S S D O ストーリー (トーマス・ライカー)
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ステーション起動(承前)

地上から宇宙を見上げれば、虚空には何も見えず、見えるのは何万光年も離れて、ようやく地球に到達した恒星の光のみ。

地球を取巻く軌道空間に在り周回しているのは、人工の衛星を除けば様々なデプリであり、その存在は懸念されてはいたが、あまり問題視されてはいなかった。

その、地球を周回するある軌道空間のとある一隅に、それはあったし彼らもいた。

だが地上からも、他の軌道空間からも、彼らが探知されることはなかった。

それも彼らも、準備を進めつつ目覚めの時を待っていた。

時に、西暦2128年・1月13日

全システム起動予定時刻13時間前で、今のステーション内はナイトタイム、総合司令室の中央付近に立って、フェイズ1のスタートまでの計画予定とそれに対しての総合進捗状況だけが映し出されているメインスクリーンを眺めていた。

司令室のシートは2/3以上が空席で、今座っているのもナイトシフトの担当者だったが、システムの起動前なのでほぼ全員が最終チェック・最終調整を進めている。

スクリーン右下隅の時刻表示(クロノメーター)は二つ。

上が現時表示で下が起動予定時刻へと至るカウントダウンだ。

予定は順調に進行中と40分前にも報告を受けた。

それは、今座っているナイトシフトスタッフの人数も証明している。

メインスクリーンの左下隅で緑色のシグナルが点滅し、呼び出し音が低く流れる。

「司令、Mネット経由で着信です」

「接続して映像と音声を・・」     「了解・・」

「こんばんは、シエンさん」

古くからの付き合いで私の本名も知っているが、この人は直接会話する場合でも私を本名では滅多に呼ばない。ハロルド・フィンチだ。

「どうしたんです? もう第1級警戒時間ですが・・・?」

「すみません・・そちらのフェイズ1が起動する前に、最後の連絡をと思いまして・・」

「こちらは順調ですよ・・フェイズ1は予定通りに起動します。すみませんが次の連絡はフェイズ2起動後にお願いします」

「了解しました・・・順調と言うことで安心しました・・」

「そちらの皆さんは元気ですか?」

「元気だよ・・」画面に長身の男が割り込む。ジョン・リースだ。珍しくウィスキーグラスを持っている。

「久しぶりですね。暇なんですか?」

「そちらが腕っ扱きのスタッフを50人も贈ってくれてからは、俺も副業の刑事の仕事をこなしながら、たまには一杯呑めるぐらいの暇を楽しめるようになったもんでね・・・まあそれは置いても、ささやかながらの前祝いと言うことさ・・・君の計画の完成を祝して・・」

そう言って彼は軽くグラスを掲げた。

「これからが大変なんですよ。こちらが起動すれば暫らくは騒ぎが続くと思いますから、気を付けて下さい。サマリタンが過剰な反応を示すかも知れませんから・・ところでハロルドさん、統合プロジェクトの方は如何ですか?」

「そちらでも分かると思いますが、フェイズ3のパート5です。そちらが起動したら、少しペースを速められると思いますが・・・」

「いや、ペースはこのまま維持した方が良いと思います。今はできる限りサマリタンの気を引かない方が良いでしょう・・」

「分かりました・・それではこれで失礼します・・お気を付けて・・」

「そちらも気を付けて下さい・・ああ、こちらから贈りました人員・物資・機材・装備は自由に使って下さい・・でもあまり目立たない方向で・・あぁフィンチさん、一つ、注意を喚起させて下さい・・私達は起動して、メッセージを5段階で世界に発信します・・すると世界の中で、私達に接触して関係を築こうとする意欲が顕れるでしょう・・・私達はそう言う人々に対して交信回線は常にオープンに設定します・・・サマリタンは当然、私達を脅威と認定するでしょう・・・そしておそらくは私達に連絡を取ろうとする人々も、脅威と認定する筈です・・・先の粛清でサマリタンは、脅威となり得る可能性を持つと認定した人々を殺害しましたが、それを再現しようとするでしょう・・・ですが今マシンは、私達のMネットの中にあってサマリタンより優位に立っています・・・サマリタンが狙おうとする人々の番号を出してくるでしょう・・つまり・・」

「・・これから出てくる番号は、ほぼ被害者・・?・・」と、リース。

「・・そう思います・・・忙しくなると思いますよ・・フェイズ2を起動したら、こちらからも様子を伺いますから、人手が足らないようでしたら、また廻します・・」

「ありがとうございます、シエンさん・・無事な起動完了を祈ります・・」と、フィンチ。

「ありがとうございます・・お互いに気を付けましょう・・・それでは、また後で・・」

回線が閉じられた。

司令シートに座って自分で淹れたコーヒーを飲み終わった頃、また呼び出し音が聞こえた。

「また着信です」   「つないで・・」

画面に現れた男は、山高帽を被ってコートを羽織ったまま椅子にふんぞり返っている。

傲慢そうに見えるがそれは自信と虚勢の現れで、実際に話せば彼はかなりに礼儀正しい。

彼と私の関係に於いて信頼できているのは、お互いに提供する情報の確実性と正確性だけであり、お互いに余計なことは話さないし教えないが、私は彼のやってきたこと、今やっていること、やろうとしていることの98%は把握できる。

我々の存在と目的とするところについて、教えられる範囲内では話しているが、彼がそれをどこまで信じているかは分からないし、我々としてもそれは関知するところではないし、正直に言うと関心もない。

彼の自称で、犯罪のコンシェルジュ。

我々の認識では、社会の裏側での情報・金銭・物資・人員の流通ハブのひとつ。

レイモンド・レディントン。通称「レッド」だ。

「ミスター・レッド。用件は何ですか? 既に第1級警戒時間ですが・・」

この男は決して自分からは口火を切らない。いつも相手から先にしゃべらせる。

「警戒時間に入っているのは知っていたが、フェイズ1が起動する前に最後の挨拶とお祝いを言いたかったんだよ、榎本さん。ご機嫌は如何かな?」

「こちらは順調ですし、総て予定通りで特に何も変わりませんよ。あなたもお元気そうですね、レッドさん・・何か心配事とか、知りたい事がありますか・・?」

「知りたいこと、欲しいものはいつもあるが、それらについて君に何を要求しても応えてくれないだろう?」

「それは内容によりますよ。フェイズ1が起動すれば、何かと騒がしくなるでしょうが、あなたに不都合なことにはならないと思いますよ。まあ何かあれば緊急回線で連絡を下さい・・・財団や同盟に何か動きはありますか?・・」

「彼等については君の方が私よりも余程知っているだろう?」

「それもそうですが・・末端の組織の動きは貴方の方が詳しいでしょう?・・何か気になる動きでも?・・」

「2日ほど前から(M)の動きが慌しいようでね・・」

「Mですか・・同盟の末端組織ですね・・サマリタンが動かしていると言う可能性もありますが・・同盟がこちらの位置を察知したなら、今頃は総攻撃が開始されているでしょうから・・問題はないでしょう・・まあ大丈夫ですよ。キーン捜査官だってここを見上げて、あれは何?ってあなたに噛み付くようなことはないでしょうから・・・フルクラムの方はどうですか?・・」

「・・具体的には動いていないようだが、かなり緊張しているな・・・リジーについては、そう願いたいものだね・・・それはそうと、アメリカと日本が極秘裏に共同で開発して建造して完成させた攻撃型原潜(シーバット)が一週間前に就役・就航して、5時間前に突然消息を絶ったようなんだが・・君の差金なのかね?・・」

「・・流石に耳が早いですね・・北太平洋作戦司令部におられるお友達からの情報ですか?・・それとも日本の民間企業にもお友達がいますものね?・・」

「・・私に友達はいないよ・・」

「件の原潜の艦長を調べましたが、なかなか面白い人物ですね・・今回の彼と部下たちの行動は、こちらとしても不確定要素であってどのように転ぶかはまだ分かりませんが、うまくすればこちらを側面援護してくれる勢力になってくれるかも知れませんね・・」

「・・と言うより、その彼の計画を知った上で、フェイズ1の起動スケジュールを組んだのじゃないのかね?・・」

「・・そこら辺は、ご想像にお任せしますよ・・それでは、他に特に無ければ次の連絡はフェイズ2起動後にお願いしますね・・では、お気を付けて・・」

そう切り上げるとオペレーターに手を振って見せて回線を切らせた。

「オペレーター、やまと、艦内の音声は拾えているな?」 「はい・・」

「浮上予定に変更はあるか?」

「ありませんね・・・予定通り、こちらのフェイズ1起動後、7時間で浮上する、との事です」    「了解した・・」

立ち上がってコーヒーカップと皿を片付けて戻ると、声がした。

「まだレッドなんかと付き合っているんですか?」

高野 由明だ。左後ろで壁に背中を付けて立っている。

「・・ああ、同盟や財団の末端の動きを知るには、丁度良い情報源だからね・・」

振り返らないで応えたが、気遣ってくれているのは分かる。

「でも、奴がやっている事の片棒を担いでいる感は、どうしても拭えないね・・」

芳邨 恭輔だ。何時の間にか真後ろのキャプテンシートに座って脚を組んでいる。

「こちらからは必要な時にしかコンタクトをとらないし、彼が何を言っても、教えられる事しか教えなかったし、教えないよ・・まあいずれは袂を分かつだろうがね・・」

「今の・・貴方自身は・・どうなんですか?・・もう眠っているべき時間でしょう?・・」

ジョン・フランツだ。コマンダーシートに座って腕を組んでいる。

「・・うん・・何か、見落としがあるような気がしたんだが・・やっぱり何も無いね・・」

「・・不安があるんですか?・・大丈夫ですよ。計画は今のところ順調で、スケジュールにもシステムにも問題はありません。バックアップの体制も充分ですから、寝みましょう」

ティナ・ヒートンだ。少し離れたスタッフシートに座っている。

その声は労りが主成分ではあったが、見透かすような、探るような響きもあった。

「・・ああ、もう寝むよ・・・しかし不思議なものだね・・いよいよと言う時が近付くと、どう言う訳か以前の事が思い出されるものなんだね・・・・」

「・・何を後悔しているのですか?・・・」

河邨 義之だ。左後ろの壁にもたれて腕を組んでいる。

「・・何も後悔などしていないよ・・・もしもの話に意味は無いからね・・ただ、思い出しているだけだよ・・・それじゃあ、軽く何か食べてから寝るか・・一緒にどう?・・」

「行きますよ・・実は皆であなたを迎えに来たんですよ・・ラウンジで軽く1杯呑りましょう・・・」

「良いね・・ああ、最後に一つだけ・・ターミナル1とターミナル2はどうしてる?・・」

「3時間ほど前からサイレントモードに入って沈黙しています。予定通り、こちらがフェイズ1を乗り切るまで連絡は禁止です」

「嗅ぎ廻っているだろうな・・・」

「最後の連絡の中で、原潜と哨戒機のパトロール頻度が25%上昇したそうです。向こうもピリピリしてますね」

芳邨が立ち上がって上着の裾を引っ張りながら言った。

「彼らの眼を逸らすためにも明日のイベントは重要ですね・・」言いながら歩きだす。

話していた全員でターボ・リフトに乗り込んだ。誰かがラウンジのあるレベルを告げる。

殆ど人のいないラウンジで、カウンターに近い大きいテーブル席に陣取った。

「全員、優しい夜食のタイプA2、それとライトビールをグラスで・・」

テーブルに来たウェイターに高野が開口一番で告げる。誰も何も言わなかった。

「やまとに付いているのはシードラゴン?・・」と、ジョン。

「うん、ポセイドンとネプチューンだね・・・あとは距離を置いてMLHMの2と3が追尾しているよ・・」

先にライトビールが来たので、全員で軽くグラスを掲げた。

「海江田艦長と言う人は、どこまで知っているんでしょう?・・」

ティナだ。欠伸を噛み殺した。

「具体的には、まだ何も知らない筈だ・・・だが、我々のプレッシャーは感じているようだね・・・」

「!・・ニュータイプ?・・」

「・・・そう言っても、別に差し支えは無いだろうね・・現時点では・・」

「・・彼は海を起点として・・・我々は宇宙(そら)を起点として、同じ目的地を目指している・・・」

食事も運ばれて来たので、皆、思い思いに手を付け始めている。

暫らくして手を止めると、独りごちるように言ってみる。

「サマリタンを開放したジョン・グリアも、世界を一つにしようとした、と言う点に於いてだけは、同じなのかな・・・・?・・」

「手法は全く受け容れられないし、最優先すべき対象も完全に履き違えている・・・全く問題外ですね・・・・・」

高野が夜食の残りをかき込みながら言った。

それから皆が食べ終わるまで、誰も話さなかった。

グラスを干して口を拭うと皆の顔を見渡す・・・疲れが見えるし、眠そうだ。

「よしっ・・じゃあ引き揚げよう・・シャワー浴びて寝るよ・・集合時間でよろしく・・」

そう言って席を立った。皆も同じように続く。

自分の個室に戻ると軽くシャワーを浴びてタンクベッドに入った。

このタンクベッドは最新型で、この中で3時間眠れば10時間の熟睡と同じ効果が得られる。

私はこの中で3時間と30分を過ごし、起きてタンクから出ると、改めてシャワーを浴びて身なりを整え、コーヒーを飲みながら私専用のパッドで最終のチェックを進めた。

 



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ステーション起動 同盟の反応

闇の中だった・・・・・。

「やはりいるな・・・・」       「ああ・・・しかも一つじゃない・・・・」

「そう・・・・少なくとも五つはある・・・・・」      「何がある?・・・」

「ふん・・大型のステーションだろう・・・・要塞と言っても良いかも知れないな・・・」

「何者だ?・・・」    「それがどうもはっきりしない・・・・」

「なぜわからない?・・・・」

「我々の知らないステルス技術・・・・サイコシールドを使っている・・・・・どちらも特性が読めない・・・・・」

「我等と敵対できるのは、我等と同等の者共だろう・・?・・・かつて袂を分かった奴等ではないのか・・?・・・」

「・・いや・・彼等ではないと思うな・・・証明はできないが、印象として違うと思う・・・無論彼等も、この状況は見ているだろう・・・・」

「何をするつもりだ・・?・・・・」

「・・・このまま隠れ続けるつもりではない事だけは確かだろうな・・・・」

「・・・姿を顕して、何を言い出すかでこちらの対処も決まるだろう・・・・」

「・・・・ああ、そうだな・・・・・」

フェイズ1、起動40分前・・・・・・・。

ステーション内はモーニングタイム・・・標準時刻は08:40・・・

司令室内のシートには、総てその席に座るべき担当者が座っている。

起動シークエンス・プロセス・コマンドは基本設定を基幹として、48000の想定される状況の変動・変化に即応できるよう、構築してある。

だから、私がいちいち指示を出さなくても、シークエンス・プロセスはスタッフとコンピューターが進めてくれる。

スタートの指示を出したら、後は見守っていれば良い・・・・・・・。

その時が来た・・・・・・・「起動シークエンス、スタート・・」

眠っていた巨大構造物が目覚め始めた・・・。

補助動力接続・・動力機構オンライン・・メインコンピューター起動・・オールコマンド・アレイ起動・・サイコチップ放出・・サブ・パワージェネレーター起動・・・プロセスは順調に進行していく・・・。

8基のサブ・インパルス・パワー・リアクターが始動すると、グッとパワーレベルが上昇する。総てのメイン・パワージェネレーターが稼動した。・・メイン・プラズマ・フェイズ・リアクター始動準備・・・サブ・インパルス・パワー・リアクター臨界へ・・・メイン・プラズマ・フェイズ・リアクター始動・・・FCSコンタクト・・・全セクション稼動・・オールグリーン・・駆動電圧確保・・ミラージュ・コロイド解除・・フェイズ・シフト展開・・耐圧、耐熱、耐放射線シールド展開・・サイコIフィールド起動・・ディフレクター・シールド展開(出力30%)・・サイコフレーム起動(出力30%)SSDOMAC01起動完了。

その存在の総てが遂に虚空にその全体を現出させた。

そのMAC01の姿を、予め方位と倍率を設定してジョンと一緒に設置した天体望遠鏡に接続したカメラとPCを繋げて画像を取込み、モニターを通してハロルド・フィンチは見ていた。

概念図やら基本設計図や完成予想図などは見せられていたが、実物の迫力と存在感はやはり違う・・・圧倒されて言葉も無かった。

隣で一緒に見ているジョンも圧倒されているようだ・・口元まで持っていったグラスが止まり、そのまま呑まずにテーブルに置いた。

「・あれがマック・ワンなの?・・随分派手じゃない?・・・あれじゃ狙い撃ちされるわよ・・・」

ルート女史とショウさんが一緒に顔を出した・・・それでもやはり初めて見る実物には圧倒されたようで、それ以上軽口を叩こうとはしなかった。

「SSDOMAC01、フェイズ1起動完了です・・・マックワンの防衛体制は完璧でしょう」

「・・だが撃たれるな・・・先ずは攻撃衛星群か・・・」と、ジョン。

司令室・・

「同盟・財団のネットが反応、活発に活動開始・・」

「攻撃的な精神感応波を検知・・侵入を試みています・・ディフレクターシールド出力プラス20%・・物理破壊的な精神感応波は検知できません・・・・」

「イルミナティ・・メイソン・・海の眼・・Q・・X・・ミュージアム・・スペクター・・フルクラム・・・ともに反応を検知・・NASAとNORADもともに反応を検知・・・エシュロン・ネットワークが反応・・活動開始・・アメリカでは反応活動開始順に、NRO、NGA、AFISR、NNSA、NSA、DIA、NSB、CIAなどです・・」

「・・イギリスでは、JIC、SS,MI5、SIS,MI6、GCHQ、DISなどです・・」

「・・フランス・ドイツ・ロシアなどでも、総て活発に活動開始です・・」

「ファーストメッセージのループ発信を開始します・・ペンタゴンから各方面への信号発信を確認・・・ビーム攻撃衛星8基・・レーザー攻撃衛星16基・・レールガン衛星20基・・ミサイル攻撃衛星18基が地上からの信号を受信・・・起動開始を確認・・」

「・・思っていたより少ないな・・」顔を左手で一撫でして言う。

「・・なめているんですかね?・・・」高野 由明が、足を組み替えて言う。

「・・どうかな?・・慌てているのもあるだろうが、あまり派手な事はしたくないと言うのもあるだろうな・・・ミサイルの弾頭は核だな?・・・」   「・・そうです・・」   

「起爆シークエンスは?・・」  「起爆コードの時限入力ですね・・・起爆コードを解析して対応するプロトコルを削除します・・非常起爆コマンドプロトコルも削除します・・ミサイルコントロールアレイも同期して、コースもこちらで制御します・・・」

 



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衛星からの攻撃とアテナの降臨

闇の中・・・

「・・あれがそうか・・」 「・・やはり入れない・・知らないサイコ・フィールドだ・・」

「・・破壊してしまえば良いだろう・?・・」

「・・守りはかなり堅いな・・攻撃能力もわからない・・しかもあれ一つじゃない・・」

「・・叩けばある程度の事はわかるかも知れんが、我々が直接それをすべきでも、またはその時期でもない・・・・」

「・・奴等のメッセージを全部聞いてから対処を決めても遅くはなかろう・・?・・」

「・・それより、何故今までわからなかった?・・・」

「・・そちらの方が今は問題だな・・・」

聖域(サンクチュアリ)ギリシャ・・・

半ば朽ち果てた神殿の前・・・ローブを着て仮面を着けた長身の男が、白い産衣に包まれた赤子を抱いていた。

「・・光の使徒達に感謝します・・宇宙(そら)の一角で目覚めた彼等にも・・」

僅かに顔を上向けて傍にいても聞えぬ程で呟いてから左肩越しに向けて・・・

「アイオロス・・」  「・はい・」  呼掛けて赤子を託した。

暖かい光の中・・・

「・・アテナは無事に降臨されました・・」

「・・宇宙(そら)の一角で目覚めた、彼等に感謝しましょう・・・」

「・・我々として、彼等への支援は・・?・・」

「・・今はまだ必要ないでしょう・・・その時が来れば、分かるようにはなっている筈です・・・」

司令室・・

「・・聖域の様子に変化は?・・」 「・・異常は観測されません・・無事に終わったようです・・」 「・あと30分は観測を続行してくれ・・」  「・・了解・・」

「・・最初の難関を突破しましたね・・・」ジョン・フランツが振り向いて言う。

「・・そうだな・・・裏高野と梁山泊の様子に変化はあるか?・・・」

「・・ともに異常は観測されません・・・・」

「・・・そちらも、もう暫く注視していてくれ・・・」  「・・了解・・・」

「・・当該攻撃衛星62基総てがこちらに向けての攻撃態勢を採りつつあります・・・攻撃開始カウントダウンのコマンドプロセスリンケージを同期・・・ビーム攻撃・レーザー攻撃は同一タイミングで330秒後・・・レールガン攻撃とミサイル攻撃はその30秒後です・・・防御体制を強化しますか?・・」  「・・侵入は諦めたようかな?・・」

「・そのようです・・引き続き、物理破壊的な精神感応波は検知できません・・・」

「・・まだ同盟のトップや幹部が直接出てくる時期じゃないだろうからな・・・でも念のために、ディフレクターシールドのパワーを10%上げよう・・それと、外壁のアルヴェージョンレベルを7にアップして・・・」   「・・了解・・」

「・・ファースト・メッセージに最初の攻撃モニター・データを付け加えて、ヴァージョン2に変換して、さらに30回ループ発信します・・・」

「・地上からメッセージは?・」 「ありません」 「・取り敢えず問答無用か・・・」

「地上のニュース・ネットワークは?・・」

「・・・・まださほどの反応はありません・・」

「・・・いずれ報道機関からもメッセージは来るだろうな・・・」

「・・・司令・・大国間、先進諸国間でホットラインでの通話が活発です・・・」

「・・ふん・・確認と根回しと口裏合わせってところかな・・」芳邨 恭輔が言った。

「・・・うまいな・・・」

廃棄地下鉄駅構内・・・・

「・・Mネットを通じてアクセスできた・・・起動指令を受け取った攻撃衛星は62基、ビーム攻撃衛星8基・・レーザー攻撃衛星16基・・レールガン衛星20基・・ミサイル攻撃衛星18基が攻撃態勢を採りつつある・・・」と、フィンチ。

「・・多いんだか少ないんだか・・・」と、ショウさん。

「・・この程度じゃ無理だろうな・・」と、リースも続いた。

「・・レクイエムとローエングリン、タンホイザーにどの位の力があるか・・・よね?」と、ルート。

「・・フィンチ・・同盟の下部組織は攻撃に出るだろうか?・・・」と、リース。

「・・どうかな?・・出るとしたら早まった勇み足か、同盟のトップに命じられて否応無くってところだろうね・・・」

「・・サマリタンは?・・・」と、ショウ。

「・・情報収集に集中しているようだが、あまり集まっていないようだね・・・・」

ケンタッキーのある山腹に建つ山荘の前・・・・

レイモンド・レディントンが山高帽を被りコートを羽織ったまま、粗末な椅子に座り粗末なテーブルに乗せたPCのモニターを見ていた。

右後ろにはベンベが立ったまま控えている。

「・・攻撃されますね?・・」

「・・ああ・・だが今地上にあるどの攻撃オプションでも、あれを撃墜するのは不可能だな・・・・」

指令室・・・・・

「・・ビーム・レーザー同時攻撃100秒前です・・」 「・・このまま待機・・ああ、攻撃3秒前に遮光フィールドを展開・・・」    「・・了解・・・」

「・・総員、第1警戒配置へ・・・」  「・・了解・・」

闇の中・・・・

「・・どうやら奴等に出し抜かれたな・・」  「・・奴等?・・」

「聖域(サンクチュアリ)だ・・」  「!・アテナが降臨したのか!?」

「何故分からなかった!・・」  「・・あれだよ・・あれに気を取られていた・・」

「!・今からでも聖域を・!」  「無駄だ・・もうあそこには誰もいない・・・アテナは既に隠された・・」  「・・やはりあれには光の使徒がいるのではないのか?・・」

「・・いや、それはない・・・いればわかる・・・・」

「・・だが連携している・・光の使徒があれに与しているのは確かだな・・・」

「・・16年前には、レムリアの覚醒を阻止できなかった・・やつらは着実に力を増しているぞ・・・」

「・・ラ☆ムーの星の実態もその在り処も、まだわかっていないからな・・・・」

「・・レムリアの覚醒を阻止できなかった件にも、あれの中の者共が噛んでいるのかな?」

「・・・今となってはわからんが・・・かも知れんな・・・だが慌てる必要は無い・・・向こうが力を増すのなら、こちらにも力が集まる・・・・毎回同じ事だ・・・バランスは保たれる・・・・問題はどう始めて・・・どう終わらせるかだ・・・」

ネプチューン・ブリッジ・・・・

「・・艦長・・やまとが増速中・・・距離が開きます・・」  「・・何があった?・・」

「・・海江田艦長が唐突に40ノットまでの増速を指示しました・・原因となるようなものを示す会話はありませんでした・・」

「・・予定ではもうフェイズ1の起動が完了した筈だ・・間もなく世界中が蜂の巣を突いたような騒ぎになる・・・コースと深度に変化は?・・・」

「・・・変化ありません・・・コース262・・深度950です・・」

「・・どうしますか?・・30秒で40ノットに到達します・・・3分で距離2800を超えます・・」  「・・遮音フィールドのレベルは?・・」 「・・最大です・・」

「・・海江田艦長・・・感受性のレベルはかなり高いとの評は読んだが・・・何か感じたかな?・・・・40分はこのまま待機・・ポセイドンには発信しなくて良い・・こちらが動かなければ向こうも動かない・・・付近に他艦は・・?・・」

「・・現状では確認できません・・・・報告はどうしましょう?・・・」

「・・Mネットを通じてやまと増速とだけ発信してくれ・・」   「・・了解・・」

MAC01指令室・・・・

「・・発射10秒前です!・・5秒前・・遮光フィールド展開・・来ます!・・・・・・到達しました・・・・・・加速荷電粒子ビーム、ディフレクターシールドで阻止されました・・・・シールドパワー93%・・回復します・・・レーザーはフェイズシフトで阻止されました・・・・相転移変動率・・3%・・回復します・・・損傷なし・・影響なし・・間もなくレールガン、核ミサイル発射されます・・・ミサイルは発射直後にこちらで制御します・・・?!うん?・・・異常を検知・・カウントダウンが止まりました・・・攻撃コマンドプロセスリンケージが削除されました・・・攻撃指令が取り消されたようです・・」

「・・取り消し指令はどこから?・・」

「・・・発信元はエシュロン・ネットワークですが・・分析によれば・・・・・・イルミナティですね・・・」

「・・弾を温存しましたね・・・」河邨 義之が言った。

「・・・・ああ・・もうすぐ我々の発したメッセージが、世界の中で響き始める・・・・彼等はそれがもたらす自分達には予測できない世界の動きを恐れている・・・・次はなりふり構わず撃ってくるぞ・・・・」

「・・ファーストメッセージのループ発信を終了します・・・今の攻撃のモニターデータを添付して、セカンドメッセージのループ発信を開始します・・・それと、やまとが40ノットに増速しました・・・」

「・・・浮上予定時間が変わりそうかな?・・・」  「・・それは無さそうです・・」

廃棄地下鉄駅構内・・・・・・

「・・カウントダウン10秒前・・・撃たれるぞ・・・5秒前・・・・・???・・・・」

「・・どうした?・・撃たれたんだろ?・・」と、ジョン。

「・・その筈だが・・被害は無いようだ・・シールドが阻止したな・・・」と、フィンチ。

「・・やはりあの程度じゃ無理だな・・・問題は次の攻撃だ・・・」

「反撃しないの?・・」と、ショウ。

「・・彼らは撃たない・・撃たずに余裕で防ぎ切る事で、圧倒的な存在感と優位性を示す・・・同時にメッセージを次々と発信することで、世界と敵に揺さぶりを掛けて追い込む・・・それがSSDO初期の基本戦略だよ・・・」と、フィンチ。

「・・次は核ミサイルとレールガンの攻撃だな・・・少し遅くないか・・?」とリース。

「そうだな・・ちょっと待ってくれ・・・おかしいな・・・カウントダウンが止まっている・・・いや・・・攻撃コマンドプロセスリンケージが削除されているな・・・どうやら攻撃指令が取り消されたようだな・・・」  「・・なぜ?・・」と女性二人。

「・・効かないと判断して、弾を温存したのだろうな・・・・これで次の攻撃が、更に過激なものになると言う事だ・・・・」そう言ってリースはグラスの中のものを一口含んだ。

巨大な会議室ホール・・・・・・巨大なモニターを二人のスーツの男が見ている。

「・・どうやら損傷は無いようです・・・」

「・・・やはりあの程度では駄目だな・・同盟は何か言ってきたか?・・・」

「・・いえ、要求・要請・要望、意見も含めてどのチャンネルからも聴こえません・・」

「・・昨日サロンで顔を合わせたばかりだからな・・・もっともその時宇宙(そら)には何も無かったが・・・・」   「・・・どうしますか?・・・」

「・・あれの存在を把握できていなかったのは、同盟の失態だ・・・その責を我々が負わねばならない理由はない・・・グランド・キャノンでも使えば良いだろうさ・・・・」

「・・・こちらのジェネシスは?・・」  

「・・グランド・キャノンを完成させるために、こちらの蓄えもほとんど吐き出した・・・だからこちらのジェネシスは・・まだ完成していない・・・それは同盟も承知している・・・」

MAC1指令室・・・・

「・・・エシュロン・ネットワークから各方面への発信を確認・・・・指令源はまたイルミナティです・・・こちらを攻撃可能な総ての攻撃衛星に、起動指令が発信されました・・・・それと、レクイエム・ローエングリン・タンホイザーの管制センターに攻撃準備指令が送られました・・・」

「・・・グランド・キャノンは使わないんですね・・・」ティナ・ヒートンがレモンティーのカップを置いて言う。

「・・あれは先頃完成したばかりの同盟の持ち物で、その存在は財団でもトップしか諒承していない筈だから、まだ早々には使えないだろう・・・それに電力の使用量が半端じゃないからな・・・・」

「・・まだ完成してないけど、財団だってジェネシスを持ってるから、どっちもどっちですけどね・・・・」

「・・またビーム・レーザー攻撃は同一タイミングだろう・・秒読みを同期してくれ・・」

「・・了解しました・・」 「・・予定通りビーム撹乱膜拡散弾のテストを行う・・・」

「・・了解・・・対空ミサイルランチャーに全弾装填・・・弾頭はビーム撹乱膜拡散弾・・」

「・・起動指令を受け取った攻撃衛星は、全部で1399基です・・ビーム攻撃衛星・128基・・レーザー攻撃衛星・286基・・ミサイル攻撃衛星・485基・・レールガン衛星・496基・・です・・その当該攻撃衛星総てがこちらに向けての攻撃態勢を採りつつあります・・・レクイエム3基・・ローエングリン・・タンホイザー・共にパワーチェンバーに充填完了・・・攻撃開始カウントダウンのコマンドプロセスリンケージを同期・・・総てのビーム系攻撃オプションは、同一タイミングで650秒後・・・レールガン攻撃とミサイル攻撃はその30秒後です・・・防御体制を強化しますか?・・」

「・・いや、ステーション本体に於いて変更はない・・」  「・了解・」

「・・攻撃開始100秒前に対空ミサイル全弾を発射して展開・・・その後攻撃開始8秒前に起爆して撹乱膜を形成・・」

「・・了解・・対空ミサイル全ランチャーを起動します・・弾頭はビーム撹乱幕拡散弾・・」

「・・・それと国連事務総長が緊急安保理の開催を、SNSMで招集しました・・・」

「・・・ニュース・ネットワークの状況は・・?・・・」

「・・・10大ネットワークの活動が活発になりつつあります・・・トップ間でも盛んに通話していますね・・・・」

「・・メジャーメディアには、あまり期待できないな・・・できるとしたら、中小のメディア・カンパニーだ・・・・」   「・・・そうですね・・」

 



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財団と同盟と国連と裏高野とサマリタン

廃棄地下鉄駅構内・・・・

「Mネットを通じてアクセスできた・・・攻撃に動員される衛星は全部で1399基だ・・・地上からのビーム攻撃とも同期して、カウントダウンは600秒前・・」とフィンチ。

「!おい!動き出したぞ!」リースの言葉に全員がモニターに顔を向けた。

「・!何よ、あれ・・?」とショウさん。

「・・あの大きさだと、対空ミサイルランチャーだな・・しかし、なぜ?・・」とリース。

「・・どうやら総ての対空ミサイルランチャーが起動したようだな・・しかし、ビーム攻撃が先に来るのにどうして?・・・」とフィンチ。

「・・おそらく弾頭は、起爆すればビームを撹乱する何かを形成するものなんだろう・・攻撃の前に発射して弾頭を展開させ、攻撃直前に起爆させてそれを形成するつもりだろう・」

リースはそう言いながら、感心していた。

ケンタッキーのある山腹に建つ山荘の前・・・・

「・・なぜ対空ミサイルなんでしょう?・・」とデンベ。

「・・ビーム撹乱膜拡散形成弾・・・だったかな?・・チラっと聞いたよ・・」

「・・それでこの攻撃も防いだら、次は?・・・」

「・・実はそれを私も考えているんだけどね・・・・」

そう言いながら紅茶のカップにブランデーを少し注ぎ、皿ごと取り上げて香りを確かめるレッドだった。

財団の指令室・・・・・

「・・・やはりビーム撹乱膜のようなものでしょうか?・・・・」

「・・・おそらくな・・・これでも効かないとなると、ほぼ打つ手が無くなるな・・」

「・・まさか、艦隊は出しませんよね?・・・」

「・・・私もそれを懸念しているんだよ・・・同盟の動きをもっと深く探ってくれ・・・」

「・・了解・・」そう言って若い男はその場から退がった。

国連・・・・事務総長執務室。

「事務総長!」飛び込んだ一瞬後に、ノックをしなかったことを後悔した一等書記官だったが、事務総長はそんな彼を見遣ることもなくモニターを凝視していた。

「・・見ているよ・・安保理は?・・・」

「SNSM(サイバーネットスペースミーティング)の準備はできましたが、時間合わせにはもうしばらく・・・」

「・・・情報は?・・」 「・・ほとんど集まりません・・・・と言うか、誰も知らないようで・・・」

「・・・あり得ないと思うがね・・・問題は、なぜ軍がシビリアン・コントロールを離れて勝手に動いているのかと言う事だ! 通信室に行く!・・」

そう言って席を立ち、杖を突きながら一等書記官を従えて部屋を出た。

サマリタンの本部・・・・

「・・ええ、そうです、上院議員・・(あれ)についての情報は、サマリタンでも事前には全く掴めていませんでした。・・ええ、現在全力で収集中です・・・テロリストかどうかはまだ判りませんが、いずれにしても規模が大き過ぎるようですね・・ええ・・判ったことはお知らせします・・それではまた・・・・」

通話を切って、ジョン・グリアは大きく息を吐いた・・・(あれ)が虚空に現れて以来、サマリタンは全く指示を出さずに情報収集に集中している・・・・だが有益そうな情報は、まだほとんど無いのが現状だ。

「・・エシュロン・ネットワークを通じて、誰が指令を出したのか、・・まだ掴めないかね?・・」

「・・はい、カウンター・サーチが弾かれて、入れません・・・」

思い切り渋い顔を作って腕を組み、右の拳を唇に当ててみる。

サマリタンと言えども、見られる世界・聴ける世界は所詮表の世界と言うことか・・

計算中とだけ表示され続ける、真っ白なメインスクリーンを睨みながら呟く・・・。

「・・・世界の裏側か・・・・・」

財団の指令室・・・・・・

「本部長!・・」  「・・どうだった!?・・」  「サハラとソロモン諸島で反応が・・・」  

「・・な・・ん・・だと・・?・・・動員される戦力は?・・・」

「・・主力艦が動員されるのは、確実なようです・・規模はまだ・・・・それにソロモン諸島なら・・・・」  「・・グローバーか・・・」  「・・どう言う事なんでしょう・・?」

「・・もう世間がどう思うかなど、お構いなしってことだな・・・CEOに連絡してくれ・・」

「・・了解・・・」

MAC01指令室・・・・・

「・・・ビーム撹乱膜ミサイル発射300秒前です・・・司令・・・同盟のネットワークを探っていましたが、どうやらこの騒ぎに乗じてガイゾックがサマリタンを統合しようとしているようです・・・統合プログラムにサマリタンを誘い込もうとしている形跡が見受けられます・・・」

「・・・なるほどな・・・ただで騒ぎを大きくする筈はないと思っていたが、そんな裏があるのか・・・サマリタンが多少傷付いても構わないと思っているだろうから、かなり強行的なプログラムなんだろうな・・・・ここは一つレディントン氏から向こうに話を持ち掛けて貰うかな・・・・メールでその旨を送信してくれ・・」   

「・・了解・・・それと司令・・・同盟の次の攻撃体制が出ました・・」

「・・次の・・?」   「・・はい、サハラ砂漠地下のドックと、ソロモン諸島の海底地下ドックへ同盟の秘匿通信が飛びました・・・・」

「・・・同盟のネットではなくて・・?・・」  「・・はい・・・」

「・・・どの程度の戦力が動員されるか分かるか・・?・・」

「・・オーディン・クラス4隻は確実なようです・・・付随する戦力としては、キプロス・クラスが数隻でしょう・・・ソロモン諸島に送られたのは、チャージ指令と出動準備指令です・・・あそこにあるのは・・・・」

「・・・大怪球グローバー・・・本気であれまで出す気かな・・?・・」

「・・・サマリタンも含めて、一石三鳥か4鳥ぐらいを狙っているのかも知れないな・・・・オーディン・クラス4隻と言うのは、まあ納得だ・・・一両日中には準備できる戦力だろう・・・・」

「・・オーディンか・・容積だけなら、ウチのマゼランの2倍ですね・・」 「・・ああ・・」

国連事務局通信室・・・・

「・・ご承知でしょうが、貴方方が監督すべき軍が、貴方方のコントロールを離れています!・・今すぐにそれぞれの軍を従わせるべきでしょうな!・・また、エシュロン・ネットワークを私物化して貴方方を出し抜き、貴方方の頭越しに軍に指令を出して勝手に動かしている者については、心当たりがおありでしょうな!?・・」

と、捲し立てては見せたが、スクリーンの向こうのメンバーには何も届いていないようだった。

「・・事務総長・・我々はそれぞれが担当する場所で、全力を挙げて事態の収拾に努めているのですよ・・貴方に指摘されるまでもなくね・・・共同ネットワークのハッキングについても、情報を共有して全力で捜査中です・・」と、アメリカ大使。

「・・我々の軍事共同ネットワークが多少過敏に反応しても、致し方ないのではないかね?・・あんなものが突然頭の上に現れれば・・・?・・」と、ドイツ大使。

「・・我々個々の政治的な指示体制も、今は混乱の只中にある・・それに軍組織は、緊急非常時にはトップダウンで比較的に自由に動く・・・それは事務総長・・貴方も承知しているだろう・・?・・」と、イギリス大使。

「・・事務総長・・軍の動きに難癖を付ける前に、まず頭の上のあれを見て、我々(安保理)が、あれに対して基本的に、どう対応するのか方針を定めるべきと思うがどうかね?・・」と、フランス大使。

と、ここまで黙って聞いていた事務総長だったが、スクリーンの中で腕を組んだまま微動だにしない中国大使に声を掛けた。

「・・中国大使のお考えは・・?・・」

「・・今取得できる情報だけで、あれへの初期対応に於ける、基本方針は定めるべきでしょうな・・・だが事態は急速に動いている・・・共同迎撃システムによる大規模攻撃が間も無く始まるだろう・・・その後に対話の道を模索するのは、難しいでしょうな・・」

「・・彼らのメッセージを皆さんは、どう考えますかな?・・」

「・・どこの誰かも分からない者が、顔も見せずに言うだけの言葉について、何をどう考慮すべきといわれるのかな?・・」イギリス大使だ。

「・・あれは最初から我々の頭の上を抑えた・・お分かりかな?・・最初から戦略上で圧倒的に優位に立って出現したあれの存在を何もしないで認める事は、政治的にも軍事的にも経済的にも不可能ですな、事務総長・・」アメリカ大使だ。

「・・その立場で例え何を語ろうとも、それは所詮上から目線での戯言と同義ですな・・」フランス大使だ。

「・・ゆえに初期対応は、先制攻撃以外にはあり得ないと言うのが、我らの統一見解です・・事務総長・・」ドイツ大使だ。

事務総長は口をへの字に結んだまま、マルチモニターを睨み付けた。

一等書記官は、絶望的な感覚で事務総長の横顔を見ていた。

ケンタッキーの山荘の前・・・・

「・・レイモンド・・」

PADでマルチモニターをチェックしていたデンベが、気付いてそのままレッドに渡した。

「・・うん?・・メールか?・・誰から?・」   「・・上です・・・」

「・・やれやれ・・・何だって?・・・ふん・・・ガイゾックが・・・そうか・・・」

「・・・何ですって?・・」

「・・同盟のAIが、サマリタンを取り込もうと画策しているそうだ・・・そのためだけにこれ程の騒ぎが必要なのかどうかは疑問だがね・・・・」

「・・それでは、あの人に連絡を・・?・・」

「・・そうだな・・・随分と久しぶりになるが・・・彼と話をすべき時が来たようだね・・・」

高野山・裏高野・裏本堂・・

大憤怒不動明王坐像の前に、枯れたように座る老僧に声が掛けられた。

「・・・阿闍梨殿・・星海殿です・・・」

「・・おお・・これは星海殿・・遠路遥々ご苦労様でした・・」

「・・何の・・この一大事には、じっとなどしておられませんからな・・」

「・・宇宙(そら)の一画ではすでに・・・」

「・・分かっております・・それは彼らに任せる他にはありますまい・・・」

「・・はい・・それで星見の僧である貴方の見立ては・・・?」

「・・予断は許されないようですな・・・長星(彗星)の動きが日食にどう関わるか・・もう少し先を読まねばなりませぬ・・・お部屋をお借りできますかな・・?・」

「・・それは勿論・・・では、ご案内を・・・」

「・・それと・・・・明の様子は・・?」

「・・はあ・・少々感情的になってはいますが・・大丈夫です・・朋子と一緒に瞑想の指導をしておりますので・・・・」

ターミナル2『海底基地』(サイレント・モード)

ある少女が足早に第2指令室(SCCR)に入って来た。

「・・フランソワーズ・・・フランソワーズ!・・」

「!・・どうしたの?ボー?・・あまり感情的にならないで・・」

「・・分かってる・・ごめんなさい・・でもイワンが目を覚ましたから・・」

「イワンが?・・それで、何か言っているの?・・」

「・・ううん・・特には言っていないけど、知らせた方が良いかと思って・・」

「・・分かったわ、ボー、ありがとう・・・ジェイクの様子はどう?」

「・・ジェイクも起きて何か書いてる・・ねえ、大丈夫なの?・・」

「・・大丈夫よ、ボー、安心して・・ここでしばらく静かにしていれば安全なのよ・・・ねえ、眠れないんだったら何か飲む?・・」   「うん!」

「じゃあ、適当にレプリケイトしてきて?・・」  「分かった!」

ボーがその場から離れるとフランソワーズ・アルヌールは素早くコンソールを操作し、Mネット経由でメッセージを送信した。

MAC01指令室・・・・・

「・・・ビーム撹乱膜ミサイル発射30秒前です・・・司令・・・Mネット経由でターミナル2から短いメッセージですが・・「イワンが眼を覚ましました・・」です・・」

「・・ふ・・ん、何か言っていたかね?・・」

「・・いえ、それ以外には、何も・・」

「・・そうか・・吉兆と捉えよう・・ミサイル・コントロール確認!」

「ミサイルコース・・散開角度確認・・設定に異常無し!・・・・発射10秒前!・・・・・・・・5秒前!・・・・・3・・2・・全弾・・発射!・・」

対空ミサイルランチャーの全基が、ミサイルを斉射した。

その様子はハロルドやジョンが見守るモニターにも映し出された。

「・・ミサイル全弾・正常発射確認・・速度・コース正常、順調に展開中・・弾頭爆破まで75秒・・地上及び攻撃衛星からのビーム・レーザー合同同時攻撃のカウントダウンも変わらず進行中・・・攻撃開始コマンド・プロセス・リンケージ、異常ありません・・」

「・・センサーは、サハラ砂漠とソロモン諸島への監視を強化してくれ・・」

「・・了解しました・・」

廃棄地下鉄駅構内・・・・・・・

全員がモニターを注視していたが、別のモニターが点灯して文章を映し出した。

それを読んだフィンチが驚いて振り返る。

「!・・皆、マシンが対象者を提示した・・!・・」

「・・誰が危ないの?・・」 振り返らずにルートが訊ねる。

「・・サマリタンだそうだ・・」

「何ィ!?」と、ジョン。  「どういう事?・・」と、ショウ。

「・・同盟に属するガイゾックと呼ばれるAIが、この騒ぎに紛れてサマリタンを強制的に統合しようとしているそうだ・・タイミングを計って強行統合プログラムに誘い込み、食い付かせようとしているらしい・・・・」

「・・向うも同じ事を考えてるって訳ね・・」と、ショウ。

「・・こちらの統合プログラムのフェイズ進捗では間に合わないのか・?・・」と、ジョンがグラスを置き、振り向いて言う。

「・・ああ、向うはかなり強引な手法でやるつもりらしい・・・サマリタンが多少傷付いても構わないぐらいのね・・・・」

「・・で、どうする?・・サマリタンを助けるなら、(上)に相談した方が良いだろう?・・もっとも(上)だってもうこの事は知っているんだろう・・?・・」

「・・多分ね・・それじゃあ、Mネットを通じて(上)にメールを送ろうか・・」

その瞬間、宇宙(そら)を映していたモニターから白光が溢れた・・対空ミサイルの弾頭が起爆した。

MAC01指令室・・・・・

「・・起爆5秒前・・・・・・3・・・・・・・・・・起爆!・・・全弾起爆・・・撹乱膜形成開始・・・順調に形成中・・・・ビーム・レーザー攻撃5秒前・・ランチャー格納終了・・遮光シールド展開・・来ます!・・」

「発射!・・」 幾つかの場所で、何人かの管制官が号令した。

地上からは強大出力の陽電子ビームが5本屹立し、攻撃衛星群からも加速荷電粒子ビームとレーザーが発射された。

が、MAC01の外壁には何も届かなかった。

ビーム撹乱膜は予想以上の効力を発揮し、発射されたビームは総て撹乱され拡散させられた。レーザー光も撹乱膜の微粒子や事前に散布されていた金属微粒子によって撹乱され散乱させられ、全出力の1%も残らなかった

「・・損傷ありません・・・影響ありません・・」   「・・よし・・」

「・・司令・・核ミサイルとレールガン攻撃のコマンドプロセス・リンケージが、再び削除されました・・・攻撃中止指令は・・エシュロン・ネットワークを通じて、またイルミナティから出されました・・」

「・・・そうか・・・了解・・・サハラの地下ドックの動きは?・・・」

「・・オーディン・クラス5隻・・・キプロス・クラス10隻が発進準備中です・・・」

「・・ソロモンの海底ドックは?・・・」

「・・チャージには、まだかなりの時間が掛かるようですね・・・」

「・・艦隊攻撃が先か・・・さて、どうするかな・・・・」

「・・最初から15隻とは、向うも奮発しましたね・・」と、リドリー・ケインがコーヒーカップを皿ごと渡してくれながら言った。

「・・そうだな・・・ガイゾックの状況は判るか?・・・」

「・・最終フェイズが進行中ですね・・・おそらくあと2時間ほどで終了するかと・・その件でフィンチさんからメッセージが来ています・・・マシーンがサマリタンが危ないと弾き出したそうで・・・・」

「・・ふうん・・・マシーンの能力は、予想以上に上がっているようだね・・・同盟の計画を独自に探り出せるようになるとは・・・サマリタンについては、レディントン氏に当たって貰うので待機していて下さいと返信して・・・」  「・・了解・・」

「・・よし・・これまでの攻防の記録データを添付してサード・メッセージを編集・・ループ発信を開始してくれ・・」  「・・了解・・」

「・・それで、どうしますか?・・こちらも艦隊を?・・」と、椙元 征史郎が訊いた。

「・・いや、騒ぎは大きくしたくないし、こちらの手の内も見せたくはない・・・モビルスーツデッキに連絡を・・・強行特務偵察工作隊を一個中隊で編成して発進準備・・」

「・・了解・・で、機体は何を?・・」

「・・中隊長機にはマラサイを・・小隊リーダーにはハイザックを・・あとはザクⅡで良いだろう・・ブースターベッドとシャクルズも用意して・・」  「・・了解・・」

廃棄地下鉄駅構内・・・・

「・・・(上)から返事が来た・・・」フィンチがモニターに映し出された文章を読んだ。

「・・サマリタンの危機的状況を打開するため、レイモンド・レディントン氏に交渉を依頼したのでしばらく待機されたい・・・」

「!なんですって!」と、ショウ。  「!レッドに!?」と、リース。

「!・・あの二人、知り合いだったの?・・」と、ルート。

「・・どうやら、そうらしい・・」

『財団』指令室・・・・

「・・やはり、何のダメージもありません・・・ビーム撹乱膜・・予想以上の性能ですね・・」

「・・艦隊は?・・」 「・・18時間ほどで発進準備完了です・・」

「・・グローバーは?・・・」   「・・準備完了には、60時間ほどですね・・」

「・・どんな作戦で叩くんでしよう?・・」

「・・さあな・・グランド・キャノンに動きは無いな?・・」 「・・ありません・・」

「・・あれを使われると、こっちのシステムにも影響が出るからな・・まあ、順当に考えれば艦隊で陽動を仕掛けて向うに隙を作らせ、そこをグローバーで叩く、と言うのがセオリーだと思うがね・・・」

国連事務局通信室・・・・

「・・さて皆さん、どうやらどんな兵器を使用しても「あれ」を破壊する事はおろか、損傷を与える事さえ不可能なようですね・・・」

国連事務総長は厳しい表情だ・・・マルチモニターに映し出されている安保理メンバーでもある各国国連大使は、中国大使を除いて苦虫を噛み潰している・・・中国大使だけは、先程から表情を変えていない。

「・・・事務総長としても安全保障理事会議長としても、「あれ」に対する初期対応の段階は過ぎ去ったと判断します・・・続いて次の対応段階に移行せざるを得ないとも判定致しますが・・その為には、あの中にいる「彼ら」の意思と目的を確認しなければ、次の対応段階へは移行できないと判断させて頂きますので、事務総長と安保理議長の権限として、「あれ」との間での専用連絡室を開設し、こちらからコンタクトを執ることを、ここに決定します・・」

「・・これ以上の攻撃手段が無い以上・・この決定で異存はございませんな・・?・・・」

『サマリタン』指令室・・・・

ジョン・グリアは上院議員からの2回目の通話を切った。状況は全く変わらない。システムは全力を挙げているが、情報は殆ど集まらない。彼は、この10数年感じた事の無かった無力感に苛まれ始めていた。

また電話だ・・舌打ちして見たが、非通知のコールだ・・・少し警戒しながら開く・・

「・・もしもし・・」

「・・いやあぁ、ジョン・・久し振りだな・・相変わらずの宮仕えとは君らしいが、元気そうで何よりだよ・・」

ジョン・グリアは確かにその声を聴いた。だが声の主が誰なのかに想い到るまでに、たっぷり5秒は掛かった。そして傍にいた若いスタッフが驚くほど眼を丸くした。

「!レッド! レイモンド・レッド・レディントン! こいつは驚いた・・長生きはするものだ・・生きていたのか・・」

横目でグリアはモニターを見遣ったが、逆探知不能と表示されていた。

「おいおい、よしてくれ・・噂で聞いていただろう?」

「信じやしなかったよ、レッド・レディントンが生きているなんてな・・チュニジアで死んだと思っていたが・・」

「・・確かに死んだよ・・2分半程だったがね・・お蔭でとても信じられない光景を見たよ・・・チュニジアかぁ、懐かしいな・・チュニスの店で一緒にケバブを食ったよな? 覚えてるか? あれに掛けたヨーグルト・ソースが絶品だったな・・」

「・・ケバブに掛けるのはチリ・ソースと相場が決まっていると思うがね・・」

「チッチッ・・だから君は通じゃないんだよ・・」

「・・フッ、そんな軽口を聞くのはブダペスト以来だな・・」

「・・ああ、ブダペストも懐かしいな・・あれからもう・・」

「・・17年だ・・で? 昔話をしにわざわざ掛けてきたのでもなかろう? まさかまだスパイごっこでもやっているんじゃあるまいな?・・」

「・・まさか!・・実は君が解放したサマリタンが危機的状況に陥りつつあると言う事を知らせようと思ってね・・・」

「!・・ほう・・サマリタンを知っているのなら、マシーンも知っているな?・・」

「・・勿論知っているよ、だが私はマシーンに与する者、と言う訳でもない・・・私は君がサマリタンを解放した時の気持ちがよく解るんだよ・・・お互い同じ目的の為に組んでいた時期もあったからな・・・・」

「・・・フルクラムか・・・」

「・・そう・・君はフルクラムを暴露する為にサマリタンを解放したんだろう?・・・だがサマリタンと言えども読み取れるのは表の世界の事だけであって、未だにフルクラムの影すら捕まえられないだろう?・・・私はレナード・コールに会ってフルクラムのファイルを手に入れたよ・・・」

「!・・レナード・コールをよく見付けたな・・・」

「・・ああ、会った直後に殺されかけたがね・・・そして今の私は君よりもっと事情に通じている・・・この世界の裏側のそのまた影の中には、数十を優に超える狡猾で凶悪な秘密結社が蠢いているんだよ・・・・それらから見ればフルクラムなど使いっ走りのようにも見えるぐらいのな・・・フルクラムも含めてそれらは独自のデータ・ネットワークと通信回線を持っていて、それは通常のネットワークには何処にも接続してはいない・・・だからサマリタンにも判らないのさ・・・」

「・・それでサマリタンに迫る危機とは?・・・」

「・・それらの秘密結社の内の一つが、サマリタンよりも狡猾で高度なAIを創造した・・そのAIがサマリタンを強引に統合しようとしているんだ・・・私の掴んだところでは、その準備はあと2時間ほどで終わる・・・なあジョン・・・この通話は君にしか聞こえない・・・スクランブル・ジャミングを掛けているから、サマリタンにもモニターできない・・・今から大事な話をするから、カメラに背を向けてくれ。唇を読まれるぞ・・・今のサマリタンは腹を空かせて前しか見えない馬と同じだ・・・目の前に人参をぶら下げられれば、ためらいもなく喰らい付くだろう・・そう言う統合プログラムにサマリタンを食い付かせるつもりなんだよ・・・」

「・・では、どうしたら良い?・・」

「・・君はサマリタンを手に入れた時に、同時に見つけた筈だ・・・サマリタンを強制的に眠らせるスリープコードを・・・それを打ち込んでサマリタンを眠らせるんだ・・・裏の連中がサマリタンを統合する事を諦めるまで・・・」

「・・・君の言う事をどうして信じられるんだ?・・・」

「・・・頼みを聞いてくれるなら、私がレナードから手に入れたフルクラム・ファイルのコピーをやろう・・・それを元にすれば、サマリタンならフルクラムを世界に暴露する事もできるだろう・・・勿論、ファイルを渡すのはサマリタンが眠った後になるがね・・・信じて貰うしかないが、信じて欲しい・・・・信じてくれるなら、決断は早くしてくれ、ジョン・・・それからサマリタンが裏のAIに乗っ取られれば、AIは(M)を動かしてそこにいる君達を抹殺しようとするだろう・・・生延びられる可能性は、かなり低いな・・・だからと言う事でもある。あと90分も無いぞ・・・それじゃあな・・」通話は切れた。

ジョン・グリアは沈痛な面持ちで端末をポケットに入れた。

サマリタンに(M)の現状について表示させたが、それは3日前に見たのと全く同じ内容だった。

レッドの言う通りだ。今やサマリタンは全く無防備な状態にある。(M)への支配力もかなり低下しているようだ。極めて危険な状況とも言えるだろう。

それにサマリタンは、この私が不明な相手と通話していたのに何も対応しようとしない・・考えられないことだ・・これまでのサマリタンでは・・。

スタッフには暫く頼むと言い置いて自分の執務室に入る。デスクに歩み寄り、椅子に座る。

深く息を吐いて両の目頭を揉んだ。腕時計を一瞥してから煙草を出して口に咥えた。

右胸を左手で軽く押さえて確認してから、額を左手で支えて俯いた。

ネプチューン・ブリッジ・・・・・

「・・艦長・・Mネットを通じての、状況の通達です・・・」

そう言ってオペレーターが1枚のプリントを手渡した。

「・・ん・・・ふん・・・・そこまで騒ぎを大きくするとはな・・・・聞いてくれ!・・・ソロモン諸島の海底ドックにある、大怪球グローバー3体が出動準備に入っている・・・準備完了は、約60時間後だそうだ・・・・60時間後ぐらいでの、やまとの状況予測は?・・・」

「・・・既に浮上して、再び潜航しているでしょう・・その先は分かりませんが・・・」

「・・・近くはないがそれほどに遠くもないな・・それにモノがモノだからドックが開けば遠くからでも分かるだろう・・・それ以前に奴らから見てドックの周辺はもうそろそろ警戒水域になるはずだ・・・となると・・・・?」

「・・海の眼か、Q所属の水中艦が出張ってきますね・・?・・」

「・・そう言う事だな・・・僚艦に通達・・全艦はこれより第2級の警戒態勢に入る・・・本艦とポセイドンはやまとに対して距離を詰める・・・40分を掛けて距離2800まで接近・・・その後、対水中艦探索に入り、探知したら第1級警戒態勢に移行する・・」

「・・了解しました・・」

梁山泊・・・・中央指令室・・・・・

「・・長官・・Mネットを通じての、状況の通達です・・」

オペレーターが中条長官に1枚のプリントを手渡す。

「・・ん・・ふん・・・・ここまで騒ぎを大きくする必要があるのでしょうか?・・黄先生?・・・」

「・・さて・・・サマリタンの強制統合を隠し、MAC01をある程度叩く以外での狙いや目的があるのであれば・・?・・・・」

「・・今はまだ分かりませんな・・・・大作君は?・・・・」

「・・ロボの修理にずっと付き添っていますね・・」

「・・あとどのぐらいで修理は終わるのでしょう?・・・」

「・・修理だけなら2日弱、と言う事ですが、今回はこの機会にメインエンジンを含むエネルギー系・駆動系の換装を行いますので、始動テストも含めて4.5日は掛かる、と言う話でしたが・・・」

「・・だから大作君も付きっ切りなのですね・・グローバー3体の中で、1体はフォーグラーで間違いないでしょうね?・・・」

「・・あれらはビッグ・ファイアが主導して造ったもので、今は海の眼・Q・スペクターが共同で管理していますね・・・」

「・・取り敢えずはグレタ・ガルボ、マレーネ・ディートリッヒ、マリア・カラスの発進準備は進めましょう・・・」

「・・・分かりました・・・」

高野山・裏高野・裏本堂・・

「・・慈空阿闍梨殿・・・」 「・・おお、星海殿・・お疲れですか?・・」

「・・いやいや・・大丈夫ではありますが、星と空の相が色々と混み合っておりましてな・・・少し気分を変えようかと思いまして・・・」

「・・そうですか・・ではこちらにお座りを・・・誰ぞお茶を頼みます!・・寒くはありませぬか?・・・」

「・・ありがとうございます・・・かたじけないですな・・・・」

「・・・なんの・・・これぐらいはいつでもお申し付け下さい・・・無理をお頼みして申し訳ありませぬ・・・」

「・・・なんの・・・この件・・・これほどの見立てを詰めて看取れるのは・・・私ぐらいのものでしょうからな・・・」

「・・痛み入ります・・・それで・・・今のところの見立てはどの程度で?・・・」

「・・やはり火星と地球の距離が最も近い時期で・・・長星(ハレー彗星)の尾の中に地球が入っている時に・・・皆既日食とオリオン座が重なって地上に当たる場所ですな・・・・そこが・・・」

「・・伏魔塔が封じられている場所・・?・・」  「・・・ですな・・・」

「・・伏魔塔の確かな場所が解るこの機会・・・奴らが見逃す筈はありません・・奴らの中にも、星見の者はおるでしょうから・・」

「・・しかし、場所は解ってもアテナの封はまだ生きております・・・封を外せなければ魔星の復活は無いのでは・・?・・」

「・・八葉の老師なら塔を地上に引っ張り出すぐらいはできるでしょうが・・封に触ることはできますまい・・・」

「・・・封に触ることができるのは・・・光にも闇にもなれる・・・力を持つ人間です・・・塔の場所が判明する大凡の時期は、何十年も前から奴らにも判っていた筈ですから・・その為の準備も進めている筈・・・」

「・・封に触れる人間の準備もしていると?・・」  「・・恐らく・・・」

「・・孔雀とアキラ君、レムリア様に、月読様と朋子さんは、こちらで確保できていますが・・・」

「・・その他に・候補に成り得る者としては・・?・・」

「・・阿修羅と宇受売の所在が不明ですが・・・まだ生まれていないのか・・隠れているのか・・隠されているのか・・・」

「・・覚醒していないのなら・・覚醒させるための触媒も必要ですな・・・」

「・・・例えまだ生まれていないにしても・・奴らなら、孔雀王か天蛇王の力を行使できるほどの闇の血を、合成して創り出すぐらいのことは考えるでしょうな・・・」

「・・そこまで探査するというのは、至難の業ですが・・?・・」

「・・まあ、難しいとは思いますが、この分野での事は、まずは我々に一任されておりますからな・・・」

「・・アテナが降臨された以上、ハーディアスも、もう生まれたか、もうすぐ生まれるか、でしょう・・あまり時間はありませんな・・」

そう言って二人は、薄雲に隔てられながら、淡く光を放つ月を見上げた。

 



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サマリタン休眠とニューヨーク攻防戦

MAC01指令室・・・・

「・・中隊の発進準備は?・・」   「・・進行中ですが・・・」

「・・中隊長に繋いでくれ・・サマリタンの状況に変化は・?・・」

「・・ありません・・まだ休眠状態には入っていません・・・」

「・・サマリタンの全体をシールドして、Mネットのサイバースペースの中に格納してしまうと言うのはどうでしょう?・・・」

チーフ・オペレーターのシェリドン・ホークスが訊いてきた。

「・・・それをやるには、サマリタン専用のプラットフォームをMネットスペースに造らなければならないんだが、もう時間が足りないな・・・ジョン・グリア氏が、適正に判断してくれることを期待するしかないよ・・・」

その時、左上のモニターが開いた。

「・・レッドリーダーのラウル・シニーズです・・」

「・・ああ、シニーズリーダー、まず発進時だが、発進ゲートも含めてミラージュコロイドで遮蔽するから、そのまま遮蔽しながら航行してくれ・・・」   「・・了解・・・」

「・・敵艦隊は大気圏離脱後に艦隊シフトパターンの再設定に入る・・・・時間にして1時間ぐらいで終わるだろうが、この隙に仕掛ける・・・中隊はミラージュコロイドを解除し、光学迷彩に切り換えて接近・・・まず艦体を覆っている電磁フィールドの極性・出力・周波数を計測して同調・同期するように・・・出力が足りない場合に備えて、パワーパックも可能な限り積載するように・・・・同期ができたら敵艦隊全艦のブリッジとメインエンジンの外壁にそれぞれ複数、アクセスセッターを接着させて、一旦は安全圏まで離脱して待機・・あとはこちらでやるから、中隊は不測の事態に備えて現場宙域の監視を厳に・・・・」

「・・・了解しました・・・・あと1時間弱で発進準備完了します・・・」

「・・分かった・・では、発進予定は2時間後で・・・」     

「・・了解・・・」

「・・司令・・裏高野からの報告を基に、Xタイムを算定しました・・・」   

「・・いつと出た?・・・」    「・・・今から、83時間42分後です・・・」   

「・・・それでグローバーを出すことにしたのかな・・?・・」

「・・どうなんでしょうねえ?・・伏魔塔の出現と、それにまつわる地上での騒ぎから眼を逸らせるため、と言う話でしょうか?」

左手から、福居 健次郎が顔を出した。

「・・それで、場所も出たか?・・」

「・・はい・・これも大方の予想通りでパミール高原ですね・・タジキスタン・・パキスタン・・アフガニスタンの国境が接している地域で、近くに明確な目標となるものはありません・・」

「・・・そうか・・・場所も含めて、裏高野と聖域(サンクチュアリ)と梁山泊を含めて、各方面に通告してくれ・・・ロボの修理は、間に合わないようだな・・・大鳥島のソーラー・バードの状況を訊いてくれ・・・それと、世界各地のニュースサイトのチェックを厳しくしてくれ・・・そろそろ妙なものが見付かっていないか?・・・」

「・・力を持つ人間をダークサイドに覚醒させるための触媒ですか・・?・・」

チーフ・オペレーターの一人のグゥエン・シンが訊いた。

「・・そう・・・できればハーディアスがどこで生まれるのかを知りたいところだが、それは無理だろうな・・・」

「・・情報が無いことはありませんが、極端に少ない上に、どれを取っても切れ切れなものばかりでとても場所を絞り込めませんね・・」

「・・司令・・サード・メッセージのループ発信を終了します。続いてフォース・メッセージのループ発信を開始します・・」     「・・了解・・」

「・・・地上からこちらには、まだ何のコンタクトも無いか・・?・・」

「・・まだ始まったばかりですし、ニュース・メディアにもプレッシャーが掛けられているでしょうから、もう暫く時間が掛かるでしょうね・・・でも地上からは必ず、様々な接触があると思いますよ・・」

「・・・サハラから艦隊が飛び立てば、流石に騒ぎ始めるだろうな・・・・まあ、それらも我々にとっては重要な援護の一つになるからね・・・」

「・・司令・・大鳥島からの返信ですが、ソーラー・バード自体の発進準備はまだですが、ボルテス・チームの訓練は終了するとの事です・・・それと、マシーンが対象者を出しました・・・同時に地上でも表示されています・・・ジョン・グリアも含めた、サマリタンのメンバー・・・75名です・・・」

「・・了解した・・ボルテス・チームには、そのまま出動待機態勢に入って貰うように返信してくれ・・・」

「・・サマリタンのメンバーを狙っているのは、Mか?・・・」  「・・そうです・・」

「・・サマリタンが眠っても眠らなくても、と言う事か・・・Mはもう同盟の息がかなり掛かっているからな・・・地上に派遣しているスタッフと装備で対応できるだろうとは思うが、少し応援を廻そう・・・ターミナル2に連絡してユウスケ君と正一君をニューヨークに転送しよう・・・ターミナル2とニューヨークのスタッフリーダーには短く通達してくれ・・・ハロルドさんから問い合わせがあったら、その旨も説明して対応はそちらに任せる、と返信するように・・・・」   「・・・了解しました・・」

廃棄地下鉄駅構内・・・・・・・・

「・・・マシーンがまた対象者を出したよ・・・・」 

ハロルド・フィンチがプリントを片手に皆を振り返った。

「・・・当てようか?・・・サマリタンのセンタースタッフ全員がMに狙われている・・・・」と、ジョン・リース。

「・・・正解だ・・・サマリタンが眠っても眠らなくても、間もなくMは動くな・・・」と、フィンチ。

「・・リースさん、スタッフ30名、B4装備・・出動態勢で待機中です・・・他の20名は、個別任務を遂行中です・・・」 と、SSDOからの派遣スタッフ・リーダー、トーマス・キールが声を掛けた。

「・・了解だ・・全員で出動しよう・・・刑事さんたちには知らせなくて良い・・騒ぎを大きくしたくない・・」

「・・シャトルは出しますか?・・」  「・・勿論だ・・Dは除いてA・B・Cで行こう・・」  「・・了解しました」

「・・フィンチ・・・サマリタンがいよいよ危なくなるまで、どのくらいだ?・・・」

「・・・1時間弱と言ったところかな・・・・」   「・・・分かった・・・じゃあ、行ってくる・・」

ショウさんもルートも一緒に出て行った。

「・・気を付けてな・・」そう言ってフィンチは、またモニターの前に座った。

裏高野・裏本堂・・・長身で筋骨逞しい青年が声を掛けた。

「・・慈空・・・」 「・・・日光様・・・・」 「・・星海殿はどうだ?・・」 「・・今は更に細部の見立をして貰っております・・」  「・・そうか・・あまり、ご無理にならないようにな・・」  「・はい・・」

「・・伏魔塔の場所が出たから、俺は五輪坊の内、地・火・風の三つを率いて行く・・・ここには、水と空を残して行くから、どこかで触媒として奴らが使いそうな物が発見されたら、その二つを率いて、奴らがそれを回収する前に処理してくれ・・・・」  「・・分かりました・・孔雀には?・・・」

「・・孔雀は連れて行かないし、知らせもしない・・・触媒の事も知らせるな・・・・孔雀の力は役に立つが、今は奴らに取り込まれそうになることが怖い・・・」  「・・分かりました・・・お気を付けて・・・」

「・・お前もな・・・触媒が見付かれば、上からも知らせが来る・・・星海殿を頼むぞ・・」  「・・はい・・・」

そう言って、日光と呼ばれた男は出て行った。

やまと・・・・

「・・・山中・・・・」 「・はい、艦長・」  「・・深度500に付けてくれ・・・速度は10ノットへ・・・」

「・・・了解・・・・」 「深度500に着いたら、ピンを打つ・・」 「・・はい・・しかし、付近に他艦の気配は・・」

「・・ああ、確認したいだけだ・・・」 「了解」

ネプチューン・・・

「・・艦長・・海江田艦長が深度500への浮上と、速度10ノットへの減速を指示しました・・・その後、アクティブ・ソナーを使うようです・・・・」

「・・・やはり感じているのかな・・・・こちらも速度10ノットに減速・・・深度はこのままで良い・・・マスカーを開始してくれ・・・・僚艦全艦にも暗号圧縮サインで通達・・・・」  「・・・了解・・」

やまとが緩やかなアップトリムとともに減速し始める・・ネプチューンとポセイドンも減速を掛けた。

そして、両艦ともにマスカー・バブルシールドの展開を始めた・・・粘着性の高い泡状のシールドが艦体を覆っていく・・・完了すれば、アクティブ・ソナーの探査音が到達しても、音波はバブルに吸収されて反射しないようになる。

聖域(サンクチュアリ)・・・・・教皇の間・・・・

「・・教皇様・・・・」  「・・・アイオロス・・・シャカ・・・・・どうした?・・・・」

「・・・伏魔塔の場所と出現する時間が分かったそうですね・・?・・・」   「・・・ああ・・・・」

「・・・それで、こちらからは誰を・・?・・・・」    「・・・誰も送らない・・・それは上にも伝えた・・・・」

「・!・・なぜです?・・ハーディアス軍は我々の宿敵・・・・我等が出て主導するべきでは?・・・・」

「・・アテナは降臨されたばかりでまだ幼い・・・我等はここの守りを固めねばならぬ・・・それに我等の宿敵はハーディアスだけではないし・・・現在、聖闘士(セイント)の数は圧倒的に足りない・・・・六道衆との戦いに派遣できる聖闘士(セイント)はいない・・・・それは上も承知しているし、裏高野と梁山泊にも了承して貰っている・・・今回は彼らの作戦に委ねるしかない・・・・」

「・・・・我等の現状は理解していますが、悔しいですね・・・・・それで、作戦とは?・・・」

「・・降下チームが揃う場合と揃わない場合での2案があるそうだが、詳しい事はまだ知らされていない・」

梁山泊・・・中央指令室・・・・

「・・・・長官・・・どうやら伏魔塔出現の騒ぎからも眼を逸らさせる必要があっての、グローバー動員のようですね・・・」

「・・・そのようですね・・・・サマリタンの方は任せるしかないとして・・・・聖域がセイントを割けないと言うのも了承するとして・・・・降下チームが揃わない場合には、強行作戦案が採用されるでしょうから、その場合に備えて、私も船団と共に行こうと思っています・・・黄先生・・・・」

「!・・・中条長官自らが行かれなくても・・・・」

「・・・いや、降下チームが揃わなければ、榎本さんは自分が降りると言うでしょう・・・・現状で奴らに、彼の存在とその力を知られる訳にはいきません・・・それなら、私が行きます・・・・」

「・・・確かに・・・それしかないのかも知れませんね・・・・しかし九大天王の一人であるあなたが・・・・・」

「・・・ところで黄先生・・・・弟さんの海峰君は今どちらに?・・・・」

「・・・実は黄家仙道から降下チームの一員として呼ばれていまして、今は王仁丸君と一緒にガランシェールに乗っています・・・・」     「・・・そうですか・・・・そちらの方も気掛かりですね・・?・・・」

「・・・いや、海峰の方が修得した法術や仙術、そして体術でも、私よりも上ですから・・妥当な人選です・・・」

やまと・・・・・

「・・・深度500です・・・」   「・・よし、アクティブ・ソナー発振」   「・・了解、発振!」

やまとがピンガーを打った。 4艦は既にマスカー・バブルシールドの展開が終了していたので、やまとからの探振音波は到達したが、反射波は生成されなかった。 が、他に反応があった。

ネプチューン・・・・・

「・・・・!・・艦長、艦です・・・1艦・・・・こちらを基点として方位は10時20分・・・・距離は・・42200・・深度は820・・・ボトムしています・・・」   「・・・1艦だな?・・・」  「・・はい、今のところ・・・・」

「・・・艦のタイプは判るか?・・・」  「・・・このディテールでは、クラーケン・クラスの可能性が高いですね・・・エンジン音か、推進音が聴こえれば何とか・・・何番艦かも判るかと思いますが・・・・」

「・・・やまとの反応をモニターしてくれ・・・遮音フィールドを展開していないと言う事は、存在を探知されても構わないと言う事だな・・・・・」  「・・了解・・・そのようですね・・・・」

やまと・・・・・

「・・・速度を5ノットへ・・・」 「・・了解・・」 「・・随分大きい艦ですね・・・戦略原潜でしょうか?・・」

「・・・このディテールのデータは登録されていない・・・それに戦略原潜なら護衛として攻撃型の原潜がいるはずだ・・・なぜ1艦だけでここにいる?・・・エンジン音は無いな?・・・」

「・・はい・・推進音も共にありません・・・」   「・・・どうしますか、艦長?・・・」

「・・・正体が判らないし、何かイヤな感じもする・・・・感じていたプレッシャーの正体がこれなのかは分からないが、関わり合いになるべきでもないと思うな・・・・ハッキリしているのは、あれが所属しているのは国家ではないと言う事だ・・・・もしかしたら我々が海に出た後で、世界情勢が変わったのかも知れないな・・・」

そのままの姿勢で2分ほど動かなかったが右手で帽子を脱ぐと艦長・海江田史郎は、山中副長に振り返った。

「・・・あれがエンジン始動して推進音が聴こえたら、面舵20°・・・アップトリム10°で浮上・・動きが無くても通過後、浮上する・・・私はライアン大佐の話を聞いてくる・・・・」  「・・・了解・・・」

クラーケン・クラス 4番艦、「マンダ」・・・・・・

「・・攻撃型の原潜ですね・・・推進音、エンジン音共に登録にありません・・・」

「・・・データに無い?・・・ふうん・・さてはシーバットとか言う反乱逃亡艦だな・・・レポートにあるデータと照合してみろ・・・本艦はこのままだ・・・変更はない・・・・」  「・・・了解・・・しかし、本艦を感知しても慌てませんね・・・」 「・・・度胸の良さと言うのかな・・・・肝は据わっているようだな・・・・並みの艦長ではないな・・・・」  「・・・レポートにあるデータと合致しました・・・シーバットです・・・・」

「・・・ふん・・・モニターは続行・・・・シーバットに変化が無ければ、これ以上の対応はしない・・」

「・・・了解・・・・」

廃棄地下鉄操車場車庫・・・・・

「・・・リースさん・・・シャトルA・B・C・・発進準備完了しました・・・乗員の配置も完了・・・」

「・・よし・・・じゃあ行こう・・・」 「・・待って下さい・・・ターミナル2からの転送信号を感知・・・同時に上から短い通達です・・・」   「・・・内容は?・・・」  「・・2名の応援を送るが、対応はこちらに任せると・・・・」

「・・・応援を2人だけ?・・・分かった、取り敢えず転送収容してくれ・・・二人だけって、誰だよ?・・・」

「・・デルタ・フライヤーで収容します・・・」  「・・・了解・・出迎えよう・・・」

リースとショウ、ルート、トーマスがそれぞれ搭乗していたシャトルから降りて、デルタ・フライヤーに乗り込んだ。 そのまま転送室に入る。 リースは担当スタッフに頷いて収容を了承した。

「・・・転送・・・」  デッキの上で2人が実体化した。

「!・・ユウスケ!・・・正一君!・・・・」 「・・・久しぶりですね、リースさん・・・・」

「・・・君達2人が来ると言う事は・・Mは結構ヤバイのか?・・・」  「・・・みたいですよ・・・」

「・・分かった・・・トーマス・・・デルタ・フライヤーも使おう・・・乗員・装備の再配置を頼む・・・」

「・・・了解・・・10分で終えます・・・」

『サマリタン』指令室・・・・・・・

ジョン・グリアは、スタッフ全員を見渡した。

「・・・諸君・・残念ながらサマリタンは既に制御不能であり、信頼できる情報によれば、強制的に統合されてしまう可能性が高まっている・・・・誠に遺憾ではあるが、スリープ・コードを入力して隔離してあるコピー・システム以外は、休眠させる・・・」

そう言ってスーツの内ポケットからメモを取り出し、コードを入力した。

スリープ・モードへの移行は急速に進み、3分も掛からずに表で稼働しているサマリタンの全システムは休眠した。

薄暗くなった指令室でグリアはまた口を開いた。

「・・全員、武装の上第5CICに移動する・・すぐにMが襲ってくる・・・この指令室は放棄する・・・」

MAC01 司令室・・・・・

「司令・・サマリタンの表面上のシステムが休眠しました・・・稼働は必要最小限・・・スタッフは全員武装して第5CICに移動するそうです・・・・・続いてガイゾックからMのサーバーに通信が入りました・・・部隊が出るようです・・」

「了解だ・・・ニューヨークに暗号圧縮コードで通信を・・」 「・・了解・・」

廃棄地下鉄操車場車庫・・・・・・・・・

「リース君、サマリタンが休眠した・・Mが動くぞ!」 「分かった、トーマス、どうだ?」

「出られます!」 「よし! Dを先頭にしてABCの順で出よう!」 「・・了解・・」

「リース君、上からの連絡だが、センサー・ステージはデルタ・フライヤーともリンクさせるそうだ・・今ゲートを開ける・・気を付けてな・・」

「分かった、発進する・・トーマス、行くぞ!」

「了解・・シャトル全機、光学迷彩・・インパルス・パワー20%・・浮上・発進!」

ハロルド・フィンチが廃棄地下鉄駅に通じている閉鎖されていた引き込み線トンネルのゲートを解放した。その先には斜め左に横穴トンネルが彫り抜かれており、そのトンネルの先はハドソン川河口デルタ・エリアに通じる、都市雨水排水管の放水口につながっている。

デルタ・フライヤーを先頭にシャトル全機は、A・B・Cの順でフワリと浮き上がると次々とゲートを潜り抜けて行った。

それを見送ってからフィンチはモニターの前に戻り、ニューヨーク全域をモニターしているセンサー・ステージウィンドウに注意を向けた。

シャトル全機は光学迷彩を掛けたまま放水口から飛び出すと、高度800mまで上昇して編隊を組んだ。

「・・・目標ポイントまで2分20秒・・・・Mの動きは・・・・不明です・・・・」と、トーマス。

「・・着く頃には判るだろう・・フェイザー・ライフルのレベルと出力を確認して置けよ・・」 「・・了解・・」

ケンタッキーの山荘で・・・・

「・・・レイモンド・・・・」 そう言ってデンベがPADをレッドに手渡す。

「・・・ふん・・・サマリタンが眠ったか・・・」 それだけ言ってPADを返すと帽子を取って被り、コートに袖を通しながら言う 「・・ジョンに電話して機体の準備をさせてくれ・・・ニューヨークに行こう・・・」

間髪を入れずにデンベの電話が鳴る・・・応対したデンベが少し驚いた様子でレッドに手渡す。

「・・もしもし・・」 「・・ニューヨークに行くのか?・・」 「!レナード!電話はマズいだろう・・」

「・・大丈夫だろう・・・奴らの目も耳も今は殆ど向うを向いてる・・・私もグリアが死ぬ前に訊きたい事がある・・」 「・・思う事は同じか・・」 「・・多分私の方が先にニューヨークに入る・・」

「・・分かった・・向うで合流しよう・・」 それだけ言って切った。 「さあ、行こう」

「・・エリザベスには・・?・・」 「・・何も知らせない・・FBIがサマリタンの事を知ったところでどうにもならん・・」

「やまと」士官室・・・・・・

「・・ライアン大佐・・・ご不自由をお掛けしていますね・・・申し訳ありませんが・・・・」

「・・・いや、良くしてもらっていますよ・・・かなり、退屈ではありますがね・・・・」

海江田四郎はライアン大佐の向かいに座り、PADを置いて示した。

「・・大佐・・・この艦に見覚えはありますか?・・・また・・国家以外の存在で・・このような大型の戦略原潜クラスの水中艦を保有でき得る存在について・・心当たりは?・・・」

「・・・海江田艦長・・我々も時折に流れる噂でしか聞いたことが無い・・・ディテールをはっきりさせたければ、早く浮上して情報を収集する事ですな・・・・」

闇の中・・・・・・

「・・・・それで、あれはどうする・・?・・」   「・・・・厄介ではあるな・・・・」

「・・・・叩くしかないのだろう・・?・・・」    「・・・・叩けるならな・・・・・」

「・・・・確かにあれには、我らの知らぬ異質な力があるように感じる・・・・」

「・・・・妙に、先回りをされているような感も拭えないしな・・・・・」

「・・あれの手の内を知るためだけでも、続けて叩くのは必要だろうな・・・」  「・・・確かにな・・・・」

ニューヨーク上空・・・・・

「・・・目標ポイントまで40秒・・・・Mの車両は・・10台・・・いや12台・・・目標ポイントまで3分ほどです・・」

「・・・全機屋上に着陸・・・パーソナルフォースフィールド起動・・・シャトルCのクルーは第5CICに転送降下して関係者を屋上に誘導・・対象者の目の前で実体化はするなよ!・・我々は光学迷彩を掛けて、パーソナルジェットで地上に降下してMを防ぐ・・降下しろ!・・」

「・・了解、ポイントクリアー・・・着陸10秒前!・・」

デルタ・フライヤーを先頭にシャトルは光学迷彩を掛けたまま、全機屋上に着陸した。

「・・リースさん!僕達は先に行きます!変身!」

正一とユウスケはそう言って跳び出すと、直ぐにアギト・クウガに変身して屋上から跳び下りた。

「フライヤーは転送準備!降りるぞ!後に続け!」

リースも跳び出すとバックパックジェットを噴かして跳び下りる。

リースに続いて22名が跳び下りた。右側にショウさん、左側にルートが付いている。

下を見晴るかすと500Mほど向うで、黒塗りの車が集まって停まり始めている。

クウガはマイティ・フォーム、アギトはグランド・フォームで着地した。

「・・リースさん・・見覚えのあるヤツらがいますよ・・」 クウガ(ユウスケ)が通信機で呼び掛ける。

「・・ああ・・ヤツらの顔は忘れない・・・」 言いながら全員、ほぼ同時に着地した。

「・・誰なんだ?リース君・・・」 フィンチだ。

「・・結構ヤバいぞ、ハロルド・・・前にやり合ったハイパーゾアノイド5体の内の2体・・エレゲンとザンクルスだ・・・」 「!クロノスが出張ってきてるのか!」 「・・そういう事だ、切るぞ!」

「・・ユウスケ!正一君!・・援護するからハイパーゾアノイドは任せる!」  「・・了解!」

Mの車は総て止まり、戦闘員が降りてサマリタンの秘密本部ビルに迫り始めている。

「・・全員でクウガとアギトを援護する! ヤツらをこっちに近付けさせるなよ!」  「了解!」

やまと・・・・

「・・海面まで30秒・・」 「・・不明艦は?・・」 「・・動きません・・」 「・・アンテナを露出・・」 

「・・了解・・」 海面を割ってシーバット(やまと)が浮上した。

「・・通信士・・・予定通り、平文で発信だ・・・」  「・・了解・・」

《good morning U S A ホンカン ゲンシリョクニテ コウコウチュウ》

「・・ノーチラス号がハドソン川を遡上しながら打った電文とはね・・・」

ライアン大佐が後ろで腰に手を当てながら皮肉っぽく言う。

「・・そう・・・最初にはどうしてもこれを打ちたかった・・・・」

「・・周辺に機影はありません・・・静かです・・・」

「・・それじゃあ、ネットに接続して情報収集といこうか・・・・」  「・・了解・・」

サマリタン本部前・・・・

「・・オイ、あれはクウガにアギトだぞ・・?・・」 と、エレゲン。

「・・フン・・奴らも備えていたと言う訳だな・・・」 と、ザンクルスも車から降りながら言った。

「・・ゾアノイドは獣化しろ! ゴルゴム怪人とグロンギは前に出ろ! Mの戦闘員は援護しろ! 何としても突破して地下施設に突入するんだ!」 と、エレゲン。

ゾアノイドは全員が次々と獣化した。主力はグレゴールとラモティスだったが、ヴァモアも2割程度いた。

「・!・・ゴルゴムやグロンギもいるぞ! 全員、フェイザーレベル7に設定しろ! ルートのチームは右から! 俺のチームは左から行く! ショウのチームは上から行け! ヴァモアのバイオブラスターを先に潰すぞ! 用意!」 と、リースが指示を飛ばす。

「・・リースさん! サマリタン・スタッフメンバー誘導中!」  「了解・・急げよ!」  「了解」

クウガとアギトが最初のゴルゴム怪人とグロンギに殴り掛かる5秒前・・・「撃て!」 と、リース。

ニューヨークでの攻防戦が始まった。

MAC01司令室・・・・・・

「・・・司令・・・ニューヨークで接触しました・・・」  「・・・大丈夫そうか・・?・・」

「・・大丈夫でしょう・・・それと、先程やまとが浮上しました・・・」

「・・・ああ、同盟の水中艦と接触したんじゃしょうがない・・・パワーグリッドのエネルギー備蓄レベルはどうだ?・・そろそろいけそうか?・・」

「・・・いけますね。・・・レーザー発振、開始します・・・」

「・・了解・・全システム、フェイズ2起動準備だ・・メイン・パワーグリッド、インパルスパワー反応炉接続・・」

「・・接続しました・・インパルスパワーコア・・ポーラロン結晶体・レーザー励起・良好・パワーレベル上昇・パワーフロー・サーキュレーション、共に良好・・インパルスパワー反応炉・・臨界パワー40%まで、40秒・・・」

「・・・よし、フォース・メッセージを停止。フィフス・メッセージのループ発信を開始・・」

「・・了解・・フィフス・メッセージのループ発信を開始・・」

「・・・メイン・インパルスパワー反応炉・・臨界パワー42%・・起動準備、完了・・・」

「・・・メイン・インパルスパワードライヴ・・起動・・・全システム・・フェイズ2へ移行・・・」 

「・・・了解・・・メイン・インパルスパワードライヴ起動完了・・フェイズ2への移行シークエンスを開始・・・」

「・・全システム・・アップデートプロトコルを解放・・・移行シークエンス・・完了しました・・・SSDOMAC01・・・フェイズ2です・・・」

「・・よし・・・第2段階、完了だな・・」 そう言ってオールセクションにコミュニケーターを繋いだ。

「・・司令室より全セクションへ・・こちらは榎本だ・・・ステーションはフェイズ2への移行を完了した・・皆の協力と努力に感謝する・・・だがこれからは、同盟や財団からの攻撃が激化するだろう・・・これからが正念場になるので・・油断しないでいて欲しい・・・以上だ・・・」

ニューヨーク攻防戦・・・・・

Mの戦闘員が放つ銃弾は、マシーンチームが個別に展開したパーソナル・フォースフィールドに弾かれ、跳弾となるだけだった。  8体のヴァモアがバイオブラスターを開こうとした。

「・・撃てぇ!」  ショウとルートが同時に叫ぶ。

ほぼ全員のフェイザービームがヴァモアに集中して、バイオブラスターを焼き潰した。

ライジングマイティにフォームチェンジしたクウガが、ラモティス2体を殴り飛ばし、ゴルゴム怪人を殴り倒して、グレゴールをキックで蹴り飛ばした。

フレイムフォームにチェンジしたアギトは、剣や槍を使うグロンギ3体とフレイムセイバーを用いて戦い、相手の武器を払い飛ばし、斬撃を加えて撃退すると、グレゴール2体・ラモティス3体・ゴルゴム怪人に斬撃を加えて後退させた。

Mの戦闘員が次々とフェイザー・ビームで気絶させられる中で、エレゲン、ザンクルス共に獣化はしていたが、前には出られずにいる。 リースのヘッドセットに通信が入った。

「・・リースさん! スタッフ全員 屋上に誘導完了 シャトルABCでポイントAへの移送を開始します・・」  「・・了解・・急いでな・・」 「・・はい・・」 「・・よし! このまま防ぎきるぞ! 」

クウガとアギトが格闘している怪人、グロンギ、ゾアノイドに、それぞれフェイザー・ビームが数本ずつ撃ち込まれて、次々と気絶させられていく。Mの部隊の旗色は悪い。

「・・ダメだな・・」 エレゲン。  「・・・ああ・・」 ザンクルス。 獣化を解いた。

「・・大体マシーンチームがこんなに強いなんて聞いてないぞ! 」

「・・・クウガやアギトともつるんでいるようだからな・・・」

「・・ヴァモアは収容しろ! 車まで下がれ! 連れて帰れる者は連れて帰るぞ! 」

「・・全員、引き揚げだ!!」  「・・撤退する! 乗れ!」

「!逃げるわよ!」 ショウさんがそう叫んで4・5人と一緒に勢い付いて前に出ようとするのをリースは鋭く制した。

「追撃するな! サマリタンスタッフの移送が先だ! 周辺の安全を確保しろ! 残っている敵は無力化しろ!」  「・・了解・・・」

「・・周辺を掃討して安全を確保する! ルートとショウのチームは屋上まで上がって、上空を警戒しつつ移送を警護してくれ! 」    「・・・了解・・・・上がるわよ!・・」

ルートとショウのチームがジェットを噴かして上昇する・・残っているMの戦闘員が散発的に撃ってきているが、リースのチームがフェイザーで次々に気絶させていく。

「・・ハロルド! 聴こえるか? 」  「・・聴こえているよ・・・どうした? リース君・・」

「・・こっちはそろそろ終わりそうだ・・・」  「・・・了解した・・・移送は順調かね? 」

「・・ああ・・あと一往復で終るだろう・・」  「・・そうか・・皆、無事かね?・・」

「・・ああ、無事だ・・ケガもない・・・それでフィンチ・・気絶させた連中にタグを付けるから、ターミナルに連絡してファクトリーに転送で収容するように頼む・・・」

「・・・分かった・・伝えよう・・・気を抜かないでな・・」  「・・ああ・・分かってる・・・移送が完了したら俺達も移動するから、取敢えずポイントAで会おう・・・」  「・・・了解した・・・」

通話を切り上げるとほぼ同時に、最後の戦闘員が気絶した。

リースが立ち上がってヘルメットのバイザーを上げた。

「・・安全を確認してくれ! それから倒れている全員にタグを付けてくれ・・・あまり見られたくないから、ちょっと交通整理も頼むよ・・・」   「・・・了解・・・」

 



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MAC01 第一次攻防戦と凶皇仏(承前)

MAC01司令室・・・・

「・・・司令・・ニューヨークは終わったようです・・・それで、気絶させた敵兵をターミナルのファクトリーで収容して欲しいと・・・・」

「・・そうか・・・ターミナル1のファクトリーで収容しよう・・・タグを付けてな・・」  「・・了解・・・」

「・・それと、ニュースサイトに出ていましたが、東京西新宿副都心の再開発地区工事現場で、妙なものが見付かったとか・・・」 「・・・妙なもの?・・」 「・・・どうやら、凶皇仏に間違いないかと・・・」

「・・・やはりな・・・先ず対象物の精確な位置をセンサーで特定・・・できたら、レベル8のフォースフィールドで覆ってくれ・・・それで同盟のテレポート精神波を防げる・・・そのうえで裏高野・梁山泊・聖域・薬師12神将に通達を・・・」 「・・・了解・・・」 「・・対応に増援するべきかな?・・」

「・・残っている裏高野五輪坊と12神将では、少ないでしょうね・・・・かと言っても・・・」

「・・・梁山泊の艦に行ってもらうのも、騒ぎを大きくし過ぎるだろうしな・・・・」 「・・・そうですね・・・」

「・・風見さんと、神 敬介さんと、南 光太郎君、乾 巧君、草加 雅人君、あと、深町君にも行ってもらうか・・・」

「・・・では、ターミナル2に連絡を入れます・・・」

「・・・慈空阿闍梨様にも連絡を入れて12神将との合流を頼んでくれ・・・合流ポイントに向けて、こちらからも増援を転送すると・・・・」  「・・・了解しました・・・」

ネプチューン・ブリッジ・・・・・・

「・・・やまと・・・浮上して15分です・・・上空に機影ありません・・・半径50KMに艦影ありません・・・」

「・・ポセイドンは反対側だな?・・」 「・・はい、点対称で反対側・同距離・同深度にいます・・」

「・・クラーケンは動かないが・・この距離ではまだ微妙だな・・・状況の変化に戸惑っているんだろうが・・・早めに動いた方が良いな・・・・海上警戒を半径200KMに拡大・・・」  「・・・了解・・・」

やまと・・・・・・

海江田艦長は自室でデスクの上のラップトップモニターと手元のPADを交互に見比べていたが、艦内コールのカフを取り上げてソナー室に繋いだ。

「・・・溝口・・・艦の気配はあるか・・?・・」  「・・・ありません・・・上空にも機影は無いそうです・・・・」

「・・・そうか、了解・・・」 そう言って通話をブリッジに切り換えた。

「・・・山中・・第2警戒直・・エンジン始動・・ベント閉め・・通常潜航・・深度100に付いてくれ・・着いたらエンジン停止して、艦の自重だけで無動力沈降・・深度900に付いてくれ・・・」 「・・了解・・」

クルーが動き始めて、やまとが目覚めた。

MAC01司令室・・・・・

「・・・司令・・BGとシャドゥが管理している・・アラスカ・・ネヴァダ・・テキサス・・ナスカ・・シベリア・・グリーンランド・・桂林・・ゴビ・・楼蘭・・黒海海底・・カスピ海海底基地で保有する、空間攻撃部隊に出動準備指令が出ました・・・主力となる機体は、パラノイアですね・・・」

「・・・そうか・・・艦隊攻撃まで時間が空くから仕掛ける気だな・・・」

「・・狙いは対空ミサイルランチャーですね・・」と、蛎崎 憲治が言った。

「・・ビーム撹乱幕が形成できなければ、陽電子砲が効くと思ってるんですかね・・」

枦山 正史郎が言った。

「・・気持ちは、解らなくもないがな・・・パラノイアは新鋭機の中でも量産が進んでいる機体だ・・・テレポートで一挙に送り込むつもりだろう・・同盟の幹部連中は・・殆どテレポーターだからな・・・・」

「・・何機ぐらい、送り込んできますかね?・・・」

「・・1200機は堅いな・・・多ければ1500機だろう・・・」

「・・ここから出せる要撃機は、せいぜい450ほどです・・・」

「ここからは400機出そう・・50機は直援部隊として、取敢えず残す・・出動準備に入らせてくれ・・MAC02・・MAC03から、それぞれ300機・・MAC04から、200機・・出して貰おう・・増槽・・ブースターパックも付けてね・・それで取敢えず1200機だ・・・クラップタイプの艦は15隻出せるかな・・・?・・」

「・・・急がせます・・・」

「・・出せるなら、リゼルを90機搭載できるな・・・それを、支援隊としよう・・要らないかも知れないが・・アークエンジェル・ドミニオン・ミネルヴァ・エターナル・クサナギにも出て貰おう・・・これで防ぐ・・・以上が防衛体制だ・・準備に入ってくれ・・」 

「・・了解しました・・」

「・・地上の陽電子砲群にリチャージ指令が出たら、発進できる機体は発進させる・・」

「・・・了解・・・」

「・・あまり派手な事はしたくないんだが、これは仕方のないところだな・・」

ギリシャ(聖域)サンクチュアリ・・・・

一人の黄金聖闘士(ゴールド・セイント)が教皇の間に入った。

「・・教皇・・・」  「・・カミュ・・・どうした?・・」

「・・お願いがあって参りました・・・日本へ行かせてください・・・」

「・・日本へ?・・・そう言えば・・先程『上』から、東京で闇のアイテムが見付かった、との知らせがあったが・・・それが絡んでのことなのか?・・・」 「・・左様です・・」

「・・?・・!・・まさかカミュ・・あ奴を感じたのか?・・」

「・・はい・・」答えたカミュの顔が少し歪んだ。

「・・そうか・・分かった・・許可する・・発つ前にシャカを訪ねてくれ・・この時に備えて、渡したいものがあるそうだ・・・」

「・・分かりました・・我儘を許して頂き、感謝致します・・」

「・・カミュ、必ず生きて還れ・・我々にはお前が必要なのだ・・これは厳命だ・・」

「・・了解致しました・・」深い一礼を残して、カミュは踵を返した。

間を出るまで見送ると、振り返って暫く上を仰ぎ、戻して呟いた。

「・・水瓶座(アクエリアス)の定めか・・・」

『財団』司令室・・・・・・・

「・・・どうやら、ニューヨークは失敗したようです・・・本部長・・・」

「・・ふん・・また同盟の失態だな・・・にしても、向こうにこちらの動きが読まれているのは間違いないようだ・・・・聞いたか?・・CEOが『あれ』による経済的な影響が顕著になる前に処置するよう、同盟に要請を出したよ・・・Mの部隊はどこに撤収した?・・」

「・・・アリゾナの基地で収容したようです・・・」

「・・・ゾアノイドに調整するんだな・・・他には・・?・・」

「・・・それででしょうか・・?・・同盟が管理する幾つかの基地で持つ、空間攻撃隊に出動準備指令が出ました・・・・」

「・・・空間攻撃隊?・・パラノイアだな・・・幾つの基地で出た?・・」

「・・11ヶ所ですね・・・」

「・・多いな・・・1200機は堅いかな・・?・・一挙に『あれ』の近くにまで、テレポートで送り込む気か・・・陽電子砲群にリチャージ指令は出たのか?・・」

「・・それはまだ確認していませんが・・・」

「・・エシュロンネットワークを見ていてくれ・・出るとなればまた攻撃衛星群も連動するはずだ・・・」  「・・了解・・・」

「・・墜とせると思うか?・・・『あれ』を?・・・外からの攻撃だけで・・・私見だが至難の業だな・・・・別方向からの搦手が無いと、かなり厳しいと思うな・・・」

「・・・はあ・・・・」

「・・・それはそうと、世界救福教会な・・・少し動きが目立つな・・・少し抑えるように勧告してくれ・・・向うに眼を付けられるのもつまらんからな・・・・」

「・・・分かりました・・・」

裏高野・・・裏壇場伽藍・・・

「・・慈空阿闍梨殿・・・」

「・・おおっ・・宮毘羅大将・・伐折羅大将・・迷企羅大将・・神将の方々はもう・・?」

「・・はい、全員集まりました・・五輪坊の残りは、水と空ですか?・・」

「・・いかにも・・」

「・・相手は先ず荼枳尼衆でしょうが、後ろには六道衆を初め、同盟の結社もいるでしょう・・・闇の道具としての凶皇仏の使い勝手は、かなり良いでしょうから、様々な結社が使い回そうとするでしょう・・・我々がこれだけの人数では・・・・・」

「・・『上』でもそれを懸念しておってな・・・助っ人をよこすと言っておったよ・・」

「・・・助っ人・・?・・ですか・・・」

「・・ああ、そうじゃ・・そろそろ追っ付け、連絡が来る頃なんじゃが・・おお、すまんな・・・」 一人の若い僧侶が電話を慈空に渡した。

「・・もしもし・・ええ、私です・・分かりました、よろしくお願いします・・」

「・・ああ、神将の方々・・ちょっとその辺りを空けて下さらんか・・・助っ人が来ますのでな・・」

慈空が右手で指し示した辺りが空くと、6個の光が空間に湧き上がり、拡大して人型を形成した。

「・・お久し振りです、慈空阿闍梨様・・お元気そうで、何よりです・・」

懐かしい・・にこやかな笑顔が歩み寄ってきた。

「!・・おおぉぉ!・・君達が助っ人だったか・・元気そうじゃな・・・」

力強い握手だった。

「・・慈空阿闍梨殿・・・こちらの方々は・・?・・」

「・・ああ、紹介しよう・・名前ぐらいは聞いたことがあるじゃろう・・彼が、風見 志郎君じゃ・・またの名を仮面ライダーV3・・・そして彼が、神 敬介君・・・またの名を仮面ライダーXじゃ・・・風見君・・神君・・彼らが今の薬師12神将じゃ・・・」

静かだが驚きの波紋が広がる・・・。

「・・慈空殿は、こちらの方々とお知り合いで・・?・・」

「・・ああ・・彼らが戦っていたデストロンやGODは、共に同盟の一員でな・・六道衆とも繋がっておったから、同じ戦場で肩を並べて戦ったこともあった訳じゃよ・・・それにしても久し振りじゃな・・・」

「・・では、こちらも紹介しましょう・・彼は、南 光太郎君、仮面ライダーBLACK RXです・・・彼が、乾 巧君、仮面ライダーファイズです。彼は、草加 雅人君、仮面ライダーカイザ。最後の彼は、深町 晶君、ガイバー1です・・」

「・・ほう・・それは有難い・・・頼もしい限りじゃな・・・」

「・・では、慈空殿・・行きますか・・?・・」 宮毘羅大将が訊く。

「・・いや、あと二時ほどで夜が明ける・・日中は人目もあるし、奴らもわざわざ騒ぎを大きくはするまい・・・日が暮れるまでに近くまで行ければよかろう・・・儂は五輪坊をできるだけ掻き集める・・・風見君・・プラズマ・フェイズスティックだったかな?・・『上』に掛け合って調達してくれんか・・それと日没の前に凶皇仏の近くに転送で行けるようにな・・?・・」 「・・承知しました・・」

ギリシャ・聖域(サンクチュアリ)・12宮・処女宮・・・・・

「・・いるか・・シャカよ?・・・カミュだ・・・」

「・・おお、カミュ・・・寄らせてしまって済まないな・・・」

「・・いや、それは良いが・・・渡したい物があると教皇様には聞いたが・・・」

「・・ああ・・この時に備えて造って置いた・・これを持って行ってくれ・・・」

そう言ってシャカはカミュに箱を手渡した。

「・・開けて良いか?・・」 「・・ああ・・構わんよ・・」

箱の中には瑠璃色の瑪瑙で造られた珠数が入っていた。

「・・ほう・・これは・・美しいものだな・・」

「・・この珠数には、今ここにいる黄金聖闘士(ゴールドセイント)のコスモが込められている・・お前の黄金聖衣(ゴールドクロス)とも共鳴して、高いプラスの相乗効果もあるはずだ・・・カミュ・・・この問題はお前が自分でケリを付けるしかない・・・だが、お前は一人じゃない・・・」

「・・・ありがとう、シャカ・・皆にも感謝している・・・暫く聖域を留守にするが、その間アテナを頼む・・・」

「・・それは任せておいてくれ・・ああ、五老峰の老師から伝言を預かっている・・日本に入る前に、顔を出してくれとの事だ・・」

「・・承知した・・では、行ってくる・・」 「・・ああ・・生きて還れよ・・」

最後のシャカの言葉に直接には答えず笑顔を見せて、カミュは踵を反した。

MAC01司令室・・・・・・

「・・司令・・他のマックステーションからの要撃増援隊・・発進しました・・こちらに向けて接近中です・・・」

「・・そうか・・リチャージ指令は?・・」 「・・まだですが・・間もなくかと・・・」

「・・うん・・レッド中隊のシニーズリーダーを呼んでくれ・・」  「・・了解・・」

「・・サマリタン・スタッフの移送は終わったのかな?・・」

「・・はい・・全員、ポイント A に収容したそうです・・」

「・・そうか・・だが、こちらに来て貰うまでは気は抜けないからな・・グリア氏の安全は厳に確保するよう、トーマス・リーダーに通達してくれ・・」  「・・了解・・」

また左上のモニターが開いた。

「・・ラウル・シニーズです・・・」

「・・シニーズリーダー・・悪いが発進予定を前倒しできるかな?・・・」

「・・はい・・あと30分で発進準備は完了しますが・・?・・・」

「・・リーダー・・悪いが10分短縮して20分で仕上げてくれ・・・ここには間もなく敵空間攻撃隊が来襲する・・・君達の発進を敵に見られたくない・・・」

「・・分かりました・・仕上げます・・・」

「・・完了次第発進してくれ・・こちらへの報告も確認も必要ないから・・・発進したらステーションの事は気にしなくて良い・・・君達は配置ポイントへ急いでくれ・・・・」

「・・・了解・・それでは・・・」 モニターは向うから切れた。

梁山泊・飛行艦格納庫・グレタ・ガルボ・ブリッジ・・・・・

オペレーター・「・・・グレタ・ガルボ、マレーネ・ディートリッヒ、マリア・カラス、ともに発進準備完了です・・」

「・・全クルー搭乗・・搭載兵装、積載兵装、全装備品、積載完了・・」

「・・・ロボは・・?」と、中条長官。  「・・・まだ作業中です・・・」

「・・止むを得ませんな・・ですがロボなら、出れば直ぐにも追い付くでしょう・・それにロボが必要になるほど強力な相手が来るかどうかも分かりませんし・・」と、黄先生。

「・・そうですね・・それでは、参りましょうか。黄先生・・」

「・・分かりました・・船団全艦・発進する! 総員、第1警戒配置! エンジン始動・定格起動・サブ・インパルス・パワードライヴ起動して、全船5m浮上・格納庫より出航する・・前進微速・0.3!」 「・・ゲート、開放!」

「・・ガランシェールとネェル・アーガマの位置は、トレースできるのかね?・・」

中条長官がパイプを咥えて席に座りながら訊く。

「・・タイム・テーブル上での位置は推測できますが、正確な現座標は判りません・・2隻とも今は遮蔽中ですので・・・」   「・・・了解した・・・『上』ではまた大きい騒ぎになるようだな・・・」  「・・こちらからは、如何ともし難いのが悔しいですが・・・」

「・・なに、攻撃隊程度の戦力でステーションが陥ちる事などないよ・・」

「・・この3隻の内の2隻を、サハラに振り向ける、と言うのもアリなのではありませんか?・・・」  「・・いや、戦闘艦としては、こちらよりオーディン・クラスの方が上だな・・・こちらとしては、伏魔塔の制圧に集中するべきだよ・・・」

「・・了解しました・・・」

『ニューヨーク・ポイントA』

ここはニューヨーク・マンハッタン島・セントラルパークの広大な地下空間に建設された地下施設だ。

SSDOがマシーン・チームと共同で建設したこの施設は、公園の表層には何も無いが、地下7階にまで拡がる大きい施設だ。

セキュリティとディフェンスのシステムをもう少し拡充させれば、ターミナル3として昇格させることも、SSDOの中では検討されている。

その施設の地下3階中央部に位置する司令室に、ハロルド・フィンチが入ってきた。

「・・遅くなってすまない・・皆、無事だったか・・?・」と、フィンチ。

「・・やあ、ハロルド・・君も無事に来られたのか・・・」と、リース。

「・・私は大丈夫だ・・ベアーと一緒だからね・・・」

ベアーはショウさんに駆け寄っていった。

「・・それで、サマリタン・スタッフの様子は・・?・・」

「・・全員、レベル3のスキャンを受けて貰って、今はそれぞれ個室に入って貰っている・・・結果、改造・調製・強化の兆候はないようだが・・精神・心理的なアプローチがあったかどうかまでは判らない・・・」

「・・洗脳・・か・・で、グリア氏は?・・」

「・・彼には、特別室に入って貰っている・・ペースメーカーに何やら仕掛けがあるようでね・・爆発物や毒劇物や盗聴器のようなものの反応は無かったが・・」 「・・どんな?・・」

「・・訊いてはみたが、知らないと言っている・・記憶が操作されているのかもな・・・」

「・・それよりステーションの方は大丈夫なの?・・」と、ルート。

「・・『上』の事は『上』に任せるしか、我々にできる事は無いよ・・」と、フィンチ。

「・・それはそうと、ここに来るまでの間にレイモンド・レディントン氏から連絡を受けたよ・・・レナード・コール氏と一緒にここに来るそうだ・・・」と、フィンチ。

「・・やれやれ、旧知の友人が、結構集まる事になるんだな・・フルクラムにここを知られたら・・ただじゃすまんな・・・」と、リース。

その時、複数のマルチモニターを監視していたトーマス・キールが声を上げた。

「・・!・エシュロン・ネットワークから地上にある総ての陽電子砲台に対してリチャージ指令が出ました。続けて軌道上の全攻撃衛星にも攻撃準備指令が出ました・・・目標はMAC01です・・」

そこにいた全員が振り向いてトーマスの顔と彼が見ているモニターを見遣ったが、口を開いたのはリースだけだった。

「・・・いよいよだな・・・」

MAC01司令室・・・

「・・強行工作隊はどうか?!・・」 「・・現在発進中です・・終了まで5分・・」

「・・よし、続けてヴァルキリーからスクランブルチーム発進!・・必要が無ければ変形無しと通達!・・その後、一個大隊ごとに要撃隊発進!・・先ず合流ポイントに急げ・・クラップ艦隊は?・・」  「・・第2ゲートから最初の2隻が出ました・・」

「・・所定の配置に着くまでMSの発進は禁止!・・アークエンジェルは?・・」

「・・第3ゲートからアークエンジェル、ドミニオン、ディファイアントが2分で発進・・続いてエターナルが出ます・・3分遅れてミネルヴァが出ます・・」

「・・イズモ級は?・・」 「・・第4ゲートからイズモ、クサナギが3分で出ます・・その後、アマテラス、スサノオ、ツクヨミ、ヤマトタケルが出ます・・・」

「・・陽電子砲迎撃ポイントへの集結と配置を急げ・・MSの発進は待機・・発進する全機、全艦ともに光学迷彩を展開・・攻撃開始まで迷彩は解除するな・・カウントダウンはまだだな?・・」  「・・まだです・・」  「・・対空ミサイルランチャーは?・・」

「・・既にビーム撹乱幕ミサイル装填しました・・」

「・・よし、対空ミサイルランチャー、全起動!・・」  「・・了解・・」

「・・デストロイド・ディフェンダーを対空支援として外壁に配置してくれ・・危なくなれば何時でも転送で収容できるようにロックしておけ・・」   「・・了解・・・」

「・・・全ステーション、及び全艦、対空戦闘用意!・・」   「・・了解・・」

「・・・さて・・こんなものかな・・」

『ガーティ・ルー【ファントム・ペイン】』ブリッジ・・・・

仮面を被った男が入るなり口を開いた。

「・・操舵状況は?・・」

痩せたアジア系の艦長らしき男が振り返って応える。

「・・出港して20分・・・距離36200・・・速度・コース・加速正常・・・」

「・・そうか・・・MAC01のモニタリングは?・・」

「・・あそこです・・倍率最大・・最大望遠です・・・」

「・・フ・・ン・・」男はそのまま腕を組んでブリッジに立った。

「・・大佐・・本艦も支援に向った方が良いのでは・・?・・」

大佐と呼ばれた仮面の男は艦長の方を見なかったが静かに応えた。

「・・僕らの存在はSSDOの中でも秘中の秘だ・・・事前に指令された行動計画以外の活動は厳禁とされている・・・それに、このぐらいの攻撃でステーションは陥ちないと思うね・・・だったら、こちらはこちらの任務に集中する方が結局、勝利への近道になると思うよ・・やはり序盤戦の山場は、伏魔塔制圧戦になるだろうからね・・・」

『財団』司令室・・・・・

「・・テレポートはまだ始まらないのか?・・ある程度叩かないと、カウントダウンは始まらないな・・?・・」

「・・そうですね・・もう間もなく始まると思いますが・・・」

「・・こちらからではどう観測しても、あのステーションの様子は、よく分からないな・・」

『荼枳尼山寺』・・・

ここは東京都西多摩郡檜原村からあまり離れていない森林の中である・・・・・。

非常に古びたあまり大きくない山寺のように見えるが、荼枳尼衆の根城である。

常人には見えないように、不見・不聴の結界が張られている・・・・。

漆黒の深い闇を纏い、色濃く引き摺るように歩く、マントを纏った黒髪の女が現れ、荼枳尼衆や六道衆の兵が集まって傅いている。

血に飢えた猫系猛獣の唸り声が響き、巨大な虎が現れた。マントの女も兵共も膝間付いて頭を下げる。

「・・こ、これはゴーゴン大公・・・わざわざのお越しで・・・」

大公がひとつ鞭を振るうと、迸る電撃で兵共が5人弾け跳んだ。

「・・何をやっているのだ!羅誐(ラーガ)よ、凶皇仏の回収に、早く掛からんか!」

「は!今日、日没とともに回収を開始します・・」

「・・だが何故か・・凶皇仏には既に・・解析不能のシールドが展開されている・・そのせいでテレポートによる収容は不可能になっているな・・・」

白銀の鎧と深紅の焔のような印象を与える飾を付けた兜を着け、長い装飾を施した錫杖を手にした男が現れて言った。

「・・こ、これはゼロ大帝陛下・・わざわざこのような所まで・・・」

「・・何も不思議に思う事など無いだろう・・凶皇仏は我ら同盟に属する組織・結社の総てに渡って様々に使い道のあるアイテムだ・・興味を持つのは当然だろう・・・」

声と共に3人の男がゼロ大帝の背後から顕れる・・一人は真っ白なスーツを着込んだ壮年に見え、1人はホワイトグレーのスーツを着た20代後半の男・・もう一人の男の服も真っ白なものだったが、ずっとラフな井手達で年頃は10代の後半に見える・・。

羅誐(ラーガ)は、この10代後半の若者から、最も凶悪で最も予測不能な印象を受けた。

「・・それなら、そのシールドごと回収すれば良いのだろう・・大公閣下・・ミケーネスは戦闘獣を?・・・」

また2人の異形の者が現れて言う。

一人は真っ黒なスーツを着て、頭部もツルツルした真っ黒なもので一つ目であった。

もう一人は白いスーツだったが、頭部は透明なマスクに覆われた異形なものだった。

「・・フ・・ン・・いくら使い勝手の良い掘り出し物だとは言え、これがミケーネス七つの軍団を動かさねばならぬ程の事案に見えるか?・・これだけ同盟の幹部が出張って来ているなら、それぞれに所属する戦力があるだろう?・・儂も一体は連れて来ているが、余程でなければ出さんよ・・・シャドゥナイトがギンガメと白骨ムササビを連れて来るぐらいの事は聞いているがな・・そもそも凶皇仏は荼枳尼衆が創ったものだ・・取り敢えずは荼枳尼衆と六道衆に任せるのが順当だろう・・・ニューヨークでの事は儂も聞いている・・・抵抗があるならその時に戦力を集中して潰してしまえばよかろう?・・」

「・・・ですな・・・では、日没とともに、と言う事で・・・」

『財団』司令室・・・・・・。

「!・テレポートが始まります!・・」

「・・パラノイアのガンカメラの画像のリンクをこちらにも貼ってくれ・・データを収集するんだ・・・」  「・・了解・・・」

『MAC01』司令室・・・・・。

「!・テレボート精神波をキャッチ!・始まります!」

「・・全機・全艦、最大戦速!・合流・集結・展開を急げ!・要撃隊の合流は?」

「・・始まっていますが、まだ3割程度です・・・」

「・・よし、構わん・・増槽とブースターパックをパージして、迎撃ラインへの展開を急げ!・・もう来るぞ・・艦隊は?・・」

「・・全艦加速35%から45%で展開中・・」 「・・できるだけ急いでくれ・・」

「!パラノイア戦隊出現!・高度、ステーションよりプラス20000Kmの標準軌道・・仰角方位35°から45°・・80機程度の編隊で転移して来ています!」

「・・陽電子砲搭載艦の配置を急げ! スクランブル・チームは?・・」

「・・接触まで、約150秒程です・・」

「・・敵戦隊の後方に回り込むまで光学迷彩は解除するな!」  「了解」

『財団』司令室・・・・・。

「・・うん? 向うの迎撃戦闘隊の姿が見えないな・・・」

「・・エネルギー・磁気反応は無数に検知していますが、光学画像としては捉えられません・・何か光学的なジャミングを機体に掛けているのでは?・・・」

「・・艦隊の反応はあるのか・・?・・」

「・・それと思しき規模のエネルギー反応も、10個以上あります・・・」

「・・ふん・・やはり情報が洩れているな・・と言うより、これはもう筒抜けだろう・・そうでなければ迎撃態勢など採れるはずがない・・・・」

「・・ステーションをある程度叩かなければ、カウントダウンは始まりません・・」

「・・周辺のエネルギー反応は、どのぐらいある?・・・」

「・・ざっとですが・・・1200はあるようです・・・・」

「・・それ程の数を・・・あのステーションが収容しているのか・・・・」

「・・思いますが・・・あのステーション、一つだけじゃないと思いますよ・・・」

「・・ふん・・それよりこちらの情報を筒抜けで把握できる理由を、こっちのAIに推測させてくれ・・・・」    「・・・了解・・・」

『MAC01』司令室・・・・・。

モニターが開いた。

「・・こちら、スクランブル・ヴァルキリー・レッドチーム・・敵はエネルギー反応でこちらを検知しています・・・」  「・・了解、レッドリーダー、対処する・・・」

「・・よし、スクランブル・チーム全機並びに、要撃隊第5大隊まで光学迷彩解除! 迎撃しつつ敵を迎撃ラインに誘導しろ!・・続いて対空メガ粒子砲・フェイザー砲起動! 迎撃戦闘隊を援護しつつ、敵を迎撃ラインに追い込め!・・」  「・・了解・・」

ついに本格的な空間格闘戦とともに、対空迎撃戦闘が開始された。

『財団』司令室・・・・・。

「・・敵の迎撃隊の一部が、ジャミングを解除しましたね・・・」

「・・機体のタイプは、今のところ3タイプか・・・なかなか高い機動性のようだな・・」

「・・火力もなかなかのものですね・・パイロットの腕も良いようです・・・」

「・・!おっ・・ステーションからの対空火線を検知・・ビーム砲のようです・・・」

「・・詳細に観測してデータを取ってくれ・・・」  「・・了解・・・」

「・・!・・カウントダウンが出ました・・30分後にミサイル発射・・45分後からリニア・レールキャノンでの攻撃開始・・ビーム・レーザー・陽電子砲での攻撃は、50分後です・・」   「・・そうか・・・うまくいくと良いがな・・・」

『MAC01』司令室・・・・・。

「・・!・・カウントダウンが出ました・・30分後にミサイル発射・・45分後からリニア・レールキャノンでの攻撃開始・・ビーム・レーザー・陽電子砲での攻撃は、50分後です・・」

「・・そうか・・・オペレーター! Mネットを通じて総ての攻撃衛星に侵入・・総てのシステムをこちらに同期して、27分後にカウントダウンを停止して削除しろ・・その後の制御は総てこちらで保持する・・・」   「・・了解・・・」

「・・よし、全機全艦、光学迷彩解除! アークエンジェルは? 」

「・・陽電子砲搭載艦隊・・配置完了まで・・150秒・・」

「・・了解・・上手く追い込んでくれよ・・・こちらの機体が撃たれて破損したら、直ぐに機体ごとロックしてメンテナンス・デッキに転送収容してくれ・・」

『財団』司令室・・・・・。

「・・総てのエネルギー反応が、ジャミングを解除しました・・・」

「・・こりゃ、すごいな・・・艦隊をズームしろ・・・」

「・・典型的な宇宙艦のようですね・・」

「・・同盟の宇宙戦艦より、高い火力を持っていそうだな・・・詳細に観測してデータを取ってくれ・・・敵の編隊・艦隊が何を狙って動いているのかAIに推測させてくれ・・」  「・・了解・・・」

ネプチューン・ブリッジ・・・

「やまとの様子は・・?・・」

「・・深度、950、距離、22200・・エンジン停止して沈底中・・・ポセイドンは反対側にいます・・海江田艦長以下、士官全員が士官室に入ってから35分が経過・・・自由な討論が続いていますが、間もなく海江田艦長から基本方針が出されるものと思われます・・・・」

 



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ステーション攻防戦2 やまと浮上 カミュ(承前)

やまと・士官室・・・

上座に座っていた海江田艦長がコーヒーを飲み干して立ち上がった。

「・・諸君・・本艦の基本行動方針に変更を加える・・SSDOは今のところ、我々と同じ目的の基に行動しているものと思われる・・本艦は可及的速やかに浮上し、我々の存在を世界に知らしめた上で完全な独立を宣言する。その上で第一にSSDOとの間に、次には日本とオーブ首長国連邦との間に、同盟若しくは契約を結ぶ用意のある事を世界に通知する・・エンジン始動・・バラスト・ブロー・・アップトリム15°20ノットで浮上開始・・・」

士官全員が立ち上がって帽子を被った。

アークエンジェル・ブリッジ・・・・。

「・・本艦の配置までは?・・」と、マリュー・ラミアス艦長。

「・・約40秒で配置に着きます・・・全艦の配置完了までは、約90秒・・・」

「・・陽電子チェンバー起動と、ラミネート・フェイズシフトの最大出力展開を、全艦に通達して・・・」  「・・了解・・MSの発進は?・・」

「・・まだ許可は出ていないから、待機よ・・・」    「・・了解・・・」

『MAC01』司令室・・・・・。

「・・被害報告を・・」

「・・撃墜72機・・パイロットに戦死者無し・・全員転送で収容しました・・負傷者42名・・重傷者はいません・・機体大破48機・・大破機体は分解還元しました・・中破92機・・転送で回収・・小破176機・・同じく転送回収・・・艦隊に目立った被害は今のところありません・・」

「・・機体のフェイズシフトを改善しないといかんな・・・しかし、初陣でこの程度の被害で済むとは思わなかったよ・・・」

「・・・ヴァルキリー隊とZ・リゼル戦隊・ムラサメ戦隊から、変形を許可して欲しいと言って来ています・・」

「・・第一波陽電子砲掃射後に変形を許可する・・」  「・・了解・・・」

『財団』司令室・・・・・。

「・・AIの推測では、敵は攻撃隊を艦隊の軸線上に誘導しているように見えることから、敵艦隊には大規模な攻撃オプションがある可能性が高いと・・・」

「・・敵艦隊をもっと集中して観測してくれ・・・敵のパイロット・・かなり腕が良いな・・・」

「・・それが妙なんですが・・こちらの攻撃で破損した敵の機体が・・次々とロストしています・・・」

「・・消えて無くなる訳でもあるまい・・・向うもテレポートを?・まさかな・・・もっと集中観測を続行して、後で詳細に分析しよう・・」  「・・はい・・・」

アークエンジェル・ブリッジ・・・・。

「・・全艦、配置完了・・」と、ノイマン。

「・・全艦、ローエングリン起動、照準、掃射範囲調整・・発射用意! 」

「・・・・全艦、発射準備完了・・発射10秒前・・・」

「・・射線上の戦隊に退避通告! 」

「・・6・・5・・4・・3・・2・・1・・」  「撃てーーー!!」

10隻の陽電子砲搭載艦から、19本の陽電子ビームが迸り出た。

有効射程範囲に誘導され、追い込まれていたパラノイア攻撃隊は、そのほぼ総てが消滅した。ビームの光は、地上からでもはっきりと見えた。

「・・ローエングリン、掃射完了・・」

「・・全艦、最大戦速で展開! 各個に対空戦闘開始! モビルスーツ隊、全機発進!」

『MAC01』司令室・・・・・。

「・・陽電子砲第一波掃射完了・・」  「・・どのくらい墜とせた?・・」

「・・540機前後かと思われます・・・」

「・・よし! 可変機戦隊には変形を許可する! MS全機発進! クラップ艦隊も対空戦展開! 各艦各個に対空戦闘開始! ステーションまで引き寄せての挟撃も許可する! 」

『財団』司令室・・・・・。

「・・・何だ、今のは? 拡大してリプレイしてくれ・・・」 「・・了解・・」

「・・加速荷電粒子ビームとは違うようだな・・推測させてくれ・・どのくらい墜とされた?・・・」  「・・520機は消滅したようです・・・」

「・・まだステーションに取り付けていない状況でこれでは、こちらが明らかに不利だな・・・再度のテレポートがあるかどうか、探ってくれ・・・」

「・・了解・・それとこれは、敵の対空戦力の新手です・・」

そう言いながら撮影したビデオを拡大してリプレイさせた。

「・・!・・何だ?・・可変機体があるのか・・人型に変形した!・・それにこっちは、元々人型の機動兵器か?・・・機動兵器の技術力では、向こうがかなり上のようだな・・・パイロットの腕が良いのも納得だ・・・これらの機体もデータを取ってくれ・・・」

「・・了解・・推測が出ましたが、艦搭載型の陽電子砲である可能性が高いと!・・」

「・・ビームパワーを拡大強化した、加速荷電粒子ビーム砲ではないのか・・・これがもしも正しいなら、艦隊攻撃もグローバーでの攻撃も、有効かどうか分からんぞ・・」

「・・調べましたが、残りの攻撃部隊に準備指令は出ていません・・」

「・・やるなら、もう出していないと間に合わん・・この作戦・・どうやら失敗だな・・また同盟の失態だが、戦果があるとすれば・・敵の保有戦力の一端を暴露できたことだな・・・」

確かに、540機のパラノイア攻撃機を1度の攻撃で消滅させてから、MAC01ステーション周辺宙域での攻防戦は、SSDOの側に有利に傾いていた。

MS、可変MS、ヴァルキリー、非変形戦闘機隊の連携、コンビネーションアタックは巧みで効果的なものであり、局面の要所でパラノイア攻撃隊を効果的・効率的に撃破していった。時折行われた、ステーション自体が持つ対空火力を利用した水際での挟撃戦も効果的なものであり、敵攻撃隊を効率的に撃ち減らしていった。

『MAC01』司令室・・・・・。

「・・戦況は、こちらに有利です・・」

「・・ああ、ストライク、バスター、フリーダム、ジャスティス、暁、インパルス、ザク・シリーズ、グフ・シリーズ、デルタ・プラス、リガズィ、ドム・トゥルーパーはもう収容させてくれ・・あまり人目に晒させたくない・・」

「・・了解しました・・敵攻撃隊の攻撃目標が艦隊に移りつつあります・・・」

「・・そうか・・艦隊を対空戦陣形のままで後退させよう・・こちらの対空火力と、迎撃戦闘隊とで、トリプル・クロスファイヤ・アタックを仕掛ける・・それと、直援迎撃戦闘隊の50機を発進させてくれ・・・詰めに入ろう・・・敵は数が減ると体当たり攻撃に移行する可能性が高い・・その場合には直ちにシールドアップ!・・」 「・・了解・・」

『財団』司令室・・・・・。

「・・やはり形勢は不利です・・・今から逆転するのは非常に困難です・・・」

「・・同盟から何か言って来るだろう・・チャンネルだけ開けておけよ・・・」

ネプチューン・ブリッジ・・・・・・。

「・・やまと・・海面まで30秒・・距離12500・・こちらの深度は650です・・ポセイドンは反対側・同距離・同深度にいます・・半径150Km圏内に於いて、海中・海上ともに艦影ありません・・200Km圏内に於いて、機影もありません・・」

やまとが再び海面を割って浮上した。

艦橋に出るハッチが開き、一人の男が現れて艦橋に立った。海江田四郎であった。

帽子の上からマイク・レシーバー一体のヘッドセットを着けている。

「・・・こちらは、原子力潜水艦シーバット・・私は艦長の海江田四郎です・・現在・・3MHzにて国連本部・・国連安全保障理事会・・国連に加盟する総ての国に向けて発信しています・・本艦は今ここで、完全な独立を宣言します・・新たな名称は、独立戦闘国家やまと・・私は艦長であり、国家元首の海江田四郎です・・我が国の存在意義は・・全世界の政治体制・政治組織から、軍事体制・軍事組織・軍事力を完全に分離するための、大いなる前哨です・・世界はかつて既に、政治から宗教を分離しました・・そしてこれからの世界は、政治から軍事力を分離する事が求められています・・それができなければ世界は、より危険で不安定で、急速に流動的で非常に予測困難な状況・状態に入らざるを得なくなります・・改めて世界に対して通告します・・本艦を軍事力を以て殲滅する事は、何者にも不可能です・・これから我が国は、自らを先駆けとして全世界の政治から軍事を分離するための活動を開始します・・また我が国はこれより、世界の他国・地方自治体・地域・団体・個人を問わず、それらに対して我が国が持つ防衛力を提供する代わりに、我が国が必要とする物資を貰い受けると言う、同盟若しくは契約を結ぶ用意があります・・その為、3・5・7・9MHzの周波数による通信回線を、我が国と外部との交渉用の回線として常に開放する事を確約します・・そしてこのファーストメッセージの最後に・・我が国はSSDO・日本・オーブ連合首長国との間に・・先に申し上げた趣旨での同盟若しくは契約を結ぶ用意があると言う事を、全地球圏に向けて表明します・・」

話し終えた海江田艦長はカフを取り上げた。

「・・溝口・・今のメッセージを10分のインターバルで30回、リピート発信してくれ・・続けてエンジン始動・・コース257・・速度10ノット・・艦橋深度まで潜航して発進・・」

ネプチューン・ブリッジ・・・・・・。

「・・やまとからの、ファーストメッセージですね・・」

「・・予想より早かったな・・Mネットを通じて文面と音声を各方面に送ってくれ・・それにしても海江田艦長・・やはりニュータイプとして間違いないようだな・・・」

「・・了解・・しかし、『上』はまだ即応できないでしょう・・・」

「・・別に即応する必要もないと思うが・・本艦とポセイドンとで各国の軍の動きと、やまとに接触しようとする様々な動きをモニターしよう・・それに、やまとがこのコースで進み続けるなら・・まず日本と接触する、と言う事になるのだろう・・アメリカやロシア・・同盟に属する組織も黙って見てはいないだろうな・・・」

中国・五老峰・三千間滝に迫る断崖の上・・・・

枯れ切ったような小柄な老人が、笠を被って座っている。

「・・ほう・・今日はいつにも増して滝飛沫の輝きが美しい・・虹の色にもよく映えておる・・・水の聖衣(クロス)が近くにあるお陰かな・・・」

「・・老師・・お久し振りです・・・」

カミュが聖衣(クロス)の箱を担いで断崖の上に現れた。

「・・おお・カミュ・・久し振りじゃな・・」  「・・シャカに言われて来ましたが・・・」

「・・ああ・・先のハーディアスとの戦いの後で・・儂は先代のアテナに具申した・・アクエリアス(水瓶座)の宿命の輪は・・時を超えて・・代を替えても・・立ち顕れる・・新たな宿命の輪に立ち向おうとする者が顕れた時・・ライブラ(天秤座)の聖衣(クロス)に采配させて欲しいと・・」

「・・それで・・先代のアテナは・・?・・」

「・・涙を流して・・儂の肩に手を置き・・同じ内容を命じられた・・カミュ・・シャカから渡された珠数を貸してくれ・・そして、箱を置いたら断崖の先に立て・・・」

カミュは黙って箱を置き、老師に珠数の入った箱を手渡した。そして、居住まいを正すと10歩ほど歩いて断崖の先に立った。

見てはいなかったが老師は、カミュから受け取った瑠璃瑪瑙の珠数を手に合掌し、脚を組んで座った・・すると、みるみる老師の中で小宇宙(コスモ)が急速に増大と凝縮を繰り返していくのが感じられた・・・8mほど離れているが、老師のコスモは自分を目の前の滝壺に叩き落すほどの勢いで高まり続けている。

「・・儂には何らの意思も意図もない・・ライブラ(天秤座)の采配は、ライブラのクロス(聖衣)そのものの意思により決定される・・さあ、アクエリアス(水瓶座)のセイント(聖闘士)よ、ライブラの采配を受け取るが良い・・・」

白光が内側から溢れ出るかのように老師の身体が光に包まれると、地響きがして滝壺からひと際大きい水飛沫が吹き上がり、ライブラ(天秤座)のレリーフが施された、クロス(聖衣)の箱が跳び上がった。

それはカミュと同じ高さにまで上がると、回りの6面を総て弾き飛ばして光り輝く本体を顕した。

「・・さあ!ライブラ(天秤座)のクロス(聖衣)よ! 采配を示せ! オーン!!・・」

その瞬間、クロスを構成するパーツが総て分離して弾け飛び、その中の一つがカミュに向って跳んだ。

カミュは両手でその一つを受け止めた。他のパーツはどこまで跳んで行ったか分からない。

「・・何を受けた?・・」と、珠数を手に立ち上がった老師が訊いた。

「・・左の・・ソーサー・シールドですね・・これには、どのような意味が・・?・・」

「・・左のソーサー・シールドなら、防御の意味合いが強いな・・それを頭の隅に置いて使うが良かろうよ・・それと、これには儂の小宇宙(コスモ)も込めた・・一緒に使えば、相乗効果もあるじゃろう・・」と言いながら老師は珠数を箱に納めてカミュに手渡した。

「・・ご配慮・・痛み入ります・・」

「・・教皇やシャカにも言われたじゃろうが・・生きて還れよ、カミュ・・聖域まで戻るのが厳しいようなら、ここまでは戻れ・・あとは儂が送ってやる・・・」

「・・重ねてのお気遣い・・恐縮です・・」

「・・急いだ方が良いな・・日が落ちれば、奴らは動くじゃろう・・」

カミュは自分の箱を担ぐと、老師に向き直った。

「・・はい・・それでは、参ります・・」  「・・気を付けてな・・」

そのまま踵を反したカミュは、断崖を下って行った。

『財団』司令室・・・・・。

「・・本部長・・推測が出ました・・」  「・・どう出た?・・」

「・・可能性が未知数である上に想像もしにくいのですが・・既存のインターネットは勿論・・あらゆる通信回線・・信号のやり取り・・総てのデータストリームを包含して・・しかも包含している事を気付かせない・・全く異質な・・次元の違う通信ネットワークを使っているのではないかと・・・」

「・・フン・・・敵の艦と戦闘機・・それに機動兵器の分析を始めてくれ・・数が減ったから特攻に移るかもな・・焼け石に水だが・・・カウントダウンは続いているのか?・・」

「・・・続いていますね・・」  「・・それじゃ、次の手があるのか?・・探ってくれ・・」

「・・了解・・次の手があるなら・・これは陽動ですか?・・」

「・・高くついたな・・うん?(彼の携帯端末の呼び出し音)・・私だ・・はっ、これは失礼しました・・はい・・ええ・・はい・・いつですか?・・・!・・はい・・分かりました・・伺います・・それでは・・はい・・失礼します・・はい・・」

「・・CEOからだ・・たった今同盟から連絡が入ったそうでな・・・12時間後にサロン・ミーティングを開くそうだ・・・」  「・・12時間!・・」

「・・ああ・・これは異例中の異例だな・・・推測と分析を詰めてくれ・・ある程度の資料にして持って行く必要がある・・・」  「・・了解しました・・」

『MAC01』司令室・・・・・。

「・・被害報告!・・」

「・・敵機の体当たり攻撃により、クラップ7隻が小破・・4隻が中破・・ともに後退しました・・戦死者ありません・・軽傷者48名・・艦内で治療中です・・残りの艦隊はシールドパワー平均80%を維持・・ステーションについては問題ありません・・敵機の残数は250ほどです・・・」  「・・カウントダウンは続いているのか?・・・」

「・・カウントダウン続行中・・ミサイル発射まで、9分・・」

「!・・じゃあこれは陽動作戦か!・・周辺の小惑星をチェック!・・全艦・全ステーション、ディフレクターシールド・構造維持フィールドフルパワー!・・予定通り3分前で総ての衛星に侵入して同期!・・ショックカノンとゴットフリートを起動!・・狙える敵機は狙撃しろ!・・100ml入りのスパイナーカプセルを20個用意してくれ・・・」

「・・・了解・・ですが、スパイナーの備蓄量からすると、用意できるのは10個です・・」

「・・仕方がない・・それで頼む・・・」  「・・はい・・まさか小惑星をテレポートでここにぶつけようって?・・」  「・・そういう事だね・・ぶつけられてもステーション本体は何とか無事だろうが・・稼働中のシステムや人間がどうなるかは判らん・・対空ミサイルランチャー全機、格納してくれ・・最悪の場合、ビーム撹乱幕拡散弾は転送で配置しよう・・・ミサイル発射5分前を特に警戒してくれ・・・」  「・・了解・・」

国連本部・事務総長執務室・・・・

クレイグ首席書記官がノックして入った。

「・・失礼します・・お呼びで・・?・・」

「・・シーバットの事は知っているな?これは日本、アメリカ、オーブに宛てた公開質疑書簡だ・・至急テレックスにて発信してくれ・・それから、今言った3ヶ国の大使を呼んでくれ・・それと緊急安全保障理事会の開催通告を出してくれ・・・」

「・・了解・・・SSDOとシーバット・・関連があると思われますか?・・」

「・・さあな・・むしろ関連は・・これから作られると思うね・・急いでくれよ・・」

日本・横須賀・アメリカ太平洋艦隊所属・第7艦隊揚陸指揮艦ホワイト・ベンフォールド・・・

「・・ドラン中将・・ドール統幕議長から、コールです・・」

「・・うん・・回してくれ・・」  「・・はい・・」

ブリッジのメインビューワが、ヘンドリック・ドール統合幕僚本部議長の姿を映し出した。

「・・ヘンリー・ドラン司令・・シーバットのメッセージは見たかね?・・」

「・・先程、見ました・・」  「・・第7艦隊司令部としての対処は?・・」

「・・哨戒機3機に離陸指令を・・加えてロサンゼルス級5隻に出航・変針を命じました・・武装解除の上、拿捕して連行します・・」

「・・よろしく頼む・・日本との関係もあるから慎重に対応してくれ・・現時点に於いて、威嚇以上の対応は許可しない・・」

「・・了解しました・・日本の海上自衛隊も動くと思いますが・・・」

「・・ロシア海軍もだろ・・日本のディーゼル潜なら協力して貰っても良い・・ただし、抜け駆けは許すなよ・・ロシアの艦を探知したら連絡してくれ・・こちらからもコンタクトしてみる・・」  「・・了解しました・・」

日本・横須賀・海上自衛隊・第2潜水隊群・「たつなみ」艦橋・・

艦長の深町 洋が甲板上の渡瀬 悟郎航海長に声を掛けた。

「・・航海長!・・給油はあとどの位で始まるんだ!?・・」

「・・30分ちょっとですね・・」  「・・少し早目に始めてくれ!・・」

「・・また何かのカンか虫の知らせですか?・・」

「・・余裕があるならやれよ!・・」  「・・了解・・・」

その時、深町の頭上をアメリカ海軍の対潜哨戒機が3機、あまり間隔を空けずに飛び過ぎた。   「・・ありゃあ、定時の離陸じゃないな・・・」

艦内から副長の速水 健次三佐が声を掛けた。

「艦長! 山之内幕僚長からです! つないでますよ! 」

「・・何だ? 田所司令じゃないのかよ? 」 「・・知りませんよ! 」

やり取りしながらマイクレシーバー・ヘッドセットのジャックをポートに挿し込み、帽子の上から被ってチャンネルを開く。

「・・こちらは『たつなみ』・・深町です・・」

「・・山之内だ・・急ぎで済まないが、可及的速やかに調えて出航してくれ・・命令の詳細は出航してから送信する・・・どの位で出られる?・・」

「・・今から給油しますんで、少なくとも終わってからですね・・」

「・・分かった・・悪いが急ぎでな・・」  「・・了解しました・・」

通話を終えると、切り換えて副長を呼んだ。

「・・聞いてるな? 速水・・南波から連絡は?・・」

「・・ありません・・水測長は、携帯の電源を切ってます・・・」

「・・研究所には、入ってるはずだ・・・南波が捕まれば、ダビングの件はバレるな・・・この動きからすると・・海江田のヤローが生きてるってのは、どうやら確実なようだ・・だがまあ、取敢えず最高速で出港準備だ・・」  「・・了解・・・」

通話を終えてヘッドセットを頭からむしり取ると、さっきより大声で航海長に怒鳴った。

「・航海長! 最高速で給油を終えろ! 虫の知らせが当たっちまったぜ! 」

そのまま返事を聞かずに艦内に降りて行った。

オーブ連合首長国・首都オロファト・内閣府官邸・代表首長執務室・・・

首席秘書官がノックして入った。

「・・ウズミ様・・お呼びで・・?・・」

「・・ああ・・最高評合議委員会の見解は出たかね・・?・・」

「・・出ました・・こちらです・・」封筒を手渡す。

ウズミ・ナラ・アスハは、受け取ると封を開けて書類を出し、内容を一瞥するとペンを取って手早く数行書き込んで封筒に入れた。

「・・これが決定だ・・国連からのテレックスへの回答と、我が国の国連大使にもこの内容で送信してくれ・・」 「・・分かりました・・・」

秘書官は封筒を受け取ると、そのまま退がった。

一分ほどして執務室の奥のドアが開き、五大首長の1人、コトー・サハクが入ってきた。

「・・ウズミ殿・・シーバットの艦長は、オーブと何か所縁があるのか・・?・・」

「・・彼の父親が現役時代・・武官として駐在していた時期があったそうだな・・・」

「・・しかし、それにしても・・・」

「・・ああ・・このオーブの事は、調べればある程度の事は判るからな・・・」

「・・SSDOはどう見る・・?・・」

「・・今は静観するしかあるまい・・・力と力のぶつかり合いが静まれば・・目と耳と口が動き始める・・我等が動くのは、それからでも良かろう・・・」

「・・そうだな・・・この前、日本会議と交信したのは何時だったかな?・・・」

「・・・八ヶ月ぐらい前だったかな・・・」     「・・内容は・・?・・」

「・・別に何も・・・一年に一度の定時交信だったからな・・・・」

『MAC01』司令室・・・・・。

「・・敵攻撃隊は・・残り100機前後です!・・・!・・テレポート精神波を検知!・・ここにではありません!・・」

「・・精神波の集約ポイントを割り出せ!・・全攻撃衛星に侵入して同期しろ!・・全機、全艦はステーションから距離を取れ!来るぞ!・・スパイナーカプセル全数ロックして転送準備!・・」

「・・ポイント判明しました!・・小惑星シルヴィアの衛星、ロムルスです!・・平均直径、21km・・」

「・・ロムルスのデータを出して構造的に弱いポイントを10ヶ所選定してくれ・・・そこにスパイナーカプセルを転送配置する!・・」

「・・了解・・全攻撃衛星同期完了・・カウントダウンプロセスリンケージをリセット・・リモートコントロールアレイを暗号化・・こちらのコントロールグリッドを設置しました・・!・・ロムルスの反応が消えました!来ま・・!・・」

その岩塊は、いきなり目の前に顕れた。司令室にいる全員の眼がメインスクリーンに吸い付けられる。

「・・!・・!・衝突までは!?・・」   「・・・!?・・130秒!・・」

「・・ポイントは?!・・」   「・・10ヶ所選定しました!!・・」

「・・カプセルと同じ体積を先に抜き出してから設置だ!開始!!・・」

「・・作業中・・・全カプセル・・・・設置完了!・・」

「・・直ちに爆破!!・・」

ロムルスのあちこちにある割れ目から光が漏れる。2秒ほど全体を震わせてから、ガスと細かい破片の噴出を伴って、幾つかの岩塊への分裂が始まった。

「・・総ての分裂岩塊をロックしろ!・・幾つに割れた?・・」

「・・8・・9です!・・」 「・・衝突コースにある大きい岩塊は?!・・」

「・・4です・・」  「・・よし・・光子魚雷4基・・起爆モードでロック! 転送設置後直ちに爆破する! ぶつかる前にやるぞ!」

「・・はい!・・最短M1、衝突まで28秒・・魚雷モード確認、ロック・・・転送設置・・・・完了!・・爆破します!・・・」

更に接近中だった4個の岩塊は、ほぼ寸前と言っても良いほどの距離で、その内側から光を溢れさせた。光子魚雷弾頭の破壊力は、設置された岩塊の規模から見れば、かなり大きなものであったので、爆破された後に残るものはあまり無かった。

「・・岩塊排除・・残りの5個は遠ざかります・・ステーション、全機・全艦ともに影響ありません・・敵機の残数は数十・・陽電子砲台のカウントダウンは続行中・・・」

「・・残り5個のロックはまだ解くな・・テレポート精神波を検知したら遠方に転送・・ステーションの防御態勢は維持・・敵機はあと10分で掃討しろ・・光子魚雷を使ったのはマズかったかな・・手の内を見せ過ぎたか・・・」

「・・了解・・止むを得ないのでは・・?・・」   「・・うん・・仕方ないな・・・」

『財団』司令室・・・・・。

「・・・・かわされました・・・・・攻撃隊も・・・もう掃討されます・・・・」

「・・最後まで記録は取り続けろ・・・最初の爆破と次の爆破では、違うものを使ったようだったな・・・・陽電子砲台のカウントダウンは続いているのか?・・・」

「・・・止まりました・・・」  「・・そうだろうな・・・あれだけやって全くの無傷なんだからな・・・精神波もかなり使ったし・・・もう続けては使えまい・・・艦隊やグローバーの作戦も見直されるだろう・・・パミール高原の作戦は動かせないから、また陽動の作戦を考えないといかんな・・・・その辺のところも、サロン・ミーティングで話に出るだろうな・・・分析と推測を出来るだけ詰めよう・・・」

ニューヨーク・ポイントA・・・・・。

「・・・かわしました・・・・何とか・・・・」

トーマス・キールが大きく息を吐いて背もたれに上体を預けながら言った。

「・・さすがシエンさんね・・・」  ルートが感嘆した。

「・・陽電子砲台のカウントダウンは?・・」と、フィンチが訊く。

「・・少し前に止まりました・・」キールがモニターを確認して言う。

「・・あれだけ派手にやって結局ステーションにはダメージ無しだったんだから、無駄だと思ったんでしょう・・?・・」と、ショウさんが髪を掻き揚げながら言う。

「・・これで同盟も、暫くは打つ手無しってところじゃないかな・・?・・予定されている攻撃計画も見直されるだろう・・・」ジョン・リースはそう言いながら、ほんの少ししか残っていなかったウィスキーグラスを干してテーブルに置いた。

「・・どうかな?・・パミール高原での作戦までにはまだ時間がある・・・新しい陽動作戦を複数用意するのに・・不都合は無いと思うよ・・」フィンチはそう言って紅茶のカップを取り上げた。

トーマス・キールがまたモニターを覗き込んで言う。

「・・ああ・・どうやら・・敵の攻撃隊は総て掃討されたようです・・戦闘の反応が急に弱くなって・・今はありません・・・」

急にショウさんが座っていたデスクから降り立ち、思い出したように言う。

「・・それはそうと・・何だっけ?・・あの・・潜水艦・・ああ!そう、シーバットだっけ?・・あれは、あたしたちと何か関係があるの?・・」

「・・どうなんだろうね?・・私は何も聞いていないがね・・・」

そう言いながらフィンチは紅茶のカップを置いた。

「・・あの艦長が言ったメッセージは、なかなか面白いものだったがな・・・・」

リースも立ち上がって、軽く首を回して言う。

「・・Mネットを通じてあの潜水艦の事を調べたが・・あの艦が出航した当時、まだステーションはフェイズ1を起動していなかった・・・にも拘わらずのあのメッセージは・・私も興味深いがね・・・恐らく『上』は、あの潜水艦の事を以前から知っていたのだろうな、とは思うよ・・・マシンは何か言っているかね?グローヴスさん・・・」

そう言ってもう一度ティーカップを取り上げた。

「・・ルートで良いってば・・『彼女』もMネットを通じて、あの潜水艦の事をモニターはしていたけど・・・何の判定もしていなかったわね・・・」

「・・それじゃあむしろ関係は・・・これから作られるんだろうって事だな・・・」

リースがショウさんを見遣って言った。

その時、右側のモニターの右下の隅が2回点滅した。キールが操作して言う。

「・・ああ・・デンベさんからメールです・・ジョージ・ワシントン空港で、レナード・コールさんと合流したそうです・・車でここに来ます・・」

「・・対応するSRを伝えてやって・・」と、フィンチが言った。

『MAC01』司令室・・・・・

「・・・敵攻撃隊・・・掃討完了・・・・」

「・・了解・・全機、全艦並びに全セクションへ・・・ご苦労さん・・・対応に感謝する・・・全機、全艦は帰投せよ・・・要撃増援隊も全機、こちらで収容して修理・整備・補給を行う・・・全ゲートは開放・・・誘導を開始してくれ・・・代わって高速パトロール中隊を発進させ、周辺宙域を確認させてくれ・・・ステーションの防衛体制は今後3時間は現状を保持する・・・改めてステーションの外殻を確認・・・恐らく敵が付けた何某かの付着物がある筈だ・・・それと、時間が掛かるからスパイナーの合成を開始してくれ・・・あとは、何かニュースはあるかな・・?・・・」

「・・了解しました・・・先ず、陽電子砲台のカウントダウンは少し前に止まりました・・・発射プロセスはシアー解放まで進んでいましたが、停止しました・・・サハラ砂漠の地下ドックと、ソロモン諸島の海底ドックでの準備作業は停滞しています・・・明確な中止指令は出ていませんが、停滞しています・・・それと関連して・・かと思いますが、同盟と財団のトップグループ同士による会合が12時間後ぐらいに開かれます・・・例のサロン・ミーティングですね・・・それもあって今後の攻撃計画も、見直されるのでは、と言う憶測が双方のネットの中で流れています・・・そしてこれが、『やまと』のレポートです・・・」

そう言って10ページのレポートが手渡された。私はレポートを左手で持ったままで、

「・・サロン・ミーティングの開催場所は、まだ特定できないかな・・?・・」

「・・毎回全力で探査していますが、今以てできません・・・」

「・・分かった・・そちらの探査は、引き続き続行しよう・・・強行偵察工作中隊とファントムペインにMネットを通じて連絡をとり、一時的に中隊を収容して貰おう・・・それと攻撃衛星群の制御を向うに返してやろう・・暗号化したリモートコントロールアレイは元に戻すが、こちらで設置したコントロールグリッドは暗号化して残すように・・ハッキングを解除してくれ・・・」

「・・了解しました・・・」

私は近くのシートに座り、レポートを読み始めた。コーヒーが欲しい。

3分30秒程を掛けて10ページを読み終えた私は、レブリケーターにコーヒーを出させると自分の席に戻った。そのまま2分程考えた私は、コマンダー・シートに座っている男に声を掛けた。

「・・高野・・・セカンド・サブ・スペース・フィールドを利用しての、ディープ・ネットワークミーティングを開く・・・対象は、総てのセクションリーダーだ・・開始は2時間後と言う事で、手配を頼む・・・」

「・・分かった・・日本はそろそろ夜明けだ・・・」

「・・ああ・・今日は、忙しくなりそうだな・・・・」

 



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ニューヨークポイントA 「たつなみ」始動 国連事務総長 日本会議

黒のSUVが街中を走る。運転しているのは、デンベだ。

後部座席にはレッドとレナード・コールが座っている。

レッドはPADを操作して、色々と見ている。

「・・あぁデンベ、SRナンバー8で来てくれとさ・・」

「・・分かりました・・」

「・・しかし、それにしてもな・・」 「・・どうした?・・」

「・・ちょっと、これを見てくれ・・どう思う・・?・・」と、PADを渡した。

「・・うん?・・・う~ん・・・この金の流れは・・?・・凄い規模だな・・」

「・・だろう?・・これ程の規模での闇資金の動きをリアルタイムで見るのは、私も久し振りだ・・・財団が動いているな・・?・・」

「・・Xかな?・・・」  「・・そんなところだろうな・・問題は目的だ・・」

「・・ジェネシスか・・・N・P・Bだろうな・・・」

「・・ジェネシスは、まだ時間も金も掛かる・・・だがこれぐらいだったら、N・P・Bを稼働体制に入らせるためのテコ入れとして、丁度良いと思わないか・・?・・」

「・・確かにな・・だが、そうなると・・グランドキャノンが動くか・・?・・」

「・・ああ・・そうなるだろうな・・まあ『上』もこれを見ているだろうから、任せていてもいいだろう・・?・・」

「・・その一環かな・・?・・知ってるか?・・世界救福教会?・・随分と派手に立ち回っているようだが・・・」

「・・ああ・・このニューヨークでもヤク絡みで動きがキナ臭い・・・こっちは後でリジーと一緒に能ってみるつもりだよ・・・」

「・・気を付けろよ・・メインバックはXだが、B・Gも絡んでいるからな・・」

「・・ああ・・判ってるよ・・・」

日本・横須賀・アメリカ太平洋艦隊所属・第7艦隊揚陸指揮艦ホワイト・ベンフォールド・・・

「・・・ドラン司令・・報告します・・シーバットにNC装備がなされたかどうかについて調査しましたが、確認できませんでした・・・」  「・・続けてくれ・・・」

「・・は・・複数の記録と証言でともに確認しましたが、出航前のシーバットそのものに最後に触れたのは、今シーバットに乗っているクルーです・・それは確認しました・・」

「・・そうか・・了解した・・この事実をドール議長に報告してくれ・・・それと・・・チャンローと、カーティス・マケインに出航指令を出してくれ・・・原潜部隊にも連絡して、双方とも密に連携するようにと・・・日本の海自は動いたかな・・?・・」

「・・了解しました・・・日本の艦船の出航は確認していません・・・」

「・・彼らは動くよ・・各地港の監視を強化してくれ・・・」  「・・了解しました・・・」

ディーゼル潜水艦・・『たつなみ』・・・

渡瀬 悟郎航海長がハッチから艦内に入り、手・腕・顔に付いた油をネルで拭き取りながら報告した。

「・・艦長・・燃料補給、終了です・・・」

「・・おう、ご苦労さん・・周りに何か見えたか?・・・」

「・・妙なものは見えませんでしたが・・ちょっと異様な静けさですね・・・」

「・・ふん・・この港への通行を規制したな・・ってことは・・田所の親父さんが来るって訳だ・・・南波も連れて来てくれるんなら良いな・・・・・・」

やまと・・・。

艦橋深度のまま速度10ノットで航行中・・艦橋にはまだ海江田四郎が立っている。

コース257で目標とする東京湾まで、2570Km程だった。

艦内から山中副長が呼び掛ける。

「・・艦長・・米第7艦隊所属の対潜哨戒機3機が接近中・・・本艦から12海里のラインに接触するまで・・・約100分です・・・」

「・・分かった・・3MHzの回線に接続してくれ・・」 「・・了解・・・接続しました・・・」

「・・・こちらは、独立戦闘国家やまと・・私は元首の海江田四郎です・・・国連に所属する総ての国家・・国連安全保障理事会・・国連総会及びに、現在本艦に接近中の米第7艦隊所属対潜哨戒機3機に向けて発信します・・・本艦は独立国家であるので、12海里の領海が存在します・・この領海のラインに許可なく接触しようとする存在は総て、本艦に敵対するものであると判断し、それに応じて対処します・・尚・・これはブラフではありません・・・また、我が国は現在、日本を目指すコースで航行していますが、日本政府と対話し交渉し、同盟乃至は契約を結ぶことを望んでいます・・・日本政府との対話に入る前に、SSDOやオーブとも、できれば対話に入る事を、我が国は望んでいます・・・繰り返しますが、許可なく12海里に接触しようとする者は、敵対する者であると判断します・・・以上・・」

回線から外れて、副長に呼び掛けた。

「・・山中・・今のセカンド・メッセージを10分のインターバルで30回、リピート発信してくれ・・・それとコース・速度はこのままで、ダウントリム10°、深度100に付けてくれ・・」  「・・了解・・・」

海江田艦長は艦内に降り、やまとはゆっくりと潜航した。

ネプチューン・ブリッジ・・・・

「・・聞きましたか?・・」  「・・ああ、セカンド・メッセージだな・・・」

「・・送りますか?・・」  「・・うん・・文面と音声とでMネットを通じて、『上』とターミナル2に送ってくれ・・・米原潜も接近中だな?・・」

「・・はい・・ロサンゼルス級5艦が接近中です・・距離はまだかなりありますが・・」

「・・よし、15%増速して『やまと』との距離を6000まで詰めよう・・深度も少し上げて500に着けてくれ・・Mネット暗号圧縮サインでポセイドンに通達・・」

「・・了解・・『やまと』はどう出ますかね?・・・」

「・・分からないし、それは今考えなくて良いよ・・ホワイト・ベンフォールドからの発信は漏らさずモニターしてくれよ・・」   「・・・分かりました・・・」

闇の中・・・・

「・・やはり、応えないな・・」

「・・こちらからの呼び掛けは聴こえているのか?・・・」

「・・聴こえてはいる筈だ・・昔の誼でこのチャンネルを閉じた事はない・・・」

「・・応答が有ろうが無かろうが、あのステーションにあ奴らが関与しているのは疑うべくもない事だろう・・?・・」

「・・レベルを問わないなら関与は間違いないだろう・・・あの中に奴らの誰かがいると言うのは、どうかと思うがね・・・」

「・・あれがテレポートでないなら何なのだ・・?・・」

「・・分からないがテレポートではないな・・テレポーターの存在を感じさせる生々しさが無い・・・」

「・・テレポート以外での瞬間物質移送なら、理論的にも技術的にも我々のそれを超えている・・・他にも我々の知らない技術を幾つも持っているようだし・・厄介な相手になるな・・・・」

「・・・それほどの科学レベルをどこで得たのか・・?・・」

「・・・分らんが、次の会合で財団からもっと詳しい話が聞けるだろう・・・」

「・・・我々の活動も、最近著しく妨害されている・・・・もっと対策を、根本的に考え直さなければならないようだな・・・」

暖かい光の中・・・・

「・・呼び掛けは止まりました・・」   「・・そうですか・・」

「・・このチャンネルは、なぜ閉じないのですか?・・」

「・・・彼等にも・・・可能性はあるからです・・・・より善い存在へと換わっていける・・・」

「・・・宇宙(そら)の中で目覚めた彼等は、人々に知られつつあります・・・」

「・・・そうですか・・・アテナとレムリアの様子はどうですか?・・・」

「・・・無事ですし・・守られていますし・・安定しています・・・」

「・・・そうですか・・・まだまだ、これからですね・・・・」

ニューヨーク・国連本部・特別非公開会議室・・・拡大安全保障理事会・・・・

「・・開会に先立ち・・多忙の中参集された各国国連大使には感謝の意を表したい・・先ず、議長及び事務総長である私からご報告したい・・・国連本部は事務総長及び安全保障理事会議長に付与されている権限の基に、SSDOに対しての専用連絡室を設置した・・・詳細については報告書を参照されたい・・・今後は、これから連絡と対話を通じて彼らの意図や目的とするところを引き出し、それが国際社会に対してどのような影響を及ぼすことになるのかを鑑み、必要であればこの場にて協議し、一致した姿勢で対応していきたい・・・安全保障理事会の参加各国には、それを了承して頂きたい・・・」

ジョージ・アダムズ国連事務総長が口火を切った。

「・・また、これまでの観測によれば・・SSDOに対して攻撃を繰り返し、敵対していると思われる謎の勢力の存在をも、認識せざるを得ない情勢であり、エシュロン・ネットワークや攻撃衛星群も何者かによりハッキングされたまま、未だに制御を取り戻せない状況は、憂慮せざるを得ない・・・エシュロン・ネットワークは貴方方安全保障理事会の常任理事として、参加されている各国が共同で開発し、設置・導入・管理している筈のものだが、侵入者に関しての情報があるならこの場に提供して共有すべきと思うが如何かな?・・・」

「・・議長!・・ここは拡大会議だ・・その問題は議論すべきでないと思うが・・?・・」

アメリカ大使だ。

「・・なぜそう言えるのかね、アメリカ大使?・・エシュロン・ネットワークも、あの5基の陽電子砲台の存在も、数千基の攻撃衛星群も、既に世界中に認知されていると思うが・・?・・」

「・・だがエシュロン・ネットワークに関わる問題に携われるのは、我々安保理常任理事国メンバーだけのはずだ・・・」イギリス大使が口を挟む。

「・・なら、今だにネットワークのコントロールを取り戻す事の出来ない、君らの責任を問うて、ここで追求しようか・・?・・それにそれを言うなら、現状をここで説明する義務と責任がある筈だ・・そしてそれはネットワークに関する条項にも明記されている・・・どうなのかね、アメリカ大使?・・」

「・・捜査は共同で続行しているが・・相手の正体は今以て不明だ・・ハッキング経路すら判明してない・・」フランス大使が渋面で言う。

「・・それで、今後の方針は・・?・・」

「・・引き続き、捜査・探査を続行する・・と言う事ですな・・・・」

ロシア大使が言いにくそうに洩らした。

「・・この機会に議長として提案させて頂くが・・・今後、この問題の解決に能っては、ここの拡大会議で協議し、対応し、対処する、と言うのは、どうだろうか・・?・・日本・オーブ・スカンジナビア王国・インドネシアも相当に発達進化した科学技術立国であり、特に情報通信分野に於いて、オーブが持つ技術は瞠目に値する・・どうかね・・?・・」

日本、オーブ、スカンジナビア王国、インドネシアの大使を除いた安保理常任理事国の大使達は、渋面のまま目配せし合っていたが誰も口を開かなかった。

「・・まあ、新しい経験と知識が加われば、より高次の智慧が生まれる、とか言う意味での諺もどこかの国にはあるようだから、別に不都合でもあるまい・・・」

と、中国大使が表情を変えずに言った。

「・・・それでは、反対意見も対案も出ないようなので、議長権限により、エシュロン・ネットワークへの外部からの侵入問題に関しては、今後はこの拡大会議に於いて対処すると言う事をこの場にて決議したい・・・宜しいですな・・?・・」

誰も口を開かなかったので、議長は一つ頷いて議事録書記に合図した。

「・・議長・・」と、ロシア大使が手を挙げた。   「・・何かな?・・・」

「・・SSDOに対しての専用連絡室とやらが彼らと対話している間に、国や自治体や団体や企業や組織や個人が、彼らと接触し、対話しようとするのは禁止するのかね・・?・・」

「・・できれば控えて頂きたいと、個人的には思うが、それらを禁止できる権限や法的な根拠は、今の国連に無いので、それらについて強く語る事は出来ない、と言うのが、現状だな・・」

「・・了解した・・・」

「・・それでは次に・・アメリカ海軍の所属であり、現在は日本人のクルーによって操艦されている攻撃型の原潜が、艦隊を離脱して逃亡し、独立宣言をぶち上げてその後もメッセージを発信し続けている件についてだが・・・先ず訊きたいのはなぜ日本人がクルーとなっているのかについてだ・・・どうなのかね・・日米大使・・?・・」

「・・議長・・この問題は日米安保条約に基ずく、高度な政治的協議によって決定された事案であるので、安保理に於いて説明せねばならないものでも、協議せねばならないものでもないと認識している・・・この問題は日米間に於いて、速やかに処理、解決できるものと確信している・・・」と、アメリカ大使が憮然とした表情で言う。

「・・・本当にそうであれば良いと、私も切望しているよ・・だがこちらにも入った情報によれば、当該艦に核弾頭が積載されたか否かについては未確認だそうだが、それでも日米間だけで速やかに解決できると言うのかね・・アメリカ大使?・・」

会場に於ける緊張の水位が3割ほど上がったようだった。

「・・・それでも日米間だけで解決できると思うし、解決すべきであると思う・・」

「・・件の原潜の艦長が、日本・オーブ・SSDOとの間に同盟若しくは契約を結ぶ用意があると言ったことは、どう見るかね・・?・・」

「・・それは・・大風呂敷を拡げては見せても、明らかに力の足りないテロリストが言いそうなことではないのかね・・?・・」イギリス大使だ。

「・・あまり時間が無いから、腹の探り合いはもうやめて核心を訊こう・・あの原潜の離脱に、日本やオーブは関わっていないのかね・・?・・」

会議場の空気が一気に張り詰める。

「・・我らオーブは、全く何の関係もない・・言えるのはそれだけです・・」

「・・日本はどうなのかね・・?・・アメリカが一番に疑うのは、君らの関与なのではないのかね・・?・・」

「・・我々としても寝耳に水の話で、全く事態がつかめません・・確かに、日本の海上自衛隊員を、米海軍所属原潜の乗員とし、艦共々米海軍の所属とする、ことについては、米政府・米海軍との間で、高度に政治的な協議を行い、合意に至った上で実行した事ではありますが・・彼らの離脱に関与していたなどあり得ません・・・」

と、日本大使は汗を拭きながらではあったが、はっきりと言った。

「・・・そうか・・・この問題は日米のどちらに於いても、国民や議会に対して何の説明もなく、何の承認も得ずに秘密裏に進められたことは事実ではあるが、その点に対してこの会議がこれ以上に追求しようとするのは、内政干渉の範疇に入るだろう・・・だが、当該艦が原潜であり、核弾頭積載の可能性が残る限り、一つ対応を誤れば取り返しの付かない事態を招き寄せる事にもなりかねない、と言うのも事実である・・・まだ情報や証拠が少ないと言う事もあり、この会議に於いて、何かの対応や対処を議決するのは困難である、と言う事も認識しているが、この問題に関しても議長権限に於いてこれだけは決定したい・・・SSDOに対して設置した特別連絡室は、同時に当該原潜に対しても、独自にコンタクトを執って対話し、当該艦艦長の意向を確認する・・・その上でその内容をまたこの会議に掛けて協議する・・・どうかな・・?・・」

これには、常任理事大使達が色めき立った。

「テロリストと何を話し、何の交渉をしようと言うのか!?」

「現段階で対話のテーブルに着くのは危険すぎる!」

「核弾頭を実際に持っていたら、何かを要求されても断れないぞ!」

「・・・大使諸兄の懸念は理解できるし・・主張は尤もなものであるとも思う・・・が・・・私はかの原潜のクルー達も、SSDOと同じくテロリストではないと考えている・・・まあ、それを見極める為にも対話は必要であると考える・・・この件についても、一先ずは私に任せて貰いたい・・・勿論、日米が共同で行う、解決に向けての努力を邪魔はしないし、それはそちらで鋭意に取り組んで貰いたいとも思うし・・・決して世界にとって不利益になるような話はしないと確約しよう・・・それでどうかな・・・?・・・」

どの常任理事国大使も、思い切り渋面を作っていたが、それ以上の発言は無かった。

「・・では・・取り敢えず、これで決定とする・・・」

日本・・箱根山麓の山間に立つ大きい山荘の地下会議室・・(日本会議)

楕円形のテーブルを囲んで20数人の男が座っている・・年齢構成は40代から70代のように見える・・上座と見える席には、羽織袴に杖を突いた3人と、ダブルのスーツに葉巻を咥えた一人の老人が座っていた・・・。

他のメンバーは、制服組もいれば背広組もいる。ジャンプスーツの者も2人いた。

和装の老人の1人が口を開いた・・。

「・・それで海江田四郎が・・SSDOと関連していたらしい形跡は無いと・・?・・」

制服組の1人が立ち上がった。

「・・は・・これまでに残されているものを総て精査しましたが・・それらしいものは・・」

「・・オーブの名を出したのは・・やはり父親の関連からかな・・?・・」

もう一人の和装老人が言った。

「・・現状では、そう見るのが適当であろうと思います・・・」

老齢に近い背広組の1人が、立ち上がらずに応えた。

「・・故巌元海将補は、ここのメンバーでもあった・・日本の真の実情を知っていた訳だ・・・」

ダブルスーツの老人が、紫煙を燻らせながら言う。

「・・だから、あのような宣言を・・?・・」  「・・論理性は高いな・・・」

「・・独立をぶち上げた上で日本やオーブと同盟し、新たな軍事的協力関係を構築しその力を示して、今の日米の関係に楔を入れようと言うのかな・・・?・・・」

3人目の和装老人が杖を突き直して応えた。

「・・いや・・SSDOを絡めたところを見ると・・・それだけではないように見えるな・・・」

「・・容易に組めそうな相手を、列挙したのではないのかね・・・?」

3人目の制服組の男が、立ち上がって応える。

「・・いえ・・彼のデータを見る限り、そのような性向は見受けられません・・・」

「・・シーバットは核を積んでいるのかね・・?・・」

「・・未確認ですが・・可能性はあります・・・」

「・・海江田艦長は・・核を撃つと思うかね・・?・・」

「・・状況によると思いますが・・・現状では何とも・・・」

「・・・SSDOについては、まだ何も判らない・・?・・」

「・・はい・・彼らが言った以上のデータは集まりません・・・」

「・・オーブと連絡を執るべきだろうか・・?・・」

最初に口を開いた老人が、独り言のように言う。

「・・まだいいだろ・・もう少し成り行きを見ても・・・」

ダブルスーツの老人が、灰皿に灰を落として応えた。

「・・それで・・海自としての手立ては・・・?・・・」

「・・海江田とは同期で、ライバル関係にあった者が、同じ潜水艦艦長となっています・・・海江田とは真逆な・・・大胆で驚かせる操艦をする男です・・・まず、彼を差し向けます・・・」

「・・その、彼の名は・・?・・」    「・・深町 洋・・」

3人目の和装老人が右手3人置いて座っていた恰幅の良い洋装の老人の方を向いて・・・

「・・矢吹さん・・あなたの方から神宮司さんに連絡して頂けませんかね・・?・・整備と、発進の準備を・・・?・・・」

「・・分かった・・伝えて置こう・・・ウチのMJはどうする・・?・・」

「・・そちらも、お願いします・・」   「・・分かった・・」

2人目の和装老人が口を開いた・・・。

「・・それで・・・我等としては、シーバットをどうする・・・・?・・」

「・・同盟は結ぶ・・・何のかんのと、言ったりやったりしてもな・・・その上で出来ればシーバットを我等で囲い込み・・・・米軍からも引き離して秘匿し・・・原潜の建造・運用・操艦に関するノウハウを手に入れる・・・・大凡の方針として、今はそれでいいだろ・・?・・」     そう言ってダブルスーツの老人は、葉巻を揉み消した。

 



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パーフェクトフルオープンチャンネル1

ガーティー・ルー(ファントム・ペイン)ブリッジ・・・・

「・・大佐・・間もなくランデブーポイントです・・」

と、イアン・リー艦長が仮面の男を見遣って言う。

「・・うん・・合図が来たら、手筈通りに対応してくれ・・」   「・・了解・・・」

強行工作中隊・・先頭のベース・ジャバー・・・

マラサイのコクピットの中でラウル・シニーズは正面を見据えていた。

「・・隊長・・ランデブーポイントまで20秒・・・センサー反応無し・・目視でも見えません・・・」

「・・よし・・Mネットを通じて、暗号圧縮サインを送信・・」  「・・了解・・」

その後20秒程してラウル・シニーズは、モニターの正面に見える何も無い筈の虚空の中で、モビルスーツデッキのハッチが半分だけ開き、ガイドビーコンが3の1だけ伸びたのを視認した。      「・・センサーに反応ありません!・・」

「・・!・・あれがファントムペイン・・・よし! 私が後ろでサポートするから、ベース・ジャバーごとに着艦しろ! 目測を誤るなよ! ・・」  「・・了解!・・」

MAC01・・司令室・・・・

「・・司令・・高速パトロール中隊からの報告で、周辺にストレンジャーは無いと・・」

「・・了解だ・・帰投させてくれ・・」

「・・了解・・それと、ダメージ・コントロールからもですが・・やはり外壁に付着物がありました・・生体発信機18個を除去したそうです・・・」

「・・分かった・・ご苦労さん・・・」

「・・強行工作中隊は、ファントムペインが収容中です・・」  「・・分かった・・」

私はコーヒーを飲み干してカップを皿に戻すと、一度立ち上がって座り直した。

「・・オペレーター・・ネプチューンを呼んでくれ・・・」

「・・交信しますか・・?・・」   「・・ああ・・」

「・・分かりました・・・亜空間通話回線を接続します・・・」

10秒ほどして正面のメイン・ビューワに、シードラゴン・クラス2番艦『ネプチューン』の、マーカス・コーネル艦長が映し出された。

「・・どうしました・・?・・直接通話とは、珍しい・・・」

「・・コーネル艦長・・対潜哨戒機がシーバットに接触するまで、どのくらいです・・?・・」

「・・約60分・・と言ったところでしょうか・・・」

「・・シーバットと直接に交信できますかね・・?・・」

「・・そちらからですか・・?・・」  「・・ええ・・」

「・・シーバットは現在、深度100、10ノットで航行していますが・・海面近くにまでループアンテナを伸ばしているので、交信は可能なはずです・・」

「・・分かりました・・ありがとうございます・・」 「・・どうするんですか・・?・・」

「・・パーフェクトフルオープンチャンネルで交信します・・」

「・・なるほど・・いよいよですね・・」

「・・はい・・今のところ米軍は、撃沈を目的としてシーバットを攻撃しないでしょうが・・同盟は違うでしょうから、同盟の戦力が現れた場合の対処はお願いします・・」

「・・分かっています・・それは、任せて下さい・・・」 「・・それでは、また・・」

交信は終了した・・私はまた立ち上がり、脚を肩幅より少し広く開いて、両手を背中で組んだ。

「・・オペレーター・・50分間の時限公開で、パーフェクトフルオープンチャンネルを3MHzで開設する・・基幹となるファイヤーウォールの上に、タイプの違う攻勢防壁と誘導防壁を3種類ずつ、交互に重ねるセットをワンセットとして、3セット重ねてくれ・・そしてセットとセットの間に、タイプの違う逆探知防壁を挟み込んで構築してくれ・・搬送波や交信を装ったハッキングに注意してくれ・・同盟からの精神感応波による攻勢が強まる可能性があるから、ディフレクターシールドパワーを30%アップ・・・」

「・・・発信位置は、ここで良いのですか・・?・・」

「・・ここで構わない・・MAC01は、何者からも隠れない・・」

「・・了解しました・・・作業中・・・・設定完了・・・司令の合図で公開します・・・交信内容は、記録しますか・・?・・」

「・・勿論、50分間の中での内容は、完全に収録する・・」 「・・了解・・」

一つ息を吐いた。・・・そして・・「・・オープン・・」

「・・・世界の皆さん、こんにちは。こちらは、S S D O ソーラー・システム・ディベロップメント・オーガニゼーション 私は、代表のシエン・ジン・グンです・・・繰り返します・・世界の皆さん、こんにちは。こちらは、S S D O ソーラー・システム・ディベロップメント・オーガニゼーション 私は、代表のシエン・ジン・グンです・・・私から、先ず世界の皆さんにご挨拶を申し上げます・・これは、50分間の時限公開で開設され、3MHzに設定されました、全世界完全公開の、相互に自由な交信の可能な、パーフェクトフルオープンチャンネルです・・私はこれより、ある国に対して交信を呼び掛けます・・その交信の内容は、世界に完全に公開されます・・また、その交信の途中で、誰でも私に交信を呼び掛ける事が可能ですし、その交信の内容も世界に完全に公開されます・・もしも私達、S S D O と対話されたい方がいらっしゃいましたら、交信の途中でもご自由に呼び掛けて下さって結構です・・ただ、交信の内容は総て公開されますことを、ご了承ください・・それでは、先ず私から、ある国に交信を呼び掛けます・・『独立戦闘国家・やまと・』応答を願います・・『独立戦闘国家・やまと・』応答を願います・・こちらは、貴国との対話を希望しています・・『独立戦闘国家・やまと・』応答を願います・・待機します・・」

『やまと』ブリッジ・・・・

「・・艦長・・」  「・・山中・・速度同じでアップトリム5°・・艦橋深度まで浮上・・」

そう言って海江田四郎はマイクカフを取り上げ、オールオープンに切り換えて口を開いた。

「・・こちらは、やまと・・独立戦闘国家・・やまと・・私は艦長であり元首の海江田四郎です・・そちらからの交信の呼び掛けに感謝します・・」

「・・初めまして・・海江田艦長・・こちらは、S S D O・代表のシエン・ジン・グンです・・・応答に感謝します・・これから、よろしくお願いします・・こちらも、貴方との交信を望んでいました・・貴方から発せられましたメッセージは、拝聴致しました・・・こうして、お話できた事に感謝します・・」

「・・初めまして・・シエン・ジン・グン代表・・ご丁寧な応答に感謝します・・メッセージを聴いて頂き・・感謝します・・私も、そちらから発信されましたメッセージは・・大変に興味深く拝聴しました・・それが・・私がそちらとの対話を望んだ契機でもあります・・・」

「・・海江田艦長・・私達のメッセージを聴いて頂き、感謝します・・宜しければ、私の事はシエンと呼んで下さい・・貴方から発せられましたメッセージも、興味深く拝聴しました・・私達とそちらとは、何か通じるものがあるように感じます・・・」

「・・ありがとうございます・・シエン代表・・私もそちらとは、共通項があるように感じています・・お互いに共通するところを基点として・・協力・共同ができるところもあるのではないか、とも感じています・・・」

米海軍太平洋第7艦隊揚陸指揮艦ホワイト・ベンフォールド・ブリッジ・・・

「・・通信士! 3MHzにセットしろ! 交信に割り込む! 」

「・・ドラン司令! そのような命令は出ておりません! 」

「・・これも命令の範疇だ。急げ! 」  「・・・了解・・・」

そう言ってヘンリー・ドランは司令席に座り、マイクカフを取り上げてオールオープンにした。

「・・こちらは、アメリカ太平洋第7艦隊である・・米海軍の所属として就航・就役しながら、同艦隊を許可なく離脱した脱走艦シーバットに対して通告する・・直ちに交信を中止し、速やかに浮上・武装解除の上で、迎えの対潜哨戒機編隊の指示に従い、原隊に復帰せよ・・これは厳命である・・シーバット、応答せよ・・」

「・・こちらは、S S D O 代表のシエン・ジン・グンです・・・このパーフェクトフルオープンチャンネルのホストを務めています・・・このチャンネルに参加される場合には・・本名と所属を明らかにして下さい・・・でなければ、誰からの応答も得られません・・繰り返します・・このチャンネルに参加される場合には・・本名と所属を明らかにして下さい・・でなければ、誰からの応答も得られません・・・」

国際連合本部・特別通信室・・・・・

「・・セットできたか!?・・」 「・・できましたが、割り込んで良いんですか・・?・・」

「・・構わん! フルオープンチャンネルだと言っていただろ ?・・それにこんなチャンスはもう無いぞ!・・」  「・・分かりました・・・いつでもどうぞ・・・」

「・・あーこちらは国際連合本部の特別通信室・・・私は国際連合事務総長のジョージ・アダムズです・・聴こえますか?・・こちらは国際連合本部の特別通信室・・・私は国連事務総長のジョージ・アダムズです・・・このパーフェクトフルオープンチャンネルに参加します・・・応答を待ちます・・・」

「・・こちらは、S S D O・代表のシエン・ジン・グンです・・初めまして・・ジョージ・アダムズ国連事務総長・・このオープンチャンネルにようこそおいで頂きました・・歓迎させて頂きます・・・私も貴方とはお話したいと思っておりました・・・地上の方々からこちらに直接交信の呼び掛けを頂いたのは、貴方が最初です・・・貴方とお話ができました事に感謝します・・・」

「・・こちらは、アダムズです・・初めまして・・シエン・ジン・グン代表・・ご丁寧な応答に感謝します・・私も、そちらから発せられましたメッセージは、大変に興味深く拝聴しました・・私は国連事務総長として、また、拡大安全保障理事会議・議長として、貴方との対話を望みました・・その目的は、対話を通じて貴方と、S S D O の事を、もっとよく知るためです・・・」

「・・こちらは、アメリカ海軍・太平洋第7艦隊所属・揚陸指揮艦ホワイト・ベンフォールド・・私は、ヘンリー・ドラン中将・・改めて脱走艦シーバットに厳命を通告する・・直ちに浮上し、武装解除の上、迎えの対潜哨戒機の指示に従い、原隊に復帰せよ・・繰り返す・・直ちに浮上し、武装解除の上、迎えの対潜哨戒機の指示に従い、原隊に復帰せよ・・応答を待つ・・・」

「!司令! こちらの艦名・所属・本名・階級・ポストを明らかにすることは、重大な軍機密漏洩行為では?・・」

副官のミッチェル大尉が声を上げた。

「・・大尉・・それが該当するのは、作戦行動中の潜水艦・正規及び特殊部隊・海兵隊などだ・・・本件には該当しない・・・」

「・・ヘンリー・ドラン司令・・こちらは、独立戦闘国家・やまと・私は艦長の海江田四郎です・・シーバットなる艦は既に存在しません・・本艦は独立戦闘国家・やまと・です・・・何ものにも所属しておりませんので・・何者からの命令も受け付けません・・」

「・・ヘンリー・ドラン司令・・アダムズ事務総長・・S S D O のシエン・ジン・グンです・・その他に世界中の総ての皆さんにお伝えします・・・S S D O は『やまと』を独立国として認定しましたので・・独立国として対応させて頂きますし、独立国として尊重致します・・・何者をも『やまと』に対して、命令する事は出来ないと考えております・・」

「・・ヘンリー・ドラン司令だ・・脱走艦シーバットとのみ交信する・・再度、脱走艦シーバットに厳命を通告する・・浮上し、武装解除し、指示に従い、原隊に復帰せよ・・指示に従わない場合は、攻撃を加える事も辞さない・・・」

「・・ヘンリー・ドラン司令・・シエン・ジン・グンです・・・世界中が耳を傾けているこの交信の最中に、過激な行為は控えて頂きたい・・・それに、シーバットと言う名の艦は既に存在しませんし、『やまと』は独立国として尊重されなければなりません・・・S S D O は『やまと』が、どのような種類に於いても、不当な圧力を被ることを容認しませんし、傍観もしません・・S S D O と『やまと』との間には、まだ何の契約もありませんが・・尊重されるべきものを尊重するために・・S S D O は必要な措置・行動を選択します・・・」

「・・ヘンリー・ドラン司令・・ジョージ・アダムズです・・・国連事務総長としても、拡大安全保障理事会議議長としても、当該艦をどちらの名前で呼ぶべきなのかと言う事については・・まだ決められないのだが、この特別通信室は、当該艦と交信し対話し、その内容を拡大安全保障理事会に掛けて、対応を協議の上決定すると言う事でも、開設を承認され、対話と交信に於いては、私に一任されている・・・交信と対話により、必要な情報が集まるまで・・・示威に於いても物理に於いても、圧力行動は控えて頂きたい・・・そのように要請する・・・確認を取りたければ、アメリカの国連大使に問い合わせて貰いたい・・・」

「・・アダムズ事務総長・・ヘンリー・ドランです・・要請は拝聴しました・・・少し上官と協議する必要がありますので、暫く交信を中断します・・・ですが、これだけは申し上げたい・・・アメリカ政府がシーバットを独立国として認めない限り、シーバットに対しての命令権は、この私にあります・・・それは、お忘れの無いように・・・」

「・・ヘンリー・ドラン司令・・シエン・ジン・グンです・・このパーフェクトフルオープンチャンネルの残り時間は・・あと30分ほどです・・交信を再開されるのでしたら、それまでにお戻り下さい・・閉鎖までは、お待ちしております・・・」

「・・・了解した・・・」

 

そう応答して交信を閉じた。

「・・ミッチェル大尉! ドール統幕議長を呼び出してくれ・・」 「・・了解しました・・」

「・・シエン代表・・海江田四郎です・・『やまと』を独立国家として認定して頂いた事と・・独立国として尊重したいと表明して頂いたことに対しまして・・感謝を申し上げます・・人が作った組織としては、最初の認定者です・・」

「・・海江田艦長・・シエンです・・お礼には及びません・・S S D O も人が作った組織として、この地球圏の中では新参者ですのでね・・・相見互いに・・お互い様と言う事です・・ご承知かと思いますが・・S S D O は国家ではありません・・N G O であり、流通機構でもあり、建設公社のようなものでもあります・・ですので、協力・共同的な結び付きを顕すのでしたら、『契約』と言う形になります・・・それでは、海江田艦長・・また・・アダムズ国連事務総長もご同様に・・S S D O に対して、質問はございますか・・?・・・」

揚陸指揮艦ホワイト・ベンフォールド・作戦通信室・・・・

「・・ヘンドリック・ドール議長とつながります・・」  「・・ああ・・」

液晶の大画面に、デスクに座るドール議長が映し出された。

「・・ヘンリー・ドラン中将・・報告は受けているし、ライブでも聞いていたよ・・深刻な軍規違反と言うほどではないが、褒められるものでもないな・・・」

「・・・恐縮です・・・ドール議長・・・」

「・・我が国の国連大使に訊いたが、先の会議で承認されたのは、対話についてはアダムズ事務総長に一任するが、米日が双方協力の下でシーバット問題の解決に当たると言う事については、鋭意努力して貰いたいし、邪魔はしない、と言う事だったそうだ・・・」

「・・それでは・・?・・」

「・・オープンチャンネルの閉鎖まで、もうあまり時間が無いな・・君の裁量に任せるよ・・・再び交信に割り込んで、シーバットに通告するもよし・・既に通告済みとして哨戒機と原潜でプレッシャーを掛け、降伏を促すもよし、とする・・やってくれ・・」

「・・了解しました・・最善を尽くします・・・」   「・・頼む・・・」

映像は消えた。

「・・シエン代表・・海江田四郎です・・地球圏全体に対して・・人類社会の・・あるべき存在の形とは・・どのようなものとお考えでしょうか・・?・・」

「・・海江田艦長・・シエンです・・地球圏全体に山積している諸問題を解決するため・・効率的、発展的、持続的なアプローチを行い・・解決に至るまで継続するには・・地球上での人類社会が・・一つに統合されるべきと考えています・・・海江田艦長・・独立された『やまと』が・・目指そうとするものについて・・伺ってもよろしいですか・・?・・」

「・・シエン代表・・まだ始めたばかりですし・・紆余曲折もあると思いますし・・段階的に進むものでもあるであろうとは思いますが・・現段階で端的に申し上げさせて頂けるならそれは・・・『サイレント・セキュリティ・シーバイス・サービス・フロム・ザ・シー』・・と、言えるであろうと思います・・・」

「・・海を基点とする沈黙の安全保障・・と言うような意味合いでよろしいでしょうか・・?・・」    「・・・それで結構です・・・」

「・・シエン代表・・海江田艦長・・アダムズです・・それは・・民族自決の権利をも否定した無政府主義(アナーキズム・anarchism)ではないのかね・・?・・」

「・・アダムズ事務総長・・シエンです・・S S D O は現状に於いても・・近い将来に於いても・・遠い未来に於いても・・国家や、政府自治体の存在を否定するものではありません・・総て契約の対象としております・・・ただ、これからの理想的な状態の可能性の一つとして・・・全地球圏の人類社会を・・たった一つの行政組織にまとめあげなければ・・諸問題の解決は、出来ないだろうと言う見解を、申し上げたまでです・・・」

「・・アダムズ事務総長・・海江田四郎です・・我が『やまと』も、シエン代表とほぼ同様の見解を持ちます・・各国家の政治から軍事力を分離しなければ・・地球圏の行政を統合へと向かわせる道筋さえ見出せないでしょう・・・我が『やまと』の存在こそが、その最初の試みなのです・・・」

「・・シエン代表・・アダムズです・・地球上の誰とも・・契約を結ぶ用意があると言われましたか・・?・・」

「・・はい、申し上げました・・S S D O は個人・家庭・地域自治会・学校・企業・組織・団体・自治体・国の如何や規模を問わず・・・契約条項が遵守されるのなら・・契約を締結します・・・」

「・・それには、反社会的な活動をしている、テロ組織なども入るのですか・・?・・」

「・・その場合には、いかなる反社会的な活動も、完全に辞めてもらう、と言う条項が契約内容に入りますし、それが完全に検証できるまで、どのような契約も発効しないと言う事になります・・・」

「・・・続けて海江田艦長に伺うが・・貴方の言われる『海を基点とする沈黙の安全保障』の体制は・・原潜1艦だけで可能なのかね・・?・・」

「・・アダムズ事務総長・・確かに1艦だけでは、可能性は小さいでしょう・・ですが、我が『やまと』が存続し続ける事で、世界や各国の政治・経済・軍事や社会や様々な人々に影響を与え続けるなら・・この安全保障体制に加わろうとする意志も、その動きも、多く・大きく立ち顕れて来るだろうと確信しています・・・」

「・・それでは海江田艦長・・もしも口頭で宜しければ・・S S D O と『やまと』との間での、契約条項についての申し合わせに入っても宜しいでしょうか・・?・・」

「・・ぜひ、お願いします・・・」

「・・『やまと』は、『海を基点とする沈黙の安全保障』体制の構築・確立・維持・存続・発展・運用に関して・・必要と判断される行動を常に採用する・・・・S S D O は、『やまと』の行動とその目標・目的を全面的に支援し・・必要と判断する情報を共有し・・必要と判断する総てを供給し、提供し配慮する・・・以上です・・・」

「・・それで、結構です・・・ありがとうございます・・・」

「・・S S D O としての初めての契約を、『やまと』との間に締結する事が出来た事に、感謝します・・・そしてこれをお聴きの世界中の皆さんにお知らせします・・S S D O と『やまと』は正式に契約を締結しました・・・たった今より、『やまと』の前に立ちはだかる障害は、S S D O にとっても障害であり、『やまと』に対して敵対的行動を執る存在は、S S D O にとっても敵対的な存在となります・・・続いて『やまと』に接近中の対潜哨戒機と、原子力潜水艦と、これをお聴きになっているであろう、ヘンリー・ドラン中将に通告します・・・『やまと』に対して圧力を掛けるのは辞めて下さい・・・『やまと』から12海里の以内には入らないよう警告します・・・S S D O は『やまと』を・・不当な圧力や攻撃から全力で守ります・・・」

「・・・こちらはヘンリー・ドラン司令である・・・脱走艦シーバットに対して、最後の通告を行う・・・アメリカ合衆国は独立など承認しない・・・シーバットはアメリカ合衆国及びアメリカ海軍の所有物である・・・直ちに降伏し、浮上、武装解除の上、こちらの指示に従い帰投せよ・・従わなければ攻撃する・・・」

「・・ドラン司令・・海江田です・・貴方は貴方の立場で・・やるべきと考える事を、行えば宜しいでしょう・・本艦は『やまと』として、あくまでも存続し続けます・・攻撃されるのなら・・反撃もします・・・」

「・・ドラン司令・・シエンです・・重ねて申し上げますが、攻撃は辞めて下さい・・我々は阻止行動を採ります・・・」

「・・内政干渉は辞めて頂きたい・・それに10万キロ以上も離れた虚空にいる君たちに、こちらへの攻撃オプションがあるとも思えない・・・ともかく、通告は以上で最後である・・シーバット艦長の賢明な判断と、行動の選択に期待する・・以上でこの交信からは離脱する・・オーヴァ・・」

その時、クラーケン・クラス『マンダ』から、発射管装填音が聴こえた。

ネプチューン・ブリッジ・・・・

「!・艦長!」  「何本だ?」  「・・1本ですね・・」  「・・『やまと』にも聴こえたな・・」  「・・おそらく・・」   「・・1本で装填音も聴かせたと言う事は、我々の存在をあぶり出すつもりだな・・・クラーケンに1番積まれているのは、120ノットにも到達する、ウォータージェットと電磁推進併用の水中ミサイルだ・・知っていないとかわすのは難しいかな・・・」 「・・どうしますか?・・」 「・・様子見だ・・」

 



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パーフェクトフルオープンチャンネル2

「・・海江田艦長・・シエンです・・契約条項を履行するために・・情報を共有し、意見交換の上で、見解と意志を統一する必要を感じています・・しかも早急に・・共有すべき情報は多岐に渡り、大量でもあります・・申し訳ありませんが緊急であると考えて頂いて・・艦長と私とでの、会見のセットアップにご協力をお願い致します・・『やまと』の予定を変更して頂く事になりますが、ご了承を頂ければと思います・・・」

「・・シエン代表・・海江田です・・ご丁寧な申し入れに感謝します・・・私としても貴方との直接対話は、非常に重要であり、早急に行わなければならない事案であると認識しております・・・それで具体的には・・?・・」

「・・・24時間後に・・青ヶ島港で・・と言うのは、いかがでしょうか・・?・・」

「・・結構です・・了解致しました・・・それでは、『やまと』はこれでこのオープンチャンネルから退出させて頂きます・・・青ヶ島港でお会いできるのを楽しみにしております・・では・・・」

海江田艦長はマイクを置き、副長を見遣った。

「・・山中・・速度40ノットへ・・ダウントリム15°深度950に着いてくれ・・・」

「・・了解・・」     艦橋深度で航行していた『やまと』が潜航に入った。

その時、『マンダ』の発射管から注水音が聴こえた。

ネプチューン・ブリッジ・・・・

「・・開口音はまだだな・・?・・」 「・・はい・・」 「・・やまとは?・・」

「・・深度28から加速しながら潜航中です・・・」

「・・発射したら、やまとに到達するまでには・・?・・」

「・・最高速を出すなら、17.8分ってところでしょうか・・・」

「・・開口音が聴こえたら、インパルス・トラストを用意・・・ミサイルが不可避となったら、起動してコースをずらす・・・ミサイルが反転してもう一度捕捉しようとする頃にはロストするだろう・・・これで奴らには気付かれるだろうが『やまと』にはこちらの存在を気付かれずに済むだろう・・」  「・・了解・・」

そして発射管の扉が開口した・・。

マーカス・コーネル艦長が口を開くより早く、海江田四郎艦長が叫ぶ・・。

「エンジン停止!ベント開放!慣性自重沈降!マスカー開始!」

「・・インパルス・トラスト用意・・『やまと』は・・?・・」

「・・エンジン停止して慣性自重沈降に入りました・・マスカーを開始しています・・」

「・・さすがに速いな、海江田艦長・・これなら撃たれても回避できるか・・・しかし、撃ってこないな・・・そうか・・・我々を焙り出すと言うより・・海江田艦長の操艦を見極めたかったのか・・・20ノットでやまとを追尾・・」   「・・了解・・・」

「・・こちらはS S D O のシエン・ジン・グンです・・アダムズ事務総長・・他にご質問はございますか・・?・・・」

「・・・それでは伺うが、そちらのステーションを攻撃している敵対勢力について・・心当たりはおありかな・・?・・」

「・・攻撃衛星群も陽電子砲も、欧米先進諸国が共同で設置したエシュロン・ネットワークの管理下にあるのではないのですか・・?・・」

「・・それは確かにそうなのだが・・そちらのステーションに加えられた一連の攻撃は、外部からネットワークに侵入した者が行ったものなのです・・・」

「・・そうだったのですか・・教えて下さってありがとうございます・・残念ですが、思い付くような心当たりはありませんね・・・」

「・・そうですか・・現在、何者がハッキングしたのか、全力で捜査中でしてな・・・」

「・・何か、お手伝いできるようなことは、ございますか・・?・・」

「・・いや、お気持ちだけ頂いておきます・・先ず我々で、徹底的に捜査しますので・・・」

「・・そうですか・・早く判明しますように、お祈りします・・・他には、ございますか・・?・・」

「・・そうですね・・では、このような問いはどうでしょう・・?・・そちらが国連と、契約を締結するとしたら・・その条項は、どのようなものになるでしょう・・?・・」

「・・先ずは国連総会に於いて・・『S S D Oと契約を締結する』ことを決議して頂きましょう・・・具体的な協議は、それからと言う事で・・・」

「・・分かりました・・現状でこちらとして貴方にお訊ねしたい事は・・一先ずありません・・・」   「・・退出なさいますか・・?・・」

「・・残り時間は、どのくらいですか・・?・・」  「・・8分ほどですね・・・」

「・・宜しければ、傍聴させて頂きたいのだが・・」  「・・ご随意にどうぞ・・・」

「・・全世界の皆さん・・・こちらはS S D O のシエン・ジン・グンです・・このチャンネルは、あと8分ほどで閉じますが・・それまでに私と対話されたい方は、どなたでも結構です・・お話しませんか・・?・・」

アメリカ・ニューヨーク・A C N・T V ネットワーク本社ビル・10階・・・

ファースト・リポート・スタジオ・・・

セシル・A・デミル社長がライト・クリームブラウンのスーツを着て椅子に座り、脚を組んだ状態でライトを当てられ、ライブ・カメラを向けられている・・・。

ディレクターが右手でカウントダウンを示し、キューを出した。

「・・グッドイブニング・・A C N を視聴される皆さん、こんばんは。セシル・デミルです・・今夜は、短時間ではありますが緊急かつ特別に、我らのこの世界に突如として現れた、ビッグなニューカマーへのインタビューをお届けします・・・S S D O のシエン・ジン・グン代表・・・聞こえますか・・?・・こちらはA C N・T V ネットワーク・・私は社長のセシル・A・デミルです・・そちらのオープンチャンネルに参加します・・聴こえますか・・?・・私は社長のセシル・A・デミルです・・応答を願います・・・」

「・・初めまして・・セシル・A・デミル社長・・こちらはS S D O ・・私がシエン・ジン・グンです・・交信の呼び掛けに感謝します・・メディアの方からの交信の呼び掛けは、貴方が最初です・・もうあまり時間がありませんが・・良い話し合いができればと思います・・何かご質問がおありですか・・?・・」

「・・シエン・ジン・グン代表・・セシル・デミルです・・応答に感謝します・・メディア・カンパニーの代表としても、一人のジャーナリストとしても、貴方とお話ができる事に興奮しています・・私の事はどうぞデミルと呼んでください・・そちらから発せられましたメッセージは大変に興味深く拝聴しました・・その上で幾つか質問させて頂きます・・貴方方S S D O が武力を頼み、世界に覇を唱える者でないと言う事を、何を根拠に信じれば良いのでしょうか・・?・・」

「・・デミル社長・・それについては、今後の私達の姿勢や態度や言動をつぶさにご覧になって頂いて、判断して頂く他には無いかと思います・・・それと、私の事はシエンと呼んで下さい・・・」

「・・分かりました・・シエン代表・・お答え頂き、ありがとうございます・・続いて・・先に発せられたメッセージにもありましたが、そちらは他の誰とも契約を締結する用意があると言われましたが・・その契約内容は、金銭を仲介とするものではないとの事・・そちらは金銭を必要とはしないのですか・・?・・」

「・・はい、デミル社長・・ご推察の通り、私達は金銭を必要としてはおりません・・なぜなら・・私達は、必要である物総て・・私達自身で調達する事が可能であるからです・・」

「・・シエン代表・・それは素晴らしいですね・・どのように調達されているのか・・ぜひ教えて頂きたいものです・・・」

「・・デミル社長・・それにはまず・・私達と契約を締結して頂く事が・・必要になりますね・・その上で関連する事項や内容の中で・・お話できる場合があるかも知れません・・・」

「・・そうですか・・では、次に移りますが、貴方方は何者に攻撃されているのですか?・・エシュロン・ネットワークが何者かにハッキングされていた事は、こちらでも調べがついています・・・それに、今の地上にある技術では考えられない攻撃方法で襲撃されていましたね・・?・・相手について・・心当たりがおありなのではありませんか・・?・・・」

「・・デミル社長・・残念ですし、申し訳ないとも思いますが・・相手について思い付くような心当たりはありません・・・こちらでも調べてはいますが、まだまだ情報が不足しています・・・ですが、いずれは明らかになるだろうと考えています・・・」

「・・そうですか・・シエン代表・・では、次の質問に移りますが・・S S D O の目的とするところとは何でしょうか・・?・・」

「・・デミル社長・・S S D O は契約者との間で締結した契約条項を遵守し、契約内容に明記されたものを過不足なく納期を遵守して提供します・・・供給し、提供するものは総て、太陽系内宇宙空間にて生産します・・・将来的には提供品目数、供給量ともに増大を目指し・・・地球圏内での再開発並びに、生産活動を縮小の方向へと向かわせ・・・生産量も減少の方向へと向かわせるのが・・目的です・・・」

「・・シエン代表・・それは地球上での開発事業や、生産活動の総てに打撃を与えてしまうものなのではありませんか・・?・・そのような事態や状態を、結果としてもたらしてしまうような契約を・・結ぶ相手が地球上にいると思いますか・・?・・」

「・・デミル社長・・地球上での再開発事業や総ての生産活動が例え衰退しても・・人類社会にとって損にはならない・・持続的な発展や建設や向上が・・更に確実に見込めるような・・内容を契約の条項に盛り込んで合意の上で締結し・・遵守して推進すれば、問題は無いと考えています・・・地球圏が人類社会の礎であることは自明であるのに・・人類社会の再開発事業や総ての生産活動は・・地球圏の自然な成り立ちに破壊的な影響を与え続けています・・・礎を崩してまで社会を豊かにしようとするのは、本末転倒であって・・・意味を成さない行いです・・・」

「・・そちらの主張されようとするところの、概ねの意図は理解しました・・シエン代表・・それでは・・S S D O が目指す・・終着的な目標とは・・どのようなものでしょうか‥?・・」

「・・デミル社長・・それは・・地球上の人類社会を、宇宙空間に移設する事です・・・」

「・・シエン代表・・それは、軌道空間にスペース・コロニーを建設する、と言う事でしょうか・・?・・そのような大掛かりで大規模な・・そして遙かに遠い目標が・・実現可能であると思われますか・・?・・」

「・・デミル社長・・確かにこれは、遙かに遠い目標です・・・実現への可能性を引き上げる為にも・・実現への具体的で実際的な道筋を構築する為にも・・多くのフェイズを達成する必要があるでしょう・・・ですがこれは将来的に・・到達しなければならない目標なのです・・・偉大なる地球圏は・・私達人類にとって・・長きに渡り母なる揺りかごでした・・・ですが、いつまでも揺りかごではありません・・・人類にとっての地球圏が・・揺りかごでなくなるまでに・・そうなる前に・・言わば宇宙世紀をスタートさせる必要があると・・考えております・・」

「・・シエン代表・・地球が我々にとって揺りかごでなくなる、と言うのは・・例えば、どのような事態でしょうか・・?・・」

「・・一つには、更に温暖化が進行して・・各種の気象現象が更に過激化して・・地上での人類の居住が・・難しくなってくるとか・・もう一つには、地球磁場の循環する磁束流の中で、D層と呼ばれる循環磁束流があるのですが・・この磁束流の流れや循環のパターンの動きなどが活発化し・・徐々に磁束流の循環パターンが地表の近くにまで浮上してくることが予想されるのですが・・そうなりますと・・地殻変動の頻度やパターンが活発化する可能性が高くなる事が予想されます・・そうなりますと・・地表の状況の予測などは非常に困難になるでしょう・・・」

「・・詳しくお答え頂きまして、ありがとうございます・・シエン代表・・さて、もうそろそろ時間も押し詰まって参りましたが・・このオープンチャンネルは、定期的に開設して頂けるのでしょうか・・?・・」

「・・デミル社長・・なにぶんにも総てが初めての試みですので・・今後の事は、まだ未定です・・が、オープンチャンネルを定期的に開設すると言うのは、良いアイディアですね・・・」

「・・それはどうも・・シエン代表・・ところで、シーバットのキャプテン海江田とは、24時間後に青ヶ島港で再会する予定だそうですね・・?・・初めて対面しての会談と言う事になりますが・・・どう言った内容のお話をされるおつもりですか・・?・・」

「・・それはまあ、色々なお話をすることになるだろうとは思っています・・デミル社長・・具体的な詳細については、まだ詰めておりませんが・・例えば、海江田艦長の唱える安全保障体制の構想を・・我々としてどのようにサポートできるのかについても・・話す事になるでしょう・・・」

「・・そうですか・・シエン代表・・急な申し出で本当に申し訳ないのですが・・その青ヶ島港での初対面会談を・・我がA C N で独占生中継させて頂けないでしょうか・・?・・」

「・・デミル社長・・青ヶ島港で会談するとは言いましたが・・これが正確にどこで始まって・・どのように推移して・・どこでどのように終るのかについては・・どのような予定も立てられませんし・・何の保証もできません・・米海軍がどのように動くのかについても不明ですのでね・・・また、会談終了後に記者会見などしませんし・・一切のインタビューにも応じられません・・以上を承知して頂いて・・24時間以内に・・想定できる総ての状況・状態にも対応できる体制を構築できるだけの準備を・・A C N だけで調えられるのなら・・独占生中継を許可しましょう・・改めて申し上げますが・・そちらの記者やリポーターは・・こちらに一切話し掛けないように・・よろしいですか・・?・・」

「・・シエン・ジン・グン代表・・仰られた総ては了承いたします・・独占生中継を許可して頂いて本当にありがとうございます・・それでは私達はこれより・・独占生中継の準備に入りますので・・シエン・ジン・グン代表へのスペシャルインタビューはこれにて終了させて頂き・・このオープンチャンネルからも退出させて頂きます・・時間の無い中、インタビューにお応えを頂きまして・・改めてありがとうございました・・それでは、これで失礼いたします・・・」

それでデミル社長は退出した。

「・・全世界の皆さん・・S S D O のシエン・ジン・グンです・・このパーフェクト・フルオープン・チャンネルにお付き合いを頂きまして・・ありがとうございました・・予定はまだ立てられませんが・・次回の開設もあるでしょう・・その際には・・また宜しくお願いしたいと言う事と・・より多くの方々との対話を望んでおります・・皆さんの平安と健康と充実を祈念しております・・・それでは、ごきげんよう・・・クローズ・・」

オープンチャンネルは閉鎖された。

M A C 01 指令室・・・

「・・どうだった・・?・・」

ネットワーク・オペレーターのリーア・ミスタンテに訊いた。

「・・B G、シャドウ、クロノス、ガイゾックに侵入されましたが、いずれも第3セットの中隔で阻止しました・・・クローズまでに、あと10分あったら危なかったですね・・様々なウィルスも送り込まれましたが・・総て阻止して隔離しました・・影響はありません・・」

「・・精神感応波による攻勢はあったのか・・?・・」

ディフェンス・オペレーターのエレーナ・キーンに訊いた。

「・・20分間ほど、侵入を試みていましたが、諦めたようです・・物理破壊的な精神感応波は検知されませんでした・・・」   「・・分かった・・ご苦労様・・・」

日本・横須賀・ディーゼル潜『たつなみ』・艦長室・・・

深町 洋と田所潜水艦隊司令が、A C N・TV ネッワークから特別に中継されていた生放送番組を映し出していた、TVモニターを見ていた・・・。

中継が切れて田所司令は、帽子を右手で脱いでテープルに置いた。

「・・司令・・どうして、こんなことになったんですか・・?・・」

「・・簡単に言うなら、極めて高度な政治的判断によって・・って事だな・・・アメリカの言う事に我が日本は、基本的には逆らえない・・・それはお前も知ってるだろう・・?・・」

「・・それにしたって、『やまなみ』を犠牲にしてまでやらなきゃならなかった事なんですか・・?・・」

「・・お前が『やまなみ』の圧壊・沈没に疑問を持って音源をコピーし・・・南波水測長に持たせて秘密裏に研究所で解析させようとした事は、重大な隊規違反だ・・・だが事がコトだし・・場合も場合でな・・この任務・・お前にやらせるのだけは危ないと進言したんだがな・・・任せられるような男も他にはおらん・・・全く・・・出来の良過ぎる生徒を2人も持つと、心労で髪はこの通り、真っ白じゃよ・・・もう世界中に明らかになってしまったしな・・・海江田もクルーも全員生きとる・・・お前にはこれから『たつなみ』で出て貰う・・・青ヶ島に向い、海江田と接触して説得でも脅してでも構わん・・・シーバットごと日本に連れ帰れ・・・」

「・・米軍が撃ってきたら・・こっちも撃ちますよ・・・」

「・・優秀な艦長は・・どのような状況でも状態でも・・常に冷静沈着に・・臨機応変に行動して・・対処できるものじゃよ・・・お前の任務を特別に支援する艦として・・MJ が出る用意もあるからな・・・」

「・・あれを世間に晒すんですか・・?・・一度でも晒せば・・引っ込みが付かなくなりますよ・・?・・」

「・・その危険を冒してでも・・・シーバットを回収したいと言うのが・・・上の思惑じゃよ・・・補給は終わっとるな?・・いつ出られる・・?・・」

「・・すぐにも出られますが・・奴が人の言う事を素直に聞くタマだと思いますか・・?・・」

「・・もう一日も無いからな・・すぐ出てくれ・・・いいか・・くれぐれもな・・最後まで撃つなよ・・・・」

ニューヨーク・ポイントA・地下3階・センター・ルーム・・・・

メイン・スクリーンに映し出されていたセシル・デミル社長の姿が消えて、特別生中継が終了した・・。

ハロルド・フィンチは、もうすっかり冷めてしまった紅茶の残りを飲み干したが、まだ喉の渇きは癒し切れないように感じた。

トーマス・キールは、まるで今まで一度も呼吸していなかったのように大きく深い息を吐いた。

ジョン・リースは、グラスに残っていた液体を口に含むと顔をしかめた。あまりにも水っぽい水割りの味がした。

ルートは、コーヒー・ポットを取って自分のカップに注いだ。お代わりは3回目だった。

ショウさんは、椅子に座ったまま思い切り伸びをして、クラマトー・トマトジュースのグラスを取り、3分の1ほど飲んでグラスを置いた。

ベアーは、「何?」と言う感じで頭をもたげた。

レイモンド・レディントンは彼等より後ろの席に座ってテーブルに左肘を突き、左手で顔を支えていた。

レナード・コールはその右隣で椅子に深く座り、脚を組んでいた。

デンベはレディントンの左後ろに立っていた。

「・・さすがは榎本さんだね・・・早くも契約成立だ・・・矢継ぎ早に情報を発信して、それだけで状況を変えていくその手腕は・・相変わらず大したものだ・・・これで米軍も・・それほど派手には・・動けないだろうな・・・しかし、彼が直接地球に降りるのなら・・・同盟が狙ってくるだろうね・・・」

レッドは左手で山高帽を脱ぐと、手に持ったまま立ち上がった。

「・・それじゃ・・ジョン・グリア氏の話でも聞きに行こうじゃないか・・・訊きたい事も・・話したい事も、あるからな・・・」

皆がそれぞれに立ち上がり始めた時、少し前からモニターの一つに表示されていたメッセージを読んだトーマス・キールが、ハロルド・フィンチの前に立った。

「・・フィンチさん・・マシーンが対象者を出しました・・・」   「・・誰・・?・・」

「・・今しがた映っていた人です・・・」   「・・!!・・」

片付けようとしていたティーカップとソーサーを、ハロルド・フィンチは取り落としそうになった。

「・・!デミル社長が!?・・」 ジョン・リースも声を挙げた。

「・・と言う事は、彼は被害者で・・狙っているのは、同盟の一派、と言う事だな・・・」

レイモンド・レディントンが冷静に言った。

「・・どうするの?・・」と、ルートが訊く。

「・・私が5人率いて行きます・・皆さんはグリア氏と話を・・マシーンに指示して、仮の身分を出して貰います・・・」 トーマス・キールが言った。

「・・A C N は24時間後の生中継の準備で、かなりバタバタするわね・・どこでどう狙われるか、判らないわよ・・・」 ショウさんが言った。

「・・分かっています・・注意してガードします・・」

「・・よし、任せよう・・だが、手に余ると感じたら、直ぐに連絡しろよ・・・」

リースが空のグラスを手に取って言った。  「・・了解・・」

そう言って足早に出て行った。

 



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ジョン・グリア シエン・ジン・グン 赤羽の里

『グレタ・ガルボ』・ブリッジ・・・

メイン・スクリーンに映し出されていたセシル・デミル社長の姿が消えて、特別生中継が終了した・・。

中条長官は一つ息を吐くと我に返り、とっくに火の消えたパイプから灰を灰皿に出した。

「・・しかし・・オープンチャンネルの事は聞いていましたが・・あそこまで話が進むとは・・・それに今、榎本さんが地球に降りるのは非常に危険です・・・しかも・・・」

「・・フルオープンで、宣言しちゃったしな・・・」

言いながら長官は新しい煙草をパイプに詰めて、火を点けた。

「・・しかし、黄先生・・・パミール高原での作戦までには、同盟の陽動作戦が複数予想されます・・榎本さんはそれらに対して先手を打ったのかも知れない・・・」

2回ふかしてから立ち上がり、コーヒーを淹れた。

「・・なるほど・・こちらが分散させられる前に相手を集中させてそれを叩く、ですか・・しかし自分を囮とするとは、榎本さんも大胆ですね・・・」

「・・それ以外にも効果的な側面は色々とあると思いますがね、黄先生・・この船団だって結構目立ってますから・・・そろそろ光学迷彩を掛けましょうか・・?・・」

「・・そうですね・・船団全艦に光学迷彩を展開!・・」  「・・了解・・」

「・・X タイムには、どこまで到達できますかね・・?・・」

「・・何も無ければ、X ポイントの20キロ圏内には入っている筈です・・」

ニューヨーク・ポイントA・地下4階・特別治療室・・・・

大きい丸いテーブルに両肘を突き、重ねた両手の甲に顎を乗せてジョン・グリアが席に着いていた。

彼の右手側から、ルート、リース、サミーン、デンベ、レッド、レナード、フィンチ、そしてベアーがフィンチの右下に寝そべっていた。

「・・さすがに老けたな、レッド・・肥満体質は変わらないようだが・・・」

「・・そりゃお互い様だ・・・もう真っ白じゃないか・・・」

「・・それで・・ファイルは持ってきたのか・・?・・」

「・・それは・・私から進呈しよう・・・」

レナード・コールが胸ポケットからメディアメモリを出して、ジョン・グリアの目の前に置いた。

「・・こんなものの中に入っているのか・・?・・」

「・・ああ・・だがその中にあるのは、8年前までの・・フルクラムが関与した事件だ・・・現状で探り出せるのは・・マシーンでもこれが限界だ・・・」

「・・サマリタンの機能が回復したら、それを基にフルクラムを暴露したら良い・・・サマリタンの能力なら充分に出来るはずだ・・・」

「・・なら、何故マシーンがやらない?・・マシーンはいつの間にかサマリタンより数段、機能も性能も高めた・・・マシーンがやる方がもっと効果的にできるだろう・・?・・」

「・・ジョン・・電話でも言ったが、世界の裏側のそのまた影の中には、フルクラムよりも遙かに凶悪で狡猾な秘密結社が幾つも蠢いてる・・・サマリタンを乗っ取ろうとしていたガイゾックもそうだ・・・マシーンはそいつ等とフルタイムで渡り合いながら、世界上での人助けに忙しいんだ・・・フルクラムは、君等とサマリタンに任せるよ・・・」

「・・そのガイゾックとやらは・・サマリタンの統合を諦めたのかな・・?・・」

「・・まだ確定してはいません・・・それには時間が必要です・・・」フィンチが言った。

「・・ところでジョン・・私の妹はどこにいるんだ・・?・・」

「・・ミスター・コール・・確かに私は長年君を探し続けてきた・・・静止画でも動画でも君の姿は確認していた・・・だが君の居所は要として知れなかった・・・そして、君と直に顔を合わせるのは今日が初めてだ・・・その私がどうして君の妹の居場所を知っているのかね・・?・・」

「・・デシマ・テクノロジーズがまだあった頃・・私の妹は君の第3秘書だった・・忘れたとは言わせない・・・名前は、ミランダ・コール・・・サマリタンが覚醒してデシマ・テクノロジーズが解体された当時・・・妹は潜在資産とされて・・何故か隠された・・以後の事は判らない・・・どこにいるんだ?・・ジョン・・」

「・・すまないが、分からない・・思い当たる事もない・・・」

「・・手掛かりは二つだ・・・一つは、今動いている最小限のサマリタン・・・二つ目は、あんたの胸に入っているペースメーカーにくっ付けられているメディアだ・・・」

レッドが言った。

「・・私の記憶は手掛かりにはならないな・・君の妹についての記憶も・・私の胸に入っている物についての記憶も・・無い・・調べたければ、自由に調べればいい・・」

「・・それじゃあ、どうするの・・?・・」と、サミーン。

「・・『上』に相談してみようか・・?・・医療的アプローチのテクノロジーやテクニックでも・・一番進んでいるだろうからな・・・」と、リース。

「・・『上』と言うのは・・あのステーションの事だな・・?・・マシーンとあのステーションは・・どう言う関係にあるんだ・・?・・」

「・・マシーンとステーションは・・同盟関係にあります・・今貴方にお伝えできるのは、それだけです・・・今後、ご協力によっては・・色々とお話できることもあるでしょう・・・」

ハロルド・フィンチは、ジョン・グリアの眼を真っ直ぐに見据えながら、冷静に言った。

「・・ハリー・・そろそろ時間よ・・行かないと・・・」

と、ルートがフィンチに声を掛けた。

「・・ああ・・そうだった・・申し訳ありませんが、ミーティングが始まりますので、私とリース君とグローブスさんは先に上がります・・・皆さんはご自由にお過ごし下さい・・」

『財団』中央指令室・・・・

メイン・スクリーンの映像は既に、通常の36に分割されたマルチ画面に戻っていた。

「・・シエン・ジン・グンか・・・偽名だろうが・・日本人だな・・・」

「・・実に流暢な英語でしたが・・?・・」

「・・間違いないな・・・青ヶ島に降りると言ったが、どういうつもりだろう・・?・・」

「・・さあ・・・」  「・・まさか自分を囮に陽動作戦を仕掛けようと言うのかな・・?・・」

「・・まさか・・」  「・・いや・・あり得るな・・いずれにしろ次のサロン・ミーティングで新しい方針が出されるだろう・・・資料の作成は・・?・・」

「・・順調です・・間もなくまとめあがるかと・・・しかし、彼らの科学技術力は全く驚異的なものですね・・・」

「・・ああ、それどころか、脅威的ですらあるよ・・それにしても、A C Nは何故動いたんだ・・?・・」

「・・あそこは、T Vキーステーションとしては新興の会社です・・主だったメジャー・メディアカンパニーには、それなりに根回しも締め付けも効いているとは思いますが・・新興中規模キーステーションの総てまでには、眼が行き届いてはいなかったようです・・」

「・・もう一度改めて増し締めする必要がありそうだな・・」  「・・そうですね・・」

「・・こちらのA Iに、オーブと日本も含めてS S D Oと好意的に接触しそうな国や団体が出て来るかどうかについて推測させてくれ・・それと、日本会議とオーブの5大首長会議には・・それとなく警告しよう・・オーブも日本も、裏面で持っている戦力には無視できないものがあるからな・・・」  「・・分かりました・・」

日本・岐阜県北部・高山山麓山中の極めて小さい山里・・・

ある藁葺き屋根の平屋の居間で、小さい白髪の老婆が、既に砂嵐を映し出しているだけのT Vの前に座り、湯呑を一口分傾けて傍の盆に置いた。

彼女の右後ろで、小柄な若者が右肘を突き右手で頭を支えて寝そべっている。

「・・ばあちゃん!・・久し振りにテレビが点いたと思ったら、セリフが全部英語だから全然話が見えねぇよ・・・」

「・・ふん・・お前は百話法の修得が、まだ未了じゃったな・・・赤羽直系の者なのに・・・お前もそろそろ外に出るべきなのかも知れんな・・・」

「・・あの金髪のでっかいあんちゃんがあの子を連れて来た時も、ばあちゃん同じ言葉でしゃべっていたよな・・英語じゃなかったと思うけど・・・」

「・・ギリシャ語じゃよ・・喋ったのは随分と久し振りじゃったがな・・・」

「・・俺なんかが見ても・・・あの赤ん坊・・なんか違うな・・って感じなんだよね・・・」

「・・ほう・・お前でも分かるか・・・男児とは言え赤羽の直系・・鏡に連なる者じゃな・・・」

もう一度湯呑を持った。

「・・あの子が来た時・・志乃に乳呑児がいて助かった・・・」

「・・ばあちゃん・・そろそろ『上』の人が言ってた時間だぜ・・チャンネルは7番だったよな・・マイクもセットしなきゃな・・・」

「・・そうか・・大吾・・済んだら詩織と秋穂を呼んでくれ・・それで、お前も一緒に聴いたらええ・・・」

 



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セカンド・サブ・スペース・フィールド・ディープ・ネットワークミーティング

M A C 01 総合会議室・・・

「・・司令・・セカンド・サブ・スペース・フィールド・ディープ・ネットワークミーティングの準備は、間もなく整います・・あと3%で総てのセクションリーダーと繋がります・・・」   「・・分かった・・・」

この会議室はステーションの中でも広い方で、座席だけでも400以上はある・・・現在、M A C 01の中にいるセクションリーダーは、全員がここに集まることになる。

今、続々とメンバーが集まりつつあった・・皆思い思いに席に着く・・・。

このステーションに於ける後方支援本部長をも兼務している、藤堂 静女史に続いて会議室に入ってきた4人の顔を見て、やっぱりなと嘆息した。

「・・やっぱりお前たちが増援隊を指揮して来ていたのか・・・ステーションはどうしたんだ・・?・・」

「・・総ては順調で、予定通りですよ・・榎本司令・・」

そう応えて、M A C 03司令の西門 総二郎は軽く敬礼の真似をして席に着いた。

「・・ここを陥とされて、出鼻を挫かれる訳にはいかないからな・・・」

そう応えて、M A C 05司令の美作 あきらも隣の席に座り、脚を組んだ。

道明寺 司M A C 02司令は、何も言わずに席に着き脚を開いて腕を組んだ。

花沢 類M A C 04司令も席に着き、両肘を突き重ねた両手の甲に顎を乗せた。

「・・司令・・全セクション・リーダー、繋がりました・・始められます・・」

私は正面に向き直った。

「・・よし、始めよう・・オン・スクリーン・・・オール・オープン・・」

メイン・スクリーンが点灯し、画面は150に分割されたマルチモニターとなった。

「・・皆、忙しいところをすまないが、前哨戦ももうすぐ山場に入るので集まって貰った・・先ず、喫緊の予測事案から始めよう・・・東京、西新宿の再開発地区内で発見された凶皇仏だが・・日没後に同盟が連合で回収に動くだろう・・・こちらも戦力を集中してこれに対抗する・・・大鳥島のビッグ・ファルコンはボルテス・チームの・・・ターミナル2はザンボット・チームの発進準備に入ってくれ・・・同盟の回収部隊が現れたら、全機発進・・現在、裏高野にいる対抗部隊には、プラズマ・フェイズ・スティックを300セット転送して、日没30分前に全員を近くにまで転送する・・・ターミナル2からは増援として、仮面ライダーW・・獅子丸さん・・イチローさんとジローさん・・キャシャーン君とフレンダー・・島村ジョーさん・・ジェット・リンクさん・・アルベルト・ハインリッヒさんを時間を合わせて東京に転送する・・尚、今回は特別にギリシャの聖域から、黄金聖闘士(ゴールド・セイント)アクエリアスのカミュが参戦する・・この機会に同盟の戦力を可能な限り削減するが・・凶皇仏は同盟の手に渡すことを前提とする・・・」

「!!なんですと!?・・」 「!それは何故です!?」

思わず声を挙げたのは、慈空阿闍梨と日光だった。

「・・慈空阿闍梨様と、日光様のご懸念は充分に分かります・・・理由としては先ず、東京都内で凶皇仏を処理するには、火力が足りません・・・次に、凶皇仏をこちらで確保したとしても、保管するには危険過ぎます・・・敢えて一旦は敵に渡した方が、その後の凶皇仏の動向をコントロールできます・・・同盟が凶皇仏をパミール高原で、伏魔塔出現の為に使う事は確実ですので・・その場で凶皇仏は確実に始末します・・・作戦の詳細については、これから順次、ご説明します・・・それでも尚疑問があれば、質問して下さい・・・それでは、続けます・・次に、青ヶ島港での海江田艦長との会見ですが・・私は『アークエンジェル』で、実際に降下します・・当然、同盟が私を狙って、戦力を集中してくることが予測されます・・・ターミナル2は、ムーンライトY X 1・2・3・・・X Z 1・2・3・・・X X 1・2・3・・・Z Z 1・2・3の、計12隻の発進準備・・・私と海江田艦長との会見が始まる30分前までに、周辺のポイントに到着すること・・・現在、M A C 03と04からソーラーシステム・ミラーが運搬され・・軌道空間のあるポイントで、コントロール艦『センテ・ナリオ』の指揮により・・ミラーの展開と配置作業が進行中です・・・青ヶ島港で私を狙って同盟の戦闘艦や戦闘機が現れたら・・アークエンジェルとムーンライトシリーズで撃退します・・・戦闘獣や戦闘ロボット・・無人機動兵器・・空間攻撃機・・各種怪人やサイボーグなどが現れた場合には・・ここと02が共同でそれらの総てにロックを掛け・・月面の集光焦点ポイントに転送し・・直後にソーラーシステムが太陽光を集約して・・それらを処理します・・・海江田艦長との会見の中で私は・・ネプチューンとポセイドンを世界にお披露目して・・海江田艦長が唱えている『沈黙の艦隊』構想に、両艦を組み入れる事を表明します・・・この、青ヶ島周辺海域に於ける作戦は・・パミール高原での作戦の前に、同盟が複数ヶ所に於いて仕掛けて来るであろう陽動作戦に対して、先手を打つ意味もあります・・が、それでも陽動作戦は複数ヶ所で仕掛けられるでしょうから・・全セクションはどのような事態の急変に対しても即応できるよう・・東京西新宿での攻防戦以降は・・第1級の警戒態勢に入るように・・・それでは、パミール高原での作戦についての、詳細に入ります・・・X タイム30分前までに、梁山泊の船団はX ポイントからの20キロ圏内までには到達するように・・・そのための援護として、グレートマジンガーとゲッターロボGを船団に派遣します・・・両機とも、西新宿での作戦終了後に直ちに発進・・船団に追随して急行し合流するように・・・ジャイアントロボは現在、修理と換装作業中ですが・・終了次第直ちに発進し、船団に合流するように・・・同じく30分前の配置についてですが・・・アルビオンとラー・カイム、ラー・エイム、ラー・ケイムの4艦は大気圏突入フェイズ3・・・ガランシェールはフェイズ2・・・ファントムペインはフェイズ1・・・ネエル・アーガマとキング・ビアルはX ポイントの直上、高度800キロの軌道空間にて、ミラージュコロイドで遮蔽しつつ展開・・・その周辺宙域にラー・カイラム、ラー・チャター、ラー・エルム、ラー・キエムの4艦が同じく遮蔽しながら展開し、両艦を護衛する・・・同じく30分前までに、ムーンライトF X 1・2・3・・・S X 1・2・3・・・W X 1・2・3・・・S S 1・2・3の12隻は、Xポイントを包囲する形で20キロ圏内にまで到達する事・・・以上が30分前の配置です・・・さて、X タイムに入れば恐らく、X ポイントそのものか、そこからごく近い場所で、六道衆闇曼荼羅八葉の陣が展開されると思われる・・・その陣の中心に凶皇仏がいるはずだ・・・そしてその陣は・・宇宙からでも確認できる・・・ネエル・アーガマとキング・ビアルと護衛しているロンド・ベル艦隊は・・Xタイム5分前までにハイパー・メガ粒子砲と、プラズマ・イオン砲と、ハイパー・スクラム・トランスフェイザー砲の発射準備を完了すること・・・Xポイントの近辺で八葉の陣を確認したら、全艦は砲撃照準を陣にロックし、ミラージュコロイドを解除し、同一タイミングで狙撃を集中する・・それが作戦開始の合図であり、凶皇仏を確実に消滅させて、八葉の老師にもダメージを与える・・・闇如来は無理でも・・闇菩薩の内の一体は始末したいところだ・・・」

私はそこで言葉を途切らせ、コーヒーカップに口を付けた。

「・・・ともかく・・この砲撃を合図として、ポイント包囲部隊は突入を開始し、大気圏突入部隊は降下部隊・チームの発進を開始する・・ネエル・アーガマとキング・ビアルはミラージュコロイドを再展開して離脱コースに入り、両艦を護衛していたロンド・ベル艦隊は、大気圏突入フェイズ1に入る・・・また、今まで総てのセクションリーダーに対して報告はしていなかったが・・我々の中の専門チームは今から2年前に、『阿修羅』を発見し、保護して教育と訓練をある場所で施してきていた・・・現在彼女はこちらの要請に応えて、六道衆の中に潜入し、光と闇の力を併せて強く行使できる者の発見と、彼らに接触して関係を構築し、保護するための任務に従事して貰っている・・・彼女からの報告によれば、現在六道衆が用意している能力者は先ず、『天宇受売命』(アメノウズメ)と、同盟が世界中から能力の素養を持つ人間を拉致して集め、彼らの遺伝情報を掛け合わせ、合成して生み出した人工の能力者・・『オカン』と『オルガ』の姉弟がいるとの事で・・関係を構築している途中であるとの事だ・・・六道衆がこの能力者の彼らを、地上に出現した伏魔塔に施されている前アテナの封印の除去に用いようとするのは確実だろう・・・我々はこれを阻止し、彼らを保護して脱出させ、回収する事を本作戦の目的とする・・・我々の部隊が突入を開始したら、阿修羅は彼らを誘導し、六道衆の本隊から距離を取らせる・・・そこで我々の部隊が六道衆の本隊を攻撃し、同時に阿修羅は彼らを誘導して離脱させる・・・その後、我々の降下チームが彼らを保護し、こちらの艦隊に収容して脱出する・・・これが本作戦の概要である・・・尚、これを成功させるための陽動として、前アテナの封印は、こちらの手で除去する・・それで離脱・脱出のための時間が稼げるだろう・・それでも追撃されるようなら、後から降下したロンド・ベル艦隊が敵の追撃部隊に攻撃を加えてこれを排除し、子供達を回収した部隊の脱出を援護する・・言うまでもなく本作戦に於いても、同盟の部隊は可能な限り削減させる・・・作戦についての概要は以上です・・具体的で詳細な編成については省きましたが・・質問はありますか・・?・・」

「・・八葉の陣を撃って凶皇仏を始末し、八葉の老師にもダメージを負わせるなら、伏魔塔の出現は阻止できるのではないのかね・・?・・」慈空阿闍梨殿だ。

「・・いや、同盟は可能な限りの戦力と能力を結集して塔を引っ張り出すでしょう・・・何故なら、このXタイムの時機を逸すれば、まだ前アテナの封印の効力が残っているので、塔を地上に出現させられる可能性は、またかなり低下してしまいます・・また相当な年数を待たなければならなくなるでしょう・・過剰とも思えるほどの力と数を用意する筈です・・」

「・・では何故そのアテナの封印を、こちらの手で除くのです・・?・・」日光殿だ。

「・・一つには先程も言いましたが、陽動の為です・・向うはまさかこちらが封印を剥がすとは思っていないでしょうから・・驚いている間だけ時間を稼げます・・・もう一つには、効力が残っているとは言っても、いずれそれは尽きます・・・尽きれば自然にも封印は剥がれ飛び、108の魔星は復活して飛び出し、世界中に飛び散るでしょう・・・言うなれば、塔の出現は阻止できないし・・魔星の復活は避けられない・・・ならば、それらをこちらに有用にコントロールする事です・・・」

「・・具体的には、どうしようと言う事なのですか・?・」グレタ・ガルボの黄先生だ。

「・・予めステーション01から05までのセンサーシステムを割り振って準備し、108の魔星が飛び出したらその総ての航跡をインターセプト・トレースして、どこの誰に取り付いたかまで追跡します・・・お分かり頂けるとは思いますが、力はただ力です・・・魔星に取り付かれたとしても、その人間が100%ダークサイドに堕ちるとは限りません・・力はただ力ですからね・・・根気の要る事で、様々に難しい側面も多々あるとは思いますが・・魔星に取り付かれた人々のその後の動向・動静をトレースし・・接触して関係を構築し・・様々に影響を与えて可能な限り、こちらの側に組織します・・・長くなれば数十年は掛かるようなプロジェクトになるだろうとは思いますが・・こちらもそれなりの体制を構築して・・諦めずに注力し続けます・・」

「・・それで・・・榎本さん・・・貴方はガランシェールに乗るのですか・・?・・あまりにも急な話で、貴方が青ヶ島に降りる事についても・・我らは意見を言えませんでしたが・・・その件についても、我らは大いに懸念しております・・・まだ前哨戦の山場にもならない内に・・貴方の姿を人目に晒すのもマズいのに、況してや戦闘になる可能性の高い場所に自ら降りるなど・・何故なのです・・?・・貴方の能力も、力も、技も、技術も、速さも、まだ奴らに知られる訳にはいきません・・・私は乗りますよ・・アークエンジェルにも、ガランシェールにも・・・他の九大天王のメンバーもね・・・梁山泊の師範も全員呼び寄せます・・・」静かなる中条が、珍しく言葉を紡いだ。

「・・中条長官・・・私が青ヶ島に降りるのは、会見の為です・・・戦うためではありません・・・戦うつもりもありません・・・パミールに降りるのは、子供達を保護して連れ出すためです・・・戦うためではありません・・・」

「・・いや、貴方は自分の手でアテナの封印を剥がすつもりじゃろ?・・・アテナの封印を剥がした者には、地獄の業火が襲うと言う・・・そんなことはさせられんね・・・青ヶ島に降りるのは、百歩を譲って止むを得ないにしても・・・貴方がパミールに降りるのは認めんよ・・00№サイボーグは全員、アークエンジェルにもガランシェールにも乗るよ・・」断固とした口調で、ギルモア博士が言った。

「・・我々としても、認める訳には参りませんな・・・聖闘士の数が揃っておりませんので・・これまで参戦への辞退に対して、ご容赦を頂いておりましたが・・・貴方を戦場に降ろすくらいなら、我々も乗りますよ・・・この聖域を空にしてでもね・・・」

聖域の教皇も、仮面を着けたままだったが静かに言い切った。

「・・皆、考える事は同じだな・・って事で、俺と海東は勿論なんだが・・他のライダー達も全員・・両方の艦に乗るぜ・・・青ヶ島では、あんたの近くに敵は近付けさせないし・・あんたがガランシェールに乗る必要はない・・・」

ターミナル2の中央指令室で、腕組みをして立っている海東 大樹の前で、カメラに向かって両手を広く突いて上半身を乗り出して見せたまま、門矢 士が言った。

「・・しかし、アテナの封印を剥がす役目を・・

「・・その役目は世界の破壊者であるこの俺にこそ相応しいと思ってたんだが・・是非自分にやらせて欲しいとの申し出があってね・・・今回は譲ったよ・・・」

と、私の言葉を途中で遮って士君が言った。

「・・誰かね?・・それは?・・」

「・・ミスター・アダム・・ついでにドクター・ヘンリー・モーガン先生に彼から伝言だ・・『・・心配はいらない・・シャングリラの海辺で待っていて欲しい・・』・・とね・・」

私は一つ息を吐くと、両手を軽く拡げて挙げ、負けを認めた。

「・・分かりました・・・子供達の保護と回収・・そして脱出については、皆さんにお任せしますので、出来る限り乗って下さい・・お願いします・・他にはありますか・・?・・」

「・・シーバットは今後、どう扱うんだ!・・」

道明寺 司が、姿勢を全く変えずに大声で言った。

「・・シーバットとの間での契約履行に関しては・・『ヤマト計画』に修整を加えます・・」

「・・まさかシーバットとヤマトをワンセットにするんじゃ・・?・・」

ターミナル2でアルベルト・ハインリッヒが鋭く反応した。

「・・さすがですね・・状況の推移によっては、大気圏内でのヤマトの運用を海江田艦長に一任する事になるかも知れません・・・」

「・・海江田艦長と言う人は、そこまで信頼に足り得る人物なのですか・・?・・」

「・・信頼は充分にできる人物だと思いますよ、フィンチさん・・まあヤマトの運用に関しては、あくまで状況の推移とその様相次第ですがね・・・」

「・・ヤマトはもう完成してるのか・・?・・」西門 総二郎だ。

「・・完成はしている・・・最終の調整にもう暫く掛かるだけだ・・・」

「・・ところで、マクロスの改修の方はどうなっているのかね・・?・・」

と、ビッグファルコンの中央指令室から浜口博士が問い掛けた。

「・・あれは何しろ巨大なものですので、完成までにはまだまだ掛かりますね・・」

 



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セカンド・サブ・スペース・フィールド・ディープ・ネットワークミーティング 2





「・・アースシステム・シミュレーションの現況はどうですか・・?・・それについて、田所博士の見解に変化はありますか・・?・・」

藤堂 静女史が、立ち上がって訊いた。

「・・細部に変動はありますが、大筋での変化はありません・・・田所博士の見解にも、変化はありませんね・・・」

「・・シミュレーションの先延ばしプロジェクトの現況についても、お願いします・・」

静女史が、もう一度立ち上がって訊いた。

「・・アースシステム・シミュレーションは現在、第3世代の中核次元コンピューター6台を直列させて作成しています・・・地殻の岩盤に累積する圧力を、こちらから先手を打って解放・放散させる事で、シミュレーションの先延ばしを図る事がこのプロジェクトの概要です・・・シミュレーションを細部に渡って分析し、対処すべきアプローチ・ポイントとアプローチ・タイムを精密に割り出して、そこに量も精密に調節したスパイナーカプセルを封入して仕掛け、爆破して地殻岩盤に掛かる圧力を許容範囲で開放します・・・今迄に18795ヶ所で爆破作業を行いました・・・今後20ヶ月の間に・・1825ヶ所での爆破作業を予定しています・・・それで、これまでにどの程度の先延ばしができたのかと言う点ですが・・・3年と少しです・・・微々たるものではありますが、プロジェクトは今後も継続します・・・他に質問は・・?・・」

「・・ガムトゥーは、変わらず周回していますか・・?・・」

早乙女博士が訊いてきた。相変わらず無精髭が濃い。

「・・はい、周回軌道には・・全く変化がありません・・・」

「・・同盟内各結社の活動に対しての・・こちらの対抗活動について、もう少し詳しくお願いします・・」キングビアルにいる、神北 兵左衛門さんだ。

「・・B G 、シャドウ、B F団、クロノス、ゴルゴム、ショッカー等が画策している破壊活動については・・Mネットを通じて事前に情報を入手し、先手を打っての対抗活動に注力し・・敵の行動の殆どを事前に阻止しています・・・そのお陰もあり、目立って大きく組織的な戦闘は展開しておりません・・・尤も同盟も財団も、まだこちらの実態を掴んではいないので、具体的な戦力の展開ができないと言う事もあります・・・ミケーネスやガイゾックやボアザン帝国やギャラクターの動きが、まだそれほど顕著に見えないのも、その辺の事情に因る所が大きいと思われます・・・クロノス・ゴルゴム等による各国重要人物の調整・改造計画ですが・・現在はその総てを阻止しています・・以前にはこちらの行動が後手に回ってしまい、拉致・誘拐を阻止できなかった事案もありましたが・・現在ではこちらでも整備された深部探査により、当時の対象者の所在を把握・確認できる事もあります・・・その場合にはその対象者を救出・奪還し、逆調整を施して普通の人間に戻すと言う事も行っています・・が、その場合にはその人を元居た実社会に戻すと言う事が実質不可能なので・・合意のもとにこちらのスタッフとして残って貰っている場合もありますし・・過去の記憶に現在の行動の多くが強く影響されていると観て採れる場合には、止むを得ず記憶の操作や消去も行っています・・・アテナは現在、赤羽の里におります・・かの地で3才の誕生日を迎えるまで、養育する予定です・・言うまでもありませんが、赤羽の里の存在だけは敵に知られる訳にはいきません・・・その為に、可能な限りの遮蔽・防衛体制を採り、秘匿します・・」

「・・パミール高原での争乱以降に・・予測されている組織的な戦闘はありますか・・?・・」

ロンド・ベル艦隊のブライト・ノア司令だ。

「・・可能性として最も高く予測されているのはやはり・・N P B 攻略戦であろうと思います・・・先頃から察知されている闇資金の流れから見ても・・財団と同盟がN P B を完全稼働体制に入らせようとしているのは、明白です・・・ご存知のようにN P B が完全稼働体制に入れば・・グランドキャノンの連続使用が可能になり・・我々にとって不利な状況になります・・それに対して先手を打つ意味で・・N P B を攻略して壊滅させる作戦は・・必須であると考えます・・・勿論、同盟や財団が今後複数仕掛けてくるであろう陽動作戦には、充分に注意を払わなければなりませんが、現時点での予測は困難です・・・それでも裏高野・梁山泊・聖域・M A Cステーションが・・攻撃されるであろうことは充分に予想されますので・・対応するための準備は・・でき得る限り調えましょう・・・それでは、他に質問が出ないようでしたら・・ミーティングはここで切り上げようと思います・・・最後に、M A C 02のフェイズ1起動についてですが・・もう準備はできていますので・・Xタイムの24時間前とします・・・他に質問が無ければ、これで終わります・・・」

米海軍太平洋第7艦隊揚陸指揮艦ホワイト・ベンフォールド・ブリッジ・・・

「・・ドラン司令・・原潜部隊並びに対潜哨戒機も共にシーバットを見失いました・・ロストです・・・」ミッチェル大尉が報告した。

「・・そうか・・・エンジン停止してマスカーを掛けての慣性無音沈降・・・深度1000近辺で沈底(ボトム)されたら、こちらからは探知のしようがないな・・・」

「・・それとダラスからの報告ですが・・シーバットをロストして20分後ぐらいに・・シエラ級のエンジン音を後方26000で探知したそうですが、こちらもその後ロストしたそうです・・・またこれは・・探査衛星から送られたデータを解析して得られた情報ですが・・2時間ほど前にウラジオストックからアルファ級が1隻出たようです・・現在は日本海を南下中と見られますが・・ローテから見て・・スコーピオンの可能性が高いと・・・」

「・・足が自慢のアルファ級・・・コサック達もいよいよ本腰を上げたようだな・・・哨戒機は帰投させてくれ・・・原潜5艦と水上艦は青ヶ島に向けて転進だ・・・当該海域に着いたら島を微速で周回しつつ・・対潜水艦探査態勢に入るように・・・原潜はロス級をあと4隻差し向けよう・・・出港には時間差があっても構わない・・・それと・・ヘンリー・ランシング少将とリチャード・ボイス大佐に、私の名前で艦隊運用の要請を頼む・・・麾下の艦隊を青ヶ島の海域に向けてスイングして貰うようにと・・・・」

「・・了解しました・・・」

『たつなみ』・・館山市西方25キロ・深度150・速度15ノット・・・

「・・艦長・・やはり青ヶ島に向いますか・・?・・」

「・・そうだな・・針路青ヶ島・・深度50に着けてくれ・・速度10ノット・・・」

「・・そんな低速で良いんですか・・?・・」

「・・良いんだよ・・電池が勿体ねぇし・・どうせ海江田のヤローはギリギリまで上がっちゃこねぇからな・・・それより、米原潜が何隻集まって来るか、聴き耳を立てておけよ・・」

「・・了解・・先行の5艦は、もう向っているでしょうね・・?・・」

「・・当然だな・・」   「・・後発の原潜も何隻かは出るでしょうし・・・」

「・・俺の勘だがロシア潜も何隻かは出てると思うな・・・こりゃ明日の青ヶ島は派手な祭りになりそうだぜ・・・グズグズしてたらM Jが出張って来ちまうからな・・・ここぞって時にゃ、ダッシュで突っ込まねぇと・・・・」

日本・衆議院本会議・・・

「・・首相! あなたと内閣は、国民にも議会にも党内に於いても、説明も審議も議決も承認も了解も無く、あの原潜をアメリカと共同で開発・建造し、乗組員を海自から編入する事を秘密裏に決定し、海自の潜水艦をその為に自沈させる事までした! これほどに重大で深刻な国民に対する背信行為があるのですか!? あなたと内閣の責任は極めて重大であり、内閣の即刻総辞職と解散総選挙を断固として要求します!!・・」

「・・首相としても、党首としても、内閣のリーダーとしても、一人の衆議院議員としても責任は痛感しています・・何も公表をしないで秘密裏に米政権と事を進めたのは、確かに国民に対しては背信的な行為であったと認識しております・・ですが・・原潜の開発・建造・運用・操艦に関する知識・技術・経験の獲得とその蓄積は・・混迷を深めるアジアの情勢の中で、日本の安全を保障するためには・・必要な事物であったし、今もそうであると確信しております・・・民主的な手続きを経ないで決定し、計画をスタートさせ、実行に移した事につきましては、大変に申し訳ありませんでしたと・・申し上げる他にはございませんが、これは正に予断の許されない急務でありました・・・この上は・・この事態を完全に安全に収束して終息させる事が出来るまでを、私の責任の第一と捉えて考え実行し・・その後に・・私の出処進退を全国民の皆様に・・改めて問わせて頂ければと考えております・・・」

「・・当該原潜は既に・・S S D Oなる団体と契約を締結した模様であり・・原潜もその団体も・・我が日本と対話の上で、契約若しくは同盟を結ぶ用意があるし・・それを望んでもいると言う表明も成されているが・・・政府は当該原潜にどのように対処するのか・・原潜と対話するのか・・それが先ず一つ・・そして、かの団体を現在どう観ているのか・・今後、どのように観るのか・・そして、今後対話する事も視野に入れているのか・・これがもう一つ・・・この二点に付いて先ず答えて頂きたい・・・」

「・・当該原潜の所属と所有権・運用権に関しては・・当然・・米海軍に帰するものであろうと思われますが・・乗組員は日本人ですので・・こちらからの接触は可能であろうと思われます・・・先ずは原隊への復帰を促すのが順当でしょう・・・かの団体に関してですが・・まだ必要とされる情報項目数にも情報量にも到達していないと考えられますので・・・判断や判定のできるような状況にはないと考えています・・・只・・・国家的な観点からの比較として・・・その規模としても程度としても、かの団体が備えると観られる科学力・戦闘力・機動力は・・どちらの許容範囲にも収まり切らないようには感得できると考えています・・ので、対応には更なる慎重さが望まれるでしょう・・・」



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要撃隊帰還・・・パミール(承前)

「・・テロリストとして観るか、観ないのかの判定もできないのか・・?・・」

「・・テロリストとして観るには、その規模も、保持すると観られる各能力も大き過ぎる

と認められますので・・テロリストではないと思われます・・・」

M A C 01・・第3発進デッキ・・・・

「・・もう帰るのか・・?・・」

もうパイロットスーツを着込んでヘルメットを脇に抱え、藤堂 静女史と一緒にいた4人に声を掛けた。

「・・ああ・・機体の整備は終わったし、これ以上格納庫を借りるのも悪いし、自分のステーションも気になるしな・・」

西門 総二郎が、padをメカニックマンに返して言った。

「・・負傷者はどうする・・?・・」

「・・連れて帰るさ・・操縦できない者はタンデムシートに座らせる・・機体は自動で問題ない・・そろそろ自分ちのメシも恋しいしな・・・」

美作 あきらがスーツの襟を気にしながら応えた。

「・・それと、要撃機体の遮蔽システムについては、僕らの連名で改善案を出しておいたから、後で見といてよ・・」

花沢 類がブーツの爪先を気にしながら言った。

「・・分かった、ありがとう・・司・・M A C 02のフェイズ1起動だが・・しっかり頼むな・・・」      「・・ああ・・分かってるよ・・・」

「・・後方支援として、何が必要かについては、私からつくしちゃんにメールしておくわね・・・いつでも連絡頂戴ね・・」     「・・分かった・・ありがとう・・・」

「・・ほら、もう指令室に戻れよ・・司令官が持ち場を離れてどうする?・・」

西門 総二郎が、軽く顎をしゃくって見せた。

「・・分かったよ・・気を付けてな・・」 それだけ言ってその場を離れた。

ガーティー・ルー(ファントム・ペイン)ブリッジ・・・・

「・・アルビオンは、先頃改修を終えたばかりとレポートで見ましたが・・」

と、リー艦長が大佐を見遣った。

「・・う・・ん、今や全く生まれ変わったと言っても良いだろうね・・・カタログデータを見るだけでも驚異的な進化を遂げているよ・・・強襲揚陸艦のカテゴリーでは、アークエンジェルと1、2を争うだろうな・・・」と、大佐が姿勢を変えずに答えた。

「・・エイパー・シナプス艦長でしたね・・・」

「・・ああ・・あの人ほど老練で、粘り強く、臨機応変で高い対応力に富む艦長は、なかなかいないだろうな・・ブライト・ノア司令も、2目は置いていると思うね・・・」

「・・どのように仕掛けるつもりでしょうか・・?・・」

「・・さあな・・先陣の戦いは先鋒に任せるしかないだろう・・こっちが気にする事でもないよ・・・こっちはこっちで新型機体配達の仕事もあるんだし・・ガランシェールに何かがあれば、こっちが回収艦になる可能性もある・・・取り敢えずガランシェールをフォローして、援護するのが我々の任務だな・・・降りればエグザスは使えないから、グラスパーの用意を頼むよ・・・」   「・・分かりました・・・」

「・・君はどう思うかな・・?・・108の魔星が復活して飛び出したら・・誰に憑り憑くのか・・?・・」     「・・さあ・・全く見当も付きませんが・・・」

「・・まあそれこそ・・こっちが心配する事じゃないな・・もう良いよ・・忘れてくれ・・・」

ギリシャ・聖域(サンクチュアリ)教皇の間・・・・

ザガがカノンを連れて入室した。それを見遣ったアイオロスが教皇に報告した。

「・・教皇・・現在、聖域に居るゴールドセイントで、ここに来れる者は参集しました・・・アフロディーテ、シュラ、デスマスクは現在、聖域周辺の哨戒任務に就いております・・・カミュは日本に入りましたし・・ムウと老師は、任地におります・・・」

「・・そうか・・黄金聖闘士が参集するのもお互いに顔を合わせるのも異例の事だが、同盟や財団との前哨戦も山場に掛かるので、ご苦労だが集まって貰った・・・哨戒中の三名には、後で私から伝える・・・我らアテナの聖闘士としても、総力を挙げねばならぬ事態である故、カノンにも来て貰った・・・承知のようにアテナは先般降臨され・・シエン氏の手引きにより、現在は赤羽の里で保護・養育されている・・彼の地で3歳になるまで、秘匿される予定だ・・・アテナを隠し守護するのが我らの使命ではあるが、同盟や財団との戦いでは、シエン氏の存在とその力を出来得る限り秘匿するのも我らの使命である・・・聖域を守る為と言う名目で我らはこれまで参陣を辞退し、有難くも認められて来たが、我等も征かねばシエン氏はパミールにも降りると言われる・・・それを見過ごす事は我等にも出来ない・・・これよりあまり時を置かずにしてシエン氏は、アークエンジェルで青ヶ島に降りられる・・・こちらからも数名は乗艦させたい・・・またはパミールでの作戦では、可能な限りガランシェールに乗艦させたい・・・その為に私は一時的に教皇から退き・・牡羊座(アリエス)のシオンに戻る・・・前線での活動は現役の聖闘士諸兄に任せて私は聖域を守護したい・・・この場で具体的な指示や命令は出したくない・・・判断は各々に任せるが・・出来れば両方共に参加して欲しい・・・」

そこまで言って牡羊座(アリエス)のシオンは、言葉を切った。

アイオロスとアイオリアが・・・また、サガとカノンがお互いに顔を見遣り、頷いた。

「・・教皇・・いや、シオン殿・・・我等は、両方に乗艦します・・」

「・・我ら兄弟も・・両方に乗艦します・・・」

「・・私は、青ヶ島に行きます・・・」と、アルデバラン・・・。

「・・私は、パミールに行きます・・・」と、シャカ・・・。

「・・私も、パミールに行きます・・・」と、ミロ・・・。

「・・皆・・ありがとう・・協力には心から感謝する・・今、ここにいない者は、私から意向を確認する・・・ムウや老師は任地から離れられないし・・・カミュはいずれ戻るだろう・・・場合によっては、白銀聖闘士も数名乗艦させる事になるかも知れない・・・皆それぞれ、その時に備えて準備し、待機していて欲しい・・・」

「・・シオン殿・・」   「・・どうした、シャカ・・?・・」

「・・前聖戦の事を教えて頂けませんか・・?・・前聖戦では・・生き残った聖闘士はたった2人だったのに・・辛くもハーディアス軍に対しては勝利し・・伏魔塔を封じる事に成功しました・・・最後の局面で何があったのですか・・?・・貴方の先代の教皇が聖戦最後の局面でどうなったのかについては・・何の記録も残っておりません・・シオン殿なら、ご存知なのではありませんか・・?・・」

「・・シャカ・・それに皆・・確かに私は、前教皇の最後に立ち会った・・・だがその事については・・何の記録にも残さないように、また誰にも語らないようにと、先代のアテナにも・・前教皇にも指示されていたのだ・・特に前教皇の指示は・・遺言でもあったので・・これまで誰にも語っていなかった・・・だが今、同盟は闇の力を増幅して伏魔塔を地上に出現させ、前アテナが貼った封印を剥がして108の魔星を復活させようとしている・・・実は同盟がどのように闇の力を増大させようとも・・物理的に伏魔塔を地上に引っ張り出す事はできない・・・増幅させた闇の力でやろうとしているのは・・ある者を目覚めさせることだ・・・その者が目覚めれば・・その事そのものが起動のスイッチとなって・・塔は地上に出る・・・」




少し加筆しました。


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パミール・・承前 2

ターミナル2(中央指令室)・・・・

メカニックスタッフが整備用に着るジャンプスーツ姿で、島村ジョー(009)ジェットリンク(002)アルベルト・ハインリッヒ(004)ジェロニモ・ジュニア(005)グレート・ブリテン(007)ピュンマ(008)海東 大樹、門矢 司、野上 良太郎がネルで顔や腕や手に付いた油汚れを拭き取りながら入って来た。

「・・おお、ご苦労さんじゃな・・・」  「・・お疲れ様・・・」

ギルモア博士とフランソワーズ・アルヌール(003)が迎えて言った。

イワン(001)は眠っている。

「・・ムーンライトシリーズの整備状況はどうじゃね・・?・・」

「・・青ヶ島に向かう予定の12隻については・・・6割がた終わりましたね・・日没前までには大体の眼鼻を付けます・・・新宿から帰って来てから・・・最終調整に入ります・・」

島村ジョーが、手に付いた油を丁寧に拭いながら言う。

「・・ギルモア博士・・俺と海東は、新宿への増援メンバーに入ってないけど、行くつもりだぜ・・・上にも知らせておいてくれ・・」

門矢 司が、ネルをダストシュートに放り込みながら言う。

「・・了解したよ・・・」

アルベルト・ハインリッヒが手袋を脱いで座り、グレート・ブリテンが淹れてくれた紅茶のカップを手に取って言う。

「・・博士はどう思います・・?・・榎本さんは復活した魔星が誰に憑り憑くのかは分からないと言ってましたが・・俺は全部、同盟が取り込むと思いますね・・・」

「・・ほう・・なぜそう思うのかね・・?・・」

「・・そうでなければ、いくら凶皇仏の使い勝手が良いと言っても、同盟がそこまで注力しないと思いますよ・・・いずれ魔星が復活する事は遙か昔から分っていたんだから・・総て取り込むための段取りには・・とっくの昔から入っていると思いますね・・・」

「・・それで・・どこが取り込むと思うのかね・・?・・」

「・・博士には言っていませんでしたが、この事は俺たちの間では暫く前から話していましてね・・・『クロノス』じゃないかと思っています・・・」

ピュンマが、タオルで顔を拭いながら言った。

「・・クロノスか・・・・」

「・・ご承知のように『クロノス』は、アルカンフェルを初めとする古い組織で、同盟の中でも13賢人会同盟のメンバーです・・・彼らは遺伝子レベルでの調製技術で調製体を造り出しますが・・大きい特徴として生殖能力を維持していると言う点があります・・・つまり調製体が子供を作ると、胎児には初めから調製された遺伝子情報が組み込まれ、ゾアノイドとまではいかないかも知れませんが、ある程度調製された個体として出産されます・・・その後どの程度まで調製するにしても、未調製の個体を調製するよりは、それほどの手間を要しなくなると言う訳です・・・」

海東 大樹がジャンプスーツの上着の前をはだけて、大きいグラスで一杯の水を飲み干して言う。

「・・だから魔星の依り代としては、まさに打って付けの素体と言う訳だな・・胎児の頃から精神支配もされているんだろうし・・ある程度調製されているなら、その後のクロノスの側としての教育も容易だろう・・・クロノスは古くから活動しているから、やろうと思えばそのような形態での素体準備は、数百年前からでも出来たはずだからな・・・」

ジェット・リンクが珍しく髪型を気にしながら言った。

「・・う・・ん・・凶皇仏が創られたのも、数百年前だろうと言う話だし・・もしかしたら最初から総て絡めて段取られていた・・のかも知れんな・・・」

そう言いながらパイプを咥えようとしたギルモア博士だったが、フランソワーズが咳払いをしながら睨んだので、断念してコンソールに置いた。

「・・でも・・例え・・解放された108の魔星が・・最初はクロノスに総て取り込まれたとしても・・・戦いはまだ始まったばかりで・・まだまだ長く続きます・・・それに、榎本さんも言っていましたが、力は只の力ですし、人の心や為人は刺激や影響で変わり続けます・・・全部は無理でも何人かはこちらに引き込めると思いますよ・・時間は掛かってもね・・・」

野上 良太郎がそう言い終えてから暫くは、誰も口を開かなかった。

「・・もっとコンパクトで、確実性の高い方法があるよ・・・」

ベビーバスケットがフワリと浮き上った・・イワンが目を覚ましたのだ・・・。

「・・それは、どう言うものかね・・?・・」

「・・ガイアメモリを使うんだよ・・・」

その言葉に、その場にいた全員がバスケットを見上げた。

M A C 01(中央指令室)・・・・

発進デッキから戻ると直ぐに声が掛かる・・・・。

「・・司令・・ニューヨークからなんですが、ジョン・グリア氏の胸部に移殖されているメディアなんですが・・こちらで除去して欲しいとの事です・・・」

「・・向うも医療設備の拡充が必要だな・・・その装置がどこにも接続していない事を再確認した上で、ケタミンを処方してお寝すみになって貰ってくれ・・・状態が安定したら、先ずこちらのセンサーで装置をスキャンする・・・転送しても大丈夫なようなら、こちらの医療室に直接転送で収容する・・・向うにも医療用のトライコーダーがあるだろう・・?・・先に向うで装置をスキャンして、データを送信してくれても良いよ・・・」

「・・了解・・・要撃増援隊の発進準備が完了しました・・第3発進デッキで発進許可を求めています・・」

「・・発進を許可する・・・高速長距離哨戒機を3機、一緒に発進させて周辺を警戒させてくれ・・・」   「・・了解・・」

「・・司令!同盟に動きがあります・・サハラ・ゴビ・アリゾナ・テキサスの地下ドックで格納している艦隊に発進準備指令が出ました・・・」

「・・何隻に出た・・?・・」

「・・待って下さい・・・ざっと・・・300・・いや、400です!・・」

「・・400・・・完了までにはかなり掛かるな・・・サロンミーティングの後からでは後手を踏むと読んだか・・・新宿は勿論、青ヶ島にも間に合わないな・・・パミールを含めて、各地で陽動作戦を仕掛ける為の戦力か・・・・パミールで100隻として・・残り300を10のグループに分ければ、30隻単位で10ヶ所に陽動作戦を仕掛けられるか・・・裏高野・・梁山泊・・聖域・・科学要塞研究所・・早乙女ゲッター線研究所・・大鳥島・・三日月珊瑚礁に通報を頼む・・・それと・・M A C01・02・03の駐留艦隊に向けて、発進準備指令だ・・・それと・・三日月珊瑚礁の南部博士に連絡して・・ゴッドフェニックスと科学忍者隊に、出動待機態勢に入って貰えるように頼んでくれ・・」   「・・了解・・」

「・・アルビオン・・ガランシェール・・ファントムペインでも、子供達の救出にタイミングが合わなければ、彼らに奥の手になって貰うしかなくなるだろうな・・・・」

ギリシャ・聖域(サンクチュアリ)教皇の間・・・・

「・・教皇・・いや、シオン殿・・それは一体何者なのです・・?・・」

「・・カノンよ・・・かつて伏魔塔の麓には・・ガミオと言う名のグロンギが一党を率いて巣食っていた・・・ハーディアスはガミオを謀り、聖闘士を10人殺せばゲゲル達成と見做して『ン』の称号と、それに見合う力と資格を授けると約束していた・・・まあ、ハーディアスならばそれ位の力を授ける位の事は出来ただろう・・・それで・・ハーディアスはグロンギを味方に付け、前聖戦を有利に進めようとしていた・・・そして最終局面に入った・・・アテナとハーディアスの力は拮抗していて、双方ともに余計な動きは採れなかった・・・私達はハーディアスのスペクター(冥闘士)を倒していったが、仲間のセイント(聖闘士)も倒れていった・・・冥闘士の中核に在った魔星を・・私達は伏魔塔に封じていったが、最終的には伏魔塔その物を地中深くに封じ込めなければ・・私達の勝ちにはならない事も判っていた・・・伏魔塔の麓で行われた・・・残った冥闘士とグロンギとの連合を相手にした戦いは熾烈を極め・・・残り数少ない聖闘士は更に減り・・ほんの数名にまでなった・・・ハーディアスはアンノウンさえ召喚して、私達を殲滅しようとしていた・・・だが、アギトが助勢に来てくれて、シャイニングフォームの力でアンノウンを総て排除した・・・早くから私達と共に戦ってくれていたクウガも究極体にまで進化し・・シャイニング・アギトと共にヒュプノスとタナトスを抑えてくれていた間に・・前教皇は隙を観てアテナに具申し・・ある術とその術を行使するためのアイテムを授けて貰った・・」

「・・その術とは・・?・・」と、アイオロス。

「・・セブンセンシズを超えてエイトセンシズ(阿頼耶識)にまで自らを到達させた前教皇は・・アイテムを用い、術を起動させて・・肉体ごとガミオに憑依し・・一体に融合して一つの存在となった・・・抗うガミオの意識を奥底の深くにまで封じ込めた彼は・・自らを『ン・ガミオ・ゼダ』と名乗り・・『ン』の力さえ自らもぎ取った・・・残るグロンギをその場で封滅した彼は・・私達と共に残る冥闘士を圧倒し・・自分自身を人柱として伏魔塔の基底部中央の深くに封じ込め・・伏魔塔封入の術に入った・・・混乱の只中で私達はクウガやアギトの力も借り・・ギリギリのところで残る冥闘士を総て倒し・・魔星を塔に封じ込めた・・・自軍崩壊と観て採ったハーディアスはヒュプノス・タナトスと共に戦陣から退き、冥界へと戻っていった・・・残る私達も、二人だけだったが力を伏魔塔の封入に集中していた時・・前アテナが自らの名で封じの護符を書いて塔に貼り付けた・・・そして塔は・・一息に地下深くに引き摺り込まれていって・・それで前聖戦は終息した・・・その後暫くはその辺りで・・彼の意識を感じ取れていたが・・100年を過ぎた頃からそれも感じ取れなくなった・・・」

話し終えたシオンは、その場で俯いた・・黙祷を捧げているかのようにも見えた・・・。

「・・そんな事があったのですか・・・・」と、サガ。

「・・それでは・・同盟が闇の力を増幅させて、目覚めさせようとしているのは・・?・・」

と、シャカ。

「・・そう・・その彼だ・・『ン・ガミオ・ゼダ』だ・・・・」



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ガイアメモリ(デビルスターズ・カテゴリー)承前

「・・しかし・・目覚めるなら意識はゼダ前教皇のままなのでは・・?・・」

と、アイオリア。

「・・いや・・闇の力で目覚めるのだから、ガミオの意識である可能性の方が高い・・」

と、シャカ。

「・・どちらにしても、目覚めれば人柱としての地縛力は失われて・・塔は地上に出る・・」

と、シオン。

ターミナル2(中央指令室)・・・・

「・・ガイアメモリをどう使うんだい・・イワン・・?・・」

グレート・ブリテンがカップから立ち昇る湯気を顎に当てて、紅茶の香りを確かめながら訊いた。

「・・ガイアメモリに108個の個数限定で新しいカテゴリーを作るんだよ・・・デビルスターズとか名前を付けてさ・・・それで魔星が解放されたら、魔星とメモリが引き合うように、魔星それぞれの性質に適性を合せたОSをそれぞれのメモリにインストールして置くんだ・・・それで魔星が憑依して憑り憑き易い、最もコンパクトな素体が出来上がる・・・後は魔星が解放されて飛び散ろうとするタイミングに合わせて、OSを起動させたメモリを空にばら撒けば・・108個の魔星メモリがスムーズに出来上がるだろう・・・」

「・・そうなれば誰がそのメモリを使っても・・同じ冥闘士としての力を行使できるようになるって訳か・・・」・・・ハインリッヒがやれやれと言う感じで嘆息した。

「・・スペクター・ドーパントか・・・」ジェロニモ・ジュニアが腰を降ろした。

「・・どうやら、イワンのこの話の方が、より深刻な意味で可能性が高いようじゃな・・・上に警告しよう・・・このデビルスターズ・メモリの恐ろしいところは・・・メモリを使う者がミケーネスの戦闘獣や7大将軍・・クロノスの獣神将(ゾア・ロード)・・BF団の十傑衆・・果ては同盟の幹部連中なら一体どんな事になるのか、と言う点じゃ・・・」

「・・あんまり、想像したくないね・・・」ジェット・リンクが座って足を組みながら言った。

「・・ギルモア博士・・・『緯度0エリアコロニー』の人々に・・・助力を乞えないものでしょうか・・?・・」 ジョーが向き直って訊いた。

「・・難しいじゃろうな・・・あそこの人々は確かに高い科学技術力を持っているが・・・自衛以外には争わない・・絶対にな・・アテナが降臨した時・・引き取っても良いような打診があったそうじゃが・・・榎本さんは遠慮したよ・・・それだけ、巻き込みたくないんじゃろうな・・」

「・・α号のマッケンジー艦長とは・・知り合いなんですよね・・?・・」

と、ハインリッヒが訊いた。

「・・そうじゃが、会って話をしたのは今までに3回だけじゃよ・・・」

「・・そうですか・・それじゃ僕たちはもう暫く・・整備デッキに降りて、一仕事してきます・・・みんな、行くよ・・・」

ジョーが立ち上がって、皆に向き直って言った・・皆立ち上がって整備用ジャンプスーツの上着を着込む。

「・・ああ・・新宿に向かう1時間前には上がってくれんか・・・張大人が、夕飯を仕上げて置くからと言っとったからな・・・」

「・・そりゃあ楽しみだ・・仕事にも精が出ますよ・・・」

ジェットがそう言って、左手を軽く挙げると出ていった。

『財団』中央指令室・・・・

「・・本部長!・・発進指令が出たのは437隻です・・・」

「・・編成は・・?・・」

「・・オーディン・クラスが60隻・・・ソール・クラスが90隻・・・ユミル・クラスが110隻・・・キプロス・クラスが175隻です・・・そして、ラグナロクとヴァルハラにも、発進準備指令が出ました・・・」

「・・どちらが旗艦なのかな・・?・・」

「・・分かりませんが・・両方かも・・・?・・・」

「・・う・・ん・・陽動作戦を複数仕掛けるのなら、その可能性は高いな・・・グループ編成は判るか・・・?・・・」

「・・現状でそれ以上は・・・」

「・・分かった・・・その辺のところは、サロンミーティングで決まるだろう・・・」

「・・新宿と青ヶ島には、間に合いませんね・・・」

「・・そちらは向える部隊が、もう準備を進めているだろう・・・」   「・・ええ・・」

「・・そう言えば、グローバーはどうなっているんだ・・?・・」

「・・チャージは、まだ続いています・・・」

「・・発進準備指令は、まだ生きている訳だな・・?・・」    「・・はい・・」

「・・グローバーをパミールに向かわせるか・・ステーションに向かわせるかで・・・戦況は大きく違ってくるだろうな・・・」   「・・そうですね・・・」

「・・ところで・・こちらのAIにやらせていた推測の結果は出たかね・・?・・」

「・・はい・・現状でSSDОと好意的な関係を構築すると観られるのは・・やはり日本ですね・・・双方とも『やまと』との関係があるので・・それほど時間を置かずに接近する可能性が高いと出ています・・・」

「・・オーブについてはどうかね・・?・・」

「・・『やまと』はオーブとの関係を望んでいますが・・SSDОは主体的にどこかとの関係構築を望む、とは表明しておりません・・・ですが、日本とオーブは裏側で関係を構築していますし・・双方とも世界に非公表の秘匿戦力を保有しています・・・『やまと』もその事は知っているものと思われます・・・だから、日本とオーブの名前を同時に出したのでしょう・・・そうは言ってもオーブとSSDОが好意的な関係を構築するかどうかについては・・・短期的にはネガティブですが、長期的な予測ではポジティブポイント1.8ですね・・・」

「・・他の国や地域・自治体・団体・組織・民間企業などについては・・?・・」

「・・ACNが先鞭を付けましたので、追随するメディア・カンパニーが出て来ることは充分に予想できますが・・・具体的にどこの会社か?となると・・現状では難しいですね・・・ただ・・ACNが独占生中継した素材を、後追いで買おうとする局は複数出て来るものと思われます・・・また、SSDОの先進科学技術を欲しがる民間企業がコンタクトを取ろうとすることも予測できますが・・SSDОがまともに執り合うかどうかについてはネガティブです・・・あと気になる組織はと言えば、国連です・・事務総長がオープンチャンネルでの対話で、ある程度感化されているようですし・・・こちらも長期的な予測でポジティブポイント1.6です・・その他の対象については・・現状では予測が立ちません・・」

「・・分かった・・やはり日本については、政治的にも経済的にも軍事的にももう一歩踏み込んで牽制する必要があるようだな・・・サロンミーティングで使う資料に、その旨を書き添えて置いてくれ・・・その他については、引き続き同じレベルでの状況観測を幅広く行い・・・定期的に推測を立てるように頼む・・・」

「・・分かりました・・・」

M A C 01(中央指令室)・・・・

「・・司令・・ニューヨークからMネット経由で通信です・・・」

「・・直接通話か・・?・・」 「・・はい・・」 「・・繋いで・・」 「・・はい・・」

メインパネルにハロルド・フィンチの顔が映し出された。

「・・どうしました?フィンチさん・・グリア氏の件ですか・・?・・」

「・・お忙しいところをすみません、シエン代表・・実はそうなんです・・・」

「・・装置は、どこにも接続されてはいませんか・・?・・」

「・・どのようなレベルのネットワークにも、接続されてはおりません・・・不審な通信波や搬送波を送受信しているような形跡もありません・・・ですが、短い間隔でGPS信号の送受信は、継続しています・・・」

「・・なるほど・・・グリア氏を転送収容しても、位置情報が変われば装置が何某かを起動させる可能性がありますね・・・ポイントAに収容してもそれが起動しなかったと言う事は・・地球上にいるなら問題ないと言う事ですか・・・」

「・・そのようですね・・・」

「・・装置とペースメーカーをグリア氏から除去した場合・・グリア氏の心臓はどうなります・・?・・」

「・・実はそれについてマシーンに診断させたのですが・・問題ないだろうと言うpositive decision でした・・・」  「・・レベルは・・?・・」  「・・8.85でした・・」

「・・う・・ん・・でしたら、大丈夫でしょうね・・・信号送受信の間隔は・・?・・」

「・・30秒です・・・」

「・・そうですか・・それだけの間隔があるなら・・予めグリア氏とペースメーカー・・それに装置とその中のメディア・・・4つの対象にロックを掛けておいて・・・送受信後直ぐにグリア氏をこちらに転送収容して・・ペースメーカーと装置を転送でグリア氏から除去して・・ペースメーカーと装置を分離して・・装置からメディアを転送で回収する・・・事前に段取りを組んでおけば・・次の送受信までにこれ位はできるでしょう・・・」

「・・そうですか・・・その後・・グリア氏の処遇は・・?・・」

「・・眠ったまま、こちらで養生して貰って・・・大丈夫なようなら、そちらに転送で送りましよう・・・」   「・・分かりました・・・」

「・・落ち着いて貰えたら、ケタミンを処方してください・・」  「・・了解です・・・」

「・・他には何かありますか・・?・・」

「・・ACNのデミル社長が、同盟に狙われているとマシーンが出しました・・・」

「・・対処は・・?・・」  「・・トーマス君が5人連れて向いましたが・・・」

「・・そうですか・・ハンド・フェイザーと、パーソナル・フォースフィールドシステムの使用を許可します・・・勿論フェイザーガンは、人に見られないように・・フォースフィールドシステムは、レベル5で最小のものを社長には気付かれないように、身に付けて貰うようにしてください・・・こちらでも、社長はロックしておきます・・・急激な生命反応の低下を検知したら、転送でこちらに収容します・・・同盟に拉致されないように注意してください・・・」  「・・分かりました・・ありがとうございます・・・」

「・・いいえ・・・フィンチさん・・実は私からも、マシーンの生みの親である貴方に、意見を伺いたいのですが・・?・・」  「・・何でしょう・・?・・」

「・・今のサマリタンに真実を伝えた場合・・サマリタンは信じるでしょうか・・?・・」

「・・真実と言いますと・・?・・」

「・・この世界の真実・・・同盟や財団の事などですが・・・」

「・・恐らく・・・信じないでしょう・・・サマリタンは・・言うなれば意固地ですから・・・マシーンから見れば、欠陥の目立つAIです・・・」

「・・そうですか・・・それは少し残念です・・・それでは貴方の判定では・・・サマリタンには・・マシーンと同程度の知性や理性的な判断は、期待できないと・・?・・」

「・・そうですね・・・期待できませんし・・・無いと思います・・・」

「・・分かりました・・それでは引き続き、統合プログラムの構築の方を・・宜しくお願いします・・・」

「・・分かりました・・何を考えていたのですか・・シエン代表・・?・・」

「・・いや・・・サマリタンの知性や理性的な判断能力が・・もしもマシーンと同程度なら・・・マシーンを主体とした理性的で穏便な統合と言うか、融合が可能なのではないかと、考えたのです・・・そしてそれを、マシーンからサマリタンに提案してもらうのも、アリなのではないかと考えていました・・・」

「・・そうだったのですか・・・それは・・理想ですね・・・」

「・・そうですね・・・それでは、グリア氏が落ち着いた状態で眠ったら、連絡を下さい・・」

「・・分かりました・・」そこまで言って、通話は切れた。

「・・司令・・続けてで済みませんが、ターミナル2のギルモア博士からも通信が入っています・・・待機して貰っていますが・・」  「・・繋いで・・」  「・・はい・・」

メインパネル一杯にギルモア博士の顔が映る。

「・・どうも、ギルモア博士・・・どうしました・・?・・準備は進んでいますか・・?・・」

「・・準備は順調に進行中じゃよ・・・予定には余裕で間に合う・・・報せる事があって繋がせて貰った・・・先ず新宿への増援じゃが、門矢君と海東君も行くと言っとったよ・・・」

「・・そうですか・・それは心強い・・・他には何か・・?・・」

「・・ウチのメンバーが話していた事と、イワンが目覚めて語った事を併せての話なんじゃが・・・魔星が解放されると同時に・・同盟がその総てを回収するだろうと・・・」

「・・具体的な方法としては何と・・・?・・」

「・・ガイアメモリの種別に、個数限定で新しいカテゴリーを設定して・・108個の魔星に適性を合わせたОSを・・それぞれ個別のメモリ素体にインストールしておき・・魔星解放と同時に・・108個のメモリ素体を空にばら撒けば・・・」

「・・108個の魔星ガイアメモリの出来上がり・・・」  「・・そう・・・」

「・・ギルモア博士・・・イワンはいつその話を・・?・・・」

「・・つい先ほどじゃが・・・」

「・・ギルモア博士・・実は以前に・・ほぼ同じ内容での警告をマシーンが出しました・・・」

「・・マシーンが警告を出した・・?・・・と言う事は・・これはもう可能性ではなく・・?・・」

「・・はい・・もう既に108個の冥闘士(スペクター)メモリの素体は・・・存在しているものと思われます・・・マシーンの警告を受けて我々は・・翔太郎君とフィリップ君の協力を得て・・彼らが所有する8個のメモリと・・ダブルドライバーにある改造を施し・・少数ですが独自の・・カテゴリーを設定しました・・・」

「・・改造・・?・・それはまさか・・?・・」

「・・はい・・ガイアメモリのサイコフレーム・カテゴリーと・・サイコフレーム・ダブルドライバーです・・・」



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東京・西新宿・承前

「・・サイコフレームを組み込んだのかね・・?・・はっ!?・・それじゃ、NTDモードに!?・・・限界稼働時間は・・?・・」

「・・ええ、なれると思います・・・取り敢えず、10分程度・・とはしておきましたが・・・」

「・・大丈夫かね・・?・・仮にも彼らは・・・・」

「・・生身であるモビルスーツのパイロットよりは強いでしょう・・・仮にも彼らは仮面ライダーに変身できる者達ですからね・・・それにライダーシステム・・・ドライバーなどには・・過剰な負荷に対しては、自動で変身を解除する機能があります・・・NTDモードが暴走状態に入っても・・・変身が自動で解除されれば・・彼ら自身に影響はありません・・・それに、サイコフレーム・ドライバーにしたのはWだけではありません・・・」

「・・そうかね・・分かったよ・・・そのサイコフレームのデータを・・わしにも見せて貰えんかね・・?・・」

「・・お見せするのは構いませんが・・・実は博士・・・私は以前に『彼ら』のデータを引いて、サイコフレームとの適合性を検討した事がありましたが・・適合性はかなり低いと言う結果でした・・・フレームが適合するのは、純粋なマシンシステムです・・生体である『彼ら』に組み込むのは危険です・・・」

「・・君のお気遣いはありがたいんじゃが・・『彼ら』の事はわしが一番よく知っとる・・・わしの眼と頭で、もう一度再検討してみるよ・・・君のところの検討データも含めて、送ってくれんかね・・?・・」

「・・分かりました・・・関連するデータは総てそちらに送ります・・・ですから博士の検討結果が出ましたら・・私にも報せて下さい・・これはお願い致します・・・私が言うのも何ですが・・サイコフレームには、まだ謎の部分もあります・・それも踏まえた上での、再検討をお願い致します・・・」   「・・了解したよ・・榎本さん・・・」

「・・実はギルモア博士・・・先程に申し上げた検討結果を踏まえて私は・・・これはまだあまり具体的にはなっていないのですが・・・島村ジョー君・・ジェット・リンク君・・ジェロニモ・ジュニア君・・ピュンマ君・・の、彼ら4人に専用の機体を考えています・・・」

「・・ほう・・専用の機体かね・・?・・もしかして・・RX0シリーズ・・?・・」

「・・いえ・・その次のシリーズになりますね・・『フルフレーム・シリーズ』と、今は呼んでいますが・・・」

「・・そうか・・確かに彼ら4人が、サイコフレームの機体に乗れば・・それだけで凄まじい戦力になるじゃろうな・・・わしから伝えようか・・?・・」

「・・いや・・まだ話さないで置いてください・・・時機を見て、私から話します・・・」

「・・分かったよ・・榎本さん・・・」  「・・ありがとうございます・・・」

「・・他にはありますか・・?・・」   「・・いや・・今のところは無いよ・・」

「・・それではまた・・」   「・・ああ・・・」

通信は閉じられた。

MAC 03ファーストゲート・『アルビオン』ブリッジ・・・・

「・・艦長・・出港申請、承認されました・・」

ジャクリーン・シモンがエイパー・シナプス艦長に報告した・・。

「・・そうか、よし! バサロフ君!?・・」

「・・総員、第2警戒直、発進準備、完了です・・メインエンジンは定格にて臨界に到達しました・・最微レベルで噴射を開始・・・」

「・・了解だ・・ラー・タイプ3艦との発進リンケージは?・・」

「・・リンクの同調は完了・・カウントダウンはこちらに要請されています・・・」

「・・分かった・・発進3分前、カウントダウン開始・・光学迷彩とミラージュコロイドを展開・・・ファーストゲート管制システムにオープンコードを送信してくれ・・各艦とも係留索を解除・・・いよいよ出るぞ!・・指令室に繋いでくれ・・・」

「・・ファーストゲート開きます・・各艦とも光学迷彩を掛けた上でミラージュコロイドを展開・・・係留索を解除しました・・・指令室と繋がりました・・・」

ブリッジのメインモニター、左上4分の1に、アルフレート・アルベルティ副司令の顔が映る。

「・・アルビオンとラー・タイプ3艦、発進する・・ガランシェールを追い越すために、初期加速に於いてそちらのレーザー推進システムを使用したい・・・」

「・・了解・・・レーザー発振を開始します・・・そちらの発進針路は、クリアーです・・ご無事でのお帰りを・・・・」   「・・ありがとう・・・」

「・・速度1.2でゲートを出ます・・」と、イワン・バサロフ。

「・・よし! Mネット経由でガランシェールをロックしろ! できたらインターセプトコースでガランシェールを追い掛ける!・・・ゲートを出たら各艦は、艦尾のレーザー受光パネルを展開!・・」

程無くして4艦は、アルビオンを先頭にしてファーストゲートのメインプラットフォームから離岸し、虚空に進み出ていった。

MAC 04ファーストゲート・・『ネェルアーガマ』ブリッジ・・・

レイアム・ボーリンネア副長がオットー・ミタス艦長に報告した。

「・・艦長・・こちらの発進準備は完了です・・」

「・・そうか・・アルビオンを含む4艦は出たのか・・?・・」

「・・はい・・つい先程に出港して今は、レーザー推進による初期加速態勢に入りつつあります・・・」

「・・分かった・・キング・ビアルの神 源五郎さんに繋いでくれ・・・」

「・・了解しました・・・」

それ程間を置かずに神 源五郎の髭面がメイン・モニターに映し出された。

「・・源五郎さん・・こちらの準備は完了しました・・・そちらは如何ですか・・?・・」

「・・オットー艦長・・こちらも完了しました・・・いつでも出られます・・・」

「・・分かりました・・発進カウントダウンは3分前からでよろしいですか・・?・・」

「・・結構です・・それでお願いします・・」

「・・分かりました・・カウントダウン、スタートします・・発進リンケージ、同調の確認をお願いします・・・光学迷彩を掛けた上で、ミラージュ・コロイドでの遮蔽をお願いします・・・本艦が先に出ますので、追随して下さい・・ゲートから出ましたら、ステーションのレーザー推進システムを使用して、初期加速を掛けますので艦尾のレーザー受光パネルを展開して下さい・・・発進しましたら、Mネットを通じて・・ガランシェールの位置を確認してロックして下さい・・・それができたら、インターセプトコースを採ります・・・」  「・・分かりました・・ありがとうございます・・宜しくお願いします・・・」

「・・いえいえ、お互い無事に戻りましょう・・・それでは、また・・・」

通信を閉じてから、副長に言った。

「・・出港申請は承認されたのかな・・?・・」   「・・承認されました・・・」

「・・よし、出よう・・両艦とも係留索を解除・・0.8で微速前進・・指令室に繋いでくれ・・」直ぐにルーサー・アマンデス副司令が出た。

「・・ネェルアーガマとキング・ビアルが発進する・・・レーザー推進システムの準備を宜しく・・・ファーストゲートの開放も頼みます・・・」

「・・了解しました・・レーザー発振を開始します・・ゲート解放開始・・針路はクリアーです・・・ご無事な帰還を・・・」

「・・了解・・ネェルアーガマ・・出る!・・」

ネェルアーガマの巨艦が、ゆっくりと進み始める。

MAC 05 ファーストゲート・・『ラー・カイラム』ブリッジ・・・

艦隊副司令も兼ねるメラン副長が声を掛ける・・。

「・・ブライト司令・・ネェルアーガマとキング・ビアルが出ました・・たった今です・・」

「・・了解だ・・4艦のブースター装着は・・?・・」

「・・装着は既に完了していて・・動作確認にあと・・数分ですね・・・」

「・・急いでくれ・・・発進カウントダウンは3分で同調してくれ・・出来次第開始・・配置は・・?・・」  「・・第2警戒直で完了しています・・・」

「・・よし・・もう出るぞ・・ゲート管制システムにオープンコードを送信・・4艦とも光学迷彩を掛けた上で、ミラージュコロイドを展開して遮蔽してくれ・・ここのステーションは、まだ出力が低くてレーザー推進システムが使えない・・・だからでのブースター装着なんだが・・それが意外に手間取るな・・・4艦とも係留索を解除して、補助エンジン出力30%で微速前進・・指令部に挨拶しておいてくれ・・・動作確認と最終調整は、低速航行中に仕上げてくれ・・・」

「・・分かりました・・・」

裏高野・・・裏壇場伽藍・・・

慈空阿闍梨が若手の僧兵を50数人引き連れて現れた。

「・・!慈空阿闍梨様!・・・」

「・・おお、風見君・・神君・・待たせたな・・・五輪坊候補の『木』・『土』・『金』から、若手僧兵を掻き集めておったよ・・・彼らに、ここに残った五輪坊の『水』と『空』を手伝わせる・・・プラズマ・フェイズスティックは届いたかね・・?・・」

「・・はい・・先程、転送で届けられました・・300セット丁度です・・それと先刻連絡が入りまして・・ボルテス・チームとザンボット・チームは、共に発進準備は完了しているとの事です・・・また、『上』からも連絡がありまして・・ターミナル2からの増援に、若手の仮面ライダーが二人加わるそうです・・・」

「・・そうか・・取り次いでくれて済まなかったの・・・どうやら同盟の連中も、かなりの手練れを集めて来るようじゃな・・・こちらも、気を引き締めて掛からんといかんな・・」

そう言って慈空阿闍梨は、少し遠くを見る眼をした。

「・・慈空阿闍梨様・・・孔雀君にも、声を掛けた方がよろしいのではありませんか・・?・・」

風見 志郎が歩み寄って声を掛ける。

「・・いや・・・あ奴は父親の死がまだ堪えておってな・・・まぁいずれ立ち直れるじゃろうとは思うが・・今はまだ時間が欲しいところ・・じゃて・・実際にはその目で見ずとも、この件はいずれ耳に入るじゃろうし・・・儂は・・孔雀は・・パミールに間に合えばと、思っとるんじゃよ・・・」     「・・そうですか・・」

「・・それはそうと・・まだ全員集まっとらんが・・飯にせんかね・・?・・」

 



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凶皇仏争奪戦・・承前・・

SSDOの登場は、世界の表舞台にも裏舞台にも強いインパクトを与えた。

表のネットワークの中でも裏のネットワークの中でも、オンラインでもオフラインでも様々な情報・意見・見解・感想・考察がシェアされ、人々は個人でもそれ以外の様々な範囲に於いても、様々なレベルで動揺していた。

現時点でSSDОについて全く知らない人々は、外との情報交流の無い地域内で生活している人々か、外との情報交流の無い状況の中で生きている人達だった。

大国・主要国での現政権は、現状でSSDОを敵視しているところも猜疑的に見ているところもあり、無関心を装うところもあった。

中小の国々での現政権は、とにかく情報収集への注力が強化されていた。

それはもちろんSSDОへの対応ベクトルを決定する為でもある。

貧国・最貧国での現政権の中では、接触を試みようとする動きが、既にチラホラと立ち顕れ始めていた。

世界の10大メディア・カンパニーの中で、8社は朝や昼やプライムタイムで第一報を伝えた。

SNSの中に顕れる『民意』の中で、最も多いものは『歓迎』だった。

アメリカ・ニューヨーク・FBI対テロ特殊捜査拠点・通称『郵便局』・・・

「・・ねえ、クワンティコはまだアレについての指示を出さないの・・?・・」

エリザベス・キーン捜査官がアラム・モジタバイ捜査官に、コーヒーが入った紙コップから口を離し、右手の人差し指で上を指差しながら訊いた。

「・・さあ?・・朝刊(FBI本部から朝一番に出される指示書)には載ってなかったけど・・?・・」    「・・一体どう言うつもりなのかしら・・?!・・」

「・・CIAにいる友人と電話で話したんだけど、政府組織の情報部門はどこもアレについての情報は殆ど集まってない・・・だから、対応方針どころか方向性のベクトルさえ決められないって言ってた・・・だからウチも方針を出せないんだろうな・・・・」

ドナルド・レスラー捜査官が、駅売りの新聞をデスクに放って言った。

「・・おはよう、諸君・・・」 ハロルド・クーパー副部長だ。

「・・SSDOと名乗る、あの宇宙ステーションについての我々への指示は、当分出ないだろう・・何しろ対象が、我々から見れば大き過ぎる・・・キーン捜査官・・彼は、アレについて何か知らないかな・・?・・」

「・・えっ?、レッドですか?・・知らないと思いますよ・・・アレについて事前に知れるほどの大物でもないと思いますけど・・?・・」

「・・電話してみてくれ・・・連絡は執っているんだろ・・?・・」

「・・この3日間は繋がりません・・」 「・・かけてみてくれ・・」 「・・はい・・」

「・・皆『朝刊』は見たな・・?・・今朝早くマンハッタンで起きた銃撃戦については・・?・・」

「・・正に奇妙です・・目撃情報が錯綜していて要領を得ません・・特殊部隊同士の戦闘だとか、大規模な映画ロケだとか、エイリアンによる大規模なアブダクションだとか、メチャクチャですね・・・」   「・・ニューヨーク市警からの報告は・・?・・」

「・・まだ現場検証の途中ですが、被害者がいないみたいで・・」  「・・何・・?」

「・・人が被弾して倒れたと言う目撃証言はあったようですが、実際に行って見ると誰も倒れていなかったそうで・・・」   「・・監視カメラは・・?・・」

「・・何故かその当時、現場一帯をカバーできるカメラは総て動いていなかったそうです・・」

「・・他に痕跡は・・?・・」  「・・検証中です・・」

「・・行って見なきゃ判らんな・・キーン、ナヴァービ、マリクで行ってくれ・・現場の精密な観測・確認と、徹底的な聞き込みだ・・良いな・?・」

3人ともすぐにコートを掴んで出て行った。

ネパール山奥の秘境・・ジャミール・・・・

崖を背にして建てられている粗末な庵の中で作業台に向っていたムウは、右手に持っていたハンマーを置き、そのまま鑢を取ろうとしてその手を止めた。

両手を腿の上に置き、背筋を伸ばして眼を閉じ瞑想する事1分強・・目を開けると立ち上がって振り向き、弟子を呼んだ。

「・・貴鬼!・・貴鬼!!・・・」

「・・はっ・・はい!・ムウ様・・何事でございましょう・・?・・」

「・・貴鬼・・すまないが、私はこれから暫くここを留守にする・・・その間の来訪者への応対を頼むよ・・良いかな・・?・・」

「・・はい・・それはお任せ下さい・・・でも、何があったのですか・・?・・」

「・・牡羊座(アリエス)が揺動(ゆれ)ている・・・思い当たる事を確める為、聖域(サンクチュアリ)に行ってみる・・・早ければ3日ほどで戻れるだろうが・・時間が掛かるようなら戻るまで頼むよ・・・」

「・・分かりました・・・では、お支度を・・・」 そう言って貴鬼は飛び出して行った。

ムウはそこに立ったまま顔を上げて遙か彼方を見晴るかす目付きをした。

「・・シオン・・・・」

『荼枳尼衆山寺』・・・

寺から100メートル程奥まった所にそびえ立つ巨木の上部で、青緑の長い体毛に覆われた体長20メートル程の猿人のような巨獣が、興奮している様子で大きく咆哮を挙げながら巨木の幹を叩いたり、身体を揺らして巨木の梢まで揺すったり、自分の身体を激しく叩いたりしていた。

すぐ傍に並んで立つ木の幹に掴まって、ボロ衣を纏った四肢のひょろ長い枯れた長身の老人が、その巨獣に盛んに声を掛け、猛りを鎮めようとしていた。

羅誐(ラーガ)が暗闇の中から顕れて、頭上の老人を叱責した。

「・・何をやっているのだ! 泰山府君!! 青面金剛を早く静かにさせんか!!・・」

銀色に輝く円盤状の物体が、高速回転で静かな金属音を響かせながら、巨木の周囲を旋回し始めた。

極低温の冷気を棚引かせ、滴らせながら目出しの布フードを頭から被った異形の巨漢が、不気味で規則的な呼吸音を響かせながら顕れる。

「・・どうしたのだ!? 泰山府君? 何を騒いでおる・・?・・」

「・・はあ、大聖歓喜天様・・金剛めが久し振りに獲物にありつけるのを察したのか、または満月が近いせいなのか、猛りが静まりませなんだ・・」

巨虎の唸り声が低く流れ、迸る電撃が一閃、巨木の幹を撃つと、巨獣は怯えたように静まった。ゴーゴン大公が顕れた。

「・・ほう・・あれが青面金剛か・・強そうだな・・大聖よ・・・」

「・・はっ・・お褒めに与りまして・・・」

「・・ライガーン将軍が見たら、猛獣軍団に欲しいと言うかも知れんな・・・」

「・・お戯れを・・」「・・あと数時間だ・・騒ぎにはするなよ・・」「・・心得ました・・」

「・・ときに大聖よ・・お前にほど近い気配を持つ者が・・先程日本に入ったようだ・・・お前も気付いておろう・・?・・」   「・・は・・それはもう・・・」

「・・水瓶星座(アクエリアス)の宿命が立ち顕れた・・と言う事かな・・?・・」

「・・は・・」 そう言ったきりで黙ると、大聖は僅かに顔を仰向けて独り言ちた・・・。

「・・カミュ・・・」

青面金剛が泰山府君を右肩に乗せて、地上に降り立った。

白銀の円盤が回転を緩めて着地した。シャドゥのギンガメだった。

いつの間にかマントを羽織り、シルクハットを被った長身の男が、傍に立っていた。

「・・久し振りだな、シャドゥナイト・・もう2体、連れて来ていると感じていたが・・?・・」

ゴーゴン大公が鞭を脇に抱えて腕を組んだ。

「・・白骨ムササビは、オフ・モードにしている・・ゴールデン・トータスは、先に偵察に出している・・・現場上空2000mに滞空させてな・・・それで見付けたが、既に抜け駆けしている者が数名いる・・・」

「・・誰だ・・?・・」     「・・デストロンの幹部連中だな・・・」

「・・ふん・・ゴールデン・トータスを中継して、脳波通信で警告しろ・・・先に行くのは構わんが、勝手に仕掛けて向こうに構えられるのも面倒だ・・・それにしても・・まだ日も高いのに、行ってどうしようと言うのか・・・どこにいる・・?・・」

「・・Q所属の潜水艦で東京湾の海底に着底している・・・フリージーヤードを使っているから、アクティブソナーでも探知されない・・・警告は中継しよう・・・」

東京湾海底・・・着底中の潜水艦・・・

「・・うっ・・」   ドクトルGが右手で軽く頭を押さえて俯いた。

「・・どうした・・?・・まだ脳波シグナルに慣れないか・・?・・」

ツバサ大僧正が振り向いて訊く。

「・・ああ、これだけは慣れんな・・ふん・・わざわざ警告せんでも分かっておるわ・・・」

「・・ああ、我ら4人を含めても16体だけではな・・・だがそれでも作戦直前に先行して潜入し、先手を取って攻撃する事も、作戦の支援もできるだろう・・・」

ヨロイ元帥がグラスを取って応じた。

「・・まあ他にも来るだろうが・・この艦も凶皇仏回収艦として使えるだろうしな・・・」

キバ男爵が何かを口に放り込みながら言う。

「・・艦長! 日が落ちたら離底・・フリージーヤードを解いて微速で陸に接近しつつ微速で浮上だ・・我らが出たらその場でボトムして待て・・いいな・・」

ドクトルGがマイクカフを取り上げて言った。   「・・了解・・・」

「・・まず我らは空から行く・・」と、ツバサ大僧正。

「・・我らは海上から行こう・・」と、キバ男爵。

「・・我らは海底を進み、上陸する・・」と、ドクトルG。

「・・では我らは海底から地下に潜り、そのまま地中を進み目標に向かう・・」と、ヨロイ元帥が告げた。

『ガランシェール・ブリッジ』・・・

スベロア・ジンネマン艦長がキャプテンシートで腕を組んだ。

「・・ギルボア・・操舵状況は・・?・・」

「・・完全に予定通りですね・・」

ギルボア・サント操舵手が、全く姿勢を変えずに答えた。

「・・アルビオンと3艦は出たのか・・?・・」

「・・4艦とも暫く前に出て、レーザー推進による初期加速を終了・・・現在、更に加速しつつ接近中です・・・あちらも予定通りですね・・・」

フラスト・スコール航行士が、右肩越しにキャプテンシートを見遣って言った。

ジンネマン艦長がマイクカフを取り上げて呼び掛けた。

「・・トムラ!・・モビルスーツはどうだ・・?・・」

「・・総て問題なく準備完了ですね・・・クシャトリヤ・・・高機動ザクⅡ・・・ハイザック・・・ザクエクシード・・・ギラ・ドーガ・・・ハイパードーガ・・・ヤクトドーガ・・ブースターベッドとベースジャバー・・それにシャクルズも含めて、全機オールOKです!・・・」     「・・よくやってくれた・・ご苦労さん・・・」

「・・お客さん達はどうだ・?・・ギルボア・・?・・」

「・・おとなしくして貰っていますよ・・・って言っても・・まだお客さん・・増えるんでしょ・・?・キャプテン・・?・・」

「・・まあ・・そうなるようだな・・・」

「・・キャプテン! 大体このガランシェールは元々ハーフカーゴなんですからね! 同盟と一戦交えるなんて・・できるんですか・・?・・」

「・・大気圏に突入したら、高高度でモビルスーツを発進させて、お客さん達にも出て貰う・・・その後は中高度まで降りて援護の攻撃と支援が俺達の任務だ・・・本艦が子供達を回収するようなら・・低高度まで降りて、回収後脱出するまでだ・・・ガタイに比べれば脚は華奢だから、ハードなランディングには向かないからな・・・強行着陸は、強襲揚陸艦に任せるさ・・・だからギルボア、フラスト! 推進剤は大事に使えよ・・・」

「・・了解・・」「・・へーい・・・」

「・・あとは同盟の奴らが、どのくらいの規模と数で来るか、だな・・・」

MAC01 中央指令室・・・・

「・・司令・・ニューヨーク、ポイントAからです・・繋ぎます・・」  「・・頼む・・」

モニターにハロルド・フィンチの顔が映る。

「・・フィンチさん、どうも・・・グリア氏は如何ですか・・?・・」

「・・よく眠っています・・状態は良好です・・」

「・・分かりました・・それでは、始めますか・・こことそちらとこちらの医療室とでデータリンクを繋ぎます・・・通信は切らないようにお願いします・・・そちらでもモニターし続けて、記録を録るようにして下さい・・グリア氏は、そのままの姿勢でこちらの医療室に転送で収容しますが・・その前にデータ・フィルタリングフィールドを掛けて、グリア氏の中の装置が送受信するGPSシグナルを偏向させます・・・」

「・・分かりました・・宜しくお願いします・・・」

「・・はい・・では、暫くそのままでお待ちください・・・」

「・・コンピューター・・指令室と医療室とニューヨーク、ポイントAのセンター・コントロールムームとの間に・・Mネットを通じて相互データリンク・ネットワークを設定・・・」

「・・設定完了しました・・」

「・・転送室へ・・こちら指令室・・まずグリア氏の周囲にデータ・フィルタリングフィールドを掛けてくれ・・・それで装置が送受信する位置情報を偏向させる・・・偏向先は、セントラルパークの中央部にしよう・・・いいか、受信してからフィールドを掛けるんだ・・タイミングを誤るな・・・フィールドを掛けたら、グリア氏とペースメーカー・・装置とメディア・・それぞれの対象に対し、個別にロックを掛ける・・4つのロックを個別に掛けてくれ・・・まず、そこまで頼む・・・」

「・・了解・・・作業中・・・完了しました・・・」

「・・よし・・そのまま待機・・」  「・・了解・・待機します・・・」

「・・指令室から医療室へ・・・ドクター、聴こえますか・・?・・」

「・・ああ・・聴こえているよ・・」 「・・調整槽の用意と、手術の準備は如何ですか・・?・・」

「・・ああ、既に完了しているよ・・」

「・・分かりました・・それでは、始めましょう・・転送室でタイミングを見計らって、グリア氏をそちらの手術台に転送します・・・次に、装置とメディアを転送でグリア氏の体内から除去しますので、そちらでレベル9のフォース・フィールドで、保全スペースの設定をお願いします・・・除去した装置とメディアは・・その保全スペースの中に転送します・・・次に、グリア氏を調整槽の調整溶液の中に転送して・・すぐにペースメーカーを転送で除去しますので・・その後のグリア氏へのケアは、宜しくお願いします・・・こちらは、装置からメディアを転送で取り出します・・・ここまでの処置を30秒以内で行います・・・宜しいですか・・?・・それでは、保全スペースの設定をお願いします・・こちらでタイミングを計ります・・・」

「・・了解しました・・少々お待ちを・・・・設定完了しました・・」

「・・分かりました・・では、調整槽の前で待機を・・・転送室・・タイミングは任せるが、受信直後だ・・いいな?・・」  「・・了解・・スタンバイ・・・・転送!・」

ハロルド・フィンチの目の前でジョン・グリアの肉体が消えて・・・MAC01の医療室の手術台の上に顕れた・・・次に保全スペースの中に小さい装置が顕れた・・・次に手術台の上のグリア氏が消えて・・・調整槽の調整溶液の中で実体化した・・・調整槽の脇にある台の上で・・ペースメーカーが実体化した・・・すぐさま細いコンジットケーブルが数10本・・グリア氏の身体各所に自動で装着された・・・ドクターは調整コンソールデスクの前に座り・・・制御パネルの上で、指を走らせ始めた・・・最後に総合精密分析室の中核次元コンピューターの分析台の上で・・・小さいソリッドメディアが実体化した・・。

 



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凶皇仏争奪戦・・承前・・2

「・・ドクター! 聴こえますか!? グリア氏の状態はどうですか?・・」

「・・聴こえているよ・・生命反応は安定・・各種の生体パルス・リズム・サイクル共に安定している・・化学神経系・・電気神経系共に安定・・循環器系の反応も安定している・・・処置は安全に終えられたようだ・・・彼へのケアについては任せてくれ・・・」

「・・了解しました、ドクター・・あとは宜しくお願いします・・・分析室・・聴こえるか・・?・・メディアの分析は済んだか・・?・・」

「・・分析は終了しました・・・入っていたのは複数の位置情報と画像のデータと、DNAパターンの情報ですね・・・・」

「・・どこだ・・?・・」  「・・いずれも北極点の近傍です・・送ります・・・」

ニューヨーク・ポイントA・地下3階・センターコントロールフロア・・・

「・・ミリー・・・」

レナード・コールが呻くように妹の名を呼び、身を乗り出してメインモニターに映し出された画像を凝視した。

「・・間違いないのか・・?・・」  傍らに座っていたレッドが彼を見遣って訊いた。

「・・ああ・・あれは彼女が大学を出た時に撮った写真だ・・・」

「・・カプセルの中で眠らされているように観えるな・・・榎本さん・・あのカプセルをどう観るかね・・?・・」

「・・こちらでも今画像解析を始めていますが、やはりある種の睡眠装置であるように観えますね・・・」

「・・北極か・・・やはりあそことは、事を構えなきゃならんのかな・・・」

思い切り背もたれに身体を預けて後ろに反らせ、顔に山高帽を被せてレッドが言う。

「・・ミスター榎本・・・貴方なら・・NPBの・・・ジュリア・マノーダ博士と話をして・・・説得する事もできるのでは・・?・・」

レナード・コールは苦渋の表情だった。

「・・ミスター・コール・・・お気持ちは充分に解ります・・・私も出来れば彼女と戦いたくはないですし・・和解できるのならしたいと思います・・・ですが、私がいくら呼び掛けても・・・彼女は応答しないでしょう・・・・」

「・・すみません・・脇から失礼しますが・・その、ミランダ・コールさんと言う女性は・・どのくらい重要な人物なのですか・・?・・」

ハロルド・フィンチが、控えめに口を開いた。

「・・フィンチさん・・ある人物を完全な状態で覚醒させるために・・必要な人材の内の1人なのです・・・詳しい事は直にお会いした時にお話しします・・・すみません・・・」

私はそれだけを答えた。

「・・ジュリア・マノーダ博士と言うのは・・?・・何だか話を聴いていると・・ミスター・シエンと旧知の仲のようにも聴こえるが・・?・・」

ジョン・リースが一歩前に出て言った。

「・・リースさん・・・彼女は・・もう大分以前に私達の同志でしたが・・・様々な紆余曲折があって・・・現在は同盟のBG所属の科学者で・・・NPBの責任者です・・・」

答える私の声にも、苦渋が滲む。

「・・何なのよ! それ! そのマノーダ博士って人・・あたし達の事知ってるの!?・・」

ショウさんも色めき立った。

「・・落ち着いて下さい・・・私が彼女と袂を分かったのは・・15年前です・・・それ以降、私達が開発導入したものについても・・貴方方の事についても・・彼女は知りません・・Mネットについても・・モビルスーツについても・・フェイザーやインパルスパワードライヴ・・転送技術についてもです・・・」

「・・どうして彼女と別れることになったのか・・?・・についても興味があるんだけど・・?・・」

ルートも腕を組んで前に出る。

「・・16年前に行われたプロジェクトの結果が・・その原因の一つになりました・・とだけ、今は言って置きます・・詳しくは直にお会いした時に話します・・約束します・・」

「・・分かりました、シエンさん・・次にお会いした時に、詳しく伺います・・・グリア氏は如何ですか・・?・・」

ハロルド・フィンチは冷静だった。

「・・ドクターの報告では、状態は安定しているそうです・・彼へのケアはドクターに任せておいて大丈夫でしょう・・・ドクターからは定期的に報告を受けて・・グリア氏の状態は随時確認します・・・フィンチさん・・少し変わりますが・・サマリタンのメンバーは今後、どうしますか・・?・・」

「・・はあ、まだそれは決定しておりませんが・・・」

「・・それでしたら、そちらでもう一度レベル4でのセンサースキャンを全員に掛けて頂いて、異常が無ければセンサータグを付け直して、こちらに転送で収容しましょう・・・こちらで全員の記憶を操作して・・地上に転送で戻します・・・」

「・・そうですね・・・現状では、それが最善の策なんでしょう・・・」

「・・はい・・ポイントAに対して同盟の攻撃がまだ無いと言う事は・・まだそちらの位置が知られていないと言う事ですからね・・・」

「・・分かりました・・早速始めます・・・」

「・・と、同時に統合プロジェクトを少し速めましょう・・・現在のレベルは・・?・・」

「・・レベル8のパート7です・・・15%程度なら速められますが・・?・・」

「・・それで結構です・・確実に進めていきましょう・・・」

「・・分かりました・・また連絡します・・」  「・・宜しくお願いします・・」

そう言って回線を閉じた。

一つ息を吐いてシートに座り直すと、今回得られた画像データを改めて最初からスライドさせて見始めた。

「・・うん・・?・・」 何か見覚えのある物が見えたような気がしてスライドを止めた。

止めた画像には見当たらなかったので、一枚戻した。

「・・?・・!・・コンピューター・・エリアE7を拡大してくれ・・」 「・・了解・・」

11年前に見て脳裏に焼き付いている物が、その画像には写り込んでいた・・。

たっぷり1分強、私の眼はそれに吸い付けられていた。

「・・やはり生きていたか・・・エーリッヒ・ナゾー博士・・・」

その時、私の携帯端末に着信した・・・ハロルド・フィンチからだ・・・マシーン・チームでこの端末にアクセスできるのは、彼とジョン・リースだけだ・・・。

「・・どうしました? フィンチさん・・この端末に掛けてくるのは久し振りですね・・・」

「・・お忙しい所をすみません・・・先程送って頂いた画像データを見返していたのですが・・大変なものを見付けまして・・・」

「・・ナゾー・タワーですか・・?・・」   「・・見付けましたか・・?・・」

「・・ええ・・生きているのだろうとは思っていましたが・・NPBに彼が絡んでいるとなると・・・厄介になりますね・・・」  「・・そうですね・・・」

「・・まあ、NPBにどうアプローチするのかについては・・また改めて考えましょう・・また連絡します・・・」  「・・分かりました・・それではまた・・・」

携帯端末をしまって、コンピューターに命じて11年前の戦闘記録を呼び出させた。

『荼枳尼衆山寺』・・・

東側の縁側で、白いラフな服装の若者が座って庭を眺めていた。

視線の先には白いツリガネソウの花房が垂れていた。

傍に寄って花を茎から一つ手折り、暫く眺めていたが自分の服の胸元に飾り付けた。

「・・グロンギでも、花を愛でるのか・・?・・」

白いスーツを着て黒い手袋を着けた、壮年の男が縁側の角から現れて言う。

「・・君達はグロンギを下に観てるけど、高位グロンギの感じ方は君達と変わらない・・・あまりナメない方が良いね・・・」

そう言って若者は壮年の男を冷やかに下から見遣った。

「・・フン・・」 男はそれには応えずに同じツリガネソウの花房から一つを手折ると、目の前で回しながら見ていたが、花はみるみる生気を失って萎れ、黒く変色して朽果てた。

「・・ところで、凶皇仏をどう観る・・?・・」

「・・凶皇仏・・?・・ああ、あれか・・・あれはグロンギだね・・・リントであるとも言えるけど・・・グロンギとリントは・・・本質では変わらないからね・・・あれはね・・・リントがリントの力と術で・・リントをグロンギに変えただけのものだね・・・僕にとっては・・あまり価値のあるものじゃない・・・随分と手間暇を掛けて創ったみたいだけど・・・僕なら30分で創れるね・・・もっとも・・もう一人の『ン』なら・・もっと速く創れる・・・」

「・・もう一人の『ン』・・?・・」

「・・近い内に遭えるよ・・・『ン・ガミオ・ゼダ』にはね・・・」

「・・遭った事があるのか・・?・・その・・もう一人の『ン』に・・?・・」

「・・僕も遭った事は無いよ・・・僕が『ン』になったのは・・850年前だし・・彼が『ン』になったのは・・250年前だからね・・・2人の『ン』が同じ時代か・・同じ場所にいると言うのは・・あり得なくはないけど・・まず無い・・・いればほぼ確実に殺し合いになるからね・・・でも『ガミオ』の事は知ってる・・・あの(塔)を地の底に繋ぎ留める為の人柱役を・・・自分から買って出た物好きな奴だったからね・・・・」

「・・伏魔塔の事か・・?・・あれはアテナが書いて貼り付けた封じの護符の力で、地下に引き込まれているのではないのか・・?・・」

「・・アテナ・・?・・ああ、あの娘か・・面白い娘だね・・グロンギでもリントでもない・・強い力を持っていた娘だったよ・・・光の神格を持って生まれて来たような・・そんな感じの娘だったね・・・」

「・・アテナに遭った事があるのか・・?・・」

「・・780年前だったかな・・?・・もう少しで殺せるところだったんだけど・・クウガにアギトにヒビキにザンキもいたな・・・あともう一人・・変な乗り物に乗って来た、変な奴がいてさ・・そいつらに邪魔されて逆に僕の方が封じられちゃったんだよね・・・あの時もあの娘に従っていた・・・セイント・・って言うんだっけ・・?・・30人ぐらいいたかな・・?・・5.6人ぐらいまで減らしたけどね・・・確かにあの娘の力は強いけど・・それだけで塔を地の底に封じ続けるのは無理だよ・・・塔の底の中心に、強い力を持った人柱を仕込まないとね・・・」

「・・成程・・凶皇仏の特性を利用して増幅させた闇の力で・・その人柱をどうにかして伏魔塔を地上に出現させようと言うのが狙いか・・・」

「・・そう・・その後で紙を剥がせば、星が解き放たれるって訳だね・・・」

中国・五老峰・三千間滝に迫る断崖の上・・・・

深く瞑想していた老師だったが、ふっと眼を開けると少し訝しげに左上を見上げた。

「・・なぜ牡羊座(アリエス)が揺動れる・・?・・」

そう呟くと再び眼を閉じて観相に入る・・・10分ほど静止していたが、また眼を開けた。

「・・ふむ・・聖域(サンクチュアリ)とジャミールで動きがあったか・・・」

そう呟くと真っ直ぐに座り直して眼を閉じる・・・程無くして老師の存在が透明度を上げて内側から白く光り始めた。

ギリシャ・聖域(サンクチュアリ)教皇の間・・・・

元教皇『(牡羊座)アリエスのシオン』の前に、3人のゴールド・セイントが立っている・・魚座(ピスケス)のアフロディーテ・・山羊座(カプリコーン)のシュラ・・蟹座(キャンサー)のデスマスクだった・・・。

「・・今話した通りに聖域(サンクチュアリ)も臨戦態勢に入る・・・出来れば両方共に参加して欲しいが・・どちらか一方でも構わない・・だが、どちらかには参加して欲しい・・・どうだ・・?・・」

「・・私は青ヶ島に行きます・・海が近い方が魚座(ピスケス)には都合が良い所もありますので・・・」そうアフロディーテが告げた。

シュラとデスマスクはお互いを見遣って頷くと、シュラが口を開いた・・。

「・・我等はパミールに参りましょう・・・彼の地での戦いが、過激なものになる事は明らかですので・・・」

「・・3人ともありがとう・・・心から礼を言わせて貰おう・・・」

『・・シオンよ・・』

いきなり中空から声が響いたので、4人ともぎょっとして聴こえてきた辺りを見遣った・・。

その中空で光が溢れたかと思うと、それが老師の形を採ってそのまま中空に浮んだ。

「・!老師!・」  「・!五老峰からテレポートで?!・・」

「・・いや・・これはフェイズシフト・テレポートだ・・瞑想に熟達した者なら使えるようにもなる技術だ・・・実質の肉体は、まだあの大滝の前で座っている・・・久し振りだな、童虎・・・お前のその技を見るのは随分と久し振りだ・・・そんな技まで使って、何か火急の要件か・・?・・」

『・・シオン・・なぜ教皇の座から降りた・・牡羊座(アリエス)が揺動れている・・まさか牡羊座(アリエス)を割る気なのか・・?・・』

「・!・まさか・・童虎・・私はもう年だ・・時間的には260才以上になるんだぞ・・・そんな私がムウの向こうを張って、アリエスのクロスを争えると思うか・・?・・そんなつもりはないし・・そんな暇もない・・確かに牡羊座(アリエス)は少々揺動れているようだが、割れるほどじゃない・・・現にクロスは1ミリも動いていない・・・アリエスのクロスはムウを選んでいる・・・守護星座を割って新たな宿命を創るような、バカな真似はせんよ・・・教皇から降りたのは・・・少しでも抗える力になれればと思ったからだ・・・それだけだ・・同盟の力は強大なのに・・聖闘士はまだ少ない・・どの道我等だけではここを守り切れない・・・これまで同盟がここに攻め込んで来なかったのは・・アテナの降臨時を狙って一挙に殲滅する肚だったからだ・・だからSSDOとは、全力で共闘する・・・でなければ我々もここも生き残れないだろう・・・・」

「・・私も賛成ですね・・・その・・『全力で共闘しなければ、守り切れないし、生き残れもしない』・・と言う考えにですがね・・・」

言いながらムウが入室した・・牡羊座(アリエス)の聖衣(クロス)をその身にまとい・・マスクを左手に持っている・・・。

「!・ムウ!・お前も来たのか・・?・・」

「・・お久し振りです、わが師・シオン・・老師に於かれましても・・・」

そう言ってムウはシオンに向って頭を下げ、中空の老師に対しても頭を下げた。

「・・お前も私が教皇の座から降りた事に難色を示すのか・・?・・」

「・・その通りです・・教皇の座にお戻り下さい・・アテナはまだ幼いですが、いずれ必ずここに戻られます・・その時までこの聖域を統轄し、戻られたらアテナを補佐すべき教皇がいなければ、ここも我等も立ち行きません・・これよりは、この私も参じます・・先程からのお話を耳に挟んでおりましたが・・私は青ヶ島に参じたいと思います・・シエン氏本人が地上に降りられますので・・警護を強化すべきと考えます・・・」

「・・参加して貰えるのは有り難いがな・・・ジャミールの方はどうする・・?・・」

「・・聖衣(クロス)修復の仕事でしたら、暫く貴鬼に任せても大丈夫です・・・」

『・・それになシオン・・いざとなれば・・儂も征くぞ・・・』と、中空の老師も告げた。

「・・お前も私と同じ歳だろうが・・?・・」

『・・忘れたのか、シオン・・?・・前聖戦の後で先代のアテナが儂に、MISOPETHA‐MENOS(ミソペサメノス)の法術を掛けられたのを・・?・・以来儂の心臓は1日に1回しか拍動しなくなり・・肉体の新陳代謝レベルが極限にまで抑えられ・・そのお陰で儂の肉体の年齢は・・未だ20才にも達しておらん・・それにこの法術は・・儂自身の意思と小宇宙(コスモ)で解除できる・・シオンよ・・この聖域がいよいよと言う事になれば・・儂も若かりし頃の姿に戻って参じよう・・それは約束させて貰う・・だから教皇に戻ってくれ・・先程ムウも言ったが・・ここには教皇が必要なのだ・・今も・・これからもな・・・』

「・・お前達はどう思う・・?・・」

老師とムウの気魄に圧されていたのか・・その場で立ち尽くすままでいた3人に訊いた。

「・・私も、教皇は居た方が良いと思います・・守護星座が揺らされるのは気持ちの良いものでもありませんし・・いざとなればシルバー・セイントもブロンズ・セイントもおります・・それにSSDOの方々も助勢して下さるでしょう・・ですから・・教皇にお戻り下さい・・」 アフロディーテはそう答え、3人一緒にシオンに向って会釈した。

「・・そうか・・皆がそこまで言うのなら、教皇に戻るとしよう・・・心配を掛けて済まなかった・・他のゴールド・セイントにはお前達から伝えてくれ・・ムウは白羊宮で待機していてくれ・・童虎・・済まなかったな・・戻ってくれ・・じきに大事になる・・身体を厭えよ・・・」  そう言って笑顔を見せた。   『・・お前もな・・・』

そう応えて、中空に浮ぶ老師の姿は薄れて消えた。

「・・では、我等はこれで・・」 シュラがそう告げると、3人一緒に退室した。

残ったムウにシオンが改めて顔を向けた。

「・・久し振りだったな・・ムウよ・・元気そうだ・・・」

「・・はい・・シオン様も・・・」

「・・ときにムウよ・・カミュを一人で日本にやらせたのだが・・それで良かっただろうか・・?・・」

「・・それで宜しかったと思います・・第一にこれはカミュの宿命であり、彼にしか対峙できない事です・・・我等から余計に助勢を廻せば・・カミュのプライドも・・裏高野の方々の面子も傷付けます・・カミュの参戦は特別に赦されたものですので・・これ以上の介入は許されないでしょう・・それにSSDOからも多数参戦されますので・・サポートとしては充分であろうと思われます・・大丈夫です・・カミュならケリを付けます・・」

「・・そうだな・・私もそう思うよ・・・」

 



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青ヶ島・・・承前・・・

米原潜・ダラス2・・・

「・・艦長・・青ヶ島まで、距離40キロです・・海底深度、浅くなります・・」

「・・よし・・減速20%・・僚艦の様子は・・?・・」

「・・ピッツバーグ2、シカゴ2、キー・ウエスト2、オクラホマ・シティ2・・共に減速中・・離れてはいません・・チャンロー、カーティス・マケイン、チョーシン2、ゲティスバーグ2、シャイロー2は・・後方450~500キロの近辺に在って、こちらを追尾しています・・・更にその後方・・100キロ~200キロにかけて・・原潜ヘレナ2、コロンバス2、パサデナ2、スクラントン2が・・深度300~450で追尾しています・・」

「・・分かった・・先行原潜5艦は、深度このままで青ヶ島を反時計回りに旋回航行する・・・本艦の後に続くよう通達しろ・・・」  「・・了解しました・・・」

「・・これより、第2級対潜水艦探査行動に入る・・これも通達・・」  「・・了解・・」

たつなみ・・・

米原潜スクラントン2の後方950、深度250を15ノットで追尾中。

「・・艦長・・先行米原潜5艦が青ヶ島を反時計回りに旋回する航行に入ります・・・」

南波水測長が報告した。深町 洋は握り飯の残りを頬張って指に残った飯粒を舐め取りながら・・「・・分かった・・チャートを見せてくれ・・」

速水副長と渡瀬航海長が海底地形図を拡げる・・・深町 洋は指で地形図を少しなぞると顔を上げた。

「・・青ヶ島から近い、深度1000近辺のポイントは・・こことここだ・・当然米艦隊も注意している・・深深度海底からの最短距離コースだし、合理的な海江田の性格からしてどちらかに潜んでいる・・と、考えているだろうな・・・」

「・・艦長は違うんですね・・?・・」

「・・ああ・・海江田はその裏を掻いて・・会見時間の直前には、ここにいると俺は思う・・」

そう言って右手の人差し指で地形図上の一点を示した。

そこは、青ヶ島から見て八丈島の向こう側の海底だった。

これには速水・渡瀬とも驚いたようだ。

「・!・ここですか・?・・しかし、かなり浅いですよ・・下手をすれば衛星からも発見されますし・・温排水が出れば、熱反応を検知されます・・・」と、速水副長・・。

「・・エンジン停止して着底したまま・・直前までマスカーを掛けていれば、何からも発見できないさ・・・それに海江田は・・もう一手、仕掛けを作ると思うな・・・」

「・・?・・何です・・?・・」と、渡瀬航海長・・・。

「・・この深々度ポイントの内のどちらかに・・シーバットの音紋を仕込んだ耐圧デコイを設置すると思うな・・だから・・本艦は、八丈島の北方から接近する・・深度450に付けろ・・速度は10ノット・・針路352へ・・八丈島の北側に入ったら、島に接近するコースを採る・・・」  「・・了解・・」 「・・分かりました・・」

『クラーケン・クラス水中艦(マンダ)』・・・

「・・艦長・・指令です・・・」

副長が差し出した指令文面をそのまま受け取って一瞥すると握り潰した。

「・・青ヶ島に向えとの事だ・・目的はシエン・ジン・グンを生け捕るか、その首・・シー・デビルとシー・サーペントも出張ると言う事だ・・この水域での警備は、クラーケンと交代する・・・エンジン始動・・深度このまま・・微速で発進・・目標、青ヶ島・・・」

「・・了解・・」

やまと・・・

「・・艦長・・間もなく深深度海盆の東端に掛かります・・・」

「・・よし・・60秒を掛けて速度0へ・・着底する・・・」

ネプチューン・ブリッジ・・・

「・・艦長・・やまとが減速中・・停止するようです・・・」

「・・こちらも減速だ・・ゆっくり停止しろ・・・」 「・・了解・・ポセイドンには・・?・・」

「・・連絡している時間はない・・やまとを基点に海底地形を再探査・・レベル3でスキャンしろ・・・」  「・・了解・・やまと速度0・・着底するようです・・・」

「・!・艦長!・エンジン音と推進音を探知・・あのクラーケン・クラスが動きます・・」

「・!・何!・針路は・・?・・」  「・・針路・・青ヶ島です・・それに音紋を照合して判明しました・・・4番艦の『マンダ』です・・・」

それを聞いてマーカス・コーネル艦長は、藪睨みで副長を見遣った。

「・・やまとは・・?・・」  「・・着底しました・・」

やまと・・・

「・・着底しました・・」 「・・よし・・水圧を掛けて耐圧デコイを放出・・・」

「・・了解・・4番管加圧・・デコイ放出・・スタビライザー起動・・姿勢安定・・デコイ着底しました・・異常ありません・・・」

「・・デコイのプログラムは・・?・・」  「・・プログラムにも異常ありません・・・」

「・・よし・・メインタンク、僅かにブロー・・50m 浮上・・・」

ネプチューン・ブリッジ・・・・

「・・やまとが4番発射管から何かを放出しました・・・それは・・安定した姿勢で着底しました・・・続いて僅かにタンクブロー・・・ゆっくり浮上します・・・」

「・・耐圧デコイだな・・海江田艦長・・恐らく反対の方角から青ヶ島に接近するつもりだ・・・MLHM2.3を、Mネットを通じての暗号圧縮サインで、距離2000まで呼び寄せろ・・・マンダに対して防御を固めなきゃならん・・・マンダは耐圧デコイに気付いていないな・・・暫くの間、やまとに張り付くのはポセイドンに任せよう・・・それと・・ターミナル2にMネットを通じて、シードラゴンの整備状況を訊いてくれ・・・」

「・・了解しました・・」

ニューヨーク・ポイントA・地下3階・センターコントロールフロア・・・

レイモンド・レディントンが腰を伸ばすように立ち上がった。

「・・さて・・不足している部分があるのは否めないが・・基本的な事は大体判ったかな・・同盟は彼女のデータをサマリタンから盗んだんだろう・・それじゃ腹も減ったし、失礼して出かけて来るよ・・財団の悪巧みの片棒を担いでいる小悪党を捕まえて・・奴等の裏金作りに横槍を入れてくる・・・レナード・・君はどうする・・?・・」

「・・私は・・出来ればグリアの傍で、彼の回復を見守りたい・・・SSDOの技術で、彼の記憶も回復させて欲しい・・・シエン代表の許可を貰いたい・・・」

「・・それはハロルド君を通じて、彼と話してみるんだな・・・」

ハロルド・フィンチを見遣って言う。

「・・レッド・・恐らく同盟はエリザベスのデータも知っている・・・気を付けた方が良いな・・」

「・・ああ・・それは最初から分かっているよ・・彼女には既にマイクロ・タグ・マーカーを飲ませてある・・拉致・誘拐されかけたり・・生命反応が急激に低下した場合には・・転送で収容する手筈にはなっているよ・・・それじゃあデンベ・・行こうか・・・」

そう言うと、レッドはコートに袖を通して山高帽を被り直した・・。

ニューヨーク・ロングアイランド・マッカーサー空港・・・

一機のプライベートジェットがエンジン始動していた。

「・・社長! いつでも離陸できます! 」 「・・分った! ボブ! 皆乗ったか? 」

「・・はい! たった今・・全員、機材もです! 」

「・・OK! ジョナサン! GOだ! 」 「・・ラジャー! 」

機体が加速を始める・・ボブ・マッケイがセシル・A・デミルの隣のシートに着いてベルトを締めた。

「・・シスコでは・・?・・」  「・・給油に降りるだけだ・・済んだら直ぐに発つ・・」

「・・それでオアフ島に・・?・・」  「・・カラエロア空港に降りる・・本当は高速水上輸送機をチャーターしたかったんだが、空きが無かった・・代わりに高速ホバークラフトがカラエロア・フェリー・ターミナルで待ってる・・・」

「・・それじゃギリギリですね・・」  「・・間に合わせて見せるさ・・・」

その時、ランディング・ギアが路面を離れた。

トーマス・キールとマシーン・チームの5人は、それぞれアシスタント・ディレクター、サウンド・コーディネーター、ライティング・スタッフ、衛星中継エンジニア、VTRスタッフとしての身分と偽名をマシーンから割り振られて、後ろのシートに座っていた・・。

デミル社長は数種類のサングラスと眼鏡を携行して乗っていたが、その総ては全く同形の物をMAC 01で予めレプリケイトしたもので、そのフレームにはレベル5のパーソナル・フォース・フィールドシステムと、パーソナル・ライフ・センサータグが内蔵されている。

「・・これまでに怪しい奴を見ましたか・・?・・」

サウンド・コーディネーター役で一緒に乗り込んたオマール・アレンが、トーマス・キールに小声で訊いた。

「・・2人は見たな・・・他にもいたかも知れないが・・確信は無いよ・・目立ったアクションも無かったしね・・・」

「・・一番警戒すべきは、オアフ島なんでしょうけど・・シスコでも何があるか分かりませんね・・」

「・・一番の警戒地は青ヶ島だよ・・・フェイザーはいつでも出せるようにしておけよ・・・レベルは6で固定だ・・・」

地球から36000キロの高高度周回軌道・・コントロール艦・センテ・ナリオ・・・

「・・コロンブス37! こちらセンテ・ナリオ! 応答せよ! コースから外れている! コロンブス37! どうした! 応答せよ! 」

「・・こちらコロンブス37・・センテ・ナリオへ・・サイド・スラスター2基が不調・・現状での調整は困難です・・所定のコースを維持できません・・申し訳ありませんが、停船します・・救援船の派遣を要請します・・繰り返します・・こちらコロンブス37・・サイドスラスターが不調のため、コース保持不能・・停船して救援を待ちます・・どうぞ・・」

「・・コロンブス37・・こちらセンテ・ナリオ・・要請は了承した・・停船してポイント・マーカーを起動せよ・・回線は閉じないように・・どうぞ・・・」

「・・こちらコロンブス37・・了解しました・・ポイント・マーカー起動・・回線は閉じずに停船して救援を待ちます・・・以上・・」

「・・どうしたの? リーゼ・・?・・」

「・・ああ、アグネス船長・・また一隻離脱しました・・・」

「・・3隻目ね・・これで2%の遅れだわ・・コロンブスの整備体制を強化するよう、要請を出して頂戴・・・4時間で6交代にするようにと・・・ミラーを降ろしたコロンブスを救援に向かわせて・・・」

「・・了解・・帰還途中のコロンブス16と・・ミラーを降ろし終えたばかりのコロンブス27を救援に向かわせます・・・」

「・・そうね・・直ぐに治らないようなら、ミラーをその場で移し替えて持って来て・・推進剤が足りないようなら、37から補給するようにと・・・」

「・・了解しました・・・」

「・・リゼット・・進捗状況は・・?・・」

「・・2%の遅れは確定ですね・・他のスケジュールは概ね順調です・・・やはりミラーの展開は、最後までしないのですか・・?・・」

「・・リゼット・ラスニックオペレーター・・それは基本方針よ・・展開したら防空探査網に掛かる可能性が高くなるから・・・展開してもミラー同士が接触しないように、余裕を持たせて配置を続行して頂戴・・・」   「・・了解しました・・・」

MAC01・指令室・・・・

中央指令室の後方に、私専用とされているデスクがある・・そのデスクで私専用とされているモニターで、過去の戦闘記録を閲覧していたのだが・・後ろで気配を感じたのと同時に・・・「・・司令・・お忙しい所を済みませんが、少しお時間を頂けませんか・・?・・」

と、声を掛けられたので振り向くと・・高野 由明・芳邨 恭輔・ジョン・フランツ・ティナ・ヒートン・河邨 義之・蛎崎 憲治・枦山 正史郎が揃い踏みで、私を取り囲んで立っていた・・・・・。

「・・ああ・・控室で良いか・・?・・」そう言いながら立ち上がると、先に立って歩き出し、司令官控室に向った・・・。

控室に入ると私は、デスクを背にしてソファに座った。皆もそれぞれ思い思いに座る。

「・・それで・・?・・何の話かな・・?・・」

「・・青ヶ島の件ですけど・・やはりどうしても降りる・・?・・」

高野 由明が、腕を組んで訊いた。

「・・降りるよ・・約束しているし・・必要な事だからね・・・」

「・・アーク・エンジェルだけでは危険です・・」と、ティナ・ヒートン・・。

「・・ムーンライト・シリーズが12隻で守ってくれる・・・」

「・・アメリカやロシアの海軍も来ますし、同盟がどれ位の規模で貴方を狙って来るか分かりません・・・何しろ名乗りを挙げて直ぐなんですから・・大喜びで撃って来ますよ・・・」

と、ジョン・フランツ。

「・・そいつ等を掃除する為にも、ソーラーシステムが準備されている・・・」

「・・それでも物凄く危険です・・いくらムーンライトシリーズが守りを固めても・・必ずアークエンジェルに攻撃は集中します・・そんな状況になるのに、どうやって海江田艦長と話をするつもりなんですか・・?・・こちらの最新技術は見せられませんよ・・?・・」

と、芳邨 恭輔が言った。

「・・会見を始める前に、奴等をまとめて掃除してしまえば良いだろう・・?・・」

「・・それをやってしまったら、我々の最新技術を同時に幾つも公開してしまう事になりますよ・・その時の青ヶ島に・・どれ程の眼が集中していると思います・・?・・」

と、河邨 義之が言った。

「・・やまとは一隻だ・・私が何隻も連れて降りるのはマズイだろう・・?・・」

「・・榎本さん・・我々はアークエンジェルとやまとを、最後まで守り切り・・且つ貴方と海江田艦長との会見の安全を保障して・・それも最後まで守り切らなければなりません・・それなのにこれでは戦力が少な過ぎます・・アークエンジェルとやまとは、例え一発でも被弾は許されません・・・許してしまえば、この作戦は失敗に終わります・・・そして二人の会見も・・半径300m以内に被弾を許せば、失敗に終わります・・・」

と、蛎崎 憲治が言った。

「・・分ったよ・・それじゃ、どうする・・?・・」

「・・アークエンジェルは勿論ですが、ドミニオン、ディファイアント、ミネルヴァも修理・補修・整備は終了しています・・補給・補充もあと数時間で終わります・・・4隻で降りて下さい・・・」と、枦山 正史郎が言う。

「・・衛星や地上からの攻撃には、どう対処する・・?・・」

「・・攻撃衛星群は、何時でもこちらからハッキングして制御出来ます・・・地上からの高射狙撃ですが・・4隻いれば、独自の回避操艦で狙点を撹乱できます・・・アークエンジェルだけで降りるよりは、遙かに狙われません・・・」

と、ティナ・ヒートンが締め括るように言った。

「・・了解したよ・・それで行こう・・それで頼む・・」

ニューヨーク・マンハッタン・・・

エリザベス・キーン、サマル・ナヴァービ、ミーラ・マリクの3人は、ニューヨーク市警の5人の刑事達と一緒に、聴き込みに走り回っていた。

ニューヨーク市警のCSIチームも動員され、現場一帯での鑑識・採取作業が、改めて徹底的に行われていたが、状況は芳しくないようだった。

「・・どうだった・・?・・」

交差点で顔を合わせた時に、エリザベスが他の2人に訊いた・・・。

「・・ダメね・・皆違う事を言っていて証言がかけ離れているわ・・」

サマルが疲れたような顔で答えた。

「・・同じ時間に現場にいた人でも、証言が違うなんてどう言う事なのよ・・訳が分からないわ・・・」マリクが肩で息を吐きながら、顎に伝う汗を手の甲で拭った。

「・・こっちもダメ・・通報した5人もその時とは違う事を言っていて、全く要領を得ないわ・・・」エリザベスもそう言って髪を掻き揚げた・・・。

ニューヨークCSIチーフが傍に来た・・疲れた顔で、途方に暮れているようだった。

「・・芳しくありませんね・・銃弾・薬莢・弾痕・破壊痕・血痕も指紋もありません・・毛髪や体毛のようなものは採取しましたが、それがこの事件にどう関わるのかは調べてみないと・・」肩を落としてそう報告する彼の、肩を叩いてサマルが労う・・。

「・・ありがとう・・ご苦労様・・申し訳ないけど、引き続き頼むわね・・」

交差点の反対側と、道路を渡った向う側からニューヨーク市警の刑事が2人、辺りを見廻しながら歩いてくる・・。

「・・どうも訳が分かりませんね・・証言の内容に共通する部分が全くありません・・また・・同じ人に時間を置いて訊いた場合でも・・内容に違いが出てきます・・・」

「・・共通する内容が無いので、手掛かりどころか取っ掛かりも分かりません・・この先、捜査をどう進めれば良いんでしょう・・?・・」

「・・とにかく今日は・・もう一回りしたら切り上げましょう・・何かがあっても無くても、あと一回りで上がりましょう・・鑑識も、もう少しで終わるみたいだから・・・」

サマルがそう言って皆を促す・・辺りを見渡すようにして振り向いた時に、エリザベスの携帯に着信が来た・・・レッドからだった。

サマルとマリクにレッドからだと伝えて電話に出た。

「・・どうしたの・・?・・この3日間は、掛けても繋がらなかったけど・・?・・」

「・・私も君と同じように、自分の仕事に従事していただけなんだがね、エリザベス・キーン捜査官・・君は朝から外で捜査か・・?・・」

「・・ええ、マンハッタンで聞き込みしてるんだけど・・貴方はどこにいるの・・?・・」

「・・奇遇だな・・私も今ニューヨークにいるんだよ・・仕事が丁度一段落したものでね・・」

「・・へえ、そうなの・・?・・それで・・何か用事・・?・・」

「・・久し振りなのにつれないね・・また君達と一緒に悪党を捕まえられれば、と思って電話したんだよ・・勿論、君達さえ良ければ・・の話なんだがね・・?・・」

「・・OK・分かったわよ・・どこで会う・・?・・」

「・・この前に会ったのと同じ場所・・パーク西南の『あの』ベンチでどうだ・・?・・」

「・・OK・・ドッグにマフィンとカプチーノも買って置いて・・朝から何も食べてないから・・」

「・・了解・・空腹で仕事するなんて、美容には大敵だぞ・・」 「・・うるさいわよ・・」

それから30分後・・レッドとリジーは『その』ベンチに座っていた。

デンベが紙袋と箱をリジーに手渡す。

「・・お早う、デンベ・・久し振り・・元気だった・・?・・」

デンベは言葉では答えずに、エリザベスに笑顔を向けた。

「・・ねえ、ニューヨークに居たのなら、今日の未明にマンハッタンで何が起きたか知らない・・?・・」ドッグを3分の1程頬張り・・カプチーノで呑み下しながら訊いた・・。

「・・もう少しゆっくり食べなさい・・食べ物は逃げないから・・それで・・何が起きたのかな・・?・・エリザベス・キーン捜査官・・?・・」

「・・大規模な撃ち合いがあった・・のだけは確実らしいんだけどね・・・」

「・・へえ・・見たところ、そんな事があったようには見受けられないがね・・・」

「・・まあ良いわ・・貴方とは、関係無さそうだし・・でもね・・アレを知らないなんて事は無いわよね・・?・・」

そう言いながらエリザベスは、右手の人差し指で『上』を指差したのだが、惜しくもレッドはその時彼女を見ていなかったので・・・。  「・・アレッて何だい・・?・・」

そう答えたので、エリザベスはレッドの顎を摘まんで自分に向けさせると・・・。

「・・アレよ・・」と、言った。

「・!・ああ! ニュースでやってた、あの宇宙ステーションの事か・・詳しくは知らないけど、たまげたね・・さすがに・・あんなに大きなものを、いつの間に造っていたんだろうね・・・」

「・・レッド!・・貴方知っていたわね・・?・・あのステーションの事を・・あそこに顕れる前から・・?・・」

「・・おいおい、エリザベス・キーン捜査官・・私があのステーションの事を・・あそこに顕れる以前から知っていたのだとしたら・・今ここで君と話していると思うか・・?・・ブラックリストの悪党共を片付けるのに・・わざわざ君達の力を借りたりなんかしないよ・・それに私が・・あのステーションの事を事前に知れる程の大物に見えるか・・?・・」

「・・確かに貴方は・・あのステーションの建造には関わっていない・・あのステーションの運営にも関わっていない・・でも貴方は・・私達の知らない事を知っている・・それは貴方の話し方と態度で分かるわよ・・そして・・何らかの繋がりがあるだろうって事もね・・・」

「・・エリザベス・キーン捜査官・・その事については・・また後で話をしようか・・?・・」

「・・貴方には・・幾つか貸しがあるわよね・・?・・この件ではいずれ返して貰うわよ・・?・・」

「・・分ったよ・・その事は、心には留めて置くから・・取り敢えず・・仕事の話をしようか・・?・・」  「・・そうね・・それで今回は・・誰を捕まえるの・・?・・」

「・・今回、私が提示するのは・・個人が一人と、法人が一つだ・・・」

「・・法人・・?・・会社か何かの団体・・?・・」

「・・聞いた事無いか・・?・・『世界救福教会』って・・?・・」

そう言って、レッドはエリザベスに一冊のファイルを渡した。

「・・『世界救福教会』・・?・・知らないわね・・カトリック系なの・・?・・」

「・・ああ、カトリック系の振興団体だよ・・設立は2年ほど前なんだが・・1年ほど前から急に羽振りが良くなったようでね・・この半年の間に・・20ヶ国の首都で支部の教会を設置している・・しかも新築でだ・・このアメリカでは既に、DC・ニューヨーク・サンフランシスコ・ロスアンゼルス・シカゴ・ラスベガス・マイアミの7ヶ所で教会を新築している・・そしてここからが本題なんだが・・それらの周辺では、ここ7ヶ月の間で・・麻薬絡みでの殺傷・暴力事件・・失踪事件が急増している・・そしてそれらに・・深く関与しているのではないかと思われるのが・・この男だ・・・」

そこまで言って、もう一冊のファイルを渡した。

「・・名前は、『モーゼ・ギルガット』・・『第2のシュバイツァー』とも呼ばれている男で・・ローマ法王にも謁見した事がある・・植物系の生分子化学と生分子神経学の博士号も持っている、医学博士だ・・ジブチ・コンゴ・ソマリアの研究所で・・何かの植物種に於ける・・品種改良の研究を行っていたようだが・・今はそこにも・・アメリカ国内のどこにもいないようだね・・・」

「・・それじゃあ先ずどこの何から・・?・・誰からあたるの・・?・・」

そう言いながらエリザベスは、空の箱と紙カップを袋に入れて小さく潰した。

「・・まあこのニューヨークにもその支部教会はあるから・・取り敢えずそこの神父にでも、話を訊いてみようじゃないか・・・」 そう言って、レッドは立ち上がった。

 



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日本とオーブと郵便局・・・

日本・衆議院・外交、外務、防衛拡大委員会・・・

日本社民党・高木 敬一郎議員・・・

「・・首相及び防衛大臣に対して、質問及び要求します・・政府・現政権は直ちに、シーバットプランに付いての総てを開示し、時系列に沿って、詳細を説明して下さい・・そして、それが何故、国民や国会から秘匿され、秘密裏に決定され推進されてきたのか、最初からの詳細を開示して下さい・・それが義務であり。責任です・・・責任と言えば、この責任は重大であります・・日本社民党は速やかなる解散総選挙を断固として要求します・・・また・・現在、シーバットは青ヶ島に接近中です・・・SSDOなる組織の代表者との会見の為だそうですが・・・政府・現政権はシーバットをどのように認識し・・どのように対処するのですか・・?・・その対応プランの詳細についてもお答え頂きたい・・・」

「・・内閣総理大臣、竹上 登志雄です・・これまでの10年間で、1年間での、ロシア軍所属航空機による日本領空への接近・侵犯の件数は、1.87倍・・・同国所属の艦船による日本領海への接近・侵犯・海峡通過・原潜による接近の件数は、1.89倍に昇ります・・・また、朝鮮半島より進発した軍属航空機による接近・侵犯の件数は1.88倍・・艦船による接近・侵犯の件数は1.87倍に昇ります・・・そして中国軍属航空機によるそれは、1.91倍・・・艦船によるそれは、1.89倍に昇っています・・・日本の領海・領空を防衛する必要性・必要度はますます上昇しております・・・日米協力共同での合同推進プロジェクトとして、防衛新戦力として検討されておりました幾つかの案件の中で、その中の一つに於いて共同での研究・開発・導入が行われておりました・・その対象とされておりましたのが、新型の攻撃型原子力潜水艦でありました・・・最初の発案はアメリカ側からでしたが、それがシーバットプランの発端でした・・・最新鋭の攻撃型原子力潜水艦の研究・開発・導入を日米共同で行い、その1番艦が完成してロールアウトするまでの間に・・海自の潜水艦クルーを選抜し・・分散させて米原潜に乗艦させ・・一定期間での操艦研修を受けさせる・・その後、完成した1番艦に乗艦させ・・一定期間での実地操艦研修の後に・・乗員は海自の自衛官ではありますが・・艦はあくまでも米海軍の所属として・・就航・就役の予定でした・・その後・・建造が続く予定ではありました、シーバットクラスの2番艦若しくは3番艦を日本政府がアメリカから購入し・・海自所属の攻撃型原子力潜水艦となったそのシーバットクラスの艦に・・シーバットクラスの1番艦から海自所属の乗員を移乗させる・・予定が描かれておりました・・が・・当該艦シーバットは、その実地操艦研修の2日目に反乱を起こして逃亡・・議員諸兄の皆さんも周知の経過を辿っております・・・そして現在シーバットは・・独立国やまとを僭称し・・SSDOなる団体組織の代表者との面会・会談のために・・青ヶ島に接近中であります・・日本政府は、この当該艦シーバットをあくまでも米海軍所属の戦闘艦艇であるとして・・対応します・・海自所属の機動艦艇を青ヶ島の領域に派遣し・・シーバットに接触して対話し・・説得して帰隊を促す方針であります・・具体的には海自の攻撃型ディーゼル潜水艦1隻を既に差し向けており・・後続の支援・援護・防衛を任務としまして・・第1護衛艦群と第2護衛艦群に出動を命じました・・青ヶ島の当該海域には・・既に米海軍の原潜群が到着していると観られ・・米海軍の洋上艦隊も・・三つの方位から接近中であります・・また・・未確認ではありますが、ロシアの原潜が潜航しているとの情報もあります・・そして、当日の会談予定時刻前には・・宇宙から宇宙艦艇が降下してくるとの予測もあります・・もしもそうなれば・・明白な日本領空に対する侵犯行為となりますので・・その認識の上で・・対応・対処する方針でもあります・・雑駁ではありますが、以上が基本的な対応方針となります・・・」

高木 敬一郎議員・・・

「・・米海軍はシーバットに対して無条件での即時降伏と武装解除を要求し、乗員共々連行する方針であると観られますが・・シーバットがそれに対して容易に応じて従うとは思われません・・米海軍とシーバットとの間で、戦端が開かれてしまう可能性が高いと観られますが・・それについてはどのように考え、どのように対処なさるのですか・・?・・更にシーバットには核弾頭を搭載できる機能があるとされていますが・・シーバットの現クルーが、核弾頭を搭載したか否かの確認は採れているのでしょうか・・?・・そして、シーバットが核弾頭の存在を脅しででも使った場合や・・実際に使用すると脅してきた場合や・・考えたくありませんが実際に使用してしまった場合には・・どのように対処なさるのですか・・?・・」

「・・竹上です・・米海軍の意図するところはそのようなものであろうと認識しております・・が・・我々としては、あくまでシーバットと対話し、説得して日本に連れ帰る事を目標として貫徹する方針であります・・シーバットと米海軍との間で戦端が開かれることは・・我が方の護衛艦群を、その間に割り込ませてでも阻止する決意であります・・我が方はあくまでも専守防衛が、その基本姿勢でありますので・・こちらが先に砲門を開くだなどと言う事はあり得ません・・・また、確かにシーバットには、核弾頭を搭載できる機能があります・・が・・現シーバットが実際に核を搭載しているのか否かについては・・残念ながら未確認であります・・が・・艦体の最終チェックを現クルーが行ったと言う事は、確認が取れております・・現シーバットの艦長は、前『やまなみ』の艦長でありました、海江田 四郎海将補であります・・彼の性格とこれまでの経歴・動向を精査し分析致しました・・・その結果、彼が核弾頭の発射を実際に命令する可能性は・・極めて低いであろうと言う結果が得られました・・ですが・・事態の推移の中では、どのような事が起こるのか、予測が立ちにくい事も事実であります・・ので・・こちらとしては、シーバットがそのような状況に陥る前に同艦と接触し、或いは拿捕し、対話し説得して日本に連れ帰る・・あくまでもこれを貫徹する姿勢が肝要であろうと考えます・・・」

高木 敬一郎議員・・・

「・・シーバットに接触しようとする海自艦艇に対して、米海軍が妨害しようとした場合・・実際に妨害した場合・・海自艦艇の外側からシーバットを攻撃しようとした場合・・実際に攻撃した場合・・また更に・・海自艦艇を敵視して攻撃しようとした場合・・実際に攻撃してきた場合には・・どのように対処するおつもりですか・・?・・」

「・・竹上です・・事態が現場でどのように推移するのか分かりませんが・・重ねて申し上げます・・・こちら側が、先に攻撃目標を敵性対象であると設定して・・銃撃する、砲撃を加える、或いはミサイルを発射する事はしない、と申し上げます・・相手からの体当たりを受け止めたり・・発射されたミサイルを着弾する前に迎撃して撃破する事は、あり得る場合があるかも知れません・・・」

高木 敬一郎議員・・・

「・・SSDOなる団体組織が宇宙空間から宇宙艦を大気圏内に降下させ・・青ヶ島の上空に接近してきた場合には、どのように対処するおつもりですか・・?・・」

「・・竹上です・・日本政府はSSDOをある種の団体組織であると認識しておりますが・・どのような団体組織であるのかと言うような認定には至っておりません・・これは、国家としても、現状では認識していないし、認識すべきなのか?などと言うような見解さえ、出し得ていない、と言う状態でもあります・・とは言え、ある種の外部勢力であるとの認識・認定はせざるを得ない情勢であろう、との考えは持っております・・その外部勢力が、保持し所有し、その勢力に所属している・・機動航行物が・・わが日本の領空に許可なく接近し・・許可なく侵入しようとするなら・・それは明白な侵犯行為であると、認識せざるを得ないでしょう・・よってその場合には、空自のスクランブル・チームを直ちに発進させ・・必要な対応措置を採るでありましょうと、この場に於きましては申し上げます・・」

高木 敬一郎議員・・・

「・・こちらからその航行物に対して・・接触して警告を与える、と言う事が行われる、と言う事で宜しいのでしょうか・・?・・また、その警告に対して返答があった場合・・更なる対話が行われる・・と言う事もある・・と言う事でも宜しいのでしょうか・・?・・」

「・・竹上です・・現場での事態の推移によっては・・状況としてそのような事態の流れにも成り得るかも知れない・・とは、申し上げます・・・」

高木 敬一郎議員・・・

「・・原潜、シーバットは現在・・『独立戦闘国家・やまと』を僭称し・・SSDOなる団体組織との間で・・既に同盟的な契約を締結していると・・双方ともに認証・認定していると観られます・・・私もあのオープンチャンネルの中での会話は聴いておりましたが・・シーバットが攻撃されようとした場合・・SSDOがそれに対して対抗的な行動を採る可能性は高いと観られるでしょう・・・その場合、こちらとしてはどのような対処しますか・・?・・」

「・・竹上です・・そのような場合に於きましても・・同様の答弁になるかとも思いますが・・そのような状況になる前に・・こちらが先にシーバットに接触し・・囲い込んで拿捕する形で同艦と対話し・・説得して守りつつ・・日本に連れ帰る事を第一義に於いて行動し・・貫徹する決意であります・・・」

『オーブ』・本島ヤラファス島・首都オロファト・枢密院(5大首長会議)・・・

通称で5大首長会議とも言われるオーブの枢密院だが、現在の構成メンバーは6名である。

アスハ家より、オーブ代表首長、ウズミ・ナラ・アスハ。

サハク家より、首長、コトー・サハク。

セイラン家より、首長、ミナト・ユマ・セイラン。

ヤシマ家より、首長、アマト・スサ・ヤシマ。

サハル家より、首長、ウズマ・ヤサ・サハル。

ナハト家より、首長、サナク・マノ・ナハト。

「・・では、始めよう・・先ず、火山活動に変化は・・?・・」

枢密院議長でもある代表首長、ウズミ・ナラ・アスハが口火を切った。

「・・ハウメアは、微動で0.7ポイントプラス・・体圧で0.4ポイントプラス・・噴気で0.8ポイントプラス・・警戒レベルは3で変わりません・・・ラーフは、微動で0.8・・体圧で0.85・・噴気で1.0・・それぞれプラスです・・警戒レベルは一つ上がって3です・・・クラストは、微動0.7・・体圧0.75・・噴気0.7・・それぞれ上がってレベルは4で変わりません・・・ミルスラは、微動0.9・・体圧0.85・・噴気0.8・・これもそれぞれ上がってレベルは4.5です・・・この2年・・なだらかですが、活動レベルは上がっています・・が、早期に対策が必要と言う程の事でもない・・との報告です・・また、8ヶ月前にハウメアの北北東85キロの海底で起こった地震と・・4ヶ月前にラーフの南東95キロの海底で起こった地震は・・人工のものである可能性が高いと言う報告も来ています・・・」

ウズマ・ヤサ・サハルがPADを見ながら報告した。

「・・その二つの深度と震度は・・?・・」

「・・深度は共に250キロの近辺で発生しました・・・震度は震央でほぼ5でした・・・」

「・・周辺の環境に変化は・・?・・」

「・・ミルスラから東南の海底で、新しい噴気点が二つ・・・ハウメアの北東の海底で二つ・・・ラーフ南方の海底で二つ見つかりました・・まだ噴火ではないそうですが・・その影響で噴気点周辺の海流に少し変化があります・・・」

「・・漁場への影響は・・?・・」   「・・まだ顕著にはありません・・・」

「・・一先ずは、良いだろう・・他に国内での問題や案件で、ここで討議すべきものはあるのか・・?・・」

ウズミ・ナラ・アスハが問い掛けたが、誰も発言しなかった。

「・・よろしい・・では、海外や国際関係での問題や案件に移ろう・・・早速だが、我が国の国連駐在大使を筆頭に・・アメリカ・ロシア・イギリス・フランス・ドイツ・イタリアに駐在する我が国の大使が・・非公式ながら質問を受けている・・(シーバットをどう考えているのか?)・・と、言うようなものだ・・・」

「・・エシュロン・ネットワークに参加している国々だな・・」と、コトー・サハク。

「・・シーバットは既にSSDOと契約を締結している・・単独で考えて良いものではない・・」

と、アマト・スサ・ヤシマ。

「・・海江田艦長は、何故オーブの名を出したのだ・・?・・」と、ミナト・ユマ・セイラン。

「・・我が国と日本との・・裏面での関係や・・双方が秘匿している戦力についても知っているのだろう・・彼の父親は、日本会議のメンバーであったし・・このオーブに武官として駐在していた事もあったからな・・・」と、コトー・サハク。

「・・彼の言う『沈黙の艦隊』構想に・・我が国の秘匿戦力を、当てにしているのでしょうか・・?・・」と、サナク・マノ・ナハト。

「・・フン・・例えそうであるにしても・・現時点で、我らが一顧だにする必要はない・・・海江田四郎艦長がその口で再び我が国について言及し・・オーブと指名して呼び掛けるならば・・こちらがそれに応えて口を開く事があるかも知れないし・・シーバットが我が国の近海に接近するようなら・・我らが物理的な行動に移る可能性も高まるだろう・・そうならない限り・・こちらが先に反応する必要はない・・・」

と、ウズミ・ナラ・アスハが、やや憮然として言う。

「・・日本に駐在する我が国の駐在大使に対して・・日本側から何らかの接触はあったのか・・?・・」と、ミナト・ユマ・セイランが訊く。

「・・いや・・日本に駐在する大使からは・・そのような報告は挙がっていない・・・」

「・・日本会議からこちらに呼び掛けは無いな・・?・・」

「・・無いですね・・日本会議との間での・・年に一度の定期交信に、異常はありません・・」

「・・日本がシーバットを、アメリカの眼を欺き・・その手もすり抜けて・・囲い込めると思うか・・?・・」

「・・かなりに奇抜なトリックを使ってこないと・・厳しいと思いますね・・あとはSSDOがどのように絡んでくるかで・・結果は違ってくるでしょう・・・」

「・・観るべき点があるとすれば、会談を成功させるために、SSDOが展開させると思われる、防衛力の内容ですね・・・」

「・・日本はシーバットを守る為に、秘匿戦力まで出すとは思えないな・・・」

「・・それは無いでしょう・・・直接的に日本が危ないわけではないですから・・・」

「・・ミナト殿・・防衛省を通じてオーブ海軍に、一個艦隊を青ヶ島方面に向けての我が国領海内に展開するようにと・・・潜水艦部隊も、相当数を出来るだけ広範囲の海底に展開するようにと、指示を出してください・・・」

「・・分かりました・・そのように指示を出します・・」

「・・ウズマ殿・・国務省・・中央情報局・・宇宙開発局などを通じて、何機かの対地観測衛星の軌道を少し変えて・・青ヶ島を複数の方位から、集中して観測できるように指示して下さい・・・」

「・・了解しました・・そのように指示します・・・」

アメリカ・ニューヨーク・FBI対テロ特殊捜査拠点・通称『郵便局』・・・

エリザベス・キーンとサマル・ナヴァービとミーラ・マリクが疲れた顔で帰って来た。額に汗を光らせて、肩で息を吐きながら、片手でコートを掴んでいた。

「・・お帰り・・ご苦労・・お疲れさん・・暫くだが休んでくれ・・大変だったな・・・」

副部長のハロルド・クーパーが声を掛けて労う。ドナルド・レスラーがエリザベス・キーンとミーラ・マリクに・・アラム・モジタヴァイがサマル・ナヴァービに飲み物のカップを手渡す・・三人とも受け取って椅子に座った・・・。

「・・皆ご苦労だった・・休みながらで良いから聴いてくれ・・今朝早くにあったとされる銃撃戦についての捜査は・・引き続きニューヨーク市警と合同で続行する・・確かに手掛かりは極度に少ないようだが・・全く無いと言う訳ではないからな・・・先にエリザベスから報告があったが・・レディントンからエリザベスに次のターゲットについての提示があったそうだ・・私から話そうか・・?・・」  「・・いえ、私から・・」

「・・じゃあ頼む・・」 エリザベス・キーンは立ち上がると、紙ナプキンで口を拭い、ブラウスの裾を引っ張った。

 



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ニューヨーク・青ヶ島・ターミナル2・バヴェルの塔・死海

「・・世界救福教会ですが・・支部教会が新築された国内7都市で・・差はありますが共通しているのは・・妙に上質のヘロインが、新しい謎の供給網で出回っており・・既存の供給組織との間で、トラブルから抗争に発展しています・・・各地で銃撃事件が発生しており、犠牲者も多数出ています・・・それと同時に、その新しい供給組織から麻薬を買って常用するようになったと観られる若者が既にかなりの人数・・行方不明になっています・・失踪届が出ている人も、出ていない人もいますが・・・勿論各地の市警は既に新しい謎の組織について内偵捜査を続行していますが・・今以て特定できておりません・・・」

「・・新しい麻薬カルテルに・・人身売買組織が出来てるってのか・・?・・このニューヨークでの状況は・・?・・」と、レスラー捜査官。

「・・銃撃事件は3件・・・銃撃戦、とまではいかないみたいだけど・・犠牲者は2人・・負傷者は6名・・逮捕者は8名・・行方不明者は噂まで含めれば、10名ほどだそうです・・失踪届が出ているのは、6名・・・」アラムがデータを見ながら応えた。

「・・よし、レスラーとナヴァービで、逮捕された連中に話を訊け・・・アラムは市警からデータを取って担当者からも話を訊け・・マリクは失踪者の家族と交友関係から話を訊いてくれ・・・キーンは・・」

「・・私は、レディントンとニューヨークの教会に行ってみます・・・」

「・・分かった・・皆気を付けて、引き締めて行けよ・・・」

やまと・ブリッジ・・・・

「・・山中・・マスカー開始だ・・・速度20ノット・・深度は暫く海底から100mを維持しつつ北上を続ける・・・緯度で八丈島を20キロ越えたら、面舵90°・・青ヶ島から見て八丈島の反対側に入る・・・」  「・・分かりました・・・」

ポセイドン・ブリッジ・・・・

「・・アーレント艦長・・やまとはやはりマスカーを掛けつつ北上するようです・・・米海軍の原潜及び洋上艦は・・やまとを検知していません・・・」

副長のアンドレイ・ユディンが、ヘッドホンを外して報告した。

「・・了解・・でもマンダはやまとを検知しているわね・・・こっちの陣容はまだ知られていないと思うけど・・・シードラゴンの整備状況をターミナル2に訊いたんでしょ・・?・・」

ハンナ・アーレント艦長が振り向いて訊いた。

「・・ええ・・シードラゴンは間もなく発進準備が整う模様のようです・・・」

「・・そう・・間に合えば、心強いわね・・・ネプチューンとMLHM2.3の3隻でもマンダは抑え込めると思うけど・・やまとは守らなければならないから・・・」

「・・フェネクスは、どうなっているんでしょう・・?・・」

「・・予定では、間もなくロールアウト、となっているわね・・・」

ネプチューン・ブリッジ・・・・

「・・艦長・・シードラゴンは、間もなく発進準備が整う模様のようです・・・マンダは仕掛けてくるでしょうか・・?・・」

副長のローズ・ウッドリーが、マーカス・コーネル艦長のティーカップに紅茶のお替りを注ぎながら訊いた。

「・・それは無いな・・マンダの艦長は猪突するタイプじゃない・・後続の水中艦を待つつもりだ・・それに彼らの狙いはやまとじゃない・・榎本さんだよ・・・榎本さんが降りて来てからが勝負だな・・・」

そう応えてサンドイッチの残りを口に放り込むと、ティーカップを取り上げた。

「・・取り敢えず・・どう対処しますか・・?・・」

「・・遮音フィールドと磁気流遮蔽フィールドを、フルパワーで展開・・MLHM2.3にも暗号圧縮サインで通達してくれ・・・」   「・・分かりました・・・」

ターミナル2・ファーストメインドック・セカンドポート・シードラゴン・ブリッジ・・・

「・・状況を報告してくれ!・・」

パオロ・エルカーン艦長がそう言いながらキャプテン・シートに座った。

「・・水密・気密正常・・FCSコンタクト・・シードラゴン・・全ステーション・・異常なし・・補助エンジン、駆動電圧確保まで3分・・総員、第一警戒配置・・ナビゲーション・コンピューター起動・・メインゲート・オープンコード送信・・ゲート周辺の海底・海中・海上に異常ありません・・全ハッチ閉鎖しました・・艦内隔壁全閉鎖・・艦体係留索解除・・抜錨します・・ゲート開きます・・艦橋を収納し・・戦闘ブリッジへフェイズします・・艦の内外全装備・・全装置・・パーツなど貯留物資・・補給物資、原材料など異常ありません・・電磁ガントリーロック解除・・駆動電圧を確保しました・・艦体から全コンジットを離脱・・補助ウォータージェットエンジン始動・・全コンジットの離脱を確認・・発進準備、完了しました・・・」

副長のデニス・リパートンが、副長席に座ってモニターを見ながら報告した。

「・・よし! ベント閉鎖・・メインタンク注水・・艦体自重沈降・・補助エンジン出力15%・・艦側電磁水流推進出力10%・・微速前進1.2・・ダウントリム10・・メインゲート通過せよ・・ターミナル2中央指令室、ネプチューン、ポセイドンに発進を通告・・」

ニューヨーク・ダウンタウン・・・・

黒いSUVが道路脇に停車して、エリザベス・キーンとレイモンド・レディントンが降りた・・運転していたデンベは降りずに待機する。

「・・あれね・・?・・そんなに大きい教会って訳じゃないわね・・?・・」

「・・資金力は充分にある筈なんだがね・・・ここの教区での行方不明者は何人なんだ?、リジー?・・」   「・・失踪届が出ていて、写真が借りられたのは4人ね・・・」

「・・その4人とも、この教会に出入りしていたのか・・?・・」

「・・ええ・・4人とも行方が判らなくなった週の前の週の日曜日にここの教会で行われたミサには、参加していたことが確認されているわね・・・」

「・・それじゃあ先ずは、神父様のお話でも聴いてみるかね・・?・・」

教会の正面玄関に立った・・新築の割には重厚で古びた感のあるドアの脇にあるインタホンを鳴らす・・・2分と少しぐらいでドアが開いた・・。

「・・はい・・どちら様ですかな・・?・・」白髪老齢の神父が応対した。

その神父を見てレッドは、訝しげに顔を傾げた。

「・・私は、FBIのエリザベス・キーン特別捜査官・・こちらはアシスタントです・・神父様でいらっしゃいますか・・?・・」

「・・はい・・トマス・ハルヴァと言います・・FBIの方がどのようなご用件ですかな・・?・・」

「・・この4人なんですけれども・・ご存知でいらっしゃいますか・・?・・」

そう言いながらエリザベス・キーンは、4枚の写真を神父に手渡した。

「・・あ、はあ、拝見しますね・・・ええ・・左から・・ボブ・トーマス・・ジェフ・ノリス・・クリント・ヒューズ・・ジェイク・パーマー・・・ですねぇ・・・この4人が・・どうかしたのですかな・・?・・」

「・・この4人とも、こちらで開催された日曜日のミサに参加して以降・・行方が判らなくなり・・家族から失踪届が出されています・・この4人がミサに参加していた時・・何か気付いた事とか・・それまでと何か違っていた点とか・・なかったでしょうか・・?・・」

「・・私の眼には・・いつもと変わらないように見えましたが・・」

「・・この4人から、告白とか告解とか・・相談事などは・・ありませんでしたか・・?・・」

今度はレディントンが訊いた。

「・・はい・・そのような事もありましたが・・他の方にその内容について教えるのは・・厳に禁じられておりますのでな・・お役に立てなくて申し訳ありませんが・・・」

「・・いえ・・ご無理をお願いしまして・・こちらこそすみません・・・神父様は・・この辺りを歩かれるようなことは、ございますか・・?・・」

「・・ああ、はい・・なかなか日曜日に教会に来られないような方々のために・・私が出張する形で・・地域集会を開催しておりましてな・・・ほぼ毎日、出ておりますのです・・」

「・・それでは・・今日も・・?・・」  「・・はい・・もう間もなく・・・」

「・・そうでしたか・・それは、お時間を取らせてしまいまして、申し訳ありませんでした・・・」そう謝罪して、退室の挨拶もしてから、二人は教会から出た。

「・・どう思う・・?・・」と、レディントン・・。

「・・何とも言えないわね・・・怪しいと言えば怪しいけど・・・あなたはどう思うの・・?・・」

「・・ちょっと見覚えがあるような気がしたんでね・・・今デンベに顔認識と画像で検索を掛けてもらっているんだよ・・・」  「・・へえ・・いつ写真撮ったのよ・・?・・」

「・・ここにカメラが仕込まれていてね・・・」そう言ってレディントンは、左手の人差し指でシャツの第2ボタンを指した・・・。

「・・それでどうだ? デンベ・・? 何か出たか・・?・・」

「・・ええ・・出ましたよ・・名前は、タナシス・ヴェンゴス・・・」

「・・あアァ!・・あいつか・・・どおりで見覚えがあると思ったんだ・・こんな所に居たのか・・」  「・・知ってるの・・?・・」

「・・ああ、この前見た時は・・コルスの下っ端だったな・・」 「・・コルス・・?・・」

「・・コルシカン・マフィア・・コルシカ島が発祥の麻薬カルテルだよ・・コルスはシシリアン・マフィアより歴史が古い・・古来からギリシャを拠点としていて・・ヨーロッパの各地と結んで・・ギリシャに住む富豪が所有する個人船舶を使って・・麻薬を密輸していたんだ・・・」  「・・あなた・・そのコルスと麻薬の取引をしていたの・・?・・」

「・・おいおい、リジー・・私は基本的に麻薬でビジネスはしない・・知っているだろ・・?・・」

そう言いながら二人は、乗って来た車に戻って乗り込んだ。

「・・それで・・彼と教会との関係は判ったの・?・・デンベ・・?」

「・・いや、判らない・・彼に関する記録は、30ヶ月前までのコルシカ島とギリシャでの記録しかない・・・それ以降は途絶えている・・・」

「・・まあ、それ以降にスカウトされたと言う事なんだろうな・・・」と、レッド。

「・・教会のサイトに入った・・・予定を見たが、神父はもうすぐ外出します・・・」と、デンベ。

「・・じゃ・・付いて行って見ようか・・?・・」  「・・そうね・・・」

バヴェルの塔・・BF団総本部・・・

総指令室に3人の男が連れ立って入って来て・・そのまま指令室の中央に、前を向いて腕を組んで立っている男の、すぐ後ろに並んで立った。

「・・これは、樊瑞(はんずい)殿・・アルベルト殿・・セルバンテス殿・・十傑衆の内、3名が一堂に見えるとは・・昨今では珍しいですな・・・それでご用向きは・・?・・」

「・・諸葛亮孔明(しょかつりょうこうめい)・・我らがビッグ・ファイアは・・SSDOにどう対処されるおつもりなのかな・・?・・」

スーツを着込んでピンク色のマントを纏っている男が訊いた・・。

「・・我等は同盟の一員ですよ・・同盟としてSSDOにどう対処するのか?・・この問いに於ける姿勢も方針も定まっておりませんのに・・我等が勝手に動くなど、できないでしょう・・?・・」

「・・孔明殿はご存じないのかな・・?・・クロノスが死海の辺りで何やら活発に動いて・・大袈裟な物を造っているようだが・・それは勝手な動きではないと・・?・・」

クリーム色のスーツを着てクフィーヤを被り、赤いゴーグルを掛けた男が逆に訊いた。

「・・実際にまだ事が起きてはいない以上・・同盟に対しての背信・叛乱行為とは呼べないでしょう・・何れにしろ、近々に開催されるサロン・ミーティングで・・SSDOに対しての基本方針・姿勢は決定されるでしょう・・・」

「・・成程・・クロノスの動きは、その決定を観越した上でのもの、と言う事だな・・フライングかどうかは、ギリギリのところだが・・・そのサロン・ミーティングには・・また孔明殿が出席されるのかな・・?・・」

そう訊いたダブルのスーツを着た長身の男が、片眼鏡を光らせて咥え葉巻に火を点けた。

「・・そのつもりでおりますが・・何か不都合でも・・?・・」

諸葛亮孔明は、右側から半身だけ振り返って、右肩越しに3人を見遣った。

「・・いや・・特に不都合と言う程でもないが・・我らがビッグ・ファイアの意向が・・真に貴公に伝わっているのか・・少々気になったものでね・・・」樊瑞が言った。

「・・これは・・樊瑞殿も異なことを言われる・・我らがビッグ・ファイア直臣の者として、BF団全体をも俯瞰しつつ支えて参りました、この私を疑われるのかな・・?・・」

孔明は樊瑞に向き直り、一歩踏み出した。

「・・いいえ・・策士・諸葛亮孔明殿を疑うなど・・滅相もありません・・・只、我等がクロノスが如き者共の後塵を拝するなど・・あり得べからざることですので・・・」

「・・それはこの私も重々に承知しております・・皆さんのご心配も承知しておりますが・・それには及びません・・我らがビッグ・ファイアのご威光は・・我らBF団の隅々にまで及んでおります・・我等の誰一人として・・ビッグ・ファイアのご意向を曲解するなど・・それこそ、あり得べからざることでしょう・・・それに今クロノスが何をしていようとも、全く何の問題にもならないでしょう・・・クロノスの神将メンバーは・・その盟主、アルカンフェルであろうとも創られた存在です・・・我らがビッグ・ファイアに比べれば・・その足元にも及びはしない・・取るに足らない存在です・・・我等は只そのご威光に・・沿うのみでありましょう・・・それでは、改めて誓いましょう・・・」

4人はお互いに向かい合って立ち、右腕を頭上に向けて真っ直ぐに立たせ、視線も右手指先が示す遥か先に合わせた。

「・・我等が、ビッグ・ファイアの為に!!」

アラビア半島北西部・・ヨルダンとイスラエルの境界・・死海・・海底・・

巨大な生体宇宙艦が着底している・・エネルギーレベルはまだ低い・・宇宙艦の内部では、多くの工作員が調整作業に従事している・・ほぼ中央部に位置しているブリッジに、一人の男が入って来て・・副長の席で調整作業に没頭していた男に声を掛けた。

「・・プルクシュタール・・元気そうだな・・」

「・・シン・・久し振りだな・・6年振りか・・?・・」「・・ああ・・そんなところだな・・・」

「・・今来たのか・・?・・」「・・ああ・・遅れて済まない・・」「・・いいんだ・・・」

「・・他のメンバーは・・?・・」

「・・バルカス翁と李剡魋(リエンツイ)には入って貰っている・・が・・掛かりきりだ・・この艦はまだエネルギーレベルが低いし・・システムはまだ不安定だ・・カールレオンとギュオーは・・2時間以内には入る予定だ・・・他の神将メンバーは、まだ都合が付かない・・色々と忙しくてな・・・」   「・・総帥は・・?・・」

「・・まだだ・・総帥が入るのは、少なくとも艦が浮上してからだな・・それにその際には、イマカラムと一緒に入ることになっている・・・」

「・・分かった・・どこを見れば良い・・?・・」

「・・助かる・・D7エリアのベースラインから見てくれ・・まだ手付かずだ・・・」

「・・これでパミールに間に合うのか・・?・・」

「・・それは大丈夫だ・・浮上すれば、エネルギーレベルはグっと上がるからな・・」

「・・サロン・ミーティングには、総帥が出席されるのか・・?・・」

「・・その筈だ・・私は抜けられそうにもないから・・イマカラムが同席するだろう・・・」

「・・同盟の基本的な方針も姿勢も決まっていないのに、ここでこれを造っているがな・・」

「・・そんな事は気にしなくて良い・・同盟に属する他の組織だって・・どこで何をしているか、分かったものじゃない・・場所がここだろうと言う事ぐらいまでは、探索できるだろうが・・・何を造っているのかまでは判らない筈だ・・・まさかこの死海を巨大な調整槽にしているだなどとは・・・誰にも判る筈はない・・・」 「・・そうだな・・・」

「・・シンよ・・何故我らが総帥も含めて13人いると思う・・?・・それはいずれ我らが13賢人会同盟の総てを牛耳るためだ・・・古いだけの組織を総て一掃してな・・・・」

ニューヨーク・ダウンタウン・・・・

レッドとリジーがハルヴァ神父を尾行している・・地域集会では何も異常な点は見受けられなかったが・・終わって外に出ても、教会への帰り道とは違う道を歩いている。

「・・おかしいわね・・どこに行くつもりかしら・・?・・」

「・・まあ・・付いて行けば、判るだろ・・?・・」

セカンドバッグと聖書を抱えて神父は足早に歩いている・・交差点を左に折れると、少し前を歩いていた二人連れの若者に声を掛けて呼び止めた・・

「・・し・・神父がなんで・・ヤクをくれるんだよ・・?・・」

二人のうちの一人・・ジャック・ペイスが怯えたように訊く・・。

「・・彷徨える子羊たちよ・・お前たちはコレが欲しい・・コレが欲しいが故に人を傷付け・・罪を重ねてしまう・・私は君達に罪を犯して欲しくないからじゃよ・・・」

そう言うとハルヴァ神父は聖書を開いて見せた・・聖書の中は刳り貫かれていて、中にはアンプルと注射器が入っている・・。

その時、レッドとエリザベス・キーンが神父の後ろに立ち、レッドが声を掛けた。

「・・私も是非訊きたいね・・ミスター・タナシス・ヴェンゴス・・いや、今はトマス・ハルヴァ神父か・・聖職者たる神父が・・なぜタダで若者に麻薬を配っているのか・・?・・」

「!・・レッド・・!」ひどく驚いたようだ・・・。

「・・やはり憶えていたか・・是非教えてくれ、タナシス・・コルス・カルテルで下っ端の売人だったお前が・・どうやってカトリック系新興教会の神父になれたのかな・・?・・」

その時、6人の男が現れて彼らの周りを取り囲んだ・・如何にも地元を仕切っている麻薬ギャングのような男たちだった。

「・・やっと見付けたぜ、ハルヴァ神父・・あんたがヤクを配ってるって話は聞いてたが・・現場を押さえないことにゃあ、どうにもならなかったからな・・俺達を出し抜いて、ナメたマネをしてくれてるじゃねえか・・あんたら全員、ちょっと付き合って貰うぜ・・・」

そう言って6人が全員、銃を抜いて構えた・・エリザベスも思わず銃を抜こうとしたが、レッドがその手を押さえた・・6人に銃を突き付けられたまま歩き始めた時、銃声が連続して聴こえ、二人のギャングが撃ち倒された・・残った4人が撃ってきた方向に向けて応射を始め・・レッドとリジーも銃を抜いて応射した・・もう2人のギャングが撃ち倒された時・・ジョン・リースと3人の男が、タイプ2のハンド・フェイザーを撃ちながら駆け付けた・・フェイザー・ビームを浴びても謎の襲撃者たちに怯む様子はなく・・姿を現し、その数も増しながら迫って来る・・謎の襲撃者たちは黒のトレンチコートを着込み、帽子とマスクを被ったいで立ちで・・軍用のものと観られるが、見慣れないマシンガンで撃ち込みながら・・8人から10人で包囲しようとしていた・・デンベがSUVで駆け付けようとしたが・・襲撃者たちの銃撃でタイヤがバーストしてSUVは横転した・・リースを含む4人は、パーソナル・フォースフィールドを拡大させて全員を包み込もうとしたが・・完成する前に残り2人のギャングが撃ち倒された・・デンベはSUVの中で頭を強打し流血していたが・・何とか這い出すと、持って来ていたグレネードランチャーを4発連射し・・謎の襲撃者たちに撃ち込んで3人を吹き飛ばした・・その一瞬のスキにフェイザー・パワーをレベル8にまで上げたリース達4人は・・集中射撃で襲撃者たちの集団を分断し・・何とか横転したSUVに辿り着くと、楯に使って応射を続けた・・が・・エリザベスもレッドもデンベも弾が切れた・・レッドがリースの肩を掴んである方向を指差すと・・そこでは、襲撃者たちがまだ息のあるギャングたち3人を担いで連れ去ろうとしていた・・だが襲撃者たちの激しい銃撃を・・フォースフィールドで何とか防いでいたリース達には・・それをどうする事も出来ずに見送るだけだった・・ギャング達が連れ去られると・・襲撃者たちは一人、また一人と退がって行った・・襲撃者の最後の3人が引き上げると・・辺りに静けさが戻った・・リース達4人と、レッド・リジー・デンベは、辺りを注意深く見渡して安全を確認すると・・深く息を吐いて車の影から出た・・。

「・・なんで君達がここにいるんだ・・?・・」レッドがリースに訊いた。

「・・出たんだよ・・・彼らの・・・な・・」

「・・私は、FBIの対テロ特殊捜査班のエリザベス・キーン特別捜査官です・・貴方方のお名前と、これまでの事について、お話を伺いたいのですが・・?・・」

「・・俺は、ジョン・リース・・捜査官・・まだ危機は去っていない・・・我々から離れないで欲しい・・ジョンだ・・襲撃者たちの動きはトレースできるか・・?・・分かった・・そのまま続けてくれ・・」と、コミュケーターで状況を確認して指示を出した。

「・・デンベ・・大丈夫か・・?・・」レッドがデンベに肩を貸して立ち上がらせた。

「・・手当しないと・・」エリザベスがハンカチを出してデンベの頭の傷を押さえる。

マシーン・チームの内の1人が、小型の救急キットをポケットから出して、デンベの頭の傷に対する処置を始めた。

「・・デンベ・・悪いがトーレスに電話してくれ・・車が要る・・・」

「・・ねえ!説明してくれないと、FBI支局の取調室で、たっぷり話を訊くことになるわよ!」と、リジーがジョンに詰め寄ったが・・「・・落ち着いて・・俺達は人助けが仕事と言うか、任務でね・・それに、まだ激しく動かないで・・」そこまで言った時に・・・。

ハルヴァ神父が狙撃された・・狙撃は2回・・2回とも銃弾は神父の上半身を貫通した・・聖書は開いて落ち・・アンプルは路面で砕けた・・神父はそのまま仰け反って仰向けに倒れ・・絶息した・・全員路面に伏せて3分間過ごしたが・・何も起きなかった。

「・・くそっ・・これでサンプルの分析もできなくなったか・・レッド! 俺達は奴等を追う・・ここでのあとは任せるよ・・暫くジャックとマックスを保護してくれ・・まだ狙われている可能性があるからな・・・」

「・・ちょっと待ちなさいよ!!あなたには訊きたい事が山ほど・・・」

「・・エリザベス・キーン捜査官・・君にはいずれまた会える・・その時には話せることもあると思うよ・・じゃあな! 」そう言って、ジョン・リースと3人は走り出し・・瞬く間に姿を消した・・レッド、リジーと若者二人は・・それを呆然と見送った。



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ニューヨーク・NPB・ターミナル2・ラガーディア空港・デルタフライヤー・シードラゴン

「・・まったくもう・・何なのよ!・・いったい!?・・・彼らの事、知ってるわね? 何者なの?・・」  「・・名前はもう聞いただろ・?・以前には同じ仕事にも拘わった事のある・・ちょっとした知り合いだよ・・だが仕事仲間ではないし・・ビジネス上の付き合いもないがね・・デンベ・・トレースも含めて、どうだ・・?・・」

「・・つながりました・・正常です・・トーレスも、もうすぐ着きます・・・」

「・・エリザベス・・君は通報しろ・・ともかく殺人事件だ・・この2人の保護も頼む・・私も奴等を追う・・弾倉はもうこれだけだ・・気を付けろよ・・教会の中を捜索して・・神父のパソコンも調べろ・・今襲ってきた奴等の事も・・・少しは判るかもな・・・」

そう言って最後の弾倉をリジーに手渡した・・その向こうから高速で接近してくる黒いステーションワゴンが見えた。

「・・本部に通報して、教会の捜索には応援を呼ぶわ・・でも、私一人でこの2人をここで守るのは危ないから、一緒に乗るわよ・・その方がこの2人も守れるし・・奴等も追えるから・・」  「・・分かったよ・・じゃあ乗れ・・トーレス、トレースしている目標を急いで追跡してくれ・・・」  「・・了解・・」

デルタフライヤー・・・・

「・・車は何台だ・・?・・」ジョン・リースと3人は、そう訊きながらデルタフライヤーの転送台の上から降りた・・。

「・・6台ですね・・しかし、レベル8のフェイザーでも倒せないとは・・?・・」

「・・まあ・・タイプ2のハンドフェイザーだったし・・恐らく、バトロイド程にまで改造・強化された、サイボーグ・ウォーリアだろう・・使っていた銃も、データに無いものだったからな・・・」

「・・じゃあ教会の後ろにいるのは、やはりBG・・?・・」

「・・いや・・メインバックがXなのは変わらないだろうが・・BGとシャドウで実戦部隊を編成してるんだろうな・・光学迷彩を掛けて、高度を上げてくれ・・どこに向かっているか、判るか・・?・・」

「・・通信を傍受していますが・・ラガーディア空港ですね・・そこで輸送機を用意しているそうです・・・」

「・・よし・・ミスター・デンベのPADにその情報を送ってくれ・・こちらから威嚇の攻撃を掛けて・・奴らの到着を遅らせよう・・レッドとエリザベス・キーン捜査官に・・奴 らが輸送機に乗って飛び立つところを見せる必要がある・・・レベル7のフェイザーで間断なく至近での威嚇攻撃を頼む・・車には直撃させるなよ・・・」  「・・了解・・・」

デルタフライヤーは光学迷彩を掛けて、高度200m程にまで上昇し、シャトルタイプ・フェイザーキャノンで威嚇攻撃を開始した・・直列して走る6台の車列の前方至近距離から、左右の至近距離地点を間断なく砲撃し、車列を10数回に渡って停車させたが・・その都度、車列を整えて再発進した・・・。

疾走する黒のステーションワゴン・・・ドライヴァーはトーレス・・助手席にはレッド・・レッドの後ろにデンベ・・トーレスの後ろにエリザベス・・その後ろにマックスとジャックの2人・・デンベがPADで確認して後ろからレッドに言った・・。

「・・ジョンからメッセージで、行先はラガーディア空港です・・ジョン達が威嚇攻撃を繰り返して奴等を足止めしています・・・」

「・・よし、トーレス、ショートカットでラガーディア空港だ・・急げよ・・」「・・了解・・」

NPB(ノース・ポール・ベース)中央指令室・・・・

「・・マノーダ司令・・製作ラボからですが・・本体の組み立ては、2時間ほどで終わる見込みです・・・」  「・・そう・・発射施設の方は・・?・・」

「・・あちらでの据え付け装置の準備は・・4時間ほどです・・エネルギーコンジットは・・90分ほどです・・」  「・・ここでの、制御操作パネルは・・?・・」

「・・それはもう完成しています・・」  「・・衛星の設置は・・?・・」

「・・既に24基を軌道に投入していますが・・これは計画から見れば、まだ10%程です・・また姿勢制御連動システムは、まだ調整中です・・それに衛星の設置は・・他の衛星群に紛れ込ませるような形で・・目立たないように行っているので、まだ時間が掛かります・・・」  「・・それはそのままの調子で続けて頂戴・・それよりゲシュマイリヒパンツァーは、所定の出力を出せるの・・?・・出せなければ、根本的に意味が無くなるわよ・・・」

「・・それについては、2.3の確認実験が必要ですが・・大丈夫です・・必要な出力は保証できます・・・」  「・・実験は慎重に行って頂戴・・・」  「・・了解・・」

「・・とにかく・・これは同盟の他の組織にも秘密で完成させるのよ・・これが完成すれば・・例えどこの誰がここに攻めて来ても・・充分に余力を持って撃退する事が出来るようになるんだから・・・」  「・・分かっています・・・」

ターミナル2・ファースト・ファクトリードック・メインポート・・・

ファーストチーフ・ファクトリーエンジニアのミゲル・セグラが、ヤマトのファーストブリッジの中で、右舷側の制御パネルと手持ちのPADを見比べつつ、忙しく指先を走らせて操作している・・ターボ・リフトのハッチが開いて、ファクトリー・エンジニアのセス・グレイス、ニール・サベージ、レイニー・マナーズ、トレイシー・ハイド、ハリー・ディレイン、スミット・マクフィー、ステラン・ハンソン、マグナス・ラングレンが連れ立って入って来た・・皆、自分のPADを持っている・・。

「・・チーフ・・こちらでしたか・・」セス・グレイスが、言いながら左舷側前部のパネルの前に立った・・ニール・サベージは左舷後部・・レイニー・マナーズはミゲル・セグラの隣に・・トレイシー・ハイドはブリッジ後部左側のパネルの前に・・ハリー・ディレインは後部右側のパネルの前に・・スミット・マクフィーは機関部制御席に座り・・ステラン・ハンソンはキャプテン・シートに座り・・マグナス・ラングレンはブリッジ前面の操舵席の下に潜り込んで、それぞれの仕事を始めた・・。

「・・セス・・フェネクスはどうなってる・・?・・」

「・・取り敢えず、ロールアウトはしたようですね・・艦内からの廃棄物・不要物の撤去と・・清掃が終ってから・・順次稼働試験に入るんじゃないでしょうか・・?・・」

「・・計画の修正指示書は見たか・・?・・」

「・・見ましたよ・・このヤマトの指揮を・・あの海江田って人に任せようって言うんでしょ・・?・・できるんですかね・・?・・」と、ニール・サベージが振り向いて言った。

「・・まあ・・今の彼のレベルじゃあ・・無理だろうな・・榎本さんも直ぐにとは言っていないしね・・これからの我々との付き合いの中で・・色々と知って貰わなければならないし・・学んでもらう事も多いだろうね・・・」

ミゲル・セグラは、見比べる眼の動きも、走らせている指先も止めずに答えた・・・。

「・・ヤマトは・・NPB攻略戦に間に合えば良いんでしょう・・?・・」

レイニー・マナーズが、右隣から訊いてきた。

「・・当初の予定ではそうだ・・パミールには間に合わないだろうからな・・だが我々の大気圏内での戦力はまだまだ少ない・・それに同盟は・・パミールでの作戦に絡めて・・世界各地で陽動作戦を仕掛けてくる可能性が高い・・ヤマトの発進準備を・・出来得る限り早く仕上げて置く必要性は・・ますます高まってきているよ・・・」

ミゲル・セグラはまた・・右側を一度も見遣らずに答えた。

「・・このヤマトを・・フェネクスともセットにして、シーバットも迎え入れて・・『沈黙の艦隊』の旗艦に据えようと言う事ですよね・・?・・そこまでする必要があるんでしょうか・・?・・」と、トレイシー・ハイドが工具ケースを開いてツールを物色しながら顔を上げて訊いた・・。

「・・同盟に所属する組織が持つ海洋機動戦力に・・効果的に対抗して抑止力を発揮する為には・・その方が良いのではないのかと考えているのかもな・・?・榎本さんは・・だが、状況の推移によっては、と言っていたから・・まだ決定ではないし・・現状では・・単に可能性の一つなんだろう・・・」

少し手を止めるとPADとパネルを見比べ・・2歩退がって操作していたパネル・エリアの全体を、ざっと見渡しながら答えた。

「・・よ~し・・どうやらここは・・これでフェイズ2完了って事で・・良いかな・・皆はどうだ・・?・・」

「・・全センサーシステムと天体観測ラボですが・・あと15分程でフェイズ2完了ですね・・・」セス・グレイスが応えた。

「・・亜空間フェイズ・トランスファー・コンバーターとは、同調できているのか・・?・・」

「・・はい・・そちらとも同調を保持しつつ、進めています・・」

「・・メインエンジン、サブエンジン、インパルス・パワードライヴですが・・あと30分でフェイズ2はコンプリート出来ると思います・・」スミット・マクフィーが応えた。

「・・プラズマ・フェイズ・パワー・インジェクターの具合はどうだ・・?・・あんまり芳しくないって話は・・3日前に聞いたが・・?・・」

「・・この一両日で、何とかこっちのレベルにまで調整を追い付かせましたよ・・遅くても40分で・・レベルコンプリートできます・・・」

「・・プラズマ・パワー・トランスファー・コンジットの、接合部分の不具合はどうなってる・・?・・」  「・・それも現状では、総て解消しました・・・」

「・・ディフレクター・シールドと、各種シールド・ジェネレーター・・・光学迷彩コンバーターと、ミラージュ・コロイド・インジェクターの同調・調整を続けていますが・・あと60分程は・・時間を貰いたいですね・・・」

トレイシー・ハイドがブリッジ後部の制御パネルの前に立ったままで、振り返らずに応えた。

「・・プラズマ・パワー・トランスファー・インジェクターとパワー・トランスファー・スチュミレーターだな・・?・・」

「・・ええ・・両方の同事調整を続けていますが・・エネルギー・ゲインとパワーレベル係数の設定と整合・調整に時間が掛かっています・・・」

「・・プラズマ・フェイズ・リアクターからの、オーバーロードにならないようにな・・?・・」

「・・ええ、それは、分かっています・・」

「・・レイニー・・ハリー・・火器管制と兵装の調整はどうだ・・?・・」

「・・ショック・カノン・・グレン・キャノン・・ゴット・フリート・・レベル9フェイザーキャノンの、調整は順調です・・既にフェイズ3のPart2まで、コンプリートしています・・3式弾は、もうチェックが終了して積み込みを開始しています・・ダブル・ヴァリアント・・トリプル・イーゲルシュテルン・・は、フェイズ3のPart5まで終わっています・・各種対空ミサイル・・対空レーザーヴァルカンは・・既に使用可能です・・・」

「・・プラズマ・スクラム・トランスファー・フェイザーバンクスの調整は・・?・・」

「・・そちらとの同事調整も含めて・・現在での進捗状況となっています・・・」

「・・フェイズクリスタルの予備は・・幾つ積み込める・・?・・」

「・・予定では3個ですが・・もしかしたら一つ増やせるかも知れません・・・」

「・・拡大集約陽電子砲は・・?・・」

「・・それは、あと20分程でフェイズ2がコンプリートします・・が、ポジトロニック・プラズマ・パワー・フェイズキャノンじゃいけませんか・・?・・」

「・・どっちでも良いよ・・インパルス・グラヴィティ・パワー・プレッシャーキャノンとの切り換えは・・?・・それと、スパイナーはどのくらい積み込める・・?・・」

「・・インパルス・パワー・トランファー・コンバート・ジェネレーターとの同事調整も含めて・・20分で完了する見込みです・・スパイナーですが・・1㎖入り、5㎖入り、10㎖入りの弾頭を、出来得る限り積み込むつもりですが・・どこまでできるかは分かりません・・・」  「・・了解だ・・」

「・・通信システムは、概ね順調です・・あと20分でフェイズ3が終ります・・」

ニール・サベージが振り向いて応えた。

「・・サード・サブスペースでの通信は可能か・・?・・」

「・・10分位までなら・・相互通信が可能ですね・・」 「・・分かった・・」

「・・各種の緊急システムですが・・あと20分でフェイズ3をコンプリートできます・・」

キャプテン・シートに座って、タッチパネルディスプレイとキーボードで操作を続けていた、ステラン・ハンソンが応えた。  「・・分かったよ・・」

「・・操舵系や操縦系・・各種のパワー伝導系のシステムですが・・あと30分で・・フェイズ3のPart5までを、コンプリートできます・・・」

マグナス・ラングレンが、ブリッジ前面の操舵席の下に潜り込んだまま、大声で報告した。

「・・各種パワー・トランスファー・コンジットの接合部分は・・特に念入りにチェックしてくれよ!・・」  「・・ええ! それは勿論! 」

ラガーディア空港・展望台・・・

レディントンとエリザベスとトーレスが並んで立っている・・レッドとリジーは双眼鏡を眼に当てている・・デンベと二人の若者の姿は見えない・・700m程先に見えるハンガーの中から・・ダークグレーにカラーリングされた輸送機が出てきた・・ジェットエンジン4基の大型機だ・・。

「・・恐らくアレだろうな、リジー・・シルエットはギャラクシーに似ているが・・エンジンは全く違うようだな・・それに対空火器を、色々と隠し持っているように見える・・・」

「・・やっぱり、何のマークも、何のナンバーも無いわね・・・」

「・・ほら、あっちだ・リジー・・・」

双眼鏡を持ったままレッドが指差す先に・・記憶に新しい、あの襲撃者の集団が顕れた・・コートも帽子もマスクも、そのままのいで立ちだったが・・武器は持っていないようだ・・。

「・・ねえ、何のケースを運んでいるのかしら・・まさか棺桶・・?・・」

「・・いや・・一つ一つに生命維持装置が組み込まれているように見えるな・・どうやらあのままで・・あの輸送機に運び込むつもりらしいな・・・」

謎の襲撃者たちは、二人で一つのケースを、計7個輸送機に運び込み・・そのまま全員が搭乗した・・輸送機はエンジンの回転数を上げながら・・滑走路に向って進んで行った・・。

「・・エリザベス・・アレが何処に降りるか突き止めるのは・・かなりの難関のようだな・・」

「・・でも必ず突き止めるわよ・・例え何処の誰に食い付いてでもね・・・」

「・・デンベがあの機体の画像を3Dで記録している筈だ・・面倒だが、着陸が予想できる空港を全部、衛星の監視システムを利用して、画像解析で見付け出すよ・・」

「・・先ず、フライトプランが出ているか、訊くわ・・出てないんでしょうけどね・・次に国内の教会支部を全部家宅捜索して・・人間関係も金の流れも徹底的に洗うわ・・これだけの銃撃と拉致誘拐殺人事件ですからね・・どんな令状も取れるわよ・・・」

「・・エリザベス・・気を付けろよ・・これらの事件の裏にいるのは・・フルクラムよりも広く深く怖い連中だ・・フルクラムの総ての結社でさえ・・簡単に使い走りにできるぐらいのな・・ここから先の捜査は・・誰が敵で誰が味方なのかを・・見極めながら慎重に進めるんだ・・いつ、どこで、誰が出て来るか・・全く判らないぞ・・・」

「・・分かってるわよ・・・」

所属不明の魔改造輸送機は、滑走路上でマックススピードに達した・・程無くしてその機首は浮き上り・・総てのランディング・ギアが、路面から離れた・・。

デルタフライヤー・・・・

「・・リースさん・・やはりこちらのベクトル解析でも一致しました・・マシーンの予想通り・・行先は、ゴールデン・トライアングルです・・・」

「・・やはりそうか・・この情報をMAC01・・ターミナル2・・デンベのPADにも送ってくれ・・・間違いないな・・ゴールデン・トライアングルのどこかに・・奴らのヘロイン精製施設がある・・」 「・・了解・・」  「・・悔しいが俺達だけでは・・そこの攻略はできない・・攻めるなら仕切り直しが必要だ・・その前にエリザベス・キーン捜査官とは・・刑事さん達も交えて・・改めて話をしなきゃならないな・・ともかくこれで・・俺達の介入が同盟に知られた・・奴等もこれからは動きを潜行させるだろう・・それでもマシーンの眼と耳から・・隠れ続ける事はできないだろうがな・・よし、回頭だ・・帰還コースに入ってくれ・・・」   「・・了解・・」

シードラゴン・ブリッジ・・・・・

パオロ・エルカーン艦長が、キャプテン・シートから立ち上がった。

「・・ポセイドンは、やまとのフォローに付いているな・・?・・よし、本艦は取敢えず、マンダに対してのインターセプトコースを採る・・ダウントリム10°・・深度500に着け・・速力30ノット・・・」

「・・待って下さい・・東京湾中央部の海底に・・フリージーヤードの反応を感知しました・・」デニス・リパートン副長が、スキャン・スイープパネルから顔を上げて言った。

「・・フリージーヤード・・?・・Qか海の眼に所属する水中艦が・・東京湾に入り込んでいると言うのか・・?・・何故出航前の探査で出なかった・・?・・」

「・・その時には丁度東京湾の海底にあった、沈船の影に隠れるような形になっていて、探知できなかったようです・・・」

「・・今東京湾にいると言う事は・・目標は西新宿だな・・?・・」

「・・そのようですね・・タイミングを観て浮上し・・洋上から攻撃するつもりでしょうか・・?・・」

「・・凶皇仏を強奪して離脱する作戦で・・洋上からの攻撃が必要だとしたら、陽動だな・・その他にも先行して上陸する部隊ぐらいは積んでいるだろう・・いずれにしろ対処は必要だ・・現状で即応できるのは、本艦だけだしな・・進路変針! 東京湾に向かう! 東京湾口までは深度300、速力30ノット、ウォータージェット停止、遮音フィールド、出力50%で展開・・」

「・・了解、取舵一杯!、回頭左80°、総員第一警戒配置!、艦側電磁水流推進、出力60%、安全隔壁閉鎖・・」副長が補足して指示した。

「・・あまり時間は無いな・・・」

クロノメーターを見てそう呟くと、パオロ艦長はシートに深く座った。

 



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田所研究室・カミュ・戦いの前の食事会

MACステーション01・・第15デッキ・・レベル8

とある部屋のドアの前に、私は立った。ルームプレートには、『田所研究室』とある。

入ると、白衣姿の2人の男が振り返った。

「・・中田さん・・幸長さん・・暫くです・・」

「・・榎本さん・・忙しいのに、ここに来ていて大丈夫なんですか・・?・・」

「・・優秀なスタッフが沢山いますからね・・大丈夫ですよ・・新しいRXシリーズのロボット探査機はどうですか・・?・・」

「・・良いね・・SYシリーズのロボット探査機に比べて、コンパクトで保ちも良いし・・データリンクの保持力も強いし・・データ転送速度も速い・・助かっているよ・・・」

「・・それは良かった・・まだ量産体制に改善すべき課題が多くあって、一度に多くをお届けできないのが申し訳ないですが・・・」

「・・いやいや・・昔に比べたら雲泥の差だよ・・あの頃・・これ程の体制を構築出来て、これ程のシミュレーションを作れるようになるなんて・・夢にも思えなかったからね・・・」

「・・そう言って頂けると、ありがたいですね・・ところで、博士はどちらに・・?・・」

「・・シミュレーションルームですけど・・重要な話ですか・・?・・」

「・・ありがとうございます・・重要な話もありますけど・・陣中見舞いでもあります・・」

言いながら二人に会釈してシミュレーションルームに入った。

「・・田所博士・・暫くです・・榎本です・・・」

「・・おお・・忙しいのに・・大丈夫なのか・・?・・」

シミュレーションスクリーンから振り返った博士は、私に笑顔を見せた。

「・・大丈夫ですよ・・それより、あまり効果が出ていなくて申し訳ないですね・・」

「・・いや・・よくやってくれていると思うよ・・3年と1ヶ月ぐらい・・アースプロセスの進行を遅らせる事が出来ている・・君が組んでくれたシステムと・・マシーンのお陰だな・・」

「・・それでももっと・・時間を稼ぎたいですね・・コロニーの建設には・・時間が掛かります・・」

「・・オーガニア人は・・まだこちらからの呼び掛けに応えんかね・・?・・」

「・・ええ・・彼らとの交流は・・18年前から途絶しています・・こちらからの呼び掛けは定期的に行っていますが・・・」    「・・彼らの手助けがあればな・・・」

「・・いやあ・・頼めたにしても、やっちゃくれませんよ・・頼むだけ無駄ですね・・」

「・・博士・・日本列島への懸念は勿論なのですが・・オーブへの懸念も相当なものです・・四つの火山の活動が揃って活発化しています・・」

「・・気掛かりなのはハウメアだな・・大きいから・・ハワイの火山活動もずっとあの調子だし・・日本とオーブとハワイの活動は確実に共鳴している・・この三角面の中では、何が起きてもおかしくはないな・・・」

「・・博士・・ミュージアムがやっている事も・・アースプロセスの進行を確実に刺激しています・・」   「・・ミュージアム・・?・・ああ・・園崎君か・・・」

「・・彼を未だに説得できていないと言う事については・・私も責任を感じています・・・」

「・・いや・・君が責任を感じる必要は無いよ・・私が彼を説得して止めさせるべきだったんだ・・」

「・・彼と同盟との繋がりは・・ますます強まってきています・・悪くすれば調製されてしまうかも知れません・・彼が発見したものは・・木門ではありませんが・・木門へと通じる横穴ではあるでしょう・・普通の人間にそれが発見できたこと自体、驚異的です・・そこで彼が発見した様々なアース・エレメントを・・財団Xが提供したプログラムへの変換技術を用いて創り上げた・・様々なガイア・エレメント・メモリーが、同盟の内部でも脚光を浴び、注目を集めているようです・・彼が提唱し、やろうとしているガイア・インパクトは非常に危険なもので・・やらせる訳にはいきません・・これを見過ごせば・・アースプロセスを暴走させてしまう事になりますので・・我々が必ず阻止します・・ですが園崎さんへの説得も、諦めてはおりません・・ギリギリまで続けようとは思っています・・ミュージアムを直接的に攻撃する事は・・それほどに難しい訳ではありませんが・・やはりそれは最終手段であろうと思っています・・それで博士・・博士ご自身にまだ・・園崎さんを説得するために、話をしてみても良いと言う意思がおありでしたら・・園崎さんとの会談をセットアップする事もやぶさかではありませんが・・どうでしょう・・?・・」

「・・本当に・・そんな事が出来るのかね・・?・・」

「・・ええ・・直接対話は危険が伴いますので避けますが・・実体を伴わない映像投影ホログラムも・・フォースフィールドで実体を構成する実体投影ホログラムも用意できます・・」

「・・分かった・・タイミングは君に任せる・・私の方はいつでも良い・・準備が整って、その時が来たら・・精一杯話してみるよ・・・」

「・・分かりました・・ありがとうございます・・準備を始めます・・明日の地球を・・投げ出す訳にはいきませんからね・・・」

裏高野・・・裏壇場伽藍・・・

長身で逞しい若者が、大きい箱を背負って顕れた・・青紫色で豊かな長髪を垂らしている・・そのまま歩みを進めようとしたが、呼び止められた。

「・・そこの方、お待ちなされ・・ここは高野山の裏側であり・・許可を受けていない外部の方は・・立ち入る事が出来ませぬ・・素性を明らかにして頂くか・・立ち去られるがよろしかろう・・・」

振り向いて見ると、甲冑で身を包んだ逞しい大男が二人と・・その後ろに僧兵が四人立っていた・・プラズマ・フェイズ・スティックを持ってはいたが・・構えてはいなかった・・。

「・・これは失礼を致しました・・案内を乞おうと思っておりましたが、人に会いませんでしたもので・・私はカミュと申しまして、ギリシャから参りました・・慈空阿闍梨様にお取次ぎをお願い致します・・」

「・・それでは貴方が、聖域から来られた黄金聖闘士(ゴールド・セイント)の・・?・・」

「・・はい・・左様です・・」

「・・分かりました・・そうとは知らず、失礼を致しました・・申し遅れました・・私は薬師十二神将の1人・・招杜羅(しょうとら)と、こちらは真達羅(しんだら)・・後ろにいるのは、裏高野五輪坊の・・「水」の者達です・・慈空阿闍梨様を初めと致しまして、主だった方々はこちらにいらっしゃいますので・・ご案内致します・・どうぞ・・・」

「・・ありがとうございます・・お邪魔致します・・お世話になります・・」

そう答えてカミュは、神将二人の後ろに続き、その後ろに五輪坊の僧兵たちが続いた。

ターミナル2・・ダイニングラウンジ・・・

大きい円卓にギルモア博士・フランソワーズ・ボー・ジョー・ジェット・アルベルト・ジェロニモ・グレート・ピュンマ・大樹・士・良太郎が座っている・・イワンが眠っているバスケットは、博士の右隣の卓上に置いてあった・・全員の前には、冷水が入れられたグラスだけが置かれていたが・・張大人が6人のウェイターと一緒に料理を乗せたワゴンを押して来た・・・。

「・・張大人・・この前作ってくれた時にも言ったけどさあ・・作り過ぎだよ・・元々俺達は、そんなに食べなくても良いんだから・・・」

ジェットが料理の多さにやれやれといった感じで言う。

「・・ハハハ・・良いじゃないか・・張大人は料理が好きだし・・こんな機会もなかなか無いしな・・フランソワーズ・・手が空いていて、腹が減っていたら、ここで一緒に食べようと、掲示板に書いてくれ・・」   「・・あっ、それ、私やります!・・」

ギルモア博士が笑いながらそう言うと、ボーがフランソワーズが答えるよりも早く答えて、自分の端末を取り出すと書き込みを始めた。

フランソワーズはボーの頭を撫でると、肩を軽く抱いて微笑ましく見遣った。

張大人とウェイターは大きい円卓一杯に料理の皿など並べていく・・その種類と量の多さに・・さしもの大樹・士・良太郎も目を丸くしていた・・。

「・・何だか見ているだけでお腹が一杯になりそうだね・・」と、良太郎・・。

「・・全くな・・だが、ユウスケがもうすぐ・・翔一と映司を連れて来る筈だ・・そうなれば一人当たりの分量が・・適切な値に少しは近付くだろう・・・」と、士が料理を自分の取り皿に・・幾つか乗せながら言った。

「・・おい、士・・お前、あの3人にも声を掛けたのか?・・東京行きの事・・?」と、大樹が眼を剥いて訊くと・・「・・そうだよ・・」と、平然と答えた。

「・・騒ぎを大きくし過ぎだろ!・・もうかなりの人数になってるんだぞ!・・」

「・・おい、ザンボット3とボルテスⅤも来るんだぞ・・騒ぎとしちゃ、もう尋常じゃないよ・・なあ良太郎君・・君も一緒に行くよな・・?・・久し振りに暴れようぜ・・?・・」

「・・えっ・・僕は・・予定のメンバーに入ってないよね・・?・・」

「・・良太郎君・・ボルテスⅤとザンボット3が見られるんだぜ・・こんなチャンス、もう無いかもな・・・」   「・・え~・・だけど・・・」

「・・あら・・あたしは東京に行くから、あなたも一緒に行くのよ、良太郎君・・だって君は・・あたしの専属SPなんですからね・・・」突然、フランソワーズがそう言った・・。

その場にいた全員が程度の差はあったが・・ギョッとした表情で彼女を見遣った。

一番その表情が強かったのは、やはりジョーだった・・良太郎は・・「・・どうして・・?・・」と言う感じで口を開けていた・・・。

「・・あら、どうしたの、良太郎君・・?・・約束したでしょ・・?・・忘れたの・・?・・」

「・・フランソワーズ! 君も東京に行くって・・!?・・そんな予定は・・・」

「・・あら、勿論行くわよ、ジョー・・だってあたしが行かなきゃ、現場での索敵はできないでしょ・・?・・」

フランソワーズはそう言うと、悪戯っぽい笑顔でギルモア博士やゼロゼロナンバーのメンバーたちにウィンクして見せた。

アルベルト・ハインリッヒが苦笑しながら、やれやれといった感じで両手を軽く拡げて見せてから・・

「・・それじゃあ、良太郎君・・俺達は現場では忙しくなるから・・君にはアルヌール嬢のエスコートを頼むよ・・彼女が危険な目に遭わないようにしてくれ・・いよいよとなったら・・ザンバードの副操縦士席にでも座って貰えれば良いから・・・」

「・・良かったな!良太郎!・・これでお墨付きが貰えたぜ!・・しかし、それにしても・・さすがは歴史の特異点・・隅に置けないな・・いつの間にアルヌール女史の警護役を射止めたのか・・全く気が付かなかったよ・・シスコンだからってのも・・あるのかもな・・?」

「・・そう言うお前の方がシスコンだろ・・士・・?・・良太郎君が優しいからってあんまりからかうなよ・・良太郎君・・無理しなくたって良いんだぞ・・人手はもう足りているんだから・・そう言や、士・・夏メロンはどうしてるんだ・・?・・」

「・・ああ・・僕だったら大丈夫ですよ・・大樹さん・・ちょうど今は・・手も空いているんで・・手伝いますよ・・」

「・・夏ミカンだ・・夏海なら・・獅子丸さんをもうすぐ連れて来る筈だ・・俺の事を言うけどな、海東・・お前だってブラコンじゃないか・・俺は真由と和解したけど・・お前はあれから一度も兄貴と話してないじゃないか・・人の事をとやかく言う暇があるんだったら・・兄貴と和解しろよ・・」

「・・そんな減らず口は、海鼠が食えるようになってから言うんだな・・この張大人の海鼠料理は絶品だぞ・・この味を知る事が出来ないなんて・・悲しいね・・・」

「・・ホラホラ、言い合いはそれ位にして・・ちゃんとしっかり食べて行きなさい・・大人が持って来る料理の皿の置き場所が無くなるぞ・・おお、ユウスケ君、翔一君、映司君・・こっちだ、こっちだ・・好きに座って料理を取りなさい・・張大人が久し振りに張り切って作っているから・・・」

裏高野・囲炉裏広間・・・

ここで待機しているメンバーが囲炉裏を囲んで車座に座り、精進料理を食している。

囲炉裏は長方形に掘られ、二つの炭火が熾されており、それぞれの炭火には、お粥の大鍋と味噌汁の大鍋が梁から吊り下げられていた。

慈空阿闍梨の右隣には先程に合流したカミュが座り、薬師十二神将のメンバーは左隣から並んで座っている。

風見 志郎、神 敬介、南 光太郎、乾 巧、草加 雅人、深町 晶は、カミュの右隣から並んで座っている。

囲炉裏端には二人の若い僧侶が控えて座り、お替りに応じていた。

カミュは自分の後ろにアクエリアス(水瓶星座)のクロス(聖衣)の箱を置き、綺麗に正座して背筋を伸ばしお椀と箸を持っている。

カミュ以外は全員、胡坐を掻いて座り、食している。

慈空は、カミュの美しい姿勢を感心したように一瞥して・・・

「・・失礼ですが、お手前は以前に来日されたことがおありで・・?・・」

「・・いえ、来日はありませんでしたが・・母親が日系人でしたので、躾けられました・・」

「・・ほう・・既に鬼籍に・・?・・」   「・・はい・・」

「・・そうですか・・では、これもご縁ですので、廻向致しましょう・・・」

そう言うと椀と箸を置き、合掌して黙想しながら口中にて経文の一節を唱えた・・。

カミュも椀と箸を置いて、「・・ありがとうございます・・」と、合掌し会釈して答礼した・・。

終ると慈空はカミュが自分の後ろに置いている箱を見遣り・・

「・・その箱の中に、水瓶星座の聖衣が入っているのですかな・・?・・」

「・・そうです・・」 「・・重いものですか・・?・・」 「・・それほどでもありません・・」そこまで聞いたところで慈空は座に向き直り・・・

「・・皆さん・・こんな山寺ですので豪華な食事と言う訳には参りませんが・・宜しければ遠慮なくお代わりして下さいね・・如何ですかな・・精進料理は・・?・・」

「・・美味しいです! お粥もお味噌汁も、おかずも最高です! 」

感激した様子で嬉しそうに深町 晶が答えた。

「・・精進料理は初めてかな・・?・・若い人には味が薄いかも知れないが・・・」

「・・はい! 初めて食べましたけど、このナチュラルな味が最高に良いですね・・友達にも食べさせてやりたいです・・あっ、お粥とお味噌汁のお代わりをお願いします! 」

「・・はっは・・それはそれは善哉な事ですな・・沢山食べて力を付けてな・・皆さんも遠慮なさらずに、たんと召し上がって下さいね・・・」

その場にいる全員が、本当に感激した様子で嬉しそうに食べる若い深町 晶の食べっぷりに、眼を細めて微笑ましく見遣りながらも箸を進めていた。

「・・ああ、皆さん・・食べながらで結構ですので聞いて下さい・・そこに大男が座っておりますが・・彼も今回参加します・・裏高野五大明王の一人とも言われております・・金剛夜叉明王を守護神としております・・夜叉王と言います・・・」

慈空から紹介された長髪で筋骨逞しく精悍な大男は・・椀と箸を床に置くと合掌して会釈した・・他の全員も同じように合掌して会釈した・・・。

ターミナル2・・ダイニングラウンジ・・・

彼らが囲んで座り、張大人の料理に舌鼓を打っている円卓は、このラウンジでも最大のものだったが、今では35人で取り囲んでいて、割り込めるような隙間はもう無いようだった・・ボーが書き込んだ掲示板の記事を見て・・腹を空かせた若いスタッフ達が続々と集まって来た結果であった・・・。

「・・なあ、良太郎君・・一体どうやってアルヌール女史とお近付きになれたんだ・・?・・白状しちゃえよ・・ほら・・あそこで島村先輩も知りたそうにしてるぜ・・」

門矢 士が野上 良太郎の左隣に座り、良太郎の肩に右腕を廻して訊きながらジョーの方に目配せして見せると、ジョーは少し恥ずかしそうに正面を向いた・・。

「・・そんな大した話じゃないよ・・フランソワーズさんがお兄さんに会いたがっていたから・・電ライナーで、一緒に会いに行っただけさ・・・」

「・・へーっ、そんな事があったのか・・羨ましいね・・ちょっと妬けちゃうな・・君みたいに歴史の中を自由自在に行き来できる奴は良いよなあ・・・」

「・・君だって考えるだけで未来だろうが過去だろうが、どんな世界にでも行けるじゃないか・・」  「・・そりゃあ・・そうだけどな・・・」

その良太郎の隣で、よほど腹を空かせていたのか、ユウスケと翔一と映司が物凄く美味しそうに食べ続けている・・時折感激か感動の余りか、奇声を発するほどだった・・。

「・・いやあ張大人の料理は、本当に美味いですねえ・・生き返りますよ・・」

と、ユウスケが眼を細めると・・。

「・・ホント、ホント・・味と触感と喉越しの感覚が・・脳にビンビン来ますよ・・」

と、映司が震えながら言う・・。

「・・僕も料理は作るんですけど・・張大人の味は出せませんよ・・もう一口ごとに感動して心が震えますね・・戦いが終ったら、絶対、張大人の弟子になりに来ます・・・」

と、翔一は涙ぐみながら宣言した・・。

「・・張大人の料理が絶品なのは分かってるんだけどね・・君達のその喜びようを見せられると・・君達が普段、どんなものを食べているのか?と言う事の方が・・物凄く気になるんだけどね・・・」

彼ら3人の感激・感動ぶりを目にして、やれやれといった感じで海東 大樹が言った。

張大人の美味な料理に悶絶し続ける3人から眼を転じて反対側を見遣ると・・夏海が獅子丸に料理についてやスプーン・フォーク・ナイフの使い方や、食事の作法について等を、事細かに説明しながら一緒に食べていた。

獅子丸が肩掛けにしている金紗地の太刀を海東が興味深げに見ていると、獅子丸がその視線に気付いて海東を見返した。

「・・獅子丸さん・・もうこっちの世界には慣れましたか・・?・・」

「・・色々とこちらの方にも教えて貰ってはいますが・・まだまだ解らない事だらけです・・未来の世界って全くの別世界ですね・・」

「・・ええ、分かりますよ・・とにかく今は・・慌てないで、落ち着いて、ゆっくりと慣れていって下さいね・・彼女がちょうどいなかったら・・僕に訊いてくれても構いませんからね・・・」  「・・ありがとうございます・・・」

その時、アルベルト・ハインリッヒが手を止めてナプキンで口を拭い、ギルモア博士の方を向いた。

「・・ところで博士・・榎本司令とは話せましたか・・?・・」

「・・ああ・・話したよ・・彼の話では・・暫く以前にマシーンが同じ内容での警告を出したそうだよ・・・」

「・・えっ、それじゃもうデビルスター・メモリの素体は・・?・・」

「・・うん・・もう出来上がっているだろうとの事だ・・だが榎本司令はその警告を受けて・・こちら側にあるガイアメモリとダブルドライヴァーをも含め・・仮面ライダー達の変身システム・・ドライヴァーやギヤ・ベルト・・変身やフォームチェンジ等に必要なキー・アイテムに・・ある一定度の改造を施し・・独自のカテゴリーを創り出したそうじゃよ・・・」     「・・その改造と言うのは・・?・・」

「・・君もその存在については聞いているじゃろうが・・サイコチップ乃至はサイコフレームを・・その対象に機能強化的に・・若しくは効果増大的に組み込む改造・・というものだったそうじゃ・・・」

「・・サイコフレームは・・今のモビルスーツのコックピットフレームとして主流ですよね・・?・・」 「・・そうじゃな・・・」 「・・じゃあ、今ここにいる彼らはもう・・?・・」

「・・ああ・・変身すれば、かなり強化され、パワーアップも図られたライダー達じゃろうな・・・」     そこまで聞くとアルベルトは立ち上がって・・・

「・・門矢君! 海東君!・・・」   呼ばれた二人も立ち上がって・・・・

「・・はいっ・・アルベルト先輩・・?・・」 「・・何でしょうか・・アルベルト先輩・・?・・」

「・・君達のドライヴァーも・・サイコフレーム・ドライヴァーになっているのか・・?・・」

「・・はいっ・・そうですが・・?・・」 「・・それで変身して戦った事はあるのか・・?・・」

「・・まだ2回だけですが・・」  「・・どうだった・・?・・」

「・・まだ慣れませんね・・機能的にもパワー的にも、使いこなすにはもっと経験を積む必要がありますね・・・」   「・・NТDモードには・・?・・」

「・・まだそのモードになった事はありません・・」 「・・そんなに強い奴とは、まだ当たっていないんで・・・」  「・・そうか・・東京では、宜しく頼むよ・・・」

「・・はいっ・・」  「・・お任せを・・・」

 



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SSDO・第6メッセージ・・・

MAC01・・中央指令室・・・

「・・司令・・あと5分で第6メッセージの送信を開始する予定ですが・・内容に変更はありますか・・?・・」

「・・内容に変更は無いよ・・予定通り・・10分のインターバルを置いて・・30回、ループ発信して下さい・・」    「・・了解しました・・」

第6メッセージの全世界への送信が開始された。その内容は、こうだった。

『・・この地球圏に生きる皆さん、こんにちは・・こちらはSSDО、ソーラー・システム・ディベロップメント・オーガニゼイション、太陽系開発機構です。私は代表のシエン・ジン・グンです。これは皆さんに向けてお送りする、6番目のメッセージです。繰り返します。この地球圏に生きる皆さん、こんにちは。こちらはSSDО、ソーラー・システム・ディベロップメント・オーガニゼイション、太陽系開発機構です。私は代表のシエン・ジン・グンです。これは皆さんに向けてお送りする、6番目のメッセージです。

今回のメッセージでは、皆さんに、SSDОとしての、地球圏の総てをカバーする意味での、救急救命隊・・緊急消火隊・・災害救助隊・・緊急支援隊の創設と、その運用をたった今から開始すると言うお知らせと、先日試験的に開設しました、パーフェクト・フルオープンチャンネルを、『パーフェクト・フル・ワールド・フル・アース・ディベート』と名付けて、毎週一回、正午から一時間程度で常設します、と言うお知らせです。

残念ですがこの世界は、今この時にも、様々な事故や事件や災害の危険により、人々の生命や生活や財産や仕事が脅かされています。

それらの多くは緊急の対応が必要なものであり、救助の手を差し伸べる為に、その方法と技術と必要な物資があるなら、即時に行動を起こし、駆け付けるべきであると言う観点に基づき、我々SSDОは、『太陽系開発機構・救急救命隊』・『太陽系開発機構・緊急消火隊』・『太陽系開発機構・災害救助隊』・『太陽系開発機構・緊急支援隊』を創設し、直ちに運用を開始致します。各種の出動・救助・救命・消火・支援を要請される場合には、3・5・7・9MHzのいずれの周波数でも構いませんが、出動要請通信の冒頭に於きまして、救命・消火・救助・支援のいずれかをご指定下さい。ここで改めて強調させて頂きたいのは、どのような個人からの要請に於いても、我々は出動します。それはご信頼下さい。

出動するに際しまして、要請された現場で活動する為には、その現場が属している世界各国・各地域の領空・領海・領土に入り、降りて活動しなければなりません。要請を受けて出動した各隊は、それらに入る前に、当該国政府、若しくは政権に対して、緊急出動要請を受けて来た緊急救援隊であり、緊急救援活動の為にのみ、入ると通告し、入ります。

我々はその現場の中では、緊急救援活動以外の事はしないと、ここで確約させて頂きます。

これに対しましても、どうかご信頼頂けるように、宜しくお願い致します。

次に、パーフェクト・フル・オープンチャンネルの常設に付いてお知らせ致します。

今日を含めまして、丁度5日後が地球の標準時間での月曜日になりますので、その月曜日の正午から、90分間の時限開設で、パーフェクト・フル・オープンチャンネルを開設致します。これには、『パーフェクト・フル・ワールド・フル・アース・ディベート』と名付けまして、その月曜日の時限開設を第一回目としまして、第二回目の時限開設はその次の週の月曜日の正午と致します。このように、週に一度、月曜日正午からの90分間の時限開設と言う形で、このディベートチャンネルを常設致します。このディベートチャンネルに於きましては、どのような方のご参加も歓迎させて頂きます。勿論、どのような立場の個人でも、ご自由に、お気軽にご参加下さい。但し、参加して、発言される場合には、その冒頭に於きまして、ご本名と、どのようなお立場の方なのかを明確に述べられてから、発言されますように宜しくお願い致します。尚、最後に改めて申し述べさせて頂きますが、参加者の全発言は全世界に向けて完全に公開されます。それは改めましてご了承頂きますように、宜しくお願い致します・・』

闇の中・・・・

「・・これはいよいよ・・切り崩しに来るようだな・・・」

「・・ああ・・これからは取り合いになるな・・・・」

『財団』中央指令室・・・

「・・『同盟』は何か言ってきたか・・?・・」

プリントされた文面を読み終えてから、彼はそれを持って来た部下の顔を見上げて訊いた。

「・・いえ、何の連絡もありません・・本部長・・・」

「・・チッ・・このメッセージの重要性が本当に解らないんだったら・・いや待て・・ホットラインが繋がっている・・そうか、CEOが掛けたのか・・・流石だな・・・」

渡されたプリントをデスクに叩き付けてから通話機を取って繋ごうとしたが、モニターに顕れた表示を見ると、そのまま置いた。

「・・どう言う事なんですか・・本部長・・?・・」

「・・判らんのか・・?・・これから奴らは・・本格的にこちらを切り崩しに来ると言う事だ・・この財団をだ!・・これではっきりしたな・・これまでの9年程の間で・・同盟や財団の計画や工作が・・悉く不成立や失敗に終わっていたのは・・奴らのカウンターアタックによるものだったのだ!・・これでこれからは・・奴らとの間で人や物の取り合いが激化すると言う事だ・・・」

東アフリカ・タンザニア・アルーシャ市・東アフリカ共同体(EAC)機構本部・・

共同体機構・総裁執務室・・・デスクに置かれた一枚のプリント・・印字された文面を見下ろして・・総裁・・副総裁・・秘書官と・・2人の補佐官がいた。

「・・総裁・・それでは・・?・・」   「・・ああ・・我々東アフリカ共同体機構は・・これよりSSDОとの間に回線を開き・・対話に入る・・その旨を国連本部・・対SSDО専用連絡室の・・アダムズ事務総長と・・エチオピアの首相と・・西アフリカ諸国経済共同体機構本部の・・シアカ・セク・ブハリ議長に通告してくれ・・通話周波数を3MHzにセットして・・通信機の用意を・・・」

サンフランシスコまで150分のプライベート・ジェット機内・・・

セシル・A・デミルがプリントの文面を読み終えて、隣のボブ・マッケイに渡した。

「・・事態の進み方が早すぎる・・これじゃ国も国連もどんなメディアも・・適切に対応するどころか・・正確な把握すらおぼつかなくなるぞ・・・」

「・・どう言う事が・・起こるんでしょうねえ・・?・・」

「・・さあな・・予測は色々と立つんだろうが・・実際には全く分らんよ・・それでも・・アフリカの中で誰かが手を挙げる可能性は・・高いだろうな・・ウチとしては・・常設フル・オープンチャンネルの独占放映権が欲しい所なんだが・・それを獲得する為には・・正式に契約を締結しなきゃならんだろうな・・とにかく今は・・シスコに急ぐか・・・」

ニューヨーク・国連本部・対SSDО専用連絡室・国連事務総長執務室・・・

クレイグ首席秘書官が通信文のプリントを持ってドアをノックしてから開いた。

「・・事務総長・・」  「・・彼らの6番目のメッセージなら読んだよ・・・」

「・・事務総長・・東アフリカ共同体機構の総裁からです・・」

そう言ってプリントを手渡そうとしたが、アダムズ事務総長は左手で持っていたプリントをデスクに置くと・・・「・・読んでくれ・・・」

「・・は・・我々、東アフリカ共同体機構はこれより、SSDО(太陽系開発機構)との間に回線を開き、対話に入る・・ランサナ・サニ・コナレ・・以上ですが・・こちらとしては・・どうしましょう・・?・・」

「・・どうすることもできんよ・・彼らとの対話を望む者たちの動きを止められる権限など・・我々には無いからな・・・ただ・・・」  「・・ただ・・?・・」

「・・我々が舞台の外(そで)に・・追いやられてしまいそうな気がするな・・・」

SSDО・deck3・CCR(コミュニケーション・コントロール・ルーム)・・・

「・・通信要請を検知・・発信地・・タンザニア・アルーシャ市・・発信者署名・・東アフリカ共同体機構・総裁・ランサナ・サニ・コナレ・・添付ファイル無し・・データリンク無し・・搬送波無し・・映像通信波無し・・ハッキングではありません・・ウィルスの可能性は低レベル・・緊急支援要請です・・・道明寺 椿総監・・」

「・・了解したわ・・アーロン・ウォン・ディンシン通信士官・・基幹ファイアウォールの上に攻勢・誘導・探知の順で防壁を組んだ上で・・回線の接続を許可します・・音声をこちらへ・・・」  「・・了解・・接続しました・・オープンです・・」

「・・初めまして・・東アフリカ共同体機構のランサナ・サニ・コナレ総裁・・こちらはSSDО・・『太陽系開発機構・緊急支援隊』です・・私は、道明寺 椿と言います・・そちらからの通信・支援要請に感謝致します・・通信状態は良好です・・どうぞ・・」

「・・初めまして・・私は、東アフリカ共同体機構のランサナ・サニ・コナレです・・通信を許可して頂き、感謝申し上げます・・あの・・シエン・ジン・グン代表ではないのですね・・?・・」

「・・はい・・私は緊急支援隊の総監を務めております・・緊急支援の要請に於きましては・・私が応対させて頂きます・・よろしいでしょうか・・?・・」

「・・了解致しました・・宜しくお願い致します・・改めまして、緊急の支援を要請致します・・それと、私の事はランサナとお呼びください・・道明寺 椿総監・・」

「・・ご丁寧にありがとうございます・・私の事は椿(tsubaki)とお呼びください・・ランサナ総裁・・それでは、そちらの通信機をお手近なPCと接続して頂き、ウェブカメラを起動してください・・お互いに顔を見て、お話が出来ればと思います・・その上でそちらのデータリンクと接続させて頂きます・・それが出来ましたら、こちらでご用意できます、支援内容、物資などなどのリストを送信させて頂きますので・・それを基にお話を進めましょう・・よろしいでしょうか・・?・・」

「・・ご丁寧な配慮を頂き、痛み入ります・・椿総裁・・早速接続します・・暫くお待ちを・・・あと、これはおそらくですが・・エチオピアと西アフリカ諸国経済共同体機構からも・・緊急支援の要請が・・そちらに入るものと思われます・・その際には私からも・・宜しくお願いを致します・・・」

「・・ご丁寧にありがとうございます・・待機します・・・」

 




これからは、東京西新宿での争奪戦が始まる。


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凶皇仏争奪戦 1 裏高野集結 東京湾内会戦

『荼枳尼衆山寺』・・・山門の前・・

座り眠っている巨虎の上で、腕を組み、眼を閉じていたゴーゴン大公だったが、眼を開けて腕を解くと、一つ欠伸をして首を廻した。

「・・さて・・そろそろかな・・・」

一つ鞭を振ると巨虎も目覚めて立ち上がり、欠伸と共に全身を伸ばした。

「・・お目覚めかな・・?・・大公・・」

鎧の擦れ合う音が右後ろから聴こえた。

「・・フ・・ゼロ大帝陛下に起床の点呼を執らせてしまうとは・・申し訳ないな・・・」

「・・なんの・・それで・・どのように行くかね・・?・・」

「・・凶皇仏の近くにまで、テレポートで運んでもらう手筈にはなっている・・思案は・・編成と・・順番だが・・・」

「・・取り敢えず・・東京湾の海底に着底している水中艦の中の連中には、動くように伝えよう・・・」

シルクハットにサングラス・・マントを羽織った長身の男が・・左手に立って言った。

「・・それは任せよう・・シャドウムーン!・・」 シャドウムーンが本来の姿で来た。

「・・ビルゲニアに第一波・先発の指揮を執らせよう・・髑髏忍群に戦闘員・・戦闘アンドロイドを率いさせて・・奴らがどの程度で守ろうとするのか、見極める・・・」

「・・了解した・・・」  「・・第一波の後発は任せて貰えるかな・・?・・」

ン・ダグバ・ゼバが青年男子の人間態で、ゆったりとした白いワイシャツを着崩して歩いてきた・・左手をポケットに突っ込んで、右手で何かをクルクル回している。

「・・その前に大聖、羅誐(ラーガ)、倶摩羅(クマラ)で荼枳尼(ダキニ)衆、六道衆を率いて第一波の後発として行け・・出来るようなら凶皇仏を確保しろ・・ダグバ・・お前達グロンギは第二波の先発だ・・良いな・・」   「・・分かったよ・・・」

「・・かしこまりました・・」

大聖、羅誐(ラーガ)、倶摩羅(クマラ)が、15歩ほど後ろで傅いて言った。

「・・ガランダー・・GOD・・ゴルゴムで、第二波の後発だ・・・」

「・・第三波の先発として、ブラックサタン、デルザー軍団、シャドウだ・・・」

「・・最後に私が妖機械獣を率いて奴らを叩き、お前達の脱出を援護する・・それで良いな・・?・・では、それぞれで兵をまとめて集合させろ・・・」

裏高野・・裏壇上場伽藍・・裏山門・・・

慈空阿闍梨が、簡略ではあるが使い込まれた甲冑を纏い、両腕にはこれも使い込まれた蛇牙籠手(じゃがこて)を装着し、その背には鞘に納めた三鈷双剣(さんこそうけん)を袈裟懸けにして、裏山門から麓を見下ろしている・・。

振り返ると、前面には裏高野薬師十二神将が専用の甲冑に身を固めて立ち居並び、その後背には裏高野五輪坊の内、この地に残った「水」と「空」が60名・・そして慈空阿闍梨が五輪坊候補の「木」「土」「金」から選抜した屈強の若い僧兵が45名・・それぞれ、甲冑と籠手を纏い、プラズマ・フェイズ・スティックを片手にして居並んでいた。

裏高野薬師十二神将は向って左から、

宮毘羅(くびら)大将、伐折羅(ばさら)大将、迷企羅(めきら)大将、

安底羅(あんちら)大将、頞儞羅(あにら)大将、珊底羅(さんちら)大将、

因達羅(いんだら)大将、波夷羅(はいら)大将、摩虎羅(まこら)大将、

真達羅(しんだら)大将、招杜羅(しょうとら)大将、毘羯羅(びから)大将だった・・。

「・・慈空阿闍梨様・・そのお姿を拝見するのは、30年振りですね・・・」

風見 志郎が懐かし気に声を掛けた。見ると、彼と神 敬介・南 光太郎が、慈空の左手から笑顔で歩み寄って来る・・。

「・・もうそんなになるかね・・?・・あの時も、六道衆・荼枳尼衆・GOD・デストロンの連合を相手にして、派手に暴れ回ったな・・・」

「・・ターミナル2からの最終増援メンバーが転送されて来ます・・場所はここでよろしいですか・・?・・」 南 光太郎が一歩前に出て訊いた。

「・・ああ・・構わんよ・・こちらもいよいよ・・役者が揃いますな・・」

「・・ターミナル2と大鳥島には、西新宿での様子をモニターして貰って・・我々と同盟が接触したら・・それぞれザンボットチームとボルテスチームを発進させて貰うと言う事で・・手筈は調えてあります・・」 そう神 敬介が伝えた。

「・・それは誠にありがたい・・正しく以て千人力ですな・・・」

そう応えた慈空阿闍梨が自分の右手側を見遣ると、専用の甲冑に身を固めた夜叉王が、皆が持つものよりも太く長いスティックを携えて立ち、その後ろに乾 巧と草加 雅人が並んで佇み、その7歩ほど後ろで、既に水瓶星座(アクエリアス)の黄金聖衣(ゴールドクロス)を身に着けたカミュが、マスクを左手にして立っているのが見えた。

慈空阿闍梨は内心、実際にゴールドセイントが放つ、その威光には感心した。カミュの右隣で、緊張を隠せない面持ちのまま、地味な学生服姿で立つ深町 晶との、対比が際立っていたと言う事もあったが・・。

深町 晶も・・隣のカミュを眩し気に見遣る・・視線に気付いてカミュも・・慈しむように深町 晶を見遣った。

東京湾海底・・・着底中のQ所属水中艦・・・

「・・うっ・・」   ドクトルGがまた、右手で軽く頭を押さえて俯いた。

「・・合図が来たな・・」と、ツバサ大僧正・・。

「・・チッ・・行くタイミングぐらい、こちらに決めさせろ・・」と、ドクトルG。

「・・艦長! エンジン始動だ! メインタンク僅かにブロー・・フリージーヤードを解除しつつ離底だ・・微速前進、微速浮上だ・・」  「・・了解した・・・」

ヨロイ元帥がそう艦長に命じて立ち上がると、首を廻した。

「・・さて・・いよいよだな・・・」

シードラゴン・ブリッジ・・・

「・・艦長! 目標対象艦が動きます・・エンジン始動して離底・・微速浮上中・・」

デニス・リパートン副長がパオロ・エルカーン艦長に報告した・・。

「・・東京湾の入り口までには・・?・・」  「・・今のスピードで15分・・・」

「・・ウォータージェット最大! 電磁水流推進出力90! 発射管開口! 電磁推進ミサイル、ウォータージェットブースター装備で、装填して注水・・ヴァリアント起動用意・・最短最速で直線射程を確保できるインターセプトコースを採れ! 」   「・・了解・・・」

ターミナル2・・・第6転送室・・・

この転送室は、ここで一番規模が大きい・・人間なら一度に70人は転送できる・・今、ここから裏高野へと向かう最終増援メンバーが、集まりつつある・・。

ドアが開いて光明寺博士が、イチローとジローを伴って入室した・・既に来ていたギルモア博士とお互いに握手を交わし合う・・イワンのバスケットは、ギルモア博士の頭より少し高い辺りでフワリと浮いていた・・・ジェット、ジョー、アルベルトが入室した・・イチロー、ジロー、光明寺博士らと握手を交わし合う・・フランソワーズにボー、ジェロニモ、グレート、ピュンマも入室した・・それぞれが装備を確認している・・そして、門矢 士を先頭に、海東 大樹、火野 映司、左 翔太郎、フィリップ、小野寺 ユウスケ、野上 良太郎、津上 翔一、キャシャーンとフレンダーが入室し、最後に夏海ちゃんが獅子丸を連れて入室した・・それぞれが久し振りに顔を合わせる相手と握手の挨拶を交わしてから、ボーと光明寺博士、ギルモア博士の3人だけを残して、全員が転送台に乗った・・夏海も転送台に乗ったのを見咎めた士が、夏海の腕を掴んで台から降ろそうとする。

「・・おい! 何でお前も行くんだよ?! 危ないんだぞ! 」

「・・だって、あたしが行かないと獅子丸さんのお世話ができないでしょ・・?・・」

「・・向うにだって人はいるだろ?!・・」

「・・あたしが一番上手く獅子丸さんに説明できるのよ・!・・」「・・だってな、お前!・・」 「・・裏高野までなら良いだろ、士・・新宿には連れて行かなければ良い・・夏海ちゃんもそれで良いな・・?・・」見かねた海東 大樹が二人の間に割って入り、執り成した。

2人とも不満そうだったが、周りに対してバツが悪いのもあってか、そのまま黙った。

「・・ようし! それじゃあ、みんな、用意は良いな・・?・・解ってはいるが、無理はするなよ・・こちらでも、君達の動きと生命反応はモニターしているからな・・」

ギルモア博士の言葉を受けて、ジョーが全員を代表するかのように応える。

「・・解っています・・それじゃ、行って来ます・・・」

それを聞いた博士は頷くと、コンソールパネルの前のスタッフに目配せした。

「・・転送!・・」全員が転送ビームに捉えられて、煌めく光の中でその姿を薄れさせて消していった。

裏高野・・裏壇上場伽藍・・裏山門・・・

2秒ほど掛けて全員が実体化した。

静かだが、驚きの波紋が拡がる・・転送してきたメンバーも驚きを隠せなかった・・これ程の物々しさであるとは、考えていなかったのであろう・・。

ジョーと慈空は、お互いを見遣って会釈した・・門矢 士、海東 大樹、火野 映司、

左 翔太郎、フィリップ、野上 良太郎は、風見 志郎、神 敬介、南 光太郎のもとに歩み寄って、お互いに握手を交わし合った・・夏海は獅子丸の傍に立った・・深町 晶はその夏海に笑顔を向けながら歩み寄った・・。

「・・お元気そうですね・・夏海さん・・お久し振りでした・・・」

「・・晶君も元気そうだね・・嬉しいよ・・暫くだったね・・・」

シードラゴン・ブリッジ・・・

「・・目標艦、5分で浮上します! 」 「・・ヴァリアント起動しろ! 浮上したら上陸部隊が出るぞ! 直線射程は!? 」 「・・5分弱です・・」

「・・ミサイル発射だ! ここからなら誘導できる! 」 「・・誘導波を検知されます!」

「・・検知される頃にはヴァリアントを撃ち込める! 発射しろ! 」

ウォータージェットブースターを装着した電磁水流推進水中ミサイルが射出された。

「・・ブースター最大稼働・・電磁推進出力も最大・・・」 「・・到達は・・?・・」

「・・妨害が無ければ、250か60秒・・」 「・・目標艦からの反撃に注意しろ・・次発を装填・・直線射程を確保したら、ヴァリアント連射だ! 」

東京湾・浮上中の同盟水中艦・・・

「・・!水中ミサイル検知! 一本です! 高速接近中! 湾外からです! 誘導波を感知! 到達まで220! 」

「・・ベント閉鎖! 急速浮上! 後部発射管、7・8に迎撃ミサイル装填、注水、開口! 敵の誘導波を逆手に取って逆探知誘導プログラム! 5秒のインターバルを取って連射だ! 準備出来次第発射! 全艦戦闘態勢! 敵の攻撃を受けている! アスロック起動しろ! 浮上して敵の位置が確認出来たら発射だ! 」

「・・やはり見付かったか・・」と、キバ男爵。

「・・奴らもバカじゃない・・」と、ヨロイ元帥

「・・まだ距離はあるが、浮上出来たら飛べる者は飛んで行け・・」と、ドクトルG。

「・・それはそうさせて貰うが、他の者はどうする・・?・・」と、ツバサ大僧正。

「・・泳ぎが得意な者は海中を・・得意でない者は海上を行くさ・・艦が沈む迄の間にな・・」

と、キバ男爵がそう応え、立ち上がって肩を回した。

「・・海面まで70・・ミサイル到達まで160・・プログラム完了・・7番発射! ウォータージェット最大 電磁推進最大 逆探知誘導開始 8番発射! 」

「・・続けて回避運動A3! 全発射管にミサイル装填! 機関最大! 」

シードラゴン・ブリッジ・・・

「・・目標艦迎撃ミサイル2本を発射! 以降対象を敵艦と呼称します・・こちらの誘導波を逆探知する誘導プログラムです・・こちらのミサイルに到達するまで130 本艦に到達するまで230・・敵艦は発射後回避運動アルファパターン・・・」

「・・誘導波を停止して、自律誘導に切り換えろ・・インパルス・トラストを用意・・100秒後に起動してインパルス・プレッシャーでミサイルに干渉してコースをずらせ・・その後に迷走しているミサイルをヴァリアントで狙撃する・・秒読み開始・・両舷ヴァリアント起動! 敵艦を狙撃できるか? 」

「・・敵艦は最大速で回避運動中ですので、撃っても命中率は低いと思われます・・」

「・・それなら、敵艦の浮上方位の直上を狙って掃射しよう・・両舷ヴァリアント、連射3連、6連射で敵艦の直上を掃射する・・掃射角度は30°・・セットしろ! 」

同盟水中艦・・・

「・・誘導波が停止しました・・自律誘導に切り換わったようです・・」

「・・こちらのミサイルも自律誘導に切り換えろ・・エンジン停止・・メインタンク全ブロー! 慣性最大速浮上! 」

シードラゴン・・・・

「・・セット完了! 敵艦エンジン停止・・慣性最大速浮上です! 」

「・・連射始め! 」

極超強大電力で砲弾を加速して撃ち出す、リニアレールキャノンがヴァリアントだ・・シードラゴンの両舷に装備されたヴァリアントが3連射で6発の砲弾を撃ち出す・・掃射角度30°で慣性全速浮上中の同盟水中艦の直上を掠めて通過した・・直撃ではなかったが、瞬時に発生した強大な水圧衝撃波が、水中艦を上位6方向から叩き付けた・・衝撃波に曝された艦体を激震が襲い、海中で破滅的に翻弄した。

同盟水中艦・・・・

「・・!・潜舵、方向舵破損! バラストタンク破損! 空気が洩れます! 他に艦体4ヶ所が破損! 激しく浸水中! 浮上不能! 操舵・航行不能! 」

「・・!エンジンとリアクターを閉鎖しろ! 総員カプセルに入れ! 遺憾ながら本艦は放棄する! 総員カプセルに入り、退艦せよ! 」

シードラゴン・・・

「・・敵艦各所で破損・・激しい浸水音が聴こえます・・バラストタンクも破損したようで、浮上不能のようです・・!・リアクターとエンジンが閉鎖されたようです・・エネルギー反応急速に低下中・・ゆっくり沈下中・・このまま沈底するようです・・・」

「・・減速50%・・接近中の迎撃ミサイルにこちらのミサイルを向かわせろ・・敵艦から退避カプセルが出る筈だ・・観測はこのまま続行・・浮上用意・・・」

「・・敵艦から退避カプセルが排出され始めました・・浮上していきます・・・」

「・・よし、こちらも浮上する・・ヴァリアント収納・・予測される爆発点から距離を取って浮上しろ・・イーゲルシュテルン起動用意・・・」

MAC01・中央指令室・・・

「・・榎本司令・・東京への派遣部隊が裏高野に集合しました・・いつでも転送で配置に付けます・・・」

「・・そうか・・了解・・ところで、西新宿発掘現場の警備体制はどうなっているのかな・・?・・」

「・・夜間の警備は、民間の警備会社に委託されていますね・・毎晩交替で6人の警備員が、二人一組で一定時間ごとに巡廻しているようです・・」

「・・そうか・・じゃあここの保安部から6人を選抜してくれ・・目立たない格好をして貰って、タイプ2のフェイザーガンを持たせて転送降下・・件の警備員全員にレベル3でフェイザーを照射して眠って貰い、騒ぎが鎮まるまで、一時的にこちらで収容しよう・・・」

「・・了解しました・・直ちに掛かります・・・」

「・・収容したら、派遣部隊の全員を西新宿に転送する・・・」  「・・はい・・・」

 



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東京・西新宿攻防戦1

東京湾内で3基の水中ミサイルが爆発した・・・爆圧で噴き上げられた大量の海水が海面を叩く中、静かにシードラゴンが浮上する・・左舷40°距離180の辺りで退避カプセルが次々と浮かび上がって来ていた。

「・・退避カプセルは全部で18基です・・敵水中艦は沈底しました・・エネルギー反応無し・・艦内で生命反応は感知できません・・本艦の行動が公に通報された形跡は、今のところありません・・」

「・・イーゲルシュテルン起動・・ヘルダートミサイル、多弾頭榴弾で用意・・ランチャー起動! 」

「・・艦長!? 何を攻撃するのですか?! 」

デニス・リパートン副長が、やや気色ばんで詰問する。

「・・あの退避カプセル群には・・東京への攻撃部隊が潜んでいる可能性が高い・・もしもそれがカプセルから出て、東京へ向かうようなら侵攻を阻止する為、攻撃する・・水中艦の乗員を巻き添えにはしない・・同盟に属する者とは言え、同じサブマリナーだ・・既に勝負の付いている相手を、事更に叩くような真似はせんよ・・・」

パオロ・エルカーン艦長が、メイン・モニターから眼を離さずに答えた。

次の瞬間、漂っていた退避カプセル群の中の、6個のカプセルのハッチが開いて焔が噴き上がり、次々と焔を引いて何かが打ち上がった・・。

「・・!ロケットブースターです・・!何かがパーソナルブースターを装着して脱出しました・・」

「・・!イーゲルシュテルン、ヘルダートミサイル、目標照準、発射! あれが攻撃部隊だ! 撃墜しろ! 新宿に行かせてはならん! 」

「・!目標対象、16機です! 照準自動追尾・・セット! 」 「撃て!!」

イーゲルシュテルンが唸りを挙げて回転機関砲搭を高速で回転させ、5発に1発の割合で発射される曳光弾の軌跡を目標に向けて伸ばし、ヘルダートミサイルランチャーが火を噴き、連続して全弾を発射した。

機関砲弾も対空ミサイルも目標に向かって集中していった・・直撃して爆発も起きていたが、パーソナルブースターは益々加速を強めていく・・・。

「・・?!なぜ墜ちない?! 」 「・・パーソナルシールドを張っているようです・・シールドパワージェネレーターのようなものの、エネルギー反応もあります・・・目標が遠ざかります・・有効射程距離外に出ました・・一つも撃墜できませんでした・・・侵攻方位はやはり新宿方面です・・ブースターの推進剤は、もう間もなく切れるでしょう・・」

「・・射撃停止・・イーゲルシュテルン、ヘルダートランチャー収納・・ヴァリアントも収納してくれ・・ベント開け・・潜航用意・・MAC01にMネットを通じて連絡・・同盟の水中艦は撃沈したが、上陸部隊は撃ち洩らした・・水中艦からの退避カプセルが12基、湾内で漂流しているから回収を乞うと・・本艦のここでの作戦は終了した・・通報される前に湾外に出て、青ヶ島に向かう・・退避カプセルの一つに亜空間発信機を接着・・潜航したら沈底している水中艦にもマーカーを取り付ける・・潜航開始・・・」

MAC01・中央指令室・・・

「・・司令・・発掘現場の警備員ですが、無事に収容しました・・それとシードラゴンからですが、水中艦は処理しましたが攻撃部隊16体が新宿に向っています・・水中艦の乗員は、海面上の退避カプセル内にいるので収容して欲しいと・・今後は青ヶ島に向かうそうです・・・」

「・・分った・・保安部の選抜メンバーには、ご苦労だったと伝えてくれ・・シードラゴンには、了解したと伝えてくれ・・裏高野の派遣部隊には、GOサインを出してくれ・・作戦は現場に任せる・・彼らの要求に従って転送してやってくれ・・水中艦の乗員を退避カプセルごとステーションの貨物室に転送収容・・乗員はその後拘束・・ザンボットチームとボルテスチームに発進指令を出してくれ・・・」  「・・了解しました・・・」

裏高野・・裏山門前・・・

ジョーは小振りのケースを手に取ると数歩歩いて振り返り、全員を見渡した。

「・・皆聞いてくれ!・・今回、フェイズ・ディスクリミネーターを内蔵したイヤージャック通信機を持って来た・・全員に3個ずつ渡すから、一つはその場で作動させて耳に入れてくれ・・戦っている間に壊れたりしたら、付け替えてくれ・・僕達プロトナンバー・サイボーグは・・お互いで脳波通信ネットワークを形成していて・・会話したり情報を共有したりしているが・・その通信機を耳の中で作動させて貰えれば・・僕達と同じように、お互いに会話したり、具体的な情報を共有したりする事が出来るようになる・・今回どうして通信ネットワークを全員に拡げたかと言うと・・東京での戦いでは、乱戦になってしまえば個別の戦闘に任せるしかないだろうとは思っているが・・それまでは、集団対集団の組織戦闘を展開する・・・その為に、フランソワーズがCICを務める・・彼女がセンサースキャンで状況を正確に把握し・・作戦を立案し・・僕達全員に向けて個別に・・配置や目標や攻撃方位や攻撃方法やコンビネーションについても指示をしてくれるから・・それに従って行動して欲しい・・・僕からは以上です・・」

そう言ってケースを開き、全員に通信機を配った。通信機を配り終えるとジョーは、ケースを閉めてその場に置き、慈空阿闍梨を見遣った。阿闍梨もその視線に気付いてジョーを見遣り、二人は視線を交わせると軽く頷いた。

ジョーは自分の脳波通信アカウントをMネットに繋ぎ、イワンを呼んだ。

(・・イワン・・こっちは準備完了だ・・全員を一度で・・西新宿に転送してくれ・・)

(・・分ったよ・・それじゃ、全員を一度で転送する・・スタンバイ・・)

「・・皆さん! 今から一度で全員を西新宿に転送します!・・経験の無い人もいますので言いますが・・落ち着いて眼を閉じて規則的な呼吸をしながら、静かに真っ直ぐ立っていてください・・・それじゃ行きます・・・転送!! 」

全員がその場で転送ビームに捉えられた・・光の粒子に捉えられて、その姿を輝かせながら薄れさせていき・・3秒ほどで全員消えた・・・。

東京都西新宿再開発工事現場・・・特別発掘現場・・発掘品、出土品臨時保管庫付近・・

紫地に白いストライプのスリーピーススーツを着た長身の男が、左手に何かを持って足早に歩いて来る・・よく見ると左手に持っているのは鞘に収められた日本刀のようにも見える・・男が右手で鞘から刀身を抜き放ち、そのまま鞘を捨てて刀身を直上に高く掲げた・・するとそれは妖剣ビルセイバーへと変異した・・セイバーの刀身が妖しく輝き、周囲の影から無数の人型が湧き上がった・・男がセイバーの刀身を降り下ろし、そのままセイバーの切先で正面の前方を真っ直ぐに指し示すと、湧き上がった人型が続々とその方向に向かって走り始めた・・その方向の先には、出土品臨時保管庫の入り口がある・・。

同じように走り始めた男が、左腕で顔を隠すように構えると・・その左腕に、ゴルゴムの紋章が刻まれた盾・・ビルテクターが顕れた・・勢いよく盾を外すと、男はゴルゴムの剣聖ビネゲニアとして、その姿を顕した。

周囲の暗闇や影から湧き上がる人型は・・その数を益々膨れ上がらせ・・ビルゲニアを中心として怒涛の流れを形成し・・出土品臨時保管庫の入り口に向って殺到しようとしていた。

その時、頭の中でフランソワーズの声が響いた。

【・・ポイント、β357マークΔ195からΘ268マークι420にかけて、集中全力掃射用意・・発射10秒前・・】

「・・メモリチェンジ・・ジョーカーtoトリガー! サイクロン・トリガー! サイクロン・マキシマムドライヴ! トリガー・マキシマムドライヴ! ヒート・マキシマムドライヴ! トリガー! ハイパーフルヒートエアロストーム!! 」

(・・ファイナルフォームライド・ファ、ファ、ファ、ファイズ! )

「・・ちょっとくすぐったいぞ・・」 「!ええ・・またですか?!」 「・・良いから・・」

(・・チェインジ! ファイズブラスター・フォトンバスター! )

(・・ファイナルアタックライド・ファ、ファ、ファ、ファイズ! ディケイドフォトン!!)

(・・プトラ! トリケラ! ティラノ! プ ト ティラー ノ ザウルース! )

(・・メダガブリュー・バズーカ! プットッティラ〜ノ・ヒッサ〜ツ♪! ゴックン! )

(・・ファイナルアタックライド! ディ・エンド!! )

「・・フリージング・ダイヤモンド・フル・バースト・ストーム・ブリザード!! 」

「・・頼むぜ! ジェロニモ! 」  「・・おう! 」

ジェロニモがアルベルトを肩車した・・アルベルトは両膝の発射管を開き、多弾頭モードでミサイルをセット・・同時に右手の機関砲も目標にロックした・・。

ガイバー1が左右の胸郭装甲を自分の手でバクンッと開き、胸部粒子砲(メガスマッシャー)を露出させた・・ハイパー・プラズマ・フェイズ・シアーでもあるレンズ体が、明滅の間隔を狭めながら急速に光度を増大させていった・・。

他に、ジョー、ジェット、ジェロニモ、グレート、ピュンマがスーパーガンを構え、セイフティロックを外して最大出力に設定した。

ビルゲニアがこの迎撃態勢に気付いたのは発射される2秒前だったので、為す術も無かった。    「・・発射!!! 」

光り輝く怒涛の奔流が湧き起こり、保管庫の入り口に向って殺到していた、髑髏忍群・・シャドウの戦闘アンドロイド・・ゴルゴム、GOD、ブラックサタン、ガランダー帝国で編成していた戦闘員たちを吹き飛ばし、薙ぎ払い、大多数を破壊して行動不能に陥れた。

ビルゲニアは咄嗟にビルケープで身を包みつつ、ビルセイバーを振るってプレッシャーウェーブとダークストームを連続して発生させ、何とか光の奔流をギリギリで拡散させてその場を凌いだが、集団の侵攻は阻止された格好になった。

また、頭の中でフランソワーズの指示が響く・・。

【・・加速して各個に個別攻撃・・・】

「・・加速装置!! 」そう叫んでジョーとジェットが姿を消した・・。

「・・カメンライド・カ、カ、カ、カブト!! アタックライド・イリュージョン! アタックライド・クロックアップ! 」イリュージョンで3体に分身したディケイド・カブトがクロックアップで姿を消した・・。

「・・アタックライド・クロックアップ! 」ディエンドもクロックアップで姿を消した。

「・・ファイズ! アクセル!! 」ファイズもアクセル・モードにチェンジして姿を消した。

加速を掛けて引き伸ばされたタイムラインの中で、彼らは戦闘員たち一人一人に打撃、銃撃、斬撃を浴びせていった。

「・・タイムアウト・・」

10秒が経過してファイズアクセルが通常のタイムラインに帰還し、ノーマルモードに戻った。他の者達も加速態勢を解除して通常のタイムラインに帰還した。

「・・剣聖ビルゲニア・・まさか、あんた一人で率いて来たんじゃあるまいな・・?・・」

と、ディケイドが呆れたように言う・・生き残っている戦闘員や戦闘アンドロイドは、もう30体足らずだった・・。

【・・方位WG530・・距離850から六道衆・荼枳尼衆の連合集団・・・方位XL217・・距離920からデストロンの幹部と怪人集団・・デストロンの方は16体だけよ・・銃を持つ者は主に中距離からの援護と支援・・他の者は個別に接近格闘戦・・ザンボットチームとボルテスチームは、発進せよ!・・】

「・・よし! 俺達ライダーチームで先にデストロンを叩いて、その後にもう一方を側面から叩く! 行くぞ! 」

V3がそう言って走り出した・・他のライダー達もその後に続いて走り出す・・。

「・・ようし・・ではもう一方へは、儂らが先鋒として当たろうか・・行くぞ! 」

そう言って、慈空阿闍梨と夜叉王が走り出す・・薬師十二神将と裏高野五輪坊の僧兵たち・・そして、獅子丸もその後に続いて走り出した。

「・・さて、ビルゲニアさんとやら・・あんたはこれからどうするんだ・・?・・」

スーパーガンの銃口をビルゲニアに向けながら、ジェットがそう訊いた・・・。

「・・えええい! かかれ!! デモン・トリック!!・・」

そう叫んでビルセイバーを振るい、6体の分身を化生させると、周囲の闇の中から更に多くの戦闘員や髑髏忍者達を湧き上がらせた・・。

ジョー、ジェット、ピュンマのスーパーガンが光芒を放ったが、ビームはビルテクターに弾かれた・・グレートが自身を長大な鉄骨に変異させると、ジェロニモがそれを振るって戦闘員らを打ち倒し、薙ぎ払い、吹き飛ばしていく・・アルベルトは右手の機関砲を掃射しながら左手のハンド・カッターを振るい、更に要所で肘・膝のミサイルも発射して戦闘員・忍群の集団を撃ち減らしていった・・ジョーとジェットは加速装置を作動させ、無数の戦闘員たちを倒していった・・。

「・・オーロラ・エクスキューション!! 」アクエリアス(水瓶星座)のカミュが冷凍気の小宇宙(コスモ)でビルゲニアの分身二体と髑髏忍群を凍結させると、グレート、ピュンマ、ジェロニモがスーパーガンのビームで破壊した。

ガイバー1が右の胸郭を開いてメガ・スマッシャーを右肺だけで発射し、ビルゲニアの分身二体と戦闘員40体以上を撃破した・・そのまま高周波ソードとヘッド・ビームで戦闘員を撃ち倒し、髑髏忍者を斬り払いつつ、プレッシャー・カノンとソニック・バスターでビルゲニアの分身二体に大きいダメージを与えた・・その直後にアルベルトが膝のミサイルを直撃させて、ビルゲニアの分身は総て撃破された。

分身を総て倒されたビルゲニアは、ビルケープでその身を包むと光の玉へと自身を換えて、まだ30体ほど残っている戦闘員たちを捨てて飛び去って行った・・。

捨てられた戦闘員たちは、プロトナンバーサイボーグ達とガイバー1によって30秒も掛からずに倒された・・。

ターミナル2・・フォース・ゲート・・セカンド・ランチャーポート・・ファーストデッキ・・・

「・・宇宙太! 恵子! 先に行くぜ!! 」

そう叫びながら神 勝平はザンバードのコックピットに滑り込んだ・・直ぐにエンジン始動して全システムのチェックと状態の確認を行う・・ザンバードにしては珍しくクラスター・ロケット・ランチャー2基と、6基のバードミサイルが主翼に懸架されている・・。

「・・こちらザンバード! ランチャーポート・コマンド! 発進準備完了! 」

「・・こちらランチャーポート・了解・・中央指令室は発進を承認・・ゲート解放サインを送信・・ザンバード! コースは海中・海上・上空共にクリアー・・幸運を! 」

「・・ありがとう! 宇宙太! 恵子! 向うで合流したら、様子を見て合体だ! 」

「・・分かった! 」「・・OKよ! 」「・・ザンバード 発進! 」

ランチャー・ブースターが爆発的に焔を吐き出し、ザンバードがファーストデッキから跳び出した・・ランチャーポートで入水し、フォース・ゲートから海中に飛び出す・・。

「・・勝平君、聴こえるか?! 健一だ! さすがに早いな・・マグナムはホルスターごと俺が持って行くから心配するな! 向うで会おう・・それまで頼むぞ! 」

「・・ありがとうございます、健一さん! よろしくお願いします! 」

同時に海面を割って空中に跳び出した。

大鳥島・・ビッグファルコン・・

「・・カタパルト・ゲート解放! チーム・ボルテス、発進用意! 」

浜口博士の号令が響く・・ビッグファルコンのカタパルト・ゲートが開き、ボルトマシンが姿を顕した・・。

「・・剛 健一、ボルト・クルーザー発進! 」

カタパルト・ゲートの頂上から、ボルト・クルーザーが射出された・・。

東京のビル街・・夜の闇に紛れて十数体の影が走る・・

「・・保管庫までは・・?・・」  「・・あと数分だな・・・」

(・・ルナ! マキシマムドライヴ! トリガー! マキシマムドライヴ! )

「・・トリガー! フルバースト!! 」

仮面ライダーW・ルナトリガーが構えたトリガーマグナムから、青と黄色のエネルギー弾が無数に撃ち出され、予測不能の変幻弾道で十数体の影に命中した・・。

「・・!! ウッ! オゥ! 」  「・・!! 何者だ!! 」

「・・久し振りだな・・ヨロイ元帥・・しぶとい奴だとは思っていたが・・やはり生き残っていたか・・」と、風見 志郎・・・。

「・・風見 志郎・・よもやここで会えるとは・・?・・ここに来ていると言う事は、貴様らも凶皇仏を狙っているのか・・?・・フン・・そんな事より、ここで貴様を倒せれば我らデストロンの宿願も果たされると言う訳だ・・我らの行動がなぜ貴様らに読まれたのかは判らんが・・覚悟して貰おうか・・・」

そう言いながらヨロイ元帥は、怪人態・ザリガーナに変貌した・・。

「・・チッチッ・・そんな事を言ってるようだからデストロンは潰されて・・生き残りは殆どあんた等だけになって・・GODよりも格下の組織にされちゃったんだろ・・?・・」

と、門矢 士が指を振りながら横から口を出した。

「・・何だと・・?・・生意気な口を利きおって・・何者だ!?貴様は?! 何様のつもりだ!! もう一度言ってみろ!! 」

と、ドクトルGが激昂して叫び、怪人態・カニレーザーに変身した。

「・・俺達は通りすがりの仮面ライダーで・・SSDОの一員だ・・そしてあんた等同盟には・・もうどこにも勝てる目なんて残ってないって事さ・・・憶えておけ・・!・・」

そう言ってディケイド・カードを取り出して構える・・「・・変身! 」

(カメンライド・ディ、ディ、ディ、ディケイド)

 



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東京・西新宿攻防戦2

出土品臨時保管庫まで直線で720・・六道衆・荼枳尼衆の連合集団を前にして・・慈空阿闍梨を先頭にして裏高野の薬師十二神将と僧兵たちと、獅子丸が対峙した・・・。

「・・羅誐(ラーガ)に倶摩羅(クマラ)に泰山府君・・やり合うのはそれぞれ2度目だな・・また、でかブツの化け物を造ったか、育てたか?・・つくづくこの前逃がしたのが悔やまれる・・だが、それもこれで終わりだ・・お前らのイイようにはさせん・・覚悟しろ・・」

「・・それはこっちの台詞だよ、慈空・・お前らこそ、ここから生きては帰さない・・覚悟するんだね・・・」

そう言い合って羅誐と慈空が密法力を行使しようとして印を組みかけた時・・トランペットとギターの調べが流れ始めた・・物悲し気だが秘めたる決意を感じさせるようなメロディーが響き流れる中、荼枳尼衆の僧兵と六道衆の雑兵が躍起になって辺りを探し回るがなかなか見付からない・・やがてその中の一人が気付いて叫ぶ・・「・・!あ!あそこだ!!」

イチローとジローが、現場を挟んで向かい合って立つビルの屋上に立って、楽器を奏でていたが、それと同時にメロディーも、その流れを止めた・・・。

「・・悪のある所に必ず現れ・・悪の行われる所を必ず行く・・正義の戦士・キカイダー・01!! 」

「・・荼枳尼衆!!六道衆!!お前達に凶皇仏は渡さない!! 」

「・・チェンジ!キカイダー・・・ゼロ!ワン! 」

「・・チェンジ!・・スイッチオン! ワン! ツー! スリー! 」

イチローとジローが跳び下りながら空中でチェンジし、キカイダーとキカイダー01として、着地した。

たちまち荼枳尼衆の僧兵や六道衆の雑兵が周りを取り囲んで襲い掛かったが、キカイダーも01もその総てを受け止め、撥ね返して逆に次々と打ち倒していった。

「・・ダブルチョップ!! 」 「・・ブラストエンド!! 」

戦闘アンドロイド・モードでの彼らの打撃は強い・・一撃で叩き潰されるか、複数が吹き飛ばされていった・・だが周囲からは、他の同盟組織の戦闘員や髑髏忍者が次々と湧き出し、敵の数は刻一刻と膨れ上がっていく・・・。

「・・我らも行くぞ! 遅れるな! オン・アニチ・マリシエイ・ソワカ! 」

日天の眷属で武人の守護神とも言われる、摩利支天神の印を結び、真言を唱えると摩利支天神の陽炎光をその身に纏い、背の三鈷双剣を鞘から抜き、繋ぎ合わせると味方に激を飛ばして六道衆の雑兵の中に踊り込んで行った・・。

「・・オン・バサシエイ・バサシエイ・バサシヤサンマ・ドキャテイサバ! ジンバラ・ハラバリ・タン・ヤ・ウン!! 」

薬師十二神将も宮毘羅(くびら)大将を先頭にして隊列を組み、印を結んで真言を唱えながら宮毘羅大将の背後で11本のスティックを組み合わせると、瑠璃色の陽炎光が湧き上がって隊列の全体を包み込んだ・・・「・・薬師瑠璃光背扇陣!! 」

薬師如来の真言で密法力を発現させ、十二神将はそのまま気勢を上げて荼枳尼衆の僧兵集団とぶつかった・・。

獅子丸も銀紗地の太刀を抜き、髑髏忍者の一人と刃を合わせて刀身を弾くと、反す一太刀で斬り払った・・。

「・・やはり髑髏忍者・・すればゴースンもこの時代に滑り込んだのか?! 」

そのまま次々と髑髏忍者を斬り払い、雑兵達を打ち倒していく・・・。

その時、002(ジェット・リンク)がカミュを抱えて飛んで来た・・。

「・・!ここでも髑髏忍者や戦闘員が湧き出ているな・・」

と、ジェットがカミュを降ろして着地した。

「・・ああ、ともかく我らは雑兵達を処理して、彼らを援護しよう・・」と、カミュ・・。

冷凍気の小宇宙(コスモ)を高めながら、カミュは構えに入る・・。

「・・!加速装置!・・」そう叫んでジェットは姿を消した・・。

「・・オーロラ・エクスキューション!!・・」

自分の中で、高め増幅した冷凍気のコスモを解放し、カミュは40体以上もの戦闘員や髑髏忍者を凍結させた・・すかさずジェットがスーパーガンでその全員を破壊した・・。

「・・もう一度いくか・・」

そう呟いて再度構えに入り冷凍気の小宇宙(コスモ)を高めようとしたカミュだったが・・

「・・!?!・ウッ・ウッ・・ハッ・・アクエリアス(水瓶星座)が・・割れる・!?!・・」

『・・フッ・・カミュ・・私がいる事は知っていて・・それで来たのだろう・・?・・同じアクエリアスを守護星座に持ち・・かつては同じ師の下で・・共に学んだ兄弟子であるこの私をな・・・』そう言いながら、六道衆の大聖歓喜天が現れた・・。

象頭に目出しの布を被せ、その巨躯はスッポリとポンチョを被っている・・が、異形の改造体であることは明らかであり、その全身からは夥しい冷気を滴るように垂れ流している。

「・・!?カミュ! どうした?! 退がれ! 」

声と同時に多弾頭ミサイルが発射され、全弾が大聖歓喜天に向けて集中したが、大聖歓喜天は瞬時に氷の壁と盾を形成しながら、高速で跳び退ったのでミサイルの爆圧は回避した。

頭上を見上げれば、巨大な鷲に変身したグレートがその背にピュンマを乗せ、アルベルトを両足で掴んで飛んで来ていた・・先程のミサイルはアルベルトの右膝から発射されていた・・ピュンマがジャンプして跳び下りながら大聖歓喜天を狙ってスーパーガンを連射する・・アルベルトも右手の機関砲を大聖歓喜天に向けて集中掃射したので、再び氷の壁を形成しながら大聖歓喜天は後退した・・・・「・・!大丈夫か? カミュ・・?・・」

着地したピュンマがカミュに駆け寄って助け起こす・・「・・済まない・・大丈夫だ・・問題ない・・」・・首を振りながらそう応えたカミュだったが、顔色は悪い・・。

「・・あれは、ダイヤモンド・ウォールとダイヤモンド・シールド・・わが師の・・」

『・・フン・・そうだ・・わが師がお前には伝えていなかった技だ・・カミュ・・アクエリアス(水瓶星座)の宿命(さだめ)を正し、星座を元に戻しに来たのだろうが、それはこちらも同じことだ・・今日こそアクエリアス(水瓶星座)を完全に我がものとし・・お前達ゴールド聖闘士の守備陣に修復できぬ楔を撃ち込んでくれる・・同時に、我ら兄弟弟子の宿命にもケリを付ける・・覚悟しろよ・・カミュ・・・』

 

「・・ドクトルG・・キバ男爵・・ツバサ大僧正・・ヨロイ元帥・・今日でお前達デストロンの残党は根絶させる・・変身・・V3!! 」

「・・大変身・・セットアップ!!・・・・Xライダー! ライドル・ホイップ! 」

「・変身!・・俺は太陽の子・・仮面ライダー・ブラック! R X!!・・リボルケイン!」

「・・俺は・・もういい加減に・・お前らのせいで人が泣くのは見たくない・・変身!!」

乾 巧が仮面ライダーファイズに変身した・・続いて草加 雅人も仮面ライダーカイザに変身した・・。

「・・俺はさっさとお前達を全部倒して・・お宝探しに戻りたいんだよ・・・」

そう言いながら海東 大樹は、ディエンドカードをディエンドライバーに挿し込んだ・・。

(・・カメンライド・ディ・エンド!・・)

火野 映司も、3枚の鷹・虎・飛蝗のコア・オーメダルをオーズドライバーにセットし、仮面ライダーOOO(オーズ)タ・ト・バ・コンボに変身した・・・。

仮面ライダーWも、格闘力の高いヒート・メタルにモードチェンジした・・。

「・・モモタロス・・行くよ・・」

野上 良太郎がそう言いながらデンオウベルトの赤のフォームスイッチを押し、ライダーチケットパスをターミナルバックルにセタッチさせて、仮面ライダー電王(ソードモード)に変身した・・。

「・・俺! 参上!! おい、おい、おい! 俺は最初から最後までクライマックスなんだ・・途中で泣き言は聞かねえぜ!! 」

「・・変身!! 」津上 翔一も仮面ライダーアギト・グランドフォームに変身した・・続けて直ぐにフレイム・フォームへとモードチェンジし、フレイムセイバーを構え、その刀身に焔を纏わせた・・。

「・・フッフッ・・お前らライダー共をここで倒して・・SSDОの戦力を削ぎ・・その上で我らデストロンの権威を復活させる・・かかれぃ!! 」

ドクトルGが右手を挙げると、周囲の闇から無数の戦闘員と髑髏忍者が湧き上がり、ライダー・チームに襲い掛かった・・よく見るとそれらには、下級のゴルゴム怪人・グロンギ

が相当数混在していた・・。

「・・たーーーーー!!! 」突然頭上で鋭い掛け声が響いた・・見上げると、白いフィットスーツと白いヘルメット着けた若者が、物凄い跳躍で跳び上がり空中で3回転すると、錐揉み状にスピンしながらキックの態勢で落下してくる・・。

「・・フライング・・ドリル!! 」その叫びと同時にスピンキックをグロンギのズ・ザイン・ダに叩き込むと、反転宙返りで着地した・・ズ・ザイン・ダはキックを受けた箇所から光の亀裂が身体の表面上に伸び、その亀裂がベルトのバックルにまで伸びでバックルが破壊されると、大音響を挙げて爆発四散した・・。

「・・すげえ・・・」小野寺ユウスケが思わず洩らした・・・。

若者は振り向いて名乗りを挙げた・・「・・俺は人間でも仮面ライダーでもない!・・俺は・・俺は! 新造人間・・キャシャーンだ!! 」

キャシャーンの気魄とその速さ、破壊力に圧倒されたユウスケだったが、気を取り直すと腰のアークルを現出させて、仮面ライター・クウガ・ライジングマイティに変身した・・。

その時、ジョーとガイバー1が物凄いスピードで走り込んで来た。

「・・!ジョーさん、ここでも髑髏忍者と戦闘員が!・・」

「・・!ああ、それだけじゃない! グロンギやゴルゴムの怪人もいる・・・」

「・・どうしますか・・?・・」  「・・デストロンの幹部や怪人達は、ライダー・チームに任せよう・・僕達は出来るだけ加速して、戦闘員や髑髏忍者を減らすんだ!! 」

「・・!分かりました・・」  「・・加速装置! 」

ジョーは加速装置を起動させて姿を消し、ガイバー1は高周波ソードを展張させて髑髏忍群の中に跳び込んで行った・・・。

(・・アタックライド・シザーズ!・・)ディケイドがライド・ブッカーをシザーズに変形させて戦闘員や髑髏忍者に斬撃を加え、斬り払っている後ろでディエンドがドライヴァーにカードを挿し込んだ・・(・・アタックライド・ブラスト!・・)・・ディエンド・ブラストが無数のエネルギー弾を変幻弾道で発射し、それらはディケイドを掠めて戦闘員や髑髏忍者に命中して倒していった・・。

「・・!おいっ!海東! 当たったらどうするんだよ! 」

「・・ふん・・そんなヘマはしないよ・・士・・」

「・・トゥーー! V3ーー回転・・スクリュー・・キック!! 」

「・・ハイパーーーー X キック!!! 」

V3とXライダーの必殺キックを喰らって、イカファイアが爆発四散した・・。

ジョーは20秒間の加速時間の中でスーパーガンを使い、湧き上がった戦闘員や髑髏忍者の9割程を倒した・・。

ピッケル・シャークのピッケル・フラッシュをリボルケインで受け止めたRXは、キング・ストーン・フラッシュを浴びせてピッケル・シャークを怯ませるとジャンプした・・。

「・・RXキック!! 」

RXキックで態勢を崩したピッケル・シャークの身体を出力最大のリボルケインで貫いた。

「・・リボル・クラッシュ!! 」

リボルケインを引き抜かれて断末魔の叫びを挙げ、立ったまま痙攣しているピッケル・シャークに仮面ライダー555のクリムゾン・スマッシュが決まり、そのまま爆発した・・。

MAC01・中央指令室・・・

「・・司令・・新宿では始まりました・・」  「・・そうか・・情勢は・・?・・」

「・・同盟が戦力を遂次に投入しているようで・・こちらが優勢です・・」

「・・ボルテス・チームとザンボット・チームは・・?・・」

「・・もう間もなく現場に到着します・・」

「・・ゴーゴン大公が妖機械獣を何体連れて来ているのか・・?・・また、シャドウの戦力が読めないのが難点だったから・・ボルテスVとザンボット3を段取ったんだが・・やはり、多かったかな・・?・・」

「・・そうでもないようです・・同盟のネットワークを探っていましたが・・ミケーネスが動くようです・・」   「・・機動要塞が出るのか・・?・・」

「・・いえ・・戦闘獣が何体か出るようです・・・」

「・・そうか・・そうなると・・改造体怪人の秘密結社の連中にとっては手酷い事になるようだな・・・」   「・・科学要塞研究所と連絡を執りますか・・?・・」

「・・いや・・その必要は無いだろう・・グレート・マジンガーまで呼んでしまうと、こちらが勝ってしまう・・凶皇仏は奴らに奪わせるのが、こちらの基本戦略だ・・その点に変更はない・・ただ・・キング・ダークとクライシス帝国の動きを、もう一度確認してくれ・・奴らも介入してくるようなら・・科学要塞研究所に要請を出す・・」

「・・分かりました・・」

 

『臨!』・『兵!』・『闘!』・『者!』・『皆!』・『陣!』・『烈!』・『在!』・『前!』・『行!』・・『破!!』・・慈空阿闍梨が十字発勁の真言を唱えながら十種類の印を次々に結び、十種類の密法力を発現させて取り込み・・それらの力を体内で極限まで増幅させて・・最後に結んだ発勁印から発現放出させ・・黄色陽炎発勁光を、大聖歓喜天に叩き付けた・・・。

いきなりの不意撃ちだったので、大聖もその発勁力をまともに喰らい、さすがに吹き飛ばされて仰向けに倒れた・・・。

「・・カミュ殿・・貴方と奴との間に浅からぬ因縁があるのは察しが附きますが、大聖歓喜天は六道衆の大幹部で我らにとっても宿敵でしてな・・貴方だけにケリを付けさせてあげる・・と言う訳には参らんのです・・我らが共に立ち向かえば・・奴とて倒せるでしょう・・それで・・よろしいですかな・・?・・」

「・・慈空阿闍梨様・・ご助力とご配慮に感謝します・・今の今まで・・奴との決着は自分一人で附けられる・・と思っておりましたが・・思い上がった、慢心であったようです・・」

「・・それでは改めて・・一丸となって参りましょうか・・・」

 



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東京・西新宿攻防戦 3

「・・慈空!! 裏高野の抹香臭い坊主ども!! それに与する愚か者ども!! 道を開けよ! 凶皇仏は我らが700年の時をかけて創り上げた闇の至宝! これを用いて今再び闇の王国を復活させるのだ!! 邪魔だては許さぬ! お前達は全員、地獄の闇の奥底に落とし込んでくれる!! 」

地面に付くほどの黒髪と、表地は漆黒だが裏地は深紅のマントを夜風になびかせて羅誐(ラーガ)が立ちはだかる・・左腕を前に伸ばして半身の姿勢を採る・・右手で弦に番えた矢を引き絞るように構える・・左手の親指、人差し指、小指を伸ばすと光の弓矢が顕れる・・。

『愛染明王・天弓!!・ウン・タキ・ウン・タラタ・カンマン・ジャク・サンマンダ・バサラ・オン・キリキリ・ソワカ!! 』

真言を唱えながら更に光の弓矢を引き絞り、最大限の気を込めて光の矢を射放った・・。

『臨!』・『兵!』・『闘!』・『者!』・『皆!』・『陣!』・『烈!』・『在!』・『前!!!』

慈空阿闍梨が早九字を唱え、光の九字神刀を顕して薙ぎ払った・・同時にキカイダーが両眼からプラズマ・フェイズ・ブラスターを発射して羅誐が放った光の矢を迎撃したが、中和無力化できたのは60%ぐらいで、残りの威光が慈空阿闍梨に迫ったが寸での所で007(グレート)が大きい一枚岩に変身して慈空阿闍梨の前に立ち、光の矢を弾いた・・。

「・・!おのれ、光の者ども! 愛染明王・星天弓!! 」

羅誐がそう叫んで光の弓を天に向かって引き絞り、最大気力で射放つと無数の天弓が360°全天球に向けて放散された・・。

同時に01がプラズマ・フェイズ・リアクターをオーバーロードさせ、その全身を光り輝かせてプラズマ・ライズビームを全身から放射して、羅誐の星天弓の殆どを相殺中和した。

それでも7人の裏高野僧兵が天弓に射抜かれて昏倒したが、致命傷には至らなかった。

「・・羅誐!・・怯むな!・・大聖も・・一緒にもう一度やるぞ! 」

白の洋装束に白いマントをはためかせて鳩摩羅(クマラ)が立ちはだかる。

「・・は、はい! 鳩摩羅様! 」寸刻呆然としていた羅誐だったが、直ぐに気を取り直して構えに入った。

大聖も鳩摩羅の隣に立ち、脚を開いて踏み締め立つと全身に力気を漲らせた。

鳩摩羅が両掌で開放印を組み、真言の詠唱に入る。

『・・オン・アボキャ・マカホダラ・ノウモボタヤ・チリミタリ・・・』

鳩摩羅の背から明るいオレンジ色の光翼が拡がり、組んだ開放印に白銀の冷凍気功光が集束しつつ増幅が始まる。

大聖は智拳印を組み、真言の詠唱に入る。

『・・オン・クロダナウ・ウンジャク・アボキャ・シツデイ・・・』

大聖の全身が急速に凍て付き、その冷凍気圏が急速に拡がり始める。

羅誐も再び天弓の構えを採った。

『・・愛染明王・合天弓!!ウン・タキ・ウン・タラタ・カンマン・ジャク・・・・』

伸ばした左手の人差し指にピンク色の光が急速に集約し始める。

『・・!皆、気を付けろ! こちらも気功陽炎光破を集約して撃つぞ!! 』

慈空阿闍梨が号令を飛ばし、再び十字発勁の真言の詠唱に入った・・。

『臨!』・『兵!』・『闘!』・『者!』・『皆!』・『陣!』・『烈!』・・・・・・

次々と真言印を組み替える慈空阿闍梨の手許で、黄色陽炎発勁光が増幅していく・・。

十二神将の宮毘羅(くびら)大将が弥勒菩薩の印を組み、真言の詠唱に入る。

『・・オン・マイタレイヤ・シュチリ・キャラロハ・ウン・ケン・ソワカ・・』

印を組む手許で、紫白陽炎光が集約増大していく。

伐折羅(ばさら)大将も勢至菩薩の印を組み、真言の詠唱に入る。

『・・ノウボク・タリツ・ハラボリツ・シャキンメイ・タラサンダン・ソワカ・・・』

印を組む手許で、青紫陽炎光が集約増大していく。

迷企羅(めきら)大将も阿弥陀如来の印を組み、真言の詠唱に入る。

『・・オン・アミリタ・テイセイ・カラ・ウン・ノウボウ・アミリタビキランデイ・サラバアラタサダニエイ・ソワカ・・・』

印を組む手許で、赤紫陽炎光が集約増大していく。

安底羅(あんちら)大将も如意輪観音菩薩の印を組み、真言の詠唱に入る。

『・・オン・アボキャ・ビジャシャ・ハンドメイ・シンダ・マニ・ジンバ・ラ・ウン・ハッタ・ソワカ・・・・』

印を組む手許で、桃色陽炎光が集約増大していく。

頞儞羅(あにら)大将も風天印を組み、真言の詠唱に入る。

『・・オン・バラダ・ハンドメイ・ウンア・ロリキャ・バザラ・タラマ・キリク・ソワカ・・』

印を組む手許で、橙色の陽炎光が集約増大していく。

珊底羅(さんちら)大将も虚空蔵菩薩の印を組み、真言の詠唱に入る。

『・・オン・バザラ・アラタン・ノウ・オンタラク・ハンダラ・バシニ・ソワカ・・・』

印を組む手許で、緋色陽炎光が集約増大していく。

因達羅(いんだら)大将も帝釈天印を組み、真言の詠唱に入る。

『・・オン・シャカダイバ・インドラヤ・ソワカ・・・・』

印を組む手許で、朱紫陽炎光が集約増大していく。

波夷羅(はいら)大将も文殊菩薩の印を組み、真言の詠唱に入る。

『・・オン・アラハシャノウ・バザラ・アラタン・ノウ・オンタラク・ジンバザラ・ロケイ・キリク・ソワカ・・・・』

印を組む手許で、茜紫陽炎光が集約増大していく。

摩虎羅(まこら)大将も大威徳明王の印を組み、真言の詠唱に入る。

『・・オン・シュチリ・ノウボウ・キャラロハ・アキャシャキャラバヤ・アリキャ・マリボリ・ウン・ケン・ソワカ・・・・』

印を組む手許で、亜麻紫陽炎光が集約増大していく。

真達羅(しんだら)大将も普賢菩薩の印を組み、真言の詠唱に入る。

『・・オン・アラハシャ・ノウオン・サンマヤ・サトバン・ノウモラカタン・ゴラダラ・バラシヤトニバ・ノウマクハタナン・ソワカ・・・・』

印を組む手許で、明臙脂紫陽炎光が集約増大していく。

招杜羅(しょうとら)大将も大日如来の印を組み、真言の詠唱に入る。

『・・オン・アロリキャ・バザラダト・キャラロハ・バン・アビラ・ウンケン・ソワカ・・・』

印を組む手許で、黄緑色陽炎光が集約増大していく。

毘羯羅(びから)大将も釈迦如来の印を組み、真言の詠唱に入る。

『・・オン・サンマヤ・サトバン・アロリキャ・バザラダト・トビシュバキリ・バジリニウン・・マカ・キャロニキャ・・タラマ・キリク・オンタラク・ソワカ・・・・』

印を組む手許で、明紅蓮陽炎光が集約増大していく。

01も再びプラズマ・フェイズ・リアクターをオーバーロードさせ、その全身を光り輝かせてプラズマ・ライズビームを全身から放射する態勢に入った。

まだ顔色はあまり良くないがピュンマに支えられてカミュも立ち上がり、凍気のコスモを高めていく・・シャカが創り、ゴールド聖闘士全員のコスモが込められた珠数を取り出すと、組んだ両手の中に握り込んでオーロラ・エクスキューションの構えに入る・・・。

「・・カミュ!大丈夫か!?おれは両膝でミサイルを撃つ! 奴らの真ん中に撃ち込むから、お前の技もそこに集中させろ!! 」アルベルトがそうカミュに言った・・。

「・・分かった・・・」それから数秒・・お互いに気を高め・研ぎ澄まし・増大させ

・増幅して・集約集中して臨界点を超えた・・・・。  「・・破!!!」

「・・フリージング・ダイヤモンド・フル・バースト・ストーム・ブリザード!! 」

「・・プラズマ・ライズビーム!! 」  「・・プラズマ・フェイズ・ブラスター!!! 」

「・・発射!! 」ジェット・グレート・ピュンマもスーパーガンを最大出力・マクロブラスター斉射で集中させた・・・。

光と力と熱が中空でぶつかり、弾け、渦巻き、近くのものをも巻き込んで吹き飛ばした。

その時、フランソワーズを抱えたジェロニモが走り込んで来た・・。

 

「・・!V3ーーー!ダブルタイフーン・エクストリーム・バワー!・・」

V3のダブルタイフーンが最大出力で稼働し、虹色の光芒を放射してV3の全身をも包み込む・・・「・・V3! エクシード・ストライクパンチ!! 」

右腕から放つ高出力3連パンチで、戦闘員4体と髑髏忍者2体を吹き飛ばし、破壊した。

「・・エクストリーム! マキシマム・ライドル・パワー!! 」

Xライダーが右手でライドル・グリップを掴み、フルパワーでライドルXを稼働させてスーパーチャージさせた上で、ライドル・ホイップを引き抜いた・・。

「・・エクシード・ストライク・ホイップ!! 」

引き抜いたライドル・ホイップを振るい、戦闘員や髑髏忍者を次々と斬り払っていく・・。

「・・ハイパー・ホイップX!! 」X字に斬り伏せる技で3体の戦闘員を倒した時、目前にドクロイノシシが立ち塞がった・・Xはライドルをスティックに変換した・・。

「・・エクシード・ハイパー・スティック!! 」

ドクロイノシシの攻撃を躱しながら、ハイパー・スティックでの連打撃を叩き込む。

ダメージは受けているが戦意の落ちないドクロイノシシに対し、ブラックRXも参戦した。

「・・リボル・クラッシュ!! 」フルパワー・リボルケインの一撃を右腕で受け止めて身体への直撃を避けたドクロイノシシだったが、右腕は爆裂した・・。

同時にガイバー1が左腕の高周波ソードで、ドクロイノシシの左腕を斬り飛ばして駆け抜けた・・・「・・今だ!! 」意を決してスティックを片手にXがスーパージャンプ・・。

スティックを両手で構えて大車輪回転をしながら上昇を続け、遠心力最大で手を離して急降下・・「・・エクシード・ハイパー・ストライク・キック!!! 」と、同時に・・

「・・ハイパー・RXキック!!! 」・・ダブルキックがドクロイノシシに炸裂し、弾き飛ばされたドクロイノシシは、ビルの壁に叩き付けられて爆発四散した・・。

指笛を鋭く吹き鳴らしてキャシャーンが叫ぶ。

「・・フレンダー!! 」   「・・アオーーーーーーーーン!!! 」

ロボット犬・フレンダーが駆け抜ける・・口からの火炎放射で戦闘員・髑髏忍者を数体火だるまにし、両眼からのレーザービームで戦闘アンドロイドを2体、破壊した。

「・・!フレンダー・ジェット!! 」   「・・!アオーーーーーン!! 」

ロボット犬モードからジェットフレンダーにチェンジする・・キャノピーが開くと同時にキャシャーンがコックピットに滑り込み、スティックを握ってスロットル全開した・・。

高度1.5mで全速発進・・ジェットフレンダーがその機体で戦闘員・髑髏忍者・戦闘アンドロイドを、僅か数秒で百数十体薙ぎ倒し、吹き飛ばし、叩き飛ばし、撥ね飛ばした・・。

最後にブースターダッシュを掛けると、右翼でマシンガン・スネークを、左翼でハンマー・クラゲを、そして機首でナイフ・アルマジロを薙ぎ払って弾き飛ばし、正面から突っ込んで突き上げた・・・。

直後にカイザとファイズがポイント・マーカーをナイフ・アルマジロにロックし、次の瞬間にファイズのクリムゾン・スマッシュとカイザのゴルド・スマッシュがマックス・パワーでヒットして、ファイズサインとカイザサインが光る中、ナイフ・アルマジロは灰化して崩れ去った・・・。

「・・さあて、ここらで一回見せ場を作っておくか・・」

そう言いながらディケイドはケータッチを取り出し、コンプリート・カードを挿し込んで紋章のアイコンを総てタッチすると、ドライバーのバックルをケータッチと差し替えてコンプリート・モードにチェンジした・・(ファイナル・カメンライド・ディケイド)

「・・おい、巧・・一緒にやるぞ!・・」

「・・!えっ! あっ! はいっ・・分かりました・・」

続けてケータッチのファイズの紋章とFをタッチし、ブラスターフォームのファイズを召喚した・・オリジナルのファイズもファイズブラスターを用いて再起動変身を掛け、ファイズ・ブラスターフォームにモード・チェンジした・・。

ファイズブラスターが三つ発射態勢に入り、ジェットフレンダーに弾き飛ばされて起き上がろうともがいているマシンガン・スネークに、その照準をロックさせた・・・。

それに気付いて何とか逃げようとしていたが、思いの外ダメージは大きかったようで、思うように動けなかったところに、3本のブラスター・ビームがフルパワーで集中照射され、マシンガン・スネークはその場で消滅した・・・。

ハンマー・クラゲもマシンガン・スネーク同様、大きいダメージを受けていた。

戦闘員たちに助け起こされて後退しようとしていたが、その前にディエンドが立った・・。

「・・逃がす訳には、いかないね・・」

ブレイドカードをドライヴァーに挿し込んでブレイドを召喚すると、ファイナル・フォームライド・カードも挿し込んだ・・。    「・・痛みは一瞬だ!! 」

変換パワーコードを撃ち込んでブレイドブレードにファイナルフォームライドさせると右手で持ち、ディエンド・エッジアタックで戦闘員と髑髏忍者20体ほどを薙ぎ払って消し飛ばし、ハンマー・クラゲにもダメージを与えた・・。「・・運が無かったね・・・」

ファイナルアタックカードをドライヴァーに挿し込んで、ディエンドが言った・・。

(ファイナル・アタックライド・ディ、ディ、ディ、ディエンド!!)

ディメンション・シュートのエネルギー流が、ハンマー・クラゲを分子にまで分解して消滅させた・・・。

その時、フランソワーズの声が全員の頭の中で響いた・・。

『・・皆! ボルテス・チームとザンボット・チームが到着するわ! 全員、一旦敵から離れて距離を取って! 両チームは上空から敵集団に対してミサイル攻撃を! 敵集団がその攻撃を防いでいる隙を突いて、全員、再度フルパワーでロングレンジ攻撃!! 』

 



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東京・西新宿攻防戦 4

フランソワーズの《声》を聴いて、ジョーも全員に向けて《声》で伝えた・・。

『・・よし! 全員! 合流しよう! 裏高野の皆さん! 敵から一旦離れてこちらと合流して下さい! 中間地点で合流して、再度のフルパワーロングレンジ攻撃の態勢を採ります! 』

「・・よ~し! 全員離れろ! 後退してライダー・チームと合流する! お互いに援護しろ! 退がるぞ! 」慈空阿闍梨が号令を発して追撃を止めさせた・・。

その時、上空にボルト・クルーザー、ザンバード、ボルト・ボンバーが挿し掛かった・・。

「・・へえ~・・さすがにクルーザーは速いねえ、健一さん・・?・・」

「・・ああ、マッハ20まで出るからね・・それはそうと、どこでやっているのかな・・?・・」

「・・え~と・・あっ、あそこですね・・それぞれ二つに分かれていたのが、合流しているみたいですね・・」

「・・まだちょっと距離が近いな・・全機合流するまで待つか・・?・・」

「・・そうですね・・」

そう言葉を交わしている間に、接近して来る5機が視界に入ってきた・・。

「・・何だ・・あの機体は・・?・・」

ゴールデン・トータスが中継して、テレビバエが空間に投影している現場の模様を見て、ゼロ大帝が声を挙げた・・。

「・・フン・・ボルテスVとザンボット3の機体だな・・あそこまで用意していたのか・・」

ゴーゴン大公が腕を組んで言った・・。

「・・このままでは負けるぞ! 接触しても突入するどころか、逆に押されているのだからな・・!・・」 シャドウナイトが本来の姿でゴーゴン大公に迫った・・。

「・・判っておる! これよりは総力戦に移行する! 私は妖機械獣を率いて、ザンボットとボルテスを引き付けてこれを排除する! 残る全員で総力戦を挑み、何としても突破して保管庫に突入する! 全員集合してテレポートに備えろ! 」

『・・ゴールデン・トータスは現場に降りて合流しろ! 現場の者は早く合流しろ! 』

シャドウナイトが通信で指示した・・。

裏高野チームとライダーチームは合流しつつ後退した・・同盟連合はそれに乗じて追撃しようと前進しかけたが、ザンバードとボルト・クルーザーが急降下で牽制し、ヴァルカン砲で威嚇攻撃を行って、同盟連合を後退させた・・。

「・・クルー・ヴァルカン!! 」「・・バードガン!! 」

ゴーゴン大公が右手で鞭を振り上げ、中空に降り下ろして雷電光を放った。

「・・ゴーゴン大公の名に於いて命ずる! グシオスβ(ベーター)3!

ミノスΜ(ミュー)7! ユニコーンΣ(シグマ)2! アポロンΑ(アルファー)1!

ケントールγ(ガンマ)7! パルビアΠ(パイ)7! サーペンターΙ(イオタ)6! ドラゴΩ(オメガ)1! 出ろ! 敵を殲滅し、目標を奪取せよ!! 」

「・・!8体も連れて来ていたのか!? 」 ゼロ大帝が眼を剥いた・・。

「・・奥の手も動員しなければ、奪取できなさそうだからな・・・」

土砂を巻き揚げ、水飛沫を噴き上げ、巨木を何本も薙ぎ倒しながら8体の妖機械獣が姿を顕し、次々と飛び立っていった・・。

「・・はあっ!! 」ゴーゴン大公も跳躍し、中空を駆けてユニコーンΣ(シグマ)2の背に飛び乗り、そのまま飛んだ・・・。

「・・うっ! 我らも行くぞ! テレポート・サイトに集合しろ!! 」

ゼロ大帝が元帥の錫杖を突き上げて号令した・・。

剛 健一がボルト・クルーザーのコックピットから下を見渡していたが、一つ頷くとスティックを握り直して回線を繋いだ・・。

「・・よ~し、そろそろ行くぞ! 勝平君! 皆いいな! 全機! 紡錘飛行隊形! ミサイル全弾! 発射準備! 」

続いてフランソワーズの《声》が、全員の頭の中で響いた・・。

【・・ボルテス、ザンボット各機へ・・ポイント、γ279マークΣ368に対し、集中してミサイル全弾を発射・・続いて地上の全員は、同ポイントに対して、フルパワーでの集中ロングレンジ攻撃・・妖機械獣8体が接近中・・ゴーゴン大公が指揮しているわ・・ザンボット3とボルテスVは、ミサイル攻撃後直ちに合体せよ・・】 『・・了解!・・』

「・・クルー・ミサイル発射準備! 」「・・ボンバー・ミサイル発射準備! 」

「・・パンザー・ミサイル発射準備! 」「・・フリゲート・ミサイル発射準備! 」

「・・ランダー・ミサイル発射準備! 」「・・クラスター・ロケット・ランチャー用意! 」

「・・バード・ミサイル発射準備! 」「・・ザンブル・ミサイル発射準備! 」

「・・ベース・ミサイル発射準備! 」

「・・全機、ターゲットポイント・・射線マークリンク確認! 固定! 」

「・・発射5秒前! 4・3・2・用意! 発射! 」 『・・発射!!! 』

60本を超える数のミサイルが、2秒の間に斉射されて目標に向かって集中した。

同盟連合はゴーゴン大公と妖機械獣の集団を除いて、他の者達は全員がミサイルが発射される直前に、テレポートで集結を果たしていた。

戦闘員や戦闘アンドロイド・・それに髑髏忍者達を除いて全員が、自己に内在するパワーをロードして、自分たちの上空にシールドを張り巡らせた。

【・・今よ!! 全員! フルパワー・ロングレンジ・集中攻撃用意!! 】

フランソワーズの号令が頭の中で響き渡る。

「・・士・・これを使え・・」

コンプリート・ディエンドが(自分の)パワーアップカードをコンプリート・ディケイドに渡した・・それをディケイドライヴァーに挿し込むと、続けて二人ともイリュージョンカードをドライヴァーに挿し込み、それぞれ3体ずつの分身を生成させた。

「・・ファイナル・アタックライド・ディ、ディ、ディ、ディエンド!! 」

4体のディケイドと4体のディエンドが完璧にシンクロしてディメンションシュートの構えを採る・・。

キャシャーンが脚を開いて立ち、構えを様々に採りながらソーラー・パワー・ジェネレーターをオーバー・ライドさせる・・ソーラー・パワー・ブレイザーが光り輝き、ソーラー・メットも含めて輝き始める・・。

「・・超・・破壊・・光線・・・・」

『臨!』・『兵!』・『闘!』・『者!』・『皆!』・『陣!』・『烈!』・『在!』・『前!』・『行!』・・

慈空阿闍梨も三度(みたび)、十字発勁の真言を唱えつつ十種類の印を次々に結び、黄色陽炎発勁光を、その手許で増幅・増大させていった・・。

続いて薬師12神将のそれぞれの大将も、手を組んで印を結ぶとそれぞれの真言の詠唱に入った・・そしてそれぞれの大将の手許で、それぞれの色の陽炎発勁光がその光の強さと力を増幅・増大させていった・・。

ファイズもオーズもWも、それぞれファイズ・ブラスター、メダ・ガブリュー・バズーカ、トリガー・マグナムをフルパワー・チャージで構えた・・。

ガイバー1も、腰を落として両脚で踏ん張り、胸郭を開いてメガ・スマッシャー両肺フルパワー・チャージで、発射態勢に入る・・。

01とキカイダーは、それぞれ両胸と両脇腹にあるプラズマ・パワー・パケット・アクセラレーターをプラズマ・フェイズ・パワー・インジェクション・コンジットで繋ぎ合わせると、01が自分のプラズマ・パワーをキカイダーに移送し始めた・・。

キカイダーは01から送り込まれるパワーをも利用して、最大出力でのプラズマ・フェイズ・ブラスターの発射態勢に入った・・。

アルベルトはジェロニモに肩車されて、両肘・両膝のミサイル発射管を全開放させた・・。

ジョー、ジェット、フランソワーズ、ジェロニモ、グレート、ピュンマがスーパーガンの銃口を合わせて、スーパー・コングルート・コンセントレード・シュートの態勢に入った・・。

最後にアクエリアス(水瓶星座)のカミュが、両脇をXライダーとV3に支えられて立ち、紫紺の珠数を組み合わせた両手に握り込んで、オーロラ・エクスキューションの構えを採り、フリージング・ダイヤモンド・フル・バースト・ストーム・ブリザードを発現させるべく、冷凍気小宇宙(コスモ)の臨界点を目指した・・。

ミサイル全弾が集中して着弾・爆発し、その2秒後に力は解き放たれた・・。

『・・発射!! 』 『・・破!!! 』

凄まじい光が生まれ、次にこれまでで最大級の爆発と衝撃波が続き、最後に暴旋風が逆巻き、荒れ狂って総てを薙ぎ倒して吹き飛ばし、破壊した・・。

【・・全員、各個に連携して戦闘開始!・・お互いに援護し合って!・・妖機械獣が来るわ!・・両チームは合体して!・・】 フランソワーズの声が脳内で響く・・。

「・・健一さん! 聞こえる?! 俺達で援護するから、先にボルテスVに合体してくれ!! 」    「・・了解だ! 一平! ホルスター射出! 」

「・・OK・・受け取ってくれよ、勝平君! マグナム・ホルスター射出!! 」

ザンボエース専用のマグナム・ホルスターが、ボルト・ボンバーから射出された・・。

「・・了解!・・エースチェンジ!! 」

ザン・バードがザンボ・エースにチェンジした・・ホルスタージェットは飛翔を続けてザンボ・エースに接近し、エースの腰にドッキングする・・すぐさまマグナムを引き抜くと、ガンベルトのホルスター・パケットを次々と開いてロング・バレルを取り出して装着し、ストックを取り出して装着し、スコープを取り出して装着し、ロング・マガジンも取り出して装着して、ザンボ・マグナム・ライフルを構築した・・。

スコープで覗く迄も無く、コーゴン大公率いる妖機械獣集団の接近が見て採れる・・。

8体の妖機械獣それぞれに照準を合わせ、途中でマガジンを1回交換したが、それぞれ3連射でマグナム・ライフルを発射した・・「・・急いでよ・・健一さん・・」

「・・よ~し、いくぞ!! V! トゥギャザー!! 」

ボルト・マシン各機がボルト・クルーザーを先頭にしてV字編隊を組む・・。

『・・レッツ! ボルト! イン!! 』

超電磁放電光に包まれながら、ホルテスVに変形合体を果たした・・。

『・・フランソワーズ! 今の爆発はかなり大きい・・警察は勿論だが・・空自のスクランブル・チームに出動命令は出ていないか・・?・・』

アルベルトが脳内オールの回線で訊いた・・。

『・・たった今出たわ・・高速偵察機1機・・高速戦闘機3機・・制圧戦闘機3機・・戦闘爆撃機3機・・10分以内に離陸するわ・・ここに到着するのは離陸してから15分以内だから・・あと20分でケリを付けるわよ!! 』

漸く爆煙が風に流れて、同盟連合の生き残りが見えてきた・・。

戦闘員・戦闘アンドロイド・髑髏忍群は、その総てが消え去り、もう呼び出せない様子だった・・。

羅誐(ラーガ)は最早人の姿ではなく、4本腕に下半身は蛇身の魔獣に変貌していた・・その姿にならなければ、凶暴なエネルギーの奔流を防ぎ切れなかったのだろう・・。

ゼロ大帝は鎧の3割が破損し、兜の飾りも消失してかなりのダメージを受けているようだったが、身体的には破損していなかった・・だが元帥錫杖を杖代わりにしてようやく立っていた・・従えているガランダー帝国の獣人は、サンショウウオ獣人・モモンガー獣人・キノコ獣人・フクロウ獣人の4体だけで、いずれもかなりのダメージを受けている・・。

アポロガイストはガイスト・シールドで何とかその身を守り切った・・が、マントは吹き千切れ飛んで跡形も無く、シールドも崩壊寸前だった・・生き残ったGODの怪人は、サラマンドラ・オカルトス・キャッティウス・アルセイデス・ケルベロス・キマイラの6体だけで、いずれもかなりのダメージを負っていた・・。

シャドウムーンと剣聖ビルゲニアは2人ともビルケープでその身を包み、エネルギーの奔流を防ぎ切ったようでほぼ無傷なように見えたが、ビルケープは焼失した・・・。

ゴルゴムの怪人集団は比較的に前面に立っていたようで、10体が来ていたが4体は消滅して3体は身体が破壊されて屍骸が転がっており、3体は腕や脚が吹き飛ばされ他にも身体各部に深い損傷を受けて、半死半生の状態だった・・無事だったのはかつての三大大神官・・大怪人ダロム・大怪人バラオム・大怪人ビシュムだけだった・・3体とも大神官としてシャドウムーンと共に来ていたが、強大エネルギーの奔流と暴烈風を防ぎ切るために、それぞれ天の石・海の石・地の石の力を使い切って、大神官としての状態ではいられなくなっていた・・・。

ン・ダグバ・ゼバは無事だった・・その姿は完全なる究極体だった・・彼は配下のグロンギを18体連れて来ていたが、ゴ・ジャーザ・ギ、ゴ・バベル・ダ、ゴ・ガドル・バ、

ラ・ドルド・グ、ゴ・ザザル・バ、ゴ・ジャラジ・ダを残して、他の12体は消滅した・・・。

タイタンは自分のパワーをオーバーロードさせて、自身を百目タイタンにまで変貌させる事で、エネルギーの奔流からその身を守った・・ゼネラル・シャドウも生きてはいたがダメージはかなり大きいようだ・・奇械人で生き残っているのは、エレキイカ・メカゴリラ・電気エイだけだった・・3体とも行動する事は出来るようだったが、戦闘にはとても耐えられないようだった・・タイタンはその3体に後退するよう指示した・・デルザー軍団の幹部クラスでその場に残っているのは、岩石男爵だけだった・・デルザー軍団の幹部で、他に3体が来ていたが逃げたようだ・・・。

シャドウナイトは損傷率12%・・装甲の所々に損傷が見られる・・白骨ムササビは完全に破壊された・・ギンガメは損傷率37%・・飛行不能・・戦闘続行は困難・・ゴールデン・トータスは損傷率13%・・外部の装甲に軽微な損傷が多数ある・・・。

泰山府君と青面金剛と倶摩羅は、大聖歓喜天が張り巡らせた冷凍波防壁に囲い込まれて無事だった・・荼枳尼衆や六道衆の雑兵や僧兵たちは総て消滅した・・。

ドクトルGはカニ・レーザーとして生き残っていたが、左腕が肘の先から千切れ飛んでいて右脇腹にも深い傷を負っていた・・連れて来ていたデストロンの怪人の中で生き残っているのはクサリガマテントウだけだった・・カマキリメランは消滅した・・ツバサ大僧正は死人コウモリとして生き残っていたが、右手が手首から消失していたし、左肩も深く損傷していた・・連れて来ていたツバサ一族も、火焔コンドルを残してコダマムササビとドクガーラは消滅した・・ヨロイ元帥はザリガーナとして生き残っていたが、背中を深く損傷していた・・連れて来ていた怪人の中で生き残っているのは、ガルマジロンだけで、サイタンクとシーラカンスキッドは消滅した・・キバ男爵は吸血マンモスとして生き残っていたが、牙は両方とも折れて吹き飛び、鼻も千切れ飛んでいて右腕も肘の上から無くなっていた・・連れて来ていた牙一族も原始タイガーだけを残して、ドクロイノシシとユキオオカミは消滅した・・・。

【・・皆!! 妖機械獣の集団はこっちを狙ってくるわ! 全員、散開しつつ残っている敵の集団に突入してお互いに援護しつつ個別戦闘!! 】

妖機械獣、グシオスβ(ベーター)III・ミノスΜ(ミュー)7・ユニコーンΣ(ミュー)2が、降下しつつ破壊光線と火焔球とミサイルを発射して、地上に撃ち込んできた・・。

地上にいる裏高野やライダーチームのメンバーは、いち早く散開し始めていたので、爆発に巻き込まれたり吹き飛ばされたりするような者はいなかったが危ない・・ボルテスVとザンボットチームが援護の攻撃を集中して撃ち込んで、敵の注意を引き付ける・・・。

「・・ガトリング・ミサイル!! 」剛 健一はそう叫ぶと、ボルテスの両手首に装備されている5連装のミサイルランチャーを露出させ、全弾を撃ち込んだ・・。

ザンボ・エースがマグナム・ライフルを分解してパーツをガン・ベルト・パケットに戻し、別のパーツをパケットから出してマグナムに装着し始め、グレネード・マグナム・ランチャーを構築した・・。

「・・ボルテス・バズーカ!! そっちも早く合体してくれよ! 勝平君! 」

強力なロケット弾を8連射で撃ち込みながら、健一が叫ぶ・・。

「・・分かってるってえ・・こいつを撃ち込んでからさ!! 」

勝平がそう言ってグレネード・マグナム・ランチャーを5連射で撃ち込むと、ランチャーを分解して総てのパーツをパケットに戻し、マグナムもホルスターに収めた・・。

「・・よ~し、いくぜ! 宇宙太、恵子! ザンボット・コンビネーション・・ワン!! 」

「・・ツー!! 」と、宇宙太・・。「・・スリー!! 」と、恵子がコールし、ザンボット・コンビネーションが始まり、ザンボット3への合体を果たした・・。

「・・いけーー!! バスター・ミサイル!! 」

両腰のバスター・ランチャーが10回転して、80発の小型ミサイルが撃ち込まれる・・。

ボルテスVとザンボット3のコンビネーション攻撃で、妖機械獣の集団は少し怯んだようだった・・だがゴーゴン大公が放電撃鞭を振るい、檄を飛ばして集団のパワー・レベルを上昇させた・・妖機械獣アポロンΑ(アルファー)1とケントールγ(ガンマ)7が電雷を纏わせた槍と銛を投げて、両眼から破壊光線を発射する・・ボルテス・バズーカで槍と銛を弾き落し、胸からボルテス・ビームを発射して破壊光線も弾いた・・。

妖機械獣・ミノスΜ(ミュー)7とユニコーンΣ(シグマ)2が角から放電破壊光線を放ち、同時に口から火焔球を吐きつつ襲い掛かって来た・・・。

「・・グランド・ファイヤー!! 」・・「・・ザンボット・カッター!! 」

ボルテスVの腹部、ベルトのバックル状の部分が開いて超高熱火焔流が放射され、火焔球を弾いて放電破壊光線も逸らした・・ザンボット3がグラッブの柄を合わせてカッターに変換させ、ミノスΜ(ミュー)7とユニコーンΣ(シグマ)2に斬り掛かっていった・・。

デンガッシャー・ソードモードの電王がフルチャージを掛ける・・大きいダメージを負いながらも向って来ようとするサンショウウオ獣人を捉えて見据えた・・。

「・・俺の必殺技あ!! 」エクストリーム・ソード・スラッシュが、サンショウウオ獣人を正面右上から斜めに両断して、そのままソード電王が駆け抜ける・・サンショウウオ獣人は振り向く事も出来ずに爆発四散した・・・。

オーズとV3がモモンガー獣人に対してタトバ・キックとマッハ・キックを決めて爆発させると、攻撃した隙を突いて倒そうと襲って来たキノコ獣人とフクロウ獣人に背後から殴られ蹴られて、V3もオーズも前のめりに倒れ込む・・オーズの右腕を取って立たせると前に立とうとするV3を制してメダジャリバーを取り出すと、オーズはセルメダルを3枚ジャリバーに投入してオースキャナーで読み取った・・。

メダジャリバーを右正眼に構えて、オーズバッシュが発動する・・そのまま右側から真横斬りで薙ぎ払うと、周りの空間ごと2体の獣人は上下で両断されて爆発四散した・・。

その後で空間だけ、斬られて出来たズレが戻った・・。

アギトがフレイム・フォームでセイバーを両手で2本持ち、セイバーの刀身に火焔を纏わせたダブル・フレイム・セイバー・スラッシュで、GODのサラマンドラとオカルトスを連続4段の交差斬撃で斬り裂いて駆け抜け、爆発させた時、傍で倒れているキャシャーンに気が付いた・・「・・キャシャーン君! どうしたんだ!? 大丈夫か!? 」

「・・ファイナル・アタックライド!・ディ、ディ、ディ、ディケイド!! 」

ディメンション・シザーズとディメンション・キックの連続ファイナル・アタックライドをGODのキャッティウスに決めて爆発させたディケイドが、アギトとキャシャーンを見咎めて傍に寄って行った・・・「・・どうしたんだ!? 」

「・・ああ、士君・・キャシャーン君が・・」 「・・何だって!? ・・やっぱりか・・」

「・・どう言う事なんだ・・?・・」 「・・あの技は・・かなりのパワーを食うからな・・」

「・・彼のパワーって・・?・・」  「・・太陽なんだよ・・フレンダー!! 」

「・・アオン! 」 「・・よしよし、太陽の見える場所まで連れて行ってやってくれな・・ジェット!! 」  「・・アオーーーン!! 」

ディケイドの号令でジェット・モードにフレンダーはチェンジし、コックピットのキャノピーを開いた・・アギトとディケイドでキャシャーンをコックピットに座らせ、キャノピーを閉めさせた・・ディケイドは手振りで発進するように指示し、ジェット・フレンダーは飛び立っていった・・「・・大丈夫だな・・?・・」  「・・ああ・・」

 



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東京・西新宿攻防戦 5

獅子丸が片膝を突いて両腕を振り上げ、両手で風雷光の印を組んだ・・。

「・・風よ!! 光よぉー!! 」

金砂地の太刀の鍔と鞘を繋いでいる封鎖に稲妻が当たり、鍔の封環が外れた・・・。

「・・かーーーーー!!!  忍法!!  獅子変化!!!  」

「・・ライオン丸! 見参!!  」

金砂地の太刀を左手で立てて持ち、右手を引いた構えでアルセイデスと対峙した。

次の瞬間、一際高く跳躍する・・「・・ライオン・・飛行斬り!!・・」

確かに刃は当たったが、アルセイデスの硬い外殻に弾かれた・・。

「・・フン・・その程度で、この俺を倒せると思うのか・・! 」

「・・へえ・・フラフラなクセにまだ口はデカいんだな・・」

ファイズがそう言いながら、ファイズ・ポインターをキックモードにして右足首の外側にセットした・・続けてバックルを外して・・《エクシード・チャージ!》

「・・ハアーーーーーー!!! 」クリムゾン・スマッシュがフル・パワーで決まり、背中が大きく爆発して左腕が吹き飛んだ・・。

続けてガイバー1がプレッシャー・カノンを真正面から叩き込んだ・・その攻撃でまたアルセイデスの背中が爆発した・・。

直後に01が120mの上空から回転落下して、クロス・チョップを叩き込んだ・・。

「・・01・・プラズマ・インパルス・クロス・エンド!!! 」

「・・今だ! 獅子丸君! もう一度だ! 」

再びライオン丸が超絶の跳躍を見せた・・。

「・・ライオン・錐揉み飛行返し!! 」

金砂地の太刀が袈裟懸けにアルセイデスの上体を切り裂き、倒れると同時に爆発した・・。

逆上して激昂したケルベロスがジェロニモに掴み掛った・・お互いに両手を握り合って力比べに入る・・凄まじい力で両腕を捻り上げられそうになるが、ジェロニモもリミッターを解除してフル・パワーモードに入る・・それでもジリジリとジェロニモは押されつつある・・アメイジング・マイティ・クウガがハイパー・マイティ・キックを3回転でケルベロスに決める・・たまらずジェロニモから離れたケルベロスに、ルナ・トリガーWのフル・バースト・マグナムが決まる・・よろめいて片膝を突いたケルベロスだったが直ぐに立ち上がった・・再びジェロニモに殴り掛かるが、身を躱したジェロニモに一本背負いで投げ飛ばされる・・01とキカイダーが、プラズマ光粒子パワーをそのボディにまとって横っ飛びで錐揉みスピンキックをケルベロスに決めた・・。

「・・エクストリーム・プラズマ・ドライバー!! 」

「・・エクシード・プラズマ・ドライバー!! 」

ケルベロスは吹き飛ばされてビルの壁に叩き付けられた・・スパークや放電や小爆発を起こしながら立ち上がると唸り声を挙げながらWに襲い掛かろうとしたが、グレートとピュンマがスーパーガンのビームパワーを最も集束させて、同時にケルベロスの身体を撃ち抜き、爆発四散させた・・・。

妖機械獣グシオスβ(ベーター)3とサーペンターΙ(イオタ)6が眼から破壊光線を照射しながらも口から溶解液を吐き掛けてきた・・ボルテスがグランド・ファイヤーで溶解液を吹き飛ばし、ザンボットがカッターで破壊光線を逸らせた・・・。

「・・超電磁ストリング!! 」ボルテスが両手でストリングを2本引き出し、ドラゴΩ(ガメオ)1とパルピアΠ(パイ)7が発射したミサイルを叩き落し、右手のストリングをグシオスβ(ベーター)3の首に巻き付けると思い切り手前に引っ張り、「・・グランド・ミサイル!! 」腹部からミサイルを発射して叩き込んだ・・。

同時にザンボット3がボルテスの右側からグシオスに肉迫して、カッターでグシオスの首に深く斬り込んだ・・傷口から大出血させて鋭い叫びを挙げるグシオス・・。

「・・天空剣!! 」ボルテスVが天空剣を現出させ、そのまま大上段に振り被り・・「・・天空剣!一文字斬り!! 」超高速でグシオスの至近に迫り、一刀一文字に斬り込んでグシオスの首を胴体から切り離すと同時に、深く真一文字に斬り込んだ・・。

深く斬り込んだ勢いごと天空剣の刃がグシオスの胴体を切り裂き、天空剣と共にボルテスがグシオスを通り過ぎると、天空剣をコートしていた超電磁破砕フィールドのエネルギーがグシオスを切り裂いた傷口に残り、それが白く光って浮かび上がると次の瞬間、爆発して四散した・・・。

「・・超電磁ストリング!! 」ボルテスVがもう一度両手でストリングを引き出し、それを鞭のように振るって右のストリングでミノスΜ(ミュー)7を上下・左右から連続して叩き、左のストリングでケントールγ(ガンマ)7を斜め上下のX字に連続して叩いた。

「・・超電磁コマ!! 」続けてボルテスVの腹部が開き、4個の超電磁コマが射出された・・右手のストリングをコマの一つに巻き付かせて回転を加速し、カッターを展開させてミノスΜ(ミュー)7に叩き付ける・・超電磁コマのドリルとカッターがミノスΜ(ミュー)7のボディーを貫通し、切り裂いて弾き飛ばす・・。

同時に左手のストリングもコマの一つに巻き付かせてその回転を加速させ、カッターを展開させてケントールγ(ガンマ)7に叩き付けた・・ケントールγ(ガンマ)7のボディーもコマのドリルに貫かれ、カッターに切り裂かれて弾け飛んだ・・。

続けて左右のストリングを再び二つの超電磁コマに巻き付かせ、思い切り引き寄せると最大の回転加速を掛けてパルピアΠ(パイ)7に二つとも叩き込んだ・・。

パルピアΠ(パイ)7は一つのコマにドリルごとそのボディーを貫通され、もう一つのコマのカッターで、深く・長く・大きく切り裂かれた・・。

「・・天空剣!・・唐竹割!! 」再び天空剣を大上段に構えて妖機械獣に肉迫すると、真一文字にパルピアΠ(パイ)7を左右に両断した・・超電磁破砕フィールドのエネルギー粒子の残光が真っ直ぐに残り・・爆発四散して左右に散った・・。

「・・ザンボット・ムーン・アタック!! 」ザンボット3の頭部にある三日月形にプラズマ・イオン粒子光が凝集し、増大し、増幅してプラズマ・イオン・フィールドが三日月形のまま頭部の三日月形から分離すると・・ゆっくりと回転しながらミノスΜ(ミュー)7とケントールγ(ガンマ)7の周囲を一周ほどして、超急激な方向転換と超急激な急加速を見せて2体の妖機械獣のボディーを瞬時に貫通して反対側に抜けると・・プラズマ・イオン・フィールドが崩壊して急速に拡散して消滅すると次の瞬間、2体の妖機械獣は爆発して四散した・・。

青面金剛が泰山府君を右肩に乗せ、咆哮を挙げて突進して来た・・その前にディケイドが立つ・・ライド・ブッカーから響鬼のカードを取り出すと、ドライヴァーに挿し込んだ・・「・・カメンライド・響鬼! 」・・ディケイド響鬼にカメンライドして、音撃棒を取り出す・・「・・音撃棒・・烈火! 」・・「・・鬼棒術・火焔烈火魂弾! 」・・音撃棒を振るい、先端の鬼石から火焔烈火魂弾を連続して放って泰山府君に叩き込み、青面金剛の右肩から叩き落した・・。

『臨!』・『兵!』・『闘!』・『者!』・『皆!』・『陣!』・『烈!』・『在!』・『前!』・『行!』・・

慈空阿闍梨が四度(四度)、十字発勁の真言を唱えつつ十種類の印を次々に結び、黄色陽炎発勁光を、その手許で増幅・増大させていく・・。

宮毘羅(くびら)大将が慈空阿闍梨の右側に立って弥勒菩薩の印を組み、真言の詠唱に入る・・『・・オン・マイタレイヤ・シュチリ・キャラロハ・ウン・ケン・ソワカ・・』そして、その印を組む手許で、紫白陽炎光が集約増大していく。

伐折羅(ばさら)大将も慈空阿闍梨の左側に立って勢至菩薩の印を組み、真言の詠唱に入る・・『・・ノウボク・タリツ・ハラボリツ・シャキンメイ・タラサンダン・ソワカ・・・』そして、その印を組む手許で、青紫陽炎光が集約増大していく。

「・・僕の存在を・・忘れて貰っちゃ困るね・・・」

ディエンドがパワーアップ・ディエンドカードとファイナル・アタックカードを続けてドライヴァーに挿し込み、青面金剛に狙いを付ける・・・。

「・・ファイナル・アタックライド・ディ、ディ、ディ、ディエンド!! 」

ハイパー・ディメンション・シュートが・・ディメンション・パワーを増大させていく・・。

「・・破ァ!!! 」ハイパー・ディメンション・シュートと三つの陽炎発勁光破がフルパワーで放たれ、青面金剛に集中して吹き飛ばした・・。

続けてディエンドは響鬼のカードをドライヴァーに挿し込んで響鬼を召喚すると、ディケイドも響鬼のカードをドライヴァーに挿し込んだ・・。

《ファィナル・フォーム・ライド・響鬼!!》 「・・ちょっとくすぐったいぞ!! 」

ディケイドはディエンドが召喚した響鬼をヒビキアカネタカにファィナル・フォーム・ライドさせて、泰山府君に向かわせる・・・。

ヒビキアカネタカは泰山府君に対して、炎を纏って突撃する攻撃を4回繰り返して行い、5回目には泰山府君を下から掬い上げて突き上げ、もう一度強力に下から突き上げて焔と共に叩き落した・・。

ディケイドは響鬼のファイナル・アタックライド・カードをドライヴァーに挿し込んだ・・。

《・・ファイナル・アタックライド・響鬼!! 》

ヒビキアカネタカがヒビキオンゲキコに形態を換えて、下に落ちて仰向けになったままもがいている泰山府君に貼り付いた・・。

ディケイドが響鬼の音撃棒・烈火を両手に持ち、もがいている泰山府君に駈け寄ると音撃打の構えを執った・・「・・火焔・連打の型! 音撃打! 爆裂・猛火・怒濤・連打!! 」

全身を使い、渾身の力を引き出して清めの音撃をヒビキオンゲキコに媒介させて泰山府君に叩き込む・・30連打程の音撃の末に、止めの双撃打を叩き込み、泰山府君を爆散させた・・爆発を避けて飛び立ったヒビキアカネタカが響鬼に戻って着地し、やがて消散した。

青面金剛が再び咆哮を挙げて突進して来たが、V3がスクリュー・マッハ・キックを右斜め前から決め、Xライダーがハイパー・エクストリーム・キックを正面から決め、オーズがタジャドル・コンボでプロミネンス・ドロップを左斜め後ろから決め、Wがファングジョーカー・モードにチェンジし、タクティカルホーンを5回弾いてファングメモリにハイパー・マキシマムドライヴを駆けると、ハイパー・ファングストライザーを青面金剛の左斜め前から決めた・・青面金剛はゆっくりと後ろに倒れると爆発四散した・・・。

その直後に魔獣と化した羅誐(ラーガ)が雄叫びを挙げて突進して来た・・右二つの拳でV3を殴り付け、蛇身の尻尾を叩き付ける・・何とか踏み止まったが左二つの拳でも殴り付けられて、堪らず片膝を突いた・・バックスピンで加速を掛けて反対側からも尻尾を叩き付けようとした刹那、ガイバー1が跳び込んで来て尻尾を受け止め、その力を利用して羅誐(ラーガ)を投げ飛ばそうとしたが、羅誐は尻尾を細長くしてガイバー1に絡み付けると力を込めて締め上げ始めた・・2回ほどパワーで振り解こうとしたガイバー1だったが、3回目には両腕の高周波ソードで切り開こうとした・・「!ソードが効かない!!」

「・・フッハッハッハァッ・・そんなものがこの鋼鉄の身体に効くと思うか?! 」

「・!それなら・・!」と、口部金属球(バイブレーション・グロウヴ)を起動し、振動波で羅誐(ラーガ)の身体をスキャンして羅誐の固有共鳴周波数を割り出すと、それと同調する振動波「ソニック・バスター」を発生・放射させて、羅誐の身体の分子結合に打撃を加え、同時に再度両腕の高周波ソードを振るって羅誐の尻尾をズタズタに斬り飛ばした。

それを見た慈空阿闍梨は、一本の金剛独鈷杵を取り出すと、カミュに見せた。

「・・カミュ殿・・今からこれを投げ上げますので、貴方の冷凍気で硬く凍らせて頂けませんか・・?・・」   「・・承知しました・・」

続けてジョーにも金剛独鈷杵を見せた。

「・・ジョー君・・今からカミュ殿がこれを凍らせるから、君は最大加速でこれを奴に投げ付けてくれんか・・?・・」   「・・分かりました・・」

次に慈空阿闍梨はその場から全員を見渡して号令した・・。

「・・ジョー君が凍らせたこれを奴に投げたら、陽炎発勁や気功破が撃てる者は全員で独鈷杵を撃って気を込めるぞ!! 」

そう言って慈空阿闍梨は金剛独鈷杵を投げ上げた・・。

「・・フリージング・コフイン!! 」

アクエリアス(水瓶星座)のゴールド・聖闘士の冷凍気が、金剛独鈷杵を絶対零度に凍て付かせる・・落ちて来た氷漬けの独鈷杵を右手でキャッチして・・「・・最大加速!! 」

ワインドアップモーションで脚を高く上げると、超加速で投げた・・。

慈空阿闍梨と薬師12神将の全員が陽炎発勁を撃って金剛独鈷杵に集中させ、更にガイバー1がプレッシャー・カノンを放ち、ディエンドがディメンション・シュートを撃ち込んで独鈷杵を加速させ、力を込めた・・。

4本の手と腕で防御しようとした羅誐だったが、凍硬極破弾となった金剛独鈷杵は、瞬時に貫通し羅誐の頭部も貫いて、独鈷杵の先端部分が後頭部から突き出た・・。

瞬時に体内に送り込まれた発勁凍極破の力が、羅誐の蛇身を引き裂いて爆発させた・・。

羅誐の上半身は完全に吹き飛んで跡形も無くなったが、まだ蛇身の下半身はズタズタに引き千切られてはいたが、バタバタと暴れ狂っていた・・。

メガ・スマッシャーを撃とうとしたガイバー1を制してWがファング・ストライザーを・・ディケイドがディメンション・キックを決めて爆発させた・・。

その爆発点で何かを見咎めた慈空阿闍梨が近寄って拾い上げると、蛇身の魔物が独鈷杵に貫かれて半死半生でもがいていた・・。

「・・哀れな・・これが羅誐に取り憑いていた魔物じゃよ・・奴らは力を欲する余りに闇の者共を自らに取り憑かせる事で契約を交わし、身も心も闇の魔物となった・・それが奴ら・・六道衆なのじゃよ・・・」

誰に語るでもなくそう言うと、慈空阿闍梨は左手で大日如来の印を組み、真言を唱えた。

「・・オン・アビラ・ウン・ケン・ソワカ・・・」

大日如来の陽炎光が死に掛けの魔物を浄化し、跡形も無く昇華させて消し去った・・・。

人工太陽が淡く灯る天蓋は遙かに高く、遙かに広く、遠く彼方まで拓かれている・・。

暗黒雲が敷き詰められた天蓋の空は稲妻が縦横に走り、稲光に照らし出される漆黒の雲は墨を流したようにも観える・・・。

過剰で華美な意匠は無いが周囲を畏怖・威圧させる力は充分に感じさせる超巨大な城が屹立している・・。

その城の上段には城主の広間があり、広間の中央には巨大な玉座も設えられてはいたが主の姿はそこには無く、その広間からそのまま城の外にまで張り出す巨大なテラスの上に、主の姿はあった・・。

その姿は、今正に戦場に躍り出ようとする強力な武人そのものであり、甲冑に身を固め幅広で長大な直刀を腰から提げた、超巨大な体躯で立ち、腕を組んで外を観ていた・・。

「・・ふん・・やはり駄目だな・・遅すぎる・・バーディアン!! 」

「・・はっ・・ここに・・・」

「・・オベリウス・・オルピィ・・バトラス・・キリニアを率いて征け・・強襲して奪取し・・もう一撃を加え、離脱して持ち帰れ・・それ以上の事はするな・・立ちはだかる者は排除せよ・・こちら側の者が異議を唱えるようなら・・処置は任せる・・敵が増援を呼ぶ前に帰還せよ・・・」

「・・はっ・・直ちに・・・」

死の恐怖に駆られたGODのキマイラが、片足を引き摺り、左脇腹から出血させ、血反吐を吐きながらも、何とかもがいて逃げ出そうとしていたが、その様子をン・ダグバ・ゼバに見咎められ、呼び止められるも無視して走り去ろうとしたので、ン・ダグバ・ゼバは自身の超自然発火能力でキマイラを体内から発火させ、燃え上がらせた・・。

耳に障る悲鳴を挙げながら、それでも走って逃げ去ろうとするキマイラに、アポロガイストはガイストカッターを真上から叩き落して左右に両断し、爆発四散させた・・。

この時、ガイスト・シールドも限界を超え、粉々に崩壊して四散した・・。

【・・皆聞いて! 空自のスクランブル・チームが到着するわ! もうビッグファルコンとキングビアルを通じて、空自のスクランブル司令部には連絡を入れてあるから、スクランブル・チームの指揮官とは私が話をして、こちらを援護して貰います・・攻撃を続行して下さい!! 】・・・フランソワーズの声が頭の中で響いた・・。

「・・チェーン・ナックル!! 」ボルテスVが両手首から鎖分銅を撃ち出し、妖機械獣サーペンターΙ(イオタ)6の首と胴体に巻き付かせて、思い切り引き寄せる・・。

「・・グランド・ファイヤー!! グランド・ミサイル!! 」

火焔の奔流と大型のミサイルが叩き込まれる・・・・。

「・・バスター・ミサイル!!・・・・ザンボット・カッター!! 」

ザンボット3がバスター・ランチャーを3回転させて、24発のバスター・ミサイルを撃ち込み、続けてカッターで斬り込む・・。

サーペンターΙ(イオタ)6の首の、半分近くにまで斬り込んだ・・。

「・・天空剣!! 一文字斬り!! 」ボルテスVが天空剣でサーペンターΙ(イオタ)6のボディーを真一文字に切り拓く・・天空剣の刃にコートされている、超電磁破砕フィールドのエネルギー粒子の残光が真っ直ぐに残り・・爆発四散して左右に散った・・。



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東京・西新宿攻防戦 6

その時、上空に空自の強行偵察機が現れた・・。

『・・こちら、中空SOC、強行偵察大隊所属のSWRC605・・今現場に到着した・・ビッグファルコンのエージェント、003、応答を乞う・・繰り返す・・こちら、中空SOC、強行偵察大隊所属のSWRC605・・現場上空に到着・・ビッグファルコンのエージェント、003、応答してくれ・・』

【・・こちらビッグファルコンのエージェント・003、来援に感謝します・・現在、テロリスト部隊と交戦中・・彼らの目的は発掘品保管庫です・・奪わせる訳にはいきません・・戦闘隊6機には・・ボルテスVとザンボット3を援護して、敵の機械獣集団への攻撃をお願いします・・また、爆撃隊3機には・・敵の怪人地上部隊への攻撃をお願いします・・】

『・・こちらSWRC605・・エージェント・003・・要請は了承した・・君達と敵対するテロリスト部隊集団との位置関係・・それぞれの規模と状態は把握して確認した・・敵テロリスト部隊集団に対してこちらはミサイル攻撃を敢行する・・少し距離を取ってくれ・・』

【・・こちらエージェント・003、了解しました・・WRC605、援護を感謝します・・皆、聴いたわね! 少し距離を取って!! 】

空自のスクランブル高速戦闘機3機が、第1波ミサイル6基をユニコーンΣ(ミュー)2に集中させる・・ゴーゴン大公が鞭からの雷電撃と巨虎の眼からの破壊光線で4基を撃ち落としたが、2基は命中した・・ヴァルカン砲撃を集中させて離脱する・・次にスクランブル制圧戦闘機3機が、第1波ミサイル6基をアポロンΑ(アルファー)1に集中させる・・3基は撃ち落としたが3基は命中した・・戦闘爆撃機3機が生き残りの同盟改造体集団の上に第1波の空対地ミサイル6基を発射した・・ン・ダグバ・ゼバ・・大聖歓喜天・・倶摩羅・・ゼロ大帝・・シャドウムーンが上方に向けて張り巡らせた防御シールドで何とか防ぐ・・ン・ダグバ・ゼバと倶摩羅が後尾にいた1機のエンジン2基を異常発火させて爆発させる・・高度を維持できず、失速して墜落寸前に陥った爆撃機を、ジェットとガイバー1とキカイダーと01が何とか支え、最後にボルテスVが機体を抱えて地上に降ろした。

ピュンマ・グレート・ガイバー1・ファイズ・カイザが機体の中に入り、乗員を全員救出した直後に、エンジンが爆発して機体は炎上した・・・。

『・・こちら、SWRC605・・諸君の救援・救助に感謝する! ありがとう! 反転して再度の攻撃に入る! 』

【・・了解だ! 全機は取敢えず妖機械獣に攻撃を集中してくれ! ボルテスVとザンボット3が援護する! 地上の敵テロリスト部隊に対しては、こちらの地上部隊が攻撃を掛ける! 】   ボルテスVの頭部の中で、郷 健一が指令する・・。

『・・こちら、SWRC605・・了解した! 全機は反転して敵機械獣集団に対し、再度の攻撃を集中する! 』

「・・阿闍梨さん・・歓喜天って奴を斃さないと、カミュの具合が善くならないよな・・?・・俺達がバラバラな攻撃をバラバラな相手に対して仕掛けても、時間が掛かるだけで効果は薄い・・ここからは分担してやろう・・・」   「・・ああ・・良いじゃろう・・」

「・・島村先輩・・00ナンバーの諸先輩方は、ン・ダグバ・ゼバを抑えて下さい・・ユウスケと翔一を付けます・・」  「・・分ったよ・・」

「・・風見先輩と神先輩と南先輩は、ゴルゴムの奴ら、5体に当たって下さい・・俺と深町君と獅子丸さんとジローさんが入ります・・」   「・・了解だ・・・」

「・・海東! お前は他のライダー・チームを率いて、ゼロ大帝・アポロガイストを含む、他の奴らを抑えてくれ・・イチローさんにも入って貰う・・そっちが早く終わったら合流してくれよ・・」   「・・ああ・・面倒臭いけど、分かったよ・・」

「・・と言う訳なんで、阿闍梨さん・・済みませんが・・裏高野の皆さんで、倶摩羅と歓喜天を頼みます・・こっちが早く終われば合流します・・・」

「・・ああ・・分かった・・望むところじゃよ・・・」

「・・私も・・入る・・」そう言うカミュだったが、顔色は悪い・・。

「・・ああ・・歓喜天への最後の止めは、あんたに頼む・・それまで、力を溜めておいてくれよ・・キャシャーン!! 聴こえるか?! どこにいる!? 」

【・・ああ、よく聴こえる! 成層圏を暫く飛んでいたんだが・・あと3分で戻る! 】

【・・もう大丈夫なのか? 】

【・・もう大丈夫だ・・ちょっと一気に力を使い過ぎた・・次は気を付けるよ・・】

【・・分かった・・君はフレンダーと一緒に、ザンボット3・ボルテスVと妖機械獣に当たってくれ・・こっちには構うな・・気にしなくて良い・・】

【・・了解だ・・気を付けて・・】  【・・お互いにな!・・】

「・・よ~し、それじゃみんな!! いくぞ!! 」

反転して来た空自の高速戦闘機と制圧戦闘機の6機が第2波ミサイル12基を発射し、残っている妖機械獣3体に集中させる・・妖機械獣・ユニコーンΣ(ミュー)2・アポロンΑ(アルファー)1・ドラゴΩ(ガメオ)1がそれぞれ両眼から破壊光線を発射して迎撃したが、撃ち洩らした5基がドラゴΩ(ガメオ)1に命中した・・。

「・・おのれえ!! そこをどけえ!!! 」

ユニコーンΣ(ミュー)2の背に乗っていたゴーゴン大公は、そう絶叫すると背を蹴って大跳躍し、中空を駆け上がりつつ鞭を振るい、フルパワーでの雷電撃を放つ・・。

「・・天空剣!! 中天招雷!!! 」

剛 健一がそう叫び、ボルテスVが天空剣の切先を勢いよく中天に突き上げる・・ゴーゴン大公が放った雷電撃も含めて、十数条の落雷光が天空剣の刃に吸い寄せられ、雷電パワーが蓄積される・・。

「・・ウルトラ・ハイパー・マグネトロン・インジェクター、オン! 」

次兄の剛 大次郎がコールする・・超電磁パワーが増幅と凝縮を繰り返しながらボルテスの両腕を通じて、天空剣に集中していく・・。

そして、天空剣の上で超電磁加重増幅凝縮球体が生成される。

「・・超電磁・・ボーーール!!! 」

ボルテスVが超電磁ボールを天空剣から撃ち出し、ドラゴΩ(ガメオ)1に叩き込む。

「・・天空剣!・・袈裟懸け両断!!・・」

ボルテスVが天空剣を正眼に構えながらドラゴΩ(ガメオ)1に急速接近し、右斜め上から斬り込んで左斜め下まで斬り払って、両断した・・。

左右に両断した妖機械獣の間を、そのままの勢いで通り抜けたボルテスVが一点回頭で反転する・・天空剣の刃にコートされている、超電磁破砕プラズマ・フィールドのエネルギー粒子の残光が、別れつつある左右の両断面に沿って残り・・やがて消えると爆発四散して左右に散った・・。

ン・ダグバ・ゼバに対峙して、00ナンバー・サイボーグが立つ・・その間にはグロンギの『ゴ』種族から、ゴ・ジャーザ・ギ、ゴ・バベル・ダ、ゴ・ガドル・バ、ゴ・ザザル・バ、ゴ・ジャラジ・ダ・・『ラ』種族から、ラ・ドルド・グが、ン・ダグバ・ゼバを守るようにして立ちはだかる・・フランソワーズはカミュと共に後方にいたが、アギトとクウガが00ナンバーたちの後ろに駆け付けた・・。

ン・ダグバ・ゼバが3歩前に出る・・「・・機械仕掛けのリント・・とでも言うのかな・・?・・面倒な事をしたものだね・・戦う力が欲しいのなら、グロンギになれば済むのに・・」

「・・俺達をお前らなんかと一緒にするな・・戦う力と戦いと・・殺しの欲望に呑まれ果てたお前らなんぞとは違うんだ!・・」・・ジェットが1歩踏み出して言う・・。

「・・そうだ!・・僕たちは理性を保った人間だ・・理性を捨てて忘れ果てた・・お前達とは違う!・・」・・ジョーも1歩を踏み出して言った・・。

「・・何も違わない・・グロンギとリントは等しいんだよ・・その・・本質・・と言うのかな・・?・・その部分に於いてはね・・違っているとすれば、感じ採れているかいないか・・理解できているかいないか・・あとは価値観・・と言うのかな・・?・・そんなところだろうね・・昔のリントは強かったよ・・感じ採れる術でも・・理解して活用しようとする術でも・・僕達と・・リントのままでも互角以上に亘り合える者も中にはいた・・あの・・聖闘士(セイント)と言うのかな・・?・・彼らも昔の方が遙かに強かったよ・・でもそれから・・リントは年々弱くなっていった・・でも君達は強いね・・それにクウガにアギトもいる・・比べて今の僕達はこれだけだ・・昔のリントが創ったグロンギ擬きのミイラを持って帰るために・・これ以上命を賭けるつもりは・・正直に言うと無い・・それに僕にはやっておきたい事と言うか・・会っておきたい者がいる・・もう一人の『ン』にね・・彼に会うためならこの命を賭ける事になっても・・止むを得ないだろう・・彼は今、君達が言うところの・・パミールとか言う地で眠っている・・多分君達とも・・そこでまた会う事になるだろう・・それまでこの戦いの決着は・・預けて置く事にしよう・・」

そう語り終えるとン・ダグバ・ゼバはゆっくりと一歩ずつ後ろに退がり始めた・・間に立っていた高位のグロンギ達も倣って退がり始める・・前に出ようとするジェットをジョーが・・アルベルトをピュンマとグレートが制した・・15歩ほど後退したところでン・ダグバ・ゼバは右手を軽く挙げると、他の高位グロンギ達と共に踵を反して走り去った・・。

「・・冷静な奴だな・・」・・アルベルトが感心しように言う・・。

「・・ああ・・ギリギリの局面で冷静な奴は強い・・」

ピュンマも感じ入ったように、スーパーガンをホルスターに収めながら言った。

「・・自分を弁える者は、冷静で強い・・この次に相対した時・・ほんの少しの差が勝敗を分ける事になるかも知れない・・」

ジェロニモがグロンギ達が去って行った先を、見晴るかしながら言った。

「・・だけどおかしいじゃないか・・?・・伏魔塔を地上に引っ張り上げるにゃ、凶皇仏が必要なんだろ・・?・・今の話じゃ、別に無くても良いような感じだな・・・」

と、グレートが訝って言う・・。

「・・同盟全体としての立場で言うなら、無くても出来るがあった方が安く済むって感じじゃないかな・・ここに来てる奴らの中でも、凶皇仏に執着しているのは・・六道衆と、ショッカー由来の改造体組織だけだろう・・?・・」と、アルベルトが応じた・・。

「・・ああ・・同盟の幹部会でもここに来ているのは、ミケーネスとシャドウだけだ・・他は、興味が無いみたいだしな・・・」と、ジェットが首を鳴らして言った・・・。

「・・と、言う事は・・パミールでの作戦での冒頭で、こちらの艦隊が軌道上から攻撃して八葉の陣を潰しても、奴等にはプランBがあるって事か・・?・・」

と、ジョーが虚を突かれたように宙を見上げる・・。

「・・同盟幹部会の構成組織は昔から裏では好き勝手にやっていたからな・・それに凶皇仏程度のモノなら、創ろうと思えばすぐにでも出来るんだろう・・」と、ピュンマ・・。

「・・特に、大魔帝国・・クロノス・・BF団なら、そう難しくはないだろう・・」

と、ジェロニモが腕を組む・・。

不意に脳波通信とは違うタッチの声が頭の中で響いた・・テレパシーだ・・。

『・・僕も君達と同じ考えだよ・・と言うより・・マシーンとも共同して、亜空間ネットワークを通じ、同盟の動きを可能な限り探っていたけど・・どうやら同盟幹部会は・・八葉の陣に代替する体制を構築しつつあるようだ・・』

『・・イワン!・・起きたのか・・・』

『・・ああ・・この件に関しては、僕から榎本さんに伝えておくよ・・だから君達は出来るだけ早く争乱を終らせてくれ・・・』    『・・ああ、解ってる・・・』

そしてジョーは全員に向き直り、それまでの会話を遮って振り切るように口を開いた・・・。

「・・僕とジェットで士君のチームに入る・・アルベルト、ジェロニモ、グレート、ピュンマは、海東君のチームに入ってくれ・・ユウスケ君と翔一君には、裏高野の皆さんの支援を頼む・・皆、それで良いな! よし、行こう! 」

ジョーが、その場の全員を見渡して割り振った・・そして、ジェットに目配せで合図をすると・・「・・加速装置!! 」一陣の風を捲き起こして、二人ともその場から姿を消した。

 

 




修正して加筆しました。


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