんなの方を見る。

 

 しかしその方向にはその人物は居なかった。

 

「こ、こ、こいし!」

 

 そして地面を蹴ってマントの男に斬り掛かる。

 

『ダメ!真じゃかな』

 

「うっせーっ!」

 

 そして振り下ろす。

 

 その次の瞬間、俺の手は衝撃を受け、神成りを手放していた。

 

「ぐわぁぁっ!」

 

 そして一瞬で横から数十発の攻撃を受けて横に吹っ飛ぶ。

 

「が、は…」

 

「み、見えなかった。攻撃する瞬間が」

 

 と、ライトが呟く。

 

 強い。強すぎる。

 

「あんたは」

 

 と、驚いた表情をする燐火

 

 ん?とマントの男は燐火を見る。

 

「なんで…なんでジーラ殺し屋隊のNO.1がここに居るのよ!」

 

 と、ものすごい剣幕だ。

 

「燐火…それがお前の答えか」

 

「質問に答えて!」

 

「こいつを助けたきゃ1ヶ月後、キルタワーに来い。その時全てが決する。まぁ、俺は獲物は逃がさないけどな」

 

 そう言って二人とも走っていった。

 

 目にも止まらぬスピードで

 

「か、勝てない…」

 

 と、膝から崩れ落ちる。

 

 こいし…

 

 今までの思い出が蘇ってくる。

 

 やっぱり諦めきれる訳ないよな。俺はこいしを守るって約束したからな。

 

「なぁ、燐火。キルタワーってどこだ?」

 

「ここからずっと北。年中雪が降り積もる大地。スノーランドにある」

 

『スノーランドと言えば観光地として有名な場所だよ。オーロラがすごく綺麗で偶にダイヤモンドダストも見れるって!ねぇ、終わったら観光しようよ』

 

 こいつはお気楽な奴だな…

 

 しかしスノーランドか…寒そうだな

 

 と言うか俺が貰った地図には無かったような…

 

『真、その地図古いよ。まぁ、ここ10年前位に出来た土地だからたまたまその地図が乗ってないだけなのかもね』

 

 と、解説してくれた。

 

 と言うか10m離れてても紬の声って聞こえるんだな。

 

「1ヶ月…」

 

 長いな…

 

「紬」

 

 そう言うと神成りは紬に変わった。

 

「真。頑張ろう!頑張ってあのマントを倒そう?その為にも修行だよ」

 

 つーってもな…俺の戦い方だけだと厳しくなってきたんだよな。

 

「とりあえず人里に行ってくる。そして心を落ち着かせる」

 

 そう言って紅魔館を後にする。

 


 

side音恩

 

 さっきのやり取りを見ていて僕は一言も発せずにいた。

 

 どう声をかければいいのか僕には思いつかなかったからだ。

 

 こいしさんが拐われた。それだけで真さんの心はボロボロになる。

 

 唇を噛む。

 

 何も出来なかった自分が悔しくて仕方が無いからだ。

 

 真さんはあんなにも頑張ってるのに僕は何もせずにフランちゃんと遊んでばかり。そんな自分が恥ずかしい。

 

 僕が出来ることといえば敵の足止め程度。

 

 だめだ。そんなんじゃ

 

 そして僕はレミリアの方に向かう。

 

「レミリア。相談があるんですが、いいですか?」

 

「何?音恩。相談って?」

 

「訓練部屋みたいなものを用意して欲しいんですが…」

 

 するとレミリアは咲夜を呼んだ。

 

「訓練部屋を用意してちょうだい」

 

「かしこまりました」

 

 そう言って咲夜さんは消えた。

 

 僕だって役に立ちたい。




 はい!第37話終了

 次回は真視点で人里からスタートします。

 それでは!

 さようなら


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第38話 刀の達人

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 真の部屋に侵入してきた能封は真と戦う。

 そして外までおびき寄せ、神成りを手にした真。これから反撃だと思われたが

「ゲームオーバーだ」

 突如としてこいしを抱えたマントの男が屋上から飛び降りてきた。

 助けようと真は攻撃を仕掛けるも圧倒的な力により真は敗北してしまう。

 そして音恩は何も出来ない事が悔しくなり特訓する事を決心した。



 それではどうぞ!


side真

 

 俺は人里に着いた。

 

 そして俺は例のおっちゃんの店に来た。

 

「どうしたんだい?そんなにやつれて」

 

 いつもの様に客はそんなに居ない。だがその雰囲気が気に入ってる。

 

「異変解決組なんて言う事をやっていたら悲しいことや悔しいことの一つや二つ出来ますよ」

 

 そう言って適当に座った。

 

 適当に座ったから気が付かなかったが隣にフードの付いた上着を来てフードを深く被り、白い立派な髭を生やした人が座っていた。

 

 そして黙っているといつものが出てくる。

 

 そして俺は料理を見ると

 

「あの…これは頼んでないんですけど」

 

 まぁ、全部頼んだ覚えは無いが、いつもは見ないメニューがいつものメニューと共に置かれていた。

 

「サービスだ。それ食って元気出せよ!」

 

 と、肩を叩いてきた。

 

 すると隣からは酒を差し出された。

 

 俺は不思議そうに隣のお爺さんを見ると

 

「わしの奢りじゃ。辛いことがあったなら飲んで気を紛らわすのが一番いい。わしに気にせず飲め」

 

「ありがとうございます」

 

 そして貰った酒を飲む。

 

 あれ?この声、聞き覚えが…

 

 その瞬間脳裏にいつの日かの光景が浮かぶ。

 

 ははっ、まさか、な

 

 そして俺は二人に感謝して食べた。

 


 

 俺は店を後にして街をぶらつく。

 

 酒は1杯飲んだものの酒の強さが相まって素面(しらふ)も同然

 

 その時、路地裏から俺より先に出ていった酒を奢ってくれたお爺さんが出てきた。

 

「お主はさっきの」

 

 その声で半分確信した。

 

 まだ半分はまだ確信が持てないけど

 

「あなた、もしかして妖k」

 

 すると路地裏に引きずり込まれた。

 

「どこで気がついた」

 

「声ですね」

 

 そうか、と言って俺の腕を離す。

 

 すると被ってたフードを取ると確かに妖忌さんだった。

 

「わしにとっては千年ぶり位じゃが、お主にとっては数年ぶり位なもんじゃろ」

 

 そう言われて気がついた。

 

「あー。バレてました?」

 

「ああ、わしはお主に剣術を教えた記憶は無い。じゃがお主はわしの剣術を知っていたからのう」

 

 そういう事か…

 

 俺は剣術を妖夢に教えて貰った。そしてその妖夢は妖忌さんに教えて貰った。必然的に俺は妖忌さんに似るって事か。

 

「久々にやらぬか?」

 

 と、刀を取り出した妖忌さん

 

「良いですね。やってみましょう。言っておきますが以前より強くなってますよ」

 

 そう言って近くの岩場に移動した。

 

「じゃあ、行きます!」

 

 そう言って霊力刀を構えて妖忌さんに急接近する。

 

 そして斬り掛かる。

 

 しかし霧となって消えてしまった。

 

「こっちじゃよ」

 

 と、隣から声が聞こえてきた。

 

 そして俺は驚きつつ薙ぎ払うように刀を振る。

 

 しかしまた霧となって消えてしまった。

 

 どうなってるんだ?

 

「お主は1発もわしには与えられんよ」

 

 へぇ…なめた真似してくれるじゃねーか。

 

 ならやってやるよ。

 

「狙撃《スナイパー》」

 

 そして石を投げると妖忌さんは石を斬った。

 

 するとなんとその石は一切爆発せず、綺麗に一刀両断された。

 

「マジかよ…」

 

 ならこれでどうだ。

 

「大回転《トルネード》」

 

 そして俺はものすごいスピードで回転する。

 

 すると徐々に俺の周りに突風が発生する。

 

 そしてもう片方の手にも刀を作り出す。

 

 するとやがて突風はカマイタチの竜巻になった。

 

 すると妖忌さんは突っ込んできた。

 

「見ておれ。これがわしの霊力斬じゃ」

 

 すると妖忌さんは霊力斬を×の字になるように放った。

 

 するとものすごい力でぶっ飛ばされて俺の技は解除してしまう。

 

「終わりじゃ」

 

 圧倒された。

 

 結局俺は一撃すら与えることが出来なかったのだ。

 

「完敗です」

 

 そう言うと妖忌さんは刀をしまった。

 

 そして俺はあることを思いついた。

 

「妖忌さん!俺に修行を付けてください」

 

 と、頭を下げた。

 

「お主、わしの修行は厳しいぞ?」

 

「はい!望むところです!」

 

 そう言うと妖忌さんはうむ。と言って持っていた荷物の中から腕あてと膝あてを取り出した。

 

 すると不意に落としてみせる。

 

 すると

 

 ドシーン!

 

 大地が揺れた。そう思うほどの衝撃だった。

 

「それを普段は付けて生活するんじゃ」

 

 典型的な重りの修行だ。

 

 そして早速付けてみるが。

 

 全く足も腕も動かせない。

 

「あのー動けないんですが?」

 

「頑張るんじゃ」

 

 そう言ってどこかに行ってしまった妖忌さん

 

 こうなったら暫くは飛ぶしか無いな。

 

 霊力の消耗を抑えないと…

 

 そして空を飛んで紅魔館に帰る。

 


 

「あ、海藤」

 

「あ、燐火か」

 

 紅魔館について最初に会ったのは燐火だった。

 

 そして燐火そろそろ夕食だと教えられ、食堂に向かう。

 

 既にみんなは居た。

 

 腕、動かせるかな…

 

 そして俺は重い腕を無理やり動かして食べる。

 

 何とか気が付かれずに済んだ。

 


 

「今日は技を伝授する」

 

 技?

 

「これじゃ」

 

 そう言うと妖忌さんは二人に分身した。

 

「残像じゃ」

 

 残像…速く動くあれか

 

 この重りを付けて動けるかな…

 

 そう思いながら走り込みをする。

 

 偶に技をやってみる。

 

 しかし発動することは無い。

 

「はぁ…はぁ…」

 

「遅いぞ小僧。もっと速く動くんじゃ」

 

 重い…

 

 四肢が重いせいで思うように動けない。

 

「やるんじゃ」

 

 くっそー。やってやる!

 

 そして数日後

 

「残像」

 

 すると俺の他に俺の残像が出来た。

 

「いよっしゃー!」

 

(こやつ…飲み込みが速い。もしかしたらあの技も)

 

「じゃあ次の技を伝授する」

 

 俺の修行はまだ始まったばかりだ。




 はい!第38話終了

 次回は音恩視点です。

 それでは!

 さようなら


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第39話 手合わせ ~音恩対フラン~

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 人里で真はおっちゃんとフードを深くかぶったお爺さんに励まされる。

 そのフードを深くかぶったお爺さんはなんとあの魂魄 妖忌だった。

 妖忌と戦い、妖忌は自分よりも遥かに強いと確信した真は妖忌の元で修行することにしたのだった。



 それではどうぞ!


side音恩

 

「はあっ!はぁっ!たぁっ!」

 とサンドバッグを殴って殴って殴りまくる。

 

 僕には武器はないから素手で戦うしかない。

 

 そして手に霊力を集中させる。

 

 これは燐火さんに教えて貰った技、霊力強化

 

 これで強化すれば攻撃力がぐーんと上がるらしい。

 

「おりゃ!」

 と殴ると1発でハンドバッグを吊るしてあったチェーンが千切れた。

 

 確かに凄い威力だ。

 

 だけどまだだめだ。

 

 僕はもっと強くならなくちゃいけない。

 

 そして今度は足枷を付けて紅魔館の周りを走る。

 

「お兄様ー!頑張って!」

 と途中でフランちゃんが手を振りながら応援してくれる。

 

 よし、真さん達に置いていかれないよう頑張るぞ。

 


 

sideフラン

 

 お兄様今日も頑張ってるな~

 

 足枷を付けて走り込んでいる。

 

 その姿を見学するのが最近のマイブーム。

 

 足枷は咲夜が作ってくれた。

 

 なんでも出来るよね。

 

 そして燐火は屋根の上で寝そべりながらスノーランドの方をを見ている。

 

「はぁ…はぁ…」

 

 お兄様は紅魔館の周りを一周してきて息が上がっている。

 

 そして膝に手を付いた。

 

 だから私はお兄様にお水を渡した。

「はい」

 

「ありがとうね…」

 お兄様は他の人には敬語なのに対して、私とお姉様にはタメで喋る。更には私にはちゃん付け。嫌なわけじゃない。寧ろそれだけ気軽に喋れるような仲なんだと思うと嬉しいけど、年下に見られてるんじゃないか!?って思うことが多々ある。

 

「ふぅ…よし、フランちゃん。この後特訓に付き合ってくれる?」

 と私に頼んできた。

 

 勿論私の答えは

 

「うん!良いよ」

 


 

 そしていつもの訓練部屋にやって来た。

 

 お兄様はだいぶ強くなった。

 

 私のパンチを軽くかわせるくらいに速くなったし。

 

「行くよ」

 そう言って走ってくる。

 

 そして私はいつもの様にタイミングを合わせてパンチを繰り出す。

 

 だけどそのパンチは空を切った。

 

 横に回り込まれたのだ。

 

 だけどそれでやられる私じゃないよ。

 

 お兄様の拳を難なく避ける。

 

「行くよお兄様!」

 

 ダダダとお兄様に急接近して殴り掛かる。

 

 しかしその時にはもう誰も居なかった。

 

「こっちだよ」

 頭上だった。

 

 お兄様からは霊力の高まりは感じられないってことはただのジャンプ

 

 嘘!あんなに高く飛ぶなんて

 

「僕はだいぶ強くなっただろ」

 

 そう言って私の弾幕を呆気なく躱してみせる。

 

「そんじゃこっちからだ」

 そう言った瞬間、お兄様の目に歯車のような模様が浮かんで回り始めた。

 

「これが僕の新しい技、操符《大地変形》」

 

 そしてお兄様が壁を触ると触れた箇所から壁、床と伝わって霊力が走り出した。

 

 だけど何も起こる気配がしない。

 

 多分発動に時間がかかるんだ。なら、今のうちに

 

 そして走ろうとすると急に私の足元が盛り上がり始めた。

 

「こ、これは」

 と私が驚いていると

 

「まだまだ」

 

 そしてお兄様は壁に触れてない方で握りこぶしを作った。

 

 その瞬間、私の周りの床が盛り上がり始めて周りを囲んだ。

 

 もちろん脱出しようと飛んだけど上もすぐに閉じられてしまった。

 

「恐怖《迫ってくる壁》」

 

 その瞬間、ゴゴゴと地鳴りしながら壁が近づいてきた。

 

 普通は真っ暗で見えないんだろうけど私は吸血鬼だからよく見える為、余計に恐怖を感じる。

 

「ま、そこまでだね」

 

 そう言ってお兄様がスペルを解いた瞬間、壁や床が元通りになった。

 

 壁も無くなってお兄様が見えるようになったらお兄様の目はいつも通りだった。

 

「ふぅ…この力は体力を使うから疲れたよ」

 と仰向けに倒れるお兄様

 

 だいぶ強くなってて驚いたなー。

 

「お兄様、はい」

 とお兄様に水を差し出す。

 

「ありがとう。フランちゃん」

 

 そしてお兄様との手合わせが終わった。

 


 

side真

 

 俺はあれから残像の練習をしたり、新たな技の練習をしたりした。

 そして重りに慣れる度に重くされて行った。

 

 奴らが現れてから約1週間ほどが過ぎた。

 

 力試しはしてないがだいぶ強くなった。

 

「お主は本当に飲み込みが早いのう」

 

「教え方が妖夢に似ているからですかね?やりやすいです」

 

 そう答えると感慨(かんがい)深いそうに妖忌さんは頷いて口を開いた。

「お主の話しを聞く限り敵は強そうじゃな」

 

 確か強い…だけど

 

「俺は勝たなくちゃいけないんです」

 

 そう言って木を殴り飛ばす。

 

「そうか…じゃあわしの最高の技を教えちゃろう」

 

「え!?妖忌さんの!?」

 俺は驚いた。

 何故なら妖忌さんの攻撃技を見たことが無かったからだ。

 

「これは妖夢にもまだまだ教える予定は無かった技じゃ。何故ならこの技は腕に負担をかけすぎて暴発する危険性があるからじゃ」

 暴発と聞いて俺は生唾を飲み込む。

 

 そしてその日は新しい技の特訓で終了した。

 


 

次の日

 

 昨日帰るとすぐに「明日手合わせお願いします」と音恩が言ってきた。

 

 まぁ、俺も力を試したかったところだから二つ返事で返した。

 

 という事で早速俺は音恩の特訓場所に来て居た。

 

 参戦者も沢山いる。

 

「頑張って!お兄様!」

 フランは音恩にエールを送っている。

 

「頑張って!真!」

 今回は紬も観戦者側だ。

 

「じゃあ行きますよ真さん」

 

「刀無しでどこまで強くなったか…」

 

 そして咲夜が俺達二人の間に入ってきた。

 

「それでは行きます」

 

 そして俺と音恩は睨み合う。

 

「それでは始め!」

 

 そして俺と音恩の戦いが始まった。




 はい!第39話終了

 ついに次回、初めての対決、真対音恩。

 確か今まで戦ったことのなかったような気がします。

 さて、お二人はどのような試合を見せてくれるのでしょうか?

 それでは!

 さようなら


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第40話 手合わせ ~真対音恩~

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 だいぶ強くなった音恩。

 ついにはフランを本気ではないとしても倒すことに成功した。

 そしてついに真と音恩の手合わせ。果たしてどちらが勝つのか?



 それではどうぞ!


side真

 

「それでは初め!」

 咲夜がそう言った直後、音恩の目に何かが浮き出始めた。

 

「初っ端から飛ばしますよ。ギアモード」

 

 すると音恩の目に歯車の様な模様が浮かんで回り始めた。

 

 なるほどギアか。お手並み拝見と行こうじゃないか。

 

「行きますよー!」

 そう言った瞬間左手を床に付ける。

 

 すると霊力が部屋の壁や床、天井に行き渡ったのが分かった。

 

 ほう…

 

「あれは私を倒した技」

 ほう…フランを倒した技か…それは興味がある。

 

 その次の瞬間、俺の立っている床が盛り上がり始めた。

 

「恐怖《迫ってくる壁》」

 すると盛り上がった壁や床、天井に囲まれてしまった。

 

 押しつぶす気か

 

「チェックメイトです」

 

 なるほどね。

 

 そして俺は呆気なく押しつぶされた。

 


 

side音恩

 

 勝った。真さんに勝った!

 

「よっしゃー!ついに勝ったぞ!」

 

 それにしては随分呆気なかったような気がするけど。

 

 すると不意に肩を誰かに叩かれた。

 

 僕は誰かと思って後ろを振り向くと

 

「誰が倒されたって?」

 そして人差し指で頬を押された。

 

 いつの間に後ろに?

 

 そして

「ちょいと強めのパーンチ」

 と強めに殴ってきた。

 

 すると凄い僕は吹っ飛んで反対側の壁に激突した。

 


 

side真

 

 ふぅ…危ねぇ…今の避けてなかったら今頃ミンチだ。

 

 感のいい人は気がついているだろうがあれは残像だ。

 

 完全に囲まれる前に危険を察知して残像を作って回避したんだ。

 

 周りを見てみると皆が唖然としていて言葉も出ないようだった。

 

「いってて…痛いですね」

 そして何事も無かったかのように立ち上がる君も相当だけどね。

 

「もうちっと強くしますか…ギアモードLv2(ツー)

 

 すると中心のギアの周りに一つギアが増えた。

 

「行きます」

 

 すると壁が生きているかのように動き始めて握りこぶしの形になった。

 

 やべえ…これは食らったら一溜りもねーな。

 

 よし、

 

「残像」

 すると5人程の残像を作り出した。

 

「!?これは」

 

 本気で驚いているようだった。

 

 ただ、これは一人以外は全員残像。本体を入れて六人、確率は6分の1だ。

 

「なら、」

 

 すると俺達全員を囲むように床が盛り上がった。

 

 そして天井も盛り上がってきて囲まれてしまった。

 

 まずい。脱出できてない。

 


 

side音恩

 

 今度こそ、

 

 そして握りこぶしを作る。

 

 そしてどんどん囲いが縮まっていく。

 

 そしてついに潰れる直前で

 

「霊縛波!」

 と籠ったような声で聞こえてきた。

 

 その瞬間、バコーン!と壁が破壊された。

 

「ふぅ…危なかった」

 と手を押し付けるようなポーズで出てきた。

 

 僕の操ってるものは僕の霊力で硬化されているからそう簡単には壊れないはずなのに

 

「いやぁ~思わず使っちゃったけど、まだこの程度か…まだ不完全だな」

 いや、僕の技を突破しといて不完全って僕のプライドズタボロだ!

 

「さて、そろそろやりますか」

 


 

side真

 

「さて、そろそろやりますか」

 と軽くジャンプしながら言う。

 

 そして拳に霊力を込める。

 

霊力拳(れいりょくけん)!」

 

 そして拳を振り下ろすとその軌道上に拳が飛んで行った。

 

 音恩には躱されたものの、音恩の背後の壁を貫通して外まで開通した。

 

「なっ!?」

 とレミリアが白目を向いて倒れてしまった。

 

「お、お嬢様!」

 悪いことをしたなぁ…

 

 そして後頭部を守るように掌を向ける。

 

 するとそこに蹴りが飛んできた。

 

「バレた!?」

 

 これが妖忌さんに教わった技の一つ、霊力探知

 

 これを使えば全ての霊力の持つものの位置が丸わかりだ。

 

「音恩、やっぱ今のお前じゃ今の俺には勝てない」

 

 だって俺はまだ本気じゃないからな。

 

「く、くっそー!!ギアモードLv5(ファイブ)

 

 すると一気に霊力量が上がって、目のギアが更に三つ増えた。

 

 すると

 

「はーい。そこまでねー」

 と間に割って入ってきたのは燐火だった。

 

「どいてください燐火さん。今から真さんを倒してみせます」

 

「そうかー。じゃあ、私を倒してからにして」

 と殺気だけの霊力を放つ燐火。クレアだ。

 

「くっ…」

 それを感じた音恩は怯んでしまって何も言い返せなくなってしまう。

 

「それと海藤。これ」

 と一枚の紙を渡してきた。

 

 それを読んでみる。

 

 

請求書

 

壁の損壊、及び床の損壊により30円を要求する。

 

 

 それを見た瞬間、今度は俺が白目を向いた。

 

 30円と言っても日本の通貨は使えない。

 

 30円は現代日本で30万円と同等なのだ。

 

 つまり、今まで貯めた俺の金が全て吹っ飛びました。

 

 しかしまぁ、現代日本では考えられない30円の請求というパワーワード。

 

 でもまぁ、かなりの金額なんだよな。

 

 俺の手持ち金、30円と二銭銅貨が20枚と一銭銅貨が10枚。日本円で30万5千円である。

 

 財布が寂しくなるなぁ…

 

 そして俺はレミリアの元に向かってお金を払った。

 

 残り金額5000円。俺のしたい事はこれだけじゃ全然足りないんだよ…

 

 また明日から仕事漬けだな。と落胆していると音恩が隣で肩を叩きながら。

 

「ざまぁねぇぜ」

 と一言

 

 それに対して俺はニッコリと笑顔で無言のまますれ違いざまに

「ごふっ!」

 ガツンと腹に一発。

 

 修行の時間取れるかな?はぁ…

 

 俺の能力は都合の良い状況を作り出す程度の能力だが、今日は厄日らしい。




 はい!第40話終了

 今回は真と音恩が戦いました。

 お二人共強くなってましたが、真の方が一歩上手だったようですね。

 それと途中に出てきたギアモードLv5と霊縛波とは一体どんな技何でしょうか?

 では今後もお楽しみに!

 それでは!

 さようなら


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第41話 妖夢と妖忌

 はい!どうもみなさん!ミズヤです

 この作品が平成最後の投稿だなんて縁を感じますねw



 それでは前回のあらすじ

 ついに戦う真と音恩。

 二人とも強くなっていた。

 そして真の財布が空っぽに

 果たして真の運命や如何に?



 平成最後の小説。楽しんでいってください!

 それではどうぞ!


side真

 

「え?もう行くのか?」

 

 あれから2週間が過ぎ、残りは4日程ある。

 が、しかし燐火がいきなりもう出発しようと提案したのだった。

 

「あそこの遠さ舐めちゃ行けないよ。ここからだと約280km程。人間が睡眠時間6時間として残り18時間で歩ける平均は四日で288km程。結構ギリギリだよ」

 へぇ…頭良いんだな。

 

 こんな数式、俺は直ぐには出てこない。

 

「んじゃそろそろ出発しないとヤバいな」

 と言って立ち上がるも、紬に止められる。

 

「待って!スノーランドはすごく寒いんだよ」

 

「え?でも俺はパーカー来てるし」

 そう言うと「舐めない方が良いわよ」と燐火に言われてしまった。

 

 なんでもスノーランドは気温が氷点下を裕に越してしまってるらしい。

 

 なるべく厚着か。

 

 でも動きにくくなるから、上着は羽織るとしてそうだな…

 なら、あれが有ったな。

 

「なんですか?それ」

 

「ああ、これか?カイロって言うんだ。これを服に仕込んでおくと暖かくなるんだ。まぁただし、肌に直接触れないようにな」

 と言ってみんなに配る。

 

 俺は修行時とかはわざと寒いところでやるからカイロは重宝している。

 

 そのため、皆に配っても余るくらいにはあった。

 

「待って海藤」

 と急に止められた。

 

「なんだ?」

 

「全員では行かないわよ」

 

「ん?なんでだ?」

 

「だってぞろぞろと引き連れて行ったらどうぞ狩って下さいって言ってるようなもんでしょ」

 あそこら辺は盗賊なんかも居るらしい。

 

 偶に観光目当ての奴らが襲われるんだとか。それで物資を強奪される。

 

「でも俺らは強いしさ」

 

「慢心は死に直結するわ。用心するに越したことはないでしょ?」

 だからと続けて言葉を放った。

「海藤、あなたが決めて。連れていく人。精々五人くらい」

 

 そんなことを言ってきた。

 

 そんなこと俺が決めても良いのか?

 

「この幻想郷にいる人なら誰でも」

 そうか…それはそれでムズいな。

 

「んじゃ、早速一人目。とりま燐火、お前だ」

 

「ん、」

 俺が指名すると燐火は頷いた。

 

「次、二人目。音恩」

 

「分かりました」

 

「三人目。俺の相棒、紬」

 

「了解であります!」

 

「そしてラスト」

 

「ラスト?」

 龍生が疑問を口にした。

 

「五人目は俺から単独でアプローチしておく」

 つー訳でと仕切り直す。

 

「ラスト!魂魄 妖夢!」

 

『え、』

 

『えぇぇぇぇっ!』

 この場にいた俺と燐火以外の人物が皆驚いた。

 

「よ、妖夢!?」

 レミリアが驚く。

 

「この場にはもっと強い人達が居るんだぜ?」

 

 しかし俺は絶対に変えない。

 

「皆は妖夢にアプローチしてくれ。俺はあと一人を探しに行く」

 

 そう言って飛んで行く。

 

 ちゃんとアプローチしてくれれば良いが…

 

 さて、俺はあの人にアプローチしに行こうかな?

 


 

 俺はいつもの修行場に来ていた。

 

 そこには当然あの人もいた。

 

「今日は遅かったのぉ」

 

「すみません。これからとうとう出発しなくては行けなくなりまして」

 

「そうか…頑張れよ」

 

 そして振り返って帰ろうとする妖忌さん

 

「待ってください」

 俺がそう言うとピタリと妖忌さんの足が止まった。

 

「妖忌さんに着いてきて欲しいんです」

 

「なんじゃと?」

 

 そして全てを説明した。

 

「結局俺は仲間が居ないと何も出来ないんですよ。それに、妖忌さん。妖夢に会いたいと思いませんか?」

 

「妖夢に?」

 

 俺は既に妖忌さんを言いくるめるための策を用意してきていた。

 

「妖夢の実力をその目で確かめてみては?妖夢、だいぶ強くなってますよ」

 

 そう言うと「分かった」と言った。計画通り

 

「少し準備がある。しばし紅魔館とやらで待っておれ」

 

 そして妖忌さんは走り去ってしまった。

 

 さて、俺の任務は完了だ。

 

「最後に技の確認でもするか」

 

 そして右手に霊力を込める。

 

 そして込めた霊力を一気に圧縮して弾幕(一つ)を作る。

 

「これが妖忌さんに教えてもらった予備の技、奥の手。《霊縛波》ぁぁっ!」

 

 そう叫んで森の木に押し付ける。

 

 すると破壊力抜群の霊力で作られた青いマスタースパークのような物が出た。

 

 打ち終えて見てみるとそこら辺は更地になっていた。

 

「やりすぎた…」

 

 まぁ良い。とりあえず紅魔館に帰ろう。

 


 

 俺は帰ってきた。

 

 すると意外にも既に妖夢を連れた皆がいた。

 

「あれ?もう一人は?」

 

「もう時期来る」

 

 皆が頭の上にハテナを浮かべる。

 

 その時カンカンカンと下駄の音が響いてきた。

 

 来た。俺はそう確信した。

 

 しかし皆はその音に警戒して身構えている。

 

 すると陰から特徴的な白い髪と髭、妖夢に似た服装、そして刀が見えてきた。

 

「来ましたね」

 

「なんじゃ?お主ら、わしの顔に何か付いておるか?」

 

 俺と燐火、音恩以外の二人、紬と妖夢が驚いた。

 

「魂魄、妖忌?本当に?」

 と紬は目を見開きながら固まっていた。

 

「お、じいちゃん」

 するとどんどん涙が溢れてきた妖夢。感極まっているのであろう。

 

 そしてふらふらと妖忌さんに近づいていって

 

「お、おじいちゃん!」

 と抱きついた。

 

 それに応えるように妖忌さんは二本の腕で優しく包み込む。

 

「うぐっ。おじいちゃん」

 

「悪かったのぅ…何も言わずに出てしまって」

 

「本当だよ!おじいちゃんのバカぁっ!」

 

『ねぇ、真』

 と紬は耳打ちしてきた。

 

『どこで見つけたの?』

 

 そう聞かれたから俺はにっと笑って言った。

「秘密だ」




 はい!第41話終了

 ついにアイスランドに乗り込む人員が決まりました!
 海藤 真
 燐火(菜乃花?)
 南雲 音恩
 魂魄 妖夢
 魂魄 妖忌
 です。

 妖夢と妖忌、再会できて良かったですね!

 次回はついに出発します。

 それはそうと、僕の最初は無意識の恋だったんですね。

 僕の平成の小説は無意識の恋で始まり、無意識の恋で終わる。なんかいいですね。

 次は令和でお会いしましょう。

 それでは!

 さようなら


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第42話 出発

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 ついにアイスランドへ向けて出発することにしたが、その際に数人だけ連れていくことにした。

 そして真は次々と指名していく。

 そして真の策略によって妖夢と妖忌が再開出来ました。



 それではどうぞ!


side真

 

「もう大丈夫です」

 

「そうか」

 

 妖夢は落ち着いたのか妖忌さんから離れる。

 

「それじゃ今からそのすのーらんととやらに向かうわけじゃな?」

 

「そう。今から向かう。途中で野宿することも覚悟しておいて」

 そう言って最新版の幻想郷地図を開く。

 

「ここがスノーランド。ここに行くには妖怪の山を横断していって、更に冬の人里を越えていく。越えた先にデスマウンテンって言う山があるんだけど、本来はここを通らないんだけど、トンネルが工事中だから越えていくよ。越えた先にスノーランドがあるんだけどそこのスノーレストって言う人里があるからそこで拠点を構えてから乗り込むよ。質問はある?」

 めちゃくちゃ丁寧に説明してくれてありがとう。

 

 って言うか何個かヤバそうなのがあるんだが…

「あのー。妖怪の山を越える必要って…」

 そんなことを思ってたら音恩が代わりに質問してくれた。

 

「近いからよ」

 

「それだけではあそこを通るの危なくないですか?」

 そう音恩が言うと燐火は刀を見ながら不敵に笑った。

 

「もしそうなったら」

 と言いながら刀を撫でだした。

「ふぎゅっ!」

 だから俺は燐火の頭を叩いた。

 

「俺達の見てる前で無関係者の殺害禁止な」

「むぅー…」

「なんだその目は」

 と俺はジト目で燐火を見た。

 

「まぁ、良いよ。話し合いでケリを付けよう」

「お前が言うと話し合いかっこ物理にしか聞こえないんですが?」

「それ以上茶化すなら君と話し合いの実演をすることになるよ」

「すいません」

 少しやりすぎたな。

 

 しっかし、厄介なことになっちまったな…

 

 こっちから乗り込むなんて、罠のある所に足を突っ込むことになる。

 

「さて、それじゃそういう訳で出発するよ」

 

『おーっ!』

 

 そして俺たちは妖怪の山を目指して歩いていった。

 


 

「久々だな。妖怪の山なんて」

 

「真さんはそうでしょうね。ですが、最近は守谷が問題を起こすことも多く、それを解決した霊夢さんが宴会の準備めんどくさいという理由で結構守谷神社で宴会してるので僕は結構来ますね」

 

「うんうん」

 そんな会話を俺と音恩、紬の3人でしていた。

 

 他愛もない世間話じみたことをこいつらと出来るってのもシャロのお陰なんだなと思うと威厳がとか考えてた自分を責めたくなる。

 

 そして音恩は常にパソコンを開いて敵が近くにいないかを見ている。

 

「そう言えば真は外の世界でこの数年間何してたの?」

 と突然紬が俺の外での事を聞いてきた。

 

「あ、それ僕も気になりますね」

 と音恩も同調する。

 

 まぁ、教えて困ることもねーし。良いか。

 

「主に人助けだ」

 

「人助けですか?」

 と復唱(ふくしょう)して聞いてきた。

 

「ああ、まずは勉強をした。必死にやって大学まで卒業した。その後は仕事をしながら人助けだな」

 

「やっぱり真はどこに行っても真だね。優しい真だ」

 

「いや、俺だっていつ未来の俺(あいつ)みたいになるか分かったもんじゃないからな。この前だって居酒屋のおっちゃんと妖忌さんが居なかったら多分未来の俺(あいつ)になってた」

 と本心を打ち明ける。

 

 俺は怖いんだ。いつ俺じゃない俺が出てきて、そんでもっていつ今の俺をいつ食い殺していくか分からない。

 そんな不安に俺は今(さいな)まれている。

 

 多分、この異変()が全て解決しない限り俺は安眠を取ることすら許されないんだろうな。

 

「そんなことないよ。たとえ他人の力を借りたとしても、その絶望の(ふち)から()い上がってきたのは他の誰でもなく、それは全て真の力なんだよ。もっと自信もって」

 

「ありがとな紬。ちょっと楽になったような気がする」

 

「それは良かった」

 紬は自慢の相棒だ。

 偶にふざけて俺の彼女とか言ったりしてこいしを泣かせたりしてるけどなんだかんだ言って俺は紬が居ないとダメなんだろうな。

 

「まぁ、それはさておき。そんな話をしている場合では無くなりそうですよ」

 と真剣な声色で言う音恩。

 

「あなた方を侵入者と見なし、排除します!」

 と獣耳(けもみみ)がついた女の子が空から向かってきた。

 

 あの姿、見たことあるような?

 

 と少し考えると思い出せた。

「あー。犬走(いぬばしり) (もみじ)か…」

 そう言うと音恩はそうか。と言ってパソコンを操作する。

 


 

数分後

 

「ねぇ君。Mなの?」

 

「ち、違う!」

 

「じゃあなんで自分の体を自分で縛ったの?器用だな~。手馴れてるな~。あ、こいつ常連だな~って思って見てたんだけど」

 そう。椛は音恩の操作により自分で自分を縛り上げるというなんとも器用な何も知らない人が見たら、こいつMだと思うような事をしたのだ。

 

「え、Mじゃない!勝手に体が」

 そして俺達はそこには椛を放置して素通りしようとする。

 

「そ、そうはさせない」

 とロープにぐるぐる巻きになりながら言ったが全然迫力を感じられない。

 

「私達はこの先に用があるの。通して…くれないかなっ!」

 と殺気だけの霊力を放つ燐火。

 

 すると周りの鳥達も一斉に逃げていった。

 

「ふぎゅっ!」

 まずいと思った俺は燐火の頭を叩いた。

「こんな所でクレアを使ってんじゃねーよ。余計にややこしくなる」

 そう言うと音恩は苦笑いしながらこう言った。

 

「手遅れみたいですよ。彼らに僕達は敵と認識されてしまったようです」

「なっ!?」

 

 すると頭を抑えて蹲ってた燐火急に立ち上がった。

 

「こうなったら話し合いをするしかむぐっ!」

 

 また厄介事を増やしそうな燐火の口を押さえて引きずっていく。

 

「はいはーい。彼らのナワバリに勝手に入ったのは俺らだからねー。戦うの禁止ー」

 と言いながら俺は燐火を引きずっていく。

 

「とりあえず走ればいいのじゃな?」

 

「はい!とりあえず一刻も早く逃げましょう」

 そして俺達は全力疾走した。




 はい!第42話終了

 次回はここの続きからになります。

 それでは!

 さようなら


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第43話 海藤さんのライフはもうゼロよ

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 ついに出発した真等

 しかし早速天狗等に追い回されることに

 果たして無事にこいしの元へたどり着けるのだろうか?



 それではどうぞ!


side真

 

 俺達は走っていた。

 天狗に追われながら。

 

ふぁふぁひふぇふぁいふぉう(離して海藤)

 

 俺は燐火の口を押さえて、抱えて逃げていた。

 

 ちなみに空中では彼等には敵わないので全力疾走中である。

 

 あともう少しで守矢神社が見えてくるはずだが…

 

 ガブッ

「いってぇっ!」

 思わず手を離してしまった。

 

「よーし!行くよー!」

 

「やめろ!燐火!」

 その次の瞬間、燐火の腕が白く光りだした。

 

 なんだ?この力は

 

 そして燐火は拳を振りかぶって振り下ろす。

 すると、なんと衝撃波が発生して天狗たちを一撃で気絶させた。

 

「よし、これで良い」

 

「良くないよ。全然良くないよ。きっと今頃、俺達はみなブラックリスト入りだよ」

 

「それが?」

 

「それが?ってお前なぁ…」

 燐火は根っからの戦闘狂らしい。

 

 しかし、厄介事を増やしてくれやがったこいつは一体どうしてくれようか。

 とりあえずこいつへの俺の心の中でのあだ名はバカとなった。

 

「それより早く走りましょう。(おびただ)しい数の妖力が近づいてきてますよ」

 そう力なく言ってから走り始めた。

 

 とりあえずそんな数の妖怪を敵に回したら命が幾つあってもキリがないので俺は燐火を再び抱えて走り出す。

 

 まぁ俺達が危険になったらこいつを囮にして逃げよう。と心に誓って俺は守谷神社までの参道を駆け登る。

 

「大天狗の奴。何かあったのじゃろうか?」

 と何かを呟きながら息一つ乱さずに俺と横並びで走る妖忌さん。

 それに続いて妖夢。そしていち早く走り出した癖に徐々に遅れてきている音恩。

 

 紬は俺の肩に乗ってきている。正直燐火も抱えて更に紬を肩車しながら走るのはキツいから降りて欲しいんだが?

 そんな文句を心中で呟きながら走る。

 

「うーん。このメンバーでの真の立ち位置が分かってしまった…」

「つくづく不憫(ふびん)な男じゃのう」

 そこの爺さんとその孫!俺をそんな(あわ)れな人を見るような目でこちらを見ていただけませんか?

 

 その時、空中から天狗が降ってきた。

 

 ドシーンと言うすごい音を立てて着地した天狗

 

「あややー?真さん達じゃ無いですか〜。どうしたんです?こんな所に」

 文屋だった。

 

 文のスピードは天狗一と言っても過言ではない。そんな奴から逃げることは出来ないか…

 大人しく会話で引いてもらうとしよう。

 

「いやぁー。文。こんな暑い中お越しいただき誠にありが」

「どうしたんですか?気持ち悪いですよ?」

 文の攻撃

「ぐっ」

 真に5の精神的ダメージ

 

「何その喋り方。不自然で気持ち悪いよ」

 燐火の攻撃

「がはっ」

 真に5の精神的ダメージ

 

「うん。真には申し訳ないけど」

 

「わしも正直見てられん」

 妖夢と妖忌のダブルコンボ

「ごふっ」

 真に10のダメージ

 

「みんな止めてあげてください!」

 

「ね、音恩」

 俺は音恩の事を見直した。

 まさか俺の事を庇ってくれるとは

 

「本当の事を言ったら可哀想じゃないですか」

 

「ごふっ」

 真に大ダメージ。

 

 俺は吐血してその場に倒れた。

 

『確かに!』

 

「もうやめろ!とっくに海藤さんのライフはゼロなんだよ!」

 まだこいつらは俺を追撃する気かよ。

 

「まぁ真さんが気持ち悪いのは置いておいてこの先に何か用?」置くなよ!

 

「まぁ、とりあえず通過だな」

 

「通過ですか」

 そう言うと文は考え込んでしまった。

 

「見慣れない顔ぶれも居るようですが…」

 その瞬間、俺は全身からブワッと汗が吹き出してきた。

 

 妖忌さんは良い。だが燐火が居るのは問題だ。下手したら迫撃される。

 

「お前、本名なんだ」

 俺は燐火の耳元で聞いた。

 

「菜乃花」

 

「菜乃花で良いのか?」

 

「うん。それが私の苗字」

 苗字だけかよ!下の名前はどうした!?

 

 そう聞こうとしたがその前に理由を説明してくれた。

 

「下の名前を教えるのは本当に信頼できる人だけ」

 信頼されてなかったのかよ!地味にショックなんだが…

 

 まぁどっちもわかんないよりはマシだろう。

 

「こっちのご老人が魂魄 妖忌さん。妖夢の祖父だ」

 妖忌さんを指しながら言った。

 

「で、こいつが菜乃花だ。俺と菜乃花はそれはそれは仲がいいんだよ」

「え?そこまで仲良かったっけ?」

 話合わせろよ気が利かねーな。

 

「とりあえず俺は通過をしたいんだが良いか?」

 

「まぁいいですけど…分かりました。ついて行きます」

 着いてくるそうです。

 

 確かに文が居れば通過する事も簡単に出来そうだな。

 

「んじゃ、頼むわ」

 そう言うと文は俺達の後ろを追ってきた天狗達を説得し始めた。

 

 ちなみに文は天狗の中では偉い方なので椛等からは文様と呼ばれていたりする。

 でも椛は仲がいいからか二人だけの時は文さんと呼んでるみたいだが。

 

 しばらくすると天狗らはどこかに飛んで行った。交渉は成功したみたいだ。

 

「お待たせ致しました!じゃあ行きましょう!」

 

 文は先頭を歩き出した。

 

 俺は未だに精神的ダメージ回復できずにいた。

 

「俺もう知らね…何があっても知らね。みんなが何かあっても俺は知らんぷりするからな。自分の身は自分で守ることだな」

 

 すると紬が空を飛んで俺の頭の上に手を乗せて撫でてきた。

 

「もう。拗ねないの。大丈夫だよ。真には私が居るからね」

 

「つ、紬ぃー!」

 俺は紬を抱きしめた。

 

「なんか、女の子に泣きついてる男性ほどかっこ悪いものは居ないね」

 うっせぇ。んなことは分かってるんだよ。

 

 そうして俺達は妖怪の山を通過した。




 はい!第43話終了

 今回は妖怪の山辺後編でした!

 それでは!

 さようなら


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第44話 暗黒消去(ドルマ)

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 天狗に追われる真達。

 そこで菜乃花がやらかし、真は怯える。

 そこで文が現れ、真を(精神的に)追い詰める。

 そして紬に泣きつきましたとさ。



 それではどうぞ!


side真

 

 泣きながらも走っていたらようやく妖怪の山の終わりが見えてきた。

 

 守矢神社?なんか言ってたけどスルーしてきたわ。時間ねぇし。

 

 と、妖怪の山の終わりが見えてきたところで突然。

「雪」

 と紬が空を見ながら呟いた。

 

 つられて俺も空を見上げると、チラチラと雪が降ってきていた。妖怪の山の裏側ってこうなっていたのか。

 そして前方を見ると、一面真っ白な世界が広がっていた。

 先程まで緑の道が永遠と続くだけだったのに、そこには雪景色が広がっていた。

 

 今の季節は夏だ。季節外れの雪。

「少し寒くなってきたのう」

「そうですね。これならもっと厚着してくるべきでした」

 まぁ、向こうは夏なんだから分からない話でもない。現に俺もかなりの薄着だ。

 

 だが、俺は一応カーディガンを持ってきているので、それを羽織る。

 すると、紬が俺のカーディガンの中に入ってきた。

「こら紬。動きづらいから離れて」

 そして俺に抱きつく紬。だから、離れろ!

 

「だって寒いんだもん」

「さっきカイロ渡したろ」

 そう言うと紬はポケットからカイロを取り出す。

 

「その手があった!」

 本気で忘れてたのか?こいつ。

 

 だが、見つけたと言うのに俺から一向に離れようとしない。オイナゼサラニチカラヲツヨメル。

「いやね紬さん。動きずらいから離れてくれないか?」

「ムゥ……真のケチ」

「いや、ケチとかじゃなくて……」

 奇襲されたら即座に反応出来ないだろ。まぁ、その時は強制的に刀にすればいい話だが。

 

「海藤って色んな人に好かれてるよね?」

「いや、これは好かれてるって言うのか?」

 利用されてるだけだと俺は思うが。

 

「好かれてるよ海藤は。だって、海藤が呼べば皆集まってくれるじゃん」

 それだけが好かれてるって条件じゃないような気がするけど……まぁ、良いか。

 

「ふもとがもうすぐです。少し日も落ちてきたし、ここらで野営しませんか?」

 と妖夢が提案してきた。

 

 確かにそうだな。空もだいぶ赤くなってきた。もう十数分もすれば真っ暗だろう。

 

 だが、

「幻想郷での野営は危ないわよ」

 燐火の言う通りだ、

 

 平和な現代日本なら野宿をしてもなんて事無いけど、ここ、幻想郷は違う。

 幻想郷には夜に活動的になる妖怪が居る。しかも人喰いの奴も。だから危ないのだ。

 

 だが、そんなこともあろうかと俺はこんな物を用意した。

「それは……御札?」

 そう。御札だ。

 

「以前、人里に行った時に偶然見つけてな。しっかし、御札って買えるんだな。確かに博麗式よりは劣るようだが、少し霊力を感じるところを見るとちゃんと効果はあるようだ」

 まぁ、それでも足りない可能性はあるけどな。無いよりはマシってレベルで考えた方が良さそうだ。

 

「まぁ、それを等間隔に置いておきましょう。後はテントだけど」

 そこで皆が黙り込んだ。

 

 恐らく……みんな、

「テント、無い」

「無いです」

「無いのう……」

「勿論俺もないぞ」

 上から燐火、妖夢、妖忌、俺の順で無いことを主張した。

 

「ここは寒い。囲いがないとさすがに凍死するぞ」

 こんな雪も降ってるところで屋根も無しに寝たら次の日、目覚めない可能性がある。それだけは避けないと。

 

 そんな感じで皆で考えていると紬が一足先に降りていって雪を集めている事に気がついた。何やら凄く大きい雪山を作っているようだが……。

 

 すると疲れたのか紬は次に自分の霊力を使って雪を浮かせて途中まで作った雪山と合わせ始めた。

「何やってるの?」

 ふもとまで着いた燐火が聞いた。

 

「かまくらだよ。かまくらって雪で作るけど意外と暖かいんだよ」

 なるほどかまくらか。確かにそれだったらお手軽に出来るし良いかもしれない。

 

 そう思っている内にものすごい速さで雪山が出来上がった。

 あの広さなら俺達六人でも快適に過ごせるだろう。だが、

「紬。それ、どうやって中に入るつもりだ?」

「あっ」

 今更気がついたかのような声を出す紬。

 

 そう。紬が作ったのは入口も無ければ中に空洞がある訳でもない。ただの雪山だ。

 

「あの状態で中身をくり抜くのは普通にやるのなら至難の業ね」

 少し笑いを堪えながら燐火は呟いた。

 

 そうだった。こいつ、少し抜けた所があるんだった。

 

 さて、ここに龍生でも居れば簡単に穴を作れるんだが、俺の人選には龍生は居ない。

 

「まぁ、こんなことが出来るよ」

 そう言って燐火は雪山に向かって手のひらを向ける。

 

「《ドルマ》」

 そう言うと燐火は握りこぶしを作った。

 

 すると、一瞬だけ雪山が紫色に光る。

 

「じゃあ海藤。どこでもいいから刀で人が入れるくらいの穴を開けて」

 俺は意味がわからなかったが霊力刀を作り出し、人が入れるくらいの穴を斬った。

 

 すると中に空洞が出来ていた。なんで!?

 

「ドルマ。昔、ある人に教えて貰ったの。手を向けた先にある好きな範囲の物質を異空間に飛ばせる。ね?凄いでしょ?」

 まぁ凄いが、人間には使えないのか?俺との戦いの時に使えば勝てたと思うんだが。

 

「でも、お陰で中に入れるようになったからサンキューな」

「これで貸し借りチャラね」

 いや、お前に貸しを作った覚えは無いんだが?

 

 そして俺達は山のふもとで一泊することにした。

 

 文達は俺達が下山したのを見送ると戻って行った。




 はい!第44話終了

 やっと妖怪の山編終了です。

 それでは!

 さようなら


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第45話 罠

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 妖怪の山を通過した真達はそこで野営することにする。

 そしてテントがない真達はかまくらを作る。

 が、穴を空け忘れた。

 しかし、燐火のドルマによって難を乗り切った。



 それではどうぞ!


side真

 

 次の日、俺は誰よりも早く起きた。

 

 なぜならそれは近くに冬の人里があるって聞いたからである。

 

 この大雪原に人里があるとは思えないが、早く出て物資調達するのは大事だろう。

 

 そして、俺は今。

 

「くけけけけ。物資を置いてけ」

「置いてけ置いてけ」

 

 面倒な族共に絡まれてしまった。

 

 こんな見渡し良い所に一人で歩いていたら格好の獲物だろう。そりゃそうだ。

 

「あの、急いでいるのでどいてもらっていいですか?」

「ああ、物資を置いてってくれたらな」

「置いてけ置いてけ」

 三人居るんだが、後ろの二人は飾りなのか?

 

 しかし、困ったな。通してもらわないといけないし……。手荒な真似はしたくねーんだよな。

 燐火が居たら

『ねぇ、通して?』

 とか言いながら焼き殺しそうだな。

 

 そして問題は奴らは武器を持っていない事だ。

 武器も無しに素直に物資を置いて行って貰えるとでも思ってるのか?馬鹿だろ。

 

 武器を持ってない奴らをぶっ飛ばしたら皆に何言われるか分からないからな。

 

「物資だ物資」

 しかし、相手は意地でも退かない気のようだ。

 

「意地でも渡さない気だな?」

 いや、それはこっちの台詞だ。

 

 すると奴らの手の中に霊力刀が生み出された。

 あいつら、出来る。

 

 そして俺も霊力刀を作り出す。

 霊力刀なんて霊力の扱いに慣れてないと出来ない代物だ。だからあいつらは出来るやつらだ。

 

 殺らなきゃ殺られる。ただ、それだけの事だ。

 

 そして奴らは刀で斬りかかってくる。

 だが、

「そんな動きで俺を倒せると思うな」

 そして俺は回し蹴りで奴らの手首を蹴って霊力刀を解除させる。

 

 俺はそんな簡単に殺られるような柔な鍛え方はしていない。

 

「退け」

 俺は思いっきり低いトーンで言い放った。

 

 するとガクガク震えながらその場に倒れる三人。はぁ、根性ねぇな。

 心の中で毒づきながらその場を去ろうとする。

 

 その時、良い事を思いついた。

 

 寝起きの運動にもならなかったこいつらでも少しは役に立ってもらおう。

「なぁ君たち」

 そう言うとビクッと震える。そんなんでよくチンピラじみたことが出来たよな。

 

「ここら辺に冬の人里ってのがあるらしいんだが、どっちにあるか知ってるか?」

 そう言うと男の一人が指を指す。あっちか

 

「サンキューな」

 そう言って雪が降り積もった道に跡を付けながら走る。

 

 この時、俺は気が付かなかった。奴らがニヤリと口元を歪めていた事に。

 


 

 その頃、燐火らは。

 

side燐火

 

「ふわわ〜」

 私は目を覚ます。

 

 空は既に青く染っており、それで朝だと分かる。

 

 安心して寝られたのはいつぶりだろうか。仲間と一緒だからだろうか。

 

 海藤に仲間って言われてからおかしい。今まで不安であんまり寝れなかったのに、その日はぐっすり眠れた。

 謎の安心感がある。

 

 そう言えば海藤はどこだろう。確か端で寝てたはずだけどいつの間にか居なくなってる。

 先に出発したのかな?水臭いな。行くなら起こしてくれれば良かったのに……。

 

 でも海藤の気持ちは分かる。

 紅魔館に居た間もずっと出発したくてうずうずしてたらしいし。

 

 でも、海藤は人里の位置なんて分かるのかな?

 

 嫌な予感がする。

 

 私も先に行こうかな?だけど、皆が困ってしまうかもしれない。

 そうだ。簡易的な地図を書いておこう。そうしたら人里にも行けるだろうし。

 

 よし。そうと決まったら書こう。

 


 

side真

 

「確かこっちって言ってたよな?」

 だけど、こっちは森ばかりで一切人里の景色が無い。

 

 どうしたものか……。

 このまま一人で行ったら迷ってエンドになる気がする。これは一回戻るべきか。

 

 そして俺はその場で回れ右して帰ろうとする。

 

 暫く歩いた。そこでやっと気がついた。

 あれ?この木、さっきも見たような。

 さっきから同じ場所をグルグルと回っているような気がする。

 だから俺は木に傷を付けてまた歩き出す。

 

 するとさっき後ろにあったはずなのに前からさっき傷を付けた木が現れた。

 

 やはりおかしい。方向感覚が狂いそうだ。

 

 ──まるで迷いの森って言ったところだな。

 

「そういう事か。俺はハメられたって事だな」

 そう呟いた俺の言葉は寂しく響いた。

 


 

side燐火

 

 さっきまで感じていた海藤の霊力が完全に消えた。

 

 海藤はクレアは使えないはずだし。どういう事だろう。

 

 これは益々怪しい。急がないと取り返しのつかないことが起きる気がする。

 そう思って私は空を飛ぶ。

 

 高い所だと探しやすいんじゃないかと言う考えだ。

 

 しかし、見えるのは山と雪原と森位。海藤の姿なんて何処にも無い。

 まるで異世界に飛ばされたみたいに。

 

 だけどそれは紫って人か、前にチラッと聞いただけだけど、シャロって言う神様や紅蓮って神様しか出来ないんでしょ?

 だからその心配は無いと思う。

 

 となると、可能性として考えられるのはあの森。

 

 あの森は食人の森って言われてて、実際に食べる訳じゃないけど、あの森に入って帰ってきた人は居ないって言われてるからそんな名前が着いている。

 

 だけど、それは最悪の考え。

 もしあの中に入って行ったとしたら私ではどうにも出来ない。お手上げだ。

 

 海藤。あんたが居ないと意味が無いのよ。

 

 でも自然と、海藤ならあの中に入って行っても生きて帰ってくるってそんな気がする。そんな安心感を与えてくれる人。

 楓花……。今すぐ助けに行くからね。




 はい!第45話終了

 まだ冬の人里に入りませんでしたね。

 次回は真、燐火、音恩の3点視点でお送りしたいと思ってます。

 それでは!

 さようなら


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第46話 妖

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 真が一人で先に出発すると面倒な輩に絡まれる。

 その輩を直ぐに撃退した真はそいつらに冬の人里の方向を聞く。

 しかし、それは罠だった。

 食人の森に誘い込まれてしまった。

 果たして真は無事に抜け出せるのか?



 それでは!

 さようなら


side音恩

 

 僕が目を覚ますと既に皆起きていて、騒いでいた。どうしたんだろう?

 

「どうしたんですか?」

 そう聞くと紬さんは泣きそうな顔をしながら

「真がぁぁ。真がいなぃぃぃっ!」

 僕に話した事で涙腺が崩壊したようで滝のような涙を流し始めた。

 

「いや、紬。燐火さんもだからね?」

 紬さんにとっては燐火さんはおまけなんですね。まぁ、真さんといつも一緒で最高のパートナーって感じですしね。

 

 ちょっと探してみますか。

 

 そして僕はパソコンを開いて霊力探知をする。

「うーん。おかしいですね。燐火さんの霊力は直ぐに引っかかったんですが、真さんの霊力がどこを探してもありません」

 そう言うと「そんなぁ」と倒れ込む紬さん。

 

「ですが、宛が無い訳でもないです」

「え!?本当に!?」

 く、食い付きが凄い。

「はい。この森、ここから強力な磁場が出てますね。こんなに強かったら外からの霊力は勿論、中に一度入ってしまったら霊力は勿論、方向感覚まで狂わされそうですね」

 

 正直、これは最悪の話だ。

 つまるところ、この森に入ったらもう助からないだろうと言っているのだ。

 

 だけど、あの人の不死身加減は身をもって知っている。

 

 心臓を貫かれても死なない。毒を盛られても死なない。爆散しても死なない。

 

 だからあの人ならケロッと帰ってくる気がして来るのが真さんの凄いところだ。

 

 愛の為ならどんな困難な事でも乗り越えてくれそうなそんな予感が。

 

「おーい。お主ら」

 外から妖忌さんの声がしてきた。どうしたんだろう。

 

「ここに地図が書かれてる。恐らく燐火殿が出ていく前に書いたものじゃろう」

 そして僕も見てみると確かに雪に書かれていた。木の枝で書いたんだろうか?

 

 そしてどうやら見てみると冬の人里への道筋が書いてあるようだった。

「とりあえず冬の人里に向かってみるのはどうじゃろう。そこに行ったら燐火殿にも会えるかもしれん」

 確かに妖忌さんの言う通りだ。その方が良いかもしれない。

 

「とりあえず冬の人里に行こう」

 真さんは一旦諦めないとこのままじゃ誰も助けに行けなくなってしまう。それだけは避けたい。

 真さんとこいしさんの為にも。

 

「そう……だね。二人ももう着いてるかもしれないし、ね?紬も」

 妖夢さんも心配のようだが僕の案に賛成してくれた。

 

「……」

 紬さんは俯いて何も言わなくなってしまった。

 

 こんな時にこいしさんが居たらもっと大変だ。こいしさんだったら意地でも真さんを探そうとするだろう。

 

「んじゃ、行きますか」

 そうして不穏な空気から始まった僕達のスノーアイランドへの旅、二日目が開始された。

 


 

side真

 

 俺は森の中で一人、ポツンとその場に突っ立っていた。

 

 何かおかしい。

 霊力もロクに使えないし、方向感覚がおかしくなってる気がする。恐らく強力な磁場かなんかで霊力を妨害されているのだろう。

 

 こんなに磁場が強かったらこの中に居ると音恩の霊力探知も通用しなさそうだな。

 はぁ……まぁ、敵の言うことをバカ正直に信じてこっちに来た俺が悪いんだけどな。

 

 あいつらは霊力を使える。一般人では無理だ。

 

 そこから導き出される答えは──刺客……か。

 

 そこまで考えなかった俺が悪い。

 俺の悪い癖だ。こいしに何かあったら周りの事が何も見えなくなって、何も考えられなくなる。最悪の事ばかり考えてしまう。

 

 今もそうだ。一体何やってんだか……。

 

「こいし。お前の彼氏はとんでもない間抜けのようだ」

 自嘲気味に言う。すると

『お前は本当に間抜けだ』

 そんな声が聞こえてきた。

 

 そんな事分かってる。俺が一番分かってる。

 

『これからどうする気だ?』

 この森を出る。

『無理だな』

 何故だ。

『何故なら、俺が逃がさないからだ!』

 その声が聞こえた瞬間、全ての木々に目と口が浮かび上がって来た。

 

 なるほど、

「この森自体が巨大な妖怪って事か」

『お前はこの俺の磁場によって縛り付けられている。逃れることは出来ない』

 


 

side燐火

 

 一旦海藤は諦めて、私は人里に向かう事にした。

 

 地図を書いてきたんだから、多分皆はもう人里に向けて出発してるだろう。

 

「まぁ、海藤ならなんとかなる。なんたって私を倒した男だからね。そして、信じているよ。バークを倒してくれるって」

 そして私は飛んだまま人里に向う。

 

 人里は結構すぐの所にある。空を飛べば10分とかからない。

 しかし殺風景だ。

 

 周りには雪しかない。どこを見ても雪、雪、雪。

 

 季節は妖怪の山を切れ目として季節が逆になっている。

 

 海藤達が普段住んでいるところが夏だとしたら、ここは冬。

 あっちは今、夏だからこっちは冬なのだ。

 

 しかし寒い。

 私は厚着をしてきたんだけど、それでも寒い。だから私は海藤から貰ったかいろと言うものを取り出す。

 

 本当にこんな小さなもので暖かくなるのかな?

 

 ご丁寧に説明書まで付属されている。使い方や注意等だ。

 

 肌に直接触れたら火傷する恐れがあるから肌に直接触れないように付けること。

 

 本当にそんなに熱くなるのかな?

 

 疑問を持ちながら私は説明書通りに使う。

 

 最後にジャンパーの内側にかいろを貼る。

 

「よし、これでおっけー」

 そして私は一人で人里に向かった。




 はい!第46話終了

 あともう1話位この展開が続く予定です。

 それでは!

 さようなら


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第47話 霊爆波(インパクト)

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 ついに二日目が始まった。



 それではどうぞ!


side真

 

 俺は諦めてその場に座り込んでしまった。

 

 俺は馬鹿だ。後先考えずに飛び出して……。

 

「こいし……」

 呟いたその声が昼間なのに真っ暗になるくらい葉で覆われてる森に響いた。

 

 飛んだら平衡感覚失って地面に激突しそうだな。

 

 あいつらは今頃、人里に向かってるのかな?

 

 こいし、悲しむかもなぁ……。こんな無様な彼氏でごめんよ。

 心の中で謝罪する。

 

 だが、やっぱり俺は諦めきれなかった。

 

 だから俺は霊力を足に纏わせる。

 確かにここでは霊力が使いにくい。だけどこれくらいの簡単な操作くらいなら何とかできる。

「霊力ブーストだ」

 そうして走る。

 霊力を纏った俺の足はいつも以上の力を発揮したものの、結果は同じ所をぐるぐる回ってるだけだ。

 

『ははは。お前は逃れられない。この森で朽ちていく運命なんだよ』

 そうか……。

 

「れいば……いや、この森を全て吹っ飛ばすのは不可能だし、そもそもあれは霊力の扱いが難しすぎるから無理だな」

 燐火とか紅蓮なら焼き払えそうだけどな。俺は攻撃に繋がる能力は持ってないしな。

 唯一の崩壊だってこいしと居ないと使えないわけだし……。

 

 こいし、待ってくれてるんだよな。なら、やるしかないな。

 

 そうして俺は手のひらに霊力を集め始める。

『無駄だァっ!』

 その声が聞こえた瞬間、磁場によって俺の霊力の扱いがぶれ始めた。

 

『貴様は朽ちていくのみ!』

 うるさい……。

『貴様は俺の栄養とな──』

「うるせぇぇぇっ!」

 その瞬間、俺の周りにあった木々が次々と倒れ始める。

 

『これは、殺気……いや、それに似たような力……』

 

 すると俺の手のひらに集まった霊力の塊は赤色に変化した。

「《霊縛波》」

 そして俺は地面に霊縛波を叩きつける。

 

 すると一瞬だけ霊力が戻ってきたような気がした。

 

 ほんの少しだが、この森に攻撃したらダメージが入るって事なのか?

 

 なら、

「ダブルだ!」

 そして両手に霊縛波を作り出して同時に地面に叩きつける。

 

 その瞬間のことだった。

 

 足が底無し沼にハマったかのように沈み始めた。

 そして霊縛波ごと腕もそのまま沈み始めた。

 

「これは!?」

 

『これをお前はどう攻略する気だ?』

 四肢が封じられてしまった。

 

 俺の技は四肢が封じられてしまってはどうにもならない様な技ばかり。

 スペルも近接ばかりだ。

 

 積み……。いや、今まではそうだったかもな。

 

─※─※─※─回想─※─※─※─

 

「お前は火力が足らん」

「い、いきなり手厳しいですね……」

 そこは自分でも分かっている。

 

 攻撃系の技が無けりゃどれだけタフでも敵を倒せない。倒せなきゃ意味が無い。

 

「だから今からお前にある技を教えよう。二つ教える。そしてもう一つはこれが出来てから教えよう」

 

─※─※─※─回想 終─※─※─※─

 

 そして妖忌さんは一つ目の技を教えてくれた。

 

 それがこれだ!

「俺の霊力を甘く見るなよ!《インパクト》」

 その瞬間、俺の腕の周りの土が吹き飛んだ。

 

 これは腕に触れているものに高圧の空気をぶつけるみたいな威力で、霊力を爆発させる事によって相手にかなりの衝撃を与える技だ。

 

 吹き飛んだことによって、腕が抜けるようになった。

 

 腕が動ければこっちの物だ。

 

 そして俺は何枚か里で買ったお札を取り出して四方八方に投げる。

 

 するとお札は木々に張り付いた。

 

『これは!?』

 

 そして俺は手のひらに霊力を集中させて手のひらを合わせる。

「博麗式奥義《封》っ!」

 その瞬間、お札が貼られた木々は磁場を放たなくなり、少しだけ楽に霊力を使えるようになった。

 

 これはまだ簡単な技だから使えるけど難しい技だと使えないからな。

 

 この技は昔、霊夢が使ってたようなっていう記憶から再現したのだ。

 

「これが博麗術式奥義。封印だ」

 妖相手なら効かない奴はいない。

 

「な、何を!?」

 

「このまま森を封印して!」

 そして4枚お札を構える。

 

 その時、急に背後から頭を叩かれた。

「いてっ!」

 そして振り返るとそこには男っぽい服装の人物。シャロが居た。

「なんだよ」

 

「いや、君さ……馬鹿なの?」

 開口一番で罵られてしまった。何故?

 

「この森全域を封印するのにどれだけ霊力が必要か分かって言ってる?」

 そうか……そこは計算していなかった。

 

「まぁ、しょうが無いから今回は手助けしてあげる。この幻想郷には君が居ないとダメみたいだしね」

 そう言うとシャロは地面に手をつける。

 

 するとさっきの俺と同じく体が沈んでいくシャロ。

「コールドスリープ」

 すると森が白い霧で覆われ、磁場も感じなくなった。

 

「早く出るよ。ここに居たら僕達も凍っちゃう」

「え、凍る?」

「良いから早く!」

 そして俺は手を引かれてシャロが開いた隙間の中に引きずり込まれた。

 


 

 時は真達が出発する数時間前に遡る。

 

 こいしは密かにある計画を練っていた。

 

sideこいし

 

 あれからどれくらい経っただろう。

 

 窓もなく光が入らない真っ暗闇。その中でずっと放置されてたから時間感覚を忘れてしまった。

 

 早く真達に会いたい。

 

 だけど真はここの奴らを倒せるのか?不安。

 

 だから私はある事を計画した。それは脱出。

 

 丁度ポケットに鋭利な石が入ってるからね。

 なんか知らない内に入ってたんだよね。無意識ならしょうが無い。

 

 そして私はポケットから石を取り出して腕を縛っているロープを掻っ切った。

 

「これでよしっ!」

 もうこれ以上待っていられない!




 はい!第47話終了

 遂に動き出したこいし、果たして真とこいしは再開することが出来るのだろうか?

 それでは!

 さようなら


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第48話 超ド級の馬鹿と超ド級のお人好し

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 苦戦している真の前にシャロが現れ、真を救出。

 そしてこいしが動き出した。

 果たしてこいしは敵の魔の手から無事逃げる事が出来るのか?



 それではどうぞ!


sideこいし

 

 何故今まで大人しく待っていたのに急に行動を起こそうとしたのかと言うと理由がある。

 

 それは、数日前の事だ。

 

 数日前、私が閉じ込められてる部屋は壁が薄いから良く外の声が聞こえるんだけど、外を見回りに来てた奴らの仲間の声が聞こえたんだよね。

 その時にこんな話をしていた。

 

『きひひ。今回はどうするよ?』

『そうだなぁ。ジーラ様が言うには奴らが来る前に殺してあいつの死体を突きつけることで絶望を味わせて殺すって言うことを考えてるらしいぜ』

『相変わらずいい趣味してんな。あのお方は』

『そうだな。まぁ、こういう組織でリーダーやるならそれくらいの考えが無いとやっていけないがな』

『そういやあいつはどうした?』

『あいつ?』

『そうだ。あの10年位前に捉えたあの子だ』

『ああ、あいつならあの馬鹿に条件を提示した次の日にジーラ様直々で嬉々として殺っていたよ。あの時は流石の俺も顔を歪めざるを得なかった』

『あのお方はそういうの好きだもんなぁ〜』

『『ハッハッハー』』

 

 私も聞いてる時、直ぐには言葉の意味を理解出来なかった。

 私を連れてきて直ぐに「殺さない」って言っていたというのに約束が違う。

 それにあの子って一体?

 

 だけど、それにしても趣味が悪すぎる。

 流石にこれには私も許せない。だから私は殺される前に行動を起こす事にした。

 どうせ黙ってても殺されるんだし、リスクを犯したところでどの道同じだろう。

 逆にリスクを犯したら助かる可能性がある。

 

 真達に悲しい思いはさせたくない。何より、真にもう会えないってのは嫌だ。何がなんでも必ず帰ってみせる。

 

 その為に私は今、ロープを掻っ切ったんだから。

 

 幸いなことにこの長い間誰一人として中の様子を探ろうとする人が居なかった。恐らくこれからも。

 だから抜け出したとして、出歩いてる私が見つからない限り、バレることは無いだろう。

 バレた時点で恐らく殺される。バレちゃったらみんなの頑張りも無駄になってしまうからダメ。

 

 真。待ってて。今行くから。

 


 

side真

 

 俺はシャロに連れられて森の外に出られた。

 

「はぁ……はぁ……」

 何故か走ってだけど逃げれたから結果オーライだ。

 

「で、真君はなんであの場所に居たの?」

「あー。まぁ、言っちゃうと騙された」

 そう言うとシャロは呆れた顔になった。

 

「まぁ、一部始終を見てたんだけど、あれを信じるって君、馬鹿なの?」

 グサァッ!

「それに、人里の位置を知らないで先走って一人で行くなんて超ド級の馬鹿なの?」

 グサグサァっ!

 本っ当に申し訳ありません。全て正論ですね。

 

 自分でも馬鹿だと思ってたもんな……。

「で、なんでこっちに来たの?」

「ああ、それは」

 俺は全て話した。

 

 燐火の事、勿論過去は伏せて。こいしが拐われたこと。等。そしてスノーアイランドにあるキルタワーに行かなきゃ行けないって事を。

 

「うーん。気の毒で助けたいところではあるけど……。私情で君達を助けちゃいけないってルールが神の間ではあるんだよね」

 そう言うと一枚のお札を取り出した。

 

「これ、あげるよ」

「なんだこれ?」

「これはお札。だけど普通のお札とは違うよ。何せ神の霊力が込められてるんだから」

「で?」

「これはね。解放が使えるお札なんだよね。使い所は任せるけど、自分の額に貼って解放を使えば身体能力を上げれる。ただし、体に相当の負荷がかかるから気をつけてね」

 バトル漫画とかでよくある設定だな。

 

 でもまぁ、これはいざって言う時に使う事にしよう。

 俺はこいしやみんなの為ならこの体をぶっ壊してでも守る覚悟がある。

 

 だから俺はそれをありがたく受け取る事にした。

 だが、

「神は手助けしちゃダメなんじゃ──」

 つい数秒前にシャロが言った言葉だ。

「うん。だから、内緒だよ」

 そう言ってシャロは隙間を開けてどこかに行ってしまった。

 

 その隙間から何かが出てきた。

「これは……地図?」

 しかも人里への道筋が事細かく書いてある。

 

 あいつ、俺への手助けはしないって言いながら色々サービスしてくれてる。

 なんだかんだ言って優しいやつだ。

 

 ったく……。

「余計に負けらんなくなったじゃねーか」

 文句を言うが、顔はニヤけた。

 

 俺は良い仲間を持った。そう思った。

 

 ピンチの時には助けてくれる仲間が居る。それだけで俺は心強かった。

 

 さて、シャロの期待を裏切らないためにも、行きますかね。

 

 俺は服の胸の部分を握ってシワを付けた後、雪の降り積もった歩きにくい道をゆっくりと歩き始めた。

 


 

side音恩

 

 燐火さんの書いてくれた道順通りに来たら意外と早くたどり着いた。

 

 とりあえず、ここで物資補給。とりあえず動きやすいように最低限の荷物で来てしまった為、食料などは現地調達となる。

 

「わしは食料を調達してこようかのう」

「私もおじいちゃんと買い物行ってくる」

「私はどこか宿が無いか探してくるよ。とりあえず疲れただろうからゆっくり休まないと」

「わ、私は真を探しに」

 そう言って振り返った紬さんの肩を僕は掴んだ。

 

「大丈夫です。ついさっき、一瞬ですが、霊力を感じられました」

「本当!?」

 と顔を近づけて聞いてくる。

 

「はい」

 そう言うと安堵の表情になる紬さん。ずっと暗かったから戻ってよかった。

 

「紬さんは僕と一緒に回復のお札を買いに行きましょう」

「うん!」

 何とか宥める事に成功して紬さんは着いてきた。

 


 

side三人称

 

 薄暗い部屋の中に三人の男達が集まっていた。

 

「はぁ、バークはまだ来ないのか?」

「あいつはいつもの事だろう」

「それよりもお前はその物騒なものを抜き身で持つんじゃねーよ」

 

 そんな話をしていると急に部屋の扉が開いた。

 

 その開けた人物とは、

「「「バーク!」」」

「よぉ、お前ら全員集まってるみたいだな」

 皆がバークと呼ぶ人物だった。

 

「で、どうしたんだ?今回は」

「それなんだが、例の小娘が脱走を測っている」

「まじかよ。殺さねぇとなケケケ」

「お前は血の気が盛んだな雷駿」

「それよりもどうするよバーク」

 一人の男が聞くとバークはこう答えた。

 

「今回は態と野放しにしようと思う。ほかの奴らが止める気なら加担しようとすら考えてる」

「へぇ〜。それまた何故」

「あの変な服を来た剣士の小僧ともう一回やりたいと思ってな。メンタルを破壊してからではなくて、本調子の全力の小僧と」

 ついさっきまで無表情だったバークはニヤリと笑った。

 

「お、その顔はバーク。本気で楽しんでるな?あいつにどんな価値を見出したんだ?」

「あの迫力。間違いなくあいつはあれの才能がある」

「ほう。だが、あれを使えた所でお前に適うとは思えないがな」

「だが、あの小僧。メンタルは人一倍だ。どこまで強くなってくるか楽しみだ」

「まぁ、お前が言うってことは間違いないんだろうな」

「ああ、間違いなくあいつはあれの……クレアの才能がある」




 はい!第48話終了

 遂に人里に着きましたね。

 次回辺り真も追いつくと思います。

 それでは!

 さようなら


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第49話 集合

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 真は超ド級の馬鹿でシャロは超ド級のお人好しだった。

 こいしは遂に計画を開始!



 それではどうぞ〜


sideこいし

 

 私はまず、この部屋から脱出出来そうな場所を探す事にした。

 

 すると、少し高いけど上に窓がある事が分かった。

 

 この施設がどんな構造なのかは知らないけどこの建物から外には出られる。と言うかあそこからしか出られない。

 

 入口の扉は鍵で固く閉ざされているから開けられない。あそこから出る。

 そして私は飛べる。空を飛んだら施設だとしても上から塀を越えることも出来るだろう。やってみる価値はある。

 

 そう思って窓の位置まで飛び上がった。そして窓に触る前に気がついた。

 近づいたらビリビリしたのだ。

 

 窓枠は鉄製。多分高圧の電流が流れてるんだろう。

 

 でも困った。それじゃ逃げられない……。

 

 そこで私は思いついた。この部屋に絶縁体は無いのか?探してみれば見つかるかもしれない。

 無いとしても木の棒で開けることもできるし、私の体だったら多分窓枠に触れずに出ることが出来るだろう。

 

 この小さい体がこんな所で役に立つ日が来るとは思わなかった。

 

 そして私が最初に目を付けたのは一番近くにあったダンホール箱だ。

 

 あの中は何が入ってるんだろうか?でも閉じ込めてる同じ部屋に脱出の手助けになるような道具をすぐに見つかる位置に置くとは思えないけど。

 そう思いながら近づくと、一瞬だけ箱が揺れた。

 

 なんで今揺れたの?

 

 少し怖かったが、箱を開けてみるとなんとそこには、

「ご、ゴム手袋?」

 何故かゴム手袋が入っていた。

 

 いや、ありがたい。ありがたいんだけど非常に怪しい。箱が揺れた事に対しても、そしてその中にこれしか入ってない事も。

 

 でもあったんだから私はありがたく使わせてもらう事にした。

 


 

side三人称

 

「これでいいんですかい」

「相変わらずいつ見ても凄いな。好きな位置に投げ込む事が出来るなんて」

「よし、これでいい。異移」

「いいだけに?」

「よし、お前黙ってろ」

 

 こいしが閉じ込められてた部屋の前で四人の男が話していた。

 

 そう。こいしに手袋を渡したのはこいつらなのだ。

 

「おー怖い怖い。能封さんは怖いねぇ?」

「まぁ、これでここは大丈夫だろう。とりあえず能封と俺は戦闘。雷駿と異移は小娘の手助けだ」

「了解」

「ケケケこんな奴とタッグは組みたくないがな」

「雷駿と異移はタッグを組むといい。キタコレ」

「いや、だからお前もう黙れよ」

 そして男達は二手に別れて歩き出した。

 


 

side真

 

 シャロの地図通りに進んだら結構直ぐに着くことが出来た。

 ここが冬の人里。

 

 一面雪景色で、凍った地面で子供達が遊んでいる。

 

 氷柱が沢山あって危ないが、風情がある。

 

「さて、遅れちゃったが、みんなは居るかな?」

 そう思って歩き出すと横から気配が!

 

「誰だっ!」

 と当身をするが、空振ってしまう。

 

 その次の瞬間、腹に強烈な衝撃が走り、その場に押し倒されてしまった。

 

 すると誰が俺にタックルしてきたが分かった。それは、今も俺の胸で頬擦りしている──

「紬。何やってる?」

 紬だった。

「真だァっ!」

 

 すると少し遅れて音恩が走って来た。

「あ、真さん。やはり生きてましたね」

「何その意味深な言葉!?何!?俺がどうなったと思ってたの!!??」

 音恩は俺の霊力探れるだろ!

 

「もう離さない!」

 ギューッと俺を抱き締めて離さない紬。

 どうしようかな。このままじゃ動けないし。

 そこで名案を思いついた。それは

「神成り」

 その瞬間、紬は光り始めて刀の姿に。

『あ!真、卑怯だよー!』

 紬が講義の声を出すが関係ない。

 俺が紬って言わない限りこいつは戻れないんだから。

 

 一応俺がピンチの時は自力で戻るって事も出来るみたいだが。

 

「で、他のみんなは?」

「妖夢さんと妖忌さんは食料調達。燐火さんは宿を探してきてます」

 俺の問いに直ぐに音恩が答えてくれた。

 

 そうか。みんなも来てるのか。って事はやはり俺が一番最後だったらしい。

 まぁ、シャロが来てくれなかったらもっと時間かかってただろうな。封印をしようとしてたし。

 

「まぁ、それは良いとして、こんなにゆっくりしてて良いのか?あと三日しか無いんだぞ?」

「四日後が決戦の日ですね」

 そう。だから俺は焦って仕方がない。

 

 この後もデスマウンテンとか言う危険な名前の山を越えなきゃいけないのに今日ここに止まったら後二日しか無くなる。

 少し余裕を持ちたい所ではあるんだが……。

 

 すると遠くから燐火が歩いてきた。しかも何か食いながら。

「何食ってんだ?」

 俺が声かけると向こうも俺に気がついたらしい。

「海藤?来てたんだ。これ、アイス。名前は……デスアイスだっけ?海藤にもあげるよ」

「こんな寒い場所でそんな凍死しそうな名前のアイス食えるか!?」

 こいつの体温どうなってんの?

 

「ん?美味しいのに」

 そしてもう一口パクリと食べる。

 

『多分あれじゃないかな?火の技が使えるから体温が高いとか』

 それ関係あるの?

 

 それにしても、こんな寒い場所で冷たいものを食ってる奴を見るとこっちまで寒くなってくる。

「それにしても海藤。スノーランドはもっと寒いんだからこんな所で寒いって言ってたらやっていけないよ?」

 いや、あなたの感覚がおかしいだけです。




 はい!第49話終了

 暫くは真とこいし視点でお送りします。

 果たして真達は無事にデスマウンテンを越え、キルタワーにたどり着くことが出来るのか?

 そしてこいしは無事に逃げ出すことが出来るのか?

 それでは!

 さようなら


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第50話 根を詰め過ぎると体に毒である

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 こいしはゴム手袋を発見!

 真は遂にみんなと再開。

 果たして無事にキルタワーまでたどり着くのか?



 それではどうぞ!


sideこいし

 

 私はゴム手袋をはめて窓を開けて脱出した。

 

 しかし、外は塀の上に巨大なガラスのドーム。とても飛んでも出ていけそうにない空間が広がっていた。

 ガラスを割ることも考えたけど幾ら攻撃してもビクともしなかった。

 

 とりあえず出入り口を探さないといけないことが分かった。

 

 出入り口って言ってもどこがそこなのか分からない。マップでもあればいいんだけど、そのマップの位置も知らないからどこに行けばいいんだろう。

 何も考え無しに飛び出してきてしまった。

 

 その時!

 

 なんと上から一枚の紙が降ってきた。

 その紙を見てみると、なんと地図が書いてあってご丁寧に現在地まで書いてあった。

 ここまで偶然が重なると怖いって言うか……。

 

 でもこれを頼りに行くしか今は無いよね。

 

 今私が居る場所は倉庫って場所の裏手らしい。

 

 で、その倉庫のある位置ってのが端の端。超端っこ。入口の方までかなりの距離。って言うか施設内で最も遠い場所なんじゃないだろうか?

 

 だから五十出入り口に行くまでに見つからないように行かないと。

 


 

side三人称

 

「バカヤロー!」

「痛っ!いってーな!異移にはんな事言われたくねーよ!」

 異移と言う人物が雷駿と言う人物に拳を落とした。

 

 さっき地図を落としたのはこいつらだ。

「もっと自然に誘導する地図を書けなかったのか?」

「知らないよ。オレ、バカだからな」

 この二人が言い争っている間にこいしは移動を開始した。

 

 こんな凸凹コンビで本当に大丈夫か?

 

「……能封……。早速不安になってきたわ……」

「バーク。いつもの事だ。気にするな」

「お前の神経の図太さにはいつも感服するわ」

 バークと能封は呆れたように話し合う。雷駿と異移が凸凹コンビなのは周知の事実の様だ。

 

「とにかく俺達は俺たちで出来ることをやるしか無いな。とりあえず近くの奴らの気絶を頼む」

「分かった」

 するとバークは殺気のこもった霊力を放出させた。

 

「おいおい。そんなに出力上げて大丈夫か?」

 殺気のこもったクレアを放つと気絶する事がある。だが、それは力が弱い人だけ。

「あの小娘はそこそこ力があるから多分気絶はしない」

「まぁ、確かに妖怪だしなぁ……」

 

 こいしの脱走はまだ始まったばかりだ。

 


 

side真

 

「とりあえずこれだけ買ってました」

「冬の山を越えるってことじゃったから、暖かいものを食べようと思って鍋にすることにしたんじゃ。出汁と水、後色々な食材。締めにうどんも買ってきたぞ」

 妖夢と妖忌さんの二人とも再会できた。

 

 妖夢は仲良く妖忌さんと買い物袋を持って来た。

 袋の中には肉や野菜等の鍋物の食材。確かにその気遣いはありがたい。

 雪山を越える時ほど暖かいものが食べたくなる時はない。

 

「そうだね……。じゃあ、昔はデスマウンテンも登山に良く登られてたらしいから山の途中に小屋があると思うからそこで食べようか」

 燐火がそう提案してきた。

 

 だな。なんぼ焚火つけて鍋食うとしても遠くから見てあんな真っ白な山だ。外で食うのは自殺行為だろう。

「それに吹雪いてるらしいし」と紬が付け加えてきた。

 

「あれ?デスマウンテンってそんなに吹雪いていたっけ?」

 燐火の言葉から昔は吹雪いていなかったと言うことが読み取れた。

 

「吹雪き始めたのはここ最近だよ。なんか吹雪き出す前日。あの山に近づく巨大な影を見たらしいよ」

 巨大な影か……。それは怪しい感じがするな……。

 

「なぁ、燐火。デスマウンテン以外のルートってあるのか?」

 そう聞くと既にアイスも食べ終わって近くの売店にあった八つ目鰻を頬張っていた。リスみたいに頬を膨らませながら食っている。こいつってこんなに食うんだな……。しかも美味しそうに食ってるな。

「と言うか燐火。俺達は観光のために来たんじゃないんだが?」

 そう言うと口の中の食べ物を急いで飲み込んだ。

 

「良いじゃん出発は明日なんだから。それに、そんなにかっかしてると気疲れするよ。もっと楽に、ね?」

 その瞬間、何故か2本持ってた八つ目鰻の片方を俺の口の中にぶち込んできた。

 俺はその事に驚きつつも口の中に突っ込まれたものは咀嚼する。

 

 うん。普通に美味い。だが、ミスチーの所の方が美味いかな?

 久しぶりにミスチーの屋台に顔出してみるのもありだな。これが無事終わったらみんな誘ってミスチーの屋台で飲もうかな?

 まぁ、若干死亡フラグなんだがな。

 

「まぁ、それもそうだな。お前の言う通りだ。コンディションを整えておくのは重要な事だ。善処する」

「まぁ、海藤の古明地妹愛は分かってるから善処だけでも十分ね」

 うんうん。と頷く燐火。

 

「よし、じゃあ俺らもなんか食いに──って更に増えてるっっっ!?」

 俺が話しているあいだに燐火は八つ目鰻を食べ終わったようで、今度は左手におでん串。右手に唐揚げ棒と言う微妙な組み合わせのものを持って交互に口に運んで行っていた。

 

 しっかし食ってる時は幸せそうな顔すんな。

 

 と言うか前、一緒に食いに行った時も結構食ってたような……。ったく、遠慮って言葉を知らんのかあいつは……。

 人里のおっちゃんの店に行った時も肉野菜炒め三皿を一人で平らげ、茶碗飯を十杯。これは序の口だ。もっと他にも色々と頼んでたな。そのせいで空っぽに……。

 あの時も幸せそうに食ってたな。飯を食うのが好きなのかな?

 

「ん?お昼ご飯食べに行くの?」

 もうそんな時間だ。俺は朝食ってないけど時間的には昼飯なのだ。

「ああ。腹減ってきたしな」

「私も行く」

「お前。さっきから口に運んでいってる物はなんだ?」

「ん?おやつ」

 おやつ感覚で唐揚げ棒とおでん串、八つ目鰻とそんなに食うやつそうそう居ねーよ。

 

 と言うか俺が見てる間、ずっと何か食ってんな。

 

「何その目は。『こいつ、食いしん坊だな』って。私は食いしん坊じゃないよ」

 いや、それを誰が見たら食いしん坊じゃないって思うんだよ。

「わ、私もそれは食べ過ぎだと……」

「お主……わしもそう思うぞ?」

「僕も」

「わたしも!」

 満場一致で燐火は食べ過ぎとの判断が下ったので燐火は宿に置いてきて、五人で飯を食いに行く事にした。




 はい!第50話終了

 次回も冬の人里から始まります。

 しかし、三人称視点が書きなれてないので書きにくいです。

 それでは!

 さようなら


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第51話 自分が信じたものは最後まで信じ抜くべし

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 こいしはマップを入手。

 真達は全員集合。

 そして燐火が大食らいだということが判明する。

 それがわかった事で燐火を抜いた五人だけで昼飯を食べに行く事にした。



 それではどうぞ!


sideこいし

 

 私はとりあえず倉庫から離れて少し行ったところにある施設に来ていた。

 どうやらこの中を通らないと出入り口にたどり着けないみたい。

 

 だけどさっきから何人か見回りの人が歩いているのが見えるから気が付かれないようにそっと移動して行かないと。

 

 その為の能力だ。

 

 私は無意識を操る程度の能力を使用して慎重に進んでいく。

 

 だけど無意識があったとして慢心は良くない。希に無意識を貫通して認識してくる人が居るから慎重に行かなきゃいけないことは間違いない。

 

 そして壁沿いに歩いていると、耳が壁に近かった為、壁の中の声が聞こえてきた。

 

『ジーラ様はなんと?』

『あと少しであいつらが来るから今日か明日にでも殺してしまおうと』

 ジーラ?もしかしてここのリーダーなのかな?

 

 それとあのままじっとしてたら今日か明日にでも殺されてたのか。ギリギリセーフだね。

 

『だが、あの小娘がじっとしてるとも考えられない』

『だな。あと、あの幹部の方々は脱走者の殺しに加担しないから脱走された場合俺らで殺る事になるんだよな』

『まぁ、脱走された場合。あの小僧達の前で殺すって言ってた。だが、見つけ次第殺しても構わないそうだ』

 やっぱり……。見つかったら殺される。それだけは嫌だ。真達に会えなくなるのは。

 


 

side真

 

「食べた食べた〜」

 満足気に紬がそう呟いた。

 

 昼は先程みんな(燐火抜き)で食べてきた。

 

 さすがにずっと外にいたから寒かったので俺らもおでんを食うことにした。

 冷え切った体に熱々のおでんはすごく効いた。美味すぎた。

「あれは悪魔の味だね〜」

 ニコニコしながら言う紬に久々に同意できた。あれは悪魔の味以外の何物でもない。

 

「とりあえずお腹も満たされましたし、今日はここに泊まる訳ですし鍛錬してきます」

 そう言って少し離れた雪原に向かって走っていく妖夢。

「若いって良いのう。わしも若い頃はああじゃった」

「何言ってるんですか。妖忌さんは今でも若いじゃないですか」

 少なくともここまで元気なおじいさんは俺は見たことがない。

 

「僕はちょっとパソコンの点検をしてきます」

 と先程から斜め掛けしているバッグの中身は何かな?と見ていたが工具が入っていたらしい。

 なんでも音恩は自分でパソコンを定期的に点検してるんだとか。

 まぁ、幻想郷にそんなハイテクなものは無いから仕方が無いな。

 

「俺らは部屋に戻ろうか」

「だね〜」

 


 

 で、

「なんでお前は男子部屋にいるんだ?部屋は男子と女子に分けて取ったんだろ?」

 部屋に行くとど真ん中に燐火が座って刀の手入れをしていた。

 

「ん?だって暇だったんだもん」

 もんって……。

「そしてちゃっかりとお前も着いてきてるよな。紬」

「……テヘッ♪」

 テヘッ♪じゃねーよ。

 

「まぁ、ここに居るなら丁度いい。燐火、さっきの話だが」

「ん?」

「デスマウンテンを通らずに行けるルートってあるのか?」

「…………その心は?」

 燐火は目を細めて言ってきた。

「嫌な予感がするんだよ」

 でかい影。できるならば関わりたくない。安全に行けることに越したことはない。

 

「そうだねー。あるにはあるけど通れないよ」

「え?何故だ?」

「そっちにはめちゃくちゃ強い妖怪が沢山居て全員を相手してたらたどり着くまでに10日はかかる」

 それじゃダメだ。そんなにかかっちゃダメなんだ!

 

 しょうがない……。行くしかないのか?

 

「まぁ、ここには君が選んだ最強のチームが居る。魂魄。老魂魄。南雲弟。紬。わたし。そして海藤。君が選んだ最強のメンバーだよ。君がみんなを信じないで誰が信じるのかな?」

 それもそうだ。

 俺はあの俺が歯が立たなかったあの男に勝てるメンバーだと思って俺が選んだんだ。

 俺はみんなの事を信じる義務がある。

 

「そうだな。信じるよ」

 

 そして俺は振り返ってドアノブに手をかけた。

「神成り」

 そう言うと紬は刀になった。

 

「燐火。ちょっくら鍛錬に行ってくる」

 そして背後を振り返らずに手をふらふらと降って部屋の外に出ていく。

 

「鍛錬なんて久しぶりじゃない?」

 確かに俺は鍛錬をするのは久々だ。

 

 剣を本格的に武器として使用する時に妖夢に少し鍛えてもらった程度だ。

 戻ってきてからは鍛錬なんてする暇は無かったし、この前少し妖忌さんに鍛えてもらった程度。

 

 そんな事を話しながら妖夢の霊力を辿って妖夢のもとに来た。

 

「あ、真。どうしました?」

「ああ、俺も鍛錬しようかなって。俺にまた剣を教えてくれ」

 そして俺は手に握った神成りを妖夢に見せつける。

 

「……そうですか。なら、久しぶりにやりませんか?一応、私だけがあなたの力をこの目で見ていないので」

 このメンバーで俺と音恩の試合を見ていなかったのは妖忌さんと妖夢の二人。その内、妖忌さんは俺を鍛えてる立場だからよく知っているだろう。

 つまり、俺の力を知らないのは妖夢だけなんだ。

 

「俺のパワーアップした剣術を見せてやるぜ妖夢」

「真は強いです。とてもとても……。なので真剣(マジ)でやります」

 そして妖夢は腰に掛けた刀を引き抜いて二本とも構えた。

 

「……私に斬れぬものなど……あんまり無い!」




 はい!第51話終了

 次回は真対妖夢。

 以前より、両者ともに強くなっているのでどうなる事やら。

 それでは!

 さようなら


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第52話 稽古だからこそ負けられない

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 真と妖夢が手合わせをする事になった。



 それでは!

 さようなら


side真

 

「久しぶりですね。こうやって向き合うのも」

 嬉しそうな声色で言う妖夢。

「ああ」

 素っ気ない返事だが、妖夢の剣を見るのは楽しみだ。どこぞの戦闘民族でもないが、ワクワクしている。

 

 昔はこういう風に向き合って稽古をつけてもらってたな〜と懐かしい気持ちになる。

「さぁ、やりますよ」

 

 そして妖夢は人差し指と中指を立てる。

「ルールは二つ。ひとつは相手を殺さない。もうひとつはスペル無し。そして」

 そう言って妖夢は懐からコインを取り出した。

 

「これが地面に落ちたら開始で」

 そして妖夢はコインを指の上に置いて弾く体制に入った。

 よくあるやつだな。

 

 俺はいつもは実践で戦ってばっかりだったからこうやって決闘形式のマジのってあんまりやった事ないな。

 やったのは大会の時と音恩位だと思う。音恩も強くなっててびっくりしたな。

 

 大会の時は負けちゃったみたいだけど、妖夢のことだから以前よりも強くなっているだろう。

「行きますよー!」

 そう言って妖夢はコインを弾き、刀を二本構えた。

 

 自然と俺はそのコインに視線が向く。それは妖夢も同じようで二人で同じ一点。コインを注視する。

 自然とコインがスローに見えた。

 相当な集中力だからだろうか。動体視力のコマ数が多くなっている。

 

 コインが落ちた瞬間、勝負開始。コンマ一秒でも早く動きだした方が有利になる。

 寒いはずなのに汗が出てくる。緊張の汗だ。

 これは稽古だ。だが、負けたくない。それは妖夢も同じだろう。だから──

「「全力で!」」

 

 コインが雪に触れる。

 

 その瞬間俺と妖夢は雪を蹴って一気に距離を詰める。ほぼ同時と言っていいだろう。俺と妖夢の反射速度はほぼ同じだ!

 

 カキィィッン!

 

 刀同士がぶつかり合う甲高い音が鳴った。

 やはり妖夢は昔より強くなっていて、俺も強くなってるのにかなり重い。寧ろ気を抜くと押し返されそうだ。

『妖夢は強いね。だけど真も負けてない。そうでしょ?』

 ああそうだ。俺もこの1ヶ月、ただ怠けていたわけじゃない。

 

 過酷な筋トレ。霊力不足は日常茶判事。トレーニングしてきたんだ。妖忌さんのもとで。

 これしきのことで押し返されてたまるか!

 

 そして俺は腕に今出せる最大の力を込める。

「重い……っ!」

 それは無意識だろう。妖夢はそう呟いた。

 

 そして!

「貫く!」

 押し切る!

 

 妖夢の二本の刀を弾き、妖夢を押し返した。

 妖夢は押し返された反動で数メートル飛び、刀を雪に刺してそれ以上飛ぶのを防ぐ。

「やっぱり真は凄いです。私の絶対的自信が揺らぐ人の内の一人です」

 絶対的自信があるならあんまり(・・・・)じゃなくて絶対(・・)じゃないかな?と言うツッコミは胸の内に仕舞っておく。

 

「だからこそ……。真と刀を交えるのは楽しいです。真とやっていると自分が強くなっていくのが実感出来るから!」

 ニコッと笑う。

 

 俺もだ妖夢。

 俺も戦法が同じの妖夢と戦って、自分の成長が分かるから。

「やっぱり妖夢は強いな。だけど剣筋が単純な所は直ってないみたいだな。だけどそれでそこまでの力を出せんのはスゲーよ……はぁ……」

「真だって、剣一本で私の二本の刀を弾いただけではなく、余波だけでここまで私を吹っ飛ばすなんて……なんて馬鹿力ですか……はぁ……」

 今の一撃だけでお互いに息を切らしてしまう。

 だが、こんな程度で息を切らしていたらあいつには勝てない。

 見えなかった。一瞬で叶わないって思ってしまった……。

 

 俺は稽古と言えどこんな所で負けてられない。

 

「すぅ〜〜っ、はぁ〜〜……」

 大きく深呼吸をして呼吸を整える。妖忌さんに教えて貰ったことだ。

『力を長時間使うと息切れするじゃろ?実は霊力を扱う上で一番の強敵は息切れなんじゃ。息切れすると霊力コントロールが乱れてしまう。すると繊細な技が使えなくなってしまう。だから息切れしたら深呼吸でもして呼吸を落ち着かせろ』

 戦闘する上で一秒でも長く息切れしていた方が不利だ。だから息を整える(すべ)を持っているか持っていないかでだいぶ違う。

 

「息を整えるの早いですね!?」

 まだ呼吸を整え終わらない妖夢は息を荒くしながらそう呟いた。

 しかしその数秒後にはもう整え終わるのだから、妖夢も充分早い。

 

「さぁ、第二ラウンドだ!」

 俺が飛び出すのに合わせて妖夢も飛び出す。

 

 先程も言った通り、俺と妖夢の反射速度はほぼ同じ。

 そして俺はコンマの速度で動き出すことが出来る。反射速度では誰にも劣らない自信がある。

 そんな俺と同じ速度なんだから、当然妖夢も俺が動き出すのとコンマの違いしかないだろう。

 

 次は妖夢の一本の刀が薙ぎ払うように飛んできた。

 それを俺は剣先を下に向け、防御する。

 

 しかしそれは愚策だった。

「囮か!」

 剣が一本しかない剣を防御に使ってしまったため、もう一本を防ぐ(すべ)がない。

「そうです!真は斬っても死なないですよね?」

 怖いよ!と言うかそう言う事をその顔で言わないで?口は笑ってるのに目が笑ってない!めっちゃ据わってるから!

 

 そしてもう一本の薙ぎ払いを足からの霊力の噴射でジャンプして避ける。

 避けたと同時に回し蹴りを放つ。すると妖夢は腕だけ動かし、俺の回し蹴りを受け止める。

「流石の反射だな」

「剣士に反射は必須です」

 

『良い攻撃だと思ったんだけどね。流石妖夢だね。そうそう出来る人は居ないよ。ゼロタイム反射なんてね。あの霊夢だって一秒はかかるんだから』

 

 ゼロタイム同士で戦う時は考えていたら遅れる……。考えるな……。感じろ。

「真っ!霊力が!」

 そう言われてハッとなる。

 

「悪い悪い。さぁ、続きだ続き」

『待って!』

 続けようと思ってると刀の中から待ったがかかった。

 

「なんだ」

『空』

 そう言われて空を見るともう既に藍色に染まっており、空には三日月が浮かんでいた。

 

「そうだな。ここら辺にしようか」

「はい。そうですね」

 そして俺は神成りを紬に戻し、妖夢は刀を鞘に仕舞った。

 

「んじゃ帰りますかね」

 そして俺達は三人並んで帰った。




 はい!第52話終了

 妖夢対真。どうでしたでしょうか?

 まだまだこの章は続きます!

 それでは!

 さようなら


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第53話 真の運命・こいしの運命

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 真と妖夢が久しぶりに手合わせ!

 刀だけの勝負だったら互角の勝負をする真と妖夢。

 さぁ、スノーランドはまだまだ先だ!



 それではどうぞ!


side三人称

 

「ジーラ様」

 一人の男がジーラと呼ばれる男の元にやってきた。

 それに合わせてジーラは椅子を回転し声のした方向を向く。

「なんだ?」

「例の小娘が逃げ出しました」

 それを聞いてジーラは目の色が変わった。

 

 そして怒りによって体が震え出す。

 

 やばい雰囲気を感じ取る男。

「なぁ、あいつらは何をしている」

「恐らく、抹殺に」

「念の為に抹殺プログラムを起動しておけ」

 ジーラが命令すると男は「はっ!直ちに」と良い、すぐさま走って部屋を出ていった。

 

「………………殺す」

 


 

sideこいし

 

 ウォンウォンウォン

 

 警報機が鳴り出した。恐らく、バレた。

 

 ここからは敵も警戒してるはずだ。今まで通りにはいかない。

「どうすれば」

 あと二日。あと二日ほどだ。それで真達は来てしまう。その前になんとしても……っ!

 

 すると私の目の前を見回りの人達が走って行った。

 

 これまでフルで能力を酷使してきた。だから能力の強さも弱くなってると思う。

 だから今まで通りに能力を使って目の前を歩くと見つかる可能性が高くなった。

 

 でも真、私は負けないからね。

 私、これでも妖怪だからね。だから、私はそうそう負けないよ。

 


 

side真

 

「こいし!」

 俺は夢を見ていた。

 楽しそうに花畑で走り回るこいし。

 

 しかし、こいしがパリンと言う音と共に割れてしまった。

「こいし!こいし……こいしぃぃぃっ!」

 

 

「こいしぃぃぃっ!」

 ガバッと起き上がる。

 

 夢。その事実に安堵する。

 

 でも、これが本当にこいしの運命を表しているのだとしたら……。

 ダメだ。考えるのをやめよう。どんどんネガティブになる。

 

 そして窓の外を見ると既に光が差し込んでおり、朝を告げていた。

 

「行くか」

 


 

 支度をして宿のチェックアウトを済ませ、外に出ると既にみんなが待っていた。

「随分とお寝坊さんだね〜海藤」

 にやにやしながら言う燐火。実際に寝坊したのは俺なので何も言えない。

 

「次はどこだっけ?」

 だから俺は話を逸らすことにした。

 

「次はあそこに見えるすっごい高い山、デスマウンテン。デスマウンテンは年中全体的に雪が降り積もってて、更に登山難易度が幻想郷で1位2位を争うレベル」

 そんな山を登りたくないんだが……。

 だが、その山も超えなきゃこいしを助けられない。

 

「よし、じゃあ行くか」

 俺は手袋を取り出して手に装着する。

 

「あれ?真さん。それ、霊力使いにくくなりませんか?」

 音恩は俺が手に手袋をはめるのを見て聞いてきた。

 まぁ、俺の戦闘スタイルは掌に霊力を集めて放出するものだから手が覆われてると霊力が伝わりにくくなるけどこの手袋は特別なんだ。

 

「そいつは霊力を通しやすい糸で編まれた手袋じゃ。普通……と言うかそれ以上に流すぞ」

 と俺の代わりに妖忌さんが手袋の解説をしてくれた。

 

 なんでも、この手袋はとてつもなく流すらしい。霊力を逆に増幅させる効果があるんだとか。スゲーな。

 

「なら大丈夫ですね」

 納得した様子の音恩は頷く。

 

 そして俺達は荷物を持ってデスマウンテンへ。

 


 

 ついに山の麓にやってきたのは良いが、やっぱり遠くから見るのとでは全然違う。

 なんか雪山って言うか氷山だ。

 確かに雪が降り、サラッと積もってはいるものの、数分したら直ぐに凍ってしまう。

 

 雪は基本、固くはなるけど氷にはなりにくい。水を混ぜれば別だが。

 だから多分この雪は水分が含まれているだろう。

 

 雪と水を混ぜれば直ぐに凍る。

 

 そんな理由で、遠目で見たら白いように見えたが、近くに来たらほとんど氷でツルツル滑る。

 なるほど。これなら登山には向かないってのも分かる。ツルツルして登るには危険すぎる。

 

「よし!じゃあ慎重に行こう」

 燐火の掛け声と共に俺達はデスマウンテンへ入っていく。

 

 普通の歩き方だと滑って滑って登山所ではないだろう。

 だが、俺達には霊力がある。

 俺達は足を霊力で強化して氷の上でも走れるくらいに摩擦を強くした。

 

 普通の地面だったら少しでも擦った時点で爆発する。

 

 んまぁ、そんな事しないで空を飛べばいいと思うだろ?だけどさ、こんな雪降ってて霧が出ているこの状況で空を飛ぶって自殺行為だ。

 だから地道に歩いていくしかないんだ。

 

「はぁ……はぁ……」

 俺は息を切らしながら歩いている。

 

「何やってるの〜?置いていくよ〜」

 燐火の声が少し遠くから聞こえる。

 そう。俺は遅れてしまった。

 

 だが、それもしょうがないと思う。

 だって紬を背負ってるんだから。

 

 はぁ……。何やってるんだろう。

 紬におんぶと頼まれたからってやらなきゃ良かった。

「背負いながら歩く事で修行になるよ」って言われて素直に聞くんじゃなかった。

 確かに良かったのかもしれないが、体力が……。

 

「もうちょっとで小屋があるよ。休めるよ!」

 そう言われて大慌てで着いていくと軈て小屋が見えてきた。

 そして俺は皆を抜いて一番乗りで小屋の中に入る。

 

 ──(ぬく)い。

 

 これ程までに温かさに感謝したことは無いってレベルだ。

 

「それじゃ、ちょっとご飯には早いけど暖まるために食べようか!」

 燐火がそう言うと食材、鍋なんかを出し始めた。

 

 暖かい食事。

 

 寒すぎる。

 

 そしてこの日はめちゃくちゃ食った。

 


 

 次の日、早く目を覚ました俺は外の様子を確認するために小屋の戸を開ける。

 

 するとそこには壁があった。

 

 壁?雪じゃないよな?

 

 するとその壁が動き、ギョロっとした目が出現した。

 

 ま、まさかこれ。こいつ……っ!生きてる!?




 はい!第53話終了

 ついにデスマウンテン編。始まり。

 果たして真達は無事にデスマウンテンを抜けられるのか?

 それでは!

 さようなら


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第54話 炎と氷

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 真達はデスマウンテンにたどり着き、鍋を食べて一泊する。

 そして目覚めたら、泊まってた小屋の扉の前に壁が出来ていた。

 ギョロッ



 それではどうぞ!


side真

 

 こ、こいつ、生きてやがる……っ!

 

 その事に気がついた俺は咄嗟に飛び退いた。

 

 ギョロっと目を開けたモンスターは黒目をこちらに向けたまま固まった。

 何考えていらが分からないから余計に怖い。

 

 とりあえず警戒するに越したことは──その時、顔がこっちを向き、口がこっちを向いた。

 そしてその口から、冷気が放出された。

 

 するとその射線上にある壁床は勿論、俺も凍り始めた。

 

 俺の能力は『致命傷を受けない程度の能力』だ。だが、凍らされてはダメだ。

 俺は致命傷を受けないだけで死にはする。だからこのまま凍ると寒すぎて凍死してしまう。

 

 だが、俺の体はミシミシと音を立てて動かなくなっていく。

 冷気で肺がやられてしまったのか、神成りを使いたいが声が出ない。

「ガ〜……コ〜……」

 空気が音を立ててでる程度の声しか出せない事に俺は驚いた。

 このままじゃ、死ぬ……っ!?

 

 その時だった。

 

「ファイアっ!」

 横から声が聞こえてきた直後、熱気が横から漂ってきた。と言うか火が来て焼かれてる。

 

「か、く、あぁぁぁっ!」

 俺は冷気でやられた肺から声にならない声を絞り出して叫びながら冷気の届かない場所まで走って行く。

 あれ? 動けた。

 

「はぁ……。ちょっとでも海藤を信頼した自分が馬鹿だったよ」

 声がしたのでそちらを見ると燐火が俺への文句をグダグダ言いながら火を出していた。

 そして俺が冷気地帯から抜け出したのを見るとその火を指パッチンによって消す。何それスゲー。

 

「海藤。もうちょっと警戒して」

 すみません。警戒してるつもりになっててすみません。あなたがいなかったら死んでました。すみません。

 

「まぁ、こうなったもんはしょうがない。恐らくこいつはアイスドラゴン。冷気を操る能力を所持している」

 燐火は一旦俺への文句を辞め、敵の解説をしてくれる。

 と言うかこの敵ドラゴンだったんだ。

 

 まぁ、取り敢えずさ、俺が思うことは──他の人たちも起こした方が良くね? ということだ。

「か、く……」

 だが、それを伝えたくても完全に肺がやられてしまっている為、声が出せない事。

 のど飴、誰かのど飴を……っ!

 だがそんな物がこの場所にあるわけないので俺は無言で皆の寝ている場所に向かう。

 

 するとその場所に妖忌さんが居ないことに気がついた。

 どこかに行ったのか?

 

 まぁ、居ないのなら居ないでいい。とりあえず妖夢と紬、音恩を起こさないと。

 そう思って俺はまず音恩を揺すって起こそうとする。

 だが、

「うーん……もうちょっと……」

 ダメだこいつ。

 一旦音恩は諦めて紬を揺すると、

「も、もう……。真のえっちぃ〜」

 寝言だ。

 俺は今までに無いくらいの冷たい視線を紬に向けていたと思う。こいつは放っとこう。

 最後は妖夢だ。

 妖夢なら素直に起きてくれるだろう。そんな期待を抱きながら妖夢を揺する。

 すると、

「むにゃ〜」

 妖夢が唸りながら俺の腕を掴んで抱き寄せてきた。何この状況。

「かぁー」

 やっぱり声が出ない。

 

 いや、マジで離して? 動けないから。

「真……」

 耳元で自分の名前を呟かれてゾクッとする。

 やめろ! 俺はこいし一筋だ! こんな事で揺らぐわけが無いだろ!

 

「……なにこの一大事にイチャイチャしてるの?」

 呆れた表情で燐火が呟いた。

 それに対してイチャイチャしてる訳じゃないと言う意志を込めて手を振る。

 だが、その意思は伝わったか知らないけど燐火はドラゴンの正面に立った。

 

 燐火の能力は火。アイスドラゴンは氷。相性的には良い。

 

 と言うか、そろそろ起きてくれないと俺的にも困るんだが……。

 しかも妖夢は剣士なだけあって力が強い。

 

 俺、出発してから何してるんだろう。皆に迷惑しかかけてないような気がする。

 とりあえず起きて欲しいと言う願いを込めてさっきより強く妖夢を揺する。

「ん?」

 すると、妖夢は目を開けた。

 妖夢……俺はお前を信じていたぞ。

 

 すると少しぼーっとしてから、俺を抱きしめていることに気がついたのか顔を真っ赤に染め上げた。

「し、真!? えと、その……」

 あの妖夢がおどおどしている。

「う、嬉しいけども……他の人も居るし、こ、こいしだって真には居るでしょ?」

 何を言ってやがるこいつは……っ!

 そんなことよりも。そして俺はドラゴンを指さす。

 

 すると妖夢は視線を指の先に向けると絶句した。

「ドラゴン……っ!」

 え? そんなにドラゴンだって分かりやすい? 俺がおかしいのかな?

 

「まは〜ごんばぼぼぼ〜」

「真!?」

 俺の掠れた声に妖夢は心配してくれるが、早く燐火の加勢に行って欲しい。

 そう思うと俺の意図が伝わったのか、妖夢も燐火のもとに向かってくれた。これで動けるようになった。

 

 さて、とりあえず音恩をっ!

「ぐえっ!」

 俺が腹を蹴っ飛ばすとやばい声を出しながら吹っ飛んでった。痛そー(他人事)

 

 そしてその声に驚いたのか紬も目を覚ました。ナイスタイミングっ!

 そして俺はポケットから携帯を取り出して読み上げアプリにある言葉を打ち込んでいく。

 そして俺は紬に画面を見せながら再生を押す。

『神成り』

 その音声が流れた瞬間、紬は神成りに変身して飛んできた。

 それをキャッチする。

 

 んじゃ、戦いますかね。ラスト一日今日中にスノーレストに行くぞ!




 はい!第54話終了

 遂にあと少しのところまで来ました。

 果たして真達は無事にアイスドラゴンを倒し、スノーレストにたどり着けるのか?

 それでは!

 さようなら


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第55話 懐かしい

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 遂にアイスドラゴンと対決?と思いきや、何と真と妖夢がイチャイチャし始める。浮気か!?浮気なのか!?
「ちょっと!それじゃ俺がクズ野郎みたいじゃないか!」



 それではどうぞ!


side真

 

 俺はしっかりと神成りを握りしめる。

 このずっしりと来る感触。絶好調だ。肺は絶不調だけどな。

 

『真。もしかして肺でもやられた?』

 何も言ってないのにすぐに察してくれる紬。説明しなくていいからやりやすいな。

 まぁ、お察しの通りだ。

 声が上手く出せないので返事することは出来ないが、心の中で肯定すると、再びドラゴンを前に見る。

 

 するとドア前からはもう退いていて、燐火や妖夢が外で戦っていた。

 

 んじゃ、俺も戦おう。

 まぁ、とりあえずあの燐火と妖夢が攻めあぐねてるって事はそこそこ強いのだろう。

 

 よし、技の実験台になってもらおう。

『二人とも! そこを退いてくれ!』

 俺が音声アプリで言うと一瞬だけ燐火と妖夢は驚いたが、すぐに意図を理解したのか避けてくれた。

 

 これで大丈夫だ。

『いや〜。まぁ、魔理沙のマスタースパーク。あれめちゃくちゃ強いよな。いやー。あれほどの高火力そうそう出せるもんじゃないよ』

 俺が急に話し出したから燐火と妖夢は困惑し始めた。

 だがまぁ関係ないって話ではないんだわ、これが。

 

『まぁ、こういう事だよな』

 そして俺は手のひらにミニ八卦炉を生成した。

 

 懐かしい技だ。

 神成りを手に入れてからは初だ。精製《ミニ八卦炉》。

 

 まぁ、ここまでやったらみんな分かるだろう。つまりこうだ!

 恋符《マスタースパーク》

 すると俺の握ったミニ八卦炉から極太のレーザーがアイスドラゴン目掛けて一直線に放たれた。

 

 まだやはり威力は劣るな。

 俺は修行中にこれの特訓もしていた。

 

 俺は武器さえ精製したらほとんどの技は使える。

 

 まぁ、霊夢の様な特殊な技はどう足掻いても使えないんだが、魔理沙のマスタースパークはミニ八卦炉を作っても使えなかったんだ。

 だが、この高火力は欲しかった。だから特訓したんだ。

 

 確かにコピーはオリジナルには勝てない。だが、これでもかなり強くなった。

 

 とりあえず火力不足を補うための策だ。

 そして俺は右手に刀。左手にミニ八卦炉を装備する。

 

「はぁ……久しぶりのスペルですね。前にも見ましたけどやはりチートですねその技」

 まぁ、白楼剣と楼観剣を作れば妖夢の技だって使えるわけだからな。

 因みに神成りや霊力刀だと重量感が違って上手くいなかった。やっぱり専用の武器があるって事だな。

 

 そしてマスタースパークがアイスドラゴンに当たるとドラゴンが悲鳴をあげて煙が上がる。

 だが、こんな事じゃまだ倒せないだろう。

 

 やはりあれを……。だけどあれ、普通に使ってたけど腕が痛いんだよな。

どでぃば(とりま)ぎゃずだずが(やりますか)!」

「あんたはもう黙ってなさい!」

 燐火さんからお叱りをくらった。

 

 その瞬間、煙を切るようにアイスドラゴンは冷気のビームを放ってきた。

 

 あれに当たったら肺がやられるじゃ済まない。凍る……っ!?

 

 だけど大丈夫だ。

『さぁ、行くよ!』

 おうっ! と心の中で返事しながらサイドステップをしてビームを躱し、地面を思いっきり蹴ってドラゴンに急接近する。

 

 そして刀に霊力と妖力の二つを同時に込め、ドラゴンが俺めがけて地面を殴りかかってきた所で俺はバックステップ。

 その勢いのまま、刀で薙ぎ払うように空を斬る。

 

 するとその剣先から斬撃が飛び出し、ドラゴンの腕を吹っ飛ばした。

 霊力斬でも妖力斬でも無い。霊妖斬だっ!!

 霊妖斬は霊力斬や妖力斬よりも強い。

 

 恐らく霊力斬だけだったら腕を斬れなかっただろう。

 

「強くなってる……すごく」

「だって真ですからね。こいしの為なら何倍、何十倍と強くなれるんです」

 二人でそう話してから妖夢と燐火は同時に剣を構え直して、俺に続いてドラゴンに斬り掛かる。

 

 その瞬間、妖夢からは青いオーラ、燐火からは赤いオーラが出て二種類の斬撃がドラゴンを襲った。

 

 グアァァっ!

 

 ドラゴンは今までにないほどの叫び声を上げた。

「悲鳴を上げさせてるけども、ダメージが入ってる気がしないわね」

 燐火も攻撃してみて分かったようだ。

 

 俺もさっき違和感があった。

 それは手応えを感じないってことだ。

 

 全くダメージが入ってる気がしない。

 

 その瞬間、斬れて動かないはずのドラゴンの手が動き、俺を拘束した。

 そしてなんだこれ。動けない。固すぎる。

 

 まるで岩の中にでも入ったような気分だ。

 

「あんな事が出来るなんて」

 そして俺を掴んだまま手はドラゴンの方へ向い、がっちりと斬れた部分が治ってしまった。

 

 くっそ。しまったな。どうすれば……。

 

 その瞬間、背後から声がした。

「情けないのぉ……。それでもお主はわしの娘の弟子か!!」

 妖忌さんだった。

 

「まぁ、しょうがないから見ておれ」

 妖忌さんはそう言うと腕をぐるぐる回しながらこっちに来た。

 すると妖忌さんは手を自分の前でぴたっと止めて霊力をため始める。

 

 そしたら妖忌さんの手のひらに霊力の球が出来た。

 

 もしかしてあれは!?

 

「《魂魄流仙術(こんぱくりゅうせんじゅつ)霊縛波(れいばくは)》じゃぁぁぁっ!」

 そして球をドラゴンに押し付けた瞬間、ドラゴンはあとかたもなく消し去られてしまった。

 

 やっぱりスゲーや。

 

 だが、一番感動してるのは妖夢だろうな。

 多分教えてもらおうとか考えてるのかもしれないが、無理だと思う。

 

「んじゃ、そろそろ行かないとやばいじゃないか?」

「そうだね。んじゃ、行こうか」




 はい!第55話終了

 アイスドラゴン撃破!妖忌さん強い!

 後はスノーレスト目指すだけですね!

 それでは!

 さようなら


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第56話 今までの自分とこれからの自分

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 アイスドラゴンとの対決。

 妖忌の霊縛波によってワンパンしました。



 それではどうぞ!


side真

 

「おじいちゃん! さっきの技を教えてください!」

「ダメじゃ」

 

 アイスドラゴンを倒したら吹雪が止んだ。

 吹雪が止んだので俺たちは下りは空を飛んで下っている。

 そして数十分位飛んで簡単に山の麓にたどり着いた。

 だが、その間ずっと妖夢と妖忌はそんな話をしていた。

 妖忌さんも大変な立ち位置に居るよな。

 

 多分今の妖夢じゃ《霊縛波》の衝撃には耐えられない。

 

 霊縛波は腕に溜め込んだ霊力を一気に解放して放つ技。

 その破壊力故に腕に相当な衝撃が走る。

 

 並の人がやった場合、腕が吹き飛ぶ。妖夢の場合は鍛えてるから腕が吹き飛ぶことは無いと思うが、妖夢は骨が砕けるか、大量に腕から出血するかのどちらかだ。

 どちらにせよ、腕を重んじる戦い方の俺達にとっては腕を失うのは死ぬよりキツい。

 

 俺も耐えれる域に達してなかったらしいが、俺の能力のお陰で無理やり耐えることに成功。

 

 だが妖夢の場合はそういう訳にもいかないだろう。

 

 しかも祖父と言う立場上、あまり妖夢がショックを受ける事は言いたくないんだろう。

 

「真さんはさっきの技、使ってましたよね?」

 音恩が余計な事を言った。

 そんな事を言ったら『真には教えたのに私には教えないんですか!?』って言い出すに決まってる。

「真には教えたのに孫の私には教えないんですか!?」

 ほらな?

 

 仕方が無い。さすがにこのコントロールが難しい技は簡単には使えないだろう。

「妖夢。見て盗め」

 そう言って俺は手のひらに霊力を集中させて霊力の球を作り出す。

 

 その球を俺は近くの木にそっと当てた。

 

 すると、先程より細いレーザーが出て、威力は無いけど継続時間が長くなった。

「触れる強さで威力、時間が変わる」

 とりあえず妖忌さんに教えられた最低限の使用方法を教える。

 

 だが、俺はナメていた。妖夢の戦いの才能を。

 


 

「やっとここまで来ましたね」

 ぐたっと疲れきり、雪に顔を埋めている音恩はしみじみといった感じで呟いた。

 その音恩に雪をスコップでかける紬。や、止めてやれよククッ。

 

 まぁ、とりあえずやりました! みなさんスノーレストにたどり着きましたよ!

「スノーレストまで来たね。んじゃあ、明日に突撃するよ」

 そう言って皆を仕切る燐火。

 

 こっから先は完全に敵の領土、気をつけなければすぐにやられてしまうかもしれない。

 

 何度も死に目に会ってきた俺は緊張し、額に汗をかく。

 

「霊縛波……霊縛波……」

 妖夢は先から霊縛波の練習をしているが、作ろうとしても普通の弾幕しか作れていないようで上手くいっていない。

 

 そりゃそうだ。

 物凄い量の霊力を片手だけに集める。これは容易に出来ることじゃない。

 だからこれを妖忌さんに教えて貰った時にはまずは霊力のコントロールから始めた。

 

 霊力で壁を空気中に作ってみたり、自分が乗れる程度の床を作る。そして乗った状態でそれを浮かせる等、どれも過酷だったが、あれは無くてはならない物だったと今は納得している。

 


 

sideこいし

 

 私はもうすぐで出口という所まで来た。

 

 もうすぐで出口なんだけど、見張りが立ってて行くに行けない。

 

 出入口の見張りだ。しかも私が脱走した事がバレた。それならば私の能力に対抗できる人が立っていたとしてもおかしく無い。

 

 能力を使ってあの見張りの人の隣を通った瞬間に、あの見張りの人が持っている槍でぐさり。二度と真に会えなくなるかもしれない。

 それだけは死ぬよりも嫌だ。

 

 あれ? でも死んだら真に会えないわけで、その会えないってのは死ぬよりも嫌で、でも死んだら……。

 頭がこんがらがってくる。考えるのをやめよう!

 

 でもどうしたら良いんだろう。

 

 戻ったってしょうが無いし、ここに留まっているのもそれはそれで後ろから見張りが来る可能性があってそれはそれで危険。

 やっぱり無理だったのかな? 私が自分に一人で逃げ出すのなんて無理だったのかな? 私は皆みたいに強くない。真や龍生、鈴音に音恩。その他大勢。

 私の周りには強い人が沢山いる。

 

 ──私だけだ。

 

 こんなに弱いのは私だけだ。

 真は昔から強かったわけじゃない。

 

 だけど決断力があって、強い意志があって、なんで自分が戦うのかっていう理由を持っている。

 理由に関しては私も同じ。だけど、違うのは決断力と強い意志。

 私は大事な時に決断出来ないし、意思も弱い。そこで実力の差が出来てしまったんだろうな。

 

 ──こんな自分が情けなくなってくる。

 

 真はいつも私達を守ってくれる。それも、自分を捨てるくらいの勢いで……。それによって何度も助けられてきた。

 真は大事な時に私達に道を示してくれる。最善手を教えてくれる。それで本当に成功させちゃうから凄い。

 真は意思が強い。どんな時でもめげず諦めず、最後の最後まで粘る。真に「どうしてそんなに頑張るの?」って聞いたら真はこう言うだろう。「だって……負けてないからな」って。

 私は真のこんな所に惚れてしまった。自慢の彼氏。

 

 だけど私は時折、自分が真につり合ってないんじゃないか? って思うことがある。

 

 私はいつも守ってもらっている。だけど、真を助けたことなんてあっただろうか? 真はいつも助けて貰ってるって言うけど、私は引き金を引いてるだけ、最終的にそれは真の頑張りだ。

 私は決断力が無い。今もここで立ち止まって前に進めないでいる。

 真なら「今後の事なんてその時にならないと分からないんだから、今を全力で戦い抜くだけ」と言うだろう。

 だけど私はどうだ? 負けるかもしれない、死ぬかもしれないって"今後"の事しか考えてない。それが私と真の強さの大きな"差"だろう。

 私は意思が弱い。多分私なら負けそうになったら諦めてしまう。死にたくないって気持ちばかりが表に出しまって、私の意志を崩してしまう。

 

 そんな私は本当に真に相応しいのかな? いや否だ。

 

 私は真には相応しくない。

 

 だから私は相応しい私になるために……っ!

 

 今ここでっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分の殻を"破る"!




 はい!第56話終了

 遂に次回からはキルタワー編が始まると思います。

 キルタワーの戦いは今までで一番盛り上がる戦いになると思います!

 いやー。最初の戦闘シーン苦手設定はなんだったんでしょうかね?

 最近は本当に戦闘ばかり書いてますからね。それによって特訓されて今では日常を書くよりも戦闘を書いていた方が楽までありますよ。

 それでは!

 さようなら


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第57話 忘れちゃいけないこと

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 遂に真達はスノーレストへ到着。

 そしてこいしは自分の殻を破るため、勇気をだして一歩踏み出す。



 それではどうぞ!


sideこいし

 

 私は勇気を出し、無意識を発動させて物陰から飛び出す。

 物陰から飛び出すと、意外にも出入口に立ってる見張りは私の存在に気がついていないようだった。

 

 見張りなんだから全ての能力に対応出来るよう、能力無効系の能力でも持っててもおかしくないと思ってたんだけどね。

 

 だけど、厄介な事には変わりない。

 

 二人ほど立っているのだが、その二人で完全に道が塞がれている。

 今のままじゃ、行っても必ずぶつかってしまうだろう。ぶつかってしまったら無意識を使っていたとしてもさすがにバレてしまう。

 

 触れないようにしないといけないのにこのままじゃ出られない。

 

 その時だった。背後からハンカチで口を押さえられ、耳元でなにかを言われた。

 私はすぐには言葉の真意を理解できなかった。

 

 だけど、私はすぐに答えた。

 

「分かった。協力するよ」

 


 

side真

 

 さて、遂に乗り込む日だ。

 

 スノーレストからは完全にキルタワーが見える為、やっとここまで来たと実感出来る。

 

 形は塔が二本立っており、その間を何本かの渡り廊下で繋いでる感じだ。

 そしてその麓には少しだけガラスのドームがある様だ。見えないが、この距離だ。霊力を少し飛ばせばガラスに当たると反射する。

 

 恐らくその施設の中央に位置するのがあのキルタワーだ。

 

 デスマウンテンから見た時はよく見えなかったけど、恐らくデスマウンテンより少し低いくらいの高さはあるだろう。

 

 んでまぁ、キルタワーの入口に来たんだが……おかしい。何かがおかしい。

 これだけの施設だ。見張りが居たとしてもおかしくない。

 

 だけど、誰一人居ない。

 その違和感は俺、燐火、妖忌しか気がついていないようだ。

 紬は戦うのが苦手だって言ってたから警戒能力が俺達三人より低いんだろう。

 

「すんなり来れてしまった」

「え? 良くないですか?」

「妖夢……。お前は危機管理能力が低すぎる。ここは戦場だ。しかも敵のテリトリーだ。刺客が居ないのは不自然じゃろう?」

 妖忌が説明すると妖夢も漸く気がついたようだ。

 

 そう。俺達は中央のキルタワーに着くまでに誰とも遭遇しなかった。どうなっている?

 

 するとタワーの入口に燐火と同じ様な服装でフードをかぶり、そのフードの隙間から緑っぽい銀髪を覗かせた人が立っていた。

 敵かもしれない。と言うかここは敵陣、しかも本拠地だ。十中八九敵だろう。

 

 そして近づくとその人物は語りだした。

「ねぇ、あなたの人生は何色?」

 いつか聞いたような質問が飛び出してきて驚く。

 

 これは燐火と初めて対話した時に聞かれた事だ。

「……赤……だな」

「そう……」

 そう素っ気ない返事をした少女は俺達をスルーして隣を通って行った。

 

 その時、俺だけに聞こえるトーンでそいつは言った。

「お願い……。組織を潰しちゃって……真」

 その言葉に驚き、俺は後ろを振り返る。しかしもうそこには誰も居なかった。

 

 誰だったんだ?

 だけどなんか聞き覚えのある好きな声だった。

 

 まぁいい。今はこいしを連れ戻す事が最優先事項だ。

 

「よし行くぞ!」

『おーっ!』

 


 

 キルタワー西塔1階。

 

 さすがにタワー内には敵が居り、何人か倒したものの、やはり少ない。

 

 そして不思議がっていたその時だった。

 真横から斬撃が飛んできた。霊力斬だ。

 

 俺は咄嗟に霊力刀を作り出してそれを防いだ。

 やっと思っていた通りのことが起こった。そうだろ? 俺達を潰しに来たんだろ? なぁ〜……。

「能封」

 こいつの能力は俺を簡単に倒せる。俺の天敵みたいな能力の保持者だ。

 斬りつけた奴の能力の無効化。

 

「分が悪い」

「そうかい。まぁ、俺にとっては真とか言ったけ? 小僧」

 なんで一回確認したのにその名前を使わないんだよ。

「お前ほど俺と相性の悪いやつは居ないぜ?」

 そうだな。

 

 俺はいつも能力に任せた戦い方をしている。

 だが、今回はそんなことをしたら一発アウト。ここは俺は引いた方がいいな。

 

 そんなことを考えてると、妖夢が俺の肩を叩いた。

「ここは私が引き受けます」

 確かに妖夢だったら元の技術があるから俺よりはやばい事にはならないだろうけど……心配だ。

 

 元から俺一人の問題なんだ。

 なのに他の人まで巻き込んで……。

「海藤」

 燐火が突然俺の名を呼んできた。

 

「困った時は助け合う。海藤が教えてくれたことだよ」

 そうだった。

 焦ってたのかもしれない。こんな大事なことを忘れるなんて……。

 困った時に助け合えるのが仲間なんじゃないか。

 

「頼んだ」

「そうじゃ。わしもここに居るから安心して行ってこい」

 妖忌さんも残るようだ。これなら随分と安心出来る。

 

 なんてったって俺の師匠が二人も残ってくれたんだからな。

 

 そして俺、音恩、燐火、紬の四人で先に進む事になった……のだが、まだまだ先は長い。

 


 

side妖夢

 

 おじいちゃんと共闘してあいつを倒す。

 

 おじいちゃんは戦いの天才で、自慢のおじいちゃんです。なので負けるとは思いませんけど、真が渋ってた所を見ると相当な相手っぽいですね。これは心してかからないとこっちがやられる可能性がある。

 

「ククク……クククク……さて、お前らは俺に勝てるのか、楽しみだな」




 はい!第57話終了

 遂に戦いが始まります!

 さて、真は果たして勝つ事が出来るのか?

 それでは!

 さようなら


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第58話 100パーセント

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 妖夢&妖忌対能封

 そして真達はさらに先に進んで行く。



 それではどうぞ!


side真

 

「燐火」

「何?」

 俺は走りながら燐火に話しかけた。

 

「燐火から見て、能封はどんなやつだ?」

「能封……?」

 俺が能封の事について聞いてみると燐火は手を顎に当てて考え始めた。

 

 俺は一度能封に命を狙われた身。そして、敵の情報はあるに越したことは無いだろう。

「そうだね……あの人はあんまり得意じゃない」

 燐火は静かにそう言った。

「あいつは全てに関して真面目なんだけど、なんというかね……敵を殺す前にいたぶるのが趣味なんだよね。ほんっと悪趣味」

 うわー。

 もしかして俺も負けてたらいたぶられてたのか?

 

「他の奴らは?」

 他にも強い奴らが居るなら聞いておきたい。

「……四天王ってのが居てね。まず私、次に能封。そして雷駿と異移。雷駿は【電気を操る程度の能力】。強いんだけど不器用。あと、私とは気が合わない。異移は【物を移動させる程度の能力】。こいつとはあまり関わった事が無いかな?」

 燐火は名前だけじゃなく、会ったことの無い奴の解説までしてくれる。

 さすが燐火。ありがたい。

「そしてその上に居るのがバークって言う奴。この間、こいしちゃんだっけ? で、その子を拐って行った二人のうちの一人」

 あいつか。

 

 一人が能封。もう一人がマントを羽織った男、あいつか。

「バークは戦いの才能は一切無くてね。霊力を扱うのも苦手。だけどね。戦いに関しては最強だよ」

 才能は無いけど最強か……。

 

「能力も無いよ。普通の人間」

 普通の能力も無い人間が最強になることなんてあるのか?

 だが、俺も似たようなもんだ。

 

 一人で使える戦闘に役立つ能力は上書き位。それを取ったらただのちょっと防御が高いだけの剣士だ。

 ほとんど実力。

 

「まぁ、四天王で一番強いと思われる人は雷駿ですね。全ての電気を操るので」

 電気……か。

 ちょっと電気は暫く食らいたくない。

 

 多分未来の俺との戦いで一年分くらいの電気を浴びてしまったからな。

 天気にはちょっと強くなったけど、それでも痛いもんは痛いからな。

 

 その瞬間、どこからともなく声が聞こえてきた。

『雷駿が一番強いか……。じゃあお前は俺の力をくらってまだそんなことを言えるかな?』

 すると、どこからともなく石が現れ、こっちに飛んできた。

 それを避けるとまた更に飛んでくる。

 

 埒が明かない……っ!

 

「これは異移の能力」

 燐火は片手で石を捌きながら交わしていく。

 

 通常ほんの少しだろうが、霊力を使える者ならば霊力が溢れだしているはず。

 だが、俺が感じるのは燐火と音恩、紬の霊力のみ。

 この場には他には霊力を感じない。

 異移って言ってたな。なら、壁の向こうから攻撃も可能か……。だが、壁の向こうだとしても感じるはずだ。

 という事は──

「クレア……ね。使い方が上手い」

 ステルス性に長けた人物なんだろう。

 

 能力で石を投げているのだとしたらこれは最善手だろう。

「そうですか」

 そう言ってパソコンを取り出してひらく音恩。

 

「僕の探知は霊力探知じゃないですよ」

 そして音恩はパソコンを弄り始める。

「あそこです」

 音恩が指を指す。

 

 それを確認したら俺は飛んできた石を掴んだ。

「狙撃《スナイパー》」

 そしてその掴んだ石を投げる。

 

 すると壁にぶつかった瞬間、石が爆散して壁も崩れる。

 その奥に居た。男が一人。

「いやー。見つかっちゃったか〜」

 執事服を着た男性だ。

 

 片目にスコープを付けている銀髪の男。

「失礼。私は異移と申す者です」

 手を前と後ろに回してお辞儀する異移。まるで本当の執事だ。

 

「……異移。あんたそんな性格じゃないでしょ」

「あ、バレた」

 バレんの早いよ。

 それにしてもこの場には燐火も居るんだから少しは考えたらどうなんだよ。

「いやー。俺、コスプレが趣味でさー。見てよこの服! 執事服なのに素材が柔らかくてすごく動きやすいんだ」

 

 ……何こいつ。

 

 燐火も燐火で口をポカーンと開けてしまっている始末。

「ま、そんなことは置いておいて……」

 そして異移は地面に落ちている石を数個ほど拾い上げて投げてくる。

 

 その瞬間、石が消えたと思ったら急に目の前に現れた。

 咄嗟にその石を手のひらで弾く。

 

「……」

 音恩は考え込んでいるようだ。

「ねえ……二人とも」

 いつもと違う口調で音恩が話しかけてくる。

 その表情はどこか覚悟した様に見えて、次に何を言い出すのか分かった。

「ここは僕に任せて行ってください」

 

「……無茶よ」

 音恩の言葉に即座に反応した燐火はそう呟いた。

「四天王相手に1VS1(いったいいち)だなんて」

 そう言った燐火の肩を叩く。

 

 驚いた燐火はこっちを見た。

「音恩なら大丈夫だ。手合わせをした俺が保証する」

 そして俺は先に向かって走り出した。

 

 燐火はギリギリまで迷っていたが、直ぐにこっちに走って来た。

 

 任せたぞ。音恩。

 

「……さぁ、始めようか。殺し合い(ゲーム)を」

 


 

side妖夢

 

「たぁぁぁっ!」

 私は叫びながら白楼剣、楼観剣両方振った。

 しかしその攻撃は両方とも防がれてしまう。だけどそれでいい。隙が作れたのなら。

「はっ!」

 おじいちゃんは私が作った隙を見逃さず、適確に刀を振った。

 躱されてしまったものの、掠ったので上出来でしょう。

 

 真があれほど言うってことは恐らく奴の能力は真を簡単に殺せる。つまり【致命傷を受けない程度の能力】をもろともしない能力なんでしょう。

 ですが関係ありません。

 

 私達は実力で戦っています。能力無効化だろうが関係ありません。

 

「強いなお前ら」

 当たり前です。

 私とおじいちゃんが組めば誰にも負ける気がしません。

「褒美に良い物を見せてやろう」

 その瞬間、奴から溢れ出ていた霊力が一瞬にしてゼロになった。

 

 ゼロになるってことが有り得るのだろうか?

「通常、霊力や力ってのはな。溢れ出ててしまって100パーセントを発揮できないんだ……不可能。だけどな、クレアってのはすげぇ。その漏れをゼロにする事が出来る。つまり」

 そう言っておじいちゃんに向かって奴は手のひらを向けた。

 

 危ないっ! と思ったが遅かった。

「圧縮弾幕」

 手のひらから一斉に弾幕が出てきてその全てがおじいちゃんに当たった。

 おじいちゃんはその場に倒れてしまっていた。

 強い。

 

「その不可能を可能に出来る」

 その瞬間、私は力の差。どう足掻いても縮める事の出来ない力の差を感じた。




 はい!第58話終了

 遂に妖夢&妖忌vs能封が始まったと思ったらいきなりのピンチですね。

 果たして妖夢と妖忌は勝てるのか?

 それでは!

 さようなら


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第59話 敗北

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 真達は更に奥へ。

 するとそこに現れたのは異移だった。

 異移の能力に翻弄されるも、音恩が相性が良いようで音恩が対峙することに。

 そして妖夢の方も戦い始めたのだが、妖忌が能封に一瞬でやられてしまう。
 妖夢大ピンチ!



 それではどうぞ!


side真

 

 俺と燐火は渡り廊下を通って二つ目の塔に来ていた。

「とりあえずジーラの奴に吐かせないといけないからジーラを探さないと」

 そう言ってジーラの居る場所へと向かっていく。

 

 そこに金髪の男がやって来た。

 歳は俺と同じくらいだろうか?

 

「雷駿」

 燐火はそう呟いた。

「やぁ、久しぶりだね。落ちこぼれのチャッカマン」

「誰が落ちこぼれのチャッカマンよ」

 二人で言い争っていて俺は空気だ。なんか悲しい。

 

 とりあえず存在をアピールしておかなきゃ行けない気がする。

「あ、あの〜」

 俺が話しかけようとすると、燐火は刀。雷駿はナイフを手に取った。

 まるで俺の事なんかどうでもいいように。

 

「ここであったが100年目。ここで蹴りをつける」

「99戦、49勝49敗1分。ここで決着だ」

 ライバルなのかな? 仲がいいんだか悪いんだか。

「ケケケ」

「行くよ変態」

「酷い!」

 なんか俺は蚊帳の外だ。

 

 恐らくここは燐火に任せた方が良いだろう。

 俺は先に行くか。

 

 そして俺は先を急ぐ。

 燐火なら大丈夫だろうと

 


 

side妖夢

 

 おじいちゃんがやられた。しかも一撃。

 

「これがクレアの力だ」

 クレア。強い。

 

 確か霊力を自由に操る技だったよね。

 強すぎる。

 本能的にこいつには敵わないと察してしまう。

「さぁ、次は小娘。お前だ!」

 そう言って刀を振りかざしてくる能封。

 

 それを2本の刀で何とか止める。

 だけどそれもいつまで持つか分かったもんじゃない。

 一撃一撃が重たい。

 

 なら距離を取って霊力斬!

 そして私は霊力斬を使用する……がしかしそれを能封が食らうことは無かった。

「なんだそのへぼい霊力斬は」

 刀で簡単に打ち消されてしまったのだ。

「霊力斬とはこういうものだ!」

 すると私とは比べ物にならないほど刀が光り輝き始める。

 

「霊力斬!」

 するとその刀から霊力斬が放たれる。

 本脳的に危ないと察知して避けると背後の壁が豆腐のように斬られてしまった。

 あれに当たってたら私の白楼剣、楼観剣。更には私までと想像してしまう。

 

 クレアと言う技を使うのと使わないのとではこれ程の差が……っ!

 私は改めて奴の強さを思い知った。

 


 

side音恩

 

 僕は今、石のぶつけ合いをしていた。

 僕はパソコンで、異移は投げてだ。

 

 だが、未だにどちらにも当たっていない。

 

 そろそろ仕掛けるか……。

 そして僕はギアモードを使う。

 

 まずはLv1からだ。

 

 そして僕は地面に手をつけて壁床を歪ませる。

 しかし異移は歪んだ床に立っているってのに一切体制がブレない。なんていう体感だよ。

「そろそろですか」

 すると異移が呟いた。

 

 何がそろそろだよ。と思っていると異移が放出した霊力によって奴自身の髪がふわっと浮いた。

 なんて凄まじい霊力だよ。

 

 その霊力によって気絶しそうになるものの、耐える。

 

 Lv2だ。

 


 

side燐火

 

 さて、この無礼者をどう調理してやりましょうかね。

 

 しかし久しぶりだ。

 前は何度も戦ってたけど、最近は忙しくて戦えてないや。

 

 まぁ、そんなことはどうでもいい。

 今回は負けられないんだ……勝たせてもらうぞ雷駿!

炎海(えんかい)

 私は能力でそこら辺を燃やそうと火を放つ。

 

 そこに電気の檻が来て阻まれる。

「雷符《雷の監獄(プリズンサンダー)》」

 これは……っ!

 まさかこの場所はっ!

「くくく……ケケケ……やっと大量の機材を見つけたか。機材があるってことはコンセントがいっぱいある。つまりここは俺のバトルフィールドだ」

 

 私は電気がある所でこいつに勝ったことが無い。

 電気があればバークには勝てないと言えども、この組織で彼に敵うものは──居ない。

 負け……たな。ははは。

 

「今回は殺し合いだ。今回で死んでもらうぞ燐火っ!」

 私は勝ち目が無いと言う事を認識し、戦意を喪失してしまった

 


 

side真

 

 他の皆は大丈夫かな? そんなことを考えながら走っていると一際大きな部屋にたどり着いた。

 まるで闘技場だ。

 

 そこにマントを羽織った男が立っていた。

 

 さっき能封、異移、雷駿と会って来た。

 そしてそのマント……間違いない。あいつは……っ!

「バークっ!」

「ほう……俺を知っているか」

 この組織で最強の男だろ?

 

 しかし、必然と俺がこいつと戦うことになったな。

 

 どうせ勝たないと先に進ませて貰えないんだろ。

 燐火から貰った地図を見る限り、この奥の部屋がリーダー部屋らしい。

「俺がお前を倒して必ずこいしを助け出す」

「わ、私も居るよ!?」

 そういや紬の存在を忘れてた。

 

 なら、やりましょうかね。

「神成り」

 そう言うと紬は神成りに変化して俺の手の中に収まる。

 

「行くぞ! バークッッ!!」

 俺は神成りを持ってバークに突っ込んで行く。

 

 その次の瞬間だった。

 俺は地面に倒れていた。

 

 何が起こったか分からなかった。

 俺は確かにバークに向かって突っ込んで行ったはずだ。転ぶなんて間抜けな真似はしていないはずだ。

 だと言うのに俺は地べたを舐めていた。

「その程度か……」

 バークは腕を組んで仁王立ちし、最初からいた場所から一歩も動いていない。

 

 となると……まさかっ!?

 

「俺は……拳圧のみで倒されたとでも言うのか」

 圧倒的な力の差。決して俺程度ではたどり着けない高く、険しい壁。

 俺なんかじゃ一生かかっても登頂するのことの出来ない山を感じた。

 

 それは紬も同じようで『はわわ』と慌てている。

 

 あいつは確実に神の域に達している。

 無理だあいつに勝つのは……。たった一撃で思い知らされた。

 そこで俺の意識は途絶えた。




 はい!第86話終了

 こいつら強すぎますね。

 既に能封と異移はクレアを発動していて、雷駿に至っては電気がある所ではバークの次に強い。
 そしてバークに至っては真を触れずにワンパンKO。

 果たしてこんな化け物に勝てるのでしょうかね?

 正直、強くしすぎてしまったことを反省しております。ですが後悔はありません。

 それでは!

 さようなら


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第60話 全力の霊縛波

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 妖夢、最大のピンチ。

 そして音恩はギアモードLv2解放!

 燐火対雷駿。燐火は敗北を悟る!

 そして真はバークに触れずにワンパンKOされた。

 果たして勝てるのか?



 それではどうぞ!


side妖夢

 

 私は負けを覚悟した。

 

 怖くて足が動かないなんてこと……今まで無かったのに。

 

 クレアの霊力によって光ってる目が怖い。

「さぁ、かかってこないのか? ならこっちから行くぞ!」

 能封はクレアの霊力を纏わせた刀を持って走ってくる。

 

 どんなに強い相手でも、戦うって選択肢以外無いんだっ!

 そして私は白玉楼、楼観剣両方に霊力を流して応対する。

 霊力を流せば少しはマシになるはず。

「なぁ、知ってるか?」

 刀をぶつけながら能封は聞いてきた。

「霊力の強さは精神力の強さだ」

 その言葉に、大会の時の事を思い出す。

 

『霊力の強さは精神力の強さ』

 皆辛いことを乗り越えてそして強くなっている。

 だけど私は? ──無い。

 

 幽々子様や霊夢。魔理沙等の友達が居て、色々と恵まれて育った。

 おじいちゃんが居なくなった時は悲しかったけど……。だけど私は他の人みたいな壮絶な経験は……。

 

 よく言われた。

 妖夢。お前は定石をなぞっているだけで、お前自身の力ってのが無いって。

 ただのおじいちゃんのコピーだって。

 

 私の強さって何? 意味がわからないよ。

 おじいちゃんを真似することの何が悪いの?

 

 来る日も来る日も鍛錬を欠かさなかった……。だと言うのに……一番──弱い。

「悔しい……」

 

 私の……強さ……。

 

 真は私に教えてもらわなくても紬ちゃんが居る。私より紬ちゃんの方が師匠に適しているんだ。

 そしておじいちゃんの方が……。

 

 寂しいな。

 もう一度……真に師匠って呼んでもらいたい。

 

 もう無理だろうけど、せめて隣を歩きたい。

 後ろじゃなく隣で……同じ刀使いとしてお互いに支え合いながら戦えるようになりたいっ!

 だから私は戦うんだっ!

 

 そして私は能封の腹を蹴り飛ばした。

 霊力を纏った足と何も纏っていない奴の腹。相当効いた様だ。

「な、なんだと」

「もう誰にも……コピーとは言わせないよ!」

 


 

side音恩

 

 Lv2

 

 僕はギアのレベルをひとつ上げた。

 レベルを上げれば全てのステータスが更に上昇する。

「これが僕の戦い方」

 そして僕は地面に手を着き、霊力を流し込む。

 

 流し込むと先程よりもぐにゃぐにゃと歪む壁床。

 

 その壁床を収縮させ、僕は異移をプレスする。

 

 あいつが移動できるのは無機物だけだ。なら大丈夫。

「こ、これは……っ!」

 驚き、走って逃げようとするも僕は更にギアのLvを上げて収縮する速度を上げる完全に壁が出来て、向こうで何が起きているかわからない。

 

 その次の瞬間だった。

 すぐ目の前に石が現れた。

「まさか……あの状況で投げたというのか?」

 こりゃダメだな。

 

 僕は咄嗟に体を後ろに反って躱そうと試みるも、その石は鋭利で、僕の左の眼球を瞼ごと切って行きやがった。

 

「あぁぁぁぁぁっ!」

 目が切れた痛みで能力を解除してしまう。

 

 解除すると壁床が元通りに。

 

 失明した。

 左目にはもう一切光は届かない。

「次は右目ですよ?」

 そして鋭利な石がまだまだあることに気がついた僕は血の気が引いた。

(わたくし)の勝ちにございます」

 


 

side燐火

 

 勝てないと分かっていても戦う。それが礼儀だ。

 だから私は刀を持って雷駿に突っ込む。

 

 だけど今の雷駿は最強だ。勝てるわけが無い。

 簡単に私の刀を電流によって防がれてしまう。

 

 この部屋の電流はまるで全て意志を持っているかのように雷駿を守る。

「諦めろ」

 そう促してくる雷駿。

 

 やたら滅多に斬っても意味が無い。

 炎を使おうとしても電気に阻まれる。

 

 TheEND終わりだ。

 

 だけど、最後の最後まで諦めたくない。

 海藤なら確実にそういうだろう。

「だから私は戦い続けるっ!」

 そして私は足元に罠を設置する。

 

 そして私は走って雷駿の背後に回り、電流が守りに来たけど、そんなのは気にせず、電気ごとその罠に向かって蹴り飛ばした。

 少し感電したけど大丈夫だろう。

 

 そして雷駿が罠の真上に立ったのを見て発動する。

 

 すると炎の柱が雷駿を包み込んだ。

「炎の柱だ。味はどうだい? 雷駿」

 


 

side真

 

 俺は負けた。

 圧倒的な力の前にいとも簡単にねじ伏せられてしまった。

 

 ──俺は死んだんだろうか?

 

 すると目の前にこいしが現れた。

 死ぬ前の走馬灯か? そう思って俺は最期にこいしを抱きしめた。

「真」

 聞こえるはずのない声が聞こえてきた。

「真はそんなに弱かった?」

「こいし……」

「真、私は信じてるよ? また立ち上がってくれるって……ね?」

 

 そうだった……どうして忘れていたんだ。

 諦めが悪いのが俺だったじゃないか。なんで諦めてるんだよ。

 俺はまだ死んでない!

 

 そして俺は目を覚ました。

 相変わらずバークは一ミリたりとも動いていない。

「ふん。そう来なくちゃな」

 ニヤッと笑うバーク。

 

「当たり前だ」

 とりあえずあっちも少し力を見せてくれたんだ。こっちも見せないとな。

 

 そして俺は地面にある石を取り、バークに向かって投げる。

「狙撃《スナイパー》だ」

 それを諸に食らうバークだが、一切ダメージを食らってる気がしない。

 

「バーク!」

 俺はまたバークに向かって走り出す。

 

 そして今度はしっかりとバークは拳を突き出す予備動作を行う。

「精製《ミニ八卦炉》からの恋符《マスタースパーク》」

 そしてバークは拳圧を放つ。

 

 互角の威力だ。

「け、拳圧のみでマスタースパークと互角とか……マジかよ」

 そしてマスタースパークは拳圧に相殺されてしまった。

 

「はぁぁっ!」

 俺は刀を再度構えて突っ込む。

 

 今度は間合いに入る事に成功。

「これでどうだ!」

 斬り掛かる……が、

「な、なんだと」

『こ、これは』

 俺は睨まれてるだけで動けなくなってしまった。

 

 まるで蛇に睨まれた蛙の様な気分だ。

 く、食われる。

 

 そして俺は頭を掴まれて腹に一発パンチを食らわせられた。

「ぐっは……」

 血を吐く。

 

 普通なら死を覚悟して絶望するだろう。だが、俺は違う。

「ありがとな。近づいてくれて」

「何!?」

 そして俺は左に刀を持って右手のひらに霊力を溜める。

「まずい!」

 俺は一旦刀を手放し、バークの腕を掴んだ。

 こんな千載一遇のチャンス。逃してたまるかってんだ!

 

 そして俺は出来た霊力の球をバークの腹に押し付ける。

 全力のため、右腕の骨がミシミシ言ったような気がする。

「これが俺の全力の! 《霊縛波》だぁぁぁぁっ!」

 その瞬間、どデカいレーザーが飛び出し、バークを巻き込んで広がっていく。

 

 バークはその威力に耐えきれずに向こう側の壁に思いっきり叩きつけられる。

「これなら……どうだっ」

 俺はミシミシ言った右腕をブラブラさせながら言った。

 

 見てみるとバークは壁にめり込んでぐったりしていた。

 流石のあいつと言えどもこの超火力。そうポンポン耐えられても困る。

 

 だが、俺の期待を裏切るかのように普通に壁から出てきて歩き始めた。

「……手加減はもうやめだ……。ここからは本気だ」

 そんな絶望な事を言いやがった。




 はい!第60話終了

 妖夢覚醒!

 音恩ピンチ

 燐火順調

 真はバークを吹っ飛ばすことに成功。

 果たして勝負の行方は?

 それでは!

 さようなら


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第61話 勝利への咆哮『クレア』

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 妖夢は自身の戦い方を探す。

 音恩は異移にカウンターを食らい、大ピンチ。

 燐火は雷駿相手に互角の攻防。

 真はバークに全力の霊縛波を食らわせるも、倒す事が出来ず。

 さぁ! 勝利せよ!



 それではどうぞ!


side妖夢

 

 私なりの戦い。

 私なりに全力で……っ!

 

 蹴り飛ばした私は更に追い打ちをかける。

 斬って斬って斬りまくるも、あの体制でよく防げるなと思うほど防がれてしまう。

「少し驚いたが所詮はその程度だ」

 やっぱり強い。だけど……っ!

 

 そして私は手のひらに霊力を集める。

 そう……霊縛波だ!

 

 私はそして出来た霊力の球を能封に押し付けるも、か弱いレーザーが出た程度だった。

「なんだ今のは。蚊にでも刺されたかな?」

 態とらしく私の弱小霊縛波が当たった場所を掻く。

 

 悔しい。

 

 でも……やっぱり今の私じゃ勝てないのか?

 

 おじいちゃん……助けて……。

 

 その瞬間、視界の端に映った。霊縛波の球を抱えながら走ってきてるおじいちゃんが。

「おじいちゃんっ!」

「な、何!?」

「これが元祖魂魄流仙術《霊縛波》じゃぁぁっ!」

 その瞬間、霊力の流れが見えた様に感じた。

 

 霊縛波が当たったあいつは霊縛波によって吹っ飛び、向こう側の壁に激突した。

「わしを……ナメるな」

 さすがおじいちゃんだ。

 

 よし、形勢逆転だ!

 


 

side音恩

 

「うああああああああ」

 痛い痛い痛い!

 

 俺は地面に転がって苦しみ悶える。

 

 やっぱりどれだけ修行しようが弱いなとしみじみと感じる。

「さぁ、次はこの石が君の脳を寸分の狂いもなく破壊するよ」

 ああ、次こそは殺されちゃうんだ。

 

 でも……

「俺だって本気……出してねーよ」

「何!?」

 Lv3より上のLv4。その更に先のギア。

 

 正直、俺の体がどうなるかは分かったもんじゃない。

 実はLv1だけでもかなり体に負荷がかかっている。なのにその先のギア……。俺の体がぶっ壊れてもおかしくない。

 

 だけど……。

「僕も真さんの役に立ちたい! ギアLv5(ファイナル)っ!」

 恐らく今の俺の目には五つの歯車が回って見えてるだろう。

 これが最強のギア。ギアファイナルだ。

 

 ギアファイナルはあの真さんを圧倒した男を倒すために考案したモード。

 この形態になった僕は強いぞ!

 

 そして思いっきり地面を蹴って走る。

「速い!」

 霊力を……ありったけの霊力を両の拳に込める。

 

 そして左手でアッパー、右手で上から押さえつけるように殴る。

「がっ!」

 異移は声にならない声を出した。

 

 まだ終わんねーぞ。

 

 その状態で足をかけ、転ばしたあと、頭が下に来るように回転させ、そして、足の裏で顔面を蹴り飛ばした。

「ぐぁぁぁぁぁっ!」

 向こうの壁まで吹っ飛ぶ異移。

 

 これがギアファイナルの時にしか使えない超パワー技。ファイナルコンボだ。

 

 ここからが本当の勝負だ!

 


 

side燐火

 

 炎の柱。

 

 雷駿をやき尽くすだろう。

 だけど、まだ死んでないんだろ? 雷駿。

 

 すると炎の中から雷駿が出てきた。裸で。

「ななな、なんてもんを見せてきてんの!?」

「し、仕方ねーだろ! 服全部燃えちまったんだよ!」

 更には綺麗な金髪も焦げて、体中すすだらけ。

 

「大ダメージじゃないのさ」

「く、さすが燐火。強い」

 いや、今のはさすがに耐えようよ。あんまり火力出てないよ?

 服が燃えるのはまだ分かる。だけど本体は耐えてよ好敵手(ライバル)さん……。

 

「さら、ば、だ……がくっ」

 口でがくって言いながら倒れたよ?

 

 そして念の為にそこら辺にあったロープでこの変態を縛っておく。

 これで安心だ。

 

 よし、海藤のあとを追おう。

 


 

side真

 

「ぐはっ!」

 本気を出したバークにボコボコにされる。

 

 蹴られたり思いっきり殴られたり投げられたり。

「そんなもんか……ガッカリだ」

 本気を出しすぎたせいで右腕が動かねぇや。

 

 これじゃこいしを助けるなんて以ての外だ。

 

「はぁ……はぁ……」

「お前は俺には勝てない。その程度の力では絶対にな」

 確かにそうだ。俺なんかの力では絶対に及ばない。

 

「くはっ」

 そして俺は吐血してしまう。

 

 つえー。こいつ強すぎないか?

 人間って霊力も無しにこれ程強くなれるもんなのか。

「でも、勝たなきゃ…こいしが!」

 だが、俺の力不足だ。俺の霊力ではあいつの実力には敵わない。

 俺の全力の霊縛波ですらあいつを本気にさせる程度の威力しか無かった。

 

 くそっ! 地面を殴る。

 

 その時、こいしの顔が浮かんだ。

 そうだよな。俺があきらめてどうすんだよ。

「勝たなきゃなんねーんだよ。どうしても」

 するとからだの周りから霊力が出てきた。力が体の内から溢れだしてくる。

「なんだこの霊力量は!」

 そしてバックステップで距離を置くバーク

 

「絶対に……勝つんだぁぁっ!」

 その瞬間、すごい力が溢れてきた。

 そして妙に冷静になってきた。

「この力は……」

 手のひらを見る。

 さっきまで痛かった右腕が動く。簡単に動く。

 

「まぁ良い! しねぇぃ!」

 そして俺に殴りかかってくる。

 俺は避けずにその拳をうつ向いたまま拳を受け止めて、視線だけを向けて睨み付ける。

 

 するとバークは怯んだ。俺はその隙をついて。

「隙あり!」

 腹パンした。

 するとバークは叫びながら少しだけ吹っ飛んだ。

 

 やっと攻撃であいつから声を出させたぞ。

 


 

side燐火

 

 こいしさんはどこに連れていかれたのだろう?

 海藤の事も気になるし。

 

 でもあと少しで最深部。そこに恐らく海藤とバークが居る。

 バーク相手では海藤一人じゃ絶対に敵わない。

 

 その瞬間、怒りしか込められてない霊力を感じた。これは間違いない。クレアだ。

 しかもこれは海藤の霊力だ。

 

 もしかして……これは海藤が?

 

 驚きを通り越して私は呆れすら感じる。

「どれだけ自己犠牲すれば気が済むんだよ……海藤 真。私が今まであった中であなたは一番の聖人だと思う」

 そして最強の男。

 海藤ならもしかしたらがあるかもしれない。

 

 全く……。

「さすが海藤。私を倒しただけある」

 そして私は小走りで海藤……いや、真のもとに向かっていった。




 はい!第61話終了

 遂に形勢逆転っ!

 燐火に至ってはかなりあっさりと決着が着きましたね。

 それでは!

 さようなら


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第62話 タイムリミット

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 妖夢は負けを覚悟。しかし、妖忌がまだやられて居らず、霊縛波で形勢逆転。

 音恩はギアLv5(ファイナル)を発動。それによって異移を圧倒する。

 燐火はあっさりと雷駿を撃破。真を追う。

 そして真はピンチに覚醒!! バーク対覚醒真が始まろうとしている。



 それではどうぞ!


side妖夢

 

 奴はおじいちゃんの霊縛波によって吹っ飛んでいった。

 

 だけどまだ死んでない可能性もあるから油断出来ない。

「いやー強い。身体中の骨がバッキバキだよ」

 はははと自虐的な笑みを浮かべる。

 

 だけど分かっている。あの目にはさっきが含まれている。

「霊縛波か……厄介だな」

 と刀を構え直す。

 どちらにせよ二対一。私たちが有利なのは間違いない。

 

「だが……勝つのは俺だ」

 その瞬間、指の先から糸のような霊力が出てきた。

 そしてその霊力の糸があちこちの瓦礫に繋がる。

「これがマリオネットだ」

 あやつり人形って意味だっけ?

 でも、どんな奴が来ても勝つ!

 

 その次の瞬間、石が糸に操られて飛んできた。

 それを綺麗に全て斬るおじいちゃん。

「妖夢。突っ込めっ!」

 おじいちゃんに指示された私は突っ込んで行く。

 

「たぁぁぁぁぁっ!」

 飛んでくる石を斬りながら進んでいくと、急に引っ張られる感覚が後ろから。

交代(スイッチ)じゃ」

 私と入れ替えにおじいちゃんが飛んできた。

 

 そして思いっきりおじいちゃんは霊縛波を──。

 私は何もしていない。おじいちゃんの役に立ちたいっ!

 

 成功して!

 そして私も霊縛波を発動する。

「妖夢っ!」

 おじいちゃんは驚いている。

 

 行くよ!

「魂魄流仙術《霊縛波》」

「魂符《霊縛波》っ!」

 二人分の霊縛波が直撃する。

 

 今度は成功した!

 

 霊縛波を使った腕の骨が悲鳴を上げるのを感じる。

 バキバキと音がする。

 

 そしてダブル霊縛波にぶっ飛ばされた能封は向こうの壁に激突して動かなくなった。

 

 か、勝った……。

 

 私は脱力してその場に倒れ込む。

 腕の骨が片方、折れてしまった。

 


 

side音恩

 

「まだ動けんだろ?」

 僕は異移を見下ろしながら言った。

 

「ああ、だがもう俺はお前には勝てない」

 敗北を認めた。

 僕は勝ったんだ。

 

 僕はギアモードを解除して隣を通り過ぎる。

 今行きます。真さん。

 

 その時だった。

 刺されたのだ、後ろから。

 

 誰だと思い、見てみるとそこには異移が居た。

「がっく……て、てめぇっ」

 勢いよく胸に刺さったものを抜かれると動けなくなった。

 まさかあいつ……罠……だったのか……。

 

 僕が油断したのが悪い。

 敵がまだ動ける状態なのにスルーしようとした僕のミスだ。

 さようなら真さん……。

 

 その時だった。

「ぐぁぁぁぁぁ!」

 背後から悲鳴が聞こえてきた。

 

 そこには妖夢さんを背負った妖忌さんが居た。

「遅れてスマンのう」

 ああ、助けが……。

 僕は安心してしまい、その場に倒れてしまった。

 


 

side真

 

 俺はぶっ飛ばしたバークのもとに歩いて近寄る。

「ぐ、小僧が……いきがるなよ!」

 そして走って殴りかかってくるバークだが、その全てを軽く捌いてカウンターとして殴りかかる。

 だが、それをバークに防がれてしまう。

 

 お互いに捌いて反撃と言った攻防を何度も繰り返す。

 俺は上り詰めたんだ。

 

 あの断崖絶壁を一瞬で駆け上がって今俺はバークと互角に戦っている。

「こいつっ!」

 そして思いっきり殴りかかってきたバークの腕を掴んで押さえ、もう片方の腕で霊縛波を当てる。

「ぐぁぁぁぁぁっ!」

 吹っ飛ぶバークだが、壁にぶつかるなり壁を蹴って飛んできたバークに殴り飛ばされる。

 

「か、くっ!」

 そして俺は飛びながら神成りをキャッチして悪い体制のまま俺は神成りを投げた。

 その神成りはバークの顔を掠める。

 初めてバークが体から血を出した。

「おのれっ!」

 そして吹っ飛ばされた俺に追いつく速度で走ってきて右足を掴まれた。

 そのままハンマー投げの要領で回転する。

 

 俺は残った左足で蹴るとさっきよりダメージを与えれてると感じた。

 そしてそのまま投げられ、奥にあった扉を突き破って飛んでいく。

 やっぱ……無理だわ。

 

 そして俺の体からさっきのような力は失われ、動けなくなった。

「終わりだ……」

 そう呟いたものの、バークは振り返って俺とは反対の方に行ってしまった。

「大丈夫!?」

 頭上から声がした。

 

 マントを羽織ってフードを被っているけどもこの人は……。

「こい……し?」

 俺は息を切らしながら言った。

 

 その時だった。

「とらえろぉぉぉっ!」

『真! 敵が! 多分真が弱るところを狙ってたんだと思う』

 んな事言われたってよ、動けねぇものは動けねぇんだよ。

「とりあえずお前だけでも逃げてくれ」

 

 俺は死を覚悟した。

 折角会えたのに……。

 

 その時だった。

「任せて」

 フードを取って俺の前に立つこいし。

 

 そしてこいしはそいつらと交戦を始める。

 

 だが、無理だ。

 

 俺達は……捉えられてしまった。

 


 

side燐火

 

 確かここから霊力を感じたはず。

 かなり弱っているから心配だけど……。

 

 そしてたどり着くとそこはもぬけの殻だった。

 いや、違うな。神成りだけが落ちていた。

 

 そしてその神成りを拾い上げる。

『燐火! 大変なんだ! 真がっ! 真がっ!』

 大慌ての紬の声がした。

「何があったの?」

 私は紬と同じくパニックになりそうだが、何とか抑える。

 

『真とこいしが殺されちゃうよ!』

 その言葉を聞いて私は一目散に飛び出した。

 

 その時だった。

 壁に霊力で書かれた形跡があった。

 霊力は器用に操れば鋭利になる。それで掘ったんだろう。

 

 そこにはこう書いてあった。

 

 俺の事は大丈夫だから外で待っててくれ

 

「紬。戻ろう。真を信じて待とう」

 真なら何とかやってくれそうな気がした。




 はい!第62話終了

 遂に全部の決着が着いたと思ったら真とこいしが拐われた!

 果たして二人の運命は?

 次回、遂にキルタワー編完結!

 それでは!

 さようなら


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第63話 殺される覚悟

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 遂に全ての戦いが完結したかと思ったら真とこいしが拐われた。

 果たして二人の運命は如何に!?



 それではどうぞ!


side真

 

 運ばれている最中、リーダーと思わしき人物と遭遇した。

 やはりというかおれは、死刑だ。これから処刑される。

 この男はジーラと呼ばれていた。

 

 俺は防音室に放り込まれた。

 

 そして、俺の両腕を屈強な男二人が掴んで乱暴に持ち上げた。

 ちょっと、あまりにも扱いが酷くないですかね?

 まぁ、この組織が侵入者を、ましてや今から死刑にしようと言う奴等が俺を優しく扱うとも思えないがな。

 

 そして俺の両手足を機械で壁に固定して動けなくする。

「ふ、何か言い残すことはあるか? 侵入者の小僧」

 とジーラが俺に言ってきた。

 

 そしてジーラは隣にいた部下から拳銃を受けとる。

 そして俺の体に銃口を向けた。

 せっかくだ。最後に言葉を発するチャンスをくれたんだ。

 そう思い、俺は口を開く。

 

「俺は諦めてない」

 俺がそう言うと回りにいたやつらは『え?』っていう顔になる。

「俺は死なないよ」

「みんな! 騙されるな! こいつのハッタリだ!」

 

「それはどうかな?」

 俺は出来るだけジーラの部下達の不安を煽るように喋る。

「こんなくそ組織。すぐに俺がつぶ」

 

 バン!

 破裂音は俺の言葉を遮るようになった。そして──

「ぐわぁぁぁっ!」

 俺の左腕に尋常じゃない痛みが走った。

 

「はぁ……はぁ……」

 痛みのせいで息が荒くなる。

「くっ、あ、が」

 すると、ジーラは俺の髪を乱暴に掴み、顔を強引に上に向けさせる。

「痛いか? そうだろう……痛いだろう。その服の血の染みが痛みの象徴だ」

 そして俺のもう片方の腕にも銃口を向けて

 

 パンっ!

 

 先程のように破裂音が鳴り、俺の右腕にも尋常じゃない痛みが走った。

「がぁぁぁぁぁっ!」

 すでに周りのものは、部下でありながらその残酷さに見ていられなくなったのか、目をそらしている。

「お前だけは簡単には死なさんぞ。俺の部下をあんだけ傷つけて、更には下らないハッタリで部下を不安にさせた。貴様の罪は死をもってしても足りない。死以上の苦しみを与えて殺してやる」

 俺はバークの所にたどり着く前に何人もこいつの部下を倒して行っていた。

 だがそれは逆恨みだ。そっちから仕掛けてきたんだからな。

 

 そして、俺の両足も拳銃で撃った。

 防音だから周りには聞こえないが、この部屋の中では俺の悲鳴がずっと響いていた。

 

 そして気がつけば、俺は逆らう気力すら無くなっていた。

 そして重力に任せ、体を前の方に倒す。

 俺の体は現在両手両足ともに壁に固定してあるのでそのお陰で床には倒れていない。

 

 辺りは俺の血で真っ赤に染まっている。

 

 はは、やべえ……意識が朦朧としてきた。

 俺、ここで死ぬのかな……?

 色々あったけど楽しかったな。

「そろそろ最期の時間だ」

 そして、俺の髪を乱暴に持ち上げて額に銃口を突きつける。

 

「こいし……」

 その時、こいしの姿が脳裏に浮かんだ。

 

 こいしの笑顔がもう一度見たい。

 そう思うと、次々に涙が溢れだしてきた。

 そして涙の粒は目から頬へ、頬から顎へ垂れてきて、ついに顎から落下し始めた。

 そして涙の粒が床に落ちた。

 

 パンっ!

 

 その発砲音が聞こえて少ししたら、機械の電源を部下がオフにして固定されていたのが外れたため、俺の体は前に倒れて床に倒れ込んだ。

 


 

sideこいし

 

 私は真とは別々のばしょには連れていかれてしまった。

「は、離してぇっ!」

「ダメだ。お前は今からジーラさまには殺されるんだからな」

 抵抗してもなんぼ妖怪でも女の力じゃ男が何人も居たんじゃ敵わない。

 

 するとそこにジーラがやってきた。

「ご苦労さま」

 

「真は!?」

 聞くとニヤッとした。

「何か言い残すことはあるか?」

 そう聞かれて私を急に恐怖という感情が支配した。

 

「う、う。死にたくない」

「残念ながらそれは聞けない相談だね。お前もあの男と同じところに送ってやるよ」

 あの男? もしかかして真のこと!?

 真が殺された……? 嘘だと言ってよ。ねぇっ!?

 

 真が殺されたなんて信じたくはないけどこいつがここにいるからには信じざる終えない。

 だってまずこいつは真の方に行ったんだから。

 真……真にまた会いたい。だけど会えない。

 

 ──もしかして、死んだらまた会えるのかな?

 

 そんな思考が頭を過る。

 真が死んだなら生きててもしょうがないよね。

 真……今すぐそっちにいくからね。

 

 そして目を瞑る。

「覚悟を決めたか」

 そして私の額に銃口が突きつけられる。

「あばよ」

 

 そしてパンっ! と言う音がなったと同時にバリンっ! と言うガラスが割れるような音がした。

 その直後、ガラガラドタンと言う音が聞こえた。

 だけど私に当たることはなかった。

 

 私は音の正体を探るため、恐る恐る目を開けて見回す。

 すると、窓に銃弾くらいの穴が空いて、周りにヒビが入っていた。

 何で? と思って正面を見るとなんと、

「俺の彼女に何しようとしてんだぁっ!」

 

 そう叫びながら殴ったあとの拳を引く真が居た。

 ジーラはと言うと色々な物を巻き込みながら壁まで吹っ飛んでいた。

「し、ん? 真!」

 私はそう叫んだ。

 

 動けなかったはずなのにどうして……!?

「遅れて悪かった」

 そう言って私の頭を撫でる真

 

「て、てめぇはさっき殺したはず」

「残念ながら俺をお前らは殺せなかったようだな」

「確かに頭を貫いたはず!」

 そう言って驚くジーラ

 それを上から見下ろす真

 明らかな怒りの感情が見てとれる。

「そうさ、俺は確かにあの時貫かれた。流石の俺でも死ぬかと思った」

 

 だけどな、と付け加えて私の方を見る。

 

「俺の脳裏にこいしの姿が浮かんだんだ。そして俺はこんなところで死ねないって思ったんだ。そしたら力が沸いてきてな」

 俺が死なずに心を強く持てたのはこいしのお陰だと続ける真。

 な、なんかそう言われると照れちゃうよ。

「お前は普通の人間じゃないのか。だとしても妖怪でも神でも頭を貫かれたら死ぬはずだ」

 

 そう。普通ならどんな種族でも死んでしまう。でも真は違う。

「俺の能力だ。【致命傷を受けない程度の能力】それでもギリギリだったんだぜ? あの時点で完全に心が折れてたら俺は間違いなくあの世行きだった。また【都合の良い状況を作り出す程度の能力】に助けられちまったな」

 それを言い終わると真はジーラを睨み付ける。

「さーて。どう料理しましょうか」

 そして真がジーラに近づこうとしているところを部下達が取り押さえようとして真の腕を一斉に掴む。

 

 しかし、一瞬だけ物凄い量の霊妖力がぐちゃぐちゃに混じった力を放出すると、一斉にバタバタと部下達は気を失った。

「死ぬがよい!」

 

 パンっ! パンっ! と何度も真の体に撃つが真はそれでもジーラに向かっていく。

 そして真は目の前に来たら、腹を蹴る。

 すると、痛みでジーラの力が緩み、拳銃を落とす。

 

 そしてすかさずそれを真は拾い上げる。

 そして手のなかで一回転させてジーラに向ける。

「ま、待ってくれ! 今までのことは謝る。組織も解散する。だから命だけは」

 とジーラは命乞いをしてきた。

 

 すると、真は今までに見せたことの無いような怒りの表情を見せた。

「さようなら」

 冷徹にそう呟くと

 

 パンっ! と破裂音がした。

 

 そしてその銃弾はジーラの頭すれすれを通って壁に当たった。

 そしてジーラはそれを見て失神する。

「命乞いをされても無情に殺し、殺戮を楽しむ癖に、殺される覚悟が出来てなくて命乞いをする。そんなくず野郎は殺す価値すらもねぇ。もう二度と俺達の前に現れるな」

 真はジーラに聞こえてないと知りながらそう言いはなった。

 そして、機械のコントローラーを奪い取って機械の電源をオフにする。

 それによって私は開放された。

 

「じゃあ、帰ろうか」

 私の方向を見たときには既にいつもの真に戻っていた。

 いつも私を助けてくれる。そんな優しい真が大好き

 私は体が自由になったと同時に真に抱きつく。

 

 すると、真も優しく受け止めてくれた。

「あ! 真、血が凄い出てるよ!」

「大丈夫だよ。ようか……い……だか……ら」

 そして真は力が抜けたように私に倒れ混んできて、私はたまらず後方に倒れてしまう。

 

 私の上に真が乗っかってて少し重いかも

「ちょっと……ようか……い……だから……て、調子に…乗りすぎ……た」

 流石に妖怪だとしても限界だ。と笑う真

 

 笑ってる場合じゃ無いでしょ!

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

壁の向こう

 

 燐火は壁の向こうでやり取りを聞いていた。

 

「カッコいいな……。心配してやっぱり来たけどそんな心配は要らなかったか……」

 


 

 俺はこいしに支えられながら施設の外に出てきた。

 

 そこには俺とこいし以外の皆が集まっていた。

 

「おつかれ」

 妖夢が俺を労ってくれる。

 俺はパッと見かなりの重症だが、さすが妖怪の血だ。直ぐに治った。

 

 パッと見重症なのは音恩だけか。犠牲が少なくてよかった。

「音恩なら大丈夫じゃ。幸い致命傷は外れとる」

 なら良かった。

 直ぐに治療してもらえるところに運ばないとな。

 

「とりあえず」

 そう言って燐火はゆっくりとこっちに来た。

「真、無事でよかった〜」

 ん? なんか聞きなれない単語が……真? 真って何? 真偽の真?

 もしかして俺の名前?

 

「おまえ、どういう心境の変化だよ」

「真。あなたは信用に値するってのが分かりました」

「は、はぁ……」

 とりあえずよくわかんない内に信用されたのは分かった。

 

「だから真って呼ぶことにしました」

 と言うかまだ信用されてなかったんだな。

「でもお前に真って呼ばれるのはむず痒いな……」

「……んで」

 ぽつりと燐火は呟いた。

「なに?」

 俺は聞き返した。

 

 すると燐火は珍しく塩らしくなってもじもじしながら言った。

紗綾(さや)って呼んで?」

「は? 紗綾」

 なんだそれ。もしかしてこいつの本名は、

「菜乃花 紗綾……。それが私の本名」

 

 そうか……たしか昔に信用しないと教えないとか言ってた様な?

「そうか……とりあえず紗綾もおつかれ」

「うん! おつかれ〜」

 俺が紗綾と話していると突然こいしは不機嫌になる。

 

「真!」

「は、はい?」

 急に耳元で大声を出されてびっくりする。

「私と燐火、どっちが大切なの?」

「え?」

 急にそんなことを聞かれてびっくりした。そんなもん聞かずとも分かるだろうにな。

 そりゃ当然、

「私と真は運命を誓い合ったパートナーだもんね」

 パートナーだとは言った。言ったけど言い方言い方! お前もかよ!

 

 するとこいしは顔を真っ赤にさせて怒ってしまった。

「もう真なんて知らないっ!」

 こいしは雪の上を走って行ってしまった。

「待てよ!」

 

「……苦労しそうだね」

 紗綾がそう呟くとこの場にいた全員が『お前のせいだよ』と心の中で思った。




 はい!第63話終了

 遂にキルタワー編完結!

 ですが、当初紬が言ってた通り、次の話からは観光が始まります!

 それでは!

 さようなら


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第3.5章 大切な人を守るため『真の特訓』
第64話 シャロ様は友達が欲しい


 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 遂にキルタワー編、終了



 それではどうぞ!


side真

 

 音恩を紫を呼んで永遠亭まで運んだ後、スノーレストで一泊し、次の日。

 

 ぼふっと俺は雪の上に倒れ込んだ。

 

 皆には珍しい雪な訳で、随分とはしゃいでいる様に見える。

 ……二人を除いて。

「ねぇ、燐火。私の真から離れて?」

「なんで私がダーリンと離れなくちゃならないのさ。ダーリンは私のだよ」

 ダーリンって……少なくとも俺はお前のじゃねーよ。

 と言うかそんな言葉この世界にあったんだな。今どき日本でもそんな言葉聞かねーぞ?

 

「だだだ、ダーリンっ!?」

 あー面倒くせぇ……俺を解放してくれませんかね?

「真は私のダーリンなんだから!」

 こいし、お前もかよ。

 俺は流石に妖怪の血のお陰で傷は無いって言っても尋常じゃないくらいに疲れてるんだからな。

 

 実はキルタワーから出てきてここまで来るまでに何度かあのバークと戦った時に発動できた奴を練習したんだが、一向に成功しなかった。

 どうやら俺の自己防衛本能が咄嗟に起こしたまぐれだったようだ。

 と言うかあれはなんだったんだ?

 

「とりあえず離れてくれ」

「「嫌です!!」」

 お前ら変なところで息ピッタリだな!! その息ピッタリ加減を別の所で発揮して欲しかったよ!

 

「真、離したら直ぐに別の女を誑かしに行くもん」

 別の女って言う響きが怖いんだけど!? こいしさん病んでませんか!?

「ふひひ〜面白いことになってきた!」

 よし分かった。お前は単純に俺をからかいたいだけだな!? (T)場所(P)場合(O)を考えろよ! こいしさん、あなたのせいで病んできてますよ!? Time&Place、occasion、これ大事。

 

「むぅ……パートナーは私なのに」

 なんか向こうからも黒い感情が見え隠れしている。

 何とか妖夢が押さえてくれてるから良いけど妖夢が居なくなった瞬間、俺に突撃してくるな。

 

「な、な? 俺に構わず皆に混ざって遊んで来いよ」

 しかし、俺に抱きついて離れない。

 

 仕方が無い……こうなったら。

「シャロぉぉぉぉっ!」

 その瞬間、真下から引っ張られ、引きずり込まれる事によってこいし達から逃れる事に成功した。

 


 

 次の瞬間、俺は紅魔館前に居た。

 

 本当に来てくれた!

「いやぁ〜。ね? 真君。僕はタクシーじゃないんだよ? 神様なんだよ? 多分君くらいだよ。神様をタクシーとして使うのは」

 シャロは俺の目の前に現れてグチグチと文句を行ってくる。

 確かになんぼなんでも普段親しくしてもらってるとはいえあの女神、シャロ様に対して少々厚かまし過ぎたか。

「すみませんシャロ様。この様なことは二度と起こしません」

「いやあの──」

「二度とシャロ様にはこの様な厚かましい事は致しませんのでどうか──」

「やめてぇぇぇっ! お願いだからもっと親しくしよ? 僕、もっと真君となかよくしたいよぉぉぉっ! 僕を奴隷みたいにこき使っても良いからさ!」

 抱きついて泣きながら懇願してきた。

 こういう時なんて言うんだっけ? 計画通りで良いんだっけ?

 

 でもさすがに奴隷としては扱わないよ? ……タクシーにはなってもらうかもしれないけど。

 と言うか神様が奴隷にして下さいとか言っちゃダメだろ。

 

 と言うかここまで必死になるってことはシャロは──やめよう。可哀想になる。今度何かプレゼントしてやるか。

 

 そして俺は抱きついてきているシャロを(なだ)める。

『くくく』

 どこからともなく笑い声が聞こえてきた。

 その笑い声が聞こえた瞬間、シャロの顔はリンゴのように真っ赤になった。

「ぐ、紅蓮!?」

 シャロが名前を呼ぶと紅蓮は何も無かった空間から出てきた。

「いやぁー。まさか時空神さんが、まさかあの! 時空神さんが人間の奴隷になってもいいからと懇願するとはな。くくく面白っ」

 

 紅蓮か……久しぶりだな。未来の俺との戦いの時以来じゃないか?

「いやぁ、この世界はおもしれぇな。まっさか時空神を飼い慣らしてる人間が居るとは」

 そして紅蓮は俺の方に近寄ってきて──

「やめてぇぇぇっ! お願いだからもっと親しくしよ? 僕、もっと真君となかよくしたいよぉぉぉっ! 僕を奴隷みたいにこき使っても良いからさ! だとよ。くかかか」

 するとシャロからどす黒いオーラが出始めた。

「紅蓮、僕は悲しい。まさか君を消さなくちゃいけない日が来るとは思わなかったよ」

 いやお前じゃ力神の紅蓮にゃかてねぇぞ?

「あ? お前が俺に勝てると思ってるのか?」

 そうだぞ〜やめといた方が身のためだぞ〜

 

 一触即発。

 これは俺でも割り込んで行ったら殺されそうだ。

「死ぬがいいよ紅蓮!」

「それはこっちの台詞だ僕ロリっ子!」

 そして二人ともファイティングポーズを取り、もう誰にも止めることは出来ない状況になってしまった。

 

 この状況で俺が出来ることと言えば、遠くで静観するくらいである。

 せめて紅魔館は巻き込んでやるなよ

 

 そしてお互いに殴ろうとした瞬間だった。

 空から何かが降ってきた。

 そしてその何かを二人で挟んで殴った。

「ふぎゅっ!?」

 その拳に吹っ飛ばされて俺の方に飛んでくる。

「ぐはっ!」

 なんて威力……。

 吹っ飛んできた物に巻き込まれて壁に叩きつけられた。

 

 降ってきたのは紬位の女の子だったらしい。

 その女の子は俺の上で目を回してしまっている。

「ふぎゅ〜」

 その人物を見てシャロと紅蓮は青ざめた。

「「か、彼方様!?」」

 

 ──どゆこと?




 はい!第64話終了

 遂に第惨章終了です!

 いやぁ滅茶苦茶長かったですね。

 終わるまでに約半年程かかりました。

 それでは!

 さようなら


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第65話 破壊神

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 親方〜っ! 空から女の子がっ!



 それではどうぞ!


side真

 

「「彼方様!?」」

 二人揃えて叫んだ。

 

 と言うかあの二人が様付け? どういうことだ?

「ふみゅ〜」

 とりあえず痛がってるようだから撫でてあげようかな?

 

 そして撫でてあげると更にシャロと紅蓮の恐怖に染まった顔は更に酷く崩れた。

「な、なんて事をするんだ」

 紅蓮はぽつりと呟いた。

 いや、お前らがなんて事をするんだよ。この子完全に目を回しているじゃねーか。

 

「ん?」

 お、目を覚ました。

 そして暫くぼーっとした瞳で俺を見つめる。

「ふへへへ」

 急に女の子は笑いだした。

 

「お、おい。絶対あれは油断させといてパコーンのパターンだぞ」

「そ、そうか!! じゃあ真君は──」

「ああ、もう助からないだろう」

「そ、そんなぁ〜」

 お前ら変な考察するな。

 どう見ても喜んでるだけじゃないか。

 

「所で〜」

 女の子が初めて口を開いた。

「君は誰?」

 そうだったな。なんか自然に撫でていたけどもそういや初めて会うんだったな。

「俺は海藤 真。君は?」

「私は彼方。よろしくね?」

 俺もよろしくと言ってとりあえず離れようとすると何故か着いてきた。なんで?

 

「私は君を気に入ったよ」

 なんか会って1秒で気に入られたんだけど? どゆこと? 本当にどういうこと?

 俺って小さい子に気に入られるオーラでも出てんの? 紬や優ちゃん然り。

「そ、そうか」

 ルンルンと俺の膝の上に座って足を交互に上げ下げする彼方……様?

 その光景を見て更に青ざめるシャロと紅蓮。

「ぜ、絶対油断させた所にパコーンだよ」

「あれはやばいぜ。今にも小僧を殺しそうな目をしている」

 今にも俺を殺しそうな目ってなんだよ。そんな目をしてるの? 俺からは見えないんだけど?

 と言うか殺されるとしたらお前らだよ。先から滅茶苦茶失礼な事をペラペラと喋ってるじゃないか。

 

「ねぇ、二人とも」

 すると彼方……様はシャロと紅蓮の二人を呼んだ。

 すると二人は慌てて反応し、こっちに慌ててきた。この二人のこの姿は貴重だな。スマホが手元にあったら撮るんだけどな。

「正座!」

 彼方……様にそう命令されると素直にシャロと紅蓮は並んで正座した。すげー速い。

 

 二人が正座すると彼方……様は俺の膝の上で二人に説教しだした。

 内容はさっきから二人が彼方……様を殴ったことに関してだった。

 まぁ、自業自得で怒られてるから可哀想とは思わないけど、俺の膝の上で怒っているからかあんまり迫力を感じない。それでなくとも迫力は感じないのに。

 

「まぁ、これくらいでいいでしょう」

 一時間くらい説教したら気が済んだのか、そこで説教を終えた。

 

「そう言えば気になってたんだけど、シャロ達はなんでそんな下に出てんの?」

 俺は気になった事を聞いてみた。

「真君。この方は破壊神なんだよ! 僕らとは別格の存在なんだよ!」

 なるほど。神様の上って事か。

「紅蓮君もかなり上の位と言うか同じ位だからそんなペコペコしなくても良いのに」

 あ、そうなんすね。

 紅蓮はシャロと同じかと思ってた。と言うか口ぶりからシャロは下なのかな?

「シャロちゃんも」

 あ、皆同じなんすね。

 

「いやぁ、他の人が居る手前って言うか……あなた怒ると直ぐに破壊しちゃうじゃないですか〜?」

 シャロが説明する。

「え? そうだっけ?」

「そうだな。お前さ、前に飯がまずいとかで空間一つ破壊したじゃないか」

 そ、そんな事が!?

 紅魔館にも同じような力を持ったフランとか言う破壊神も居るけど、フランよりもヤバいんじゃないか? 空間を破壊って……規模が違うな〜ハハハ……。

 

 空間ってのはあれだろ? 世界の事だろ?

「ぐぬぬ……そう言えば紅蓮君、見てれば相変わらずの脳筋バカだよね」

「やめて! いくら何でも本当のことだとしても言ったら可哀想でしょ!?」

 シャロお前の方が酷いこと言ってるぞ!

「あん? お前ら俺に喧嘩売ってんのか? 買うぜその喧嘩。力神であるこの俺の【天地万物すべてを燃やし尽くす程度の神の能力】の真価見せたるぞ!」

「紅蓮君のその能力で破壊神である私の【天地万物すべてを破壊し尽くす程度の神の能力】に勝てると思ってるの!?」

「やめろ。お前ら」

 俺は二人が喧嘩しそうになった為、彼方を宥めて紅蓮を止めた。

 この二人が戦ったら幻想郷なんてあっという間に木っ端微塵になってしまいそうだからそんな危険は事前に取り除くに限る。

 

「地上のものに纏められる神ってなんだかな~だよね。ちなみに私は【時を越える程度の神の能力】だよ。そして紅蓮はもう一つ能力が有って【空間を移動する程度の神の能力】だよ」

 突然シャロは説明口調で語り始めた。

「シャロ、お前は一体誰に説明してるんだ?」

「気にしないで~」

 気にするなって言っても気になるもんは気になるんだよ。

 

 とりあえずまぁ何とか二人は落ち着いてくれたけど、神って皆こんなに落ち着きが無いのか?

 紬も姿を見てからは威厳を感じないし、シャロの威厳は最初だけだ。

 紅蓮はなんか厨二だし、彼方……様にはそもそも威厳を感じないし。

「ねぇ、シン」

「ん?」

 彼方……様が俺の名前を呼んできた。何の用だろう。

「この世界を色々見て見たい!」

 その言葉を聞いて俺は昔を思い出した。

 そういや昔は俺も見て廻りたくてしょうがなかったな。

 

「よし、んじゃ案内するよ」

「うん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ねぇ」

「ああ、言いたいことは分かっている……」

「「真って実はすごい人なんじゃ?」」




 はい!第65話終了

 今回から第肆章スタートです!

 彼方と言う破壊神が登場しましたね。

 それでは!

 さようなら


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第66話 浮気

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 真は破壊神である彼方に幻想郷を案内することになった。



 それではどうぞ!


side真

 

 俺はまず人里に連れてきた。

 破壊神だけど、この子はなんだか大丈夫な気がするから多分問題は起こさないだろう。

 まぁ、暴れられたら俺たちじゃ対処のしようがないからな。

 

 そういや俺は致命傷が効かなくて、フランの破壊も多分無効化してるけど、神の能力だったらどうなるんだろう。

「シンっ!」

 彼方……様が目をキラキラと輝かせて俺の袖を引っ張りながら店の方を指さす。

「ああ、あれ食べるか?」

「うん!」

 素直で可愛い子じゃないか。シャロと紅蓮が怯えてた意味が分からなくなってきた。

 でもまぁ、これでも破壊神なんだよな。

 神……様だよな? 俺の中の神様のイメージがどんどん崩されていく。

 

「美味しい!」

 彼方……様が指さしたのはヤツメウナギの店舗。

 そこでテイクアウトして持ってきて上げると直ぐに彼方……様は一口食べて美味しいと言った。

 とりあえず一安心だ。

 

 この人里の飯は恐らくハズレは無い。俺も何度も来て飯を食べたりしてるが、美味い。

 これによってこいしが一回嫉妬して飯を作ると言ったことがあるが、こいしの料理は確実に死人が出るからな。

 なぜホワイトシチューがパープルシチューになって沸騰してる訳でもないのにボコボコ言ってんだよ。インスタントラーメンでも俺以外だったら死ぬ。

 

「よ、真じゃねーか」

「ん? あ、おっちゃん」

 例の店のおっちゃんが買い出しに来ていた。今日はあの店の定休日だったっけな。

「ん? なんだ真。お前、最近会う度に別の女の子連れてんな。浮気か?」

「ちげーよ」

 なんて人聞きの悪いことを言いやがるこのオヤジ。

 俺はどんな事があろうともこいし一筋だ!!

 

「シン! シン!」

 今度はまた別の方向に袖を引っ張られる。

 そこにはまた別の飯屋が有った。食いもんばっかりだな。他に興味は示さないのかな?

「まぁ良いか。今日は彼方様のやりたい事をやらせてあげよう」

 


 

 数時間後

 

「シン! 楽しかったよ」

「そうか。それなら良かった」

 と言ってもずっと食ってただけなのだが彼方様が楽しかったのならそれはそれで良かったと言っても良いんじゃないだろうか?

 

 もっと紹介したい場所もあるが、人里だけで見る場所が多いからしょうがない。

 

 でも、機嫌よく終わってくれて良かった。

 

 その時の事だった。

「君かわいいね」

 男が隣に居るというのに話しかけるとは……。しかも彼方様は結構見た目が幼い。そんな幼い子に声掛けるってマジか。

「あのー。俺が居るんですけど」

「うるせぇっ! 引っ込んでろ」

 と折りたたみナイフを取り出す男。

 

 そして俺を取り囲むように更に三人ほど影からでてきた。

 まぁ、こんなんで狼狽えるほどやわな修行はしていない。

 

 しかもあんな小さいナイフで勝てると思ってること自体が不思議だ。

 投げナイフ使いならもっと良いナイフを使うはずだ。つまりあれは斬る用。

 

 まぁ、俺は傍から見たら武器も持ってないひょろひょろの男だ。

 だけど、人を見かけで判断してはいけない。

 

 とその時、横目で彼方様を見てみるとかなり機嫌が悪くなっていて、あんなにニコニコしていた顔が沈み、目が死んでしまっている。ハイライトがオフになっている。既に人を何人か殺してそうな顔だ。

 

「死ね……死ね……」

 彼方様は恐ろしい言葉を呟き始めた。

 そして手を上に掲げる彼方様。

 

 まずい!

 咄嗟に俺は男達に霊力を放つ。

 

 すると、男達は一撃で気を失った。

 そこで漸く彼方様の目に光が戻って、上に掲げていた手も下ろした。

「大丈夫か? 彼方様」

 すると俺の言葉に反応して彼方様は抱きついてきた。

「わーいわーい! シンつよーい!」

 俺に抱きつきながらビョンピョン跳ねて喜ぶ彼方様。

 

「俺は強いですから彼方様を守ってみせますよ」

「……た」

「え?」

 彼方様の声が小さ過ぎたため、聞こえなかった。

「彼方! りぴーとあふたーみー」

「え? か、彼方?」

「私のことはそう呼んで」

 そういやシャロと紅蓮が様付けで呼んでたから俺もずっと様付けで呼んでたんだった。

 

「分かったよ彼方」

 頭を撫でてやると喜ぶところが可愛らしいなと思った。

 


 

 紅魔館に帰ってきたんだが、彼方が俺から離れない。

「で、どういうこと真」

 何故かそこに居たこいしに今は説教されている。

 多分この場に笑ってる紫が居ることから考えて面白がってこいしを送ってきたんだろうな。と冷静に考えているが、こんなことを考えてる場合じゃない。

「私と言うこ、恋人が居ながら浮気!? 燐火とそこの女の子まで、しかも幼い子に手を出すなんて……犯罪なんだからね!?」

「こ、こいしちゃん。それ天に唾吐いてるからな? 滅茶苦茶自分に帰って来てるからな」

 龍生がツッコミを入れる。

 

 そうさ。

 何年か離れてたから成長してるかな? って思ってたら一切変わってなかった。

 だから人里でデートするとロリコンと呼ばれる始末。

 

 だが、俺は断言しよう。ロリが好きなのではない。こいしが好きなのだ!!

 

「はぁ……」

 心を読めるさとりがため息をついた。

 

 ……なんで?

 

「真は私の真なんだから!!」

 俺の頭を抱き寄せるこいし。いつになく積極的な。

 

「シンってクレアを使えたんだ〜」

 事の張本人が場違いな事を言ってますよ。

 

 というか、クレアって何の事?

 

「こいし、その男は浮気なんて考えてないわよ。寧ろ恥ずかしいくらいに貴方のことを好いてるわ」

「え? そ、そうなの!? えへ、えへへへ」

 怒ってたと思いきや直ぐに顔をほころばせた。

 顔をほころばせたこいし、可愛い。

 

「ねぇ、シン。クレア使えるんだ」

「は? クレア? なんの事だ?」

 俺が聞き返すと嘘でしょ? 見たいな目で彼方にみられる。

 

「まさか無自覚で発動してたの?」

「そうか……あれがクレアだったんだ」

 まさか俺がクレアを使えるなんて考えてもみなかったからクレアって可能性を除外していた。

 

 すると彼方は「ん〜」と少し考えた後、こんなことを言ってきた。

「じゃあ良い技を一つ教えてあげるよ。新しいクレア」

「新しいクレア?」

 強くなれるならなんでもバッチコイだ。そして俺は少しでも強くなって次こそはバークよりも強くなってこいしを絶対に守る。




 はい!第66話終了

 こいしが大変なことになってますね。日常茶判事。

 そして真。まさかのクレアに気が付かず。

 そして新しいクレアとは!?

 それでは!

 さようなら


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第67話 クレアを使いこなせ

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 真の浮気が発覚(デデドン!(絶望)
真「してないからな!? 俺はこいし一筋だからな!?」

 そして新しいクレアとは!?



 それではどうぞ!


side真

 

 次の日。

 紅魔館の庭にて俺はクレアの特訓をしていた。

 

「多分シンはクレアを操りきれてないんだよね?」

「まぁ、そうだな」

 確かに俺はクレアをつい二日前に使えるようになったばかりだから全然使えない。

 

「クレアを完全に操るには感情の制御。そうすれば余計な感情、思考が消えて戦いに集中出来る」

 そういう原理だったんだな。

 確かに霊力の制御は凄いけどそれでどうやってあれほどの力を出すのかが分からなかった。

 

「まぁ、色々なクレアの種類があるけど、シンが覚えれそうなクレアは……装か治かな?」

 そんなに種類があるのか。

「まず、装は霊力を纏わせるみたいにクレアの霊力を纏わせる。これがなかなか難しくてね。クレアの霊力が完全に安定してないとクレアの霊力は一点に集中できないからね」

 なるほど。

 普通に纏わせるだけなら多少ブレてようが霊力コントロールが多少出来れば出来る。

 だけど完全にってのは無理だから、これは長い道のりになりそうだ。

 

「次に治ってのは……ってその前にシンって治癒できる?」

「からっきしだな」

「そっか」

 彼方が残念そうな顔になった。

「治ってのはクレアの霊力を混ぜた治癒技で一気に回復するというもの。これは結構使えるんだけどな……」

 残念ながら俺は治癒ってのは出来ないんだ。

 妖怪だから相手から奪い取るってのは可能かもしれないけど、優ちゃんみたいに他人を回復させるのは出来ない。

 

「そうか……じゃあ装を教えるね」

 と言ってから彼方は片手を横に掲げた。

 その片手に渦巻くようにクレアの霊力が伸びていく。

 

 そしてその霊力がそのまま腕に吸収され、腕が霊力の色になった。

「これがクレア《装》」

「クレア……《装》っ!?」

「うん! じゃあまずは完璧に操れるように頑張って」

 

 それから俺の修行は始まった。

 

 そう言えば、地底の方で星熊 勇儀らが地霊殿を建て直してくれているとのことで、俺は勇儀らを手伝ったりして、休憩の合間の時間でクレアの特訓。

 

 よく酒に付き合わされるものの、体術の特訓にも付き合ってくれるから俺的には好印象。

 但し、パンチの威力が高すぎるので一撃で死なないと言えども、痛すぎるので要注意。

 俺は致命傷を受けないだけで痛みは普通に感じるのだ。

 

「シン頑張ってるね」

「ああ、強くならないと大切な人も守れねぇからな」

 俺はクレアを使い、バークに負けた。その事実だけはどう頑張っても覆すことは出来ない。

 だからもう誰にも負けない為に俺は修行を続ける。

 

「シンやシンの仲間に危害を加えるやつは私が許さないよ」

 何やら怖い事を言っている。

 もしかして俺が守る前に世界が滅亡するかもしれない。

 さすがに破壊の能力はどうしようもない。

 

「なんでそんなに俺に肩入れするんだ? シャロから聞いたが、神って私情で地上の者に力を貸しちゃ行けないんだろ?」

 なんでも、世界が滅亡するかもしれない危機以外では戦闘に参加してはならないらしい。

 そして唯一、世界を破壊する権限があるのが破壊神である彼方だけ。こいつにそんな権限を与えて大丈夫なのか?

 

「へぇ〜そんなルールがあるんだぁ」

「え? 知らなかったのか?」

 彼方は「うん」と頷く。

 まぁ、知らなかったなら良いのか?

「でも、そんなやっか……面倒なルールを作ったシャドウ君にはお仕置が必要みたいだね」

 なんか怖いことをブツブツと呟き出した彼方。

 

 というかシャドウ……どこかで聞いたような……。

「彼方。シャドウって?」

「シャドウはね。闇を司る神で、神の世界の法を定める偉い神様なんだよ」

 いや、なんでそんな偉い人にお仕置きするんだよ……。

「でね、私の友達なんだ〜」

「えぇ〜〜っ!?」

 驚きのあまり、声を出して驚いてしまった。

 

 衝撃の事実。

 彼方は法を定める神と友達だった。

 

「ま、そんなことは置いておいて」

 置くなよ……。

「そう言えばシンは神のみ使える《限界突破(ブレイク・ザ・リミット)》が使えるんだって?」

「ん? ああ、そうだけど」

「なら、今から私が言うことは一つ」

 

 ──絶対にクレアと《限界突破》を一緒に使わないで

 

「ん? 何故だ?」

 クレアも《限界突破》も身体強化技。負荷は大きくなりそうだけど、両方使った方が強くなれんじゃないのか?

「居たんだよ」

 急にそんなことを言ってきてびっくりする。なんの脈絡も無い話だ。

「シンみたいに《限界突破》を人間の身で使える人が」

 え!? 俺みたいに使える人が居たのか!?

 俺のは偶然神成りを刺したら紬の神力が流れ込んできたから使えるんだが……。

「その人はね、馬鹿なことにクレアと《限界突破》を同時に使ったんだよね」

 ゴクリと生唾を飲む。

 そして俺に謎の緊張感が走った。

 

「その人、どうなったと思う?」

「ど、どうなったんだ?」

「暴走しちゃったんだよね。力に耐えきれなくてさ」

 暴走。一番最悪のパターンだ。

 俺は皆を守りたい。だが、その皆を俺自身の手で傷つけると言うのは一番避けたい最悪のパターンである。

 

「分かった。俺も俺自身で仲間を傷つけることはしたくないからな」

「毎回そういうんだけどね……」

「何か言ったか?」

「何でもないよ〜」




 はい!第67話終了

 クレア《装》とクレア《治》と言う新しいクレアが登場しましたね。

 そして最後の彼方の意味深な発言。どういう意味なのか?

 それでは!

 さようなら


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第68話 紅魔館での騒動

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 真はクレアを完璧に操るトレーニングを始めた。



 それではどうぞ!


side真

 

 

 俺達が紅魔館内に入ると既に皆戻って来ていた。多分シャロか紫のどちらかだろう。あの距離から一瞬で戻って来れるわけがない。

 

 そして紗綾に耳打ちした。

「そういや人質にされていた子は?」

 俺はずっと気掛かりだった。

 

 この騒動を起こすことによって人質にされていた子が殺されてしまうんじゃと、俺はずっと心配していたのだ。

「……探してみたわ。だけどどこにも居なかった」

 悲しそうな声で紗綾は呟いた。

 

 探しても見つからないってことは……と最悪のパターンを想像してしまう。

 もしも一歩間違えたらこいしもそうなっていたかもしれない。だから非常に共感出来る感情である。

 

 だけど、もう……誰にも負けない。こいしを守る為にもう負けられないんだ。俺はバークに負けて己の弱さを認識した。その過ちをもう二度と繰り返さぬために俺は更に強さを求め続ける。

 俺の求める強さに終わりなんか存在しないのかもしれないな。上には上がいる。

 今まで耐久でゴリ押していた俺の戦法があいつには効かなかった。

 今までと同じじゃダメだ。

 

 かと言って《限界突破(ブレイク・ザ・リミット)》は体力の消耗が激しいから長時間使えない。それならクレアの方が長い時間使えるだろう。

「次こそは守ってみせる」

 俺はそう呟いて決意する。

「しーん〜っ!」

 決意してるところに後ろからすごい勢いで突進してきた人が。

 

「……こいし」

 その人物はこいしなのだが、あまりの勢いに耐えきれず俺が倒れてしまい、こいしに押し倒されてるような状況だ。

「ちょっとそこを退いてくれ」

「真っ! 真っ!」

 なんかやべーの食べさせたりしてねーよな……。

 

 だが、嬉しいんだが離れてくれないと困る。その時に役に立つ奴があいつだ!

「音恩っ! 助けてくれ〜!」

 そして音恩を見てみると、

「いやぁー。僕が助けて欲しいね」

「音恩っ!?」

 そこには俺と同じく床に倒されてフランに抱きしめられてる音恩が居た。

 しかも最大の武器であるパソコンをしっかりとフランは手放させている。なかなかの強者だなありゃ。

 

「た、龍生〜!」

 俺は結局親友に頼む事にした。

「っと、それはそこに置いて、あーそうだな。一旦これ避けてこれ置いちゃおうか」

 もう少しで夕飯だ。だから龍生は料理を置く場所を指示している。

 床に倒れてるから料理は見えないけど、美味そうな匂いはめちゃくちゃ漂ってきている。しかも、今日はパーティでもするのかすごい量の料理だ。

 

 すると俺からジリジリと離れていく炎の剣士が一人。

「助けてくれ紗綾」

「……ねぇねぇ真?」

 俺の目の前でしゃがむ紗綾。どうしたんだ?

「いっぺん死ぬといいと思うよ?」

「なんで!?」

 ねぇねぇ、酷くない?

 

「いやさ? なんか……目の前でイチャつきをみせられるの事にイラつきを感じただけだよ海藤さん」

 海藤さん!? 最初の頃より距離を感じる呼び方だ! お願いだからお前はさん付けで呼ばないでくれ!

「ねぇ真? 助けて欲しい?」

「──いや、お前はいいわ」

 紬の申し出に即答した。なぜなら紬が関わるとロクな事にならない気がするからだ。

 

「……シャロ、助けてくれ」

 そう呟くとどこからともなく「フラグを立てまくった真君が悪いよ?」と聞こえてきた。

「…………あー。やっぱりシャロ様に頼み事なんて厚かましすぎましたかね……これからは気をつけますのでどうかお許し──」

「呼ばれて飛出てじゃじゃじゃーん」

 ……ちょろいわ。

 

「シン、シンが困ってる?」

「あー。大丈夫だから! 大丈夫だから!」

 いつの間にか飯の匂いに釣られて向こうに行っていた彼方が帰ってきて恐ろしい言葉を呟いた。

 彼方に俺が困ってると思われると必ず死人が出るに決まっている!

 

 ここはシャロに任務を与えよう。

「彼方。見たところ飯の時間まで少しあるようだし、シャロと遊んできたら?」

「シャロと?」

「え?」

 俺が言うと二人とも驚きの声を上げた。

 まぁ、なんの任務かと言うとここから彼方を引き剥がす任務だよな。

 

「……あー。シャロ様にこちらがお願いするなんておこがましかったで──」

「よーし! 彼方様。一緒に遊びに行きましょう!」

 そう言って彼方の手を引いて屋内から出ていくシャロと彼方。

 ……やばい。時空神を自由に操れる魔法の言葉を見つけてしまった。

 とりあえずシャロ様と言えばシャロはちょろくなるってことが分かった。

 

「ふぅ……こいし? 後で構ってあげるから一旦退いて?」

「……真?」

 俺がこいしに言うとこいしは小さく俺の名前を呟いた。

「真、またこの前の戦いで無茶したでしょ。たしかに壊滅させてって頼んだのは私だけど……」

「ん? え? あれってこいしだったの?」

 壊滅させてって頼んできたのはキルタワーの入口ですれ違った謎の人。あの人の正体って恋しだったのか?

 

「どうしてこいしはあんな所に居たんだ?」

「それは俺から話そう」

 するとどこからともなく声が聞こえてきて、上から人が降ってきた。

 ドシーンと物凄い衝撃が走る。

 その降ってきた人物は?

「!? お前は……っ! バーク」

「よぉ、邪魔してるぜ」




 はい!第68話終了

 何とバークが紅魔館に!? 果たしてどうなってしまうのか?

 それでは!

 さようなら


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第69話 死の悲しみ

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 なんと真達の前にバークが現れた。どういうことだ?



 それではどうぞ!


side真

 

「よぉ、邪魔してるぜ」

「バーク……なぜお前がここに!」

 今、俺達はバークと対峙していた。オマケに今のバークが落下した時の音に驚いて奥からぞろぞろと集まってくる紅魔館にいるメンバー。

 

「くくく、そう怖い顔するなよ」

 バークは敵陣にて囲まれているというのに笑みを浮かべている。これが強者の余裕ってやつか。

 俺は一回バークに負けている。だからこそこいつの強さを分かっていて、警戒している。そして今俺が戦っても勝てない事も分かっている。

「バーク……」

「なるほど」

 奥から出てきたさとりは事情を知らないはずだが、俺か燐火の心を読んだのだろう俺と燐火の反応を納得したようだ。

 

「んで、何の用だバーク」

「そう怖い顔するなよ。俺が来た目的はただ一つ楓花の事を伝えようと思ってな」

 楓花って言ったら紗綾の友達の子か。

「どういうこと、バーク」

 すると紗綾は臨戦態勢を解いた。紗綾にとっては今一番気になる事だ。

 

「あの娘はジーラみずから殺した」

 その言葉を聞いて俺は息を呑む。なぜなら知っているからだ。大切な人を失う苦しみを。だから理解出来てしまった。今、紗綾が何を考えているかを理解出来てしまったのだ。

「そう……やっぱり攻め入ったせいだよね」

 紗綾がそう言うとバークはフンっと鼻で笑った。それに対して紗綾は睨みつける。

「本当はもう気がついてたんじゃないか? 気付かないふりをして、自分が犠牲になれば彼女が助かると思っていたかっただけなんじゃないか?」

 俺はバークが何を言っているのかがさっぱり理解出来なかった。

 だが紗綾は分かったようで俯いている。

「おい緑の小娘」

「……え? それって私の事!?」

 今度はこいしに向けて言葉をなげかける。

「お前なら知っているだろう。楓花と言う少女がどうなったかを」

 もしかしてこいしは知っているとでも言うのか? どういう事なのか。

「うん。楓花はね。燐火があの組織に来てからすぐに殺されたんだよ」

 その話を聞いて俺は言葉も出なかった。俺の思考は一瞬真っ白になった。

 紗綾は楓花を助けるためにあの組織に協力していたと言うのにそれが全て無駄だったってことじゃないか。

「そう……なんだ」

 ポトポトと涙を零す。

「今までのは全て……」

「無駄だ」

 バークはハッキリと紗綾に言い放った。

 

「ねぇ真。私は意味もないのに人を殺しちゃったんだ。生きる意味なんて無いよ」

 悲しそうな声だ。その声はまるであの時の。

 

 俺は親しい人の死を乗り越えて大切な人は俺が守ると思えるようになったけどみんながみんなそうでは無い。死んでしまおうとする人も多い。

「なぁ紗綾」

 俺は紗綾の両肩を掴む。

「今までの失敗はこれからの善行で取り戻せばいいんだ」

 俺は諭すようにそう言う。

 死なせてたまるか。その一心で語りかける。

「お前の友達だってお前が死ぬ事を望んで無いはずだ」

「……そう、かな?」

「ああ、少なくともここに居るやつでお前を嫌ってる奴は居ない。そんなやわな奴は俺の仲間には居ないよ」

 俺は一緒に旅をして、そしてこいつは死なせたくないと思った。

 だって紗綾はもう仲間だから。

「ありがとう真」

 

「ほう? あの状態から立ち直らせるとはな」

「バーク」

「なんだ海藤 真」

 俺は正直言って怒りを覚えている。それは紗綾に自殺を煽るような言葉を言ったことだ。

 だから俺はこいつの事は許せない。もう敵じゃないだと? 俺にとってはこいつは敵以外の何物でもない。

 

「俺と勝負しろ」

 俺はみんなの前で言い放った。

 バークは「何言ってるんだこいつ」とでも言いたげな顔をしている。だが、俺は言葉を取り消さない。

 

「今から人里近くの闘技場で俺とタイマンしろ、バーク。俺が勝ったらもう二度と俺達の前に現れるな」

「ほう?」

 バークには一度負けている。だが、彼方に鍛えてもらったから少しは強くなっているはずだ。

 まだクレア装は完成していないが、ここで引く訳にはいかない。

「んじゃあ、俺が勝ったら海藤 真。お前を殺す」

 すると俺を睨んできた。眼力が凄くて気圧されそうになる。

「んじゃ、俺もお前を殺す」

 そして俺も睨みつける。

 

「でも真、一回負けてるんじゃ」

「男にはやらなきゃいけない時があるんだ」

 そして俺は皆の反対を押し切ってバークと戦う為に闘技場に向かう。

 


 

「勝負はこのコインが地面に落ちたら」

 そして俺はコインを握りしめる。

 

 皆は観戦席に座って俺達の戦いを見守っている。

 

「このちょっとの間でお前がどれだけ強くなったか見物だな」

 俺がこの期間、一切お前対策をしていなかったとでも思うのか。

「「いざ勝負!」」

 そしてコインを弾いた。

 


 

sideこいし

 

 なんかいつの間にか話が纏まっててあの二人が戦うことになっちゃった。

 しかもお互いの命を賭けた戦いとか馬鹿じゃないの?

 

 私は真に無茶して欲しくないって何度も言ってるのに。

 

 そして遂に戦いが始まろうとしている。

 

 以前二人が戦った時の結果は聞いている。真の負け、それだけで私の不安は何倍にもなる。

 もしもこの戦いに負けたら真は殺されちゃう。

 

「真なら大丈夫。絶対に今度こそ負けない」

 燐火が私にそう語り掛けてくる。

 私も信じて見守ろう。




 はい!第69話終了

 またまた真対バーク。しかも命を賭けた戦い。果たして勝つのは?

 それでは!

 さようなら


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第70話 圧倒的 再『真対バーク』前編

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 真は再びバークと戦うことになった。

 しかも今度のは殺し合いだ。果たして真は勝てるのか?



 それではどうぞ!


side真

 

「「いざ勝負!」」

 そして俺はその瞬間、バーク目指して走り出す。だが、バークは微動だにせず、じっと俺を見つめている。

 

 俺はバークとの距離、5mまで近づいた。バークの衝撃波の射程圏内だ。

 そこでバークは拳を構えた。来る!

「だぁっ!」

 そしてバークが殴ったのは地面だった。

 ものすごい威力で殴られた地面はクモの巣状に割れ、平らな部舞台はガタガタの部舞台へと変わってしまった。

 

「お前の特徴はスピード。相手の攻撃を耐えながら一気に相手に接近し、斬る」

 まさかこいつ、一回戦っただけでもう俺の戦闘スタイルを見破ったとでも言うのか? んな無茶苦茶な。

 

「スピード封じって事か」

「ああ、そういう事だ」

 だがこれは俺の予想通りの展開だった。ここまでの相手だったら俺の戦闘スタイルを崩してきてもおかしくないと考えていたからだ。

「だからこれはその時の対処用の技、彼方から教えて貰った技だ」

 

─※─※─※─回想─※─※─※─

 

「うーん。シンはまだスピードが足りないね。それじゃ折角のクレアがあっても強敵には勝てないよ」

「ま、まだダメなのか」

 俺は今のこのスピードでもダメだと言われ、がっかりして肩を落とす。

 

「でも安心して、そんなシンに朗報です!」

「え? マジか?」

「はい。実は昔雷神から教えてもらったそのスピード不足を解消する技があります」

 

 そして俺は彼方の教えのもと、修行を開始した。

 

─※─※─※─回想 終─※─※─※─

 

「人間の体には微弱な電気が流れている。そしてその電気は霊力を使えば操れる」

 そして俺は電気を霊力コントロールで右手の人差し指に集める。

 すると右手の人差し指に稲妻が発生した。

「これは繊細な霊力コントロールを要するから会得レベルはかなり高い。下手すりゃ体の全ての電気を放出してしまって死んでしまう。だが、成功すればこれは便利な技だ」

 そして俺は人差し指を伸ばし、腕を薙ぎ払うように動かす。

 するとその人差し指の稲妻がバークの体を通ってバークの背後に落ちる。

「イナズマTPだ」

「ふん。痛くも痒くもないがどうしたんだ?」

 そりゃそうだ。これからが本番なんだから、今に見てろよ。

 そして俺は右手をふり下ろしてこう叫ぶ。

(てん)

 その次の瞬間、俺はバークの背後に居た。

「消えた!?」

「違う。こっちだ!」

 そして背後から回し蹴りをしてバークにダメージを加える。

 だが、バークはかなりの耐久力で全然ダメージが入ってるような気がしない。

 

「やるな」

 しかし俺は足首を掴まれ、ハンマー投げの要領で投げ飛ばされる。が、そこは霊力を反対方向に噴射して勢いを殺し、耐える。

 

「さすがはバークだ。つえぇー」

 俺は内心焦っていた。

 強くならないと次、バークのような強敵が現れた時に勝てなきゃみんなを、こいしを守れない。

 

「やるしか無いか」

 まだ未完成だがあれを、

 

 そして俺は大きく深呼吸する。

「どれだけ頑張ろうと無駄なものは無駄だ!」

 そして初めてバークから走ってきた。

「クレア!」

 俺はクレアを解放する。クレア状態ならバークの拳を受けきれるからだ。

 そしてバークと俺の拳がぶつかり合う。その状態で俺は不意打ちで霊縛波を放つもサイドステップによって回避される。

 

「ほう? 自分の力でクレアになれるようになったか」

「俺だってずっとあの時のままじゃないってことだ」

 


 

sideこいし

 

 凄い戦いだ。レベルが違いすぎるのがわかる。

 

 私は真のクレアを直で見たことが無い。だけど一回見ただけでわかるこの膨れ上がった霊力とパワー、存在感。

 だけどその状態の真とまともにやり合ってるあのバークも強い。

 もうとっくに私じゃたどり着けない領域に行っちゃったんだね。

 

「真、お願い。勝って」

 だけどクレアを使用した真でもバークになかなかダメージを与えられずに居る。強すぎる。

 だけど勝てないと真は……。

 

「大丈夫、真はいつも土壇場でものすごい力を発揮してきた。今度もきっと大丈夫」

 燐火はまた私に優しく語りかけてきた。

 

 そうだ。真はいつもそうだった。

「真、頑張って」

 


 

side真

 

 やばいなこりゃ、隙が全くない。不意打ちですらダメージが通らなかった。どうすればいいんだ。

「やはりお前は俺の敵じゃなかった。クレアでもこれしかダメージを俺に与えられないとはな」

 こうなったら《限界突破(ブレイク・ザ・リミット)》に切り替えて、だがこの技はカラダへの負担が大きすぎる。とてもじゃないが長時間戦えるものじゃない。

 だが、無いよりマシだ!

 

 そして俺はクレアを解除し、《限界突破》を発動する。

「神力か」

「そうだ。これが今、俺が出来るフルパワーだ」

 そして俺は霊力刀を作り出す。

 

 まぁ、《限界突破》を使ったのは良いが、こいつは霊力を使った攻撃をしてこないから《上書き》を使うことは無いだろう。

 《上書き》さえ使わなければ体力の消耗を抑えられる。

「行くぞバーク!」

 そして俺は拳を構えてバークに突っ込んでいく。

「お前じゃ俺には勝てない!」

 そしてバークも拳を構える。

 

 そして俺の拳とバークの拳がぶつかり合い、第二ラウンドが開始された。




 はい!第70話終了

 相変わらずチート並みの力を持っているバーク。

 そして遂に真は《限界突破》を発動。果たして真はバークに勝つ事ができるのか?

 次回、第二ラウンド開始!

 それでは!

 さようなら


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第71話 圧倒的 再『真対バーク』中編

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 ついに始まった真対バーク再び。

 真は初めから全力でぶつかって行くが、バークはいとも容易く真をあしらう。

 新技、イナズマTPを使うも、無意に終わってしまった。

 遂にクレアを発動するも、バークには敵わない。

 そんな真の取った策は《限界突破》

 果たして真はバークに勝てるのか?



 それではどうぞ!


side真

 

 俺とバークの拳がぶつかった瞬間、辺りに衝撃波が走った。

 そしてその衝撃波によって部舞台が更に破壊される。

 

「ほう? 俺のパワーに着いてくるか」

「俺だって無駄に修行しているわけじゃ無いからな!」

 そして拳を合わせたままバークを足の裏で蹴り飛ばす。するとバークはやっと少しだけ吹っ飛んだ。

 

「今のは良い一撃だ」

 先程の圧倒的な力の差を一気に埋めることに成功したものの、その程度の実力差しか縮まってない。

 悔しい。力不足の俺が悔しい。

 

 《限界突破》でもこんなに力の差があるって言うのか? 冗談キツすぎるだろ。一応神の力だぞ。

 しかし、力の差が埋まったおかげで飛ばすくらいの力の差は埋まったことだけでも良しとしよう。

 


 

sideこいし

 

「紬、あれって神の力なんじゃないの? それでも勝てないってことはバークって奴は」

「うん。私達、妖神と知神を余裕で越えてるだろうね。だけど問題はそれだけじゃないんだよ」

 それだけじゃない? 紬が意味深な事を言ってきたことによって私は疑問が浮かんだ。

 

 そしてそれを尋ねようとすると聞く前に紬は続けた。

「真の中に流れている霊力、妖力、神力。真はその全てを完璧に使い分けれてるつもりだけど実は完璧じゃないんだよね」

「どういう事?」

「真は完璧に純度100%の神力だけを取り出す事が出来ない、神力の中に霊力だったり、妖力だったりが常に少しだけ混ざってる状態。そんな状態で技の100%の力を出せるわけがない」

 真の中には色々な力が流れすぎてて完璧にコントロールするのが難しいってことみたい。

 

「あと、真の中を流れる神力が極端に少ないのも問題だね。少なすぎて霊力や妖力に掻き消されそうになっている。まるで消えかけの炎みたいだよ」

 そんなに深刻な状況なんだ。そんな状態でバークに勝てるの?

 


 

side真

 

 くそ、まずいな。押し負けている。何とか奴の体に傷を付けるくらいの攻撃をしたい。だが、今のままだとダメだ。

 やはりクレアと《限界突破》を……いや、彼方と使わないって約束したからな。

「バーク。俺がいつまでもやられっぱなしだと思うなよ」

 そして右手に霊縛波を作り出す。

「せめて大ダメージを与えてやる」

 そして俺は更に霊縛波に霊力を加える。

 これは反動がでかいからあんまり使いたくなかったが、やるしかない!

 

「フルパワーだ!」

 フルパワーの霊縛波。これは《限界突破》の状態でもかなりの負荷がかかるということで霊縛波の出力を抑えていたのだが、使う場面は今しかない!

 

 しかしフルパワーの霊縛波だったが、瓦礫を投げつけられ、その衝撃で霊縛波が暴発。《限界突破》が解け、絶望的な状況に。

「終わりだ」

 そしてバークが最後の一撃を俺に食らわそうとしたその時だった。

 急にみんなの顔が脳裏に浮かんだ。こんな所で死ぬなとそう呼びかけてきていた。

 

 そうだよな、死ねないよな。

 未完成だが発動だ!

「クレア装!」

 するとバークの体を少しだけ吹き飛ばすくらいの威力のある衝撃波が出た。

「このパワーは!?」

 全身から力が湧き出てくる。

 ただクレアの霊力を装備しただけだというのに。ここまで力が湧き出てくるとは思わなかった。

 

 これがクレア装だと言うのか?

 今の俺の全力だ。

「バーク、待たせたな。全力でぶつかってやる」

 


 

sideこいし

 

「あれはクレア装!!」

「クレア装?」

 普通のクレアなら聞いたことがあるけどクレア装は聞いたことがない。

「うん。クレア装はクレアの霊力を全身に巡らせることによってクレアの鎧を纏ったように防御力が上がり、更に攻撃力までも上がる。だけど常に霊力を安定させないと維持出来ないから習得難易度はすごく高い。もしかしてここの所ずっと修行していたみたいだけどずっとこれを?」

 

 そんな技を真が?

「だけど修行日数が少ないから安定力が足りない。これでも勝てるとは言えない」

 確かに真が修行を始めたのは私達が紅魔館に戻る少し前から。そしてすぐにこの戦い。十分な修行を出来たとはとてもじゃないけど思えない。

 

「だけど信じてるよ真を」

 ずっと一緒に戦い続けてきたパートナーさんからの信頼は厚いようだ。

 

 私も信じるよ。

 


 

side真

 

「クレア装、面白い。さぁ、その力を見せてみろ!」

 そして思いっきり地面の瓦礫を蹴り、走り出す。

 

 体が軽い。とてつもなく軽いおかげで物凄いスピードで走れる。恐らくノーマル時の数倍のスピードは出ていることだろう。

「速い」

 バークも驚いているって事はバークにとって予想外のスピードなのだろう。

「残像!」

 すると通常の数倍のスピードが出ているだけあって普段は3人程度しか出せない残像が今は10人程出ている。

 そしてその10人全員で霊縛波を作る。

 一人しか本物は居ない。この全員で襲いかかれば流石のバークだって──

「回し蹴り」

 するとバークは回し蹴りをする。その衝撃波によって俺の残像は次々に消え、本物の俺はジャンプで回避する。

「残像は効かないってか」

 あいつに残像は効かないらしい。残像で取り囲んでも衝撃波であぶりだされてしまう。

「だがまぁ、勝負はこれからだ!」




 はい!第71話終了

 遂に発動クレア装。

 クレア装の身体能力upの力凄いですね。

 さて、次回は真対バーク最終決戦です!

 それでは!

 さようなら


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第72話 圧倒的 再『真対バーク』後編

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 《限界突破》を使用した真。しかし、その《限界突破》ではバークを倒す事は出来ない。

 そして絶体絶命のピンチに真はクレア装を発動させた。

 驚異的身体能力upを遂げた真とバーク、どちらが勝つのか?

 遂に最終決戦、始まる。



 それではどうぞ!


side真

 

「ほう、じゃあ今度こそその力の全てをぶつけてこい!」

「言われなくてもな!」

 そして俺はバークにタックルする。そしてバークもタックルしてきてぶつかると先程よりものすごい衝撃波が辺りを包み込んだ。

 突風を超え、渦を巻き、軈て竜巻と化した。

 

「ほう、このパワーに対抗するだけではなく、このパワーとぶつかり合ってここまでの衝撃波を生み出すレベルになるとはな」

「当たり前だ。いつまでも圧倒されるままじゃ皆を救えないからな」

「この状況で仲間の事を考えるってのは相当な勇者気質だなお前、」

 そしてお互いに横に蹴りあって反発し、互いに横に吹っ飛ぶ。

 

 バラバラになった瓦礫の上で転がる為、身体中に切り傷が出来るが、全く気にしない。俺は今、バークを倒す事だけを考えている。

 それはバークも同じ様でバークの体にも切り傷が沢山出来たが一切気にせず俺の動きをじっと伺っている。

「最初はお前の事をナメていた」

 バークはゆっくりと口を開く。

「キルタワーで戦った時は初めて戦った時と対して変わっていなくてガッカリしたんだ。だが、この数日でお前は驚異的な進化を遂げた」

「それは仲間を守る為だ」

「そう。お前は守る者が居るから強い。だが、絶望の力には勝てないだろう」

 バークの奴、急に何言って──

「これからはお前を強敵認定し、全力で潰そう。俺の絶望の力でな!」

 その瞬間、辺り一面が真っ暗になった。

 

 そして大地が震えている。どういう事だ?

 


 

sideこいし

 

「おかしい」

 唐突に燐火はそう呟いた。

 

「どうしたの?」

「あいつ、能力が無いはずなのにこの力は何?」

 辺りは闇に覆われ、大地は悲鳴をあげるが如く震えている。確かに普通じゃない。

 

「圧倒的な力を感じる。真逃げて!」

 燐火はそう叫ぶが観戦席の私達の声は一切向こうには届かない。

 

 勝利は絶望的になってしまった。この力を見ただけでわかる圧倒的な力の差。

 圧倒的な力の差の前には私達なんて赤子も同前。

 

 この力を浴びて真っ先に浮かんだのは『死』だった。こんな奴と戦ったら確実に死んでしまう。

 

 お願い、真。逃げて!

 


 

side真

 

 ゴゴゴゴゴと地面が低い音を出して悲鳴を上げている。

 

「これが俺の本気、絶望モード」

 絶望モードか。本当に相手を絶望させるような力だな。だが俺は引かない。だってこの先、こいつより強い奴も現れるかもしれないから。

 

「それが本気か、んじゃ今度こそ本当の最終決戦って訳だ」

 そして俺は構える。

 しかしバークはのらりくらりとした動きを続けている。

 

「行くぞバーク!」

 そして先程と同じように走る。とその瞬間、俺の視界からバークが消えた。

「どこだ!」

「ここだ」

 真後ろから聞こえた。まさかこいつ!

 

 そして反応する前にバークに蹴り飛ばされる。

「そういえば何故ここまで強いのにあんなクズに従っていたのか言っていなかったな。それは絶望していたからだ」

「絶望していた?」

「そうだ。俺は生という物に絶望していたのだ。最初はお前みたいに仲間を助けるそう言って修行を重ねていた。しかし、俺の仲間は全員殺された。それで俺は全てに絶望をした」

 まるで未来の俺みたいな過去だ。ただ、未来の俺の場合はこいしを殺されたことにより絶望してああなったんだ。

 

 だが、大切な人を失う悲しみは俺もよく知っている。

「だから俺は絶望そのものになると決意した。だから俺は殺しをする。それだけだ!」

 そして殴りかかってくる。その拳を片手で止めた。

 

「何!?」

「お前の気持ち、よく分かる」

 俺はゆっくりと言葉を並べる。

「悲しかったんだよな、悔しかったんだよな。仲間を守れなかった自分が許せなかったんだよな」

「黙れ! お前に俺のなにが分かる!」

「分かるさ! 分かる」

 そして俺はバークの拳を離す。

「俺は昔、母さんを殺されたことがあるんだ」

「母親を?」

 バークは静かに俺の言葉に耳を傾ける。

 

「憎かった。悲しかった。絶望した。だが、俺とお前の違いはすぐ近くに光となる存在が居たかどうかと言う所だと思う」

 俺にとっての光、龍生。あいつが居なかったら今頃ここに俺は居なかったかもしれない。もしかしたら俺がバーク側に立っていたかもしれない。

 

 それくらい俺にとって龍生の存在は大きかったんだ。

「バーク。お前にとっての光が居ないと言うならば俺が光になろう」

「光?」

「お前が幻想郷を真っ暗にする闇だと言うならば俺は幻想郷の光となる」

 そして俺は霊縛波を作り出す。

「ちっ、面倒なことになった」

 そしてバークは拳を構える。

 

「これが幻想郷の光、光の霊縛波だ!」

「俺は闇だ。闇は不滅なんだ!」

 そしてバークの拳から放たれた衝撃波と霊縛波がぶつかり合う。

 

「「はぁぁぁぁっ!」」

 その瞬間、大爆発を起こした。強いエネルギ同士がぶつかり過ぎたのだ。

 

 しかしどちらも倒れていない、が闇を相殺することに成功。よし、このまま──歩こうとしたら視界が歪んだ。

「あれ?」

 そして誰もいなくなった膝から倒れ込んだ。それと同時にクレア装も切れる。

 

 くそ、慣れていないのに暴れすぎて力の限界が来たか。だが、向こうも同じようでさっきまでの迫力は一切感じられない。

 そして何とか立ち上がる。

「限界なんじゃないか?」

「そういうお前もな」

 そう言って殴り合う。お互いノーマルモードだが、その力はほぼ互角になっていた。

 

 その瞬間のことだった。観客席からの声は一切届かないはずだけど頑張れ(・・・)と聞こえた気がした。

 

「これで終わりにする!」

 そして霊縛波を構える。

「ああ。終わりにしよう」

 そしてバークが衝撃波を出し、俺が霊縛波を放つ。

 

 再び大爆発を起こした。

 そしてその爆風に身を任せて俺は地面に倒れた。しかしバークは立ったままだった。

 ははは、負けた……か。

「バーク。もう一歩も動けない。俺の負けだ。さぁ、いっその事一思いにやってくれ」

 バークにそう言うがバークは微動だにしない。

「ガハッ」

 バークが初めて血を吐いた。

「無理だ。俺ももう……動けん」

 そう言って俺から少し遅れてバークも倒れた。

 

 2人とも戦える状況じゃない。引き分けだな。




 はい!第72話終了

 遂に決着しました。

 まさかの引き分け。

 しかし今までで一番激しい戦いだったのでは無いでしょうか?

 こういう戦闘シーンが最近は書くのがすごく楽しいです。

 それでは!

 さようなら


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第73話 手当て、そして

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 クレア装の真対バーク。光対闇の対決。

 結果は相打ちに終わった。



 それではどうぞ!


side真

 

「いってぇっ!」

「これくらい我慢しなさい」

 俺は今、永遠亭に運ばれて傷の手当をして貰っている。消毒液がとても滲みる。

「死ななかったのが幸運と思う事ね」

「私、本当に心配したんだから」

 今は永琳先生が俺を手当して、こいしがその様子を見守ってる感じだ。

 

 しかし今回はちょっとやりすぎた。いつもよりヤケになっていた所はあると思う。俺は一度敗北したというところもデカいだろう。

「もう、無茶しないでって言ってるのに〜」

 そうだな。俺もなるべくこいしに心配はかけたくない。だけど守りたい気持ちが勝手に体を動かしてしまうんですよ。

 

「まぁ、妖怪だからこれくらいの傷なら一日経たずに全回復するわ。だけど霊力がすごく少なくなってるから一週間は安静に」

「分かりました」

 そう言えば俺と同じくバークも永遠亭に運ばれたみたいだけどバークの奴はどうなったんだろうか。

「バークは?」

「ああ、あの人はもう長くないわね」

「長くない? どう言う事だ?」

「脳腫瘍よ。しかも最悪の状態ね」

 脳腫瘍? だってバークはさっきはあんなに戦えてたじゃないか。

 まさかあいつ、脳腫瘍を抱えたままずっと戦い続けてきたのか?

 

「あと少しでも激しく戦っていたら完全に死んでいたところね」

 あいつ、そんな状態だと言うのに。

「人生は残酷だな」

 本当にそう思う。格闘家として最強のあいつも病気であっさりと死んでしまう。

 バークはいつの間にか俺の超えるべき壁、目標となっていたと言うのに、勝つことが無いまま終わってしまうのか。

 

「このまま一生動けないからだになってしまうかもしれないわね」

「そうか」

 あいつは可哀想な奴だった。俺の中で最強の敵だった。

 

 あいつの存在が俺の中から消えることはないだろう。

 

「真本当にもう無茶しないで私、真が居なくなってしまったら」

 そして抱きついてくるこいし。

「大丈夫だ」

 俺はこいしの帽子を取って頭を優しく撫でる。するとこいしの抱きつく腕の力が更に強くなった。

「本当?」

「ああ、俺は絶対に死なない」

 俺は多分この先も無茶することは辞められないだろう。そしてそれにより危険が付きまとうことになる。

 だが俺は絶対に死なない。こいしの為なら何度だって限界を越えてやる。

 

 クレア装はまだ慣れていないから長時間使えない。だけど絶対に使いこなしてみせる。

 

 とそこにシャロと彼方が隙間でやって来た。

「し、シャロ? なんか顔が怖い」

「また日本に送り返そうかな」

「ちょ、落ち着くんだ」

「だってさ真君、幻想郷に居たら無茶しちゃうでしょ?」

 うぐっ! 否定できない痛いところを突かれてしまった。

「そうか……シャロ様が言うなら仕方が無いか……」

「ご、ごめんなさい! 私が脅したのが悪かったから他人行儀ではなさないでぇっ!」

 俺に泣きついてくるシャロ。相変わらずチョロい奴だ。

「シャロ、君は本当に可哀想な子だね」

 そう言いながら彼方はシャロの頭を撫でる。何気に酷いセリフだが、これは素なのか? 素で言っているのか? 素で言っているとしたら怖すぎる。

 

「でも真が無茶をし過ぎなのは確かだよ……もう、今回は本当に危なかったんだからね」

 プンプンと怒るこいし。可愛いが反省しなくてはならない。

「悪かった。ちょっと立て続けに無茶をし過ぎたような気がする。反省する」

「そうだね。だけどシンは無茶を辞める気はないでしょ?」

 考えていた事を読まれてしまい、俺は何も言えなくなってしまった。

 俺は幻想郷や大切な人を守れるなら死んでもいいとすら考えている。

「だからシン、怪我が治ったら特訓厳しくするからね」

「ああ、よろしく頼む」

 俺も丁度同じ事を考えていた。

 

 クレア装があまり安定感が無いからそれを鍛えるためにも必要な事だ。

「クレア装、必ずマスターしてみせる」

 発動のコツは掴んだ。後は慣れるだけだ──

「シン、しばらくクレア装は禁止ね」

 彼方は俺にとって衝撃的な一言を放ってきた。

「え? クレア装の特訓をするんじゃ?」

「シン、それ以前の問題だよ」

 やれやれと首を振る彼方だが、何がそれ以前の問題なのか教えてくれない。

 

 すると彼方はこっちにゆっくりと歩いてきた。

「ちょっといいかな?」

「ええ、まぁ……だけどあなた様は一体何を」

 そして永琳は避けるも、彼方は何も言わずにこっちに来る。

 ちょうどベッドの真横に来たその瞬間だった。

 俺の頭上に手を翳したのだ。

「目を瞑って」

 そう言われたため、俺は素直に目を瞑る。

 

「始めるよ。よく聞いててね、命の声を」

「命の声? それっていった──」

 その瞬間、体はベッドに横になっているはずなのにグラッとバランスが崩れる感覚が。

 これは……。

 耳にノイズが走る。鬱陶しい位の大音量のノイズ。耳が痛い。

 俺は耳を押えた。しかし耳のノイズは止まらない。

「あがっ」

 思わず苦痛の声を上げる。

「ぐぁぁぁぁぁっ!」

 

「ねぇ、あなた。これ本当に大丈夫なの?」

「真が! 真が苦しんでるよ!」

 心配してくれてる声もノイズにかき消されてしまい、聴覚が完全に外界と切り離された。

 そしてそれに恐怖を感じ、目を開けようとする。──開かない。瞼が完全に固まりきり、動かなくなっている。

 恐怖だ。これで五感のうち、聴覚と視覚が機能しなくなった。

 そして次第に体に力が入らなくなり、感覚が無くなっていく。

 臭いも全くわからない。恐らく流れ的に味覚も機能していないだろう。

 五感全てやられた。

 

 そして俺は何も考えることが出来なくなり、意識が闇に飲み込まれた。




 はい!第73話終了

 どうでしたか?

 真の特訓はまだまだ続きますが、最後の展開は恐ろしい。

 はてさて、真の運命や如何に?

 それでは!

 さようなら


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第74話 騒がしい選手権幻想郷代表

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 バークとの戦いも終わり、真は永遠亭に運ばれる。

 そこで治療を受けているとみんながお見舞いに。

 そして彼方は治療が終わったら修行しようと言う。

 そこで真が意気込んでいると彼方の謎の力によって意識を失ってしまうのだった。



 それではどうぞ!


 ここは……どこだ?

 

──ここはあなたの夢の中。

 

 君は誰?

 

──名前は無い……ただここに存在しているだけ。

 

 俺はなんでここに?

 

──私はあなたに伝えないといけないことがあります。

 

 伝えないといけないこと?

 

──そう遠くない内にあなたの身に過去最大級の危機が訪れるでしょう。ですが、忘れてはなりません。あなたの周りには仲間がいるということを。

 

 危機? それって一体?

 

──あなたしか出来ないことなのです。ここ、幻想郷を守るということは。

 


 

side真

 

 俺は目を覚ました。

 体を起こし、周囲を確認する。ここは……病院? 寝る前の記憶があやふやだ。

 俺は何をしていたんだっけ? つい昨日の事なのに全く思い出せない。

 記憶喪失って訳でもない。この世界が何なのかはハッキリと覚えている。──幻想郷だ。

 

「一体どうしたんだ」

 そう呟いてると一人の人物が部屋に入ってきた。

「あら、お目覚めかしら」

「永琳……先生」

 そうだ。俺は大怪我をしてここに運ばれたんだった。

「あなたの仲間達が心配していたわよ」

「そうか……心配かけたな」

「何せ一ヶ月も眠っていたんだもの」

「一ヶ月!?」

 思わず声を張り上げたが、その声が頭に響いて痛い。

「安静にしていなさい。外傷はすぐに回復したけども体力がまだ回復していないのだから」

 

 しかし一ヶ月か。そりゃ随分な間眠っていたようだ。心配もされるだろう。

 俺もこいしが一ヶ月寝たきりになったとしたら俺は心配でどうなってしまうか分からないほどだ。

 そう考えるとあまり無茶はするもんでは無いなと感じる。

「で、どう?」

「どうって?」

「記憶」

「どうしてそれを?」

 俺は記憶が無くなっている素振りなんて一切見せていないのにそこを突かれ、驚いてしまう。

「彼方様が言っていたのよ。『シンは目覚めたら軽い記憶障害になってるかもしれない』とね。やっぱりなったのね」

 俺は頷く。

 永琳は小さくため息を着いた。

「とりあえず軽い記憶障害だから気を失う前とかの記憶が無くなってるだけなのだと思うから大丈夫よ。とりあえず退院してもいいけどくれぐれも安静にね」

 


 

 退院させてもらえた。

「いや、軽くでも記憶障害の奴を退院させていいものなのだろうか……うーん」

 まぁ、素人である俺には分からない世界ってのがあるのだろう。

 だからなんとも言えないんだが、あの永琳が言うんだから多分大丈夫なのだろう。

 

 そして今俺は紅魔館に向かっていた。

 その時だった。

「あれ? 真じゃないか」

 空から俺を呼ぶ声がした。

 上を見てみるとそこには──

「よ、真。久しぶりだな」

 魔理沙が居た。

 魔理沙は俺を見るや否や俺の目の前に浮遊を解いて落下してくる。

 すごい勢いで落ちてきたというのにスカートが一切裏返ってしまわない所はそう言うアグレッシブな所は昔からで慣れているんだなという所が伝わってくる。

「魔理沙か……」

「なんで残念そうなんだよ!」

 いや、事実残念なんだ。

 俺は病み上がりで今は静かに過ごしていたかったんだ。なのに騒がしい幻想郷代表みたいな魔理沙にばったりと会ってしまって正直なところガッカリしている。

 俺はこれから紅魔館に帰ったとしてもベランダで静かに庭でも眺めながら紅茶でも飲もうかなと考えていた矢先の事件だから余計に。

 

「いやぁー。私さ、お前が入院したって聞いたから慌てて飛んできたってのにその態度はなんだよぉ〜」

「いや、俺は一ヶ月も眠ってたんだが、その間に来なかったのか?」

「……いやま? 俺も忙しかったわけだし」

「……動揺して一人称戻ってんぞ」

「おっといけね」

 と言うか動揺すると一人称が戻るってベタだな。

「つまりお前は俺の事は一切心配していなかったというわけだな」

「だってよ、お前さ? 死んでも死ななそうじゃん?」

「つまりお前は俺をゾンビだって言いたいのか?」

「そう! それだ!」

「そこ肯定するんじゃねぇっ!」

 何気に酷くね? 俺は腐ってねぇし普通に死ぬよ! 俺だって完全に不死身ってわけじゃないからな!?

 って言うか病み上がりにツッコミさせるんじゃねぇよ。

 

「そうだ、この後一緒に弾幕ごっこしようぜ!」

「いや、こちとら病み上がりなんだが……」

「細かい事は気にするな」

「気にするよ!」

 なんだよこのボケのオンパレード。俺はもう疲れてきたんだが。……もう解放してくれないですかね?

 

 そして飛ぼうとしたその瞬間──

 あれ? 視界がグラッとして……。

 俺は一瞬だけよろめく。

「おい、大丈夫か?」

「ああ、大丈夫だ。ちょっと立ちくらみをしただけだ」

 大丈夫だと俺は思っているが、体はまだ悲鳴を上げているのかもしれない。

 まだ病み上がりだし仕方ないのかもしれないけどな。

 

「送っていこうか?」

「……そうしてくれるとありがたい」

 そして魔理沙が跨った箒に俺も跨ると、魔理沙は地面を蹴り、飛んだ。

 何度も飛んだことがあるが、今までに感じたことの無いスピードで思わず顔を(しか)めてしまった。

 魔理沙はいつもこんな無理な飛行をしているのかと少し心配になってくる。

 博麗神社に遊びに行ったら止まりきれずに突っ込むってのがありそうだな。と俺は思いながら流れる景色を眺めるのだった。




 はい!第74話終了

 今日、退院しましたが、真は軽い記憶障害を起こしてしまっていました。

 次回、紅魔館に戻ります。

 それでは!

 さようなら


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第75話 力の封印

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 魔理沙は騒がしい選手権幻想郷代表



 それではどうぞ!


side真

 

 魔理沙に運ばれて俺は紅魔館に帰ってきた。

「ほらよ。着いたぜ」

「センキューな。助かった」

 正直、退院は出来たが体の調子がおかしかったってのがあるから運んでもらって助かった。

 しかしおかしいな……。一ヶ月前の事も思い出せないし、偶に立ちくらみがするし……。

 

 だが、紅魔館に来れたら大丈夫だろう。

 

 そして歩き始めたその瞬間だった。

「しーんー」

 背後からものすごい勢いで何者かに抱きつかれ、前方に倒れる。

 誰なのかは分かっているが、一ヶ月前はちゃんと気配を感じ取ることが出来ていたのに完全に不意を突かれた。

 これは一体?

「こ、こいし。起き上がりたいんだけど」

「もう、真と離れたくない!」

 駄々をこねるこいし。正直彼女に離れたくないと言われ嬉しくないかと聞かれたらそりゃ嬉しいが、このまま動けないのは困る。

 

「おかえり。シン」

 扉を開けて出てきた人物が一人。

「……彼方か」

「うん。体の調子はどう?」

「最悪だ。時折立ちくらみがする」

「うんうん。いい兆候だね」

 何がいい兆候だ! こっちは最悪な体調だって言ってるのにそれを喜ぶとかこいつはサイコパスなんじゃないだろうか?

 それかこいつが俺にとてつもない恨みを抱いているか。

 

「実はシンの力は封印させて頂きました!」

「……は?」

「その証拠に今まであった力が出せないから体が体調不良を訴えてるでしょ?」

 この立ちくらみの原因はこいつだったのか。

 しかし一体なぜこんなことを?

「なぜって思ったでしょ?」

「ああ、まぁそうだな」

「それはね。あなたは自分の力を過信しすぎているのよ! もっと自分を労わって! 力がなかった頃を思い出して!」

 それを言われてしまい、俺はぐうの音も出なかった。

 俺が無茶するのはみんなのためってのもあるが、自身の治癒能力を過信しすぎているってのも大きいだろう。

 

「なので今の真はちょっと妖怪よりのただの人間です!」

「……え?」

 そこで俺は疑問を持った。

「封印した力ってどんなのがあるだ?」

「そうだね〜まず【致命傷を受けない程度の能力】【都合がいい状況を作り出す程度の能力】【上書きする程度の能力】そして【崩壊させる程度の能力】。これら全ての能力の完全封印。だから今シンが心臓を一突きされたら即死だろうね」

 それを聞いて俺は血の気が引いた。

 毎回初撃は食らっても死なないと分かっていたため強気に攻めれたが、今は違う。

 耐久力は普通の人間(・・・・・)と同じなのだ。

「それと霊力しか今は使えなくなってるよ」

「え?」

 そう言われて俺は霊力以外の力、妖力と神力を出そうと思ったがこれっぽっちも出なかった。

 こんなに制限されたらそりゃ体は倦怠感を覚えるさ。

 

「それで、こんなに力を制限して俺になにしろと?」

「ふふ、それはね。君にはある人を師として暫く修行してもらいます! あ、ちなみに封印は私から解くつもりは無いよ?」

 私から? 随分と含みのある言い方だ。まるで他の解除法があるかのような、そんな言い方だ。

「まぁ、今私から教えることの出来るのはこれくらいかな?」

「んで、その俺の師になる奴ってどんな奴なんだ?」

「性格は基本的には温厚なんだけどね」

「……だけど?」

「一回だけ彼女の大事にしている花を折ってしまって……殺されかけた」

「えぇっ!?」

 俺は彼方の言葉に驚き、一瞬だけ思考停止してしまった。

 

 あの彼方が殺されかけた? 破壊神なのに?

「あれは死ぬかと思った。あの眼はマジだった、私を殺しに来ていた」

 彼方は殺されかけた時の事を思い出しているのか肩を抱いて小刻みに震えている。余程のトラウマのようだ。

「気をつけてね。今のシンなら少し花に傷をつけた瞬間……」

 そこで彼方は言葉を切った。

 ねぇ、どうなるの!? ってさっきまでの流れでだいたい予想着いたけどさ!

 でも聞きたくない! 聞いてしまうと恐怖でどうにかなりそうだ。

「ま、まぁ……気をつけてね」

 そう言って彼方は再び紅魔館の中に入って行った。

 

 しかしそれ程強いのか……。って事は神なのか? どんどん新しい神が出てくるな。

「真」

「ん? なんだこいし」

「え、えーっとその……最近さ一緒に居られる時間ってあんまり無かったじゃない?」

「んー。そうだな」

 キルタワー、入院。これらの事で暫く一緒に居られなかった。

「でさ、もう離れたくないなって」

 その一言でズキュュューーーーンッ! と俺の心は撃ち抜かれてしまった。

 何この可愛さ。反則だろ。

「私も着いて行っても良いかな?」

「……ああ、わかった。一緒に修行に行こうか」

「うん!」

 


 

 次の日

「んじゃ行こうか」

「みんなには挨拶しなくていいの?」

「ああ、どうせすぐに会えるさ」

 そして俺はバッグに必要な物を詰める。

「紬〜。そっちはどうだ?」

「問題ないよー」

 俺達三人がこれから向かう所は太陽の畑と呼ばれるところなんだとか。

 一面が向日葵で覆われていて、幻想郷の絶景の一つと定められている。

 そしてそこにいるらしい。俺の師匠となる人物が。

 これで師匠は四人目だな。妖夢、妖忌、彼方、そして──

 アポは既に取ってあると彼方が言っていた。

「んじゃ行くか。太陽の畑へ、俺の師匠になる人物──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風見(かざみ) 幽香(ゆうか)のもとへ」




 はい!第75話終了

 ここからが真の修行編の本番となります!

 次回、久しぶりの新原作キャラが登場しますよ〜。

 お楽しみに!

 それでは!

 さようなら


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第76話 太陽の畑

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

「力を封印したよ」

「向かうか……俺の師匠になる人物、風見幽香のもとへ」



 それではどうぞ!


side真

 

 俺達は太陽の畑へ来た。

 少し高い位置にある岡から太陽の畑を見ると俺の背丈よりもずっと高い向日葵が視界いっぱいに広がっていた。

 まるで小人になった気分だ。

「綺麗だね」

「そうだな」

 俺とこいしは並んで太陽の畑を見る。

 本当に綺麗な場所だ。管理している人は本当に花が好きなんだろうな。

「そうだね。いつ来てもここは変わらないや」

 紬は懐かしそうにそう言葉を零した。

 

 そう言えば紬は俺よりも遥か昔から幻想郷に居たんだっけか。

「そう言えば紬」

「ん、何?」

「ずっと気になってたんだが、俺らが初めて会ったのは香霖堂じゃん? いつからあそこにいたのかな? って」

「んー。ずっとかな? 私は人柱となって刀になる事が出来るようになってから暫くご主人を転々としてたんだよね」

 そこら辺の事情はまだ俺にこの姿を見せてくれていない時に霖之助さんから聞いた。

 なんでも凄い数のご主人を呪い殺したとか。

「あの森近 霖之助に会う前にも何人かご主人にあったんだけどね、みんな私利私欲。自分の事しか考えてない人ばかりでさ。私は争いの道具に成り下がりたくなかった。だから切った」

 人間と言うのは私利私欲の塊と言っても過言では無いだろう。だからその人達の気持ちが分からないでもなかった。

「でも真は違ってさ、いつも他人の為に行動したりさ、そんな奴らとは真反対でさ、思わず笑いそうになっちゃったよ。だってこいしの料理に当たって全身麻痺になっている最中にもこいしを守ろうと修行をするんだもん」

 笑いながら楽しそうに語る紬。

 改めてそう言われると恥ずかしい。しかもそれが全てバレていたってのがより恥ずかしさをアップさせている。

 刀になっていたからバレていないと思っていたのに。

 

「え、えーっとその……真?」

 すると真横でこいしがもじもじしながら俺に語りかけてきた。

「その、私を大事にしてくれて感謝してるよ。嬉しいなって。だけどね、私は自分の事も大事にして欲しいなって」

「こいし……」

 素直にこいしの心遣いが嬉しかった。

 ここ最近無茶ばかりしていたからだろう。久しぶりの穏やかな雰囲気に俺は涙が出そうになった。

 久しぶりに帰ってきた。そんな感じがした。

「ありがとな。これからはこんな無茶は極力控えるよ」

「しないとは言わないんだね」

「しなかったらいざと言う時にこいしを守れないかもしれないじゃないか。俺はこいしとこうやってずっと笑っていたいんだ。この為だったら俺はなんだってやる」

 そして俺はこいしの頭を撫でる。

 今日のこいしはいつもとは違う格好だ。白ワンピに麦わら帽子、破壊力抜群の服装だった。

 麦わら帽子を被った美少女と向日葵畑、とてつもなく絵になる光景だ。

 そして時折見せる照れた時に顔を隠そうと麦わら帽子を両手でつかんで押さえる仕草がたまらなく可愛い。

 

「あのー、お二人さん?」

「ん? なんだ?」

「いや、分かるんだよ? 分かるんだけど、目の前でイチャイチャされるとね」

 そう言われてやっと気がついた。

 あれ、もしかして俺達は今無意識に……? 無意識だけに。

「は、はぅ〜」

 こいしは顔を真っ赤に染めて必死に麦わら帽子で隠している。その仕草が可愛すぎる。

「いやね、分かるんだよ。今まで全然イチャイチャする事ができなかったからね。でも見せつけられるのは……ってまさか二人はそう言う癖でもあるの?」

「「ないっ!」」

 俺達はすぐに声を重ねて否定した。

 

 まずいまずい、今日の俺達は紬の事をすぐに忘れて自分達の世界に入ってしまいがちだ。

「あ、もしイチャイチャしたいなら言ってくれたら消えるけど?」

「要らないっ! そんな気遣い要らないから!」

 でも仕方が無いと思うんですよ。だってこいしが可愛すぎるんですから!

 

「まぁ、とりあえず見てるのはこれくらいにしてそろそろ向かおうか」

 紬はそう言って先導して太陽の畑へ降りていく。

「さて、行くか」

 そう言って俺も歩きだそうとしたその時だった。

「……っ! えい!」

 こいしに手を掴まれた。

 そしてその状態でこいしは顔を赤くして固まってしまった。

「え、えーっと……こいし?」

「ひゃい!」

 ひゃいって可愛すぎだろ。

「えーっとどうしたんだ?」

「その……手を繋いでて良い?」

「まぁ、良いけど」

 そう言うとこいしは満面の笑みを浮かべて歩き始めた。

 何だか今日のこいしは積極的だなぁ〜

 


 

「ここが幽香おねぇ様の家なんだけど……」

「おねぇ様?」

「……聞かなかった事にして」

「あ、うん」

 開始早々口走った紬は真剣な声色で聞かなかった事にしてと言ってきたので俺は聞かなかった事にする。

 何か色々事情があるのだろう。そこら辺の詮索はしない事にする。

 

 コンコンと扉をノックする。

 すると緑髪でチェクの服が特徴的な女性が出てきた。

「あー。えっと貴方達は?」

「あ、お久しぶりです!」

「ん? ああ、水無月のガキか」

「誰がガキですか!」

 二人の会話は何となく昔からの知り合いで気心を知っている仲だからこそ出来る会話って感じがする。

「んで、そっちの方は……古明地の所の妹と、貴方は?」

「あ、はい! 俺は海藤 真です」

「はいよろしく。私は風見 幽香よ」

 

 第一印象は優しくて紬と仲がいい人…………だったんだ。




 はい!第76話終了

 ついに幽香が登場しました!

 ここに来て新しく出すという。

 最近はオリキャラばかりだったのでこういうのも良いかと。

 しかし今回はいつもより佐藤多めでしたがどうでしたか?

 それと、今回の無意識の恋で今年の投稿は終了です。
 また来年でお会いしましょう!

 それでは!

 さようなら


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第77話 終わりの波動(ファイナル・インパクト)

 はい!どうもみなさん!ミズヤです

 あけましておめでとうございます!※三回目

 無意識の恋、2020年最初の話です!



 それでは前回のあらすじ

 太陽の畑に来てこいしとイチャイチャした。



 それではどうぞ!


side真

 

 この人が風見 幽香。

 雰囲気は優しそうだが、その威厳のある風貌は強さの照明だ。

 この人、強い!

「へぇー貴方が噂の海藤 真」

 幽香さんは俺をじっと品定めするかの如く見つめる。

 俺は息を飲んだ。まるで蛇に睨まれた蛙のような気分だった。

 今の俺は瞬殺される。

「クソガキから聞いてるわ」

 く、クソガキっ!?

 それって多分彼方の事だよな!? 彼方の奴、ここまでボロくそ言われるほど何したんだよ!

 

「貴方、言い鍛え方してるわね。筋肉の付き方が全然違う。強者の鍛え方ね、今まで随分いい師匠に着いてもらっていたみたいね」

 それは妖忌さんの事だろう。

 確かにあの人は教える事に慣れていたのだろう。良い師匠だった。

「私はその人の体を見るだけで今までどれくらい鍛えてきたかがわかる。そして目的もね」

「そうなんですか」

「なるほどね、かなり甘い考えね。自分ではなくて大切な人のため……」

「ま、まぁ、でもそれが真の良いところだから」

 紬が援護射撃をしてくれる。

 

「多分貴方は今も尚手を繋いでるそっちの古明地妹の為に鍛えてるのかしら?」

「ぐっ!」

 そう言えば手を繋いだままだった。

 だが、俺とこいしは一向に手を離そうとはしない。

「まぁ、あのクソガキから言われたんだけど貴方を鍛えろと言われてるのよね」

「あ、はい」

「それじゃあ、今の弱った状態の実力を見せてくれる? それを見てからどう鍛えるか考えるわ」

 

 そう言われて少し移動することになった。

 


 

「ここでなら思いっきり暴れても良いわね」

「分かりました!」

 そして俺は霊力刀を構える。

 弱体化したと言っても身体能力や、技術。それに霊力量なんかはそのままだから普通にこういう事は出来る。

 まぁ他の力が使えない事で違和感を感じるが、まぁそれは仕方がないだろう。

「思いっきりぶつけてらっしゃい」

「はい!」

 そして俺は思いっきり地面を蹴る。すると一瞬で幽香さんの目の前に来た。

 それを見て幽香さんは驚いた様子を見せるが動揺せずに日傘で突っ込んできた俺を突き飛ばす。

 そう簡単には近づかせてくれないか。

(速い、まさか私が反応にワンテンポ遅れを取るなんて思わなかった)

「面白いわね貴方、もっと本気で来てちょうだい」

「言われなくても!」

 そして俺は霊力を足に纏わせ、霊力を足から噴射してスピードにブーストをかける。

 そのまま前方に跳び、幽香さんに斬り掛かる。

 すると幽香さんは日傘を盾にした。

 日傘なんかで防げるわけが無い。そう思った瞬間、

 カキン!

 なんと俺の剣が日傘に弾かれてしまったのだ。

 

 剣で傘を叩いた時の感覚は鋼鉄でも斬ってるかのような感覚。

 全く歯が立たないとはこの事だ。

「それは霊力強化?」

「よく分かったわね。そう、これは霊力強化」

 霊力強化は剣の場合、鋭さをアップさせる。柔らかいものなら硬化させることができるが、少しは斬れる筈だが、全く斬れる気がしなかった。

 つまり、霊力の核が違いすぎると言う事だ。

「そんなんじゃ一億年経っても私に一撃与える事が出来ないわよ」

 くそ、実力はそのままのはずなのに全く歯が立たないという絶対的な相手がそこに存在する。

 

 くそ、今は100%の力を出せないとはいえ、ここまでの差があるのか?

 これはクレア装を使ったとして勝てるかどうか怪しいレベルだ。

「貴方は強いわ。確かに強い、だけど突破力に欠けるわね」

「突破力?」

「そう、攻撃力。それじゃあ、今貴方が全力で私に攻撃してみせなさい」

 

 そうか。

「なら遠慮なく」

 そして地面の石を手に持つ。

「狙撃《スナイパー》っ!」

 そして俺は思いっきり石を投げる。

 その石を幽香さんは傘で防御するが、

「言い忘れたがそれ──」

 ドカーン

「爆発するぜ?」

 石が大爆発を起こし、砂煙を上げる。

「こ、これは」

 その隙に俺は霊縛波を作り出す。

 

「これが俺の最高火力ですよ幽香さん」

 そして俺はクレアを発動する。

 その状態で幽香さんに突っ込む。

 

 流石の幽香さんでもクレアの霊縛波を食らったら一溜りもあるまい!

「何!?」

「《霊縛波》ァァァっ!」

 そして幽香さんは咄嗟に傘で防御するが、俺はお構い無しに傘に霊縛波を押し付ける。

 すると霊縛波が発動し、超巨大なレーザーが炸裂する。

 だが、その霊縛波は完全に傘に弾かれていた。

 

「流石の手だったけどまだまだね」

 絶対的信頼を置いていた霊縛波。その霊縛波を破られて俺は何も言えなくなってしまった。

「そうね。そのランクの技が使えるならこれも出来るかもね」

 そう言って幽香さんは俺を傘で突き飛ばしてある技を行う。

 

「《終わりの波動(ファイナル・インパクト)》」

 その瞬間、幽香さんの傘の先から巨大なレーザービームが放たれ、俺の目の前まで迫ってくる。

 死を覚悟した。だが、それは俺の目の前で止まった。

 

「これが貴方に教える技。終わりの波動よ」

「終わりの波動!?」

「ええ、これをまずはあなたに教えるわ」

 そして俺は圧倒的な実力の前に敗れたが、これによって俺の問題が浮き彫りになり、修行方針は決まった。

 まずは《終わりの波動》を完成させてやる。




 はい!第77話終了

 幽香は強いですね。

 さて、次回から本格的に修行が始まります!

 暫くはこんな感じの話が続くと思われますのでよろしくお願いします!

 それでは!

 さようなら


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第78話 抗議

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 力が封印されたとはいえ、幽香に全く歯が立たなかった。



 まず本編行く前に感謝を。
 前回の話での誤字報告ありがとうございました。彼方とカナタって今僕は間違えやすい状況にあるんですよね。
 彼方はこの話で使ってますが、カナタは別の小説のキャラとして出ているので変換に出てくるようになってるんですよね。
 なので今後もこういう事があるかもしれないので誤字報告お願いします!

 それではどうぞ!


side真

 

「ふぅ……しっかし疲れるな……」

「これだけ広い花畑だからね」

「うんうん」

「……ってちがーう!」

 俺が叫んだことに驚いたのだろう。二人は驚いて仰け反る。

「真どうしたの?」

「俺達は修行しに来たってのになんで花畑の手入れなんてやってるんだよ!」

「まぁ、仕方が無いよ。それが条件なんだから」

 そう。ここに来てもうすぐ一週間経つが、やったことと言えばこのだだっ広い花畑のみ。

 修行なんて一ミリもやっていない。

「理想の修行と違う……」

「まぁ、多分何か考えがあるんだよ」

 俺だってそれも頭に無いわけじゃない。だが、これだけしかさせて貰えないと本当に不安になってくるのだ。あの人は本当に鍛えてくれるのかと。

 

 ──直談判だ

 

「……真、それだけはやめた方がいいよ」

「うん、それは私も思う」

 二人して俺の考えを否定する。

「何故だ?」

「……だってあの人は……」

 


 

 パチィィィン

 床を叩く甲高い音が部屋中に響き渡る。

「げっ」

 俺は後悔した。

「んで、私に言いたい事って……何かしら?」

 パチィィィン

 鞭だった。

 鞭がしなり、床を叩き付きけ、とても大きな音を作り出していた。

 床には数多(あまた)の鞭の傷が刻まれており、どれだけの力で叩きつけているかが分かった。

 時折バキバキと床が悲鳴を上げている。

 綺麗にワックスでコーティングされた床は元の木の色を無残にも晒している。

 

 今の俺は生身の人間だ。

 あれを食らったら──死ぬ

「え、えーっと」

「何かしら?」

 笑顔だ。笑顔の奥に黒い感情が見え隠れしている。

 俺はこの世界に来て久しぶりに感じた。それは何か? ──恐怖だ。

「まぁ、気持ちは分からないでもないわ。ここの所ずっと花畑の手入れ。修行らしきことは何一つしていない。それに不満を感じているのでしょう?」

 バレてた!?

 

「……まぁ、そんなところです」

「……それじゃあ模擬戦をするわよ」

「え?」

 模擬戦? 一切修行してなかったんだから成長しているわけが無い。

 だから変わってるはずがないんだが、この人は何を言ってるんだ?

 

「ほら、剣を構える」

「は、はぁ」

 とりあえず言われたのでその場で霊力刀を作り出し、構える。

 すると今感があった。

 何故かいつも以上に霊力刀が手にフィットし、扱いやすい。

 更には刀を振ってみると非常に力を入れやすいことに気がついた。

 これは一体?

 

「さぁ、私はここから一歩も動かないからいらっしゃい?」

 鞭を持ちながらその人、幽香さんは椅子に座ってティーカップ片手にそう行ってきた。

 完全にナメられている。

「行きますよ!」

 そう言いながら少し助走を付けて走り出す。

 その瞬間だった。

 

 自分でも分からないくらいの速度で、一瞬にして俺は幽香さんの目の前に居た。

 ここだ! そう思って剣を振り下ろすと鞭によって防がれてしまった。

 この鞭硬すぎるだろう。

「……っ!? ふぁぁ~~……眠くなってきたわ」

 この人、強すぎる。

 もしかしたら力を封印されていない状態で戦ったとしても勝てるか分からない。

 立ってすらいない。

 せめて立たせたい。

 

 俺は飛び退き霊力斬を放った。

 その霊力斬はいつもよりも手応えがあった。が、その霊力斬は幽香さんに握りつぶされてしまった。

「……え?」

「何かしたかしら?」

 幽香さんが手を開くと肉体を斬るどころか、その皮膚にすら切れ込み一つ入れれなかったという事実がそこにあった。

「飽きてきたわ」

「え? どわぁぁっ!」

 俺は急な突風にあおられ、建物の外に吹っ飛ばされてしまった。

 

 ……強かった。

 まさか立たせることすら出来ないなんて。

 

 だが、俺は今まで花畑の手入れ位しかしてなかったのにいつもより調子が良かった。

 何故だ?

 だが、それなら好都合だ。

 

「んじゃ言われた仕事に戻りますかね」

 


 

side三人称

 

 幽香は真を吹っ飛ばした後、優雅にティータイムを満喫していた。

「幽香さーん」

 そこに一人、女の子が現れた。

 幽香がそちらに目を向けるとそこには破壊神『彼方』がそこに居た。

 

「何よ」

「そんなにツンツンしなくたって良いじゃないですか。それでシンの様子はどうですか?」

 幽香は一口紅茶を飲む。そして喉を潤してから言った。

「ずっと花畑の手入れをさせてるわ」

 その言葉に彼方は「やっぱりな」と苦笑いを浮かべた。

 彼方はこの結果を予想していたのだ。彼女なら恐らくこうするだろうなと。

 

「それじゃあシンは不満が溜まるでしょうね」

「そうね。今さっき抗議に来たわ」

 淡々と語りながら紅茶を飲む幽香。それに対して彼方はヤレヤレと首を振る。

「どうせいつもの様に適当にあしらったんですよね」

「ええ、そうね」

 淡々とした口ぶり。だが、手が震えていた。それは明らかな動揺を表していた。

 幽香が動揺。そんなのは初めて見たため彼方は今までに無いくらいに驚いた。

「ど、どうしたんですか? 幽香さんが動揺するなんて珍しい」

 

「……一発」

「……一発?」

 彼方は首を傾げる。

「一発だけ、……まさかこの短時間であそこまでなるとは思わなかったわ。花畑の手入れをすれば足腰が強くなって型が安定する。それは筋力アップにも繋がるわ。あの真とか言う奴も足腰が安定してなくて本来のパワーを出し切れていなかった。だから手入れをさせたんだけど」

 静かに紅茶を一口飲んでからこう告げた。

「一発、一週間しかまだ経ってないのに一発だけ鞭で剣を防いでしまったわ。防がないといけない。そう感じてしまう一撃だったわ」

「えぇっ!?」

 彼方は物凄く驚いた。

 

 彼女は今までに何人か弟子を取ったことがある。

 そして共通して花畑の手入れをさせていたんだが、一週間で彼女に鞭を使わせた人は初めてだった。

 最短でも一ヶ月で漸く使わせる事が出来るレベルだった。

「あの子、もしかしたらあれが出来るかもしれないわね」

「でもシンはクレアと限界突破も使えるからあれは別に要らないんじゃ?」

「いえ、いずれはあのスピードとパワーが必ず必要になってくるわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「海藤 真ね……あれはとんでもない奴よ」




 はい!第78話終了

 真は今までずっと戦い続けてきたとはいえ能力を封じられたただの人間ですからね。
 最初に戦った時にあれだけ実力差があったのにすぐにそこまで成長するのはすごいと言う意味です。

 それでは!

 さようなら


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第79話 新しい課題

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 前回のあらすじ

「あの真とか言う奴には才能があるかもしれない」



 それではどうぞ!


side真

 

「疲れた……」

「はは、この広さだもんね。はいお水」

「サンキュ」

 俺はこいしが渡してきた水をがぶ飲みする。

 恐らくそろそろ秋に近づいてきている時期だろう。だが、スノーランドが年中冬ならばここは向日葵に適した季節、"夏"だろう。

 だからこの暑さが俺達の体力をどんどん奪っていく。

 

 初めて抗議してから更に1週間。俺は毎日幽香さんに挑み続けた。

 ある日は正面突破、ある日は奇襲、ある日は雑談して油断させたところに……全部簡単に躱されて返り討ちにあったけども。

 だけど特別に修行とかは一切していないのだが、日を追う事に強くなってる実感がある。

 

「それにしても毎日鞭で叩かれに行くって真はドMなのかな? 私、ご主人様がドMってちょっと嫌なんだけど……」

「ちげーよ。あの幽香さんに一撃でも与えて抗議を通す。これが俺の野望だ。その為には鞭に叩かれるのも致し方ないってだけだ。叩かれに行ってる訳じゃない」

「でも真ってそういう傾向があるから心配だな。彼女としてしてあげれることはしてあげたいけど……もしかして女王様をやった方がいいのかな?」

「要らない! そういう気遣い要らないから! そもそもとして俺はドMじゃない!」

 

 と、そんな会話を繰り広げている時だった。

「皆、随分頑張ってるわねぇ」

 幽香さんだ。

 幽香さんは向日葵畑を見て満足そうに笑う。

「何の用件で……」

 俺は少し期待を膨らませる。

 普段はあまり家から出てこない幽香さんが家から出てきて俺達の前に現れた。

 普段とは違うシチュエーションだ。

「ああ、それね。あなた達に新しい課題を与えようと思って」

「新しい課題?」

「ええ、その新しい課題は──」

 俺はゴクリと音を鳴らして唾を飲む。

 俺にとってはすごい緊張の瞬間だ。

「寺子屋の教師よ」

「「「……え?」」」

 俺達は声を揃えて驚いた。

 それは何故か? ──課題の内容があまりにも予想外すぎたからだ。

 

「寺子屋の教師、ですか?」

「ええ、あなたは私に修行を付けてもらいたがってたわね」

「は、はい」

「それならば人に戦いを教えれるくらいの技量が無いと私はその価値が無いと判断するわ」

 確かにこう言うのは人に教えれるようになってからが一人前ってのはある。

 言いたいことは分かる、がまた修行はお預けなのかよ。

「まぁ真、気を落とさないで1回幽香さんの言う通りにやってみようよ。ね?」

「それもそうだな。で、その寺子屋はいつからなんですか?」

「今よ」

「「「……え?」」」

 


 

「よくぞ来てくれた。私は講師の上白沢(かみしらさわ) 慧音(けいね)だ。君達が幽香の言っていた限定講師だね」

「はい。海藤 真です」

「古明地 こいしです」

「紬でーす」

 俺達は早速幽香さんに送り出されて寺子屋にやってきた。

 そして寺子屋に到着すると慧音先生が俺達を歓迎してくれた。

 ちゃんと俺たちが来ることは伝わっていたらしい。

 

「よろしく。早速だけど良いかな?」

 俺達を慧音先生は教室に案内してくれる。

 

「みんなーお待ちかねだ! 今日は幽香さんのもとから限定講師が三人来ているぞー」

「楽しみだねチルノちゃん」

「でもあたいの方が強いけどな。なんたってあたいは」

「チルノはバカなのだー」

「ち、ちがう! あたいはバカじゃない!」

「いつもの調子だね」

「だな。今回はどんな人達なんだろうな」

 教室の中から話し声が聞こえてくる。

 俺は元々のコミュ障だったりあがり症だったりと既にガチガチだった。

 落ち着け。落ち着くんだ。

 そうだ。いつも通りに振る舞えばいいだけじゃないか。

 

「それでは講師の皆さん! どうぞ」

 そして呼ばれた俺らは俺を先頭に教室に入っていく。

 全員の視線が俺達に集まる。それだけでガチガチに、ロボットみたいな動きになってしまいそうだ。

「……あれ? 真さんとこいしちゃん?」

「あ、お前らは海藤 真と古明地 こいし!」

「あー。あの時の人間と妖怪なのだー」

 俺は三人の声を聞いて思い出す。

 そう言えば俺が幻想郷に来て間もない頃にあった紅霧異変の時にあった三人組、大妖精・チルノ・ルーミアだ。

 すごい久しぶりに会った。

 そして向こうも覚えていたのか。年単位で会わなかったし接点もあまり無かったから忘れてると思ったんだが。

「あれ? 三人とも知ってるの?」

「まさかの知り合いだったパターンか?」

 だが、あと二人は初めましてだな。

 

「既に見知ってる人も居るみたいだが、自己紹介を開始する。まずは講師の皆さんから」

「えー。まず俺から、海藤 真だ。えーと、まぁ剣士をやっている。戦闘経験は結構あるから教えられることは結構ある……と思うからこれからよろしくな」

 パチパチパチと拍手。

 これだけで歓迎されてる気になるから拍手ってすごいな。

「はい! 次は私、古明地 こいしだよ! ルーミアと同じで妖怪。私も戦えるから教えられることはいっぱいあるはず。よろしくね!」

「最後は私だね。紬でーす! 私はね、ここにいる海藤 真のかのむぐっ!」

 俺は咄嗟に紬の口を押えた。

 またこいつふざけようとしたな。

 ふざける時と場所と場合、TPOをわきまえてくれよ。

「私、つまらない冗談は嫌いなんだよね」

 こいし様が不機嫌に。

 紬のせいでちょっと苦労しそうだな。と一人で肩を落とすのだった。




 はい!第79話終了

 新たな課題は寺子屋の講師でした。

 果たしてここからどんな風に物語が展開していくのでしょうか?

 それでは!

 さようなら


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第80話 古明地先生と紬先生

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 寺子屋の教師に任命された。



 それではどうぞ!


side真

 

 まず最初の授業は弾幕。

 弾幕に関しては良く弾幕ごっことかするので知らない人はあんまり居ないと思うが念の為の授業らしい。

 後、弾幕を使った応用戦等だな。

 因みに俺は弾幕は専門外だ。弾幕で戦うよりも剣で斬った方が速い。

 

 まぁ、そんな訳で俺は弾幕の授業の先生は下ろしてもらった。その代わりにこいしと紬に授業をしてもらう事にした。

 もちろん俺も後ろの方で見守っているが、俺としてはあんまり理解出来ない領域だった。こんな事ならもう少し弾幕ごっこをやっていても良かったかもしれない。

 クレアや《限界突破》で近距離戦をした方が楽だったからあんまりやって来なかったのがここに来て仇となったか……。

 

 今教卓に立って話しているのはこいしだ。こいし先生は弾幕ごっこのプロフェッショナルだから期待大だな。

「えーっと、弾幕は一度に沢山出すパターンと個数を絞って出すパターンがあります。私は沢山出すパターンだけど海藤先生は単発パターンです」

 ここで俺にフるか? 俺は弾幕ごっこは苦手だと言うのに……。だが、考えてみるとそうだ。俺は今まで神成りを手に入れてから何度か弾幕の様なものを使った事がある。どれも単発だが。

 と言うか俺の場合、弾幕を出すのが下手すぎて一度に出すと威力がめちゃくちゃ落ちるのだ。

 

「ではどういう違いがあるのかを説明します。一度に出すパターンは威力は確かに落ちます。しかしその変わり、沢山だすので相手を追い込んだり、連撃を与えることが出来ます。それに対して単発は当てにくいです。追い込んだりも出来ないので不意をつかなければ当てるのは難しいでしょう。しかし威力は抜群です。威力は高いので当たれば強いです。なので扱いやすいのは複数型、使いにくいですが強いのは単発型です」

 なるほどな。その事は初めて知った。道理で威力が下がると思った。だが、複数型で弱くなってしまうのは俺の弾幕の扱いが下手すぎるせいなんだな。本来は敵を追い込んだりと色々出来るものだったのか。参考になるな。

 だが、今となっては剣での戦いが主になってるし、遠距離は狙撃《スナイパー》を使えばいいし、たいして困っていないのが現状。

 

「はい! 次は私だね」

 次に教卓前に立ったのは紬だ。

 紬と言えば術だろう。だが、紬も結構弾幕を使えるのだ。戦闘タイプではないが結構良い授業をしてくれそうな気がする。

「まぁ、私は古明地先生程は弾幕が上手では無いのでそこまで詳しい事は言え無いけど簡単に授業をしていくよ! じゃあ、実践で使える定石から説明していくね」

 弾幕ごっこに定石なんてあったのか? なんかボードゲーム的な話になってきたな。

 だが、多分そうなんだろう。何事にも定石ってものは付き物だ。剣術にも定石ってものがあるしな。

 

「まず一つ目は囲い。囲いとは相手の体の周りに弾幕を配置して逃げ場を少なくする方法だね。これは一番使い易いけど破られやすいのが特徴」

 なるほどなぁ。これがさっきこいしが言っていた逃げ場を無くす戦い方って事か。

「そして次にこれ、乱反射。まぁ、言葉通りに乱反射なんだけど、本当に反射しているんじゃなくて大量の弾幕が動くから乱反射みたいに見えるって事」

 何度か俺もやられた事がある。これは結構ウザイ、剣で戦う今としては絶対にされたくないものでもある。

 されたら本当に近づけないからな。

「んで、最後に突撃。まぁ単発タイプの攻撃なんだけど、特徴としてはさっき古明地先生が言ってた通り、当たりにくい。だけど攻撃力が高い。だからここぞと言う時に使うと強いよ」

 定石を三つ紹介して貰ったが、俺が出来そうなのは突撃位だろう。脳筋バトル気味になって来ている俺に頭を使えなんて無理にも程がある。

 

「「ありがとうございました」」

 

 二人はお辞儀をすると教卓の前から外れて俺の方へ来た。

 次の授業は近接戦闘なんだけど、どう授業したものかまだ考えついていないんだよな。

 剣の授業と言ってもどうしようか……。

「真、頑張って!」

「ん? おう」

 こいしに応援されたらやらない訳には行かないよな。

 

 応援された俺は物凄いやる気が漲ってきたので直ぐに内容が思い付いた。

 俺は剣士じゃないか。そして俺にはとても参考となる師匠が二人も居るじゃないか。

 妖夢、妖忌さん。あの二人を参考に剣士として剣術を教えていく。

 

「よし」

 

 次の授業が始まると同時に俺は教卓前に立つ。

 ここに一人で経つのはかなり緊張するな。学校の教師はよくやるよなと一人で関心&尊敬しつつ、俺は授業を進めていく。

「これから授業を始めます。俺は剣士なので剣術――」

「せんせー。あなたは教えられるんですか?」

「……どういうことですか?」

「だってあなたは強そうに見えません」

 

 ぐはっ……痛い所を突いてくるね……。確かに俺はひょろひょろで強そうに見えない。

 俺は筋肉質なタイプでは無いので筋トレはしていてもそんなにゴツゴツした肉体にならないのだ。その上、着痩せする。なら物凄く弱そうに見えるのも仕方が無いのかもしれない。

「すみません……私も実は」

 大妖精。君は間違ってないと思うよ。そう思って当然だ。

「あたいだったら指先一つでダウンだね」

 早苗かな? それを広めたのは。

「私もなのだー」

 多分種族的には君らには劣ってると思うよ。だけどこいし達を守る為には強くなる必要があったんだ。この実力を認められないのは少し悔しいな。それに教える為には実力を認めさせなければならない。

 この世界では一般的に男よりも女の方が強いと言う風潮がある。だから男である俺はなめられやすいのだろう。

 

「良いよ。それじゃあみんなでかかってきな」

 

 模擬戦開始だ。




 はい!第80話終了

 次回は模擬戦です。果たして真はどう戦うのでしょうか?

 それでは!

 さようなら


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第81話 認めない

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 真の実力を生徒達に認めさせることになった。



 それではどうぞ!


side真

 

「はぁ? あなた、なめてるの?」

 

 そう言って出てきたのは俺に一番最初に文句をつけてきた女の子。

 剣士なのか、剣を机の隣に置いている。多分同じ剣士として俺の実力を確かめたいのだろう。

 だが、そこで普通ならなめていると思う台詞を言ったので怒ったんだろう。

 

「いいや、なめてなど居ないさ。みんなの実力を見てみたい、それだけさ」

「いいわ、見せてやるわよ!」

 

 そう言って真っ先に飛び出して来たのはその女の子。屋内乱戦はあまり好きでは無いので俺から率先して窓から庭に飛び出した。

 それに釣られるように全員が飛び出してきて俺に飛びかかってくる。

 まず最初に来たのはやはり剣士の女の子。サラサラとした空色の髪の毛を靡かせながら剣を持って走ってくる。

 構えは完璧で隙を感じられない。

 

 だが、俺が妖忌さんにうるさいくらいに言われた事がある。それは、型に頼りすぎるなって事だ。

 型に頼りすぎると少し予想外の動きをされたら対処が出来なくなる。

 

「私達を侮辱した事を後悔なさい!」

 

 うーん……侮辱した訳じゃないんだけどなぁ。

 とりあえず走ってきた女の子を最小限の動きで躱して足をかけようとする。

 しかし、女の子もそれは読めたようで横凪をしてきた。

 それを瞬時に霊力刀を使って防いだ。その一撃だけで分かった。この子は強い、剣が重い。

 

「君、名前は?」

「……ルー」

「ルーちゃんか……。君は強いね、将来物凄い剣士になるよ」

「誰目線よ。あんたは私より弱い!」

 

 あんまり調子に乗られると成長に悪影響だな。

 現実ってのは辛いからさ、あんまり突き付けたくは無いんだが、成長を促す為には必要な事だ。

 少し本気を出すか。

 

「な、何。この霊力」

 

 威圧感。それは自分より圧倒的に強いであろう力とぶつかった際に感じる物だ。

 それを今感じたらしいルーちゃんは怯んでしまう。その瞬間を狙って峰打ちをしようとする。

 しかしその瞬間、氷の礫がこっちに飛んで来たので飛び退いて躱す。

 

「あたいのさいきょーの力にひれ伏せ!」

 

 チルノだ。正直バカの相手をしている暇は無いんだけどなぁ。ルーちゃんの剣術をもっと見たいって気持ちがある。

 その時、急に俺の周囲が真っ暗になった。この能力はルーミアの能力か。多分俺の視界を奪って奇襲する気なのかもしれないが、そんなに殺気立ってると妖力が溢れ出ててそれが逐一俺に位置情報を伝えてくれている。

 それを頼りに突っ込んでくるルーミアを的確に躱すと次に来たのはチルノだった。

 はっきりとは見えないが多分この霊力は多分チルノだ。

 

「あたいの勝ちだ!」

 

 まぁ、ここまで霊力を放出されたら分からないはずがないんだが、これは態と受けてみる事にした。

 すると、俺の胴体にザクッ。

 そうか、あの氷の能力を剣を精製することに使ったか、少しは考えたな。

 だがなチルノ、そこは手だぞ。何の手違いで動いても居ない敵の手に突き刺すんだよ。

 

「く、やるな」

 

 く、やるな。じゃねぇよ。俺がマジの敵だったら手に刺した瞬間、もう片方の手でサクッといかれちゃうぞ。

 視界が戻った瞬間、みんながチルノを見て呆れているのが分かった。

 でも痛いもんは痛いから抜いてもらうか。

 そして俺はチルノを蹴り飛ばした。

 

「ち、チルノちゃんをぉぉぉっ!」

「え!?」

 

 すると大妖精が怒りで物凄いパワーアップを見せてきた。この力知ってるぞ。俺もだからな。

 その状態で大量の弾幕を放ってくる大妖精。

 ちょっと待て! それは反則だろ!

 

 流石にそれは躱し切れずに当たってしまった。

 

「分かった? あんたは私達より弱い」

 

 ちょっと油断したなぁ。まぁいいか。何人かの実力は分かった。特にルーちゃんの力は凄い

 

(なんだったんだろうさっきの威圧感は……この人が私達より強いわけが無い)

 

 とりあえずここまでにして剣を消す。

 本当は最後までやるつもりだったが、やる事が出来た。

 

「真、みんなに実力を認めさせるんじゃなかったの?」

「ん? ああ、そうだけどさ、招かれざる客がさ」

「招かれざる客?」

 

 その瞬間だった。

 寺子屋の堀を破壊しつつ、数名の男達が入って来た。殺気しか感じれない所を見ると男達は俺らを殺すつもりなのだろうか?

 

「動くんじゃねぇぞ。動いたら殺す」

「何よあんた、急に入って来て」

 

 その瞬間、男から弾幕が飛んで来た。それを足元にあった石を拾い上げて狙撃《スナイパー》で相殺した。

 確か単発の弾幕は威力が凄かったんだよな。これに当たったら大ダメージだ。

 

「何があったんですか」

 

 慧音先生も気がついてこちらに来た。

 

「動くんじゃねぇ。殺すぞ!」

「あんた生意気ね! 私が斬ってやるわ!」

「っ! やめろルーちゃん!」

 

 ルーちゃんが男達に向かって走って行った。

 まずい。こう言う時に先走るのが一番危ないんだよ。だが、この子達も守らなきゃいけないし……よし、

 

「こいし、この子達を守ってやってくれ。慧音先生もお願いします」

「あなたは何するんですか?」

「俺はルーちゃんを助けます」

 

 そう言ってから俺もルーちゃん同様走り出した。

 走り出すと俺は久しぶりに叫んだ。

 

「来い『神成り』!」

 

 その瞬間、紬が刀になって俺の掌に収まった。これで戦える。これが俺の戦闘スタイルだ。

 ルーちゃんが危ない。男は弾幕を放った。そのタイミングに合わせて俺はまた狙撃《スナイパー》で石を投げつけて相殺した。

 

「あ、あんたは退いて!」

「強くがるのは良いが、時と場合を考えろよ」

 

 俺は神成りに霊力を込めた。

 刀に霊力を込めて放つのは、

 

「ルーちゃん、今から良い技を教えてあげる」

「あんたに教えられることなんて無いわよ!」

「良いから見てろって!」

 

 霊力を限界まで込めると俺は神成りで横凪をする。

 すると霊力の斬撃が飛んで行った。そう、霊力斬だ。

 この霊力斬は霊力コントロールが出来ないと使えないが、ルーちゃん程の腕前だったら確実に出来るようになる。そう思ったからこれを教えることにしたのだ。

 この霊力斬は男達を一掃。これでこの子達の安全は守れた訳だ。

 

「霊力斬……」

「そう、覚えてみる気は無いか?」

 

 とりあえずこんなものだろう。さて、男達の後片付けは慧音先生にお願いして授業に戻るかね。




 はい!第81話終了

 まぁ、無理矢理感がある流れですが、許してください。

 それでは!

 さようなら


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第82話 霊力の授業

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 寺子屋の教師となることになった真、こいし、紬の三人。
 そこで真は一度は弱いと疑われたが、生徒たちに実力を認めさせることに成功。
 ついに本格的に真の授業が始まる。



 それではどうぞ!


Side真

 

 授業と言っても俺はあまり授業はどうすればいいとか言うことを知らないので俺なりの授業を開始する。

 まず霊力の使い方だ。

 

「今回は霊力の使い方について説明をしていきたいと思う」

 

 そう言うとみんなはそんなものはとっくの等に知っていると言い、授業を真面目に聞く気が無さそうだ。

 唯一の救いは大妖精が真面目に授業を受けようとしてくれているところだ。

 大妖精は真面目そうなので大丈夫だろうが、問題は後ろで完璧だと高を括っている子達だ。

 

「真、どうするの?」

 

 こいしが心配そうに聞いてきた。

 確かにこのまま大妖精だけしか聞いてくれないなら授業が成立しない。

 どうにかして興味を引くことが出来れば良いんだが……。

 

 そこで一つの事を思いついた。

 この技は俺たち剣士にとっては当たり前の技だが、霊力を剣術に使用するってのは習わないみたいだ。

 ルーちゃんは剣士だ。この技術を知っていて損は無いだろう。

 

「真。何をする気?」

「まぁ、見てろって」

 

 そこで俺は右手に霊力刀を作成した。これにより、さっきまで真剣に授業を受ける気が無かった子達が驚いた表情をしてこっちに釘付けになった。

 だがまだこの程度で驚いてもらっては困る。

 

 俺は霊力刀に霊力を込め始めた。そう、あの技だ。

 

「ルーちゃん行くよ!」

「え、えぇ!? 」

 

 戸惑っているルーちゃん。そんなルーちゃんに弱い霊力斬を放った。

 ルーちゃんは戸惑いつつも、そこは剣士を目指す者だ。的確に霊力斬を剣で防いだ。

 

「お見事」

「お見事じゃないわよ! 殺す気!?」

 

 もちろん殺す気なんてない。危ないと思ったら助けに行くつもりだったが、ルーちゃんの実力を見て大丈夫だと判断したのだ。

 こんな手荒なこと、実力が信用出来ない相手には決して出来ない。

 

「今の技は霊力の技だ。霊力を極めるとこんな霊力の応用まで出来るようになる」

 

 そんな俺に紬が「真だって霊力の扱い、あんまり上手くないじゃん」と呟いてきた。そこは言わないお約束だろ?

 

「まぁ、ルーちゃんなら直ぐにここまで来れるだろう」

 

 敵を恐れない勇気、そしてその実力。俺が今まで学んで考えられた最高の剣士条件が二つも揃っている。

 最高の剣士条件は全部で五つあり、その二つは今言った実力と勇気。

 残り三つは信頼と型に囚われないことと、最後は絆だ。

 正直俺は他の四つよりも、この絆が一番大切だと思っている。

 何故なら人は一人では強くなれないからだ。一人での強さには必ず限界が存在する。だからこそ俺はこれが大切だと考えたのだ。

 

「霊力斬ねぇ。剣に霊力を込めるのって難しいのかしら」

「あぁ、嘘だと思うなら試してみるといい」

 

 俺がそう言うとルーちゃんは剣に霊力を込め始めた。それにより、剣が光り始めた。

 それを見て周りの誰もが成功したと確信した。――俺とルーちゃん以外は。

 ルーちゃんは込め始めてわかったのだ。剣の中に霊力を留めることがどれだけ難しいかが。

 

 光りはしたもののその中に霊力を留めるのだけで精一杯。全くそこから新たな霊力を加えることが出来ない。

 しかし、負けず嫌いのルーちゃんはそこから無理に霊力を込めようとした。

 そんなルーちゃんの様子を見て俺はルーちゃんのもとへ行き、ルーちゃんの頭をチョップした。

 それによって我に返ったのか、ルーちゃんは霊力を込めるのをそこでやめた。

 

「なんでルーちゃんの邪魔をしたのよ」

「先生の卑怯者!」

 

 周りの人からすれば今の行為はそう見えただろう。だがルーちゃんはわかっていたようだ。

 なぜ俺があそこで止めたのかを。

 

(全然溜めることが出来る自信が無い。ここまで難しいものなの!?)

 

 ルーちゃんは悔しそうな表情をしている。

 

「どうして真はあそこで止めたの?」

「真が居なかったらこの寺子屋は吹き飛んでいたかもね」

 

 やはり俺の愛剣なだけあって俺が止めた理由が直ぐにわかったようだ。

 そう、俺がルーちゃんを止めなかったら大爆発を起こしていたのだ。

 

「ルーちゃん。無機物に無理に負荷をかけると爆発する可能性があることは知っているか?」

「うん」

「君は上手く霊力が安定していない状態で霊力を更に加えようとした。あれをあのまま続けていたら爆発していたぞ」

「すみません」

 

 負けず嫌いなのは悪いことでは無い。俺もそうだし、俺の知っている最前線で戦う実力の持ち主の人はみんな負けず嫌いだ。

 負けず嫌いだから努力をして更に強くなれるのだ。だから決して悪いことでは無い。

 だけど、無茶な霊力の使い方をしていると必ずいつか取り返しのつかない事になる。

 

「ルーちゃん。これから君は強くなれる。だからゆっくりと霊力の扱いになれていけばいい」

 

 この事件によって大妖精の他にルーちゃんも真剣に俺の霊力の授業を聞いてくれるようになった。

 しかしまだ完全には心を開いてくれずに目が合ったら所構わず斬りかかってくるようになった。

 その度に俺は半身になって躱しているのだが、その負けず嫌いの性格のせいか、俺が躱す度に鍛錬を積んできて強くなる。いい傾向だ。

 

 そんなルーちゃんの真剣な態度に感化されてか他の子達も少しは真面目に聞いてくれるようになった。




 はい!第82話終了

 今回は授業をやりましたが、今までとは勝手が違うので少し描きにくかったですが、何とかやり遂げましたよ!

 それでは!

 さようなら


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第83話 体術の重要性

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 霊力に関する授業をした。



 それではどうぞ!


side真

 

 次の日、今日も俺は教卓の前に立っていた。

 前回は霊力の事を教えたから今回はまた別の事を教えようと思っている。

 それは体術だ。

 

 紬もこいしも弾幕で戦うタイプなので、今日は軽く体術の講義をしていたが、そこまで詳しく教えることは出来ないだろう。だから補足として授業をする。

 戦う上で、弾幕タイプでも剣術タイプでも体術が出来るのと出来ないのとでは天と地ほどの差がある。覚えておいて損は無いだろう。

 

 と言っても俺よりもこれを教えるのなら龍生の方が向いているだろう。だけど今は俺、こいし、紬の3人しか居ないから、俺が詳しく教えることになるんだけど。

 

「まず、みんなはどうやって相手を攻撃する?」

 

 このメンツを見たらほとんどが弾幕だろう。妖精、妖怪がほとんどだ。

 ルーちゃんは剣術だけどほかはほとんど弾幕だ。

 しかし、この授業はどっちだとしても聞いておいて損はない話だと思うのでどっちでもいい。

 

「体術はどの戦い方でも役に立つ知っておいて損は無いから真剣に聞くように」

 

 一言言ってから俺は授業を始める。

 体術は武闘家にならない限りサブとして使うものだ。だけどその重要さは今まで戦ってきて分かっている。

 

「体術はとても重要な戦いの技術のひとつだ。武闘家はもちろんのこと。剣士はあんまり接近されると剣で戦い抜くのは厳しくなってくる。弾幕も同じだ。あんまり近すぎると弾幕は逆に不利になる。そんな時に役に立つのが今回のテーマ、体術だ」

 

 最近のみんなは俺の話を真剣に聞いてくれる。

 ルーちゃんが俺に攻撃を仕掛けてくるのは変わらないが、いつの日か俺を倒そうと戦いの勉強を必死に頑張ってくれている。

 最初はどうなるかと思ったが、みんな素直でいい子なのだ。

 

「先生、体術てどんな時に使うんですか?」

「いい質問だね。じゃあ、ルーちゃん。前に出てきて」

「な、なんで私なのよ!」

「俺を倒すんだろ? なら俺を研究するチャンスじゃないのか?」

 

 こういう事を言うとルーちゃんは素直に応じてくれる。

 なんでここでルーちゃんを選んだかと言うと、同じ剣士同士だからだ。

 剣士なら剣士同士でやった方が伝えやすいってことだ。

 

 ルーちゃんは前に出てくると俺に向かい合った。

 こういうのは口で説明するより、実際に見てもらった方が早い。

 

「ルーちゃん、いつもみたいにかかってこい」

「腹が立つわね、そのニヤニヤ笑い、いつか斬ってやるわ!」

 

 ルーちゃんは俺に斬りかかってくる。それを半身で躱すと俺は膝蹴りをする。

 その攻撃が当たると思ってルーちゃんは目を閉じたが、俺はそれを寸止めした。流石に生徒に膝蹴りはお見舞い出来ないからな。

 

 

「まぁ、こんな感じだ。これは誰でも応用できる体術の基本だ。まぁ、カウンターだな。武闘家以外では体術の使い方はこれが基本となる」

 

 武闘家じゃ無ければ体術の使い方はこれで充分だ。俺も基本的にこれくらいのことしかしないし。

 

「俺も詳しいことは教えられないんだけど、俺は近接戦闘型だ。こいし先生や紬先生よりは詳しいと思う」

「真、昔は弾幕と体術で戦っていたもんね」

 

 あの頃から弾幕は得意じゃなかったから弾幕に重点を置いた戦い方をしていたが、攻撃の決定となっていたのは体術の方だっただろう。

 

「まぁ、そんなわけでどの戦い方でもこれは使える」

「先生はこれをやられたらどうするの?」

「ん?」

「見せてよ。先生のカウンターの躱し方」

 

 仕方がないな。でも本当の戦闘ではよくある事だ。これも教えておいた方がいいだろう。

 特に剣で戦っていたらよくある事だ。カウンターのカウンター。

 

「さぁ、行くぞ」

 

 そう言って再び俺はルーちゃんの前に立った。

 ルーちゃんはカウンターする側だ。今見たばかりだからか緊張している様子。

 だけど本番では誰も待ってはくれない。

 俺は剣で攻撃しにかかる。もし失敗しても寸止めをする気だ。

 そう思って攻撃すると躱す気配が無い。これは寸止めした方がいいか。そう思ったその瞬間だった。

 突然として視界からルーちゃんが消えたのだ。

 俺は目をぎょっと見開いて驚く。予想外の躱し方だ。これは残像!?

 ルーちゃんは演習と見せかけて本気で俺に勝ちに来ている。でも面白い。そっちが本気なら俺もそれ相応の動きをしてやらないと失礼だろう。

 

 背後から霊力の流れを感じる。残像で躱したまではいいが霊力は隠しきれていない。

 まだまだだな。

 

「覚悟!」

「まだまだだ。確かに途中までは良かったけどな」

 

 俺は背後に来たルーちゃんの剣を半身で躱して、そこら辺にあった石を下にたたきつけた。

 すると石は大爆発を起こし、砂埃をまきあげた。

 

「……またダメなのね」

 

 砂埃が晴れると俺の剣はルーちゃんの首を捉えていた。

 少し危なかったが、強い敵に勝つにはこれくらいで負ける訳にはいかないという俺の意地が俺の体を動かした。

 

「まぁ、こんな感じだ。カウンターなんてよくされる。その対処法を自分で考えるのも自身の技量だ」

 

 俺は今とっさに対処法を考えたが、こういうのも本番では必要だ。

 このことをみんなに知って貰えたならこの授業は大成功だ。




 はい!第83話終了

 今回あたりで授業らしいことは終わりだと思います。

 それでは!

 さようなら


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第84話 恐怖、復活の兆し

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 体術の授業をした。



 それではどうぞ!


side真

 

 今日は休日、寺子屋も休みなので太陽の畑で修行をしていた。

 俺の近くで見守ってくれているこいしと紬。その二人はやっとの休みだと言うのに俺の修行に付き合ってくれている。

 

「あなた達……そんなに私にしごかれたいのかしら。修行くらい、家でも出来るでしょ?」

 

 確かに紅魔館でもできる。だけど、ここでやっていた方が身に染みる感じがするって言うか……。しかもここでやっていたら幽香さんが何が気がついたら言ってくれる。

 相変わらずちゃんとした修行はつけてくれないが、俺の修行を見てはくれているようだ。

 

 しかし、ここで修行をしていたら色々と言われるのだ。例えば、

 

「ここに居るなら向日葵のお世話をしてくれない?」

 

 だとかだ。その言葉どおり、幽香さんに言われたらお世話をするし、なんなら最近は授業が始まる前に来てお世話をしたりしている。

 前に一度、ずっとお世話をさせられたことがあったが、その時に向日葵に対して情が湧いてきたのだ。

 

 それと、たまにクソガキに伝えてくれない? と俺に伝言を頼んでくることがあるが、俺だってしょっちゅうあっているわけじゃないんだから俺を便利屋みたいに使わないで欲しい。

 でも俺が呼べば喜んで出てくるから良いんだけどな。

 

 呼んだら彼方も俺のクレアの修行に付き合ってくれるから助かっている。

 

「クレア……」

 

 クレアを発動する。この力になれるためにも普段から使っている必要がある。

 そのため、たまにこうやってクレアを使って修行している。クレアの修行も重要だからな。

 

「真はクレアを使うと凛々しくなるよね」

「うん。自慢のパートナーだよ」

 

 どうやら俺はクレアを使うと凛々しくなるらしい。

 俺は力が強くなるだけかと思っていたが、見た目を変化させる場合があるらしい。

 そして戦闘能力が上がるだけじゃない。集中能力も上がる。だから普通に修行するよりも強くなれる。

 だけど、これを使うと体力の消耗が激しいのが難点だ。

 

「しかし、頑張るわねぇ……。どうしてそこまでするのかしら? 今のあなたなら大体の敵になら勝てるわよ」

 

 どうしてか……。そんなのもちろん大切な人を守るためだ。そのために今の今まで頑張ってきたんだ。

 確かに俺は昔と比べたらずっと強くなった。だけど、俺が強くなった分だけみんなも強くなるんだ。

 ライトもしばらく会っていないし、多分あいつのことだからこの期間も山に籠って修行をしているのだろう。

 

 紗綾もきっと強くなっている。なら俺はさらにもっと強くならなくてはならない。

 

「ライトも強いだろうし、修行に付き合ってもらってもいいかもしれないな」

 

 ライトならいい修行相手になるだろう。

 しかし、問題なのはあいつがどこにいるかだ。この幻想郷には沢山の山が存在している。

 そしてライトは結構要心深い性格のせいで一点に留まることはなく、様々な場所を転々としている。だから、ライトを探すのはとても骨が折れる。だからあんまり会いに行けない。

 簡単に会いに行けるのだとしたらもっと早くあいつと稽古をしていただろう。

 あいつは会う度に別人のように強くなる。最後に見たのはパラレルワールドの俺と戦った時だ。あれからかなりの時間が経っている。だからかなり強くなっているはずだ。あいつもあいつで病的な程に修行星人だからずっと修行をしているのだろう。

 

 今は何をしているんだろうか。

 


 

 ライトは今日も山で修行をしていた。

 今日は昼前には腕立て伏せ1000回、腹筋10000回を終わらせ、瞑想をしていた。

 

「この山も潮時か……」

 

 ライトはもう次の山に移る計画を立てていた。

 結構な間この山に滞在していた。そのため、これ以上この山に居るのは危ないと感じたのだ。

 

「さて、そろそろ……」

「ライト!」

 

 その時、空間が割れて一人の少女が出て来た。その光景に少し驚いたライトだったが、その人物が誰なのかに気がついた瞬間、落ち着きを取り戻した。

 なぜならその人物はライトが信頼を寄せる数少ない人物だからだ。

 

「どうした。何か問題でも発生したか閻魔」

「普段ならその口の利き方について小一時間説教をするところだけど、今は緊急事態だから見逃してあげる」

 

 出て来た人物は四季映姫だった。

 映姫がライトの前に出てきた時は必ずと言っていいほど緊急事態なので予測はできた。

 

「地獄で何があったか?」

「そうね……」

 

 映姫のその深刻そうな表情を見てライトは息を飲んだ。

 今までにも緊急事態はあった。その全てが囚人が暴れだしたというものだから、暴れだしたというのはわかった。

 ライトも呼ばれたら行くが、死後の世界に行かなくてはならないから色々と面倒なのだ。

 

「実は……海藤 真が暴れているのです」

「海藤 真と言うとパラレルワールドの方か……確かにそれは地獄が陥落する危険があるな」

 

 パラレルワールドの海藤 真と言えば、以前幻想郷を襲ったパラレルワールドの真だ。

 あの心はとても強く、以前は力神である紅蓮の力を借りてやっと勝てたくらいだ。

 そんな敵ともう一度戦わなくてはいけないと思うと頭が痛くなってくる。

 

「最終確認をしてみるか……神海斬(しんかいざん)!」

 

 ライトが剣に霊力を込めて斬撃を放つと剣先から斬撃が一直線に伸び始めた。

 これがライトの最強の技、神海斬だ。

 その神海斬は森を切り開いていく。圧倒的地形破壊の極みだ。

 

「よし、案内してくれ閻魔」




 はい!第84話終了

 次回から新章突入です!

 それでは!

 さようなら


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第肆章 地獄の危機と新世界 ~破壊神と神を越えた人間~
第85話 恐怖の再来


 はい!どうぞみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 不穏な予感。ライトが地獄に向かった。



 それではどうぞ!


side真

 

 今日も今日とて寺子屋で授業をしていた。と言っても最近は体術の授業ばかりで特にこれといった特別なことは何もしていない。

 いつも通りルーちゃんは真剣に授業を聞いてくれて、いつも通りに俺に攻撃してくる。最近は結構攻撃にキレがでてきたから躱すのも一苦労だ。

 しかし、ルーちゃん以外にも強くなった子も沢山いる。ルーちゃんの親友で、槍使いの女の子である(うみ)ちゃん。この子も強く、偶にルーちゃんと連携して攻撃してくる。

 組手に関しては多分ルーちゃんよりも強い。そのため、この子の相手をする時は少し本気を出さないと体術では負けそうになる。

 

「さて、ここまででなにか質問はあるか?」

 

 と言ってもここまででかなりの回数体術をやっているので特に質問は無いだろう。

 そして安心して授業を進めようとしたその時だった。

 

 がぁぁぁぁぁっ!!

 

 何かの雄叫びが聞こえてきた。その声は明らかに理性のある生物の声ではなかった。おぞましい何かの声だ。

 それと同時に里から悲鳴が聞こえてくる。その声を聞いてこいし、紬とアイコンタクトを取る。

 

「今日の授業はここまでにする。先生方はこれからやることがあるが、くれぐれも寺子屋から出ないでくれ」

 

 寺子屋も里の中にある。

 外に出ていったら危険に晒してしまうかもしれない。だからここから出ないように忠告する。

 

「今の声の件でしょ? 私たちだって強くなってるんだから私たちなら大丈夫よ。私達も戦うわ!」

 

 ルーちゃんがそう言う。しかし、俺はそれに対して――

 

「ダメだ。君たちにもしもの事があったら困る」

「先生、私たちの事をナメているの?」

「ナメてなどいない。だが、君たちはまだ実践で通用する力を持っていない」

「黙っていたら好き勝手言って! こうなったら先生を倒して私も行くわ!」

 

 ルーちゃんが剣を持って俺に斬りかかってきた。ルーちゃんの力は知っている。だからナメているつもりなど毛頭ない。しかし、今まで色んな敵と戦ってきた俺はこの子達の実力で実践をするのはあまりにも危険すぎる。

 

「ルーちゃん。悪いけど本気で止めさせてもらうよ」

 

 そういった俺は弾幕を作り出して目の前に浮かせる。それを見たルーちゃんは余裕そうに鼻を鳴らした。

 

「一個程度に当たるほど馬鹿じゃないわ!」

 

 今、一個程度って言ったよな。だけど俺の弾幕は一個、されど一個だ。俺の弾幕を甘く見ると痛い目を見る。何せこれは一個って事は破壊力は抜群ってことだ。当たったらかなりのダメージを負う。

 

「狙撃《スナイパー》」

 

 俺は弾幕を手に握るとそのままスペルカードを利用して投げた。

 するとルーちゃんはそのスピードの弾幕についていけなかったのか正面から諸にくらってしまった。

 

「なに……今の……」

「これが外の世界だ。外の世界はお前らが思っている程甘くない」

 

 俺がそんなことをやっているとこいしと紬はそこまでやらなくても良いのに……というような表情をした。だけどこれだけは徹底的にしないとルーちゃんは何を言っても言うことを聞いてくれなくなる。ちゃんと厳しさを教えないといけない。

 

「ルーちゃんは戦いたいってのはわかる。だけど俺たちに任せてくれないか?」

「……っ!」

 

 ルーちゃんは悔しいのだろう。俺の問いかけに答えずに俯いてしまった。でもそこから更に連れていけという事はなくなった。

 

 声の聞こえた方角に来るとそこにはとてもでかい妖怪が居た。黒く、体から黒いモヤが出ている二足歩行の妖怪だ。

 そしてやはりというか自我がなく、暴れたいだけ暴れているという様な印象だ。これ以上里を壊させる訳には行かない。

 慧音先生には避難誘導をお願いした。

 

「二人とも、ここは俺に任せてくれないか?」

「どうしたの?」

「え、剣は? 私も要らないの?」

 

 今回は試してみたいことがある。修行の成果だ。

 クレア装もそうだし、霊縛波なども強くなって霊力が強くなったので確かめたい。

 

「よぉ、化け物。お前のように自我が無い妖怪と戦うのは久しぶりだ。お手柔らかに頼む……って言っても通じる訳ないか」

 

 そう言ってから俺はまずクレアを発動させた。

 クレアによって霊力の放出を止めて相手を油断させる。相手の強さはどんな生物でも放出されている霊、妖力で強さを直感で感じ取る。だから自我が無い敵でもこれで油断を誘うことが出来る。

 そうすれば相手から勝手に近づいてきてくれる。そこに俺はそこら辺に落ちていた石を掴んで――

 

「狙撃《スナイパー》」

 

 スペルカードを使って石を妖怪の目に投げ込む。それによって石は大爆発を起こし、妖怪を怯ませた。

 今だ! そう思った俺はクレア装を発動。そして俺は掌の上に弾幕を作り出す。

 クレア装によって今までよりも威力は倍増している。

 

「これが俺の修行の成果。《霊縛波》だ!」

 

 飛び上がり、アッパーをするように妖怪の顎に霊爆破を叩きつける。その瞬間、その弾幕からレーザーが飛び出して妖怪に大ダメージを与えていく。

 この技はとても威力が高い上にクレア装で威力が傘ましされている。こんなのに耐えられる奴が居るはずが無い。

 妖怪は霧の様に消えていってしまった。

 

「終わりだな」

 

 多分まともに戦ったら少し苦戦していた。そう思うほどの妖力量だった。

 こいしと紬の二人が「おつかれ」と労ってくれる。その言葉に「おう」と返事をしてその場に横になる。

 霊縛波は結構霊力コントロールが難しいから一回使うだけでも疲れてしまうのだ。しかも、クレア装との複合だ、かなり疲れてしまった。

 

 そうして休んでいたその時だった。何かが空から降ってきたのだ。

 その何かは俺の腹に直撃、俺は胃から何かが込み上げてきそうな衝撃を受け、腹を抑えてうずくまる。

 

「くそ、あいつ……なんで言う強さだよ」

 

 その声に聞き覚えがあった。

 驚いて弾かれるようにそちらを見ると、そこにはライトが居た。




 はい!第85話終了

 今回から新章突入です。どうなるのかお楽しみに!

 それでは!

 さようなら


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第86話 妖怪退治へ

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 親方ー空からライトが!



 それではどうぞ!


side真

 

「ライト、大丈夫か?」

 

 身体中ボロボロになっている。そんなライトが空から降って来た。

 

「あぁ、真か……俺は大丈夫だ。しかし、少しトラブってしまってな。地獄が大変なことになってしまった」

 

 地獄が? 俺はライトの事情は何も知らないけど何があったんだろう。

 ライトがこんなにボロボロになっている姿は滅多に見ない。だから相当なことがあったのだろうという事は想像出来る。でも多分ライトは俺よりも修行をしているだろうし、強いだろうからどんなことがあったのか気になる。

 

「以前に殺したパラレルワールドから来たお前、覚えているか?」

「……忘れるわけが無い。あんなことがあったら」

 

 この世界に突如現れ、そして大量殺戮を目論んだパラレルワールドの未来から来た俺。

 この世界に来たあとの経験も何もかも違ったが、一つだけ、こいしを愛していたって点は同じ。こいしを殺されて怒り、やったことはとても褒められたものじゃ無いが、可哀想な奴だ。

 

「あいつが地獄で暴れている」

「なんだって!?」

「俺はたまに地獄で暴れているやつを退治したりしているんだが、あいつだけはやばい。俺では手に負えんかった。あいつは強い」

 

 あのライトが悔しそうに俯いている。それを見ただけでどれほどの強さだったのかが予想つく。

 しかし、あのパラレルワールドの俺はまだ暴れる気なのか。一度紅蓮にボコボコにされて懲りないのか。

 更にあいつは自分が不利になったら人質を使う。そこが気に食わないところだ。

 でも今のライトでも勝てないか……。

 

「なぁ、俺が行くことは出来ないのか?」

「今行ってもまた返り討ちにされるのがオチだ。だから準備をする」

「準備?」

 

 俺が聞き返すとライトは一枚の地図を取りだした。

 その地図を地面に広げると何やら青い石を取り出してその地図に翳した。

 するとその地図にバツ印が記入され始める。印は全部で三つ、その一つはこの人里、その他は俺の地図には載っていない場所だった。つまり、この場所を作られたのは比較的最近って事だ。

 

「このバツ印のところにとても強い妖怪が居る。山、海、そして人里か。しかし、この人里には居ないようだが」

「あ、多分そいつは俺が倒した」

「そうか。じゃあ、後は山と海だけだな」

「でもその妖怪とパラレルワールドの俺となんの関係が?」

 

 そう聞くとライトは再び悔しそうな表情になった。

 

「こいつらは地獄に居てもこの世界を壊せるようにと送り込まれたパラレル真の分身体だ。こいつらを倒せば力を半減させることが出来る。悔しいことに全力のアイツには勝てないんでな」

 

 なるほど、だからこいつらを倒しに行かなければならないって事が。確かにライトが負けたのに今の俺が行っても勝てる確率はたかが知れている。それならこの妖怪たちを全て倒してから行った方が確実だな。

 まぁ、ライトは全力のパラレルワールドの俺に勝てないことが悔しいようだが……。

 

「ところで海って幻想郷に無かったんじゃなかったか?」

「いつの間にか幻想入りしたらしい。って言うか、あのスキマ妖怪の仕業だろうな」

 

 そういうことか。あの人ならなんでも出来そうだもんな、海を幻想入りさせるくらい朝飯前か。

 んじゃあ、これからこの海にいる妖怪と山にいる妖怪を倒しに行くわけか。

 あいつの好きにさせる訳にはいかないもんな。

 

「俺は山に行く。真、お前は海に行け。俺は山の方が戦いやすい。山は俺の庭みたいなもんだからな」

「分かった。じゃあ、海に行けばいいのか」

 

 久しぶりの海だな。日本に居た時も滅多に行かないから本当に久しぶりだ。だからといって遊ぶわけじゃ無い。今回は妖怪退治に出かけるんだ。だから浮かれる訳にはいかない。

 俺は泳ぎに関しては中々出来る方だと思っている。だから海でも戦えないことは無いだろう。

 心配なことと言えば水の中で戦い慣れていないから勝手が掴めないってところか。

 

「二人とも、私たちを放置して何を話しているの?」

 

 そこで後ろにいたこいしが口を開いた。

 俺とライトが自分たちを放置した状態で会話しているのを見て少し寂しくなったらしい。

 確かにこんな流れになってしまったから話を振る余裕も無くなっていたな。

 

「二人とも、今から海に行こうか」

「「海?」」

「あぁ、海ってのはたくさんの塩水がある霧の湖よりもずっと大きい水溜まり? この表現はあまり正しくはないが、まぁ、そんなものだ」

「「霧の湖よりも!?」」

 

 今まで海がなかったこの幻想郷。その中で一番大きかったのは霧の湖だった。なのにその霧の湖よりもずっと大きいって言うんだ。驚くのも無理は無いだろう。

 外の世界で海って言ったら無限に続いている――っていうか地球をぐるっと囲っているから終わりがなく一周出来るって認識だもんな。

 

「まぁ、行ってみるのが一番いいだろう」

「うむ、そうだな。じゃあ、お互い検討を祈る」

 

 そして握手をしてから俺とライトは歩き始めた。

 ライトは妖怪に殺られるようなやつじゃない。だから勝ってくるだろうが、問題は俺だろうな。

 俺は海の戦いで勝てるだろうか。




 はい!第86話終了

 次回はライトの戦いを書いていきます。そしてライト編が終わったら真編を書いていきたいと思います。

 それでは!

 さようなら


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第87話 ライトの庭

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 真とライトが手分けしてパラレル真の分身体の妖怪を倒しに向かった。

 今回はそのライト編だ。



 それではどうぞ!


sideライト

 

 ここは俺が昔修行していた山。というか山ならばほとんど修行に使ったことがあるから山と言えば俺の修行地と考えていいだろう。

 俺は修行する時にはまず山の地形から覚える。だから俺にとって山は庭だ。そのため、直ぐに邪悪な妖力の位置は特定できた。だけどこの妖力を感じる限り、かなりの敵の様だ。妖力量が真たちの周りに居た妖怪よりも圧倒的に多い。流石はパラレル真だ。

 でも奴らは理性がない。理性があって考えて戦う妖怪よりはやりやすい。

 しかし、あいつは面倒なことをしてくれたものだ……。だけど自分で弱点を晒すとは思わなかった。こいつを倒せばあいつは弱体化する。そこを突けば今の俺でも勝てないって事は無いはずだ。

 俺は今までずっと山で特訓していて強くなったはずだ。いや、強くならないといけないんだ。地獄を守るためには……。

 地獄はこの世界の中心的存在。それが崩れればこの世界は崩壊してしまうだろう。それを回避するために俺が居るんだからな。

 少し歩くと妖怪の声が聞こえてきた。ここら辺にはたくさんの妖怪がいる。山で修行をしていた時に妖怪と戦って力をつけたものだ。

 最近は瞑想ばかりしていたので戦いはしていなかった。なので妖怪と戦うのは久しぶりだ。

 

 そんな事を考えながら歩いていると妖怪が見えて来た。

 

「でけぇ」

 

 それが妖怪を見て一番に出て来た俺の感想だった。黒くモヤモヤが出てきている二足歩行の怪獣だ。

 目は有るのか分からないくらい全体的に同じ色をしている。理性の無い妖怪はこの黒いモヤの量によって強さが決まってくる。これはなかなかの強さの様だ。

 だけど俺の敵ではない。

 

「おい妖怪。これからお前を退治する。覚悟しろ」

 

 さっさとやってしまった方が良いな。そう思った俺は霊力で刀を作り出した。俺はあいつみたいに剣は持っていないからな。

 この霊力刀で首を掻っ切って終わりだな。

 そして俺は妖怪目掛けて駆けだした。どうやら人里で感じた妖力よりも多いようだが、この程度なら問題はない!

 その瞬間だった。妖怪が俺をはたいてきたのだ。その予想外の素早い動きに俺は反応しきれずに咄嗟に剣で受けたが、それでもかなりのダメージとなってしまった。

 

「いってぇな!」

 

 ぶっ飛ばされながら俺は霊力を噴出して、その場に留まった。この威力、そう何度も食らっていられないな。

 かなりのスピード、さらにかなりの威力。確かに強いようだ。だけどどうやらこの力を見てみると大きくそれぞれの妖怪の力の差があるようだ。

 それなら真の方が心配だ。俺の方は大丈夫だが、あっちがこれより強い妖怪ならば、真は勝てるかどうか。

 

「く、直ぐに片ずけるぞ」

 

 俺は妖怪の方へ掌を向けると掌に大きい霊力の玉を作り出す。このスペルカードを使うのは久しぶりだな。でも今は緊急事態だから使わせてもらうぞ。

 

「く、くくく、貴様の命を貰うぞ。悪……『邪悪砲』」

 

 すると俺の掌にあった霊力の玉は妖怪のもとへ飛んでいき、直撃。しかし、直撃した妖怪は全くの無傷。

 嘘だろ? これが効かないなんてな。これが聞かないならばどうしようかな。遠距離の技なんてこれ以外あんまりないからこれは困ったな。

 最近会得した技で遠距離まで斬撃を伸ばすかなりの威力の神海斬という技があるがあれはかなり霊力を使うから、あんまり使いたくないところではある。

 でも今はあまり時間を取れないのも事実。使うしかないのか?

 

 そう考えている間に妖怪はいつの間にか俺の目の前まで走ってきていて拳を振りかぶっていた。この拳をくらったらかなりやばいことはわかっている。だけど俺は冷静に対処した。

 まずは拳を受け流すように躱し、妖怪の胴体目掛けて高速で飛ぶ。その最中にクレアを発動。

 クレアを発動したら剣に纏わせて妖怪を切った。

 

 すると妖怪は苦痛の叫びを上げてその場に崩れ落ちた。それを確認すると妖怪に向かって剣を向けた。妖怪は力こそ強く、すばやさもあるけども防御力はそうでも無い様だな。

 これを最後にこいつとの決着をつける。そう決めて剣を振り下ろした。

 その瞬間だった。妖怪は穴を物すごい速さでほって逃げだした。

 面倒だな。そう思ったものの、ここは俺の庭だ。見逃すはずが無い。だが、ずっと土の中から出てこないのではこちらから攻撃することが出来ない。しかもこのままだと人里に行く気だな。それならば直ぐに倒さないと人里がめちゃくちゃになる。

 やるしかないか。

 神海斬は地中にも届く俺の最強の技だ。

 

「食らえ……神海斬」

 

 その瞬間、剣に霊力が溜まった。その剣を振り下ろすと、そこから斬撃が地中を貫通して伸びて行った。これは狙った相手にしか効果がないから山には効果がない。

 しかし、俺は妖怪を狙って放ったのでしっかりと妖怪に直撃。それによって妖怪は断末魔をあげる暇もなく絶命してしまった様だ。

 地中で動かなくなって妖力を感じなくなった。これでこいつは倒したって事でいいだろう。 あいつの分身体にしては弱かったな。

 あいつは分身として半分の力を送り込んだはずだが……これだとバランスがあまりにも……まさか! 本命はあっちか!

 そのことに気がついた俺は直ぐに海に向かって走り出した。




 はい!第87話終了

 次回は真編です。どんな敵が待ち構えているのか?

 それでは!

 さようなら


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第88話 スペルカードが使えない

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 ライトは妖怪を圧倒して勝利した。



 それではどうぞ!


side真

 

 確かライトが言っていた海ってのはこっちの方向にあったはずだ。

 しかし、海なんていつの間にできたんだ?

 海の妖怪……。ゲームでもなんでも強敵と相場が決まっている。だが、今の俺はこの世界に再び来た時よりも強い。

 クレアだってある、霊縛波だって。

 

 でもこっちに来てしばらく経つ。そして向こうにいた時も滅多に海なんか行かなかったので水中戦になったところで勝てる気がしないってのが本音だ。

 もう海は見えてきている。しかし、その妖怪は影も形もない。

 妖力を探ってみる。しかし、その妖力を全く感じない。パラレルワールドの俺が作ったほどの妖怪ならはかなりの妖力を持っているはずだ。だと言うのに全く妖力を感じない。

 妖怪がクレアを使えるとも思えない……。ってことは妖力を隠蔽するのに長けた妖怪なのか?

 確かに霊力とか妖力ってのは完全に消すことは出来ないが、探り対策に出力を弱くすることはできる。だが、これも理性の無い妖怪には出来ない代物だ。つまりこの妖怪はとんでもない実力の可能性はある。

 

「こいし、紬、気をつけろ」

 

 この手の霊力、妖力隠蔽くらいならこいしや紬にとってもお手の物だろう。

 しかし、相手はパラレルワールドの俺が作り出した妖怪。油断は禁物だ。

 

「これが海?」

「凄い。霧の湖よりも大きい」

 

 まぁ、二人ともそんな馬鹿じゃないと思うが人生で初めて見た海に少し興奮気味のようだ。

 でもいつ妖怪が出てくるかは分からない。そんなことはわかっていると思うから二人ともちゃんと警戒はしていると思うので、とりあえず何も言わないでおく。

 そのまま俺たちは砂浜に降り立った。

 飛んでいたので結構早く辿り着いた。

 

 水の中の霊力を探知してみると小さいが、沢山の霊力を探知した。この海の中にも魚はちゃんと居るようだ。

 もしこの海の中に忍んでいる妖怪なのだとしたら魚もタダじゃ済まないだろうしこの近くには居ないようだ。妖怪はどんな生物であろうが関係なく襲うはずだ。

 それまでは俺もそれまで待つとするか。どうせ探しても海の中じゃ見つからないだろう。待つしかないか……。

 

 それから数十分後、妖怪は未だに動きは見せない。ライトの方はもう片付いただろうか? しかしこんなに平和な海のどこかに妖怪がいるというのだろうか?

 だが、嫌な空気が漂ってきているのはわかる。

 二人はまだ砂浜で遊んでいるようだが、もうそろそろ警戒を強めないといけにようだ。

 その瞬間だった。海の中を物凄い何かの力がとおりすぎた瞬間、海の中に居た大量の霊力が一瞬にして消え去ってしまった。

 この消え方は尋常じゃねぇ……。これは来たかもしれないな。

 

「俺、ちょっと行ってくる」

「「真ダメ!」」

 

 俺は二人の声を聞かずに海の上を飛び始めた。

 今霊力が一斉に消えたのはこの辺りのはずだ。戦うには今しかない。――そう早まってしまったのは良くなかったかもしれない。

 

「うわっ!」

 

 急に俺の足に何かが絡みついて海の中に引きずり込まれた。物凄い勢いなので水圧が俺を襲う。常人なら恐らくこの水圧で気を失ってしまうところだろう。しかし、俺は霊力の層を作って何とか空気の確保と水圧対策をする。

 しかし、何に引きずり込まれたんだ? そう思って足に絡みついている何かを見てみると、そこには何かの巨大生物の触手が絡みついていた。

 その触手の方向を見てみるとそこにはイカのようなタコのような巨大生物が口を開けて存在していた。

 って、これかなり不味くね? このまま行ったら俺は食われてしまうのではないか?

 そうか、この辺に居た魚たちは食われてしまったのか。でもそう簡単に食われてたまるかよ!

 

「霊縛波!」

 

 俺は触手に霊縛波を叩き付けて脱出を試みる。

 しかし、霊力は水に溶けてしまって霊縛波は不発に終わってしまう。

 この状況じゃ神成りを呼ぶ訳にはいかない。一緒に食われてしまう可能性がある。そして霊縛波がダメなら霊力刀も無理だろう。この水中で霊力を使う攻撃は出来ないだろう。

 だが、そうしたらどう戦ったらいいものか……。

 

 こうなったらクレアで殴るしかない。

 しかし、どうやってこの状況を切り抜けるものか……。殴るにしてもこの触手を解かないといけないだろう。

 でも、妖力を隠す能力に長けている妖怪だ。少なくとも完全に自我がない妖怪って訳では無いはずだ。ならこれが効くかもしれない。

 スペルは水に溶けてしまうとしても、霊力量だけは伝えることは出来るだろう。

 

 昔、燐火にもやられたクレアの力。

 

「クレア……」

 

 徐々に霊力を増やしていく。やはり霊力の出力だけは伝わるようで、俺の霊力量に怯んでいるのか徐々に触手の力が弱くなってくる。

 これくらい緩んだらもう大丈夫だろう。

 

「はぁっ!」

 

 体を上手くねじり、触手を蹴ると完全に触手は緩んでしまって簡単に抜け出せるようになった。なのでそこから体をねじって触手から抜け出した。

 これでようやく自由になったのでこれから反撃が始まる。

 しかし、この海の中で巨大なイカのようなタコのような妖怪と戦うのか……。さしずめクラーケンと言ったところだろう。

 かなり雰囲気があって恐怖がそそられるが、こいつを倒さないとこの幻想郷が危ないんだ……。やってやる。




 はい!第88話終了

 スペルカードが使えない戦場。果たして真はどうやって戦うのでしょうか。

 それでは!

 さようなら


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第89話 海の天敵

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 海に潜む妖怪。その妖怪に海に引きずり込まれた真。そこに居たのはクラーケンのような妖怪だった。
 しかし、霊力は水に溶けて使えない。そんな状況で真はどうやって戦うのでしょうか。



 それではどうぞ!


side真

 

 俺はクラーケンをじっと観察する。

 体長ははっきりと全貌を見ることは出来ないものの、海底から伸びて来ていると考えると相当なものだ。

 俺なんか普通のイカにとってのプランクトンと同じくらいの感覚なのだろう。今まで様々な敵に出会ったことがあったけど、ここまで大きな敵は初めてだ。

 人型以外の敵とは今まで戦ったことがあったけど、これはどう対処したものか……。

 クレアで殴るにしてもダメージは入るんだろうか……。そこだけが気がかりだ。

 

「でもやるしかないよな」

 

 俺の技はどれもこれも霊力を使うものだ。なので使うことは出来ない。

 だから、クラーケンに殴り掛かる。クラーケンはその体の大きさから上手く逃げることは出来ない。だから防ぐしかないと触手で俺の拳を防いできた。

 そのまま拳に触手を絡ませると俺の事を振り回して投げ飛ばしてきた。

 水の中なのに物凄い勢いで投げ飛ばされたので、体にかなりの水圧が襲いかかってくる。前方からの勢いと後方からの水の圧によって押しつぶされそうになる。

 なので体から目いっぱい霊力を出してとどまった。水中でも霊力を出すことは出来るので、前方からの圧と後方からの圧を打ち消すように霊力を放出する。

 

「いってぇ……もう少しで骨がバッキバキに折れるところだった」

 

 骨が折れても戦えなくはないが、体が痛いので勘弁願いたいものである。

 しかし、この大きさはどうやって攻略するのが正解なんだ? 少し間違えたら食われてしまいそうなんだが……。

 でもライトならこれを攻略するスペルくらい持っていそうだよな。ライトならこの場面、どう攻略するんだろうか。

 クラーケンは俺が留まったのを見ると間髪入れずに俺を触手で叩き潰そうとしてきた。それを俺は足から霊力を噴出して叩き落とされないようにしてからクレア装を発動して受け止める。

 なかなかな力だ。両手で受け止めるので精一杯だ。

 

 そんなものだから両手が塞がっていて胴体がガラ空きになってしまったので、そこを狙って触手で叩こうとしてきた。しかし、そんなに簡単にやられる訳にはいかないので受け止めた触手を投げ飛ばして、今来た触手を受け止めた。

 これによって何とか触手を受け止めることが出来たが、これではいつまで経っても倒すことは出来ないだろう。なので俺は攻めることにした。

 

 俺は泳ぐことは一応できる。しかし、特段速いって訳でもないので普通に泳いで距離を詰めたとして触手に叩き潰されるのが関の山だ。

 なので俺は足から霊力を噴出して空を飛ぶ応用で泳いで距離を詰めていくことにした。

 これなら触手の速さにも負けず劣らずの速さで近づくことが出来る。

 触手が来たら霊力を全力で噴出して躱す。だが、この泳ぎ方には一つ問題があるのだ。これは霊力の減りが激しいのだ。なのでこれは短期決戦が必須となってしまう。

 

「これで一発!」

 

 漸くクラーケンを殴れる距離まで接近できたので思いっきり殴る。しかし、全然ダメージが入った気がしない。まるで鉄の塊でも殴ったような感覚だ。

 俺はクレアを使っているとはいえ、元々のパンチ力はそんなにないので鉄ほどの硬さのあるものを破壊できる気はしない。

 

 その時だった。急に海が左右に別れたのだ。

 綺麗に海が真っ二つとなって、俺たちは実質水の外に出た事になった。

 クラーケンの鉄のような頭が少し切れて、緑色の血が出てきている。あの鉄のような頭を斬るのはなかなか難しいはずだ。しかもこの海が切れた、それは自然に起こることではない。

 海を割るとか言う話があるが、俺はわかった。これは誰かの技だ、霊力を感じるのでそれは間違いないだろう。でも誰がこんなことを?

 すると上空に人影が見えた。その人物は逆光でよく見えないものの、少し急いでいたようで息が上がっているように見える。

 その人物が降りてくると段々とその姿が露になってくる。

 

「全く、これほど情けない戦いをするとは思わなかったぞ、真」

 

 その人物とは――ライトだった。

 ライトは海底に降り立つと俺にダメ出しをしながらクラーケンに剣を向けた。

 

「ライト、どうしてここにいるんだ」

「お前が負けそうになってるから助っ人に来た。ただそれだけだ」

 

 でもライトは山の方に行っていたはずじゃ……。もしかしてもう倒し終わったのか? まぁ、確かに俺の場合、こいつを見つけるまでが時間がかかったし、そこまで驚くことじゃないか。こいつならこれくらい出来てしまいそうだ。

 でもどうやって海を割ったんだ? 霊力も使えるようになってありがたいが、この海をかなり先まで割るのは相当な霊力が必要なはず。

 

「お前も剣を出せ」

「わかった」

 

 言われたので霊力刀を作り出し、しっかりと握る。やっぱり刀がないと俺は戦えないようだ。

 刀を握ると俺はすぐに霊力を流し込んだ。クレアを発動中なのでクレアの霊力がどんどんと流れ込んでいく。その事にライトは驚きの表情をして見せた。

 

「お前、クレアを使えるようになっていたのか」

「ああ、特訓したからな」

 

 するとライトもクレアを発動した。どうやらライトもクレア装を使えるようで、鎧のように霊力を纏った。

 

 海が無くなったことによって俺も本気を出せるようになったし、ここからが本当の勝負だ。




 はい!第89話終了

 グダグダの話ですみません。次回で妖怪編終了です。

 それでは!

 さようなら


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第90話 あいつの方が強い

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 海を割って登場したライト。

 とうとうクラーケンとの最終決戦が始まる。


side真

 

 ライトが海を割ったお陰で霊力を使えるようになったので霊力を使ってその場に浮き上がる。

 これによって霊力を使えるようになったので、 ライトと同じく俺も霊力刀を作り出して構えた。

 

 クラーケンは海が斬れた事に困惑している様子。それによって海の外で戸惑っている。

 俺にとっても少し不安要素は残るが、この状況は俺にとっても好都合な事だ。霊力を勢いよく噴出してクラーケンに向かって行く。

 それと同時にライトも俺と同じ速度で飛び出していく。多分俺と同じく戸惑っている間に倒そうって考えなのだろう。

 

「真、あの触手だけが厄介だ。あれに捕まったら対処の仕様が出来ないから捕まるんじゃねぇぞ」

「分かった」

 

 その言葉を聞きながら俺は海が無くなって少し弱くなった様子の触手を躱しながら本体にスピードを上げながら距離を詰めていく。

 その最中にチラッとライトを見てみると無駄のない完璧な動きで躱し続けながら距離を詰めていた。流石と言ったところか。

 

 もう少しで攻撃出来る範囲に入る。

 するとクラーケンは水がなくて苦しいだろうにせめてもの抵抗として俺に墨を吐いてきた。

 それによって俺の視界は奪われてしまって、自由に動くことが出来なくなってしまった。

 しかし、俺は妖力を感じてクラーケンの行動を察知。クラーケンが伸ばしてきた触手を躱した。

 

 視界が奪われている俺が触手を回避出来るとは思わなかったのだろう。一瞬、クラーケンの動きが止まったように感じた。

 それはライトも同じだったようで、この時を待っていたとばかりにライトは一気にスピードを上げて本体へ距離をつめていく。

 

「くらいやがれ。神海斬!」

 

 ライトは剣に霊力を纏わせて振り下ろそうとする。しかし、クラーケンはその攻撃を受けてはいけないと判断したようで、腕を触手で搦めとって振り下ろすのを阻止した。

 しかし、ライトはその事は予想していた。

 ライトはニヤリと笑うとクレアを発動して触手を蹴り飛ばした。

 触手は蹴り飛ばされたことによってちぎれてしまって宙を舞う。そんな光景を横目に掌をクラーケンに向けて霊力を増幅させていく。

 

「暗黒砲!」

 

 ライトの霊力はドス黒いくらいに真っ暗になった。その霊力を放つと、真っ黒のレーザービームが放出された。

 その霊力量は感じると頭が痛くなるほど大きく、そして底が見えないくらいまでに闇を感じるものだった。

 あのビームは近付くだけで死んでしまいそうなくらいに強力なものを感じる。

 

 そんなビームに直撃して耐えられるわけがない。クラーケンもそう感じたのであろう。

 しかし、残念ながらここは一時的に陸地となっている。水中での行動はどうなのか分からないが、陸地でそんなに速く動けるわけがない。

 そんなクラーケンがこの陸地でビームを回避出来るわけがない。なので、クラーケンは触手の一本を犠牲にしてレーザービームを受け止めた。

 その光景を見てライトは素直に驚いた表情をした。

 

「やっぱりてめぇはパラレル真の分身なんだな。この攻撃を受け止めて見せたのはお前で二人目だ」

 

 確かに受け止めたには受け止めた。しかし、それを犠牲に触手は破壊されてしまった。

 それを見て少し驚いていた様子だったライトは口元をニヘラと曲げて笑って見せた。

 

「確かにてめぇはパラレル真の分身体の様だが、お前はあいつよりは弱い。いくらなんでもパラレル真に近い実力を持っているとしても所詮は劣化版。あいつだったら今のビームくらい、片手で簡単に受け止めるだろうよ」

 

 まさかそこまであいつが強いなんて……。

 強くなってパラレルワールドの俺にだいぶ近づいていたと思っていたのに、今の俺でも止められる気がしないライトの攻撃を簡単に受け止めるのかよ……。

 それはねぇよ……。

 

 さすがに力神には勝てないようだが、それも時間の問題のように感じる。

 

 しかし、いくら劣化版といえども警戒を怠る訳にはいかない。

 力は強いから一度捕まったら最後と言えるだろう。

 

 すると、触手が一瞬で生え変わり、ライトに襲いかかった。しかし、ライトがそんなもので捕まるわけがない。

 ライトは身をひらひらと翻しながら踊るように触手を回避していく。

 

 そんな光景を横目に見ていると俺が油断していると見えたらしく、驕った触手の一撃が俺の方向に伸びてきた。

 しかし、俺は全く油断なんかしていない。

 そんな俺にとってその一撃はカウンターを下さいと言っているようなものだ。

 

「クラーケンさんよ。確かに真は弱いさ。特筆した特技も無けりゃ対して強い能力を持っている訳でもないさ。しかし、俺は評価している。あいつは努力の天才さ」

 

 なんでライトがあんなに俺を評価しているのかは知らないけど、その評価には応えなけりゃいけない。

 俺はクレアを発動する。限界を超えて霊力を高めて足下で爆発させる。

 その爆風を利用して視認速度を超えた飛行速度で向けて距離をつめていく。

 

 俺は今の今まで修行してきた。

 海の中でなければ本気を出すことができる。

 

 掌に霊力を集める。その霊力を球体状に変形させて、それを維持した状態で運んでいく。――霊縛波だ。

 その瞬間だった。左右に割れた海がぐらついたのだ。これは海がもとに戻る予兆。こうなることは当然だった。

 液体が長時間そのままってことはありえないのだ。

 

 海が元に戻れば俺は霊力が使えなくなってしまう。これは時間の戦いだ。

 

 すると、クラーケンはいち早く海に戻ろうと動き始めた。しかし、そんな事は俺が許すわけがない。

 俺は霊縛波を作り出した手とは違う手で弾幕を作り出して投げ飛ばした。――狙撃《スナイパー》だ。

 

 そんな牽制によってクラーケンの動きは一瞬止まってしまった。

 その一瞬を俺は見逃さない。

 クラーケンはそう簡単にやられるかとばかりに触手を伸ばしてきた。

 

 確かにこの攻撃は俺には痛かった。

 俺の今の速度じゃ簡単に躱せるはずがなかった一直線で止まれない今の俺はとても触手で搦めとりやすい。正直いってカモだろう。

 それによって俺は搦めとられてしまった。

 

 しかし、そんな事は俺も分かっていたことだ。もう既に対策は考えてある。

 クラーケンは一気に締め付け握り潰そうと言った魂胆なんだろう。

 

 確かに力が強い……だが、触手は柔い!

 俺は霊縛波を触手に叩きつけると、霊縛波の威力によって一瞬で俺を掴んでいた触手が弾け飛んだ。

 この霊縛波は(デコイ)だ。本命は違うものにある。

 

「やれ、真っ!」

「おうっ!」

 

 俺は剣をしっかりと握って突っ込む。

 

「牙突!」

 

 霊力刀を突き出して頭に突っ込んだ。俺の刀はクラーケンの外皮を切り破って体内に侵入。

 そのまま斬り進んでついに貫通。クラーケンの頭にドデカい風穴を開けることにした。

 

 その瞬間、海は崩れ落ちてきてもとに戻った。俺はクラーケンと同じ高さに居るので巻き込まれてしまった。

 

「何とかなった……」

 

 しかし、俺の体は物凄い水圧に耐えきれなくなってしまったのか、意識は闇の底に沈んで行ってしまった。




 はい!第90話終了

 イマイチ戦闘シーンの盛り上がりにかけますね……これからも精進していきます。

 それでは!

 さようなら


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第91話 俺に戦わせてくれないか?

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 遂にクラーケンも倒し、準備は整った。
 今度こそパラレル真に勝つことは出来るのか?



 それではどうぞ!


side真

 

「くはっ」

 

 俺は水を吐き出して意識を取り戻した。

 目を開けるとそこには青い景色が拡がっていた。青い綺麗な空、俺が仰向けで寝ていることが分かった。

 左隣を見てみると、そこにはこいしが居た。その反対には紬が、そして少し離れたところにはライトが立っていた。

 腕を組んで崖によりかかり、うたた寝している様子のライト。相当疲れが溜まっていたように見受けられる。

 

「「真!」」

 

 俺が目を覚ましたことに気がつくと、こいしと紬は俺に抱きついてきた。

 

「ごめんなさい……わたし、真の役に立てなかった」

「私も、剣なのに……」

「いや、それに関しては二人が悪いわけじゃない。二人をあの戦いに巻き込みたくなかったから、その判断で正解だ」

 

 二人は俺の役に立てなかったことに落ち込んでいる様なので、安心させるために頭を優しく撫でてあげる。

 すると、二人は目を細めて嬉しそうな表情をする。

 しかし、今回の戦いは俺にとって不利過ぎた。あの状況でライトが来てくれなかったら本当に死んでいたかもしれないと思うとゾッとするな。

 俺は生憎死んだ経験はない。まぁ、ライトみたいに死を経験して戻ってくる方が稀なんだろうけど……経験したことの無いことに対する恐怖は一応持っている。

 普段、俺は命を投げ捨てるような行為をしていると言われるが、一応人並みには恐怖心というものを持っていると思っている。

 

 立ち上がる。それから周りを確認してみると、そこは砂浜だって事が分かった。

 確か俺は戦った後に気を失って、それから助けられてここで介抱されていたって感じか。しかし、この世界の人が介抱してくれるって異常な安心感があるな。

 俺が立ち上がって少しキョロキョロしていると、ライトも目を覚ましてこっちに歩いてきた。

 

「目ぇ覚ましたか……寝坊してんじゃねぇよ」

 

 欠伸をしながら眠そうにこちらに来るライト、俺はそのライトを見てさっきの戦いを振り返った。

 やっぱり強くなったけど、まだまだライトには勝てそうにない……。

 

「ライト、これで分身体は全員倒せたんだよな。これから地獄に行くのか?」

「いや、まだ行かねぇ……確かにこれだけやったんだから多分弱体化はしているだろうが、同時に戦った俺たちの力はかなり消耗している。回復してからじゃないと、この状態でも勝てるものも勝てなくなる」

 

 確かにライトは山と海とで連戦をしたんだ、あれで疲れないと言ったらどんな化け物なんだよ……。

 でも元々サイボーグだから、人間と言えるのかは怪しいところはあるよな。

 しかし、ライトと随分と差がついてしまったな……俺も修行しているのにどんどんと差が開いてしまう。やっぱり四六時中修行をしているからか?

 

 ライトは強い。だから俺たちはライトが地獄の異変を解決するのを見ているだけ……本当にそれでいいのか?

 俺たちだって一応は異変解決組だってのに、ライトにばかり任せて……更に今回の主犯は元を正せば俺だ。

 前も俺は勝つことは出来なかった。圧倒的な力でねじ伏せられてしまった。今回もこんなんでいいのか?

 

「さて、俺はもう少し休む訳だが……お前らはどうするよ。このまま帰ってもいいぞ」

「いや、そのことに関して俺から一つ、願い出たいことがある」

「あ?」

 

 正直ライトが戦った方が勝率は高いだろう……だが、それじゃダメだ。俺は――

 

「今回の敵、俺に戦わせてくれないか?」

 

 俺との決着をつける。

 俺がそう言うとライトは少しの間、俺の事をまじまじと見ると、ニヤッと口元を歪めて笑った。

 まず間違いなくライトに反対されるだろう。そう思っていたのだが、次に出てきたライトの言葉は俺にとっては予想外のものだった。

 

「そうだな……今度は勝てよ」

「え、いいのか?」

「あぁ、お前の目からは本気を感じた。それに、お前のその能力【都合がいい状況を作り出す程度の能力】。そいつなら倒せるかもしれないだろ?」

 

 いや、それはただ都合が良いってだけで勝敗にはあんまり関係しないんだけどな……。

 しかし、これはライトも応援してくれているって考えでいいんだよな……なら頑張らないといけない。

 今度こそはパラレルワールドの俺を倒して……。

 

「過去の真と未来の真の最終対決か……負けるんじゃねぇぞ」

「あぁ、やるからには勝つつもりだ」

 

 ライトと拳を合わせる。

 俺はライトよりも弱い……英雄なんかにはなれないポジションだ。英雄ならば今はライトの方が向いているだろう。

 だが、あいつを倒すのは俺でないといけないんだ。

 俺とあいつの歴史は大きく違う。初めて幻想郷に降り立った場所も、暮らしてきた場所も……ダーラとの戦いの内容も……しかし、ただ一つ同じ点がある。それは、大切なものは同じだってことだ。

 だが、その方法が良くなかった。だから俺があいつに教えてやる……大切なものを守るという事を。

 

 そんな感じで俺が気合を入れていると、背後から肩に手を置かれた。

 

「ねぇ真……」

「な、なんだ?」

 

 その人物はこいしだったのだが、その様子がなんだかおかしい。

 訝しげに見ていると、何やら物凄い怒った様子で早口で話し始めた。

 

「ねぇ、私たちと約束したよねもう無茶はしないってなのにまた無茶をしようとするの私たちとの約束を破るほど大事なことなの? 私はもう真には無茶して欲しくない……」

 

 そうだった。いつも俺が無茶をすることによってこいしに心配をかけてきた……確かにそのことは反省する必要がある……だけど、どうしても今回のことは俺がやらないとダメな気がするんだ。だから、

 

「こ、こいし――」

「決闘」

「……え?」

「私と決闘してっ!」




 はい!第91話終了

 真に決闘を申し込んだこいし。果たして、どうなるのでしょうか。

 それでは!

 さようなら


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第92話 絶対に行かせない

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 クラーケンに勝利した真は気を失ってしまったものの、みんなの介抱で目を覚ました。
 クラーケンを倒したらあとはパラレル真と戦うだけ、元々はライトが地獄に向かい、戦う予定だったが、その戦いに真が立候補。
 それは真が自分自身との決着をつけるためのものだった。しかし――

「決闘して」

 こいしが真に決闘を申し込んできた。果たしてその意図とは?



 久しぶりにまともなあらすじをやった気がする。

 それではどうぞ!


side真

 

 急にこいしが決闘を申し込んできた。その事に驚いて俺は言葉も出なかった。

 それは紬、それにライトも同じようで、あのライトが珍しく驚いた表情をしている。

 

「ど、どういう事だ。こいし」

「そのままの意味、私はあなたに決闘を申し込む」

 

 やはり聞き間違いじゃなかったようだ。

 文脈が見えてこない。こいしのことだから一言目に止めて来ると思っていたんだが、まさか決闘と来るとは夢にも思わないだろう。

 しかし、こいしの目を見ていればそれが本気だということが伝わってくる。

 

「決闘制度って知ってる?」

「決闘制度?」

「うん、決闘制度は真が居なくなっていた時に出来たもので、決闘に勝てば負けた人に何でも言う事を聞かせられるってものなんだよ」

 

 そうだったのか……俺は現代に居た時の幻想郷の出来事をまるで知らないから、そんな制度があることは全く知らなかった。

 しかし、ここでこいしが決闘を仕掛けてきたって事は俺に何か命令したいことがあるのだろう。

 その内容は何だろうかと少し考えてみると、その答えは単純明快だった。つまり、こいしは俺を地獄に行かせたくない、そこで決闘ってことだから――

 

「真を絶対に地獄には行かせないよ。例え幻想郷が滅びるんだとしても……私は真に無茶はさせたくない」

「つまり、俺に勝って俺にもう無茶はするなと命令したいわけだ」

 

 そして、地獄に行くのも結構な無茶だから、命令されてしまったら俺はもう地獄に行ってはいけなくなってしまう。

 確かにこれなら今まで無茶をするなと言われても無茶をしてきた俺の行動がこれからは出来なくなってしまう。

 なるほど、なかなか考えたな。口で言っても聞かないから強制する。

 

「でも、俺はこいしとは戦いたくない。しかも、俺になんのメリットもない。俺は特別命令したいこともないしな」

 

 そう言って断ろうとした、その時だった。

 

「あら、受けてあげてもいいじゃない」

 

 その声が聞こえた瞬間、急に目の前の空間が割れたと思ったら、スキマが出現した。これを使ってくるのは紫がシャロだ。

 そう思って距離をとったら、その中から出てきたのは紫の方だった。

 

「なんだよ……」

「あら冷たい」

 

 紫はスキマから出てくると、周囲を見渡して告げた。

 

「今日の夜に決闘を開催します。対戦カードは古明地 こいしVS海藤 真!」

「おい、ちょっと待て」

「そんな感じで正式に通しておくから二人とも、人里近くの闘技場で行うわ。来ないと不戦敗になってしまうから気をつけて頂戴」

「だから待てって!」

 

 しかし、紫は俺の声を受け入れようともせずにスキマの中へ消え去ってしまった。

 物凄い嵐のように俺達の前に出てきて、勝手に決闘の約束を取り付けて去っていった。

 その事に頭を抱えてしまった。俺は別に命令したいことなんてないし、そもそもとしてこいしと戦いたくないので、この決闘は受けたくないが、でも受けないと強制的に命令されてしまう。

 究極の二択だった。

 

 これがシャロだったら脅すことができるんだけどな……。

 

「あのクソババァ……今度会った時は覚えていろよ」

「今度、なに?」

 

 すると、再び俺の目の前にスキマが出現。直後、その中から手が伸びてきて、俺の事を引きずり込んできた。

 そのあとの事は何も言わなくてもわかるだろう。俺は紫にボコボコにされた挙句、紫お姉さんと百回言うまで返して貰えなかった。

 

 この事は一生のトラウマとなったので、もう二度と紫のことをババァと呼ばないと心に固く誓った。

 今の俺だったら紫にも勝てるかと思って反撃もしたんだが、スキマの中に入ると所持者以外は弱体化するようで、ダメージは与えられず、百倍返しで返ってきた。なので、もう逆らうのはやめようと思います。

 

 でもそうなると、こいしと戦わなくてはならないんだよな……。

 そういえばこいしとは手合せをしたことが無かった。こいしが戦ってる時も俺は俺で戦っているから、まともにこいしの戦っているところも見たことが無かった。

 俺にとっては未知数だ。

 

 その状況に何故かワクワクしてしまっている俺がいた。未知数の相手との戦いは自分をレベルアップさせる。

 しかし、それと同時にこいしとは戦いたくないという気持ちもあって、なかなかに複雑な心境だ。

 

 でももう戦わないという選択肢はない。やるしかないのだ。

 

「真、私は真の戦い方はよく知っているから、いつもの戦い方が通用しないと思った方がいいよ」

「それ、言ってもいいのか? 俺が新しい戦法を使うかもしれないぞ」

「それでも、私の真対策は完璧」

 

 何やら相当の自信があるようだ。これは結構厳しい戦いになるかもしれない。

 俺とこいしが決闘をする、その事を聞いて紬とライトは複雑そうな表情になっていた。どちらも知り合いなので、どっちを応援すべきか分からないと言った状況なのだろう。

 

 でも、いい結果になるのはこいしが勝ったパターンだろう。そうすれば俺は無茶をしなくなる。

 それでも俺は負ける気はない。確かにこいしの願いも重要だが、俺にとっては幻想郷も大事なんだ。そのためには無茶もする。

 

「よし、今日の夜。決闘しよう」

「うん、絶対に止めるよ」

「「絶対に負けない……っ!」」




 はい!第92話終了

 次回、決闘です。

 初めて真とこいしが相見えることとなりますので、お楽しみに。

 それでは!

 さようなら


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第93話 準備が整ったようです

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 こいしから、もう無茶をさせないために決闘を申し込まれた真。しかし、真はと言うとこいしと戦いたくないため、その決闘を断ろうとする。

 だが、そこに紫が颯爽と登場。紫はこいしと真の決闘の手続きをしておくと言って去ってしまった。
 このことに真は頭を抱えてしまうのだが、気持ちを切り替えて決闘に望むことにしたのだ。



 それではどうぞ!


side三人称

 

『はいっ! ついにこの時間がやってまいりました。幻想郷決闘のお時間ですっ! しかし進行を努めますは私、射命丸 文です。そして解説は――』

『強制的に連れてこられた犬走 椛です』

 

 ついに始まる決闘。その火蓋が今切られようとしていた。

 既に二人の選手は控え室にいて、一人は精神統一、一人は祈っていた。

 この決闘のルールは、

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

武器の持ち込み 〇

スペルカード  三枚まで

相手の殺戮   ×(死にそうだと判断したら止めに入る)

回復      ×

浮遊      ×

相手を部舞台から落とすか気絶させるか降参させたら勝利。

 

勝ったら負けた方になんでも命令出来る。

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 という感じになっている。

 意外とシンプルなものなので、こういうシンプルな戦いこそ、戦略が重要になってくる。

 特に三枚のスペルカードをどのカードにするかでも戦略が全然変わって来るので、この時点から既に勝負が始まっていると言っても過言ではない。

 

 そこで、試合の準備が整ったということで、夜なので提灯の(あか)りが(とも)り、部舞台を照らした。

 ついに始まるという緊張感で会場は息を飲む。

 会場の観客席は満員。この決闘は結構な人気を博しており、決闘を開催すると毎回このように満員になるのだ。

 

『ついに準備が整ったようですっ! 今回の部舞台は岩山となりましたっ!』

 

 文のその声と共に部舞台は変形していき、立派な岩山へと変貌を遂げた。

 あちらこちら凸凹しており、歩きにくそうな印象を受けるフィールドだ。

 

 このフィールドはにとりが作っており、ボタン一つで色々なフィールドに変形できるようになっている。

 そのため、フィールドは毎回くじ引きで決められ、ランダムなフィールドになるので、臨機応変に対応しなくてはならない。

 

『それでは両者、スペルカードを決めてください』

 

 ここでスペルカードを決め始める。如何にスペルカードでこのフィールドを制するかで勝敗が決まる。そのため、ここは慎重に選びたいところだが、両者ともに一分も掛からずに決めてしまった。

 決めたあとは決定ボタンを押して司会進行に知らせるのだが、そのボタンを押したタイミングがあまりにも早い上に同時に押されたので、文は困惑の声を漏らした。

 

『え、えっと……両者ともに決定したようです。それでは選手の入場です』

 

 その声と共に二人の選手が入場してくる。

 

『えー東は古明地 こいし選手。地底の悟り妖怪です! 彼女は地底の中でも強い妖怪なので、楽しみです。対する西は海藤 真選手。幻想入りしてきた人間です。しかし、彼の事を人間だと侮ってはいけない。彼には底知れぬ力がございます。この戦いはどうなるか全く予想がつきません』

 

 紹介を聞いてワッと盛り上がる会場。この会場内に恐らく真とこいしの事を知らない人はいないだろう。

 何せ、以前の幻現バトル大会にて真は選手として、こいしは解説者としていたのだから。

 そして、その幻現バトル大会で真はかなりの力を発揮した。それを見ていたものは、相手が妖怪だからって圧倒されるなんて事は思わないだろう。

 

(こいし、やっぱりかなり強かったのか)

 

 真はその事を確認して困り顔になる。真はこいしと本気のぶつかり合いはしたくないと考えていたので、弱い方がありがたかったのだが、強いと聞いて本気で戦わないといけないと感じ、困ってしまったのだ。

 

 対するこいしは真の事を見つめながらイメージトレーニングをしていた。

 

(大丈夫。私は今までずっと真の事を見てきたんだから。真ならこのステージでどう戦う?)

 

 頭の中の真と戦うイメージトレーニング。その効果は行かなものか。それは神のみぞ知るものだ。

 

 そこで二人とも部舞台の上に登る。

 部舞台の上から見た景色はとても険しいものだった。そう、このステージはいちばん過酷と言われているステージ。ここでは何人もの実力者が本気を出せずに敗北して行ったのだ。

 真はそれを見て顔を顰めて見せた。真は山岳の戦闘はあまり得意じゃないというのに、それより険しいものを見てしまったからだ。

 

「真。本当に刀を手に取らなくて良いの? 武器の持ち込みは許可されているよ」

 

 こいしは煽るように聞いた。それに対して真は「ああ、大丈夫だ」と返した。

 真はこいしに合わせて武器無しで戦うつもりなのだ。

 それに対してこいしは少しの苛立ちを覚えた。何やら舐められているような気がしたのだ。

 最初は自分が守る側だったのに、いつの間にか守られる側になっていた。その事を考えてこいしは少し寂しさを感じていた。

 

『両者揃ったようです。それでは始めましょう』

 

 文の台詞で会場に緊張感が走る。

 二人にとっても初めて戦う相手で、負けられない戦いでもあるので他の人とは緊張感がまるで違うだろう。

 

『それでは、スタートっ!』

 

 その合図とともに二人は走り出した。




 はい!第94話終了

 次回は真対こいしです。

 今回のフィールド、山岳をどのように使って戦うのでしょうか。

 それでは!

 さようなら


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第94話 飛んでいけ

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 ついに始まった幻想郷決闘。今回の対戦カードは古明地 こいしVS海藤 真。
 そして、今回の部舞台は岩山に決定し、物凄い険しく、一番過酷なフィールドに決定した。

 そんなフィールドで二人はどのように戦うのか?



 それではどうぞ!


side音恩

 

「ねぇ、ねん君。もっと見やすい位置に行こうよ」

「面倒」

「えーだって、真さんとこいしさんの戦いだよ」

 

 僕は今、姉ちゃんたちに無理やり決闘を観戦しに連れてこられました。

 しかも、龍生さんまでいるので姉がもう一人増えた感じで気が滅入りそうです。真さんも苦労しているんですね……。

 

 それにしても、真さんとこいしさんの戦いか……。僕も地味に気になっているところはあるから、抵抗せずに着いてきた。

 二人は確か一度も戦ったことがなかったはず。その二人の戦いはどうなるか全く予想がつかない。

 

 理論だけで言ったら真さんが勝ちそうだが、こいしさんもなかなか強かったはずだし、何よりこのフィールドだ。

 足場がとても悪いこのフィールドでは走るだけでもかなりの体力を奪われる。そんなフィールドで長期戦なんかやったら妖怪で体力が上回っているこいしさんには勝てなくなる。これは短期決戦で決めたいところだな。

 

 そこで司会の文さんががスタートの合図を出した。それと同時に二人は走り出す。

 どちらも今回は肉弾戦。それに加えて三発のスペルカード。それで勝敗が決まる。

 

 まずはスペルカードを温存して二人は拳をぶつけ合った。筋力は互角のようだ。妖怪のこいしさんはかなりの筋力もあるようで、最近は筋トレバカと化している真さんと互角の殴り合いをしている。

 

 そこで真さんは一旦距離を置くために後方へバックステップ。しかし、こいしさんは逃がさないとばかりに真さんが逃げた分だけこいしさんも距離を詰める。

 真さんは剣を持たない場合、遠距離が強くなる。主に遠距離タイプのスペカの使い手だからだ。

 その事はこいしさんが一番わかっているからだろうか。絶対に距離は取らせないとばかりにベタ付けをしている。

 

 妖怪だからか近距離での殴り合いはこいしさんに分があるだろう。その証拠に真さんはなかなか厳しそうな表情をしている。

 だが、真さんには奥の手として霊力刀がある。そろそろ使ってくるだろう。

 

 そう思って見ているとこいしさんのパンチを普通に腕でガードして受けた。

 ここら辺で使うかと思っていたら、まさかの使わなかった。もしかしたら真さんはこいしさんの得意な体術で勝つことによって認めてもらおうとしているのかも知れない。

 しかし、それはあまりにも無謀すぎる。なにせ、種族の差は超えることが出来ないのだから。

 

「どう? そろそろ降参した方がいいんじゃない?」

「いや、まだ大丈夫だ」

 

 すると、真さんは後ろに動きながら両手に弾幕を出し、強引に投げた。

 真さんの十八番、狙撃《スナイパー》だ。

 対するこいしさんは確かにこの近距離で遠距離技を使ったことに驚いたようだが、当たらない。

 このくらいの距離だと遠距離技を当てるのは遠距離に当てるよりも難しい。

 

 だが、その弾幕こそ当たらなかったものの、こいしさんが回避の動作を取ったその隙を突いて真さんは蹴りを放った。

 その蹴りもこいしさんはガードをして防ぐものの、強引に蹴り飛ばされ、かなり距離を取る事となってしまう。

 

 恐らく、この強引な弾幕も真さんがこいしさんの隙を突くために態と強引にはなった一発ってことだったのか? まさか作戦の内だったとは……真さんの頭の回転の速さは本当に尊敬するよ。

 そして、遠距離戦となったら真さんが強い。

 

 真さんは目の前に掌サイズの弾幕を作り出す。

 

「弾幕よ、飛んでいけ。狙撃《スナイパー》」

 

 そして真さんは手をでこぴんの掌が上のバージョンにして作り出した弾幕を弾いた。

 するとすごいスピードで飛んでいく弾幕。その速度の弾幕を放てるのはこの幻想郷を探しても真さんだけだろう。そのことを考えると真さんはやはり凄いと改めて思うが、それを軽々と避けるこいしさんも流石だ。

 

 そして、そのまま真さんに向かって走っていくと、もう一発真さんが放ったので横の方に跳んで回避する。

 このままではさっきと全く同じ展開に戻ってしまう。

 

 こいしさんは真さんの真横に来てジャンプし、エルボーを放つ。それを真さんは片手で防いで受け流した。

 確かに妖怪といえども体制を崩されるとさすがに力が思うように出せないようで、軽々と受け流されてしまった。

 

 するとこいしさんは体制を崩しそうになるが、そこはさすがと言うか体制を持ち直す。

 

「今のを受け流すんだね」

 

 そして横腹に蹴りを放ってくる。

 すると今度は何を思ったのか真さんは防ぐこともせずにその一撃を食らう。

 その次の真さんの行動を見て僕は目を見開いた。

 

 真さんは利用したのだ。こいしさんの強烈な蹴りを、そしてその勢いを利用して距離を取った。

 その作戦は一歩間違えれば敗北ルートまっしぐら。気を失って敗北か、勢いづきすぎて部舞台から落ちるかのどちらかだ。

 

 しかし、真さんはそのどちらになることも無く、距離を取ることに成功したのだ。その真さんの度胸にはさすがに感服してしまう。

 

 そして、今まで真さんの事を見続けてきたこいしさんですら呆れた様子だ。

 これが真さんのバトルスタイル。そう考えるとこいしさんが心配になるのも頷ける。

 

 だが、こんなに距離が離れると真さんのペースになってしまうんじゃ……。




 はい!第94話終了

 多分次回、決闘は終了します。

 それでは!

 さようなら


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第95話 力を見せて!

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 こいしと真の決闘を見に来た音恩たち。

 二人の決闘は白熱する。

 距離を取らせないこいしと距離を取りたい真の戦い。

 果たしてどちらが勝つのか!?



 それではどうぞ!


side真

 

 何とか距離を取る事ができた。しかし、この足場のせいで動きにくい。その中で走ったものだから急激に体力が削られてしまった。

 一度深呼吸をしてからその場にある石を手にして投げつけようとした、だがそこにはもうこいしはいなかった。

 

 この地形は岩山。かなり高さのある岩などもあるので敵を見失うのはあまり驚きの状況ではない。これが自然だ。

 さっきまでのラッシュが少しおかしかっただけだ。

 

 それにしても、こいしは俺の弱点を理解している。

 剣を持たない状態の俺は近接戦闘になるとかなり厳しくなってしまう。そこを突かれたのだろう。

 これが戦いでなければさすがこいしというところだが、俺の事を知り尽くしている相手との戦いほど厄介なものはない。

 

 果たして、どう戦うべきか。

 

 だが、俺は妖力を探知できる。直ぐにこいしの居場所を突き止めてみせる――なんだこれは

 至る所からこいしの妖力を感じる。

 という事はこいしは俺を錯乱するために至る所に弾幕を張り巡らせ、妖力のある場所を増やしている。

 

 なるほど、そこら辺に抜かりはないってことか……。

 

 でも、こいしは一つ忘れている。昔、俺は弾幕で戦っていたという事を。

 確かに少し苦手だが、やれないことはないっ!

 

 俺は手を左右に広げる。それと同時に俺の周りから弾幕が出現した。

 それも、俺がいつも使っているような単体の弾幕ではなくて、複数個出現した。

 

 位置が分からないならば(しらみ)潰しに当ててしまえばいい。

 しかし、俺の弾幕は単体が強いのであって、こんなに数を作ると威力が下がるのはもちろん、スピードも大分落ちてしまう。

 そう考えた俺は腕を広げた状態で回転し始める。

 

 しばらく回転すると、狙いが定まってきた。これで行けるっ!

 俺は回転している状態からジャンプして弾幕を全て叩いた。それも、ただ叩いたんじゃない。少しだけ狙撃『スナイパー』の力を込めて叩いたのだ。

 

 すると、俺の周囲に出現した弾幕はこいしの妖力のある方向全てに飛んでいく。

 先程の懸念であるスピードは申し分ないくらいに出ている。それに、威力だって周囲の岩山を破壊するほどの威力。

 これなら行けるっ!

 

 そう思ったのだが、俺は一つ大事なことを見落としていた。

 それはこいしの能力だ。

 こいしの能力を使えば妖力を探れないようにすることもできる。そして、今俺に感じさせている妖力はダミーだったのだ。

 全ての場所に当てたのだが、そのどこにもいなかった。

 

 嫌な予感がした俺は前方にジャンプして体を捻り、背後を向くと受け身の体制を取った。

 すると、俺の予感通りにこいしは背後から跳び膝蹴りをかましてきた。

 

 こいしは妖怪なのでかなりの力がある。そんなこいしの一撃をもろに腕でくらってしまったのだ。腕が痺れて、破壊されそうなくらいの衝撃が走った。

 まさかここで自分の能力を巧みに使ってくるとは思いもしなかった。

 

 だが、その【無意識を操る程度の能力】を使えるのはこいしだけではない。俺も一応、無意識を操れるのだ。

 つまり、こいしの手の内がわかってしまえばもうこいしの能力は効かない。

 

「真、もう降参したら? 私はまだまだ力を残しているよ。この状態で戦ってまだ勝つ気?」

 

 正直、こいしとの戦いでこの手は使いたくなかった。だが、こうなってしまっては仕方がない。あれをやるしかない。

 こいしは強かった。だけど……

 

「クレア発動……」

「ついに使ってきたね。クレア」

 

 このクレアを使うことによって観察眼が鋭くなり、動体視力も強化される。つまるところ超集中モードだ。

 そして、感情をコントロールして霊力内に込めることができる。なので、俺は少し威圧してみることにした。

 

 だが、この威圧の効果は何となく予想が着いていた。なにせ、今のこいしは無意識だ。そんなこいしに意識の攻撃が通じるとも思えない。

 そして、予想通りこいしは全く物怖じしていない態度でそこにいる。やっぱり厄介な相手らしい。

 相性的に悪すぎるのだ。

 

「じゃあ、真。私にそのクレアの力を見せて!」

 

 そうして走ってくるこいし。しかし、クレアを発動した今の俺は今までとは全く違う。

 こいしの動きを事細かに観察して次にどういう動きをするのかを予測する。

 

 こいしは俺の前まで来ると何発もパンチを放ってくるが、俺はその全てを捌く。クレアを発動した俺にとっては朝飯前とも言えるだろう。

 そして、蹴りを放ってきた瞬間に俺は横に回避。こいしの背後を取った。

 

 そこで俺は回し蹴りを放つ。すると、こいしはあまりの速さに反応できなかったのか脇腹にもろに俺の回し蹴りを食らう。

 その反動で吹っ飛び、運良くも岩山に激突して場外は免れる。

 

 しかし、今の一撃はかなり効いたようでフラフラしながらその場に立つ。

 だが、こいしの目はまだ諦めていない。このクレアの力を見ても、まだこいしは勝つ方法があると考えている。もしかしたらそれは何が最後の秘策のようなものなのかもしれない。

 だが、この状態から勝つなんてそうそう出来ないはずだ。

 

 そう思って一歩踏み出したその瞬間だった。一瞬、こいしがニヤリと笑ったのが見えた。

 すると、急に俺の足元が光り始めた。しかもかなりの広範囲。これは避けることが出来そうにない。

 

 俺は避けることを諦め、足元から放出されたレーザーに飲み込まれた。




 はい!第95話終了

 真とこいしの決闘、結構長いですね。ですが、恐らく次回、決着が着きます。

 それでは!

 さようなら


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第96話 勝者は

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 ついに距離を取る事ができた真だが、こいしは直ぐに姿をくらましてしまった。

 妖力を探ってみると沢山の所にこいしの妖力を感じた真は、その打開策として苦手な弾幕をオリジナルの方法で欠点を克服して使用し、何とか見つけ出そうと図る。

 しかし、それは罠だった。どこにもこいしはいなかったのである。

 そこでこいしに不意打ちをくらってしまった真は何とかこらえるも、特大のレーザーに直撃してしまったのであった。

 果たして真はどうなってしまったのか?



 それではどうぞ!


side音恩

 

 真さんがレーザーに飲み込まれた。

 まさかこんな奥の手をこいしさんが用意しているとは誰も思っていなかったようで、会場全体が騒然としている。

 多分、あのこいしさんのことだから、死ぬほどの威力は無いとは思うが、さすがの真さんもこの威力で無事では居られないはずだ。

 

 空を突き抜け、どこまでも伸びていくレーザー。しかも極太ときた。

 恐らくあれを避けることが出来るのは、幻想郷最速と言われている文さんだけだろう

 

 あれにはかなりの妖力が込められており、恐らくこいしさんはあの技に全妖力を使ったのだ。しかし、そんなことをすれば避けられたり耐えられた時に対処のしようがない。だからこの機会を伺っていたのだろう。

 

 真さんが直ぐに行動出来ない、尚且つ耐えられるほどの体力のないこのタイミング。大技を放つとしては絶好のタイミングだ。

 

 やっぱりこいしさんは真さんの事をよく知っている。バトル開始直後にこんな大技を放ったら、確実に真さんの能力である【致命傷を受けない程度の能力】に引っかかってしまって確実に耐えられる。

 こいしさんは妖怪としての戦闘能力だけでなく、今まで見てきた真さんの戦いの中から、戦略というものを盗んだのか。

 

 このレーザーを見た瞬間、会場の誰もが勝負は決した。この勝負はこいしさんの勝利だと確信した。

 しかし、いつの間にか近くに来て観戦していたライトさんは、そう話している観客の事を鼻で笑っていた。その様子はまるで「お前らは何も分かっていない」とでも言いたげな様子だった。

 

 だが、あの様子ではどう考えても助かることは出来ないだろう。

 引っかかるのは真さんの【都合の良い状況を作り出す程度の能力】ってところだが、この状況からどんな好都合なことが起きても助かる気がしない。

 なら、ライトさんはどういう結果を予想しているんだ? もしかしてあの状況を打開することが出来るっていうのか?

 

 その時、急に地震が発生した。

 この幻想郷、滅多に地震が発生することは無いというのに急に大地が揺れ始め、突風が吹き荒れ始めた。

 しかし、妙だ。この風、若干だが霊力が混ざっているような気がする。しかも、今までに感じたことの無いほどに強烈な霊力だ。

 

 何が起こっていると言うんだ?

 

 そこで、レーザーの放出が止まった。その中から出てきたものを見て俺は信じられない光景を目撃したような気がした。

 

「うそ……だろ?」

 

 その中から出てきたのは、何やらオーラの出ている真だった。

 髪の毛はそのオーラによって若干浮き上がっているような形になっている。どう見てもさっきまでとは違う雰囲気だ。

 

 クレアとも、《限界突破(ブレイク・ザ・リミット)》とも違うような、初めて見る真の姿。

 

「真……なんでいつもいつも……私の言うことを聞いてくれないの!? いつも無茶するし、いつもいつも心配かけてっ!」

 

 すると、こいしさんは大量の弾幕を生成した。しかし、もう残りの妖力が少ないせいか、小さい弾幕しか作れていない。だが、こいしさんの弾幕ならそれでも充分にダメージを与えることが出来るだろう。

 そして、こいしさんは真さんにその弾幕を一斉に飛ばした。

 

 小さいものの、数で言ったら先程まで撃ち合っていた弾幕よりもずっと多い。これは避けきれない。

 すると、真さんはその弾幕に右掌を向けたと思ったら、その次の瞬間、その弾幕たちは消滅した。

 

 あれは真さんの《上書き》? いや《上書き》は《限界突破(ブレイク・ザ・リミット)》中じゃ無いと発動出来ないはずだ。

 それ程までに力が強化されているのか?

 

 確かあれもかなり神の存在に近づくことができるスペルカードだったはずだ。そうなれば、今の真は《限界突破(ブレイク・ザ・リミット)》と同じくらいに神の存在に近づいているということなのか?

 

「なんで……」

 

 こいしさんが絶望の表情を浮かべている。そして、ふと隣を見てみると、そこには神出鬼没の彼方さんが居た。

 その表情は険しいもので、どこか悲しそうな表情をしていた。

 

「また、ダメなの」

 

 その言葉に僕は引っかかった。またと言った。

 それがなんのことなのかは今の僕には分からないけど、一つ確実に言えることは今の真さんの身には物凄いことが起こっているということだ。

 

「なんで……いつもいつもっ!」

 

 言いながらどんどんと弾幕を作っては放つを繰り返すこいしさん。しかし、その弾幕は全部《上書き》によって消し去られてしまう。

 こいしさんの行為は半分やけくそだろう。

 

「いつもいつも……」

「確かに、俺はこいしの願いも大事だ。だが、それと同じくらいに幻想郷は大切なんだ……分かってくれ」

 

 真さんは深々と頭を下げた。

 今まで一度も真さんは無茶するなという願いを聞いてきたことが無い。もちろんこれからもそうなのだろう。

 こいしさんもそう考えたらしく、深々とため息を着いた。

 

 このまま行ってもこいしさんの負け、言うことは聞かせることは出来ない。そう感じたのだろうか、突然としてこいしさんは部舞台から飛び降りた。

 つまり、こいしさんは降参したのだ。

 

 そして、こいしさんは真さんの方を見て一言、呟いた。

 

「絶対に死なないでね」

 

『この決闘、勝者は海藤 真!』

 

 文さんのその言葉とともにオーラを消した真さんはその場に力尽きるように倒れた。




 はい!第96話終了

 このこいしとの決闘編はどうでしたかね。正直、あまり上手く書けた気はしませんが、個人的には大満足です。

 少し前からここら辺の構想はしていたので、ずっとこの話を描きたくてうずうずしていました。

 それでは!

 さようなら


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第97話 何も知らないくせに……

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 真とこいしの決闘。お互いの策がぶつかり合い、白熱した戦いとなっていたが、その戦いも突然終わりを告げた。
 こいしは降参したのだ。このまま行っても真には勝てないと判断したのだ。

 そして、真の勝利――だったのだが、真は力尽きてしまって、その場に倒れ込んでしまった。



 それではどうぞ!


side真

 

「ん?」

 

 俺は目を覚ました。すると、俺の目の前には天井が存在した。しかもこの天井は見た事のある天井、そしてあまりいい思い出のある天井ではない。

 永遠亭の天井だ。

 

 確か俺はこいしと決闘していて、力尽きて倒れてしまったんだったよな。

 

 それにしてもあの力はなんだったんだろう。

 こいしに追い詰められた瞬間、力が湧いてきたのだ。多分それは勝たなければいけないという意思が発動させたのだろう。

 しかし、あれは俺の使えるどのクレアよりも強化倍率が高く、そして若干《限界突破(ブレイク・ザ・リミット)》と似たような基質を感じたが、どちらかと言えばクレアの方が近い力を感じた。

 

 確か《限界突破》は神の領域の技、つまりあの力は神の力に通ずるものがあるのか?

 今度、しっかりと彼方に聞いてみる必要がありそうだ。

 

 俺は体を起こす。もう完全に動けるくらいまで回復したようだ。さすが永琳先生と言ったところだろう。

 体を動かしても全く痛みを感じない。

 

 その時だった。目の前の空間が急に割れたのだ。この力はスキマ。そして、その中から出てきたのは、金髪の女性、八雲 紫だった。

 

「あら、元気そうね」

「あぁ、永琳先生の薬はすごいな」

「そうね。だけど、それよりも凄まじいのはあなたの回復力なんだけどね。あなたは単細胞生物の道を歩み始めているのではないかしら」

「つまりあなたは俺がアメーバの様になるかもしれないと?」

「可能性としてはゼロではないわ」

 

 ぐ、反論が出来ない。

 確かに俺の回復能力は尋常じゃないけれど、俺の肉片からまた新たな俺が出来上がるなんて普通に嫌なんだけど……。

 まだ、フランの《フォーオブアカインド》のようなスペルならまだしも……俺が増殖するなんて気持ち悪すぎるだろ。

 

「そういえば、真、あなたは決闘中に新たな力を使っていたようだけど……あの力は知らなかったわ」

 

 紫には一切俺の技の事は言っていないが、紫の情報収集能力をもってしたら、それくらいの情報を集まるのは朝飯前なのだろう。だから、他の技は知られているはずだ。

 しかし、あの技が出てきたのは俺も予想外の出来事だった。正直、あのタイミングであの力が出てこなかったら負けていただろう。

 

「あの技は……俺も予想外だったんだ。あの技は知らない」

「そうなのね」

 

 紫のことだからもっと聞いてくるかと思ったら意外と直ぐに引き下がってくれた。

 でも、これ以上粘られても知らないものは知らないんだから答えられるものなんて無いけどな。

 

 すると、もう一つのスキマも俺たちの前に出現した。

 今日はどうやらスキマ感謝デーらしい。どいつもこいつも正面から入ってくるんじゃなくて、スキマで入ってくる。

 その中から出てきたのは――彼方だった。

 

「彼方、スキマを使えたのか」

「神として当然」

 

 神だったら当然の力なのか……つまり、その理論だったら紅蓮も使えるのかな?

 うちの神様は使えないようだけどな。

 

「そうだ、彼方様。決闘で真が使った力、なんなのか知らないかしら?」

「え、その……し、知らないかな〜」

 

 十中八九嘘だ。

 この白々しい態度、それを見ていたら一目で嘘だという事がわかった。

 でも、なんでこのタイミングで彼方は嘘をついたのだろうか。その事が気になるが、それは紫も同じようだ。

 

 そして、紫の性格上、危険になりそうなものはとことん追求する。

 紫は彼方の態度を見て、危険そうだと判断したのだろう。

 

「知っているのでしょう? もう一度聞くわ……教えてくれないかしら」

「だから、知らないと」

「あなたの目を見ていればわかるわ。それは嘘だって、ねぇどうしてもダメなのかしら」

「……」

 

 そこで彼方は黙りこくってしまった。

 俺は彼方の表情を見る。すると、悲しそうな表情をしていたので、このことを追求するのは果たしていい事なのか疑問を抱き始めた。

 

「知っているなら――」

「黙れっ!」

 

 その瞬間だった。大気が揺れ、空間にヒビが入ってしまった。

 その日々は直ぐに修復されるが、その声には確かな怒りが入っていた。もうこれ以上追求するなと言わんばかりの怒りに、さすがの紫も怯んでしまって、動けなくなってしまった。

 

「何も知らないくせに……」

 

 とても小さな声、だが確かに俺の耳には届いていた。

 恐らく何かがあったのだろう。だから、彼方はあんなに嫌がっているのだ。

 

「じゃあね、真。元気でね」

 

 それだけ言い残すと彼方は直ぐにスキマを開いてどこかに行ってしまった。

 事情を知らなかったとはいえ、大変悪いことをしてしまった。今度あった時は何か飯でも奢ってあげようか。

 

「でも、気になるわね。その力」

 

 あれほどの怒りを目にしてまだ諦めていない様子の紫。その紫を見て俺は呆れてしまう。

 

「とりあえずお大事に」

 

 そして、紫もスキマに入って行ってしまった。

 


 

side彼方

 

 私には助けたい存在がいる。それは、命を投げ打ってでも助けたい存在だ。

 しかし、いつも助けることは出来ない。

 

 どうしたらいいのか、どうすれば助けることが出来るのか。そんなことを探っていたらもうかなりの時間が経ってた。

 

 もうすぐ運命の時が来る。そう確信したのはあの決闘のときだ。真が王の力を手に入れてしまったら、もう助けようがなくなってしまう。それだけは阻止しなくてはならない。

 

 そのためには紫の存在が厄介となる。

 紫は幻想郷の為ならば、どんな人が犠牲になってもいいと考えている。そのため、なぜ隠すのかの理由を説明しても、バレた瞬間に真に言って使わせようとするだろう。

 

 嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。

 

 でも、例え助けられなかったとしても、私は諦めない。

 何度やり直すこ(・・・・・・・)とになろうと(・・・・・・)、絶対に助けてみせる。




 はい!第97話終了

 最後のシーンに少し意味深なシーンを書いてみました。さて、どうなってしまうのでしょうか。

 それでは!

 さようなら


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第98話 真の思いとこいしの思い

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 病院で目が覚めた真。そこに紫がやってきた。

 紫は真に決闘中に使った力のことを聞くが、真はその力について全く知らないので、何も言えずにいた。

 そこにもう一人、彼方が来た。そこで、彼方なら何か知っていると踏んだ紫は彼方に聞くことにした。

 すると、何か様子がおかしくなった彼方は怒ってその場を後にしてしまった。



 それではどうぞ!


side真

 

 紫が帰ってから少し経った。

 そして、その間俺はずっと彼方のことを考えていた。

 

 なにせ、紫の質問に対して異常に反応した上に、何やら様子がおかしくなってしまっていた。若干怒鳴っている様子だったし、恐らくあの力のことは知っているのだろうが、何かがあるのだろう。

 まぁ、確かにあの力を使えたらものすごく強くなれそうだし、教えてもらいたいというところはある。

 

 だが、彼方のことも考えるとそれはいいのか悪いのかわからなくなってくる。

 俺にとってはあれを使えたらみんなを守りやすくなるから使えるようになりたい。だが、彼方のあの様子だと使えるようになって欲しく無さそうだ。

 

 そんな感じで悩んでいると、今度は正規の入口から一人の人物が入って来た。

 

「あら、目が覚めたのね」

「あ、永琳先生」

 

 久しぶりに永琳先生とあった気がする。最近はこの妖怪の治癒力のおかげで永遠亭に来なくて良くなっていたので、あまり来ていない。

 今回は多分霊力の枯渇かなんかだろう。

 

「あなた、霊力が枯渇していたわよ」

 

 やっぱり霊力が枯渇していたらしい。まぁ。あれだけ派手に戦えば霊力も枯渇するか。

 

「それと、あなたにお客さんよ」

「客?」

 

 そう言って入ってきたのは、緑の服を来た少女。こいしだった。

 こいしは少しバツの悪そうな表情をしている。そんなこいしに対して俺はなんで言葉をかけるべきか。そう考えて出てきた言葉が――

 

「こいしが倒れなくて良かった」

「え?」

 

 倒れたのが俺だけでよかった。

 使用妖力を見たらこいしだって倒れてもおかしくなかったのだ。だが、それが俺だけで本当に良かった。

 まぁ、俺に関してはあの力を使ったせいで余計に霊力を使用してしまったというのはあるだろうな。

 

もう……今そんな優しい言葉を投げかけられたら、笑顔で送り出せなくなっちゃうじゃん

「ん? 何か言ったか?」

「なんでもない」

 

 すると、こいしは一枚の紙を取り出して俺に見せてきた。その紙を見てみると、何やら大きく見出しが書いてあった。

 

『海藤真。送迎会開催』

 

 多分例の文屋の仕業だろう。宴会のようにするつもりらしい。まぁ、元々はそんなのをやるつもりはなく、直ぐに行くつもりだったが、どうやら送迎会を執り行うらしい。

 別にそこまでしてくれなくてもいいのにな。とも思ったが、多分この幻想郷には宴会が好きな人が大勢いるから宴会形式にして送り出したかったんだろうなと勝手に解釈しておくことにする。

 

 期日は明日らしい。かなり急だな。俺が目を覚まさなかったらどうしたんだよ。

 

「まぁ、あなたを明日には退院させようと思っていたからね」

「目を覚まさなかったらどうしたんだよ」

「その時は……丁度、試してみたい薬があったのよね。ふふふ」

 

 今、これほどまでに目が覚めてよかったと思ったことはなかった。多分、この人は俺のことをモルモットとしか思っていないのだろう。

 まぁ、でも一人でひっそりと地獄に向かうよりもみんなに送って貰えた方が、俺としても嬉しい。なので、この宴会には賛成だ。

 

「じゃあ、このことを伝えに来ただけだから」

「あぁ、そうか。じゃあ、また明日な」

「うん」

 

 そしてこいしは病室を出ていった。その後ろ姿はやはり無理している感があった。

 こいしとしてはやはり行って欲しくないのだろう。だが、無理して送り出そうとしている。

 こうなったら俺も全力で生きて帰ってこないとダメだな。今までこいしの願いを聞いてこなかったんだ。だから今度の『死なないで』という願いだけは絶対に叶えないと。

 

 しかし、相手はあのパラレルワールドの俺だ。かなり手ごわい相手だろう。

 多分、時系列的には俺よりも先に行っているだろう。つまり、俺よりも戦闘経験は豊富だ。

 その上、あっちの世界でのみんなの力を奪ってきていると来たものだ。さて、どう戦うのがいいのだろう。

 

 前のように崩壊は使うことが出来ない。なにせ、あの力はこいしと力を合わせないと使うことが出来ない。

 

 つまり、今度の戦いは俺だけの力で……全てを終わらせなくてはならない。

 大丈夫だ。今の俺は色々な人に修行をつけてもらって強くなっているはずだ。

 

 妖忌さん。彼方。幽香さん……にはそんなに修行つけてもらっていないけど、今の俺はみんなの力が見に着いている。

 今度こそあいつに勝って……。

 


 

sideこいし

 

 私は真に伝えることだけ伝えて病室を後にした。

 

 みんなはもう切り替えて真を送り出そうと準備を進めている。だけど、私は全然そんな気になれなかった。

 いつも無茶をする真。しかし、そんな真でもいつも何とかする。だけど、今回は格が違う。パラレル真だ。

 あいつとは以前に戦ったことがあるからわかる。あいつは信徒は格が違うくらいに強い。どんな修行を積めばあそこまでなれるのかが知りたいくらいだ。

 

 だから、今回ばかりは死んでしまうんじゃないかと恐ろしくなってしまう。

 

「行かないで欲しい……よぉ」

 

 ついには泣き崩れてしまった。

 真の前では泣かないようにしていたけど、もう限界だった。泣かずにはいられなかった。

 溢れてくる涙。もう止まらない嗚咽。それらを零しながら私は永遠亭を後にした。




 はい!第98話終了

 次回、宴会編です。

 こいしは泣き崩れてしまいましたが、本人の前で涙を流さないなんてかなり強いですよね。

 でも、大切な人にはそんな戦場に行って欲しくないというのは当然の感情ですよね。

 それでは!

 さようなら


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第99話 羞恥心なんて捨ててやる

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 今度、真の病室に入ってきたのは永琳とこいしだった。

 こいしは真に送迎会の宴会の予告をしに来たのだ。

 そして、たんたんと何事も無かったように真の前では振る舞うが、こいしはもう限界が来てしまい、一人で泣いてしまう。

 やはり、真には行って欲しくないのだ。



 それではどうぞ!


side真

 

「お世話になりました」

「ええ、もう来ないことを祈るわ」

 

 また来たら俺が無茶をしたということになる。だから、この言葉は冷たいように聞こえるが、多分俺を気遣っての言葉なのだろう。もう無茶はあまりするなと。

 まぁ、それを守れるかは分からないけど、

 

「まぁ、善処します」

 

 こいしにもあまり心配はかけたくないしね。今回のことは仕方がないとして、この一件が終わったらすこし、戦闘の方から離れてもいいだろう。だいぶ疲れてしまったし、この幻想郷にはライトや燐火、それに龍生や音恩だって居る。

 俺が少し休んでいる間は彼らが何とかしてくれるだろう。それに、霊夢もかなりの強さだ。

 《無想転生》を使っている霊夢には俺は勝てる気がしない。

 

「それじゃ、気をつけなさいよ」

「分かりました」

 

 今日、俺の送迎会があるらしい。そのタイミングに合わせて俺は退院した。

 俺の回復能力は凄まじいらしく、どうやらもう既に激しい運動をしても大丈夫なくらいまで回復していると言うので、これで安心して地獄に向かうことが出来る。

 

 でも、そのことについてこいしは不安を感じているはずだ。その不安をどうにかして取り払ってあげたいものだが……。

 そんなことを考えながらまずは人里に向かう。

 

 もう少し時間があるので、少し人里を見て回ってもバチは当たらないだろう。

 この人里には本当に色々なものがある。

 地底にいた時も、確かに地底にも色々あるが、人里の方が品ぞろえがいいので、結構人里で調達していたりもした。まぁ、屋台の食材なんかは地底で買ったらバレるかもしれないので、毎回人里で買っていたというのもある。

 

 そんな訳で、人里を物色していると、とある気になるものを発見した。

 そして、それを見た俺は人目もはばからずに叫んでしまった。

 

「これだっ!!」

 

 この瞬間、周囲から俺へ痛い視線が飛んできたのは言うまでもないだろう。

 


 

 送迎会の時間。この宴会の参加者は全員博麗神社に集まっていた。いつもの宴会とあまり変わらない雰囲気だ。

 一つ違うのは、これは異変の解決を祝うものではなく、俺を送り出すための宴会であるというものだ。

 

 かなりの人数がいた。その中でも、霊夢がみんなの中心となっていた。やはり霊夢は人望があるようだ。

 そんなのを横目で俺はある人たちを探していた。それはもちろん、地霊殿の人達だ。

 

 多分、みんなもこの宴会に参加していることだろう。まぁ、こいしはどうかは分からないけど、恐らく龍生くらいは居る。

 まぁ、今は地霊殿組と言ってもいいのか分からないけどな。言うとしたら紅魔館組になるのかもしれない。

 

 そして俺はポケットに手を突っ込むととあるものがあるのを確認する。

 

「よし、大丈夫だ」

 

 無意識に落としていたら大変なので、こまめに確認するほど、心配になってしまうものなのだ。

 なにせ、これが俺にとって今日の一大イベントなのだ。

 

 かなり緊張する。心臓がうるさくて、周囲に響き渡っているんじゃないかと思うほどだ。

 

 そんな感じに共同不振でみんなを探していると、奥の方でみんなを見かけた。

 駆け寄ると、こいしは暗い表情で俯いていて、みんなもお通夜ムードとなっていた。正直、大切な人でも死んだのかと思うほどの雰囲気を出しているため、正直入って行きづらい。

 

「こいし、大丈夫よ。いつも真は生きて帰ってきたじゃない」

「そういう問題じゃないよ……だって今回のは格が違うもん」

 

 正直、俺も不安だ。俺がパラレルワールドの俺に勝てるのかどうか。

 あいつの力は俺も戦って痛いほど味わった。そして、あの力にはまだ及んでいない気がする。

 確かに、俺たちは地上で妖怪たちを倒してパラレルワールドの俺を弱体化させたのかもしれない。だけど、本当にこれで俺が勝てるのか?

 

 正直、あそこからあいつも修行していたのだとしたら勝ち目なんて……でも、ここで俺が暗くなっても仕方がない。

 

「よ、みんな」

『真っ』

 

 一斉に俺に気がついたようで、こっちに顔を向けた。

 だが、ただ一人、俺に顔を向けずにそっぽを向いてしまった人がいる。

 

「こいし、どうしたんだ?」

「なんでもない」

 

 声が震えている。泣いているのだろう。そんな顔を俺に見せたくないと言ったところか。

 どうしようか。この状況、こいしを安心させてやりたいんだけどな……俺も正直不安だからどう声をかけるべきなのだろうか。

 

 いや、不安を拭えるかもしれないものが一つだけある。本当はここでやるつもりはなかったんだが、こいしの不安を拭えるかもしれないなら羞恥心なんて捨ててやる。

 

 今から言うのは俺が地獄に行ってしまってもう帰って来れなくなる可能性がるからでは無い。

 必ず帰ってくるという意思表示だっ!

 

「こいし」

「ふぇ?」

 

 俺が急に手を取ってこいしの体をこちらへ向ける。すると釣られてこいしは俺の方を向いた。

 そんなこいしと面と向き合うと、かなり緊張してきた。

 しかも、こんなに大人数がいる中でだ。そして、俺が大声でこいしの名前を呼んだせいでみんなこちらを見てしまった。

 こいしの注意を引くためとはいえ、これはきついものがある。だが、俺は止めない。こいしの為ならば羞恥心を殺すと決めたからだ。

 

 そして、俺はこいしの手を強く握りしめ、言い放った。

 

「結婚してくれ」




 はい!第99話終了

 ついに書きたかったシーンがかけましたよ。

 各章、大体の構図はできているので、このシーンを書きたいと前々から計画していたんですよね。そして、やっと今回書けました。

 それと、計画していたということなので、少しこの先のネタバレをすると地獄に行ったら暫くほのぼのとした日常編は恐らくないと思われます。かなりシリアスになるかと。
 なので、ほのぼのとした話が好きな人は今のうちに楽しんでいただけるとありがたいです。

 まぁ、もしかしたら予定が変わって日常編が入るかもしれないので、その時は日常編をお楽しみくださいということで。

 それでは!

 さようなら


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第100話 約束

 はい!どうもみなさん!ミズヤです

 ついに記念すべき第100話です。前作は100話で終わったので、今作は前作よりも長くなりましたね。

 まぁ、まだまだ続く予定なので、楽しみにしていてください。



 それでは前回のあらすじ

 宴会にやってきた真。そこで真はこいしがかなり落ち込んでいる姿が目に入る。

 どうやって不安を取り除くかと考えた末に真がたどり着いた答えとは?

「こいし、結婚してくれ」



 それではどうぞ!


side真

 

「結婚してくれ」

 

 俺はこいしに対してそう言い放った。

 そんな俺の言葉を聞いたこいしの反応は――

 

「え、え、……え?」

 

 事態が読み込めず、おろおろと挙動不審になっていた。俺の台詞はかなりこいしを驚かせてしまったようだ。

 だが、俺はこの場で言うことを選んだのだ。必ず帰ってくると意思表示をするために。

 

 そして、俺はおろおろとしているこいしを他所にポケットから小さい箱を取りだした。

 周囲がこの箱を見た瞬間、勘づいたようで黄色い声援が飛んできている。ここには女子が多いので恋愛沙汰が好きな人が多いのだろう。

 

 そして、こいしに差し出してその箱を開くと、その中には綺麗な宝石が付いた指輪が入っていた。

 それを見てさらにこいしは目を回してしまっている。どうやらこいしの頭はパンク寸前のようだ。

 だが、俺は続ける。

 

「俺はこの戦いに行って、こいし達の嫌いな無茶をまたすることになると思う。だけど勝ってくるから。勝って、帰ってくるから。これはその決意なんだ」

 

 こいしの手を再び取り、目を合わせる。

 すると、こいしも漸く元に戻ったようで、顔を真っ赤にして先程よりも涙目になっているような気がする。

 そのこいしを見て俺は少し狼狽えてしまう。なにせ、プロポーズをしたら泣き始めたのだから。

 

「えーと……どうして泣いているんだ?」

「だって……私不安で……行ってしまったらもう二度と帰って来ないんじゃないかって……」

「大丈夫だ。俺は帰ってくる。その決意なんだから」

 

 すると、こいしは頷いた。

 そして、箱を受け取るこいし。その箱を愛おしそうに抱きしめるとこいしは幸せそうに微笑んだ。

 

「うん。私も、結婚したい」

 

 その返事を聞いてホッとした。もしかしたら、無茶ばかりして言うことを聞かないから愛想をつかされるかもしれないと思っていたのだ。

 そして、そのこいしの返事を聞いた人達はさらに盛り上がって黄色い歓声が増えたような気がする。

 

 地霊殿メンバーは急な公開プロポーズに少し固まってしまっていた。ましてやさとりに関しては自分の妹が目の前でプロポーズをされたのだ思考停止してもおかしくはない。

 

「こいし、帰ってきたら俺と結婚しよう」

「うん……うん……」

 

 嬉しそうに頷いて俺に抱きついてくる。

 見てみると、さっきよりも大粒の涙を零していた。だが、その涙の意味は変わっていることに気がついた。

 哀から喜に変わったのだと。

 俺はそんなこいしを抱きしめ返す。周りに人が居るのなんて関係無かった。俺たちは二人の空間を作って抱きしめあった。

 

 だが、喜んでもらえてよかった。

 実は先程、人里に行った時にとある店を見つけたのだ。

 

 それは指輪専門店。アクセサリーとしても、そして結婚指輪としても人気ということなので、今回は婚約指輪として、その店で指輪を購入した。

 戻ってきて、結婚する時にはまた別の指輪を購入するつもりだ。

 

 最近、寺子屋の教師をしていたが、その収入で何とか指輪を買う金が貯まったのだ。

 ちなみに、屋台をしていたのもこの金を集めるためだったのだ。だから誰にも言えなかった。

 

「ねぇ、真」

「なんだ?」

「このまま手を繋いでいてもいい?」

 

 ものすごく可愛いお願いが飛んできた。こいしは地獄に行く前に俺をここで殺すつもりなのだろうか? 危うく、こいしが可愛すぎて死んでしまうところだった。

 もちろん、この願いを断るわけがない。

 

「いいぞ」

 

 そう返事すると「えへへ」という可愛らしい声を出して笑った。このままだと俺が悶え死ぬ。

 そんなやり取りをしていると、俺の前に一人の人物がやってきた。

 

「お前ら、やっとか」

 

 そう言ってきたのは龍生だった。

 他のメンバーを見てみると、一人だけヤバいやつがいらっしゃった。

 なんで呟いているのかは知らないけど、パソコンを構えながら目を血走らせている人がいる。というか、目に歯車が一つ浮かんでいる。あれはやばいな。

 そんなことを考えながらそいつを見ていると、姉にチョップされて運ばれて行った。まぁ、あいつを野放しにしたら問題が発生するかもしれないからな。

 

「はぁ、まぁ、これで全員かしら」

 

 霊夢が溜息をつきながら宴会場のステージに立った。

 いつもは殆ど魔理沙が音頭を取るのに珍しいなと魔理沙を探してみると霊夢の近くで顔を真っ赤にして倒れていた。

 それを見て俺は直ぐに原因がわかった。

 

 恐らく俺らが原因だ。多分、純情魔理ちゃんだったのだろう。俺らの告白と若干イチャイチャしていたのを見て倒れてしまったのだろう。

 

「まぁ、そんな訳で、今回は今公開プロポーズをしたそこの海藤 真の送迎会よ。真はこれからものすごく大変な戦いに行くことになる。そこで、みんなで笑顔で送り出して元気をつけようと言うのが今回の趣旨よ。と魔理沙が言っていたわ」

 

 最後の言葉で台無しだ!

 

「まぁ、そんな訳で今日はみんなで飲むわよ、乾杯っ!」

『乾杯っ!』

 

 霊夢の気だるそうな音頭で俺の送迎会が始まった。

 直ぐに俺は鬼たちに絡まれてしまい酒をたっぷりと飲まされてしまうのだが、何故か酒にめっぽう強い鬼たちに飲み比べで勝ってしまうのはまた別のお話。




 はい!第100話終了

 毎週火曜日投稿で何とか100話まで辿り着きましたね。かなりの時間がかかりましたが、ついに100話ですよ。

 そして、次回ですね。ついに地獄に行きたいと思っております。
 今回と次回きりで暫くほのぼのとした雰囲気はないと思ってください。

 この章が終わったあともまだ話は続くんですが、次の章はかなりシリアス多めで考えております。

 そして、今回は無意識の恋が100話を突破してめでたいということで、今日の夜7時に無意識の恋の特別編を公開致します。
 これを読まないと本編を理解できないというわけではございません。ただ、少しの補足と考えてくだされば。
 読めば本編をより楽しめるというのは保証します。

 まぁ、言ってしまえば過去編ですね。
 で、いくつか描きたいと思っている過去編があるんですが、今回はまずは本編の方でもちらりとしか紹介されていない過去、燐火の過去になります。

 ジーラの元で働くことになった経緯はどのようなものなのでしょうか。

 それでは!

 さようなら


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第101話 死を乗り越えた先

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 真はこいしに結婚を申し込んだ。
 このタイミングでのプロポーズはもう言えなくなるかもしれないという焦燥感、という訳では無かった。

 必ず帰ってくるという意思表示だった。



 それではどうぞ!


side真

 

 霊夢の音頭で開始した宴会は夜遅くまで続いた。

 俺は次の日、直ぐに出発しようと考えていたので、そんなに遅くまで参加出来ないので途中で俺は抜けてもう睡眠を開始した。

 

 霊夢が泊めてくれると言っていたので、俺は別室を借りて睡眠を開始した。

 横目でちらっとこいしの方を見ると、俺との結婚の件でみんなにおもちゃにされていた。

 こちらに助けを求めるような視線を向けてきたけど、俺もどうしようもなかったので、気が付かなかったフリをしてこの別室に来た。

 

 そして、今日。ついに出発の時だ。

 

 まだ朝早いので、昨日ずっと飲んでいた人達は今頃ぐっすりの時間だ。

 なので、俺は一人でこの博麗神社を出る予定だった。

 

 まぁ、地霊殿組には一応俺の出発時間を伝えてあったので、起きている可能性があるなとは思っていたが――

 

「もういくんですね」

「あぁ」

 

 みんなが起きてきてやってきた。

 さとり、お燐、お空、龍生、優……。

 だが、その中にはこいしの姿が無かった。

 

 やはり、俺はこいしの言うことを聞かないで行くことにしたから、多分こいしは来てくれないのだろう。

 少し悲しいが、仕方がないことだろう。

 

「こいしとの約束、今度ばかりは破るんじゃねぇぞ」

「当たり前だ」

 

 今回の約束はやぶるイコール死だ。そのため絶対に破る訳には行かない。

 

「お兄ちゃん、頑張ってね」

「おう」

 

 そして、一通り応援の言葉を貰ったあと、俺たちはあの時戦った草原にきていた。

 そこは未だに戦いの後遺症が残っているようで、地面がかなり抉れてしまっていたり、草が焦げている部分もある。

 俺はそこで待ち合わせ(・・・・・)をしていた。

 

 俺は自分一人では地獄に行くことが出来ない。なので、迎えが必要だ。

 そして、今迎えに待っている人物。それは――

 

「お待たせしました」

「お願いします」

 

 ライトによるとロリっ子のように見えるけど実はすごく偉い人。四季 映姫・ヤマザナドゥと言うのだとか。

 閻魔様らしい。

 

 今回、俺を地獄に案内してくれる人物なのだとか。

 そんな人なので、かなりの緊張感が走る。

 

「海藤 真さん。今回あなたを地獄に案内します」

「はいっ」

「ですが、真さんをそのまま地獄に連れていくことはできません」

「え?」

 

 閻魔様のその言葉に俺は驚いてしまった。

 俺は直ぐに地獄に向かえるものだとばかり思っていたので、その展開は予想外だった。

 そして、その条件とやらを閻魔様は話し出したのだが、その内容を聞いて俺はさらに驚愕することになった。

 

「ライトさんは一回死んで、生き返らせているような状態です。つまり、死と生の狭間に立っているような状態なので、そのまま地獄に連れて行っても問題はありません。しかし、真さんは生きている人。そのため、そのまま地獄に連れていくとそれこそ世界の崩壊を招きかねません。なにせ、地獄は死者の世界なのですから」

 

 まぁ、確かに生きている人が地獄に行くのは問題があるというのは分からないでもない。

 でも、そしたらどうするというのだろうか。

 恐らく、閻魔様がここにいるということは俺を地獄に連れていくために来ているのだから、何か行く方法があるのだろう。

 だが、その方法が俺の想像を絶するものだった。

 

「一度死んでいただきます」

『え』

 

 全員、その言葉に対して困惑の声を漏らしてしまった。

 そして、固まってしまう。なにせ、死ねと言われたのだ。そりゃ困惑してしまう。

 確かに、死んだら地獄に行きやすくなるのだろう。だが、それをしてしまったらこいしとの約束を果たせない。俺は生きて帰ってきて結婚しなきゃ行けないんだ。

 

「死ぬなんて……出来るわけないだろ」

「人の話は最後まで聞くものですよ」

 

 どうやらまだ続きがあるようだ。

 

「真さんには仮死状態になって幽体離脱をしてもらいます」

「幽体離脱か……」

 

 確か、魂と肉体が分離する現象だったよな。

 言葉自体は聞いたことがあるが、まさか自分が体験することになろうとは夢にも思ってなかった。

 でも、仮死状態か……少し不安が残るな。

 

「大丈夫です。こっちにあるあなたの肉体は守り抜きますので」

 

 まぁ、守ると言ってもな……約半数が妖怪だしな。普通の感覚だったら、不安すぎて戦いどころでは無いところだ。

 でもこのメンバーは信用しているので、恐らく大丈夫だろうと考えて俺は覚悟を決める。

 

「分かりました」

「では、始めますよ」

 

 閻魔様は何もない空間の方へ手を向けると、何やらゲートのようなものが発生した。

 何やらそのゲートの内側では電気が放電されていて、中々威圧感を放っていた。何より、中が真っ暗だ。中にルーミアでも居るのかと思うほど真っ暗。

 

「この中を通りなさい」

「マジですか?」

「マジです」

 

 この中を通るのはかなりの勇気が必要だ。かなりの恐怖を煽るデザインのゲートを通り抜けろと言われても、中々足が動かない。

 でも、この先に行かないといけないんだよな。

 

 生唾をごくりと飲むと意を決してゲートの中に足を踏み入れようとしたその時、

 

「真っ!」

 

 遠くから俺を呼ぶ声が聞こえてきた。

 その声のする方向を見て俺はびっくりした。

 

 なにせ、その方向からは俺の今一番会いたかった人が飛んできているのだから。

 

「こい……し?」

 

 そう、こいしが飛んできていたのだった。

 その姿に呆気を取られていると、俺にタックルする気なんじゃないかと思うほどに勢いをつけて俺目掛けて飛んできていた。

 さすがにその光景に焦るが、それを束の間。その次の瞬間には別の意味で焦ることとなった。

 

 こいしは俺にタックルするかと思ったら、なんと俺の目の前で急停止。そして、顔だけ俺の方に近づけてきたのだ。

 そして、俺の頬に一瞬だけ何か柔らかいものが当たった感触。その感触を理解すると、俺の顔が熱くなってきてしまった。恐らく今の俺の顔は真っ赤になっていることだろう。

 

「頑張ってね」

 

 そう言うこいしの顔は真っ赤になっていた。

 そして、モジモジしたかと思ったら今度は俺の顔を真っ直ぐ見てこう言ってきた。

 

「行ってらっしゃい……あなた」

 

 言い終わってまたもやモジモジとし出すこいし。

 しかし、何か幸せそうに微笑んでいた。

 

 そうだ。俺はこの笑顔を守りたくて強さを求めていたんだ。

 この笑顔を守りたくて戦っているんだ。

 

 そんなこいしを見ていると勇気が湧いてくる。今の俺だったら臆することなくゲートの中に飛び込むことが出来るだろう。

 

「あぁ、行ってくる」

 

 そう言ってから俺は勢いよくゲートの中に飛び込んだ。

 その瞬間、俺の視界は暗転した。

 

 最後に聞こえた言葉は

 

「必ず生きて帰ってきてね」




 はい!第101話終了

 ついに、次回から地獄編ですよ。
 まぁ、そんなに地獄編はかからないと思います。

 さて、真はパラレルワールドの自分に勝つことは出来るのでしょうか。

 それでは!

 さようなら


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第102話 お前を止めるためだ

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 ついに旅立ちの日。真はみんなに黙って旅立とうとしたが、なんとみんなに見つかってしまい、結局見送られることに。

 地獄へ行くために閻魔である四季映姫が心を迎えにきた。しかし、見送りにきた人物の中にはこいしはいなかった。

 こいしに会いたかったという思いを募らせながらゲートを潜ろうとする真。その時だった。

 なんと、こいしが真のもとにやってきてそのまま頬にキスをした。

「行ってらっしゃい。あなた」

 その台詞を聞いた真は絶対に帰ってくると誓って地獄へと旅だったのだった。

「絶対に帰ってきてね」



 それではどうぞ!


side真

 

 瞼を開ける。すると、そこはこの世のものとは思えないような場所だった。いや、確かにここはこの世のものでは無い。

 なにせここは地獄なのだから。

 

 燃え盛る炎、溶岩、真っ黒な川。それら全てがここは異質な場所であるという事を示していた。

 その光景に俺は少し怖気付いてしまうものの、何とか勇気を振り絞って頬を叩き、気合を入れる。ここで俺が怖気付いてどうするんだ。

 この問題は俺の問題だ。俺が解決しないといけないんだ。

 

 それにしても見れば見るほどおどろおどろしい場所だ。確かにここは地獄と呼ぶにふさわしいものだ。

 でも、地獄というところに来るのは初めてという訳では無い。なにせ、前までずっと暮らしていた地霊殿。その建っていた場所は地底。所謂旧地獄と呼ばれていた場所だ。

 そう考えると少し気が楽になる。

 

「よし、とりあえずパラレルワールドの俺を探さなくてはならない」

 

 地獄は地上よりも面積は狭いらしいから直ぐに見つけることが出来るだろう。

 しかし、問題は思うように力が入らないということだ。恐らく仮死状態で幽体離脱して霊体となっているからだろう。そのせいでこの霊体の力を思うように扱えないのだ。

 

 とりあえず霊力刀を出してみることにする。すると、確かに作ることは出来た。出来たのだが、その霊力刀はあまりにも細く、弱々しいという印象が残った。

 だが、この状態ではパラレルワールドの俺と戦うなんて到底無謀すぎる。せめてこの霊体の体に慣れればいいのだが、そう簡単に慣れることが出来ない。

 

 歩くのも結構集中しないと直ぐに転びそうだ。いったいこの状態でどう戦えというのだろうか。

 だが、今ここで文句を言っていても仕方がない。とりあえずパラレルワールドの俺を探して歩いてみることとする。

 

 少し歩くとだいぶこの体にも慣れて来た。俺の【都合がいい状況を作り出す程度の能力】によるものだろう。

 それにしても、この地獄に居ると常人だったらかなり精神がすり減りそうだな。

 

 その時だった。

 遠くの方で爆発音のようなものが聞こえてきた。この音を聞いた瞬間、俺はこの音の正体に勘づいた。恐らくこの音の先に俺が探していた人物、パラレルワールドの俺がいる。

 そう確信して俺は走り出した。

 

 しかし、まだ俺はあんまりこの霊体の体になれていないせいか時折、躓きそうになる。だが、それでもこの事件を解決しようと必死に走っていく。

 そして、見つけた。

 

「おい!」

 

 俺は大声でこちらへ注意を向けるために呼びかける。すると、そいつはゆっくりとこちらを向いた。

 そいつは赤と青のオッドアイでこちらをじっと見てくる。間違いない。こいつがパラレルワールドの俺。

 

 空宙に浮いて弾幕をばらまいている。その姿からは以前よりも研ぎ澄まされた力を感じる。

 

「俺か。どうしてこんな所にいる」

「お前を止めるためだ」

「ほう? ……俺を止める、だと?」

 

 地面におりてくるパラレルワールドの俺。

 そして地面に落ちている石を手に取ると狙撃《スナイパー》で投げつけてきた。

 しかし、それが俺に当たることは無かった。俺の頬スレスレを通って飛んで行ったのだ。

 恐らく今のはこいつなりの忠告だろう。戦うんだとしたら容赦はしないぞという。

 

 だが、ここで帰る気はない。

 

「勝負だ。オレ!」

 


 

sideこいし

 

 真がゲートを通った瞬間、倒れてしまった。だけど、これは恐らく幽体離脱したということだろう。

 幽体離脱して霊体となった真は無事に地獄に行くことが出来たのかな?

 

 でも、少し不安がある。なにせ、幽体離脱して霊体だけとなってしまった。霊体の状態で上手く戦えるのかなど。

 

「よし、じゃあ、真の様子を見るわよ」

「え、見る?」

 

 すると、閻魔様は何やら水晶を取り出すと、その中に何か映像が映ってきた。

 その中には真の姿がある。

 

「これは地獄の様子を見るために作り出した地獄水晶。これがあれば地獄内のどこでも見ることができる」

 

 それでどうやら真の姿を映しているらしい。

 これで真の戦いを見ることができる。それはいいんだけど、見るだけじゃ不安が残ってしまう。なにせ、この水晶内で真がピンチになっていたとしても助けに行くことが出来ないのだから。

 

 でも、今は応援するしかない。だから真の無事を祈りながらその水晶に目を向ける。

 水晶内では既に私が懸念していたことの一つである。霊体を上手く操れないのかフラフラと歩いている真が水晶に映し出されていた。

 この様子を見てしまったら余計に不安になってしまう。多分、前の私だったら「私も行く」と暴れていたことだろう。

 だけど、今はこの指輪がある。真のくれたこの指輪。この指輪を見ているとなんだか安心できる。

 

 この指輪が真の事を守ってくれそうだと。

 

 すると、急に真が走り出した。恐らくパラレル真を見つけたのだろう。それによって走り出した。

 時折躓きそうになっているのが危なっかしい。だけど、何とか走ってたどり着いた先には――やはり居た。

 

 今回の異変の主犯である人物。

 真が着ている服の青バージョンのような服を着て青と赤のオッドアイの人物。パラレル真が。




 はい!第102話終了

 次回からパラレル真との対決です。

 以前よりも強くなった真ですが、果たして真はパラレル真に勝つことが出来るのでしょうか。

 それとリアルの都合にて来週の投稿はありません。次回は再来週となります。
 恐らく東方現代物語の方は問題なく投稿できるかと思います。もしかしたらこちらも来週の投稿は無くなるかもしれませんが。
 それと転生者は気まぐれ勇者も貯め描きが腐るほどあるので毎日投稿は継続です。

 それでは!

 さようなら


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第103話 自分から能力を奪ったことってあるか?

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 ついに地獄へ突入した真。そこにはやはりパラレル真が居た。

 そんな様子を地上組が映姫の持ってきた水晶で見守る。

 果たして真はパラレル真に勝利することができるのだろうか。



 それではどうぞ!


side真

 

「ほう、なおも俺にかかってくるというのか。俺に手も足も出なかった貴様が」

 

 確かにあの頃は手も足も出なかった。だが、今は違う。あの時とは違ってものすごい特訓を重ねてきた。

 妖忌さんには霊縛波を教わり、彼方にはクレア装を教えてもらった。

 

 恐らく未来の俺がああなったのはかなり早いタイミングだった。だから、俺のように色んな人に技を教えてもらうことなんてなかっただろう。

 独学だ。確かに独学であそこまで強くなり、終いには力神である紅蓮には勝てなかったものの、神にあそこまで渡り合えるほどの力を身につけた。

 そこにはものすごい苦労があっただろう。だが、一人で強くなれる力なんて上限があるはずだ。いつかは限界が来るはずだ。

 

 俺は今の今まで色々な人の力を借りて強くなってきた。あいつと俺の違いは助けてくれる仲間が居たかどうかってことだ。

 その点では俺は負けない!

 

「行くぞ、未来の俺!」

 

 俺は霊力刀を作り出して走り出した。

 対する未来の俺はポケットに手を突っ込んだまま俺の事を観察してきている。

 恐らく俺がどう来るのかを読んでいるのだろう。そして石を手に取った。俺の行動を先読みして直撃させる気だろう。しかし、そう簡単には捕まらない。

 

 俺は霊力刀を持っていない方の手で霊力の玉を作り出すとその玉を殴り飛ばした。

 その俺の行動に一瞬驚いた様子の未来の俺だったが、直ぐに避けるモーションに入った。しかし、この俺の弾幕からはなかなか逃れることは出来ないはずだ。なにせ、これは遠距離戦が苦手だという事を克服しようと思考錯誤した結果なんだからな。

 

「銃撃『拡散する一撃(ショットガン)』」

 

 すると、未来の俺の近くに霊力の玉が行くと、その周囲で玉が拡散し、四方八方に飛んでいく。

 そんな弾幕をいくら未来の俺といえども初見で躱し切る事が出来るはずもなく直撃した。

 

「ぐっ! これは」

「これは俺が最近作ったスペルカードだ。他人の力を当てにして戦っていた俺では作り出すことは出来ない独自のスペルカードだ」

 

 俺のスペルカードに狙撃《スナイパー》という遠距離技があるが、これは一発のみのため、かなり使いどころが難しいスペルカードだった。少しでもミスれば当たらない。

 しかし、このスペルカードはこのスナイパーの当てにくさという欠点を克服したスペルカードだ。ただ、拡散する分、威力はスナイパーよりも劣るが、ダメージを与えるには申し分ない威力だ。

 

 そして、このスペルカードはダーラを倒した後の世界線の俺、つまり俺自身が最近作りだしたスペルカードだ。

 さすがに違う未来の結果は同じにはならないだろう。つまり、このスペルカードは俺しか持っていない。

 

 今までの俺はこのパラレルワールドの俺の劣化版だった。だが、今回の俺は未来の俺と完全に区別できるほどの力を持っている。

 

「ほう……お前もお前で強くなってきたという事か……しかも俺にはないスペルカードまで……だが、」

 

 そこまで言うと未来の俺はにやりと口元を歪ませた。

 なんだろうか、嫌な予感がする。

 

「俺の能力は他人の技を奪う……能力だけではなく、スペルカードも例外じゃない。今までのお前は完全に俺の劣化版でしか無かったから力など奪わなくても良かったが、そのスペルカードは貰っておいて損はない」

「っ!? まさか!」

「その力、頂くぞ!」

 

 俺に手のひらをかざす未来の俺。その手のひらからはレーザーのようなものが放たれた。

 直感的にそのレーザーに当たったらまずいと判断した俺はそのレーザーを躱し、なるべく距離を取る。

 しかし、回避してもどんどんと俺の事を追ってくる。未来の俺が操作しているのだ。

 ホーミング性能こそないものの、操作しているのが未来の俺なので、回避するのもかなり厳しい。

 

「逃げても無駄だ。早く観念しろ」

 

 そう簡単に諦めてたまるかよ。

 この霊体にはまだ慣れていないからあんまり強い力は使いたくなかったが、使うしかないようだ。

 俺は霊力を操作し始める。

 

 走っているので、あんまり集中することは出来ないが、これだけ操れるのなら問題は無いだろう。

 

「クレア、発動!」

 

 俺はクレアを発動させ、強化した霊力の玉を未来の俺目掛けて放つ。

 すると、レーザーの方ばかり集中していた未来の俺は回避することが出来ずに直撃、一瞬苦痛の表情を浮かべたが、直ぐに笑顔になった。

 

「お前、クレアまで使えるのか。……面白い、これでお前から技を貰う理由がまだ一つ増えたぞ!」

 

 そうか、このクレアも最近、燐火と彼方から教わったものだ。つまり、未来の俺は教わる相手もいなかったから会得していないのか。

 ってことは、クレア無しにあの力を持っていたのかよ。一体、どれだけの人から能力を奪ってきたんだ?

 

「さぁさぁ、必死に逃げねぇと俺に能力を奪われるぞ?」

 

 まずい、恐らく俺と未来の俺の力は似ているから取られない技もあるかもしれないけど、あいつはショットガンとクレアにご執心だ。

 この二つを奪われてしまったら、もう勝ち目はないし、そこまで行ったら紅蓮だって未来の俺に勝てるかが怪しくなってくる。

 

 しかし、もう限界だ。あいつのレーザーから逃げ続けるのは……もう無理だ。

 

「ぐあああっ!」

 

 ついに俺はレーザーに直撃してしまった。

 そんな俺を見て未来の俺は不敵に笑った。

 

「これで俺は最強だ!」

 

 しかし、俺に全く身体的変化はなかった。

 能力を奪われるとか言っていたので、力が抜けていくのかと思ったが、全くそんな気配はない。

 不思議に思い、未来の俺を見ると未来の俺の顔に焦りが見えていた。

 

「なんで、奪えないんだ!」

 

 なんと、身体的変化がなかったのは、どうやら俺から能力を奪えていなかったかららしい。

 しかし、なんで能力を能力を奪えていないんだ?

 

 そこまで考えた時、俺は一つの可能性が頭に浮かんだ。

 

「お前、自分から能力を奪ったことってあるか?」

「自分から? んな事できるわけ――そういうことか!」

「そう、俺はお前自身。今言ったよな、自分から能力を奪うことは出来ないって……つまり、お前は能力を能力を奪うことは出来ない」




 はい!第103話終了

 衝撃の事実。真の力では今までは未来の真に勝つことは出来ないと思われて来ましたが、本当は未来の真の弱点とは真だったんですね。

 自分自身からは能力は奪えない。それは、例え別世界の自分だったとしても自分であることには変わりないということなんですね。

 この調子で未来の真の隙を突いて勝つことは出来るのでしょうか。

 それでは!

 さようなら


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第104話 この世から消えてしまいます

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 ついに始まった真対パラレル真。

 真が見せた拡散する一撃(ショットガン)とクレアを見たパラレル真は真から能力を奪うことを決意する。

 しかし、パラレル真は真から能力を奪うことは出来なかった。

 なぜなら真とパラレル真は同一人物だからだ。



 それではどうぞ!


sideこいし

 

 ついに真とパラレル真の戦いが始まった。

 

 すると、開始早々に真は霊力の玉を作り出した。恐らく近づかないで遠距離で攻撃しようという算段なのだろう。

 たしかに真のスナイパーで投げ飛ばしたら強いかもしれないけど、多分それじゃパラレル真には直撃することも無いだろう。

 

 そう思っていたら真は投げ飛ばすのではなく、殴り飛ばした。その事に一瞬パラレル真も驚いていた様子だったが、直ぐに我に返ると冷静に回避する。

 やはりパラレル真にはそんな攻撃は通用しない。そう思ったその時だった。

 

 なんと、真が殴り飛ばした霊力の玉が拡散されたのだ。

 あちこちの飛び散る弾幕。そんな弾幕を初見で回避することが出来るはずもなく、もろに直撃する。

 これは私も見た事のない真のスペルカード。これは恐らく、来たるパラレル真戦に向けて作ったのだろう。

 

 確かに、今新しく作ったスペルカードはパラレル真に効果覿面だろう。

 

 すると、今度は真に向かってパラレル真がレーザーのようなものを放出し始めた。

 

「まずいなありゃ」

 

 すると、いつの間にか来ていたライトが小さく呟いた。

 

「あれに当たると力を奪われるぞ」

 

 力を奪う? そういえば、パラレル真の能力は四つあったんだっけ。その中の一つに能力の略奪というものがあった。

 ということはあれに当たったら力を奪われてしまって勝ち目がなくなってしまう。

 

「ねぇ、閻魔様」

「なんでしょうか」

「真のあの状態はどうなっているの? 今は魂なんだよね」

「そうですね……ですが、死んでいる訳ではありません。生きています」

 

 そこで私は疑問を抱いた。

 生きているけど魂の状態。つまり、生きているってことは死ねるということと道理。

 その場合、真がこの状態で死んだらどうなるんだろう。

 

「真があの魂だけの状態で死んだらどうなるの?」

「そうですね。それはあまり考えたくないことです」

 

 閻魔様はとても険しい表情になった。つまり、かなり不味いのだろう。

 

「死んでしまったら、魂だけが死んでしまいます。すると、肉体は存在できなくなってしまい、この世から消えてしまいます。それと同時にその人物が生きていたという痕跡もなくなってしまうでしょう」

「え、それって……」

「全ての人の記憶から抹消され、歴史に穴が空いてしまうのです。その人が生きていたという事実だけが無くなってしまいます」

 

 確かにそれは最悪だ。

 私は真の事が好き。だから絶対に忘れたくない。だけど、真があの場所で死んでしまったら忘れたくなくても忘れてしまう?

 そんなのは嫌だ。

 

 想像をして私は涙が出てきてしまった。もしあの場所で真がパラレル真に負けてしまったら――

 もう二度と真の事を思い出すことも出来なくなる。真の事を思い出せずにその後を生きていく私。

 呑気な顔をして大切な想い人を思い出せなくて、そんなのは辛すぎる。

 

 でも、ここからじゃ何も出来ない。今は見守ることしか出来ないんだ……。

 

「こいし、心配なのはわかるけど、目を離さずにしっかりと見届けましょう?」

「お姉ちゃん」

 

 お姉ちゃんが私の手を握ってくれた。これは昔から私が不安に駆られてしまった時に良くやってくれていたこと。

 私が人の心を知ってしまい、サードアイを閉じてしまった時にもお姉ちゃんは何も言わずに手を握ってくれていた。この手が不思議と安心する。

 

 そして、勇気をだして推奨を見たその瞬間だった。

 真にレーザーが直撃してしまったのだ。

 

 その様子を見た瞬間、私は血の気が引くような感覚を覚えた。

 また世界は私から奪うの? 大切な人、真を私から世界は奪うっていうの?

 

 私は気を失いそうになった。だけど――

 

「なんだとっ!」

 

 ライトの驚愕の声によって私は我に返った。

 そして、ライトが驚いた原因を探るべく、水晶の方へ再び目を向けると、そこには焦った表情のパラレル真と全くの無傷の真が映っていた。

 これは一体どういうこと?

 

「恐らく、真にはパラレル真の略奪は効かないんだろうな」

「効かないってどういうこと!?」

 

 私は思わず龍生の胸ぐらを掴んで聞いてしまった。

 そんな私の勢いに気圧されてか、何も言えなくなってしまっている龍生。

 そんな龍生に変わってライトが説明を始めた。

 

「恐らく世界線の問題だろう」

「世界線の?」

「あぁ、本来は同じ世界線に同じ人物は存在しない。俺と真は良く似ているが、全くの別物だ。しかし、真とパラレル真は世界線は違えど同一人物だ。そして、自分からはどう頑張っても奪うことは出来ない。奪ったところでその奪った能力はどの器に入るのかという話になる。つまり、同一人物である二人はその自分から能力を奪えないという世界の法則に引っかかってしまったのだ」

 

 ライトの話は少し難しくて全てを理解することは出来なかったけど、要するに真からは能力を奪えないってことだよね。

 だとしたらこれはチャンスだ。

 

 恐らく、今までの強敵からは能力を奪って相手を弱体化させてから倒していたのだろう。

 だけど、その力が真に効かないのだとすれば、勝機はある。なにせ、今のパラレル真は弱体化しているはずだから。

 

 お願い、真。勝って!




 はい!第104話終了

 そして、ついに今週の金曜日に投稿始めて三周年となります。
 ということで幻想郷の守り神達の続編、今度はシャロを書いていきたいと思います。

 それでは!

 さようなら


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第105話 奥の手とは言わないだろうな

 はい!どうもみなさん!ミズヤです

 投稿遅れてしまい、すみませんでしたぁっ!



 それでは前回のあらすじ

 地獄を水晶で見ている地上のメンバー。

 その中に映る真を見てこいしは心配が尽きない。

 しかし、パラレル真の略奪は真には通用しないと判明し、一安心。

 果たして真はパラレル真に勝利することが出来るのだろうか。



 それではどうぞ!


side真

 

 あいつは俺から能力を奪うことが出来ない。つまり、事実上、本当にあいつを攻略できるのは俺だけだってことだ。

 なので、あいつが使えない技を使えばあいつの不意を突けるかもしれないけど、今攻撃してみて俺は気を引きしめる思いだった。

 なにせ、この幻想郷にもまだ俺の知らない人もいるはずだ。知らない実力者、霊夢とかなら結構知っているから対処出来るかもしれないけど、そういう人の技を使われてしまったら俺もあいつと同じ状況になってしまう。

 

 あいつが俺の技のことを知らないのと同じように俺もあいつの技のことを知らないのだから。

 

「く……まさかお前が俺の一番の障害になろうとは、全く思わなかった」

 

 初めて未来の俺が苦悩の表情を浮かべた。

 その表情を見れて俺は安心する。もしかしたら俺は全然未来の俺に迫ることが出来ないのではないかとすら思っていたのだから。

 だけど、未来の俺は今、俺を倒すために全力で頭をフル回転させている。

 

 パラレルワールドとはいえ、未来の俺だ。あっちの方が経験は上だろう。

 攻略法がわかったところで厳しいのは俺の方だろう。だが、着実に俺は未来の俺に迫ってきている。そう感じる瞬間でもあった。

 多くの人の力を借りて俺はこの場に立っているのだ。負ける訳には行かない。

 

 それに――

 

「ふふっ」

 

 こんな状況だって言うのに俺は笑みがこぼれてしまっていた。だが、相手は未来の俺だ。集中しないと直ぐに足元を掬われる結果となるだろう。

 なので、油断だけは絶対にしない。そして、じっと未来の俺を見据える。

 

 未来の俺は遂に霊力刀を作り出した。それを見て俺も霊力刀を作り出す。

 この体での霊力コントロールはなかなか難しいものの、先程の一連のやり取りでコツを掴むことが出来た。これは恐らく能力の賜物だろう。

 俺の能力【都合が異移状況を作り出す程度の能力】。あまり役に立たない能力ではあるものの、こういう時に不意に発動してくれるのでだいぶ助かっていたりする。

 

 しかし、剣を使って戦うのにはもう一つ懸念点がある。

 

「筋力の差はどれほどなのだろうか」

 

 俺はかなり筋力トレーニングを積んできたつもりだ。しかし、それでも戦ってきた期間を全て埋めることは出来ないだろう。

 だから少しでもその筋力差を埋められるように動く必要がある。今までよりも頭を駆使する戦いになりそうだ。

 

「それじゃ、行くぞ未来の俺っ!」

「っ。いくら努力しても必ず埋められない差ってものがあるってことを証明してやるっ!」

 

 俺は未来の俺に向かって走っていく。それに合わせて未来の俺も剣を構えた。

 このまま真っ直ぐ正直に突っ込んだとしても俺が力負けする未来しか見えないので、俺は横に飛んだ。

 

 しかし、さすがは未来の俺だ。かなりの反射神経の持ち主のようで、俺のことを目で追ってきている。絶対に俺を視線の先から離さないその動体視力はさすがと言えるだろう。

 だが、俺も伊達に修行してきたわけじゃない。その力を一度試してみようか。

 

 そう思い立った俺は剣の持ち方を変え、大きく後ろへ振りかぶった状態で、未来の俺に剣を向ける。

 そして俺はその剣を未来の俺に真っ直ぐ投げた。

 すると、当然未来の俺は俺が投げた剣を剣で弾いたのだが、俺だから知っている。一つのことに集中したらもう一つのものが見えなくなる。

 

 そのことを知っていたので、俺はその剣を囮として一気に未来の俺に接近をする。

 そして弾いた後に俺が迫ってきていることに気がついたのか、ギョッとして状態を反らす。だが、今気がついたところでもう遅い。

 

 俺は右手のひらに霊力の玉を作り出して、それを俺は思いっきり未来の俺の腹に叩きつけた。

 

「霊縛波っ!」

「ぐ、はっ!」

 

 これには未来の俺もさすがに対処しきれない。もろにくらった未来の俺はものすごい勢いでぶっ飛んでいく。

 途中にある岩などはぶっ壊しつつ、ものすごい勢いで飛んでいく未来の俺を見て俺は小さくガッツポーズを取った。

 今までだったら一撃すら与えることが出来なかったはずだが、今回はまともなダメージを与えることが出来た。その事に少し感動すら覚えていた。

 みんなが俺に力を与えてくれる。

 

 俺は確実に強くなっていたんだ。

 

 すると、今度は向こう側から何がものすごい速度で俺の方に突撃してきているのが見えた。

 さすがにあの速度だったら今から回避しようとしても間に合わない。なので、近くに落ちていた大きい岩を使って縦のように構えた。

 

 すると、ものすごい勢いで突っ込んできた何者かが俺の持った岩にぶつかると俺にものすごい衝撃とレーザーを放ってきた。

 

「ぐっ」

 

 その勢いに負けてしまい、少しだけ吹っ飛んでしまう。

 何がぶつかったのだろうか。そう思っていたら、そこに居たのはやはり未来の俺だった。

 しかし、今のはどう見ても霊縛波。この技は俺が最近会得したもの――そういうことか。あっちの世界の妖忌さんと戦ったのか。

 妖忌さんから霊縛波を奪った。そう考えれば辻褄が合う。

 

 そして、恐らくクレアの方は未来の俺が闇落ちした時にはライト――ダークはまだクレアを会得していなかったし、燐火たちに関してはあの頃はまだ露見してきていない。

 そもそも、あいつらにとって世界を破壊している人を止める道理はなかっただろうし。

 

「さて、今のが奥の手とは言わないだろうな」

「当たり前だ」

 

 確かに、最高火力が通用しないかもしれないのは辛いが、それでもまだ策が無いわけじゃない。

 絶対に俺は未来の俺を超えて、自分の力を、みんなの力を証明してやる。こいつが捨てた全てを、その強さを味わわせてやる。




 はい!第105話終了

 もう少しこの章は続きますかね。まぁ、僕もどれくらい続くかは分からないんですけどね。

 それでは!

 さようなら


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第106話 これ以上強くはなれないと思う

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 パラレル真は真から能力を奪うことが出来ない。その事を利用して攻撃を仕掛けようとする真。

 しかし、真の最高火力である霊縛波がパラレル真も使えてしまうという事実。未来の妖忌から奪ったのである。

 はたして、霊縛波が使えなくなった真はどう戦うのだろうか?



 それではどうぞ!


side真

 

 俺は剣をしっかりと握りしめて再び未来の俺に切り掛る。ただ、そんな一撃は未来の俺に回避されて当然。なので、回避されたその後に行動を先読みして追撃を加えることにする。

 

 そして、剣を降った瞬間、予想通り回避されてしまった。ただ、その後が予想外だった。

 なんと、未来の俺は四人に分身してしまったのである。

 この技も恐らく奪った能力だろう。そう考えて誰が持っていそうかを考えてみると、これはフランのフォーオブアカインドだろう。なかなか厄介な技を奪ってきたようだ。

 

 しかし、その技は霊力によって保たれている。俺にはそんな技は効かない。

 

「上書き」

「上書き」

 

 するとなんと、上書きを上書きで相殺されてしまった。

 相手は未来の俺。どうやら俺の行動は全て読まれているらしい。だが、逆に言うと俺は未来の俺の考えることが手に取るように分かる。

 だが、違うのはその戦略の量だ。

 未来の俺は色々な人から能力を奪っているので色々な技を持っていて多彩な戦略を持っている。だが、俺は略奪などという能力は持っていないのでそんな量の技は無いので戦略の量では劣ってしまう。

 

 しかし、未来の俺が闇落ちしたタイミングではギリギリ上書きを会得するタイミングではあったようで、使えるのか。

 なら、未来の俺の技を打ち消せるとは思わない方がいいな。

 

 だが、そうするとこの状況をどう切り抜けるのが正解だろうか。このままバカ正直に戦うと未来の俺と四対一になってしまう。

 いくら力が分散して弱くなっている個体だとしても相手は未来の俺だ。料率としては限りなくゼロに等しいだろう。

 

 ならば、まだ安定こそはしていないもののあれをやるしかない。

 

 俺はクレアを身に纏うように操作する。そう、俺が今から使うのはクレア装だ。

 このクレア装を使ったところで四人の未来の俺に勝てるかどうかは分からないものの、やってみる価値はある。

 

「なんだそれは」

 

 このクレア装。未来の俺の世界では使える人に会ったことがないのだろうか。

 だとしたらこのクレア装ならば勝つことが出来るかもしれない。普通のクレアだったら力の上昇率などを計算されてしまうかもしれないが、このクレア装は俺自身もどの程度強くなるのかが未知数なのだ。

 

 そして、手に持っていた刀は一旦消して、そのクレア装を纏った状態で俺は霊力刀を作り出す。これでクレアの力を含ませた霊力刀の完成だ。

 霊力刀もクレアを含ませたのと含ませていないのとではかなりの切れ味の違いが生まれる。

 

 普通のクレアの状態でもできるには出来るが、かなり作るのが難しいのだ。なので、クレア装と言う元々装備用のクレアを使うことによって少し簡単に霊力刀を作り出すことが出来る。

 そして、この霊力刀の切れ味はと言うと――

 

「行くぞ未来の俺っ!」

 

 一人の未来の俺に走り出して俺は剣を振るう。しかし、それは直ぐに未来の俺も霊力刀を作り出して防御しようとしたのだが、なんと俺の霊力刀は未来の俺の霊力刀を真っ二つに折ってしまったのだ。

 そして、そのまま俺の霊力刀は未来の俺の体を切り裂き、一人の未来の俺が消滅した。

 

「なんだと……」

「霊力刀の強さは精神力で決まる。確かに俺たちの精神力はかなり似ていて、お互いに上回ることはない。だが、クレアは別だ。クレアによって上乗せされた霊力刀はお前の霊力刀すらも斬る」

 

 さて、今の一撃で一人の未来の俺を倒すことが出来た。しかし、今のを見た未来の俺は俺を全力で潰しに来るだろう。

 未来の俺の行動は分かっている。

 そして、三人で攻撃を仕掛けてくるはずだ。

 

 だが、今の俺は昔の俺とは全く違う。

 昔の俺は三対一はかなりきつかっただろう。しかし、今の俺はたくさんの人に修行をつけてもらった。その自信が俺を動かす。

 

 まず、一人目の攻撃をノールックで回避し、二人目の腕を掴んで一人目に投げつける。

 それによってとりあえずは三人目との一対一を実現させる。

 

 三人目は俺に剣を降ってくるので回避し、俺は三人目の胴体を斬りつける。それによって二人目の未来の俺を撃退完了。あとは二人。

 しかし、二人ということは未来の俺の元の力の二分の一。そこそこ強い力を持っていることになる。

 だが、それでも俺は落ち着いて対処を開始する。

 

 二人は急にスピードとパワーが上昇し、その状態で二人まとめて俺に攻撃を仕掛けてくる。

 さすがに先程とは違って俺も軽くあしらうなんてことは出来ない。それどころか、少し押されてしまっている。

 たまに俺は二人の剣をかすってしまうので、かなり苦戦してしまう。

 

 だが、それでも俺は何とか二人の剣を捌く。そして、何とか二人を弾き飛ばすと二人の内、片方に狙撃《スナイパー》で剣を投げ飛ばす。

 すると、その剣は綺麗に未来の俺の胴体を貫通。それによって三人目を撃破。遂に完全な一対一に持ち込むことが出来た。

 

「く、お前はどうしてそこまでして俺を止めようとする。無くす悲しさを感じないためにも元から大切な人などいない方がいいだろう」

「そんな考え方じゃ、それ以上強くはなれないと思う。なにせ、俺だってみんなから貰った力なんだからな。お前とは違うやり方でな」

 

 俺は剣を狙撃《スナイパー》で投げつける。

 その剣を未来の俺は剣で弾いてきた。

 

「今度は確実に勝ってみせるっ!」




 はい!第106話終了

 未来の真との戦いはどうなるんでしょうかね。

 それでは!

 さようなら


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第107話 ごめん、みんな

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 真の攻撃に対してパラレル真はフォーオブアカインドで対抗する。それによって真はピンチに陥ってしまう。

 しかし、それでも真は諦めず、何とかパラレル真のフォーオブアカインドを突破することに成功。

 果たして真は今度こそ勝利できるのか?



 それではどうぞ!


side真

 

 俺はまたまた霊力刀を作り出す。

 それを見て未来の俺は渋い表情を浮かべた。なにせ、俺の霊力刀は未来の俺の霊力刀を貫くということが判明したからだ。

 それだけクレアのアドバンテージはでかいということだ。

 

「そうか……だが、俺の方がまだ強いということを証明してやろう」

 

 未来の俺はそう言うと俺の方に向かって何やら黒い玉のようなものを投げつけてきた。

 それを見た俺は嫌な予感がしてその玉を回避する。

 だが、その玉の本来の力はそのすぐあとに知ることになった。

 

 なんと、その玉は着弾した瞬間、周囲の岩を削り取ったのだ。いや、破壊したという方が正しい。

 つまりこれは破壊の力。

 

「またフランか」

「破壊の力はとてつもない力を秘めている。これを突破できない限りはお前に勝利はない」

 

 破壊は全てを破壊する。恐らく俺の上書きでも打ち消すことは出来ないだろう。そうなると、俺は逃げるしかない訳だが、そんなことばかりしていてもキリがないことは分かっている。

 逃げてばかりじゃあいつを倒すことはできない。

 

 なので俺は未来の俺に向かって走り出した。

 

「それでこそ俺だな」

 

 すると、俺のそんな行動に未来の俺は一瞬だけ満足気な表情になったような気がした。

 だが、それは気の所為だろう。今の未来の俺がそんな表情をするはずがない。

 

「行くぞっ!」

 

 俺は未来の俺に対して剣を振るう。それを未来の俺は剣で受けるのだが、先程とは違うのは衝撃を受け流すような受け方なのだ。

 さすがと言ったところだろう。直ぐに相手の攻撃に順応する。未来の俺も【都合がいい状況を作り出す程度の能力】を持っているのだろう。だから、恐らく直ぐに俺の攻撃に対応してきているのだろう。

 だが、その能力を持っているのは俺も同じことだ。俺も直ぐに未来の俺の行動には順応する。

 

 俺は剣を振りつつ回し蹴りをする。だが、その一撃は読めていたのか未来の俺は簡単にその一撃を回避してきた。だが、俺の攻撃はまだ終わってはいない。

 回し蹴りの反動を利用してそのまま回転斬りをする。

 

 すると、その一撃も未来の俺は直ぐに反応したものの、少し反応に遅れてしまったので、頬を少し掠った。

 そんなものは大したダメージではないだろう。だが、俺にとってはかなりの進展だった。なにせ、未来の俺にダメージを与えられたのだから。

 

「戦いの中でどんどんと強くなって行っている!?」

 

 驚いている未来の俺だが、そんな時間は与えない。次々に剣を振って考える時間を与えないように動く。

 

「そうか……そんな感じか」

 

 すると、未来の俺は俺よりも正確に、速い蹴りを放ってきた。その蹴りは俺は回避することが出来ずに直撃してしまった。

 

「がはっ!」

 

 その一撃は俺に強烈なダメージを与え、かなりの距離を蹴り飛ばした。

 それをくらった瞬間、俺は察してしまった。未来の俺にはまだ届いていないと。

 俺の攻撃は掠る程度。未来の俺の攻撃は俺にクリーンヒットする。その状態で俺は勝てるのか?

 

 俺は蹴り飛ばされた先で尻もちを着いてしまう。

 さっきまでは少しは希望があるかと思っていたが、これでは俺はまだ勝つことはできない。

 

 また俺は敗北することになるのか?

 だが、今回は負けることは出来ないんだ……。

 

 俺は勇気を振り絞って未来の俺と再び対峙する。そして、剣をしっかりと握りしめて未来の俺に振る。

 未来の俺はそんな俺の剣を余裕の表情で回避し続ける。どれだけ剣を振っても未来の俺に当たることはなくなっていた。

 恐らくさっきまでのは本気じゃなかったのだろう。

 

「く、はぁ……はぁ……」

「どうした? 随分と息が上がっちゃってるじゃないか?」

 

 く、くそ。何か勝つ方法を見つけ出さないと……。

 

「無理だ。お前が未来の俺に勝つなんて。今の俺は崩壊が使えない。まぁ、使ったとしても二度と食らわないがな」

 

 崩壊……俺とこいしが居て初めて使える技。あの時、シャロは二つ目何て言おうとしたんだろう? しかもあってほしくないって……。

 もしかしたら――でも……。

 

 こいし、みんな……やっぱり幻想郷が大事だ。みんなも全て好きだ――だから、

 

「ごめん」

 

 俺はそう呟き、霊力を高める。

 

「何をやろうと無駄だ! 崩壊はつかえな――」

「使えるよ」

「何!?」

 

 未来の俺は驚いたような表情を見せた。

 今の俺では未来の俺には勝てない。だから、今の俺が勝つにはあれをやるしかない。

 

「分かったんだよ。そのもう一つの条件が」

「ま、まさか」

 

 例のごとく衝撃波が辺りに広がっていく。

 しかし、今回のは前回とは違い、地獄の約半分を飲み込むほどの大きさとなった。

 そう、崩壊発動のもう一つの条件と言うのは、

 

「それは、『己の身を代償とすることだ』」

 

 そう言い終わると同時に大地が崩れ始めた。

 

 ごめん、みんな……俺、こいしとの約束。絶対に死なないって約束、守れなかった。

 そうして目を閉じて覚悟を決める。

 そして俺が崩壊に飲み込まれる寸前、

 

「お前はこんなところで死ぬべきではない」

 

 そんな声が聞こえてきた。

 

「ちくしょぉぉぉぉぉっ!」

 

 そして未来の俺は地獄の約半分とともにこの世界から消え去った。




 はい!第107話終了

 これにて未来の俺との戦いは終了です。

 突然の終わりでしたが、これ以上続けるのは僕の文章力では不可能でした。
 そして、次回からは新章に突入します。どうぞお楽しみに!

 それでは!

 さようなら


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第伍章 幻想郷の危機 ~パラレル真の思い~
第108話 もうこの世界には居ない


 はい!どうもみなさん!ミズヤです

 前回、遂に第肆章終了したので今回から第伍章に入る訳ですが、今回の章はかなりシリアスな場面が続くかと思います。



 それでは前回のあらすじ

 真はパラレル真を倒せる力を手に入れていたのかと思ったらまだ足りなかった。真はパラレル真には勝てないのだ。

 そこで真は自分の身を犠牲にして崩壊を発動。パラレル真を地獄の約半分を犠牲に消失させることに成功。
 そして真は――



 それではどうぞ!


side真

 

「お、おい、やめてくれ!」

 

 俺は必死に叫ぶ。しかし、そんな俺の叫びも虚しく惨殺されていく仲間たち。それを俺は見るしかない。

 俺に力がないばかりに……

 

「真!」

「こいし!」

 

 すると、こいしが奴ら(・・)に捕まっているのが見えた。そのこいしに手を伸ばして助けようとするも、その手は届かない。

 遂にはこいしの首にナイフが突きつけられる。

 

「やめろ、やめてくれ……お願いだ」

 

 俺は懇願するしか無かった。

 本来ならば今すぐにでも走って助け出したいところだが、体が動かないのだ。

 そして、そのままこいしは――

 

「やめろーっ!」

 

 その瞬間、景色が切り替わって俺は横になっていた体を勢いよく起こした。

 俺はその瞬間、今まで見ていたものが夢であったことを理解したが、なかなかきつい夢だった。

 みんなが惨殺されて、最後にはこいしまでも……そんな夢だった。

 

 しかし、ここはどこだ?

 ここはどうやら俺の知っている建物ではないようだ。俺はこの天井の建物を知らない。

 それにしてもよく掃除が行き届いている。窓を見てもホコリ一つない。家具も必要最低限の生活できる程度と言ってような感じだ。

 男の一人暮らしのような内装で、掃除が行き届いていると言ったような感じだな。

 

 すると急にこの部屋の扉が開くと、そこから一人の人物が顔を見せた。

 

「あ、起きたんだ」

 

 そこに居たのは小学生のような容姿の男の子だった。

 真っ黒な髪でかなり寝癖がある。かなり童顔で、Tシャツと短パンを履いている。

 

「えっと、君は?」

「俺? 俺は……シャドウ」

 

 その名前を聞いた瞬間、俺はシャロの言葉を思い出していた。

 シャドウ、その名前を聞いたことがある。それはシャロの口からだ。そして、シャロはシャドウのことを全知全能の闇を操る神と言っていた。

 この子の言っていることが本当なのだとしたら、この子が本当に全知全能の神。

 

「俺は海藤 真ですが、なんで俺はこんな所にいるんですか?」

「あぁ、それは俺が連れてきたんだよ。あのままだったら君もあの崩壊に巻き込まれていたからね」

 

 そうだ。俺は未来の俺との戦いで自分の身を犠牲にして崩壊を放ったんだった。だが、なんで俺は生きているんだ?

 俺は自分の身を犠牲にして崩壊を放ったはずだ。

 

「あの崩壊は自分の身すらも滅ぼしてしまうほどの威力を放てるって言うだけで自分の身を犠牲にしているわけじゃない。最も、一人だと確実に自分の身も犠牲になるんだけどね」

 

 なるほどな。ということは俺はそこを助けられたって言うことか。

 

「地獄から戻ってきたら君の体は実態化したよ。本当、あの力にはいつも驚かされる」

 

 そういえば地獄の時よりもしっかりと感覚を感じられる。この場にいるっていう実感は今の方が強い。

 ということは、実態化したってことなのか。

 力も自由に入れることができるし、霊力も自由自在に操れる。これならいつも通りと言えるだろう。

 この人が助けてくれたんだよな。確かに能力に似合わないで優しい人のようだ。

 

「ということはここはあなたの家ですか?」

「まぁ、そういうことになる」

「結構片付いているんですね」

「まぁ、掃除が好きでな」

 

 シャドウは言いながら何やら空間に裂け目を作って中からティーセットを取りだした。

 あれはどう見てもスキマなのだが、あれは紫の能力のはずなのだが、神にはデフォルトで着いている能力なのか? よく分からないが、そういうことにしておこう。

 

「飲む?」

「あ、じゃあいただきます」

 

 ちょうど喉が渇いていたところなので、ありがたく頂戴することにした。

 スキマの中はどういう訳か時間が経たないらしい。そのため、ティーポットから出てきた紅茶はまだ熱々のままだった。

 それを一口いただく。

 

「美味しい」

「ん、よかった」

 

 とは言うものの、一切表情を変えないシャドウ。表情筋でも凝り固まっているのかもしれない。

 確かシャドウはその姿を見たことがある人は居ないとすら噂されるほどの神だ。それゆえ、長い間他の人と関わることがなかったのかもしれない。

 

「いや、他の人と関わることくらいはある。神の宴には毎回招待されるからな」

「そ、そうなんですか」

 

 あ、よかった。それくらいはあるようだ。

 

「まぁ、俺は毎回端っこの方で料理を静かにつまんでいるだけだがな」

「それ、関わっていると言うんですか?

 

 さすがにそれには俺も苦笑いだ。

 シャドウは現代で言うところの陰キャに分類されるのかもしれない。それゆえ、他の人と関わることもなかなか出来ないのかもしれない

 少し可哀想なので俺が話し相手になりたいところなのだが、俺はまだやらなくてはならないことがある。

 

「あの、俺は皆を待たせているので送って貰ってもいいですか?」

「みんなとは?」

「こいしたちって言ってもわからないですよね」

 

 俺がどうやって説明をしようかと考えているとシャドウは耳を疑うような台詞を言い放った。

 

「古明地 こいしか……その人物ならばもうこの世界には居ないぞ」

「え?」

 

 さすがにその台詞を聞いて俺の思考は停止してしまった。




 はい!第108話終了

 最後のシャドウの台詞。こいしがこの世界にはいないとはどういうことなのでしょうか?

 それでは!

 さようなら


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第109話 今なら分かる

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 真は死んだかと思われたものの、神であるシャドウに助けられる。

 そして、真はシャドウに礼を言って帰ろうとするとシャドウの口から驚きの一言が放たれた。

「古明地 こいしはこの世界にはもういない」



 それではどうぞ!


side真

 

 こいしがいない? それはどういう事だ。

 

「おい、冗談も過ぎると怒るぞ」

「冗談ではない。もうこの世界にはいないのは確かだ」

「嘘だろ?」

 

 言われて俺は無意識を探知してみる。しかし、どこにもこいしの無意識は感じられない。その事が表していることはただ一つ。こいしはもうこの世にはいない。

 

 確かにあの時、俺はこいしに見送られて地獄に向かったはずだ。こいしが居ないなんてことは――もしかして俺が地獄に向かった後に何者かの襲撃を受けたってことか。

 その事が頭をよぎった瞬間、俺は膝から崩れ落ちてしまった。

 

「あ、あ……あぁぁぁぁぁっ!」

 

 俺は叫び声をあげる。

 悔しくて悔しくて仕方がなかった。俺は皆を守れなかったのだ。

 俺はみんなを守っているつもりでいた。だが、それがなんだ。結局守れていないじゃないか。意味が無いんだよ、守れなきゃ過程など意味がない。全て無なのだ。

 

 叫び声を上げ、嗚咽を漏らす俺のことをそっと傍らで見守ってくれているシャドウ。だが、今はその対応が嬉しかった。

 初めてあった人だが、人の感情をよく理解しているのだろう。

 

 暫くしたら俺も落ち着いてきて、何とか事態を受け止めることが出来た。

 

「なぁ、聞いてもいいか? こいしの最期を」

「……知らん」

「え?」

「俺もそこまで全てを理解しているわけじゃない」

 

 それもそうか。全ての力を持っているとはいえ、その力には限度はあるものか。

 冷静になったら今度は怒りが湧いてきた。

 こいしたち妖怪は長寿だ。そのため、この短い時間で寿命なんてことはありえない。だが、事故というのもありえないだろう。

 妖怪だったら人間が死ぬ程度の事故でも平然としている。……つまり、こいしたちは何者かの襲撃を受けたということになる。

 

「行くのか?」

「まだ現場と思わしき場所には霊力が残っているはず。その霊力を探知する」

「無駄だ」

「なんでだよ!」

「襲撃者は別の世界へ渡ってしまった。今から探してもたどり着くことは出来んよ」

「…………」

 

 俺は神様じゃない。そのため、空間移動技など持っているわけがない。別の世界に行かれてしまったらもう狸寝入りするしかないのか?

 悔しい……俺が無力なばかりにまた大切な人を失ってしまった。

 

 未来の俺もこんな気持ちだったのか?

 今の俺ならば未来の俺の気持ちが手に取るように分かる。失う辛さ、悲しさ、これは狂気にもなり得る。

 もっと俺に力があれば……。

 

「その前に、着替えたらどうだ」

「え?」

「その服はボロボロだぞ。適当に日本のお前の部屋から見繕ってやろう」

「あぁ、ありがとう」

 

 するとシャドウは手を伸ばし、スキマを作ってその中に手を突っ込んだ。

 暫く突っ込んでいると漸く手を抜いた。そこに見えたのは俺にとっては驚きの服だった。

 

「こんなものでどうだ?」

「あぁ、大丈夫だが」

 

 受け取って俺はその服を見てみる。

 その服は青いパーカー。確実に未来の俺が着ていたそれと全く同じものだった。

 そういえばこの服も持っていたんだった。つまり、未来の俺とこの俺はこの時点で分岐していたんだな。緑パーカーを着ていた世界線と青パーカーを着ていた世界線。

 確かに俺の今来ているパーカーは今までの戦いでいくつもの穴が空いてしまっている。もうこの服はあまり着ることは出来ないだろう。

 受け取ったその青パーカーを俺は素直に着る。

 

 そして備え付けてあった鏡を見てみると自分を見ているはずなのにまるで未来の俺を見ているような不思議な気分に至った。

 これでオッドアイなんかになったら完全に未来の俺だ。まぁ、そこまで未来の俺に似せる気は無いけどな。

 

「まぁ、復讐したいなら好きにするがいい。シャロならお前に協力してくれるだろう」

「そうか」

 

 その手があった。

 俺にはシャロや彼方といった仲間が居たじゃないか。恐らくその二人に言ったら手伝ってくれるだろう。

 そうと決まればあの俺が地獄へ向かったあの場所へ行かなくてはならない。恐らくあの場所に行かないと霊力を探知してその世界を探し出すことは出来ないだろう。

 

「シャドウ。お世話になった」

「まぁ、これくらいならおやすい御用だ。それに彼方のチビにお前だけは殺すなと言われているからな」

「あ、あはは」

 

 そうか、彼方が頼んでくれたからシャドウは俺を助けてくれたのか。彼方には今度礼を言わないといけないな。

 

「じゃあ繋げるぞ」

 

 シャドウはスキマを作り出して例の草原へ繋げた。俺は何も言っていないが、俺の心を察して繋げてくれたのだろう。

 俺は絶対に復讐を成功させる。

 未来の俺はこいしを失った時、全てを破壊しようとしたが、俺はそんなやり方はしない。

 失うのは怖い。だが、それ以上失うのはもっと怖い。

 

 俺はスキマの中に入る。すると直ぐに草原へ到着した。そこにはもう誰も居らず、静寂だけが存在していた。

 だが、その中にもかすかに感じる霊力。これが恐らくこいしたちを襲ったやつの霊力だろう。だが、その中には感じたことのある霊力も混ざっていた。

 しかし、こうして現場を訪れることによってことが現実味を帯びて俺の中に入ってくる。

 俺は再び膝を着いてしまった。受け止めたつもりだった。だが、やはりダメだった。悔しいし、悲しいものは悲しい。

 

 天気は雨。まるで俺の心を示してているようだった。

 

「くそ、くそ、くそ!」

 

 俺は地面を殴る。その力は段々と強くなっていき、遂にはバゴん! と大きな音を立てて地面が割れてしまった。

 こいしとの思い出が走馬灯のように蘇る

 今までずっと一緒に戦ってきた一番大切な人……。

 

 ポケットに入っているお守りを握りしめて蹲る。

 すると、急に俺に雨がかからなくなったのを感じた。そのことを不審に思い、顔を上げてみるとそこには傘を差しながらしゃがんで俺のことを見てきているシャロがいた。




 はい!第109話終了

 ついに第伍章が本格スタートします。

 消えたこいしたちの謎。そして真は復讐を果たすことが出来るのでしょうか。

 それでは!

 さようなら


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第110話 俺が必ず

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 シャドウにこいしはもうこの世界にはいないと告げられ、傷心する真。

 泣き崩れてしまったものの、真は立ち上がってこいしの仇を打つと誓った。

 誓ってやってきたのは出発する前にいた草原。そこにいるとやってきたのはシャロだった。



 それではどうぞ!


side真

 

「シャロ?」

 

 ふと顔を上げると何故かそこにはシャロがいた。

 これから力を貸してもらおうと思っていたからちょうど良かったが、どうしてここにいるんだろうか。

 

「どうしてここに……」

「ちょうど見えたから。僕は真くんを探していたんだよ」

「俺を?」

 

 どうやら俺も探していたけど、シャロの方も俺の事を探していたようだ。

 しかし、シャロだったら直ぐに俺の事を探し出せそうなものだが、もしかしたらシャドウの空間には他の人は入ることの出来ない結界があるのかもしれない。

 俺は立ち上がってシャロの目を見る。すると、俺の心情を察したのか微笑んだ。

 

「辛い時は泣いてもいい。だけど、抱え込むのはやめてね」

 

 その笑みは何もかもを抱擁するようなそんな優しい笑みだった。その笑みを見て俺の涙腺は再び崩壊しそうになるものの、俺は耐えて言葉を発する。

 

「シャロ、手伝って欲しいことがある」

「うん、分かっている。古明地こいしの敵討ちでしょ?」

 

 どうやらシャロは全部知っていたようだ。そして、俺がそう願ってくることも予想していたのだろう。

 さすが神と言ったところだな。ならば話が早い、すぐにその元凶のいる所へ連れて行ってもらわないと。

 そう願おうとしたものの、シャロの口から出てきたのは衝撃的な一言だった。

 

「連れて行けない」

「え?」

 

 思わず素っ頓狂な声を出してしまう俺。だが、連れて行けないってどういうことだ?」

 

「今のままではあいつらには勝てない……行っても死ぬだけ」

「別にいい! こいしが居ない世界なんて!」

「良くないよ!」

 

 シャロは俺の言葉に今まで聞いたことの無いような強い口調で俺の言葉に反論した。その事に俺は驚いてしまって固まってしまう。

 

「良くないよ……真がいなくなったら悲しむ人は沢山いる。私だって……」

「シャロ……」

 

 シャロの言葉が何故か俺の胸にずっと入っていった。その言葉はとても俺の事を思ってくれていると感じて何も言い返せなくなってしまった。

 するとシャロは地面に女の子座りで座った。

 

「ねぇ、ここに座って?」

 

 そう言ってシャロが示したのは自身の真横だった。

 何を考えているのかは全く分からないけど俺はとりあえず横に座ってみることにした。

 その瞬間だった。横に座った途端、俺はシャロの方に引っ張られて、そのまま横に倒れてしまった。

 倒れると俺の頭の下になにか柔らかい感触があった。それが何なのかを把握するのにはあまり時間はかからなかった。

 理解した瞬間、俺は顔が熱くなっていくのを感じた。

 

「しゃ、シャロ?」

「ふふ、君は浮気者だね。僕の膝枕で顔を赤くするなんて」

 

 そう言いながら俺の頬をつついてくるシャロ。

 俺の頭の下に感じる柔らかい感触。これはそう、膝だ。俺は今、シャロに膝枕をされているのだ。

 どうしてこんな突発的な行動に出たのだろうか。そんなことを頭の中でぐるぐるさせているとシャロは優しい声で俺に囁いてきた。

 

「思いつめないでね。僕は真……くんが頑張ってくれているのを知っていたから。全部自分のせいだなんて思いつめないで」

 

 言いながら俺の頭を撫でてくるシャロ。その手がまるで母親が子供をあやすようだったが、それがとても安心した。

 

「僕ね、真くんに未来の真くんのようになって欲しくないんだ。確かに悲しくて辛いのはわかる。僕もだかね」

 

 優しい顔で俺のことを撫でてくるシャロ。そのシャロの言葉は俺の心に直接響いてきた。

 じわじわと俺の心を侵食するように俺の心に入り込んでくる。だが、それは決して不快感を感じるようなものではなかった。

 この声を聞いていると徐々に涙が溢れてくる。

 

「未来の真くんは後悔していたんだと思うな。だって、ああいう行動に出て強気に振舞っていたけども元は同じ真なんだからね」

 

 未来の俺と今の俺。言われてみれば同じだ。

 育った環境、強くなった経緯こそ違えど、元を正せばどちらも同じ俺なんだ。

 俺が同じ立場だとすれば後悔するだろう。破壊したって何も生まれない。生まれるのはただ虚しい感情のみだ。

 

「僕ね。真くんに未来の真くんのように後悔して欲しくないんだ。だからね、我慢しなくていいんだよ? 全部わた……僕に吐いて」

 

 その言葉を聞いてもう限界が来た。

 俺は今日一日で何回泣き崩れるんだろうか。何回泣けば気が済むのだろうか。

 泣きついている間、ずっと俺の事を優しく撫でてくれるシャロ。その手があるから俺は安心できた。

 俺はここにいるんだと思えた。

 

 それから数十分もの間、泣き続けた。

 そしてようやく泣き終えて上を見ると雨はとっくに止んでいた。

 

「落ち着いた?」

「あぁ、悪いな」

 

 さっきまで本気で泣いていたのだ。そのため、顔を真っ直ぐみるのが恥ずかしくなってしまった俺はシャロから目をそらす。

 だが、ようやく俺の心の準備ができた。

 

「絶対に許さない。こいしを……みんなを……」

「し、真。目が」

「俺が必ずみんなの敵討ちをしてやる」

 

 その時、真は全く気がついていなかった。

 自分の目がオッドアイになってしまっていることに。




 はい!第110話終了

 次回から敵討ちスタート。

 真とシャロで協力して敵を倒します。

 それでは!

 さようなら


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第111話 言語道断!

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 シャロに慰められる真

 こいしたちを襲ったやつの復讐心を駆り立てる真だったが、シャロが真の心を鎮める。

 果たして真はこいしたちを襲ったやつへ復習することが出来るのか?



 それではどうぞ!


side真

 

「とりあえず今の俺では勝てないであろう旨は伝わったが、どうするんだ? このままみんなを襲った奴らを野放しにするって訳でもないだろ」

「そうだね」

 

 みんなを襲えるほどの実力のある敵、そんなやつを野放しにしていたら世界が大変なことになってしまうのは確実と言っても過言ではないだろう。

 しかし、今の俺にはそいつらに対抗するほどの実力を持っていない。そのため、今はそいつらに勝負を挑むことは出来ない。

 俺にとってはこいしが居ない世界で生きていていも仕方が無いので命を捨てて戦ってもいいのだが、シャロにそれは止められてしまった。あそこまで言わせてしまったらもう言うことを聞くしかないだろう。

 

「とりあえず修行をすることが必要かな。今までよりも強くなるために」

「確かにそれはそうだな」

 

 とりあえず修行をすることが第一だという結論だ。だが今の俺の生身の状態だったらかなり成長の限界を感じている。

 俺はもともと生身の普通の人間だ。半妖になったことによってその力は膨れ上がったものの、元々人間ということもあって力の限界は妖怪よりも小さい。

 まずはその限界を取っ払うことの出来る技が必要となってくる。

 

「今の持っている力、クレアと限界突破(ブレイク・ザ・リミット)を掛け合わせたらどうなるんだ?」

「確かにそれは気になるわね」

 

 おそらく相乗効果でものすごい力を得ることが出来るだろう。そうと決まれば物は試しだ。

 クレアを発動した状態で限界突破の発動を試みる。その瞬間だった。背後からものすごい衝撃を感じて思わず限界突破の発動をキャンセルしてしまう。

 

「はぁ……はぁ……間に合った」

 

 弾かれるように背後を見てみるとそこには息を切らした彼方が居た。

 いつの間に俺の背後に来たのかは分からないけど恐らく慌ててスキマで来るような用事があったのだろう。

 

「どうしたんだ?」

「どうしたもこうもないよ!」

「「え?」」

「クレアと限界突破を同時に使用するなんて言語道断! 二度と使わないで」

 

 

 なにやらお説教のようなものをされてしまった。恐らく彼方はこのクレアと限界突破を同時使用したその先の結果を知っている。そしてその結果は恐らく良くないものだ。彼方のその表情がそのことを物語っている。

 彼方に怒られてしまっては諦めるしかない。

 

 すると彼方は周囲を見渡すと「なるほどね」と呟いた。

 

「今回はこうなってしまったか……」

「今回?」

「いや、なんでもない。こっちの話」

 

 何やら意味深な発言をする彼方だが、そのことについては追求するなと言う視線を感じたのでこれ以上追求するのは止めた。

 だが、クレアと限界突破を一緒に使ってはいけないならどうすればいいのだろうか。

 確かクレアには何種類があったはず。その中の何かを使ったら劇的に強くなれると思うんだが……。

 

「彼方、そう言えばクレアについて詳しかったよな」

「まぁ、そうだね」

「そのクレアについて詳しく教えてくれないか?」

「わかった」

 

 教えを乞うと彼方はクレアについて説明し始めた。

 

「クレアは力を増幅させる技。霊力の流れを完全に操ることができるようになって放出される霊力の量も完全に抑えることが出来る。そしてこのクレアには気、装、治、呪、王、そして……いや、この五つが存在している」

 

 今なにか一つ誤魔化したような気がした。

 彼方が言うには、気はノーマルのクレアで霊力を完全に操ることが出来る。装はクレアを身に纏うことによって身体能力の向上を図ることが出来る。治は治癒にクレアを含ませることによって回復能力を向上させることが出来る。呪はクレアを含んだ呪いを使うことによって普段よりも強力な呪いを扱うことが出来る。そして王がその全てのクレアの頂点、かなり強力なクレアで神でも扱うのが難しい。というような感じの説明だった。

 だが、俺が一つ気になっているのは彼方が一番最後に誤魔化そうとしたものだ。その一つに何かがあるに違いない。

 

「この前、こいしとシンは決闘をしたでしょ? その時にシンはクレア王を使っていたんだよ」

「え、そうなのか?」

 

 確かにかなり力が溢れてきていたけどあれがそうだったのか。

 こいしに勝ちたい一心でやっていたことだから全く気が付かなかった。

 

「あのクレア王を会得出来ればあいつらを倒せるかもしれないね」

 

 神でも難しいクレア王を俺が使えるのか? いや、使えるのかじゃなくてやるしかないんだ。

 俺は絶対にこいしたちを襲った奴らを許さない。

 絶対にぶっ飛ばしたい。そのためにも俺はこのクレア王を会得しなくればならない。

 

「彼方、俺にクレア王を教えてくれ――」

「いやだ」

「……え?」

 

 即答だった。

 彼方は一切考える素振りすらも見せずに俺の頼みを断ったのだ。

 そのことに驚いて俺は素っ頓狂な声を出してしまった。

 

「彼方、お願いだ」

「嫌なものは嫌なの!」

 

 ここまで頑なな彼方は初めて見たかもしれない。だが、どうしてこんなに頑なになるんだろうか。幻想郷を守るためにも俺にクレア王を教えておいて損は無いと思うんだが。

 

「お願いだ……じゃあ焼き鳥、焼き鳥奢るからさ」

「え、焼き鳥!」

 

 目を輝かせて俺の事を見てくる彼方だが、直ぐに我に返ってそっぽを向いてしまった。

 まさかこれで彼方を釣れないとは思いもしなかった。

 

「そうか、仕方ない。じゃあもうこんな世界はいらないな」

 

 俺は自暴自棄になって世界を破壊しようとするフリをする。さすがにここまでなったら彼方も神なんだから俺の事を止めない訳にもいかないだろう。

 そう思っていたのだが、

 

「シンがそう決断したんなら手伝うよ」

 

 そう言って彼方は手のひらに物騒なものを掲げる。破壊玉のようなものだろう。禍々しくて飲み込まれたら一瞬で死んでしまいそうだ。

 

「冗談だ冗談!」

「そう?」

 

 冗談だと言うとやっとその物騒なものを仕舞ってくれた。

 まさかここまでだなんて……。どうやら彼方の意思はかなり固いようだ。

 だが絶対に彼方からクレア王を聞き出してみせる。そして必ず敵討ちをする!




 はい!第111話終了

 どうして彼方はあんなに頑ななんでしょうかね。

 それでは!

 さようなら


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第112話 聞き出そう①

 はい!どうもみなさん!ミズヤです

 予約投稿の日、間違えてましたすみません!



 それでは前回のあらすじ

 真はこいしたちを襲ったヤツらを倒すために修行することに決める。だが、今のままではあまり強くなれないことを感じとった真は彼方にクレア王の教えを乞うた。だが――

「いやだ」

 果たしてどうなってしまうのか?



 それではどうぞ!


side真

 

 とりあえず俺たちは紅魔館へと向かった。

 こいしたちは襲われてしまってもう居ない。だが、あの場には紅魔館組のみんなはいなかったはずだ。

 その事を思い出して俺たちは紅魔館へと戻ってきた。

 

 紅魔館へと戻ってくると沢山の妖力、霊力を感じて安心する。俺はもしかしたらこいしたちだけではなく他の人たちも被害にあっていた可能性も考えていたのだ。

 だが、ここにはレミリアやフラン、咲夜、音恩と鈴音。みんながそのままいるようだ。

 俺の仲間達が誰一人としていなくなってたのだとしたら俺はショックでもう立ち直れないかもしれない。

 

 俺の隣にはシャロと彼方がピッタリと着いてくれている。なんでも俺がショックで自暴自棄にならないように見てくれているらしい。それが理由なのだとしても今近くにいてくれるのはとても有難いことだ。

 

 門に辿り着くとやはり門の前で寝ている人物がいた。そう、紅 美鈴だ。

 寝ているのは宜しくないが、その様子を見て俺はほっと一安心した。少なくともこの空間は平和なように感じたからだ。

 俺はさっきまで心を痛めてしまっていた。なのでこういう風に気休めでも平和な空間というのはとてもありがたいものだ。

 

 すると突然その寝ている美鈴の頭にナイフが突き刺さった。これだけでもう何が起こったのかが分かってしまう。

 そして背後を見てみるとやはりそこにはこの紅魔館のメイド長、十六夜咲夜がいた。

 

「お帰りなさいませ真様」

「そんなに畏まれるとやりにくいんだけど」

「わかったわ」

 

 今までこんなに畏まれたことないのに急に畏まって来るなんて恐らく咲夜なりのジョークなのだろう。

 

「で、そちらの方は――シャロ様と彼方様ですね」

 

 この二人を見て咲夜は何かに勘づいたのだろう、かなり鋭い表情になった。

 確かにこの二人、神様を二人連れて歩いているという状況自体が普通じゃない。そのため、何かがあったのだろうということは咲夜ならすぐに気がつくだろう。

 すると咲夜は消えたかと思ったら次の瞬間にはレミリアを連れて戻ってきた。

 

「おかえり真」

「あぁ、ただいま」

 

 軽く挨拶を交わすが、レミリアはもう既に事の顛末を知っているだろう。なにせレミリアは運命を操る程度の能力を持っている。

 そのため、レミリアは何があったか、そしてこの先何があるかがもう既に分かっているのだろう。

 

「シャロと彼方ね。久しぶり」

「「うん、久しぶり」」

 

 レミリアは二人に挨拶をしたが、その際にシャロを見て口元を歪めて見せた。

 それにどのような意図が含まれているのかは分からないけど恐らく運命を読んだ結果の行動なのだろう。

 

「まぁ、歓迎するわ。修行をするなら庭を使ってくれても構わないわ」

「ありがとうな」

 

 俺には何も言わずに庭を貸してくれたレミリアには感謝だ。

 しかし、修行をするにしてもまずは彼方からクレア王を教えて貰わないといけない。

 どうにかして彼方の油断を誘うか……そうだ、酒。

 こんな幼女なみてくれだけども幻想郷では酒を飲んでも問題ないことになっている。

 酒を飲ませて酔っ払って正常な判断を下せなくなった時に聞き出すことにするか。

 

「ね、ねぇ、シャロ。なんか寒気がするんだけど」

「大丈夫ですか?」

「う、うん。大丈夫だと思う」

 

 とりあえず、彼方は逃がさないようにしよう。逃がしてしまったらそのまま逃げられてしまうかもしれないからクレア王を使えなくなるかもしれない。

 それだけは避けなくてはならない。

 

「シャロはこっちにいらっしゃい」

「ん? 分かった」

 

 シャロはレミリアに連れられてどこかに行ってしまった。

 この場に取り残されたのは俺と彼方、そして咲夜。ここからどうしようかと思ったが、とりあえず彼方に酒を飲ませるのが先決かと判断した。

 早めにクレア王を会得したいしね。

 

「咲夜、今日は飯はいらない。外で食べてくるわ」

「分かりました」

「じゃあ行こうか彼方」

「どこに?」

「人里で飯を食うぞ」

「……なんか嫌な予感がするけどもクレア王は絶対に教えないからね」

「わかってる分かってる」

 

 俺は酒に酔ったことがないからわからないけど、みんなの様子を見てみたら正常な判断を下せなくなるらしい。その状態だったら口が堅い彼方でも俺にクレアを教えてくれるかもしれない。

 

 そう思って俺は人里の居酒屋に向かったのだが――

 

「これ、美味しいね。なんて言う飲み物なの?」

「び、ビールだけど」

「うん、焼き鳥にとても合うね」

 

 なんで酔わないんだよ……っ。

 居酒屋に着いてから数十分間ずっと彼方は焼き鳥片手に飲み続けているものの、全く酔いが回ってくる気配がない。

 こいつはあれか? 地底の鬼の生まれ変わりかなにかなのか?

 

「あ、あの……彼方さんは酔っ払ったりとかはしないのですか?」

「うん、この程度のアルコール量だったら体内に入った瞬間に破壊されるから酔っ払うことは無いよ」

 

 ちくしょうっ!

 この作戦は失敗だったようだ。

 しかし、ガードが硬い。まさかアルコールを即時分解してくるとは思わなかった。

 

「分解しないといざと言う時に動けなくなったら困るからね。特に、酔わせて油断した隙に情報を聞き出そうとしてきたりとかする人がいるかもしれないからね」

 

 ぎくっ!

 

「まぁ、シンはそんなことはしないって信じているけどね」

 

 輝くような笑顔を向けてくる彼方。その笑顔を見て俺は心が痛くなってくる。

 

 すみません、本当にすみません。

 

 罪悪感を感じた俺は口には出さないけども心の中で何度も謝った。




 はい!第112話終了

 果たして真は彼方からクレア王の情報を聞き出すことが出来るのでしょうか。

 それでは!

 さようなら


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第113話 聞き出そう②

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 シャロ、彼方を引き連れて紅魔館へと帰ってきた真。

 そこで真はどうにか彼方からクレア王のことを聞き出せないものか考え、酔わせて油断した隙に聞き出すことにしたのだが、なんと彼方は全く酔わない。どうやら少しのアルコール量だったら体内に入った瞬間に破壊されるらしい。

 その事にガッカリしながらも罪悪感を感じる真だった。



 それではどうぞ!


side真

 

 あのあと俺と彼方は店を後にしてそのまま紅魔館へと帰ってきた。

 早めに行動したいのだが、彼方の意思が硬いのでなかなか進展がない。

 

 とりあえず酒を飲ませる作戦は失敗だ。あれからもっと強い酒を飲ませた。あの居酒屋にある一番強い酒を飲ませてみたが下がヒリヒリするとは言っていたものの、全く酔う気配はなかった。

 恐らく彼方の破壊ではこの市販にでまわっている程度のアルコール度数じゃすぐに破壊されてしまうのかもしれない。

 

 そして次の日、今日もまた彼方に聞き出すつもりだ。

 昨日寝る前に考えた作戦としては彼方は神様をやってはいるものの、精神年齢は子供のままで止まっている。つまり、買収ができるということだ。

 実際、この前買収をしようとしたら揺らいでいた。

 

 彼方は人里の料理とかがかなり気に入っている様子だった。なので、今日も彼方を引き連れて人里に行く予定だ。

 

「よし、行こうか」

「やった!」

 

 人里で食べ歩きと聞いてテンションが上がっている彼方。

 だが一方で少し不機嫌になっている人がいた。俺の事をジト目で睨んできている。

 

「シャロ、どうしたんだ?」

「べっつにー」

 

 本当にどうしたのだろうか。

 別にとは言ったものの、雰囲気からは不機嫌さが隠しきれていない。

 困った、シャロを怒らせたら不味いことになるかもしれない。今度お世話になるんだから機嫌を取っておいた方がいいのは確かだ。

 別にこの食べ歩きは俺と彼方じゃなきゃいけない訳でもない。

 

「じゃあシャロも一緒に行くか?」

「え、ほんと!?」

 

 俺が提案した瞬間、とんでもなく輝いた表情を見せてきた。やはりシャロも一緒に行きたかったのだろう。

 珍しいメンバーだがこれも悪くない。このメンバーで俺たちは人里へ向かった。

 

 ☆☆☆☆☆

 

 人里へ辿り着くともうお昼時になっていた。というか、昨日は夜更かしして作戦を練っていたので俺の起きる時間が遅かったというのもある。

 お昼時なのでとても美味しそうな臭いが漂ってきている。それを嗅いで彼方はとても目を輝かせている。

 

 人里に来て外食をするのはたまにあったけど、こういう風に食べ歩きメインで来るのはかなり久しぶりな気がする。

 

「シン、シン! これは?」

「煎餅だな」

 

 和菓子屋の前に来た彼方は煎餅を指さして目を輝かせる。

 そういえば煎餅はここ数年食べていないな。久々に食べてもいいかもしれない。

 

「煎餅三つください」

「あいよ」

 

 俺は煎餅三つ分の代金を支払って煎餅を受け取る。

 煎餅からは醤油のいい香りが漂っている。それを二人にも渡す。

 気になるのは彼方の反応だ。あの様子だったら彼方は食べたことがないのだろう。どうだろうか、口に合うだろうか。

 彼方はパクリと一口。そして彼女の口から出た言葉は――

 

「おいひい」

 

 完全に蕩けたような表情をして幸せそうな声で言う彼方。それだけで本気で美味しいと思っているんだろうなということが伝わってきて微笑ましくなる。

 それを見てから俺も一口食べる。

 

 うん、この幻想郷に来てから煎餅って食べたことがないんだけど下手したら日本で食べた煎餅よりも美味い。

 醤油の風味がとてもいいアクセントとなっている。

 

 次にやってきたのは、

 

「いらっしゃ――あ、真さん」

「よ、ミスティア」

 

 ミスティアの屋台だった。

 やっているというのは聞いていたものの、地味に来たことがなかった。

 霊夢たちはよくミスティアの屋台で飲んでいるという話を聞いていたので来てみたくなったのだ。

 

「後ろに連れているのは――」

 

 そこでミスティアの表情が険しくなる。

 

「真さん」

「はい?」

「ダメじゃないですか。彼女さんがいるのに他の女性をしかも二人も侍らせて」

「いや、これは違うんだ」

 

 彼方はよく分からないと言った表情をしているが、シャロは明らかに不機嫌な表情だ。どうやら俺とそういう関係だと見られたのが嫌だったようだ。

 それからしっかりとミスティアにこの二人はそういう関係じゃないと説明して少し腑に落ちない様子だったけど何とか納得してもらうことに成功した。

 

 というわけで注文をするのだが、ここにはどういうメニューがあるのかが全く分からない。

 

「何がおすすめなんだ?」

「そうですね、ヤツメウナギなんてどうでしょうか」

「ヤツメウナギか……じゃあそれを三つ貰うよ」

「はーい」

 

 注文をすると直ぐにヤツメウナギなるものを焼き始めた。

 率直な感想を言うと見た目がかなりグロい。だが、行為物に限って美味かったりとかするから侮れないのだ。

 

「はい、ヤツメウナギです」

「じゃあ、これ勘定」

「はい、ありがとうございます。またいらっしゃってくださいね」

「あぁ」

 

 ヤツメウナギを受け取って代金を支払う。

 二人に配ってから再度その手の中にあるヤツメウナギを見てみる。

 やはりグロい。だが、ミスティアのオススメなのだ。食べてみよう。

 そして俺は意を決して一口。

 

「美味い」

 

 見た目はかなりグロかったもののその味はとても美味かった。

 二人の様子を見てみてもとても美味しそうにヤツメウナギを食べていた。

 これはいいものを食べさせてもらった。今度見かけたらまた来てみよう。

 

 さて、次はどこへ行こうか。




 はい!第113話終了

 食べ歩き前編ということでね。

 果たして真は彼方からクレア王の使い方を聞き出すことが出来るのだろうか。

 それでは!

 さようなら


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第114話 聞き出そう③

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 彼方から情報を聞き出すために再び人里にやってきた真。

 果たして今度は彼方から情報を聞き出すことが出来るのだろうか。



 それではどうぞ!


side真

 

 色々見て回った。しかし未だに彼方から話を聞けずにいる。

 あの彼方が話すくらいならと飯を断ったくらいの事だ。そうそう簡単に聞き出せるわけがないだろう。

 だが、どうしても俺は聞き出さなくてはならない。そのためにはどんな対価でも払ってみせる。

 

 次に俺たちは遊ぶために射的屋に来た。

 この店では普段俺たちが使っている弾幕とは違って銃を使って景品を撃ち落とす。ゴム弾を使う銃で景品を撃ち落とす。

 前に一回だけこっちでも射的をしたことがある。といっても俺が一回目にこっちに来てから間もない頃の話だけどな。

 あの夏祭りをきっかけに俺とこいしは付き合うことになった。とても懐かしい記憶だ。

 

 この場にこいしが居ないことが少し悲しくなったものの、ただ悲しんでいたってこの場は何も変わりはしないのだからそこでただ悲しむのはやめにする。

 

「彼方、やってみるか?」

「うんっ!」

 

 いい返事をした彼方は射的屋のおっちゃんから銃を借りて構えた。それを見て俺はおっちゃんに代金を支払う。

 彼方の構えを見てみるとなにやら手馴れた感じがした。彼方はほとんどのことは初めてで初々しい反応なのだが、この射的だけは何度もしたことのある構えのように感じた。というかよく見てみると俺の構えにそっくりだ。

 まぁ、それはどうでもいいか。似ることくらいいくらでもあるだろう。

 彼方が銃をかまえ、引き金を引くと前方のぬいぐるみにクリーンヒット。綺麗に景品のぬいぐるみが下に落ちた。

 

「お嬢ちゃん、お見事だ」

「やったーっ!」

 

 景品としておっちゃんは彼方にぬいぐるみを手渡す。それにとても喜んでいる彼方。

 何度も経験しているように感じたのは俺の気の所為だったのか? それに俺の構えに似ているような……まぁ、それも気の所為だろう。

 

 そして景品は他に何があるか見てみると何やら見た事のあるぬいぐるみがそこにあった。

 あれは夏祭りの時に俺がこいしにとってやったぬいぐるみ。恐らく同じものだろう。

 あれはずっと大切にしてくれているようで、あのぬいぐるみを抱きしめて寝ているのを見た時は悶え死にそうになった。

 

 しかし何故だろう。あれを見ていると取らずには居られなくなってくる。

 

「おっちゃん、俺も一回」

「おうよ」

 

 そして俺も金を払って銃を構える。

 これは久々に触ったものの、全く感覚がぶれていない。しっかりと的を狙える。

 狙いはあのぬいぐるみだ。

 

 そして慎重に狙いを定めて、そして引き金を引いた。

 その弾は綺麗にぬいぐるみにヒットして落下させる。

 ここの銃はかなりしっかりしているようで、火力がなかなかある。そのため、当たったのに落ちないってことはそうそうなさそうな感じがする。

 

 しかしこのぬいぐるみはどうするかな。

 

 ちらっとシャロの方を見てみると何やら懐かしい気がした。あの時はまだシャロと出会っていなかったというのに何だかこれはシャロのために用意されたもののように感じた。

 

「はい、やるよ」

「え、いいの?」

「あぁ、なんだかこれはシャロに渡すべきものに思うんだ」

「じゃあ、ありがたく受け取るよ」

 

 そして俺からぬいぐるみを受け取るとそのままそのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめるシャロ。その姿が俺の最愛の人に重なってしまった。

 いや、シャロはこいしなんかじゃない。

 

 ――こいしはもうこの世にはいないんだ。

 

「それにしても彼方、初めてなのに上手いな」

「えっと、これは初めてじゃないんだよね」

「そうなのか?」

「うん、ある人にね何十回も何百回もここに連れられて、教えてもらったの」

 

 そんな人がいたのか。

 おっちゃんの方を見てみると不思議そうな表情をしていた。

 

「俺はずっとこの店をやっているが、嬢ちゃんみたいな可愛い子は来てねぇな。というかこんなボロい店にこんなじょうちゃんを連れてくるのはあんただけだぞ」

「あ、あはは」

 

 自分で自分の店を貶していくスタイルなのか。

 ってまて。このおっちゃんが見ていないってどういうことだ。彼方の話ではこの店に何度も来て教えてもらったとか言っていたのに。

 彼方の謎が深まるな。

 

「そ、それよりも次のところに行こうよ」

「それもそうだな」

 

 彼方が急かしてきたので、そろそろ次のところに行くことにした。

 

 それからも色々な店で遊んだものの、遊びに関しては何でも上手くなっていた。

 その度に連れてきて教えてもらったと言うものの、今回の前に彼方が来店しているのを見た事がある人は誰一人としていなかった。

 彼方から聞き出すのも重要だけど彼方のこともなにか重要な気がする。

 

「次はどこへ行くの?」

「彼方、少し修行に付き合ってくれないか?」

「ん? いいけど」

 

 そう言って俺達がやってきたのは太陽の畑だった。ある人に会いに来た。

 家の前に来るとドアをノックする。

 

「鬱陶しいわ。なによ――って真じゃない」

 

 そう、この太陽の畑の管理者、風見幽香に会いに来たのだ。

 この幽香さんにはまだまだ教わることがある。どうして彼方が教えてくれないのかは分からないけど幽香さんの授業を受けていて悪いことはないだろう。

 さて、また地獄の修行を始めますか。




 はい!第114話終了

 彼方の謎がどんどんと深まっていきます。

 果たして真は彼方からクレア王を聞き出すことが出来るのか。

 それでは!

 さようなら


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第115話 危険な成長

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 彼方にクレア王を教わろうと必死に彼方から聞き出す方法を模索する真。

 だが、彼方のガードはなかなか固く、聞き出すことが出来ない。

 そこで真は最後に太陽の畑に向かい、修行することにした。



 それではどうぞ!


side真

 

「なんでよりにもよって……」

「あ? クソガキ、何か言いたいことがあるのか?」

「別に〜」

 

 彼方はいつもの調子のようで、幽香さんに突っかかって行っている。

 暫く色々なことがあったせいで久々のように感じるが、ついこの間までここで修行をしていたんだよな。

 

 ……まだまだ教わりきれていないことが山ほどある。

 幽香さんの本気がどれくらいのものかは知らないけどもものすごく強いというのは分かっている。

 だから再び俺はこの幽香さんに修行をつけてもらいに来たのだ。

 

 恐らくクレア王にはなんらかの秘密があるのだろう。そこに彼方が俺に言いたくない理由が含まれているはずだ。

 確かにこいしをやったやつを仇討ちしたい。だけど、それをする上で彼方を悲しませたいとは思わない。

 

 とりあえず今は俺自身で出来ることをしよう。

 

「幽香さん、俺に修行をつけてくださいっ!」

「ほう?」

 

 幽香さんは俺の事をじっと見すえてくる。

 顔がかなり怖いので迫力があるが、俺は目を背くことはせずにじっと幽香さんの目を見る。

 すると優香さんは額に手を当てた。

 

「ふ、あははははは」

「へ?」

 

 そして急に笑い始めた。

 あの目は何をしてくるか分からないと覚悟をしていたが、急に笑い始めたもので、拍子抜けをしてしまった。

 

「あの小僧がすこし地獄に行っただけでここまで変わるか……。最初に来た時とは訳が違う。その目は今までとは違う、覚悟をしたものの目だ」

「そうですね」

 

 こいしを失って心情が変わったかもしれない。これ以上、犠牲を出さないために俺は強くならないといけない。

 それにこいしたちを襲ったやつを野放しにしていたら幻想郷が危ないかもしれない。だから俺はそいつらと戦うだけの力が欲しい。その為ならば何でもする。

 

「シン……」

 

 すると彼方が一瞬、悲しそうな表情になったのが見えた。恐らくクレア王に関係することなのだろうが、どうして今の流れで悲しそうな表情になったのかが分からない。

 

「ふむ、じゃあどれほど強くなったかまずは組手をしようか」

「え」

 

 まさかあの幽香さんがいきなり組手をしようと言ってくるとは思いもしなかった。

 いつもならば特訓メニューを与えて家の中に篭ってしまうのだが、これはチャンスかもしれない。

 この戦いで幽香さんの戦いを少しでも盗む気持ちで戦おう。

 

 恐らく今の俺の全力でも幽香さんには敵わない。だけど、一発でも攻撃を加えて認めさせてやる。

 

 幽香さんは少し広い場所まで移動するとそこで立ち止まってこっちを向いた。

 

「それじゃあ来な」

「行きますっ」

 

 俺は幽香さんに向かって走り出す。

 幽香さんはと言うといつも通りに日傘をさして余裕の態度だ。しかし隙は全くない。そこら辺はさすが幽香さんと言ったところだろう。

 だが、今の俺だったら幽香さんの攻略法を編み出すことが出来るはずだ――

 

「ぐはっ」

 

 近づいた瞬間、俺の体はいつの間にか宙を舞っていた。

 ものすごい衝撃で、周囲にも衝撃波が広がって行っている。

 今の攻撃、全く見えなかった。

 くそ、今回も一矢むくいることは出来なかった。その悔しさを胸に俺は意識を手放した。

 

 ☆☆☆☆☆

 

 あれ、ここはどこだ? 手足の感覚がない。真っ暗な空間だ。

 顔は動かすことは出来るが、動かしたところで真っ暗で何も見ることが出来ない。

 

 すると急に目の前に映像が映し出された。

 少し砂嵐のようになっていて白黒で見にくいもののハッキリとその映し出された人物を認識することが出来た。

 

 ――彼方だ。彼方が泣いているのだ。

 

 よく見えないからどうして泣いているのかはハッキリとは分からないけども恐らく原因は彼方が抱きしめている人物。

 これは嬉しくて抱きついて泣いているようにも見えなくもないけども俺は雰囲気で察してしまった。なにせ、彼方の顔はとても悲しそうなのだから。

 

 すると今度は映像だけでなく音までもが聞こえてきた。

 

『……って言ったじゃん』

 

 言った? 何を言ったんだ?

 

『死なないって……言ったじゃんっし――」

 

 そこで音が途切れ、映像が切れた。

 その瞬間、俺の意識は別の場所に移った。

 目を開けてみるとそこは幽香さんの家の一室だ。俺はそこのベッドに寝かされているのだ。

 

 そういえば幽香さんと組手をしていて瞬殺されてしまったんだっけか。……なさけねぇな。

 結局一発も入れるどころか近づくことすらも出来ずに終わってしまったんだ。

 

 こんなんじゃダメだ。もっと力を手に入れないといざと言う時にまた仲間を守ることが出来ない。

 

 それにしてもあの夢はなんだったんだ? あの映像、内容がとても気になるものだった。

 俺は彼方が泣いている姿を一度も見た事がない。なのでとても不思議に感じた。

 

 恐らく状況から考えてあの彼方が抱いていた人物は……死んでいた。ということは彼方はその事について泣いていたいのだろう。

 どんなやつだったかよく見えなかったから分からなかったけども上半身は裸で、黒髪の男だった。そして全身ボロボロで恐らく戦って死んだのだろう。

 

 どうしてあんな夢を見たのかは分からないけども何となく俺の勘が言っている。あの夢は重要だって。

 


 

side幽香

 

 あの瞬間、私は咄嗟に攻撃してしまった。本当はあんな攻撃をするつもりはなかった。だけど出てしまった。

 それは何故か、身の危険を感じたから。

 

 海藤 真。本来ならば軽く攻撃を捌いて終わらせるつもりだったんだけどもあいつの覇気を浴びてやらなきゃやられるという危機を感じた。それで咄嗟に出てしまったのだ。

 確かにあいつは成長している。だけどもその成長の方向が一歩間違えたら奈落という方向に成長してしまっているような気がする。

 

「あれは目を離したら直ぐに自分の命をかなぐり捨てるぞ」




 はい!第115話終了

 果たして真は幽香との特訓をしてこいしたちの敵討ちをすることが出来るのでしょうか。

 そして彼方が秘密にしたがるクレア王の秘密とは一体。

 それでは!

 さようなら


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第116話 料理

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 真は修行をするために太陽の畑にやってきた。

 そこで幽香と組手をすることになったのだが、真は幽香に瞬殺されてしまう。





 それではどうぞ!


side真

 

 ベッドから起き上がると同時に部屋の扉が開いた。

 そこから出てきたのはシャロだった。

 

「起きたんだ」

 

 その手には水の入った桶とタオル。恐らく倒れている間、俺の事を見てくれていたのだろう。

 そんなシャロは俺の隣の椅子まで来ると、その椅子に座って俺の頭を撫でてきた。

 

「なんだよ」

「焦る必要は無い。焦って無茶をするのが一番だめだからね。今日ダメでも明日。明日ダメでも明後日頑張ればいい」

「…………」

 

 優しく声をかけてくれるシャロだが、そんなシャロの言葉に何も返すことが出来なかった。

 俺としては今すぐにでもみんなの敵を討ちに行きたいし、力を手に入れる為ならば何でもするつもりだ。だが、何故かシャロに言われると何も言い返せなくなってしまう。

 そしてなぜだかこいしの顔が頭に浮かぶのだ。

 

「それじゃ、私はいくから何かあった呼んでね。後それからあと少しでご飯ができるみたいだよ」

 

 それだけ言い残して部屋を後にするシャロ。

 確かに一瞬だけ扉を開けた瞬間に食べ物の臭いがした。とても美味しそうな臭いに混ざってかなり変な臭いがする。この臭いにトラウマが呼び起こされる。

 

「そういえばこいしは料理が壊滅的だったっけか」

 

 なんどかこいしの料理には殺されかけている。しかもあの料理たちは永琳先生に調べてもらったところ猛毒の塊だったらしいからそれを食べたと思うとゾッとする。

 

 それにしても今一瞬だけ引っかかったことがある。

 シャロが自分のことを私と呼んだことだ。あいつの自分の呼び方は僕だったはずだ。

 なんで急に一人称を変えたんだ。

 

「まぁ、考えても仕方が無いか」

 

 俺は立ち上がる。

 体の痛みは全くなく、このまま動いても全く支障が無い。こういう傷の治りが早いところは妖怪の血は便利だと感じる。

 

 扉を開けるとやはり腐ったような臭いと美味しそうな匂いが混ざって複雑な感じがする。

 

「あら、起きたのね」

 

 すると俺が扉を開けた音に気がついたのか幽香さんが顔を出した。

 見てみると台所に幽香さんと彼方が並んで立っている。どうやら二人で料理をしているようだ。

 あの犬猿の仲のような二人が一緒に並んで料理をしているのは少し変な感じがするが、あの様子を見てみたらお互いのことを嫌っているという訳では無いようだ。むしろ、あの手つきとコンビネーションを見て見たら昔馴染みで心を許せる仲だという感じがする。

 

 恐らく俺にとっての龍生のような存在なんだろう。心を許せるからこそ、悪態をつける的な感じだ。

 

「シャロは?」

「ぎくっ」

 

 シャロは台所に立っていないのでどこに居るんだと思ったら近くのテーブルについて大人しくしていた。

 よく見てみると真っ黒なスープが入った鍋が端に避けられているのが見える。状況から考えてあれは――

 

「シャロ?」

「できると思ったんだけど」

 

 あんなのを作るやつのどこに出来ると思う自信があるのかが俺にはよく理解できない。

 それからしばらくすると料理が完成したようで、彼方と幽香さんが料理を持ってきた。

 

「寝ている間にもお腹はすくものよ。これを食べて体力つけなさい」

「え、ご馳走になってもいいんですか?」

「まぁ、弟子だし、これくらいはしてやるさ。それに今、どうにかなられても困るしね」

「困る?」

「そうね、紫から聞いただけなのだけども、今回の異変は少々特殊らしいわ」

「異変……」

 

 俺が思いつく異変と言うとやっぱりこいしたちが襲撃されたあのことだろう。

 そして恐らくタイミング的にこれと関係していることで間違いない。

 紫が動いているのだとしたらこれは相当な異変だ。紫は基本的に異変のことに関しては俺たちに任せているものの、時々解決に動き出すことがある。それは幻想郷を揺るがす一大事の時だ。

 

「まぁ、そんなわけだから遠慮せずに食いな」

「ありがとうございます」

 

 俺は一言礼を言ってから食卓に着く。

 テーブルの上にある料理はどれも美味しそうなものばかりだった。

 彼方も料理をしていたけども彼方も料理できたんだな。

 

「このクソガキ、どこで料理ができるようになったんだか」

「なにをーっ! 私だって料理くらいできるようになるさ」

「自他ともに認めるダークマターを作っていたお前が何を言う」

 

 彼方もダークマターを作ってしまう人だったのか。

 だが、今見てみると彼方の料理はかなり完成度が高く、ダークマター所かとても美味しそうに見える。

 

「い、いただきます」

 

 俺は手を合わせてから唐揚げを一口食べる。

 

「美味い」

 

 とても美味しかった。

 口の中に入った瞬間に旨みが口いっぱいに広がる。

 

 そして他のものはどうなのかと見てみると、そこには俺の大好物であるシチューがあった。

 しかし、このラインナップの中にあったらかなり違和感がすごいので目に止まった。

 俺はシチューが好きなので迷わず手に取って一口。

 

「美味いっ!」

 

 さとりや咲夜には申し訳がないが、今まで食べてきたどのシチューよりも美味かった。俺の好みにどストレート。まるでボディーブローでもくらったかのような衝撃だった。

 

「本来はシチューなんて作る予定じゃなかったんだけどね。このクソガキが急に作るって言い出して聞かなくてね」

「じゃあこのシチューは」

「うん、私が作った」

 

 俺はその言葉を聞いた瞬間、彼方の両手をとっていた。

 そしてその手に向かって拝み続ける。

 

「そ、そんなに喜んでもらえたなら良かったよ」

「でも、なんで急に作り出そうと言ったんだ?」

「だって、シンは好きでしょ?」

「好きだけども……あれ? 言ったっけ?」

 

 その瞬間、彼方が固まってしまったような気がした。

 俺的には言っていないような気がするんだけども、俺の記憶違いという可能性も無きにしも非ずか。

 

「言っていたかもしれないな。俺の記憶違いかも」

「そうだよ! この前言ってたじゃん」

 

 とにかく今はこの美味いシチューを堪能させてもらおう。

 

「ふう、危なかった……でも、前よりも喜んでもらえているようで良かった」

 

 そんな彼方の呟きは俺には全く聞こえていなかった。




 はい!第116話終了

 果たして彼方の最後の言葉の意味とは?

 それでは!

 さようなら


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第117話 教えたくなかった理由

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 目を覚ました真は部屋を出ると直ぐにもう料理が出来上がっていた。
 その料理は幽香と彼方で作ったもののようで、料理はシチューだった。

 真はシチュー好きであることが何故か彼方に知られていることに疑問を抱いていたものの、シチューが美味しかったので、そんなことは直ぐに気にならなくなった。



 それではどうぞ!


side真

 

 シチューを食べ終わったら俺は外に出た。

 この前は倒れてしまったので、今度は倒れないように気をつけておく。

 だが、あれくらいの攻撃で倒れてしまうなんて俺もまだまだだ。だから俺はみんなを守ることが出来なかったんだ……。

 

 こいしたちはもう居ない。もう後悔しても帰ってこない。

 ならせめて今いる人たちを絶対に守る。

 そのためには俺はもっと強くならないといけない。

 

 あの場にいた人たちはかなりの実力者が集まっていたと思う。だが、その状態で負けるということはかなりの力の持ち主だってことだ。

 今度そいつらが攻め込んできたら守りきれるとは言いきれない。

 どんなに苦労しようともそれがみんなを守るための苦労ならどんな苦労でも乗り越えてみせる。

 

「なんか、真君が今までよりも修行に力を入れているような気がする。でもあれじゃいつから体を壊しそう」

「うん、私も嫌な予感がする」

 

 二人が何か話しているが、俺は修行に集中をしているため、周りの声は全く聞こえていない。

 素振り、そして霊力操作。これを繰り返し行う。

 そして筋トレも忘れない。筋トレをしていないと剣での攻撃で、撃ち負けてしまうことがある。

 

「紬……」

 

 いつも一緒に戦ってくれていた相棒。その相棒が居ない。

 あいつはいつもはかなり面倒くさいと思っていたが、いざ居なくなるとかなり寂しいものである。

 龍生に関してもそうだ。

 地霊殿組は揃ってやられてしまった。その心のダメージがかなりでかい。

 

 でも、いつまでも落ち込んではいられない。かならず仇を討つ。

 

「馬鹿者」

「がはっ!?」

 

 急に頭を強く叩かれてしまった。

 かなりの衝撃だったため、地面に倒れてしまう。

 

「あ、やりすぎた」

「やりすぎたじゃないですよ! なんですかいきなり!」

「馬鹿者、自分の体の器を考えていないのか?」

「器?」

「器は自分の力を受け入れることの出来る大きさ。それは修行によって大きくなっていくものの、力よりも成長速度が遅い。だから自分の力に振り回される人っていうのが出てくる」

「な、なるほど」

「真はかなり人よりも器がでかい。妖怪の血も混ざっているからだろう。だけどもそれでも限界がある。そんな無理な修行を続けていたらいつか体を壊すぞ」

「……」

 

 自分でも分かっていた。焦りすぎてこのままじゃ体を壊してしまいそうだと。

 だけど、それでもやらないといけないんだ。

 

「やらせてください。俺はもっと強くならないといけないんです」

「執着心が凄いな」

 

 俺の返答に幽香さんは呆れた様子だった。

 幽香さんには分からないだろう。俺がこの世界にとどまっている理由、そしてどうしてここまで必死になっているのか。

 もう大切な人を失いたくないんだ。

 

 あの一瞬で俺は多くの大切な人を失ってしまった。もう一度大切な人を失うのが怖いんだ。

 

 そこで彼方は真剣な表情になってこっちに歩いてきた。

 なんの用だろうかとすこし身構えてしまう。今まで彼方はこんなに真剣な表情をしたことがない。

 そんな彼方が第一声に言い放ったのは、

 

「そんなに死にたいの?」

 

 そんな言葉だった。

 質問の意図が読めなかった。どういう意図で質問してきたのかは知らないけども、そんなに易々と死にたいと思うはずがない。

 確かにこいしたちのことを追って行きたい。この世界にもう希望を見いだせなくなった。だけどそれじゃこいしたちが報われない。

 とりあえず今は――

 

「死にたくないな」

「だよね。普通はそう」

 

 結局何が言いたいのか全く分からない彼方の言葉。

 全てが意味不明だ。

 

「だけどシンの目はそう言っていない」

「え?」

「自分の命を捨てて皆を救えるんならそれでいいと思っている」

「……」

 

 図星だ。

 心を読まれてしまっていた。だが、確かにここ最近は必死になりすぎていたせいで、俺の感情はかなり筒抜けだったことだろう。

 何も言い返せなくなった俺はただ俯くしかなく、それを彼方は肯定と判断したようだ。

 

「シンにクレア王を教えたく無かった理由はシンが命を捨てるから」

「命を?」

「うん。クレアはとっても強い反面、とっても危険な力なんだ。体に負荷をかけて無理やり力を強くしている面がある。だからかなり危険なんだ。そしてその位が高くなれば高くなるほど危険度が上がるって言うのは分かるよね」

「あぁ、」

「そしてクレア王はクレアの中で……最強の技。それだけ危険度は高い。それを使うとシンはもしかしたら自分の耐えきれる力を超えて戦ってしまうんじゃないかって思って」

「彼方」

 

 つまり、今まで俺にクレア王を教えてこなかったのは俺のためだったってことか。

 これが理由で今まで黙秘していた。

 これを聞いて俺はもう彼方から聞き出そうとするのは止めようと思った。

 なにせ、彼方も彼方で俺の事を思っていてくれたんだ。ならば、その気持ちを無下にする訳には行かない。

 

「ありがとう。そして今まで聞き出そうとしてゴメンな」

「シン、約束を守ってくれる?」

「え?」

「クレア王と限界突破(ブレイク・ザ・リミット)を一緒に使わないでください」

「……わかった。約束する」

「その返事が聞けてよかった。じゃあ、これから教えるね。最強のクレア、クレア王の使い方」




 はい!第117話終了

 真の姿に心を動かされた彼方。

 果たしてクレア王とはどのようなものなのでしょうか。

 それでは!

 さようなら


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第118話 世界一危険

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 真は修行を開始する。すると真は器を考えろと叱られてしまう。

 そして彼方が真にクレアと限界突破(ブレイク・ザ・リミット)を同時に使わないように約束させ、クレア王の使い方を教えることとなった。



 それではどうぞ!


side真

 

「クレア王はね、まず体力の消耗が激しいんだよね」

「それはなんとなく想像が着いている。クレアもそこそこ体力を消耗するから」

「そう。だからまずは体力をつけないといけない。シンの今の体力じゃもって数分が限界。例え最強のクレアといえどももっと時間が無いと正直厳しいところがあるからね」

 

 確かに。数分で決着をつけるってかなり厳しい話だ。最低でも一時間は欲しいところだ。

 だからまずは体力トレーニングをしないといけないってことか。クレア王を会得するまでの道のりは遠いけどもこれをクリアすればクレア王の使い方を教えて貰える。

 

「体力トレーニングなら、あれがあるわね」

 

 幽香さんはそう言って家の中に入っていった。

 いつも幽香さんは俺をいじめることを楽しんでいる。だから、とんでもないものを持ってきそうで怖いんだけども、幽香さんが戻ってくるのを待つことにする。

 

 数分するとなにか機械のようなものを持ってきた。そこそこ大きいけども俺でも持てなくは無いものだ。

 

「ってそれ、ランニングマシーンじゃ」

「ランニングマシーンってのは分からないけども、これはカッパがくれた運動マシーン、RNGMよ」

 

 うん、RNGM(ランニングマシーン)だね。

 だが、以外にも普通のものが出てきたので俺は心底ほっとした。幽香さんのドS加減は折り紙付きだ。だからもっとやばい物が来ると思っていたんだけど――

 

「ちなみに針つきよ。ここを引っ張ればあら不思議、落ちたら串刺しの刑よ」

「やっぱり普通じゃなかったぁぁぁっ!」

 

 どこが普通のランニングマシーンだよ! 落ちたら即死罠のある命懸けのランニングマシーンじゃねぇか!

 確かに俺はこの程度じゃ死なないけども痛みはあるんだからな! 刺されたくないからな!

 

 そしてよく見てみると何かが滴っているのが見える。そしてその雫が地面に落ちた瞬間、地面がジュっという音を立てて溶けた。

 うん、猛毒が塗られているようだ。なにこの拷問、傷は一瞬で治るけども毒はしっかりと効くんだからな!

 

「とりあえずこれで体力をつけよう」

「俺は嫌だぞ。体力が着く前に俺が死ぬ。確実に死ぬ!」

 

 確かに嫌でも体力は着くだろうよ。なにせ、命懸けなんだから。

 しかし、なんで幽香さんはこんなものを持っているんだろうか。まさか自分で使う訳でもないだろうし……。

 そういえば前、この畑を荒らした妖怪たちを拷問しているという噂を聞いたんだけど……まさかね……やらないよね?

 

「まぁ、シンならこのくらいでは死なないから大丈夫……だと思う」

「彼方、俺を売るのか!?」

 

 あんなに俺のことを心配してくれていたのに薄情なやつだ!

 だが、俺は大切な人を守る為ならばどんな事でもする覚悟だ。

 もう一度ちらっとランニングマシーンを見た。あれは俺でも死んでしまうかもしれない代物だ。

 

「でも、これを乗り越えると俺は強くなれる」

「え、真くん本気?」

 

 シャロが俺の事を正気を疑うような目で見てくる。

 俺は毒に触れてみた。すると直ぐにその毒は俺の皮膚を溶かした。

 半分妖怪の血が流れている俺はすぐに回復したが、これはかなり強力な毒だ。

 俺はほとんどの攻撃を無効化している。いや、ほとんどの攻撃のダメージを最小限に抑えていると言った方が正しい。だが、そんな俺に最も効くもの、それは毒だ。

 毒は人体をジワジワと蝕んでいく。それは俺の能力でも抑えることは出来ない。俺の能力は致命傷を受けない程度の能力だ。致命傷にならないダメージを継続で受け続けたら俺も死ぬ。

 

 今のもダメージこそ一瞬で回復したものの、ダメージを抑えることは出来なかった。しっかりと体にそのままのダメージを与えてきていた。

 

「お前とならば命懸けの勝負を出来そうだ」

「真くん、無機物に何言っているのさ」

 

 シャロに呆れられてしまったが、俺の腹は決まった。

 俺は今すぐにでも力が欲しい。その力が手に入る道があるのだとしたら今すぐにでも飛びつきたいくらいに。

 

「幽香さん、これを借ります」

「どうぞ。ただ、あなたが生きて修行を終えることが出来るかは分からないけどね」

「それでもやります」

 

 せっかく出してもらったんだからこれを使わない手はない。

 そして俺はランニングマシーンに乗り、ボタンを見てみるとそこには一つのボタンしか無かった。

 とりあえず、このボタンを押してみればいいのか。そう思って押して見た瞬間、俺の足はすごい勢いで後ろに引っ張られた。

 まさかこんな勢いで引っ張られるとは思っていなかったので、少し反応に遅れてしまい、かなり針にギリギリのところまで引っ張られてしまったものの、直ぐに体制を建て直して走り始めた。

 

「ほう、まさか一回目で走れるなんてね。初めての人はそのスピードに振り回されてぶっ飛ばされるんだけどね」

「それって俺以外の人は死ぬよね。俺でも死ぬけどね!」

「その針を出してやるドMはあなただけよ、真」

「これ、俺が好きで出してやっているわけじゃないですからね! あなたが出したんじゃないですか!」

 

 とりあえず俺はこれで体力をつけようと思う。




 はい!第118話終了

 世界一危険なランニングマシーン。あ、間違えたRNGMですね。

 それでは!

 さようなら


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第119話 一つのもの

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 クレア王を会得するにはもっと体力が必要だということになった真は体力アップトレーニングをすることになったのだが――



 それではどうぞ!


side真

 

 あれから約一週間が経った。

 毎日太陽の畑に通ってドSランニングマシーンを使用して体力アップトレーニングをしていた。

 毎日極限の状態でやっているせいかかなり体力が着いてきたような気がしてきた。

 

 ランニングマシーンをした後はクレアを使用して霊力操作をする。これをすることによってクレアの状態に体を慣らす。

 それが軽々とこなせるようになったら今度は走りつつクレアで霊力操作をする。

 それを毎日コツコツとこなしているとどんどんと体力が着いてきて、疲れにくくなる。もう普通のクレアを使用しているだけじゃ体力切れを起こすことは無いだろう。

 

 そして遂に――

 

「こんなもんじゃないかな? じゃあ、クレア王の特訓を始めるよ」

 

 彼方は俺の体力が上がったのを確認して遂に特訓を始めると言い出した。

 俺はもう少しかかるかもしれないと思っていたが、かなり早かったので急にその話を出されてビックリしてしまった。

 

「クレア王の能力として感覚拡張。それから身体能力の大幅な向上が挙げられる。そして言わずもながらどのクレアよりも体力を消費するから体力を付けてもらってたんだよ」

 

 そこまで言うと彼方はどこからともなく石を取り出した。その石は大量あり、持ちきれなかったのか地面に置いている。

 俺はその石をどうするのか分からなかったので不思議そうに見ていると突然俺の方向へと振りかぶってきた。

 あれはどう見ても投げる体制だったので避ける体制に入った。

 

 そして彼方はその石を――地面へと叩きつけた。

 その姿を見て呆然としていた瞬間、叩きつけられるはずだった石はスキマの中に吸い込まれて行ってしまった。状況的にこれは彼方のスキマだろう。

 それと同時に俺の背中に固いものがすごい勢いで当たってきた。

 

「痛てーって、あれ?」

 

 そこにあったのは先程彼方が投げたはずの石だった。

 そして見てみるとスキマがそこには存在しており、彼方が石を投げ込んだスキマに手を入れてみると、背後の隙間から手が出てきたので恐らくこれは彼方がスキマの中に石を投げ込むと背後の隙間から出てくるという仕掛けのようだ。

 それを理解した瞬間、彼方が小気味よくパチンと指を鳴らすと俺は全方向を大量のスキマに囲まれてしまった。

 これ程全方向にあるとかなり気持ち悪いものだ。

 

「躱してね」

 

 なるほど、そういう事か。クレア王には感覚拡張って言うのがあった。これはそのための訓練だ。その感覚をより拡張する。

 そして彼方は再度地面のスキマへと石を投げ込んだ。

 すると今度はその石が上から落ちてきた。ただ、その石は何とか回避することは出来た。

 その石は俺が回避したことによって足元のスキマに入っていった。

 すると今度は左側から石が飛んできた。

 その石は回避することが出来ずに俺は当たってしまう。

 

 でも、これでよく分かった。投げこまれた乱反射する石を回避し続けろって言うことか。

 

 恐らくこれは完全にランダムに飛んでくるのだろう。それに加えてこのスキマは最初から出現しているので予測が不可能。かなりこれは難易度が高いな。

 本当にこれは感覚、反射神経を鍛える特訓というわけか。確かにこれならばかなり特訓になりそうだな。

 

「よし、来い!」

 

 それから俺はこの特訓をずっと続けた。

 最初のうちは本当に回避できるかも怪しかったものの、段々と飛んでくる石に反応することが出来るようになり、何回かは続けて回避できるようになってきた。

 ただ、まだ集中力が足りていないせいか途中で反応に遅れてしまって直撃してしまう。

 

 これはかなりの集中力を使う。集中力は霊力を操作する際にもかなり重要な要素なのだ。なのでこれによって霊力操作の質が向上する。

 霊力操作はクレアの強さにも影響を及ぼす。強いクレアを使える人は霊力操作が上手いのだと彼方は語った。

 

 そしてこの一個の回避ができるようになったら次は二個に増える。クリアする度にどんどんと個数を増やされるのだ。

 一個ができたとしても二個は異次元の難しさだった。なにせ、今までは一箇所のみに集中していれば良かったのだが、それが二箇所に増えるのだ。

 一個回避出来たとしても二個目の回避が難しすぎる。何度も直撃しまくって全く回避できない。

 

 それから一週間が経った。

 

「一個回避出来ても二つ目が……」

 

 未だに二個の壁を突破できずにいた。これは恐らくマルチタスク能力なんかが関係してくるのだろうが、俺は一度に複数のことを考えるのが苦手らしい。

 

「真君」

「なんだ? シャロか」

 

 考え込んでいるとシャロがやってきた。

 シャロは俺が座っていた場所の隣に座ると膝を抱えて体育座りのような体制になった。

 

「ねぇ、難しく考えすぎてるんだよ」

「難しく?」

「うん、あの石ってさ、二つでしょ?」

「まぁ、そうだな」

「それじゃ難しいよ。一度に複数のことを考え、そして複数のものを対処する。だけどね、あの状況でたった一つのものがあるんだよ」

 

 たった一つの物?

 石は二つだけどあの状況で一つだけのもの。恐らく石を回避するために重要なものなのだろう。

 となるとあの状況で一つのものと言ったら……。

 

「空気……」

「そう、空気だけは一つなんだよね。分離することは決してないただ一つのもの」

 

 だが、空気が一つと分かったところでどうしたらいいんだ……。

 そんなことをしていたら今日も特訓の時間になったので彼方が俺の元にやってきて石を回避する特訓が始まる。

 そこで俺はさっきのことを思い出していた。

 石は二つ、空気は一つ。それはどれだけ相手が増えたとしても変わりはしない。

 

「空気……」

 

 彼方が石をスキマに投げ込んだ。

 今まではそれを目視して回避しようとしていた。だが、俺は余計な視界をシャットアウトするために目を閉じた。

 真っ暗で何も見えない。風が(そよ)いでいる音のみが俺の現在ある感覚だ。

 

 その瞬間、何かが風を切る音が聞こえてきた。

 なるほどな。風は一つ、完全に飛んでくる方向が分かる。

 

 後はこれを回避するだけ。

 俺が体を捻って飛んできたものを回避すると、それは地面に落ちてスキマに飲み込まれた。

 すると瞬時に第二波が来る。しかし、それも風を切る音を参考に回避するとまた来る。

 

 その瞬間、音が三つに増えた。恐らく俺が見えていないだけで彼方が石を追加したのだろう。

 だが、やることは変わらない。回避するだけだ。

 

「やっとできるようになったね」

 

 その言葉を聞いて俺は目を開けた。すると目の前に石が飛んできていて直撃をくらってしまう。

 

「ぐ……どうだった?」

「ちゃんと回避出来てた。おめでとう」

「ありがとう。で、次は何だ?」

「これで特訓はおしまい」

「え?」

 

 俺は驚きの声を漏らしてしまった。

 まだ俺はクレア王を会得することが出来ていない。なのに彼方は特訓が終わったことを告げた。

 

「ねぇ、真。妖怪の山に行ってみて」

「妖怪の山?」

「そこで今回の騒動のすべてがわかる」

 

 全て……今回の騒動と言うと恐らくこいし達が襲撃を受けた件についてだろう。

 その事については気になっていたので、その話が聞けると言うのならば行かない訳にはいかない。

 

 俺は妖怪の山を目指すことにした。




 はい!第119話終了

 遂に修行を終えた真。果たして何が待っているのでしょうか?

 それでは!

 さようなら


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第120話 やっと見つけた

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 真は体力が着いたので今度は彼方の監督で新しい特訓を始めることにした。

 そしてその特訓の成果として周囲の空気を察知する力を手に入れたのだが、なんとそれだけで彼方は特訓終了と言い出したのだ。

 するとシャロが今回の騒動の全貌を伝えると言い、妖怪の山に真を呼び出したのだった。



 それではどうぞ!


side真

 

 俺は暫くぶりに妖怪の山まで来ていた。

 いつ見てもこの山の森はかなり鬱蒼としており、何が出てきてもおかしくはないという雰囲気がある。

 今の俺だったらそこら辺の自我のない妖怪くらいになら負けることはないとは思うけどもそれでもかなり怖いのは確かだ。

 しかも、この山には警備している人がいる。山に入ろうとした瞬間にまた鬼ごっこが始まるのかと思うとため息しか出てこない。

 

 今回着いてきたのはシャロだけだ。彼方はなにやら用事があるとのことで俺と一緒には来なかった。

 

「入ろう?」

「まぁ、行くしかないか」

 

 そう思って俺は一歩踏み出した。その瞬間、ものすごい勢いで空から降ってくる人影が。

 そのままの勢いで俺たちの目の前に着地した。

 そいつはこの山にはいる度に見かける天狗だった。

 

「椛か」

「久しぶりですね。真」

 

 様子がおかしい。いつもならば有無を言わさずに攻撃をしてくるというのに今回は何もしてこない。

 と言うか侵入者の俺たちがいるというのに剣を持ってきていないということは俺たちと戦う気は無いということなのか?

 

「お二人のことは聞きました。この山の上に行きたいのでしょう?」

「え、いいのか?」

「一応許可は通っています。守矢神社まで行くといいでしょう。それまで私がついて行きます。一応なにかしないか監視しないといけないので」

「悪いな」

 

 どうやら椛が一緒にいることによって他の天狗に襲われないように計らってくれるようだ。

 許可は通っていると言ってもその話が行っているのは一部の天狗のみだろう。話が通っていない天狗には遭遇したら襲われる可能性がある。

 だから椛がいれば安心だ。

 今の俺だとしても天狗の相手をするのはかなり骨が折れる。だから椛がいるのはかなり助かるな。

 

 俺たちは椛を連れて山の中へと入っていく。

 

 しかし、山の中はかなりの静けさでかなり気味が悪い。だいぶ日が落ちてきているとはいえ、この山は夜まで賑やかなのにその気配が何も無い。

 

「知っていますか?」

「なにを?」

「最近、至る所で行方不明事件が発生しているんです。それも、人間だけじゃなくて妖怪まで忽然と姿を消す」

 

 人間だけならば妖怪がやったのかと思うけども妖怪まで行方不明になるのはおかしい。

 恐らくそのせいでこの山はこんなに静かになってしまっているのだろう。

 だが、この山の妖怪はそこそこ強い力を持ってるから負ける心配はないと思うんだが、そんな妖怪たちでも恐れる存在と言ったら俺は一つしか思い浮かばない。

 少し前に皆が襲撃されてやられてしまった存在。恐らくそいつの仕業だろう。

 

 こいつはまだこの世界のどこかで悪事を働いている。急がないと取り返しのつかないことになってしまう。

 

「実は博麗 霊夢や東風谷 早苗がこの異変の解決に取り掛かっているんだけど、今回のはヤバそうなんです」

「俺もそう思う」

「だから戦える人を総動員させて戦いに挑まないと行けないと思います」

 

 確かにこんなに強い敵が相手だったら霊夢や早苗だけだったら厳しいかもしれない。ならば戦える人を総動員させないといけない。

 この前、紫との接触を図りたくて呼んだんだが、全く反応がなかった。恐らく紫も何かあったのだろう。

 となるとかなりの実力者でもマズイ可能性がある。

 

「でもその人たちからしたらそんなに力が密集するのは良くないことだと思うんです」

「確かにな」

 

 この山から嫌な霊力を感じる。その発信源はどこだろうか。

 そんなことは考えたらすぐに分かる。

 

「だから――今ここで死んで貰えませんか?」

 

 その瞬間、椛はどこからともなく剣を取り出し、俺に向けて振ってきた。だが、俺はその前にその禍々しい霊力を感知したのですぐに反応して霊力刀を作り出し、防御をすることが出来た。

 椛からは黒いオーラが出ている。これは椛じゃない。ならば、斬り捨ててもいいよな。

 

「はぁっ!」

 

 俺は椛の偽物を突き飛ばし、それから一気に刀を振った。

 すると刀は綺麗に椛の偽物の胴体を一刀両断することに成功し、その偽物は煙となって消えてしまった。

 

 椛本人だったらもっと苦戦していただろう。つまりこれは本人の姿をしているだけの他人といった感じなのか。

 しかし、何が起こっているんだ?

 

 最初からおかしいと思っていた。今日、シャロに向かえと言われたというのにこんなにも簡単に許可が通るものなのか? それは違うだろう。

 だから俺はおかしいと思っていた。それにこの山の静けさ、これは異常だ。いつも煩いくらいの天狗が飛んでいるのに空を見てもただの星空しかない。

 

 とりあえず俺たちはどんどんと山を登っていく。

 

 やがて俺とシャロは守矢神社までたどり着いた。だが、いつものように神社に来た客をもてなそうと走ってくる早苗の姿はそこにはなかった。

 代わりにいた人物。

 

「待っていたぞ」

「紅蓮さん」

 

 そう、そこに居たのは力神の紅蓮だった。

 燃える剣を振り回し、どうやら素振りをしていた様子の紅蓮は俺とシャロが来たことを確認するとその剣は鞘に閉まって俺の方へと向き直った。

 

「知っているか? 最近、偽物が本物を攫い、その偽物が本物になりすまして近しい人物を攫うという事件が多発しているのを」

「さっき、実際にやられたばかりだ」

「そうか。この山にはもう誰もいない。全員その神隠しにあった」

「つまり、諏訪子と神奈子もか? 神が神隠しに会ってたら世話ねぇな」

 

 やはりこの静けさは被害にあってしまってもうここには誰もいないということだったらしい。

 しかし、ここには物凄い強いやつもいたはずだが、ここの神二人もやられてしまったらしい。

 

「それで、俺たち神と協力してこの異変を解決に導いてくれないか?」

「神が出るって言うことは未来の俺の時とおなじ、幻想郷が崩壊する危機って言うことか」

「そうだ、博麗や霧雨、魂魄、東風谷など色々なヤツらが既に犠牲になっていて、今戦える最高戦力がお前って言うことだ」

「なるほど」

 

 すでに霊夢達はやられたのか。博麗神社に行っていなかったから気が付かなかったけど、もし博麗神社に行っていたら霊夢と魔理沙を助けることが出来たのかな。もし、白玉楼に行っていたら。

 

「そう自分を責めるな。それで、俺たちに協力してくれるのか?」

「まぁ、いいですけど、その前に一つハッキリさせたいことがあります」

 

 俺はそう言うとシャロの方へと向き直った。

 なにやら面倒な術を掛けられている。それも神力だ。だから俺は気が付きにくかった。俺は神力を持っている量が少ないからな。

 だけどもう分かった。

 

 俺は限界突破(ブレイク・ザ・リミット)を使用する。

 

「ど、どうしたの真くん」

「本当のことをいえ」

 

 俺はシャロに手のひらをかざすと上書きを使用した。

 その瞬間だった。シャロの姿がみるみるうちに変化していき、緑がかった銀髪の少女の姿へと変化した。

 やっと見つけた。

 

「どうしてこんなことをしていた。こいし」




 はい!第120話終了

 あの死んだと思っていたこいしが真の目の前に現れました。これは果たしてどういう事なのでしょうか?

 それでは!

 さようなら


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第121話 覚悟は決まっているか?

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 真はシャロとともに妖怪の山に来た。そこで椛に案内してもらうことになったものの、その椛は偽物だった。

 守矢神社には鍛錬をしている紅蓮が居た。そこで紅蓮から今、この幻想郷で起こっていることを説明される。

「どうしてこんなことをしていた、こいし」



 それではどうぞ!


side真

 

 俺の言葉に共学の表情を見せるシャロ。いや、古明地 こいし。

 まさかこんな所に最愛の人がいるとは思わなかった。俺はつい最近まで死んだと思っていた。

 

「どうして分かったの?」

「こいし、お前は演技が苦手だろ。所々素が出ていたぞ。シャロの一人称は僕だ。こいしも気をつけていたようだけどふとした瞬間に私と言ってしまっている。それにシャロの俺の呼び方は君付けだ。時々忘れていたぞ」

 

 そう、俺は少し前から怪しんでいたのだ。もしかしたらシャロに化けた別人なのかもしれないと思って警戒していたこともあった。

 だが、別人だとしていくら監視しても俺に敵対している様子がないから変だと思っていた。それどころかかなりの好意を向けてきてくれている様子すらあった。

 じゃあ、誰なんだ。そこでたどり着いた答えがこいしって言うことだ。

 

 恐らくこいしは神力を纏っていた。それによって全てを阻害されて無意識も感じ取れなかったし、こいしが神力を使っているように見えたのだ。

 恐らく姿がシャロに見えたのも認識阻害の類だろう。どうしてこんなことをしているのかは知らないけども、俺はかなり怒っている。

 

「心配していたんだぞ」

「うん、知ってる」

 

 恐らく最初からだったのだろう。こいしは傷心している俺に近づいて励ましてくれた。どういう理由か俺にバレる訳にはいかなかったんだろうな。

 そして今の神力、質からして恐らくシャロのものだ。だが、どうして今回の事実に気がつくことに遅れたかと言うとシャロの神力がこいしにしか感じられなかったからだ。

 本物のシャロの神力を感じとれない。もしかしたらパラレルワールドに行っているのかもしれないが、シャロがこんな非常事態を方って別の世界に行くとは思えない。恐らく今回の事件にシャロも関与している。

 

「なぁ、教えてくれ。今回の事件の真相を」

「……もう隠す意味が無いということだな」

 

 それから紅蓮は俺に一から全てを説明してくれた。要約するとこうだ。

 

 俺が地獄に向かって直ぐにシャロがみんなの前に現れた。そしてシャロは突然奇襲されるからとこいしと入れ替わった。

 するとシャロの言葉通りに入れ替わって直ぐに皆は奇襲を受けてこいしが入れ替わってシャロとなったおかげで助かった。

 そこへ俺が帰ってきたということらしい。

 

 それからずっとこいしは俺と共に行動をしてくれていたのだとか。俺が強くなれるようにサポートをしてくれていたらしい。

 

「って事は皆とシャロは」

「奇襲を受けてやられてしまった」

「くそ……」

 

 何とかこいしは無事だったらしいが、やはりみんなは餌食になってしまったらしい。

 

「だが、まだ生きている」

「え」

「君の仲間たちは彼らの空間に監禁されてしまった。それこそ君の仲間たちのクローンを作るためにね。だから誰一人として死んじゃいない。だが、それを君にすぐ言うと直ぐに助け出そうとして行動して、君が死んでいた」

 

 時空神の言葉は重みが違った。

 どうやら今回の敵に勝つためには必要な工程だったらしい。

 俺としては苦しかったが、必要な事だったのだったら仕方がない。だが、紅蓮の言う通りに聞いてしまった今、すぐにでも助けに行きたいという気持ちが膨れ上がってくる。

 

「今回は今まで以上に厳しい戦いになることが想像に容易い。今回の異変は真、こいし、そして俺の三人で向かう」

 

 今回は頼もしい味方が着いてきてくれるようだ。紅蓮が居ればかなり安心だが、今回は俺も強くなっている。

 シャロがこいしの身代わりとなって敵に捕まってしまった。その行為に俺たちは報いらなければならない。

 

「今回の敵地は今までとは訳が違う。俺たちの慣れ親しんだ幻想郷じゃない。何があるか分からない異界の地だ。それでも大丈夫だと、覚悟は決まっているか?」

「今更命をかけて戦うことは怖くありませんよ。ですが、今は怖いですね。このままこいしと二人で安全な地でひっそりと暮らしたいくらいです」

「真……」

「だけど、そんなことをしたら皆を裏切ることになってしまう。俺は助けたいです!」

 

 俺は紅蓮に皆を助けたいと言い放った。紅蓮はそんな俺を真剣な眼差しで見てくる。どうやら俺の目を見ているようだった。

 少しすると紅蓮は微笑んだ。

 

「覚悟は決まっているようだな。お前、神になる気は無いか?」

「え?」

「それだけの覚悟、そして強さ、力神になれるだけの素質を持っている。帰ってきたら俺が稽古をつけてやろう」

「いや、神になるって言ってないんですが……」

 

 俺は抗議をするもののもう既に紅蓮は自分の世界に入り込んでしまっていて俺の声は聞こえていない様子だった。

 だが、俺はそれでもいいかもしれないと思っていた。この平和を守れるならば俺自身が神となってみんなを守っていく。

 こいしが楽しそうな表情をして暮らしているところを想像すると自然とえみがこぼれてしまう。

 だが、今は今の異変に集中だ。

 

「さぁ、行くぞ。お前ら」

 

 紅蓮は恐らく件の空間につながっているであろうスキマを開いた。

 そのスキマは今までのスキマとは違ってかなり禍々しいものとなっている。

 

「待ってろ、今助けに行くからな」

 

 そして俺たちはそのスキマに意を決して飛び込んだ。




 はい!第121話終了

 遂に今回の異変の主犯のいる場所へ。

 果たして真たちは無事に主犯を倒して幻想郷へ帰ることは出来るのでしょうか?

 それでは!

 さようなら


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第122話 異空間

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 遂にこいしのトリックを暴いた真。

 紅蓮とこいしの二人に事情を聞いて二人に協力することを決めた。

 だが、それには敵地に乗り込んで戦うしかない。

 果たして真はみんなを助け出すことが出来るのだろうか?



 それではどうぞ!


side真

 

 隙間を抜けるとそこは青い空間だった。

 青くて、そして壁に大量の目玉が着いている空間。まるで隙間の中のようだが、霊力の動き方が完全に違う。完全に別物だ。

 かなり禍々しい霊力を感じる空間。

 

 そして何よりも、

 

「重力があやふやだ」

「そうだな。この足場全てに重力があるようだ」

 

 空間内には無数の足場が浮かんでおり、どうやらこの足場全てが惑星と同じく、引力を持っている。そのため、重力がかなりあやふやになってしまっているのだ。

 それだけでは無い。なんと、動いているのだ。

 足場が動き、平衡感覚を狂わせてきている。ただでさえ、重力が薄いせいで上下の感覚があやふやになって来ていると言うのに、足場が動くせいで余計に平衡感覚が失われていく。

 

 俺たちは空を飛んで戦う。だが、この空間で空を飛んだら逆に危なそうだな。

 

「だけど、この空間から皆の霊力を感じる」

「どうやらこの先にいるようだな」

「行くしか、無いよね」

「あぁ」

 

 俺たちはここで立ちすくしていても仕方が無いので、とりあえず先に進むことにした。

 そして俺たちは先に進むために次の足場へと飛び移る。

 この空間ではじゃんぷしたら必ずどこかの足場に引き寄せられるので、空間の狭間に落ちるなんてことは無さそうだ。

 この足場一つ一つが惑星となっている。背面を歩くこともできるようだ。

 

「それにしても、どうやってこんな空間を……この空間を作るにはかなりの力が必要でしょう」

「あぁ、それこそ幻想郷で例えたら賢者レベルの力が必要だろうな。だからこれを作っている時点でそのレベルの力があるのは確実だ」

 

 俺は紫の実力を見たことは無い。だが、妖怪の賢者と言われている。だからかなりの力を有しているのだろう。

 その実力と同じ、もしくはそれ以上となると、一筋縄じゃ行かないだろう。

 

 そんな感じでどんどんと進んでいくと、新たな空間へと出た。

 その空間は真っ赤な空間で、同じく周囲に目が着いている空間だった。

 同じように無数の足場があり、唯一違うところといえば、俺たちの視界に収まっているこれが一番違うことだろう。

 

「殺しに来ているな」

「はい」

「気をつけないと……」

 

 そう、俺たちの目の前には斧や鉄球などが浮いており、それが独立して動いていることから、当たったら死んでしまう仕掛けを作られている。

 この仕掛けに気をつけていかないと一瞬でお陀仏になってしまう。そのため、ここからは慎重に行くことにする。

 

 ジャンプする時にも危うく鉄球などに当たりそうになってしまう。

 幸いにも俺たちは回復力が高いので、少しの傷くらいならばすぐに回復することが出来る。俺に関しては致命傷を受けないので、数回当たっても大丈夫と言ってもここで体力を減らすようなことはしたくない。

 

「本来ならばお前にすぐにクレア王を会得してもらって、直ぐに対決に向かいたかったんだが、彼方様が強情でな。絶対に教えたくないと言ってきたんだ」

「そうだったんですね」

 

 だが、彼方には教えたくない確固たる理由があったはずだ。最終的に彼方の方から教えてくれたけども、俺はそこまで強要はしたくなかった。

 それにしても、この足場はかなり不安定だ。今にも足を踏み外しそうになる。

 

 その時だった。

 

 なにやら巨大な霊力の玉が正面から飛んできた。

 その玉を回避するために俺たちは各自、回避して違う足場に飛び移った。

 

「誰だ!」

「いやいや、君たち、瞬発力あるね。そういうの、いいと思うよ〜?」

 

 その人物は仮面を被っていて、表情は読めないものの、かなり俺たちをバカにしていて、滑稽そうに笑っていることだけはわかる。

 すると、なにやら俺たちの正面の足場に立つと指をパチンと鳴らした。その瞬間、周囲に浮かんでいた巨大な斧や鉄球が俺たちに向かって襲いかかり始めた。

 

「いやぁ、まさか本当に来るとは思わなかったよ〜それって仲間の絆って言うやつ? いいねいいね……そういうのを見ていると、壊したくなってくるよ!」

 

 そう言い放って再び俺たちの向けて弾幕を放ってくる仮面の男。

 その攻撃は何とか回避したものの、その弾幕に直撃した足場が消滅したことから、これに当たったらかなりまずいことが分かる。

 

「さて、お前は俺たちの敵のようだな。俺たちが相手をしよう。万一にも勝てるとは思わない方がいい。俺たちは三人いる。対してお前は一人だ」

「それがどうしたんだ? 俺は一人でも強いぞ。だが、その威勢を張る姿。いいねいいね〜最高だねぇ!」

 

 紅蓮は剣を手に取ると仮面の男に向かって駆け出した。その剣は萌えており、紅蓮も本気なのだということが分かる。

 こいつの霊力。口だけじゃない。ものすごく大きいのだ。未来の俺と同等……いや、それ以上かもしれない。

 そんな相手だからこそ紅蓮は本気を出したのだ。

 

「ぐっ!」

 

 だが、そんな紅蓮の接近は許さない。紅蓮の目の前に障害物が降り注いだ。

 あいつの能力は恐らくこの空間にあるものを操る能力だ。迂闊に近づくことが出来ない相手。

 だが、勝たないとこの先に進むことが出来ない。

 

「なら、やるしかない!」

 

 俺は霊力刀を作り出して走り出した。




 はい!第122話終了

 遂に救出編が始まりました。

 果たして真達はこの敵に勝利することが出来るのか?

 それでは!

 さようなら


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第123話 空間の支配者

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 真たちがやってきたのは沢山の惑星のような足場が浮いている空間だった。
 そこへ現れた一人の謎の人物。
 そいつは浮いているものを操る能力を持っている。

 真はこいしと紅蓮と共に倒すことが出来るのか?



 それではどうぞ!


side真

 

 俺は駆け出して霊力刀を構える。だが、それを見て奴は俺の足場を動かしてきた。

 それによって俺の歩みは止められてしまう。このまま飛んでしまうとどこの足場に飛んでしまうか分からなかったからだ。

 足場の中には常に燃え続けている足場や、トゲだらけの足場などもある。だから無闇に飛ぶことが出来ない。

 

「近づけないならば、遠距離で戦えばいい! 本能【イドの解放】」

 

 今度はこいしがその場からハード型の弾幕をやつに向かって放つ。それを見た俺はこいしほど弾幕を放つことは出来ないものの、援護するように何発かの霊力弾を放つ。

 すると、それに合わせるように浮いている物体たちを操作して弾幕の軌道を塞いでくる。

 

「いい考えだけどねぇ……俺がこの場所にあるものならばなんでも操れるって言うことを忘れちゃいけないよ。まぁ、そのチャレンジ精神は評価に値するよ〜」

「紅蓮様、俺、あいつ苦手です」

「わかるが、それで動きを鈍くするなよ」

 

 俺は嫌いな奴とは何度も会ってきたけども、性格が苦手なヤツって初めてだぞ……。

 こいつの喋り方がどうにも苦手だ。こんなにも人を苛立たせる喋り方ができるって一種の才能なんじゃないか?

 

 しかし、遠距離も防御されるとなると、近接戦しかないんだが、それも奴は近づけさせてくれない。どうしたものか……。

 どうにかして奴の足場の制御を奪えれば何とかなるけども、それは厳しいだろう。

 この空間全てから霊力を感じる。だから、恐らく俺の上書きで奴からものの制御を奪うことが出来る。だが、そんなことをしてしまうとこの空間がどうなってしまうか分からない。

 敵を一掃出来るかもしれないが、俺達も一緒に空間の狭間に閉じ込められてしまう可能性が高い。そのため、それは道連れの最終手段だ。

 みんなを俺の判断ひとつで殺す訳にはいかない。

 

「どうしたんだ〜? もう攻撃手段が無くなったとは言わないよな〜? 俺、君たちが来るのを楽しみにしていたんだよ。だって、俺は人が絶望する表情を見るのが大好きだから! だけど、こんなに早く負けられたら楽しみが少なくなってしまうよ……」

 

 こいつ、俺たちを格下認定してもう勝った気でいる。だが、俺たちの方だって攻撃を受けていないことには変わりない。

 恐らく強い攻撃手段はあまりないのだろう。だから俺たちの攻撃を防いでばかりなのだ。

 ならば、近づいてしまえばどうって言うことは無い。だが、どうするべきなのか……。

 

「あぁぁぁぁ! もう、考えるのは苦手なんだよ! 一気にケリをつけてやる!」

 

 紅蓮は刀に炎をともして、やつに向かって突っ走り始めた。その速度はものすごい速度だが、そんな紅蓮の行く手を阻むようにまた物が動いて塞いできた。

 このままではぶつかってしまう。そう思った時、紅蓮はその物体を一刀両断して強引に突破した。

 

「く、お前の剣はどうなっている! これはこの世界で最も硬い鉱物で作られているんだぞ!」

「俺は神だからな。それも力神。戦いのプロをナメるなよ!」

 

 紅蓮はどんどんと奴に接近していく。次々と足場を飛び移って接近していく。その道中を塞いでくるものは全て斬っているので、やつの能力関係なく近づけている。

 それに合わせて奴も飛び移って逃げていく。

 すると、今度は紅蓮の足場を操作し始めた。それによって、予定とは違う足場へと飛び移ってしまっているのが見て取れた。

 やはり、ものを斬ることは出来ても足場を動かされてしまったら紅蓮も上手く行動できないらしい。

 

「どうしたんだ? さっきまでの威勢はどうした。そっかー俺の力が強すぎるのか〜失敬失敬」

 

 すると、紅蓮の足から炎が出始めた。一歩歩く事に地面に炎を出している。

 見てみると、紅蓮の足運びがさっきとまるで違うものになっていた。まるで舞を踊っているようだ。

 その足運びでどんどんと奴へと接近していく紅蓮。どうやら足運びによって地面の影響を受けないようにしているらしい。

 それによって足場を動かしてくることにも対応した紅蓮。流石は戦いのプロと言ったところか。

 

「俺は戦いのプロだぞ。ナメるなよ」

 

 そして遂に紅蓮は奴のことを間合いに捉え、刀を振りかぶった。

 この攻撃は回避できない。そう思ったものの、突然周囲の重力が一方向のみとなった。俺たちから見て紅蓮は逆さまになっている。

 重力が俺とこいしの方向のみになったということは逆さまになった紅蓮と奴は落ちてくる。

 奴は下に床を移動させてきて着地したが、やつの能力によって紅蓮の下にある床が全部紅蓮を避け始めた。

 だが、空を飛ぶことが出来るので、紅蓮は落ちていく途中で飛び、落ちるのを回避した。

 

「まぁ、俺を間合いにとらえたことは褒めてやろう。だが、俺はこの空間の支配者だ。そう簡単に勝てるとは思わない方がいいよ。まずは俺に近づかないとね。さて……反撃開始と行きますかね~」

 

 すると、奴は俺たちの方へと駆け出した。それを見て紅蓮も急いで戻ってくる。だが、奴の走る速度はかなりかなり速く、紅蓮が戻ってくるのは絶対に間に合わない。

 俺たちで何とかしないとな……。

 

「クレア・装」




 はい!第123話終了

 この戦い、かなり書くのが難しいです。

 それでは!

 さようなら


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第124話 憧れ

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 真たちと仮面の男の戦いは熾烈を極める。

 紅蓮を筆頭に仮面の男に攻撃をしようとするものの、それをことごとく邪魔して攻撃させないようにしつつ、攻撃してくる仮面の男。

 遂に紅蓮がトラップにハマり、真とこいしをすぐに助けに行けなくなる。

 そこを突き、仮面の男は真とこいしに攻撃を仕掛ける。
 果たして真とこいしの運命やいかに。



 それではどうぞ!


side真

 

「クレア装!」

 

 俺はクレアを使用して左腕にクレアの霊力を纏わせて奴を迎え撃つ。

 奴はナイフを取り出して俺に斬りかかってくる。だが、俺の腕はクレアによって鉄のように固くなっているので腕でナイフを受け止めた。

 

「む?」

「おらぁっ!」

 

 受け止めたらその状態で俺は思い切り刀を振り切った。当然、そんな大ぶりの攻撃に当たるやつはいないのだが、それによって隙を産むことが出来た。

 せっかく奴から近づいてくれたのだ。これは有効活用しなくてはならない。

 

 俺は左腕に霊力をためる。奴が俺との距離をとる前にこの技を叩き込んでやる。

 

「霊縛波!」

 

 霊力の玉を手のひらに出現させると奴の胸に叩きつける。それと同時にその霊力の玉から高出力のレーザーがやつを襲う。

 

「ぐあぁぁぁぁっ!」

 

 さすがにこの一撃は回避不可能だ。

 俺のレーザによって奴は巻き込まれて飛んでいく。すると、飛んでいきすぎないように奴は自分のことを止めるためにクッションの役割をしている足場を持ってきて自分のことを受け止めた。

 アイツが攻撃を受けた原因はあいつが近づいてきたことだ。そして、そんな隙をあの人が見逃すはずがない。なにせ、あの人は戦いのプロなのだから!

 

「業火一刀両断!」

 

 すると、真下からものすごい勢いで燃え盛る刀を構えながら飛んできた一人の男。

 力神の紅蓮だ。

 その紅蓮を見て青ざめた様子の奴は自分の乗っている足場を移動させることによって回避しようとする。だが、その程度で紅蓮の追跡から逃れることは出来ない。

 

 紅蓮はものすごい速度で床を蹴り、反射するようにしてどんどんと奴に近づいていき――

 

「ぐぁぁぁぁぁ!」

「ち、外したか」

 

 紅蓮の一刀両断は奴の腕を斬り飛ばした。それによって、奴の叫び声が響き渡った。

 その瞬間、歪んでいた重力が元に戻った気がした。

 ここは重力が歪んでいたので、なるべく飛びたくなかったのだが、重力が元に戻ったのだったら、飛んでも問題ない。

 恐らくあの腕がトリガーになっていたのだろうが、無くなったことによって能力を発動できなくなったのだろう。

 

「全力の一撃をお前に叩きつけてやる!」

 

 俺はこれまで修行をしてきた。その修行の成果を見せる時だ!

 霊力を刀に加え始める。すると、刀はどんどんと妖しげに光り始める。その状態で俺は走り始めた。

 

「なっ!」

「お前の能力は確かに凄かった。だが、あそこで俺たちに攻撃を仕掛けたのはお前のミスだったな」

 

 牙突。

 俺は奴の胸に刀を突き刺した。それによって奴の胸を貫通して俺の刀はやつを攻撃した。

 すると仮面の下から血が流れてきた。恐らく吐血をしたのだろう。

 

 最後の最後まで名前を聞くことは無かったけども、心臓を潰したことによってこいつはもう動くことは出来ない。

 俺たちの勝ちだ。

 刀を抜くと奴はそのまま奈落の底へ真っ逆さまに落ちていった。

 

「厄介なやつだったな」

「はい。紅蓮様のおかげです」

「人々を助けるのは神である俺の仕事だからな」

 

 紅蓮は自分の力に過信することはなく燃え盛る刀を鞘に収めると、その炎は鎮火された。

 カッコイイ。俺が初めて他人に憧れを抱いた瞬間だった。

 今まで勝てるようになりたいや、あの人のように強くなりたいと思ったことはあるが、紅蓮のようになりたいと思ったのは初めてだった。

 

 すると、地形が変化し始めた。

 全ての地形同士が合体し始めて、一本の通路になった。

 

「どうやらこの道もやつの能力によってバラバラにされていたようだな」

 

 さっきまで燃えていた床や、トゲがぎっしりと敷きつめられた床も元通りになっており、この空間は全て操られていたということが分かる。

 恐らく奴はこの能力を完璧に使いこなすことが出来ていなかった。そのおかげで俺たちは何とか勝つことが出来たが、こんなに強力な能力を使いこなすやつが相手だったとしたらおそらく俺たちは今頃、奴と同じ運命を辿っていたことだろう。

 

「さて、先に進むか。お前の仲間はこの先にいる」

 


 

side彼方

 

「あんた、何やっているのよ」

「ひっ」

 

 見つかってしまった。

 今は幽香の家に忍び込んでとある準備をしていた。だが、その準備を幽香に勘づかれてしまった。

 幽香には絶対に反対されるから何も言わないで忍び込んだのが逆にダメだったようだ。私のことを敵を見るかのような目で見てきている。

 そりゃ、侵入されていい顔をする人がいるわけが無い。

 

「で、あんたはそこで何をしているの?」

「……怒らない?」

「怒らないから言ってみなさい」

 

 既に顔が怒っている様な気がするけども、確かに幽香の力は借りておいた方がいい。

 

「ねぇ、あれを使うかもしれない」

「馬鹿なの?」

 

 呆れられてしまった。

 私がやるあれの準備としてこの家じゃないとダメな理由がある。

 あれの効果はこの家が唯一技の影響を受けない結界を張らせてもらっている。そのため、ここに置いておかないと全て水の泡になってしまうかもしれない。

 

「お願い、幽香。これを守って」

「はぁ……あんた、これ何回目よ。そろそろあんたの精神がぶっ壊れるわよ。それと、ちゃんと、向こうでも私に説明しなさいよ。私は何回も繰り返すのは嫌だから、この家の外にいるわね」

「うん、それでいいよ」

 

 もしかしたらまたあれをやることになるかもしれない。そう考えて私は今までの行動記録を書いてこの家に置いておく。

 今までは大丈夫だけど、もしかしたら使いすぎることによって私の記憶が無く(・・・・・)なってしまう(・・・・・・)かもしれない。そうなってしまったら今までの行動が全て水の泡だから。

 

「やるよ、私は。どんなに繰り返して精神が壊れようとも、私は海藤 真の死を認めない(・・・・・・)!」




 はい!第124話終了

 遂に仮面の男を撃破しました。

 そして最後の彼方と幽香の意味深な会話。どういう事なのでしょうかね。

 それでは!

 さようなら


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第125話 ヤバい力

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 遂に仮面の男との最終決戦。

 苦戦したものの、仮面の男が攻めてきたおかげで、なんとか撃破成功。

 先へと進むのだった。



 それではどうぞ!


side真

 

 俺たちはどんどんと先へと進んでいく。

 先程とは違って空間が歪んでいないので、行動しやすくなり、先にどんどんと進めるようになった。だが、警戒は怠らない。先程のように敵が出てこないとも限らないのだ。

 ここは少なくとも敵の領地。ここでは何が会っても不思議では無いのだ。

 

 そんな感じでどんどんと突き進んでいくとそこには大きな扉が鎮座していた。

 いかにもここがボス部屋だと主張している。そんな扉だ。

 そして、この空間は霊力を感じにくいのだが、この扉の奥から皆の霊力を感じる。そしてこいしの身代わりとなったシャロの神力も感じるため、確実にこの先にいるだろう。

 

 俺たちは顔を見合わせると俺と紅蓮で力いっぱいその扉を押し開ける。

 すると、俺たちはその先に広がっていた光景を見て驚愕した。なんと、その先に拡がっていたのはまるで宇宙の様な空間だった。

 上にも下にも右にも左にも、前にも後ろにも全方向に星のような輝くものがある。

 一歩踏み出してみると、何やら透明な床があるようだ。これが床の模様ではない。確実にこの下にあるのは空間だった。

 

 先程の目でおおわれた空間も君が悪かったが、これはこれでなかなか気味が悪いものだ。

 そして上を見てみると、そこにあったものを見て俺は目を見開く。

 

「あれだな」

「はい。どうやら閉じ込められているようですね」

 

 俺たちの視線の先にあったのはカプセルだった。

 カプセルは沢山あり、それが宙に浮いている。その中に人影を視認することが出来た。

 その人影は俺の知っている人影だった。

 

 さとり、お燐、お空、龍生、優、紬、紗綾。それに、先程行ったが姿が見えなかった守矢神社のみんなも居る。

 本当にこの空間に閉じ込められてしまっていたようだ。

 更に、その中の一つにシャロがいるのが見えた。こいしの身代わりとして捕まってしまったシャロ。

 今回ばかりはシャロに感謝をしなければならない。だから絶対に助けよう。

 

 だが、その前に、この空間から感じる悪しき霊力の持ち主を倒さないと助けには行かせてもらえなさそうだ。

 俺は無言で手のひらに霊力刀を作り出した。そして同じく紅蓮も腰に提げている刀に手を添える。

 その瞬間だった。なにかものすごい速度でこっちへ迫ってきた。それに合わせるように紅蓮は抜刀して弾く。だが、かなりの威力があったようで、紅蓮は少しだけ吹っ飛ばされてしまう。

 

「挨拶の威力じゃねぇなこりゃ」

 

 紅蓮が相手の攻撃を弾くと、俺たちの目の前に出現する一つの影。

 それはとても筋肉が発達している男で、ものすごく腕が太い。それだけじゃない。

 やつから感じる霊力は異常だ。これはパラレルワールドの俺でも勝てるかどうか……。

 

「やっと釣れたか。あの方の頼みとはいえ、今回のは少々骨が折れた」

 

 あの方? その言葉が少し引っかかったが言及はしないことにした。どうせ、聞いても教えてはくれないだろうから。

 ただ、一つ分かっているのはこいつはヤバいということだ。

 

「さて、ようやく釣れたんだし、さっさと片付けるか」

 

 そう言うと男は俺たちに向かってものすごい勢いで走ってきて攻撃を繰り出してくる。だが、その攻撃も止めて見せた。

 その次の瞬間、紅蓮の刀が真っ赤な炎で燃え始める。その状態で男と正面で退治する。

 

「お前の相手は俺だ。真、こいし、君たちはあの子たちを助けにいけ」

「で、でも」

「命令だ。神の命令に逆らうのか?」

 

 流石にそこまで言われてしまっては食い下がることは出来ず、俺とこいしは皆を助けるために浮き上がる。

 そんな俺とこいしを見て男は追いかけようとしてきたようだが、その先に紅蓮が移動し、妨害する。

 

「お前の相手は俺だ。彼らに危害を加えるならばまずは俺を倒してからいけ」

 

 紅蓮の神力が膨れ上がった。俺も今までに感じたことの無いほどの神力だ。恐らくこれが紅蓮の本気。紅蓮ほどの人でも本気を出さなければ勝てないと判断したのだろう。

 紅蓮は俺たちを守るために全力を出してくれている。ならば俺達もその紅蓮の期待に応えなければならない。

 

「お前は強いようだな。俺は龍磨」

「俺は紅蓮だ。お前をぶっ倒して全員無事に元の世界に送り届ける」

 

 すると紅蓮と龍磨はものすごい速度で接近し、紅蓮は炎の斬撃を、龍馬は拳を放った。

 そんな二人の攻撃はお互いに当たることは無かった。

 紅蓮の斬撃は龍磨の硬い腕に阻まれ、龍磨の拳は紅蓮が刀を持っていない方の手で受け止めたのだ。

 どうやら龍磨の能力は【硬質化する程度の能力】の様で、自身の肉体を硬質化させることができるようだ。だから紅蓮の斬撃を受け止めることが出来た。

 

「俺たちは今のうちに行こう」

「うん」

 

 そう言って先へ進もうとするものの、今度は龍磨のいる方向とは別の方向から弾幕が飛んできた。

 そこに居たのは真っ黒でまるで影のように感じる霊夢だった。その隣には魔理沙、妖夢が並んでいる。どうやらこいつらも偽物のようだ。

 だが、今回のははっきりと偽物とわかる。恐らく作成途中なのだろう。だからそんなに完成度が高くない。これならば遠慮せずに斬ることが出来る。

 

「こいし、一緒にこいつらを倒して助けに行くぞ」

「うん!」

 

 久々のこいしとの共闘だ。




 はい!第125話終了

 遂に捕まっている人たちを発見して、この戦いもラストとなりました。

 果たして真たちは皆を助けられるのか? そして紅蓮は龍馬を倒し真たちを守ることが出来るのか?

 それでは!

 さようなら


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第126話 二つの扉

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 遂に真たちはみんなの居所を掴んだ。だが、そこには強敵、龍磨が居た。

 真とこいしは皆を助けるために動く。そして紅蓮はそんな二人を龍磨から守るために交戦することに。

 果たして真たちはみんなを守り抜くことが出来るのだろうか?



 それではどうぞ!


side真

 

 俺は飛び上がってどんどんとカプセルへと近づいていく。

 すると、カプセルの中にいるみんなのようすが鮮明に見えるようになってきたのだが、どうやら眠らされているらしい。それに、液体の薬品がカプセルの中に貯められている。これは早く何とかしないと不味いことがあるかもしれない。

 

 だが、状況から考えてもカプセルを単に破壊するだけだとまずいかも知れない。この薬品の影響で何か皆に良くないことが起こるかもしれない。

 となると、このカプセルの機能を停止することが鮮血だろう。

 周囲を見渡してみると扉が存在している。恐らくこの扉のどれかにカプセルの機能を停止する手がかりがある可能性が高い。

 

「こいし、行けるか?」

「うん、ここに来た時点で覚悟は決まっているよ」

 

 左右の壁に1つずつ扉が設置されている。

 この扉1つ探索するのにどれほどの時間がかかるかは分からない。もしかしたらものすごく時間がかかるかもしれない。

 そんな時間、ずっと紅蓮だけに龍磨を相手させるのもまずい気がする。紅蓮は神とはいえ、龍磨もかなりの実力がありそうだ。

 今も俺たちの下でものすごい速度で戦っている。

 となれば俺たちは早く探索を終わらせて機能を停止させないといけない。

 

「俺は右に行く。こいしは左を頼めるか?」

「分かった」

 

 俺たちは二手に分かれて探索をすることにした。効率を重視した考えだが、俺は気が気じゃなかった。もし、俺の見ていないところでこいしに何かがあったら俺は後悔してもし切れない。

 だけど、今この場面ではそうは言っていられない。

 

「じゃあ、健闘を祈る。絶対に生きて帰ってこいよ」

「うん、真も絶対に無茶をするのだけはやめてね」

 

 いつも言われている事だ。だけど、俺の心はもう決まっている。もう、こいしを失いたくない。こいしに同じ思いをして欲しくない。

 だから俺は笑顔で答える。

 

「心配するな。無茶はしない」

「うん、分かった。頑張ってね」

「あぁ、そっちもな」

 

 その言葉を最後に俺とこいしは左右に別れた。

 俺はどんな罠があろうとも死ぬ訳には行かない。俺は大切な人が居なくなるという悲しみを痛いほど味わってきた。だから、こいしにもそんな思いをさせない為にこれからは自分の身も案じながら戦うことにする。

 ただ、俺にとっての最優先はこいしの命だからこいしの命が危なくなったら躊躇なく命を呈して戦うだろう。

 


 

sideこいし

 

 私は左側の扉へと入っていく。

 そこはまるっきり違う空間だった。木々が生い茂っている空間、森林だ。

 だが、これらが植物のように感じない。まるで造形物のようだ。

 

「触っても、匂いを嗅いでも木とおなじ。でも違う」

 

 不思議な感覚を覚えながら私はさらに先へと進んでいく。

 森は安らぐのに、ここは全く安らがらない。それどころか、どこからか殺気を感じるため、私は落ち着かなかった。

 この空間に入ってからずっと監視されている。

 だけど、周囲を見渡してみても誰もいない。

 

 そんな感じでどんどんと先へと進んでいくと何やら寺院のようなものが見えてきた。

 古ぼけてかなり老朽化が進んでしまったかのような建物之見た目だけど、これも本物じゃないみたい。この光景は何か、作られたもののように感じる。

 

「どういう事なんだろう」

 

 独り言を呟きながら意を決して寺院の中へと入っていく。

 この寺院の中は確実に何かがあると感じている。なにせ、この奥から物体以外の気配を感じるのだから。

 この空間で唯一の存在。間違えるはずがない。

 

 罠であろうと何であろうと私は突き進むだけだ。

 すると、徐々に甘い匂いがしてきていることを感じていた。この匂いを嗅ぐと頭がぼーっとして何も考えられなくなる。

 それにこの匂いには霊力が混ざっていることに気がついていた。だとすると、この匂いを鍵過ぎるのは危険だと判断して服の袖で口元を覆い隠した。

 

「無駄だよ」

 

 その瞬間、背後からの声に驚いて前方へと飛び退いた。

 そこに居たのは私と同じくらいのセだけで、白衣を着た少年だった。

 その顔はニヤニヤとしていて不気味。それに顔が薬品灼けしているかのように爛れている。

 どうやら見た感じは科学者のようだ。そして、この甘い匂いはこの少年から強く匂いがする。やはりこの匂いはこの少年が作った薬品の匂いのようだ。

 

「君は僕を警戒しているようだね。うんうん、良い心構えだ。だけどね、もう手遅れだよ、ここに入ってきた時点でね」

「手遅れ?」

「もう少ししたらわかるよ」

 

 私はこの少年の言っている言葉の意味がわからなかった。

 

「冥土の土産に僕のことを教えてあげるよ。僕はシェール。まぁ、この空間で科学者をやらせてもらっているよ。僕の他にもう一人科学者がいるんだけど、そいつのことはいいか……で、君の名前は?」

「お前に名乗る名前はない」

「へぇーまぁ、いいけどね。もうそろそろだから」

 

 もうそろそろ? 一体何が――

 

「ガハッ」

 

 突然私は地面に血を吐き出してしまった。

 血、なんで吐血したの? 私は何もされていないって言うのに……って、まさかこの匂いはっ!

 

「僕は透明なガスマスクをしているから大丈夫だけど、君はモロに匂いを嗅いだね。これは毒ガスだよ。遅延性だけどね、これは人間の大人を1000人は殺せる劇薬なんだ〜」




 はい!第126話終了

 大変なことになってまいりました。

 果たしてこいしはシェールに勝つことは出来るのでしょうか?

 それでは!

 さようなら


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第127話 一緒にしてはいけない

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 こいしと真は二手に分かれて扉の先を探索することにした。

 その先でこいしは森のようなところに出る。そこは異様な場所で不思議な匂いがしていた。

 そこで見つけた寺院が怪しいと考えてこいしは寺院に入っていく。

 そこにはシェールという科学者がおり、なんとこいしは毒を食らってしまう。



 それではどうぞ!


sideこいし

 

 この毒、強い。

 私は思わず、その場に膝を着いてしまった。力が抜けていく。神経に作用する毒のようだ。

 少しくらいの毒だったら直ぐに解毒できる。妖怪だからそんじょそこらの毒でやられるほど弱くはない。だけども、これはかなり強力な毒のようだ。

 さっきシェールも言っていたけども、大人1000人は殺すことの出来る毒だって。

 

「君が助かる道理はないよ。それと、妖怪すらも殺すことの出来る毒だって言うことは実証済みだ。殺せなくても、妖怪でもその毒は分解できないようだった」

「なるほどね……確かに強い毒だね」

 

 体の機能がどんどんと低下していき、内蔵が毒によって悲鳴をあげているのが分かる。

 確かにこれは並の妖怪だったらもう既に死んでいたかもしれない。

 

 そんな状態の私を狙ってシェールはナイフを持って突っ込んできた。

 いくら弱っていたところで私は妖怪だ。人間にこの程度でやられるわけが無い。

 弱っているので最小限の動きだけでシェールの攻撃を回避すると、シェールは驚いたような表情をした。

 

「へぇ、まだ動けるんだ。だけど、その毒は分解できないよ。どう? どんどんと毒が体を蝕んで、そして最後には体がぐちゅぐちゅになって死ぬ」

 

 私は自身の手を見てみる。すると、青く変色しており、毒によるダメージは甚大だということが分かる。

 そのまま両手をグッと握ると、周囲に弾幕を作り出した。

 

「最後の足掻きっていう事なのかな? いいねぇ、もっと足掻いてくれないと面白くないよ。僕はね、確かに動けない相手をボコボコにするのは大好きだけど、そうやって苦しみもがいて、最後の抵抗をしている奴の最後の希望を絶ってやるのも好きなんだ〜」

 

 私の弾幕を見てとても嬉しそうな声を出すシェール。その声に柄にもなくイラッとしてしまった。

 とにかく、私はここで死ぬ訳には行かない。

 だけど、心配ないよ。真が危惧していたことは起こらないよ。だって私、強いから。

 

 指をパチンと鳴らすと、周囲に浮いていた弾幕がシェールに向かって飛び始める。

 すると、シェールはその弾幕を障害物を利用して回避した。かなりすばしっこいようだ。だけども、これで理解した。

 彼はそんなに強くない。

 所詮はこの毒に頼らないと強い相手には一切対抗できない。

 

 あー。真だったら一瞬でこんな毒は分解出来るんだろうな。

 でも、問題ない。

 確かにこの毒だったら妖怪を殺すことが出来るのだろうけども、こいつは相手の力量を図り間違えた。

 例えば一般人が死ぬ程度の毒じゃ、霊夢は殺せない。それと同様に、そこら辺の妖怪が死ぬような毒じゃ高位の妖怪は殺せない。

 大人と妖怪を一緒にしてはいけない。

 

「ねぇ、貴方は私の強さを見た事があるの?」

「……どういうこと?」

「君のこの毒、多分幻想郷じゃ通用しないよ。確かにそこら辺の妖怪には効いたかもしれないけどね」

 

 そこで漸く私は再び自身の手を見てニヤリと口元をゆがめる。

 恐らく私が死ぬまで時間稼ぎをするか、私が完全に動けなくなってからトドメをさそうとしていたのだろう。だけど、相手が悪かった。

 私の手はもうすっかりと元の色を取り戻していた。

 

「さて、この状況からどうする?」

「お、お前……毒はどうした」

「この程度の毒で私を縛り付けられると思ったら大間違い。私、妖怪の中ではなかなか強い方だと思っているんだけどね」

「そんな馬鹿な、大人でも1000人殺せるんだぞ!」

「人間と妖怪を一緒にしちゃダメだよ」

 

 これが妖怪。人間とは耐性も、地力も何もかも違う。

 シェールの敗因は私を人間と、そこら辺の妖怪と同列に考えたこと。

 

「これが私の力……本能《イドの解放》」

 

 私の周囲からハートを象った弾幕が出現してシェールへと飛んでいく。

 その弾幕は私の本気の弾幕だ。逃げようにも、力がない者だと、この弾幕の速度にはついていけなくて回避することは不可能だ。

 

「がぁぁぁぁぁっ!」

 

 一切回避することは叶わず、シェールは全ての弾幕に直撃して悲鳴をあげた。

 そのままシェールはその場に倒れる。

 本当に毒に頼りきっていて戦闘能力は皆無だったようだ。そんな奴が妖怪に挑むなんて命知らずもいいところだ。

 

「私を殺すならば、今回の毒よりも1000倍は強い毒を作ってね」

 

 もう聞いていないだろうシェールに向かってそう言うと私はどんどんと先へと向かう。

 だが、さっきの毒のダメージは中々回復するまで時間がかかる。

 真じゃあるまいし、爆散しても回復するっていう訳じゃないからね。そんなに回復能力は無い。

 

 だけど、お陰で見つかったみたい。

 

「これがあのカプセルを動作させている装置なのかな? レバーのようなものがあるけども」

 

 そこには何やらごちゃごちゃしていて私じゃ理解できないほどの精密な機械が設置されていた。

 その中心部分に明らかに怪しいスイッチが存在している。恐らくこのレバーがあのカプセルのスイッチなのだろう。

 今はレバーが上げられている。その状態でオンになっているということは恐らく下げるとオフになるのだろう。

 

 だから私はレバーを下げてみた。

 すると、目の前の機会は電気を失い、完全に動作を停止したようだった。

 

「さて、早く元の場所に戻らないとね」

 

 私は急いで帰る。もしかしたら真ももう終わって帰ってきているかもしれない。

 そんな期待を胸に私は来たドアを潜った。




 はい!第127話終了

 遂にこいしの戦いが終了しました。

 こいしにはシェールが作った毒は通用しませんでした。

 それでは!

 さようなら


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第128話 偽物

 はい!どうもみなさん!ミズヤです

 あけましておめでとうございます。

 これが新年一発目の投稿となっています。

 真達がまだ戦闘中なので、季節の話とかは掛けていませんが、章終了後の日常編でそういう話は書いていきたいと思っています。


 それでは前回のあらすじ

 こいし対シェール。

 シェールはこいしに対して毒で対抗したものの、こいしには毒は効かず、敗北してしまう。

 そしてついにこいしはカプセルの電源のようなものを発見。その電源をオフにすることが出来たのだった。



 それでもどうぞ!


side紅蓮

 

 真とこいしが扉に入っていってから、数分が経過した。俺と龍磨は睨み合っていた。

 こんなことは初めてだ。力神の俺が龍磨の隙が全くもって見えない。俺は今まで色々な的と戦ってきた。だが、こいつはそんな有象無象よりもかなりの力を持っている。これはかなり気合いを入れないと、今度は俺がやられてしまってもおかしくないだろうな。

 すると、龍磨は突然痺れを切らしてしまったのか、こっちへと突っ込んできた。普段は俺から突っ込んでいくので、こっちの立場になるのは慣れていないけども、問題は無い。

 

 龍磨は俺にパンチを繰り出してくるものの、俺は刀に炎を灯し、パンチを受け止めようとする。だが、刀はパンチに当たることはなく、すり抜けてしまった。

 そして俺の事をすり抜けると、背後を取られてしまった。

 

 なんだ今のは。すり抜けた? こんなことは初めてだぞ。

 まるで、そこにはいない(・・・・・・・)ようだ。

 

「お前はなんなんだ。まるで実態がないようだ」

「自分で考えろ」

「あぁ、そうさせてもらう! 炎迅(えんじん)っ」

 

 俺は刀をしっかりと両手が構えて龍磨へと一気に接近する。そしてそのまま横凪の一閃をはなった。

 だが、その一撃はまたもや当たることはなく、すり抜けてしまった。そしてカウンターとばかりに俺の腹に拳を叩きつけてくる。

 

「ぐっ」

 

 ものすごい衝撃。それによって俺は吹っ飛んでしまった。壁に激突して背中を強打する。

 だが、やはりおかしい。俺の刀が触れることが出来なかったのはさっきも同じだが、さっきは胴体にも触れることが出来ていなかったのに、今度は殴り飛ばされてしまった。

 どういう事だ? それに、殴られた時の感触も違和感しか無かった。物理的なダメージは一切なく、衝撃波だけが腹に伝わってきてダメージを受けた。

 

 つまり、こいつは俺に全く触れてきていない。拳をたたきつけたのは殴ったと思わせるフェイクだ。俺が戦い慣れていなければ騙されていたことだろう。

 

 となると、こいつはなんなんだ? まるで実態がない。ものに触れることが出来ない……まるで、ここにいないかのように……。

 

 そこで片方の扉が開いたと同時にカプセルに流れていた霊力量が弱まったように感じた。

 そしてその開いた片方の扉というのは――

 

「真は!?」

 

 こいしだった。どうやら扉の先に行ってカプセルの電源を切ってきたようだ。

 こいしの方は大丈夫だとして、問題は真の方だ。真は未だに帰ってくる気配がない。

 

 そこで俺の脳裏に嫌な考えが過ぎった。

 もし俺の考えが正しければもしかしたら最悪の事態になる。そう考えたところで俺はこいしの手を引いてもう一つの扉の方へと直行する。

 

「ぐ、紅蓮さん。どうしたんですか?」

「あれはホログラムだ! 俺の考えが正しければ、早く行かないと真が死ぬ!」

 

 隙が見えないんじゃなくて、元々隙なんてものは存在しないんだ。なにせ、そこに居ないんだから、ホログラムだから!

 だとしたら、本体はどこにいる? そんなのは考えれば直ぐに分かる。

 

「無事でいてくれ、真っ!」

 


 

 時は少し遡る。

 

side真

 

 扉をくぐると、そこはまるでメカトロチックな空間となっていた。

 様々な機器がそこに存在している。ここにスイッチがある可能性が大きい。そう感じさせる光景。

 しかし、この場所もかなり空間が歪んでおり、霊力がグルグルとして気持ち悪くなってしまう。

 

 そしてなにやら近くに霊力を感じる。霊力がグルグルと回って正確な位置は把握出来ないけども、俺以外の霊力が混ざっていることは直ぐに確認できた。ここにも敵がいるのは確実だ。

 

 しばらく歩いていると、終着地点にたどり着いた。

 その中心にあるデスクに、上下三面ずつの合計六面あるパソコンが置いてあり、そこの椅子に一人の男が座っているのが見えた。

 その男は俺に気がつくとこっちへと振り返る。その姿を見て俺は驚愕のあまり固まってしまった。

 

「今のお前の考えを当ててやろう。なぜ、お前がここに居る? だ。俺は今頃、紅蓮と戦っている頃だろうからな」

「……どうしてここにいるんだ」

「あれはホログラムだ。自動的に目の前の敵と戦うプログラムを仕込んである。本物の俺はここにいるって言うことだ」

 

 龍磨。紅蓮と戦っているはずの奴がここに居る。そして、あのホログラムよりも断然こっちの方が威圧感がすごい。

 威圧感に押しつぶされてしまいそうだ。だが、ここで負ける訳には行かない。こいしに死なないって約束したからな。

 

 俺は霊力刀を作り出すと、龍磨に斬りかかったものの、俺はいつの間にか殴り飛ばされており、機材をぶっ飛ばして壁に激突する。

 色々な機材があったため、背中を強打した時の痛みはいつも以上だ。

 

「さて、まずはお前から処理していくか。まぁ、あの紅蓮とか言うやつもたいした事は無いだろう。先代の力神ですら俺に敗北した。お前ごときで俺を倒せるかな?」

「やってやるしかない……クレア装」

 

 今度はクレアを体に纏わせる。今度は今出せる本気で挑む。だが、いくら思考をめぐらせても龍磨に勝てる道が全く見えない。

 どうしたらいいんだ。




 はい!第128話終了

 さて、真の前に現れた龍磨。

 果たして真は龍磨に勝利することは出来るのか?

 それでは!

 さようなら


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第129話 お前に勝ち目などない

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 紅蓮と龍磨は戦うも、紅蓮は違和感を覚える。打撃のダメージがないのだ。

 すると、紅蓮と戦っていたのはホログラムだったということが判明。

 そしてその本体の居場所は真の向かった扉の先だという紅蓮の推理通り、その先には龍磨が居り、真が龍磨と戦うことに。

 果たして真は龍磨を倒す事が出来るのか? そして龍磨は帰ってきたこいしと共に真を助け出すことが出来るのか?



 それではどうぞ!


side真

 

「行くぞ!」

「無駄だ」

 

 俺はクレア装を使用して一気に龍磨との距離を詰めて刀を構える。だが、その次の瞬間には俺は殴り飛ばされてしまっていた。

 龍磨の動きが全く見えなかった。いつの間にか俺は宙を舞っていたのだ。

 

 速い。見えない。勝てない。

 そんな嫌な思考が脳裏を過ぎる。だが、そんなことを考えていても現実は厳しいいい方向には進んでいってはくれない。

 近づけないならば、近づかなければいい。

 霊力を刀に込め始めた。

 

 そしてそのまま霊力斬を放った。

 

「ふん、こんなもの」

 

 すると今度は大きく腕を振りかぶった龍磨。

 その拳を俺のはなった霊力斬にぶち当てた。斬撃にパンチするなんて、普通は考えないことだ。なにせ、その霊力斬はものすごく切れ味がいい。どんな大岩でも斬ることが出来るだろう。

 ただ、相手が龍磨で無ければ、の話だけど。

 

「なっ」

「こんなもの、俺にとってはなんてことない」

 

 龍磨の拳は俺の霊力斬を破壊した。生身の拳に俺の霊力斬が負けたのだ。

 その事に驚いて目を見開いてしまう。斬撃で切れないほどの強固な肉体が……それも人間の肉体があるなんて……

 

「その顔だ、俺と戦ってきたヤツらはみんなその顔をしてきた。だが無駄だ。俺の肉体は先代の力神ですら斬ることが出来なかった。それがお前と俺の実力の差だ。お前では俺には勝てない。お前の仲間たちは色々といい力を持っている。この力を駆使すれば世界を破壊することなど容易だ。俺の目的のためにお前たちの力、利用させてもらう」

「させない……みんなの力をそんなものに利用させはしない」

 

 今の俺に何が出来る?

 こいつは恐らくパラレルワールドの俺よりも圧倒的に強い。そんな奴にパラレルワールドの俺にも苦戦していた俺で勝てるのか?

 

「でも、やる!」

 

 俺は手のひらに霊力の玉を作り出すと、それをがっしりと握った。

 俺の今の力を全て使った戦いを見せてやる。

 こいしと約束したからな。こんな所で殺されてしまったらあの世で色々な人にドヤされてしまう。

 死んだら冥界に行くのかな。そうしたら幽々子と妖夢にドヤされてしまう。

 

 妖夢は普段、俺を怒ったりしないから、妖夢が怒った姿を見てみたい様な気がするけども、やっぱりダメだ。個々で死んだらもうこいしに会えない。

 

「狙撃《スナイパー》っ!」

「ものすごい気迫だ。だが、俺には効かない」

 

 俺は霊力の玉をものすごい勢いで投げつける。その玉を龍磨は素手で受け止めた。

 龍磨にはそれほどの力があると分かっていた。だけど、その技はただ相手に投げる技ではない。こうなることを予想して態と柔らかい霊力の玉を作り出した。

 

「はじけ飛べ」

「っ、まさか」

 

 その瞬間、ドガーンという轟音と共にものすごい爆発を起こした。

 初めて龍磨のぎょっとした表情を見ることが出来た。

 霊力を感じ取って絶望しているところだけども、ぎょっとした表情を見ることが出来て少しスカッとした。

 

「今のはビックリした……ただ、これでも俺の体を傷つけることは出来なかったようだな」

「そうか? 俺はかなり満足したが……」

「それは良かった。じゃあ、もう一つ冥土の土産にいいものを見せてやろう」

 

 龍磨はそう言うと、突然霊力を高め始めた。それと同時に物凄い電子音がそこら中の電子機器から鳴り響いている。かなり不気味だ。

 稲妻が走り、その稲妻がうねうねとまるで生きているかのように動いている。

 

 すると、その稲妻の一本がこっちに突撃してきた。

 俺は咄嗟にそれを回避したものの、地面を見て心臓の鼓動が早くなるのを感じた。それは恐怖による緊張だった。

 あの稲妻で俺の元立っていた地面がえぐれてしまっていた。もし回避が遅れていたらあれが今度は俺になってしまっていたということだ。

 どんどんと稲妻が俺に襲いかかってくる。

 電子機器はこの部屋のどこにでもある。そのため、四方八方から攻撃がやって来るのだ。

 

「俺の武器はこの部屋全体だ。お前がこの部屋に来た時点でお前に勝ち目などなかったという事だ」

「お前の能力は一体……」

「俺か? 俺の能力は【近くの電子機器を操る程度の能力】。これを応用して電子機器の電気を操ることが出来る」

 

 つまり俺はまんまと誘い込まれてしまったということか。

 うねうねと触手のように動き回る稲妻。これを回避するので俺は精一杯だ。

 斬ろうとしても固くて切れない。受け止めようとしても重くて受け止めることが出来ない。この状態じゃ龍磨に攻撃を仕掛けることなんて……。

 

「お前はこの部屋に来た時から敗北は決していた。さて、そろそろ終わりにしてやるか」

「くそぉぉぉぉっ」

 

 龍磨が右手を上にあげると、その手のひらの先に稲妻たちが集まってきてエネルギー弾を作り出していく。

 どんどんと大きい電気の塊になっていくエネルギー弾。あんなのが直撃したら一溜りもない。恐らく俺は死んでしまうことは間違いないだろう。

 

「ぐっ」

 

 すると、エネルギー弾に意識を持っていかれていると、足に激痛が走った。稲妻が俺の左足を貫通していたのだ。

 痛い。治癒しようとしているものの、稲妻が貫通した状態で動かない。これじゃ治すことは出来ない。

 

「終わりだ」

 

 もうダメだ。そう思った時だった。

 突如としてエネルギー弾が消滅してしまった。その事に俺と龍磨は驚いてしまう。

 すると、俺と龍磨しか居ないはずのこの空間にもう一人の声が響き渡った。

 

「やめて!」

 

 俺と龍磨は一斉にその声がした方へと目を向けた。

 そこに居たのは彼方だった。




 はい!第129話終了

 真を圧倒する龍磨の実力。そして、遂に現れた彼方。
 果たして真と龍磨の戦いはどうなってしまうのか?

 それでは!

 さようなら


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第130話 俺の右腕になってくれ

 はい!どうもみなさん!ミズヤです

 最近なかなかこの無意識の恋の筆が乗らないんですよね。なので、いつも命を削って書いています。



 それでは前回のあらすじ

 遂に真と龍磨の対決開始。だが、龍磨のその圧倒的な実力に成す術ない真。
 そこへ、彼方が乱入してきた。

 果たしてどうなってしまうのでしょうか?



 それではどうぞ!


side真

 

 突然現れた彼方はものすごく怒った顔をしている。

 これまでかなり一緒に彼方と居たものの、あんな表情を見たのは初めてかもしれない。

 

「か、彼方?」

「私の仲間を傷つけないで!」

 

 龍磨に向かって言い放つ彼方。

 突然、彼方が乱入してきたことによって少し驚いた様子だった龍磨だったけども、直ぐに元へと戻って彼方のことを鼻で笑って龍磨は口を開いた。

 

「それは無理な相談だ。嫌なら無理やりにでも止めて見せるんだな」

 

 言いながら俺に電撃を放つ龍磨。それに俺は反応できずにもろに食らってぶっ飛ぶ。

 俺は致命傷を喰らわないって言っても、痛みに関してはそのままなので、物凄く痛い。

 

「ぐはぁっ!」

 

 壁までぶっ飛ばされて、そしてうつ伏せに倒れてしまう。

 彼方の方を見てみると、口をパクパクさせて肩を震わせていた。

 

「や、やめろー!」

 

 彼方は叫ぶと飛び上がって両手を上に翳した。その姿はやっぱり神なんだなと思えるほどに神々しいものだった。

 そして彼方の手のひらの先にエネルギーのようなものが集まってくる。

 確かにその姿は神々しい。だけども、集まって行っているエネルギーが物凄く禍々しいものだ。

 

 直後、空気が悲鳴をあげているかのように突風が吹き荒れはじめた。

 更には地震も起こりはじめた。まるで世界の終わりのように――いや、ようにじゃなくそうなのかもしれない。

 そしてエネルギーが溜まりきって大きな球体になる。

 

「な、何事だ!」

 

 そこで俺たち以外人の声が聞こえてきた。

 目を向けてみると、そこにはなぜだか紅蓮とこいしが居た。

 

「急いできてみたんだが、これは……」

「な、なんか色々とぐちゃぐちゃとしたものが大気中を漂っているよ。なんか、怖い感じ」

 

 どうやら紅蓮は龍磨が偽物だと気がついて、そこで扉を攻略したこいしと遭遇して俺の扉へ助太刀しに来たらしい。だが、そこでこの状況だ。

 二人とも、大層困惑している様子だった。

 

「なんで彼方様が?」

「分かりません。突然現れて……でも、あれを止めないとまずいですよね」

「そうだな。この空間が崩壊したら恐らく俺達も一緒に崩壊してしまう。……一番最悪な終わりだ」

 

 唇を噛む紅蓮。恐らく、彼方のこの力をひしひしと感じて、自分は勝てないと考えているのだろう。

 だが、今紅蓮が言ったことが本当なのだとしたら、あれをこの世界に落としてしまったら何もかもがおしまいだ。

 皆を助けるために来たのに、それが彼方の手で終わらせるなんて、そんなのはダメだ。

 俺は彼方を知っている。心優しくて、他人思いだって言うことを。だから、彼方に皆を殺して欲しくない。

 

「壊れろ! 壊れて消えてしまえ!! 破壊《破壊砲》」

 

 遂に彼方は手に出した破壊砲を放ってしまった。

 この状況であの破壊砲を止めることの出来る唯一の方法。だが、この破壊砲の神力は異常な程に多い。これを俺は止めることが出来るのか?

 いや、出来るのか? じゃなくてやるしかないんだ!

 一種の賭けだけど、俺は破壊砲に向かって飛び上がった。

 

「真!」

 

 こいしの声が聞こえるが気にしない。

 そして破壊砲の軌道上に止まって右腕を押さえるように左手で掴んだ。

 

「《限界突破(ブレイク・ザ・リミット)》、確か俺には神力が宿ってるんだったな」

 

 神力はあまり意識して使ったことは無かったけど、今は一か八かやってみるしかない。

 

「来い! 俺の今世紀一番の神力!」

 

 そして俺はどんどんと神力を右手に送り込む。

 まだだ……まだ!

 

「もっとだぁっ!」

 

 そして突如として右腕が光りはじめた。これで足りるかは分からないけども、ぶつけてやる!

 

「《上書き》!」

 

 俺は神力を解き放った。

 そしてその俺の神力と彼方の破壊砲がぶつかり合って押し合う。

 だが――

 

「くっ」

 

 徐々に押されていきついに俺の腕を飲み込みはじめようというところまで来た。

 そして俺が物理的に押すような感じに。

 

「ぐ、はあぁぁぁっ!」

 

 そしてさらに腕に神力を送り込む。

 腕が痺れて痛い。これが彼方の神力か……ものすごい力だ。

 だが、徐々に破壊砲が小さくなりはじめた。

 

「あいつ、彼方様の神力と渡り合っているだと?」

 

 そして後は俺の掌サイズと言うところで――

 どかーん! 突如として破壊砲が爆発した。

 それは物凄いエネルギー量だったようで、俺は吹っ飛ばされてしまった。

 爆発による煙に囲まれてしまう。

 

「真!」

 

 こいしの不安そうな声が聞こえてくる。その声を聞いて何とか俺は空中で耐える。

 そして爆発の煙も晴れてきた。

 

「し、真!」

「お前、それ」

 

 こいしと紅蓮が下から驚いたような声を上げる。

 何を驚いているんだ? それに、物凄く右腕が痛い。焼けるような痛みだ。

 そう思ってるとこいしが口を開いた。

 

「真。腕が!」

 

 こいしの声に釣られて俺は右腕を見る。

 すると、右腕は粉々に吹き飛ばされて、そこにあるはずの腕が無かった。

 

「シン! わ、私のせいで……」

 

 そこでようやく我に返って自分がやろうとしていたことに気がついたらしい。

 彼方は泣き出してしまった。

 そして俺は急いで彼方に駆け寄って、片手で優しく包容する。

 

「大丈夫だ。これくらい。皆の命に比べたら腕の一本や二本お安いご用だ。それとあまり自分を追い詰めんな。俺を助けるためにやったんだろ? なら別に彼方は悪くない」

 

 俺は優しく頭を撫でる。

 

「何十回見ても、どうしても苛立ってしまう……。ごめんなさい。お詫びに何でもするから……私はどうしたら……」

 

 俺の胸に顔をうめながら聞いてきた。

 最初の方が何を言っているか全く聞き取ることは出来なかった。

 俺はお詫びなんて全く求める気は無いのだけども、それだと恐らく彼方の気が済まないだろう。だから、一つだけ提示することにした。

 

「破壊以外の方法で俺達に力を貸してくれ」

「破壊以外?」

 

 俺の言葉に首をかしげる彼方。

 反復してきた彼方の言葉に頷いた。

 

「そうだ。彼方。この戦い限定で俺の右腕になってくれ」

 

 つまりは一緒に戦ってくれと言う意味だ。

 

「分かった。私、全力を尽くす!」

 

 俺と彼方は横に並んで戦闘態勢に入る。

 しかし、右腕が全く再生しない。恐らく彼方の能力に触れたからだろう。

 だが、その右腕として彼方がいる。戦えるはずだ!




 はい!第130話終了

 彼方は情緒不安定ですけど、どうしたんでしょうかね。

 それでは!

 さようなら


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第131話 お前が死んだらダメだろ

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 彼方が現れ、真が攻撃されているのを見て怒る。

 彼方の破壊砲を止めるために真は全力を出す。そして、止めることが出来たものの、真は片腕を失ってしまった。

 その片腕分を埋めるために二人の共闘が始まる。



 それではどうぞ!


side真

 

「行くぞ」

「うんっ!」

 

 俺と彼方はかけ出す。

 左腕で霊力刀を作り出して構える。ただ、俺は右利きなので、左手で刀を握るって言うのは慣れないもので、上手く振れるか心配だ。

 だが、今は彼方が隣にいる。それだけで安心して戦うことが出来る!

 

「神であろうが関係ない。俺に勝てるものは誰一人としていない!」

「ぐっ!」

 

 俺は電撃に吹っ飛ばされてしまうものの、俺に気を取られていたら彼方が俺の横を通り抜けて龍馬に一気に接近していく。

 

「近づくな」

 

 その声とともに彼方に電気が襲いかかる。だが、彼方が指をパチンと鳴らした瞬間、その電気は一瞬にして消え去ってしまった。これが彼方の能力ということなのだろうか?

 

「なるほどな。それじゃあ、破壊と言うよりも消滅だな。破壊神よりも消滅神の方があっているんじゃないか?」

「……」

「無視かよ」

 

 彼方は龍磨の声になど耳を貸さぬとでも言うように、龍磨に無言で殴り掛かる。

 その拳は軽々と回避する龍磨だったが、彼方の拳が直撃したデスクは一瞬にして消滅してしまった。

 

「破壊の力、恐るべしって言うことだな」

「破壊《破壊砲》」

 

 すると今度は手のひら大の破壊砲を作り出すと、その破壊方を龍磨に投げる。

 龍磨は近くにあったものを盾にしてガードをするものの、当たった瞬間、その盾にした物が消滅し、龍磨は吹き飛ばされた。

 

「なるほど、その能力はガードすらも許してくれないのか」

「私の能力は触れたものを強制的に破壊する。あなたが勝てる道理はない」

「そうかそうか、その方が楽しめるって言うものだ!」

 

 今度はそのまま殴りか借りに行く龍磨。

 彼方の能力は触れたものを破壊することが出来るので、そんな攻撃の仕方では破壊される。

 そして彼方はその龍磨の拳を手のひらで受け止めた。しかし、龍磨は消滅せずにそのまま彼方は殴り飛ばされてしまった。

 

「やはりな」

「今のはどういう事だ」

「俺は近くの電子機器を操る以外に、【仇なす能力を無効化する程度の能力】もある。俺に仇なす破壊の能力は俺の肉体には効果がないということだ」

「く」

 

 彼方は悔しそうに唇を噛み締める。

 さっきの戦い方を見てみると、恐らく彼方は能力を主軸に戦うのだろう。それなのに、その能力が効かない相手となるとかなり厳しくなってしまうのだろう。

 

「なら、相手に作用する能力じゃなかったらどうなるんだ?」

 

 その瞬間、俺の後ろから炎がものすごい勢いでやって来て俺の隣を通り過ぎて龍磨へと向かっていく。

 それを見て龍磨は大量の電撃で攻撃をしようとするものの、それら全てが切られて、その炎に直撃しない。

 

「うぉぉぉっ!」

「くっ!」

 

 龍磨は飛び退いて回避しようとするものの、炎はどんどんと距離を詰めて逃がさない。

 そしてその刀は遂に龍磨の腕を切り飛ばした。

 

「ぐぁぁぁっ!」

 

 痛みによって叫ぶ龍磨。

 龍磨に触れたことによって炎が消え、その中から紅蓮が現れた。やはり能力で触れると消えてしまうらしい。

 だけど、仇なす能力じゃ無ければ消されることは無い。つまり、俺とこいしの能力は消されることは無い。

 

「ごめん、真。私、私……力になれない」

 

 自分が力になれないことを考えてかなりショックを受けてしまっている様子の彼方。

 ずっと謝って地面に蹲っている。

 一緒に戦うと張り切っていた。そのため、能力が効かなかったのは相当ショックだったのだろう。

 

「彼方」

「真?」

「俺は気にしてない。彼方はちゃんと力になってくれているよ」

「真?」

 

 刀を置いてから軽く彼方の頭を撫でると再び刀を手に取って構える。

 彼方は俺の力になってくれている。確実に俺を強くしてくれている。

 さっきの破壊砲で右腕を失ったことは確かだけど、さっきよりも力が湧いてくる。

 

限界突破(ブレイク・ザ・リミット)

 

 再び限界突破を使用して身体強化をする。

 これならば片腕がなくとも戦えるはずだ。

 

 俺は龍磨に向かって駆け出す。

 それと同時にこいしが弾幕を放ったので俺はこいしの弾幕に囲まれて並走する。

 霊力を刀に込めて龍磨に斬り掛かる。

 

「あまいな」

 

 だが、龍磨は俺の周囲を飛んでいたこいしの弾幕は電撃で相殺し、俺の攻撃はバックステップで回避した。だけど、これは読めていたので、そのまま距離を詰めて霊力刀を消すと手のひらに霊力を集める。

 

「ぐっ」

 

 霊力の玉を作り出してそのまま押し付けようとするものの、背後から迫ってきていた電撃によって弾き飛ばされてしまったので、その攻撃を与えることが出来なかった。

 その衝撃によって限界突破を解除してしまう。

 

「はぁぁぁぁっ」

 

 俺と入れ替わるように今度は紅蓮が龍磨に斬り掛かる。

 今度は龍磨には炎が通用しないと判明したので、刀を燃やさずに純粋な剣術のみで戦う紅蓮。

 その紅蓮に龍磨は電撃で対抗するものの、それら全て斬られ、通用していない。

 

「はぁぁぁっ」

「ぐあぁぁっ」

 

 遂に龍磨は霊力で手を覆って殴り掛かる。

 紅蓮の刀と龍磨の拳がぶつかり合って衝撃波が放たれる。

 

 急いで俺も加勢しないと。いつまでも地面に倒れている場合じゃない。

 

「いっ」

 

 立ち上がろうとした瞬間、足に激痛が走った。

 さっき飛ばされた時に痛めてしまったらしい。俺の能力は痛みまで消すことは出来ないので、激痛によって立ち上がれなかった。

 その瞬間、俺に電気が向かってきていた。どうやら俺が動けないのを見て電気を放ってきたようだ。それも、物凄い量の電気なので、動けない今じゃ全てを防ぐことは出来ない。

 万事休すかと思った。だが、その電撃が俺に届くことは無かった。

 

「ぐっ」

 

 なんと、ものすごい勢いで俺を突き飛ばし、紅蓮が俺を庇っていたのだ。

 その体は電撃によって貫かれており、かなり大量の血が出てきてしまっている。

 

「ごはっ」

「紅蓮……」

「お前は死んじゃダメだろ」

 

 確かに、今の一撃を食らったら俺は死んでいたかもしれない。だけど、紅蓮が庇うことは無いじゃないか。

 紅蓮は今後の幻想郷の未来のためにいなきゃダメだろ。

 

「真、お前が幻想郷を守るんだ。俺は確信している。お前だったら出来る」

「紅蓮……」

「後は頼んだ……ぞ」

「紅蓮? 紅蓮んんんっ!」

 

 呼んでももう返事はなかった。恐らくもう紅蓮は……。

 だが、体制を崩していない。そこに最後まで戦うという意思が見える。

 紅蓮は身を呈して守ってくれた。この命、無駄にする訳には行かない。

 

「真?」

「し、真!」

 

 俺の周囲にこいしと決闘した時と同じオーラが出ていた。




 はい!第131話終了

 なんと紅蓮が死んでしまいました。

 そして真は再びオーラを出しました。これは一体何でしょうか?

 それでは!

 さようなら


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第132話 血の覚醒

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 全員で一斉に攻めるものの、龍磨には一歩届かず、真は絶体絶命のピンチに陥ってしまう。
 そこで、真への攻撃を紅蓮が庇ったことによって紅蓮は倒れてしまった。

 その時、真の姿がこいしとの決闘の時のようになった。



 それではどうぞ!


side真

 

「済まない、俺が未熟なせいで紅蓮……」

 

 俺は紅蓮に謝ってその場に立ち上がった。

 今の俺は怒りに燃えている。ただ、その怒りは自分への怒りだ。未熟なばかりに、紅蓮を死なせてしまったという自分への怒り。

 その怒りが、どんどんと自分の力になっていくのを感じた。

 

「お、お前、その姿は」

 

 怒っていると言うのに段々と心は落ち着いていく。不思議な気分だ。だが、冷静になっている分、相手の動きが細かく鮮明に見える。

 動体視力が爆発的に上がった。それだけじゃない。力が湧いてくる。

 

 限界突破の時と似ているものの、少し違う。

 俺の周囲にオーラが出ているようだが、これは神力だ。神力が増大して、体の中に収まりきらない神力がこうして可視化してオーラになっている。

 

「なるほどな……彼方」

「なに?」

「これが王か」

「……」

 

 何も言わない彼方。だが、その無言は肯定と受け取っておこう。

 

「王だと? クレアの事か。あれは一部の限られた奴にしか使えないものだ! お前なんかに使えてたまるものか!」

 

 どうやらクレアのことを知っていたらしい龍磨。

 周囲の電気を集めて再びエネルギー弾を放ってきた。それを俺は一刀両断する。

 遅かった。斬るには十分な時間があったのだ。

 

「な、見えない。太刀筋が見えない」

「お前は俺が倒す!」

 

 今回は神力をめいっぱい霊力刀に込める。すると、虹色に刀が光始めた。

 そのまま上に振り上げるように空気を切ると、一直線上に斬撃が放たれた。その斬撃は空気をも切り裂いて、空間に亀裂を作る。

 

「な、今のはなんだ」

 

 龍磨はなんとかギリギリのところで回避したようだが、今の一撃を見て驚きが隠しきれないようだ。

 放った俺も驚いている。まさかこれほどまでの威力の斬撃を放たれるとは思わなかった。

 

「くそ、こんな所で死んでたまるかよ!」

 

 次は全方位から電撃が飛んできた。これは流石に全てを斬ることは免れない。何発かは直撃必死だ。

 とりあえず、正面の電撃は切ったものの、背後までは無理だ。そう思った時、背後の電撃が消滅した。

 見てみると、そこには彼方がいた。

 

 彼方の目を見てみる。その目はまるで背中は任せろとでも言っているような目だった。

 

「ありがとう」

 

 俺は刀を投げる体制で構える。

 良く石で代用しているものの、これは刀ように作ったスペルカードだ。

 

「狙撃《スナイパー》」

 

 スペルカードを利用して思いっきり霊力刀を投げつける。だが、その攻撃は読めていたようで、簡単に回避されてしまった。

 だけど、その代わりに投げた霊力刀に気を取られている間に俺は新しく霊力刀を作り出して龍磨に急接近をする。

 

「はぁっ!」

「くっ」

 

 俺は思いっきり刀を振る。すると、電気が一箇所に集まって盾となり、その縦で龍磨は俺の斬撃を受け止めた。

 だが、その後の行動が俺の方が速かった。

 回し蹴りで縦を蹴り飛ばすと、そのまま回転斬りを放つ。

 

「お前っ」

 

 龍磨は蹴りで俺の刀を蹴り飛ばそうとしたものの、俺の方が早かったため、龍磨の胸を切り、蹴り飛ばした。

 

「がはっ」

「終わりだ」

 

 地面に倒れ込む龍磨。

 もう勝負は決したと言ってもいいだろう。龍磨の体はもうボロボロでとても戦える状態には思えない。

 後はこの刀を龍磨の胸に刺して終わりにしよう。

 

「くそ、このやろう!」

 

 そして刀を突き刺そうとした瞬間、最後の抵抗とばかりに電撃を俺にはなってきた。その電撃は全て防ぐものの、なんと、一部の電撃が龍磨へと向かって言っているのが見えた。

 

「こんな所で負ける訳には行かないんだよ!」

 

 ごろごろごろ、とまるで雷でもなっているかのような轟音が鳴り響く。

 その音とともに龍磨はその場に立ち上がった。その姿を見て俺は驚愕する。なにせ、さっき俺が切った傷が跡形もなく消えているのだから。

 治癒能力だ。恐らくあの電気を自分の肉体へと変化させたんだ。

 

「さっきはよくもやってくれたな。この力だけは使わないと思っていたんだが、やめだやめだ。本気で行くぞ」

 

 バチバチと龍磨の体を稲妻が走っている。

 静電気によって髪の毛が逆立ち、目が淡く光っている。そして何より、ものすごい霊力量だ。桁違いなほどの霊力量に俺は思わず一歩下がってしまう。

 その瞬間、龍磨は地面を蹴って俺の急接近してきた。恐らくさっきの俺だったら瞬殺されていただろうが、今は反応することが出来た。

 殴りかかってきた龍磨の拳を刀で防ぐものの、重い。

 

「どうした?」

「ぐ、ぐぐぐっ」

 

 そのままどんどんと押されていき、遂には刀を弾かれて顔面を殴り飛ばされて壁に激突してしまった。

 

「かはっ」

 

 その衝撃によって俺は思わずクレア王を解除してしまった。

 

「真のクレア王はまだ完全じゃなかったんだ」

「真のことを助けないと」

「うんっ」

 

 助けようと走ってくる二人だが、こいしは電撃によって弾き飛ばされてしまう。

 彼方は何とか電撃を破壊しながらこっちに来るものの、龍磨が霊力を衝撃波のように飛ばすと、その衝撃波にぶっ飛ばされてしまった。

 

「さて、さっきはクレアの王だっていうからビックリしたが、その程度のクレア王で俺に勝てると思うな。お前たちはここに乗り込んできた時点で敗北は決していたんだよ」

 

 龍磨はゆっくりと俺に接近してきて指をポキポキと鳴らす。

 今この状態であのパンチをくらったら俺は死んでしまうだろう。だけど、体が痛くて動かないんだ。

 これだけダメージをくらっていたら致命傷は関係ない。普通のダメージで死んでしまう。

 

 やっぱり俺は弱い。守りたいものを自分の手で何一つ守れていない。

 

 ――諦めるな真

 

「この声は?」

 

 突然、頭の中に響いてくるような声がした。

 その声は俺の声と全く同じもの。俺はその事に混乱してしまう。

 

 ――お前はそんな所で諦めるような柔なやつだったのか? 少なくとも俺と戦った時のお前はそうでは無かった。俺が成し遂げることの出来なかった仲間を守るということをやり遂げて見せろ。お前はそれが出来る。

 

 そうか、これは未来の俺の声だ。

 自分の成し遂げることの出来なかった仲間を守るということを俺に託してくれていたんだ。

 そうだ、今の俺はまだ失ったわけじゃない。守れる人も居る。まだ、勝負は決していない。まだ、間に合うんだ。

 

 立て、立って奴に刃を向けるんだ。

 どれだけ体が悲鳴を上げようとも俺は戦い続ける。皆を救うことが出来るまでは何度だってへこたれない。

 

「お前の成し遂げられなかったこと、絶対に俺が成し遂げてやる」

 

 ――あぁ、それでこそ俺だ。

 

 体が悲鳴を上げている。骨が何本か折れている。だけどそんなことは関係ない。

 今は、戦い続けるだけだ。

 

「はぁっ!」

「死ねぇぇぇぇっ」

 

 遂にパンチを放ってくる龍磨。その拳を俺は受け止めた。

 

「なっ」

 

 今の俺はクレア王を纏っている訳では無い。だけど、俺は龍磨の拳をがしっと掴み、完全に止めて見せた。

 血の中に感じる力。全ての人の思い、感情が俺の血となり肉となる。そして、この血の中に感じる力。思いが俺の力となる。

 俺の目の色が徐々に変化していき、やがて赤と青のオッドアイとなる。そして俺の周囲にはコードが出現していく。

 そのコードはやがて一点に収束し、その部分に目が出現した。これはさとりやこいしにあるサードアイと同じものだ。

 

「なに!?」

「おらぁっ」

 

 そして遂に押し返して龍馬のことを蹴り飛ばす。

 血の中に眠っていた力が覚醒したんだ。

 どんどんと肉体が再生していく。俺の本来の再生速度に戻り、先程彼方の技によって消滅してしまった腕も完全に再生した。

 

「これが血の覚醒だ」




 はい!第132話終了

 遂にクレア王に目覚めた真でしたが、不完全なクレア王だった為、実力を出し切れずに敗北してしまいました。

 ですが、最後に血が覚醒し、真は妖怪の力を取り戻しました。
 どうしてさとり妖怪のような姿なのかと言うと、それはこいしの血液を輸血した結果ですね。それによってさとり妖怪と酷似した姿となっています。

 オッドアイに関しては血の覚醒によって真の本当の力が呼び出された結果だと、今のところは解釈しておいて下さい。

 それでは!

 さようなら


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第133話 少し、合わせてもらっていいか?

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 遂にクレア王を発動した真。しかし、そのクレア王はまだ未完成で真はやられてしまう。

 その時、真の本来の力が覚醒したのだった。



 それではどうぞ!


side真

 

 どんどんと力が湧いてくる。

 やっぱり永琳先生は上手い具合に俺に合うように輸血してくれたらしいけど、こんな感じで出てくるなんてな。

 まぁ、元々俺は輸血された時から人だとは思っていなかったけどな。

 

「今の俺は差し詰めさとり妖怪と言ったところか」

「血の覚醒がどうした! 俺に勝てる道理は何も無い!」

「いや、あるぞ」

 

 半人半妖の俺がいくら頑張っても潜在能力に負けてしま相手、それが妖怪だ。

 妖怪の血を半分もっていたとしても人間の血で薄まってしまっている。だけど、この姿とこの再生能力は恐らく妖怪の血が濃くなったということだろう。

 試してみる価値はありそうだ。

 

「とりあえず、消し炭にしてやる!」

 

 龍磨は再び俺に向かって電撃を放ってきた。それを俺はひらりと最小限の動きのみで回避する。

 そしてそのまま一気に接近を試みる。

 

 片手に妖力で作った妖力刀を作り出して走り出す。その進行を妨害しようと何度も何度も電撃を放ってきたものの、そんなものはもう俺には当たらない。

 なぜならどこを狙っているのか分かっているからだ。

 俺はさとり妖怪となった。相手の心を読むことも当然可能だ。そのため、龍磨の心を読んで電撃を回避していく。

 

「真、……今までにない結果」

「どうしたんですか?」

「……いや、なんでもない」

 

 遂に俺は龍磨の目の前にたどり着いた。

 

「くそ、いきなり実力を高めやがった」

「いきなりじゃない。今までの積み重ねだ」

 

 この力は今まで色々な経験をしたことによって発言した力だ。いきなりなんて簡単な言葉で済ませていい力じゃない。

 俺は勢いよく刀を振るものの、回避されてしまう。だが、俺はその回避先に弾幕を張り巡らせていた。

 

「爆ぜろ!」

「く、しまった!」

 

 俺は弾幕に妖力を流し込んで一斉に爆発させる。

 これが霊爆波の応用で妖力を利用することによって投げることができるようになった霊爆破、《妖怪・霊爆波》だ。

 ずっと考えていた技だが、今まで出来ずにいた。それは俺の力不足だ。だが、妖怪ほどの力を手に入れたおかげでようやくできるようになった。

 

「……しぶといなお前」

「お前がそれを言うか」

 

 爆発の煙の中から平然とした様子で出てきた龍磨。

 どうやら爆発の直前、電気の壁を作り出して威力を軽減したらしい。本当にしぶといやつだ。

 

「今度はこっちの番だな」

 

 そう言うと、なにやら龍磨は電気を操作して自身の目の前に大きな動物の口を象ったようなものを作り出した。

 それは危険だということを感じさせるものだ。あれは当たったらまずい。

 

「死ぬがいい! 《雷轟牙(クレイジーファング)》っ!」

 

 すると、俺に向かって牙が襲いかかってくる。ものすごく大きいから回避は不可能だ。

 

「私に任せて!」

「彼方」

 

 すると、彼方が俺の前に立って牙に素手で触れた。

 それによって牙は消滅する。ただし、一部のみだ。一部のみしか破壊できないので、どんどんと再生していく。

 

「く、いつもならこの程度のものは一瞬で破壊できるのに!」

「ふ、残念だったな。その技には俺の能力よりは弱いものの、近い能力を付与している。お前の能力は無効化されているんだよ!」

 

 だから一部しか破壊できないのか。こいつの能力は厄介極まりない能力だな。

 彼方の力は使えないとなると、あとは自分でなんとかするしかない……。

 だけど、まだこの力になれていなくて百パーセントの力を使えない……どうすればいいんだ。

 

「真」

「こいし?」

 

 悩んでいるとこいしが俺の手を握ってきた。その手はとても優しく、包み込むようだった。

 反射的にこいしのことを見ると、その目はとても優しい目だった。何度もこの目に救われてきた。

 

「大丈夫、だって真はとっても強いから。私たちが着いているから心配しないで、ね?」

「こいし……ありがとう。すこし、合わせてもらっていいか?」

「うん」

 

 俺が右手のひらを突き出すと、こいしは左手のひらを俺の右手の甲に重ねてきた。

 その手のひらからこいしの妖力を感じる。安心してどんどんと力が湧いてくる。今なら出来そうだ。

 ただ、崩壊は流石に彼方を巻き込んでしまうので、そんなことはしない。こいしと力を合わせてやりたいと思っていた技があるのだ。

 

「行くぞこいし」

「うんっ!」

「彼方、避けろ!」

「え?」

 

 一瞬ぽかんとする彼方だったが俺とこいしが手を重ねながら勢いよく突っ込んでいくのを見て察したらしく、慌ててその場から離れた。

 これが俺とこいしの技だ。

 

「どんな攻撃であろうとも、俺に勝てる技は存在しない! なんでも喰らい尽くすその牙の力をとくと味わえ!」

「味わうのは貴様だ龍磨!」

 

 俺の手のひらに妖力と霊力を混ぜた球を作り出す。

 こいしの力のお陰でどんどんと力が湧いてくる。この技なら、あの牙をも突破出来るかもしれない!

 

「はぁぁぁぁっ! 無意識《霊爆波》!」

「たぁぁぁぁっ! 無意識《霊爆波》!」

 

 俺とこいしは声を合わせて霊爆波を作った腕を突き出した。

 そして霊爆波と電轟牙(クレイジーファング)が押し合う。

 相手の力もかなりのもので、二人の力を合わせても押し返されそうになるが、気合いで押しつづける。

 この力は俺だけの力じゃない。こいしも一緒に戦ってくれる。それだけで俺に勇気を与えるのには十分だ!

 

「爆ぜろ龍磨!」

「もうあなたの好きにはさせない! ここで勝たせてもらう!」

「なに!?」

 

 遂に俺とこいしの力が龍磨を上回り、霊爆波が牙を砕いた。そしてそのまま龍磨の腹へとものすごい勢いで突撃し、霊爆波を押し付けた。

 

「そ、そんな、この俺が!」

「終わりだ龍磨」

「ここであなたの悪事は終わりよ!」

「畜生!」

 

 俺とこいしの手のひらにある霊爆波から放たれたレーザーが龍磨を飲み込んだ。

 完全に龍磨は消し炭になったようで、気配が完全に消滅した。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 俺はこいしに支えられながら機械に向かって歩いて行って装置の電源と思われるレバーを引いて電源を切った。

 これで終わりだ。そう思って気が抜けてその場に倒れてしまう。

 

「真、真!?」

「シンっ!」

 

 こいしの心配した声が聞こえてくる。

 やっと終わったんだ。少しくらい休ませてくれ……。

 

 今回の戦いの被害は少なかったといえば嘘になるだろう。事実、紅蓮が俺の身代わりとなって死んでしまった。このことは悔やんでも悔やみきれない。

 だけど、俺たちは紅蓮の死を乗り越えて先に進んでいかなければいけないのだ。




 はい!第133話終了

 遂に龍磨との戦いが決着しました。

 ちょっと決着を急ぎすぎた感はありますが、これ以上引き伸ばしてもいい戦いがかける自信がなかったので、ここで戦いを終わらせました。

 それでは!

 さようなら


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第134話 知らない夢

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 血の覚醒を発動させた真は龍磨を追い詰める。

 そこで龍磨の強力な技が発動されたが、真とこいしのコンビネーション技《無意識・霊縛波》によって倒すことが出来た。



 それではどうぞ!


side真

 

 あれ、ここはどこだ。

 目を覚ますと、いつかの紅魔館の庭で立っていた。そしてその目の前には俺が立っている。

 異様な状況。これによってここは夢の世界だということが分かった。

 

 他にもシャロと紅蓮がその場にいた。

 この状況から考えて、今はあの瞬間のようだ。もう少ししたら落ちてくるはずだ。

 そう思って空を仰ぐ。すると、その瞬間に空にスキマが開いた。

 そしてそこから俺の予想通りに一人の少女が落ちてくる。その人物は勿論、

 

「「か、彼方様ァァァっ!?」」

 

 そう、彼方だった。

 あの時と同じようにシャロと紅蓮の拳に殴り飛ばされて目の前にいる俺に向かって吹っ飛ぶ。

 そんな彼方様をキャッチする俺。ここで何故だかいきなり懐いてくるんだよな。

 

「ひっ、あ、貴方は誰?」

 

 あれ?

 俺にキャッチされたと分かった瞬間、彼方がものすごい勢いで怯えた様子で俺から飛び退いた。

 こんな状況は知らない。

 

 すると彼方は破壊玉のようなものを手のひらに作り出した。以前、シャロと紅蓮が怯えていた理由のような状況に驚いてしまう。

 

「ま、待て待て! 落ち着いて!」

「…………誰?」

「俺は海藤 真。悪い人じゃないから警戒を解いて欲しいなーって」

「……」

 

 そこでようやく警戒を解いたのか、破壊玉を消して少しずつ俺に近づいていく彼方。

 夢で見る物は大体はその人自身が経験したことのある内容が多い。だけど、俺はこんな経験をした覚えがない。

 じゃあ、これは一体……。

 

 その次の瞬間、場面が移り変わった。

 これは俺がもので釣って彼方からクレア王の事を聞き出そうとしているシーンだ。

 

「ねぇ、何で今日は誘ってくれたの?」

「ん? まぁ、彼方と仲良くなりたかったんだよな」

「……こいしの代わり? 趣味悪いよ」

「違う違う! なんつーか、さ。色々な人を失って気がついたんだ。一期一会もいいけど、こうして親睦を深めるのもありなんじゃないかって。いずれ失われるかもしれない絆でもさ、今を大切に生きていけばいいんじゃないかって」

 

 どうやらここも違うようだ。

 ここでも俺はクレア王の事を聞き出そうとするはずが、どうやら本当に仲良くなるために食事に誘ったらしい。

 つまり、まだ彼方とは仲良くなれていなかったということになる。かなり俺の経験してきた流れとは違うシナリオだ。

 

「そう……なんだ」

 

 何だか頬を染めてチビチビと水を飲む彼方。

 

「ねぇ、真。こいし達をやった奴らを倒せるかもしれない技を教えてあげる」

「え、本当か!?」

「うん、クレア王って言ってね」

 

 随分とあっさり教え始めた。

 多分、今の俺の顔はポカーンとしていることだろう。

 ここも流れが全く違う。何回も頼み込んで頼み込んでようやく彼方が折れてくれたというのに、あっさりと。

 

「絶対に限界突破(ブレイク・ザ・リミット)と併用しちゃダメだよ」

「分かった。ありがとうな!」

 

 俺は物凄く嬉しそうに彼方の手を両手で包み込んで上下する。

 彼方はというと照れた様子で、この外食で俺と彼方は打ち解けた様子だった。ただ、それでも俺の知っている彼方とは少し違うような気がする。

 

 すると再び場面が変わった。

 ここは龍磨との戦いの場面だ。

 既に彼方がやって来ており、紅蓮が死んだ後だ。そして俺がクレア王に目覚めている。

 

 ここから龍磨を追い詰めるけど、反撃をくらってクレア王が解けてしまうんだよな。

 すると、俺が迷っているような表情を見せる。それを見て彼方は俺が何をかんがえて居るのか察したようで、かなり焦った様子を見せる。

 

「く、やるしかない! 限界突破(ブレイク・ザ・リミット)!」

「やめてぇぇぇっ!」

 

 そこで段々と俺の意識が薄れていく。

 いいところだと言うのにもう限界だ。意識を保てない。

 

 視界が暗くなっていく中、最後に見たのは彼方が俺の体を抱えて泣き叫んでいる光景だった。

 


 

 目を開ける。

 するとそこは病院のような天井だった。恐らくここは永遠亭だ。俺が気を失っている間に誰かが運んでくれたのだろう。

 

「あ、真!」

「真、起きた!?」

 

 すると隣から突然声が聞こえてきた。

 見てみるとそこにはこいしと彼方の二人が椅子に座っていた。

 ものすごく心配して泣いてくれていたようで二人の目は涙で濡れていた。

 

「って真、泣いてる?」

「え?」

「本当だ。真の目、濡れてる」

 

 腕で目を拭いてみた。すると確かに濡れている様子だった。

 もしかしてさっきの夢を見て泣いてしまったのか?

 だけど、さっきの夢は何だったんだろうか……。

 

「大丈夫?」

「あぁ、大丈夫」

 

 ニカッと笑って大丈夫だと言うことを示す。

 こいしと彼方は腑に落ちていない様子だったものの、何とか納得してくれた様子。

 

 それにしてもあの夢は気になる夢だった。

 なにか意味があるのか? 分からない。どうして夢の中では過去があんな風に変わっていたんだ?

 気になる。

 もしかして、あれは俺たちにあった別の可能性見たいな感じか? 未来の俺とは違う別の可能性があるのかもしれないな。

 だとしたら未来の俺の時と同じように俺たちに何か関わってくるかもしれない。その事を頭に入れておこう。




 はい!第134話終了

 今回は真の夢でした。

 意味深な夢、これが何を意味しているのでしょうか。

 それでは!

 さようなら


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第135話 ありがとう

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 真は不可解な夢を見た。その夢が指していることとは?



 それではどうぞ!


side真

 

「それにしても目が覚めてよかった」

「そういえば、俺が気を失ったあとはどうなったんだ?」

「あの後、みんなカプセルから解放されて、みんなであの空間を脱出したんだよ。彼方がスキマを使えるから」

「えっへん」

 

 誇らしげに無い胸を張る彼方。

 こいしの口ぶり的にはみんな助かったらしい。だけど、一人の犠牲の元にそれは成り立っている。

 今回の戦いで俺が不甲斐ないばかりに紅蓮を死なせてしまった。戦いが終わったら紅蓮に修行をつけてもらう約束をしていたのだが、それは果たされないものとなってしまった。

 

 犠牲者なしで異変を解決したかったが、これは俺の油断が招いた結果だ。

 俺はまだクレア王を使いこなせない。このままじゃダメだ。クレア王を使いこなせないとまた同じことになる。

 

「真、体の方は大丈夫?」

「ん? あぁ、問題ないようだ。体は絶好調だ」

 

 妖怪の回復力のおかげだろう。体は痛くないし、目立った傷も見当たらない。

 だけど、あの時に出てきたサードアイが無くなっている。どうやらあれは一時的に感情が高ぶって出てきたものらしい。

 未来の俺の感情が流れ込んでくるような感覚になった。

 また今度、これも特訓して自由に使えるようにしたい。

 

「ねぇ、真。今博麗神社で宴会やってるんだけど、行けそうかな?」

「あぁ、問題ない」

「じゃあ、シン行こう!」

「その前にこいし」

「へ?」

 

 俺はこいしのことを抱きしめた。

 ずっとしたかった事。帰ってきてからずっとこいしにしたかった事。

 あんなに近くにいたのに気が付かなくて、こいしのことを抱きしめることが出来なかったからいつも以上に強く抱き締めてしまう。

 

「し、真、苦しいよ」

「あ、悪い」

「でも、真を感じられて嬉しい。ねぇ、この指輪、貰ってから肌身離さず付けてるんだよ」

「それは嬉しいな」

 

 またこいしと笑い会うことが出来てものすごく嬉しい。

 

「ねぇ、私がいることを忘れてない?」

「あ、悪い」

「ごめんね」

「もう……じゃあ私が永琳先生に言っておくから、先に行っててね」

 

 彼方はそう言うと俺たちの目の前に隙間を作り出した。

 

「じゃあ、先に行ってるな」

「じゃあね」

「うん、また後で」

 

 俺とこいしは一緒にスキマをくぐる。

 通り抜けたその先は博麗神社の鳥居につながっていた。

 

 もう空は真っ暗になって居る。その中、博麗神社から明かりが漏れているので、恐らく中で宴会をまだ続けているのだろう。

 というか、俺はどれくらいの時間、寝ていたのだろうか。

 

「それじゃ、行こう?」

「あぁ、そうだな」

 

 俺とこいしは並んで博麗神社へと歩いていく。その瞬間、背後から何者かが襲いかかってきたのに気が付いた。

 咄嗟に俺は反撃をしようとしたものの、暗かったため、よく見えなくてあっさりと捕まってしまった。

 

 俺とこいしは袋詰めにされて連行されてしまう。

 やっと異変が終わったと思ったら、次は何が起こるんだ?

 だが、こいしに危害を加えるならば相手が誰であろうとも許すつもりは無い。

 

 少し移動すると床に下ろされる感覚が走る。

 そしてそのまま袋の口が開かれて外に出される。

 

 そこはとても明るい場所で、袋の中に入っていて暗いところから一気に明るいところに移動したせいで目がチカチカするが、徐々に明かりに慣らすと、何やら見覚えのある場所だと気がついた。

 隣にはこいしも居る。

 

 そして視界が治ると、俺は目を見開いて驚いた。

 そこには俺の見知った皆が存在していたのだ。その事に俺は混乱してしまう。

 

「これより、海藤真と古明地こいしの結婚式を始めます」

 

 背後に立っていた霊夢の一言で一斉に拍手をし始めるみんな。

 一方、俺とこいしは状況についていけなくてポカーンとしてしまう。急な状況なのだ、仕方がないだろう。

 

 攫われたと思ったらこの状況だ。混乱するなという方が無理な話だ。

 

「海藤真さん、古明地こいしさん、ご結婚おめでとうございます」

 

 何やら惚けている間に龍生がスピーチを始めていた。

 

「って、ちょっと待て、この状況はなんだ?」

 

 ようやく、俺の脳のフリーズは治ったので言葉を発することが出来た。

 

「あぁ、結婚式だよお前らの。ほら、帰ってきたら結婚すると言っていたけど、色々あったから出来なかったじゃん」

 

 そういえば、俺たちは婚約したけどその後色々あったから結婚式を挙げることが出来ていなかった。

 そこでこいしもようやく頭が追いついたようで、俺とこいしは目を見合わせる。そして、こいしは自分の薬指にはめてある指輪を見て笑みを零した。

 

「ありがとう、本当にありがとう」

「礼を言うなら彼方様に言ってくれ。あの人が俺たちに結婚式をサプライズで開催しようって言ってきたんだからな」

 

 そうか、彼方が……。

 また何か美味いものでも奢ってあげるとするかな。

 

 だけど、永琳先生に挨拶するくらいで長いような気がするな。

 何かあったんだろうか。

 


 

「あんたは行かなくてよかったのかい? 大切な人の晴れ舞台なんだろ?」

「私はいいよ、私は所詮ずっと隣にいることは出来ないんだから」

「だからといって私の家でストレス発散は辞めてくれるかな。食器が壊れまくりなんだけど」

「ごめん」

「はぁ、あんたは面倒くさい性格してるね。彼方」




 はい!第135話終了

 次回からは真とこいしは夫婦です。

 それでは!

 さようなら


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第136話 本当に最高の

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 真とこいしは拉致されたと思ったら二人には内緒で企画された結婚式だった。

 なんとその結婚式の主催者は彼方なのだという。

 しかし、彼方はその結婚式に姿を見せない。

 果たして、どういう事なのだろうか?



 前半部分は前回の続きで結婚式です。



 それではどうぞ!


side真

 

「それじゃあ、結婚式を再開するわよ」

 

 霊夢の一言で再び結婚式ムードに戻った。

 この場はほとんど宴会のような感じで、現代生まれ現代育ちの俺からしたらイメージとはだいぶかけ離れた結婚式だが、これはこれで楽しい。

 この笑顔を、この雰囲気を俺の手で守ることが出来た。そう考えると感無量である。

 

「新郎、海藤真。汝、如何なる時も新婦、古明地こいしを愛し、敬い、慰め合い、共に助け合うことを誓いますか?」

「誓います」

 

 今度はこいしの方に霊夢は問いかける。

 

「新婦、古明地こいし。汝、如何なる時も新郎、海藤真を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合うことを誓いますか?」

「誓います」

「それでは誓いのキスをお願いします」

 

 定番の流れとはいえ、この大観衆の中、キスをするのはかなり照れるな。

 それに、俺とこいしは一度も唇同士でキスをしたことがないから、これがファーストキスになるのか。

 

 こいしは霊夢の言葉に従って静かに目を閉じてその薄桃色の唇を突き出してきた。

 俺も覚悟を決めてこいしの両肩に触れるとピクっとこいしは肩を震わせた。

 そしてそのまま俺はこいしに顔を近づけて静かに唇にキスをした。

 

「お二人が幸せになることを願ってます。というか、なってよお願いだから。あんたの嫁の姉が物凄い形相でこっちを見てるから! 何となく巻き添えを食らう気がするから!」

 

 あの霊夢が必死な形相で怯えながら言ってきている。

 どんな顔をしているのだろうかとさとりを見てみると、黒い笑みを浮かべているさとりがそこに居た。

 心が読めない今の俺でもさとりの考えていることは分かる。大事な妹だから、悲しませたらなにかされるのだろう。

 まぁ、悲しませる気はない。

 

「あなた、何度こいしを悲しませたか覚えている?」

「すみませんでした!」

 

 俺はさとりに超高速土下座を繰り出した。

 確かに俺はこれまで数え切れないくらいにこいしを悲しませてきた。

 

「だけど、ここで誓う。もうこいしを悲しませることはしない。もう勝手な行動はしない。こいしの気持ちを最優先にする」

「真……本当?」

「あぁ、俺はこれからは落ち着いた行動をすることにするよ。それにこいしと会えなくなって気づいたんだ。確かに俺は幻想郷は大切だけど、やっぱり一番大切なのはこいしだったんだ。神達や紫、それに他のみんなには悪いけど、これからはどんな事があってもこいしを優先する」

 

 俺が宣言するとみんなは固まってしまった。

 幻滅されたのだろうか? だけど、皆が何を言おうと俺は考えを曲げる気は無い。

 今回の件でこいしが居なくなる辛さは十分に味わった。今度は絶対にこいしを守り抜いてみせる。

 

「いや、そんな顔をしなくてもその事について咎めるやつはこの場には居ないとは思うが」

「あの頑なな真さんが何があろうともこいしさんを優先すると言ったのが驚きというか」

「あんた、ちゃんとこいしを大切にしていたのね」

「失礼だな! 俺にとっていつでも一番大切なのはこいしだ!」

 

 龍生、音恩、霊夢がそんな失礼なことを言ってくる。

 だが、俺の発言を聞いて全員俺にジト目を向けてきているのは気のせいだろうか?

 俺はちゃんとこいしを大切にしてきたはずだが。

 

「と、とにかくそういう訳だ。よし、宴会を再開するぞ!」

「何であんたが仕切ってんのかわかんないけど、あんたなら安心ね」

 

 霊夢は俺の事を認めてくれているようでなんだか嬉しい。

 

「それじゃあ次は異変解決を祝って、乾杯!」

 

 こうして史上最大の異変は幕を閉じた。

 今回の一件で俺の考えを改めさせられた。そして何より、こいしが近くにいてくれる。その嬉しさが倍増したような気がする。

 


 

「こいし、本当に良かったのか?」

「うん! 前々から考えてお姉ちゃんにも相談していたことだし、それになんだか夫婦っぽくない?」

 

 くそ、可愛すぎる。

 結婚してからこいしの言動一つ一つに悶える毎日だ。そして今日はこいしの提案で地霊殿を出てきた。

 ただのデートって訳じゃなくて、異変が終わったあとからずっと建築していた建物がようやく完成したようで、こいしが言うにはその建物は俺たちの新しい家らしい。

 確かに夫婦っぽいことはあれからあまり出来ていない。キスは二人きりになった時にしてはいるものの、他の地霊殿メンバーも住んでいるのでその先のことは出来ていない。

 だから、二人きりの空間が欲しいと思ったことはあったが、まさかこうなるとは思ってもみなかった。

 

「ここが私と真の新しい家だよ!」

 

 見てみるとそこに建てられていたのは現代にありそうなごく一般の一軒家。だか、その存在はこの幻想郷では異様な存在感を放っていた。

 あんな建物はこの幻想郷に他に存在しないからだ。

 

「どうして」

「紫とか、シャロ達に協力してもらって建てたんだよ。真、少し地霊殿で住み辛そうにしていたから、真の居た場所に似た建物を建てたつもりだけど、なにか違ったかな――真っ!」

 

 俺は気がついたら道端でこいしのことを抱きしめていた。

 

「ありがとう、ありがとう」

「真、ちょっとそういうのは二人きりの時に……みんな見てるから」

「ありがとう、本当に俺の奥さんは最高の奥さんだ」

「も、もう……真ったら」

 

 するとこいしも観念したようで俺の事を抱き締め返してくれる。

 そしてこのまま暫く道端で抱き合っていたのだった。




 はい!第136話終了

 これで異変は終了、次回から久しぶりの間章となります。

 やっと異変は一休みなので特別な話とかも書けますね。

 それでは!

 さようなら


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第5.5章 守り抜いた日常
第137話 新婚っぽくて良くない?


 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 真とこいしの結婚式を終え、二人はついに夫婦になった。

 そして新居を購入し、同棲を始めた。



 それではどうぞ!


side真

 

 遂に落ち着いた日常が戻ってきた。

 地獄に行ったり、皆が消息不明になったり、異空間に行って敵と戦ったり、色々あったが、遂に終わったのだ。

 そしてこいしと結婚して同歳を始めた。

 

 ここまでは何一つ問題がないように思える。ただ、俺は一つの不安を抱えていた。

 思わず頭を抱えてしまうほどの不安だ。これはみんなにはわかって貰えないことなのかもしれない。

 

 俺の妻が、台所で料理をしている。

 本来ならばそんなことで不安を抱くことは無いのだが、俺の妻はこいしだ。ここまで言ったら言いたいことは伝わっただろう。

 俺は今日、死ぬかもしれないということだ。

 

 俺は幾度となくこいしの手作り料理を食してきた。

 しかし、その全てで俺はいい記憶はない。むしろ死にかけたこと数知らず。

 俺は致命傷は受けないけど、毒では死んでしまう可能性がある。ただ、永琳先生によると、これまではこいしの毒が強すぎて致命傷になっていたおかげで死なずに済んでいたけど、もしかしたら今回の毒は普通に効いてしまうかもしれない。

 

 そんなことがあったのにどうして台所にこいしを立たせたのかって?

 だってさ、こいしがチャンスをくれって泣きついてきたんだよ。そんな姿を見たらチャンスをあげない訳には行かないだろう。

 それに、本人はただの善意だ。それを否定することは俺にはできなかった。

 

 例えこの身が滅びようとも、こいしの料理を食って美味いと言ってやる!

 

「出来たよー」

 

 遂に完成したようだ。

 どんな凄まじいもの(ダークマター)を生み出したのかと考えながら恐る恐る料理へと目を向ける。

 俺は唖然とした。

 

「どう? 料理、頑張ったんだから」

「普通に美味そうだ」

 

 今は朝食なので、軽めにハムエッグ、肉野菜炒め、味噌汁、ご飯だ。

 見た目は普通に美味そうに見える。

 今までだったらこの料理を作るのもダークマターになっていたものだ。

 確かに料理を頑張ったらしい。

 

「私、いつも真に酷い料理を食べさせてきたから、ちゃんと美味しい料理を食べさせて美味しいって言ってもらいたくて頑張ったんだから」

「俺のためにって言うことか」

「うん、花嫁修業って言うやつなのかな。プロポーズされて嬉しくて……美味しい料理を食べて欲しいって思ったから」

 

 俺の嫁は健気で可愛すぎるだろ。

 これはどんなものだとしても絶対に美味いって言ってあげないといけない。

 俺は意を決してハムエッグを一口。

 

「……美味い」

「本当!?」

「あぁ、普通に美味いぞ」

 

 なんということでしょう。

 少し前までダークマターを作っていたはずのこいしがちゃんと美味い料理を作り上げたではありませんか。

 というか、本当に美味い。

 この野菜炒めも朝だから塩分控えめで食べやすい。

 

「ふふん」

 

 得意げに胸を張るこいし。

 俺は思わずこいしの頭を撫でる。すると、少し驚いた様子のこいしだったものの、直ぐに俺に身を委ねる。

 

「ね、ねぇ、真」

「なんだ?」

「あ、あーん」

 

 こいしは自分の箸を使って俺に野菜炒めを掴んで差し出してきた。

 これは流石に予想外すぎて俺の顔も赤くなってしまっていることだろう。だが、よく見てみるとこいしの顔も真っ赤になっていた。

 少し恥ずかしいけども、こういうことが出来るのが二人きりのいい所だ。

 

「あ、あーん」

「〜〜〜〜っ!?」

 

 俺は差し出された野菜炒めを食べた。

 すると、こいしも自分からやったのに顔を真っ赤にして悶えていた。かなり恥ずかしかったのだろう。

 しかし、俺もめちゃくちゃ恥ずかしかったから今の野菜炒めの味がよく分からなかった。

 

「お返しだ。あーん」

「え? え?」

 

 こいしはまさか返してくるとは思わなかったのだろう。

 目をぐるぐる回して混乱してしまっている。

 なるほど、確かにこれは恥ずかしい。でも、こいしの可愛い姿が見えるからかなり楽しんでいる。

 

「え、と……あ、あーん」

「ほい」

「~~~〜っ!?」

 

 こいしは可愛らしく小さな口で俺の差し出した野菜炒めを口にした。

 その直後、再び悶えだしたこいしを見て俺は笑みがこぼれる。

 本当に良かった。この日常を守ることが出来て良かったと、今心からそう思っている。

 だってこんなに可愛いこいしを見ることが出来たんだからな。

 

「所でどうして急にあーんを?」

「え、と……だってなんか、新婚さんっぽくて、少し憧れてたから」

「っ」

 

 何ともまぁ、可愛らしい理由だった。

 その理由を聞いて今度悶えたのは俺の方だった。

 本当にこの同棲を初めてからこいしは俺の事を悶え殺す気なんじゃないかってくらいに可愛い言動を取るのだ。可愛いの過剰摂取は死に至る。

 

「ねぇ、真」

「なんだ?」

「今日も行くの?」

「そうだな。みすちーに見つからないようにやってくるわ」

「頑張ってね」

 

 こいしにはもう既に屋台のことは伝えてある。

 そして生活費を稼ぐためにも屋台をやる必要があるのでこうして屋台を続けているのだ。

 家賃は元々こいしがお金持ちということもあって一括払いをしたらしいんだけど、俺たち二人の生活ということで古明地の支援は最低限にすることにした。

 だから今は俺が金を稼いでいる。

 

「あ、そう言えば私もお仕事を始めたんだよ」

「へぇ、なんの?」

「ふふん、喫茶店だよ」

切殺天(きっさてん)……だとっ!?」

 

 なんという恐ろしい店なんだ。

 足を運んだらポックリ逝ってしまいそうだ。

 

「もう……私はもう料理は克服したもんね!」

「まぁ、これは美味いしな。もう心配ないかもな」

「でも、この前、店長が私の作ったパフェを食べて死にかけたんだよね」

「店長、ご愁傷様です」

 

 問題はまだまだ山積みのようです。




 はい!第137話終了

 今回は真とこいしのラブラブな様子を書いてみました。
 普段はあまり砂糖成分が無いので、こういう話は珍しいのではないでしょうか?

 書いててなんだか僕も少し恥ずかしくなってきてましたが、二人のラブラブ具合を堪能して頂けたなら幸いです。

 それでは!

 さようなら


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第138話 とある一日

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 こいしと永遠にイチャつく真であった



 それではどうぞ


side真

 

「あんたもよく飽きずに来るよねぇ」

「だって俺、まだやりのこきたこともありますから」

 

 俺は今日もいつものように太陽の畑に来ていた。

 ただ、少し前とは違うのはこいしも俺の真横で俺の修行を見ている事だ。

 この日常も取り戻すことが出来て思わず笑みがこぼれてしまう。

 

「今日はあのクソガキは居ないんだな」

「彼方は探したんですが、見つからなかったんですよ」

「ふーん。あいつがお前と一緒にいないなんて珍しい」

 

 確かに、少し前まではずっとと言ってもいいほど一緒にいたのに、俺とこいしが結婚してからは一度も姿を見ていないのだ。

 彼方の神力も感じない。このことから、この幻想郷内に居ない可能性が高い。本当にどこへ行ってしまったんだろうか。

 

「まぁ、私はあいつの事なんかどうでもいいけどね」

 

 ぶっきらぼうな言い方だが、実は彼方のことを心配している幽香。

 二人はいつも憎まれ口を叩く中だが、その実、凄く信頼し合っている仲でもある。

 

 そしていつものように修行を終えると、俺とこいしは地霊殿へと向かう。

 温泉郷の手伝いだ。

 建物を建て直したことによって温泉郷が再開した。

 最近は色々とバタバタしていたからあまり手伝えていなかったので、どうなっているかは知らない状況だ。

 

「あ、真。いらっしゃい」

「紗綾?」

 

 なんと、そこでは紗綾がカウンターに立っていた。

 その光景を目にして少し脳がフリーズしてしまった。

 

「なんでお前がここで働いてんだ?」

「だって私、ここには色々と迷惑を掛けたから、そのお詫びって感じ」

「いや、お前のやった事はそれだけで償えるものじゃないと思うんだが」

「……てへっ」

「おい……」

 

 まぁ、もうあのことは怒ってもいないし、気にしてもいないけど、紗綾がやりたいならやらせておこう。

 しかし、紗綾がカウンターをやっている姿はかなり新鮮だ。普段の紗綾からは想像もつかないけど、紗綾は社交的ではあるので、カウンターなどの人に接する仕事は向いているのかもしれない。

 

「なぁに真、私のことをじっと見て。もしかして私の姿に見惚れちゃった?」

「……真」

「ちょっと待て、俺は別に珍しいなって思っただけだ! こいし、ジト目は止めてくれ! その目は俺に刺さる!」

 

 紗綾の一言によってこいしに疑いの目を向けられてしまった。

 だが、俺は浮気する気は一切ない。こいし一筋だ。

 ただ、確かに紗綾の制服姿はかなり似合っているが、それを言うとまた拗れてしまいそうなので、心の中だけに留めておくことにする。

 

 いつものようにこいしは接客、俺は厨房を担当する。

 俺も結構接客が多いのだが、この時間帯は厨房担当者の人手が足りていないことが多いらしいので、俺は厨房に入る。

 ちなみに俺は露店もやっていたくらいなので、そこそこ料理はできる自信がある。

 

「すみません、新生活で忙しいところを」

「いやいや、さとりは俺の義姉なんだから、もっと義弟をこき使ってくれ」

「ありがとうございます。それで、こいしは迷惑を掛けていませんか?」

「迷惑どころか、かなり助かってるぞ。家事は率先してやってくれるし、料理はまだ危なっかしくて失敗するところもあるけど、だいぶ上達して。本当に自慢の妻だ」

「自分の妹の惚気話を聞かされて私はどう反応したらいいのかしら」

 

 俺の話を聞いて複雑そうな表情をするさとり。

 そんな表情をするような話をしていたかな? しっかりとこいしのことを褒めたつもりなのだが、自分の妹のことだからそれでも心配なのかもしれない。

 それに、料理に関しても一度さとりはこいしのシチューを食って死にかけている。姉としては心配が尽きないんだろうな。

 

「まぁ、安心してくれ。こいしの悪い点なんて無いから」

「それならいいですが、これからもよろしくお願いします」

「あぁ、しっかりとこいしのことを守ってみせるよ。例えこの世界を敵にしたとしても」

「大きく出ましたね」

「実際にこの世界を敵に回すつもりは毛頭ないけど、それくらいの気持ちっていうことで安心してくれ」

「最初からその点に関しては心配していません。真が強いって言うことは知っていますから。それに、今回も助けられてしまいましたし」

 

 良かった。安心してくれたようだ。

 続けて俺とさとりは隣り合わせでどんどんと料理を作っていく。

 俺とさとりの息はピッタリで、欲しいタイミングで欲しい行動をお互いにやって行く。他の料理と並行しているならば、手が離せなさそうだと判断すると、少しだけ手伝ったりなど、お互いに補助しながら料理をしていく。

 

 暫く働くとようやく一段落した。

 ようやく晩飯の時間が終了し、俺たちは休憩に入ることができるようになった。

 さとりは今日の収益の計算、そして俺たちも飯の時間に入ることにする。

 

 そして休憩室に入ると、なんと俺の席にシチューが置いてあった。

 久しぶりに見るシチュー。誰が置いたのかがものすごく気になるものの、物凄く腹が減っていた。

 

 まぁ、かなり痛いって言うだけで死ぬわけじゃないんだから少し食べてみてもいいかもしれない。

 そう思ってシチューの前に置いてあったスプーンを手に取る。

 もう既に置いてあったというのに、まだホカホカのシチューだ。

 スプーンに少し救って飲んでみる。

 

「美味い」

 

 物凄く美味いシチューだった。

 この世界に来て、最後に食べたシチューが悲惨なものだったので、少し覚悟していたのだが、これはものすごく美味い。

 

 すると、脇の方に手紙が置いてあるのが見えた。

 その手紙を手に取り、読んでみると俺は自然と笑みがこぼれるような気がした。

 

『妹をお願いします』

 

「任せておけ」

 

 誰も聞いていないということを分かっていながら俺は決意を口にしてシチューを食べるのだった。




 はい!第138話終了

 特に何も無い一日でした。

 僕が満足するまでこの日常編をやってから最終章に行きたいと思います。

 それでは!

 さようなら


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第139話 病み期の紬ちゃん

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 真が修行したり、温泉郷の手伝いなどをした。とある一日の話。



 それではどうぞ!


side真

 

 そういえばと、そう思い立った俺は地霊殿内のとある一室にやって来ていた。

 この部屋には紬と書かれている。

 結婚式以来、しばらく見ていないので少し心配になったのだ。俺と紬はパートナーで、前は良く俺のところにいたのに、最近は全く来なくなったので、こっちから様子を見に来た。

 

 コンコンとノックをするものの、中からは返事がない。だが、鍵はかかっていないようだ。

 紬はあれで結構几帳面なので、鍵をかけずに外出というのは考えにくい。となると、中にいる可能性の方が高いのだが、返事が無いのが不可解だ。

 

「おーい、入るぞー」

 

 俺は一応断りを入れてから扉を開けてみる。

 すると、中からぶつぶつと何かを唱えているような声が聞こえてきた。

 

ごめんなさいごめんなさいごめんなさい私は何の役に立たないなまくら刀です。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい

 

 俺の視界に飛び込んできたのは、布団の上で両足を抱えて死んだ魚のような朧気な目をしてずっと謝り倒している紬の姿だった。

 あれは確実に病んでいらっしゃる。

 ここは見て見ぬふりをするのが正解か、それとも何か声をかけてやるのが正解か。そもそも、どうして病んでいるんだよ。

 確かに結婚式の時も部屋の端っこの方で朧気な目をしながら酒をちびちびと飲んでいた記憶がある。

 

 それに、あまりものを食べていないのか、かなり痩せてしまっているように見える。

 さとりが定期的に料理を持ってきているらしいが、ほとんど手をつけられていないことが多いらしく、少し心配だったのだが、ここまでとは。

 流石に、これを放っておくのはダメだよな。

 

「おい、紬しっかりしろ! 紬!」

「はぇ? 真……? 真っ!」

「え、うわっ!」

 

 その次の瞬間、急に紬が飛びかかってきたので、反応出来ずにそのまま後ろに倒れてしまう。

 それによって俺は紬に押し倒されている状況になってしまった。色々とまずい状況である。

 しかも、なんか紬の息が荒い。このまま襲われてしまうのではないかと身の危険を感じる。

 

「ねぇ、真!」

「な、なんだい?」

「私を――殴って!」

「はぁ?」

 

 メンヘラの行動はよく分からない。何を言い出すかは分からない。

 その典型的な例だと思う。

 

「どうしたんだ急に……」

「思いっきり躊躇せずに、ほら、殴ってよ!」

「だからどうしたんだって、おい落ち着け!」

 

 俺が殴らないと見ると今度は俺の胸に頬擦りをしてくる紬。本当に何がしたいのかわからなくて困惑している。

 

「私、人の夫に甘えてる。悪い子、殴って」

「いや、そうはならんだろ」

「なら、何でもする! 私に罰を与えて! 死ねって言うならば今ここで死ぬ!」

「いや、お前は死ねないだろ」

「………………じーん!」

「わかったわかったから!」

 

 俺の胸を涙で濡らしてくる紬。

 一体何が彼女をこうさせているのかは分からないけども、こうなってしまっては要望に答えなければ本当に身投げとかしかねない雰囲気なので、仕方がなく答えてあげることにする。

 

「殴ってやるから、頬を突き出してくれ」

「え、本当!?」

「目を輝かせるな! お前、神からドMにジョブチェンジしたのか!?」

 

 殴ってやると言ったら生き生きとした目をして頬を勢いよく突き出してきた。

 本当に色々と心配だが、とりあえず殴ってあげる。

 ペちっと軽い音が鳴った。流石に本気では殴れないので、軽く頬を叩いたのだ。

 

「………………」

「どうだ、満足しただろ」

「……痛くない。痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない」

「お、おい」

「……痛くないよ。真、もしかして私はもう本気で殴る価値もないって言うこと?」

「おい、どうしてそうなる」

「ははは、真が大変な時に私は敵に捕まってたんだもんね。パートナーなのに、私は助けられるだけで何もしてあげられてない。見放されて当然だよね」

「おい、ちょっとまて」

「ううん、いいんだ。今までありがとう。さようなら」

「ちょっとまて!」

 

 出ていこうとする紬。今の紬を放っておいてはダメだと判断して俺は慌てて紬の手首を掴んだ。

 

「え、真?」

「なるほどな、その事をお前は気にしていたわけだ」

 

 ようやく分かった。紬がどうして病んでいたか。

 ことの詰まり、俺が戦っている間、敵に捕まってカプセルに入れられていて、俺に助けられたことで罪悪感が生まれ、苛まれているということだろう。

 なるほどな……。

 

「お前、馬鹿だろ」

「え?」

「パートナーって言ってもな、色んなパートナーが居る。助け、助けらればかりがパートナーじゃないんだよ。と言っても、俺たちの関係も助け、助けられだけどな。結構助けられているんだぞ」

「え、例えば?」

「…………元気な所とか……だからさ、お前に元気がないと俺は病んでくるんだ。あーなんか唐突に自傷したくなってきた。包丁借りてこようかな」

「ま、まってよ!」

 

 俺は演技だが、台所の方へ歩こうとすると、今度は紬が俺の手首をがっしりと掴んできた。

 まるで俺の事を離さないと言っているかのようだ。

 

「もう、私がいないとダメだなんて……可愛いねぇ」

「そこまで言ってねぇけどな」

「仕方がないから、これからもパートナーとして一緒に戦ってあげるよ」

「なんだこいつ」

 

 だけど、良かった。なんとか元気を取り戻していつもの紬に戻ってくれた。

 さっきまで病んでいた人とは思えないほどの満面の笑みに俺も思わず笑みがこぼれる。

 

 その時、入口の方から何かが落ちる音が聞こえた。

 なんだろうと思って入口を見てみると、こいしが浮気現場を発見したかのような形相でこっちを見てきている。

 足元にはバッグが落ちており、驚いて落としてしまったのだろうと予測できる。

 

「ば、ばかぁっ! おねぇちゃーん、真に浮気された!」

「ちょ、誤解だから! まて!」

 

 俺は慌てて追いかけるものの、時すでに遅しだった。さとりに事の顛末が伝わってしまった。

 だが、さとりが心を読めることが幸いして浮気をしたわけじゃないと信じて貰えたものの、物凄く叱られてしまった。だが、後悔はしていない。




 はい!第139話終了

 紬は、ああ見えて本当は人一倍心が弱いんですよね。

 だからこそ、おちゃらけて自分を自信あるように見せかけていたのですが、今回の一件は相当ショックだったのでしょう。

 それでは!

 さようなら


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第140話 馬鹿じゃねぇの?

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 久しぶりに登場した真の相棒、紬。しかし、なにやら病み期に突入していた。

 真は何とか紬の闇を取り払うことに成功したものの、こいしに浮気と勘違いされてしまってさとりに叱られてしまった。



 それではどうぞ!


side真

 

「真」

「ん? さとりか、どうした?」

 

 俺がいつも通りに働いていると、さとりが声をかけてきた。

 すると、なにやら一枚の用紙を寄越してきた。

 そこには色々と書いてある。

 

「来週、休みにするのか?」

「はい、いつもみんな頑張って働いてくれているので、たまには休暇が必要だと思いました」

 

 確かに、その心遣いは嬉しい。

 最近、温泉郷の手伝いばかりしていて、あんまりゆっくりできていなかったので、たまにはこいしとゆっくりとしたいと思っていたところだった。

 

「そういうことなら、有難く休ませてもらう」

「はい、ゆっくりと羽を伸ばしてください」

 


 

 一週間後、休暇を貰うことが出来たので、俺は家でのんびりとしていた。

 こいしが隣に座って俺に寄りかかってすぅすぅと寝息を立てている。

 

 俺は紅茶を飲みながら本を読む。

 最近は忙しくて本をゆっくりと読む時間もなかった。現代では読書を良くしていたのだが、こっちに来てから色々あったため、時間がなかったのだ。

 とは言っても、こっちにあるのは確かに娯楽の本もあるが、現代であるような本はあまりない。香霖堂に行ったらあるかもしれないけど。

 

 そんな感じで、読書をしていると俺も眠くなってきた。

 俺も隣で一緒に寝ようかと思って本を閉じた瞬間の出来事だった。

 

「たのもーっ!」

 

 うざったい大声が家中に響き渡った。

 

「な、何!?」

 

 今の大声でこいしも起きてしまったため、この平和で幸せな時間は一瞬にして打ち壊されてしまった……。

 この声は何度も聞いたことがあるため、直ぐに誰が犯人か分かったので、手に霊力刀を作り出した。

 

「よ、遊びに来た……ぜ」

「…………」

「お、おい、なんで無言なんだ? そしてなんで霊力刀を持ってこっちに来る!?」

 

 そのまま俺はそいつにふらふらと近づいて、そのまま霊力刀を横凪した。

 

「あっぶな! 何するんだよ!」

「うるせぇ、お前は重罪を犯した。大人しく断罪されろ!」

「何やってるのよ……」

 

 そんなやり取りをしていると、もう二名ほど姿を見せた。

 呆れ顔の紗綾と紬だ。

 

「はぁ……殺されるかと思った。普通、親友を殺そうとするか?」

「こいしの安眠を邪魔した罰だ」

「理不尽!」

 

 珍しく龍生はこっちにまで足を運んできたようだ。

 まぁ、久々に休暇を貰えたからこっちに遊びに来たと言ったところだろうが、俺たちの安らかな時間を邪魔したことは許す気は無い。

 

「で、何の用だ?」

「一応、俺達もお前と同じく戦うためにいるんだが、置いていかれてしまったなってな」

「俺は半分妖怪だ。仕方がないだろ」

「そうは言うがな、親友としては寂しいものなんだよ」

「私は少し前まで隣を歩いていたと思っていたのに、いつの間にか追い抜かされていた。クレアも真の方が上手いし」

 

 まぁ、俺はずっと戦い続けていたからどんどんと強くなって行ったし、守るものがある人は強くなるって言うのはこのことなのかもしれない。

 こいしを守りたいと躍起になっていたからな。

 だが、紗綾はクレアを使うことが出来る。頑張ればクレア王までだったら使えるはずだ。

 とは言っても、俺がまだクレア王をマスターできていないんだけどな。あの時だって、使いこなせていなかったからピンチに陥ってしまった。

 

「ということで、真先生。修行を付けてくれないですか?」

「…………お前は修行必要ないと思うんだけど、紬」

「い、いや〜パートナーとしてね。え、えへへ」

「なんだこいつ」

「紬ちゃんの顔がかつてない程にだらしなくなってるね」

 

 まぁ、この変人は置いておいて、確かに修行するのは大事な事だ。

 次いつ、どんな敵が襲いかかってくるか分からない世界だ。修行しておいて悪いことはないだろう。

 

「まぁ、そんなわけだから修行を付けてくれよ」

「……だけどなぁ」

「いいじゃん、付けてあげて」

「こいし?」

 

 俺が渋っていると、こいしがそう言ってきた。

 こいしの方を最優先にする為にも俺はどうするべきかと思っていたんだが、こいしがそう言ってくれるなら俺も修行をするとしよう。

 俺は今までずっと教えを乞いてきた。だけど今日は教える側だなんで新鮮だ。

 

 だけど、紗綾はともかく龍生の戦い方は今の俺の戦い方とはかなり懸け離れている。

 龍生は体術と弾幕で戦う。俺なんかよりも霊夢とかにお願いした方がよっぽど有意義だと思うんだけどな。

 だけど、龍生に使える技がない訳では無い。こいつは俺の感覚だが、戦いの才能自体はない訳では無い。だから、もしかしたらクレアも使えるかもしれないし、妖忌さんに教えてもらった残像や霊縛波位だったら教えられるかもしれない。

 ただ、俺は弾幕の扱いがあまり得意ではないから、その点に関しては教えることは出来ない。

 

「紗綾は俺と違ってもう既にクレアに慣れているもんな」

「うん、慣れているよ」

「じゃあ、クレアを体に纏わせるようにイメージして」

「わかった!」

「龍生、お前は普段からこれを付けて生活をしてみてくれ」

「え、これを?」

 

 俺が龍生に差し出したのは俺が妖忌さんに言われて実際に付けていたお守りだ。

 今持っても思う。なんでこんなに重いものを付けて生活していたんだと、馬鹿じゃないのかと。だが、これが実際に効果があるのだから、龍生にも会得させるために付けさせる。

 

「これを付けて走りこめ。まずはそこからだ」

「おっも! 馬鹿じゃねぇのか!」

「俺も思う」

 

 そうして龍生と紗綾の修行が始まった。




 はい!第140話終了

 ここから今まで影が薄くなってきていた龍生と初登場時から一向に強化される気配のなかった紗綾の修行編が始まります。

 この修行編が終わったら最終章です。

 それでは!

 さようなら


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第141話 音恩の元へ

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 地霊殿が休暇に入った。それによって、自由になった真はこいしと共に休暇を満喫していると、そこに龍生、紗綾、紬が真とこいしの家を訪れる。

 そこで龍生と紗綾の二人は修行をつけてくれと頼み込み、真はそれを承諾。それによって龍生は残像の特訓、そして紗綾はクレア装の特訓をすることになったのだ。

 それから数日が経った。



 それではどうぞ!


side真

 

 二人の修行を初めてから数日が経った。

 やはり二人は戦いの才能はあるため、要領よく覚えていく。紗綾なんかは次の日にはクレア装の型が完成していたため、今日にはもう。

 

「やったよ! クレア装、出来た!」

「おめっとさん」

 

 遂に紗綾がクレア装を会得した。かなり早いものである。俺はもう少し時間がかかったが、紗綾はこれだけ早く会得できたということだから、紗綾の戦闘に関する才能はピカイチということだ。

 そして龍生の方はと言うと――

 

「よ、まこっちゃん」

 

 普通に歩いていた。

 数日前まで重力に押しつぶされそうになっていた人は思えないくらいにピンピンしていた。

 

「それよりも、これを見てくれよ。香霖堂で見つけたんだ」

「なんだよ……おい」

「どうだ?」

「どうしたもこうしたもあるかぁっ!」

「がはっ」

 

 俺は思いっきり龍生の顔面を殴り飛ばしてやった。

 その衝撃で龍生の持っていた『本』が地面に落ちる。

 

「なになに? うわぁこんなのが好きなの?」

「俺は好きじゃねぇし、こんなものを嫁がいるやつに見せようとするな」

 

 そう、龍生が持ってきた本は所謂お宝本だった。

 一応ブックカバーで紗綾には見えないようにしていたものの、俺が殴り飛ばした拍子にブックカバーが外れてしまったようだ。

 しかし、こんなものを持ってこれるくらいの元気があるなら大丈夫だろう。今日の予定をそのまま実行しても大丈夫だ。

 一応こいつには毎日反復横跳びはさせている。俺の教えようとしている残像の型は出来上がっているだろう。

 

「二人とも、今日は紅魔館に行くぞ」

「紅魔館に?」

 

 二人は同時に言った。

 その言葉に俺は頷いて二人を連れて地霊殿を出ると、空を飛んで紅魔館へと向かっていく。

 

 その紅魔館ではいつも通り、美鈴が門前で眠っていたので、霊力の玉を狙撃《スナイパー》を投げつけてやった。

 その後に音に気がついたのか、美鈴の額にナイフが刺さっていたのを見て少し心配になったものの、いつもの事だったと諦めて紅魔館の中に入っていく。

 

 そして紅魔館に入ってきた俺たちがやってきたのは音恩の部屋だ。

 この紅魔館にやってきた目的は音恩にある。

 

「よ、音恩。邪魔するぞ」

「あ、真さん。もう少し待っててくれます?」

「ん?」

 

 言われてみてみると、音恩の姉、鈴音もそこにいた。というか、姉弟でゲームをやっていた。オセロだ。

 ただ、鈴音じゃ音恩に勝つことは出来ないだろう。なにせ、こいつの頭脳はスーパーコンピューター並の計算能力と、俺が思うにゲームに特化してボードゲームだったら無数の盤面が脳内をひしめいているのだろう。

 

「あー、またまけた……ねんくん強すぎ」

「で、真さんはなんの用で……あ、龍生さん、燐火さん、紬さんも居たんですね。いらっしゃいませ」

「うん、お邪魔してるよ。音恩君、ゲーム得意なんだね」

「得意ってレベルじゃねぇよ。おんくんは化け物だからな」

「おんくんいうなおんくんって」

「実は音恩に修行の手伝いをしてもらおうと思ってな」

 

 俺は事の顛末を音恩に説明していく。

 まぁ、端的に言うと音恩に二人の手合わせをお願いしたいということだ。

 音恩は強い、少なくとも俺はそう思っている。音恩に頼めば有意義だろうとそう思ったのだ。なにせ、音恩は恐らくクレアを使った状態の俺に匹敵するほどの実力を持っている。

 ギアモードLv5(ファイナル)を使った状態の音恩の力は計り知れない。

 

「なるほど分かりました。じゃあ、お相手します」

「頼むな」

「え、おんくんと戦うのか? この状態で? お前は俺に死ねと?」

「私もギアモードLv5の力は知らないんだよね。鈴音からなんかヤバいって聞いただけで。だから、少し怖いね」

 

 紗綾は怖いと言う割には少し楽しそうに笑っている。こいつは生粋の戦闘狂になれるだろう。

 対する龍生は単純に音恩の力を恐れてごねている様子だった。確かに音恩の実力はみんな知っている訳だし、俺と音恩の戦いを見たら恐怖を覚えるのも当然だろうけど、あれは特殊だっただけだ。

 ある程度強くなるまでは音恩も手加減をしてくれるだろう。

 

 その旨を伝えて俺たちは龍生を引っ張って闘技場へと向かう。

 ここでならある程度、激しい戦いをしても問題は無い。

 

「僕は久しぶりに体を動かすんだよね。だから、少し準備をしていい?」

「あぁ、いいぞ」

 

 俺から返事を聞くと音恩は屈伸や前屈などをして体を解していく。その直後、音恩の右目に歯車模様が浮かび上がった。

 なんか嫌な予感がする。

 

 地鳴りのような音が鳴り響く。

 それと同時に壁がゆがみ始めた。

 

「うん、片目だけど使えますね」

 

 音恩はキルタワーでの戦いの後、左目を失ってしまった。それによって目を使わなければ発動できない目技(もくぎ)であるギアモードの威力は減ってしまったらしいが、それでも、普通に機能するあたり、さすが音恩と言ったところだろう。

 あれは音恩のパソコンでものを操れる能力を応用してその力をその身に宿らすことができるように拡張したものなのだという。

 

「オーケーです。何時でも行けますよ」

「そうか、それじゃ龍生、お前からだ」

「まこっちゃんがそんな冗談を言うなんて珍しいねぇ〜」

「行け」

「まぁまぁ、分かってるから。なれない冗談を言わなくても――」

「行け……」

「……はい」

 

 龍生と音恩の手合わせが今、始まる。




 はい!第141話終了

 どうでしたか?

 次回、龍生対音恩ですが、ここでこのメンバーを強化した理由は一応、最終章で使おうと考えているキャラだからです。

 それでは!

 さようなら


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第142話 手合わせ 〜龍生対音恩〜

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 新たなる龍生達の修行とは手合わせだった。

 その相手に真が選んだのは音恩。

 果たして龍生達は音恩に勝てるのでしょうか?



 それではどうぞ!


side真

 

 久々に龍生の戦いを見る。

 最近は修行こそ付けていたものの、戦いを見るの自体はかなり久々と言えるだろう。

 未来の俺が現れた時以来だからな。

 

 そして龍生と音恩の二人が向かい合う。

 最近は音恩も前線から退いていたから戦う機会もなかっただろう。

 二人にとっては久しぶりの戦いってことだ。

 

「それじゃあ、始めるぞ」

 

 俺は二人の様子を確認する。

 龍生は素手、音恩はパソコンを構えて臨戦態勢に入った。もう何時でも戦えるっていう状況だな。

 

「始め!」

 

 そう合図をすると、龍生は飛び出して音恩に急接近する。

 しかし、重りは付けたままなのに、あのスピードで動けるとは流石龍生だ。

 確かに戦いの数で言ったら俺の方が上で、実力も高いかもしれないが、龍生の霊力操作は俺を上回っていると考えている。

 龍生は修行中に成長し、霊力で脚力を増強する事ができるようになった。

 弾幕すらも多く張ることが出来ない俺は、どれだけ頑張ったところで、この技術は会得できる気がしない。

 

「っ! 弾幕展開」

 

 すると音恩は目にも止まらぬ速度でパソコンを操作し、周囲に弾幕を作り出すと、エンターキーを強めに叩く。

 その瞬間、周囲の弾幕は一斉に龍生へと襲いかかった。

 

「この位の弾幕を対処出来ないで、妖怪と戦うことなんか出来ねぇって!」

 

 龍生の行動に俺は目を見張った。

 何と、強化したその足で音恩の弾幕を全て蹴り落としているのだ。

 通常、他人の弾幕を触ることが出来ないので、蹴り落とすことなど不可能に近いのだが、それをやってのける龍生はやっぱり俺の考え通り、戦いの才能がある。

 

「俺の新スペルカードを見せてやるぜ! スペルカード発動、《奈落落とし》」

 

 そう宣言すると龍生は飛び上がった。その瞬間に龍生の前後左右に弾幕が出現し、それが一斉に音恩に向かって飛んでいく。

 

「なるほど」

 

 その攻撃を音恩は飛んで回避、したかと思ったその直後、大量の弾幕が音恩を押しつぶすかの如く真上から襲いかかった。

 

「これはっ」

「これが俺の《奈落落とし》の真骨頂! 正面の弾幕に気を取られている間に真上から弾幕を落とす!」

 

 なるほど考えたな。

 今の龍生では正面から挑んでも音恩には勝てない。しかし音恩は霊力操作を殆どパソコンに頼っているため、他の奴らよりも反応が鈍いところがある。

 他の奴ら相手にはどうかは知らないが、音恩相手ならば十分有効打になり得る。

 

 さて、音恩はどう出るか……。

 

「くっ!」

 

 ドカーンとものすごい音と煙を立てて音恩の姿を包み込む。

 だが、この場にいた全ての人物が結果は分かっていた。

 異常なほどの霊力が漂っていたからだ。

 

「今のは危なかったです。まさか、ギアモードレベル(ツー)まで使うことになろうとは。速度特化型のレベル(ツー)でなければ間に合いませんでした」

「嘘……だろ」

 

 煙が晴れたその先に見えたのは、瞳に歯車が二つ出現した音恩と覆うように動いた床だった。

 もしかしたら龍生ならギアモードを発動させることが出来るかもしれないとは思っていたが、レベル(ツー)まで使わせるとは思っていなかった。

 

「じゃあ今度は僕ですね」

 

 音恩が手を振り上げると床の煉瓦がどんどんと盛り上がっていき、拳の形に変形した。

 そして手で拳を作ると、音恩はその拳で空中を殴りつけた。

 

「なっ」

 

 するとその拳に連動して煉瓦の拳が龍生へ襲いかかる。

 これが音恩のギアモードの能力、能力を拡張し、大地をも操ることができるようになった。

 久々に見たがものすごい迫力だ。

 

 その拳を龍生は重りが重いせいか、やっとの思いで回避し続ける。それでも回避出来ているのは流石だ。

 

 龍生がさらに一歩踏み出した瞬間、龍生の足下が一瞬だが、俺の目にはキラリと光ったように見えた。

 そしてその場所を音恩の煉瓦の拳が殴りつける。

 その瞬間、周囲の空間が切り抜かれたかのように空間が無くなった。

 

「《空喰(くうばみ)》だ。空間そのものを食らうトラップ系のスペルカードだ」

 

 なるほど、あの時に足下が光ったのはそれを仕掛けたからなのか。

 俺が知らない間にも龍生は一人で色々と強くなるための努力をしていたようだな。

 

「これからは真ばかりに頑張らせるわけにはいかねぇ。真には奥さんも居るんだ。これからはこの幻想郷を俺らで守っていかないといけない。今のままじゃいけないんだ!」

 

 その瞬間、雷が落ちたような衝撃が走った。

 この霊力量、凄まじい。何か、龍生にとんでもない事が起こっているようだ。

 

「俺だって戦えるってことを証明してやる!」

「まずいっ!」

 

 龍生は拳を握り、音恩へとかけて行く。

 そしてその拳を思い切り音恩に向かって振り下ろすと、それに反応して音恩も床を操作して壁を作り上げる。

 しかし、龍生の拳がどんどんと貫通力を増していき、レンガの壁が今にも破壊されそうだ。

 

「まずい!」

 

 音恩は破壊されることを認識した瞬間、周囲の煉瓦もかき集めて一つの強固な壁にする。

 だが、それでもどんどんと陥没していく壁。

 

「レベル(スリー)っ!」

 

 音恩の瞳の歯車が一つ増えた。

 それによって霊力量が増え、霊力操作も向上し、どんどん壁も強固なものへと変化していく。

 

「だァっ!」

 

 すると何を思ったのか音恩は壁を殴りつけた。

 その瞬間、壁の接続部分が切り離されたようで、龍生は壁ごと殴り飛ばされた。

 

「危なかった……あの力は意外だった。ギアレベルを(スリー)にしなかったらあそこで倒れている龍生さんと僕が入れ替わっていただけでなく、僕は一生動けない体になっていたかもしれません」

 

 片目だけのギアモードだとはいえ、音恩にレベル(スリー)まで出させるなんて……。

 

「凄いなお前」

 

 床に倒れている龍生を見ながら言う。

 戦いの結果だけでいえばお前は負けだが、あそこまで力を出させたお前の勝ちだと俺は思う。

 

「お疲れ」




 はい!第142話終了

 龍生対音恩でした。

 龍生の意外な力が発揮され始めています。

 Second stageでは真メインで進行していましたが、無意識の恋全体で言うと龍生も主人公枠ですので、強くなりますよ〜!

 真はさとり妖怪の力、音恩はギアモード。
 龍生はどんな能力を持っているんでしょうか?

鈴音「ねぇ、私は!? 私も主人公枠なのに、初期から全く強化されてなくない!?」

 安心してください。音恩と来たら、鈴音を強化しますよ。
 ですが、鈴音はそもそもが強いんですよね。味方との連携最強なので、そこまで強化する意味が分からないんですが、他の主人公が強化されているのに強化しない訳にはいきません。

 それでは!

 さようなら


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第143話 手合わせ 〜紗綾対音恩〜

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 龍生と音恩の手合わせ。

 龍生は真の知らないところでも努力を重ね、そして音恩のギアモードレベル2まで引き出すほどの実力を付けていた。

 しかし、音恩の実力には及ばず、龍生と音恩の手合わせは音恩の勝利に終わった。



 それではどうぞ!


side真

 

 とりあえず龍生は隅の方に移動させてそのまま寝かせておく。

 次は紗綾なので、紗綾も刀を構えていつでも準備オーケーと言った感じだ。

 対する音恩もそこまでのダメージは負わなかったようで、今すぐにでも戦いを開始そうだ。

 

 ただ、少し心配なのは音恩の体力。音恩は元々インドア派故に体力が少ないって言うのが弱点だ。そんなに長い間、戦い続けることは出来ない。

 だが、さっき龍生とあれほど激しい戦いをしたことにより、少なからずとも体力を消耗してしまっていることだろう。

 紗綾も弱いわけじゃない。今のままで戦いを続けられるかどうか。

 

「音恩、大丈夫か?」

「はい、僕は大丈夫です。僕は紗綾さんと戦ったことがなかったので、一度戦ってみたいと思っていました」

「奇遇ね。私もあなたのキルタワーでの活躍を見て、戦ってみたいと思っていたのよ。異移を追い詰めるその実力、見せてもらうよ」

 

 二人とも、意外に好戦的だった。これならばなんら問題はないだろう。

 音恩も大丈夫だと言っている。

 ただ、確実なのは龍生と音恩が戦った時よりも激しい戦いになるということだ。

 

「それじゃあ、紗綾対音恩。始めっ!」

 

 その俺の掛け声に合わせて紗綾は走り出した。

 今は実戦では無いため、刀は峰の方を向けて構えているが、紗綾の構えはいつ見ても迫力を感じる。

 

「いっけぇっ!」

 

 音恩はそれに対応するために弾幕を張って紗綾に向かって放つものの、紗綾は全て見切って峰打ちで斬り伏せた。

 

「いや、峰打ちで斬るのは反則でしょう!?」

「火剣《炎の剣》」

 

 次に紗綾の刀が燃え始める、これが紗綾の真骨頂とも言えるだろう。

 

「ギアモード!」

 

 音恩も負けじとギアモードに入る。歯車が一つだけなのでレベル(ワン)だ。

 

「たぁっ!」

「くっ!」

 

 がぎぃぃん! と双方の攻撃がぶつかり合う音が鳴り響いた。

 紗綾の振り下ろし、そして音恩の壁の拳。その二つの攻撃がぶつかり合って衝撃波が広がる。

 

「っ!」

 

 その次の瞬間、紗綾は何かを感じとったのか、背後に飛び退くと、その拳が変形して紗綾の元いた場所を握り潰してしまった。

 紗綾は霊力操作がかなり上手い。だからこそ音恩が霊力操作をしていることに気がつくことが出来て回避出来たのだろう。

 流石は紗綾だ。

 

「操作《己の赴くままに》」

 

 音恩のスペルカード。それを使用した瞬間、紗綾は身動きが取れなくなってしまう。

 これは音恩の相手の行動を操作するスペルカード、だがこんなものは紗綾には通用しないだろう。

 

「クレアっ」

 

 刹那、ものすごい圧力の霊力が周囲に放たれる。

 そんな霊力の前には音恩の霊力の糸など簡単に断ち切れてしまう。スペルカードを解除してしまう。

 

「ふぅ……私は真の横に立てるように、どんどん強くなる! 《炎陣(えんじん)》」

 

 紗綾の体から炎が上がる。

 体が燃え、歩いた場所を燃やしていく。かなりすごい絵面だが、霊力量がものすごい増え、スピードが――

 

「なっ、いつの間に!」

「私はただ、この戦いに勝つだけ!」

 

 俺の目で追うのもやっと(・・・・・・・・・・)な程に速くなった。

 目にも止まらぬ速度で音恩の目の前までやってきた紗綾は刀を音恩に向かって振り抜く。

 

「《極炎陣》っっっ!!!」

 

 燃え盛る刀が振り抜かれ、炎の軌跡が出来上がる。だが、そこには既に音恩はいなかった。

 俺も今のは音恩に直撃するかと思ったが、その攻撃は音恩に回避されてしまったようだ。

 

 見失ってしまったため、周囲を見回してみて俺は驚愕した。何と音恩は床にめり込んでいたのだ。

 

「僕はフィールド全体を操れるんですよっ!」

「がっ!」

 

 紗綾は床で作った拳のアッパーが腹に直撃し、思い切りぶっ飛んで壁にめり込むくらいの勢いで激突する。

 

「かはっ」

「地面を凹ませて、その中に飛び込むことで回避しました。レベル(ツー)じゃ無ければ間に合いませんでしたよ」

 

 音恩の言葉を聞いてよく見てみると確かに音恩の瞳の歯車が二つに増えていた。

 なるほど、スピード特化型であるレベル(ツー)であれば間に合うということか。

 

「やるね」

「いや、ちょっと僕も驚きました」

「じゃあ、本気でやろうかな」

 

 その次の瞬間、紗綾の刀からオーラが立ち上り始める。

 あれはクレア装、どうやら一点に集中させることによって力を高めるっていう技はマスターしたようだ。

 本当に紗綾は覚えが早い。

 

「なら僕はレベル(スリー)、これで相手をします。今までより、少し強いですよ。攻撃特化型です」

 

 なるほど、だからさっきは龍生を殴り飛ばせたというわけか。

 

「《炎弧(えんこ)》」

「《ロックシュート》」

 

 紗綾は燃え盛る霊力斬を、音恩は床の煉瓦を一つ弾いて飛ばした。

 その二つは丁度中心でぶつかり合い、衝撃波が広がっていく。その威力は壁をも削るほどだ。俺も立っているだけで精一杯。

 

「くっ! レベル(フォー)

 

 ドカーンと轟音を立てて爆発する。

 音恩の瞳には四つの歯車が出現していた。どうやらレベル(フォー)にしたことによって何とか相殺することが出来たようだ。

 元々、紗綾はジーラ殺し屋隊の一員だった。そのため、実力はかなり高い。そこに修行なんてしたものだから、恐らく音恩では敵わない位に強くなったのかもしれない。

 

「く、降参です。今の僕ではレベル(ファイナル)を使えるほどの力はない。レベル(フォー)では燐火さんには敵いません」

「そう?」

 

 遂に音恩が白旗を上げた。

 それによって二人は技を解除する。そして二人とも実力者だったせいか、かなり力の消耗が激しいようで、その場に倒れ込む。

 

 紗綾ならばもしかしてとは思っていたものの、龍生まであそこまで強くなっているとは思わなかった。

 これならば二人に任せることが出来るかもしれない。




 はい!第143話終了

 今回は紗綾と音恩の手合わせでした。

 龍生よりも激しい戦いになりましたね。

 音恩は片目を失ったことによってレベル(ファイナル)の力を十分に発揮する程の実力が失われてしまいました。

 それでは!

 さようなら


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第144話 私だってもっと強く

 はい!どうもみなさん!ミズヤです

 みどりの日です。

 明日でゴールデンウィークが終わりですね。

 このご時世であまり外には出ることは出来ませんが、休日を満喫できたでしょうか?

 僕はずっと家で執筆か動画作成、ゲームをしていました。

 そういえば、2月からYouTubeにて動画を投稿しています。
 東方魂愛想の茶番劇から、ゲーム関連も少し投稿していますので気になる方は同名で調べてみてください。



 それでは前回のあらすじ

 紗綾と音恩の戦い。

 お互いにどんどんと力を高め、戦うものの、最終的に紗綾の勝利で幕を閉じた。

 修行した元ジーラ殺し屋隊の紗綾にはもうギアモードレベル(ファイナル)を使えなくなった音恩では勝てなくなってしまっていたのだ。

 そして、次のお話はその音恩の姉、南雲鈴音にスポットライトが切り替わる。



 それではどうぞ!


side鈴音

 

 真が結婚をした。そしてこいしと共に幸せそうに暮らしている。

 これからはこいしのことを最優先する。つまり、命のやり取りのある戦いにはもう出られない可能性が高いということ。

 

 それは別にいい。むしろ、今まで私たちは真に頼りすぎていたんだと思う。

 だけど、そうなったら私たちが主体となって異変の主犯と戦うことになるんだけど、私じゃ力不足って言うのは今回の異変で痛いほど思い知らされた。

 

 結果、真とこいし、彼方さまに助けてもらうことになって、更には力神で空間神の紅蓮さまが命を落とすことになってしまった。

 情けないばかりだ。私たちだってこの世界の異変を解決するためにこっちに来たはずなのに……。

 

 ねん君は強くなった。独自で自分の力を高める技を生み出した。

 弟が強くなったというのに、姉である私は何も変わらない。ずっと足でまといになったまま。

 音恩が苦しんでいる間も私は何も出来なかった。戦えなかった。

 

 このままじゃダメだ。今のままじゃ、何も守ることは出来ない。

 弟が思い通りに戦えない今だからこそ、私が戦わなければ行けないんだ。

 

 龍生とねん君の戦いを見て思った。私も修行をしなければ。

 

 そう考えて私は紅魔館を飛び出した。

 目的地はあやふやだけど、確かこっちで合っていたはずだ。

 

 そう考えてやってきたのは森の中。

 かなり鬱蒼としているものの、ここならば居てもおかしくない。あの人は各地の森と山を渡り歩いているらしいし。

 

「おい、なんでお前がこんなところにいるんだ。南雲姉」

 

 上から声が聞こえてきた。どうやらビンゴだったらしい。

 私がこの森にやってきた理由は――

 

「久しぶりだね、ライト君」

「あぁ、久しぶりだが、遥々どうした」

 

 私がここに来た理由はライトに会うため。

 そしてその理由はもう決まっている。

 

「私に修行をつけてくれないかな?」

「断る」

 

 私がお願いをするとライトは間髪入れずに断りを入れてきた。そんなに私に修行をつけるのが嫌なのか、そう思って少し落ち込んでしまうものの、今回の私はこれくらいで引き下がるようなやわな覚悟できていないからね!

 

「もし修行をつけてくれるなら、い・い・こ・としてあげる♡」

「要らん。俺は女の体には微塵も興味無い」

 

 普段、伊達に修行を積んで精神を鍛えているわけじゃないみたい。この誘惑に屈しないなんて……。

 

 というか、ライトは真のクローンのようなものなのに、性格が全く真逆すぎる。

 だけど、こんな所で引き下がっちゃダメ。私は絶対に強くならなきゃ行けなんだから。

 

「お、おい、何をする気だ」

 

 私は森の地面に両膝を着いて、次に両手を付けた。

 

「御願いします。どうか、私に修行を付けてください」

「……ちっ」

 

 そのまま頭を地面に付けた。

 頭、髪が汚れるとか考えている暇はない。

 泥を舐めてでも私はライトに頼み込むほどの覚悟が決まっている。

 

 すると、ライトもそんな私の覚悟を理解したのか、面倒くさそうに舌打ちをした。

 

「どうしてそこまでして俺に修行をつけて欲しいんだ? 俺じゃなくても色々と強い奴らはいるだろう」

「ライト君の戦い方が私と似てるから?」

「どうして疑問形なんだよ。そもそも、お前と俺の戦い方はそんなに似ていないと思うが?」

 

 そういえばどうして私はライトに修行をつけて欲しいと思ったんだろう。

 

「はぁ、まぁいい。お前の覚悟はよく分かったからな。修行を付けてやることもやぶさかでは無い」

「え、本当!?」

「あぁ。まぁ、真のやつがあんまり戦いには今後参加しないというのならば、他の奴らが真と同レベル程には強くならないといけない。俺も、今回の異変の現況には不覚を取った。強くならないといけないのは同じだ。だから、俺が修行をするついでにお前の修行を付けてやってもいい」

「ありがとう!」

 

 そこでやっとライトは地面に降りてきて森の奥の方へ歩いていきはじめた。

 そんなライトの後をついて行くと、そこには小さい木の小屋の様なものと、大きい滝が存在していた。

 

「ここは上質な霊力が集まってきている。それゆえ、精霊なんかもここには大量に住み着いている。修行をするにはもってこいの場所だ」

「こんな場所があったなんて……」

「俺も各地の山を渡り歩いてきたが、ここまで修行に適した場所は初めてだ。だから俺はここにいつも以上に滞在している」

 

 あの修行星人であるライトが言うならばそうなんだろう。

 この人はずっと修行しかしていないイメージがある。

 三度の飯よりも修行の方が好きなんじゃないかな?

 

「まずは体力アップだ。この森をこの気を伝って一周してこい」

「え、この木を伝って?」

 

 言われて周囲の木を見てみるけど、この木はとてもじゃないが、飛び移ったりするのには向いていないような気がする。

 木の枝は少しでも力の入れ方を間違えたら、折れてそのまま地面に真っ逆さまだ。

 

「これで体力と体感を向上させる。お前は動きこそ良いものの、体力が無い。南雲弟はその体力の無さをカバー出来る能力があるからいいが、お前はそういう能力じゃないだろ?」

「分かった。……私も強くなれるように頑張るよ。でも」

 

 そして私はライトにグイッと顔を近づけて揶揄うように言った。

 

「そんなに私のことを見ていたんだ。やーらし」

「次やったらお前の頭と胴体がさよならすることになる」

「じょーだんじょーだん!」

 

 そんなこんなで、ちょっと怖いけど、本当は優しい師匠が出来ました。




 はい!第144話終了

 次回から鈴音の修行編に入っていきます。

 果たして鈴音はどんな成長を遂げるのか。

 それにしても、鈴音はどう修行編に結びつけるのか、悩みました。師匠のことに関しても。

 真と同様に東方のキャラを師匠に使っても良かったのですが、それよりも少し真のクローン的な存在であるライトと絡ませたかったって言うのがあります。

 それに、ライトが森を渡り歩いているっていう設定があるので、仕方がないのですが、暫くライトが登場していなかったので、久々に登場させたくなりました。

 ですが、ライトに修行を付けさせたらかなり弟子は強化されそうですよね。

 それでは!

 さようなら


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第145話 鈴音の目標

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 視点は鈴音に移り変わった。

 鈴音は他のみんなが強くなっているのに自分だけ強くなっていないことに強い自己嫌悪に陥り、ライトに修行を頼んだ。

 ライトは最初こそ渋ったものの、最終的には修行をつけることになった。

 その修行方法とは――森を制覇する!?



 それではどうぞ!


side鈴音

 

 私はライトに言われた修行を開始して数日が経った。

 朝食を食べてから私は森にやってきては修行を始める。

 木に登っては飛び移る。そんな簡単な体力トレーニング。

 だけど、最初は重心を置く位置が分からなくて枝に立ったら直ぐに折れて飛び移る所の話じゃ無かったけど、今となってはゆっくりながらも連続して飛び移ることが出来るようになった。

 

「しかし、よくもまぁ飽きることなく毎日来るもんだなお前は」

「まぁ、一度やると決めたからね。途中で投げ出したくない」

「ほー。それは律儀なこって」

 

 ライトは私に少し話しかけると一人で滝の方へと向かっていった。

 その後ろ姿を少し眺めていると、初めの内はものすごく驚いたなと思うような光景が目に映る。

 

「滝を走って登るって……私はどれくらい修行すればあれくらい出来るようになるんだろう」

 

 ライトはいつも通り(・・・・・)に滝を登って崖の上にある修行場所へ向かう。

 既にあの動きが修行になっていると思うのは私だけだろうか?

 でも、ライトは修行星人だからどれだけ強くなったとしても物足りないんだろうな。

 

 それよりも私はこのトレーニングに集中することにする。

 私は一刻も早く強くなって最前線で戦いに参加出来るようにならないといけないから。

 

 それから更に二週間ほどが経過した。

 ついに私はスムーズに木を飛び移ることが出来るようになっていた。

 だいぶ体感も鍛えられている感じはあるし、何よりずっと走っていても少し疲れにくくなった。

 

「おい南雲姉」

「っ、ライト君?」

 

 そこで急にライトが私を呼んできた。

 ここ二週間は私のことを見かけても声一つかけなかったというのに、急に声をかけてきたので驚いてしまった。

 

「おい、降りてこい」

「どうしたの?」

「あぁ、お前がこんなに長く修行を続けるとは思っていなかったんだが、そろそろ体力も着いてきただろうと思ってな、面倒だが次の指示をしておくことにした」

 

 私に全く興味が無さそうな態度をしていたライトが私のことをちゃんと考えて先のことを考えてくれていたんだ。

 真とライトの性格は真逆に見えて根本は同じく優しいのかもしれない。

 

「おーい、お前から教えを願ってきたんだろ。早く降りてこい」

「分かった!」

 

 私はすぐさま木の上から飛び降りてライトの目の前に着地した。

 

「さて、これからの新しい修行を伝える」

 

 ライトはそう言うと滝の方へと歩き始めたので、私もその後をついて行く。

 何度見ても大きい滝で、いつもライトがかけ登っている滝なのだが、これを見た限りでは全く登れそうには見えない。

 

 この滝で何をするのだろうかと思っていたら、なんとライトは滝に腕を突っ込んだ。

 そのまま数秒程静止したあと、思いっきり腕を引き抜いた。だが、その腕を見て私は驚愕してしまった。

 

「濡れて……ない!」

「あぁ、これは霊力を腕に纏わせることで水を弾いたんだ」

 

 滝に突っ込んだ腕に霊力を纏わせて水を弾いて濡れないようにしたって言うことらしい。

 そんな一部的に薄い霊力の膜を張るのはかなり難しいはず。

 

「まぁ、なんだ。お前に教える技術は霊力操作だ。お前は体術で戦う戦闘スタイルだから身体強化を教えようと思っている。そのためにも霊力操作を覚えてもらう必要がある」

「しっかりと私のことを考えてくれてたの!?」

「……まぁ、引き受けたしな」

「もう……私のことを冷たくあしらったと思ったら、私のことをそんなに考えてくれてたなんて! ツンデレなんだからぁっ♪」

「黙れ。次そんなふざけたことを言ったら斬るぞ」

「ごめんごめんごめん!」

 

 怒られてしまった。

 だけど、やっぱりライトは優しいみたい。

 普段は私のことを居ないものとして扱っていたような気がしていたけど、私に一番適した修行、技術を考え出して、そこから最適解を提示してくれた。

 

「で、やるのかやらねぇのか!」

「うん、私も強くなりたいから頑張るよ!」

 

 霊力操作は音恩程得意ではないけど、ライトが考えてくれたんだから、私に出来ないはずがない。

 ライトはああ見えて人のことをよく見てるから。

 よし、そうなったら頑張ってみよう。

 

 私はライトと入れ替わるように滝の前に立つと、霊力を纏わせるイメージをしながら右腕を思いっきり滝に叩き込んだ。

 冷たい。やっぱり勝手わからずただ突っ込むだけでは水を弾くことは出来なかったようだ。

 

「お前は確かに霊力操作は悪くないんだが、力が分散してしまって効力が弱くなってしまっている。分散しないように頑張れ」

「うん、分かった!」

 

 とりあえず力が分散しないように、力を一点に集中するように。

 今まであんまり霊力って気にしたことがなかった。だけど、この世界にいるからには私だって霊力が使えるんだ。

 

「絶対に強くなるために、私は頑張る!」

 

 再び霊力を拳に纏わせてその拳を滝に思い切り叩き込んだ。

 その時、私は不思議な感覚に陥った。

 滝に拳を叩き込んだはずなのに冷たくない。濡れない。

 

「やっ、やった」

 

 しかしその次の瞬間に霊力が保てなくなってしまったのか、直ぐに私の手を滝の水が濡らした。

 

「やっぱりすぐは無理か……」

 

 でも、これを特訓したら確実に強くなれる。

 やっと希望が見えてきて嬉しくなる。この調子で霊力の扱いをマスターして身体強化を会得してみせる!

 

「……南雲 鈴音、か」




 はい!第145話終了

 遂に鈴音の目標が見えましたね。

 鈴音はよく音恩のサポートとして体術で戦っているので身体強化を目標にさせました。

 それでは!

 さようなら


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第146話 ライトの憂鬱 前編

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 鈴音の修行はまだ続く。

 ライトが提示したさらなる修行は霊力操作の修行だった。

 果たして鈴音は身体強化を無事に会得することが出来るのだろうか?



 それではどうぞ!


sideライト

 

 その日、俺はいつも通りに修行をしていた。

 

 今日は100キロの重りを全身に付けてこの森の中を駆け回っていた。

 (あいつ)はどんどんと強くなっていく。それを見ていると、俺も負けられないという気持ちが大きくなり、修行に力を入れる。

 

 その時だった。

 俺の視界に、異質な存在が出現したのだ。

 

 どうしてあいつがこんな所にいるんだ? 確かあいつは南雲の姉の方だったか。

 

「おい、なんでお前がこんなところにいるんだ。南雲姉」

 

 あいつは紅魔館に住んでいたはずだ。

 ここと紅魔館は離れているから、飛んできたにしても気楽に来れる場所じゃないって言うのに、なんでこんなところにいやがんだ。

 

「久しぶりだね、ライト君」

「あぁ、久しぶりだが、遥々どうした」

 

 随分と馴れ馴れしく話しかけてくる南雲姉に俺は少し嫌な予感を覚えていた。

 こういう時は確実に面倒なことになる。

 そして次の瞬間、その予感が的中したことを俺は悟った。

 

「私に修行をつけてくれないかな?」

「断る」

 

 この女、この俺に修行をつけろと言ったのか?

 面倒くさい、なんで俺が他人の面倒を見てやらないといけないんだ。俺だって暇じゃない。

 そもそも、なんで俺なんだ。他にも適任のやつがいっぱいいると思うが……。

 (あいつ)なら喜んで修行を付けてくれるだろうに、わざわざ俺に頼みに来たことが分からない。

 

「もし修行をつけてくれるなら、い・い・こ・としてあげる♡」

「要らん。俺は女の体には微塵も興味無い」

 

 本当に面倒なやつに絡まれてしまったものだと、俺は肩を落としてしまう。

 今は修行中だって言うのになんでこんな痴女の相手をしなければいけないんだ。

 

 俺がそう返答すると、何故か南雲姉は地面に膝を着いて四つん這いになった。

 

「お、おい、何をする気だ」

「御願いします。どうか、私に修行を付けてください」

 

 南雲姉は土下座をしてきた。

 額が汚れることも気にせずに深々と頭を下げて地面にまで擦り付けて頼み込んできている。

 こんなのを見せられてしまったら、こっちがなんだか悪いことをしている気分になってきてしまうじゃないか。

 

 ……本当に面倒なやつに絡まれてしまったものだな。

 

「……ちっ。どうしてそこまでして俺に修行をつけて欲しいんだ? 俺じゃなくても色々と強い奴らはいるだろう」

「ライト君の戦い方が私と似てるから?」

「どうして疑問形なんだよ。そもそも、お前と俺の戦い方はそんなに似ていないと思うが?」

 

 俺は霊力刀を使って戦う。気に食わないが(あいつ)と同じタイプの戦い方だ。

 対して南雲姉の戦い方は完全なる体術。味方のサポートタイプだ。全く戦い方が違うから、同じ紅魔館にいる紅美鈴なんかに修行をつけてもらった方が有意義だろうに。

 

 でも、こいつの目を見れば分かる。強くなるために修行をしたいって言う奴の目だ。

 少なくとも軽い気持ちで来たわけじゃ無さそうだ。

 

「はぁ、まぁいい。お前の覚悟はよく分かったからな。修行を付けてやることもやぶさかでは無い」

「え、本当!?」

 

 嬉しそうな声を出すな鬱陶しい。

 

「あぁ。まぁ、真のやつがあんまり戦いには今後参加しないというのならば、他の奴らが真と同レベル程には強くならないといけない。俺も、今回の異変の現況には不覚を取った。強くならないといけないのは同じだ。だから、俺が修行をするついでにお前の修行を付けてやってもいい」

「ありがとう!」

 

 だからそうやって嬉しそうな声で満面の笑みを浮かべんじゃねぇ……。

 ったく、やっぱりこいつの修行を引き受けたのは間違いだったかと後悔し始めている自分がいる。

 

 ただ、引き受けたからにはその任を全うするだけだ。

 とりあえずこの森についての説明から始めることにする。

 

「ここは上質な霊力が集まってきている。それゆえ、精霊なんかもここには大量に住み着いている。修行をするにはもってこいの場所だ」

「こんな場所があったなんて……」

「俺も各地の山を渡り歩いてきたが、ここまで修行に適した場所は初めてだ。だから俺はここにいつも以上に滞在している」

 

 俺は修行のために様々な山を渡り歩いてきた。

 そして最初はこの森に来てビックリしたものだ。森自体に霊力があるのだ。

 霊力というのは本来、生きている者にしか宿らないものだ。ただ、例外は存在する。幽霊なんかも霊力を有しているし、神器と呼ばれるものにも宿っている場合はある。

 

 だが、土地そのものに霊力があるのは初めてだ。

 ここは霊力を感じやすい。そのため、霊力操作や技の練習がしやすい環境になっている。

 修行にはもってこいの環境だ。

 

「まずは体力アップだ。この森をこの気を伝って一周してこい」

「え、この木を伝って?」

「これで体力と体感を向上させる。お前は動きこそ良いものの、体力が無い。南雲弟はその体力の無さをカバー出来る能力があるからいいが、お前はそういう能力じゃないだろ?」

 

 こいつの能力は仲がいい人程、感情が読めるようになるというものだ。

 さとりの下位互換かと思うが、こいつの能力はそれに留まるものじゃない。

 彼女には味方のその動きに対するその後の最適な行動が分かる。だからサポーターとして優秀なのだ。

 

「分かった。……私も強くなれるように頑張るよ。でも、そんなに私のことを見ていたんだ。やーらし」

「次やったらお前の頭と胴体がさよならすることになる」

「じょーだんじょーだん!」

 

 そのからかい方はイラッとしてしまった。

 だが、とりあえず様子を見ておこう。それで嫌になって逃げ出すようならばその程度だったってことだからな。




 はい!第146話終了

 ライト視点でした。

 ここからライトの鈴音への評価はどう変わるのでしょうか?

 それでは!

 さようなら


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第147話 ライトの憂鬱 後編

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 前回のあらすじ

 第144話『私だってもっと強く』のライト視点でした。

 ライトは心底迷惑そうでしたが、一応鈴音の修行を手伝うことには前向きでしたね。



 それではどうぞ!


sideライト

 

 初日は修行が終わったあとはとても疲弊したような様子で南雲姉は帰って行った。

 あいつは普段修行をするような性格じゃないから相当疲れたのかもしれないな。

 

 問題は明日も来るかどうかって言うことだ。

 明日になってみて来なかったらその程度の覚悟だったって言うことだ。何も変わらない、いつも通りに俺は修行をするだけだ。

 

 そう思っていたのだが――

 

「よし、今日も頑張るぞ!」

 

 そう言って気の上に登る南雲姉の姿が次の日もあった。

 どうやら修行は続ける気はあるらしい。だが、それがどれくらい続くかの問題だ。

 二日三日位ならば誰でも続けられる。強くなるには継続する必要があるのだ。

 

 そして次の日――今日もあいつ、来ているのか。

 南雲姉が修行をしている後ろ姿を見て俺はそんなことを思う。

 

 そんなある日、俺は思わず南雲姉に声をかけてしまった。

 

「しかし、よくもまぁ飽きることなく毎日来るもんだなお前は」

「まぁ、一度やると決めたからね。途中で投げ出したくない」

「ほー。それは律儀なこって」

 

 俺は普通に感心してしまった。

 なんとなくのイメージで直ぐにやめてしまうかと思っていたんだが、彼女はそうでは無かったらしい。

 確かに、あれから数日が経ったが、それでも飽きることなく通い続けている。それはかなり立派だと思う。

 

 仕方がない。少し様子を見てみることにするか。

 そういえば、クレア程とは行かないが、それに近い力を引き出すことが出来る技があったはずだ。

 それなら南雲姉でも習得できる可能性はある。その方向性で考えておこう。

 

 そして更に俺は二週間ほどが経過した。

 南雲姉の様子を見ているとだいぶスムーズに木と木を飛び移ることができるようになっていたようだった。

 そろそろ修行内容を変えてもいいかもしれない。そう考えて俺は木の上に立っている南雲姉に声をかけてみることにした。

 

「おい南雲姉」

「っ、ライト君?」

「おい、降りてこい」

「どうしたの?」

「あぁ、お前がこんなに長く修行を続けるとは思っていなかったんだが、そろそろ体力も着いてきただろうと思ってな、面倒だが次の指示をしておくことにした」

 

 しかし、そう説明しても南雲姉は俺の方を見て惚けているばかりでどうにも降りてくる気配が無い。

 

「おーい、お前から教えを願ってきたんだろ。早く降りてこい」

「分かった!」

 

 そこでやっと南雲姉は木の上から降りてきて俺の目の前に降り立った。

 本当に手間をかけさせるやつだ。

 だが、覚悟は本物だと信じているので、俺が考え抜いた修行法を伝授してやることにする。

 

「さて、これからの新しい修行を伝える」

 

 宣言して滝の前まで移動するとちゃんと南雲姉は後ろに着いてきたのを見てから、俺は南雲姉に見せるようにして腕に霊力を纏わせ、コーティングをしてから拳を滝の中に叩き入れた。

 その腕の感覚は不思議なもので、水が当たっているはずなのに冷たくなく、水が当たっている感触がない。

 そしてその腕を引き抜いてみても水滴一つ着いていない。

 

「濡れてない!」

「あぁ、これは霊力を腕に纏わせることで水を弾いたんだ」

 

 南雲姉の方へと向き直って説明を続ける。

 

「まぁ、なんだ。お前に教える技術は霊力操作だ。お前は体術で戦う戦闘スタイルだから身体強化を教えようと思っている。そのためにも霊力操作を覚えてもらう必要がある」

「しっかりと私のことを考えてくれてたの!?」

 

 驚きの表情をする南雲姉だが、その反応は些か失礼だと思うのは俺だけだろうか。

 確かに、お前には微塵も興味は無かったが、引き受けたんなら俺もそれに答えようと思っただけだって言うのによ……。

 

「……まぁ、引き受けたしな」

「もう……私のことを冷たくあしらったと思ったら、私のことをそんなに考えてくれてたなんて! ツンデレなんだからぁっ♪」

「黙れ。次そんなふざけたことを言ったら斬るぞ」

「ごめんごめんごめん!」

 

 本当にこいつ、一度ぶん殴ってやろうか。

 面倒なやつだ。こんな奴に今後も修行をつけてやらないといけないと考えると頭痛がしてくるな。

 

「で、やるのかやらねぇのか!」

「うん、私も強くなりたいから頑張るよ!」

 

 返事だけは無駄に良い奴だ。

 

 すると、俺と入れ替わるようにして南雲姉は意気込んで滝の前に立つと確かに腕に霊力を纏わせ始めた。

 だが、俺はこの後の展開が容易く予想出来た。霊力の膜が薄すぎるのだ。

 

 南雲姉は勢いよく霊力でコーティングした腕を滝に叩き込んだものの、その腕はびっしょりと濡れてしまっていた。

 

「お前は確かに霊力操作は悪くないんだが、力が分散してしまって効力が弱くなってしまっている。分散しないように頑張れ」

「うん、分かった! 絶対に強くなるために、私は頑張る!」

 

 (あいつ)は確かに強いっちゃ強いんだが、水中の中で全く使い物にならなくなるほどに霊力操作が苦手だ。

 それに比べてこいつは霊力操作はそこそこできていると考えていいだろう。今まで何度か戦いを見てきたが、その中で自然に霊力を使って体を強化しているように見えた。

 それを自分の意思で使えるようになったら、こいつは化けるぞ。

 

 再び南雲姉は霊力を腕に纏わせ始めたのだが、さっきとはまるで違う雰囲気を漂わせていることに気がついた。

 これならもしかして――

 

 そこで南雲姉は腕を滝に叩き込んだ。

 その直後、南雲姉の顔がパァァっと明るくなったものの、直ぐにその表情は曇ってしまった。

 

「やっぱりすぐは無理か……」

 

 いや、一瞬だが、水を弾くことに成功していた。

 その事に俺は目を見開いて驚く。まさか、二回目でここまでできるとは思ってもいなかったからだ。

 

 やはりこいつ、才能があるようだ。俺たちよりもずっと。

 

「……南雲 鈴音、か」

 

 覚えておくことにしよう。




 はい!第147話終了

 今回もライト視点でした。

 ライトからはこう映っていたんですね。

 そしてライトも鈴音のことを認めた様子。これからどうなって行くのか。

 それでは!

 さようなら


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第148話 音恩とフラン

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 ライトと鈴音の修行、ライト視点。

 ライトは修行をしている鈴音を見ているうちに、その才能を認めたようだった。



 それではどうぞ!


side音恩

 

 最近、姉ちゃんの行動が明らかにおかしいような気がする。

 気がついたのは本の数日前、だけどその行動をし始めたのは僕と龍生さん、燐火さんが手合わせをした日からだったと思う。

 

 毎日朝食を食べると直ぐに紅魔館を出て行ってどこかへ行っている。

 僕はそのどこかを知らないけど、姉ちゃんが何かをしているのは確かだ。

 

「あー、また負けた! お兄様強い!」

「…………」

「お兄様?」

「あ、どうした?」

「お兄様、ボーッとしてた」

「ごめん」

 

 ずっと姉ちゃんのことを考えていたせいで他のことが疎かになっていたようだ。

 今はフランとトランプで遊んでいたんだった。

 他のことに気が逸れているのは良くないよな。

 

「うん、本気出す」

「あ、ちょっと、それは待って!」

 

 フランの叫び声を聴きながら僕は再びトランプをシャッフルして自分とフランに配り始める。

 フランは決してゲームが苦手な訳では無い。むしろフランはゲームが上手い。この幻想郷の中では上位に入るほどの強さだろう。

 

 俺も姉ちゃんとゲームをやるよりもいい勝負ができて楽しい。

 このまま部屋から出ずにゲーム三昧な生活を遅れれば一番いいんだけど……。

 

「そういえばお兄様。その眼帯、まだ外れない感じ?」

「そうだね。どうやらこの目を切られた攻撃には霊力が込められていたみたいで、この霊力を完全に抜かなければ僕の目は直せないらしい。永琳先生でもこれだけ時間がかかっているんだから、まだ時間がかかると思った方がいいな」

 

 僕のこの目はまだ治らない。

 今、この瞬間に奇襲でもされてしまったら、正直勝てるかは分からない。

 

 この前、分かったことだが、このパソコンを使って相手を操る力も目が無いと効力が小さくなってしまうようだった。

 そのせいでこの前の奇襲にも遅れを取ってしまった。

 

 どうにかしないといけないというのは僕だってわかっている。

 だけど、僕はこの十数年間、引きこもって生きてきた。

 能力なしに体術なんてできるわけが無い。

 

「ねぇ、お兄様はなんだか最近、焦ってるように見える。お兄様らしくないよ」

「そうか……そうだな」

 

 確かにここ最近の僕はらしくなかっただろう。その事にやっとフランに気付かされた。

 こんなに悩むのは俺らしくない。

 僕は常に楽観的にゲームをして過ごしていなければ僕らしくない。

 

「フランのお陰でようやく僕自身を思い出せた。ありがとう!」

「え、お、お兄様!?」

 

 僕は無意識にフランの両手を掴んでお礼を言っていた。

 それによってフランの顔が耳まで真っ赤に染ってゆく。

 

「お、お礼はいいよ……それよりも遊ぼう!」

 

 フランは照れを隠すようにゲームへと話題転換する。

 僕は少し不審に思ったものの、ゲームを再開する。

 今度のゲームは将棋だ。

 

「今度こそはお兄様に勝ってみせるんだから!」

「そうか、じゃあ僕に勝てたらなんでも一つ言うことを聞いてあげるよ」

「え、本当っ!?」

 

 フランは嬉しそうに聞き返してきたので僕は首を縦に振って答える。

 まぁ、これはフランへのお礼だ。

 ただ、簡単に負けるつもりは無い。

 

「ねぇ、お兄様」

「なに?」

「お兄様って時々危なっかしいって思うんだよね」

「例えば?」

「普段は気だるげなのに、妙なことに首を突っ込んで……この前だってお兄様は本調子じゃないのに一番にみんなを守ろうとして、あの中では一番重症だったじゃん」

 

 そう言われると返す言葉はない。

 僕は基本、面倒ごとは嫌いだ。首を突っ込みたいとは思わない。

 最初は勇者だと喜んだが、今では違う。冷静に今、自分が置かれている状況を分析して日々を過ごしている。

 

 だからだろう。真さんの考えが移ったのは。

 真さんと同じく、僕も大切な人がいる。その大切な人を守るためだったら自分の命を逃げ出す覚悟すらある。

 

「ねぇ、なんで頭を撫でてるの?」

「なんとなくだなんとなく」

 

 僕の気持ちは自分がよく分かっている。

 僕はこの子に死んで欲しくないから必死に戦っているんだ。

 だけど、人間と妖怪じゃ結ばれない運命にある。

 だから僕はこの感情を隠し続けて生きていかなければいけない。そしてこの先もずっとフランドール・スカーレットという少女を守り続けるのだ。

 

「お兄様、王手!」

「んなっ!?」

 

 僕は他のことを考え込んでいたからいつの間にか王手を掛けられてしまっていたらしい。

 しかも相手はフランだ。王手をかけられたらそこから脱出するのは至難の業だ。

 

 何とか頑張って王手を覆す方法を探るものの、全く見つからない。

 

「はぁ……僕の負けだ」

「やったぁっ!」

 

 フランはぴょんぴょんと跳ねながら喜びを表現している。

 勝てたのがそんなに嬉しかったのだろう。

 

「お兄様、忘れてないよね! なんでも一つ言うことを聞いてくれるって」

「そうだね。忘れてない。ただし、出来る範囲内でだからな」

「じゃ、じゃあねお兄様」

 

 なんだかモジモジとし始めるフラン。

 どんな願いを言うのだろうかと見ていると意を決したようにフランは俺に願いを告げてきた。

 

「今日、一緒に寝て欲しいの!」

「え」

 

 正直驚きすぎて言葉が出なかった。

 フランからそんな言葉が飛び出すとは微塵も思っていなかったのだ。

 

「だめ……かな?」

「……わかった。一緒に寝ようか」

「うん!」

 

 フランには甘い僕だった。




 はい!第148話終了

 だいぶ日常編のネタが少なくなってきたのでそろそろ最終章入ると思っておいてください。

 それでは!

 さようなら


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第149話 悲しませないよう

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 鈴音のことを気にかける音恩。

 フランとゲームで賭けをして負けた音恩はフランと添い寝することになったのだった。



 それではどうぞ!


 俺は今日も今日とて二人に修行をつけていた。

 といっても、二人相手だと俺がクレアを使っても厳しくなってきていた。

 

 紗綾は元々クレアを使えるほどの実力者なので、ものすごく強いのだが、それよりも驚くべきは龍生の成長ぶりだ。

 クレアは使えないものの、クレアを使っている俺に対して迫ってくるほどに実力になっている。

 というか、異常に足が早い。足の速さだけで言ったら、俺よりも圧倒的に早い。

 

 俺の残像は二体が限度なのに対して龍生は六体も残像を作ってくる。

 かなり対処が大変なやつだ。

 だけど、これで俺もかなり安心だ。二人ならば並大抵の敵相手には圧勝できてしまうだろう。

 

 それに、紗綾はクレア装を使える。もう俺が居なくても何とかなるだろう。

 俺はこの先、無理をしそうな戦いには極力参加しないと決めている。もう、こいしを心配させたくないから。

 

「それじゃあ、今日はここまでにするか」

「あざーっす」

「ありがとうね」

 

 うん、挨拶は人それぞれだからな。

 という訳で今日は解散として家に帰る。

 

 家に帰ってくると美味しそうな匂いが充満していた。

 この匂いは俺が一番好きな料理の匂い、シチューの匂いだということに直ぐに気がついた。

 

「あ、おかえりー。ご飯にする? お風呂にする? それともわ・た・し?」

「…………」

 

 エプロン姿の超絶可愛い嫁にそんなことを言われて一瞬、意識が飛んでしまった。

 落ち着け落ち着け。意識をしっかりと持つんだ。

 いや、待てよ。こいしは俺の嫁なんだから、別に理性を保つ必要なんて……。

 

「…………」

「あ、あはは、冗談だから。そんなに悩まなくてもいいよ」

「そ、そうだよな」

 

 一瞬本気にしてしまった自分が恥ずかしい。

 こいしの顔が真っ赤になっている。自分で言っていて恥ずかしくなってしまったらしい。

 まぁ、今日は疲れてるから、そういうことは出来ないとはいえ、これくらいはいいだろう。

 

 俺に背を向けてキッチンに戻ろうとするこいしを背後からギュッと抱きしめた。

 俗に言うあすなろ抱きと言うやつだ。

 

「し、真っ」

「愛してる。いつもありがとう」

「わ、私も」

 

 そして俺たちは自然に唇を触れ合わせる。

 触れ合うだけの軽いものだが、凄く幸せを感じるものだ。

 

「わ、私、ご飯を持ってくるね。シチュー温まってるから、温かいうちに食べちゃって」

「あぁ、ありがとうな」

 

 そして俺はこいしの作ってくれたシチューをたらふく食べて、風呂に入ったら直ぐに寝てしまった。

 最近は稽古で疲れて帰ってくることが多いので、布団に入ったら気を失う勢いで眠ってしまう。

 

「さて、久しぶりだな海藤真」

「あ?」

 

 俺は眠ったはずだった。

 だが、目を覚ましてみるとそこはいつか見たような空間が拡がっていた。

 目の前にいる少年。この人は紛れもなく俺を助けてくれた命の恩人、シャドウだ。

 

「どうして、俺はここに?」

「お前を引っ張ってきたんだ。少し話があったからな」

 

 シャドウほどの神が俺になんの話しがあるんだろうか。

 何やら真剣な雰囲気を感じる。

 

「さて、どうやら最近、自分以外の戦士の育成をしているようじゃないか」

「いや、言い方」

 

 確かに言い様によっちゃそうなんだけど、言い方……。

 

「あの二人は強い。才能は凄まじいものがあるからな」

「そうなんだよ。あの二人、成長スピードも早くて」

「そしてそれはお前にも言える」

「俺も?」

「そもそも、お前が元祖成長が早い人間だ。人間であんなに成長速度が早いやつは初めて見た」

 

 なんだか急に褒められたので、むず痒くなってしまう。

 だが、なんだか話が見えてこない。この人は俺とこんな雑談をするために呼び出したって訳では無いだろう。

 

「結論を言ってもらってもいいか?」

「……お前、意外とせっかちだな」

「自覚してる」

「まぁ、本題を言うとだな」

 

 あ、まだ本題に入っていなかったのか。

 

「お前、神にならないか?」

「……はぁ?」

 

 あまりにも驚きすぎて俺は素っ頓狂な声を出してしまった。

 俺が神になる?

 そう言えば以前、一回だけ紅蓮に力神にならないかと勧誘されたことがあるのを思い出した。

 

 ちょっと前だったはずなんだけど、随分と昔のことのように感じる。

 神になると言うのはこの世界を守る者になるということで凄く名誉ある事だと思う。だけど、俺の答えは――

 

「済まないけど、断らせてもらう」

「……理由を聞かせてもらおうか」

「俺はこの世界よりもこいしの方を優先する。神になったらこいしは心配するからな」

「お前は一度失ったせいで愛妻家に拍車がかかってしまったようだな」

 

 それはそうなんだろう。自覚はある。

 一度失ってしまったせいで俺はこいしを絶対に手放さない、悲しませないと誓ったからな。

 

「そうか、じゃあこういうのはどうだ?」

「なんだ?」

「もし死んでしまったら俺が神にしてやろう。人柱としてだ。神になるには超神水を飲むか人柱になるしかない。だから人柱になったとしたら神にしてやろう」

「もし死んだらな」

 

 死ぬ気は無いけどな。

 こいしをもう二度と悲しませないために、何度でもこいしの元に帰ってくるし、離れることは無い。

 

 こうして俺は死んだら神にしてもらえることになった。




 はい!第149話終了

 物語の主人公はどれだけ頑張ろうともその宿命からは逃れられない。

 それでは!

 さようなら


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第最終章 改編された事実 ~絶対に全てを助けてみせる~ 
第150話 終わりの始まり


 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 真はシャドウと夢の中で再開し、死んだら神になる権利を貰うのであった。



 それではどうぞ!


side???

 

 数ヶ月前

 

 一人の男が目を覚ました。

 

「随分派手にやられてしまったようだな」

 

 自分の置かれている状況を確認して男は小さく呟く。

 目を覚ました瞬間に見えた光景はボロボロになっている部屋だった。

 いや、この部屋だけではない。この建物全体がボロボロになってしまっている。それだけで戦いの壮絶さが伺える。

 

「生き残りは――俺だけか」

 

 この周囲からほかの霊力を感じない。

 部下も何もかも全員やられてしまったようだ。忌々しい状況だ。

 

「あああ、腹が立つ。俺は情けで生き残ってしまった。いや、哀れまれたと言うべきか。それが一番腹が立つ」

 

 怒りに震える男。だが、怒ったところで敗北したという事実は覆ることは無い。

 

「最初はこの世界の支配をしてやろうと思っていたが、もうこんな世界は要らない。全部破壊してやる」

 

 新たな野望が男に宿る。

 だが、どうする? ここは幻想郷だ。

 様々なやつがそれを邪魔しようとしてきて、この男の力じゃそいつらに勝てないので、敗北を繰り返すのみだ。

 

「能力が欲しい。アイツらに勝てる能力が欲しい。あいつ、海藤 真を絶望させることの出来る能力が欲しい」

 

 それは復讐心だった。

 何とかして真を絶望、基始末できる能力が欲しい。そう願う。

 

「海藤 真、次は絶対に倒してやるからな」

 

 復讐心という炎を胸に灯し、男は建物から出た。

 手元にある拳銃を確認する。すると、それにはちゃんとたまが込められているのを確認できた。

 

 その時、獣の鳴き声のようなものが響き渡った。

 

「妖怪か。まぁ、前座としては面白い相手ではないか」

 

 そんな男の前に現れたのはクマのような見た目をしている巨大な妖怪だった。

 この妖怪は自我の無い妖怪の中では強い方で、能力のない普通の人間が出くわしたらもう助からないと言われるほどの妖怪だ。

 そしてこの男もまた、能力のない普通の人間だ。だが、顔は笑っていた。全く恐怖していなかった。

 

「手応えがありそうだ。そうだよな、お前なんかで手こずっていたら海藤 真をぶっ殺すことは出来ないもんな」

 

 妖怪を見てニヤリと笑い、ピストルを向ける。

 

「俺の新しい一歩の第一犠牲者となってもらおう」

 ぐおおおん!

 

 クマの妖怪は男に襲いかかる。当然、そんな強さの妖怪の動きが普通の人間が捉えることが出来るはずがなく、

 

「ぐはっ」

 

 男は気がついたら体が宙を舞っていた。そして左腕がなくなっていることに気がついた。

 今の一撃で左腕がもげてしまったようだ。

 

「ぐ、が」

(いてぇいてぇいてぇいてぇ。だけど、この程度で音を上げてはいられな――)

 

 その瞬間、男は衝撃的な光景を目にした。

 

(くそ、あの化け物。俺のぶっ飛んで行った腕を食ってやがる。きみわりぃ)

 

 この幻想郷では妖怪が食物連鎖の頂点にいる。

 妖怪にとって能力を持たない普通の人間はただの捕食対象でしかないのだ。

 

「はは、お前にとってはその程度って言うことか。俺も随分と舐められたものだな」

 

 男は必死にピストルの照準を定めて引き金に指をかける。

 そして引き金を引いた。

 だが、その時にはもう既にそこには妖怪がいなかった。

 

「ど、どこに行った!?」

 

 男は気がついた。背後からの殺気に、そして今から自分は殺されることに。

 

「くそ、やり直したい。やり直してこいつを次こそは!」

 

 男に迫る攻撃。その瞬間、視界にノイズのようなものが走った。

 そして一瞬視界が真っ暗になって視界が元に戻った瞬間、クマの妖怪の位置が元通りになって腕を食べている最中だった。

 

「俺は今、殺されたはずじゃ……」

(だが、生きているなら好都合だ)

 

 そしてもう一度照準を合わせようとすると、脳裏にある予感が過ぎる。

 背後から攻撃を受けると。

 その予感が過ぎった瞬間、男は後ろに振り返ってピストルを構える。

 

 すると、その予感通りにそこにクマの妖怪は移動していた。

 

 パァン。

 

 辺りに銃声が響き渡る。

 その銃弾はクマの妖怪の額に命中していた。それによってクマの妖怪は力を失ってその場に倒れた。

 クマの妖怪は死んだのだ。

 

「勝った……勝ったぞ!」

 

 男は妖怪に勝利した。

 これが男にとっての第一歩。だが、気になる点があった。それは、一度男は死んだはずなのに、まるで時間が巻き戻ったようなことが起こったのだ。

 いや、これはもう時間が巻き戻ったと言ってもいい。

 

「まさか、俺の能力は時を超える程度の能力? いや、それだけだと神でもないんだから歴史、つまり俺が死ぬ結果を変えることは出来ないだろう。つまり、俺の能力は【過去を変える程度の能力】……か。これなら世界を崩壊させ、海藤 真を絶望させることが出来そうだな」

 

 男は一人で黒い心を燃やしていた。

 そして数ヶ月後、この幻想郷史上、最大の異変が始まるのだった。

 


 

side博麗神社

 

 霊夢は縁側で優雅にお茶を飲んでいた。

 だと言うのに神社が破壊されて、目の前にはボロボロになった魔理沙が倒れていた。

 そう、いつも通りに魔理沙が神社に突っ込んできたのだ。

 

「あんた、大丈夫?」

「大丈夫だぜ! 私はこれくらいでくたばったりしないのぜ」

「くたばったら良かったのに」

「そりゃねぇぞ」

 

 そんな感じにいつも通りのやり取りをしていると、その瞬間、事件が起こった。

 霊夢の中に何か黒いものが入り込んで来たのだ。

 

「く、くぅ……」

「れい……む? どうしたんだ?」

「真を、真を退治しなきゃ」

「霊夢、おい霊夢!」

「邪魔しないで、あんたも退治するわよ!」

 

 その霊夢の目を見た魔理沙は恐怖した。

 何故だか霊夢の目は怒りに燃えていた。そしてその矛先は真に向かっている。

 真は特に何もしていない。霊夢に怒られる道理はない。それは魔理沙は分かっていた。

 

 だが、その瞬間、魔理沙にも黒いものが入り込んで来たのだ。

 

「真を倒さなきゃ、幻想郷が」

 

 そして、このタイミングで幻想郷崩壊へのカウントダウンが始まったのだった。

 

 ――さて、この状況を一体お前はどうする? 海藤 真。




 はい!第150話終了

 はい、遂に最終章が始まりました。

 ここからどうなって行くのか。

 それでは!

 さようなら


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第151話 世界が敵に

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 謎の男が目を覚ました。そして何かを画策する。

 すると、霊夢が真を敵対視し始めた。これはどうなってしまうのか?



 それではどうぞ!


side真

 

 俺は目を覚ます。

 

 隣にはこいしが寝ている。この状況に慣れてきており、これが俺の中でいつもの光景となってきている。それがとても幸せだ。

 外を見てみると、とてもいい天気だ。雲ひとつない。地底でなんで空があるのかが未だに不思議だ。これが幻想郷クオリティーということだろう。

 

 さて、いつも通りに今日は屋台の準備をするか。そう思って扉を開けた瞬間の出来事だった。

 瞬間的に俺は危機を察してその場から飛び退いた。

 すると、ものすごい爆発とともに玄関が消し炭になってしまっていた。

 思い返してみると、今の弾幕は陰陽玉だったような気がしなくもない。

 

 本当はこんなことを考えたくもない。だが、これが事実だと言うならば受け入れるしかないだろう。

 俺は上空にいるそいつに視線を向けて睨みつけながら声を発した。

 

「よう、これはどういうつもりだ? 博麗霊夢。博麗の巫女は無蓋な一般市民も襲うのか?」

「無害な一般市民? 違う。あなたを生かしておくと幻想郷が崩壊する」

 

 何を言ってるんだこいつ。一瞬、そう思ったものの、霊夢のその目を見て俺は気がついた。

 今のあの霊夢の目に生気が宿っていない。つまり、霊夢は正気じゃない。催眠のようなものをされている? いや、霊夢がそんなものにやられるか?

 そんなことがあるはずが無い。となると、これはもっと大きな事件がこの幻想郷内で起こっているに違いない。

 

 今はとりあえず霊夢から逃げなければ。

 どうやら今の霊夢は小気を失っているものの、ターゲットは俺に絞られている様子だ。

 その証拠にさっきから通りかかっている近隣住民を霊夢はスルーしている。

 全く、幻想郷最強の巫女さんに追われるとか、どんな無理ゲーだこれは。

 

 いや、霊夢が催眠にかかったくらいだ。他にも催眠にかかった人がいてもおかしくない。

 

「はは、クソゲー」

 

 俺は思わず笑うしか無かった。

 その時だった。

 

「霊夢、伏せろ!」

 

 その声が聞こえてきた瞬間、霊夢の背後から極太のレーザーが迫ってきて俺の視界を覆い尽くした。

 おいおい、これはなんの冗談だ一体。

 俺が考える敵に回したくないコンビが敵に回っちゃってるな。

 そう考えながら逃げる余地もなく、その極太レーザーに巻き込まれて家の壁を突破ってぶっ飛ばされる。

 

 正直、死にそうなほど痛い。だけど、一発くらったところで俺は死にはしない。

 何とか衝撃を利用して逃走を図ることにした。

 霊夢と魔理沙とは絶対に戦いたくないからな。

 

 何とか逃げ延びた俺は妖怪の山まで来た。

 確かにここは強い奴らが多いけど、そこまでの人数はいない。

 

 さっき見たところ、近隣住民は俺の事をスルーしていた。だが、最後に見た人は確実に俺に敵意を燃やしているような目をしていた。

 つまりは、時間経過で俺を敵対視する人が増えていくんじゃないかと言うのが俺の考えだ。

 

 最終的にはこの世界、この幻想郷全てを敵に回した状態で異変を俺一人で解決。

 やべぇほどに強いやつや逃走不可能のやつまでいる状況で?

 

「なんてクソゲーだ? これがゲームなんだとしたらこのゲームを作ったやつの頭を疑うレベルだぞ」

 

 とりあえずここでじっとしていても始まらない。どうにか誰にも見つからない状態でこの異変の事を探らなければ。

 その瞬間だった。

 目にも止まらぬ速度で俺の体に衝撃が走って突き飛ばされてしまった。

 

「か、は……何が、おこって……」

「見つけましたよ真さん。大人しくお縄に着いてください」

 

 どうやらもう既に厄介な人にまで伝染してしまっていたようだ。この人相手には逃げることは実質不可能。なにせ、この人は幻想郷最速を謳っているのだから。

 

「文、今日のところは見逃してくれないか?」

「じゃあ、投降してください」

「それは、見逃してくれてないよな」

「じゃあ、死んでください」

「多分この状況は投降しても死刑なんだよな。つまり、死刑or死刑? おっと、俺はテロリストかなにかなのか?」

「はい」

「はいじゃねぇよ! 何もしてねぇだろ!」

 

 何もしてないのにテロリスト扱いはかなり行かれているような気がするが、あの文も正気の目じゃない。つまり、あれは本心じゃない。そこだけが救いだな。

 だが、ここからどうやって逃げるか。本来だったらこれで詰みなんだよな。

 

 だけど、逃げるしかないだろ。みんなには罪はない。戦うのは得策ではない。

 そう考えて振り返り、走り出すものの、ものすごい速さで文が追いかけてくる。

 逃げても無駄か……そう思ったものの、急激に背後で文が舷側するのを感じた。

 何が起こったのかは全く分からない。今も尚、俺の事を追い続けてきているのは確かだ。

 

 だが、急に俺よりも遅くなったというのは確かだ。

 ならば全然逃げ切ることは可能だろう。そう考えて走り続け、何とか俺は文の追跡を振り切ることが出来た。

 これで一安心だろう。逃げた先が人里ということを除けば。

 

 まだ人里の人間には伝染していないようで、俺を攻撃してくるやつは現れない。だが、何時どこで攻撃されてもおかしくないから気をつけないといけない。

 

「あれ? 真じゃないか」

 

 話しかけられて恐怖により一瞬、肩をふるわせるものの、その声は確実に正気そのものだった為、安心してその声の主へと振り返る。

 

「久しぶりです慧音先生」




 はい!第151話終了

 真いきなり大ピンチ。

 そして何故文は突然遅くなってしまったのか?

 それでは!

 さようなら


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第152話 バッドエンドを回避せよ

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 真は霊夢らに命を狙われる。

 逃げるものの、その先々に追っ手がやってくる中、突如として追ってきた文の飛行速度が低下、それによって真は人里に逃げ込むことが出来る。

 そこで再開したのは白上沢慧音だった。



 それではどうぞ!


side真

 

「お久しぶりです慧音先生」

「本当に久しぶりね。真、新聞で活躍を見ているわ」

「あはは、ありがとうございます」

 

 さっきまで気を張っていた落差からか知らないけど、物凄く気が抜けてしまっている。

 だけど、慧音先生は正気でよかった。これで、俺の知っている人で正気の人もいるということがわかった。

 

 なんとか、この人に俺の手助けを頼めないだろうか。

 だが、一歩間違えると俺の敵が増える結果になってしまう。なにせ、この世界では博麗の巫女である霊夢が正義だ。

 そんな霊夢に追いかけられていると言ったら疑われているに決まっている。

 

 慎重になれ。慎重に考えるんだ。

 

「真、久しぶりにお茶でもしてゆっくり話さない?」

「いいですね」

 

 ゆっくりと考えることが出来るいい機会だ。

 俺たちは近くの喫茶店に入ってゆっくりと話すことにした。

 

「あの事件以降、人里に全然姿を現さないから、どうしたのかと思っていたわ」

「色々ありまして」

 

 授業とか、温泉郷とかで忙しかったんだよな。

 未来の俺の事件が終わったあと、みんなが失踪する事件。

 

 ちょっと最近の異変は事件と呼べないほどに大きな幻想郷が崩壊してもおかしくないような異変ばかりだな。

 だけど、どうしてだ。今回の異変は俺をターゲットにして居る。みんなは俺を狙ってくる。となると、今回の異変の主犯は俺に恨みを持っている人物?

 だが、俺一人を倒してどうする? 俺を倒しても何にもならないと思うけど……。

 

 それとも、目的はもっと別の何か? だとしたら、何が目的なんだ?

 

「さっきから考え込んでいるようですが、どうかしましたか?」

「あ、いえ。なんでも」

 

 おちつけ。冷静になれ。表情に出すな。

 一手でも間違えたら不利になってしまうかもしれない状況なんだぞ。

 

「それにしても、最近の異変解決はお手柄だったようですね。この幻想郷が崩壊する危機を二度も救ってしまうなんて」

「まぁ、俺もこの幻想郷が無くなったら困るんでね」

 

 こいしや大切な人がいっぱいいるからな。

 

「本当にいい人ですね。ちょっと、こいしさんが羨ましいです」

「え、それはどういうことですか?」

「未だにあなたが誰ともお付き合いも結婚もしていなかったら狙っていたかも」

「…………」

「冗談ですよ」

 

 びっくりした。

 ある意味ドキッとしたよ。これが本気だとしたら俺が断ったとしてもこいしに何か小言を言われたかもしれないからな。

 

 そういえばこいしはどうなんだろうか。やっぱり霊夢や魔理沙と同じように俺と敵対してしまっているのか?

 ……だとしたら嫌だな。

 最悪霊夢と魔理沙なら気絶させる程度の攻撃をして逃げることは出来るだろうけど、こいしには攻撃ができない。俺には無理だ。

 こいしに追われたら心がズタズタになって生きることを辞めてしまうかもしれない。

 

「それにしても、お人好しというかなんというか。命を張ってまでこの幻想郷を守るなんて。いざとなったら私に出来るかは分からないから」

「そう……そうだな。それが普通なのかもしれないな」

 

 俺はいつの間にか死ぬことは怖く無くなっていた。

 死よりも、大切な人の死のほうが怖くなっていた。だから必死に守るようになっていた。

 ……人として当然の感情の一つを忘れていたんだ。

 

 今回も強制とはいえ、こいしとの約束に反して危険なことをしているしな。

 

「死ぬのが怖いのが普通。俺がおかしいだけなんだよ」

「……」

 

 すると急に無言になる慧音先生。

 

「ねぇ、真」

「どうしました?」

「死ぬのが怖くないなら、一度」

 

 そこで俺の方へと目を向けてきた。

 その目は――非常ににごっていた。俺の中の危険センサーがバリバリ反応している。

 

「死んでみない?」

「っ!」

 

 その瞬間、慧音先生が迫ってきたので、俺はジャンプして回避すると、俺の背後にあった壁が慧音先生の頭突きに寄って木っ端微塵に破壊されてしまった。

 目は濁りきっている。とても正気の目とは思えない。

 慧音先生まで洗脳の犠牲に……。

 

 くそ、この世界に俺の味方は居ないのかよ。

 

「あいつだ、あいつをころせ」

「あいつをとらえて、ころせ」

 

 どんどん周囲にも伝染して行っている。

 周囲が取り囲まれてしまっている。このままじゃ逃げることは不可能だ。

 

 どうする? 戦うか?

 ――いや、だめだ。罪のない人を傷つけては俺もその異変の主犯と同じになってしまう。

 できるだけ穏便にこの場をくぐり抜けなければ。

 

 でもどうやって?

 

 考えている間にも慧音先生が突進してきた。もう一発頭突きを食らわす気だろう。

 あれを食らったらクレア装で防御力を上げても骨折は免れない。最悪、ここで俺が果てる。

 

 俺が死んだらどうなるんだろう。

 だめだよな。こんなところで死んでちゃ、主犯のもうツボだ。逃げないと。

 

 だけど、回避のしようがなくて、受ける覚悟をしてクレア装を発動させた次の瞬間だった。

 突如として俺の視界が少し前方へ進み、背後に慧音先生が出現した。

 

 どういうことだ、これは。

 さっきもそうだ。急に幻想郷最速と言われていた文のスピードが最遅に入れ替わったんじゃないかってくらいに遅くなった。

 もしかして、俺に手を貸している人物がいる?

 

 これは探してみる価値はあるかもしれない。

 こんなことをするってことは確実に自我があるってことだ。協力者になってくれるかもしれない。

 

 俺は霊力を探ってみる。

 すると、以外にもすぐ近くに今まで感じたことの無い妖力の持ち主を探知することが出来た。

 

 場所は近くの建物と建物の間の路地。

 ここからすぐ近くだ。この人数ならば、この状況ならば、追っ手を撒いて向かうことが出来る。

 

「じゃあなみんな。直ぐに元に戻してやるからよ」

 

 そう言ってみんなの間をするりするりと抜けていき、人混みに紛れて追跡を逃れる。

 それから路地に向かった。

 以外にもそいつは俺が来ていることに気がついていたはずなのに、その場から動かずに俺の到着を待っていた。

 

 独特な髪色だ。

 黒髪に、白と赤のメッシュが入っている。

 

「お前は……誰だ」

 

 聞くが、そいつは何も答えない。

 何を考えているのか全く分からない。何が目的なんだ。

 

「人に名を聞く時は自分からなのる。常識だぞ」

「……俺は海藤 真。改めて聞く。お前は誰だ」

「私か、私はな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ただの気まぐれな天邪鬼だよ」




 はい!第152話終了

 はいここで初出し東方キャラ。

 今まで異変とかで全く関わってこなかったのですが、ここで初登場しました。

 天邪鬼っていう単語で直ぐに分かるでしょう。

 それでは!

 さようなら


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第153話 ひねくれ者の助っ人

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 慧音先生とお茶をすることになった真は茶屋に入るものの、そこで慧音先生も豹変。異変の犠牲となってしまったのだ。

 その時、真は自分のことを助けてくれたのかもしれない揚力を発見して確認しに向かう。
 そこに居たのは天邪鬼だった。



 それではどうぞ!


side真

 

「天邪鬼?」

「ただの捻くれ者の妖怪だ。能力もその通りに【なんでも引っくり返す程度の能力】だ。いかにも天邪鬼らしい能力だろ?」

 

 なんでも引っくり返す?

 その言葉である違和感を覚えた。

 

 その事象が似合いそうなことが最近起こったような気がする。

 

「一つ聞いていいか?」

「なんだ?」

「射命丸文のスピードをひっくり返したのって、お前なのか?」

「面白そうなことが起こっていたからな。それに、あの幻想郷最速を謳っている文屋が幻想郷最遅になったら最高じゃねぇか。だが、勘違いするな。助けて貰ったとか思うんじゃねぇぞ」

 

 さすが天邪鬼だな。ひねくれたことを言ってきた。

 こいつは俺の事を助けたわけじゃないと言ってきているが、俺が助けられたのは事実なわけだ。

 助けてくれなかったら、あの場面で俺は詰んでいた。

 

「……ありがとうな」

「ばっ、やめろお前。礼を言うな! 言っただろ! 私はお前を助けたわけじゃないんだよ!」

 

 顔を真っ赤に染めて照れている少女。

 ひねくれたことを言っているが、どうやら可愛いところはあるようだ。

 ひねくれているのは照れ屋だからなのかもしれないな。

 

「まぁ、私があんたをつけていた理由は上に言われたからだな。で、今のこの異変を解決するにはどうしても私たちが協力することが必要だって言うのが考えだそうだ」

「その考えには俺も賛成だな。この幻想郷の住民全てが敵になったと考えて一人で解決することを考えると鬱になりそうだ」

「まぁ、それはあながち間違えではないんだけどな」

「ん? どういう事だ?」

「詳しいことは上が説明してくれるだろうよ。とりあえず、お前を案内する」

 

 こいつの言っていることが理解できないところが所々ある。

 だけど、恐らくその謎は全てこいつについて行ったら判明するのだろうと、俺の勘が言っている。

 それに、この異変を解決するには確実にこの人たちの協力が必要だ。俺について行かないという選択肢は存在していなかった。

 

「案内してくれ。それにしても、どこに行くんだ?」

「私たちの活動拠点。まぁ、あんたは来たことないだろうね。だって、この世界に来てから一度も身近な人が死んでないだろ」

「身近な人が死んだら行くところ? 寺、とか?」

「正解。これから案内するのは命蓮寺。私たちの活動拠点だ。そしてこれからはそこがあんたの活動拠点になる」

 

 命蓮寺。名前だけは聞いたことはある。

 だけど、用事がなかったから今まで行ったことがなかった。

 

「さぁ、早く行くぞ。私は忙しいんだ」

「あぁ、本当にありがとうな」

「だから、礼を言うな!!」

 

 俺のお礼で再び顔をりんごのように真っ赤に染めて怒ってくる。

 ツンケンしているような態度をとっているものの、その実、物凄く優しい子なんだろうなって言うのが伝わってくる。

 

「何度も言うが、あんたの為じゃねぇんだからな!」

「はいはい」

「てめぇ……」

 

 あんまり弄りすぎても良くなさそうなので、それからは静かにそのメッシュ少女の後を付いて行った。

 

 しばらく歩くと寺が見えてきた。あそこがさっき言っていた命蓮寺という寺なのだろう。

 俺はこれまで寺に縁のない暮らしをしていたから、俺がここにいるというのが少し不思議な気分だ。

 

「だが、どうして俺に面識のないここの人達が俺に協力してくれるんだ?」

「それは過去一で幻想郷が危機だって言うのがあるが、面識がない奴らじゃなきゃダメだったってことだ」

「どういう事だ?」

「次期にわかる」

 

 遂に俺は寺に足を踏み入れた。

 その瞬間、物凄い霊力を肌身に浴びることとなった。

 

 この霊力はかなり強い人がいる証拠。それも、かなりやばいレベルの奴らが集まっているようだ。どれだけ霊力が強いやつでも、これほどの圧は感じたことがないからだ。

 

「だいぶ気合が入っているようだな」

「それだけ今回の異変はレベルが違うって言うことだ。放置したら地図が描き変わる騒ぎじゃないって話だぜ。例えば、この幻想郷が消滅するとか……」

「え」

 

 かなりやばい単語が聞こえたような気がする。

 幻想郷の消滅?

 

 今まで幻想郷崩壊の危機は幾度となくあった。それは生態系が崩れたり、地形が崩壊して地図が描き変わるものだったり、それだけでかなりやばいと思っていた。

 だが、今回の俺をみんなに敵対視させるものが幻想郷を消滅させるほどの異変だと言うのか。

 

 もしこの話が本当なのだとしたら、この幻想郷に住む者、みんな――死ぬ。

 

「早く何とかしないと、不味いな」

「あぁ、その何とかするために、今私たちはここに居る」

 

 話しながら歩いていくと奥の方に人影が見えてきた。

 この人は俺を敵対視していないのか、まだ顔を見合わせてもいないが、警戒してしまう。

 さっきからずっと俺を敵対視して攻撃を仕掛けてくる人達ばかりだったからな。

 

「落ち着け、そして安心しろ。ここにはあんたを敵対視するやつはいないぞ。それに、(めい)を受けている。あんたに害をなそうとする奴らから守れってさ。この今の状況であんたが死ぬのがいちばん最悪な状況なんだとよ」

「そうなのか」

 

 それならば少しは安心出来る。

 警戒を解いてその立っている人に近づいていく。

 

「あなたが海藤 真さんですね。話は伺っています。私は寅丸(とらまる) (しょう)。あなたを待っていました」




 はい!第153話終了

 天邪鬼さんの名前が出てきていませんが、忘れている訳では無いので、安心してください。

 何気に初登場の命蓮寺。ここが拠点となります。

 それでは!

 さようなら


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第154話 レジスタンス

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 天邪鬼の話を聞いて真は拠点に案内してもらうことにした。

 そこで案内してもらった場所は――命蓮寺。



 それではどうぞ!


side真

 

 金髪で妙な格好をしている。

 そして、絶大的なオーラを感じる。この寺の信仰対象と言うやつなのだろう。

 

「俺の事を付けていただけあって、俺のことは皆知っている感じか?」

「名前だけはね」

 

 さっきもこのメッシュ少女は面識がないのが重要と言っていたな。

 となると、ここには面識のない連中が集まってきているのか?

 

「正邪お疲れ。大活躍だね」

「褒めないでくれ。私は命令されたからやっただけだよ」

 

 やっぱり照れている様子の正邪と呼ばれた少女。

 照れ屋で可愛い。

 

「で、今のこの状況を説明して欲しいんだけど」

「実は私もあんまり理解してないんだよね」

「え」

 

 あっけらかんと言い放つ星に肩を落としてしまう。

 今までここにくれば直ぐに全てが分かると思っていただけに、聞いても分からないと言われて肩の力が抜けてしまったのだろう。

 そんな俺を見て申し訳なさそうな表情になる星。

 

「いや、大丈夫。勝手に思い込んでいたのは俺だ」

「まぁ、状況くらいは知っているから、話してやったらいいんじゃね? 私は口下手だからパスな」

「分かりました」

 

 そこであることに気がついた。

 

「そういえば、お前の名前を聞いていなかった。そっちは俺の事を知っているみたいだけど、俺にとっては全く知らないからな」

「はぁ、この流れで聞くのかよ。ってか、忘れていたのか。まぁいいか。私は鬼人(きじん) 正邪(せいじゃ)。これで満足か?」

「ありがとう」

「じゃあ、話し始めますね」

「よろしく頼む」

 

 俺が頼むと星は現状の説明を始めた。

 そしてその説明を聞いて目を丸く見開いて驚くこととなった。

 

「現在、幻想郷が崩壊を始めています」

「はぁっ!?」

 

 幻想郷の崩壊。

 正邪からそれらしき説明は受けていたものの、実際に現在進行形で崩壊していると言われるとかなり驚いてしまった。

 未来の俺が地獄で暴れた時も幻想郷の崩壊の危機だと言われたが、あの時は直ぐに崩壊するものではなかった。

 

「……まずい状況じゃねぇか」

「そう、そしてその肝心の崩壊開始地点は博麗神社。ちょうど博麗大結界がある場所から崩壊を始めています。一日もすれば博麗神社周りは跡形もなく消し去り、一週間もすれば幻想郷の半分は消し飛ぶでしょう。なので、この計算で行くと、タイムリミットは二週間。ちょうど、今日がその最初の日です」

「あと二週間しかないのか!?」

「あぁ、そうだ。二週間で私たちは主犯を探し出し、ぶっ潰さなければいけないということだ。どうだ? いい鬼畜具合だろ?」

 

 今までの異変とは訳が違う。

 本当にこの期間に幻想郷の未来がかかっている。

 

 こんな短期間にそれだけの事ができるか? 可能なのか?

 だって、主犯の手がかりも無い。そもそも、どんな原因なのかも全く分からない。

 今動けるのはこの寺にいる人達のみ。それに加えて俺は自由に動けない。

 

「……いい鬼畜具合だな。これがゲームなんだとしたら音恩が泣いて喜びそうだ。だが、これがゲームじゃない。現実だ。本当に二週間以内に解決しないとこの幻想郷は滅びる」

「確かお前は外の世界の住人だったんだろ? なら、最悪、お前だけで逃げることも出来る。私たちに強制する権利はないんだよ」

 

 冷たく突き放している口調だが、正邪は俺の心のことを心配してくれている。

 確かに俺はさっきまで仲良かった人達に襲われてかなり精神的に来ていて、逃げ出したいとも少し思ってしまっていた。

 だけど、正邪の提案を聞いて思ったんだ。

 

 俺一人逃げてもその先にあるのはただ悲しい現実なんだって。

 

 もう、二度とこの前のようなことは起こさせない。絶対に、許してたまるかよ!

 

「大丈夫だ正邪。心配してくれてありがとうな」

「心配なんてしてねぇよ! 誰がついさっき会ったばかりの人間に感情移入するかってんだ」

「大丈夫だ。大丈夫。俺は大丈夫だ」

「あんた、自分に言い聞かせてないか?」

 

 図星だった。

 俺だってこれ以上、この異変に関わるのは怖い。でも、やらなければいけないんだ。

 大切な人を守るためにも。

 

「俺、やるよ。ただ、そんなに二週間も要らない」

「と言うと?」

「一週間だ。一週間で全て蹴りをつける」

「おぉ、大きく出たね」

 

 これくらい見栄を張って居ないとやっていられない。

 俺だって、過去一で震え上がりそうなくらいに怖いんだよ。みんなに敵対視されて、みんなと戦わなきゃ行けないなんて、俺は死ぬよりも怖い。

 

「俺はやるよ。絶対に」

「でもまぁ、このメンバーだったら出来るかもしれないですけどね」

「え、このメンバーなら?」

 

 星が言うと、どこからともなくどんどんと人が集まってきているのを感じた。

 どうやら俺が来たのを感じて建物の裏に隠れていたようだ。

 

「ようこそ、命蓮寺へ。海藤 真さん。私は住職の聖 白蓮。これからよろしくお願いします」

「あ、よろしくお願いします」

 

 白蓮が代表として挨拶する。

 この場には結構いっぱいいた様だ。

 緑髪で犬耳のようなものが生えている人、船乗りのような格好の人、藍色の頭巾を被った人、そしてその隣にいるモクモクのおっさん、ネズミと化け傘のようなものを差している人。

 

 まるでレジスタンスでも築き上げるんじゃないかって言うくらいの構成人数だ。

 

「よし、これでメンバーは揃ったわね」

 

 突然目の前に出てくる目だらけの空間。

 幾度となく見てきたこれは神もよく使っている技だけど、この妖力は間違いない。

 最近ご無沙汰だったあの人だ。

 

「久しぶりだな。紫」

「そうね。それと、幽々子も居るわよ」

「よろしく」

 

 しかし、どういうことだ?

 俺と面識があったらダメなんじゃなかったのか?

 

「失礼ね。私たちにあれ位の洗脳術が効くと思ってもらったら心外よ。もっとも、霊夢もあれを跳ね除けて欲しかったのだけどね……鍛錬をサボっていたようね。異変が終わったらおしおきしないと」

 

 どうやら紫と幽々子には効かなかったようだ。

 まぁ、幻想郷の重鎮だし、効いてしまったら困るし、敵に回ったら即ゲームオーバーだっただろうから、そりゃそうか。

 

「メンバーが集まったと言っても、いつも通りにぬえとマミゾウが居ないけどな」

「まぁ、あの二人は自由奔放だしそっとしておきましょう。特にぬえはこんな面倒ごとには絶対に協力しないだろうし」

 

 この寺にはあと二人ほどいるらしいけど、今はいないのだとか。

 

「それじゃあ、早速始めましょうか。このメンバーで、レジスダンスを」




 はい!第154話終了

 遂に命蓮寺メンバーが登場。

 紫と幽々子も参戦して強力な仲間が増えました。

 これからメンバーの能力をフル活用して、情報を探し出し、異変の主犯を一週間以内に真は倒すことが出来るのでしょうか?

 まだまだ始まったばかりの幻想郷最大の異変。これから盛りあがっていきすよ。

 それでは!

 さようなら


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第155話 一つの可能性

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 命蓮寺にやってきた真は状況を知らされる。

 そこに続々と集まってくるメンバーたち。

 遂に幻想郷を救うためのレジスタンスが始動する。



 それではどうぞ!


side真

 

「レジスタンスを始める前に前提条件を説明するわ」

 

 紫はどこからともなくホワイトボードを持ってくると、ペンで何かを描き始めた。

 

「まず、これは知っている情報だろうけど、真と面識がある人達がどんどんと敵対して行っている。霊夢や魔理沙、文、慧音などね」

 

 そうだ。その中でも慧音先生は俺と話している間に敵対してしまった。

 文が敵対していた時は絶望すら感じた。

 

「そこで考えたのは面識がある人たちが敵対するんじゃないかって。そして、この仮説が正しければ面識がない人ならば敵対する心配はないんじゃないかって。だけど、この状況はまずいかもしれないわね」

「俺たち、会ってしまったよな」

「そう、そこよ」

 

 俺たちが会ってしまったことによって面識がないという条件が満たせなくなってしまっているのだ。

 今紫が言った仮説が正しければ今この場にいる人たちはみんな俺に敵対してしまうじゃないか。

 

「だけど、大丈夫よ。慧音の時もそうだったけど、敵対するまで個人差があるみたい。だから直ぐにみんなが敵対するってわけじゃないわ。それに、ピンチになっても私達が居るわ。絶対にあなたを死なせない」

 

 ここまで紫に対して心強いと思ったことは無い。

 確かに紫が敵対しないって言うのは大きいかもしれないな。逆に敵対してたら詰んでるしな。どこに居てもスキマに引きずり込まれる。

 あれ? 紫ほどの力の持ち主なら洗脳が効かないんだとしたら神はどうなんだ?

 

 紬やシャロ、彼方。あそこら辺も紬やシャロも戦闘能力は低いけど、紬は俺を簡単に殺せる人の一人だ。呪いの出力を調整したら普通に俺にも効くようになるだろう。

 もし、神も影響を受けるんだとしたらかつてないほどのピンチだ。

 

「まぁ、正邪には見つかったら連れて来てって言っておいたからこの状況は想定内なんだけど、こんなに早く集合することになるのは想定外ね」

「じゃあ、時間は思ったより残されていない……」

「レジスタンスが崩壊するのは時間の問題ね。だから、急いでこの異変のことを調べるのよ」

 

 この洗脳が効かない紫と幽々子が指揮ってどんどんと会議を進めていく。

 

「今回の異変は実質的にお前が狙われてると言っても過言じゃねぇと思うが、なにか今まで恨みを買ってきた心当たりはねぇのかよ」

 

 正邪の言葉に俺は少し思考する。

 俺が恨みを買うような行動は特にとっていないと思うんだが……。

 まさか!

 

「みすちーか」

『いや、それはない』

 

 全員に一斉に否定されてしまった。

 まぁ、確かにみすちーの能力は驚異的ではあるが、ここまでの効力はないし、なにより恨みがあるなら直接殴ってくるタイプだ。

 ……心当たりはめっちゃあるんだけどな。屋台で焼き鳥出してるし。

 

「となると……異変の主犯たちか?」

「いい線は行っていると思うわ。誰か心当たりがあるの?」

 

 今までの異変の主犯で恨みを持っていそうな奴らは結構いるが、そのほとんどが戦いに敗北してその命を落としている。

 ライトは生きているものの、ダーク時代から心を改めているから、恨みなど持っていないだろう。

 

 未来の俺も完全に消滅したし、キルタワーの人達だって……キルタワー?

 

 そこで俺の脳裏に一つの可能性が浮かんだ。

 あいつ、あいつは生きている殺していない。

 

「……いました。一人、たった一人だけ、俺に恨みを持っていて、かつこの幻想郷にも恨みを持っていそうな人物」

「そいつはなんだ?」

「ジーラ。俺が一度争ったことのある異変の主犯です。ですが、あいつは能力を持っていなかったはず。だけど、こいつしか考えられない」

 

 能力はなかったはずだが、俺もこの世界に来て能力を発現させた。だから、あとから能力を発現させたとしてもおかしくない。

 

「なら、そいつが怪しいわね。居所に心当たりはあるかしら」

「……スノーランドにあるキルタワー。あそこがやつの本拠地。だから、そこになにか手がかりがあるかもしれない」

「じゃあ、真、正邪、私で見に行きましょう」

「え、なんで私まで」

「あなたの能力があれば色んな危機に対処できそうだからよ」

「ち、私は便利屋じゃねぇんだよ……」

 

 そうして俺達はキルタワーに紫のスキマに入って捜索しに行くことになった。

 なぜ全員で行かないのかと言うと、ほかの人たちは洗脳の効果を受けて捜索中に襲いかかってくる可能性があるのと、幽々子は紫がいない間にレジスタンスをまとめなきゃ行けないらしい。

 ならなぜ正邪を連れてきたのかと言うと、能力が強いというのもあるけど、正邪位なら敵対しても対処可能との事だった。

 なんか、ディスられているような気がして可哀想な気分になった。

 

「じゃあ、このキルタワーを隅々まで捜索するわよ」

「だがよ、この異変を起こしているって言う証拠とそいつの居場所はどうやって掴むよ」

「居場所は……こんだけ雪があるし、足跡があるんじゃないかしら」

「こんだけ雪降ってるのにか? 足跡なんてあるわけないだろ」

 

 柄に合わず紫は焦っているようだ。正常に思考が働いていない。

 いつもならそんな案は出さないはず、もうちょっと頭のいいことを言うはずなのだが、今は正邪の方が冷静に状況を分析しているようだ。

 確かに正邪の言う通りだ。この状況でどうやって証拠を掴むんだ……。

 

「そうねぇ……能力って使ったらその場所に霊力が発生する。そしてしばらく空気中に漂い続けるから、この場所で能力を使ったのだとしたら分かりやすいんだけど……」

 

 霊力か……少し探知してみるか。

 俺は霊力を探知するために周囲に感覚を研ぎ澄ませた。

 

 あれ、霊力と……これは感じ慣れた力を感じる。というか、まずい!

 

「今すぐその場から離れろ!」

「「え?」」

 

 そして俺たちはその場から飛び退くと、元俺たちのいた場所に弾幕が降ってきて地面がボコボコになってしまった。

 しかし、これはこれは、大変まずいことになった。

 この人を敵に回すのは紫を敵に回すのと同義だって忘れてたわ。

 

「無意識……紫と正邪の不意は付けたようだけど、そっちが探知できるならこっちだって探知できるんだからな、こいし」

「……躱された。やっぱり凄い。ねぇねぇ、もっともっと遊ぼ。そして死んで、真」




 はい!第155話終了

 キルタワーにもう一度やってきたのですが、その目の前にこいしが立ち塞がりました。

 果たしてどうなってしまうのでしょうか。

 最近は空気だったこの設定、無意識を持つもの同士、お互いに居場所を探知できるという設定を持ち出しました。

 紫はスキマで見つけ出してくるけど、こいしに関しては真そのものが発信機の様なものですからね。

 どうなるのでしょうか。

 それでは!

 さようなら


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第156話 無意識(ダミー)

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 今回の異変を起こしそうな可能性がある人がジーラしか居ないと思いついた真達は紫、正邪、真の三人でキルタワーへと向かった。

 だが、そこで手がかりを探すのが非常に難しいことに気がつく。

 そんな三人に襲いかかる弾幕。

 その弾幕を撃った人物の正体はこいしだった。

 真の居場所を正確に把握するこいしとの戦いが今始まる。



 それではどうぞ!


side真

 

 まさかこいしももう既に洗脳されていたなんて、この状況は不味いぞ。

 

 無意識は霊力と同じように感じ取ることが出来るが、この無意識は特殊で感じ取れる人が限られている。

 その中でも俺は同じく少しだけ無意識を操れるため、こいしの放つ無意識を感じ取ることが出来る。

 

 だが、逆に言えばそれはこいしも俺の無意識を感じ取ることが出来る。

 これは言ってしまえばこの幻想郷で一番厄介なやつが敵に回してしまったと言っても過言ではない。

 

「だが、どうしてここが分かった。地底とこのスノーランドはすごく離れているからスキマで来た俺たちに追いつけるはずが」

「無意識に頼って歩いてきたら見つけた」

 

 無意識、なんでもありすぎだろ。

 こうなると、どこに逃げても先回りされるとも考えた方が良さそうだ。

 ははっ、なんだこの無理ゲーは。

 

「おい、見つけたぞ。私たち以外の霊力の反応」

「本当か!」

 

 正邪はこいしと退治しながらも周囲の霊力を探知してくれていたようだ。

 これでジーラがやったというのが濃厚になった。

 あとはジーラがどこに行ったかということだが、まずはこの状況を打破することを考えた方が良さそうだ。

 

 こいしは一度戦ったが、めちゃくちゃ強かった。特に俺の対策は凄かった。もう一度戦いたくない相手としては上位にランクインするだろう。

 ここで逃げるというのもあるけど、紫のスキマで命蓮寺に行くというのは論外だ。直ぐに見つかってあそこが本拠地だってバレてしまう。

 ならば――

 

「紫、人里にスキマを繋げてくれ」

「え、人里に? あそこは危険なんじゃ」

 

 危険だけど、人混みで人探しは難しいだろうし、何より俺の事を知らない人がいっぱいいる。あそこほど逃げるのに最適な場所は無いとさっき行って気がついた。

 

「分かったわ。行くわよ」

 

 その瞬間、俺たちの足元が抜けて俺たちはスキマに飲み込まれた。

 その繋がった先はもちろん、俺の指定した人里、それも急に現れたとしても大丈夫な里の端。

 

 そしてさっきまでキルタワーに居たこいしはいくら無意識を使って追ってきても物理的な速度の限界がある。

 あの場所から一瞬で来れるとしても神達が文くらいなものだろう。

 

 今のうちに人混みに紛れるんだ。

 

「行こう」

 

 そう言って俺は歩き出そうとしたものの、後ろから引っ張られた。

 その手の主は正邪だった。

 

「見てみろよ、あそこ」

 

 そう言われて見てみると、そこには霊夢が居た。

 どうやら俺に関して聞き込みをしている様子。俺が少しでも顔を出したら弾幕の雨が俺たちを襲ってくるところだった。

 だが、博麗の巫女の話は警察の指名手配と同じ効力を持っている。今、不用意に人里に顔を出したら俺の事を知らない人にも取り押さえられてしまう。

 

 霊夢は頭が切れる。俺たちが人里で人混みに紛れて逃げることを予測していたのだろう。だから先回りして先手を打った。

 

 やっぱり霊夢も厄介なやつだ。

 この幻想郷には頭が切れる人が多い。俺の事を徐々に追い詰めてきているな。

 

 さて、どうしたものか。

 


 

sideこいし

 

 逃げられてしまった。

 あれは紫と正邪、あの二人が真の味方をしているなんて。となると他にも協力者は多そうだね。

 早く見つけないと。真の妻として真を断罪して私も死ぬ。

 

 無意識を使えば一瞬で見つけることが出来る。

 うん、人里にいるみたい。無意識がある以上、真は私の追跡を逃れることは出来ない。

 

 一つ問題があるとすれば移動能力がそんなに無いと言うことだ。

 

「紫という最強の移動手段があるのは辛いなぁ」

 

 だけど、私には無意識っていう強い味方がいる。

 無意識を放っている人の先回りをする。

 

 そして私は無意識状態になった。

 この状態の悪い所は道中の記憶がないからどうやってたどり着いたのか全く分からないところだ。

 

 それからどれくらい飛んだだろう。

 飛んだからだいぶ時間が短縮できた。だけど、この森に無意識を感じた。

 まさか真達が森に逃げ込むなんて思わなかった。

 

「真なら人里に行って人混みに紛れようと考えるかと思ったんだけど、こっちの方に無意識を感じるんだよね」

 

 そうして私は無意識を感じる方へと歩いていく。

 立ち止まっているようだ。こんな場所で私の追跡を振り切ることが出来たと思ったのかな?

 

 走っていくと遂に人影が見えてきた。

 そこに居たのは無意識の発信源、海藤 真だ。

 

「見つけたよ、真。今は紫が居ないようだね。もう逃げられないよ」

「そうかそうか」

 

 真は見つかったというのに慌てるでもなく、逃げるでもなく、ただ不敵な笑みを浮かべている。

 不気味だ。今まで真をずっと見てきたけど、こんな真は見たことがない。

 いやこれは真じゃない。

 

「ははは、さすが奥さんだなぁ。それが愛の力ってやつか? 一瞬で気がつくなんてな。普通なら正体が分からないはずなんだぞ」

「あなたと真じゃ圧倒的に雰囲気が違う」

「さすがぁ」

 

 すると偽物の真は負けたとでも言いたげに首を振った。

 

 その直後、真の姿がぼやけ始めた。そしてその正体が明かされる。

 やっぱり本物の真じゃなかった。その正体は――

 

「やぁやぁ、こいし。海藤 真を追いかけるよりもさ、この封獣 ぬえと遊んでくれよ。絶対にそっちの方が楽しいぞ」




 はい!第156話終了

 ぬえが登場しました。

 最初にぬえが居なかった理由はこれから明かされます。

 ただサボるためだけにぬえが居なかった訳ではなかったのです。

 それでは!

 さようなら


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第157話 真面目ないたずらっ子

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 こいしから何とか逃げた真達は人里へとやってきたものの、そこでは霊夢がなにやら里の人間に聞き込みをしている様子だった。

 人里にも居場所がなくなりつつある中、こいしは偽の無意識発信源である封獣ぬえと会っていた。



 それではどうぞ!


side真

 

 この状況は不味いな。

 こいしを何とかしないと命蓮寺に帰ることは出来ないし、ここから下手に動くと見つかってしまいそうだ。

 

 どこに逃げるのが正解なんだ……。

 

 この幻想郷には知り合いが多すぎる。どこに行っても知り合いにあってしまう可能性が存在しているだろう。

 

「……なあ真」

「なんだ?」

「そんなに心配いらねぇさ。命蓮寺にはな、どんな状況でも対応できるような人材が揃ってるんだ」

「え、それってどういう」

 

 その時、こいしの近くにもう一つの無意識の力を感じた。

 無意識を操ることが出来るのは俺とこいしだけのはず。なのに、なんで俺たち以外から無意識を感じるんだよ。

 

「な? それよりも私にいい案があるんだ」

「そ、それは?」

 

 その瞬間、正邪は徐に人里の中心へと駆け出して行った。

 

「見つけたぞ!」

「捕まえろ!」

 

 すると正邪は里の人達に追い回され始めた。

 見てみると、なんと正邪の姿が俺になっていた。そして自分の体を見てみると、正邪の姿となっていた。

 どうやら正邪は能力で俺と正邪の姿を入れ替えたようだ。

 

「あの子があんな手を取るなんてね……あの時から随分と変わったわね。じゃあ、正邪の行動を無駄にしないためにも私達も逃げましょう」

「あぁ……っ!」

 

 その瞬間、さっきまであれほど感じていたこいしの無意識が一切感じられなくなった。

 そしてその代わりに【何でもひっくり返す程度の能力】使い方が頭の中に流れてきた。

 

 どうやら能力も入れ替えたようだ。

 これによって恐らく俺が無意識を感じ取ることが出来なくなったということは俺が無意識を使えなくなったということだ。

 これならばこいしに見つかることは無い。

 

 だけど、正邪が囮になるんじゃなくて、俺を放っておいて、他のみんなだけで異変解決を目指す方が良かったんじゃないか?

 

「私はさとり妖怪じゃないけど、今あなたが考えていることが手に取るようにわかるわ。あなたは確実に必要な人、死なれたら困るのよ」

 

 この異変を受けて一番異変について調べているゆかりが言うならば俺は必要な人というのは間違いでは無いのだろう。

 正邪に全てを押し付けたような感じがしてなんだか申し訳なくなってくるものの、今は正邪に任せるしかないんだと考えて俺たちは命蓮寺に帰ることにした。

 

 スキマの中を通っている最中、紫は俺に話しかけてきた。

 

「ねぇ、真。知っているかしら。正邪は命蓮寺のメンバーではないのよ」

「え、そうだったのか?」

「うん、正邪はいつも人にイタズラばかりしてみんなに迷惑を掛けまくっているからこの機会に罪滅ぼしをして欲しいと思って無理やり連れてきたの」

 

 そうだったのか。

 俺は普段、地底で生活しているからそんなに知らないが、確かに新聞を見てみるとイタズラによって被害が、などという記事が載っていたりなどしていた。

 その犯人は正邪だったのか。

 

 だけど、今の正邪の行動を見ていたらそんな姿は想像出来ないほどに真摯にこの異変に立ち向かってくれている。

 

「イタズラっ子。だから無理やり連れてきた。だけど、今の正邪はその事に文句を言うでもなく、ただただ真面目に異変解決をしようと頑張ってくれている。昔の彼女だったら今回みたいに自分から囮になろうと思うこともなかったでしょうね」

 

 何が彼女をそうさせたのだろうか。

 確かに紫に強制連行されて拒否権など存在していなかったのかもしれない。

 だからといって今の正邪は無理やり異変解決を手伝っているとは思えない。

 

「だからこそ、今頑張っている彼女を応援してあげたい。だから彼女の頑張りを無駄にしないためにも私たちが彼女が囮になっている間になんとしてでも異変を解決してみせるのよ」

「そうだな」

 

 正邪の話を聞いて俄然やる気が出てきた。

 なんとしてでもこの異変を解決してみせる。

 

 そしてスキマを出るとそこは命蓮寺だった。

 俺たちが出てくるとみんなは一斉に俺たちへと駆け寄ってきた。

 

「おかえり。で、どう……だった……あれ? 真はどこですか?」

 

 そういえば今の俺の姿は正邪に見えているんだったな。

 ならばみんなにも説明しておく必要があるだろう。

 

「あぁ、今は――」

「真は追いかけられた時に自分で囮を買ってでたわ。真がこの作戦には必要だって言っても聞かなくてね。本当に融通が聞かなくて困るわ」

 

 俺が説明しようとしたのを割り込むような形で紫がみんなに虚偽の説明をした。

 紫の言葉は全て嘘だ。囮を買ってでたのは正邪の方だ。

 今は正邪の見た目だが、海藤 真は確かにここにいる。

 

 何を思ったのだろうと紫の方を見ると真剣そのものだったため、その場では何も口を挟まないことにした。

 その後、みんなに今日の成果を発表した。

 俺が疑っていたジーラが怪しいこと、そしてこいしが敵に着いている以上、真がこの場に来ることは出来ないこと。

 

 これだけ分かったものの、本当は何も進展しちゃいない。なにせ、ジーラの居場所は全く掴めていないのだから。

 悔しいが、今日はここまでとなって今日は命蓮寺で寝泊まりすることになった。レジスタンスのメンバーは皆命蓮寺で寝泊まりする。異変が解決されるその時まで俺たちは一心同体ということだ。

 

 そして夜、何となく廊下を歩いていると縁側で月を眺めながら酒を飲んでいる紫を発見した。

 そうだ、さっきの嘘をついた真意を聞いてみることにしよう。

 

「なぁ、紫」

「なにかしら?」

「さっき嘘をついたよな。なんでだ? みんなは仲間だろう?」

「……そうねぇ、この場にいる人たちは私と幽々子を除いた人達はみんなあなたに敵対する可能性を秘めている。敵対した時にあなたの正体がバレていたら一環の終わりよ。正邪のことを真だと思っててもらった方がいい。ただそれだけよ」

 

 紫はそんなことまで考えての行動だったのか。俺は全くその事に気が付かなかった。

 だけど、言われてみればそうだ。この状況ほど都合のいいものは無い。今、さとりに合わない限り、俺は他の人には鬼人 正邪に見えている。

 俺が直ぐに見つかる可能性は低いだろう。

 

「じゃあ、そういう訳だからあなたは早く寝なさい。明日も早いのよ」

「あぁ、そうさせてもらう。紫も無理をしないで早く寝ろよ」

「分かったわ」

 

 こうして俺も眠りにつくことになった。

 早く異変を解決しないと。




 はい!第157話終了

 幻想郷崩壊まであと13日

 地味にまだ一日目だったんですよね。

 今回の一日目はかなり濃い内容だったので、ここまで長くなりましたが、二日目以降は一日目程長くはならないと思います。

 それでは!

 さようなら


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第158話 いざ、聞き込みへ

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 正邪が真と体を入れ替えて囮を買ってでた。

 そして真は正邪として異変の調査をすることに。

 果たしてこれからどうなってしまうのか。

 真、そして正邪の運命は?



 それではどうぞ!


side真

 

 次の日、俺と紫、幽々子は人里に来ていた。

 

「人里ならそのジーラとかいうやつの情報が聞けるかもしれないわね」

「でも、あいつは用心深いからな」

 

 俺と紫が話していると幽々子がまじまじと俺を見つめてきた。

 ちなみに幽々子はこの異変の影響を受けないので、俺と正邪の中身が入れ替わっていることは今朝伝えておいた。

 それで、今日は幽々子にも手伝ってもらうことにしたのだ。

 

 正邪の為にもなりふり構っている場合じゃなくなった。

 今は人手が多ければ多いほどいい。

 

 他のみんなには別の場所を探してもらっている。

 

「それにしてもあなたが正邪って違和感がないわね。元々あの子が男勝りなところがあるからかしら」

「それに正邪が囮を自分で買ってでるっていうのも驚きね」

 

 どうやら俺が正邪の姿だとしても違和感がないからまじまじと見てきていたようだ。

 俺としては女性と入れ替わって違和感がないと言われるのは少し不服だが、今は丁度いい。正邪だと勘違いしていてくれた方が都合がいいって言うものだ。

 俺と正邪が入れ替わっていると知っている二人が違和感がないと言っているのだ。間違いはないだろう。

 

「それじゃ、どんどんと聞いていきましょう」

 

 そして俺たちは聞き込みを始めた。

 俺はできるだけ覚えているジーラの身体的特徴を伝えて住民たちに見ていないか聞く。

 

 だが、ジーラはやはり用心深く、ジーラの姿を見ている人は全然いない。

 やはりやつはこうして俺たちが聞き込みをすることを考えて人の多いところには行っていないのだろう。

 

 だが、それはそれで好都合だ。

 

「全然情報が出ないわね」

「これじゃどこに行ったのか全くわからないわぁ……」

「……いや、最高の情報を得ましたよ」

「「え?」」

 

 人里には一切顔を出していない。恐らく人の多いところを嫌ったのだろう。

 となると、やつは人気の多いところには行っていない可能性は高い。そうなると、妖怪の山や地底などには言っていない可能性が高い。

 あそこは人間こそ少ないものの、妖怪が多い。それに俺たちの顔見知りも多い。見られたらいっかんのおわりだ。

 

「魔法の森だ」

「え?」

「あそこには魔理沙とアリスがいるけど、魔理沙なら直ぐに俺を殺しにくるため、不在になる。そしてアリスは家で人形を作っていることが多い。……それに身を隠すことが出来る」

「確かにあそこなら身を隠すのに最適ね」

 

 だが、もし本当にあそこに隠れているのだとしたら厄介だ。

 もちろん探しにくいって言うのはあるけども、何よりもアリスがそこにいる事だ。

 

 アリスの実力は知らないけど、前に魔理沙から強いって聞いたことがある。

 アリスとのエンカウントは避けたい。

 

「アリスの存在がなぁ……」

「あら、私の存在がなんだって?」

 

 後ろから声が聞こえてきた。

 この声、嫌な予感がする。俺はあんまり話したことがないんだけど、この冷たい声、怒っている人の声だ。

 

「あ、アリスさんですか?」

「そうね」

 

 ギギギと機械のようにゆっくりと振り返ると、そこには金髪の女性がいた。間違いない、アリス・マーガトロイドだ。

 左右に人形が浮いていて、少しでも返答を間違えたらその人形に攻撃されるような気がする。

 

「で、天邪鬼がどうして人里にいるのかしら」

「…………」

 

 これは正邪への怒り? あいつ、アリスに何をしたんだよ……。

 だが、そうなったら正邪の姿だからといって安心して動き回ることは出来ないな……本当に何をしてくれているんだ……。

 

「ねぇ、真。ここにアリスがいるって言うことは、魔法の森には」

「……そうか!」

 

 確かに魔理沙は俺の事を探し回っているだろうし、アリスもいないとなると、今だったら魔法の森に行ける。

 どうやらアリスは俺に夢中で紫の存在に気がついていない。今なら行ける。

 

「ふ、悪いなアリス。今は構っている暇はないんだ」

「いいから答えなさい」

「答えろ? ふ、嫌だね。私は天邪鬼だから」

「ちょ、待ちなさい!」

 

 アリスの静止を無視して走り出し、その先に突如としてスキマが開く。どうやら紫も俺の考えがわかって行動してくれていたようだ。

 そして俺はそのままスキマの中に飛び込むと、その直後にスキマがしまった為、アリスの追跡を振り切ることが出来た。

 

「ナイス紫」

「それにしても、さっきのあなたのセリフ。ノリノリで正邪をやっていたわね」

「あそこはああしたほうがいいと思っただけだ。だけど、そんなに正邪に似ていたのか?」

「そうね。正邪の憎たらしさがよく再現されていたわ」

 

 これで良かったのか……。本当にあいつ、何をしているんだよ。

 さっきまで正邪への評価が高かったんだけど、この一件でかなり低くなってしまった。

 

「はぁ……お腹すいたわぁ……妖夢のご飯が食べたい」

「帰らないのか?」

「妖夢、この間からずっと真を探すために出ていって帰ってきてくれないのよ」

 

 妖夢が帰らないなんてありえない。何があっても幽々子のことを優先するはずなんだけど。

 となると、この異変は思った以上に深刻なようだ。

 どんなことよりも俺を殺すことを最優先にする洗脳?

 

 いや、ただの洗脳だったら霊夢がかかるのか?

 本当によく分からない。

 

「もうすぐで魔法の森に着くわ。急いで捜索するわよ」

「わかった」

 

 みんな、元に戻してやるからな。




 はい!第158話終了

 真がアリスと対面した描写って地味に初めてじゃないですか?

 そして次回、魔法の森に行きます。

 正邪、そしてこいし達の方も出来たら進めたいと思います。

 それでは!

 さようなら


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第159話 異質な霊力

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 人里へ情報を集めに来た真たち、だが人里にジーラの情報を持っている人は誰一人としていなかった。

 だが、その事によってジーラは人の多いところを避けているのではないかという結論に至った真たちはアリスを撒いて魔法の森へと向かうのだった。



 それではどうぞ!


side正邪

 

「はぁ……なんであんなことをしたんだろうな」

 

 私は一人になってからそう呟いていた。

 真は中々に身体能力が高かったおかげか、直ぐに人里の奴らを撒くことは出来た。

 しかし、これからどうするべきか……。

 

 ここで私が命蓮寺に帰ったらこいしに見つかってアウトだ。そして合流しても同じこと。こいしの追跡を振り切るには私が囮となってできるだけ遠くに逃げるしかない。

 

「はぁ……なんだか面倒なことになっちまったな」

 

 あれは私がいつも通りにイタズラをしようとしていた時、突然スキマに引きずり込まれ、気がついたら命蓮寺の前に立っていた。

 そして急に幻想郷の危機だとか言われても、私には何が何だかわからなかった。

 だけど、一つ分かるのはこのままだと幻想郷が崩壊してしまうということだけ。私もこの幻想郷は気に入っているから無くなるのは嫌だった。だから協力するだけ、ここまでする義理はなかったはずなんだけどな。

 

「さて、早くどこか遠くへと行くか」

 

 その瞬間の事だった。

 急に真後ろから魔力が迫ってくるのを感じた。これは人の魔力ではない、技だ。

 

 その事を察した瞬間、私は地面を蹴って回避した。

 その次の瞬間に、背後が大爆発をして爆風によって私は少し飛ばされてしまう。

 

「まさか、いきなり厄介なやつに見つかるなんてな……。霧雨 魔理沙」

「真、お願いだ。この世界のために死んでくれ……頼む」

 

 魔理沙は懇願してきている。

 私……いや、真を殺そうとしてきているのはそうだけど、悲しそうに涙を流しながら頼み込んできている。本当は魔理沙はこんなことはしたくないんだろう。

 これは完全に洗脳するわけじゃなく、人格はそのままに何らかの思考を植え付けている? 真を殺さなくちゃいけない理由が新たに植え付けられたと考えた方がいいのか。

 

「なるほどな……なんとなくこの異変の真相が、そしてこの洗脳能力の真相が見えてきた」

「何をブツブツと言っているんだ。頼むから死んでくれよ! お願いだ……」

 

 魔理沙はまたミニ八卦炉を構えて私にマスタースパークを撃とうとしてくる。

 確か真の能力は聞いたところだと【致命傷を受けない程度の能力】だ。だから何回かは受けても大丈夫だろうけど、流石に受けすぎたら死んでしまう。

 その前に、私はそんなに何回も死ぬほどの攻撃を受け続けたら精神力が持たない。

 

「なぁ、見逃してくれないか?」

「逃がすと思うか?」

「だよなぁ……」

 

 魔理沙の追跡からそう簡単に逃げられるとは思えないしなぁ……どうしたものか……。

 そういえば【無意識を操る程度の能力】を少し使えるって言っていたな。なら、これが逃げ切る鍵になるかもしれないな。

 

「あ、あそこにUFO!」

「なんだぜ?」

 

 今どきこんな言葉に引っかかる奴がいるのかと思っていたが、魔理沙はしっかりと私の指さした方向を向いてくれた。

 その隙に私は【無意識を操る程度の能力】を発動した。

 しかし、これはかなりリスクがある。なにせ、こいしに自分の居場所を伝えるようなものなのだから。

 

 だけど、ここでやられるよりはマシだ。

 

「あれ? どこいった?」

 

 私の作戦通りに私の存在を認識できなくなったみたいだ。

 この隙に逃げるか。

 

 そして私は走り出した。

 魔理沙の前から姿を消し、少し走ったところで事件が起きた。

 

「ねぇ、待ってよ」

「……不味いな」

 

 不味いことになった。

 無意識状態を認識できる人は一人しかいないからな。

 


 

side真

 

「魔法の森に着いたわ」

 

 スキマから出てくると、そこは木々が生い茂っている森だった。

 なにか普通の森と違う気配がする。

 あまりこの場所に来たことは無いんだが、かなり最悪な環境だ。化け物だけの放つ胞子が空気中を舞っている。

 

 妖怪の俺達には問題は無いだろうが、普通の人間にとっては最悪と言えるだろう。長く滞在していたら体調を崩してしまいそうだ。

 

「相変わらずここは瘴気が凄いわね」

「ジーラってやつは人間なんでしょ? こんな場所に耐えられるのかしら」

「あいつは大丈夫だ。あれだけの霊力を持っていたら瘴気を浴びても平気なはずだ」

 

 それに、この森からものすごい霊力を感じる。

 ここにやつが居なかったとしても、何かがある。その事を確信するのは容易だった。

 

「さて、とりあえず捜索してみましょう」

「そうね」

 

 紫と幽々子は早速歩き始めたが、俺はずっと考え続けていた。

 この場所に来てからずっとジーラの霊力を探っていたんだが、それに近いものはここにあるものの全くこの場所からはジーラそのものの霊力が感じられないという事だ。

 

 確実にこの場所にジーラは居た。だが、それが感じられないってことはこの場所には居ないのか?

 

 だとしたらこの霊力はなんだ? この場所でも能力を使ったというのか?

 だが、スノーランドで感じた霊力とは違う。ジーラが能力を使ったが故の霊力じゃない。

 

「……確実にこの場所には何かがある。それを探さないと今回のこの異変の真相には辿り着けなさそうだ」

 

 ただがむしゃらに捜索していても何も得ることは出来ないだろう。

 俺は目を凝らして隅々まで見てみるとするか。




 はい!第160話終了

 正邪の元にある人物が来ました。

 これに関しては誰もがわかっていると思います。

 そして魔法の森の異質な霊力の存在は?

 それでは!

 さようなら


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第160話 必要不可欠な存在

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 真たちを逃がすために囮となった正邪の目の前に魔理沙が現れた。

 魔理沙は真を殺すつもりで正邪に襲いかかる。

 だが、正邪は魔理沙の隙を突いて無意識を操る程度の能力を発動、魔理沙を撒くことに成功したのだが、無意識状態の真を認識することが出来る人物が――

 一方、真達は魔法の森へと来ていた。

 そこで真はジーラの霊力は感じられないものの、それに近いような異質な霊力を感じ取る。

 この霊力の正体は?



 それではどうぞ!


side真

 

 とりあえず俺はこの霊力の発信源を探そうと考えた。だが、その考えはすぐに取り払った。

 

 この森には元々、魔力が漂っている。そんな所に霊力が混ざっているものだから、上手く霊力だけを感じ取って場所を探るなんて砂漠の中で一本の針を探すようなものだ。

 そんな所業はいくら時間があっても足りない。

 だが、だからといって闇雲に探索してもこの謎が溶けるとは思えない。

 

 だから俺は地面に手を付けた。そしてその状態で妖力を流す。

 

 なんか霊力を使った痕跡があるとこうして流すことによって探知することが出来る。

 この霊力は確実に何かをした後の霊力だ。ここにいないとしても何か情報を掴むことが出来るかもしれない。

 

 しかし、体が違うので妖力を操る感覚が違って難しい。

 

 妖力を流し始めるとこの森の霊力の通り道が徐々にわかってきた。どうやらこの森の奥深くに霊力が繋がっていて、そこで霊力が留まっている。

 だが、どうやらそこにジーラがいるって言う訳では無いらしい。

 

 多方、能力を使った状態でそこまで言って能力を解除したとかだろう。

 だが、どうにも怪しい。

 ここまでの大異変を起こせるのだとしたら空間移動くらいできても何も驚くことは無い。

 

「あー、面倒だな」

 

 もし空間移動ができるんだとしたらかなり面倒なことになる。

 空間移動をされたら捜索が困難になってしまう。

 

 俺は空間移動なんて出来ないからな。

 神ならばみんなスキマを使えるんだが、俺は神ではないからな。今のところ死ぬ気もないし、神になる予定は無い。

 

 となると神に協力してもらうのが一番いいんだけど、シャロも彼方も最近は全然見ていない。

 いつもは普通に俺の周りに何もしなくても集まってくるんだけど……あいつらも何か調べているのか?

 

「ねぇ、真。なにか見つかったかしら」

 

 そこで戻ってきた紫が俺の行動を見て聞いてきた。

 

「そうだな……この森の奥深くにジーラのものと思われる霊力が向かって行っていて、そこで途切れている感じだな」

「なるほど、じゃあそこが怪しいわね」

「だけど、そのあとどうしたのかが全くわからない。別の空間に行ったんだとしたらシャロの協力が必要不可欠になる」

「そうね。そこら辺は詳しい時空神に聞くのが一番いいけど、シャロっていつも真の近くにいなかった?」

「そうなんだけど、いないんだよな」

 

 いつものならばすぐに協力を仰いでいる。

 特にシャロだったらすこし煽てるとすぐに協力してくれるから扱いやすいのだが、今居ないというのが気がかりだ。

 

 その時のことだった。

 こっちの方へと霊力が近づいてくるのを感じた。それも俺がよく知っている霊力。

 

 こいつがもし敵になったんだとしたら俺たちはかなり厳しい戦いを強いられることになる。

 お前はどうなんだ――

 

「なんか妙な妖力を流していると思ったらお前だったのか、真」

 

 ライト……俺とほぼ同じ力を持っている、俺にとって一番やりにくい相手だ。

 

「違う。私は鬼神正邪だ」

「はぁ……なんか体が入れ替わっているが、行動は真そのものだ。俺が騙されると思うか?」

 

 そう、さとり以外に俺と正邪が入れ替わっていることに気づく可能性がある人物。

 俺から作られたクローンだからこそわかるんだろう。

 

「で、お前はどっちなんだ? 敵なのか味方なのか」

「敵だといったらどうする?」

 

 ライトがそういった瞬間、俺と紫はいつでも戦えるように身構えた。

 そんな俺たちを見て滑稽そうに笑うライト。

 

「俺は敵じゃない。恐らく俺はクローンだから洗脳が聞かなかったんだろうな」

「そっか、普通の生物じゃないもんな」

 

 紫や幽々子のように実力によって洗脳を無効化するもの、そして体質的に洗脳が無効化される人と二種類いるのか。

 

「で、どうしてライトはここに来たんだ?」

「俺もこの幻想郷は気に入ってるからな。幻想郷が崩壊するのは止めたいんだ。で、この今の状況はなんだ? ものすごい変な霊力が漂っているようだが……不完全なクレアみたいな霊力だぞ」

「不完全なクレア?」

 

 言われて再度霊力を確かめてみると、言われてみれば確かにクレアに近いけど、近いというだけでクレアじゃない霊力のようだ。

 

「となるとあいつ、めちゃくちゃ強くなってるな」

「だが、こいつがクレアを完成させることはない」

「どうしてだ? こいつの霊力を感じ取ってみてわかった。こいつはクレアの才能がない。普通の技とかなら修行すればいいが、クレアまで来ると、これは才能の世界だ。才能がなければどれ程努力をしてもクレアを会得することはできない」

 

 ライトのやつ、霊力を感じただけで相手の才能を感じとることができるってかなりすごい力だな。

 だけど、クレアが使えないと言ってもクレアらしい力を使っているのは確かだ。

 

「で、恐らくこいつは空間を移動する力を持っている。シャロの協力が必要不可欠だな」

「やっぱりそうだよな」

「まずはシャロを探すことを優先しよう」

 

 紫も空間を移動できるけど、この期間で探すとしたらシャロが居ないと不可能だ。

 ならばシャロをなんとしてでも探し出さないと……。




 はい!第160話終了

 ちょっと最近リアルの方が忙しいので、もしかしたらこれから投稿できない週って言うのが出てくるかもしれません。

 その事についての報告はTwitterの方でやっていますのでTwitterをフォローして報告がないかチェックしてください。

 それでは!

 さようなら


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第161話 やっと見つけたよ

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 迷いの森に来た真達は謎の霊力の謎を追うために探索をする。

 真は森に霊力を放ってみることによって霊力の流れを見つけるものの、そこで途切れておりジーラの行方は掴めなかった。

 そこにライトがやって来る。

 そしてジーラを探すために真達はまずシャロを探してみることにしたのだった。


side真

 

「結局シャロ様は見つからなかったわね」

「まぁ、あいつは神出鬼没だからな」

 

 あいつはもともと神出鬼没で居るときもあれば居ないときもあるいつも突然に現れていつのまにか居なくなっていた。

 だけど、いつもは「来てくれないと友達をやめる」と言うとすぐに出てくるのだが、今日は言っても返ってきたのは静寂のみだった。

 

「しかたない。今日はもう夜になる。期限が近いとはいえ、夜に動くのは危険だ。夜は夜行性の妖怪も動き出すし、強い妖怪も多いからな」

 

 もっと調べたいことは山ほどあるが今日はもう変えることにしよう。

 そう考えて俺たちは命蓮寺に紫のスキマで帰った。

 

 スキマから出るとなんだか違和感を感じた。

 

「ねえ紫」

「……危惧していたことが起こったかもしれないわね」

 

 紫達が危惧していたこと、俺はさとり妖怪じゃないので、心は読めないが何となく起きていることはわかった。

 なぜならあまりにも静かすぎるからだ。

 ここから霊力も妖力も何も感じない。出てくる前に留守を頼んだのに誰一人として居ないこの状況はかなりおかしい。

 

「……もしかしたらもうみんなも洗脳の餌食に?」

「関わりの傾向的に関わりの多い人から洗脳されて行って、関わりの無いひとは洗脳にかからない。だけど、みんなは昨日一日だけど関わったから関わりが深くなってしまったんじゃないかしら」

 

 もしそうなのだとしたら、動けるのは俺たちとライトだけって言うことになってしまう。それは不味い。

 だけど、誰一人として居なくなっているって言うのは不可解だ。なにせ、白蓮位はみんなが行くからって残りそうなものだ。

 寺を開けるのはあんまりよくないからな。

 

 ってことは他に何かあった可能性も考えられる。

 ただひとつ言えることは俺たちの居ない間にこの命蓮寺に何かがあったと言うことだ。

 

「この命蓮寺が使えなくなったんだとしたら、次はどうすればいいんだ」

「そうねぇ……もうちょっと位は大丈夫かと思ったんだけど……」

「……ちょっと待て、正邪はどうなんだ? 俺の体と入れ替わってるんだから俺を殺すために自殺とか……」

 

 この今の状況で一番気になるのは正邪のことだ。

 正邪は俺と入れ替わっているせいでかなりややこしい事になっている。

 それに正邪はこいしから狙われることになるだろう。心配だ。

 

「ねぇ、真。誰かがこっちに歩いてきてるわ」

「え?」

 

 俺は幽々子の声によって人の接近に気がついた。

 二つの妖力を感じる。そしてもう片方からは無意識を感じる。

 偶然ここに来たとは思えない。どうやらここが俺たちのアジトだと気がついたようだ。

 

「こいし……」

「真、やっと見つけたよ」

 

 そこに現れたのはやはりこいしだった。

 しかも、今俺は正邪の姿になっている。だから俺と正邪が入れ替わってることを知らない人は俺を真だと判別できるはずがない。

 だと言うのにこいしは今、しっかりと俺を見て真と呼んだ。

 

 バレている。

 何故? もしかしてもう既に正邪は襲われてしまったのか?

 

「く、やるしかないのか」

「こいし、厄介な相手ね」

「真だけは逃がすわよ」

 

 俺たちは身構える。

 昨日とは違っていきなり攻撃はしてこないけど、いつ襲いかかってくるか分からない。

 警戒しておくに越したことはない。

 

「あぁ、警戒しなくて大丈夫だぞ」

「え?」

 

 するともう一つの妖力の持ち主が俺たちの目の前に現れた。

 こいつは誰なんだ。どうしてこいしと一緒に行動しているんだ。

 

「あなた、この戦いには参加しないんじゃなかったの?」

「面倒な予感がしたからな。だけど流石に動かないとマズいと思っただけだ」

 

 なんか紫と幽々子は知っているようだ。

 この中でこの人のことを知らないのは俺だけのようだ。

 

「しっかし、本当に正邪になってるな。あいつがこんなことをするなんてな……」

「えっと、誰なんだ?」

「こいつは封獣 ぬえよ。ちょっと厄介なやつ」

 

 そう言えば名前は聞いた。最初に対面した際にぬえって人物とマミゾウって人物が居ないって言っていたな。

 その片割れがこの人なのか。

 もしかして裏で行動してくれていたって言うことなのか? でも、どうして俺たちの前に出てこなかったんだ?

 

「で、なんでこいしと一緒なのかしら」

「私はぬえのお陰で目が覚めたの」

「ん? 目が覚めた?」

「ぬえは最初、真に変身して目の前に現れたの。そしてぬえに諭された。お前は本当にそれでいいのかって。そしたら急に頭の中のモヤモヤが晴れた気がして、そしてこの世界がおかしくなってるって気がついたの。今はもう真の味方」

 

 どういう事だ。そんな簡単にこの洗脳は解けるもんなのか?

 いや、そんな簡単な物じゃない。

 この世界に起こっている異変はそんな簡単なものでは無い。こんな簡単に洗脳が解けるなら苦労はしない。

 

「お前、こいしのことを幸せにしてやれよ」

「? もちろんそのつもりだが」

「ちょっと! 何言ってるの!」

 

 ぬえは何故いきなりこんなことを言ってきたのか分からない。

 俺が混乱しているとこいしがぬえを追い回しているのが目に入った。

 なんでそんなにこいしが怒っているのかは分からないけど、とりあえずこいしの件は一件落着したってことだな。




 はい!第161話終了

 こいしが正気に戻りました。

 ですが、まだまだ戦いは続きます。

 それでは!

 さようなら


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第162話 助けたい

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 命蓮寺に帰ると誰一人としていなくなっていた、そこへぬえとこいしがやってくる。

 すると二人は真たちにこいしの洗脳が解けたことを伝えた。

 どういう原理なのかは分からないけども、どうやらこいしの洗脳は解けたようだ。

 果たして、ここからどうなって行くのか?



 それではどうぞ!


side真

 

 とりあえず俺たちは今後についての作戦を決めることにした。

 

「っと、その前に、なんで俺が正邪じゃなくて真だって分かったんだ?」

「あぁ、こいしの目を覚まさせたあと、私たちは(正邪)の元へ向かったんだ。そこで聞いたよ」

 

 なるほど、正邪から聞いたのか。なら正邪はまだ無事なのか。

 次会った時にでも体を返してもらうことにしよう。体を交換した理由っていうのは囮って言うのもあるけど、こいしの追跡を振り切るためのものだ。

 こいしが元に戻った今、正邪と入れ替わっている必要は無いだろう。

 

「じゃあ、作戦会議を始めるわよ」

「とりあえず霊夢達の動向を監視したいわよね~。敵の居場所をつかむことほど有利なことはないものの」

 

 確かに、霊夢達がどこにいるか全くわからない状況では動きようがない。

 ここは是が非でも霊夢達の動向を知る手段がほしい。

 

「ねぇ、こいし。行けるかしら?」

「どういうこと?」

「こいしが霊夢達と行動をして、こっちに無意識を送る。するとそれを真が関知するってことだろ? それは無理だろ」

「どうしてかしら?」

「だって、今の真は真じゃねぇから」

 

 ぬえのその一言で辺りが静寂に包まれた。

 そうだ。今の俺は正邪だ。体入れ替わり、能力も入れ替わった。だから無意識を感じとることができないのだ。

 だからこいしの接近にも気がつくのに遅れてしまった。

 

「じゃあ、まずは正邪と合流することを目標にするか」

「正邪の居場所は……今は魔法の森にいるみたい」

 

 なるほど、入れ違いになってしまったのか。

 確かにあそこなら休息するのにはちょうどいい。あそこは胞子が飛び交っているから普通の人は滅多に近寄らないからな。

 ただ、あそこには魔理沙とアリスっていう強い人たちがいる可能性があるからな。普通の人が近寄らないってだけで、エンカウント率は低いけどエンカウントしたら高確率で強い人だから気を付けないといけない。

 

 昨日はたまたまアリスが人里へやって来てくれていたからよかったけど。

 今日も人里にいるとは限らない。アリスが敵対してしまう可能性も考慮しておこう。

 

 そして俺たちは再度魔法の森へと向かった。

 


 

sideこいし

 

 時間は遡り、こいしとぬえ対面。

 

「やぁやぁ、こいし。海藤 真を追いかけるよりもさ、この封獣 ぬえと遊んでくれよ。絶対にそっちの方が楽しいぞ」

「ぬえ……どうして真のふりをしたの?」

「あんたをおびき寄せるためだよ。その……真? のもとに行かせないっていうのが私の計画だよ」

 

 真のもとに私を行かせない? つまり、真を殺すことを邪魔しようとしたって言うこと?

 ぬえは真を守ろうとした? 真を守ろうとする者はみんな敵だ。

 

「そうなの? まぁ、久しぶりだよね、ぬえ」

「そうだね」

「ねぇ、久しぶりに私と遊ぼう(殺し合おう)よ」

 

 私はおもむろに飛び上がるとぬえに向かって段幕を放ち始めた。

 しかし、ぬえはその全てを軽々と回避していく。

 ぬえは私からの弾幕を回避するのみで、全くもって反撃してくる気配はない。

 

「いきなり攻撃してくるなんてね……実にあんたらしいね」

「なんで攻撃されっぱなしなのよ!」

「ん? それはどういう意味さ……。それに今のあんたには反撃する必要は無いからね」

「どういうこと?」

 

 私は思わず攻撃の手を止めてしまった。

 全くぬえの言葉の意味が分からなかった。

 ぬえと私は敵同士、攻撃しない理由などないのに、ぬえは攻撃をしないと言い放ったのだ。

 

「だって、こいし。あんたは今のその状況でも真のことが好きでしょ?」

「え、う、うん。好きだけど……だから殺す。間違いが起きる前に」

 

 どうしてかは分からないけど、私の中にある真をこのまま生かしておいたら幻想郷が大変なことにあるって言う考えが私を支配していた。

 どういうふうに大変なことになるのかは分からないけど、私が止めないと……大好きな人だから、私が殺してあげたい。

 

「ねぇ、こいし。こんな話があったらどう思う?」

「こんなって?」

「真を殺したら世界は終わりを迎えると思うよ」

「え? それってどういう……」

「今、こいしたちは簡単に言ったら洗脳されているんだよ。真を殺すようにな」

「そ、そんなことは……」

 

 その瞬間、頭にものすごい激痛が走った。今までに感じたことの無いほどの激痛で、思わず蹲ってしさう。

 なに、これ……なにか私の中で黒い何かが渦巻いている。

 思考がどんどんと停止していく。何も考えられなくなる。

 

「こいし! お前の愛はそんなものなのか! 真は今、この幻想郷を救うためにお前たちのために戦っている! そんな時にお前が助けになってやらなくてどうする! 今、真は味方が少なくて肩身が狭い思いをしている。そんな時に一番心の支えになるのは誰なのか、よく考えてみろ。もう一度言う。お前の愛はそんなものなのか! 古明地 こいし」

「私の……愛?」

 

 その瞬間だった。

 私の思考は段々と戻ってきてどんどんとひとつの考えが強くなってくる。

 このぬえのの言葉の真偽は分からない。だけど、自分の都合のいいことは信じたくなってしまうのが当たり前なんじゃないかな。

 だから、私はこのぬえの言葉を信じたい。

 

 ――私は真を助けたい!




 はい!第162話終了

 はい、こいしとぬえが仲間に加わり、再び魔法の森へと行くことになりましたね。まぁ、今回は聖者を探すためですけど。

 それでは!

 さようなら


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第163話 俺は天邪鬼だからな

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 こいしが仲間に加わり、戦略の幅が広がり、正邪が真のふりをする必要がなくなった。

 真達はその事を正邪に伝え、体をもとに戻すため、正邪のもとへと向かうのだった。

 魔法の森再び。



 それではどうぞ!


side真

 

 紫のスキマで俺たちは魔法の森へと戻ってきた。

 ここに正邪がいると言うのだが、俺たちは正確な場所をつかむことができないので、こいしに道案内をしてもらうことになった。

 

「ふんふんふーん」

「こいし、随分とご機嫌だな」

「だって、今までずっと真に助けらればかりだったからやっと私でも役に立ててるんだなと思うと嬉しくて」

 

 こいしはどうやら俺の役に立てているから機嫌がいいらしい。だが、本人は俺に助けられてばかりだと言っているが、俺にとってはこいしには何度も助けられている。

 むしろ、俺はこいし無しにはここまで戦っては来なかったと言っても過言ではない。

 俺の方が礼を言いたいくらいだ。

 

「そういえばこいし、最近は無意識に能力を発動するって言うことが少なくなったわね」

 

 俺はこいしの無意識を感じ取って認識することができるから分からないが、こいしは無意識に能力を発動してたまに誰にも認識されなくなったり、フラ〜っとどこかへ行ってしまったりしていたらしい。

 

「なんかね、真の近くにいると能力が落ち着いているんだよね」

「似たような能力を持っているからかしら?」

「相乗効果で安定しているのかもしれないわね」

 

 幽々子と紫はそう仮説を立てたものの、俺は全く別の可能性を考えていた。

 少し前の話になるが、さとり妖怪の力を引き出して覚醒した後、さとり妖怪の力はもう使えなくなったものの、その代わり無意識の力が強くなったように感じた。

 そのため、前までは弱すぎてなかなか扱えなかったんだが、今はかなり使えるようになっていた。だから正邪も初めてで俺の無意識を操ることが出来たんだろう。

 

 で、代わりにこいしの無意識の力が弱くなっている気がする。だからこそ今のこいしは自分の無意識を操ることが出来ているんだろう。

 

 つまり、俺がこいしの無意識の力を少しずつではあるが奪って行っていると考えるのが自然だな。

 

「あ、居た」

 

 突然こいしが立ち止まってそんな声を上げたと思ったら、目の前を見るとそこには俺がいた。

 正確に言うと俺の姿をした正邪が居た。しかもかなりボロボロでぐったりとしている。

 

 体には傷跡はあまりないが、かなりのダメージを食らってしまって、体は無事でも中身の正邪が耐えきれなかったのかもしれない。

 そう考えて俺たちは急いで正邪のもとへと向かった。

 

「し、真……」

 

 声も弱々しい。相当参ってしまっているようだ。

 隣を見るとこいしが少し頬を赤らめているのが見えた。

 

「こんなに弱々しい真、初めて見た。可愛い。今なら私を頼ってくれるかな」

「お前、サイコパスの素質があるな」

 

 こいしは弱々しい俺を見てゾクゾクしてしまったようだ。何だかこの姿を見てしまったせいで新しい世界の扉を開きかけてしまったのだろう。

 そんな扉、一生閉めてろ!

 

 って、そんな話をしている場合じゃないんだよ!

 

「ど、どうしたんだ。何があったんだ?」

「……魔理沙が襲いかかってきた」

「っ!?」

 

 確かにここは魔法の森。

 魔理沙がこの森に住んでいるのだから魔理沙が出てきてもなんの不思議もない。

 だが、そうか……魔理沙に襲われたら一溜りもないよな。

 

 正邪は俺たちのためにずっと逃げ続けてくれたんだ。ならば今度は俺たちの番だ。

 

「もう元に戻そう」

「え?」

「俺の体に入っているとろくな事にならないだろ? 今元に戻すからな」

 

 そう言って能力を発動させようとしたその時、正邪はいきなり立ち上がると俺から距離を取った。あそこじゃ能力開発届かない。

 何を考えているんだ。

 

「元に戻るのは断るね。私、天邪鬼だから魔理沙の注意は引き付けすせてもらうよ」

「なっ!」

 

 そう言うと正邪は走って行ってしまう。

 なんて強情なやつだ。このまま鬼ごっこを続けていても何にもいいことなんてないってのに……。

 

 俺は何度も正邪に救われてきた。

 文の時も、慧音先生の時も、人里から逃げる時も……だけど俺は何一つとしてあいつにしてやれていない。

 その時、猛スピードで俺の頭上を何かが通った。

 

 速すぎてよく見えない。だけど、何となくその正体は分かった。

 魔理沙が正邪を追っていったのだ。このままじゃ幾ら俺の能力があるからって精神的にも肉体的にも魔理沙に殺されてしまう。

 

 そんなのは俺が許さない。

 

「っ!」

「真っ!」

 

 俺は気がついたら駆け出していた。

 後ろからこいしの声が聞こえた気がするが、そんなことを気にしている余裕は俺にはない。

 

 俺は無我夢中で走り続ける。だが、俺の今のスピードでは一切追いつくことができない。

 魔理沙も正邪の速さも今の俺よりも圧倒的に速いのだ。

 

 悔しい。やっぱり俺の力では守ることはできないのか?

 その時、突如として地面に穴が開いて俺は落下してしまった。

 見てみるとその穴というのはおそらく紫が作り出したスキマだ。俺の事を見かねてやってくれたのだろう。

 

 その次の瞬間、俺の体は宙に放り出され、一秒にも満たない時間で俺は何かに激突して地面に倒れこんだ。 

 見てみると、その何かとは俺、つまり正邪だった。なんと俺は正邪に激突して一緒に倒れこんでしまったようだ。

 

「え、えっと……」

「……」

 

 やっとそこで今の状況を理解した。

 俺が正邪に覆いかぶさって押し倒しているような見た目になってしまっている。

 

「ごめんっ!」

 

 俺は慌てて立ち上がる。だが、全然ドキドキはしなかった。

 なにせ、自分を押し倒しているようなものなのだから、劣情を抱くはずがない。

 

「いや、いいけどさ、なんでお前、私を追ってきたんだよ。今、私の近くにいると危険な目に遭うぞ。特に今は魔理沙に追われている。状況分かってるのか?」

「お前こそ状況がわかってんのかよ!」

「っ!」

 

 正邪はまさか言い返されるとは思っていなかったらしく、肩を震わせてびっくりしていた。

 

「もう、お前が俺である必要はない。こいしの洗脳が解けたんだ。だからお前が危険な目に遭う必要はもうどこにも––」

「そんなことは知らない。私は天邪鬼だからな。やりたいようにやらせてもらうだけだ」

 

 こいつ、人の心配をそんなに簡単に蹴るなんて……。

 こんなことを話している場合じゃない。魔理沙の速度だったら一瞬でここまで来れてしまう。早く元に戻って逃げないといけないのに……。

 

「お前がその気なら俺だって––」

 

 その時、

 

「見つけたぞ真! くたばれ! 恋府《マスタースパーク》」

 

 背後から迫ってくるマスタースパーク。

 だが、俺は回避しようなどとは思わない。そのまま正邪の方へと歩いていく。

 

「な、なんだよ。ってか、マスタースパークが来てるって!」

「知ってる」

「だ、だったらなんで逃げねぇんだよ」

「今の俺は天邪鬼だからな」

「え?」

 

 今のこの体で成功するかは正直怪しいところだ。

 この体の妖力の扱いにはまだ全然慣れていない。そんな状態での霊力・妖力コントロールの難しいあれの成功率は半分も満たないことだろう。

 だが、やらないよりはやる方がいい。

 

 妖力の球をこの手に作り出す。

 

「な、なにをする気だよ」

「ここをしのぎ切ったらしっかりと俺の体を返してもらうからな」

 

 やっぱりコントロールが難しい。特に妖力はあまり操ったことが無かったせいか、操るのが余計に難しく感じる。

 だけど、今ここでやらないと俺と正邪は一瞬でお陀仏だ。

 

「やってやる! 《妖怪・霊縛波》!」




 はい!第163話終了

 果たして真は正邪を守りきれるのか。

 そしてこの異変を解決出来るのか?

 まだまだ続くよ前半戦!

 それでは!

 さようなら


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第164話 双砲

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 魔法の森に正邪を連れ戻す為、やってきた真達。

 正邪を発見し、元に戻るように説得したものの、正邪はそれを拒んだ。

 なんと、正邪は魔理沙に追われていたようで、囮の役目を降りる気はないようだった。

 真は正邪をなんとしてでも説得するために追いかけるが、魔理沙に追いつかれ、マスタースパークを撃たれる。

 真はそれに対抗するために慣れない妖力を使って霊縛波を放った。

 果たして真は魔理沙に勝つことができるのか⁉︎


side真

 

「《妖怪・霊縛波!》」

 

 俺は魔理沙のマスタースパークに霊縛波をぶつける。

 すると俺の妖力の玉からレーザーのようなものが射出され、マスタースパークと押し合い始めた。

 だが、魔理沙のマスタースパークはさすがといったところだ。弾幕はパワーだぜと豪語するだけあって、火力がものすごく、俺の霊縛波が押され始める。

 

「く、そが!」

 

 俺はさらに妖力を込めるものの、形成はそんなに変わらない。むしろ、押されてきて余計にひどい状況になってきている。

 このままじゃ俺と正邪はこのマスタースパークに焼かれてお陀仏だ。それだけはダメだ。

 

 何とかしないと……。

 

「真! 両手だ! 両手を使うんだ!」

「両手? ……っ! そうか!」

 

 俺は今まで右手だけを使って霊縛波を撃っていていた。

 だが、俺の腕は右手だけじゃない。左手もあるじゃないか。

 左手でやったことがないから一か八かの勝負になってししまう。

 

 この霊縛波はコントロールが非常に難しい。失敗すれば俺たちは一瞬であのマスタースパークに飲み込まれてしまう。

 だが、やらないで後悔するよりも、やって後悔した方がずっといい!

 

「はぁぁぁぁっ!」

 

 俺は左手でも妖力の玉を作り始めた。このときの妖力コントロールをすこしでもミスると暴発してしまう。

 

「くっ」

 

 やはり妖力の扱いには慣れていないから難しい。

 

「だが、やってみせる!」

 

 そうして妖力の玉は無事に完成した。

 その妖力の玉と右手に持っている妖力の玉を合わせて両手でレーザーを打ち出した。

 腕にかなりの負荷がかかる。当然だ。この技はもともと腕に負荷がかかるものなのにそれを二倍の威力で放とうと言うのだ。

 威力に比例して負荷がかかるのは当然のことだ。

 

「はぁぁぁぁぁっ! 双砲《妖怪・霊縛波》!」

 

 俺の手から射出されているレーザーが太くなり、威力が先程とは比べ物になら無いものとなる。

 するとどんどんとマスタースパークを押し始めた。

 これなら十分に押し返すことは可能だろう。だが、このままでは魔理沙を傷つけてしまうことになる。

 魔理沙は悪くない。傷つけるわけにはいかない。

 

 その時、突如、俺たちの体は浮遊感に教われ、落ちていった。

 見てみるとそれはスキマだった。どうやら紫が俺たちのことを助けてくれたようだ。

 

「遅くなってごめんなさい」

 

 スキマの中に落ちると即座に紫に謝罪された。

 

「実は突然足元が崩壊しはじめてね。なんとか回避したんだけど、その崩壊の中にはいると能力が使えなくなるみたいなの。それで紫が崩壊に巻き込まれちゃって大変だったのよ」

「面目ないわね」

 

 足元が急に崩壊した? 徐々に崩壊の範囲が広がっていくんじゃないのか?

 それに崩壊に巻き込まれたら能力が使えなくなるのか。

 しかし、これでいつ崩壊に巻き込まれるのかあわからなくなってきたな。

 

「崩壊が始まる箇所が増えたって言うことはすこしこの幻想郷のタイムリミットも縮まっちゃったんじゃないか?」

「そうね。正確にはわからないけど、確実に二週間は持たないわ」

 

 となるとできるだけ早くけりをつけないといけない。

 

「シャロがいれば……シャロがいれば別の空間に逃げたやつを見つけられるかもしれないのに」

「残念ながら私のスキマじゃ時間がどれだけあっても足りないものね」

 

 シャロは今ごろ何をしているのだろうか?

 あいつのことだから幻想郷の危機には飛んできそうなものだけど……。

 

「そうだ、正邪。体をもとに戻そう。お互いにその方が行動しやすいだろう」

「……しかたないな」

 

 すると正邪は指をパチンとならした。その瞬間、俺と正邪の体はもとに戻り、目の前に正邪の肉体が出現した。

 これでとりあえず一段落だ。

 

「ってあれ? こいしは?」

「こいしなら魔理沙のところへ向かったわ。スパイとしてしっかりやって来ると張り切ってね」

「そうか」

 

 すこし心配だが、本来、俺が守るまでもないくらいにこいしは強い。

 こいしならば危険な状況に陥っても何とかするだろう。

 

「じゃあ俺たちはシャロを探すことに専念しよう」

「だけど、そのシャロ様を探す術がない……」

『これは流石に動かないとな……』

 

 突如としてそんな声が聞こえてきた。

 その瞬間、スキマに新たな穴が出現し、一人の少女が落ちてきた。

 

「えっ」

 

 俺は驚いた。

 なぜならその人物は俺のよく知っている人物。そして俺たちが今、一番探し求めていた人物。

 時間神であるシャロだった。

 

 しかし、そのシャロを見てみると、ボロボロになっており、一目見ただけでかなり重症だっていうのがわかる。

 この状態ではジーラを探すのはおろか、シャロの命すら危うい状況だ。

 

「紫、シャロを永遠亭に運んでくれ」

「わかったわ。私達もすぐに合流する」

 

 そういうと俺と正邪は人気の少ない森の中に放り出された。

 ここならば暫くはゆっくりしていても大丈夫そうだ。

 しかし、ここもいつ崩壊が始まるかはわからないからそうゆっくりもしていられないけどな。

 

 そこで正邪は口を開いた。

 

「じゃあ残った私達は何をすんだよ」

 

 何をするか、それはもうすでに決まっている。

 

「仲間を増やしに行く」




 はい!第164話終了

 シャロが出てきましたが、なんとボロボロの状態に!

 誰がシャロを連れてきたのか?

 そして真のいう仲間とは一体?

 それでは!

 さようなら


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第165話 洗脳に強い奴に会いに行く

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 魔理沙と撃ち合いをする真。だが、魔理沙のマスタースパークの方が威力が高かった。

 そこで両手で霊縛波を放つとマスタースパークに勝てるほどの威力になった。

 しかし、それでは魔理沙を傷つけてしまう。

 その時、真と正邪はスキマに落ちたため、魔理沙から逃げることに成功。

 そこで、こいしがスパイに出たと紫に伝えられる。

 そしてついにシャロを発見したが、シャロはかなりボロボロの状態で発見された。

 果たしてシャロの身に何があったのか?



 それではどうぞ!


side真

 

 紫たちはシャロを永遠亭に送ったあと、すぐに俺たちと合流した。

 そして仲間を集めるために俺たちがやってきた場所、それは――

 

「紅魔館? 本当にこんなところに仲間になってくれるような人がいるのかしら?」

「レミリア達はおそらく洗脳の餌食になっているわよ。助けは望めそうにないわ」

 

 確かにここにはレミリア達がいる。

 レミリアとフランならもしかしたらこの洗脳を跳ね除けているかもしれないっていう希望ももちろんあるが、それはあんまり望むことはできないだろう。

 

 ならばなぜ俺がここにきたかっていうと、ここに洗脳の類に強そうな奴がいるからだ。

 パチュリーも強そうっちゃ強そうだが、本命はパチュリーではない。

 

「あいつもこの異常事態には気がついているだろう。恐らく協力してくれる」

「そう……あなたがそこまでいうならば賭けてみましょう。私がスキマを開けるからその隙に紅魔館内部に侵入するわよ」

「あぁ、頼む」

 

 このまま紅魔館に正面突破したところで美鈴や咲夜に捕まっておしまいだろう。

 多分レミリアにはスキマで侵入してもすぐバレてしまう。だから早く用事を終わらせてしまわないといけない。

 

 美鈴に見つかる前にこっそりとスキマを開いて中に入った。

 通り抜けるとそこは地下階段の目の前だった。周囲には人の気配はない。直ぐには見つかることはないだろうが、この先にはフランの部屋がある。

 そのため、慎重に行動をしないとレミリアどころかフランに見つかってしまう。本気で殺しにきているフランに見つかったら一瞬でデッドエンドだからな。

 

「さっさと見つかる前に行くぞ」

「でもここからどこに行くっていうんだよ」

「あいつはフランの遊び相手だからフランの部屋の近くの部屋なんだよ」

 

 フランの部屋に近づくほどに俺たちの中で緊張が走る。

 

 今は真夜中だから吸血鬼としては力が一番強くなる時間だ。

 ただでさえ強いフランにその状態で攻撃されては一溜りもないだろう。

 

「早く行くぞ」

 

 俺たちは静かに物音を立てないように、それで且つ素早く目的の部屋へと向かっていく。

 その瞬間だった。

 

「っ! 避けろ!」

 

 正邪が急に叫んだので驚いて立ち止まると、俺たちの進行方向にものすごい数のナイフが突き刺さっていた。

 そのナイフ達を見てぞっとしてしまう。

 このまま歩いていたら俺たちはこのナイフに蜂の巣にされていた。

 

 このナイフを投げてきたのは一人しか考えられない。

 この紅魔館のメイド長、十六夜咲夜!

 

「あら、ネズミが迷い込んだと思ったらお尋ね者だったのね」

 

 やっぱり咲夜はアウトだったか……。

 だが、どうする? この状況は……。咲夜から逃げるのはベリーベリーハードなわけだが……。

 

「さて、あなた達。覚悟はいいかしら?」

 

 咲夜はナイフを構えると俺たちを見据える。

 咲夜が相手だったら全力でやらないと勝算が無い。何より厄介なのは時を止めることができる能力(ちから)だ。あれのせいで逃げることができない。

 さて、どうするか……争ってみようとは思うが、正直逃げられる気がしない。

 

「だが、こんなところで殺られるわけには行かない!」

 

 俺はクレアを発動させると、威圧を放った。

 しかし咲夜は強者なため、俺の威圧に一切臆することがない。非常に面倒な事態だ。

 

「さて、死ぬ覚悟はできたかしら?」

 

 やはり咲夜との戦闘は避けられないのか……。

 その時、突如として近くの部屋の扉が開いた。

 

「うるさいなぁ……今私、寝てるのよ」

 

 金髪でカラフルなクリスタルのような羽を持つ少女。

 俺が一番厄介だと考える相手、フランドール・スカーレット。敵にしたらほぼ詰みという恐ろしい相手。

 

「あ、真だ! お兄様のところに遊びに来たの? こんな夜中に」

 

 あれ? フランはいつも通りだ。

 それにどうやら今は寝て新しくまだ眠そうに瞼を擦っている。

 

 だが、フランは俺のことを歓迎してくれている様子だ。

 となるとフランには洗脳が効いていないのか?

 

「って、咲夜! 何してるのよ!」

「妹様! こいつらはお尋ね者です。早く殺さないと大変なことになります」

「どうなるのよ」

「そ、それは……」

 

 フランは咲夜が俺たちに攻撃を仕掛けていることに怒ってくれている。

 その間に俺たちは目的の部屋に飛び込んだ。

 部屋の電気は付いておらず、恐らくこの時間だから寝ているのだろう。

 

 そんな時に悪いが、起きてもらえないと困るのだ。

 ベッドの方へと近づこうと歩を進めたその瞬間、この部屋を霊力が漂い始め、床が揺れ動くのを感じた。そして危険を察知した俺は床に思い切り拳を叩きつけると、壁が盛り上がってきて俺を押し潰そうとしてくる。

 

「たあっ!」

 

 霊力刀を作り出して壁を一刀両断する。

 やっぱりダメだったのか……そう思ったがその後、この部屋を漂っていた霊力が消え去った。

 

「来ると思ってたよ」

「音恩……っ!」

 

 音恩がそこにいた。

 椅子の上に立ち、俺たちを見下ろしている。だが、不思議と敵対心は感じない。

 

「お前らしくないな。人を試すなんて」

「このご時世だ。何が起きてもおかしくない。だから僕は本物の真さんか試しただけだよ」

 

 それにしても、一歩間違えれば死ぬような試し方はしないでほしい。

 

 そう、俺が用があったのは南雲 音恩。この世界で一番洗脳に対して耐性がある人物だと思っている。




 はい!第165話終了

 音恩と真が合流しました。

 ここからが本当の戦いの始まりです。

 果たしてシャロは無事なのか? 真は主犯を倒し、幻想郷を救うことができるのか?

 いよいよ中盤戦に差し掛かってきます。


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第166話 歴史

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 紅魔館にやってきた真たちはある人物をめざして歩みを進める。

 だが、道中で咲夜に見つかり、危うく殺されかける。そこをフランに助けられ、何とか逃げ延びた真たちは音恩の部屋へとたどり着く。

 そこで音恩は真を試し、真のことを音恩は本物だと認めるのであった。



 それではどうぞ!


side真

 

「音恩、やっぱりお前は洗脳されていなかったか」

 

 音恩は俺を見るなり攻撃は仕掛けてきたものの、敵意は感じない。おそらくは本当に洗脳はされていないと考えていいだろう。

 

「まぁね……ただ、今回のこれは洗脳とは少し違うんだ」

「違うとは?」

「上手く言えないけど、少し違う。言うなれば記憶の改竄だ」

「改竄!?」

 

 思ったよりも大変なことが音恩の口から飛び出してきたことに俺は驚いてしまう。

 今までただ、洗脳されていると思っていたのだが、まさか記憶の改竄が発生していたなんて……。

 

「歴史の修正力って言うのかな。多分これは一個人の力じゃなくて、この幻想郷自体の力」

「なんですって!?」

 

 今度は一番に驚いたのは紫だった。

 それもそうだ。紫はこの幻想郷の創造主。言うなれば我が子のようなものだ。

 それが今、崩壊を迎えようとしている。それもこの幻想郷の意思だと言う。

 我が子が自殺しようとしているのだ。驚愕するに決まっている。

 

 しかし、何故そんなことになっているんだ?

 

「歴史の修正力って、もしかして過去で世界が破滅するようになったってこと?」

「え?」

「さすが紫。ご明察だ」

「マジか」

 

 さっきまでクールを気取って表情一つ変えなかった正邪が驚きの表情を隠せなくなっている。

 そうか、過去で幻想郷が崩壊したから現代のこの幻想郷が消滅しようとしているのか。

 

 となるとこのまま行くとこの幻想郷は消滅し、多くの者が死ぬ。

 

「さて、ここからが問題だ。今回の異変は歴史を改変した奴がいる。目標としてはそいつを倒し、歴史を元に戻させる」

「そうすれば今の幻想郷は元の姿を取り戻す可能性があるって言う事ね」

「そういう事」

 

 目標は見えてきたものの、その関心の主犯を俺たちはまだ見つけることが出来ていない。

 それに、俺がみんなの敵として認識されているのも気にかかる。これも歴史の改変によるものだと思うんだが、どうして俺がみんなの敵として認識されているんだ?

 

 それにフランが記憶を改竄されていないのも気になる。洗脳じゃないって言うならば音恩の記憶が改竄されていないのも気がかりだ。

 

 少し進んだと思ったら分からないことが大量に出てきた。1分かって10分からないことが出てきたような感じだ。

 

「とりあえず僕はみんなに協力する。で、フランもね」

「というか、なんでフランの記憶が改竄されていないんだ?」

「フランは自身にかけられた力を破壊することによって改竄を免れた。しかも無意識に。恐ろしい子だな」

 

 なるほど……力を力で打ち消したのか。

 確かにフランの能力ならばそれも可能なように思えてくる。

 

「そうなるともっと改竄を無効化できる人は居そうね」

「そうね、となるとその人たちを探すって感じかしら」

「いや、それはリスクがデカすぎる。少なくとも今回、真さんがターゲットにされているのはなにか理由がある。真さんがこの異変を解決するターゲットだ。真さんが途中でやられる訳にはいかない」

「じゃあ、今のこのメンバーで戦いに挑むってことか?」

「そうなるね」

 

 確かにここには強いメンバーが揃っている。

 紫や幽々子、正邪、フラン、音恩、俺。だけど、心許無いのも事実。

 

「後はシャロが目覚めれば……」

 

 シャロが目覚めないと敵の居場所を掴むことも出来ない。

 紫のスキマでは正確な位置を掴むことが出来ないらしいし、今ここでスキマを使えるのは紫しかいない。

 

 そう言えば、どうしてシャロは突然紫のスキマの中に出現したのだろう。

 もしかして他のスキマを使えるやつが?

 

 その時、俺の脳裏にある可能性が浮かんだ。

 シャロがあんな状態なのだとしたら彼方も同じ状態の可能性が高い。

 そして他の神達がこんな状況で一人だけ無事な可能性がある神がいる。

 

 シャドウだ。あいつならばもしかしたら無事でいる可能性がある。

 

「少し出てくる」

 

 それはそう一言だけ告げると無意識を発動させて紅魔館を出て、森の中へと入っていく。

 少し進んだところで立ち止まると大きく息を吸って名前を叫ぶ。

 

「シャドウぅぅぅぅ!」

「うるせぇ」

 

 名前を呼ぶと目の前に出てくる少年。全能神シャドウだ。

 やはりこいつは無事だったようだ。特に傷跡もなく、恐らく自分の作りだした空間に居たから襲われることがなかったのだろう。

 

「どうした?」

「シャロを助けてくれてありがとな」

「俺も幻想郷がなくなったら困るんでな」

 

 そうか、一応シャドウもこの幻想郷の神。

 普段、俺たちのことに対して首を突っ込まないことを鑑みると恐らく放任しているのだろうが、さすがに今回のことは見過ごせなかったようだ。

 

「今回の案件は過去改編だ。安易に普通の人間が立ち入っては行けない領域。本来であればこれは神々直接罰しなければ行けないのだが、シャロも彼方も手も足も出なかったようだ」

 

 シャロは分かるけど、破壊神である彼方ですら手も足も出ないなんて……そんな事有り得るのか?

 少なくとも彼方の戦闘能力は幻想郷トップクラスだ。なのに手も足も出ないなんて……。正直今の俺でも勝てるかどうか怪しいぞ。

 

「ま、そんな訳だ。後はお前らに任せる。じゃーな」

 

 それだけを言ってシャドウはスキマの中に消えてしまった。元の空間へと戻ったのだろう。

 

「……やっぱり助けを得られるわけじゃないか」

 

 シャドウの性格を鑑みると仲間として戦ってくれるとは思えなかったからこの展開は予想通り。

 

「さて、戻るか」

 

 そして再び俺は無意識を発動させるとみんながいる部屋に戻ったのだった。




 はい!第166話終了

 歴史の改編。そして修正力。

 果たして真達は元の歴史通りにすることが出来るのか?

 それでは!

 さようなら


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第167話 地獄のショータイム

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 音恩を仲間に引き入れた真達。

 シャロを助けたのはシャドウだと察した真は礼を言うも、相手にされない。

 果たしてこれからどうなっていくのか?



 それではどうぞ!


「レミリア……頼むよ」

「本当にいいのね?」

「ああ、敵を倒すにはこれしか方法は考えられなかった。いいからやってくれ」

「音恩……分かったわ」

 

 ガブッ

 


 

side真

 

 戻るとそこにはフランもいた。咲夜が廊下で気を失って壁に寄りかかっているところを見るとフランが咲夜を気絶させてやってきたようだ。

 とても心強い戦闘要員だな。

 

「お帰り真さん」

「ただいま」

 

 あれではシャドウの協力は得ることはできなさそうだ。ここからは俺たちのみで頑張るしかないようだ。

 ただ、普段は俺たちの事を放任しているシャドウがシャロを俺たちのもとに送ってくれただけでもいいとしよう。普段だったらあんなことは絶対にしないだろうし。

 

「さて、これからどうしましょう」

「私たちはシャロが起きないと何もできないぞ」

「いや、一つだけやり残したことがあるからそれをやってきます」

 

 音恩はやり残したことがあるらしい。別に止める気はないけど、何をやり残したのかがすごく気になってくる。

 俺たちに一言だけ告げるとこの部屋から出て行ってしまった。なにやら表情を見る限り、ただならぬ雰囲気だった。何があったのかが非常に気になる。

 そう思って音恩のあとに続いて俺たちは外へ出ると俺たちは目を見開くことになった。なんと、部屋の外が断崖絶壁だったのだ。

 地面が崩壊してしまっていて。上から下まで何もなく、下をのぞき込んでみるとただ暗黒が広がっているのみだった。

 

「ち、やべぇな。崩壊の魔の手がここまで迫ってきているとは……」

 

 ここまでなってしまっていたら制限時間は1週間もない可能性が高い。

 どうにかしてこの陸の孤島となってしまった音恩の部屋から脱出しようと試み、飛ぼうとするものの、崩壊の範囲内に俺の服が侵入すると一瞬にして消滅してしまったので、俺は慌てて部屋の中に戻る。

 

「だめ、スキマも使えないわ。私たちは完全に隔離されてしまったのよ」

 

 どうやらどんな技でもこの崩壊した場所を超えて使うことは不可能のようだ。俺も崩壊地点に向けて弾幕を投げたものの、一瞬にして消滅してしまった。

 

「ど、どうしよう……お姉さま、助けて……」

 

 まずい。このままじゃ俺たちが崩壊の餌食になってしまう。

 おそらく壁の向こうもすべて崩壊してしまって俺たちのいるこの場所だけが無事という感じなのだろう。まるで俺たちが絶望する姿を見て楽しんでいるかのような所業だ。

 となると、もしかして俺たちの事を見ているのか?

 

「はーい。皆様、どうもお待たせいたしました……華麗な処刑ショーの始まりでーす」

「っ!」

 

 そんなおどけた声が聞こえた瞬間、この場にいたみんなが息をのんだのがわかった。そして、この声の正体が誰なのかも一瞬で把握した。

 こんなことをする奴は一人しかいない。

 

「この中継は各地に出現したモニターにて放映中です」

 

 すると俺たちの目の前に小型のカメラのようなものが出現した。

 見た目は完全に文の持っていたカメラそのものだが、このカメラには妖力が込められている。確実にただのカメラではない。

 

「これからこの場にいる罪人たちを処刑していきたいと思いまーす!」

 

 なるほど、この状況はこいつが意図的に作り出したものか。

 そして誰がやっていることなのか、この一言ですぐに確信した。この異変の主犯、だが、声はジーラとは全く別のものだ。全く……どうなっているんだ。

 

「君たちはこの処刑から逃れることはできないので無駄な抵抗はやめてねー。あひゃひゃひゃひゃ」

「早くここから出せー!」

 

 フランはこの状況に激怒し、レーヴァテインを作り出すとカメラに向かって切りかかる。

 

「おっと、危ないですねぇ……ですが、その程度の力では私を倒すことは不可能と断言しますよぉー」

「くっ!」

「フラン!」

 

 カメラはフランのレーヴァテインを回避すると下に回り込んで腹に勢いよく体当たりをする。

 するとフランの体は吹っ飛び、壁に激突した。

 ものすごいダメージだったようで、フランはもうしばらく動けないだろう。

 

 しまったな……外にいるのは音恩とこいしのみ。

 音恩の能力ならばもしかしたらこのカメラをハッキングして倒すことができるかもしれない。

 

「はいそこ、今、ばからしいことを考えましたね?」

「なに?」

「南雲音恩が外にいる? 思わず笑い転げるところでしたよ~」

「な、なにがおかしい!」

「何がおかしいって……」

 

 その瞬間、カメラは妖力の煙に包まれ、姿を隠した。

 そして煙が晴れた瞬間、俺たちは目を見開くこととなった。

 

「なにって……僕が南雲音恩だから」

「え」

「いいねぇ、最高だねぇ! その絶望の表情をもっと見せてよ!」

 

 なんと、カメラは音恩に変化してしまったのだ。

 つまり、俺たちがさっきまで接していた音恩は全部こいつというわけで、最初から俺たちはこいつの手のひらの上で踊らされていた。そして、最初からこいつに俺たちが勝てる道理はなかったということだ。

 

 圧倒的絶望。だれもこいつに対抗する手段を持っていない。

 

「本物の南雲音恩はどこだ!」

「そこのクローゼットを見てみたら~? きひゃひゃひゃ」

 

 促されるがままに俺たちはクローゼットへと近づいていく。

 そして恐る恐るクローゼットを開けた俺たちは戦意を喪失してしまった。

 

 なぜならそこには抜け殻となってしまった音恩の姿があったからだ。

 体は冷たくなっており、脈はおろか心臓の鼓動すらない状態。完全に息絶えてしまっていた。

 せめて抵抗しようとはしたのだろう。目を見てみると歯車が目に浮かんでいた。だが、普段なら回っているその歯車も完全に動きを止めてしまっていた。完全に機能が停止してしまっている。

 

「こいつの最後は面白かったよ! あまりの絶望に耐え切れなくなったんだろうね……最後は自分の心臓にナイフを突き刺して死んでいったよ! とても滑稽だよね!」

「……お前だけは……お前だけは殺す!」

 

 命を賭してでも殺してやる。

 絶対にこいつの事は許さない。

 

「へぇ……やれるものなら、やってみなよ!」

 

 カメラへと戻ったやつに対して俺は霊力刀を作り出して切りかかる。だが、謎の力によって吹き飛ばされてしまった。

 

「ぐっ!」

 

 こうなったらクレア王で!

 そう思った次の瞬間だった。

 

「ぐぎぐぎぎぎぎぎぎ」

「はぁ……やっと成功した……手こずらせやがって」

 

 カメラの変な音とともに、もう絶対に声を聴くことが無いと思っていた人物の声が俺の耳に届いた。

 

「全く……死なないって言っても血液は循環しないから辛いんだからな!」

「音恩!」




 はい!第167話終了

 遂に物語に進展が!?

 そしてこのカメラの正体は?

 音恩はどうやって助かったのか!

 それでは!

 さようなら


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第168話 神の力

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 音恩の部屋で奇妙なカメラと出会う。

 カメラはどうやら崩壊を操れるようで、信じるなって達はピンチに!

 その時、死んだと思っていた音恩が助けに入る。

 果たして真達の運命は!?



 それではどうぞ!


side真

 

 俺たちのピンチにさっそうと登場したのは先ほど、死んだと思われていた南雲音恩、その人だった。

 目に浮かんだ歯車は回転しており、先ほどとは違って霊力を感じる。そしてかすかな妖力も。

 

「お前、さっき確かに心臓にナイフを突き刺しただろう」

「そうですね」

 

 胸には真っ赤な血の跡が残っており、服に穴が開いていることから突き刺したのは本当の事なのだろう。というよりも、現在進行形で血が流れだしてきている。普通の人間だったらもう生きてはいられない量の血を流してしまっている。

 もちろん、音恩も普通の人間なのだから生きていられるわけがないのだが––

 

「まぁ、僕はもう普通の人間じゃないから」

「え、どういうことだ?」

「今の僕は吸血鬼だ」

 

 そういうと、音恩は床に手を付けると部屋全体に霊力を流し始めた。

 やはり、全盛期と比べるとこのギアモードの出力は落ちているものの、さすがは音恩だ。一瞬で自分のフィールドを作ってしまった。

 

「嫌な予感がしたからレミリアに吸血鬼にしてもらっておいてよかったよ。吸血鬼は心臓をつぶされたくらいじゃ死にはしない。そして自分の体を操って一時的に心臓を止めてやれば簡単に仮死状態を作ることができる」

 

 なるほど、吸血鬼に吸血されたら眷属化、つまり吸血鬼になることがある。それを利用して音恩は吸血鬼になってこいつの事を欺いたということか。

 音恩があのまま死んでいたら本当に対抗策がなくなっていたからファインプレーなのだが、俺たちはすでに崩壊に囲まれてしまっている。ここからどうやって脱出するかなのだが––

 

「生きていたからどうだっていうんだ? その程度の力じゃ俺にはかなわないぞー? ハプニングこそあったけど、問題ないね。イッツショータイム」

 

 カメラがいうと周囲が崩壊し始め、俺たちを徐々に追い込んでいく。

 それを見ると音恩はカメラに向かって手のひらを向けた。その瞬間だった。

 

「ぐぅぅぅぅあぁぁぁぁぁ」

 

 カメラが突如として苦しみだした。

 それはすぐに音恩の力だということが分かった。

 音恩の力は機会に最も有効な力。つまり、ハッキングだ。今、この場で最もカメラに有効打を与えることができる人物は音恩だ。

 

「き、貴様!」

「今ここでお前を殺してもいいが、それでは僕らはここから一生出ることができない。何とかしろ」

「けっけっけ、誰がそんなことをするかよ」

「ぐぅっ」

 

 カメラは衝撃波を放つと俺たちは少し吹っ飛ばされ、音恩は能力を解いてしまった。

 まずい、このままでは俺たちは崩壊に飲み込まれてしまう。

 何とかして脱出する方法はないのか?

 

「お前らは崩壊して、この大魔導士デイ様の糧となるんだな、けひゃひゃひゃ!」

「そうか……」

「え? ぎやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 突如としてカメラに落ちた黒い雷。

 直撃したことによってかなりのダメージを受けたのだろう。さっきまで浮いていたのに地面に落ちてきた。

 だが、今の攻撃は見たことがない。いったい誰が俺たちを助けたのだろうか。そう考えて周囲を見渡すと、そこには不自然に開いたスキマが存在していた。

 

 今ここにスキマをつなぐことができそうなやつと言ったら俺はあの人しか知らない。

 

「シャドウ!」

「全く……どいつもこいつも俺の力なしに満足に戦えねぇのかね……」

 

 スキマの中から出てくる少年。まごうこと無きシャドウだ。

 

「お、お前、どうやってこの場所に!」

「俺としては来たくはなかったがな」

 

 シャドウはいつも通りのテンション。ほかの面々はシャドウに初めて会うので、かなり困惑している様子だった。

 

 やっぱりシャドウはこの幻想郷を放っておけない性格をしているようだ。

 シャドウは別にこの幻想郷だけの神ってわけじゃないらしいけど、個人的にこの幻想郷を贔屓しているような気がする。

 

「だが、ここに来たのは運の尽きだな。お前も一緒に消えてしまえーぐはっ」

 

 崩壊を勧めようとしたカメラだったが、その前にものすごい速度でシャドウがカメラを蹴り飛ばした。

 何とか崩壊の直前で制止するカメラだったが、もう少しで崩壊するところだったのでカメラは青ざめる。

 

「ぐぬぅぅぅぅぅ! はぁっ!」

 

 その瞬間、カメラが闇の力を込めた霊力の球を作り出した。

 

「しねぇぇぇぇぇ」

 

 カメラは霊力の球を放つ。

 あれは俺たちが全力で押し返さないとやられそうなほどの威力があるものの、シャドウはというと、その霊力の球を片手で受け止めてしまった。

 

「へ?」

「弱い」

「ぎやぁぁぁぁぁぁ」

 

 シャドウが霊力の球を投げ返すとカメラはその霊力の球に直撃し、飲み込まれる。

 すると、この部屋の崩壊が止まり、カメラはその威力によって消滅してしまった。

 

「ふん、弱い」

 

 これがシャドウの力か……。

 初めてシャドウの戦闘シーンを見たが、あの威力の霊力の球を片手で投げ返すなんて、俺とライトが本気を出して二人で戦っても一切勝てる気がしない。

 霊縛波は受け止められるどころか、返り討ちにされてしまいそうな気がする。

 

「あ、真。これやるよ」

「え?」

 

 そうして投げ渡されたのは木の枝だった。

 特に何の変哲もない枝のように見えるが、どうしてこんなものをシャドウは俺に渡してきたんだ?

 だけど、なんだかこの枝は大切なもののように感じる。どうしてだろう? 見た感じではただの木の枝なんだが……。

 

「俺が協力するのは本当にこれで最後だ」

 

 シャドウはそういうと俺たちは突如として浮遊感に襲われ、気が付いたら草原のど真ん中で立っていた。

 

「今のは誰なんだ?」

「真さんを知っているような感じでしたね」

「何だったんだろう?」

 

 正邪、音恩、フランが疑問の声を上げる。

 だが、紫と幽々子はそんなそぶりは一切ないことを見ると、おそらく二人はシャドウが何者なのか知っているのだろう。

 

 あいつはもう手助けはしないと言っていたが、今回はこうして助けてくれた。

 やっぱりシャロの話通りにシャドウは優しいやつのようだ。




 はい!第168話終了

 シャドウの力が少しだけ出ましたね。

 ただ、あれはまだまだ本気では無いので、本気を出せばありえないくらいに強いです。

 そしてシャドウが真に渡した枝の正体は!?

 それでは!

 さようなら


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第169話 大切な人に手を出すやつは許さない

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 ピンチのところで音恩が助けに入る。だが、デイの力には遠く及ばなかった。

 そこへ、基本放任主義を掲げている全能神、シャドウが助けに入った。

 シャドウの強さは圧倒的で、デイを圧倒して一瞬でデイを倒してしまった。

 シャドウに助けられた真たち。

 果たしてこの異変の元凶を倒すことができるのだろうか?



 それではどうぞ!


「くそう……どうして俺がこんな目に遭わないといけないんだ」

 

 魔導士デイは真っ暗な部屋の中、一人でつぶやいた。

 デイはあと一歩のところで真や妖怪の賢者などの厄介な人物たちを一掃できると思っていた。

 だがしかし、あと一歩、あと一歩のところで邪魔が入ったのだ。

 

 近くにあったコップをおもむろに手に取ると壁に向かって投げ飛ばすデイ。もちろんそのコップはガラス製なので、木っ端みじんに砕け散る。

 

「荒れているなデイ」

「神楽っ!」

 

 そんなデイの前に現れた人物は仮面をかぶった厳つい男だった。

 背中に大きな剣を背負っているところを見ると、すぐに剣士だということが想像できる。

 

「そりゃ荒れるぜ。あと一歩だったんだ。あと一歩のところでっ!」

「ふむ……お前が負けるとなると相当な手練れだな。どんなやつだった」

「あれは……そう、男のクソガキだったな。真っ黒な雷を使いやがる」

「なるほどな」

 

 神楽はデイのそんなアバウトな説明だけで誰がデイの邪魔をしたのかが一瞬で分かった。というよりも、思い当たる人物がそいつしかいなかったのだ。

 そのことに気が付くと神楽はにやけを抑えることができなくなってしまった。歓喜だった。

 デイはその神楽の表情を見て驚愕する。なぜなら神楽は普段仏頂面で、にやけるなど今まで一度もなかったからだ。

 

「了解した。その件は俺が預かろう。それと、あのお方からの伝言だ。シャロを確実に潰しておけ」

「あの弱っちい神か。図太く生き残りやがってよぉ~。まぁいい。ちょうど誰かに当たりたかったところだ。殺してもいいってんなら簡単だ」

 

 するとデイは机の引き出しから小型のカメラを取り出した。

 

「またあの鳥から奪ったカメラの複製か」

「生憎俺は外に出ての任務とか合わないんでね。じゃあ、いってこーい。僕の可愛いキラーカメラ」

 


 

side真

 

「まさかここに来て直接敵がおいでなさるとはな」

 

 ついさっきまで静かだったライトが突然口を開いた。

 

「さっきまで静かだったが、どうしたんだ?」

「あぁ、ちょっと考え事をな」

 

 敵を目の前にして考え事ができるなんてすごいな。

 でも、ここに来て敵が突然直接来て俺たちをつぶそうとするなんて……しかもあの閉鎖空間だ。シャドウがいなかったら俺たちは今頃、崩壊に巻き込まれて一掃されていた。

 そう考えるとシャドウには頭が上がらない。

 

「さっきの変なしゃべり方のやつ、まるでダメージはない様子だった。つまりは通常の方法ではダメージを与えることはできないのかもしれない」

「なるほどな……でも、そうなるとどうやって倒したらいいんだ?」

「そこが問題だ。だが、一つ言えることは、あのカメラからは生き物特有の霊力を感じられなかった。あれ自身が弾幕を放っていたのにもかかわらずだ。つまりは遠隔操作系の能力持ちだろう。この崩壊をどうやって操っているのかはわからないが、そういうことで間違えはないだろう」

 

 ライトの考えならばすべての矛盾が解き明かされる。おそらくライトの考えで間違えてはいないだろう。

 しかし、ジーラの仲間にこんな能力を使えるやつはいなかったはずだが……もしかしてまた新しく仲間を集ったのか? だとしたらかなり厄介だ。

 ジーラ一人探すのに苦労し、おそらくかなり強くなっているだろうからかなり苦戦を強いられるはずなのにめちゃくちゃ強いやつがほかにもいる。

 その中の一人は先ほど、俺たちが手も足も出なかった。

 

 絶望的とはこのことをいうのだろうな。

 

「ちなみに真、今こいしはどこにいる?」

「今? 今は……っ!」

 

 その時に俺は気が付いてしまった。

 こいしの妖力が弱くなってきていること、そしてその目の前にものすごい霊力を感じることに。

 

「っ! 紫! 北西の草原にこいしの無意識発見。衰弱状態とみられる。付近には謎の霊力を感じる!」

「了解!」

 

 紫に伝えるとすぐにスキマを開いてこいしのことを探し始めた。

 すると五秒と立たずにこいしのことを発見したのだろう。スキマが開通した。

 その瞬間に俺は後先考えずに一番に飛び込む。

 

 俺にとってこいしの命よりも大切なものはない。

 こいしがピンチならば行かなくてはならない。その使命感に駆られて俺はスキマの中を駆け抜けていく。

 少し走るとすぐに出口にたどり着いた。

 出口から見えるその景色を見て俺は出口に飛び込み、飛び蹴りを放った。

 

「人の大切な人に何手ぇ出してんだてめぇっ!」

 

 俺の飛び蹴りはこいしの胸倉をつかみ上げていた男にクリーンヒット。こいしを手放し、ものすごい勢いで飛んでいく。

 

「大丈夫かこいし!」

「う、うん……だけど、気を付けてまだまわりにはっ!」

「見つけたぞ真っ!」

「いい加減死んでください真!」

「巫女としてあなたを対峙します!」

 

 俺に続いて続々とみんながスキマから出てくる。

 そんな俺たちの目の前に現れたのは魔理沙、妖夢、早苗だった。厄介な三人組がそろってしまった様子。

 特に魔理沙は強い。みんなで全力で戦わないと普通に負ける可能性がある三人組だ。

 

「あーいたいいたい……全く、ひどいね君は。初対面の相手の顔面に飛び蹴りを放つなんて……どこでそんな教育を受けてきたのかな?」

 

 俺が蹴り飛ばした男が立ち上がった。

 かなり大柄な男で、スーツのようなものを着用している。

 

 そして驚くべきことにさっき蹴り飛ばしてやったはずなのに、もうすでにその傷が無いということだ。

 

「だがまぁいい。獲物が直接来てくれたんだ。ありがたくその命を頂戴しよう」

 

 そういうと男は一瞬で俺の目の前に出現し、拳を放ってきた。

 殴られる。そのことを覚悟したものの、その拳は俺に届くことはなかった。

 

「真っ!」

「ライトっ!」

 

 なんとライトに突き飛ばされ、俺は拳を回避したのだが。

 

「ぐあっ!」

 

 ライトがまともにその拳を顔面に受けてしまったのだ。

 その拳にはとげのようなものが付いており、それによってライトへのダメージも甚大だ。

 ライトはダメージによってか、立ち上がることができずにいる。

 

 それを見てこいしの方へと視線を写してみる。体のいたるところから血が出てきており、妖怪とはいえ、かなりのダメージだということは想像に容易い。

 もう少し遅かったらこいしはそのままこいつに殺されていた可能性がある。

 

「こいしちゃんをいじめるやつは絶対に許さない!」

「フランっ!」

 

 音恩の静止の声も聞かず、フランはレーヴァテインを作り出すと走り出していってしまった。

 怒りに我を忘れてただ闇雲に突撃していっているだけだ。それでは相手の思うつぼだ。

 

 すると突然、フランの体がぴたりと止まった。見てみると音恩がパソコンを操作している様子だった。おそらくフランの事を強制的に止めているのだろう。

 

「お兄様! なんで止めるのよ!」

「フランの事が大切だからだ!」

「え?」

「僕はフランには死んでほしくないんだ」

 

 初めて聞く音恩の懇願するような声。その声によってフランは我に返ったようだった。

 ほっと一安心。しかし、それは束の間だった。

 

「感動のシーンはいいが、俺は飽きてしまった。さて、ここからは本気で殺しに行く」

 

 こいつの強さを身に染みて味わった俺たちにとってはそれは死刑宣告にも等しかった。




 はい!第169話終了

 この敵はいったいなんなのか。

 次回、遂に本格的なバトルが始まります。

 それでは!

 さようなら


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第170話 能力を封じるために

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 こいしのピンチを感じ取った真達は急いでこいしの助けに入った。

 だが、相手は物凄い強さを誇り、ライトがやられてしまう。

 果たして真達はこの状況をどう打開するのでしょうか?



 それではどうぞ!


side真

 

「殺し合いの前に一つ、自己紹介をしておこう。俺は鬼琉(きる)という。海藤 真! 貴様を抹殺するために派遣された。まぁ、お前ごときを殺すのに何を手間取っているんだっていう話だが……まぁ、いい。俺がお前を一瞬で葬り去ってやろう。なに、安心しろ。痛みは感じさせない」

「っ!」

 

 明らかにヤバい圧を感じる。

 あのカメラ野郎、デイもヤバいやつだとは感じたが、こいつはこいつでまた違ったヤバさを感じた。

 それは強さだ。デイとは直接会ったわけじゃないからどれほどの強さなのかははっきりと感じ取ることはできないが、おそらくこいつはデイよりも強い。

 俺の蹴りをもろともせずに平然と立ち上がって攻撃してきたほどの相手だ。ヤバくないわけがない。

 

「へっ、やれるものならやってみやがれ」

 

 その瞬間、奴は一瞬にして俺の目の前までやってくると、俺に拳を振り下ろしてくる。

 俺は回避は不可能だと判断して腕をクロスさせて防御の体制に入った。

 だが、その威力は規格外なものだった。防御はほぼ無意味なほどの威力に俺は殴り飛ばされてしまった。

 

「ぐあぁぁぁぁぁっ!」

 

 普通だったら腕の骨が確実に折れてしまう。

 だが、今の威力は俺にとって致命傷のダメージ出会ったおかげで、能力が発動し、腕が折れることはなかった。

 しかし、そのダメージを実際に受けているので、猛烈な痛みが襲い掛かってくる。

 

 こいつはヤバい。

 

「食らいなさい!」

「私の死の力からは逃れられないわよ!」

 

 紫と幽々子は弾幕を放つものの、鬼琉は立っているだけだった。

 その直後、驚くべきことに、鬼琉の事を避けるように弾幕が飛んで行ったのだ。

 

「何もしていないのに弾幕が逸れた?」

「どういうことよ」

 

 クレアを使えるからわかる。

 こいつの使っているこの力、これはクレアだ。そしておそらくライトも気が付いている。

 霊力のさらに上の力がクレアだ。そのクレアには霊力では勝てないので、押し負けるっていうのは当然の原理。

 だから霊力や妖力で作った弾幕ははじかれる。

 

 こいつを倒すにはクレアが必要なのだが、今ここでクレアを使えるのは俺とライトしかいない。だが、ライトはまだ動けなさそうだ。

 となると、俺が戦うしかないだろう。

 

「みんな、俺がこいつと戦う」

「もしかして一人で戦う気?」

「一人で戦うなんて危険よ!」

 

 みんなに心配の声をかけられるものの、俺の考えは変わらない。

 もちろん、今ここで紫の力に頼って逃げ出す手もあるだろう。だが、それは現実的じゃない。

 俺たちは誰もあいつの素早さを目で追うことができないのだ。

 

「鬼琉っ!」

 

 俺は霊力で刀を作り出すと鬼琉に向かって走り出す。そしていきなり俺はクレア王を発動させた。

 今の俺はさっきと比べて動体視力がけた違いに上がっている。

 すると鬼琉が動き出す際の動作に気が付くことができた。そのため、その動きから予想して回避するように動く。

 

「むっ」

「くそ、やっぱり移動中は見えないっ!」

 

 俺は回避しながら鬼琉に向かって刀を振ったものの、そんなでたらめな剣など鬼琉に当たるはずがなく、軽々と回避されてしまった。

 このクレア王でも見えない動きとなると能力である可能性が高い。

 今まで多くの動きが早い敵と戦ってきたが、こいつは特段早いと思う。むしろ瞬間移動でもしているんじゃないかっていうくらいに……瞬間移動?

 

「わかったぞ。お前のその力、瞬間移動だな!」

「ほう、よく気が付いたな。だが、それがどうした? 対応する術はないだろう」

 

 確かに鬼琉の言うとおりだ。

 俺の能力では自分よりも強いやつに対抗する手段はない。だけど––

 

「俺は運がいいらしい」

「どういうことだ」

「……紗綾!」

「りょーかいっ!」

 

 俺が霊力刀を上へ投げると俺の上をジャンプして飛び越え、俺の霊力刀をキャッチする人影。

 その光景を見て俺はにやりと口元をゆがめる。

 

 そしてその人影は着地と同時に地面へと刀を突き刺した。

 

「焼却《火炎陣》!」

 

 その瞬間、周囲は炎の海と化し、俺たちは炎に包まれてしまった。

 だが、全く熱くない。俺には全くこの炎は効いていない。それはほかのみんなも同じだった。だが一人だけ熱がっている人物がいた。

 

「くっ、熱いっ!」

 

 つまり、俺たちには効かず、敵にのみ効く炎ということだ。

 

「お前なら来てくれると信じていたぞ」

「はぁ……君たちが今どこにいるか分からないのに、期待し過ぎじゃない?」

 

 菜乃花 紗綾。それがこいつの名前。

 まさかこいつが洗脳されていないとは夢にも思っていなかったが、近くに紗綾の霊力を感じた俺は紗綾に見つけてもらいやすいようにクレアの力を爆発させた。

 クレア王をただ使ったところで勝機は薄いのはわかりきっていた。端から俺は倒すつもりでクレアを放ったわけじゃなかったのだ。紗綾を呼び寄せるために使っただけに過ぎない。

 

「さて、辺りは火の海。これでもう好き勝手瞬間移動することができなくなってしまったな」

「なるほど、悪くない手だな」

「今来たばかりで状況が飲み込めないんだけど……あのライトも倒れているし……でもとりあえずあいつを倒せばいいんだよね」

「あぁ、その解釈で間違いない」

「了解」

 

 俺と紗綾は並んで立つ。

 俺が投げ渡した刀はすぐに消えてしまったので紗綾は自分の刀を抜いた。そして俺は新たに霊力刀を作り出す。

 

「さて、反撃と行くぞ!」




 はい!第170話終了です

 ジーラってなんかいつも仲間がいますよね。

 そして真の紗綾を信じた行動。

 今まで何気になかった真と紗綾の共闘が見れますよ。

 それでは!

 さようなら


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第171話 今までもこれからも勝つことはできない

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 鬼流と相見える真たち。しかし、その強さは規格外なもので、真たちだけの力では勝率はかなり低い。

 その時、真たちの前に現れたのは紗綾だった。

 なんと、紗綾は洗脳されていなかったのだ。

 真と紗綾の共闘が、今始まる。



 それではどうぞ!


side真

 

「って、うん? あいつってもしかして鬼流?」

「え? 紗綾、あいつの事を知っているのか?」

「知っているも何も、あいつは私の幼なじみだからね」

「えぇぇぇっ!?」

 

 流石に驚いた。

 紗綾とあいつが幼なじみだったとは……。

 

「まさかこんな所で再開するなんてね。春斗」

「あ? てめぇ、まさか菜乃花か! 雰囲気が違いすぎて気が付かなかった」

 

 鬼流は今気がついたようだ。

 さっきまで余裕の表情をしていた鬼流が動揺した表情を見せている。

 かなり驚いているのだろう。

 

「まさか失踪したお前がこんなところにいるとは夢にも思わなかった。お前は里では死んだことになっているぞ。寺子屋の集団失踪事件、懐かしいじゃないか」

「うんよく、あなたはその日は寺子屋をサボっていたものね」

 

 どこの世界にもサボる人って言うのはいるものなんだな。

 というか、紗綾は失踪者扱いになっていたのか。だから死人が蘇ったかのような驚き方をしたのだろう。

 なにせ、鬼流の中では紗綾は死人扱いになっていたのだから。

 

 しかし、それよりも気になることを鬼流は言っていた。

 ――ジーラ様。

 やはり今回の案件はジーラが関わっているようだ。

 以前、あいつにはかなりのトラウマを植え付けてやったつもりだったが、まだ懲りていなかったようだ。

 

 だが、おかげで俺の中で殺す理由というのが出来た。

 以前は情けなさすぎて殺す気にもならなかったが、今回ばかりは殺意しか湧いてこない。

 

「まぁ、いい。死人扱いが本当に死人になるだけだ。何も問題は無い」

「へぇ、死人になるのはどっちかしらね」

 

 俺と紗綾は並んで立つ。対する鬼流も隙の無い構えをする。

 

 恐らく今回のジーラ隊のメンバーは以前、俺たちが戦ったメンバーよりも圧倒的に格上が選出されていると考えていいだろう。

 

「最初から飛ばしていくぞ」

「分かった」

「「はぁっ!」」

 

 俺はクレア王を使用し紗綾はクレア装を刀に纏わせる。

 鬼流も腕にクレア装を使用したようだった。

 

「はぁっ!」

 

 まずは俺が駆け出した。

 刀を構えて真っ直ぐにかけ出す。さっきまでだったら、こんな風に直線に走ったら確実に背後に瞬間移動されてカウンターされていた。

 だが、今は周囲が火の海で迂闊に瞬間移動することが出来ないのだろう。俺の攻撃を迎え撃つ気のようで、拳を構えた。

 本来だったらこのクレア装はどんな斬撃も受け止めることができるようになるはずだ。だが、それは格下の斬撃の場合だ。

 クレア王には意味をなさない。

 

「ぐああぁぁぁっ!」

 

 俺の刀が鬼流の拳を斬る。

 能力を除けばクレアの面では俺の方が格上だ。そのため、俺の攻撃をクレア装で受け止めようなんて思わない方がいい。

 そしてその隙に紗綾が鬼流の背後へと回る。

 

「鬼流!」

「……お前では俺には勝てない」

「くっ!」

 

 その瞬間だった。

 紗綾が攻撃を放つ前に一歩先に鬼流が剣を振ったため、紗綾は薙ぎ払われてしまった。

 だが、さすがは紗綾と言った所だ。突然の攻撃だったというのにしっかりと受身を取ったのだ。

 

「お前は俺に一度も勝てたことがないだろう。昔からお前はずっと俺よりも弱い」

「だけど、それは昔の話でしょ⁉︎」

「いや、昔だけではない。これからも、お前は俺に勝つことは一生ない!」

 

 鬼流は紗綾の方向に向かって正拳突きを放った。

 すると、紗綾は正拳突きの衝撃波のみでぶっ飛ばされてしまった。

 だが、紗綾は吹っ飛ばされながらも周囲の炎をかき集め、鬼流に投げ飛ばした。

 

「なにっ⁉︎」

「いつまでも昔の私だとは思わないでね」

「あと、お前の敵は紗綾だけじゃないっていうことも忘れるなよ!」

「なっ!」

 

 俺は鬼流に霊縛波を背後から叩きつけた。それは紗綾が投げ飛ばした炎が鬼流に直撃するのと同じタイミングだった。

 ものすごい爆発と共に俺は爆風によってぶっ飛ばされるものの、地面に霊力刀を突き刺してなんとか耐える。

 

 逃げ場のない攻撃。流石にあいつでも一溜りもないはずだ。

 

 その直後、俺たちは目を見開いてしまった。

 確かに俺たちの攻撃の威力は高かったようで、上半身の服は綺麗に消し飛んでしまったようだった。だが、しっかりと五体満足で立っており、何より上半身を見て俺たちは絶句してしまった。

 

 なんと肉体というものが見当たらなく、完全に機械仕掛けな胴体だった。

 

「あ、あんた、それは……っ!」

「あーあ……見られたなぁ……仕方ねぇよな……殺すか」

 

 その瞬間、胴体に埋め込まれている歯車。それが突如、ものすごい速度で回り始めた。

 

「オーバーヒート…………っ!」

 

 鬼流がそう呟いた瞬間、鬼流の体から蒸気が発生し、周囲の温度が急上昇し始めた。

 まずい。このままじゃ蒸し焼きにされてしまう。早く鬼流を止めなければ。

 そう思ったその瞬間、突然突風が吹き荒れたと思ったら突然、鬼流がその場に倒れた。

 

 そしてその風は俺たちの体を切り裂いてくる。

 

「ったく……後先考えず行動するなよな」

 

 突如として鬼流の近くにスキマが出現したと思いきや、その中から一人の男が出てきた。

 その男は仮面をかぶってでっかい剣を背負っている。かなり威圧的な雰囲気を纏った男だ。

 

 確実にこいつも敵、そう脳では理解しているのに、なぜだかこいつに逆らおうという気は起きない。

 なぜなら、本能的にこいつに逆らったら死あるのみだと理解してしまったからだ。

 俺の中の死を恐れる本能が俺に戦ってはダメだと告げている。

 

「邪魔したな。まぁ、近いうちに戦うことになると思うが、今日はやめておくとしよう。では」

 

 それだけ言うと男は鬼流を担いでスキマの中へと消えていった。その姿を俺たちはただ見ているだけだった。

 誰一人として動くことができなかったのだ。

 スキマが閉じていく。だが、後を追うなんて言う考えは俺たちの思考から除外されてしまったのだ。




 はい!第171話終了

 鬼流との決着はお預けです。

 最後に出てきた奴は神楽です。果たして神楽の力は一体どのようなものなのでしょうか?

 そしてシャロの命が狙われています。

 真達はシャロを守り切ることができるのか?

 それでは!

 さようなら


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第172話 葛藤

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 鬼流と戦う真と紗綾。鬼流の能力を封印し、優位に立ったかと思われたが、鬼流の強さは能力だけの問題ではなく、実力がものすごく高く、後一歩のところまで行ったが、その攻撃では鬼流の機械仕掛けの体には傷ひとつつけることができなかった。

 そこで鬼流は奥の手であるオーバーヒートを使用して真達を一掃しようと考えたものの、そこで一人の男が止めに入った。

 その男は真たちの繊維を削ぐほどの実力の持ち主だった。

 果たして真たちはこの異変を解決することができるのだろうか。



 それではどうぞ!


side真

 

 恐らくさっきの鬼流を回収していった男もジーラの仲間だろう。とすると、あいつも倒さないとジーラの元へと辿り着くことができない可能性が高い。

 

 デイですらあれほど強かったと言うのに、恐らくあいつの実力はデイよりも上だ。

 果たしてどうしたものか……。

 

「これで結局振り出しに戻ったわね。それどころか最悪の状況よ。常にこの幻想郷の状況を確認していたのだけど、幻想郷が既に半分も消滅してしまったわ。残っているのはさっき崩れかけていた紅魔館は完全に消滅してしまっているわ」

 

 俺たちはシャドウに助けられて周囲が崩壊するあの紅魔館から逃げてくることができた。

 だが、想像通りにもう既に紅魔館は完全に消滅してしまったようだ。

 

「今の私たちには全然居場所がない。今日寝る場所も確保できないくらいよ」

 

 不眠不休で動き続けるのは流石にまずいだろう。ただでさえ強い奴と戦わなければいけないのに、その戦いの前に不眠不休による疲れで体力を消耗してしまっていては肝心な時に動けなくなる可能性がある。

 休みは取ったほうがいい。

 

「この世界に敵対視されているのは俺だけなんだ。なら、俺だけが逃げ続ければいいだけなんじゃないか?」

「どういうこと、真。私にはよく理解できないわ。その言い方だと、自分のことを犠牲にしようとしているように聞こえるのだけど」

「え、真! それはダメだよ」

「じゃあ、どうしろって言うんだよ!」

 

 紫は考えこむ。

 そして地面に倒れているライトを見た。

 

 ライトのダメージはかなりでかいものだが、この程度で死ぬほどライトは弱くはない。

 だが、少し心配だ。

 ライトは俺のコピー作品なだけあって、非常に俺の容姿と酷似している。だから闇雲に永遠亭にも連れていくことができないのだ。

 

「みんなで永遠亭に行きましょう」

「え、大丈夫なのか? あそこは永林とか強い人たちも結構いるだろ。敵対していたら厄介なことになるが」

「恐らくその辺は大丈夫よ。なにせ、永林はとても強いもの」

 

 紫にしては随分と曖昧な根拠だった。

 このまま永遠亭に行って紫の考えが外れた場合は即ゲームオーバーだ。ハイリスク。

 だが、もし永林が敵対していなくて、仲間になってくれたらものすごく心強い。ハイリターンだ。

 

 だが、リスクがあまりにも大きすぎる。俺一人が犠牲になるのはいいが、もしかしたらみんなも永林に殺されてしまう。

 

 みんなの命が危険ということで俺は渋っていると、肩に手を置かれた。

 その手を見てみるとこいしがそこにいた。そしていつになく優しく、包み込むような表情をしていた。

 

「真、そんなに考え込まなくてもいいんだよ。この異変が起こっている時点で安全な場所なんてこの幻想郷には残されていないんだから。だけど、真の気持ちもわかる。優しい真のことだから多分私たちを危険な目に合わせたくないんだよね。わかる。私も真の立場だったら同じことを考えていただろうから。だから私たちは強制はしないよ。元々ここにいるみんなは真に協力するために集まっているんだから。だから、私たちは真についていく、真の決断に従うだけなんだから。その結果がなんであろうと私たちは真を責めることは絶対にない。だから安心して前を歩いて、私たちを導いて。真が正しいと思った道へ」

「こいし……」

 

 こいしの口からこんな言葉が出てくるとは思いもしなかった。

 俺は頭をフル回転させる。どっちの方がいいか、そんなのは今のこの現状では誰もわからない。

 俺たちは未来を見ることができるわけじゃない。この場にいる誰もこの先どうなるのかを知っている人なんていないんだ。

 本当に俺が決めてしまって大丈夫なのだろうか。みんなをそんな身勝手に巻き込んでしまっていいのだろうか。

 

 確かにジーラを倒さなければどの道、この幻想郷は崩壊する。

 ならば、俺の選ぶ答えはっ!

 

「行こう、永遠亭へ」

「ふふ、あなたならそういうと思っていたわ」

 

 その瞬間、俺たちの体は宙をまっていた。俺たちは足元のスキマへと自由落下を始めたのだ。

 出口は恐らく永遠亭。一か八かの賭けだ。

 

 数十秒でスキマの出口にたどり着き、勢いよくスキマの中から飛び出した。

 見てみるとまだここは一切、崩壊していないようで、綺麗な以前きた状態と同じ状態の建物がそこにはあった。

 それだけでなんだか俺は泣きそうになってくる。だが、本番はこれからだ。泣いている暇はない。

 

 俺たちは無言で頷き合って静かに歩き始めた。

 その瞬間だった。

 

 ドゴーンとものすごい物音が聞こえた直後、ボロボロになったシャロがぶっ飛ばされてきた。

 俺はなんとかシャロをキャッチしたものの、ものすごい威力だったため、俺もぶっ飛ばされて木に背中を強打してしまった。

 

「ぐっ」

「真!!

 

 こいしは駆け寄ってくる。

 俺は能力は致命傷を防ぐだけであってダメージそのものを軽減するものではないから今のは致命傷判定ではなかったのだろう。モロにダメージを食らって肋が何本かイカれた。

 

「おぉっと奇遇ですねぇ〜」

 

 やかましい声が聞こえる。

 この声はついさっきも聞いた声だ。もう二度と聴きたくなかった声だ。

 

「デイっ!」

「さてさてさて、その神を大人しく渡してもらいましょうか〜? そうしたらあなた達に手荒な真似はしませんよ?」

「渡すかよ。シャロは俺たちにとって大切な人で、この異変を解決する要なんだ!」

「そうですかぁ……では、死んでいただきましょう! いっつショータイム!」




 はい!第172話終了

 デイとの再戦、かなり早かったですね。

 そして制限時間はもうあまり残されていません。

 果たして真たちはデイに勝利し、シャロを守ることができるのでしょうか?

 それでは!

 さようなら


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第173話 二人の霊縛波

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 なんとか鬼流を退けた真達だったが、ライトが満身創痍になってしまったので真は苦悩の末、永遠亭に賭けることにした。

 するとそこにいたのは数時間前に戦い、圧倒されてしまった相手、デイだった。

 デイはシャロのことを狙い、このままではシャロを殺されてしまう。そうしたらもう撃つ手がないぞ!?

 それではどうぞ!


side真

 

 俺は周囲が崩壊してしまうことを警戒する。

 さっきと同じように周囲が崩壊するとしたら俺たちは閉じ込められてしまうからすぐに退避しなければならないからだ。

 紫もそのことを警戒してスキマを作り出す準備をしている。

 

 だが、デイと名乗るカメラは崩壊させるわけではなく、そのまま俺たちに突撃してきた。

 

「今度こそ君たちを全員殺してあげるね〜?」

「今度こそ倒すのはこっちのセリフだ!」

 

 俺はクレア王を使用すると霊力刀を作り出した。

 カメラは俺にそのまま突撃してきたため、俺はカメラを刀で受け止めたものの。

 

 ――お、重いっ!

 

 そう、物凄くその一撃は重く、受け止めた手がビリビリと痺れてくるほどの衝撃を受けてしまった。

 こんな攻撃を何回も受けていたら腕がイカれてしまう。

 クレア王はかなり身体強化をしてくれるのにこれでこのダメージだと考えるとゾッとするが、今ここで引く訳にはいかない。

 

「真っ!」

 

 すると横から蹴りが飛んできた。

 見てみるとそこにはこいしが居た。

 どうやら無意識を使ってこっちに走ってきてカメラに気付かれる前に飛び蹴りをしてきたようだ。

 

「こいし、助かった」

「それはいいけど、真は大丈夫?」

「大丈夫、とそう言いたいがそうも言えないのが事実だ」

 

 ジンジンとした痛みが無駄残っている。

 今のは致命傷になるようなダメージではなかったからか、肉体にもそのままのダメージが入ってしまってもしかしたら骨にヒビが入ってしまったかもしれない。

 

 刀を持つ腕が震えている。

 

「全く、出鱈目なやつだな」

「真、どうする?」

「一か八かやってみるしかないだろうな。……紗綾!」

「ん、りょーかいっ!」

 

 すると紗綾は俺たちの横をものすごい速度で通り抜けていき、カメラへと急接近する。

 刀にはクレア装を纏わせ、その刀身は真っ赤な炎で燃え盛っている。

 

 紗綾に修行をつけたのは俺だ。紗綾の実力はよく知っている。

 あいつは簡単にやられるようなやつでは無い。こっちはこっちでやることをやってしまおう。

 

「こいし、力を貸してくれるか?」

「うん。もちろんだよ!」

 

 こいしならそう言ってくれると思っていた。

 協力って言ってもこんな所で崩壊の能力を使うつもりは毛頭ない。

 こんな所で使ったら俺たちは大丈夫でカメラは倒せるだろうが竹林や永遠亭だけではなくみんなまで巻き添えだ。それだけは避けたい。

 なら、何をしようとしているのか。

 

「手を出してくれ」

「うん」

 

 戸惑った様子で手のひらを上にして出してくれるこいし。

 俺はその手の上に同じように手のひらを上にしてこいしの手の上に重ねた。

 その状態で手のひらに霊力を集め始める。

 

「こいしもお願いだ」

「うんっ!」

 

 あの時偶然出来た技だが、今あいつを倒せるとしたらこれしか俺は思いつかない。

 

「っ! 行くぞこいし!」

「うん!」

 

 俺とこいしは同時に駆け出して手のひらに俺の霊力とこいしの妖力が合わさった霊力の玉を作り出して腕を同時に突き出す。

 

「くっ!」

 

 紗綾は体当たりによって少しぶっ飛ばされてしまうものの、すぐに体制を立て直して刀を構えるものの、直ぐに俺たちの接近に気がついたからか直ぐにその場から飛び退いた。

 

「なっ!」

 

 紗綾に気を取られていたからだろうか?

 カメラは俺たちに気がつくのに遅れたようで、気がついた頃にはもう目の前にたどり着いており、今のこの状態からではどんなに強い相手でも回避することは不可能だった。

 

「「無意識《霊縛波》!!」」

 

 俺たち二人の霊縛波はカメラに直撃。

 極太のレーザーが小さいカメラを包み込んだ。

 

「がぎ、がぎぎぎぎぎ」

 

 カメラから変な音がし始めた。

 その直後――

 

 ドカーン!!!

 

 ものすごい爆発音と共にカメラが砕け散った。

 どうやらカメラ本体自体がダメージに耐えきれなくなったようで、爆発してしまったようだ。

 

 俺とこいしは爆発によって少しぶっ飛ばされてしまうものの、揃って受身をとって着地した。

 

「勝った」

 

 目の前に見えるのは何も無い空間のみ。

 カメラの欠片もそこには残ってはいなかった。どうやら本当に粉々に砕け散って、再生することはないようだ。

 とりあえず俺たちはシャロとこの永遠亭は死守したのだ。

 

 だが、恐らくこのカメラが本体って訳では無いだろう。デイっていう男の本体は別にあるはずだ。

 今回はカメラが相手だからカメラの耐久度に限界が来てぶっ壊れてくれたけど、本体との戦いではこうも行かないだろう。

 

「ったく……カメラでこの強さだったら本体はどれほど強いのか」

 

 俺たちがカメラを倒し安堵していたその時、永遠亭から一人の人物が現れた。

 かなりボロボロのようでダメージがかなり大きそうに見える。

 フラフラとしながら歩いてきたその人物を見て目を見開く。

 

「永琳先生!」

 

 その姿が見えると俺は後先考えずに永琳先生に向かって走り出した。

 

「ちょっと、真止まりなさい!」

 

 紫が俺に静止をかけるものの俺が止まることは無い。

 もうこの際、永琳先生が敵か味方か、確認するのは後回しだ。

 永琳先生はシャロのことを治療してくれた。もう既に永琳先生は俺たちの大事な仲間なんだ。見過ごす訳にはいかない。

 

「し、ん」

 

 俺の事を見つけると安心したかのような表情を見せて永琳先生はその場に倒れ込んだ。

 そんな永琳先生を俺は抱えると永遠亭内へと駆け込んだ。




 はい!第173話終了

 カメラを倒すことに成功した真達。

 果たして真たちはこの異変を解決することが出来るのか?

 まだまだ続きます。

 それでは!

 さようなら


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第174話 私が相手になります

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 デイと戦う真。

 デイのパワーは想像以上のもので、真は力比べで負けてしまう。

 その時、こいしと紗綾が助けに入り、何とかデイのカメラを撃破。

 そこで永琳が永遠亭からぼろぼろの姿で現れた。

 果たして永遠亭では何が起こったのか?



 それではどうぞ!


side真

 

「う、うーん……」

 

 ベッドで寝ている一人の女性が目を覚ました。

 その際の声が聞こえ、俺は咄嗟に目をそちらに向ける。

 するとその女性は上体を起こした。

 

「こ、ここは……」

「永遠亭です。すこし場所を借りさせてもらってます。体調はどうですか? 永琳先生」

「え、えぇ……特に問題はないわ」

 

 俺たちは永琳先生が倒れた後、永遠亭内のベッドまで運んで寝かせておいたのだ。

 酷い怪我だったが、正邪がその怪我の度合いをひっくり返してくれたことで一命をとりとめたというのもある。

 だが、一体この永遠亭内で何があったんだ。中に入ってみればかなりあれており、あちらこちらの壁が破壊されていた。

 ここであのカメラと永遠亭の人たちで戦ったのは間違いないだろう。

 

「永琳先生、起きて早々で悪いのですが、この永遠亭内で何が起こったのか、教えていただいてもいいですか?」

「えぇ、大丈夫よ」

 

 そうして永琳先生はゆっくりと何があったのか話し始めた。

 


 

side永琳

 

 最近、幻想郷の各地で不可解なことが起きている。

 

 幻想郷の崩壊。どんどんと土地が消失していき、このままではこの幻想郷はすべて消失してしまうのではないかというものだ。

 さらに、永遠亭のほかのみんなは真を殺さないとと頻りにつぶやいてどこかへ行ってしまった。私が止めても無駄だったのだ。

 多分いつもの異変解決組が今、解決しようと奮闘している最中なんだろうけどかなり心配だ。

 それについさっき、紫から送られてきた患者。どうやらただ事ではない様子だった。

 

 詳しくは効いていないんだけど、この子が大切だということは伝わってきた。

 何があろうと私が守り抜かないと––

 

「ハロー」

「っ!」

 

 突然目の間にカメラが出現して私は驚いてしまった。

 しかもこのカメラ、しゃべった? いや、スピーカーから音が流れただけだ。

 だが、このカメラ浮遊し、私の目の間にいる。嫌な予感しかしない。

 

「突然ですが、この女性は知りませんか?」

「え?」

 

 そういって出されたのは一枚の似顔絵だ。

 とてもじゃないけど上手いと言えないそれだが、確実に特徴はとらえているのが伝わってきた。

 そしてその特徴から当てはまる人物は––

 

「知らないわ」

「そうか……」

 

 それだけ言うとカメラは私の目の前から消えてしまった。

 何だったんだろう? だが、あの似顔絵はとても紫が送ってきた女の子に似ている。あそこでそのことを教えてはならない。そのことを本能で理解して咄嗟にごまかした。

 追及されなくてよかった。驚きのあまり、うまく頭が回っていなかったから追及されていたらぼろが出ていたかもしれない。

 

 だが、念のためにあの子の病室も見てみるか。

 そう思って病室のドアを開けたその瞬間だった。

 

「死んで貰う!」

 

 今まさにカメラによって女の子が攻撃されそうになっているところだった。

 咄嗟に私は弓矢を取り出すとカメラに放つ。

 

「あがっ!」

 

 対してダメージはないようだ。だが、衝撃自体はあったようで、こちらに気が付き、私の方へと体を向けるカメラ。かなり不気味なカメラだ。

 

「あらあら。嘘はよくないですねぇ。いるじゃないですかぁ……こんなところに!」

「っ!」

 

 声色が変わった。

 先ほどまでのお茶らけている口調ではない。怒りの感情が声にこもっている。逃げないと殺される。そのことを本能的に悟ったものの、逃げたら確実にあの女の子が殺されてしまう。

 そうなってしまったら私は紫に顔向けすることができない。

 

「……私が相手になります」

 


 

side真

 

「そうして私はあのカメラに戦いを挑んだのだけど、惨敗だったわ」

「なるほど……」

 

 奴は確実にシャロの事を殺しに来た。

 その理由としてはジーラの空間を悟らせないためだろう。

 確かにシャロを殺されてしまっては俺たちには打つ手がない。

 

「ごめんなさい。あなたたちが来てくれなかったら私はあの子を守り抜くことができなかったわ」

 

 謝罪をし、頭を下げる永琳先生。

 その永琳先生を見て俺は首を横に振った。

 

「いえ、今回の件に対して感謝の言葉は言えど、永琳先生を責め立てることはできません。なにせ、永琳先生はシャロを守ろうと戦ってくれたじゃないですか。ならそれだけでいいですよ。それに、シャロも無事だった。それだけで俺たちの勝利は近づいた。永琳先生がいなかったら俺たちが来るまでシャロの事を守ってくれる人がいなかったわけですから、俺たちが付いたころには手遅れになってしまっていましたよ」

「そう言ってもらえるとありがたいわ」

 

 実際問題、ここで永琳がいてくれなかったら正直詰んでいた。永琳のおかげで俺たちはまた首の皮一つつながったということだ。

 それに、今こうして普通に話しているところを見ると、どうやら永琳は洗脳されてはいないらしい。それが分かっただけでも大きな収穫だ。

 

「今はあなた一人かしら?」

「いや、シャロたちの部屋を見に行っている人や敵襲がないか見張っている奴もいるぞ。あと、ライトもかなりひどい怪我をしたから寝かせてもらっている」

「それはいいのだけど……どうしてあなたたちはここに来たの?」

「実は、俺たちはこの幻想郷を救うためにレジスタンスを結成しているんだけど、どうにもこうにも拠点をなくしてしまったんだ。だから異変を解決するまでの間だけでいいからここでお世話にならせてもらいたい」

「わかったわ。そういうことならここを拠点として活動するといいわ」

「ありがたい。この恩はいつか必ず返す」

「そう? なら、あなたをモルモっ……すこし協力してほしいのだけど」

「あ、軽率な発言をしてしまった」

 

 真は自身の軽率な発言によって後悔と恐怖に苛まれることとなるのだった。




 はい!第174話終了

 永遠亭での会話。

 もうすぐ夜が明けます。

 果たして真たちは幻想郷が崩壊する前に異変を解決することができるのか?

 それでは!

 さようなら


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第175話 殺戮と略奪

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 永琳が目を覚まし、真は何があったのか永琳に聞く。

 すると永琳が命を張ってシャロを守ってくれていたことが判明し、永琳に感謝の意を伝える。

 そして永琳はレジスタンスの拠点として永遠亭を提供してくれた。

 永琳を仲間に引き入れた真たち。

 シャロが目を覚ませば決戦はもうすぐそこだ!



 それではどうぞ!


sideデイ

 

 くっそーあいつらめ。いつもことごとく俺の邪魔をしやがって!

 あの小僧もそうだ。今回は一緒じゃなかったようだが、俺の邪魔をしやがって!

 

 俺は近くにあるものを徐に手にとっては壁にたたきつけた。

 たまたまそれは陶器だったため、ぱりーんという音とともに粉々に砕け散った。

 

「あいつらめ、もうただじゃ置かねぇ。あいつを殺すのにも失敗したとなっちゃ俺のメンツが丸つぶれだ」

 

 最初は上に命令されたから殺していただけだった。

 だが、今となってはあいつらが憎い。どうしても殺したくて殺したくて仕方がないのだ。

 どんな手を使ってでも殺してやる。

 

 だが、そうなるとあのパソコン持ちのやつが厄介だ。俺のカメラをハッキングされちゃたまったものではない。

 

「そうだ、自分で行けばいいのか」

 

 名案だった。

 俺は滅多に自分から戦場に赴くことはない。戦うとしたらカメラを使って戦うのがいつものパターンだ。

 だが、あいつらは俺を怒らせてしまった。

 

 なぜ俺が自分で戦わないのか? そんなの決まってるじゃないか。

 俺が強すぎるからだ。

 


 

side真

 

 俺はとりあえず永琳先生が目を覚ましたことをみんなに伝えるべく、病室を出てみんなのいる場所へと向かう。

 

「どうだった?」

 

 俺を見かけるなり一番最初に声をかけてきたのは紗綾だった。

 紗綾は壁に寄りかかり、腕と足を組んで立っていた。そしてなにやら難しい表情をしている。

 

「あぁ、一応大丈夫だが、念のために休ませておいた。永琳先生はセーフだ。そしてここをレジスタンスの拠点として使っていいらしいぞ」

「それはありがたいわね」

 

 するとどこから聞いていたのか突然スキマが俺の前に出現し、中から紫が顔を出した。

 このスキマ妖怪、いつどこから現れるか分からないから一種のホラーなんだよな。

 紫には敵は来ていないかの確認に行ってもらっていた。

 他にも音恩、フラン、こいしが交代で見張りをしてくれている。俺も後でこの見張り番に加わろうと考えている。

 

「とりあえず寝床は確保できたけども、シャロ様が目を覚まさないのがねぇ」

 

 幽々子の言葉にみんなでうつむいてしまう。

 シャロが目を覚まさなければ俺たちはこのまま崩壊する世界を眺めるだけになってしまう。

 シャロに関しては永琳先生がすでに必要な処置はしてくれているはずだ。となると、あとは俺たちにできることといえばシャロを守り抜くことだけだ。

 

「とりあえずここまで来たんだし、あともうちょっとだよ」

「……そうだな」

 

 その次の瞬間だった。

 永遠亭の天井が崩壊し、一人の人影が落ちてきた。

 その光景を見て俺たちは後ずさり、警戒をする。

 

「はーい。皆様、どうもお待たせいたしました……華麗な処刑ショーの始まりでーす」

 

 この声、この言葉。まさか!

 

「この私はデイ。今まであなた方と戦ってきた張本人!」

 

 まさかここで本体が出てくるとは。

 俺たちは全員で戦闘態勢に入る。こいつの実力はカメラとの戦いでかなり高いことが証明されている。もしかしたらあのカメラよりも圧倒的に強いかもしれない。

 警戒は怠らないに越したことはない。

 

「どうする? 見張り番の人たちも連れてくる?」

「いや、それだと見張る人がいなくなってしまう。何とか俺たちだけでこいつを倒そう」

「この私を倒すだと? あひゃひゃひゃ! 面白い冗談を言いますねぇ……いいでしょう。少しだけわたくしの力をお見せします」

 

 その次の瞬間、周囲にあった電子機器が突如として動き始め、暴れ始めてしまった。

 

「行きなさい」

 

 デイのその言葉に応えるように電子機器たちは俺たちに向かって襲い掛かってくる。

 放電をしたり、体当たりをしてくる。

 もちろんこれらはただの電子機器で、痛覚などあるわけないので攻撃したとしても怯むこともなく俺たちに向かってくる。

 

「《霊力斬》!」

「《爆炎斬》!」

「結界《夢と現の呪》!」

「亡郷《亡我郷-さまよえる魂-》!」

「欺符《逆針撃》!」

 

 操っている張本人であるデイを倒さないとだめだと考えた俺たちは一斉にデイに攻撃を放つ。

 だが、その前に電子機器たちが立ちふさがり、俺たちの攻撃をすべて受けてしまった。

 

「まじかよ」

 

 しかも、その電子機器たちは操られることによって頑丈になるのかわからないが、俺たちの攻撃をすべて受けきってもびくともせず、俺たちの攻撃がデイに届くことはなかった。

 最強の盾。そう言わざるを得ない。

 

「発想はよかったよ~だがまだ足りない」

 

 まるで生きているかのように動く電子機器たちに俺は既視感を覚えた。

 まるで以前の異変で戦った龍磨ともう一度戦っているかのような感覚を覚えた。

 

「ふふ、あひゃひゃひゃひゃ! 驚いているな」

「何がおかしい」

「私がどうして龍磨のような力を使えるのか」

「っ!」

 

 俺の考えが読まれた?

 いや、それほどまでに俺の表情に出てしまっていたのか?

 だが、なぜこいつが龍磨の事を知っているのかが分からない。

 

「どうして龍磨の事をっ」

「どうして……か。君はあの時、君の手で龍磨を殺したと思っているようだけど真実は違う」

「え?」

「殺したのは俺だよ。このスキマの力を使って最後の一撃はこの俺が貰ったんだよ」

 

 そういってデイは手のひらを何もない方向に伸ばすと、そこに空間の裂け目が出現し、目玉だらけの空間が現れた。

 それはまごうこと無きスキマの力だった。

 

「意外と探せばこの能力を使える人はいるものでね。もらい受けたんだ」

 

 貰った。いや、能力は簡単に貰えるものではない。そして簡単に渡せるものではない。

 能力はその人自身の個性だ。そんな個性が簡単に人に渡せるものか!

 だが、この話を聞いて一つだけ心当たりがあった。

 それは––略奪の能力。

 

 以前に未来の俺が使用していた略奪の能力だ。あれならば人の能力を簡単に奪うこともできる。

 だが、略奪の能力と殺し、何が関係あるんだ?

 

「俺の能力は《能力を殺して奪う程度の能力》」




 はい!第175話終了

 ついにデイの本体が出てきました。

 そして明かされるデイの能力。

 パラレルワールドの真の力が再度出てきます。

 ただ、今回はパラレルワールドの住民ではないので霊夢たちの能力は使えるわけではありませんが。

 それでは!

 さようなら


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第176話 デイの本気

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 ついに真たちの前に姿を現したデイ。

 そんなデイは衝撃の事実を真たちに伝えた。

 《能力を殺して奪う程度の能力》



 それではどうぞ!


side真

 

 能力を殺して奪う。またこのような能力の奴と戦うことになるとは微塵も思っていなかった。

 以前、戦ったパラレルワールドの俺は能力を奪う程度の能力で奪った数々の能力を駆使して戦ってきたため、かなり厄介な存在だった。正直、もう二度と戦いたくない一人でもある。

 俺が今まで唯一、正面から殴り合って勝てなかった相手。

 

 そんな相手の生き写しのような奴が目の前にいる。

 今判明しているのは龍磨の電化製品を操る能力、そしてスキマの能力だ。

 だが、こいつはもっとたくさんの能力を持っているはずだ。

 

「さて、次はだれを殺して能力を奪ってやろうか……」

 

 こいつに殺されるたびに俺たちは奴に餌をあげてしまって結果的に強くしてしまう。そんなのは悔しくて悔しくて死にきれねぇ。

 死んでいい戦いなんて一つもないが、今回は特に死んだらダメだ。

 

 それに、俺たちがここでこいつを食い止めないと病室にいる永琳先生やライト、シャロ、それに見張りの音恩、フラン、こいしまで危険な目に遭わせてしまう。

 絶対にここでこいつを俺たちで倒す。

 

「そんなに力まなくていいさ。ただ、この少女をこちらへ渡してくれるならば、今回は見逃してあげるよ」

 

 そういって渡してきたのはおそらく永琳先生も見せられたのであろうシャロの似顔絵。

 あまり似てはいないが、ところどころの特徴はしっかりととらえているため、シャロだと認識することはできる。

 こいつらもわかっている。俺たちがシャロを失えば成す術がないことを。

 俺たちの中で答えは当然決まっていた。

 

「断る」

「ほう?」

「シャロは俺たちの大切な仲間だ。みすみす見殺しにすることなんてできない。それに、今生きながらえたところで、いずれ俺たちは崩壊に巻き込まれて死ぬ。だから、今に全力で抵抗してやる。それが俺たちの答えだ」

 

 俺の放った言葉に一同は一斉に頷いてデイを見据える。

 相変わらずの余裕ない態度に腹が立つものの、こいつは実際に強いため、非常に厄介だ。

 

「そう、それが君たちの答えなのだとしたら……ここで死んでもらうよ!」

 

 デイがそう言って放ってきたのは水の槍。

 俺たちに向かって投げつけてきたため、俺たちは回避するものの、その槍の着地地点を中心に大きな水の竜巻が発生し、天井を破壊して大きく上がった。

 かなりの風量で、俺たちはぶっ飛ばされてしまう。

 

「く、私は水が苦手なんだよ!」

 

 紗綾が刀を構えてデイに向かって走り出す。

 だが、そんなデイに近づくことはできず、途中でその動きを止めてしまった。

 あれは怖気づいて動けなくなったとかいうちっぽけな理由じゃない。そのことが紗綾の焦っている顔からも察することができた。

 

「サイコキネシス。外の世界では超能力と呼ばれている部類の攻撃だね」

 

 サイコキネシスによって紗綾は身動きを取れなくされてしまったのだ。

 そしてそのまま紗綾は空中に浮かべられ、左右に振られると思いっきり壁に向かって投げ飛ばされ、激突。壁が崩壊するほどの威力で壁にたたきつけられた。

 

「かはっ」

「紗綾!」

 

 俺は慌てて駆け寄るものの、ぐったりした状態で起き上がることはできないようだった。

 何とか意識はあるものの、身動きができないほどのダメージを負ってしまったらしい。

 

「ご、めん」

「大丈夫だ。安心して休んでいてくれ」

 

 あの紗綾が一瞬にしてやられたことでみんな、声も出なくなってしまった。

 紗綾の実力は今いるこのメンバーの中でもトップクラスの実力を持っているため、紗綾が一瞬でやられたのはものすごい衝撃的な出来事だったのだ。

 

「食らいなさい!」

 

 紗綾がやられたことに気を取られていると幽々子が何かを仕掛けていたようだ。

 見てみると、デイの周囲には大量の蝶が飛んでいた。

 その蝶は一目見ただけでもただの蝶ではないと認識することができる。幽々子は何かをするつもりのようだ。

 

「その蝶は私の能力のすべてを注ぎ込んだ死の蝶。触れれば即死よ。果たしてあなたに捌ききることができるかしら?」

「っ! ふむ」

 

 一瞬、驚いた様子のデイだったものの、すぐに元の表情に戻ると地面に片手を付けた。

 

「いまさら何をやっても遅いわ! 食らいなさい!」

 

 その瞬間、周囲を飛んでいた蝶たちはいっせいにデイに襲い掛かった。

 

「《エクスプロージョン》」

 

 デイが小声で言うと、地面につけていた腕が爆発し、かなりの爆風が周囲を襲った。

 もちろん、今の一撃ですべての蝶が消し飛んでしまい、デイがその蝶に触れることはなかった。

 俺たちも爆風によってぶっ飛ばされ、背中を壁に強打する。

 

 爆発によって砂煙が上がったため、デイの体は完全に隠されてしまった。

 だが、今の攻撃によってデイの腕は消し飛んだ。

 さすがに腕がなくなっては戦闘能力が落ちるだろう。このまま一気に攻める!

 そう思ったのだが、砂煙の中から何かがものすごい速さで走ってきたのを感じ、俺は霊力刀を構えた。

 

「しねぇっ!」

 

 奴がまず狙ってきたのは俺だった。

 メタリックになった腕を振りかぶり、思い切り俺にたたきつけてくる。

 俺はそれを防御するために霊力刀で受けたのだが、そのものすごい威力によって俺は壁を突き抜けて竹林の方まで殴り飛ばされてしまった。

 

 辛うじて生きている。俺が《致命傷を受けない程度の能力》を持っていなかったら、今のが致命傷となってしまって動けなくなってしまっていただろう。

 それに《都合のいい状況を作り出す程度の能力》も関係しているのだろうか? 当たり所がよかったらしく、さっき背中を壁に強打した時よりは痛くなかった。

 

「くっ」

 

 どちらにせよ、俺は今の一撃でかなりのダメージを負ってしまったため、崩れ落ちて膝をついてしまった。

 辛うじて刀を杖代わりにして体を起こしている状態だ。体中の痛みが半端じゃない。

 

「真!」

「紫、後ろ!」

 

 紫は俺を助けようとして一歩踏み出したのだろう。だが、俺ばかりに気を取られていたせいで、デイに背後を取られていることに気が付かなかったらしい。

 

「くあっ!」

 

 紫もそのメタリックになった拳に殴り飛ばされてしまい、壁を破壊して瓦礫の下敷きになって身動きが取れなくなってしまった。

 

「決めた。最初はお前からだ」

 

 デイは舌なめずりをすると紫に向かって拳を振り下ろした。

 このままじゃ紫が殺されてしまう。そう思ったのだが、その拳が紫に襲い掛かることはなかった。

 

 ドカーンと何かが破壊される音が紫から離れたところから聞こえてきた。

 

「ふぅ……危ねぇな」

 

 変わって紫の目の前にいるのは正邪だった。

 正邪が能力でデイと入れ替わって紫に攻撃が当たるのを回避したのか。やるな。

 

「てめぇ……よくやってくれたな。決めた。まず最初はお前から殺してやるよ!」

「出来るものならやってみな!」




 はい!第176話終了

 ついに次回、デイと本格的に戦います。

 僕の小説は一話一話の文字数が少ないので毎週投稿となるとかなり完結するのに時間がかかりますね。

 そんなこの小説ももうすぐで第200話突破します。

 まぁ、まだ第200話には到達しないのですが、僕の考えている話のボリューム的に確実に第200話は突破します。

 それでは!

 さようなら


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第177話 正邪の能力(ちから)

 はい!どうもみなさん!ミズヤです

 いやぁ〜今年もあと僅かですね。今年は皆さん、どのような事があったのでしょうか?

 僕はずっと物語を考えて書いていたと言った感じですので特に何もありませんでした。

 強いて言えば就職したので少し執筆の時間が減ってしまったと言った感じでしょうか?

 そんなことより、この話が無意識の恋 Second stage今年最後の話です。

 デイ戦がめちゃくちゃ長いですね。ラスボス戦ではなく中ボス戦レベルの話なのですが、デイがめちゃくちゃ強いんですよ。

 今回の話は正邪がカッコイイ話です。



 それでは前回のあらすじ

 デイと対峙する真たち。

 だが、真たちはデイにやられてしまう。

 紫までもがやられてしまい、トドメを刺されそうになったその時、正邪が自分とデイの位置を入れ替えて紫を救った。

 しかし、そのせいで正邪がヘイトを買ってしまい、デイに狙われてしまう結果となってしまった。

 果たして正邪はデイを倒すことができるのだろうか?



 それでは今年最後の無意識の恋Second stage、どうぞ!


side真

 

 デイは正邪のことを睨みつける。

 正邪もデイのことを睨み返し、堂々とした振る舞いをする。だが、その足は諤々と震えていた。

 

 その気持ちは痛いほどわかる。

 先ほど、アレだけの力を見せられてしまったのだ。怖くなって当然。俺も同じ立場で思いっきり特大の殺意をあいつに向けられたら怖くて怖くて仕方がなくなってくる。

 だが、そんな表情は全く見せなく、むしろ表情は余裕そうで笑っている。

 

「俺のことをコケにしたこと、後悔するといい!」

「っ!」

 

 その瞬間、正邪の周りに風が巻き起こり始める。そしてそのまま竜巻の要領で正邪の周囲に風の壁が出来上がってしまった。

 

「やめなさい!」

「遅い」

「うっ!」

 

 幽々子が止めようとして再度蝶を作り出そうとしたその瞬間にはもうすでに幽々子の背後にデイが立っていて、手刀で気絶させられてしまった。

 これでもうデイの攻撃を止めることができる人はいない。

 

「その風はね。特殊な風で、とても鋭いんだ。こんな風に」

 

 そういうとデイは近くを漂っていた電化製品を一つ手に取ると風の中へと投げ飛ばした。

 その瞬間、その電化製品は一瞬にして細切れになってしまった。

 

「どんなものでも一瞬でミンチにすることができる。さっきは油断したが、俺は俺自身に対する能力を妨害する能力も持っている。お前の入れ替わりはもう効かないぞ」

 

 正邪の残された希望であるデイとの入れ替わりという退路を防がれてしまった。

 

 そしてさらには先ほどから妖力の動きを見てみると上方向からの脱出を試みているようだが、内部では突風が下方向に向けて吹いているようで、なかなか脱出できずにいるようだった。

 絶望的だった。

 

「俺のことを馬鹿にしたことを地獄で後悔するんだな!」

 

 デイがそういった瞬間、風の檻が少しずつ萎み始めた。

 このままでは正邪がミンチにされてしまう。なんとかしなければ。

 そう思うものの、俺は体が痛くてなかなか体がいうことを聞いてくれない。

 

 不甲斐ない。弱い自分が不甲斐ない。

 最近は特に思い知らされている。

 

 以前、幻想郷を救ったことで強くなったと思ってた。実際、現代では幻想郷で身につけたこの力は過剰なものだった。だが、この幻想郷では違った。もっと強い奴らで溢れていた。

 未来の俺から始まり、紅蓮、彩綾、バーク、龍磨と俺よりも強い奴らと会ってきた。その度に思い知らされるのだ。俺はまだまだ弱いと。

 

 俺が弱いから正邪を助けることができない。

 悔しかった。この状況でも見守ることしかできないなんて……。

 

「さらばだ!」

「正邪!」

 

 完全に風の檻が閉じ切った。もうあの状態では助からないだろう。

 恐らく中にあるものは既に全てミンチにされてしまっている。正邪もそうなってしまったことだろう。

 くそっ!

 

 正邪は俺のことを何度も助けてくれたのに俺は助けられないなんて……っ!

 

「はははっ! 俺に逆らうからこうなるのだ。さて、あの小娘の能力を試してみるとするか」

 

 そう言って風の能力を解いた直後、デイは不可解そうな表情を浮かべた。

 

「あの小娘の能力の使い方が全く浮かんでこない。どういうことだ?」

 

 恐らく能力を奪うと使おうとした時にその能力の使い方が頭の中に浮かんできて理解することができるのだろう。

 正邪は風に切り刻まれたとはいえ、あの風はデイが作り出したものなので、デイに殺されたということになる。

 ならばデイがその能力を手にいれたということになるはずだ。なのに、使えないとはどういうことだ?

 

「ねぇ」

「っ!」

 

 その瞬間、聞こえるはずのない声が聞こえてきた。デイの向こう側からだ。

 デイも驚いた様子で背後をふりかえると、デイは何かの衝撃を受けてぶっ飛ばされ、壁に激突した。

 

「かはっ!」

 

 デイがダメージを受けている姿を見るのは初めてだ。

 先ほどまで俺たちの攻撃をさまざまな能力を使用して完璧に防いで見せていたから。

 

「油断は大敵だぞ〜」

 

 デイの元いた場所を見てみると、床に倒れ込んでいるデイのことを見下ろしている正邪がそこにいた。

 恐らくデイは正邪に蹴り飛ばされたのだろう。しかし、どうやってあの風の檻から出たんだ。

 

「あ、ちなみに上から出ようとしたのはフェイクだ。本命はこっち」

 

 そういうと正邪が見せてきたのはそこらへんを転がっている瓦礫だった。

 

「こいつと入れ替わったんだよ。何も無機物と入れ替わることはできないとは一言も言っていないからね」

「くそが。この俺を二度も馬鹿にするとは……」

 

 まずい。今の一撃で完全にデイを怒らせてしまったようだ。

 今の攻撃は再度デイが油断していたからこそ決まった攻撃だろう。だが、完全に怒ってしまったデイには今までのような攻撃は通用しないだろう。

 

「ぐっ!」

 

 今度はサイコキネシスで正邪を拘束するデイ。

 だが、再度瓦礫と入れ替わって拘束から抜け出したものの――

 

「かはっ」

 

 入れ替わった先に拳が飛んできたため、正邪は回避する暇もなく、まともにその拳を喰らってしまった。

 

「遅い。その程度で俺を欺けると思ったら大間違いだ」

 

 どうするどうするどうする。

 この状況、かなり絶望的だ。

 

「く、くぅ……」

 

 正邪はうずくまって動けない様子。

 このままでは正邪が殺されてしまう。

 

 その瞬間だった。

 

「グアっ!」

 

 何もないのにデイはその場で転倒した。

 

「上下左右の感覚を逆にしてやった。これが私の最後の抵抗だ」




 はい!第177話終了

 正邪対デイ。

 デイは正邪に対して完全にキレたことによって油断は無くなりましたが、正邪の能力はかなり初見殺し的なところが多いので油断してなくても対処が難しい場合も多いですよね。

 果たして決着はどうなるのでしょうか?

 それでは!

 さようなら


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第178話 覚悟

 はい!どうもみなさん!ミズヤです

 皆さん、あけましておめでとうございます! 今年も当作品をよろしくお願いします!

 まだまだ続く最終章。完走までどうか付き合っていただけると幸いです。

 それと、YouTubeチャンネルもありますので、投稿頻度は亀のように遅いですが頑張って投稿してるので気になる方はプロフィールにあるリンクから見に行ってみてください。

 それでは今回の話は前回の正邪かっけぇから一転、後半からかなりの鬱展開と残酷な描写がありますのでご注意ください。

 新年早々からこんな暗い話ですみません。
 残酷な描写が苦手な方はブラウザバック推奨です。



 それでは前回のあらすじ

 正邪とデイ、一対一の勝負。

 正邪は己が能力でデイの事を翻弄。しかし、徐々に正邪の動きに慣れてきてデイは正邪の事を追い詰める。

 しかし、正邪は最後の切り札としてデイの上下左右の感覚を逆にした。

 果たして正邪はデイに勝利することができるのか?



 それではどうぞ!


side真

 

「くそ、小癪な真似を!」

 

 デイはゆっくりと立ち上がるものの、左右の感覚が逆になってしまっているのはかなり致命的なようで、ふらふらとしている。

 これなら勝てるかもしれない。

 いろいろな能力を使用してくるデイでも左右の感覚を狂わされてしまったらもうどうしようもないだろう。

 

 デイがあとどれほど能力を隠し持っているのかは知らないが、デイは詰んでいるといっても過言ではないはずだ。それはデイの表情が物語っている。

 先ほどのデイの表情から一転。今度は焦りの表情を見せている。

 

「やっとかかった……」

 

 正邪はほっとした表情を見せた。

 デイはもうまともに動くことができない。対する正邪はまだ余力がある。その差は一目瞭然だった。

 さっきの戦況から一転して今、追い詰められているのはデイだと断言できる。

 

「くそ、こんなところで、こんなところで負けてたまるか!」

 

 デイは正邪に殴りかかるものの、平衡感覚がおかしいせいか、デイは数歩走ると何もないのに転ぶ。

 そんなデイを見て正邪はニヤッと口元を歪ませると今度はこっちの番だとでもいうようにデイに向かって走り始める。

 

「ま、待て! やめ、やめろ! ぐあぁぁぁぁっ!」

 

 正邪は床に転がるデイを走ったそのままの勢いで蹴り飛ばした。

 かなりの力で蹴り飛ばしたようで、壁に激突すると壁にはひびが入っていた。

 

「かはっ」

 

 デイは血を吐いた。今のはかなりのダメージだったらしく、デイも中々起き上がれないでいる。まぁ、起き上がれないのは左右の感覚が逆になっているせいっていうのもあるだろうけど。

 このままいけば勝てる。

 

「正邪ってあんなに強かったのか」

 

 正邪の戦いを見て思わず口を衝いて出た言葉だった。

 ふと紫と幽々子の方を見る。すると、その表情は浮かないものとなっていた。

 その表情も自分がすぐにやられてしまったことの不甲斐なさによるものではなさそうな表情だ。

 

「ねぇ、真。あの二人の戦いを見てどう思う?」

「え? そりゃ、正邪が優勢だからこのまま行ったら正邪が勝てそうだと思うが」

「ふつうはそう思うわよね。だけどね、私たちからしたら正邪のあの表情は強がっているようにしか見えないのよ。あの威勢も儚いものに思えて仕方がないのよ」

「え、どういうことだ?」

「正邪に必ず勝つという気迫を感じない。むしろ、あれだけ優勢なのに死を覚悟しているかのような」

「え」

 

 どういうことだ? 正邪が死を覚悟しているって?

 だってあれだけ優勢じゃないか。デイは上下左右の感覚が狂ってもう詰んでしまっている。あとは正邪がデイを倒すのみじゃないか。

 どうしてこの場面で正邪が死を覚悟する必要があるんだよ。

 

 今もなお、デイの事を攻撃し続ける正邪。デイは反撃すらまともにできない様子で正邪にぼこぼこにされている。

 この状況から正邪が殺されるなんて俺は想像もできない。

 

 その時だった。

 

「ぐぅ、かはっ」

 

 その声が聞こえた瞬間、俺は弾かれる様に正邪の方を見た。

 するとそこには背後から突進してきた機械の鋭利な部分に胴体を貫かれた正邪がいた。

 今の悲鳴は正邪の悲鳴だったのだ。

 

「え」

 

 俺は思わず思考回路が停止してしまった。

 

「よくも散々いたぶってくれたな! お礼に同じことをお前にもしてやろう!」

「く、くそが! がはっ!」

 

 正邪はデイに殴られ始める。

 一発や二発どころではない。背後から機械に串刺しにされているせいでデイの拳からは逃げられないのだ。

 正邪は痛みによって能力を解除してしまったのかデイの拳が鋭く、早く、力強いものへと変わっていく。

 

 正邪が殴られ続けているというのに俺たちの体は全く動かない。

 紫もスキマを使用して正邪を助けようと試みるものの、機械が放電して紫はもちろん、接触している正邪まで感電するだけの結果で終わってしまった。

 

「おそらく正邪はこの結果を予知していたのでしょうね」

「そ、そんな……」

 

 血を吐き、体のいたるところから血を流す正邪。もう意識が朦朧としているようで焦点が定まっていない。

 動けない己の体が憎い。動けと命令しても全く動けない。激痛という鎖が俺たちを押さえつけているのだ。

 悔しい。

 

「やめ、ろ……」

 

 お願いだ。一瞬、一瞬だけでいいから、俺の体よ。動いてくれ!

 

「禁弾《スターボウブレイク》!」

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 その声が聞こえてきた瞬間、デイに大量の弾幕が襲い掛かった。

 正邪を殴ることに夢中になっていたせいか、デイは突如襲い掛かってきた弾幕に対処することができずにすべての弾幕を食らってぶっ飛ばされる。

 その後、一人の人影が機械を破壊して正邪の体から機械を抜くと正邪を回収して距離を取る。

 

 そしてぶっ飛ばされた直後、壁や天井が変形し、デイの事を囲うと一気に収縮をはじめ、デイの事を押しつぶした。

 

「大丈夫!?」

 

 正邪を抱えた一人の人物が俺に駆け寄ってくる。

 見慣れた銀髪に青紫色のコード。そしてリボンのついた黒いハット。忘れるはずがない。

 

「こいし……」

「気が付くのに遅れてごめんね」

「いや、こいしが悪いわけじゃない」

 

 見てみるとデイに対峙しているのはフランだった。そしてその後ろで音恩が瞳に歯車を浮かべながら歩いてきていた。

 

「助けてくれてありがとう」

「ううん、お礼を言われることじゃない。それに、私たちがもう少し早かったら正邪だって……」

 

 もう完全に意識がない正邪。

 正邪の姿は見るも無残な姿となっていた。

 

「真、あとは私たちが何とかするから安心して」

「こ、こいし。あいつの能力は!」

 

 ズドン。その擬音が正しかった。

 突如地面が変形し、巨大な針となってこいし、フラン、音恩の胴体に突き刺さった。

 音恩によって押しつぶされたようだったが、どうやらまだ生きているらしい。

 

 その瞬間、ものすごい轟音を鳴らしてデイを押しつぶした壁や天井が破壊された。

 

「今のはさすがに死ぬかと思いましたがねぇ……私にこんな目を合わせたあなたたちには本物の地獄を見てもらいましょう。イッツショータイム」




 はい!第178話終了

 デイを圧倒して勝ったかと思ったらまさかの正邪敗北。殴られ続け、体にはデカい穴が開くという無残な姿になってしまいました。

 そして音恩たちが助けに来て、さぁここから反撃タイムだと思ったらまさかの絶望パートへ。

 果たして真たちはデイに勝利することができるのでしょうか?

 それでは!

 さようなら


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第179話 怒りが抑えられない

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 正邪とデイの戦いは正邪が優勢で進んでいた。

 上下左右の感覚をあべこべにされたデイはさすがに様々な能力を持っているとしても対処が難しかったようだ。

 このまま正邪の勝ちで終わると思っていた。だが、正邪は背後から不意打ちをされたことにより、まともに攻撃を受けてしまって体に機械の突起が突き刺さってしまう。

 このままでは正邪が殺されてしまう。そう思ったときにフランの弾幕がデイを襲い、音恩がデイを押しつぶして、こいしが正邪を助ける。

 音恩たちが助太刀に入ったことによって形勢逆転して今度こそ勝てるかと思ったその時、地面がとげへと変化し、音恩たちの体を貫いてしまった。

 かつてないほどの絶望的状況。能力の相性が不利、そしてかつてないほどの強敵に真たちは勝つことができるのか?



 それではどうぞ!


side真

 

「みんな!」

 

 俺は叫ぶ。

 みんな、辛うじて急所は外したようだが、かなり苦しそうな表情を見せている。

 なにせ突然の出来事だったので、みんな手練れだから急所は外せたものの、それでも体に突き刺さってしまったのだ。大ダメージには違いない。

 

「く、くそ……」

「よくもやってくれましたね。余程死にたいようだ。安心してくれ。寂しくないようにここにいるやつらは全員あの世に送ってあげますからね~。あひゃひゃひゃひゃ!」

 

 余裕を取り戻したデイは高笑いをする。

 悔しいが絶望的状況なのには変わりない。

 

 今ここにいるのは負傷して動けない俺、紫、幽々子、永琳。気絶してしまっている紗綾、正邪、シャロ。

 戦えるのは音恩、フラン、こいしの三人のみ。だが、この三人もかなりピンチに陥ってしまっている。

 

 強すぎる。

 バークと戦った時、もうこいつ以上に強いやつ等いないと思っていた。だが、上には上がいるというもので、能力が強いというのもあるだろうが、それ以上に戦闘技術がバカ高い。

 俺たちを封じる術をいくつも用意している。

 

「さて、どういたぶってあげましょうか?」

 

 ゆっくりとフランに近づくデイ。

 

「やめ、ろ」

 

 音恩がフランへと手を伸ばす。

 何とかしないとフランが殺されてしまう。

 

 動けない今の俺ができること……それは何だ?

 考えろ、考えろ、考えるんだ。

 そうだ、一歩も動かなくてもできる。腕さえ動けばいいんだ。

 幸いにもかなり腕に痛みはあるものの、動かせないというほどではない。

 

 俺は手のひらに霊力を集めると霊力刀を作り出して力強く握りしめる。

 そしてそのまま腕に霊力を集め続ける。

 

 最近は石ばっかりに使用していたけども、これは本来、刀に使用するために作り出した技。

 

「狙撃《スナイパー》」

 

 俺は思いっきり刀をデイに投げつける。

 

「っ!」

 

 驚いたデイは飛んでくる刀を防ごうと目の前に壁を作り出した。しかし、俺の技の特性を忘れてはいけない。

 何かにぶつかった場合はその投げたものが威力に耐え切れなかったら大爆発を起こす。そしてあの霊力刀は技と脆く作っている。

 

 ドガーン。

 霊力刀が壁にぶつかった瞬間、大爆発を起こした。

 その爆風はデイが作り出した壁を破壊し、デイを吹き飛ばすまでに至った。

 その間に音恩が床を操作し、とげを消すことで音恩、こいし、フランが解放された。

 

「すみません」

「いや、今の俺にはこれくらいしかできない。謝るのは俺の方だ」

「ありがとうございます」

 

 その瞬間、音恩の目に浮かぶ歯車の数が四つに増えた。

 お礼を言って地面に手を付ける音恩。その表情は今までにないほどに怒りに染まっていた。

 音恩は敵がいたら倒すし、いつも俺たちと一緒に戦ってくれる。だが、これほどまでに怒っているのを見たことがない。音恩はいつも冷静に敵を倒す。

 俺にも音恩が怒ったらどうなるか分からない。

 

「僕は怒りなんて感情はあるだけ無駄だと思っていた。怒ったところで、その先にあるのはただのむなしさだからだ。そのむなしさは何も生まない。だけど、どうしてだろうな。怒りが止まらない。収まらない」

 

 霊力が一気に放出され、突風のように俺たちに襲い掛かる。

 俺たちは少しぶっ飛ばされる。

 膝が震える。俺が音恩の威圧によって恐怖しているのだ。

 

「僕の大切なものを傷つけたヤツを許すつもりはないし、楽に死なせるつもりはない。それはいつも同じだ。だけど、それとは違う個人的な怒りが僕の大半を支配している」

「お、お兄様」

 

 フランが不安げに音恩に恐る恐ると近寄ると音恩はそんなフランを安心させるためか優しく撫でた。

 そうか、分かった。

 今まで音恩は大切なものという漠然としたもののために怒り、そしてその怒りを胸の内に抑えて戦ってきた。だけど、音恩は今日、今初めて誰かのために怒っているんだ。それもこの世で一番大切な人、フランのために。

 

「それが君の本気ということか」

「真さんが勝てなかった相手に僕がどれだけ抵抗できるか分からないけどね、今できるだけのことはやって見せるさ」

「そうか、それじゃ、まずは君を殺して君の能力を頂くとしよう!」

 

 その瞬間、デイはものすごい速度で音恩に接近すると拳を振り上げた。すると音恩の前にものすごく分厚い壁が出現し、デイの拳を防ぎ、そしてデイの真下の床がとげに変化してデイに襲い掛かる。

 しかし、デイは即座に飛び退くことによってとげを回避する。

 

「これはどういうつもりだ」

「お返しってやつだ」

 

 音恩は天高く拳を突き上げる。

 すると音恩の背後の床が拳の形に変形して音恩と同じように天高く突きあがる。

 

「はぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 拳をデイに向かって突き出すと、床が変形して出来上がった拳も同じようにデイに振り下ろされた。

 その瞬間、デイがニヤッとしたのを俺は見逃さなかった。

 

「音恩!」

「っ!」

 

 拳が振り下ろされた先にはデイは存在しなかった。その代わり、音恩の背後にデイが居た。そしてその手には槍を持っている。

 このままじゃ音恩が串刺しにされてしまう。

 

「お兄様!」

 

 その瞬間、音恩とデイの間にフランが入り込んだ。

 そしてそのまま––

 

「ぐぅっ」

 

 フランは音恩をかばい、そのままデイに串刺しにされてしまった。

 音恩の目は驚愕に染まっている。

 そしてデイが槍を抜いた瞬間、フランは力なくその場に崩れ落ちた。そこを音恩は慌てて支える。

 

「お兄様……」

「ふ、フラン……どうして」

「お兄様は私にとって大切な人なんだよ。私ね、お兄様の事が好き……だから死んでほしくない」

「っ! それはこっちのセリフだ。僕もフランには死んでほしくない!」

「ねぇ、お兄様。これ、あげる」

 

 そういってフランが差し出したのはさっきからかぶっていた帽子だった。

 帽子を手に取ると音恩の頭に被せる。

 その時のフランの目は今までのような目ではなく、初めて慈愛に満ちた目で音恩のことを見る。

 意識が朦朧としているのだろう。視線が定まっていない。

 

「お兄様、がんばって、そして幻想郷を––」

「ふらあああああああん!!!!!」

 

 そこで完全にフランの意識は途絶えた。

 音恩はぎゅっとフランを抱きしめ叫び声をあげる。

 だが、フランは一切反応しない。

 帽子によって音恩の表情は一切見えないものの、かなりの威圧がここまで伝わってくる。

 

「お涙頂戴は結構だ。それじゃあ、寂しくないようにお前もあの世に送ってやる! 禁忌《レーヴァテイン》」

 

 その瞬間、フランのスペルカード、レーヴァテインを使用して音恩に斬りかかった。だが、その攻撃は音恩に届くこともなく、霊力の衝撃波のみでデイがぶっ飛ばされた。

 

「な、なんだと!」

 

 この霊力、よく知っている。間違いない。この霊力はまごうこと無き––

 

「貴様、誰に許可を得てその能力を使っているんだ!」

 

 クレアだ。




 はい!第179話終了

 フランが殺された怒りによって音恩がクレアに目覚めました。

 ここから音恩とデイの本気の戦いです。

 それでは!

 さようなら


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第180話 永遠の幸せを

 はい!どうもみなさん!ミズヤです

 今回は独白が長いのでそれに伴って文字数もいつもの倍近くあります。



 それでは前回のあらすじ

 フランにデイの魔の手が迫る。しかし、寸前のところで真が狙撃《スナイパー》を使用して救出。

 その間に音恩は床を操作してとげをなくし、脱出。

 音恩はフランを殺そうとしたデイに耐えがたい怒りを覚え、デイを全力で倒すために動く。だが、音恩のいまの実力じゃデイに勝つことはできなかった。

 殺されそうになった瞬間、フランが音恩の事をかばって死んでしまう。

 それによって音恩はフランを殺された怒りによってクレアに覚醒した。

 果たして音恩はデイに勝利することができるのか?



 今回は久しぶりの音恩視点です。

 それではどうぞ!


side音恩

 

「貴様、誰に許可を得てその能力を使っているんだ!」

 

 怒りがあふれて止まらない。どうにかなってしまいそうだ。

 

 俺はこの日常が当たり前にずっと続くのだと思っていた。

 紅魔館に居て、咲夜さんが美味しい料理を作ってくれて、フランの遊び相手になって、フランは当たり前に俺の側にずっといてくれるものだと思っていた。

 だが、それは一瞬ですべて崩れ去った。

 

 俺の腕の中で微笑む彼女は俺の中でかけがえのない大切な"人"になっていたのだ。

 永遠はないと知っていたはずだった。生き物はいつかは死ぬからこそ今その時を生きている儚いものだということをすっかりと忘れていた。

 この異変が起きてから姉ちゃんも行方不明になった。僕が霊力を探っても見つからないのだからおそらくかなり遠くへ行ってしまっているのだと思う。それか、最悪の場合、姉ちゃんはもう……。

 

 そんな俺にとってはフランこそが俺の最後の心の支えだったんだ。

 みんなおかしくなっていく中、フランだけがまともで、そして紅魔館を飛び出してからも何度もフランの笑顔には救われてきた。

 

 僕の心は脆い。ずっと昔にひびを入れられてからずっとそのひびが修復することもなく今の今まで生きてきた。俺の心が壊れなかったのはフランのおかげだといっても過言ではない。

 そしてフランは最期の最期まで俺の事を鼓舞しようと痛く、苦しく、死にたくないはずなのに苦痛の表情は一切見せることはなく、俺を優しい言葉で包んでくれた。

 

 僕だけだ。僕だけがいつも足を引っ張っていて、守られていて……そして今回もフランに守られていなければ僕は死んでいた。

 

 最初はただ憧れていたんだ。異世界転移をして、そして姉ちゃんと一緒に世界を救う。

 だけど、この幻想郷で過ごせば過ごすほどに思い知らされるんだ。僕は弱いって。

 

 今、一番その事実に打ちひしがれている。

 僕がもっと強ければ、もっと先の事を見据えて動けていれば、フランは死ななかったかもしれない。

 

 もう動かなくなってしまったフランの顔をもう一度見て頭を撫でる。

 

「なぁ、フラン。君は僕の事をお兄様と呼んでくれるけど、僕は君にそう呼んでもらえるくらいの何かをすることはできたのかな」

 

 僕はいつも君に守られっぱなしだったよ。どちらかというと年齢的にも立場的にも僕の方が弟みたいじゃないか。

 自嘲気味に笑うしかなかった。そうしないと精神が崩壊してしまいそうな気がした。

 

 怒りが噴火寸前の溶岩のように湧き出てくる。今すぐにデイの事を殺してやりたいくらいには怒りで僕の思考は埋め尽くされていた。

 だけど、落ち着け南雲音恩、フランは怒りに我を忘れて暴れることを望んでいない。望んでいるわけがない。

 だから無理にでも怒りを押し込めろ。僕ならできる。

 

 そして頭に被せられた帽子を手に取って心を静める。

 僕、いや、俺ならできる。この南雲音恩になら!

 

 再度帽子を頭にかぶると背後から気配が迫ってきているのを感じた。

 咄嗟に俺はフランを抱えた状態でその場から思いっきり地面を蹴って3メートルほど離れる。

 すると元居た場所には馬鹿でかいクレーターが出来上がっていた。どうやらフランの能力を利用して攻撃力を上げたらしい。あの男からはフランから時々感じていた狂気の力を感じる。

 

「だから、その能力は誰の許可を得て使ってんだって言ってんだろうが!」

 

 俺は思いっきり地面を蹴るとデイが反応できないほどの速度で接近し、そしてデイの腹に渾身の拳を叩き込んでそのまま殴り飛ばした。

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 あいつがどんな能力を使用するとしても俺がやることは変わらない。デイを倒すそれだけだ。

 そうだよな、フラン。

 

 俺はさらに追い打ちをかけようとぶっ飛んで行ったデイへと一気に距離を詰める。

 だが、さすが真さんたちを戦闘不能に追い込んだだけはあり、俺が接近したことにいち早く気が付くと、空中で回し蹴りをするというとてつもなく器用なことをしてくれたせいで俺は反応が遅れて蹴り飛ばされ、壁に激突する。

 そんな俺に追撃を加えるために拳を振り下ろしてくるデイだったが、俺はその拳を受け止めると天井へと投げ飛ばした。

 するとかなりの威力だったようで、デイは天井を貫通して空へと舞い上がる。

 俺も地面を思いっきり蹴るとデイを追って飛んでいく。

 

「く、やはりお前が一番厄介だ!」

 

 デイがそういうと瞬時に俺は機械たちに囲まれてしまった。

 普通ならピンチのこの場面。だが、俺は逆に好機に思えた。こいつは今、最大のしくじりを冒してしまったのだ。なぜなら、機械をハッキング出来る俺に対して機械を送り付けてきたのだから。

 俺は手を伸ばすと周囲に霊力を放つ。

 するとその霊力は糸のように伸び、周囲のすべての機械と俺の手がつながった。

 

 今まではパソコンが無ければできなかったハッキング、今の俺には必要ない。

 

「行け!」

「なんだと!」

 

 俺の周囲を囲っていた機械たちが一斉にデイを襲い始めたので一瞬、ぎょっとして固まってしまったデイだったが、すぐに機械たちは叩き落していた。

 

「使えない機械どもだ! ぐはっ!」

「油断はしないで貰いたいね!」

 

 機械を一掃したとしてもまだ俺がいる。油断はしないでいただきたい。

 俺は機械を一掃して油断しているデイにアッパーをキメた。だが、まだまだ俺の怒りは収まらない。

 俺は連続でデイを殴りつける。あの正邪さんにやっていたように今度は俺がデイを何度も何度も空中で殴りつける。

 そして意識が朦朧としてきたであろうタイミングで俺は一回転して脳天に踵落としをキメて地面にたたきつける。

 

「とどめだ!」

 

 手のひらに霊力で槍を作り出すとデイに向かって投げつけた。

 レミリアのスピア・ザ・グングニルから比べたら劣るけども、これもかなりの威力のある技だ。

 

 槍は着弾してデイを貫いた。かと思ったらその次の瞬間、心臓がドクンと跳ね上がった。

 そして体が崩壊を始めたのだ。

 どういうことかと思い、デイの方を見るとなんと、槍はデイをかすめただけで直撃しておらず、その手には目玉のようなものが握られて握りつぶされていた。

 痛い。焼けるような激痛が襲い掛かってくる。

 

 今、明確に感じ取ってしまった。死の予感だ。

 フランが実際に能力を使っているのを見たことはないが、フランと話しているときに少し聞いたことがある。能力を使用すると対象者の核、目玉のようなものが手に入り、それを壊すことで相手は壊れると。

 まさか、あれがフランの言っていた核だとでもいうのか?

 

「ふ、ふはははは! 俺の勝ちだ!」

 

 どんどん崩れていく体。もうすでに左足と右腕がなくなってしまっている。

 

「音恩!」

 

 真さんの叫ぶ声が聞こえてくる。

 だけど、自分ではこの崩壊はどうすることもできない。どうやら俺が死ぬのは決定事項のようだ。

 なら、最後は俺らしくかっこをつけてやろうじゃないか。

 

「さて、俺が完全に破壊されるのが先か、それともお前が死ぬのが先か、ゲームをしよう。命を懸けたデスゲームだ!」

 

 俺は宣言をすると手のひらに霊力刀を作り出す。だが、真さんやライトさん、燐火さんと違う点は燃えているという点だ。

 力を貸してもらうぞ、フラン!

 俺はデイに一気に接近すると思いっきり霊力刀を振った。だが、一度も刀など握ったことのない俺の剣などそう簡単に当たるはずがなく、回避されてしまう。

 

「どうした? 威勢がいいのは最初だけか?」

 

 そんな煽りを受けてももう何も感じない。だって、魂の奥深くで、俺は今、フランを感じている。フランと一緒に戦っている。そう感じられるから。

 

「ん、な、なに!?」

 

 デイはものすごく驚いた声を上げる。

 突如出現したスキマによってデイは全く身動きができない状態にされてしまったのだから。

 俺はゆっくりとデイに近寄っていく。

 

「みんな、さようなら」

「や、や、やめろおぉぉぉぉぉ!」

「ねおんんんんん!!」

 

 俺は一息にデイの胸に霊力刀を突き刺した。

 デイはその瞬間に静かになり、力なくその場に崩れ落ちた。しかし、それと同時に俺の意識も飛んだ。

 悔しかった。こんな結末だなんて。だけど、ヤケに清々しく、安心していた。真さんなら僕の遺志を継いでこの異変を解決してくれると信じているからだ。

 

「ねぇ、お兄様」

 

 優しい声が聞こえてくる。ずっと聞きたかった声が聞こえてくる。

 目を開けるとそこは一面花畑だった。

 見回してみるとそいつはいた。というか、寝転がっていた俺の真上にそいつはいた。

 

「フラン」

「なんで……」

「……」

「なんで来ちゃったのよ!」

 

 目を覚ますや否やフランに叱責されてしまった。

 大粒の涙を流しながら未だに起き上がれずにいる僕の体にだいぶして泣きついてきた。

 そんなフランを僕は優しく抱きしめながら頭を撫でる。

 

「失敗してしまった、な。悪い。フランがつないでくれた命を……捨ててしまった」

「私は私が死んでもいいからお兄様には生きて幸せを掴み取ってほしかった。私なんて忘れて、他のいい人を探して付き合って、結婚して幸せな生活を送ってほしかったのに、こっちに来たら……ダメだよ。死んだらすべて終わりなんだよ」

「……僕にはもとよりフランが一緒にいる以外の幸せなんてないんだよ。僕の幸せはフランが生きていて、一緒に並んで歩んでくれる。これ以外の幸せは考えられない」

「お兄様……」

「まぁ、死んでしまってからいうのもなんだけどな、これからは絶対にフランの事を守るし、離さないからな」

「本当に、死んでしまってからいってもなんだかなって感じだね。だけど、本当に私の事を守って、もう絶対に離さないでね」

 

 僕たちは抱きしめあう。

 僕たちは互いに死んでしまったが、これからずっと一緒であることを誓った。

 永遠の幸せを願って。




 はい!第180話終了

 フランに続いて音恩まで死んでしまいました。二人はこれから天国で二人仲良く幸せに暮らすことでしょう。

 当初は音恩は第二の主人公として作ったキャラだったので殺すつもりは一切なかったんですが、最近いろいろなアニメや小説、物語を見たせいなのかその考えは変わってこういう流れになりました。

 正邪は今は辛うじて生きていますが、どうなるのでしょうか?

 戦っていることについては永琳も気が付いていますが、体がぼろぼろで動けないのが悔しいといった感じですね。

 そしてデイを動けなくしたスキマの持ち主は紫ではありません。果たして誰なのでしょうか?

 それでは!

 さようなら


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第181話 勝利の代償

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 音恩はフランを殺された怒りによって覚醒、デイを追い詰めていく。

 しかし、あと一歩というところでデイに破壊の能力を使用されてしまい、体が崩壊していく音恩。

 だが、音恩はただではやられない。最後にデイの胸を霊力刀で一突きし、意識を手放す。

 目を覚ましたらそこにはフランがいた。音恩はそのことからすぐにここはあの世だということを察する。

 そして二人で抱きしめあい、永遠の幸せを願うのだった。



 それではどうぞ!


side真

 

 音恩がデイの胸に霊力刀を突き刺した。それによってデイは絶命したのだろう。能力の進行が止まり、音恩の体の一部が残った。

 だが、その姿は左足と右腕が完全に崩壊し、顔も若干崩れかけていてひびが入っているという無残な姿だった。

 

 俺は這いつくばりながらも音恩へと近づき、音恩を運んでフランの真横においてあげる。

 音恩は十分頑張ってくれた。永夜異変から始まり、龍生の親父さんの時、ダーラの時、パラレルワールドの俺の時、キルタワーの時。そして今回も頑張ってくれていた。

 もう寝かせてあげよう。

 

 俺は二人が思いあっていることに気が付いていた。

 いつになったらくっつくのだろうと思っていたのだが、まさかこんな悲しい結末になるなんて……。

 せめてと思って俺は二人の手をつながせる。天国で幸せに二人で暮らせるように祈って俺は手を合わせた。

 

「音恩、お前の思い、俺が受け取ったぞ。必ずこの異変を解決してお前の無念を晴らしてやる。だから今はもう、安心して眠ってくれ」

 

 その瞬間だった。

 背後から何者かに肩に手を置かれた。

 

「はぁはぁ……まだ終わっちゃいねぇぜ。お涙頂戴はここまでだ! これからは俺の蹂躙タイムの始まりなんだよぉ!」

「……お前、本当にしつこいな」

「俺は一回だけ生き返ることができる。そいつは無駄死にだったんだよ!」

 

 無駄死に? その言葉が俺の中で強く印象に残った。

 音恩とフランが無駄死に? 絶対にそんなことはない。そんなことあってたまるかよ。

 音恩は消えゆく体で懸命に戦って、そして確実にデイに勝利した。その事実は揺るがないし、揺るがすことは俺が絶対に許さない。

 

「見てみろよ、お前の胸を」

「あ? なん、だ、よ」

 

 デイは俺に言われて自分の胸に視線を落とす。

 すると、そこには先ほど音恩が突き刺した霊力刀が未だに突き刺さっていた。

 霊力刀は本来、死ぬと霊力の供給がされなくなることから消滅してしまうはずのものだ。だが、その霊力刀は残っていた。音恩は確実に死んでしまっているというのに、この霊力刀だけは消えずに残っていた。

 音恩は死してなお、デイの事を倒すことを諦めていなかったんだ。それも、おそらくデイは生き返るであろうことも想定済みだったんだ。

 音恩は最初からすべて計算尽くし。本気を出した音恩に勝てるやつなんてこの世には存在しないっていうことだ。

 

「ぐ、ぐあぁぁぁぁっ!」

「もう一度死んであの世で音恩にもう一度ボコられて来い」

「や、やめ、やめてくれ! 死にたくない! 死にたくない!!!」

「悪いが、俺にはもうお前に掛ける慈悲の心など持ち合わせてはいない。死んでくれ、この幻想郷の為に」

 

 もう体の痛みなどどうでもよくなっていた。

 俺は力強く踏み込むと霊力刀を握りしめる。

 走って逃げていくデイ。だが、俺にはそんなことは関係ない。霊力を込めて刀を握りしめ、そして一息にデイに向かって一閃する。

 すると霊力の斬撃、霊力斬がデイに向かって飛んでいき、霊力斬はデイの首を一刀両断した。

 

「く、そぉ……」

 

 力を失って倒れるデイ。それを見てやっと終わったと確信した。

 少し様子を見るが、デイが再度動き出す気配などない。ついに俺たちはデイを倒したのだ。

 だが、その代償はあまりにも大きかった。

 永琳、紗綾、正邪が重症。俺、紫、幽々子、こいしも決して軽い怪我ではない。そして音恩とフランが死んでしまった。

 今辛うじて動くことができるのは俺、紫、幽々子、こいし位なものだろう。もしかしたら永琳先生も動くことができるようになっているかもしれないが、まさかここまでやられることになるとは思ってもいなかった。

 

「真……」

「大丈夫だ」

 

 この幻想郷に来て人が死ぬ姿には慣れた。だけど、これはきつい。仲間が死ぬってこんなにも辛いことだったのか。

 こいしが心配して声をかけてくれたので、大丈夫と言ったが、本当は大丈夫ではない。なにせ大切な仲間を一気に二人も失ったのだから、大丈夫なはずがない。

 だが、決して涙を流してはいけない。だって、二人はここで涙を流して自分の死を悲しんでくれることを多分望んでなんかいないから。

 

 さて、それはそうとだ。

 

「シャロ、音恩に協力してくれてありがとうな」

「っ!」

 

 俺の発言によってこの場にいる紫以外みんなが息をのんだ。

 俺はすぐに気が付いていた。音恩を助けたあのスキマは紫のものではなかった。かといってシャドウのものではないと直感的に感じ取った。シャドウだったら強すぎてオーラのようなものを感じるからだ。

 だとしたらこの場にいる人で紫以外でスキマを使える人物はと考えると––

 

「気が付くの早いね。僕、かなりの重傷だったからもっと気を失っててもおかしくなかったんだけど?」

「お前は神だろ。それくらいの超再生能力はあるかなと」

「いや、まぁ、その通りだけど……」

 

 シャロだった。

 おそらくシャロは目を覚ました瞬間に今回の場面に遭遇して咄嗟にデイの事を拘束したのだろう。

 それによってデイの能力を一回使わせることに成功したのだからシャロが居なかったら俺たちは皆殺しにされていた可能性が高かったため、ものすごく感謝している。

 だが、そんな俺の心とは真逆に、シャロはうつむいて暗い表情を見せる。

 

「ごめん。僕がもっと早く目を覚ますことができればこの二人も死ぬことはなかっただろうに……」

「いや、大丈夫だ。シャロのせいではない。俺たちが弱かったのがいけないんだ。それよりも、シャロ。目を覚ましたばかりで悪いんだが、ジーラの作り出したであろう空間を探してほしいんだ」

「ぐっ、そんな、僕は空間を司っているわけじゃないんだから……」

「そこを何とか頼むよ。これはお前にしかできない、お前にしか頼めないことなんだ」

「僕にしか、できない!」

「あぁ、お前にしか頼めないんだ」

「も、もう……しょーがないなぁ。えへへ、分かったよ! 友達の頼みなんだ。僕が何とかして見せようじゃないか!」

 

 シャロは嬉しそうにそう宣言するとスキマを開いてその中に入っていってしまった。これから作業を始めるつもりなのだろう。

 それにしても永琳先生の治療はすごいな。あれほどの怪我を一日も経たずに回復させてしまうなんて。シャロが神というのもあるのだろうが、それにしても永琳先生はすごいと思う。

 その間に俺たちは音恩とフランを霊安室へと運んであげることにした。

 なんとか俺は妖怪の回復力のおかげで運ぶことができるくらいには回復したので紫と協力して二人を運んでいく。

 

 そして霊安室に到着すると二人を隣り合わせで寝かせてあげる。

 

「こんな感じかな」

「えぇ、音恩は体の欠損が激しくて見るのが辛いわね」

「そうだな」

 

 体の半分ほどなくなってしまっている。だが、音恩のその表情は辛そうには見えなかった。むしろ安心しているかのような安らかな表情だ。

 フランも同じだ。少し微笑んでいるように見える。

 

「来世では幸せになるといいわね」

「あぁ、切に願っているよ」

 

 そして俺たちは霊安室を後にしようと振り返るとそこには申し訳なさそうに顔を伏せた幽々子が立っていた。

 

「ごめんなさい。私の能力は【死を操る程度の能力】だけど、私の力では二人を生き返らせることができない。神でもなければ私の能力をもってしてもできない。本当にごめんなさい」

「いや、大丈夫だよ。確かに二人が生き返ればいいと思っているけども、幽々子を責め立てるなんてそんな烏滸がましいことはしないよ。だって、俺も特に何もできなかったから」

 

 今回のは敵が強かった。ここまでぼろぼろになってしまったのは誰が悪かったというわけではない。みんな命を懸けて全力で戦った。だが、予想以上に敵が強かった。ただそれだけの事なんだから。

 それにおそらくもっと強いやつがジーラの仲間として加わっていることだろう。俺たちはすでにあと二人知っている。

 鬼琉。紗綾がいくら戦っても勝てたことがない相手。そしてそいつを遥かに上回るであろうスキマ使いの男、そしてそいつにだけは逆らってはいけないという本能が働いてしまっている。

 

「さて、紗綾と正邪も病室に寝かせてあげよう。二人とも辛うじて生きているんだ。これ以上犠牲者を出さないためにも」




 はい!第181話終了

 デイに勝利したものの、その代償は大きすぎるものでした。

 そして最終章の物語的にはまだ序盤なんですよね。

 デイはものすごく強かったのですが、この後に出てくる敵に比べたら対したことないかも。

 デイと鬼琉だったらデイの方が強いですが、神楽と比べると二人ともミジンコみたいなものですからね。

 いつも自分の命を鑑みずに戦い続けている真が逆らってはいけないと感じてしまうほどの強敵です。

 果たしてこんな強敵たちを真たちは倒すことができるのでしょうか?

 それでは!

 さようなら


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第182話 怖くなっちゃった

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 ついにデイを倒したが、その代償はとても大きなものだった。

 音恩とフランの死。その事実は真たちの心に大きな傷跡を残した。

 だが、悲しんでばかりもいられない。さらなる強敵が待ち構えているのだから。



 それではどうぞ!


side真

 

 あの後、どうやら永琳先生も歩けるようになったようで紗綾と正邪は永琳先生に任せて俺たちは部屋を借りて少し休むことにした。

 永琳先生は誤っていた。事情を説明すると、その時動けなかったことで自己嫌悪に陥ってしまったらしい。だが、俺たちが永琳先生を責めることはできない。なぜなら俺たちもあの場で動くことができなかったのだから。

 むしろ俺は目の前で音恩が殺されるのを見ていることしかできなかったのだから。

 

 その時、誰かが部屋をノックしてきた。

 かなり夜中でみんな疲れたから寝静まっただろうと思っていたのだが、どうやらまだ起きている人がいたようだ。

 霊力を探ってみるが、悪い力は感じないので敵が攻めてきたわけでもないらしい。

 

「なんだ?」

 

 そういって扉を開け放ってみるとそこには紫が立っていた。

 

「どうしたんだ?」

「いえ、少し気になったことがあって」

「気になったこと?」

「えぇ、どうしてもその枝が気になるのよ」

 

 そういって指を差したのは先ほど俺がシャドウにもらった枝だった。

 確かにあいつがただの枝なんかを渡してくるはずがないし、何か意味があるのだろう。言われてみればかなり気になる代物だ。

 だが、俺には何も感じられない。ただの枝にしか思えない。

 あるとしてどんな意味だ? 本当によくわからない。シャドウの放任主義もどうにかしてほしい。あいつ一応幻想郷の神様だろ! この幻想郷がめちゃくちゃにされてもいいのかよ。

 

「私にはそれが重要アイテムのように思えて仕方がないのよね。だから大事に保管して頂戴」

「あぁ、分かってる」

 

 それだけ伝えると紫は俺の部屋を後にした。

 俺も少し不安は残るものの、疲れを後に残す方が危険だと判断して今日はそのまますぐに寝ることにした。

 新しい崩壊がこの幻想郷のあちらこちらで発生している。この場所もいつまで保つか分からないのだ。休めるうちに休んでおくのがいいだろう。

 そして俺は布団に入る。

 だが、なかなか眠ることができない。なぜならフランと音恩の最期の姿が脳裏に浮かんで俺の意識を覚醒させてしまうからである。

 

 こんなんじゃだめだ。二人の思いを背負って戦うなんてとてもじゃないができそうにない。

 眠れないから俺は夜風に当たることにした。

 

 先ほどの戦いによって病室から出るとそこは屋外のような景色になってしまっているため、受付のベンチに腰を掛けて夜風に当たる。

 

「俺の力じゃ全く敵わなかったな。今の俺じゃ弱いなぁ」

 

 そこで俺はあることを思い出した。

 クレアと限界突破(リミット・ザ・ブレイク)を併せて使ってはいけないと彼方に言われたことを。

 クレアも限界突破(リミット・ザ・ブレイク)もどちらも強力な力だ。両方併せて使えばかなり強力な力を得られることだろう。だが、彼方に止められてしまっていたので俺は今までその両方を使うという選択肢を除外してきた。

 でも、もうそんなことを言っている場合じゃないかもしれない。イレギュラーな実力者たちが俺たちの前に立ちはだかっている。

 

「ねぇ」

「ん?」

 

 突然声が聞こえてきた。

 その声が聞こえた方へと顔を向けると、そこにはいつもの見慣れた顔が見えた。

 

「こいし、こんな時間にどうしたんだ?」

「真こそ」

「俺は、眠れなくてな」

「私も同じ~」

 

 そういうとこいしは俺の隣に腰を下ろした。そして甘えるように俺の方に頭を預けてくる。

 それを見て俺はこいしが頭を預けてきた方とは逆の手でこいしの頭を優しく撫でてやる。

 最近、いろいろなことがありすぎてこうして一緒にゆっくりする時間が無かったもんな。

 

「ねぇ、真。今日の戦いを見て私、怖くなっちゃった」

「死ぬのがか?」

「もちろんそれもある。だけど、真が死んでしまうのが一番怖い」

 

 こいしは震えていた。それだけで恐怖しているとすぐにわかってしまう。

 そしてこいしの言葉を聞いて俺はある意味ではパラレルワールドの俺の言葉は正しかったのではないかと思い始めた。

 大切な人がいるからこそ、その失った時のショックはデカいのだ。最初からそんな人物が居なければ、自分で壊せばそんなにショックは受けずに済むだろう。

 だからと言ってこの場でこいしを殺すつもりは一切ない。だって、俺はこの先もずっとこいしと一緒に楽しく暮らしたいのだから。絶対に奪わないし、奪わせない。もうこれ以上被害者を増やさないために。

 

「こいし、安心してくれ。何があっても、俺が守るから」

 

 こいしの事をぎゅっと強く抱きしめる。絶対に離さないという意思を表明するために今までよりも強く抱きしめた。

 するとこいしも俺の抱擁に応えるために俺の背中に腕を回して抱きしめてきた。こいしの抱擁も少し痛いくらいの強さだったが、今の俺にとってはこれが心地よかった。

 

「俺は捕まえた獲物は逃がさない主義なんだ」

「じゃあ、私は真に食べられちゃうのかな」

「どうなのか、試してみるか?」

 

 そういうと俺たちはどちらからか分からないが、顔を近づけて、そして唇を合わせた。

 キス、何度もしたことがあるが、今回のキスは俺たちにとって特別なもののように感じて、そしていつもとは違う、お互いに求めあうようなキスをした。

 唇を離すと俺たちの間に月明かりで照らされて銀のかけ橋ができていた。

 おそらく時間的には数秒間の間だったのだろう。だけど、俺たちにはその時間が数時間にも感じられた。

 

 今、俺の目の前にいるのは愛しの女性。そしてその姿は月明かりに照らされていつもよりも妖美に感じ、ドキッとしてしまう。

 

「ねぇ、真。やっぱり不安だよ……。だから、ね? 私が真のもので、捕まえられているっていう証拠、頂戴?」

「っ!」

 

 男として、そんなことを言われて我慢できるわけがない。

 こいしに手を伸ばそうとした。その時だった。

 

「ごほん」

「「うわぁぁぁっ!」」

 

 突然聞こえた咳払いによって俺たちは我に返り、咳払いが聞こえた方へと顔を向ける。

 すると、真っ赤に顔を染めてジト目のシャロがそこに居た。

 

「しゃ、シャロ……どうしたんだ?」

「……まぁ、君たちは夫婦なんだしね? 僕も何も言わないよ。だけどね? TPOは弁えようか」

「「本当にすみませんでした!」」

 

 俺たちは並んで土下座をする。

 シャロの呆れたようなため息が頭の上から聞こえてくる。

 そうだった。俺たちは今、自分たちの世界に浸ってしまっていて忘れていたが、今は戦いの真っ最中でここは病院だった。それもほぼほぼここは野外のようなものだ。

 危うく野外で致すところだった。何をとは言わないけど。

 

「まぁ、いいけどね。で、一つ伝えることがあってきたんだ」

「どうしたんだ?」

「ジーラとかいうやつ、ものすごい狡猾だね。全然見つけられない。だけどね、こんなものを見つけたんだ」

 

 シャロがそういって取り出したのは何かのエキスのようなものが入った小瓶だった。

 親指サイズの小瓶の中には半分くらい入っている。

 その小瓶の蓋を開けるとシャロは適当にそこら辺の瓦礫にエキスを一滴たらした。

 するとその瓦礫は瞬く間に腐食し、腐って崩れ落ちた。かと思ったらなんと崩れた破片一個一個が木の葉のようなものに変化してしまった。

 

「やべぇものを見つけたものだな」

「ねぇ、これを見た後だと真が持っていた枝はどう思う?」

「まさか!」

「うん。このエキスによっておそらく木の枝に変えられたものだと思う。ただ、僕はあの枝が何なのかを知るすべは持ち合わせていないんだ。だって、あの枝からは何の力も感じないんだから。

 

 だが、もしこの考えが正しいんだとしたらあの枝の謎を解くことがこの戦いのカギになるかもしれない。

 

「このエキスからは神力のようなものを感じる。これは呪いの類だね」

「なるほど……それじゃ、この呪いを解く方法も探すことも目標の一つだな」

 

 どんどんと目標が増えていっているものの、これらすべてを幻想郷が崩壊する前に解決しなければ幻想郷に未来などない。




 はい!第182話終了

 命の危機に直面すると生物は生殖本能が強くなるそうです。

 それにしても二人は何をしようとしていたのでしょうか。

 シャロが来なかったらそのまま二人で何かをしていたことでしょう。

 滅多にこういうシーン、僕は書かないですよね。

 まぁ、今後の展開についてのヒントを言うとしたら僕は救われない物語が苦手です。

 それでは!

 さようなら


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第183話 決戦の時

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 シャロが何やら謎のエキスを見つけてきた。

 そのエキスは物を木のようなものに変化させる物だった。

 シャドウからもらった木の枝がもともと何かなのかと言うことを調べることも異変を解決する上で必要となると考える真だった。



 それではどうぞ!


side真

 

 朝だ。

 あまり眠る事はできなかったが、朝が来てしまった。

 もうあまり時間を無駄にする事は出来ないので、俺は眠気まなこを擦ってベッドから起き上がる。

 

 長い夜だった。

 部屋に朝日が差し込み、明るい光が俺の目に飛び込んでくる。

 時間的には一晩しか経っていないのだが、色々あったせいで朝の日差しを浴びるのが久々に感じる。

 

 俺は木の枝を手にすると永遠亭の外に出て太陽に木の枝を翳してみてみる。

 こうして見てみてもただの木の枝にしか見えない。だが、紫やシャロが言うのだから確実に何かはあるのだろう。

 

「おはよう、真」

「お、おう……」

 

 こいしが声をかけてきた。

 こいしもあまり眠ることができなかったのか、若干まだ眠そうだ。その気持ちは俺も非常にわかる。今後の事が不安で俺も眠れなくなってしまっていたからな。

 

「晴天だね」

「そう……だな」

 

 俺たちの心は真っ暗だ。だが、今日の空模様は雲一つない晴天だ。まるで異変なんて起こっていないかのような、そんな平和な空だ。

 俺たちは横に並んで空を見つめる。そこへちょうど一人の声が響いて聞こえてきた。

 

「お前ら、何やってるんだ?」

「あ、ライト」

 

 俺たちの前に姿を現したのはライトだった。どうやらついに目を覚ましたらしい。まぁ、そこまで寝ていたわけではないが、夜が長かったせいでかなり久しぶりに目を覚ましたかのように感じる。

 そしてライトはかなり察しがいい。俺たちのこの表情を見て何かを感じ取ったのだろう。俺たちに背を向けて歩き出し、静かに永遠亭内のベンチに腰を下ろした。

 

「ライト、もう大丈夫なのか?」

「気分は悪い。だが、もう大丈夫だ。心配かけた」

「ならいい」

 

 それからしばらくしてみんなが集まってきた。

 全員、かなりぼろぼろにされてしまったが、ここにいるのは全員人知を超越した者たちなので、回復力は高く、一晩寝たらかなり回復したらしい。

 

「みんなー!」

 

 そこで俺たちみんなが待ち望んでいた声が聞こえてきた。

 明るく元気で、今の俺たちのテンションにとっては少しうっとうしく感じるが、こいつの登場をここのメンバーは全員心待ちにしていたことだろう。

 

「怪しい空間を見つけたよ。もう……私は空間神じゃないから少し時間がかかっちゃったよ」

「ありがとうな」

 

 シャロはものすごく疲れた様子だ。こいつはいつもみんなの期待に応えようと頑張ってくれるから今日もものすごく頑張って休むこともなくずっと探していたんじゃないか?

 俺たちとしてはものすごくありがたいが、シャロも神とはいえ自分の体を大切にしてほしい。

 

「それですぐにでも行けるのか?」

「うん。いつでも準備オーケーだよ」

 

 俺たちはみんなで目くばせをする。

 紫、幽々子、正邪、永琳、紗綾、ライト、こいし。みんなは覚悟を決めてこの場に立っている。いまさら誰も怖気づいてなどいないだろう。俺たちが行かなかったらどの道、この幻想郷が崩壊するのは必然だ。それならば、俺たちは行って後悔する。みんなそんな考えなのだろう。

 

「行こう、みんな!」

「おー!」

 

 その瞬間、俺たちはシャロが開けたスキマによって自由落下を開始した。目的地はこの異変の主犯がいる場所。

 この先にどんな危険が待っているのかは全く分からないが、俺たちは進むしかない。

 

 スキマから出るとそこはまがまがしい場所だった。

 一本の道が存在し、その両脇には溶岩が敷き詰められている。足を一歩でも踏み外したらそのまま溶岩に焼かれてエンドだ。気を付けなければいけない。

 そしてこの道の先には魔王城を訪仏させるようなまがまがしい真っ黒で立派な城がそびえ立っていた。

 その外周にはなにやら霊力を感じる。おそらく外界からの干渉を防ぐ決壊のようなものなのだろう。つまり、あの中に入るにはスキマじゃなく、正面突破をするしかないわけだ。

 ただでさえ強いやつらを相手にするというのに正面突破は正直キツい。

 

「それじゃあ、この先に行くわよ」

 

 紫の一言で俺たちは意を決して城の中に足を踏み入れた。

 城の内部はとても立派なもので、黒を基調とした紅魔館のようなイメージだ。だが、あれよりももっと立派な見た目をしている。

 この中に入ったということはいつどこから襲われてもおかしくはない。だが、このエントランスはかなり広めのつくりをしている。そのため、そう簡単に隠れる場所はない。そう簡単に近づかれる心配はない。

 そう思っていたのだが––

 

「ようこそ」

「っ!」

 

 突如として俺は肩に手を置かれて耳元でつぶやかれた。

 そのことに周囲のみんなも気が付いたのか俺の方を見ると警戒して少し距離を置いた。

 こいつ、いつの間に俺の背後をっ!

 

「俺、鬼琉の本業は殺し屋だからなぁ。これくらいできて当然だ。まずはお前から殺してやろう」




 はい!第183話終了

 今回はちょっと少ないですが、ようやく決戦編です。ここまで長かったですね。

 ちなみにこの無意識の恋がいつ完結するかは分かりませんが、完結しても東方妖滅録もありますし、新しいのを書き始めるので引退はまだまだしません。

 それでは!

 さようなら


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第184話 連携

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 ついにシャロが主犯のいる空間を見つけ出した。

 全員でその空間に乗り込むと、そこは禍々しい城が聳え立つ空間だった。

 そしてその城に入った瞬間、真たちは鬼流に背後を取られてしまった。

 絶体絶命のピンチ、真たちはどう切り抜けるのか?



 それではどうぞ!


side真

 

 背後を取られてしまった。下手に動くと殺されてしまうかもしれない。

 

「さぁて、どう殺してやろうか。生きたまま内臓を全部引き摺り出してやろうか?」

 

 こいつの能力は瞬間移動。今この場で振り返って鬼流に攻撃をしたところで一才のダメージが入る事はないだろう。

 ならばどうするか。

 そんなのは一つしかない。

 

「っ!」

「よく不用心に近づいてきた物だな!」

 

 俺は肩に置かれた手を掴み、勢いよく振り返ってもう片方の手で霊力刀を作り出した。

 ならば、奴が逃げられないようにすればいい。例えば奴の体を掴む。

 俺が刀を鬼流に突き刺そうとするも、やはりそううまくはいかない。鬼流は俺の腕を掴むことによって俺の刀を止めてきた。お互いにお互いの腕を掴む体制になる。どっちかが力比べて負けると殺されると言う状況だ。

 

 その時、背後から二人の人物が駆けてきている気配を感じる。

 

「くそ、てめぇ、離しやがれ!」

「いやだね。この手は死んでも離さねぇ!」

 

 そして俺の横を通り抜けて鬼流の後ろに立つ二人の人物。その二人とは紗綾とライトだった。

 二人は刀を構えて鬼流に斬りかかる。だが、鬼流もそう簡単に切られはしない。

 

 なんと、俺ごと瞬間移動してその刀を回避した。

 どうやらこの瞬間移動をする一瞬は他人にはものすごい負荷がかかるようできつかったが、俺でも俺は手を離さずに鬼流に刀を突きつけ続ける。

 死んでもこの手は離さない。

 

「ふん、ならば、これでどうだ!」

「え? あぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 なんと、その瞬間、鬼流は連続で瞬間移動をし始めたのだ。

 当然それによって俺の体への負荷もとんでもないことになり、体の骨がバキバキと悲鳴を上げている。

 

「く、かっ!」

「そろそろ離した方がいいんじゃないか?」

「へ、これくらいで死ぬほど俺はやわじゃないんでね」

 

 そう強がるものの、肉体へのダメージを軽減するのは致命傷のみだ。これは致命傷にはならないので、じわじわとダメージが蓄積されてものすごく辛い。今すぐにでも離したい。だけど、今こいつを離してしまえばもしかしたらもう二度とこいつを倒すチャンスは訪れないかもしれない。

 

「だあああああっ!」

「ぐふっ!」

 

 俺は力いっぱいに鬼流の鳩尾に膝蹴りを入れる。すると鬼流はダメージによって能力の発動をやめてしまって俺の体への負荷も止まる。

 

 今がチャンスだ。

 

「クレア王!」

 

 俺はクレア王を使用して力を込め、鬼流に斬りかかった。だが、その次の瞬間、俺は天井を仰いでいた。

 ものすごい衝撃に俺の体は一瞬にしてぼろぼろになってしまっていた。

 

「《豪王(ごうおう)》!」

「「真!」」

 

 こいしと紗綾が心配して俺に駆け寄ってくる。

 腕が変な方向へと向いてしまっている。どうやら骨が折れてしまったようだ。だが、これくらいの傷だったら妖怪の俺ならどうっていうことはないが、いかんせん激痛によって俺は体を一ミリも動かせなくなってしまった。

 俺の能力は肉体への致命傷のダメージを軽減するというものだ。これはおそらく致命傷だったのだろう。だから俺の体は骨が折れる程度のダメージで済んだに違いないが、その痛みはそのままだ。肉体的にはまだ大丈夫そうだが、致命傷ほどの激痛が全身を襲って意識が朦朧とする。

 

「お前らが俺の体にダメージを与えることなど不可能だ。豪王、数十もの連撃を一瞬で相手に打ち込む技だ。この技を食らって死なないのは海藤真、お前くらいだろうな」

 

 深呼吸をすると肺が痛い。どうやら折れた骨が肺に突き刺さっているようだ。

 

「真、これを飲みなさい」

 

 そういって永琳先生は何かの錠剤を俺の口の中に押し込むと水で一気に流し込んできた。

 その瞬間、体の痛みが引いていくのを感じ、体の傷も治り始めた。どうやらこれは永琳先生の作った回復薬のようだ。いつもながら永琳先生の作った薬はすごい。

 俺は体の痛みが引いたので立ち上がると永琳先生は俺に耳打ちをしてきた。

 

「この薬は細胞分裂の働きを助けて強制的に傷を塞いでいるの。その影響で後でどっと疲れが押し寄せてくるかもしれないわ。細胞分裂を多くさせるということは寿命を縮めるということでもある。あまりこの薬は使えないわ」

「なるほど」

 

 今回は仕方が無いから使ったけど、本来ならばあまり使いたくないという代物らしい。

 いわば寿命の前借りというものなのだろう。人生の中で細胞分裂をする回数は決まっている。その回数を無理やり増やしたら残り細胞分裂回数が減って寿命が減るというのもわかる。

 なるほど、俺は半人半妖だからいいけど、本来だったらあまり使いたくはない代物だな。

 

「真、伏せて!」

 

 背後から幽々子の叫ぶ声が聞こえてくる。俺は咄嗟に伏せると頭上をものすごい大量の弾幕が通り過ぎ、鬼流に向かって襲い掛かる。

 だが、そんな弾幕では鬼流に攻撃することはできない。

 

「ふん、そんな弾幕が俺に当たると思っているのか!」

 

 鬼流は嘲るような表情になった後、瞬間移動をしようとしたその瞬間、

 

「反転しろ!」

 

 どうやら鬼流の上下左右の感覚があべこべになったらしく、思うように瞬間移動ができなくなって瞬間移動をしたのだが、幽々子の弾幕の射線から逃れることはできなかった。

 幽々子の弾幕には死の力が込められている。当たれば即死だ。

 おそらく正邪があいつの感覚を逆にしたのだろう。ものすごくばっちりのタイミングだ。瞬間移動しようとした瞬間だったらあいつも対応のしようがない。そしてあいつは瞬間移動の直後に瞬間移動をすることはない。おそらくクールタイムが存在し、一度使用した直後には再度使用することができないのだろう。

 あの状態ではあいつは回避のしようがない。

 

「なるほどな」

「鬼流、いや春斗あんたはもうおしまいよ!」

「っ!」

 

 正面から幽々子の弾幕が襲い掛かり背後からは紗綾が鬼流に斬りかかろうとしている。

 絶望的なこの状況の中、俺は見てしまった。鬼流のニヤッとした笑みを––

 

「みんな、離れろ!」

『え?』

 

 俺の叫び声にみんなは素っ頓狂な声を上げた。

 その次の瞬間、ドガーン! とものすごい地響きと共に鬼流が大爆発を起こした。おそらく自爆だ。ただ死ぬくらいなら周囲の奴らを道連れにして死ぬという意思なのだろう。

 だが、俺は驚愕してしまった。

 

「な、な、な」

「今の、デイだったらもう少しスマートに突破できたんだろうが、俺は一つしか能力がねぇからな。能力の過剰使用によっておこる現象、バーストだ」

 

 爆発による砂煙が晴れると、そこには爆発に巻き込まれてぼろぼろになって倒れている紗綾とその頭を踏みつけにしている同じくぼろぼろになって体中から血を流しながら狂気じみた笑みを浮かべている鬼流が見えた。




 はい!第184話終了

 今回は鬼流対真たちという戦いでしたが、いかがでしたでしょうか。

 早くも幽々子、正邪、紗綾の活躍によって追い詰めたかのように見えましたが、鬼流は意図してバーストを引き起こして難を逃れました。おそらく鬼流に怖いものは何もないのでしょう。

 ちなみにバーストは滅多に起こるものではなく、限界を超えて能力を使用したとしても起こるものではないのです。一度に使用できる能力の出力を大幅に超えると起こる現象で、使用者にも大ダメージが入ってしまいます。

 このようなオリジナル設定です。

 果たして真たちは鬼流に勝利することはできるのでしょうか?

 それでは!

 さようなら


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第185話 狂気の男

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 真たちと鬼流の戦いが始まった。

 相変わらず鬼流の厄介な能力に苦戦するものの、真はなんとか食らいついてチャンスを作り出した。

 しかし、鬼流は予想外の行動に出て紗綾がかなりのダメージを受けてしまった。

 その行動とはバーストと呼ばれる能力を暴発させる自爆技だ。

 それによって鬼流もかなりのダメージを受けた様子。

 果たして真たちは鬼流に勝利することができるのだろうか。



 それではどうぞ!


side真

 

 あいつは狂気だ。勝つためなら手段をもいとわない。

 鬼流の体は今の爆発でかなりのダメージを受けてしまったらしくぼろぼろではたから見たら痛々しいことこの上ないのだが、鬼流の表情は笑っていた。

 俺は知っている。自分の目的のために命すら平気で捨てるような人ほど怖い人はいないということを、俺が俺自身がよく知っている。なにせ、俺がそういう人だからだ。

 未来の俺もそうだった。過去も未来も現在も俺はそういう男だ。

 だからこそ、命を平気で捨てることができる人ほど怖い人はいないということを知っている。

 

 あいつはそういう人間だ。

 

「さて、俺はデイと違って殺しを楽しむような快楽主義者じゃないからな。早速ここでぶっ倒れている菜乃花から殺してやろうか」

 

 まずい、このままじゃ紗綾が殺されてしまう。

 俺が何とかする!

 

「ライト、走れ!」

「何か策があるんだな」

 

 俺とライトは鬼流に向かって全速力で走る。

 俺たちの実力は近い。だからタッグを組んだ時には息を合わせやすい。しかも、こいつは俺のクローンだから俺の感情、思考能力がそのままインプットされている。俺と鬼流は言葉を交わさなくとも合わせられる。

 俺が霊力刀に霊力を込めるとライトも霊力刀に霊力を込めて俺が鬼流の正面、そしてライトが鬼流の背後に回った。

 

「クレア王!」

「クレア装」

 

 俺がクレア王、ライトがクレア装を使用して鬼流に斬りかかった。

 だが、その瞬間には鬼流は目の前におらず、消えてしまった。だけど、これは想定済みだ。鬼流の能力が瞬間移動である以上、俺たちからの攻撃は瞬間移動で回避すると思っていた。

 俺の最大の目的は紗綾を助けることだった。そして、その次の目的は––

 

「真、歯ぁ食いしばれ!」

「よしこい!」

 

 ライトの方が霊力探知に優れている。だからライトはすぐに鬼流のいる場所を探知した。

 そしてライトは俺に蹴りを放とうとしている。まぁ、そういうことだろう。

 

 俺はジャンプすると、ライトは蹴りを放ってきたので、俺は俺でライトの足の上に着地してライトの蹴りの反動を利用して大ジャンプをした。これならば普通に飛ぶときよりも断然に速いので、クールタイムがある鬼流の能力では回避できないはずだ。

 すると、目の前に鬼流が現れた。ライトの読み通りにここに鬼流は瞬間移動してきたようだ。

 

「お前を斬る!」

「っ! 豪お––」

 

 その瞬間、鬼流はふらっとしてうまく技を発動できなかったようだった。おそらく平衡感覚が再度狂わされて思うように動けなかったのだろう。

 正邪、お前には何度も助けられたな。この異変が終わったら何か礼をしなければいけないな。

 おそらくこいつは普通の斬撃程度では全く動じることはないだろう。おそらく俺のただの斬撃ではこいつを倒すことはできない。

 だから俺は刀を持っていないもう片方の手で霊縛波を作り出した。そしてそれを霊力刀に押し付ける。すると霊縛波が徐々に霊力刀に吸収され始めた。

 

 霊力のこもった斬撃を霊力斬と呼んでいたな。ならば、この斬撃は霊縛波が込められているこの斬撃の名前は––

 

「《霊縛斬》だ!」

 

 俺が鬼流を斬った瞬間、切っ先から斬撃のレーザーが放たれて鬼流をぶっ飛ばしていった。

 これが俺の力だ。だが、初めてやったことなだけあって、霊力の操作が難しく、一撃でかなりの疲労感があった。もう一発撃てるとしたら30分後だ。

 鬼流は壁に激突してぐったりとしている。始めてまともなダメージを鬼流に与えることができた。

 

 だが、まだ鬼流の霊力を感じる。まだ気を失っていない。まだ倒せていない。

 集中しろ、まだ戦いは終わっていないんだ。

 

 鬼流は壁から離れるとぐったりとした様子で床に立った。今の一撃は相当堪えた様子だが、鬼流の体から何か嫌な霊力があふれ出してきているのを感じ、俺は思わず後ずさってしまう。

 嫌なもので、俺は嫌な予感というものは毎回当たってきた。そして今回もこの嫌な予感というのは的中してしまうだろう。体中の全細胞が今すぐにでも鬼流を倒せと叫んでいるが、それに反して体は一歩、また一歩と後ずさってしまう。

 あいつと戦うことを本能的に拒否しているのだ。

 

「俺に痛覚はねぇ。感情もねぇ。俺という人間、理瞬(りしゅん) 春斗(はると)はもうすでに死んでいるからなぁ……。今ここにいるのは鬼流という機械でしかねぇ。俺はただ戦うためだけに作られた戦闘サイボーグなんだよ!」

 

 その瞬間、ギリギリと歯車が回る音がし始めた。おそらく鬼流の体内にある歯車が回転し始めたのだろう。

 前も負けそうになった時にものすごい速度で歯車を回転させていた。おそらく歯車の回転が鬼流の強化のトリガーとなっているんだろう。つまり、今これからは今までよりも強い状態の鬼流と戦わなくてはいけない。

 

「っ! 表象《弾幕パラノイア》」

 

 こいしが放射状に広がる高密度の弾幕を鬼流に放った。それと同時に紫は周囲にスキマを作りだした。その中に次々とこいしが放った弾幕が入っていく。

 何をする気なんだ? そう思っていると、次の瞬間、紫のスキマが鬼流の周囲に大量に出現し、そのスキマの中から大量の弾幕が飛び出してきた。

 ただでさえ質量が多いこいしの弾幕が不規則に大量に鬼流へと襲いかかっていく。

 

 これは不可避だ。そう思っていたのだが、

 

「この程度の攻撃で俺を追い詰めたと思うな」

 

 その瞬間、なんとそのまま正面に目に求まらぬ連続パンチを繰り出し始めたのだ。

 そんなことをしても周囲の弾幕が銅にかなるわけではない。そう思っていたのだが、周囲の弾幕が徐々になにかに相殺されるように消えて減っていっていることに気がついた。

 そこで俺はある可能性が頭をよぎった。

 

 あいつ、自分自身の体を瞬間移動させるだけでなく、攻撃ですらも瞬間移動できるんじゃないか?

 そう考えればすべてのつじつまがあってしまう。

 そしたらあいつの攻撃はいつどこから襲ってくるかわからないから、本当に不可避じゃないか。

 

「不可避なのはこっちの攻撃じゃなくて、鬼流の攻撃の方だったってか? ふざけるんじゃねぇぞ……」




 はい!第185話終了

 相変わらず物語の進む速度は亀ですが、鬼流との戦いはデイほどは長くならないと思います。

 一人のあいて、しかもラスボスではないあいてとの戦いを膨らませ過ぎました。まぁ、鬼流との戦いも膨らませるには膨らませるんですけどね。

 それでは!

 さようなら


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第186話 勝利

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 真たちと鬼流の戦いは激しさを増していく。

 真たちの猛攻によって鬼流は徐々に押されていき、ついに追い詰めた、そう思ったのだが、鬼流はまだまだ本気ではなかった。

 こいしの放った不規則な高密度の弾幕を鬼流は能力を使用して軽々と防いで見せた。

 果たして真たちは鬼流に勝つことはできるのでしょうか?



 それではどうぞ!


side真

 

 鬼流の攻撃はどこから飛んでくるかわからない。絶対回避不可能な攻撃だ。

 せめてさとりのように相手の心を読むことができれば回避することができるのだが、確かに俺には覚り妖怪の血は入っているけど、それはこいしの血だ。使える能力は無意識であり、心を読むものではない。

 瞬間移動する力、侮っていた。まさか鬼流の能力は自身の体を瞬間移動させるだけのものではなかったなんて……。だが、どうやら鬼流のこの能力は無暗やたらに瞬間移動できるものではないらしい。例えば、攻撃の拳圧などは瞬間移動できるが、自身に関係するもの以外は単独では瞬間移動させることはできないらしい。

 そんなことができるならば最初から俺たちの体に爆弾を仕込んで爆発させればいい。おそらく俺とライト以外は即死だろう。俺とライトは致命傷を受けない程度の能力を持っているから耐えられるだろうが、そうしたら一気に壊滅状態に出来る。俺があいつの立場だったら確実にそうしている。

 だが、そうしないのには必ず理由があると俺は考えた。その考えた結果が爆弾だけを単独で瞬間移動させることはできないということだ。

 まぁ、それが分かったところで最悪な状況なのは変わらないけどな。

 

「さて、この最悪の状況はお前らはどうするよ」

「なら、瞬間移動した攻撃で俺を倒せるのか?」

「もちろんだ。お前など一瞬だ」

「そうか……」

「ライト!」

 

 ライトは霊力刀を構えて鬼流へと走り出してしまった。

 鬼流の攻略法がまだわかっていないというのに一人で走り出してしまったことに俺は驚いたが、あいつとは長い付き合いだからすぐに何か考えがあるのだとわかった。

 鬼流は拳を構え、そして走るライトへ向かってまだまだ距離があるというのに拳を突き出した。だが、当然ライトへ距離があるからその拳は空振り、普通ならここでそんな攻撃は当たるはずはないのだが、鬼流には能力がある。

 

「ぐっ!」

 

 ライトは苦しそうな声を漏らし、少しだけ左へと飛んだ。だが、それでもライトは止まらずに走り始めた。

 見る限りライトにはそれほどダメージは入っていないように見えた。

 少し考えていたことがあった。さっきの瞬間移動、俺も共に瞬間移動した事があるからわかるが、肉体にものすごい圧が襲い掛かってきた。その状態で攻撃はその威力を保持し続けることができるのだろうか?

 さらにはよく見てみるとおそらく攻撃が直撃したと思われるライトの脇腹が黒く変色していた。あれはライトの霊力の色、おそらくクレア装を使用して防御したのだ。

 攻撃の威力低下、それをライトはあの一瞬で見抜き、さらにクレア装を使用して防御力を上げて防いだというのか。

 前々から思っていたが、あいつはやっぱり敵には回したくないやつだな。

 

「前はよくやってくれたな!」

「くっ!」

「お返しだ!」

 

 するとライトはどこから取り出したのかメリケンサックを指にはめて拳を思いっきり振りかぶると鬼流へとたたきつけた。

 

「ぐあっ!」

 

 さすがの威力に鬼流もふらついた。その隙を狙って今度は霊力刀を構えなおして横薙ぎで振るった。

 しかし、その一撃は空ぶってしまい、鬼流を傷つけることはできなかった。

 

「まさか、剣士が殴りかかってくるとは……」

 

 鬼流はメリケンサックに殴られたことによって頭から大量の血を流す。あの攻撃はこいつと初めて対峙した際にライトがやられた攻撃だ。とげのついたグローブによって殴り飛ばされたことによってライトは戦闘不能になってしまった。それをやり返したということだろう。

 ライトは意外と根に持つタイプのようだ。これからは気を付けよう。

 

「面白い。面白いぞ! 双拳殺法《悪鬼羅刹》」

「くっ!」

 

 鬼流の目にもとまらぬ両手による連続の正拳突き。そのすべての攻撃がライトへと襲い掛かった。

 ライトはなんとか全身をクレア装で覆って防御力を上げ、耐えているものの見ている限りではかなりきつそうに見える。

 

「ぐっ! くは、がっ!」

「いつまでそうやっていられるか見ものだな!」

 

 ボフンと燃え上がる音が聞こえた瞬間、炎がすごい勢いで俺の真横を通過して鬼流へと突撃していった。その炎の中にはうっすらと紗綾の姿が見えた。

 それを見ると俺も刀を構えて走り出す。

 霊縛波を片手に作り出し、刀に吸収させるとそのまま刀を振った。

 

「《霊縛斬》!」

 

 この技は通常の霊縛波と違って刀を振るだけで斬撃のレーザーを出すことができる。もちろんこんな攻撃で鬼流を倒すことができるとは思っちゃいない。そもそも、この技は遠くまで届く速度が遅いのだ。それは霊縛波にも言えることで、遠くの敵には簡単に当たらないほどに遅い。

 そんな攻撃は余計に鬼流に当たるわけがない。だが、それでいいんだ。

 

「そんな攻撃当たるわけがないだろ––」

「読めた」

「っ!」

 

 鬼流が俺の攻撃を回避するために瞬間移動をしたその瞬間、その目の前には紗綾が迫ってきていた。すでにそこに向かって刀を振るっている。あと数センチで鬼流を斬ることができるほどの距離だ。

 俺は信じた。あいつが瞬間移動した後、あいつを紗綾が斬ってくれることを俺は信じたんだ。紗綾が走り出した時、紗綾は無言で俺に何かを伝えてきたような気がした。そして考えてみた結果がこれだ。

 やっぱりこれで合っていたようだ。お願いだ、斬ってくれ、倒してくれ、頼む!

 

「ち、こうなったら!」

「させねぇ」

「ぐあっ!」

 

 突如として飛んできた霊力弾、それはライトのものだった。霊力弾は鬼流に直撃し、おそらく鬼流は再度能力の過剰使用をしてバーストを引き起こそうとしたのだろうが、それによって集中力が切れて能力の使用を中断してしまった。

 行ける。これならいける!

 

「だあっ!」

「くっ!」

 

 紗綾は脇腹に蹴りを食らってしまった。だが、足に力を込めて踏ん張り、刀を振るのをやめない。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「あぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 そしてついに––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 紗綾は鬼流の胴体を一刀両断した。




 はい!第186話終了

 ついに紗綾が鬼流に致命的ともいえるダメージを与えることに成功しました。

 胴体を一刀両断されて生きていられる人はそうそう居ないですからね。

 ちなみにライトは真のクローンなので真と同じ能力を保持しています。

 なので胴体を一刀両断されて生きていられるのは真とライト位なものです。生きていられるのは、ですが。

 まだまだ続く決戦! 次回もお楽しみに!

 それでは!

 さようなら


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第187話 紗綾と春斗

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 絶対不可避な鬼流の攻撃に対して真、ライト、紗綾の三人が挑む。

 瞬間移動で攻撃を回避し、瞬間移動で攻撃を命中させてくる鬼流に苦戦した三人だったが、最後は三人の見事なコンビネーションによってついに紗綾が鬼流の胴体を一刀両断させることに成功した。

 さて、まだまだ続く最大の異変。

 果たして勝つのは真か、それともジーラか!



 それではどうぞ!


side紗綾

 

 私と鬼流、いや春斗は幼馴染。だけど、そこまで深くは関わったことはなかった。

 いつも春斗は窓際の席に好んで座って授業中もずっと外を見ている人だった。そのため、いつもやる気なさそうに見えていたからいろいろな先生方の反感を買ってしまっていたり、よく慧音先生にも頭突きをされていた。まぁ、その頭突きを食らったことは一度もないんだけど。

 春斗は動きは速いし、体も柔らかい。だから少し動くだけで慧音先生の頭突きを回避できるほどの瞬発力を持っていたし、それだけの実力があるから喧嘩にも強かった。だから教室内では浮いていた。

 

 だけど、そんなある日、似顔絵を描く授業で私と春斗はペアになった。

 春斗はその日もとてもだるそうな表情をしていて、いつもだったらさぼりだしそうな表情をしていたけども、意外と彼はまじめだったようで、他の人には迷惑をかけまいと私との似顔絵の授業はさぼらずに受けてくれた。

 だけど、授業中はずっとだるそうな表情をしていたから私が書いた春斗の似顔絵もだるそうな表情になっていた。

 そんな春斗が描いた似顔絵はというと、そのだるそうな表情からかけるとは全く思えないほど繊細で丁寧な絵だった。一言で言えばものすごく上手かった。春斗は手先が器用なのだ。

 

 それから私は春斗と話すようになっていった。

 春斗はその表情や性格、体格とは異なって趣味は裁縫という繊細なものだという。だから手先が器用なのだ。

 

「ねぇ、紗綾。最近よく春斗君と話すようになったよね」

「まぁ、ちょっとね」

「何? 紗綾は春斗君の方が好きなの?」

「ちょ、楓花(ふうか)! 何言ってるの!?」

「紗綾は私のものだよ!」

「何言ってるの」

「ガチトーンは傷つくなぁ」

 

 親友の楓花にからかわれるようになった。

 それから私たちは三人でよく話すようになった。まぁ、なぜだか楓花は春斗に対して敵意をむき出しにしていたけど……。だけど、私はこんな日々が好きだった。とても平和な気がして。

 

 ある日、私と楓花が一緒に家に帰ろうとしていると突然大きい男の人達に囲まれて人気のないところに連れていかれてしまった。

 自分よりもずっと大きい男の人を前にして争いごとが苦手だった私は委縮してしまって震えるだけで何も言えないし、何もできなくなってしまった。だけど、楓花は違った。

 

「いいだろ? 俺たちと遊んで行けよ」

「嫌ですって言ってるじゃないですか」

 

 いつも穏やかで誰に対しても笑顔を見せる彼女が自分よりもずっと大きい男の人に対してにらみつけた。

 私は楓花がすごいと思った。私なんて委縮して震えていることしかできなくなってしまっているのに、彼女は男の人をにらみつけて……だけど、私は気が付いてしまった。

 楓花の足がぶるぶると震えていて、今にも倒れてしまいそうなほどだった。その姿を見てからはこの威勢も風が吹けば飛ぶようなか弱いものに感じて仕方がなかった。

 そして、そんな態度をしていたら相手から反感を買うのは当然だった。

 

「おうおう、足振るわせながらすごまれても怖くねぇな」

「こいつからやっちまおうぜ」

「いや、やめて!」

 

 楓花は腕をつかまれてしまった。力では男の人に勝てるわけもなく、私はもうダメかと思った。

 だけど、その瞬間、楓花をつかんでいた男の人は何者かに殴り飛ばされてぶっ飛んで行ってしまった。

 

「わりぃ、手が滑った」

「が、はっ!」

 

 男の人は一撃で気を失ってしまって動かなくなってしまった。

 私たちは驚いて男の人を殴り飛ばした何者かを見て、そこで再度目を見開いて驚いた。

 

「春斗!」

 

 そう、私たちは春斗に助けられたのだ。

 そして春斗は一瞬にしてほかの男の人も倒して私たち二人とも助けて見せた。その姿はいつもの気だるげな表情ではなく、真面目な表情、真がみんなを守るために戦っているときに見せる表情、そのものだった。

 そんな春斗に楓花は惹かれてしまったみたいで、次に寺子屋で会った時には敵意ではなく、愛情のようなものを感じるような接し方をしていた。本人は隠しているようだったけども、私からしたらバレバレの様子だった。

 

 次第に二人は仲良くなっていって付き合うようになった。それは私もうれしかったけど、少し寂しくも思った。私は少し身を引こうかと思ったけど、楓花は今までと変わらず私と仲良くしてくれたから今までと変わらずに楽しい日々を過ごす。

 だけど、二人は二人きりになるとイチャイチャし始めて、

 

「俺は楓花を守る。ずっと強くなって誰にも負けないくらい強くなって、そんでお前を守って見せるから安心して着いて来い」

「春斗君……」

 

 教室に忘れ物をしたから取りに来たら二人は抱きしめあっていた。

 だけど、寺子屋襲撃事件を機に私たちは離れ離れになってしまった。その時はたまたま春斗は授業をさぼってどこかに居たから春斗は巻き込まれることはなかった。

 そして私たちは無理やり能力を宿らされて死に目に合った。そこで炎の能力を会得してジーラに買われた。いわゆる人身売買というやつだ。

 

 そしてジーラに買われてから数か月後、私とは全く接点のないチームだけど、春斗がジーラに買われたという噂を耳にした。そのコードネームは鬼流。

 

 それから私たちは敵として再開した。その春斗には以前のような誰かを守るために戦う拳というものを持ち合わせていないように見えた。誰かを殺すためだけに磨き上げられた拳。性格もまるっきり違うようになってしまっていた。

 楓花を守れなかったショックによって性格がガラッと変わったのかと一回思ったけど、それともまた違うような気がした。

 まるで誰かの手によって性格を変えられてしまった、そう思ってしまった。

 

 楓花を守るために強さを求めていた春斗。どうして春斗がジーラ側に居るのかは分からないけど、あんたは楓花を守るために戦っていたのに……そんなロボットのような風貌になって……。

 

「……春斗、あんたはそれで本当によかったの? あんたの人生は本当にそれで……」

 


 

side真

 

 紗綾の刀がついに鬼流の胴体を一刀両断した。それによって鬼流は上半身と下半身に分かれ、崩れ落ちた。

 こんなダメージ、致命傷と言ってもいいだろう。胴体を一刀両断されてそうそう生きていられる人はいない。

 力なく崩れ落ちた鬼流の体の断面を見てみると、機械が詰まっていて、どうにも生きている人間には思えない見た目だが、鬼流はピクリとも動かないから倒したのは間違いないのだが、どうにも気味悪く、なんだかもやもやと嫌な予感がして気持ち悪い。

 斬られた断面の機械がバチバチと火花を散らしている。まるでロボットでも斬ったかのような見た目だ。

 

「……春斗、あんたはそれで本当によかったの? あんたの人生は本当にそれで……」

 

 紗綾が悲しそうに鬼流の事を見下ろしている。二人は幼馴染だったからこうして相対してみて何か思うところがあるのだろう。

 すると紗綾はポケットから髪留めのようなものを取り出して鬼流の手の中に握らせると、立ち上がってそのまま振り返って歩き始めた。

 そんな紗綾に続くように俺たちも歩き始めた。

 

 歩けば歩くほどジーラの霊力のようなものを強く感じられるようになっていく。間違いない。ジーラはこの先に居る。

 だが、この先にはジーラの他にもデイや鬼流よりももっと強い霊力を感じる。ここから先では今までにないくらいの激闘が待ち構えているんだろう。

 そんなことを考えて俺は頬をパチンと叩いてさらに先へと進んだ。

 


 

「おやおや、鬼流。やられてしまったのかい? 情けない。だけど、君はそんなことでは死なないよね。いや、死なないんじゃない。言葉を間違えたよ。だって君は生きてはいないからね。君は俺が、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

殺したんだからね」




 はい!第187話終了

 今回は紗綾と鬼流の過去がメインの話でした。

 昔は真と似たような性格で大切な人は絶対に守るといった感じの人物だったけども人が入れ替わったように性格が変わってしまって紗綾は混乱していましたね。

 そして最後の意味深なセリフ、どういうことでしょうか?

 それでは!

 さようなら


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第188話 音と衝撃波

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 紗綾と春斗の過去話。

 春斗は昔はとても心優しい少年で、気だるげにしていて不真面目ではあったものの、紗綾と楓花が困っていたら助けずにはいられない性格だった。

 そんな春斗に惹かれて楓花は春斗と付き合うようになり、春斗は楓花を絶対に守って見せると誓った。

 しかし、そんな春斗の成れの果てを見て悲しそうな表情をする紗綾。



 それではどうぞ!


side真

 

 歩いていくうちに俺たちは次の部屋の扉を発見した。

 ここに来るまでに道が分岐したりとかも特になかったことから次の部屋はここで間違いないだろう。

 この先からものすごく強い霊力を感じる。かなりヤバい敵がいることは間違いない。下手したら今のジーラの霊力よりも強い可能性があるレベルだ。

 

 みんなが緊張しているのを感じる。それはみんな、この扉をくぐった瞬間から戦いが始まるということを予感しているからだだ。

 

 俺も心臓の鼓動を落ち着かせて深呼吸をし、この扉のノブに手をかける。そして俺はそのドアを一息に開いた。

 するとそこは上空のような、そして上にある空が地面に反射しているかのような、そんな感覚がおかしくなりそうな空間が広がっていた。

 下を見ても何もないように見えるが、触れてみるとこれはしっかりとした地面だった。まるで鏡がそこにあるかのような景色だが、俺たちの姿は映り込んではいない。つまりはこれは鏡ではない。だが、空のような見た目をした地面ということになる。

 空と連動して下の景色も動いているから感覚がおかしくなりそうだ。きれいな光景だとは思うが、かなり趣味が悪いと言わざるを得ないだろう。

 

 そして正面には扉がぽつんと設置されていた。おそらくこの部屋の出口があそこなのだろう。

 だが、あれに迂闊に近づくのは命に関わると本能が告げている。なにせ、この部屋に漂う気配は鬼流やデイなんかとは比べ物にならないほど強力で邪悪なものだったからだ。

 この気配、前に感じたことのある気配だ。敵だ、自分に害をなす存在だ、そう分かっているのに、なぜかこの気配には逆らおうとは思えない。いや、逆らうと死あるのみだと本能的に感じてしまうから逆らう気にもなれないのだ。

 

「よく頑張った。ここまでたどり着いたのは誉めてやろう」

「っ、お前はあの時の」

 

 手を叩いて俺たちをたたえながら現れたのは鬼流と初めて戦った時に現れた仮面の男だ。かなり威圧的な雰囲気を纏っていて、逆らったら確実に死ぬというのがさっきとは比べ物にならないほどにひしひしと感じる。

 まるで、前世の記憶を取り戻し、前世で虐殺されたのがトラウマになっていて奴に恐怖しているかのような、そんな感情があふれ出てくる。

 こいしのために死ぬのは怖くない。そう思っていたのに、今の俺の足は今までにないほどに振るえていた。俺は奴に対して恐怖を抱いているのだ。

 

 それは俺だけではなく、その場にいたみんな同じ状態だった。

 間違いなく俺たちはこれから虐殺されてしまう。

 

「一目散にそこの扉に向かわなかったその警戒心の強さも称賛に値する。いままでこの部屋に来た奴らはみんなこの部屋を気味悪がって早く抜け出したいがためにそこの扉に向かって死んで行った。そこの扉にはある術式が組まれている。それは俺が死ぬまでその扉は人食い扉となってしまうというものだ。一度くぐったら最後、もう現世に戻ってくることはできない魔の扉」

 

 俺もこの気味悪い部屋からは早く抜け出したくはなかったが、何やら嫌な予感がしていたから動かずにいた。

 あいつは今までのどの敵とも戦い方が違う。罠を張って、相手を罠にはめて倒す、そんな戦い方だ。その戦い方ができるということはこいつは知恵もあってなかなかに厄介な奴だ。

 

「さてさて、面倒だけどそろそろ俺も動かないといけなそうだ」

 

 奴はゆっくりとこっちへ歩きながらズボンのポケットの中に入れていた手を取り出してくる。

 何かが来る! そう思った瞬間には俺は宙を舞っていた。

 

「がはっ」

 

 ものすごい威力に俺は地面に仰向けに倒れて戦慄してしまった。

 やばい、こいつ。デイや鬼流とは比べ物にならないほどの強さだ。

 奴と俺たちとの距離は十メートル以上もあった。それに加えてあいつは飛び道具を出した様子もなかった。何をされたのかが全く分からなかった。

 最初にこいつが現れたときもそうだった。鬼流を回収するためにやってきたこいつはものすごい突風を出して俺たちの体に切り傷を付けていった。

 確かにこいつは剣を持っているけど、こいつが剣を抜き放った気配は一切なかった。

 

 超スピードとか、瞬間移動とか、そんな簡単な理由じゃないはずだ。

 

「まぁ、やっぱり君たちじゃ俺には勝てないよね」

「な、なに!?」

「邪の力を使ったのさ。この力はなんにでもなる。風にも、そして音を衝撃波として飛ばすことも、ね」

「ま、まさか、布擦れの音を衝撃波として飛ばしたということ?」

「せいかーい。そこの赤髪の子に一ポイント!」

 

 紗綾の驚きを隠しきれない声の質問に対して楽し気に、まるでクイズ番組でもやっているかのようなテンションで答える仮面の男。

 布擦れの音を衝撃波に変えた?

 

「さて、俺はあまり体を動かすのは好きじゃなくてね、手早く終わらせ––」

「消えろ!」

 

 その瞬間、上空から巨大なまがまがしい球体が降ってきた。さすがにこれを見て仮面の男も一瞬驚いたものの、すぐに元の調子に戻ってその巨大な球体に向き合った。

 あれはこの世の終わりのような力だ。あれが地上に着弾したら一瞬にしてこの世界が消し炭になってしまうことだろう。幻想郷の崩壊がまだ生易しく感じるくらいにまがまがしい力をあの球体は放っている。そしてあれからは神力を感じるな。

 彼方の破壊砲の時は片腕を犠牲にすることで防ぐことができたが、もう一度あのように出来るだろうか。いや、出来るかじゃなく、やらなきゃだめだよな。

 そして俺が飛び出そうとした瞬間、仮面の男は手をパチンと叩いた。すると瞬く間に辺りを暴風とも呼べるような衝撃波が襲い、俺たちはみんなぶっ飛ばされてしまった。そしてまがまがしい球体もこの衝撃波に耐え切ることができなかったようで、上空に押し返されて行った。

 

 完全に押し返されると上空で大爆発が発生し、そこから一人の少女が降ってきた。

 俺は慌てて駆け出すと、その少女の落下地点に滑り込んで少女をキャッチした。

 結構高いところから降ってきたので衝撃はすごかったが、本人は軽いので何とかキャッチすることができた。

 

 その少女は俺たちがよく知っている少女だった。

 

「彼方、大丈夫か!」

「うぅ……まさか圧し負けるなんて……」

 

 落ちてきた少女は彼方だった。

 今の一撃は相当なダメージだったらしく、体中ぼろぼろになってしまっている。

 龍磨ですら反応することができていなかった彼方の破壊の技をいともたやすくはじき返すなんて、やっぱりただものじゃない。

 

「気を付けて、真。そいつからは神力を感じる」

「し、神力だって!?」

「おっと、真の神である君ならばそりゃ気づくか。そうだよ、俺は神だ。元、だけどね」

「元?」

「おしゃべりはここまでだ。さて、ここから君たちには地獄を味わってもらうよ」




 はい!第188話終了

 ついに仮面の男との戦いが始まりました。

 音を衝撃波として飛ばすことができる仮面の男は手を強くたたくことによってものすごい威力の衝撃波を生み出すことができます。

 ちなみに足音とかでも相手にダメージを与えることができます。強い(確信)

 そんな奴相手に真たちはどう戦うのでしょうか?

 そして邪の力とは一体? 元神のその理由とは!?

 それでは!

 さようなら


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第189話 絆の神力

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 新たな部屋にたどり着いた真たちの前に現れたのはいつぞやの仮面の男だった。

 仮面の男は音を衝撃波として放つことができ、真たちは苦戦する。

 真ですら打ち消すのに苦労した彼方の技を仮面の男は簡単に跳ね返してしまった。

 今まで戦ってきたやつらがかわいく思えるほどの強さ。

 果たして真たちは勝つことができるのか?



 それではどうぞ!


side真

 

 くそ、ここにいるやつらは広範囲で不可避な攻撃をする奴しかいないのかよ。

 彼方の攻撃までも圧倒的な力でねじ伏せることができる威力の攻撃なんて、どうやって防げばいいんだ。

 多分あいつの攻撃は衝撃波だから遠くに行けば遠くに行くほど威力が弱くなるのだろう。だが、近づけばその分威力が上がって近づくことができない。

 

 主に近距離で戦う俺、ライト、紗綾は近づくことすらできない。

 

「さて、冥土の土産に教えてあげるよ。俺は神楽、元神だ」

 

 元神、またこれだ。

 確か神になるには人柱になるか神力水を飲むんだったよな。だが、そのあとの事は知らない。

 神が神じゃなくなるということもあるのか? そこら辺の神についての詳しい知識を俺は全く知らない。シャロたちもこんなことは一言も言っていなかったし……。

 だが、一つ考え付いたことがある。あの邪の力とやらを使った瞬間、神力を感じ取ることができた。おそらくそれは俺が神力を微量ながら持っているからなのだろう。

 しかし、あいつの神力は俺の神力を遥かに凌ぐほどのもので、俺一人の神力じゃあいつの神力を上書きすることはできない。

 

「シン」

「彼方っ」

「一緒に戦おう。あの時みたいに」

 

 そうだ、龍磨との戦いのときに、俺の右腕の代わりに一緒に戦ってくれたんだ。だが、これはあの戦い限定だったはずだ。なのに、なんで今この話を持ち出すんだ。

 

「私はね、決めた。私はいつまでもシンの右腕として戦い続ける。そしてシンを守る」

「っ!」

 

 彼方が俺の手をがっしりと力強く握ってくれた。

 感じる、彼方の想い、そして力を。

 彼方の神力が俺の中に流れ込んでくる、今なら神楽と戦えそうな気さえしてくる。ものすごく調子がいい。体が軽くなっていくようだ。

 そうだ、今までだってそうだったじゃないか。俺たちみんなが一丸となれば乗り越えられない壁なんてない。

 

「「真」」

 

 ライト、紗綾。

 二人が俺たちもいるぞと言わんばかりに俺に声をかけてくれる。

 そうだよ。俺は別に一人で戦っているわけじゃない。俺の後ろにはみんながいる。

 まだ、やれる。

 

『……私も、いるよ』

「っ!」

 

 今の声は……。

 脳内に直接響いてくる少女の声、最近聞いていなかったからものすごく懐かしく感じるこの声。

 そうだったな、お前もいたな。相棒!

 

「感動シーンとか要らないからさぁ、とっとと死んでくれない?」

 

 神楽は手を大きく広げて拍手する体制に入った。あの攻撃は彼方の攻撃をぶっ飛ばしたほどの威力のある音となる。

 だが、その攻撃はもう見た。もう食らわない。

 俺は静かに彼方をその場に下ろすと扱いには慣れていないが、神力をどんどんと高めていく。これはクレア王と同時に使うなと言われた神の技。

 

「《限界突破(リミット・ザ・ブレイク)》!」

 

 きっと今の俺なら、戦うことができる。

 限界突破を使用したことによって俺の神力が大きく膨れ上がり、そしてそれにプラスして彼方は俺の左手を両手でぎゅっと握りしめて俺の体に神力を流し込んできた。

 あの技を打ち消すことができるかがこの戦いの勝敗を決めるといっても過言ではない。あれを打ち消してからが俺たちの戦いの始まりだ。

 

 バチーン!

 ついに神楽は手を叩いた。

 轟音とも思える音に少し怯んでしまう。あれは確実に彼方の攻撃をぶっ飛ばした時の物よりももっと強力な一撃、並大抵な力じゃ逆に押し返されてしまう。

 気合を入れろ。今世紀最大の力じゃ足りない。もっと、もっとさらにその上の神力をひねり出せ!

 

「《上書き》!」

 

 ありったけの神力を右手のひらから放出して衝撃波にぶつけた。だが、その威力は凄まじく、圧されてしまう。

 この力比べに負けたら後ろにいるみんなもこの衝撃波によってやられてしまう。それだけはダメだ。俺がこの衝撃波を打ち消さないと。

 だが、さすがの威力にどんどんと俺は後ろへ圧されていく。彼方の破壊砲がかわいく思えるほどの威力だ。今度は片腕だけではなく、全身が吹き飛んで跡形もなく消え去ってしまいそうだ。

 俺はさっきまでの戦いでかなり体力が消耗しているから大ダメージを受けて生きていられるかは正直微妙なところ。だから、この攻撃に負けてはダメだ。

 今までの経験をわがものとしてこの一撃にすべてを込める。

 

「っ! どんどんと出力が上がってきているっ」

 

 まだだ、まだ駄目だ。打ち消せない。

 そろそろ彼方も限界が近いようで、肩で息をして今にもふらふらと倒れてしまいそうだ。

 

「くそ、こんなところで、負けてたまるか!」

 

 俺一人の犠牲でこの世界(幻想郷)を救えるなら俺はそれでいい。だが、今ここで負けたら今この場にいるみんなの命まで危ない。

 まけ、られるか!

 

「っ!」

 

 その時、俺の体にさらなる神力が流れ込み始めた。だが、彼方はもう限界が近いからこんな神力を俺に流し込めるわけがない。

 そう思って俺は左肩に手を置かれているのに気が付いて左肩の手を伝ってみてみると、そこにはシャロが居た。今までどこかに行っていていなかったが、ここに来て急に俺たちの目の前に現れて俺に神力を注ぎ始めた。

 確かに彼方の神力よりは弱いが、力が尽きかけていた俺たちにとってはものすごく助かる。

 だけど、まだ足りない。あともう少しなのに俺、彼方、シャロの三人の神力を合わせてもまだあと少し足りない。

 

 もうダメだ、俺ももう力が尽きてきた。

 

「さぁ、そのまま死ぬがいい! 所詮君たちの力なんてそんなもんだよ」

 

 俺はこのまま、死ぬのか。

 ……いや、まだだ。まだ希望はある。

 頭の中に響いてきたあの声、離れていても俺たちの想いはつながっているんだ、そうだろ? 相棒。

 

「【神成り】!」

「神成りだと?」

 

 その瞬間、近くに落ちた木の枝がキラキラと輝き始め、どす黒いオーラを出し始めた。

 俺はずっと気になっていたんだ。正体不明の枝、そして植物化させることができる物質。これは一体何が植物化してしまった姿なんだろうかって。

 だけど、今声が聞こえて確信した。枝にされていたものの正体は!

 

「来い!」

 

 きらりと一段と強く光り輝くと枝はどす黒いオーラを払いのけ、変形し始めた。その形はそう、刀だ。

 なんども見たことがあって、俺が一番信頼している武器の見た目だ。

 その瞬間、刀は一直線に俺の方へと向かってくると左手の中にすっぽりと納まった。

 とても手にフィットする。握り心地がいい。

 

『遅れてごめんねー』

「いや、俺こそ、気が付くのが遅れてごめんな。目覚めたばかりで申し訳ないんだけど、俺に力を貸してくれないか?」

『了解!』

 

 すると柄越しに俺の手のひらへ神力が流れてくるのを感じる。

 これならいける!

 

「神楽、お前がこの程度って言った力を見せてやるよ! 俺たちにあってお前に無い力、それが絆の力だ!」

「な、なに!?」

 

 その瞬間、衝撃波はかき消され、俺たちはかき消えた瞬間の衝撃によってしりもちをついてしまう。だが、そうしている間にも神楽は次の攻撃を構えている。

 あれを放たれたら今度こそ本気でまずい!

 そして手同士を叩きつけようとしたその瞬間、俺の背後から飛んできた霊力弾によって神楽はぶっ飛ばされてしまった。そしてそれを合図として一斉に背後から大量の弾幕が神楽へと襲い掛かった。

 

「くそ、おのれ! 調子に乗るな!」

「まずい!」

 

 神楽がモーション少な目で手を叩こうとしている。

 多分さっきまでの攻撃よりは威力は低いだろうが、それでもかなりの高威力なのは間違いないだろう。あれを放たれてしまったらどうしようもない。

 万事休すか、そう思ったその時、誰かが電光石火のスピードで俺の真横を走り抜け、手を構えている神楽を蹴り飛ばした。

 

「な、今度はなん––」

 

 ドカーン。神楽が言い切る前に陰陽玉のような模様(・・・・・・・・・)の霊力弾が神楽に直撃し、大爆発を起こした。

 砂煙によってうまく見えないが、赤と白色の服が砂煙の向こうに見える。

 

「真、彼方、シャロ、それから紬。あんたたちは休んでなさい。あとは私たちに任せて!」

 

 徐々に砂煙がなくなっていき、見えていくその姿に驚愕した。

 お祓い棒を手に持ち、頭に赤い大きなリボンをつけて紅白の脇ががら空きの巫女服を着た少女。

 間違いない。だが、どうして彼女がここに? それに俺に攻撃してこなかったことも不思議だ。なにせ、彼女は俺に敵対してきたはずだから。

 最初に俺に攻撃を仕掛けてきたのだって彼女だ。

 

「悪いわね、真。ちょっと意識を乗っ取られかけたわ。さすが幻想郷の力と言ったところね。だけど、この謝罪は後にさせてもらうわ。この異変が解決した後でしっかりと謝罪を受けてもらうわよ」

「博麗の巫女、博麗霊夢……」

 

 こんなに霊夢の背中がかっこいいと思ったのは初めてだった。それどころか、この異変が始まってから俺は霊夢に見つからないように動いてきた。

 だが、こうして霊夢は俺たちの仲間として再度目の前に現れてくれた。

 

「真」

「あぁ、俺たちもいるぞ。だから、お前は安心してゆっくり休んどけ。この後も戦いがあるんだからな」

「……そうさせてもらう」

 

 霊夢に続くように紗綾とライトも俺たちに一言声をかけて刀を構えて神楽のもとへと歩き始めた。

 

「さて、あんたら、準備はいいんでしょうね」

「「「「「「「もちろん」」」」」」」

「こいつを倒して異変の元凶も退治して、幻想郷に平和をもたらすわよ!」

 

 今日ほど霊夢の事を頼もしいと思ったことはない。




 はい!第189話終了

 真、彼方、シャロ、紬の四人の絆の力で衝撃波を打ち破りました。

 実はあの枝の正体は紬だったんですね。

 しかし、神楽の力は凄まじいですね。あの威力の攻撃をクールタイム少な目で放てるんですよ。

 そしてそこへ登場した霊夢、この章が始まる前の段階でのプロットでは霊夢は仲間にならないものだったんですよね。

 ただ、やはり原作主人公ということでこの第二期ではかっこよく描きたいと思った結果、こうしてプロットを変更しました。

 果たして霊夢を加えたみんなは神楽を倒すことができるのでしょうか?

 それでは!

 さようなら


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第190話 そんなにやわじゃない

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 神楽との戦いが本格的にスタート。

 しかし、超威力の衝撃波に真たちは大苦戦。

 なんとか真、彼方、シャロ、紬の三人の神力を合わせることによって神力の上書きに成功したが、次の攻撃をすぐに繰り出そうとする神楽に万事休すかと思われたが、みんなが一斉に弾幕を放ってキャンセル。

 さらには霊夢も現れて神楽を蹴り飛ばした。

 果たして神楽を倒すことはできるのでしょうか?



 それではどうぞ!


side真

 

「わらわらと……調子に乗りやがって。死ぬ覚悟はできてるんだろうな、博麗の巫女」

「あんたこそ、大人しく私たちに退治されなさい!」

 

 その瞬間、二人は同時に走り出して同時に拳を繰り出した。速度は互角のようで、完全に動きがシンクロしている。だが、神楽の厄介な点は音を衝撃波として周囲に放つことができるということだ。

 霊夢と神楽の拳がぶつかり合って音を出したら周囲の物をすべて破壊できてしまうほどの強烈な衝撃波が周囲に放たれてしまうだろう。そして神楽はおそらくそれを狙っている。端から霊夢に攻撃するつもりではなく、霊夢の全力の拳に自分の拳を打ち付ける気満々と言った様子だ。

 

 だが、その考えは博麗の巫女の前では浅はかだったようだ。

 霊夢は突如体制を低くして神楽の拳を躱し、神楽の懐に潜り込んで手を構えた。その手には陰陽玉のような弾幕があり、おそらく俺の霊縛波と同じように押し付ける気なのだろう。

 しかし、神楽もその攻撃には瞬時に気づき、後ろに飛び退くことによって回避したが、それを見ると霊夢はその陰陽玉をガシッと握りしめて思いっきり神楽に向かって投げつけた。

 

「なっ!」

 

 神楽は咄嗟に手を叩き、衝撃波を放って陰陽玉を相殺したが、その間に霊夢はお祓い棒とお札を構えて神楽を見据えていた。

 

「霊符《無双封印》!」

 

 霊夢がスペルカードを使用した瞬間、大量の弾幕が神楽へと襲い掛かった。

 さすがに神楽もその弾幕に反応しきれず、回避動作はしたものの、回避しきることができずに何発かはまともに直撃した。だが、霊夢の弾幕はこれで終わるものではない。

 霊夢の弾幕はホーミングするため、直撃しなかったらいつまでも相手を追い回す性質がある。

 

「ぐああぁぁぁぁぁ」

 

 そのことに気が付かなかった神楽はホーミングしてきた弾幕をすべてもろに受けてその場に膝をついた。

 強い。やっぱり霊夢は博麗の巫女なだけあって強い。それに、霊夢の速度だったら神楽が強い衝撃波を放つ前に攻撃してキャンセルすることだってできる。

 

「そういえばシャロは今までどこに行っていたんだ?」

「ちょっと、霊夢を探しにね」

「霊夢を?」

「うん、この空間を探している最中に休憩していたら霊夢の事を見かけてね、その時に怪しい人を見かけなかったかって里の人に聞き込みをしていたんだよ」

「怪しい人?」

「まず間違いなく真の事じゃなかったよ。霊夢が探していたのはジーラの方」

 

 まさか、霊夢の奴はずっと主犯を探していたというのか?

 確かに最初は襲われて死にかけたからずっと警戒していて、一度人里で霊夢の事を見かけた際も俺の事を探しているんだと思って見つからないように行動していた。

 霊夢がどんな内容の聞き込みをしているかなんて確かめてもいなかった。

 なるほど、霊夢はもうとっくに俺たちには敵対していなくて、それどころか仲間だったってことか。一時期はどうなるかと思ったが、よかった。

 そしてそれが分かったからシャロは俺たちを送った後、霊夢を探しに戻っていったってところか。そして今、俺に力を貸すタイミングで連れて戻って来たっていうことか。

 

「遅れてごめんね。探知探索は僕はあまり得意じゃなくてね」

「いや、すごい助かった。ファインプレーだ」

 

 俺が礼を言うとにへへと表情を崩すシャロ。やっぱりシャロは誉められなれていなくて誉めるとめちゃくちゃ喜ぶみたいだ。

 シャロたちもこの異変を解決しようと頑張ってくれている。みんな、この幻想郷の事が大切なんだ。

 

 神楽は膝をついたが、すぐに立ち上がって霊夢の事を見据えた。

 仮面が付いていて仮面の下の表情が全く読み取れないが、おそらく今の一連の戦いで霊夢の事を強者だと認めて本気になったのだろう。今までとは雰囲気がまるで違う。今までは衝撃波に頼って楽に俺たちを倒そうとしていたようだが、今の神楽はまるで雰囲気が違う。

 

「私たちも霊夢のあとに続くわよ! 結界《夢と現の呪》」

「ええ、亡郷《亡我郷-さまよえる魂-》」

「了解、逆符《鏡の国の弾幕》」

「うん! 表象《弾幕パラノイア》」

「わかったわ。天丸《壺中の天地》」

 

 霊夢に続いて紫、幽々子、正邪、こいし、永琳先生が色とりどりの大量の弾幕を放った。

 その弾幕の量と密度は凄まじく、まさしくあれに囲まれたら逃げ場がないというほどの弾幕で、普通で考えたらその量の弾幕を一斉にはなったら弾幕同士で相殺してしまいそうな気がするが、そこはみんなかなりの実力があり、弾幕の制御が上手いので一つたりともぶつかり合うことなく、上手く弾幕同士がかみ合って飛んで行っている。

 その弾幕にもろに直撃したらさすがに大ダメージは免れないということを神楽も感じ取ったのだろう。手を叩いて衝撃波を放つことによって相殺しようとするが、その行為は霊夢が許さない。

 叩こうとした手を霊夢が押さえつけて叩けないようにし、お札の鎖のようなもので、手首を固定することによって相殺するだけの音を鳴らせないようにした。

 

「さすがのあんたもそれを食らったらひとたまりもないでしょ。大人しく地獄へ行きなさい」

「……それはどうかな」

「どういうこと?」

 

 その瞬間、神楽は足を思いっきり振り上げると勢いよく地面に振り下ろした。その一撃で地面がへこむほどの威力で、ものすごい轟音が鳴り響いた。

 するとその轟音は周囲に衝撃波として放たれ、まずは一番近くにいた霊夢をぶっ飛ばし、その次に神楽へと飛んできていたすべての弾幕を相殺してしまった。

 

 そうだ、あいつが衝撃波を出せるのは何も手を叩くことだけではない。最初に俺はポケットから手を出した時の布擦れの音にぶっ飛ばされた。

 あれはそんなに大きな音じゃなかったから威力はあまりなかったが、地面を抉るほどの音となったら猛烈な威力となるだろう。

 

 霊夢もぶっ飛ばされて壁に激突してめり込んでしまっている。それだけの威力だったということだ。

 

「く、くぅ……あいつ、強いわね」

「元神の力をなめないで貰いたいな」

 

 本当なら俺が助けに入りたいところなんだが、如何せん衝撃波を上書きするのに力を使い過ぎて動けなくなってしまっている。

 今この状況でサポートできるとしたらなんだ。どうしたらこの状況を逆転できる?

 そうだ、確か紬って呪いの類の攻撃が得意なんだったな。俺も紬に認めてもらえなかったら呪い殺されるところだったしな。

 

「紬」

「はーい、どうしたの? 真」

 

 紬は刀から人型へと変化する。そのいつもの姿に少し感動してしまうが、今はそんな場合じゃないので気を引き締める。

 俺がなかなか要件を言わないのでどうしたのかと紬は首をかしげて不思議そうな表情で俺の事を見てきた。そして俺はついに紬に頼む。

 

「紬は呪いが使えたよな」

「うん、得意」

「じゃあ、あいつの動きを止めることができるような呪いってないか?」

「うーん……刀の時にもずっと呪いはかけていたけど、効かないんだよね」

「効かない?」

「うん、多分私とあいつの実力が離れすぎている」

 

 なるほど、呪いにはそういう制約があるのか。実力がかけ離れすぎていると相手を呪うことができない。非常に厄介な相手だ。サポートをするならばこれが一番いいと思ったんだが、これではサポートすることができない。

 何とかしないと霊夢までやられてしまう。霊夢はこの幻想郷の希望なんだ、こんなところで死なせるわけにはいかないというのに。

 

 俺が焦って思考をぐるぐる回していた時、肩にとんと手を置かれた。

 

「落ち着け。俺たちにとってお前がここで倒れるのが一番ダメなんだよ。いいから、俺たちに任せて大人しく見てろ」

「ライト……」

 

 ライトはそんな言葉をかけると紗綾と共に刀を片手にゆっくりと神楽のもとへと歩き始めた。

 二人ともクレア装を使用して防御力を底上げしている。だが、俺にとっては神楽から比べたら二人合わせてもその実力は子供のように思えて仕方がなかった。

 あの二人だけじゃ勝てない。霊夢、それからみんなの実力を全て合わせなければ神楽を倒すことはできない。

 

 ––落ち着け、お前ならあいつらの実力、よくわかってんだろ。

 

 突如として頭の中に響く声。低いが、幼さが抜けていないこの声は、シャドウだ。

 シャドウはこの異変解決には関与しないとは言っていたが、俺たちの事を見守ってはくれていたのだろう。

 

 そうだな、シャドウ。俺はあいつらの実力をよく知っている。あいつがそう簡単に負けるやつらじゃないってこともよく知っている。

 頼む、勝ってくれ、みんな!




 はい!第190話終了

 後10話で200話行きますね。

 今回のメインは霊夢対神楽です。

 霊夢は強いし、さらに強くなる素質はあるのですが、修行を怠っているため、神楽にもかなり苦戦しています。修行していればみんなの力と霊夢の力を合わせれば神楽を追い詰めることはできるのですが。

 それと、この神楽戦はこの最終章の中身としては中盤くらいの立ち位置です。プロット上ではまだまだ続く予定になっていますので、最後までお付き合いいただければと思います。

 それでは!

 さようなら


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第191話 戦慄の言霊

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 霊夢と神楽は互角の戦いを繰り広げる。

 霊夢がなぜいるのかというとシャロがこの空間に連れてきたからである。

 霊夢たちは神楽を追い詰めたかと思われたが、一筋縄じゃ行かない。

 果たして神楽を倒すことはできるのでしょうか?



 それではどうぞ!


side真

 

 ライトと紗綾は刀を片手に走り出し、同時に神楽へと刀を振るい、その切っ先から二人とも霊力でできた斬撃を飛ばした。二人同時の霊力斬ということだ。

 しかもその霊力斬はクレア装の力も相まって通常の十倍ほど威力が底上げされていおり、その軌道上にあるものは全て一刀両断して神楽へと一直線に飛んで行っている。しかし、普通に放ってもこの攻撃が神楽に直撃するわけがないのは分かり切っている。神楽は当然のごとくジャンプしてその二つの斬撃を回避しようと試みるが、なんとその思惑は封じられることとなった。

 

「博麗の巫女をなめないことね」

「っ! 結界」

 

 神楽の足元には大量のお札、そしてそのお札一枚一枚から弦のようなものが伸びてきてそれが神楽の足にがっしりと絡みついている。

 霊夢はあの凄まじい神楽との攻防の中で、これらを設置し、この状況に備えて準備をしていたということか。

 改めて博麗の巫女はすごい。霊夢の戦いは何度も見たことがあるし、その都度勝ってきたことも知っている。

 確かに霊夢は最近修行をさぼり気味だというのは誰から見てもわかるが、それでも今まで戦ってきた回数はかなりのもので、その場数が霊夢に経験という力を与えていることは確かだった。

 その経験が今、霊夢を動かし、そして結界を構築させることができた。

 

 霊夢と俺の強さのベクトルは違うが、これだけははっきりとわかる。多分俺は本気を出した霊夢には勝てない。

 

「このっ! ならば衝撃波で––っ!」

 

 神楽が手を叩こうとした瞬間、神楽の手までも弦のようなものが絡めとってしまって神楽は全く動けない状態になった。あの状態ならば邪の力とやらも使うことはできない。足音を立てようとしても足を上げるこそすら叶わない。

 この斬撃は直撃する。この場にいる誰もがそう思っただろう––ただ一人、博麗霊夢を除けば。

 

「爆発しろ!」

 

 その言葉(・・)に嫌な予感を覚えた俺は彼方、シャロ、紬を腕の中に抱えて覆いかぶさった。

 次の瞬間だった。ライトと紗綾の放った霊力斬が両方とも大爆発を起こし、爆風が壁を抉り、霊夢、ライト、紗綾は比較的近距離にいたため、もろに爆風のダメージを受けてしまった。

 みんなにかばわれて後ろの方に居た俺でさえも爆風によって背中に焼けるような激痛が走った。俺でさえこのダメージなのだから、もろに食らった三人のダメージ量が心配だ。

 

 慌てて起き上がってみてみると、紫たちの様に遠距離で戦っていたみんなは多少ダメージは受けてしまっただろうが、まだまだ戦えそうな印象だ。だが、一番心配なのは霊夢、ライト、紗綾の三人だ。

 俺は焦りながら周囲を見渡してみるが、その三人の姿が見えなかった。どこにもいない。霊力も感じない。その代わりに見えるのはもともと三人がいた場所に出現した真っ赤な血だまりだ。それは至る所に飛び散っており、天井からは赤い水滴がぽたりぽたりと降ってきていた。

 その様子を見て俺たちは青ざめてしまった。最悪の事態を考えてしまったからだ。

 

「あぁ……脆い。実に脆い。この程度で木っ端みじんになるなど実に脆いな」

「神楽……」

「安心しろ。お前らもすぐに同じところに送ってやるからな」

 

 霊夢が消失したことによって霊夢が構築していた結界の効力が失われてしまったのだろう。自身を拘束していた弦を引きちぎりながら神楽はゆっくりと俺たちに近づいてきた。

 何とかしなければ。何とかしないとみんなが殺されてしまう。

 

 戦え、戦うんだ、海藤真!

 立ち上がれ!

 

「【神成り】!」

 

 俺が名前を読んだ瞬間、紬は刀へと変化し、俺の手の中に納まった。

 今度は力を借りるだけじゃなくて、一緒に戦うために俺はこの刀を握る。

 

『真、覚悟が決まったんだね』

「あぁ、この状況で黙ってみていられるほど、俺は神経が図太くないんでな」

 

 正直、どうしてあの斬撃が爆発を起こしてしまったのかが分からないが、だからといってこの戦いから逃げる理由にもならないし、黙って見ていてもいい理由には絶対にならない。

 少し休ませてもらったおかげで体力は少し戻った。今ならば戦える。

 

「ほう、向かってくるのか。今のを見せられて、まだ俺に向かってくる意思はあるのか。今、お前の仲間たちが爆発に巻き込まれて木っ端みじんになって死んだというのに!」

「死んでない。あいつらは絶対に死んでない。あいつらはあの程度で死ぬほどやわじゃない」

 

 ライトは俺の複製だ。戦闘センスだけで言ったら俺と同等の実力を持っている。俺があいつの攻撃を受け止めることができたんだ。ライトがそれをできないはずがない。

 霊夢だってそうだ。霊夢はいままで幾度となく命の危険にさらされてきただろう。だが、その都度勝ってきたんだ。そんな霊夢がこんなところで死ぬとは思えない。

 紗綾、あいつは俺が唯一しっかりと指導した奴だ。あいつの強さは俺が一番知っているといっても過言じゃない。あいつはあの程度では死なない。絶対に生きている。

 

「あはははは…………まさか、くだらない妄言を吐き散らかすようなゴミになり下がってしまうとは。お前も感じてるんだろ? あの三人の霊力が感じられない。つまりは、死だ」

「いや、まだ死んでいないさ。だから俺はあいつらの為にもここで引くわけにはいかない。クレア王!」

「愚か者が。そこまでして死にたいならば殺してやるよ……」

 

 俺がクレア王を使用して走り出したその瞬間、神楽は目をカッと見開くと大きく息を吸い込んで一言叫んだ。

 

「燃えろ!」

 

 ボフンっ!

 突如として周囲が火の海へと変貌を遂げてしまった。地面はコンクリートだというのに地面が燃えているような感じだ。

 熱い。足が焼ける。だが、この程度では俺の歩みを止めることはできない。

 

「弾けろ!」

 

 神楽がそういうと前方にある瓦礫が細かくはじけ、その瓦礫片がすべて俺に直撃し、威力がすごかったせいか弾丸のごとく、俺の体を貫通した。

 

「かはっ」

 

 さすがの俺もその場に崩れてしまうが、今のなら問題はない。致命傷でよかった。

 俺はまずいと思って咄嗟に瓦礫片が致命傷となりうるところに直撃するように動いた。だが、さすがに今のをそう何回も食らっていたら本当に俺は死んでしまう。

 俺は即死攻撃を受けないだけで、死ぬことには死ぬんだから。

 

「すごいすごい。俺の言霊をそんな風に耐えるなんて。やっぱりお前は人間を辞めているよ」

「そりゃーな。なにせ俺は妖怪だからな!」

「なら、これでどうだ。剣山になれ!」

「ぐっ!」

 

 その瞬間、足元が消滅し、その下に剣山が出現した。

 俺も急なことで対応しきることができずにその大量の剣の山に串刺しにされてしまった。

 痛い、苦しい。身動きが取れない。体が剣山に貫かれているせいでうまく体が動かせないんだ。

 体から大量の血が流れているのが見える。血が流れ過ぎるとさすがの俺も出血死してしまうだろう。あの一瞬であいつは俺を殺す方法を編み出したということか。

 早くこの剣山から抜け出さなければ……だけど、力が入らない。血が抜けすぎて力が入らない。

 

 あぁ……なんだよあいつの力。強すぎる。

 言霊って言っていたか。口に出したことを現実のものとする力。

 

 今まで俺は幾度となく壁にぶち当たってきた。幾度となく自分よりも強い力を持っている奴と戦ってきた。その都度俺は作戦を巡らせたり、さらに強くなって対抗してきた。

 だが、今回のは無理だ。相手が強すぎる。

 

 ごめんみんな。




 はい!第191話終了

 霊夢、ライト、紗綾の三人が消失。

 真は三人が死んでいないと言っていましたが、どうなのでしょうか?

 そして真は一体どうなってしまうのか?

 それでは!

 さようなら


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第192話 神楽の弱点

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 ライト、紗綾が同時に霊力斬を放ち、衝撃波によって相殺しようとする神楽を結界で拘束する霊夢。

 この三人のコンビネーションによって神楽に攻撃が当たるかと思ったが、神楽が「爆発しろ!」と言った瞬間、霊力斬が大爆発。

 遠くにいた真たちは無事だったが、その爆発に至近距離で巻き込まれた霊夢、ライト、紗綾の姿が消え、霊力もなくなった。その代わりに三人が元居た位置に血だまりができていた。

 誰もが三人の死を考えたが、真は諦めずに神楽に突っ込んでいくものの、神楽の猛攻、そして地面が剣山に変化したことによって真は串刺しにされてしまい、意識を飛ばしてしまう。

 果たして神楽に勝つ方法はあるのだろうか?

 そしてこの大ピンチをどう切り抜けるのか?



 それではどうぞ!


side三人称

 

「やだ…………やだよ…………真!!」

「ちょ、ちょっとまて!」

 

 こいしは真が串刺しにされてしまったのを見て心配して駆け寄ろうとしたので、正邪はそれを羽交い締めにして必死に止めた。

 今真に近づくのは非常に危険だ。

 なぜなら、真が倒れた場所は神楽のすぐ目の前なので、真に駆け寄るということは一人で神楽に突っ込むのと同じなのだ。

 つまり、自殺行為である。

 

「落ち着け」

「で、でも真が!」

「だから、落ち着けって! 今は真がやられたことを悲しんでいる場合じゃない。それに、お前は私よりも付き合い長いからあれくらいで死ぬわけないってこと、わかってるだろ?」

 

 正邪が真と行動を共にしていた期間はこいしと比べれば非常に短いものだったが、その短い期間でも真を信頼していた。

 

「お前が死んだら悲しむのはあいつだ。あいつのためにもいま、この戦いでは生き残らなければいけないんだよ」

「っ! そうだね」

 

 正邪のその言葉にこいしははっとなった表情をしたあと、冷静さを取り戻した。

 こいしは正邪の言葉によって我を取り戻したのか、それとも他の要因(・・・・)があったのか、それはこいしにしかわからないが、こいしは落ち着きを取り戻して戦いのほうに集中する。

 

「なんて強さなの……っ!」

 

 霊夢、ライト、紗綾、そして真がやられてしまったという光景を見て紫は無意識に小さくつぶやいた。

 神楽は今、手を叩くでもなく音を立てるわけでもなく周囲の環境へ影響を及ぼして四人に攻撃して見せた。つまりは神楽の攻撃のトリガーは物音だけではないということになる。

 そして神楽の発言から導き出した紫の答えとは––

 

「あいつ、声にも邪の力を載せることができるのね。差し詰め言霊って言ったところかしら」

 

 そう、声だ。声も一応は音であるため、音に邪の力を載せて攻撃するということは何も変わっちゃいない。だが、みんな無意識のうちに物音ばかりに気を取られていて声はノーマークだった。

 なぜなら、神楽は今までにも何度も言葉を発していた。だが、その言葉には一回たりとも邪の力を載せたことはなかったのだ。だから無意識に声には邪の力を載せることはできないと思い込んでしまって不意を突かれてしまった。

 しかし、神楽の声は衝撃波を生み出すわけじゃなく、周囲の環境に影響を及ぼすというものだった。一回目はライトと紗綾の二人の霊力斬を爆発させて見せた。二回目は周囲を火の海に、三回目は地面を剣山に変化させた。

 つまり、神楽の声の力は衝撃波の様に直接攻撃することはできないけど、環境を変化させてあいてを追い詰めることができるというものだ。

 

「しかし、それが分かったからって何ができるのよ……霊夢が居なくなった今、あいつの行動を抑制することができる人物はこの場にはいない。だからまた衝撃波が飛んでくるのは必至。そして言霊まで使える。ははっ、詰みじゃないの……」

 

 紫は必死に頭の中で戦況を巡らせる。だが、一向に神楽に勝てる未来が見えないのだ。

 それは紫だけではなく、この場にいる全員が感じていることだった。

 

「君たちはみんなこの幻想郷の事を守ろうと戦っているようだけど、運命で決められた崩壊は避けることはできないんだよ。諦めな。そうしたら特別に痛みを与えずに殺してあげるよ」

「そ、そんなの絶対に認めない」

「ん?」

 

 誰もが俯くことしかできないこの状況で言葉を発したのは正邪だった。

 正邪は肩を震わせて神楽をにらみつけている。そんな正邪の様子にみんな驚いて正邪に注目が集まる。

 正邪も気が付いている。どう考えても勝機が薄いことなんてとっくにわかっていた。だが、そんな状況でも正邪は神楽に指を突き付けて堂々と言い放った。

 

「へへ、残念ながら私は諦めが悪いんだよ。諦める? 冗談じゃない。そんな運命なんて認めない。神がなんだ。私は天邪鬼なもんでねぇ……諦めろと言われると抗いたくなる質なんだ! そしてそれは私だけじゃない。この幻想郷は諦めの悪いやつらの集まりだ。幻想郷の力を舐めないで貰おうか!」

 

 正邪の言葉にみんな一斉に頷いて再度戦闘態勢に入る。

 そう、正邪の言葉の通り、この幻想郷には諦めの悪いやつらが集まっている。そんな奴らがこの程度のピンチで諦めるというのは絶対にありえないことだ。

 その光景を見て神楽はため息をついた。こんな状況下でも諦めないという無謀な連中に呆れてしまったのだ。

 

「はぁ……大変面白いものを見せてもらったからお礼に楽に殺してあげようかと思ったが、やめだやめ。惨殺してやるよ」

 

 パチーン! と神楽は勢いよく手を叩き、周囲に衝撃波を放った。

 この一撃は真が全体力を使ってやっと上書きすることに成功した衝撃波と同等、いやそれ以上かもしれない威力だ。これに直撃してしまえばひとたまりもない。

 だが、これに直撃する者は誰一人としていなかった。

 衝撃波が放たれた直後、全員の足元にスキマが出現し、その中に全員落下したことによって回避した。

 

「スキマを回避に使うとは……これはお前か、妖怪の賢者」

「あら、私の事を知っているのね。そうよ、私のスキマよ。あっちの子たちはさっきので体力を使い果たしているでしょうし、ここからは私たちの仕事よ」

 

 その紫の言葉に神楽は再度呆れたようにため息をついた。

 神楽はあまり戦いに快楽を見出すような性格ではない。壊せるものはすぐに壊せた方が楽だというのが彼の考え方なわけで、彼にとって一番面倒な相手は絶対に諦めずに闘志を削ぐことができない相手である。

 今までも同じようなやり方で相手の闘志を削ぎ、すぐに相手を始末するという戦い方をしていたため、この幻想郷の面々は神楽にとって過去一番といっても差し支えないくらいには面倒な相手だった。

 

「っ!」

 

 その瞬間、背後から蹴りが放たれ、神楽はその蹴りに反応することが出来なくて蹴り飛ばされて壁に激突。そんな神楽に対して追い打ちをかけるように大量の弾幕が襲い掛かった。

 さすがにこの攻撃には神楽も仮面の奥で目を見開いて驚愕した。

 この感覚は初めてだった。彼にとって不意打ちをかけられて一切反応できなかったのは初めてだった。

 

 その不意打ちをかけた少女は黒色の帽子をかぶった銀髪で胸元に閉じた目がある少女、古明地こいしだった。

 

 神楽は今まで幾度となく戦ってきた。だが、神楽が戦ってきた相手は特殊能力というものが無い敵がほとんどで、能力持ちの相手と戦った経験があまりないのだ。

 つまり、この幻想郷はほとんどの人物が神楽の弱点となりえる存在だ。

 

「表象《弾幕パラノイア》!」

「失せろ!」

 

 しかし、神楽も伊達に長いこと戦ってきてはいなく、すぐに我に返って言霊を使用することによって弾幕を消滅させた。

 

「やっぱり飛び道具は効かないんだね」

「俺の言霊は意思を持つもの以外なら効くからな」

 

 なぜこいしが背後を取ることができたのかというと、紫が咄嗟の機転でこいし一人だけを神楽の背後に出し、瞬時にこいしが状況を判断、無意識を操る程度の能力を使用し、気配を殺して神楽の背後から接近して攻撃した。

 昔のこいしだったらおそらく無意識を操る程度の能力を使用したところで、神楽に気が付かれておしまいだっただろう。だが、こいしも強くなっている。能力も進化し、より気配を殺すことができるようになったため、神楽ですら全く気が付くことができないほどに気配を殺すことができるようになった。

 

「それにしても、これが能力者たちか……なるほどなるほど、確かに今まで侵略してきた世界の中で最難関なだけある。だが、面倒だな」

 

 その瞬間、神楽の目の前にスキマがいくつも出現し、その中から紫、幽々子、正邪、永琳の四人が飛び出してきた。そしてその四人は同時に神楽へと殴りかかる。

 さすがに今から衝撃波を飛ばす暇はないので、神楽は身をかがめて回避するとすでに下へと潜り込んでいたこいしが神楽のあごにアッパーを決めた。

 

「ぐっ、お前たち、弾幕でしか戦えないわけじゃねぇのか」

「そうね。基本的に私たちはお互いの戦闘能力を平等にするために霊力、妖力、魔力を球状にして放つ弾幕を主に使用して戦っているけど、私たちがいつ肉弾戦はできないといったかしら」

「肉弾戦だったらあなたの言霊も効かないものね」

「肉弾戦で簡単に私たちと拳をぶつけて衝撃波を出せると思わないことだね。私があんたの平衡感覚を狂わせる!」

「そして傷ついたらその場で私の作った薬で回復してもらうわ」

「いわゆるゾンビアタック。あなたに隙は与えないよ!」

 

 次々と仕掛けられる攻撃にさすがに神楽も苦悶の表情を浮かべた。

 やはり能力が神楽にとっては一番厄介なことであったし、種族的に妖怪なもので、回復能力が人間とはまるで違う。そこに永琳の薬も相まって尋常じゃない回復能力になっている。

 それに幽々子の能力も完全に効かないわけじゃない。彼女の能力を食らうと目の前がフラッシュして一瞬だけだが、隙が生まれる。

 そして神楽が攻撃しようとすると間に合えば紫のスキマで瞬間移動され、直撃しない。

 さらに、こいしは常に無意識状態で戦っているため、どう動くのか長年の経験がある神楽からしても読むことができない。

 

 神楽にとって最悪の条件がそろっていた。

 最強は神楽にとってはそんなに倒すのは苦ではない。だが、神楽にとって最強よりもこういうチームワークとわけわからん力が合わさった戦い方をする幻想郷の面々の方が強く感じた。

 

「これが最高難易度、幻想郷か……」

 

 面倒くさそうな表情をしながら殴られ続ける神楽。

 その様子はあまりダメージが入っていないかのようだった。しかし、手応え的にはしっかりとダメージが通っている感覚がある。

 このメンバーの中で一番頭が回る紫はそのことを不思議に思う。

 

 そして気が付いた。

 

 神楽が言っていた邪の力、それは果たして衝撃波を出したり言霊を使ったりすることしかできないものなのだろうかと。もしかしてほかにも力はあるんじゃないかと、そう考えた直後、突然正邪がその場に倒れた。

 

「せ、正邪!」

 

 その後、続けてこいし、幽々子、永琳とその場に倒れてしまった。

 

「邪の力は衝撃波を出したり言霊を使うためにあるものじゃないんだよね。これは俺が勝手にこう使っているだけ。本来、邪の力は相手の力を奪ったり、衰弱させたりっていうマイナス方向に働かせる力なんだよね。至近距離に近づいてくれたらそれだけ力を奪いやすいっていうもんだよ。それにクレアと同じように身体能力の強化なんかもできる」

 

 そのことを聞いた瞬間、紫は自分のせいで、自分が采配を間違えたせいでこの状況が生まれてしまったと、そう考えてショックで膝から崩れ落ちてしまった。

 

「さようなら幻想郷。お前たちが力を隠し持っているように、俺も隠し持っている可能性を考えなかったお前らが悪いんだ」

 

 そういった神楽は徐に手のひらを上に掲げると、どんどんと周囲からまがまがしいオーラが集まり始め、その手のひらの上に球状に集まり始めた。

 ばちばちと稲妻が走っており、周囲を漂っているオーラのみならずその球そのものがまがまがしい力を帯びていて紫のみならず、その場にいた全員の意識がどんどんと刈り取られていくような感じがした。

 神であるシャロと彼方ですら、このまがまがしく強いオーラの前に意識を刈り取られようとしていた。

 

 このままでは全滅してしまう。

 紫は決死の覚悟で神楽を自分の空間、スキマの中へ引きずり込もうと神楽へと手のひらを伸ばした。だが、その手のひらはスキマを開く前に誰かにそっと優しく掴まれ、その行為を止められた。

 子供のような小さい手、だけど女の子のような柔いものではなく、間違いなく男の弾力のある手だった。

 

 紫は一瞬の間にこの場に男の子なんていただろうかと思考を巡らすものの、心当たりはなく、手が伸びてきている方を見てみると、そこにはスキマが開いており、その中から男の子の手が伸びてきていた。

 

「落ち着け」

「っ! その声は」

 

 男の子のような声だが、落ち着いた威厳のある声に紫は驚愕した。なにせ、この人物は最初にもう手助けなんかしないと言っていた人物だったからだ。

 その人物が目の前に現れたら誰だって驚愕するだろう。何のために来たのだろうと紫は必死に考えるが、どうして現れたのかが見当もつかなかった。

 

「神楽もさ、そんな危険なものは仕舞ってくれないかな。俺の大切な人(ペット)たちが怖がってるだろ?」

「っ!」

 

 スキマの中から出て来た手が紫の手を離してぎゅっと握りしめたその瞬間、神楽の手のひらにあったプラズマのようなまがまがしい球体が一瞬にして消えてしまった。

 あれほど自分たちが威圧感に押しつぶされてしまいそうになっていたのは一体何だったんだと思ってしまうほどにあっさりとその球体は消え去った。その事実に紫は目を見開いて驚く。

 そしてスキマの中から這い出るように一人の人物が出て来た。その人物は全能の神、シャドウだった。




 はい!第192話終了です

 裏話なんですけど、実は神楽は今回の異変の主犯の仲間になる前はありとあらゆる世界に対して侵略行為をしてきました。
 そして侵略に成功した世界を自分のものとして好き勝手していたという実績があります。
 その中で神楽はその世界の事について事前に情報を収集するということをしていたのですが、そこで得た情報から自分で難易度を設定していました。

 侵略してきた世界の中にはいくつか能力を使用する世界もありましたが、そういった世界は総じてかなりの高難易度に設定していました。
 それはなぜか、神楽は邪の力という邪の心を持った神が使う神力に似た力を扱うことができ、神楽は邪の力を使う人物たちの中では達人の域にまで達していると言われており、その力で圧倒することはできるのですが、神楽には能力が無いのです。

 幻想郷の神たちは~~程度の神の能力を使用することができますが、神楽には能力が存在しないため、その能力に対抗するためには邪の力を駆使しなくてはいけません。なので、いつもよりもかなり大変な戦いを強いられてしまうので難易度を高く設定するのです。

 そしてなんで幻想郷が最高難易度かというと能力の扱いに慣れている人がそこら中にいるからですね。そのため、今まで戦ってきた世界の能力者たちよりも苦戦するということが考えられました。それに妖怪などの強い種族まで混ざっているから神楽は最高難易度に設定したわけですね。

 ここら辺の設定に関しては次回詳しくシャドウが解説してくれますので、お楽しみに。

 それでは!

 さようなら


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第193話 シャドウの力

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 霊夢、ライト、紗綾、真の四人がやられてしまった。

 しかし、まだ諦めるわけにはいかない。ここで諦めてしまったら幻想郷は終わり。

 ただ、勝機が無いわけではない。神楽は能力持ちの相手との戦いには慣れておらず、幻想郷のみんなが神楽の弱点とも呼べる存在だった。

 しかしそこで神楽は邪の力の秘められた能力を使用し、みんなの力を奪ったことによって次々と倒れてしまう。

 ついに神楽が止めをさそうとしたその時、紫たちの前に現れてピンチを救ったその人物はシャドウだった。



 それではどうぞ!


side三人称

 

 紫は目を見開いて驚くことしかできなかった。

 以前、シャドウがみんなの事を守って見せたときはそれほど力を解放していなくて力をあまり感じられなかったのだが、今のシャドウは神楽が相手だと知ってからか力を大幅に開放している。

 底なし沼の様に果てしない深みにはまってしまいそうなほどの神力。

 神楽の力を前に感じたときもとてつもない力を感じたが、紫はシャドウの力を感じている今の方が足の震えが止まらなくなっていた。

 

(これが最強の神の力……)

 

 紫も以前シャドウがデイのカメラと戦っていた時は全く本気を出していないということは分かり切っていたが、それにしてはあの時よりも膨れ上がりすぎだった。

 それもそうだ。なにせ、あの時、シャドウは力の四分の一すらも発揮していなかったのだから。

 シャドウの周囲を漂っている真っ黒なオーラが周囲に吹き荒れている。まるで暴風の様に紫は吹き飛ばされてしまいそうになる。

 

 しかし、さすが神楽と言ったところだろう。神楽はそんなオーラを受けてもびくともしていない。

 

「久しぶりだな。実に500年ぶりと言ったところか。随分元気そうじゃないか」

「あんたも元気そうだな、シャドウさんよ。俺はあの日の事を一日たりとも忘れたことは無いぞ」

「そうか、じゃあ頭の回るお前なら、俺が何をしに来たか、わかるよな」

「それはもちろん、俺に殺されるためだろうが!」

 

 神楽がシャドウに言い放った瞬間、神楽は邪の力を拳と足に纏わせ、全力で地面を蹴って目にもとまらぬ速度でシャドウに接近し、拳を振りかぶった。

 しかし、その拳は空を切ることとなってしまった。そこにはすでにシャドウは居なかったのだ。

 徐に真上を見た神楽は内心驚きはしたものの、すぐに落ち着き、そして口元をにやりとゆがめた。

 

「やっぱあんたはそうじゃないとなぁ!」

「お前のそのテンション、やっぱり俺は苦手だ」

 

 そのやり取りは二人が昔からの知り合いだということを示していたが、紫にとってはそれどころじゃなかった。

 この部屋の天井はものすごく高く、飛んで天井まで行こうとするとどうしても時間がかかってしまう。それは紫も同じことだった。

 しかし、今シャドウがいる場所はこの部屋の天井、しかもその天井に立っているという摩訶不思議な状態だった。まるで重力がシャドウの周りだけ真反対になってしまっているかのような摩訶不思議な光景に紫は驚くことしかできなくなってしまった。

 

「しかし、お前はなんで生きている? お前は俺が殺したはずだ」

「邪神の力、邪の力を甘く見るなよ。殺される前に魂に纏わせれば生き返られる!」

「あー、そういやそんな効力あったな……」

「というか、お前も俺と同じ邪神出身なんだから、邪の力の効力を忘れるなよ!」

 

 神楽はそういうとまるで空中を蹴る様にしてシャドウへと接近し始めた。

 そんな神楽を見てシャドウは天井を走り始めて壁までたどり着くと、壁を蹴ってシャドウへと一気に接近する。

 ついに二人の拳がぶつかり合った。その瞬間、周囲へまるで大爆発でも起こしたかのような衝撃波が襲い掛かってきた。その衝撃波は周囲の柱や窓を木っ端みじんに破壊し、天井までもその衝撃で崩れ始めた。

 シャドウの拳の威力、それから神楽の拳の威力に合わせて神楽の邪の力による衝撃波は周囲の物をすべて消し飛ばしてしまった。

 

「しかしわからん。お前ほどのやつが、なぜあの程度の男の下についている」

「なんでだと思う?」

「……まさか、再臨を狙っているのか」

「そう! 一度堕天してから復活した神は以前の何倍もの力も手に入れられる。そうすればお前なんか一瞬でひねりつぶせるさ!」

「一度俺に殺されたというのに懲りていないようだな」

「懲りた、懲りたっすよ。だから今度は絶対にミスしないっすよ」

「なっ!」

 

 その瞬間、神楽の背から真っ黒な大量の触手のようなものが生えてきてそれらが一斉にシャドウへと襲い掛かった。

 慌ててシャドウはそこから離れようと神楽の方向に勢いよく神力を噴射して緊急脱出を試みたが、一瞬遅れてしまったせいで触手に追いつかれ、シャドウの足首に触手が絡みついた。

 そのまま触手はぐるぐるとシャドウを振り回すと、そのままの勢いでシャドウを地面をへとたたきつけた。

 

 その勢いは凄まじく、地面を突き破り、この謎の空間に浮いている地面を貫通して奈落の底へと落ちて行ってしまった。

 神楽の邪の力の扱いに関しては達人級というのもあり、神楽のみが使える戦法。シャドウも何度も邪の力を使えるものと戦ってきたが、これは初めて見る技だったがために後れを取ってしまった。

 さらには以前シャドウと戦った時にはまだ使えなかった、いわばこれは神楽のとっておきだった。いつか来るシャドウとの戦いのときのために誰にも見せることなくとっておいた技だった。

 これが神楽の成長(・・)だ。

 

「これで邪魔ものは居なくなった。あれだけの勢いでたたきつけられたらさすがにあいつと言えどもしばらくは動けまい。その間にお前らを始末し––」

 

 神楽が先ほどと同じ禍々しい球体を出現させて紫たちに投げつけようとしたが、その寸前のところで神楽は突然背後から伸びて来た手に頭を鷲掴みにされ、そのまま顔面を地面へたたきつけられた。

 先ほどの神楽のたたきつける威力もものすごかったが、こちらのたたきつける威力に関しても周囲を破壊してもおかしくないほどの衝撃波が周囲に離れるほどの威力だ。

 普通の人間がこの威力で顔面をたたきつけられてしまったら顔面はつぶれてしまうこと間違いなしだった。

 貫通こそしていないものの、その地面はあえて神力で硬化され、その上にたたきつけられているから貫通していないのであって威力的には先ほどのたたきつけと同等だ。しかも、その硬化された地面がへこんでいる。

 

「く、くそが……てめぇ……シャドウ!」

「一回は一回だ。神楽」

 

 神楽を鷲掴みにし、地面へとたたきつけた人物は、先ほど奈落の底へと落下していったシャドウだった。




 はい!第193話終了

 今回、シャドウが神楽の事について話すと前回のあとがきで書きましたけど、あまり情報を出せていないですね。

 次回もシャドウ対神楽ですので、次回も神楽に関する情報を出していきます。

 それでは!

 さようなら


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第194話 闇滅(ダークデリート)

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 ついに始まった神楽対シャドウの戦い。

 再臨を企む神楽と再び神楽を退治しようとするシャドウの戦いは熾烈を極める。

 しかし神楽は昔とは違い、成長しており、シャドウの知らない技で追い詰め、そしてついに奈落の底へとシャドウを突き落とすことに成功したかのように思えた。

 だが、その次の瞬間には神楽もシャドウに地面へと叩きつけられていた。

 果たして勝つのはどちらなのか!?



 それではどうぞ!


side三人称

 

 シャドウが立ち上がると、神楽も服に付着した砂埃を払いながら立ち上がった。しかし、その神楽の表情は先ほどまでの余裕のある表情とは打って変わって、憎き相手を見るかのような表情でシャドウをにらんでいた。

 そんな神楽の表情を見てか、やれやれと言った感じでシャドウは顔を顰めると真剣な表情で神楽を見据えた。

 神楽の周囲に放たれている威圧感はさっきまでの比じゃなくなっており、戦いは不得意なシャロはもうすでに周囲を漂っている威圧感に押しつぶされて気を失いそうになっていた。

 

 今のシャロの意識をつなぎとめているのは神としてのプライドと幻想郷を救うまで倒れるわけにはいかないという覚悟だけだった。

 対する力神で破壊神である彼方も少しでも気を緩めるとすぐに意識を飛ばしてしまいそうなほどだった。

 神楽の威圧だけでは彼方の意識を飛ばすことなどできない。だが、その彼方の威圧にシャドウの威圧がぶつかり合い、周囲にものすごい威圧が放たれているため、彼方も意識を刈り取られてしまいそうになっていた。

 

 しかし、シャドウにはそんなに威圧を放っているつもりはない。自然と出てしまうのだ。そのため、心が弱い者は近づいただけでも一瞬で気を失ってしまう。だからシャドウは人前には滅多に顔を出さないのだ。

 だが、真だけは違った。むしろ、真にはシャドウの威圧など効いていなかった。だから真に興味がわいていた。

 

「戻ってくるなら、何度だって叩き落してやるよ!」

 

 神楽は再度真っ黒な触手を背後から生やしてシャドウへと伸ばす。

 しかし、今度は一切表情を変えずに触手を見据えるシャドウは地面が抉れるほどの勢いで地面を蹴ると、触手へと電光石火の速度で触手の波に突撃していった。

 さすがにその行動には紫、シャロ、彼方も驚愕のあまり目を見開いた。

 

 先ほどその触手に捕まって地面を貫通して奈落の底に落とされたばかりだというのに、何を考えているんだろうか、そう誰もが思っているとついに触手がシャドウの目の前まで迫ってきた。

 また捕まる。そう思われたが、シャドウはある意味皆の期待を裏切って見せた。

 

 シャドウの目の前まで迫った触手は一瞬にして消滅してしまった。

 

「な、なにぃっ!?」

「神楽、お前は成長しているのがお前だけだと思っているのか?」

「っ!」

 

 そのシャドウの言葉に嫌な予感を覚えたのか神楽は背後の触手を一斉にシャドウへと伸ばしたが、その触手は全て一瞬にして消滅してしまった。

 誰もがこの現象について全く理解できなかった。ただ一人、彼方を除いて。

 シャドウは闇を操ることができる。それはルーミアも同じだが、シャドウのそれは格が違うものだ。

 シャドウの能力は主に闇を操る程度の神の能力。ルーミアの様に暗闇を操作することもできるし、人の心の闇を操作することだって可能。

 そして今回使ったのは––

 

「あれは滅符(めっぷ)《ダークデリート》。突然の事態には対応することはできないけど、黒いものを指定し、その黒いものを排除、消滅させることができる。シャドウ様のスペルカード」

「か、彼方様はよく知ってたね。僕は知らなかったよ」

「だって、昔はシャドウ様のもとで修行していたからね。あの人の修行はきつかったよ……」

 

 そう、彼方は昔、シャドウに修行を付けてもらっていたのだ。とはいっても、真と妖忌のように技を教えたりとかいう修行ではなく、単純な戦闘能力についての修行だ。

 彼方は力神になることを望んだ。力神になるためには元から強い場合を除き、シャドウに修行を付けてもらうこととなる。

 紅蓮の場合は神力水を飲んだ際に力を望んだため、修行を受けなくても十分な戦闘能力があったし、神の力も扱えていたが、彼方は破壊の力を手に入れた割には実力が伴っていなかったため、シャドウに修行を付けられたのだ。

 

 そんな話をしている間にシャドウは神楽の目の前にたどり着いた。

 

「ぐ、許さない許さない許さない! 絶対にこの幻想郷を侵略してやる!」

「その侵略しようとしている世界が滅びようとしているが、それはいいのか?」

「かまわない。脆いものはいつかは自然と滅びる、それが早まっただけだ。何の問題もない」

「そうか、脆いものはいつか滅びるか……それなら」

 

 シャドウは拳に神力を纏わせて強化し、その拳を神楽の腹へと叩きつけた。

 

「かはっ!」

「お前が滅びるのも必然だよな!」

 

 その威力は凄まじく、神楽は勢いよくぶっ飛ぶと壁にすごい威力で叩きつけられ、壁を貫通して飛んで行った。

 今まで紫たちが協力してやっと追い詰めていた神楽が遊ばれている、その事実に紫は戦慄してしまった。

 あの拳を纏っている神力、それはまさしくクレア装、そのものだった。

 

 もともと、クレアは神の御業と呼ばれており、神力を使っていろいろな力の強化をするのに使用されていた。

 そのクレアを下界の者たちも使えるように改変された下界用のクレアである。だが霊力、妖力、魔力を使用したクレアなど、神力を使用したクレアには遠く及ばない。

 あのクレア装の身体強化は本来のクレア装の威力なのだ。

 

「ってか、彼方。てめぇに特別厳しく教えていたのは罰だ。てめぇが壊した世界を再生させるのがどれほど大変か、わかってねぇようだな。これが終わったらまた修行を付けてやってもいいんだぞ」

「は、はは……遠慮しておきます」

 

 シャドウは彼方に対して怒りの言葉を放つが、その間も警戒を怠らないのはさすがシャドウと言ったところだろう。

 今の一撃は神楽と言えどもただで済む威力ではなかった。だが、神楽は邪の力の達人だ。邪の力で体を強化してダメージを減らすことなど造作もない。

 少ししたら何食わぬ顔で戻ってくることは間違いなかった。

 

「あの、シャドウ様。気になっていたんですが、あいつとの関係は」

「あ? あぁ……まぁ、旧知の仲ってやつだ。俺とシャドウが出会ったのは今から約10000年くらい前の事だ。俺たちは二人とも邪神で共に悪さをしていた」




 はい!第194話終了

 ついに次回、シャドウと神楽の過去が明かされます。

 幻想郷の守り神達、シャドウ編のようなものですね。

 あっちの方では書くとしたら最終章完結後と言いましたが、このタイミングで書いていきます。

 なんかここ数週間、主人公が出てきていませんね。

 まぁ、主人公が意識不明ですからね、仕方がないですね。

 ご安心ください、もう少しで解決しますので。

 一つ言うとしたら、真はどんな状況でも諦めるような人ではありませんよ。

 あ、それと幻想郷の守り神達も読んでみてくださいね。多分、それを読んでからだともっと楽しめる展開もあると思いますので。

 それでは!

 さようなら


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第195話 邪神ナンバー154681

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 シャドウと神楽の戦いはさらに勢いを増していく。

 しかし、シャドウはあっさりと神楽の新技に順応し、神楽以上の成長で神楽の一歩上を行く。

 そしてついに明かされる。シャドウと神楽の過去、邪神の物語が。



 それではどうぞ!


 目を覚ました。

 その視界に広がっていたものは真っ暗な世界で、なんだかどことなく不気味さを感じるような、そんな世界だった。

 上空にはうっすらと濃い灰色の雲が見え、稲妻のようなものが走っているのが見える。

 

 俺は何も知らない。何もわからない。だって、俺は生まれたばかり(・・・・・・・)なのだから。

 だけど、この光景を見て一つだけ何も知らない俺でも理解できたことがあった。

 

 ––この世界はまともじゃない。

 

 俺はまだ生まれたばかりで何も記憶が無いし、まともな世界というのがどういうものかもよく理解していないが、そんな俺ですらこの世界はまともじゃないと、そう思ったのだ。

 そしてこの世界全体から邪悪な気配を感じる。

 歩くとぽつりぽつりと歩いたにしては不自然な足音が周囲に響き渡った。その音はまるで水滴が落ちてきているかのような音だが、周囲にそんなものはないし、一歩踏み出すと聞こえることからすぐにそれは足音だと理解した。

 やはりこの世界はまともじゃない。

 

 そしてこの世界に生まれてしまった俺も同じく、おそらくまともじゃない。

 

「邪神ナンバー154681。目を覚ましたか」

「っ!」

 

 その瞬間、背後からとてつもない圧を感じた。

 こいつに逆らったら確実に殺されてしまう。そう感じた俺はゆっくりと振り返って背後に現れたそいつを見る。

 

 そいつは10メートルはあるような巨体で、背中には俺の何倍もの大きさの黒い羽が生えている。

 そしてここは真っ暗であいつの顔の位置が高いから俺の位置からは真っ暗で見えないが、本能的にあいつの顔を見たら殺されてしまうということが理解できたので、そこまで無理して奴の顔を見ようとはしない。

 手のひらの大きさは俺の体がすっぽりと握りこまれてしまうような大きさだ。

 性別は顔も体もよく見えないから不明。

 

 そしてやつが今言った邪神ナンバー154681というのは多分俺だ。

 邪神ナンバーというものが何なのかはわからないけど、やつがそう言葉を発した瞬間、なぜか俺の事だということを認識した。

 

「邪王神様。こいつが一緒に目覚めた邪神っすか?」

「そうだ。邪神ナンバー154682」

 

 超巨体の後ろから出て来たそいつは仮面をかぶった男だった。

 背中には大剣を背負っており、いかにも戦闘が得意ですよというオーラを放っている。

 俺より一つ後の番号ということは俺のあとに生まれた邪神なんだろうか。だが、俺の方が目覚めるのが遅かった、という感じなのだろう。

 

 なんだろうか、奴の表情は全く分からないし、まだ全然会話を交わしていないのに俺はあいつを好ける気がしない。

 

「お前たち二人は同期として共に邪神として活動するのだ。邪神の仕事は世界を混沌に陥れる、これに尽きる。神々がありとあらゆるものを生み出す存在ならば俺たち邪神はありとあらゆるものを破壊する存在だ」

 

 そうか。俺は世界を崩壊させる兵器としてこの世界に生を賜ったのか。それならばその通りに行動しなければ俺はこの世界の理に反してしまう。

 世界を崩壊させなければいけない。

 

「それじゃあ、さっそく仕事に行ってもらおうか。君たちは神力が強いようだから戦闘面でも活躍できるだろう」

 

 それから俺と154682は共に世界を侵略していくことになった。だが、俺は乗り気ではなかった。そのため、いつもメインで侵略活動をしているのは154682となっていた。

 

 俺たち邪神には邪の力が備わっており、その力を使用することによって数多の世界の住人より有利に戦いを進めることができた。

 なぜなら、俺たちの邪の力のように特殊な力を使える世界は珍しいものだったからだ。

 そして154682は邪の力を使わせたら天才だった。

 そのため、向かうとこ敵無しというものだった。

 

「おいおい、154681。なんでいつもサボってんだよ。この前もサボり癖が祟って上の邪神たちに説教されたばかりだろう?」

「いや、まぁ、やる気がでないってだけだ」

 

 そもそもとしてなんで俺たちはこの世界を侵略しているんだろうか、どうしてこの世界に住んでいる人たちを殺しまくっているのだろうか。

 この世界の住人はなにか悪いことをしたのだろうか、なにか殺さなければいけない重大な理由でもあるのだろうか?

 

 ――いや、そんなものは存在しない。

 

 俺たちが活動拠点としているあの普通じゃない世界は邪神界と言うらしいが、あの邪神界ではとある娯楽が流行っているらしい。

 それは、どれだけの日数を侵略されている世界は耐えきることが出きるのかという娯楽なのだという。

 これはたまたま邪神界を歩いていたときに耳に挟んだ話だ。非常に胸くそが悪くなったことを鮮明に覚えている。

 

 それからは余計にやる気がなくなっていた。

 パートナーである154682も仮面を被っていて表情をしては見えないが、雰囲気でそんな俺にあきれてしまっている。

 

「なぁ、聞けよ154681。俺、ついに名前をいただけることになってな!」

「へー、そうか。良かったな」

 

 名前をいただく、それは俺たち邪神にとってはとても名誉なことだった。

 活躍したら名前を与えてもらえる。名前をいただけたら更なる強さを得ることが出来るようになる。

 だからほぼ全ての邪神が名前をもらえるように奮闘するというわけだ。まぁ、俺は興味がないが。

 

「俺たち同期だっていうのにお前がサボり魔だから大きく差が開いてしまったな!」

「別にいい。勝手にやってろ」

 

 面倒くさくなった俺は地面に倒れ混んで仰向けで昼寝を決め込む。

 ただ、俺ももうそろそろ仕事をしなければまずいということは理解していた。

 この世界の侵略だけは参加するとするか。この昼寝を終えたら……な。




 はい!第195話終了

 今回はシャドウと神楽の過去その1でした。

 皆さん気がついているかたも多いと思いますが、邪神ナンバー154681が後のシャドウで、邪神ナンバー154682が後の神楽です。

 果たしてシャドウはどういう経緯で神となり、どういう経緯で神楽を殺すことになるのでしょうか?

 それでは!

 さようなら


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第196話 初めての感情

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 まがまがしい世界に生まれた邪神ナンバー154681は同時期に生まれた邪神ナンバー154682とともにタッグを組んで世界を侵略することとなった。

 しかし、154681は気乗りせず、サボり魔となる。

 一方で154682は順調に実績をあげ、名前をもらえるほどとなる。

 そんななか、154681もそろそろ仕事をしなければいけないと思い始め、ついに動き出そうとしている。



 それではどうぞ!


side154681

 

 なんかほほがくすぐったい。なんだかくすぐられているような気分だ。

 草の上で寝ていたから風でなびいている草にくすぐられているのだろうか? いや、そういう感じでもないな。

 なんだろうか。

 

「あ?」

 

 俺は正体を確かめるために薄目を開けた。

 だが、目を開けたというのに全くなにも見えなかった。いや、見えない訳じゃないが、真っ暗すぎて周囲の状況を理解することができないといった感じだ。

 

 時間的にはまだ夜ではないし、夜でもここまで周囲が見えなくなることはない。なにせ、俺たち邪神は暗闇には少し耐性があるからだ。

 そのため、こんなに視界を奪われるのには慣れていなかったから柄にもなく少し驚いてしまった。

 

「あ、起きた?」

 

 周囲に人物を認識することはできないが、耳に少女らしき声だけは聞こえてきた。

 おそらく近くに人間らしき生物がいて、そしてこの真っ暗闇でも俺のことをしっかりと認識しているのだろう。

 

 そういえば154682のやつ、この世界の侵略難易度は少し高めだったな。

 あいつは侵略する前にその世界を視察して難易度を設定するが、この世界の住人は能力持ちがいるから少し高めに設定していたのだろう。

 そしてこの声の持ち主も能力持ち、ということなのだろうか。

 

 明るさを操る力でも持っているのか?

 

 邪の力を眼球に集め、視力を強化して周囲を見渡してみる。

 

「っ!」

 

 俺は息を飲んだ。

 それは、目と鼻の先に俺のことを覗き込む白髪の少女がいたからだ。

 これ程至近距離まで近づかれていたのに邪神である俺が認識することができなかったとなるとこの闇はかなりの密度だ。

 

 今まで何度か世界を侵略してきたが、なんとなく今までの世界とは格が違うような気がしてきた。

 だけど、この少女からは敵意のようなものを感じられない。むしろにこにことしていて随分と友好的のように見える。

 おそらく俺が侵略者だということを認識していないのだろう。

 

 となれば、この少女を殺すことなど朝飯前と言っても過言ではない。

 警戒心ゼロの相手を殺すのはめちゃくちゃ簡単だ。

 今俺が少し手を伸ばせばこの少女をを殺すことが出来る。

 さぁ、仕事(・・)だ。

 

「なに?」

 

 俺は上からしゃがんで覗き込んできている少女の肩に手をおいた。

 邪の力は邪神以外が流し込まれてしまうと、その力に耐えきれなくなって息耐える。

 つまり、今小の状態で俺が邪の力を流し込めば簡単には殺すことが出来るということだ。

 

「どうかしたの? どこか体調が悪いの?」

「…………」

 

 なんだろうか。

 

 俺は時々ほかの邪神たちとは少し違うのではないかと思っている。

 侵略活動にあまり気乗りしないし、こうして積みもない人を殺害する行為に罪悪感を抱いている。

 特に俺はこの少女のような目に弱い。

 

 この少女は本当に純粋に心配して俺のことを見てきている。それはその目を見ればわかることだ。

 おそらくこの世界の汚さをまだ知らないのだろう。

 俺はそんな目に弱い。

 

「はぁ……」

 

 小さくため息をつくと俺は肩から手を離して力無くその場に手を下ろして目を閉じた。

 やっぱり虐殺するとか良くないだろ。

 邪神としては不健全であるが、俺はこの考えが正しいと信じてやまない。

 

「え、えっと…………そうだ、これ!」

 

 少女は鞄の中から袋に入った丸い食品らしきものを手渡してきた。

 暗くて細部まで見ることはできないが、小麦から作られた少々ふかふかとして、中に小豆をしようしたペースト状のものが入っている。

 わからない。

 

 俺たち邪神はなにも飲み食いせずとも生きていくことが出来るから食事というものは不要のものとして生まれて数年が経過しているが、一度も食い物というものを口にしていない。

 おそらくこれはこの世界の食い物なんだろうが、わからない。未知だ。

 

「なんだこれは」

「あんパン! 私が作ったんだよ! うちのあんこは美味しいって評判なんだよね! なんか元気無さそうだったから、それあげるよ!」

 

 どうやらこれはあんパンという食い物のようだ。

 こうなってくると知的好奇心がうずいてくる。

 食欲など一切わいてはいないが、俺たち邪神も消化器官などはあるし、一切ものを食うことができないわけではない。

 一度食事というものを経験してみてもいいかもしれない。

 

 そう考えた俺はあんパンなるものを受け取ると袋からあんパンなるものを取り出して一息にかぶりついた。

 

「っ! あふあふあふ。うぐっ!」

「あー、もう、慌てて食べなくてもいいのに。はい水!」

「あ、ああ、悪い」

 

 一口食べたらもう止まらなくなっていた。

 夢中になってあんパンにかぶりついていると唐突に喉が苦しくなったので、少女がにこにことしながら無味無臭の透明の液体をくれた。

 その液体を飲んだらその苦しさが消滅した。どういう原理なんだろうか。

 

「美味しかった?」

「う、うーん……不思議な感覚だったな」

 

 口の中になにかが入ってくる感触。

 感だ瞬間にスッと歯が通る柔らかい食間、そしてその中から出てくるほんのりと甘いペースト。

 これが美味しいというものなのかは定かではないが、悪い気分ではなかったことは確かだ。

 

「ふふふ、いい食べっぷりだね」

「さんきゅーな」

 

 俺はいったい何をやっているんだろうか。

 邪神ナンバー154681として生を受けたというのに侵略するどころか、侵略中の世界の少女に施しを受けてしまった。

 この少女だけでも154682のやつに掛け合って見逃すように相談してみよう。

 

「あ、もうこんな時間だ! もう帰らなきゃ。あなたはどうするの?」

「俺はもう少しここにいる」

「わかったよ! だけど、ここら辺は野生動物が良く出没するから気をつけてね!」

「忠告感謝する」

 

 それだけ言うと少女は帰っていってしまった。

 帰り際にこちらへ手を振っていたので、俺も振り返すととても嬉しそうに笑っていた。

 なんだろう。この心臓の鼓動は。痛い。こんなのははじめてだ。

 あの少女の笑顔を見るだけで胸がいたくなる。

 

「はぁ……また会えるかな」

 

 俺はそんな邪神には似合わない一言をこぼしてしまった。

 

「おーい154681!」

「ん? あぁ、154682か」

 

 そんな少女のと入れ替りで俺のパートナーである154682が帰ってきた。

 どうやら俺が寝ている間に邪神界へと行っていたらしい。おそらく名前を授かりに行っていたのだろう。

 

「ち、ち、ち。今の俺の名前は154682じゃない。神楽だ。間違えるなよ。そして名前付きになった俺の方がお前の上官だ」

「そうかよ」

 

 154682は神楽という名前を授かったらしい。

 どこかの世界の言語でかぐらという字は神という字に楽しいと書くらしい。

 いつもお気楽なこいつらしい名前じゃないか。

 

「ところで今、真っ黒な球体が見えたけど、あれはなんだったんだい?」

「あぁ、今のはこの世界の住人だ。あれがあの子の能力らしい」

「お前がコンタクトを取るなんて珍しいじゃないか」

「まぁ、昼寝していたら目の前に居たってだけだが」

 

 神楽はチラッと先ほどの少女が向かった先を見てから俺の方へと再度目を向ける。

 

「何かあったのかい?」

「なにがだ?」

「いや、わからないけどさ~なんかいつも暗い表情をして居たのになんだか今日は嬉しそうだからねー」

 

 こいつの趣味は観察だ。だから毎回侵略の前には偵察に行ってその世界の住人観察をしていると言ってもいい。

 そしてどうやら俺もこいつに観察されていたらしい。

 こいつは邪の力で気配を極限まで消すことが出来るから気がつきにくいんだよな。

 俺はあまり邪の力を使えないから少しうらやましいやつだ。

 

 俺とこいつの考えは完全に別れてはいるが、俺はこいつの事を尊敬している。

 こいつはお茶らけているように見えて、いや、実際にお茶らけてはいるのだが、事実実力はかなりのものだ。

 まぁ、名前を貰えるほどの実力なのだから、強いのは当たり前なのだが。

 

「そうだ、神楽」

「なんだい?」

「今回は俺も動く。だから、一つ頼みを聞いてくれないか?」

「へぇ、さぼり魔である君が動くほどの頼みかぁ……いいよぉ、聞いてあげる」

 

 神楽は少し興味深そうにあごを擦りながら俺にその頼みの内容を尋ねてくる。

 あまり俺は神楽に頼みごとをするのは好かないのだが、少しあの子に興味を持ってしまったのだ。

 少し言いにくく、うまく言葉にならないそれを俺は必死の思いで口にした。

 

「さっきの子、さっきの子だけは見逃してやってくれないか?」

「さっきの子……うーん、よくわからないけど、いいよ。やっと君がやる気になってくれたことだしね」

「恩に着る」

 

 さて、俺も仕事を始めなければいけないな。




 はい!第196話終了

 今回は死神ナンバー154682は名前を貰い、神楽という名前がつきました。

 あの女の子は154681にどのような影響を与えたのでしょうか?

 それでは!

 さようなら


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第197話 俺たちは邪神

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 昼寝をして居た154681は目を覚ますとそこは真っ暗闇だった。

 その中央には少女が居た。

 少女を殺そうと154681が少女の肩に手を置くと少女はは154681が体調が悪いのではないかと心配し、あんパンをあげる。

 そのパンを食べた154681は少女にはじめての感情を抱いた。

 そして邪神界から帰ってきた154682こと神楽に少女だけは殺さぬように頼み込み、そのかわりに自分も侵略に参加することを申し出た。



 それではどうぞ!


side154681

 

 俺は神楽のやつと別行動をして街を目指していた。

 侵略をするならば街を潰し歩くって言うのが一番手っ取り早い。なぜなら街には多くの人間が存在し、人間を一網打尽にするには一番いいからだ。

 

 だが、どうやらこの世界は人間が集中している箇所があるようで、先ほどの少女の住んでいる村は近くにあったが、ほかの街が全然見当たらないのだ。

 ちなみに先ほどの少女の住んでいる村は少女のためにも放置してきた。あんな小さな村位、放置していても問題はないだろう。

 

 俺は生まれてこの方、侵略活動に貢献したことが無かったので、戦ったことが無いから正直、俺にどれほどの力があるのかが分からないが、とりあえず邪の力とやらを使って攻撃をすればいいのだろう。

 邪の力は近くで神楽が使っているのを見たことができるから何となく使い方が分かる。

 とりあえずウォーミングアップとして空を飛んでみることにする。

 やり方は何となくわかる。今までの世界に居た神たちが飛べていたのを見て、俺も何となく出来る気がした。

 

「こんなもんだろっ」

 

 俺は空を飛ぶのをイメージし、体に力を纏わせて体を持ち上げることによって宙に浮くことに成功した。

 意外に簡単だ。それに思ったよりも体力を消費することはない。これならば一生浮き続けていることもできるだろう。まぁ、神や邪神には寿命という概念が無いから殺されない限りは死なないんだけどな。

 普通に歩くよりも楽だと感じた俺はそのまま宙を浮いた状態で移動を始めた。

 

 しばらく浮いて移動していると立派な城門がある街を発見した。

 城門の上には大砲がずらりと並べられており、敵襲が来ても全く問題なしという風貌だ。

 それに立派な鎧を着ており、あの鎧を貫くのは普通であればかなり大変そうだ。

 

「あの街を俺の最初の侵略の獲物にするか」

 

 邪の力を高め、その力を手のひらに集めていく。

 あんまりこの力を使ったことはないけど、何となく使い方が分かる。

 

 手のひらに邪の力、そして神力が合わさることによって手のひらに真っ黒なエネルギーボールが出現し、さらにそのエネルギーボールに周囲のエネルギーが吸収され始めた。

 どうやらこのエネルギーボールに重力があるようで、近くの石なんかが次々と吸い込まれ始めた。

 これはさしづめブラックホールと言ったところか。

 

「な、敵襲だ! 撃て!」

 

 大砲から一斉に俺に向かって砲弾が放たれるが、そのすべての砲弾が俺のブラックホールに飲み込まれていき、意味をなさなくなっている。

 そして吸収すればするほど威力が上がっていっているようで、吸収するほどに遠くのものまで吸い込み始めた。

 その時だった。

 

 ガツンと頭をトンカチでぶん殴られたかのような痛みが走った。しかし、実際に殴られたわけではないし、何かの能力によってダメージを食らってしまったわけでもなさそうだ。

 その瞬間、見覚えのない顔が脳裏に浮かんできた。だが、何となく懐かしく、自然と笑みがこぼれてきてしまう。

 それによって戦意を失った俺はブラックホールを消し、踵を返して再び飛び始める。

 

 まぁ、侵略を開始するといっても今日すぐに開始する必要はない。

 そう考えてその場を後にするといつの間にか先ほど寝ていた草原へとやってきていた。もちろん、近くにはあの少女が住んでいるであろう村が存在しているのが見える。

 完全に無意識だった。

 さ迷い歩くだけのつもりがいつの間にか帰ってきてしまっていたらしい。

 

 すると、そこには真っ黒な球体のようなものが見えた。

 間違いない、あそこの中心には先ほどの少女がいることだろう。

 しかし、あんなところで何をやっているんだろうか。さっき、あの少女はここら辺は野生動物が良く出没するから危ないって言ってなかったっけ?

 

 そんな風に考えながら遠巻きに少女の事を見ていると、その少女に野生の熊らしき動物がゆっくりと近づいていっているのが見えた。しかし、少女はそんな熊に気が付いていないようだった。

 何かを探しているように見える少女。おそらくその何かを探すことに夢中になっていて気が付いていないのだろう。

 あの熊は間違いなく少女の事を狙っている目をしている。あのままでは少女があの熊に襲われてしまうことは間違いないだろう。

 

 しかし、あんなに真っ黒なオーラを放っている少女を襲おうとするとは熊も能力持ちには相当なれている様子だ。俺だったら好き好んであんな中に入っていこうとはしないぞ。

 

「うーん……いないなぁ……どこに行ったんだろう」

 

 ぐおおおん!

 

 熊は雄たけびを上げて闇の中に突っ込んでいった。

 あのままじゃ少女が襲われてしまう。だが、そんなことを俺がさせるわけがないだろう。

 

「《ブラックホール》」

 

 手のひらにエネルギーボールを出現させ、出力を調整させて熊だけを吸い寄せるようにする。

 

「きゃあああああ」

 

 よく見てみると出力を調整しているとはいえ、少女の服も引き寄せようとしてしまっているようだ。おかげでスカートが少し吸い寄せられてしまっているが、今回は緊急事態故に許してもらいたいものだ。

 熊は勢いよく俺のブラックホールに吸い込まれるとぺちゃんこに潰れながら吸収されていった。正直えぐい光景である。

 少女はそんな光景を見てショックを受けているのか、はたまた驚愕しているのかは分からないが、惚けて固まってしまっていた。

 

 だが、俺はそんなことは関係ないとばかりに少女に声をかけた。

 

「お前、ここら辺は野生動物が出てくるから危ないって言ってなかったっけ?」

「え、あ、さっきの人。そ、そうですね。迂闊でした。助けてくれてありがとうございます」

 

 少女はぺこりと頭を下げるが、夜の暗闇と少女が放っている暗闇のせいで表情が良く見えない。

 あの能力の出力を止めることはできないのか?

 

「しかし、何かを探していたようだが、何を探していたんだ?」

「そ、そうです! 今、あなたを探していたんですよ!」

「俺を?」

「はい! あなたを探していました。あなた、行く宛てがないんですよね?」

「どうしてそう思ったんだ?」

「私は読心術が得意なんですよー」

「へー、そ、そうなんだ。ははは」

 

 えっへんと無い胸を張る少女。

 どうやらあの時少し話しただけなのに微妙な表情の変化から察したらしい。

 まぁ、本当のことを言えば行く宛てがないわけじゃないが、あまり邪神界が好きじゃないから戻りたくないというだけだ。それに、こっちの世界の方が断然空気が美味いっていうのがある。

 だが、それを馬鹿正直に伝えるわけにもいかないので、とりあえず笑ってごまかすことにした。

 

「なら、私の家に来てください! おもてなししますよ」

「はぁ? なんで今日会ったばかりのお前の家に行かにゃならんのだ」

「むぅ……いいから来てください!」

「ちょ、まて!」

 

 初対面の時点で気がついてはいたが、この少女はかなり強引な性格をしているらしい。

 否定する俺を無理やりに引っ張って連れて行こうとするもので、俺も抵抗をしようとするが、なぜだかこの少女を攻撃しようとすると自分の中でストッパーがかかり、何もできずに言われるがままに引っ張られていくしかなかった。

 それにしても村に入ってから気が付いたが、この少女がこんな真っ暗闇に覆われているというのに誰一人として気にしていないようだった。まるで、初めからそこには存在していないかのように。

 その光景は正直、異様なものだった。

 

 この少女がハブられていて、気が付いていないふりをされているんだとしたらわかる。だが、本当にそこには誰もいないかのような振る舞いを––いや、本当にこの人たちにとってはこの少女は居ないのかもしれない。

 だが、俺の事には気が付いているようで、初めて見る人物、そして何かに引っ張られているかのような体勢ということでかなり怪しまれてしまっている。

 

 俺だけがこの少女を見えている理由はもしかして俺が邪神だからか? よくわからん。

 

「ここです。入ってください」

「これは……」

 

 少女に案内された場所はそれはそれはボロボロの建物だった。どう考えても人が住んでいるようには見えない建物。

 だが、少女はなんの躊躇もなくその建物の中に入っていった。

 

「あ、そういえば自己紹介を忘れていました。私はルミア・フォンセって言います。見ての通り私は現世(うつしよ)の世界の人間ではありません!」

「見ての通りって言われてもな……じゃあ、彼岸側の人間なのか?」

「うーん……そういうわけでもありません。私はこの世をふらふらと渡り歩き、この街を拠点として過ごしているものですよ」

「つまり地縛霊か」

「地縛霊言わないでください!」

 

 説明を聞いた限りは地縛霊としか思えないのは俺だけか?

 しかし、この少女––ルミアが現世の者じゃないとは思わなかった。

 俺が触れた時はしっかりと体温があったし、くれたあんぱんなるものは非常に美味だった。

 どうやらただの彼岸側の人間というわけでもなさそうな雰囲気だ。

 

「で、なんで俺を連れて来たんだ?」

「その前に、あなたの名前は?」

 

 その問いに俺はドキッとしてしまった。

 俺には名前はない。与えられた呼び名としては154681というものだが、そんなものをルミアに教えるわけにはいかない。

 必死に思考を巡らせるが、俺に名前を考えるセンスというものが一切なくてそれは断念することにした。

 

「俺には名前が無いんだ」

 

 そういうことにした。

 彼女は読心術を会得しているとの事だが、この回答はある意味真実であるため、嘘をついたことで俺の嘘がばれるということもないだろう。

 

「そ、そうなんだ……じゃあ、私がつけていい?」

「好きにしてくれ」

 

 もうなんだか面倒くさくなってきた俺は彼女の問いに投げやりで答え、肩をがっくりと落とした。

 

「じゃあね、じゃあね、シャドウ!」

「あ?」

「これからあなたの名前、シャドウだよ!」

 

 シャドウは確か影っていう意味だったよな。

 影の者とか、闇の者っていう意味なんだったらそれこそルミアの方が合いそうな名前ではあるが、俺に自分で名前を考えるセンスなんかないからとりあえず任せることにする。

 しかし、俺は何も邪神として実績を上げていないのに名前を貰うなんてな。しかも、その侵略しに行った世界の女の子に着けてもらったのなんて俺が初めてじゃないか?

 なんだろう……あんまり悪い気はしない。それどころか結構嬉しい。おそらく上司に名前を貰ってもここまで嬉しくなることはなかっただろう。

 

「シャドウ……か。大切にする」

「えー、名前なんて大切にするものじゃないでしょ?」

 

 フフフと笑う彼女がとても可愛いと感じ、自然と俺も笑みを浮かべた。

 なんか強引な少女だが、それもこの少女のいいところなのかもしれないな、そう思っていたその時だった。

 

「爆発しろ」

 

 ドカーン!

 突如として大気が揺れるほどの轟音と共にすぐ近くで爆発が発生した。

 この家の壁が吹き飛ばされ、こっちの方に飛んできたので俺は咄嗟に少女をかばうように覆いかぶさって瓦礫から彼女の身を守る。

 なんとか邪の力を使用して体を硬化させていなかったらおそらくかすり傷じゃ済まなかっただろう。

 そしてこんなことをする奴は俺は一人しか心当たりがない。

 おそらくあいつは俺たちの事を狙って攻撃してきた。

 

「なにをするんだ。神楽」

「なにって、そりゃ邪魔者のお掃除っすよ」

「なにやってんだ。彼女には手を出さないって約束したよな」

「はっはっは、あんたこそ何言ってるんすか。俺たちは邪神っすよ? 口約束なんて、信じる方が馬鹿なんすよ」

「っ!」

 

 俺の絶望する表情を見て神楽は大きく高笑いをした。

 そうだ、最初からこいつに期待することが間違いだった。

 今までいろんな同業者を見てきたが、こいつはその中でも残忍で凶悪なやつだ。だからこそこの短期間で名前を貰うほどになったんだろう。

 確かにこいつの言う通りこいつに期待する方が馬鹿だったってことだ。

 

「なら、お前をぶっ飛ばす」

「そんなことをしていいんすか? 邪神から追放されるっすよ。俺は邪魔をしてきたあんたをぶっ飛ばした。だけど、逆の言い訳は効かないっすよ?」

「いいんだ。もともと邪神業なんて興味はなかったしな。今はこの子を助けることが最優先事項だ!」




 はい!第197話終了

 このような経緯でシャドウと神楽が戦うことになったんですね。

 シャドウって名前はルミアにつけてもらった名前で、役10000年経過した今でも、ものすごく大事にしています。

 恐らく次回で過去編終了です。

 それでは!

 さようなら


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第198話 幻想郷の守り神

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 仕事をしようとする154681だったが、なんだかやる気になれなくて断念。

 その後、あんぱんをくれた少女––ルミアに誘われるがままにルミアの家までやってくるが、そこへ神楽が襲撃しに来た。

 果たしてどうなってしまうのか?



 それではどうぞ!


sideシャドウ

 

 俺は空へと飛びあがると神楽を見下ろした。

 空を飛ぶには神力をうまく扱わなければいけない。そのために俺は神たちの力の使い方を観察していた。

 だが、こいつは他人にはあまり興味が無いやつだ。だから神たちの力の使い方なんか観察していないだろうし、神力の扱いの訓練を受けていないこいつでは空を飛べないはずだ。

 いくらこいつが邪の力の使い方が天才的といっても空を飛んでいる敵とは戦いにくいだろう。

 

「へぇ、空を飛べるようになってたんだ」

「あぁ、邪の力は基本的には身体強化技だ。空を飛ぶ相手とは相性が悪い。そして俺は今まで幾度となく多くの人々の戦い方を観察してきた。お前と戦う分には申し分ないほどにな!」

 

 そういうと俺は周囲に大量の神力で作り出した球体を出現させ、神楽へと飛ばした。

 この攻撃方法は前に偵察しに幻の都へ行ったときに見た戦い方だ。そこの住人はこの球攻撃を弾幕と呼んでいた。遠距離技としては今まで見て来たいろいろな世界の攻撃方法の中でも強いほうだと考えている。

 邪の力が主な戦い方である神楽に対しては有効な戦い方だ。

 

「へぇ……確かに邪神なだけあって邪神との戦い方は熟知しているというわけだぁ……だけどさぁ、邪神である154681が遠距離攻撃をできるっていうことは、同じく邪神である俺も遠距離攻撃の手段が無いわけではないということを忘れないで貰いたいっすね。失せろ!」

「っ!」

 

 今の声、邪の力が載っている。まさか、こいつは自分の体以外、声なんかにも邪の力を載せられるというのか。

 すると、その声が発せられた瞬間、俺の放った弾幕は一瞬にして全て消え去ってしまった。

 これが声に邪の力を載せるということか……初めて見た。

 

 こんな芸当ができるのはこいつと一部の邪神のみだろう。さすがは神楽と言ったところか。

 だが、今一度こいつの言霊を受けて分かったが、この言霊の有効範囲は意思を持たないものと言ったところだろう。つまり、俺たちの様に意思を持つ者には効果が無いということだ。

 

 なら、身体能力を強化して神力を上乗せした攻撃で殴れば!

 

「残念ながら、さぼってばかりだったあんたに負けるほど、俺は落ちぶれてはいないんでね」

 

 神楽はそういいながら思い切り両手をパチンと叩いた。その瞬間、暴風を思わせるほどの衝撃波が放たれ、俺の体に襲い掛かってきた。

 この衝撃波からも邪の力を感じることからこいつはおそらく音に対しても邪の力を載せて来た。本当にこいつの邪の力の使い方はめちゃくちゃだが、とても強力だ。

 俺は衝撃波にぶっ飛ばされてしまって地面に落ちてしまったが、受け身を取ってなんとかダメージを最小限に抑えた。

 だが、これでは攻撃手段が無い。遠距離で攻撃しようとしたら無力化され、近づこうとしたら衝撃波でぶっ飛ばされる。どうしたらいいんだ。

 

「さぁて、あんたの攻撃手段は全て絶った。これで勝負あったんじゃないかい? それともまだ続けるのか?」

「く……」

「それじゃあ、この世界を侵略する。この世界の全住民を殲滅する」

 

 こいつの力はどんな能力を持った世界だとしてもそれを可能にしてしまうほどだ。こいつが本気になったらこの世界どころかゆくゆくは邪神界を支配することも可能だろう。それくらいのポテンシャルを持った奴だ。

 人間にも才能というものがある様に俺たちにも才能というものがある。こいつの才能は破壊の才能だ。

 もともと邪神は破壊の才能が長けて生まれるということが多い。邪神は生み出す神とついになる様に生み出し過ぎたものを破壊するために存在しているからだ。

 そしてこいつの才能はそれがずば抜けている。

 

 ここまで成長してしまった俺にはもう、こいつに勝てる道理など無いんだ……。

 

「シャドウ!!」

「っ、ルミア……」

「はぁ……うるせぇな。ちょっと黙れよ」

「きゃっ!」

「––……っ!」

 

 神楽が苛立ち紛れにルミアを蹴り飛ばし、それによってルミアはぶっ飛ばされて近くに瓦礫に背中を強打してしまった。

 どうやら現世の住人ではないが、実体はあるようで、背中を強打して激痛によって悶えている。

 神楽は秩序を保つっていう目的の他に住人を殺すということを楽しんでいて、痛み付けて殺すことが多いから、あんな姿は幾度となく神楽の横で見て来たはずだ。

 だけど、なんでだろうか。今、この瞬間に俺の目に入ってきている姿はとても痛々しく、そして神楽に対して無性に怒りがわいてきた。

 俺がこんなに感情を昂らせることになるとは思わなかった。今の俺はこの昂った感情を静める方法が全く分からない。

 

「うるせぇからこいつから殺しとくか」

「や、やめろぉぉぉぉぉ!」

 

 神楽は両手を思いっきり叩きつけ、辺りにパァンという破裂音のようなものが響き渡った。

 俺は全速力で走ってルミアをかばおうとするが、俺の速度では間に合わなかった。その結果、ルミアは衝撃波によって瓦礫をぶっ飛ばしながら飛んで行った。

 

「あ、あ、あ……」

 

 口からはそんな言葉にならない声が漏れた。

 ルミアへと手を伸ばした状態で俺は放心状態になり、固まって動けなくなってしまった。目の前には体から血を流してぐったりと倒れているルミアが居て、すぐに駆け寄りたいはずなのに、足が鉛の様に重くなって動けなくなってしまっていた。

 

「しゃ……どう……」

「っ! ルミア!」

 

 ルミアのかすれるような声によってようやく我に返った俺はルミアへと慌てて駆け寄った。

 抱き上げてみるとルミアの体の傷はとてもひどいもので、俺を見つめるルミアの表情はとても弱弱しいものだった。

 

「わた、し……」

「もう、しゃべるな……」

「私、本当はもっと昔からあなたの事を知っていた」

「っ!」

「私の名前はルミア・フォンセ。幻の都*1を担当している神。前、たまたま幻の都に来ているあなたを見て何となく気になってあとをつけていた」

「ま、幻の都を!? しかも、俺のあとをつけていたって……じゃあ、俺が邪神だってことも知っていたのか」

「うん」

 

 どうやらルミアは前に俺が幻の都へ一人で偵察に行ったときに俺の事を見かけて何となく気になって俺のストーカーのようなものをしていたらしい。

 つまり、ルミアは俺が邪神だってことを知っていて俺に接近したということになる。

 それに、こんな神はあの時、見かけなかったが、もしかして俺が気が付かなかっただけっていうことか。

 

「やっぱり、私の勘違いじゃなかった。あなたは邪神なのに、とてもやさしい心を持っている。誰かを思いやる心がある。邪神にとって世界の住人なんてつぶすだけの存在でしかないというのに、貴方はその行為に罪悪感を覚え、そして仕事をすることができないでいる。やっぱりあなたは邪神じゃなくて、神として生まれるべき存在だった」

「ルミア……」

 

 ルミアに言われたことを今まで一度だって考えたことが無かった。

 誰かを思いやっているつもりなんて微塵もなかった。今までやる気が出なかった理由が罪悪感だということも今、ルミアに言われて初めて気が付いた。

 そして神として生まれるべきだったというセリフを聞いて俺は一つの感情が湧き出て来た。

 俺も、神になりたい。

 

「私、私ね。シャドウ……私はシャドウの事をもっといろいろと知りた––」

「ごちゃごちゃとうるせぇんだよ! 剣山になりやがれ!」

「っ!」

 

 その瞬間足元が剣山と化し、俺とルミアは共に串刺しにされてしまった。

 

「ルミア……ルミア!」

 

 必死に手を伸ばしてルミアのだらんと垂れている腕をつかむものの、もう何の反応もなくなっていた。

 人間たちにも死というものが訪れるように神にだって死というものが存在している。

 今、この瞬間にルミア・フォンセという神はその命を落とした。

 

「あ、あぁ……」

 

 悔しい。俺にもっと力があれば……。

 欲しい、もっと力が欲しい。

 神楽を倒すことができる、そしてもう誰にも負けないほどの力が欲しい!

 

『あなたに私の力の全てを捧げます。私の、いえ、私たちの愛した幻の都をお願いします』

 

 そんな声が聞こえて来たような気がした。その瞬間、胸の内に燃えるようなパワーがみなぎってきた。

 そして神力がどんどんとルミアの体から流れてきて俺の神力がどんどんと強くなっていくのを感じる。

 ルミアは俺にすべてを託してくれたんだ。

 わかったよ、ルミア。あなたの大切な幻の都は何があっても絶対に守って見せますよ。

 

「もういいか? その程度じゃあんたは死なないだろ? 来いよ」

「はぁ……だああぁぁぁぁぁ! 幻符《シャドウレイ》!」

「何⁉ ぐ、ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 力を全て振り絞って手のひらから超極太ビームを放った。

 そのビームに神楽は邪の力を使用する暇もなくビームに飲み込まれて消滅していった。今、俺自身でも信じられないほどの力が出て神楽でも反応しきれないほどの超強力な技を放つことができた。

 ルミアのおかげだ。おかげで俺は神楽を倒すことができた。

 だけど、今の技はかなり消耗が激しく、俺は力なくその場に倒れこんでしまった。

 

 その時、ルミアの魂が天へと昇って行ったような気配があった。これからルミアは生まれ変わって新たな生を得て新たな生活を送り始めることになる。

 ルミアに託された幻の都はずっと見守って守り続けるからな。そしてルミア、君が何度生まれ変わって俺の事を忘れてしまったとしても俺は絶対に忘れない。君のことを永久(とわ)に見守り続ける。

 

 俺が幻の都……幻想郷の守り神になる。

*1
昔の幻想郷の呼び名というオリジナル設定




 はい!第198話終了

 ついにシャドウの過去が完結しました。

 まぁ、神楽との戦いがあっさりしている気がしないでもないですが、これによって最強とまで言われるほどの力を手に入れたということを見せたかったわけです。

 なにせ、シャドウは最強の神ですから。

 これ以降シャドウは幻の都の神となり、そしてルミアの魂、生まれ変わりを幾度となく見守ってきました。

 今、神楽と戦っているメンバーの中にルミアの生まれ変わりが居ます。誰だと思いますか?

 ヒントはシャドウが一番関わっていて大事にしていそうなキャラです。(真が当てはまりますが真ではないです)

 それでは!

 さようなら


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第199話 あぁ、舐めてるさ

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 ついに始まるシャドウと神楽の戦い。

 遠距離攻撃が苦手な邪神である神楽に優位に立つために空を飛んで遠距離攻撃を仕掛けるも、全て無力化されてしまう。

 ルミアはそんな光景を目にしてシャドウの名前を叫ぶが、そんなルミアを神楽は苛立ち紛れに蹴り飛ばし、まずはルミアから殺すと宣言した。

 ルミアは意識が朦朧とする中、自分が幻の都の神であり、シャドウが邪神であるということを知っていたことを明かす。

 シャドウの中にある優しい心を見抜いたルミアはシャドウに心を奪われ、一緒に居たいというが、その瞬間に神楽によって殺されてしまう。

 怒りによって邪神から全能の神へと覚醒したシャドウは幻符《シャドウレイ》によって一撃で神楽を葬り去り、自身がルミアに変わって幻想郷の守り神になることを誓った。



 それではどうぞ!


side三人称

 

 シャドウはルミアのことは除いた出来事をみんなに話した。

 その話を聞いている間はみんな口をはさむことはなく、静かに、そして一言も聞き漏らさないようにと必死になってシャドウの話を聞いていた。

 さすがにシャドウが邪神だったという事実を聞いた時はこの場にいる誰もが若干動揺したが、それでも心の優しい神だったということを知って全員納得した。

 

「ちなみに先ほど話していた再臨とは何ですか?」

「再臨とは邪神が一度邪神ではなくなり、その後に功績をあげ、邪神として復活することによって以前よりも数段強力な力を得ることができるというものだ」

「そう……ですか。では、神楽が再臨してしまう確率は?」

「わからん。だが、この幻想郷という世界は様々な世界において重要な存在となっている。それを侵略することに成功したら、神楽の再臨は確実となるだろう。そしてあいつが再臨をしたら正直いってお前たちでは勝ち目はゼロだ」

「っ!」

 

 シャドウのその言葉にこの場にいるものはみんな息を呑んだ。

 神楽が再臨してしまったらもうどう足掻こうが勝つことはできなくなってしまう。その事実は絶望的なものだった。ただでさえ今も壊滅状態に追い込まれていてシャドウが駆けつけてくれなかったらおそらく全滅してしまって敗北していた。

 そうなったらもう神楽に対抗できるものは居なくなって幻想郷は侵略されて神楽が再臨してしまってもう手が付けられない状態になっていた可能性があったということだ。

 

「俺も本来は邪神だった。神楽のような姿が、本来俺があるべき姿なのかもしれないな」

 

 そこでシャドウはちらっと彼方へと視線を飛ばし、だけどと付け加えて言い放った。

 

「この幻想郷だけは絶対に明け渡すわけにはいかない」

「残念ながらシャドウ、お前は俺に敗北する!」

「っ!」

 

 シャドウの言葉に反応するようにその瞬間、地面のタイルを突き破り、下から神楽が飛び出してきた。

 大量の瓦礫が降り注いできたため、シャロが瓦礫からみんなを守るために薄い膜のようなものを作り出してそれをバリアの様に使用して瓦礫から身を守った。

 だが、一同は神楽のその邪の力を感じて息を呑んだ。

 飛び出してきた神楽の体に纏われているその邪の力、その強さはさっきまでの比じゃなくなっていた。一気に、加速度的に今も尚、神楽は成長し続けている。

 先ほどシャドウから受けた傷は一切体にはなく、完全に治癒してしまっていた。

 

「神楽……」

「お前は今、俺がこの幻想郷の侵略を成功したら再臨すると言ったな?」

「あぁ、そうだが」

「俺はこの通りに加速度的にどんどんと力を高めて行っている。俺はお前の予想よりも遥かに速く再臨へと近づいて行っている!」

 

 神楽は試しにと邪の力を含んだ威圧を周囲に解き放った。

 その瞬間、この場にいるシャドウ以外の者が全力で殴りつけられたかのようにぶっ飛ばされ、壁に激突。周囲に散乱していた瓦礫は木っ端みじんに破壊され、気を失っているものもぶっ飛ばされ、真を固定していた剣山も粉々になったことから真を固定するものは何もなくなってぶっ飛ばされる。

 その真を彼方は必死の思いでジャンプしてキャッチした。

 

「くぅっ」

 

 キャッチして着地する際に膝をすりむいてしまったが、彼方にとってはそんなことは問題ではなかった。真を守ることが最優先事項だったのだ。

 他の人たちは紫がスキマでキャッチし、優しく自分たちの近くの床に下ろす。

 だが、今の力を食らって紫は戦慄し、動けなくなってしまっていた。

 

 この幻想郷は自分たちが本気を出せば必ず守り抜ける、そんな軽い気持ちがレジスタンス結成当初はあった。いつもよりも主犯の力が強いだけで本気を出せば勝てない相手ではない、そう思っていた。

 だが、実際は自分たちの想像していたよりも遥かに強い敵の連続。どんどんと倒れていく仲間たち。崩れ去っていく希望。

 もう、紫には戦う気力など残されてはいなかった。

 自分たちに待っているのは死だけ、それしか考えられなくなってしまっていた。

 

「見たか! 今の俺は威圧、気迫にすら邪の力を込めることができる! お前に圧だけでダメージを与えられる!」

「え?」

 

 一同が余裕の佇まいでそこに居るシャドウへと目を向けた。

 その瞬間、シャドウの肉体に無数の切傷が出現し、服が引き裂かれてしまっていた。

 額からも血が出ていて血が伝って目を真っ赤に染めていた。今までダメージというダメージを負ってこなかったシャドウがついに外傷を付けられてしまった。それは非常に大きなことだった。

 それも、圧だけでだ。それが本気の一撃だった場合、どうなってしまうのか、考えるだけでも恐ろしいことだった。

 

「もう終わりだシャドウ。もう、偉そうな面を下げることはできない」

「そうかよ……」

 

 それだけいうとシャドウはスキマを出現させるとその中から小さい青緑色の小瓶を取り出すと徐にその中に入っている液体を飲み始めた。

 突然のその行為にこの場はシンと静まり返ってしまう。

 そしてその小瓶を見てシャロと彼方は驚愕の表情を浮かべた。その小瓶の事を二人は知っているのだ。

 かつて自分たちもそれと同じものを口にしたことがある。あの小瓶はもうこの世には存在していない代物のはずなのだが、現実、シャドウがその小瓶を手にして中の液体を豪快に飲み干していた。

 

「なんだぁ? そのきたねぇ小瓶は」

「これは酒だ。神力水っていう……な」

「酒!?」

 

 再びシャロと彼方は驚愕した。

 やはり二人が思っていた通り、あの小瓶の中に入っている液体は神力水というものだった。しかし、シャドウはその神力水のことを酒だと言った。

 二人の知っている神力水はとてつもない力を秘めているものであって、その液体を口にすると神になることができるというもので、今現在は争いの種になりかねないという理由で封印され、もう二度と手に入ることはないというものだ。

 

「これは俺が作った酒でな。本当はこれを飲みながら地上の様子を見ていたんだが、下界に忘れてきてしまったみたいでな。各地にこれがあるっていうわけだ。そしてこれには不思議な力があってな、神以外が飲むと神になれるという超超超すげー効果付きだ」

「ほう……で、今なぜそんなものを取り出した。舐めているのか?」

「あぁ、舐めてるさ。パワーアップしてもその程度なのかってな」

「なにぃっ!」

「今の攻撃を食らって確信した。お前は絶対に再臨はできないってなぁ!」

「なら、見せてやるよ! この俺の力ってやつをよぉ!」

 

 シャドウの言葉に切れた神楽はこれまでとは比にならない速度でシャドウへと突撃し、拳を振るった。

 しかし、その拳がシャドウに直撃することはなかった。まるで空間に見えない壁でもあるかのようにそれ以上進むことはできなかった。

 いや、正確にはこの空間には"穴"が開いたんだ。それによって先に進むことができなくなってシャドウへ拳が届かなくなった。

 

 さすがの神楽もこれには驚愕が隠しきれなかった。

 シャドウはこれがあるからこそ、余裕の表情で酒など飲み始めたのだ。そして自分の力がなくとも幻想郷は神楽に勝てる、そう信じたからこそ、このような態度を取り始めたのだ。

 

「シャドウ、何しやがった!」

「俺は別に何もしていないよ。ただ、俺には優秀な弟子が居た、ただそれだけだ」

 

 そういうとシャドウは指をパチンと鳴らして両脇に人ひとり通れるほどの大きさのスキマを作り出した。

 その中からは紫ですら身震いしてしまうほどの霊力が発せられていて、その中から出てこようとしている人物たちがものすごい実力を誇っていることが分かる。

 シャドウのスキマから出てこようとしているのだから敵ではないとは確信しているものの、その力の大きさ故に警戒せざるを得ない。

 

「やっと俺たちの出番っすね」

「ちょっと、遅い気がするけど。みんなもこんなにぼろぼろだし」

「っ!」

 

 そのスキマの中から出て来た二人の人物を見て一同は驚愕した。

 なぜなら、その中から出て来た人物は刻雨龍生と南雲鈴音だったからだ。




 はい!第199話終了

 最悪の展開になってきました。なんと神楽がパワーアップし、シャドウに圧だけでダメージを与えられるようになってしまいました。

 しかし、そこにさっそうと助っ人登場! 刻雨龍生と南雲鈴音の二人です。

 この二人は主人公組だというのにこの異変が始まってから一度たりとも絡んできていなかったので気になっていた方もいたことでしょう。

 みなさん、お待たせいたしました! ついに二人が活躍するときが来ました。

 しかし、非常に辛い状況ですよね。二人にとっての大切な人、真は瀕死、そして音恩はもうこの世にはいません。

 この状況で二人はどのように神楽と戦っていくのでしょうか?

 それでは!

 さようなら


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第200話 修行の成果

 はい!どうもみなさん!ミズヤです

 いやーついにこの小説も200話まで来ましたね。

 僕自身、ここまで長くなるとは思っていなかったのですが、予想をはるかに大きく上回って200話まで来ました。

 前作の無意識の恋が100話で終わったので、前作の倍の長さとなります。

 そしてこの小説、なんと最終章が始まったのが150話ということですので、最終章だけで50話も使っているということになります。

 この小説の章は11章あるのですが、その1/4が最終章で埋まっているという計算になります。

 さらに言うと、この章は作ったプロットを見る限り、あと1/3ほど残っていることが判明しました。

 果たしてこの小説は一体何話まで行くんでしょうかね。

 ちなみにハーメルンの小説でここまでの長さの小説を書くのは初めてですけど一番長いのは小説家になろうに投稿している転生者は気まぐれ勇者の487話です。

 ハーメルンだけではなく、小説家になろうにはいろいろなオリジナル小説を投稿していますのでそっちも読んでいただければ幸いです。

 特に転生者は気まぐれ勇者は力作となっております。



 それでは前回のあらすじ

 シャドウの過去を聞く一同。

 シャドウは今の神楽ならば幻想郷の侵略を成功することによって再臨しかねないという。

 戻ってきた神楽の力は先ほどまでとは比べ物にならないほどに強くなっており、加速度的に神楽が強くなっていっていることを全員が察した。

 だが、シャドウはそんな力を食らっても弱いと称し、激怒した神楽はシャドウへ攻撃するも、その攻撃がシャドウへ直撃することはなかった。

 そしてシャドウは二人の人物をスキマで呼び寄せた。その人物とは刻雨龍生と南雲鈴音だった。



 なんか、久しぶりにちゃんと前書き書いたような気が……

 それではどうぞ!


side三人称

 

「どうしてあなたたちが……っ!」

 

 紫は驚愕した様子で問いかけた。

 今まで誰も二人の事を見かけることはなかった。そのため、誰もが心の中では二人は崩壊に巻き込まれてしまったか、はたまた洗脳されてしまって真を殺す機会を伺っているものかと思っていた。

 だが、二人はシャドウのスキマによってこの場に現れたことを考えると、二人は仲間と考えてもいいだろう。

 

 しかし、それにしても今まで一回も顔を見なかったということが紫は気にかかった。

 

「彼らにはこれまで俺が修行を付けていた」

「え、シャドウ様が修行を!?」

 

 今度驚愕したのは彼方だった。

 基本的にシャドウは放任主義なため、人間に自ら修行を付けることはない。それは彼方も直々に修行を付けてもらっていたからよく知っていることだ。

 だからシャドウがただの人間である龍生や鈴音に修行を付けていたことに驚いたのだ

 

「シャドウ、これはどういうつもりだ」

「見たまんまだ。お前ごとき、俺の手を下すまでもないということだ」

「っ! 人を馬鹿にするのもいい加減にしろ。俺がこんなただの人間に負けるわけがないだろ!」

 

 シャドウの言葉に激高した神楽は今度は手をパチンと思い切り叩き、音に邪の力を載せることによって衝撃波を放った。

 

「みんな、伏せて!」

 

 衝撃波を放つところを見た紫は慌ててみんなに伏せるように言ってみんなをいつでもスキマの中に退避できるようにしたが、そんな心配は必要なかったことをすぐに思い知った。

 龍生がシャドウの前に立ちはだかると衝撃波に向かって手のひらをかざした。

 その瞬間、衝撃波は何かの強靭な壁にぶつかったかのように見えない壁によって阻まれて消滅した。

 さっきと同じ、空間に穴が開いたことによって衝撃波はこっちの空間へと近づくことができなくなって消滅してしまったのだ。

 そして龍生が手を下ろすと空間の穴はすぐに元通りとなって埋まった。そのことから考えるに、この力は龍生の力なのだということがすぐにみんな分かったが、龍生が真、シャロ、彼方、紬の四人の神力を合わせてようやく上書きすることができた技をあんなにいとも簡単に防いで見せたことにこの場の鈴音、シャドウを除く全員が驚愕してしまった。

 

「お、俺の邪の力がっ!」

「確かにお前の神力は凄まじい。だからこそ、真たちは打ち消すのに力を使い果たしてしまったんだ。だけど、それは打ち消そうとしたからだ。打ち消せないならば防御すればいい。ただそれだけだ」

 

 その理論は非常に理解不能の物だった。

 真たちの力を合わせた打ち消す力でもあれだけ苦労したのに、あれを上回るほどの防御技はそうそうない。それをただそれだけと言ってしまえるシャドウがちょっと恐ろしく感じられる。

 

 

「俺のスペルカードに《空喰(くうばみ)》というスペルカードがある。あれは空間を切り裂いて相手を攻撃するトラップ系のスペルカードだった。だけど、これはその《空喰》を応用し、作り出した新たなるスペルカード《空絶(くうぜつ)》だ。相手との間に空間の壁という隔たりを生成し、防御する。どれだけ強い力を持っていようとも空間がそこになければ先に進むことはできない。これが世界の壁というやつだ」

 

 今の龍生の説明を一体何人の人が理解することができただろうか。

 空間を切り裂いてスキマを作り出している神々や紫が今の話を聞いても無茶苦茶だと感じた。

 確かに空間を切り裂くことは容易に行えることで、実は気が付いていないだけで真が剣を振るった後も空間が切り裂かれている。だが、空間の再生能力は異常に高く、斬れども斬れども再生してしまう。それが空間の再生能力というもので、空間が無いなんて状況は起こりうることはそうそうない。

 

 だが、龍生はそれをさも当然の様に言ってのけた。

 それもそのはず、龍生のは空間を切り裂いているわけじゃない。空間に穴をあけているというだけだ。

 能力で開けているからこそ、紫たちのスキマの様に霊力が続く限り、その空間に穴をあけ続けることができる。そしてその穴を薄く延ばして盾の様にして防御するのがこの《空絶》というスペルカードだ。

 

「こいつのこの《空絶》は空間に作用する攻撃でもない限りは絶対に通さない無敵の守りとなる。俺は刻雨龍生を最強のタンクとして鍛え上げた」

 

 彼方はシャドウの修行を受けたからこそシャドウに修行を付けてもらったらものすごい力を手にすることができるというのは身をもって知っていたことだが、人間の体でそこまでの技を使えるようになることに驚いた。

 するとそれを見た鈴音が呆れたような態度でゆっくりと前に出ながら口を開いた。

 

「やっぱり私以外の三人はチートだと思うんだよね。ねん君は自力で真と渡り合えるようなギアモードっていう技を作り出しちゃうし、真はやっぱり守るものがある人は強いんだなっていう感じで青天井で強くなっていく。龍生だって自分の弱点を見出して自分の能力を最大活用してこんなチート防御技を作り出した。ちょっと私がかすんじゃってる感があるよねぇ」

 

 把握する程度の能力、それは決して弱い者じゃないし、味方との協力ならば、これほど適している能力はそうそうないというほどだ。

 だが、周りが強すぎたのだ。

 戦いの才能もそこまであるわけでもなく、次々と強くなっていくみんなに置いて行かれているような感覚に陥っていた。だからこそ、必死になって修行をしていたのだ。

 そしてライトに教えられた身体強化を会得した後も修行を続け、ある日突然目の前に現れたシャドウによって誘拐されて修行を付けられていたということだ。

 だけど、それでも限界があった。

 

「力の限界ってここまで無常なのかってちょっと悲しくなったよ。私だってねん君や真、龍生の様にこの幻想郷を守るために強くなりたい。だけど、無理だったんだよね。でも、そんな私にでも一つだけ出来ることがあるんだよ」

 

 その瞬間、龍生が神楽へと走り出し、それを見た鈴音も龍生について行くように神楽へと走り始めた。

 だが、接近しても言霊がある以上、接近するのは容易じゃない。それはさっきの真を見ていてこの場にいる誰もが分かっていた。だから、真の二の前になってしまう可能性があると考えたが、その考えは杞憂に終わることとなった。

 

女帝の眼(エンプレスアイ)

 

 その瞬間、鈴音の目付きが鋭く変化した。まるで獲物を狙う肉食獣の様に鋭く、刺すような視線だった。

 そしてその目付きになってから鈴音の威圧感はまるで別人のように強くなり、背後に居て直接視線を向けられているわけではない紫たちも一瞬震えさせられるような威圧感だった。この威圧感は視線を向けられていない紫たちですら、これほど強く感じられるのだから、直接視線を浴びせられている神楽への威圧感は想像を絶するものだった。

 

(なんだ、なんなんだ、あの目は! とてつもない威圧感だ。俺が、この俺が、怯えているとでもいうのか?)

 

 視線を浴びせられてあの神楽の膝ががくがくと震えていた。そのことに気が付いて神楽は驚き、すぐさま足の震えを止めようと足を抑えるが、全く震えが収まる気配がない。

 今の神楽の気分は肉食獣に狙われている草食動物、そのものだった。

 逃げなければやられてしまう。そう考えてしまうことに神楽は再度驚いた。

 

(大丈夫だ。いくら威圧感が強いとはいえ、相手は所詮ただの人間だ。元邪神であるこの俺があんなただの人間ごときにやられるわけがない)

「剣山になれ!」

 

 神楽は声に邪の力を込めて言い放った。

 その瞬間、真の時同様に二人の足元から剣山が出現する。やはり二人も串刺しにされてしまう、そう思ったその時だった。

 

「《戦いの指揮者(バトル・オペレーター)》」

 

 鈴音の体から赤色のオーラが出現し、そのオーラが龍生に向かって伸びていき、直撃した瞬間、龍生の体も赤いオーラを纏って赤いオーラの糸で二人がつながっているような見た目となった。

 すると龍生はまるでどこに剣山が出現するか分かっているかのように最小限の動きで下から出現してきている剣山を次々と回避しながら神楽へと接近していく。

 もちろん鈴音も同様に回避しながら神楽へと接近していく。

 

 真の時の接近するのに苦労していたのが嘘のような軽々とした回避に紫たちはもう何度目か分からない驚愕をした。

 

「私はねん君のお姉ちゃんだからね、ねん君にできて私にできないことはない。能力の拡張だよ!」

 

 そういうと龍生と鈴音同時に飛び蹴りを放ったが、その攻撃を神楽は腕をクロスにして防御したため、そこまでダメージは入らずに蹴り飛ばして少しだけ後退させることができた。

 

「っ、まるで心が読まれているかのようだ」

「まぁ、当たらず遠からず。私はね、この場にいるみんなの動き、そしてこれからする行動、すべてを把握しているんだよ」




 はい!第200話終了

 龍生の神楽の衝撃波をも防いでしまう世界の壁もすごかったですが、鈴音が最後の最後でとんでもない力を見せましたね。

 鈴音は把握する程度の能力ということでその能力を強化して、その場にいる全員の動きを把握できるようになりました。

 そして、能力の拡張とは一体? 実は音恩も使っていたものなんですが、音恩は無意識に使っていたため、それが能力の拡張だとは知りませんでした。

 ここら辺は次回解説されます。

 それでは!

 さようなら


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第201話 デメリット

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 シャドウの代わりに出て来た龍生と鈴音が神楽と戦う。

 龍生はシャドウとの修行にて《空絶》を会得し、鈴音はシャドウとの修行にて《女帝の眼(エンプレスアイ)》を会得していた。

 その二人の力は大幅に進化しており、神楽の攻撃を無効化して蹴り飛ばす。

 しかし、二人の力はこれで終わりではない。

 果たして神楽を倒すことはできるのか?



 それではどうぞ!


side三人称

 

「この場にいる全員の動きを把握してこれからの行動を先読みするだと? そんなバカなことが」

「私の能力は把握する程度の能力。だけど、それは親しい関係の人の行動しか把握することが出来なかった。だけど、その能力を拡張してこの場にいる人全員に適応させることが出来るようになった」

 

 鈴音は他の人に比べたらその自身の力が劣っているということを理解していた。だからこそ鈴音は自分が戦うのではなく、味方のサポートに転じることにした。

 今の鈴音はこの場にいる全員の動きを把握し、その後どのように行動するかを見ることができるようになった。そして味方に霊力の糸を通じて指示ができる。これが南雲鈴音の戦い方だ。

 

 鈴音の技、《女帝の眼(エンプレスアイ)》はこの場にいる全員の行動を把握することができるようになり、《戦いの指揮者(バトル・オペレーター)》は霊力の糸を出して敵に悟られずに指示を出すことができる。

 もともと強かったサポート能力がさらに強くなったということだ。

 

「能力の拡張だ」

「能力の拡張?」

「あぁ、彼方、お前も神なら聞いたことくらいはあるんじゃないか? 稀にその能力を強化することができるものたちがいるって」

「う、うん。能力の強化にも色々と種類があるけど、その中の一つが能力の拡張」

 

 彼方の説明にこくりと頷いてからシャドウは詳細を話し始めた。

 

「能力の強化の一つ、拡張はその名の通りに能力の有効範囲を拡張することができる技術だ。本来ならば特定のものにしか効果がないものをそれ以外にも効果を発揮するようにする技術。南雲弟も使用していたギアモードも本来あいつの能力は地形や建物に影響を与えることが出来ないものであるが、拡張して床や壁、天井などにも効力を与えた。本来はこの技術は死に物狂いで修行して会得するものだから、あいつの気力と才能は目を見張るものがあったんだけどな」

 

 そして音恩が拡張させたように鈴音も拡張させたのだと話すシャドウ。

 シャドウは簡単に話すが、その技術は簡単に身につくものではないだろうと考え、彼方は生唾をゴクリと飲んだ。

 彼方以外も今この場で意識があるみんなは驚愕のあまり声が出なかった。

 

 何気なくいつの間にか使えるようになってその力を存分に披露していた音恩のギアモードがそれほどすごい力だということは知らなかったからだ。

 

「あの姉弟は生まれつき目がよかったんだ。だからこそトリガーが目になった」

 

 そのシャドウの言葉にみんなはなるほどと心の中で思った。

 確かに見て見ると音恩は目の中に歯車を浮かび上がらせて周囲の地形などを操ることができるようになるというものだった。

 そして鈴音もそうで、目つきが変わったその瞬間にこの技が発動した。

 

「今の南雲姉を突破するのはなかなかに骨が折れるぞ神楽」

「なるほどな。つまり、先読みしているから素早い攻撃でも対処できるということか。確かに事前にくることがわかっていればどんな攻撃でも対処のしようがある」

「あぁ、お前にはもう勝ち目はないんだ。どうだ? 俺が出る幕もないだろ」

 

 シャドウのその発言の通りに神楽は鈴音と龍生の猛攻を対処しきれていない様子。

 相手の行動が読めていればその防御を貫通して攻撃することも可能だ。今の鈴音はいるだけでチームの力が大幅にアップする。

 

「クソが!」

 

 神楽は先ほどシャドウに使った真っ黒な触手を背中から生やすとそれを龍生へと叩きつけた。

 だが、龍生はその時にはすでに《空絶》を使っていたため、その攻撃が直接龍生に当たることはなかった。

 この攻撃も鈴音には見えていた(・・・・・)のだ。

 真っ黒な大量の触手で次々と二人に地面が破壊されるほどの威力のある攻撃を何度も何度も続けるが、その攻撃はことごとく回避されるため、神楽は怒りを募らせる。

 

「回避すんじゃねぇ!」

「来ると分かっている攻撃を何故わざわざ律儀に待たないといけないのかしら?」

 

 多方位からの攻撃でも事前に来ると分かっているから冷静に対処し、全てを回避しきる。

 そして龍生も霊力の糸で繋がっているため、事前にその情報が流れてきて回避することができる。

 

 二人は神楽の触手攻撃を次々と回避して神楽へと接近していく。

 

「お前らぁぁぁぁぁぁ!」

「どうやら神楽は冷静さが徐々に失われてきているようね」

 

 神楽のその様子を見て紫が冷静に分析する。

 確かにその様子は回避され、攻撃が全く当たらないことにイラついてきているのか、どんどんと苛立ちが目立ち、攻撃もお粗末になってきている。

 こんな攻撃ならば鈴音の先読み能力がなくとも回避することは容易だろう。

 

 触手同士をぶつけ合せ、衝撃波を発生させるものの、龍生が二人を《空絶》で防御してしまうから全く攻撃が当たる気配がない。

 そして全ての攻撃を回避して一緒に神楽へと連続攻撃を加える二人。

 

「ぐ、ガハッ」

 

 流石に神楽も厳しそうだった。

 自分の攻撃は一切当たることはなく、逆に相手の攻撃は全部自分に直撃してしまう、この戦いを見ている人にとってはこの状況は一つの事実を示していた。

 それは––勝利だった。

 

「これならいけるよ!」

 

 しかし、この戦いを戦いを見たシャロが興奮したようにそう言ったが、シャドウの表情は芳しくはなかった。

 むしろかなり険しい表情をしていて、まるで厳しい戦いでも見ているかのような表情を浮かべていた。

 それを見たこの場にいる全員が疑問を浮かべた。

 戦い自体はものすごく有利に進んでいるし、鈴音の能力があれば攻撃に当たることもないから勝利は確実とも言える状況だというのにこの表情をしている理由がシャドウと鈴音以外は誰もわからなかった。

 

 その瞬間だった、この場にいるシャドウ以外の全員が目を見開いて驚愕するような光景が広がっていた。

 

 なんと鈴音に向かって勢いよく伸びてきた真っ黒な触手が鈴音の肩を貫いたのだ。

 そしてそれと同時に鈴音の目つきは元に戻り、龍生と繋がっていた霊力の糸も消滅してしまった。

 

 何が起きたのかは鈴音とシャドウ以外は誰も理解できなかった。

 それは突然だったのだ。

 

 そして神楽が触手を鈴音の肩から抜くと、力なくその場に倒れこんでしまう鈴音。

 

「はぁ、はぁ……」

(何が起きたっていうの? さっきまで鈴音の力で優勢だったじゃない!)

 

 紫の頭のなかは混乱してしまっていたが、すぐにその原因がなんなのかが分かった。

 霊力を感じ取ってみると鈴音からか弱い霊力しか感じられなくなってしまっていた。つまり、霊力がかなり枯渇してしまっていた。

 あれから十分ほどしか経過していないというのに、この霊力の消耗はおかしいと言わざるを得なかった。

 

「やっぱりな」

 

 だけど、シャドウだけはどうしてそうなってしまったかが分かっていた。

 

「あいつの技はかなりの集中力を要する。しかも常に霊力を消耗する技を二つも同時使用していたんだ。あの戦いを始めた時から大丈夫かと心配していたが、その心配が当たってしまうとはな」

「霊力の消耗が激しい……集中力……なるほど! 鈴音のあの技は両方とも霊力の消耗が激しい上に集中力を高めて周囲の観察をして先読みをしていた。だから霊力が枯渇して動けなくなってしまった。つまり、ガス欠を起こしてしまったということだね」

「そういうことだ」

 

 彼方の考察に頷くシャドウ。

 確かにこの技はものすごく強い。だけど、それ故に何も代償なしでこの技を使えるわけがない。

 音恩のギアモードも比較的霊力の消耗が激しい技だが、これと比べれば生易しいものだ。

 鈴音の技の霊力の消耗はレベルが違う。それ故に片方を使用するだけでもものすごく霊力の消耗が激しく、特に《女帝の眼(エンプレスアイ)》は異常なまでの集中力も要するため、消耗が激しい。

 

 シャドウは事前に鈴音には同時使用は極力控えるように言っていて、鈴音も最初は同時使用をするつもりはなかったが、神楽の力を感じて片方だけでは勝つことができないと判断し、両方を同時使用した。

 その結果、十分ほどしかまともに戦えないほどに消耗が激しくなってしまっていた。

 

「なるほどな、こいつの弱点にはそんなのがあったのか」

「ぐああああああ」

「やめろぉぉぉぉぉっ!」

 

 倒れこんだ鈴音の背中を踏みつけにする神楽。

 その様子を見て龍生が助けに入ろうとするが、触手が龍生の行く手を阻み、先ほどとは違って鈴音のサポートがないので、どこから襲ってくるかわからないから思うように近づくことができない。

 その間にも鈴音の背中をグリグリと靴で踏みつける神楽。

 

 一時期は手に届きそうなくらいに近くにあった希望が急速に離れて行く、そんな感覚があった。

 

「鈴音ぇぇぇぇぇ!」

「っ、待て彼方!」

「離して!」

 

 走り出して鈴音を助けようとする彼方を慌てて抑えるシャドウ。しかし、その腕の中で暴れて彼方は振りほどこうとする。

 でも、鈴音の目は絶望の色に染まってはいない。そしてその理由をシャドウも知っていたから今の今まで霊力の大幅消費を指摘せず、止めなかったのだ。

 だけど、流石にこれはやりすぎだとは考えたが、シャドウは放任主義なので止めることはしなかった。

 

 今の鈴音の目的は神楽を倒すことじゃなかった。鈴音の真の目的は時間稼ぎ(・・・・)だった。

 

「これで終わりだ。お前を消せば俺がもう追い詰められることはない」

「本当にそうかなぁ……」

「……何が言いたい」

「別にぃ〜? でも、一つだけ言えることがあるよ。あんたは必ず負ける」

「何っ」

 

 それを言った鈴音の顔はニヤニヤとしていた。

 踏み潰され、蹴られてボロボロになったその顔でそれを言っても説得力がないと感じたみんなだったが、鈴音は確信していた。

 なぜなら最初に《女帝の眼(エンプレスアイ)》を使った時からすでにこの未来は見えていたからだ。

 

「ふん、そう言っていられるのも今の内だぞ。死ぬがよい」

 

 そう言って鈴音へと真っ黒な触手を突き刺そうとする。その瞬間の出来事だった。

 

「霊符《夢想封印》」

「っ!」

 

 いつの間にか神楽をおびただしいほどの数の弾幕が取り囲んでおり、今のこの体勢からじゃ回避しきることは不可能だ。

 なので、神楽は咄嗟に鈴音への攻撃をやめ、真っ黒な触手で弾幕を弾いて防御をしていく。

 

 するとその隙に電光石火の勢いで二つの影が神楽へと接近し、そしてクロスするように神楽のことを斬った。

 

「ぐああああああああああああああ!」

 

 胴体を真っ二つに斬るまでにはいかなかったものの、かなりのダメージだったようで、神楽は断末魔の叫びをあげる。

 

「ぐ、な、なぜ貴様らが生きている」

「俺たちをなめるなよ」

「そうそう、あの程度の爆発で死ぬんならとっくに何回も死んでるよ」

「あんたたち、私の結界のおかげで助かったことを忘れてないでしょうね」

 

 傷口を押さえ、苦しむ神楽の前に三人が姿を現した。

 その三人は先ほど爆発に巻き込まれて姿を消したライト、紗綾、霊夢の三人だった。




 はい!第201話終了

 確かに鈴音の力は強いですが、あんなに強い技にデメリットがないという方がおかしな話ですよね。

 そして死んだと思っていた三人が実は生きていました。この三人が助けに入るという未来を鈴音は見通していたわけですね。

 三人は爆発を耐えた後、砂煙に紛れて隠れ、機をうかがっていたんですね。

 果たして三人が加わり、神楽を倒せるのでしょうか?

 それでは!

 さようなら


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第202話 反撃開始

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 鈴音の先読みの能力に苦戦する神楽。

 鈴音の指示を受けて龍生も先読みし、攻撃を回避していく。

 優勢で戦いが進み、このまま勝利すると思っていた。だがしかし、鈴音の能力の制限時間は十分ほどしかなく、それが切れてしまうとガス欠を起こしてしまって暫く動けなくなってしまうというものだった。

 そのタイミングを狙って神楽は鈴音に攻撃を仕掛ける。だけど、神楽が鈴音を殺すことはできなかった。

 なんと、消滅したと思われていたライト、紗綾、霊夢の三人が現れ、神楽の攻撃を阻止したのだ。

 神楽との戦いも終盤戦へと突入!

 果たして勝つのは霊夢達か、それとも神楽か。



 それではどうぞ!


side三人称

 

 ライト、紗綾、霊夢の三人が一点が欠けた四角形のポジションで神楽のことを取り囲み、それを見た龍生が状況を察して自分が最後の一点の場所に立った。

 神楽は三人が生きていた事に動揺しているが、それは神楽だけではない。この場にいるシャドウと鈴音以外の全員が三人の生存に驚愕していた。

 

「お前ら、なぜ今更出てきた」

「タイミングを見計らっていたのよ。あんたが油断して、一番ダメージを与えられそうなタイミングを狙っていたのよ」

「へっ、それが正義の博麗の巫女様がやることかよ」

「最終的に勝てばいいのよ、勝てば」

 

 神楽がニヤニヤと口元を緩めながら聞くと、霊夢はゲスの効いた笑みを浮かべて答えた。確かにあれは正義の博麗の巫女がしていいような表情ではないものだ。

 霊夢と神楽の間で火花がバチバチと散っていた。

 そして霊夢がお札を構えると神楽も目付きを変え、背中から真っ黒な触手を伸ばして臨戦態勢に入る。それはライト、鈴音、龍生も同じだ。

 状況だけを見たら四人で囲んでいるのだから数的に圧倒的有利かと思われる。だが、相手はあの神楽だ。たとえ四人だとしても少しでも油断したらすぐに足元を掬われてしまうことだろう。

 

 だけど、この場に神楽を相手にして油断しているものは誰一人としていない。

 

 お互いに臨戦態勢に入ったまま、しばらくの間膠着状態が続く。

 辺りはシーンと静まり返り、静寂が五人を包み込んだ。

 しかし、突如としてその静寂を破ったのは神楽の触手が風を切る音だった。

 

 風を切るくらいの速度で神楽の触手が四人目掛けて放たれ、龍生は空喰を使用して防御し、霊夢は受け流す。紗綾とライトの二人は触手を切り伏せた。

 

「行くぞ炎々」

「炎々ってなによ!」

 

 ライトのあだ名に文句を言いながらも紗綾はライトと共に走り出し、二人同時にクレアを使用した。そして龍生もそれに合わせるようにクレアを使用して二人と同時に走り出す。

 霊夢だけは動かずにその戦況を見守っていた。

 三人を近づけないように放たれる触手を三人は回避したり、迎撃しながら神楽へと接近していくが、近づけば近づくほどその触手の威力は高くなるし、伸ばす距離が短くなればその分出せる触手の本数が増えるようで、三人が近づけば近づくほど触手の本数が増えて苦戦して近づけなくなっていく。

 

「《炎陣》」

 

 紗綾は炎を出しながら舞うように触手を斬ってどんどんと神楽へと接近していく。その攻撃の威力は炎も加わって先ほどとは段違いになっているため、なんと紗綾は一番最初に神楽の元へとたどり着いた。

 

「《極炎陣》」

 

 ついに神楽を間合いに捕らえた紗綾は大きく刀を振りかぶって炎の軌道を描きながら刀を神楽へと振る。だが、神楽はそんなものは気にしないとばかりに後ろ手で紗綾の頬をビンタした。

 その瞬間、パチンという音と共に衝撃波が放たれ、紗綾はものすごい勢いでぶっ飛ばされて壁に激突、壁にクレーターができるほどの衝撃で紗綾の骨が何本か折れてしまった。

 これはビンタの音に邪の力を込めたものだ。それによって紗綾はぶっ飛ばされてしまったが、逆に言えば音に邪の力を使った分、触手の量が減ったということになる。

 その隙を突いてライトが神楽を間合いに入れて刀を構える。

 ライトの刀にライトの霊力の色が浸透していく。ライトがクレア装を刀に使用したのだ。そしてそのライトの刀の中の霊力が渦を巻いてどんどんと強大化していく。

 

 ライトの眼が一瞬キランと光った、神楽はそう感じた。それほどまでに鋭い目つきで神楽の事を見据えていた。一挙手一投足を見逃さないと言わんばかりにまるで睨みつけているかのような視線だった。

 神楽は咄嗟に腕に邪の力を纏わせて腕をクロスし、防御の体制に入る。

 だけど、ライトはそんなの関係ないとばかりに刀を神楽へと振るった。

 

「吹き飛べ! 《風爆一閃》」

 

 ライトは神楽の肉体を斬った。

 やはりというか神楽の肉体は邪の力で強化され、硬くなっていたものの突如としてその場に竜巻が巻き起こり、神楽は竜巻にライトと共に飲み込まれて吹き飛んでいく。

 

 この竜巻には霊力が含まれていた。つまりはこの竜巻はライトが誘発させたものだということだ。

 

「真より俺の方が霊力の扱いはうまいんでな、あいつの霊縛波を参考にさせてもらった。あれをうまく改変すれば大きな渦となり、風を巻き込んで竜巻を発生させる!」

「なるほどな。だが、俺を竜巻ごときで殺せると思ったか? むしろお前の方が竜巻に殺されるだろ」

「そうか?」

「どういうことだ」

 

 するとライトはグッと手を握った。その瞬間、竜巻から大量の斬撃が放たれて神楽へと襲い掛かっていき始めた。

 突然の事に神楽はその斬撃を防ぐことができずに次々と襲い掛かってくる斬撃に肉体を斬られていく。

 その直後、ライトは竜巻の中から飛び出し、受け身を取って床に着地して床に刀を突き刺した。

 それを合図として竜巻はどんどんと細くなっていき、その竜巻の風は全て斬撃となっているため、神楽の体を大量の斬撃で切り裂いていく。

 

「竜巻・斬《風爆一閃》。真の奴が渦を巻いた霊力のエネルギーを利用してレーザーを放つならば、俺はその渦を利用して相手を吹っ飛ばす、切り刻む」

「く、凄まじい攻撃だが、一撃一撃が弱い。この程度のダメージなら邪の力ですぐに回復するぞ。ほら、この通り」

 

 そういうと神楽は邪の力を増幅させ、それを傷口に集める事によって傷を一瞬にして回復させてしまった。

 よく見てみるともう時間が経過していてさっきまでにつけられていた傷が完全に回復してしまっていた。

 シャロと彼方はその光景を見て絶望していた。あの程度の攻撃じゃ倒すことは絶対にできないということを思い知らされたからだ。しかし、実際に今神楽と対峙している四人は全く絶望の表情など浮かべていなかった。

 

「はっはっは、お前らじゃ俺を倒すことはできないんだよ!」

「そうか、じゃあ、とりあえずぶった切ってみるか。博麗!」

「もうできてるわよ」

「っ!」

 

 神楽は驚愕の表情を浮かべ、そして表情に焦りを見せた。

 神楽ほどの人物が焦るほどの出来事、それもそのはず。霊夢の使用するさっき使ったのよりも強力な結界が神楽を拘束していたからだ。

 だけど、神楽は音にだけじゃない。声にも邪の力を載せることができる。

 

「すぅぅぅぅっ! ばく…………っ!」

 

 息を肺いっぱいに吸い込んで言霊を発動させるのかと思いきや、神楽の声は周囲に届くことはなかった。そのため、神楽の言霊は不発に終わってしまった。

 この状況は四人とシャドウ以外は誰も理解できていなかった。

 この自然界で唯一声や音が全く届かない場所というものが存在している。

 

 それは真空空間だ。つまり、全く空気がない空間だと音が全く届かなくなってしまう。

 そして今何が起こったのかというと––

 

「俺の能力は穴をあけるんだぞ? 空気中に穴を開けて真空を作り出すのはお手の物だ。つまり、俺の能力はお前へのメタってことだな。まぁ、お前には俺の声は届いてないだろうけどな」

 

 龍生は神楽の顔の周囲の空気に穴を開け、擬似的に真空空間を作り出したのだ。

 それによって今の龍生の説明は全く神楽には届いていない。

 だけど、この能力は音に邪の力を載せることができる神楽に対してはかなり有効な力だ。それだけで一つの攻撃手段を完全に無効化することができる。

 

 だけど、この力は鈴音の《女帝の眼(エンブレムアイ)》同様に霊力の消耗が激しいため、すぐに解除する。

 

「このクズどもが!」

「私の仕事は妖怪退治、この幻想郷の平和を守らなければいけないの。幻想郷の秩序を乱す奴は神であろうとも許さない」

「っ!」

 

 気がつけば神楽の周囲には無数のお札が宙を舞っていた。それはまるで大量の蝶が夜空をキラキラと舞っているようなこうけいであった。

 これにはさすがの神楽も対処不可能だ。

 確かに声や音に邪の力を載せれば弾き飛ばすことは可能だが、そんなことを龍生が許すはずもない。

 そして拘束されている神楽にはもうどうしようもない状況だった。

 

「ライト、燐火!」

「あぁっ!」

「わかってるよ!」

 

 二人は同時にクレア装を発動し、刀に霊力を集めていく。

 ライトの刀は緑色に、そして紗綾の刀は赤色に染まっていき、ライトの刀の周囲には風が舞い、紗綾の刀は燃え盛り始める。二人の霊力、そして力のそのすべてが込められた霊力だ。

 そして二人は神楽を間に挟むように立つと同時に神楽へ向かって地面が抉れるほどの力で駆け出した。この瞬間だけは電光石火をも超えているかのような速度が出て二人同時に刀を構えて残像が生まれるほどの速度で刀を振るった。

 しかし、その二人が刀を直撃させたのは神楽ではなかった。神楽の少し上、その位置でライトと紗綾はお互いの刀を叩きつけ合った。

 

「ぐあああああああっ! 竜巻・斬」

「はぁぁぁぁぁぁぁっ! 炎陣」

『《暴風・乱(バーサーカー)》!!!!』

 

 二人がお互いの刀を受け流し空中でクロスしてすれ違った直後、その二人がぶつかり合った場所を中心として暴風が凝縮された風の球が出現し、それがどんどんと巨大化し始めた。

 その球の暴風は周囲の物を次々と破壊するような威力だった。

 霊夢はそのとてつもない暴風に吹っ飛ばされそうになるのを必死にこらえながら一言ぼそりとつぶやいた。

 

「これまたとてつもないものがでてきたわね」

 

 さすがの霊夢もこれは予想していなかった。

 当然だ、これはライトと紗綾の即興技なのだから。特訓なんかも一回もしたことが無い。だけど、二人はできると確信したため、行動に起こしたのだ。

 

「さて、やりますか! 霊符《無双封印》」

「ぐあああああ!」

 

 霊夢が周囲のお札を神楽へと一度に飛ばし、それを神楽は一つたりとも避けることが敵わず、直撃してしまう。

 そしてダメージによって神楽が怯んだ直後、頭上にあった風の球が変形し、人型となった。いや、角が生えて般若のような表情なのだから完全に人型と呼んでもいいのかわからないが、風が渦を巻いて出来上がった風の魔人とも呼ぶべき姿へと変貌を遂げた。

 

 その風の魔人は神楽の体の何倍もの大きさがあるであろう大剣が構え、神楽へとその大剣を振り下ろした。

 さすがに神楽もこれはまずいと判断し、背中に背負っていて今までずっと使ってこなかった大剣を鞘ごと手に取って邪の力で強化して風の魔人の剣を受け止めようとした。

 いかし、風の魔人の剣はただの剣ではない。あれは一種の竜巻だ。

 体をぶっ飛ばしたり引き寄せたりするような暴風が神楽を襲い、神楽はいともたやすくその竜巻の中に飲み込まれて体を切り刻まれ始めた。

 

 ここで初めて神楽は死を間近に感じた。

 全身を襲う激痛に叫びそうになるが、それは彼のプライドが許さなかったため、唇をグッと噛んで叫び声を我慢する。

 しかし、この攻撃は神楽が邪の力で再生するよりも早くダメージを与えてくるため、回復する暇がない。

 そこで神楽はある名案を思いついた。耐え切れないのならばこの技をどうにかして対処するほかない。それと同時に周囲にいるやつらへとダメージを与えることができる方法。

 

(この中にいる間はお前も俺の周囲の空気を取っ払うことはできねぇよな。そんなことをしたら俺にダメージを与えられなくなるもんな!)

 

 下種な顔を浮かべた神楽は肺いっぱいに空気を吸い込むとその場で叫んだ。

 

「竜巻よ、下にいる有象無象共を殺せ!」

 

 声に今使える全邪の力を込めて叫んだ。

 言霊は意識があり、身に着けていないものだったらば全て対象となる。弾幕も対象だ。

 つまりは霊力で作り出されたこの風の魔人も対象と言うわけだ。

 

 風の魔人は突然神楽への攻撃をやめ、神楽を竜巻の外へと放り出した。

 そして霊夢たちへと向き直って剣を構えた。

 

「そうだ、殺せ、こいつらを皆殺しにしろ!」

 

 この風の魔人は自分にすらも死を感じさせたほどの力を持っている。そしてそんな攻撃を自分よりも弱いこいつらが耐えられるはずがないと考えて勝利を確信していた。

 完全に慢心していた。

 そんな神楽の様子にシャドウは呆れかえって言葉も出なかった。

 仮にも神楽は戦いのプロだから昔、慢心して敗北した経験から学んで成長しているかと思っていた。確かに技のレベルは上がっていたし、身体能力も上がっていた。

 だけど、根本的な性格は何も変わっていなかったようだ。

 

(浅はかだな)

「死ねぇい––え?」

 

 神楽は素っ頓狂な声を出してしまった。何が起こったのかが全くわからなかったためだ。

 それもそのはず、もう勝利を確信していたというのに風の魔人の胴体にどでかい穴が開き、そして自分の左腕が木っ端みじんに吹き飛んでしまったからだ。

 その穴から先をのぞき込むとそこには拳を思いっきり振り下ろした後と思われる龍生が立っていた。

 

鬼裂(きれつ)




 はい!第202話終了

 ついに形勢逆転! 次々に神楽を追い詰めていきます。

 やっとかっていう感じですよね。結構神楽戦は長いことやってきてますからね。

 しかし、まだ終わりません。

 まだ終わらないということはもう一波乱あるということですね。

 いい加減にしろと言う気持ちも分かりますが、あともうすこしおつきあいください。

 あと、主人公が長らく出てきていないのはすみません。

 おそらくこの神楽戦中には真が起きることはありません。

 実はこんなに激しく険しい戦いをしているにもかかわらずこれが最終戦ではないんですよね。

 ちなみに安心してください。実力的には今回の敵で一番強いのが後にも先にも神楽ですから。

 それでは!

 さようなら


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第203話 最悪

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 ライト、紗綾、霊夢、龍生の四人が神楽を追い詰めていく。

 ライトと紗綾の連携、霊夢と龍生の援護によってどんどんと追い詰められていく神楽だが、神楽も負けじと真っ黒な触手を出して対抗する。
 しかし、ライトと紗綾の猛攻の前に触手が破れ、言霊で攻撃しようとするも、龍生に真空にされることによって声が出ない。

 そしてライトと紗綾の合体技である竜巻・斬––炎陣《暴風・乱(バーサーカー)》に追い詰められるも、機転を利かし、その暴風・乱を言霊で味方につけてしまう。

 だが、その瞬間、強烈な攻撃によって暴風・乱にでかい穴が空き、神楽の左腕が木っ端微塵に吹き飛んでしまったのだった。

「《鬼裂(きれつ)》」



 それではどうぞ!


side三人称

 

 龍生の拳から放たれた衝撃波によって正面にあったものが全てくり抜かれてしまったかのように消滅してしまった。

 そしてそれは神楽の腕も同様で先ほどまであった左腕が完全に消滅してしまっている。

 

 龍生の拳には龍生のクレアの霊力が纏わり付いている。つまり、今龍生はクレア装を使用しながら能力を発動したのだ。

 龍生のこの技を知っているのはシャドウだけだ。なぜならこの技はシャドウとの修行中に会得した技だからだ。

 

 真との修行だけではクレア装までしか会得することはできなかった。なぜなら真はまだクレアの本当の力を知らず、その力を最大限活用する方法を知らないからである。

 そこの部分をシャドウが補ったことによって龍生は技を完成させることができた。

 

「神楽、お前は昔から変わっていない。どんなに相手が自分より格下だとしても侮るな。その驕りでお前は今、その腕を弾き飛ばされたんだぞ」

「黙れ黙れ黙れ! 邪神である俺が人間ごときに負けるはずがないんだ。人間ごときに負けちゃいけないんだ!」

「いや違う。今のお前は邪神でもなければ神でもない、ただのそこら辺のゴロツキだ。お前はあの時も俺のことを侮ったせいで俺に殺された。全く成長していないようだな」

「黙れ黙れ黙れ! 俺は強いんだ、最強なんだ! こんな奴らはすぐに蹴散らしてやるよ!」

 

 シャドウの言葉に激昂した神楽は怒りのままに背中から真っ黒な触手を出して周囲にいるライト、紗綾、霊夢、龍生の四人に攻撃をしていくが、この四人もいくつものの死線を乗り越えてきた強者だ。

 今更そんな怒りに任せたデタラメな攻撃にやられるわけがなかった。

 

 全員、各々の方法でその触手を捌いていく。

 先ほどまでの強い神楽はもうここには居なかった。居るのはただの怒りに身を任せた喧嘩程度の攻撃しかしないゴロツキであった。

 

 神楽はシャドウ以外に四肢を破壊されたのは初めてだった。しかも、その相手というのがただの人間であるということが彼の精神に異常をきたし、正常な思考能力が欠如してしまったのだ。

 もう誰の目から見てもこんな攻撃をし始めた神楽には勝ち目などなかった。

 

「どいつもこいつも俺のことを苛立たせんじゃねぇ!」

 

 神楽の力がパワーアップした。なかなか攻撃が当たらないことに苛立って居るのだ。

 さらには神楽の霊力がどんどんと膨れ上がり、暴風のように周囲に吹き溢れ始めた。流石にこれには四人も飛びのいて一旦距離をおいた。

 

 この霊力の嵐は遠距離にいる紫達にまで影響を与えて居た。

 

「こ、これが一人が放つ霊力だとでもいうの?」

「だ、だけど、あれは怒りに身を任せているだけ。さっきみたいに考えて行動することができなくなっているよ」

 

 シャロの言う通りだった。

 怒りに身を任せ、技の威力はアップしているが、所詮はその程度。この実力者の集まりに通用するかと聞かれたら到底通用するものではないだろう。

 

「下がれ。悪影響だ」

 

 シャドウがそう言うと紫達の周りに小さいバリアのような結界が構築された。

 通常、霊力に当てられたからって体に悪影響が出ることはない。それで悪影響が出るならば今までの戦いで何度も体調を崩してしまっている。

 

 しかし、感情が込められた霊力だったら話は別だ。

 クレアのように正規の方法で感情を増幅して霊力に込めるならば大丈夫なのだが、今回のように怒りに我を忘れ、その大きすぎる怒りが霊力に影響を及ぼして含まれてしまっている場合は非常に危険だ。

 

 現にこの霊力に当てられてライト、紗綾、龍生は非常に苦しそうにして膝をついている。

 霊夢も少しこの霊力の悪影響を受けてしまっているのか口元に袖を当てて若干苦しそうにして居た。

 

「あ、あんた、すごい霊力ね。でもこんな霊力じゃ天下は取れないわよ」

「ウルセェ! テメェらは俺に、殺されるべきなんだぁぁぁぁぁ!!!」

 

 ついに激昂した神楽が怒りのままに背中の大剣を構えて霊夢へと走り出した。

 この霊力の悪影響を受けて体調を崩してしまっている霊夢じゃこの攻撃を回避しきれない可能性がある。

 流石にシャドウもこの状況を見逃すことはできないようで、走り出そうとしたその瞬間、シャドウは足を止めた。そして冷や汗を額に浮かべた。

 

(人間がそのクラスの技を使えるのかよ。あの博麗の巫女ってやつはバケモンだな)

 

 そうこうしている間にも霊夢に神楽の攻撃が迫ってくる。

 

「死ねぇ!」

 

 そしてついに神楽は霊夢へと大剣を振り下ろし、その攻撃を霊夢は回避しきれず、頭から一刀両断されてしまった––かのように思えた。

 神楽は霊夢を殺したと確信し、ニヤニヤと笑みを浮かべながら霊夢の方を振り返り、その瞬間に言葉を失ってしまった。

 

 なぜならその霊夢は綺麗に原型を保っており、全く傷ひとつついて居なかったのだ。

 しかし、今間違いなく神楽は霊夢のことを切り捨てた。

 だが、そこで神楽は先ほどの感触を思い浮かべて違和感を抱いた。

 

(今の感触、全く手応えがなかった。なんだ? 残像でも使ってんのか?)

 

 そんなことを神楽が考えている間にやれやれといった感じで霊夢が振り返り、神楽へと視線を向けた。

 その目はまるで神楽の心の中を見透かしているかのようだった。

 

「多分今あんたは残像とか考えているんでしょうけど、そんなものじゃないわ。夢想転生、私の最強の技よ」

「無双、転生だと?」

「っ!」

 

 夢想転生と言う言葉を聞いて龍生はすぐに霊夢に攻撃が当たらなかった理由がわかった。

 夢想転生は霊夢の最終にして最強のスペルカードで、霊夢の能力の特性を存分に活かし、この世界から浮くことによって別次元に存在している敵の攻撃を全く受け付けなくなると言うチートスペルカードだ。

 霊夢はこのスペルカードがあるから負けない。負けることなどあり得ないのだ。

 

「あんたの攻撃はもう当たらないわよ」

「っ!」

 

 夢想転生を使用したことによって霊力による悪影響も全く受けなくなっている。

 神楽が今の霊夢に勝てる要素などただの一つもなかった。

 霊夢の夢想転生はスキマを使用して引っ張り出せるような代物でもない。完全にこの世界から隔離されてしまっているのだから。

 

「俺が、負ける? 負けるだと? あり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ない! 絶対にあり得ない、あってはならない––っ!」

「終わらせてあげる」

 

 霊夢の手のひらに作られた霊力でできた巨大な陰陽玉。

 それを構えながら霊夢は神楽へと急接近していく。

 

「く、来るなぁぁぁぁぁ!」

 

 神楽は霊夢を遠ざけようとして真っ黒な触手を何本も放つが、それが霊夢に直撃することはない。

 言霊で地形を変えたり、剣山を作り出すが、この世界から浮いている霊夢にそんなのが通用するはずがない。当然衝撃波も直撃するわけもない。

 このスペルカードを攻略するにはガス欠になるまで耐久しなければいけないと言うのが基本で、逃げるのが一倍いいのだが、ただの人間相手に逃げるなど神楽のプライドが許すはずもなかった。

 

「ただの人間ごときがぁぁぁぁぁ!」

「あんたはもう終わりよ!」

 

 そしてついに霊夢が神楽に追いつき、その手に掲げている陰陽玉を神楽の腹に押し付けた。

 するとその瞬間、神楽を飲み込んで巨大化し始めた。

 この陰陽玉はとてつもない霊力の嵐が神楽の体を攻撃して行き、神楽は悲鳴をあげることすらできないほどのダメージを負い始めている。

 

 霊夢がその陰陽玉から手を離したその瞬間、その陰陽玉はまっすぐ飛んで行き、壁に激突して爆発した。

 その爆発の威力はものすごく、周囲の壁を吹き飛ばし、この場にいる全員が爆風によって少し飛ばされてしまうほどだった。

 

 そして砂煙が上がり、その砂煙が晴れたその先に見えたものは身体中ボロボロになってフラフラとその場に立つ神楽だった。

 

「お、俺、はぁ、つ、よい、んだぁ! 負け、ない。ぜ、ったいに、負け、ない。負けられ、ないんだ」

 

 その神楽は誰がどう見ても満身創痍であり、もう立つのでやっとの様子だった。

 霊夢はもう一撃加えて本当に倒そうと考えてお祓いぼうを構えるものの、すぐにそんな必要はないと悟った。

 ついに神楽はその場に前のめりになって倒れたのだ。

 

 流石に神楽といえどもこれほどのダメージを負って居たら生存するのは奇跡でしかない。

 全員がこの瞬間に勝利を確信した。

 

「つ、つ、ついに」

「か、神楽を倒したぁぁぁぁぁっ!」

「やった! やった!」

「つ、疲れたぁ」

「あいつ、強すぎるのよ」

「よかったぁ」

「だが、誰一人として死んでない。負傷者、意識不明者は大勢だが、誰一人として犠牲者は出て居ない。それだけが救いだな」

 

 紫、シャロ、彼方、龍生、紗綾、鈴音、ライトが各々喜びを表現する。

 シャドウもこの状況を見てホッと一息ついた。

 流石にシャドウも放任主義とはいえ、この状況にはハラハラドキドキして居た。

 

(ルミア、お前の敵、ついに倒したぞ。これがお前の大切な世界の住人たちだ。みんな、強くなったぞ)

 

 シャドウは感慨深くなって思わず近くにいた彼方の頭を優しく撫で始める。

 

「な、何?」

「ルミア、やったぞ」

「る、ルミアって誰よ!?」

 

 神楽という強敵を倒したことによって完全に気が緩んでしまっているみんなだが、敵はあと一人いる。

 今回の異変の主犯だと思われる人物との戦いが。

 


 

 神楽が目を覚ますとそこは真っ暗な空間だった。

 いや、その真っ暗な空間の中に裁判所のようなセットが配置されており、異様な空気を醸し出していた。

 

(ここはなんだぁ? どうやら邪神界のようだが、こんな場所は見たことがねぇ。それに、体が思うようにうごかねぇ。どうなってやがるんだ)

 

 すると神楽の体は勝手に歩き始め、ゆっくりとゆっくりと証言台へと歩み始める。

 神楽の歩みとともに左右の灯篭に火が灯り、神楽の進む道を照らしていく。

 今の神楽の気分は処刑台に登っていく死刑囚のような気分だった。

 

 そしてついに神楽が証言台へとたどり着いたその瞬間、覆面をかぶった人物が裁判官席に出現した。

 その人物は性別が全くわからない格好をしていて異様な雰囲気を醸し出している人物だった。

 

「元邪神ナンバー154682、神楽とはお前で間違いないな」

「あぁ、俺が神楽だが、どうした」

「お前は死んだ、よって今後どうするかの裁判が行われる。当然いまの記憶はなくなり、今後邪神として生まれ変わるか、神となるか、人間として生まれ変わるか、それが決まる」

「ほう、ここはそのための施設、差し詰め俺の未来を決める裁判といったところか」

「飲み込みが早いな」

 

 ここは邪神界。

 だが、邪神界の中でもさらにお口にあり、邪神の中でも数少ない限られた邪神しか知らない神聖な場所。

 人間たちでいう三途の川に当たる場所、それがこの邪神裁判所という場所だ。

 

 本当に死んでしまった邪神たちはまずここにきて裁判を受けることになる。そして活躍によって今後の運命が決まるという場所だ。

 

「だが、お前の場合は悪事を犯しすぎたというのがあるな」

「はぁ? 悪事だと? 邪神なんて悪事してなんぼだろ」

「邪神でも我々は世界の均衡を保つために存在している。神が作り過ぎた世界を我々が侵略して均衡を保つ、それが我々の仕事だ。人々を嬉々として虐殺するのは世界の秩序に反していると言わざるを得ない」

 

 邪神は感情の起伏が少なく、神たちが作り過ぎた世界を侵略して均衡を保つために存在している。その秩序からはいくら邪神といえども外れることは許されない。

 それは邪神たちの中では常識のことだというのに、神楽はそれを反して必要のない世界まで侵略したり、嬉々としてその世界の住人を虐殺したりなどをしていた。

 これは明らかに秩序に反している行為だ。だからこそ、一度シャドウに殺されたときに神楽は邪神から除外されてしまったのだ。

 

 しかし、神楽はそれを死んでしまったせいと解釈してしまい、シャドウも知っている邪神が死んで生き返った例を知らないため、勘違いしていたのだ。

 

「じゃあ、俺はどうなる」

「まぁ、お前のしたことを考えると、消滅だな」

「っ!」

 

 そこでようやく神楽の表情が変わり、焦りのような表情が見られた。

 流石に神楽も消滅するというのは嫌なのだろう。なにせ、転生するのとは違ってもう自分の魂は消えてしまって存在がなくなってしまうのだから。

 消えてしまうという恐怖が神楽にも存在していた。

 

(あいつらだ、あいつらのせいで俺はこんな目に遭っているんだ。全部あいつらのせいだ)

「それじゃあ、消滅してもらおう」

(俺はまだ消えられない! あいつらをどんな手を使ってでも殺してやる!)

「さようならだ、154682」

 

 そういって不思議な人物が神楽へと手をかざした瞬間だった。

 どうやってか、異常な神楽の力が発揮され、謎の力で抑えられていた体が動き出し、不思議な人物へと駆け出した。

 流石にこの状況には不思議な人物も驚きを隠しきれなかった。

 

「この俺を再臨させろぉぉ!」

 

 この日、前例がない初めての大事件が発生した。

 邪神裁判官が殺害されて裁判に書けられている邪神の魂が現世へと逃亡し、そして––

 

「シャロ、紫、彼方。そこらへんで倒れている奴らをとりあえずスキマの中に避難させてくれ」

「わかりました」

「ええ、わかったわ」

「うん!」

 

 そうしてシャドウも含めた四人が倒れているみんなを安全なスキマの中へと避難させようとしたその時、とてつもないほどの邪の力がこの場にいる全員を襲った。

 

「く、苦しい」

「な、何、これ」

 

 流石にこれには神である彼方とシャロにも効いたようで、二人とも苦しそうにうずくまってしまう。

 これはかなりの濃度の邪の力であるため、同じく邪神上がりであるシャドウにも影響を及ぼし、頭が痛くなり始めている。

 

「キタキタキタキタ! ついについについに、再臨を果たしたぞ」

「こ、この声は神楽!」




 はい!第203話終了

 ついに神楽を倒したと思いましたが、まさかのまさか、執念で神楽が復活し、ついに再臨を果たしてしまいました。

 果たしてみんなはどうなってしまうのでしょうか?

 ただ、一つ言うとしたらこんな悪事を働く奴にはろくな運命が待っていないと言うことですね。

 ちなみにシャドウはみんなにルミアのことについては伏せて話していたため、みんなはルミアのことは知りません。

 それでは!

 さようなら


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第204話 秩序を乱した者の末路

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 龍生の技によって体を欠損させられた神楽は精神状況が不安定になってしまう。

 そこでシャドウが神楽を煽ったことによって神楽は激怒、冷静さを失った攻撃を仕掛けてくるが、そんな攻撃にみんなが当たるわけもない。

 しかし、怒りが爆発したことによって周囲に漏れ出している霊力の中に怒りの感情が込められ、それが周囲にいるみんなの体調に悪影響を及ぼしてしまう。

 そこで霊夢がついに自身の最強のスペルカード、《夢想転生》を使用して神楽を倒すことに成功した––かのように思われた。

 神楽は死後、邪神裁判所にて今後どうなるか決められるときに神楽は消滅すると告げられたことによって神楽は初めて焦り、なんと邪神裁判官を殺害して生き返ってしまう。

 そしてなんと、とんでもないほどの悪行を行ったことによって一瞬で再臨を果たしてしまった。

 果たしてとてつもないほどの力を手に入れた神楽を倒すことはできるのか?



 それではどうぞ!


side三人称

 

 神楽の声が聞こえたその瞬間、この場にいる全員が神楽の方へと振り返った。

 そこには五体満足でものすごいパワーを溢れ出しながら立っている神楽が存在していた。

 

 先ほどのように有害な霊力を出すと言うことはなくなったが、それに対して邪の力の増幅量が半端じゃなかった。

 神楽の背後から何やら真っ黒なオーラのようなものが放出されていて、みんなはすぐにこれが邪の力のオーラなのかと言うことに気がついた。

 今までは濃度が低くて可視化できていなかっただけで邪の力も外に漏れ出しているのだ。

 霊力も同じようにクレア王などを使って霊力を増幅すると可視化できるようになる場合がある。

 

「これは、まずいな。奴は今、確実に死んだはずだ。魂に邪の力を使って復活できるのは一回だけだ。それはどれだけ時間が経過しようとも、どれだけの成果をあげようともそれは増えることはない。奴は俺に殺されたときに一回使っているはずだ。だからもう復活することはできないはずだ。こんなことは前例にないっ」

 

 あれだけ先ほどまで冷静に余裕を持って状況を見ていたシャドウだったが、ここに来て初めて頭が混乱していた。

 シャドウは神や邪神のことについてはこの場にいる誰よりも知識を持っていて詳しいのだが、この魂に邪の力を纏わせて復活した後に再度復活すると言うことに関しては前例がないため、シャドウも今何が起こっているのかが全くわからなかった。

 

 そんな風に混乱しているシャドウを見て神楽は楽しそうにケラケラと笑い始めた。

 

「お前が混乱しているのは珍しいなぁ、シャドウ」

「あぁ、だが、お前がこの世の秩序に反したことをしたと言うことだけは今のこの状況でわかった」

「あぁ、だが、もうそれはいいんだよ。俺はとっくに秩序に反しているとして消滅させられるところだったんだからな。すでに犯しているならば、もう関係ない! これからはもう好き放題させてもらうぞ、シャドウ!」

「神楽っ!」

 

 神楽はシャドウにそう宣言すると地面が木っ端微塵になるほどの力で飛び上がり、空中で背中に邪の力で翼を生やして空中にとどまった。

 今の神楽はもうシャドウの言葉は一切届くことはない。今までも秩序という概念は神楽の中にはあまりなかったが、今の神楽は事実上の死刑宣告をされたことによってそこのタガが外れてしまい、もう誰にも手をつけることはできない状態になってしまった。

 

 完全に暴走してしまっている。

 

「まずい––っ! くっ!」

 

 ものすごいエネルギー波が神楽から放たれて咄嗟にみんなをかばうようにシャドウが受けたが、シャドウですらぶっ飛ばされてしまい、背後にある壁に激突し、背中を強打する。

 シャドウだからこの攻撃を受けても軽症で済んだが、ほかの人だったら当たりどころによっては致命傷にもなり得た一撃だった。

 

「俺がどうやってこっちに来たか知りたいか? シャドウ」

「チッ」

「そんなに知りたいか!」

 

 神楽は自分が優位な状況に立って楽しくなって来たのか、ケラケラと笑いながら聞きたいとも言っていないシャドウへ向けて一方的に話し始めた。

 

「俺はな、死んで邪神裁判所という場所に行ったんだ」

(邪神裁判所だと? なんだそれは、邪神の裁判所ということなのか?)

 

 あらゆる知識を持っているシャドウでも流石に邪神裁判所のことについては全く知らなかった。

 なぜなら、その邪神裁判所はトップシークレットとなっており、調べ上げることも不可能な場所なのだ。

 そしてもちろんそこに行った邪神は記憶を消されて新たな生を受けることになるので、覚えているはずもない。

 

「そこでは死んでしまった邪神たちを今度、何に生まれ変わらせるのか、ということを決めることになっているようだった」

(なるほど、いわゆるあの世の一種というわけか)

「そこで俺はこう言われたんだ。あまりにも秩序と反する行動が多かったから俺の存在を消滅させるとな」

 

 その一言にシャドウは目を見開いて驚いていた。

 シャドウは神となってからは知識を得ることが趣味のようになっていたため、今彼の知らない知識が神楽の口から出て来たことによって態度は興味なさそうな態度を取っているが、内心は興味津々だった。

 

 そこでシャドウは今までの神楽の行動を思い出してみることにした。

 必要のない殺戮、それを嬉々として行う様。自分の知っている秩序、神は世界を創造し、邪神は神が作り過ぎた世界を侵攻して減らすという均衡が崩れていた。

 昔はその秩序ということをシャドウも知らなかったため、何も気にしてはいなかったが、必要以上に殺していたことを思い返すと確かに秩序を乱していたなとシャドウの中で納得する。

 

「だけど、俺も流石に消滅はしたくないもんだ。だから俺は邪神裁判官を殺し、そして生き返る権利を強奪したというわけだ」

「っ、お前、お前は上官である邪神裁判官を殺したんだな」

「あ? なんだお前、俺のことをこの世のものとは思えないものを見るような怯えた目で見やがって……。なるほどな、お前は強くなった俺の力を感じて怯えているというわけか」

(違う、そんなんじゃない。神楽、お前はなんて恐ろしいことをしてくれたんだ。だが、そのおかげで勝機が見えたぞ。これは耐久戦だ!)

 

 シャドウは神楽の言葉の中から勝機を見出し、ほんの一握りの希望を抱いた。

 この情報だけは知っていた。こんなにやばいことをしでかしてしまったやつの末路を、その運命を。

 なにせ昔、(神力水)を下界に置き去りにした際にシャドウが実際に味わいそうになったことなのだから。

 あの時はお咎め(・・・)で済んだが、神楽ほどのことをしでかしていたらどうなってしまうのか、というものをシャドウは想像がつかなかった。

 そして恐ろしくて本人(・・)に聞くこともできなかった。

 

 でも、今はそれが頼もしく感じた。

 

「お前ら、死ぬな! ここは幻想郷じゃない。死んだら魂がどこへ行くのか、わかったもんじゃねぇ。死ぬな! これは命令だ。どんな手を使ってでも生き残れ! あいつを倒そうなんて考えるな。生きることを最優先に行動しろ。じゃないと、死ぬぞ!」




 はい!第204話終了

 やっとこの戦いの終わりが見えて来ましたね。

 四ヶ月ほども続いたこの長き戦いに終止符が打たれます。

 ちなみにこういう話があります。

 昔、シャドウが知らないだけで、神楽同様に逃げ出した邪神がいました。しかし、その邪神の存在は歴史とともに抹消されてしまったのです。

 そしてその結末を知っている人によると、世にもおぞましい光景で見ていると精神が崩壊してしまいそうになったため、最後まで見ていることができなかったとのことです。

 そしてそれが神楽にも迫って来ています。

 さて、次回耐久戦です。

 ちなみに第187話『紗綾と春人』の内容を覚えている方はいますでしょうか?

 それでは!

 さようなら


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第205話 驚愕、再臨の力。シャドウ敗北!?

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 なんと復活してしまった神楽はシャドウに得意げにその経緯を話す。

 その話を聞いたシャドウは驚愕した。世界の秩序を乱した者がどうなってしまうのかを、シャドウは知っていたからだ。

 そしてシャドウはみんなにどんな手を使ってでも生き残れと命令した。

 これは防衛戦だ。



 それではどうぞ!


side三人称

 

「生き残るだとぉ? 再臨した俺の前でそんなことが本当にできると思っているのか?」

「あぁ、思っているさ。だってこいつらは全員、海藤の仲間なんだからな。あの人が信じた海藤の信じた仲間たちというやつを俺は信じたい」

「へぇ、お前が信じたいなんていうとはな。本当に滑稽だな!」

「っ!」

 

 突如として光の速さでシャドウへと飛んでくる真っ黒な触手。それをシャドウは咄嗟に掴んで止めたものの、一瞬反応が遅れたせいで浅いが胸に鋭い触手が突き刺さった。

 あとコンマ1秒遅れていたらシャドウの体は完全に串刺しにされていたことだろう。

 

「信じるとか、仲間だとか、そういうのは俺が一番嫌いなものだ! 信じられるのは俺自身の力だけだ!」

「っ」

 

 次に神楽は大量の触手を何もない空間から生やし、シャドウたちを取り囲んでしまった。

 神楽は再臨したことによって新たに空間に邪の力を流し込むことができるようになってしまったのだ。そして邪の力の量も増幅したことによって先ほどまでとは比べ物にならないほどの触手がシャドウたちを囲み、光を全く通さないくらいにぎっしりと詰まったドーム状に絡まった。

 これではどこから触手が来るのかが全くわからない状態だ。

 

「どうすりゃいいんだ」

「生き残れって言ったって」

「はっきりと言って無理ゲーだよな」

 

 この神楽の技に少し絶望感すら覚えているライト、紗綾、龍生。

 だが、そんな中でもシャドウは冷静に周囲の様子を観察し、目を輝かせた。

 神楽はシャドウたちの視覚を奪って暗闇の中で触手の猛攻を繰り出すために取り囲んだのだが、これは間違いだった。

 

 シャドウの能力は【闇を支配する程度の神の能力】、この空間は逆にシャドウにとって有利に働く。

 

「お前ら、偽海藤、お前はまだ技を隠してるだろ。これを突き破れ!」

「偽って……まぁ、いい。俺もこんなところで死ぬのはごめんだからな」

 

 シャドウの指示によってライトは刀を構え始める。

 だが、みんなはこんなものを本当に突き破ることができるのかと不安になっていた。

 どう見てもこの触手は先ほどの触手よりも頑丈なものになっており、並大抵の攻撃じゃ突き破ることはできない。

 さっきライトが見せた竜巻・斬ではおそらく突破できないと思える代物。

 

 だが、ライトは自信ありげに刀に霊力を込め始めた。

 

「何をしようとしているかは知らんが、やらせんぞ!」

 

 周囲の触手が一斉にライトへ襲いかかる。

 だが、その触手は一瞬にして全て破壊されてライトに直撃することはなかった。

 もちろんその触手を破壊したのはシャドウだった。

 

(どうやらこの分厚い触手の壁はこっちから外の世界への霊力移動を遮断しているからスキマは使えないようだな。だが、偽海藤の一番の火力を耐えきることはできるかな?)

 

 ライトの刀の中では竜巻・斬の時同様に霊力が渦を巻いており、まるで霊縛波を刀の中で生成しているかのような状況だ。

 ライトが使おうとしている技は溜めが必要で敵への命中率は低めの技ではあるが、その威力はライトの技の中で一番高いと言っても過言ではない。

 

「もっとだ、クレア装」

 

 さらにはクレア装までも発動し、クレアの霊力をも全力で刀の中に注いでいく。

 そしてついに刀身が霊力の色に光輝き、霊力が完全にたまりきったことを告げた。

 その刀身の周りではやはり竜巻・斬の時と同じように霊力が渦を巻いている。

 するとライトはその状態で突きの構えをした。

 

「これが俺のどこまででも飛んで行く超絶破壊力の奥義、竜巻・突《破壊の槍》!」

 

 ライトが触手の壁の方を向いて刀を突き出したその瞬間、逆さまの竜巻が剣先から放たれて鋭利な竜巻きの先が触手の壁に激突した。

 しかし、これは一本一本の触手とは違ってさっきよりも強度がアップした触手が複雑に絡み合って強度をあげているため、なかなか突き破ることができない。

 だけど確実に、そして着実に竜巻きが触手の壁を抉って行く。それをなんとか止めようと壁は自動修復をして行くが、ライトの攻撃力の前には修復速度が追いつかない。

 

 そしてついに––っ!

 

 ズシャングオオオオオオオオンダーーーーーーン

 

 竜巻きを利用した破壊力抜群の槍が触手の壁を突き破り、神楽の真横スレスレを通って神楽の背後にある壁を木っ端微塵に破壊した。

 そして触手の壁は一部分が消滅したことのよってもろくなり、ボロボロと崩れ落ちてなくなる。

 

「っぐ、結構霊力使うんだよな」

 

 霊力を大量に使用することになってしまったライトはその場に膝をついて息を切らす。

 その瞬間、再び光の速さで触手が飛んできて今度はライトへ向かってきた。

 だが、その触手はライトに直撃することもなく、その前にシャドウが飛んできた触手を踏みつけて侵攻を止めた。

 

 流石にこの状況で傍観を決めるほどシャドウも愚かじゃないので、臨戦態勢に入った。そしてそんなシャドウのことを見て神楽は愉快そうに笑った。

 

「くかかかかかっ! やっとその気になったかシャドウ! 俺はお前を殺すために蘇ってきたからなぁっ! 今の俺ならお前を簡単に殺せる!」

 

 その瞬間、全方位からシャドウへ向けて触手が飛ばされた。

 

「忘れたか? 俺にそれは効かない。滅符《ダークデリート》」

 

 シャドウがスペルカードを宣言して指をパチンと鳴らしたその瞬間、周囲に存在していた全ての触手が消滅してしまった。

 まるで先ほどの再現のような光景だった。

 

「今のは偽真の力を知りたかったから偽真にやらせたが、あんなもんは俺には効かないんだぞ?」

「そうか、なら、これはどうだ!」

 

 するとさっきまでの幻想郷のみんなの戦い方を参考にしたのか、神楽は周囲に邪の力をふんだんに使用した弾幕を作り出した。

 その色は紫なため、ダークデリートの対象外となってしまっている。

 周囲に浮かべられたその弾幕は回避するスペースがないと感じるほどに密度が高く、そしてそれら一つ一つから邪の力が放たれているため、普通の人は近づくだけで体調を崩しかねない攻撃だ。

 

 背後には幻想郷のみんながいる状況、その状況ではシャドウがこれを回避したらみんなに直撃してしまい、最悪全滅してしまう。

 

「っ、刻雨!」

 

 シャドウはそう叫ぶと神楽へ向かって走り始めた。そして助走をつけると神楽が空中にいるため、空を飛んで神楽へと接近して行く。

 

「愚か!」

 

 ついにシャドウへ向けて弾幕が放たれてしまった。

 その弾幕はなんと複雑に動き回り、全く弾道が予測できない。突然曲がり、突然止まる、そして突然スピードアップするなどやりたい放題だ。

 しかし、シャドウはその全てを冷静に見極め、最小限の動きで回避して行く。

 そしてどんどんとシャドウは弾幕を回避して神楽へと接近して行く。

 

 それを見てついに神楽はその背中の大剣を抜いた。そして自分の弾幕を回避し続けるシャドウへ一言放った。

 

「回避し続けていていいのか? 下にいるやつらがボロボロになるぞ」

「大丈夫だ。うちには最強の盾がいる」

「何? ––っ!」

 

 神楽はシャドウの言葉に弾かれるように下を見てみると、なんと龍生が空絶を使用して全ての弾幕からみんなを守っている姿が見えた。

 龍生の空絶は物理攻撃を全て無効化するほどの最強の盾だ。このくらいの攻撃ではビクともしない。

 

 それを見て下の奴を攻撃しても意味がないと判断し、神楽はシャドウに集中した。

 

「ふん、確かに下に攻撃しても防がれるようだが、お前はどうだ? 俺に勝てる見込みがあってきたのか?」

「知らねぇよ。ただ一つわかっていることは、お前は確実に死ぬということだ」

「あ? 俺が死ぬ? バカもほどほどにしねぇと痛い目にあうぞ。今の俺がどうやって死ぬっていうんだ? 今の俺はお前より強い!」

 

 シャドウは霊力で強化した拳を、神楽は邪の力で強化した大剣を振り下ろした。

 一瞬は互角のように見えた。だが、すぐにその力の差は浮き彫りになった。

 

「ぐぅぅぅぅぅっ!」

 

 なんと、シャドウが神楽の大剣に吹っ飛ばされて壁に激突してしまったのだ。

 

「くはははは! やっぱり死ぬのはお前のようだな、シャドウ」

 

 神楽が再臨してからというものの、シャドウは半ばヤケだった。

 自分と同じか、それ以上の力を手にしてしまった神楽から気を失っている人もいる中でその全員を守るというのは至難の技だったからだ。

 

 そして吹き飛ばされ、壁に激突して力勝負で神楽に敗北してしまったシャドウはというと––

 

(あぁ、そうか海藤たちはいつもこんな気持ちで強敵たちと戦ってきていたんだな)

 

 などという場違いなほどに呑気なことを考えていた。

 そんなシャドウの脳裏に一人の人物の顔が浮かび上がってきた。それは、この幻想郷のことを誰よりも大事にしていて自分にこの幻想郷のことを託してきたルミアの顔だった。

 

「そうだな、あの子から笑顔が消えるのは死ぬよりも辛いもんな」

 

 そう独り言をつぶやくとシャドウはゆらゆらと飛び上がった。

 

「絶対に守る」

「ふん、お前ごときがあいつら全員を守り切れると本気で思っているのか?」

「あぁ、ここからは俺も本気だ」

 

 その瞬間、シャドウの周囲にいるもの全員の意識を一瞬にして刈り取ってしまいそうなほどのものすごい威圧が放たれた。

 いや、これは威圧ではない。神力だ。

 神力が常軌を逸したほどに放たれ、周囲に襲いかかったのだ。

 そして神力にはシャドウの今の感情、神楽への怒りが込められていた。

 

「こ、これってっ!」

「まさか」

「間違いない。クレアだ!」

 

 なんとシャドウはクレアを発動させて見せた。

 初めてみる神力を使用してのクレアに紗綾、龍生、ライトは驚きを隠しきれない。

 しかも、それは神力を使用しているので霊力を使用した地上の者が使うクレアとは一味も二味も違う者だ。

 

 神が使うクレア、これはこう呼ばれている。

 ––クレア(しん)

 

「へ、そんな力がなんだ。できるもんなら守ってみせろ!」

 

 そういうと、神楽は邪の力を大剣に込めて邪の力を使用した霊力斬、邪悪斬を下にいるみんなに向けて放った。

 その斬撃は空気を切り裂きながら地上へと向かって行く。

 それを見た龍生は慌てて空絶を使用して防御をしようとするものの、その邪悪斬が巨大なゆえに龍生の空絶だけじゃ守りきることはできない。

 万事休すかと思われたが、その次の瞬間には一瞬にしてみんなの元へ戻ってきた。

 

「暗黒武装」

 

 するとシャドウは周囲にある影を操り、自分の腕に纏わせたかと思ったら、思い切り振りかぶってその拳を巨大な斬撃に叩きつけた。

 その瞬間、巨大な斬撃は弾け飛び、消滅してしまったことによって誰一人としてその斬撃に当たることはなかった。

 

 だが、シャドウとしては平気ではなかった。

 

(クレア神、それに暗黒武装まで使ったのにこれかよ、恐ろしいな再臨ってやつは)

 

 シャドウの腕は暗黒武装によって強化されていた。だが、その拳は殴り飛ばしたことによって切り傷のようなものが入っているし、影を操って強制的に腕を動かしたようなものなので、腕へのダメージも深刻だった。

 それでもシャドウの技が通用しなかったわけではなかったというのがシャドウの希望となっていた。

 

「海藤、お前の命を捨ててみんなを守る気持ち、今ならわかる。俺も命を捨ててまで守りたい奴がいるからな。だから、神楽、全力で相手をする!」

「そうこなくちゃ面白くない! 全力のお前をぶちのめしてやるよ!」




 はい!第205話終了

 なんと、シャドウの力に追いついてしまった神楽。

 もう他のみんなでは対処のしようがないですね。まぁ、霊夢の夢想封印ならなんとかなるかなくらいですね。

 次回くらいに神楽戦終わらせることができればいいなという願望がありますが、どうでしょうか。

 それでは!

 さようなら


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第206話 クレア神VS()再臨 シャドウ、決死の防衛戦

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 ついに始まる再臨した神楽との戦い。

 ライト、紗綾、龍生などの強者ですら絶望感を抱く中、シャドウは的確な指示で触手の壁を打ち破る。

 そしてシャドウと神楽の戦いが始まるものの、神楽はシャドウと戦いながら下にいる霊夢達に攻撃をする。
 しかし、その攻撃は龍生の空絶によって防御に成功する。

 だが、神楽はシャドウの力を上回り、力比べでシャドウは敗北してしまう。
 そこでついにシャドウは本気を出し、神の使う最強のクレア、クレア神を発動させ、ここから反撃開始かと思われた。だが、しかし、クレア神を発動させ、強化した拳は神楽の斬撃によって切り傷をつけられてしまった。

 これはシャドウの力をまだ神楽が上回っていることの証拠である。

 果たして神楽を倒すことはできるのでしょうか?



 それではどうぞ!


side三人称

 

 シャドウはキッと神楽のことを睨むように見据えると、神楽以外誰も目で追うことができないほどの速度で飛び上がって神楽へと接近した。

 しかし、この速度でも再臨を果たしている神楽の視界から外れることは叶わない。

 

 そんな状態で神楽を倒せるとは全くシャドウも思っていないが、これは防衛戦だ。倒せなくてもいい。

 下にいる奴らを死なせないことが目的なのだから。

 

 そしてシャドウが拳に神力を込めて殴りかかると、神楽は大剣に邪の力を込めてシャドウの拳を受け止め、さらには薙ぎ払ってシャドウを壁へと叩きつけてしまった。

 

「かはっ」

 

 シャドウは叩きつけられた時の衝撃で口の中を切ってしまい、血を吐き出す。

 骨が何本か今の一撃で折れたようで、体の痛みでうまく体を動かせないが、止まっている暇などない。なにせ、止まったら死が待っているのだから。

 

「っ!」

 

 気がつけば目の前に邪の弾幕が大量に迫ってきていた。

 それを認識した瞬間、シャドウは近くの影を操って自分の体を強引に動かすことによってその弾幕を回避し、影を操って拳を作ることで影の拳を神楽へと飛ばした。

 

「その程度の攻撃、効かないわ!」

 

 しかし、その攻撃は神楽の大剣によって一刀両断され、神楽に攻撃が届くことはなかった。

 神楽の攻撃はシャドウを追い詰めるほどの力があるのに、シャドウの攻撃は神楽を追い詰めるに至らなかった。これが何を意味するのか、猿でもわかることだった。

 

「だぁぁぁぁぁっ!」

 

 シャドウは周囲の影を大量に操っていくつもの拳を作り出して神楽へ飛ばした。

 しかし、その攻撃には神楽は触手をぶつけて相殺するのではなく、打ち破って見せた。

 

「滅符《ダークデリート》」

 

 慌ててシャドウは目の前の触手を消滅させようとするものの、少し間に合わず、急所に飛んできていた触手は消滅させることに成功したが、かなりの数の触手がシャドウの体に突き刺さった。

 すぐに残りの触手も消滅させるものの、もうすでにシャドウのダメージは深刻だった。

 

「はぁ……はぁ……」

「ケハハハハ、滑稽だな。嫌な奴が惨めな姿を晒しているのがこんなに面白いこととは思わなかった。さぁ、もっとだ、もっと苦しんでくれ。俺が味わった屈辱はこんなもんじゃないぞ!」

「っ!」

 

 神楽が弾幕を作り出すと同時にシャドウは自分の体に影を纏わせるとダメージが深刻で思うように動けない自分の体を無理矢理動かした。

 そんなシャドウに対して神楽の弾幕の雨が降り注ぐ。

 しかし、その弾幕の速度はシャドウには見えているので、影を操って自分の体を強引に動かし、回避するのは容易ではあったが、ボロボロの体を強引に動かすのは負担が大きかった。

 

「ブースト!」

 

 今度はシャドウから仕掛けた。

 シャドウは影で強引に自分の体を動かし、自分の限界を超えた速度で神楽へと走り出した。そのおかげで、神楽の視界から外れることに成功した。

 

「っ!? どこに行きやがった。」

 

 突如としてシャドウが視界から消えたことによって困惑を隠しきれない様子の神楽にシャドウは自分の限界を超えた威力の拳を背後から叩きつけた。

 それによってやっとシャドウは不意をついてまともな攻撃を神楽に与えることに成功し、神楽を殴り飛ばすことに成功した。

 

 そして壁に神楽が激突し、砂煙が上がったかと思ったその次の瞬間にはその砂煙の中から大量の触手がシャドウ目掛けて飛んできたため、自分の体を覆っている影を解除して慌ててシャドウも大量の手を作り出し、触手を掴んで止めて見せた。

 その止まっている隙にシャドウはすべての触手を消滅させて見せたが、これだけ力を使っているので、消耗が激しく、息も上がっていた。

 

 一方、神楽もシャドウと同じくらい能力は使っているが、今殴られて壁にぶつかったダメージはもうすでに回復し、全く息も切らしていなかった。

 

「はぁ、はぁ」

「辛そうじゃないか、シャドウ」

「はぁ……おま、えは、ずいぶ、んと余裕そう、じゃないか」

「当たり前だ。シャドウ、いいことを教えてやろう。再臨した途端に俺はな、とてつもない力を得ることに成功した。今までの俺の力の比じゃないくらいに。体力も何百倍にも膨れ上がった。つまり、今の俺の体力はほぼ無限ということになる!」

「はは、化け物め」

 

 流石にこの情報にはシャドウも笑うしかなかった。

 自分はもうすでに能力の多用によって体力が尽きようとしているというのに、神楽の体力はまだ無限に近いほどにあるという情報はシャドウにとっては絶望以外の何事でもなかった。

 その次の瞬間、疲労によって思考がうまく定まっていない中、その瞬間を突いて特大の触手がシャドウに襲いかかってきた。

 

 その攻撃にシャドウは反応しきることができずに地面へと叩き落とされてしまった。

 

「か、は」

 

 流石にこの攻撃にはシャドウも視界がチカチカとし、意識が一瞬飛びかけた。

 だが、意識が飛んでいないだけで、全く思考は回っておらず、戦う気力はもう残されてはいなかった。

 

(あぁ、視界が白黒する。能力(ちから)も解除されていく。力が入らない。起き上がれない。遠い、すごく遠いところに神楽がいる。自分の出血を止める力さえもう残されていない。人間だったらとっくに失血死している。こんなに血を流したのは9000年ぶりくらいか。いや、いまはあの時以上にヤバい状況かもしれない)

 

 死を間近に感じるシャドウ。

 意外にも死を覚悟すると冷静になれるもので、シャドウはそんなことを考えていた。

 だが、正常に思考が回っていないせいで、思考が二転三転とぐるぐるしている。

 

「––どう」

(あぁ、なんか声が聞こえてくる)

「シャドウっ!」

 

 シャドウに声をかけているその人物は彼方だった。

 彼方はシャドウへ駆け寄り、シャドウの手を握って何度も何度も声をかける。

 しかし、シャドウは意識が朦朧としているせいか、その声に反応することができないでいた。

 

「シャドウ、しっかりして! 死なないで!」

 

 必死に叫ぶように話しかける彼方だが、シャドウは一切の反応を示さない。

 

「シャドウ、本当にこんな最後でいいの? シャドウ、いつも言っていたよね。自分はある約束を果たすために戦っているんだって。本当に、こんなんでいいの?」

 

 彼方は滝のように涙を流し、叫ぶように話した。

 これはシャドウの口癖のようなものだった。

 彼方が昔、シャドウに修行をつけてもらっていた時は頻繁に言っていた言葉だった。

 

『なんでシャドウはこの幻の都だけを守っているの? 幻の都ならいくらでもあるし、シャロとか紅蓮は他の幻の都とかも見に行ったりしてるけど、シャドウは他の幻の都に行ったりしないよね』

『行く意味がないからな』

『どうして?』

『俺は別に守護神になりたくて神をやっているわけじゃない。自分の正義の元、守護神をやっているわけでもない。ただ、俺はある約束を果すためにこの幻の都を守り続けなければいけない。それだけだ』

 

 このやり取りの後、シャドウは口癖のようにこの言葉をいうようになっていた。

 彼方は何度もこの台詞を聞かされたため、どんな声のトーンでいつも言っているかも完全に記憶していた。

 そしてそれによってこの約束が何よりもシャドウにとって大切なものであるということも彼方は理解していた。

 

 そしてようやく彼方の言葉がシャドウの耳に届き、シャドウは懐かしさにポロリと一粒の涙を流した。

 

「ルミア、俺はもう、どうしたらいいのか、わからない。わからないんだ」

 

 シャドウの絞り出すような言葉に彼方はルミアという人物が誰なのか全くわからなかったものの、この場にいなく、いまの流れで大体シャドウにとってどんな人物なのかを理解した。

 そしておそらくその人物はもうこの世にいないということも察した彼方はその人物の代わりに言葉を紡いだ。

 

「頼ればいいと思うよ」

「頼る?」

「うん、一人で守るんじゃなくて、みんなで。この世界が大切なのはシャドウだけじゃないんだよ。この場にいるみんながこの世界を大切に思っているからこそ集まっているんだから」

 

 

 いつの間にかシャドウと彼方の周りにはみんなが集まってきていた。

 そしてシャドウは意識が朦朧とする中、一人一人の顔を見て行く。

 紫、ライト、紗綾、彼方、シャロ、霊夢、龍生。シャドウが顔を見るとみんな一人ずつ頷いて行く。

 

「シャドウは優しい。でも、優しすぎる。この状況を一人で解決しようと、私たちを傷つけないようにと必死に戦ってくれたし、神楽にでさえあまり強く攻撃したら可哀想だと無意識に思って力をセーブして本気で戦えていない。優しいというのがシャドウの長所であり短所でもある。だけど、それじゃ強くなった神楽には勝てないんだよ。神楽に勝つにはシャドウの本気が必要なの。お願い、シャドウ。私たちに力を貸して。そして私たち幻想郷の守り神たちの強さをあの邪神に見せつけようよ! 私に、もっとシャドウのことを教えて!」

「っ!」

 

 その瞬間、シャドウの脳裏に昔の光景がフラッシュバックした。

 あの運命の日、ルミアとの最後の会話。

 

 ––あなたは邪神なのに、とても優しい心を持っている。

 ––あなたは邪神じゃなくて神として生まれるべきだった。

 ––私はシャドウの事をもっと知りたい。

 

(あぁ、そうだ。そうだよ。俺の体は呪われている。誰かを本気で傷つけようとしたら、例えその相手が敵であったとしてもセーフティーがかかってしまったように力を抜いてしまうんだ。でも、そうだ。やっと思い出した。俺は約束したんだ。この世界を守るって)

 

 その時、みんなの立っているその場所に超巨大な影が出現した。

 驚き、弾かれるように一斉に上を見てみると、そこには超巨大な隕石のようなものが出現していた。

 よく見てみると、それは触手が複雑に絡まった集合体であり、それが玉のようになって宙に浮いていると言った感じだ。

 それを落とそうとしてきているのだと感づいたみんなは逃げようとするものの、先ほど同様に触手の壁が出現してしまっていて逃げることが叶わなくなっている。

 

「ライト、あんた、さっきのはできるかしら?」

「く、悔しいが無理だ。あれをまたやるにはもう少し時間を置かなければいけない」

「絶望的な状況ね。《夢想天生》を使えば私は助かるかもしれないけど、あんたらは助からないしね」

 

 この絶望的な状況、しかし、誰一人としてこの幻想郷を守り抜くことを諦めてはいなかった。

 

(そうか、俺の優しさは長所であり短所か。つまりは俺の心の弱さでもあるわけか。なら、偉そうにしていた俺は滑稽だったわけだな)

 

 するとついにシャドウの手が動いて彼方の手を握り返した。

 それに驚いて彼方は目を見開いて自分の握り返されている手をまじまじと見た。

 そしてシャドウはゆっくりと、ゆっくりと消え入るような声で呟いた。

 

「ルミア、見ていてくれ」

「うん、見ているよ」

 

 シャドウの言葉に対してルミアの代わりに優しく答える彼方。

 ルミアのことは知らないけど、シャドウの大切な人なら、こう答えるのではないかという予想ではなった言葉だった。

 だが、この一言がシャドウに大きな勇気を与えた。

 

「終わりだ」

 

 その神楽の言葉とともに触手の隕石が逃げ場のないフィールドへ落下し始めた。

 するとシャドウは彼方と手をつないでいる手と反対の手のひらを天へと高く高くあげると、ぐっと握った。

 その瞬間、この場所へと降ってきていた触手の隕石が一瞬にして弾け飛ぶように消えてしまった。

 

「っ、なんだと!? お前はもう体力は残っていないはず。どこからそんな力を!」

「俺の目が黒いうちはこの幻想郷で好きにはさせない。そう、決めたからな。俺は無意識にこの力を除外していた。でも、《限界突破(ブレイク・ザ・リミット)》と合わせることによって本当のクレア神となる。この子の言葉を聞くまでは全く頭の中になかった。俺は仲間の力を借りないと真の力を発揮することはできない最弱の神だ。だけど、みんなの希望通りにこれからも最強の神であり続けるさ。お前をぶっ飛ばしてな」

 

 そういうと彼方の手を借りて立ち上がるシャドウ。しかし、そのシャドウは今までのシャドウとは別人かのように雰囲気がガラッと変わっていた。

 クレア神を発動し、周囲に先ほどと同じオーラを放つものの、そのオーラは全くの別物だった。

 

「さぁ、クソ邪神。かかってこいよ。今の俺は元邪神らしく、お前に対して慈悲の感情なんて全くない。もう俺に慈悲を期待するなよ」




 はい!第206話終了

 やっぱり前回は次回くらいに終わらせたいと言っていましたが、終わりませんでしたね。

 この神楽戦ではシャドウの謎を色々と深掘りしてきましたが、どうでしたか?

 わかってます。僕もわかってますよ。
 神楽戦、長すぎ!
 もうアニメだったら第一クール終わって第二クール突入しちゃってますよ!

 まぁ、まぁね? あと数話でこの神楽戦は完結しますので、まだまだお付き合いいただければと思います。

 今までシャドウを真たちに関わらせて来なかった分、色々書きたいことが多いんですよね。
 そのせいでかなり膨らんでしまっているんですが。

 まぁ、ネタバレが入ってくるので、プロットをお見せすることはできないんですけど、プロットでは神楽戦は5行くらいで終わってるんですよね。
 どうしてこうなった。
 あと、本来はシャドウにクレア神まで使わせる予定はありませんでした。まぁ、クレア神の設定はもともとありましたけどね。
 どこで出す予定だったのかはネタバレなので、言えませんが、少しヒントを出すと彼方が非常にクレア王を真に教えるのを拒んでいたことに関係します。

 ちなみに本編での設定では自分で戦うのが苦手だから異変解決に今まで関わって来なかったというのがありますが、僕の都合でいうと、シャドウは強すぎるため、今までの敵全てが雑魚になるというのが理由ですね。
 めちゃめちゃ強くて紅蓮が死んでしまった異変の主犯である龍磨もシャドウがいたら一瞬で解決しました。
 つまり、シャドウの俺TUEEEEが始まってしまうわけです。
 なので、神楽が一番シャドウと戦わせるのにちょうどいい強さの敵と言えるんですよね。

 というわけで、今回はここまで!

 それでは!

 さようなら


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第207話 影の焦り

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 クレア神の力を使い、必死に再臨した神楽と戦いを繰り広げるシャドウ。

 しかし、再臨の力は凄まじく、クレア神を発動したシャドウでも倒れてしまう。

 そして心の弱さをさらけ出し、ルミアに助けを求めると、彼方が代わりにシャドウに言葉をかける。

 そんな彼方のやさしさに触れ、シャドウはもう一度立ち上がることができた。

 そしてついにシャドウは己の弱さ、相手を傷つけたくないという気持ちを今だけは捨て去り、本気で神楽との戦いに臨むのだった。



 それではどうぞ!


side三人称

 

(シャドウのやつ、さっきまでとはまるで雰囲気が違う。あいつとは10メートル位離れているが、それでもあいつの神力がここまで届き、ピリピリと肌がざわつく。どう言うことだ? いや、だが、今の俺は強くなった。あいつ程度、簡単に捻り潰してやる)

 

 神楽はニヤッと口角をあげると、周囲の空間から触手を出現させ、シャドウへ向かって飛ばした。

 それはさっきまでよりも大量で、それがシャドウへ向かっている最中に絡み合い、超巨大な拳へと変化した。

 これは神楽の触手を使ったパンチだった。

 さっきまでも神楽は幾度となく触手を絡ませていろいろな攻撃をしていた。

 だが、今回のは少し違った。

 

 なんと、真っ黒ではなく若干赤みがかっているのだ。

 シャドウの技は真っ黒なものを消滅させることができると言うものなので、これでは消滅させる事はできない。

 神楽は再臨し、強くなったのにも関わらず、今この瞬間に技を進化させ、さらに強くなったのだ。

 

 この技に直撃すればシャドウも一溜まりもない。

 

「死ねぇぇ、シャドウ!」

「神楽、こんな技を知ってるか?」

「あ?」

 

 するとシャドウは巨大な拳に手のひらを向けると、手のひらからオーラを出した。

 その瞬間、シャドウへと飛んできていたはずの拳がそのまま空中で止まってしまった。

 

「ど、どう言うことだ!?」

 

 流石に困惑を隠しきれない神楽。

 

「昔、俺が神になりたてでまだ神としての仕事に慣れていなかった時に教えてくれた先輩の神が居たんだ。そしてなんとその神は相手の技を利用し、逆に相手に攻撃するって言う戦い方を得意として居た。真が使って居た上書きはその下位互換って言う感じだ。そして俺はその神に技を教えてもらったんだ。あの神は強かったぞ。今は何をしているかはわからないけど、あの神なら生きていると信じている」

「何が言いたい––まさか!」

「その人はこの技のことをこう言ってたね。反射《攻撃返し(カウンター)》っっっっっっ!」

「っぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ––ぐっ!」

 

 シャドウが握り拳を作り、目の前の空間を殴ると、なんとさっきまでシャドウへ向かって飛んできていた拳が反対方向を向き、神楽へと飛んで行ったのだ。

 神楽は突然のことに不完全な状態でしか防御ができず、どんどんと己が作り出した拳に押されていく。

 だが、再臨した神楽がそう簡単にやられるはずもなく、その拳は両手でかき消してしまった。

 

「どうだ? 自分の技をはじき返される気分は」

「最悪だ」

「そうだろうな」

 

 今の一撃ごときで神楽が消耗するはずもないが、シャドウにはじき返されたという屈辱によってかなりの精神的ダメージを受けていた。

 この構図はまるで昔を彷彿とさせるものだった。油断した神楽に対してシャドウが反撃の一撃を加える。

 その昔の構図を思い出すからこそ神楽の怒りのボルテージはどんどんと上がっていく。

 昔の弱く、シャドウに負けてしまったあの屈辱を思い出し、神楽の顔こそ仮面で見えないものの、周囲にあふれ出している邪の力や神力を伝って強い怒りをシャドウたちは感じていた。

 

「き、つい」

「ぐぅ……っ」

「はぁ……はぁ……」

「くっ」

(なんて力なの? 凄まじい力に充てられてちょっと眩暈すらしてくるわよ。霊夢や神力を持っている二人は大丈夫みたいだけど、紗綾、龍生、鈴音、ライトの三人も苦しそう)

 

 紗綾は胸を抑えてうずくまり、龍生は両手を地面について声を漏らす。鈴音は地面に倒れこんで藻掻き苦しみ、かなりの精神力があるライトですら胸を抑えて膝をついてしまっていた。

 それほどまでに人間にとって、地上の者にとって邪の力というものが有害なのだ。

 この状況では何かの攻撃が飛んできたとしても五人はその場から動くこともままならないだろう。

 

(くそ、まだか!)

 

 シャドウはかなり焦っていた。

 このまま戦いが長引けば邪の力の浴び過ぎで五人の命が危ない。この周囲に漂っている邪の力はシャドウの力でさえ防ぐことができない。

 この状況はシャドウにとって最悪の事態と言っても過言ではなかった。

 

 その時、側に落ちていた一振りの刀が目についた。

 

(妖刀【神成り】、あいつは確か紬とかいう付喪神が刀化した姿だったよな。ならば、もしかすると)

 

 シャドウが徐に落ちていた刀を手に取って、手を通じて刀に神力を送り込むと、なんと刀身が光始めた。

 その光は暖かく、周囲に心地のいい神力を撒いた––だけだった。

 その反応にシャドウはより一層焦ってしまう。

 

(こんなんじゃダメなんだよ。やっぱり、あいつじゃなければダメなのか? それとも……まさか!)

 

 シャドウは驚きの表情を浮かべると咄嗟に地面に倒れている真へと顔を向けた。

 真は相変わらず目を覚ます気配は一向にない。だが、さすがは妖怪の血が入っているということだけはあり、傷は回復してきていはいるが、さっきからずっと眠りっぱなしだ。

 だけど、シャドウは真の異変に気が付いていた。

 

(もしこの中に紬が居ないのだとしたら今いる場所は一か所しか考えられない)

「どうした? 俺の力に恐れをなして逃げる算段でも考えていたのか? 安心しろ。絶対にお前だけは逃がさないからな」

「そうだな。怖い。怖いさ」

「はっはっは、この弱虫が、俺に逆らうからこうなるんだ!」

「––俺の力が、な!」

 

 神楽が殴りかかろうとしたその瞬間、シャドウは最小限の動きで神楽の攻撃を回避して腹に回し蹴りを加えた。

 そしてそのまま蹴りの威力によって壁に激突してしまう神楽。神楽が再臨して初めて体から血を流した。

 シャドウはゆっくりとゆっくりと神楽へと近づいていくが、神楽がシャドウを見る目はもう弱者として見下している目ではなかった。

 どちらかと言えば化け物を見るような目をしていた。

 

 だが、紫たちにとってはどちらも化け物で、化け物同士の戦いにしか見えなくなっていた。

 

「だぁっ!」

 

 次は大量の触手を玉上にすることはなくそのままシャドウへと飛ばしてきた。

 さっき使ったシャドウのカウンターは相手が触れているものには効果が無い。つまり、完全なる飛び道具でなければならないのだ。

 さっきの拳は神楽の支配から逃れていたため、カウンターが使えたが、今回のはそうはいかない。

 だけど、シャドウの得意技は闇を消去したりカウンターすることだけではない。シャドウが最強の神と呼ばれる理由はもっと別のところにある。

 

 今まではリミッターの様になっていて使えなかったが、リミッターが外れた今なら自由にこれを使うことができる。

 シャドウが最強の神と呼ばれる所以、それが––

 

「ふんっ!」

「なっ!」

 

 相手の技をまねることができるということだ。

 別に相手の行動をまねる程度の能力とかいうことじゃない。能力じゃないけど、シャドウはそれができるのだ。それができるだけの身体能力、力を保持している、それが最強たる所以なのだ。

 シャドウの背後から大量の触手が出現し、それが神楽の触手とぶつかり、押し合い始める。だが、この威力は互角だ。この攻撃ではお互いに倒すことはできない。

 

「俺の触手をまねている!? まさか、近くの影を操って俺の触手にぶつけて来たのか! だが、まねるだけでは俺の邪の力からあいつらを守り切ることはできないぞ。早く俺を倒したいんじゃないのか?」

「今の俺はお前の影だ。影は持ち主と全く同じ動きをする。だが、俺はただ相手と同じ行動をするだけではないぞ。相手の数段上のステップまで上り詰める、模範《ザ・シャドウ》」

 

 その瞬間、シャドウの背後からさらに複数の触手が出現し、神楽へと向かっていった。

 しかし、すでに神楽は全ての触手でシャドウの現存の触手と押し合っているため、残っている触手はなく、さらにはこれ以上触手を増やすほどの力は残っていなかった。

 シャドウのこの大量の触手は神楽にとって絶望の一撃だった。

 

 それを見た神楽は仕方がなく、横に飛んでシャドウの触手を回避した。だが、その行動は神楽にとってものすごい屈辱だった。

 強くなった、シャドウよりも強くなったはずの自分が相手の攻撃を回避しなければいけないほど追い詰められたということなのだから。

 その感情によってさらに神楽の中の怒りが膨れ上がっていく。

 

(ぐ、まずいわね。これ以上怒りの邪の力を受けたら妖怪の私ならまだしも人間である彼らは耐えられない)

(はやく、はやく神楽をどうにかしないと。くそ、まだなのか!)

 

 まだ余裕が残っている紫とシャドウがこの怒りのパワーを感じて焦りを募らせていく。

 他の二人よりも精神力が強いライトと紗綾の二人は何とか耐えられているが、龍生と鈴音は意識を失いかけていた。

 

 その様子を見てシャドウはどんどんとイライラを募らせていく。

 シャドウは戦いのプロだ。だからこのイライラが判断能力を低下させるということは知っていたが、この状況ではさすがのシャドウと言えども焦り、イライラせざるを得なかった。

 

(早くしないとっ!)

 

 そしてシャドウは周囲の影を操ってさっき神楽がやって見せた巨大な拳を作り上げた。

 これは今シャドウが作り出せる最大の拳だ、それを神楽に向かって飛ばす。

 だけど、神楽だって弱いわけじゃなかった。神楽の身体能力なら能力を使わないといけない技以外は模倣することができるほどだということをシャドウは失念していた。

 

「それを、待っていた!」

「な、なに!?」

「反射《攻撃返し(カウンター)》あああああああ!」

 

 神楽が手のひらを向けて握りこぶしを作ったその瞬間、シャドウの拳は反対方向を向き、シャドウへと飛んでいき始めた。

 一瞬、神楽の思わぬ行動にぎょっとしてシャドウは反応が遅れてしまったが、すぐにシャドウはカウンターを使用して受け止めるが、このカウンターという技の特徴としてカウンターの回数を重ねるごとにカウンターに必要な力がどんどんと増えていくというものがあった。

 そしてその上昇率と言うのが、直前のカウンターの時にどれほどの力でカウンターをしたかということで決まる。

 

 今、神楽がカウンターをするのに使用した力は全力のものだった。そのため、これをカウンター返しすると神楽はシャドウへ返すことはできない。

 だが、その前に、この威力が高すぎてシャドウは圧され始めた。

 

(お、おっも、あいつなんていう馬鹿力ではじき返してんだよくそっ。だけど、返せないほどじゃない。これを返せば神楽は返すことができない!)

 

 リミッターを解除したシャドウの力は神楽以上にあった。押し返すのは容易ではなかったが、可能な範囲ではあったため、シャドウは拳をはじき返そうとした、その時だった。

 

「《豪王》!」

「え?」

 

 本来だったらシャドウの能力だったら避けられない攻撃ではなかった。

 目の前に迫ってくる無数の攻撃、だけどシャドウにとっては遅い攻撃でしかなく、避けるのは本来なら容易のはずだった。

 だが、さっきからどんどんと募っていく焦りとイライラがシャドウの思考能力を鈍らせ、拳を押し返す方に集中してしまっていたため、シャドウは反応が遅れてしまった。

 

 シャドウは本来だったら避けられるはずだった無数の攻撃の直撃を受けてしまったのだ。

 

「ぐ、かはっ」

 

 そしてダメージによってシャドウは拳への集中が途切れてしまい、思わずカウンターを解除してしまったのだ。

 カウンターを解除してしまったらどうなるのか、それは猿でもわかる簡単な事実だった。

 シャドウへと向かう抵抗を無くしてしまったその攻撃はもちろんシャドウへと抵抗なく飛んでいく。

 ここでも本来のシャドウだったらダメージを受けた程度で怯むこともなく、すぐに技を発動することができ、あの拳を受け止めてはじき返すことはできるはずだったのだが、シャドウは焦りとイライラによって判断能力が低下し、すぐに反応することができなかった。

 

 そんな状況が重なってしまったらどうなるのか、誰にでもわかることだ。

 

「ぐあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」

 

 シャドウは拳に直撃してしまい、そのまま押されて地面へと叩き潰されてしまった。

 その威力は凄まじく、シャドウの攻撃にカウンターの威力も上乗せされているため、この部屋の床を突き破って地面までも突き破ってこの浮島の下へと落ちて行ってしまった。

 

 神楽以外の誰もがその光景に唖然としてしまって開いた口がふさがらなくなってしまっていた。

 

「く、くくく、よくやった」

 

 直前にシャドウへ向けて無数の攻撃を放ったのは神楽ではない。全力でカウンターを放った神楽にはあれ以上の追撃をする力は残されてはいなかった。

 じゃあ、誰がやった? そう考えれば自ずと答えは見えてくる。

 そう、神楽以外の第三者。だけど、この場に現れたのはジーラではなかった。

 

 その人物の姿を見て紫たちは全員驚愕したが、一番驚愕したのは紗綾だった。

 

「は、春斗!?」

 

 そこには先ほど倒したはずだった鬼流が何事もなかったかのようにそこに居た。




 はい!第207話終了

 ついに神楽が鬼流のところに現れた伏線を回収しました。

 あの後どうやって真たちの前に現れたのかと言うと、普通にスキマを使って移動したっていう感じですね。

 そしてシャドウが奈落の底へ落ちて行ってしまいました。シャドウは無事なのでしょうか?

 次回、神楽戦終結です!

 それでは!

 さようなら


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第208話 吐き気がするほどの悪意

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 ついに真のクレア神を発動させたシャドウ。

 その力で神楽の技をカウンターしてみせたり、相手の技をコピーしてみたり、圧倒的な強化を果たした。

 しかし、なかなか神楽へ止めを刺すことはできず、神楽の怒りのパワーで龍生たち人間にとてつもないダメージが入っていく。

 あまり時間を掛けることができないというこの状況にシャドウは焦り、イライラしてくる。

 そこへ、本来だったら避けられたはずの攻撃がシャドウへ襲い掛かり、思考能力が低下していたシャドウはそれに直撃、直後に隙が生まれ、その隙を突かれてシャドウは奈落の底へと叩き落されてしまう。

 そのシャドウへ攻撃したその人物はさっき倒したはずだった鬼流だった。

 果たしてこの絶望的な状況で一同はどうするのか?



 それではどうぞ!


side三人称

 

「なんで春斗がここにいるのさ!」

「……」

 

 紗綾が鬼流がここにいるという事実に驚愕し、声を荒げて聞いたが、鬼流は全く紗綾に興味はなさそうな態度を示し、何も答えることはなく、そこら辺にいるみんなへと視線を向けた。

 その風貌はまるで全く感情が無いアンドロイドのようだ。

 

「春斗! 聞いてるの、春斗!?」

 

 紗綾が必死に声をかけるものの、その声が鬼流へと届くことはなく、鬼流はまっすぐとライトの方へと視線を向けた。

 そしてその次の瞬間、鬼流は一瞬にしてライトへと距離を詰めると、拳を構えた。それを見た紫は慌ててスキマを発動させてライトを退避させようとするものの、邪の力に当てられている状態では妖力をうまくコントロールすることができず、発動できなかった。

 シャロと彼方もスキマを発動させようとするものの、そんな二人の目の前に神楽が現れた。

 

「そんな野暮なことをするなよ。お前たちはお仲間さんがやられているところを大人しく見ていろ」

「双拳殺法《悪鬼羅刹》」

 

 紫もシャロも彼方もスキマを使うことができない。加えてライトは邪の力の影響をもろに受けてしまっている。

 万事休すか、そう思われたが、その直後みんなの眼には予想だにしていなかった光景が映った。

 目にもとまらぬ速さで連撃を加える鬼流、そしてその正面にはそのすべての攻撃を完璧に刀で受け流しているライトが居た。だが、鬼流の攻撃は回避したら終わりではない。

 拳から放たれる衝撃波が瞬間移動してライトの背後から襲い掛かる。

 

「すぅっ! だぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 その瞬間、ライトは大きく息を吸うと霊力を刀に込めて自分の周りを格子状に囲うように刀を振った。それによってライトの周囲には斬撃の折が形成され、背後からの攻撃はかき消されて鬼流を遠ざけることに成功した。

 この場にいる誰もがこの邪の力を受けているライトじゃここまで動くことはできないと考えていたが、ライトはそれをやって見せた。

 だが、やはり邪の力の影響は大きいようで、頭を押さえて膝をついてしまった。

 

「ふん、まぐれで動いたか。でももう限界みたいじゃないか。やれ、鬼流!」

「っ!」

「誰が限界だ!!」

 

 再び鬼流が拳を振り下ろすとそれに対抗してライトも刀を振り上げて防御をした。

 その力は互角のようで、邪の力によって弱体化されているはずのライトがこれほどまでの力を使っていることにただただ驚くしかなかった。

 だが、そこにはからくりがあった。

 

 なんと、邪の力の影響は妖怪である紫よりは大きいものの、人間としては軽い方だったのだ。

 なぜあまり影響を受けていないのかと言うと、ライトは人造人間だからだ。

 ライトは真の細胞から作り出された人造人間であるからして、能力値的には真とほぼ同じだし、気配も人間、見た目も人間ではあるがライトは純粋な人間ではないため、影響は純粋な人間よりは少ないのだ。

 だからライトはこの有害な邪の力に当てられ続けても苦しむだけで死ぬことはない。

 

「だけど、やっぱりちょっときついな。お前、帰ってくれないか? 俺たちは今あいつと戦うのに忙しいんだよ」

「…………」

「へへ、だんまりかよ。差し詰め直したことによって生き返りはしたが、感情も何もかも失った完全な戦闘機械になり下がったといったところか。気味わりぃな」

「っ!?」

「はっはっは、どうやら君は頭が切れるようだね」

 

 神楽はさっきまで戦っていたシャドウが死んだことによって気分が元に戻り、いつも通りの上機嫌な様子になって手をパチパチと叩きながらライトが言い当てたことを祝福した。

 

「俺は君たちがそいつを殺した後、すぐにそいつの元へ向かって修理した。その時に思ったんだ。ジーラの奴は感情を捨てることはしなかったが、戦闘サイボーグには感情なんて不必要だろ? だから破壊した。今のそいつはお前らの事も何もかも覚えていない、そして記憶することすらしない、ただの戦闘サイボーグ。戦うための兵器さ」

 

 上機嫌にけらけらと笑う神楽に一同はドン引きするしかなかった。

 一緒に戦う仲間だというのに、ここまでするのかと。

 シャドウから邪神と言うものは感情の起伏が少なく、相手の感情を考えることが苦手だというのは教えられていたが、まさか他人の感情を要らない部分だと切り捨てるほどだとは思っていなく、誰もが怒りで震えていた。

 霊夢だったらどっちが勝つか分からない。だけど、それ以外の面々は神楽と戦ったら必ず死ぬことが分かっているため、動き出すことはできずにいたが、ついにただ一人、怒りが抑えられなくなって飛び出していった。

 

「っ! 炎々っ」

「このクズがぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 感情をあまり昂らせることが無い紗綾の怒りが爆発してしまい、怒りが抑えられなくなって周囲を焼き尽くしながら神楽へと飛び出していった。

 

「人の、人の思い出を……人の大切な思い出を、心を、お前は何だと思っているんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「っ」

 

 その紗綾の気迫はさっきまで戦っていたシャドウ以上のものがあり、一瞬神楽は気圧されてしまって怯んだものの、すぐに我に返って腕に邪の力を纏わせて紗綾の振り下ろした刀を受け止めた。

 だが、その一撃には怒りのパワーが上乗せされ、さっきまでとは比べ物にならないほどの力を発揮して、なんと紗綾は再臨した神楽の腕を弾き飛ばしたのだ。

 しかも、その一撃はクレアも使用していない一撃だったのにも関わらず神楽は邪の力を纏わせた腕を弾き飛ばされてしまったのだ。

 

「んなっ」

「たぶん私たちと再会した時からすでにあの頃の優しい春斗は居なかった。だけど、心の片隅には昔の思い出っていうものが残っていたんだよ。私への罪悪感からなんだろうけど、私に攻撃するときだけ真やライトに攻撃するときよりも攻撃力が低く感じられた! サイボーグとなって鬼流となっても優しい春斗は居たんだよ! そして、そんな春斗の心の中には多分いつも楓花がいた。本当にあの二人は互いを大事に思いあっていた。多分だけど、春斗は楓花を助けるために乗り込んだけど掴まってしまったって感じなんだと思う。だから春斗は今も昔もずっと優しいままだった。自分の命を懸けてまで楓花を助けたかったんだと思うよ。でもあんたらは簡単に楓花を殺し、あまつさえ春斗を戦闘サイボーグにした。卑劣、極悪非道、これほどまでに吐き気がするほどの悪意を、私は今まで見たことが無い! 人の、春斗の、楓花の、大切な思い出をあんたらは何だと思っているんだ!!」

「っ!」

 

 その瞬間、今まで感じたことが無いほどの威圧が紗綾から解き放たれ、その威圧によって周囲に漂っていた神楽の邪の力が上書きされて邪の力からみんなが解放された。

 そしてその力を感じたライトは驚愕して目を見開いた。

 その力はクレアのものでもクレア装のものでもない。もっと、さらにその上の力。

 

「く、クレア王っ!?」

 

 なんと、紗綾は怒りによって自信の潜在パワーを解放し、クレア王までも発動してしまったのだ。

 だが、そのクレア王のパワーは真のものよりも圧倒的に上の領域にまで達しているように感じられるほどに凄まじいパワーを周囲に放っていた。

 そしてクレア王を発動すると霊力が神力に近いものになるため、周囲に解き放たれた神力が今度は邪神である神楽を苦しめた。

 

「く、お前、その神力は!」

「私はあんたらを許さない。どこまで逃げようともどこへだって私は追いかけ、あんたらの心臓にこの刃を突き立てる!」

「っ、鬼流! お前何してる! 速くこっちを助けろ! お前の体がどうなろうとかまわない! どんな手を使ってでもこの女を排除しろ!」

「……オーバーヒートっ!」

 

 神楽が鬼流へ命令したその瞬間、鬼流はいつぞやに発動しようとしていたオーバーヒートを発動させると、体から蒸気を発生させ、周囲の温度を急上昇させて目にもとまらぬ速さで神楽と紗綾の間に入った。

 その鬼流からはとてつもないほどのパワーを感じられるほどにさっきまでとは打って変わってパワーアップしていた。

 だが、体から蒸気を出しているところからわかる様に鬼流の体は今、とてつもないほどの高温となっている。高温は機械にとってあまりよくないものであるからこれは自分の命までも削る鬼流の大技と言ったところだ。

 

「春斗……」

「……」

 

 両者にらみ合い、周囲は紗綾の炎と鬼流の蒸気の温度が合わさって灼熱地獄と化した。




 はい!第208話終了

 ついにジーラと神楽の春斗の扱いに関して紗綾がぶち切れてクレア王を発動させました。

 これでしっかりとクレア王を発動させた描写のある人物は真と紗綾の二人となりましたね。

 まぁ、クレア王までは才能と修行で発動させることが出来るようになるので、真より前から使えて修行を続けていた紗綾が使えるようになるのは別に不思議なことではないと思いますがいかがですか?

 しかし、真よりも強いクレア王を発動させたんですよね。主人公よりも強いんですよ。
 修行パートで紗綾に修行を付けていたのは真だったので、師匠越えと言ったところですね。

 そして以前から出ていて全くそのあと発動されることが無かったオーバーヒート、ついにお披露目です。

 次回は炎対熱と言った感じになります。

 それでは!

 さようなら


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第209話 後悔

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 鬼流がこの場に現れたことに困惑する一同。

 紗綾が鬼流へと声をかけるものの、なにも反応しない。

 その理由として神楽が感情や心と言った不必要なものを取り除いて完全な戦闘サイボーグに改造したと告げた。

 その事実に紗綾は激怒、怒りのパワーでついにクレア王を発動させた。

 そしてそのクレア王のパワーは真のクレア王を遥かに超えていた。

 そんな紗綾の前にオーバーヒートを発動させた鬼流が立ちふさがる。

 果たして勝つのは紗綾か、それとも鬼流なのか?

 全くの未知数の力を発動させた二人の戦いが、今始まる!



 それではどうぞ!


side三人称

 

 紗綾と鬼流はほぼ同時に地面を蹴り、急接近する。

 そして紗綾は炎とクレア王の力を纏わせた刀を構え、鬼流は霊力で強化した拳を構えた。

 その二つの攻撃はほぼ同時に繰り出され、お互いの力拮抗しているというのもあり、ぶつかり合った瞬間に周囲にとてつもない爆風にも似た衝撃波が放たれた。

 

 その衝撃波はとんでもない熱さとなっており、下手するとやけどを負ってしまいかねないほどの熱風となっていた。

 それもそのはず、紗綾は今、炎を操っており、鬼流は体から灼熱の蒸気を出しているのだ。この二人が出した衝撃波が熱くないわけがない。

 

「春斗、なんで、なんでよ! 目を覚ましなさいよ!」

「……」

 

 紗綾の涙ながらの声にも今の鬼流には一切響くことはない。

 ひたすらに紗綾へと攻撃を浴びせ続けるしかない戦闘サイボーグ。そんな彼に情なんてものは微塵もなかった。

 そんな鬼流の攻撃を紗綾は涙を流しながら永遠に刀で防ぎ続ける。さっきまでとは違い、鬼流の事情を何となく知った紗綾は鬼流へと自分から攻撃しに行く気にはなれなかった。

 だからひたすら攻撃を防ぎ続ける。自分の声が鬼流の心へ届くまで何度でも叫び続ける。

 

 そんな紗綾の姿を見て神楽は感情の起伏が少ないというのに「くかかかか」と楽しそうに笑い始めた。

 

「あいつ、もうそいつに言葉は通じないとわかっていながらも声をかけ続けている! 滑稽だ、実に滑稽だ。あれが、あれこそが馬鹿の一つ覚えと言うのだろう? 人間ども」

 

 神楽はもうすでに鬼流に戦いを任せ、上空で高みの見物を始めていた。

 そして大声で紗綾のことを笑い飛ばしている神楽に対しては誰もが怒りを覚えていた。だけど、ライトも龍生も鈴音も紫もさっきよりはよくなったものの、邪の力の影響でまだ思うように動けなくて攻撃できないことを悔しがっていると、突如神楽の背後に神楽を軽く飲み込んでしまえるほどに巨大な陰陽玉が出現した。

 

「っ!」

 

 その気配に神楽も気が付き咄嗟に後ろへと振り返り、手のひらを向けた。

 

「反射《攻撃返し(カウンター)》」

 

 それはさっきもシャドウがやられてしまったカウンターだった。

 相手の手から離れた攻撃を相手の方へと返すことができる技だ。だが、それは相手の手から離れた攻撃のみに適応されるという技なのだ。

 

「残念だったわね。その技は直撃するまでどこまでもあんたを追い続けるホーミング球よ」

「な、なに!?」

 

 神楽はカウンターを発動させたというのに、その陰陽玉は止まることはなく、どんどんと神楽へと迫っていった。

 このカウンターではじき返せると思っていた神楽はそれに反応することができずにその陰陽玉に直撃して地面へと叩きつけられた。

 陰陽玉が消え、神楽が見えると、確かに神楽の服装はボロボロになっていたが、どうやら体自体は邪の力で強化していたようで、思ったよりもダメージが入ってはいなかった。

 神楽のカウンターを破り、神楽にダメージを与えることに成功した、この事実はものすごく大きなものだった。

 

「だ、誰だ!」

「あんたねぇ、あの必死に訴えかけているあの表情を見ても何も思わないわけ? 思うわけないか、あれやった元凶ってあんただものね。思うような心があるんだったら端からあんなことはしないはずよ。何も思わず平気でああいうことをする、そしてあの姿を笑い飛ばす。いくら感情の起伏が少ないからと言ってあんなことをするなんて本当に邪神ね。いや、邪とは言え、あんたの事を神と呼ぶのはものすごく嫌。あんたはただのシャドウさんに恨みを抱いて現世に現れた怨霊ね」

「き、貴様、この俺を愚弄するか!」

 

 神楽が睨んだその先、陰陽玉が出現した場所に居たのは博麗の巫女、博麗霊夢だった。

 霊夢は巫女の力と能力の相乗効果によって邪の力の影響を全く受けていない。そのため、普通に動くことができるし、戦うことができる。

 そしてシャドウ以外で唯一神楽にこの場で対抗できる可能性がある人物だった。

 

「私はね、あんたみたいな怨霊や妖怪を退治するのが仕事なの。さっきは呆気に取られちゃったけどシャドウさんが下に落ちてしまった今、私がやるしかないものね。面倒だわ。なんであんたらみたいなのが定期的に湧いてくるのかしらね」

 

 霊夢はお祓い棒を構えながらじっと神楽の事を見据える。だが、その霊夢の額にはジワリと汗がにじんでいた。

 先ほどのシャドウと神楽の戦いを見ていたからだろう。霊夢の表情には緊張こそ見えるものの、決して神楽の力に恐れをなしてなどいなかった。

 むしろ、自分ならシャドウに勝てると自信ありげな表情にも見えるほどだった。

 

 どうして霊夢がそこまで自信を持てるのかと言うと、長年の経験によるものが大きかった。

 霊夢は真たちが幻想郷に来るずっと前から、幼少期の頃から親に稽古をつけてもらって妖怪退治をしていた。

 霊夢にはその中で培った実力と経験がある。その二つが霊夢の背中を押しているのだ。

 

「神が何よ、邪の力がなによ、再臨がなによ、そのすべてをねじ伏せて、あんたを地獄に送り届けてやるわ!」

「出来るもんならやってみろよ、博麗の巫女!」

「っ! 霊符《無双封印》」

「だらららららっ!」

 

 霊夢は周囲に大量の弾幕を出現させ、神楽に向けてホーミングさせたものの、神楽は今度は大量の触手を作り出し、その全ての弾幕に触手を当てて破壊してしまった。

 やはり攻撃の威力としては神楽の方が上のようで、神楽の触手の方はびくともしていない様子だった。

 霊夢の攻撃の威力はこの幻想郷の中でも特段高いわけではない。でも、それでもこの幻想郷で勝ち続けてきたのには理由がある。

 

「私の親友にね、弾幕はパワーだぜとかいうやつもいたわ。確かに威力も重要。だけどね、それ以上に戦いの上で重要なことがあるのよ」

「それは一体何なんだ? 一応聞いてやるよ」

「あら、優しいのね。やっぱり弾幕で一番重要なのは技なのよ」

「なるほどな。どれだけ威力があっても当たらなければ意味がない。馬鹿でもわかる単純なことだ。で、それがどうしたって!?」

「そう、技が大切なのよ?」

 

 神楽は正面から飛んでくる弾幕と霊夢の言葉に気を取られていて全く背後に気を配ることはしていなかった。

 そのため、神楽は背後から飛んでくる弾幕に気が付くことができなかった。それによって神楽は反応に遅れてしまい、防御する術を失ってしまった。

 

「そう、弾幕は技が大切。よく覚えておくことね。境界《二重弾幕結界》!」

「ぐああああああああ」

 

 神楽は背後から飛んできた弾幕に反応することができずにすべての球をもろに受けてしまってそのまま地面に落下してしまう。

 

「確かにあんたは強いんでしょうけど、慢心するようじゃその力をフルに使うことはできないでしょ?」

「おのれおのれおのれ! 鬼流! そいつはもういい! まずはそこの博麗の巫女を始末しろ!」

「……」

 

 鬼流はそんな神楽の命令を聞いた瞬間、紗綾に繰り出していた猛攻をピタッと止め、すぐに霊夢に向かって走り始めた。

 

「っ、ま、待って!」

 

 そんな鬼流を追って紗綾も走り始める。

 だが、紗綾のクレア王をもってしても鬼流に追いつくことはできず、どんどんと二人の距離が離れて行ってしまう。

 紗綾はどんどんと離れていく鬼流を見て涙がどんどん溢れていた。

 

(あぁ、どんどん離れていく。私の手からこぼれていく。また、こぼれていく。楓花も、春斗も、私の力じゃ誰一人として救うことはできなかった。ごめんね、楓花。私じゃ春斗の事を助けることはできなかったよ)

「春斗! あんたの人生はそれでよかったの!? 春斗、あんたは楓花を守るために強さが欲しかったんでしょ? それじゃ見境なく人の事を襲う兵器だよ!」

「……ふう、か」

「どうした、鬼流。早く博麗の巫女を始末しろ!」

 

 紗綾の声を聞いた瞬間、ある人物の名前をつぶやき、鬼流はその場に立ち止まってしまった。

 その人物は鬼流––春斗にとって最愛の人物であり、一番の守るべき対象だった少女の名前だった。

 その瞬間、一瞬、たった一瞬だが、鬼流の力が弱まった。だが、それもたったの一瞬だった。すぐに元通りに戻ってしまい、霊夢に向かってとてつもないスピードで走り始めてしまった。

 そんな鬼流の様子を見て紗綾は楓花の名前でも今の鬼流を救うことができないと知ってやるせない気持ちになり、地面に手をついて一言、呟いた。

 

「春斗……ごめんね」

「……っ!」

 


 

side春斗

 

「なん、だよ。これは」

 

 俺はその日もいつものようにさぼりを決め込んでいた。

 どうせ授業なんか受けても詰まんねぇし、外で日向ぼっこでもしていた方がよほど有意義だと感じていたから今日もいつもの丘の上で日向ぼっこをしていた。

 

 そして楓花を迎えに行くために寺子屋へと返ってくると、なんとそこはもぬけの殻と化していた。

 教室内は荒れに荒れ、何かの激しい争いがあったことを示唆していた。

 

「っ! 楓花! 楓花! 楓花!」

 

 俺は必死に彼女の名前を叫びながら寺子屋の中を走り回った。

 だが、俺のその声に呼応する声など一切なく、しんと静まり返ってしまっていた。

 

 俺が居れば、そう思ってしまう。

 俺の教室には俺が覚えている中では俺以外に戦える奴など存在していなかった。だから、何者かに襲われ、集団で誘拐されたとしたら手も足も出なかったことは確実だろう。

 つまり、俺が居たら、もしも俺がその場に居たら何とかできたかもしれない。そう思って俺は後悔した。

 

 もし授業をさぼらなければ、そんな後悔に苛まれる。

 

 もし、これが授業をさぼった俺への天罰なのだとしたら、もう授業はさぼらない、もう真面目にこれから生きる。

 だから、だから……。

 

「楓花を……紗綾たちを……返してください……お願いします」

 

 俺はその場に崩れ落ちてしまった。

 俺が崩れ落ちたその床には俺の眼からあふれて来た涙で水たまりが出来上がってしまっていた。

 

「ん? これは」

 

 目の前にさっきは焦っていて気が付かなかったが、靴による足跡があった。

 それも結構大きめの靴の後からやはり大人たちがこの寺子屋内に侵入してきてみんなを攫ってしまったのだと考え付いた。

 そしてこの足跡はかなり先の方まで続いているようで、どうやら飛べるような人たちじゃないみたいだからこれを辿っていけば攫った奴らの居場所をつかむことが出来そうだと思って俺はその足跡をどんどんと追っていき始めた。

 

 足跡をたどって走り始めてから一時間。ようやくそれらしき建物が見えて来た。

 遠目で見てみるとそこにはいっぱい大人たちが出入りしており、なにやら大切な施設であるということは分かったが、それ以上に悪意の臭いがプンプンと漂ってきていたため、一目見てこの施設を破壊することに決めた俺は手始めに入口にダイナマイトを投げ込んだ。

 

 ドガーンというものすごい破裂音と共に火薬のにおいが周囲に充満する。

 向こうの方では奴らがぎーぎーぎゃーぎゃーと騒いでいたが、そいつら全員を相手にするのは面倒なので俺は混乱に乗じて内部への侵入を試みた。

 

 そこは決して気分のいい場所ではなかった。

 檻が立ち並び、その中には子供たちが幽閉されていた。

 体にはいくつものあざができており、俺の事をひどく怯えた目で見つめてくるのだ。

 

「く、こいつら、どれだけ腐ってやがんだ」

 

 中にはもうすでにぐったりと動かなくなってしまっている子供も存在し、その子供を見かけては手を合わせ、奥へ奥へと進んでいく。

 その時、背後から気配を感じたためすぐさま後ろへ振り返って回し蹴りを披露した。

 

 すると真後ろから俺に飛び掛かってきていた鉄パイプを持った男は俺に蹴り飛ばされて壁に激突し、気を失ってしまった。

 

「しかし、だるいな。俺に攻撃を仕掛けて来たということは俺はすでに侵入していることがばれているということか」

 

 そのことが分かると俺はすぐに再び走り始めた。

 俺は昔から近くにいる他人の気配を感じ取ることに長けていた。そして気配から相手の力量を図り、勝てそうかと言うこともわかる。だからこそ、今背後から攻撃しようとしてきたやつの事もわかったのだ。

 だから近づいた瞬間に楓花、紗綾の気配も感じ取れた。だが、その近くにはヤバい存在がいるということもすぐに分かった。

 

「俺じゃ、勝てない」

 

 俺よりも圧倒的に強い気配を放っている奴が楓花と紗綾の近くにいる。しかも楓花の気配がどんどんと弱くなっていっている。

 

「楓花、楓花を助けなきゃ」

 

 圧倒的に自分より強い相手を目の前に足がすくんでしまうのは動物として正しいのだろう。だが、今はこの足が忌々しかった。

 楓花を助けたい、その一心のみで足を引きずって歩いていた。

 だが、俺はこの気配に気を取られていて再び背後に近づいてきた気配に気が付くことができなかった。

 

 そして俺は背後からの攻撃に反応することができずに気を失ってしまった。

 

 再び目が覚めるとそこは手術室のような場所で、俺は手術台に動けないように拘束されていた。

 

「やぁ、気分はどうだい?」

 

 目の前に居たのは仮面をかぶって大剣を背負った変な男だった。

 声は安らかで、優しい雰囲気を醸し出そうとしているようだが、こいつからは何も感じない。気配も、感情も、こいつは何もかもが無だ。

 

「そんなに警戒しなくてもいいよ。俺は君の味方さ。ところで君はあんなところで何をしようとしていたのかい?」

「っ! そうだ、楓花! 楓花はどこだ!」

「? んー……さぁ、俺にもわからないよ。だけど、そういうことか。君はあの楓花と言う少女を助けるために……なんて他人思いなんだ」

 

 こいつ、何か様子がおかしい。

 俺が助けに行こうとしたのだからまず最初に思い浮かぶのは友達思いとかそういう単語のはずなのに、こいつは今、他人思いって言った。

 なんなんだ? 不気味すぎる。

 

「そうかそうか、君は弱いばかりにこうして助けに行けなかったわけか」

「く、離せ!」

「そうかそうか、そうかそうかそうかそうかそうかそうかそうかそうかそうかそうか! なら、一ついい提案をしよう」

「なんだ」

「俺なら君をもっと強くしてあげる。あそこにいた奴らなんかよりももっとね」

「っ!」

「どうだい? ほしいだろ、この力。あの少女を助けるためにも、ね?」

 

 確かに欲しい。だけど、こいつに頼むのはかなりリスキーな気がする。何をされるか分かったものじゃない。

 だから俺は断ろうと口を開いたその瞬間だった。

 背後からものすごい衝撃が走り、視界に真っ赤な液体で染まった真っ黒な触手のようなものが出現した。

 

「さようなら」

 

 どんどんと意識が薄れて行く。

 そうか、俺は心臓を貫かれて……。

 

「ジーラ、本当にこいつは戦力になるのか?」

「あぁ、そいつから素質を感じる。そいつを改造しよう。くれぐれも心は取っ払うなよ。戦いたくないのに戦わなければいけないという苦痛を味わわせるのさ。その表情を俺は見たいんだ」

「それってそんなに苦痛なのか? 俺には温情にしか聞こえんが」

「まぁ、感情の起伏が薄いあんたにはわからないことだろうさ」

 

 くそ、こいつら、絶対に、絶対にいつか、殺してやる!

 

 それを最後に俺は完全に意識を手放した。




 はい!第209話終了

 ついに神楽戦も大詰め。

 おそらく次回で神楽戦は終了だと思います。

 この章ではいろんな人物の心情を頑張ってみたのですがどうですかね?

 で、春斗が感じられる気配と言うのが言うまでもなく霊力になります。

 春斗は無意識に霊力を使えるわけですね。

 紗綾は能力を手に入れてから使えるようになったので無能力で霊力を使えるのはすごいですよね。

 春斗はこういった経緯でサイボーグになりました。

 それでは!

 さようなら


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第210話 生

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 紗綾と鬼流の戦いが始まった。

 鬼流は心や感情を完全になくし、紗綾へ遠慮のない猛攻を仕掛けるものの、紗綾は逆に鬼流への罪悪感で自分から攻撃を仕掛けることはできず、ただただ涙ながらに鬼流へと声をかけ続ける。

 しかし、鬼流はそんな紗綾の声に反応することもなく攻撃をし続け、その姿を見た神楽は感情の起伏が少ない癖に紗綾の事を嘲るように笑った。

 そんな神楽に腹を立てた霊夢がついに動き、神楽を陰陽玉、そして境界《二重弾幕結界》で攻撃することに成功した。

 神楽は鬼流に紗綾への攻撃を中断し、霊夢を始末するように命令すると鬼流は霊夢へと走っていき、そんな鬼流にまた紗綾は声をかけた。
 すると、鬼流はなんと楓花という単語に反応したのだ。
 だが、止まることが無い鬼流を見て紗綾はやるせない気持ちになって謝罪の言葉をつぶやいた。

 その時、鬼流の脳裏に今は記憶にない過去の映像が浮かび上がった。

 さぁ、神楽戦、ラストバトル開始!



 それではどうぞ!


side三人称

 

 紗綾の謝罪の言葉を聞いた瞬間、鬼流はピタッとその場で立ち止まってしまった。

 その様子を見てこの場にいる全員が首を傾げた。

 先ほどまで一切心や感情が無く、紗綾の言葉に一切揺らぐ気配が無かった鬼流が楓花という単語を聞いた後に涙ながらの紗綾の謝罪を聞いた瞬間、霊夢への進攻を中断したのだ。

 

「な、なにをしている! 鬼流! さっさとその博麗の巫女を始末しろ! おい、聞こえているのか!」

「……っ」

 

 今度は神楽の言葉に反応を示さなくなった鬼流。

 ついに鬼流は頭を抱え込んでその場にしゃがみこんでしまった。

 

「あんたんところの戦闘サイボーグはバグを起こしてしまったようね。まぁ、あれだけ改造されれば普通の人間の肉体だもの、バグの一つや二つ起きても全く不思議ではないわ」

 

 霊夢は神楽の事を憐みの眼で見つめながら言った。

 鬼流からはとんでもない熱気は放たれておらず、ただその場で頭を抱え込んで苦しんでいた。

 心も感情も失ってしまった鬼流ではあるが、今現在頭の中で迷いを抱いていた。

 

 それは紗綾が楓花と言う名前を言い放ったことで、その言葉が鬼流の頭の中をぐるぐるとかき混ぜるように進攻し、神楽の脳を戸惑わせているのだ。

 自分が施されているプログラムはただ、神楽のいうことのみを聞き、それ以外はどうでもいいことだと無視するというものだ。

 だが、鬼流はどうしても楓花という言葉がどうでもいいようには思えなくなっていたのだ。

 

(なんだ、楓花? 知らない、そんなこと知らないというのに、なんだこの感情は、この昂り収まる気配のない感情は)

「かわいそうにね、その人、寺子屋の人でしょ? 多分同じ世代の寺子屋のみんなはあんたらに全員捕らえられて売り飛ばされたり、改造されたりしたんでしょ? 本当に、胸糞悪いことをしてくれるわ」

「れ、霊夢さん、知っていたの?」

「知っていた、まぁ、知っていたっちゃ知っていたってことになるのかしら。私がまだ幼いころ、まだ寺子屋に通っていたころ、私のお母さんがまだ現役で戦っていたころ、寺子屋で誘拐事件が起きたって、お母さんから聞いたわ。間に合わなかった、助けられなかった、もう少し早くたどり着けていればっていつも私に言っていた。そして多分そのことがきっかけで私のお母さんは失踪したわ。でもね、もしかしたらまだ救えるかもしれない命が目の前にあるのよね」

 

 そういうと霊夢は紗綾と鬼流を交互に見て微笑みを浮かべた。

 そう、この事件は霊夢の母親が現役で妖怪退治をしていたころに起きてしまった事件だった。

 当時博麗の巫女だった霊夢の母親は寺子屋で嫌な気配を感じたため、急いで向かったが、たどり着いた時にはすでにもぬけの殻となっていた。

 春斗もこの時すでに寺子屋から飛び出していってしまっていたため、すれ違いとなり誰一人として救うことはできなかったのだ。

 

 そして今まだ救えるかもしれない命とはまぎれもなく紗綾と春斗の事だった。

 今ならまだ春斗の心を取り戻すことができるかもしれない、霊夢はそう考えていた。

 

「だからまずは、あんたを退治しなければ話が進まないから、あんたを退治するわ!」

「できるもんならやってみやがれ!」

 

 霊夢は空中を蹴ると風を切る速度で神楽へと接近していく。だが、神楽もそれは見えているため、大量の触手を作り出した。

 そしてそれで一斉に拍手すると、大量の衝撃波が周囲に解き放たれてしまった。

 普通なら回避することができない一撃、紫たちも巻き込まれて一巻の終わりになってしまうような攻撃だが、紫たちには最強の盾、時雨龍生が居る。

 そして霊夢の方も問題はない。

 

 なにせ霊夢の能力は【主に(・・)空を飛ぶ程度の能力】。この主にの意味はありとあらゆるものから飛び上がる、つまり浮くことができるということだ。

 今まで霊夢は一度たりとも本気を出してなどいない。

 幼少期は本当に空を飛ぶことしかできなかった。その能力で何ができるんだ、妖怪に勝てるのか? と嘲笑されることさえあったほどの能力だ。

 だが、霊夢は修行を重ね、ついにこの能力を最強の能力と自信を持って言えるほどにまで鍛え上げることができた。

 その成果がこの技だ!

 

「本気で行くわよ。《夢想天生》」

 

 霊夢がスペルカードを使用した瞬間、神楽の放った衝撃波が霊夢をすり抜けて行って背後の壁に直撃した。

 これは神楽にとって予想外過ぎる事態だったため、少し霊夢の攻撃に対する反応が遅れてしまった。

 

「はぁっ!」

「ぐふぅっ」

 

 霊夢の放った蹴りはそのまま神楽のあごに直撃、神楽は真上に蹴り飛ばされた。

 そしてその直後、霊夢は周囲に大量の弾幕を展開し、神楽へと放った。

 

「霊符《無双封印》」

「ぐあああああああ」

 

 空中に蹴り飛ばされ、まだ態勢が整っていなかった神楽ではこの攻撃を回避する術を持ち合わせてなどいなかった。

 そしてそのまま神楽は真上へと飛ばされ、ついに神楽は天井を突き破り、建物の外へと追い出された。

 それを見た霊夢はにやりと口元をゆがめたが、まだ態勢が整っていない神楽ではその様子を見ることはできず、霊夢が意味深ににやりと笑ったことに気が付くことはできなかった。

 そのまま空中で態勢を立て直して羽を広げて空中にとどまると、先ほどシャドウに見せたような怒りに染まった表情になった。

 

「やっぱりめんどくせぇ! すべて破壊しつくしてやる!」

 

 神楽は怒り任せにこの浮島すべてを飲み込んでしまうほどのサイズの超巨大な拳を作り出すと霊夢たち目掛けて神楽はその拳を振り下ろした。

 鬼流やジーラまで巻き込まれてしまうことなどもう神楽にとっては関係なかった。自分が人間ごときに敗北するという事実の方が神楽にとっては大問題だった。

 神楽は確かに邪神として生まれたため、感情の起伏は少ない方ではあるが、自分が邪神であるということに誇りを抱いてはいる。そのため、人間に邪神が負けるわけにはいかないという気持ちが先行して周囲の状況が良く見えていなかった。

 だから神楽は背後から近づいてきた気配に気が付くことはできなかった。

 

「ハロー、元気かい? か、ぐ、ら」

「っ、しゃ、シャドウ!」

 

 なんと神楽の背後からシャドウが忍び寄り、ついには神楽の肩をトントンと叩いたのだ。

 これほど接近されるまで神楽が鬼が付くことができなかったのはシャドウの力ゆえか、それとも神楽がそれほどまでに注意散漫になってしまっていたのか、それを知るものは誰もいない。

 だが、確実に言えるのは先ほどとは違ってシャドウは落ち着いていた。そして安堵に近いような先ほどと比べて穏やかな表情を浮かべていた。

 

 そして地上にいる全員が空を見るとその全員が目を見開いて固まってしまった。

 

「な、なによ、あれ」

 

 霊夢までもが目を白く逸らせて驚愕するほどの光景。

 

「ねぇ、神楽。上を、見てごらん?」

「上? 上がなんだって––っ、なんだよ、あれは」

 

 神楽も上を見た瞬間、驚愕のあまり固まってしまった。

 この現象をシャドウは知っていたため、この空に見えるものが見えた瞬間、他のみんなとは違ってシャドウは安堵で満たされたのだ。

 空に見えるもの、それは超巨大なスキマだった。しかも、そのスキマにはいくつもの巨大な鋭い歯のようなものがあり、まるで生き物の口のように見えるものだった。

 いや、これは実際に口なのだ。

 

「あれはな、この世で一番強いお方、大神様の口だよ。秩序を犯した者の前に口を出現させては捕食してしまうという秩序を司っている一番偉い神さ」

「秩序を犯した者……っ!」

「ようやく状況が分かったみたいだね。やっと君を捕食しに来たようだよ。犯罪者君」

 

 シャドウはようやくこの状況になったという安堵で少しテンションがおかしくなっていた。

 

「うそだ、嘘だ嘘だ嘘だ。俺は間違っていない! 俺は何も咎められるようなことはない!」

「本当にそうか?」

「っ、何が言いたい」

「別に、お前がそう思いたいならそう思っててもいいけどさ、でも現実は変わらないよ」

 

 その瞬間、神楽へ光の速度で舌が襲い掛かってきたため、シャドウは慌ててその場から引いた。

 そして神楽はその下を大剣できろうとしたものの、その舌に刀が当たった瞬間、これは斬れないということを神楽は覚った。

 鋼鉄よりも固い、霊力やクレア装で硬化したなんて生ぬるいものじゃない。

 この世の物質に存在してはいけないような超硬度な舌だった。

 

 そしてそのまま神楽はその舌に巻き取られてしまって口へと運ばれていく。

 

「くそ、離せ!」

「じゃあな、神楽」

 

 シャドウは勝利を確信した。

 地上を見ても誰一人として欠けることなくいるため、ほっと一安心。かと思いきや突如としてとんでもない圧力の衝撃波が周囲に放たれ、シャドウは吹っ飛ばされて霊夢の真横に着地する。

 

「な、なんだと」

 

 なんと神楽は自力で衝撃波を出して大神の舌を弾き飛ばしてしまったのだ。

 シャドウは再臨するとそこまで強くなってしまうのかと戦慄してしまう。

 神楽の力は大神ですら及ばない領域なのかと絶望感すら抱いてしまうが、その直後、大神は再び神楽をぐるぐる巻きにしてしまった。

 しかしまだ神楽は諦めてなどいなかった。

 

「く、くそ、だが、まだ触手が出せる!」

 

 さすがに大神といえども触手を止めることはできない。

 大神のあの口を好きなところに出せる能力は口の内部に攻撃を食らってしまったら強制的に解除され、神楽を消滅させることができなくなってしまう。

 触手があれば大神の口の中へ攻撃することなど容易かった。

 

「くっ」

 

 シャドウは覚悟を決めると、その瞬間に空へと飛びあがって神楽へと突撃していった。

 せっかくできたこのチャンスを無駄にしないためにも、もうこれ以上神楽の被害者が出ないようにするためにも、今ここで神楽を倒さなければいけないと感じたシャドウは神楽の元へとやってくると神楽を羽交い絞めにして能力を使用し、神楽の能力を無効化し始めた。

 それによって出した触手がすべて消滅した。これはシャドウの最終手段と呼べるものだった。

 

「く、くそ、離せこの野郎!」

「離すもんか、お前が息絶えるその時まで俺は絶対にこの手を離さない!」

「お前まで巻き込まれて死ぬのだぞ!」

「かまわない! ルミアの大切な幻想郷を守るために死ねるなら本望だ! おい、大神! 俺ごと食え!」

「この異常者が!!!! おい! 鬼流! 俺を助けろ! 今すぐ助けろ!」

 

 神楽は再び鬼流へと助けを求めた。

 だが、やはり鬼流は何の反応も示すことはしない。

 

「くそがっ!」

「なにっ!?」

 

 その瞬間、神楽の内部にある僅かな神力を噴射させてこの引っ張られる力に抵抗し始めた。

 さすがにシャドウも神力を止める術はない。このままでは大神の能力の時間制限が来て神楽を倒すことができない。

 その様子を見ていた霊夢も覚悟を決めた。

 霊夢ももともとこの世界には命を捨てる覚悟で飛び込んできたのだ。今さらこの幻想郷を救うために死ぬことに抵抗などありはしなかった。

 だが、一つ心配があるとしたら今ここで自分が死んでしまったら博麗の血筋が止まってしまうということだった。

 

(紫には悪いことをするわね)

 

 そして霊夢が飛び上がろうとした、その直前になんと紗綾が飛び上がっていったのだ。

 何を隠そう、紗綾も霊夢同様に覚悟を決め、神楽の暴走を止めるために飛び出していったのだ。

 

「あ、あのバカ!」

 

 霊夢も慌てて追いかけて紗綾の事を止めようとしたものの、なんと飛び上がることができなくなっていた。

 それもそうだ、霊夢は先ほどまで神楽と戦っていて神楽にダメージを与えられるようにいつもよりも霊力を使用していたというのがあり、霊力が枯渇してしまっていたのだ。

 

(はは、私も博麗の巫女失格ね。こんな時に幻想郷のために命を捨てることができないなんて)

 

 その次の瞬間、なんと霊夢の横に居てうずくまっていた鬼流が紗綾を追いかけて飛び上がっていたのだ。

 先ほどまでオーバーヒートを使用していて、機械の体である鬼流はかなり肉体的ダメージが大きかっただろうに、鬼流は飛び上がったのだ。

 その行為はみんなにとって紗綾へと追撃を加えようとしたかのように見えた。

 

「え?」

 

 だが、鬼流は紗綾に追いつくと、なんと紗綾の腕をつかみ、霊夢へと投げ飛ばしたのだ。

 そして飛んできた紗綾を霊夢は地上で受け止めると、霊夢と鬼流はアイコンタクトをした。

 

「なんで、どうして」

 

 その言葉に答えが返ってくることはない。

 だが、鬼流はさっき紗綾が飛び出していった姿を見て居ても立っても居られなくなって飛び出したのだ。

 自分でも何が何だか分からない。だけど、鬼流は今紗綾を止めなければ取り返しのつかないことになるということだけは確信した。

 そしてなぜだか胸の内に神楽への殺意が湧き上がってくるのを感じていた。

 

 感情も何も感じないはずなのに、鬼流は神楽を殺さなければいけないと感じていた。

 

 ––絶対にいつか、殺してやる!

 その思いと楓花と紗綾を救うことができなかった自分への怒りだけが鬼流を突き動かしたのだ。

 

「鬼流! そうだ、この俺を助けろ!」

「わかっている。今すぐ救うよ。この世から、ね?」

「はぁ?」

 

 その次の瞬間、鬼流はバーストを使用して爆発を引き起こした。

 真たちとの戦いで使用していたバーストよりもより一層強いバースト。オーバーヒートの力をすべて集約して放ったバーストだった。

 その一撃は神楽とシャドウと吹き飛ばした。

 この勢いでは神楽の微量の神力じゃ勢いを止めることはできない。完全にチェックメイトだ。

 

「畜生、畜生、畜生!」

「神楽、俺とお前はタッグだったよな。最後まで付き合ってやるよ!」

 

 そうして完全に二人は大神の口の中に吸い込まれて行き、二人を吸い込むと大神の口は閉じて消滅してしまった。

 大神の捕食は秩序を犯した者は消滅、そしてそれ以外は殺してしまうという特徴を持っているため、神楽は完全に消滅し、シャドウは今、この瞬間に息絶えた。

 この幻想郷の最強の神が、死んだのだ。

 

 その直後、空から大量の機械の部品のようなものが降り注いできた。

 大きいボルトだったり、なんかの電子部品のようなものだったり、鉄片だったり、様々なものが降り注いでいるがそれらを見て紗綾はすぐにこの正体が何なのかが分かった。

 

「はる、と」

 

 鬼流の体は度重なる戦い、バーストの使用、そしてオーバーヒートを使ったことによって限界を迎えていた。

 それは神楽が修理したところで完全に修復することはなくパーツ一つ一つに蓄積されていたダメージによってついに大破してしまったのだ。

 

「は、春斗!」

 

 その降り注いてくる電子部品の中で紗綾は鬼流の頭を見つけ出すと慌てて近寄ってその頭をキャッチした。

 バチバチと火花が散っていて、皮膚も大半が消し飛んでしまって機械部分がむき出しになってしまい、見るも無残な姿になってしまった鬼流––春斗の姿を見て涙を流さずにはいられなくなった紗綾は大粒の涙を流し始めた。

 そんな様子の紗綾に誰が声をかけることが出来ようか。周囲のみんなはその様子を静かに見守っていた。

 

「ごめん、ごめんね、春斗」

「さあ、や」

「っ!?」

 

 紗綾が謝罪するとなんと、春斗は紗綾の名前をつぶやいた。

 もう体は大破し、動力ももうないはずなのに、それでも口を開いた。

 今は無き春斗の心が、執念が今になって呼び起こされ、その執念だけで春斗の口は動いたのだ。

 

「ごめんな、紗綾。二人を、守ることができなかった」

「いいよ、いいんだよ。やっぱり春斗は昔のまま、優しい春斗だ」

「楓花に伝えておいてくれ。俺は死ぬ、ごめんって」

「……っ」

 

 春斗はまだ楓花が殺されてしまったということを知らない。そのため、春斗は優しい表情をしながら言った。

 そんな春斗の姿を見て涙がこぼれて行かないように紗綾は天を仰ぎ見ながら春斗の言葉を聞き続ける。

 

「機械の体になっちまったけど、さすがにこんだけ壊れたらもう動けない」

「うん、ありがとう。春斗」

「あぁ、あとは頼んだ、ぞ」

 

 その言葉を最後に春斗は完全に機能を停止、動かなくなってしまった。

 もうとっくの昔に春斗という人物は死んでいた。だけど、春斗と言う人物の心はまだ生きていた。そして、春斗は鬼流となった後でも変わらずやさしいままだった。

 春斗はもう完全に死んでしまってこの場で泣き崩れてしまいそうなほどに悲しいけど、紗綾は涙を拭くとそっと地面に春斗の頭を下ろして歩き始めた。

 春斗が優しいままだったという事実が紗綾に勇気を与えたのだ。

 

「あ、あんた、大丈夫なの?」

「大丈夫よ。それよりも、先に進みましょう? まだ、戦いは終わっていないんだから」

 

 問いかけた霊夢に微笑みかける紗綾。だが、その時の紗綾の表情は涙にぬれ、非常に不細工になっていた。




 はい!第210話終了

 ついに神楽戦終了です!

 いやー過去一長い戦いでしたね。

 しかし、ラストが少し雑になってしまったので少し反省です。

 ただまぁ、この戦いで書きたいことは全て書けたっていう感じなので満足です。

 そして次回から真が再び動き始めますよ。

 もうここ四か月ほどぐったりと倒れたままでしたからね。

 それでは!

 さようなら


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第211話 試練

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 紗綾の言葉に昔の光景が思い浮かび、苦悩する鬼流。

 そんな鬼流に神楽はいらいらし、霊夢はそんな鬼流を煽る。

 霊夢と神楽のラストバトルが開幕。両者共に最強の技を放つものの、霊夢の夢想天生の前に破れ、空中にぶっ飛ばされる。

 そんな神楽の背後に突如としてシャドウが出現、怒り狂う神楽とは反対にシャドウは冷静であった。

 そしてついに、大神の大口がみんなの前に出現し、秩序を乱した神楽を飲み込もうとする。

 当然抵抗する神楽だったが、シャドウと記憶を取り戻した鬼流の二人によって神楽を大神の口の中に放り込むことに成功し、ついに神楽に勝利を収めた。

 しかし、その代償としてシャドウと鬼流が命を落とす結果となってしまった。

 さぁ、まだ異変は終わっていない。

 みんなは異変解決へと向かって歩き始めた。



 それではどうぞ!


side真

 

 あれ、ここは?

 暗い。何も見えない。至近距離にあるはずの自分の体すら見えず、瞼を開けているはずなのに、瞼を閉じている状態と景色が変わらないほどに真っ暗だ。

 俺は確か、神楽と戦っていたはずだ。だけど、俺は言霊によってやられてしまって、体力が限界だったというのも相まって気を失ってしまった。

 

 目を開けたらそこは知らない天井だったり、知っている天井だったりで病室で目を覚ますというのは幾度となく経験しているが、目を覚ましたらそこは異空間だったというのは初めての経験だ。

 これほど真っ暗な場所は幻想郷にはないはずだ。ルーミアの闇ですらここまで真っ暗になることはない。そう考えるとここが幻想郷でないことは確かだ。

 

 もしかしたら俺の体力が限界だったというのも相まって【致命傷を受けない程度の能力】が発動しなくてついに死んだか?

 いつかは戦って死ぬかもしれないと思っていたけど、今このタイミングで死ぬのは非常に嫌だな。しっかりと異変を解決できればいいけど、神楽が異常に強すぎるからどう頑張っても勝てる未来が見えない。

 俺は今までずっと戦い続けてこいしたちみんなを守れるようにと強くなってきたつもりだった。だけど、ゲンや鬼流、神楽と戦ってようやく自分の力の限界を知った。おそらく今この場所が俺の限界点であり、これ以上強くなることはできないのだろう。

 幻想郷では実力もそうだが、能力によっても勝敗が決まってくると言っても過言ではない。俺の能力はタフなだけで、戦いには全く使えるものじゃない。

 

 所詮、俺はこの程度の力だったってことだ。

 シャドウは俺を買いかぶりすぎなんだ。

 俺は一人じゃ何もできない非力なんだ。

 

「俺の力じゃ、なにも守れないっ!」

「随分と弱気なことを言っているじゃないか、海藤真」

「っ!?」

 

 突如として闇の向こう側から一人の男の声が聞こえて来た。

 今までこの空間には俺一人しかいないと思っていたので、驚きのあまり弾かれるように声の下方向へと顔を向けて確認した。だが、やはり真っ暗すぎて何も見えない。

 

「だ、誰だ!」

 

 見えないというのに、声だけは聞こえる。姿はどんなものか、どんな表情をしているのか全く見えないので、俺は警戒しつつ暗闇の向こうへと問いかけた。

 その瞬間、周囲にあったのであろう灯篭に徐々に灯がともり、周囲が徐々に照らされ始めた。

 真っ黒で反射するほどに磨かれた床だが、そのところどころにカラフルな模様の石が混ぜられていた。

 至る所に白い柱が存在していて、若干青みがかった壁。まるで屋敷のエントランスのような見た目の空間だった。いや、まるでではない。これは本物の屋敷をトレースされた空間、地霊殿を模した空間だった。

 しっかりと扉や部屋の数なども再現されており、ここ数日地霊殿に変えれていなかっただけなのに、非常に懐かしく感じてくる。

 

「こ、これは」

 

 さすがにこれには驚きが隠せない。

 一瞬、本当に地霊殿なのかと思ってしまうほどの完成度だったが、ここが地霊殿なわけが無い。そもそも地霊殿にこんなに灯篭なんてないし、周囲にとんでもなくデカい霊力と妖力が合わさった力を感じる。

 

「気に入ってくれたか?」

「っ」

 

 そういって俺の目の前に瞬間的に出現したのは黒いパーカーを着て前のファスナーを全開にし、フードを目深にかぶって顔がよく見えない男だった。

 その瞬間に俺は把握した。この周囲に漂っている霊力妖力はこの男から発せられているものだ。

 つまり、こいつは半人半妖であり、それだけではなく、かなり高レベルまでその二つを使いこなせるようだ。おそらく今の俺よりも。

 

「お前は誰だ」

「俺か? 俺はかい––海流(かいりゅう)(ごく)だ。お前と同じように人間とさとり妖怪の血を持っている」

 

 やっぱり半人半妖ってわけか。

 それにしてもさとり妖怪の血を持っているというのは厄介だ。下手に思考をこらしたら極に読まれてしまうかもしれない。

 

「お前の事はよく知っているよ。たぶん、お前よりもずっとお前の事を俺は知っている」

「なんだ? お前は俺のストーカーってことか?」

「言い様によっちゃそうなるか。ずっと一緒に居るっていうのはかわらないしな」

「気持ち悪いな。男にストーカーされても何もうれしくないよ」

「女にストーカーされてもうれしくないくせに今さら言うことか?」

「違いない」

 

 どうやら俺の事を知っているというのは本当の事らしい。というか、俺だったらこう返すというのをトレースされているようでなんだか気味が悪くなってきた。

 俺が立場逆だった場合は確実に今極が言ったセリフをそのままいう自信がある。

 おそらくさとり妖怪ならではの思考を読んでの相手のトレースと言うやつなのだろう。やっぱり非常に厄介な能力を持っている。

 それにしてもこいつの目的が全く分からない。俺を孤立させてどうするつもりだ?

 ジーラの仲間だったとしても俺だけをこの空間に閉じ込める意味が全く分からない。

 

「俺をこんなところに閉じ込めて、どうするつもりだ極!」

「目的? 目的かぁ……勝つため、だな。というわけで、行くぞ海藤真!」

「え、えぇっ!」

 

 突如として極は霊力の刀を作り出して俺に斬りかかってきたため、俺も咄嗟に霊力の刀を作り出して極の刀を防いだ。

 極の霊力の刀の色は全く同じで、それは俺と極の霊力の性質が酷似していることを表す。気味が悪い相手だ。

 だけど、俺には刀だけではなく、他の技も豊富に存在している。

 

「霊縛波」

「霊縛波」

 

 俺は片腕で刀をしっかりと握りつつ、もう片方の手で霊縛波を作り出してぶっ飛ばそうとしたら、なんと極の方も霊縛波を使用して俺の霊縛波にぶつけて来た。

 その二つの技は互角––いや、俺の方が少し劣っていたため、二つのエネルギーがぶつかり合って爆発し、爆風によってよりダメージを受けてしまったのは俺の方だった。

 俺は地面を転がり、何とか立ち上がるものの、極の方は何事もなかったかのように涼しい表情で俺の事を見ていた。

 しかし、霊力刀ならわかるが、この技は妖忌さんが作ったものだ。この技を使える人に教わらなければ使えないもので、俺は妖忌さん、妖夢は俺の言葉からヒントを得て完成させたが、妖忌さんから俺ら以外に使える人がいるということを聞いたことが無い。

 

「なら、これでどうだ!」

 

 この技には幾度となく助けられたことがある投擲技だ。

 本来は刀を投げ飛ばす目的で作り出したのだが、最近は石をよく投げていた。だけど、この場所には意思なんてものは無いから普通に刀を投げ飛ばすっ!

 

「狙撃《スナイパー》」

「狙撃《スナイパー》」

 

 俺が刀を投げ飛ばすと極はなんとノーモーションで俺の刀にぶつけるように刀を投げ飛ばしてきた。

 この技は投げ飛ばした物質が耐えられないほどの衝撃が加わると爆発するようになっている。なので刀はそうそう爆発することはないのだが、なんと刀同士がぶつかり合ったその瞬間、大爆発を起こした。

 とてつもない威力で刀同士が飛んできてぶつかり合ったせいで衝撃に耐えきることができなかったのだろう。そんなことを思っていると、なんと俺の方に刀が飛んできたため、俺は咄嗟にその刀を回避した。

 

 今、刀は爆発したはず。なのになんで飛んでくるんだ。

 まさか、もう一本投げたのか? いや、本当にそれだけなのか?

 極を見てみると一本目を投げたときから全く姿勢が変わっていなかった。つまりは二本目を投げていないということになる。

 

 おいおいおい、あいつもしかして俺の霊力刀よりも強靭な霊力刀を作れるのか?

 

「霊力を鍛えれば強靭な刃となる。それはお前自身も実感していることのはずだ」

「そう、だな」

 

 ライトとの戦い、未来の俺との戦いでそれに関しては嫌と言うほど実感した。

 霊力刀の強さは使用者の霊力次第。霊力次第でなまくらにも、それこそ伝説の名刀クラスにもなったりする。でも、俺の実力では伝説の名刀には全くと言っていいほど届くことはない。

 今のこの場所が俺の限界点だからだ。

 でもなぜだか、こいつは越えなければいけない俺の限界のような気がして、高く高い限界と言う壁でこいつを倒した先に何かがあるように感じる。

 こいつとの戦いが俺の試練なのだと、そう感じる。

 

「お前の目的は把握済みだ。この異変を解決したくば、まずは俺を倒して見せることだ!」




 はい!第211話終了

 どうでしたか?

 久しぶりに真が出てきましたが、いきなりの新キャラ海流極。

 極は真と全く同じ技を使用することができます。そのうえでそのすべてにおいて真を上回るほどの力を持っています。

 真と同じ技を使え、そのすべてにおいて上回っているということは今のままの真では絶対に勝てない相手と言うことですね。まさに限界を超えるための試練と言う感じですね。

 それにしても極はジーラの仲間なのでしょうか? それともジーラとは関係が無いのでしょうか?

 登場したばかりで謎が多いですね。自由にここら辺は考察していってください!

 ただ、今回の章の一番の強敵は倒したので、山場は乗り越えたといっても過言ではないでしょう。

 まぁ、まだ半分くらいですけどね。

 ちなみにこの真対極はこの章で最も大事な戦いですのでお見逃し無いように。

 それでは!

 さようなら


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第212話 戦うためのパーツ

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 ついに神楽を倒し、視点は真へと移り変わった。

 真が目を開けるとそこは真っ暗な世界だった。

 真はここをあの世だと思ったようだが、どうやら違うようで、そこには海流極と言う男が存在していた。

 極は真と同じように霊力刀を使うことができ、真と同じように狙撃《スナイパー》を使うことができる。しかも、その威力は真を上回るほどだった。

 果たして真は極に勝利することができるのか?

 そして極は一体何者なのか?



 それではどうぞ!


side真

 

 強さを求めることは終わりが見えない永遠に続く長い長い旅のようだ。

 そして、時折でっかい壁にぶち当たることもある。その高い壁はどれだけ頑張っても登ることが出来そうになくて、そこで挫折しそうになってしまう。

 だけど、それを超えた先にはもっとすごい景色が広がっているんだ。

 

 それを超え、もっともっと先に進むとまた更に前よりも高い壁が待ち受けているんだ。

 超えても超えても、その先には必ず壁がある。終わりがないんだ。

 

 でも、肉体の限界はいつか来る。一人一人に強さの限界は無いが、肉体の限界は存在している。だからこそ、超えられない壁と言うのが存在しているんだ。

 まさに目の前のこいつ、海流極が俺にとっての超えられない壁なんだ。

 だけど、だけど……こいつに勝ってみたい。こいつに勝ったその先の未来を見てみたい。こいつに勝って幻想郷を救って幻想郷がこれから先も繫栄していくその姿を俺は見て居たい。

 大切な人を守れる力を手に入れたい。

 

 今はぶつかる。

 こいつが敵なのか、味方なのか、今の俺には見当もつかないけど、ただ一つわかることはこいつは俺にとって必ず越えなければいけない壁であるということだ。

 

 俺は霊力刀を作り出し、両手でガシッと握って構えた。

 すると極も俺の鏡の様に動き、霊力刀を作り出して両手でガシッと構えて来た。

 まるで鏡と戦っているかのようで少し気持ち悪くなるが、今はそんなことを考えている余裕なんて無い。

 

「っ!」

 

 俺は霊力刀に霊力を構え、一気に極へと接近していく。霊力を爆発力に替え、足から霊力を噴出することによって脚力を底上げし、今までよりも速い速度で極へと接近し、刀を振りかぶった。

 だが、俺の目の極と俺の刀が重なって見えなくなった一瞬で極の姿はなくなってしまった。

 その直後、背中に強い衝撃を加えられ、俺は地面に叩きつけられてしまった。

 

「かはっ」

 

 刀と極が重なった一瞬なんてコンマ何秒とかの世界だ。その一瞬で姿をくらまし、極は俺の真横に移動してきたわけだ。

 そんなの刀と自分の位置、そして俺の視線を完璧に把握していなければできない芸当だ。

 

「どう、して」

「言ったろ? お前の事はお前よりも理解しているって」

 

 確かに言っていた。だが、それにしても限度と言うものがあるだろう。

 

「戦っていればより強い相手と戦うことにだってなり得る。それこそ、幾度となく自分よりも強い相手と戦うことだってあり得るだろう。お前だって今しがた神楽に敗北してそれは痛いほどわかっているはずだ。そしてそんな自分より強い相手と戦うときは今までのようながむしゃらな戦い方は通用しないというのも教わったはずだ」

 

 確かに神楽と戦って俺の戦い方が全く通用しなくて、今の俺の戦い方じゃ全く勝つことはできないと感じた。

 だけど、俺には機転を利かせた戦いなんて不可能だ。今までだってそうだった。

 誰かを殴ったのだって、剣を、刀を持ったのだって幻想郷に来てからだ。

 もちろん修行などはしてきたけどダメだ。俺はこれ以上強くなることはできない。ライトの様に優れた身体能力があるわけじゃない。紗綾の様に才能があるわけじゃない。

 

「っ!」

 

 だから俺は勝機を見出すためにがむしゃらに戦い続ける。どれだけ苦しかろうとも、どれだけ過酷だろうとも、これが俺の戦い方で、俺にはこれしかないのだから必死に刀を握り、敵に攻撃を加えるために刀を振り続ける。

 こいつに勝つにはクレア王が必要だと感じたからクレア王を発動し、それを霊力刀に纏わせて極に斬りかかる。

 

 クレア王を発動すると身体能力が底上げされて幾分かマシになると思った。

 だが、次の瞬間、極は俺と同じようにクレア王を発動させてきた。

 

「クレアなら優位に立てると思ったか? クレア王なんてな、人間界では全く珍しい技でも何でもないんだ。自惚れるな」

「ぐっ」

 

 俺の刀に極は刀を合わせ、力比べをしてきたが、当然俺の力の方が圧され、徐々に徐々に俺は圧されていく。

 このままでは弾き飛ばされてしまいそうだと感じた俺はクレアの霊力を混ぜた霊縛波を左手に作り出し、右腕で刀を押しながら霊縛波を極へと叩きつける。

 だが、極も当たり前のように左手で霊縛波を作り出して俺の霊縛波にたたきつけて来た。

 その瞬間、俺の霊縛波が蒸散してしまい、極の霊縛波のみが爆発して極太レーザーが放たれて俺を吹き飛ばされてしまった。

 

「ぐ、が、はっ」

 

 点滅する視界の中、俺は絶望を抱いていた。

 どれだけ強い力で相手を殴ってもそれ以上の力で防御され、どれだけ力強く防御してもそれ以上の力で殴られる。

 頼みの綱だった霊縛波まで通用しないならいったいどうすればいいんだ。

 

「それが海藤真の戦い方なのか? がっかりだ。お前は今まで幾度となく強い敵と戦ってきたはずなのに、もう諦めるのか? お前の大切なものを守りたい気持ちと言うのはその程度の事だったのか?」

「じゃあどうすればいいんだよ! 俺には戦いの才能が無い。ライトの様に戦うために作られた人造人間ならともかく、俺は元はただの陰キャ高校生だったんだぞ! 誰かと戦ったのだって、命の取り合いをしたのだって幻想郷に来て初めてやったことだ! それまで武器を持ったことすらなかったんだぞ! 喧嘩をせず、体力測定ではいつも下の方。そんな俺に何を期待してるんだよ! そりゃ出来る事なら守りたい! 守ったその先の未来を俺は見てみたい! だけど、これが俺の限界なんだよ! 俺の能力の限界点なんだよ!」

「そのお前の勘違いが、今のこのピンチの状況を作り出しているんじゃないのか! 神楽ほどの強敵が居る中、戦力が一人減ることがどういうことなのか分かっているのか!?」

「勘違い?」

 

 俺の言葉に対して少し苛立ち紛れに返してくる極。だが、その言葉はどうにもまっすぐ俺に向かって言っているようには聞こえなかった。

 

「そうさ、何回だって言ってやるよ。勘違いだ。いいか? 今までの修行の日々を思い返してみろ。いろんな人に修行を付けてもらった日々を思い出せ。お前がそんなんだと師匠が安心できないぞ?」

「修行の、日々」

 

 俺はこれまで幾度となく修行をしてきた。その中でいろいろな人に修行を付けてもらった。

 妖夢、妖忌さん、彼方、幽香さん。全員俺に修行を付けてくれた人たちだ。みんな俺をすごく強くしてくれた。

 俺がいまここで諦めてしまったらこのみんなを裏切ってしまうことになる。

 妖夢は俺に刀での戦い方を教えてくれた。妖忌さんは俺にいろんな技を教えてくれた。彼方は俺にクレア王を教えてくれた。幽香さんは結局できなかったけど技を教えてくれた。

 

 どうしたら極に対抗することができるか、この修業の日々を思い出して……。

 そうか、俺はもうすでに戦うためのパーツは手に入れていたんだ。

 

 相手が強いなら相手の土俵に上がってはいけない。こいしと戦った時の事を思い出せ。

 こいしは絶対に俺の土俵に上がってくることはなかった。そして俺の動きを完全に把握し、俺を追い詰めて来た。

 

 今回の相手を俺は知らない。だけど、一つだけ知っていることと言えば、異常なまでに極は俺の事を知り尽くしているということだ。

 そして俺は俺を知り尽くしている!

 

「残像……」

「なるほど、考えたな」

 

 あれから修行して強くなった俺の残像は20にまで増えていた。これを一体一体確かめていくのはかなり大変だろう。

 俺は今までの戦いの中で自分よりも強い相手と幾度となく戦ってきた。

 今までの敵は今までの戦い方で何とかなっていたかもしれない。だけど、これからはそうはいかないんだ。単純に斬って倒せるような甘い敵じゃない。

 大切な人をもう失わないために、皆を守るために、俺は絶対にこの壁を越えて見せる!




 はい!第212話終了

 真対極の戦いは結構短いです。神楽戦の様に長くはならないのでご安心ください。

 しかし、極の立場がよくわからないですよね。真と対立している割には強くなるヒントを与えていますし。

 それでは!

 さようなら


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第213話 原因

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 紗綾たちが神楽と激闘を繰り広げている中、異次元では真と極が戦っていた。

 真の猛攻、しかし極はそんな猛攻を同じ攻撃で、さらに上回って真を追い詰めていく。

 だが、極は真に対してアドバイス紛いなことをしていく。

 そこでついに真は自分の事をよく知っていて自分を上回っている敵を倒す方法を考え付く。

 果たして真は極に勝つことはできるのか?



 それではどうぞ!


side真

 

 俺の分身に対し、極は少し驚いたような表情を見せた。だが、すぐに極は普通の表情に戻って口角を上げた。

 ここまで俺の事をいろいろと知っているのだ。俺の考えなどお見通しで、その上こいつも分身を使うことができるのだろう。

 だが、極を倒すにはこれ以外思いつかなかったのだ。

 これなら単なる運でしかない。これならワンチャン勝てる可能性がある。

 

「行くぞ、極!」

 

 俺の残像は俺と同時に動き出し、極へと斬りかかった。

 これは単なる残像で分身ではないため、全員同じ動きしかできないものだが、この数を相手にすぐに本物を見つけることなど容易ではないはずだ。

 おまけにこの残像は俺がつくりだしたものだから全く同じ霊力を持っている。探知することも不可能だ。

 

「考えたな。だけど、俺なら残像を使わずともお前ら全員をぶっ飛ばすことはできる」

「なに!?」

 

 極は手のひらに霊力を集めると霊力の球を手のひらの上に作り出し、そのままそれを地面にたたきつけた。

 その瞬間周囲にとてつもない衝撃波が放たれ、俺はその衝撃波にぶっ飛ばされて当然周囲に居た残像たちも一瞬にして消え去ってしまった。

 

「ぐぅっ」

 

 とんでもない破壊力に体が悲鳴を上げたが、そんな体に鞭を打って地面に足を付ける。

 確かに今のは全く残像を使用してなどいないし、あんな技は俺も使ったことが無い。

 今のは霊縛波に似ているのだが、あいつはなんと地面にたたきつけたのだ。

 通常、霊縛波は相手にたたきつけるものだ。地面なんかにたたきつけたところで軽くクレーターが出来上がるのみで何の意味も無いはずだった。

 なんなんだ、今のは一体。

 

「霊縛破と言ったところか。音は同じだけど、波動ではなく破壊の力を宿した霊縛波だ」

「っ! 破壊!?」

「そうそう、別に俺はお前の技が使えるというだけでお前の使えない技は使えないわけじゃないよ。俺はお前の分身体でもドッペルゲンガーでもないんだからさ」

 

 残像まで封じられてしまった。もうなにもできないのか?

 

「第一、ワンチャンなんて考えている時点でお前は負けている。そんなんではこの異変は絶対に解決できない。お前もジーラを倒すことなどできない」

「っ、なんで」

「なんでって……言っただろ? 俺はお前の事をお前以上に知っているってな」

 

 確かに言っていた。だからこそ俺はこの技もすぐに見切られてしまうと考えているんだ。

 だが、俺の今のなんでと言う言葉は俺の考えていることを知っているということに対して放った言葉と言うわけではない。

 極が言い放った俺がジーラを倒せないという発言、この一言に、何の根拠もないこの一言に対して俺は言ったのだ。

 

「違う。なんで俺が負けるなんて言いきれるんだ? これから俺がお前をぶっ飛ばしてジーラを倒して幻想郷を救うかもしれないだろ」

「甘い、甘すぎる。その甘さが、今のこの状況を作り出しているんだ。今お前がしているのはもしかしたらと言うifの話などではない。もっとくだらない、妄想の話だ。お前は具体的にどうしたらこの状況を乗り切れるのか、どうしたら幻想郷を救えるのか、全く持ってビジョンと言うものが無い。救えたらいいな、救いたいなと思うのは簡単だ。だが、それを実行に移すのがどれだけ大変かを、お前は未だに理解しちゃいない」

「理解しているさ、痛いほどに! これまでどれだけ苦難を乗り越えて来たか、どれだけの強敵を倒してきたか、お前は何もわかってなど」

「わかってないのはお前の方だ海藤真! 貴様の詰めの甘さが原因で今のこの状況が出来上がってしまっていると言ったばかりだろうが! 過ぎ去ってしまった過去は今の俺たちではどうしようもないし、歴史に過干渉すれば粛清される。だからこそ、今のこの行動によって今後どんな風になってしまうのか、しっかりと考えるべきだったんだ。今回のこの異変だって、あの時お前がしっかりとジーラに止めを刺していれば起こりうるはずがなかったんだぞ!」

「っ!」

 

 そうだ、俺はあの時、ジーラを銃で撃つのを辞めてしまった。ジーラがあまりにも腰抜けすぎて呆れて何もする気が起きなかった。

 だが、それは建前だった。無抵抗である相手に対して刃を突き立てるなんてことを、俺はしたくはなかったんだ。たとえそれがどれだけ極悪人で、倒さなければいけない相手なんだとしてもそれは同じだった。

 その詰めの甘さ、己の甘さが原因で今、幻想郷は大ピンチとなってしまっている。

 全て俺のせいなんだ。俺が後の事を全く考えていなかったから。

 確かにこいつの言うことはすべて正しい。すべて正しくて、俺の痛いところを的確に指摘してくる嫌な奴だ。

 でも、だからこそ、俺はここから幻想郷を救って見せるということを証明するためにも、今俺は極に勝ちたい。

 

「甘さを捨てろ海藤真そして敵を残虐に、無残に、同情など捨てて倒すんだ。感情を捨てろ!」

「そんなことできねぇよ。俺は根っからの妖怪じゃないんだ。根っからの幻想郷の住人じゃないんだ。現代日本に住んでいてあまり喧嘩もせずに生きてきていきなりこんな世界に放り込まれて、さぁ戦えだ? ふざけるのも大概にしろよ! 俺はな、本当は戦いたくなんてないし、辺境の地で戦いなんてない場所でこいしとスローライフを送るっていうのが俺の夢なんだよ。龍生の様に戦いの才能は無いし、南雲姉妹の様にチート能力を持っているわけじゃない。あるのは幸運とちょっとばかしの耐久力のみ、これでどうやって戦えっていうんだよ!」

「でも戦わなければいけない。じゃないと大切なものを失うことになるぞ」

「んなのわかってんだよ、でもこれが俺の限界なんだよ! 俺には伸びしろが全くと言っていいほどに無いんだよ! それでも精いっぱい頑張ってるんじゃねぇか! 霊力斬、霊縛波、スナイパー、クレアに限界突破。俺は今まで頑張ってきたんだよ! でも今回分かったんだよ絶対に勝てない敵がいるって。俺にはあいつの前に立つ資格すらないって!」

「じゃあ、何か? だからお前は戦うことを諦めますってか? ふざけるのも大概にしろよ。これ以上ふざけたことを抜かすならこれから俺はお前を一瞬にして地に沈める。そしてお前の仲間たちを一人ずつ殺して––」

 

 どすっ。

 極が言いかけたその瞬間、極は俺の放った拳を腹に受けて殴り飛ばされて行った。

 だが、さすが極と言ったところだろうか、すぐに空中で態勢を立て直して地面に着地してふみとどまった。

 怒りが、自分の中で怒りがふつふつと湧いてくる。

 俺の仲間たちを皆殺しにするだと? そんなことは絶対に許さない。

 今ここで必ずこいつを抹殺する、そのことしか今の俺の脳内にはなかった。

 

 そしてどんどんと俺の中で落ち着きが出てくる。どうやら怒りが限界を超えすぎて逆に冷静になってきているようだ。

 

 今のこいつを倒すためにはどうしてもクレア王と限界突破を合わせたような力が必要だ。だが、これは彼方に絶対にやるなと禁止されてしまっている。

 でも、今はもうなりふり構っている場合じゃない。

 やるんだ、海藤真。たとえこの身が壊れようとも。

 

 そして俺はクレア王と限界突破を使用した瞬間、意識を失ってしまった。




 はい!第213話終了

 次回でこの異次元編は終了です。

 重要な戦いのわりには短いと思う方もいらっしゃると思いますが、この最終章の戦いがどれも長すぎて麻痺しているだけでちょっと前までは一つの戦いはこの位の長さだったんですよね。

 そしてもう時期彼方がクレアと限界突破を同時に使用するなと言っていた意味が分かってきますよ。

 それでは!

 さようなら


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第214話 ココから

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 真は極に対して残像を作り出し、頭脳戦に持ち込もうとするものの、そんなものは極には通用せず、あっけなく真はぶっ飛ばされてしまう。

 自分と同じ技を使われ、そしてさらには自分の技よりも強力な技をも使ってくる極にどんどんと絶望を抱いていく真。

 そんな真に対して説教染みた言葉を並べる極。

 そしてついに極は真の仲間たちを殺していくと言い放った。

 その言葉に対して抑えきれないほどの怒りと殺意を覚える真。

 ついに真はクレア王と限界突破を使用し、意識を失ってしまったのだった。



 それではどうぞ!


side真

 

「あれ、俺は今までいったい……」

 

 目を覚ました。いや、目に映る景色は未だにあの異世界のままだから完全に目を覚ましたわけではないんだろうけど、目を開けると俺は仰向けに倒れていて体から大量の血を流していた。

 少しさっきまでと違うことはそこらへんに大量のクレーターと炎が見えることだ。

 気を失ってしまって、それからのことが一切分からない。だけど、一つ言えることはこの状況を鑑みるに俺は極に敗北してしまったということだ。

 

 悔しい。やっぱり俺は弱い。

 この幻想郷に来て、能力を使えるようになって修行して、強くなれていると思っていた。そしてクレアを使えるようになり、装、王のクレアも使うことができるようになったことでもうほとんどの相手に負けることはなくなったんじゃないかって少し自惚れていたんだ。

 

 だけどふたを開けてみればクレア王でも勝てない相手がごろごろと居て、俺は居の中の蛙だったということを思い知らされてしまった。

 

「は、ははは、ははははははははははははは」

 

 もう笑うことしかできなかった。

 己の無力さに、己の非力さに絶望し、笑い転げる事しかできなく、目に腕を置いて涙を流しながら笑い続けた。

 

 本当に、俺が今ここに居る理由って何なんだろうな。

 俺はただ普通に平和にこいしとこの幻想郷で楽しく暮らしたいだけなんだ。それ以上は何も望まない。

 この世界での俺の役割って何なんだろう。

 

「ははは、本当に俺の役割ってなんなんだ」

「知らん、だがお前の今の役割はこの幻想郷を救うことなんじゃないか?」

「っ、極」

 

 一人でつぶやいたつもりがすぐそばに先ほどまで戦っていた極が椅子に座って本を読んでいた。

 フードをかぶっていて顔がよく見えないものの、吐血の痕と額から一筋の血が流れてきていることから俺が気を失ったあと、何かがあったのは確かだ。

 

 それにしても、こいつこそ何なのか全くわからない。何が目的でこんなことをしているのか、敵なのか味方なのか、全く分からない。

 

「お前の望みはなんだ?」

「え?」

「いいから答えろ」

「……こいしとスローライフを送ることができれば幸せだ」

「そうだな。で、それを達成するにはまずは何をしなければいけない?」

「この異変を解決して幻想郷を元に戻す」

 

 突然極は俺に問いかけてきたため、俺は戸惑いながらもゆっくりと極の質問に対して答えていく。

 極からは先ほどまでの圧は全く感じないほどに大人しくなってしまっていた。

 今の状態だったらさっきまでの俺の体力だったら勝てたかもと思ってしまうものの、これはおそらくクレアで制御をしているだけだ。完全に弱体化したわけじゃない。

 今の俺は特に勝つことはできないだろう。なにせ、体がピクリとも動かないほどに体力を消耗してしまっているからな。

 

 そして極は俺の回答を聞くと満足そうに頷き、本を閉じると椅子から立ち上がった。

 その瞬間、椅子は消滅し、極はゆっくりと俺の前まで歩いてきた。

 

「そこまでわかっているなら今やるべきことはわかるだろ? そうやって嘆くことが今やることなのか?」

「……いや、戦う。どんなに厳しい戦いになろうとも戦う」

「そうだ。お前の目標を達成するには戦うしかないんだ」

「なぁ、一つ聞いていいか?」

「なんだ」

「お前は俺の敵なのか、味方なのか、どっちなんだ?」

「……どうなんだろうな。もしかしたら今のお前たちの概念、判定で言ったら俺は敵なのかもしれない。目的を達成するために罪のない人を殺めてしまっているからな」

「っ」

 

 極が人を殺めてしまっているという言葉を聞いて息を呑んだ。

 確かに極の言う通り、俺たちの今の概念では罪のない人を殺す奴は敵と言うことになっている。

 そしてその目的を達成するために人を殺すというのはまるっきり異変の元凶とやっていることは同じことになってしまっている。

 だけど、どうにもそれが絶対に間違っていると言えない自分が居た。

 今ならわかる。この幻想郷を、こいしを救えるのなら俺は罪のない人を殺してしまうかもしれない、そう思ってしまったからだ。

 

「まぁ、だが俺の目的は達成した。もうここに居る必要はない」

「どういうことだ?」

「ちょっと前にさ、シャドウのやつに教えてもらったんだよ」

「何をだ?」

「自分に会うのはご法度なんだってよ」

「ん? どういう––」

 

 いまいち極の言っている言葉の意味が分からない。

 どういうことなのか聞き返そうとしたその時、俺の足元にスキマが出現し、重力に従って俺の体はそのスキマの中に落ちていき始めた。

 まだ聞きたいことは山ほどあるというのに、極はこれ以上の質問を受け付けないとばかりに俺を空間から追放したのだ。

 

「悪いな、タイムリミットだ。そのスキマから脱出すると現世で目を覚ますはずだ。真、お前はこれからつらく険しい戦いに挑むことになるだろう。だが、どんなに辛く険しい戦いでも諦めてはダメだ。掴み取れ、己が望んだ一番の結末を自分自身の手で掴み取れ。そして最後に一つ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()

 


 

「あ、あんた、大丈夫なの?」

「大丈夫よ。それよりも、先に進みましょう? まだ、戦いは終わっていないんだから」

 

 霊夢と紗綾の声が聞こえてくる。

 視界が真っ暗で、全身がものすごい痛い。だが、先ほどまでの痛みとは全く違う、これは神楽に攻撃された痛みだ。

 俺が妖怪であったことが功を奏して耐久力が高く、これだけのダメージで済んだというところだろう。

 

「気を失っているみんなはどうする?」

「気を失っているみんなはこれ以上戦いに巻き込まないように私の家に運んでおくわ。あそこは幻想郷の中でも辺境の地だから崩壊するのも遅いはずよ」

 

 そっか、会話を聞いている限りおそらく神楽を倒して戦いに一区切りがついたと言ったところだろう。

 ならよかった。あのあと何があったのかは分からないけど、なんとか神楽を倒せたことにホッとした。

 でも情けないな。神楽と戦っている間ずっと俺は気を失っていたということになってしまう。

 しかしここで落ち込んでいても仕方がない。紗綾の言うとおりにまだ戦いは終わってなど無いのだから。

 

 そして俺は手に伝わってくる神成りの感触を確かめ、がっしりと握りしめ、そして杖代わりにしてその場に立ち上がる。

 

「「「「「「「真!」」」」」」」

 

 おそらく全員俺がやられてしまって、目を覚ますことは無いと思っていたのだろう。俺が目を覚ましたことによって驚いて声を上げていた。ただ一人、霊夢を除いて。

 

「遅いわよ、あんた」

「悪い」

 

 霊夢には起きたばかりだというのに悪態をつかれてしまったが、それは霊夢が俺が目を覚ますということを信じてくれていたということなので少しうれしくなってしまった。

 

「なによ、悪態突かれているのに笑顔なんて浮かべて、気持ち悪いわね」

「いや、気にしないでくれ。それよりも進むんだろ? 最期の戦いへ」

「そうね、絶対にこの異変を解決して過去一番の宴会を開くわよ!」

「だな」

 

 そして俺たちは笑いあい、最後の戦い、ジーラの待つ最深部へと気を失っているみんなを運んで行っている紫とシャロ以外のみんなで向かっていった。




 はい!第214話終了

 ついに異空間編終了し、ジーラ戦へと向かいます。

 ただ、何回も言っていると思いますけど、神楽より強い敵は居ないですから。

 それにしても、極の発言で誰なのか分かった人も多いのではないでしょうか?

 ちなみにこの最終章は二種類のルートがあるのですが、まずはハッピーエンドの方を書いていきます。
 ただ、もう一つの方がバッドエンドかバッドエンドじゃないか人によると思うので明言はしません。

 一つ言うとしたら最初に書くルートはルート1、その次に書くルートはルート0となっております。

 それでは!

 さようなら


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第215話 最期の

 はい!どうもみなさん!ミズヤです

 さぁ、今回からやっと最終章終盤戦といっても過言ではないです。まぁ、神楽が強すぎた故にラスボスって感じがありましたが、ほとんどその認識でも間違いではないです。

 この章ではもう神楽以上の敵キャラなんて出てこないので。



 それでは前回のあらすじ

 真が意識を取り戻すと真は極に敗北していた。だが、極もかなりのダメージを負ったようで、ところどころから血を大量に流しているようだった。

 そんな極は真に対して諭すように言葉を紡いでいく。

 極は目的は達成したと告げると、真をこの空間から追い出した。

 そして最後に極はとんでもない一言を言い放った。

「幽々子を殺せ」

 真は現実世界に戻ってくると周囲の状況を把握し、最後の戦いへと紫とシャロ以外のメンバーで歩を進めるのであった。



 それではどうぞ!


side真

 

 俺たちはジーラの霊力を感じる方へと周囲を警戒しながらゆっくりと歩を進めていく。

 もうジーラ以外の霊力は感じなくなってはいるが、ジーラの仲間に神楽のような奴もいることだ。いつどこで奇襲されるか分かったものではない。

 さっきの傷はなんとか妖怪の超絶回復能力によって一命をとりとめたが、次もまた無事に済むとは限らないのだ。

 

「それにしても足場が悪いな」

「しかも空間が歪みに歪んでいるから空を飛びにくいし」

 

 そう、俺たちは今、階段を上っているのだが、先ほどの戦いの影響かここら辺の階段も一部崩れており、なかなか思うように登っていくことができない。

 それに空間も歪んでおり、戦っている間は仕方がないのだが、空を飛ぶと霊力コントロールが難しくなっていく。それもジーラの部屋に近づけば近づくほどに空間が歪んでいっている。嫌な場所だ。

 

「これ、どこまで続いてんだ?」

「まるで白玉楼の階段だな」

「間違いない」

 

 ライトが発言し、龍生が例え、俺が肯定する。このいつもの会話もこのラストバトル前の緊張感を取り去るには十分すぎるものだった。

 

 やがて俺たちは最上階に到着し、扉の前に集合した。

 

「間違いない。ここからジーラの霊力を感じる」

「やっぱりあの人が絡んでいたのね」

「みたいだな。そして済まない。今回の異変が起きたのは俺のせいだ」

「どういうこと?」

「真のせい?」

 

 前回の異変に全く関わっていなかった霊夢、彼方が驚きの声を上げた。

 前回の異変のことを知っている人なら、どういう結末だったのか知っているはずだ。俺がジーラに呆れて止めを刺さずに放置してしまったということを。

 これに関しては極に何度も責められてしまった。だが、これに関しては自分でも反省している。あの時に俺が止めを刺していれば今回の異変は事前に食い止めることができたはずだ。

 もし過去に戻ることができるのならばあの瞬間にジーラに止めを刺して今回の異変を食い止めたい。

 

「まぁ、過去には戻れない。今さら気にしても仕方がないさ」

「そういうことだ」

「そうそう」

「そうね」

「うんうん」

「まぁ、何があったのかは分からないけどあんまり自分ばかりを責めるんじゃないわよ」

「みんな……」

 

 龍生、ライト、鈴音、紗綾、彼方、霊夢のみんなが俺の事を励ましてくれた。それだけでとてもうれしくて、ここが、幻想郷が俺にとっては大切な場所であるということを再確認できて、この場所を絶対に守るためにもこの異変だけは絶対に解決しなければいけないと決心する。

 極の言っていた「どんなに辛く険しい戦いでも諦めてはダメだ」という言葉、このみんなと一緒ならどんなに辛く険しい戦いでも乗り越えていけそうだと感じる。

 

「それじゃあ、行きますか!」

「おーっ」

 

 そして俺とライトは二人で最後の部屋のとても大きな扉を体全体を使って押し開けると、そこには真っ暗闇が広がっていた。

 どう考えてもこの場所は今までとはまるっきり違う場所となっており、すこし脳が混乱してきてしまう。

 そして床もどこにあるのかが全く分からない部屋だ。だが、これだけは言える。この部屋の空間は今までの空間のものじゃない。ジーラのやつ、空間の中に空間を作っていやがった。

 

 その瞬間、突然背後から突風が吹き、俺たちは部屋の中へと押し込まれてしまい、俺たちが入ったその瞬間に入口の扉が閉まった。

 あまりに突然の事すぎて俺たちは反応することができず、部屋の床に転がってしまう。

 だが、霊夢とライトはさすがと言うべきか、受け身を取ってすぐに立ち上がった。

 それにしても、この部屋は床が見えないだけで、普通に床があるようで、立ち上がることができた。

 

「来たか、愚か者ども。この場所が貴様らの墓になるということも知らずにのこのこと入ってきたな!」

「っ、ジーラ」

 

 突然声が聞こえて来た。だが、この声は間違いない。

 少ししか聞かなかったが、この下種さ、忘れるわけがない。

 ジーラの声だ。姿こそ見えないものの、これは確実にジーラの声で、そしてこの空間に漂っている濃厚な霊力はジーラのものだろう。

 以前のハエほどしかなかった霊力とは見違えるほどに大きくなっており、普通に危険人物認定できるほどの霊力量となっていた。

 

 その次の瞬間、周囲に存在していた灯篭に灯がともり始め、周囲を火の光で照らし始め、ようやく真っ暗闇となっていたこの部屋の全貌が明らかとなった。

 

「っ、気持ち悪いわね。あんた、趣味悪いんじゃないの?」

 

 さすがにこの気味悪さに霊夢も言わずにはいられなかったようで、ここに居るみんなを代弁するかのようにその言葉をつぶやいた。

 この部屋は全体的に宇宙空間のような見た目となっており、さらに床までも宇宙空間みたいな見た目となっていて常に動き続けている。

 そんな見た目の空間に大量の灯篭と椅子、テーブルがあるのだから違和感しかない。

 

 そしてこの声の主、ジーラは俺たちの真正面、俺たちが立っている側とは真反対の壁に寄りかかって立っていた。

 

「緑の! お前にやられたあの日の屈辱はまだ忘れていないぞ。お前らに壊滅させられて、俺はお前らを殺すことを誓った! 強くなって、今の俺は自分の力だけでも十分戦えるほどとなった! もう、緑、お前が俺に触れることはない」

「っ」

 

 そう言い放ったジーラからは威圧が放たれており、その威圧によって一瞬だけ俺も怯んでしまうほどだった。

 確かに強くなっているようだ。だが、ジーラはもともと弱いから、ずっと修行を続けてきた俺たちが負ける道理はない。

 

「お前を倒し、この異変を解決する!」

「俺、地味に幻想郷気に入ってるんだよね。だから幻想郷をめちゃくちゃにされちゃ困るんだわ」

「右に同じくだね、私はこの幻想郷が大好きなんだよ。だから守るよ、絶対に」

「まぁ、俺はあまり幻想郷には思い入れは無いが、幻想郷がなくなると困るやつが居るんだ。だから全力で……」

「あなたと私は元仕事仲間。上司と部下の関係。だけど、それも今日でおしまい。楓花や春人の為にも決着をつけるよ」

「シャドウがさ、すごくこの幻想郷を大切にしてるんだよ。どうしてなのか、それは今まで一度たりとも教えてくれたことはなかったんだ。だけど、すこし気持ちはわかるんだよ。確かに私は幻想郷にいるどの神よりも後に神になったけどさ、それでも幻想郷は大切なんだよ。今も、昔も、だから戦うよ」

「ほんっとうに今までのどの異変よりもダントツで面倒な異変だったわ。幻想郷は崩壊していくし、どいつもこいつも真の事を敵対視しているし、ちょっと本当に投げ出そうかと心が折れかけたわ。でも、私の仕事は幻想郷を脅かすやつを退治することなの。あんたを退治して幻想郷を守らなければいけない。だから、絶対に勝つわよ」




 はい!第215話終了

 ついに次回からジーラ戦が始まります。

 まぁ、ジーラ戦はそこまで長くしないつもりですので、神楽戦よりは気軽に読めるのではないでしょうか。

 ちなみに最後のセリフの順番は真、龍生、鈴音、ライト、紗綾、彼方、霊夢です。

 ラストバトルにはこのメンバーで挑みます。随分最初と比べたらメンバー減りましたね。

 と言うか、バトルが始まる前に命蓮寺メンバーがごっそりと削られてしまったのが結構きつかったですよね。

 最期はいつものメンツ、プラスで彼方と霊夢っていう感じですね。

 この無意識の恋では霊夢が異変解決に加わるのはものすごく久しぶりじゃないですか?

 ちなみに裏話ですけど、神楽戦でシャドウも道連れにした理由はシャドウが居るとジーラを瞬殺してしまうからというのがあります。

 それでは!

 さようなら


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第216話 そういうことだろ?

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 ついに神楽に勝利した一行は目を覚ました真と共に最後の戦いへと臨む。

 最後の部屋にたどり着いた一行の目の前に現れたのはやはり真に恨みを抱くジーラだった。

 以前戦った時は相手にならないほどの小物だったが、あれから非常に強くなっていることに驚愕しながらも真はジーラを倒し、幻想郷を救う決意を高める。

 ついに主犯との対決。

 果たして勝つのは真たちか、それともジーラか。



 それではどうぞ!


side真

 

 もしも、もし、俺があの時、ダーラのところに直接転移されてしまっていたら。

 もしもあの時、こいしが俺の事を見つけ、あとをついてこなかったら、そう考えると時々眠れないことがあった。

 

 となりで眠るこいしにおやすみと告げ、俺も同じように仰向けになって目を閉じるが、その瞬間に見たこともない景色が視界に広がるのだ。

 

 人里も、妖怪の山もめちゃくちゃに破壊され、空が真っ黒なエネルギーで覆われて住人がみんな苦しんでいく。

 真っ黒なエネルギーは幻想郷に住んでいる人たちにとってはとても有害なもので、それによって苦しみながら息絶えていく人々の姿をダーラとポリオンは上空から笑いながら眺めている。

 そしてそんな二人の横に俺も居て、これをやったのはほとんどが俺で、現実では自分の命よりも大切なはずの幻想郷を崩壊させ、こいしを苦しめてしまっていた。

 だが、この俺は何も思っちゃいなかった。なにせ、これをしでかした俺に幻想郷への思いなどゼロだったからだ。

 俺がこいしと接触したおかげで俺はこの幻想郷の事を好きになったし、守りたいと本気で思うようになっていた。

 

 だけど、俺がこいしと接触することが無かった場合、俺はこっちの運命を辿っていたかもしれない、そう考えると俺は恐ろしくて夜も眠れなかったんだ。

 

 その可能性がある俺に本当にこの世界を、幻想郷を救う資格なんてあるのだろうか、そんな考えがこの戦いの最中にも何度も何度も頭をめぐっていた。

 でも、今の俺はこの幻想郷を救いたい、その思いが俺を何度も助けてくれ、原動力になってくれている。

 しかし、みんながことごとく俺に敵対していく、そしてこの幻想郷が崩壊の一途をたどっている。まるで俺が見た夢の話みたいだと、今更ながら考えてしまっていた。

 

『幽々子を殺せ』

 

 極のその言葉を聞いてから俺はこの考えが頭から離れなくなってしまっていた。

 俺には幻想郷を崩壊させた世界戦も存在している。幽々子を殺してしまったら俺もそいつらと同じことになってしまうんじゃないだろうか。

 違う違う。俺は違うんだ。

 

 今、目の前に居る敵に集中しよう。今の俺の敵は誰だ? 俺じゃないだろう。

 ジーラだ。ジーラを倒せばこの異変は解決される。この異変は収束し、幻想郷ももとに戻ってくれるはずだ。

 なら、俺はただ、今まで通りにこの異変を解決して平凡ないつもの生活を取り戻す、それだけだ。

 

「さぁ、緑! ここがお前の死に場所となるのだ。そして魂となって永遠にこの空間をさ迷い続けるがいい!」

「……なぁ、みんな」

 

 俺は今までの事を思い出しながら静かに言葉を放った。

 正直この異変が始まってから俺はずっと迷いっぱなしだった。いや、今もずっと迷い続けている。

 本当に俺はこの場に居ていいのだろうか。ジーラが幻想郷をめちゃくちゃにしている原因は俺にある。

 俺こそみんなに叱責され、退治されるべき存在なんじゃないかとずっと思い続けている。

 

 今回の異変の元凶は俺だと言っても過言ではない。

 ここまで着いて来てくれたみんなには感謝しているし、悪いことをしたとも思っている。だから––

 

「この戦いは俺一人に任せてくれないか?」

「っ、シン。それって」

「あぁ、自分の尻拭いは自分でする」

 

 もとはと言えば俺がこいつに止めを刺しておけばよかっただけの話なんだ。だけど、それをしなかったのは俺の責任だ。

 だから、自分の尻拭いは自分でする。

 すると彼方は血相を変えて自分一人で戦おうとする俺を必死に止めようと前に立ちふさがってきた。

 

「ば、馬鹿なことを言わないでよ! みんなで一緒にここまで来たんでしょ? なんでそうなるのさ! 私たちも一緒に戦うよ!」

「やる気を出してくれているところ、本当にすまないと思っている。だけど、俺が前に完全に止めを刺しておけばこんなことにはならなかった。あいつだけはどうしても俺が、俺自身の手で決着を付けなければいけないんだ。それが落とし前ってやつだ」

「シンはなにも悪くないよ! 悪いのは全部あいつだよ! もし本当にシンのせいでこうなったんだとしたら私たちにも背負わせてよ! 私たちは仲間でしょ?」

「……ごめん」

 

 俺は静かにそう呟いた。

 今俺が彼方に言った言葉は確かにそういう意図もあるが、これはほとんど建前のようなものだ。

 これ以上みんなを傷つけたくないし、何より今の俺の頭の中は怒りでどうにかなりそうなのだ。だから俺は自分自身の手であいつを倒したい、そう考えてしまっていた。

 今までの異変では幻想郷を救いたい、そんな思いがほとんどを占めていたが、今の俺の思いは幻想郷を救いたいという思いよりも怒りによってあいつをぶっ倒したいという感情、自分の一個人の感情であいつと戦おうとしていた。

 そんな自分にびっくりしてしまったが、一度頭によぎってしまった以上、もう収まりは効かなかった。

 

 俺は彼方を押しのけると、ゆっくりとジーラへと向かって歩き始め、ジーラも俺と同じように同時にゆっくりと部屋の中央へと歩き始めた。

 

「シンっ」

「真!!!!」

「っ!」

 

 その時、彼方が追いかけてくるかと思ったが、いや実際に追いかけようとして声をかけて来たのだろうが、そんな彼方の声をかき消してしまうほどの声量で声をかけられたものだから俺はびっくりしてその場に立ち止まってしまった。

 この声は俺の親友、刻雨龍生の声だ。

 こんな大きい龍生の声を聞いたのは初めてで驚きのあまり動けなくなってしまった。

 

「まぁ、いろいろと言いたいことはある。ふざけんなとか、調子乗んなとか、今すぐ殴って頭冷やせと言いたいところだが、正直言うと俺も真の立場だったら我慢できるかどうかわかんねぇんだよな」

「龍生?」

「でも、お前の事だから俺たちをこれ以上危険な戦いに巻き込みたくないっていう気持ちもあるんだろ? なんだそれと、ふざけろと……なぁにが自分の手で倒さなければいけないだ。お前がお前自身の手で倒したいだけだろバーカ」

「ちょ、ちょっと龍生、言い過ぎじゃ」

「はぁ……なんだかんだ俺たちはお前に信用してもらえていなかったわけか」

「そ、そういうことじゃ」

「そういうことだろ?」

 

 龍生は俺に対して言いたいことをぶつけてきた。そしてそのどれもがぐぅの音も出ないような正論だったため、俺は何も言い返すことなどできないでいた。

 さすがに言い過ぎだと感じたのか鈴音は龍生を止めようとするものの、龍生はそんな鈴音の言葉を遮るようにため息をついて言葉をさらに並べた。

 

「守りたい、そりゃ自分より弱い物、自己保身ができない人に対して使う言葉だぜ? そんな言葉を俺たちに使うってことはお前にとっては俺たちは自己保身ができないくせにこの異変解決についてきた間抜けっていう認識なわけだ」

「ち、違う! みんな頼れるし最高の仲間だと思っている!」

「まぁ、でももうどっちでもいいんだ。多分俺も同じ立場になったら同じことを考えてしまうだろうからさ、だからもうこれ以上は何も言わないし、この場はお前に任せるとする」

「ちょ、ちょっと龍生!」

「だからさ、()()()()()()。勝ってこの幻想郷が元に戻った暁には、今回の異変でお世話になったみんなにジュース一本、驕れよ」

 

 言い方はきついし、日ごろの俺に対する文句を並べているだけの様に思えるが、これが龍生流の鼓舞なんだ。

 異変解決後の約束を取り付けるということは龍生は俺が勝つということを一切疑わずにすべてを俺に任せてくれるという意思表示に違いない。

 だから俺は振り返ることはなく龍生の期待に応えるために一歩、また一歩と歩き始めた。

 

「ちなみに何が飲みたいんだ?」

「そうだなぁ、ドクターソイルだな」

「お前、それ嫌いじゃなかったか? まぁ、いいか。あと、俺は()()()じゃなくて()()だからな」

 

 俺は少しにやける顔を正し、ジーラと共に部屋の中央へとたどり着くとジーラをじっと見据える。

 

「随分と舐めたことを言ってくれるじゃないか。今の俺に勝てるわけがないだろう」

「やってみなければわからないぞ?」

 

 そして俺は神成りを、ジーラは拳銃を構え、そして同時に攻撃を開始した。




 はい!第216話終了

 ついに次回から真対ジーラが始まります。

 というか、この最終章に入ってから独白多めですよね。

 真対ジーラ、以前のままだったら真が圧勝ですが、今のジーラの実力が未知数ですからね。

 そして一番最後の真と龍生のやり取りは長年の信頼が感じ取れるように頑張ってみたんですが、どうですかね。親友ならではの会話です。

 久々にまこっちゃんネタやりましたね。やっぱり二人のやり取りと言えばこのまこっちゃんネタですから、この最終章に龍生を存分に絡ませると考えたときからやりたいと思っていたことの一つです。

 それでは!

 さようなら


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第217話 勝利(敗北)

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 ついにジーラと遭遇した面々だったが、突如、真が驚きの一言を言い放った。

 それは自分一人でジーラと戦うという言葉だった。

 強くなり、実力が未知数となったジーラと一人で戦うのは危険だと彼方は止めるものの、真は止まらない。

 そこで龍生が真を鼓舞し、真の中で絶対に勝つという決意がみなぎる。

 ついに始まる真対ジーラ。

 果たして勝者はどっちか!?



 それではどうぞ!


side真

 

『いくよ、真』

「あぁ、いくぞ、相棒!」

「なぁにごちゃごちゃ言ってやがるんだ!」

 

 俺は神成りを構えてジーラへ突撃し、それと同時にジーラは拳銃を構えて発砲してきた。だが、ただの拳銃の速度だったら今まで戦ってきたやつらの攻撃の方がよっぽど速かったため、この程度の速度の銃弾が俺に当たるわけがない。

 冷静に飛んできた銃弾を刀で受け流し、全力で地面を蹴ることによってジーラに急接近して刀を構えた。

 

 こいつはあの時はものすごく弱かったが、今となってはこの規模の異変を起こした元凶だ。油断することは絶対にない。

 

 刀に霊力と妖力を流し込んでコーティングし、鋭さを上げる。俺の剣士としての火力はあまりないが、これで少しで火力の底上げを行う。

 そして俺は振りかぶってジーラへと刀を振った。

 ここで強者ならば余裕でこの一撃は回避してくるであろう。だが、ジーラは全く微動だにする気配もなく、このままでは俺の刀で首を飛ばしてしまう。前回と同じようにあっさりとした決着を迎えてしまう。

 

 そしてその考えは正しく、神成りはきれいにジーラの首を斬り飛ばしてしまった。

 

 俺の刀はジーラに直撃することはなく、ジーラは直前で回避をして俺の背後に回り込んできた。

 

「しまっ」

「今の俺にはお前を殺すことができるほどの力があるんだ!」

「ぐっ!」

 

 俺はジーラに蹴り飛ばされてしまい、体が宙を舞った。

 その隙にジーラは拳銃を再度構え、俺に向けて発砲してきたので、俺は何とか空中で身を捻り、その銃弾を回避した。俺は何とか空中で身を捻って回避したものの、その後すぐにもう一発の銃弾が飛んできたため、俺は回避しきることができずにもう一発の銃弾が俺の体に直撃してしまった。

 

「ぐ、が」

 

 焼けるような痛み。

 あの忌々しい戦いを思い出すような鮮烈な痛みに苦痛の表情を浮かべてしまう。

 今までこの程度の痛みは何度も食らってきたはずだし、なんならこれ以上の痛みも食らってきたはずなのに、この痛みは今まで食らって来たどんな痛みよりも痛く感じた。

 

「お前の攻撃は当たらない。だが、俺の攻撃は当たった、これがすべてだ。もう今の俺はお前を優に超えている!」

 

 確かに俺の攻撃は当たっていないし、ジーラの攻撃は俺に直撃してしまっている。それは確かに事実だ。

 だけど、なんだこの違和感は。

 事実を捻じ曲げられているかのような強烈な違和感がある。

 さっきの攻撃だって直撃するはずだった。あの一撃で終わるはずだった。

 だけど、気がついたらジーラは俺の攻撃を回避していて、俺の背後に回り込み、代わりに俺がピンチになってしまっていた。

 

「真!」

「大丈夫だ、これくらいじゃ俺は死なない」

 

 彼方が心配して声をかけてくれるが、俺は心配をさせないように大丈夫というが、結構重症である。

 どうやら心臓付近を銃弾が掠めたようで血も大量に出ているし、ダメージによってふらふらとする。

 

 それにさっき胸を貫かれたダメージがまだ残っているみたいでこれだけで瀕死になってしまっている。

 

「おやおや辛そうじゃないか。今楽にしてやるよ!」

 

 ジーラは俺に向かって再度拳銃を構えるとそのまますぐに俺に向かって発砲してきた。

 今のままだとやられてしまう、そう考えた俺は戦いが始まってすぐではあるが、クレアを発動させ、銃弾を回避してジーラへと急接近した。

 

「それはバークと戦っていた時の奴だな。だが、無駄だ! 俺にそんなものは通用しない」

 

 俺が刀を構えて再びジーラへと刀を振るといともたやすく刀はジーラの胴体を一刀両断した。いともたやすく回避されてしまい、先ほどと同じように背後を取られてしまった。

 だが、そう何回も同じ手に引っかかると思ったら大間違いだ。

 俺はこの展開が読めていたため、足にクレア装を纏わせ、背後で銃を構えている手に向けて回し蹴りをしてジーラの拳銃を弾き飛ばし、ジーラの心臓目掛けて突きを放った。

 するとこれにはジーラは反応することができなかったようで、身動き一つできずに俺に心臓を一突きされた。

 だが、この一撃はどうやら読まれていたようでこの突きは半身になって回避され、今度は逆に俺が腹にジーラの膝蹴りを食らってしまった。

 

 なんとか直撃する寸前にクレア装を腹に纏わせて硬化させていたからダメージはあまりないが、全くダメージを与えることができずに、しかも攻撃を食らい続けていたらいくらジーラが強力な技を使ってこないと言えども体がもたない。

 

「諦めるこった。お前では俺には指一本触れることは不可能なのだよ!!」

「真、戻って! 戻って一緒に戦おうよ!」

 

 彼方の必死の声が聞こえてくる。今の俺の姿を見たら誰だって心配になるし、敗北を考える。

 だが、もう少しで何かが分かりそうな気がするんだ。何か違和感がある。

 さっきからずっと俺の攻撃は直前で回避されてしまっているんだ。そしてジーラの攻撃は確実に当たるタイミングで放たれている。回避するとその回避した先にすでに攻撃があるんだ。

 まるで未来でも見えているかのような回避精度と攻撃配置。

 

 全く……なんで異変を起こす奴らってこんなとんでも能力なのかね。

 

「お前ら全員で挑んできたっていいんだぜ? どうせ俺は負けないがな」

「馬鹿を言うな。お前の喧嘩の相手はこの俺だ」




 はい!第217話終了

 ついにラストバトルが開始したわけなのですが、真がぼこぼこにされてしまっています。

 それに取り消し線で隠されているところを読んでみると何度も真がジーラに勝利しているといっても過言ではない展開があります。

 まぁ、この章の初めの方を覚えている人はわかるかもしれませんが、どういうことなのでしょうか!

 ちなみにジーラ自体は弱いです。くそ雑魚です。防御力カスです。真の普通の斬撃でも一撃で絶命させることができます。霊縛波なんて使ったらオーバーキルもいいところです。

 しかし、鬼流やデイでは勝てないんですよね。

 それでは!

 さようなら


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第218話 男の意地

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 ついに始まった最終決戦。

 真は自分一人でジーラと戦うと啖呵切って戦いを始めたものの、その結果は惨敗。

 真の攻撃はことごとく回避され、逆にジーラの攻撃はすべて当たってしまうという最悪の状況。

 果たしてどうなってしまうのか!?



 それではどうぞ!


side真

 

 しかし、どうしたものか。

 確かにこの現状はものすごく絶望的な状況だ。

 

 俺の攻撃は当たらない。だけど、ジーラの攻撃は何らかの形で必ず当たってしまう。この状況を続けていたら俺が負けてしまうのは必然だった。

 でも大丈夫だ。まだ致命傷を防げいている。まだ耐えることができる。

 ならジーラの攻略方法を考える猶予は残されているということじゃないか。

 

 俺はいつだって劣勢の状況から勝ち上がってきたんだ。

 だから今回も、なんど攻撃され、なんど地面をなめることになろうとも、たった一回。たった一回勝つことができれば俺の勝ちなんだ。

 俺が死なずにジーラを倒すことができれば、それで俺の勝ちなんだ。

 

 問題はない。いける。

 それにジーラといえどもクレアのスピードに、クレアの破壊力についてくることは不可能だろう。

 素の力がとんでもない奴ならばついてくることは可能だろうが、おそらくジーラは確かに霊力はアップしているものの、能力に頼り切った戦い方をしているに違いない。ならば、クレアについてくることは不可能だ。

 何せこれは常人が簡単についてくることができるような生易しい代物じゃないからだ。

 

「もうやめて、シン! 諦めてみんなで一緒に戦おう! みんなで戦えばきっと勝てるよ!」

 

 戦いを開始してからずっとそう声をかけてきている彼方。

 彼方には悪いけど、俺はその案に乗るわけにはいかない。乗ってはいけないんだ。

 もともとは俺が原因でこの状況が作り出されてしまっているんだ。自分の起こした不祥事は自分で解決し、自分のけつは自分で拭く。それが落とし前ってものだ。

 

「シン!」

「彼方ちゃん、わかってやってほしい」

「タツキ?」

「あいつもとっくにわかっているんだ、そんなこと。だけどな、男にはやらなければいけない時があるんだ」

「わからない、わからないよ! それで死んじゃったら元も子もないよ!」

「……あいつはいつだって死ぬ気で戦っているんだよ。今回もそうだ。殺されても死なないあいつだからこそ出来ることなんだろうが、その覚悟は常軌を逸している。俺にも理解できない領域のことだ。だからこそ、俺はあいつのことは尊重してやりたいと思っている」

「タツキ」

 

 なにやら彼方と龍生が話している。

 俺とは距離が遠く離れているため、二人がどんなことを話しているのか聞き取ることはできなかったものの、それによって彼方が静かになったため、何か彼方に言ってくれたのだろう。

 本当に気が利く親友だ。

 

 俺だって本当はわかっている。俺の攻撃がすべて読まれている。

 何をしたって当たるわけがないって。だけど、男にはやらなければいけない時がある。つまりは単なる男としての意地っていうところだ。

 本当はすぐにでもみんなに助けを求めたい。もう痛いのは嫌だ。

 ダメージをすごい受けてしまっているからいつ死んでしまうのか分かったものではない。

 

 こんな状況に慣れている俺もさすがに精神的疲労と身体的疲労でもうフラフラな状態になってしまっていた。

 だけどふらふらとよろめいて落ち着かない足を叩いて無理やり落ち着かせて再度ジーラへと顔を向けた。

 

『大丈夫?』

 

 刀の中から心配して声をかけてくれる紬。

 自分から一人で戦うと言っておきながらこの体たらく、非常にかっこわりぃな。

 正直言えば大丈夫じゃないんだが、紬には刀の中にいるから見えていないと知りつつも安心させるように笑顔を作りながら小さくつぶやいた。

 

「大丈夫だ。お前の相棒は強いんだから、さ」

『真、なんか他人事っぽいよ』

「はは、」

 

 紬のそのツッコミに対して俺は乾いた笑いをこぼすことしかできなかった。

 俺は俺自身の言葉でしっかりと大丈夫だと紬に伝えることができなかったのは非常に情けないな思う。

 

「どうした? 来ないならこっちから行くぞ。お前には恨みは腐るほどあるんだ。簡単に死ねると思わないことだな」

「そうか、だけど、俺も簡単に死ぬ気はないんでね、簡単に殺してくれないのは好都合なのかもしれないな」

 

 正直言って絶望的な状況。俺の攻撃が一切当たらないこの状況。

 だけど負けるわけにはいかない。俺が負けたら後ろにみんながいるが、もしもみんなも負けてしまったらこの幻想郷が終わりだ。

 だから俺は俺で戦いを終わらせる。

 

 俺は再度刀を構えてしっかりとジーラを見据える。

 そして俺は再度ジーラに向かって駆け出し、刀を馬鹿みたいにさっきまでと同じ形でジーラに向かって振るが、回避されてしまった。

 

「ふん、同じじゃ俺には当たらねぇぞ!」

 

 するとさっきまでと同じようにカウンターをしようと回し蹴りの態勢に入るジーラだが、俺はこの展開は予想済みだった。いや、むしろわざと今のように馬鹿みたいに今までと同じ動きで攻撃したんだ。戦いに慣れていないであろうジーラならばこの程度のフェイクでも引っかかるだろうと思ってのことだ。

 だから俺はジーラの足に肘打ちをして蹴りを回避した。

 

「なっ」

「単純なんだよ!」

 

 今この状態からではどれだけ反射速度が速くとも完全に回避するなんてことは不可能だろう。だから俺はその肘打ちをしたそのままの体勢でジーラに刀を振った。

 その刀はジーラに防御されることなくジーラの首を切り飛ばした。直前でジーラがしゃがんで回避したことによって空を切ることとなってしまい、俺の懐にもぐりこんだジーラは俺の胸に拳銃の銃口を当てると、そのまま発砲してきたため、俺は衝撃によって吹き飛ばされ、胸に銃弾の形の丸い穴をあけられてしまった。

 

「ぐああ、ぐっ」

「はぁ、はぁ、今のは危なかった」

 

 フェイントをしたものの、そんなものは通用しないといわんばかりのジーラの回避力に俺は少し恐怖を覚えてしまう。

 まるで頭の中を常に除かれているかのような回避力、そして未来予知並みの先読み能力を秘めている。

 ジーラの能力は一体何なんだ。




 はい!第218話終了

 ジーラ戦は結構書くことが少ないんですよね。神楽のように大々的に戦うわけではないため、もしかしたらあと数話で話が終わるかもしれません。

 ちなみに取り消し線が引いてある文章も実際にあったかもしれない世界戦の話ですので、関係ないわけではないんですよ。

 というか、おそらく僕が取り消し線を使うのは今後のすべての作品を含めてもこの戦いが最初で最後でしょうね。

 それでは!

 さようなら


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第219話 勝利条件は

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 真とジーラの戦いはまだまだ続く。

 相変わらず全然真の攻撃はジーラに当たらず、ジーラの攻撃はすべて当たるという状況に危機感を覚えた彼方は真にみんなで戦うように言うが、それを真は却下した。

 龍生はそれを男の意地なんだという。

 だが、今のこの状況を見ているだけでは真の力ではジーラに全く勝ち目がないように見える。

 果たして真はジーラに勝つことができるのか?



 それではどうぞ!


side真

 

 いくら攻撃しても攻撃は当たらない、それどころかいくらジーラの攻撃を回避しても何らかの方法で攻撃を食らってしまう。

 回避しても回避してもきりがない。攻撃がまるで俺のことを追尾しているかのように感じる。

 あまりのダメージの大きさに耐え切れなくなってしまい、俺はその場に膝から崩れ落ちてしまった。

 

 致命傷は何とか回避している。仮に受けてしまったとしても能力が致命傷を防いでくれている。

 だけど、もうそろそろ限界だ。俺の能力は致命傷を受けないだけで決して不死身というわけじゃない。ダメージを受けすぎたら死ぬのだ。

 そろそろ何とかしないとマジで死ぬ。

 

「どうだ? そろそろ限界なんじゃないか? 抵抗しないなら楽に殺してやるよ」

「へっ、やだね。誰がすんなり死んでやるもんか!」

「なら、殺すだけだな」

 

 でもなんとなくわかってきたような気がする。

 ジーラの攻撃手段は拳銃のみだ。霊力を使った特殊な攻撃をしてきたりなど、そういうわけじゃない。

 単純な弾丸が、霊力が込められているわけでもないただの弾丸が俺のことを殺すために全力で追ってきている。だけど、それは俺のことを本当に追尾してきているわけではない。

 ジーラが俺の行く先に先回りするように攻撃を放ってきている。つまり、そこにジーラの能力のヒントがあるのだろう。

 

 そこから考えるにジーラの能力は未来予知系統の何か、はたまたそれができる力なんだろう。

 なら簡単だ。

 ジーラの能力は別に俺を追尾してきているわけでも、俺に必中するものでもない。

 全く俺もさっきから攻撃を防げていないわけじゃないんだ。攻撃を防いでもその次に防げない攻撃が来るっていうだけで絶対に防げないわけじゃない。

 なら大丈夫だ。もうジーラの攻撃なら対処できる。

 

 今までの戦いで何も得ていないわけじゃないんだ。この程度の強さの敵とは今までいくらでも戦ったことがある。

 死にそうになったことがある。

 確かに厄介な能力を手に入れたみたいだけど、バークの方が強かった。

 こんな奴に俺は負けない!

 

「すぅぅぅ、はぁぁぁ…………」

 

 深呼吸をし、一気に霊力を高める。

 ジーラはおそらく先読みができる能力を持っている。だから俺の攻撃も回避してきているのだ。

 ならば、ジーラの身体能力では絶対に回避できない攻撃をすることができれば俺の勝利っていうことだ。

 だから、全力で、ジーラを――

 

「ふん、今更お前に何ができるんだよ! お前の攻撃は当たらないし、お前は俺の攻撃を回避することはできない!」

「あぁ、確かにそうだ。だから、もう回避するのをやめる」

「なに?」

 

 俺は手のひらに霊力を集め始めて霊縛波を作り出していく。もちろんこんなものをジーラに簡単に充てることができるとは考えてはいない。こんなんじゃジーラを追いつめることはできない。

 でも、俺の勝利条件は最終的にジーラが回避できないほどの攻撃ができればいいんだ。ジーラにこの攻撃が当たらなくても次、その次の攻撃が当たればそれでいい。

 

 霊縛波は通常、使用者の手から離れたら一瞬で霊力が分散し、形を保てなくなる。この技はそのくらいに繊細な技なんだ。

 だけど、ひとつだけ抜け道があるとしたら、その一瞬よりも早く投げ飛ばすことだ。

 それならば一つだけ方法がある。

 

「これは始まりだ」

 

 そう一言だけ言い放つと俺はジーラに向かって勢いよく霊縛波を投擲した。

 もちろん、ただの投擲じゃない。俺の投擲技、狙撃《スナイパー》によって強化した投擲だ。

 

 すると俺の技はまっすぐにジーラへ飛んでいき、ジーラにあっさりと直撃したことによって霊縛波が爆発、上空に向かってレーザーが放たれ、ジーラはレーザーに巻き込まれて灰になって消滅してしまった。ジーラがさっきまでと同様に間一髪で回避したことによってジーラの背後に霊縛波は飛んでいき、それは落下することなく空中で形を保つことができなくなって消滅してしまった。

 だけど、これでいい。ここまでは想定内だ。

 これでジーラは霊縛波に一瞬でも気を取られてくれた。

 だから俺はこの隙をついて足にクレアの霊力をまとわせ、飛行するときのように足裏から霊力を勢いよく噴出させ、速力を上げ、地面が割れるほどの力で地面をけって飛び出した。

 目まぐるしく一瞬で変わる視界の中、しっかりと俺は視界の中心にジーラをとらえ、突っ走る。

 

 そこでようやくジーラは俺に気が付いたのか、慌てて拳銃を構えて正面から俺に銃弾を放ってきた。

 だけど、こんな銃弾よりも強い奴の弾幕の方がスピードが速いから見切るなんて簡単だったため、俺は刀に霊力をまとわせ、銃弾を一刀両断してそのまま突っ走ってジーラの正面までやってくるとジーラの首を一刀両断した銃弾を一刀両断したが、すぐに次の銃弾が飛んでくるというのが今までの流れから分かったため、すぐに刀を構えなおすとやっぱり飛んできたため、俺はその銃弾も一刀両断して連続で防がれて呆けているジーラに一気に接近し、ジーラの首を一刀両断した。俺はその銃弾も一刀両断したため、これでジーラの策は尽きただろうと思ったのだが、それでも冷静にもう一発銃弾を放ってきたため、ジーラはこの結果も見えていたようだ。だけど、俺はその銃弾も冷静に一刀両断し、ついにジーラの目前までやってくることができた。もうこの距離ではまともに銃なんか使うことはできない。

 そのまま俺は連続で防がれて呆けているジーラの首へまっすぐに刀を振り、ジーラの首を一刀両断した。ジーラの戦闘経験だったらもしかしたらジーラの首を一刀両断できるかと思ったんだが、ぎりぎりで刀を回避されてしまった。

 だけど、問題ない。

 俺はこの結果も想像ついていたため、回避直後で次の動きをすぐにできないであろうジーラに足をかけることによって転ばせることに成功した。

 

「なっ」

「ここからじゃさすがのお前も回避することは不可能だろ!」

 

 俺はチェックメイトだと完全に油断してしまった。

 このまま刀をジーラに突き立てて、そのまま胸に突き刺せばジーラを倒すことができる。そしてそのまま俺は刀を振り下ろし、刀をジーラの胸に突き刺し、心臓を完全に貫いた。それによってジーラは完全に動かなくなり、勝負は俺の勝ちで幕を閉じた。だが、肝心なところで甘さが出る、それが俺の悪いところだってことを自分自身でもわかっていたはずなのに、俺は油断をしてしまった。

 

 だから俺はジーラとの勝負に――負けた。

 

「しぃぃぃぃんんんん!」

 

 俺を呼ぶ聞きなれた大好きな声、それを聞いてはっとなって状況に気が付くことができたが、時すでに遅しというやつだった。

 

 パァン。

 小気味いい破裂音がこの部屋中に響き渡った。

 見てみると今まではジーラは右手に拳銃を持っており、その手は完全に俺に銃口を向ける体制が整ってなどいなかった。

 だけど左手が新しく手にした拳銃の銃口を俺に向けてきており、煙が出ていることから発砲したて何だということが伝わってくる。

 

 駆け寄ってくる真っ赤な彼女。赤みがかった銀髪で、真っ赤な洋服を着ていて真っ赤なリボンを付けた真っ赤な帽子をかぶった少女。

 なんだか見たことがあるような見た目だが、こんなに全身真っ赤な女の子なんて見たことがない。

 

 いや、違うな。女の子が真っ赤なんじゃない。背景も真っ赤に見える。

 つまり、俺の視界が真っ赤に染まっているんだ。

 眉間に感じる鋭い痛みと遠のいていく意識。

 そうだ、俺はいつもそうだ。

 

 俺は…………甘かった。

 

「甘いんだよ小僧! 終わりだ」

 

 赤く染まっていく視界の中でジーラが俺の心臓部へ向かって銃口を向けてくる。

 あぁ、俺の負けだ。結局、俺の戦いは何の意味もなかったんだな。

 

 パァン。

 破裂音がして銃弾が放たれたことがわかる。これで俺の意識はすべて刈り取られて地獄へと向かうことになるんだ。

 そう思っていたのだが、いつまで経っても衝撃が来ることはなかった。

 その代わりに、人が俺に倒れてくるような衝撃が胸に来たため、俺は何とか薄れゆく意識の中、胸に倒れてきた人物を受け止めるが、意識がもうろうとしている俺は衝撃に耐え切れずにしりもちをついてしまう。

 その状態で必死に目を開けてその人物を確認してみると、俺は予想外の出来事に目を見開いて驚愕してしまった。

 

「あ、あぁあぁぁぁぁぁあぁぁぁぁああぁぁぁっぁぁあぁあっぁぁぁっぁぁぁっぁあぁぁぁぁっぁああぁぁああぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁああぁぁあっぁぁああっぁぁぁぁぁぁぁぁあぁっぁああっぁぁぁぁぁあぁぁぁっぁぁぁぁああっぁぁあっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁあぁあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 どうして、どうしてここに居るんだよ!

 

「待ちなさ――え」

 

 遠くから紫の声が聞こえてきた。でも、今はそんなことはどうでもよかった。

 それよりも今、この状況について全く頭が回らず、状況が理解できないからこんな俺にでも理解できる説明を誰かに求めたい気分だった。

 いや、でもそれすらもどうでもいいや。

 

「こい、し」

 

 今、俺の胸の中には胸部から真っ赤な液体を垂れ流しながら横たわっている俺の命よりも大切な少女、古明地こいしがいた。

 目を閉じてぐったりとしてしまっている。

 どうしてここに居るとか、マヨヒガにいたはずじゃとか、今はそんなことどうでもよかった。

 この光景を見て俺は数時間前の出来事を思い出してしまう。

 背後から貫かれて死んでしまったフラン。そうだ、いくら妖怪でも俺のように耐えることができる能力がなければ心臓をやられたら死んでしまうんだ。

 

「こいしぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ」

「ち、邪魔が入ったか。だが、それはお前が死ぬのが少し遅れたというだけだ。すぐにその女のもとへ送り届けてやるよ」

「真っ!」

 

 さすがにここで龍生もまずいと思ったのか走り出してきたが、その時にはすでに遅かった。

 銃弾がすでにジーラの持っている拳銃から放たれてしまっていたのだ。

 

「許さない。許さない、お前の四肢を一つ一つ千切って千切ってスクラップにして、その目ん玉くりぬいて、鼓膜を破いて、舌を引き千切って、何も感じなくなって痛覚が敏感になったところにさんざん殴る蹴るして意識を失わせてこいしやフランと同じように心臓を破壊して殺してやる」

 

 俺はもう怒りで我を忘れてしまっていた。

 俺の中はもうすでに殺意で満たされてしまっており、冷静な判断なんてできなかった。そりゃそうだ。大切な人が殺されたんだから冷静でいられるもんか。

 でもこんな状況でも冷静に相手の攻撃を対処して勝利につなげることができた音恩は正直スゲーと思う。

 

 俺にはそんなこと、無理だ。

 

 俺の怒りがクレアの霊力によって周囲に解き放たれた。

 すると俺に向かって飛んできていたはずの銃弾が俺の霊力の圧に負けたのかスクラップになってその場にコトンと音を立てて落ちた。

 

「な、なんだよ、これは」

「お前だけは楽には死なせない」

 

 もう、どうでもいい。

 どうせもう、こいしはこの世にいないんだ。なら、俺も生きようが死のうが関係ない。最終的にジーラを殺せば勝ちなんだ。

 

 そう考えた俺はクレア王と限界突破(ブレイク・ザ・リミット)を同時に発動させた。

 この二つの技は体に負担がかかる。そのことは極と戦った時に気を失ったことで証明済みだ。だけど、もう一つ、これを使ったことによって俺に記憶はないものの、極を傷つけることができたというのもまた事実だ。

 だから、俺はもう死ぬ気でジーラを殺しに行く。

 

「シン、ダメ、ダメだよ! だめぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ」

 

 そして俺は彼方の叫び声など無視して両方とも発動させた。

 その瞬間、空間にパキッとヒビが入った。




 はい!第219話終了

 まぁ、神楽戦と比べたらジーラ戦は結構早いような気がしますが、クライマックスです。

 まぁ、ジーラ戦は書くことと言えば真の攻撃が回避されてジーラの攻撃が必ず当たるということを永遠と書くしかないので、これ以上書くとだらだらと長くなってしまうというのがあってここらへんで急展開を織り交ぜました。

 なんと真を庇ってこいしが代わりに銃弾を受けてしまったんですね。

 動かなくなってしまいましたが、こいしの生死はいかがなものなのでしょうか?

 ちなみに真はちゃんとこいしの生死を確認する前にジーラへの怒りを爆発させてます。

 あと、次回からもしかしたら数話分はかなり酷似した内容になってしまうかもしれませんがご了承ください。

 それでは!

 さようなら


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第220話 今回も失敗した。

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 真の攻撃は当たらず、ジーラの攻撃だけが当たるという危機的状況。

 だが、真はついに活路を見出し、ジーラを追いつめることに成功した、そう思われたが、なんと真は最後の最後で自分の甘さによってカウンターを食らってしまう。

 ジーラがとどめの一発を放ち、もうだめだと思ったその時、ジーラの攻撃から真をこいしが身を挺して守った。

 それによってこいしが致命傷を受けてしまうことになる。

 その光景を見た真はついにガチギレ、自分の命を懸けてでもジーラを殺そうと考え、クレア王と限界突破を同時に使用した。

 果たしてどうなってしまうのか?



 それではどうぞ!


side彼方

 

 あぁ、ダメだった。()()守れなかった。

 いつもそうだ。真はいつも自分の身も顧みずに誰かを助けようとしている。

 たとえ体中の骨が粉々になって動けなくなろうとも、たとえ自分が死んでしまうとしても真は臆することなく戦いに挑む。

 

 真は才能の塊だ。

 自分では気が付いていないかもしれないけど、戦闘向きじゃない能力しかない状況で、いろいろな技を使えるとしても強くなれることはそうそうない。

 いくら真が半人半妖で身体能力が高いといえども、それは変わらない。

 

 でも、真は違った。いろいろな技を覚えてあそこまで強くなってついにはクレア王まで使えるようになった。いや、なってしまったんだ。

 

 それは私の失態。私が真をクレア王が使えるようになるまで修行をつけてあげることがなければもしかしたら真がクレア王を使えるようになることもなかったかもしれないし、限界突破(ブレイク・ザ・リミット)と併用するようになることもなかったかもしれない。

 最初はこの結果は知らなかった。だから仕方がなかった。だけど、今回は何十回、何百回とみてきた後継なんだから、防げたかもしれないのに……。

 

 また、()()()()()

 私の能力はありとあらゆるものを破壊できる。それはフランのものよりももっと上の神の力。

 フランの能力は物質を破壊するものだとすれば私の破壊は概念にまで及ぶ。

 だから私は破壊する。真が死なない結末になるまで何度でも時間を、刻を破壊する。

 

 私が能力を使用した瞬間、空間にひびが入った。これは刻が破壊されそうになっているという証拠になる。

 刻が破壊されると私以外のすべての刻が破壊される前まで巻き戻される。

 

 世界の記録はビデオテープのようなもので、一部を切り取り、それをシュレッダーにかけることによってそこから先がなくなってしまう。

 あぁ、今回はここまでこれたから行けるかと思ったんだけどな。

 あと何回繰り返せば真はちゃんと寿命を全うできるようになるんだろう。

 

 それは分からないけど、でも何回でも繰り返して私は真を助けて見せる。

 

 真の前に立ちはだかるすべての障害を――破壊する。

 

 今回も私は()()した。

 


 

「死ぬが良いよ紅蓮!」

「それはこっちの台詞だ僕ロりっ子!」

 

 私は初めて今日から担当することとなる幻想郷の地を見てみようと思って地上に降り立った。

 そこまではよかったんだけど――私が地上に降り立ったその瞬間、左右から同時に拳が私を襲い、その威力に負けて弾かれてしまった。

 

 弾かれて飛んで行ったものの、そのあと、何かにぶつかるような衝撃が私の体を襲ってくることはなかった。

 その代わりに、誰かに優しくキャッチされたような感覚があり、その人も巻き込んで吹き飛ばされたため、その人が私の代わりに壁に激突してしまったのを見て心配になったが、私は少しの間気を失ってしまった。

 

 だけど、その気を失っている時間はほんの少しの時間で、すぐに目を覚ましたのだけど、私はその人の膝の上で目を覚ますこととなった。

 始めて見る世界、視界に飛び込んできた初めて見る人間という生物に私は少しびっくりしてしまっていた。あまりにも初めてが多すぎて脳のキャパを超えてしまったのだ。

 だから私はキャッチしてくれてありがとうとかいう暇もなく視界に移る三人から急いで飛びのいて離れたところでうずくまって震えてしまった。

 

 よく見れば私に膝を貸していた人間以外の二人は見たことがある顔で、シャロと紅蓮だということはすぐに気が付いたものの、私の気はすごく動転していたんだ。

 これが私と真の出会いだ。

 

 それから数日、どうにも気になってしまって真のことをよく観察するようになっていた。

 一緒には行動してはいなかったものの、スキマの中から海藤真という一人の人間を観察していた。

 

 観察していく中で分かったことは彼はただの人間ではなく、半分妖怪の半人半妖であるということ。そして仲間がピンチになっていたら放っておけないということ。

 だけど、仲間がピンチだったら放っておけないというのは誰だってそう。だけど、彼のはその放っておけないという度が超えすぎている。仲間を助けるためなら命さえ惜しくないとさえ考えているように見えるほどだ。

 

「変な人」

 

 いろいろと危なっかしい人だけど、なんだかとても気になる。そう考えて私はさらに彼のことを調べるようになっていた。

 

 そんなある日、たまたま地上に降りてくると強くなりたいようで、強くなる方法を模索しているみたいだった。

 彼はクレア装まで使えるし、技も十分強いのだから、あれほどの力があればたいていの相手には勝てると思うんだけど、それじゃ満足していないみたい。

 誰にも負けないほどの力が欲しいらしいけど、それは無理だよ。真の能力じゃどんなに頑張っても限界があるんだから。

 

 でも、私は興味本位から真と関わってしまった。

 

「強くなりたいの?」

「あ、彼方様。そうですね。俺には守りたい人がいるんで、誰にも負けちゃダメなんです」

「そうなんだ……ねぇ、強くなる方法、教えてあげようか」

「え、いいんですか!?」

 

 最初は動物園で珍獣を見ているかのような気分だった。

 興味本位で自分のペットに芸を教えているような気分だった。

 だけど、真は私の言った戦い方をどんどんと覚えて行って、ちょっと楽しくなってしまっていた。ここまでの見込みが速くて強さを求めている人は初めて見たものだから調子に乗ってしまったのだ。

 だから私はさらに強くなる方法としてクレア王を教えてしまった。

 

 だけどこれは並大抵の努力で身に着けられるものじゃない。

 来る日も来る日も真はクレア王を身に着けることができるように修行に明け暮れるようになった。だけど、日に日にクレア王に近づいていく真を見て私は少しうれしくなっていた。

 真は私の弟子と考えるようになってとてもかわいく見えてきていた。

 

 そしてついに真はクレア王を完成させ、私はすごく真に感謝された。悪い気分じゃなかった。いや、感謝されるというのはすごくうれしいことだ。

 

 それからも真との修行は続いた。

 真との修行の時間もとても楽しかった。最初はこんなんじゃなかったんだけど、真と修行するのが私の楽しみの一つになっていた。

 

 やがて私は弟子としてじゃなくて、一人の男性として好意を抱くようになってしまっていた。

 でも、真にはすでに奥さんがいて、私はそこの枠に入ることはできない。だから私はせめて真の成長を近くで見守ることにした。

 

 でも、それは長くは続かなかった。

 真の仲間がみんな消えてしまう異変が起こってしまった。

 それによって真は当然消沈、シャロや紅蓮が珍しく異変の解決に動いているのを見て私も必死に異変の解決に動いた。

 

 そしてついに主犯を見つけたのはいいんだけど、その主犯は真の力では絶対に勝てない相手だった。

 どうやらクレア王のことは事前に調べられていて、対策は練られていたようだった。

 だから真はどうやら覚えていたらしい限界突破とクレア王を同時に発動させて身体強化をしようとした。してしまったんだ。

 

 発動させた瞬間に真は力に飲まれてしまい、ありとあらゆるものを破壊しつくし始めた。

 そのパワーはこの異変の主犯を瞬殺してしまうほどの力だったのだけど、真は自分の仲間までも攻撃をはじめ、皆殺しにしてしまったのだ。

 なんとか私だけは隠れてやり過ごしたのだけど、その後、真は力尽きてしまい、そのまま息を引き取った。

 誰も救われない結末となってしまった。

 

 どうしてこうなった? 何がいけなかった?

 ――私のせいだ。

 

 私がクレア王を教えなければこんなことになることはなかった。

 すべて私のせいだ。

 あぁ、やり直したい。すべてをなかったことにしてやり直したい。

 

 真が死なない幸せな結末、それを夢見て気が付いたら私は空間を破壊していた。

 でも、この時、私が破壊したものは空間ではなく刻だったのだ。




 はい!第220話終了

 彼方って裏の主人公なんですよね。

 実は彼方が真のことを見てすぐになついていた理由はこういう理由があります。

 生きている真を見てホッとしていたんですね。

 で、このタイムリープを何回か書こうと思っていたんですが、次回で終わりにして現在に戻ろうと思います。

 安心してください。もうこれ以上彼方に重荷を負わせるつもりはありませんから。

 それでは!

 さようなら


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第221話 タスケテ

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 彼方が初めて真たちと出会った時の物語。

 真と彼方は順調に仲を深めていったが、真はクレア王と限界突破を同時に使用してしまい、暴走してしまった。

 大切な仲間ですら手をかける真。

 彼方はこの状況に絶望し、刻を破壊してしまうのだった。


side彼方

 

 目を覚ますとそこは空中だった。

 まるであの日のように私の体は自由落下をしている。

 

 どうして? 私はついさっきまで別の空間に居て、こんな青空ではなく、まがまがしいところにいたはずなのに、気が付いたら私は幻想郷の空にいた。

 

 頭が混乱してしまう。

 状況に絶望し、空間も何もかもを破壊されて私は無の空間に投げ飛ばされるはずだった。

 意味が分からない。どういうことなのか、全く状況がつかめない。

 

 そんなことを考えていると私の体はどんどんと自由落下をしていき、地面にいる人物たちの声が聞こえる距離にまでになった。

 

「死ぬが良いよ!」

「それはこっちの台詞だ僕ロりっ子!」

 

 この声はシャロと紅蓮の声だ。

 なんだか既視感がある声で、私はあの日、始まりのあの日のことを思い出してしまう。

 私の生きてきた中で一番大切な日のことを。

 

 もし……もしこの状況があの日と同じなのだとしたら私は――殴られる。

 

 そして私が落ちていくと、やっぱりあの日と同じように左右から殴られ、弾かれた私は真にキャッチされることとなった。

 強烈なダメージを食らってしまったけど、おかげで一つ確信したことがある。

 

 これはあの日だ。間違いなく、私が恋焦がれたあの日に間違いない。

 どうやら私は空間だけではなく時間までも破壊してしまって時を巻き戻してしまったらしい。

 だとしたら、今、この真はクレア王も覚えていないという状況だということだ。

 

 なら大丈夫。今度こそは失敗しない。

 

 こうして私たちの日々は、二度目の日々は過ぎ去っていく。

 ただ、一つ前の日々と違うことはこの後、何が起こってしまうかを把握しているということ。それならば、その起こってしまうことを回避することは簡単。

 そうならないように気をつけておけばいい。

 

 大丈夫。あの日まではまだまだ時間がある。それまでに対策を打っておけばいい。

 

 とりあえずシャロにも協力を仰ごうと思ってシャロに今回の件を話したんだけど……

 

「大丈夫ですか? 疲れているなら休んだ方が――」

「違うんだよ。疲れてるから妄想しているんじゃなくて本当にあったことなんだよ」

「でも、それだと時間の神である僕の記憶にないのはおかしいんですよね」

 

 そう、おかしい。

 シャロは時間を司る神であることからすべての時間軸に一人しかいない存在であり、時を戻されてしまったとしてもシャロには戻される前の記憶があり、戻されたということを認識できるはず。

 だけど、シャロには記憶がなかった。いくら問い詰めても真がクレア神を使ったところなんて知らないという。

 

 どうして? 私はてっきりシャロは覚えているから少し事情を話したら協力してもらえるつもりでいたんだけど、虚言を吐いたと思われてしまった。

 

 でも大丈夫。最初からシャロに頼り切ろうなんて思ってもいなかったから自分一人で何とかするということもできるはず。

 一人で全部やって見せる。

 

 そうしてその日から私の長い長い日々が始まった。

 ある一定の日になったら真はさらなる強さを求めてクレア装よりもさらに上のクレアの存在の情報をどこからともなく得てきて、私に教えを乞う。

 だから私はそのたびに断り続ける。

 

 真とは前の日々でいろいろと関わったりとかしているから真の事情は知っている。こいしを守りたいっていうのも、バークでとの闘いでかなり打ちのめされてしまったというのも全て知っている。

 だからこそさらなる強さを真が求めているというのは分かっている。

 この今の幻想郷の状況を考えてもこれから先、もっと強い敵が来ないとは限らないから実力をつけた方がいいというのも分かっている。だけど、それでも、真にこれ以上負担をかけるわけにはいかない。

 真は自分の命も顧みずに誰かを助ける。本当に真は自分の命を捨ててでも助けるから真の場合は冗談にもならない。

 

 だから私は絶対に真に強くなる協力はしないって絶対に誓っていたはずなのに。

 

「私って甘いんだな」

 

 破壊された世界を見て私は天を仰ぎ、一人で小さくつぶやいた。

 この惨状を見て私はようやく自分の甘さを理解した。頼み込まれると断れないタイプだったということを初めて自覚した。

 結局今回も真に頼み込まれ、焼き鳥やお酒でのせられてクレア王の使い方を教えてしまった。それがやっぱり始まりだった。

 

 今回も真は狂った。

 狂い、暴走して、何もかもを破壊してしまった。

 

「ダメだなぁ……シンに頼み込まれると断れないや」

 

 でも諦めない。私は絶対に真を助けてあげたいから。

 だから私は真がクレア神をつかなわい世界を作り出すために何度も何度も。

 何十回、何百回と繰り返すことになろうとも、私は繰り返す。

 

 何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も

 

 そして私はまた失敗した。

 やっぱり私は真に甘かったっていうことだ。

 私じゃ真を助けることはできないのかな……。

 

 またやり直そう。すべてを壊してまたあの日に戻ろう。

 もしかしたらこの異変も回避できるかもしれない。

 だから私は再び刻を破壊し、すべてを元に戻そうと世界にひびを入れたその瞬間、肩に手を置かれ、耳元でつぶやかれた。

 

「もう、いいんじゃないか?」




 はい!第221話終了

 本当はもうちょっと彼方の回想は書きたかったですし、もっと掘り下げたかったんですけどね、なんかグダグダする気がしたのでこのくらいでやめにしておきます。

 果たして彼方はこのタイムリープに終止符を打つことができるのでしょうか?

 それでは!

 さようなら


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第222話 誰よりも優しい

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 彼方は真を救うために世界を何度も繰り返す。

 だが、そのたびに真は誰かを守るために強さを求め、クレア王を会得し、クレア王と限界突破を同時に発動してしまう。

 そして今回も……。

 だから彼方は今回も刻を破壊しようとした。

 しかし、それを止める誰かの声が聞こえてきた。



 それではどうぞ!


side彼方

 

「もう、いいんじゃないか?」

「――っ!?」

 

 その声が聞こえた瞬間、私は肩をびくっと震わせながら驚愕のあまり声にならない声を上げてしまった。そして驚いた拍子に思わず破壊の能力の発動を止めてしまい、空間に一瞬ヒビが入ったものの、すぐに修正され、何もない元通りの空間になった。

 早く時を戻さないと、私はまたシンが大切な仲間たち、大切な人たちを傷つけてしまう前に、私はそんな光景をもう二度と見たくないがために、本来なら真がクレア王と限界突破の併用をしたときにすぐに刻を破壊しなければいけなかったというのに、私はその手を止めてしまった。

 

 なぜなら、本来ならこの声はもう二度と聞くことはできないはずの声だった。

 肩に優しく置かれる手。

 

「なん……で」

「誓ったからな。君のことを永久に見守り続けるってさ」

「しゃ……どう」

 

 少し首を動かして背後を見てみるとそこにいたのは確かに先ほど死んでしまったはずのシャドウだった。

 私の肩に手を置いているシャドウは今までに見たことないくらいに優しい表情を浮かべて私のことを、私の目をまっすぐじっと見つめてきている。

 

「もう、いいんじゃないか? お前は今までよくやってきた。よく頑張ったな」

「どう……して」

「今言ったじゃないか。君のことを永久に見守り続けるって」

「っ、でも、でも……っ」

 

 でも、確かにさっきシャドウは私たち全員の目の前で大きな口の中に神楽と共に飲み込まれて……死んでしまったはず。

 シャドウは昔、私の修行をつけてくれていた時、口癖のように言っていた。シャドウは強くあろうとしているけど、それでも絶対に敵わない相手っていうのが存在していて、そんな相手の前だと自分はあっけなく殺されてしまうだろうと……。

 でも、シャドウは今生きている。

 シャドウの言う絶対に敵わない相手っていうのがあの口の持ち主なのだとしたらシャドウはなんで今、生きて……。

 

「お前が幸せになるまで、俺は死ねねぇよ」

「そう……なんだ……」

 

 ちょっとドキッとしてしまった。私だって女の子だから白馬の王子様に憧れたりする。

 今のシャドウの台詞はその憧れている白馬の王子様っぽいなって思ってしまった。

 だけど、一つ気になることがある。口ぶり的にシャドウは知っているような気がする、私が今まで刻を破壊し、同じ時を何度も繰り返してきたことを……。

 

「ねぇ、シャドウは」

「――彼方、お前は今までよく頑張ってきた。ずっと誰かのために戦ってきた。誰かのために動いてきた。お前は昔から優しかった。前世でも、何度別人に生まれ変わったとしてもお前は誰よりも、ずっと優しいままだった。お前は自分以外が傷つくのを極端に嫌う。だからこそ自分だけが傷ついて誰かを助けようとする。でも、それじゃお前の心が壊れてしまう。俺にはそんなのは耐えられねぇ。だから、もういいんじゃないか? もう、休んでもいいんじゃないか?」

「でも、それじゃシンが」

「大丈夫だ。お前は今回の真を見ていてどう思った?」

「別にどうも……」

「あいつは頑張り屋だよ。お前と同じようにずっと誰かのために戦い、誰かのために動く、そんな優しい奴だ」

「……うん」

 

 それは知っている。

 どれくらいの時間、私は真と過ごしてきたことやら。

 多分人間の一生なんて軽々と超えるほどの時間を真と一緒に過ごしてきた。だから真がいつも誰かのために動いているっていうのも知っているし、すごいお人よしということも分かっている。

 だから甘い私は毎回真に強くなるための協力をしてしまう。今回だってそうだった。

 

「でも、あれだけは、シンでも無理だよ。あれは神、シャドウほどの力がないと制御できない。私だってうまく制御できないんだから」

「そうか……なぁ、知ってるか?」

「なに?」

「……あいつの能力」

「【致命傷を受けない程度の能力】……?」

「あともう一つ…………【都合のいい状況を作り出す程度の能力】」

「……あ」

「今回で終わりにするんだ。安心しろ、あいつは今までお前が接してきたどの真よりも強いぞ」

 

 そういわれて私は真の方へと向き直った。

 別に今までの風景と何も変わらない。

 真の霊力がどんどんと膨れ上がって、そして完全に強くなったとたん、真が私の知っている真ではなくなって、狂暴な顔つきになって……そして、みんなを殺しつくすまで暴れ続けるのだ。

 そう、今までのことを考えるとそうなる。

 

 でも、シャドウはじっと真のことを見据えている。いや、違う。シャドウはもっと未来のことを見据えているんだ。

 シャドウの目にはこれから起こる出来事が映っているんだろう。

 本当なら今すぐにでもシャドウの言葉を無視して時を戻したいところだけど……でも、なんとなくだけど、私もそう感じている。

 今の真は今まで出会ったどの真よりも成長しているって。

 

 ――だからお願い、真。その小物男をさっさとぶっ飛ばしちゃえ!

 

「…………へ、そんなに力んだところで何になるんだ! お前の攻撃は俺には当たらな――」

 

 ドガン。

 ジーラが口を開いた瞬間、周囲に地響きにも似た音が響き渡った。

 そして私たちの目はある一点に釘付けになった。

 

「はは、まじ……かよ」

 

 さすがにこの光景を目の前で目撃した龍生は引きつった笑みを浮かべて一歩二歩と後ずさった。

 

「あ、あぁあぁ……」

「おいおい、攻撃は当たらないんじゃなかったのか? それとも何か? 反応できなかったか? 違うだろ? それがお前の能力の限界、連続で()()()()()限界というやつか?」

「ぐあああああああああああああああああああああああ」

 

 私たちの目に映っていたそれは――真に踏みつぶされ、ちぎれてしまったジーラの左腕だった。




 はい!第222話終了

 ついに真の攻撃がジーラに当たりました。

 いや、正確に言えば今までも何回も当たってはいたんですけどね。

 そして彼方の危惧していたこと、真の理性がなくなるというのがありましたが、どうなのでしょうか?

 でも、これ以上繰り返すことになっていたら本当に彼方の心が壊れていた可能性もあるのでこれで終わりになってほしいですね。

 シャドウがなぜ生きているのか、というのですが、昔邪神だったというのが関係しています。

 それでは!

 さようなら


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第223話 Second stage

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 彼方が刻を破壊しようとしたその瞬間、シャドウがそれを止めた。

 そしてシャドウは彼方を説得し、見守るように言う。もう、終わらせようとも。

 するとなんと真が彼方の予想外の行動に出た。

 ついに、ジーラに攻撃を加えることに成功したのだ。



 それではどうぞ!


side彼方

 

「え……どういう……こと……?」

 

 私は目の前の光景が信じられなかった。

 真はクレア王と限界突破を同時に使用して、そしていつも通りならば暴走してしまって見境なく攻撃し始めるはず。

 

 なのに、真は標的を見定め、そしてついに真はジーラのその片腕を破壊することに成功してしまったのだ。

 頭が混乱して正常に思考が廻らない。今まで何百回と繰り返してきたが、こんなことはただの一度もなかった。どの回ももれなく暴走してしまっていたから私はすぐに刻を破壊してきていた。

 どうして? 今回はいつもと何が違うの?

 

「……クレア神とはクレア王と限界突破を同時に発動することによって発動することができるようになるクレアの究極形態。それはすさまじい霊力量と力を手に入れることができる代わりに制御するのが非常に困難を極める。そしてそれは神でなければ絶対に無理だと言われているほどだ。まぁ、神でも使える奴の方が稀だけどな」

 

 シャドウの言う通り、人間は絶対にクレア神を発動することは不可能。

 もし、人間がクレア神を発動してしまったら暴走してしまって体の制御が利かなくなってしまう。

 そもそもとしてクレア王や限界突破を人間が使える時点でイレギュラーなのだ。それよりも制御が難しく、体への負荷も大きいクレア神なんて使ってしまった日には暴走は不可避だ。

 神でさえ私はシャドウ以外でクレア神を使える人を見たことがないくらいなのに……。

 

「でも、あいつはイレギュラー中のイレギュラーだ。確かにあいつは能力の才能はないし、剣術の才能も特に優れているわけではない。人の倍以上の努力をし、ようやくクレアを扱えるようになったほどだ。戦いの才能だけで行ったらあいつの周りにいる奴らの方がぶっちぎりだ。修行し始めて短期間でクレアも完ぺきに扱えるようになった奴らばかりだからな。でも、あいつらじゃイレギュラーにはなれなかった。……いろいろとあるんだよ、イレギュラーになるための布石っていうのがさ」

「布石?」

 

 私は別に最初から真のことを見てきたわけじゃないから真が今までどんな冒険をしてきたのかがわからない。

 だから、布石と言われてもピンとくるものが何一つなかった。

 

「まず最初にあいつは人間をやめた。あいつは瀕死の重傷を負って妖怪の血を入れることによって半人半妖となった」

「あ」

 

 確かに聞いたことがある。

 昔、龍生のお父さんが幻想郷に攻めてきたときに戦って瀕死の重傷を負ってしまったせいで輸血することになったって。

 そしてこいしの血を使って永琳が真を半人半妖にしたって。

 

「次にあいつの中に神力が入り、それが適応したことで神力を使えるようになったことだ」

 

 限界突破を使うためには神力が必要だ。神力がなければ限界突破を使うことができない。

 だからこそ限界突破は基本、神しか使えない技だし、クレア神も基本は神しか発動に至ることができない。

 たまに神力を何かの偶然で使えるようになってしまったせいでクレア神を発動してしまうことがあるけど、その場合はもれなく暴走してしまう。

 

「あいつは徐々に徐々に人間としての存在が揺らいできているんだ。あいつは神に近しい存在へと自力で移り変わろうとしている。まぁ、自力で神になることができる奴なんていないから疑似的神といったところだがな」

「疑似的神……っ!」

「そしてさっき、最後の布石は打たれた」

「最後の布石?」

「…………一つ言えることとしたらもう心配はいらない。お前はもう、責任を負う必要はない」

 

 目の前に移る光景、クレア神に至ったというのに暴走せず、真のまま戦うことができている真。

 そうだよ。私はこの光景を見たいがために何百回と繰り返してきたんだ。

 何度も心が折れかけた。もうあきらめようとも何度も思った。

 

 でも、やっぱり私はこの光景が見たかった。真がクレア神を発動したその先の光景、次なる真の舞台、強くなって仲間たちを守れるほどの力を身に着けた本物のヒーロー。

 

「あとはこの異変を解決するだけだ。まぁ、今のあいつだったらもうあんなへなちょこに負けるほど弱くはないがな」

「うん」

「じゃあ、そろそろ行くわ」

「え? まって」

 

 するとシャドウはこの場を去ろうとしていたので、私は慌てて振り返って袖をつかんだ。

 なんだかこの手を放してしまったらもう二度とシャドウと会えなくなってしまう気がして、シャドウをこの場につなぎとめるためにギュッと手に力を込める。

 きっとシャドウは見守ってくれていたんだ。ずっと、何百回も、誰にも気づいてもらえていない、誰の助けも借りることができない、誰にも気づかれずに私は繰り返して独りで頑張るしかないと思っていた。

 だけど、私の事を見てくれている人はいた。

 何か言わなきゃ、何か――っ。

 だけど、喉で言葉が詰まったように思うように言葉が出てこない。

 

 するとシャドウはそんな私の心情を悟ってなのか、それともほかに理由があるのかわからないけど、優しい声色で声をかけてくれる。

 

「……大丈夫だ。お前は強い。俺なんかよりもずっと強い。だから、お前は支えてやってくれ。こいつらを、お前の心を壊しかけてでもつかみたかったこの続きの物語を」

「……っ」

「お前の物語はここから再スタートするんだ。お前の粘り勝ちだ」

「ねぇ、シャドウ」

「なんだ?」

「これからも、見守ってて、くれますか?」

「……、俺は多分お前をお前として見ちゃいない。そんな奴にそんな言葉を投げかけるのはちょっと違うんじゃないか?」

「……ルミアさん、だよね」

「……あぁ、そうだ。俺はそいつに未練たらたらなんだよ。そんでお前にその面影を重ねてしまっている」

 

 知っている。

 いや、知っているというよりかはつい最近知ったというべきだろう。

 この異変が始まってからシャドウが私に親切にしてくれる理由はそのルミアさんっていう人にあると分かった。

 私とこのルミアっていう人に何の関係があるのかわからない。

 でも、それでも、過程がどうであれ私に親切にしてくれていたのには間違いない。

 

「お前はお前のことをちゃんと見てくれるやつについていくといい」

「私は、シャドウがいいよ」

「……なに?」

「私はシャドウがいい。ルミアさんとか関係ない。私にとっては私のことをずっと見守ってくれていたのはシャドウだから。だから、私はシャドウじゃないと嫌だ」

「……」

「私はこれからこの先の物語を見守っていく。だからシャドウはそんな私のことをこれから先も見守っていてほしい。私たちの次のステージ、Second stage(セカンドステージ)をしっかりと見守っていてほしい!」

 

 私のその言葉を聞くとシャドウはそのまま何も言わずにこの場を去って行ってしまった。

 だけど、今度は大丈夫という自信に満ち溢れていたため、無理に引き留めるようなことはしない。

 多分、もう二度とシャドウと会うことはできないんだろう。でも、シャドウはきっとこれから先も私たちのことを見守ってくれる。

 なら私も頑張れる。

 

 この異変もあともうちょっと。

 真がジーラを倒せばすべて終わる。

 

「真、頑張ってっ!」




 はい!第223話終了

 はいはい、またしばらく真視点の話はお休みしていましたが、ついに次回は真視点となります。

 そしてついにタイトル回収しましたね。

 Second stage二度目の幻想郷という意味ではなく、新しい未来という意味だったんですね。

 今までの物語も真をここにつなげるための重要なものとなっていたんですよ。

 もうちょっとで終わるジーラ戦。

 いったいどういう経緯で真はジーラの腕を踏みつぶすことができたのでしょうか?

 それでは!

 さようなら


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第224話 冷静さを忘れないで

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 ついに長きにわたる彼方のタイムリープが幕を閉じた。

 それは突然だった。

 真がクレア神を使用しても力に飲まれることはなかった。

 シャドウは真には才能はないが、イレギュラー中のイレギュラーなのだという。

 そしてこの光景を見届けたシャドウはこの場を去って行こうとするが、それを彼方が止め、これからも見守ってくれるように頼む。

 そんな彼方の言葉には何も答えずに去っていくシャドウだったが、彼方は安心してこの異変に立ち向かうのだった。



 ついに真がどうやってクレア神に飲まれずにすんだのか、判明します。

 それではどうぞ!


side真

 

 俺はクレア王と限界突破を同時に使用した。

 もうどうでもいい。もうこの体が壊れてしまおうが、どうなろうが、今はジーラを殺すことができればそれでいい。

 俺の大切な人を殺したんだ。それくらいの報いは受けて然るべきだ。

 

 自分でもどんどんと力が湧き上がってくるのを感じる。

 でも、本当にとんでもない力だ。今までのクレア王や限界突破とは比べ物にならないほどの力が湧き上がってくる。今なら何でもできそうだという気分にすらなってくる。

 だが、それと同時に何だか力が膨れ上がりすぎて制御が難しくなってきている。

 これは俺の制御が難しい技代表である霊縛波とは比べ物にならないほどの難易度だ。

 

「くっ」

 

 苦しい。

 俺の中で力が暴走している。霊力、妖力、神力が暴走して今にもはじけ飛びそうだ。

 体中に痛みを感じる。

 やっぱり俺の体はクレア王と限界突破を同時使用できるようにできていないんだ。だから俺の体は耐え切れなくなって激痛が走ってきている。

 意識が飛びそうだ。だが、ジーラを倒す前に意識を手放すわけにはいかない。

 

 頭がかち割れそうだ。

 

「ぐ、ぐああぁぁ」

「どうした? ずいぶん苦しそうじゃないか。俺を殺すんじゃなかったのか?」

「あ、たりまえだろ。ころ……してやる」

 

 力があふれてきているのは確かだ。

 だが、体の痛みのせいで思うように動くことができない。

 

「お前がそのまま苦痛にゆがんだ表情を浮かべながら自滅するのを眺めていてやるよ」

 

 今の俺は周囲に漏れ出ている霊力だけで銃弾をスクラップにすることができるため、ジーラから攻撃を加えることができないが、このままいったら俺はこの力に押しつぶされて自滅してしまう。

 そのこともジーラは分かっているため、俺が自滅するのを待っているんだ。

 本当にいい性格をしている奴だよ。

 でも、俺もそう簡単に死ぬつもりはない。

 

 ――なんとか、何とかしてジーラに一撃を……。

 

 でもそんな俺の気持ちとは真逆に俺の意識は深い深い闇へと吸い込まれて行ってしまう。

 もうだめだ。意識が保てそうにない。

 でも、ここで意識を手放したらなんとなく、俺はもう俺でいられなくなってしまう気がする。力に飲まれて俺が俺じゃなくなってみんなをたくさん傷つけてしまうことになるかもしれない。

 ごめん、みんな。ごめん……。

 

「し……ん」

「っ! こいし」

 

 その時、突然俺の胸の中で死んでしまっていたはずのこいしから声が放たれたため、俺はびっくりして意識を取り戻し、弾かれるようにしてこいしを見る。

 

「だめ……だよ、真。怒りに任せて戦ったら本当の力を出せないよ。真の本当の強さはそんなんじゃないでしょ?」

「俺の……本当の強さ?」

「うん、真の本当の強さ、それは心の強さ、だよ」

「心……」

「決してあきらめない真は何もにも負けないんだから」

 

 ――だから、冷静さを忘れないで。

 

 その言葉を最後に、こいしは再び目を閉じた。

 だけど死んでしまったわけじゃない。こいしの言葉によって少し冷静さを取り戻した俺はこいしの心臓がまだ動いていて、呼吸のために胸が上下していることに気が付いた。

 だから俺はこいしを抱えて立ち上がると、近くまで走ってきていた龍生にこいしのことを任せてジーラへと向き直る。

 

「……お前は、誰だ」

 

 龍生は今の光景を近くで見ていたからの質問何だろう。

 だから俺はそんな龍生の質問に少し微笑みながら答えた。

 

「何言ってんだ。俺はお前の親友の海藤真だ」

「そうか……うん、行ってこい」

 

 龍生の言葉を背に受け、俺は手を上に上げて手をひらひらとすることによって答える。

 もう大丈夫だ。

 頭の痛みも治まった。力の暴走も落ち着いた。

 今なら戦うことができる。

 

 こいしのおかげで俺は冷静に力を制御することができるようになった。

 

「ち、そのまま死んでくれないなら、俺が直々に殺すだけだ!」

 

 そういってジーラは立ち上がって銃を発砲してくる。

 パァンという破裂音が聞こえてすぐに俺の方へと銃弾が飛んできた。だが、その銃弾はやはり俺に届くことはなく、俺の周囲に漂っている虹色のオーラに阻まれて空中でスクラップになって床に落ちた。

 さっきと全く同じ光景、それを確認した俺はジーラへと一直線に接近し、ジーラへ刀を振った。

 もちろん、戦いに慣れていないジーラがこんな攻撃に対処できるはずがない。

 

 ジーラは簡単に俺に首を一刀両断され、ジーラの首が宙を舞う。

 ついに殺すことができた、そう思った次の瞬間、俺の景色は一瞬にして変わり、ジーラの首がつながって俺はまだ刀を振っていない体制となっていた。

 そして、ジーラを見てみると、俺の斬撃を回避しようと動作しているのが見える。

 

 これは……どういうことだ?

 俺の行動はすべて読まれているからこそ、攻撃は当たらないし、攻撃は必ず俺に当たるんじゃなかったのか?

 だというのに、この状況は何なんだ?

 

 もう一度確かめてみるしかない。

 

「え?」

 

 そう考えた俺は今度はジーラの回避先に刀を振り、ジーラの首を一刀両断した。

 その直前にはジーラはまるで予想外だとでも言いたげな間抜けな表情をして首を一刀両断された。宙を舞っているジーラの表情も全く状況を理解できていないようだった。

 だが、その次の瞬間には再び景色が移り変わり、ジーラの首がつながって俺は刀を振る前の体勢になっていた。

 

 間違いない。これで確信した。

 ジーラの能力は相手の行動の先読みなんかじゃない。

 道理で攻撃が当たらないわけだ。

 そしてこんなこと、こんな能力を持っていない俺らが気が付けるわけがない。

 時空神でもない俺たちが時を巻き戻されたことなんて気が付くことができるはずがないんだから。

 

 ジーラは今まで俺の攻撃が当たったと同時に時を巻き戻して攻撃される前に戻り、時を巻き戻す前の事前情報を参考に攻撃を回避していた。

 ジーラにとってはさっき見た攻撃というわけだ。

 

 なるほどな……。

 なるほどなるほど……。

 なるほどなるほどなるほど……。

 

 なら、ジーラの気力がなくなるまで殺して殺して殺しまくるだけだ。

 幸い、この時戻しのおかげで俺の霊力は時を戻される前の状態になっている。つまり、この状態をいつまででも保てるし、ガス欠になることはない。

 何度だってジーラ、お前が諦めるまで何度だって殺してやるよ。

 

 それから俺は何度も何度も何度もジーラの回避方向を読んで殺した。

 ジーラは状況が全く分かっていないようで、どうして攻撃が当たるたびに理解できないとでも言いたげな表情をする。

 まさかこの巻き戻した世界で記憶を引き継いでいる奴がいるなんて思ったこともなかったんだろうな。そしてそんな奴に合ったこともなかったんだろう。

 でも、ここは幻想郷だ。

 そんな奴らは探せば普通にいるだろう。

 

 ジーラはたまたま今まであってこなかったということだ。

 

 何度も何度も殺していく。

 ジーラの心が壊れるまで何度でもエンドレスキルをお見舞いする。

 そしてついにジーラは体勢を崩して倒れた。

 そこで俺は足を振り上げ、そのまま勢いよくジーラの腕に向かって振り下ろした。

 

「あ、あぁあぁ……」

「おいおい、攻撃は当たらないんじゃなかったのか? それとも何か? 反応できなかったか? 違うだろ? それがお前の能力の限界、連続で()()()()()限界というやつか?」

「ぐあああああああああああああああああああああああ」

 

 俺の考え通りだ。

 俺の霊力は元に戻るが、能力使用者であるジーラの霊力はどんどんと減っていく。

 だから連続で能力を使える限界が存在すると思っていた。

 

 ジーラは今ので永遠に能力を使い続けることができるわけじゃないということを証明してしまったのだ。

 

 ここから俺の反撃が始まる。




 はい!第224話終了

 ついに真が覚醒。こんな経緯があったからこそ真はクレア王と限界突破の力に耐えることができたんですよね。

 真がジーラの巻き戻しでも記憶を失わなかったのですが、何か秘密があるのでしょうか?

 ジーラとの決着はもうすぐです。

 それでは!

 さようなら


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第225話 みんなを殺したのは――

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 クレア王と限界突破を同時発動してしまった真はその力の強さに耐え切れなくなり、意識を失いそうになってしまう。

 だが、こいしの言葉のおかげで真は意識を取り戻し、冷静に状況を分析できるようになった。

 そして力を制御することができるようになった真はなんと、ジーラの巻き戻したあとの世界でも記憶を保持することができるようになったため、真はジーラの心が壊れるか、能力の限界が訪れるまで何度でも何度でも殺していく。

 そしてついに真の攻撃がジーラに当たったのだった。



 それではどうぞ!


side真

 

「く、どう……して、違うんだ」

 

 違うというのは時を戻す前と時を戻した後の俺の攻撃がどうして違うのかということを言っているのだろう。

 確かにこの力は時を戻されたことを観測できる奴じゃなければ対応することはできず、攻撃を当てることはおろか、攻撃を回避することもできないはずだ。

 だけど、今の俺はなぜだかわからないが、ジーラの時を戻した後の世界でも記憶が巻き戻ることはなく、そのまま引き継いで時をさかのぼることができている。

 つまり、未来の行動がわかるのはジーラだけじゃない。俺も前回の自分の攻撃からジーラの動きを予測することができるようになっている。

 

「お前が、お前が居なければ俺の計画はすべて順調に進んでいた。前回も、そして今回も! 第一、お前はなぜこの改変された世界で普通にしている! なぜお前は世界に飲み込まれない!」

「改変された世界? 世界に飲み込まれる? 何言っているのかはわからないが、どうせお前の計画なんてろくでもないことだ。俺はそれを全力で阻止する」

 

 ジーラの言っている言葉の意味がよくわからないが、改変された世界というのはおそらく歴史の改変のことを言っているのだろう。これに関しては音恩が言っていた。

 だが、世界に飲み込まれるっていう言葉の意味が全く分からない。もしかして崩壊に飲み込まれるっていう意味なのか?

 意味が分からない。

 

「おかしい。おかしい、俺意外が覚えているはずがない! 覚えているはずがないんだ!」

 

 ジーラは自棄になったのか、立ち上がると俺に向かって発砲してきた。

 だが、さっきまでと同じように俺の近くにまで飛んできた銃弾は俺のオーラに飛び込んだ瞬間にぺしゃんこに潰されてしまい、そのまま地面に落ちて行った。

 

 カランと石づくりの床に軽い鉄が落ちた音が静寂の中に響き渡る。それがジーラの絶望の効果音だと感じるほどの状況だった。

 ジーラは戦えるように体作りはできていない。だから肉弾戦は論外だ。かといって銃で攻撃しようとも銃弾が俺にまで届かないんじゃ話にならない。

 

「俺は最強の力を手に入れたんだ。時を戻す、誰も彼も俺が戻した世界では記憶を保持しておくことは不可能だ!」

「お前、この幻想郷で暮らし始めてどのくらいだ?」

「あ? なんだよ。俺は生まれも育ちも幻想郷だ」

「そうか、ならいい加減気が付いたらどうだ?」

「何をだよ」

「この幻想郷ではさ、ありえないっていうことがありえないんだよ」

 

 俺はこの幻想郷で暮らしている期間は大体二年ほどだ。

 昔一年この幻想郷で暮らし、今回も一年ほど経った。

 この二年はとても濃いもので、そしていろいろな学びがあった。

 

 古風な景色、様々な種族、十人十色の能力。そしてこの二年で一番よく理解できたのは、この幻想郷ではありえないことがありえないということだ。

 誰かができないことでもこの幻想郷では誰かが絶対にできる。

 絶対にできない、この幻想郷を探しても絶対にありえないっていうことは、それこそ絶対にありえないんだ。

 

「俺は知ってるぜ、時間を戻されてしまったとしても記憶を保持できそうなやつを一人だけな。そいつは優しくて、人一倍さみしがり屋で楽しいことが大好きな奴だ。つまり、何が言いたいのかというとな、その能力を突破されることを想定していない時点で、お前の負けっていうことなんだよ」

「そんな、そんな馬鹿なことがあるはずがない。俺の計画は完ぺきだ。何もかも順調だったはずだ。俺はこの世界の神になったんだ!」

「その程度の能力を手に入れただけで神を自称されたら困るな。神の中にはただの炎を操るという能力なだけで力神にまで上り詰めたやつもいるんだ。失礼だぞ」

 

 ジーラは叫び声にも似た声でわめき続けるが、俺は関係ないとばかりに淡々とジーラに言葉を投げかける。

 だが、もうそろそろ飽きてきた。

 これ以上この男を生かしておくメリットというものはないし、今の俺だったらジーラを殺すのは簡単だ。ジーラの体力が尽きるまで殺し続ければいい。

 

 ジーラが何度も何度も時を戻してくれるおかげで体力は全然減っていない。むしろ絶好調だ。

 

 だから俺はジーラにとどめを刺すためにジーラに向かって走り始めた。

 そんな俺の姿を見て一瞬ぎょっとしたジーラだったが、すぐに俺を近づけまいと何度も何度も時を戻して俺との距離を取り続ける。

 だが、これはさっきと違うのはジーラが死に続けていないというだけだ。ジーラの体力はこうしている間にもどんどんと減っていくし、連続で能力を使用できる回数もどんどんと減っていく。

 これはただただ力を無駄に消費しているだけと言わざるを得ない。

 

 今、ジーラはおそらく俺に恐怖してしまっている。

 そりゃそうだ。戦いに慣れていない奴が急に腕を破壊されたりなんかしたら恐怖を覚えて当然だ。

 だが、戦いの上では相手に恐怖を覚えた時点で敗北したといっても過言ではない。恐怖という邪魔な感情が正常な思考を鈍らせ、誤った行動をしてしまう可能性があるからだ。

 そう、今のジーラと同じように。

 

 もう、今のジーラに勝ち目はない。

 

 次の瞬間、突如として時戻しが止まり、俺はそのままジーラへと走っていけるようになった。どうやら能力の限界が来てしまったようだ。

 情けをかけるつもりはない。こいつはそれだけのことをしたんだ。

 

 そして俺はわめくジーラに風を切る速度で接近し、刀を構える。

 

「ま、待ってくれ! 話し合おう。そ、そうだ。見逃してくれたら新しい空間を作り出してやろう! あの世界はもう捨ててその世界に移住するといい! ど、どうだ? いい提案じゃないか? おい、なんだその表情は!」

 

 ジーラの言葉に俺はあきれてもう何も言えなくなってしまっていた。

 

「お、俺を殺しても幻想郷の崩壊が止まるわけじゃない! 意味がないんだ! だ、だから殺さないでくれぇ! 死にたくない!」

「っ! だから言ったよなぁっ! 殺していいのは殺される覚悟がある奴だけだ。お前は殺される覚悟があったからこの幻想郷の人々を大量虐殺したんだろ? ならおとなしく死ねぇ!」

「そ、それは違うぞ。殺したのはお前自身だ」

「……」

 

 俺はその言葉を聞いた瞬間、刀を振るうのをやめ、止まってしまった。

 わなわなと体が震えてくる。

 

 俺が……殺した? みんなを、俺が殺した?

 そうだ。俺がジーラをあの時に殺していればみんなが死ぬことはなかったんだ。

 つまり、実質俺がみんなを殺したようなものじゃないか。

 

「真、そいつの話を聞くな!」

「あぁ、あぁぁぁぁぁ」

「お前が、お前がこの世界を破壊したんだよ! 一人一人残虐に、残酷に殺したんだ」

「てめぇ!」

「そうさ、お前が悪いんだ。お前が世界を破壊したんだ! 本当の悪はお前だったんだよ!」

 

 俺はジーラの言葉を聞くたびにどんどんと自分の罪の意識に苛まれて行ってしまう。

 本当に俺はここに居ていいのだろうか。この状況を作り出してしまったのは俺だというのに、異変解決組として仲間としていてもいいのだろうか。

 ただ自分で起こした異変を自作自演で解決しているだけなんじゃないだろうか。

 

「海藤真!」

「っ、龍生……」

「お前は誰だ、何者だ!」

「何を言って」

「良いから答えろ、お前は誰だ? 何者だ!」

「海藤……真。幻想郷の住人」

「そうか、じゃあ海藤真。お前はどうしたい!」

「幻想郷を救いたい……」

「なら、そのために今やることは何だ? そうやって打ちひしがれることなのか!?」

 

 そうだ、そうだったな。

 今は落ち込んでいる場合じゃない。一刻も早くこの異変を解決するということが大事だ。

 なら今やることはただ一つ、ジーラを倒すこと。

 

「お、おい。いっただろ? 俺を殺すなんて無駄な行為なんだよ! 俺は悪くない! 幻想郷のみんなを殺したのは――」

 

 今度は失敗しない。

 ジーラの言葉を聞いていたらどんどんと罪の意識に苛まれてしまうかもしれない。

 だから俺はジーラが言葉を言い終わる前にジーラの首を一刀両断した。




 はい!第225話終了

 ついにジーラを倒しました。

 ですが、ジーラが少し気になることを言っていましたね。

 実はこの異変はまだ終わってはいません。

 ここからさらに一転していきますよ。

 それでは!

 さようなら


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第226話 刻雨龍生

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 ジーラとの最終決戦。

 クレア王と限界突破の同時使用に成功した真はついにジーラを追いつめる。

 そこでジーラは命乞いをし、挙句の果てにはみんなを殺したのは真だと言い放った。

 その言葉に一時は罪の意識に苛まれた真だが、龍生の言葉によって真は目を覚まし、ついにジーラの首を跳ね飛ばすことに成功した。



 それではどうぞ!


side真

 

 ついに、ついに俺の刀はジーラの首を一刀両断し、跳ね飛ばすことに成功した。

 一刀両断されたジーラの頭と首は完全にお別れし、宙に舞う。そして何よりも今までとは違い、時間が戻らない。

 今までも俺は何回もジーラの首を切ってきたが、その全てで時を戻してきて復活してしまっていた。そのせいでジーラを倒すことはできなかったのだ。

 だが、今回は時が戻らないということは能力を発動できなくて、本当に俺はジーラを倒すことに成功したということなのだろう。

 

 そのことを理解して俺はそのまま背後に倒れ込んで仰向けで寝ころび、深呼吸をする。

 正直もう体力の限界だった。そしてそれは俺だけじゃない。この数日間、ここに居るメンバーはずっと戦い続けてきたのだ。疲労も正直限界をとうに超えている人も何人もいるだろう。

 この場にいる人だけじゃない。戦線離脱しなければいけなくなったみんなも俺たちと一緒に戦い続けてくれたんだ。特に正邪には何回も助けられた。

 帰ったらお礼をしないとな……。

 

 そしてこいしのおかげで俺はなんとか正気を保つことができた。

 こいしは重症だが、まだ大丈夫だ。心臓も動いているし、妖力は徐々に弱くなっていっているが、永琳先生に見てもらえればまだ助かる。

 

 早く幻想郷に帰らないと……。

 

 だが、俺は力尽きてしまったのか、体をピクリとも動かすことができずにただ呼吸をして心臓に酸素を送り込むだけの行動しかできなくなっている。

 今まで意識がある状態でここまで動けなくなったことがないのでおかしいと思うが、一つだけ原因に心当たりがあった。

 そうだ、共に体への負荷が大きい限界突破(リミット・ザ・ブレイク)とクレア王を同時発動してしまったんだ。体力の消耗が激しいのも頷ける。

 

「お疲れ、真」

「あぁ、ありがとうな」

「いや、お互い様だ。それに、前に俺もお前に助けられたしな、このくらいのことは全然するさ。だが、一つ気になることがあるんだが……」

「な、んだ?」

「いやさ、幻想郷のみんなはどうにもお前を敵対視していたみたいだが、どうして俺たちは敵対視しなかったんだろうな。あの霊夢でさえ一時は敵対視していたわけだろ?」

「そう、だな。でも、徐々に俺とのかかわりが濃くなっていった人から順に敵対視していっていたから、俺が関係しているのは間違いないだろう」

 

 本当は一つだけ可能性は思いついている。

 ジーラが時を戻すことができるとしたら、それは周囲の時間を戻すことしかできないのだろうか?

 普通に時を超えて過去にいったり未来にいったりすることってできないのだろうか? もしそれができるのだとしたら、考えられることは一つしかない。

 音恩も言っていた。この異変はただの洗脳ではない。歴史の改竄ゆえに、この敵対視している根本にある記憶は幻想郷自体が住人に植え付けているものなのだと。

 

 でも、そうだとしたら一つ不可解なことが、どうしてここに居る皆にはその記憶の改竄が効いていないのかということだ。

 

 まぁ、でも今となってはそんなことはどうでもいいか。元凶を倒すことができたんだから、幻想郷も救えたのだから。もう何も考える必要はない。

 あとは時に身をゆだねるだけで、それだけでいい。

 もう疲れたから休みたいんだ。

 

 その時の事だった。

 突如として空間が揺れ始めた。まるで大地震が発生しているかのような強い揺れに立っているみんなは思わず尻餅をついてしまっていた。

 だが、俺以外のみんなはまだ立ち上がる力はあるため、すぐに立ち上がって地震に対応する。

 

「な、なによこれ」

「空間が揺れている」

「も、もしかしてこれってっ!」

「まずいわ。空間が崩壊する! 空間を維持していたジーラが死んだことによって空間が保てなくなったんだわ! このままだと空間の崩壊に巻き込まれて虚無の空間を永遠とさまようことになるわよ!」

 

 それはまずい。一刻も早くこの空間から抜け出さなければ。

 そう考えて立ち上がろうとするものの力が入らずに立ち上がれない。霊力はもう空っぽだ。力の源である霊力が枯渇していたらそりゃ動くことはできないだろう。

 

「紫!」

「く、分かっているわ!」

 

 龍生が叫んだ瞬間に俺の目の前の20メートルほど先にスキマが出現した。

 いつもの紫だったら俺たちの真下に出せそうなものだが、紫はその場所にスキマを出現させた。

 

「空間が不安定すぎてそれ以上遠くにスキマを出せない!」

「ちょ、まじかよ」

 

 なんとか這ってでもスキマの中に飛び込もうと思って体を引きずって這って行こうとするものの、体に力が入らなくて全然前に進むことができない。

 このままじゃ間違いなく俺はこの空間の崩壊に巻き込まれてしまう。

 やっとこの異変を解決することができたのに、ここで死ぬのはごめんだ。何とかして飛び込まなければ。

 そう考えていると龍生はうつむき、覚悟を決めたように顔を上げると腕に抱えたこいしをスキマの中へと投げ込み、その後、俺を背負った。

 

 体重が軽い女の子であるこいしならば龍生の体力ならスキマに近い位置にいた龍生は簡単にスキマの中に投げ込むことができただろうが、俺とスキマの間には20メートルほどの距離がある。

 普段だったら近いのだが、この体力が減っている状態で男一人を背負って20メートルを移動するのはかなりきついはずだ。

 だが、龍生はゆっくりながらも俺が移動する速度よりも早くスキマへと運んでくれる。

 

「紫!」

「わ、分かったわ」

 

 龍生が名前を呼んだことで意図が伝わったのか、紫は俺と龍生以外の面々の真下にスキマを出現させてみんなをスキマの中へと非難させると、自分もスキマの中から顔だけを出してこっちの様子を見守る。

 だが、徐々にこの空間が崩れ始め、真っ黒な空間が俺たちに襲い掛かってくる。

 背後を見てみるとそこはすでに真っ黒な何もない虚無の空間と化しており、それが追いかけてきている。俺たちはあれに飲み込まれたらいっかんの終わりだ。

 

 龍生が俺を運ぶ速度よりも空間の崩壊の方が速い。

 俺を運ぶことによって龍生も飲み込まれてしまいそうになっている。

 俺のせいで龍生が死ぬことになるくらいだったら。

 

「龍生、俺はおいていけ。このままじゃ龍生まで」

「うるせぇ。黙ってろ」

「でも」

「でもじゃねぇ。お前は生きるんだ。生きなければいけないんだ。これから先の幻想郷の未来のためにも、そしてお前の帰りを待つ人のためにも」

 

 龍生は俺の言葉を一蹴して俺を運び続けるが、もうすでに空間の崩壊はすぐ真後ろまで迫ってきてしまっている。

 このままだと本当に俺たち二人とも空間の崩壊に巻き込まれてしまう。そうしたら本当は龍生だけでも生き残れたはずなのに、二人とも死んでしまう。

 

「お前だけは、お前だけはここに居ていい奴じゃねぇんだ!」

 

 もう俺たちの真後ろまで崩壊が迫ってきていて今にも俺たちまでも飲み込まれてしまいそうだ。

 だが、龍生は諦めない。俺をどうしても放す気はないらしく、背負ったままスキマに向かって歩き続ける。

 残りはおそらく5メートルほど。だが、この5メートルをアイルいている間にまず間違いなく崩壊に巻き込まれてしまう。

 どう考えても終わりだ。

 

 そう思ったその時だった。

 

「まこっちゃん」

「なんだよ」

「俺たちはいつまでも親友だよな」

「っ、当たり前じゃねぇか」

「……その答えが聞けて安心した」

「お前、何をする気だ!」

 

 その瞬間の出来事だった。

 背負っていた俺の腕を握ると、そのままその場でぐるっと一回転し、その遠心力を利用してハンマー投げの要領で俺をスキマの中に投げ込んできた。

 

「龍生!」

「頑張れよ」

「どうしてだよ、龍生。今まで一緒に頑張ってきたじゃねぇか! せっかくジーラ戦では誰も死んでいないんだ! お前が死んだらすべてがダメになるんだよ!」

 

 どうやらすべての力を使い切ってしまったらしい龍生はその場で膝をついてしまう。

 俺が叫ぶようにして龍生に言うと、龍生は今までにないほどに優しい笑みを浮かべて言った。

 

「お前はいつもみんなを守る、こいしちゃんを守るって言っていたよな。俺にとってその対象がお前だった。お前は俺の唯一の親友だ。現代に居た頃は特に俺たちは二人だけだった。多分、あの環境はお前が居なかったら耐えられなかっただろうな。俺はお前に生きていてほしいんだ。それに、俺は信じている。まぁ、ここまでたいそうな理由を付けたけどさ、本当のことを言うと今までのことを返したいだけだ。返済だ。だって俺には感情というものがあまりないからさ、自分でも何がしたいんかわからないんだ。でも、お前に死んでほしくないっていうのは本当だ」

「龍生……」

「でも、俺は死なないさ。お前が俺を親友だって認識していてくれる限り絶対に死なない。俺は信じてる。だから、この幻想郷を救ってやってくれ。お前ならできると信じている」

「え、救うってどういう――」

「真! スキマの中に入って!」

 

 その瞬間、龍生は崩壊に巻き込まれ始めた。

 俺はそんな光景は見たくなくて顔を伏せてスキマの中に入る。

 龍生の言葉の意味は分からないけど、龍生の言葉にはいつも意味があった。だから今回も何らかの意図があるに違いない。

 

 そしてその意図を俺が知るのはすぐ後の事だった。

 

「え?」




 はい!第226話終了

 ジーラに勝ったというのに龍生が死んでしまいました。

 主人公組が半数もやられてしまいましたね。

 これだけやられているのに一期や二期の前半部分では全く活躍がなかった鈴音が生きているっていうのが不思議ですよね。

 そして次回、最後の真の「え?」の意味が分かります。

 それでは!

 さようなら


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第227話 都合のいい状況を作り出す程度の能力

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 ついにジーラを倒した真。だが、クレア神の反動によって動けなくなってしまう。

 そこでジーラが倒れたことによって空間が維持できなくなって空間が崩壊を始めてしまう。

 だが、真は動けず、空間が不安定なことで紫も真の真下にはスキマを出せない。

 そこで龍生が自分の命を犠牲にして真を救出した。

 龍生はすべてを託して真を送り出す。

 そして幻想郷へと戻ってきた真が目にしたものとは?



 それではどうぞ!


side真

 

「え?」

 

 詰めが甘いというのは確かにこういうことを言うのだろう。

 俺は今まで幾度となく異変を解決する手伝いをして、時には自分で異変を解決したりしてきた。そしてそのたびに異変の元凶を倒すことができればその異変は終わりをつげ、平和な世界が帰ってきていた。

 世界が霧でおおわれる紅霧異変、永遠に春が来ない春冬異変、永遠に夜が来ない永夜異変など様々な異変を解決してきたが、しっかりと元の幻想郷に戻ってくれていた。

 

 そんな今までの経験から、異変というものは元凶を倒せば解決され、元の日常が帰ってきてくれると思っていた。

 だが、それは勝手な思い込みというやつだ。

 

 現実はそんなに甘くはない。それは今までの人生で嫌というほど思い知らされていたはずなのに、この幻想郷に来てからどうやら自分の中の認識が非常に甘くなってしまっていたようだ。

 俺の視界に移る景色がそんな非常な現実を突きつけてきていた。

 

「こ、これは」

 

 今まで黙って静観を決めていたライトがたまらず声を漏らした。

 

 むしろ今までうまくいきすぎていたんだろう。

 そしてジーラの言葉とも辻褄が合う。

 

 確かにあんたの言う通り、あんたを倒しただけでは何も解決しなかったみたいだ。

 

「世界が、崩壊を続けている!?」

 

 紫のその言葉から分かるように、この幻想郷はジーラを倒した今でも常に少しずつ崩壊をしていってしまっていた。

 世界崩壊をしている元凶が居なくなったというのに崩壊が止まらないということは、この崩壊はジーラが操っているものではないということになる。

 ジーラが操っているのだとしたらジーラの霊力がなくなった瞬間に直ることはないにしても崩壊は止まるはずなのだから。

 

「世界の崩壊が止まるはずないよ。だって過去が変えられてしまった結果なんだから」

 

 そう発言したのはシャロ。

 俺たちがこっちの世界に帰ってきたのを察して飛んできてくれたのだろう。

 そして今、シャロが言ったこと。前に音恩が言っていたことと同じだ。

 音恩がどうしてそのことを知ったのかはわからないが、これが本当なのだとしたら俺たちにはどうすることもできない。

 あとは黙ってシャロに頼るしかない。なにせ、この現状で過去に飛ぶことができる人物はシャロしかいないのだから、シャロに過去に行ってもらって何とかしてもらうしかない。

 

 だが、なんでシャロはそれをしないのだろう。それをわかっているのならば、止めに行けばいいというのに。

 

「ジーラの能力はなんだった?」

「え? 時を戻す能力だったけど」

「うーん、たぶんね、それは正確には時を自在に操るっていうことなんだろうね。それで過去に飛んで過去を変えた後にこの世界に戻ってきた。この世界はね、その替えられた正史に世界が修正されようとしている。だから今あるこの世界は崩壊をして行っている。でね、ここからが一番大事なんだけど、一度変えられてしまった過去を元に戻すのって前に変えた人よりもさらに上の力を持っていなければいけない。何と言うか、神として恥ずかしい限りなんだけどね、私は戦いに関してはダメダメなんだよ」

 

 そうか、つまりはもう一度世界を変えて元に戻すには前に変えた人物、つまりジーラを超える人物じゃないとだめということか。

 今この場にはジーラを超える人物はごろごろと存在しているが、シャロは戦いに関してはダメダメだからジーラを超えることができないということか。

 

 ということは、もう実質詰み状態ということだ。

 この幻想郷を元に戻す方法なんて何もない。この崩壊を止めることはできないし、過去に戻って歴史をただすということもできない。

 

「それにね、過去を元に戻したとしても一度変えられた後の出来事はあったこととして残り続ける。だからこの幻想郷の崩壊が止まったとしても戻ることはない」

「……最初から知っていたのか」

「うん、ごめん。でも、どっちみち今後変えられないためにあいつらを倒す必要があるし、もしかしたらこの異変は過去改変の結果じゃないんじゃないかって希望を抱いてみたけど、ダメだったよ。教えなかったのは単純にあの場でみんなのやる気を、士気を下げるような発言をする必要はないかなと思っていたんだよ。だって、このことを知ったら誰だってやる気がなくなるでしょ?」

「あぁ、確かにそうだな」

 

 元凶を倒しても意味がないかもしれない。それを聞かされて尚、士気を保ったままでいられる奴は一体この場に何人いるのだろうか。

 俺はそこまで意思が強い方ではないから、もしかしたらこのことを聞かされた瞬間にやる気がなくなっていた可能性がある。

 

「やっぱりだめだった。幻想郷はもう終わり、なんだよ」

「そ、そんな……なにか回避する方法は」

「ないよ」

 

 紫のすがるような問いにシャロは悲しそうな声で即答した。

 そうだ。シャロもこの幻想郷が大好きなんだ。なのに、この現状を受け入れなければいけなくなってしまっている。だから、シャロも辛いのだろう。

 このままだとみんな仲良くこの崩壊に巻き込まれてしまって消えてなくなる。

 そのあと、俺たちがどうなってしまうのかは知らないが、少なくとも今の俺たちというのが死んでしまうというのは確かだ。

 

 どうにかして今この場にいる人だけでもどうにかして逃がしたい。

 この崩壊から逃れたらどうなるのだろうか。その人はそのあとも生き続けることができるのだろうか。

 

「なぁ、この崩壊から逃げて外へ出た場合、どうなると思う?」

「……わからないけど、たぶん助かる。だってここに居る人たちはみんなこの世界の改変から逃れているんだから」

「じゃあ、みんなで逃げれば!」

「私は逃げない」

「え?」

 

 逃げないと一番にそう口にしたのは紫だった。

 

「私は何があってもこの幻想郷は離れない。この幻想郷が死ぬときは私が死ぬとき。だってこの幻想郷はわが子のようなものなんだから」

 

 そうか、紫は妖怪だ。それも妖怪の賢者と呼ばれるほどの人物だ。この幻想郷が成長していく様をずっと見てきていたのだろう。

 そんなに長く見てきていたら愛着も沸いてわが子の様に思うというのは自然なことなのだろう。

 だからこの幻想郷を離れたくない、それは分かる。だが、ほかの人たちは――

 

「私も残るよ。だって、私の生まれ育った場所はここなんだよ。私の居場所はここしかない。真たちとはもう会えないのはさみしいけど、それでも私はここに残りたいんだ」

「紗彩……」

「俺も残る。もともと俺は存在するべきじゃなかった人造人間だ。こんな奴が長生きしていてもろくなことはない。ここら辺が引き際って奴だろう」

「ライト……」

 

 紗彩とライトもこの幻想郷を出て行かないという。

 だが、俺にとってはみんな大切な仲間だ。誰一人としておいていくということを考えたくはないが、ここで無理強いすることもできない。

 みんなにとってこの幻想郷は大切な場所なのだろうから。

 そして俺にとってもこの幻想郷はとても大切な場所なんだ、だからその気持ちは痛いほどわかる。

 

「はぁ……あんたね、あんたはどうしたいのよ」

「俺?」

「そう、あんたはさっきからみんなに聞いてばかり。あんたはここに残りたいの? それとも外に出る? どっちでも私たちは止めないわよ。それにあんたはもともとこっちの人間じゃないのだから好きにすればいいわ」

 

 そうだ。俺はもともと外で生きてきた人間だ。

 幻想郷にいた時間よりも圧倒的に外で過ごしてきた時間の方が長い。でも、この幻想郷は俺にとって非常に大きなものになっていた。

 そう簡単に捨てられないものになっているんだ。

 

「私はシンについていくよ。私の生きている意味ってほとんどシンだしね。神としてシンを見守ります」

「何だよそれ……」

「それじゃ、私も真にゆだねるかなー。私もほとんど同じようなものだしね。私も真と同じく外来人、真が外に行くっていうなら外に行くし、残るっていうなら残るよ」

「彼方、鈴音……」

 

 二人は俺についてきてくれるといっている。つまり、俺の決断次第では二人を巻き込んでしまうということになる。

 

「そういえば、こいしは?」

「ここに居るよ」

「っ、こいし」

 

 こいしのことを探してみると、なんと突然、背後から目を覆われてしまった。

 背後にいるのは気配的にこいしだ。こんな風にこいしに背後を取られるのはすごく久しぶりだ。いや、たぶん今は無意識とか使っていないからなんだろうな。

 でも、なんとか少し動けるくらいになったんだな。

 

「こいし……よかった……」

「うん、事情は全部聞いたよ。ごめんね、気を失っていて」

「いや、大丈夫だ。助けてくれてありがとう。あと、無事でよかった」

「無事じゃ……ないんだけどね」

「そ、そう……なのか?」

 

 こいしの深刻そうな声に俺は思わず息をのんでしまった。

 今までにないくらいに真剣な表情をしている。

 

「うん、いま私は妖怪の力があるからこそこうして深手を負っても生きていられている。だけど、外に出て妖怪の力を失ったら私は生命活動を維持できない。どっちみち死んじゃうって事なんだよ」

「え」

 

 この現状に驚き、絶望し、苦難しているところにさらなる追い打ちが来たような気分だった。

 こいしが外の世界にいったら死んでしまう。それはつまり、この幻想郷に残るしかないが、この幻想郷に残ったらいずれあの崩壊に巻き込まれて死んでしまうということになる。

 どの道を進んだとしてもこいしは死んでしまう。この幻想郷に残る以外生きる道がないのだから。

 

 さすがに永琳先生と言えども幻想郷が崩壊する前にこいしの怪我を回復させることはできない。

 

「真とお別れしなければいけ居ないのはさみしいよ。でも、それ以上に真には死んでほしくないんだよ。これから先も……そして、さ。こんなことを言ったら重たいって思われるかもしれないけど、私のことを忘れないでほしいんだ。私が確かに真の隣にいたっていうことを真だけでも忘れないでほしいんだ」

「……くっ」

 

 こいしを諦める? そんなことできるわけがないだろう。

 

 何かないのか、何とかする方法は何もないのか?

 今までのこの幻想郷で何をして、何を学んできた?

 何があった? どんなことを経験してきた?

 

 考えろ。頭を巡らせるんだ。

 俺の能力は【都合のいい状況を作り出す程度の能力】だろ! こんな時くらい、自分でこの能力を使えなくてどうするんだ。

 

『そうか、じゃあこういうのはどうだ?』

 

 あった、一つだけ。

 一つだけ、わずかな、雀の涙ほどの可能性。だが、それでもあり得る可能性。

 0パーセントじゃない限り、かけてみる価値はある。

 

『そして最後に一つ』

 

 ほかに何も思いつかないからな。あいつのことを信じてみる。

 最初の目標は決まった。

 

 最初の目標は――()()()()()()




 はい!第227話終了

 ジーラを倒した真たちでしたが、まだ異変は終わりません。

 こいしを諦めきれない真はこの幻想郷を救う策として最初に幽々子を殺すことを決めました。

 どういう意図があるのでしょうか?

 ちなみに、当初はここで選択肢を用意するつもりでしたが、ここで選択肢を選ぶよりもそのままの流れで進んでいって、このルートが終わった後にもう一つのルートを進めていった方が自然だと思ったので、こういう流れにしました。

 次回から数話は三人称視点に戻ります。

 それでは!

 さようなら


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第228話 すべてを道連れに

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 ジーラとの戦いに勝利し、幻想郷に帰ってきた真たち。

 しかし、まだ異変は解決していなかった。

 崩壊がまだ侵攻してきていたのだ。

 真はこの幻想郷に残るか、それとも現代へ逃げるのかという選択肢を迫られる。

 果たして真はこの状況、どうするのか?



 それではどうぞ!


side三人称

 

 幻想郷のとある場所にあるマヨイガ。

 そこには神楽戦で倒れてしまったみんなが避難されていた。

 神楽戦でのダメージはでかく、実力者のみんなではあるがまだ戦えるほどは回復していないものの、もうすでに目を覚ましていた。

 現在、永琳は正邪の傷の手当てをしていて、幽々子は比較的傷が浅い方だったため、軽くだけ処置をして縁側に腰を掛けて景色を眺めていた。

 

 今現在、このマヨヒガにいるのはこの三人のみ、そして三人とも口には出さないものの、この戦いのことをずっと心配している。

 もちろん、霊夢のことを信用していないわけではないが、これほどの規模の異変を起こす相手は初めてのため、本当に勝てるのかが不安になってきているのだ。

 

 だから幽々子は一人、帰ってきたときにいち早く気が付けるように縁側で紫たちが帰ってくるのを待っている。

 

「ねぇ、永琳。今回の異変、どう思う?」

「そうね、ちょっとした不安要素があるって感じかしら」

「へぇ、それはどういう?」

「今までの異変っていうのはこの現代でその本人が力を使い続けて起こしているものというのがほとんどだった。だけど、今回は過去を変えたことが原因だというじゃない。……そうすんなり終わるとは思えないのよね」

「過去が変わってしまったのだとしたら異変の元凶を倒してもそのままなんじゃないか、ということ?」

「わからないけどね、その可能性が高いと私は考えているわ」

 

 永琳は何となく察していた。今回の異変は元凶を倒しただけでは異変を解決することはできないんじゃないかということを。

 そして消えていく幻想郷、消えていく人々。これらも一度失われているわけで、そう簡単に戻ってくるとは思えなかった。

 

 そしてそれは永琳だけではなく、幽々子も同じことを考えていた。だからこそ、永琳に問いかけて永琳はどう考えているのかを確認したのだ。

 

「時間に関することはいろいろ複雑で困るわ~」

「本当にね」

 

 二人とも時間に関係する異変、幽々子は春を無くし、永琳は朝を無くしたことがあるから、その言葉には重みがあった。

 一方、二人の会話を聞いていた正邪は理解力が追い付かず、一人だけ頭にハテナを浮かべていた。だが、この今の状況で自分が口を出して聞くべきじゃないと判断して静かに聞いている。

 

「そういえば幽々子。あなたは確か【死を操る程度の能力】を持っていなかった? 今回の異変で死んでしまった人たちを生き返らせることはできないの?」

「出来たらやっているわよ。でも、私一人の力じゃ死へと追いやることはできても生き返らせることはできない。私、映姫、一人の神。この三人が揃うことでようやく生き返らせることができる。今は私と神はそろっているけど映姫がどうしているか……せめて私の能力を神が持っていたら違ったのだけど」

「そうなの?」

「えぇ、私の能力に神力を使用した場合、一人だけで人を生き返らせることができる。ただ、その代わりかなり体に負荷がかかってしまうのだけどね」

 

 今まで死んでしまった人。

 この幻想郷の崩壊に巻き込まれてしまった人や、龍生などの戦死してしまった人を生き返らせたいと幽々子も何度も思った。

 だが、それは叶わなかった。生き返らせることに関しては彼女一人ではどうにもならなかったからだ。

 だから今は待つしかない。真たちがこの幻想郷に帰ってくるその時をひたすら待つしかないのだ。

 

 その時、突如として三人の前にスキマが開いたことで、三人の視線はスキマの中に釘付けとなった。

 ちょっと前までは紫しかスキマは使えないというのが当たり前だったが、神もスキマを使えるということで、誰が出てくるかわからないので、少し警戒をする。

 だが、三人はその中から出てきた人を見てすぐに警戒を解いて、表情を緩めた。

 

「三人とも、無事でよかった」

「「「真!」」」

 

 そのスキマの中から出てきたのは真だった。

 いつも着ているお気に入りのパーカーはボロボロになり、傷だらけで服に血もにじんでいて相当な死闘の跡だったんだろうということがうかがえる。

 だが、それでも真がここに来たということは一つのことを現していて――

 

「真、勝ったの?」

「あぁ、勝ったよ」

 

 幽々子の問いになんだか浮かないような表情と声色で答えた真。

 その真の様子でなんとなく幽々子と永琳は状況を察してしまった。

 未だに幻想郷の崩壊は()()()()()

 

 ただ、真の様子から何かがおかしいと気が付いてはいたが、状況を把握できていない人が一人。

 

「なぁ、今何が起こっているんだ?」

「…………幻想郷の崩壊が侵攻している。いずれこの幻想郷はすべて崩壊する」

「っ!」

 

 真から告げられた真実。

 これですべて終わりなんだと思っていたところに突きつけられた現実。

 正邪はショックのあまり、声が出なかった。幽々子や永琳も察してはいたが、実際に言葉で聞くとなると、辛いものがあった。

 

「じゃあ、そ、外の世界に逃げるのか?」

「……どうだろうな。結果次第って感じだ」

「結果?」

「……真、あなた。そういえば何のためにここに来たの?」

 

 真の様子からどうにも異変がまだ解決していないだけじゃないということを幽々子は感じ取り、真に要件を聞く。

 その眼はいつになく鋭いもので、ふざけたことを言ったならば即座に斬るとでもいうような迫力があるほどの圧が幽々子から放たれていた。

 その様子に真は一瞬、気圧されてしまったものの、すぐに元に戻って淡々とした感情など一ミリも感じさせない声で、だが表情には狂気を帯びさせて発言した。

 

「俺は、もう嫌になったんだよ。この幻想郷は救えない。こいしは重傷を負っているせいで外の世界には一緒に行けない。大切なものは何一つ救えない。だから、この幻想郷に消される前に、俺はすべてを自分の手で終わらせることにした。その方がショックが少ないから……」

 

 そこまで言うと手をまっすぐ前に突き出し、その手の中に霊力刀を作り出し、霊力をその刀に込めた。

 

「だから、さ。まず手始めに、お前から死んでくれよ。俺の手でさ、()()()




 はい!第228話終了

 今回、そして次回はマヨヒガ編になります。

 真が闇落ちしたようなセリフを言っていますね。まるでパラレル真が言いそうな言葉です。

 ちなみに、今のメンタルが強化された真はそう簡単に闇落ちするような弱い心の持ち主ではないです。相当強いです。

 真の考えは一体何なんでしょうね?

 それでは!

 さようなら


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第229話 決意の一撃

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 マヨヒガにて今回の異変に関して考察をする幽々子と永琳。だが、正邪は状況が理解できていなかった。

 そこへ突然、真がスキマを通って登場。

 そしてなんと真はすべてを殺すと宣言し、その手始めとして幽々子を殺すと告げる。

 果たして真の意図は如何に?



 それではどうぞ!


side三人称

 

「だから、さ。まず手始めに、お前から死んでくれよ。俺の手でさ、()()()

「「「っ!」」」

 

 真が深刻そうな表情で放ったその一言を聞いて三人は目を見開いて驚愕してしまった。

 今までの真の行動から考えて一番縁遠い言葉だと思っていた言葉が飛び出てきたためだ。

 以前、パラレルワールドの真が攻め込んできた際、真はそのパラレルワールドの真の行動を否定していたため、こういったことは絶対にしないと思っていたのだ。

 

「お、お前、何言ってんだよ! どうしちゃったんだよ!」

「…………」

「な、何とか言えよ。お前はそんな奴じゃなかっただろ! 自分のことはそっちのけ、常に周りの人のことを心配し、何が何でも周りの奴らを助けようとするやつだっただろ!」

「…………」

 

 正邪が真に語り掛けるものの、真は何も答えずにじっと三人のことを光の無い(まなこ)で見つめ続ける。

 肯定も否定もしない真に正邪はやきもきして肩を震わせる。

 

「あぁ、そうかよ! あんたのことを信じた私らが馬鹿だったって事かよ!」

「…………そう、かもしれないな。俺はみんなが思うほどできちゃいないよ」

「あなたにはそんなに期待はしていなかったわ。でも、ここまで心が弱かったとは思っていなかったけどね」

「すみません。俺はこういうやつなんです」

 

 正邪は真に失望して声を荒げて真を責め立て、永琳は冷静に言葉を紡ぐものの台詞は真に失望したということを告げていた。

 だが、この中で一人、真に狙われている幽々子のみさっきから一言も発さずに黙ってお茶を啜っていた。

 最初こそ驚いたようだったが、幽々子は今この場で一番落ち着いているといってもいいだろう。

 

 そしてお茶を一口すすって自分の横に湯呑を置くと、ゆっくりと顔を上げて目の前に立っている真と顔を合わせる。

 

「一つ、聞きたいことがあるわ」

「…………なんだ?」

「あなたはどんな絶望的な状況でもハッピーエンドを目指して打開策を死んでも探し続けることができるかしら?」

「…………」

「そう、安心したわ」

 

 幽々子の問いに対して真は一言も発さなかったが、幽々子は微笑むとそう呟いた。

 永琳は何も反応はしなかったが、正邪は全く理解ができないという反応だった。誰もが正邪と同じ反応をすることだろう。

 何せ今、自分が殺されそうになっているというのにほほ笑む理由がないからだ。

 

「でも、私を殺すんだから、私のお願いを一つ聞いてくれるかしら?」

「ちょ、幽々子!」

「妖夢ちゃんを、頼んだわよ」

「幽々子、これから私たちを皆殺しにしようとしている殺人鬼に何を頼んでいるのさ! その妖夢? も殺されるだけだぞ!」

「……分かった。任せろ」

「その答えを聞けて安心したわ」

 

 幽々子の切実な願いに正邪は戸惑ったものの、真は様子を変えることはなく淡々とそう答えたものの、幽々子はその答えを聞いて安心したのか、再びお茶を手に取って一口飲んだ。

 それと同時に真は手のひらに霊力の刀を作り出すと幽々子に向かって一歩踏み出した。

 その瞬間、真の行く先には正邪が立ちふさがり、真に思い切り回し蹴りを放った。

 だが、真は正邪がこう出てくるということを事前に察していたのか、正邪の蹴りをすれすれで回避し、正邪を素通りして幽々子へと接近していく。

 

「さ、させない。お前にそんなことはさせな――」

「正邪!」

「ゆ、ゆこ?」

「ありがとう」

 

 真はどんどんと刀をもった状態で幽々子へと接近していく。

 それを正邪は止めようと感覚をひっくり返そうとしたものの、幽々子の声によってそれが遮られてしまい、正邪は能力の発動が遅れてしまった。

 幽々子のお礼を聞いた瞬間、正邪は動けなくなってしまい、真は一瞬ためらうように固まるものの、決意を固めたような表情をしてその手に持った刀を構えた。

 

「やめろ、やめろ、真。早まるな」

「はぁ……はぁ……っ!」

「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 正邪が止めるにはもう手遅れだった。能力の発動はもう間に合わなかった。

 真はこれから幽々子を殺す、そのことを認識してか心臓の鼓動が激しくなり、呼吸が乱れてしまうものの、深呼吸をして心臓を落ち着かせる。

 そして構えをすると正邪は真を止めようと手を伸ばして叫び声をあげる。

 真も真で叫び声を上げながら刀を突きだし、その刀は幽々子の胸のど真ん中を貫いた。

 

「あ、あぁぁ……」

 

 幽々子の胸を貫通する真の握っている霊力刀。その光景を見て正邪は喉から直接掠れるような声を出した。

 この光景は真の覚悟の現れ、この幻想郷のみんなを皆殺しするという決意。その決意を見て正邪は絶望してしまったのだ。

 

 こうなってしまってはもう止まることはできない。もう後戻りができないのだ。

 

「はは、ははは……はは……ははは、はははははは…………はははっははは」

(やべぇ……変な汗がとまらねぇ……でも)

(ゆ、幽々子が殺された。ということは、次は私たちをっ!)

 

 正邪は真の様子を見て次は自分に攻撃の矛先が向くのではないかと警戒し、本格的に戦う体制を整える。

 だが、真は狂ったように笑っているだけで正邪や永琳に攻撃を向けることはしない。

 そしてその数秒後、真の足元にスキマが出現し、真はスキマの中へと消えて行ってしまった。

 それを見て正邪は警戒を解き、すぐさま幽々子へと駆け寄る。

 

「幽々子、幽々子、おい、しっかりしろ!」

 

 正邪は幽々子の肩をゆさゆさと揺らすものの幽々子から反応が返ってくることはない。

 しっかりと胸のど真ん中に剣で貫かれた痕があり、心臓が一突きされてしまっているということがわかる。

 本来の幽々子はこの一撃だけじゃ死ぬことはないのだが、今の幽々子は完治していないため、この一撃も致命傷となってしまったのだ。

 

 真に殺されてしまった。

 だが、その表情は決して悪いものではなかった。幽々子の表情も決意に満ち満ちた、未来に希望を持った表情だった。

 

「正邪、あの真の様子を見てどう思う?」

「え、いや、……結構精神に来てるんだなって」

「まぁ、それもあると思う。だけど、私は結構心に炎が燃え滾っていると思うけどね」

「どういう……こと?」

「多分、近いうちに結果で示してくれるわ」




 はい!第229話終了

 真が幽々子を殺してしまいました。この結果に何の意味があるのか。

 そしてどうして真は悪役のような態度をとっているのか。

 この状況をどうやって打開するのか。

 あと、もうそろそろ感想を摂取しなければモチベーションが下がってきているので、感想ください(切実)
 感想を摂取したらモチベーションが急上昇します。僕は単純なので。

 それでは!

 さようなら


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第230話 もう戻れない

 はい!どうもみなさん!ミズヤです

 あけましておめでとうございます!

 今年もこの小説をよろしくお願いいたします。

 ほかにも東方妖滅録なども書いているのでそちらも呼んでみてください。多分設定なども二次創作の中では過去一で作り込んでいるので面白いと思いますよ。

 では早速行きましょう。



 それでは前回のあらすじ

 真が幻想郷の全員を皆殺しするための最初の相手として幽々子を殺しにかかる。

 それを必死に正邪は止めるものの、その抵抗もむなしく、幽々子は真に殺されてしまう。

 果たして真の目的は如何に?

 そして幻想郷を救うことができるのか?



 それではどうぞ!


side三人称

 

「ここだ。ここが目的地だ」

 

 マヨヒガから帰ってきた後、一人でスノーランドへとやってきていた。

 しかもそこは以前、真たちがジーラと戦った場所、キルタワーだった。真はまだほかのみんなに見つからない様にスキマの出口をこのキルタワーに()()()()()()()直接やってきていたのだ。

 その理由は単純明快、ここにジーラが居たからだ。

 

「それにしても、ここはまだ崩壊の魔の手が届いていないようだな。意外と幻想郷は広いのか。だが、ここも多分もう一日もしないうちに崩壊に巻き込まれるのか。その前に……」

「真!」

 

 真が一人で決意を固めていると背後から真を呼ぶ声が聞こえてきたため、真は驚きながら背後へと振り返った。

 そこにいたのは必死な表情で息を切らしている少女、古明地こいしだった。

 おそらく走ってきたのだろうと分かるほどに上気した顔に、肩を上下させているその姿からも必死に真を探していたということがわかる。

 

 真はまだほかの人たちに見つかるつもりじゃなかったため、頭を抱えてしまったものの、すぐにいつも通りの態度に戻してこいしに声をかけた。

 

「こいしか、よくこの場所が分かったな」

「……だって、真は多分この異変を何とかしようとしているんだろうから、それなら元凶のジーラが居たこの場所にいるんじゃないかって」

「そう、か。察しがいいな」

「何年一緒にいると思ってるのさ」

「何年っていっても、二年くらいだろ」

 

 二人で会話をしつつくすっと笑いがこぼれた。

 

(やっぱりこの時間を大切にしたい。この場所を守りたい。そのためなら……)

「ねぇ、真」

「なんだ?」

「何か辛いことでもあった?」

「っ!」

 

 真はすぐに辛いことが思いついた。

 つい先ほど幽々子を、何の罪もない人を手にかけたばかりなのだ。

 幽々子とは昔修行をしていた時に仲良くなった。そして今回は共闘した。すでに仲間といっていいほどに絆が芽生えていた。

 そんな相手を殺してしまったのだ。辛いに決まっている。

 だが、真はそんなところをこいしに見せたくないと考えて笑顔を(つく)った。

 

「いや、何にもないよ。それよりも死ぬ前にもう一度こいしの顔を見れてよかった」

「……なら、さ。なんでそんな……そんな……辛そうな、引きつった表情をしているの?」

「……」

 

 ――無理だった。

 今の真に笑顔を創ることなんて無理だった。

 出会って間もない相手やそこまで交流の無い相手なら騙せるかもしれないが、長く一緒にいるこいし相手には真の創った笑顔では騙すことなどできるわけがなかった。

 

「真、私には隠し事はしなくていいんだよ? 何があっても私は真の味方だから、ね?」

 

 こいしは辛そうな表情をする真に優しい声をかけながらゆっくりゆっくりと真に近づいていく。

 こんな状況だとしてもこいしはずっと真の、自分の心配ばかりをしてくれていたんだと考えて真は涙がこぼれそうになるが、天を仰いで涙が出てしまうのを防いだ。

 

 そしてこいしは真の真横まで来て真のことをギュッと抱きしめた。

 

「こ、こいし?」

「泣いても……いいんだよ? 真だって辛くて泣きたくなる時だってあるよね」

「……いや、泣いちゃいけないんだ。泣いたら、幽々子に失礼だからな」

「え? なんでそこで幽々子が?」

「ごめんっ」

 

 真は一言謝ると突然こいしのことを抱きしめ、首の後ろをトンと叩いた。

 

「え、真……なん、で?」

 

 こいしは訳が分からないというような表情を浮かべ、声を発しながら脱力してしまったため、真はゆっくりとこいしから離れて静かにこいしを地面に寝かせた。

 だが、ここは雪原なので、そのまま寝ているだけじゃ寒いだろうと考えて真は自分の着ていたパーカーをこいしにかけてあげる。

 

 これでとりあえず一件落着かと、そう思われたが、そうでもなかったようだった。

 

「おい、真。てめぇが今こいしにやったのはなんなんだ」

「……ライト」

「質問に答えろ。回答によっちゃ、てめぇを殺さなければいけなくなる」

「……」

「あくまでも答えない気か? そういや、てめぇはさっきもあわただしく俺たちの前からいなくなったよな。ぶつぶつつぶやいたかと思ったら突然スキマが出現してよ、何をしに行っていたんだ?」

 

 ライトが居た。

 霊力を感じなかったため、真はここにはこいし一人で来たのかと思っていたが、スキマの中にほかの人が潜伏している可能性やクレアを使用して極限まで霊力を感じない様にしているという説があるということを見逃していた。

 真としてはまだ見たい場所はあったたものの、見つかってしまってはどうしようもない。後のことは後で考えることにした。

 

「真、てめぇはこいしのことが大切なんじゃなかったのか!?」

「大切さ、大切だからこそ、失う前に自分から捨てるんだよ」

「ち、お前、パラレルワールドのお前に毒されたのか?」

「違うよ。あれは本当に未来の俺の姿なんだよ」

「なん、だと?」

 

 普段はあまり表情を変えないライトだが、この時ばかりは目を見開いて驚愕してしまっていた。

 

「未来の俺の姿、このまま幸せに暮らせていたら起こりうる可能性のなかったパラレルワールドの話さ。だが、この世界はおそらくそのパラレルワールドとリンクし始めている。つまり、今の俺がお前の知っている俺じゃないという可能性があるんだぞ?」

「……そうか、だからお前はみんなから敵対されて……」

「ま、とある人に借りた知恵だけどな。その可能性が高いと思っている」

「なら、お前はどうするんだ?」

「もうだめだ。みんなで死のう。みんなで死ねば、怖くない」

「てめぇ、相当病んでんな」

 

 引き気味のライトの表情に真は表情をピクリとも動かすことなく真顔のまま言い切った。

 それが余計に真の不気味さに拍車をかけ、ライトは恐怖してしまっていた。

 今の真は何をやらかすかわからない、そんな状態に見えたのだ。

 

(なら、今ここでこいつを殺すしかないっ!)

「さようなら、ライト」

「させねぇよ。お前が止まらねぇなら、俺はお前を全力で止めるだけだ!」




 はい!第230話終了

 戦場はこの場所、スノーランドのキルタワー前に移りました。

 そしてさっそく真対ライトの戦いが始まります。

 この戦いは殺し合い。昔、殺し合いをしたことがある二人ですが、あの時とは違ってライトが正義で真が悪という立場が逆転した状態での戦いになります。

 それでは!

 さようなら


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第231話 真逆の立場で

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 一人でスノーランドのキルタワーにまでやってきた真。

 その真の前に現れたのはこいしだった。

 真の様子を心配した彼女は真のことを慰めようとするものの、真はまだやるべきことがあると考えてこいしのことを気絶させる。

 そこへ現れたライトはこの行為について問い詰める。

 すると真はパラレルワールドの真と同じようなことを言い出し、全員を殺すことを宣言する。

 ついに全員を殺そうとする真とそれを止めようとするライトの戦いが今、始まる。



 それではどうぞ!


side三人称

 

 真とライトの二人は同時に周囲に向かって霊力を解放し、その霊力はぶつかり合って周囲に衝撃波が放たれる。

 真の霊力の色は白、そしてライトの霊力の色は黒だ。これはもともとのその人の人物像によって色が出てくる。真の心が潔白でライトは人を殺すために作られたからこういった色になっている。

 だが、今となっては真が人を殺そうとしていて、ライトがそれを止めようとしている。完全に真逆となってしまっていた。

 

 真はクレア神まで使えるようになっているが、素の霊力量は変わらないため、霊力の強さは二人とも互角で霊力同士で押し合う。

 

「やっぱり俺とお前の才能は同じっていうことだな」

「同じくらい修行すれば同じくらいの力を得られる。それはつまり、お前と俺の間には差はできないっていうことだ」

「だな、だが」

 

 その瞬間、突如霊力の出力を止め、ライトの目の前から真が消えうせた。

 蒸発したかのように見える速度で真は地面を蹴りだしたのだ。

 周囲に解き放っていた霊力を一瞬で取り込み、そして足に流し込んで瞬間的に脚力を上昇、そのパワーは地面にクレーターができるほどで、今真が出せる瞬間加速度で言ったら最高のレベル。

 真はこの戦いに全力で挑んでいる。全力でライトを倒そうとしている。

 

 そんな無理な霊力操作をしたら足がぶっ壊れるかもしれないというのに、それでも真は使ったのだ。

 そのギミックにはライトもすぐに気が付いて、目を細めて周囲の気配に集中して攻撃に備える。

 

(お前、本気なんだな。なら俺も遠慮はしない)

「俺はお前ほど甘くはないからな…………」

 

 その次の瞬間、真はトップスピードのままライトの左から殴りかかる。

 それをライトは見切り、左腕で真の拳を受けると、がこんという肉体同士がぶつかり合ったとは思えない音が周囲に響き渡った。

 

 それもそのはず、二人とも霊力の鎧であるクレア装をまとっていたからだ。

 真のパワーとライトのパワーがぶつかり合い、ライトは全く体制を崩さないが、真のパワーによって地面がえぐれて雪が周囲に舞い上がり、二人の周囲のみ猛吹雪のような風貌になっていた。

 

「パワーは互角か……」

「いや、」

 

 それを言うと、ライトは強引に腕力のみで真のパワーを押し返し、薙ぎ払うようにして真を弾き飛ばした。

 

「力は俺の方が上のようだな」

 

 霊力は互角ではあるが、筋力となると話は別だ。

 別に真が修行を怠っていたわけではないが、常に山中で修行をしているライトと街中で修行をするときにのみ修行をしていて普通の生活を行っている真とじゃ腕力に差が出てしまうのは仕方がないことだ。

 それに戦闘スタイルも真は剣で戦い、メインウェポンは霊力を使用している。だが、ライトの戦闘スタイルは基本剣で戦い、メインウェポンも剣での技を使用している。

 戦闘スタイルの違いが、こうして力の差として表れているのだ。

 

「さすがだな、ライト」

「だが、霊力の扱いに関してはお前の方が上みたいだな」

 

 そう言ってライトは服で隠れた左腕の袖を捲ると、そこには焼けたような跡が出来上がっていた。

 基本的にクレア装はすべての攻撃に対して耐性を得ることができるが、一転集中されたレーザー光のような霊力を食らうとその防御を貫通してダメージを受けてしまうことがある。

 真は拳をライトの腕に叩き込んだその瞬間に腕力だけではライトに勝てないと察し、霊力を拳から鋭いレーザーの様にライトに射出して腕を焼いたのだ。

 

 霊力量は同じではあるものの、霊力の扱いに関しては真の方が数歩先を行っているのだ。

 

「お前、少し見ないうちにさらに強くなったな。さすが山中で修行しているだけある」

「お前も霊力の扱いがうまくなったじゃないか。俺じゃこんな繊細な霊力操作はできない」

 

 二人は警戒を解かずに対話をする。

 お互いにお互いの力を認め合い、ライバルとして認識しているからこその信頼、そして強敵として警戒しているのだ。

 

「剣を作り出さなくていいのか?」

「お前こそいつもみたいに霊力を練らないのか?」

 

 真とライトは互いに問いかけるが、どちらとも答えることはなく、再び同時に走り出した。

 真とライトの拳は互いにぶつかり合うことはなく、互いの顔面に直撃したことで、二人同時によろめいたものの、すぐに二人とも体制を整えて再び拳を構えて走り出す。

 真の繰り出した右の拳はライトの左手に食い止められ、ライトの繰り出した右の拳は真の左手に止められる。まさに鍔迫り合いの状態。

 

 この状態だと下手に動いたらカウンターを食らってしまう可能性があるため、蹴りを放つこともできない。

 

「ぐっ、ああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 真はクレアを利用し、筋力を強化してライトに拳を叩きつけようとするものの、ライトもライトで同様にクレアを利用して筋力を上げて拳を食い止めると同時に、拳に力を入れて真に拳を叩きつけようとする。

 二つのクレアがぶつかり合い、相乗効果によって周囲に高密度の霊力がまき散らされ、空気が圧迫されたことによって周囲の温度がどんどんと上がって行って雪が解けて地面が池の様な水たまりに変貌していく。

 

 地震の様に台地が揺れ、大気が揺れ、突風のようなものが吹き荒れて周囲の雪が舞いあげられて吹雪となり、高温度になったことによってそれは水となり、霧となる。

 二人の姿は深い霧に包まれることになった。

 

「お前がこの幻想郷を壊せるわけないだろ!」

「うるせぇ! 壊すと言ったら俺は壊すんだ!」

「ぐぅっ!」

 

 二人の霊力がぶつかり合って空気に流れが生まれる。

 それは周囲を渦巻くように、どんどんとどんどんと速く、力強くなり、そしてそれはやがて周囲の雪を巻き込んで真っ白な竜巻へと姿を変えた。

 それが二人の周囲を包み、誰も近寄れなくなった。

 

「なぁ、ライト…………」

「あぁ、分かっている。お前、最初のあの一撃……()()()()()()だろ」




 はい!第231話終了

 今回は真対ライトの戦いを書きましたが、いかがでしたか?

 結構真の方が強敵と戦って勝ったり、クレア神を使えるようになっているため、真の方が強いかと思われていると思いますが、もともとライトは真の遺伝子を元に作られた人造人間ですので、才能の差はないんですよ。
 なので、二人とも同じくらい修行したら全く同じくらい強くなれるんです。

 ただ、二人とも違う方向に強くなっているため、完全に拮抗しているというわけではないんですよね。

 真も普段剣を使用しているため、剣術タイプかと思いがちかもしれないですが、よく見てみると基本霊縛波や狙撃《スナイパー》で有効打を与えているんですよね。

 剣は補助です。
 簡単に言えば魔法メインの魔法剣士です。

 果たしてこの二人の戦いはどうなるのでしょうか?

 それでは!

 さようなら


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第232話 職務放棄の博麗さん

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 真とライトの戦い。

 真はみんなを殺すために、ライトはみんなを守るために戦う。

 そんな二人の実力は拮抗しており、二人の霊力がぶつかり合って周囲へと影響を与えていく。

 地形までも変化させてしまいそうな二人の戦いの行方は如何に?



 それではどうぞ!


side三人称

 

「こっちからとんでもない霊力のぶつかり合いを感じる」

「でもどうしてこのタイミングで? 元凶は倒したからもう敵はいないはずじゃ……」

「…………少し、嫌な予感がするのよね」

 

 紗彩、鈴音、霊夢の三人はひた走っていた。

 二人が向かっている先はスノーランドのキルタワー前。そこからとてつもなく大きな霊力のぶつかり合いを感じた三人は急いで向かっていたのだ。

 

 だが、紗彩と鈴音はどうしてこのタイミングで霊力のぶつかり合いが発生しているのか、それも戦闘しているとしか思えないほどの霊力のぶつかり合いが怒っているのか不思議に思い、霊夢は何となく事情は感づいていた。

 もちろんスノーランドのキルタワー前となると、そこにいるのは真とライトで、今絶賛二人とも戦っている最中だ。

 この霊力のぶつかり合いを感じて三人は走っていたのだ。

 

 紗彩と鈴音は遠すぎて誰の霊力なのかがまだ判別ついていないが、霊夢ははっきりと真とライトが戦っているのだと感じ取っているため、嫌な予感を覚えていた。

 

 そしてその嫌な予感は的中することとなる。

 

「あ、あそこ!」

「竜巻!?」

「いや、あれは霊力同士がぶつかり合って渦が発生しているみたいね。あれでは近づけない」

 

 三人は近くまでやってきたものの、とんでもない大気の対流が発生しており、近づくだけで吹き飛ばされそうになるため、三人はあまり近づくことができずに遠巻きからその様子を眺めている。

 それは暫く続き、ようやく霊力の渦が収まってきて舞い上がった雪が周囲に散り散りになって舞い降る。

 先ほどまで雪は降っていなかったのに、突如として大雪となって周囲がよく見えなくなる。だが、その中でも三人は竜巻が消滅して見えるようになった内部の様子は見えていた。

 

「え、」

「うそ」

「……やっぱりね」

 

 三人は三種三様の反応を見せ、けれども全員等しくその内部の様子を見て絶望感を抱いていた。

 その中に見えている景色とは――ライトが倒れていて真が血を浴びて立っている様子だった。だが、その真の様子は今までの真とは全く違う、少しぼーっとした危ない様子だった。

 何をしでかすかわからない。そう思ったら思わず紗彩と鈴音は一歩後ずさってしまった。

 

「来たか……だが、遅かったみたいだな。こいしとライトはこの通りだ」

 

 徐々に雪が晴れていき、周囲の状況が鮮明に見えていく。

 その中で三人はとある一点を見て息をのんだ。

 そこにはこいしが倒れていた。外傷は特に見当たらないものの、そばに倒れているということで三人は真がこれをやったのだと判断し、今までの真とは別人だと考えて相手をすることにした。

 

「何だろうね、何回真と戦えばいいんだろうね。まぁ、そのうち二人はあなたじゃなかったんだけど……今回は本当に君と戦う必要がありそうだね」

「あの時は私のことを殺さないでくれた。それどころか仲間として引き入れてくれた。だけど、今のあなたは別。私の大切な仲間に手を出すというのなら、あなたを敵とみなします」

「はぁ……好きにしたらいいんじゃない? 私はもう干渉しないから」

「え、ちょ、霊夢!?」

 

 鈴音と紗彩がそう言うと霊夢は興味なさそうにあくび交じりにそう口にしながらここを去ろうとしたため、鈴音は驚いて霊夢のことを引き留めた。

 今まで霊夢は確かに面倒くさそうにしてきたが、異変解決をしなかったときはない。だが、今回の霊夢は本気で面倒くさがってこの場を去ろうとしているのだ。

 

「あなたともあろう者がこの幻想郷を破壊しようとしている輩を放っておくと?」

「だって……ねぇ?」

 

 霊夢は紗彩の言葉を受けて少し振り返ると数秒間真と目を合わせるとそのまま視線を前に向けて空を飛んでどこかへ去ってしまった。

 霊夢は自分の役目、この幻想郷を守る役目を放棄したと言わざるを得ない状況に鈴音と紗彩は目を白黒させてしまう。

 

「さて、二人とも。やるのか、やらないのか、どっちなんだ?」

「そりゃ……」

「やるでしょ」

 

 鈴音は拳を、紗彩は刀を構えて真に向き直る。

 二人とも真の強さを間近でずっと見続けてきたため、真がどれほどの実力を持っているかを知っている。

 真が本気を出して来たら二人かかりでも勝てるかどうか怪しいほどだということも……。

 だから二人は死ぬ気で真に立ち向かっている。自分が死んだとしても真にこれ以上殺人をさせない様に止めることを目的として。

 真が真であるということを守るために。

 

女帝の眼(エンプレスアイ)、《戦いの指揮者(バトルオペレーター)》」

「クレア王っ」

 

 二人は同時に戦闘態勢に入る。

 今出せる二人の全力だ。

 基本的にこの二人が揃えば負けることはまずない。圧倒的に強い相手以外ならば敗北の心配は必要ない。

 だが、相手は真だった。二人は真の強さを知っていたため、真と戦うことに少し怖気づいてしまっていたのだ。

 そこを突かれた。

 

 真は一気にクレア神までも開放して周囲に霊力を爆発するように放出した。

 クレア神が含まれている霊力はクレア王よりも強く、上から霊力で押しつぶすことが可能なほどだ。

 そのため、二人は足をがくがくと震わせて動けなくなってしまっていた。

 

 通常、上から霊力で押されたとしてもここまで動けなくなることはない。だが、相手に恐怖を感じていたり、覚悟が足りていなかったら恐怖が倍増して動けなくなることがある。

 

「どうした? 来ないのか?」

「足が……」

「動けない……」

「来ないのか……じゃあ、こっちから――」

「させないよ!」

「がっ」

 

 突如として真の背後に出現したスキマ。

 そこから勢いよく飛び出してきた蹴りを真は後頭部にもろに食らってしまったため、そのまま蹴り飛ばされて地面に倒れ込み、放出していた霊力を止めてしまう。

 

 誰が真に蹴りを入れたのか、見てみるとそこには紬が居た。

 

「相棒が道を違えたんなら、それを正すのが相棒の役目だもんね」




 はい!第232話終了

 もうちょっとこんな感じの話が続きます。

 間違えても真との闘いが神楽のような長さになることはないと思いますのでご安心ください。

 ちなみにジーラがクレア神の霊力を浴びても動けなくならなかったのは自分の能力に自信を持っていてまったくおびえていなかったからですね。

 今回二人が動けなくなった理由は二人が真におびえていたからっていうのがあります。

 それでは!

 さようなら


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第233話 誰か……俺を、殺してくれ

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 激しい霊力のぶつかり合いを感じた鈴音、紗綾、霊夢の三人はスノーランドのキルタワー前にやってきた。

 そこでは竜巻が発生しており、中から出てきたのは倒れているライトと様子がおかしい真だった。

 霊夢はそれを見てやる気をなくし、どこかへと飛び去ってしまう。

 残された二人は真と戦おうとするものの、真の霊力の圧に負けて動けなくなってしまう。

 そこへ援軍がやってきた。



 それではどうぞ!


side三人称

 

「紬か……」

「そうだよー、あなたのパートナーの紬ですよ~」

 

 紬は真を蹴り飛ばした後、一回転して着地し、舞い上がって服に付着した雪を手で軽く払う。

 蹴り飛ばされ、地面に倒れ込んだ真の目の前までやってくると仁王立ちをして軽く笑みを浮かべ、真のことを見下ろす紬。

 

 この時、真は気が付いた。

 紬は相棒であって、ずっと一緒に戦ってきた仲間であるからして、真の力を知り尽くしているといっても過言ではない。

 自分は戦闘向きの力ではなく、サポート。アタッカーが別にいることによってやっと活躍できる存在のため、自分一人だけが立てたってアタッカーである真に勝つことはできないということなんか当の昔から分かり切っていた。

 だけど、それでもこの紬という少女は真に臆してはいなかった。真の圧に負けていないのがその証拠だ。

 神としての意地なのか、それともほかに理由があるのかはわからないが、それでも、紬が真の前に立ちはだかってきているのは確かだ。

 

 なら、真の答えはただ一つだった。

 

「俺の邪魔をするなら、今ここで破壊する。なぁに、心配するな。今破壊するか、後で破壊するかの違いだ。少し計画が早くなるだけだ」

「そうかぁ……でもね、それをするっていうことは、私たち全員を敵に回すっていうことなんだよ? 後戻りはできないよ」

「もとより後戻りする気はない。……もう、戻れない場所まで来ているんだ」

「そう……真、君のことは信じていたんだけどな……」

 

 紬は今までのことを思い出しているのか、遠い目をして空を仰ぐ。

 空は紬の心情とは真逆にこれ以上ないほどに雲一つない青空が広がっていた。

 

「何をする気かは知らないけど、お前の能力が俺に効かないということは前に幻想郷に来た時に証明済みだぞ」

「大丈夫……ここに来たのは私だけじゃないから、ね」

 

 その次の瞬間だった。

 真の真横にスキマが出現し、その中から一本の腕が伸びてきて真の腕を掴もうとしてきた。

 それを瞬時に察した真は慌ててその場から飛びのいてその腕を回避するが、慌てていたせいで不完全な体制で飛びのいてしまい、体勢を崩して膝をついてしまった。

 それを見て真は察する。

 

「そうか、紫も来ているのか。それに、この状況なら、彼方も来ていそうだな。さすがに分が悪いか」

 

 真が霊力の放出を留めたことによって動けるようになった鈴音と紗綾、それに今集まってきた紬と紫と彼方。五対一の構図となってしまっている。

 鈴音と紗綾、紬だけならば真は勝つことができるだろうが、紫と彼方はかなり厄介な存在だった。

 特に彼方の破壊の力は上書きの力でも消しきることができないほどの威力を誇っている。

 

 真にとっては絶望的な状況。だというのに、それだというのに……真は口角を少し上げて「ふっ」と笑った。

 

「まぁ、いいか……」

「? 真、何を考えてるの?」

「いや、集まってくれて好都合だなってな。これなら探す手間が省けるってもんだからさ!」

 

 その声を聴いた瞬間、紬は真へと走り出し、その手には小さいナイフが握られていた。

 真は霊力刀を作り出そうと、霊力を練り始める。だが、それを許さないとばかりに紗綾は刀を構えて真に斬りかかった。

 それを見て、ぎょっととした真は回避することができなかったため、クレア装を腕にまとわせて紬のナイフと紗綾の刀の両方とも腕で受け止めた。

 

 だが、紬のナイフはそれで受け止めることができるが、紗綾の刀はそう簡単に止められるほど安い技ではない。

 クレア装にはクレア装、クレア装同士ならばクレア装を貫くことができるようになる。

 

「っ!」

 

 もちろんそれを知っている紗綾は間髪入れずに刀にクレア装をまとわせ、真の腕を斬りにかかる。

 それに真もいち早く気が付き、皮膚を少し切られてしまったものの、冷静になって地面を蹴って飛びのいた。

 皮膚は切れたものの、真は半人半妖であることから一瞬にして傷は回復した。

 

「もっとだ……もっと……もっと……こんなんじゃだめだ」

 

 真は小声でつぶやき、手に刀を作り出す。

 

「真、目を覚まして!」

「そうだよ、真。あなたはこんなことをする人じゃない!」

(目を覚ませ、じゃねぇんだよ。目を覚ましたらダメなんだよ)

 

 真はみんなの言葉に憤りを覚えずにはいられなかった。

 今のこの状況、このどうしようもないこの異変に真は相当きている。そしてやっと浮かんだ自分の考え、シナリオがスムーズに進まず、イライラが募っていた。

 

 みんなは真の目を覚まさせようと必死に真を止めるために戦っている。その攻撃に殺意はない。

 真とみんなは関わりすぎたのだ。だからこそ、誰一人として真のことを殺そうとしない。殺さずに目を覚まさせてこの暴挙をやめさせようとしている。

 だが、真の目的はそんな生ぬるい攻撃では達成することはできない。

 

 真は焦っていた。

 このまま幻想郷が崩壊してしまったら自分たちはどうなってしまうんだろう。自分たちという存在がなくなり、そして新たなそんなに置き換えられてしまうのか。

 そんなことになる前に、早く自分の目的を達成しなければいけない。そう思って焦燥感に駆られていた。

 

 そして誰にも聞こえることのない、誰にも届かないような声で真は虚空に叫んだ。

 

「誰か……俺を、()()()()()




 はい!第233話終了

 もう少しで真との戦いも終わりにしようと思っています。

 今回の話で見えてきたと思いますが、とりあえず今の真の目標は誰かに殺してもらうことでした。

 しかし、みんなは真を殺すことなく退治して考え直そうというものでした。

 なので、もともと生存能力が高い真ではそんな攻撃で死ぬことはなく、永遠に真の目的が達成されることがないという状況です。

 もどかしくてイライラしています。

 果たして真は殺してもらうことができるのか?

 それでは!

 さようなら


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第234話 俺はもう……

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 紬がやってきて真と本格的に戦いが始まる。

 紬一人の力じゃ全く真にダメージを与えることはできないが、紗綾の攻撃もあり、少しダメージを与えることに成功する。
 だが、こんな攻撃では真が死ぬことは絶対にない。

 それもそのはず、二人とも真を殺すことはなく、生きたまま改心させようとしているのだから。

 だけど、そんなことでは真の目的が達成されることはない。

 なにせ、真の目的は――

「誰か……俺を、()()()()()



 それではどうぞ!


side三人称

 

「どうしちゃったの真! あなたはこんな状況になっても決してあきらめず突破口を見つけようとするような人だったじゃない」

「そうだよ。だから私は真を信用して【神成り】を託した! でも今の真はどうにかしちゃってるよ! 真は仲間たちに危害を加えるような、そんなひどい人じゃない!」

 

 紗綾と紬は必死に真のことを説得しようと試みる。だが、そんな言葉は全く真の心に響くことはない。

 なにせ、二人の説得方法は全くの的外れだからだ。

 

 真はずっと殺してもらうためにふるまっていた。立ち回っていた。

 だが、ただ殺してくれと言っても誰一人として自分を殺そうとするものはいないだろうと考えて真は敵になることによって殺してもらおうと考えた。

 だからこそこうして真は暴れているが、それでもなお真のことを改心させることができると考えて説得を続けるみんなに真は友情を感じてはいるものの、それと同時にタイムリミットが迫ってきてイライラとしてくる。

 

(この崩壊に巻き込まれて死ぬんじゃだめなんだ。おそらく崩壊に巻き込まれたら新しく再構成された幻想郷に飛ばされて俺という人格が消え去り、新しい俺という人格が入り込むのだろう。それじゃダメなんだ。俺が俺であるうちに死なないとダメなんだ)

 

 真は再び刀を構える。もちろん殺してもらうために殺意があるように必死にふるまっている。

 当たり前だ。この戦いは真が自分を殺してもらうために始めた戦いだ。みんなを殺すことが目的でない以上、殺意があるわけがなかった。

 だが、必死に霊力に殺意を込めて本気なんだということをアピールする。

 

「シンっ!」

「彼方?」

 

 その時、突如として真の目の前に飛び出すようにして彼方がスキマを作り出して現れた。

 まるで真に立ちふさがるように。これ以上みんなを傷つけないように、これ以上真にみんなを傷つけさせない様に、まるで間に入って防いでいるといった立ち姿だった。

 さすがに殺すことが目的ではない真では彼方に立ちふさがれてしまっては何もできずにただ刀を下ろすしかなかった。

 

「何やってるのさ、シン。それが君のやりたかったことなの?」

「…………」

 

 彼方の必死の問いかけに真は口を開こうとしない。

 いや、開けないんだ。

 この答えに答えるということは自分の目的をみんなに告げるということになってしまう。それだけは避けたい真はただ口を噤むしかなかった。

 

「ねぇ、答えてよ!」

 

 そんな真にしびれを切らし、少しいらだち紛れに彼方が言うと、真もいらだち紛れに彼方に言い放った。

 

「お前に、俺の何がわかるっ!」

「全部わかってるよ!」

「っ!」

「全部、分かってるよ。誰よりも力を欲していて、だけど力を欲している理由は自分のためではない。その努力も全て大切なほかの誰かのためのもの。自分以外の幸せを常に願っていて、ほかの人たちがうれしそうだと自分もうれしくなって、でも自分の幸せは二の次で……お人好しで……本当にどうしようもない人」

 

(私は何万年もの時間、ずっとあなたと向き合ってきたんだから)

 

「彼方……?」

「そんなあなたが、大切な人たちを傷つけるわけないでしょ?」

 

 ずっと真を見てきた彼方だからこそ言える言葉だった。

 何回も何十回も何百回もタイムリープをしてきて真を、幻想郷を救おうと尽力してきた彼女だからこそ真のことは本人以上に知っているといっても過言ではない。

 そんな彼女は今の真のことを非常に信用していた。

 

 真はどうしてそんなに信用してくれているのかわからないが、それでも信用してくれているということは伝わってきていて、申し訳なさそうに真は口を開いた。

 

「彼方、お前は知らないかもしれないけど、別の世界線で俺は大切な人が殺されてしまうという苦しみに耐えかねて自分の手で大切な人、大切な世界を破滅へと導いたんだ。お前の知っている俺はそうなのかもしれないけど、本当は胸の内で何を考えているかわからないぞ」

「大丈夫。今の真はまだ心が死んでいない」

「心?」

「まだ、諦めていない時の顔つきだ」

 

 そういうと彼方はゆっくりと真の顔へと両手を伸ばし、両ほほを両掌で挟んでむぎゅっと軽く押しつぶした。

 

「ね? こんなバカみたいなことをしていないで、今後のことを考えよ?」

 

(あぁ、俺だってこんなことはもうしたくはない。みんなの幸せそうな表情を守りたい。だけど、もうこれしか方法はないんだ。もう後戻りはできないところまで来ているんだ)

 

 真は深呼吸をすると静かにこの場にいる皆に聞こえるようにその事実を告げた。

 

「俺は……幽々子を……()()()

「「「「「っ!?」」」」」

「手にかけたんだ。未だに覚えてるぜ。あの幽々子の胸に刀を刺した感触、亡霊だというのに肉を斬ったような感触はちゃんとあるんだな。お前たちは俺に後戻りしてほしいようだが、俺はもうとっくに後戻りできないところまで来ている。だから、これからあるのは、俺が死ぬか、お前たち全員俺に殺されるかの二択だ。俺が改心するっていう選択肢はない。俺はもう犯罪者なんだからな!」

 

 その言葉を聞いて彼方は絶望のあまり両手から力を抜いて真の両ほほから手を放してしまった。

 その瞬間、真は拳をギュッと握りしめ、彼方に叩きつけようとする。だが、その一撃が彼方に当たることはなかった。

 

 どがっ! 鈍い音が周囲に響き渡り、それと同時に悲鳴も轟いた。

 

「ぐあああああっ!」

 

 その悲鳴は真のものだった。

 つい一瞬前までは攻撃する側だった真が突如として攻撃される側になったのだ。

 その光景に彼方も驚き、ポカンとしてしまって動けなくなっていた。

 

 真は横から殴り飛ばされたのだ。

 だが、スキマが現れたわけでもないし、紗綾や紬、鈴音は少し離れた位置にいる。

 ならば誰が殴ったのか? それは――

 

「真、分かった。ワカッタよ。じゃあ、もうコレ以上手にかけない様に、手にかけられない様に、私のスキな真の内に、シんで?」

 

 最愛の少女、古明地こいしだった。

 

 初めてだった。

 真は初めて自分の仲間、古明地こいしに殺気を向けられた。




 はい!第234話終了

 一気に物語も終盤に入ってきましたよ!

 こいしは気絶させられて放置されていたので今、目を覚ましたんですよね。

 そして今までライトも誰も彼も真に殺意は持っていなかったのですが、初めて真に殺意を向けた人物がこいしなんですよ。

 果たしてこいしの考えとはいったい?

 真戦はもうすこしで終わると思います。

 真戦が終わればあと少しです。

 ここまでお付き合いいただきありがとうございました。

 もう少し続くと思いますが、ラストまでお付き合いよろしくお願いいたします!

 それでは!

 さようなら


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第235話 そんなに死にたいなら――

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 真は殺してもらうためにみんなと戦う。だが、誰一人として真を殺そうとはしない。

 もっとみんなに危機感を持ってもらうために真はさらなる攻撃をしようとしたところで彼方が止めに入る。

 なんとか真の説得を試みるものの、真の決意は固く、攻撃をされそうになってしまう。

 しかし、突如として横から真が殴られたことによって攻撃は当たらなかった。

 その攻撃した人物とは、古明地こいしだった。



 それではどうぞ!


sideこいし

 

 体がうまく動かない。

 気絶させられたからだろうか。脳がまだ目を覚ましていないようで、体をピクリとも動かすことができない。

 だけど、意識は戻ってきた。妖怪だからか、気絶させられた後の復帰も早いようだ。

 

 今は真とライトが戦っている。多分ライトは真が私のことを気絶させるのを見て怒って勝負を仕掛けたのだろう。

 本当なら今すぐにでも立ち上がって二人の戦いを留めたいけど、指一本動かすことができないから見ていることしかできなくてもどかしい。

 

 二人の戦いは互角。

 真はクレアの力を極限まで高めているけど、素の実力や才能はほぼ同じ。だから同じ攻撃をすれば二人とも決着がつくことはなく、互角の戦いを繰り広げることになる。

 それにしても霊力波がすごい。突風の様に感じられる霊力の圧。

 

 二人とも技で戦うようなタイプだから無駄に霊力を使うような戦いはしないはずなのだが、今回はなにやら力と力をぶつけ合うような、荒々しい霊力の使い方をしているような気がする。

 多分二人とも無意識なんだろうけど、焦っている。だからこそ相手に自分の全力を叩きつけるような戦い方をしているんだ。

 

 だからこんな風に霊力が吹き荒れ、暴走している。

 

 それによって周囲にある雪が舞い上がり、猛吹雪の様に周囲に吹き荒れた。

 さらに二人はクレアの力を使用してお互いに拳を繰り出すと、二人の拳がぶつかり合った瞬間、霊力がぶつかり合い、相乗効果によって高濃度の霊力が放出され、それが空気を圧迫し周囲の温度をどんどんと上げていく。

 温度が上がったことによって地面の雪を溶かし、水たまりが出来上がってその水が蒸発して高濃度の霧となる。

 

 地震の様に大地が揺れ、大気が揺れる。

 このままじゃまずい。このままじゃ二人の暴走した霊力がこの幻想郷を崩壊へと導いてしまう。

 止めなければ、何とかして止めなければ。

 

 なんとか力を振り絞り、這って二人のもとへと向かうと、私たち三人は霊力の流れによって出来上がった竜巻によって囲われてしまった。

 まるで突風のような霊力に私は吹き飛ばされてそうになるけど、手に力を込めて吹き飛ばされない様にこらえる。

 

「なぁ、ライト…………」

「あぁ、分かっている。お前、最初のあの一撃……本気じゃないだろ」

「気が付いていたのか」

「当たり前だ。俺はお前の模範品(コピー)だからな」

 

 この突風のせいでよく聞き取れない。

 

 そもそもなんで真は私を気絶させたんだろうか。どうしてライトと敵対しているのだろうか。

 よくわからないけど、一つわかることはどっちにも殺気というものがないということだ。

 霊力の荒ぶり方は尋常じゃないけど、二人の雰囲気はまるでただただ模擬線をしているかのような雰囲気。でも、これは摸擬戦ではない。

 あの真の鬼気迫る表情は本気だ。

 

「そうか……じゃあ、俺の考えも分かってんのか?」

「馬鹿言え。俺はお前と思考は同じだが、同じことを知っているわけじゃねぇ。お前が何を思って死のうとしているのかわからねぇが、本当にそれが最善手なのか?」

「そこまでわかってれば充分だ」

「そうかよ」

 

 その次の瞬間、ライトは片手をポケットの中に突っ込むと赤い豆のようなものを口の中に放り込んで、それをかみ砕いた。

 すると、その豆からは勢いよく真っ赤な液体が飛び出し、ライトの口からまるで血が出たかのような見た目となった。

 そしてかみ砕いた時、勢いよく液体が飛び出したことによってその真っ赤な液体が真にもかかってしまい、まるで返り血を浴びたかのような見た目となった。

 

 そのままライトは力を抜くように地面に倒れ込み、それを察した真は即座に攻撃をやめて倒れていくライトを見下ろす。

 この状況は何も知らない人が見たらまるで真がライトを殺したかのように見える光景だった。

 

 もちろん私も状況を見ていなかったら勘違いしていたことだろう。

 

 そうこうしているうちに紗綾、鈴音、霊夢がやってきた。霊夢は察しがいいから状況をすぐに察したのか興味をなくして帰って行ってしまったけど、鈴音と紗綾は戦う気満々といった感じ。

 だけど、二人は真の力を知っているからか恐怖を感じ、そこを付け込まれるような感じで霊力に押しつぶされて動けなくなってしまった。

 

 だけど、そこで紬がスキマから突如として出現して真と敵対した。そして紗綾は紬が戦っているのを見て恐怖を乗り越えて真に攻撃をする。

 二人の攻撃じゃ真を倒すことはできないものの、追いつめることはできている様子だった。

 

 その時、真がボソッと言った言葉が聞こえてしまった。

 

「誰か……俺を、殺してくれ」

 

 一瞬何を言っているのかわからなかった。

 今のやり取りで真が何をしようとしているのかは理解した。多分パラレル真と同じようにみんなが死んでしまう前に自分の手で殺してしまおうというものなのだろう。

 だけど、今の言葉はまるで真は自分を殺してもらうために戦ってるみたいだ。

 

 何よ、それ……どういうこと……。

 

 いつも命を賭けて戦っている真だけど、今回のは今までで一番意味が分からない。

 いつもいつもいつも命を大事にしてと言っているのに、一度も私との約束を守ってくれたことはない。

 

 ムカついてきた。私の大好きな人は自分のこと(私の大切な人)を大切にしてくれないから。

 だから、だから少しわからせることにする。

 

 そんなに死にたいなら、そんなに死にたいなら……。

 

 ――殺してあげる。




 はい!第235話終了

 今回はずっとこいし視点の独白でした。

 ここ最近はずっと三人称視点といった感じだったため、一人称視点は久々でしたね。

 あのライトと真の最後のやり取りの後をどうやって過去話として書くかと迷っていたところ、近くでこいしが気絶していたことを思い出してこいし視点で描いた感じです。

 次回は今の時間へと戻りまして三人称視点になります。

 それでは!

 さようなら


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第236話 相棒として――

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 こいしは真とライトの戦いの全貌を見ていた。

 そして真が誰にも聞かれていないと思ってボソッとつぶやいた殺してくれという言葉も聞かれていた。

 それを聞いたこいしは怒りを覚えていた。

 いつも命を大事にしてという約束を一度も守ってくれない。

 だからこいしはわからせることにした。



 それではどうぞ!


side三人称

 

 こいしに殺気を向けられて真はぞくぞくっと体を震わせる。

 これほどまでにこいしに殺気を向けられたのは初めてだった。今までに何度も何度も何度もいろんな相手に殺気を向けられたどころか本気で殺されかけてきた真だが、これほどまでに体が恐怖を感じたのは初めてだった。

 ここまでおびえてしまうのは自分が上手く手出しできない相手だからだろうか、奥さんだからだろうか。そんなことを考えているうちにこいしは生気のない瞳を向けながらふらふらと真の方へと歩いていく。

 

 それを見て真は思わず一歩後ずさってしまうものの、背後には紬と紗綾が居ることを思い出してこれ以上後ずされないことを感じて額に冷や汗がにじむ。

 

 これほどの殺意、こいしから感じ取ったことは一度たりともない。

 こいしが妖怪だということを考えればこれほど殺意をむき出しにすることが出来てもおかしくはないのだろうけど、今までこんなに殺意を向けられたことがないため、真は驚いてしまう。

 

「もう、これ以上真に殺しはさせないよ。私の好きな真はそんなことしない、しないんだから。だから、そんなことをする真は真じゃない。偽物。なら、偽物なら、消さなきゃね」

 

(これがこいしの本気の殺気。これほど殺意を抱いてくれているなら、もしかしたら殺してくれるかも)

 

 真はこいしの様子に少しビビりながらも、自分のことを殺してもらえるかもしれないと考えて期待を胸にこいしと戦う準備を整える。

 こいしは弾幕を周囲に浮かべ、真は刀を構える。

 本気で殺し合いが始まりそうな雰囲気が漂い、周囲がピリピリとした霊力、妖力で覆いつくされる。

 

「ダメ―っ!」

 

 その時、真とこいしの間に紬が入り込んだ。

 両手をめいっぱい広げて二人の壁になり、二人が衝突するのを防いでいるつもりなのだろう。

 

「ダメだよ。二人とも! 今は争っている場合じゃないでしょ! みんなで協力して、そして何とかこの状況を打破する方法を考えるときでしょ!」

 

 ようやくこいしと戦って殺してもらえる、そう思ったというのに紬にそれを邪魔されたことでどうしたものかと考え込む。

 こいしも真を殺すつもりで立ち上がったというのにそれを阻まれてしまったため、毒気を抜かれてぽかんとしてしまっている。

 紬はこの行動によって二人の戦いを一時的にでも阻止することが出来たのだ。

 

(やっぱりこの状況で殺し合いにするためにはこの場にいる全員に殺意を持ってもらう必要がある……なら、どうすればみんなに殺意を持ってもらえるのか……)

 

 今、真の頭は今まで生きてきた中で一番の速さで高速回転し、最善手を探し出した。

 そして見つけ出した答えは――

 

「く、くくく……お前、まだ助かるとか思ってんのか? みんなでこの幻想郷の状態、見ただろ? 無理だ無理。助からねぇよ。諦めてみんなで死のう」

 

 どうしようもなく手が付けられない状態。どう頑張っても説得できなさそうな状態。

 つまり、今まで通り強行突破だ。

 みんなは今までの真を見てきたからこそ説得でどうにかなるのではないかという希望を抱いている。だからこそ、今ここで殺さないといけないという風に思わせるような、絶対悪となる必要がある。

 絶対悪とは少し違うような気がするものの、どんな説得をしても無駄だと思わせなければ殺し合いには発展しない。こいしが真のことを殺そうとしてもほかの誰かが止めることだろう。

 

「シン、大丈夫だから。大丈夫だから、ね? みんなで一緒にこの状況を打破する方法を考えよう? ここは幻想郷なんだから。不可能なんてないんだから」

「はは、そうやって無責任になんでも大丈夫なんて言うな? 無責任に相手に希望を持たせようとするな? 俺は違う。俺は今までいろんな異変に立ち向かってきて頑張ってきたさ。だけど、今回のこれは今までのものとはレベルが違う」

 

 レベルが違うなら、それと同じように自分たちの努力方法も一レベル上げなければいけない。

 だが、今までだって全く努力をしてこなかったわけじゃないし、むしろ命の危険さえあったほどだった。それから一レベル上げなければいけないということは、つまり……。

 

「そっか……安心したよ。じゃあ、死んで?」

「ちょ、こいし!?」

「ここで揺らいだらどうしようかなって思ってたけど、そこまで揺るがない信念を持っているなら、もう死んで? もう真には誰も殺してほしくないから」

「だからといって真を殺すのは!」

 

 こいしの発言に対して信じられないといった表情を浮かべ、焦った様子で紬はこいしに言い返した。

 するとこいしは哀愁漂う雰囲気を醸し出して一瞬、「はぁ……」とため息をつくと、ゆっくりと紬に問うた。

 

「ねぇ、紬ちゃん。私たちって今までどれだけの異変の元凶を殺してきたかな……」

「えっと……」

「なのに、真だけ説得するっていうのは違うよ」

「でも、シンは異変の元凶じゃ――」

「こんなことをしようとしている時点で真は異変の元凶になっているんだよ」

 

 こいしの言葉はごもっともだった。

 今までの元凶は自分たちの敵でしかなかった。仲間じゃないし、そもそもとしてよく知らない相手が元凶だったため、躊躇うこともなく退治することが出来た。

 だが、今回は相手が仲間である真だ。だからこそみんな真を退治することを躊躇ってしまっている。

 しかし、それはただの贔屓だ。異変解決をするという以上、相手がどんな相手だろうとも平等に公平に退治するべきなのだ。

 

 紬は信じたくなかった。真が異変を引き起こさんとしているとは考えたくもなかった。

 だが、やっていることと言えば異変の元凶と何ら変わりないことだ。

 幽々子を殺してしまった時点から真は立派な罪人だ。罪人は裁かれなければならない。それが異変を解決するということなのだから。

 そしてその異変を解決するには元凶を退治しなければいけない。

 

「…………」

「だから、私が私の手で真を退治する」

「……わかったよ……」

「なに?」

「わかったよ。なら、私が真を倒す。それが相棒として、せめて私ができることだと思うから」

 

 鈴音と紗綾は何も言えないし、何も干渉できなくなってしまった。

 なにせ、二人の決意が強く、ここに加わるほどの度量など、二人には存在していなかったからだ。

 

「「私が、真を倒す!」」




 はい!第236話終了

 紬が真を倒すことに積極的になりましたね。

 こいしと紬が真を全力で倒しに行くことにし、そして鈴音と紗綾は干渉しないことにしたため、ついに真の目的が達成されそうですね。

 ちなみに霊夢はこの展開になるっていうのを察して巻き込まれるのが面倒くさいからさっさとこの場を去ったって感じですね。

 それでは!

 さようなら


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第237話 雪原に散る

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 こいしが真に殺気を向けたことで紬は二人の戦いを止めに入る。

 だが、真は紬にも敵と認定されるために説得しても無駄だと判断されるような発言をする。

 さらにはこいしが紬を説得したことでついに紬も本気で真を倒しに来るように。

 さぁ、真対こいし、紬の戦いが今始まる。



 それではどうぞ!


side三人称

 

 ついに紬も真を殺す気になり、二人は横に並んで真と向かい合う。

 この二人が並んでいるのは珍しい光景のため、真は微笑ましくなり、笑いそうになったものの、ここで笑ってしまったらすべてが台無しになってしまうと考えて必死に表情筋を固くした。

 

 そして自分を鼓舞し、右手に霊力刀を作り出した。

 

(まさか、こいしと紬にこの刀を向けることになるなんてなぁ……)

 

 幼いころに親を亡くしている真にとっては、家族や仲間というのはものすごく大切な存在だ。そんな存在に自分から刀を向けている。そんな状況に嫌悪感を抱いてしまうが、ここでやめるわけにはいかないので、しっかりと刀を構える。

 それを見たこいしと紬も戦闘態勢に入り、お互いににらみ合う状況となった。

 

(真、あなたが何を考えているのか、そこまでは分からないけど、そんなに望むっていうことは、何かあるんだよね)

(シンはあんなことを言っていたけど、目は死んでいない。コイシもいつもなら私たちと同じようにシンを止めようとするはず。なのに、あんなことを言うなんて何かがあったんだと思う。それに私は賭けてみる)

(真を本気で殺す!)

(シンを本気で殺す!)

 

 心の中で二人とも決意すると、こいしは周囲に高密度の弾幕を作り出し、そしてそれに紬は神力を流し込んで呪いを込める。

 即死の呪いは真には効果がないため、動き封じの呪いだ。直撃すると体が重くなり、動きにくくなるという呪い。

 真は一撃では絶対に倒せないので、地道にダメージを与えていくしかない。だから連撃を加えるためにも動きにくくする必要がある。

 

(二人は本気で殺しに来てくれるみたいだな。でも、だからと言ってここでこの態度をやめない。俺はこの二人と戦って、そしてこの二人の敵として殺されたい。こいしと紬に殺されるなら本望だ)

 

 その次の瞬間、こいしは真へ向けて弾幕を放った。

 

「表象《弾幕パラノイア》」

 

 こいしの弾幕が放たれると同時に真の周囲に細かい大量の弾幕が出現し、弾幕の檻に閉じ込められてしまう。そしてそんな真に向かって本命の大きい弾幕が迫りくるのだ。

 行動が制限されている今の状態じゃ回避することは非常に難しい。

 そして囲まれているため、周囲の弾幕に触れたらダメージを受けてしまう。だが、本命の弾幕に直撃するよりはましだと考えて真は弾幕の檻へと突撃した。

 

 ドカーンドカーンドカーンと真が弾幕に直撃するたびに爆発が起こり、煙が発生する、

 その煙の中へと弾幕たちは吸い込まれて行き、着弾したのかそれも爆発していく。

 さすがに二人もその行動は予想外だったのか、驚愕してしまっていたが、すぐに元の調子に戻る。

 

(真は今までいろんな予想外なことをしてきた。これくらいはしてきてもおかしくはないよね)

 

 すると煙の中から人影が猛スピードでこいしたちの方へと走ってきて煙を巻き込みつつ、二人の目の前に現れた。

 そして煙が晴れるとやはりそこには真が居て、刀を構えているという状況。少しでも反応に遅れていたら真の剣術だったら今の一瞬で決着がついていた。

 だが、二人は長年の経験からこのことは予測できていたため、すぐに真の刀の間合いから離れ、真は刀を振ったのを見てからこいしは再度真との距離を詰めた。

 

「っ」

「前は負けちゃったけど、私もあれから強くなっているんだから、なめないでよね」

「ぐぅっ」

 

 そのままこいしは回し蹴りをして真を蹴り飛ばすと同時に再び弾幕を展開する。

 

(はぁ……はぁ……くそ、力が出ねぇ……)

 

 真は蹴り飛ばされて地面に突っ伏した状態で動けなくなってしまっている。このままでは回避できないため、動かなければいけないというのは頭ではわかっているのだが、体がいうことを聞かないという状況になってしまっている。

 

「本能《イドの解放》」

 

 再びスペルカードを発動し、今度はハート形の弾幕を大量に真に向かって放った。

 それを見た真は必死に腕に力を入れて体を持ち上げようとするものの、全く間に合うことはなく、こいしの放った弾幕の直撃をもろに受けてしまって、更にぶっ飛ばされて地面を転がっていく。

 

「く、はぁ……はぁ……」

 

 なんとか真は一発目の直撃を受けた際、その威力を利用して地面を転がって行ったため、ほかの弾幕には当たっていないが、一発でも直撃したのでかなりのダメージを負うこととなり、額から血が流れ始めた。

 真の肉体は妖怪の血が流れているため、すぐに再生はするし、動くことが出来るようにはなる。

 だが、真の体はこの度重なる戦い、そして無理な技の使用、更には体にかなりの負担がかかる戦い方をしたことで、真自信でも気が付かないうちに体は限界を迎えていたのだ。

 そしてその状態でジーラとの戦いでクレア神を使用した。

 

 さらにそのあとはさんざん暴れまくったおかげで真の体には全く体力など残されてはいなかった。

 真は自分が思っている以上に疲弊しているのだ。

 

(あぁ……意識が朦朧とする……霊力の使い過ぎ……か?)

 

 もうすでに真の体は限界をゆうに超えており、声を出すことすら重労働と言わざるを得ない状況となってしまっていて、意識が朦朧とする中この幻想郷の思い出を走馬灯のように思い出していた。

 

 始めてこの幻想郷に来た日。

 地底に突如放り出されて初めて出会ったのがこいしだった。

 それから地霊殿に住むこととなり、そしてこいしたちと一緒に異変解決を何度もした。

 

 異変解決はどれも大変なものばかりだったけど、今となっては真にとっていい思い出となっているのは確かだった。

 

(やっぱり、この幻想郷は諦めきれないよな)

 

「真、もう終わり?」

 

 地面に倒れて仰向けとなっている真の目の前にこいしが歩いてきた。その手には刀が握られている。真の相棒である神成りがその手に握られていた。

 紬がこいしに力を貸したことでこいしが神成りを扱えるようになったのだ。

 今にも殺されそうな状況。だが、真はもう抵抗する力も残されていなかった。

 さっき弾幕の檻に突っ込んだダメージとこいしに蹴り飛ばされたダメージが決め手となり、本当に力尽きてしまったのだ。

 

「はぁ……もうちょっと暴れるつもりだったんだけどなぁ……」

「……真、あなたは頑張りすぎなんだよ。今回の異変だって……みんな頑張ってたけど、私にとって一番頑張ってたのは真だから」

「こいし……」

「でも、一度も自分の命を大切にしてくれなかったことは許してないからね」

「はは……」

 

 これに関してはぐうの音も出ず、真はただ笑うことしかできなかった。

 

「真、これでもう終わりじゃないよね」

「……この幻想郷があるうちは、終わらないよ。なにもかも」

「そっか……」

 

 そこでこいしは真の心臓に神成りを突き立てた。

 もう抵抗ができない真はそのまま何もせず、ただただこの刀が突き刺されるのを待つだけの身となってしまっている。

 

「真……最後に一つ良い?」

「なんだ?」

「幻想郷は好き?」

「……あぁ、大好きだ」

「よかった」

 

 その言葉を最後にこいしは神成りに力を込め、真の心臓に刀を突きさした。

 完全に神成りの刀身は真の体を貫通し、そして地面に突き刺さった。これが真へのトドメとなった。

 

 致命傷を無効化する真は、死というものが今までは遠いものの様に感じていた。

 だが、この瞬間に明確に死というのものが目の前に迫ってきて、そして己を食い殺さんとしてきていると感じた。

 【致命傷を受けない程度の能力】は真の体力がまだ残っていないと発動しない。つまり、今の様に疲弊しきって指一本動かすことが出来ない真が心臓を貫かれたりなどしたら、たちまち致命傷となってしまう。

 

 どんどんと遠のいていく意識。だが、その最中、真は意識してなのか、それとも()()()に最後にこいしに伝えたかったのか、どちらかなのか誰にもわからないが、最後に真は言葉を発した。

 

「こいし……愛してる」

「っ、わ、私も真のことを……愛してるよっ!!」

 

 思わずこいしは真のことを抱きしめてしまう。

 だが、もうその瞼は閉じられてしまっており、呼吸もしないただの抜け殻となってしまっていた。

 そんな抜け殻をこいしは必死に抱きしめ、嗚咽をこぼしながら大粒の涙を流した。

 

 こいしも妖怪だ。

 妖怪は長寿ゆえに何度も人が死ぬのを見てきた。この異変解決でも何度も何度も人が死にゆくさまを目撃してきた。

 だが、この真の死はこいしの中で一番辛いものだった。

 

「こいし……」

「こいし!」

 

 紗綾や鈴音も集まってきて泣きじゃくるこいしを抱きしめて慰めてあげる。

 一番大切な人をこの手で殺してしまったのだ。そのショックは計り知れないものとなる。

 でも、それでも、やらなければいけないと覚悟をしてこいしは真のことを刺したのだ。

 

「真……あなたはこれで終わりではないでしょう? 私たちにはわからないけど、何かものすごいことを成し遂げると信じているわ。こいしちゃんの覚悟にちゃんと答えなさいよ」

 

 一部始終を隙間から覗いていた紫は真に激励の言葉を贈った。

 

「はぁ……こんな形で来られたくはなかったんだけどな……」

 

 自分の空間で事の顛末を見守っていたシャドウはため息交じりにそう口にした。

 真はまだこんなことでは終わらない。

 ここから真たちの盛大な計画が始まろうとしていた。




 はい!第237話終了

 ついにご乱真編が完結し、ついに最終フェーズに入ろうとしています。

 真との戦いはかなりあっさりとした結末だったと思いますが、真は今までの戦いでめちゃくちゃダメージを受けまくり、疲弊している状態で全く手当も回復もしていないとなったら倒れて当然ですよね。

 むしろよくここまで頑張ったよなって感じです。

 では、ついに次回、真の計画が明かされます。

 それでは!

 さようなら


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第238話 最終地点

 はい!どうもみなさん!ミズヤです

 今回は久しぶりに真視点です。



 それでは前回のあらすじ

 こいし、紬対真の戦い。

 二人は真の戦い方を知っているため、冷静に対処し、そして攻撃を繰り出す。

 だが、真は今までの戦いでダメージが蓄積しており、動くことが全くできなくなってしまった。

 そこでこいしは最後に真にいいたいことを言って真に神成りを突き刺した。

 これによって真はついに雪原に倒れ、この世を去った。

 ここからついに真の本当の計画が始まる。



 それではどうぞ!


side真

 

 俺は……死んだのか?

 何もない、何にも触れられない、何も感じない。

 真っ暗で不安をあおるような空間、そんな空間に目を覚ましたら俺は居た。

 

 確か俺は異変を解決しようとしていて、だけど過去が改変されたことによって発生している異変だから元凶を倒しても異変は止まらなくて……それで俺は悪役を演じてみんなと戦って、そしてこいしと紬に殺された。

 最後にあの二人に殺されたのは俺にとっては幸運だったかもしれない。ほかの人じゃなく、あの二人に殺されたというのが俺の中で大きな意味を持っていた。

 

 どうせ死ぬなら、最後に大好きな人の顔を見ながら死にたいもんな。

 憎い敵の顔を見ながら死ぬなんてまっぴらごめんだ。

 

 あいつ(龍生)はなんていうだろうな。

 せっかく命を張って助けてくれたというのに、結局こうして命を捨てるような真似をして……いや、今回のは捨てたわけじゃない。未来に賭けたんだ。

 こうすることで何か進展があるんじゃないかと予感がしたんだ。

 

 予感というと違うな。

 これならいけると確信した。

 

「おい」

 

 さっそく声が聞こえてきた。

 これが今回の俺の奇行の目的。

 

『もし死んでしまったら俺が神にしてやろう』

 

「はぁ……お前さ、自分のことを犠牲にするの、いい加減にしろよ」

「はは、返す言葉もない」

 

 声が聞こえてきた瞬間、俺の視界は一瞬にして真っ白の空間に変貌し、あまりのまぶしさに目をしかめてしまうが、その視界にうっすらと人影が見える。

 やっぱり死んでしまったけど、こいつなら呼んでくれると思っていた。

 

「ったく……こんな形でこっちに来られんのは俺としても不服なんだが……覚悟はできたのか?」

「あぁ、もう大丈夫だ」

 

 俺とシャドウは俺が死んだら俺を神にするという約束を交わしていた。

 だから俺は今すぐにでも死のうとしていたのだ。死んで神になったらもしかしたらこの異変の攻略方法がわかるかもしれないから。

 

「それにしてもなんであんなことをしていたんだ?」

「あんなこと?」

「お前の仲間を全員敵に回すような行動だ。死にてぇならてめぇで勝手に死ねばよかっただろうがよ」

 

 確かにシャドウの言う通りだ。

 死にたいならば勝手に自殺でもなんでもすればみんなに迷惑をかけることもなく、ひっそりと死ぬことが出来た。

 もちろん自殺することも考えたさ。だが、俺にはできなかった。できないというのはビビッてというわけではなく、俺の能力である【致命傷を受けない程度の能力】の特性上、自殺というものができない様になっているのだ。

 

 死のうとすれば自分で致命傷となるダメージを受ける必要がある。だが、致命傷を受けたらそのダメージを軽減されてしまう。

 そしてじわじわと自分をいたぶりつくそうとしたら途中で気を失って気が付いたら体力が回復して無駄骨に……。

 俺は自殺ができない体なんだ。

 

「俺は能力のせいで自殺ができない。今まで何度もこの能力に助けられてきたが、今回ばかりはこの能力のことが嫌になった。そこで俺は誰かに殺してもらうことを考えた。だから俺は狂人のフリをして仲間に殺してもらうって選択肢を取った。本当にひでぇよな」

 

 俺は自嘲気味に笑いながら話す。

 本当に情けないという気持ちでいっぱいだった。あんな方法しかとることが出来なかった。

 俺にとって一番の心残りは最後のこいしの涙だ。俺のせいでこいしを悲しませてしまったというその事実が何よりも胸にぐさぐさっと刺さり、今も胸の奥深くまで突き刺さっているような感覚がある。

 

「なら、神になったらスキマを使えるようになるが、これからあの世界に取り残された全員を強制的に外の世界にたたき出し、残ったやつらだけでも救おうって魂胆か?」

「いや、俺は情けない男ではあるが、いろいろと求めてしまう強欲でもある。それだけじゃ満足はしない」

 

 考えなかったわけじゃない。

 今、この幻想郷に残るといっているみんなを強制的に外の世界に連れていくことでみんなを救うことが出来るんじゃないかって。

 でも、それじゃ深手を負ってしまっているこいしは助からない。そしてこの世界に放置しても助からないのは確実だ。

 そして、それじゃ俺たちは敵に屈し、幻想郷を諦めたということになってしまう。それは癪だ。

 

「なら、お前は何を望む?」

 

 シャドウのその質問。

 その質問に俺は待ってましたと言わんばかりに口角を上げてニヤッと笑い、盛大な発表をするかの如くシャドウに言い放ってやった。

 俺の絶望的で、そしてばかばかしい目指している最終地点を。

 

「俺が目指すのは俺たちの居場所、幻想郷の完全復活だ」

 

 俺がその言葉を言い放った瞬間、シャドウはまるで凍ったように固まってしまい、そして目を見開いて驚いていた。

 そしてその驚きの表情は次第に笑みに変わっていき、ついにはシャドウは大声を上げて大爆笑を始めた。

 今のこの幻想郷の状況を見ていたらこの目標は絶望的の様に感じるだろう。だけど、これが俺の目指す道。俺の計画のその先にある最終地点だ。

 

「くはははっ! おもしれぇ。予想はしていたが、まさか本当にそんなことを考えているなんてな。あの状況で絶望せず、こんなことを考えている時点でおめぇは十分狂人だ」

 

 俺は必ずこの幻想郷を救って見せる。

 絶対に俺がこの物語を、無意識の恋物語を……終わりになんかさせない。




 はい!第238話終了

 さて、第二期の終盤にてようやくタイトル回収という感じで、真があんなことをしていた理由がわかりましたね。

 そしてもうだいぶ前の事なので覚えている方も少ないかもしれませんが、この最終章が始まる前にシャドウが真に死んだら神にしてやると約束しているんですよね。

 そしてその約束を果たすためにシャドウは今回死んでしまった真を自分の空間に呼んだというわけです。

 本来ならこんな狂人は絶対に神にするべきではないんですけどね。

 そして真は全く幻想郷をあきらめてはいなかったようですね。

 果たしてどうやって幻想郷を救うのか?

 それでは!

 さようなら


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第239話 最後の警告

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 死んでいしまった真はシャドウに呼ばれてシャドウの空間にやってくる。

 そこで神になると誓った真は今までのいきさつと、自分の計画のさらにその先にある最終地点について話す。

 その最終地点とは――幻想郷の完全復活。



 それではどうぞ!


side真

 

「非常に面白れぇ話だ。だが、その宛てはあるのか? どうやって幻想郷を復活させる? あれはもう死んだ大地だ。それを復活させるとしたら生き返らせるのと同義だ」

 

 シャドウは笑いを表情に浮かばせながら俺に方法を問いかけてきた。

 そう、そうだ。幻想郷はおそらく過去の世界に何かがあって過去を変えられてしまった結果、こんな事態になってしまっている。

 なら、どうするか、だが。一つだけ俺に考えがあった。

 

「あぁ、幽々子の能力なら人間一人なら閻魔などの協力は必要になるが、生き返らせようと思えばできる。だが、幻想郷規模となると話は別だ。さすがにあの大きさのものを生き返らせるのは幽々子や映姫でも不可能」

「ならどうする」

「一つだけわがままを聞いてもらってもいいか?」

「わがまま、か。お前がわがままを言うなんて珍しいな。いつも自分のできる力で解決しようとし、何かを願うとしてもそれはお願いの範疇だ」

「それだけどうしても叶えたいってことだ」

 

 あの時、あの瞬間。

 シャドウがこの異変が始まる前に言ったあの一言を思い出してから、俺はずっと考えていた。これならもしかしたらこの異変をなんとかできるんじゃないかって。

 本当にそんなことが可能なのかはわからない。だけど、だけどもし可能ならば、少しでも、1パーセントでも可能性があるのならば――

 

「なんだ、言ってみろ」

「俺を時空神にしてくれ。シャロと同じような、時空神になりたい」

「時空神に? その心は……?」

「シャロから聞いたんだ。一度目、歴史を変えることに制約はないんだが、同じ個所を二度目の歴史改変をする場合は時を操る能力を持っていない限りは不可能だって。歴史の修正力で一度目歴史を変えられた時の歴史にどう頑張っても戻ってしまうのだとか……。だから、俺が歴史を変えるには俺が時空神になって【時空を超える程度の神の能力】を得る必要があるんだ」

 

 俺は歴史を元に戻す案を思いついた後、シャロに相談をしてみたんだ。

 シャロは確かに戦闘能力は低いから過去に飛んでジーラを倒すのは難しいかもしれないけど、俺たちを送りこんで俺たちが倒すのじゃダメなのかと。

 だが、それでは歴史改変を元に戻すことはできないのだと、その時に教えられた。

 そこで俺はシャドウに時空神にしてもらうという案を考えたのだ。シャロと同じ時空神になれば全く同じじゃなくても似たような能力は得ることが出来るはずだ。

 だから俺は時空神を希望する。

 

「確かに時間をさかのぼる能力を自分で持っていなければ二度目以降の歴史改変はできない。そしてもう一つ、これにまつわる話がある」

 

 そこでシャドウはさっきまで笑っていたというのに、突然真剣な表情となって、むしろにらむような鋭い視線を俺に向けてきた。

 何を話し出すのかと、内心びくびくと震えてしまって生唾をのみ込み、喉を鳴らす。

 

「お前の周りには歴史改変の影響を全く受けていないものが居たよな」

「あ、あぁ……」

「歴史改変の影響を受けないのは時渡りによって過去に歴史を変えたことがある人物、もしくはその歴史にあまり深くかかわっていない者。そのどちらかだ。紫と幽々子は例外で力が強すぎるがゆえにその精神力で耐えていたみたいだけどな」

「な、なるほど……」

 

 なんか嫌な予感がしてきた。俺の額に冷や汗がにじみだしてくる。

 そしてそんな俺に詰め寄るように顔をグイっと俺に眼前に寄せてくると、シャドウは今までにないほどに低い、冷え切った声で俺の内心を見透かすように言ってきた。

 

「お前、もしかして前に歴史を改変したことがあるのか?」

 

 その一言に俺は妙に焦り、心臓がドクンと今までにないほどに跳ねた。

 もちろんドキドキの方ではない。いや、ある意味ドキドキはしているが、これは恐怖によるドキドキだ。

 シャドウのその目は俺を責め立てるように鋭く、そして冷たい目。それが俺の目をまっすぐ見据えてきているものだから、俺は恐怖して今すぐにでもこの場から立ち去りたい気分だったが、魂のみである俺に逃げ場などない、逃げたとしてもおそらくすぐにここに戻されるため、逃げ場のない恐怖というものを俺は味わっていた。

 

 そう、俺は前に一度、歴史を図らずとも改変してしまったことがある。

 いや、変えてしまったという自覚はあんまりないのだが、それでも歴史に干渉をしてしまったことは確かだった。

 あれはシャロのせいと言ってはシャロのせいなのだが、過去に飛んでしまっていることに気が付いた時におとなしくしていればよかったというのに好奇心と放っておけないという気持ちから行動に出てしまった。

 今は非常に反省している。

 結局結末は変えることが出来なかったしな……。

 

 でも――

 

「……ある。一度だけ……あの時は運命を変えることはできなかったけど、今回は違う。今回は絶対に成功させなければいけない。今回は絶対に成功させて見せる」

 

 シャドウの威圧に臆することなくシャドウの目をまっすぐと見て言い放ってやった。

 するとシャドウは目をぱちくりとさせた後、俺から離れて静かに話し始めた。

 

「そうか……まぁ、改変したことがあるということは責めるつもりはない。覚悟があり、しっかりとした決意があるというのも結構だ。だが、歴史改変をさらに改変するというのは生半可な覚悟じゃ成し得ないぞ。お前にその覚悟があるっていうのか?」

「あぁ、大切なものを救うためならばなんだってする」

「たとえ幻想郷のみんなの記憶から消えることとなったとしても? お前の記憶が全て無くなるとしてもか?」

「―っ! ……それでも、それでも……俺はただあの場所が存在して、こいしたちに幸せに暮らしてほしいんだ。そこに俺が居なくても別に問題はない」

 

 俺の望みは幻想郷の存続とこいしたちの平和だ。そこに俺がいる必要はない。

 確かにみんなに忘れられてしまって俺もみんなのことを忘れてしまうのだとしたら悲しいけど、それでも俺はやると決めたらやる。

 それでみんなのことを助けることが出来るとしたら本望だ。

 

 またこいしに怒られるな……。

 いや、これが終わったころには俺が存在していた記憶なんてないんだから怒られもしないかもしれないな。

 

「二度目の歴史改変は力が時空神以外が行った場合は何らかの代償が発生する可能性が高い。そして時空神だとしても力が未熟だとしたら代償が発生してしまう。お前が時空神になってすぐに歴史の修正に行くとしたらまず間違いなく代償が発生するだろう」

「暫く修行してから行ったとしたら?」

「歴史修正はできるだけすぐに行わなければ歴史が定着して時を操る者が修正しても歴史の修正力というものが働くようになってしまう。つまりは時間を置いた場合、誰にも歴史の修正は不可能になるということだ。だから歴史を修正できるチャンスがあるのは今だけということだ」

 

 歴史修正の代償というものの中にみんなの記憶から消えてしまったり、すべての記憶が消えてしまうという内容が含まれているのだろう。

 そしてシャドウがそういうということは多分今までにそういう運命を辿ってきた相手を見ているんだ。

 つまりはこれはシャドウなりの最後の警告ということになる。今ならまだ引き返すことが出来る。みんなは消えてしまったとしても俺だけは存在し、みんなのことを記憶し続けていくことが出来ると、そう言っているんだ。

 

 もし本当に行くとしたら今しかチャンスはなく代償が降りかかってくることは覚悟しろと、そう言っている。

 

「……これは俺がジーラを倒さなかったから起こってしまった出来事だ。俺が何とかしなければいけない。行くよ俺」

「……そうか……それじゃあ、お前はやるというんだな」

「あぁ」

 

 絶対にみんなを助けて見せる。その気持ちが俺を奮い立たせている。

 たとえ俺が生き残ったとしてもみんなが生きていなければ俺にとっては意味がないんだから。




 はい!第239話終了

 真は実はシャロに相談をしていたんですよね。

 なので、あの場にいた人物たちの中で唯一真の計画の全貌を知っているのがシャロになります。

 ならシャロはどうしていたのか。

 真はスキマを使えないというのにスキマを利用して移動していたというのが答えになりますね。

 ちなみに紫は真に協力していません。

 果たして真は幻想郷を救うことが出来るのでしょうか?

 それでは!

 さようなら


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第240話 その決意は揺るぎなく

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 真はシャドウに幻想郷を助け出す計画を説明し始める。

 その内容とはシャドウに時空神にしてもらい、時を超えてジーラを止めに行くというものだった。

 だが、歴史の修正は非常に難しい。

 力が未熟な時空神では代償としてみんなから忘れられて、自分の記憶も全て消えてしまう可能性があるという。

 しかし真の決意は固い。

 真はシャドウに決意を伝え、代償を理解した上で行くと言った。



 それではどうぞ!


side真

 

「わかっていた。いつかこうなるってことは……俺は全能神だからな。物事の始まりと終わりが見えるんだ。操る奴は別にいるから俺が操れるわけではないんだが、見ることはできる。神になった時点で人間としては終わる。だからお前の人生はここで終わる。それは分かっていたんだ。ここに至るまでには様々な人の苦労とかもあったんだけどな……」

「じゃあ、分かっていて今の質問をしたのか? 俺を試すような……そんな質問を」

「一応だ……もしかしたら俺がここでお前を脅すことでお前の考えが変わるかと思ってな……」

 

 シャドウは少し寂しそうに笑った。

 全てわかっていたんだ。全てわかっていた上で、シャドウは今、俺の考えを変えさせようとしてわざとこんな脅すような言葉を言った。

 だが、それと同時に幻想郷がなくなるのも多分、シャドウにとっても嫌なのだろう。

 だから俺が神となって過去を変えに行くのも不本意だが、俺を止めたら幻想郷の未来がないというので複雑な心境なのだろう。

 

「はぁ……まぁ、いい。お前の人生だ。どう使おうとお前の勝手だ。だが、なめるんじゃないぞ。過去の世界に行くということは、歴史に少なくとも影響を及ぼしてしまうということだ。お前の行動一つで歴史が大きく変化し、幻想郷が滅びてしまう可能性があるということを……忘れるな」

「滅多なことをしなければいいんじゃないのか?」

「昔、過去の世界に飛んで歴史を修正しようとした結果、石ころを蹴飛ばしてしまい、その結果、世界が滅んでしまったということがあった。そのレベルに慎重にならなければいけないことなんだ」

 

 石ころを蹴り飛ばしただけで世界が滅びてしまう可能性がある!?

 つまりは俺が幻想郷の過去に行って石ころを蹴飛ばしてしまった結果、幻想郷が滅びてしまうという可能性があるということか。

 俺の一挙手一投足に幻想郷の未来がかかっている。

 

「あと、過去へ飛んだら絶対過去の自分に合うな。これは絶対だ」

「ど、どういうことだ?」

「掟だ。もしこれを破った場合、お前の魂は消滅することとなる」

 

 掟ということは誰かが取り締まっているということなのだろう。

 そういえば前に同じことを聞いたような気がする。確か……そう、極が最後に口にしていた。

 ()()()()()()()()()()、あいつが口にしたときはどういうことなのか、全く理解できなかったが、シャドウが今言っていた掟っていうのと関係しているんだろう。

 だが、そうなるとどうしてあのタイミングで極が言ったのかが全く分からない。それにあいつの謎はまだまだ大量に存在する。

 俺の技を使える点や、俺の技を俺以上の熟練度で使ってきた。

 

「この歴史修正もかなりの難易度って事だな。はぁ……なんだか最近は全然落ち着く暇がないな……疲れた」

「そうか、じゃあやめとくか?」

「いや、やるよ。やらないと俺の好きなあの場所がなくなってしまうんだ。ならやるしかない。俺にやる以外の選択肢はないんだ」

 

 たとえこの記憶がなくなるとしても、それでも俺はこいしを、みんなを、幻想郷を救いたい。

 覚悟はもうとっくにできているんだ。過去を元に戻すなんてそんな簡単にできることとは最初から思っていない。

 

「じゃあ、真。こいつを飲め」

「これは?」

「神力水。俺が地上に落としてしまった奴は全部彼方の奴に壊されてしまったが、あと一つ、持っていたんだ」

 

 神力水。聞いたことがある。

 これを飲めば神になることが出来るというとんでもない水だ。

 神になるには通常、二つの手段がある。一つはこの神力水を飲むというものだ。そして、もう一つは人柱になるということ。

 人柱という基準がよくわからないが、紬の場合、身を挺して過去の幻想郷を救ったため、人柱となって神になることが出来たんだ。

 

 これを飲めば俺も神になることが出来る。そう考えてごくりと生唾をのみ込んだ。

 緊張が走る。緊張しすぎて手が震えてくる。

 

 そして俺は酒瓶のような容器に入った神力水をシャドウから受け取ると恐る恐るとその酒瓶の口に口を付けた。

 ここで臆していても何も起こらない。勇気を出して俺は一気にそれを煽った。

 

「おー、いける口じゃないか」

「っ!?」

 

 その瞬間、ドクンと心臓が大きく跳ねたような気がした。

 ものすごく辛い。喉が焼けるような、そんなアルコールの味を感じた。

 すごく強い、今まで飲んだことがあるどんな酒よりも強いアルコールを感じる。そしてそれと同時に体がカァーーーっと熱くなって力が湧いてくるような感覚が体中にほとばしる。

 視界がちかちかと暗転し、あまりの衝撃に意識が朦朧としてしまって地面に倒れ込んでしまうが、足を殴って何とか意識をとどめた。

 

「な、なんだ、これっ」

「こいつか? こいつは神力水っていう酒だ。俺がよく飲んでいるものなんだがな、人間が飲むと神になることが出来るらしい。それにしても、こいつを一気するとは勇気があるなぁ。俺も無理だわ」

 

 さ、酒!?

 そうか、神力水っていうのは神の酒だったのか。そいつの副作用で人間は神になる……。

 つまり俺は超絶アルコール度数が高い酒を一気飲みしてしまったことになるのか。そりゃ体調に支障をきたしたとしてもおかしくない。

 

「そ、ういう、ことはっ! 先に言え」

 

 キッとにらみつつも、俺は必死に意識を保つ。

 その最中、突如として俺の脳内に声のようなものが聞こえてきた。

 

『お前はどのような力が欲しい』

 

 そのような問いが聞こえてきたものの、俺は耐えるのに必死すぎて声が上手く出せなかった。

 だが、その問いの答えはすでに俺の中にある。

 声には出せなかったものの、俺はその答えを心の中で念じた。

 

 ――大切なものを守ることが出来る力が欲しい。

 

 その瞬間、力が湧いてきて徐々にアルコールによる不調が改善されて行き始め、俺はゆっくりと立ち上がる。

 

『お前には時を渡る力と身体能力を向上させる力を付与した』




 はい!第240話終了

 ついに真が神になりました。

 果たして真は過去へと飛び、歴史を修正することが出来るのか?

 あまりいい結末を迎えることが出来るように思えない状態ですが、果たしてどうなるのでしょうか?

 それでは!

 さようなら


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第241話 未来への片道切符

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 シャドウの問いは真を脅し、考えを改めさせるものだったと告げる。

 シャドウはすべてを知っていたのだ。ここで真が神になるということも全て……。

 そしてついに真はシャドウから神力水を受け取って神になった。

 そんな真が受け取った神の力は過去へと飛ぶ力と身体強化だった。



 それではどうぞ!


side真

 

『お前には時を渡る力と身体能力を向上させる力を付与した』

 

 頭の中にそう声が聞こえてくると、そこから徐々に体の苦しみが消えていき、そして完全に苦しみが消滅した。

 だが、未だに心臓がバクバクしている。一気に体に負荷をかけられてしまったからだろう。動悸が激しくなってしまっている。

 はぁはぁと荒い呼吸をゆっくりと整え、膝をついてゆっくりとその場に立ち上がった。

 

 声が聞こえていた時はなんだか霊力や神力の高ぶりを感じたのだが、今となっては何も感じない。

 頭の中に声が聞こえてきていたので、たぶん力を貰うことはできたのだろうが、今となってはその力を貰えたのか怪しいほどである。

 少し経過したら体のコンディションもいつも通りに戻っていた。いや、むしろいつもよりも調子がいいくらいかもしれない。

 

「よし、神力を受け取ることが出来たな。今のお前は『時を渡る程度の神の能力』を得ているはずだ」

「時を渡る……これがあれば俺は歴史を元に戻すことが出来るんだな。幻想郷を救えるんだな!」

「それはお前の努力次第だ」

 

 シャドウは地面に転がった神力水の酒瓶を拾うと、その中身を見てため息をつきながら言った。

 シャドウがいうには俺は『時を渡る程度の神の能力』という能力を得たらしい。過去を元に戻すには時を渡る能力が必要なため、俺はこれで能力を得たことで理屈上は過去を元に戻すことが可能になったはずだ。

 やっと、ついにここまでこれたんだ。あと一歩、あと一歩で俺はすべてを取り戻すことが出来る。

 

「シャドウ、ありがとうな」

「なにがだ」

「いや、俺に協力してくれだろ。しかも初めて助けてくれた時だって俺と全く面識がないというのに助けてくれて……思い返せばシャドウには助けられてばっかりだなって……俺は神様に返せるほど何かを持っている人間じゃないのにさ」

 

 特に今回の異変では何度も助けられている。

 シャドウが居なかったら俺たちは全滅していた場面もいくつもあっただろう。さらにこうして俺はシャドウのおかげで神になり、時を渡ることが出来るようになった。

 感謝しかない。

 

「ふん、お前に何かを求めているわけじゃねぇ。何かを求めるっていうのはよ、対等だから出来ることだ。お前と俺が対等だっていうのか?」

「ご、ごめん」

 

 頭を小突きながら言ってくるシャドウに対して俺はすぐに謝った。

 そうだ、俺とシャドウは対等じゃない。何かを違いに求めあうことが出来る対等な存在だと一瞬でも思ってしまったのがおこがましいんだ。

 シャドウはシャロや紅蓮たちが信頼を置いている本当にすごい神様だ。

 何度も会って会話しているうちに麻痺してしまっていたが、本当は俺の様にいち幻想郷住民がおいそれと関わることが出来る相手じゃないんだ。

 

 それはそれとして、今俺がやるべきことはこの幻想郷を元に戻すことだ。シャドウに認められることじゃない。

 早く手遅れになる前に過去へ行くんだ。

 時間が経過すればするほど歴史が定着し、歴史修正が難しくなってしまう。

 今の俺ならやれるはずだ。

 過去の俺には合わず、無駄に歴史を改変することはなく、歴史を元に戻す。

 

 そして俺は目の前に霊力を集中させ、空間を引き裂くイメージをする。

 するとその瞬間、目の前の空間が裂け、スキマが現れた。

 だが、それはただのすきまではなく、中に見えるのは大量の目ではなく大量の懐中時計だった。

 これが時を越えるスキマだ。

 

 このスキマを抜けたら最後の戦いが始まる。

 戦いが終わったあと、俺はどうなるのか分からない。

 記憶を無くし、知らない場所へ放り出されるのか、はたまた歴史を改変した代償として俺という存在はパラレルワールドとなってこの世界に存在し続けるのか。

 でも、それでも。

 

「みんなが平和に過ごせるならそれでいい……シャドウ、行くよ」

 

 俺は恐れることなく覚悟を決めてゆっくりと目の前に開いたスキマの中に足を踏み入れた。

 スキマの中は通常のスキマとは違ってより空間がねじ曲がっている気がする。

 それはそうだ。空間同士を繋げるのではなく、時間と時間を繋げているんだから。

 

 一歩、また一歩とスキマの奥へと歩みを進める。

 その最中、俺は今までの幻想郷の日々を思い出していた。

 初めて俺が幻想郷にやってきて出会ったのがこいしだった。

 そしてこいしに地霊殿へ案内されてそのまま地霊殿にお世話になることになって……。

 本当に楽しかった。

 

 あぁ……忘れたくないな……。

 この幻想郷の日々は俺にとってどれも大切な日々なんだ。

 行きたくない。でも、行かなくちゃ。

 みんなを助けるために……。

 

 俺が奥へ進む度にスキマの入り口が閉まっていく。

 

「真っ」

「っ!?」

 

 その時、突如としてシャドウが背後から話しかけてきた。

 シャドウのいる場所はさっきと変わっていない。

 シャドウはここまで聞こえるような大声で俺の名前を呼んだのだ。

 そして俺は次にシャドウが放った言葉をきいて目を見開いて驚愕した。

 

「幻想郷を………………頼んだぞ」

 

 俺は思わず立ち止まってしまう。

 さっき、シャドウは自分で人に何かを求めるってことは対等だと認識しているからだと言っていたのに、シャドウは今、俺に幻想郷を託してくれた。

 幻想郷を守ってくれと、頼んだぞ、求めてくれた。

 それはつまり、シャドウが俺の事を認めてくれたことに他ならない。

 

「シャドウ!」

 

 俺は勢いよく振り返って返事をしようとした。

 だが、スキマは既に完全に閉まっていた。これは俺の意思とは関係なく自動的に閉まるようになっているようだ。

 だからもう、俺の声はシャドウに届くことはない。

 

 でも、それでも俺はその方向へ向かって言い放った。

 

「あぁ、任せろ」

 

 再度俺は勢いよく振り返ると未来(あす)へと向かって走り出した。




 はい!第241話終了

 とりあえずもうすぐ完結ですね。

 前は無意識の恋3期もやろうと思ってました。

 ただし、現状はインフレがやばいんで子供たちを主人公にして書こうと。

 でも、2期で終わった方がキリがいいので2期で終わらせます。

 多分過去編はそんなに長くは無いですが、実際の難易度は神楽討伐より少し楽位なんじゃないかなと思ってます。

 神楽はチートなんで。

 あいつは俺TUEEEE主人公みたいな性能してるんで

 それでは!

 さようなら


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第242話 馴れ初め

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 ついに神となった真は出発の時を迎える。

 シャドウに礼を伝え、過去へと旅立とうとすると、真はシャドウに幻想郷を託される。

 真は覚悟を決めて、希望を胸に未来(あす)へと走り出すのだった。



 それでは!

 さようなら


side真

 

 スキマを出た。

 必ず幻想郷を救ってみせると覚悟を決めて飛び出したその場所は、俺が初めて幻想郷で目を覚ました場所だった。

 すごく懐かしい。

 

 初めてこの景色を見た時はついに異世界に来たのか? とかなり喜んだものだ。

 厳密に言えば幻想郷は異世界では無いらしいが。

 

 これで過去へ来たのは二回目だ。

 一回目はダーラとの戦いの後、俺は爆発に巻き込まれたと思っていたが、気がついたら過去の幻想郷に居た。

 

 ここは地底なんだが、今とは全く景色が違う。

 今では家も点々とある場所なのだが、この時代には辺りにはあんまり家がない。

 そして何よりも俺が感動しているのは、地霊殿が昔の見た目だということだ。

 いや、過去へ来ているんだから当然と言っちゃ当然なのだが、地霊殿は一回全焼して建て直しているため、昔とは外観が違うのだ。

 

 しかも今の地霊殿は温泉としても使いやすいように立て替えているため、あの地霊殿は今はもう見ることが出来ない。

 

「そう言えば、あの地霊殿に向かっている時にこいしに出会ったんだよなぁ……」

 

 こいしは最初から俺に良くしてくれた。

 見ず知らずの俺を地霊殿に案内して、そして住まわせてくれた。

 本当にこいしが居なかったら俺はどうなってたか……。

 あの時の俺は本当に弱かったから野生の妖怪に殺されてしまっていたかもしれない。

 

 と、こんな感慨にふけっている場合じゃない。

 俺の目的はなるべくこの時間に干渉せずに歴史を元に戻す。

 これが最優先事項だ。

 

 ジーラの霊力を感じ取ってスキマを繋げてみたらこの時代にたどり着いた。

 もし本当にジーラがこの時代で歴史改変をしたんだとしたらこの時代のどこかからジーラの霊力を感じ取れるはず。

 そこが事件現場ということだ。

 

「とにかくまずはジーラを探さないと」

 

 今の俺はジーラが何を改変したことで歴史が変わってしまったのかが分からない。

 歴史が定着してしまう前にジーラを見つけ出さないと。

 

 そして俺は走る。

 なるべく石を蹴飛ばしたりしないように慎重に一歩一歩進めていく。

 シャドウの話によると石を蹴飛ばしたりするのだって命取りになってしまう可能性があるというんだから。

 

 その時、背後から短く「きゃぁ」という可愛らしい悲鳴が聞こえてきた。

 そこには一人の少女が転んで倒れていた。緑色の服を着ている少女で、顔は下に向いているからはっきりと見えない。

 

「だ、大丈夫か?」

 

 何故か心がざわついた俺は思わず反射的に声をかけてしまって、擦りむいているかもしれないと考えて絆創膏をポケットから取り出したところでハッと今の状況を思い出していた。

 

 何やってんだ俺。この時代で何かに干渉するのはダメだと分かっているはずだろ。

 ここで手当なんかしたら思いっきり鑑賞してしまうじゃねぇか。

 でも、声をかけたのにそのままここから走り去るって言うのも可哀想だよな。

 

 幻想郷の運命と少女を天秤にかけ、またまた何故か俺の中で少女の方が上になった。

 何故か大丈夫だって思ったのだ。

 

「お兄さん、誰ぇ?」

「そんなことより、怪我はしてないか?」

 

 名前を伝えると干渉度合いが更に増してしまうと考えた俺は名前をはぐらかして怪我のことを聞いた。

 すると少女は腕を見せてくれて、少し擦りむいたあとのようなものが出来ていた。

 幸いにもここは袖で隠れるため、あまり目立たない場所だ。

 

「よし、染みるかもしれないけど我慢してくれよ」

「う、うん。っ!?」

 

 そういうと水を傷口にサッと掛け、ハンカチで拭くと、そこに絆創膏を貼った。

 少女は一瞬痛そうな苦悶の表情となったが、何とか我慢してくれたおかげで簡単に処置できた。

 このくらいの軽傷ならばこれでも大丈夫だろう。生憎、消毒液みたいなものは持ち合わせていないしな。

 

「これで大丈夫だ。気をつけろよ。女の子が怪我なんかしたら大変だ」

「あ、あの……お兄さんのお名前は――」

「そんじゃ、元気にな!」

 

 再び俺は名前をはぐらかすと全速力で飛行を開始し、他の人に認識されないよう、無意識を発動した。

 今の俺の全速力はそう簡単に着いてこれるものじゃないため、あの子も追ってきては居ない様子だった。

 

 ちょっと不振だったかもしれないが、どうせもう会わないんだから関係ないと考えて全力で飛行を続ける。

 

 薄いがジーラの霊力をここから感じ取れる。

 俺は早くジーラのところに行かなければと考えて地底を飛び出していくのだった。

 


 

side三人称

 

 ここは過去の地霊殿。

 まだ真も龍生も居ない頃の地霊殿。

 

「お姉ちゃんただいま〜」

「あらこいし。おかえり」

 

 帰ってきたこいしは姉であるさとりに挨拶するとさとりの横に椅子を持ってきてさとりが今読んでいる本を覗き込む。

 

「どうしたの、こいし」

「ねぇ、お姉ちゃん」

 

 いつもはさとりと一緒に本を読むなんてことをしないため、何かあったのかと考えたさとりはこいしに聞いてみた。

 すると思い詰めたような声色でこいしは爆弾発言を落とした。

 

「私、好きな人が出来ちゃったかも」

「ぶふぅぅっ!? こ、こいし、どういうこと!?」

 

 こいしは《無意識を操る程度の能力》のせいで《心を読む程度の能力》を持つさとりでも心を読むことは出来ないため、こいしの爆弾発言に思わず飲んでいたコーヒーを吹き出してしまうほどに驚いた。

 それもそのはず。こいしが誰かに恋をするなんてもう無いだろうと考えていたのに好きな人が出来たと言うんだから。

 

「こいし、大丈夫? 変なもの食べてない?」

「食べてないよ! 失礼だなぁ、もう……」

 

 さとりの言葉に頬を膨らませて不満を表すこいし。

 

「でも、こいしが好きな人ねぇ……あの事はもう大丈夫なの?」

「ううん。今でも時々思い出して辛くなるけど、でも落ち込んでばかりも居られないもんね!」

「前向きねぇ」

 

 つい最近まで塞ぎ込んでいた妹。

 他の人に顔をあまり見られたくないがために帽子の唾も大きめのものを被って見られないようにしている。

 そんなこいしが前向きなことを言ったため、さとりはすごく嬉しくなって笑みがこぼれた。

 

「で、何があったのよ」

「それがね? 私、道端で転んじゃったんだけど、通りかかった男の人が擦りむいちゃった腕を手当してくれたの、ほら!」

「へぇ……、ってこいし、あなたちょろすぎないかしら……」

 

 ちょっと前まで塞ぎ込んでいた妹が恋に落ちてしまうほどの出来事と言うことから凄いことがあったのかと思ったものの、実際はそれほどでもなくてさとりは落胆してしまった。

 それと同時に自分の妹のちょろさ加減に頭を抱えてしまう。

 

「その人、なんて言う名前なの?」

「分からない!」

「分からないって、あなたねぇ……」

「し、仕方がないじゃん! 教えてくれないままどこかに行っちゃったんだから! でも、黒髪で緑の服を着てたってのは覚えてるよ!」

「珍しい服装ねぇ……外来人かしら」

 

 服装の特徴から外来人であると推測するさとり。

 さとりが心配する感情とは裏腹にこいしは頭お花畑になっているため、再び頭を抱えてしまうのだった。




 はい!第242話終了

 ついに過去編開始!

 前期が始まる前の世界線ですので、今合って、昔は無いものとか色々あります。

 一応そんなに長引かない予定です。

 神楽戦みたいにはならないようにしないと……。

 それでは!

 さようなら


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第243話 強い敵意

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 ついに過去へとやってきた真。

 真はジーラの霊力を探り、事件現場を探す。

 果たして真はあまり歴史を変えずに歴史を元に戻すことが出来るのでしょうか?



 それではどうぞ!


side真

 

 あれからしばらく飛び、幻想郷の端の方までやってきていた。

 こっちの方からジーラの霊力を感じるため、恐らくこの先に居るのだろうが、それにしてもかなり端っこだ。

 それにかなり鬱蒼とした森が広がっているため、空を飛んでいたら地上が全く見えないほどのため、仕方がなく地上を歩いて探すしかない。

 

 魔法の森とも少し違うようだが、色んな力が混ざりあった瘴気が周囲に漂っているため、瘴気耐性が無いと体調を崩してしまいそうだ。

 現代でもこんな場所まで来たことが無かった、初めて見る場所。

 

 俺は神力があるお陰か瘴気に対する耐性は出来ているようで、問題なく行動することが出来ている。

 

「ライトは確か様々な山や森を修行場所にしてたんだっけか。ライトならこの場所も知っていたのかな」

 

 慎重に警戒しつつ、歴史を改変してしまわないように歩みを進める。

 すると、ジーラ以外の霊力がすぐ近くにあることに気がついた。

 どうやら俺はこの濃い瘴気のせいで気がつくのが遅れてしまったらしい。

 

「例の準備の方はどうだ」

「順調ですよ。それにしても、どうしてあのような少年を?」

「あいつはこの世界に絶望をしているはずだ。それにあの能力は使える」

 

 二人の男だ。

 一人は黒いコートを羽織ってネックレスをつけている。もう一人は科学者のように白衣を羽織っている。

 俺はこの二人をよく知っている。

 

 ダーラとポリオン。昔、俺が幻想郷に来た時にとんでもない異変を巻き起こしてきた二人だ。

 そんな二人がどうしてこんなところに……?

 それに近くにジーラの霊力も感じる。

 

 ダーラの言っているあいつとは俺の事だろう。

 ダーラは元々俺を仲間に引き入れようとしていたんだ。ここでこそこそと何かをしているということは、ここら辺にその準備を進める何かがあるはず。

 そう考えて俺は二人の後を追ってみることにした。

 

 そう言えばあの二人は俺を仲間に入れれないとわかったあと、俺のクローンであるダーク、今で言うライトを作り出すための研究所があるはずなんだが、もしかしてこの森の中にあるのか?

 

 二人の事を追い、少し進んだ先に瘴気の霧の中から石造りのこじんまりとした建物が出てきた。

 苔が大量に生えていて人が住んでいるとはとても思えない外見。まるで魔理沙の霧雨魔法店みたいだなと思ってしまったのは内緒だ。

 

 そんな廃墟同然のような建物の中にダーラとポリオンは入って行った。

 間違いない。

 恐らくここが二人の研究所のようなものだろう。

 

 元々建っていたこの無人の建物を研究所に改造して使っているんだ。

 

 あの二人を見ていると段々とイライラとしてくる。

 ポリオンにも苦労させられたし、ダーラには俺は母さんを殺されている。

 今すぐにでも本当なら殺してやりたいところだが、ここは我慢だ。

 シャドウにも無闇に歴史を改変するなと言われている。

 俺が今ここに居るだけでも危険だと言うのに殺したりなんかしたら一発アウトだ。

 

 冷静になれ俺。

 

「すぅぅぅ……はぁぁぁ……」

 

 深呼吸をして心を落ち着かせる。

 今ここで倒さなくてもこの歴史を元に戻したら過去の俺が何とかする。

 だからそのためにもまずは俺が過去改変を何とかしなきゃ行けない。

 

 そして俺は二人のことを見送ったらジーラを探すために動き出そうとしたその時、俺の視界の端に衝撃の光景が見えた。

 

 ――ジーラだ。

 ジーラがコソコソと研究所内へと入って行ってしまった。

 どうやら俺は木の影に隠れていたというのもあってジーラの方は俺に気がついていなかったようだが、ジーラは研究所内へと入って行ったのを目撃してしまった。

 やはりジーラはこの時代へと時を渡ってやってきたんだ。

 

 そしてあまりこの時代でダーラやポリオン等とは関わりたくなかったんだが、目的のジーラが入ってしまったとなると追うしか無くなってしまう。

 どうするつもりなのかは分からないが、ジーラの思い通りにはさせない為に俺も気が付かれないように後を追って研究所の中に入っていく。

 

 中は薄暗く、蜘蛛の巣が張っており、内部もまるで人が住んでいるようには見えない廃墟同然だった。

 だが、本当にほんのりとだが、薄明かりが奥から溢れてきている。つまりはこの奥で確実に何かをしているということだ。

 

 慎重に足音を立てないように低空飛行をしてその部屋にゆっくりと近づいていく。

 この部屋からは三人の霊力を感じる。

 もちろんこの三人の霊力はジーラ、ダーラ、ポリオンの三人の霊力に間違いない。

 

 ジーラのやつ、この時代のダーラとポリオンと接触しているようだが、何をしようとしているんだ。

 そう思って慎重にそっと扉を薄く開いて中を覗いてみる。

 すると俺の視界には衝撃の光景が飛び込んできた。

 

 なんと、ダーラとポリオンが地面に倒れており、ジーラが近くにあるコンピュータを操作していた。

 ダーラとポリオンは死んでいると言った感じでは無い。どうやら気絶しているという様子だ。

 そしてジーラが弄っているコンピュータ。何の機械なのかは分からないけど、間違いなくロクでも無い機械のはずだ。

 

 拳がわなわなと震え、段々と力が籠ってくる。

 いつの間にか無意識に霊力刀を作り出し、臨戦態勢へと入ってしまう。

 

「ふぅ……ふぅ……」

 

 ジーラを殺したくて殺したくてウズウズとしてしまう。

 今ここで殺してしまえば歴史改変は元に戻すことができるんじゃないかと自分を正当化して背後から不意をつこうと考えてしまう。

 

 ――いや、落ち着け。

 ジーラが歴史を改変するというのも立派な歴史だ。ここでジーラを殺してしまったら何が起こってしまうか分からない。

 だから落ち着け。

 

 俺は霊力刀を消すとジーラが何かをし終わるまで見守るのだった。

 強い敵意を抱いて。




 はい!第243話終了

 ジーラはここでは倒しません。

 真のここでの勝利条件は無駄に歴史を改変せず、ジーラがやった事を元に戻すって感じなので、ジーラを倒す必要は無いんですよね。

 あともう少しで終わりますので最後まで是非、おつきあいください。

 それでは!

 さようなら


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第244話 見えてきた

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 真はジーラを追って幻想郷の端にある森へとやって、ダーラとポリオンの怪しげな取り引き現場を目撃した。

 二人の後を追って行くと怪しげな研究所を発見し、二人が入っていった後にジーラが中に入っていくのを目撃する。

 後を追って入っていくとダーラとポリオンが気絶し、ジーラが怪しげな機械を操作していた。

 真は今すぐにでも殺したい気分になったものの、落ち着いて状況を考え、様子を見ることにした。



 それではどうぞ!


side三人称

 

 ジーラが何かを操作し始めて30分程経過しただろう。

 未だにダーラとポリオンは目を覚ます気配はなく、ジーラはこっちに気が付かずに夢中で何かを弄っていた。

 今なら簡単に不意を着けそうだと何度も思ったが、理性で何とかその感情を押さえ込み、ずっと様子を観察していた。

 

 一体何を操作しているのだろうか。

 ジーラが弄っているということは、この歴史改変を解決する重要な鍵になっているはずだ。

 

 今まで何が起こったかを思い出せ。

 現代では幻想郷が崩壊し、新たな幻想郷が出来上がろうとしている。

 これがおそらくこの歴史改変によって出来上がった世界に移り変わろうとしているということなのだろう。

 そしてなぜか幻想郷のほとんどの人が俺を敵認定していた、それもまるで俺が親の仇の様に、俺を殺さないと大切な人が殺される、幻想郷が崩壊するとでも言わんばかりの形相で俺に襲い掛かってきていた。

 

 この歴史による強制的な洗脳に抵抗できたのは態勢がある者、俺と同じく外の世界から来た者の二種類に分かれている。

 どうやらこいしに関しては正邪がなんとか説得してくれたようだが。

 

 つまり、このことからこの歴史改変によって外の世界から来たみんなは歴史を一度改変したことがあるか、歴史改変をすることが出来る能力を持っているか、シャドウの説明だけだとこの二択に絞られてしまう。

 だが、あの三人が歴史を改変できる力を持っているとは思えない。

 一番ありえそうなのは音恩なのだが、音恩は機械をハッキングしたり、いろいろなものを自由自在に操ることが出来るというだけで、歴史を改変するほどの力はないだろう。

 音恩にそんな力があったら俺は摸擬戦で大敗を決しているはずだ。

 

 となると、ほかの可能性だが、今俺の脳裏に浮かんでいるほかの可能性とは、この歴史改変によって三人はこの幻想郷とは関係なくなってしまったのではないかということだ。

 これが一つの俺の仮説だ。

 そしてその答えがおそらく今ジーラが触っている機械にあるのだろう。

 

 ジーラがここを去るまで監視し続ける。

 ここでジーラと接触してしまってはダメだ。それこそ歴史改変になってしまう。

 俺の目的はジーラがやったことを全て元通りに戻すことだ。

 

 それにしても、どうやってジーラはこんなに過去にまで来たんだろうか。

 俺は自分の能力で遡ってきたからわかるが、この場所はおそらく俺が幻想郷に来る前の幻想郷だ。つまりは、結構昔にまで遡っていることになる。

 ジーラと戦っていてジーラが時戻しをできるということは知っていたけど、もしかしてジーラは時飛びまで使うことが出来るのか?

 

 それからさらに10分ほど経過しただろうか。

 そこでようやくジーラが手を止めた。

 

 ずっと機械を操作していて肩が凝ったのか、肩をぐるぐると回すと、目の前に突如としてスキマが出現した。

 内部からは懐中時計が見えることから、このスキマは時を超えることが出来るスキマのようだ。

 やはりジーラは時を自力で超える能力を持っているらしい。時に関する能力があるから歴史を変えることが出来るのは分かるが、時を超える能力まで持っていたとは……。

 

 ジーラはすぐにゆっくりとスキマの中へと入っていく。

 

「ふふふ、ははは、小僧、目にもの見せてやる。たっぷり絶望させて殺してやる」

 

 ジーラは憎悪がこもった言葉をつぶやきながらスキマの中へ消えていき、スキマはすぐに閉じた。

 やっぱり今回の異変の動機は俺への復讐らしい。

 キルタワーで戦った時にとどめを刺しておけばよかったと後悔するが、これが後悔時すでに遅しというやつなのだろう。

 

 俺はジーラと入れ替わりでジーラがさっきまで弄っていた機械の前までやってくると、その機械に映っている画面を見て俺は目を丸く見開いた。

 

「これは……俺か?」

 

 なんとそこに映っていたのは外の世界にいる俺の姿だった。

 どうやら俺のことを追尾するカメラか何かで監視されているような映像なのだが、外の世界に居た頃はそんなカメラらしきものを見かけたことはない。

 となると、こっち特有の認識阻害的な何かが施された謎技術カメラか何かで撮られたものだろう。

 

 そしてそのモニターの下には三種類の数字が入力されていた。

 その数字の横にはX、Y、Zと書かれており、この数字が示すこと。俺は一つしか思い浮かばなかった。

 

「座標か……?」

 

 昔は全然やっていなかったのだが、一時的に外の世界に行っていた時はこいしたちに会えない寂しさを紛らわすためにゲームをやっていた。

 どこからそんなものを買う金をねん出していたかというと、警察の協力報酬のようなものだ。

 そしてそのゲームにはX座標、Y座標、Z座標というものが存在していた。

 つまり、俺の考え付いた答えは、この数字は座標を示しているんじゃないかということだ。

 

 この機械の横には幻想郷のマップが用意されており、そしてそのマップには数値が記入されている。

 縦横高さこの三種類の数字。

 照らし合わせてみると、今入力されている座標はどうやら博麗神社の境内になっているようだ。

 

 どうして博麗神社に? そしてこの座標はどういう意味をあらわしているんだ?

 そして俺が画面に表示されている理由。

 

 俺をこの幻想郷に最初に呼んだのは何を隠そう、ダーラたちだ。つまりは、この装置は俺を幻想郷へと転移させる装置と考えていいだろう。

 そうなるとますます博麗神社に座標が指定されている理由がわからない。俺が幻想郷に来たときは博麗神社ではなく、地底で目を覚ますことになった。

 

 どういうことだ。そこまで考えて俺はあることを思い出していた。

 幻想郷に着た瞬間から俺とは全く違う人生を歩みだしたもう一人の俺――

 

「まさか、このまま進んだ世界は、パラレルワールドの俺の世界だとでもいうのか?」

 

 そこでようやくすべての点と点が線で繋がった。




 はい!第244話終了

 実はパラレルワールドの真とはここで分岐していたんですよ。

 ここで真が歴史を修正しに行かなかった世界がパラレルワールドの真の世界ということになります。

 そうなると、みんなが真に敵対していた理由、なんとなくわかってきたんじゃないですか?

 パラレルワールドの真の過去話、かなり前に書いたものですが覚えている人はいるんですかね。

 さて、ようやくクライマックスですよ。

 最終話まであともう少し。

 最後までお付き合いください!

 それでは!

 さようなら


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第245話 希望は――

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 歴史改変の内容についてジーラの監視をしながら考える真。

 そしてジーラが去った後、ジーラが弄っていた機械を見て目を見開いて驚く。

 なんと、真がモニターに映し出されていたのだ。

 更には座標付きの地図と座標を入力する機械。

 真はこれが自分を幻想郷へ転移させた転移装置だと察した。



 それではどうぞ!


side真

 

 パラレルワールドの俺の話を思い出してみる。

 俺とパラレルワールドの俺は幻想郷にやってきた時点からかなり違う人生を歩むことになっている。

 その中で一番衝撃だったのは、俺が初めて幻想郷に来たときは地底で、そしてパラレルワールドの俺が幻想郷に初めて来たときは博麗神社なんだとか。

 つまり、この博麗神社に座標指定されているというのはつまり、この先の未来がパラレルワールドの俺ということになる。

 

 そう考えるとみんなが俺に敵対してきたことにも納得がいく。

 

「つまりは、このまま進んだ先の未来で俺が敵になっているっていうことか。そして歴史改変によって記憶が改ざんされてしまって、俺の時間軸では俺は敵対していないというのに、みんなが敵対してきたっていうことか……本当に面倒なことを思いつくな」

 

 あの能力は本当にジーラにだけは渡してはいけない能力だったと思う。

 時を戻してみたり、時渡りしてみたり、一人間が持っていちゃいけない能力でしょうよ。

 あれは悪用しようと思ったらいくらでも悪用できる。だが、おそらくジーラは俺に対する復讐の身を考えてこの作戦を考えたんだろうから、そのほかの悪用については思いついていなかったのだろう。

 本当にそれ以上の悪用を思いついていなくてよかった。

 

 もしかしたら俺が歴史を元に戻すことさえできないほどの改変をされていた可能性がある。そうなっていたら今度こそ幻想郷の終わり、手の打ちようがないというやつだ。

 だが、この程度ならば大丈夫だ。

 座標のことも少し外の世界に居たときに機械関係をかじったことがあるから理解できる。

 

 このくらいならばなんとかなりそうだ。

 

 とりあえず俺は隣においてある地図と機械の座標を見比べてる。

 それで気が付いたんだが、どうやらこの地図は後でおかれたものらしい。最初から置いてあるものにしてはしっかりとした場所に置いていないため、これはジーラが持参したものなんだろう。

 となると、ジーラはここにこれらを忘れていった間抜けっていうことになるな。そのおかげでこの座標の問題は何とかなりそうだからいいんだけど、やっぱりジーラはどこか抜けているようだった。

 

 でも、これがジーラが持参したものなのだとしたら、どうやってダーラたちは俺の転移座標を指定したんだろうか。

 ジーラが持参した座標付きの地図、そして座標を入力するための入力盤。どう考えても矛盾している。

 そもそもとして俺を仲間に引き入れたいのだとしたら、俺をこの場に転移させてこの幻想郷のことを何も知らない状態で俺に付け込めばよかったんだ。

 どうして俺は地底に転移したんだ? ずっと疑問に思っていたんだ。

 

 そしてダーラたちは俺を仲間に引き入れることが出来なくなったから仕方がなく俺のクローンであるダーク、今でいうライトを作り出したんだ。

 

 そう考えるといろいろとおかしくなってくる。

 

「くそ、最初の状態がどんな状態なのかわからねぇから、どう直したものか……」

 

 俺はジーラが弄る前の状態を知らない。

 俺が見たのはジーラが入って行って、もうすでにこの機械に細工をしている場面からだ。それ以前の状態を知らない。

 せめてジーラが弄る前の状態を知っていたら……。

 

 でも、ただ、間違いなく俺は地底に転移しているため、とりあえず地底の俺が目を覚ました個所を指定しておけば間違いはないだろうと判断して、地底のマップを見てみる。

 地上、地底、天界の三枚の地図に別れており、それぞれ高度が違う。

 地上は0以上、地底はマイナス以下、天界は更に地上から飛んでもなく高度の数字が大きくなっている。

 

 俺の初めて幻想郷にやってきた時の場所は地底の何の変哲もない岩場だ。

 地底街の端っこの方にある場所で、子供たちの遊び場になっている場所だったりする。

 たまたま俺が目を覚ました時には誰も居なかったが。いや、俺が居たから警戒して来なかったのか? でも、そのパターンだと、地底には人喰い妖怪も居るし、食べられそうなもんだけどな。

 

 とりあえず俺はその岩場の座標を探す――とはいっても俺は岩場の座標なんか知らないし、地図を見てもどこが岩場の場所かなんてわからない。

 俺は意外と地図を見るのが苦手だったようで、この場所がここだからと結びつけるのに少し難儀してしまう。

 

 でも、これをやらなければ幻想郷は終わってしまう。

 もしかしたら全く正確な座標じゃなくても幻想郷は元に戻るのかもしれないけど、シャドウが口を酸っぱくして言ってきた不用意に歴史を変えるなという言葉が俺にそれをさせないでいる。ずっとその言葉が頭の中でぐるぐるしているんだ。

 正確な座標じゃなかったら歴史改変ということになってまたおかしなことになってしまうかもしれない。今度は歴史を元に戻す暇もなく幻想郷が終わりを告げてしまうかもしれない。

 

 ここは慎重になるべきだ。

 そう考えて俺は地図をじっくりと見る。

 この部屋が薄暗いことも見辛い原因になっているだろう。

 

 その時だった。

 

「何だお前、どこのどいつだ!」

「っ、だ、ダーラ」

 

 なんとさっきまで眠っていたダーラが突如として起き上がって俺の方へと顔を向けてきた。

 薄暗いせいで表情は読み取れないが、相当まずい状態になってしまっていることは確かだ。なにせ、この場所にはダーラとポリオンしかいないはずなのに、そのほかの人が居たらその人物は間違いなく侵入者か敵対人物だ。

 俺は敵対人物に含まれている。

 

 まずい、このままだとダーラには素性がばれているから歴史がまた変わってしまう。俺がここで拉致されてしまう!

 また気絶させるべきか? いや、一回ジーラによって気絶させられてしまっている。だから二回目気絶させてしまったらまた何が起こるか分かったものじゃない。

 

 おちつけ、落ち着いて冷静に状況を打破する方法を考えろ。

 

「お前は誰だ! 名を名乗れ! 目的はなんだ!」

 

 なんだ? なんなんだ?

 ダーラはさっきから俺に名乗るように言って来るが、ダーラは俺を狙っていたのだから俺の顔を見ればすぐに俺だということがわかるはずだというのに、どうしてだ?

 ……そうか、薄暗さか!

 

 この建物内部が薄暗いせいで俺の顔があんまり見えていないのか。

 だからダーラは俺のことがわからなくてさっきから名前と目的を聞いてきているんだ。

 なら、俺は口を開かない方がいいだろう。声を知られていた場合、俺がばれてしまうかもしれない。それとフードをかぶってなるべく顔を見られない様にする。

 

「さっきから黙ってどうした? 侵入したっていうことは覚悟はできているんだろうな」

 

 希望はまだ、潰えていない……っ!




 はい!第245話終了

 真大ピンチ、と思いきやダーラは真を認識できていないみたいですね。

 薄暗いお陰で助かりました!

 さて、まだ真は気が付いていないことがあります。

 真相解明までもう少し!

 それでは!

 さようなら


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第246話 ダーラの独白

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 なんとか転移座標を修正しようとする真。

 しかし、正確な転移先の座標がわからないため、難航してしまう。

 その時、なんとダーラが目を覚ましてしまった。

 このままでは歴史が変わってしまう。そう思われたが、ダーラは薄暗いため、真のことを真だと気が付かない。

 まだ、希望は残されている!



 それではどうぞ!


side真

 

 さて、どうしよう。

 ダーラの目の前で堂々とこの機械をいじる訳にはいかないし、どうにか気絶させることが出来ればいいんだが、ジーラの時とは違って今、ダーラは俺のことを認識して俺に敵意を向けてきている。

 不意を突いて気絶させるなんてことはできないし、下手に反撃したら歴史を変えてしまう可能性がある。そうなっては本末転倒だ。

 ダーラにはこのまま生き抜いて俺と戦ってもらわなければ困る。ダークだってそうだ。ダークも作ってもらわなければ色々と狂ってしまう。

 

 どうにかしてダーラの気が逸れた瞬間に座標を修正して元の時代へ帰らなければ。

 もうこの際だ、多少の歴史改変は覚悟しよう。だが、それは最小限に留める。

 

「なぜ黙っている。なぜ何も言わない」

 

 なぜ黙っているかって、そりゃあ声が聞かれたら不味いからだよ!!

 今のところ攻撃したりとかはしてきてはいないが、じりじりと俺の方へと近づいてきているため、俺もそれに伴ってゆっくりと後ずさっていく。

 

「目的はなんだ? こいつか?」

 

 ダーラがそう言って示したのは転移の機械だった。

 モニターに手をかけて体を預け、余裕の態度で俺に向き合って来る。

 恐らく今、俺は自分の霊力の質がモニターの先に居る男と似ていると気が付かれないためにクレアで霊力を出さないようにしているため、俺の事を霊力を感じ取れないほど弱い奴なのだと思っているのだろう。

 それならそれでいい。そう思ってくれた方が油断してくれて隙を作りやすい。

 

「こいつはな、空間転移装置って言ってな、仲間の科学者に作らせたんだが、こいつはいい。離れた場所、例え異空間だとしてもこのモニターに移すことが出来て、音まで聞こえてくる。そしてこのモニターで選んだ対象一人をこの幻想郷に強制的に引きずり込む。しかも博麗大結界にあまり影響を与えないから博麗の巫女にも気が付かれにくいという優れものだぁ、すげぇだろ」

 

 はは、そうっすね。

 まぁ、今の俺は声を出すことは出来ないから相槌を打つことが出来ないから心の中で相槌を打っておくことにする。

 やっぱりこれは転移装置だったようだ。俺の考えは間違っていなかったみたいだな。

 

 そして今もそのモニターには俺の姿が映し出されている。

 今はちょうどシチューを頬張って恍惚とした表情を浮かべている所だった。

 

 え? 俺いつもシチューを食べる時あんな表情をしていたの?

 うわぁ、恥ずかしい。

 もう今度からみんなの前でシチューは食べないようにしようかな。

 だから龍生はシチューを食べながら話してる時は俺を見ないように視線を逸らしていたのか。

 

「素晴らしいだろう、この技術。外の世界にも劣らない技術力!!」

 

 そうだったな。

 こいつは何故か幻想郷に居ながら幻想郷と外の世界を行き来できる人物だった。

 どうやって行き来しているのかと思ったら、まさかこの機械で行き来していたのか?

 

「科学者を探していた、その時に見つけたのがこのマシンだった。俺は直ぐに目を奪われた。この機械だらけの部屋、見たことも聞いたこともないような技術の数々、そしてこの転移装置。画期的だと思った、これは革命だと思った。俺は直ぐにこれを作った科学者をスカウトしたよ」

 

 ダーラはこの後、俺を消すつもりだからか知らないが、自分のことをペラペラと語り始めた。

 前回戦った時にはダーラのことをほぼほぼ知らなかった。

 どういう経緯で計画が始まったのかとか、何も知らなかった。

 

「まずは外の世界に行ったよ。いやぁ、外の世界ってのは凄い。この幻想郷よりも何百年も文明が進んでいる。だが、能力はおろか、霊力も、魔力も、妖力も無いって事には驚いたが、あっちの奴らも1部はその素質があるって事を知った。その中で俺が目をつけたのはこいつ、海藤真とか言ったっけか」

「……」

「こいつを俺は仲間に引き入れようと思っている。まず最初にこいつの母親を殺した。そしてこいつが人に恨みを抱くように誘導した。あとはタイミングを見計らってこっちへ転移するだけだ。まぁ、どこに転移するかは完全ランダム(・・・・)だからそこだけが玉に瑕だが」

 

 そう、俺の母親を殺したのはこいつ、ダーラだ。

 それによって親を亡くした俺は龍生と二人でホームレスのテント暮しを始めることになる。

 というか、今重要なことをサラッとこいつ言わなかったか?

 

 今、転移する場所はランダム(・・・・)って言ったのか?

 どういうことだ? あの操作盤で転移する場所を指定することが出来る訳じゃないのか?

 

 いや、そもそも少しおかしいと思っていたんだ。

 だって、俺を仲間に引き入れたいのだったら、転移する時にこの場所に転移させればいいだろう。

 どうして俺はあんな辺境に転移した? どうしてここに転移させなかった?

 

 少し考えればわかったことじゃないか。

 あれでは転移先を指定することが出来ないんだ。

 

 そしてジーラのあの操作時間、あれは間違いなく座標を弄っていたと言うだけの長さでは無かった。

 そうなって来ると、まさかあの操作盤は――

 

「なぜ口を開かないんだ? 折角だから遺言くらい聞いてやろうと思ったが、まぁお前がそれでいいんならいい。まぁ、俺の話は死にゆくお前にとってはどうでもいいんだろうな。じゃあ、さようならだ」

 

 そう言ってダーラは俺に手のひらを向けてきた。




 はい!第246話終了

 ついに真が気付きましたね。

 実はあの操作盤もジーラが置いたものなんですよ。

 まぁ、あの地図がジーラの持参品ということを考えたら少しは分かりそうなものですがね。

 あともう少しです。

 それでは!

 さようなら


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第247話 完了だ

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 ダーラに見つかってしまった真。

 真はダーラに気が付かれないように口を閉ざすと、ダーラは自身の過去と目的を語り始める。

 そして真はついに最後の秘密に辿り着いた。



 それではどうぞ!


side真

 

 ダーラの戦い方は弾幕を飛ばしてくる戦い方だ。だからあの手のひらから弾幕を飛ばしてくるはずだ。

 正直この狭い空間で弾幕を放たれて回避出来る自信があるかと言われたら、そんなに自信は無いのだが……。

 だが、ダーラもここではやたらめったらに弾幕を打つことは出来ないだろう。なにせ、ここには重要そうな機器がびっしりとあるのだから、そんなところで弾幕を乱射したら、この機械たちを壊してしまうかもしれない。

 

 落ち着け、落ち着いて状況を分析しろ。観察して最適な動きをしろ。

 

 徐々にダーラの手のひらに霊力が集まっていき、球状に形成されていく。

 そしてそれは一般的な弾幕の大きさから逸脱し、巨大な霊力弾となってしまった。

 あんなものが機械に直撃したら周囲の機械も一緒にお陀仏だ。あいつ、何を考えている。

 こんな室内で使っていい威力の弾幕じゃないぞ。

 

「まさか、お前はこの部屋を見てしまって、ただで帰してもらえると思ったか? お前は今日ここで死ぬ」

「っ」

 

 そこでダーラは一歩踏み出したかと思ったら、思いっきり床を蹴って俺との距離を縮めてきた。

 そしてそのままその手に作り出した弾幕を俺の腹に押し付けてくると、手首をぐるっとねじって指を下方向に向けた。

 

「ぐぅっ」

 

 俺はとっさにクレア装で防御してダメージを小さくしたが、想定外の攻撃に俺は少し反応が遅れてしまっていくらかダメージを食らってしまった。

 そしてその直後に俺の視界はぐるっと半回転して、天と地が逆さに見える。

 俺は気が付いた。俺は今、上下反転してしまっている。ダーラが手首をねじった瞬間に俺の体ごとねじられてしまったようだ。

 このままじゃ頭から叩き落されてしまう。

 

 クレア装を使えばこのダメージも防げるだろうが、内部への衝撃を防ぐことはできない。頭に食らうのは勘弁願いたい。

 

 だから俺は足からさらに回転方向へと霊力を噴射して元の向きへと戻すとダーラの腕を弾いて、ダーラのことを蹴り飛ばした。

 さすがに今のは焦った。

 まさかダーラが近接戦を挑んでくるとは思わなかった。いや、この部屋のことを考えると近接戦をしてくると予想はできたはずだ。

 俺の中で昔のことがずっとぐるぐるとしていて、そのことがずっと頭から離れないんだ。だからこそ、ダーラは遠距離攻撃をしてくるという固定概念が植え付けられていて、近接戦のことが一瞬も頭によぎることはなかった。

 

「く、少しはやるようだな」

 

 しかし、今の一撃はクレア装を使ってもまぁまぁダメージがあったな。

 ヒリヒリとする腹を(さす)る。

 

 さすがはダーラだな。

 あの時だって限界突破(ブレイク・ザ・リミット)を使ってようやく倒せたくらいの実力者だ。

 今だって気を抜いたらやられてしまったとしてもおかしくは無い。

 

「霊力量は少ないが、その扱いは上手いみたいだな。それは認めてやるよ」

 

 今、俺が霊力を隠しているからダーラは俺を舐めきってこの程度の攻撃をしてきているが、俺の本当の実力がバレてしまったら、恐らくダーラは本気で殺しにくるだろう。

 そうなったら俺も手加減はできなくて、本気の殺し合いになってしまうかもしれない。

 

 それはダメだ。

 ダーラにとっては俺を殺すだけの簡単なお仕事なのかもしれないが、俺にとっては自分が死ぬのはもちろん、ダーラを殺すのもダメなんだ。

 ダーラを殺したら恐らく取り返しのつかない歴史改変が怒ってしまう。

 

 どうする、どうすればいい。

 この状況でダーラに危害を加えず、尚且つこの歴史改変を元に戻すには……。

 

「お前は少しは出来るようだが、俺が少し本気を出したらどうだ?」

 

 そう言うとダーラは周囲に四個程の弾幕を作り出してきた。

 あの弾幕はさっき手のひらに作っていた弾幕よりは小さいが、それでも霊力の密度が常人のそれを大きく超えている。

 やっぱり強い。

 

 だが、恐らくクレア王を纏ってぶん殴ったら簡単に弾き飛ばすことは可能だろう。

 しかし、それをしても何の解決にもならない。

 

 今の状況で俺が機会に触れることは不可能。

 そして今俺はダーラに攻撃されそうになっている。

 

「今度こそはお前の息の根を止める。お前は知っちゃいけないことを知ったんだからな」

「ひとついいか」

「あ? 遺言か?」

 

 俺は声でバレないように声を低くして話した。

 

「お前は何があってもこの計画を辞めるつもりは無いのか?」

「ああ、辞めるつもりは無い。必ず目的を達成する!」

「そうか、安心した――お前は必ず俺が殺す」

「く、出来るもんならやってみろよ!!」

 

 そこでようやく弾幕を飛ばしてきたのを見て俺は動き出した。

 あの霊力の動きはこの幻想郷に来て何度も感じ取ったことがある。特に強者の弾幕に多い特徴があった。

 これは、この弾幕は――ホーミングする!

 

 俺が回避すると慣性の法則によって少し俺を通り過ぎたところからカーブを描いて再度俺の方へと飛んできた。

 やっぱり俺の考えた通りのことが起きた。

 そして、これが俺の歴史修正だ。

 

 再度俺は弾幕を回避する。

 普通ならもう一度同じことになるだけだろう。

 だが、俺の後ろにはあるものがあった。

 

「な、なにぃぃぃっ!?」

 

 そう、ダーラが大切にしていた転移装置だ。それも、その座標入力装置へと向かって飛んで行っている。

 これが俺の考えた説。

 あの装置自体がジーラの持ち込んだものだということだ。

 

 さすがにホーミングする弾幕とはいえ、急に曲がることは出来ずに転移装置に弾幕が直撃。

 すると綺麗に座標入力装置のみが破壊され、地面に剥がれ落ちた。

 

 ――完了だ。




 はい!第247話終了

 はい、過去編はもうちょっと短くなるかなと思ってましたが、意外と長くなりました。

 ちなみにこれは前日に慌てて書いたのでミスがあるかもしれませんが、誤字などは誤字報告を利用して教えて下さると幸いです。

 それでは!

 さようなら


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第248話 代償

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 ダーラの攻撃が始まった。

 ダーラはやはり強く、クレア装を使ってもダメージを受けてしまう。

 だが、真はそんなダーラの攻撃を利用して転移装置の操作盤である座標入力装置を破壊するという荒業に出る。

 果たしてこの判断が吉と出るのか凶と出るのか?



 それではどうぞ!


side真

 

 座標入力装置が剥がれ落ちたのを見て俺はニヤリと口角を上げた。

 やっぱりあれはジーラが後付けした物のようで、その下から本当の機械が出てきた。

 そこには操作盤なんかなく、本当に対象を決めてランダムに転移させるだけの装置だったらしい。

 これで俺がこの世界でやることはもう終わったはずだ。あとは俺はどうにかダーラを撒いて、そして現代に帰るだけ。

 それだけなんだが、ダーラが地味に実力があるだけに振り切るのが難しい。

 

 今すぐにでもスキマを開いて帰ることはできるが、それだともしかしたらダーラがスキマの中にまで追ってくる可能性があって面倒くさいことになる。

 あいつを殺すのは今じゃない。

 あいつを殺すのはこの時代の未来の俺だ。

 

 何が何でもこの時代では誰一人として殺さないようにしなくては……。

 そして歴史が変わってしまうようなことはしてはいけない。

 

「逃げてばかりじゃ何も解決できないぞ」

 

 ダーラはこの薄暗がりで自分の攻撃が機械に当たったことに気が付いていないようだ。

 さらに攻撃を追加してくるダーラだが、このままではダーラから逃げきることは厳しい。

 

 かと言って下手に本気を出して実力を悟られて本気を出されても困る。ダーラとの本気の戦いは避けたい。

 

「どんどん逃げ場が無くなっていくぞ? 上手いこと回避しているようだが、それもいつまで持つ?」

 

 その通りだ。

 逃げようと思ったらいくらでも逃げる手段はあるが、ダーラに実力を悟られないように逃げ続けるのには限りがある。

 そもそも、ダーラに俺が生きていると思われながらここから逃げるのもダメだ。

 それじゃあダーラが俺の大捜索を始めてしまって歴史改変が起こってしまう可能性がある。

 

 であれば、ここから切り抜ける条件はダーラの頭の中からは永久的に消えてここから去る。

 とするとダーラはもう俺の事を気にしない状況を作るしかない。

 

 そんな状況にする手っ取り早い方法があるにはある。タイミングがシビアだし、一歩間違えたら怪我をするって言うのはあるが、それは今でも同じことだ。

 この計画が思いついた時から俺は既に危ない橋を渡っている。

 怪我をするとか、今更問題では無い。

 この状況を切り抜けることが出来る可能性があるなら全て試す。

 

 俺に弾幕が一斉に襲いかかってくる。

 さっきまでは全力で逃げ回っていたが、バレない程度に力を落としていく。

 それによって俺と弾幕の距離はどんどんと近づいていく。

 

「諦めたのか? なら、大人しく死ね!」

 

 そうだ。

 今ここで俺は死ぬ。

 どうせ俺は全ての記憶を無くし、現代に戻ったとしても誰も俺のことは覚えていない。

 そもそもあれだけのことをやりながらみんなに殺されて死んだということになっている。考えてみたら戻れるわけが無いんだ。

 現代にはもう、俺の居場所は……。

 

 ――幽々子を殺せ。

 

 そう言えばあいつはどうして俺に幽々子を殺させた?

 どうして……何か見落としているような……。

 

 そんなことを考えている間に既にもう弾幕は俺の目の前にまで迫ってきていた。

 こうなったら考えている暇は無い!

 

 俺は壁際にまで追い詰められたフリをして弾幕が直撃する寸前に背後にダーラに見えないようにスキマを作り出して、そのスキマに転がり込んで弾幕がスキマに入ってくる前に瞬間的にスキマを閉じた。

 間一髪の出来事だった。

 

 恐らく外では弾幕が壁に直撃して爆発が起こっていることだろう。

 

 チラッと小さくスキマを開いてダーラの様子を見てみることにした。

 

「威力が強すぎたか。跡形もないとはな。だが、これで邪魔者は居なくなったな」

 

 どうやら俺が逃げたことに気が付かれてないらしい。

 その事が分かってホッと胸をなでおろした。

 

 戦いで人が1番安心するのは戦いの相手が死んだ時だ。

 つまり今、ダーラは俺が死んだと思い込んでいる。

 これでもうダーラは筋書き通りの人生を歩んで過去の俺と戦って散ることになるだろう。

 

 だが、これで安心だ。

 安心したことによって脱力してしまい、眠く、視界がボヤっとしてきてしまう。

 目の前が霞むようなそんな感覚、初めてじゃない。

 

 何度も死にかけた。あの時と同じような、そんな感覚だ。

 そうか、1度死んだことで俺の肉体は再構成されているが、精神が疲労を抱えすぎていたのか。

 

 色々ありすぎたもんな。

 休む暇なくずっと戦い続けて、やっとここまで来たと言うのに、こんな疲労に今更負けてたまるか。

 

 俺は何とか気力で体を起き上がらせると、その瞬間、胸の内から激しい嘔気(おうき)が襲いかかってきた。

 しばらくもう何も口にしていないと言うのに何かが、熱い何かが胃から登ってこようとする感覚。

 これは、無理をしたせいか? 精神が、魂がもう限界だと告げているのか?

 

 いや、違う。

 腕が激しく痙攣する。

 

 これは、拒絶反応だ。

 前に聞いた話だが、俺が妖怪の肉体に作り変わった時も激しい拒絶反応があったらしい。

 俺は気絶していたから知らなかったが、激しい痙攣が起き、胃液を吐き出していたらしい。

 

 その時と状況が似ている。

 

 これは多分、歴史修正したことによる代償だ。

 俺が時空神として未熟だからこそ、歴史修正に対して俺の魂が拒絶を示している。

 ダメだ、苦しい。視界がぐるぐると回る。

 

 確かにシャドウに代償があるとは聞いていたけど、ここまでキツイものだったなんて……。

 

「く、かはっ」

 

 意識が飛びそう。死にそう。

 でも、ダメだ。まだ死ねない。

 まだ俺にはやるべき事が残っているんだ。なんのために幽々子を殺したんだ。

 今ここで倒れたら幽々子を殺したことが無駄になってしまう。絶対に無駄にしては行けない。

 これが俺の仲間を刺した覚悟だ。

 

 体を引き摺って何とかスキマを通って現代へと帰ってきた。

 

 そこで俺の目に飛び込んできた光景は目を疑うような光景だった。

 

「うそ、だろ」

 

 俺の目に映る景色は、全く幻想郷が元通りになっておらず、死んだ人は死んだまま、そして消えてしまった土地はそのままになってしまっている幻想郷だった。

 確かに崩壊は止まっているようだが、その崩壊が直っていない。

 

 また、ダメなのか……。

 また、俺は運命を変えることが出来なかったのか……?

 

「おい、随分としょげてんな。歴史修正は上手くいかなかったのか? 違ぇだろ?」

「シャドウ……。見てくれよ、この幻想郷。元に戻らないんだ。ちゃんと俺は歴史を修正したはずだ。だが、ダメだった。やり方が違ったのか? 俺が時空神として未熟だからダメなのか? 教えてくれよ、なぁ……ぐっ」

 

 俺はシャドウに縋り付いて自分の思いを吐き出すが、同時に別のものも吐き出しそうになってしまう。

 拒絶反応がキツイ。今も気を抜いたら直ぐに意識が刈り取られそうになってしまう。

 すると、そんな俺に呆れたようにシャドウが言った。

 

「はぁ……歴史修正が出来てねぇんなら、お前のその拒絶反応はなんなんだ? 向こうで変なもんでも食ったか? 違うだろ? お前のやった事は何も間違っちゃいない。自信を持て」

「じゃあ、なん、で」

「言っただろ。この幻想郷は死んだんだ。歴史改変自体は時渡りの能力がなくとも過去へ行ければ改変が出来る。しかし、それを時渡りの能力者がやってしまうと、後で修正しても既に起こってしまった改変は実際にあった事となる。この幻想郷はもう元には戻らない」

「じゃあ、俺が今までやってきたことって……」

 

 ――無駄――

 この2文字が頭を過ぎる。

 今までの行為が全て無駄なんだとしたら、俺は今までなんのためにみんなを傷つけて、嫌われて、殺して来たんだ。

 これまでにない絶望感が襲いかかってくる。

 

「いや、お前のやってきた行為は全く無駄じゃない。それだけは保証しよう。お前のやってきた行為を誰かが無駄だと言うならば俺はそいつを消す」

「じゃあ、どうして……どうしてっ、俺の今までの好意が無駄じゃないんならどうして幻想郷は元に戻らないんだよ!」

 

 思わず俺はシャドウに掴みかかってしまう。

 自分でもこんな行動に出るとは思っていなかった。それほどまでに俺は動揺してしまっていたんだろう。

 ここまで苦労して心を鬼にしてまで頑張ったのにそれが報われないとなって俺の精神状況はおかしくなってきている。だからこそ、何も悪くないシャドウにこうして当たってしまっている。

 むしろシャドウは俺に協力してくれて、本当はお礼を言わなければいかないはずなのにだ。

 

「この状況は想定内だ。まだ、お前の戦いは終わっていない。ただ、もうお前は過去に行く必要はない。すでにお前は必要なカードを全て手に入れている。そしてそれらをつなぎ合わせるだけだ」

「つなぎ合わせる……」

「今までのことを思い出すんだ」

「思い出せって言われても……」

 

 いままでいろいろなことがありすぎて今までのことを応用しろと言われても何をすればいいのか全く分からない。

 何が使えるっていうんだよ。

 シャドウはいつもそうだ。大事なことは絶対に言わないで俺たちに考えさせる。

 でも、今回のことに関しては本当に俺一人ではどうしようもない。ダメなんだ。

 

 幻想郷が死んでしまったって……大勢の人が死んでしまったって……俺に幽々子のような生死を操れる能力があれば違うんだが、俺にあるのは【致命傷を受けない程度の能力】と【都合のいい状況を作る程度の能力】、【上書きする程度の能力】、【崩壊させる程度の能力】。俺には生死を操れるようなたいそうな能力なんてない。

 

「俺は、俺には人を生き返らせることはできない……」

「本当にそうか? 試してみたのか?」

「た、試すって……俺にそんな能力があるわけないだろ! そんな能力を持っていたらとっくにいろんな人を生き返らせている。母さんも、音恩も、龍生も!!! でも、俺にそんな能力がないから!」

「はぁ……三大能力」

「三大能力?」

 

 突然シャドウはその一言をつぶやいた。

 確か三大能力って【能力を奪う程度の能力】、【崩壊させる程度の能力】、【幻影を見せる程度の能力】だったはずだ。そして俺はこの中の一つ【崩壊させる程度の能力】を持っているはずだ。

 

「はぁ……あいつらはこんな大事なことも教えていなかったのか? 盲点だったな……」

「大事なこと?」

「あぁ、三大能力っていうのは古に失われた能力だと思われているが、それは実際は使い方がわからなくなっただけで現代にもそれが存在している。だからこそお前やデイが持っていたんだが、この三つの能力はちょっと特殊でな、ある条件を満たすと他人に能力が譲渡される」




 はい!第248話終了

 おそらく次回、最終回でその次がエピローグでTRUE END完結です。

 最終回とエピローグを同日に投稿できたらいいなと思いますが、最近はリアルが忙しいので今回はできるかわかりません。

 そしてTRUE ENDが終わったらNORMALルートが開幕します。

 このTRUEルートとは少し内容が違っています。

 本格的に内容が分岐するのは神楽戦のところですので、そこから書き始めることになります。

 それでは!

 さようなら


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第最終話 忘れない

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 ついに歴史修正が完了したが、代償がひどく、苦しむものの、まだ死ねないという思いで真は現代に帰ってきた。

 しかし、幻想郷は元に戻っていなかった。

 真の行為は果たして無駄だったのか?

 最後に真がやるべきことがシャドウの言葉によって判明する。



 それではどうぞ!


side真

 

「能力の譲渡?」

「あぁ、【崩壊させる程度の能力】は前使っていた人物が死ぬと、この世界に生きているランダムな誰かに受け継がれる。【幻影を見せる程度の能力】は死んでも能力は譲渡されない。死んでもあの世で能力を保持し続けることになる。だが、その能力者が譲渡を行うことで能力者は命と引き換えに相手に能力を譲渡することが出来る。そして、【能力を奪う程度の能力】は能力者が殺されることで殺した相手に能力が譲渡される。加害者が居ない場合は思念が残留し、近くを通った相手に能力が譲渡される」

 

 初めて聞いた話だった。

 能力を奪うことが出来る能力があるというのは知っていたけど、能力が譲渡されることがあるというのは初めて聞いた。

 

 俺が今、こうして【崩壊させる程度の能力】を持っているのも前任者が死んでしまってランダムに選ばれた結果ってことか?

 まぁ、少しだけ【都合のいい状況を作り出す程度の能力】が作用しているようにも思えなくは無いけど。

 

 だが、なぜ今シャドウは俺にこの話をしてきたんだ?

 

「この説明を聞いてお前は何か気づくことは無いか?」

「気づくこと?」

「さっきも言ったが、お前はもう既にこの幻想郷を救うためのカードを手に入れている。あとはその手に入れたカードを有効的に活用する、ただそれだけだ」

 

 俺がもう、この幻想郷を救うカードを手に入れている? どういうことだ? なんの事だか全く分からない。

 今の説明で一体何がわかるって――

 

『俺の能力は【能力を殺して奪う程度の能力】』

 

 嫌なことを思い出してしまった。

 俺らはあいつのせいで大苦戦し、そして音恩を失ってしまったんだ。

 でも、でももし、デイが言っていた【能力を殺して奪う程度の能力】の定義が【能力を奪う程度の能力】なのだとしたら、最後にトドメを差した俺にこの能力が渡ってるんじゃないかって。

 

 それなら今の俺にはこの幻想郷を救える力がある。

 この死んでしまった世界を生き返らせることが出来る力がある。

 幽々子を殺したことで幽々子の【死を操る程度の能力】が俺に渡っているはずだ。

 

 なるほど、そういう事か。

 今ここで極が幽々子を殺せと言っていた意味がわかった。

 極は俺にこの幻想郷を救う方法を教えてくれていたんだ。

 

 確か幽々子の力だけでは生き返らせることは出来ない。

 だが、そこに神や閻魔の力が加われば生き返らせることが出来る。

 この死んでしまった幻想郷を復活させることが出来る。

 

「ぐぅっ!」

 

 拒絶反応が激しくなってきた。

 動悸がすごい。気を抜いたらすぐにでも意識を飛ばしてしまいそうだ。

 そうなる前に能力を使うんだ。

 

 今、能力を使えるんじゃないかと認識したら俺の頭の中に【死を操る程度の能力】の使い方が浮かんできた。

 今なら使える。幽々子から奪った【死を操る程度の能力】。

 失敗することは出来ない。絶対に許されない。

 

「なぁ、シャドウ」

「なんだ?」

「お前も俺の事を忘れるのか?」

「さぁな。俺も代償で消えるやつは初めてだからな。だが、お前という英雄が居たってことは忘れられるわけが無いだろうよ」

「そっか、それなら十分だ」

 

 シャドウの返答に満足した俺は能力を発動する。

 俺の中でこの能力のことがどんどんとわかってくる。

 死を操るということは生き返らせることも死なせることも出来る。だが、霊力の消費は生き返らせる方が圧倒的に多い。

 殺すだけならば魂を体の中から消失させればいいだけだ。だが、生き返らせるとなるとそうはいかない。

 生き返らせるには魂を現世に引っ張ってきて、さらにその魂が入る器、肉体を再構成しなければいけない。

 

 多分今の俺の体ではこの異変で死んでしまった人を全員生き返らせたら耐え着ることが出来ずに、その後すぐに代償を受けることになってしまうだろう。

 もう既にだいぶ俺の存在自体があやふやになってしまっているんだ。

 古い記憶からどんどんと消えていってしまっているんだ。

 

 だが、絶対にこの幻想郷のことは忘れない。そう思って耐えているが、それも能力を使ったあとはどうなってるか分からない。

 だから能力を使う前にシャドウをこの幻想郷に見立てて笑顔で言った。

 

「幻想郷、俺はお前のことを忘れないし、ここでは無いどこかへ行ってしまったとしても必ずここへ戻ってくる」

「ああ、待ってる」

 

 俺の言葉に幻想郷に代わってシャドウがそう答えた。

 その言葉を聞き、俺は満足して能力を発動していく。

 

 効果の対象範囲は今回の異変で死んでしまった元凶側ではない住人達。

 せっかく倒してしまった元凶を生き返らせてしまったら意味がないから、そこだけは除外しておく。だが、一つだけ問題があった。

 どう検索をかけても龍生の魂だけが検索に引っかからないのだ。

 これだけでわかってしまう。どう足掻いたとしても龍生だけは生き返らせることが出来ない。

 

 龍生は世界の崩壊に巻き込まれて死んでしまった。だから龍生は世界の外側で死んでしまったことになる。

 やはり世界に存在していない魂となると、引き寄せることも叶わないということか……。

 

 でも、もう後戻りをすることはできない。

 今ここで過去に戻って龍生を助けたとしたら、またどのような歴史改変が起こってしまうかわからない。

 龍生なら「俺のことは気にしないでお前は前を見てくれ」と言ってくれそうな気がする。あいつならこうまでして助けられることを望まないだろう。俺もそうだ。

 長年親友やってるんだ。それくらいは分かる。

 

 だから、俺は能力を使用した。

 この異変で失われてしまったすべてを生き返らせる。

 

「龍生、お前の思いは無駄にしないからな」

 

 その瞬間、俺の意識は飛んでしまった。

 


 

sideシャドウ

 

 真の奴が能力を使った瞬間、その場に倒れ込んでしまった。

 今回、真がこの幻想郷を救うための条件は大きく分けて3つだった。

 

 一つ目はやはりジーラを倒すこと。まず最初に異変の元凶を倒さなければそのあと何をしようとも意味がないからな。

 

 二つ目は過去の修正だ。だが、これにはいろいろとシビアな条件が関わってきてしまうから、正直ここが一番できるかどうか不安だった点だ。

 なにせ、力が足りなかったらそもそもとして時空神になっても過去の修正なんてできるはずがなかったからだ。

 だが、こいつはついにクレア神を完成させた。それほどの力を手に入れることが出来たからこそ歴史の修正が出来た。あとはこいつが現代に影響をあまり与えずに歴史の修正ができるかどうかだったが、それは杞憂だったみたいだ。

 

 そして最後にこの異変で失ったすべてを生き返らせる。これは真がキーマンだったからこそ心配な点があった。

 それは真が幽々子のことをすんなりと殺すかどうかということだった。

 真は自分の仲間が傷つくことを何よりも嫌がる。それも、自分の手で殺さなければいけないんだ。そうしなければ幽々子の能力を使えないから。

 自分であの能力を使って生き返らせる場合は神になっていれば大丈夫だが、幽々子が能力を使う場合は閻魔の四季映姫の力が必要だった。

 だが、少し地獄に偵察に行こうとしたら、そこはすでに崩壊した後だった。四季映姫の協力は見込めない。

 真が能力を奪う必要があったんだ。

 

 だが、何とかなった。全てコンプリートした。

 

 真の体が徐々に徐々に薄くなっていっている。

 この後、真はこの世界の理に従って、外の世界に送られて記憶を全て消去される。その際にこの世界に生きるすべての人々の記憶から真という人物が消えてしまう。

 だが、ちゃんとその真が消えた穴が埋まるのかと言われたらそうではなく、歴史にぽっかりと穴が開いてしまったような感じで消えてしまう。

 

 それにしても、真はこの光景を見ることが出来ないなんて残念だな。

 

 俺は丘の上に立つと、その場に座り込んで世界を見渡した。

 

「お前の活躍で幻想郷は何とかなりそうだ。お前は今まで頑張りすぎたんだ。今くらい、休んでも誰も文句は言わねぇだろうし、俺が文句を言わせねぇよ。だから、ゆっくり休め。英雄」

 

 どんどんと修復されていく幻想郷を見る。

 そしてふと真の居た方へと目を向けるとそこにはもうすでに真は跡形もなくなっていた。

 

 俺の記憶からも真の記憶が薄れていく。

 だけど、俺は約束を果たすために歩き出した。真が、帰ってくる場所を守るために。

 


 

sideこいし

 

 最悪の異変から5年が経過した。

 

 幻想郷の過去が改変されてしまうという異変。

 私たちはの異変に挑んで勝利した――勝利したはずなのに、どうしてか私たちは誰もどうやって勝ったか、崩壊していくこの幻想郷をどうやって修復したのか、全く記憶にない。

 気味が悪い終わり方だけど、私以外の誰もそのことについては気にしていない様子だった。

 

 これじゃ私が異常者みたいだ。

 

 なんだろう。すごく気持ち悪い。

 今まで大切にしていたものがなんなのか分からないけど、急にその存在がこの世界から消えてしまったような。

 心にぽっかりと穴が空いてしまったような、そんな感覚だった。

 

「こいし、コーヒーでもどう?」

「うん、貰おうかな」

 

 地霊殿のベランダで今日も外を見て黄昏ていた私にコーヒーを勧めてくれるお姉ちゃん。

 自分でもよく分からないんだけど、最近私はいつもこうして外を見ては黄昏ているからお姉ちゃんには心配をかけてしまっているみたい。

 

 でも、本当に心にぽっかりと穴が空いたみたいで気持ち悪いんだ。

 

 5年前、異変が解決した直後はみんななんか胸にモヤモヤがあったみたいで、どうして異変が解決されたか分からなかったから気持ち悪くて宴会なんて開くことはなかった。

 だけど、今日は5年前解決した異変の宴会を今更ながら開こうと誘いが来た。

 段々とみんなは胸のモヤモヤが晴れて行ってるんだ。私とは違って……。

 

 なんだかそれが悔しくて、苦しくて、悲しくて、胸が張り裂けそうになるけど、いつまでも後ろを見ていられないということなのかもしれない。

 だって私の中のモヤモヤも晴れかかっていて、だけどやっぱり気になって……。

 

「そう言えば、音恩君はにとりの工房でお世話になることにしたらしいわ。この前、手紙が来てた」

「そうなんだ……あの人は前から機械に強かったもんね。にとりの工房では大活躍だと思うよ」

 

 音恩君は確かにあの異変で死んでしまったはずだった。それにフランちゃんも……。

 だけど、いつの間にか音恩君とフランちゃんは目を覚ましていて、二人はすぐに結婚した。

 音恩君とフランちゃんはにとりの工房に近い家に引っ越して新婚生活を楽しんでいるみたい。レミリアは少し寂しがってたけど。

 

 そこで私は左薬指の指輪へと視線を向ける。

 どうしてこんなものが私の手にはまっているのか全く分からない。でも、私はずっと外さないでいる。

 別に一度ハマったらもう二度と外せない呪いの指輪という訳ではなく、これは私自身の意思で外さないでいる。

 

 なんだか私にとってこの指輪はとても大切で、そして外してしまったら何か大切なものを失ってしまう気がするから。

 多分、私は5年前の異変で色んな人が死んでしまったから臆病になっているんだ。

 

 お姉ちゃんだって崩壊に巻き込まれていたはずだった。

 あとから見てみたら地底なんてもうどこにも無くなっていた。

 でも、突然元に戻ってお姉ちゃんもどこからともなく現れた。

 

 私は今生きてるこの時間が夢で、私自身は5年前のあの異変で命を落としてしまったんじゃないかって思い始めてる。

 だって、突然死んでしまった多くの人々が生き返るなんて、普通はおかしいから。

 

「ねぇ、お姉ちゃん。こんなこと聞くなんておかしいと思うけど、あそこの部屋って何があったっけ?」

「あそこ? 元々何も無かったと思うけど」

 

 私が示したのは何も無い空き部屋だった。

 あそこの空き部屋は昔から何もなかった。だけど、私はいつも幻影を見る。妄想する。

 あの部屋に私とお姉ちゃん、ペットたち以外の誰かが住んでいて、そしてとても仲が良くて……。

 

 でも、そんな記憶はどこにもなくて。でも、何かあの部屋だけ過去に取り残されているような、ぽっかりと穴が空いてしまったような……。

 そして誰もが意識している訳では無いのにあの部屋だけは絶対に物置にはしない。

 

 あの部屋が誰かの帰りを待っている。そう思えるほどに不自然な、でもそれが自然に思える光景。

 

「そろそろ博麗神社に行きましょうか」

「うん……」

 

 この宴会を執り行ってしまったら、あの異変が全て解決したということになってしまう。

 でも、私はまだあの異変には解決されていないことがあるような気がしてならない。

 まだ、絶対に過去の出来事にしてはいけない。

 

「っ、やっぱり、私、霊夢に直談判して宴会を中止にしてもらう!!」

「ちょ、こいし!?」

 

 私はお姉ちゃんの静止を振り切り、勢いよく地霊殿を飛び出して博麗神社へと飛び立とうと思って門を勢いよくくぐると、視界の端に誰かが門前に立っているのが見えた。

 その瞬間だった。

 

「ただいま」

 

 声を聞いた瞬間、思わず立ち止まってしまった。

 震えが止まらない、どんどんと鳥肌が立っていく。

 

 そして涙が止まらなくなってしまった。

 

 どうしてだろう。こんな声、知らないのに。知らない声ならスルーしてもいいはずなのに。

 この声だけはスルーしちゃダメな気がしてならなかった。

 

 知らない、しらないはずなのに……。

 しらな、しら……。

 

 そこでパリンという自分の中で何かが破壊されたような音が鳴り響き、その音が聞こえた瞬間、私はその人に思いっきり飛びかかるように抱きついた。

 

「うわっと」

 

 その人は私が急に飛びついたから態勢を維持することが出来ずにそのまま尻もちをついちゃったけど、そんなことは気にする暇は無く、私は大粒の涙を零しながらギュッと、もう二度と離さないとばかりに抱きしめた。

 

 そして私は言うのだ。

 

「おかえり」

 

 ――と………………。




 はい!第249話終了

 とりあえず最終回ですいえーい。

 これにてTrue End完結となります。

 次回はTrue Endのエピローグとなります。

 最後まで楽しんでいってください。

 エピローグは本日19時に公開予定ですので、お楽しみに!

 それでは!

 さようなら


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エピローグ ただいま――おかえり

 はい!どうもみなさん!ミズヤです

 今回は結構長いです。

 これでも縮めたつもりですが、エピローグに書きたいことが山ほどありすぎてこうなってしまいました。

 今回は最終回ですが、ほかにもルートがあるので、次週からはそっちの方を書いていきたいと思います。



 それでは前回のあらすじ

 真は自分の記憶と存在を全て犠牲にして幻想郷を救って見せた。

 だが、それによって幻想郷には真が存在した歴史がなくなり、ぽっかりと穴が空いてしまう。

 その中で唯一こいしだけが違和感を感じていた。

 こいしは霊夢に異変解決の宴会を中止するように直談判しに行くところで声が聞こえてくる。

「ただいま」



 それではどうぞ!


side???

 

「う、くぅ……ここは?」

 

 俺は目を覚ました。

 しばらく目を瞑っていたからだろう、俺の目は非常に光に弱くなっており、太陽から降り注いできている光が目が痛いほどに眩しく感じる。

 

 それにしても体が痛い。全身が筋肉痛のように悲鳴をあげている。

 体が動くということを全力で拒絶しているというのがわかる。

 

 頭もガンガンと痛む。まるで頭を全力で殴られているかのような痛みを感じる。

 

「はぁ……」

 

 なんなんだ、この状況は。どうしてこうなったんだ……。

 俺は今まで何をしていたんだっけか。どうしてこんな場所にいる。

 

 首を軽く捻って周囲を確認してみると、どうやらここは森のようで、木々が生い茂っている。

 森特有の緑の香りがそこかしこから漂ってくる。

 

 今まで俺が何をしていたか、どうして俺はこんなところで倒れているのか、全く分からない。記憶が無い。

 俺は何者で、どういう人間だったのか。

 俺は俺自身の情報をきれいさっぱりと失ってしまっていた。

 

「なんなんだよ」

 

 俺は悪態をつきながらも悲鳴をあげる体にムチを打ち、何とかその場に立ち上がる。

 どれくらい俺はここで寝ていたんだろう。そしてここはどこなんだろう。

 

「とりあえず、町を探してみるか……」

 

 こんなところに居てもただただ野生の肉食獣の餌になるだけだと考えてゆっくり、ゆっくりと森を歩き始めた。

 

 最後に食事をしてからもう結構時間が経過しているんだろう。もう胃の中が空っぽで腹が鳴り止まない。

 このままここに居て野生動物に見つからなかったとしても、いずれは餓死してしまうことになる。

 そうなる前に何か腹に入れなければ……。

 

 しばらく歩くと明かりが見えてきた。恐らくあれは町の明かりだ。

 歩いている間に夜になってしまい、周囲が見えにくくなって歩くのは危ないのだが、暗くなったおかげで町の明かりが見つけやすくなった。

 

 だが、どうしよう。

 町に着いたところで金なんてあっただろうか……。

 

 そう思って服のポケットの中をまさぐってみると、その中には紙が何枚か入っていた。

 

「っ、これって」

 

 1万円札だ。

 日本という国の1番大きい単位の金だ。それが50枚程ポケットの中に袋詰めされて入っていた。

 どうして俺はこんな大金をポケットに入れてあそこに倒れていたんだ?

 

 でも、これだけあれば今日の食事代と宿代は問題ない。

 それから安定して生活するための基盤を整えなければいけない。

 以前どんな生活をしていたか分からない以上、新しく生活を始めなければいけない。

 

 幸いなことに、俺自身のことは全く分からないくせに一般常識については覚えている。

 だからこそ金のこととかも覚えていた。

 

 町並み的にここは日本だ。

 なら、この日本円が使える。

 

 それから俺は飯を食ったあと、この町で住民票の登録をした。

 ここからどこかに行こうにも、地理に関しての知識は全くと言っていいほどないため、たまたま発見したこの町に住むことにした。

 恐らくこれについて記憶が無いってことは前から俺は地理に弱かったんだろう。

 

 この町はそこまでの都会という訳ではなく、いい感じにのどかで過ごしやすい雰囲気のある町だったため、結果的にはこの町に住むことに決定して良かったと思った。

 

 そして俺は家賃を安く済ませるために安いアパートを借りて住むことにした。

 ここの大家さんがとてもいい人で、ご飯が余ったらおすそ分けしてくれたり、ここに入居する時だって通常よりも安くしてくれた。

 本当に俺は大家さんには頭が上がらない。

 

 今の俺の名前は海流極ということになっている。なんだか突然その名前が頭に浮かんできたから住民登録する時はこの名前で登録した。

 多分本名では無いだろうが、昔の俺の名前が分からないのだから仕方がない。

 身分証も何もかもなかったんだ。

 

 あるのは金だけ。

 金があるだけマシだったが、それでもちょっとここまでやるのには大変だった。

 

 それから俺は仕事を探した。

 今は節約したら暫くは金が持つが、それでもいつか限界が来ることになる。だから俺は仕事を探すことにした。

 とはいっても記憶喪失になっている俺にできる仕事なんて限られている。そのため、内職を軽くやりながら細々と暮らしていくことにした。

 大家さんが好意で家賃を安くしてくれているのだから給料の安い内職でも節約すれば生活することが出来ないこともないだろう。

 むしろ記憶の無い俺がどこかの会社に入って仕事をするとかいう方が周囲の人たちに迷惑をかけそうで怖い。

 

 そんなこんなで静かに部屋で内職を市、たまに外に出て買い物をしたりなどしながら生活すること早5年が経過した。

 

 どうやらこの生活は俺には合っているようだ。

 あんまり多くの人と関わるような仕事っていうのは俺にはやはりあっているようだ。

 それに、前にやってみたブログがそこそこ跳ね、ある程度は稼げるようになり、特に苦労することもなく生活ができるようになっている。

 

 だが、未だに俺の記憶が戻ってはいない。

 今俺は息抜きに買ったRPGゲームをのんびりとプレイしている。

 

 最近、不思議な夢を見ることが増えてきた。

 その夢の内容は、こことはまた別の場所に俺が居て、俺の周りには沢山の仲間がいて、一緒に幸せそうに暮らしている。

 まるでゲームのような内容の夢だ。

 

 普通ならその夢をただの夢だと切り捨てるだろう。

 だが、なんだかその夢はとてもリアリティーがあるんだ。だからなぜだかただの夢だと切り捨てることが出来ずにいる。

 

 そしてここで暮らし始めて暫くしてから気が付いたが、俺の左手の薬指には指輪がはめられていた。

 もう体の一部化の様にごく自然にはまっていたから特に違和感もなく気が付くこともなかった。

 どうして俺はこの指輪を付けているのだろうと考えるが、全くわからない。もしかしたら記憶が無くなる前は結婚をしていたのかもしれない。

 そう考えたが、記憶が無くなってしまった今となってはどうすることもできない。再会するというのはかなり絶望的と言えるだろう。

 

 しかし、もし俺が結婚していたんだとしたら、この指輪を外すことは奥さんを裏切る行為になってしまうんじゃないかと、そう考えて決してこの指輪を外すことはない。

 

 ピンポーン。

 

 突如として鳴らされるインターホン。

 よくあることなので、俺はもう慣れた様子で部屋の扉を開けた。

 

「極君、これ作りすぎたからおすそ分け」

「あ、いつもありがとうございます」

 

 大家さんだった。

 いつもおすそ分けしてくれるため、非常に助かっている。

 

 大家さんからのおすそ分けを食べながらゲームを再開する。

 

 ――安心して。もう会えなくならない。離れないから。

 

 ついにのんびりペースで進めてきたゲームがエンディングを迎えた。

 最後は離れ離れになった主人公とヒロインが再会し、抱擁を交わしてエンドロールが流れるという定番パターン。

 こんな終わりの作品はいくらでもあるし、この程度では泣かないと、俺はそう思っていたのだが、気がつけば俺の目からは涙が零れてきていた。

 

 溢れて止まらない。

 心が何かを叫んでいる。そう感じるような出来事だった。

 

 俺の脳裏に全く知らない世界のことが浮かび上がってくる。

 それは俺が夢で見る世界と全く同じもので、そして何となくわかる。

 これは俺が1番大切なものだ。命をかけてまでも守りたいと願った世界なんだ。

 

「こいし――っ!」

 

 その瞬間、俺は駆け出していた。

 向かう先は大家さんの部屋。

 

 インターホンを押すと大家さんがゆっくりと出てきた。

 

「なんだい? 何かあったかい?」

「大家さん。俺、今日でここを出ていきます」

「なんだい、どうしたんだい急に――いや」

 

 そこで大家さんは俺の表情を見て何かを察したんだろう。

 

「そうかいそうかい。覚悟は決まっているみたいだね。なら、行きなさい。大切な人が待ってるんだろう?」

「はい、すみません。俺の部屋のものは処分していただいて結構ですので!」

 

 大家さんと最後に会話をしてアパートを後にした。

 がむしゃらに走り続ける。

 

 ()()()()()

 全部思い出したんだ。

 

 俺の名前は海藤真。この現代日本で育ったが、ある日突然幻想入りして幻想郷で暮らすことになった。

 そこで俺は古明地こいしと恋人になった。

 

 異変解決を終えた直後に俺は歴史修正の代償で記憶を失い、この世界から俺という存在が消えてしまった。

 幻想郷のみんなも俺の事を忘れているなら、嫌だなぁ……とそんなことを考えながら森の中へと走っていく。

 

 そしてやがて俺は5年前に倒れていたバショヘトたどり着いた。

 あの後すぐは地面に俺が倒れていた跡が残っていたが、さすがに5年も経過していたら俺が倒れていた痕跡は全くない。

 

 でも、確かに俺はここに倒れていたんだ。

 

「シャロ」

「ふわぁ……あれ、真君?」

「またせたな」

「……本当だよ。本当に、ずっと待ってたんだから」

 

 俺が来るとその場には1人の少女が座って寝ていた。

 その少女、シャロは多分ずっと、俺が記憶を取り戻してここに戻ってくるまでずっと待っていたんだろう。

 シャロの姿を見ただけで俺は目頭が熱くなってくる。

 

 懐かしい。

 本当に懐かしい。

 

「んもう、僕に会っただけでそれだったらこいしちゃんに会った時はどうなるやら……」

「だが、どうしてシャロは俺の事を覚えていたんだ?」

「時空神だよ? 歴史が変えられたくらいで僕の記憶をどうこうできるなんて思わないことだね」

「そ……か。良かった……」

 

 シャロだけでも俺の事をずっと覚えていてくれたって事を知って安堵してその場に崩れ落ちる。

 するとシャロはしゃがんで俺の頭を撫でてくれる。

 シャロは神だから長生きのはずだが、その見た目は少女のため、傍から見たら少女に撫でてもらう男性というやばい構図が出来上がっている。

 

「あ、その指輪、外さないでくれたんだ」

「あ、あぁ。なんだか大切なものに思えたから」

 

 シャロが示したのは俺の左薬指にはめてる指輪。

 

「その指輪は僕が真にはめたんだよ。真が元々はめてた指輪は代償で消えてしまったから。だけど、真の記憶を繋ぎ止めておくために真の結婚指輪と全く同じものを」

「そうか……そういう事か」

 

 この指輪が指にはまっている事で俺の深層心理にまだ記憶が残り続け、今回記憶を取り戻すことが出来たって言うことか。

 もしこの指輪が無ければ俺の記憶は完全に消え去り、そして二度と記憶を取り戻すことは無かっただろう。

 

「ありがとう……ありがとう!!」

「うわわっ!? ちょ、君には奥さんがいるんだからね! こんなことをするなんて浮気だよ!?」

「ありがとう……ありがとう……」

 

 俺が感極まってシャロを抱きしめたことによってシャロは目を回しながら浮気だと言ってくるが、今の俺の耳には一切入ってこない。

 この姿、こいしに見られていたら1悶着があったかもしれないため、ここにこいしが居なくて良かったと思う。

 

「本当に、お前だけでも覚えててくれて良かった」

「うん。忘れるわけないでしょ? だって、初めての友達なんだし……」

「そうか……ありがとう」

 

 今日ほどシャロが居てくれてよかったと思ったことはない。

 本当に、よかった。

 

「それじゃあ、帰ろうか」

「あぁ、頼む」

 

 多分俺は記憶を取り戻すことはできたが、幻想郷のみんなは俺のことを覚えていないだろう。

 なら、また新しい関係を紡いでいけばいい。俺が死なない限り、また俺とみんなは友達になることが出来るんだから。

 

 俺とシャロはスキマに飲み込まれて行く。

 この感覚も5年ぶりで懐かしくて涙が出てくる。

 スキマの内部に濃密な霊力が充満していて、自分の霊力も回復していくのを感じる。

 外の世界には全く霊力などはなく、失ってしまった霊力を回復することはできない。そして俺が目を覚ました時にはすっかり空っぽになってしまっていたため、俺は霊力を使うことはできなかったんだが、今ならば霊力でいろいろとできそうだ。

 

「真君。頑張ってきてね」

「あぁ、任せろ」

 

 その言葉と同時に俺はスキマの出口を通過し、約5年ぶりの幻想郷の大地へと降り立った。

 外の世界よりもきれいな空気。懐かしい。

 

 そして何よりも、俺が最初に降り立った場所は――

 

「地霊殿」

 

 俺の思い出の場所地霊殿。

 どうやら俺が最後に幻想郷のことを生き返らせたことによってこの場所も元に戻ったようだ。

 

 こうして周囲を見回してみると、まるであの戦いがあったのは嘘、夢の様で、地底の住人達も何事もなかったかのように暮らしている。

 まぁでも、あれから5年も経過しているのだから、みんなの記憶からもあの異変が薄れてきているのかもしれない。

 

 さて、こっちに走ってくる妖力を感じる。

 それはとても懐かしくて、今俺が一番会いたいと思っている人物の妖力。

 思わず飛び出して泣きつきたいと思ってしまうが、俺はその感情を抑え、その人物が通りかかった瞬間に言った。

 

「ただいま」

 

 フードを深くかぶっているため、あまり俺の顔を見ることはできないだろう。

 これでこいしが俺のことを覚えていないようならばこのままここから立ち去って海藤真としてまた来ればいい。

 そう考えたのだが、どうやら俺の考えは杞憂で終わったようだ。

 

 立ち止まって目を見開いて俺のことを見たかと思うと、その少女は突如として俺に襲い掛かるかのように飛び掛かってきたが、どうやらそれは俺のことを襲うためではなく、抱き着くためだったらしい。

 

 その瞬間、どこからともなくパリンという音が聞こえてきたが、今はそんなことは気にしている場合じゃなかった。

 俺に抱き着きながら大粒の涙を流している少女――古明地こいしを俺は抱きしめ返す。

 

「おかえり」

 

 どうやら俺は色々と恵まれているらしい。

 


 

「あ、あんた、今までどこに行っていたのよ!」

「はは、すまん」

「本当に、みんな心配していたんだから」

「それは霊夢もか?」

「うっさいばか」

 

 俺はこいしたちに連れられて博麗神社に来ていた。

 どうやらあの異変の後、どうにも宴会をやる気になれなくて宴会を全くしていなかったらしいが、今日は宴会をするという話になっていたらしい。

 そして霊夢たちは俺のことを忘れていなかった。

 

 いや、正確に言えばついさっき思い出したということが正しいらしい。

 どうやらちょっと前までは俺のことは頭の片隅にもなかったが、突如として俺という人物がいたという記憶がよみがえり、今に至るということなんだとか。

 どうして記憶が戻ったのかはわからないが、どうやら俺はそうとう仲間に恵まれているらしい。

 

 シャロの考察によると、俺という人物がいた記憶はないが、誰かが足りないという気分になって宴会をする気になれなかったんじゃないかということ。

 つまり、シャロの考察が正しければみんなは俺が帰って来るまで待ってくれていたっていうことだ。

 忘れていたとしてもずっと待ってくれるなんて、俺は本当にいい仲間を持ったものだ。

 

「真、改めておかえり」

「あぁ、ただいま。ところで、こいし」

「なに?」

「その態勢で食べにくくないの?」

「ぜーんぜん」

 

 こいしは今、俺の腕にがっしりと抱き着き――いや、しがみつきながら料理を食べていた。

 抱き着いているというよりかは俺の腕をがっしりと掴んでもう離さないということを主張しているように見える。

 まぁ、俺としてはうれしいが、この場所ではとても恥ずかしいため、今は離してほしいところではある。しかし、二度と離れないとか言いながら離れてしまったのは俺なので、信用無いんだろうなと思いながら甘んじて受け入れる。

 

「もう、どこにもいかないでね」

「あぁ、もう疲れたから、おとなしくしていることにするよ。俺が働かなくても今回の戦いで幻想郷は安泰だって確信したからな」

「信用できない」

「信用できないって……じゃあ、どうしたら信じてくれる?」

「それはねぇ――」

 

 俺たちはもう絶対に離れたりすることはない。

 異変解決をこれからさぼったとしてもこれだけ頑張ったんだから神様も許してくれるだろう。だから俺はもうゆっくりとこの幻想郷で暮らすことにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 True End ――完――




 はい!エピローグ終了!

 これにてTrue Endが全て終了!

 次からはNormal Endへ向かっていきます。

 このNormalルートでこのTrue Endで回収されなかった伏線が回収されるかと思います。

 ここまでお付き合いありがとうございました!

 Normalルートは必ず見なければいけないものでは無いですが、呼んでいただければ嬉しく思います。

 それでは!

 さようなら


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無意識の恋 ZERO
第210話 真の目覚め


 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 紗綾の言葉に昔の光景が思い浮かび、苦悩する鬼流。

 そんな鬼流に神楽はいらいらし、霊夢はそんな鬼流を煽る。

 霊夢と神楽のラストバトルが開幕。両者共に最強の技を放つものの、霊夢の夢想天生の前に破れ、空中にぶっ飛ばされる。

 そんな神楽の背後に突如としてシャドウが出現、怒り狂う神楽とは反対にシャドウは冷静であった。

 そしてついに、大神の大口がみんなの前に出現し、秩序を乱した神楽を飲み込もうとする。

 当然抵抗する神楽だったが、シャドウと記憶を取り戻した鬼流の二人によって神楽を大神の口の中に放り込むことに成功し、ついに神楽に勝利を収めた。

 しかし、その代償としてシャドウと鬼流が命を落とす結果となってしまった。

 さぁ、まだ異変は終わっていない。

 みんなは異変解決へと向かって歩き始めた。



 それではどうぞ!


side真

 

「あ、あんた、大丈夫なの?」

「大丈夫よ。それよりも、先に進みましょう? まだ、戦いは終わっていないんだから」

 

 霊夢と紗綾の声が聞こえてくる。

 視界が真っ暗で、全身がものすごい痛い。

 体もものすごく気だるい。どうやら霊力もかなり消耗してしまっているようだ。

 だが、俺はこうして死なずに生きている。恐らく俺が妖怪だったことが功を奏して耐久力が上がっているのだろう。

 

「気を失っているみんなはどうする?」

「気を失っているみんなはこれ以上戦いに巻き込まないように私の家に運んでおくわ。あそこは幻想郷の中でも辺境の地だから崩壊するのも遅いはずよ」

 

 そっか、会話を聞いている限りおそらく神楽を倒して戦いに一区切りがついたと言ったところだろう。

 ならよかった。あのあと何があったのかは分からないけど、なんとか神楽を倒せたことにホッとした。

 でも情けないな。神楽と戦っている間ずっと俺は気を失っていたということになってしまう。

 しかしここで落ち込んでいても仕方がない。紗綾の言うとおりにまだ戦いは終わってなど無いのだから。

 

 そして俺は手に伝わってくる神成りの感触を確かめ、がっしりと握りしめ、そして杖代わりにしてその場に立ち上がる。

 

「「「「「「「「真!」」」」」」」」

 

 おそらく全員俺がやられてしまって、目を覚ますことは無いと思っていたのだろう。俺が目を覚ましたことによって驚いて声を上げていた。ただ一人、霊夢を除いて。

 

「遅いわよ、あんた――」

「真!!!」

「ぐえぇっ」

 

 霊夢が俺に声をかけようとしたその瞬間、霊夢の声を遮るほどの勢いでなにかにタックルされてしまってその場に転がり込む。

 いや、実際にはタックルではなく抱きつかれたの方が正しいが、タックル並みの勢いだったため、俺の悲鳴をあげていた体はさらにダメージを受けることとなってしまった。

 

 やべ、今ので死にそう。

 

「真……真……よがった……いぎででよがっだよぉ」

「心配かけたなこいし」

 

 俺にタックルしてきたのはこいしだった。

 こいしは大粒の涙を流しながら俺の胸に抱きついてきている。

 そんなこいしを少しでも安心させてあげるために俺は静かに頭を撫でた。

 

「良かった……もしかしたらこのまま目を覚まさないかもって……」

「大丈夫だ。俺はそんなにヤワじゃない」

 

 本当はちょっとやばかったかもとは絶対に口にしない。

 多分俺が妖怪だったってのと俺の能力である【致命傷を受けない程度の能力】がなかったらまず間違いなく俺は目を覚ますことは無かっただろう。

 

 それにしても酷い有様だ。

 壁はほぼ吹き飛び、野ざらしになっており、かろうじて残っている柱が天井をギリギリ支えている。

 

 神楽には勝ったようだが、神楽にかなり人数を減らされてしまったみたいだ。

 みんな死んでいないといいが……。

 

「それにしてもあんた頑丈すぎて怖いわよ」

「ははは、自分でも時々思う」

 

 気を失う前の記憶は朧気に覚えている。

 確か俺は腹を貫かれて気を失ってしまったはずだ。普通なら確実に死んでいる。

 

「真……真……」

「……」

「……」

 

 霊夢がものすごくこっちを見てくる。

 もうそろそろやめろやお前らって視線を感じる。グサグサと突き刺さる鋭い視線を感じる。

 

 ジト目になった。

 戦場のど真ん中でてめぇら何やってるんだって言う圧を感じる。

 さすがに俺もこの状況でずっと抱き合っているのはどうかと思うため、こいしにそろそろ離れるように説得することにした。。

 

「こ、こいし、そろそろな?」

「もうちょっと……もうちょっと……お願い」

 

 蔑みの視線になった。

 完全に俺たちは空気が読めないやべえやつら扱いだ。

 とっとと離れろやてめぇら。もう時間はないんだぞ空気読めという圧というか怒りを感じる。

 

「そろそろアンタ離れなさい」

「あぁっ!」

 

 さすがに霊夢は痺れを切らしたのかこいしを俺から強引に引き離した。

 するとこいしは抗議の声を上げるが、観念したのかしょぼんとしながら自分の足で立ったので、俺も服に着いた砂埃を払って立ち上がった。

 

「待たせたな」

「ホントよ。時と場合を考えてくれないかしら?」

「ごめん」

「まぁ、それに関してはもういいわよ。で、どうなのよ」

「どうって?」

「傷よ傷」

「ん? あぁ、大丈夫だ。半分妖怪のおかげでかなり回復も早い」

「そ? なら、傷を理由にして足を引っ張るんじゃないわよ。そうなりそうなら邪魔だから引っ込んでなさい」

 

 悪態をついてくる霊夢。

 だが、恐らくこれは霊夢なりに俺の事を心配して言ってくれているのだろう。

 ツンケンした態度をしているが、その実、誰よりも仲間のことを気にかけている優しい人でもある。

 だからみんな霊夢に集まっていくんだろうな。

 

「なによ、悪態突かれているのに笑顔なんて浮かべて、気持ち悪いわね」

「いや、気にしないでくれ。それよりも進むんだろ? 最期の戦いへ」

「そうね、絶対にこの異変を解決して過去一番の宴会を開くわよ!」

「だな」

 

 そして俺たちは笑いあい、最後の戦い、ジーラの待つ最深部へと気を失っているみんなを運んで行っている紫とシャロ以外のみんなで向かっていった。




 はい!第210話終了

 このNormal Endの世界は極が現れなかった世界線です。

 そのため、極からのアドバイスや極との修行もありません。

 果たしてここからどう物語が展開していくのか。

 お楽しみに!

 ちなみにこのルートではこいしは真が倒れたあと、戦いに参加しなかったため、気を失うことはありませんでした。

 True Endの時とは違ってものすごく心配して付きっきりで様子を見ていた形となります。

 あと、暫くは似たような展開が多くなるので、ジーラ戦が終わるまでは流し読みをして頂いて大丈夫です。

 それでは!

 さようなら


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第211話 最後の……

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 神楽との戦いの後、真は目を覚ました。

 するとその瞬間にものすごく心配していたこいしに抱きつかれ、身動きが取れなくなってしまう。

 その様子を見ていた霊夢に冷たい目を向けられたため、真は何とか引き剥がそうとするが、こいしが拒否をしたため、引き剥がせずにいた。

 だが、そこで霊夢が痺れを切らしてこいしを真から引き剥がしたことでようやくジーラとの最終決戦へと向かうのだった。



 それではどうぞ!


side真

 

 俺たちはジーラの霊力を感じる方へと周囲を警戒しながらゆっくりと歩みを進めていく。

 もうジーラ以外の霊力は感じなくなってはいるが、ジーラの仲間に神楽のような奴もいることだ。いつどこで奇襲されるか分かったものではない。

 さっきの傷はなんとか妖怪の超絶回復能力によって一命をとりとめたが、次もまた無事に済むとは限らないのだ。

 

「それにしても足場が悪いな」

「しかも空間が歪みに歪んでいるから空を飛びにくいし」

 

 そう、俺たちは今、階段を上っているのだが、先ほどの戦いの影響かここら辺の階段も一部崩れており、なかなか思うように登っていくことができない。

 それに空間も歪んでおり、戦っている間は仕方がないのだが、空を飛ぶと霊力コントロールが難しくなっていく。それもジーラの部屋に近づけば近づくほどに空間が歪んでいっている。嫌な場所だ。

 

「これ、どこまで続いてんだ?」

「まるで白玉楼の階段だな」

「間違いない」

「空飛びたいのに飛べない……」

 

 白玉楼のある冥界もそこそこ空間が歪んでいるため、飛びにくい場所ではあるが、それでも飛んで白玉楼まで向かうことが出来る。

 だが、こんな場所で飛ぼうとしたら墜落して終わるだけのような気がするため、全員階段を歩いて登っている。

 

 やがて俺たちは最上階に到着し、扉の前に集合した。

 さすがに今までの戦いで疲労が蓄積されてしまっていてかなり疲弊してしまっているが、みんな己を鼓舞してしっかりと地に立つ。

 

「間違いない。ここからジーラの霊力を感じる」

「やっぱりあの人が絡んでいたのね」

「みたいだな。そして済まない。今回の異変が起きたのは俺のせいだ」

「どういうこと?」

「真のせい?」

「……」

 

 前回の異変に全く関わっていなかった霊夢、彼方は疑問の声をあげ、こいしだけは唯一その場に居合わせていたため、こいしもジーラを攻撃しようと思ったら出来た状況だっただけに、攻撃しなかったことを後悔している様子だった。

 違うんだ。あの時、ジーラにトドメを刺さなかったのは俺に責任がある。

 こいしが責任を感じる必要なんてないんだ。

 もし過去に戻ることが出来るのならばあの瞬間にジーラにとどめを刺して今回の異変を食い止めたい。

 

「まぁ、過去には戻れない。今更気にしても仕方がないさ」

「そういう言ことだ」

「そうそう」

「そうね」

「うんうん」

「まぁ、何があったのかはわからないけどあんまり自分を責めるんじゃないわよ」

「みんな……」

 

 龍生、ライト、鈴音、紗綾、彼方、霊夢のみんなが俺のことを励ましてくれた。それだけでとても嬉しくて、ここが、幻想郷が俺にとっては大切な場所であるということを再確認出来て、この場所を絶対に守るためにもこの異変だけは絶対に解決しなければいけないと決心する。

 そこでこいしが俺の真横にまで歩いてくると、そっと耳に口を近づけてきた。

 

「よかったね、真。いい人たちに出会えて」

「あぁ、本当に……そうだな」

 

 こいしの言葉に全力で同意する。

 この世界のことを何にも知らなかったときにいろいろと教えてもらったり、優しくしてもらったり、仲良くしてもらったり、いろいろとよくしてもらえた。

 そして今も俺を責めることなく励ましてくれている。

 

 本当に俺はいい仲間を持ったものだ。

 

「それじゃあ、行きますか!」

「おーっ」

 

 そして俺とライトは二人で最後の部屋のとても大きな扉を体全体を使って押し開けると、そこには真っ暗な空間が広がっていた。

 どう考えてもこの場所は今までとはまるっきり違う場所となっており、少し脳が混乱してきてしまう。

 そして床もどこにあるのかが全く分からない部屋だ。だが、これだけは言える。この部屋の空間は今までの空間のものじゃない。ジーラの奴、空間の中に空間を作っていやがった。

 

 その瞬間、突然背後から突風が吹き、俺たちは風に吹き飛ばされてしまう。

 とっさに俺はこいしを守るために抱きしめて庇ったが、俺たちは全員部屋の中に突風によって押し込まれてしまい、俺たちが入ったその瞬間に入り口の扉が閉まった。

 あまりに突然のことだったため、俺たちは地面を転がってしまうが、霊夢とライトはさすがと言うべきか、受け身をとって直ぐに立ち上がった。

 それにしてもこの部屋は床が見えないだけで普通に床はあるようで、立ち上がることは出来た。

 

「来たか、愚か者ども。この場所が貴様らの墓になるということも知らずにのこのこと入ってきたな!」

「っ、ジーラ」

 

 突然声が聞こえて来た。少ししか聞かなかった、この下種さは忘れるわけがない。

 ジーラの声だ。姿こそ見えないものの、これは確実にジーラの声で、そしてこの空間に漂っている濃厚な霊力はジーラのものだろう。

 以前のハエほどしかなかった霊力とは見違えるほどに大きくなっており、普通に危険人物認定できるほどの霊力量となっていた。

 その次の瞬間、周囲に存在していた灯篭に灯がともり始め、周囲を火の光で照らし始め、ようやく真っ暗闇となっていたこの部屋の全貌が明らかとなった。

 

「っ、気持ち悪いわね。あんた、趣味悪いんじゃないの?」

 

 さすがにこの気味悪さに霊夢も言わずにはいられなかったようで、ここに居るみんなを代弁するかのようにその言葉をつぶやいた。

 この部屋は全体的に宇宙空間のような見た目となっており、さらに床までも宇宙空間みたいな見た目となっていて常に動き続けている。

 そんな見た目の空間に大量の灯篭と椅子、テーブルがあるのだから違和感しかない。

 

 そしてこの声の主、ジーラは俺たちの真正面、俺たちが立っている側とは真反対の壁に寄りかかって立っていた。

 

「緑の! お前にやられたあの日の屈辱はまだ忘れていないぞ。お前らに壊滅させられて、俺はお前らを殺すことを誓った! 強くなって、今の俺は自分の力だけでも十分戦えるほどとなった! もう、緑、お前が俺に触れることはない。そこの小娘もだ。お前たち2人は間違いなく俺がこの手で殺してやる」

「っ」

「し、真っ」

 

 そう言い放ったジーラからは威圧が放たれており、その威圧によって一瞬だけ俺も怯んでしまうほどだった。

 この威圧の対象はこいしも含まれているため、こいしは不安そうな声を漏らした。

 ジーラにとって俺とこいしはセットで殺したい対象なのだろう。

 

「お前を倒し、この異変を解決する!」

「あの時の私とは違う。私はもう守られるだけじゃない!」

「俺、地味に幻想郷気に入ってるんだよね。だから幻想郷をめちゃくちゃにされちゃ困るんだわ」

「右に同じくだね、私はこの幻想郷が大好きなんだよ。だから守るよ、絶対に」

「まぁ、俺はあまり幻想郷には思い入れは無いが、幻想郷がなくなると困るやつが居るんだ。だから全力で……」

「あなたと私は元仕事仲間。上司と部下の関係。だけど、それも今日でおしまい。楓花や春人の為にも決着をつけるよ」

「シャドウがさ、すごくこの幻想郷を大切にしてるんだよ。どうしてなのか、それは今まで一度たりとも教えてくれたことはなかったんだ。だけど、すこし気持ちはわかるんだよ。確かに私は幻想郷にいるどの神よりも後に神になったけどさ、それでも幻想郷は大切なんだよ。今も、昔も、だから戦うよ」

「ほんっとうに今までのどの異変よりもダントツで面倒な異変だったわ。幻想郷は崩壊していくし、どいつもこいつも真の事を敵対視しているし、ちょっと本当に投げ出そうかと心が折れかけたわ。でも、私の仕事は幻想郷を脅かすやつを退治することなの。あんたを退治して幻想郷を守らなければいけない。だから、絶対に勝つわよ」




 はい!第211話終了

 ここまではこいしがメンバーに含まれていたり、極の話題が上がらないこと以外は同じ展開なのですが、ジーラ戦は変わりますので、お楽しみに。

 それでは!

 さようなら


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第212話 俺のせい

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 ついに神楽に勝利した一行は目を覚ました真と共に最後の戦いへと臨む。

 最後の部屋にたどり着いた一行の目の前に現れたのはやはり真に恨みを抱くジーラだった。

 以前戦った時は相手にならないほどの小物だったが、あれから非常に強くなっていることに驚愕しながらも真はジーラを倒し、幻想郷を救う決意を高める。

 ついに主犯との対決。

 果たして勝つのは真たちか、それともジーラか。



 それではどうぞ!


side真

 

 もしも、もし、俺があの時、ダーラのところに直接転移されてしまっていたら。

 もしもあの時、こいしが俺の事を見つけ、あとをついてこなかったら、そう考えると時々眠れないことがあった。

 

 となりで眠るこいしにおやすみと告げ、俺も同じように仰向けになって目を閉じるが、その瞬間に見たこともない景色が視界に広がるのだ。

 

 人里も、妖怪の山もめちゃくちゃに破壊され、空が真っ黒なエネルギーで覆われて住人がみんな苦しんでいく。

 真っ黒なエネルギーは幻想郷に住んでいる人たちにとってはとても有害なもので、それによって苦しみながら息絶えていく人々の姿をダーラとポリオンは上空から笑いながら眺めている。

 そしてそんな二人の横に俺も居て、これをやったのはほとんどが俺で、現実では自分の命よりも大切なはずの幻想郷を崩壊させ、こいしを苦しめてしまっていた。

 だが、この俺は何も思っちゃいなかった。なにせ、これをしでかした俺に幻想郷への思いなどゼロだったからだ。

 俺がこいしと接触したおかげで俺はこの幻想郷の事を好きになったし、守りたいと本気で思うようになっていた。

 

 だけど、俺がこいしと接触することが無かった場合、俺はこっちの運命を辿っていたかもしれない、そう考えると俺は恐ろしくて夜も眠れなかったんだ。

 

 その可能性がある俺に本当にこの世界を、幻想郷を救う資格なんてあるのだろうか、そんな考えがこの戦いの最中にも何度も何度も頭をめぐっていた。

 でも、今の俺はこの幻想郷を救いたい、その思いが俺を何度も助けてくれ、原動力になってくれている。

 しかし、みんながことごとく俺に敵対していく、そしてこの幻想郷が崩壊の一途をたどっている。まるで俺が見た夢の話みたいだと、今更ながら考えてしまっていた。

 

 違う違う。俺は違うんだ。

 

 今、目の前に居る敵に集中しよう。今の俺の敵は誰だ? 俺じゃないだろう。

 ジーラだ。ジーラを倒せばこの異変は解決される。この異変は収束し、幻想郷ももとに戻ってくれるはずだ。

 なら、俺はただ、今まで通りにこの異変を解決して平凡ないつもの生活を取り戻す、それだけだ。

 

「さぁ、緑! ここがお前の死に場所となるのだ。そして魂となって永遠にこの空間をさ迷い続けるがいい!」

「……なぁ、みんな」

 

 俺は今までの事を思い出しながら静かに言葉を放った。

 正直この異変が始まってから俺はずっと迷いっぱなしだった。いや、今もずっと迷い続けている。

 本当に俺はこの場に居ていいのだろうか。ジーラが幻想郷をめちゃくちゃにしている原因は俺にある。

 俺こそみんなに叱責され、退治されるべき存在なんじゃないかとずっと思い続けている。

 

 今回の異変の元凶は俺だと言っても過言ではない。

 ここまで着いて来てくれたみんなには感謝しているし、悪いことをしたとも思っている。だから––

 

「この戦いは俺一人に任せてくれないか?」

「っ、シン。それって」

「あぁ、自分の尻拭いは自分でする」

 

 もとはと言えば俺がこいつに止めを刺しておけばよかっただけの話なんだ。だけど、それをしなかったのは俺の責任だ。

 だから、自分の尻拭いは自分でする。

 すると彼方が俺のことを止めようと血相を変えて俺の前に飛び出してこようとしたが、それよりも先に隣に来ていたこいしが俺の手を握った。

 

「こいし?」

「?」

 

 そのこいしの様子を見て俺と彼方は止まってしまう。

 なにせ、未だかつてこいしはこれほどに真剣な表情で前を向いているのを見たことがないからだ。

 真剣な表情をして前を向いているこいしの横顔は凛々しかった。

 

 だが、そのつないでいる手からはこいしの緊張が伝わってくる。

 

「ねぇ、真。あなたはどうして自分のせいにしたいの? 自分一人ですべてを終わらせようとするの? 真はどうして……いや、真はこの状況を必ず誰かのせいにしないと気が収まらないの?」

「っ」

 

 そこまで言ってこいしはくるりとこっちの方へと顔を向ける。

 とても真剣な表情。

 その瞳は全てを吸い込んでしまいそうに深い緑色をしていて、俺の魂に訴えかけるかのようだった。

 

 確かに俺はこの異変を自分のせいにして心の安定を図ろうとしているのかもしれない。

 だけどそれは事実なんだ。

 もしあそこで俺がトドメを指していたらこんなことにはなっていないのだから。

 

「自分が悪い、自分が何とかしなきゃって、そう思うのは真の悪いところだと思うよ」

「でも!」

「でもじゃない。それに、あの状況なら私だってトドメを刺すチャンスがあったはずなのにトドメを刺さなかった私にも原因がある。だから、私が一人で戦うよ」

 

 そう言って俺から手を離してゆっくりとジーラへと向かって歩き始めるこいし。

 その目は座っており、危なっかしく見える。

 

 そう思った瞬間に今度は俺から慌ててこいしの手を掴んだ。

 ダメだ。一人で戦っちゃ。

 この霊力量は確かにこいしの相手にはならない程度だが、あいつからは霊力量以上に不気味な何かを感じる。

 それに、こいしにもしもの事があったら俺は……っ!

 

「ほら、やっぱり」

「え?」

「やっぱり、真は私のことを引き止めた」

「どういうことだ?」

「真は今、多分私の身を案じて引き止めたんだよね。でも、それは私達もおなじ。真にもしもの事があったらって考えると悲しくて……苦しくて……だから、引き止める。私達の気持ち、分かったでしょ?」

 

 こいしに言われてハッとなった。

 そうだ。

 俺もこいしに何かあったらって考えると悲しくて苦しい。

 こいしには戦って欲しくない。

 

 そうか。

 いつもこいしはこんな思いをしているんだ。

 心配で心配で胸が張り裂けそうで……。

 

 一人で戦うといった瞬間、俺は頭が真っ白になってしまった。

 俺は思いをさせてしまっていたのか。

 

「……ごめん」

「謝らなくていいよ。分かってくれたならさ、みんなで一緒に戦おうよ」

「あぁ、頼む。俺と一緒に戦ってくれ!」

 

 俺はみんなへ向けて頼み込んだ。

 するとみんなからは何か言葉が返ってくる訳じゃなかったが、俺たちの真横まで歩いてきて武器を構えた。

 俺たちの間に言葉なんて必要なかった。

 当然だと言わんばかりの動きだった。

 

「話は纏まったか? だが、誰が相手であろうとも、俺に勝つことは出来ないけどな!」

「そうか? やってみなければわからないぞ?」

 

 そして俺は神成りを、ジーラは拳銃を構え、そして同時に攻撃を開始した。




 はい!第212話終了

 戦いはこいしがいる事でこいしが説得に成功し、全員で戦うことになりました。

 これもこのルートの特徴ですね。

 こいしが居たり、極が居ないことで色々変わります。

 それでは!

 さようなら


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第213話 当たらない攻撃、当てられる攻撃

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 真はジーラが異変を起こしているのは自分の責任だとして自分だけで戦おうとした。

 しかし、こいしの説得によって真は考え直して全員で戦うことに。

 ついに最終決戦だ!


side真

 

 ようやくここまで来れたんだ。

 色んな人を喪った。色んなものを犠牲にしてきた。

 だが、それも今、この瞬間のためだ。

 

 ジーラを倒し、この幻想郷を救う。

 感じる。

 

「真、あなたにはこんなにも仲間がいるんだから」

「あぁ……そうだったな」

 

 こいしに言われて俺は横へ顔を向ける。

 龍生、彼方、紫、ライト、紗彩、鈴音、霊夢。みんなが横一列に並んで戦闘態勢に入っている。

 手には刀。紬が変身している神成りだ。

 

 そうだ。

 俺には一緒に戦ってくれる仲間がいる。

 

「行くぞ、みんな!」

『おうっ!』

 

 俺とライトと紗彩は刀を、霊夢はお祓い棒を構えて走り出す。

 まずは様子見だ。

 以前のジーラは能力を持っていなかった。だが、これだけのことをしでかしたんだ。何かしらの能力を得たことは確実だろう。

 決して油断はしない。

 

 俺は刀に霊力と妖力を纏わせる。

 剣士としての火力は俺はライトと紗彩に比べたらかなり劣ってしまう。

 だからこうして霊力や妖力を纏わせて火力の底上げをする。

 

 そしてライトと紗彩も刀に霊力を纏わせて攻撃の準備は整ったようだ。

 

 ジーラは余裕の表情を崩さない――という事はそれほどまでに自信があるという事なのだろう。

 霊夢は至近距離に近づいてからお祓い棒の先に陰陽玉を作り出し、それで殴り掛かり、それと同タイミングで俺達もジーラに斬りかかった。

 

 どう出るか様子見。誰も本気の一撃では無い。

 だが、ジーラは回避することすら出来ずに、俺達の全ての攻撃をまともに食らって悲鳴をあげる暇もなく地面に倒れた。

 当然のように本気では無い俺たちの攻撃は全て飛び退いて回避され、ジーラはその手に拳銃を構えた。

 

 高速射撃の四連射。

 それらは的確に俺たち四人へと向かって放たれた。

 

 この至近距離で放たれた銃弾をそう易々と回避出来るわけが無い。

 俺はモロに銃弾をみぞおちに食らってしまい、紗彩は何とか刀で軌道をずらしたものの、銃弾を肩に食らってしまう。

 

「ぐ、がぁ……」

「くっ」

 

 腹を抑えて転げ回る俺と肩を押さえて膝を着く紗彩に対して、ライトは銃弾を一刀両断して防ぎ、霊夢は一瞬で結界を出現させて銃弾を防いで見せた。

 

「真っ!!!」

 

 背後からこいしの焦った声が聞こえてくる。

 

「大丈夫だ」

 

 大丈夫。

 別にモロに食らったが、銃弾が体に食いこんだとか死にそうということは無い。

 さっきまでずっと寝てたからかダメージはかなり回復している。だから致命傷を防ぐことが出来ている。

 それに加えて妖怪だから傷の回復は早い。

 

 戦える。

 

 だが、痛いものは痛いんだ。

 なるべく食らいたくない。

 

 それにしてもなんだ?

 急に動き出したかのように見えた。

 それまではまるで俺たちの動きに全く反応ができていないかのようにピクリとも動かなかった。

 あのまま攻撃が直撃すると思ったのだが、急に回避行動を取ったジーラに回避されてしまった。

 

「霊符《夢想封印》」

 

 霊夢はお返しとばかりに夢想封印を発動させて大量の弾幕を周囲に展開してジーラへと放った。

 霊夢の弾幕はホーミング性能のあるものもある。これは実力者であろうとも完全に回避するのは難しい。

 

 そんな攻撃を戦い慣れしていないジーラが回避することが出来るはずもなく、全てをもろに食らって向こうの壁にまで吹っ飛ばされた。

 だが、ジーラは戦い慣れていないはずだと言うのに、飛んできたその全ての弾幕を回避し、ホーミングしてくるものは弾幕同士をぶつけて相殺していた。

 

 あんなの初めて見て突破できる代物では無い。

 だと言うのにジーラはコンマ数秒の間に全ての弾幕の特性を理解して最適に回避して見せた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 だけど、やっぱり霊夢の弾幕を回避するのは大変だったようで、息を切らして肩で呼吸をしている。

 その一瞬を狙ってライトが飛び出した。

 

「その体勢で避けられるか?」

 

 ライトの刀は霊力によって鋭くコーティングされている。

 あれならば少しかすっただけでも岩を豆腐のように斬ることが出来るほどの一撃を放てるはずだ。

 

 あれを受ければ一溜りもない。

 それに今、霊夢の攻撃を回避したことによって体勢を崩し、まともに回避できるような状態じゃない。

 どう頑張ってもあれじゃ咄嗟に回避できない!

 

 俺の考えは正しかった。

 ジーラは回避動作すらとることが出来ずにライトの刀をまともに受け、上半身と下半身が生き別れることになった。

 ライトの刀が振り下ろされる直前、ジーラは咄嗟に拳銃を構えると、それをライトの眉間目掛けて撃った。

 

 それによってライトとさすがに闇雲に攻撃を仕掛けることが出来なくなり、銃弾を刀で弾いたあと、素早くジーラから距離を取った。

 

「なんだアイツ。必ず行動が後手に回ってるくせに対処が完璧だ。まるで何度も何度もトライし、最適解を見つけているみたいな――ちっ」

 

 銃弾を完璧に弾いたと思われたライトだったが、少しかすっていたようで頬から血が流れ、それを舌打ちをしながら袖で拭く。

 

 ライトの攻撃でもジーラに攻撃を当てることが出来ないのか。

 

 さっきのタイミングは本当ならば確実に攻撃が入っていたはずなのに……。

 まさかあいつは未来が見えるのか?

 いや、それにしては何か違和感がある。

 

 どうする?

 どうしたらジーラにダメージを与えられるんだ。




 はい!第213話終了

 まぁ、True Endを読破済みの方は分かりきっている展開かと思いますが、この流れをやっていきますよ!

 ただ、True Endとは違うのは複数人でジーラへ攻撃しているので、手数があるということですね。

 真単体の時も手数でジーラを攻略していましたから。

 正直、ジーラの能力ってクレア神無しでどうやって見破り攻略するのか!? って感じの能力なんですがね。

 それでは!

 さようなら


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第214話 尽く

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 ついに始まった戦い。

 真、ライト、紗綾、霊夢の四人は一斉に攻撃を仕掛けるが、その全てを回避され、カウンターを食らってしまう。

 


side真

 

 しかし、どうしたものか。

 確かにこの現状はものすごく絶望的な状況だ。

 

 俺たちの攻撃は当たらない。だけど、ジーラの攻撃は何らかの形で必ず当たってしまう。この状況を続けていたら俺らが負けてしまうのは必然だった。

 でも大丈夫だ。まだ致命傷を防げいている。まだ耐えることができる。

 ならジーラの攻略方法を考える猶予は残されているということじゃないか。

 

 ライトなら既に何らかの攻略法、もしくはジーラの能力について何か思いついているかもしれない。

 あいつはずっと修行を続けているから俺と同じDNAを持っているが、ライトの方が戦いにおいて頭が回る。

 

「てめぇ、未来でも見えてるのか?」

「さぁて、どうなんだろうなぁ」

 

 ライトの問いに対して当然はぐらかすジーラ。

 だが、あのライトの声色的にあれは反応を確認しているんだろう。本気で問いただそうとはしていない。

 ライトも最初から聞き出すことが出来るとは思ってもいない。

 

『もろに食らってたけど大丈夫?』

「あぁ、大丈夫だ。致命傷で済んだ」

『それ、普通大丈夫じゃないからね』

 

 俺にとっては致命傷の方がありがたい。

 致命傷じゃなかったらそのままダメージになるが、致命傷なら意識がはっきりとしていて体力が残ってればダメージが軽くなる。

 たとえ爆裂四散しても体力が残っている限り再生する。

 

「真、合わせて」

「ん? わかった」

 

 突然紗綾が耳打ちをしてきてジーラへと走り始める。

 それを見て俺も紗綾に続いて駆け出した。

 

 俺たち二人が合わせて攻撃したところで当たらないと言うのは分かりきっている。

 だが、恐らく紗綾には何か考えがあって行動しているんだろう。

 ならば、今はそれに賭けてみるしかない。

 

「どれだけ攻撃してきても無駄だ! 俺に当たることは無い!」

「それは今から試す! 無駄口を叩く必要は無い!!!」

 

 紗綾は刀に霊力を纏わせ、そしてそれを発火させてジーラに斬りかかった。

 だが、さすがにその攻撃は一直線に攻撃しただけだったため、やはり回避されてしまって紗彩の刀は空ぶってしまったが、俺がその先に待機して刀を構えていたため、ジーラは目を見開いてギョッとする。

 ジーラは今攻撃を回避したことによって体勢が崩れている。自由に身動きを取ることが出来ない。

 

 今度こそ行けると、そう判断して俺は全力で刀に霊力を纏わせて最高の一撃を放った。

 もちろんそんな体勢で俺の刀を回避することが出来るはずはなく、俺の刀に一瞬で首を斬り飛ばされ、悲鳴をあげることも無く絶命した。

 だが、ジーラはその状態で拳銃を構えてきた。

 大丈夫だ。俺はあれを食らったくらいでは死なないため、肉を切らせて骨を断つ覚悟でジーラへと刀を振ったが、その数瞬前にジーラが発砲した。

 

「ぐぅっ!」

 

 ジーラの放った銃弾はピンポイントで俺の刀を握る手に直撃、その衝撃で刀を手放してしまった。

 あいつ、あの一瞬で俺の手に狙いを定めたのか。

 急所を狙ったとしても効果がないと判断して俺の攻撃を封じてくるなんて、頭が回るみたいだ。

 

 だけど、俺は霊力を常に探知して周囲の状況、味方の状況を把握しているから気がついているが、俺の攻撃を防いでそれで終わりでは無いみたいだぞ。

 ジーラ、そこにいろ。

 動かずにそこに居たらお前は死ぬ!

 

 何せそこには――2人の人物が構えているんだから!

 

 次の瞬間、突如としてジーラの背後に2つの隙間が出現し、そこから二人の人物が飛び出してきた。

 龍生と鈴音だ。

 2人は俺たちと共に攻撃を仕掛けるんじゃなく、紫と共にタイミングを見計らっていたのだ。

 しっかりとジーラを仕留められるように。

 

 俺は攻撃を構えながらその事に気がついていた。

 もし、俺の攻撃が躱されてもまだ跡が残っている。

 

 普通に攻撃してもダメだ。

 どんなに未来を読んでも、絶対に回避できないような、そんな攻撃が理想だ。

 

 だから2人はこのタイミングを狙っていた。

 

 2人は飛び出してくると同時に足に霊力を込めてジーラへと蹴りを放った。

 その事にジーラはまだ気がついていない様子。

 俺の攻撃を防いだことで安心しきっている。

 

 これなら、当たる!

 さっきから戦ってわかった。ジーラの身体能力はそこまで高くない。

 このタイミングで急に動けるような身体能力は無い!

 

 そしてジーラは攻撃を回避できるはずがなく、そのまま何も分からないまま蹴り飛ばされて行った。

 そこでジーラはハッと攻撃に気がついた表情をしたがもう遅い、このタイミングでは俺達も完璧に回避できる自信はない。

 するとジーラは俺の方へとタックルしてきた。

 

「ぐっ!」

 

 あまりに突然の事で俺は反応が遅れ、俺はそのままジーラに捕まってしまい、体を反転させたジーラに投げ飛ばされてしまった。

 その投げ飛ばされた方向には龍生と鈴音。その2人と俺は盛大に衝突してしまった。

 

「ぐあああっ!」

 

 ジーラでは無く、結局2人に蹴り飛ばされてしまったのは俺だった。

 咄嗟に防御の体勢をとったけど、2人の蹴りの威力は凄まじく、クレア装を咄嗟に纏ったが、左腕の骨は完全に粉砕されてしまった。

 

「「真!!!」」

 

 2人とも俺を蹴り飛ばしてしまったことによって焦りの声を上げるが、今は2人に蹴り飛ばされたことなんてどうでもいい。

 2人は心配して駆け寄ろうとしてくるが、そんな2人を静止するように大声で言った。

 

「俺のことは良いから、ジーラに追撃しろ!!」

 

 俺のそんな言葉を聞き、2人はピタッと足を止めるとジーラへと向かって走り始めた。

 いいんだ。ジーラを取り逃がすよりかは俺を蹴ったことなんて無視してくれた方が100億倍いい。

 

 絶対にジーラを逃がすな。




 はい!第214話終了

 真を上手いこと利用されてしまいましたね。

 真の耐久力は高いから良いですが、クレア装を使っていなかったら真でも大ダメージを負ってしまうほどの一撃でした。

 ジーラは尽くのらりくらりと攻撃を回避していますね。

 果たしてどうやってジーラを倒すのでしょうか?

 それでは!

 さようなら


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第215話 絶対に避けられない攻撃

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 真、紗綾、龍生、鈴音の4人がかりであと一歩のところまでジーラを追い詰めた。

 考えたのだ。
 回避されるなら回避できない攻撃をすればいいと。

 だが、結局真を盾にされて龍生と鈴音の攻撃は不発に終わってしまった。

 しかしまだ戦いは終わってない。

 まだ諦める時じゃない!



 それではどうぞ!


side真

 

「ぐあっ!」

 

 2人に蹴り飛ばされたことによって俺は壁に背中を強打してしまった。

 腕の骨は粉砕されてしまっている。恐らく致命傷じゃなかったから回復が遅いんだろう。

 

「真!!」

 

 視界の端で必死な形相で駆け寄ってくる1人の少女が見えた。

 こいしだ。

 

「真! 大丈夫!?」

 

 こいしは俺の真横に駆け寄ってくると俺の左腕を見て絶句してしまった。

 クレア装を使っていたというのにぺしゃんこだ。

 これをもし生身で受けていたらと考えたら恐ろしいものである。

 まだ利き手である右じゃなくて良かった。これならまだ刀を振れる。

 

「大丈夫だ。俺は妖怪だ。直ぐに回復する。それよりも今はこの戦いに集中しよう。じゃないと勝てないぞ」

 

 俺はダメージを負ったことで回復するまでは動けなくなる。

 だが、その間にも鈴音と龍生の2人は攻撃を続けていた。

 

 ジーラは追ってくる鈴音と龍生に対して発砲するが、それが2人に当たることは無かった。

 

「《空絶》」

「ここっ!」

 

 龍生は空絶によって空間に壁を作り出して止め、鈴音はまるでここに銃弾が来ることがわかっていたかのような動きで回避する。

 そう言えば2人は俺が気を失っている間に来たんだよな。

 2人の修行後の戦い方は初めて見るけど、前見た時より格段に2人ともレベルアップしている。

 

 2人の動きはどんどんと追い詰めて行っているように見えるが、それでも相変わらずジーラは2人の攻撃をギリギリで回避し続ける。

 

 早く俺も加勢しに行きたいが、腕の治りが悪い。これではまともに刀を握ることすら出来ない。

 俺の回復力はダメージ量によって比例する。

 爆散したり、生命活動に影響が出るようなダメージを受けたら損傷した箇所を優先的に素早く回復する。だが、生命活動に問題がないレベルだと妖怪程度の回復速度しかない。

 それでもすぐ回復する方だろうが、戦闘中の回復時間はいつもよりも長く感じる。

 

「しつこいぞお前ら!」

 

 ジーラは2人から逃げながら発砲し続けるが、2人もそれを回避しながら追い続ける。

 霊力の糸が鈴音から龍生へと繋がっているように感じる。

 もしかしたらあれは鈴音が攻撃を感知して龍生に回避するように指示しているのかもしれない。

 

 そして再びジーラが発砲しようとしたその瞬間、ライトから霊力斬が放たれて一直線に飛んでいく。

 1番相手に攻撃が当たりやすい瞬間はターゲットが誰かを攻撃しようとした瞬間である。

 だからライトはこのタイミングを狙って霊力斬を放ったんだろう。

 

 そしてその斬撃はジーラには躱すことが出来ず、そのままモロに斬撃を食らって地に倒れた。

 だが、ジーラは直ぐに霊力斬に気が付き、発砲をやめて霊力斬を回避した。

 まるで目が横にも着いているのではないかと思うほどの視野の広さだ。あのタイミングの攻撃にも気がつくとは……。

 

「こいしっ!」

「……分かったよ」

 

 こいしに俺に構ってばかり居ないで手伝って来てくれと伝えると、渋々ではあるがジーラの方へと向かって行った。

 こいしもかなりの実力がある。人数で抑えこめば幾ら回避ができると言えども限度というものがあるだろう。

 

 そこを突く。

 こいしは走ってジーラへと接近し、周囲に弾幕を展開する。

 

「表象《弾幕パラノイア》」

 

 ジーラへ向かって大量の丸い弾幕が放たれ、それとは別にジーラを取り囲み、行動を制限するようにジーラの周りに弾幕が出現した。

 あれは戦い慣れていたとしても完璧に回避するのは至難の業だ。

 

 そんな弾幕をジーラが回避することが出来るはずがなく、全ての弾幕をモロに受けて倒れた。

 だが、ジーラはまるで全ての弾幕の軌道を全て知っているかのような動きで完全に回避して見せた。

 全ての弾幕を回避したら周囲の弾幕も消滅する。

 しかし、それは想定済みだったようだ。

 

 突如としてジーラの周囲に大量のスキマが出現した。

 

「なっ!?」

 

 さすがにこれには驚きの声を漏らすジーラ。

 これは恐らく紫がやっている。そう、分かっているというのに俺も目を見開いて驚いてしまっていた。

 

 あと、あのスキマの中には無数の目が見えるからあれだけあると不気味すぎる。

 

「あなたに、これは避けられるかしら?」

 

 そういうと紫はジーラへと手を伸ばし、そしてギュッと握った。

 その瞬間、ジーラへとスキマの中から大量の禍々しい棘が襲いかかった。

 全方位を覆う攻撃。

 ジーラを中心に半円状に出現してジーラを串刺しにしようと伸びていく。

 

 逃げ場なんてない。

 

 ジーラはそんな高密度の攻撃を回避することが出来ず、全ての棘に串刺しにされて倒れた。

 ――逃げ場なんて無いはずだったのに、ジーラは糸を通すかのような細い棘の合間を縫って回避し始めた。

 

「ぐあっ、ぐっ」

 

 だが、さすがのジーラでも全てを回避することは出来なかったようで、いくつかの棘はかすってしまい、初めて体から血を流す。

 でもそれがジーラの命を奪うことには繋がらず、ジーラは棘の牢獄から抜け出してしまった。

 

 これでもダメなのか……そう思った時、ジーラの動きを予測していたのかジーラの正面に彼方が立ち塞がった。

 

「え?」

「多分今なら!」

 

 思いっきり勢いをつけて回し蹴りを放つ彼方。

 その蹴りにジーラは反応することが出来ずに、その一撃はそのままジーラの腹に直撃した。




 はい!第215話終了

 さすがに棘を回避するまでに連続時戻し回数は上限二達してしまったみたいですね。

 果たして彼方の攻撃はジーラにどれほどのダメージを与えたのでしょうか?

 それと、先週は休んでしまってすみませんでした!

 Twitterでは報告していたので、まだフォローしていない方はフォローしていただくとそういった情報が直ぐに分かるのでオススメです。

 マイページからTwitterに飛べます。

 それでは!

 さようなら


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第216話 彼方の蹴り

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 どれだけ攻撃してもジーラには回避される。

 だが、回避できない攻撃を続ければ必ずいつかは当たる。

 そう信じて攻撃を続ける。

 そしてついに紫の棘が掠り、彼方の蹴りが直撃した。



 それではどうぞ!


side真

 

 ついに彼方の蹴りがジーラの腹にモロに直撃した。

 初めてまともに攻撃が直撃したんだ。これは希望が見えてきた。

 つまりは高頻度で攻撃し続ければいつかは必ず当たるということがわかった。

 

「ぐふぅ……」

 

 ジーラは蹴られてその場に腹を押さえてうずくまる。

 どうやらダメージで動けなくなっているみたいだ。今が攻撃のチャンス。

 そして同じことを考えたのだろう。

 ライトが刀を構えてジーラへと攻撃を仕掛けに行った。

 

 多分今このタイミングならば攻撃が当たる。

 

 俺も腕が治ってきたみたいだから攻撃に参加しようと立ち上がろうとして膝を地面につけたその瞬間、ジーラの口角がぐにゃりと曲がるのが見えた。

 それを見た俺は反射的に叫ぶ。

 

「ライト、避けろ!!!」

「っ!」

 

 叫び声に反応し、ライトもなにかに気がついたのか、回避動作を取ったその次の瞬間、パァンという弾ける音が聞こえ、ライトへ銃弾が放たれた。

 回避動作は取ったものの、正確にライトへと放たれた銃弾は動いているライトの頭部へと一直線。

 

 これは回避不可能だ。

 ライトは俺と同じDNAを持っているため、俺と同じく【致命傷を受けない程度の能力】を持っている。

 頭を撃ち抜かれても死ぬことは無いだろうが、ライトの中にある俺のDNAは俺のほんの一部だけに過ぎない。

 死なないにしても限界は俺よりも早いだろうし、再生速度も遅いだろう。

 

 今やられたらライトは恐らく暫く動けない。

 

 これはまずい。

 そう思いきや、突如としてライトは何を思ったのか、はたまたピンチに陥って気でも狂ったのか銃弾へと頭突きをかまして見せたのだ。

 普通なら銃弾に頭突きなんてしたら頭に風穴があくだけだ。

 だが、ライトが頭突きをした瞬間、まるで鉄に弾かれたかのように銃弾が弾き飛ばされて床にカランコロンという軽快な音を奏でながら転がった。

 

「いってぇ……」

 

 多分今のはクレア装で額を強化して頭突きをしたんだろう。

 だが、それでもライトの額は摩擦によって煙が上がり、血が出てきて顔に流れ落ちてきている。やはりクレア装の防御力でも銃弾のダメージを完全に殺しきることはできなかったようだ。

 少なくとも金槌で頭を軽く叩かれたくらいの衝撃はあったことだろう。軽い脳震盪に陥ったとしてもおかしくはないが、頭突きをした直後はふらふらとしていたが、すぐに立て直して「ふぅ……」と一息ついた。

 

 とりあえず無事なようで安心した。

 

 しかし、その直後ライトは肩を震わせ始めた。

 やっぱりダメージがひどすぎて体に異変が起こっているのか? 一瞬そう思ったものの、すぐに肩を震わせた理由は別の理由があるということが判明した。

 

「てんめぇ、蹴るならしっかり蹴っとけよ! あいつほぼノーダメージだぞ! 攻撃した内に入らねぇよ!」

「い、いやぁ……だってさ、私肉弾戦苦手だし……」

 

 ライトが肩を震わせていた理由は彼方への怒りだったようだ。

 確かにしっかりと攻撃は入ったが、大したダメージにはなっていないようだ。

 

 それにしても彼方は破壊神というか力神の部類に入るというのに肉弾戦が苦手なのか。

 いや、まぁ、人によって得意不得意があるように神にだって得意不得意があるだろう。

 

「私は能力を使って戦うタイプだから能力を使わないと見た目通りの力になっちゃうんだよね〜」

「じゃあ能力使えよ!」

「いいの? 多分この空間丸ごと消し飛ぶけど」

「そ、それだけはやめてちょうだい」

 

 ライトと彼方の間に紫が割って入って2人をなだめ始めた。

 まぁ、この空間が丸ごと消し飛んだら俺らも消し飛ぶからな……。

 

 それにしてもライトがこれだけ感情を表に出しているのは初めてみた気がする。

 いつもはクールに突っ込むくらいなのに、ちょっと声を粗げていたな。

 それだけライトも余裕が無いということなのだろう。

 

 まぁ、今までの戦いのダメージも蓄積されているし、攻撃は当たらないしでイライラしているのかもしれない。

 

「はぁ、ならお前は隅っこで大人しくしてろ」

「なっ! 私も戦うもん!」

「なら、まともな蹴りを入れられるようになってからにしろ!」

 

 彼方はライトに戦力外通告を受け、とぼとぼと背中から哀愁を漂わせながら部屋の隅へと行って膝を抱えて座り込んでしまった。

 目からは光が無くなっている。戦力外だと言われたのが相当ショックだったんだろう。

 

 でも仕方がない。

 彼方の本領とは破壊にある。だからそれが使えないとなると、彼方も戦い辛いだろう。

 

「仲間内で喧嘩か。いいな。もっと喧嘩してろよ」

「うるせぇ。てめぇはいい加減くたばっとけ!」

 

 喧嘩を煽るジーラに向けて無造作に振られるライトの刀。

 そんな雑な太刀筋だったが、何とジーラは回避するどころか反応することすら出来ずにあっさりとライトに一刀両断されて地面に倒れた。

 そんな雑な太刀筋でジーラに当たるはずもなく最小限の動きで回避すると、ライトから距離を取った。

 

 だが、やはり反応を見る限りでは全く余裕を持った回避には見えない。

 最小限の動きで回避しているから余裕があるように見えるが、大層疲れているようにも見えて、一回回避する事にまるで連撃を全て回避しきったあとかのように疲れている気がする。

 

 多分、ジーラを倒せるとしたらそこがキーになってくる。




 はい!第216話終了

 今回真は長時間遠くから見ている状況なので、本編よりもジーラの能力について分析できていますね。

 True Endの時は真がクレア神でゴリ押し、能力が使えなくなるまで攻撃し続けて倒すってやり方をしていましたが、今回はどう倒すのでしょうか?

 それでは!

 さようなら


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第217話 炎を躱す者

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 彼方はジーラについに蹴りを入れることに成功したが、その攻撃力は低すぎてジーラにすらダメージを与えることは出来なかった。

 その事で怒るライトとそれを煽るジーラ。

 ライトは彼方に戦力外通告をして再び戦いに戻るのだった。



 それではどうぞ!


side真

 

「《炎陣》展開! 《極炎陣》」

 

 紗綾が周囲に炎を展開し、全身に炎を纏ってジーラへと突撃していく。

 確かに回避特化型のジーラに対しては広範囲に及ぶ攻撃というのは有効打になり得る。

 

 これならジーラにダメージを与えられるかもしれない。

 だが、そう簡単に当たるようなやつでは無いことは今までの戦いで既に証明済みだ。

 ずっとギリギリ回避しているように見えるが、その攻撃の9割以上は回避されてしまっている。

 

 これも簡単に当たるとは思えない。

 

「簡単に近寄らせるか!」

 

 パァンパァンパァン。

 ジーラも負けじと紗綾に向かって銃弾を3発放った。

 するとその瞬間に銃弾の軌道上にスキマが出現し、銃弾がスキマの中に飲み込まれたかと思ったらジーラの背後にもう1つのスキマが出願して銃弾がその中から放たれた。

 どうやら紫がスキマで銃弾をジーラに返したようだ。

 

「ぐ、あああああああ!」

 

 それをジーラは回避することは出来ず、3発ともモロに直撃。

 のたうち回りながら背中に感じる激痛に叫び声をあげ、そのうちに接近してきていた紗綾の炎でジーラは焼かれる。

 

「これで終わりよ!!」

 

 そう言いながら振り下ろされる紗綾の刀。

 だが、痛みに悶え苦しむジーラにはもう回避する気力は無くなってしまっていたようで、そのまま振り下ろされる紗綾の燃える刀に一刀両断されて息絶えた。

 

「ぐっ!」

 

 だが、ジーラは直ぐにその事に気がついて横飛びをしてギリギリで回避。

 しかしまだ攻撃が終わる訳では無い。

 次に迫ってくるのは紗綾の炎の海と燃える刀だ。

 

 紗綾に近づかれれば一巻の終わり。そのまま骨まで燃やし尽くされて斬られるだけになる。

 当然ジーラもそのことはわかっている。

 ジーラは服のポケットの中からなにかのリモコンを取り出すと、上に向けて何かを操作した。

 

 その瞬間、この部屋全域に向けて10天井から大量の雨が降り注いだ。

 いや、雨と言うよりかはスプリンクラーの水と言ったところだろう。

 まだまだ値段が高くて幻想郷では普及していないがニトリ印のスプリンクラーと言うのがあちらこちらの店で売っていたはずだ。

 

 その水によって紗綾の炎は完全には消えないものの、さっきまでよりも少し勢いが弱くなり、ジーラが水でベチョベチョになることによって炎の海に飲み込まれたとしても燃え上がらなくなってしまった。

 だが、それでも紗綾は剣士だ。

 紗綾のメインウェポンは刀だ。炎が封じられたとしても紗綾は斬ればいい。

 

「クレア装」

 

 紗綾はクレアの霊力を刀に纏わせ、ジーラへ向かって刀を振るう。

 しかし、その一撃はあまりにも正面突破だったせいでジーラに見切られ、回避されてしまった。

 

 だが、ジーラは回避したはずだったのだが、その次の瞬間には紗綾の刀がジーラの首を捉えていた。

 あまりにも速い剣技、動きが滑らかすぎて剣の方向を変えたことに気がつくことが出来なかったのだ。

 

 さすがにジーラもこの一撃に反応することは出来ず、そのままジーラは紗綾の刀で首をきりとばされてしまった。

 

 しかしそれもジーラは見切っていたようで、上体を逸らして回避し、そのまま紗綾に銃口を向ける。

 

「っ!」

 

 まずい。

 さすがにあの至近距離じゃクレア装は間に合わない。

 そうでなくても、紗綾のクレア装ではライト程の精度は無いから銃弾を食い止める程の硬化は出来ない。

 

 パァン!

 

「紗綾!!!」

 

 ついにジーラの拳銃から銃弾が発砲されてしまった。

 あの至近距離だ、回避は絶望的。銃弾は直撃してしまったかと思われた。

 だが、それよりも数瞬早く紗綾の体は突如として地面に飲み込まれて行ったため、紗綾に銃弾が命中することは無かった。

 

 いや、飲み込まれたんじゃない。紫が紗綾の足元にスキマを出現させて回避させたんだ。

 

「一体何なのよ、あの回避能力は!!」

 

 スキマから出てきた紗綾はそう叫んだ。

 紗綾の攻撃を完璧に防いでさらに反撃までして見せた。

 以前のジーラから見たら考えられないほどの進化だ。だが、あいつが真っ当に努力した結果とも思えない。

 絶対に能力が絡んでいるはずだ。

 

 そうこうしている間に俺の腕もだいぶ治ってきた。

 完治はしていないけど、少し動かせるようになってきて、刀を握ることも出来る。

 

『大丈夫なの?』

「あぁ、大丈夫だ」

 

 心配する紬の声が聞こえてくるが、俺は大丈夫と答える。

 動かしにくいし、無理して動かすと内側から骨の破片で体を傷つけそうだが、それくらいなら問題は無い。

 クレア装を使って肉体を強化すれば動かせる。

 

 だが、ジーラが回避出来ないほどの攻撃をするのにはクレア装ではパワーは足りてもスピードが足りない。

 スピードをあげるにはもっとパワーが必要だ。

 

「真?」

 

 こいしも俺が動き出したのに気がついたみたいだ。

 俺は立ち上がるとクレアの霊力を爆発させる。

 

「クレア王」

 

 今の俺の限界点、クレア王だ。

 俺の体からは真っ赤なクレアの霊力が溢れ出し、まるでオーラのように体に纏う。

 そのオーラを俺は両腕に集結させ、クレア装をクレア王を発動した状態で使用した。

 

 クレア王は扱いこそ難しいが上手くやることで普通のクレアのように鎧として使うことが出来る。

 これにより、俺の両腕はパワーとスピードが数段アップする。

 

 右手に刀を握り、左手はフリーにして構える。

 

「ジーラ、躱せるものなら躱してみろ!」




 はい!第217話終了

 真復活です。

 やっぱり妖怪とはいえ結構回復が早いですね。

 クレア王を使った真はジーラにダメージを与えられるのでしょうか?

 それでは!

 さようなら


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第218話 真の作戦

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 紗綾の攻撃がジーラへと襲いかかる。

 しかし、炎の海も炎の剣も完封されてしまい、反撃を受けそうになったところで紫の手で間一髪で逃れられる。

 そしてついに真がクレア王を発動、動き出した。



 それではどうぞ!


side真

 

 俺の普段の基本はスタイルは魔法剣士だ。

 刀を片手で握り、もう片方の手で霊力を使った攻撃をする。これで手数を増やしてジーラを追い詰める。

 

「ジーラっ!」

 

 少し休んでいる間にだいぶ霊力も体力も回復した。

 今度は油断しない。最初から全力で飛ばしていく。

 

 俺はさっきまでの戦いを離れた位置から俯瞰して見ることが出来ていた。

 だから、ジーラの動きなんかはよく見ることが出来た。

 ジーラの行動の癖、そして能力の条件。何となく把握することが出来た。

 

 こいつは多分見えている。俺たちの行動、攻撃の軌道なんかが全部。

 だが、こいつの行動はそれだけで語ることは出来ない。

 こいつはギリギリまで俺たちの行動に反応出来ていない。それこそ、このままだったら確実に死ぬという所まで反応しない。

 だが、急に反応して回避する。

 

 それまでは恐らく知らないんだろう。俺たちの行動も、攻撃の軌道も。

 だが、人間の判断速度ではこの後に知ったとしても回避に動き出せるわけが無い。

 だからつまり、こいつはあのタイミングで知りつつ回避動作に入らなければ行けないんだ。

 それが出来るのなんてたった1つの可能性しかない。

 

 戻ってきたんだ。

 

 あいつは恐らく攻撃を受け、そして戻ってきた。だからこそ攻略法がわかっている。

 何度も何度もトライアンドエラーを繰り返しながら俺たちの攻撃を回避している。

 もしそんなことが出来ると来たらとんでもない能力だし、ジーラも凄まじい精神力だ。

 いや、あいつの行動力は俺への復讐心だ。ならば凄まじい執念だとも言えるだろう。

 

 でも、絶対に攻撃が当たらないわけじゃない。

 それをさっき紫は証明してくれた。

 なにせ、時を戻してトライアンドエラーができるなら紫のあの棘に当たるはずがないんだから。

 ならどうして当たったか?

 

 恐らくあれには連続で使える回数制限のようなものがあるんだろう。

 だからこそ紫の攻撃を回避するには回数が足りなくなってしまって棘に当たってしまったんだ。

 

 つまり、攻撃を続けていればいつかは当たる!!

 

『え、えぇ……そんなふわっとした計画で大丈夫!?』

「俺にそんな計画を立てる頭は無い!」

 

 俺の考えを読んだのだろう。紬が俺の計画を窘めてくる。

 だが、計画を窘められたところで俺にはそんな大層な計画なんか立てられない。

 脳筋作戦だ。

 俺と、ジーラの我慢比べ。

 どっちの方が先に体力切れを起こすかって問題だ。

 

 クレア王を使えばより回避しにくい攻撃をすることが出来るが、その代わりに体力の消耗が激しい。

 短期決戦だ。

 だからより短い時間で倒すことが出来るように一撃で何回リトライさせることが出来るかが勝負になってくる。

 

「小僧、お前だけはこの手で殺してやるよ!」

「やってみろビビり!」

 

 俺が走ってくるのを見て拳銃を構えるジーラ。

 だがもう俺はジーラの攻撃に当たってやるつもりは無い。なにせ時間があまりないのだから。

 

 パァンと破裂音のようなものが響き渡り、俺に向かって銃弾が飛んできた。

 さすがは拳銃だ、凄まじい速さ。

 だが、クレア王を発動させればクレア時よりも様々な感覚が研ぎ澄まされる。

 もちろん動体視力も、反射速度もこれまでの比じゃない。

 

 俺は即座に真横に飛んで銃弾を回避、再びジーラへ向かって走り出そうとした。

 だが、その次の瞬間には俺の目と鼻の先に銃弾が飛んできていた。

 

 ジーラは時を戻して俺の回避先へと事前に銃弾を放ったんだ。

 俺を殺すために。

 

 見落としていた。

 回避するためにこの力を使えるとしたら攻撃を当てるためにだって使えるんじゃないか。

 回避は間に合わない。

 

 ならば、受けるしかない!

 

「装っ!」

 

 俺はさっきのライトと同じようにクレア装を纏って銃弾に頭突きをかまして見せた。

 すると、ライトの時と比べてすんなりと俺は銃弾を叩き落とすことが出来た。

 

 これが普通のクレア装とクレア王の装という違いだ。

 クレア王を使うとクレアより数段上の力を発揮することが出来るようになる。

 

 ジーラへと接近すると俺は片手で霊縛波を作り出し、刀には霊力を纏わせて霊力斬を構える。

 ちまちまと近接攻撃をしていたんじゃ逃げ場を完全に塞ぐのは難しい。

 だから俺は飛び道具で攻めることにした。

 

 通常、霊縛波は投げると一瞬で蒸散してしまう。

 それは霊力の操り方が複雑すぎて手から離れたら上手く操れなくなってしまうからだ。

 でも、一瞬だけなら形を保ったままぶん投げられる!

 

「狙撃《スナイパー》」

 

 走るそのままの速度を載せ、俺は勢いよく霊縛波を振りかぶって思い切り投げ飛ばした。

 通常ならば直ぐに蒸散するが、狙撃《スナイパー》は投擲威力を高めるスペルカードだ。

 

 ドカーン!!!

 

 俺が投げ飛ばした霊縛波は着弾し、その場で大爆発を起こし、煙が巻き上がった。

 このくらいの距離ならば霊縛波が蒸散する前に着弾させることが出来る。

 

 だがこれではまだ慢心しない。

 次に刀を構えると、その煙のなかに向かって次々と霊力斬を放っていく。

 煙の中ならば回避しにくいだろう。

 

 だがまだ油断するな。さっきまでの回避力からしてまだこれでも倒せてない可能性が高い!

 

 そう考えて警戒しつつ、煙が晴れるのを待っていると、徐々に煙が晴れてその中が見えるようになってきた。

 だが、俺の警戒は杞憂だったようで、煙が晴れたその先に見えたのは爆破され、そして霊力斬によってズタズタに切り裂かれたジーラの姿だった。

 

 そう考えて警戒しつつ、煙が晴れるのを待っていると突如として煙からジーラが飛び出し、こっちへと拳銃を向けてきていた。

 やっぱり今の攻撃では倒せていなかった。

 

 大丈夫だ。

 俺も既に次を構えている!




 はい!第218話終了

 真対ジーラ。

 別ルートと違うのは真がじっくりとジーラを観察でき、能力を看破できているという点ですね。

 果たして戦いの行方は?

 それでは!

 さようなら


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第219話 攻撃の手を止めるな

 はい!どうもみなさん!ミズヤです

 そろそろジーラ戦を終わらせたいところです。



 それでは前回のあらすじ

 ついに復活した真はジーラと攻撃を撃ち合う。

 真はジーラの能力の効果切れを狙って攻撃を連打し、ジーラは時を戻って的確に真に攻撃を当てていく。

 果たして真はジーラを倒せるのか?



 それではどうぞ!


side真

 

 煙が晴れるのを待っていると突如として煙からジーラが飛び出し、こっちへと拳銃を向けてきていた。

 やっぱり今の攻撃では倒せていなかった。

 

 大丈夫だ。

 俺も既に次を構えている!

 

 ジーラが拳銃を構えているならこっちは銃弾だ。

 先ほど俺が額で弾いて下に落ちた銃弾を一つ手に取るとギュッと手に握って投擲の体勢を取る。

 俺のスペルカードである狙撃《スナイパー》は本来こういったものに使うために作り出したものだ。決して霊縛波を投げるために作り出したものではない。

 もっと言えば刀を投げるために作ったものなのだが、この場では手数が全てだ。刀をいちいち作り出していたら時間がかかってしまって仕方がない。

 

 だから手数を増やすために小物でもいいからどんどんと投げていく。

 

「狙撃《スナイパー》」

 

 ジーラが照準を合わせる前に俺はその手に握った銃弾をジーラへ向かって放つ。

 ジーラとは違って俺はずっと戦い続けてきた。さらにはクレア王を発動すると動体視力、そして反応速度も常人よりも格段にアップする。

 そんな俺がジーラとAIM力で戦って負けるわけがない。

 

 俺が銃弾を投げ飛ばすとジーラはその速度に反応することすらできずに銃弾に直撃、この投げの威力に耐え切ることが出来なかった銃弾はその場で大爆発を起こしてジーラは木っ端みじんになった。

 

 俺が銃弾を投げ飛ばすと一瞬ぎょっとした表情になったが、すぐにその場から飛びのいて俺の銃弾を回避して見せたが、まだ終わることはない。 

 銃弾を投げる瞬間に俺はもう一つ銃弾を拾ってすでに構えていた。

 俺の攻撃が終わることはない。

 

「お前が何度も繰り返して復活してくるっていうなら、何度でも殺してやるよ」

「っ!」

 

 銃弾を一つ投げ飛ばすと、今度は弾幕を周囲に展開した。

 俺は弾幕を作るのはあまり得意じゃないからほかのみんなよりも数は少ないが、その代わり回避が難しいように超高速でジーラへと解き放つ。

 だが、通常はそこまで超高速に放つことはできない。クレア王の霊力を爆発させることで弾幕を弾き飛ばし、疑似的に超高速で弾幕をジーラに向けて飛ばすことに成功した。

 

 その弾幕を回避することはできず、ジーラは弾幕の直撃を受けて地面に倒れた。死んではないが、大ダメージを受けただろう。

 あの状態では回避することは不可能だ。そう判断してもう一回弾幕を放った。

 

 その弾幕の隙間を縫って回避し、ジーラは再び俺に銃口を向けてきた。

 どうやら何回も練習してきたようで、すでに俺に照準があっているため、さっきみたいにジーラに照準を向けられる前に攻撃をするという手段が取れない。

 

 しかもあの銃は今まで使っていた銃とは違う。

 おそらくさっき俺に銃弾を弾かれてしまったことからさらに威力のある銃へと切り替えたのだろう。

 となると、今度も同じように弾くことが出来るとは限らない。何とかしてあの銃弾を防がなければいけないということだ。

 

 ニヤリとジーラは笑みを浮かべつつ、俺に向けて銃弾を放ってきた。

 この一撃を回避することは不可能だ。俺が回避したところで何度でも繰り返して俺に銃弾を直撃させてくることだろう。

 でも問題ない。

 今の俺は別に一人で戦っているわけじゃないんだから。

 

 すると銃弾が放たれた次の瞬間、ジーラの正面に超巨大なスキマが出現し、ジーラが発砲した銃弾をスキマの中へといざなって封印してしまった。

 これをやったのは紫だ。

 これだけでかい壁があったらやり直して俺に攻撃を当てるということは不可能だ。あまり動きすぎると俺に動きを感づかれて当てられるものも当てられなくなるからな。

 

 つまり、ジーラは遠距離から俺に銃弾を当てる手段がないということだ。当てようとしても今みたいにまた防がれてしまう。

 遠距離だったら紫のスキマがきれいにぶっささる。

 

 そしてスキマが出現したのを見て俺は走り始めた。

 今ならばあのスキマが壁になっていてお互いが見えない状態となっている。そのため、今のこのタイミングで距離を詰めて俺の得意な距離に持ち込む。

 

「っ!」

 

 俺がスキマに裏から突っ込む直前にパッと一瞬でスキマが消滅し、俺の目の前にジーラが現れた。

 いや、ジーラは動いてはいないから、ジーラからしたら突如として俺が目の前に現れたということになるだろう。

 もう少し戦闘経験のある相手だったらスキマが出ている間に距離を取るはずなのだが、ジーラは動かなかった。これが戦いの経験の差だろう。

 ジーラは自分で戦い始めたのは最近だ。今まではバークたちに任せていただろうから。

 

「《霊縛波》」

「貴様ぁぁぁぁぁ」

 

 俺の攻撃にジーラは反応できなかったのか、そのまま回避行動をとることすらできずに俺の霊縛波が直撃。極太のレーザーが霊縛波から解き放たれてジーラはぶっ飛ばされる。

 ジーラの肉体強度ではこの霊縛波を耐えることはできずにぼろ雑巾の様になって地面に転がるしかなかった。

 

 すぐに身をひるがえして俺の霊縛波を回避したジーラはすぐに俺に拳銃を向けてきたが、すぐさま俺とジーラの間にスキマが出現したため、ジーラは舌打ちをして距離を取る。

 今の俺には仲間がいる。一緒に戦っている。

 その事実があるだけで俺は強気に攻めることが出来る。

 

 俺の攻撃はまだ終わらない。




 はい!第219話終了

 次回かその次回辺りにはジーラを倒したいなぁってところですね。

 あと、先週は投稿をお休みしてしまいましたが、無意識の恋に関しては投稿頻度がかなり落ちてしまうと思いますので、定期的に休みを取ることはご了承ください。

 基本は毎週投稿をしたいと思っています。

 それでは!

 さようなら


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第220話 限界が近い

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 次々と攻撃を仕掛けていく真。

 ジーラの攻撃も真へと飛んでいくが、その攻撃は紫が防ぐ。

 今の真には味方がいる。

 果たして真はジーラを倒せるのか?



 それではどうぞ!


side真

 

 俺はジーラとの間にスキマが出ている間を使って刀に霊力をまとわせておく。

 ジーラはもう何回戻ってきたんだろうか。それは分からないが、これだけの力がある技だ。体力の消耗も激しいはずだ。

 あと何回戻れる? 連続何回まで戻れる?

 

 お前の限界はどこだ?

 

 とは言いつつ、俺の体力もだいぶ無くなってきている。やはりクレア王を使うと手数やスピードなども上がるが、体力の消耗も激しい。

 やっぱりこれは短期決戦向きだ。

 早く決着をつけなければ俺の方が先にばててしまう。

 

「はぁ……はぁ……お前しつこいぞ。そろそろ諦めて帰ったらどうだ?」

「帰ってもそこにあるのは終わりだけだ。ならばほんの少しだけでも希望があるならお前を攻撃し続ける」

 

 瞬間、スキマが消滅したのを見計らって俺はジーラへ向かって飛び出すが、もちろんそのまままっすぐ飛び出したら俺の動きがわかりやすすぎるため、ジグザグに動きながらジーラへと接近していく。

 その走っている間にも俺は刀にどんどんと霊力をミルフィーユの様に何そうにも重ねて纏わせていく。

 霊力同士を合わせるのではなく、何層にも纏わせることによって霊力の斬撃をストックしておくことをついさっき思いついた。

 これによって連続で霊力斬を放つことが出来るようになる。

 

「――っ!」

 

 ジーラへ向けて刀を一振りした瞬間、いくつもの霊力斬が同時にジーラへ飛んでいく。そして流れるような動作で俺は空を飛ぶ時の応用で足の裏から霊力を噴射し、同時に地面を蹴って飛ばした霊力斬に追いつき並走できる速度で走り出す。

 これならばいくつもの霊力斬に加えて俺自身も攻撃をすることが出来る。

 戦いながら思いついた戦法だが、この手数なら相当苦戦させることが出来るはずだ。

 

「それならこうだ!」

「っ!」

 

 突如としてジーラはこの状況で回避に専念をするわけではなく、俺に向けて銃を発砲してきた。

 これは想像もつかなかった。ジーラならばこの状況なら回避に専念をすると思っていたから、霊力を全て攻撃の方に回してしまっていてとっさに自分の身を守ることが出来ない。

 回避するしかない、そう判断してとっさに方向転換をして回避したが、それでも回避しきることはできずに腕をかすってしまった。

 だが、この程度の傷ならば妖怪ならすぐに治癒することが出来る。気にするものではない。

 

「だぁぁぁぁぁぁっ!」

「ぐああああああああ」

 

 ジーラはすぐに回避行動をとったが、ジーラの動きは俺にとってはとてつもなく遅い。この程度の遅さなら余裕で見切ることが出来るため、すぐに刀の方向を切り替えてジーラに斬撃を入れた。

 だが、さすがにこの一撃だけでは致命打にはならないが、それでも俺の攻撃に続くようにさっき俺が放った斬撃が一度にジーラへと襲い掛かり、その体を切り裂いていく。

 あの程度の斬撃ならば近くに居ればある程度ホーミングさせることもできるのだ。

 

 そして大量の斬撃に切り刻まれたジーラはまだ死んではいないものの、動くことが出来なくなってしまっていた。

 あとはとどめを刺すだけだ

 

 ジーラはすぐに回避行動をとったが、ジーラの動きは俺にとってはとてつもなく遅い。この程度の遅さなら余裕で見切ることが出来るため、すぐに刀の方向を切り替えてジーラに刀を振るうが、なんとこの動きはフェイントであり、俺の斬撃は回避されてしまった。

 でも大丈夫だ。俺の後ろにはさっき俺が放った斬撃が飛んできている。

 この程度の斬撃ならば近くに居ればホーミングさせることも可能だ。

 

「いっけぇぇぇぇぇぇえぇっ!」

 

 掛け声とともに斬撃に霊力信号を送り込んだ俺はジーラの方へと飛ばした。

 当然それもジーラは回避しようと動き始める。

 これも回避されるのかと警戒してみていると、その結果は俺の予想外なものだった。

 

 ほとんど回避されてしまった。

 だが、最後の一つ、最後の一つが――直撃した。

 

「ぐぅっ!」

 

 直撃した俺の斬撃はジーラの左腕を斬り落とし、普通の人間であるジーラにとっては致命傷とも呼べるダメージを与えることに成功したのだ。

 この光景を見た俺は思わず笑ってしまった。

 ジーラは今の猛攻で能力の限界が訪れたのだ。それじゃなければ成功するまでジーラは何度も何度も繰り返しただろう。でも、その途中で能力を再使用できなくなってしまった。

 さっきの紫の棘攻撃の時とは違う、明確なダメージだ。

 

 やっぱり俺の考えは間違えじゃなかった。

 戻れる回数には限界がある。

 

「ぼさっとするな!」

 

 攻撃がヒットしたことに喜んでいるとそんな声が聞こえ、声のした方向を見てみると、そこにはジーラへと走っていくライトの姿があった。

 そしてそんなライトの言葉にハッと我に返る。

 そうだ、喜んでいる場合じゃない。まずはジーラを倒さなければいけないんだから。

 

「ふざけるな! 俺が負けるわけがないんだ! 俺の能力は最強なんだ! ここに来るまで俺がどれだけ苦労したと思う!? 今更てめぇらのようなガキが邪魔していい計画じゃないんだぞ!」

「そんなことは知るか。俺たちは今、大切な幻想郷を破壊されてテメェには怒り心頭だ。おとなしく俺たちに斬られろ。そうしたら痛みもなくすんなり殺してやるぞ」

 

 怒り心頭、そして殺してやるという言葉を使っているとは思えないライトの淡々とした口調に敵ではない俺ですらぞくっと命の危険を感じ取ってしまう。

 そしてそんなライトから漂っているのは怒りと殺気のクレアだ。

 珍しくライトが感情を表に出している。

 いつもライトは何を考えているのかわかりづらいところはあるが、今だけはすごくライトの気持ちがわかる。

 

「そうだな、今殺してやるから楽しみにしておけよ」

 

 だから俺はライトに同意し、残り時間僅かな戦いに身を投じた。




 はい!第220話終了

 次回多分ジーラ戦ラストです。

 長かった。

 個人的にアニメドラゴンボールくらいの引き延ばしをしてしまった気がします。

 ジーラ戦が終わったらこのノーマルエンドの本編とも呼べる場所に入ります。

 まだ本編じゃなかったのかよって感じですが、これはトゥルーエンドとのルート分岐を見せるための場面なので、実はまだ本番じゃないんですよね。

 なので、この後も呼んでいただければと思います。

 ジーラ戦は多分長々として単調で見ていてつまらないものですが、これが終わったら多分面白くなると思うんで。

 あ、それから東方妖滅録の方も読んでみてください!

 多分僕が書いている二次創作の中では一番力を入れているので面白いはずです。

 よければ感想と評価もいただけると幸いです!

 それでは!

 さようなら


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第221話 悪を斬る

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 続く真とジーラの戦い。

 真はジーラに霊力斬を連続で放ち、自分も攻撃に加わる。

 だが、それでも回避されてしまう。

 だけど、霊力斬の最後の一発がついにジーラへと命中した。

 これに活路を見出した真は仲間たちと協力してさらに攻撃を仕掛けていく。



 それではどうぞ!


side真

 

 俺の攻撃がヒットしたため、今がチャンスだと判断してライトはすぐに斬りかかった。その判断は攻撃をヒットさせた俺よりも早いものだった。

 それに続いて俺も再度ジーラに斬りかかる。

 

 俺とライトの同時攻撃にジーラはとっさに回避行動をとるが、戦いなれていないジーラの速度では俺とライトの攻撃を回避しきることはできずに両方から同時に斬撃を受けた。

 

《s》「ぐあああああああっ!?」

 

 あまりのダメージに地面に倒れて悶絶するジーラ。腕も斬られ、体も斬られたジーラは普通の人間の体のため、もう満身創痍といった状態だ。

 この状態ではもう動くことはできない。そこを見逃すことはなく、ライトは倒れたジーラに刀を突き刺し、とどめを刺した。

 

 一瞬戸惑っていたジーラだったが、すぐに対応して俺とライトの攻撃をギリギリ躱せるタイミングで身を翻して躱してきたが、俺とライトもすぐに対応してジーラに再び斬りかかろうとしたが、回避動作をしていた時にはすでに銃を構えていたジーラは両手に拳銃を構えて俺とジーラに銃口を向けてきていた。

 とっさに俺とライトは腕にクレア装を纏わせる。

 

 ジーラの放った銃弾は俺のクレア王の装には弾かれ、ライトも軽く飛ばされてしまっていたが、それでもカウンターにもならないダメージしか入らなかったため、俺たちはすぐに刀を構えて再び斬りかかった。

 

 胸の前に腕をクロスして防御したものの、ジーラがとっさに俺たちの足へと照準をずらし、発砲してきた。

 さすがに俺は突然のことに反応しきれずに銃弾をもろに足に受けてしまってその場に倒れてしまう。ライトは一発目の銃弾を回避することには成功していたが、その後一発目の陰に隠れて放たれた二発目を回避することはできずに体にかすってしまっていた。

 ジーラは意外と早くに復活するらしい。

 今能力切れになったはずなのにもう能力が使えるようになっているということは能力が使えなくなったらすぐに畳みかけなければ逃げられてしまうということだ。

 

 能力が使えるうちは俺たちの攻撃は全然当たらないし、ジーラの攻撃はほぼ必中になる。

 戻れるというのは凄まじく強力な能力だ。俺よりも反応速度がいいライトですら回避することが出来なかった。

 

 次の瞬間、ジーラの周囲を取り囲むように大量のスキマが出現し、その中から鈴音、紗綾、龍生の三人が飛び出してきた。

 

女帝の眼(エンプレスアイ)戦いの指揮者(バトル・オペレーター)》」

 

 突如鈴音の目が鋭くなると同時に鈴音から龍生と紗彩へ向かって赤いオーラが伸びていき、二人と鈴音が赤いオーラによってつながった。

 初めて見る技だが、これを見るだけで鈴音が俺の知らないところですごく努力していたというのがうかがえる。その証拠に目が鋭くなると威圧感がとてつもなく増した。

 

 ジーラは三人を認識するとすぐに紗綾と龍生へ向かって銃口を向け、発砲して二人の方向からこの包囲網を潜り抜けようとする。

 だが、どういうわけだか二人は最初から分かっていたとでも言うような身のこなしで軽く銃弾を回避すると、紗綾はジーラへ斬りかかり、龍生は殴りかかる。

 

 ジーラは二人が回避しようが被弾しようがそれによって道ができるということを期待して発砲したようだが、二人は全く怯むことはなく、攻撃をしてきたため、ぎょっとして固まった。

 

 それによってジーラは二人の攻撃を回避することはできず、龍生の攻撃は腹にもろに受け、紗綾の攻撃によって首を斬り飛ばされた。

 

 だが、すぐに我に返ったジーラは背後へ振り返って鈴音に発砲して道を切り開こうと試みた。が、鈴音は軽くその銃弾を回避すると、ジーラに蹴りを放った。

 

 ジーラはもうすでに鈴音の方へと走り出していたため、急に止まることはできずに鈴音の蹴りをもろに食らって蹴り飛ばされる。

 それによって動けなくなってしまったジーラは紗彩と龍生の攻撃を回避することはできずにとどめを刺された。

 

 慌ててジーラは鈴音の攻撃を回避したが、すぐに鈴音は拳を振り下ろした。

 その攻撃も何とか回避することが出来たジーラだったが、背後から紗綾と龍生が攻撃を加えたため、その一撃を最後に絶命した。

 

「うああああああああああっ!」

 

 突如として叫んだジーラは紗彩の攻撃を回避すると、そのまま脱兎のごとく逃げ出した。

 俺たちはよくわからないが、おそらくあの様子だったらジーラは何度も繰り返したが、全然突破できなかったんだろう。

 で、今やっとやけくそ気味に突破できたみたいだけど、もし俺の予想が正しかったら今はもうだいぶ戻る回数を使ったはずだ。

 なら、今がチャンス。逃すわけにはいかない。

 

 俺と龍生はすぐに走り始めた。

 俺と龍生が思い切り走ればジーラにはすぐに追いつくことが出来る。

 

「ま、待ってくれ! 話し合おう。そ、そうだ。見逃してくれたら新しい空間を作り出してやろう! あの世界はもう捨ててその世界に移住するといい! ど、どうだ? いい提案じゃないか? おい、なんだその表情は!」

 

 ジーラの言葉に俺はあきれてもう何も言えなくなってしまった。

 

「お、俺を殺しても幻想郷の崩壊が止まるわけじゃない! 意味がないんだ! だ、だから殺さないでくれぇ! 死にたくない!」

「っ! だから言ったよなぁっ! 殺していいのは殺される覚悟がある奴だけだ。お前は殺される覚悟があったからこの幻想郷の人々を大量虐殺したんだろ? ならおとなしく死ねぇ!」

「そ、それは違うぞ。殺したのはお前自身だ」

「……」

 

 俺はその言葉を聞いた瞬間、刀を振るうのをやめ、止まってしまった。

 わなわなと体が震えてくる。

 

 俺が……殺した? みんなを、俺が殺した?

 そうだ。俺がジーラをあの時に殺していればみんなが死ぬことはなかったんだ。

 つまり、実質俺がみんなを殺したようなものじゃないか。

 

「真、そいつの話を聞くな!」

「あぁ、あぁぁぁぁぁ」

「お前が、お前がこの世界を破壊したんだよ! 一人一人残虐に、残酷に殺したんだ」

「てめぇ!」

「そうさ、お前が悪いんだ。お前が世界を破壊したんだ! 本当の悪はお前だったんだよ!」

 

 俺はジーラの言葉を聞くたびにどんどんと自分の罪の意識に苛まれて行ってしまう。

 本当に俺はここに居ていいのだろうか。この状況を作り出してしまったのは俺だというのに、異変解決組として仲間としていてもいいのだろうか。

 ただ自分で起こした異変を自作自演で解決しているだけなんじゃないだろうか。

 

 足を止めて地面に手を付けて打ちひしがれてしまう。

 

「海藤真!」

「龍生……」

「お前は誰だ、何者だ!」

「何を言って」

「良いから答えろ、お前は誰だ? 何者だ!」

「海藤……真」

「そうか、じゃあ海藤真。お前はどうしたい!」

「幻想郷を救いたい……」

「なら、そのために今やることは何だ? そうやって打ちひしがれることなのか!?」

 

 そうだ、そうだったな。

 今は落ち込んでいる場合じゃない。一刻も早くこの異変を解決するということが大事だ。

 なら今やることはただ一つ、ジーラを倒すこと。

 

「お、おい。いっただろ? 俺を殺すなんて無駄な行為なんだよ! 俺は悪くない! 幻想郷のみんなを殺したのは――」

 

 今度は失敗しない。

 ジーラの言葉を聞いていたらどんどんと罪の意識に苛まれてしまうかもしれない。

 

 立ち上がって足をばねの様に使って反動を使い、ジーラに一気に接近する。

 

「ぐあっ!」

 

 龍生がジーラを俺の方向へと蹴り飛ばしてくれる。

 もう、終わりにする――っ!

 

 自分の方へと飛んできたジーラの首をすれ違いざまに一刀両断した。




 はい!第221話終了

 ついにジーラ戦終了です。

 非常に疲れました……。

 もう少しでこのNormal Endの本番に入ります。

 それでは!

 さようなら


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