NARUTO 六道へ繋がる物語 (アリアンキング)
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下忍誕生編
第一話 新たな忍が生まれた日


今回、ある切っ掛けからこの作品を書く事にしました。
なるべく原作の雰囲気を壊さぬ様、自分なりの表現を加えてみました。


自分が書く新しい作品をお楽しみ下さい。


 火の国 木ノ葉隠れの里 豊かな自然と穏やかな気候に恵まれ、争い事とは無縁のこの里は今、未曾有の危機に襲われていた。

 

 伝説の妖狐 九尾の襲来。尾の一振りで山を吹き飛ばし、その大きな口から放たれる咆哮で家々が崩れ、存在全てを潰さんとする行進は大地を揺らす。この雄々しき姿に人々は恐怖し、絶望に飲まれる最中。自里を守るべく、集いし里の忍達が勇猛果敢に九尾へ立ち向かっていった。

 

 

 しかし、力の差は歴然で一人、また一人と忍は傷付き倒れていく。最早此処までと誰もが諦めた時、一人の若者が九尾の前に立ちはだかった。その名は四代目火影。

 彼の者の生死をかけた戦いの末、九尾の封印に成功するものの。その代償として彼もまた命を落としてしまう。

 

 

 

 かくして木ノ葉の里を襲った最大の危機は、勇敢な多くの忍と四代目火影の犠牲の元、幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 それから13年の歳月が過ぎ 九尾によって破壊された里も今は復興し、人々は明るい生活を取り戻していた。楽しげな子供の笑い声、商売に精を出し活気に溢れて賑わう里の様子を一人の老人が優しい目で眺めていた。そんな老人の背後に紅い髪の女性が音も無く現れる。女性は佇む老人の傍に寄ると声をかけた。

 

「全く、探しましたよ火影様。部屋にいないと思ったら此処にいたんですね」

「サチか。今日は良い天気だったものでな。少しばかり外の空気を吸いたくなったんじゃよ」

「気持ちは解りますけど、私が来る事は連絡していた筈ですよ」

「すまんな。それでワシに何の用じゃ?」

 

 火影と呼ばれた老人 猿飛ヒルゼンにサチはジト目を向け苦言を洩らすが、本人は何処吹く風といった様子ではぐらかされてしまう。結局、こうなるのかとサチは深い溜息を吐いた後、表情を引き締めると本来の用件を切り出した。

 

「今回の任務。多少、予定外の事がありましたけど…成功しました」

「そうか。此度の任務、ご苦労であった」

「ありがとうございます」

 

 優しい声で労うヒルゼンにサチも微笑みを浮かべて言葉を返す。分け隔てなく接し、部下を労わる事を忘れないヒルゼンをサチは誰よりも信頼し、誰よりも尊敬していた。任務の報告を終えた後、サチはもう一つの用件を話し出す。

 

 

「それと火影様。明日の事ですが‥」

「みなまで言わなくても分かっておる。明日は休暇が欲しいのじゃろ」

「はい。我儘言って申し訳ありません」

「何、気にするでない。確か、明日はお前の弟がアカデミー卒業試験を受ける日だったな」

「今回で三度目です。次こそ、合格してくれるといいのですが」

「うむ。本人を前に言うのも何だが、今回も駄目かもしれんぞ。試験は明日にも関わらず、肝心のあやつは相変わらずの様だしな」

「見た時にもしやと思いましたが、あれはあの子の仕業でしたか」

 

 

 サチは崖に掘られた歴代火影の顔岩に目をやった。威風堂々と里を見守る顔岩の到る所に落書きがされており、見るも無残な光景となっている。引き攣った顔で呟くサチにヒルゼンも頷き、相槌を打つ。

 

 

 

「そうじゃ。やったのはお前の弟。うずまきナルトじゃよ」

「も、申し訳ありません。あの子にはきついお灸を据えておきます」

「いや、その必要は無い。それは既にイルカがやっておるからな。その代わりと言っては何だが、お前に今から任務を頼みたい」

「今からですか。謹んでお受けします。それで任務の内容は?」

「内容は至って簡単でな。隣街まで行商人を護衛して貰うだけじゃ」

「それなら今日の夜までに終わりそうですね。早速、出発します」

「うむ 頼んだぞ。遅くなる事をナルトへはワシが伝えておく。お前も気を付けるのだぞ」

 

 

 心配するヒルゼンに一礼して、サチはスッと姿を消した。そして入れ替わる様に、今度は担任の海野イルカと騒動の張本人、うずまきナルトが姿を現した。相当、絞られたのか不貞腐れていた。反省の色が無いナルトにイルカが注意するが、本人は増々不貞腐れる始末である。このままでは埒が明かない。咳払いをしてヒルゼンは、ナルトへの処罰を口にする。

 

 

「ナルトよ。此処に呼ばれた理由は既に分かっておるな?」

「悪戯の後始末だろ。イルカ先生にも散々言われたってばよ」

「ナルト!! 火影様にその態度は何だ。第一、悪戯をしたお前が悪いんだろうが…」

「へいへい。反省してるし、ちゃんとやりますーだ」

「こ、こいつ……。申し訳ありません。しっかりと始末が終わるまで見張って起きますので」

「そうか。ならば後はイルカに任せよう。それとナルト。今日、サチは任務で帰りが遅くなる。終わったら真っ直ぐ帰れよ」

 

 

 ナルトへ言伝を残すとヒルゼンは立ち去った。ナルトは顔岩から吊るされた足場に乗り、愚痴を溢しながら落書きを消していく。そんなナルトを黙って見下ろしていたイルカだったが、反省の色が無いナルトへ厳しい言葉を投げ掛ける。

 

「ぶつぶつ言わんと手を動かせ。綺麗にするまで家には帰さないからな」

「…ふん。別にいいよ。今日は姉ちゃんもいねえし、家に帰っても一人だもんよ」

 

 

 そう言って、ナルトは掃除を再開した。何処となく、寂しげなその姿にイルカは何も言えなかった。その後、無言の中。漂う空気に耐えきれなくなったのか。イルカは重い口を開いてナルトの名を呼んだ。今度は何だとイルカを見上げ睨むナルトに、イルカは照れた様に頬を掻き言葉を続けた。

 

 

「その…なんだ。これを全部きれいにしたら、今日はラーメンでも奢ってやるよ」

「本当? よーし 俺さ、頑張るから約束だってばよ」

「分かったよ。だったら、手を動かせ」

 

 

 イルカの言葉を聞き、途端にやる気を出したナルトは、手を休める事なく次々と落書きを消していく。そんなナルトをイルカは微笑ましく見つめていた。全ての顔岩が綺麗にする頃には既に陽も沈み、辺りは夜の帳に包まれていた。

 

 

 約束通り、イルカはナルトと一緒にラーメン屋にいた。余程、お腹が空いているのか。無我夢中でラーメンを啜るナルトに向かってイルカは静かに問い掛ける。

 

「なぁナルト」

「ん?何だってばよ」

「どうしてあんな事をしたんだ?お前だって、火影がどういう人達くらいは知ってるだろ」

「当然じゃん。火影と呼ばれる人は里一番の忍者って事でしょ。特に四代目は九尾って化物から里を守った英雄だって有名だしさ」

「じゃあ何で?」

「俺はさ いずれ火影になりたいんだ。そんでどの火影も超えて、皆に俺の事を認めさせてやるんだってばよ」

「…どの火影も超えるか。だったら、授業もサボらないでしっかりと出ろ。まずはそこからだぞ」

「うっ そ、そうだ。イルカ先生。一つお願いがあるんだけどさ」

「お願い?ラーメンのお代わりか?」

 

 

 イルカの話に旗色が悪いと感じたのか、ナルトは話を逸らすべく話題を変えた。それに気付かず、イルカはナルトに聞き返す。

 

「いや、そうじゃなくて。先生がしてる額あて、俺にもやらせてくれよ」

「あー これか。そいつは無理だな。これはアカデミーを卒業して一人前として認められた証だからな。欲しいなら明日の卒業試験を突破するんだな」

「ちぇ 先生のケチ」

「おいおい。ラーメン奢ってもらってケチは無いだろ」

「そうよ。人に文句を言うより前に、貴方はするべき事があるでしょ。ねぇナルト」

 

 

 突然、聞こえてきた声にナルトは冷汗を掻いて固まった。隣にはいつの間にかサチが座っており、微笑みながらナルトを見下ろしていた。姉がこういう風に笑う時、それは心から怒っている。それを分かっているナルトが取る行動は一つ。

 

「悪戯をしてごめんなさい」

「他に言う事はある?」

「帰ったら、明日に備えて復習します」

「よろしい。私も手伝うから、明日はしっかり頑張りなさい」

「へへ 勿論だってばよ」

 

 

 ふいに見せたナルトの思わぬ一面に、イルカは口を緩める。いつも騒動を起こしては手を焼かせる問題児も、姉の前では普通の少年に戻るようだ。仲睦まじい姉弟のやり取りを見ていると、自分の視線に気付いたのか。サチは恥ずかしそうに笑うとイルカに話しかける。

 

 

 

「今日は弟が迷惑を掛けたわね。それに夕飯の面倒まで。流石に悪いし、代金なら私が払うよ」

「気にするな。それにラーメン奢るのは約束だからな。遠慮するな」

「そう?なら今回はお言葉に甘えるわ。お礼は今度するから」

「おう。いいかナルト、帰ったら試験の復習をしっかりやれよ」

「分かってるって。今日はラーメン奢ってくれてありがとな。イルカ先生」

「それじゃあ、明日の事もあるし、もう行くわね」

「…サチ。気合入れるのはいいけど、あまり根詰めすぎるなよ」

「そうね。肝に銘じとく」

 

 

 

 そう言って、二人は仲良く家路に向かっていく。次第に遠ざかっていく二人の後ろ姿をイルカは何処か、羨ましそうにぼんやりと見つめる。それは二人が見えなくなるまで続いた。

 

 

 

 

 

 

 翌日 アカデミーの教室には多くの生徒達が集まり、落ち着かない様子で席に着いている。中には貧乏揺すりをする者がいる中、熱心に教科書で予習をする者もいる。ナルトもそんな一人であり、彼は机に突っ伏して不安な面持ちで試験の開始を待っていた。すると教室の戸が開き、担任のイルカが姿を見せると生徒達は一層、緊張した表情を浮かべる。

 

 

 イルカは教卓に立ち、生徒達を見回すと静かに口を開いた。

 

 

「さて、これから卒業試験を始める。本日、行う試験の内容だが、皆には分身の術をやってもらう。名前を呼ばれた者は隣の教室に移動する様に。そこで俺ともう一人の先生が採点をして合否を言い渡す。それじゃあ、まずは‥」

 

 

 ナルトはイルカの言葉に愕然とした。まさか自分が苦手な術がお題になるとは思ってもいなかった。昨夜、姉と試験に出そうな術の練習をしたが、何一つ成功した事は無い。一体、どうしようかと悩んでいる内に試験は進んでおり、遂に自分の番がやってきた。

 

 

 

 此処まで来たら、やるしかない。自分を注目する試験官の視線に胸が高鳴る中、気合を入れて印を結んで術を繰り出すも、現れた分身は床に倒れ込み脱力していた。誰がどう見ても術は失敗で試験官の一人、イルカは呆れた様子で失格を通告した。

 

 

 

「イルカ先生。今回で三度目ですし、彼も合格にしてはどうです?一応、分身は出来てますし」

「駄目です。他の子は大体、三体の分身を出すのに、ナルトは一体だけ。しかも出た分身は足手まとい。これでは合格を出す訳にはいかない。ナルト お前の試験は以上で終わりだ」

 

 

 目に見えて落ち込むナルトに別の試験官 ミズキが見かねて助け舟にナルトは期待の表情を浮かべるが、イルカはそれを跳ね除けた。皆、努力して結果を出している中、結果を出せないナルトを特別扱いは出来ない。厳しい言葉を告げるイルカをナルトは悔しそうに睨むが、俯き重い足取りで教室から出ていった。

 

 

 

 

 

 全員の卒業試験が終り、アカデミーの校庭には合格を祝う親子達の姿で溢れていた。その中で一人。落第したナルトは片隅のブランコに跨り、父や母に褒められて喜ぶ子供達を悲痛な顔で眺める。

 

 

 そんなナルトの姿に気付いた大人達は、ひそひそと話し出す。

 

「ねえ あの子」

「ああ 例の子よ。一人だけ落ちたみたいよ」

「フン いい気味よ。普段から碌な事しないし、あんなのが忍になったら大変だものね」

「全くだわ。あの子もよくあんなのと一緒にいれるわね。何だって、あの子は…」

「ちょっと。それ以上は禁句よ」

 

 

 その会話はナルトの耳にも届いていたが、言い返す事もなくその場を立ち去った。ナルトの脳裏に浮かんだもの。それは姉のサチの事だった。昨夜、任務で疲れているのに嫌な顔を一つせず、術の練習に付き合ってくれた姉。何度も失敗する自分を見限らずにいてくれた姉。だからこそナルトは何が何でも試験に合格したかった。

 

 そして卒業の証を持ち帰って姉を喜ばせたかった。当てもなく、街をぶらついていると背後から自分を呼ぶ声が聞こえた。正直、今は放っておいて欲しいと思う反面。誰でもいいから自分の気持ちを聞いて欲しい。そんな思いもあり、後ろを振り変える。ナルトへ声を掛けた者、それは試験官のミズキだった。

 

 

 彼はナルトの目を見て、静かに口を開く。

 

 

「良かったら、少し話をしないかい?」

「話って、何の話だよ」

「…イルカ先生の事についてね。何故、あの人があれ程まで君に厳しいのか。その訳を・・・ね」

「どうせ‥・俺が落ちこぼれだからに決まってるってばよ」

「君は本当にそう思うのかい?決めるのは話を聞いてからでも遅くは無い筈だよ」

 

 

 ぶっきらぼうに答えるナルトだが、返って来た返事に言葉が詰まる。ナルト自身、イルカがそんな理由で厳しくしているとは思っていない。考えてみると、自分はイルカの事を知っている様で知らない。そして目の前にいるミズキはその訳を知っている。彼に聞けばそれが分かるだろう。ナルトの決断は早かった。

 

 

「じゃあ、俺に厳しくする訳を教えてくれよ」

「分かった。その前に場所を変えよう」

 

 

 

 

 

 ミズキに着いていくと街が一望出来る屋上に辿り着く。その一角に腰を下ろすとミズキはゆっくりと語り始めた。

 

 

「実はね。イルカ先生には親がいないんだ。だからこそ、小さい頃から一人で色んな事を真面目に頑張って来た」

「それが‥何で俺に厳しくするんだよ」

「似てるからだよ。自分の境遇とね」

「……俺は一人じゃねえ。俺には姉ちゃんがいる」

「そうだね。でも、親がいないのは同じだ。そして君も君のお姉さんも苦労してる。それ故、君に強くなって欲しい。周りに負けない様に。お姉さんを支える事が出来るくらいにね。それは君も分かるだろう?」

 

 ミズキの言葉にナルトは頷いた。だからこそ、自分は忍者になろうと思った。姉と同じ忍者になって、隣に立ちたいとも。だけど、自分は今回も試験に失敗した。姉は優しいからまた頑張ればいいと励ましてくれるだろう。だが、アカデミーへ通うのもタダではない。その学費を工面するのは姉だ。自分の所為で、姉に余計な苦労を掛けたくない。それ故、ナルトは今日の試験を何が何でも突破したかった。その想いはナルトの口をついて自然と漏れだ出していた。

 

「分かるってばよ。だから卒業したかった」

 

 

 ナルトの言葉にミズキは思わずほくそ笑む。撒いた餌に食い付いた。これであとは釣るだけ。ミズキは表情を戻すとある提案をナルトへ持ち掛けた。

 

「仕方ない。君にとっておきの秘密を教えよう」

「秘密?」

「ああ。実は…」

 

 

 ミズキはナルトの耳元に口を寄せ、その事を語る。話の内容に疑いを持つナルトだったが、耳にしたある言葉がナルトを突き動かしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 夜 自宅にいたサチは未だ帰らないナルトを心配していた。時計を見れば、時刻は20時を過ぎている。恐らく試験に落ちてしまい、それで帰れずにいるのだろう。いくら里内が安全とはいえ、子供がうろつく時間帯ではない。待っていてもしょうがないとサチはナルトを迎えに行こうとした時、自宅の戸を叩く音が聞こえた。大分、強く叩いているのか。その音は部屋の奥まで届く程だった。

 

 不躾な来訪者に顔を顰めながらサチは戸を開けると、外にいたのは汗だくになったミズキであった。彼はサチを見るや、「緊急招集です。急いで火影様の元に向かって下さい」と早口で捲し立てた。突然の事に困惑の色を隠せないサチはミズキへ説明を求めた。

 

 

「何が起きたの?まずは事情を話して」

「君の弟 ナルト君が里で保管してる封印の書を持ち出した」

「な、それは本当なの!?」

「ええ。封印の書らしき物を持って火影邸から去るナルト君が目撃されたと。今、他の忍も火影様の所へ向かってます。サチさんも来て下さい」

 

 

 

 ミズキの焦り様からこの話は事実なのだろう。サチは急いで着替えるとミズキと共に火影邸へと向かった。火影邸が見えてくると報せを受け集まった忍達が騒いている。皆、一様に取り乱して火影に詰め寄る姿に起きている騒動の大きさが伺い知れた。ヒルゼンに詰め寄っていた忍の一人がサチに気付くと、彼はいきり立って今度はサチへ詰め寄った。すると他の忍達も次々とサチへ怒号を飛ばす。

 

 

「おい お前の弟がやらかしたこの始末。一体どうするつもりだ!? もう悪戯では済まされんぞ!!」

「依りによって、禁書を盗むとはな。何かあったら、全て貴様の責任だぞ」

「全くだ、普段から碌な事をしないガキだと思っていたが、此処まで馬鹿だとはな」

「大体、お前があのガキの管理をしっかりとやらないからこうなるんだ」

 

 

 唇を噛み締め、罵詈雑言に耐えていたサチだったが、弟を物扱いする言動に怒りを覚えてその発言をした相手を睨みつける。一瞬、サチの眼光に怯んだが相手は一層、大きな声でサチを怒鳴りつけてきた。収拾が付かなくなってきた場を収めるべく、ヒルゼンは口を挟んだ。

 

 

「止さんか。今は内輪揉めをしている場合ではない。あやつが禁書を持ち出してからかなりの時間が過ぎている。取り急ぎ、ナルトを見つけ出して禁書を取り戻す事が先決じゃ」

『はっ』

 

 

 ヒルゼンの言葉で集まった忍は一斉に散っていく。その中、未だに起きている事が信じられないのか。その場に残ったサチは静かな口調でヒルゼンに尋ねた。

 

 

「この騒動、本当にナルトの仕業なんですか?」

「残念ながら事実じゃ。禁書を持って里を駆けるあやつを見た者もおるからな」

「それにしたって、不自然です。厳重に保管されてる書物が子供に持ちだせる筈がない」

「ふむ。お前もそう思うか」

 

 

 サチの言葉にヒルゼンは一言、そう呟く。保管庫には禁書以外に里の機密等も存在する。それ故、管理は厳重で子供が手を出せる程甘くは無い。だとすれば、誰かが手引きした可能性がある。

 

「そう思うって…火影様は今回の真犯人に心当たりが?」

「概ね、やりそうな者は健闘が付く。サチ、ワシは今からそれを確かめる。お前もナルトの捜索に取り掛かれ」

「了解」

 

 

 ヒルゼンが言う真犯人の正体も気になるが、サチは気持ちを切り変えてナルトの捜索を開始した。先に里へ散った忍達はかなり興奮していたし、彼らがナルトを見つけたら手荒な行動に出るだろう。それに真犯人が里の人間なら騒動が発覚した事も知っている。そうすれば、証拠隠滅の為にナルトを殺すに違いない。そんな最悪の未来を想像し、一刻も早くナルトを見つけねばとサチは更に速度を上げて里を駆けていく。

 

 

 

 

 

 一方のナルトは里でそんな事が起きているとは知らず、持ち出した禁書を手に術の練習に励んでいた。休憩する事なく続けていた為か、全身ぼろぼろの状態で地面に座り込む。乱れた呼吸を整えていると自分に被さる影が出来た。緩慢な動作で首を上げる。すると視界に入ったのは、息を切らせたイルカだった。ボタボタと流れ落ちる汗を拭ってナルトを問い詰める。

 

 

「この馬鹿者。散々、探したぞ。一体、お前はこんな場所で何をやっていた?」

「何って、術の練習だってばよ。街だと人気が多いし、一人で集中したかったから」

「術の練習?まさか、その為に禁書を持ちだしたのか」

「禁書って?この巻物の事?」

 

 

 イルカの言葉にナルトは首を傾げて背負った巻物に目をやる。その様子にイルカの中に違和感が生まれた。里内では禁書が盗まれた騒ぎになっているが、ナルトはそれを知らない。違和感の正体を探る為、イルカはある事をナルトへ質問した。

 

 

「お前… それの事を誰から聞いた?」

「ああ。この事を教えてくれたのはミズキ先生だ。この巻物に書いてる術を覚えて自分に見せれば、卒業させてくれるって言うからさ」

「ミズキだと...。そうか、そういう事だったのか。っ...!?」

 

 

 ナルトの口から出た名前にイルカは驚愕する。違和感の正体に気付いた時、ナルトの背後から殺気を感じて咄嗟に彼を付き飛ばした。それと同時に無数のクナイがイルカの体に突き刺さる。目の前には木の上から冷たい視線を向けるミズキの姿もあった。

 

 

 

 いきなりの出来事にナルトは呆然としていた。ナルトは視線をイルカとミズキ。交互に見て、起きている事に混乱しながら叫んだ。

 

「あのさ あのさ。これってどうなってるってばよ。何でミズキ先生がイルカ先生を…?」

『ナルト 巻物を渡せ』

 

 

 

 しかし、ミズキはナルトの問いに答えず。自分の要求を告げる。その言葉を掻き消す様に今度はイルカがナルトに向かって叫ぶ。

 

 

「ナルト!! その巻物は死んでも渡すな。それは禁じ手とされた忍術が書かれた危険なものだ。あいつはそれを手にする為にお前を利用したんだ。在ろうことか、お前に罪を被せて殺すつもりだ」

『分かってるなら話は早いな。ナルト。もう一度言うぞ。巻物を渡せ。それはお前みたいな化物が持っていても意味がないんだよ』

「俺が…化物?何言ってるってばよ。意味が解らねえぞ」

『…そうか。お前は知らなかったっけなぁ。いいさ 冥途の土産に教えてやるよ』

「バ、バカ 寄せ!」

 

 

 大声でミズキを制止するが、彼は無視して話を続ける。

 

『13年前。里を襲った九尾の話は知ってるだろ。あの事件以降、ある掟が出来た。お前だけには秘密の掟がな』

「俺だけ? その掟って何ってばよ!?」

『それはな。お前が化け狐と口にしない掟さ。里を襲って、多くの人間を殺した事を里の重要な秘密として伏せられたのさ。因みにお前が殺した人間の中にはイルカの両親もいたんだよ』

「……嘘だ、そんな話」

『嘘じゃねえ。全て事実だ。あとは知っての通り、お前が憧れる火影に封印された挙句。里の奴らに騙されていたんだよ』

「それ以上、言うなぁ。もうやめろ」

 

 悲痛な叫びを上げるイルカだが、愉悦に浸っているミズキに効果は無く。歪んだ笑みを浮かべて、更に言葉を続ける。

 

 

『おかしいと思わなかったのか?里の連中から冷たい目で見られてよ。本当はイルカもお前を憎んでいるし、お前の姉だって心の内ではお前の事が邪魔だと思ってるんだよ』

 

 

 ミズキの話を聞いていたナルトは俯き、肩を振るわせて涙を流していた。その隙を突いてミズキは背負った手裏剣をナルトへ投げ付けた。ミズキの手を離れた手裏剣がナルトに当たる瞬間、間に入ってイルカが身を挺してナルトを庇う。傷付きながらも自分を庇うその行動が理解出来ないナルトは、掠れた声でイルカに問い掛けた。

 

 

「…何で?」

「俺もなぁ。両親がいないから。自分を褒めてくれたり、認めてくれる人もいなくて寂しかった。優秀な訳じゃないから人と比較されて悔しい思いをした事だってあった。時折、バカをやって皆の気を引いたりもした。どんな形でも自分を見て欲しいと思っての事だ。だけど、家に帰れは一人ぼっち。いつも苦しかった」

 

 初めて知るイルカの過去。黙って聞いてたナルトの顔に一粒の滴が落ちた。気付けばイルカは涙を流し、自分を見下ろして震えた唇から言葉を紡ぎ出す。

 

 

「そうだよなぁ... 訳も知らず皆から冷たくされて、お前も苦しかったよなぁ。アカデミーでいつも姉ちゃんと比較されて、悔しいから努力しても皆に認められなくて辛かったよなぁ。姉ちゃんがいない時は家に一人ぼっちで、寂しかったよなぁ。ごめんなぁ... ナルト。俺が…俺達大人がしっかりしてれば、こんな事にならなかったのになぁ」

 

 

 涙を流して謝るイルカの顔を見つめるナルトは、不意をついてその場を走り去った。痛みを堪えてナルトの名を呼ぶが、彼は振り向く事はない。

 

 

 それを見てミズキは『所詮、奴は化け狐だ。大方、巻物を使って復讐でも企んでるだろうよ』と嘲笑うが、イルカはミズキを睨み否定する。そんなイルカをミズキは鼻で笑うと本来の目的を果たすべく、ナルトを追い掛けて行った。数瞬、遅れてイルカも二人を追い掛けた。

 

 

 

「ミズキの奴め。掟を破ってしゃべりおったな… ナルトも今まで以上に不安定なっておるし、このままでは」

 

 

 

 火影邸の一室に籠り、事のあらましを水晶を使って見ていたヒルゼンは顔を顰める。もし、ナルトの封印が破れる事になれば、かつての大惨事が起きかねない。最悪の事態を想定し、ヒルゼンはある覚悟を決めると再び水晶へ目をやった。

 

 

 

 全てを振り切るかの様に森を駆けるナルトに追い付いたイルカは、持っている巻物を自分に渡すよう説得する。だが、そんなイルカにナルトは体当たりを仕掛けて地面へ突き飛ばした。その行動が信じられず、イルカは驚いた様子でナルトを凝視していると彼の体は煙に包まれる。そこから現れたのはイルカに化けていたミズキであった。

 

 

 

『何故、俺がイルカじゃないと分かった?』

「へへへ。何故って... イルカは俺だ」

 

 

 正体を現して笑うイルカにミズキは鋭い目で射抜く。彼はどうしてそこまでナルトを庇うのか。ミズキは疑問を抱いた。彼にとってあの子供は親の仇でもある。親を殺された怒り、ナルトに対する憎しみだって少なからず存在する筈。その答えが解らないミズキは、イルカに尋ねた。

 

 

 

『親の仇に化けてまで、どうしてあいつを庇う?』

「お前に巻物を渡さない為だ。バカ野郎」

『バカはお前だ。結局、あいつも俺と同じだよ。あの巻物があれば、何でも思い通りになる。大方、あの化け狐も里の連中に復讐する事を考えてる筈だ』

「ああ。化け狐ならそうだろうな。けど、ナルトは違う。あいつは… 一途な努力化でその癖、不器用だから失敗ばかりで誰からも認めてもらえない。だからこそ、人の心の苦しみと痛みを知っている。今はもう…化け狐なんかじゃない。あいつは…木ノ葉の里のうずまきナルトだ」

 

 

 隠れていたナルトは、イルカのその言葉を聞いて涙が溢れて止まらなかった。姉以外で初めて自分を認め、自分を見てくれた人の存在が、何よりも嬉しかったから。だが、一方のミズキは苛立ちを隠せずにいた。イルカの口から出る言葉の全てが彼の神経を逆撫でする。

 

 

『この後に及んでめでたい奴だな。まずは…うっとしいてめえから殺してやるよ』

 

 殺気を振りまき、迫り来るミズキにイルカは死を覚悟した。ミズキの凶刃が眼前に迫ったその時、影から飛び出してきたナルトがミズキを蹴り飛ばした。予想外の出来事にイルカは驚きの余り呆然とする。

 

 

「イルカ先生に手を出すな。殺すぞ」

『ガキがぁ。ほざくんじゃねえ。てめえこそ、殺されてぇのか!!』

「やってみろよ。千倍にして返してる」

『この‥‥化け狐がぁ。調子に乗るんじゃねえ』

 

 

 

 売り言葉に買い言葉。印を構えて啖呵を切るナルトの姿に、ミズキは逆上する。格下の子供が完全に自分を舐めている。その事が何よりも彼の逆鱗に触れ、怒りの形相で向かって行く。その瞬間、目の前で起きた現実に彼は我を忘れた。辺り一帯、自分を取り囲む様に現れた大勢の分身体がそこにいた。ざっと数えて100人はいるだろう。そして分身体の一人が口を開く。

 

 

 

「どうした?早くかかって来いってばよ。来ないならこっちから行くぞ」

 

 

 

 馬鹿にした態度で言うが返ってくる言葉はない。完全に戦意を喪失し、尻もちをついたミズキに痺れを切らしたのか。ミズキを覆い隠した全ての分身体は、容赦なく彼を殴り、蹴り飛ばす。四方から迫る攻撃に彼はなす術もなくやられるがままだった。既に蹂躙といえるその悪夢は、夜が明けるまで続く事となる。

 

 

 

 

 

「へへ。ちっとやりすぎっちゃった」

 

 

 

 暫くして攻撃をやめたナルトは意識の無いミズキを見下ろして呟いた。幸いな事にミズキは生きており、教え子がその手を汚して無い事にイルカは安堵した。その時、木の上から一つの影が降り立った。その影はナルトを見るや、駆け寄って抱きしめた。

 

 

 

 

 

「ナルト。やっと見つけた。凄く心配したんだよ」

「え?ね、姉ちゃん。どうして此処に…てか、苦しいってばよ」

「そう言ってやるな。その様子じゃ、お前の事を本当に心配してたようだしな」

「全くよ。って、イルカさん。その怪我は!? それにどうしてミズキさんが倒れてるの?」

 

 

 

 

 全身に怪我を負っているイルカの姿と倒れているミズキの姿に気付いたサチは目を丸くする。何があったと事情を求めるサチにイルカが説明をした。全てを知らされたサチは、憤りを隠せずにいた。

 

 

「成程。つまり、今回の騒動はこのミズキが仕組んだ事なんですね」

「ああ。ミズキはナルトの卒業したい。この気持ちを利用したんだ。おまけにナルトを殺し、巻物を奪った罪まで着せようとしやがった」

「最低な人ね。自分の野望に子供を利用するなんて」

「だが、結果はナルトに返り討ちにされて計画は失敗した。幸いな事にミズキも生きてるから、事件を起こした理由も知る事が出来る。色々あったが、万事解決だ」

「それも俺の大活躍あっての事だってばよ」

「図に乗らない。そもそも、あんたがミズキに乗せられて巻物を持ち出す事が無ければ、此処まで大事になってないんだよ。分かってるの!?」

「痛ってぇ ごめんだってばよ。姉ちゃん」

 

 

 

 浮かれているナルトの頭にサチの拳骨が落とされ、ナルトは頭を抱えてしゃがみ込む。そんな二人のやり取りを微笑ましく見守っていたイルカだが、ナルトを見てある事を思い付くとイルカはナルトを呼び寄せる。

 

 

「ナルト。少し…いいか?お前に渡したい物があるんだ」

「渡したい物?何だってばよ」

「その前に目を瞑れ。俺が良いって言うまでな」

 

 

 イルカの言葉にナルトは目を閉じた。すると自分の額に何かを付ける感触の後、イルカに目を開ける様に言われ目を開けると満面の笑みを浮かべたイルカがナルトにこう言った。

 

 

 

 

「ナルト。卒業おめでとう。これでお前も忍者の仲間入りだ」

「だってさ。私からもおめでとう。ナルト」

 

 

 

 その言葉を聞き、ナルトは嬉し涙を流して二人に抱き付いた。こうしてナルトの忍者として日々が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回のお話 いかがだったでしょうか?
原作にないキャラと設定。違和感なく書くのは大変ですが、その分やりがいは感じてます。


それとキャラの心情や慣れない戦闘の描写。これからも上手く書けていける様、力を入れていくつもりです。


それと誤字脱字がありましたら、ご報告お願いします。
また感想もお待ちしていますので、一言でも残してくれると嬉しいです。
それでは次回もお楽しみに。

少しだけ加筆と誤字の修正をしました。


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第二話 心に宿る二つの火の意志

今回、ナルトの意志を継ぐ事になる少年が登場します。

またもう一人の主人公。うずまきサチの人間関係を少しだけ、明らかにしました。


 

 禁書の持ち出し事件から数日後。

 この日、休暇中のサチは朝の散歩を楽しんでいた。雲一つない晴天から注がれる陽射しと里を吹き抜ける優しい風が、人々を普段より活気付ける。そんな日常の風景を眺めつつ歩いていると、前から歩いてくる二人組に気付き、サチは手を振って話しかけた。

 

 

 

「おはよう。朝から二人に会うなんて珍しいわね」

「おう サチか。久しぶりだなぁ」

「おはようさん。まあ、いつも会うのは昼くらいだしな。お前は今日も任務か?」

「いいえ。今は休暇中よ。もしかして二人はこれから任務?」

「いや。俺達も今日は休みだよ。寝てようと思ったけど、こいつに連れ出されてね」

「偶にはいいだろうよ。朝日を浴びないと体にカビが生えるぞ」

「余計なお世話だよ。全く…」

 

 

 そんな二人のやり取りが面白く、サチは思わず笑いを溢す。一人の名はマイト・ガイ。おかっぱ頭に太い眉の如何にも熱血漢といった風体の男。もう一人の名は、はたけカカシ。銀髪に額あてで左目を、口元はマスクで覆い隠した男だった。この二人はサチの先輩に当たる忍者でもあり、大事な仲間とも言える存在であった。

 

 

「ふふ ガイもカカシも相変わらずね」

「俺としては勘弁して欲しいけどね」

「釣れない事を言うな。所でサチ。良かったら、一緒に朝飯を食わないか?此処で会ったのも何かの縁だしな」

「ごめんね。誘ってくれるのは嬉しいけど、もう済ませてあるのよ」

「振られたな ガイ!」

「うるさいぞ カカシ!! まあ、それなら仕方無いな。また今度にしよう」

「ええ その時はお願いするわ。じゃあ、またね」

「おう 任せておけ。俺が腹いっぱいご馳走してやろう」

「またな。そん時は俺もご一緒させてもらうよ」

 

 

 会話を終えて、笑顔で立ち去るサチに二人はホッと胸を撫で下ろす。先日、起きた事件。それに彼女の弟が関わっていた事で、サチに対する風当たりはまた一段と厳しくなっていた。無論、真犯人のミズキが捕縛された事により、サチの弟は騙されていただけと真実が明らかになっても、例の秘密が姉弟を絞め付ける。

 

 

「…落ち込んでいる様子は無さそうだな」

「ああ。だが、嫌な思いをしたのは間違いない。あの一件でサチを責める奴が増えたからな」

「全く、里の仲間に何をやってるんだろうな。そいつらは…」

 

 その事に心を痛め、二人は深いため息を吐く。あの姉弟を取り巻く環境が少しでも変わればいいと二人は切に願っていた。

 

 

 

 朝の散歩を終えてサチが家に戻ると、ナルトは眠そうに自分が用意した朝食を黙々と食べている。ナルトも帰宅したサチに気付くと挨拶をしてきた。

 

 

「姉ちゃん、おはようだってばよ。朝起きたらいなかったけど、何処いってたんだ?」

「おはよう。私は朝の散歩よ。外がいい天気だったからね。そういえば、ナルト。忍者登録書はもう出した?説明会は明日だから済ませてはいるでしょうけど…」

「忍者登録書・・・? それって何だってばよ?」

「何って、貴方。まだ出してないの? それをしないと説明会に参加出来ないわよ!? おまけに忍者を辞退したと見なされて合格も取り消しにされるのよ」

「な、何だってぇぇぇ!! どうしてそれを先に言ってくれないだってばよ」

「一週間前に教えたじゃない。つまり、ナルト。貴方は私の話を全然、聞いて無かったって事ね」

 

 

 そう言われて、ナルトは一週間前の事を思い出した。確かそれっぽい事を、サチは説明をしていた気がする。だが忍者になれると浮かれていたナルトは、大事なその話をすっかり忘れていた。そして目の前にはサチが微笑み自分の事を見下ろしていた。不味い、これは怒っている。

 

 

 姉の雷が落ちる事を恐れたナルトは、頭を掻きながら「俺、登録書を出しに行ってくるってばよ」と言い残して逃げる事にした。バタバタと慌てた様子で立ち去るナルトを見て、サチは先が思いやられると苦笑いを浮かべていた。

 

 

 

 逃げる様に家を出てきたナルトは、此処に来て肝心な事に気付く。そういえば、登録書の出し方を自分は知らない。当然、サチはその事も説明していただろう。戻って聞く手もあるが、そんな事をすれば余計にサチを怒らせるだけだ。

 

 頭を抱えて、ナルトが唸っていると偶然通りかかったイルカが声を掛けて来た。

 

 

「ナルトじゃないか。何やってるんだ?こんな所で…」

「あ、イルカ先生。丁度よかった。聞きたい事があるんだ」

「聞きたい事? 一体、何だ?」

 

 

 何やら困っている様子だった為、相談に乗る事にした。しかし、ナルトの話を聞いていく内に彼の表情は引き攣っていった

 

「お前…まだ、登録書を出して無かったのか!? 合格者の説明会は明日だぞ」

「そんな事を言ったってよぉ。忘れてたんだから仕方無いじゃん。でさ!でさ!登録書の出し方を教えてくれってばよ」

「出し方って、それはサチから聞いてないのか? 昨日会った時はお前に伝えたと言っていたが… まさか、お前…話を聞いて無かったとかじゃないだろうな」

 

 図星を突かれたナルトは頬を掻いて誤魔化した。そんなナルトにイルカは、呆れた様子で話を続けた。

 

 

「まあいい。登録書に必要な書類はアカデミーで貰えるよ。窓口で聞けば、やり方も説明してくれる。全ての準備が終わったら、火影邸に行け。そこで受理してもらえば、忍者の登録は大凡終わりだ。いいか…。くれぐれも今日中に済ませるんだぞ」

「分かってるよ。そうしなきゃ、忍者になれないって姉ちゃんにも言われたしな。早速行ってくるってばよ」

「ああ。それと明日の説明会は遅刻するなよ」

 

 

 お礼を言って駆け出すナルトにイルカは大声で言うと、向こうも「分かってるよ」と大声で返事を返して去っていった。あの事件で自分の秘密を知らされて、落ち込んでいるのでは無いか。この数日、イルカはその事を心配していた。しかし、いつもと変わらず元気なナルトの姿を見て、それは杞憂だったと安堵した。

 

 

「頑張れよ。ナルト」

 

 

 イルカはぽつりと呟き、ナルトの後ろ姿を優しく見送っていた。やがて見えなくなるとイルカもその場をゆっくりと去って行った。

 

 

 

 アカデミーにやって来たナルトは、真っ直ぐ窓口に向かった。するとそこにいたのは一人の老人でナルトに気付くと窓を開いて顔を出すと用件を聞いてきた。ナルトは言われた通り、登録書の書類について尋ねる。

 

 

「あのさ。此処で登録書の紙が貰えるって、聞いて来たんだ。俺にもそれをくれってばよ」

「登録書? ああ。君も卒業生だね。はいどうぞ」

「それでさ。これをどうしたらいいの?」

「書き方かい? 自分の名前と黒い枠の中に自分の事を書くんだよ。好きな物とか趣味とかね。そして下の所には自分の特技を三つ書きなさい。あとは…名前の横の枠に写真を貼ればいいんだよ。写真は向かいの建物で撮ってもらえるからそこに行きなさい」

「分かった。教えてくれてありがとう じいちゃん」

 

 

 老人は優しい口調で丁寧に書き方を教えてくれた。その親切な老人にナルトも、笑顔でお礼の言葉を言った。すると、先程とは打って変わって老人は真面目な表情を見せる。突然の事に驚くナルトだが、彼は目を逸らさず老人の言葉を待った。

 

「君も…明日から忍として過ごすのでしょう? その道は険しく辛い事や悲しい事もあると聞くよ。その現実に押し潰されて、忍を辞める者だっている。少年。君はどんな忍になりたいんだい?」

 

 

 老人の重い言葉は、ナルトの心にとても響いていた。この老人は…幾度なく、潰されていった忍達を見てきたのだとナルトは確信する。強い老人の眼に負けじと、ナルトは自分が目指している夢を答えた。

 

 

「俺は…火影になりたい。そしてどの先代も越えて皆に認めてもらうんだ。それを叶えるまで俺は…何があっても諦めねえ。それが俺の忍道だ」

「そうか。その目標、叶うといいですな。おっと、用があるのに引き留めて悪かったね」

「いいってばよ。じゃあ、じいちゃんも元気でな」

 

 

 

 火影になる。高い志を持った少年の去りゆく後ろ姿は、今まで見てきたどの子供よりも輝きに満ちている。きっと、将来は大物になって木ノ葉を大きく変えるだろう。そんな予感をその老人 コスケは強く感じていた。

 

 

 

 

 

 

 書類を手にアカデミーから出てきた足で、ナルトは写真屋の戸を叩く。すると開いた戸から頑固そうな男が姿を見せた。男はナルトが手にする物を見て、自分を尋ねて来た理由を把握する。

 

 

 

「用件は登録書の写真だろ。少し準備に時間掛かるが、大丈夫か?」

「え? 何で分かるんだ? まだ何も言ってねえのに…」

「そりゃ分かるさ。この時期、よく舞い込む仕事だし、何よりお前さんが持ってるもんを見ればな」

 

 

 写真屋は手に持つ書類に視線を落とし、そう言った。写真屋の説明にナルトも理解した所で、彼は話を戻した。

 

 

「それで写真撮影の事だが… 場所は顔岩の上の丘で行う。機材の準備と移動を兼ねて…1時間といった所だな。1時間経ったら、さっき言った場所へ来てくれ」

「ええ!? そんなに待つのぉ。長すぎるってばよ」

「仕方ないだろ。そっちも書類を書くなり、撮影用に着替えとかして来な。じゃ、俺は準備に入るからあとでな」

 

 

 強引に話を終わらせて、写真屋は戸を閉めてしまった。恐らくもう呼んでも出ては来ないだろう。この際、面倒な書類の記入を先に終わらせよう。そう決めたナルトは一旦、家に帰る事にした。

 

 

 

 

 家に帰って来たナルトは、その足で部屋に向かうが、ドアには鍵が掛かっていて入れない。どうやら姉も出かけた様で最悪な事に自分は今、部屋の鍵を持ってはいない。姉を探そうにも居場所は分からず、待つにしてもいつ戻るのかも分からない。八方塞がりな状況にナルトは肩を落とす。此処にいても仕方ない。誰か、知り合いに会える事を期待して元来た道を歩き出す。すると角を曲がった所で、見知った顔が目に入る。相手もナルトを見て、声を掛けてきた。

 

 

 

 

 

「お?ナルトじゃねえか。どうしたんだ?しょぼくれた面して」

「元気ないね。何か、あったの? 僕達で良ければ力になるよ」

「シカマル、チョウジ。ああ。実は…」

 

 

 偶然会った二人にナルトは、訳を話した。すると事情を知ったシカマルはポケットから一本のペンを取り出して、「ほらよ」とナルトに投げ渡した。咄嗟に受け取ったナルトは、戸惑った表情でシカマルを見る。当の本人はお構いなしに言葉を続けた。

 

 

「それ貸してやるからよ。此処でとっと書いちまいな。書き方はもう聞いてんだろ?」

「ああ。じゃあ、ちょっと待っててくれ」

 

 

 シカマルから借りたペンでナルトは、書類に次々と記入していく。全て書き終わり、ナルトはペンを返して協力をしてくれた二人にお礼の言葉を言う。

 

 

「ありがとうな シカマル。それにチョウジも…」

「別に礼を言われる事じゃねえよ。困った時はお互い様だろ…。なあ、チョウジ」

「シカマルの言う通りだよ。それに僕は何もしていないしね」

「それはそうと。まだ、やる事はあるんだろ? そっちも早く済ませろよ」

「そうする。じゃあ、また明日な」

 

 

 ナルトは二人と別れた後、顔岩の丘へ向かっていた。残っている用事は写真撮影のみ。面倒な手続きもこれで終わると思うと、自然と足取りも軽く感じた。程なくして、約束の場所へ辿り着くと既に写真屋が準備を終えて待機していた。

 

 

 

「おう。来たか。じゃあ、早速撮影と行くか」

「あ、ちょっと待って。先にトイレ行ってくる。こんなの初めてだし、緊張しちゃってさ」

「はあ。さっさと言って来いや。こちとら、あと片づけもあるんだ。あまり時間を掛けたくねえんだよ」

「わりぃおっちゃん。すぐ済むから」

 

 

 初の写真撮影にナルトは、緊張の余りか。トイレに駆け込んでいく。用を足しながら、ある事を思い付く。ニヤリと笑う表情から考えている事ではないのは明らかだった。思い付いたら即実行、トイレの窓から写真屋に気付かれない様に抜け出すと何処かへ姿を消した。

 

 

それから2時間後。トイレに行ったきり、一向に戻らないナルトに写真屋は苛立ちを露わにしていた。本来なら帰る所だが、恒例行事等の写真撮影は義務として里から命じられている為、終わるまで帰る事が出来ない。

 

「あの坊主。小便にどんだけ掛かってんだよ。こちとら早く終わらせてゆっくりしたいってのによ」

「おーい 待たせてごめんってばよ」

「遅せぇじゃねえか。一体、何処で油売ってやがったん…だ… って、おめえ何だその面は…?」

 

 

 一人、ぼやいていると遠くからナルトの声が聞こえてきた。散々待たされた事に文句を言おうとした写真屋だったが、ナルトを見て絶句する。ナルトの顔全体に塗られた白粉と赤の隅で描いた模様。歌舞伎を模した化粧にあった。顔を顰めて写真屋はナルトへ確認を取る。長年やってきた中で初めての事に若干、困惑もしていたからだ。

 

「おい。本当にその顔で撮るのか?」

「勿論。いいから早く撮ってくれってばよ」

「後悔しても知らねえぞ。ハイ チーズ」

 

 

 譲る気の無いナルトに諦めて、写真屋はシャッターを押す。現像した写真を見て、写真屋は更に顔を顰める。だが、当の本人は満足な様子でもうこれ以上、言うまいと写真屋は後片付けを始めた。

 

 

 出来上がった写真を書類に貼り、完成した登録書を手にナルトは火影邸へ向かう。これで明日の説明会にも参加する事が出来る。しかし、現実は厳しい。提出された書類に目を通したヒルゼンは、書類を投げ返しやり直しと言い放った。その言葉にナルトはショックを受ける。本人はこれで決まってると自信があったようだが、ヒルゼンとしても認める訳にいかない。

 

 

「お前。これは里にとって大事な書類でもあるんだぞ。こんな物を認める訳ないじゃろうが」

「何でだよ。バッチリ決まってるのに」

「そういう問題ではない。それと額あてはどうした? 散々欲しがっていたのに付けとらんのか?」

「あれは明日の説明会まで付けないの。傷付いたら嫌だし...何せ、俺がイルカ先生に認められた大事な証だもんよ」

 

 

 真っ直ぐな目で言うナルトに、ヒルゼンは自然と口角を上げて笑う。会うたび、少しずつ見えるナルトの成長にヒルゼンは密かな喜びを感じていた。だからこそ、ヒルゼンも必然と厳しい態度を取ってしまうのかもしれない。

 

 そんな時、勢いよく戸を開けて一人の少年が駆け込んできた。手にした手裏剣を向けて、彼はヒルゼンへ勝負を申し込む。更に黒の眼鏡に黒の忍装束を着た男 エビスも駆け込んで来て、場は騒然となった。

 

 見知らぬ少年をまじまじと見ているナルトに気付くと、今度はナルトに食って掛かる。

 

「何見てんだ コレ!? 俺は見世物じゃないぞ」

「うっせぇ。いきなり何だってばよ。第一、お前は誰だってんだよ」

「こら ナルト。その方、木ノ葉丸様は三代目火影様のお孫さんだぞ。無礼な口を聞くな」

 

 

 エビスの口から少年 木ノ葉丸の素性を知り、ナルトは驚いて彼を見る。その木ノ葉丸は、ナルトを冷めた目で見つめていた。最初こそ、啖呵を切ってたこいつも…自分を火影の孫としか見なくなる。どうせヘコヘコした態度を擦り寄ってくるに決まってる。だが、そう思っていた木ノ葉丸の予想は大きく外れた。目を怒らせナルトは木ノ葉丸の頭へ勢いよく拳骨を落とした。初めて味わう痛み、言葉に出来ない不思議な感情が木の葉丸の胸の中で渦巻いていた。この気持ちが何なのか。気になった木ノ葉丸は確かめる為、ナルトのあとを追い掛けて行った。

 

 

 木ノ葉丸の乱入によって、登録会が一旦中止となり、暇になったナルトは当ても無く歩いていた。その後ろでは物陰や電柱に隠れながら付いて来る木ノ葉丸の姿があった。本人は潜んでいるつもりの様だが、足音や気配で火影邸を出た時から気付いている。

 

「おい さっきから何だってばよ。付いて来てるのはバレバレだぞ」

「フフフ よくぞ見抜いたな コレ。流石、噂通りの男」

「その…噂の男って、何の話だ?」

 

 陰から向けられる視線が嫌気がさし。ナルトは後ろを振り向くと、道の角に隠れる木ノ葉丸に大声で叫んだ。だが、本人は何処吹く風で臆した様子もなく、何故か自信満々の顔で言葉を返した。ナルトは木ノ葉丸のある言葉が気になった。一体、何の事なのか…考えてみるが、見当がつかない。だが、木ノ葉丸は誤魔化していると感じたのか。彼は詰め寄ってナルトを追及する。

 

 

 

「惚けようたってそうはいかないぞ コレ!! あんたがある術を使って、火影のじじいを倒した事も調べはついてる」

「俺がある術で火影のじいちゃんを…?」

「そうだ。その代わり、俺はあんたの子分になってもいい。だから、教えてくれ!! じじいを倒したおいろけの術を…。頼むよ 親分」

「分かったよ。此処でやるのも何だし、何処か人気の無い場所へ行くぞ」

 

 

 半ば強引に子分となった木ノ葉丸に押し切られる形で、ナルトは術の特訓を付ける事になった。ナルトは木ノ葉丸を連れて里の森へ移動する。この場所なら邪魔も入らず、術の練習に専念出来るだろう。

 

 

 「変化 おいろけの術!!」

 

 

 まずは手本として、ナルトはおいろけの術を発動した。そして煙の中からは、ほぼ全裸の少女が姿を現した。上手い具合に大事な部分を隠している煙が、官能的な魅力を見る者に与える。真っ赤な顔で穴が開くように見つめる木ノ葉丸もその一人だろう。すると、木ノ葉丸の視線に気付いたナルトは術を解く。

 

 

「変な目で見てねえで次はお前の番だ。いいか? この術に必要なのはイメージだ。さっき見せたようにスレンダーなボディ。そして出るとこは出す。大切なのはボン!! キュッ!!、ボン!! だ。さあ、やってみろ」

「おーし 見てろぉ 変化 おいろけの術!!」

 

 

 木ノ葉丸は印を組み、術を発動させる。しかし、煙の中から出てきたのは太った女の姿。確かに出るとこは出ているが、これでは相手を悩殺する事は不可能である。当然、それを見たナルトは容赦なく、ダメ出しをした。その後、何度となく変化を繰り返す木ノ葉丸にナルトはダメ出しをする。

 

 

 

 次第に熱が入ってきたのか。二人は諦める事なく、この奇妙な特訓を続けた。

 

 

 

 

 一方、姿を消した木ノ葉丸を探すべく、高所から里を見渡すエビスの姿があった。見慣れた風景を見渡し、彼は今まで教え導いてきた子供達の事を思い返していた。自分が手を掛けた多くの子供達は、みな真面目に己を磨き、知識を蓄え素晴らしい忍となっていった。

 

 現在の教え子。木ノ葉丸もその一人で彼が火影を目指していると、知った時は喜びに打ち震えた。それから彼は教育は熱が入っていった。変な物に感化されない様、悪影響を与える者から遠ざけて来た。そして今、その木ノ葉丸がナルトと行動しているとヒルゼンから聞いた時、エビスは静かに怒りを覚えた。

 

 

「見つけた。九尾の小僧め。お孫様に余計な事を吹き込んでなければいいが…」

 

 

 遠くの森に二人の姿を確認したエビスは、全速力で駆けて行った。

 

 

 

 

 

 

 一向に進まない特訓に疲れた二人は、切り株に腰掛けて休憩をしていた。すると気になっていた事をナルトは思いきって、木ノ葉丸に尋ねた。

 

 

「ところでさ… 何でお前は火影のじいちゃんを倒したいんだ? 別に何か、嫌な事をされた訳でも無いんだろ?」

「俺の木ノ葉丸という名前…。これを付けてくれたのは、じいちゃんなんだ。里にあやかり、また俺が里を好きになる様にってさ」

「良い事じゃねえか。そこまでして貰って何でなんだよ?」

 

 

 話を聞いて、増々理由が解らなくなった。ナルトは急かす様に話を促す。すると、木ノ葉丸は唇を噛み締め、言葉を絞り出す。

 

「誰も呼ばないからだ。覚えにくい訳でもねえのに…。皆、俺を見ればお孫様。お孫様としか呼ばない。それって、誰も俺の存在を認めてないの同じじゃないか。だから俺はじじいを倒して、火影の名前が今すぐ欲しいんだ!!」

 

 

 次第に昂って、感情のまま気持ちを吐き出す木ノ葉丸へ。ナルトは静かに言葉を投げ掛けた。

 

「バーカ 火影になるって、そんな簡単な事じゃねえよ。少なくとも今のお前じゃ、絶対無理だ」

「何だと…!? じゃあ、そういうお前はどうなんだ コレ。 知った様な口を聞きやがって、お前も火影になりたいって聞いたぞ。お前と俺の何が違うんだ。言ってみろ!!」

 

 そう言って、木ノ葉丸はナルトを睨み付けた。その視線を受け止め、木ノ葉丸の問いに答えようとした時。木ノ葉丸を追って来たエビスが木の上に姿を見せる。

 

 

「見つけましたよ。さあ、帰りましょうお孫様。この後、忍術の練習が控えてますからね。それと…そこの君。金輪際、お孫様に関わらないで貰いたい。もし…近付いたらタダじゃおかない」

 

 

 木ノ葉丸と違い、エビスがナルトに向ける目はとても冷たい。見覚えのあるその目にナルトの脳裏に嫌な記憶が過る。里の皆が…その目で俺を見る。まるで自分の存在を否定する様に。この男もまたその一人だった。

 

 

「俺は戻らないぞ。それに術ならさっき覚えたばかりだ。見てろ、変化!!」

 

 木ノ葉丸が見せた術を見た途端、エビスは口を大きく開けて驚いた。何をするのかと期待して見守っていたが、変化した姿が何も羽織ってない女性だった。その品性も何も無い術にエビスはショックを受けた。やはり、こいつといると悪影響しか与えない。エビスは木ノ葉丸の腕を掴んで、この場から立ち去ろうとした。しかし、踏ん張って抵抗する木ノ葉丸の力も強く、手古摺っていた。

 

 

 その様子を見ていたナルトは、そっと印を組んで影分身の術を発動した。現れた分身と本体の視線は、全てエビスに向けられている。その行為を自分に対する挑戦と受け取ったエビスはナルトを鋭く睨み返し、獰猛な笑みを浮かべて「私とやるつもりか? 身の程知らずが… ミズキを倒して調子に乗ってるお前に格の差を教えて上げますよ」と言い放った。無論、嫌っていても相手は子供だ。自分も本気でやるつもりはない。只、ほんの少し痛い目に合わせて木ノ葉丸と会わない約束をさせようと考えていた。

 

 

 

 互いに睨み合い、微動だにしない二人の姿に。木ノ葉丸は緊張から唾を飲みんだ。沈黙の中、聞こえたその音を合図にナルトの分身が一斉にエビスへ駆けて行く。左右に別れて、エビスを取り囲んだ分身は皆、印を組むと更なる術を繰り出そうとしていた。その事にエビスは驚いた表情を見せる。チャクラの消耗が多く、扱いの難しい影分身を利用して術を出す等、大人でも出来る者は少ない。この子供は…本当に落ちこぼれなのだろうか? 彼はそんな疑問を抱いていた。

 

 

 

「必殺 おいろけハーレムの術!!」

 

 

 その言葉どおり。裸の女性へ姿を変えた分身はエビスに抱きついた。腕に感じる弾力のある感触、それに耳元で囁かれる甘い声に彼は耐えきれず気絶してしまった。予想外の決着に木ノ葉丸は呆気に取られていた。また、こんな形でエビスが破れるとは思ってもいなかった。

 

 

「くっそぉ!! 何でお前に眼鏡が倒せて、俺は勝てないんだ コレ!! 早く火影になって、皆に認められる名前が欲しいのにぃ」

 

 ナルトに出来て、自分に出来ない事が悔しいのか。目に涙を滲ませて叫ぶ。その姿が何処か過去の自分と重なって見えたナルトは、黙っていられず口を開くと諭す様に木ノ葉丸へ語りかける。

 

 

「火影を継ぐって事は…そんな簡単じゃねえよ。皆に認められた奴がなる事が出来る忍者だぞ。沢山の努力も必要だし、色々と嫌な思いをする事だってある。でもよ。そうして、俺を認めてくれる人がやっと二人出来たんだ。それだけでもスッゲー大変だったんだぞ」

 

 

 あの日、自分に額あてをくれたイルカ先生の事。今日、アカデミーで会った老人の言葉。それらがナルトを一つの答えに導いた。その答えをナルトは木ノ葉丸にも伝えた。

 

「だから覚悟しなきゃ駄目なんだ。皆が認める火影に通じる道に…近道なんて、絶対無いって事をよ」

 

 その言葉は…木ノ葉丸の心に深く沁みこんでいった。そしてグッと唇を噛み締めると何かを決意した木ノ葉丸はナルトに己の気持ちをぶつけていた。

 

 

「お前の子分は辞めだ。もうお前なんか…親分じゃねえ。今日からは…ナルト兄ちゃんは俺のライバルだ。どっちが先に火影になるか勝負だ コレ!!」

「望む所だ。俺もお前に負けねえよ。なぁ木ノ葉丸…」

 

 自分の名を呼んで、去って行くナルトを木ノ葉丸は泣きながら見送った。その光景を水晶を通して見ていたヒルゼンは、また一段と成長したナルトと木ノ葉丸の姿に嬉しそうに笑う。木ノ葉の里を支える子供達の心に火の遺志が着実と受け継がれていた。




今回のお話。いかがだったでしょうか?

原作通りだと短めになってしまう為、登録書提出に至る過程を付け加えてみました。それとアニメオリジナルのキャラ。下忍人生50年のコスケさんにも少しですが、出番を与えてみました。きっと、下忍の任務にはこういった仕事もあるだろうな。そして、不意にナルトと出会ったらどうなるかな?と思っての事です。

それとサチさんの出番。次も少なくなりそうですが、それ以降は原作も加速するので出番も増えていきます。

また感想があれば、一言でもいいので残してくれると嬉しいです。


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第三話 忍にとって大切な事

今回、第7班の結成と演習の回です。


一気に詰め込んだ為、長いですが…どうぞお楽しみください


 合格者の説明会 当日の朝。ナルトは普段よりも早めに目を覚ましていた。以前は毎日の様に寝坊や遅刻を繰り返していた彼も、今日から本当の忍者となる。この事実がナルトの心境に大きな変化を齎していた。

 

 

 身支度を済ませ、リビングに行くと朝食の用意をしていたサチにナルトは朝の挨拶を交わす。

 

 

「姉ちゃん おはようってばよ」

「おはよう 今日は珍しく早起きね。あとで起こそうと思ってたけど、必要無かったか」

「当然だってばよ。何せ、今日から俺も忍者だしな。いつまでも子供扱いはするなって」

「よく言うわねぇ! まあ、少しは自覚が出来たのは良い事よ」

 

 

 胸を張ってそう言うナルトにサチは苦笑いして言葉を返す。だが、ナルトが日に日に成長している事も事実である。近い将来、一人前になったナルトと肩を並べる日も来るだろう。サチはそんな未来を楽しみにしていた。そんな事を考えている間に食事を終えたナルトは、いそいそと玄関に向かった。

 

 

「もう行くの…? まだ、開始まで時間はあるわよ」

「ああ。それは知ってるよ。だけど、折角早起きしたんだ。どうせなら会場に一番乗りしようと思ってさ」

「そう。大丈夫だとは思うけど、説明の最中に居眠りしないでよ。門出の一歩がそれじゃ格好つかないからね」

「心配いらないってばよ! じゃ、いってくる」

 

 

 

 サチの言葉に笑って返事を返すナルトに心配は尽きないが、本人が言うなら大丈夫なのだろう。元気よく会場へ走っていく姿をサチは窓から見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 説明会の会場である忍者アカデミーに到着すると、そこには既に他の合格者達の姿があった。どうやら、他の者達もこの日を待ち望んでいたのか。皆、期待と希望に満ちた表情を浮かべている。

 

 

 入り口に貼られていた案内板に従い、待機場所となる教室へ移動するとナルトはある少年の姿に気付いた。特徴的な黒髪とうちわの模様がある服。うちはサスケであった。アカデミーに通っていた頃から何をやらせても優秀な成績を持つサスケを、ナルトはライバル視していた。何度も彼に挑んだが、一度も勝った試しはない。

 

 

 ナルトにとっていけ好かない相手だが、自分を意識させようと敢えて彼の隣に腰を下ろした。しかし、サスケは自分を一瞥しただけですぐに視線を窓の外にやる。その態度が癪に触って、ジト目で睨むがサスケは完全に無視を決め込んでいた。するとそんなナルトの傍にある少女が近寄ってくると声をかけた。

 

 

「ちょっと、ナルト。そこの席からどいてくれる? 私、そこに座りたいの」

「え? サ、サクラちゃん。ああ、勿論だってばよ。はい どうぞ」

 

 

 ナルトに話しかけてきた少女。それは春野サクラだった。名を現すような桃色の髪とそこから覗くおでこが彼女の魅力を惹き立てている。サスケと同じく同期である彼女にナルトは、淡い恋心を抱いていたが…当の本人はサスケに熱を上げている。そんなサクラが自分に声を掛け、隣に座ってくれる。

 そう思ったナルトは座れるスペースを作るが、「違う!! 私はあんたの先にある席に座りたいのよ。さっさとどけナルト」と怖い顔で怒鳴ってきた。

 

 

 自分の先の席にいたのは、サスケ一人。サクラの目的が彼だと知り、ナルトは再びサスケを睨んだ。流石のサスケもその視線が気に障ったのか、端整な顔を歪めて睨み返すと口を開く。

 

 

「さっきから一体、てめえは何なんだ? 用がねえのに見てくんじゃねえよ!! うざいったらありゃしねえ」

「んだと!? てめぇこそ、その口は何だよ」

「あんたもよ! ナルト。サスケ君に絡んでじゃないわよ!! それよりも早くどきなさいっての」

 

 

 サスケの言葉にナルトが反応し、ナルトの態度にサクラが怒る。最早、同期達の間で恒例となっている三人のやり取りを教室内の生徒達が面白そうに眺めていた。結局、サクラによって席をどかされたナルトは不貞腐れていた。サクラはうっとりした表情でサスケを見つめ、さり気なく距離を詰めていく。

 

 

 自分が好意を寄せてる少女を気にも留めないサスケに、ナルトの苛立ちは募るばかりであった。こんな奴の何がいいんだ…? ムスっとした顔でサスケが座る机にしゃがみ込んでナルトは、三度睨みを利かせた。

 

 

「どけよ。うぜえ奴だな」

「フン。お前こそ、うぜえよ」

 

 

 何度もジロジロと見てくるナルトの行動にサスケも苛立ち、本音をぶちまけた。その言葉にナルトも負けじと言い返す。更に言い返そうとサスケが口を開いたその時だった。前の席に座っていた少年の腕が偶然にもナルトの背に当たり、前に倒れ込んだ拍子に自分の唇がサスケの唇と重なってしまう。

 

 

 思わぬ出来事に固まる二人だが、我に返ると素早く離れて口を拭う。まさか、気に食わない奴とこんな事になるなんて最悪の日だと、嘆いていると不意に殺気を感じてナルトが振り変える。すると今までにない怒りの表情で自分を見るサクラがそこにいた。

 

 

「待って、これは…事故。事故だってばよ」

「黙れ よくも私の夢をひとつ壊してくれたわね!! 歯食いしばれや ナルトォォ」

 

 そう叫ぶサクラの容赦無い鉄拳制裁がナルトを襲う。右へ左へと拳を打ち込まれるナルトの姿に、流石にサスケも同情する。一切抵抗する事無く、殴られるナルトの姿に文句を言う気も失せていた。

 

 

 

 

 

 朝の珍騒動から数十分程して、教室の戸が開かれイルカが姿を見せた。すると騒いでいた者達も元いた席に着き、イルカを緊張した面持ちで見つめる。そんな全員を見渡した後、イルカは静かに話し出す。

 

「今日から皆は忍者となって、里を支えて行く。これから請け負う任務については…今後三人一組の班を結成し、担当する上忍の下でやってもらう」

 

 

 その話を聞いて、教室内に騒めきが走る。誰と組もうか。あいつとは組みたくない。そんなやり取りをする声があちこちから聞こえてきた。それはナルト達も例外でなく、サスケは足手纏いが増えて面倒と。サクラはサスケと同じ班になりたい。ナルトはサクラと一緒で、サスケ以外なら誰でもいい。三者三様の考えを廻らせる。

 

 

「そこで班の組み分けだが、バランスが取れる様にこちらで決めた。それでは各班と組むメンバーを発表するぞ」

 

 

 イルカの言葉に不満を洩らす者もいたが、それを無視してイルカは各班に入る者達の名を読み上げていく。

 

 

「次は…第7班!! 春野サクラ、うずまきナルト、それとうちはサスケ。この三人で組んでもらう」

「ちょっと待ったぁぁ!! イルカ先生、何で優秀な俺がサスケと一緒なんだよ」

「何でも何もない。サスケは卒業者の中で一番の成績を収めている上、お前の成績は卒業者の中で最下位だ。それにさっきも言っただろう? 班の構成はバランスが取れる様に決まってる」

 

 組み合わせに異議の声を上げるナルトに、イルカは冷静に言葉を返す。言ってる事が事実の為、ナルトは二の句が告げず黙り込んでしまう。

 

 

「フン。精々、俺の足を引張ってくれるなよ。ドベのナルトくんよ」

「こ、この...てめえ、サスケェェ!! もう一度、言ってみろぉ」

「コラ、ナルト!! あんた、いい加減にしなさいよ」

 

 サスケの挑発に腹を立て、掴みかかろうとするナルトをサクラが一喝する。そんな三人を見て、不安を抱くイルカだったが、これを決めたのは三代目火影だ。何か考えが合っての事だろうが、この班を担当する上忍は相当、苦労するだろうなとイルカは心の中で呟いた。その後、残っている班の発表を終わりイルカは話を締めくくる。

 

 

 

「班の発表は以上だ。午後に班を担当する上忍を紹介する。それまで一時解散して、1時間の休憩とする。その間、昼食を済ませて教室で待機する様に」

 

 

 それだけ言い残し、イルカは教室を出て行った。それに続く様に他の者達も自由行動を始める。ある者は決まった班のメンバーと。ある者は一人でと様々であった。その後者であるナルトは、見晴らしの良い場所に腰を下ろして不貞腐れていた。サクラと同じ班になったのは最高だが、最悪な事にサスケとも同じ班になった事が気に食わない。

 

 そんな時、通路を通るサスケを見つけたナルトは、ある事を思い付いた。思い立ったら、即行動。サスケに気付かれない様、注意を払いながらナルトは彼の跡をつけていく。そして部屋の窓辺に寄り掛かるサスケの背後に潜み。一瞬の隙をついて手にした縄をサスケに投げ付けた。

 

「てめえ、ナルトっ!! 一体、何のつもりだ!?」

「うるせぇ!! 静かにしやがれ…」

 

 突然の事に驚きながらも抵抗するサスケを抑え付けようとナルトも応戦する。室内でドタバタと音を立てていたが、暫くすると静かになった室内から姿を見せた。そのサスケは窓枠に足を掛けるとそのまま外へ立ち去った。

 

 

 彼が去った室内では、何故かもう一人のサスケが縛られて転がっていた。

 

 

 

 

 一方、サクラは広場のベンチで持参した弁当を突きながら、サスケの事を考えていた。積極的に迫っても彼は自分に見向きもしない。少しでも関係を進展させたいと色んな努力をしてきたが、成果は無く。サクラは自分に対しての自信を失いつつあった。

 

 

 その時、ふと顔を上げると正面の木に寄り掛かり、こちらを見るサスケの姿に気付いた。普段と違い、妙に熱い視線にサクラはありえない想像をするが、頭を振ってその妄想を振り払う。するとジッと見ていたサスケが、静かな足取りで近づいて来た。

 

 

「お前、よく見ると可愛い顔してるな。思わずキスしたくなるぜ」

「え? ど、どうしたの!? いきなりそんな事を言って…」

「冗談だ! ナルトだったら、そう言うだろうな。それとサクラ お前に一つ聞きたい。あいつ…ナルトをどう思う?」

 

 

 真剣な表情でそう言うサスケに、サクラは顔を赤くして唖然とする。まさか自分の想像が現実になったのかと内心、舞い上がるが次に出た言葉で現実に戻された。ナルトをどう思う? その質問の答えをサクラは静かに考える。自分にとってのナルトの存在。自分の顔を見れば、いつも笑顔でずっと見てきた。そしてサスケに話しかければ、邪魔をするかの様にナルトが首を突っ込んでくる。その結果、二人の喧嘩に発展して、自分の事はいつも無視される。

 

 考えれば考える程、ナルトに対する良い記憶は無い。それ故、口から出る言葉は自然ときつくなる。

 

「ナルトなんて…私にとってうざいだけ。そうと知らずに人の恋路の邪魔ばかり…。 私が認めて貰いたいのは…あいつじゃない。サスケ君よ。彼ただ一人に認めて貰いたいだけ」

 

 

 サクラの言葉を彼は黙って聞いていた。サクラの言葉にはサスケへの強い想いが込められていた。

 

「私、その為に必死になって頑張って来た。だって、好きな人に認めて貰えるのは何よりも嬉しいから…」

 

 自分の気持ちを伝えて、サクラは意を決して目を瞑る。彼は迫るサクラの顔から目を逸らせずにいた。あと少しでお互いの唇が触れそうになった時。突如、彼はお腹を抑えて苦しみ出す。

 

 

 その事に戸惑い、サクラが尋ねるが彼は返事を返す事なく立ち去ってしまった。

 

 

 

 

 サクラと別れた後、トイレに駆け込むと安堵して息を吐く。その際、使っていた術が解けて、ナルトの姿に戻っていた。元はといえば、ナルトはサスケに化けてサクラに嫌がらせをして仲違いさせるつもりだった。しかし、サクラが自分をどう思っているのか? その事が気になり、この機会にサクラへ聞く事にした。

 

 

 

 

 サクラの言葉は正直、耳を塞ぎたくなる事ばかりであった。だが、ある一言で自分が何故、サクラに好意を寄せているのかを理解した。サスケに認めて貰う。その為に努力をするその姿に、自分は惹かれたのだ。

 

 

「でも、うざいか……。 俺は邪魔なんてするつもりは無いけど、サクラちゃんは違ったんだな」

 

 

 例え、どう想っていても…自分の気持ちが届かない。その事が少しだけ辛かった。

 

 

 

 

 ナルトが一人落ち込んでいた頃、自力で縄を解いたサスケはナルトを探していた。自分を縛った挙句、変化の術で自分に化けたナルトが良からぬ事を仕出かすかもしれない。無論、それはナルトの責任になって自分には関係ない事だが、つまらぬ事で自分の名が傷付くのは我慢がならない。

 

 

 あちこち探しているが、一向に見つからない。そうしてる間に集合時間が迫り、サスケは諦めて教室へ戻る事にした。その道中、サスケは同じ班のサクラと鉢合わせする。折角だ、彼女にもナルトの行方を聞いておこう。そう思ったサスケはサクラに尋ねた。

 

 

「ナルトの奴を見なかったか? そろそろ集合時間だが、何処を探してもいやしねえ」

「いいじゃん あんな奴。放っておけば。大体、いつもサスケ君に絡むしさ。それにアイツ、両親がいないじゃない!! お姉さんはいる様だけど…きっと、甘やかしてるのね。だからあいつは我儘ばかり、私なんか我儘を言えば親にガミガミ言われるってのに…。ナルトはいいよね。親に怒られる事なんてないもの」

「孤独…。あの姉弟を包む現実は、親に叱られて悲しいってレベルじゃねえぞ。お前、うざいな」

 

 ナルトの事を好き放題言っていたサクラに、サスケは鋭い視線で睨み冷たい声で言い放つ。自分としても、あいつはうっとおしい奴だが、サクラの口から出る悪口は聞くに堪えない。それに親がいない苦しみはサスケ自身、よく知っている。だからこそ、尚更に腹が立った。

 

 

 サスケの思わぬ一面に、サクラは呆然としてベンチに座り込む。うざい。好きな人から言われたその言葉は、サクラの心を深く抉った。ああ。そういえば、自分もナルトにこの言葉をよく言っていた。もしかしてナルトもこんな気持ちだったのかもしれない。それでいて、変わらぬ笑顔を向けてくれるナルトに罪悪感が込み上げる。

 

 

「うざいかぁ…。言われると辛いものね。次からはもう少し、優しくなれるといいなぁ」

 

 

 

 

 

 午後 はたけカカシは三代目火影 ヒルゼンと共にサチ達の家に訪れていた。家の戸を叩くとサチが顔を見せ、二人を家の中へ招き入れる。初めて入る同僚の部屋をカカシは、珍しそうに眺めていた。そんなカカシの様子に気付いたサチは、若干眉を寄せて苦言を洩らす。

 

「その…余りジロジロと見るのはやめてちょうだい。流石に失礼よ…」

「いやいや、失敬。何せ、人の家に上がる事は俺も初めてだからな。少し緊張してね」

「そういえば、お主は…人付き合いが得意じゃなかったのう…」

 

 

 仲間と会う時、大抵は何処かの店でだ。人の家に上がる事も無ければ、家に上げた事もない。それ故、冷静な彼も人並みに緊張していた。この人でも緊張するのか。サチも見た事が無いカカシの一面に知らず笑みを溢す。そんな穏やかな空気の中。ヒルゼンは本題を切り出す事にした。

 

 

 

「さて、ワシらが此処に来た理由じゃが…サチ。お前には明日からカカシと一緒に担当上忍をやってもらいたい」

「担当上忍ですか…。やれと言うならやりますが、どうしてカカシと何ですか?基本、班に付く担当は一人の筈では…?」

「普通ならそうだ。しかし、今年は少々特別での。カカシ一人では、負担が大きいと判断しての事だ。何せ担当する班にはお前の弟だけでなく、うちはの生き残りもおるでな。話し合いの結果、カカシとお前が適任だと結論が出た訳じゃ」

 

 

 ヒルゼンの言葉をサチは黙って聞いていた。確かにこのメンバーは特殊であり、一人では負担が大きい。しかし、カカシですら荷が重い事を自分にこなせるだろうか?そんな迷いがサチの中にあり、決断が出来ずにいた。

 

 

「まあ、いきなりの事で戸惑うのは分かる。だが、サチ。お前もそろそろ経験した方がいいでしょ。誰もが一度は通る道だ。それに一人じゃなく、二人でやるんだし。それ程、悩む必要はないよ」

 

 サチの中にある迷いを感じ取ったカカシは、諭す様に言葉を掛ける。その言葉で心の迷いが和らぎ、サチは受ける事を決断した。

 

 

「…そうね。分かりました。担当上忍の件、お受けします」

「決まりじゃな。ならば、二人はこれから受け持つ班の迎えに行ってくれ」

「「了解」」

 

 

 

 

 

 

 場所は変わり、アカデミーの教室。いくら待っても来ない担当上忍に、三人は苛立ちを隠せずにいた。他の班は既に連れられ、残っているのは第7班のみである。ナルトは戸を開いては、廊下を見渡すがやはり来る気配が無い。落ち着きのないナルトにサクラが注意するが、それは逆にナルトの不満を募らせるだけに終わる。

 

 

「だってよ。他の班はすぐ来たのに……何で7班だけこんなに遅いんだってばよ」

「そんなの知らないわよ。何か事情があるんでしょ? って、ナルト。あんた何やってんの?」

「へへへ 遅れてくる奴へのお仕置きだってばよ!! さーて、どうなるかなぁ」

「フン 上忍がそんなチャチな罠に掛かるかよ。くだらねぇ」

 

 

 黒板消しを戸の間に挟み入れるナルトを見て、サクラとサスケは呆れた様子で呟く。だが、当の本人は引っかかると思っており、サクラも内心ではこの後の光景を楽しみにしていた。悪戯を仕掛けた直後、戸が開かれ黒板消しが入って来た者の頭に落下し、白い煙が派手に舞った。

 

 

「ギャハハハ!! 引っかかってやんの。だっせぇってばよ」

「ごめんなさい先生。私は止めたんですけど… ナルトは言う事を聞かなくて…」

「ん~ 何と言うのかなぁ。お前達の第一印象は…嫌いだ」

 

 仕掛けた悪戯が決まった事で笑うナルトや保身の為に言い訳をするサクラ。それに無関心を決め込むサスケを見て、カカシは感情の籠らぬ声でそう言うと三人の間に重たい空気が漂った。だが、それを振り払うかの様にナルトはカカシを指差して反論する。

 

 

「も、元はといえば、そっちが遅いのが悪いんだってばよ。他の班はすぐ来たのにさ…」

「だからって、悪戯を仕掛ける理由にはならないわよ。文句を言う前に反省なさい」

「え?ね、姉ちゃん。何で此処に?」

「この人がナルトのお姉さんなの!? ナルトとは、全然似てないけど…」

「ま、聞きたい事はあるだろうが、話をする前に場所を変えるぞ」

 

 唐突に現れた姉に動揺するナルトと、初めて見るサチに驚くサクラ。サスケも気になるのか、視線をちらちらとサチに向けている。それに、ずっとこの部屋で待っていた三人も外の空気を吸いたいだろう。そう思って、カカシは場所を変える事を提案する。その案にナルト達も同意した。

 

 

 教室から移動した五人は、アカデミーの屋上へ来ていた。カカシとサチは手すりに寄り掛かり、三人は近くの怪談に腰を下ろす。そして目の前のナルト達に話を切り出す。

 

「それじゃ、三人には自己紹介をしてもらおうかな…」

「自己紹介って、言っても何を言えばいいの?」

「そうね。名前と三人の好きな事や将来の夢とかでもいいわ」

「だったらさ。先に先生の自己紹介をしてくれよ。それと姉ちゃんが此処にいる訳もさ…」

 

 カカシの言葉にサクラが質問し、それにサチが答えた。するとナルトが二人に言う。何処か怪しげなカカシと姉の事が気になって仕方無かった。それは他の二人も同じで、ナルトの意見に頷いた。

 

「俺か? 俺は…はたけカカシという者だ。んで、好きな事をお前らに教える理由はない。それと将来の夢は…秘密だ。あと趣味は色々。ま、こんな所だな」

「次は私ね。私はうずまきサチ。性で分かったと思うけど、そこにいるナルトの姉よ。趣味は散歩で、特技は掃除。それと此処にいるのは、カカシの補佐として私も第7班を担当する事になったからよ」

 

 

 二人の自己紹介で判明したのはサチの事だけで。カカシの事は名前しか分からないままだった。だが、本人の様子からして、これ以上は聞いても答えてはくれないだろう。それを悟って、今度はナルト達が自己紹介を始めた。

 

 

「俺の名前はうずまきナルト!! 好きな物はカップラーメンと一楽のラーメン。そんで嫌いな物はお湯を入れてからの3分間。最後に将来の夢は…火影になる事、そして里の皆に自分の事を認めさせてやるんだ」

 

 ナルトの話にカカシとサチは目を細める。ナルトの境遇を知っているカカシは、この少年は心に闇を持っていると思っていた。しかし、予想は外れ。真っ直ぐな目で自分の夢を語るナルトに自然と好感を抱いていた。片や、サチは此処に来てナルトの夢を初めて知った。てっきり、一人前の忍者が目標と思っていたが…まさか、火影になりたいとはね。弟の口から出てきたその言葉はいつもより、力強く感じた。

 

 

 次に口を開いたのは、うちはサスケだった。

 

「俺の名はうちはサスケ。嫌いな物なら沢山あるが、好きな物は特にない。それと夢ではないが、目的ならある。それは一族の再興とある男を…必ず殺す事だ」

 

 最後に言った言葉に、その場が沈黙に包まれる。まるで夜の闇を思わせる様な目で復讐を語るサスケをサチとカカシは複雑な気持ちで見ていた。二人の脳裏に過るのは、木ノ葉で起きた凄惨なあの事件。この出来事も木ノ葉では機密扱いになっている為、ナルトとサクラはサスケの言う意味は理解出来ないでいた。それがせめてもの救いだと二人はため息を吐く。

 

 

 

 最後に自己紹介するのは、春野サクラ。彼女は隣にいるサスケへ視線をやりながら話を始めた。

 

 

「私は春野サクラ。好きな物というか、好きな人は…内緒。ちなみに嫌いなものはナルト。無神経な所が特に嫌。それと、将来の夢は…好きな人の隣に立って認めて貰う事です」

 

 彼女の言う好きな人。本人は秘密にしているつもりだが、サクラの仕草や視線で誰を差しているのか丸分かりであった。この年頃の女の子は、やはり恋愛なのだとサチとカカシは微笑ましく感じて笑う。

 

 

 

「さて、自己紹介は以上だな。それじゃ、明日から任務をやるぞ」

「本当!! あのさ。一体、どんな任務なの?」

「慌てるな。まずはこの五人である事をやる。それはサバイバル演習だ」

 

 

 カカシの言葉に、三人は目を瞠る。任務と聞いて期待に胸を膨らませるが、その内容が演習と知ってナルト達は興ざめする。演習自体、アカデミーの授業で何度もやっていた。別段、特別でもない事に三人はつまらなそうな様子を見せる。だが、それを予測していたカカシ達は含み笑いを浮かべて三人達に言い放つ。

 

 

「ククク…。 まあ、そんなにガッカリするなよ。演習と言っても只の演習じゃない」

「あなた達が明日やるのは卒業した者を篩いにかける難関試験よ」

「ちょっと待つってばよ。もし、それに失敗したらどうなるの?」

「その時はアカデミーに戻る事になる。元より、下忍になれるのは卒業した27名のうち9名だけだ」

 

 

 明らかになった事実にナルト達は、衝撃を隠せない。緊張の為か、俯く三人へ詳細を記した紙を渡した後、カカシは解散の号令を掛けた。三人が立ち去ろうとする中。サチはある用件を伝えるべく、ナルトを呼び止める。

 

 

「ナルト。一つ言っておく事があるわ。今日、私は家に帰れないから早めに寝るようにね」

「ん?どうしてだってばよ?」

「立場上、仕方のない事よ。理由は私の口から情報が洩れる事を防ぐ為。中には立場を利用して、それをやる人もいるからね」

「ふーん。そういう訳があるんだな」

「ええ。明日は絶対、遅刻しないでよ」

「分かってるってばよ。姉ちゃん また明日な」

 

 

 そう言って、帰路に着くナルトを見送った後。その場に残ったサチとカカシは、明日の演習について話し合いを始めた。いくつか意見を交わし合い、行う内容も決まり二人もその場から立ち去っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 青々と晴れた空の下、三人は指定の場所である演習場へ来ていた。今日は自分達の進退が決まる大事な日だ。それもあってナルト達の表情は何処か暗い。一体、演習で何をやるのか? 忍術のテストか? それとも体術だろうか? 考えても分からない事が不安を掻き立てる。

 

 

 集合して早、2時間。約束の時間は当に過ぎているのに、一向に姿を見せないカカシ達に三人は苛立ちを隠す事なく、待っていた。苛立ちの理由は二人が遅いだけではない。昨日、渡された紙の一文に朝食を抜いて来る様にと記されていた。それは食べた物を吐く程にきついのだと、結論付けた三人は指示通りに朝食を食べずにいた。だが、三人は気付いていない。空腹から沸き立つ苛立ちで先程まで感じていた不安が消えている事に。

 

 

 

「やあ。諸君、おはようさん」

「遅くなって悪いわね」

「「おっそーい」」

 

 それから更に数十分が経った頃、演習場に漸くサチとカカシが姿を見せた。散々待たせた事を悪びれる様子も無く、呑気に挨拶をしてくる二人に。ナルトとサクラは堪らず叫び、サスケも不機嫌そうに二人を睨む。しかし、そんな三人を無視してカカシは、近くの切り株に時計を置き、時間を設定しながら演習の説明を始めた。

 

 

「今回の演習では、お前達には鈴取り合戦をしてもらう。ルールは簡単。今、此処に二つの鈴がある。これを俺達から奪う事が課題だ。ただし、昼までに取る事が出来なかったら…昼飯は抜き。傍の丸太に縛った上で俺とサチが目の前で弁当を食うからな」

 

 

 にこりと笑って言うカカシに、ナルト達は朝食を抜くという指示は嫌がらせも含まれている。それを理解して、呆れる三人を楽しそうに見ながらカカシは、話を続けた。

 

 

「取る鈴は一人一つでいい。鈴は二つだから、最低でも一人は失格となる。因みに手裏剣やクナイも使って良いぞ。本気で来ないと鈴を取るのは無理だろうしな…」

「でも…危ないわよ。怪我でもしたら大変じゃない」

「そうそう。黒板消しも避けれない程、どんくさいんだし...下手したら殺してしまうってばよ」

「大した自信ね。弱い者が吼えても、滑稽なだけよ。それは分かってるわよね」

 

 

 挑発する様な姉の言葉に、カチンと来たナルトがクナイを投げようと構えた時。後ろからその手を掴まれ、自分の首に押し当てられる。ナルトの後ろにいたのは、先程まで目の前にいたカカシであった。一瞬で背後に移動したカカシの実力を知り、三人の間にピリピリとした空気が走った。

 

 

「どうやら…少しはやる気になったかな? そんじゃ、鈴取り合戦…よーいスタート」

 

 カカシの合図で五人は、その場からサッと立ち去った。それぞれの方向へ散らばった三人が隠れたのを見届けた後、サチはカカシの傍に降り立つと、話しかける。

 

 

「皆、上手く隠れたみたいよ。あの子達、演習の趣旨に気付くと思う?」

「どうだろうね? 俺としては、ぜひ気付いて欲しいけど…それに気付いた奴らはいなかったからなぁ」

「そう。でも、今回は成功するかもしれないわよ」

「いや、俺は正直、今回も無理だと思う。何せ、お前の弟がアレだもんよ」

 

 

 

 そう言ってカカシはある方を指差した。何があるのかと指差した方向を見て、サチは絶句する。そこにいたのは隠れた筈のナルトが、仁王立ちをしてこちらを見ていた。

 

「二人共、いざ。尋常に勝負だってばよ。二人の鈴は俺が頂く」

 

 

 しかも彼は自信満々の様子で、鈴を取ると豪語した。そんなナルトをサチとカカシ。それと隠れている二人も呆れた顔を浮かべる。開始前、自分が簡単にあしらわれた事はすっかり忘れているようだ。

 

 

「サチ。此処はお前に任せていいか? 俺は他の二人を当たるからさ」

「構わないわ。私も丁度、あの世間知らずにお灸を据えようと思っていたから…」

「そ、そうか。まあ、程々にね。お前、怒ると容赦ないから」

「勿論。手加減はするわよ。でも、忍の厳しさは体で覚えてもらう。それがあの子の為でもあるわ」

 

 

 顔は笑っているが、明らかに怒っているサチの姿に。カカシは引きながら忠告をする。そして返ってきた言葉を聞き、カカシは心の中でナルトに合掌した。下手をしたら、あいつは自分よりも厳しい人間を相手する事を選んだのだ。

 

 

「何だよ。相手は姉ちゃんか。言っとくけど、手加減は無しだってばよ」

「無駄口はいいから、かかって来なさいな。忍の基本戦術は知ってるわね?」

「基本戦術?それって体術とかだろ。馬鹿にするなってばよ」

「まあ、他にもあるけどね。貴方には体術で相手をしてあげる」

「へッ 怪我しても知らないぜ」

「いいから来い」

「ッ…。やってやる」

 

 

 煽るようなサチの言葉が合図となり、ナルトはサチへ向かって行く。その勢いを利用して、拳を付き出すがサチは軽く体をずらして攻撃を交わすと同時にナルトの襟元を掴かんで投げ飛ばした。投げられたナルトは、地面を何度か転がって止まった。

 

 

「ナルト。貴方の攻撃は単調すぎる。そんな攻撃では、子供にも避けられるわよ」

「くっそ。まだまだぁ!! これからだってばよ」

 

 

 厳しい言葉をぶつけるサチに、ナルトは悔しそうな顔で再度、向かっていく。今度は単調な攻撃ではなく、細かく拳と蹴りを混ぜて繰り出していた。だが、当たる所か掠りもしない事実に、次第に動きが大きくなっていく。その際、生まれた隙を突いてサチはナルトの胸に掌底を繰り出す。素早いその攻撃に反応出来ず、まとも食らったナルトはまたもや地面を転がる羽目になった。

 

「いつ如何なる時でも焦るな!! それが隙となって、相手に反撃を受ける事になる。場合によっては、その一撃で貴方の命が終わる事だってあるわよ」

 

 

 地面に横たわりながら、ナルトはサチを睨む。手合わせをする前、ナルトは姉が相手なら手を抜いてくれると内心では甘えていた。だが、当然そんな事は無く。蓋を開けば、良い様に遊ばれているだけ。手加減無しだと、こうも実力差があるのか。そう思いながら立ち上がったナルトは、更に気付く。

 

 いや、姉は手を抜いている。仮にも姉は上忍だ。幾度なく、修羅場を潜っているだろう。そんな者が本気でやれば、自分など一撃で終わる。思えば、二度も派手に転がされたのに体にダメージは無い。そして姉は攻める事はせず、こちらの出方を伺っていた。その事が余計にナルトを苛立たせる。先程、姉は焦るなと言っていた。ならば、今の自分がそうだ。しかし、そこでナルトはハッとある事に気付く。

 

 

『忍の基本戦術は知ってるわね? まあ、他にもあるけどね』

 

 そういえば、姉はこうも言っていた。基本戦術は他にもある。そうだ。体術だけで駄目なら、忍術も使えばいい。ナルトは印を構えると唯一使える術を発動させた。それを見ていたサチは、やっと気づいたかと笑みを溢す。一人で駄目なら大勢で。試験の答えに半分だけ近付いた。あとはもう半分の答えに三人が気付くかどうかだ。

 

 

「影分身とは考えたわね。でも、数は8人か。まだ使いこなせてはいない様ね」

「へへ それはどうかな? 甘く見てると駄目だってばよ」

「一発も当てれないのに、よく言えるわね。数が多ければいいってものじゃ…」

 

 そう言って踏み出した時。突如、背後から抱きしめられた。誰だ?と振り向けばそこにはもう一人の分身体が自分を抑えていた。術を発動した瞬間。ナルトは一人だけサチの後ろに出現させていたのだ。基本は相手の隙を突く。サチが教えた事をナルトは、土壇場で実践してみせた。

 

 

 そして8人の分身は、一斉にサチへ向かって行く。4人が自分の手足を掴んで動きを止め、残りの4人が攻める。ナルトの作戦は上手く行った様に見えた。だが、ナルトの拳がサチを捉えた瞬間。彼女の姿が消えて、その攻撃は背後の分身体へ当たる。

 

 突然の事に、ナルトは勿論。陰から見ていたサスケとサクラも驚きで言葉が出ない。一見、瞬身の術にも見えるが…サチは分身体に捕まっていた。あの術は対象に敵が触れている場合、使う事は出来ない筈。それなのに彼女は移動した。

 

 

 

「ふー 間一髪。 まさか、あの術を使う事になるとはねぇ。流石に狡いかな?」

 

 

 サチは近くの木の枝に立ち、手にしたクナイを回しながら一人呟く。そのクナイは本来のクナイと違い、刃が三又に別れた形状をしていた。その柄には何やら文字が刻まれている。そう サチが使ったのは四代目が得意とした飛雷神の術であった。演習の開始後、手頃な場所に仕込んだクナイを利用してこの場所へ飛んで来ていた。

 

 

「そりゃ狡いでしょ。咄嗟とはいえ、試験で使うのはご法度だよ。おかげであいつら。少しだけやる気を失くしたぞ。打つ手が無いと思ってな」

「う…。ごめんなさい」

 

 サチの傍に現れたカカシは、若干怒った様子で言う。個人の実力や忍の資質を見定める場で、相手の実力以上の力を使えば相手を萎縮させてしまう。それはサチも知っている。土壇場で成長の兆しを見せたナルトに、サチもいつの間にか熱が入り、つい加減を忘れてしまった。その事をサチが謝ると、深いため息を吐いてカカシは怒りを収める。

 

 

「まあいいさ。これで諦めるなら…所詮、その程度だったって事だしな。それじゃ、次から俺が行く。サチ、お前は三人に気付かれない様について来い。そして指導のやり方を見て、しっかり学べよ」

「ええ。分かった。ご指導お願いします」

「はいよ。よし行くぞ」

 

 

 話が終わり、二人はナルト達の元へ移動する。先程の場所へ戻ると、そこにまだナルトはいた。他の二人もまだ付近に隠れているのが気配で分かった。そして木々の中からカカシが姿を見せ、たった今ナルトを見つけたといった様子で近寄っていく。

 

「何だ。お前、こんな所にいたのか。他の二人も見つからないし、折角だ。俺と鈴取りしてみるか?」

「俺が、先生と?」

「ああ。ま、自信が無いなら別にいい。火影になりたいと言ってる割に、意外とヘタレなんだなぁ」

「何だと… 上等!! やってやるってばよ」

「そうか。じゃあ、いっちょやるか」

 

 

 カカシは巧みな言葉で、ナルトの自尊心を刺激してやる気を起こさせる。その言葉はサスケとサクラにも届いていた。負けん気を見せるナルトの姿に、消えかけていた二人の闘争心が燃え上がっていく。

 

 

 目の前に立つカカシは、構えるまでもなくナルトを見ていた。一見、隙だらけだが…先程のサチとの手合わせであれは隙を作っている事を悟る。このまま向かって行っても、さっきの二の舞いになる。ならば…

 

 

「影分身の術。今度は5人と少ないな。もしかして、俺は舐められてるのかな?」

「いいや。これも作戦の内だ。今に目に物を見せてやるってばよ」

 

 

 そう言って、ナルトと分身体は同時にカカシへ駆け出す。いきり立ったと思えば、冷静に作戦を練る姿にカカシは、自身の中にあるナルトの評価を改めた。さて、どう出るか? 迫った5人が拳を付き出すとカカシは後ろに下がって距離を取る。だが、後ろから気配を感じて振り向くと新たに5人の分身が迫って来ていた。

 

 

「よっしゃっ!! 今度は絶対、一発当てるってばよ。そんで鈴も頂きだ」

「成程。前の分身は俺の隙を作る為か。言い作戦だが…」

 

 前後から分身体で挟み撃ちにする。恐らく、サチとの戦いから学んで生み出した作戦。ナルトの成長の早さにはカカシも目を瞠る。だが、結果は分身体の同士討ちで終わった。前後から迫る拳が当たる瞬間、カカシは近くの木の上へ逃げていた。

 

 

「挟み撃ちとは、お前にしては良い作戦だった。けど、攻撃が単調なのは変わらない。まだ詰めが甘いな」

「くっそぉぉぉ! 上手く行ったと思ったのに… ん?」

「どうした? 地面に何か‥って、あれは!?」

 

 

 自分の言葉に悔しがってぼやいていたナルトは、何かに気付いて地面に視線を落とす。カカシも気になり、視線を落とすとそこに鈴が転がっていた。まさかと、自分の腰を見ればある筈の鈴が無い。移動する拍子に落としていた事を知った。急いで拾おうとした時には、既にナルトは鈴に向かって駆け出していた。

 

 棚からぼた餅。あと少しで鈴に手が届く。その時だった、踏んだ地面から飛び出た縄がナルトの足首に巻き付き、木に逆さまになって吊るされる。その下では、拾い損ねた鈴を回収するカカシがナルトを見上げて口を開く。

 

「簡単なトラップに嵌まるとは、お前も人の事を言えないね。それと忍なら裏の裏を読め。あんな都合の良い状況。普通は疑うのが常識でしょ」

「うっせぇぇ そんなの分かってるってばよ」

「あのね。分かってないから言って…」

 

 

 図星を指摘されて言い訳をするナルトに、呆れたカカシが言い返そうとした時。何処からともなく飛んできた手裏剣やクナイがカカシに突き刺さる。それは隠れていたサスケが、一瞬の隙を見せたカカシに投げた物だった。容赦ない攻撃にナルトは青ざめて倒れゆくカカシを見つめるが、地面に倒れたのは一本の丸太だった。

 

 

 その事にサスケは舌打ちをして、その場を移動する。飛んできた方向からカカシは、自分の場所を絞り出すだろう。その前に逃げる事をサスケは選んだ。サクラもそれに合わせ、サスケの後を追っていく。だが、カカシにはその姿が丸見えであり、次の標的をサクラに決めた。

 

 

 

 

 

 必死になってサスケを追うが、サクラは完全に見失ってしまう。走っても見つからないサスケに、もしや先生達にやられたのかと嫌な想像をするが…サスケに限ってそんな事は無いと否定する。すると茂みの向こうに立つカカシを見つけ、サクラは気配を殺して再び覗くが…カカシの姿は既に無い。一体、何処へ行ったのかと辺りを見回した時。

 

「サクラ 後ろ」

 

 自分を呼ぶその声に反応して、振り向くとカカシが自分をジッと見つめていた。すると何処からともなく風が吹き荒れ、木ノ葉が舞い上がる。その不思議な現象に困惑して慌てふためくサクラの背後から、またもや自分を呼ぶ声が聞こえた。今度は聞き覚えのある声に呼んだ者の正体を知り、喜んだ様子で振り向いたサクラは目を見開き驚いた。

 

 

「サクラぁ た、頼む… 助け‥てく…れ」

「い、嫌ぁぁぁぁあああ! 何で‥こんな事にぃ」

 

 

 サクラの目に映るサスケは体中の到る所にクナイと手裏剣が突き刺さり、左腕は肘から下が切られて無くなっていた。全身から流れる夥しい血の量が、致命傷である事を見て分かる。彼は助けを求めるが、何も出来ない自分の無力さから目を背ける様にサクラは気絶してしまった。そんな彼女の姿に、やり過ぎたかとカカシは頭を掻いて反省していた。

 

 

 残るはサスケ一人。このまま自分がやるのもいいが、最後くらいはあいつに任せてみよう。そう判断したカカシは近くにいるサチへ呼び掛ける。

 

「サチ、最後はお前がやれ。見ていたからやり方はもう分かっただろう?」

「ええ。ばっちりね。次は大丈夫よ」

「そう。じゃあ頼んだよ。俺は開始場所に戻ってるから」

 

 

 カカシの言葉に力強く頷くサチに、言伝を残してカカシは姿を消した。サチもその場を離れると感じた気配を辿っていく。そしてサスケの姿を発見し、サチは彼の背後にある木に隠れて様子を見る。

 

 

「今の声… サクラか?」

「そうよ。忍の基本戦術の一つ。幻術をカカシが掛けたの。思いの外、効き過ぎた様だけどね」

「あんたが来たって事は、残っているのは俺だけか。だが、俺はあいつらとは違うぜ」

「その言葉は結果を出してからになさい。じゃあ、始めましょうか」

 

 呟くサスケに答える様にサチは話しかけた。いきなり現れたサチに動揺する事なく、言葉を返すサスケの冷静な姿に彼は…他の二人と違うと思わせる。しかし、実力はどうだろうか?口先だけかどうかを確かめるべく。サチは手合わせの開始を宣言した。

 

 

 手始めにサスケは、左右のホルダーから忍具を取り出すとサチへ向かって投げつけた。見習いの割に素早い投擲だが、それに当たる程、サチも甘くない。あっさりと避けるがサスケは、不敵な笑みを浮かべる。何だ?と訝し気にサスケを見るが、後ろから何かが切れる音が耳に入り、彼の狙いを知った。咄嗟に躱すと背後の木に無数のナイフが刺さる。

 

 まさか、最初の攻撃を陽動に使うとは…しかもそれをギリギリまで悟らせない術まで心得ている。事前に彼はアカデミーで飛び抜けたエリートだと、カカシから聞いていたが此処までやるとは思ってもいなかった。

 

 そしてサチが着地する瞬間を狙って背後に回ったサスケは蹴りを繰り出した。反応が遅れたが、これも受け止めて反撃をしようとするが、その時には次の攻撃に入っている。素早い上に重い一撃に防戦一方となるサチの僅かな隙を突いて、鈴を奪い取ろうするが後ろに下がって辛うじて奪われずに済んだ。

 

 

 予想以上の実力にサチはただ驚くばかりだった。この歳でこれ程の力を付けるには、才能だけでなく並ならぬ努力を重ねた結果だろう。

 

 

「確かに貴方は他の二人とは違うわ。それは素直に認める。けど、今ので大分息が上がってる様ね。そろそろ限界かしら?」

「フン そんな訳あるかよ。とっておきの物を見せてやるさ」

 

 

 そう言ってサスケは印を組み、大きく息を吸い込むと火の玉に変えて吐き出した。勢いよく向かったそれはサチにぶつかると爆発して、辺りは土煙に包まれた。だが、煙が晴れた場所にサチの姿は無く。サスケは左右や前後を見回すが見つからない。

 

 

「私は下よ!! 土遁 心中斬首の術…」

「な、何!? うわぁぁああ」

 

 声が聞こえたと同時に地面から突き出た手に足首を掴まれ、そのまま地面の中に引きずり込まれてしまった。首以外はすっぽり埋まったその姿は、誰が見ても首を斬られた生首と思うだろう。そんなサスケを見下ろし、サチはゆっくりと口を開く。

 

 

「忍の基本戦術の最後が忍術だけど…これについては、貴方は頭一つ抜き出てるわね。でも、術の発動に時間が掛かり過ぎるのが課題といった所か」

「ちっ、言われなくても分かっている。いつか、目に物を見せてやるさ」

「そう。それは楽しみだわ。さて、もう時間の様ね。一旦、集合場所へ戻るわよ」

 

 

 遠くから聞こえるベルの音が、試験の終了を知らせる。サチは埋まってるサスケを引き上げ、途中で気を失っているサクラとも合流してカカシの元へ向かった。

 

 

 二人を連れて、集合場所に着くと何故か丸太に縛られているナルトが目に入った。何をしたのか予想は付いているが、敢えてサチはカカシに尋ねる。

 

「ねえ。この子は何故、縛られているのかしら?」

「あ~ それはな、俺達がいない隙に一人で弁当を食おうとしてたのよ。んで、勝手な事をしたお仕置きをしてるって訳よ」

「全く、この子は‥‥」

 

 こんな時でも意外な事を仕出かす弟に、サチは肩を落として息を吐く。成長を感じたと思った矢先の事だ。呆れるのも仕方無いだろう。そんなサチにカカシは、小さい声で質問を投げ掛ける。

 

 

「それより、サチ。お前の方はどう思う?今回の試験であいつら、忍としてやっていけると思うか?」

「三人の中、二人の実力はあるよ。だけど、纏まりが無いから今後は無理だと思うわ」

「そうか。じゃあ、結論は失格でいいな?」

 

 カカシの問いにサチは、この試験での三人を振り変える。実力なら下忍としては上々。しかし、肝心の事が出来ていない事からサチは今後、忍としてやっていくのは無理だと判断した。それはカカシも同じの様で、サチの意見を聞いて彼も結論を出した。

 

 

 そして丸太の傍で座っている三人に近寄るとカカシは、間延びした声でお腹を空かせている三人へ声を掛けた。

 

 

「おー 大分、腹の虫が鳴ってるねぇ。それで今回の演習の結果だが… ま、お前達はアカデミーに戻る必要も無いな」

 

 カカシの結論に三人は、一様に明るい顔を浮かべる。鈴は取れなかったが、自分達を認めてくれた。そんな三人を見て、優しく笑ったと思った瞬間。感情が抜けた表情でカカシは言葉を続ける。

 

 

「そう。三人共。忍者をやめろ」

 

 

 

 思わぬカカシの言葉に、三人は喜びの表情から驚愕の表情へ変わった。その意味を理解して、縛られていたナルトが堪らず吼える。

 

 

「忍者やめろって、どういう事だってばよ!? そりゃあ、鈴は取れなかったけど、何でそこまで言われなきゃなんねえんだよ」

「どいつもこいつも…忍者になる資格がねえガキだって事だよ」

「クソっ…」

 

 

 カカシの発言が気に障り、サスケがカカシに向かっていく。だが、感情に任せた彼の動きにキレは無く。隣で見ていたサチにあっさりと取り押さえられてしまう。

 

 

「サスケ君に何て事をするのよ」

「黙りなさい。あなた達、忍者になる事を甘く見てるわ。一体、何の為に班ごとに分けて、この演習をやってると思うの?」

「え? それは…どういう事ですか?」

「つまりだ。お前達はこの演習に隠された答えを全く理解してないのさ」

「だから、その答えって何ですか? 勿体ぶらずに教えてください」

 

 

 

 サスケに乱暴するなと息巻くサクラに、サチは厳しい態度で言葉を返す。言ってる意味が分からず、聞き返すサクラにカカシが答えるが…明確な返答が無い事に、サクラは更に問い詰めた。

 

「ったく。少しは考えたらどうなのよ。その答えは‥チームワークだよ」

「私との手合わせで、ナルトが半分答えを出したから。あとはあなた達が気付いてくれると思っていたけどね」

「結果は…見ての通りだ。三人で来れば、鈴は取れたかもしれないのにな」

 

 

 二人はサクラの問いに答えるが、その答えに納得がいかないサクラは二人に食って掛かる。

 

 

「ちょっと待ってよ。鈴は二つしか無いじゃない。それじゃ、協力して鈴を取っても、結局は仲間割れを起こすわ」

「当然よ。これは態とそうしてるんだから。どんな状況でも自分より、仲間を優先して行動出来るかを見る為だもの」

「それなのにお前らと来たら… ナルト、お前は仲間に頼らず独走するだけ。サクラ、お前はナルトよりサスケの事ばかり。最後にサスケ、お前は他の二人を足手まといだと切り捨てる始末。いいか? 任務は基本、班で行う。確かに卓越した個人の力は必要だ。しかしな。それだけではやって行く事は出来ないのさ」

 

 

 そう言って、カカシはサチへ目配せする。意図を理解したサチは、クナイを取り出すとサスケの首筋に押し当てながら非情な言葉を言い放つ。

 

 

「サクラ。ナルトを殺せ。さもなければ、サスケを殺す」

「と。こんな事態になって、無理な選択を強いられる事になる」

 

 

 一瞬、緊迫した空気に包まれるが…カカシの言葉でそれが演技だと知り、三人は安堵の息を吐いた。そしてカカシはすぐ傍にある石の前に行くと、三人へ語りかけた。

 

 

「この石を見ろ。これはな…英雄と呼ばれた者の名が刻まれている」

「英雄!? それそれそれぇ!! 俺も英雄になって、そこに名を刻みたい。それまでぜってぇ。犬死なんてしねぇってばよ」

「ナルト!! 口を慎しめ。何も考えず、言う言葉は相手を傷つけるわよ」

「な、何だってばよ!? そんなに怒らなくてもいいじゃんか」

「此処に名を刻まれているのは…任務や戦いの中で命を落とした者達だよ。その中には俺とサチの友人も含まれている」

「…!! ごめんってばよ。カカシ先生、姉ちゃんも…」

 

 

 

 英雄という響きに浮かれた様子で石に名を刻むと豪語するナルトをサチは一喝する。その後、石に込められた真実を知ったナルトは反省して二人に謝った。自分の迂闊な発言が二人を傷付け、そして既に亡くなっている二人の友や見知らぬ人達を貶めてしまった事をナルトは後悔した。

 

 

 重苦しい空気の中、三人に向き合いカカシが口を開く。

 

「お前らにもう一度、チャンスをやる。ただし、昼からは俺とサチも本気で行くぞ。命懸けの鈴取り合戦になる。挑戦したい奴だけ、そこにある飯を食え。だが、ナルトには食わせるな」

「何でだよ。さっきの仕返しのつもりかよぉ」

「そうじゃない。お前はルールを破って、一人で食べようとしただろ。これはその罰だよ。もし、他の二人がナルトに一口でも食わせたら、その時点で失格だ。二度とチャンスは与えない。分かったな?」

「けっ 別にいいってばよ。昼飯を抜いたって、俺は負けねえからよ」

「決まりね。じゃあ、一時解散。30分後にまた来るわ」

 

 

 そう言って、二人はナルト達の前から姿を消した。その場に残された三人。暫くして、二人は置かれた弁当を手に取り食べ始める。その光景を縛られたナルトが羨ましそうに眺めていた。するとサスケが食べていた弁当をナルトに差し出した。突然の事にナルトもサクラも困惑するが、本人は構う事なく辺りを見わした後でナルト達に言葉をかける。

 

「大丈夫だ。周りに二人の気配は無い。それに昼からは本気で来ると奴らは言っていた。この次は三人で鈴を取りに行く。そんな時、腹が空いてる奴がいたら足手まといだからな」

 

 サスケの言葉に、感化されたのか。サクラもナルトへ弁当を差し出す。恥ずかしいのか、僅かに頬を赤く染めた姿にナルトも同じく頬を染めて嬉しそうに笑った。そして縛られて身動きが取れないナルトに弁当を互いに食べさせ、自分達も食べていると。突如、目の前に大きな音を立てて煙が巻き起こった。

 

 

 

「お前らあぁぁぁぁっっ!」

「よくも言い付けを破ったわねぇぇぇっ!」

「うわぁぁぁああ」

「きゃああああ」

「っ...!」

 

 

 煙の中から叫びながら現れたカカシとサチに、三人は驚き悲鳴を上げた。すると恐ろしい顔で迫った二人は、一転して優しい顔に変わると声を揃えて『三人共、合格』と告げた。

 

 

 

「え?何で…合格なの?昼からの鈴取りはまだやって無いのに…」

「それはもう必要ない。実を言うと今のが最後の試験だったんだよ」

「ええ。昼からの鈴取りは本気でやる。だけど、万全の状態で挑むべきものを一人は空腹の状態で行う事になる。それでは当然、足並みは揃わないのは必然。ならば、全員が万全の状態で挑むには何をすべきか? その行動がこの試験に置ける答えよ」

「そんでお前達はナルトに弁当を食わせた。例え、ルールを破る事になっても仲間を優先する事を選んだ。今までの奴らは、それに気付かず俺の言いなりだったからな。いいか?良く覚えておけよ。忍にとって、掟やルールは絶対だ。それを破る奴は周りからクズ呼ばわりされる。けどな、それに縛られて仲間を蔑ろにしたり、大切にしない奴は…それ以上のクズだと俺は思ってる」

「掟を守るのは大事な事よ。でも、それよりも大切な物もある事をどうか忘れないでね」

 

 

 突然の合格宣言に戸惑い、おずおすと質問するサクラに二人は穏やかな口調で答えた。二人が言った言葉は、三人の心へ深く刻み込まれた。きっと、この二人は大切な物を失ったのだと…話の中でそれを悟った。だからこそ、仲間の大切さ。そしてチームワークの重要さをこの試験で伝えたかったのだろう。結果として多少、躓いたが三人は二人が望む答えを導き出して試験を合格する事が出来た。

 

 

 

 

「何はともあれ。今回の演習はこれにて終了。明日から三人は、正式な第7班として任務を行う」

「やったぁ。遂に本物の忍者になったってばよ」

「それでは解散だ。今後の日程は追って知らせる」

「各自、いつでも出動が出来る様にしておきなさい」

「ちょっと、待つってばよ。その前に縄を解いてくれよ」

 

 

 いつの間にか解散する流れに焦ったナルトが、そう叫ぶが…皆は見向きもせず、スタスタと立ち去っていく。

 

「あー どうせ。こんなオチだと思ったってばよ!! てか、姉ちゃんも笑ってないで解いてくれって」

「ナルト。貴方に特別課題を出すわ。今日の夜までに縄抜けして家に帰る事。夕飯までに帰らない時は、ご飯抜きだからね」

「何だよ。それぇぇぇ!? いくら何でも薄情すぎるってばよぉぉぉぉ」

「冗談だって。ほら、解くから動かないで」

 

 

 流石に放っておく訳にいかず、戻ってきた姉の手によってナルトは解放された。その後、サチは拗ねたナルトの機嫌を取る為に一楽へ連れていき、改めて弟の合格をサチは心から祝った。




今回のお話。いかがだったでしょうか?

分けて書くより、一気にやってしまおうと思ったら…まさかの2万字超えという始末。

オリジナル展開も含む為、仕方無いですが今度はもう少し読みやすく書ければと思います。

宜しければ、一言でもいいですので感想をくれると励みになります。
では、次回もよろしくお願いします。


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波の国激闘編
第四話 他国からの依頼人


今回から波の国編が始まります。

原作も少しずつ盛り上がってくる頃ですね。



 木ノ葉 近郊の森。カカシ小隊の第7班はある任務を帯びて、この森へ足を運んでいた。

 生い茂る草を掻き分け、進んでいると今回の目標を見つけた四人は、木を背にして隠れ気配を消して様子を窺う。

 

「こちらサチ。目標を発見したわ。距離はおよそ5mよ」

「分かった。なら、合図はお前が出せ。言っとくが…逃がす様なヘマはするなよ」

 

 目標から目を離さず、サチは別の場所で待機しているカカシに状況を説明する。現状を把握したのち、カカシは現場にいるサチへ指揮を任せる事にした。無論、しっかりと釘を刺す事を忘れずに…

 

「勿論。皆、私が目標の先にクナイを投げるわ。それと同時に三人は目標の背後から接近して、クナイを投げた方向へ追いやって頂戴。最後は私が捕まえるから。何か、質問はある?」

「別に無い」

「俺も…」

「私も無いです」

「分かった。それじゃあ、作戦開始」

 

 その言葉と同時に放たれたクナイを見て、三人も作戦通りに行動を開始した。突然、後ろから現れたナルト達に驚き硬直するが、瞬時に危険と判断してその影は逃げ出した。左はサクラ、右はサスケ、ナルトは真ん中。逃げる影が上手く正面へと誘導した直後、飛雷神の術で飛んだサチが先回りをしてその影を捕まえる。

 

 

「フシャァアアアア ヴヴヴッ」

「目標の捕獲に成功。右耳のリボンも確認した。ターゲットで間違いないわ」

「お疲れさん。すぐに四人は合流地点に移動をしてくれ。俺は檻の準備をしておく」

「了解。もう暴れないで…っ!? 引っ掻いたら痛いじゃないの、この馬鹿猫が!! よし大人しくなったわね」

「いや、そりゃ思いっきり叩いたらそうですよ。大丈夫なんですか?結構、凄い音がしたけど…」

「一応、手加減したから大丈夫よ。多分…」

 

 捕獲した影 それは飼い主の元から逃げた猫であった。しっかりと掴んで放さないサチの手から逃げようと暴れた挙句、猫は彼女の手を引っ掻いた。その痛みに堪らず、サチは猫の頭へ勢いよく拳骨を振り下ろした。ゴツンと鈍い音が響いた後、猫は項垂れぐったりしていた。その光景を見たサクラが心配そうに呟くが、本人は問題無いと返事を返す。最後に小声で言った言葉もサクラに聞こえていたが、突っ込まない事にした。

 

 

 

 

 その後、カカシと合流した四人は猫を檻に入れて里への帰路に着く。その際、猫の頭に出来たコブについて、カカシがナルト達に尋ねるが…知らないと首を横に振る。不自然な三人に眉を寄せるカカシだが、別段どうでもいいと気にしない事にした。だが、その後ろで血管が浮くほど拳を握りしめ、微笑みを向けるサチにナルト達は怯えていたのだ。

 

 

 

 そして里に辿り着いた一行は、任務の報告をする為に火影邸へ訪れた。そこでは猫の飼い主である大名夫人がおり、檻の中にいる猫を確認すると厳つい表情を崩し、明るい笑顔を浮かべる。余程、心配していたのか。檻から猫を取り出して頬ずりまでする始末。夫人の行動に猫は心なしか、嫌そうな顔で凄まじい泣き声を上げる。その様子を見て、一同はこの猫が逃げた理由が分かった。毎日、こんな事をされては猫も溜まったものではない。この分だと、また脱走するだろうと考えていた。

 

 

 受けていた任務を完了し、同室にいたヒルゼンは7班に与える任務を書類を見て考える。次はどんな任務だと、楽しみにしていた三人だったが。ヒルゼンの口から出た内容は…芋掘りの手伝い、老中のご子息の子守、隣街へのおつかい等。およそ忍者がやる仕事と思えないものばかりであった。その事に不満を募らせたナルトがついに文句を口にする。

 

 

「ダメー!! そんな任務ばかり、もう嫌だってばよ。第一、芋掘りって忍者がやる必要ないじゃんよ」

「何言ってんだ。お前はまだ新米になったばかりだろ。それにな…一見、大した事が無さそうな任務でもちゃんと意味があるんだぞ」

 

 

 ナルトの言葉にサクラとサスケも内心、同意する。確かにどの任務も忍者がやる必要性はない。それにこんな事をする為に自分達は忍者になった訳ではないのだ。口にせずとも、二人も同様の不満を感じていた。同じく同室にいたイルカが、文句を言うナルトを叱りつけた。それに続いてサチがナルトを宥めるべく口を開く。

 

 

「ナルト、いい加減にしなさい。こういう依頼が来るのは、一般の人達の理解を得る為でもあるの。戦う力が無い人からしたら、忍者は恐怖の対象でしかない。だからこそ、同じ目線に立ち、同じ仕事をする事で私達が恐ろしい存在じゃないと知ってもらうのよ」

「…それでも俺は別の任務がやりてぇだってばよ。少しでも上を目指す為にさ」

 

 任務に籠められた意味を諭す様に教える姉にナルトは、自分の気持ちを言い返す。姉の言ってる事は分からない訳ではない。それでも頭と感情は別だ、それにランクの高い任務で自分がどれだけやれるのか? 今の実力を試してみたい気持ちの方が強かった。サチの話を聞いても、意見を曲げないナルトを再び叱ろうとするイルカをヒルゼンは手で制し、静かに口を開いた。

 

「いいじゃろう。お前がそこまで言うなら…次は少し上の任務をやってもらおう。内容はある方の護衛任務じゃ」

「本当か!? そんでさ 一体、誰を護衛するんだってばよ!! 大名様か?それとも何処かの姫様だったりするのか?」

「落ち着かんか。今、紹介するでな。イルカよ。悪いが、その者を呼んで来てもらえるかの」

「分かりました。すぐ連れて来ます」

 

 

 

 ヒルゼンの指示を受けてイルカは部屋を出て行った。数分後、イルカは一人の老人を連れて部屋に戻って来た。その老人は額に鉢巻きを付け、手にした酒瓶を傾けながらこちらを睨む様に見た後で酒臭い息と一緒に言葉を吐き出す。

 

 

「何だよ… 護衛する奴って、女やガキばかりじゃねえか。特にそこのちっこいアホ面したガキ。ホントに忍者なのか? 超頼りねえなぁ」

「ハハハ 誰だ?そのアホ面したガキって…‥ このジジイ ぶっ殺すぞ」

「オイ これから護衛する人を殺してどうする。それに殺すなんて言葉。軽く口にするもんじゃないよ」

 

 老人の言葉に並ぶ二人を見比べて、馬鹿にされてるのは自分だと知ると、怒りを露わにして老人へ掴みかかろうとするナルトをカカシが止める。そして老人を見据えて、言葉を続けた。

 

 

「まあ…確かにご老人からすれば、この子達は頼りないかもしれません。ですが、彼らは里が認めた忍者です。そこらの大人よりも、腕は立ちます。それに護衛には、俺とサチも当たりますから心配は無用ですよ」

「…ほお。そこまで言うなら、あんたらに頼むとしようかの。おっと、まだ名乗って無かったな。ワシは…タズナと言う者じゃ。こう見えて、橋作りの超有名人でな。波の国へ帰るまでの道中と橋を完成させるまでの期間。ワシを狙う奴から守って欲しい」

「分かりました。それでは私達は出立の準備をしてきます。1時間後、門の前で落ち合いましょう」

 

 

 依頼人 タズナの話が終わると、サチ達は任務の準備をする為。その場は解散する事になった。そして1時間後、準備を済ませた7班のメンバーは、約束の場所へ集まった。他国で行う初の任務に緊張の色を見せるサスケとサクラだが、ナルトだけは楽しそうな様子であった。それが気に障ったのか、サクラは冷めた目でナルトに注意する。

 

「何、はしゃいでんの。これから任務なんだから気を引き締めなさいよ」

「いや~ だってよ。俺ってば、余所の国に行くの初めてだから楽しみでさ」

「おい 本当にこいつで大丈夫か? 今になって超不安になって来たぞ」

「ハハハ‥ これでもやる時はやる奴です。それは私が保証します。だから護衛の事は心配いりませんよ」

 

 

 他の二人と違い、緊張感の欠片もないナルトが信用出来ないのか。此処に来て、タズナは苦言を洩らす。大丈夫だと言われても護衛される身としては、不安要素は無くしたい。カカシもその気持ちを理解は出来る。しかし、一度決まった事を覆す事は自分達の威信にも関わってくる。出立前に面倒だなと内心、愚痴を溢しながらもカカシはやんわりと相手を説得した。だが、そんなカカシの苦労を考えず、そのやり取りを聞いていたナルトは再びタズナへ食って掛かった。

 

 

「コラ ジジイ!! さっきから人を馬鹿にしやがって、あんまり俺を舐めるんじゃねえぞ。それと俺の名はうずまきナルトだ! いずれ火影となる忍者だってばよ」

「お前が火影にだと? はっ 夜が更ける前に超寝言をほざくなよ。例え、火影になれたとしても…おめえみてえなガキ。誰も認めやしねえよ」

「うるせえ。誰が何と言っても、俺は火影になる。その為にどんな努力もする覚悟は出来てるんだ。そして…絶対に俺の事を認めさせてやるってばよ」

 

 誰も認めない。何気なくタズナが言った言葉は、ナルトの心に深く突き刺さる。彼の脳裏を過るのは冷たい視線で自分を見る人達。無論、そんな過去がある事をタズナは知らない。だからこそ、その言葉をナルトは受け流す事は出来なかった。先程と打って変わって、ナルトは真剣な顔でタズナの目を見つめ、己の気持ちを正面からぶつけた。

 

 

 そんなナルトに、タズナは目を細めると僅かに微笑みを浮かべる。パッと見ただけでは、分からない仕草にサチとカカシは気付いていた。どうやら、彼は少しだけナルトを認めたようだ。そして一行は波の国へ向けて出発した。

 

 

 木ノ葉を出発してから少し経った頃、その道中でサクラはある事が気に掛かり、タズナに尋ねる。

 

 

「ねえ…タズナさんは波の国に住んでるですよね?」

「そうじゃ。だが、それがどうした?」

「いや、波の国にも忍の里はあるのか、気になったんです。もし‥他里の私達が入ったら、忍者同士で争いが起きるんじゃないかって…」

「それなら大丈夫よ。波の国には忍の里はないわ。大抵、小国や大国に関係なく存在するけど、波の国は少々特殊でね。他国から干渉を受ける事がないの。何故なら、貿易で成り立つ波の国は他国にとって重要だからね。もし、その国を侵略すれば、その相手は様々な国から睨まれるからよ。その中には五大国も含まれているわ」

「因みに数多の里がある中、影を名乗る事が許されるのは五大国の火、水、雷、風、土に存在する里長だけ。詰まる所、この五人が世界に何万といる忍者達の頂点に君臨する訳さ」

 

 

 サチとカカシは五大国の凄さ、影を名乗る忍の偉大さをそれぞれ語るが…三人の脳裏に浮かぶヒルゼンがそれ程、凄い忍とは到底思えなかった。その考えは顔に出ていたのか、カカシに突っ込まれてドキリとするが…まあ、仕方無いとそれ以上は言わない事にした。そんな折、忍者同士の争い。この言葉が出た時、タズナが妙な反応をした事をサチとカカシは見逃さなかった。

 

 

 木ノ葉を出てから暫く歩いた所、道の端に小さな水たまりを見つけたサチはカカシに目配せする。しかし、カカシは何も言う事は無く、そっと手を前を向くよう指示を出す。どうやら、こちらから手出しはせず、様子を見ると決めた様だ。それに従い、サチは知らぬ顔で水たまりを通り過ぎる。そしてカカシが通り過ぎ、数歩進んだ後でその水たまりから二つの影が音も無く現れた。

 

 

 二つの影は素早く二手に分かれて、カカシとサチを腕輪から伸びた鎖であっという間に拘束すると…勢いよく鎖を引き、二人をバラバラにした。

 

 

 その光景に四人は言葉も無く、呆然自失として見つめる。さっきまで笑っていた人が、優しく話していた人があっさりとこの世から消えた。それを理解しても認めたくなかった。だが、現実は非情で二つの影は立ち竦むナルトを次の標的とした。

 

 

 先程と同じく、鎖でナルトを捕えようとした時。一早く立ち直ったサスケが手裏剣を投擲し、鎖を傍にある木へ縫い付ける。そして更にクナイを投げ付け、それを楔代わりとして鎖を完全に固定した。動きが止まった隙を突いて、敵の腕輪を乗ると同時に両の足でサスケは敵の顔を蹴りつける。だが、敵も冷静で鎖が抜けないと見るや、すかさず腕輪から外して一方はナルトへ。一方はタズナへ向かって行く。

 

 

 突然の事で反応出来ずにいるタズナを庇う為、サクラは震える手でクナイを構えて迫る敵に向き合った。そんな中、ナルトは未だ恐怖で体を震わせ何も出来ない。どちらを手助けするか、サスケは一瞬迷うが…サクラの前に立ち敵を迎え撃とうした時、ガッと鈍い音と共に敵がサチとカカシの手に捕えられた。その事に四人は驚きの表情を見せる。まさか、死んだと思っていた人に助けられた事が信じられなかった。だが、そんな事をお構いなしに二人は口を開く。

 

 

「皆、大丈夫そうね。助けが遅くなってごめんなさい」

「ああ。サスケもサクラもよくやった。しかし、ナルト。初の実戦とはいえ、全く動けないとは予想外だったな」

 

 

 

 カカシの言葉にナルトは、何も返す事が出来なかった。殺気を向ける相手に殺されるかもしれない、その恐怖はあったが…一番の理由は姉やカカシといった身近な人が殺されたという現実であった。だが、それはサスケやサクラも同じだ。その二人は頼れる人がいなくなっても、自分と違って戦う事を選んだ。

 

 

「よぉ… 怪我はねえかよ。ビビりのナルトくん」

 

 

 そんなナルトに対して、サスケは不敵な笑みを浮かべて言い放った。事実とはいえ、嘲りを含んだその言葉に怒りを覚え、殴りかかろうとするナルトをカカシが止めに入る。

 

「ナルト 喧嘩はやめろ。こいつらの武器には毒が仕込んである。お前の手に付いた傷から入ったかもしれない。もしそうなら動けば毒が回る。今は毒抜きが先決だ。それと…サスケ。初の実戦で活躍した事は褒めるが、さっきの言葉は褒めらないな。仲間を嘲る真似は今後するな」

「カカシの言う通りよ。下手をしたら命を落とす危険な毒かもしれない。とりあえず、手当をするから手を出して…」

 

 

 

 火花を散らす二人をサチとカカシが宥めた後、カカシは冷汗を掻いて佇むタズナへ視線をやると静かに話かける。

 

「さて、タズナさん。貴方にいくつか聞きたい事があります。話してくれますね?」

「…分かった」

 

 カカシの言葉にタズナは…抵抗する事なく従った。事が起きた以上、もう隠し事は出来ない。此処でごねて相手に見切りを付けられでもしたら、自分の望みは叶わなくなる。そう悟っての事だった。タズナの了承を得た後、捉えた敵を近くの木に縛り付けた後、カカシは再び口を開いた。

 

 

「襲ってきたこいつら。どんな任務でも冷徹に遂行する事から鬼兄弟と恐れられた中忍です」

「何故…我らの動きが分かった? 直前まで完全に気配を消していた筈だ」

「噂の鬼兄弟も意外に抜けてるのね。ここ数日、雨も降ってない場所に水たまりがある。その不自然さに何かあると疑うのは当然でしょう」

「じゃあ、奴らが襲って来るのは初めから知っていたのか。それでいて、子供達に戦わせるとはあんたらも超鬼じゃな。一人は怪我まで負ったんじゃぞ」

 

 自分達の行動を見切った事を問う相手にサチは、呆れた表情で冷たく返した。どうやら、大した実力では無いが、彼らを恐れた者が流した噂に尾びれが付いていた様であった。しかし、それが分かっていながら様子を見る事を選択した二人に納得がいかないのか。タズナは険しい顔で問い詰める。例え、子供でも忍者である以上は戦う時もあるだろう。しかし、だからといって子供が傷付く事を見過ごす事は出来なかった。

 

「俺達は知る必要があったんですよ。こいつらが狙っているのは誰なのか? 見つけた時、すぐに制圧する事も出来たが…敢えて泳がせました」

「結果、この忍者は貴方が狙いだった。もし狙いが私とカカシなら、バラバラにした時に去っている筈ですからね」

「タズナさん。依頼内容は山賊や辻斬り等から橋が完成するまで護衛する話でした。しかし、我々は忍者と戦うとは一つも聞いてない。何か事情があるのでしょうけど、嘘を吐かれては我らも困るんですよ」

「ねえ‥カカシ先生。この任務、わたし達じゃ無理だわ。ナルトの治療もしないといけないし、任務を中断して里に帰りましょうよ」

 

 

 起きた状況からカカシとサチは、嘘を吐くタズナを追及する。そんな当の本人は無言を貫き、何も返さない。そんな一行を包む重苦しい空気に耐えかねたサクラが、カカシに向けて自分の考えを口にした。その言葉にカカシは、迷う素振りをしながらナルトを見て、「そうだな。ナルトの治療もあるし、里に戻るか」と口にした瞬間。ナルトはクナイを取り出し、傷付いたその手に突き刺した。

 

「ナルト…貴方、一体何をしているの?」

「…が。俺がタズナの爺さんを守る。何があってもだ。それをこのクナイに誓う。今度、敵が襲って来ても震えて何も出来ないなんて無様な真似は二度としねえ。だから…任務は続行だってばよ」

 

 

 手から流れる血に構う事なく、決意の籠った目で見つめるナルトにカカシは…その目に嘘は無い事を知った。ナルトが取ったこの行動は、生半可な気持ちではまず出来ない。自らの痛みを持って示したその覚悟を、カカシも無下に出来ず、自分が折れる形で任務を続行する事にした。

 

 

「全く、無茶するんだから。貴方の決意は分かったけど、悪戯に傷を増やすのは愚か者がする事よ」

「う、痛いってばよ。もうちょっと、優しくお願いするって…いてて」

「サチ。ナルトの怪我はどうだ?」

「大丈夫。少し出血が深いけど、大事は無いわ。おまけに毒もさっきの行動で抜けたみたい」

「それは何よりだ。しかし、ナルト。今度からああいう事はやめてくれ。正直、心臓に悪いからな」

 

 

 サチから手当てを受けるナルトに、カカシは眉を寄せてそう言った。あの行動しか、自分を説得する術が無いとはいえ、見ていたカカシとしても良い気分ではない。幸い、何処も異常が無いのが救いだった。すると遠くから様子を見ていたタズナは、思い詰めた顔で話しかけてきた。

 

 

 

「なぁ…先生方よ。二人に話したい事がある」

「話したい事…? 一体、なんです?」

「ワシの命を狙っている黒幕についてだ。そいつはガトーという海運会社を経営する男じゃ。あんたらも名前くらいは聞いた事はあるだろ?」

「ガトー…。確か、世界有数の大富豪だったわね。何故、そんな人が貴方を狙うんですか?」

 

 

 タズナが言った男の名は、サチ達も知っていた。表向きは腕利きの商人だが、裏では莫大な財を利用して汚い事もやっていると聞く。しかし、そんな大富豪が接点の無いタズナを狙う理由が分からない。この際だと、サチは思いきって尋ねる事にした。その質問にタズナは重い口を開いて語り出す。

 

 

「事の発端は一年前。五大国との貿易で潤っている事に目を付けて奴は波の国へやってきた。そして持ち前の財と裏のコネを利用して、あっという間に波の国を牛耳りおったんじゃ。他の会社は全て奴の傘下に加えられた挙句、仕事がしたくば金を払えと違法な金額を請求されての。当然、払う事が出来ず、皆は泣き寝入りをするしかない。そして本来、国へ入る金すらも奪う始末だ。木ノ葉に正式な依頼料を払えなかったのはそれが理由じゃよ。だが、それでも動いてもらう必要があったんじゃ。奴の背後には金で雇われた凄腕の忍もいる。ワシらが抵抗しても無残に殺されるだけだしの」

 

 

 

 初めは静かに話していたタズナだったが、次第に熱が入り最後は叫ぶ様に隠していた胸の内を曝け出す。

 

 

「成程…。そういう事情でしたか。本来なら断る依頼ですが…それを聞いて無視する程、俺達も薄情じゃない。いいでしょう。改めてこの依頼、お受けします。ま、俺達が断っても一人で行きかねない奴もいますからね」

「確かにね。それに雑魚とはいえ、ガトーが嗾けた忍と事を構えた以上、ケリを付ける必要もある」

「…すまん。お主らの優しさに感謝する」

 

 

 

 無茶な依頼を受けてくれた木ノ葉の忍達にタズナは、深々と頭を下げた。そして一行は暗雲渦巻く波の国へ足を進めた。




今回のお話、いかがだったでしょうか?

原作にない台詞や展開を交えて書くのが難しいけども楽しく。ああでもない、こうでもないと考えながら執筆してます。

それと今回から文字数を少なめにして読みやすく改善してみました。


宜しければ、一言でもいいので感想を残してくれると作者の活力になります。





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第五話 襲い来る二人の忍

今回、波の国での初戦闘が始まります。

それと波の国編では原作に無い新たな敵が登場します。


 波の国 某所。

 人目を避ける様に建つ小屋へある男が尋ねていた。その男の名はガトー。彼は此処に来たのは、裏のコネで雇った忍から依頼の結果を聞く為であった。中に入ると小屋には二人の男女がいた。一人は大柄な筋肉質な男で椅子に凭れ掛ってガトーを詰まらなそうに見ており、もう一人は長い黒髪の女で彼女は目を閉じて床に座っている。するとその女は目を開き開口一番に依頼の結果をガトーに告げた。

 

 

「…あたしの影分身から報せが来た。刺客として送ったあの二人。タズナの暗殺に失敗したみたい」

「そうかい。お前の分身は、護衛の奴らに気付かれて無いだろうな?」

「いえ、その心配はないわ。だけど、少し面倒な事になってきたね」

「なーに。ちっとは楽しくなってきじゃねえか。それに失敗するって、実はお前も分かっていたんだろう?」

「まあね。名ばかりの雑魚に端から期待はしてないもの」

「おいおいおい 今の話は本当か!? 貴様らぁ…失敗しておいて、何を呑気に話してやがるんだ。ワシは腕が立つと聞いたから大金を払って、貴様らを雇ってるんだぞ。それなのに貧乏人の爺一人も満足に殺せんとは、とんだ役立たず共がいたもんだ」

「ぐだぐだとうるせぇんだよ。クソジジイが…。心配しなくても、今度は俺達が出向いて、そいつらを消してやるよ」

「だ、だが…失敗した事で相手も警戒してる筈。守りを固めた相手は厄介だぞ」

 

 

 依頼を失敗したにも関わらず、自分を無視して平然と会話をする二人をガトーは大声で怒鳴り散らした。唾を飛ばし口汚く罵るその態度が癪に触ったのか。椅子に座っていた男は手元にあった大刀をガトーに向けて、背筋が凍るような低い声で威圧する。男から溢れ出る殺気に全身に冷たい汗を掻きながら不安を口にするガトーに、男は更に殺気を強め言い放つ。

 

 

 

「…てめぇ 俺達を誰だと思ってる?霧隠れの鬼人と呼ばれたこの俺、桃地再不斬に血霧の狂人の異名を持つ朔麻が出向くんだぜ。帰って来たら、奴ら全員の首をくれてやるよ」

「何にせよ。次は失敗しない。此処はあたし達に任せておきな。仕事が終わり次第、また連絡する。その間、あんたは大好きな金勘定でもしてるといい」

 

 

 

 そう言い残して、朔麻と再不斬は小屋を出て行った。残されたガトーは、雇い主を馬鹿にする二人の態度に怒りを感じていた。だが、自分の野望を成就させるには彼らの力が必要不可欠だ。そう自分に言い聞かせて、怒りを収めると彼も小屋から立ち去った。

 

 

 

 

 その頃、カカシ達は波の国を目指して海上を進んでいた。当初、ガトーを恐れる船頭達は船を出す事に消極的だった。その中にタズナの知り合いの船頭がいたが、彼も船を出す事に難色を示す。だが、タズナが必死に説得したおかげでその船頭は一つの条件を守る事を引き換えに船を出すと言ってくれた。船頭が出した条件。それはガトーに目を付けられない様にする為、船にあるエンジンを使わず、手こぎで進むというものだった。たとえ時間が掛かっても目的の場所へ行くには船は必須だ。当然、カカシ達はその条件を受け入れた。

 

 

 そして風土の影響で立ち込める霧の中、ゆっくりと進む一行の前に高く聳え立つ何かの影が現れた。その影をナルトは目を凝らして見つめるが、濃霧に遮られて正体は判別出来ない。しかし目視が可能になる距離になって、この影の正体が建設途中の大橋だと分かった。

 

 

「うひゃあーー!! すっげーデカイ橋だってばよ」

「こ、コラ。大きな声を出すな。只でさえ、どこにガトーの目があるか分からないんだ。あんたらに手を貸してると知られたら、奴らに殺されてしまう」

「う、ごめん。おっちゃん」

「はぁ まあいい。それより、この橋が見えたという事は波の国は目前だ。その先はマングローブ林の水道を辿って陸地に向かう。あのアーチを超えたら、あんたらはそこにある布を被って伏せてくれ」

「荷物と思わせるって事?でも、すぐにばれるんじゃ…」

「それなら超心配はいらん。こいつはマングローブの調査も仕事にしとる。丁度、定期調査の時期だから来ても怪しまれる事も無い」

 

 

 

 

 船頭の指示に不信感を抱いたサクラは思った事を口にする。そして口にする事は無いが他の者も同じ事を考えていた。そんな空気を感じてか、タズナが訳を説明すると一行は船頭の指示に漸く納得の色を見せる。そしてアーチを超えた後、船頭の言葉に従い、カカシ達は布を被って伏せる。そんな中、もしかしたら敵に気付かれるかもしれない、その不安を感じながらもナルトら三人は必死に息を殺して気配を消す事に集中した。

 

 

 やがて静かに進んでいた船が止まり、船頭が隠れていたカカシ達に声を掛ける。

 

「おい。もう出てきていいぞ。悪いが、おれは此処でさよならだ。それとタズナ。ガトーに殺されたなんて事になるなよ。あんたが死んだらこの国は終わる。そうなったら、希望は完全に潰えるんだからな」

「分かっとる。意地でも生き抜いて、あの橋を完成させてやるわい。お前も帰り道、気を付けてな」

「おかげで助かりました。貴方の協力に感謝してます」

「ああ。じゃあな」

 

 

 心配する船頭にタズナは、笑ってそう返した。その言葉に少し心が楽になったのか。先程まで浮かべていた暗い顔が僅かに明るくなった。ガトーへの恐怖に抗い、自分達を送ってくれた船頭に感謝の言葉を言って別れた後。

 

「とりあえず、皆はワシの家に案内しよう。地味な移動に疲れただろうし、まずは超休息を取るのが先決だ」

 

 タズナの言葉にカカシ達も異論は無い。緊張と長い移動で確かに全員の体には疲労が溜まっていた。それをタズナも分かっているのだろう。一行はその好意に甘える形でタズナの家に向かう事にした。

 

 

 その道すがら、カカシとサチは次に襲ってくるであろう敵について考えを巡らせる。最初、襲って来たのは中忍ランクの忍。そうなると次は間違いなく、上忍ランクが来るだろう。二人なら余程の奴が相手で無い限り、上忍でも恐れる事はない。しかし、今は一般人のタズナや見習いのナルト達もいる。彼らを守りながらの戦いとなれば、こちらが大いに不利な状況であった。下手すれば全員が殺されてしまう可能性もある。

 

 

 起こり得るそんな最悪の未来を回避すべく、対策を練ろうとサチがカカシへ声を掛けようとした時。

 

「そこだぁ!! …気の所為だったか」

「気の所為だったかじゃないわよ。この大馬鹿者!! いきなり叫んで吃驚するでしょうが…」

「いってぇぇ 何も殴る事無いってばよ」

「いや、お前の行動が危ないからだよ。一体、何のつもりであんな真似をしたんだ?」

 

 

 突然、森に向かって手裏剣を投擲するナルトに、サチは拳骨と一緒に雷を落とした。姉の容赦ない一撃に頭を抑えて悶えるナルトへカカシが問う。手裏剣を飛ばした方に視線を向けると、そこに一匹の鼠を丸呑みする蛇がいた。普通なら見逃すような気配にこいつは何故、気付いたのか?そんな疑問が生まれた故の問い掛けだった。そのカカシの問いにナルトは、首を捻って自信が無さそうに答える。

 

 

「うーん 何となく、さっきの場所から嫌な感じがしたんだってばよ。だから、敵かと思って投げたんだけど...何も無かったんだ」

「嫌な感じ‥ね。まあ、直感を信じるのはいいが…せめて俺達に合図を出してからやってくれ」

「分かった。今度からそうするってばよ」

「…その嫌な感じだけど、具体的に言うと数は一つ?それとも二つかしら?」

「それは…分かんねえ。でも、感じたのは確かだ。それだけは間違い無いってばよ」

 

 

 そんな会話をするナルト達を木の上から二人の影が見下ろしていた。その正体は…つい先刻、ガトーから下された暗殺を遂行すべく、動き出した再不斬と朔麻であった。

 

「ガトーのジジイが言ってたのは奴らだな。こりゃ、あいつらが失敗する訳だなぁ」

「だが、あの二人が相手じゃ、あたし達も手を焼きそうだ」

「けっ、そんな事を思ってもねぇ癖によく言うぜ。それと仕掛けるならあの水場の傍でだ。お前もそれで良いな?」

「ああ。それで先手はどうする?あたしがやる?」

「いや、俺が行く。最初の一撃で奴らの実力を見極めるとするか」

「決まりね」

 

 

 

 仕掛ける場所と攻める手筈を決めて、二人はカカシ達を奇襲する場所へ先回りする事にした。不意に感じた気配にカカシが振り変えるが…そこにはもう何も無かった。知らない内に自分も緊張していたのか。どうやら過敏になっているらしい。そう思って、カカシは深呼吸をして乱れた心を落ち着かせた。

 

 

 

 

 

 ナルトに勝手な行動をしないと釘を刺してから、カカシ達は止めていた足を進める。海と違い、陸では霧が無い為、周りを見晴らす事が出来るものの。肝心の景色は森の木以外は見る物が無い。それに延々と続く一本道の所為で三人は少しばかり退屈そうな様子を見せる。そんな時、森を抜けた一行は一本道から開けた場所へ出た。そこには広々とした湖があり、透き通った水面には遠くの景色が映り込んでいた。その素晴らしい景観にはナルト達だけでなく、カカシとサチも思わず見惚れた。

 

 

「此処の景色は超綺麗じゃろ?豊かな自然が生み出した波の国の自慢じゃよ。嫌な事がある度、この景色を見に来ては癒されたもんじゃ」

「そうですね。タズナさんの仰る通り…! 全員、伏せろ!!」

 

 

 突如、血相を変えて叫ぶカカシに反応して。サチはサクラとナルトを。サスケはタズナを庇い地面に伏せた。その瞬間、自分達の頭上を勢いよく回転する大刀が通り過ぎていく。それはやがて、一本の木に刺さって止まると同時に今度は二つの影が降り立った。一つの影は木に刺さる大刀の柄に、一人は木の下にそれぞれ姿を現した。

 

「へー 誰かと思いきや、霧隠れの抜け忍。桃地再不斬くんと朔麻ちゃんじゃないですか。態々、こんな場所に何用で?」

 

 

 現れた二人に見覚えのあるカカシが鋭い目で睨みながら、彼らの名前を口にする。だが、その二人は無言のまま。こちらを値踏みする様に見てるだけだった。流石に見え透いた挑発に乗る程、相手も甘くは無く。出方が分からない以上、睨み合っていても埒が明かない。そう判断したカカシは、自らの切り札を出そうとした時。柄に立つ再不斬が口を開く。

 

 

「そこの銀髪の男と紅い髪の女。写輪眼のカカシと紅雷のサチと見受ける。それとさっきの質問だが、言わずとも分かってるよな?後ろにいる爺を渡してもらいに来たんだよ」

「あたし達が狙うのは本来ならそいつだけ。手荒な挨拶になったが、渡してくれるならこれ以上、互いに争わないで済む。それで返答は如何ほどに?」

「成程。だが、彼は俺達にとっても大事な依頼人だ。渡せと言われてはいそうですかと言う訳ないでしょ。返事はお断りだ。争いたく無いならあんたらが引けばいいさ。そうすれば、こっちも楽でいいからね」

「そうね。と言っても貴方達は引く事をしないでしょうけど…」

 

 再不斬と違い、穏便に済ませようとする朔麻だが。提示された条件を飲む訳にいかず、カカシとサチはそれを突っ撥ねた。するとカカシは額あてをずらして隠していた左目を露わにする。紅い瞳に浮かぶ三つの勾玉模様。異様なその目を見て、ナルト達は息を飲んだ。

 

 

「へえ… 早速、写輪眼を見れるとは運がいいな」

「何だよ。さっきから言ってるその…写輪眼ってのはさ」

「写輪眼。それは瞳術の一種だ。これを持つ者は全ての幻術、体術、そして忍術を跳ね返す力を持っている。だが、写輪眼の能力はそれだけじゃない」

「ほう。ガキの癖によく知っているじゃねえか。そうさ。そのガキの言う通り、何より怖いのが写輪眼には敵の術を映し捕える事が出来る。つまり、相手の技をすかさず真似て返すって事だ」

 

 飛び交う言葉が理解出来ない事に苛立ったのか、ナルトが叫ぶ様にカカシへ問い詰めると傍にいたサスケが写輪眼の説明をする。その説明を聞いて、今度は再不斬が補足を付け加えた。

 

「それに俺が霧隠れの暗殺部隊にいた頃。お前達の情報が手配書に載ってたな。千の術をコピーした男と目に映らぬ速さを誇る女がいるとなぁ」

 

 続けて言った再不斬の言葉にナルト達はまたもや驚愕する。身近にいた人が他里の忍が知る程に有名だとは知らなかったからである。その本人は、再不斬を睨むだけで何も言わない。そして二人のやり取りを静かに見ていた朔麻は痺れを切らし、再不斬に話しかける。

 

「再不斬…。話はもういいよね?そろそろ始めるとしよう。カカシとかいう奴はあんたに任せる。そしてあたしは…」

「紅雷を殺るってんだろ?相変わらず、好き者だなぁ。てめえはよ」

「流石、付き合いが長いだけあってあたしの事を知ってるな。あと、殺るのは紅雷だけじゃない。あそこにいる小さいくノ一もさ」

「そうかよ。じゃあ、やるぞ」

 

 

 その言葉を合図に再不斬は、木から大刀を抜くと一瞬にして湖の上に移動した。大きな体格とは思えない程、素早い動きに一行は驚き目を瞠る。そして再不斬は手を顔の前に翳し、「忍法 霧隠れの術」と呟くと辺りは深い霧に包まれる。それによって、再不斬と朔麻の姿が隠されて見えなくなった。それに焦ったサチがすかさず、ナルト達に指示を出す。

 

 

「三人共、卍の陣よ。タズナさんを中心にして守りを固めなさい」

「八か所…。咽頭、脊柱、肺、肝臓、頸動脈に鎖骨下働脈、そして腎臓と心臓。さぁ、どれが良い? 好きな場所を選べ。そこを俺が突いて殺してやるよ。それとも...全部が良いかぁ? ククク…」

 

 

 そんな一行を嘲笑うかの様に殺気を込めて言い放つ再不斬に呼応して、カカシとサチも殺気を放って辺りに注意を払う。上忍同士の殺気がぶつかり合って、生まれた空気に当てられた四人は恐怖で動く事は勿論。呼吸をする事さえ、まともに出来ないでいた。それ一つでも気配を察知されて殺される。そんな感覚が徐々に彼らの精神を壊していく。

 

 

「心配するな。皆は俺とサチが必ず守る。何があっても仲間は殺させやしないよ」

「ええ。だから深呼吸して落ち着きなさい。震えた手じゃ、タズナさんを守れない。戦いは私達に任せて、三人はやるべき事をしなさい」

 

 

 恐怖に押し潰されそうなった三人は、カカシとサチの言葉を正気を取り戻す。ただの気休めでなく、本気で思っている故の言葉だからこそ、絶対の安心感を感じる事が出来た。だが、ナルト達が見せた僅かな隙を突いて、再不斬がタズナの正面に音も無く現れると手に持つ大刀を振るう。咄嗟の事で何も反応が出来ないナルト達だが、唯一カカシだけは再不斬の動きを捕えていた。彼は一瞬で再不斬に切迫すると同時にナルト達を突き飛ばし、手にしたクナイで再不斬の胸を斬りつけた。

 

 

 

 

 その一方、傍観していた朔麻も動きを見せる。彼はカカシに突き飛ばされたサクラの傍に立つと、彼女をジッと見下ろす。いきなりの事に驚くサクラだが、すぐにクナイを構えて朔麻を睨む。無論、相手は上忍だ。格上の忍に自分が敵わない事も理解しているが、それでも黙ってやられるつもりもない。勝てなくても傷の一つや二つくらいは付けてやるんだ。そう自分に言い聞かせて仕掛けようとした時、無表情で見ていた朔麻はニタリと嫌な笑いを浮かべるとサクラに詰め寄り、話かけて来た。

 

 

「貴女…。よく見ると、良い肌の艶をしてるのねぇ。それに髪の質も綺麗だし、良い暮らしをしてるのが分かるわ。外見だけじゃなく、中身も綺麗そうだし、切り刻んで内臓や心臓を引きずり出すのが楽しみだわぁ」

「ひっ…。 な、何よ。あ、あんた!? 頭おかしいんじゃないの? く、来るな!! 来ないでよぉ」

 

 再不斬が出す殺気と異なり、ねっとりと纏わり付く様な殺気を出す朔麻にサクラは、全身の毛が逆立つ様な不快感に襲われる。そんな悍ましい相手から離れたいと本能的にサクラが一歩下がれば、朔麻が一歩進む。その繰り返しで遂に恐怖が頂点に達したのか、サクラは腰を抜かしてへたり込む。これを好機と見た朔麻が手を伸ばしてサクラの首を掴もうとした時、それは横から掴んだ手によって阻止された。

 

 

「貴女、何?あたしの邪魔しないでよ」

「そうもいかないわ。そちらこそ、私の仲間に手出しするな」

「ふーん この子もいいけど、貴女もいいわねぇ。整ったその綺麗な顔…ぐちゃぐちゃにするのもいい。決めた。この子より先に貴女で楽しむとしましょう。そうそう。此処でやると、また邪魔が入りそうだし別の場所で殺り合うとしようか」

「…分かった。なら、さっさと行くわよ」

 

 

 自分の楽しみを邪魔するなと怒鳴る朔麻に引く事なく、サチも怒鳴り返す。そしてお互いは無言で睨み合っていると、朔麻が先程の嫌な笑みを浮かべるとサクラからサチへ標的を変更した。サクラ同様、身の毛がよだつ感覚をサチも感じたが、この女の注意を自分に向ける事が出来たと内心、安堵した。そして再び邪魔が入るのを嫌ったのか。朔麻は別の場所に移動して戦う事を提案する。此処で戦えば、再不斬との戦いになる可能性もある。

 それならば、分断して戦う方が得策だとサチも朔麻の言葉に頷くとその場を素早く立ち去った。

 

 

 波の国の希望と野望。それを守る者と奪う者達の戦いはこうして幕を開けた。

 




今回の話 いかがだったでしょうか?

敵の怖さと悍ましさ。それに怯えるナルト達の心境の描写に力を入れてます。
あんな敵達と13歳の子供達が戦う。それを思うとNARUTOの世界は怖いですね。

宜しければ、一言でもいいので感想を残してくれると作者の活力になります、


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第六話 湖畔と森の死闘

今回、鬼人再不斬と狂人朔麻。
この二人とカカシ小隊の戦いをご覧下さい。


 お互いの息遣いを感じる距離、胸を深く斬られた再不斬が倒れかけた瞬間。その体は形を失って水に戻ると同時にカカシの背後から大刀を構える再不斬が姿を現した。カカシがそれに気付いた時には、既に再不斬は大刀を振り切っており、なす術もなくカカシは一刀両断されてしまった。

 

「カカシ先生!! ちっくしょ…。この眉なし野郎、よくもやりやがったなぁ」

「ぎゃあぎゃあとうるせえガキだなぁ。だったら、俺があの世に送ってすぐに会わせてやるよ」

「生憎だが、その必要は無い。お前こそ、あの世に行きたく無いなら動くな」

 

 その光景を間近で見て、自分に噛み付く様に叫ぶナルトが目障りだったのか。大刀をナルト目掛けて振り下ろそうとした再不斬の背後からカカシが喉元にクナイを当て、その凶行を制止する。殺した筈の相手が後ろにいる事に再不斬は驚愕していた。ならば自分が斬った奴は何だ?とその方へ視線を向けるとあったのは一つの水たまり。

 

 それで再不斬は確信した。

 

「そうか。てめぇも俺と同じ水分身で様子を窺っていたのか。だが、一体いつ俺の術を盗んだ? そんな隙は無かった筈だ」

「それは霧隠れの術を発動した時だ。霧で視界が途切れる瞬間を狙って、本体と入れ替えて置いたんだよ。お前がタズナさんを狙うだろうと分かっていたからな」

「そんで俺はお前の予想通りの動きをしたって訳か。フン… あの一瞬で此処まで裏を掻くとは流石だなぁ。けどな、そんなサルマネ如きにやられる程…俺も甘くねえんだよ」

 

 

 

 裏を掻いて再不斬を抑えたと思っていた矢先、またもや再不斬の体は水になってカカシの背後に回り込んだ本体が大刀を薙ぎ払う。その一撃を辛くも躱す事は出来たが、次は大刀を振った勢いを利用して繰り出された蹴りが迫っていた。最初の攻撃を躱した際、体勢を崩したカカシは咄嗟に腕を交差させて防御するが、威力は相当なもので彼の体は湖まで飛ばされてしまう。

 

 

 そして…それこそが再不斬の真の狙いであった。彼は素早く、湖に先回りすると印を組み発動させた水牢の術で作った球体にカカシを閉じ込める事に成功する。

 

 

「ククク…。蹴りを受けた時、咄嗟に湖へ飛んだのは失敗だったなぁ。それにタズナを殺るにはお前を抑える必要がある。それも済んだ事だし、そろそろ俺も仕事をさせてもらうとするかね」

「不味い。お前らぁ…。今すぐ、タズナさんを連れて逃げろぉぉぉ!!」

 

 

 再不斬の言葉を聞いて、焦ったカカシは大声で叫んだ。その姿はいつもと違って余裕が無い。本当に切羽詰まった状況であるとナルト達は悟るが、それでも彼らは固まったまま動かない。いや、動けずにいた。そうしてる間に再不斬が新たな水分身を作り出してナルト達に嗾ける。

 

 

「無駄だ。ご大層に額あてをしてるが、所詮は只のガキ。お前や紅雷がいなきゃ何も出来ない奴が忍者とは世も末だな。まあ、おかげで俺は楽を出来るから結構な事だがな…」

 

 そう言って再不斬の分身はナルトに一瞬で距離を詰めると、思いっきり蹴飛ばした。その反動でナルトが付けていた額あてが外れて宙を舞うと再不斬の足元に落ちる。その額あてを彼は容赦なく踏みつけた。それだけでは飽き足らず、まるで見せつけるかの様にグリグリと足を動かしていた。再不斬が取った行動にナルトは、心の底から怒りが湧き上がるのを感じた。

 落ちこぼれの自分を認めてくれた人から譲り受けた額あて。自分が好きな姉と同じ忍者になれたと実感させてくれた額あて。そして…自分が火影になるという決意を強く誓った額あて。

 

 

 色んな想いが籠った大事な物を…奴は笑って踏み躙った。それに左手に感じた痛み…これが彼の闘志に火を点ける。そうだ。自分はこの手に、この痛みに誓った。二度と怖気付いたりしないでタズナを守ると…。

 

 

「うおおおお!! 俺はてめえなんか、怖くねえぇぇぇ。ぶっ飛ばしてやっから覚悟しろってばよ」

「馬鹿が。雑魚のお前に何が…出来るってんだよぉぉぉっ!!」

 

 

 ゆっくりと立ち上がったナルトは、正面から啖呵を切って再不斬へと特攻していく。格下と思っている相手からの挑発に…再不斬も怒気を放つと大刀を力まかせにナルトに向かって薙ぎ払う。その後、起こると思われた惨劇にタズナやサクラは目を瞑るが、それが当たる瞬間にナルトは地に伏せて攻撃を躱した。その事に再不斬もカカシ達も驚きを隠せない。怒りに任せての攻撃だったとはいえ、その素早い反応は早々出来る事ではない。それをやったのが、忍者になって間もない見習いなのだから彼らの驚きは尚更だろう。

 

 

 そして…彼の足元に迫ったナルトを我に返った再不斬は蹴飛ばす。ゴロゴロと転がるナルトに詰め寄って、サクラは無茶を仕出かした事を怒った。

 

 

「何やってんのよ。私達みたいな見習い忍者が勝てる訳ないでしょ。偶然、躱したから良いけど…少しでも遅れたらあんた死ぬのよ。それを分かってるの!?」

 

 だが、彼の手にある物を見て、サクラは言葉を失くした。それは再不斬が踏みつけていた額あてだった。これを取り返す為にナルトは再不斬へ特攻を仕掛けたのだ。しかも只、向かうだけでなく挑発までしたのは足元から自分に意識を逸らす意味もあった。それに再不斬が怒り、単調な攻撃を繰り出す出す事も計算に入れて。だからこそ、咄嗟に躱す事が出来たのだ。

 

 

 それが分の悪い賭けなのは、ナルトも十分理解している。それでも誇りを踏み躙られるのは堪らなかった。

そうして命懸けで取り戻した誇りを再び額に巻き付けるとナルトは再不斬に宣言する。

 

 

 

「おい 眉なし野郎。お前の頭によーく俺の名前を刻んでおけ。いずれ木ノ葉隠れの火影になる男 木ノ葉流忍者。うずまきナルトだ!!」

 

 

その姿を再不斬は黙して睨みつけていた。初めは自分の殺気に怯え、只震えていただけの子供だった。だが、今はそんな也は身を潜め。威風堂々と立ちはだかるナルトに気付けば警戒心を抱いていた。しかし、それを再不斬は認める訳にいかなかった。鬼人と恐れられた自分があんなガキ一人に一瞬でも気圧されたなど…許されない事だ。

 

 この事実を振り払うかの様に再不斬はナルトに向けて言葉を吐く。

 

 

「…クク さっきといい、今といい。随分と吼えるじゃないか。だけどよ。お前と俺の実力差は明らか。気合でどうこう出来る程、忍の世界は甘くはねえぞ」

「そんなのお前に言われなくても分かってら。今から目に物を見せてやるから待ってろってばよ。おい サスケ。ちょっと耳貸せ。いい作戦が一つある」

「いい作戦だと? フン お前が俺に頼るとはな…。いいぜ 手を貸してやるよ。その作戦とやらを教えろ」

 

 

 不敵な笑みで現実を突き付ける再不斬に対して、ナルトも不敵な笑みを浮かべ言い返すと後ろにいるサスケに思い付いた作戦を持ちかけた。突然の事に戸惑うサスケだが、珍しく自分に手を貸せと言うナルトに彼は素直に頷いた。ナルトの作戦など、本来なら再不斬に通用するとは思えない。だが、不思議とこの作戦は成功する。サスケはそう確信していた。

 

「いい加減にしろ、お前達!! いいから早くタズナさんを連れて逃げるんだ。今、その人を守れるのはお前達以外にいないんだぞ。俺達の任務を忘れたのか?」

「忘れた訳じゃねえ。だけど、仲間を蔑ろにするクズに俺はなりたくねえんだ。タズナのじっちゃんは守るし、カカシ先生も死なせねえ。そういう事だ、タズナのじっちゃん。俺の我儘だけど…」

「構わん。思う存分、暴れろ。どんな結果になっても恨みはせん。それにお前、いやお前達がわしを守ってくれると超信じとるからのう」

 

 

 自分の言葉を聞かず、戦う事を選択したナルト達にカカシは再び大声で叫ぶ。頼む、どうか逃げて生き延びてくれ。敵の思惑に嵌まり、捕まった不甲斐無い己の所為で未来ある教え子達が命の危険に晒されている。何の抵抗も出来ないそんな彼らを再不斬は情け容赦なく、殺すだろう。その事は自分が死ぬより、カカシは恐ろしかった。

 

 しかし、ナルトから返って来た言葉にカカシは思わず目が熱くなった。それは以前、自分がナルト達に教えた言葉だった。自分の教えや想いはちゃんとあの子達へ伝わっている。それなら自分がするべき事は一つ。あの子達を信じる事だと答えを出す。それはタズナも同じで自分の運命をナルト達に託した。

 

 

 自分を倒すと息巻くナルト達に機嫌を損ねた再不斬は、ドスの効いた声で威圧する。

 

 

「…何処までも頭の悪いガキ共が…。本気で俺に勝てると思ってるのか?」

「ったりめえだ。一体、何が言いたいんだってばよ」

「クク… 聞くが、てめえは自分の手を血で汚した事があるか?」

「そんなのある訳無いじゃない。それが何なのよ」

「だろうなぁ。言っとくが、俺はてめえらの歳の頃には100の人間を殺してたぜ」

「やはり、あの噂は本当だったか」

 

 

 一連の会話である事を思い出したカカシはそう口にする。

 それは再不斬にも聞こえており、カカシの方を向くと喜々として自分の事を語り出す。

 

 

「そうさ。俺がいた霧隠れでは、ある卒業試験が存在していた。その内容は…卒業を控えた生徒同士の殺し合い。お互い切磋琢磨した仲間と最後は殺し合いをして、生き残った者が一人前の忍として認められる訳だ」

「じゃあ…お前もそうして忍になったのか?」

「いいや。俺の場合は、少し特殊でね。入学したその日にその年の受験者を全員…俺が殺したんだよ」

 

 

 再不斬の言葉にナルト達の背筋が凍りつく。生徒同士の殺し合う話だけでも衝撃を受けたが、少年だった再不斬が起こした出来事はそれを超える衝撃であった。冷汗を滲ませ、強張った表情のナルト達を見て、再不斬は満足そうな顔をすると更に言葉を続けた。

 

 

「思い返すと…あれは楽しかったなぁ」

 

 

 たった一言、そう呟いて視線をナルト達に向けた時。再不斬は音も無く詰め寄るとサスケの腹目掛けて、蹴りを繰り出した。気を抜いていた訳ではないが、その速度にサスケは全く反応出来ない。続けて出された裏拳による攻撃もまともに受けてサスケは地面に叩き付けられた。

 

 強力な連続攻撃に血を吐いて苦しみサスケに止めを刺そうと大刀を握った再不斬を見て、ナルトは影分身の術を発動させる。演習で使った時とは違い、鍛錬を重ねていたナルトは今や20人以上の分身を出せる程に成長していた。

 

 

「ほう‥・。影分身の術まで使えるか。それに数も多いな」

「サスケェェ。今の内にそいつから離れろ」

「ワラワラとうっとおしいんだよぉぉっ!!」

 

 サスケを助ける為に大勢の影分身は一斉に飛び掛かって、再不斬の体を覆い隠した。だが、動きを止めたのはつかの間で、すぐに再不斬は大刀を振って纏わり付く影分身を全て吹き飛ばす。その余波は大きく、影分身だけでなくナルト本人も同じく吹き飛ばされる。

 

 

「くっそーー!! だったら、これだぁ。 サスケ、これを受け取れ」

「これは…。そういう事か。お前にしちゃ上出来だ」

 

 吹き飛ばされながらもナルトは、鞄から取り出したある物をサスケの方へ投げ渡す。受け取ったサスケはそれに視線を落とすと、フッと笑って彼の機転を褒めた。ナルトから渡された物、それは一枚の手裏剣だった。

 

 

 風磨手裏剣 影風車。

 サスケが手にするそれは従来の手裏剣よりも一回り大きく、鋭く伸びた鋭利な刃と中心に開いた穴が特徴的だった。それは敵の肉を骨ごと切り落とす事を目的に作られた忍具であり、武器でもあった。

 

 

「風磨手裏剣か。いい代物を持ってるなぁ。流石の俺もそれを食らったら、無事じゃすまねえ。まあ、当てる事が出来たらの話だがなぁ」

「ならば予言してやる。”俺達”の攻撃をお前は必ず食らうとな」

 

 

 

 そう言い放つとサスケは地を蹴り、高く飛びあがると湖の上にいる本体の再不斬へ投げ放った。サスケの手を離れた風磨手裏剣は、風に乗り勢いよく回転しながら再不斬に迫る。しかし、その迫り来る手裏剣を再不斬はすんなりと手で掴んで受け止めた。如何に強力な忍具だろうと相手によっては、通用などする訳がない。しかし、ナルトとサスケの攻撃はそれだけではない。再不斬が受け止めた手裏剣の影に隠れて、もう一つの手裏剣が飛んでくるのが目に映る。

 

 

 

「な、手裏剣の影に手裏剣!? だが、甘い」

 

 

 予想外の攻撃に驚く再不斬だが、ひらりと飛んで二つ目の手裏剣を回避する。再不斬が取った行動を見て、サスケはニヤリと笑った。その時、再不斬の背後を飛ぶ手裏剣がボンと音を立てるとクナイを持つナルトへ姿を変えた。元に戻ったナルトは、宙にいる再不斬の首を狙ってクナイを飛ばす。

 

 

 その意外な攻撃に再不斬は、此処に来て初めて焦りの色を見せる。左手は受け止めた手裏剣、右手はカカシを封じる術で塞がっていた。そして今は宙に浮かぶ体勢で回避は勿論、防御すら出来ない。なす術が無い状況で再不斬はカカシを縛る右手を外して間一髪、クナイを躱す。しかし、一歩遅かったのか。そのクナイは頬を掠り、傷付いた箇所から一筋の血が流れ落ちた。

 

 

「こ、この‥クソガキィっ!! よくもやりやがったなぁぁぁぁ!!」

 

 

 格下と馬鹿にしていたナルトに傷を付けられて再不斬は激昂する。そして左手の手裏剣を投げ付けようとした時。水牢より解放されたカカシが自らの拳でその凶刃を受け止めた。その際、見えた鋭い眼光に再不斬は言い知れぬ恐怖を感じた。今まで生きてきて、初めて味わう感覚に身体が震えそうになるが…歯を食い縛ってそれを耐える。これ以上相手に弱みを見せてなるものか。そんな再不斬の意地が僅かに恐怖を上回った。

 

 

「へっ… 俺とした事が、ついカッとして術を解いちまったか」

「何を言ってる。術は解いたんじゃない。解かされたんだ。お前がナルトに恐れを抱いてな」

「…てめえっ! さっきと違って、随分と口が回るじゃねえか。また閉じ込めてやろうか?」

「そいつはご遠慮願うよ。まあ、同じ手にかかる程‥俺も馬鹿じゃない。さあどうするのかなぁ?」

「上等じゃねえかよ。それならとっておきの術を見舞ってやるぜ」

 

 

 カカシの挑発で頭に血が上ったのか。怒りの感情を隠す事なく、再不斬はカカシに怒号を飛ばす。そしてお互い距離を取ると印を組み始めた。様々な形に手を組む再不斬の動きを写輪眼の力を使い、カカシも同じ速度で印を組むと同時に完成した術を発動させる。

 

「「水遁 水龍弾の術!!」」

 

 その名の通り、カカシと再不斬の後ろから水で形成された巨大な龍が現れぶつかり合う。それによって激しい水飛沫が起こる中心で、二人は大刀とクナイで小競り合いながら睨み合っていた。片や余裕を見せるカカシと違い、再不斬は動揺していた。そして再び距離を取って、次の術を発動しようとして印を構えた時。自分と全く同じ動きをするカカシに再不斬は一抹の不安を覚えた。

 

 

 まさか、こいつは俺の…

 

「動きを読み取ってやがる。そう思ったな」

 

 その言動に再不斬は己の不安が的中した事を内心、舌打ちをして愚痴を溢す。この野郎…全てを見透かす面をしやがって…

 

「見透かす面が気に食わないってか?悪いなこんな面で…」

「てめぇぇぇ!! さっきからくだらねえサルマネしやがって、二度とその口聞けねえ様にしてやる」

 

 

 カカシの写輪眼による先読みで自分の思った事も術も真似されて、再不斬の理性は完全に剥がれた。余裕も冷静さも最早なく。彼の心にはカカシへの殺意だけが強く渦巻いている。そして自分が使える最大の水遁を発動しようと印を組みながらカカシに視線をやって、見えた物に目を疑う。再不斬の目に映るのは、カカシの背後にいたもう一人の自分だった。幾度か瞬きを繰り返して見るが、見間違いではない。奴の背後には確かに自分が存在していた。恐らく、写輪眼の幻術で自分の欺いているのだろう。再不斬は何処までも舐めた奴だと、印を組む速度を上げて術を発動しようとするが…

 

 

「水遁 大爆布の術!!」

 

 カカシが先に術を発動させて再不斬に繰り出した。術を真似るには、相手が組む印を知らないと出来ない。故に先手は自分が取れるにも関わらず、後手のカカシに追い付けない。そして再不斬は竜巻状の水に巻き込まれ、木々を押し倒しながら森の奥深くまで吹き飛ばされた。

 

 

「な、何故だ…? どうして俺よりも先に術が出せるんだ。まさか、お前の写輪眼は未来すら見えるってのかよ」

「ああ。見えるさ。そしてお前が此処で死ぬ未来もな」

 

 写し盗られた術で飛ばされた自分を追って来たカカシに、再不斬は弱々しく問い掛けた。先程の攻撃で体の骨は何本が折れ、また術に必要なチャクラも使いきってしまった。もう抵抗する力も無い再不斬に引導を渡そうとクナイを手にカカシが近づいた瞬間。何処からともなく飛来した針が再不斬の首を貫いた。そして、彼は糸の切れた人形の様に崩れ落ちる。

 

 

 

 一体、誰の仕業だ?とカカシが警戒して辺りを見回すと、木の上に立つ一人の少年を見つけた。その少年は狐を象った面を付けて顔を隠しており、何処ぞの民族衣装を着ている。彼はスッとカカシの傍に降りてくると静かな動作でお辞儀をすると、ぽつりと喋り始めた。

 

 

「今回、我らが霧の者がご迷惑を掛けて大変申し訳ありません。実は…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、場所は変わり。湖上から離れた森の中では、朔麻とサチが未だ戦いを続けていた。

 時に地を駆け抜け、時に枝を飛び交いながら互いに攻撃を仕掛けては防ぐ。それの繰り返しで進展の無い戦いにサチは焦りを抱く。当初、自分の呼び名の由来である飛雷神の術を用いてすぐに終わらせるつもりだった。しかし、その発動に必要なクナイを投げても彼女はすぐに別の場所へ移動する為。飛んでから攻撃しようとした時には、既に朔麻は攻撃が届かない距離にいる。明らかに自分の術を警戒しての行動だとサチは理解した。

 

 

 そして気付けば手元にある術式クナイは残り一本。本来ならこんな事にならないが、別の場所で戦っているカカシ達の元に一刻も早く戻ろうと焦り強行をした結果であった。無論、飛雷神の術以外にも攻撃手段は備えている。それでも使わないのは朔麻にあった。そう、彼女はまだ術による攻撃をしていない。切り札を使用せず、やってきたのはクナイと体術による攻撃のみ。しかも体術で攻撃する際、朔麻は攻撃が体に当たらない様に繰り出していた。戦いの中で敵の攻撃を受けないのは当然だ。しかし、サチには彼女は飛雷神の術の特性を知っているのではないか?そんな疑いを抱かずにいられない。

 

 

 何れにしても均衡が崩れない戦いに痺れを切らし、サチは別の形で責める事にした。

 

 

 

「貴女、さっきから逃げてばかりだけど…やる気はあるの?私の顔をぐちゃぐちゃにすると言ったのは、只のハッタリ?」

「いや。それは本当だよ。でも、すぐにやったら詰まらないでしょ。楽しみは最後まで取っておかないと…」

「余裕ね。こうしてる間に貴女の仲間はやられてるかもしれないわよ」

「ああ。別にいいわよ。そうなったら、負けた奴が悪いんだから。逆にあんたは余裕が無いね。もしかして、焦ってるの?」

 

 

 そう返す朔麻にサチは黙り込む。それは図星だったのもあるが、攻めるつもりが逆に攻め返されてしまい。こちらが不利だと判断したからである。次にサチが打った手は、彼女を撒く事であった。一瞬の隙を突き、術式クナイを朔麻の背後に投げ付けると木に上手く突き刺さる。そして瞬時に術式クナイの元に飛び、素早く回収すると一気に枝を蹴ってその場を離れた。サチはそれを繰り返し、朔麻を撒いたと確認して安堵の息を吐いた時。突如、サチの横から現れた影によって、彼女は突き飛ばされる。その影は木の上からサチを見下ろすと、間延びした声で話しかけて来た。

 

 

 

「紅雷…みーつけた。駄目でしょ。一人前の忍が戦いを放棄して逃げるなんてさ。そんなんじゃ部下に示しが付かないよ。まあ、あとであたしが切り刻むから別にいいのか」

「くっ…。 どうして追い付けたの? あの速さに反応なんて出来ない筈…」

「気になる? だけど、それを聞かれて敵に教える馬鹿はいないよ。まあ、あたしも飽きて来たし…そろそろ終わらせようかな」

 

 そう言って、朔麻は懐から取り出した物。それは螺旋状になった針の様な物であった。尖端は鋭く尖り、螺旋の箇所には小さい刃が付いている。その特殊な針をサチは知っていた。以前、木ノ葉で行われた拷問に立ち合った事があり、その拷問官を務めた森乃イビキが使用したいたのがそれだった。

 

 通称、悪夢の螺旋。

 対象に突き刺すと同時に螺旋の刃が肉をそぎ落とす。相手に二重の苦しみを与える凶悪な代物だ。使われた相手は激痛で泣きじゃくり、一分と持たず音を上げたのも覚えている。その余りの凶悪さに流石のイビキも二度と使用せず、自分の部下達にも使用を禁じていた。よく見ると、朔麻が持つ悪夢の螺旋は渇いて黒くなった血らしきものがこびり付いている。

 

 

「その表情を見る限りじゃ、これが何なのか知ってるみたいね。あたしも説明するのが面倒だから良かったわ。前に使った奴は…確か、五歳の子供だったから10秒足らずで終わったけど。紅雷なら何分持つか楽しみね。でも、その前に… 水遁 樹液体縛の術」

 

 

 歪んだ笑みで自分の得物を自慢した後、朔麻は何か思い付いた様に手を叩くと印を結んで術を発動した。すると近くの木々から細い縄状の物が伸びてサチの体を拘束した。一見、すぐに千切れそうに見えるが…木の樹液から形成された縄は体中にべっとりとくっついてサチの自由を奪う。唯一、動かせるのは術式クナイを握った右手首のみ。しかし、投げる事は出来そうだがそれ以外の反撃は不可能だった。今にして思えば、森を戦いの場に選んだのもこれが理由だったのかもしれない。だとすれば、自分は敵の有利な場所へ誘われた事となる。

 

 

「フフフ どうやら、漸くもう一つの狙いに気付いたか。そうよ。あたしが森を選んだのはこの為。それと…静かな場所で響き渡るあなたの悲鳴を堪能したいからね。あ、抵抗したいならしてもいいよ。出来るならだけどね」

「…貴女、相当に歪んでるわ。まさに狂人ね」

「何を今更、当たり前の事を言ってるのさ。それじゃあ、まずはあなたの目からいってみましょう」

 

 

 

 歪んだ思想に嫌悪感を露わにして、詰るサチに朔麻は何処か呆れた様子で言葉を返す。そしてサチの目前に立った朔麻は、ゆっくりと悪夢の螺旋を振り上げる。恐怖からだろうか?引き攣るサチの顔を暫しの間、堪能してから彼女の目に向けて勢いよく振り下ろす。数秒後、響くだろう彼女の叫びを想像して朔麻は快感で体を震わせた。だが、予想は外れて。悪夢の螺旋が彼女の目を貫こうとした寸前。サチの姿が忽然と消えうせた。すると朔麻の体を包む様に影が出来た瞬間。強い衝撃が朔麻の脇腹に走る。何事かと目をやるとそこにいたのは先程、消えたサチ本人だった。

 

 チャクラを足に集中させて繰り出された一撃は強力で、朔麻の体ごと地面に叩き付けた。その蹴りは地面を粉々にし、また朔麻の身体を九の字に折り曲げて、彼女の骨を砕き肉を容赦なく潰す。

 

 

「かはっ…。まさか、最後にこんな事をするなん…て‥ね。紅雷の名は伊達じゃないか」

 

 口から大量の血と一緒に、その言葉を吐くと彼女は意識を失ってだらりとする。朔麻が悪夢の螺旋を振り下ろした時。右手の術式クナイを上に投げて飛んだ後、今度は朔麻の横に飛んでさっきの蹴りを見舞ったのだ。抵抗が出来ないと分かっている朔麻が完全に油断するのをギリギリまで耐えたサチの作戦が功を成したのだ。

 

 

 戦いが終わって呼吸を整えてから落ちた術式クナイを拾い上げるとサチは、その場をゆっくりと立ち去った。

 その後、再不斬を抱えた仮面の少年が静かに降り立ち、朔麻を回収した事をサチは知らない。




今回のお話。いかかだったでしょうか?

前回で始まった戦いとその決着までを一気に入れた為、少し長いですが楽しんで貰えると思っています。

次に繋げるべく、いくつか端折った部分は後々出すつもりです。
また一言でも良いので感想を残してくれると執筆の活力になります。


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第七話 浮かんだ疑惑と修行の開始

 朔麻との勝負に片を付けた後、サチは森の中を走っていた。戦いの中、いつの間にか湖畔から離れていたのか。中々、森を抜ける事が出来ずに彼女は堪らず舌打ちする。こうしてる間に、カカシ達は大変な目に遭っているかもしれない。もしかしたら… 考えれば考える程、嫌な想像がサチの頭を過る。そんな不安を振り切る様にサチは走る速度を上げた。

 

 

 そして漸く森を抜けたサチは、目の前の光景に呆然とした。湖畔の岸辺は深く抉れ、その先では沢山の木々が軒並み押し倒されている。折れた木から滴り落ちる水を見て、これは忍術によって出来た物だろう。恐らく、相当に激しい戦いが繰り広げられたと想像が付く。はたしてカカシ達は大丈夫だろうか?と心配する彼女の目に湖畔の傍に立つナルト達の姿を見つけて、一目散に駆け寄ると声をかけた。

 

 

「皆、大丈夫だった。こっちの状況は凄い事になってるようね。それにカカシはどうしたの?」

「姉ちゃん!! ああ。カカシ先生は少し疲れて倒れたけど、特に怪我も無いから大丈夫だってばよ。そういう姉ちゃんも戻ってきたって事は、あの気味の悪い女に勝ったんだな」

「ええ、勿論よ。ともかく皆が無事で安心したわ」

 

 

 心配そうに尋ねるサチだったが、ナルトの返事を聞いてホッと胸を撫で下ろした。するとそんなサチの傍に浮かない表情をしたサクラが寄ってくる。何か言いたそうな様子を見せるが、何も言わず俯いてしまう。それから暫く俯いていた彼女だったが、突然サチに抱き付くとぽつりと言葉を吐き出した。

 

 

「良かった…。サチ先生が無事に帰ってきて。私、戦おうとしたのに怖くて何も出来なかった。あのナルトだって、再不斬に向かって行ったのに…」

「…サクラ。貴女は何も出来なかったと言うけど、勇気を出して立ち向かったじゃない。それが出来ただけでも十分よ。いつかサクラも誰かを守る為に戦う日がきっと来るわ。今日出来なかった事は、その日にやればいいのよ」

「うん。ありがとう サチ先生」

「さて、厄介事も片付いた訳だし、私達も先へ行くとしましょう」

 

 

 サチの優しい言葉にサクラは目に涙を滲ませて、礼を言った。そしてサチは手を叩いて、自分に注目を集めてから皆にそう声を掛けると一行は、タズナの家に向かった。

 

 

 

 

 その後、何事もなくタズナの家に辿り着いた一行は、戦いで疲れたカカシをベッドに寝かせた後。いきなりの訪問にも関わらず、快く協力してくれたタズナの娘であるツナミにサチが頭を下げてお礼の言葉を口にする。

 

 

「どうもありがとうございます。それに突然、押し掛けたの部屋まで貸してもらって申し訳ないです」

「ああ いいよ。うちの方こそ、父が世話になったし困った時はお互い様よ。それと必要な物があったら、遠慮なく言ってね」

「はい 何から何まで助かります」

 

 そう言い残して立ち去ったツナミにサチは深く感謝した。そして残されたナルト達とカカシを看病していると、ある事を思い出したナルトがそれを伝えるべく、サチに話しかけた。

 

「そうだ 姉ちゃん。言い忘れてたけどさ。俺達、妙な奴に会ったんだ」

「妙な奴? それはどういう事かしら?」

「ああ。それは…カカシ先生が再不斬に止めを刺そうとした時、同じ里の奴がやってきて再不斬を殺したんだ。そんで、そいつは自分の事を追い忍だと言ってた」

「追い忍…か。そういえば、再不斬とあの女は抜け忍だから狙われる理由は十分あるわね」

「しかもそいつは、俺達とそう変わらねえ歳の奴だったんだぜ。それなのに平気な顔して殺すなんて信じらねえってばよ」

「ナルト。忍の世界では私達の想像が及ばない事もあるわ。貴方が出会った追い忍を意識してるなら、無駄だからやめなさい」

「それは…どういう意味だってばよ。俺じゃ、強くなれないって言いたいのか」

 

 

 ナルトの話を聞いて、サチは言い聞かせる様に弟へ言った。だが、それを別の意味に捉えたのか。ナルトは険しい顔で言い返してくる。どうやら、言葉が足りなかったとサチは改めて口を開いた。

 

 

「そうじゃない。強いとか、弱いとかではなく。あなたは自分以外になる事は出来ないって意味よ。逆に聞くけど、厳しい修行を重ねて強くなったとするわ。その時、ナルトはその追い忍みたく人を殺す事が出来るの?」

「そんな事…しねえ。例え、強くなっても平気で人を殺すなんてしたくねえ」

「つまりはそういう事よ。同じ歳の子がそれをやって、ショックを受けたのは分かる。けど、もう忘れなさい。どの道、その子とは二度と会う事は無いだろうし、その子を意識するのは幻を追いかける様なものよ」

「ああ。分かった。ごめん 姉ちゃん。変な事を言って…」

「フフ。別に謝らなくてもいいわよ。怒ってはいないから」

「それより、今後はどうする?ガトーとか言う奴の刺客は追っ払ったし、タズナも家に送り届けた。肝心のカカシはあの有り様だ。この後の指示をあんたから聞きたい」

 

 サチの言葉に納得したナルトは、素直にその言葉を受け入れた後、小さい声でサチに謝った。そんな弟の頭をサチは優しく撫でる。その二人のやり取りを見ていたサスケは、頃合いを見計らってサチに尋ねた。その問いにサチもどうするか考えを巡らせるが、やはり一人で決める訳にいかない。そう結論を出し、ナルト達に伝える事にした。

 

「今後の事だけど、それはカカシが目を覚ましてから話し合って決めるわ。とりあえず、今は待機していて頂戴」

「分かった。だが、なるべく早めに起きるといいけどな」

「それはカカシ次第だから…何とも言えないわ。それと二人は何か意見ある?」

「いや、俺は何もねえ」

「私も無いです」

 

 

 一応、ナルトとサクラに声をかけるが…二人もサチの指示に従う様だ。その後、四人が看病したおかげか。夜になってカカシが目を覚ました。

 

 

「うん 此処は…何処だ?」

「タズナさんの家よ。それにしても…倒れる程、写輪眼を使った様だけど。再不斬という相手はそんなに強かったの?」

「ん?ああ まあな。それなりに強敵だったよ。あの時は俺もヘマをやらかして、勝負を急いだのもあったけどね。サチ そういうお前はどうだった?」

「そうね。私も似たようなものよ。それと起きたばかりで悪いけど、今後の事で少し話があるの」

「別に構わないよ。俺もちょっと、引っかかる事があってね。それを話したいと思ってた所だ」

「なら丁度いいわね。私はあの子達を呼んでくるわ」

 

 

 それを言われて、初めてナルト達がいない事にカカシは気付いた。自分が倒れて気を失う時までは、無事だったのは覚えている。もしや、あの後も敵が襲ってきたのかと考えたが…それならサチも自分と同じく寝ている筈だ。有り得ない想像をするのは...まだ疲れてるからだとカカシは思う事にした。

 

 

「カカシ。三人を呼んできたわ。中に入るわよ」

「お、本当に起きてるってばよ」

「もう大丈夫なんですか?」

「ったく。やっとお目覚めかよ。世話の焼ける先生だな」

「ああ。面倒を掛けて悪かった。しかし、サスケ。最後の一言は余計だよ」

 

 

 三者三様の言葉にカカシは苦笑いを浮かべて、呟いた。そして、7班のメンバーが揃った所で今後の方針を決める話し合いが始まった。

 

 

「成程ね。事情は大体、分かったよ。それで今後の方針だが、当初の予定どおり橋が完成するまで護衛を続ける」

「それと問題はガトーね。多分、次も何か仕掛けてくる筈。そう考えると気が抜けないわね」

「そんならさ。いっそ、こっちから仕掛けて‥そのガトーってのをぶっ飛ばした方が早いんじゃねえの?」

「ナルト。本気で言ってるのなら、怒るわよ。この依頼を受ける前、私が火影邸で言った言葉を忘れたの?」

「う、別に忘れた訳じゃないってばよ。ただ、相手は悪い事をしてるんだろ?だったら、戦って追っ払うべきと思っただけだ」

 

 

 話し合いの中、ナルトの言った言葉にサチが目を吊り上げて厳しく言い放つ。それに焦ったナルトは、弁明をした後で己の考えを口にした。ナルトの言う事も一理あるが、相手が悪人だとしても忍が一般人に手を出す訳にいかない。それだけは、しっかりと教えようとサチが口を開こうとした時。

 

 

「無駄だよ。あんたらが何をしてもガトーには、敵いっこないさ」

「こら、イナリ。客に向かって、その口の聞き方は何だい!!」

「だって、本当の事だよ。それに母ちゃん、この人達もガトーに殺されて終わりだよ」

「んだとぉ!! 勝手な事を言いやがって、そんなのやって見なきゃ分かんねえってばよ」

「ふん。だったら、好きにしなよ。すぐに僕の言った通りになるから!」

 

 

 もう言いたい事は済んだのか。その言葉を残して、イナリと呼ばれた少年は部屋を出て行った。そんな後ろ姿を気に入らないとナルトは、眉を寄せてジッと見つめていた。部屋に漂う雰囲気に居辛くなったのだろう。母親のツナミも食事の仕度を理由に、続いて部屋を出て行く。残された一行は、改めて話し合いを始めた。

 

 

「まあ、ナルトの説教はあとでするとして。やはり、ガトーの事が気になるわね」

「いや、俺としては…再不斬達を追って来たあの少年の方が、気になるな。何か裏がある感じがしてならない」

「そういえば、引っかかる事があると言ってたわね。具体的にどう思うのかしら?」

「ああ。あくまで予想だが、俺としてはあの少年と再不斬達は、繋がってると思ってる」

「あの追い忍が、再不斬たちの味方って事?でも、あの時…確かに再不斬を殺したじゃない。先生も死んでる事は確認した筈よ」

 

 

 カカシとサチの話に、不穏な空気を感じてサクラが口を挟む。他の二人も、漠然とした不安をサクラ同様に感じていた。嫌な予想というのは、いつの時も当たる。

 

 

「サクラの言う通り、俺は確かに再不斬が死んだ事を確認したよ。けどな、追い忍は何も抜け忍を始末するだけが仕事じゃない。仕留めた奴の遺体を解体する術も心得ているんだ」

「つまり、どういう事だってばよ。それが何だってんだ」

「今から説明するから黙って聞いてろ。いいか?遺体を解体するって事はだ。人体の仕組みを知らないと出来ない。逆に言えば、相手を殺した風に見せる芸当だって…可能なんだよ」

「じゃあ、それが本当なら…」

「ああ 再不斬は生きてる!! あの少年は再不斬を一度仮死状態にして、死んだと思わせたんだろう。恐らくは朔麻というくノ一にも同じ事をしてる筈だ」

 

 

 カカシは真剣な表情ではっきりと言いきった。やはり、嫌な予感だけは当たるのだと…三人は表情を暗くする。しかし、そんな三人に向かってサチが明かるく声を掛けた。

 

 

「そう落ち込む事もないわ。寧ろ、これをチャンスと思いなさい」

「何でチャンスなんですか?だって、カカシ先生の言う通りならあの朔麻って奴も生きてる事になるわ」

「そうね。でも、死にかけた人間が回復するには時間が掛かる。その間、私とカカシで貴方達に修行を付ける」

「修行をして、俺達があいつらに勝てる様になるのか? どう足掻いても力の差は歴然だぞ」

「いや、そうは思わない。今日、再不斬を相手にお前達は俺を救っただろう。結果、俺が倒したとはいえ…お前達は確かに強くなってるよ」

 

 

 サチの提案に、サスケは訝し気な顔で疑問をぶつけた。だが、その疑問をカカシは真っ向から否定する。例え、再不斬達の粋に達していなくとも、戦える力があると無いのでは訳が違う。今日、彼らは自分を救った事でそれを示した。ならば、あとは三人の成長に賭ける事にしたのだ。

 

 

 

「そういう事よ。早速、明日から修行を開始するから。全員、今日は早めに寝る様にね」

「あの…。大事な話の途中で超悪いが、飯が出来たぞ。下で待ってるから来てくれ」

「おや、もうそんな時間なのか…。そういや、俺も腹が減ったなぁ」

「そうじゃろ。あんな激しい戦いをした後じゃ、誰だって超はらぺこになるに決まっとる」

「よっしゃーー。 飯だってばよ。たらふく食うぞ」

「あんたは…少し遠慮しなさいよ。全く」

「フン ウスラトンカチが」

「何だよ。何か文句あんのか サスケぇ」

「やめなさい。いいから早く行くわよ。下でツナミさんを待たせる訳にいかないし」

 

 

 部屋に食事が出来たと呼びに来たタズナに、一行もお腹が空いてる事に気が付いた。そういえば、緊張の余りに忘れていたが、昼もまとも食べていない。数時間ぶりの食事に気分を良くしたのか喜ぶナルトを、サスケは鼻で笑った。すると当然、ナルトはサスケに食ってかかるが…それをサチが止めに入り、一行はタズナに連れられて下へ向かった。

 

 

 

「ああ。皆さん、来たね。久しぶりの客だし、今日は腕によりをかけて作ったよ。量もあるから存分におかわりしていいからね」

「ご馳走になります。いや~ 実に美味そうなご飯だなぁ。こりゃ、食欲がそそられる」

「あら。嬉しい事を言ってくれるね」

「先生…さり気なく、口説いてない?一応、ツナミさんって人妻よね?」

「ええ。息子もいるからそうでしょうね。そういえば、イナリくんの姿が無いわね」

「まだ部屋にいるかもしれんのう。どれ、ワシが呼んでくるとしよう」

「だったら、俺が行くってばよ」

「そうか。それじゃあ、頼めるか。部屋は階段を登って、一番奥の部屋じゃ」

「おっけー すぐ呼んでくらぁ」

 

 

 

 タズナからイナリの場所を聞き、ナルトは駆け足で部屋の前に来ると...中から泣き声が聞こえてきた。一体、何だと気付かれない様に戸を開けて覗くと、そこには一枚の写真を見て大粒の涙を浮かべるイナリの姿があった。つい先程とは違って、悲痛なその表情に声をかける事が出来ず、ナルトは足音を立てないように下に戻っていった。

 

 

「あ、戻って来た。って、あんたイナリくんはどうしたのよ?呼びに行ったんじゃ無かったの?」

「いや‥そのさ。呼びに行ったんだけど、あいつ部屋で悲しい顔して泣いてたんだよ。それ見たら、声をかけれなくてさ」

「そうか。また泣いておったか」

「そうみたいだね。とりあえず、先生方は食べておくれよ。あの子の事は気にしなくていいからさ」

 

 

 

 呼びに行った筈が、一人戻って来たナルトに尋ねるサクラに訳を話した。それを聞いてタズナは、ポツリと言葉を洩らした。どうやら、深い事情がありそうだがとても聞ける雰囲気ではない。一行は、ツナミの言葉に従って食事に手を付け始めた。出された料理は美味しかったが、暗い気分の為か。その味は良く解らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 陽が昇り始めた早朝、ナルト達は近くの森へ来ていた。こんな場所で何をするのか?そんな三人の視線を感じながらもカカシは、一本の木に近づくと本題を切り出した。

 

 

「さて、修行の内容を教えるぞ。とは言っても、やる事は単純だ。今からお前達には木登りをしてもらう」

「木登りぃ。何だ、修行と言うから期待したのに。そんな事かよ」

「ナルト。確かにやるのは木登りだ。しかし、お前の思ってる様な容易いものじゃないぞ」

「どういう意味だ?所詮、やるのは木登りだろう」

「お前達はどうも、せっかちでいかんね。まあ、いいか。今回の木登りは手を使わず、足のみでやるんだよ」

「足だけで…。それって、ジャンプして登れって事?」

「残念。外れ~ サチ。悪いがこいつらに手本を見せてやってくれ」

「分かった。それじゃあ、よく見てなさい」

 

 

 修行の説明をする中、やる気が無さそうなナルト達にカカシは苛立ちを覚えたが、それを抑えてサチに手本を見せる様に言った。口で言うより、実際に見せてやる方が早いと結論付けた。そして、サチは木に歩み寄ると足をかけて木を登り始めた。まるで地面を歩く様に登っていくその姿に三人も言葉を失くし、カカシの言葉が事実と理解した。確かにこれは容易くは無い。

 

 

「すげぇ。あんな風に登るって、一体どうやってるんだってばよ?」

「何。原理は簡単さ。単刀直入に言うと、足にチャクラを貯めて木にくっついてるだけだ」

「つまり、俺達がやるのはチャクラの修行って訳か。しかし、どうして今になってやるんだ?生憎、チャクラの使い方なら既に学んでるぞ」

「そうよね。私達も一応、忍術を使える訳だし」

「所がどっこい。お前達はチャクラを使えるが、使いこなしてはいない。だからこそ、今回はこの修行を選んだわけよ」

 

 

 

 修行の趣旨に気付いたサスケとサクラは、自分達の意見を述べるが…カカシはそれを一蹴した後、説明を続けた。

 

 

「お前達が忍術を使う為にチャクラを練る時、大抵は動きを止めているだろう。だが、戦闘となればそれは大きな隙になる。それに動きながらでもチャクラを練るには、精密な調節も必要だ。おまけに持続する技術もな。今回の修行では、調節と持続。この二つを体に覚えさせる為さ」

「それにね。足の裏はチャクラが貯めにくい箇所でもあるわ。だから、これが出来る様になる頃には自然とチャクラの調節と持続する力が身に付くのよ」

「因みにこれは下忍が行う修行でも、かなり難しいからな。まずは、このクナイで自分が登った所に印をつけろ。そうしたら…次はより上を目指して登る。要はこれの繰り返しだ」

「おーし。こんな修行、ささっと終わらせてやるってばよ」

 

 二人が行う修行の説明を終えた後、カカシはナルト達の足元にクナイを投げた。だが、三人はクナイをジッと見つめるだけで動こうとしない。もしかして、下忍に難しいと言った言葉に怖気付いたのか?と思った矢先、ナルトは勢いよくクナイを抜きとると自信満々に突破してやると言い放った。それに呼応したのか、サクラとサスケもクナイを抜きとるとそれぞれの木に向かって駆けて行った。

 

 

 こうして…カカシとサチに寄る三人の修行が波の国で始まった。




今回のお話、いかがだったでしょうか?

ついに波の国へ到着したカカシ一行。波の国編も折り返し地点に来ましたね。

テンポよく行けば、あと2,3話で波の国編も終わると思います。


宜しければ、一言でもいいので感想を残して下さると作者の活力になります。


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第八話 英雄と呼ばれた男

チャクラの応用術を身に付けるべく、木登りという修行を開始したナルト達。

 一見、簡単だと思っていた三人だったが…予想と反してかなり苦労していた。足に纏うチャクラが少ないと、吸着せずに地面へ落下し、また強すぎると反発して木が砕けてしまって登る事は出来ない。

 

「くそっ!! また駄目か」

「ちっくしょー さっきから全然登れねえ…」

 

 思う様にいかない苛立ちから二人は、愚痴を溢す。最初は楽勝と感じていたサスケや自信満々のナルトも、今は余裕を失くしていた。それにチャクラを練るだけならまだしも、集まりにくい足に集めるだけでも一苦労だ。始めてから数十分しか経っていないのに、二人の息は上がり、すっかりバテていた。

 

 

「やったぁ。大分、頂上に近付いたわ。最初は難しいと思ったけど、コツを掴むと案外簡単ね」

「ええっ!? さ、サクラちゃんってば。もうそこまで行ったのかぁ。すげぇけど、ちょっと腹立つってばよ」

「チィ… 俺もすぐにやってやるさ」

 

 

 上から聞こえた声に二人が見上げると、そこには枝に腰掛けてナルト達を見下ろすサクラがいた。その事にサチとカカシも驚きを隠せなかった。三人の中で余り目立っていなかった彼女が、此処に来てその頭角を現し始めたのだ。そして、先に進むサクラに触発されたのか。疲れた体に力を入れて立ち上がると、ナルトとサスケは再び木に向かっていく。それを良い兆候だと、サチとカカシは顔を見合わせて笑みを浮かべる。

 

 

「ああ~ どうして登れないだってばよぉ。ねえねえ サクラちゃん。何か、コツとか無いの?あったら教えてくれ」

「うーん 仕方無いわね。いい? そのコツと…言うのは」

 

 あれから更に2時間が過ぎたが、未だに二人の修行に進展は無かった。サスケの方はある程度は登る事が出来てはいるが、サクラには及ばない。ナルトに到っては、数歩登るのがやっとであった。それに業を煮やしたナルトは、既に頂上へ辿り着いていたサクラに歩み寄ると、彼女に木登りのコツを尋ねた。

 

 ナルトからそう聞かれたサクラは、初めは戸惑っていたが‥珍しく真剣な顔を見て。自分なりのコツを彼に教える。そんな二人をサスケは、遠くからジッと見つめていた。やがて、時間は昼に近づいた頃。食事の為、一行は修行を中断してタズナ邸へ向かっていった。そして、木の影からこっそりと覗いていたイナリもその場を立ち去った。

 

 

 

「昼からの行動についてだが…。サクラ お前はこの後、サチと一緒にタズナさんの護衛に当たれ。そして二人は、俺と一緒に修行の続きだ」

「え?私はもう木登りしなくていいの?」

「そうよ。見てたけど、サクラは調節と持続は十分出来てるからね。逆にそんな貴女が二人と一緒にいると、無駄に気を散らせて修行の妨げになりかねない」

「そういう事。お前も分かってるだろうけど、あの修行は集中力がいるからな」

「へへ、そんな心配しなくても、俺もすーぐ追い付いてサクラちゃんもタズナのじっちゃんも守ってやるってばよ」

「お前の場合、ドジ踏んで逆に守られる事になりそうだがな」

「あんだとぉっ!! どうして‥お前はいつも余計な事を言うんだよ。第一、お前だって登れてねえ癖に偉そうなんだよ」

「フン お前よりは登れてるぜ。ナルト。お前はまだ数歩しか、登れてねえだろ。このウスラトンカチが…」

「てめえぇぇぇ!! 」

「いい加減にしないか。二人共。人様の家で喧嘩をするんじゃないよ」

「すみません。騒がしくして…二人には私がきつーくお灸を据えておきまから」

「あっはっはっは… いいんだよ。あの歳の子供は喧嘩してなんぼだし、家が賑やかになって楽しいからね」

 

 昼食の最中、カカシから自分だけ修行に参加しなくていいと告げられて困惑の色を見せるサクラに、サチが事情を説明する。そんな時、まだ不安そうなサクラに明るく声をかけるナルトへサスケが茶々をいれた。そして、毎度の様に喧嘩に発展した所でカカシが一喝して、止めてからサチが謝るという流れにツナミは楽しそうに笑ってそう言った。

 

「ご馳走さま。僕、少し出掛けてくる」

「そうかい。余り遅くなるんじゃないよ」

 

 すっと席を立ったイナリは一言告げて、外に出て行った。その背中にツナミが声をかけるが、彼は返事を返す事は無かった。家族にさえ、心を閉ざしている様な少年の後ろ姿をナルトは…何処か切なそうに見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼食の後、サチとサクラの二人は建設途中の大橋へ訪れていた。そこでは右へ左へと大勢の職人達が、懸命に作業をしていた。その中心ではタズナが職人達へ大声で指示を出している。普段と違い、威厳溢れる姿はまさに熟練の職人そのものだ。すると、二人に気付いたタズナがゆっくりと近寄ると声をかけてきた。

 

「こんな所に来て、どうしたんじゃ?あの二人の修行はもう終わったのか?」

「此処に来たのは…タズナさんを護衛する為です。それとあの二人はカカシと修行してますよ」

「ほう。そうじゃったか。まあ、ガトーの刺客を倒してもまだ、ガトーの問題は残っとるしの」

「うん。今度は私もしっかりと護衛するから安心して」

「わははは それは超頼もしいのう。おまえさんも十分、逞しくなったな。子供の成長は早いわい」

「ええ。その通りですね。私としても、嬉しい限りですよ」

「もう…二人共。わたしを完全に子供扱いしてるでしょ」

 

 

 サクラの言葉に二人は、声を合わせて笑った。それに膨れるサクラだが、二人の楽しそうな雰囲気に釣られて彼女も笑った。その後、邪魔にならない様に隅に移動したサチ達はタズナの護衛任務に当たる。しかし、人気が多い中‥何事もなく時間が過ぎるに連れて、退屈の余りサクラは背伸びして欠伸を洩らす。それを見た、サチは少しだけ表情を険しくすると気を抜けたサクラに注意する。

 

「サクラ… 任務の最中に気を抜くのは関心しないわ」

「あっ、ごめんなさい」

「まあ、何事もなくボーっとするだけじゃ仕方無いか。なら、私とちょっとした遊びをしてみる?」

「遊びですか?でも、此処で何をするんですか?」

 

 

 サチの提案にサクラは目を丸くして尋ねると、サチは微笑んで言葉を続けた。

 

「何、やり方は簡単よ。お互い手のひらを相手に向けたら、そこにチャクラを纏って放出するだけ。チャクラ手相撲と言ってね。私が子供の頃、友人とやってたのよ。相手に押し負けない様にチャクラを練って放出するだけでなく、長く持続させないといけないから修行としても持ってこいだしね」

「何か面白そうですね。修行にもなるなら、やってみたいです。でも、思ったんですけど…あの二人にもこれをやらせたらいいんじゃないんですか?」

 

 

 想像より、面白そうな遊びにサクラは食い付いた。それに修行にもなると聞いて、一層やる気を出した様である。そして、そこでサクラに素朴な疑問が浮んだ。そういえば、この遊びはチャクラの持続が必要と言っていた。なら、あの2人にもこれをやらせたらとサクラは口にする。

 

 

「確かに…これでも良いのだけれど。あの二人が仲良くこの遊びに興じると思う?それに木登りと違って、チャクラは手に纏うからね。持続の鍛錬になるけど、調節の鍛錬にはならないのよ。相手に負けじとチャクラを思いっきり放出する事になるから」

「成程。想像してみると、二人はすぐに喧嘩して終わりそう」

「そうでしょ? それに追加ルールとして、チャクラを持続させつつもタズナさんに注意を払う事。その場合、相手に負けない量のチャクラを纏う事で調節の鍛錬も同時に行うわ」

「ええ!? それって、何気に木登りより難しくないですか?相当、集中しないと無理だわ」

「あら?サクラは…自信無いの? なら、手加減してもいいわよ」

「…っ! そんなの必要ないですよ。私もサチ先生に負けませんから」

「よし、その意気ね。じゃあ、やってみましょう」

 

 

 サチの巧みな言葉による挑発にまんまと乗ってきたサクラは、ムッとしてサチに手を向けてくる。それを内心、微笑ましいと感じてサチも手をサクラに向ける。そうして、二人は静かな暇つぶしを始めた。

 

 

 

 

 

 

 一方、件のガトーは再び森にある小屋を尋ねていた。昨日、再不斬と朔麻に依頼した暗殺の結果を心待ちにしていたガトーだったが、事実を伝えられると顔を真っ赤にしてその怒りを露わにする。

 

 

「貴様らぁ…。一度ならず、二度までも失敗するとは…霧の忍とやらはそこらのガキにも劣るようだな。この責任はどう取るつもりだ?ええ、霧隠れの鬼人さんに狂人さんよぉ」

 

 

 しかし、嘲るように笑って罵るガトーに再不斬も朔麻は無言を貫き、それが余計にガトーの怒りに火を点ける。そしてズカズカと二人に近づき、手を伸ばした時。二人の傍で様子を見ていた仮面の少年がガトーの腕を掴むと、ギリギリと締め付ける。細い腕から出されたとは思えない力にガトーは堪らず叫びを上げた。それに反応したガトーの護衛が腰に携えた刀を抜き、少年に斬り掛かろうとした瞬間。少年は一瞬で二人の背後に移動し、奪い取った刀を二人の喉元に付き付けると、低い声で言葉を発した。

 

 

「やめておいた方がいい。今、僕は怒っている。これ以上、続けるなら命の保障はしませんよ」

「ぐっ…。次だ。次こそ、タズナを始末しろ!! それで今までの事はチャラにしてやる。分かったなぁ」

 

 

 腕利きの護衛すら、子供扱いする少年の実力と気迫に怖気づいたガトーは、そう言って大人しく引き下がった。その言葉に心の中で少年は笑うが、表情には出さずにいた。そして、ガトー一派が去るのを見届けた後で。少年は二人に近寄って、心配した様に声をかけた。

 

「怪我は大丈夫ですか?それに二人共。さっきガトーを殺そうとしたでしょう?」

「ああ。まあな…それより白、いつまでそんなもんを付けてるんだ?いい加減に外せ」

「そうそう。折角の綺麗な顔もそれだと、見れないからねえ」

「はいはい 分かりましたよ。これでいいですか?」

「うん。やっぱり、白はそっちがいいね」

「それと…どうして止めたんだ?あの野郎を庇う必要はねえだろうよ」

 

 

 先程、白と呼ばれた少年が二人を止めたのには理由がある。再不斬と朔麻は布団の中でそれぞれの得物を手にして、ガトーを殺す機会を窺っていた事に気付いていた。此処で騒ぎを起こせば、自分が密かに始末した追い忍達がまた派遣される可能性がある。例え、また始末したとしても里はより強力な忍を送り出すだろうし、己が里を裏切っていた事も知られてしまう。そうなれば、今までの様に行動は出来なくなる。これだけは避けるべきだと思い、白は二人に進言する。

 

 

「今、ガトーを殺すのは得策ではありません。何れ、始末するとしても此処は堪えてください」

「分かったよ。お前が言う以上、何か訳があるんだろ…」

「まあ、あいつを殺しても部屋が汚れるだけだしね」

「そうですね。では、僕は治療に必要な薬草を探してきます。二人共、絶対安静にしていてくださいよ」

「ああ。どのみち、動けねえからそうするよ」

「あたしも…まだ脇腹がジンジン痛いしなぁ。あのくそ女め...今度、会ったら覚えてろ」

「なるべく、すぐ戻りますから」

 

 

 二人にそう声をかけて、白は小屋をあとにした。そして、辺りに誰もいない事を確認してから森の中へ消えていった。

 

 

 

 

 

 それから時間は経ち、高い位置に在った太陽は沈み始めて夕暮れを迎えていた。夕日に照らされる森の中、ナルトとサスケは変わらず木登りに挑み続けていた。始めた朝に比べれば、二人も徐々により高い場所まで登れる様になったが、未だに頂上は遠い。しかし、お互いある程度まで登った先からは進めなくなってきた。体力とチャクラの消耗が理由ではあるが…二人の中にある心の迷いも原因の一つだった。

 

 

「くそっ…。 あの先から全然登れやしねえ。一体、どうしたらあの位置までチャクラを持続出来るんだ?」

「お前はチャクラの量は適切だが、木から落ちるのを恐れて、動きが散漫になってるんだよ。だから、途中で失速して落ちるんだ」

「んだよ。そういうお前は…何度も木から弾かれてじゃねえかよ。チャクラの量が多いからそうなるんだろ」

 

 

 二人の欠点、ナルトの場合は調節が上手く出来ているが…落ちる事を意識する余り、チャクラの持続が長持ちしない。そしてサスケの場合はチャクラの持続を意識する事で、高く登れるが…木の弱い部分を踏むと弾かれてしまう。これが二人の修行が進展しない訳であった。

 

 

「分かっている。そこでだ…。ナルト、俺がお前に持続するコツを教える。だから、お前はサクラから聞いたコツを教えてくれ」

「…いいぜ。俺がサクラちゃんから聞いたのは…なるべくリラックスしてチャクラを集める事だったな。一応、やってみたら登れる様になったから、間違いねえ。そんでお前が言う持続のコツって何だよ?」

「ああ、俺が掴んだコツはリズムだ。ある程度、多めにチャクラを集めたら一気に登る事だ。お前が聞いたコツと俺の方法を合わせれば、上手く行くだろう」

「へえ…お前って、意外に素直なんだな。俺ってば、てっきりコツを聞いたら無視すると思ってたってばよ」

「フン 俺がそんな姑息な真似するかよ。それに普段からお前が俺をどう見てるか、少し分かったぞ」

「う‥。そ、それよりもコツを忘れない内に、今から修行を再開するってばよ」

 

 

 サスケの提案にナルトは暫し、考え込んだのち。その案に乗ったナルトは…サクラから聞いたコツをサスケに教えた。そして、不意に思った事をナルトは口にするとサスケは、眉間に皺を寄せて睨むとナルトは頭を掻いて誤魔化した。

 

「まあいい。だが、それをやるならあの木にするぞ」

「あれか。確かにやりがいはあるけど、相当高い木だってばよ」

 

 サスケが指差す方には、巨大な大木がそびえ立っていた。それは二人が一緒に登っても余裕が在る程、太く高さも周りの木とは、比べものにならない。しかし、今まで登っていた木ではなく、どうしてその木を選んだのかナルトは疑問に思った。お互いにコツを教えあったのだから。別段、それでなくてもいい筈。その理由を思いきってナルトは聞いてみた。

 

 

「なあ…どうして、あの木なんだ?別にさっきの木でやればいいじゃんよ」

「お前はそれで満足か?折角、木登りのコツを知ったんだ。どうせなら上を目指すべきだろ」

「成程な。確かに登り切ったら、俺達は今よりもっと強くなれるって訳だな」

 

 

 サスケの言葉にナルトは、合点がいったと頷いた。言う通り、あれを登り切れば…チャクラの使い方は完全に覚える事が出来る。それを聞いて、ナルトは俄然やる気を出した様だ。そうと決まったら、即行動。二人はニッと笑い合うと大木に走っていった。

 

 

 

 

 夜、タズナ邸に戻った一同は食卓を囲んでいた。ツナミの料理を堪能する中、ナルトとサスケの二人は一心不乱に食べていた。それを見ていた他の者は、余程お腹が空いていたのか?と思った矢先。二人はしゃがみ込むとあろう事か、食べた食事を全て戻してしまった。食事中にその光景を見せられて良い気分はしない。不快感を隠す事なく、サチが二人に苦言を述べる。

 

 

 

「二人共、食べた物を戻す程、体調が悪いなら食べるのをやめなさい。見ていて、気分も悪いし…食事を用意してくれたツナミさんに大変失礼よ」

「…そうよ。一緒に食べてる私達の事も考えてちょうだい」

 

 サチに続いて、サクラも苦言を洩らす。そんなやり取りをカカシとタズナだけは、楽しそうに眺めていた。もう我慢ならないとサクラは、席を立つと壁に飾られている一枚の写真に気が付いた。その写真にはタズナ、イナリ、ツナミが写っている。だが、右上の部分だけは何故か乱暴に破られていた。

 

 

「あの…どうして、破れた写真を飾ってるの?此処に写ってる人は男の人っぽいけど…」

 

 

 その事が気になり、何気なくサクラが尋ねた途端。場の空気が重くなるのを感じた。まさか、聞いてはいけない事だったかと今更になって、後悔したがあとの祭りだ。暫くの間、沈黙が続いた後。意を決して、タズナが重い口を開いた。

 

 

「そこに写っていたのは…娘 ツナミの夫でこの町の英雄と呼ばれた男じゃ」

「父さん。イナリの前でその話は…しないと約束したでしょ!? どうして言ったのよ」

 

 

 話が始まった時、居間に座っていたイナリは立ち上がり…逃げるかの様に外へ飛び出していった。それを見たツナミは血相を変えて、タズナに怒鳴った。その姿はまるで別人と思わせる程であった。しかし、当のタズナは怯む事無く、話を続けた。まるで何かを決心した表情のタズナに、ツナミも怒りを忘れて黙り込む。

 

 

「イナリにはのう。血の繋がりは無いが、一人の父親がいたんじゃ。今と違って、その頃のイナリはよく笑う子だったよ。だが、ある日を境にあの子はすっかり変わってしまったんじゃ」

「一体、何があったんです?」

「それを語る前に…少しばかり時間が遡って、三年前の事だ…」

 

 

 そう言って、タズナが語った事は…イナリの過去であった。当時、気の弱かったあの子はいつも島の子供からいじめられていた事。そして、後に父親となるカイザという男と出会った事。そして大きい夢と優しい心を持つカイザは町の為に、何度も体を張って危機から救い英雄と呼ばれる様になった事。それらの話を当時を思い出しながら、タズナは語る。時折、見せる表情でその人がタズナ達にとって、どれ程大切な人だったのかをナルト達も伺い知れた。

 

 

 だが、そこからタズナの顔は悲痛な表情に変わって、本人も辛そうに言葉を紡ぐ。

 

「そこまで楽しい思い出だった。しかし、それは全てあの男、ガトーに奪われたんじゃよ。以前、話した通り…奴は在り余る財で町を意のままに振舞っていた。だが、正義感の強いカイザはガトーの行動が許せず、歯向かっていった。その結果、ガトーの怒りを買ったカイザは、大勢の前で無残に殺されたんじゃ。そうして、英雄を失った町の皆はすっかり生気を失ってしまった。あのイナリの様にな」

 

 

 全てを話し終えた後、一同は余りの悲惨な過去に言葉を失った。無言の中、唯一ツナミの嗚咽だけが悲しく響く。そんな雰囲気をぶち壊すかの様に、ナルトはテーブルを強く叩いた後、ゆっくり立ち上がって外へ向かう。疲労が溜まっているのだろう。時々、ふらつきながら進む弟にサチが待ったをかけた。

 

 

「こんな夜に何処へ行くつもり?修行なら明日にしなさい。只でさえ、いつ敵が来るのか分からないのだから」

「そうはいかねえよ。姉ちゃん。俺は…証明してやるんだ」

「証明?一体、何をよ」

「決まってんだろ。この世に、英雄はもう一人いるって事をだよ」

 

 その言葉を残して、ナルトは一人…外へ出て行った。何の根拠もない言葉だが、彼の力強い顔を見て。一同は何も返す事が出来なかった。その後ろ姿に…タズナはかつての英雄の姿を垣間見た。もしかしたら、あの子供は本当に英雄となるのかもしれないと…。

 




今回のお話、いかがだったでしょうか?


前回の修行の続きからイナリの父親の過去話。
何とか、上手く纏って良かったけど…このペースだと波の国編はもう少し掛かりそう。

まあ、それでも原作やアニメよりは長引く事は無いからいいやと敢えて開き直って執筆します(笑)

また一言でも良いので感想を残して下さると、執筆の活力になります。
是非ともお願いします


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第九話 胸に秘めた想いと再び襲い来る強敵!

今回から波の国編、完結に向けて物語が動きます。


 あの後、タズナ邸を飛び出したナルトは修行場の森を訪れていた。

 しかし、夜の森は想像以上に暗く。流石にこの状況で木登りは危険であると、ナルトも理解している。だが、啖呵を切って意気揚々と飛び出した手前。のこのこと戻るのも恥ずかしい。

 

 

「うーん 修行をしようにも‥これだと無理だよな。考えてもいい方法が浮かばねえし。もう此処で寝るとすっか」

 

 

 他の方法を考えるが、やはり疲れて頭が回らない。そうしてる間に襲って来た眠気に耐えられず、ナルトはその場にドカッと寝転がると静かに眠りについた。本人の体も疲労で限界を迎えていたのだろう。横になって、すぐに彼は寝息を立てる。

 

 

 

 

 

 それから時間は経ち、暗かった森は昇った朝日に照らされていた。そんな時、着物を着た少年が通りかかり、大の字になって寝ているナルトの姿を見つけると、彼はゆっくりと近づきその顔をジッと見つめる。実の所、少年はナルトの正体に気付いていた。

 

 

「この子は…あの時、再不斬さんと戦っていた少年か」

 

 

 湖畔で自分が再不斬を回収に来た際、やたらとこちらを見ていた少年だった。それだけを思えば、何て事のない出来事だが、何故かその時の目と表情は自分の脳裏に強く焼き付いていた。だが、その彼は今や完全に無防備。敵である以上、此処で始末しようと思い‥ナルトの首をへし折ろうと手を伸ばす。

 

 

「…起きて下さい。こんな所で寝てると風邪をひきますよ」

「ううん 何だぁ? って、お前は誰だってばよ!?」

 

 

 しかし、少年はそれを思い留まるとナルトを起こすべく。その肩を優しく揺さぶって声をかけた。当の本人も少年の声で目を覚まし、欠伸と吐くと同時に目を開くと自分を見下ろす少年に驚いて起き上がる。

 

 

「誰って、いきなり失礼ですね。偶然、通りかかったら…君が倒れているものだから心配して声をかけたんですよ」

「あ…。そっか。そういや、昨夜は此処で寝たんだった。ごめんなぁ姉ちゃん」

「いや、別に構いませんよ。それと…一つ言っておきますが、僕は男です」

「ええっっ!? 嘘だぁ… 何処から見たって、女に見えるってばよ」

「嘘なんか吐いてません。いいですか? 君がどう言おうと…僕は男なんですよ」

 

 

 ナルトの言葉に笑みを浮かべて、そう返事を返した。そして次に出た言葉に少年は若干、怒った様子を見せる。肩に届く黒髪とその顔だちは一見すると、女性に見える。だが、これでもれっきとした男だと少年は訂正した。その事実にナルトは、目を丸くして驚くと大声で叫んだ。それでも少年は引き下がる事なく、ナルトに迫ってそう言った。先程と違って、妙な迫力を醸し出す姿に気圧されたナルトが素直に頷くのを見て、少年はやっと引き下がる。

 

 

「そんで、ね‥兄ちゃんは何をしてるんだ?」

「ああ。僕は薬草を採りに来たんです。つい先日、僕の大切な人が大怪我をしてしまってね」

「そうだったのか… よーし、ならさ。俺もそれを手伝うってばよ」

「‥いいんですか? 君の申し出は助かりますけど、見ず知らずの人に手を貸して…。もしかすると、僕は君を騙してるかもしれないんですよ?」

「いや…俺はそうは思わねえってばよ。さっきだって、俺を放っておけば良いのに起こしてくれたじゃんか。それが兄ちゃんを手伝う理由だ。それに…薬草集めは大切な人の為なんだろ? 俺も大切な人がいるから分るんだ」

 

 

 自分を手伝う。そう言ったナルトに少年は、少し陰を含んだ顔で尋ねる。しかし、ナルトから返ってきた言葉は少年の予想とは…大きく外れたものであった。その言葉に堪らず少年は笑った。いきなり笑い出した少年にナルトは、初め驚いたが釣られる様に彼も笑う。

 

 

「なぁ。これはどうだ? 兄ちゃんが探してる薬草で合ってるか?」

「ええ。それです。ありがとう。これで大分集まったし、もう十分ですよ」

「それは良かった。そういや、今何時だ?」

 

 少年と一緒に薬草を集める事、1時間。二人でやった事もあり、必要な分はすぐに集まったようだ。そして、ふとある事が気になったナルトは、少年に時間を聞いた。

 

「そうですね。陽の高さからすると、多分ですが…8時くらいじゃないですか?」

「う、不味い。それだと、もう朝飯の時間が過ぎてるかもしれねえ」

「それは大変だ。でも、その心配は無いみたいですよ。ほら、あそこに来てる人。もしや、君の家族じゃないですか?」

 

 

 そう言いながら、少年はナルトの後ろを指で指す。その先では、姉のサチが歩いてくるのが見えた。恐らく、一晩経っても戻らない自分を心配して、来たんだろう。そして、こちらに気付いたのか。姉は小走りでナルトの方へ向かって来た。

 

 

「此処にいたのね。朝になっても、戻ってないから心配したわよ。あら?貴方は…誰かしら?」

「初めまして! 僕はこの島の者で、怪しいものじゃありません。偶々、森に薬草を採りに来たら…この子を見つけて声を掛けたんですよ。そうしたら、意気投合しまして。僕の手伝いを買って出てくれたんです」

「おう。そうだってばよ!! ところで姉ちゃんはどうしたんだ?」

「どうしたんだ?じゃないわよ。さっきも言ったけど、貴方を迎えに来たの。朝御飯だって、用意してくれたのに帰ってこないんだから」

「すみません。僕の所為で…」

「別に気にしなくて…いいわ。それと貴方は、島の何処に住んでるの?ついでに送って上げるわ。近頃は物騒みたいだからね」

 

 

 サチは少年に向かって、そう言った。弟が世話になったのもあるが、僅かに不穏な気配をその少年から感じていた。それに少年の方も、サチが向ける疑いの視線に気付いている。朔麻から聞いた特徴からして。恐らく、彼女が朔麻を倒した忍だろう。もし、自分がその仲間だと知られたら…最悪の展開になる。また、戦おうにも朔麻をあそこまで痛めつける相手だ。

 

 自分の奥の手を持ってしても勝てるか分からない。若干、焦りながらもそれを表に出さない様に少年は返事の言葉を返す。

 

 

「いえ。それには及びません。幸い、僕の家は近いですから...。それに今、その子もお腹が空かせているでしょう」

「あ~ そうだってばよ!! 俺ってば、まだ朝飯食ってねえじゃん。なあ、姉ちゃん…早く行こうぜ」

「な、いきなり大声出さないで。今は…それ所じゃ。って、いない…」

 

 自分が空腹である事を思い出したナルトが、サチの腕を掴んでそう言った。それに気を取られて、少年から目を逸らした一瞬の内に。彼は忽然と姿を消していた。

 

「あ、本当だ。あの兄ちゃんも余程、腹が減ってたのかな?」

 

 後ろで呑気に呟くナルトだったが、サチは冷汗を流して、少年がいた方を睨んでいる。それもその筈、自分が目を離したのは…ほんの10秒足らずだ。その一瞬で音も無く消えた。そういえば、ナルトから以前聞いた話を思い出す。確か、再不斬を殺しに来た追い忍はナルト達と同じ歳で。今の少年もナルト達と同じくらいであった。

 

 

 そこまで考えて、サチは最悪の展開になったと唇を噛み締めた。自分達がこの森で何かをしてる事までは、知られていなくとも。此処に来ている事を知られてしまった。それは彼らを通して、ガトーにも伝わるだろう。そう判断したサチは、ナルトに向き合うと口を開いた。

 

 

「いい?よく聞いて…。今後、森の立ち入りは辞めにしましょう。変わりに貴方達には、屋内でも出来る修行をやってもらうわ」

「え? い、いきなり…どうしたんだってばよ。昨日だって、やっと半分まで登れたのに…」

「事情が変わったの。いいから言う事を聞いて頂戴。戻ったら、この事を皆にも伝えるわ」

 

 

 未だ納得してないナルトだったが、切羽詰まった姉の様子に渋々ながら従う事にした。

 

 

 

 

 

 

 ナルトを連れて、タズナ邸へ戻ったサチは、皆を居間に集めると森で起きた事を話し始めた。

 

 

「何っ!? 怪しい少年に会った? サチ。それはどんな奴か教えてくれ」

「‥ええ。黒髪の女っぽい顔をした子よ。歳も三人と同じくらいだったし、湖畔で皆が会った追い忍と関係があると見ていいわね」

「あるいは…同一人物かもな。しかし、厄介だな。お前の言う通り、これでは森での修行は出来なくなる」

「いいえ。それについては心配ないわ。屋内でも調節と持続。これを鍛える方法があるから」

「あ、それって、橋でサチ先生とやった修行ね」

「そういう事。この際、何もしないよりはマシだからね」

「あれとはなんだ? 一体、今度は何をやらせるつもりだ?」

 

 

 サチの話を黙って聞いていたサスケが、サクラの言葉に反応してサチに問い掛ける。最初は不満があるのか?と思ったが、表情を見る限りではそうでは無いようだ。どうやら、新たな修行が出来るならそれでいいのだろう。

 

 本人も珍しく興味津々といった様子で食い付いてくる。

 

 

 

「それはチャクラ手相撲よ。本来はお互いに手を向け合い、チャクラを放出して競う遊びよ。だけど、修行として行う場合。チャクラは相手と同じ量を放出して、その状態を長く保つ事を課題とする」

「何だ、今度は木登りよりも簡単そうだな」

「おう、それに面白そうな感じだってばよ」

「まあ、確かに木登りよりはね。けど、随一新しいルールを付け加えていくから楽はさせないわよ」

 

 

 サチの言葉に二人は、望む所だと笑って見せた。カカシとサクラもそんな二人を見つめて笑う中、只一人。イナリだけは何処か痛みを堪えるかの様に…ナルト達に視線を送っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 森での出来事から5日後。

 昼間はカカシとサチで交代しつつ、タズナの護衛。夜はサチの指導の元、ナルト達は屋内で修行に励む日々が続いていた。開始した当初、ナルトとサスケは喧嘩をしてばかりであった。しかし、それがサチの怒りに触れてしまい、怒られてからは二人も真面目に取り組んでいる。

 

 

「皆、ご飯が出来たそうだ。修行は休憩して、下に行くぞ」

「お、やっと飯だってばよ。この修行、木登りより腹減るんだよな」

「そうよね。ジッと座ってやるだけなのに、意外だわ」

「まあ、チャクラの修行は思いの他。体力を消耗するからね。お腹が空くのはそれが理由よ」

「そんなのどうでもいい。さっさと行くぞ」

 

 

 そして夜になり、二階の部屋にてナルト達が修行をしていた。すると戸をノックする音が聞こえた後、カカシが入って来てそう告げる。その言葉に反応したナルトが空腹となったお腹を擦って、自分の気持ちを口にした。それに続いてサクラもナルトの言葉に頷く。その理由をサチが教えるが、同じく空腹だったのだろう。サチの言葉をばっさりと切ってサスケは下に降りていった。それで珍しく落ち込んだサチをカカシとサクラが慰めると、何とか元気を取り戻して三人一緒に部屋をあとにした。

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ。今日も懸命に働いて、超バテバテじゃわい。おかげでご飯が美味いのう」

「おう。そうだなぁ。俺の方こそ、修行の毎日でヘトヘトだってばよ」

「それは貴方が無駄にチャクラを消費するからよ。もう少し、放出を抑える事を覚えなさい」

「うーん 俺もそうしてるんだけどなぁ。知らない内に勝手にチャクラが出るんだよ」

「フン ウスラトンカチが… 自分で放出してる癖に何言ってんだ? 大体、俺とやる時はいつも全力でやってるじゃねえか。修行の趣旨を分かってんのか?」

「うるせぇ 分かってるってばよ。けど、本当にそうなるんだ。だから、俺も困ってんだよ」

 

 

 最早、恒例と言える夕食時の喧嘩が起きると思い、それをサチが止めようとした時。いつもと違って、ナルトが引き下がった為、喧嘩は起きる事はなかった。どうやら、本当に悩んでいるらしく。茶々を入れたサスケもどう言葉をかけていいのか分からず、困惑の色を見せる。うんうんと唸るナルトへ、サチが声を掛けようとするが…それよりも先に正面に座っていたイナリが口を開いた。

 

 

「だったら、辞めればいいじゃないか。どうせ、何をしたって無駄なんだから」

「…んだよ。簡単に辞めたら修行の意味がねえだろ。それにやれる事もしないで無駄なんて、勝手に決めつけるな!!」

「何でだよ。どうして、そこまで頑張れるんだ!? いくらカッコをつけたって、修行したって…弱い奴は本当に強い奴に勝てっこないんだ」

「…いちいちうるせえぞ。第一、俺はお前とは違うんだよ。放っておけってばよ」

「ッ…。お前を見てると…ムカつくんだよ。この国の事も…僕の家族の事も知らない癖にぃ。どうせ、辛い思いだってした事無いんだろ?だから、そうやってヘラヘラと笑っていられるんだっ!!」

 

 

 静かに喋っていたイナリだが、返すナルトの言葉に次第に熱が入って行く。やがて、目から大粒の涙を流してイナリはナルトに向かって、心の底にある気持ちを思いっきりぶつけた。イナリに何が遭ったのか。それはタズナの口から聞いた話で知っている。それもあって、ナルトもイナリと衝突する事を避けていた。だが、最後に彼が言った言葉でナルトの怒りに火を点ける事となった。そして、ナルトはイナリを正面から見据えると言葉を紡ぐ。

 

 

「…だから、悲劇の主人公みてえに泣いてりゃ良いってか? ふざけんじゃねえぞ!! 何かをする前から諦める奴にどうこう言われたくねえってばよ。お前みたいな奴は、俺は大っ嫌いだ。一人で好きなだけ泣いてろよ。この馬鹿野郎っ!!」

「ナルトっ、あんた、流石に言い過ぎよ」

 

 ナルトの迫力と言葉に負けて、イナリは黙ると俯いてしまった。それを見て、サクラが注意するが…彼はそれに反応する事なく、二階の部屋に戻っていった。

 

 

 

 それから軒先で塞ぎ込むイナリの元にサチがやって来て、その隣に腰を下ろすと静かに話し出す。

 

「さっきは弟が酷い事を言って悪かったわ。それに貴方の父の話…タズナさんから聞いた。でもね。ナルトはああ言ったけど、本心は貴方を心配してるのよ。何せ、私とナルトも両親と呼べる人は…もういないから。幸い、私は父と母の顔を知ってる。けど、二人共。あの子が生まれた日に死んでしまったから顔は勿論、どんな人だったのかも知らない」

「…。あいつも、僕と同じなのか」

「ええ。それでも、あの子はその事で泣いたりはしなかった。心の中では解らないけど、涙を見せた事はないわ」

「それは、あいつが強いからだよ。弱い僕とは…違う」

「本当にそう思う? 確かに貴方からすれば、ナルトは強く見えるかもしれない。でも、最初からそうだった訳じゃないわよ」

 

 

 そこまで言って、サチは一旦口を閉じる。そして彼女の言葉に耳を傾けるイナリへ、一呼吸おいて話を続けた。

 

 

「昔は貴方が言う通り、何をやっても駄目だった。それでも諦めたり、挫ける事無く努力を続けたから今のナルトがあるの。イナリ君。人は誰でも大きい可能性を秘めているわ。皆、それを掴み取る為に頑張るのよ。今はいいけど、いつかは自分の足で立って歩く事をどうか忘れないで…。私が言いたいのはそれだけよ。じゃあ、私は部屋に戻るわ。貴方も行きましょう」

 

 

 言うべき事を言うと、サチはイナリの肩を優しく叩いた。そして、彼の手を取るとタズナ邸へ一緒に歩いていく。その間、イナリは自分の手を包む暖かい感触を感じながら、今は亡き父の言葉を思い返していた。

 

 

 

 

 

 

 

 夜 同時刻。

 森の小屋で再不斬達は、ガトーと対峙していた。数日前の戦いで負った傷も回復し、三度の襲撃をする計画を立てる為である。

 

 

「いきなり…呼んだかと思えば、明日に襲撃をするだと…。一体、何処で仕掛けるつもりだ?」

「それは決まっています。あの大橋で彼らを迎え打ちます」

「ああ。あそこでなら水辺もある分、俺達に有利だ」

「そうそう。それにいざとなれば、橋を破壊すると言えば。奴らも逃げる事は出来ない」

「成程…。今度はしっかりと考えているようだな。だが、念には念を押してわしもある策を講じる」

 

 

 三人の話を聞いて、ガトーは今回こそ抜かりは無いと確信する。しかし、此処で彼はそう進言した。その事に今度は再不斬達が訝し気な顔をする。三度目となれば、自分達も本腰を入れて動くつもりだ。それなのに策を講じると言う事は…奴は自分達を信用していないと言っているのも同じである。だが、二度失敗している事も事実である為、彼らは屈辱に耐えつつもガトーの言葉に耳を傾けた。

 

 

「わしの策…。それは奴らがタズナの家を出た後、わしの部下を差し向けて奴の娘とガキを人質にする。そうすれば、奴らも抵抗する事は出来んだろう。そこをお前達が仕留めるという作戦だ」

「けっ つまりは何だ。俺達に無抵抗の奴を嬲り殺せってか?」

「確実とはいえ、気が乗りませんね」

「白と同じく…。あたし達にも一応、流儀があるんだけどね」

「そんな物は知った事かぁ。今度こそ失敗は、絶対に許さん。わしの言う通りに動いてもらう。お前達は橋の付近に待機して奴らが来るのを待っていろ」

 

 

 

 想像していた通り、ガトーの策は自分達の意に反する物だった。しかしながら当然、再不斬達の意見など。ガトーは聞くはずもない。横柄な態度で言いたいだけ言うと、彼は小屋を立ち去った。暫く、ガトーが消えた戸を睨んでいた三人だったが…意味の無い事だと割り切り、それぞれは明日に備えての準備を開始した。

 

 

 

 

 

 翌日 今日も変わりない1日が始まろうとしていた。ナルトを除き、起床した7班のメンバーは、朝食を済ませるとタズナの護衛の為、彼と一緒に家を出て行く。

 

 

 

「…それでは、私達はタズナさんの護衛に当たります。ナルトの事、お願いします」

「大丈夫。任せておいて…。それにしても、今日は起きないって体調でも壊したのかい?」

「いや、単なる寝不足です。どうやら…昨日の事であの子、寝れなかったらしいんです」

「ああ‥。そういう事かい。何だかんだでいい子じゃないの。ナルト君はちゃんと見ておくから、皆は父さんを頼むよ」

「勿論です。では、行ってきます」

 

 

 その際、サチは寝坊したナルトの面倒をツナミに頼み込む。すると彼女は快く受け入れると、その理由をサチに尋ねた。いつもなら皆と一緒に起きて食事を取っていたナルトが、今日に限って起きない事をツナミは心配していた。だが、サチから事実を聞かされてホッと胸を撫で下ろした。それで不安の種も消えたツナミは、力強く頷いてナルトの面倒を任せろと言うと、また心配そうな顔で父の事をサチ達に託した。無論、サチ達も頷くと大橋へと向かって行った。

 

 

 

 通い慣れた道を通り、大橋へ辿り着いた一行はある異変に気が付いた。そこでは至る所に傷を負い、血を流す職人達が倒れ伏せていた。それを見て、駆け出そうとしたタズナをカカシが止める。タズナはそんなカカシを睨みつけるが、本人は正面を鋭く見つめていた。一体、何があるのか?と釣られて見ると体に衝撃が走った。

 

 

「よぉ…。やっと、お出ましかぁ! 俺ぁ、待ち草臥れたぜ」

「まぁまぁ。そう言っても、僕達だって今来た所じゃないですか」

「それは言っちゃ駄目よ。こういのは雰囲気が大事なんだから」

 

 

 カカシ達の正面にいたのは、数日前。ガトーが放った刺客の忍達だった。只、違うのは再不斬と朔麻だけでなく、仮面を付けた少年がいる事だろう。そして、サチとカカシは自分達の嫌な予感が的中した事に苦虫を噛んだ様な表情を浮かべる。

 

 

「やはり、仮面の少年はお前達の仲間だったか。ある程度、予想してたとはいえ。当たるのは勘弁して欲しかったな」

 

 カカシの言葉に再不斬達は、返事を返す変わりに霧隠れの術を発動させた。どうやら、向こうはゆるりと会話に興じるつもりは無いようだ。そして辺りに気を配っていたカカシは、声を張り上げて仲間に伝える。

 

「気を引き締めろ。仕掛けて来るぞぉ!!」

 

 その言葉と同時にタズナ達の周りに複数の再不斬が取り囲む様に現れた。以前よりも多い数にサスケは、体を震わせてジッと見つめた。その様子は再不斬に筒抜けなのか、霧の中から彼の声が響いてくる。

 

 

「おーお 可哀想にまた震えてるじゃねえか。大事と言う割にお前ら二人は、随分と部下を存在に扱うもんだ」

「ほざくな。これは…恐怖からじゃない。只の武者震いだよ」

「そうだな。よし…やれ、サスケ!!」

 

 

 再不斬にそう言い放つサスケに、カカシは微笑みながら号令を掛けた。すると彼は素早い攻撃で再不斬達を斬り伏せていく。だが、それは水分身であり、彼らの足元は水浸しになっていた。

 

 

「ほぉ… 水分身とはいえ、こうも簡単に倒すとはな。この数日で随分と成長したもんだ」

「そうねぇ。これは意外な強敵になったものだわ」

「ええ その様ですね。しかし、それでも勝つのは僕達です」

 

 

 霧から姿を現した3人は、それぞれの言葉を口にする。今再び、波の国の命運を掛けた戦いが幕を開いた。

 




今回のお話、いかがだったでしょうか?

自分の気持ちをぶつけ合うナルトとイナリ。あのシーンは波の国編でも印象に残っているので、作者としては気に入ってます。

さて、この戦いがどう転ぶのか。戦闘描写の苦手な自分も気合を入れて行かねば…

また、一言でもいいので感想を残して下さると作者の活力になりますので宜しければお願いします。


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第十話 狂人の最期 

 カカシ一行が大橋で再不斬達と再会していた頃、タズナ邸に一人残っていたナルトが目を覚ました。寝ぼけ眼で部屋を見渡すが、既に誰もいない。そこで初めてナルトは、自分が置いていかれたと悟った。

 

 

「あー やっべえぇっ!! 寝坊したってばよ。何で誰も起こしてくれなかったんだぁ!?」

 

 

 ナルトは慌ただしく身支度を済ませると、急いで階段を駆け下りていく。そして居間で編み物をしていたツナミを見つけると、ナルトは彼女に皆の居場所を尋ねた。

 

 

「なぁ。ツナミのおばちゃん。姉ちゃん達は何処行ったんだ?」

「ああ。起きたんだね。皆なら、いつもの場所さ。今日も父さんの護衛に付いてるよ」

「そっか。教えてくれてサンキューな。俺も行くってばよ」

「ちょい待ちよ。これを持っていきな。朝御飯を食べてないし、お腹空いてるだろうと思って。おにぎりを握っておいたから」

「おお~ そういや、朝は何も食べて無いな。本当にありがとうだってばよ」

「いいんだよ。それを食べて、今日も元気に父さんの護衛を頼むよ」

 

 笑顔でお礼の言葉を言うナルトに、ツナミも笑って答えた。それにナルトも力強く頷き、おにぎりを頬張りながら家を出て行った。そんな彼の後ろ姿をイナリは静かに見つめる。その顔には、普段の様な暗い陰は無い。ツナミもイナリの微かな変化に気付いて、柔らかく微笑んでいた。

 

 

 

 タズナ邸を出たナルトは、近道を兼ねて森を走っていた。数日前、姉から立ち入るなと言われていたが…この際、早く合流する為と自分に言い聞かせて進んでいく。すると森である物を見つけたナルトは、足を止めてそれに近づいていった。

 

 

 

 

 

 場所は変わって、タズナ邸。ナルトが家を出て暫くした後、二人の男が姿を現した。彼らは家の壁を乱暴に蹴破ると中に踏み込んでくる。そして、彼らは部屋中を見回すと驚きの表情で自分達を見る二人の姿を確認すると、嫌な笑みを浮かべて口を開いた。

 

「…邪魔するぜぇ。タズナの娘とガキってのは…あんたらだな。悪いが、ちっと俺達と来て貰おうか」

「あんた達は…何だい?それにいきなりやって来て、勝手な事を言うんじゃないよ」

「ほー タズナのジジイに似て、娘も頑固だな。言っとくが、俺達も餓鬼の使いじゃねえんだ。抵抗するなら痛い目を見てもらってもいいんだぜ?ガトー様から連れて来いと命令されてはいるけどよ。怪我をさせるなと言われてねえからなぁ」

 

 

 不躾な態度を取る男達に向かって、気丈に振る舞うツナミだったが。その言葉に、恐怖で顔を歪める。そこらの男なら脅されても引く事はしない。しかし、今回の相手はそんな生易しくは無かった。手にした刀を抜いて迫りくる男にツナミは、腰を抜かして座り込む。

 

 

「母ちゃん。くそ、何なんだよお前らは‥。人の家で好き勝手するな」

「ああ?生意気なガキだな。こりゃ、口の利き方をしっかりと教えてやらねえとな」

「その子に手を出さないでぇっ!! 貴方達は…人質が欲しいのでしょう? だったら、私がなるわ」

「どうするよ?相棒…」

「…まあ、いいだろう。放っておいても、この不抜けたガキにゃ何も出来ないだろうしな」

 

 

 その言葉が癪に触れたのか。不機嫌さを隠す事なく、男の一人がイナリに詰め寄るのを見たツナミが必死に叫ぶ。息子を庇おうとする母の剣幕は、物凄く。荒事に慣れた男達もそれには気圧された。そして、男の一人がもう一人に相談すると…その男は考えた後。ツナミだけを人質に取る事を決めた。その後、男達は隅で震えるイナリを一瞥してからツナミを引き連れて去って行った。

 

 

 只、一人。その場に残されたイナリは、自分の無力さに打ち拉がれていた。母親のツナミは自分の身を差し出してまで、自分を守ってくれた。それなのに僕は何も出来ず、泣いていただけ。昨日、サチという女の人は自分も強くなれると言ってくれたけど、やっぱり無理なのだと思い知らされた。だが、そう思った時、同じく昨日言われたナルトの言葉が脳裏に浮かんで来た。

 

 

『そうやって、一人で泣いてろよ。この馬鹿野郎』

 

 

 そうだ。僕はそうやって、いつも逃げては泣いていた。もう…大切な人がいなくなるのは嫌だ。イナリは流れる涙をぐいっと拭うと、戸を開けて外に駆け出していく。幸いな事に、母を攫った男達はすぐに見つかった。最初は勇気を出して、外へ出たものの。男達の姿を見るや、またもや恐怖で体が震えてくる。しかし、彼は歯を食い縛って、恐怖を体から追い出すと腹の底から声を出して叫んだ。

 

 

「待てぇ!! 僕の母さんから離れろぉぉぉぉぉっ!!」

「あんだぁ? 誰かと思えば、さっきのガキじゃねえかよ」

「イナリ!? 何で来たんだい…。早く逃げて、私なら大丈夫だからぁ」

「あらら‥。こうなったら、始末するしかねえな。可哀想だが、仕方無い事だよなぁ」

 

 

 男はそう言って、刀を抜くとイナリに向かっていく。だが、喜悦に染まった顔からは男がこうなる事を望んでいた様にも思える。歪んだ笑みで駆けてくる男に、イナリは固まって動けずにいると一つの影が、角から飛び出すと刀が届く前に彼を掴むと同時に男から離れた。

 

 

「よっと。間一髪だったな。遅くなって悪かったってばよ」

「お前は…タズナのジジイが雇った忍者だな?」

「このガキが忍者ねえ。多少、腕は立つ様だが…所詮は雑魚だろうよ」

「だったら、試して見るか?俺はお前らみたいに、人質を取るクズには負けねえぞ」

 

 

 イナリを助けだしたナルトは、眼前の男達を睨むと挑発する様に言った。その言葉に男達は、逆上してナルトに斬り掛かった時。後ろから現れた二人のナルトが男達の後頭部を思いっきり蹴飛ばした。どうやら、予め作った分身を使った奇襲を初めから狙っていたのだ。

 

 男達が気を失ったのを確認してから、ナルトは近くにあった縄できつく縛り付けた後。安堵から泣いてるイナリの傍に駆け寄り、彼に優しく声をかけた。

 

 

「よくやったな、イナリ。お前も中々、度胸あるじゃんよ。それとさ…昨日は言い過ぎてごめんな」

「ううん。僕も言い過ぎたから…所でどうして、ここに兄ちゃんがいるの?皆の所に行った筈じゃ‥」

「ああ。それだけどよ。実は森を走っていたら、あちこちに斬られた後があってさ。それがお前の家に続いていたから、気になって戻って来たんだってばよ。そうしたら、あいつらに向かって行くお前がいたって訳」

「そうだったんだ。でも、僕は何も出来なかったんだ。最後だって、兄ちゃんが来なかったら…殺されてた」

 

 

 勇気を出しても、それを成せる力が無い事にイナリは落胆していた。だが、ナルトはそんな彼の頭に手を置くとニカっと笑うとイナリにこう言った。

 

 

「何言ってんだ。お前は十分、戦っただろ。何よりも弱い自分とよ。それだけでも凄い事だってばよ」

「うん。ありがとう…ナルト兄ちゃん」

「おう。そんじゃ、俺はもう行くぞ。お前は母ちゃんを連れて、どっかに隠れてろ」

「分かった。ナルト兄ちゃんも気を付けて」

 

 

 自分と母を助けてくれた後、ナルトはそう言って再び橋に向かっていった、その後ろ姿がイナリには、何よりも眩しく…そして、とても大きく見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、大橋では再不斬達とカカシ達が睨み合っていた。まるでその場の時が止まったかの様に、お互いは微動だにしない。だが、ずっと続くかに思えたこの均衡。それを最初に崩したのは、再不斬の横にいた白という少年だった。彼は足に僅かに力を入れると、一瞬でカカシ達との距離を詰めて攻勢に出た。しかし、サスケだけはその素早い動きに反応して、腰のホルダーから抜いたクナイで白の攻撃を受け止めた。

 

 

「…中々、素早いんですね。驚きましたよ」

「そうか。だったら、次はもっと驚かせてやるさ」

「残念ながら、次はありません。既に僕は二つの先手を打っている」

「先手だと・・・? 此処に来て、ハッタリかよ」

「いいえ。これは事実ですよ。まずは君の足元にある水たまり。二つめ、それは君の塞がった左手。これで今、君は僕の攻撃を防ぐ事も出来ない」

 

 そう言うや否や、彼は残った左手で印を組むと、術を発動させる。その行動にサスケも後ろにいたサチ達も驚きの様子を見せる。本来、忍術はどんな流派であっても、印は両手で結ぶのが普通だ。だが、少年はその常識を破って、片手で印を結んだのだ。そして、何かの術なのか。サスケの足元にあった水たまりが、意志を持った様に動くと針のような形状に変わり、サスケに襲い掛かった。

 

「サスケくん!!」

「無駄です。僕の秘術 千殺水翔は狙った獲物を逃がさない」

「はっ だとしたら、お前の秘術とやらも大した事は無いな」

「っ!? まさか、あの術から逃れたというのですか? 一体、どうやって…」

 

 

 余程の自信があったのか、白は自分の秘術が破られた事に驚愕していた。未だかつて、この術を防いだ者や躱した者はいない。無論、片手で発動出来る術という事に動揺した相手の隙を突いたのもある。しかし、一番の理由は発動してから攻撃に至る速度に誰も反応出来た者がいなかったからだ。それもあって、白はこの術に自信をもっていた。だが、それを今日、打ち破ったのが先日まで再不斬に震えていた少年なのだ。そして、件の彼は不敵な笑みを浮かべると白に言い放った。

 

 

「どうやってだと? そんなもの…修行して得た力でだよ」

 

 

 サスケは、白の秘術が炸裂する瞬間。足に集中したチャクラで、攻撃が当たるよりも早く移動していた。当然、以前の彼ではこんな事は出来なかった。しかし、それを可能としたのは…この数日間に置けるサチの修行による成果である。

 

 

 

 そして、サスケは更なる追撃を白に仕掛ける。その攻撃を後ろに飛んで避ける白だったが、背後に回り込んだサスケが、白の喉元目掛けてクナイを向けた。一瞬、反応が遅れたがすんでの所でクナイを受け止める。すると今度は、器用に手首を曲げて、彼の顔にクナイを投げ付けた。この攻撃も辛うじて、回避した白であったが…同時に繰り出された蹴りは避けきれず、食らってしまった。

 

 

「この分じゃ、速さでは俺に分がある様だな。これからお前は俺の攻撃をただ、受けるだけだ」

 

 完全に優位に立ったと悟ったサスケは、相手を見下ろして呟いた。その言葉を聞きながら、ゆっくり立ち上がる白へ遠くから二人の戦いを眺めていた再不斬が口を開いた。

 

 

「おい 白。いつまで遊んでやがる? そんなガキ、さっさとアレを使って仕留めちまえ。それとも、俺が変わるかぁ?」

「いえ。それには及びません。確かに…もう遊びは十分ですね。再不斬さんの言う通り、そろそろ決めます」

 

 先程と違って、殺気を含んだ言葉にサスケも冷汗を流す。一体、何をするのか?と身構えていると‥彼の周りに散らばった水が氷に変化して、サスケを取り囲む。そして白はその氷へ近づくと、あろう事か自分の身体を氷に取り込ませた。すると、サスケを囲む全ての氷に白の姿を映し出された。

 

 

 得体の知れない術にサチとカカシが、サスケを助太刀しようと飛び出すが…その前に再不斬と朔麻が立ちはだかる。仲間の危機に焦る二人の様子を再不斬達は、ニヤニヤしながら見つめていた。それに腹を立てたのか、サチが鋭い視線をやり、低い声で言葉を吐く。

 

 

「何を笑ってるの? さっさとそこをどきなさい」

「通りたいの? でも、だめぇ。それにあなたには借りがあるからねぇ」

「…お前も同じか? 再不斬…」

「勿論だ。それにあいつが、あの術を出したら終わりだ。あのガキは諦めろ」

 

 

 どうやら、サスケを助けるには再不斬達を倒すしかない。逸る気持ちを抑え、二人はそれぞれの敵と向かい合った。体が軋み、場を切り裂く様な殺気を両者が出す中。その空気を破る呑気な声が大橋に響いた。

 

 

「よっしゃー やっと、橋に着いたってばよ。ん?ああぁぁーー お前は再不斬に気味の悪い女じゃねえか。何で此処にいるんだぁ?」

「そんなの見れば、分かるでしょ。あいつら、タズナさんを殺そうとまた襲って来たのよ。てか、そんな事よりも今はサスケくんがピンチなの。ナルト、お願いだから助けに行って。私はタズナさんを守らないといけないから、行きたくても此処を動けない」

「おっし。状況は分かったってばよ。俺が来たからには大丈夫。サスケの事は任せとけ!!」

「ナルト。うん、任せた」

 

 

 予断を許さない状況でも、いつもと変わらないナルトの姿にサクラは、何処かホッとして息を吐いた。根拠の無い言葉でも、ナルトが言うと…本当に何とかしてくれる。そんな気持ちにしてくれるのだ。その会話は、傍にいた四人にも届いており。再不斬は歪んだ笑みを浮かべ、朔麻は機嫌を損ねる。またカカシとサチもサクラと同じく、安堵の気持ちを抱いた。ナルトもサスケ同様に成長している。ならば、彼はナルトに任せよう。それが二人の出した答えだった。

 

 

 

 だが、次にナルトが取った行動は、皆の予想を超えていた。彼は一目散にサスケの元へ向かうと、何と彼を囲う氷の檻へ入っていったのだ。外と中の両方から攻めよう。サスケがそう言おうとした矢先の出来事だった。そんな事は知らず、当の本人は何処吹く風だ。それが癪に触って、思わずサスケも怒鳴り散らす。

 

 

「何やってんだ。この‥ウスラトンカチがぁ!! これじゃあ、敵の思う壺だろうが」

「あんだよ。折角、助けに来たってのに…。そんで、あいつはどんな奴なんだ?」

 

 

 青筋立てて、叫ぶサスケにナルトは口を曲げてぼやいた後…氷の板に映る敵を睨んで静かに尋ねた。それで彼も冷静さを取り戻したのだろう。ナルトの質問に答える。

 

「分からない。片手で術を発動させたりと、奴の力は未知数だ。だが、一対二なら俺達に分がある筈だ」

「おう。此処は共闘と行くってばよ。サスケェ 足を引張るんじゃねえぞ」

「フン、抜かせ。お前こそ、俺の足を引張るなよ」

「生憎ですが、もう君達に万の一つも勝ち目はありませんよ」

 

 

 

 二人に向かって、冷徹な一言を告げると白は攻撃に打って出る。それに備えて、身構える二人だったが…突如、体に無数の切り傷が出来て倒れ込んだ。目では見えない速すぎる攻撃に、ナルト達は声を失くして氷に映る白を見つめる。たった一度。その一度の攻撃で白は、二人から余裕を一瞬で奪い去る。そんな二人の脳裏に浮かんだ言葉、それは自分達ではこの少年に敵わない。只、それだけだった。

 

 

 

 

 

 

 白の秘術と素早い攻撃に翻弄される二人を眺めて、朔麻が楽しそうに呟いた。

 

 

「あらぁ。意気揚々と挑んだ割にもう戦意喪失してるわねぇ。この分だと、持って数分かしら?」

「だとしたら、そう悠長にしてられないわ。私達も早く決着をつけましょう」

「ウフフ‥‥。何を焦っているのよ。まるであの時の再現を見てるみたいだわ」

「…再現だとしたら、結末も同じね。今度は確実に仕留める」

「言うじゃないの…。だったら、やってみなぁぁぁっっ!!」

 

 

 相変わらず、沸点が低いのか。ちょっとした挑発で怒りを露わにした朔麻が向かって来た。一直線に距離を詰めると、彼女は手にした悪夢の螺旋をサチの心臓目掛け付き出す。だが、彼女はそれを余裕を持って躱すが、次の瞬間。不意に背後から現れた朔麻によって、背中を切り裂かれてしまう。予期せぬ攻撃にサチは、痛みに顔を顰めながら朔麻を見た。そして、自分に向けるサチの表情に朔麻は快感を覚えながら、武器に付いた血を舐める。

 

 

「フフ‥ハハァ。貴女の血、思ったより甘いわね。今度は、何処を裂こうかなぁ?」

「何故、私は確かに躱した筈よ」

「ああ。それは‥あたしの秘技に寄る物よ。冥土の土産に教えて上げるわ。あたしの一族はね…特殊な秘薬を使って、体を液化出来るんだよ」

「そうか…。それで背後に移動して、攻撃したって訳ね」

「大正解!! 今、此処は霧で水分が沢山あるからね。あたしの秘技を生かす事が出来るんだぁ。尤も、この秘薬を投与された奴は大抵、副作用で死ぬけどね。運が良い事にあたしと妹は順応して生き残ったのよ」

 

 

 喜々として、己の能力を語る朔麻だが、妹の事を口にした時だけ…少しばかり悲痛な表情を浮かべた事にサチは不思議に思った。狂人と呼ばれた女に垣間見た人間らしい部分。そこに思う所はあるが、朔麻は敵である。それに一刻も早くナルト達を助けなければいけない。サチは気持ちを切り変えて、自分も切り札を出す事にした。

 

 

「成程。薬で得た技とは、霧隠れの忍らしいわね。それでも、私も引く訳にいかない。悪いけど、此処からは冗談抜きで本気でいかせてもらう。覚悟はいいかしら?狂人 朔麻」

「ええ。いつでもどうぞ。あなたの本気とやらを見せてもらいましょうか」

 

 

 

 焦りを捨て、凛として立つサチに朔麻も表情を引き締める。そして、二人は同時に駆け出すと攻撃に映った。サチは印を結ぶと大きく息を吸い、その口から拳大の火の球を朔麻に向かって勢いよく吐き出す。最初は、鼻で笑った彼女だが、火の球の周りにある霧が蒸発するのを見て、慌てて避けた。するとそれは橋の欄干に当たった。朔麻は振り返って見えた光景にゾッとする。その火球が当たった欄干の一部は熱によって、ドロリと溶け出していた。

 

 

 頑丈な鉄ですら、容易に溶かす火の球。あれを生身で受けてしまえば、ひとたまりも無い、どうやら先程、サチが言った様に自分も覚悟を決めねばならないようだ。一呼吸して、朔麻は相手を見据えながら、今の術の探りに入った。

 

 

「さっきの術、火遁よね。それにしちゃ、威力が桁違いの様だけど…まさか、あんたも秘術持ちかしら?」

「いいえ。そんな大層な物を私は持って無いわ。貴女の言う通り、今の術は火遁よ。紅死玉と言って、チャクラを練る事で火の球の温度を可能な限り、上げた術よ」

「へぇ…。それを敵に言って良いの?初めは驚いたけど、もう当たるこ「関係ない」え?」

「貴女がどうしようと…私は貴女を確実に殺すから。言ったでしょ?覚悟してもらうって」

 

 予想とは裏腹にサチは、正直に術の正体を明かした。それを馬鹿にする様に言う朔麻の言葉をサチは遮った。そして、変わらず凛とした面持ちで朔麻に告げる。そんなサチに朔麻は、心の底から恐れを抱いた。こいつは...おかしい。狂人と言われた自分なんかより、こいつの方が…余程、狂人だ。

 

 

 

「さて、戦闘再開といくわ。生憎、こっちはゆっくりとしてられないからね」

「くそっ、舐めるんじゃないよ。その前にお前を殺してやる!!」

 

 

 再び火遁、紅死玉をサチが繰り出そうとする前に朔麻は、自分の身体を液体化してその場から消えた。恐らく、濃霧を利用してまた奇襲するつもりだろう。だが、サチも同じ手を食らう訳にいかない。彼女は目を閉じて、感覚を研ぎ澄ませた。そして、背後からスッと現れた朔麻が攻撃に出た時、サチは自分の周りに手裏剣を投げ付ける。

 

 

 サチが取ったその行動に、朔麻は対応出来ず。彼女は手裏剣の中に突っ込む形となり、体に無数の手裏剣が容赦なく突き刺さる。その痛みから堪らず、朔麻は倒れ込んでしまった。

 

 

 

 自分の反撃が上手く行ったと、サチは地面に伏せる朔麻に近づくと見下ろして言葉を紡ぐ。

 

 

「案の定、掛かったわね。液化しても攻撃時には実体に戻る必要がある。当然、貴女の事だからまた死角から仕掛けると思っていたわ」

「…まれ。黙れよぉっ!! どいつこいつもあたしを馬鹿にしてぇぇぇ。あんたに何が分かるってんだ。お前もそうやって、他人を馬鹿にしていたんだろう。あいつみたいにねえ」

「何を言ってるの? 全く、意味が分からないわね」

「あたしの妹さ。たった一人のね。けど、あたしが殺してやった」

「殺した!? 自分の妹を何故?」

「あたしを裏切ったからだ。そんなに知りたきゃ教えてやる」

 

 

 そう言って、彼女はぽつりと己の過去を話し出す。それは朔麻が霧隠れの里にいた頃、彼女は忍となるべく自里の養成学校に妹と一緒に入学した。生まれてからいつも傍にいた妹 時雨は朔麻にとってかけがえの無い存在だった。辛い秘薬の投薬にもお互い、慰め合って耐え抜いた。それが彼女達の絆を一層強くしたと思っていた。

 

 

 姉妹が養成学校に通い始めてから数年。順風満帆に二人は課題と試験を乗り越え、遂に忍となる為の最終試験へ挑む事になった。どんな試験でも突破してやる。そう意気込みを見せる朔麻だったが、教官の口から出た言葉に朔麻は愕然とする。その課題は指定の場所で生徒同士の殺し合いを行う事。それが忍に必要な試験だと、教官は言った。周りが騒然とする中、朔麻は心の中で決心する。例え、誰が相手でもあたしは殺す。そして忍になって、妹を守るんだ。彼女は思い浮かべる未来に期待して、その試験に挑む。

 

 しかし、現実は非情だった。意を決して、指定の場所に来た朔麻の前に現れたのは、何と自分が愛する妹の時雨だった。思いもしない対戦相手に、朔麻は言葉を失った。無理だ。自分に妹は殺せない。暫し、放心していたが我に返った朔麻はこの試験を辞退しようとした時、目の前の妹が殺気を纏って襲い掛かってきた。

 

 

 

「何をするのよ。何故、あたしに攻撃するの?」

「何故?そんなの決まってるよ。これは試験でしょ?なら、やるしかないじゃない」

「だからって、あたしと時雨は姉妹でしょ? 血を分けた家族で殺し合いなんてどうかしてる」

「姉妹…ねえ。悪いけど、そう思ってるのはあんただけだよ。私にとって、あんたの存在は邪魔なんだ。だって、そうでしょ?私がどんなに努力してもさ。いつも優秀な成績を収めるあんただけが褒められる。それなのにあんたは私に笑っていうよね。もっと頑張ろうってさ。冗談じゃないよっ!! 何が頑張ろうだ、もう嫌って程、私は頑張って来たんだよ。だから、この試験でお前とぶつかったのは幸運だったよ。いつも殺したいと思ってたからねぇぇ」

 

 

 彼女は憎悪の感情を露わにして、朔麻を殺そうと向かって来た。そして、気付けば朔麻は時雨に馬乗りになって、妹の体をずたずたに切り裂いていた。死にたくない。生にしがみつくその本能が彼女をこの凶行に借り立てたのだ。無表情でひたすら刃物を妹の体に突き立てていると、不意に正気に戻った朔麻は絶叫を上げて、彼女の体から飛び退いた。

 

 

 ふと視線を落とし、血で真っ赤に染まる自分の手を見て…朔麻は慟哭を上げた。愛していた妹に裏切られた現実、例え他者の命を奪ってでも守りたかった存在を自分は殺してしまった。そんな彼女の心に深い絶望と悲しみが渦巻いていた。

 

 

 

「それからさ。里の連中があたしを狂人と呼ぶ様になったのは…。好き好んでやった訳じゃないのに、皆‥あたしを狂った女と見る事に嫌気が差して、任務の最中に里を抜けたんだ」

「…たったそれだけ? 何があると思いきや、随分と小さい事だったわね」

「っっっ!! ち、小さい事だと、ふざけるなぁ。お前にあたしが味わった絶望の何が...分かるってんだぁぁぁぁああ!!」

 

 

 サチの一言で、完全にタガが外れた朔麻が悪夢の螺旋を大きく振り被る。だが、その大きい隙をサチが見逃す筈もなく、すかさず火遁で反撃に打って出た。彼女の口から真っ直ぐ出た火の球は、朔麻の腹部に吸い込まれていく。腹部だけでなく、体の中を突き抜けていく熱と激痛に彼女は声なき叫びを上げて背から倒れ込んだ。

 

 

 

 

 「は‥あ。こんか・・いも、あたしの負けか・・かぁ。けど、やっと…楽になれるなぁ。ねえ…最後に、一つ頼んでいい?」

「…分かった。言ってみて頂戴」

 

 

 

 敵である朔麻から、言われた言葉に戸惑うサチだったが…倒れ伏す彼女の表情を見て、最期の頼みを聞く事にした。そして、傷によって掠れた声しか出せない朔麻の口元に耳を寄せて、サチはその口から出る言葉を心に刻んでいった。

 

 

「…それが、貴女の願いね。必ず守ると約束する」

 

 

 それを聞いて安心したのか、やがて呼吸が浅くなると彼女は静かに覚める事のない眠りへ着いた。その姿を一度だけ、振り返って見た後。サチは仲間を助けるべく、その場を駆けていった。




今回のお話 いかがでしたか?


オリキャラの敵。朔麻さんの過去が明らかになり、彼女との戦いに完全決着が付きました。
最後は割とあっさり終わったかな?と思ってましたが、まあ‥だらだらと続けても仕方無いと思ってこの結末に持ってきました。


もし宜しければ、一言でもいいので感想をお待ちしております。


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第十一話 戦いの終わりと見つけた答え

サチと朔麻の戦いが始まった頃。再不斬とカカシ、ナルト達と白の戦いも動きを見せる。

 その中で不利な状況を脱する為、サスケは今自分が出来る中で最大の威力を持つ術。火遁 豪火球の術を自分達を囲む氷に向かって放つ。

 

 

 しかし、特殊な術で生成された氷には、その術を持ってしても破壊する事は不可能だった。そんなサスケに白は容赦なく現実を突き付ける。

 

 

「無駄ですよ。その程度の火力では、僕の秘術は破る事は出来ません」

「なら、これはどうだ。影分身の術!!」

 

 単発で駄目なら数で押し通す。ナルトは複数の分身体を作り出し、四方八方へ散らせて氷の檻から脱出を計った。とりあえず、外に出なければこの状況は変わらない。その場合、サスケ一人を残す事を不安に思ったが、自分が一刻も早く姉かカカシと合流すればいいと考えていた。だが、そんなナルトの希望は白の冷徹な攻撃で打ち砕かれる。

 

 

「例え、数で挑んでも同じ事。実体を持つ影分身であっても、攻撃を受ければ消える。それ以前に君の自由を僕は、決して見逃さない」

「ちくしょう。一体、どうすりゃいいんだってばよ」

 

 

 

 打つ手の無い絶望的な状況に、流石のナルトも諦めかけていた。今になって、自分が取った軽率な行動に後悔するがあとの祭りだ。あの時、サスケが言ってた様に外に残っていれば…こうはならなかったかもしれない。

 

 

「いっその事、降伏してください。幸い、まだ戦いは始まったばかり。今、君達が引けばそれで終わります。無論、一人の命は消えるでしょうが…君達は助かる事が出来ますよ」

「何を…言ってやがる? 大体、そんな事を出来る訳無いだろうが。それを言うならお前達が引けばいい」

「そうだってばよ。第一、お前らはガトーとかいう悪党の手下なんだろ。何であんな奴の言う事を聞くんだよ」

「別に僕達はあの男の手下に成り下がった訳ではありませんよ。ただ、僕は大切な人の為に戦う。そして大切な人の夢を叶えて、その人を守り死ぬ。それが僕の行動理由です。それ故、君達が引かず立ちはだかるなら…僕は君達を一切の情けをかけずに殺す」

 

 

 何か策は無いか?と模索する二人に、白は降伏を要求した。いきなりの事に困惑するナルト達だが、当然そんな要求を飲む訳がない。すると白は…静かに己の行動理念を語った後、凍てつくような殺気を二人へぶつけた。

 

 

 

 

「クククッ…。白の奴、やっとその気になったか。あいつは甘い部分もあるが、それを補う冷徹さも兼ね備えてる。てめえが連れたガキ共には…無いもんだ」

「確かに…お前の言う様にあいつらには、忍として徹しきれてない。だがな・・それでも俺の大事な仲間である事は変わらない。悪いが、再不斬。この勝負は一瞬で終わらせてもらうぞ」

 

 

 嘲る様に二人を見下す再不斬の言葉を、彼は否定する事が出来なかった。だからといって、仲間を見殺しにする訳にいかない。カカシは隠していた写輪眼を出そうとした時、再不斬がそれを阻止するべく動いた。

 

 

「…ぐっ、口ではどう言っても‥やはり写輪眼は怖いか?」

「安い挑発だな。それに忍の奥義は何度も見せるもんじゃねえだろ」

「だとしたら、感謝しろ。普段は見せない物を二度も拝めるんだからな」

「ほう‥ それは光栄な事だな。だが、調子に乗るなよ。例え、俺を倒してもお前は白に絶対、勝てない」

 

 

 再不斬の攻撃を受け止め、得意とする挑発で相手を手玉に取ろうとするが…敵もさるもの。流石に同じ手は通用しない。それでも強気の姿勢を崩す事無く、カカシは再不斬に言葉を吐く。しかし、その言葉にも動じる事なく、再不斬はカカシに言葉を返した。

 

 

「そうかい。その分だと、あの子はお前らにとっては…特別な存在らしいな。だが、他人の自慢話を聞いてやる程、俺も暇じゃないんだ。そろそろ始めるとしよう」

「フン 釣れない奴だな。まあいい。言っとくが‥俺も写輪眼の対策をして来ている」

 

 

 自慢気に喋る再不斬の話をカカシはどうでもいいと突っ撥ねた。そんなカカシに少し苛立ったが、深呼吸してから再不斬は橋を覆う霧を更に深くした。それによって、すぐ目の前さえも見えなくなった。単純な策だが、この状況では最悪の一手である。これを利用して奴はタズナを狙う事もあれば、別に戦っているサチやナルト達を狙うかもしれない。また視界が悪い中、迂闊に動けば逆に自分が狙い撃ちにされかねない。

 

 

「どうだ? シンプルながら良い手だろう。どんなに優れた力を持つ写輪眼でも、相手が見えなければ意味がねえ」

 

 

 彼の言葉と同時に、濃厚な霧の先から無数の手裏剣が飛んできた。これに素早く反応したカカシは、手にしたクナイで手裏剣を打ち落とす。その手裏剣は全てカカシの急所を的確に捕えており、写輪眼を出していなければ…今頃自分は致命傷を負っていた事だろう。そして、彼の背後に音も無く姿を見せた再不斬が言葉を発する。

 

 

「よく防いだな。流石、写輪眼のカカシと行った所かね。だが、次の攻撃はどうかな?」

 

 

 声をかけられるまで、再不斬の存在に気付かなかったカカシは慌てて後ろに振り向いた。だが、振り向いた先で見た物に彼は更に驚愕する。カカシが見た再不斬は目を閉じていた。無論、こんな濃霧の中では目を開いても意味が無いとはいえ、これでは再不斬も碌に行動が出来ない筈。それなのに先程、仕掛けて来た攻撃は確実に自分へ向いていた。此処でカカシは、再不斬の得意とする戦法を思い出す。

 

 

「そうか…。お前は音で相手を察知するのが、得意だったな。どうりで目を瞑って攻撃が出来る訳だ」

「クククク…。ご名答、その通り。俺は僅かな音で相手の場所が分かる。つまりは…だ」

 

 

 ふいに遠くなった再不斬の声で、奴の企みに感づいたカカシは全速力でタズナとサクラの元に向かった。そして案の定、二人を狙っていた再不斬の前に、追い付いたカカシが前に躍り出て二人を庇った。再不斬もカカシがこうすると分かっていたのか、動じる事なく手に持つ大刀を振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 片や、白と戦うナルト達は変わらず防戦一方であった。あれこれと手を尽くしても、こちらの攻撃は届かず、相手の攻撃だけが自分達を傷付けて少しずつ、体力を奪っていく。そんな中、白は戦いの中で起きたある変化に気付いていた。戦況は白に有利なのは変わらない。しかし、サスケは仕掛けた攻撃から仲間を庇いつつ、それでいて致命傷を避けている。当初、動きが読まれているのかと思ったが、それなら自分の攻撃を受ける事は無い。胸中に生まれた違和感に戸惑いながらも攻撃を開始した。

 

 

「…二人もそろそろ限界でしょう。次で終わらせてもらいます」

 

 

 悪戯に戦いを長引かせては、無駄に彼らを苦しめるだけだろう。それにサスケの動きも白は、気になっていた。今は有利であるが、万が一の事もありえる。その不安から白は勝負を急ぐ。

 

 

 だが、白の不安は見事に的中した。自分達を仕留めるべく攻撃に備えて、鋭く神経を研ぎ澄ませて凝視するサスケの目は、初めて白の攻撃を捕える。そして隣にいるナルトを抱えると、その場を移動して彼の攻撃を躱して見せた。

 

 

 

「…馬鹿な!? どうやって僕の攻撃を‥。その目、そうですか。君はあの一族の人間でしたか」

 

 

 まさかの出来事に白も堪らず取り乱した。何故、サスケは自分の攻撃を見切ったのか。それは彼の目を見て、納得した。驚く事にサスケの両目は、カカシと同じ様に紅い瞳へと変化していた。そう、此処に来てサスケは己の一族に備わる力に目覚めた。もう後が無い土壇場に追い込まれた事が、開眼する切っ掛けとなったのだ。

 

 

 

 そして白は内心、焦りを抱く。あの目が開眼したという事は、サスケが自分の攻撃を受ける事は無いだろう。ならばと…次に白が狙いを定めたのは、自身の攻撃で気を失っているナルトであった。サスケの後ろで倒れるナルトを仮面に隠れた冷たい眼で見つめると、千本を構えて氷から飛び出した。

 

 

 繰り出された白の攻撃を、サスケは自分を狙った物だと思って避けるが…本当の狙いはナルトだと知って、サスケは焦りの表情を浮かべた。そして、踵を返してサスケもナルトの元に駆けて行く。どうか間に合ってくれ。そう思いながら彼は足に力を籠めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 朔麻との戦いに完全決着を着けたサチは、ナルト達の元へ駆け出した瞬間。辺りの霧が濃くなった事に警戒して、その場に立ち止まる。これが再不斬が使った霧隠れの術である事は、サチもすぐに分かった。

 だが、それでも今の状況までは分からない。一体、他の戦いはどうなっているのか彼女は不安を抱く。

 

 

 すると視界の先で薄らと動く二つの影を見て、サチは走り出す。あれが敵か味方は判断が付かないものの。此処でジッとしてるよりは、マシであると判断しての行動だった。見失わない様、影を追って行くとその先にタズナ達の姿を発見した。そして、二人を守ろうと前に出たカカシと大刀を振り下ろそうとする再不斬を確認したサチは、すかさず術式クナイを投げ付けて彼の元へ飛んだ。

 

 

 突然、目の前に現れたサチに再不斬は驚き、後ろに飛び退いた。思わぬ助太刀にカカシは、安堵の息を吐いた。彼女が此処にいるという事。それは敵である朔麻との戦いに勝利した事を意味する。また逆に再不斬は苦々しい顔でサチ達を睨みつける。

 

 

 

「…てめえ、朔麻と戦っていたんじゃねえのか? どうして…此処にいやがる!?」

「決まってるでしょ。彼女との戦いに勝ったからよ。それでカカシ、今はどういう状況になってるの?」

「悪いが…この霧で分からない。だが、あまり良い状況で無いのは確かだ。サチ、お前はナルト達の所へ行け。こいつは俺が引き受ける」

「…分かった。じゃあ、私は二人を助けにいくわ」

「ふざけるな。それを黙って、見逃す訳ねえだろう」

 

 

 カカシに言われ、二人の救援に向かうサチを阻止しようとする再不斬をカカシが止める。仲間を失い、戦況が変わった事で再不斬から、余裕が消えていた。朔麻が負ける事は、少なからず予想はしていた。それでもある程度の手傷を負わせるだろう。そう思っていたが、サチはほぼ無傷。このままでは、白であっても負ける可能性が高い。

 

 

 この戦況を再び覆すには、自分がカカシを討ち取って紅雷を消すしかない。だが、それはカカシも同じである。彼も再不斬との戦いに決着をつけるべく、隠していた切り札を出す事を決める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふとした時、意識を取り戻したナルトは目に入った光景に唖然とした。彼の前には、体中に千本が突き刺さり至る所から、血を流すサスケの姿があった。何故、こうなったのか。それは考えるまでもなく、自分を庇った為だとナルトは理解した。

 

 

 未だにその現実が受け入れられず、ナルトは震えた声で言葉を紡ぎ出す。そんなナルトにサスケは、弱々しい口調で返事を返す。

 

 

「知る・・・か・・よ。何せ…体が勝手に動い‥ちまったんだよ。あいつを… あの男を殺すまで…死ねないと思ってたのになぁ。此処で‥俺も終わりか。お前は…死ぬんじゃねえ‥ぞ」

「サスケェェェッ!! おい、返事をしろよ。おいってば・・」

 

 

 掠れた声でそう言い残すと、彼は力なく倒れた。その体が地面に触れる前にナルトは、受け止めて声をかけるが・・既に意識の無い彼は何の反応も示さない。そんな二人に向かって、白が静かに呟いた。

 

 

「彼は…君を守る為、僕の攻撃を受けて死にました。大事な仲間を想って、自分の命をかけた彼は尊敬に値する忍でしたよ。その様子では、大切な人の死を見るのは初めての様ですね。だとしたら、覚えておきなさい。これが…忍の道ですよ」

 

 

 白の言葉はナルトの心に深く突き刺さった。そして、同時に心の奥底から抑えきれない程の怒りがこみ上げてくる。それは彼の体にも大きい変化を齎した。ナルトからは紅い炎の様なチャクラが溢れ出し、辺り一帯に渦巻いていく。異様とも言える禍々しく膨大なチャクラに、白は言葉を失くして立ち尽くす。もしや、自分は開けていけない蓋を開いてしまったのかと感じていた。その直後、何かに捕まれたと思った瞬間。白は一瞬で距離を詰めたナルトに殴られて吹き飛んだ。

 

 

 

 その勢いは凄まじく、彼の体は氷を打ち砕いて外へ飛び出して地面を転がる。また衝撃によってか、白の顔を隠していた仮面は粉々に砕け散ってしまう。そして跡を追って、飛び出してきたナルトが更なる追撃を仕掛けようとした時、駆け付けたサチがナルトの頭を抑え付けて地面に押しやった。

 

 しかし、怒りで我を忘れている弟の力は強く。自分も力一杯抑えているが・・徐々に拘束を破ろうとする。そんな弟にサチは腹の中から出した声で一喝する。

 

 

「いい加減にしろっ!! 自分が何をしてるのかお前は、分かっているのかぁぁぁ」

「姉ちゃん… 一体、何を叫んでいるんだってばよ」

 

 その叫びが届いたのか。ナルトが纏っていたチャクラは、霧に溶け込む様に消えていき。怒りに染まった表情も元に戻ったの見て、弟の封印が完全に解けていない事にサチは心から安堵の息を吐いた。しかし、この成行きを眺めていた白は、何処か納得のいかない様子でサチに問い掛ける。

 

 

「何故、止めたんですか? 僕は貴方達の敵ですよ。そのまま放っておけば…敵を一人片づける事が出来たはずです」

「あなた…やっぱり、あの時の少年だったのね。それにこの子を止めたのは、怒りや憎しみで人を殺して欲しくないからよ。非情な世界で生きるあなたからしたら…甘い考えと感じるでしょうけどね」

「…そうですね。僕にとっては、再不斬さん達の言う事が全てです」

「分からないわね。どうして…そこまで彼らに肩入れするの? あなた自身。その気になれば、自分の道を進む事も出来たでしょうに」

「自分の道・・・ですか。そんなもの、僕にはありません。だって、僕の存在はこの世界には不要だったんですから」

 

 

 そして、彼はゆっくりと自分の生い立ちを口にする。白は水の国にある小さな村でその生を受けた。そこで彼は両親と仲睦まじく暮らしていた。雪が多い環境ゆえ、貧しい生活でも白は幸せだった。自分を愛する両親がいれば、そんなのは苦でもなかったから。

 

 

 しかし、ある日を境に彼の人生は一変した。ふとした時、母が隠していた秘密が父に知られてしまい、母は父の手で殺されてしまった。母が隠していた秘密、それは自身の血に宿る秘伝の術だった。幾度なく起きた内戦で水の国では、血継限界を持つ者を忌み嫌う風習が生まれていた。特異な血が齎す力は争いに利用され、国に絶え間ない災いを呼び起こすとされていたから。

 

 

 そして・・父は母だけでなく、自分も手にかけようとした。もしかすると、息子も母の忌まわしい力を受け継いているかもしれない。災いは全て取り除こう、村の者にそう進言された父は、血で汚れた刃物をゆっくりと振り上げる。だが、父は息子を殺す事に抵抗があったのだろう。振り上げた刃物を振り下ろそうとはしなかった。

 

 

 その一瞬の隙を突いて、白は父から刃物を奪った勢いで父の心臓を一突きする。死にたくない。それは幼な心で感じた必死の行動であった。その後、白は人知れず村を出て、外を彷徨っている時。再不斬と出会って、行き場の無い自分を拾ってくれた。誰もが忌み嫌い、必要としなかった自分を必要だと言ってくれた。

 

 

 それは白にとって、何よりも嬉しい言葉だった。そして、同じ時に出会った朔麻もその一人だ。彼女も自分の存在を認めて必要としてくれた。だからこそ、白はこの人達の為なら何でもすると心に強く誓ったのだ。

 

 

 

「僕は…あの人達に救われた。そして、再不斬さん達と一緒にいるには…強い忍でなくてはならない。君に負けた時点で、僕はもう用済みです。ですから、二人にお願いがあります。どうか、僕を殺してください」

 

 

 自身の過去を語り終えた後、白は二人に向かってそう言った。サチとナルトはその言葉に絶句する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、カカシも再不斬との戦いに決着をつけるべく、動き出す。ベストのポケットから一本の巻物を取り出すと、素早く広げた。それに加えて、自分の指を噛み切って流れた血を巻物に擦り付けると、カカシは印を組んで巻物を地面に押し付けた。するとまるで蜘蛛の巣の様に、巻物から術式が広がっていく。

 

 

 

「何をするつもりか、知らねえが‥所詮は無駄な事だ」

「そいつはどうかな? 無駄と決めつけるには、まだ早いぞ」

 

 

 

 その言葉を告げた後、再不斬の足元が揺れ出した。不思議に思い、視線を足元に向けると地面から犬が顔を覗かせて、彼の足に噛み付いた。しかも、それだけなく…複数の犬が彼を抑え付ける様に噛み付いたり、背に圧し掛かってきた。纏わり付く犬達を振り払おうとするが、その力は万力の様に強く、再不斬はなす術もない。

 

 

 

「お前こそ、無駄な事をやめろ。訓練されたその忍犬は、簡単には降り解けない。そして…来たるお前の未来は死だ」

 

 

 カカシの言葉に再不斬は、冷汗を掻いて彼を見つめた。そのカカシは更に印を組んで、右手に青白く光る雷を発現させた。これこそが、カカシの切り札である雷切という術だった。目で確認出来る程のチャクラに…再不斬は恐れ慄いた。並の忍ではこれ程の芸当は不可能だ。それは自分も同様であった。此処で初めて、再不斬は悟った。カカシは例え、対策を練ったとしても、己の手に余る力を持った忍だったと…

 

 

「再不斬。お前に恨みは無いが、お前の存在は他者に多くの災いを呼び起こす。だから、今日こそ…此処で仕留める」

 

 

 そう言い放って、カカシは地を蹴ると再不斬に物凄いスピードで駆け出した。当の再不斬はそれを見ている事しか出来ない。

 

 

 

 

 

 自分を殺せ。そう言った白に、やっとの事でサチは言葉を返した。

 

 

「一体、何を言っているの? 人を殺せだなんて、簡単に言うものじゃないわよ」

「簡単に言ってる訳では…ありませんよ。どの道、もう僕に後はない。此処で生き残ったとしても、裏切りを知った里が僕を許さない。奴らの手にかかるくらいなら、僕は二人に殺してほしい。それだけです」

「そう、分かった。それなら、私が貴方に引導を渡してあげる」

「姉ちゃんっ!! 本気で言ってるのか?」

「ええ。彼の決意は固いもの。もう言葉では‥どうも出来ない。これもある意味、救いでもあるわ」

 

 

 沈痛な顔で言葉を吐く姉に、ナルトは唇を噛み締めて黙り込む。そして、サチがクナイを白の首に刺そうとした時。彼は突然、その手を止めた。先程の穏やかな顔と違い、何処か焦った様子の白は…一言「申し訳ありません。どうやら、まだ僕は死ねない」とだけ言うとその場から姿を消した。

 

 

 

 

 そして、迫るカカシが右手で再不斬の胸を貫こうとした瞬間。突如、間に入った白が身を挺して受け止めた。それだけでなく、巻物に針を突き刺してカカシが口寄せで呼んだ忍犬達も消し去った。その早業には、カカシも驚いて目を瞠る。

 

 

 

 我に返ったカカシが、白を貫いた手を抜こうとするが‥その腕を白の手が掴んでいた。死に際の中、彼が取った行動を再不斬は好機と見て、無防備のカカシに向けて大刀を振り切った。しかし、その攻撃をカカシは白を抱えて飛び退いて躱す。自分の仲間ごと斬ろうとした、再不斬にカカシは鋭い目を向けた。仲間を大事にする彼にとって、その行動は許せるものではない。

 

 

 

「お前、今‥この子と一緒に俺を斬ろうとしたな。何故だ?」

「はっ、俺にとって、そいつは…只の道具だ。それが理由だよ」

「貴様…とことん、腐ってるな」

 

 

 躊躇なく、白を道具だと言い切った再不斬に冷静な仮面を放り捨てて、カカシは怒りを露わにした。そして今度こそ、止めを刺そうと再び雷切を発動させた時。橋の奥から大勢の破落戸を連れたガトーが姿を現した。

 

 

 

「おーおー 心配になって、見に来たら随分とボロボロだな。これは好都合だぜ」

「ガトー!? 何で此処に来た?」

「ふん そんなものは決まってるだろ。お前らを始末する為だよ。生憎、お前らに金を払うのが嫌になってね。お前達が争って消耗した頃合いを狙っていたのさ」

 

 

 

 嫌らしく笑って、言うガトーにカカシも眉を寄せて彼を見た。そして同じ表情で見ていた再不斬が、ぽつりと呟く。

 

 

「カカシ。お前との勝負はここまでだ。雇い主のあいつが、俺達を裏切った時点でタズナを狙う必要は無くなったからな」

「ああ。その様だな」

 

 カカシも再不斬の言葉に頷いた。彼の言う通り、タズナを狙う事を止めた再不斬と戦う必要はない。だが、問題はそれだけではない。高々に笑う彼の後ろには、50人を超える男達が立ちはだかっていた。普段なら大した事はないが、消耗している今では脅威の存在である。

 

 

 

 どうこの状況を乗り切るか、それを考える彼らの元にサチとナルトが駈け付けてきた。二人は目に入った光景にまたもや驚く。何せ、先程まで生きていた白は血塗れで倒れ伏し、その正面にはガトー達の姿もある。目まぐるしく変わる状況に、流石のサチも困惑する。

 

 

 

「ねえ…一体、どうなってるの?何故、ガトーが此処にいるのよ」

「見ての通りだ。奴は再不斬達を裏切ったのさ」

「そんな事より、何であいつが…死んでるんだってばよ。訳が分からねえぞ」

「うるせぇ餓鬼だな。今はどうでもいいだろうが…」

「っ…! どうでもいいって、何でそんな事が言えるんだってばよ!! あいつは…お前らの事を何よりも大切だって言ってたんだぞ。それは一緒にいたお前らだって、知ってる筈だろ。おい、何とか言えってばよぉぉ!!」

 

 

 

 敵である白だったが、何処か親近感をナルトは感じていた。立場が違えど、心の底に在る想いは同じだと知っていたから。だからこそ、平然とどうでもいいと言い切った再不斬がナルトは受け入れられなかった。

 

 

「うる・・せえよ。いいから、それ以上は…何も言うな」

 

 

 何も言わない再不斬に、ナルトが更に追及しようとするが、静かに涙を流す再不斬にナルトも口を閉じた。言葉では何と言おうと、彼にとっても白はかけがえのない存在だった。それは彼が流す涙が証明している。

 

 

 また別の場所では、サクラが物言わぬサスケを見て泣いていた。徐々に晴れ始めた霧を見て、サクラはタズナを守りながら橋を進んでいくとサスケを見つけて、堪らず駆け出した。だが、その体は氷の様に冷たく。既に彼が死んでいると理解した。戦いでは、十分に起こり得る現実であっても…それを認める事をサクラは出来ず、彼女はその場に崩れるとサスケに覆い被さり、大きな声で泣いた。その姿をタズナは切ない顔で見つめる。

 

 

 

 

 そして頬を伝う涙を拭うと、再不斬は傍にいるナルトへ声をかける。

 

「おい 小僧。お前が持つクナイを俺に貸せ。」

「え?ああ。ほらよ」

 

 

 再不斬の言う通り、手にしたクナイを渡すと彼はそれを口に咥える。すると再不斬は、ガトー達に向かって走り出した。それを見たガトーは、慌てて男達を再不斬に嗾けるが…ひらりと男達の攻撃を躱し、すれ違い様に一人、また一人と咥えたクナイで適格に相手の喉を裂いていく。その度に再不斬は血に塗れ、それでも攻撃の手を緩めない彼の姿はまさに鬼人と呼ぶにふさわしいものだった。だが、やはり多勢に無勢。四方から迫る攻撃で徐々に彼の体は傷付いていく。流石に不味い思ったのか、標的を男達からガトー一人へ絞ると彼は、男達の間をすり抜けて一目散にガトーへ迫ると迷う事無く、その首にクナイを突き立て切り裂いた。

 

 

 その勢いは凄まじく、喉を裂くに至らず‥彼の首を落とす程であった。ぼとりと地面に転がる首を一瞥した後、振り向いた再不斬に男達は身の毛がよだつ。しかし、そこで限界を迎えた再不斬も音を立てて地面に倒れた。

 

 

 それを見て、一度は怯んだ男達も平静を取り戻した。そして雇い主をやられた事で、報酬が貰えなくなった腹いせをしようと武器を手にカカシ達へ襲い掛かろうとすると、反対の方からイナリを筆頭に波の国の住人達が姿を見せる。数では男達が有利だが、何があっても自分達の住む場所を守ると決意した彼らの気迫に気圧されて男達は、我先にと逃げだす事を選んだ。それは何者に負けない勇気を示した住民の力が手に入れた勝利であった。

 

 

 

 全ての戦いが終わった頃、一つの奇跡が起きる。何と、死んだと思われたサスケが目を覚ましたのだ。どうやら、白の攻撃は急所を外れており、単に気を失っていただけだった。彼の体が冷えていたのは、死んだからではなく冷気によって冷やされていたからとあとで分かった。

 

 

 そして…カカシとサチは倒れた再不斬に近寄っていく。幸いにまだ息があるが…負った傷は深く、手当したとしても助かる事は無い。それを本人も理解しているのか、彼は小さい声で最期の望みを口にする。

 

 

「なぁ…一つ、頼んでいいか?」

「どうした?言って見ろ」

「俺と朔麻を…白の傍に運んでくれ。最後にあいつの・・顔が見てえんだ。それは朔麻も同じだろう・・からな」

「分かった」

 

 

 再不斬の願いを聞き入れ、カカシは彼の体を白の元へ運んでいく。サチもまた同じく朔麻の体を運ぶと白を挟む様に彼女の体をゆっくりと置いた。

 

 

「長い事‥ずっと傍にいたんだ。最期もこいつの傍で迎えたいと思ってた。出来る事なら・・・俺も朔麻もお前と同じ所に‥行けたらいいのに‥なあ。きっと‥俺達は地獄に‥行くから無理だろうけど・・よ」

 

 

 最後の力を振り絞り、自分を庇って亡骸になった白の頬に手を置くと彼は目を閉じて永遠の眠りについた。そして、突然降ってきた雪が三人の顔に落ちるとそれは水滴に変わって、頬を伝い流れていく。まるで三人の涙の様に見えた。

 

 

 

 大橋での戦いから2週間が過ぎ、ガトーの支配が終わった事に喜んだ波の国の住人はかつての活気を取り戻した。それにより滞っていた橋の工事も皆の協力を得て、予想より早く完成を迎える事となった。

 

 

 そして一行は、その大橋が見渡せる小高い丘へと足を運んでいた。その場所では、三つの墓が町を見下ろす様に立っている。これは勿論、再不斬達の墓であった。また朔麻の墓の前には、花と一緒に小さな壺が置かれていた。

 

 

 

 

 それは戦いが終わった後、朔麻がサチに託した願いを叶えた結果である。その願いは自分の死体を燃やして灰にする事であった。抜け忍である自分の遺体は当然、霧隠れの里に渡る。そうすれば、奴らは自分の遺体をバラバラにして処分するだろう。過去、己が妹にやった事は里の歪みが原因でもある。そしてこれ以上、あの里に良い様にされる事を彼女は嫌がった。傍から見れば、身勝手な言い分に聞こえるかもしれない。

 

 

 だけど、他人や里の都合で振り回される彼女の気持ちをサチは理解していた。何故なら…自分も同じであるからだ。

 

 

 そして再不斬と白の墓を複雑な顔で見ていたナルトが…口を開いた。

 

「‥なぁカカシ先生。やっぱり忍である以上、俺もこの三人みたいにならないと駄目なのかな?」

「難しい質問だな。確かに‥忍は国の為、敷いては里の為に己の心を殺して道具に徹する必要がある。それは何処の里も同じだよ」

「アンタも…そうなのか?」

 

 

 思う所があるのか。その言葉に反応したサスケも、カカシに問い掛ける。

 

 

「どうだろうなぁ。その答えは…今でも見つかってない。何せ、忍である前に俺も人だからな。忍の在り方に疑問や矛盾を感じる事はたたあるさ。だからこそ、その答えを探そうと皆必死になるんだよ」

「それが本物の忍になるという事なら、俺はやだなぁ。決めたっ!! 俺はそんなもんに縛られない自分だけの忍道をいってやる」

 

 

 唐突にそう叫んだナルトにカカシとサチは、嬉しそうに笑った。結局の所、探す答えは自分にしかだせないし、またそれは人によって違う。手探りでもそれを見つけたナルトの成長を二人は喜んでいた。

 

 

 

 その日の昼。出立の準備を済ませたカカシ一行は、波の国の門境にいた。そこでは五人を見送りにきたタズナ達の姿もある。役目を終えて、去ろうとする一行を見て…タズナは寂しそうな表情で呟く

 

 

「あんたらのおかげで、橋は無事完成したわい。だが、これっきりとなると超寂しいのう」

「そうですね。けど、会おうと思えばまた会えます。その時はまたお邪魔させてもらいますよ」

「おう そうだってばよ。だから寂しがる事なんてねえぞ」

「本当に‥また来るか?」

 

 

 ナルトの言葉に、イナリは涙を堪えてそう言った。そんなイナリにナルトは揶揄う様に言葉を返す。

 

 

「何だぁ イナリってば、お前も寂しいのかよ。だったら、泣いたっていいんだぞ」

「泣くもんかぁ! そういうナルト兄ちゃんこそ、泣いていいぞ」

「フンだ。俺がそう簡単に泣くかよ」

 

 

 想像した反応と違う事が詰まらないのか。ナルトは背を向けて歩き出す。しかし、その顔は涙で濡れていた。彼もまたイナリと別れるのを寂しいと感じていたのだ。だが、それを見せまいと彼は意地を張る事を選んだ。

 

 

 

 

 そうして波の国を立ち去った一行の姿を見続けながら、タズナはある事を口にする。

 

 

「所でよ・・ ワシは一つ決めた事があるんじゃ」

「決めた事? それって何?」

「ああ。それは橋の名前じゃよ。波の国と火の国を繋ぐこの橋は言わば、希望の架け橋じゃ。ナルトからイナリへ、イナリから街の皆へと勇気が繋がった様にの。それで…ワシはこの橋をナルト大橋。そう名付けようと思っておる」

「ナルト大橋ねぇ。うん、良い名前だね」

「僕もそう思うよ」

 

 

 自分の意見に二人は、快く頷いてくれた。その事にタズナは心から笑顔を浮かべた。そして、改めて去りゆく彼らにタズナは頭を下げたのだった。




今回のお話 いかかでしたでしょうか?



波の国での戦いを通して、成長したナルト達。手探りながら見つけた答えが自分の道を行く。このシーン、NARUTOの中でも大事な所なので、自分も気合入れて書きました。

それと個人的に書きたかったのが、漫画でもありましたが忍は力の無い人には恐ろしい存在だけども…忍の仮面を取れば同じ人。ここを一番伝えたいと思ってた部分です。漫画とは違って、文章だと伝わりにくいでしょうが(笑)

また宜しければ、一言でもいいので感想を貰えると嬉しいです。


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第十二話 忍達の穏やかな時間

今回、原作にない日常回です。


その後に待つ一波乱の前、のんびりと里で過ごす7班の一時をお楽しみ下さい。


波の国から帰還した一行は、疲れる体を押しながら真っ直ぐ火影邸へと向かっていた。

 それは勿論、波の国で起きた事の全てを報告する為である。そして部屋の前に着くと、カカシを先頭に全員は中に入っていく。

 

 

「三代目、カカシ隊第7班。任務の報告へ参りました」

「おお、ご苦労であった。それでは…報告を聞かせてもらおう」

 

 

 ヒルゼンに促され、カカシは順を辿って起きた事を話した。全ての話を聞き終わった後、ヒルゼンは立ち上がり、こちらに背を向けた。その背中に向けて、おずおずとサチが口を開く。

 

 

 

「三代目、失礼を承知で伺いますが…貴方は初めから知っていたんでしょう? タズナさんが嘘を吐いていた事や波の国で起こるであろう事も。それでいて、私達に行かせたのは何故です?」

「…お主の言う通り、ワシはタズナ殿が偽っていた事を知っていたよ。じゃが、その後に起きた事は想定外の事だらけじゃ。無論、波の国を裏で支配していたガトー一派とは…一悶着あると思っていたが、まさか霧隠れの忍が出てきた事には驚いておる」

「はあ…。今回は無事に済みましたけど、今後は勘弁して下さいよ。あと、そういう依頼が来た時は‥予め伝えてくれると助かります。敵を知らずに戦うのは、面倒なんですから」

 

 

 確信を突くサチに、ヒルゼンは観念してその事実を認めた。だが、霧隠れの忍が出張った件に関しては本人も想定外だと…彼はそう言葉を返す。その顔を見る限りでは、本当なのだろう。サチに続いて、今度はカカシが苦言を申すが、済んだ事を追及しても仕方無い。カカシは今後は隠さず伝える様、釘を刺して話を終えた。

 

 

 三人の会話が終わり、火影室に重い空気が包み始めた時。それを破ったのはナルトだった。ナルトは波の国で体験した出来事で、身心共に彼を大きく成長していた事を、ヒルゼンも感じ取っていた。出発する前より、逞しくなって帰って来た事を一番喜んでいたのは、他でもないヒルゼンであった。勿論、それはサスケとサクラの成長も同じである。

 

 

「まあ‥思い返せば大変だったけどよ。おかげで俺が進む忍道も見つかったし、カカシ先生達の修行で強くも慣れた。それに…何だかんだであの任務はとても楽しかったってばよ」

「ほっほっほ… そうか。お前も随分、成長したようじゃな。そう言ってくれると、ワシも救われるわい」

 

 

 ナルトの言葉に、ヒルゼンは心から笑った。そんな彼の楽しそうな様子を見ていたカカシ達も、自然と笑顔を浮かべる。先程まで部屋を包んでいた重い空気は完全に消えていた。本人は自覚してないだろうが、不思議とナルトは周りの者を惹き付ける魅力を持っている。今でさえ、彼の言葉で全員が笑っている。

 

 その後、ヒルゼンは表情を戻すとカカシ達に今後の予定を告げるべく口を開いた。

 

「さて、任務の達成。改めてご苦労である。そして7班に明日は休暇を与えよう。各々、次の任務に備えて存分に疲れを癒してくれ。ワシからは以上じゃ」

「分かりました。それでは失礼致します」

 

 ヒルゼンの言葉に、カカシ達は頷いて部屋をあとにする。その後、皆は解散してそれぞれ家路に向かっていった。

 

 

 

 

 ナルトと二人。家路への道中、サチは隣を歩く弟へ声をかける。

 

 

 

「ねえ‥ナルト。昼のご飯はどうする? 何か食べたいなら私が作るし、一楽に行きたいならそれでもいいわよ」

「…んー 俺は姉ちゃんの飯が食いたいってばよ。そりゃあ、一楽のラーメンは魅力だけどさ。今は無性に食いたいのは姉ちゃんの料理なんだ」

「へえ…。珍しく嬉しい事を言うじゃない。でも、どうしたの? いつもなら一楽に行くのに…今日に限って、私の料理を食べたいなんてさ」

 

 

 思わぬナルトの返答に、サチは照れた様に言葉を返した。只、何故いきなりそう言い出したのか。それが気になったサチは弟に尋ねる。問われたナルトは…少し考え込んだ後、その問いに答える。

 

 

「波の国にいた頃さ。俺達のご飯って、イナリの母ちゃんが作ってくれてただろ。それを食べてる時、ふと思ったんだ。あの料理も美味かったけど、やっぱり俺ってば姉ちゃんの料理の方が大好きだってよ。その次が一楽のラーメンだな」

「そっか…。そこまで言われたら、腕によりをかけて作らないとね。それじゃ、材料を買って帰ろう。それと他に要望はある?」

「うーん 波の国では魚ばかりだったから…。どうせなら肉が食いたいってばよ」

「そう来ると思った。それなら手っ取り早く生姜焼きでもしようか」

「おう。昼飯はたらふく食うってばよ」

「貴方の場合、昼もでしょう。そう言って、残したら承知しないわよ」

「へへ…。心配しなくても全部食うから、大丈夫だってばよ」

 

 

 そんな会話を交わしつつ、二人は里の商店街で買い物をした後。久しぶりの我が家へ戻ってきた。いつもと変わらない部屋であっても、やはり慣れ親しんだ場所が一番の安らぎを感じるものだ。そして自分の部屋に荷物を置いてから、サチは昼食の仕度を始める。程無くして、台所から漂ってくるいい匂いに釣られたのか。自室で寛いでいたナルトが、いつの間にか姿を見せていた。

 

 

「早速、匂いを嗅ぎ付けたか。もう少しで出来るから待ってなさい」

「おう。そうだ。折角だから、俺も何か手伝うってばよ」

「そう? なら、これでテーブルを吹いて頂戴。しっかり、隅々までお願いね」

「言われなくても、ちゃんとやるってばよ」

 

 

 ただ待つのは、本人も暇なのか。進んで手伝いを申し出るナルトに、サチは台拭きを渡すとテーブルを拭くよう、指示を出す。その際、隅までやるよう釘を刺す事も当然サチは忘れなかった。それにナルトは、口を尖らせて返事を返した。

 

 

「もし、綺麗にやってくれたら…ご飯大盛にしてあげるわ」

「よっしゃーー 俺に任せとけってばよ」

 

 姉が言ったその言葉で、ナルトは途端にやる気を出してテーブルを拭いていく。その現金な態度には、サチも苦笑いを浮かべた。だが、そんな姿もナルトらしいと彼女は穏やかに微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 その日の夜 夕食も済ませた後、サチは風呂を沸かそうと浴室に向かうが、そこである問題に見舞われた。なんと、何度も湯を沸かすコックを捻るが…肝心の火が一向に点かないのだ。記載されているマニュアルを見て、対処しようとするものの。やはり、火が点く事は無かった。どうやら、完全に故障しているようだ。

 

 

 仕方なく、居間に戻ったサチは起きた問題をナルトに伝える。そして、どうしようかと悩む姉にナルトはあっけらかんとした顔で…「だったら、銭湯に行こうぜ」と提案をしてきた。

 

 

「銭湯かぁ。まあ、お風呂が壊れた以上‥仕方無いわね」

「なら、早く行こうぜ。今ならそんなに混んでねえし、足を伸ばして入れるからさ」

「…随分と詳しいのね。貴方、よく銭湯に行くの?」

「ああ。姉ちゃんが任務とかで、いない時はいつも行ってたからな。だから、人がいない時間とかもしってるんだってばよ」

「そう。意外な発見ね。よし、善は急げだし行くとしますか」

「おっす。そんじゃ、俺は準備してくる」

 

 

 そして家を出て、銭湯に向かった二人は入り口の前で、サクラとばったり遭遇した。見ると彼女も入浴道具を持っている事から、自分達と同じ理由で訪れたのだろう。暫し、驚いていたサクラだったが…ふと我に返ると彼女は二人に挨拶をする。

 

「こんばんは 二人も今日は銭湯に来てたんだ」

「ええ。実は…家の風呂が壊れちゃってね。それで来たって訳なの」

「そういや、サクラちゃんはどうしてだってばよ? まさか、サクラちゃんの家も風呂が壊れたのか?」

「違うわよ。単にのんびりと湯に浸かりたいと思っただけ。それに任務の疲れもあるからね」

 

 疑問に思ったナルトは、サクラにそう尋ねた。確か、彼女の家は自分達の家と違って設備もそこそこしっかりしていた筈。そう簡単に風呂が壊れるとも思えなかった。そんなナルトの言葉を、サクラは呆れた顔で否定した。彼女の言う通り、疲れを癒すなら家の風呂より広い風呂の方が、断然いいのは当然である。

 

「まあ、此処で会った訳だし…良かったら、サチ先生の背中は私が流してあげますよ。波の国じゃ、色々と面倒を掛けちゃったから…」

「あら。それなら是非ともお願いするわね」

「そんじゃ、俺がサクラちゃんの背中を「ああ?」何でもないってばよ」

 

 訳を話した後、サクラは若干照れた様子でサチにそう言った。そんな彼女の可愛い気遣いに、サチも嬉しそうに頷いて受け入れた。それに続いてナルトが冗談めいた言葉を吐くが…それはサチを怒らせるだけであった。姉の凄まじい形相に、流石に不味いと感じて大人しく引き下がった。

 

 

 銭湯の入り口でナルトと別れた後、二人は女湯に続く脱衣所の戸を開くと、中の光景にサチは驚いた。そう、脱衣所には自分達以外に誰もいなかったのだ。家を出る前、ナルトが今の時間帯は空いていると言っていたが、まさか此処までとは正直思ってなかった。そんなサチの尻目にサクラは、手頃な場所を見つけて入浴の準備を始める。

 

 

「ねえ‥サクラ。この銭湯、経営は大丈夫なの? いくら何でも私達しか、いないのはおかしくない」

「ああ。やっぱり最初は吃驚しますよね。でも、この時間はこれが普通なんです。入浴に来る人は、主に夕方ですから」

「そういう事かぁ。じゃあ、潰れる心配とかはいらないのね」

「勿論! それとこの銭湯は、里外の人にも人気があるんですよ。行商人や公務で来た大名達も入浴に来るって話も聞きますからね」

「へえ… それは凄い。それとサクラ…。さっきから気になってたけど、もう少し砕けた話し方でもいいわよ。無理に敬語を使われると、壁を感じるからさ」

 

 

 丁寧に説明するサクラの口調が、気になったサチはそれを指摘する。彼女が敬語を使うのは、自分が目上だからとサチは当たりをつけていた。しかし…そんなサクラの口から出た言葉は、サチの予想を超えていた。

 

 

 

「う、うーん。別に壁を作るつもりは無いけど、その‥ね。以前、猫を捕まえる任務の時に見たサチ先生が、怖くってさ。それでつい敬語になっちゃうのよ」

「こ、怖い‥。その時、私はサクラに何もしてないじゃない」

「やってたわ。こう…握り拳を見せ付けてさ」

「……。ああ、あの時か。確かにやったわね。でも、あれってそんなに怖かったの?」

 

 

 その時の真似をして、当時の事を語るサクラにサチは、漸くそれを思い出した。確かにあの時、自分は三人を威嚇する様に握り拳を見せ付けたが。別段、怖がる程の事でも無かった筈。それ故、サチは不思議そうに尋ねた。

 

 

「当然よ。血管が浮く程の拳と有無を言わせない笑顔を見たら、恐怖しか感じないわよ」

「う、それは…悪かったわ。私も冗談のつもりだったけど、サクラはそう思わなかったみたいね」

「はあ…。サチ先生も反省してるなら、もういいわ。それより、早く入りましょうよ。背中を流す約束もあるからね」

「フフ そうね。なら、私はサクラの背中を流してあげる」

 

 

 そうして二人は笑いながら浴室へ向かった。そこで約束通り、サクラはサチの背中を流す最中。右肩から左腰にむけて、伸びる傷跡が目に入る。只の切り傷と違うのは、所々が抉れている箇所がある事だろう。その痛々しい傷跡を見た為か、サクラの手は自然と止まっていた。

 

 

 サクラの視線から、手が止まった理由を悟ったサチは気まずそうに口を開く。

 

 

「…ああ、この傷。ちゃんと治療したけど、やっぱり跡が残ったみたいね。こういった事は、忍をやってる以上は仕方無いのよ」

「これ‥もしかして、私を庇った時に付いたの?」

「いいえ。それとは関係ないわ。だから、サクラが気にする必要は無いわ」

 

 

 自分の所為で負った傷かもしれない。そう思っているであろうサクラに、サチはやんわりと否定した。サチ本人としては、傷が出来る事に慣れているが…サクラはそうはいかない。しかし、傷の事は己の責任だ。そこはしっかりとサクラに伝えた。その言葉は、彼女にも届いたのだろう。先程までの暗い顔から、吹っ切れた顔へ変わった。

 

 そして止めていた手を再び動かすと傷に響かない様、サクラはサチの背中を労わる様に洗った。

 

 

 

 その後、入浴を堪能した二人は既に上がっていたナルトと合流する。ナルトは二人を見るや、不満そうな顔で近寄ると声をかけてきた。

 

 

「あ、やっと来た。もう、二人共‥遅いってばよ。俺ってば、30分近く待ってたんだぞ」

「あのね。女の子のお風呂は長いものなの。あんたと違うんだから、文句を言わない」

「サクラの言う通りよ。それに上がったなら、先に帰ってても良かったのよ。どうせ、貴方の事だから…風呂上りに何か奢って貰うつもりだったんでしょ?」

「…ハハハ。やっぱり、ばれてたか。そんなら、俺はフルーツ牛乳が飲みたいってばよ」

 

 

 待たされた事に文句を言うナルトだったが、姉のサチは弟の魂胆を見抜いており、それをズバリと言い当てる。言われた本人も、隠す所か。寧ろ、堂々とサチに強請ってきた。また甘いと感じながらも、サチは弟の要求したフルーツ牛乳を買ってやる。勿論、自分とサクラの分も忘れてはいない。

 

 その後、風呂上りの一時を過ごしてから二人はサクラと別れ、家路に着いた。

 

 

 

 

 

 

 翌日

 いつもと変わらず、決まった時間に目を覚ましたサチは…朝食の用意をするべく居間へ向かった。するとそこには珍しく早起きしたナルトの姿があった。それだけでなく、テーブルの上には二つのカップラーメンが置かれている。

 

 

「おはよう。今日は朝早いじゃない。一体、どうしたの?」

「あ、おはよう。いやさ、俺もあと少し寝ようと思ってたけど…何か、腹減っちまってさ。どうせだから起きる事にしたんだってばよ。ついでだし、姉ちゃんのカップ麺も作っておいたぜ」

「ふーん。だとしても、朝から豚骨のカップ麺は少し重くない?」

「そうかな? 腹減ってれば、大丈夫だってばよ」

 

 

 弟は平然とそう言うが、やはり朝から食べるには少し重かった。食べ終わった後、日課にしている朝の散歩へ出かける。その際、ナルトも誘うが本人は二度寝をすると、部屋へ引っ込んでしまった。仕方なく、サチは一人で行く事にした。

 

 

 朝の陽射しを浴びながら、サチはお決まりのコースをのんびりと散策する。時折、すれ違う老人や子供達に挨拶を交わす。その穏やかな時間を満喫していると、後ろから自分を呼ぶ声に気付いた。振り向いた先にいた声の主はカカシであった。何とも珍しい事が続くと思い、サチは彼に歩み寄っていく。

 

 

「あら。カカシじゃない。貴方も早起きしたの?」

「ま、そんな所さ。それに俺もって、引っかかる言い方だな」

「ああ。今日はナルトが私より、先に起きてたからね。しかも、朝食まで用意して」

「へー そりゃ、珍しい。と言っても、どうせラーメンだったんでしょ?」

 

 

 サチの話を聞いて、カカシはそう答えた。その事にサチは驚いていると、カカシが自分に指を向けて‥「だって、今のお前から豚骨の匂いが漂って来るからな。よく朝から、そんなもん食えるねぇ」と呆れた風に言い放った。容赦ない言葉に、流石のサチもムッとした表情になる。言ってる事は尤もだが、仮にも女性に向かって匂うという言葉を言われたくはない。

 

 

「失礼ね。何も平然と匂うって、言わなくてもいいじゃない。第一、弟が作ってくれたのを無視する訳にいかないもの」

「…そうか。すまん、今のは俺が悪かった」

「別にいいわ。所で何か用があったんじゃないの?」

「おっと、忘れていた。実はだな。今日、アスマ達からお茶会の誘いがあって、その集まりにお前を誘いに来たんだよ」

「お茶会かぁ! それは楽しそうね。勿論、私も行くわ」

「それは良かった。一応、言っとくが…ナルト達には秘密だぞ。今回のお茶会、久しぶりにやる訳だし…同僚同士でのんびりとやりたいからな」

「ふふ 分かってるよ。例え知られても、ナルトは遠慮して来ないと思うわ。やんちゃな所はあるけど、ちゃんと場の空気を読む子だから」

 

 

 

 お茶会の事を伝えた後。それをナルトに黙っておく様、カカシは釘を刺す。その言い方は、まるでナルトが邪魔だと聞こえるが、当然ながら本人にそんなつもりは無く。単純に仲間とゆっくり過ごしたいからであった。無論、彼女もそれは分かっているが、ナルトの事を少し勘違いしているとサチはやんわりカカシに言った。

 

 

 

「…そりゃ意外だ。普段のあいつを見ると、着いて来そうな感じがしたからなぁ」

「まあ…付き合いが長くなれば、分かる様になるわ。あと肝心のお茶会は何時から?」

「時間は13時頃だな。場所は中心街の団子屋でやるから遅れるなよ」

「ええ。じゃあ、その時にまたね」

「ああ。またな」

 

 

 

 サチの言葉に、カカシは訝し気な顔をするが無理もない。だが、それは過ごす時間が増えれば分かる事だ。その後、聞き忘れていた場所と時間を尋ねてからサチはカカシと別れた。

 

 

 

 

 

 

 

 散歩から帰ると、居間に一枚の置手紙を見つけた。それを手に取り、手紙に目を通すと修行の為、近所の森に出かけると書いてある。どうやら二度寝から起きた後、暇を持て余したナルトは体を動かしたくなったのだろう。しかも家にいなかった自分を思って、律儀に書き置きまで残すナルトにサチは微笑みを浮かべる。

 

 

 大雑把に見えて、こういう気遣いが出来る子だ。それに何事も我武者羅にやる弟の事だ、恐らく夜まで帰って来ないだろうが…万が一もある。一応、出かける時に書き置きを残した方がいいだろう。

 

 

 

「さて、時間までまだあるし…いっその事、私も一眠りしようかな」

 

 

 時計に目をやり、時間を確認すると約束の時間までは大分先だ。何もやる事が思い付かず、サチは仮眠を取ろうと自室へ向かった。

 

 

 それから数時間後 寝返りをした際、目を覚ましたサチが傍の時計をみると、時刻は12時を回っていた。軽く寝るつもりが、気が付けば熟睡していた様だ。起きて顔を洗いながら、昼食をどうするか悩むが…今、食べたらお茶会に響くだろう。多少の空腹は感じていたが、サチは我慢する事にした。

 

 

 

 

 

 

 約束の時間が迫り、未だ帰らぬナルトへ書き置きを残してからサチは家を出た。慣れた道を歩き、里の中心街にある団子屋に着く。そして既に来ていた夕日紅がサチに気付いて、声をかけて来た。その隣には猿飛アスマやガイの姿もある。

 

 

「サチ、こっちよ。早くいらっしゃいな」

「お、おめえの顔を見るのは久しぶりだな。変わらず元気そうで安心したぜ」

「ええ。アスマと紅も久しぶりね。それにガイも来てたのね」

「おう。珍しくカカシの奴が、誘って来たからな。所でサチ、お前達の噂を聞いたぞ。何でも波の国で大活躍したそうじゃないか」

 

 

 久方ぶりに会う仲間と挨拶を交わした後、ガイが興奮した様子で話しかけてきた。その内容にサチは、思わず耳を疑う。確かに自分は、カカシ達と波の国で力を尽くした事は事実だ。しかし、その事はまだ誰にも話した覚えはない。カカシから聞いたのかと、サチは思ったが…彼は余り自分の事を話すタイプではない。ならば、ナルトから聞いたのだろうか?とも考えたものの。ガイは噂と口にした。もし人から聞いたのであれば、正直にその名前をだすだろう。考えても分からない為、サチは思い切って尋ねる事にした。

 

 

 

「その…噂。一体、何処で聞いたの? 私は誰にも話した記憶は無いけど…」

「ああ。まあ、聞いたというより。見たと言った方がいいかな。実は…今朝の瓦版に件の記事が載っていたんだ。最初見た時は、驚いたぞ」

「へえ‥そりゃ、凄いな。そんで、どんな記事だったんだ?」

「確か…ガトーなる者が雇った霧隠れの忍を倒して、その陰謀を打ち砕いたとあったな。そして、相手の名前が百地再不斬と朔麻だったな」

「オイ、それはマジかよ」

「寄りによって、その二人とはねぇ」

 

 

 ガイの口から語られた話に、紅とアスマも驚きを隠せずにいた。当のサチは、何故二人がそこまで驚くのかが理解出来ずにいた。しかし、二人の口振りだと‥その訳を知っているようだ。先程と同じく尋ねようとサチが、口を開いた時。遅れていたカカシが姿を現した。

 

 

 

「やぁ 諸君。遅れて申し訳ないね。所で何やら、盛り上がっているようだけど…」

「ったく‥。言い出しっぺのお前が遅れてんじゃねえよ」

「丁度いいタイミングね。今、貴方達の話題をしてた所よ」

「俺達の? 何の話をしてたんだ?」

 

 

 

 遅れた自分に文句を言うアスマを尻目に、紅の言葉が気になり、カカシは首を傾げて尋ねるとサチが事情を説明した。そのおかげで話の内容を把握したカカシを見ながら、サチは改めて二人に問い掛けた。

 

 

 

「ねえ…二人のさっきの反応。それが気になったんだけど…一体、どういう事なの?」

「貴女、相手の事を何も知らないの? 鬼人や狂人と言えば、名の知れた忍だというのに」

「本当だな。鬼人といえば、一晩の内に集落の人間を一人で皆殺しにした話があるし…狂人に至っては、女と見れば子供大人関係なく、攫っては拷問する話もあるんだぜ」

「だから吃驚したのよ。そんな二人と殺り合って帰って来たんですもの」

「…只者じゃない事は…知っていたが、まさかそれ程の忍だったとはね」

「ええ。私達、よく本当に生き残れたわね」

 

 

 

 

 思わぬ話を聞いて、カカシとサチの顔は若干青ざめていた。そんな二人を見て、アスマ達は楽しそうに笑っていた。その後、二人は散々弄られる羽目になったが…それでも穏やかな時間を過ごせた事をサチは、心から嬉しいと感じていた。

 

 

 その後、偶然通りかかったナルト達を見て。カカシは自分の注目を逸らす為、彼らを強引に引き入れる出来事もあった。結局、いつもの7班メンバーが揃う形になったお茶会は大いに盛り上がった。

 




今回のお話、いかがだったでしょうか?

波の国での戦いや任務が終わって、過ごす休日。漫画では余り、こういう描写は無かったので書いて見ました。


また一言でも良いので、感想をお待ちしています。


2/21 サブタイトルを一部変更しました。


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中忍試験編
第十三話 新たな波乱の幕開け


今回から中忍試験編が始まります。

波乱の幕開けとなる話を堪能下さい。


「なぁ、姉ちゃん。カカシ先生ってば、何でいつも遅刻するんだってばよ」

「本当よね。人には時間厳守だって、言っておきながらこれだもん」

「う、うーん。カカシにも、色々と準備があるんじゃない? あれで一応、隊長だからね」

「だったら、余計に駄目だろう。あんたからも厳しく言うべきじゃないのか?」

 

 

 任務の為、指定の場所へ時間通り来ているというのに。それを告げた本人が遅刻している事にサチは、ナルトとサクラから責められていた。当のサチも、これには言葉が詰まり。しどろもどろになって、言い訳をするが…その内容にサスケが突っ込まれ、彼女は無言になる。確かに隊長であるカカシが、遅刻するのは本来あり得ない事だ。

 

 

 先程より、不機嫌な様子で睨む三人へ何と言おうかサチが、考えを巡らせている最中。件の人物がニコニコと笑ってやって来た。それを見て、文句を言おうとする三人より先に、サチは前に出るとカカシを睨みつける。

 

 

「…おはようさん。ど、どうした? そんな恐い顔して、何だか機嫌悪い様だけど」

「そう? 別に普通だけど、貴方にはそう見えるとしたら、何が原因かしらね?」

「……。遅れて大変、申し訳ありませんでした」

 

 

 彼女が怒ってる理由。それは自分が遅刻した事以外は無いだろう。大方、後ろの三人に散々責められたのもあるのかもしれない。無論、こっちにも言い分はある。だが、それを話す事が出来なかった。何故なら遅刻の理由が徹夜で読書していた等、口が裂けても言える訳が無い。

 

 

「はあ…。もういいわ。それより、急いで出立しましょう。予定の時間は先とはいえ、現地到着が遅れたら本当に笑えないもの」

「そうだな。じゃ、皆行くぞ」

 

 

 まだ言いたい事はあるが、此処で時間を無駄にする訳にもいかず。サチは気持ちを切り変えて、カカシに任務先に急ぐ旨を伝えた。それに頷き、カカシが出発の号令を掛けるも。返事は無く、ジト目で見ながら彼らは付いて来るだけだった。

 

 

 どうやら度重なる遅刻によって、自分の威厳は失いつつある様だ。流石にこれは不味いと思ったカカシは、己の遅刻癖を直そうと決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、任務先に辿り着いたカカシ一行は…依頼人と落ち合い、今回の依頼を彼から聞く。その内容は自分の農場から逃げだした馬の捕獲である。だが、それは只の馬ではなく…祭事に使う暴れ馬との事だった。更に詳しい話だと、その馬は数いる暴れ馬の中でも特別で。村の住人が所有する中では、飛び抜けて気性が荒いと言っていた。

 

 

 恐らく、最初は自分達で捕獲しようとしたのだろう。しかし、結局は手に追えなくなって里に依頼を出したようである。

 

 

「よし。これより、暴れ馬の捕獲に入る。今からその作戦を説明するぞ」

 

 

 カカシが立案した作戦。それは自分が背後から馬を追い立て、ナルトは影分身で馬の進行方向を塞ぐ。続いて左右からサチとサクラで逃げ道を奪った後で、サスケが馬に跨り写輪眼の幻術を使って馬を鎮める。これが説明された作戦であった。

 

 

 

 そして作戦の為、ナルト達は所定の配置についた所で、カカシが馬を追い立てるのを待っている。それが作戦開始の合図だと、移動する前に彼は言っていた。待機して十分が経過した頃。前方の林から、地面を大きく揺らして暴れ馬が姿を見せた。

 

 

 

 

「よっしゃっ!! 来た来たぁ。そんじゃ、俺も行くってばよ」

「相手は普通の馬じゃないのよ。気を付けてね」

 

 

 意気揚々と駆け出すナルトに、サチは注意を促した。動物は追いつめられると、予想も付かない力を出す事がある。ましてや、今回の相手は村一番の暴れ馬だ。そう簡単に作戦通りには、行かないとサチは思っていた。案の定、それは当たってしまう。

 

 

 今では十八番となった影分身で、馬の行く手を遮るが…此処でナルトは余計な行動に打って出る。本来の作戦と違って、あろう事か。本体と分身共に馬に立ち向かっていった。分身を合わせれば、数は40人以上はいるが、馬は怯む事はなく。それ処か、逆に闘争心を向き出しにして、ナルトを分身含めて付き飛ばしてしまった。思わぬ馬の反撃に、一同は驚きを隠せない。

 

 

 まさか此処まで気性が荒いとは…確かにこれでは、村人の手に負えない。最後はサチとカカシの二人で捕獲して終わった。今回ばかりは、流石にナルト達では厳しいと判断した結果である。幸いにもナルトに大きな怪我は無かったが、馬に突き飛ばされた衝撃で軽い眩暈を起こしていた。

 

 

 大人しくなった馬を依頼主に渡した後、一行は里への帰路に着く。未だに眩暈が収まらないのか、ふらつくナルトをサクラとサスケが交互に肩を貸しながら、来た道をゆっくりと進んでいく。

 

 

「あ~ 酷い目に遭ったってばよ」

「全く、あんたが余計な事をするからでしょ。飛び出す前だって、サチ先生も忠告したのに」

「フン 世話の焼ける奴だな。こんな有り様で、火影になれんのか?」

「うるせぇ… 第一、お前は何もしてねえだろ」

 

 

 呻くナルトに、肩を貸していたサクラが苦言を洩らした。彼女の言う通り、サチが忠告した事を守っていれば避けれた事態であるからだ。隣で二人のやり取りを見ていたサスケも、口を出す。それにナルトも反応して、いつもの喧嘩が始まった。

 

 

 サスケ自身、ナルトを心配しての言葉だったが…人付き合いにおいて不器用な彼は、きつい言い方になってしまう。また、ナルトが取ったあの行動もサスケを心配しての事だった。馬に乗って幻術をかける役目で、サスケが怪我をするかもしれない。ならば、影分身を使える自分の方が、より安全に事を運べるだろう。彼はそう考えて行動を起こした。しかし、馬の力を侮っていた為、ナルトの行動は無駄に終わった。

 

 

 その気持ちをお互い、口にすればいいのだが。相手への対抗心や照れによって、二人は毎度の事。すれ違いを起こしていたのだ。

 

 

「やれやれ。街中で喧嘩するんじゃないよ。最近のお前らは口を開けば喧嘩ばかりで、チームワークが乱れてるぞ」

「フン。それは俺じゃなくて、あのウスラトンカチに言え。あいつが突っかかって来なければ、何も無いんだ」

「何だとぉっ!! お前だって、俺に好き勝手言うじゃねえか。それがチームワークを乱してるんだろ」

「俺に好き勝手言われるのが、そんなに嫌なら…もっと、強くなって俺にカリを作らない様にしろよ」

 

 

 

 堪らずカカシが仲裁に入るも、二人は止まらない。サスケが口を開けば、ナルトが言い返す。その繰り返しに、サスケは苛ついたのか。彼を横目で睨むと、突き放す様に言葉をぶつけた。それにはナルトもぐうの音が出ない。また自分の弱さを人の所為にしてしまった。その事を彼は内心、落ち込んだ。違う、自分は言いたいのは…そうではない。それにサスケを怒らせるつもりも無かった。

 

 

 無論、サスケの方も同じ事を考えていた。何事も向こう見ずで突っ走るナルトを見て、彼はいつもハラハラとしていた。波の国で戦った時、そして今日の事。何故かは分からないが、自分はそんなナルトが放って置けなかった。つい余計な事を言ってしまうのは、そういった気持ちの表れだ。しかし、その想いを上手く伝えられず、気付けば喧嘩をしてばかり。それが悩みの一つでもあった。

 

 

 

 そんな時、上空を飛ぶ一羽の鳥に気付いたカカシは、未だに睨み合う二人と戸惑うサクラに声をかける。

 

 

「三人共。俺は一旦、任務終了の報告へ行ってくる。という訳で、此処で解散としよう」

「そう。私も一緒に行こうか? この後、特に予定も無いからね」

「いや、それは俺一人で大丈夫だ。お前は残って、三人の様子を見てくれ。また喧嘩になったら、仲裁する人がいないと収拾が付かないからな」

 

 

 カカシの言葉にサチは頷いた。確かにあの二人を止める者が、一人は残る必要がある。その事にサクラは、ホッと安堵の息を吐く。どうやら、彼女も二人の事を気にしていたようだ。

 

 

「別にその必要はない。解散するなら、俺はもう帰るからな」

 

 

 だが、その心配は杞憂で終わる。カカシから解散と言われて、サスケは家に帰るとそう言った。すると、今まで黙っていたサクラが、サスケに寄り添うと頬を染めて話しかける。

 

 

「ねえ…サスケくんが良かったらだけど、一緒に街を散歩しない?」

「お前も…大概だな。今回もそうだが、今まで何も出来ない自分を恥だと、感じた事は無いのか? 正直に言うが、今のお前はナルトより、役立たずである事を自覚しろ。俺に構う暇があるなら、少しは己を磨く努力をしたらどうだ?」

 

 

 サスケの厳しい言葉に、サクラは一転して表情を暗くする。彼が言っている事は、全て事実でサクラは何も返す事が出来ずにいた。自分が役に立って無いのは、言われるまでも無く自分が一番理解している。だからこそ、他人から…しかもサスケから言われた事が一番のショックであった。サスケはそれだけ言うと、スタスタと去って行く。

 

 

 サスケの言葉ですっかり落ち込んだサクラへ、今度はナルトが声をかける。本人としては、彼女を慰めると同時に仲を進展させるチャンスと、ナルトは見ていた。しかし、今のサクラに彼の慰めは逆効果だった。ナルトより役に立たない。その言葉が、サクラの脳裏に何度も響く。当の本人は、その事を知らず能天気な表情を浮かべているのが…余計に腹立たしい気持ちにさせられた。

 

 

 その光景を見ていたサチとカカシは、スッとその場から立ち去った。触らぬ神に祟りなし。起きる波乱を予想して、二人は関わらない事にしたようだ。

 

 

 

 

 

 

 カカシと別れた後、サチは一人で街をうろついていた。そして何気なく、街角に視線をやると彼女は硬直する。視線の先にいたのは、死人を連想させる白い顔に蛇の様な目つきをした男で。彼はこちらを見てニヤリと笑う。その不気味な姿にサチは、堪らず目を逸らしてしまう。

 

 

 深呼吸して、気持ちを落ち着かせた後…再び同じ場所へ視線をやるが、不気味な男は姿を消していた。もしかしたら、自分の見間違いなのだろうか? 一応、この事をヒルゼンに報告しようと火影邸に足を向けた時。偶然、近くに立つ男達の話が耳に入って来た。

 

「なぁ‥。さっき、近くの路地で妙な奴が子供に絡んでたぜ」

「おいおい、だったら・・何で助けないんだ。そいつは何処で見たんだよ」

「すぐそこの路地だよ。やめとけって、ありゃ何処かの忍のようだった。俺達じゃ、何も出来ないよ。急いで木ノ葉の忍を呼んでこないと「その必要は無いわ」え?」

 

 

 話の内容を聞いて、サチは彼らに声をかける。いきなりの事で男達は驚くが、サチの正体が木ノ葉の忍と分かると縋る様に助けを求めてきた。無論、サチもそのつもりで声をかけたのだ。慌てている男達を宥めて、詳しい場所を聞いた後、サチは一目散に現場へと向かって行った。

 

 

 

 

「この‥黒豚野郎。木ノ葉丸を放せってばよ」

「そうよ。ぶつかったくらいで、そこまでする事ないでしょ」

「うるせえじゃん。第一、俺はガキが嫌いなんだよ。ムカつくし、うざったいしな」

 

 

 

 サチ達が去ってから、入れ替わりでやってきた木ノ葉丸とナルト達は…なし崩しに遊ぶ事となり。その最中、件の少年に木ノ葉丸がぶつかってしまい、この騒動が起きてしまった。彼のいで立ちは、頭から足に至るまで黒装束を纏った体格のいい少年である。それ故、ナルトは彼を黒豚と呼んだのだった。

 

 

 その少年は、ぶつかった木ノ葉丸の胸倉を容赦なく掴み締め上げた。それによって、苦しそうにする木ノ葉丸を助けようとナルトが、駆け寄るが…少年は軽く腕を動かすと。何かに躓いた様に、ナルトは地面に転んでしまう。それを見て、少年は嘲る様に笑った。

 

 

 

「何だよ。木ノ葉の下忍って、めっちゃ弱いじゃん。こんなんで忍が勤まるのかぁ?」

「はあ…。カンクロウ…その辺にしとけって、流石に他里で騒ぎを起こすのは不味いよ」

「テマリ、そう言ってもなぁ。俺はこいつみたいなチビが嫌いなんだよ。ぶつかっておいて、謝らない所が殺したい程‥ムカつくんだよ」

「あーあ。私は知らねえよ」

「問題無いじゃん。まあ、時間掛けてたら面倒な事になりそうだし、一発殴って終わりにするじゃん」

 

 

 

 

 変わらず横暴な態度を取るカンクロウを見兼ねて、連れのくノ一のテマリが止めに入るが彼は聞く耳を持たない。付き合いの長い彼女は、こうなったら無駄である事を知ってるのか。すぐに匙を投げてしまった。そうして、カンクロウは左の拳で木ノ葉丸を殴ろうとした時。

 

 

「悪ふざけはそこまでよ。これ以上は…見逃せないわね。それにサスケ、貴方もよ」

 

 

 その言葉と共に彼の拳は突如、現れたサチに止められた。そして右手には…彼が投げたと思われる石を掴んでいた。ナルト達もカンクロウ達も、突然の事に驚いていた。唯一、平静を保っているのはサチと同じくして、やってきたサスケのみである。

 

 

「なんだぁ? 木ノ葉の上忍ってのは、子供同士の喧嘩に出しゃばるのかよ」

「ええ。時と場合によってはね。今、貴方がやってるのは流石に黙ってられないわ」

 

 

 

 初めは吃驚していたが、落ち着きを取り戻したカンクロウは…今度はサチに食ってかかる。それに対して、サチも冷静に言葉を返すも、彼はそれが気に入らないのか。再び口を開こうとした時…

 

 

「カンクロウ やめろ!!」

 

 

 更に別の人物が、彼の行動に待ったをかける。一同が声の方に目を向けると、そこに木の枝から逆さに立って、こちらを見る少年の姿があった。紅い髪と額に彫られた愛の文字が、異彩を放っている。彼の登場によって、場は沈黙に包まれる。これには内心、サチも驚いていた。彼らのいざこざを止めに入る際、サチは周囲に気を配っていた。だが、その時はこの少年の気配は微塵も無かったのだ。しかも彼は、それを自分に悟らせず、まるで予めそこにいた様に現れた。

 

 

 

「すまなかった。君達も… そこの貴女にも迷惑をかけたようだ」

「な、なに言ってんだ。元はと言えば、こいつらが先に「黙れ! 殺すぞ」が、我愛羅…」

 

 

 

 自分達に謝る我愛羅にカンクロウは意義を唱えた。すると彼は低い声で、カンクロウを威圧する。その一言でカンクロウは体を震わせ、押し黙った。それは一緒にいたテマリもそうである。思えば彼が来てから、この二人は怯えていた。額あてを見る限り、同じ里の仲間なのだろう。それにしても、妙な関係だとサチは思っていた。

 

 

 

 また我愛羅も静かにサチ達を見ていた。その中で一番注目していたのは、サチとサスケだ。瞬間移動する様に現れ、カンクロウを止めた女に…また気付かれぬ様、石を投げた自分と同じくらいの少年。我愛羅は木から地面に降り立つと二人の名を尋ねた。

 

 

 

「お前達の名前は?」

「名を尋ねるなら、まずはそっちが名乗るのが礼儀だろう」

「そうだな…。俺は砂漠の我愛羅。見て分かる様に、俺達三人は砂の忍だ。改めて聞く。紅い髪の女と黒髪のお前、二人の名は何だ?」

「私はうずまきサチ。この子達の担当上忍よ」

「俺はうちはサスケだ」

「うずまきサチにうちはサスケだな。覚えておこう」

「ちょっっと待ったぁぁぁ。まだ俺の名を言ってねえぞ!! 俺の名は「興味ない」何ぃぃぃ」

 

 

 名を尋ねるなら先に名乗れと、サスケに言われて彼は素直に自分の名を教えた。その後、二人も名を教えると彼は一言告げて、立ち去ろうとする彼をナルトが引き止めて、自身の名を言おうとするが。我愛羅はナルトの言葉をバッサリ切り捨て、今度こそ立ち去っていった。

 

 

 それにへこむ彼を木ノ葉丸が慰めていた。それを眺めているサチの肩に鳥が止まり、彼女は足に括られている紙を外して読み始めた。内容は里の上忍と中忍を対象とした、招集命令であった。

 

 

 

 

 

「皆、私は招集が掛かったから…行くわ。貴方達はもう家に帰りなさい。また面倒が起きないとも限らないから」

 

 

 

 四人はサチの言葉に頷いて、それぞれの方向へ立ち去った。それを見届けた後で、サチは火影邸へ駆け足で向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数分後、火影邸に辿り着いたサチが集合場所へ行くと、そこには既に里中の忍が集まっていた。どうやら、自分が最後だったらしく。所々から遅いと文句が聞こえてくる。態と聞こえる様に呟く彼らに、眉を顰めるが…招集に遅れた事は事実である為、サチはグッと堪えると頭を下げて、遅れた旨を謝罪する。

 

 

 

 

「遅れて申し訳ありません。ただいま、召喚に応じました」

「謝るくらいなら、何故すぐに来ない。一体、何処で油を売ってたんだよ」

「いえ、そうではなく。里内で他里と自里の忍同士がいざこざを起こしまして、その仲裁に入ってたんですよ」

「ふん。上手い良い訳を考えるなぁ。口ではどうでも言えるもんなぁ」

「口を挟んで悪いが…これ以上、ウチの副隊長を苛めるのをやめてもらおうか。文句があるなら、隊長の俺が聞いてやるよ。あんたの気が済むまでな」

 

 

 

 事情を話しても、あれやこれやと荒を探しては嫌味を言う上忍にサチが言い返そうとした時。黙っていたカカシが傍により、助太刀に入った。真っ直ぐ自分を見つめる目に、恐れたのか。先程と違って、その上忍は口を閉ざしてしまう。

 

 

 

「カカシよ、その辺にしておけ。全員、揃った事だし‥本題に入るとしよう。と言っても、この顔ぶれを見れば言わずもとも、分かるじゃろうが」

「もうそんな時期ですか。まあ、この分だとサチが言ってた事も本当だろうな」

「ああ。今年も血気盛んな者が多い様で…大変な事になりそうだ。そんで、アレの開催はいつです?」

 

 

 これ以上、騒ぎが大きくなる前にヒルゼンが間に入って、場を収めた。そして…皆を集めた理由を話し出すが、集まった者は既に知っている。それに続いてカカシが、詳しい事を尋ねるとヒルゼンは口を開く。

 

 

「そうじゃな。これより一週間後、七月の一日に今年の中忍選抜試験を開催する。それに当たって、自分が受け持つ下忍達を推薦する者は前に出よ。まずは、新人の下忍からにするかの」

 

 

 

 ヒルゼンの言葉に、前に出たのはサチとカカシ、紅とアスマの四人であった。だが、新人の下忍が中忍試験に参加する事は、滅多にない。どうせ、今年も不参加だろうと思っていた一同は四人の口から出た言葉に驚く事となる。

 

 

「カカシ及びサチ率いる、第7班…。うずまきナルト、春野サクラ、うちはサスケ。以上三名をはたけカカシの名を持って、中忍選抜試験に推薦します」

「私、うずまきサチもカカシ同様に三人を推薦いたします」

 

 

 二人に続いて、紅班とアスマ班も自分達の下忍を中忍選抜試験に推薦した事で、その場は驚きと騒めきに包まれる。それも無理も無い。まさか、新人が全員参加する等…誰も予想はしていなかったのだ。そんな中、一人の忍が前に踊り出ると、異議を申し出た。その忍は以前、ナルト達の教鞭を取っていたイルカである。

 

 

 

「ちょっと待ってください。差し出がましい事ですが、その8名は確かに才能ある忍なのは…私も理解しています。だけど、まだ彼らにこの試験は早すぎます。もう少し、経験を積ませてからの方がいいのでは無いですか?」

「そうは言うけど、俺が中忍になった時は今の彼らよりも6つも歳が下でしたよ。それにサチだって、新人でありながら中忍試験に合格しましたからね」

「貴方達とナルトは違うでしょう。大体、中忍試験が何と呼ばれてるのか。二人も知ってる筈です」

 

 

 かつて、自分も参加した経験があるイルカは、この試験が如何に危険であるか。イルカは知っている。下手をすれば、大怪我では済まない。だからこそ、新人が参加する事には…イルカは反対だった。

 

 

 

「成程。確かに貴方が仰りたい事も分かります。ですが、今の彼らは貴方の教え子じゃない。俺達の部下です。故に口出し無用!!」

 

 

 カカシの言葉にイルカは…何も言えず、引き下がる。彼の言う通り、確かに今の彼らは自分の教え子ではない。これ以上は、越権行為になるだろう。そうなれば、只の言い争いでは済まなくなる。

 

 

 火影邸でちょっとした騒ぎが起きたものの。それ以降は、各班の推薦も問題無く進行して此度の議題は終了となった。

 

 

 

 用事が済み、次々と忍達が退出する中。一人残ったサチは…街で見た男の事を報告する為。彼女はヒルゼンに声をかける。

 

 

 

「三代目様、実はお話したい事があります」

「話したい事じゃと? 一体、それは何だ? 話してみよ」

「ええ。実は…」

 

 

 

 サチの口から伝えられた事にヒルゼンは、顔を顰めた。普段は見せないその表情に、サチも知らずと顔が強張る。だが、彼は深い息を吐くと、サチに向かってこう告げた。

 

 

「お前の見た男の事。他の者には、言うでないぞ。良いな?」

「何故です? その様子では、厄介な事だと分かります。此処は、皆にも伝えて警戒した方が…」

「ならぬ!! いいから今はワシの言う通りにしてくれ。頼む…」

「…分かりました。 三代目の命令に従います」

「大声を出して済まぬな。だが、これはそれ程の事態でもある。中忍試験で各国から大名や里長が集まる中、余計な緊張感を与える訳にいかぬのだ。お前から聞いた事は、時期を見てワシから伝えるとしよう」

 

 

 

 報告を聞いたヒルゼンは、サチに戒厳令を言い渡した。まさか、自分が見た男とは…それ程までに厄介な相手なのだろうか? そう思って、皆にも伝える様…彼女は進言する。しかし、そんなサチをヒルゼンは大声で一喝して、黙らせた。だが、すぐに我に返ると彼はか細い声でサチに黙っておく様と釘を刺す。

 

 

 そうまでして口止めするからには、何か込み入った事情もあるのだろう。サチは彼の指示に頷くとその場を後にした。部屋に残されたヒルゼンは、静かに窓の外を見る。この時、彼が何を考えているのか。それは本人しか分からない。

 

 

 こうして不穏な気配が潜む中、波乱に満ちた中忍選抜試験が開催される事となった。




今回のお話、楽しんで貰えたでしょうか?


後に木ノ葉を揺るがす波乱の一歩。中忍試験編は何気に怖い所が多いですよね。


宜しければ、一言でもいいので感想を残してくれると嬉しいです。


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第十四話 立ちはだかる壁

 中忍選抜試験 前日の朝

 急遽、呼び出されたナルト達は指定の場所で待機していた。案の定、呼び出した本人は遅刻して、未だに姿を見せずにいる。

 

 

「もうーー!! 何であの人は、いつも人を呼び出しておいて遅刻するのよ」

「全くだってばよ。しかも、今日に限っては姉ちゃんも来てねえし‥」

 

 

 最早、お決まりの事となっているが、無駄に待たされる三人は堪らない。サクラとナルトはいつもの様に不満を洩らし、サスケも言葉にしないものの。内心では、遅れているカカシとサチに愚痴を溢していた。

 

 

 それから1時間が過ぎ、3人の苛立ちも限界に来ていた頃。漸くカカシとサチの二人がやって来た。ナルトやサクラは二人の姿を見るや、勢いよく詰め寄ると凄い剣幕で不満の言葉をぶちまける。今までない迫力にカカシも気圧されるが、今回遅れたのはちゃんとした理由があると一緒にいたサチが三人を宥める。

 

 

 

「‥まぁまぁ、三人共。気持ちは分かるけど、落ち着いて。遅れたのはこれを用意してたからよ」

 

 

 そう言って、サチは三枚の紙をナルト達に差し出した。受け取った紙には、中の文字と火影の判が捺されている。一体、これが何なのか。分からない三人は、首を傾げるだけだ。

 

 

「…実は明日。木ノ葉で中忍選抜試験が行われる事になってな。この試験にお前達を推薦しておいた。もしお前達が、試験を受ける場合。明日の午後4時までにアカデミーに来い。言っておくが…中忍試験は強制じゃない。自信が無いならやめてもいいし、自信があるなら受けるのもいいだろう。それはお前達の意思に委ねる」

「…私からも一つ忠告するわね。中忍試験では課題によって、大怪我や最悪の場合。死に繋がる事もある。だから、受けるつもりならば…よく考えてから決断してね」

 

 

 二人の言葉をナルト達は静かに聞いていた。自分達が中忍になる。それを想像して、ナルトとサスケは体が疼くのか。緊張した面持ちの中、何処か楽しそうにしていた。だが、その二人とは対照的に、サクラは沈んだ表情で俯いている。

 

 

 サクラの様子は気になったが、こればかりは本人が解決する問題である。サチ達も手を差し伸べたい所だが、此処は黙って見守る事を選んだ。そして用件を済ませたカカシ達は、解散を告げると立ち去った。残されたナルト達も続いて帰路に着く。

 

 

 

 その道中、サスケは砂の忍の事を考えていた。昨日、出会ったあの忍…我愛羅も中忍試験に参加する為。木ノ葉の里へやって来たのだろう。他の忍にない雰囲気を纏う彼と、試験で戦う事もあるかもしれない。そうなったら、今の自分が何処までやれるのか? サスケは己の力を試す時が待ち遠しい。その思いを強く感じていた。

 

 

 

 またナルトの方も、来たる中忍試験を楽しみにしていた。下忍として過ごす事、数ヶ月。波の国での事や木ノ葉で行ってきた様々な任務。無論、上手く行かない場合もあったが…それでも自分は確実に強くなっている。もし、試験を突破して中忍になる事は、火影に一歩近づいた証明でもある。

 

 

 

 それに小さい頃から憧れていた姉の隣に並ぶ日も近づくのだ。彼が気合を入れる理由には、その事も含まれていた。

 

 

 

 そんな中、サクラだけは中忍試験に参加する事を迷っていた。勿論、自分も参加して二人と並んで歩きたい想いはある。しかし、今の自分の実力では‥・試験に合格する所か。最初の課題すら、突破出来ないのではないか。そういった暗い考えが脳裏を駈け廻る。

 

 

 その後、三人はそれぞれの想いを胸に抱いて別れた。

 

 

 

 

 

 

 中忍選抜試験 当日

 午後3時を回った頃、三人は受付会場のアカデミーに足を運んでいた。この場になっても、サクラは未だに悩んでいた。昨夜、参加するか否かを考えていたが…結局、答えを出せずに今日という日を迎えてしまった。

 

 

「思ったより、人が多いな。こいつらも中忍試験を受ける訳か」

「多分、そうだろうな。何だ? 今になって怖気づいたのか?」

「そんな訳ねえよ。只、皆がどんな忍なのか。それが気になるだけだってばよ」

「フン。それは何れ分かるさ。今は余計な事を考えず、とっとと試験の受付を済ませるぞ」

 

 

 二人は周りを見渡して、そんな会話をしていた。そんな時、サスケはサクラの変化に気が付く。いつもなら、何かと騒ぐ彼女が、今日に限って元気が無い。此処でサスケは、昨日彼女に言った事を思い出した。もしかしなくても、あの言葉で落ち込んでいるのだろう。

 

 自分としては、別に追い込むつもりは無く。彼女に発破をかけたつもりだったが…サクラは別の意味に捉えてしまったようだ。彼としても、出来る事ならナルトとサクラ。この三人で中忍へなりたいと思っている。折りを見て、何とか励まそうとサスケは心の中でそう考えていた。

 

 

 

 受付の場所は、アカデミーの三階。用紙に記されている情報を頼りに、三階へ足を踏み入れると廊下は受験者でごった返している。そして何やら、揉め事が起きているのか。殴られたと思われる少年が床に座り込んでいる、その傍には、連れと思われる少女がおり。殴った相手に文句を言うと、今度は少女を平手で殴り倒した。

 

 

「はっ、こんな攻撃も避けも防げもしないで。よく中忍試験を受けようと思ったなぁ。悪い事は言わねえ、お前達は辞めておいた方が身の為だぜ。何せ、俺達も今回で三度目だが…難解な上に過酷でな。試験の中、死んでいった受験者を何度も見てる。そう、今のお前らみたいな奴だよ。だから、これは俺達の優しさだ。例え、他人だろうと苦しんで人が死ぬ所なんざ。もう見たくねえからな」

「こいつの言う通り、死ぬ覚悟が無いなら辞めておけ。中忍なんて肩書きの為に、死ぬのは馬鹿らしいだろう?」

 

 

 受付場所となる教室の前に立つ男達の言葉に、受験者達は内心怖気づいてしまう。危険な試験であるのは、予め聞いてはいたが…死という言葉が彼らの覚悟に罅を入れる。

 

 

「成程な。しかし、俺達は通して貰うぞ。生憎、生半可な覚悟で受けに来た訳じゃない。くだらない幻で時間を取られるのごめんだからな」

 

 

 だが、そんな受験者を掻き分け、前に出たサスケは恐れる事なく。堂々と二人の男へ言葉をかけた。

 

 

「ほう… お前は気付いたのか」

「ああ。初めからな。サクラ、それはお前も同じだろう? 何せ、幻術の事は俺達の中で一番伸びてるんだからな」

「勿論。だって、ここは二階じゃない。そんな子供騙しは、通用しないわよ」

 

 

 サクラがそう言うと、301と記されていたプレートの数字が変化して元に戻る。まさかの事に受験者一同は驚くが、一部の者は平然としていた。彼らも当然、幻術が仕掛けられている事に気付いてようだ。

 

 

「中々やるみたいだな。だけど、それだけじゃ…試験は受けられねえよ」

 

 そう言って、男の一人がサスケに向かって蹴りを放った。それに反応して、サスケも蹴りを繰り出すが…二人の間に割って入った人物が、二人の蹴りを受け止める。驚く事に止めに入ったのは、先程殴られていた少年であった。緑の全身スーツにおかっぱ頭という、特徴的な少年の元に別の少年が近寄ってきた。恐らく、彼も連れの一人なのだろう。

 

 

「おい お前は何をやってるんだ。下手に注目を浴びたくないと、言っておきながら目立つ事をしてどうする」

 

 責める様に言う彼に対して、件の少年が返事をしようとした時、彼はサクラの方を見て頬を染める。それに同じ連れの少女が呆れた様に、首を振った。

 

 

 その少年は、深呼吸した後。意を決した様な顔でサクラに歩み寄ってくる。

 

 

「あの… 僕、ロック・リーといいます。それで‥用件ですが。僕と付き合って下さい。貴女の事は、命を懸けて守りますから」

「嫌よ!! いきなり告白されて、付き合う女性がいる訳ないでしょ」

 

 歯を煌めかせて、サクラに告白するリー。だが当然の如く、断られてしまい…彼は落ち込んでしまう。そんな二人を尻目に連れの少年が、サスケに声をかける。

 

 

「所で…そこのお前。名は何という? 見た所、ルーキーの様だが‥」

「さあな。あと人に名を尋ねるなら、まずは自分から名乗るのが礼儀だろうよ。先輩さんよ」

「ふん 生意気な奴だな。まあいい…試験で相見えた時は覚悟しておけ」

 

 

 名を尋ねる彼に、サスケは不敵な笑みを浮かべて言葉を返す。言ってる事は、尤もだ。しかし、態度の悪いサスケに少しばかり、苛立ったのか。彼はきつく睨みつけ、脅し文句を残して去って行った。

 

 

 その時、発した少年の威圧感。それを肌で感じて、サスケは冷汗を掻く。彼もまた只者では無い事が分かった。誰も彼も、飛び抜けた奴が多い。流石、中忍試験に挑むだけはある。内心、気圧されながらも集う強者たちにサスケは心を躍らせる。

 

 

 

 

 そして去りゆく受験者達を陰から覗く者がいた。それは先程、揉め事を起こしていたあの2人組である。只、違うのは少年の姿ではなく、大人の姿に変わっていた。どうやら、変化の術で姿を変え、今年の受験者を篩いにかけていたのだ。

 

 此処で自分達に臆さず、また幻術を見破った者だけが試験への参加を認められ、それ以前に立ち去った者や幻術を見破る事が出来なかった者は、試験を受ける事無く失格とする。それが二人に与えられた役割だったのだ。

 

 

「今回の受験者…。随分と活きの良い奴らが揃ったな」

「ああ。今年の試験、どうなるのか楽しみだ」

 

 

 彼らはそう呟いてから、姿を消す。新しい風を吹かせるのは、どんな子達なのか。それを二人は大いに期待をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 三人が改めて、受付場所へ向かう途中。後ろから追いかけて来たリーが呼び止める。一体、何の用だと…訝し気に彼を見つめると。彼は突然、サスケに自分と勝負する様、申し出てきた。

 

「勝負だと? 何故、俺がお前と戦う必要があるんだ」

「怖いですか? それならば、無理にとは言いません」

「…お前、俺に喧嘩売ってるのか?」

 

 

 リーとの勝負。それには、少し興味が湧いたものの。彼の意図が読めず、サスケは冷静に問い掛ける。だが、彼から返って来た言葉に、サスケは珍しく激昂した。確かに勝つ自信があるからこそ、リーは勝負を申し出たのだろう。しかし、自分を臆病者と思われる事には我慢がならない。

 

「いいぜ。やってやるよ‥ うちはの実力、とことん思い知らせてやる」

「決まりですね。それと…改めて名乗ります。僕は…ロック・リー。天才と呼ばれた君の実力、見せてもらいます」

 

 

 売り言葉に買い言葉。いつの間にか、勝負する流れになった二人へ、サクラが待ったをかける。

 

「待って、サスケ君。この勝負、受けちゃ駄目。だって、もう受付の時間が迫ってるのよ」

「心配するな。こんな奴、5分もあれば十分だ」

「大した自信ですね。ですが、僕もそう簡単にやられたりしませんよ」

 

 

 それを合図に、二人が駆け出そうとした時。サスケの前にナルトが立ちはだかった。リーはそんな彼を睨んで、厳しい言葉を投げ掛ける。

 

 

「君は…何ですか? これは僕とサスケ君の勝負ですよ。邪魔をしないでくれ」

「うるせぇ。どいつもこいつもサスケの事ばかり。お前の相手なら、俺がしてやるってばよぉ」

 

 

 

 そう言い放ち、ナルトはリーに向かっていく。誰もが注目するのは、サスケの事ばかり。確かに彼は強いのは、事実だ。しかし、自分をサスケの取り巻きにしか、見てない事に腹を立てていた。自分だって、サスケに負けて無い事を証明してやる。その想いを籠めて、拳を振るうが…りーはそれを意図も容易く、弾いてみせた。それなら次は蹴りだと、ナルトは体を捻って繰り出した。

 

 

「遅いですよ。蹴りはこうやるんです。木ノ葉烈風!!」

 

 

 ナルトの蹴りが当たる直前、彼は素早くナルトの側面に回り込むと。最初の蹴りで足を払い、二の蹴りでナルトを壁の方へ吹き飛ばす。その早業に、ナルトは呆気なく気絶させられてしまった。何よりも驚いたのが、派手に飛ばされたにも関わらず、自分の身体にはダメージが無い。絶妙な力加減によって、怪我をしないよう手加減をされたのだ。

 

 

 そんな芸当、やろうと思って出来る事ではない。想像以上の実力を持つリーをサスケは、静かに見つめていた。最早、さっきの怒りは既に無い。感情任せで挑んで勝てる相手じゃない事を、彼も悟っている。

 

 

 何せ、力を籠めた蹴りを片手で受け止める奴だ。思えば、こいつの連れも只者では無かった。必然的にこいつもそれに分類されるだろう。自然と彼の足は、前に出ていく。サクラは止めようと思ったが、彼の表情を見て口を閉じる。サスケの目には、目の前のリーしか映っていない。恐らく、自分がどんなに叫んだとしても…戦いを辞める事はしない。彼女は…何事も無く終わって欲しい。只、それだけを祈っていた。

 

 

 

 

「次は俺だな。言っとくが、手加減はしないぜ」

「構いませんよ。どの道、君達は僕に勝てません。何故なら、今の木ノ葉で一番強い下忍は…僕ですからね」

「上等だぁ。だったら、それを今覆してやる」

 

 

 思ったより、素早いサスケの動きにリーは驚いたが…すぐに冷静さを取り戻すと彼もサスケに向かっていく。

 

「木ノ葉旋風!!」

「っ!? くそっ‥」

 

 

 先程と同じく、リーが繰り出す蹴りを辛うじて躱すが…続けて飛んでくる蹴りは避けれない。だが、サスケは慌てず、防ごうと左腕を上げた時。リーの攻撃はサスケの防御をすり抜けて、彼の顔面を捉えて吹き飛ばす。

 

 

「嘘‥。何で当たるのよ。 サスケ君は、ちゃんとガードしたのに…」

 

 

 目の前で起きた出来事に、サクラは目を疑った。迫る攻撃を彼は確かに防いだ筈。それなのにリーの攻撃はサスケに届いたのだ。恐らく、仕掛ける直前に何かしらの術を使ったのだと、サクラは結論付けた。

 

 それはサスケも同じで、口から流れる血を拭い立ち上がると隠していた奥の手を出す事にした。自身の両目を写輪眼に変化させ、再びリーに向き直る。次こそは、奴の攻撃を見極めてやると彼の強い意志がその目に宿っていた。

 

 

 一方、リーも漸くサスケが本気になったのだと、心の中で喜びを感じていた。サスケは先程の攻撃に何か絡繰りがあると思っている様だが…それは違う。次の攻撃でも、彼の度肝を抜いてやろう。そんな事を考えながら、リーはサスケに攻撃を仕掛けた。また彼も迎え撃つべく、隙も見せず身構える。

 

 

 

 だが、またもやリーの攻撃がサスケの顔面に直撃した。その光景にサクラは、何の言葉も出せない。相手の技や動きを見抜く力を持つ写輪眼でも、彼の攻撃を防げないのでは、最早サスケに勝ち目はない。今まで無い強さを持つ相手にサスケは、酷く動揺していた。

 

 

 相手が使っているのは、忍術や幻術の類ではない。二度に渡って受けた攻撃でサスケは、それを理解した。リーがやっていた攻撃…それは只の体術であった。チャクラの流れや体の動きで術を見破り、真似る事が出来る。しかし、体術だけは別だった。例え、動きを見切れても反応出来なければ意味が無い。

 

 

 恐らく、最初の攻撃もそうだろう。あの時は自分の防御をすり抜けたのではなく、当たる直前で軌道を変えたのだ。自分が反応出来ない速度で…

 

 

 

「その顔だと、僕の攻撃が何なのか。気付いたみたいですね」

「くっ…。まさか、只の体術で此処までやるとはな」

「驚いたでしょう。僕はこの力を努力のみで手に入れました。元は、僕の連れにいる天才を超える為。ひたすらに努力してきましたよ。そして…僕は証明する。努力で得た力は、どんな天才をも凌駕するのだと。その一人目が、サスケ君…君という訳です」

 

 

 そう言って、リーは彼を宙へ蹴り上げるとサスケの下へ姿を現すと、手に巻く包帯を解き始める。そしてリーが次なる技を繰り出そうとすると、何処からともなく飛来した風車が彼の包帯を壁に縫い付ける。

 

 

 

 一体、何だ?と風車が飛んできた方にリーが視線をやれば、そこにいたのは一匹の亀であった。

 

 

 

「リー!! お前、禁じ手とされる技を使おうとしたな。一体、どういうつもりじゃ?」

「い、いや。これには事情が…ありまして。それに裏の技を出す気はありませんよ」

「当たり前じゃろうが…。 第一、そう簡単に技を出す奴がおるか。しかも…大事な試験前に私闘をしおって」

「ご、ごめんなさい。僕が悪かったです」

「うむ。では、あとはガイ先生殿…あとは頼みましたぞ」

 

 

 

 いきなり現れた謎の亀は、険しい顔でリーを叱りつけた。対する本人もその亀に逆らう事なく、素直に謝った。そんな光景を二人は、何とも言えない顔で見つめていた。すると傍にやっと目を覚ましたナルトが近寄ってくると、未だにリーを叱る亀を指さして二人に尋ねる。

 

 

「なぁ。あれって、何だってばよ? どうして、あのゲジマユは亀に怒られるんだ?」

「私が知る訳ないでしょ。多分、先生とか…?」

「いや、あの亀の口振りでは…そうでも無さそうだ」

 

 

 ナルトの問いにサクラは、首を横に振って分からないと口にする。そして、思い付いた事を言うと…今度はサスケがそれを否定した。そんな会話をしていると、ボンと音を立てた瞬間。亀の上に現れた人物にナルト達は、驚き声を失った。

 

 

「よぉ…お前らぁ。陰から見てたが、随分と良い青春してるなぁ」

 

 

 

 その男は、リーと同じく濃い眉に全身スーツを着ていた。リーと瓜二つなこの男を見て、三人が思ったのは、彼が非情に暑苦しい人間であるという事だった。その予想は当たっており、ガイと呼ばれた男はリーに歩み寄ると、彼は突然、リーを思いっきり殴り飛ばした。

 

 

「な、いきなり何をするんですかぁ!?」

「うるさい… 俺の言い付けを破った罰だ。だが、それをしても戦いたいと思うお前の気持ち。俺にはよく伝わっているぞ」

「が、ガイ先生ぇ!! ありがとうございます。僕は今、猛烈に感激してますぅ」

「俺もだぞ!! リー。我が弟子よぉぉぉっ!!」

 

 

 そんなやり取りの後、二人はお互いを抱きしめると目から大粒の涙を流す。唐突に展開された二人の世界にナルト達は、全くついて行けずに冷めた目で見つめていた。

 

 

 

 尤もガイは、三人が向ける視線に気付いている。当初、リーと彼らを戦わせるつもりは無く、すぐ止めようと思っていた。しかし、敢えて戦わせる事にしたのは、サチとカカシが受け持つ三人の実力が気になったからである。また彼らに対して、純粋に興味を抱いていた。

 

 

 常に冷静なカカシと穏やか且つ熱くなりやすい一面を持つサチ。この対極な二人が育てた忍は一体、どういう子であるのか? 自分の目で見たくなったのだ。またこの戦いを通して、リーに欠けている物を見つけ出し。一段と成長して欲しいという想いもある。努力で実力を身に付けた彼だが、強くなるには才能や努力以外に大事な物が在るという事を…。

 

 

 

「所で…君達はカカシとサチの班だったよな? 二人は良い先生だろう」

「何だよ激眉先生ってば。姉ちゃん達を知ってるのか?」

「君、その態度はいただけませんね。ガイ先生に失礼じゃないですか」

 

 

 ガイはナルト達を見て、そう言葉をかけてきた。その素振りからして、二人と知り合いの様であるが。一体、どんな関係なのか? それが気になったナルトが、ガイに質問を投げ掛ける。それに対して、リーはナルトの失礼な態度に腹を立てて、それを咎める。自分の恩師であり、尊敬するガイを馬鹿にした呼び方が、彼は許せなかった。

 

 

「まあ、落ち着けリーよ。それと質問の答えだが、俺とあの二人は知り合いであり、永遠のライバルだ。因みに俺はサチやカカシより…強いよ」

 

 

 ガイはリーを宥めた後、一瞬にして三人の背後へ回るとナルトの問いに答えてみせた。それにナルト達は目を丸くする。彼らには、ガイが消えた様にしか見えなかった。

 

 

 そんな彼が口にした二人より、強いという言葉は事実なのかもしれない。三人にそう思わせる程の説得力がガイの言葉にはあった。

 

 

 

「それよりもだ。リーも君達もそろそろ教室に行きたまえ。中忍試験、全力で頑張れよ」

「押忍。全力で頑張ります」

 

 

 

 不意に時計を見て、ガイは少し慌てた様に全員を促してから、皆に激励の言葉を残して去って行く。

 

 

「そうだ。君達に一つ訂正しておきます。実は…先程、僕が一番強い下忍と言いました。けど、それは違います。本当に一番強いのは僕の連れですよ。彼こそが、一番強い下忍です。無論、すぐに追い越してやるつもりですけどね。サスケ君、そしてナルト君…でしたね。君達にも僕は負けません。試験で当たる時は、本気で行かせてもらうので覚悟しておいて下さい。では…」

 

 

 

 彼は矢継ぎ早に言いたい事を言うと、こちらが口を開く前に姿を消した。だが、サスケは俯いたままリーの言葉に何の反応も示さない。何も言えずにサクラの変わりに、ナルトが彼に話しかけた。

 

「あいつに…負けた事が悔しいんだろ? それは俺も同じだってばよ。けどよ、それは仕方ねえと思うぜ」

「何が言いたい。第一、お前は何も出来なかっただろうが」

「ああ。それは言い訳しねえ。だけど、次は負けねえってばよ。お前だって、気付いたろ? あいつの手。相当、ボロボロだったよな。きっと、すんげえ努力したのが分かる。だったら…俺達も負けず努力してやろうぜ」

 

 

 諭す様に言うナルトへ、サスケはイライラを隠さず噛み付いた。何より、何も出来ずに負けたナルトに言われたのが、余計に苛つかせる。しかし、ナルトは彼の怒りを静かに受け流すと、彼に自分が見て感じた事を口にした。

 

 

 

 それには流石にサスケも言い返す事が出来ない。それでもナルトの言葉は、彼の中にあった揺らぎを消し去るには十分であった。まだ、自分達は弱い。ならば、もっと強くなればいい。三人の中に生まれた決意を胸にして、彼らは三階に向けて、踏みだした。

 

 

 

「よし、いくぞ。ナルト、サクラ」

「おう」

「ええ」

 

 

 サスケの言葉にナルトとサクラは、気合が籠った返事を返す。三人の中忍試験への挑戦は、こうして始まった。

 




今回の話。いかがだったでしょうか。


中忍試験に挑む前から、悩むサクラや自分より強い敵に壁を感じ始めたナルトとサスケ。
それでも上に行くには、前に進むしか無いですよね。


それと連日の暑さ、堪えますよね。それで自分は少しダウンしてました。皆さんも熱中症にはくれぐれもお気を付けて…


また一言でも良いので、感想を残してくれると嬉しいです。


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第十五話 暗雲が漂う第一試験

 ある教室の前でサチとカカシは、此処へ来るだろう三人を待っていた。カカシは壁に寄り掛かって、待つ中。サチは落ち着き無く、ソワソワと教室と廊下に何度も視線を送っている。珍しく緊張した様子の彼女に苦笑いを浮かべ、カカシが話しかけた。

 

 

「なぁ‥サチ。お前が緊張してどうするのよ。試験を受けるのはあの三人であって、お前じゃないんだぞ」

「う…それは分かってるけど、昨日のサクラを見る限り心配なのよ。何処か自信無さそうだったし…」

「気持ちは分かるが、じたばたしても始まらないだろ。少し落ち着きな」

「そうね。それに心配は杞憂だったようだし…」

 

 

 

 カカシに言われて、一呼吸して顔を上げると…見知った姿が三つ。こちらに歩いてくるのが見えた。昨日と変わらず、楽しそうな様子の二人だけでなく。その隣には自信を取り戻したのか、前を見据えるサクラの姿もある。

 

 

 

「よう。全員来たか、これで試験を受けさせる事が出来るな」

「受けさせる? 何か引っかかる言い方だな」

「ええ。此処に来たのが、二人だけだったらその時点で試験は終了よ。だけど、貴方達は三人で来た。中忍試験も任務と同じく、三人一組の班で行うのが決まりだからね」

「成程な。だが、その時は俺達がサクラを誘えば済む話だろう。大した問題では無いな」

 

 

 サチ達の話を聞いて、サスケがそう言葉を返すが…そんな彼に向かって、カカシが口を開く。

 

 

「いや、その場合は三人いても受けさせないよ」

「何でだってばよ。言ってる事がおかしいぞ」

「おかしくはない。昨日、サチも言っただろう。課題によって、大怪我や死に繋がるとな。もし‥サクラがお前らの誘いを受けて、試験に参加してみろ。迷いを抱えたまま戦闘になれば、最悪の事態だって起こりうる。二人はサクラがそうなってもいいのか?」

 

 

 カカシの言葉にサスケは勿論、ナルトも言い返せずに黙った。確かに戦闘となれば、迷いを抱える人は反応が遅れるだろう。それに参加する者達は、先のリーや我愛羅の様な猛者が揃っている。そんな彼らとぶつかれば、サクラは…。

 

 

 虚ろな目で倒れるサクラ。そんな想像をして、二人は揃って嫌な汗を掻く。下手をすれば、自分達がサクラを死なせる事になっていたかもしれない。少し考え足らずだったと、二人は反省していた。

 

 

「そう考えると怖いけど。でも、私は自分の意思で此処にいます。だから、油断もしないし…気も抜かない。サチ先生達が言うような事にはならないわ」

 

 

 当のサクラは、自信あり気にそう呟いた。その言葉には、二人を気遣う為もあるだろうが…何よりも己の決意をサチ達に伝える為でもあった。

 

 

 

「そっか。まあ、今のお前達なら安心して送り出せるよ。この戸の先が第一の試験会場だ。心してかかれよ」

「いってらっしゃい 三人の合格を祈ってる」

「おう」

「ああ」

「うん」

 

 

 二人の激励にナルト達は、力強く頷くと返事を返す。そして…三人は最初の試験へと挑むべく、戸を開けて中に入って行った。

 

 

 

 

 

 

教室に入ったナルト達は、中にいる受験者の多さに圧倒された。彼らは一斉に三人へ視線を向ける。醸し出す雰囲気や目つきからして、どう見ても好意的な感じでは無い。恐らく、最後にやってきたナルト達を試験官と思ったのだろう。しかし、予想が外れて肩透かしを食らった事が、気に入らないのか。その視線に僅かだが、殺気も混じっている。

 

 

 その視線から逃げる様に隅へ移動すると、三人に気付いた一人の少女が駆け寄って来て…いきなりサスケに抱き付いた。

 

 

「サースケ君。やーっと、来たんだぁ。久々に見たけど、やっぱりカッコいいわねぇ」

「あーー このいのぶた。サスケ君に何してんのよ!? 今すぐに離れなさい」

「誰かと思ったら、サクラじゃない。以前よりも、デコが広くなってなーい?」

「何ですってぇぇぇっ!!」

 

 

 サスケに抱き付いた少女 山中いの。彼女はこれでもかと思う程、体を密着させる。背中越しに感じる胸の感触に、流石のサスケも照れた様子で黙っている。そんな姿をいのは、楽しそうに見つめていた。実の所、彼女も恥ずかしいと思っていたが…それには理由がある。

 

 

 それは同期であり、親友でもあるサクラを焚き付ける為だ。案の定、サクラは自分の挑発に乗って来た。久しぶりに会う彼女は、卒業前と変わらない。だが、この試験に参加しているという事は、それなりの力を付けて来たのだろう。アカデミー時代では、切磋琢磨していたサクラと戦える事を、何よりも楽しみにしていた。

 

 

 いのがサクラを揶揄っていると、三人の傍に二人の少年が寄って来た。彼らは奈良シカマルに秋道チョウジ。いのと同じく同期である二人にナルトが話しかける。いのがいるのだから、二人がいるのは当然だ。

 

 

 

「おい こんな所で何やってんだよ。ったく、面倒くせぇ」

「まぁまぁ、シカマル。久しぶりに会うんだから、今はそれを言うのやめなよ」

「シカマルにチョウジじゃんか。お前らも中忍試験に参加してたんだな」

「ああ。俺としては、遠慮したかったんだけどよ。アスマの奴が、どうしてもやれって言うからな」

「うん。僕も似たような理由だよ」

「へー そうなのか。そんじゃ、お前らと戦う事もあるかもな。そん時は手加減しねえぞ」

「けっ、いくら俺でもお前には、負けねえよ」

「僕もだよ。まあ、なるべくなら戦いたくは無いけどね」

 

 

 久しぶりに会ったシカマルとチョウジ。ナルトはこの二人にも宣戦布告をすると、二人も負けじと言葉を返してくる。普段、やる気が無いシカマルや争いを好まないチョウジだが…彼らもまた成長した自分を試す機会を待っていた。ましてや、その相手となるナルトから言われたのでは、引く事など微塵も考える訳が無い。

 

 

 

「ひゃっほうっ!! 皆さん、お揃いの様だなぁ」

「こ、こんにちは」

「…久しぶりだな。此処で会えるとは‥驚いている」

「相変わらず、うるさい奴だな。しかし、卒業した同期が全員揃うとは…何とも不思議な事もあるもんだ」

 

 

 

 同期の六人が揃っている場所へ、高い声で話しかけて来る者がいた。その者はパーカーを着て、頭に犬を乗せた少年 犬塚キバである。彼の後ろには、同じ班の二人もいる。一人はショートヘアの気が弱そうな少女 日向ヒナタ。もう一人はサングラスをかけた無表情の少年 油女シノである。

 

 

 この三人もまたナルト達の同期で、サスケが言う様に全員が揃った事になる。思わぬ遭遇に周りを気にせず、騒ぐ彼らの元に眼鏡をかけた青年が歩み寄ってきた。

 

 

 

「おい 君達…。少しは静かにしないか。此処は子供の遊び場では無いんだよ」

「はぁ!? あんた誰よ? いきなり、人を子供扱いってかなり失礼じゃないの?」

「同感だな。見た所、先輩の様だが…名乗りもしない奴にどうこう言われる筋合いはねえよ」

「やれやれ。僕は君達を助けたというのに…随分と酷い事を言うんだなぁ」

「助けただと? 一体、何を言っている?」

「気付かないかい? なら、自分達の周りを見てみなよ。そうすれば、分かるさ」

 

 

 突然、声をかけて来た青年に、シカマルといのが反発する様に言葉を返す。どうやら、二人は上から目線で言われたと感じたのか。目上である彼に容赦なく噛み付いた。だが、青年はそれを受け流し、自分がナルト達を助けたと口にする。その言葉に反応して、今度はサスケが尋ねると青年は、教室の一角を指をさし‥そちらを見る様に言った。

 

 

 その方に何があるのか?と気になった全員が視線をやると…そこには、まるで親の仇であるかの様に睨みつける集団がいた。考えてみれば、此処は試験の会場だ。来たる課題に向けて、集中をしたい連中が騒いでる自分達に苛立ちを覚えるのは仕方ない事だろう。

 

 

 青年のおかげで自分達の置かれた状況を理解して、彼らは漸く静かになった。そして、噛み付いたシカマルといのは申し訳なさそうな顔で、青年に謝った。

 

 

 

「分かっただろ。あのままだったら、今頃はあいつらにやられてたよ。何せ、雨隠れの忍は気が短いからね」

「ふーん。所で兄ちゃんってば、誰なんだ?」

「ああ。僕は薬師カブト。それにしても…君達を見ると、昔の自分を思い出すよ。初めての頃は、全く同じ感じだったからね」

「それじゃあ、カブトさんは…試験を受けるの二回目なんですか?」

「いや、所がどっこい。今回で七回目だよ」

「フン。偉そうに人へ忠告する割には、大した事は無いんだな」

 

 カブトはナルト達に自己紹介した後、彼らを見てそう言った。それに続いて試験は二度目か?と質問するサクラに対し、カブトは試験を受けるのは七度目だと告げる。彼の言葉を聞くや、サスケが挑発する。

 

 

「…それだけこの中忍試験は、難関と言う事だよ。第一、君もそれは理解してる筈だろ。あれだけ…無様に負けたのだから」

「ッ…。お前…」

 

 

 カブトの言葉に、サスケは悔しそうに唇を噛む。あの事を知っている口ぶりに…彼はそれ以上、何も言えなかった。だが、此処で違和感に気付く。この男…妙に詳しい情報を持っている。思えば、先程も自分達を睨んでいた奴らの所属、それを言い当てた時。彼はそちらを見てはいなかった。元々、知っていたのかもしれないが…どうにも違和感が拭えない。

 

 

 悩むだけ無駄だ。此処はいっそ、聞くのがてっとり早いと思ったサスケは、カブトに尋ねた。

 

 

「一つ聞きたい。あんた、もしかして他の奴らの情報も持っているのか?」

「うん やっぱり、気付いたか。勿論、あるよ。誰か気になる奴がいるのかい?」

「ああ。木ノ葉のロック・リー、それと砂漠の我愛羅。この二人だ」

「いいよ。教えてあげよう。名前も知っているなら、早いからね」

 

 

 

 サスケの頼みを快く引き受けたカブトは、懐から忍と書かれた札を取り出した。一連の流れを黙って見ていた他の者達も、興味を抱いて近くに寄ってくる。何やら面白そうな事が起きそうだと、ナルトがカブトに話しかける。

 

 

「これって、何だってばよ。見ると真っ白だけど?」

「これは忍識札と言ってね。自分が調べた忍達の情報が、記録されている。自里は勿論、他里の忍までね」

「へえ。それって、私達の事やカカシ先生達の事も記録してるの?」

「そうだよ。中忍試験で一番必要で役に立つのが、情報だ。相手の力量が分かれば、戦いに生かす事も出来るからね」

 

 

 

 カブトの説明に一同は、感心した様に耳を傾ける。確かに知ってると知らないでは、大きく違うのは明白だ。

 

 

「おっと、見つかったよ。まずは…木ノ葉のロック・りー。彼はマイト・ガイ率いる班の忍だ。連れは日向ネジとテンテンという名の忍がいる。彼は忍術の才は無いが、それに変わって体術の才がある。まあ、蒼き猛獣と言われるマイト・ガイが師に持つ彼は強いと断言しよう。そして、次の砂漠の我愛羅。彼は他里の忍だから、思ったより情報が少ない。だが、知った情報は驚く事ばかりだ。何せ、下忍でありながら彼が挑んだ初任務はBランク。それ以外は主にCランクの任務だよ。どっちにしても、只者じゃない」

 

 

 カブトから持たされた情報に、一同は無言になる。Bランクの任務は本来、下忍が受けるものではない。それだけでも驚く内容だ。しかも初の任務がBランクという事実に、彼らは尚の事…驚いていた。

 

 

 そんな中、サスケは拳を固く握りしめて、体を震わせる。それは別に恐怖からではない。寧ろ、喜びから来る感情からだ。やはり、あいつは只者じゃ無かった。何が何でも奴と戦い、そして絶対勝ってやる。心の底でその決意を固めた。

 

 

 

 

「まあ、他には草隠れ、滝隠れ、雨隠れ、砂隠れの忍。あとは…最近出来た音隠れなんてのもあるよ」

「他国の忍も結構、来てるんだなぁ」

「そうよ。だから、あんたも余り目立つ事は…」

「おーい よく聞け、俺の名はうずまきナルトだぁ!! 俺はてめぇらにも負けねえぞ。俺と戦う時は覚悟しろってばよ」

 

 

 

 他国から大勢の忍が来てる事を知ったサクラは、ナルトが騒動を起こす前に釘を刺そうとするが…既に手遅れで彼は教室内にいる受験者達に、堂々と啖呵を切って見せた。そんなナルトを一部は面白そうに見つめる中、一部の者は険しい顔でナルトを見つめている。

 

 

 

 

「あのガキ、どうする?」

「そうだね。あの子供は、少し粋がってる様だし…教える必要がある様だ。音隠れの忍がどれ程、恐ろしいかをね」

 

 

 

 音隠れの三人組、その内の二人が行動を起こした。教室内にいる受験者の間をすり抜け、まずは一人の音忍が宙に飛ぶや、くないをナルト目掛けて投げ付ける。それに一早く気付いたカブトが、ナルトの腕を引いた事で当たらずに済み、事無きを得たと思った瞬間。もう一人の音忍がカブトの目前に、姿を現すと奇襲を仕掛けて来た。

 

 

「くっ…。いきなり攻撃するとは、物騒な連中だな」

 

 

 咄嗟に相手の奇襲を躱したと思った矢先、彼の眼鏡が突然、ひび割れた。その事にカブトもナルト達も目を見開いて驚いた。確かにカブトは、相手の攻撃を見切って避けた筈。恐らく、音忍の攻撃が僅かに掠めていたのだろう。一同がそう思った時だった。

 

 

「ぐっ!? う、うええっ!!」

「な、大丈夫かよ。カブトの兄ちゃん」

「一体、どうしたのよ?」

「ああ。大丈夫だよ」

「おやおや。七回も試験を受けてる癖に、この程度で終わりかい? 何ともあっけないものだね」

 

 いきなり苦しみ出したカブトは、蹲って嘔吐した。そんな彼にナルトとサクラが駆け寄り、心配して声をかけると本人は、顔を歪めながらも問題無いと返事を返した。一方、その張本人である音の忍二人は、カブトを見下した様に言葉を投げつける。

 

 

 

 自分が仕掛けた癖に、勝手な事を言う相手にナルトが言い返そうとした時。教室の中に大きな煙が巻き起こり、その中から大勢の試験官達が姿を現した

 

 

「…おい、静かにしやがれ!! それと音隠れと木ノ葉のてめえらもだ。試験前に好き勝手してんじゃねえぞ」

 

 

 突然の事に騒然とする受験者達に向かって、先頭の男が一喝して黙らせた後。今度は揉め事を起こしている者達にも、彼は怒声を浴びせた。その迫力に、ナルト達や音忍も息を飲んで黙り込む。唯一、一人だけが怖気づく事なく、その男に言葉をかける。

 

 

 

「いやぁ、すみませんね。僕達も…初めての試験だから、つい興奮しちゃったみたいです」

「フン、そうは見えねえがな。まあいい…俺は森乃イビキ。第一試験の試験官だ。この機会に言っておくが、試験とは別に私闘は禁止だ。勿論、課題においても同様だ。許可が下りたとしても、相手を死に至らしめる行為も禁止とする」

「へっ、随分と甘い事を言いやがる」

 

 

 飄々とした態度の音忍に、イビキは肩をすくめると気を取り直して、試験の決まりについて話を始めた。その内容を聞いた別の音忍が、馬鹿にした様に吐き捨てる。

 

 

「何だぁ‥? 試験のルールが気に入らねえなら、帰ってもいいんだぞ。他の奴もそうだ。今から行う、第一試験では俺がルールだ。逆らうってなら、容赦なく叩き出すから覚悟しておけ」

「けっ、偉そうにしやがって…」

 

 

 

 イビキの言葉が脅しで無い事に気付き、その音忍は小声で悪態をついて引き下がる。そして受験者達が席に着いたのを見て、イビキは第一試験の説明を始めた。

 

 

「全員、準備が出来た様だな。なら、只今より第一の試験を開始する。今回の課題は…筆記試験だ」

 

 

 

 イビキの言葉に受験者達の間にどよめきが起こる。難関の試験がどんなものか、身構えていた彼らは拍子抜けした様子であった。しかし、当然ながらこれが只の筆記ではない。

 

 

 

「筆記用紙は行き渡ったな? だが、まだ裏返しにしておけ。まずは…筆記についてだが、いくつかルールがある。一つ目、全員に与えられた点数は一人につき10点。つまり、チームで30点ずつある訳だ。減点は問題を間違える度、1点減る。単純な話、10回間違えたら終わりだ。二つ目、この筆記はチーム戦だ。これは最初の説明で察しは付いているだろう。三人の合計点が多いチームが残るという事。最後、三つ目は妙な行動。要はカンニングだが…これをした者は、2点の減点とする。無論、一人でも持ち点が無くなればチーム全員を失格だ。精々、無様な真似をして失格にならない事だな」

 

 

 イビキの話が進むにつれて、殆どの受験者は顔を強張らせる。先程、イビキが言った様に仲間がカンニングをして点を失えば、自分も失格となる。このルールによって、受験者達は仲間に対して不信感を抱いていた。

 

 

 あいつは大丈夫だろうか?教室内に漂う空気を感じて、イビキはニヤリとほくそ笑む。自分が仕掛けた罠で彼らは疑心暗鬼になっている。それに囚われず、冷静に対処する事が試験を突破する鍵である。この事実に一体、何人が気付くのか。彼は楽しそうに教室内を見渡していた。

 

 

 

 そんな中、ナルトは頭を抱えて項垂れていた。まさか、第一の試験が自分の苦手な筆記とは…予想もしていなかった。はっきり言って、彼はこの試験を突破する自信が無かった。元々、勉強をさぼっていた事もあって、忍に関する掟や心得等。ナルトは何一つ、覚えていない。

 

 

 そのナルトを偶然にも、隣になったヒナタが心配そうに見つめていた。普段と違って、全く余裕が感じられない彼の姿に、ヒナタは何も言えずにいる。すると、顔を上げた拍子に自分の存在に気付いたナルトが、声をかけて来た。

 

 

「ん?お前ってば、ヒナタじゃんか。何だ、俺と隣の席になったんだな」

「う、うん。凄い偶然だよね。ナルト君…その、さっきからソワソワしてるけど、もしかして自信無い‥とかかな?」

「ば、馬鹿言ってんじゃねえぞ。これは…そう、武者震いだってばよ。逆にお前はどうなんだってばよ?」

「そうなんだ。私は、もうドキドキして大変だよ。お互い、試験頑張ろうね。

 

 その言葉にナルトはドキリとして、跳ね上がる。余りにも確信を突いた一言に、彼は焦りを感じながらも言葉を返す。普通なら嘘だと分かる事だが、ナルトに対して密かに好意を寄せている彼女は、それに気付かず素直に信じた。そして激励の言葉をかけて、ヒナタは前を向いた。

 

 

「よし それでは試験開始だ。各自、心して掛かる様に」

 

 

 ナルトも釣られて前を向いた瞬間。教壇に立つイビキが試験開始の号令を出す。自分が覚悟を決める前に、始まってしまった試験にナルトは…机に突っ伏してしまう。その光景をサスケとサクラも見ており、二人もまた焦りの表情を浮かべていた。

 

 

 

 早くも暗雲が立ち込める中、第一の試験は始まった。

 




今回のお話、いかがだったでしょうか?


中忍となる最初の試験が、筆記だとは誰も想像しませんよね。
もっと実技的なものかとおもっている受験者にとっても、それは同じでしょう。

開始前に啖呵を切っておきながら、始まった途端に項垂れる。
ナルトが見せた、この落差がある仕草が結構好きです。

暑さが和らいだと思ったら、迫る台風。皆さんもお気を付けて下さい。


また一言でも良いので、感想の方もお待ちしています。



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第十六話 命よりも重いもの

 第一試験が始まった頃、ナルト達の担当上忍は待機所にいた。時計を見て、アスマがぽつりと呟く。

 

「あいつら、今頃は…試験に挑戦してる頃か…」

「何だ? お前が緊張するなんて、珍しいね」

「ああ。そりゃ、自分の教え子が中忍試験に参加するんだ。当然だろうよ」

「逆に二人は、平然としてるね。いつも通りの事だけどさ」

 

 

 普段と違って、緊張した様子のアスマが珍しいとカカシは、彼に話しかける。何処となく茶化す様な、カカシにアスマは一転して、呆れた顔で言葉を返した。自分が手塩を掛けて、育てた教え子達が難関の試練に挑むのだ。課題次第では‥忍として終わる所か、命を落としてしまう事だってある。無論、彼らがそう簡単にやられる事は無いだろう。

 

 

 それでも不安の気持ちは消える事はない。思えば、かつて自分を中忍試験に送り出した教官も、こんな思いをしていたのかもしれない。背中を押される側から押す側になって、初めて分かる事。どうやら‥自分もあの子達と一緒に成長していたのだ。大人になっても日々勉強だと、子供の頃にヒルゼンが言っていた意味も此処に来て、彼は理解した。

 

 

 それとは別にサチ達は、紅が言っていた様に平然としている。二人の場合、特に苦労する事なく…試験を突破したのは知っている。しかし、それでも中忍試験が危険な事に変わりはない。それなのに何故、サチ達は平然としていらるのか? それが腑に落ちないアスマが、思い切って尋ねた。

 

 

「なぁ、さっきも言ったがよ。どうして…お前らは平然としてるんだ?」

「いや、別に平然とはしてないよ。俺も心配はしている。だが、それ以上にあいつらを信じてるのさ」

「ええ。だからこそ、あの子達を推薦したのよ。例え、どんな結果になったとしても…ね」

 

 

 二人の言葉にアスマと紅は…何も返さなかった。いや、返せなかった。確かに自分達も教え子を中忍試験に送り出したのは、困難にぶち当たっても乗り越えてくれる。そう、信じていたからだ。

 

 

 

 

 

「そうだ。気になってたけど、最初の試験、これを担当するのは…誰なんだ?」

 

 

 部屋に漂い始めた空気を変えるべく、カカシが別の話題を振った。それを渡りに船と食い付いたアスマが、何処か楽しそうに話し始める。

 

 

「そっか。三人は知らなかったよな。今回の第一試験を担当。驚く事にあの森乃イビキなんだよ」

「…よりに寄って、あいつか。これは最初の試験すら、危ういかもなぁ」

「うん。信じてはいるけど…彼が試験官だとねえ」

「何よ。そいつがどうかしたの?」

 

 

 アスマが告げた名前に覚えがある二人は、顔を顰める。まさか、此処でその名を聞くとは思っていなかった。そんなサチ達の様子が気になった紅が、自分にも教えろとアスマに詰め寄った。

 

 

「…あいつは表に出ねぇから知らない奴も多いよな。実は…」

 

 

 煙草を吹かした後、アスマは紅に話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、試験会場では受験者達は筆記の問題に頭を抱えていた。

 何故なら、その問題は複雑な暗号の解読や複雑な数式等。大凡、解けそうにない問題が殆どであった。そして…最後の10問目。この問題が何よりも受験者達を困惑させていた。

 

 

 だが、全ての受験者が解けない訳では無く、中にはすらすらと問題を解いている者達の姿もあった。その内の一人が驚く事にサクラであった。元より勤勉な彼女は、多様な知識を吸収して蓄えていた。だからこそ、答案用紙の問題が異常である事もすぐに分かった。

 

 

 それぞれ専門の道を選ばないと、解く事が出来ない問題。答えを知るには、他者の答案を見ない限りは…。そこでサクラは気付いた。そうだ、カンニングをすれば解けない者も答えが分かる。初めからこの試験は、カンニングする事が前提となっており、受験者の情報収集能力を見る為のものだろう。

 

 

 ふと顔を上げると、前にいたサスケが目に入る。彼もまた自分と同じ結論に辿り着いたのか。密かに写輪眼を発動させて、周りを見渡していた。それで他の受験者の動きを読み取り、そこから答えを割り出していく。その行動から、試験に隠された意味を理解した様だ。

 

 

 

「サスケ君は…大丈夫そうね。問題は、ナルトか。あいつ、開始してから何もしてないわね。けど、このままなら点は減らない。いっそ、何もしないでよ」

 

 

 

 小さい声でサクラは呟いた。解けないならば、何も無理をする事はない。個人での試験なら致命的な問題ではあるが、これはチーム戦だ。私とサスケ君で点を維持しつつ、ナルトが大人しくしていれば、試験は突破する事が出来る。僅かに見えた希望にサクラの心は軽くなり、余裕が出てきた時。不意に監視官が動きを見せる。

 

 

「おい、そこの23番。これで五回目、お前は失格だ。連れの奴と一緒に出て行け」

 

 

 左側で監視していた忍が、彼の机にクナイを投げ付けるとそう言った。彼は立ち上がり、反論しようとするも。監視官の睨みで何も言えなくなり、三人揃って教室を出て行った。思わぬ出来事に、教室内は重い空気に包まれる。

 

 

 

 下手なカンニングをした者が辿る末路を見せられて、皆は一層の事、顔を険しくする。だが、それでも答えを知る手段は一つしかない。あとは如何に気付かれない様、行動を起こすかだ。

 

 

 

 

「…視覚が繋がったか。第三の目、開眼!!」

 

 

 砂漠の我愛羅は、砂を散らばせて自身の視覚へと繋げる。すると彼の掌に砂の目玉を作り出し、それを握り潰した。この術で彼が目を付けた受験者の元に砂を送ると、相手の答案を覗き見ると用紙に答えを記入していく。実に淡々とした、その行動にイビキは感心していた。周りの雰囲気に飲まれる事もなく、己がやるべき事をやる。それが何とも忍らしいと彼は思っていた。

 

 

 

 他の受験者もそれぞれの知恵や能力を利用して、答えを得ていく。中には堂々とトイレに行きたいと、申し出る豪胆な者までいた。しかしナルトだけは、未だに頭を抱える。隣に座るヒナタは、何度か視線をやった後。意を決してナルトに声をかける。

 

 

「ねえ…ナルト君。これを見て、私の答案を写させてあげる」

「え? 一体、どういう事だってばよ。何か企んでるのか?」

「別に…何も企んでないよ。私は…出来るならナルト君に残って欲しいから」

 

 

 頬を染めながら、そう告げるヒナタをナルトは静かに見つめていた。自分の答えを写させてくれる。その申し出はナルトにとっては、何よりも救いである。誘惑に負けて、ナルトが答えを写そうとした時。端にいる監視官の視線を彼は感じた。視線を感じる方を向けば、監視官が手に持つボードに何かを書いていた。それが何なのか分からないが、ナルトを我に返すには十分効果があったようだ。

 

 

 最初、それを見てヒナタは自分を嵌めようとしているのでは? そんな疑心が生まれたが、ヒナタの言葉がそれを掻き消す。余り話した事は無いが、ヒナタは誰かを騙す様な人でない。それだけは分かっている。正直な所、彼女の助けを借りて試験を突破しても意味が無い。絶望的な状況でも自分の力で突破してやる。

 

 

 

 諦めかけていた彼の心に、ふつふつと闘志が漲って来るのを感じていた。

 

 

 

「悪りぃヒナタ。お前の気持ちは嬉しいけど、此処は俺の力で乗り切ってやるってばよ。それに…答えを見せたらお前にも迷惑が掛かるだろ。それこそ、俺だって嫌だからな。心配しなくたって、俺はこんな所で終わりやしねえよ」

「…そうだね。確かに‥自分の力で乗り越えないと駄目だよね。ごめんね、余計な事しちゃって」

「なーに。別に謝る必要はねえってばよ。お前もこんな所で消えたりすんなよ」

 

 

 ナルトはヒナタの顔を真っ直ぐ見つめ、そう口にした。彼の決意を聞いたヒナタも柔らかく微笑むと、その想いを受け入れて、自分の軽率な行動を謝った。ナルトも首を横に振り、気にするなと返事を返して終わった。

 

 

 自分の行動に嘘はない。しかし、心の奥底では少しばかり後悔もしていた。

 

 

 

 

 

 結局、ナルトは1問も解く事が出来ず、時間だけが過ぎていく。そんな彼が唯一、期待をしていたのが最後の問題であった。そこには開始から45分後に出題をすると、そう記載されていた。そして…遂にその時間がやってくる。

 

 

 

「…全員、注目!! これより、最後の10問目を出題する」

 

 

 突如、大声を上げたイビキに受験者達は吃驚して顔を上げた。自分に集まる視線をものともせず、イビキは最後の問題についての説明を始めようとした時。教室の戸が開き、トイレに行っていた受験者のカンクロウが戻ってきた。

 

 

 

「すんません。遅くなりました」

「ふん。丁度よく戻って来たな。運が良い奴だ。くだらん人形遊びは楽しかったかな? おら、ぼさっとしてねえで早く席につけ」

「わ、分かりました」

 

 

 イビキの言葉に従って、カンクロウは素直に席に付く。まさか、自分が傀儡を使っていた事を見抜かれていたとは‥思っていなかった。冷静になって、周りを見ると他の試験官もニヤニヤと笑ってこちらを見ている。どうやら、初めから気付いていたが‥敢えて見逃したのだとカンクロウは漸く理解した。

 

 彼らがどうして自分の行動を見逃したのかは、分からない。だが、失格にならないのであれば、別段気にする必要はない。席に戻る途中、自分が傀儡を利用して得た答案を、無事にテマリへ渡して彼はホッと一息を吐く。

 

 

 

「では、改めて説明しよう。最後の問題…これは二択の問題でもある。まずは君達に受けるか、受けないかを選んで貰うとしよう」

「何だって!? もし‥選ばなかったら、どうなるんだい?」

「受けない事を選んだ場合、その時点で持ち点は0になって失格だ。勿論、連れの奴らもだ」

 

 

 イビキの言葉が気になって、テマリが手を上げて質問をする。その問いに彼は嫌な笑みを浮かべて、そう答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「拷問と尋問のプロ!? あのイビキがそうだって言うの?」

 

 

 場所は変わって、待機所では‥紅はアスマから聞いた話に驚愕する。それも当然でだろう。もし彼の話通りなら、イビキは裏側の人間だ。そんな人物が表に出てくる事自体、無いからである。

 

 

「ま、驚くのは無理もねえか。あいつとは、余り接点が無いだろうしなぁ」

「そうね。余程の事が無いと、会わないもの」

「何よ。サチ、あんたはイビキに会った事があるの?」

 

 

 その様子から、サチはイビキを知っている様だ。それとなく、紅が聞いてみた。

 

 

「ええ。以前、里抜けした忍を捕える任務で一緒になった事があるのよ。その後、捕まえた忍の拷問に立ち合う事になってね。何というか、彼の拷問は…まあ、見事としか言えなかったわね」

 

 

 話ながら、当時の事を思い出したサチはそう呟くが、その言葉に紅や他の二人も顔を顰める。

 

 

「おいおい。まさかとは思うが、お前も実は拷問好き…何てことはねえだろうな?」

「だとしたら、俺はお前との付き合いを考えるよ。割と本気でね」

「私も二人と同感ね。こればかりは、受け入れられないわ」

「ちょっと待ってよ。そんな訳ないでしょうが…。只、イビキの拷問は相手を苦しめるだけの物とは違うのよ。責め苦を与えると同時に相手に優しい言葉をかけて、情報を引き出す手腕が凄いって事を言いたいだけよ」

 

 

 自分の言葉にドン引きする三人へ、サチは必死になって弁明する。無論、彼らも本気ではない。ただ単に彼女を揶揄って遊んでいただけだ。それに気付いて、少し不貞腐れるサチに謝った後、四人はまた談笑を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、受験者達はイビキの精神責めによって。心が押し潰されそうになっていた。最後の問題、これを受けない選択をすれば‥その時点で失格。ならば、彼らが選ぶ答えは既に決まっている。

 

 

「何だよ、そりゃ!! 受けないを選べば失格なら、当然受けるに決まってるだろ」

「まあ…悩むまでもないだろうな。だが、これにはもう一つのルールがあるんだ」

「な、何だと‥此処に来て、更に追加ルールだって…」

「ああ。受けるを選んで正解出来なかった場合。その者は今後、永久に中忍試験への参加資格を剥奪する。つまり、下手をすればお前らは…死ぬまで下忍として一生を過ごす事という訳だ」

 

 

 

 その言葉に…誰もが呆然とする。イビキが出した二つの選択肢。これはどちらを選んだとしても、自分達が地獄を見る羽目になる。当然、これに納得しない者もいた。その一人であるキバが席を立ち、イビキに食ってかかる。

 

 

 

「ふざけんじゃねえよ。こんな理不尽なルールがあってたまるかぁ!! 第一、此処にいる奴らだって、何度か中忍試験を経験してるんだぜ。どうして…今回に限ってこんな事をするんだよ」

「そりゃ、お前らの運が悪かったな。だが、理不尽とは酷い言い草じゃねえか。こちとら、ちゃんと引き返す道を与えてやってるだろうに…」

 

 

 

 そう言い返す、イビキにキバは無言になる。彼の言う通り、受けないを選べば失格になるが、中忍試験の参加資格を奪われる事は無い。だが、そうすれば自分以外の二人も失格になってしまう。他者を巻き込んで、難を逃れるか。或いは覚悟を決めて最終問題に挑むか。多くの者が悩む中、受験者の一人がそっと手を上げた。

 

 

「俺は…受けない。今回は諦める」

「いいだろう。自信が無いなら、懸命な判断だ。他に受けない奴はいるか? もし‥いるのなら手を上げて宣言しろ。その後、番号札を置いてすぐに立ち去れ」

 

 

 

 一人の受験者が苦渋に満ちた表情で、受けない選択を選んだ。その者をイビキは責める事はせす、寧ろ優しく慰める様に言葉をかけた後、イビキは受験者に呼び掛ける。すると、先程の受験者に続いて一人、また一人と手を上げて試験を諦める者達が続出していた。

 

 

 

 教室内で起こる光景を目の辺りにし、サクラは険しい顔でナルトを見つめる。彼女自身、最後の問題を受けるつもりだ。それは正解する自信がある故の選択であるが、ナルトはまた別だ。彼が受ける選択をして、正解出来なかったら…。サクラは嫌な想像が脳裏に過って、体を震わせる。

 

 

 彼女は内心、ナルトに残って欲しいが…手を上げてと声なき叫びを上げていた。その選択をすれば、サスケくんやカカシ先生達は情けないと、失笑するかもしれない。だけど…この選択が齎すものはナルトの夢を壊すのと同じだ。それに何かと真っ直ぐと己の忍道を進む彼は、手を上げる事などしないだろう。

 

 

 だからこそ、サクラは決意した。一途に夢を目指して直走るナルトを、こんな所で終わらせはしない。例え、自分が悪者になってもいい。彼女はゆっくりと手を上げ始めた時、目に映ったものにサクラは、思わず固まった。

 

 

 何とナルトが高く、手を上げていたのだ。その光景にサスケとサクラも驚きを隠せない。あの負けず嫌いな彼が、まさか自分から負けを宣言する等、到底考えられなかった。だが、この後‥ナルトは更に予想外の行動を起こす。

 

 

 

「…なめんじゃねえぞ!! 俺はぜってぇ逃げたりしねえ。例え、一生下忍で過ごす事になっても…意地でも俺は火影になってやるってばよ。こんな問題、何も怖くねえ」

「いいのか? お前の人生を賭けた選択だぞ。今なら‥聞かなかった事にしてもいい」

「まっすぐ言葉は曲げねえよ。それが俺の忍道だ!!」

 

 

 手を上げたかと思いきや、その手を机に叩き付けてナルトは、イビキに面と向かってそう言った。この啖呵を聞いていた同じ班の二人も、安心した様に僅かに笑みを溢す。やはり彼はこうでないと、調子が狂う。

 

 

 

 またイビキもナルトの言葉に、内心では称賛していた。彼の宣言を聞いて、迷いや恐れを抱いていた者達も決意を固めた様だ。周りの雰囲気を一瞬にして、変えた不思議な少年。彼は他の者とは、何処か違う。それが何なのかは自分でも分からないが、この少年は大きくなる。只、それだけは確信していた。

 

 

 

 教室内を見渡し、もう辞退する者がいないと判断したイビキは…静かに口を開いた。

 

 

 

「その様子だと、お前達も覚悟を決めたみたいだな。よろしい、ならば‥今此処にいる全員に第一試験合格を言い渡す」

「い、一体どういう事ですか? いきなり合格だなんて…それに10問目はまだですよね?」

「ああ。そんな物は初めからないよ。言わば、さっきの二択が10問目の問題さ」

 

 

 唐突な合格宣言。その言葉に受験者全員が狐に化かされた様な顔になる。それもそうだろう、出題される問題に向けて覚悟を決めた矢先に、これなのだ。一早く、我に返ったサクラが質問をする。彼女の問いにイビキはニコリと笑って、そんな物は無いと答えた。その事に全員は余計に混乱した様だ。

 

 

 

「…今回の第一試験。これは君達も気付いているだろうが、目的は受験者の情報収集能力を測る事だよ。皆が行ってきた任務は三人一組。だが、一人がヘマをすれば全員の足を引張る事は言うまでもない。それを筆記にも取り入れた訳だ。案の定、皆は大きなプレッシャーを感じた事だろう」

 

 

 この場にいる誰もが、彼の言葉を否定しない。確かにイビキが言う通り、自分達はプレッシャーを感じていたのは事実だ。一呼吸おいて、イビキは話を続けた。

 

 

「しかし、このテストは下忍では解く事は難しい。まあ、例外もいたようだが…他の者が点を取る手段は、カンニングと決まっているからな。だから予め、答えを知る者を教室内に紛れ込ませていたんだよ。あとは如何に答えという情報を盗むか。君達の力量を見ていたんだ。その中で無様にカンニングする奴らを篩いに掛けてな」

 

 

 すると彼は突然、被っていた頭巾を脱ぎ始める。今度は何をするつもりだ?訝し気に見つめる受験者達は頭巾の下から、現われた物に目を疑った。そこには釘で開けられた穴や切り傷、更には火傷など。多くの傷跡が見受けられた。それには堪らず、皆は息を飲む。明らかに拷問をされて出来たのは、一目瞭然であった。

 

 

「情報というのは、時に命より重たい物だ。戦場では特に重要となる。だが、敵や他者に気付かれた情報は何の価値もない」

「だとしたら、最後の問題で出した二択は全くの無駄じゃないか」

 

 

 それを晒しながら、イビキは受験者達に言い聞かせる様に告げる。しかし、この話でも納得しない者がいるようで、仕方無いと彼はより分りやすく教える事にした。

 

 

 

「…そうだな。仮に君達が中忍だったとしよう。その際、ある任務を君達は受ける事になる。それは秘密文書の奪取。しかし、敵方の情報は一切無い。相手がどんな忍なのか? その数や罠の有無すら不明。さあ、この任務を君達はどうする? 仲間が傷付くのが嫌だから、或いは己の命が惜しいと受けるか受けないを決められるか? 答えは否だ。どんな危険だろうと、決して逃げる事が出来ない任務もある。そんな時、求められるのが自ら、前に進んで仲間に勇気を示す事。これが中忍に求められる何よりも大事なものだ」

 

 

 

 だからこそ、最終問題を受けずに立ち去った者は中忍となる資格が無い。彼はそう豪語する。

 

「そして君達は、この難題を見事に突破した。次の試験も君達の前に大きい壁として立ちはだかるだろう。だが、それでも俺は乗り越えて先に行くと信じている。これにて、第一の試験は終了だ。皆の武運を祈っているぞ」

 

 

 イビキが試験終了を宣言したその時、いきなりガラス窓を破って何者かが飛び込んで来た。それは髪を後ろに結んだ女性であり、受験者達を見据えると彼女は声高々に叫ぶ。

 

 

「さあ次は私の番だよ。あんた達ぃ、次行くわよ!!」

 

 

 第一の試験突破の余韻に浸る暇もなく、次の課題が始まろうとしていた。




今回のお話、いかがだったでしょうか?


厳しい二択を迫られる極限の中で、出した答えが人生を左右する。
そう問われたら、迷って逃げるのも無理無い。だけど…逃げずに立ち向かったナルトは、本当に凄いですね。


台風が過ぎて、また暑い日も続く様ですから皆さんも体調に気を付けて下さい。

それと一言でもいいので感想を残してくれると嬉しいです。
また、お気に入りや評価の方もお待ちしてます。


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第一七話 極限のサバイバル

「ほらぁ 何をぼんやりしてんのよ。もしかして…次の試験にビビってる訳じゃないわよね?」

「空気読め。お前の行動に皆、飽きれてるんだよ。まずは名を名乗れ。啖呵を切るのはそれからだろうが…」

「う、分かってるわよ。あたしの名前はみたらしアンコ。さっきも言ったけど、次の第二試験の教官よ。それにしても、78名も残るとはね。イビキ、あんたにしちゃ少し甘いんじゃないの?」

 

 派手に登場した女性 みたらしアンコは、威勢よく啖呵を切るが…イビキのツッコミで大人しくなった。アンコが受験者の方へ視線をやると、皆一様に呆れた顔している。彼女は気を取り直し、誤魔化す様に咳払いを一つしてから自らの名を大声で言った。そして、今度はイビキに向き直ると、アンコは残った受験者達の数に不満を洩らす。

 

 

 

「そうでもないさ。俺はとことんやったが、残ったのはそれだけ優秀な証拠だよ」

「フーン まあいいわ。どのみち、次の試験で半分以下になるだろうし…さて、そろそろ試験会場へ移動するわよ。全員、ついてらっしゃい」

 

 

 

 訳を説明するイビキへアンコは、ぶっきらぼうに言葉を返した。そんな彼女にイビキは、肩をすくめる。アンコがこうなのは元からで特別上忍同士、接点が多い彼は慣れているが…初めての時は腹を立てたのを覚えている。

 

 

 そんな彼女は生き生きとして、受験者達を連れていった。それを見送った後で、イビキは教室内の答案用紙を回収していく。その内の一枚を手にして、彼は驚きの表情を浮かべる。それは自分に啖呵を切ったあの少年、うずまきナルトの答案だった。何せ、その答案は全て白紙であり、一問たりとも答えが書かれていない。

 

 

「まさか、白紙のままで試験を突破するとはな…。うずまきナルトか、面白い奴が出てきたものだ」

 

 

 彼は用紙を見つめて、穏やかに笑った。確かにこの試験は、白紙でも合格は可能だ。しかし、はなからやる気が無い者は即刻、失格にするつもりであった。しかし、最後の問題に賭けて進もうとするナルトの姿は、上に立つ者の資質を自分にしかと見せつけてくれた。またナルト以外にも、有能な若者達が育っている事が何よりも嬉しさを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 木ノ葉の里 第44演習場。

 アンコの引率で受験者達は、件の演習場に訪れていた。そこは鬱蒼とした森を金網で囲った場所である。外から見える木々は、とても太く空を覆う様に伸びている。恐らく、中は夜の如く暗いだろう事が一目で分かる程だ。受験者達が息を飲む様を満足そうに見つめるアンコが、第二試験の説明を口にする。

 

 

「此処があんた達の舞台。第44演習場よ。別名、死の森と呼ばれる場所。何故、そう呼ばれるのかは…すぐに実感する事になるでしょうし、説明は省くわね」

「へー すぐに実感することでしょうし!とか言われてもよ~ 別に怖くねえってばよ」

「ふーん 君は随分と度胸があるようね。それは感心だけど…」

 

 

 アンコが連れてきた場所について、話している最中。ナルトが彼女の話を遮り、馬鹿にした様な言葉を吐き捨てる。アンコはニコリと頬笑むと、袖からくないを取り出して、彼に向かって投げ付けた。クナイは彼の頬を裂き、後ろにいた長身の女の髪を掠めて地面に突き刺さる。

 

 

「こういう場所で真っ先に死ぬのって、アンタみたいな子なのよねぇ。あたしの好きな血をぶちまけてさ」

 

 

 ナルトの背後に回り込み、頬から流れる血を舐めながら言うアンコにナルトは青ざめた。すると自分に迫る殺気に気付いて、新たに取り出したクナイを後ろに立つ女へ向けた。その女は蛇の様に伸ばした舌で、彼女が投げたクナイを差し出した。

 

 

「クナイ、お返ししますわ」

「態々、どうもね。それと…一つ言っておくけど、殺気を出してあたしに近づくな!! 次やったら、あんたの首が落ちる事になるわよ」

「それは失礼したわ。いえね、貴女が投げたクナイで私の髪が切られたものだから、ついカッとしちゃってねえ。あと私も血を見ると…興奮する性質でしてね。悪気はありませんよ」

「そう、ならいいわ。髪については悪かったね」

「いいえ…」

 

 

 二人のやり取りを周りの者達は、恐怖を含んだ目で見つめていた。それはナルト達も同じで特に不気味な女に、三人は警戒していた。見た目だけでなく、雰囲気も異様であった。だが、不意にその女達を見て、ナルト達は違和感を覚えた。第一試験の会場にあんな奴らはいただろうか?単に見落としていただけかもしれないが、それにしたってあれ程の存在感が強い者達に気付かない訳がない。

 

 

 

 何にせよ、あの三人には注意するべきだ。ナルト達は一層、警戒心を強くする。

 

 

 

 

「ハイハイ、全員注目!! 今から第二試験を始める前に…あんた達にはやってもらう事があるわ」

 

 

 場が静まった頃、アンコは懐から紙の束を掲げて受験者達に見せつける。一体、何事だと思う彼らにアンコが更に言葉を付け加える。

 

 

「これは…この試験に挑む際、受験者達に書いてもらう同意書よ。こっから先の試験じゃ、命を落とす可能性がぐんと上がるからね。予め、その事を同意して書類にサインしてもらう訳。そうしないと他里の忍が死んでしまった場合、里同士の争いに発展するし、何よりあたしの責任になっちゃうからね」

 

 

 アンコは笑って軽く言うが、受験者達の顔は険しくなる。命を落とす可能性があると、言われて明るくなれる訳が無い。先程、アンコの言葉通り…この試験で人数が半分に減るというのは、あながち本当なのかもしれない。

 

 

「…全員、同意書にはサインしたわね? それじゃあ…第二試験の詳細を説明するわ。まず、今いる場所が此処、第44ゲート前よ。この演習場は名前の通り、44のゲートが森と川を円で囲んでいるの。そして…中央に塔があって、そこが第二試験のゴールとなってるわ。そんでもって、試験の課題だけど…それは五日間のサバイバルよ」

 

 

 彼女の話を聞いて、少しだけ余裕を取り戻した受験者達だったが、続いて出た言葉に愕然とする。

 

 

「だけど、あんた達が行うのは単なるサバイバルじゃないわ。限られた場所で己が持つ力を尽くして、巻物争奪戦をやってもらうわ。この天と地の巻物をね」

 

 

 そう言って、アンコが見せたのは天と地。二つの文字が刻まれた巻物であった。彼女が口にしたルール。それは78名からなる26チームで巻物を奪い合い、ゴールである塔に三人で辿り着いたチームが合格との事だった。巻物は各チームに天と地13個ずつ、配られる。単純な話では13組が脱落する事を意味する。しかし、この試験はそう簡単に終わるとは思えない。五日の間、いつ狙われるか分からない恐怖と緊張、そして試験の途中リタイアは無し。つまり演習場から出るには自分達が再起不能になるか、五日間が過ぎるの二つしかない。

 

「あたしからの説明は以上よ。心の準備が出来た者は、あそこのテントで同意書と巻物を交換した後、それぞれの指定されたゲートへ向かいなさい。最後に…あたしからアドバイスを上げるわ。全員、死ぬな!!」

 

 

 彼女の一言で各々のチームは覚悟を決めた様だ。その言葉はアドバイスとは、程遠いものだったが…それに込められた想いは全員、理解出来たようである。

 

 

 

 

 

 巻物の交換を待つ間、ナルト達は巻物を交換しているチームを眺めていた。生憎の事、巻物を受け取るチームはテントに入る為、渡されたチームの誰が巻物を持っているのか。それを知る事は出来ない。どうやら、既に争奪戦は始まっているのだろう。

 

 

「試験が始まったら、まずはルーキーを狙いましょう。そうねぇ、あの三人をマークしておきなさい」

「了解…。此処からは、殺しても問題無いようですし、簡単に終わりそうですね」

 

 

 全てのチームが巻物を受け取り、指定のゲートで試験開始を待ちながら受験者達は作戦を練っていた。その一チームである草の忍達は、ルーキーのナルト達に狙いを定めた様だ。それは先程、アンコといざこざを起こしたあの不気味な女もいる。

 

 

 全てのチームが指定の場所へ着いた事を確認してから、アンコは無線を通じて各ゲートにいる者達に指示を出す。それと同時に皆は一斉に演習場の中へと、消えて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 それぞれのチームは、巻物を廻って森を駆け廻る。その一チームが森に立つ別のチームを見つけて、狙いを定めるが…実はそれが相手の罠であり、逆に返り討ちに遭ってしまった。彼らが上げた断末魔の悲鳴は、広い森の中へ響き渡る。

 

 

 

「ねえ…今の悲鳴よね!? まさか、もう誰かやられたの?」

「何、心配する事ねえってばよ。む、悪りぃ俺、ちょっとしょんべんしてくる」

「あんたねえ。もう少し緊張感を持ちなさいよ。全く‥」

 

 

 

 悲鳴を聞いて、些か緊張したサクラだが…ナルトの言葉によって、それが和らいだのか。サクラは少し落ち着きを取り戻した。そしてナルトが用を足して戻ってくると、サスケは彼に近づいた瞬間。ナルトを思いっきり殴り飛ばした。その勢いは強く、ナルトは傍の大木まで吹っ飛んでいく。

 

 

 

「ちょ、ちょっとサスケ君!? 何でナルトを殴るのよ」

「いや、あいつはナルトじゃない。あいつの顔をよく見てみろ」

「ナルトの顔? …あっ、そういう事ね」

「気付いたか。おい、偽物野郎。お前は誰だ? そしてナルトを何処へやった」

「何言ってんだってばよ。俺は本物に決まってんだろ!?」

「あくまでしらばっくれるつもりか。だったら、お粗末だな。右利きのあいつが、左にホルダーを付ける訳がない。それに決定的なのが、試験官に付けられた傷が消えてるぜ。お前はナルトより、変化が下手くそだな」

「何だよ。いきなりばれるとは…アンラッキーだな。そんじゃ、実力行使と行くか」

 

 

 

 サスケが取った行動に、流石のサクラも彼を咎めた。しかし、サスケは冷静な態度でサクラにナルトの顔を見ろと告げる。訳を説明せず、淡々としている彼に僅かに苛立ちを覚えながらも、彼女がナルトの方を見る。そこでサクラも漸く、サスケが言った事を理解した。無論、殴られた偽物は自分が本物だと言い張るが、サスケが不自然と思う所を指摘すると相手も観念して、正体を現わす。相手は妙な器具を口に装着した男で、額あてを見れば雨隠れの忍であった。

 

 

 宣言通り、実力行使に出た男は二人に向かって行く。その相手に対して、サスケは火遁 鳳仙花の術で応戦した。だが、相手もそれなりの実力者なのだろう。意図も容易く、その攻撃は避けられてしまう。その後、戦いの場を木の上に移すが、相手の巧みな攻撃に不利と判断して地上に降りる。しかし、敵の動きは想像以上に素早く、サスケは男に背後を取られてしまった。

 

 

「おっと、少しでも動いたら、背中から心臓を貫くぜ」

「…調子に乗ると、痛い目を見るぜ」

「へえ。だったら、見せてもらおうかぁ!!」

 

 

 

 サスケの背後を取った事で、有利と感じた男が嘲りの言葉をサスケに投げかける。不利な状況でもサスケは動じず、逆に男へ挑発を仕掛けた。それに男は逆上して、サスケを殺そうとした時。突如、飛んできたクナイに男は上に飛びあがって、回避する。

 

 

「この野郎!! さっきはよくもやってくれたな」

「やっと来たか。てめーはいつも遅いんだよ」

 

 

 クナイを投げたのは、姿を消していたナルトである。戦いの最中、木の上から縛られた彼を見つけたサスケの手で救出されていた。またナルトの攻撃で生まれた相手の隙をサスケは見逃さない。地面に落ちたクナイを足で拾い上げると、男に向けて投げ付けた。それと同時にサスケは、男に切迫すると投げたクナイを掴み取り、男の左肩に深々と突き刺した。

 

 

 

「おい、ぼさっとするな二人共。まだ敵は何処に潜んでるか分からないんだ。一時たりとも気を抜くな」

 

 

 相手の様子に注意を払いながら、サスケは下にいる二人へ叫んだ。だが、相手はその一瞬を突いて、サスケから距離を取るとその場から立ち去っていった。どうやら、勝ち目が無いと踏んで退いた様だ。

 

 

 

 

 その後、三人もその場から離れると今後の事を話し合う。また同じ事態が起きた場合、本物と偽物を瞬時に見分ける手段を今の内に見つけておかねば、厄介な事になるのは明白だ。

 

 

 

 

「いいか。また三人がバラバラになった時を考えて、合言葉を決めて置こう。もし、合言葉を尋ねて返事を返さなかった場合や合言葉が違っていた場合、それは敵という事だ」

「それはいいけどよ。一体、合言葉は何にするんだってばよ?」

「ああ。それは今から言う。一度しか、言わないから良く聞いておけ」

 

 

 そうしてサスケが決めた合言葉を口にする。

 『忍歌 それは忍機と問う。大勢の敵の騒ぎは忍びよし。静かな方に隠れ家もなし。忍には時を知ることこそ大事なれ… 敵の疲れと油断するとき』これがサスケの決めた合言葉であった。長く複雑だが、これなら仲間を識別する事が出来る。

 

 

「これが合言葉だ。二人も覚えたな」

「ええ。しっかりと覚えたわ」

「……おう」

「そうか。それと巻物は俺が持っておくぜ」

 

 

 

 合言葉を覚えたか?とサスケが二人に確認を取った後、彼は巻物を手にして懐へしまった。そして三人が移動しようとした時、彼らの後ろから凄まじい突風が吹き荒れる。咄嗟にサスケはサクラを庇った為、二人は余り飛ばされずに済んだ。しかし、全く警戒していなかったナルトは、その風によって何処かへ飛ばされてしまった。

 

 

 

 

「おい、皆…無事か?」

「ええ。私は大丈夫よ」

「待て、先に合言葉を言ってもらおう」

「あ、そうね。忍歌 それは忍機と問う。大勢の敵の騒ぎは忍びよし。静かな方に隠れ家もなし。忍には時を知ることこそ大事なれ。敵の疲れと油断するとき。これでいいでしょ?」

「ああ。問題はナルトだな」

 

 

 

 サクラと合流したサスケは、彼女から聞いた合言葉で本物であると確認した。だが、一番の問題はナルトのほうである。正直、あの長い合言葉を彼が暗記出来るとは思えない。本人は返事をしていたが、言うまでに少し間があった事に不安を覚えていた。

 

 

 

「おーい サスケ、サクラちゃん。やっと、見つけたってばよ。さっきの風は一体、何なんだ?」

「止まれ、合言葉を言うのが先だ」

「おっと、そうだった。忍歌 それは忍機と問う。大勢の敵の騒ぎは忍びよし。静かな方に隠れ家もなし。忍には時を知ることこそ大事なれ。敵の疲れと油断するとき。確か、こうだったよな」

 

 

 

 すらすらと噛む事もなく、ナルトは複雑な合言葉を言ってみせた。それにサクラはホッとするが、サスケは鋭い目つきで睨むや、クナイを彼に向かって飛ばす。それをナルトは、サッと避けるとサスケに向かって怒鳴り出す。

 

 

「何するんだよ。危ねえだろうがっ!!」

「黙れ、懲りずに変化するとはな。だが、今度はさっきとは別だな。一体、何者だ?」

「え?どういう事なの?」

「フフフ どうして…分かったの? 私が偽物だと」

「簡単な事だ。俺が合言葉を言う際、お前が盗み聞きしていたのは知っている。だからこそ、あの合言葉にしたんだ。それにあいつがあの言葉を覚えるとは、思ってないからな」

 

 

 一度ならず、二度までナルトを攻撃したサスケに、サクラは何が何だか分からないと困惑する中。ナルトの姿をした者は、いきなり笑い出すと正体を露わにする。その人物はあの不気味な女であった。どうやら、試験開始前から自分達に狙って来たのだと、二人は悟った。

 

 

 

「成程…。まさに疲れも油断も無いという訳ね。思った以上に楽しめそうだわ」

 

 

 二人は嗤いながら言う女を見据えて、身構えた。

 

 

 

 

 

 一方、突風に飛ばされた本物のナルトは、木に打ち付けられて痛みに喘いでいた。すると大きな影が彼を覆う様に現れた。何だとナルトが見上げると…驚く事にそこにいたのは、とてつもなく巨大な蛇が彼を見下ろしていた。

 

 

「…何だよ。やるってのか?」

 

 

 

 蛇を睨み返し、ナルトはそう言い返すが…当然、返事は返って来ない。数分、お互いは動く事なく、睨み合っていると後ろから物音が聞こえて、振り変えると地面から飛び出す蛇の尾がナルトに迫っていた。自分に迫る尾から逃げようとするが、蛇の方が一瞬早く、彼は捕まってそのまま蛇に飲みこまれてしまった。

 

 

 

 

 

 

 ナルトが危機に見舞われていた頃、それはサスケ達も同じであった。こちらは相手の能力も敵の数も知らないが、向こうにはそれが知られている。どう攻めるか、二人が考えていると女は巻物を取り出して話しかけて来た。

 

 

 

「あなた達が持っているのは、天の巻物よね? だったら、私が持ってるこの地の巻物…欲しいわよね?」

「…だとしたら何だ? くれと言ったら、くれるのかよ」

「フフフ、それは無理よ。ならば…答えは一つよね。さあ、始めましょう。巻物の奪い合いを命懸けで…」

 

 

 

 そう告げると女は巻物を口から丸呑みにした。その姿はまるで蛇の様で二人は背筋が凍りつく。そして…女が殺気を放った時、二人の体中に無数のクナイや手裏剣が突き刺さっていた。だが、それは現実の事ではなく、二人が見た幻である。女の殺気は、自分が殺されたと錯覚する程に強いものだったのだ。

 

 

 

 

「ぐう… うえええ」

 

 

 女の殺気に当てられて、サスケは堪らず嘔吐した後。力なくへたり込んでしまった。震える体を押して、サスケがサクラに声をかけるが、当の彼女もへたり込み。震えて泣くだけで、返事を返す事が出来ずにいた。

 

 

 

「くくく ほんの少し殺気を出しただけでこれとはね。楽しめると思ったのに…見込み違いの様ね。とっとと終わらせるとしましょうか」

 

 

 女は動けずにいるサクラへ、クナイを投げた。それを見て、サスケは残った気力で震える体に鞭を入れる。間一髪、サスケはサクラを助ける事に成功したが、その代償は大きく。彼の太ももからは、大量の血が流れ出ている。あの時、サスケは自らをクナイで刺して痛みで、恐怖を無理やり抑え込んでの行動だった。

 

 

 

 

「…ごめん、サスケ君。その…怪我は大丈夫?」

「問題無い。それより、静かにしろ!! 奴に気付かれる」

 

 

 心配してサクラが声をかけるが、本人はそれを突っ撥ねた。普段と違って、今のサスケは何処か怯えた様子であった。

 

 

 

 

 

 そして蛇に飲まれたナルトは、グイグイと胃に押し込まれそうなって慌てていた。このままでは、本当に蛇の酔う分になってしまう。何とかしようと体を動かすが、押し潰そうと蠢く蛇の肉によって阻まれていた。そんな時、ナルトはある事を思い付く。それは以前、無理やりに食事を食べては吐いていた時の事だ。そうだ、限界を超えればどんなものでも何れは…。思ったら即行動だと、ナルトは何とか両腕を動かして、影分身の印を組む。

 

 

 

 すると蛇のお腹が異様に膨れ上がり、やがては大きい音を立てて内側から破裂した。ナルトの作戦は見事に成功して、彼は窮地を脱する事が出来た。そして…一息吐いてから、ナルトは仲間の元へと駆けていく。

 

 

 

 

 その頃、女から隠れていた二人は近くの木の上で息を押し殺し、女の様子を窺っていた。何かあった時、騒がないようサスケはサクラの口に手を押し当てる。だが、その時…サクラは自分達の頭上から迫る一匹の蛇に気が付いた。しかし自身の口は塞がれていて、声が出せない。このままでは全滅すると、サクラはサスケの手を強引に外すと大声で危険を知らせた。

 

 

「サスケ君、上を見て!! 蛇が来てるわ」

「ちぃ、やはり気付かれていたか」

 

 

 

 サクラの声に反応して、彼は手裏剣を投げ付けてからその場を離れる。件の蛇はどちらを狙うか、迷っていたが…厄介なのはサスケと判断して、彼に迫っていく。己に向かってくる蛇の目を見たサスケは、先程の女の目を思い出して忘れていた恐怖が再びこみ上げてきた。

 

 

 

「うわあぁぁぁぁぁ 来るなぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

 半ば半狂乱の状態でサスケは、用いる手裏剣やクナイを当たり構わず投げ付けた。幸いにもいくつかは蛇に命中して、仕留める事が出来たが…余りにも尋常ではない彼の姿に、サクラは声を失っていた。だが、二人の危機はこれで終わる事はない。仕留めた蛇の頭がボコっと音を立て、膨らむとそこからあの女がせり出してきた。

 

 

「気を抜いたら駄目じゃない。獲物であるお前達は、常に気を配って逃げるものよ。私という捕食者からねぇ」

 

 

 

 低い声で言うと、女は体をくねらせてサスケに迫る。彼は恐怖から硬直して動けずにいた。しかし、そんな女の行く手を遮る様に手裏剣が木に刺さり、相手の動きを止めた。

 

 

 

 邪魔をするのは何者か?女は不機嫌そうに上を見ると、姿を消していたナルトがそこにいた。彼はサスケを見て、こう呟く。

 

 

「遅くなって悪かったってばよ。因みに合言葉だけど…忘れちまったから勘弁してくれよな」

 

 

 思わぬ人物の登場に、サスケとサクラは安堵した。だが、この後で訪れる真の恐怖に三人は気付いていなかった。

 




今回のお話、いかがだったでしょうか?


第二試験が始まって、動き出し始めた者達。此処から中忍試験編の物語が加速してきますね。それ故、自分も楽しんで書いてます。



宜しければ、一言でもいいので感想をお待ちしてます。また評価やお気に入りも付けて言ってくれると一層、励みになりますのでそちらもお待ちしてます。


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第十八話 捕食者の楔

今回からオリ主が騒動に関わっていきます。





 生い茂る森の中、加勢にやってきたナルトは二人を襲っていた女を睨みつける。そして女の近くに転がっている蛇の死骸に気が付いた。大きさこそ、違うがあの蛇は自分が倒したものと同じであろう。恐らく、あの女が蛇を嗾けた張本人で間違いはない。当の女はぎょろりとナルトを見上げて薄笑いを浮かべて、言葉を発した。

 

 

「フフフ どうやら、あの大蛇を倒して来たようね。見た目に反して強いのね‥これは予想外だったわ」

「うるせぇっ!! お前の所為でこっちは、散々な目に遭ったんだぞ。これからボコボコにしてやるってばよ」

「馬鹿は寄せ、そいつはやばすぎる。俺達じゃ、どうやっても勝ち目はない」

 

 

 ナルトが戦闘体勢に入った時、彼を制止するべくサスケは大声を上げた。この女には例え三人で挑んだとしても、勝ち目は一切ない。戦うだけ、無駄死にするだけだ。ならば、どうやってこの場を切り抜けるのか?悩んだ末、サスケは最後の手段に打って出た。

 

 

「おい、お前に俺達が持つ巻物を渡す。だから、此処は退いてどうか見逃してくれないか? 頼む…」

「え? な、何を言ってるのよ。本気なの? サスケ君」

「そうだぞ。自分が何をしてんのか。分かってんのかよ」

「くっくっく その方法を取るのは当然よねぇ。自分を狙う捕食者から逃れるには…別の得物を差し出すのが手っ取り早いもの」

 

 

 

 彼の行動に二人は困惑の色を隠せない。いつもは弱音を吐かないサスケが、今回に限って命乞いまでするとは‥信じられなかった。それに一番納得が出来ないのは、誰よりもナルトであろう。だが、そんな事はお構いなしにサスケは女に向かって、巻物を投げ付けた。

 

 

 しかし、それを阻止したのは他でもないナルトだ。彼は巻物を掴み取り、サスケの隣に降り立つや。彼の頬を手加減する事無く、殴り飛ばした。それにはサスケも我慢がならず、立ち上がって怒鳴り声を上げる。

 

 

「てめぇ いきなり‥何をしやがる!! 今の状況を理解出来ないのか?」

「状況が分かってねえのは…おまえだってばよ。第一、あの女がやべー奴なのは、俺だって分かる。あいつがその気になれば、俺達なんてすぐ殺せるんだ。それに巻物を渡したからって、約束を守る訳がねえだろうが…」

 

 

 ナルトの言葉でサスケは、ハッと我に返った。そうだ、相手は殺気だけで自分達を圧倒する程の実力者だ。考えてみれば、素直に要求を飲んでくれる筈がない。

 

 

「フフ 単純と聞いてたけど、意外に賢いじゃない。正解よ。確かに私にそのやり取りは不要だわ。巻物だって、殺して奪えばいいんだからねぇぇ」

 

 

 女は喜々として、声高々にそう言った後。袖を捲り、親指を噛み切った血で腕に線を引く。女の腕には何やら、術式が書かれており、それを媒体として口寄せの術を発動させた。

 

 

 

 すると現れたのは…先程、ナルトが倒した筈の大蛇であった。その大蛇は素早く尾を振って、ナルトを近くの岩に叩き付ける。余程の衝撃だったのか、ナルトは血を吐き出して、苦しそうな表情を浮かべる。力なく、地面へ落下するナルトを食らおうと大蛇は、大口を開けて迫っていた。

 

 

 

「この…くそ食らえだぁぁぁっっ!!」

 

 

 

 なす術なく、蛇に食べられてしまうと二人が思った時。蛇の口を躱し、ナルトは強烈な拳打を頭に見舞った。その際…女はナルトの目が紅く染まっている事に気付いた。一瞬、写輪眼か?と考えたが、あの目特有の模様は見られない。ならば、あれは何だと女は困惑するが、そこである予想が頭を過った。それを確かめる為、女は動き出す。

 

 

 

 攻撃の反動で身動きが取れないナルトを、女は風遁で吹き飛ばすと、今度は蛇をサスケに嗾ける。いきなりの事で反応が出来ないサスケは、来たる攻撃に備えて歯を食い縛るが…いつまで経っても衝撃は来ない。それを不思議に感じて、サスケが目を開くと目の前には、両手に持ったクナイで蛇を抑えるナルトの姿があった。

 

 

「よぉ…。怪我は…ねえかよ? なぁ、ビビり君」

 

 

 

 彼は息を切らしながら、サスケを見て一言呟いた。その言葉にサスケの心臓は、ドクンと大きく高鳴るのを感じた。

 

 

 

 

 

 

 一方、カカシ達と別れたサチは第44演習場へ足を運んでいた。第一試験を終えたイビキから、第二試験の事を聞いて不安を感じての事だ。第二の試験官は、あのみたらしアンコである。負けず嫌いな性格上、受験者達と衝突する可能性が高い。無論、彼女も大人であるから、そういう事はしないと思っているが…何故か受験者と貼り合っている彼女が想像が鮮明に浮かんでくる。そしてサチが第二試験の会場に到着すると、ゲート前のベンチで和菓子を頬張っているアンコの姿を見つけた。此処に一人でいる事から、既に第二試験は始まっているようである。その詳細を聞こうとサチが近寄っていくと、サチに気付いたアンコが団子を口に入れたまま、彼女に話しかけて来た。

 

 

 

 

 

「うん? 誰かと思えば、サチじゃない。久しぶりに会うわねぇ~」

「久しぶりって、つい一週間前に会ったでしょう。それより、今回の試験…受験者達は大丈夫なの?」

「あ~ 大丈夫でしょ。何せ、一癖も二癖もある奴らばかりだもん。まあ、例外はいるからそいつらは死ぬかもね」

 

 

 

 アンコの言葉にサチは唖然とした。徐々に難易度が上がる以上、そういった危険はあるだろう。しかし彼女の態度を見る限り、受験者の事を何も考えていない様に思えた。無論、それはサチの考え過ぎなのだが…試験には自分達の教え子も参加してる為か、若干熱くなっていた。

 

 

 

「死ぬかもじゃないわよ。確かに中忍試験じゃ、そういう事態も起こるだろうけど…いくらなんでも無責任過ぎない?」

「…何よ。あんた、随分と言う様になったじゃない。試験の課題やルールを決めるのは、試験官であるあたしよ。それに口出しするなら、あたしも黙ってはいられないわね」

 

 

 サチの言葉が癪に触ったのか。アンコは怒りの形相で睨み、サチに厳しい言葉を吐き捨てる。そんなアンコを見て、サチは慌てた。自分としては、アンコを怒らせるつもりは全く無い。冷静になって考えてみれば、試験官ではない自分があれこれと言う資格も権利も無いのだ。自分も関係無い者から、あれこれと言われたら同じ行動を取るだろう。此処は素直に謝った方が良さそうだと、サチが謝罪の言葉を口にしようとした時。突如、二人の元に焦った様子の男が駆け寄ってきた。

 

 

 

「アンコさん 緊急事態です。三つの死体が見つかりました」

「死体ですって!? あーあ、早くも問題が起きたか。と言っても戦いに負けた奴らのでしょ?」

「い、いえ。そうではありません。死体の発見場所は、隣の43演習場なんです。しかも…妙な死体なんですよ」

「妙…ねえ。分かった、案内してちょうだい。それとサチ…あんたも一緒に来な。厄介事なら、人手が多い方が良いしね。手を貸してくれるなら、さっきの事は水に流してあげる」

「ありがとう。勿論、手を貸すわ」

「決まりね。それじゃあ、行きましょう」

 

 

 どうやら不可解な事態が起きた様で、彼はアンコを呼ぶよう指示を受けて来たらしい。その話を聞いて、アンコは眉間に皺を寄せる。伝令の様子からしても、只事では無いのは一目瞭然だ。もし厄介事だとしたら、自分だけでは手に余るかもしれない。しかし、この場にはサチもいる。問題解決に彼女の手を借りるのもありだろう。

 

 

 

 そう考えて、アンコはサチにも同行しろと告げた。また断ると思って、先程の事を持ち出したが…本人はすんなりと協力すると首を縦に振る。そんなサチの姿にアンコは、卑怯な手を使った自分を恥じた。元より、彼女はそんな事をしなくても、快く協力してくれる優しい子だ。

 

 

 それを忘れるとは…相当に自分は頭に血が上っていた様だ。一呼吸吐いて落ち着いてから、アンコはサチを伴い現場へ向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 死体がある現場には、数分程で到着した。見ると地蔵の傍に倒れる者や凭れ掛っている者の姿が確認出来る。現場を確保していた中忍達に、アンコが話しかけた。

 

 

「あんた達が見つけた死体は、こいつらだね?」

「そうです。当初、我々だけで処理する予定でしたが…不自然な所がありましてね。それで連絡を入れた次第です」

「そう。そんで…何が問題なのよ。見た感じ、忍同士のいざこざで死んだ様にしか思えないけど…」

 

 

 アンコの言葉にサチも同感だ。辺りに散らばった血痕、そして倒れる忍達の姿は戦いの結果、力尽きて倒れた様に見える。だが、周りの中忍は一様に暗い顔していた。それが気になり、今度はサチが彼らに尋ねる。

 

 

「ねえ、一体…何があったの? もっと詳しく教えてちょうだい」

「…心して見て下さいよ。結構、えぐい死体ですからね」

 

 

 そう言って、彼が死体の顔に掛かった布を捲るとサチとアンコは言葉を失った。驚く事にその死体の顔は、まるで溶けた様に消えていた。こんな死体を見れば、暗い顔になるのも当然だ。しかし、何故このような死体が出来たのか?それがサチは分からなかった。殺された理由としては、試験の合格率を上げる為、他のチームがやったのだろう。そこまでは推測は出来る。しかし、理解出来ないのが顔を溶かした事だ。これは何を意味するのか、考えても分からないサチは、アンコに相談しようと彼女の方に視線をやった。

 

 

 

 だが、彼女は目を見開き、青ざめた顔でその死体を見つめている。もしや…アンコはこの死体に怯えているのだろうか?普段と違うアンコを心配したサチが声をかけようとした時。

 

 

「誰か、この三人の資料を持ってない?」

「あ、それなら此処に…「貸して」ど、どうしたんですか?」

 

 アンコは資料を奪う様に取ると、まじまじとそれを見る。そして…資料に載っていた一人は自分が知っている者だった。その相手は、試験開始前に自分へ殺気を向けたあの女である。此処でアンコは、この術を使う人物を思い浮かべた。昔、自分が下忍だった頃。師と仰いだ男が得意としていた術であった。仕留めた相手の顔を奪って、変装する。共に潜入任務を行った際、その男はこれを使って情報を集めていたのを彼女は、今でも覚えていたのだ。

 

 

 もし、これをやったのがあの男であったなら…今起きている事態は想像以上に深刻だ。

 

 

 

「あんた達、この事を今すぐ火影様に連絡して。そして…死の森に暗部を2部隊以上、派遣する要請も出しなさい」

「どういう事ですか!? 一体、何が起きてるのか説明して下さい。それに犯人を知ってるなら、俺達で捕まえて来ますよ。態々、暗部を動かす必要も無いでしょ」

「そうはいかないのよ。これをやった奴は…相当の手練れよ。正直、私やサチも敵わない程にね。だからこそ、大勢の協力が必要なの」

「…お二人は、どうするんですか?」

「勿論、これの犯人を追跡するわ」

「ええ。知った以上、放置は出来ないもの」

「分かりました。だけど、無茶はしないで下さいよ。何かあったら、悲しむ者がいる事をお忘れなく」

 

 

 

 心配する中忍の彼に二人は頷いた後、森の奥へ駆けて行く。それと同時に中忍達も指示された事を実行する為、その場を立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サスケに向かった大蛇を止める事に成功したナルトだったが、その代償は大きかった。体中が軋み、言葉に出来ない程の痛みが彼を襲う。そのナルトが言った言葉に、サスケは以前に自分が彼に言った事を思い出した。あの時とは、逆の状況にサスケは何も言い返せない。しかし、彼の心の中に消えつつあった、闘志が湧き上がってくるのを感じていた。

 

 

 

 意を決して、サスケが女に立ち向かおうとした時。突如、女が舌を伸ばしてナルトを捕えた。それにナルトは必死に抵抗するが、女の拘束は強く逃れる事が出来ない。

 

 

 

「ククク まさか…あの九尾のガキが、生きていたとはねぇ」

「な、何でお前がそれを知ってるんだ!?」

「さあ、何故かしらね。まあ、それを教える義理は無いわ。しかし、貴方は面倒だから少しの間、眠っていてもらいましょうか!!」

「ぐ、ぐあああぁぁぁっっ!!」

 

 

 

 女は右手の指にチャクラを籠めると、ナルトの腹に勢いよく押し付けた。衝撃と焼け付く痛みにナルトは、叫び声を上げて気絶した。女はナルトに宿っているのが、過去に里を襲った九尾であると知った。女は九尾の力を遮断する封印を施した。用済みとなったナルトから、巻物を奪った後で女は無造作に投げ捨てる。気を失っているナルトは、地面に向かって落ちていくが、サクラのおかげで済んでの所でナルトは助かった。

 

 

 

「サスケ君。ナルトは貴方を守る為に、あの女に立ち向かったのよ。それなのにサスケ君は、また怯えて逃げるの?」

 

 

 サクラの悲痛な叫び声を聞いて、サスケはあの忌まわしい過去が脳裏に過った。昔、一族全員を殺したあの男が言い残した言葉が鮮明に浮かんでくる。

 

『愚かなる弟よ… このオレを殺したくば、心から恨んで憎め。そして醜く生き延びろ、逃げて逃げて、惨めに生へしがみつけ』

 

 

 違う。俺は…臆病者なんかじゃない。そうだ、自分には目的がある。一族を殺した兄を探し出して復讐をするという目的が…。それを足し遂げる為には、こんな所で終わる訳にはいかない。超えるんだ。何もかも…自分の道を妨げる者達は全て、倒して俺は前に進むんだ。

 

 

 ナルトの行動、そしてサクラの言葉でサスケは漸く恐怖を振り切って、戦う事を決意した。その顔にもう怯えの色は無く、彼は真っ直ぐ女を見つめていた。

 

 

 

「フフ どうやら、吹っ切れた様ね。ならば…仕切り直して殺り合いましょうか」

「いいだろう。だが、死ぬのはお前だ」

 

 

 その言葉を吐くとサスケは、クナイを女に投げ付けた。それは扇状に広がって飛んで行くが、女は素早い動きで難なく避けていく。先程よりも速く動いているが、サスケの写輪眼には女の動きが見えていた。それを先読みして、女の移動先に今度は風磨手裏剣を投げ付ける。しかし、女の反射神経も並みでは無い。普通なら避けるのが難しい攻撃も女は避けていく。更にサスケは別のクナイを女の顔に投げるが、それも紙一重で女は避ける。

 

 

 だが、全てはサスケの予想通りに進んでいた。彼は予め仕込んでいた糸を口で加え、女の逃げ道を塞ぐと同時に、先程投げた風磨手裏剣を引き戻していた。その予想外の攻撃には女も驚いて動きを止める。

 

 

「やったぁ。これならあいつも…。う、嘘でしょ!?」

 

 

 当たると思い、喜びの声を上げたサクラだったが、その声はすぐ恐怖に染まる。驚く事に、女は風魔手裏剣を口で受け止めていた。逃げ場のない状況でも女にとっては、攻撃を防ぐ事など造作もないのだろう。まざまざと実力差を見せ付ける女にサクラは腰が抜けそうになった。しかし、それも動じる事なくサスケは…印を組んで火遁を女に向けて見舞った。

 

 

 糸を伝って迸る炎が女の顔を包み込み、その顔を容赦なく焼き尽くす。初めて自分の攻撃が当たったが、サスケの表情は優れない。もし‥この攻撃が通用しなかったら、もう自分達になす術はない。頼む。そのまま倒れてくれ。最早、懇願に近い思いを抱くサスケだが…現実は非情で炎が消えた後、焼け爛れた顔のまま。二人を見て、ニタリと嗤う。予想通り、サスケの攻撃は全く通用していなかった。そして…女はサスケを見据えてある事を口走る。

 

 

 

「やるじゃないの。その歳で此処まで火遁を扱えるのは‥大したものよ。流石はうちはの一族、実力は及ばなくても、貴方の資質はイタチ以上ねぇ」

「な、何故…お前が奴の事を知っている!? お前は一体、何者なんだ」

「そういえば、まだ名乗っていなかったわね。私の名前は大蛇丸。もし‥貴方が知りたいと思うのならば、この試験を死に物狂いで乗り越えなさい。勿論、それを私の配下が邪魔をするだろうから、彼らを打ち破らなければ不可能だけどね」

 

 

 女の口から出た名前に、サスケは酷く動揺した様子を見せる。何故この女が自分の兄の名を知っているのか。そして奴は何者かを尋ねた。彼の問いに女は潔く答える。女の名は大蛇丸と名乗った。すると大蛇丸は首を蛇の様に伸ばすと、サスケの首筋に噛み付き牙を立てた。突然の出来事に二人は、驚きの余り時が止まったみたいに固まっていた。

 

 

 

「ぐあぁぁぁっ!!」

「サスケ君!! あんた、サスケ君に何をしたのよ?」

「選別よ。私からのね。君に与えた物は、必ず私の元へ貴方を導く事になる」

 

 

 

 大蛇丸の首がサスケから離れた途端、彼は胸を抑えて蹲る。油汗を掻いて苦しむ姿は、只事でないとサクラにも分かった。どうみても先程、大蛇丸が何かしたのは間違いない。それにナルトの時もあいつが何かをやったのかもしれない。大事な仲間を傷つけられた怒りから、サクラは大蛇丸を睨んで何をしたのかと怒鳴りつけた。

 

 

 その問いに大蛇丸は一言、選別だと謎の言葉を残して姿を消した。あとに残ったのは…未だ苦しみに耐えるサスケと、気絶したままのナルトだけである。頼りになる二人が一人の敵に容易く倒されて、サクラは途方に暮れるが、このままではいけないと二人を抱えてその場を立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナルト達が窮地を脱した頃、サチとアンコの二人は件の大蛇丸を探していた。しかし、夕刻となった今…森の中は闇に包まれていく。その事にアンコは焦りの色を浮かべる。尋常ではない、その様子からサチも知らずに緊張してか、口の中が渇いていた。

 

「貴方はあの時の…。どうして此処に?」

「やっと…見つけたわよ。大蛇丸」

「あら、随分と懐かしい顔ねえ。それに…貴女も来たのね。フフフハハハハ」

 

 

 そして…夜の帳に覆われた死の森で、二人は遂に大蛇丸と邂逅する事となった。




今回のお話、いかがだったでしょうか?


ふとした事から、最悪の忍である大蛇丸に目を付けられる。
特に関わりが無いナルト達からしたら、いい迷惑ですね。



また一言でもいいので感想の方もお待ちしています。


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第十九話 守られる者から守る者へ

暗闇の中、声高々に笑う大蛇丸をサチは不気味に感じていた。正直な気持ち、即刻この場を去りたい気持ちに襲われるが、グッと唇を噛み締めて心に生まれた恐怖を押し殺す。そんな中、アンコは一歩前に踏み出すと静かに口を開いた。

 

 

「今更…この里に何をしに来た? 答えろ、大蛇丸っ!!」

「あらあら。久々の再会だというのに、随分と釣れないじゃない。それと貴女の質問に答える義理はないわ」

「そうか。だったら、何も言わなくていい。どの道、此処であんたを倒せばいいだけだもの」

「…私を倒す? 無理よ。貴女じゃ、どう足掻いても私の足元に及ばないわ」

 

 

 

 強い口調で大蛇丸の目的を問い掛けたアンコだったが…当然ながら、大蛇丸はその質問に答える事はない。それが分かっていたのか、アンコは動じる事は無かった。寧ろ、逆に大蛇丸を倒すという決意が強くなる。その想いを彼女は口にするが、当の本人は鼻で笑い飛ばした。

 

 

 

 その言葉によって、三人の戦いが幕を開ける。先に動いたのはアンコで、袖口から千本を抜き取ると大蛇丸に狙いを定めて構えた時、同時に彼も仕掛けて来た。口から伸ばした舌を得物を持つ手首に、巻き付けると凄まじい力で締めつけた。その痛みに堪らず、アンコは武器を手放してしまう。だが、彼女も只では転ばない。巻き付く舌をがっしり掴むと、更に潜影蛇手という術を用いて大蛇丸を地面に叩き付けた。

 

 

「サチ、今よ!!」

「ククク、中々やるけど…詰めが甘い」

 

 

 一隅のチャンスにアンコが、サチに攻撃を促すが…それを許す程、大蛇丸も甘くは無い。彼は伸ばした舌を戻す勢いを利用して、自らアンコの方へ突っ込んでいく。そのまま背後の木に押し付けられた彼女だったが、僅かな隙を突いて、体を入れ替えると逆に大蛇丸を抑える事に成功した。

 

 

「はぁはぁ…。随分と手間を掛けてくれるわね。けれど…もう逃がさないわ。あんたは此処で終わりよ」

 

 

 荒い息を吐きながら、アンコは大蛇丸にそう言い放った。そして彼女は大蛇丸の左手を握るや自身の手と合わせて、印を組み始める。この特殊な印に覚えのある大蛇丸は、驚いた顔を見せた。それはお互いの手を使って発動する禁術、双蛇相殺の術と呼ばれる自爆技であり、使用すれば互いの術者は死に至る。アンコは自らを犠牲にして、大蛇丸を倒す為、覚悟を決めて術を発動しようとした時。

 

 

「フフフ 貴女、自殺願望があるのね。生憎だけど、それは影分身よ。本物はここにいるわ」

「な…。いつの間に…入れ替わったの?」

「そんなの初めからに決まってるじゃない。それに使うのは私が教えた術ばかり。仮にも上忍のお前がそんな事でどうする!!」

「ぐ、ぐあああっっ!!」

 

 

 木の陰から姿を現した本体の大蛇丸が、嘲笑いながら彼女へ声をかけた。それに合わせて、アンコの前にいた大蛇丸は煙と共に消えてしまう。予想外の出来事にアンコは、困惑の色を隠せない。一体、いつから分身と入れ替わったのか、震えた声で問い掛けるアンコに大蛇丸は、冷たい声で問いに答えた。そして左手を構えた途端、突然アンコは叫び出して蹲る。

 

 

 

「アンコっ!! 貴方、彼女に何をしたの?」

「さてね。所であなたはかかって来ないのかしら? 見た感じ、震えてるけど…もしかして私が怖いの?」

「黙れ。お前の目的は何だ? まさか…火影様が狙いか?」

「いーやいや。惜しいわね。それもあるけど、今は手札が少ないからね。まあ、今日は有望な子を見つけて、楔を打ち込んできた所よ」

 

 

 彼は…半ば剥がれかけた顔の皮膚を破りながら、サチを挑発してきた。彼女も図星を突かれて焦り、それを誤魔化す様に大蛇丸へ怒鳴り声を上げるが、本人はニヤニヤと嫌な笑みを見せるだけだ。今一つ、この男の目的が分からず…もやもやとした気持ちの中、彼女は最悪な想像が脳裏に浮かんでくる。

 

 

 それは三代目火影の暗殺。思えば、一週間前に大蛇丸の事をヒルゼンに伝えた時…珍しく取り乱していた。その事から大蛇丸が自身を狙っている事を悟っていたのだろう。また本人もヒルゼン暗殺をあっけなく認めた。そして…大蛇丸の楔という言葉。これが何を意味するのか、サチも分からない。だが、嫌な予感だけはひしひしと感じていた。

 

 

「…あんた、誰かに呪印を付けたの!? 一体、誰にやったんだ!!」

「クク、何をムキになってるのよ。まさか、嫉妬してるの?」

「ほざいてんじゃないわ。誰にやったって、聞いてるのよ」

「おお、怖い怖い。まあ、隠す事もないわね。呪印をプレゼントしたのは、うちはの子よ。まだ青い果実だけど、貴女よりも良質だからね。将来は私の世継ぎに丁度いいもの」

「…世継ぎですって、馬鹿言わないで。私の教え子に勝手な事をするんじゃないわ」

 

 

 大蛇丸の言動にサチは怒りを露わにする。それも当然だ、彼が口にしたうちはの子で該当するのは一人しかいない。彼はサスケに呪印を付けたと言った。響きからして、良い物では無いのは確かである。先程まであった恐怖は既に無く、あるのは大事な教え子を傷つけられた。その怒りだけが彼女の心を支配する。

 

 

 

「ふーん どうやら貴女もやる気の様ね。いいわ。私も少し退屈していた所だし、楽しませてもらいましょうか」

「上等よ。私の教え子に手を出した事、存分に後悔させてやる」

 

 

 そう言うと同時にサチは大蛇丸へ、クナイを投げ付ける。その攻撃に大蛇丸は一転して、冷めた表情へ変わった。紅雷の異名は風の噂で彼も耳にしていた。一体、彼女はどんな術を使う忍なのか。大蛇丸はそれを拝める事を心から喜んでいたが、繰り出された攻撃はアンコ同様に単調な物。サチに対して、強い好奇心を抱いていた分、落差は酷かった。

 

 

 

 迫るクナイを軽く躱して、反撃をしようとした時。大蛇丸は驚きの余り、固まった。何せ、正面にいたサチが突然姿を消したのだ。自分は一切、目を逸らしてはいない。ならば、彼女は何処へ行ったのか。警戒して辺りを見回していると、不意に背後から殺気を感じて彼は咄嗟に身を寄せる。するとその横を拳ほどの火の球が飛んで行くのが見えた。

 

 

「ちっ、避けられたか。完全に気配を消してたのに…」

 

 

 外れた攻撃にサチはぼやくが、大蛇丸は内心酷く焦っていた。火の球が当たった木を見れば、その箇所はぽっかりと穴が開いて周りは黒く炭化している。サチの言う通り、彼女の気配は完全に無かった。だが、僅かに感じた殺気のおかげで自分は、運よく難を逃れる事が出来たのだ。そして…大蛇丸はサチの評価を改める。彼女は好奇心だけで手を出すのは危険な相手だと。無論、負けるつもりは無い。しかし、現状では戦うのは分が悪い。先程、消えた術が予想通りであれば‥闇に包まれた森では勝ち目は薄い。

 

 

 此処は退くのが先決だと、判断を下した大蛇丸は煙玉でサチの視界を遮った後。彼は一目散にその場を立ち去った。

 

 

「この‥逃がすかぁっっ!!」

 

 

 攻撃かと身構えていたが、逃げの一手を取った大蛇丸にサチの反応が一瞬遅れた。それに激昂したサチが追跡をしようとするが、ドサリと音がして振り向けばアンコが力無く倒れている。奴を追いたい所だが、今のアンコを放置する訳にもいかない。彼女は大蛇丸の追跡を断念して、アンコの傍に向かった。

 

 

 

「大丈夫? 今も何処か痛かったりするの?」

「いや、痛みは収まったわ。それにしても、あんた意外とやるのね。あいつの焦った顔は初めて見たわよ」

「そうなの? まあ、私も必死だったからね」

 

 

 サチの問い掛けにアンコは、平気だと言葉を聞いて安堵する。それに大蛇丸を圧倒した事を褒めるアンコだったが、サチとしては素直に喜べ無かった。結果的に追い払えたとはいえ、さっきの自分は怒りの感情任せで戦っていたからだ。もしこちらの火遁や飛雷神の術が通じなかったら、二人共やられていただろう。

 

 

「…ごめんね。あんたの教え子が巻き込んで…こんなんじゃ、試験官失格よね」

「いいえ。貴女の所為じゃないわ。それに…サスケなら大丈夫よ。何だって、私達の班はタフだもの」

「そうね。とりあえず、今の事を火影様に報せましょう。悪いけど、また一緒に来て頂戴」

 

 

 再び同行を頼むアンコにサチは快く引き受ける。彼女の腕を掴み肩を貸して、森の外に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、サクラ達は木の陰に身を隠していた。木を失った二人を何とか運んで寝かせた後、サクラは必死で看病をしていた。幸いにもナルトの怪我は大した事は無かったが、問題はサスケの方である。彼自身も怪我は無いようだが、酷い熱を出して魘されていた。今は呼吸も落ち着いてはいるが、まだ熱が引かず安心は出来ない。それに一番気掛かりなのは、敵の襲撃だ。大蛇丸が去る前に言った。三人の配下がいると言葉。恐らく、何処かで奴らは自分達を探しているのだろう。

 

 

 もし見つかって、その三人と戦闘になれば…自分は当然として、この二人も殺されてしまう。だが、今動けるのは自分だけだ。何が何でもこの二人を守らないといけない。緊張の連続でサクラも疲労が溜まって、限界が近いものの。それを必死で堪えて辺りに注意を払った。

 

 

 しかし最悪の事態は続くもの。この時、遠く離れた場所から件の三人がサクラ達を捉えていた。その一人が今すぐ仕掛けるかと言うが、別の者は冷静で夜が明けてから仕掛けると返した。数や戦力差では此方が有利だが、万が一もある。相手が誰であれ、油断は禁物だ。その言葉に二人も賛同し、彼らは静かに夜明けを待った。

 

 

 

 

 

 一体、どれ程の時間が経ったのだろう?気になったサクラが不意に空を見上げると、木から漏れる光に気付いた。知らない内に夜が明けていた様だ。であれば、他のチームも活動を開始する頃だろう。木の陰とはいえ、此処にいたら発見される可能性もある。今以上に注意しなければ、サクラがそう思い警戒を強めた時。

 

 

「やあ…寝ずの見張り番。ご苦労だったね。だけど、もう必要はないよ。さて、後ろにいるサスケ君を起こしてくれないか? 僕達は彼と戦って見たくて、ずっと待っていたんだよ」

 

 

 突然、声をかけられたサクラが後ろを振り変えると、驚き目を見開いた。そこにいたのは、音の額あてを付けた三人の忍。それにサクラは彼らの姿に覚えがあった。第一試験が始まる前、いきなり仕掛けて来た奴らである。

 

 

「な、馬鹿を言わないで。サスケ君が戦える状態じゃない事は、あんた達も知ってるでしょう?」

「どういう事だい? 君が何を言っているのか。理解が出来ないな」

「とぼけるつもり? あんた達の裏に大蛇丸がいるのは分かってるのよ。大方、あいつに命令されて襲いに来たんでしょう」

「…君は、いや君達はあの人に会ったのか?」

「そうよ。しかもサスケ君に変な痣まで付けて、一体どういうつもりなのよ?」

「痣…か。そうか、あの人は彼に呪印を施したのか。悪いけど、僕達もあの人の考えは分からないよ。だが、今の話を聞いて一層、引き下がる訳にいかなくなったよ」

 

 

 彼らの用件はサスケと戦う事。そう告げたが、生憎サスケは戦いが出来る状態ではない。相手もそれを知っていると思っているサクラは、その要求を突っ撥ねた。そして…背後に大蛇丸が糸を引いている事を話すと、彼らは雰囲気が変化させ、殺気を出してゆっくりと迫り来る。どうやら自分は藪蛇を突いてしまった様だ。

 

 

 こうなっては、戦いは避けられない。自分が奴らに勝てるか分からないが、やるだけやってやる。そう覚悟を決めてサクラは構えた。

 

 

「成程。サスケ君と戦うには、まず君を倒す必要があるようだね」

「ったく。雑魚が出しゃばりやがって…とっとと終わらせてやるよ」

「待て、ザク」

「ん? 何だよドス。お前がやるのか?」

「いやね。戦うのに邪魔なものがあるからさ。例えば、これとかね」

 

 

 そう言って、ドスと呼ばれる男は地面に手を伸ばす。すると隠された罠が露わになった。ばれない様、草木に模した布で覆っていたが…相手には通用しなかった様だ。

 

「ふーん これで罠のつもり? 土の色もよく見れば違うし、石がひっくり返されたのがモロバレよ」

「これに引っ掛かると思ってたのかい? だとしたら、君は忍の才能が無いんだね」

「全くだな。こいつも俺がやっていいか? 見るとそこそこ、可愛い面だしな。甚振ってやるのも面白そうだ」

「ふぅ。君も物好きだな。僕は別にいいよ。キンはどうする?」

「ああ。私も構わないよ」

「決まりだな。まあ、なるべく時間は掛けねえよ」

 

 

 ザクの言葉に二人も文句は無く、この場は彼に任せる事となった。嫌な笑みを浮かべて、こちらに迫るザクを見つめながら、サクラはある機会を狙っていた。あと少し…相手の距離を測り、ある地点に来た所でサクラが動いた。初めに手裏剣を投げて、三人の気を逸らした後。隠し持っていたクナイで背後にあった糸を切る。

 

 

 その直後、三人の上から丸太が勢いよく迫り、一網打尽にするかと思いきや。ドスは右手を前に出し、迫る丸太を木っ端微塵にしてしまった。その事にサクラは唖然とする。それもその筈、他者に気付かれぬ様、細心の注意を払って仕掛けた罠がこうもあっさりと破られてしまったのでは、仕方のない事である。

 

 

 

「さっきといい、これといい。単純な罠では僕達は勿論。他の連中だって、倒せやしないよ。君は戦いを舐めている様だね。ま、此処で死ぬ君にはどうでもいいか」

 

 

 冷酷な言葉を吐き捨て、サクラを仕留めるべく彼らが迫った時。間に入った何者かが、三人を吹き飛ばすとその者がサクラの傍に降り立った。

 

 

「言ってる事は尤もだ。しかし、僕がいる限り。サクラさんには、指一本触れさせませんよ」

「…君は何者です? 一体、僕達に何か恨みでも?」

「僕は木ノ葉の青き野獣。ロック・リーだ。因みに恨みはありませんが、怒りは感じてる。だから、此処で全員潰させてもらいます」

 

 

 降り立った者。それは試験前に勝負を挑んできたリーであった。何故、彼が此処にいるのか?サクラは不思議に思い、リーに尋ねる。

 

「助けてくれて…ありがとう。でも、どうして私を助けたの?」

「前に一度、言ったじゃないですか。命を懸けて君を守るとね。それを成す為に駈け付けたんですよ」

 

 

 リーの言葉を聞き、サクラはその事を思い出した。今まで色んな事があり過ぎて、それをすっかり忘れていたのだ。あの時、心無い事を言ったのに自分を助けてくれたリー。彼の後ろ姿をサクラは、申し訳なさそうに見つめていた。尤も、自分の言葉が決まった。そう感じてニヤリと笑っていたリーに気付かなかったのが、サクラにとっても幸いであろう。

 

 

「成程ね。君が立ちはだかる理由は分かったよ。仕方無いなぁ。ザク、サスケ君はきみに上げるよ。その代わり、この二人は僕にやらせてくれ」

「…分かったよ。まあ、お前の方があいつと相性良さそうだしな」

「すまないね。なるべく、時間は掛けずに終わらせるさ」

 

 

 そう言うや、ドスは二人に向かって駆けて行く。それに対して、リーはサクラの前に出て身構えた。だが、サクラも只見ているだけでは無い。力及ばずとも、協力しようと彼女はクナイを投げるが…それは通用しなかった。ドスはクナイを飛び越えて避けると、右手を付き出してリーに迫るが、彼は地面に拳を突き立て、強引に引きずり出した木の根でドスの攻撃を防いだ。

 

 

「君の攻撃に秘密があるのは知っている。早々、馬鹿正直には受けない」

 

 

 ドスの右手に注意を払い、僅かな隙を突いてリーはドスの真下に移動し、目に止まらぬ速さで宙へ蹴り上げた。無論、リーの攻撃はそれで終わらない。続いて背後に回り込み、両手の包帯で拘束すると回転しながら地面へと勢いよく落下していく。そして…凄まじい音を立てて、二人は地面に突き刺さる。

 

 

 先に起き上がったリーを見て、やったのか?と思いきや。ドスも平然として起き上がってきた。それにサクラは動揺を隠せない。かなり高い所から、落ちた筈なのに何故無事でいられたのか。

 

 

 その理由はすぐに分かった。離れた所から、ザクは地面に手を置いている。彼が何かしたとみて、間違いはない。

 

 

「ふー 何とか間に合った。危ない所だったぜ」

「…!! そうか、お前の土遁で地面を柔くした訳か」

「残念ながら…それは違う。僕達の術は音だよ。故に…君では僕に勝つ事は無理なのさぁ!!」

 

 

 相手から土を付けられた事に、腹を立てたのか。ドスは血走った目で攻撃を繰り出してくる。一瞬、反応が遅れたが、大振りの攻撃だった為。幸いにも避ける事が出来たが…その瞬間、リーの視界がぐにゃりと歪む。それだけでなく、自分の左耳に激痛が走り、彼は堪らずその場に膝をつく。

 

 

「クク… さっき言っただろ。僕達の攻撃は音だとね。空気の震動を防ぐ事など、誰にも出来はしないのさ」

「成程。先程の攻撃は、震動の範囲を広げる為か。だから、態と大振りの攻撃を…」

「気付いても遅いよ。今の君は耳から伝わった震動で、脳が揺さぶられてまともに動けないだろう。さて、次はあの女だね」

 

 

 自分の術で身体の自由が効かないリーを見下ろして、ドスは嘲りの言葉を投げ掛ける。相手の術中に嵌まってしまった悔しさから、リーは唇を噛み締める。次にドスは標的をサクラに変えた。厄介だったリーと違い、彼女は取るに足らない相手だ。一瞬で片が付くだろう。

 

 

 

「…っ! そうはさせません。木ノ葉旋風!!」

「な、まだ動けるのか。しかし、動きが遅いよ。さっきの攻撃は効いているようだね。これはおまけだ」

「くそ… 今度は受けない」

「無駄だよ」

「何を… うわぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

 

 サクラを守ろうと傷付いた身体に鞭を入れて、ドスに攻撃するリーだが…またもや音による攻撃で彼は沈んだ。攻撃の瞬間。耳を塞いで音の侵入を防いだにも関わらず、それは再び彼の脳を大きく揺さぶった。

 

 

「忘れたのか? 震動は防げないと言っただろう。これで二度目、流石に動けないだろうが…万が一もあるし、此処で止めを刺すとしよう」

「…!? そうはさせないわ」

「そんな物は効かないよ」

「だったら、これでどうよ!!」

 

 

 

 リーに止めを刺そうとするドスを阻止する為、サクラがクナイを投げる。これが通じない事は理解している。だが、彼女に出来るのはこれしか無いのだ。一つで駄目なら、大量に投げたらどうだ? やぶれかぶれの攻撃を仕掛けると、ザクが間に入って全ての忍具を跳ね返してきた。

 

 

 それによって、自分の腕や頬に傷付き、怯んだ所をキンに抑えられてしまう。容赦なく髪を引っ張られ、痛みにサクラは顔を顰めるが…それを見ていたキンは、ある事を思い付いてその事を口にした。

 

 

「ねえ…二人共。そいつとあそこにいる奴ら。この女の目の前で殺そうよ。面白い余興でしょ」

「おおー そりゃ名案だな。よし、やってやろうぜ」

「やれやれ。余り時間は掛けるなよ」

「分かってるって…」

「く… そんな真似は「動くな!このメス豚が」うっ…」

 

 

 

 残虐ともいえる行動をやろうとする者達を止めよう。サクラが動こうとすれば、キンが邪魔をする。一体、どうしたらいいのか?何も出来ずに皆が殺されるのを黙って、見てるしか無いのかとサクラが絶望した時。ある人の言葉を彼女は思い出す。

 

 

『いつかサクラも誰かを守る為に戦う日がきっと来るわ。今日出来なかった事は、その日にやればいいのよ』

 

 

 そうだ。思えば、自分はいつも誰かの背中を見て、そして守られていた。このままじゃ駄目だ。いつまでも守られている訳にいかない。あの人が、言ったあの日とは今なのだ。

 

 

 正直、傷付く事や死ぬ事を自分は恐れていた。だけど、もう私は恐れない。サクラはクナイを取り出すと強く握りしめる。

 

 

「ハッ 無駄よ。そんな物、私に通用する訳ないでしょ?」

「それは…どうしらね!!」

 

 

 それを見て、嘲笑するキンだったが…次にサクラが取った行動に目を瞠って驚いた。何と彼女は、手にするクナイで自らの髪をバッサリ切り落としたのだ。思いも寄らぬ事に他の二人も驚きの様子を見せる。

 

 

 そして、ゆっくりと立ち上がったサクラは強い眼で三人を見つめた。その視線に三人の身体に言い知れぬ緊張が迸る。そう…彼女は覚悟を決めて、戦う事を決意した。言うまでも無く、大切な仲間を守る為に。




今回のお話 楽しんでもらえたでしょうか?


仲間を守る為、強い覚悟を決めてサクラが遂に戦う事を選ぶ。
髪を切り落とした時のシーン、あれでサクラの見る目が変わった人も多いと思います。



また一言でもいいので感想の方をお待ちしています。


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第二十話 猪鹿蝶の奮闘! そして豹変した者

最新話、お待たせいたしました。




 緊張感が漂う中、サクラとドス達は睨み合っていた。その様子をリーは不安気に見つめる。だが、その顔に怯えは無い。凛とした顔で立つ姿は不思議と安心感が湧いてくる。しかし、変化があるのは相手も同じだ。先程と違って、今の彼らはサクラを敵として認識した。お互い、視線で牽制しあう中。先にサクラが動いた。立ちはだかるザクを見据えて、彼女は印を組み始める。

 

 

「…キン、殺れ!!」

 

 

 一体、何の術だ?と警戒したが…印の形から使おうとしてる術にザクは気付く。それが分かれば、恐れる事はない。ザクはサクラの後ろに立つキンへ、彼女を殺せと叫んだ。その言葉に従い、千本を手にサクラの背中に突進する。キンが仕留めたと思った瞬間、彼女の姿は丸太へ変わった。

 

 

 ザクの予想通り、サクラが使ったのは変わり身の術。それは背後のキンに対する牽制で、狙いは目の前にいる自分であった。恐らく、ドスよりも勝算があると思ったのか?これも作戦なのか?それは分からない。だが、前者だとしたら、自分は舐められている。そう考えると怒りが込み上げてきた。

 

 

「キン、離れろ」

 

 

 ザクは両手を突き出しながら、キンに叫んだ。彼女もザクの構えを見て、素早く移動する。仕掛けるのはさっきの衝撃波だろう。だが、そんな事はお構いなしとサクラは、彼に無数のクナイを投げ付ける。当然、それは跳ね返されて自分に返ってくるが…これも計算の内だ。

 

 

「バカが…。バレバレなんだよ。上にいるって事はよ」

 

 

 攻撃を受けたのは、変わり身で本体は上にいた。ザクがクナイを跳ね返す時。同じ印を組んでいたのを、ザクは見逃さなかった。その事でザクは警戒心を薄くする。何をやるのかと思いきや、取る戦法は逃げの一手ばかり…少しは楽しめると思っていただけに、些か落胆の色が見て取れる。

 

 

 こんな奴に術を使うのは勿体無い。ザクは腰のポーチから出したクナイをサクラに投げ付けた。どうせ、次も変わり身で防ぐのだろう。こうなったら、とことん遊んでから嬲り殺してやる。

 

 

 案の定、印を構えたサクラはその攻撃を避けずに受けた。さて、今度は何処に行ったとザクが辺りを見回した時、顔に何か落ちて来た。手で顔を拭ってみれば、それは赤い血であった。まさか… ある考えに至り、ザクは上を見て驚愕する。彼の目に映ったのは、傷付きながら向かってくるサクラだ。落下する勢いを利用して、彼女は両手のクナイをザクの右腕に思いっきり突き刺した。

 

 

 サクラの捨て身の攻撃に怯み、倒れるザクだが…すぐに平静を取り戻すと左手をサクラに向ける。しかし、ザクが術を放とうした時、驚く事に彼女はその手に噛み付いた。

 

 

 

「てめぇ… この野郎、離せよ。離せってんだ コラぁ」

 

 

 自分の想像が付かぬ行動をするサクラに、混乱してザクは彼女の顔を殴るが…サクラは食い付いたまま離れようとしない。

 

 

 

 

 

 

 そんなサクラを陰から見る者達がいた。それはアスマ班の三人である。朝になり、必要な巻物を奪うべく行動を開始した時、偶然にもこの場に出くわしたのだ。最初はすぐ加勢に入ろうとしたいのだったが、傍にいたシカマルが制止して様子を見る事になった。

 

 

 

 しかし、土壇場でやってきたリーがやられてしまい。頃合いだと、いのが割って入ろうとするが…髪を切り落とし、立ち向かおうとするサクラの姿を見て、彼女は思わず涙を溢す。それは過去のサクラを知っているが故の事だ。

 

 

 

 

 昔、アカデミーに入学して間もない頃。周りに馴染めず、森で一人泣いているサクラを見つけて、いのは声をかけた。

 

 

『あんた… 春野サクラだっけ? いつもデコリーンって、苛められてたよね?」

『うっ、何よ。私を笑いに来たの?』

「誰があんたを笑うって? 馬鹿言わないで。そんな事をする訳ないでしょ。おっと、私も自己紹介しないとね。私は山中いの。よろしくね』

『う、うん。よろしく』

『そうだ。明日さ、また此処へ来てよ。そうしたら良い物を上げるからさ」

 

 

 それがサクラとの出会い。初めは余り良いとは言えなかった。それでも何処か放って置けなくて、いのは彼女にそう言った。

 

 

 

 

 

 そして翌日。

 サクラはいのが指定した場所に来てくれた。もしかしたら来ないのでは?そう思っていただけにサクラの姿を見つけた時は、心から嬉しかったのを覚えている。いのはそんな彼女に自分が大切にしていたリボンを贈った。

 

 

『これでよし! バッチリ決まってるじゃない』

『ありがとう。でも…おでこが』

『いいじゃない。隠さなくてもさ。逆に隠そうとするから、デコリーンなんて苛められるのよ。あんたは可愛いんだから、堂々としてればいいのよ』

『いのちゃん…』

 

 

 

 その後、いのはサクラを自分の友達に紹介した。最初こそ、いのの背に隠れていたサクラだったが…次第に打ち解けてサクラは明るくなっていった。ある日、いつもの仲間と過ごしているとサクラが息を切らしながら駆けてくる。一体、何を慌てているのか?不思議に思った仲間に彼女は、顔を輝かせてその理由を口にした。

 

 

『ねえ、皆、聞いて。私、好きな人が出来たの』

『へえ…。それは気になるね』

『もしかして、サスケ君とか? あの子、女子の中で人気者だし」

『え? 何で分かったの?』

『案の定か。やめときなよ~ あいつの周りにいる子達。結構、血の気が多いしさ。また苛められるだけだよ』

『ううん。私は負けない。だって、心から好きになれた人だもん』

『だとさ、いの。こりゃ強力なライバル出現だな』

『フン。どうせ強がってるだけよ』

 

 

 口ではそう言うが…内心では、いのはサクラの変化を喜んでいた。以前であれば、自分には釣り合わないと即諦めていた事だろう。だが、それでも面白くないと感じるのもある。一人っ子であるいのにとって、サクラは友達であると同時に妹みたいな存在だったからだ。もしかして、サスケに夢中になってサクラは自分から離れていくのではないか?心の底ではそんな不安が渦巻いていた。

 

 

 それからだ。サスケが髪の長い子を好きという情報を知り、サクラが髪を伸ばし始めた。何処から聞いたのかは知らないが、自分がサスケを好いている。それを真に受けた彼女がいのに戦線布告してきのは。いつしか、仲が良かった二人は何かにつけて、張り合うようになった。だけど、それでもいのは楽しかったのだ。だから、あの子がもっと強くなれる様、もっと逞しくなれる様、いのも負けじと己を磨いていた。常に彼女の前に立って背を見せ、彼女の傍に並べる様に。

 

 

 

 そして…自分の大事な妹分であり、親友は仲間を守るべく必死に戦っていた。何度も殴られ、顔が腫れようとも、血が出ようとも構わず食らい付く姿は‥もう苛められていた頃の影はない。既にサクラは庇護の対象では無い。彼女は…自分のライバルだ。

 

 

 

 その時、ザクの一発でサクラは堪らず吹き飛ばされた。これをチャンスと見た、ザクが最大力の攻撃で仕留めようと、サクラへ手を向けた瞬間。草むらから飛び出したいの達がサクラの前に躍り出る。此処に来て、姿を見せた新手に遠巻きに傍観していたドスが愚痴を溢す。

 

 

「誰と思えば、また木ノ葉の羽虫たちですか。うじゃうじゃと湧いて来て、うっとしいなぁ」

「いの!? どうして…此処に?」

「決まってるでしょ。あんたばかり、サスケ君の前でいい格好はさせないわよ」

 

 

 サクラは突如、現われたいのに驚きの表情を浮かべる。そんなサクラにいのは、笑いながらそう答えた。そして…目の前にいる敵に向き合うと、彼女は強い眼で睨みつける。

 

 

「ち、ちょっと‥二人共ぉ~ こいつらと本気で戦うの? 勝てっこないって。それとシカマル。僕のマフラーをいい加減に放してよ。さっきから苦しいんだから」

「馬鹿言うな。放したらおまえは逃げようとするだろがっ!! 第一、女のいのが戦うってんだぞ。それなのに男の俺らが逃げる訳にいかねえだろ。覚悟を決めろ、チョウジ」

「ごめんね。二人を巻き込んでさ。だけど、私達はあの猪鹿蝶よ。三人の結束と力を見せてやりましょ」

「だな。まあ、偶には体を張るのもいいかもしれねえ」

「ふん。あの二人はやる気みてえだな。所で…そこのデブ。てめえはやる気ねえなら、逃げてもいいぜ」

 

 

 一見、大した事は無さそうな三人だが…先程のサクラよりは楽しめそうだと、ザクは残忍な笑みを浮かべる。その一方、ビクビクと青ざめた顔で此方を窺っていたチョウジに、侮蔑の言葉を言い放つ。だが、その言葉を聞いた途端、チョウジの様子が変わった。

 

 

「ねえ… あいつ、今何か言った?」

「あ!? 惚けてんじゃねえぞ。嫌なら消えろって、言ったんだよ。このクソデブ!!」

「…まれ」

「はぁ? さっきから何だってんだよ。このデブ、もっとはっきり言いやがれ」

「黙れって言ったんだぁぁぁぁ!! 僕はデブじゃない。ぽっちゃり系だ!! コラぁぁぁ」

 

 

 仏の顔も三度まで。自分が気にしてる事を言われ、彼は遂にブチ切れた。元より、一度でも言おうものなら、怒るチョウジだが…今回は三回も言われたのだ。それ故、チョウジの怒りは並では無い。

 

 

「シカマル、いの。これは木ノ葉と音の戦争だぜ。あいつらは生かして帰すなよ」

「分かってるよ。ったく、キレてやる気出したのはいいが、これが面倒だからな」

「面倒なのは、こっちの台詞だぜ」

 

 

 

 三対二の戦いに持ち込もうとしたザクだったが、逆に相手を焚き付ける形に終わってしまった。その事に少しばかり、彼は苛立ちを覚える。此処に来る前、自分の主から言い渡された命令は‥試験終了前にサスケを殺す事であった。まだ猶予はあるとはいえ、余り時間は掛けられない。こうなったら、さっさと歯向かう奴らを始末してサスケを殺してしまおう。ザクは…構えるのを見て、いの達も構えた。

 

 

「二人共、あのフォーメーションでいくわよ!!」

「「おう」」

 

 

 

 

 

 

 

 その掛け声と同時に仕掛けたのは、意外な事にチョウジだった。怖がっていても、やる時はやる。そんなチョウジを二人も信頼していた。

 

 

「倍化の術…からの肉弾戦車ーーー!!」

「何が戦車だ。ただ、転がってるだけじゃねえか」

 

 

 手足を体に引っ込めて、勢いよく転がるチョウジをザクは嘲笑い、チョウジに真空波を放つ。しかし、丸くなった事でザクの真空波は霧散し、チョウジには通用しなかった。

 

「な、俺の術が…」

 

 

 思わぬ事にザクは、呆然とする。まさか自分の術が破られるなど、想像もしていなかった。無論、チョウジを止める手を持ってはいるが、それをするには直に触れない発動は出来ない。しかし、それをすれば当然、ザクの両手は無事ではすまない。自由に体を変化させるチョウジは、ザクにとって天敵といえる相手だった。

 

 

 

 相性が悪いと悟ったドスが、ザクの救援に向かうが…その瞬間、彼の体は金縛りにあったかの様に固まった。

 

 

「てめえは自由にさせねえよ。生憎、一番厄介だと分かってるからな」

「君は…そうか。影で相手を操る術を使うのか。これは盲点だった」

「ドス。何を遊んでるのよ」

 

 

 シカマルの術で意のままに操られるドス。それは自身の影を操り、相手の影に繋ぐ事でその者の身体を支配する術である。遠くにいる為、それに気付かないキンが叫んだ時。彼女もまた動きを止めた。

 

 

「いのも上手くやったみてえだな。あとは…任せたぜ」

 

 

 倒れるいのを受け止めたシカマルは、一人呟く。いのがやった事。それは相手の体に、自分の精神を侵入させる山中一族の秘伝忍術 心転身の術である。これによって、キンの精神を支配したいのは、クナイをキンの喉元に突き付け、彼らに交渉を持ちかける。

 

 

「そこまでよ。この子の命が惜しかったら、今すぐ立ち去りなさい。勿論、巻物を置いてね」

 

 

 この時、いのはある思い違いをしていた。彼らがサクラを襲撃したのは巻物が目当てだと思っていた。だからこそ、彼女はキンの命と引き換えに巻物を要求した。だが、ドス達にこの脅しは無意味だった。その違和感にいのも気付いて冷汗を掻く。仲間を殺すと言われたら、多少なりとも動揺する筈である。寧ろ、二人はニヤニヤと笑みすら浮かべている。

 

 

 思惑が外れ、困惑しているいのへザクがゆっくりと手を向ける。何だ?やっぱり降参するじゃない。彼女が油断した時、相手がやろうとした事が分かったサクラが、いのへ叫んだ。

 

 

「止まっちゃ駄目よ。そいつは…」

「え? きゃあぁぁっ!!」

 

 

 だが、サクラの忠告が届く前にザクがキンの体を吹き飛ばす。そのまま背後の大木に打ち付けられ、彼女はどさりと地に倒れ伏せた。

 

 

「何なのよ…。あんた達、どうして平然と仲間を傷つけられるの?」

「簡単な事さ。元より、僕達はある目的の為に動いている。それは君達の後ろにいる彼。サスケ君だよ。それに正直な所、試験なんてどうでもいいのさ。だから、キンが死のうと関係無い」

「そういう事だ。目的の為、端から死ぬ覚悟をしている俺達に脅しなんざ、意味ねえんだよ」

 

 

 その言葉にいの達は愕然とした。そして自分達の見通しが甘かったと三人は思い知る。

 

 

 

「そこの彼女が使う術。キンが傷付けば、彼女も同様に傷付く様ですね。ククク…ネタが分かれば、大した事はないね。それに君の術も持って五分。こっちのネタも分かった。さて、此処から反撃といきますか」

 

 

 

 ドスの言葉を聞いて、シカマルの表情は険しくなる。いのや自分が使う術の事も知られ、更に横を見ればチョウジはザクに抑えられていた。誰がどう見ても形勢は劣勢だ。攻勢に出ようにも、唯一戦闘力があるチョウジは敵の手に落ち、かと言って自分といのでは相手を仕留める手段は持っていない。何とかして、この場を切り抜ける策を見出そうと頭を回転させるが、焦りから上手くいかない。

 

 

「フン 気に入らないな。田舎者が弱い者を嬲って、勝者気取りか!」

 

 

 万事休す。全員の死という最悪の展開を覚悟した時、新たに現れた者のおかげでそれは免れた。声の方へ視線をやると、そこに二人の男女が木の枝に立ち、全員を見下ろしていた。

 

 

「何者です? 額あてを見れば、木ノ葉の忍と見えますが…」

 

 

 しかし二人はそれに構わず、遠くに倒れている自分達の仲間に目をやった。ボロボロになり、傷付いたリーを見て、女の忍が彼の名を口にする。

 

 

「そこに倒れているオカッパくんは、俺達のチームメイトなんだが…やったのは誰だ?」

 

 

 そう言いながら、彼は音の忍達を強く睨みつける。その白い眼は相手の全てを見透かす様だと、全員はそう感じていた。

 

 

「やったのは僕ですよ。文句があるなら、降りて来たらどうです?」

「いや…どうやら、俺の出番は無さそうだ」

 

 

 憤る少年にドスが挑発の言葉を吐き捨てるが、彼はあるものを見て怒りを収めた。一体、どういう事だ?と少年の真意が分からずに訝しんでいると。一人の少年がむくりと起き上がって来た。

 

 

 

「…!! サスケ君、目が覚めた…の」

 

 

 その気配に気付いたサクラが、振り向いて声をかけようとしたが…異様な雰囲気を醸し出す彼にサクラは言葉を失った。サスケの体は黒い瘴気に包まれ、また右半身には呪文の様な模様が浮び上がっている。いつもと違って、殺気に満ちた姿にサクラは、恐怖を感じて震えていた。

 

 

「…誰なんだ? サクラ…お前をこうした奴は…」

「え?」

「何度も言わせるな。お前を傷つけた奴は、どいつだと聞いている」

「俺だよ。サスケ君よぉ~ お前が起きるまで、暇だったからな。少しばかり、遊んでやった訳さ」

 

 

 

 突然、尋ねられてサクラは困惑して言葉を返せずにいると、少し苛立った様子でサスケは再び尋ねた。それに答えたのは、サクラを傷つけた本人であるザクだった。そんな中、ドスはサスケの異常さに気付き始めていた。体中に蠢くあの模様。それは主である大蛇丸が授けた物と見て間違いはない。

 

 

「そうか。お前か…」

「さ、サスケ君。その体…大丈夫なの?」

「ああ。心配はない。寧ろ、力が溢れて気分がいい。思えば、初めから委ねるべきだった。俺の目的を果たすのに必要な力にな」

「…サスケ君」

「さあて。お前だったよな…仲間を甚振ってくれた礼は、存分にさせてもらうぜ」

 

 

 

 力強く踏み出して、サスケはザクを睨みつける。言葉だけを聞けば、仲間の為に戦うと思うだろう。しかし、残虐な笑みを浮かべる彼の顔からは、とてもそうは思えなかった。

 

 

 

「いの!! 早く戻れ。そのままだと、ちっとやばそうだ」

「え? う、うん。解!!」

 

 

 面倒な事になると踏んで、シカマルがいのに戻る様に言うと彼女もそれに従って、術を解いて自身の身体に戻った。それを合図であるかのようにザクとサスケの戦いが幕を開ける。だが、不意に見た彼の目にドスは、背筋が凍った。サスケが見せたあの目が、まるで大蛇丸の様だと感じてドスの身体を恐怖が支配する。

 

 

 

 

「ま、待て!! ザク、彼と戦ってはいけない」

「けっ、今さら何をビビってるんだよ。確かにでけぇチャクラだが、死に掛けだった相手に負ける訳がねえ」

 

 

 ドスの忠告を跳ね除けて、ザクはサスケに向かって真空波を飛ばす。最大力で放ったそれは地面を抉り、大木すら軽く倒す程の威力を持っていた。もうもうと上がる土煙を見て、ザクは思った以上に呆気ない奴だと笑った。

 

 

「へっ、バラバラになったか?」

「誰がだ?」

「な、ぐわぁっ!!」

 

 

 全力の攻撃で息を切らしながら、ザクが呟いた瞬間。彼は瞬時に移動したサスケによって、殴り飛ばされた。その速さは目に止まらぬ程で、しかもサクラとナルトを担いでの事にドスは唖然とする。だが、サスケの攻撃はそれだけで終わらず、彼は素早く印を組んで火遁をザクに向けて放った。

 

 

「この…図に乗るんじゃねえ。こんなもん、掻き消してやる」

「ふん、だったら、やってみろよ」

「舐めるんじゃねえぞ。火遁如きで俺が倒せると思ったら…!? ぐああああ」

 

 迫る火遁に真空波を放ち、炎を消す事は出来たが…次に迫る攻撃には反応が出来なかった。サスケは火遁を放つ際、その中に手裏剣を仕込んでいたのだ。無論、本来ならば火遁と共に手裏剣を吹き飛ばされてしまうだろう。しかし、サクラ達との戦いや先程の攻撃でザクのチャクラはかなり消耗していた。それ故、火遁を消す事は出来ても、中の手裏剣までは止める事が出来なかったのだ。

 

 

 

 そして…サスケは、それによって生まれた隙を見逃さない。体中に刺さる手裏剣の痛みに悶えるザクに、サスケは詰め寄ると無防備な彼の腹部に強力な一撃を食らわせた。それにより、倒れそうになるザクの両腕をガッシリと掴んだ後、背後に回ったサスケはザクの背中に右足を乗せる。

 

 

 

「この腕がお前の自慢らしいな。だが、それも今日までだ」

「な、何をするつもりだ? や、やめ…ギャアアアアアッッ!!」

 

 

 昏く笑った後、サスケは足に力を籠めるとザクの両腕を力任せに引張った。その途端、バキボキと骨を砕く音がザクの悲鳴と共に響き渡る。半端無い激痛に声なく悶えるザクを見て、サスケは残虐な笑みを浮かべていた。

 

 

 その光景にサクラは、知らず涙を流していた。違う…こんなのはサスケ君じゃない。彼は何でも軽くこなしていつも自信に溢れていたけど、それでも優しい一面や不器用な所もあった。だからこそ、サクラは彼に惹かれたのだ。だけど、今のサスケは全くの別人だ。先程の笑みは…まるで襲ってきた大蛇丸の様だと、サクラは感じていた。

 

 

 

「次は…お前だな。今度はもっと楽しませてくれよ」

 

 

 ザクを打ち破り、次の標的としてドスに定めたサスケが踏み出した時。駆け出したサクラが抱き付いて、その蛮行を止めた。

 

 

 

 

「お願い…もうやめてよ。こんなサスケ君、私は見たくない」

「…サクラ。俺は…」

 

 

 

 背に縋り泣きじゃくるサクラの声が届いたのか、サスケの半身に浮かんでいた呪印が消えていく。それを見て、助かったと思ったドスは…二人にある提案を持ちかけた。

 

 

 

「サスケ君 君は強い。悔しいが今の僕達では到底、敵わないだろうね。だから、虫の良い話かもしれないが僕達を見逃してくれないか? 無論、只とは言わない。手打ち料として、僕達が持つ巻物を置いていくよ。それと…次に会って、君と戦う時は僕は逃げも隠れもしない。それは約束しよう」

「待って!! 行く前に質問に答えて。あんた達の背後にいる大蛇丸って、何者なのよ? それにサスケ君に何をしたの?」

「その問いですが…答えは分からない。僕もあの方が何者なのか…測りかねている。それとあの方の命令はサスケ君を殺す事。だからこそ、僕達は君達を襲撃したのさ。しかし、呪印の事は一切知らされないままね」

 

 

 

 ドスはこの時、大蛇丸に不信感を抱いた。サスケを殺す命令を下しておきながら…本人は自分達に黙って、彼に接触していた。おまけに呪印まで施して。だが、考えても答えは出る事はない。今は…すぐに此処を立ち去るのが先決だ。そう気持ちを切り変えると、ドスは気を失い倒れるザクとキンを抱えて去って行った。

 

 

 

 思わぬ出来事で危機を乗り越えたサクラ達だったが、胸に残った靄は晴れぬままであった。




今回、猪鹿蝶トリオとサスケの奮闘でサクラ達は、難を逃れましたね。

しかし、最悪と思われる呪印が無ければ…本当の最悪が三人を襲っていたでしょうし…そう考えると大蛇丸の行動も非難出来ない所ですね。


また一言でもいいので、感想を書いてくれると励みになります。


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第二十一話 渦巻く狂気!

最新話、お待たせしました。

最近、同人ポイント集めやらリニューアルされた海域を攻略していた為に遅れた次第です


「どうやら、奴らは去ったようだな」

 

 

 辺りの気配を探っていた少年 日向ネジはそう呟いた後。座り込んでいるサスケを見下ろしていた。あの時、感じたチャクラの大きさ。その異常さに彼はサスケの中に宿るうちは一族の力に、ネジは畏怖を覚える。試験開始前と違って、何かしらの力を手に入れたのだろう。先程、見せたサスケの力と己の力。どちらが上か確かめたくなったが、隣で心配そうにリーを見つめるテンテンに気付いて、ネジはその気持ちを引っ込めた。今は仲間が先決だ、奴とは何れ戦うだろう。そう自分に言い聞かせ、昂った感情を鎮める。

 

 

 

 

 一方、未だに眠り続けるナルトをシカマルとチョウジが呆れた顔で見ていた。あれ程の騒動が起きたというのに、呑気に寝てるナルトに腹が立ったのか。近くに落ちていた木の棒を持ったチョウジが、ナルトの頭を軽く小突いた。その時までサクラと過ごす夢を堪能していたナルトだったが、急に大蛇丸に襲われる夢に変化し、ナルトは跳び起きた。

 

 

 

 そして未だに寝惚けているのか。辺りを見回し、地面に伏せたナルトは、「皆、気を付けろ!! あいつが襲ってくるぞぉぉぉっ!!」と叫んだ。しかし、その場に件の大蛇丸はおらず、いるのは呆れて白い目を向ける木ノ葉の面々だけである。その事に漸く、大蛇丸がいない事に気付いてナルトは首を傾げた。

 

 

「起きて早々、賑やかな奴だな」

「は? 何でシカマルが此処にいるんだ? それにチョウジやいのまで…」

「はぁ…やっとかよ。まあ、今から説明してや「サクラちゃーん 無事だったんだな!!」おい、こらぁ!!」

 

 

 

 状況が分からず、混乱するナルトにシカマルが説明しようと口を開いた時。遠くにサクラを見つけ、駆けていく。そんなナルトに怒りを覚え、声を荒げるシカマルだが…本人には届かない。もう知った事かと、すっかり屁を曲げた彼をチョウジが宥めていた。

 

 

 

「サクラちゃん その髪…一体、どうしたんだってばよ?」

「え? ああ、これは…イメチェンよ。ほら、髪も長くなったし、そろそろ切ろうと思ってたからさ」

「ふーん そっか」

「‥‥」

 

 髪の事を尋ねるナルトへ、そう答えたサクラだが、それが強がりなのは誰が見ても分かる。勿論、ナルトも理解していた。だからこそ、敢えてそっけない言葉を返した。内心では、慰めたい気持ちもあるが…どういった言葉をかければいいのか分からず、また下手な慰めは彼女を傷つけるだけと思ったからである。

 

 

 

 逆にサスケは何も言わなかった。いや、言えなかった。こうなってしまったのは、大蛇丸に襲われて気を失った自分達を守っての事だ。それ故、目が覚めた時。サクラをそうさせた自分と敵に激しい怒りを覚えた。先程の戦いはある意味では、八つ当たりでしかない。しかし、それで更にサクラを追い詰めてしまった事にサスケは自責の念に囚われていたのだ。

 

 

「そういや、サクラちゃん。何であいつらがいるんだ?」

「あんた… さっきも同じ事を聞いてなかったっけ? いの達が助けに来てくれたのよ。それに…あそこにいるリーさんもね」

 

 

 

 サクラはいのに介抱されているリーを見て、ナルトに訳を話した。それに釣られてナルトもリーに視線を向けると、確かに彼はボロボロになっている。サクラを守る為、相当な無茶をしたのだと一目で分かる程であった。

 

 

「リーが世話になったわね。あとは私が看るわ」

 

 

 そのリーに近づいて来たのは、同じ班のテンテンだった。彼女はいのからリーを預かると、何と彼の肩を揺さぶって容赦なく起こす。若干、強引ではあるが…それはリーをよく知る彼女だからこそ、取った行動である。

 

 

「あ、テンテン…どうして此処に?」

「リーを迎えに来たのよ。いつまで経っても戻って来ないからさ。そうしたら、この場に出くわしたって訳」

「そうでしたか。そうだっ!! 音忍達はどうしました?」

「ああ、あいつらなら…サスケという子が追っ払ったわよ。物凄い強くて驚いたわ」

「サスケ君が? そうですか…彼が」

 

 

 若干、ぼんやりした様子で尋ねるリーにテンテンは、簡潔に説明した。その最中、サスケの名を聞いて彼は表情を暗くする。自分では敵わなかった音忍を彼は一人で追い払った…この事実が少しだけ、リーは悔しかった。それに気付いたテンテンだったが、敢えて知らない振りをして彼に話しかける。

 

「それよりも、何で単独行動をしたのよ。何かを見ても、勝手な事はしないって決めたでしょ」

「う…、それは分かってたけど、サクラさんの危機に放っておけなくて…」

「あんたって、本当にバカね。それでボロボロになってたら、体が持たないわよ」

「ハハハハ、それには返す言葉も無いっす」

 

 

 本来ならば、三対一でもリーは負ける事はない。恐らく、サクラを庇ったが故に負けたのだろう。テンテンはそう思っていたが、リーは自分が油断して負けた事を責めているのだと思っていた。そんな中、リーに気付いたナルトが声をかける。

 

 

「あーーー お前、あの時のゲジマユじゃんか。そっか。お前もサクラちゃんを「リーさんに何て事を言うのよ。この馬鹿ぁぁぁ。失礼でしょうが」ぐえっ!」

「あいつ…。散々な目に遭ってるな。礼を言おうとして殴られるとは…」

「だね。不幸な星の下に生まれた感じだよ」

 

 

 

 

 

 ナルト本人は、サクラを助けたお礼を言おう。そう思ってリーに声をかけたのだが、ある単語を聞いたサクラに殴られてしまう結果に終わる。その一部始終を目撃したシカマルとチョウジが、不憫だと人知れず呟いていた。ナルトを殴ったサクラは、リーに向き直ると静かに口を開いた。

 

 

「今回、助けてくれてありがとう。私、リーさんのおかげで大事な事に気付けました。少しだけど、強くなれた気がします」

「サクラさん。いえ、自分は礼を言われるような事はしてません。実質、音忍を倒したのはサスケ君ですからね。僕はまだまだ精進が必要みたいです」

 

 

 

 サクラの傍でリーの話を聞いていたサスケは、彼が音忍にやられた事に驚いていた。何せ、サスケが敵わなかったリーが負けた。相手はそれ程の敵だったのだろうか?しかし、自分が戦った時はそう感じなかった。思えば、あの時の自分は正気では無かった。そういう意味では、己の力で挑んだリーの方がまだ上であろう。

 

 

「それとね。今回、結果として僕は負けてしまったけど…次は負けません。サクラさん 木ノ葉の蓮華は二度咲く。今度会った時にそれをお見せします」

「うん」

 

 

 力強くそう言ったリーにサクラは笑って応えた。その光景をテンテンは複雑そうに、そしてナルトは不貞腐れた様子で見つめている。

 

 

「サクラーー。ちょっと、こっちへ来なよ。髪…整えてあげるからさ」

「……。お願い」

 

 

 そして話が終わったタイミングで、いのがサクラを呼びかける。一体、何の用だとサクラが近寄っていくと…いのは不揃いの髪を指差してそう告げた。言われるまで、気付かなかったが確かに髪の長さはバラバラだ。この場で頼める相手は彼女しかいない。サクラは、いのの申し出に甘える事にした。

 

 

「全く、あんたって奴は…。戦う為とはいえ、此処までやる?」

「ふーんだ。そうしないと、皆が危なかったのよ。それに…あの時、誰かの為に戦う時が来る。私にそう言ったサチ先生の言葉も思い出したのよ」

「…そう。ねえ、そのサチって人。どんな人なの?」

「うん。サチ先生は私の目標かな。いつかあの人と肩を並べられる忍になるの。まあ、それには未だ遠いんだけどね」

「そっか。あんたが敬う程の人か。それを聞いて、私も興味が出てきたわね。中忍試験が終わったら、会いに行ってみようかな」

 

 

 

 楽しそうにサチの事を話すサクラに、いのも自然とその人物に興味を抱く。余り他者に影響される事のない彼女が、此処まで言うのだ。気になるのも無理は無い。

 

 

 

「はい 終わったわよ。あんたの髪、手入れが行き届いてるから楽だったわ」

「ありがとう。でも、短くなったら…項が変な感じね」

「まあ、時期に慣れるわよ。それにしても…サクラ」

「何よ?」

「あんた。さっき、さり気なくサスケ君に抱き付いてたわね。あんな小細工、何処で覚えたのよ?」

「ふふん。世間じゃ、先手必勝は恋の秘訣よ。いのも見習いなさいな」

「何ですって!? 余計なお世話よ。このデコデコ」

「ふーんだ。悔しかったら、いのブタも精進なさい」

 

 

 些か、暗い雰囲気になった時。それを拭い払おうといのは別の話題を振った。また、サクラも彼女の気遣いに感謝しながら、その話題に乗っかった。お互いに言葉の応酬を楽しんだ後、二人は顔を見合わせて笑った。サクラの顔を見て、いのは安堵した。どうやら、髪の事を吹っ切れた様だ。仲間を守る為の行動とは言っても、ショックを受けない訳ではない。機会があったら、久しぶりに髪飾りを贈ってあげよう。仲間の元に歩いていくサクラを見送りながら、いのはそんな事を考えていた。

 

 

 

 そういったやり取りがあった後、それぞれの班はナルト達の元から去って行った。次に会う時は戦う事になるだろう。その時は負けはしないと、その想いを強く抱きながら。

 

 

 

 

 

 

 

 音忍の襲来から遡る事、数時間前。

 陽が昇り始めた頃、漸く森を抜けた二人は数匹の猛獣に囲まれていた。なるべく、安全なルートを通っていたが…思いも寄らぬ事にサチ達は、猛獣の縄張りに足を踏み入れてしまう。

 

 

「くそ…。こんな時に限って、面倒な事が起こるのよね」

「そうね。けど、此処で足止めをされる訳にいかないわ。とっとと黙らせて急ぎましょ」

「一応…言っとくけど、殺しちゃ駄目よ」

「木ノ葉の希少動物だからでしょ? 分かってるわよ。まあ、殺しはしないが…ある程度は痛め付けないと立ち去りはしないよ。こいつらは」

「ええ。それは仕方ないわね」

 

 

 じりじりと距離を詰める猛獣たちは、一定の位置に来た途端。一斉に向かって来た。それに応戦しようと、サチ達が身構えた時、猛獣の動きがぴたりと止まる。一体何が起きたのか、突然の事に困惑する二人だったが、それが金縛りの術であると分かった。それをやった者達に二人は視線をやった。

 

 

 

「危ない所だったな、二人共」

「やっと、来たんですか。暗部の癖に来るのが遅いのよ」

「そう言うな。こっちだって、散々探し回っていたんだ」

「まあいいわ。とりあえず、火影様に…。ぐっ!!」

「おい!? 大丈夫か?」

 

 

 

 会話の最中、表情を歪めてアンコが膝を附く。それに暗部の一人が駆け寄って、声をかけた時。不意に見えた呪印に暗部の様子が変わった。

 

 

「…これは呪印じゃないか。お前、大蛇丸に会ったのか?」

「そうよ。あいつと一戦交えたわ。あたし一人で片を付けるつもりだったけど、サチがいなかったら最悪の事になってたわね」

「分かった。だが、今は火影様の所に来てもらうぞ。二人には、事情を話してもうおう」

「駄目よ!! あたしは塔に向かうわ。まだ試験の途中だし、試験官のあたしが不在じゃ示しが付かない」

「な、何を言ってるんだ!? 大蛇丸、奴が来た以上。試験をやってる場合では無い。それはお前も分かってるだろう」

 

 

 アンコの異常に気付いた暗部が、大蛇丸の名を出すと本人は首を縦に振った。嫌な予感は暗部の彼も感じていたのだろう。仮面越しにだが、優れない表情を浮かべているのが分かる。そして、暗部は二人をヒルゼンの元に連れていくと口にする。只の賊ならば、自分達で対処しようにも相手が大蛇丸となれば、話は別だ。それ故、暗部の者達は火影に報告して指示を仰ぐ事にした。しかし、その意見にアンコが異を唱える。彼女いわく、未だ試験は続行中で、試験官の自分が途中で抜ける訳にいかない。彼女は強い口調で言った。

 

 

 

 だが、暗部の者も引く事はない。今起きている事態を考えると、試験などやっている場合ではない。アンコが何を考えているのか、暗部たちは分からず困惑する。

 

 

 

「あたしが言ってる事に納得出来ないのは…分かるわ。でも、今は黙って塔まで来て頂戴。詳しい話はそこで説明うするから。それと火影様にも、塔へ来る様に伝えて」

「…いいだろう。此処で問答しても仕方無いからな。そのかわり、きっちりと話してもらうぞ」

 

 

 

 頑ななアンコに、暗部はため息を吐いて折れた。こうなってしまっては、彼女は絶対に譲らないだろう。それにもうすぐ猛獣の術も解ける頃だ。押し問答をして、平行線を辿るよりもさっさと塔へ向かった方が先決だ。彼は一人の暗部にヒルゼンへの伝達を任せ、残った者達で塔に向かう事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 塔にやってきた一同は、人気の無い部屋にいた。そして開口一番に暗部の一人が、状況の説明をアンコ達に求める。

 

 

「さて、事情を話してもらうぞ。試験を続ける理由も踏まえてな」

「…今が大変なのは分かってる。だけど、試験を止める訳にいかないのは…「アンコさん 此処にいましたか。至急、報告したい事があります」一体、何よ!? 今取り込み中なのよ!!」

 

 

 説明をしようとした矢先、突然入ってきた中忍によって話が遮られた。それに怒りを覚えたアンコが、声を荒げて叱責するが…当の本人は、慌てた様子でアンコに確認してほしい事があると告げる。今度は何だ?と首を傾げる一同だったが、考えても仕方無い。一同は中忍に導かれてある場所へ移動した。

 

 

 一同が来た部屋は監視室であった。数あるモニターには、塔内部に仕掛けられた映像が映し出されている。もしや‥大蛇丸を発見したのか?そう思っていたが、中忍は一本のビデオテープをデッキに差し込んだ。そして映し出された映像に一同は目を向ける。

 

 

 

「…いいですか? よく見て下さい」

「何が映っているかと思えば、只の受験者じゃないか。これがどうしたんだ?」

「一見、何の変哲もない様に見えますが…これは普通じゃないんです。右上の時間に注目して下さい」

 

 

 その言葉に従い、そちらを見れば時間が表示されている。だが、これといった変化は無い。一体、彼は何を見せたいのか。それが分からず、些か苛立ちを覚えたアンコが尋ねる。

 

 

「さっきから何よ。もっと分かりやすく言いなさい」

「気付きませんか? この時、まだ一日目なんですよ」

 

 

 

 此処でやっと、アンコは映像の異常に気が付いた。表示されている時間通りなら、此処に映っている三人は1時間程で第二試験を突破した事になる。

 

 

 

「…嘘でしょ。それが本当なら、彼らは既に中忍クラスよ」

「そうね。しかもそれだけじゃないわ。あいつらの服を見てみな…」

「服? …!? これって、つくづくあり得ないわね」

 

 

 

 映像に隠れた事実を知って、サチは驚愕する。早く着いただけでも驚く事だが、一番の衝撃は三人の服が汚れていない事だ。今でこそ、出来る事ではあるが…同じ歳でこれをやるのは無理だ。その事から彼らの実力が伺い知れる。

 

 

 

「成程な。こんな奴らが出てきたら、試験を止める訳に行かない訳だな。しかし、嫌な目をしてる奴だな。このガキ…」

「彼は砂の忍で名前は…そう、砂漠の我愛羅と言ってたわね」

「ほう。同盟国の奴か。これは将来が楽しみだな。まあ、木ノ葉に牙を向かない事を祈ろうか」

 

 

 映像を見て、暗部がそう呟くが…その予想は遠からず当たる事になるのを彼らは知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 時間は戻り、第二試験の一日目。

 開始から50分、紅班のメンバー達は早くも巻物を揃え、塔を目指していた。

 

 

「ヒャッホゥーーー まさか、罠にかけた奴らが地の巻物を持ってたとはなぁ。もしかしたら、俺達が一番に着くかもしれねえぜ」

「キバ、調子に乗るのは良くない。それと叫ぶのも、止めるべきだ。何故なら敵に気付かれる可能性があるからだ」

「そんなの言われなくても、分かってるよ。ったく、相変わらず口煩い奴だよ。おまけに変な喋り方だしよ」

「で、でも…シノ君の言ってる事も一理あるよ。もし、強い敵に出くわしたら…大変だもん」

「分かったよ。シノも悪かったな」

「別に気にしていない。何故ならお前の言葉に、悪意は籠っていないからだ」

 

 

 

 シノに突っ掛かるキバを紅一点であるヒナタが諌めた。二人に言われてしまっては、流石に分が悪い。キバは素直に己の否を認め、シノに謝った。彼自身、別段チームの中を険悪にしようと思っていない。何だかんだでキバは、今の仲間達を信頼している。だからこそ、さっきの様な言い合いが出来るのだ。

 

 

 

「…!! 待て、二人共。どうやら、赤丸が何かを感じたようだぜ。ヒナタ…あの方向、一キロ先を見てくれないか?」

「うん。確かに先に誰かいるよ。えーっと、赤い髪の瓢箪を背負った男の子とあとは…良く見えない」

「…森にいる虫の話では‥いるのは六人の様だな。位置と数が分かったのは朗報だ。此処は避けて通るのが、良いだろう」

「いや、折角だ。奴らの様子を見に行こう。どちらが勝つにしても、情報は多い方がいい」

「何を言ってる? それには反対だ。天地の巻物が揃った以上、無闇に危険へ首を突っ込む必要はない」

「落ち着けよ。何も真っ向から挑む訳じゃねえ。第一、狙うのは両者が戦い終わった後を狙うのさ。戦いとなれば、無事に済む筈がねえ。何よりも他の巻物を俺達が独占すりゃ、他のライバル達を蹴落とす事が出来るんだぜ」

 

 

 相手の人数と正体を知り、避けて通ろうと宣言するシノに対してキバは偵察に行くと言い出した。これにはシノも堪らず眉間に皺を寄せて、苦言を申す。それも当然だ。試験突破に必要な物は揃っている。しかも運が良い事に全員も無傷のままでだ。それなのに当の本人は、危険に飛び込むという。続けて言ったキバの言葉も理解は出来るが、リスクも高い。戦いで疲弊した後を狙うといっても、相手も必死に抵抗するだろう。追い詰められた者が発揮する強さは計り知れない。

 

 

「あくまで様子を見るだけだ。相手次第では、シノの言う通り。避けて通るからよ。とりあえず、行こうぜ」

「キバくん。待って、行っちゃった…」

「やれやれ。面倒な奴だ。ヒナタ、こうなっては仕方ない。俺達も行こう。あいつがこれ以上、勝手な真似をしない様に見張らないといけない」

 

 

 

 敵がいる場所へ向かったキバを追って二人も駆けていく。キバと合流した二人は、敵に見つからない場所で様子を窺う。幸いな事に戦いは始まっていない様だが、一触即発の空気を醸し出している。耳を澄まして彼らの会話を盗み聞こうとするが、距離が遠くて聞こえない。その時、傍らにいた赤丸の変化にキバは気付いた。赤丸は体を丸めて震わせていた。まるで何かに怯える姿に、キバの胸に不安が生まれた。

 

 

「…此処で戦ってる奴ら。どうやら、相当の手練れみたいだな」

「何故、分かる? まだ戦いは始まっていないぞ」

「赤丸はよ。相手の匂いから力を度合を計れるのさ。そんで本能的に自分じゃ、勝てないと悟っちまった。この怯えようは今まで見た事がない」

「そ、それじゃ…私達が挑んでも勝てないって事?」

「ああ。恐らく、返り討ちに会うだろうぜ。すまねえ二人共…今回ばかりは、俺が馬鹿だったぜ」

「謝るな。俺達もしっかりとお前を止めなかった否がある。此処は息を潜めてやり過ごす事に専念しよう」

 

 

 

 

 自分が我を通した所為で、仲間を危険に巻き込んだ事をキバは謝った。あの時、シノの言う通りにしていればこうはならなかった。だが、シノから返ってきた言葉は意外にも、彼を励ます言葉であった。それにキバの心は軽くなる。そして二人はシノの指示に従い、息を殺して視線を対立する者達へ向けた。

 

 

 

「おい いきなり絡んで来るとは‥どういうつもりだ? 第一、砂の忍風情が雨隠れの俺達に勝てると思ってんのかよ?」

「御託はいい。やるなら早くかかってこい。それとも…脅すだけしか能が無いのか?」

「なぁ。我愛羅、喧嘩仕掛けんのはいいけどよ。相手の持ってる巻物が同じだったら、戦うだけ無駄じゃん」

「関係ないな。違ったら、別の奴を狙えばいい。どの道…目があった奴は全員皆殺しだ!!」

 

 

 

 殺気を出して言った言葉に、雨隠れの忍達に緊張感が走る。どうやら見た目に反して、腕が立つと踏んだ雨隠れの男は先手必勝と、自らの術を発動した。

 

 

 

「食らえ!! 忍法 如雨露千本」

 

 

 

 男が印を結ぶと背中の傘が浮びあがり、そこから我愛羅に向けて無数の千本が飛んでいく。その数はどうやっても躱す事は出来ないだろう。また躱せたとしても、チャクラによって操られた千本は標的を逃がさない。

 

 

 この後、起こるであろう惨劇にキバ達は目を背けた。だが、いつまで経っても相手の叫び声が聞こえてくる事はない。それを不思議に思った三人が驚きの光景を目にした。何と我愛羅は全身を砂で囲い、迫る千本から身を守っていたのだ。

 

 

 

「それだけか? お前の術とやらは…」

「な、馬鹿な…。あれだけの数を全て防いだのか」

 

 

 自信のある攻撃が全く通用していない事に、男は焦った。咄嗟に残った千本で再び攻撃を繰り出すが、それも砂に阻まれて届かない。この時点で、雨隠れの忍達の敗北は確定した。他の二人が攻撃をしても、同じ結果に終わるのは明白だった。何せ、三人の中で一番強いのは今戦っている男なのだから。

 

 

 その戦いとは言えないやり取りを、カンクロウは詰まらなそうに見ていた。我愛羅の防御は鉄壁だ。並の術や攻撃等、彼には一切通用しない。そして…自分に牙を向いた彼らを我愛羅は逃しはしない。彼らの命運は自分達、いや我愛羅と会った時から尽きていたのだ。

 

 

 

「お前が降らすのは、千の雨か。ならば、俺は血の雨を降らしてやるよ」

「こ、このガキぃ…。舐めんじゃねえぞ」

 

 

 

 我愛羅の言葉と表情。これで男の精神は崩れた。彼は叫び声を上げながら、我愛羅に向かっていくが…男は彼が操る砂に捕まって、拘束されてしまう。その砂は石の様に固く、男が抜け出そうと何度も力を入れるものの、それはびくともしない。

 

 

「お前の顔も覆ってしまってもいいが、それだと見れないからな。お前の死ぬ瞬間の顔が‥」

「な、待て。待ってくれ。俺の負けだっ!! だから見逃して「うるさい」た、頼む」

「もう遅い。砂漠送葬」

 

 

 我愛羅が男に向けた手を握り締めると、それに連動して砂が男を圧迫し、彼の肉体を無惨に押し潰した。砂からは溢れ出した男の血が、地面へぼたぼたと流れ落ちていく。陰で一部始終を見ていたキバ達は、絶句していた。強気だったキバは青ざめ、シノも冷汗を掻いている。ヒナタに至っては、涙を流して歯を震わせていた。咄嗟にシノが彼女の口を抑えた為、音が漏れる事は無かった。

 

 

 

「こ、降参だ。俺達の巻物は渡すよ。だから…ヒィィィ」

「どうして…負けを認めると言ってるのに。うわぁぁぁぁ」

「どうしても何も無いだろ? 忍の戦いはどちらかが死に絶え、どちらかが生き残る。お前達が負けを認めたという事は、死ぬ事を認めたという事さ」

「そ、そんなぁ。いやだぁぁぁぁぁ!! お前達も何とか言ってくれよぉぉぉ。あいつを止めてくれぇっ!」

「無理だな。諦めるしかないじゃん」

「バイバイ」

 

 

 

 自分のリーダー格が殺されて、完全に戦意を喪失した雨隠れの忍達は、巻物を差し出して巻けを認める。しかし、我愛羅はその二人を砂で拘束した。この後、自分達を待ち受ける運命を想像して二人は、泣き喚いて後ろの二人に助けを求めるが、カンクロウとテマリは彼らの懇願を払い退けた。

 

 

 その後、二人も最初の男と同じ運命を辿る。だが、彼の狂気は未だ収まる事はない。

 

 

「…いつまで覗き見をしている? いい加減、出て来たらどうなんだ?」

 

 

 そして底抜けの無いその狂気が、今キバ達に襲い掛かろうとしていた。

 




今回、中忍試験編の重要人物の我愛羅にスポットを当てました。
この時の我愛羅、白や再不斬よりも危ないと感じたのを覚えてます。


次回はキバ達の修羅場脱出から第二試験終了までを予定してます。
また次回からは、投稿ペースを少し落とそうと思ってます。理由は今後の展開を考えたり、リアルでやりたい事を優先する為です。

どうぞご了承下さいませ。


それと一言でも良いので感想の方もお待ちしています。


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第二十二話 砂の狂気と影に潜む者

最新話、お待たせしました。


同人活動のポイント集め‥大変でした。


「…聞こえなかったのか? 出てこいと言っている。来ないなら、こちらから行ってもいいんだぞ」

「分かった。だが、俺達はあんたらと争うつもりは無いぜ。何せ、俺達も巻物を揃えているからな」

「お前達に無くとも、俺にはある。見ていたなら知ってるだろう? 目があった奴は皆殺しだと…」

 

 

 我愛羅の言葉は脅しではない。そう悟ったキバが彼らの前に踊り出た。今回の事態になったのは、リーダーである自分の責任。ならば、相対するのは己の役目であると自負していた。しかし、キバ自身も戦うつもりはない。相手は巻物を揃え、自分達も巻物を揃えている。それを武器に交渉を開始したが、我愛羅はそれを跳ね除けた。

 

 

 

 やはり交渉は無理だったかと、キバは唇を噛み締めて我愛羅を睨む。分かっていた事だが、微かな希望もあっさりと消えてしまった。此処にきて、彼は本気で死を覚悟する。だが、自分が死んだとしても後ろの二人は逃がして見せる。ヒナタ達をこの事態に巻き込んだ自分が、やらねば行けない事だ。

 

 

 

 そんなキバを後ろの二人は、不安そうに見つめており。対する我愛羅は冷ややかに、またテマリは馬鹿にした笑みを浮かべる。唯一、カンクロウだけが真剣な表情で見ていた。そして…思った事を彼は口にする。

 

 

「なあ、我愛羅。此処で戦うのはやめとくじゃん。俺達も巻物が揃ったし、相手もそうみたいだしよ」

「まあ、確かにそうだね。余計な事に時間をかける必要はないか」

「いや、まだ駄目だ。さっきの奴だけじゃ、物足りない」

「我愛羅…。頼むからさ。もう塔に行こう」

 

 

 先程の戦いが影響してるのか、我愛羅の殺気は弱くなるどころか。一層、強くなった。これは不味いと感じながらも、カンクロウが止めに入る。内心では、逃げたい所だが…彼の兄としての立場からそれは出来ない。

 

 

「黙れ…。怖いのなら、引っ込んでいろ。すぐ終わる」

「我愛羅!! お前は平気でも、こっちは平気じゃないんだよ。第一、俺達は試験を受けに来たわけで殺しを楽しむ為に来た訳じゃないだろ」

 

 

 穏やかに話していたカンクロウの方も、話を聞かない我愛羅に苛立ったのか。些か口調もきつくなっていく。

 

 

「…愚図が俺に指図するな」

「てめぇっ いい加減にしろよ!! 少しは兄である俺の言う事を聞いたらどうなんだよ」

「ほざくな。お前らを兄弟と思った事は無い。邪魔するならお前も殺すぞ」

「ま、待ちなよ。我愛羅…試験のルールを忘れたの? 仲間が消えたら、即失格だよ。それに自分の兄を殺すなんて言っちゃ駄目だよ。ね、お姉さんからもお願いするから」

 

 

 二人は睨み合い、この場に一触即発の空気が立ち込める。流石に見てられず、テマリも我愛羅の説得に回る事にした。彼女はなるべく、刺激しない様にやんわりと言葉をかけた。しかし、我愛羅は姉の必死な説得にも耳を貸さず、手を立ち尽くすキバへ向けた。それを見て、テマリが叫ぶ。

 

 

「我愛羅!!」

「…分かったよ。先に進めばいいんだろう」

 

 

 彼は手を下ろすと、塔の方へ歩いていく。その瞬間、キバはがくりと膝を付き、荒くなった呼吸を整える。二人も我愛羅が留まってくれた事にホッと胸を撫で下ろした。その後、未だ荒い呼吸を繰り返すキバを一瞥してから二人も我愛羅の元へ向かっていった。

 

 

 

「キバっ!! 怪我は無いか? 全く、お前はとんだ無茶をするものだ」

「そ、そうだよ。もし‥あの人が退かなかったら、殺されていたかもしれないのに」

「へっ、分かってるよ。だが、今回の事は俺の責任だからな。だから、俺が二人を守らねえと駄目だろ」

「…そうか。キバ、お前の覚悟は伝わった。しかし、今度は俺達も一緒だぞ。何故なら俺達は三人揃って、一つのチームだからだ」

「うん。私も同じだよ。泣いて震えてた自分が言っても、説得力が無いけど、次は逃げない様にするから」

「ヒナタ、シノ。ああ、そうだな。あいつらとは、別の形でぶつかるだろうし、その時は手を借りるぜ」

「ああ、そうしてくれ」

「私も頑張るよ」

 

 

 

 幸運な事にキバは、難を逃れる事が出来た。我愛羅達が去ったのを確認して、二人はキバの元へ駆け付ける。幸いにも怪我も無い事に、シノとヒナタは安堵の息を吐く。そしてシノは少しばかり、険しい表情でキバに苦言を洩らした。それにヒナタも同じなのか、彼女もシノの言葉に賛同する。二人の言いたい事は、キバも分かっていた。あの時、傍にいた二人の忍が止めなかったら、間違いなく自分も雨隠れの男達と同じ結末を迎えた事だろう。

 

 

 無論、死の恐怖もあったが、何よりも仲間を守るという決意が強かった。彼の想いは、二人も理解している。だからこそ、二人も在る決意を固めた。確かに今回は、キバの独断で巻き込まれた事だ。しかし、自分達は三人一組。キバだけに命を懸けさせる訳にいかない。次は一緒に立ち向かうと二人はキバに誓った。当然、二人の想いもキバに届いていた。その言葉に彼は、首を縦に振る。お互いの気持ちを言い合い、彼らの絆は強くなった。

 

 

 そうして、三人も終着点である塔に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は戻って二日目の昼。

 サスケ達の襲撃に失敗したドス達は、傷付いた二人を抱えて森を移動していた。敵に遭遇しない様、警戒しながら進んでいたが、背後に迫る影に彼は気付かない。その者はドスに音もなく近づくと、彼に話しかけた。

 

 

「‥漸く見つけたよ。全く、手間を掛けさせてくれるね」

「な、貴方は…あの時の忍ですか。何の用です? 僕への仕返しですか?」

「そんな事をする程、僕も暇じゃないよ。君にはある事を知らせに来たのさ」

「ある事? 一体、それは何です?」

「その前に移動しよう。此処じゃ目立つからね」

「いいでしょう。ただし、変な真似をしたら…殺しますよ」

「そうかい。まあ、その時は好きにしたらいい」

 

 

 ドス達の前に現れた人物、薬師カブトである。ドスは試験前、彼にした事への仕返しで現れたと思っていた。本人はそれを否定し、ドスに用があるとだけ告げた。一体、何を企んでいるのか? ドスは警戒心を強くしてカブトを睨む。それに対してもカブトは余裕のある笑みを浮かべるだけだ。だが、ドスはこうも考えた。先程、自分は声を欠けられるまでカブトの存在に気付かなかった。もし…殺るつもりならいつでも出来た筈。

 

 

 

 考えた結果、ドスはカブトの案に乗る事にした。警戒していても、自分はこうして他者に見つかり、接近を許したのだ。これが敵であったら、確実に死んでいただろう。例え罠だとしても、その時は荷物となった二人を囮にして逃げればいい。それがドスの出した結論だった。

 

 

 

 カブトの案内で辿り着いたのは、木の窪みに出来た小さな洞穴。入り口は木の根っこで隠されており、外からでは気付き難くなっている。確かに此処ならば、落ち着いて話すに持ってこいの場所だ。

 

 

「さて、改めて紹介させてもらうよ。僕は薬師カブト。ああ、君達の紹介はいらないよ。それは大蛇丸様から聞いているからね」

「…これは驚きましたね。まさか、貴方があのお方と繋がっているとは…もしや最初から知っていたのですか?」

「正直な話。実は知っていたよ。まあ、それはいいだろう。大事な事は今後の君達がやるべき事についてだ。まずはこれを渡しておこう」

 

 

 詮索しようとするドスの言葉を遮る様に、カブトは懐からある物を取り出してドスに渡す。

 

 

「これは天地の巻物? どうして僕達に?」

「どうしても無いよ。君達にやってもらう事は、第二試験を突破してもらわないと無理だからね。これを持って今すぐに塔へ向かうんだ。追加の指示は追って知らせるから、それまで大人しく待機していてくれ」

「話は分かりました。だが、まだ聞きたい事がある。何故、大蛇丸様は呪印の事を我らに隠していたのか? それを貴方はご存じなのでは?」

「…生憎だが、それは僕も知らないな。あの人は気まぐれで動くからね。僕も振り回される事があるよ」

「本当に…知らないんですね? 内心では、僕達は捨て駒にされたと感じている」

「成程ね。だけど、大蛇丸様は君達に再びチャンスを与えた。失敗した者に厳しいあの方がだよ。それだけ、君達を信頼しているって事さ」

「そうですか。あの方は…まだ自分達の事を」

「ああ。大事に思っている。しかし、次に失敗した時は…分かっているね?」

「ええ。命は無い。そう言いたいのでしょう? 肝に銘じておきますよ」

「それなら結構。じゃあ、僕はもう行くよ。この奥に治療道具を置いてあるから、使うといい。二人が目を覚ましたら、僕が言った事を伝えるのも忘れずにね」

「…分かりました」

 

 

 ドスの返事にカブトは、満足そうに頷くと去って行く。残されたドスは、自分達が追い詰められていると感じていた。恐らく、本当は失敗した自分らを始末する為に来たのだろう。だが、敢えて生かしておいたのはまだ利用価値が自分達にあるからだ。しかし、カブトの言う通りならば…次は絶対に失敗出来ない。そうなれば、自分達は…。

 

 

 

 脳裏に浮かんだ想像を振り払い、ドスは二人の手当てを始めた。与えられた任務を遂行すれば、大蛇丸と会う機会もあるだろう。自分が抱いた疑念は、その時に晴らせばいい。今は耐え忍ぶ時。そう己に言い聞かせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドスに任務を告げた後、カブトは次の目的に備えて行動を起こしていた。それはナルト達との接触だ。しかし、今の彼らに接触するにはまだ早い。考えた末、カブトは三人の周りにいる敵を狩る事にした。それによって、彼らの手に巻物が渡らない様に仕向け、自身の取り入る隙を作る事を思い付いた。無論、自分の作戦が万事、上手く行くとは思っていない。だが、その時は別の作戦を遂行すればいい。とりあえずは行動あるのみだ。カブトは目的の為に狩りを開始する。

 

 

 

 

 

 試験開始から4日目の昼。

 三人は川辺の傍に陣取り、根城としていた。辺り一面が開けた場所である為、敵の襲撃にも気付きやすい。また食料の確保にも適した場所であった。そんな川岸では、ナルトとサスケが魚取りに勤しんでいた。

 

 

「今だ。飛び込め!!」

「おう。行くぞぉぉぉぉ!!」

 

 

 水中を泳ぐ魚を追い立て、岩場の上に待機していたナルトにサスケは指示を出す。それを聞いてナルトは、川に飛び込んだ後、彼は三尾の魚を捕まえる事に成功した。

 

 

 

「おーし。これだけ獲れりゃあ十分だろ」

「いや、まだ足りない。先の事も考えるなら、あと三尾獲るぞ。それに段々と勢いが弱くなってる。もっと暴れろ」

「何ぃ!? これってば、スッゲーきついんだぞ。そこまで言うなら、次はお前がやれよ」

「フン 変わってやってもいいが、お前に魚の動きが読めるのか? こっちの方こそ、大変なんだぜ」

「サスケくーん たき火の用意が出来たわよ。豪火球で火を付けてちょうだい」

「まあいいか。魚獲りは一旦終わりだ。さっさと上がって来い」

「くっ… 何だってばよ。調子のいい奴め」

 

 

 

 十分獲れたと満足するナルトに、サスケはまだ足りないと言い放った。当然、それにナルトは反発する。それもそうであろう。何せ、魚を獲る為に飛び込むのはナルトである。それだけでなく、魚を確実に獲るべく三人に分身をしての事だ。体力とチャクラを消耗する彼は溜まったものではない。しかし、サスケに冷静な言葉を返されて黙った。確かにきついものの、自分がやってる事は一番簡単な仕事だ。何とか言い返そうとナルトが頭を捻っていると、たき火の仕度を終えたサクラがやってきた。すろと彼は一転して、魚獲りをやめると言い出す。その変わり身の早さに納得がいかないナルトだったが、キツイ仕事から解放される為、グッと堪えて川から上がった。

 

 

 

「試験開始から四日か…。確か、試験が始まったのは四日前の14時30分だったな。残る時間はあと僅かしかない」

「うん。そろそろ行動を起こさないと、私達の突破は難しくなる一方よ」

「まぁ、何とかなるってばよ。とりあえず、今は飯を食おうぜ。腹が減っては何とやらって、言うだろ?」

「全く…あんたはいつも呑気よね」

「同感だ。だが、こいつの言う事も一理ある」

「サスケくんまで…。でも、確かにお腹空いたままじゃ、力は出ないもんね」

 

 

 

 真剣な話をしていた二人だが、ナルトの一言でその空気は変えられてしまった。しかし、彼の言う事も尤もである。実際に空腹を感じていた事もあり、話し合いを中断をして昼食を摂る事にした。

 

 

 

 

 

「ねえ、思ったんだけど…もしかして天の巻物は無いんじゃないのかな?」

「どういう事だ? 何故、そう思う?」

 

 

 食事を終えた後、何かを考えていたサクラがぽつりと呟いた。それに反応したサスケが、サクラに問い掛けた。彼もまた嫌な予感を感じているのか、表情は固い。

 

 

「だって、この試験。期限の五日の内、既に四日が経っているのよ。そして参加した人数は78人からなる26チーム。その中で突破出来るのは、巻物と同じ13チームよ。あと二人も覚えてるわよね? あの大蛇丸が私達の巻物を燃やしたの。この時点で合格チームは一つ減った事になるわ。それに他の巻物だって無事だとは、限らない。例え、他のチームから巻物を奪ったとしても、持っている巻物と被る可能性が高いという訳よ」

「成程。確かにその可能性が高いだろうな。いずれにしても、次の敵が最後のチャンスだろう。全員、心してかかるぞ」

「おう」

「うん」

「決まりだな。俺は飲み水を確保してくる。二人はその間に準備を済ませておけ」

 

 

 

 今後の方針も決まった所でサスケは、竹筒を持って川原へ向かって行った。そんな三人を陰からカブトが覗き見ていた。また彼の背後には、第二試験初日に戦った雨忍の姿もあった。

 

 

「ラッキー!! あんたの言ってた獲物があいつらだったとはね。手を組んで正解だったぜ」

「それは何よりだ。まあ、彼らと戦うのはいいが…手筈を忘れてないよね?」

「ああ。痛め付けても殺すなだったよな? ちゃんと覚えてるよ。ただ、二度と忍が出来ない様にしてやるけどさ」

「フフ、ルーキー相手に随分と大人気ないね。余程、負けたのが悔しかったのかい?」

「ちっ、それを言うんじゃねえよ。あん時はアンラッキーだっただけだ」

 

 

 三人の雨忍は残忍な笑みを浮かべて、血走った目でナルト達を睨みつけていた。その時、ナルト達のある行動に気付いたカブトは、焦りの表情を見せた。

 

 

「不味いな…。予定変更だ。君達は急遽、塔付近の森へ行ってくれ」

「あ? 何を言ってんだ? この場で急襲する話だっただろうが…」

「いいから言う事を聞いてくれないか? 君達に彼らの情報を提供したのは誰だった?」

「わ、分かったよ。森で待ち伏せしてればいいんだな?」

「そうだね。あの方向に向かってくれ。そこで作戦を開始しよう。僕が上手く三人を誘導するからさ。最後に言っとくけど、僕と君達が結託してた事は他言するなよ。その時は…君達を殺さないといけない。余り、手を汚したくはないから是非とも頼むよ」

「も、勿論だ。なぁ、二人共?」

「あ、ああ」

「絶対に言わないよ」

「話が早くて助かるよ。じゃあ、行動開始だ」

 

 

 そう言って、カブトは姿を消した。それに引き続き、雨忍らも森の中へ駆けて行く。

 

 

 

 

 

 一方、ナルトとサクラは自分達が所有する地の巻物を開こうしていた。何故、二人はこんな事をしようとしているのか? それはナルトの提案が切っ掛けである。今後の探索で対となる天の巻物が見つかる可能性が低いのは、ナルトも理解している。ならば、持っている巻物を工作して、天の巻物を作ろうと考えたのだ。

 

 

 しかし、これには一つの穴があるとサクラは待ったをかけた。そう、二人は天の巻物に書かれている内容を知らないという事。例え、見た目をそっくりにしたとしても、合否を判断する試験官に中を読まれてしまえば偽物だと発覚するのは避けられない。そうなれば、確実に失格となるだけでなく、大事な試験で詰まらない事をしたと自分達の担当上忍の名誉も傷を付けてしまう。

 

 

 

「だったらよ。この地の巻物を見てみようぜ。もしかしたら…天の巻物に書かれているヒントだって、あるかもしれだろ?」

「…あんた、正気なの? 試験中は絶対、開けるなって言われたのを忘れた訳じゃないわよね?」

「ああ。分かってるってばよ。でも、どの道あとが無いなら賭けてみるしかねえ」

 

 

 

 その言葉にサクラは黙った。まだ時間が残されているとはいえ、こうしてる間に試験の合格率は落ちていく。此処はナルトの言う通り、賭けに出た方がいいのかもしれない。最終的にサクラもナルトの提案に乗る事にした。

 

 

「そうね。分かった。私もあんたの意見に賛成するわ」

「よっし。そうこなくっちゃな。じゃあ…開けるってばよ」

 

 

 

 ゆっくりとナルトは巻物の封を解いていく。そして巻物を開こうとした時、その手が何者かに捕まれた。

 

 

「やめておいた方がいい。君達、失格になりたいのかい?」

「え? か、カブトの兄ちゃん…。何で此処に?」

 

 

 二人を止めたのは先程、陰から見ていたカブトであった。彼自身、ここで出張るつもりは無かったのだがナルト達の行動を見て、そうせざるを得なかった。今、ナルト達にリタイアされては全ての計画が狂ってしまう。それだけは避けねばならなかった。

 

 

「おい 一体、何をしてるんだ?」

「さ、サスケ君…」

「ああ、君も戻って来たのか。丁度いいタイミングだよ」

「…どういう事だ?」

「実は…」

 

 

 

 サスケが二人の元に戻ると、見知らぬ者がいるのを見て慌てたが…よく見れば相手はカブトであると知ってホッとした。無論、警戒を解いてはいない。それはカブトも分かっているのだろう。彼はやんわりとした口調でサスケに言葉を返す。そしてカブトから事情を聞いたサスケは呆れた表情で二人を見た。

 

 

「全く、お前らと来たら‥救いがたいな」

「ごめんなさい」

「本当に危なかったよ。試験のルールは絶対だ。これを破る者は、否が応でも失格する運命にある。以前は巻物に深い眠りを誘う術が仕込まれていた。それを見た奴は、第二試験が終わるまで夢の中って訳さ」

「それはそうと…何故、あんたが此処にいるんだ? 偶然にしちゃ出来過ぎてる」

「…別に君達の巻物を狙ってはいないよ。この通り、既に僕は二つの巻物は揃ってるからね」

「そうか。なら丁度いい。今から俺と勝負しろ。勝ったら、その巻物を渡してもらうぜ」

 

 

 そう言って、カブトは天地の巻物を三人へ見せつけた。ナルトとサクラは驚いていたが、サスケだけは目をギラつかせて彼を見つめる。サスケは一歩踏み出して、勝負を持ちかけた。その事にまたもや、二人は驚く。

 

 

 只、カブトだけは平然とその言葉を受け止める。後が無い彼らにとって、自分が持つ天の巻物は何があっても手に入れたい筈だ。またカブトは、サスケの行動に内心では感心していた。三人の中で狡猾な一面を持つサスケなら、隙を見て奪い取ると思っていた。それなのに正面から勝負を仕掛けて来たのが意外だった。

 

 

「いきなり何言ってんだばよ。第一、カブトの兄ちゃんは同じ木ノ葉の忍じゃねえか」

「このウスラトンカチが、今は試験中だぞ。木ノ葉も音も関係あるか。それに時間が無いのは、お前だって知ってるだろ」

「勝負ねえ…。本気で言ってるのかい?」

「当然だ。俺達にはこの手しか残ってない。巻物を入手するチャンスだって、今を逃したらもう来ないだろうしな」

「…成程ね。だが、君は嘘を吐いてるね」

「何を言ってるんだ? 下手な言葉で誤魔化すつもりか?」

「そうじゃない。君が本気だったら、さっき僕が二人と話してる間に奪う事だって、出来ただろう? だが、君はそれをしなかった。サスケ君。君は思ったより、忍に徹していない様だね。力量や戦術も分からない相手に挑むのは命を縮めるよ」

 

 

 カブトの言葉にサスケは何も言い返せない。確かに切羽詰まった状況で失念していたが、自分がカブトに負ける事だってあるのだ。それに最初はカブトを敵と認識したものの、正体を知って気を抜いたのも事実であった。

 

 

「だけど、僕はそんな君が嫌いじゃないよ。小細工や騙し討ちする奴らが多い中、正面から堂々と来る奴は少ないからね。だから君達が進む手助けをしよう。ただ、話は移動しながらだ。生憎、君達が焼いていた魚の匂いが遠くまで届いていたからね。それを嗅ぎ付けて、敵が来るかもしれない」

 

 

 

 

 手助けする。その言葉にナルト達は疑いを覚えたが、敢えて誘いに乗る事にした。どの道、自分達に選択肢は無い。例え、罠だった場合。その時は三人で協力して倒せばいい。彼らは先行するカブトの後ろ姿を追って行った。

 

 

 自分に付いて来る足音にカブトは不敵な笑みを浮かべていた。ナルト達の周りでは、未だに不穏な空気が渦巻いている事に彼らはまだ気付いていない。

 




今回の話では、原作にない展開を入れて見ました。


キバが見せる男気は何気に格好いいですよね。
時代によっては、彼も火影になっていたかもしれない。そんな気がします。




それと宜しければ、感想を残してくれると活力になります。どうかお願いします。

最後に評価を入れて下さった。
葵ですさん goemon112さん

どうもありがとうございます!


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第二十三話 仮面の裏に隠された素顔

最新話、お待たせしました。



最近はノルドの地を探索する事に夢中です


 森を移動する事、1時間。カブトの真意が分からない事に痺れを切らしたのか、サスケはカブトに問い掛ける。

 

 

「おい、さっきからずっと森を走ってばかりだが、本当に敵はいるのか?」

「ああ。いるよ。第一、この手の試験で他者が活発になるのは、試験終了が迫った頃さ」

「何故、そう思うんですか?」

「…考えてみなよ。僕達を含めて、試験に参加した者が目指すのは中央にある塔だ。居場所も分からず、元気がある敵を狙うよりも…時間ギリギリで焦った敵を塔付近で狙う方が容易い。今回、僕達はそいつらを逆にカモとするのさ」

 

 

 そう口にしたカブトに、今度はサクラが質問を繰り出した。その事にカブトは呆れたが、それを表情に出す事なく、サクラの質問に答えた。

 

 

「そっか。私達は天地の巻物を揃えて、塔を目指してるチームを狙うって事ね」

「…半分、正解かな。それもありだけど、一つの穴があるんだ。その場合、狙う敵の居場所を知っている必要がある。だけど、そんな都合の良い相手なんて早々、見つからないよ」

「じゃあ、結局の所。どうするんだ? 塔の付近で待ち伏せするとしても、都合よく会えると思えないが…」

「いや、見つかるよ。相手も同じ事をしてるからね。本来なら罠だと避ける所だけど、敢えて飛び込むんだ」

「おっしゃーー 燃えて来たぜ。誰が相手だって、負けねえってばよ。何が何でも巻物を手に入れて、俺達も第二試験突破してやるぜ」

「ねえ、カブトさん。さっきの話、やるべき事は分かったわ。でも、私達が欲しい巻物を持ってるチームに当たらないと意味が無いんじゃないの?」

 

 

 

 巻物を狙うにしても、相手が欲しい巻物を持っているとは限らない。それを考えればサクラの疑問は尤もであろう。こちらから仕掛けても、目的が達成出来なければ意味はない。また周りの敵に自分達の事を知られてしまう可能性もあるのだ。こちらの意図がばれてしまっては、相手も警戒して攻めようが無くなってしまう。

 

 

 

「心配ないよ。この手の試験には、必ずとコレクターと言われる者が出てくるからね」

「コレクター? それって、巻物を集める訳はそのままの意味じゃないわよね?」

「全くの別物だよ。例え、自分達に有利な状況であっても安心は出来ない。そんな環境から生まれたのが、コレクターと呼ばれる奴らだ。余分に巻物を所有する事で、三つの利点が出来る。一つ目は自分達が敵わない強敵が現れた場合、それを差し出して見逃して貰う為。二つ目は同じ里の仲間に譲る事で有力な情報を貰ったり、後の試験で自分達に便宜を図って貰う為。三つ目、第三の試験に進むと思われるチームを自分達の有利な状況下で、滅ぼす為。これらを目的とした奴らだよ。当然の事、これを仕掛ける奴は皆、一様に手練れが多い」

「そうか。だから、あんたは俺達の前に姿を見せたんだな。要はそいつらが怖いから」

「…。そうだよ。だけど、サスケ君。察しが良いのは素晴らしいが、もう少し言葉を選んでくれないか? そういう態度は無意味に敵を作るし、周りの人も離れる事になるよ」

「フン。余計なお世話だ」

 

 

 

 サクラの質問にカブトは、親切に説明を添えて答えてみせた。それを聞いて、サクラだけでなく他の二人も表情を引き締める。思えば、待ち伏せを仕掛ける奴らは己の実力に自信が無ければ、やる事はない。軽く考えていたが、下手をしたら返り討ちに遭うのは自分達なのだ。だが、不意にサスケはある事に気付く。カブトが自分達に接触してきた理由だ。彼が自分らと同行するのは、件の連中を恐れているからではないか?挑発する様に言うサスケに、カブトは素直に認めた。だが、思う所はあったのだろう。彼はやんわりとサスケに注意した。その言葉に本人も、耳が痛かったのか。一言だけ返すと口を閉じた。

 

 

 

 

 陽が沈み、辺りは暗闇に包まれた頃。四人は塔の傍に辿り着いた。その塔を見つめてカブトが呟く。

 

 

「さて、漸く塔が見えたね。此処からは歩いて移動しよう。君達も周りに注意を払う様に…!?」

「そこだぁ!!」

 

 

 敵の膝元に進む際、目立つ行動を控える様にカブトが言おうとした時。不意に気配を感じて驚きの表情を浮かべた。それに素早く反応したのはナルトだ。彼はクナイを背後の木に目掛けて投げ付ける。そしてクナイは相手を仕留めていた。全員が振り変えるといたのは、大木と同じ大きさの百足だった。死に掛けてビクビクと痙攣する姿に、サクラは顔を歪める。それはナルトも同じで、彼は思わぬ敵の姿に言葉を失くしていた。そんな彼にカブトが近寄り、声をかけた。

 

 

「…ナルト君。一つ忠告しておくよ。これから今みたいな行動は控えるんだ。先程の様に音を出す行為は、敵に自分達の存在を知らせる様なものだ。そうすれば、確実に相手に先手を取られる。さっきも言ったけど、歩いていくよ。ゆっくりと隠れながらね」

 

 

 カブトの言葉に三人は頷いた。そして四人は音を立てずに森を歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 森を進む一行。だが、歩いても塔に辿り着けないでいた。いつ襲われるかもしれない恐怖と緊張から四人の体力と精神を容赦なく、削り取っていく。やがて限界を迎えたのか、サクラが膝をついてしまった。それを見て、ナルトが駆け寄って心配して声をかける。

 

 

「サクラちゃん。大丈夫だってばよ? なあ、少し休んで行った方がいいんじゃないのか?」

「だ、大丈夫よ。それに敵がいる場所で休んでいられないでしょ」

「…だが、妙だな。塔が見えるってのに、一向に着かないのはおかしい」

「どうやら、僕達は既に敵の術中に嵌まったらしいね。あれを見てみな」

「俺達は敵の幻術に掛かってた訳か。

 

 

 

 カブトが指差す方向。そこにはナルトが仕留めた百足の死骸があった。これが敵の仕業だと、カブトは言った。恐らく、自分達を延々と歩かせて体力を消耗した所を狙うのが相手の策だった。その証拠に周りの木には、大勢の忍達がナルト達を見下ろしていた。先程の無限ループも彼らの仕掛けなのだろう。

 

 

 

 

「相当な数だな。分身体とはいえ、これは厄介だ」

「くくく ならばどうする? 降参するかぁ。まあ、見逃すつもりは亡いがな」

「こんの野郎ぉぉぉっっ!! 誰がお前の思い通りにさせるかってんだ」

 

 

 

 

 ナルト達の周りにいる分身体、軽く数えても40は超えていた。消耗している上に相手の居場所も分からない事に彼らは焦りを見せる。そんな四人を嘲る様に分身体が吐き捨てる。相手の挑発に乗ったナルトが殴りかかった。だが、相手は分身体である以上、ダメージはない。しかし、一体は仕留めた。そう思った瞬間。攻撃した分身から更なる分身体が這いずり出る。その分身体はクナイを構えて、ナルトを狙う。

 

 

 

「ナルトっ!!」

 

 

 

 間一髪、サスケの援護で事無きを得たが、事態は悪化する一方であった。ナルトの攻撃だけでなく、忍具による攻撃でも分身体が分裂するのを見て、四人は顔を顰める。通常の攻撃以前に牽制すら不可能では、なす術が無い。その時、新たな分身体の攻撃がサスケに迫る。咄嗟に写輪眼を使い、躱そうとしたサスケだが…突然体に走った激痛で動きを止めてしまう。棒立ちの彼を救ったのは、傍にいたカブトであった。

 

 

 

「いつつ。危なかったね。何で避けなかったんだい?」

「分からない。突然、体に痛みが走って動けなくなったんだ」

「そうか。しかし、怪我が無くて何よりだよ」

「でも、カブトさん。肩が…」

「ああ。さっき掠めたようだね。だけど、大した事はないよ。幸い、毒も塗られてなかった」

「どういう事だってばよ。あいつらってば、分身体なんだろ? まさか、全員が本物だってのかよ!!」

「いや、このクナイは本物だ。恐らく、分身体が投げてると見せかけて、隠れてる本体が投げたんだろう。この手の奴らは近接戦闘が苦手としてる。だからこそ、僕達が指一つ動けなくなるまで、出てくる事はない」

 

 

 

 サスケを庇ったカブトだが、相手のクナイによって彼は傷付いてしまう。幸い、深手を負う事は避けたものの、流れ出る血は痛々しい。敵自体は分身だが、攻撃は本物。これで敵の戦闘タイプが把握出来たが、分かったとしても対抗手段は浮かばない。分身体を攻撃すれば、敵が増えてしまい。また逃げてばかりでは、こちらの体力が削られるだけである。

 

 

 

「だったら、増える前に全員ぶっ飛ばしてやるってばよ」

「待て、ナルト。こいつらに攻撃しても無駄だ。写輪眼で見て分かったが、これは分身じゃなくて幻影だ。下手に仕掛ければ、陰に潜む本体の攻撃を受ける事になる」

「じゃあ、どうするんだよ。このまま、あいつらにやられるのを待つってのか?」

 

 

 やぶれかぶれで敵に向かって行くナルトをサスケは制止する。相手の正体が分かっても、打つ手が無い事に苛立ちを覚えたのか。ナルトはサスケに食ってかかった。その行動にサスケもカチンと来て、言い返そうとしたが…カブトが仲裁に入って止めた。

 

 

「止めないか、二人共。今は喧嘩なんてしてる場合では無いだろう」

「悪りぃ。カブトの兄ちゃん」

「ああ。そうだな。せめてこっちも隠れる事が出来れば…」

「…隠れる。そうだ!! 皆、一つ案がある」

「案? 何か思い付いたのかい?」

「おう。まずはあそこの位置まで移動しよう」

「あそこ…。そうか。分かった。ナルト君、君の案に乗ろう」

 

 

 

 ナルトの言う場所に視線をやったカブトは、ナルトの意図に気付いた。他の二人もそれが分かり、頷いて了承の意思を見せる。

 

 

 

「おーし。そんじゃ、いくってばよーー」

「くくく あいつら、やけになったみたいだな。夜は長いし、とことん甚振ってやろう。どこまで持つかなぁ」

 

 

 相手にこちらの作戦がばれない様、ナルトは大声で戦線布告した。覗いていた雨忍達は、分身達を操って四人を追いつめていく。それによって、徐々に弱っていくナルト達。だが、四人の目的はこの時点で達成していた。背後に草むらがある事を確認してから、ナルトは一歩前に出て、印を構える。

 

 

「キリがねえ。こうなったら、対抗して俺も影分身を出してやるってばよ」

「よせ!! 此処でチャクラを使うのは自殺行為だ」

「だけどよ。そうも言ってられねえだろ。下手に攻撃すれば、敵は増えるしクナイも飛んでくる。でも、俺の影分身でいっぺんに倒す事が出来れば、相手も攻撃は出来ねえ筈だ。何せ、自分達の隠れてる場所がばれちまうからな」

 

 

 

 ナルトの言葉に言い返せず、カブトは黙って引き下がった。その際、ナルトは三人の目配せをする。それに三人も頷いたのを見て、ナルトは影分身の術を発動させる。

 

 

 

 

 渾身のチャクラを籠めて、生み出した影分身は相手の分身体よりも多い。見渡す限り、森はナルトの姿で埋め尽くされていた。そして…分身は一斉に敵に向かって行く。その勢いは凄まじく、ナルトの分身達は次々と敵を屠っていくが、敵も更なる分身を増やして対抗してきた。

 

 

 

 最初こそナルトが押していたが、次第に追いつめられて、ナルトの分身体は全て消えてしまった。無茶をした事もあって、ナルトは起き上がる気力も体力も失っていた。

 

 

 

 

「ちっくしょうぉぉぉ!! 駄目だ。もう分身を作るチャクラがねえ…」

「そろそろ狩るには良い頃合いだ。夢火、もう術は解いてもいいぜ」

「そうか。じゃあ、行くとしよう」

 

 

 地面にへたり込んだ四人は、全員疲れ果てていた。自分達の術と戦法に最早、抗う事はない。そう確信して、リーダーと思われる男が術を使っている仲間に指示を出した。その男は指示通りに術を解き、三人はナルト達の前に姿を現わした。

 

 

「ラッキー。此処でお前に会えるとはな。左腕の借り、きっちり返してやるよ」

 

 

 三人の内、一人が前に出るとクナイを構えてサスケを睨みつけた。男は第二試験の初日でサスケが打ち負かした忍だった。あの日以来、サスケに復讐する機会を待っていた。男はそう言いながらニヤリと笑った。

 

 

 

「そうかよ。だが、それは遠慮しておくぜ」

「生憎だけど、君達はもう袋のネズミだよ」

「ええ。ナルト、あんたの作戦は見事だったわ」

「な、何!? 馬鹿な…一体、いつの間に!?」

「へ、そんなの初めからだってばよ。今までのは、お前らを誘き出す作戦だ」

 

 

 

 ナルトが考えた作戦、それは自分の影分身を使った様動だった。あの時、影分身が出ると同時に三人は背後の草むらに隠れた。その後、更に変化の術で三人の姿に化けた事で相手を欺いていたのだ。

 

 

 

 

「…さあ、こっから反撃だ。お前達、覚悟しろってばよ」

「ナルト、お前はチャクラの使い過ぎだ。こいつらは俺がやるから、お前は下がってろ」

 

 

 そう言って、ナルトが立ち上がろうとしたが、限界の近い体は言う事を聞かない。ガクリと膝を突いたナルトにサスケが無茶をするなと言葉をかけるが、本人はその言葉を無視して雨忍達に殴りかかった。

 

 

「何言ってんだ。いつもお前に良い所を持って行かせねえぞ」

「ぐぅ…。このガキ、影分身をあれだけ使って…まだ動けるのか」

 

 

 ナルトの行動に驚いたのは、雨忍だけでは無かった。誰が見ても、ナルトは限界を迎えていた。普通なら動く事など、出来はしない。だが、それでも動けたのはナルト自身のチャクラ量が並では無いからである。カブトはナルトの本質に脅威を抱き始めていた。もし‥彼がチャクラの使い方をマスターしたら、木ノ葉でも随一の忍に成長するだろう。今、此処で隙を見て潰そうかと、思ったが…そうすれば自分はサスケ達の信頼を失う事になる。サスケ自身、自分を疑ってはいる様だが未だ自分の正体には気付かれていない。ならば、手を出さずに傍観するのが得策だと、カブトはナルトを見逃す事にした。

 

 

 

 

「…少しはやるようだけど、俺達もまだ手はある。そう簡単にやられはしないよ」

 

 

 

 雨忍達は三人揃って、印を構えると再び分身を生み出した。何を仕掛けてくるのかと、身構えてた四人だったが、少しだけ拍子抜けした様子を見せる。しかし、彼らの事だ。只の分身とは思えない。先程の様に迂闊に攻めれば、痛い目に遭うだろう。形成はふとした事でひっくり返る。ここは慎重に攻めよう。それをカブトはナルトに伝えた。

 

 

「ナルト君。相手は只の分身でも、油断するな。何か仕掛けがある筈だ」

「分かってるよ。でも、只の分身なら本体は一人だ。いっそ、そいつにぶつかるまで片っ端から潰してやる」

「馬鹿か、そんな要領の悪い戦いをしてどうする。さっきも言ったが、お前は下がってろ。無理して倒れたら面倒な事になるんだからな」

「うるせぇ。お前が出しゃばんなって言ってるだろうがぁ」

 

 

 

 カブトの忠告で一旦落ち着いたナルトだったが、サスケの一言で再び興奮したナルトは、相手に向かっていった。一人、二人と攻撃を繰り出すが、どれも分身体で本体へは辿り着かない。そんな焦りから、ナルトの動きに隙が出来ていた。それを雨忍が見逃す筈もなく、死角からナルトにクナイを振ろ下ろしてきた。その攻撃が届く前にカブトがナルトを突き飛ばしたが、雨忍のクナイはカブトの肩を容赦なく抉った。

 

 

 

「ぐう…」

「カブトの兄ちゃん!! くっそ…こいつら、よくもやりやがったな」

「寄せ、ナルト。そいつらの中に本体はいない。奴らは全員、分身体だ」

「な、じゃあ…どうすればいいんだってばよ!? 一体、本体は何処にいるんだ?」

「それが分かれば、とっくに終わらせている。これが敵の策なのは、お前も知ってるだろ」

「くくく 仲間割れは良くないねぇ。しかし、此方もいい加減に終わらせるとするか」

 

 

 

 そう言うや否や、周りの分身体はクナイや千本を構えて四人を睨んだ。恐らく、次の瞬間も一斉に仕掛けてくるだろう。こんな所で終わって堪るか。サスケは写輪眼を発動させて、敵の術を見破ろうとした。写輪眼を発動した時、凄まじい激痛が体に走るが、彼は鋼の精神で堪えてみせた。此処でやられてたくないのもあるが、本当の気持ちではナルトに負けたくない。この気持ちの方が強かった。大蛇丸の時といい、今といい。確実に自分を追い付き、そして追い越そうとしてる彼にサスケは負けたくなかったのだ。それは自分がナルトをライバルとして、認めた瞬間でもある事に、この時は自覚していなかった。

 

 

 

 写輪眼の力で相手の術の絡繰りにサスケは気付いた。それは分身を出すと同時に、本体は土遁で地面に姿を隠して分身の行動と見せかけて、攻撃するのが彼らの策だった。その事を伝えようとした時、ナルトの喉元へクナイを突き立てようとした雨忍からカブトが再び身を挺して守った。敵のクナイによって、カブトの顔に一筋の切り傷が浮かび上がる。この時、雨忍達はある事を思い付いた。この男を此処で殺してしまおう。散々、自分達を脅して良い様に扱き使った恨みを彼らは忘れていなかった。

 

 

 だが、そんな考えは甘かったとすぐに思い知る事になる。倒れたカブトの目を見た雨忍は、恐怖で体が固まった。今まで味わった事のない殺気と感覚に呼吸さえ、まともに出来ないでいた。突然、動きを止めた雨忍達に不審感を抱いたサスケだが、ナルトはその隙を突いて三人に強力な蹴りをお見舞いする。棒立ちの中、まともに受けた事で三人はすっかり伸びていた。

 

 

 

「へっ、隙を作ったら、駄目だってばよ」

「フー 何とか勝てたね。最後の蹴り、あれは見事だったよ」

「さて、こいつらの巻物は…在ったぁ!! 運よく、天の巻物を持っていたぜ」

「良かった。これで君達も第二試験を突破が決まった訳だね」

「おう。ありがとうだってばよ。カブトの兄ちゃんのおかげだ」

 

 

 厳しい戦いが終わり、和やかに会話するナルト達だが、サスケはカブトに対する疑心が強くなっていた。その後、何事もなく四人は目的地である塔へ辿り着いた。その時、草むらから現れた影に身構えるナルト達だが、カブトが前に出て、それを制した。

 

 

「カブトか。漸く見つけたぞ。一体、何処で何をしていた?」

「ああ。君達か…実は少しゴタゴタがあってね。まあ、面倒をかけてすまない」

「おっ、そいつらがカブト兄ちゃんの仲間。無事に会えて良かったってばよ」

「ありがとう。君達がいなかったら、今頃はあの森でやられてたよ」

「へへ… いいってばよ」

「じゃあ、僕らはこの扉を行くよ。君達も早く扉を潜るといい。もう時間も迫ってるからね。次の試験もお互い、頑張ろう」

「おう。俺達も負けねえぞ」

 

 

 

 激励するカブトにナルトは、自分の気持ちを伝える。今回、協力して森を抜けたが次はライバルとして立ちはだかる相手達だ。彼自身、それを忘れてはいなかった。そんなナルトにカブトもこの時ばかりは、心からの笑みを浮かべていた。そして三人が扉の奥に消えた後、彼らも扉を潜った。

 

 

「随分と楽しそうに笑うのね。そんな貴方を見るのは、初めてよ」

「…そうですね。あの子は相当、面白いですよ」

「へえ…。それで収穫はどうなのかしら?」

「彼らの情報は全て此処に。目的の彼以外にも、あの子の情報も書き込んでおきました」

 

 

 カブト達を出迎えた者、それは大蛇丸であった。当の本人は親しげにカブトへ、話しかける。カブトも動じる事もなく、大蛇丸に返事を返した。

 

 

「…抜かりは無いって訳ね。だけど、カブト。私は貴方の意見を聞きたいのよ」

「それは必要ないでしょう。全てを決めるのは、大蛇丸様なのですから」

「フフフ。貴方の賢い所。私は好きよ。任務ご苦労だったわね」

 

 

 お互いの心理を探る様なやり取りの後、大蛇丸は労いの言葉を残してその場を去っていった。残った三人は、大蛇丸が居た場所をじっと見つめていた。そして木ノ葉を揺るがす大きい野望が今、動き始める。

 




今回、遂にナルト達は第二試験を突破しましたね。
優しい人間ほど、疑わしい。カブトさんが登場した時、最初から怪しいと正直思ってました。


次回は第三試験に繋がる予選試合に入ります。中忍試験編で一番の盛り上がる所だけに自分も書くのが楽しみです。



また感想がありましたら、一言でもいいのでお待ちしております。


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第二十四話 命を懸けて目指すもの

最新話、お待たせしました。


最近は西へ抜錨したり、同じくノルドの地の冒険が楽しくて仕方無い毎日です。


 

「何だぁ? 部屋の中に誰もいないってばよ」

 

 

 カブト達と別れ、扉を潜ったナルト達だったが、誰もいない部屋の中で困惑していた。もしや、まだ試験は続いてるのか?と考えた三人はヒントになる物を探し始めた。しかし、見る限りではそういった物は見つからない。その時、ある物に気付いたサクラが声を上げた。

 

 

 

「ねえ…二人共。あれを見てよ」

「あ、あんな所に。何か書いてあるぞ。えーっと、天無くば…。うーん、よく意味が分からないってばよ」

「見ると、不自然に文字が抜けてるわね。天無くば。きっと、これは天の巻物が無いと駄目って事だと思うわ」

 

 

 

 サクラに従い、上を見ると一枚の色紙が壁に掛けられていた。記されている内容をナルトが読み上げるが、その意味を理解出来ずに頭を捻った。一方、サクラは色紙の一文に注目して、隠された謎のヒントは天地の巻物にあると気付いた。今に至るまで開く事を禁じていた巻物を開く。その事に三人の間に緊張した空気が流れる。

 

 

 

 だが、此処まで来てじっとしている訳にもいかず、三人は巻物を開く覚悟を決めた。

 

 

 

「いい? それじゃあ、開くわよ!!」

 

 

 その言葉を合図にサクラとナルトは、手にした巻物を開いた。中に書かれていたのは、人の文字とそれを囲う様に何かの術式が施されていた。暫く眺めていると、突如として巻物から煙が立ち上がる。その事に呆然とする二人へサスケが叫ぶ。

 

 

「二人共、巻物から手を離せ。これは口寄せの術だ!! 何が出てくるか分からない」

 

 

 

 サスケの言葉に二人は、巻物を遠くへ放り投げた。二つの巻物が地面に落ちると同時に、術が発動して部屋に煙が立ち込めた。その中心に立つ二つの人影にナルト達は身構える。そして煙が晴れて、現われた正体に三人は驚きの表情を浮かべた。

 

 

「あ、あんた達は…。何故、此処に?」

「よっ。久方ぶりだな。お前達」

「此処に召喚されたという事は、貴方達は第二試験を突破したのね。おめでとう」

「おう。ありがとうだってばよ。って、そうじゃなくて…どうして姉ちゃんとイルカ先生が出てくるんだよ」

「落ち着きなさい。それじゃあ、話そうにも出来ないでしょ」

 

 

 口寄せに寄って、現われた二人にナルト達は困惑を隠せない。いきり立って問いかけるナルトをサチが宥めてから、イルカが説明を始めた。

 

 

 

「…この第二試験。最後は俺たち中忍が受験者を出迎える事になっている。今回は偶々、俺が伝達役に選ばれただけだよ」

「そうだったのか。だが、何でサチ先生までいるんだ?」

「ああ。本来はそうなのだけど、手が空かない中忍がいる場合、上忍もその役を任される事もあるのよ」

 

 

 説明が終わり、大方の疑問が解けた所で今度はサスケが自身の疑問をぶつけた。話の中では、伝令役に選ばれるのは中忍だ。ならば上忍であるサチがいるのは、不自然である。それはサクラとナルトも思っていたのか、二人もサチを見つめていた。その問いに彼女はすんなりと答えた。この答えにナルト達は納得したが、サスケは何処か訝し気な様子だったが、これ以上は問い詰めても無駄だと判断したのか。大人しく引き下がった。

 

 

 

 

「…それに時間ギリギリだったが、三人共。第二試験の合格おめでとう」

「ええ。よく頑張ったわね」

「よっしゃぁぁぁっ!! 俺ってば、やったってばよ。そうだ。折角だし、一楽のラーメンを奢ってくれよ」

「お、おい。ナルト…。話は最後まで…」

「やった、やった、やったってばよーー 一楽のラーメン、楽しみだなぁ「話を聞きなさい」いだっ」

 

 

 イルカの話を聞かず、燥ぐナルトの頭にサチは容赦なく拳骨を落とした。それによって、ナルトが落ち着いた所でイルカが口を開く。

 

 

「全く、落ち着きが無い所は相変わらずだなぁ。お前は…」

「所でだ。もし俺達が巻物を途中で開いた場合、二人はどうするつもりだったんだ?」

「その時は貴方の想像通りよ。口寄せで呼ばれた私達が、三人を試験終了まで眠らせて終わりよ。もう気付いているだろうけど、この第二試験は任務の遂行能力を測るものだからね」

「そう言う事だ。お前達、途中で開かなくて良かったな」

 

 

 唐突なサスケの質問にはサチが答えた。続いて言ったイルカの言葉にナルトとサクラは顔を歪める。二人は心の中でカブトに感謝の念を送っていた。そんな二人をサスケはジト目で睨む。何とも言えない空気を変える為か、サクラは壁にある色紙を指差して、サチ達に書かれている文の意味を尋ねた。

 

 

「そうだ。サチ先生、あの壁の文って、一体どんな意味なの? 一部が虫食いになってるし、考えても分からないから気になってるんだけど…」

「ああ。あの言葉はね。火影様が記した中忍の心得よ。天無くば、智を識り、機に備え。この天は人間の頭を意味し、地は体を意味しているの。例えば、ナルト。貴方の弱点が頭脳だったら、多くを学んで知識を蓄えて任務に挑みなさい。そういう事になるわね」

「成程ね。ナルト、あんたもしっかりと勉強しないと駄目よ」

「う、余計なお世話だってばよ」

「そういうサクラだって、ナルトを笑っていられないわよ。地無くば、野を駆け、利を求めん。これは体力が無いなら、日頃から鍛錬をしなさい。サクラの弱点は何かしら?」

「う、それは体力不足です。もっと精進します」

 

 

 サチの言葉を聞いて、ナルトを揶揄っているサクラだったが、自分の弱点を指摘されて彼女も反省した様子を見せた。

 

 

「己に欠けている二つの要素を学んで補えば、どんな危険な任務でも遂行する力が身に付く。それを伝える言葉なのよ」

「ちなみに抜けている所は中忍を意味する人の文字だ。この五日間のサバイバル、それは中忍に値するかを見るテストでもある。そしてお前達は見事にクリアした。だがな、それだけで浮かれるなよ? 下忍と違って、中忍は部隊長として、チームを率いる役目がある。だからこそ、多くの知識や体力が求められる。中忍になる場合は、今より精進する事が大事なんだ。まあ、此処まで来たなら言わなくても分かってるか」

「ああ。イルカ先生の言いたい事は分かってるってばよ」

 

 

 

 

 サチの言葉を補完する様にイルカが中忍にとって、大事な事をナルト達に説き始める。次第に熱が入っている事に気が付いて、イルカは話を終わらせる。しかし三人は珍しく真剣に彼の話に耳を傾けていた。その事が意外だと思ったイルカだが、それは彼らが成長している何よりの証だ。かつての教え子達は高みを目指して尽力する姿に、胸が熱くなる思いを感じていた。

 

 

 

「…張り切るのは良い。だが、最後の第三試験。無茶はするなよ。特にナルト、お前が一番心配なんだ」

「大丈夫だってばよ。あの日、俺がイルカ先生から木ノ葉の額あてを貰ってから…俺はもう先生の生徒じゃないんだぜ。まだ一人前には…程遠いけどよ。それでも俺は忍者だ」

「そうか。お前も今は木ノ葉の忍だもんな。悪かったな ナルト。俺はまだ先生気分でいた様だ」

 

 

 二人のやりとりをサチは静かに見ていた。何時も…悪戯をしては、怒られていた頃の面影は今はない。少しずつ、成長していく弟の姿が彼女にとっても喜ばしい事であった。

 

 

 

 

 

 

 場所が変わって、塔の最上階。

 その一室に報せを受けたヒルゼンが足を運んでいた。彼は椅子に腰かけ、呪印が浮んだ肩を抑えるアンコを心配して話しかけた。

 

 

「…まだ、痛みはあるかの?」

「ええ。だけど、幾分は収まって来ました。それよりも何故、あいつが動き出したのか。それが気になりますね」

「奴の狙い…恐らくはサスケじゃろう。奴は以前より、うちはの一族に固執しておったからな」

 

 

 

 その言葉にアンコは、森で大蛇丸が残した言葉を思い出す。奴の口振りでは、再びその子に接触をしてくる筈だ。その時こそ、あの男を仕留めてやる。彼女は拳を握りしめて決意を固めていた。そんな折り、扉を開けて一人の中忍が部屋に入ってきた。彼は部屋にいる全員に向けて一礼したのち、手にした報告書を読み上げる。

 

 

「アンコ様。第二試験の終了しました。突破した受験者は総勢21名です。今回は中忍試験規定に従い、第三試験開始前に予選を行います。それでは…失礼します」

「…ほう。今年の受験者は皆、優秀な者が多いようじゃな。予選の開催など、久しく無かったしの」

「その分、一癖も二癖もある子供たちばかりですけど。しかし火影様。今後の試験はどうします? あいつが裏に潜んでいるのなら、これ以上の試験は中止にした方がいいのでは…」

「いや、試験は予定通りに行うとしよう。此処でやめてしまえば、あやつの事だ。強引に事を起こそうとするだろう。そうなれば、関係ない者まで巻き込む事になる」

「…っ!! 分かりました」

 

 

 

 試験を続行すると言うヒルゼンにアンコは反対する。だが、中止すれば周りを巻き込む危険がある。そう告げるヒルゼンに返す言葉が浮ばず、彼女は首を縦に振るしかなかった。その事で些かアンコも冷静さを取り戻す。今まで隠れて行動していた大蛇丸が、早々に尻尾を出す筈もない。正直な話、彼女は焦っていたのだ。この状態で戦う事は殺されに行くようなものである。

 

 

 ヒルゼンは彼女の中に渦巻く焦りに気付いていたのだろう。故に慎重に行動せよ。遠回しにそう言っていたのだ。

 

 

 

 

 ヒルゼンを伴い、受験者達が集まる部屋に移動する途中。同じくそこに向かっていたサチ達と鉢合わせた。二人に気付いて、挨拶をしようとガイが口を開くより先にサチがアンコに詰め寄ると、少しばかり怒った様子で問い詰め始める。

 

 

 

「アンコ…。貴女、謀ったわね。いきなり伝達役をお願いなんて言うから、やってみたら…あの子達の班に当たるんだもの」

「い、いやぁ。ほら…あんたには、助けてもらったお礼がまだだったでしょ? だから、そうしたら喜ぶかなぁってさ。他にもそのように頼んできた奴もいたからね。ついでにやった方が良いかと思ったのよ」

「他にも? 一体、誰の事よ?」

「…そりゃ、イルカさんでしょ? そんな事を頼みそうなのは、あの人くらいしかいないだろうしね」

「だろうな。試験に私情を挟むのは、流石にやり過ぎじゃないのか? それに応じるアンコもアンコだぜ」

「まぁ、落ち着け二人共。確かアンコの行動は褒められるものじゃないが、過ぎた事を言っても仕方無いぞ。それに二人だって、イルカの気持ちは分からないでもないだろう?」

 

 

 

 サチとアンコの会話を黙って聞いていたが、その内容に思う所があったのか。アスマとカカシが話に割り込んできた。試験官が私情を挟む行動をした事を責める二人だったが、間にガイが入って二人を宥めた。ガイの言葉通り、イルカの気持ちも理解は出来る。恐らく、最初はアンコも彼の要求を突っぱねた筈だ。それでも最終的に折れたのは、それだけイルカの意志が固かったという事だろう。

 

 

「…話は終わったかの? イルカについてだが、今回はお咎めなしとする。そのかわり、あやつには今後…そういう事を言わない様にワシから叱っておく」

「別に怒ってる訳じゃないんで、構いませんよ」

「俺もだ。逆の立場だったら、俺もあいつと同じ事をしたかもしれないからな」

「うむ。では、受験者達の元へ急ぐとするかの」

 

 

 話が纏った所で傍観していたヒルゼンが、口を挟む。そしてイルカの処遇について、二人も納得した様だ。ヒルゼンは彼らを引き連れて皆がいる場所へ向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

「諸君!! 第二試験の突破、まずはおめでとう。そして第三の試験について、火影様から説明がある。各自、心して聞くように。では、火影様…お願いします」

「うむ」

 

 

 部屋に集まった受験者達を眺めながら、ヒルゼンは一歩前に出た。驚く事に残った者達は、今年下忍となった新人が殆どであったのだ。中でも注目するのがやはりナルト達である。正直な話、この第二試験を彼らが突破出来ると思っていなかった。何も考えずに突っ走るナルト、他者との協調性が欠けるサスケ、そして二人と比較して己に自信が持てないサクラ。バラバラな個性を持つ三人が此処にいるという事は、彼らが一つのチームとして纏まり、また忍としての自覚が生まれた事を意味する。

 

 

 何にせよ、この場にいる者達が新たな時代を築いていく。自分が幾つになってもこの瞬間に立ち会える事が、ヒルゼンの楽しみとなっていた。

 

 

 

 

「次の第三試験、それを行う前にお前達に伝える事がある。それは中忍試験における真の目的についてじゃ」

 

 

 ヒルゼンの言葉に場の雰囲気が重くなるのを感じて、受験者達は緊張した面持ちを浮かべていた。それぞれが言葉の意味を探ろうと、考えを廻らす中。彼は言葉を続ける。

 

 

 

 

 

「何故、同盟国同士で試験を行うのか。知っての通り、同盟国同士との友好や互いの忍としての力を競い合う為ではない。ならば、どんな意味があるのか? それは同盟国の力を測り、あわよくば他国を追い落とす。戦争の中で生まれた行事なのじゃよ」

「何だよ‥それ。俺達ってば、中忍試験をやってるんじゃないのかよ」

「いや、これが中忍を選定するものである事は否定はせん。じゃが歴史を振り変えれば隣国とは、勢力を廻って争った事もある。無論、周りの国々ともな。いざ戦いとなれば、多くの者達が殺し合い、命を落としていった。それを不毛と考えた国々が考えたのが、この中忍試験だ」

 

 

 

 中忍選抜試験に隠された真実にナルトは息を飲んだ。それは他の者も同じである。漂う沈黙の中、ヒルゼンは一呼吸してから更に言葉を紡ぐ。

 

 

 

 

「この試験に隠されたものは、それだけではない。試験を見物に来る各国の大名や各里の忍頭。彼らの面前で参加した忍達は国を威信を背負って、戦う。その結果、強国である事を示せば、その国に依頼が殺到するが…逆に弱小国と見なされた国は依頼が減少する。そして同時に自分達はこれ程の戦力を有している。外交的な牽制をする事も出来る」

「だから、俺達に殺し合いをしろってかよ。いくらなんでも無茶苦茶すぎる」

 

 

 

 ヒルゼンが語った試験の真実。それはどれも衝撃的な内容だった。それが納得出来なかったキバが、ヒルゼンに噛み付く様に言葉をぶつけた。だが、ヒルゼンは動じる事なく、ぽつりと言葉を捻り出す。

 

 

「国の力は里の力であり、里の力は忍の力じゃ。忍の真の力はこういった命懸けの戦いの中でしか、生まれる事はない。それ故、試験で自国の力を見てもらい、また見せつける場なのじゃ。だからこそ、先人たちは目指す価値があると中忍試験に出て戦ったのだ」

「じゃあ…友好なんて言葉を使わなければ、良いじゃないですか!!」

「だから、最初に言ったであろう。意味をはき違えてもらっては困るとな。命を削り、戦う事で力のバランスを保ってきた慣習。これが忍界における友好の証なのじゃ」

 

 

 

 命を削る戦いが友好の証。それは未熟なナルト達には、想像も及ばぬ事だった。此処でナルトはふと思う。今は上忍の姉もこの試験を挑み、中忍へと登りつめた。ならば、先程の話もヒルゼンから聞いた筈だ。その時、姉は何を思って試験を受けたのだろうか? 深く考えてみるものの。その答えは見つからない。考え事をしている中、ヒルゼンは話を続けた。それに気づいたナルトは、彼の話に耳を傾ける。

 

 

 

 

「試験に入る前に…改め言おう。これは今までの様なテストではない。ある者は夢の為、またある者は里の為に。それぞれの想いを抱いて挑む戦いなのじゃ」

「上等だ!! 元より、忍になった時から俺は命懸けでやってきたんだ。今更、ビビって逃げねえってばよ」

「長話はもう十分だ。それよりも命懸けの試験とやらの説明をしてもらおう」

 

 

 

 ナルト、そして砂漠の我愛羅に恐れの色はない。それに他の者も決意を籠めた眼差しをヒルゼンに向けていた。当初は困惑していた受験者達、彼らの背中を押したのは言うまでもなく、ナルトの言葉であった。木ノ葉でも落ちこぼれと呼ばれていたナルトが、挑むのだ。此処で恐れに飲まれて背を向けたら、自分達は彼に追い抜かれてしまう。そんな事は認められない。

 

 

 途端にやる気になった受験者達を見て、ヒルゼンは静かに微笑んだ。本人は意識してはいないだろうが、他の者を刺激したのは間違いなくナルトだ。思えば、他国への任務を受ける時も同じ事をしておった。周りを導く素養はあやつにそっくりだと、ヒルゼンはかつて自分の教え子だった男の事を思い出していた。

 

 

 

「フム、それでは第三の試験に説明に入るとしようかの「お待ち下さい 火影様」ん? 何じゃな?」

「恐れながら、此処からは審判を仰せつかった…私、月光ハヤテにやらせて下さい」

「分かった。お主に任せよう」

「ありがとうございます」

 

 

 

 説明を始めた矢先、一人の男が前に出てヒルゼンに申し出た。暫し考えたのち、彼は首を縦に振ってハヤテに進行役を任せる事にした。彼はその事に礼を言うと、受験者達に振り返った。何処か陰のある男の姿に、皆は不安を覚えた。

 

 

「えー 皆さん初めまして。私はハヤテと申します。第三の試験ですが、その説明をする前に皆さんにやってもらいたい事があります。それは…本戦の出場を賭けた、第三試験の予選を行います」

 

 

 

 ハヤテが告げた事にナルト達は驚きを隠せなかった。そして未だ知らぬ中忍試験の本当の厳しさを彼らは思い知る事となる。




今回、第三試験の予選開始直前で次回に持ち越し。
何だかテンポが遅いですが…そこは自分のペースで進めるので、ご勘弁を。



そして中忍試験編でサチの出番を増やすと言っときながら、出番がない。こ、これからです。これから増やしますのでそちらについても、ご勘弁の程を…。



誤字脱字がありましたら、お手数ですがご報告をお願いします。
また感想の方もお待ちしています。

次回の更新は個人的な理由で少し遅れます。どうぞご了承下さい。
最後に評価を下さった奈月さん どうもありがとうございます。


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第二十五話 呪縛を超えた強き意志

最新話、お待たせしました。


艦これの秋イベやEDFとして、地球防衛に夢中で執筆が遅れました!


「第三の試験、これを行うに当たって、皆さんに本戦出場を賭けて予選をしてもらいます」

「な、予選だと!? 何でそんなのやるんだよ」

「そうですよ。理由を説明してください」

 

 

 ハヤテの言葉に一部の受験者が食ってかかる。このまま第三試験が始まると思っていただけに彼らの反応は当然である。その本人はそれに動じる事なく、淡々とした様子で受験者達に訳を話し始めた。

 

 

「まあ‥皆さんの不満は分かります。しかし、第一と第二の試験を想定以上の人数が突破した事で行う必要があるんですよ。何せ、本戦は各国の大名達が観戦します。その為、ゆっくりと試合をする訳にいかない。故に此処で本戦出場に値する忍を選定する訳です。ご理解頂けましたね」

 

 

 

 その説明に納得したのか。それ以上、異議を唱える者はいなかった。皆が静かになったのを見て、ハヤテは話を続ける。

 

 

「えー 予選を開始する前に言っておきますが、体調のすぐれない者や自信がない者は辞退してください。予選の開始はすぐに行いますので…」

「はぁ!? 今すぐやるのかよ。全く息吐く暇もねえな」

「あのー 僕は辞退します」

 

 

 

 すぐに予選が始まると知って、キバがぼやく中。一人の忍が手を上げて辞退すると申し出た。その忍はナルト達と行動していたカブトである。つい先程、一緒に試験を頑張ろうと言った本人の辞退にナルトは驚いていた。

 

 

「えーと、君は確か…木ノ葉の薬師カブトくんでしたね。分かりました。では下がって結構ですよ。他に辞退する者はいませんか? 言い忘れていましたが、此処からは個人戦となるので自身の判断で決めて下さいね」

 

 

 

 手にした名簿で手を上げた者の名を確認した後、ハヤテは辞退を受け入れた。そして会場を去ろうとするカブトにナルトが声をかける。漸く辿り着いた第三の試験。中忍まであと少しという所で立ち去る事がナルトは納得がいかなかった。そんなナルトにカブトは、僅かに表情を曇らせて彼に理由を話し始めた。

 

 

「何で辞めちゃうんだよ。折角、此処まで来たのに…」

「すまない。実は‥第一試験前のいざこざで耳が聞こえないんだ。おまけに体もボロボロでね。その上、命を懸けると言われてはね」

 

 

訳を話したカブトに言い返せず、ナルトは口を閉ざした。何よりも悔しいのは彼の方なのだ。無理をして試験を続けた所で、命を落としてしまっては本末転倒である。だからこそ、カブトは辞退したのだ。命があれば…また中忍試験に挑む事が出来る。ナルトもそれを理解しているが、内心ではショックを隠せないでいた。

 

 

 そんな二人のやり取りをヒルゼンが厳しい顔で見つめていた。そして隣にいるアンコへ彼は問い掛ける。

 

 

「あやつ…何度か見る顔じゃな。確か、前回は本戦で棄権しとったの。一体、何を考えているのか…」

「薬師カブト…。彼のデータでは6回に渡って試験を不合格してます。初の挑戦から今回に至るまで本戦まで残ったのに…不可解ですね」

「奴はどんな経歴がある? 初挑戦で本戦に残った程だ。それなりの忍なのじゃろ?」

 

 

 アンコの返答にヒルゼンは更に問い掛けた。優秀な忍は毎年の事、一人は輩出される。今季ではサスケがそうである様に…彼もまたその手の忍だと、ヒルゼンは思っていた。

 

「いえ、それが…アカデミー時代から彼は平凡な成績でした。卒業試験も三度目で合格しています。下忍となって、及んだ任務はCランクが2回にDランクが14回。こちらの方も目だった功績は上げていません」

 

 

 しかし、アンコの言葉にヒルゼンは絶句した。自分の予想が外れた事ではなく、成績と行動の結果が釣り合わない事にある種の違和感を感じていた。別段、気にする必要は無いように思えるが、ヒルゼンの中で警鐘を鳴らしていたのだ。奴は只者では無いと。

 

 

「火影様。この話を覚えてますか? 昔、桔梗峠の戦いで連れて来られた少年がいた事を…」

「ああ。覚えておる。その後、保護をした医療忍者に引きとられたという話じゃったな。まさか、それがあやつという訳か」

 

 

 当のカブトは自分が火影達に疑われている事に気付いていた。恐らく、この後で自分に監視の目が付く事になるだろう。まだ情報収集をする必要があるが、その心配は無用だった。何故なら大蛇丸本人が、直にサスケの事を見るのなら自分が情報収集する役は終わりを告げた。

 

 

 カブトはナルト達を一瞥した後、その場を去ろうとした時。彼の連れである一人の男がカブトに制止する。

 

 

「待て、お前は一体何を考えてる? あの方の命令を忘れた訳では無いだろう」

「心配しなくても忘れてないよ。ここはヨロイさんがいれば問題は無いでしょ。只でさえ、僕に先を越されて苛立っていた貴方のね」

「…貴様、あの方のお気に入りだからと調子に乗るなよ」

「そいつは失礼しましたね。以後、気を付けますよ先輩」

 

 

 

 威圧する様に言葉を発するが、何処吹く風でカブトは受け流した。それに更に苛立つヨロイはカブトを鋭い目で睨みつける。しかし、去りゆく彼はギラギラした表情を浮かべていた。そこに先程までの温和な様子は微塵もなく、まるで剥き出しの刀の様であった。

 

 

 

「えー 他に辞退者はいませんね? それでは予選を開始いたします」

 

 

 カブトが立ち去るのを見ながら、ハヤテは尋ねた。その言葉を聞いてサクラはサスケを見る。説明が始まってから、首を抑えて痛みに耐える彼が気になっていた。

 

 

「ねえ、サスケ君。貴方も此処で辞退した方がいいと思うわ」

「え? 何を言ってるんだってばよ」

「…サクラ、お前」

「だって、あの大蛇丸って奴にやられてから…サスケくん。様子がおかしいわよ。今だって、その首に出来た痣が痛むんでしょ?」

「痣…。何だこりゃ!?」

 

 

 

 サクラの唐突な発言にナルトは困惑し、サスケは苦虫を噛んだ様な表情を浮かべる。サクラはこの予選でまたサスケが豹変するのではと、不安を抱いていたのだ。そして…あの残忍な顔を見たくないと心から思っていた。

 

 

「私が無茶苦茶な事を言ってるのは分かってる。でも、お願いだから棄権して…」

「黙れ、お前に何が分かる。第一、戦うかを選ぶのは俺だ」

「そう言ったって、今も痛みを我慢してるんでしょ? それじゃ、誰が相手でも負けてしまうわ。寧ろ、下手したら大怪我だってするかもしれないじゃない」

「頼む。静かにしてくれ。やっと、此処まで来たんだ。次の機会なんて待っていられない」

「駄目よ。サスケくんが何と言っても、私は先生にこの事を言うわ」

 

 

 必死に説得するサクラだったが、サスケも一向に譲らなかった。彼の目的である復讐。それを果たす為にサスケも必死だった。もし、サクラの提案を聞き入れて棄権すれば、その目的は遠ざかる事になる。彼はそれが我慢出来なかった。しかし今回ばかりはサクラも引く事はない。半ば強引に事を起こそうとした時。サスケは彼女の手を掴むと威圧する様に言葉をぶつけた。

 

 

「いい加減にしろ。お前には関係ないだろうが、余計なお世話なんだよ」

「何でよ。仲間を心配したら駄目なの!? ずっと苦しんでた二人を見てた私の気持ちも考えてよ」

「サクラ。7班が結成された日、俺は言った筈だ。ある男に復讐すると。悔しいが、そいつの強さは並じゃない。だからこそ、自分が何処まで強くなったのか。それが知りたいんだ…。幸いにもこの場には、強い奴が大勢いる。奴らと戦い、勝つ事が出来れば答えは出る。俺にとって大事なのはそれだけなんだ」

「…サスケ。お前の気持ちは分かるけどよ。本当に体がヤバイならサクラちゃんの言う事は聞いた方がいいんじゃねえのか?」

「ナルト。お前までそんな事を言うのかよ。それに俺はお前とも戦いたいと思っているんだぜ」

 

 

 

 自分と戦いたい。そう言ったサスケをナルトは驚いた顔で見た。いつもなら自分の事など、眼中に無かった。そんな彼が今日初めて、ナルトをライバルとして認めたのだ。己の体を蝕む呪印の痛みに耐え、戦う決意をしたサスケにサクラも止める事を諦めた。

 

 

 例え、強引に止めても彼は止まらない。そう理解したから。

 

 

 

 

「…やはり。呪印の影響が出とるようじゃな」

「どうします? 見た所…まともに戦える様に見えませんが…」

「私も同感です。彼を試験から降ろし、暗部の護衛を付けて匿うべきです」

「いや、そう簡単にいかないでしょ。何せあいつは頑固な一面もありますから」

 

 

 不自然なサスケの様子を見て、ヒルゼンが静かに呟いた。その呟きが聞こえて、傍らにいたイビキがヒルゼンに尋ねる。同じく傍にいたアンコも自身の考えを口にする。二人に言われ、悩むヒルゼン達に後ろからカカシが口を挟んできた。

 

 

「ば、バカ言ってんじゃないわよ。あの子がどんな状態なのか、あんた分かってるの? チャクラを少しでも使えば…呪印が強引に力を引き出そうとする禁術よ。下手すれば命を失う事だって、なりかねない」

「じゃあ、どう説得するの? カカシが言った様に素直に話を聞く子じゃないわ」

「話を聞かないなら、力づくでも止めるわ。死ぬよりはマシだもの」

「いや、ワシはこのまま試験を受けさせようと思っておる。あの男の事だ、此処でサスケを下がらせれば何をするか分からん。最悪の場合、強引に事を起こそうとするじゃろう。そうなれば、より大きい被害が出るかもしれん」

「ほ、火影様…」

「しかし…サスケも放って置く訳にいかん。もし呪印が暴走しそうな時はカカシとサチ。お主らで止めに入れ!!」

 

 

 まさかの言葉にアンコは衝撃を受けた。呪印の辛さと苦しみは自分が嫌という程、知っている。だからこそ、ヒルゼンの決断が信じられなかったのだ。だが彼としてもサスケの事はきになっている。アンコが言葉を発する前にヒルゼンはサスケについての指示を出した。

 

「分かりました」

「ま、仕方無いね」

 

 ヒルゼンの指示に二人は素直に頷いた。サスケの事は自分達の管轄だ。カカシとサチは真剣な表情でサスケを見つめていた。

 

 

 

「えー それでは予選の組み合わせですが、まずはあちらをご覧下さい」

 

 

 ハヤテの指差す方を見れば、壁が左右に別れた大きなモニターが現れた。一同は注目する中、ハヤテは説明を続けた。

 

 

「先程、一人辞退したので合計10回戦を行い…勝ち残った者が本戦へ出場出来る訳ですね。それで試合のルールですが、これはどちらが負けを認めるか死ぬまで戦ってもらいます。とは言っても審判の私が勝敗を判断して止めに入る場合もあります。無闇に死体を増やすのもあれですか。そして対戦相手については、あのモニターに名前が表示されますので名前が出た2名は残り、あとの方達は二階に移って観戦してもらいます。それでは早速、対戦相手の発表しますよ」

 

 

 始まる予選に受験者達は息を飲んでモニターを見つめる。そして…モニターに出た名前はうちはサスケとあかどうヨロイ。この2名であった。

 

 

「それでは両者は前に出てください。二人共、戦う事に異存はありませんね?」

「ああ」

「はい」

「宜しい。では、残りの方は言った通り上に移動してください」

 

 

 ハヤテの指示に従い、残りの者達が移動する際…サスケの背後からカカシが小さく声をかける。

 

 

「サスケ、写輪眼は使うな。チャクラの使用は呪印の暴走に繋がる」

「あんた…気付いていたのか」

「当然でしょ。もし‥呪印が暴走する事になれば、その時点で俺とサチが止めに入る。そしてお前の試験は終わりだ」

「くっ、分かったよ。あんな奴に写輪眼は必要ない」

 

 

 

 その言葉が強がりなのは、誰が見ても一目瞭然だ。そんな状態でも引かないのは、彼の内に秘める想い故だろう。それを分かっているからこそ、止めようとしたアンコ達を説得したのだった。だが、サスケの状態が普通で無いのも事実である。その時は自分達が責任を持って、止めねばならない。その事を伝えると本人は、渋々ながら納得した様だ。問答無用で止められるよりはマシだと、サスケも思っていた。

 

 

 

「それでは第一試合開始!!」

 

 

 ハヤテが戦闘開始を告げると二人は距離を取って、睨み合う。相手の挙動に注意しつつ、どう立ち向かうか。戦略を考えているが相手は動く気配がない。どうやら、こちらの手を窺っていると思っていたが、ヨロイの表情を見ればそうでは無かった。ニヤニヤと笑っている事から恐らく自分の状態を知っている様に思える。そこでサスケはある事に気付いた。奴はカブトの連れだ。カブト自身、自分の異変を察知していた。もしや彼がヨロイに教えたのかもしれない。だったら、悠長に戦ってはいられない。悪手ではあるが、こちらから攻める事にした。

 

 

 サスケは腰のホルダーからクナイを抜き、相手も手裏剣を取り出し投げ付けてきた。その攻撃をクナイで弾き返すが…無意識に写輪眼を使ってしまい、反応した呪印がサスケに激痛を与えた。その痛みに耐えきれず、倒れてしまう。それを見逃す程、相手も優しくは無く。一瞬で距離を詰めるとサスケの頭部目掛けて拳を振り下ろすが、咄嗟に躱して逆に相手を拘束する事に成功した。そのまま腕を折ろうと力を籠めた途端、ふいに体から力が抜ける。

 

 

 それによって、拘束が緩んだのか。力任せに腕を振り解いた拍子にサスケの顔面へ容赦ない裏拳を打ち込んだ。痛みに悶えているサスケにヨロイは、詰め寄ると右手で彼の頭をガッシリと掴んだ。すると先程の様に力が抜けた事で、それがヨロイの仕業だと気付いた。

 

 

「どうやら、気付いたか。だが、遅いな、お前のチャクラは全て頂くぞ」

「くっ、この‥野郎。やめやがれっ!!」

 

 

 チャクラが吸われる前に相手を蹴り飛ばし、引き離す事に成功したが…サスケのチャクラは殆ど吸われてしまった。辛うじて動く事は出来るが、打つ手が無いサスケが圧倒的に不利であった。

 

 

「何やってんだ。サスケェッ!! いつものお前らしくねえぞ。俺と戦うんだろ? だったら、もっと気合入れてやれってばよ」

「ナルト…。それにあいつは…」

 

 

 敗色濃厚な気配が漂う中、居ても経ってもいられなくなったナルトがサスケに向かって、叫んだ。サスケがそちらに視線をやると、傍にリーの姿を見つけた。そして…サスケはある攻撃を思い出す。そうだ‥あの方法ならあいつの手に掴まれずに済む。一筋の希望を見出し、サスケは不敵に笑う。その姿にナルト達は確信した。この勝負、彼が制すると…。

 

 

「ふん。何か思い付いた様だが、所詮は無駄な足掻きだ。次で仕留めてやる」

「やってみろ。この勝負、俺は負ける訳にいかない」

「ほざくな。お前に勝機はない。あるのは敗北だけだ」

 

 サスケの言葉が癪に触ったのか。ヨロイは怒気を放って、サスケに向かって行く。だが、これは彼にとって、悪手となる。伸ばした手がサスケを掴むより、早く繰り出された蹴りがヨロイの顎を跳ね上げ、彼を空中へと押し上げた。予想もしてない攻撃に驚く間もなく、ヨロイの背後に貼り付いたサスケが追撃しようとした時、此処に来て首筋の呪印が反応し、全身に広がっていく。

 

 

 その光景にカカシ達は唇を噛み締める。やっと、勝機を見出したのにこれでは試合が止められてしまう。そうなってしまっては、苦痛を堪えて戦ったサスケの行動が無駄になる。見てる事しか出来ない事実が、カカシは何よりも悔しかった。

 

 

 だが、此処で信じられない出来事が起きる。サスケは蝕む呪印を自力で抑えて見せた。

強制力のある呪印を精神力で抑える。それをやったのは、未だ未熟な下忍なのだ。一同は言葉を失くすのも無理はない。サスケが呪印を抑える事が出来た背景には、自分を心配して泣いていたサクラ、自分の意を酌んで試合に出る事を許してくれたカカシ、そして…いつの間にか、強くなって自分に追い付き始めているナルト。この三人がいたから自分も強くなれたのだ。そんな自分が今より強くなるには、こんな所で躓いては居られない。その想いが呪印に勝ったのだ。

 

 

 

「あいつらに心配されてちゃ、俺は上に行けないからな。さっさと終わらせてもらうぜ」

 

 

 

 そう宣言した直後、体を回転させた勢いで蹴りを繰り出すが、相手の腕に止められた。だが、それは陽動で本当の狙いは左手から繰り出す裏拳だ。サスケの攻撃はヨロイの顔面に突き刺さり、今度は彼を地面に向けて落とした。

 

 

 当然、サスケの攻撃はこれで終わりではない。落ちていくヨロイを追う様に近寄ると同じく回転を利用した蹴りをヨロイの腹目掛けて振り下ろした。それは一発だけでなく、杭を打つ様に何度も食らわせていく。そして地面が近くなった時、残ったチャクラを足に籠めると渾身の蹴りを見舞った。その一撃は地面にヒビを入れる程、強力で彼は血を吐いた後‥だらんと床に倒れ込んだ。審判のハヤテが様子を窺うが‥本人は完全に気を失っており、戦う事は不可能と判断してサスケの勝利を宣言した。

 

 

 辛勝だったが、勝った事で気が抜けたのか。倒れそうになったサスケをカカシが支えた。彼は無表情で見下ろして一言呟いた。

 

 

「ま、あの状態でよくやったよ。あいつらもこれで安心しただろうな」

「フン。俺がこんな所で負ける訳がねえだろうに…あいつらが心配症なんだよ」

「そうかい。じゃあ、次は俺と一緒に来てもらうぞ。これから呪印を封印する作業に入るからな」

「待ってくれ。この後にやる試合が見たい。あいつらの力量を知っておきたいんだ」

「駄目だ。さっきはお前の意を酌んだが、これ以上の我儘は見逃さないよ」

 

 

 カカシの言葉にサスケは懇願する様に言うが、今度ばかりはカカシも譲らなかった。そして駆け付けて来た医療班へ歩み寄ると声をかけた。

 

 

 「悪いけど、医療班。こいつは俺が預かるから心配は無用だ。折角、来てくれたのに悪いね」

「分かりました。では、我々は元の場所で待機しております」

 

 

 カカシの言葉に思う所はあったものの。真剣な様子のカカシに込み入った事情があるのだと、悟って大人しく引き下がった。サスケもこの時は大人しく従った。残りの試合で戦う忍達は気になるが、正直な所…自身の体は限界である事も理解している。それに本戦では万全でなければ、万が一勝機は無いだろう。この事もサスケは忘れていなかった。

 

 

 そして…カカシに連れられてサスケは去って行った。その後ろ姿を見つめる不気味な視線に気付かぬまま…




 今回、やっと予選が始まりました。此処に来るまで結構、掛かってますねぇ…。しかも例によって、サチさんの出番が…。


しかし、サスケの意志の強さ。あれは凄いですね。うちはの血筋だからというのもあるでしょうが、呪印を抑えたのは内に秘める想いもあったと思ってます。

次回は予選の続きからですね。お楽しみに。
また感想などがあれば、気軽に書いていってくれると励みになりますのでお願いします。


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第二十六話 騙し合いと化かし合い。

最新話、お待たせしました。


EDFの務めも終わって、今は古代ギリシアの世界を探険してます。
過去の世界を再現する今の技術は凄いですね。


 予選の第一試合が終わって、カカシと共に去っていったサスケをナルト達は心配そうに見つめていた。そんな二人を余所に次の対戦相手がモニターに映し出された名前を見て、ナルトとサクラは相手に視線をやる。一人は同じ木ノ葉の忍だが、自分達も特に話した事は無く…その者の事をよく知らない。もう一人の相手は、第二試験中に襲って来た音忍だった。彼の怪我は癒えてない様で、両腕にはまだ包帯が巻かれている。相手がそうなった理由を知っているサクラは複雑な気持ちになる。そして…勝ち目の薄い状態で戦う相手の神経を疑っていた。

 

 

 

 

「えー 第二試合、油女シノ対ザク・アブミですね。それでは降りてきて下さい」

 

 

 ハヤテに呼ばれ、下に降りた二人は睨みながら向かい合う。すると、シノが唐突に口を開いた。

 

 

「この試合、今すぐ棄権しろ。そんな状態では俺と戦うのは無理だ」

「ああ!? てめえ…そりゃ、何の冗談だぁ? ちっとも笑えねえぜ」

 

 

 その忠告にザクは勿論、上で見ていた者達も困惑する。言葉だけなら相手を気遣うものだが、付き合いのある者達は知っている。本人は本気でそう言っている。しかし言葉足らず故、それは相手を怒らせる結果となってしまった。

 

 

 早くも臨戦態勢に入ったザクを見て、シノも身構えるとハヤテは試合開始の号令をかけた。

 

「おらぁ。てめえなんざ、片腕だけで十分なんだよ」

「無駄だ。生憎だが、片腕でやられる程…俺も甘くない」

「てめえぇぇっ!! いちいち癪に障る奴だな。少し黙りやがれ」

 

 試合開始と同時に攻めるザクだが、片腕しか使えない以上。攻撃は単調になってしまう為、シノにあっさりと防がれてしまう。その際、口にした言葉に更に怒りを露わにしたザクは自身が得意とする術をシノへと放った。彼の術を知らないシノは、まともに食らって吹き飛ばされ床へと転がっていく。

 

 

 勝負有りかと思いきや、シノはむくりと起き上がった。そして…ザクを睨みつけると彼の頬から黒い何かが這い出て来た。その正体は無数の虫であった。見た事のない術を使うシノに警戒して、ザクが一歩下がった時。背後に気配を感じて振り変えると目に入った光景に絶句する。

 

 そう。彼の後ろにはシノの虫が群れを成して、床を蠢いていた。

 

 

「この虫は寄壊蟲と言って、チャクラを食らう蟲だ。一匹だけならまだしも…集団に襲われたらお前のチャクラはあっという間に底をつくだろう。そうなれば、再起不能になるのは明白だ。もう一度だけ言う。今すぐ降参しろ」

「降参だと…!? けっ、素直に言う事を聞くと思うか? こんな蟲如き、俺の術で吹き飛ばしてやるぜ」

「無駄な足掻きだ。例え、蟲を吹き飛ばしてもその隙を突いて、俺が仕掛ける。だが、俺に仕掛ければ…背後から蟲がお前を覆い尽くすだろう。どの道、お前に勝ち目はない。奥の手は取って置くものだ」

「くそがぁ…」

 

 

 劣勢に立たされて、ザクは焦りを感じていた。そして脳裏に過るのは、大蛇丸と会った日の事。行き場のない自分を拾い、力を与えてもらった。彼の為、必死に修行を重ねて修羅場を潜り自信を付けて来た。だが、その自信はサスケに敗れた事で消え失せ、今は舐めてかかった相手に押されている。

 

 

 状況からして、この戦いに勝ち目が無いのはザクも理解していた。しかし、彼は退く訳にいかない理由がある。あの方は何より失敗を嫌う。以前、失敗した者が容赦なく消される様を見た事がある。只でさえ、自分は一度任務した身だ。これで戦いに負けたら、役立たずの烙印を押されて消されるだろう。別に死ぬ事は怖くない。自分が何より恐れているのは、弱かった頃の自分に戻る事だ。

 

 

 何も出来ずに良い様にやられる今の状況が…彼の忘れたい忌まわしい過去を呼び起こした。そして…呼び起こしたのはそれだけではない。

 

 

「くく 奥の手は最後まで取って置くか。そうだな。お前の言う通りだ」

「…!? 貴様…初めから両腕を」

 

 

 ザクの奥の手、それは両腕による攻撃だった。開始直後、片腕だけで挑んだのは相手の裏を掻く為だ。無論、相手を侮っていたのもあるが…今のザクに慢心は無い。蟲とシノへ向けて、ザクは渾身の攻撃を見舞った。

 

 

 しかし、事態は思わぬ展開を迎える。その攻撃で傷を負ったのは、驚く事にザク本人だった。術を放った途端、彼の両腕に衝撃が迸る。それで出来た傷はまるで鋭利な刃物で抉った様にズタズタだった。右腕に至っては衝撃に耐えきれず、破裂して落ちてしまった。

 

 

「ぐあぁぁぁぁぁっ!! な、何が起きたんだ。何故…俺の腕が!?」

「気になるか? さっき、降参を勧めた時…蟲に指示を出したんだ。あの厄介な風穴に入ってじっとしていろとな。真の奥の手はこういうものだ」

 

 激痛に悶えながら、困惑するザクの背後からシノは全てを教えた。そしてザクが振り変えると同時に強力な券打を打ち込んだ。それによって、飛ばされたザクは倒れたまま動かない。いや動けなかった。打つ手を失くし、ザクの身心は限界を迎えていたのだ。

 

「此処までですね。第二試合、勝者は油女シノ!!」

 

 

 事の巻末を見ていたハヤテは勝負がついたと確信して、勝者の名を口にした。

 

 

「流石ね。油女一族の戦いは…」

「サチ先生、あの一族の事を知ってるの?」

「ええ。彼らは有名な蟲使いよ。油女一族は子供が生まれると、赤子の体に蟲を寄生させる秘術を施すの。そうやって、蟲と共存してきたのよ」

「ふーん。だけど、体に蟲を入れるのは理解出来ねえってばよ」

「同感。体の中に蟲がいるって、想像しただけで鳥肌ものよ」

「まあ…一族の秘伝は想像を超える物が沢山あるからね」

 

 

 

 その様子を上で見ていたサチの呟きが耳に入ったのか、ナルト達が話しかけて来た。二人の問いに答えた後、サチは音忍の傍にいた男が消えたのを見て、顔を顰める。此処に来て、何処へ行ったのか。それを考えてハッとある事に気付く。そうだ‥大蛇丸はサスケを狙っている。それにナルト達から音忍もサスケを狙っていたと聞いた。何故、音忍がサスケを狙うののか?考えてある答えに辿り着く。もし‥消えたあの男が大蛇丸の仲間だとしたら、サスケの元へ向かったに違いない。下忍では手が出せなくとも、上忍となれば話は別だ。傍にカカシがいるとはいえ、得体の知れない相手では苦戦を強いられるだろう。そうすれば…サスケは。嫌な予感が湧き上がりサチはカカシの元へ行く事にした。それを伝えるべく、サチはナルト達に声をかける。

 

 

 

「二人共、私はカカシの様子を見てくるわ。すぐ戻るから」

「あっ、姉ちゃん」

「いきなりどうしたんだろう? 何か慌ててたけど…」

「なーに。心配いらねえってばよ。どうせトイレでも行きたくなったんだろ」

「あんたねぇ。まあ…サチ先生なら心配いらないか」

 

 

 サチの態度に違和感を感じたサクラだが、ナルトは特に気にしていなかった。それに些か苛立ちを覚えたものの。次の試合が始まるの見て、彼女も気持ちを切り変える事にした。

 

 

 

 

 

 時間を遡り、第二試合が始まった頃。地下の一室にサスケとカカシはいた。

 その部屋では、サスケに刻まれた呪印を封印する為。カカシは床に自身の血を用いた術式を施していく。術式の中央で座るサスケは若干、緊張した面持ちでカカシの行動を見守っていた。

 

「さて、準備はこれでよしと… それじゃ、お前の呪印に封印をかける。すぐ終わるから気を楽にしろ。少しばかり、きついかもしれないが…我慢してくれよ」

「フン 別に怖がってなんかいない。余計な気を回さず、早くやってくれ」

「はいはい。じゃあ、いくぞ…」

 

 

 サスケの強がりを受け流すとカカシは封印術を発動させた。すると床の術式が光り、まるで生きてる様に蠢きながらサスケの体へと向かって行く。集まったそれは彼の体を伝って、呪印を円で囲むと更に強い光を発した。

 

 

「ぐ、うわぁぁぁっ!!」

「耐えろ、サスケ。時期に終わる」

 

 

 封印に抗おうとする呪印と抑えようとする封印術。これによる負担は強く、サスケは堪らず叫び声を上げた。そんな彼を励ますカカシもまた負担を感じているのか。額には大粒の汗が大量に浮かんでいた。

 

 

 その後。十数分に渡って続き、漸くカカシは呪印の封印に成功した。終わると同時に意識を失くしたサスケがドッと床に倒れる。それは無理もない。サスケの体は既に限界を迎えていた。その上、更に負担を強いたのだ。大人でも辛い事を最後まで耐えただけでも、十分である。

 

 

「やれやれ。完全にダウンしたか。さて、終わった事だし運ぶとしようかね。誰だ? そこにいるのは分かってるよ。大人しく出て来な」

 

 

 静かに寝息を立てるサスケを運ぼうとした時、背後から迫る気配を感じてカカシは鋭い目を向けて、威圧する様に声を発した。すると闇の中からその者が姿を見せると、相手の正体にカカシは驚き目を見開いた。

 

 

「へえ‥私の気配を察知するとはね。それに封印術まで使える様になったとは…随分と成長した様ね。カカシくん」

「あ、あんたは…大蛇丸!! どうして此処にいる?」

「どうして? フフフ、おかしな事を聞くのね。貴方もそれは分かってる筈でしょ?」

「やはり、サスケか。何故、こいつを狙う?」

「貴方はいいわよね。既に私が欲しい物を持っているんだから…。その左目にある写輪眼。それを私も欲しいのよ」

 

 大蛇丸の真意を測るべく、カカシは警戒しながら問い掛ける。なるべく刺激しない様に気を付けていたが、さっきの言葉に機嫌を損ねたのか。少し苛立った様子で大蛇丸は言葉を返した。

 

 

「写輪眼…。それがあんたの目的って訳か。その為に態々、木ノ葉まで来たって事か」

「ええ、そうよ。結構、大変だったのよ。木ノ葉に入る為に里まで作ったんだからね」

「里? まさか…音隠れか!?」

「ご名答。さあ、話はこれくらいでいいでしょう。早く、後ろの子を渡して貰いましょうか」

「…断ると言ったら?」

「そうね。私もはいそうですかと下がると思う? 無論、力づくでもいいわよ。貴方一人、取るの足らないもの」

「なら、二人ならどうかしら?」

 

 

 

 一触即発の空気が漂う中、聞こえた声に振り変えるとサチの姿があった。思わぬ人物の登場に驚いた大蛇丸だが、すぐに冷静さを取り戻して彼女へ問い掛けた。

 

 

「あら、貴女も来たのね。一応聞くけど、何の用かしら?」

「そんなの決まってるわ!! 貴方からサスケと仲間を守る為よ」

「フフフ 仲間ね。そんな物の為に来るなんて、意外と勇気があるのねぇ。最初見た時は怯えていたのに…」

「…っ!! 貴方こそ、意外とお喋りなのね。今の状況、理解してるの?」

 

 

 大蛇丸の挑発に怒りを覚えたが、それを押し殺してサチも挑発する様に言葉をぶつけた。

 

 

「安い挑発ね。だけど、此処は乗ってあげるわ。貴方達がいた所で大した問題じゃないもの」

「近寄るな!! あんたにサスケを渡す訳にいかない。例え、伝説の三忍と呼ばれたあんたでも俺達二人なら刺し違う事だって、出来るぞ」

「ええ。絶対にサスケは渡さない」

「私と刺し違えるね。クク、フフフハハハハハハハハッ!!」

 

 

 

 二人の言葉に大蛇丸は高々に笑った。初めは唖然としていたサチ達だったが、その行動が癪に障ったのか。鋭い視線で睨みつけると、食ってかかる様に言葉を投げ掛ける。

 

 

「何が可笑しいのよ」

「全てよ。二人揃った所で私に勝てるとでも? それに貴女に対しての対策も今はあるわ。一つだけ忠告しておくわ。例え、呪印を封印した所で無駄よ。サスケくんは必ず私を求める。復讐者である以上、力を欲してね」

「サスケは渡さないわ。絶対に…」

「ならば‥此処で私を殺してみたら? 出来ればだけどね」

「っ…」

 

 

 言いたい事を言った後、大蛇丸は踵を返して去っていく。その際、大蛇丸が放った殺気に二人は動く事が出来なかった。その瞬間、自分達の首が落ちる錯覚を味わったからだ。サチ達の脳裏に浮かんだのは勝てない。この言葉だけだった。

 

 

 

「フー どうやら、行ったみたいだな。所でサチ、お前も無茶するね」

「お互い様よ。それより、サスケを早く安全な場所に移しましょう」

「…そうだな」

 

 

 

 乱れた呼吸を整えてから、二人はサスケを急いで運んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「次の試合、あの黒頭巾か。そういや、あいつの術。未だに謎だってばよ」

「見た所、背中の忍具に秘密がありそうね。あ、サチ先生とカカシ先生!! サスケくんはどうだったの?」

 

 

 戻ってきた二人を見て、サクラはいの一番にサスケの事を尋ねる。余程、心配なのか。彼女の表情は暗い。それはナルトも同じで、彼も不安そうに二人の言葉を待っていた。

 

 

 

「あいつなら大丈夫だ。今、静かな所で静養してるよ」

「そう… 良かった」

「へへ、流石のあいつも今回ばかりは、へばってたもんな」

「サスケくんをあんたと一緒にするな。でも、そういう点じゃ‥ナルト。あんたは平気なの?此処に来るまで大分、消耗してたけど」

「おう。俺は大丈夫だってばよ。少し疲れてたけど、今はへっちゃらだってばよ」

 

 

 カカシの言葉で安堵した二人は、ホッと胸を撫で下ろす。純粋に心配するサクラとは、対照的にナルトは照れ隠しからか、サスケを茶化す様な言葉を吐いた。それにサクラは食ってかかり、いつもと同じ展開になると思われたが…珍しくサクラはナルトを気遣う言葉をかけた。それが嬉しかったのか。ナルトは満面の笑みでサクラに答えた。

 

 

 

 二人のやり取りを見てる間に第三試合が始まり、一同は真剣な表情で戦いに注目する。

 対戦相手は木ノ葉のツルギと砂のカンクロウ。開始直後、ゴムの様な軟体という特異体質で有利に立ち、カンクロウに降参を勧めるが本人は拒否する所か…相手を挑発する始末。それに怒ったツルギはカンクロウの首をへし折ってしまう。思わぬ展開に息を飲んで見つめるナルト達だったが、驚くの此処からだった。審判が勝者の名を呼ぼうとした瞬間。首を折られたカンクロウがツルギに抱き付いた後、彼の全身の骨を砕いてしまった。

 

 それに合わせて床に落ちた包みから、本物のカンクロウが姿を見せる。どうやら、彼が使う傀儡と本体を入れ替えていたのだ。この事に驚いていたのは、下忍でなく上忍だった。上忍達が目を瞠ったのは入れ替わった瞬間だ。背負った傀儡を置いた時、彼は傀儡と入れ替わっていた。目の前に相手がいるにも関わらず、それを悟らせない。しかも傍にいたハヤテすら、傍に気付いていなかった。

 

 入れ替わった事に気付いたのは、ヒルゼンとカカシ、サチ、ガイの四人だけ。彼らが気付けたのは、真剣に見ていたからだ。何気なく見ていた者は当然ながら、ネタばらしまで気付けなかった。

 

 

 森乃イビキもその一人だ。第一試験では、彼の傀儡を人形遊びと称していたが…此処に来て評価を改めた。この数日で彼の実力は確実に上がっている。もし‥この試合を見ていなかったら、自分は、彼を侮ったままだっただろう。子供の成長は早い。この言葉を今日ほど、実感した事はないとイビキは思った。

 

 

 

 

「なぁ。カカシ先生、あれってば良いのかよ。二対一は卑怯なんじゃねえの?」

「別に卑怯じゃないだろう。ありゃ、傀儡であって人じゃ無いんだし」

「カカシの言う通りよ。傀儡は忍具の一種。それにナルトの言い分だと、貴方もクナイや手裏剣を使うのは卑怯という事になるわよ」

「う、それを言われたら何も言えねえってばよ。けど、あれはどうやって動かしてるんだ?」

「そんなのチャクラに決まってるでしょ。糸の様にチャクラを傀儡に付けて、操作するの。あの時、何もない所で転んだのはそれだったのね」

「あいつ‥そんな事をやってたのか。人も操れるなら、ちっと面倒な奴だってばよ。しっかし、どいつもこいつも変な奴ばかりだなぁ」

「お前が言うの? それ‥」

「ハハハ 全くよ」

「だけど、サクラ。貴女も笑ってはいられないわよ」

 

 カカシとナルトのやり取りに笑みを溢すサクラだが、サチは彼女の肩を叩いてある場所を指差す。その方を見ると…そこに移し出されたのは春野サクラ。そして彼女のライバルである山中いのの名が表示されていた。

 

 

 運命の悪戯か、或いは宿命か。サクラといの。二人の対決の幕が開こうとしていた。

 

 

 

 




今回、シノの戦いとカンクロウの戦いが終わりました。


最初こそ、カンクロウの戦いもきっちり書く予定でしたが…端折りました。
何れ起きるカンクロウの戦闘はしっかりと書くつもりです。まだ先ですが、お楽しみに。次回はサクラといののライバル対決です。ライバル同士が戦う展開。結構好きなので書くのが楽しみです。



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第二十七話 少女が咲かせた綺麗な花

最新話、お待たせ致しました。


今回はサクラといの。二人の対決です。



 第四試合 春野サクラ対山中いの。

 モニターに浮かんだ自分の名をサクラはジッと見つめていた。そして…対戦相手のいのへ視線を向ければ、彼女もまたサクラに視線を送っていた。それは数秒だったが、お互いに戦う覚悟を固めるには十分であった。

 

 

 やがて二人は静かに歩き出し、下へ降りていく。中央で向かい合う二人は暫しの間。無言を貫いていたが…不意にいのが口を開いた。

 

 

「まさか、あんたとこうして戦う日が来るなんてね。言っておくけど、私は手加減しないわよ」

 

 

 強気な態度で宣言したいのだが、内心は複雑だった。だが、サクラはその言葉に反応する事なく、過去の出来事を振り返る。

 

 

 昔、私がいのと出会って間もない頃。彼女と何かと一緒にいる時間が増えていった。それは授業の時もそうだった。以前、生け花の実習をいのとやった時。私に絡んできた虐めっ子から守ってくれたのはいのだった。

 

 

 何でも知っていて、そして自信に溢れていた彼女が…とても眩しく見えた。その日、いのと交わした会話を今でも覚えている。二人で詰んだコスモスとふじばかま。生け花の主役がコスモスなら、ぶじばかまはおまけ…。当時の自分達を現している様に私はぽつりと呟いた。自分等、おまけの存在でしかないと。

 

 

 だが、いのはそんな私にこう返した。自分はおまけでなく、まだ蕾だと。この言葉に私は傷付いたけど、否定する事は出来なかった。いや、しなかったのだ。

 

 しかし、今は違う。お互い、自分の道を進み…目指す物がある。そして…蕾だった私が開花するのが今なのだ。だからこそ、言わなければならない。今から言う言葉はいのを酷く傷付けるだろう。そして…私から離れていってしまうかもしれない。それでも…私が変わる為にやらなくてはいけない。少し気持ちが揺らいだけど、深呼吸を一つして私は口を開いた。

 

 

「そうね。今となっては、あんたとサスケくんを取り合うつもりは無いわ」

「何ですって!? いきなりそんな事を言い出して、どういう訳よ?」

「決まってるじゃない。あんたじゃ、サスケくんと釣り合わないし…今は私の方が強いもの。正直な所、あんたは眼中に無いわ」

「…黙ってれば言いたい放題。誰に向かって口きいてんのよ。調子に乗るなよ!! 泣き虫サクラが」

 

 

 激情に駆られて叫ぶいのだったが、意外と頭は冷静だった。自分達が忍として歩み出した日。サクラと交わした約束を思い出したから。昔、彼女に上げたリボンを返された時…サクラの中にある蕾は開き始めた。そして蕾は完全に開いたのだ。ならば…応えなければいけない。

 

 今目の前にいるのは…泣き虫だったあの子じゃない。自分が認めた一人のくのいち、春野サクラと正々堂々、勝負する時だ。

 

 

 二人は髪に巻いていた額あてを解き、己の額に巻き付け向き合った。そして同時に走り出す。先に仕掛けたのはサクラだった。素早く印を結び、分身の術を使っていのを攪乱するが、それが通用する程、彼女も甘くない。すぐに本体を見つけて、攻撃に仕掛けるいのだが、次の瞬間。一瞬で距離を詰めたサクラの一撃がいのの頬を捉えると鈍い音が響かせ、彼女の体が吹っ飛んだ。

 

 

「どう。今の一撃で目が覚めたでしょ? 昔の私と思って甘くないわよ。だから、本気で来なさいよ」

「そうね。確かに甘く見てたわ。だけど、次から本気で行くわよ」

 

 

 切れた口から出た血を吐き出し、いのも漸く本気になった。そこからの戦いは激しいの一言であった。互いに組み合い、殴り殴られての激闘。髪が乱れようと顔が腫れようが、構わず想いを乗せた拳を交えては吹き飛び、そしてまた向かっていく。

 

 

 それは十分近く続き、一向に終わる気配が無い。それに痺れを切らしたのか、いのが叫ぶ様に言い放つ。

 

 

「…が。あんたが‥私と互角なんてある筈無いわよ」

「フン。此処に来て、泣き言? 生憎、見た目ばかり気にして浮ついてるあんたが…あたしに勝てる訳無いでしょ」

「…アンタァ、一体何なのよ!! 人を舐めるのも大概にしろぉ」

 

 

 度重なるサクラの挑発で堪忍袋の尾が切れたのか、いのは怒りの表情でサクラを睨みつける。そしてクナイを取り出すや、自身の髪を掴むとバッサリと切ると辺りに放り投げた。その行動にサクラは単純だと思ったが、戦いを見ていた彼女の師、アスマは何か狙っていると感じていた。

 

 

「次は奥の手を使うわ。さっさとこんな戦いにけりをつけてやる」

「その構え…心転身の術ね。だけど、それは無駄よ」

「うるさいっ!! これ以上、あんたに舐められて堪るかぁ。無駄かどうか、見せてやるわよ」

 

 

 そう言って、いのは構えた手をサクラに向ける。当のサクラは術の正体を知っている為、止まる事なく動いていた。それを見て、アスマも思わず唇を噛んだ。確かに奥の手である心転身の術を使えば、サクラとの戦いに勝つ事が出来る。しかし、この術には大きな欠点があったのだ。

 

 相手に向かって自身の精神エネルギーを放ち、相手の体に入り込む。だが、それには相当の精神エネルギーを使う為、外したら数分間は元に戻れない。しかも術は真っ直ぐにしか、撃てない。もし‥外してしまったら、いのは数分の間、何も出来ないのだ。

 

 

 だけど、いのに焦った様子は無く、淡々としてサクラに狙いを定めていた。そして…彼女の動きを捉えた瞬間。いのは術を放った。

 

 

 

 術を放った直後、いのの体は前屈みになって立ち尽くすと同時にサクラの動きも止まった。

 当たったのか?そう思った時、サクラは顔を上げて勝利の笑みを浮かべていた。

 

 

「残念だったわね。あんたの術は外れよ。さて、それじゃあ…終わりにさせてもら!?」

 

 

 決着を付けようとサクラが一歩踏み出した時だった。違和感を感じて足元を見て、彼女の表情は驚愕に染まる。何とサクラの左足にチャクラの縄が巻きついていた。床に散らばった髪を伝って伸びた縄は、いのの方から伸びていた。

 

 まさか…これは。この時、サクラが感じた嫌な想像は現実となる。何故なら先程まで気を失っていたいのが、微笑みながらこちらを見ていたから。

 

 

 

「やっと捕まえたわよ。どう? これなら流石に逃げる事は出来ないでしょ。何せ、私の髪に流し込んだチャクラの縄だもの」

「さっきの行動は‥ただの演技だったのね」

「そうよ。私としても、こうまで簡単に引っかかるとは思っても無かった。単純なのはあんたの方だったわね」

「くっ…」

「さて、今度こそ終わりね。これであんたにギブアップさせれば、私の勝ちよ」

 

 

 知らない内にいのの作戦に嵌まっていた事に、サクラは悔しそうに顔を歪めた。自分が優勢だと油断していた。彼女がしたたかな人であるのは、十分知っていた筈なのに。結局、己はいつまで経っても蕾のままなのか? 此処に来て、心の内に弱気な部分が顔を出す。だが、そんな事など、相手には関係ない。いのはサクラに向かって、心転身の術を放った。

 

 

 

「どうなったんだ?」

「サクラの精神は乗っ取られたな。まさか、こんな方法で心転身の術を成功させるとはね」

「じゃあ、今サクラさんの中にいるのは…」

「貴方の思った通りよ」

「くっそ…此処まで必死に頑張ったのに。てか、ゲジマユってばいつの間にこっちへ来たんだ?」

「ん? 彼ならこの試合が始まった時からいたぞ。それに気付かないとは…お前もまだまだ修行が足りんね」

 

 カカシとサチの言葉を聞いて、悔しそうな顔をするナルトだったが…自然と会話に混ざっているリーに気付いて驚いていると、傍にいたカカシがその質問に答えた。無論、冷やかす事も忘れずに。それにムッとしてカカシを睨むナルトだが、すぐに視線を下にやった。

 

 

 

 その場には、さっきと同じ光景があった。只、違うのはサクラの身体をいのが乗っ取っているという事実だけ。目の前で座り込む自分の身体を見ながら、いのは手を上げてハヤテに声をかける。

 

「すみません。私、春野サクラは…この試合を棄権「駄目だってばよ。サクラちゃん。こんな所で負けたら…サスケの奴に認めてもらうのが遠くなっちまう」あいつ‥」

 

 

 いのによる敗北宣言を掻き消す様に、ナルトは吼えた。その言葉に思う所もあるいのだったが、勝負は勝負。譲る訳にいかない。それ以前に乗っとったサクラの精神が彼の声に反応する事は無い。ナルト以外の誰もがそう思っていた。

 

 

 しかし、予想外の出来事は起きるもの。改めて、棄権を宣言しようとした瞬間。突如、頭を抑えてサクラが苦しみ出した。この時、精神の中ではサクラが入り込んだいのへ抵抗していたのだ。心転身の術で乗っとった体では、術が効いている間、相手は何も出来ない。なのに…サクラはこうして抗っている。一体、何故? 初めての事にいのは激しく動揺していた。

 

 

『成程。体の自由は効かなくても精神は自由みたいね。ま、ナルトが五月蠅く叫んだおかげでもあるけど…』

「そんな‥ありえない。こんな事で私の術が破れるなんて」

『現に起きてるじゃない。この術を食らうのは二度目だもの。ある程度の対処法は思い付いたわ。それはそうと、早く出て行きなさいよ。さもなければ、あんたの精神が此処で死ぬわよ』

 

 

 

 目の前の光景にいのは絶句する。己の支配下にあるにも関わらず、自分を追い出そうとするサクラを恐怖を感じていた。そして…巨大化したサクラに捕まれて、握り潰されそうなったいのは堪らず術を解いて、サクラの体から飛び出した。このままサクラの精神に留まれば、自分の精神がやられてしまう。下手をすれば、死ぬ恐れもある為。彼女は撤退せざるを得ない。

 

 

 

「はぁはぁ…。まさか、こんな方法で心転身の術が破れるなんてね。驚いたわよ」

「はぁはぁ…。だから、言ったじゃない。私を舐めてると痛い目見るってさ」

 

 

 息を切らしながらも、二人は引き下がる事Hない。だが、お互いに限界は近く。決着はすぐに訪れるだろう事は皆、理解していた。そう…戦っている二人も。

 

 

 

 当初、彼女は平凡な忍だった。優秀な成績を残していても、頭一つ抜けない子。それがサクラに感じたカカシとサチの評価だった。だけど、今は違う。波の国での事や過酷な中忍試験。これらを体験し、乗り越えた事でサクラも大きく成長していた。未だ甘い部分もあるが、今では二人も認める忍となりつつある。恐らく、彼女が此処まで来れたのは傍にいたナルトやサスケの背を諦めず追い掛けていたからだ。

 

 

 そして二人は駆けていく。限界を迎えている体を押して…先に進む為、負けられない想いを籠めてライバルに渾身の一撃を繰り出した。ゴツンと鈍い音と共に拳が交差すると、互いに吹き飛び床に転がった。審判のハヤテはサクラといの。交互に視線をやって、二人が戦闘不能であると判断して引き分けを宣言した。

 

 

 その二人をサチとアスマは労わる様に抱き抱えると、ゆっくりと歩いていく。ボロボロになっても、何処か満足そうな顔で眠るサクラを見て、サチは優しい笑みを浮かべる。それはアスマも同じ、彼もまた優しく笑っていた。きっと、思っている事は同じだろう。自分達の教え子が成長を感じた事が何よりも嬉しいのだ。

 

 

 

 

 サクラを運び終えて、壁に預ける様に座らせてからサチは異常が無いか調べていると、不意に視線を感じ、其方に目をやればいのが目を覚ましていた。

 

「まだ動いちゃ駄目よ。気絶する程の一発をまともに食らった訳だし、頭がボーっとしてる筈よ」

「はい。まだクラクラしてます。全く、このデコ助…まるでゴリラじゃない」

「吐き気とかは無い? あるなら医療班を呼ぶわよ」

「いえ、それは大丈夫です。あの…サチ先生ですよね? サクラ、忍としてちゃんとやっていけてます?」

 

 

 いのに具合が悪いかを尋ねれば、本人は平気だと答えた。目の焦点も合っているし、異常は無さそうでサチはホッとした。意地を張り合い、十分以上も殴り合っていたのだ。目に見えない異常も在り得る為、サチは不安だったがそれも解消された。それを余所にいのは。おずおずとサチに問い掛けてきた。それはサクラの事だった、先程と違って今のいのはまるで妹を心配する姉そのものだった。

 

 ライバル視して、いがみ合っていても…いのにとってサクラは大事な存在なのだろう。彼女の口から出た言葉が何よりの証拠だ。

 

「ええ。ゆっくりとだけど、サクラは…忍として成長しているわ。それは貴女が一番理解している筈よ。思う存分、この子と戦った貴女ならね」

「…そうですね。サクラの成長具合は、私の想像以上でした。だからこそ、安心しました。もう泣き虫だったあの子じゃないんだって…」

 

 

 そう言う彼女の顔は、とても優しかった。そして…再びサチに視線をやって、いのは言った。

 

 

「サクラが変わったのは…きっと、サチ先生のおかげでもあると思います。第二試験の時、敵に襲われた後で言ってました。今の自分があるのはサチ先生がいたからだって」

 

 

 いのから聞いた言葉にサチは、照れた様に笑った。それに釣られていのもまた照れ臭そうに微笑みを浮かべる。和やかな空気の中、気を失っていたサクラが目を覚ました。するといのが揶揄う様に彼女へ声をかける。

 

 

「何よ。やっとお目覚めの様ね」

「あれ? 此処は…。そっか。私、試合に負けたのね」

 

 目を覚まし、辺りを見て。サクラは状況を理解した。そして…自分の敗北を知って彼女は目に涙を滲んていた。

 

「…泣きたいのはこっちよ。私とあろうものが、あんたと引き分けだっただもの」

「え? それってどういう事?」

 

 

 いのが言った事が信じられず、サクラは唖然としていた。そんな彼女にいのは床に置いてあるサクラの額あてを手に取り、彼女に差し出すと一転して満面の笑顔でサクラにこう言った。

 

「つまりね。引き分けたという事はあんたが私に追い付いた証拠。昔と違って、あんたは咲かせたの。綺麗な花をさ」

「いの…」

「あ、だからと言って調子に乗らないでよ。今度は絶対に負けないからね。それにサスケくんだって、渡さないからね。覚悟しておきなさい、デコリン」

「ム。その言葉、そっくりそのまま返してあげるわ。このいのぶた」

「「フンだ」」

 

 

 売り言葉に買い言葉、褒めたり貶したり、それでもお互いを認めあう事が出来る。

 そんな二人を見て、サチはくすりと笑った。彼女達はまた一つ前に進んだ様だ。

 

 

 

 

 そして始まる第五試合。対戦者はテンテン対テマリ。

 ピリピリと両者の殺気がぶつかる中、木ノ葉と砂。同盟国同士のくノ一対決が始まろうとしていた。




サクラといの。二人の関係って、良いですよね。
ナルトとサスケ。この二人とはまた違う間柄に魅力を感じます。


次回はテンテン対テマリから始まります。


それと新たに評価を下さったメンマ46号さん どうもありがとうございます。


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第二十八話 敵の裏を掻く戦い

最新話、お待たせしました。


今回はテンテン対テマリ。この二人の試合から始まります。





予選の第五試合。対戦者は木ノ葉のテンテンと砂のテマリ。

 先の戦いと同じくノ一対決でも、違うのは互いに殺気を放っている所だろう。本来在るべき光景なのだが、その場を包む重い空気に普段は騒がしいナルト達も息を飲む。

 

 

 彼自身、波の国で再不斬。死の森では大蛇丸との修羅場を超えて来ているが…それでもこの空気に慣れる事は無い。無論、生き残れたのは戦った相手が手を抜いていたからに他ならない。だが、今後の戦いで殺し合いとなれば…相手も手を抜く事は無い。故にそういう雰囲気に慣れる。その点ではこの戦いはナルト達の良い教訓となるだろう。

 

 

 二人の様子を見ながら、サチとカカシはそんな事を思っていた。

 

 

「…まさか、砂のくノ一とぶつかるとはね。言っておくけど、私は手加減しないわ。怪我しても文句は言わせないでよ」

「ハッ、随分と大口叩くじゃないか。それは私に勝ってから言いな」

 

 

 売り言葉に買い言葉。テンテンの挑発に乗って、言い返すテマリだが…強かな彼女は相手の言葉がハッタリなのか、それとも真実なのか。見極めようと冷たく鋭い視線でテンテンを観察する。

 

 

 それはテンテンも同様であるが、異なる点はテマリの視線に怖気付いた事だ。無論、それを表に出す愚行はしない。しかし、一度心に根付いた恐怖は拭い去るのは難しい。テンテンは知らない内に重いハンデを背負う形となってしまった。

 

 

「お互い、準備は良いですね。では、第五試合始め」

 

 

 ハヤテの合図で二人は後方に飛び下がった。テマリは鉄の扇子。テンテンは巻物を構えて相手の出方を伺う。およそ数分、この膠着状態は続いたが…痺れを切らして動いたのはテンテンだった。

 

 

 テマリが使う武器を見る限り、大振りの攻撃となる。ならば、素早い動きで空振りを誘い、隙を突く。テンテンはそう画策していた。彼女の予想通り、テマリの攻撃は大振りであったが、攻め手はそれだけで終わらない。避けようとした時、凄まじい強風でテンテンの体は遠くへ飛ばされた。

 

 

「な、今のは何!?」

「フン、どうしたんだい? 鳩が豆鉄砲を食ったような顔してさ。まさか、あんた。私がこの武器を馬鹿正直に振り回すだけと思っていたのか? だとしたら、流石に舐め過ぎだ。相手の実力も計れないとはね。所詮、口先だけか」

「…っ!! 五月蠅いわね。本当の勝負は…此処からよ」

 

 

 嘲るテマリに怒りを覚え、テンテンは巻物を開封した。言葉通り、相手も本気になったとテマリも表情を引き締めて、鉄扇を構えて出方を伺う。巻物を使う場合、大抵は口寄せの術である。その予想は的中し、彼女の巻物から飛び出したのは無数のクナイであった。突然の事で反応が遅れたが、テマリは体を逸らしてクナイを躱した。

 

 

「ハッ、何をすると思ったら只の忍具攻撃か。生憎、その程度であたしはやれないよ」

「それはどうかしら?」

 

 

 攻撃が外れたのに関わらず、テンテンに焦った様子は無い。何かを狙っている様だが、考えた所でそれは分からない。だったら、正面から迎え討つ。己の実力に絶対の自信を持っているテマリらしい選択であった。

 

 

 それと同時にテンテンは次の攻撃を仕掛けた。彼女の手を離れた手裏剣は左右に弧を描いて飛んで行く。見事な投擲であるが、軌道が分かりやすい攻撃をテマリが受ける訳もなく、彼女は後ろに下がって回避する。しかし、テンテンの狙いはこれであった。その瞬間、テンテンは巻物を開き、再びクナイの口寄せをする。

 

 

 先程とは比べ物にならない数のクナイが飛び出して、テマリ目掛けて向かっていく。数十を超えるクナイを避けきるのは不可能だと判断し、彼女は鉄扇を盾にして防ぐ。だが、テンテンの攻撃はこれで終わりでは無かった。テンテンは右手をバっと振り上げると、何かを引き寄せた。一体、奴は何を企んでいる?一連の行動に訝しるテマリは、不意に悪寒を感じて後ろを振り返った。

 

 

「な!? うあああ!!」

 

 

 テマリの背後から迫っていた物。それは最初に躱したクナイであった。その柄に結ばれた糸によって、再び息吹きを拭き込まれてテマリを襲う。裏の裏を掻いたこの攻撃を躱す余地はなく、両腕で防御する事が精一杯だった。容赦なく二の腕に突き刺さるクナイの痛みに、堪らずテマリも苦痛の声を上げる。この隙を点いて、テンテンは更なる攻勢に出る。

 

 

 引き寄せたクナイがテマリに届いた時、テンテンは彼女の頭上へ巻物に封印してある全ての忍具を解放した。クナイと手裏剣から千本やまきびしまで。多数の忍具が雨の如く、テマリに降り注いだ。テンテンは勝利を確信し、見物していた者達も同様だった。しかし…。

 

 

「舐めるんじゃないよ。こんな物ぉぉぉぉ!!」

 

 

 怒号を轟かせながらテマリは鉄扇を力任せに振り回し、巻き起こした強風によってテンテンの忍具は一つ残らず弾き飛ばされてしまった。その余波は部屋中に届き、対峙するテンテンも容赦なく吹き飛ばした。

 

 

「な、こんな事って…」

「はぁはぁ。どうやら、あんたを甘く見てたよ。だけど、今ので手は尽きたようだね」

 

 

 息を切らし、言うテマリの顔には余裕が見て取れた。だが、実際は彼女の体力とチャクラも大きく消耗していた。もし…またあの攻撃が来たら、今度こそ防ぐ手立てはない。内心は焦りが支配していた。

 

 

 それはテンテンも同じで、彼女の心も焦りを抱く。何せ、先程の攻撃は自分の奥の手であり、ほとんどの忍具を使った事で攻撃手段も失ってしまった。無論、他の手段が無いという訳では無いが、テマリを倒す決定打にはならない。

 

 

 だがそれでもやるしかない。テンテンは唯一残っていたヌンチャクを取り出し、テマリへと向かって行った。しかし、彼女はこの時…失念していた。テマリはまだ奥の手を出していない事に…。真っ直ぐ自身へ向かってくるテンテンの姿に、テマリは笑みを浮かべた。奴にはもう奥の手は無い。この勝負は自分の勝ちだと。

 

 

「やあああ!!」

「今更、そんな攻撃を受けるものか。これを食らいな。風遁 カマイタチの術」

 

 

 

 掛け声と共に繰り出されたテマリの風遁。その風はテンテンを吹き飛ばすだけでなく、彼女の体を容赦なく刻んでいく。その痛みに顔を歪めて、落下するテンテンの下ではテマリが待ち構えており、彼女の体を鉄扇で受け止めた。

 

 

「ぐはっ!? 私は…負けな‥い。約束した‥んだから。中忍に…なるって」

「ふん。何と言おうと、現実は非情なのさ。ま、あたしに傷を付けた事は褒めてやるよ」

 

 

 朦朧とする意識の中、呟くテンテンにテマリは厳しい言葉をぶつける。しかし、その顔に当初の様な嘲りはない。この勝負で少しだけ、彼女を認めたからだ。だが、此処でテマリはある視線に気付く。上では彼女の仲間と思われる一人の少年リーがこちらを睨んでいた。

 

 

 普段は気にしないテマリだが、戦いで感情が昂っていた事もあり、その目付きが気に障った。テマリは気絶したテンテンを忍具が散らばる方に投げ捨てた。済んでの所で飛び出したリーが受け止めたおかげで無事だったが、この暴挙にリーの怒りを隠すなく、テマリにぶつけた。

 

 

「何をするんですか! 気を失った相手を放り投げるなんて…不躾にも程があります」

「ちっ、ぐだぐだ五月蠅い奴だな。無事だったんだから良いだろうよ。さっさとその負け犬を連れて下がりな」

 

 

 

 反省の色もなく、人を馬鹿にした態度が癪に触ったのだろう。リーは駆け出すとテマリに蹴りを見舞う。しかし、その一撃は彼女の鉄扇にあっさりと止められてしまう。怒りに任せたとはいえ、渾身の蹴りを防がれた事にリーの表情は驚愕に染まる。

 

 

 

「何だ。お前もこの程度かよ。あいつもお前も大した事は無いね。木ノ葉の忍も質が落ちたな」

「くっ…。それはやってみなくては分かりませんよ!!」

「待て、リー。そこまでにしておけ。これ以上、やればお前が失格になるぞ。戦わずして、敗退してはそれこそ笑い者だぞ」

 

 

 

 テマリの挑発にまんまと乗せられて、再度攻撃を繰り出そうとした時。見兼ねたガイが割って止めに入った。師の言葉で冷静さを取り戻したリーは、唇を噛み締めて振り上げた拳を下ろした。

 

 

 騒動を収めた後、此処でガイは上にいる我愛羅達に視線をやると口を開いた。

 

 

 

「砂の諸君。君達は腕が立つ様だが…一つ言っておこう。この子、リーは強いぞ。もし戦う時になったら覚悟はしておいた方がいい」

 

 

 たった一言。だが、その言葉は何よりも重みがあり、誰も反論する事は出来なかった。寧ろ、この言葉が我愛羅の心にさざ波を起こす。彼は殺気交じりの視線をリーに送り、リーもまたその視線を真っ向から受け止める。火花を散らし、暫し睨み合っていた二人だが、最後はガイに促されてリーは上に戻っていった。

 

 

 

 

 第五試合が終わり、続いて第六試合の抽選が始まった。この試合に臨む二人は音隠れのキンツチと木ノ葉の奈良シカマル。やる気に溢れたキンツチとは違い、シカマルの方はやる気が無い様に見えた。何とも対照的な者の姿に呆れる者もいれば、大声で応援する者等。観戦者の反応は様々であった。

 

 

「全く、寄りによってあんたが相手かよ。ったく、面倒くせー事になったな」

「ふん。だったら、すぐに終わらせてやるよ」

 

 

 シカマルの戦法と使用する術はドスから聞いている。その特性上、近距離戦闘が苦手である事も。影で相手を縛る術は厄介だが、対象方も分かっている分。こちらが有利となる。一方、シカマルはキンツチの事を知っているが、それは名前と音の忍という事だけ。相手が使う術や戦法は一切知らない。負けるつもりは無いが、敵の弱点を試合の中で見つけなければ、自分に勝機は無いだろう。この事実が彼の心に重りとなって圧し掛かる。

 

 

 当然シカマルとて、易々と負けるつもりは無い。まずは相手の事を知るべく、十八番の術 影縛りの術を放つ。

 

 

 

「馬鹿が。種が割れてる術を食らうか。馬鹿の一つ覚えで勝てると思うな」

 

 

 

 容易く迫る影を避けながら、キンツチはシカマル目掛けて何かを放った。当たる寸前、それを回避したシカマルが後ろを確認すれば、壁には二本の千本が深く刺さっていた。片方には鈴が付いているが、片方には付いていない。どうやら鈴が付いた千本で相手を惑わし、それに隠れた千本で相手を仕留める。千本の応用戦術だが、絡繰りが分かれば食らう事はない。

 

 

 キンツチの戦法。それは忍具主体の物だと、シカマルは確信した。無論、奥の手となる忍術もあるだろうが、先の様に相手の気を逸らして使う類だ。ならば、相手から目を離さなければ問題は無い。あとは如何にして攻めるか。それを思案していた。

 

 

 

「ふん。一度、躱したくらいでいい気になるなよ。どの道、お前の敗北は決まってるんだからさ」

 

 

 腕を振り上げて、キンツチが攻撃に入った時、不意にシカマルの背後から鈴の音が響いた。まさか、既に千本が放たれたのか?振り返って防御体勢を取る彼の目に映ったのは、壁に刺さった千本の鈴が揺れている光景だった。一体、どうなっているのか?困惑するシカマルは、不自然に揺れる鈴を見て絡繰りに気付いた。

 

 

 鈴を揺らしていたのは、千本に結ばれた糸であった。先程の行動は攻撃ではなく、自分の気を逸らす為の陽動。シカマルはその策にまんまと引っかかってしまう。この隙を狙い、キンツチから放たれた千本はシカマルを容赦なく突き刺さる。

 

 

 

「クク 影が使えなきゃ、所詮はこの程度か。次で止めを刺してやるよ!!」

 

 

 血を流し倒れるシカマルへ止めを刺そうとした時、キンツチの体がぴたりと止まった。突然の出来事に困惑したキンツチにゆっくりと起き上がったシカマルは、口を開く。

 

 

「フー やっと影真似の術。成功だな」

「な、何を言ってる。お前の影など、何処にも…。っ!?」

「気付いたか。まあ、高い位置の糸に影が出来る訳ねえからな」

 

 

 淡々としてるシカマルだが、この作戦は突発的に生まれた物だった。もし…千本に糸が仕掛けられてなかったら間違いなく彼は敗北していた事だろう。だが、強かさではシカマルもキンツチに引けを取らない。そして彼の反撃が始まった。

 

 

 

「さて、お前の動きを捉えた。お次は我慢比べと行こうか」

「正気か!? 私とお前は同じ行動をするんだぞ。攻撃すれば…お前だって傷付く事になる。それに手傷を負った状態で我慢比べだと? 先に倒れるのはお前の方だ」

 

 

 彼はそう言うと自身のホルダーから手裏剣を抜き取ると、術を掛けられているキンツチも同じ行動を取った。それでシカマルが何をやろうとしているのか。すぐに悟ったキンツチは焦り、半ば叫ぶ様に説得する。

 

 

「そうかよ。じゃあ、試してみようぜ」

「ば、バカ!! よしな・・・」

 

 

 お互いの手から放たれた手裏剣が両者に当たる瞬間、シカマルは体を逸らした。それを見たキンツチは、所詮相手のハッタリだと、安堵した瞬間…凄まじい衝撃が彼女の頭部を襲い、そのまま力無く崩れ落ちる。その様子を見て、シカマルは己の作戦が上手く行ったと笑みを浮かべた。

 

 

「人に偉そうな口を聞く割には、あんたも大した事無いな。忍なら自分の周りにもっと気を配って戦うべきだ。手裏剣に惑わされて気付かなかったのが、あんたの敗因さ。ま、俺の言葉はもう聞こえてねえか」

 

 

 

 第六試合はシカマルの勝利で幕を閉じた。意外な方法で勝ちを得たシカマルに同じ班の二人は称賛し、別の者達は彼の隠れた実力に驚いていた。相手の仕掛けを逆に利用するだけでなく、相手に己の策を悟らせない。敵の裏の裏を掻くのが忍の戦い。第五試合で戦ったくノ一も実行していたが、成功させるのは容易い事では無い。故にこの戦いは試験官や上忍達から注目の眼を集めていた。

 

 

 

 そして残っているのは八名となり、受験者達は誰とぶつかるのか不安を抱く者、うずうずと戦いを待つ者と様々であった。不安と期待が渦巻く中、次の試合の対戦者がモニターに表示される。

 

 

 

 その二名はうずまきナルトと犬塚キバ。遂に7班最後のメンバーが戦う時が来た。




今回、テンテンの戦いに力を入れてみました。
漫画では一コマ、アニメでも僅かなシーンで終わった二人の試合。実力差もあるのでしょう。

だけど中忍試験の第二試験を安定して突破したメンバーがあっさり負ける物なのかな?そう思ったのもありますが、前回のくノ一対決同様に熱い展開にしたいと思った事が正直な所です。

読んだ後、一言でも良いので感想を残してくれると励みになります。

それと新しく評価を下さったスパロウ様。どうもありがとうございます。




【企画の宣伝】
 この度、ハーメルンで『ラブライブ!~μ's&Aqoursとの新たなる日常~』を執筆している薮椿様のラブライブ!及びラブライブサンシャインを題材にした企画。これに自分も参加する事となりました。合計32名の作家様に大型企画で本日の21時より、毎日一話ずつ想いを籠めて執筆した作品の数々が投稿されます。自分の話は12月9日に公開となります。もし宜しければ、読んでみてください。


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第二十九話 俺をなめるなよ! 炸裂、ナルトの奇策

久しぶりの最新話。遅くなって申し訳ありません

今回はナルトの戦いです。


 予選の第七試合 うずまきナルト対犬塚キバ。

 対戦相手に選ばれたナルトは意気揚々と下りていった。サスケやサクラ。そして他里の忍達の戦いを見ていた事で体の疼きが抑えられないと言わんばかりの様子である。それと同じくキバも意気揚々と下りていく。それもその筈、強敵揃いの忍が残る中、当たったのは落ちこぼれのナルト。自身の勝利が確定したとキバは思っているのだろう。

 

 

 だが、この試合は皆を驚かせる事になる。今まで共にいたカカシはそう確信していた。それはサクラやサチも同様であろう。お前の成長をしっかり見せてやれ。カカシはナルトを優しい眼で見つめながら、胸の中で呟いた。

 

 

 

 

 

 向き合う両者を見据えて、ハヤテは第七試合の開始を宣言すると同時に二人は後ろに下がって様子を見る。

 

 

 

「ひゃっほぉぉぉぉ!! 相手がお前とは俺もついてるな。この試合、既に勝ったも当然だ。な?赤丸」

「ワン!」

「…何言ってんだ。勝負は始まったばかりだろ。逆上せてんじゃねえってばよ。第一、さっさとその子犬を下がらせろ。試合の邪魔になるだけだ」

 

 

 

 開口一番。挑発の言葉をぶつけたキバだったが、予想と違って彼は乗る事は無かった。思いの外、冷静なナルトにキバも表情を変える。今までとは違う。それを肌で感じたから…

 

 

「バカヤロー。こいつは只の子犬じゃねえ。俺の相棒だ。つまり、一緒に戦うってわけよ」

「何ぃ。ハヤテ先生。あれってば、いいのか?」

「ええ 忍犬や蟲…。これの使用に至っては…忍具と同じ扱いですからね。ルール上では問題ありません」

「そういうこった。しかし…赤丸と俺のタッグは完璧だ。お前なんて敵じゃねえ」

「フン。言ってろよ! ハンデとしちゃ丁度いいってばよ」

「…。けっ、落ちこぼれが偉そうな口きくじゃねえか。いいぜ。だったら、俺もハンデをやるよ。赤丸、お前は手を出すな。此処は俺一人でやる」

 

 

 

 何気なく放ったナルトの一言。これがキバの闘争心に火を付けてしまった。格下と思っている相手の口から出た挑発。これにキバは敢えて乗る事にした。どうせ‥さっきの言葉は只の強がり。運よく第一、第二の試験を突破した様だが、それは他者の力があっての事。自分の実力次第で合否が決まるこの試合で、ナルトが口だけの奴だと思い知らせてやる。失敗続きで馬鹿にされていたナルトの過去を思い出してキバは目の前の相手を見て嗤う。

 

 

「情けをかけて一発で終わらせてやるよ」

「けっ、だったら俺もそうしてやるってばよ」

「この後に及んでまだ言うかよ。じゃあ、行くぜ…」

 

 

 キバは四つん這いになるや、一瞬にして距離を詰めるとその勢いを利用して彼を吹き飛ばした。凄まじい音を立てて壁に衝突したナルトはばたりと倒れてしまう。この現実に見物していた者達は呆れたり、馬鹿にしたりと様々な反応を見せる中。第7班の三人は静かに見つめていた。この数ヶ月、一緒にいた事でサクラは知った。彼はもう落ちこぼれ等ではない。だから立って、キバや周りの皆に言ってやれ。そんな想いに呼応するかのように、ゆっくりと立ち上がったナルトはぽつりと呟く。

 

 

「俺はもう落ちこぼれなんかじゃねえ。俺を…舐めるなよ」

 

 

 たった一言。だがこれだけで周りの者は表情を変えた。それ程までにナルトの気迫は凄みに満ちていた。何より驚いていたのがキバ本人だった。さっきの一撃、自分は手加減したとはいえ…手ごたえはあった。現に彼の口から流れる血を見る限り、ダメージを与えていたのも明白だ。

 

 

 

「だから…強がるんじゃねえよ。血ぃ流してる奴が言う言葉かよ」

「まだ分かんねえのか? 俺の方こそ、手を抜いてやったんだってばよ。お前の力がどれ程なのかよ」

「…このやろう」

「お前も強がってねえで、今度は赤丸とかかって来いよ。それでも勝つのは俺だけどな」

「…っ! 言うじゃねえかよ。だったら、そうさせてもらうぜ。大怪我しても後悔すんなよ。ナルトォォォッッ!!」

 

 

 堂々と言葉を吐くナルトに、キバは怒りで顔を歪める。そして吼える様にナルトの名を叫びながらキバは赤丸と共に駆け出していく。キバの攻撃に備えて身構えるナルトに、キバは素早く煙玉を放り投げると彼の視界を塞いだ。その煙幕を利用して、キバと赤丸はナルトへ攻撃を仕掛けていく。視界が塞がれている為、防御も回避も出来ない。このままではやられてしまうとそう思ったナルトは、煙幕から抜け出した。だが、それを見越していたのだろう。抜け出した先で待ち構えていた赤丸がナルト目掛けて突進してきた。これ驚いたナルトはなす術もなく、赤丸の攻撃を受けてしまう。

 

 

 そして煙幕が晴れた後、倒れて動かないナルトと傍に座る赤丸が姿を見せる。その光景を眺め、勝敗は決したと確信したキバは高々に笑い、赤丸を呼びせた。だが、勝利の余韻に浸るキバは気付いていなかった。自分へ駆け寄る赤丸がほくそ笑んでいる事に…。

 

 

「良くやったぞ。赤…ぐわぁ」

「ガウ。引っかかったな」

「な、てめえ!? 一体どうして? まさか…変化の術か。赤丸は何処へやりやがった?」

「ぺっ 犬臭いってばよ。慌てなくも赤丸は俺の分身が抑えてらぁ」

 

 

 唐突の事に動揺したキバだったが、絡繰りを知って冷静になると今度は怒りながら赤丸の場所を尋ねる。本来なら答える必要は無いが、ナルトはあっさりと赤丸の場所を口にした。そして観戦者は驚嘆していた。ナルトを侮っていた者は評価を改め、落ちこぼれとしてのナルトしか知らない者達も同様である。中でも一番惹き付けられていたのが、姉のサチであった。隠す事なく嬉しそうな笑みを浮かべ、ナルトを見つめる彼女の姿に後ろにいたカカシとサクラは目を合わせると、二人も穏やかに笑っていた。

 

 

 

「…どうやら、本当に腕を上げた様だな。正直舐めていたが、もう油断も手加減もしねえ。こっからは本気でやらせてもらうぜ」

「やっとかよ。だけど、お前には負けねえってばよ」

 

 

 戦いの中、キバは漸くナルトの実力を認めた。そして懐から一粒の丸薬を取り出すと、それを赤丸の口へと放り投げた。すると赤丸の白い体は次第に赤く染まり、唸り声を放つと凄まじい力で分身体の拘束から抜け出した。突然、変化した赤丸にナルトは呆然とする中、再び取り出した丸薬をキバが口にする。

 

 

「いくぜ赤丸。俺達の本当の力を見せてやろう」

「ワンワン」

 

 

 

 キバの掛け声に応える様に吼えると赤丸はキバの姿に変化し、キバは歯と爪が鋭く伸びて獣の様だ仕草を取った。何が起きてるのか分からないまま、棒立ちになっているナルトへ両者は一気に詰め寄って攻撃を仕掛ける。そこで我に返り、攻撃を躱そうとしたが…予想以上の速さについて行けず、繰り出す攻撃を受けてしまった。

 

 

 すかさず距離を取るもあっという間に詰められて爪や牙による攻撃で一つ、また一つと傷が出来ていく。形成が変わって、焦りを抱いたのか。ナルトの動きもキレが無くなり、単調になっていく。そして左右から迫る攻撃をナルトは飛んで避けたが、それはキバ達の作戦だった。

 

 

 キバは赤丸に視線を送り、合図すると赤丸は頷いた。

 

 

「くらえ、獣人体術奥義!! 牙通牙!!!」

「ぐわぁぁっっ」

 

 

 

 キバと赤丸は体を勢いよく回転させ、ナルトに突進していく。宙にいるナルトに防ぐ術は無く、相手の技を受けてしまった。回転に合わせ、牙と爪で相手を切り裂く。その威力は絶大で地面に叩き付けられたナルトは体中から血を流し、ぐったりしていた。

 

 

 

 この凄惨な光景に観戦者も勝負が決まったと確信する。明らかに致命傷だ。当の本人は戦う事を諦めておらず、起き上がろうとするも立てずにいた。

 

 

 

 

「くそっ‥ 俺は火影にな‥るんだ! こんな‥所で負けられねぇ」

「ああ!? 俺より弱いお前が火影になんかなれる訳ねえだろ!! どうせ、本心じゃ火影になれねえって、分かってんだろうが…。心配しなくても火影には俺がなってやるよ」

 

 

 

 ナルトの呟きを聞いたキバは失笑した。しかし、キバは気付いていなかった。かつてのナルトだったら、確かに彼の言った通りだったかもしれない。だが、今のナルトは昔とは違う。一度言った言葉は曲げない。何があっても火影になると決意した彼は…ゆっくりと体を起こし始めた。

 

 

「立てぇ、ナルト!! あんたはサスケくんと戦うんでしょうが!! だったらこんな所で負けるんじゃないわよ」

 

 

 サクラの言葉でナルトは満身創痍の体を押して立ち上がった。そう 彼はまだ諦めていない。そして‥今はナルトを認める者が確かにいる。遠くから叫ぶサクラをヒナタは静かに見つめていた。彼女もまたその一人である。

 

 

 

「俺と火影を取り合ったらよ。お前が負けるぞ」

「っ…。言うじゃねえかよ。ボロボロの奴がよく吼えるぜ。その口、二度と叩けねえ様にしてやる」

 

 

 

 誰が見てもナルトの言葉は虚勢でしかない。それなのに何故笑える?何故その言葉が吐ける?キバは目の前にいる相手に密かな恐怖を抱いた。否、認めるものか。状況は自分が有利だ。立つのがやっとの相手に何を怯える事があるのか。次で決めてやる。キバは心に巣食った感情を払う様に駆け出した。

 

 

 

 向かってくるキバの牙通牙をナルトは辛くも躱した。だが、傷を負った状態ではやがては捕まるだろう。次にあれを食らったら、もう立ち上がるのは不可能だ。何か策は無いかと頭を捻るナルトは…ある作戦を思い付いた。キバの攻撃で舞い上がった煙を利用してナルトは印を組んで術を発動した。

 

 

 

 隠れたナルトへ追い打ちをかけるべく、飛び込んだキバと赤丸は思わず動きを止める。何が起きてるのか?分からない観戦者達だったが、晴れた煙から見えた光景に状況を理解する。その場にはキバが三人。変化でキバに化ける事で一瞬の隙を生み出す事に成功した。

 

 

 此処から反撃と考えていたナルトだったが、キバは躊躇いなく拳を振り上げて目の前の自分自身を殴り飛ばした。あっさりと破られた策にサクラは驚きを隠せない。何故、簡単に破られたのか?困惑しているとキバは喜々として語る。

 

 

「最初は引っかかったが、変化の術は二度と通用しねえ。姿を真似出来ても匂いだけは誤魔化せねえからな。俺の嗅覚に掛かれば、見分けるのは造作もねえのさ」

 

 

 そう。犬塚一族は忍犬と共に生きる故、嗅覚に優れていた。その為、一度嗅いだ匂いは忘れず、例え変化で姿を変えても匂いで判別する事が可能である。倒れ伏すナルトを見て、改めて勝利を確信したキバだが、その表情は驚きに染まった。

 

 

 

 

「へっ 今度こそ…俺の勝ちだ・・!! な、あ、赤丸!? 馬鹿な‥」

 

 

 変化が解けて現れた姿は弱々しく倒れる赤丸にキバは戸惑った。まさか自分が匂いを間違えるとは…あれが赤丸ならナルトは後ろにいる自分だ。素早く振り変えるとキバは再び拳を振り上げ、殴り飛ばした。

 

 

 先程と同じく、地面に転がった相手の術が解けると…現わした者はまたもや赤丸だった。何だ?一体、何が起きている。両方が赤丸なら、ナルトの奴は何処へ行った?頭が真っ白になったキバは完全に隙だらけであった。それを突き、赤丸の姿から元に戻ったナルトの一撃がキバの頬へ突き刺さる。

 

 

 

 この時、観戦者やキバはナルトの策を把握した。キバに殴られた瞬間、ナルトは再度変化の術で赤丸に化けていた。そうとは知らずに相手の数を減らすというナルトの思惑にキバは嵌まってしまった。

 

 

「術はよく考えて使えって、アカデミーでも習っただろ。同じ手は通用しねえって、言っておきながら二度もひっかかるとはな。お前って俺よりも単純だってばよ」

「や、ヤロォ!!」

 

 

 ナルトの挑発で頭に血が上るが、倒れる赤丸の弱い声にキバはハッとした。そうだ。ナルトのペースに乗せられるな。自力では自分が上である事は事実。落ち着いて戦えば、勝機はある。冷静さを欠けば、次も足を救われかねない。二度ある事は三度ある。この言葉がキバを一層、冷静にした。

 

 

 

 それはナルトも分かっていた。本当の意味で本気になったキバに、もう小細工は通用しない。ならば、自分も本気で挑むだけ。この試合で構想していた技を披露する。上手く出来るかは知らない。けども残る手はこれしかない。

 

 

 

(ナルトのあの面。何か企んでやがるな。そういや、あいつは変化以外の手を見せてねえ。恐らくは俺を倒す術を出すつもりだろうが、そんな隙を与えなければいいだけだ。逆に隙を作って一気に決めてやる)

 

 

 

 足に力を入れ、ナルトへ踏み込むと同時にキバは目に止まらぬ速さで手裏剣を放った。その不意打ちは躱す際に生まれた隙を突いて、キバはナルトの背後へ回り込み止めの一撃を繰り出した。流石にこれを躱すのは出来ない。歯を食い縛り、迫る攻撃に耐えようと力んだ時、軽い音と共に彼の尻から響いた。思わぬ出来事に固まる一同だった。その数秒後、キバは表情を歪めると鼻を抑えて苦しみ出した。

 

 

 人一倍嗅覚が利くキバには、何気なく出た屁は絶大な攻撃力を秘めていた。地面に蹲るキバを見て、今が好機と見たナルトは影分身を生み出し、一斉に攻撃を仕掛ける。多方向からの券打と蹴りの応酬、最後は宙からの踵落としがキバの頭部を捉え、容赦なく振り落とされた。

 

 

「どうだぁ。俺の新技、ナルト連弾!!」

 

 

 影分身を利用した怒涛の連続攻撃をまともに受けたキバは横たわったまま、動かない。近寄ったハヤトがキバの状態を確認すると、彼は完全に気を失っており勝敗は決したとハヤテは勝者の名を上げた。

 

 

「第七試合 勝者はうずまきナルト」

 

 

 この言葉を聞いて、ナルトは喜びに体を震わせた。自分は確実に強くなっている。そして…目標のサスケに一歩近づく事が出来た。これが何よりも嬉しかった。その成長をカカシやサチ、サクラ達もまた喜んでいた。

 

 

 

 キバが優勢と思われた第七試合はナルトの勝利で幕を閉じた。

 




 最新話いかがだったでしょうか?

 落ちこぼれと言われたナルトが、殻を破って皆に成長した姿を見せる。
何があっても諦めない姿勢が皆を変えていく。こういう展開は良いですよね…。


 次回は因縁ある日向一族同士の試合です。ヒナタの葛藤や一族への確執を抱くネジ。この二人の戦いもお楽しみに。

また一言でもいいので感想をお待ちしています。


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第三十話 変えられない運命

 久しぶりの投稿。今回はネジとヒナタの一騎打ちです、



キバとの戦いで辛くも勝利を手にしたナルトだったが、その代償も大きかった。体中に出来た傷の為、歩く度に激痛がナルトを襲う。戦いの最中は必死故に堪える事が出来た。しかし、気が抜けた今は僅かな痛みにも敏感になって、体が硬直する始末だ。

 

 

 もしも第三の試験がトーナメント形式だったら、自分は確実に負ける。此処にはキバよりも強い忍達がいるのだ。今のままでは駄目だ。もっと…今よりもっと強くならないとサスケと戦う前に他の奴に負けてしまう。此処まで来たんだ。ナルトは弱気な考えを振り払う様に頭を振る。

 

 

 そんなナルトに一人の少女 日向ヒナタは歩み寄ると、小さな声で話しかけた。

 

 

「あ、あの…。ナルトくん。怪我の方は大丈夫?」

「ん?おう、ちょっと痛むけど…別に何ともねえってばよ」

「そう、良かった。あ、そうだ。これ‥良かったら使ってみて」

「何だこれ?」

「傷薬よ」

「紅先生…。へぇ~ だけど、何で俺に?」

 

 

 二人のやり取りに見兼ねた紅は思わず口を挟んだ。此処に至ってもヒナタが薬を渡す理由が分からないナルトは、首を傾げていた。やはりこうなったかと紅は更に助け舟を出す。

 

「いいから貰ってやりな。それともあんたはヒナタに恥を掻かせたいの?」

「え?そんなつもりはねえけど…。まあ、くれるなら貰うってばよ。ありがとなヒナタ」

「う、ううん。気にしないで。私がやりたくてした事だから…」

「そっか。お前も予選頑張れよ」

「うん。ありがとうナルトくん」

 

 

 自分が差し出した薬を受け取ってくれた。それだけでも嬉しいのに、彼は笑顔で激励までしてくれた。ヒナタはそれが何よりも嬉しくて、彼女は知らずに笑っていた。周りの紅達も珍しく感情を露わにするヒナタを優しく見つめる。

 

 

 しかし、それとは違い一人だけ氷の様な冷たい視線を送る者がいた事に誰も気付いていなかった。

 

 

 

 

 

 ヒナタは続いて、医療班に運ばれるキバの元へ向かうと同じく塗り薬を医療班へ手渡した。

 

 

「あの…良かったら、これを使って下さい。怪我の手当てに役立つ筈です」

「へへ お前は相変わらず、お人好しだな。人の心配より、自分の心配をしろよ」

「う、だって‥キバ君は班の仲間だし…」

「そうかよ。一つ、言っておくぜ。残っている奴との試合。もし‥砂の忍と当たった場合、即座に棄権しろ。お前も第二試験で見ただろ。あいつは相手が誰であろうと、命乞いをしようと容赦はしない。それに実力も段違いだ。この試験では審判がいるから殺される事は無いだろうが、確実に大怪我を負うのは明白だ。あと…もう一人、ネジと当たった時も同様だ。この理由は言わなくても分かるよな」

「……」

「もういいかね? そろそろ彼の治療もしたいから我々は行くよ」

「は、はい。キバ君をお願いします」

 

 

 ヒナタは搬送されるキバを静かに見送りながら、ヒナタはキバが残した言葉の意味。それは自分も良く理解している。だが、運命は時に残酷である。次の試合に選ばれた名は日向ヒナタ対日向ネジ。この二名であった。まさかの対決に事情を知る者達は緊張した様子で下で向かい合う二人を見つめていた。

 

 

 

 

 その両者の間には重い空気が漂っていた。審判のハヤテすらもこの空気に言葉を発する事が出来ない。張り詰めた空気の中、日向ネジは口を開くとヒナタに言葉をかけた。

 

 

「まさか、貴女と戦う事になるとはね。何とも奇妙な偶然もあるものだ。ヒナタ様」

「…ネジ兄さん」

 

 

 ヒナタの言葉にナルトは驚愕した。苗字が同じ事から関係はあると思っていたが、詳しい事は知らなかった。

 

 

「あの二人が兄妹だったなんて…。何でヒナタは黙っていたのかしら?

「いや、実際の所。あの二人は兄妹じゃない。日向一族は少し特殊なのさ」

「ええ。同じ一族だけど、宗家と分家に別れているの。ヒナタは宗家の子でネジが分家の子よ」

「僕も聞いた事があります。何でも宗家は分家の者達が逆らったり、裏切る事の無いよう。分家に子が生まれるとある術を施すそうです。そうやって、分家は宗家に従い尽くして来たのですが…その分、奴隷の様に扱う宗家に恨みを抱く者達も大勢いたそうです。恐らく、ネジもその一人でしょう」

「…そんな事って」

 

 

 カカシ、サチ、リーの話にサクラもナルトも絶句して言葉を失った。そして審判の宣言で戦いが始まるとネジは重い口を開いた。

 

 

 

「ヒナタ様、試合をやる前に一つ言っておきます。貴女は俺には勝てない。今すぐ棄権しろ」

「……」

「それに貴女は優し過ぎる。非情な忍の世界で貴女の考えは通じない。調和を望み、葛藤を避ける故に他人の意見に抗う事をしない。それは自分が弱く、自信が無いからだと理解してるのでしょう。本当なら下忍のままでも良い。貴女はそう考えていた筈だ。大方、中忍試験を受けたのもそうだ。自分が参加しなければ、二人は試験に出れない。それを知った貴女は誘いを断れず、同意した。本当は嫌なのに…違うか?」

「ち、違う。確かに私は自信が無かった。でも、それでも…私は自分を変えたくて試験を受けた。誰でもない自分の意思で」

 

 

 

 ネジの容赦ない追及にヒナタは、か細い声で反論した。その言葉には、変わりたいと願うヒナタの意思が強く込められている。上から見ていたナルト達も感じ取っていた。それを一層、感じていたのは担当上忍の紅だ。数ヶ月、傍でヒナタを見てきた。一族からも出来損ないと心無い言葉を言われた時も、ヒナタは己の気持ちを隠して言い返す事はしなかった。

 

 

 だが、今はあの頃のヒナタではない。当初、ヒナタを中忍試験に出す事を不安に思っていた。しかし、今はそんな不安は微塵も無かった。彼女は変わる。紅は心の中でヒナタを応援していた。

 

 

 

「変わりたい…か。やはり貴女は世間知らずの甘ちゃんだ。いいか?人は決して変わる事は出来ない。落ちこぼれは落ちこぼれ。どれだけ努力しようと、無駄な努力だ」

「そ、そんな事は…」

「無いと何故言える。人は変わりようが無いからこそ、差が生まれる。エリートと落ちこぼれがその例だ。見た目や学力、才能など…他者と比較されて、価値が決められる。それに人は苦しみ生きていく。俺が分家で…貴女が宗家であるようにだ。それに強がっているが、本当は今すぐ逃げだしたいと思っている。俺の白眼は誤魔化せない」

 

 

 ネジの冷たい言葉は…ヒナタの心を抉っていく。いつもならヒナタは耳を塞いで逃げていただろう。だけど、この時ばかりは違った。彼女はネジに反論しようとしたが、その顔は恐怖に染まった。見れば、ネジは白眼を発動させ、殺気を込めてヒナタを睨む。その光景にナルト達も同様に恐怖を覚えた。目の周りは血管が浮き上がり、異様な姿にサクラは震えた声でカカシとサチに尋ねる。

 

 

「何なの?あれ?先生達は知ってるの?」

「ああ。あれは白眼だ。日向一族に伝わる瞳術でな。写輪眼と類を成すものさ」

「ええ。目にチャクラを籠めて、見えない物を見る力を秘めているわ。それは壁に隠れている者だけでなく、人の心も見透かす事も出来ると聞いてる」

「サチの言う通り。洞察力においては、写輪眼を超える瞳術さ」

 

 

 二人の話はナルトとサクラは絶句する。もし‥人の心を見透かすなら、己の手の内も知られるという事だ。そんな相手にヒナタはどう戦い、勝つのか。どちらにせよ、この戦いは一瞬も見逃してはならない。ナルトは‥真剣な表情で二人の戦いを見つめた。

 

 

 

 

 

 しかし、ヒナタはネジの放つ殺気に気圧されて身動きが取れない。冷や汗を流し、ただ震えていた。

 

 

「それ見た事か。この程度の殺気で怯える奴が、変われる訳がない。今さっき、貴女は視線を左上に向けたな。それは過去の辛い記憶を思い出した。そして次に右下へ向けた。これは肉体的な苦痛の想像をしたのだろう?過去の自分を思い浮かべ、自身の経験からこの試合の結末を悟った。そう 俺にボロボロにされて、負ける結果を…」

 

 

 ネジの言葉にヒナタは、何も言い返さない。いや 言い返す事が出来なかった。ネジが口にした事は全て事実であった。ネジの言う通り…自分は変わる事は出来ない。此処で戦っても無駄だ。完全に戦意を失い、諦めようとした時、空気を裂く様な叫びが轟いた。

 

 

「出来る!! 何も知らねえで勝手に決めつけんなバーカ。ヒナタ お前の力、その陰険野郎に見せてやれってばよ」

 

 

 それをしたのは案の定、ナルトだった。たった一言、それで彼は場の空気をガラリと変える。ヒナタはナルトを見上げて、心の中で感謝した。そうだ。私がこの場にいるのは昔の自分を変える為だ。それに彼は言っていた…真っ直ぐ自分の言葉は曲げない。それが自分の忍道だと。ならば、私も言った言葉を曲げる訳にいかない。

 

 

 ふつふつと心の底から湧き上がる闘志を胸にヒナタは、目の前にいるネジを見る。彼もまた、ヒナタの目に宿る光に気付く。

 

 

「…どうやら棄権はしないみたいだな」

「ネジ兄さん 私はもう逃げません。全力でいきます」

「いいだろう。この勝負、受けて立つ」

 

 

 

 お互い、白眼を発動して構えた。間合いを取り、二人は隙を穿っていた。張り詰める空気の中、傍にいたリーがポツリと語り始める。

 

 

 

「やはり同じ日向流。二人の構えは同じですね」

「日向流?体術にも流派があるのか?」

「ええ 勿論です。そして日向流は木ノ葉において最強!! 以前、僕は言いましたよね? 木ノ葉の下忍で尤も強い奴がいると…それが日向ネジ、彼の事です」

「…あいつが」

 

 

 

 リーの言葉にナルト達は緊張から息を飲む。その直後、二人は一斉に駆け出し攻撃を繰り出した。躱して受け流し。そして隙あらば攻撃を繰り出す。目に止まらぬ攻防に観戦者達は息を飲む。互いに引く事なく、二人の戦いは熱を帯びていく。やがて、僅かな隙を狙いヒナタは強烈な掌打を繰り出すが、僅差で躱され掠るだけに終わった。

 

 

「あー 惜しいってばよ。当たってりゃ、ヒナタが勝ってたのにな。掠っただけじゃ、意味がねえ」

「いや、効果はある。彼ら、日向流の武術は独特でな。俺やリーの様にチャクラを纏って、相手の外面に致命傷を与える剛券とは違い、日向の武術は相手の内面に致命傷を与える柔券なんだ」

「ええ。一見、地味に見えるけど…確実に相手の体へダメージを残すわ。それが後から効いてくるの。どうやっても人は内臓や心臓を鍛える事は出来ないから」

「サチの言う通り。掠っても効くんだ。一発でも決まった時点で勝負が決まる」

 

 

 三人の上忍の説明に、ナルト達は押し黙った。その中でリーだけが、険しい顔でネジを見つめていた。その様子をガイは複雑な心境で見ていた。彼にとって、ネジは仲間であるが同時に越えたいと思うライバルでもある。改めて見せる、ネジの強さに不安を抱いていると思いきや、彼は笑っていた。それを見て、ガイは口元を緩めた。そうだった。ネジが成長してる分、リーもまた成長している。どうやら不安を抱いていたのは自分だったようだ。ガイは大事な事を教えてくれた教え子に感謝し、戦いに目をやった。

 

 

 

 

「でも…先生。日向の武術が凄いのは分かったけど、経絡系を攻撃するのは無理じゃないの?」

「けいらくけい? サクラちゃん…それって何だってばよ?」

「あのねぇ… あんたはいつも勉強不足なのよ。少しは勉強を真面目にしなさいよ」

「まぁまぁ。僕が教えますよ。経絡系とは、血管の様に全身を廻っている管の事です。これはチャクラを送る役割を持っていて、チャクラを練る内臓と繋がっています。故に経絡系を攻撃されると内臓にもダメージが行く。そういう事です」

「へーそうだったのか。教えてくれてありがとよ」

「ナルト!! リー君は貴方の先輩よ。口の利き方に気を付けなさい」

 

 

 分からないと頭を抱えるナルトにサクラは呆れる中、リーは丁寧に説明をした。その彼に生意気な口を利くナルトにサチの一喝が入った。場が収まった後、サクラは改めてカカシ達に疑問をぶつけた。

 

 

 

「ねえ、さっきも聞いたけど… どうやって経絡系に攻撃を当てるの?経絡系は目で見ることが出来ないのに」

「普通ならね。だけど、日向が持つあの瞳術、白眼にはそれが見えるんだ。そして日向の武術は特殊でね。チャクラを纏い繰り出す当身は本来、当てることが出来ない場所にも攻撃が出来る」

「だから従来の当身と違って、防御すると却って自身の首を絞める。常に躱さないといけないから厄介なのよ」

 

 

 

 二人の話を聞きながら、サクラが下に視線を送れば…ヒナタが強力な一撃をネジに繰り出し、それは彼の体に吸い込まれる様に当たる。ナルトは勝利を確信して、叫ぶ中で他の者も緊張した面持ちで見つめていた。

 

 その瞬間、ヒナタは血を吐き出して苦痛の表情を浮かべた。何故、ヒナタが?困惑する一同を余所にネジは冷めたい目で睨み、静かに口を開いた。

 

 

「…この程度か?宗家がこれでは日向も先は無いな」

「くっ、まだ…終わってない」

 

 

 

 ネジの言葉はヒナタの心に鋭く突き刺さる。彼の言葉を否定する様に、ヒナタは掌打を繰り出すが容易く防がれ、その腕にネジの指が突き立てられた。それは攻撃というより、何かのツボを押しているかの様だった。ネジの真意が分からない下忍達は首を傾げる中、上忍達は顔を顰めて冷や汗を浮かべる。

 

 

 そしてネジは何かを確認すべく、ヒナタの袖を捲る。その下はまるで虫に刺された様な紅い点を見て、ヒナタの顔は青ざめた。これが何なのか?同じ日向のヒナタには理解して絶望が心を支配する。

 

 

「ま、まさか‥ネジ兄さんはこれを狙っていたの?」

「今頃、気付いたか。そうだ。俺は初めからお前の点穴を見定めながら突いていた」

 

 

 ネジの言葉をヒナタは受け入れたくなかった。これが事実なら、彼は不可能に近い事をやってのけた。自分の師である父や他の日向ですら、出来なかった事を…

 

 

 

「何だ!?ありゃ、ヒナタに何が起きてるってばよ」

「点穴を突かれたのよ。経絡系にある小さなツボでチャクラの流れを止めたり、増幅したりする事が出来る。だけど、それをやるのは実際にはかなり困難というより不可能に近い」

「ああ。それに的確に突かないと意味が無い上、戦闘中なら尚更だよ。宗家の現当主でも難しいだろうな」

「じゃあ、それをやってのけたあの人って…」

「ええ。間違いなく、日向で一番の才覚を持っている。それが下忍なのだから、正直恐ろしい所ではあるわね」

「全くだ。一つ言っておくが、点穴は写輪眼でも見ることは出来ない。そういう厄介な物なんだよ」

 

 

 

 サチとカカシの説明にナルト達は驚愕する。だとしたら、ヒナタには初めから勝ち目など一つも無い。戦う前から結果は決まっていたのだ。

 

 

「これが貴女と俺の差だ。最早、勝敗は決まっているんだ」

「ぐう…」

 

 

 ネジに突き飛ばされ、倒れたヒナタは絶望の中、彼の言葉を思い出していた。それは第一試験で言った一言『まっすぐ自分の言葉は絶対に曲げない。それが俺の忍道だ』 そうだ。彼は…ナルト君はどんな状況でも前を向いていた。正直な話、自分には出来ないと思った。いや、そう決め付けていた。だけど、今なら私だって‥

 

 

「これ以上は無駄だ。負けを認めて棄権しろ」

「私は…変わると決めた。まっすぐ自分の言葉は曲げない。それが私の忍道だから」

 

 

 

 ヒナタが放った静かな言葉は、会場に響いた。ボロボロでありながら、力強いヒナタの姿にナルトは惹き付けられた。そして素直な気持ちを口にする。

 

 

「ヒナタの奴。あんなに凄い奴だったんだな」

「そうですね。何処となく、君に似ています」

「ヒナタ、いつもあんたを見ていたからね」

 

 

 二人の言葉にナルトは、何とも言えない感情を抱いた。まだ自分では理解出来ないだろう。だが、ナルトの中でヒナタに対する何かが変化した。

 

 

 

 

 

「どうやら、本気の様だな。ならば来い」

「…行きます。グ・・ガハッ」

 

 

 ネジに仕掛けようとした瞬間、ヒナタは胸を抑え咳き込み血を吐いた。ネジの攻撃はヒナタの体は既に限界を迎えていた。それだけでなく、点穴を突かれてヒナタはチャクラを練る事も出来ない。誰の目から見ても勝敗は明らかであった。それを見越し、ハヤテは止めようと動いた時だった。

 

 

「諦めるなヒナタ!! お前の実力、そいつに見せてやれってばよ」

 

 

 ナルトの声援が飛び、ヒナタの目に闘志が湧き上がる。体中が痛く、チャクラも練れない。それでも…まだ体は動く。だから諦めない。私は変わるんだ。その想いを胸にヒナタは攻撃を繰り出す。

 

 

 しかし、ダメージを負った体では動きが散漫になり、隙だらけ。それを見逃す程、ネジは甘くなく強力な掌打を打ち込まれる度、傷が増えていく。何度倒れても立ち上がり、向かっていくヒナタの姿に紅はかつてのヒナタを思い返していた。

 

 

 

 日頃から自分に自信が無いあの子は、いつも諦めて逃げる癖が付いていた。その事にあの子は忍に向かないのでは?と思う様になった。このまま続けて命を落とす前に辞める様に言おうとヒナタの元を訪れた時、珍しく鍛錬に打ち込む姿があった。

 

 

 思えば、この頃からだ。私のヒナタの印象が変化したのは…それ以降、一人で鍛錬するヒナタに私は助言を与えて一緒に鍛錬に付き合ったりもした。少しずつ、成長するヒナタを見て私は中忍試験への推薦した。初めは困惑し、怯えていた様子からまだ早かったか?と思ったが、ヒナタはまっすぐ私を見つめて参加の意思を伝えた。あの時もヒナタの目は強い光が宿っていた。

 

 

 

 だけど、今のヒナタの目に宿る光はあの時よりも強い。痛みに耐えて戦う教え子の成長に紅の目が涙でぼやけた。駄目だ、まだあの子は諦らめていない。此処で泣く事はヒナタが弱いと言ってる様なものだ。

紅は指で涙を拭うと戦うヒナタを暖かい目で向けた。

 

 

 

 

 この時、ネジは少し困惑していた。何故、ヒナタは此処まで戦うのだろう。自身が突いた点穴でチャクラは封じられ、体に負った怪我も軽くはない。本来なら気を失っていてもおかしくはない。なのに何故立ち上がる?どうして立ち向かう?勝ち目なぞ、既に無いというのに。

 

 

 

 そう自問自答しながらヒナタの鳩尾に掌底の一撃が当たる。その衝撃に堪らず、ヒナタは崩れ落ちる。

 

 

 

「貴女も分からない人だ。俺には貴女の攻撃は通用しない。これ以上、戦うのはやめて棄権しろ」

 

 

 

 審判のハヤテも続行不可能と判断して止めようと声を上げた時、「止めるなぁっ!!」とナルトの叫びが轟いた。その行動にサクラは非難する。無論、ナルトも自分が無茶を言っているのは理解していた。だけども叫ばずにいられなかった。何故なら、あの姿が己と被って見えたからだった。

 

 

 

 どうしようもない事がある事はナルトも知っている。しかし、諦めない気持ちが奇跡を起こす事も知っている。あの言葉はそれ故だった。

 

 

 そして奇跡が起きる。気絶していて続行不能と思われたヒナタは再び立ち上がり、目の前に立つネジを強い眼差しで見据えた。その視線にネジは恐怖を感じ冷汗が浮ぶ。

 

 

 彼女は…本気で自分に勝つ気なのか?だが、これ以上は本当にヒナタが死んでしまう。ネジは呼吸を整えてから諭す様に彼女に言葉をかける。

 

 

 

「これまでにしよう。ヒナタ様、貴女の変わりたい。この気持ちは十分に分かった。宗家でありながら、力の無い貴女は己を呪った事でしょう。だけど、変える事が出来ないのもある。それが俺と貴女の力の差だ。これが運命。貴女ならいずれ、強くなって宗家として胸を張れる日が来るだろう。だから、もう棄権しろ。これ以上は苦しむ必要はない。楽になれ」

 

 

 

 

 ネジはそう言って、棄権する事を薦めた。初め、自分はヒナタを意気地の無い奴だと思っていた。少し痛め付けてやれば、あっさりと敗北を認めて引き下がる弱者であると。しかし、それは違った。過去のヒナタとは違い、何度も立ち向かう姿にネジは知らない内にヒナタを認めていた。変わりたい、この言葉が偽りでない事は自分も理解した。そして自分が言った言葉も偽りはない。本心からの言葉だった。

 

 

 

 只、この時…ヒナタは一つだけ過ちを犯す事になる。

 

 

 

「…運命か。確かにネジ兄さんの言う通りかもしれない。でも、それを言うならネジ兄さんだって、苦しんでいるわ。この戦いを通して視えたの。貴方が抱える宗家と分家という呪いに苦しんでる。ネジ兄さんはそれから目を逸らしてる。だから運命という言葉で蓋をして逃げてるのでしょう?」

 

 

 

 

 

 

 何だ?今、ヒナタは…こいつは何を言った?俺が何から目を逸らしてるだと?誰が逃げてるだと…?ふざけるな。あの時、貴様がもっと強ければ、あの時…貴様がいなければ。あの人は……死ぬ事は無かったのに。ネジの脳裏に浮かんだのは、消し去りたい忌まわしい過去。それをヒナタが触れてしまった。しかも自分が憎み恨んでいる宗家の奴が…

 

 

「ッ。貴様あぁぁぁぁぁぁ」

「待ちなさい。試合は終了です」

 

 

 今までにない殺気を放ち、鬼の形相でネジはヒナタに向かっていった。それはハヤテも恐怖を感じる程、強い殺気であった。その為、駆け出すのが遅れてしまい、ネジの掌打がヒナタに繰り出される。間に合わない。惨劇を覚悟した時、ネジの動きが止まった。

 

 

「いい加減にしろ、ネジ。宗家の事で揉めるなと約束した筈だ。冷静になれ、お前らしくないぞ」

 

 

 ネジを止めたのは、ガイを始めとした数人の上忍。そしてヒナタを支えるサチの姿があった。我を忘れた自分を抑えてくれた事を内心、感謝すると同時にまるで逆賊の様な扱いをする上忍達に怒りを覚えた。

 

 

「何故、貴方以外の上忍が出しゃばる?宗家は特別扱いか!! もう落ち着いた。早く放せ」

「う、ゴホゴホ…ガハ」

「ヒナタちゃん!? まずいわね。医療班を呼んでくるわ」

 

 それを見て安心したのか、限界を超えていたヒナタは血を吐き倒れてしまった。サチが声をかけるが、気を失ったのか。返事は返ってこない。サチは焦って医療班を呼びに走った。

 

 

 ぴくりとも動かないヒナタの姿を見て、ナルトは一目散に駆けよった。青白い顔で横たわるヒナタに出来る事は無い。そんなナルトにネジは薄笑いを浮かべ、話しかける。

 

 

「お前も確か落ちこぼれだったな。ならば、二つ忠告しておいてやる。仮にも忍なら他者の応援など辞めろ。見苦しいだけだ。それと落ちこぼれは落ちこぼれ。どうやっても変われはしない。無駄な努力をいくら重ねたとしても運命には抗えない」

 

 

 ネジの冷たい言葉だけが、その場に響いた。誰もが口を閉ざす中、ナルトは立ち上がった。

 

 

「本当にそう思うのか?だったら、俺が証明してやるってばよ。本戦でお前をぶっ飛ばしてなぁ」

「…良い度胸だ。やってみろ」

 

 

 二人は火花を散る程、睨み合った。因縁が渦巻く中、第三試験の予選は佳境へ向かう。

 

 

 

 

 

 




今回のお話、いかがだったでしょうか?


宗家なのに落ちこぼれのヒナタ。分家でありながら天才と言われるネジ。
同じ日向でも対極な二人の戦いを見た時、ネジってば妹分に容赦ねえと思ったけど、後にネジの過去を知った時は悲しかったなぁ。

次の試合はいよいよ我愛羅とリーの戦い。これまた書くのが難しそうだけど、楽しみでもあります。


もし宜しければ、感想を下さい。それと誤字脱字等がありましたら、報告お願い致します。



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第三十一話 立派な忍者 それを証明する為に

最新話 大変お待たせいたしました。


今回はリーと我愛羅の試合です。


「アイツ、やっぱり馬鹿な奴じゃん」

「ああ。力の差に気付いてないね」

 

 

 テマリとカンクロウは嘲りの視線でナルトを見る。己の力量に気付かず、格上に威勢よく啖呵を切る姿は滑稽だと嘲笑していた。そんな中、カンクロウは化物が二人に増えたと焦りを抱く。その一人は自分の隣にいる我愛羅。彼は先程の戦いに影響されたのだろう。隠す事なく殺気放っていた。

 

 

(我愛羅のやつ、さっきの戦いで血を見てから疼いてやがるな。ちっ、殺気まで出しやがって居心地悪いったらねえな。それにネジとかいう奴も気になるし、情報収集を兼ねて此処から離れるとするか)

 

 

「ん?何処へ行くんだい?」

「情報収集。少し気になる奴がいるからな。調べておいて損はねえじゃん」

「あまり勝手はするなよ。面倒事は御免だからね」

「はいよ。ほんじゃ、行ってくる」

 

 

 

 忠告するテマリにカンクロウは返事を返すが、本人は何処吹く風で気にした様子はない。それに溜息を吐くテマリだが、それ以上は何も言わなかった。

 

 

 

 カンクロウが目を付けたのは先程、ネジに啖呵を切っていたナルトだった。他の忍よりも単純なナルトなら何かしらの情報が得られるだろう。そう思い、カンクロウは彼に近付き声をかける。

 

 

「おーい さっきの啖呵、見事じゃん。お前、面白い奴だな」

「あんだよ。黒デブ。お前は面白くないじゃん」

「……。まあ、そういうなよ。あと、黒デブはやめろ。俺はそこまで太ってない」

「あっそ。そんで一体、何の用だってばよ?」

 

 

 

 ナルトのもの言いに苛立ちを覚え、カンクロウは拳を握るが堪えて話を切り出した。

 

 

「ああ。実は…ネジって奴の事だが、お前はあいつをどう思う?」

「ムカつく奴。人を見下す所が気に入らねえってばよ」

「そうか。いや、他に言う事はねえのか?例えば、あいつの術とかさ」

「どうでもいいってばよ。俺はあいつをぶっ飛ばすって、決めてんだ」

「ふーん。それは勇ましい事で」

 

 

 求めた情報は得られず、カンクロウは別の忍に当たろうかと思った所で自身に向けられている視線に気付く。それは木ノ葉の上忍達からだ。見れば、サクラやシカマル等の下忍もこちらを警戒の視線を送っている。これではどう繕っても口を割らないだろう。己の情報収集は失敗に悟り、彼は大人しく引き下がる事にした。

 

 

「えー それでは次の予選試合を始めます」

 

 

 ハヤテの言葉で場に緊張が走る。残りは二試合。一体、誰とぶつかるのか。いまだに呼ばれていないチョウジは恐怖で震えていた。残った忍はどれも強敵ばかり。自分が勝てる見込みは無く、勝負の前から戦意を失っていた。

 

 

チョウジは固唾を飲み、掲示板を見つめる。そして…

 

 

「よっしゃぁぁぁぁぁっ セェェェェェフ」

 

 

 彼は大声で叫び、その声は部屋中に響き渡る。突然だった為、傍にいたシカマルやイノは耳を抑える暇もなくそれを食らい悶絶していた。唯一、アスマだけは耳を塞いで難を逃れていた。

 

 

 そして掲示板に目をやり、アスマは密かに安堵の息を吐く。選ばれたのがチョウジで無い事を。

 

 

 

「降りて来い。早くしろ」

 

 

 一陣の砂と共に姿を見せたのは砂の忍、砂漠の我愛羅だった。狂気を孕んだ瞳で我愛羅は自分の対戦相手に向けて言い放った。異様な緊張感が立ち込める中、ロック・リーは恩師のエールを背に下へ降り立った。

 

 

 

「早々と貴方と戦えるとは…嬉しい限りですよ」

 

 

 

 自身に放たれた瓢箪の蓋を受け止め、リーは我愛羅を睨んだ。既に臨戦状態の二人を見て、ハヤテは試合開始を宣言すると同時にリーは駆け出すと回転を利用した蹴りを繰り出す。だが、リーの攻撃は絶対防御の砂に阻まれてしまう。

 

 

 初めて見る類の術にリーは驚きに目を瞠る。瓢箪に何か秘密があるのは分かっていた。自分に迫る砂を避けながらリーは再び攻撃を仕掛けた。

 

 

 しかし繰り出す攻撃は全て防がれてしまう。フェイントを織り交ぜたり、持ち前の素早さを生かして死角からの攻撃等。様々な手段を取るが我愛羅には届かない。まるで意思があるかのような砂の動きにリーは徐々に追いつめられていくのを感じていた。

 

 

 

 一発。そう一発でも当たれば勝機はある。それは我愛羅が操る砂を如何に突破するかだ。

 

 

 

 

「…何だってばよ。ゲジマユの攻撃は全然通じてねえ」

「我愛羅の防御は完璧だ。我愛羅に物理攻撃は一切効かねえよ。だから今まで誰一人いない。我愛羅に傷を付けた奴はな…」

 

 

 

 カンクロウの言葉にナルトは押し黙る。仮にあそこで我愛羅と戦っているのが自分だとしたら、打つ手はあるだろうか?考えても対抗策は思い付かない。きっと手も足も出ず敗北する。そんな未来しか想像出来なかった。

 

 

 

 

「何でリーさんは体術ばかりで戦うの? 物理攻撃が通用しないなら忍術で攻める手もあるのに」

「それが出来ないからだ。リーは忍術を使えないんだ。あいつは忍なら当たり前の様に持っている忍術の才覚は無い。唯一、出来る体術だけがあいつの武器だ」

 

 

 

 サクラの疑問に答えた後、ガイはリーに向かって叫んだ。

 

 

「リー。俺が許可するアレを外せ」

「ガ、ガイ先生!? しかし…あれは大切なものを守る場合じゃないと駄目だって」

「構わん。俺が許す!! 思う存分、戦えリー」

 

 

 

 ガイの許しを貰い、リーは喜々とした様子で座り込むと両足から何かを取り外した。それはガイが修行の一環で付けさせていた物であった。一見すると只の重りにしか見えず、観戦していた者達は何かの茶番と思い、白けた目を向けていた。

 

 

 

 だが放り捨てた重りは床に落ちた瞬間、凄まじい土煙を巻き起こした。まるで巨大な岩が落ちたかの様に床に大きな穴が出来上がるのを目の辺りにし、皆は驚愕する。これ程の重りを付けてリーは素早い動きをみせていた。ならば…枷から解放されたらどうなるのか?それはすぐに明らかとなる。

 

 

 

 一瞬にして距離を詰めると、リーは高速の券と蹴りを次々と繰り出す。攻撃自体に変化は無い。しかし我愛羅の表情から余裕が消えていた。先程まで違い、リーの攻撃は砂の壁を徐々に突き抜けていく。

 

 

 

「忍術が使えないからリーは体術のみに磨きをかけてきた。それ故に他に劣る事は無い。俺が認める体術のスペシャリストだ」

 

 

 

 ガイの言葉と同時にリーの強烈な一撃が遂に我愛羅を捉えた。この事実にテマリとカンクロウは衝撃を隠せない。それもその筈、絶対防御を誇る我愛羅が他者の攻撃を食らう様を見た事は一度足りとも無かった。何より一番驚いているのは我愛羅本人だろう。無表情だった顔に些か困惑の色が浮んでいた。

 

 

 

 

 

「漸く攻撃が当たりました。さて、此処からが本番ですよ」

 

 

 

 そう言うや、リーの猛攻が始まった。後ろに気配を感じて視線をやれば、そこに姿は無く。右と思えば左から拳打が繰り出され、下かと思えば上から蹴りが振り下ろされる。四方八方、縦横無尽な攻撃に我愛羅は翻弄されていた。

 

 

 砂の防御も攻撃の速さに追い付けず、やがてリーの強力な一撃が我愛羅の頬に突き刺さる。凄まじい衝撃に我愛羅は堪らず倒れ伏した。手応えを感じたリーは勝利を確信するが、ゆっくりと我愛羅は体を起こし、リーは戦慄を覚えた。

 

 

 

 我愛羅の顔は至る所がひび割れており、一部がボロボロと崩れていた。何よりもリーが恐怖を感じたのはその表情だ。血走った目でリーを見つめるや、獰猛な獣を彷彿させる笑みを浮かべている。

 

 

 

 任務の中で忍を相手に命懸けの戦いを経験した。その度、死ぬかもしれないと感じた事は一度や二度では無い。しかし、目の前にいる相手は全くの別物だ。それは人の姿をした化物。我愛羅の威圧感に気圧されて、攻めているリーが追い詰められる形となった。

 

 

 

「ヤバイじゃん。今の我愛羅だと、アイツ…弄ばれて」

 

 

 殺される。この後、起きるであろう惨劇を予想してカンクロウはリーに憐みの視線を送った。どうでもいい相手だが、人が玩具の様に壊されて死にゆく惨劇をなるべくなら見たくはない。無論、最悪の状況になる前に試合は上忍達で止められるだろうが、不安定になった我愛羅が容易く止まるとは思えない。

 

 

 

 

「お、おい。あれは何だってばよ」

「ありゃ砂の鎧だ。予め身体全体に纏う事で攻撃を防ぐ術。自動で攻撃を防ぐ砂の障壁と合わせて使うからこそ、絶対防御を可能とするんだよ」

「な、何だよ。そんじゃあ、あいつには弱点が何もねえって事じゃねえか」

 

 

 

 そう呟くナルトを余所にカンクロウは別の懸念を抱いた。一見、隙がない完璧な防御術に思える砂の鎧。しかし世の中に完璧な物は存在しない。この術は自動で発動する砂の障壁と違い、我愛羅自身が発動してる為、通常の忍術同様にチャクラを消費する。また全身に覆う特性から身体にかかる負担も並ではない。

 

 

 故に我愛羅が砂の鎧を使う。それは我愛羅が劣勢に立たされた時。カンクロウはリーの実力を素直に評価するが、逆に言えば我愛羅を本気にさせた。手を抜いた状態でも我愛羅は敗北した事はない。全力を出したなら尚更だろう。この勝負は我愛羅の勝利で幕を閉じる。

 

 

 

 カンクロウはそう予想した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (砂の鎧ですか…。砂の障壁だけでも厄介なのに困りましたね)

 

 

 速さで翻弄し、砂の障壁は突破する事が出来た。だが、砂の鎧による防御で防がれては意味はない。ならばどう対抗するか?方法は単純だ。鎧の上からでも通用する攻撃を仕掛ければいい。

 

 

 厳しい修行の末、会得した己の十八番 蓮華。過強力な連続蹴りで相手を宙に飛ばし、そこから地に叩き落す二段構えの体術奥義。この技であれば、決定打を与える事が出来る。

 

 

 

 決まれば即行動。しかし、砂の鎧を纏う我愛羅は容易く蹴り上がらない。一発で駄目なら二発、三発と何度も強力な蹴りを浴びせた。怒涛の攻撃に流石の我愛羅も堪らず、その体は宙高くに舞い上がる。

 

 

 

 しかし、蓮華は技の特性上…使用者への負担が大きい。会得したとはいえ、リーの肉体は蓮華に耐えるには未熟過ぎた。技の影響で迸る激痛にリーの動きが一瞬だが、鈍くなる。

 

 

 だが、痛みを堪えてリーは我愛羅を捕獲すると床目掛けて思いっきり叩き付けた。防御も回避も出来ず、もろに技を受けた我愛羅はぴくりともしない。その光景にテマリとカンクロウは冷汗を掻き、言葉を失った。

 

 

「ハァ、ハァ…。これで決まりですね」

 

 

 今度こそ決まった。リーが勝利を確信した瞬間。我愛羅の体は砂となって崩れ去る。

 

 

「な、ありえん。一体、いつ身代わりと入れ替わった」

「痛みでリーの動きが止まった瞬間さ。敵ながら大した者だよ」

 

 

 カカシは写輪眼を発動し、視ていたから気付いたが…他の上忍も入れ替わる瞬間は気付いていない。強さだけではない。術の制度、仕掛ける速さ。何れも下忍クラスが出来る芸当ではない。何せ、白眼を持つ天才 日向ネジすらも入れ替わりの瞬間に気付く事は出来なかった。

 

 

 今はまだ実力は上忍には届かない。それでも末恐ろしい忍だとカカシは冷たい汗を掻いて我愛羅を見つめる。

 

 

 

 

 

「ククク さあ、次はどうする?どう仕掛ける?俺をもっと楽しませてみろ」

 

 

 立場が逆転し、今度は我愛羅が攻勢に出た。襲い来る砂を避けようにも痛みで体の自由が利かない。相手もそれが分かっているのだろう。仕掛ける攻撃はどれも手加減がされていた。甚振り、嬲って楽しんでいる。このまま自分は敗北するのか?何も出来ずに惨めな気持ちで相手に首を垂れるのか?

 

 

 

 

 忍術が使えない。この事で自分は散々、周りから馬鹿にされた。それでも諦めずに努力して…下忍になる事が出来た。努力すれば報われる。そう信じて我武者羅に突き進んだ。例え、忍術が使えなくとも立派な忍になれる。それを証明する為に…

 

 

 

 だけども現実は甘くない。同じ班になった日向ネジ、天才と呼ばれる彼に何度も挑んだ。努力で才能を超える。これも証明したかったから…しかし、自分は一度も勝つ事は出来なかった。

 

 

 それだけではない任務で遭遇した敵の術に嵌まり、自分は仲間の足を引っ張った事だってある。その度、仲間から厳しい言葉を投げられ、冷たい目を向けられた。悔しくて言い返そうにも返す言葉は出て来ず、謝る事しか出来ない。

 

 

 

 

 そんな自分が出来る事、それは努力する事だけ。厳しい鍛錬に励んでいる時は辛い事を忘れられる。でも悔しさが消えてなくなる訳じゃない。何度努力しても報われる事はなく、鍛錬をしても無駄に終わる。

 

 

 

 気付けば自分は泣いていた。数々の失敗、他者からの失笑。それらが頭から離れない。挫けるな、諦めるなと自身に言い聞かせれば、言い聞かせる程…その事実と笑い声も大きくなって押し潰そうとする。

 

 

 

 もういいじゃないか。自分は頑張った。どうやっても天才には敵わない…いっそ諦めてしまおう。そんな時だった。あの人が光明をくれたのは‥‥。

 

 

 

「何だ?もう鍛錬はお終いか?リーよ」

「…先生には関係ないです。一体、何の用ですか?任務の失敗での事なら詫びた筈です」

「その事じゃない。あれはもう済んだ事だ」

「…じゃあ、何ですか?僕は修行の最中です。邪魔はしないでください」

「リー お前は確かに…ネジとは違う。だが、お前もネジに無い物を持っている」

「気休めですか…。いりませんよ そんな物は」

 

 

 やめろ。何も言うな、これ以上…言われたら自分は抑える事が出来なくなる。

 

 

 

「気休めじゃない。お前は努力の天才だ。俺が言うんだから間違いないぞ」

「…果たしてそうでしょうか? 確かに僕は努力してきました。誰よりも修行を頑張れば、いつかは報われると思って…でも僕はネジに一度も勝てない。任務だって失敗して迷惑をかけてばかりです。本当に僕は強くなれるのか?努力しても無駄なんじゃないかって‥思うんです。ずっと…落ちこぼれのまま終わると考えると怖くて溜まらない」

 

 

 

 一人で抱え堪えていた感情を自分は初めて吐き出した。もう全て諦めてしまおう。そうすれば、これ以上…苦しむ事も傷付く事もない。全て楽になる。途方もない絶望感に自分は完全に囚われていた。

 

 

 

「お前は…そんな気持ちで努力していたのか? 甘えるなぁっ!! 確かに努力が全て報われる事はない。それでも自分を信じる事が出来ない奴に努力する価値はない」

 

 

 

 

 普段は見せない厳しい顔であの人…ガイ先生は自分を一喝した。言葉だけならきつい一言だ。しかし、この一言はどんな慰めや励ましよりも自分の心の奥深くに響いていた。

 

 

 

「おっと…すまん。つい熱くなってしまったな。リーよ まだ時間はあるか?」

「はい。大丈夫です」

 

 

 近くの岩場に腰掛けた後、ガイ先生は静かに語り始めた。それはガイ先生も自分と同じく落ちこぼれと呼ばれていた事。何度も壁に当たっても諦めることなく、努力を続けたから今の俺がいる。ガイ先生は笑ってそう言っていた。

 

 

「リー お前の忍道は忍術が出来なくても”立派な忍になれると証明する事”だったな。やりがいのある目標じゃないか。大変だろうがお前なら出来ると信じてる。そして俺が笑って見ていられるくらい強くなれ。それが俺とお前との熱い約束だ」

「オッス!! 必ず守って見せますっ」

 

 

 

 そうだ。ガイ先生は笑って見てくれている。僕はまだ諦めない。諦めては…いけない。

 

 

 

 

 

 

 

「…お前もこの程度か。興醒めだな」

「だったら、お見せしましょう。僕のもう一つの切り札をね」

 

 

 

 退屈そうに呟く我愛羅へリーは笑って言葉を返す。此処に来て、更に切り札を出す。誰もがハッタリと思うが…余裕の笑みを浮かべるリーの様子からハッタリでは無さそうだ。一体、どんな切り札なのか?検討もつかない。

 

 

 

「…ガイ。お前、まさかとは思うがあの事を言ってるのか?」

「流石だな。カカシ、そのまさかだ」

 

 

 思い当たる節があるカカシはガイの言葉で表情を険しくする。意味が分からないサクラは張り詰めた空気を醸し出す二人に困惑していた。

 

 

「冗談でも笑えないぞ。あの子は八門遁甲を?」

「ああ。開く事が出来る」

 

 

 ガイの返答にカカシは頭を抱えた。大方、自分と同じ境遇のリーに自信を与える為に伝授したのだろう。蓮華を会得している以上、可能性はあったが信じたくは無かった。

 

 

「あの子には”アレ”を使える才能があったからな」

「だからといって、お前…裏蓮華だけは教えちゃ駄目でしょうよ。あの子とお前に何があったのか知らないし、詮索するつもりない。だが、私情を挟んで超えてはいけない一線があるだろ」

「…お前にあの子の何が分かるんだ? 確かに私情があるのは事実だ。それにあの子には命を賭しても成し遂げたいものがある。その想いを強く感じたからこそ、俺は禁じ手とされる裏蓮華を授けたんだ」

 

 

 ガイの言葉にカカシは口を閉ざした。彼の気持ちは自分も理解は出来る。

 

 

 

「ガイ あの子はいくつの門を開ける?」

「五門だ」

「…なんてこった。努力でどうこう出来るものじゃないぞ」

「ああ。俺も驚いているよ。体術の才能なら俺すら超えている」

「ねえ、その八門何とかってはどういう術なんですか?分かる様に説明してよ」

 

 

 二人の会話を黙って聞いてたサクラだったが、痺れを切らして叫んだ。二人の様子から危険な術であるのは間違いない様だ。後ろで観戦していたネジも二人の会話は耳に届いており、密かに気になっていた。

 

 

 

「俺がリーに教えた蓮華は二つあってな。一つは先程見せた表蓮華。そして裏蓮華が存在する。これは八門遁甲という”リミッター外し”から始まる」

「リミッター外し?」

「ああ。チャクラが流れる経絡系には全部で八の門が存在する。これはチャクラの流れを抑える役割を持っている。普段は閉まっていて、術を使う時やチャクラを放出する時に開閉する。頭部から順番に開門、休門、生門、傷門、杜門、景門、驚門、最後に死門だ」

「因みに表蓮華は一の門 開門を開けるだけだ。開門で抑制を外し、休門で無理矢理に体力を上げる。裏蓮華は第三の門、生門から裏蓮華に入る」

 

 

 二人の話にサクラは戦慄を抱いた。負担が少ない表蓮華だけでリーはボロボロになっている。それなのに裏蓮華を使ったら…。

 

 

「サクラ、お前の想像通り。裏蓮華は諸刃の剣だよ。この八門全てを解放した状態を八門遁甲の陣と言ってな。これは火影すら上回る力を得るが…使用した者は代償として命を落とす」

 

 

 

 

 

 

 

 ネジ、サスケくん。そしてナルトくんも予選を突破した。こんなところで僕だけ負ける訳にいかない。だからこそ、許して下さいガイ先生。今こそ僕の忍道を貫き守る時…!!

 

 

 

「第三生門…開!!」

 

 

 

 体内の門を開いた瞬間。リーの体は紅く染まり異様な姿へ変貌する。更にリーは第四傷門を解放した。体から蒸気が立ち上がり、額に浮かぶ血管が負担の大きさを表している。

 

 

 

 

(切り札と言うから何をするかと思えば…只の見掛け倒しか。もういい、こんな詰まらない戦いは終わりだ)

 

 

 

 戦いを終わらせようと我愛羅が引導を渡そうとした刹那の瞬間。突如、風切り音が響いた後…自分の体が宙に浮かんでいる事に気付いた。

 

 

(何だ!? 俺は何故、宙に浮いているんだ?一体、何が…)

 

 

 

 何が起きたのか。それを思考する前に今度は上から凄まじい衝撃を受けた。障壁となる砂が上に向かっている事で我愛羅は攻撃を受けたのだと理解した。しかし、リーの超人的な速さの前に砂が追い付けず、あらゆる方向からの繰り出される全ての攻撃が容赦なく、叩き込まれる。一撃の威力も重く、食らう度に砂の鎧が剥がされ、重厚な守りを貫き我愛羅の体に着実にダメージを刻んでいく。これでは何れ、砂の鎧が完全に砕かれてしまう。防御が出来ない状態で攻撃を食らえば、一溜まりもない。

 

 

 

 この窮地を脱する策を巡らせる中、我愛羅より先に限界を迎えたのは攻めているリーであった。八門遁甲による急激な負荷で腕の筋が千切れ、激痛が迸る。時間が無いと判断したリーは此処で第五杜門を解放し、全身全霊の裏蓮華を我愛羅に繰り出した。

 

 

 蹴りの反動で離れた我愛羅を巻き付けた包帯で引き寄せ、拳と蹴りの同時攻撃。引き寄せられる反動で無防備になっている所への攻撃。轟音を立て地面に落下した我愛羅にテマリとカンクロウは絶句する。あの我愛羅が負ける!? 自分達が全力を出しても敵わないであろう弟が負ける…それは二人にとって受け入れがたい現実だった。

 

 

 

 遅れて着地したリーが我愛羅の方へ視線をやる。砕けた右腕と右足は最早、使いものにならない。これで決まっていなかったら…自分はもう打つ手は残されていない。

 

 

 

 どうか…これで終わってくれ。祈る様な思いは残酷な形で砕かれた。舞い上がる土煙の中から、伸びた砂の帯はリーの手足に絡み付く。嫌な予感を感じ、気力を振り絞り砂から逃げようとするも我愛羅の方が一手早く術を発動させた。

 

 

 

 我愛羅の術 砂漠柩で手足を砕き、動けないリーにとどめを刺すべく、追撃を仕掛けた。だが、その攻撃は助けに入ったガイによって、振り払われ未遂に終わった。

 

 

 

 まるで守る様に立ちはだかるガイに我愛羅は過去の記憶を思い出し、苦しそうに眉を顰めた。自分には理解できない出来事に我愛羅は知らず、その事を口にしていた。

 

 

「何故、助ける…?そいつはお前にとって何だ?」

「この子…リーは俺の愛すべき部下だ」

 

 

 

 愛。これは我愛羅が知らない感情だった。暫し、睨み合うガイと我愛羅だったが…時間の無駄と判断したのか。我愛羅は戦意を失くし、踵を返した時…思わぬ事が起きた。

 

 

 自分への視線を感じ、我愛羅が振り向けば起き上がり自分を睨むリーの姿が目に映る。満身創痍で戦う事はおろか、立つのがやっとの状態でありながら闘志はまだ尽きていない。

 

 

 しかし、当に限界を超えているのは事実。ガイはリーに駆け寄り、止めるべく声をかけようとしてある事に気付き、その目から涙が零れ落ちる。

 

 

 

 

 既にリーは意識を失っていた。自分が立派な忍者である事、それを証明する。只、その一心で彼は立ち上がり、戦う意志を示したのだ。生半可な気持ちや中途半場な覚悟では決して出来ない。ガイは愛する弟子を抱き寄せ。人目を憚らず泣いていた。

 

 

 

 我愛羅は二人の様子を無表情で眺めていた。彼が二人の気持ちを理解出来ない様に…他者もまた我愛羅の想いを理解する事は出来ない。波乱の予選第九試合は我愛羅の勝利で幕を閉じた。




今回の話 いかがだったでしょうか?


木ノ葉の忍が行う試合の中で印象が強いと感じる人も多いと思います。

次回、遂に予選が終了して木ノ葉崩し編に移ります。今回はガイとリーメインの回なのと二人の関係に自身は口出しする事を避けたというご都合の為、サチの出番はありませんでしたが今後は増えていきます。


次回もお楽しみに


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