ゆきひらに帰り咲く。 (洛南)
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一食「新しい道」

名前の呼び方等確認してないので間違えている場合があります。その場合は、こそっと教えて頂けると助かります。


二年生に上がる為の進級試験で葉山アキラと熊肉のお題で2対1で勝利し秋の選抜の雪辱を果たした幸平創真は、葉山アキラのいる待機室に向かっていた。

 

今回の勝負で葉山に勝ちはしたが葉山の頭の中に、幸平創真はいなかった。それどころか対決中にも関わらず他のことを考えていた葉山に2対1とギリギリだった。幸平なりに限界を越えて研鑽に研鑽を重ねて辿り着いた熊肉料理。

 

それが2対1では、素直に喜ぶ事は出来なかった。

 

携帯の着信音が鳴。

薙切アリスと表示された携帯を見て足を止めて電話に出る。

 

『......幸、平君。どうだったかしら?』

 

電話の奥から聞こえてくるのは、何時もの気さくな声ではなく、必死に涙を堪えてる声だった。

 

『なんとか秋の選抜の雪辱を果たしたって感じだな』

 

『そう、おめでとう。良かったわ。.....それとごめんなさい...私もリョウ君も』

 

『負けちゃった....』

 

退学。

 

その二文字が重くのしかかる。だが今回の結果は相手と真剣勝負で負けたから退学になる。別に卑怯な手段を用いられて負けた訳じゃない。だから相手に対して何かを言うつもりはない。

 

だけど。

 

納得はいかなかった。

 

『一つ聞いても言いか?』

 

『....なに、かしら?』

 

『今回の勝負で退学になるとしてアリスや黒木場は、どこに行くんだ?家が校内にあるけど。校内にある、家に戻るのか?』

 

『それは無理ね..。薊おじ様に喧嘩を売ったんですもの。あの家には、いられないわ。それに、えりなにとって私達は、邪魔だと思われてるみたいだし』

 

『家に戻れないってのは、酷すぎないか?』

 

というかそんなこと、娘大好きなアリスの親父が許さない気がするが。

 

『また北欧に行くと思うわ。そうしたら、もうえりなには....皆にも』

 

北欧...確かデンマークだったか。

 

『ならさ、アリス達が良ければ------------』

 

 

 

 

 

 

アリスから電話を貰った後、幸平は待機室に来ていた。待機室には、幸平、葉山、汐見先輩がいる。

 

そんな暗い空気の中を壊すように扉が荒々しく開かれた。

 

「はあはあ...幸平君。結果は?」

 

「どうした薙切。走ってきたのか?髪ボサボサだぞ?」

 

茶化すように言った幸平にえりなは、頬を染めながら答える。

 

「当たり前でしょ!....それでどうだったの?」

 

「なんとか秋の選抜の雪辱を果たしたって感じだな」

 

「そ、そう。良かったわ」

 

 

「葉山君。おうち無くなっちゃったね」

 

「悪いな、潤」

 

「じゅ、潤って呼ぶなー!私の方がお姉さんなんだよ!それに、セントラルに入ってた葉山君より今の方がずっと良いと思う」

 

葉山が負けたことにより、汐見ゼミは、解体。

 

「ならさ二人とも極星寮に来れば良いじゃん。極星寮のキッチン使えば今まで通り、研究もできるし、汐見先輩は極星寮OGなんすから問題ないっすよ。部屋も空いてるところ使えばいいし」

 

「幸平....その言葉だけで救われたよ。ありがとな」

 

「葉山?」

 

待機室がノックされて薊総帥の側近である男が入ってくる。

 

「葉山アキラ君分かってますね?」

 

その言葉を聞いて頷く葉山。

 

「君には、退学になってもらいます」  

 

「どうして葉山が退学にならなきゃいけねーんだよ!」

 

「幸平創真君。だったね、君には関係のない事だ。それに君も人の心配をしてる場合じゃ無いんじゃないのかな?各会場での結果が報告された。新戸 緋沙子、黒木場リョウ、薙切アリス退学決定。更に水戸 郁魅、イサミ・アルディーニ、伊武崎 峻、青木 大吾、佐藤 昭二、吉野 悠姫、榊 涼子、丸井 善二以上の面々も退学決定です」

 

「そんな...皆が」

 

「おう、お前ら他所のルートばっかり心配してて良いのかよ」

 

「竜胆先輩」

 

「アルディーニと田所ちゃんの相手。この竜胆先輩だったんだぜ?」

 

思わせ振りな表情と言葉で取り繕っているが、中村先輩の側近がタクミと田所の名前を出さなかった時点で二人は合格じゃないのか?

 

「二人とも...」

 

「薙切?」 

 

薙切は、血相を変えて走り出していく。

 

「ん?幸平は行かねーのかよ」

 

「ん?ああ、俺は良いっすよ。やることありますし」

 

「やること?」

 

「竜胆先輩。俺とタクミと田所、そして薙切で現十傑に食戟って出来ますか?」

 

「ん?あははは。幸平、流石にそりゃ無理だぜ~。私的には、面白そうだと思うけどな」

 

「そこをなんとかならないっすか?」

 

「無理無理。そんな勝負絶対受けさせてくれねーよ。ま、残念だけど諦めるんだな」

 

「いや、諦めないっすよ。だから動くことにします」

 

「ん?」

 

それじゃ、と軽く挨拶してタクミと田所が受けた試験会場に向けて走る。

 

と、その前に。

 

携帯を取り出して葉山に電話をする。

 

『どうした幸平。何かあるなら戻ってくれば』

 

『ああ、いや。そこに竜胆先輩いるし言いにくいんだよ。葉山、それと汐見先輩も------------』

 

 

 

 

 

これで良し、と。

 

 

通話を終えた幸平は、試験会場に急いだ。

 

 

 

 

「幸平君!何をしていたのですか!」

 

試験会場に着いてそうそう、薙切にお説教である。そして何故か....。

 

「そ、そうだべ!創真君!少しくらい心配してくれても良いだべ!」

 

田所までも怒っている。

 

「いや、俺はタクミと田所なら勝てると思ってたし、側近の人は二人のことを不合格って言ってなかっただろ?」

 

「あ、そういえば....」

 

「そんなことよりも、幸平。君の方はどうだったんだい?」

 

「なんとか勝てたよ。でも...納得はしてない。今回葉山は、集中してなかったし、久我先輩と中華研の人達が手伝ってくれたおかげであの料理を完成させることが出来たけど、それでも2対1。はは、まだまだだよ」

 

「幸平...」

 

「でもさ、勝ちは勝ちだ。そして俺はまだ強くなる。その為にも皆に相談がある」

 

「「「相談?」」」

 

 



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二食「退学?」

「それで幸平君、相談とは何かしら?」

 

既に説明してある葉山と汐見先輩も呼んで、説明することにした。

 

「さっき竜胆先輩に聞いたんだけどさ、俺達が現十傑に食戟挑むのは無理みたいなんだよな」

 

「現十傑に挑む!?」

 

「な、何言ってるべさ創真君!わ、私なんかじゃ全然足元に及ばないって」

 

「いやー田所ならいけると思うぜ」

 

「ふん、確かに田所さんならいけるだろう。だが幸平。勝てるとしても、相手が食戟を受けてくれなければ意味がないじゃないか」

 

「問題はそこなんだよなぁ。それでだけど。皆で遠月学園を退学しないか?」

 

幸平の言葉に、薙切もタクミも田所も、言っている意味が理解できず呆然とその場で立ち尽くしていた。その沈黙を破ったのは、タクミだった。

 

「何を言うかと思えば....幸平。ここまでどうして努力してきたのか忘れたのか?」

 

「いや、忘れたわけじゃねーよ。遠月に残るために、薙切に色々教わったしな」

 

「なら!」

 

「でもさ、それって皆がいたからじゃないのか?」

 

「そ、それは....」

 

「俺はさ、葉山と勝負して思ったよ。一緒に研鑽していけばあいつの凄いところ全部吸収してやるって。勿論今までの日々が楽しかったって言うのも確かにあるんだけどさ、皆のいなくなった遠月になんの意味があるんだろうな」

 

「ぐっ...だが幸平!確かにそうだとしても遠月を退学してどうすると言うんだ!」

 

「そ、そうですよ!幸平君!少し驚いて何も言えませんでしたが、それに折角ここまで勝ち進んだのに、それでは意味がないじゃないですか!」

 

薙切もタクミも必死に言ってくるが、幸平だけが思っていた。幸平は、遠月卒業生という名前が欲しいわけではない。

 

ただ一人の料理人として、頂点を目指していただけ。それ以上でも以下でもない。

 

「少し落ち着けよ、二人とも」

 

「葉山君...」

 

「おい、葉山。そもそもお前にも一言言いたかったんだ!」

 

タクミの言葉にたじろぐ葉山、視線をこちらに向けて助けを求めてくるが諦めろ、皆言いたいことは沢山あるんだ。

 

「な、なんだよ」

 

「次は僕達も頼れ!何一人で格好つけているんだ!君は一人じゃない」

 

「っ!.....そうか...すまないな」

 

「うう...葉山くん。良かったよぉぉおお」

 

そうだ、こんな風景を見ながら研鑽していきたいんだ。

 

「よーし、それじゃ聞いてくれ。薙切もタクミも田所にも、出来れば同意してもらいたいしな」

 

「.....は!そ、創真君!流石にそれは」

 

「他の皆は同意したぜ」

 

「....幸平君。それでその内容ってなんなのか教えてくれないかしら?」

 

知っている葉山は目を閉じて壁によりかかり汐見先輩は、祈るように両手を合わせて握っている。薙切とタクミと田所は、知らないから言葉を待っている。

 

「退学に、いやこの場合は自主退学か。した後に皆でさ、うちで働かないか?」

 

「へ?」

 

「え?」

 

「は?」

 

「「「えぇええええ!?」」」

 

三人の声は木霊する。

 

それも当然だろう。食事処【ゆきひら】にスカウトされているようなものだ。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい!私は、大衆料理屋で働く気なんてありませんからねっ!」

 

「そうだぞ幸平!そもそも僕は、実家の【トラットリア・アルディーニ】を継ぐんだ!ゆきひらで働くことは出来ない」

 

「そ、創真君。私も....その、ごめんなさい!」

 

想像通りの言葉が返ってきたな、でも少し勘違いしてるな。

 

「なんかお前ら勘違いしてねーか?」

 

「「「え?」」」

 

「一時的に手伝って貰うだけだ。それに場所は変わっても、皆一緒なら研鑽出来るだろ?」

 

「つまり君は、ここでは無くても皆が揃ってれば良い。そう思っているの?」

 

「いや、そうじゃねーよ。遠月で学べることも多いしさ。親父でも届かなかった頂きにも、まだ届いてないしな」

 

「それなら!」

 

「少し落ち着けって。幸平、遠回しに言っても伝わらねーんだ。直接言った方がいいだろ?」

 

「葉山君は、知ってるの?」

 

「ああ、俺も潤もな。じゃなかったら同意なんてしてねーよ」

 

そこまで言って葉山は、此方を見る。自分で説明しろ、という事なのだろう。あそこまで言ったんだから説明してくれてもいいのに。

 

「それ「おー創真。久し振りじゃねーか」....お、親父!?」

 

「才波様!?それにお爺様に堂島シェフまで!?」

 

「....わしは、おまけかの」

 

「何だよじいさん。落ち込むなよ、それより創真。中々面白そうな話してるじゃねーかよ。」

 

突然入ってきたのは、親父と薙切のじいさんと堂島先輩だった。

 

それよりも.....。

 

「髪わしゃってするな!!」

 

「ははは、元気そうだな。エリナちゃんも大きくなったな」

 

「才波様...」

 

「...それで親父達は、どうしてここに?」

 

「それは、私から説明しよう」

 

「堂島先輩?」

 

堂島先輩の話は、現十傑に食戟を受けさせて過半数の十傑の席を奪い薊政権を討ち果たす事だった。その為の手引きもしていたらしい。

だが、中村先輩は、既に別の試験会場に向かってしまったらしく一歩遅かったらしい。

 

「それで幸平君は、どうするつもりなのか聞かせてもらっても良いかな?」

 

「うっす。俺の目的は、今回退学になった奴等全員集めて【ゆきひら】に戻り俺や、薙切、それにタクミと田所も辞める。俺達は、どうでもいいかも知れないけどさ、薙切を手離すとは思えないんす。だから」

 

「成程な。それで【ゆきひら】に中村が来たときに食戟を受けさせて十傑の座を奪って皆も学校に戻れるようにする、か」

 

「おい親父!一番良いとこで人の台詞取るんじゃねーよ!」

 

「何言ってんだよ、別にいいだろ?」

 

「良くねーよ!」

 

「成程な。だが幸平君。その方法は」

 

「そうっす。薙切の協力が不可欠っす」

 

「わ、私は....」

 

薙切は、肩を抱いて震えている。昔何があったのか知らねーけど、薙切は親父さんに滅茶苦茶弱いからな....。

 

「エリナよ」

 

「おじい、様」

 

「たまには我儘も覚えなさい」

 

「っ!我儘.....」

 

「それにお主は、一人では無いのだ」

 

「皆....」

 

「おう」

 

「まあ、色々と迷惑かけちまったしな」

 

「葉山くん!ちゃんと謝らないと駄目だよー!」

 

「ふん、そう言うことなら話は別だ。僕も【ゆきひら】に行かせてもらう。それも皆でな」

 

「う、うん!そうだね!エリナさん。どう、かな?」

 

「皆.....。分かったわ!私も退学して【ゆきひら】に行きます!」

 

 



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三食「それぞれの皿」前編

この物語は、フィクションでありssである。

サブタイトル変更しました。6月18日。


葉山アキラは、負け小林竜胆は反逆者の皿を認めた事で3名がクリアーしたことを聞いた薊は、苛立ちを隠していた。今回仕掛けたのは、薊自らが選び抜いたセントラルの十傑。つまり、常に至高の皿を作り反逆者に負けるなんてありえない。

 

だから、今回の試験で邪魔物は纏めて排除できる筈だった。

 

「ふう...小林には、明日からの試験では外れてもらう事にしよう。これ以上、私の完璧なスケジュールを邪魔されたくはない」

 

現在薊がいるのは、遠月学園が保有している、高級ホテルのスイートルームだ。広々とした空間で部屋には、カーペットが敷かれており北海道でも足が冷えないように常に暖かくなっている。テレビにソファー、ベットに流石遠月学園保有のホテルと言うべきか、一度も使用されていない、広々としたキッチンまで付いている。

 

扉が二回ノックされる。

 

この部屋に来るとしたら、十傑第1席の司瑛士か側近の相田くらいだが。

 

「どうぞ、鍵ならあいているよ」

 

「失礼します」

 

「相田ですか。何かありましたか?」

 

「直接報告するべきだと思い、此方に伺いました。まず今回の試験に合格した反逆者。幸平創真、タクミ・アルディーニ、田所恵ですが....」

 

「ん?どうしたんだい?まさか食戟でも挑んで来たのかな?」

 

受けるつもりはない。此方にはなんのメリットも無いのだから。何より時間の無駄だ。

 

「いえ、退学すると言ってきました」

 

「....ほう。それは、喜ばしい報告ではないですか。ええ、今日は実に素晴らしい日だ」

 

まさか自主退学するとは、思わなかったがそれならそれで良い。これでエリナは、私の元に戻ってくるのだから。

 

「それと....」

 

「まだ何か?」

 

「薙切エリナ様も退学されました」

 

 

 

 

 

 

 

「いやーそれよりさー。中村先輩の顔見たかったよな。薙切が退学したなんて聞いたら絶対すごい顔になってると思うんだよなぁ」

 

丁度その話を側近から薊が聞いているとき幸平達は、一度遠月学園の極星寮に荷物を取りに戻るために飛行機に乗っていた。

 

席順は、才波城一郎の隣に堂島銀、堂島銀の隣に薙切仙左衛門。その後ろに薙切エリナ、その隣に幸平創真、幸平創真の隣にタクミ・アルディーニ。その後ろに田所恵が座っている。今日不合格になった、皆は先に帰っているらしく二便ほど速い飛行機に乗っているのでそろそろ飛行機を降りる頃かもしれない。

 

「もう幸平君!あまりそういうことは、言わないでもらえるかしら!」

 

「あはは、薙切さん。まだ怖いんだよね?」

 

「これだけ震えてればな」

 

「まあ仕方あるまい。初めての反抗なのだからな」

 

「確かにお父様に反抗するのは、とても怖いわ。でもね、私はもう逃げないと決めたのよ!だから悔いはないわ!」

 

「うむ!よく言ったぞエリナ!」

 

「お、お爺様!?起きていらっしゃったのですか!?」

 

薙切仙左衛門は、才波城一郎と堂島銀と共に盛り上がり先程まで酒を大量に飲んでいた為寝ていると思っていた。

 

「さっきまで寝てたけどな」

 

「さ、才波様まで!」

 

「エリナ君。それは良い変化だと思うよ。それより一つ気になっていたが...」

 

「やっぱりお前も気になってたか?銀」

 

「当たり前だ」

 

憧れだった才波城一郎と遠月リゾート総料理長であり、かつて才波様が在席していた頃の十傑第1位。そして過去の十傑で一番優れた成績を納めたという堂島シェフが二人して気になる事があると聞いてエリナは、気が気ではなかった。

 

「あ、あの。気になっているとは何でしょうか?」

 

勇気を出して聞いてみた言葉に返ってきたのは、意外な言葉だった。

 

「「飯が不味い!!」」

 

二人して発した言葉に、思わず納得するまで数秒かかった。まだ早い時間なので、酒を飲みながら軽食も取っていた才波様と堂島シェフのお口には合わなかったようだ。

 

この飛行機は、遠月とは関係ない普通の飛行機だ。一応ファーストクラスなので席も体を休めるには、十分すぎるくらいには、座り心地が良い。

 

「そんなに不味いなら、一度頼んでみないか?薙切もタクミも田所も腹減っただろ?」

 

「確かに空いてはいるけれど...」

 

「成程...こういう場所で食べる料理も勉強になるかもな」

 

「うん、私も食べてみたかったの!初めてのファーストクラスだから、もう楽しみで!」

 

「それじゃ頼んでみるぞー」

 

にしても...多いわね。

 

「メニューこんなに多いんだな。親父達が食ったのってどれだよ?」

 

「あーなんだったけなー。なんか四季の料理メニューだったぞ。確か...おお、そうだBonheurだ」

 

「Bonheurと言えば。フランス語でBon『良い』+Heur『時間』『幸せ』を意味する言葉だったな。つまり『幸せな時間を』という名の料理だな」

 

「へー、普通に旨そうだけどな」

 

「食ってみりゃー分かるよ」

 

「それじゃ皆これで良いか?」

 

「ああ、良い忘れてたが。それオードブルだからな?」

 

「え?」

 

その声は誰が発した声だったのか、一品だと思っていたが、料理名だと思っていたのは、コースの名前だった。しっかりと下にオードブルのメニューが複数書かれていた。

 

本格的に食べるには、少し早いが頼んでしまったものは、仕方がない。

 

頼んでから一品目は、ベーコンのシャキシャキサラダだった。カリッカリに焼いて、少し焦げ目をつけたベーコンにブラックペッパーと、ナツメグを使用しており、ブラックペッパーのピリリとした辛さと臭みの無いベーコンがシャキシャキのキャベツとマッチしており美味しい。そのあとのスープも美味しく食べれたが、問題はメインディッシュにあった。

 

「これは、フランス北部で郷土料理として食べられている『ブフ・ブルギニヨン』ね。でも...」

 

「ああ。牛肉を赤ワインで煮込んでいるんだろうが、煮込む時間が甘過ぎる、そのせいで肉は固くなってる」

 

「それにジャガイモとチーズを乗せてオーブンで焼き上げる調理法、アッシ・パルモンティエだが。オーブンで焼き上げている時間も甘いのか、チーズがうまく溶けていない」

 

「うん、これじゃあ折角のメインディッシュなのに...」

 

「はあ...ここの料理長は、何をしているのかしら?」

 

「確かにな...よし。俺ちょっと行ってくるわ」

 

「え!?ゆ、幸平君!?」

 

「ふん、幸平が行くのなら僕も行くに決まっているだろう」

 

「え!?タクミ君も!?」

 

「さて、と。創真も行ったことだし俺達も動きますかね」

 

「ああ、そろそろだからな」

 

「ギリギリ間に合ったかの」

 

「え?才波様?どういう....」

 

「ああ、元々この飛行機の機長とは知り合いでさ。乗る前に頼まれてたのよ。まっ、そのお陰でファーストクラスに乗れてるわけだけどな」

 

「だが本当に良かったのか?頼まれたのは、城一郎。お前だろ?」

 

「良いんだよ別に。それに俺も行くしな」

 

「あ、あのー私も良く分からないんですけど...」

 

「あーつまりだ。料理長が体調を崩してな今代わりの奴が料理してるんだけどさ、客に出せるレベルまで上がらないってんで、俺に頼んできたのよ」

 

「で、でも創真君達行っちゃいましたけど....」

 

「まあ、あいつも子供じゃ.....まあ大丈夫だろ。んじゃ、そろそろ行きますか」

 

「少し気になるが....そうだな」

 

「わ、私も!私も行きますわ!田所さんもね!」

 

「え!?は、ははははい!」

 



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四食「それぞれの皿」中編

読みにくかったらすいません。




感想ありがとうございます。とても励みになっています!


幸平とタクミは、現在飛行機に備えてある厨房に来ていた。

 

「あのーこんちわーす」

 

「おい、幸平!些か不作法だろう!」

 

「ん?君達は?」

 

「俺の名前は、幸平創真っす。さっき、料理を頼んだんすけど」

 

「おお!君達が機長から聞いていた助っ人か!助かったよ!!ささ、入って入って!」

 

「え?ちょ、ちょっ!」

 

この飛行機の関係者の人に手を引かれ厨房に連れていかれる、幸平とタクミ。厨房に連れてこられるとそこには、三人の料理人らしき人達がいた。

 

「君達が機長から聞いていた城一郎才波かい?」

 

その名前を聞いて幸平は理解した。全て親父の差し金なのだと。

 

「ああ、いえ僕達は」

 

「それ、俺の親父っす」

 

「!そうかい。息子か、それで君達料理は出来るのかい?」

 

幸平もタクミも、料理が出来るのか?と聞かれて出来ないと言う言葉を持ち合わせていなかった。

 

「勿論!」「Certo!」

 

「おお、頼もしいものだ。ささ、早速お願いするよ。これから注文が入る予定なんだ」

 

幸平は、学ランを脱ぎ捨て食事処『ゆきひら』の服装になり手首に巻いていた布を頭に巻く。

 

タクミも学ランを脱ぎ捨て、『トラットリア・アルディーニ』の服装に着替える。

 

「さあ、やるぜ!タクミ」

 

「ふん、遅れるなよ?幸平!」

 

何故食事を作っている。そんな疑問は、この二人には不要だった。幸平とタクミは、それぞれ厨房で調理を始める。

 

「おーおー、二人ともやってるな」

 

「親父!」

 

「城一郎さん」

 

厨房に才波城一郎が入ってくると、その後ろから堂島シェフ、薙切仙左衛門、薙切エリナ、田所恵が入ってきた。

 

「幸平君!勝手な事をし過ぎです!アルディーニ君もよ!幸平君に感化されてどうするのですか!」

 

何故か薙切は、御立腹だったが幸平が気にする気配はなく、タクミは、少しだけ反省していた。

 

「まあまあ、良いではないか。エリナよ。この二人を焚き付けたのは、城一郎と堂島なのだからな。そうじゃろ?」

 

「ははは、まあな。一芝居打たせて貰ったのさ」

 

「一緒にするな!私はサポートをしてもらおうと思っていただけだ!それに城一郎が元々頼まれた話を俺にも手伝って欲しいと言ってきたんじゃないか!お前は、昔からそうだった、俺を巻き込んでは、何をやるのか伝えずに無鉄砲に突き進み追って!俺がどれだけ苦労してきたのか分かっているのか!?」

 

「あ、あの冷静な堂島シェフが...」

 

「少し驚いたわね...」

 

「まあまあ良いじゃねーかよ、銀。そんだけ頼りにしてるんだからよ」

 

「良くない!今日という今日は許さん!」

 

「おっ、なら勝負するか?」

 

「望むところだ!」

 

「ならば!その勝負は、わしが仕切らせてもらおう!」

 

「お爺様!?」

 

「まず今回の依頼内容だが、わしにも話はきておる。オードブルを二種類作ることじゃ!なので、チーム城一郎に幸平創真、薙切エリナ!チーム堂島にタクミ・アルディーニ、田所恵のメンバーで一人一品作って貰う!今回は、前菜、メインディッシュには肉料理を、最後にデザート。この3品でオードブルを構成してもらう!」

 

「才波様と同じチーム!なんとか力にならなくては....その為にも、良く話し合って誰がどの品を作るのか明白にしなくては」

 

「今回は特別にルールを設ける。一つ!私語厳禁。二つ!料理の素材は使う物を順に取ってくるように。予め全ての食材の材料を持ってくるのは無しである!」

 

「そ、そんなの....同じ品を作っちゃうかも知れないよ」

 

「確かに、その可能性は充分にありえるだろうな」

 

「それから!今回の判定は、一品の皿の評価ではなく、三品の総合的な評価で決める。そして特別審査員として機長に来てもらっておる。機長、協力感謝する」

 

「いえいえ、私共も助かっております。料理長が不在の今、大いに助かります」

 

機長の隣には、CAの女性が一人と厨房に元々いた、コックが一人立っている。

 

「はわわわわ、ど、どうすんべ!あ、足さ引っ張らねーようにしねーと!」

 

「田所」

 

「....創真君?」

 

「田所なら大丈夫だって。心配すんなよ」

 

「ふん、当然だな。田所さんならやってくれるさ、敵なら脅威だが味方ならとても心強いよ」

 

「アルディーニ君...」

 

「そうよ、田所さんなら大丈夫よ。むしろ幸平君の方が心配だわ」

 

「薙切さん....皆」

 

「何をー!薙切、お前に絶対上手いって言わせてやるからな!」

 

「静まれい!...ごほん。これよりチーム才波とチーム堂島による料理勝負を行う!制限時間は50分!では!始めい!!」

 

 

 

 

 

 

 

チーム堂島side。(タクミ)

 

堂島シェフが最初に持ってきたのは、トマトとバジル。それにオリーブオイルにジャガイモか...。これだけでは、前菜なのかメインなのか判断が出来ん...だが。僕は変わると、あの日誓ったんだ。

 

秋の選抜で幸平に、あれだけの啖呵を切っておいて無様に負けた。それも魂よりも大切な調理器具まで取られ。そして幸平に取り返してもらった。

 

無様だった。

 

悔しくて、悔しくて、悔しくて...何より自分が情けなかった。

 

だから僕は誓ったんだ。変わるんだって。

 

堂島シェフの動き、材料、目線の先まで見て予測するんだ。次に何を必要として、何を作ろうとしているのかを。

 

......!そうか。

 

 

それなら僕は、あの品を作ろう。

 

田所さん、君なら分かる筈だ!

 

 

 

 

(恵)

 

わ、分からないべ.....。

 

これだけの材料で一体堂島シェフは何を作ってるなんて....。た、タクミ君は!....タクミ君、凄い集中力..堂島シェフの動作を見逃さないように見てる。

 

凄い...。

 

...!動いた。タクミ君が持って来たのは、ラム肉とナツメグ。それにハチミツ!これって....そうか、タクミ君がフォローしてくれてるんだ。それなら私だって!

 

 

(堂島)

 

さて俺の作る品は決まったが、二人はどうかな?...どうやら前回タクミ・アルディーニ君を見たときよりも、比べ物にならないくらい成長しているようだな。そして、それに答える、田所君も素晴らしい。

 

ふっ、久し振りだな。こんなに楽しい料理対決は。

 

だが勝負は、勝負だ!

 

この勝負勝たせてもらうぞ!城一郎!

 

 

 

チーム才波side。(エリナ)

 

なんとか才波様の邪魔にならないようにしなくては...それには、作っている品を見分けるしかないけど。

 

才波様が選んでから少したったけど何故かクレープの生地を焼いているのよね....。これはデザートを作っている。ということで良いのかしら?幸平君も何を作っているのか見ている様子だけど。

 

「よし!始めるか!」

 

動いたわね...ただお爺様が睨んでいるから、声に出さない方が言いと思うわよ?

 

 

.....?....!?な、どうして....どうしてホットケーキミックスなの!?

 

「~♪」

 

鼻歌歌ってる場合じゃないわよ!才波様は、デザートを作っているのよ!どうして貴方もデザートを作り出すのよ!

 

ホットケーキを焼き上げて何を取りに行く気かしら?......フィレ.....肉?

 

もう訳が分からないわ...。

 

いいえ、本当は分かっている筈よ。エリナ。

 

極星寮で、多くを学んだ筈よ。

 

やってやるわよ....やってやるわよ!!

 

 

 

(創真)

 

「~♪」

 

そろそろ焼いていた肉を一旦出してボウルで密閉させて少し置いておくっと。

 

「お、創真。お前珍しい焼き方知ってるじゃねーかよ。誰に教わったんだ?」

 

「十傑第1席司先輩だよ...」

 

あんま親父には言いたく無かったけど...。

 

「ははーん。お前その言い方じゃそいつに負けたな~?あーやだやだ。情けない」

 

「うるせーな!!次は俺が勝つんだよ!」

 

「うぉほん!!失格にするぞ?」

 

「でもよー今のは、料理器具持ってなかったからセーフだろ?」

 

「そんな屁理屈は通らん。良いか?次は失格にするぞ?」

 

「「すいません」」

 

「ちょっと幸平君!チーム内でいがみ合ってる場合じゃないでしょ?それよりも料理を完成させるのよ」

 

「ぷぷぷ、薙切まで喋ってるし。なんだったら俺の方が料理進んでるし」

 

「そ、それは!!」

 

「おほん!!」

 

「っ!!」

 

全く...幸平君のせいで...でも、そうね。私もそろそろ作り始めなくてわね。

 

 

 

(才波)

 

「っ!あれは!?エリナ様もデザートなのか!?アイスにフルーツ!?それにあれは、トマト!?」

 

「ふっ。エリナ、本当に成長したの」

 

エリナちゃんが作るのは...成程面白いな。こりゃ創真、うかうかしてるとお前の料理だけ見劣りしちまうぜ?

 

さて俺の方は、そろそろ仕上げだ。

 

 

 

 




さて被ることなく作り終えることは出来るのか!

そこは次回です!


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