マリア(偽)さん家のおさんどん (数多 命)
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みんなでお弁当

正直やっちまった感はあります。
ひとまず、全国のマリアさんファンから『HORIZON†CANNON』を受ける覚悟は決めました()


「――――――っはあぁ!!は、は、は、は」

 

凍てつく水の中から這い出る。

雫をぬぐう暇は無い、そんな余裕は無い。

 

「は、は、は、は・・・・・ひゅ、ふ・・・・」

 

肺が冷気で侵されていく。

パキパキという音が、喉の奥で聞こえてくる。

脳が警鐘を鳴らす。

このままでは死ぬと悲鳴を上げている。

そんなことは百も承知なので、何とか手足を動かすものの。

とっくのとうに死に体のこの身に出来ることと言えば、雪の上に汚い土の跡を晒しながら這いずることだけだった。

 

「ゎうぅうぅうぅうぅうぅ・・・・!」

 

合わない歯の根がガチガチ震える。

壊れた機械のような連続音は、静かな木立ちの合間に響き渡り。

その狂気さを、一層醸し出していた。

 

「ぁ、が、は・・・・はぁっ、は、は・・・・」

 

四肢の指先の感覚なんて、随分前に消え去っている。

呼吸の度に文字通り胸が痛むのは、肋骨のどこかを折っているからだろう。

あるいは折れたそれが突き刺さっているのかも知れない。

それでも構わず動くのは、単純に死にたくないからだった。

 

「あ・・・・ぅ・・・・」

 

しかし、そんな無茶苦茶な行軍にも限界は訪れる。

ぼやけてにじむ視界。

全身は錘を一つずつ追加されるように重たくなり、動きが段々鈍ってくる。

それでも、なんとか、と、抵抗を試みては見たものの。

結局、鉛の如き疲労に屈してしまった。

 

「は・・・・・・は・・・・・・は・・・・・・は・・・・・」

 

まっさらな雪の上。

ぴくりとも動けない体にも、粉雪が積もり始める。

次第にか弱くなる呼吸。

もう何も映さない目に意味は無いと、とうとう目蓋を下ろす。

視界が真っ暗になれば、急速に遠のいていく意識。

『次』への期待と不安を抱く中。

雪を踏みしめる音を聞いた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――意識が浮上する。

うっすら目蓋を明ければ、澄んだ空気。

起き上がろうとすると、体が動かない。

見れば、しっかり抱きついている『家族』達。

笑みを一つ零してから、『ごめんね』と呟きつつ、手を解いた。

起こさない程度にカーテンを開けると、淡い朝日が心地よい。

伸びを一つ。

深呼吸をすれば、眠気が一気に吹き飛んでいった。

 

「んんー・・・・」

 

『さて、着替えよう』と、踵を返すと。

何だが魘されている声。

ベッドを見れば、さっきまで寝ていたところを、不安そうに手を彷徨わせている姿。

そっと抱き上げて、まだ寝ている家族に寄せれば。

まるで当然のように手を握り合い、さらにもう一人がその上から抱きしめた。

微笑ましさに、顔が喜色満面になるのを自覚しながら。

今度こそ着替えへ。

 

「――――さて」

 

さて。

特筆することもない着替えを終えて、キッチンに立つ。

朝食はすでに用意しており、自分の分は先に済ませてしまった。

今日は、大さじ一の牛乳とマヨネーズを加えたふわふわのスクランブルエッグに、カリカリに焼いたベーコン。

キャベツやにんじんを千切りにし、プチトマトを添えたサラダ。

それからトーストだ。

我ながらいい出来だったので、あの子達もきっと喜んで頬張るだろう。

いつもなら一緒に食事をするのだが、残念ながら今日はそうするわけにはいかない。

並べた材料を前に、腕をまくる。

 

(まずはおにぎりの具)

 

鮭はグリルで、たらこの焼く分はフライパンでそれぞれ焼く。

その間に生のたらこと高菜を、一口サイズに切っておく。

梅干も種を抜く。

 

(次にからあげ)

 

昨晩のうちに漬け込んでおいた(酒、醤油、摩り下ろしたしょうがとにんにく)、一口大の鶏もも肉。

調味料を切ってから、卵一個分を揉み込み。

それから小麦粉と片栗粉を同量まぶす。

ちなみに揉み込みを卵白だけにすると、パリパリサクッとして別のおいしさになる。

 

(160度から180度の油で、三分から三分半・・・・)

 

はねる油に注意しながら、フライヤーに鶏肉を入れていく。

三分経ったら、一度上げて肉を休ませて。

お玉で軽く叩いて、衣に亀裂を入れてから、一度目より少し高い温度で30秒から一分揚げる。

あとは油切れのよいバットに置いて、冷ましておく。

 

(それから玉子焼き)

 

卵にだし汁、醤油、砂糖、塩を入れ、よく混ぜる。

このとき、白身を潰しきらないのがポイント。

 

(そうすると旨みが逃げにくくなって、ジューシーに仕上がるんだったかしら)

 

玉子焼き用のフライパンを中火で熱し、薄く油をひいて。

十分に温まったら、卵液を薄く広げる。

そして気泡を潰しながら、奥から手前へ巻き上げる。

と、ここで。

慌しい足音が近づいてきて。

 

「――――おはよう、マリア姉さんッ!!」

 

勢いよくリビングに飛び込んできたのは、先ほど寝ぼけながら二人を抱き寄せていた妹だった。

 

「おはようセレナ」

「ごめん、一緒に作りたかったのに」

「私がやりたくてやってるんだもの、ほら、ごはん出来てるから」

 

よっぽど一緒に作りたかったのか、目に見えて落ち込んでいる彼女だったが。

用意した朝食を食べ始めれば、目に見えて幸せそうに顔をほころばせた。

 

「おはよう・・・・」

「おはようデス、マリア、セレナ・・・・」

「二人ともおはよう、顔洗っちゃいなさい」

 

少し遅れて、残りの家族が起きてくる。

そろって寝ぼけ眼をこする姿は、大変愛らしかった。

 

「お米がもうすぐ炊けるから、おにぎり一緒に作ってくれる?」

「うん」

「任せるデス!」

 

ちょうど、おにぎり用にゆっくり焼いていた鮭とたらこが焼けたので取り出す。

焼きたらこや鮭も、他と同じく一口大に。

ご飯もいいタイミングで炊けた。

そのままだと熱すぎるので、少し待ってから。

待っている間に家族みんなの朝食が済んだので、一緒に作ることに。

要であるご飯は、少しかために炊く。

軽く濡らした手に塩をつけて、熱々のうちに手早く、素早く。

握るというより、整える感じで。

 

「とはいえ、ちょっと熱すぎデース・・・・」

「だったらラップで握って、お塩は後からかけるといいわ」

 

後は炙った海苔を巻きつければ、出来上がりだ。

おにぎりは任せて大丈夫そうなので、その間にサラダを作ってしまう。

食べやすい大きさに野菜を切るだけだが、それだとちょっとつまらないので。

 

(洗ってとっておいたビンに・・・・)

 

サラダ油、酢、塩、荒挽きコショウを入れて。

振る、振る。

とにかく振る。

そしたら、自家製ドレッシングの完成だ。

 

「マリア、おにぎりも出来たデス!」

「じゃあ、つめちゃいましょ」

 

任せていたおにぎりもちょうど出来たようだ。

形が綺麗なものに混じった、不恰好なものが可愛らしい。

用意した重箱に、メインのおかずから詰めていく。

彩を考えながら配置したら。

 

「はい、お弁当の出来上がり」

「やったデース!!」

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

突然だが。

 

 

 

 

 

マリア・カデンツァヴナ・イヴには、前世の記憶がある。

 

 

 

 

 

 

 

「おめでとうございます、あなたは転生する権利が与えられました」

 

「ちょうど空いている体があるので、放り込んでおきますね」

 

「えっ」

 

なんてやりとりの後に目が覚めると、無機質な部屋のベッドの上。

何故か向けられる蔑んだ目線達が、一番古い記憶だ。

フィクションなら、『特典』の一つや二つもらっているところだが。

残念ながらそんな都合のいいこともなかった。

侮蔑や嘲笑を浴びせられる中、『ナスターシャ』を名乗る車椅子の女性は、唯一温もりをくれた。

マリアの名前と、姉妹がいること、そして、『白い孤児院』の事情を話してくれたことで。

ようやく自分が置かれている状況を知ることが出来た。

ノイズを唯一倒せるシンフォギア装者として、また、『古代の巫女』の器候補として教育されていたらしいマリア。

事故で妹を庇ったことによる記憶喪失(表向きそういう扱いになった)が原因で、研究者達は無情にも『処分』を決定した。

今までつぎ込んだものが全て無駄になった失敗作を、不要と断定したのだ。

何も分からないまま死んでしまうところを打開してくれたのもまた、ナスターシャだった。

マリアへ仮死状態にする薬品を投与した彼女は、買収した『ゴミ』処理班のスタッフにそれを運び出させ。

マリアを脱出させることに成功したのだ。

極寒の荒野に放り出してしまうことへの謝罪と、『本当の家族のように愛している』という伝言を、一振りのナイフと共に託して。

 

(生きなきゃ、ナスターシャさんの為にも生き延びなきゃ)

 

そんな想いを胸に、独り歩き出したマリアだったが。

大自然は、未成年の彼女にも容赦なく牙を剥いた。

凍てつく寒さと、熊や狼と言った捕食者に常時狙われる疲労で死にかけたところを。

幸運にも通りがかった人に助けてもらうことが出来た。

以来、その人物への恩返しも兼ねて、日本に腰を落ち着けることが出来たのである。

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

(あの時拾われていなかったら、どうなっていたことか・・・・)

 

物思いにふけった頭で空を見れば、清々しいほどの快晴。

春と呼ぶには聊か肌寒いが、つい一月前に比べれば十分温かい。

絶好のお出かけ日和だった。

 

「姉さん、どうしたの?」

「・・・・いいえ、なんでもないわ」

 

首を横に振って、視線を戻せば。

 

「調、玉子焼きおいしいデスよ!」

「うん、噛めば噛むほど味が出る・・・・さすがマリア」

 

にぎやかにお弁当を食べる家族達。

 

「確かにおいしい。姉さん、今度作り方教えて?」

「ふふ、いいわよ」

 

・・・・感覚としては、出会って半年ほどのはずなのに。

一緒にいると、どうしようもなく安心できる。

それはきっと、『マリア』が覚えているからなのだろう。

人間なんかでは到底及ばない存在、その気まぐれが起こした第二の人生。

歪なのは分かっている、異端なのは分かっている。

 

(――――それでも)

 

それでもこうやって、誰かと一緒においしいものを食べる時間を。

何気ない幸せを噛み締める自由を。

どうか許してほしいと願いながら、おにぎりを一口。

 

「――――ああ、おいしい」




マリア・カデンツァヴナ・イヴ
――――と言う皮をかぶった『誰かさん』。
死んだ自覚をしたと思ったら、死亡直後の『マリア』の体に放り込まれていた。
ナスターシャを始め、様々な人々に支えられ。
そのことに対してとても恩義を感じて日々を過ごしている。
メンタルは『本筋』に比べるとやや弱め。
だが仲間や家族の為なら、いくらでも己を投げ打てる。
『それで死んでも後悔しないと思う』とは本人談。
趣味は料理、腕前も確か。
装者はみんな胃袋掴まれてる。



原作との差異をちょこちょこ出しつつ。
ご飯をメインに、好きなように進めていく所存です。
拙作が、貴方様の暇つぶしを一助出来れば、此れ幸い。
まずはここまでお付き合いいただいたことに、めいいっぱいの感謝を。


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雨の日のトマトスープ

設定やらつじつま合わせやらに悩んでいたら、大分間が開いてしまいました。
それでも見てくださる寛大な方々へ、この最新話を捧げます。


しとしと、水滴が降り始めた。

一つ二つが、十や二十に増えて。

曇天から、滝のように。

 

「・・・・危機一髪、かしら」

 

取り込んだ洗濯物を畳みながら、外を眺めていた。

畳んだ傍から、各人ごとに取り分けていく。

盛り上がるテレビの音声に顔を上げると、セレナが海外で頑張っている姿が映し出されていた。

『がんばれ』という意味を込めて、薄く笑みを浮かべる。

と、ここで玄関のチャイム。

 

「はーい!」

 

来客か宅配か。

どちらなのかを考えながら、ドアを開けると。

 

「――――あ」

 

濡れ鼠になっている来客。

今まさにスカートを絞っていた彼女。

 

「悪い、雨宿りさせてくれ」

 

雪音クリスが、バツの悪そうな顔で立っていた。

 

 

 

 

 

 

――――マリアがクリスと出会ったのは、つい昨年の話だ。

その頃から恩人の下を離れ、訳あって二課に世話になり始めた頃だった。

朝起きて、ゴミ出しに出たところ。

路地裏で行き倒れているクリスを見つけたのが始まり。

当時も今日のように雨が降っていたこともあり、何よりマリアの性分が『放置』の選択をとれなかったため。

しばらくの間、家に匿っていた。

始めこそ疑い、警戒を示していたクリスだったが。

何かと世話を焼いてくれる態度に次第に絆されてしまい(ついでに胃袋も掴まれて)。

懐いてしまった次第である。

 

 

 

 

 

 

 

「クリス、着替え置いておくわね」

「あ、ああ」

 

風呂にいるクリスに声を掛けて、用意した下着と服を脱衣所に。

濡れた服を入れて荒ぶっている洗濯機の残り時間も確認しながら、リビングに戻る。

外は未だ雨模様、当分は止みそうになかった。

そんな中、ふと。

すぶ濡れで震えているクリスの姿が、頭を過ぎって。

 

(――――そうだ)

 

思いついたマリアは、早速行動に移すべくキッチンへ。

冷蔵庫と戸棚をあさり、必要な材料を取り出す。

 

(まずは)

 

洗った椎茸を切り、柄の部分を気持ち厚めの小口切りに。

バジルもみじん切りにする。

 

(『笠』の部分は、晩ご飯に出しましょ)

 

椎茸の笠は、ひだのある裏側にマヨネーズをたっぷりつけて、トースターへ。

お好みで七味をかければ、『椎茸のマヨネーズ焼き』の完成だ。

食事の小鉢に良し、晩酌のおつまみにも良し。

マヨネーズが椎茸独特の臭みを中和してくれるので、苦手な人でも食べられる。

 

(と、今はこっち)

 

晩ご飯の思考から戻って。

フライパンに少し多めのオリーブオイルを引き、椎茸を炒める。

途中でバジルも投入。

椎茸がややしんなりしてくるまで火を通し、とっておく。

 

(次にトマト缶)

 

取り出して実を潰したトマト缶を鍋へ。

そこに、缶を濯ぎつつ水を投入。

 

(感覚としては缶1.5杯くらい、トマトが濃いなと感じたら二杯でも良し)

 

くつくつ煮えてきたら、ミックスベジタブルと、さっき炒めた椎茸を投入。

更に煮込む。

と、間もなく風呂の戸が開く音。

クリスが上がってきたようだ。

振り向けば案の定、タオルを片手にリビングに入ってくる。

 

「その、ありがと。助かった」

「気にしないで、それと、もう出来るから」

 

一口味見。

火がしっかり通ったことを確認して、コップに注ぐ。

 

「はい、あったまるわよ」

「お、おう」

 

クリスが飲み始めてから、マリア自身も飲んでみる。

まずくるのは強いトマトの味、そこに椎茸から出た旨みが加わってくる。

椎茸の臭みは、狙い通りバジルとオリーブオイルが中和してくれていた。

そこにミックスベジタブルの甘さと、バジルにオリーブの香りがアクセントを加える。

今日はどちらかというと家にいた方だったが、温もりが五臓六腑に染み渡っていった。

 

「――――何だか懐かしいわ、前まではこうやって、二人で食べていたわね」

「・・・・別に、焦がれるほど昔ってワケじゃないだろ。それに、今もちょくちょく来てるし」

「それでもよ」

 

マリアが元の家族と再会したことをきっかけに、今は別居している二人。

昔を懐かしむマリアの言葉に、そっけない反応を見せるクリスだが。

赤くなった頬が、本心を雄弁に語っていた。

 

「晩御飯、食べてく?」

「・・・・ん」

 

ここでからかったら拗ねてしまうので、それ以上は突っ込まない。

マリアの提案に、クリスはスープを飲みながら頷いたのだった。

 

「ただいま・・・・!」

「不意打ちとは卑怯デース!」

 

玄関が騒がしくなる。

調と切歌が戻ってきたようだ。

二人も急な雨にやられてしまったらしい。

マリアがタオルを手に出迎えれば、案の定雫を滴らせていた。

 

「おかえり、お風呂沸いてるから入っちゃいなさい」

「はーい・・・・」

「誰か来てるの?」

 

拭いてやる傍ら、髪を解きながら調が首をかしげる。

どうやら靴に気づいたらしい。

 

「ええ、クリスが来てるの。ごはんも食べてくって」

「そっか」

「お手伝いするデス!」

「お願いね」

 

一通り雫をぬぐって、それぞれリビングに行けば。

くつろいでいるクリスと鉢合わせるのは、当たり前のことで。

 

「あーっ!クリスさん、おいしそーなの食べてるデス!」

「うっわ、バカ!お前まだ濡れてんじゃねーか!こっちくんな!」

「切ちゃん、風邪ひいちゃうよ・・・・」

 

先ほどまでの静けさが嘘のように、一気に騒がしくなるリビング。

不快感はなく、むしろ心地の良い賑やかさだ。

 

「ほーら、調と切歌はお風呂に入る。風邪でもひいたら、セレナも心配するわよ?」

「分かったデス!」

「はーい」

 

今日もまた、温かい時間が過ぎていく。

そして、明日も。

今度はどんな笑顔を見られるのか。

楽しみにしながら、マリアはまた鍋を振るうのだ。




『椎茸のマヨネーズ焼き』は、ビールにも合いそうですね。
作者は飲まない人間なので、想像するしかできませんけども←


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ツヴァイウィングのキムチチャーハン

覚えている人はきっといない最新話です。


最初は敵。

次々悪事を働く不届き者。

でも今は――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おおお・・・・!」

 

とある和風邸宅。

その居間で、住人である『風鳴翼』はきれいにまとめられた荷物に目を輝かせていた。

彼女自身整理整頓が苦手なこともあり、『きっちりそろえられた私物』は十分感動の対象になるらしい。

 

「ありがとなー、マリア。あたしだけじゃこうはならなかった」

 

微笑ましく見守るマリアの隣でお礼を言うのは、『天羽奏』。

翼の親友であり、『ツヴァイウィング』というボーカルユニットを組んでいる相棒でもあった。

 

「じ、自分でもできるようにならねばと、思ってはいるのだが・・・・」

 

奏のからかうような視線を受けた翼は、感動から一転。

どこか気まずそうに眼をそらしてしまう。

 

「きっと今からでも出来るわよ」

「・・・・そう、だな」

 

マリアが励ましを伝えると、持ち直したように手を握った。

 

「ひとまず、モノは床に置かないってとこから覚えるか!」

「奏ぇ!!」

 

再び奏がからかい、翼が悲鳴じみた声を上げる。

それもつかの間。

三人分の笑い声が起こり、ほがらかな空気になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

三人の出会いは、四年前に遡る。

当時、まだ『恩人』の下にいたマリアは、その指示に従って聖遺物の蒐集に当たっていた。

『怪盗キャッツアイ』と名乗り、窃盗を繰り返す不届き者への対抗戦力として。

シンフォギア装者である奏と翼に白羽の矢が立ったのである。

その後紆余曲折を経た三人の間で絆が結ばれて。

現在は、親友と呼べる間柄になっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

状況を区切るように、壁掛けの時計が正午を知らせた。

 

「っと、もうこんな時間か」

 

『そういえば腹が減った』と、奏は腹をさする。

 

「台所を借りていいなら、私が作るけど?」

「いやぁ、荷造り手伝ってもらった上にそれは悪いよ」

「だな、いつも馳走になっているのだし」

 

マリアの申し出に、首を横に振る奏と翼。

一様に立ち上がると、腕まくりをして。

 

「たまにゃ、あたしらがご馳走するよ」

「・・・・じゃあ、お願いしようかしら」

 

数年来の付き合いの、親友たちの言葉に。

マリアは頷いて答えたのだった。

 

「材料はそろってたはずなんだよなぁ」

 

さっそく連れ立って台所に来た奏と翼。

奏がぼやきながら冷蔵庫を開け、中身を確認する。

 

「たまご、長ネギ、ピーマン、かまぼこ、にんじん、チャーシュー・・・・おっ、キムチもあるな」

「それじゃあ、今日は?」

「おう、キムチチャーハンと行こうか!」

 

言いながら、手早く材料を取り出していく奏。

 

「切るのはまかせて」

「というかそれくらいしかできないもんな」

「ぐ・・・・」

「はは、冗談だよ。十分進歩してんだから」

 

ややむくれながらも、翼は慣れた手つきで包丁を取り。

次々食材を細かく切っていく。

目安としては、ご飯粒と同じくらい。

火を通りやすさ、食感のためだ。

なお、長ネギのみじん切りは、まず蛇腹切り、あるいは十字切りをしてから小口切りにするとやり易い。

 

「おー、やっぱ翼がやると早いや」

 

きれいに刻まれた材料を見て、奏は感嘆の声を上げた。

 

「っと、こっからはあたしだな」

 

気を取り直して、奏はフライパンを火にかける。

温まったところに油をひき、まずはにんじんを炒め始めた。

五割ほど火が通ったところで、チャーシュー、ピーマン、かまぼこを加えて。

さらに炒める。

しっかり火が通ったら、いったん皿に取り出す。

 

「たまごはー?」

「溶き終わってるよ」

「あんがとー」

 

翼からお椀を受け取り、溶き卵をフライパンへ。

細かな粒を作るイメージで炒め上げる。

その後、卵が固まり切らないうちにご飯を投入。

へらで切るように、米の一粒一粒が際立つように混ぜていく。

途中、先ほど炒めた具材、それからネギとキムチも加えて。

更に炒めていく。

 

「おっしゃ、仕上げだ!」

 

味付けの塩コショウ、酒を入れてもうひと混ぜした後。

鍋肌から、香りづけの醤油を流し入れれば。

焦げた醤油のいい香りが漂ってきた。

 

「へへっ、そーれっ!!」

 

気分が上がってきたのか、中華専門店さながらの鍋返しを見せる奏。

なお、一般家庭のコンロならゆするだけでも良い。

店のコンロに比べて火力が足りないので、やりすぎるとフライパンに張り付いてしまう恐れがある。

 

「それ好きよね、奏」

「でも、楽しそうで何よりだ」

 

いつの間に見ていたのか、マリアがのんびりと感心している。

と、思ったら何かやってる。

 

「何作ってんだ?」

「たまごスープ、じっとしてるのが落ち着かなくて・・・・一応、一言いったわよ?」

「・・・・なるほど」

 

焼きあがったチャーハンを皿に盛りつつ問いかけると、そんな返事が。

キッチン用のハサミで三等分してほぐしたカニカマを、市販の固形たまごスープの素に加えているようだった。

『一言いった』のところで翼に目をやると、こっくり頷く。

自分が気づかなかっただけかと、奏は一人納得した。

 

「まあ、そんなこんなで、チャーハンいっちょあがりッ!」

「わー!」

 

キムチの赤に、玉子の黄色やピーマンの緑が添えられた。

見た目も楽しいチャーハンだ。

『いただきます』と手を合わせた面々は、さっそく一口。

口の中でさっとほぐれるパラパラのご飯に、食感にアクセントを加えるピーマンとにんじん。

焼豚やネギといった食材たちが食べ応えを演出して、その全てをキムチのきりっとした辛みと酸味がまとめている。

 

「うん、ご飯もぱらぱら、意外と難しいのよねぇ」

「だろ?」

 

舌鼓を打つマリアに、得意げに笑う奏。

 

「たまごスープも美味だ、ひと手間でこれほどとは。さすがマリア」

「ふふっ、ありがとう」

 

汁物を一口飲んだ翼の誉め言葉に、今度はマリアが笑った。

――――最初は敵。

次々悪事を働く不届き者。

だが、今はどうだろうか。

紆余曲折を経たとはいえ、、それがきっかけで絆が結ばれた親友同士であるのに変わりはない。

とても異な巡り合わせもあるものだと、一人改めて感心しながら。

マリアはまたチャーハンを口にした。



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