名古屋鎮守府付属艦娘学校 (gifu-no-hito)
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第1章 艦娘たちが勉強を始めるようです
001 設定


【名古屋鎮守府の人々】

叢雲 名古屋鎮守府所属。通称:姐さん。勉強はする理由がなくてやってなかったけど提督が着任してからはちゃんとするようになった。得意科目は数学。姐さんと呼ばれる理由は後ほど。。。

 

金剛 横須賀鎮守府所属。天然でいながらけっこう頭が良く、ふとした時に突然周りを驚かせるような天才ぶりを発揮する。得意科目は英語

 

【艦娘学校の教員】

妙高 重巡級担任。提督主催の教員採用試験を一発でクリアする秀才。かなり努力の人。優しいながらも厳しい指導で重巡艦娘を指導する。得意(指導)科目は国語、社会、鎮守府運営、秘書艦学。

 

那智 妙高と同じく艦娘学校教官。妙高よりは厳しいが、的確なアドバイスができる実技向けの人。酔うと人が変わる。

得意(指導)科目は全艦娘共通の射撃実習。

 

足柄 艦娘学校教官。最初は何もできずに落ちこぼれおり、天才肌の羽黒に引け目を取っていたが、血の滲む努力で教官のポジションを獲得。得意科目は数学(本人曰くコツさえつかめばどうにでもなるらしい)指導科目は数学、理科、応用数学、応用物理学。

 

羽黒 妙高型唯一の教員ではない。天才肌で通常の3倍速で艦娘学校を卒業した。本人曰く勉強は得意でも教えるの苦手らしく、名古屋鎮守府のエースとして活躍している。大きな作戦では先鋒を務めることが多い。

 

翔鶴 空母・水母級担任。奇人。被弾の多さで運の無さをいつも嘆いているが、実は名古屋鎮守府の赤城をもこえるエース・エアキャリアだったりする。得意(指導)科目は艦載機運用学、航空力学、流体力学。

 

鹿島 駆逐級担任。穏やかな性格と駆逐艦と同じ目線でやりとりができる子供好き。みんなをテストで満点取れるように指導している人気の先生。指導科目は遠征実習と水雷学。

 

香取 軽巡級担任。優しいが怒らせると鞭が降ってくる。でも授業は非常にわかりやすく、他の先生の指導も行っている。指導科目は艦隊運用学と海戦史。

 

アイオワ 全艦娘共通の英語を担当。明るく楽しい英語の授業で毎月代わる代わる英語の歌を教えてくれる。米国国防省から出向。本人は米国に帰る気はないらしい。

 

長門 戦艦級担任。名古屋鎮守府の総旗艦と兼任して教鞭を取るため授業は陸奥と共同で行う。強い艦娘を育てることを信念にしているがロリコン。毎年駆逐級の担任に志願しているが提督から拒否されている。指導科目は指揮官学。

 

陸奥 戦艦級副担任。多忙な長門の補佐でよく代打になる。たまに提督を誘惑しているがことごとくスルーされている。指導科目は指揮官学(補佐)、艦隊決戦演習。

 

望月 艦娘学校教員。唯一の駆逐艦の教員で長門と同様艦隊と兼任している。指導科目は情報リテラシ、これは提督以外で唯一パソコンとインターネットを使いこなせたため(本人はめんどくさがっている)

 

伊58 通称ゴーヤ。潜水級担任で多くの潜水艦娘から友達感覚で接されている(特に呂500)。実は潜水深度の世界記録保持者で世界一のサブマリナーだったりする。指導科目は潜水演習。

 

【現在の生徒】

瑞鶴 Lv.2 柱島鎮守府で建造されて艦娘学校へ入学を命じられてやってきた。元気な性格だが、姉が担任なのは少し複雑。加賀さんは何考えてるのかわからない。

 

加賀 Lv.18 現在最年長の生徒で横須賀鎮守府所属。艦娘寮寮長。寡黙なのは過去にあったショックが原因であり、実際はかなり優しい。瑞鶴には冷たいと思われているようだが結構可愛がっていたりもする。

 

赤城 Lv.18 呉鎮守府所属。加賀と同室でよく二人でいることが多い。加賀のフォローに回るのは日常茶飯事。名古屋鎮守府の赤城にはあったことがない。

 

高雄 Lv.15 舞鶴鎮守府所属。真面目で予習復習を欠かさない勤勉家。あまり遊ばないためか流行に疎くなることも。

 

球磨 Lv.10 佐世保鎮守府所属。独特の口癖で生徒間ではマスコットとして扱われている。球磨型の長姉の意地で先に卒業した北上には成績は負けたくないそう。

 

初春 Lv.12 名古屋鎮守府所属。大変雅なお方。でもゲーム好きで教官の望月とはよく対戦しているそうな。

 

呂500 Lv.8 ドイツからの留学生で日本語はだいぶ上達した。潜水艦のクラスはクラスメートが少ないため駆逐の子達とも仲良くなろうと努力中。ポケモン大好き。

 

この世界の艦娘は演習の回数や倒した敵の数によってレベルをあげるスコア形式です。スコアが一定以上になるとレベルが上昇し、一定レベルで改造が許可されます。

艦娘は鎮守府ごとに同名の艦が同時に存在できますが、同じ鎮守府に同じ艦が2種類以上いるダブりは認められていません(その場合は新しい方を近代化改修資材となり退役になります)。

 

【名古屋鎮守府付属艦娘学校】

名古屋港に面した場所に設立された名古屋鎮守府にある全国唯一の艦娘学校(義務教育)。修業期限は2年以内で、毎月行われる各級に設けられた全ての卒業試験合格とLv.20到達で卒業できる。期限を過ぎた場合は単位未修得退学となる。

戦力の補充などにより鎮守府に呼び戻された場合は中退となり、Lv.20到達と認定試験を合格すれば特別修了になる。

対象艦娘は駆逐艦、軽巡洋艦、重巡洋艦、戦艦、空母(正規・装甲・軽・水母)、潜水艦であり、それ以外の艦種は義務ではない(特別授業として年2回の講習がある)

全寮制で様々な鎮守府出身の艦娘が交流するため、卒業後の鎮守府間の連携は提督よりも艦娘同士の方が良かったりもする。卒業試験で優秀な成績を収めると艦娘学校教員採用試験受験資格が発生する。

 

 

全艦娘共通カリキュラム

国語、数学、理科、社会、英語コミュニケーション、秘書艦学、情報リテラシー

一般の学校に比べると戦闘に用いる内容が多い。

 

駆逐級カリキュラム

水雷学・応用数学・遠征実習・射撃実習

 

軽巡級カリキュラム

水雷学・応用数学・艦隊運用学・遠征実習・射撃実習

 

重巡級カリキュラム

艦隊運用学・応用数学・応用物理学・海戦史・艦隊決戦演習・射撃実習 (選択で指揮官学・鎮守府運営)

 

戦艦級カリキュラム

艦隊運用学・応用数学・応用物理学・海戦史・指揮艦学・艦隊決戦演習・鎮守府運営・射撃実習

 

空母級カリキュラム

艦隊運用学・海戦史・応用数学・応用物理学・流体力学・指揮官学・艦隊決戦演習・鎮守府運営(選択)・航空力学・艦載機運用学

 

潜水級カリキュラム

潜水実習・流体力学・応用数学・応用物理学・射撃実習

 




初投稿ですがよろしくお願いいたします。
ずっと書きたかったものが書けるって幸せ(小並感)


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002 突然の着任

いつものように艦これをプレイしようとした男子大学生。しかし画面の中から待っていたものとは...!?


それは突然のことだった。

 

僕はいつものように艦これをプレイしようと艦これの画面を開いた時、ログイン画面に違和感を感じた。。。

「あれ、なんかログイン画面おかしくね?」

いつもなら青緑の背景に吹雪を中心に赤城、最上などが並んだログイン画面。しかし今日はなぜか叢雲が一人ポツンと立っていた。

しかも叢雲こっち見てるし。こっち見んな。いや睨むなよ、姐さん。

「仕様かな?まあいいや」

特に気にせずにGAME STARTのボタンを押すと、画面がいきなり光りだした。

「うわああああ!!!!」

そして僕は異世界に飛ばされることになった。

 

「いってててててて。。。」

気がつくと僕はコンクリートの上に寝っ転がっていた。どうやら長い時間気を失っていたようだ。太陽はすでに没していた。

あたりを見回すと、どことなく見覚えのある風景。赤茶色のクレーン、三角屋根の倉庫。。。あれ、これって艦これのホーム画面から見えるアレじゃね?

「やっと目を覚ましたのね。探したわよ」

声をする方を振り向いた。そして首をふって、頬をつねってみた。うん、痛い。現実だ。

そしてもう一度目を開けるとそこには。。。。

 

叢雲が立っていた。

 

 

「mjkmjkmjkmjkmjkmjkmjkmjkmjkmjkmjkmjkmjkmjkmjkmjkmjkmjkmjkmjkmjkmjkmjkmjkmjkmjk」

おどろいて声が出ない。Lv.42。艦これを始めて初めて手に入れた初期艦が立っていた。あ、mjk(マジか)言ってるから声出てるか。

「なんで姐さんがそこにいるんだ!!てかここどこだ!!!」

「ここはあなたの鎮守府。あなたがここにいるのは私が呼んだからよ、クサレ提督!!一体いつになったら真面目に艦隊運用するつもりなの!?」

 

あー、完全にご立腹していらっしゃる。ここ最近忙してろくに運用してなかったもんな。うん、工学部だからしょうがない。

とりあえず、姐さんをなだめるか。

「あー、ごめんな。現実(リアル)の方が忙しくてね」

「そんなんだったら最初から提督業なんてしなければいいじゃない。全く、何ヶ月も放置するわ、たまに運営始めたかと思えば大型艦建造で一気に資材を枯渇させるわ、遠征帰りの子達を何ヶ月も待たせるわ、数えていったらキリがないじゃない!!」

「ほんとサーセン」

「。。。はぁ、全く。これで提督クビにならないなんて一体大本営は何を考えてるのかしら」

あれ、艦これってこんなにヤバいゲームだったっけ?ていうかゲームってこんなに追い詰められるものだったっけ(汗)

「でもこっちに呼んだからにはもう逃げられないわよ。これからきっちり仕事してもらうからね!覚悟なさい!!」

「ウス」

「返事は『はい』!」

「はい!」

「さあ執務室へ行くわよ。ついてらっしゃい」

こうして叢雲姐さんにしょっぴかれるまま執務室に連行される提督であった。




他の理系もそうですが、工学部って本当に忙しいんですよね。バイトもしてるとなかなか時間が取れないことも多いです。

【次回予告】
執務室に連行された提督を待ち受ける艦娘の現実とは!?
はたしてこのままで艦隊運営はできるのか!?

次回.
「てめら、学がなさすぎる!!勉強しろ!!」
「え、やだ。めんどくさい」
「じゃあお前たちのために学校作ってやるから覚悟しておけ」

学校ができます。


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003 学校をつくろう!!

しょっぴかれた提督は艦娘の現実に絶句
そしてある決断をする!!


叢雲によって鎮守府庁舎に連行された提督はあることに気がついた。

「あれ、いつもホーム画面から見えているとこはそのままだけど、それ以外のとこって標識ひらがななんだ?」

「あぁ、あれは字が読めない子のために使っているのよ。ていうかほとんどの子は漢字読めないわよ」

「え!?」

 

聞いて見たらなんとほとんどの子は

・漢字読めない

・計算できない

・射撃は当てずっぽう

いままで提督の指示なしにはまともに運用することすらままならなかったようだ。

 

「mjk...」

 

つい口癖がでてしまった。それもそのはず、彼女たちは鋼の船体からいきなり人の体を持ち、言葉を話し、目で万物を視認できるようになったのだ。それも真っ当な指導も無しに。

 

「それじゃ、任務画面の大淀はどうなってんだ?」

「あの大淀さんは大本営の人だからそれなりに教えてもらっているわ。そこからどうやってかしらないけど、私たちに指令がきて羅針盤回したところに進撃して行くのよ」

「それじゃ、あの射撃は。。。まさか当てずっぽうで撃っていたのか」

「そうよ」

おそるべし艦娘の幸運。雪風だったら宝くじ100戦100勝できるんじゃないかな(汗)

 

「まあ、いままでそんな感じでやってこれたし、どうにかなるんじゃないの?これからはアンタもいることだし」

冗談じゃないよ姐さん、まずはここの子達に仕事に支障が出ないように最低限の教養は身につけてもらわなければ。

 

「とりあえず全員に挨拶しておきたい、食堂に集合かけておいてくれるか?」

「了解よ」

 

 

ー10分後ー

ほとんどの艦娘が食堂に集まってきた。僕は無課金提督だから人数は100人以下に常に抑えてある。だから艦種で強い子はあまりいないけど練度はそれぞれ鍛えてきたつもりだ。ちなみにうちの最高練度は陸奥のLv.59、叢雲は駆逐艦最高のLv.42だ。うん、あまり練度上がってないな。もう1年経つのに。。。

 

「遠征艦隊以外は全員集まったことだし、そろそろ始めたら?」

「そうだな」

そう言いつつ、僕は前に出る。

そして言った。

 

「ドーモ、皆サン、提督デス」

 

ところどころ笑いが起きてる。叢雲は頭を抱えていた。うん、ツカミは上々。

「さて、冗談はここまでにして今日ここに叢雲から呼ばれて飛ばされてきた提督だ。まずみんなに聞きたい。

漢字が読める子は手を上げてくれるか?」

だれも上がらない。

「計算ができる子は?」

またも誰も上がらない。

「最後に、出撃任務はどうやっていた?」

「そんなの羅針盤回して当てずっぽうデース!!」

元気よく答えてくれたのは金剛だった。

「そうか、わかった。ではこれからの方針をみんなに伝える」

 

 

「出撃任務・遠征任務は全面停止。演習以外は機関を始動させることも禁ずる」

 

 

ざわざわ。みんなが顔を見合わせている。

「じゃあ何をするっていうんだ!?」

威勢良く聞いてきたのは摩耶だった。そして僕は大きく息を吸い、答える。

 

「お前ら全員、勉強しろおおおおおお!!!!」

「なにー!!!!!」

 

こうして艦娘学校は開校することになった。




はい、ということで艦娘学校開校です。ですが、この鎮守府のメンツが勉強してるところは省かせてください(ごめんなさい)。
次回からはちゃんとしたカリキュラムを組んで、正式に艦娘学校として機能しているところから始めたいと思います。

よみかきそろばん、マジ大事(いまはそろばんより計算能力ですけどね)

【次回予告】
艦娘学校が設立されて数年。そこへ新たな艦娘が入学してきた。
艦娘たちによる勉強ライフ。
勉強好きな提督と勉強嫌いな艦娘たち、果たして艦娘たちは脱・KY(漢字が読めない)できるのか?

次回:
「ここが艦娘学校かあ」
「ようこそ、いらっしゃい。楽しい勉強ライフへ」
「え、やだ、めんどくさい」


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004 ニューカマー見参!!

提督が(リアルに)着任してから数年が経過したある日。艦娘学校に柱島鎮守府から一人の艦娘が送られてきた。
その艦娘が待ち受ける艦娘学校の現実とは!?


あれからもう数年、悪夢のようにアホの子揃いだった艦娘たちは皆日常業務に支障が出ない程度まで成長してくれた。

教えたのは「読み書きそろばん」。人間が日常生活する上で絶対に必要になる3分野だ。

とりあえずKY(漢字が読めない)だったみんなに漢字を覚えてもらうには読書が一番良かった。近隣の居住区の方から読まなくなった本を譲ってもらい、ひたすら漢字を読む練習をした。

特に羽黒は覚えるスピードは群を抜いて早かった。彼女は半年で小学生漢字をマスターし、1年を経とうとした頃には常用漢字は全てマスターした。

算数などもうちの艦娘たちは概ね同世代の人間と比べると非常に早い理解だ。だが、そんな中でもなかなか覚えられない子もちらほらいた。

進度の早い子達には今までやっていた四則演算を発展させて図形や割合問題を解いている。後数ヶ月もすれば全員が本格的な数学や物理、艦隊運用学にも入ることができるだろう。

 

僕がこの鎮守府で始めたことはたちまち大本営の耳に入るところになり、僕は大本営に呼び出された。そして数多くの大将たちが同席している会議室で僕のやっていること、今後の展望を話すとB●eachの山本●柳斎そっくりな元帥にこう言われた。

「全国の艦娘にも必要な理論を与えてやってくれ」

周りの大将たちも必死な懇願だった。それだけ艦娘は運と勘だけに頼ってきたのだろう。聞かされた各鎮守府の艦娘轟沈率にはかなり驚かされた。

かくして名古屋鎮守府の艦娘学校は全国から艦娘を受け入れることとなった。

 

ー現在ー

 

提督「今日は空母級の子が一人新しく入るんだっけ?」

叢雲「ええ、あと10分もしたら到着するんじゃないかしら」

 

第1期生である名古屋鎮守府の艦娘たちは晴れて僕の用意したカリキュラムを全て合格し、それぞれ独自に鎮守府運営に関わっている。

そして提督である僕は艦娘教育に専念するため、提督でありながらも全権を提督代理である長門と共有し、共同統治の運営を行なっている。

これもうちの子達が優秀に育ってくれた賜物と言えるだろう。

 

さあ、今日も新しい艦娘がやってくるぞ。

 

 

 

 

??「ここが名古屋鎮守府かー」

 

薄い緑色の髪をツインテールにした少女が、大きなボストンバックを持って名古屋鎮守府の門の前にいた。彼女はこちらに歩いてくる女性を見つけた。

 

??「すいませーん!今日からここの艦娘学校に入校予定なんですけど...」

 

その人は和服にミニスカという空母によくある格好をしている。この人も空母なのかな...?

 

??2「あなたが今日の入学者ね。提督から聞いているわ。ついてらっしゃい」

 

瑞鶴「あ、はい。おねがいします。私、柱島鎮守府からきました翔鶴型航空母艦2番艦の瑞鶴って言います!これからよろしくお願いします!!」

 

??2「...」

 

何もなくスタスタ行ってしまうその人。

 

瑞鶴(え、今無視された!?)

 

??2「何しているの?早くいらっしゃい」

 

仕方なくついていく瑞鶴。

 

加賀「私は加賀。あなたと同じ航空母艦よ」

 

それだけ言うと加賀さんはそれきりなにも言わなかった。でも加賀さんはなぜか少し笑顔だった。

 

 

ー提督執務室ー

 

叢雲「やっぱり加賀さんに行かせたのは無理があったんじゃない?」

 

提督「加賀から自分にやらせてくれって言われちゃったんだよね。まあ、これも加賀のリハビリの一環だと思えば」コンコン

 

提督「どうぞー」

 

加賀「失礼します。今日の入学者の瑞鶴さんをお連れしました」

 

提督「お疲れ様。ありがとうね」

 

加賀「ではこれで」 バタン

 

提督「...さて、君が柱島鎮守府出身の瑞鶴だね。僕が名古屋鎮守府の提督で艦娘学校校長の〇〇だ。よろしくね」

 

瑞鶴「あ、はい。よろしくお願いします」

 

提督「そんなに固くならなくてもいいよ。...さっきは加賀が少し失礼したかな?」

 

瑞鶴「そんなことはないけど...。あの人いつもあんな感じなの?」

 

提督「詳しくは話せないけど、加賀には過去に色々とショックなことが立て続けに起きてね。少し他の人と話すのが苦手なんだ。だけど悪い子じゃない。仲良くしてあげてね」

 

瑞鶴「うん」

 

提督「さて、移動で疲れていると思うし、必要書類だけ提出してもらって、寮に荷物を置いてくると良い。叢雲、頼んだ」

 

叢雲「ええ。さあ瑞鶴さん、行きましょうか?」

 

名古屋鎮守府を歩いてみると柱島とはなんだか雰囲気が違うと私は思った。

鎮守府内の演習場には人はおらず、建物を見ると窓の空いてるほとんどの部屋は黒い板がかかっており、みんなそれに向かって座ってる。なにをやってるんだろう。

そんな疑問を持ちながら私は叢雲さんと一緒に艦娘寮を目指していた。

 

 

ー夕飯時ー

普通の鎮守府では(名古屋鎮守府でも同じらしいが)基本的に夕飯の時間は任務によって様々なのでバラバラに食べることが多いが、艦娘学校の生徒はみんなで一斉に食べるらしい。ここの生徒は全員で50人弱といったところか。

 

提督「はーい、ちゅうもーく。今日はニューカマーの紹介をするよー」

 

瑞鶴「柱島鎮守府出身の翔鶴型航空母艦の瑞鶴です。みなさんよろしくね!」

 

自己紹介にみんなが少しざわめく。

 

金剛「よろしくデース!」

 

球磨「おー、翔鶴教官と同じ翔鶴型だクマ。レア艦だクマ」

 

高雄「よろしくおねがいします」

 

赤城「よろしくね、瑞鶴さん」

 

加賀「....」

 

提督「じゃあ、今日は赤城たちのところで食べておいで。交流を深めてくるといい」

 

提督「それじゃ、みんな手を合わせて!いただきます!!」

 

 

最初はどうなるかと思ったけど、赤城さんたちと話していると空母級の人たちはみんないい人たちばかりだった。

これなら明日からも頑張れそうだ。

 

 

 

 

 

 




瑞鶴さんやっと登場!

これからは艦娘学校の生徒の目線や先生の目線の単発小話でいこうと思います。

【次回予告】
空母級にやってきた瑞鶴。そこで目の当たりにしたものとは!?
瑞鶴さんの学校デビュー回の予定です。

瑞鶴「今日からよろしくお願いしまーす、って翔鶴姉!?」
翔鶴「翔鶴姉ではないわ、翔鶴教官とよびなさい!」

姉妹(艦型)なのに姉妹(実際の)じゃない。ちょっと複雑な瑞鶴さん


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005 お姉ちゃんじゃありません!!

新入生として登校初日を迎えた瑞鶴。
そこで待っていたものとは...!?

ー初登場艦娘ー
瑞鳳 Lv.4 大湊警備府出身。艦載機運用はあまり経験ないが、大湊は人員不足のため機銃と15.2cm単装砲で近海哨戒に出ていた経験をもつ。射撃は縁日から対空までなんでも得意。

雲龍 Lv.10 佐世保鎮守府出身。仙人。大きい(ナニかが)

千歳(水母) Lv.3 名古屋鎮守府出身。水母強化のため最近建造された。大きい(同じく)

葛城 Lv.3 佐世保鎮守府出身。仙人の(本当の)妹。戦時中の記憶が濃いらしく、どんな鎮守府の瑞鶴に対しても先輩と呼ぶ。(絶壁)


4月10日火曜日

 

空母級時間割

1限 (9:00〜10:30):艦載機運用学

2限(10:40〜12:10):秘書艦学

3限(13:00〜14:30):空きコマ

4限(14:40〜16:10):指揮官学

5限(16:20〜17:50):空きコマ

 

ー午前8時30分ー

朝食を終えた瑞鶴は同室となった瑞鳳に連れられ、空母級の教室へと向かった。

全6クラス。教室は2つある教室棟の各階にあり、訓練用の艤装格納庫から簡易工廠、演習で使用するPCが置いてある演習室や艦種ごとの資料を揃えた図書室まで備えられている。

空母級は第1教室棟の2階にある。

 

瑞鶴「ここが『教室』かあ」

 

瑞鶴は初めて見る「学校」に目を輝かせる。

 

瑞鳳「瑞鶴、まだ1限目までは時間あるからゆっくりしててね」

 

そういうと瑞鳳は教室から急いで出て行った。どうやら彼女は空母級の担任に呼ばれているらしい。

自由席のため、適当なところに座って外を眺めていると、続々と空母艦娘たちが入ってきた。

 

赤城「あら、おはようございます。瑞鶴さん」

 

加賀「...おはようございます」

 

雲龍「おはよう、瑞鶴さん」

 

千歳「おはようございます」

 

葛城「おはようございます!瑞鶴先輩!!」

 

瑞鶴「おはようございまーす。もー葛城、あんたの方がここじゃ先輩なんだから、瑞鶴先輩なんて言わないでよ」

 

葛城「いいじゃないですか、私は瑞鶴先輩をリスペクトしてるんですよ!」

 

そんなこんなで会話に花が咲く。ほんと、いい学級に恵まれたものだ。

そんなとき、

 

瑞鶴「そういえば、ここの担任の先生ってどんな人?」

 

??「その担任が私ですよ。瑞鶴」

 

振り返った。なんと見慣れた姉がいる。柱島にいるはずの翔鶴姉が。うん、私は夢を見ているんだ。

顔を振り、頬をつねった。痛い。間違いない、私は現実にいる。

もう一度目を開けて見る。やはり翔鶴姉がいる。

 

瑞鶴「なんで翔鶴姉がいるのおおおおお!!!」

 

柱島鎮守府の翔鶴は瑞鶴よりもずっと前に艦娘学校を卒業し、第一艦隊の旗艦として艦娘たちを指導している。

いつも優しく、甘えさせてくれた翔鶴がいつもの空母艦娘の装束ではなく、凛々しく練習艦の装束に身を包んでいる。

瑞鶴には信じがたいことだった。

 

「あー、やっぱりその反応ね。瑞鶴は知らないのね」

 

翔鶴の後ろからついてきた瑞鳳が言った。

 

瑞鶴「え、なんで!?なんで翔鶴姉がいるの?」

 

葛城「全国の『翔鶴』の名を持つ艦娘は皆ほとんど同じ顔、同じ体格になるんです。瑞鶴先輩が柱島の翔鶴さんと見間違えても無理ないですよ」

 

艦娘は一つの艦名が複数の艦娘になる。深海棲艦から還元した者(ドロップ艦)以外は全員記憶が異なるクローンだ。だから艦娘たちは互いの装束を変えて同じ艦名の艦娘を見分けている。

 

翔鶴教官「そういうこと。あなたのお姉さんの翔鶴も私が指導したわ。あの子の妹があなたね。これからよろしく。翔鶴教官と呼んで」

 

瑞鶴「あ、はい。よろしくお願いします」

 

翔鶴教官「わかっていると思うけど、私はあなたを空母級の一員としてしか見るつもりはないわ。妹艦だからって甘えないようにしなさい」

 

わかってる。目の前にいる人は翔鶴だけど姉じゃない。でもずっと姉にべったりだったためか、姉と同じ人にこう言われると複雑な気持ちだ。

気持ちを引き締めろ、瑞鶴。今日から私の居場所はここなんだから。

 

瑞鶴「了解です」

 

翔鶴教官「ふふ、いい顔になったわね。そろそろ9時よ、席に着きなさい。葛城、今日は前回の復習からやるから覚悟しておきなさい」

 

葛城「えー、また当てられるんですかあ。そろそろ勘弁してくださいよお」

 

瑞鶴「それは今度の小テストに合格してから言いなさい」

 

 

こうして1日の始業ベルがなる。

 

 

 

 

 




TIPS:
・授業時間は駆逐・軽巡・潜水級は基本45分授業、重巡・戦艦・空母級は基本90分授業
・卒業試験合格と練度さえ足りていれば卒業できるため、授業出席は任意であり基本的に出欠を取らない(このおかげで何人かはスピード卒業し、何人か退学する羽目になります)
・艦娘学校の教官たちは基本的に香取・鹿島たちのような練習艦の装束を着ている。


翔鶴はタイトスカートorフリルスカート、どっちが似合うかな。
姉にべったりの瑞鶴、可愛いですよね、ね?
僕も母親が先生をしていた珠算塾に通っていたのでなんとなく複雑な気持ちでした。

ここで瑞鶴の学校デビューは一旦区切って、次の小話に行きたいと思います。


【次回予告】
「なんで覚えられないの??」
時は遡り数年前、ある一人の艦娘は勉強に悩んでいた。
しかし、提督と一緒に努力する彼女は伝説の教官へと成長する。

「コツさえ掴んでしまったら勉強なんて、なんてことない」

次回:足柄過去編


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006-1 足柄教官の過去(前編)

瑞鶴のキャンパスライフもいいけど、他の艦娘もいかが?
呂500「足柄教官の過去編ですって!」


遡ること数年前、僕がここに(直接)着任して数ヶ月が経とうとした頃だった。

多くの艦娘たちは通常よりも速い速度で僕の教えた「読み書きそろばん」をマスターしつつある。

そんな中、周りから置いていかれている艦娘もいた。

 

提督「よーし、これから昨日やった漢字テストを返すぞー。金剛ー」

 

金剛「ハーイ!Wow!high scoreネ!」

 

提督「陸奥ー」

 

陸奥「あらあら、前より点数上がってるわね」

 

提督「羽黒ー。はい、満点。よく頑張ったな」

 

羽黒「あ、あ、あ、ありがとうございます」

 

 

提督「足柄ー」

 

足柄は息を飲み、提督の元へと向かった。今度こそ、今度こそ羽黒に勝ってやるんだ!!

 

提督「うーん、ちょっと残念だったかな。また頑張ろうな」

 

足柄「え...」

 

差し出されたテストを見ると、大きく3の数字が。足柄は20点満点中3点しか取ることができなかったのだ。

 

足柄「うそよ。うそよ。う....うわああああああああんんんんん!!!」

 

絶望。虚無。無念。ありとあらゆる負の感情が足柄を襲った。

 

提督「ちょっ、大丈夫か足柄!」

 

その場にうずくまるように座り込んだ足柄は悲鳴のような泣き声をあげた。

 

ー医務室ー

あの後足柄は他の艦娘によって連れてこられ、泣き疲れたのか医務室で眠っている。

 

明石「今まで蓄積された心労と今回のショックで、心の容量をオーバーしたようですね。しばらく休養が必要です」

 

提督「そうか、お疲れ様。また足柄が目覚めたら連絡してくれ」

 

内線を置くと、提督はしばらく考える。この漢字テストがそこまで足柄を追い詰めているとは...

 

今回の漢字テストは読みと書きをそれぞれ10問ずつ。レベルにして小学4年生レベルだ。足柄のテストを見て見ると実に惜しい。

読みの方は音読みと訓読みが混じっている。例えば「老人(ろうじん)」は「おいびと」。うん、わからんことはないけど。

書きの方はもっと惜しい。字面的にほとんどあっているものの「億」の人偏が行人偏になっていたり、「兆」のはねがなかったり。

足柄は理解はできている方だと僕は思う。実際数学の方はまずまず取れている。漢字の方も勉強している時には正しい読み書きができているのだ。いわゆる本番に弱いタイプなのだろう。

総合的に見て、足柄に決定的に足りていないのは「得点力」。いわゆる本番に実力を発揮させる力だ。しかし、本来実力があるならここまでひどくはならないはずだが...

それにしてもわからないことがある。足柄はテストの点数が悪いだけなぜあそこまで泣いたんだろうか?

 

 

ーその晩ー

再び連絡が入ったのはその日の晩だった。僕は足柄が部屋に戻ったと聞き、艦娘寮の妙高型の部屋に向かった。

 

コンコン「はーい」

 

提督「すまん、僕だ。足柄はいるか?」

 

那智「足柄なら今外に出ている。埠頭で気晴らしをしたいそうだ。妙高姉さんが付いているが、かなり落ち込んでいる」

 

提督「そうか、わかった」

 

那智「うちの妹が迷惑をかけてすまない」

 

提督「いや、これは僕のミスだ。かなり足柄に無理をさせてしまった。こちらこそすまない」

 

そう言って部屋を後にした。

 

ー埠頭ー

 

妙高「そろそろ冷えてくる頃だし、お部屋に戻りましょう?」

 

足柄「...」

 

足柄はこの場所から動きたくなかった。

どうしてあんな点数しか取れなかったの? 勉強した時は完璧だった。ちゃんと読み書きできていた。だけど、テストの時に

 

頭が真っ白になってしまった。

 

老人?競争? あれ、勉強の時にできたのに?

いちおく?にちょう? あれ、どんな字だっけ?

 

今ならわかる。今すぐにでもリベンジしたい。だけど[いつまでたっても羽黒には勝てない]。

 

 

 

提督「大丈夫か、足柄」

 

足柄「提督」

 

提督「すまない、妙高。しばらく足柄と二人きりにさせてくれないか?」

 

妙高「わかりました。失礼します」

 

提督「ああ、今までありがとうな」

 

 

 

足柄「...昼間は迷惑かけたわね」

 

提督「いや、悪いのは君が無理をしていたことを気づけなかった僕の方だ。本当にすまない」

 

足柄「...また羽黒に負けてしまったわ。あんなに勉強したのに」

 

提督「ああ、足柄がいつも頑張っているのは、僕は知ってる。毎日遅くまで勉強してるんだってな」

 

足柄「それでもダメだった。もう私はダメなのかしらね」

 

半ば諦めたようにいう。そこから足柄は色々語り出した。

 

自分は羽黒より先に着任した艦隊の先輩であり、実の姉でもある。羽黒は私のたった一人の妹だ。なら、私は妹のお手本にならなくちゃ。

足柄は羽黒が着任してからずっと思い続けていた。

 

最初の頃は自分はちゃんと姉としてできていたと思っていた。自分が羽黒に姉として艦娘用艤装の使い方を教え、戦場では先輩として羽黒が戦いやすいようフォローしてきた。

いつしか羽黒は自分なくして存在できないものと本気で思っていた。楽しかった。いつも自分にべったりな妹が可愛くてしょうがなかった。

 

だけど、提督がここに着任してから事情が変わった。勉強がスタートすると羽黒はいきなりその天才ぶりを発揮した。

自分が理解できないようなことを逆に説明され、いつしか羽黒の周りには多くの仲間たちが集まっていた。

 

それに比べて自分はどうだろうか。最初のころは追いつけていたけど、次第に遅れだし、ついには大きな差をつけられるようになった。

足柄は悔しかった。もともと負けず嫌いな性格である。

 

もっと頑張らなくちゃ、もっと頑張らなくちゃ。(だけど一向に差は縮まらない)

 

もっと頑張らなくちゃ、もっと頑張らなくちゃ。(だけど自分だけ取り残されてる)

 

もっと頑張らなくちゃ、もっと頑張らなくちゃ。(だけど全然前に進まない)

 

モットガンバラナクチャ、モットガンバラナクチャ。(だけどもう誰にも追いつけない)

 

モットガンバラナクチャ、モットガンバラナクチャ。(とうとう周りには誰もいなくなった)

 

モット、モット...

 

モット....

 

足柄は限界だった。そして今日、限界を超えてしまった。

 

 

提督は足柄が本番に弱い理由がようやく理解できた。足柄は羽黒の存在と自分が姉であることがプレッシャーになっていたのだった。

 

簡単な話、そのプレッシャーさえ取り除けられれば、この子は一気に成長する

 

そう確信した。そうと決まればあとは早い。

 

提督「足柄、明日から一緒に勉強しようか」

 

足柄「えっ?」

 

 

提督「その苦しみ、俺が解いてやる」

 

こうして足柄専用、提督の集中講義が始まった。

 




【次回予告】
足柄「もう二度と羽黒なんかに負けないんだから!!」
提督「ダメだ、羽黒のことは一回忘れろ」

妹がプレッシャーになっていた足柄を救う提督の秘策とは!?


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006-2 足柄教官の過去(中編)

Road to Legend -伝説への道-

足柄の致命的な弱点を見つけた提督。
そして彼は彼女にある秘策を伝授する。
果たして足柄は成績UPすることはできるか!?


叢雲「そういえばアンタ、一人称は『僕』じゃなかったっけ?」

提督「足柄にちょっとカッコつけたくてね。悪くないだろ、こういうのも」

叢雲「うわ、似合わないわー。で、これから足柄さん連れてどこかに行くんでしょう?執務はどうするの?」

提督「姐さんオネシャス」

叢雲「コラー!!!!!!」


翌日、あまり眠れなかった足柄は重い足取りで執務室に向かっていた。

 

ー昨晩ー

 

足柄「苦しみを解放するって、何言ってるの」

 

提督「そのまんまだ、足柄。今、お前苦しんでるんだろう。それを俺が解放してやる」

 

足柄「え、でも、どうやって....?」

 

提督「それには少し時間がかかる。明日の朝、勉強道具をもって執務室に来てくれ」

 

そういうと提督は足早に帰っていった。

 

 

ー執務室前ー

 

コンコン「どうぞー」

 

足柄「失礼しま...って、何やってるのアナタ」

 

提督はいつもの袖を折ったシャツに黒のチノパン姿とは打って変わって、登山服を着ている。

しかも執務机に置かれている荷物は山登り用のナップザックだ。

 

提督「何って、山に登るんだよ。山籠りだ。足柄の服も用意してあるから着替えておいで」

 

そう言って登山服を渡してきた。

 

隣にいた秘書官の叢雲に「まあ、かんばりなさい」と言われた。一体何が始まるというのだろう?

 

 

 

足柄を連れて鎮守府を出たのが午前8時30分。そこから●R東海道線に乗り、関ヶ原駅で下車したのち、バスに乗った。

目指すは伊吹山。岐阜県と滋賀県にまたがる標高1377mの山だ。ちなみに1975年(昭和50年)1月14日に230cmの積雪を記録して現在まで日最大降雪量世界一の山だったりする。

 

伊吹山の麓まで来た僕たちはしばしの昼食休憩。お昼は間宮さんが渡してくれた手作り弁当だ。

 

足柄「そういえば、ここに来る前ってご飯どうしてたの? 前と比べてあなた太ったわよね? 今何kg?」

 

お茶を吹き出して咳き込む提督。

 

提督「ゲホゲホ体重はおーしえないっ! この世界に来る前は大学の食堂と自炊していたかな。冷凍食品多めで」

 

忙しい主婦の味方、冷凍食品!!

僕もその恩恵に預かっていた。

 

足柄「ふーん。やっぱ間宮さんの力かなあ?」

 

提督「ああ、間宮さんのご飯は格別だよ。でも、いつも運動している君たちと同じ分食べてたら太るかもな。足柄も気をつけないとデブになるぞ〜」

 

足柄「デブになりつつある人に言われるとホント説得力あるわ」

 

二人は笑いあった。だんだん足柄にも笑顔が戻って来た。

 

 

午後は伊吹山にアタック。すこし薄暗いけど登山道はしっかり舗装されているようだ。

 

足柄「まさか頂上まで行くんじゃないでしょうね?」

 

提督「ああ、7合目あたりに山小屋があるんだ。今日はそこに行くよ」

 

そう言いつつ、二人は黙々と歩いていった。

 

 

ー伊吹山7合目ー

 

太陽が西へ沈みかけた頃、二人は山小屋に到着した。こじんまりとした小屋だが、中に入ると暖かい檜の匂いがした。

玄関の額には「飢狼堂」と書いてあった。

 

足柄「こんな建物があったなんて...。アナタいつからこの小屋持ってたの?」

 

提督「この小屋は昨日知り合いと妖精さんたちに急ピッチで作ってもらった」

 

足柄「え!?」

 

そう、昨晩足早に執務室に帰ったのは妖精さんたちにこの小屋を作ってもらうためだ。先日知り合いになった建築家の女の子に連絡して設計図を引いてもらい、それを元にわずか一夜で作り上げた。

4LDKの間取りなのに外見上はこの小ささって、妖精さんの技術ってホントすごい。

ここは喧騒がなく、森林に囲まれて自然豊かなところで勉強に励める。水は山から引いて装置で綺麗になっているし、食事は毎日間宮食堂から妖精さんの謎技術によって開発された転送装置によって送られてくる。

妖精さん&女の子、マジ感謝です。

 

 

提督「今日はもう疲れただろうし、シャワー浴びて、用意してあるご飯を食べて休むといい。明日から勉強を始めるぞ」

 

足柄「了解。...まさか一緒に寝るんじゃないでしょうね?」

 

提督「君の部屋は向こうだ。シャワーも完備されている。...言っておくが僕は自分の教え子に手を出さない主義だ。両親の二の舞はしたくない」

 

足柄「あら、期待したのに残念ね」

 

そう言って足柄は部屋に入っていった。僕も疲れた。シャワー浴びて寝よう。

 

 

ー翌日ー

早々に目覚めた足柄は外の空気を吸い、朝の森林を肌で感じていた。良いところに来たものだ。

そこへまだ眠そうな普段着の提督が現れた。

 

提督「おはよう、随分と早く起きたな。まだ寝ててもいいのに」

 

足柄「そんなこと言ってられないわ。早く勉強を始めましょう?」

 

提督「まあ、あせるな。今日からやることは特別メニューだが、やることは勉強だけじゃない。追々やっていこうじゃないか」

 

呑気にそういう提督は大きなあくびをして中へ引っ込んでいった。

 

 

ー朝食後ー

目もバッチリ覚めた提督はリビングのテーブルに向かい合って座っている私に授業を始めた。

 

提督「さて、足柄。まず君が苦しんでいるのは妹の羽黒に負けたくないということと、早く周りに追いつきたいということだったな」

 

足柄「ええ、そうよ。今度こそ羽黒に勝ってやるんだから!!!」

足柄は鼻息荒く息巻いている。提督は静かに切り出した。

 

提督「足柄、まず羽黒はこの世界にいないと考えてくれ」

 

足柄「え!?」

 

提督「足柄、おそらく君がテスト中に思い浮かんでいたのは漢字じゃなくて羽黒の顔だろう?違うか?」

 

 

しばしの沈黙が訪れる。

 

 

足柄「...ええそうよ。テストが始まったその瞬間から羽黒の顔がちらついて集中できないわ」

 

提督「おそらく君は羽黒を必要以上に意識し過ぎているんだと思う。もちろんライバル意識を持つことは悪いことじゃないけど、過剰な意識は自分にプレッシャーになる。だからしばらく『羽黒という存在』はこの世にない(ここに羽黒はいない)と思うことにしよう」

 

足柄「わかったわ」

 

まずは刺激(ストレス)となる要因(ストレッサー)を排除。うん、シナリオ通り。

 

提督「あと、周りに追いつきたいということだけど、これは心配しなくていい。みんなの成績はまだ君の射程圏内だ。恐らく羽黒の成績をみて君は周りがすごく頭が良いと思ったんだろう」

 

提督「大丈夫、足柄は絶対みんなに追いつける」

 

足柄「...そう、良かった」

 

足柄は心底安堵した。まだ自分はやれる。そう確信したからだ。

 

提督は足柄の安心した表情に次のステップのイメージを膨らませる。

 

 

提督「次に点を上げるための方法だけど、足柄は僕の渡したワークをどのように勉強している?」

 

足柄「とりあえず、わからなかった問題は赤で直して覚えているわ」

 

提督「それだけ?」

 

足柄「ええそうだけど...それがどうかしたの?羽黒だって同じことしていたわ」

 

提督「それじゃ無駄が多い。改善の余地がある」

そういうと近くの棚から一枚の紙を取り出し説明を始めた。

 

提督「羽黒のような天才を除いて、一般的に記憶は多くの回数を経験したものが色濃く残っている。例えば足柄は射撃演習で撃った砲の反動や弾の軌跡なんかはよく覚えているだろう?」

 

足柄「ええ、何回もやっているから癖になっているわ」

 

提督「そうだ、この『癖』を漢字にもつけてほしい。癖になるほど漢字を反復練習を繰り返すんだ」

 

提督は紙に「癖をつける」と書いて話を続けた。

 

提督「そしてこの反復練習を行うやり方が PDCAサイクルと呼ばれるものだ」

 

足柄「ぴーでぃーしーえー?」

 

提督「そう、Pはplan(計画)、Dはdo(実行)、Cはcheck(確認)、Aはact(次の行動への計画)だ。これを漢字の暗記に当てはめてみるぞ。」

 

提督は紙の余白を4等分してそれぞれの領域を矢印で結んだ。

 

 

「1番目のPでは一度範囲の漢字問題を解いてみて正解している漢字と間違っている漢字を振り分ける」

 

「次にDでは間違えた漢字を覚え直す」

 

「次のCでは間違えた漢字をもう一度テストする」

 

「そして最後のAで次にやるべきことを計画する、例えばCで間違えたものをもう一度覚え直すとかこの範囲はもう良いから次の範囲へ行くとかだ」

 

提督は言ったことを紙に書いていく。

 

 

提督「な、簡単だろ。たったこれだけで暗記した量が一気に増えるんだ」

 

足柄「...それ本当なんでしょうね?」

足柄は紙を見て半信半疑だった。今までやって来たことと違うことといえば途中の「C(確認)」が追加されたぐらいだろうか。

 

提督「信じられないかもしれないが、やってみてごらん。すぐにわかる」

 

 

 

こうして足柄は小学4年生の漢字を最初からやり直した。PとDは割と早くできるものの、Cでかなりつまづく。だが、大きな変化が見られた。

 

なんといままで1割も超えられなかった正答率が半分近くまで上昇したのだ。

 

足柄「すごい....」

 

隣で本を読んでいた提督は足柄の声に反応した。

 

提督「な、できただろ」

 

足柄「ええ、これなら羽黒にも勝ちに行けそうだわ」

 

提督「おっと、今はその存在は...」

 

足柄「わかってるって、でもすごいわよ。今の私」

 

 

こうして足柄は何時間もこのサイクルを繰り返した。大した集中力だ。ここまで休憩なしに小学4年の漢字のほぼ全領域をカバーしつつある。

 

 

ー午後7時ー

 

提督「よし、今日はもうこれで終わりにしよう。あまり長時間続けていても記憶に悪いからな」

 

足柄「ええ、でも本当に今日1日で大きな進歩だったわ。本当にありがとう」

 

提督「ははは、でもこうやって正解が続くと勉強が楽しく思えてくるだろう?」

 

足柄「そうね。まだ覚えきれていない漢字は多いけどね」

 

提督「そう、この楽しさがモチベーションにつながっていくんだ。この楽しさがわかる人は中々いない」

 

足柄「そうなの?私は楽しくてしょうがなかったわ」

 

提督「さて、今日1日頑張ったことだし、ご褒美に今晩は美味しいもの食べにいこうか」

 

足柄「やったー!!」

 

 

こうして1日が終わっていく。しかし、この時二人は美味しいものを食べに行くためには、山を降りなければならないことに気づいていなかった。

 

足柄「もー疲れたー!!」

 

提督「ここが山の中だったこと忘れてた!!チクショーメ!!」

 

 

 

 

 

 

 




足柄回長く続きそうですが、次で締めにしたいと思います。
PDCAサイクルは本来ソフトウェアの開発の際によく使われる考え方ですが、実は暗記を伴う勉強にも最適です。
暗記のコツは
「無駄なく、最短で、最大量のモノを覚える」
に限ります。
暗記に苦労している方は是非試して見てくださいね。特に英単語なんかはてきめんです。

【次回予告】
足柄「漢字はもう完璧だわ!どんなテストでもかかってらっしゃい!」
提督「じゃあ本番のテストと同じ雰囲気の模試をやってみようか、あと数学も少しやってみよう」

得点力とは?
足柄に足りない最後の1ピースがついに解き明かされる!!
Road to Legend -伝説への道- 最終話へ続く


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006-3 足柄教官の過去(後編)

ついに漢字の暗記を攻略した足柄。しかし彼女に立ちふさがる試練はもう一つあった。
足柄は最後の試練を乗り越えることはできるのか!?

Road to Legend -伝説への道- 最終話

叢雲「いったいアイツはいつになったら帰ってくるのやら」

大淀「叢雲さん、なんか提督の奥さんのようなこといってますね(笑)」

叢雲「はあ!? 誰がアイツの奥さんよ!!」


調子が出て来た足柄は次第に正答率を伸ばしていった。

 

2日目 4割5分

3日目 6割

4日目 6割5分

5日目 8割

6日目 9割

 

ついに7日目にして全問正解を叩き出した。引っかかりやすい漢字の読み書きもコンプリートし、もはや足柄に敵なしと思われた。

 

その時だった。

 

 

提督「よーし、じゃあ本番さながらの模試を受けてみようか」

 

足柄「ええ、勝利が私を呼んでいるわ!!」

 

足柄は完全に有頂天だった。しかし提督はこの事態を密かに危惧していた。

試験範囲は小学生漢字全範囲で読み10問、書き10問の合計20問。この前やった試験形式と全く同じだ。

 

提督「じゃあ試験時間は10分。よーい、はじめ!」

 

 

試験用紙を表に向けて解きだそうとしたときだった。足柄の脳裏にふと羽黒の顔が浮かんだ。

 

足柄(今は羽黒のことを思い出しちゃダメ。考えちゃダメ)

 

しかし一向に筆は進まない。どうしちゃったの、私。

 

足柄「....うう、グスン。うう...」

 

提督「どうした足柄?」

 

足柄「ダメ。どうしても羽黒の顔が浮かんじゃう。今は考えないようにしたくても、羽黒が自分をあざ笑っている顔が頭から離れないのよ」

 

トラウマとはふとしたことが引き金になって起こるものだ。しかし足柄にはこのトラウマは乗り越えてもらわなければならない。

最後の試練だ。

 

提督「辛いだろうが、ここが踏ん張りどころだ」

 

足柄「ええ、わかってる。わかってるわよ」

 

足柄は再び試験問題と格闘し始める。

少し解いては休み、また解いては休み。

 

結局足柄は最初の5問を解くことが精一杯だった。

 

 

ーその夜ー

提督「明日は少し気分を変えて、数学の方をやってみようか」

 

足柄「そうね、今日の模試だけでかなり消耗しちゃったわ」

 

提督「足柄は漢字と数学、どっちが得意?」

 

足柄「うーん、前は数学の方が得意だったけど、今は同じくらいかな。でも気分的には数学をやってみたい」

 

提督「そうか、じゃあ明日は小学生範囲全部をやってみようか」

 

こうして方針転換した二人だったが、この方針転換が思わぬ結果を招くとは、このとき二人は思いもしなかった。

 

 

ー翌日ー

提督「じゃあ、漢字の時と同じように数学もPDCAで回していこうか。解説読んでわからなくなったら質問してね」

 

足柄「ええ、わかったわ」

 

こうして足柄は数学に挑み掛かる。

 

 

4時間が経過した頃だろうか。足柄の隣で本を読んでいた僕はふと足柄のワークを覗き込んだ。

 

提督「あれ、今やってるの中学の範囲じゃね?」

 

足柄がやっていたのは連立方程式。学年でいえば中2の範囲だ。

 

足柄「ええ、思ったより早く理解できたから後ろに続いてた中学の問題もやっちゃった」

 

ワークを見るとところどころ間違っていはいるものの8割方できている。なんてこった。僕の予想を大きく上回るスピードだ。

 

提督「どうしたんだ。漢字の時はスピードはこれほど出ていなかっただろう」

 

足柄「なんていうか、今やっている問題が前の学年の応用に思えたから...少し解説を読んだら難なくできたわ」

 

なるほど、数学の勉強の進行法則を自身で発見したのか。

 

小・中学校の算数・数学は基本的に

 

数・文字式の計算(代数学)

方程式(代数学)

関数(プレ解析学)

図形+α(幾何学、統計学、確率論...etc)

 

という流れになっている。そして学年毎でみるとほぼ応用の関係にあると言っていい。

これに気づけると勉強に詰まってもすぐに前の学年のところに戻って確認することができる。だから、前の範囲さえしっかり理解していれば少し考えるだけで割と簡単に解けてしまうことがある。

 

提督「よーし、じゃあ数学も模試をしてみようか。足柄はもう大丈夫か」

 

足柄「また浮かんでこないかわからないけど...」

 

提督「それならまだ無理しなくても「いや、やらせて!」...わかった。無理はするなよ」

 

こうして足柄は小学生範囲全ての模試を解いた。

 

結果は...

 

 

 

 

 

提督「よくやった! 満点だ!!」

 

足柄「ホント!? やったわ!!」

 

もう落ちこぼれだなんて言わせない。数学は私の得意教科よ!!

足柄は胸を張った。

 

 

提督「よし、あとは漢字だけだ。いっぱい模試を解いて試験慣れしよう!得点力はそうやって鍛えられるものだ」

 

足柄「よーし、あと少しね!やっちゃうんだから!!」

 

それからというもの足柄は毎日模試を受け続けた。1日30回、いつもの20問テストに加えて小・中学生の全範囲をカバーした200問試験も行なった。

最初の方は泣きながら問題を解いていたが、やはり足柄。かなりの負けず嫌いが手伝って血の滲むような努力をしている。

僕は隣でずっと足柄を見守っていた。

 

 

 

そして山籠りを始めて苦心20日間。足柄はついに模試全てにおいて全問正解した。足柄は名実ともに落ちこぼれから脱却したのだった。

 

提督「足柄、よくやった。もうここで教えることは何もない。鎮守府に帰ってもみんなに追いつけるだろう」

 

足柄「ゼエゼエ....。ありがとう。本当に実力がついたわ。これで羽黒の姉としてやっていける!」

 

足柄は息も絶え絶えながら、満足そうな笑みを僕に向けた。

 

 

ー名古屋鎮守府艦娘寮・妙高型の部屋ー

下山した僕たちはそれぞれ帰るべきところへ向かった。

 

妙高「お帰りなさい、足柄。提督との山籠りはどうだった?」

 

足柄「ええ、バッチリよ!もうこれで落ちこぼれだなんて誰にも言わせないわ!!!」

 

那智「そういえば、山籠り中は提督と二人きりだったんだろう。その...ナニはあったのか?」

 

足柄「いーえ、全くございませんでした。あの提督はイ●ポなのかしら」

 

3人は笑う。そこへ羽黒が部屋に戻ってきた。

 

羽黒「お帰りなさい、足柄姉さん。山籠りはどうでした?」

 

足柄「ええ、上々よ。羽黒、今度のテストで勝負よ!絶対に負けないんだから!!」

 

羽黒(別に私は姉さんに負けてもいいんだけどなあ)

 

妹に宣戦布告する姉に、少し引いた妹。この二人の次のテストが楽しみだ。

 

 

 

叢雲「お疲れだったわね、アンタ」

 

提督「いーや、そんなことないよ。むしろ足柄が成長してくれたことの方が嬉しかった。多分大物になるぞ、足柄は」

 

執務机に項垂れながら言う提督に叢雲はそっとお茶を出す。

 

叢雲「そう...ところでアンタが20日間も山に篭っていた間の執務だけど」

 

突然ガバッと起きた提督は

「ギクッ、姐さん。まさか今から...!?」

 

叢雲「おバカさんね、やっておいたわよ。あとこれにハンコ押しといて」

 

そう言いつつも高さ30cmに積まれた書類の束を執務机にドンと置く。

 

提督「マジっすか...」

 

叢雲「私はこの10倍以上の書類を裁いてたんだけど」

 

提督「本当にありがとうございました。もう二度と文句言いません。ゆるしてつかあさい、叢雲姐さん、いや姐様」

 

やはり叢雲に頭は上がらないようだった。

 

 

ーそれから数年ー

正式に艦娘学校が発足してから初めての卒業試験で、ツートップの成績最優秀者が生まれた。

 

一人は学問の神に愛された『伝説の天才』、妙高型重巡洋艦4番艦 羽黒

 

そしてもう一人は...「努力の天才」

不屈の精神で学問を極めた『伝説の秀才』、妙高型重巡洋艦3番艦 足柄

 

彼女たちの姉も同様に成績優秀者として名を連ねた。

 

そして、卒業の時がやってきた。

 

「妙高型重巡洋艦4番艦 羽黒、同じく3番艦 足柄、1番艦 妙高、2番艦 那智。貴艦ら4隻は重巡級卒業試験において成績優秀なため、艦娘学校教官採用試験の受験資格が与えられる」

執務室に呼び出された4人は厳粛な雰囲気の中、提督から伝えられた。

 

提督「...ってことなんだけど、みんなどう?やってくんない?」

 

妙高「妙高型重巡洋艦1番艦 妙高。謹んでお受けいたします」

 

那智「同じく2番艦 那智。謹んでお受けする」

 

足柄「同じく3番艦 足柄。謹んでお受けします」

 

羽黒「...私はやりません」

 

足柄「えっ? 羽黒はやらないの?艦娘学校教官なんて名誉なことじゃない。もったいないわよ」

 

羽黒「いいえ、足柄姉さん。私は勉強することは得意でも教えるのは苦手だから...。私は前線向きなのかなって」

 

今まで羽黒の周りにいた仲間たちはあまりにも天才的すぎる羽黒の教え方についていけず、結局足柄のところに集まるようになったのだ。

 

提督「まあ、いいんじゃないかな。うちの鎮守府だってそれなりに作戦や遠征はこなさないといけないし。いいんだね、羽黒」

 

羽黒「はい。お願いします」

 

こうして妙高型の3人は艦娘学校の教官になった。

 

 

ー現在ー

艦娘学校には3人の重巡教官がいる。一人は優しく、一人は厳しく、一人は...「伝説」だ。

 

足柄「さあ、今日は『ガウスの発散定理』をやるわよー!」

 

今日も足柄の声が響く。あ、寝ていた一人の駆逐艦が足柄にチョークを投げつけられていた。

 

足柄「戦場(問題)が、勝利(正解)が、私を呼んでいるわ!!」

 

今日も伝説の教師の声が響く。

 




足柄回これにて完結です!
落ちこぼれの挽回劇って書いていてスカッとしますね。
次からは平常運転に戻ります。

【次回予告】
瑞鶴「ボーキサイトを補給すると艦載機が出てくるんだよね。あれってどう言う仕組みなの?」

翔鶴「...あなたは聞いてはいけないことを聞いてしまったわね」

瑞鶴「ひいっ!!」

次は艦載機運用学です。


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第2章 艦娘たちは勉強に奮闘するようです
007 艦載機運用は計画的に ー艦載機運用学ー 【閲覧注意】


ー翔鶴教官、覚醒ー
必殺技はスーパーKKB(キュウコウカバクゲキ)!!
空母のケンカパーティ、始まりダゼェ!!

【キャラ崩壊注意】
※ギャグ回です

ー登場人物ー

瑞鶴(Lv.2) 艦載機は烈風が好き。自分自身は戦いたくない。

翔鶴教官(Lv.99) 艦載機なんか捨ててかかってこいよ!

葛城(Lv.3) 楽しそーじゃねーか、ウチもいれろよー!!

空母s 翔鶴教官のムチャぶりはもう慣れた


※「005 お姉ちゃんじゃありません!」の続きです

 

4月10日火曜日

 

空母級時間割

1限 (9:00〜10:30):艦載機運用学 ←イマココ

2限(10:40〜12:10):秘書艦学

3限(13:00〜14:30):空きコマ

4限(14:40〜16:10):指揮官学

5限(16:20〜17:50):空きコマ

 

 

 

 

翔鶴教官「さて、まずは前回の復習の前に挨拶よ。葛城、号令を」

 

 

葛城「押忍!雲龍型正規空母3番艦 葛城。若輩ながら本日の挨拶の号令を務めさせていただきやすっ!!」

 

 

気合の入った声でそう言うと瑞鶴を除く空母たちはぞろぞろと立ち上がった。

 

 

瑞鶴「え、何!?」

 

 

葛城「さあ、瑞鶴先輩も」

 

 

そう言われると瑞鶴も立ち上がる。

 

 

葛城「押忍!全員、休め!!」

 

 

全員が休めの姿勢になる。翔鶴教官が教壇から降りて来た。翔鶴教官も肩を怒らせ、足を踏み鳴らし、いかにも気合の入った様子だ。そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翔鶴教官「テメェラ気合入ってるかー!」

 

 

空母s「押ー忍!」

 

 

 

 

翔鶴教官「今日はア●タ・ピア●のド●ゴンズ朝市の日だー!」

 

 

空母s「押ー忍!」

 

 

 

 

翔鶴教官「昨日はド●ゴンズが珍しく勝ったから野菜が安かったぞー!」

 

 

空母s「押ー忍!」

 

 

 

 

翔鶴教官「今日の晩御飯は、野菜づくしだー!」

 

 

空母s「押ー忍!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瑞鶴「な、なんなのよ、これ」

 

 

葛城「これが翔鶴教官恒例の『朝の挨拶』っス!」

 

葛城は気合の入ったアツい視線をぶつける。

 

 

 

 

 

 

 

 

翔鶴教官「瑞鶴、テメェも気合入ってるかー!!」

 

 

瑞鶴「は、はい!」

 

 

翔鶴教官「返事は押忍だー!」

 

 

瑞鶴「押ー忍!!」

 

 

 

 

 

 

翔鶴「よーし、みんなもっと声だせぇ!四股立ち構え!!」

 

 

空母s「うおおおおおおおおおお!!!!!」

 

 

空母たちはみな足を開き、肩入れの姿勢をとる。

 

 

 

 

翔鶴教官「勝つのは!」

 

 

空母s「我ら!」

 

 

翔鶴教官「必殺は!」

 

 

空母s「KKB!」

 

 

翔鶴教官「トリプルスリー!!」

 

 

空母s「やってやる!!」

 

 

翔鶴教官・空母s「空・母・級!ソイヤ!」

 

 

 

 

 

翔鶴教官「おはようございますっ!!」

 

空母s「おはようございますっ!!」

 

翔鶴教官「今日も1日頑張って生きていきましょう!!」

 

空母s「押ー忍!」

 

 

そして四方に押忍押忍と言いながら空母級の艦娘たちは着席する。やたら気合が入っていたのに、何もなかったように突然元に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翔鶴教官「さて葛城、艦戦と艦攻、艦爆の違いを説明しなさい」

 

 

葛城「ええーと、まず艦戦は空母に搭載されている艦載機で...」

 

 

瑞鶴はギャップについていけなかった。瑞鳳がコソッと瑞鶴に耳打ちする。

 

 

瑞鳳「まあ、慣れるわよ。...きっと」

 

瑞鳳さん、そのハイライトオフの目で言われても説得力アリマセンゼ。

 

 

翔鶴教官「瑞鶴、瑞鳳、立ちなさい!」

 

 

瑞鳳「ヤバッ!ばれた!」

 

 

翔鶴教官「あなたたちは今何をやっていたの?」

 

 

瑞鶴「いえ、なんでもありません」

 

 

翔鶴教官「...そう、ならいいわ」

 

ならいいのかよ。判断基準がわからん。

 

 

 

 

翔鶴教官「さて、さっき葛城が説明してくれたように艦載機には艦戦、艦攻、艦爆の3種類の他に水上機や陸攻もあなたたちが指揮することになるわ」

 

 

翔鶴教官「でも、敵の艦載機が大多数の場合、自分の艦載機が全滅することもある」

 

 

翔鶴教官「艦載機を失った空母は羽をもがれた鳥に等しい。だから空母を運用するときは対空要員として護衛の駆逐艦たちがついている」

 

 

翔鶴教官「だがしかし!」

 

 

黒板をバァン!と叩く。

 

 

翔鶴教官「相手に、空母以外に戦艦や重巡などの大型艦がいた場合どうするのか!?」

 

 

翔鶴教官「近年の深海棲艦の強力化に伴い、火力的に駆逐艦たちで太刀打ちできないことが増えてきたわ」

 

 

翔鶴教官「そんな時、あなたならどうする!? 赤城、答えなさい」

 

 

赤城「頑張って逃げます!!」

 

 

翔鶴教官「チガウッ!」

 

 

翔鶴教官は赤城の前でビンタする。もちろん[当たらない]ビンタだ。

 

 

翔鶴教官「そんなんじゃすぐに追いつかれるわよ!」

 

 

それでも赤城は吹っ飛ばされる。

翔鶴教官はNA●UTOの蛙●手でもマスターしているのだろうか。

 

 

 

 

翔鶴教官「雲龍、答えなさい」

 

 

雲龍「うーん、とりあえず応援呼ぶとか?」

 

 

翔鶴教官「チガウッ!」

雲龍も吹っ飛ばされる。

 

 

翔鶴教官「そんなに悠長な事言ってられないわよ!」

 

 

 

 

 

翔鶴教官「じゃあ、瑞鶴、答えなさい」

 

 

ついに来た。でも何も思い浮かばない。何が最善なの!?

 

 

翔鶴教官「あなたが答えられなきゃ、あなたの艦隊は全滅するわよ!」

 

 

わかってる。わかってるけど、どうしたらいいの!?

悩む瑞鶴。そして一つの結論に至った。

 

 

 

 

 

 

 

瑞鶴「やってやろうじゃねえか!!!!!!(杉●拳●ボイス)」

 

 

 

 

 

 

 

瑞鶴はプッツンした。そこからの記憶は医務室で目覚めるまで定かではない。

 

 

とりあえず今日学んだことは、やばくなったらケンカパーティにすればいいということだった。

 

 

瑞鳳「翔鶴教官褒めてたわよ。生きのいい新人が来たって」

 

 

瑞鶴「...そんなことで褒められても嬉しくないです(泣)」

 

 

 

 

 




はい、作者が病気のギャグ回です。翔鶴提督の皆様申し訳ありませんm(_ _)m

次回は真面目なつもりです。
なんでだろうな。ギャグ回のほうが筆が進む、進む。


【次回予告】
瑞鶴「秘書艦かー。一度はやってみたいよね」

妙高「そうですか。なら一度秘書秘書艦の仕事でしごかれてきますか?」

瑞鶴「いえ、結構です」

次回は秘書艦学です。

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008 秘書艦って忙しい ー秘書艦学ー

叢雲「そういえばアンタ、院試のためってTOEICの勉強するんじゃなかったの?」

提督「...ああ、一応な」

叢雲「今何点よ?」

提督「500点よりは上に行ってる」

叢雲「まだまだね←800点越え」

叢雲「もう、私の言いたいこと、言わなくてもわかるわよね?」

提督「はい、こんなことやるより、勉強します(泣)」


ー登場人物ー

妙高教官(Lv.99) 秘書艦学の教官にして秘書艦の鏡。

瑞鶴(Lv.2) 秘書艦経験全くなし、書類書いたこと経験ゼロ。

瑞鳳(Lv.4) 旗艦になったことはあるけど書類は全部提督が書いてくれていた。


4月10日火曜日

 

空母級時間割

1限 (9:00〜10:30):艦載機運用学

2限(10:40〜12:10):秘書艦学 ←イマココ

3限(13:00〜14:30):空きコマ

4限(14:40〜16:10):指揮官学

5限(16:20〜17:50):空きコマ

 

2限目の開始時刻を少し過ぎた頃に意識を取り戻した瑞鶴は急いで教室に向かう。

 

 

瑞鶴「すみませーん。遅くなりました」

 

 

妙高教官「あなたが昨日入学した瑞鶴さんね。先ほどは大変だったわね。私が秘書艦学担当の妙高よ。よろしくね」

 

 

瑞鶴「よろしくお願いします」

 

 

瑞鶴はさっきのクレイジー・サイコ・翔鶴教官のアツかりし授業を受けて、かなり精神的に消耗していた。

 

 

妙高教官「翔鶴教官は少しアレなところもあるけど...。ここの教官は良い人ばかりだから」

 

 

この人は大丈夫そうだ。そう思うと瑞鶴は少し安心した。

 

 

 

 

席に着くと葛城が話しかけて来た。

 

 

葛城「さっきの瑞鶴先輩、メチャかっこよかったですよ〜」

 

 

赤城「あの翔鶴教官を唸らせるほどの回答をした艦娘はあなたが初めてよ。さすが妹艦なだけはあるわね」

 

 

なぜかクラスメートの間で私は英雄になっていた。あの回答にそんなに迫力があったのだろうか?

 

 

妙高教官「みなさん静かに。それでは授業の前に精神統一をしましょう。目を瞑って黙想してください」

 

 

みんなが目を瞑る。私も目を瞑った。今まで乱された精神が一つに統一されるような感覚だ。

 

 

妙高教官「はい、黙想やめ。では授業に入ります。この科目は特に教科書もなければノートもいりません。必要なのは冷静さと不動の心です」

 

妙高教官は私たちの机を回りながら話し始めた。この時瑞鶴は妙高教官から静かな威圧感を感じた。

 

 

妙高教官「秘書艦は往々にして書類の作成から、提督の身の回りのお世話まで多くの職務があります。このため秘書艦は提督よりも多忙な仕事であると言えるでしょう」

 

 

妙高教官「しかし、そんな多忙な秘書艦は忙しいからといって決して提督を見下してはいけません。驕っても、尊大な態度をとってもいけません。あくまで3歩下がって陰ながら提督を支える。これが理想的な秘書艦像です」

 

 

妙高教官「私はそんな理想的な秘書艦を育てるためにここにいます。なので普段から提督に向かって尊大な態度をとる者」

 

 

後ろで誰かがビクッと動いた。

 

 

妙高教官「提督に向かってタメ口をきいている者」

 

 

瑞鶴は冷や汗を流し始めた。

 

 

妙高教官「そのような者は今この場で改めなさい」

 

 

妙高教官は真顔で威圧感を発している。

 

瑞鶴は周りを見回してみた。何人かは顔が青くなったり、冷や汗を流している。

 

妙高教官は前面の黒板へ戻って行った。

 

 

 

 

 

妙高教官「...さてみなさん、心もしっかり改まったことでしょうし、基本的な書類作成のやり方を学びましょう」

 

妙高はチョークを取り出し、黒板に書き出した。

 

妙高教官「艦隊運営の基本は出撃・遠征・演習の3つで、それぞれには計画書と報告書の提出義務があります。みたことがある人もいるかもしれませんが、ほとんどは電子化されており、計画書は提督が、報告書はそれぞれの艦隊旗艦が書くことになっています」

 

 

妙高教官「そしてそれらをチェックするのは本来提督の仕事ですが、それを分担するのは秘書艦のお仕事でもあります。毎日膨大な数の計画書・報告書が上がってきます。それらを裁く秘書艦には提督同様、高い処理能力と絶対に間違えない正確性が求められます」

 

 

妙高教官「そのために、まずは書類の作成から学びましょう」

 

そう言うと妙高は2種類のプリントを配布し始めた。

 

妙高「それではこれから書く遠征計画を、お手本を元に作成してください」

 

 

【遠征計画】

軽巡洋艦1隻(旗艦)、駆逐艦5隻で遠征艦隊を組む。目的地は近海にある製油所で石油を可能な限り手に入れたい。

また低コスト・高パフォーマンスで行うために、必要な燃料・弾薬を計算した上で必要経コスト・最適ルートを算出し、計画書を作成せよ。

 

 

妙高教官「質問がある人は手を上げてください。計画書ができたら前に持って来てください。それでは、はじめ」

 

 

 

 

瑞鶴は簡単だと思った。速攻で終わらせて前に持っていくと妙高教官からは一気にダメ出しされてしまった。

 

 

妙高教官「まだ経費は小さくなるはずよ。弾薬の量が過剰すぎるわ。あとこの燃料の量では目的地に着くまでに燃料切れになってしまうわ。道中に深海棲艦がいることは考えなかったの?」

 

 

瑞鶴「はい、すいませんでした」

 

 

なんどもやり直す瑞鶴。周りを見てみるとどうやら私と同じ状態のようだ。

 

 

そんなこんなで結局2限目が終わってしまった。

 

妙高教官「みなさん、誰一人として終わりませんでしたね。ですが最初はこんなものです。まずは正確性を重視して書類を作成してください。予備の紙が欲しければ教官室まで取りに来てください。では残りは宿題にします。次の時間までに完成させてください」

 

 

妙高教官「...本物の秘書艦はこれを1日平均300枚はこなします」

 

 

その言葉にクラスがざわめく。

 

 

妙高教官「ですが、これもコツさえ掴んでしまえば、なんてことない。...そう誰かが言っていた気がします。みなさんにはこれ以上の努力を期待します。お疲れ様でした」

 

 

そう言うと妙高教官は教室を後にした。

 

 

瑞鶴たちはこれから待ち受ける試練に少しビビった2限目だった。




書類仕事は向き不向きがあるとよく言いますが、この世界では秘書艦に任命された艦娘は必ず遂行する義務があります。
いやあ、大変ですね。
僕も大嫌いです。(高専にいた時に大学編入学関係で嫌と言うほどやらされたのはいい思い出ですが)

【次回予告】

長門「貴様ら空母は艦隊の要だ。指揮官としての矜持を持て!」

瑞鶴(おお、なんか強そう...)

長門「しかし、貴様らはいいよな。駆逐艦に囲まれて出撃できるなんで夢のようだろう?」

瑞鶴「あ、ダメだ。この人ロリコンだ」

次回、指揮官学です


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009 余は常に諸子の先頭にあり! ー指揮官学ー

叢雲「それで、連載休止してまで勉強したTOEICはどうだったの?」

提督「...風邪引いて喉やられて散々だったです(泣)」

叢雲「...災難だったわね(汗)」


ー登場人物ー

長門(Lv.99) 艦娘学校教官。いつも駆逐艦たちが安全に仕事ができるように見守り(ストーキング)をしている。艦隊の総旗艦で、艦隊の皆(特に駆逐艦)を引っ張っていくため常に精進を怠らない。

陸奥(Lv.99) 艦娘学校教官。艦隊の良心。いつも変態行動をしている長門を抑えられる唯一の鑑。

瑞鶴(Lv.2) 艦娘学校生徒。僚艦として駆逐艦は好きだがロリコンではない。

瑞鳳(Lv.4) 艦娘学校生徒。瑞鶴どこ行っちゃったのー!!!

赤城(Lv.18) 艦娘学校生徒。かつての南雲機動部隊の旗艦経験からか非情な判断も躊躇がないが、戦場以外ではほんわかしている。


お昼を食べて少し眠くなった頃、瑞鶴は午後の空きコマを堪能していた。

 

 

瑞鶴「それにしても広いわね」

 

 

名古屋鎮守府と艦娘学校。2つの敷地はだいたい同じくらいの広さだからトータルでうち(柱島)の倍くらいか。一応敷地は分かれているが鎮守府庁舎さえ入らなければ、艦娘学校の生徒もいつでも往来できる。瑞鶴はお散歩がてら鎮守府の方へ歩いていった。

 

 

 

 

鎮守府の埠頭へ行ってみると小さい子たちが大きな荷物を運んでいた。ちょうど遠征艦隊が帰還した頃なのだろう。

 

 

大変そうだなーと見ていると、瑞鶴は突然袖を引っ張られた。

 

 

瑞鶴「うわっ!!だ、誰!?」

 

茂みまで引っ張られていくと押し倒されて馬乗りにされ、問い詰めるように話しかけられた。

 

 

??「貴様、ずっと駆逐艦たちを見ていただろう!? さてはストーカーだな!?」

 

 

頭に二本のツノの生えたカチューシャに割れた腹筋が目につく。女性らしく程よく割れた腹筋は小さな6つの丘を作っていた。良いシックスパックだ。

 

ってそんな場合じゃない。

 

 

瑞鶴「私はただお散歩ついでに歩いていたら遠征艦隊が目に入っただけよ! あなたこそなんなの!?」

 

 

??「嘘を言え、貴様は可愛い駆逐艦たちを視姦していたのだぞ!!」

 

 

瑞鶴「だーかーら、そんなんじゃないって!何度言ったらわかるのよ!!」

 

 

 

 

 

??2「長門ー!? どこにいるの? あと少しで空母級の授業よー!!」

 

 

茂みから少し離れたところで人を呼ぶ声がした。

 

 

??「ああ、陸奥か。いや、実はこのストーカーを...」

 

 

陸奥「長門、やっと見つけた。....って、艦娘学校の生徒じゃない!? 何してるの!?」

 

 

長門「いや、だからストーカーを「そんなことしてるのは全艦娘中あなただけよ!」...む。そうか」

 

 

陸奥教官「いいから、離しなさい。...長門が迷惑かけたわね。私は陸奥。艦娘学校の教官よ。あなたは?」

 

 

陸奥教官は私を立たせながら聞いてきた。

 

 

瑞鶴「柱島鎮守府出身の空母・瑞鶴です。陸奥教官、ありがとうございました」

 

 

陸奥教官「あら、柱島の子だったのね。...向こうの私も元気にしてる?」

 

 

瑞鶴「ええ、あいかわらずお腹はゆるいみたいですけど」

 

 

陸奥教官はふふと笑い出した。

 

 

陸奥教官「そう、あの子も相変わらずね。....そういえば、次の時間あなたは私たちの授業でしょ?『指揮官学』」

 

 

瑞鶴「ええ、そうです」

 

 

陸奥教官「なら一緒に行きましょうか」

 

 

こうして瑞鶴は長門・陸奥両教官と共に教室に向かった。

 

 

 

ー空母級の教室ー

 

瑞鶴が教室へ入っていくと瑞鳳が駆け寄って来た。

 

 

瑞鳳「ああ、良かった。授業時間になっても来ないからどこかで迷ったんじゃないかってみんな心配してたんだよぉ」

 

半泣きの瑞鳳に瑞鶴は謝る。

 

瑞鶴「ごめんね、瑞鳳。ちょっと長門教官たちに捕まっちゃってて」

 

 

瑞鳳「え!?」

 

 

そんな時瑞鶴の後ろから長門教官の声が聞こえて来た。

 

 

長門教官「貴様ら、授業時間はもう始まっている。早く席につけ!」

 

 

全員いそいそと席に着いていく。全員が着席したことを確認すると

 

 

長門教官「私が『指揮官学』の担当教官の長門だ。そしてこちらにいるのが補佐の陸奥だ。私は名古屋鎮守府の総旗艦を務めているため、事情によっては授業ができない時もある。その時はこちらの陸奥が代わって授業する。皆、顔を覚えておいてほしい」

 

 

長門教官「さて、授業にはいろう。知っている者もいるだろうが、艦隊の指揮権は基本提督が持つ。しかし、提督の判断が難しい時、指揮権は艦隊の旗艦へと委譲される。それゆえ将来旗艦となりうる貴様らにも指揮官学を修める必要がある」

 

長門教官は続けた。

 

長門教官「まず指揮官に必要なものは仁・義・礼・智・信の5つだ。貴様らにはこの授業でこの5つを身につけてもらう」

そう言うと長門教官はチョークを取り出し、黒板へ書き出した。

 

 

「まず仁とは人を思いやる心。すなわち仁愛の精神だ。旗艦たるもの艦隊のみんなを思いやらずして艦隊は成り立たない」

 

 

「次に義とは義理人情のことをいう。義理や筋を通さねば旗艦として皆に信用されなくなってしまう」

 

 

「次の礼とは礼儀のことだ。礼儀なくして人にあらず。これは艦娘にも共通することは貴様らも重々承知しているだろう」

 

 

「次の智とは知性のことだ。相手の謀略を読み解き、自らの艦隊を勝利へ導くことは頭の悪い奴にはできない。仮に知性に自信がないなら、少なくとも艦隊の参謀程度は自分で用意できるようにならなければならない」

 

 

「最後に信とは人を信用することだ。貴様たちが旗艦なった暁には、艦隊の皆は貴様らに命を預けている。命を預かった身として皆を信ぜずしてどうやって艦隊運営ができようか」

 

 

長門教官「私はこの5つのことを前の体、今は米国の海中に没している『艦』として在りし日に山本五十六司令長官から教わった。皆も名前は知っているだろう」

 

 

長門教官「私はこれらのことを実践を通して考えてもらいたいと思っている。これから行う授業はすべてグループワークだ。毎回課題を与えて皆で議論してもらう。その後全員で意見をまとめてから授業を終えたいと思う」

 

 

その時、赤城が手を挙げた。長門教官が発言を許可する。

 

 

赤城「果たしてそれを、我々が議論する意味があるのでしょうか? 私たちは提督の指示の元にすべての行動を決定されています。我々が考える必要はないのでは?」

 

 

長門教官「ならば貴様は一刻の猶予もない時にまで提督の指示を受けるのか?」

 

 

長門教官は赤城をまっすぐ見てそう言った。

 

 

長門教官「確かに、すべての提督は艦隊が出撃している時もしっかり艦隊を見て指示しているということは貴様も知っていると思う。だが、あくまで提督に伝わるのは貴様らが無線で伝えた内容や、わずかな計器を頼りに検出された値だけだ。しかし、戦場とはそのようなものだけで決まるわけではない。時々刻々と変化する戦場では、やはり現場にいる者でしか判断できないものがある。たとえそれが自分たちがしたくないような判断であってもだ」

 

 

赤城は表情を曇らせた。おそらく自身の雷撃処分の時のことを思い出したのだろう。

 

 

長門教官「そのため、多くの提督はわずかなデータを元に判断するよりも現場の判断に任せることが多い。そのためにも旗艦(指揮官)となる貴様らには物事を判断するための『目』や『倫理観』を養って欲しいのだ。わかったか?」

 

 

赤城「はい...」

 

 

赤城はそれ以上何も言わなかった。

 

 

長門教官「さて、話が少し逸れたが今回はこの作戦について考えてみようと思う」

 

そう言うと長門は一つのキーワードを書いた。「旅順港閉塞作戦・第二作戦」である。

 

 

この作戦は1904年3月23日に、ロシア海軍のバルチック艦隊と旅順艦隊が合流することを妨害するため、日本海軍が中国の旅順港を閉塞させようという作戦である。最終的に、この作戦は失敗に終わったが、その過程が物議を醸した。

 

この作戦を指揮した広瀬武夫少佐(当時)らは旅順港を閉塞させるため湾の入り口に爆弾を仕掛けた船を並べた。ところが作戦が8割方終わろうとした時、広瀬少佐たちはロシア海軍に見つかり、一刻も早く船を沈めてその場を離脱しなければならなくなった。

 

しかしこの時1人の海兵がまだ脱出用の船に戻って来ておらず、爆破がためらわれる事態となった。結局、広瀬少佐は自身で、その海兵を見殺しにする形で船を爆破し、その後広瀬少佐もロシア海軍の砲撃により戦死した。

 

結局3次まで実行した旅順港閉塞作戦は全作戦で失敗したが、旅順艦隊は日本陸軍が旅順を陥落させる前に自沈、バルチック艦隊はあの有名な「日本海海戦」において日本海軍に打ち破られている。

 

 

今回の論点は広瀬少佐の指揮官としての判断である。

 

 

これについて艦娘たちは賛成派・反対派に分かれて議論を始めた。

 

 

賛成派は赤城、加賀、葛城など。

反対派は瑞鶴、瑞鳳、雲龍、千歳など。

 

 

 

 

司会・進行は陸奥教官が務める。

 

陸奥教官「まず、賛成派の意見から聞かせてもらえるかしら」

 

赤城「では、賛成派を代表して呉鎮守府出身の赤城が発表します。まず、軍事活動に従事している者は皆すべて命を落とす危険性を承知で活動しており、海軍任務の遂行は命よりも優先されるべきものです。よく『命さえあればやり直せる』と聞きますがこの場合はそれに限らないでしょう。実際に、前後の歴史を見てもこの時にやっておかなければ、いずれバルチック艦隊と旅順艦隊は合流してしまい、歴史に名高い日本海海戦も日本の敗北となっていたかもしれません。ですので、広瀬少佐は間違った判断はしていないと考えられます」

 

 

陸奥教官「なるほど、日本の状況を鑑みるとそれは十分に考えられるわね。では次に反対派の意見を聞かせてもらえるかしら」

 

 

瑞鶴「では、反対派を代表して柱島鎮守府出身の瑞鶴が発表します。そもそもこの旅順港閉鎖作戦は全作戦において失敗しています。つまり、命がけで旅順港を塞ぐよりも、成り行きとしてバルチック艦隊を迎え撃つほうがよかったのではないでしょうか? この時の広瀬武夫少佐は日本海軍では主要人物であり、ここで不名誉になっても挽回の機会は与えられていたはずです。確かにこの場合、旅順艦隊が日本海軍の背後を突かれる可能性があったため当時の人からすれば賭けだったでしょうが、赤城さんが言ったのとは違って『命さえあればやり直せる』は十分通用すると考えられます」

 

 

 

 

それから賛否両派は一時間以上も議論を重ねた。

 

議論を静かに傍観していた長門教官が口を開いたのは、授業があと10分で終わろうとした頃だった。

 

長門教官「皆、議論ご苦労だった。初めてにしてはいい議論ができていたと思う。さて今回の議論だが、これは指揮官の倫理性について貴様らに考えてもらうテーマだった」

 

 

長門教官「今回の場合、広瀬少佐の判断だけで善か悪かの答えは出ない。しかし、その後の影響を考えることはできる」

 

長門教官は続けた。

 

長門教官「仮に事実に反して、逃げ遅れた海兵を見殺しにせずに助けに行っていたとしよう。そうなれば一人の海兵を探している間にロシアの旅順艦隊の警備隊に広瀬少佐たちは発見され、脱出艇に乗っていた日本海軍の兵たちは悉く捕縛か射殺されていたかもしれない。少なくとも無事な者は一人としていないだろう」

 

 

長門教官「指揮官は往往にして、非情な判断を迫られる。たった一人のために全員を犠牲にするか。それとも全員の命を守るために一人の命を犠牲にするか。...とても辛い判断だが指揮官は全員の命を預かっている以上判断せざるを得ない。今回の作戦では広瀬少佐は脱出艇に乗った海兵たちの命を助けるため、指揮官として、残った一人の海兵の命を犠牲にする判断をしたのだろう」

 

 

長門教官「しかし、今回はこの判断が正しかったとしても、場合によっては艦隊全員で捜索しなければならない。見殺しにするかしないかはケースバイケースだということを皆覚えておいてほしい」

 

 

クラスはシーンと静まり返る。

 

 

 

 

 

長門教官「...さて、今日の授業の最後にこの言葉を覚えて欲しい」

 

そういうと長門教官は再び黒板に書き出した。

 

 

余は常に諸子の先頭に在り

 

 

長門教官「これは1945年2月、日本陸軍の硫黄島守備隊の指揮官・栗林忠道中将が守備隊員を鼓舞する演説の中で言ったものだ。『余』とは栗林中将その人を指し、『諸子』とは硫黄島守備隊22000人のことを指す」

 

長門教官「先ほども言ったが、一刻の猶予もない時、旗艦は非情な選択でもそれを行わなければならない。そしてその判断を真っ先に実行するのは、旗艦である貴様たちでなければならない」

 

長門教官「つまり、艦隊行動において『先頭』にいるのは旗艦である貴様たちだということだ。貴様たちに艦隊の命がかかっている。そのことを忘れないでほしい」

 

そういうと長門・陸奥両教官は授業終了を宣言し、2人は教室を後にした。

 

 

 

瑞鶴「...重いわね。旗艦って仕事は」

 

瑞鳳「うん....だから私たちはしっかり学ばないと。みんなを沈めないために強くならなくちゃ」

 

瑞鶴「そうね」

 

そういうと瑞鶴は自身が強くならなければならないことを強く意識した。身体的にも、精神的にも。




少し重い話でしたね。普段生活していると海の向こうにいる脅威(特に北の将軍様)の存在を忘れてしまいがちですが、こういう脅威から守ってくれているのが陸海空の自衛隊の皆さんなんです。
自衛隊も他国の軍隊同様、防衛のために戦闘行動に出ることもありうるわけで、このような判断を迫られることがあるんですよね。本当に頭の下がる思いです(安全なところで何言ってんだと言われてしまいますが)。
次回は割と軽めのお話です。


【次回予告】

ちび時雨「勉強ってなんでするの?」

子供達の永遠の疑問。「なんで勉強するのか」

次回、この答えを求めてちっちゃい駆逐艦・ちび時雨が艦娘学校の教官たちに突撃します!!

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提督「僕の出番は?」

叢雲「ないわよ」

提督「orz」


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010-1 なんで勉強するの? ー子どもたちの永遠の疑問ー (前編)

10回記念! 今回は特別テーマでお送りします!!


子どもたちの永遠の疑問。「なぜ勉強するのか」

その答えを求め、今回はちっちゃい駆逐艦・ちび時雨が先生たちに突撃します!!

※幼児艦娘と母親艦娘の設定は◯のような赤子様の作品「無冠の英雄 隻腕の長門」(ID:144943)よりご本人の了承を得てお借りしています。


ー登場人物ー

ちび時雨(練度評価なし) 名古屋鎮守府に住んでいるいわゆるバグ艦。見た目は人間の7歳児。地方の鎮守府で建造されて以来あらゆる鎮守府をたらい回しにされて来たせいか、名古屋鎮守府に来た時はふさぎ込んでいた。しかし、叢雲の献身的な世話により元の元気な女の子に戻りつつある。艤装がないため海上を走ることができない。
最近、艦娘学校の駆逐級に入学した。自分より大きい艦娘をみるとすぐに「だっこ!」と言って甘える癖がある。

叢雲(Lv.99) 名古屋鎮守府の初期艦にして秘書艦。ちび時雨の母親役。秘書艦として多忙ながらもたった一人の娘を育てている。

提督 名古屋鎮守府司令官にして艦娘学校校長。ちび時雨は実の娘のように可愛がっているが、ちび時雨には「おじちゃん、クサい!!」と煙たがられている。まだ加齢臭する歳じゃないのに。

時雨(Lv.85) ちび時雨とは別に存在する名古屋鎮守府所属の艦娘。ちび時雨には「おねえちゃん」と呼ばれている。

艦娘学校教官s 艦娘学校の教官たち。特殊な生い立ちのちび時雨を見守っている。長門が抑えきれないようだが、陸奥がいつも縦四方固めで抑え込んでいる。

駆逐級のクラスメート 全国いろいろなところから駆逐艦が集まっている。全クラス中最もメンバーが多く、20人を超える時も。


 

「おかしゃん、なんでしぐれはおべんきょうするの?」

 

 

 

「は?」

 

 

 

ここは名古屋鎮守府・食堂。名古屋鎮守府に在籍する艦娘・妖精・提督が利用する大規模食堂だ。今は朝7時30分。いつもの制服の叢雲とミニチュアの白露型制服を着ているちび時雨は二人並んで一番奥の長テーブルで朝食を摂っていた。

 

 

叢雲「しぐれは艦娘学校きらい?」

 

ちび時雨「ううん、だいすき」

 

叢雲「ならどうしたの? 勉強嫌になった?」

 

ちび時雨は唇を尖らせてうーんと悩む。

 

ちび時雨「おべんきょうはすきだけど、なんでこんなことしてるのかな? しぐれ、もっとみんなとあそびたい!!」

 

ちび時雨は最近、名古屋鎮守府の艦娘である電や暁たち第6駆逐隊と仲良しなのだ。最近の流行りはサッカーらしい。

 

 

叢雲は少し悩んだ。

 

叢雲「しぐれはもっと遊びたいのね。...でも、今のお勉強はしぐれが大きくなってから絶対に必要になるの。だから今はちゃんと鹿島先生の言うことをきいて、宿題もやって、それからみんなと仲良く遊びなさい」

 

ちび時雨「はあい....」

 

叢雲は曖昧な回答しかできなかった。そこへ朝食のトレーをもった時雨がやってきた。

 

時雨「おはよう、叢雲、ちびしぐちゃん」

 

ちび時雨は鎮守府のみんなに「ちび時雨」を略して「ちびしぐ」と呼ばれている。

 

叢雲「おはよう、時雨」

 

ちび時雨「おはよう、おねえちゃん!!」

 

時雨がちび時雨の隣に座ると、唐突にちび時雨が質問する。

 

ちび時雨「ねえ、おねえちゃん」

 

時雨「ん、なに?」

 

ちび時雨「なんでしぐれはおべんきょうするの?」

 

時雨は飲んでいたお茶を吹き出した。

 

時雨「ゲホッ、ゲホッ、ちびしぐちゃん、突然どうしたの?」

 

叢雲と時雨はテーブルに吹き出したお茶を拭く。叢雲は時雨に事情を説明すると、

 

時雨「なるほどね。ちびしぐちゃんはもっと遊びたいかあ....。なんで勉強するのか、かあ」

 

 

時雨は少し考えた。時雨はこう見えても艦娘学校駆逐級卒業試験をトップの成績で卒業している。時雨本人も勉強は提督が着任してから始めたが、やっていくうちに勉強が好きになっていった。

 

時雨「うーん、私の場合は勉強が好きだから勉強してたからかな? あの提督と一緒に勉強したら楽しくなってね。気がついたら自分で勝手に勉強してたよ」

 

ちび時雨「ふーん、そうなの」

 

ちび時雨はあまり納得できなかった。

 

叢雲「そのことはお母さんたちじゃわからないから、先生たちに聞きなさい」

 

ちび時雨「うん!」

 

そう言うとちび時雨は朝食のパンに手を伸ばした。

 

 

 

 

ー午前8時15分ー

叢雲に送られて艦娘学校に着いたちび時雨は、早速授業が始まるまで外へ遊びに行く。今朝は艦娘学校の級友たちと外へドッジボールをやりに行くのだ。

 

 

ちび時雨「あられちゃん、ぱす、ぱーす!!」

 

 

ちび時雨はその小柄な体とバグ艦娘特有の俊足を活かして逃げまくる。ちび時雨側のコートは、ちび時雨だけが残っていた。

 

 

荒潮「もー、ちびしぐちゃん強すぎー!!」

 

ちび時雨「あらしおちゃん、よわすぎー!!!!」

 

 

荒潮がぼやくと、ちび時雨がツッコミを入れる。いつもの光景だ。

 

 

荒潮「いったなー! 生意気なおチビさんには、こうだー!!」

 

ちび時雨「キャッキャッキャ!」

 

 

荒潮がちび時雨をグラウンド中追い回す。荒潮が2m走ったら、ちび時雨はもう10m先にいる。

荒潮はちび時雨に一向に追いつけない。

 

 

 

 

 

 

鹿島「駆逐級のみなさーん!! もうすぐ授業が始まりますよー!!」

 

 

 

鹿島先生がいつものように生徒たちを呼びに来る。生徒たちもわらわらと集まってきた。

 

朝潮「先生、おはようございます!!」

 

荒潮「おはようございます!」

 

口々に朝の挨拶をする駆逐艦たち。そしてちび時雨も走っている足に急ブレーキをかけ、トコトコと鹿島先生に近づいてきた。

 

ちび時雨「せんせえ、だっこ!!」

 

鹿島先生「ちびしぐちゃん、先生はお母さんじゃないのよ」

 

ちび時雨「だっこ!! だっこ!!」

 

こう言い出すと、ちび時雨は頑として言うことを聞かないのだ。

 

鹿島先生は仕方なくちび時雨を抱き上げる。それに呼応して他の駆逐艦たちも一斉に鹿島先生に飛びつく。鹿島先生は既に大ト●ロ状態だ。

 

鹿島先生「もう、みんなしょうがないんだから」

 

そう言って鹿島先生はちび時雨を下ろし、ほかの駆逐艦たちも一人ずつ剥がしていく。

 

鹿島先生「みんな、教室に戻りましょうね」

 

駆逐艦s「はーい」

 

 

 

 

4月13日金曜日

 

駆逐級時間割

 

1限目( 9:00〜 9:45) 国語

2限目( 9:50〜10:35) 理科

長休憩(10:35〜11:00)

3限目(11:00〜11:45) 数学

4限目(13:00〜13:45) 射撃実習

5限目(13:55〜14:40) 射撃実習

6限目(14:50〜15:35) 射撃実習

 

ー1限目・国語ー

 

駆逐艦s「妙高先生、おねがいします!!」

 

駆逐級の1日が始まる。最初は国語だ。

 

妙高先生「はい、お願いします。今日はお手紙の書き方を練習しましょうか」

 

そう言うと妙高先生は罫線付きの色紙を渡し始めた。小さな女の子向けらしく、キャラやイラストがプリントされている。

 

荒潮「ちびしぐちゃん、キ●ィとポムポ●プ●ン、どっちがいい?」

 

ちび時雨「き●ぃーちゃん!!」

 

ちび時雨は嬉々として受け取る。

 

妙高先生「今日は皆さんの鎮守府の提督にお手紙を書いてもらいます。書く内容はなんでもいいです。ここに来てからあったこととか、今楽しみにしていることとか...」

 

如月「それとも、提督に聞いてみたいこととか?」

 

妙高先生は微笑んで「それでもいいですよ」という。ちび時雨は何か閃いたようだ。

 

妙高先生「書き方は前の授業でやりましたね? このお手紙は書き方に沿って、皆さんの気の向くままに書いてください。では、始めてください」

 

 

ちび時雨は迷わず書き、妙高先生の元へと向かっていった。

 

妙高先生「あら、ちびしぐちゃん。もうかけたの? 早いわね」

 

ちび時雨「おじちゃんにききたいことをかいてみた」

 

妙高先生「どれどれ...? 『おじちゃんへ なんでしぐれはおべんきょうするんですか? おしえてください。 しぐれ』」

 

妙高先生は少し頭を抱えた。

 

妙高先生「ちびしぐちゃん。お手紙だからもっと自分のことを文章にして伝えなきゃダメよ。例えば、『今学校ではサッカーが流行ってます』とか『昨日は駆逐級のみんなでお芋を焼きました』とか...」

 

ちび時雨「しぐれのことはおかしゃんがいつもおじちゃんにはなしてるってきいたよ? おじちゃん、しぐれのことみんなしってる!!」

 

妙高先生「そうね...。確かに叢雲さん(お母さん)が全部喋っちゃうわよね」

 

そういうとちび時雨はあることを思い出す。

 

ちび時雨「ねえ、せんせえ!」

 

妙高先生「ん、なに?」

 

ちび時雨「しぐれはなんでおべんきょうするの? おかしゃんじゃわからないからせんせえにきいてって、おかしゃんが」

 

妙高は苦笑いをした。

 

妙高先生「なんでお勉強するかですか。難しい疑問ね...」

 

そういうと妙高先生は語り出した。

 

妙高先生「ちびしぐちゃん。大人になったらいろいろなことを考えなくちゃいけないの。例えば『あのスーパーじゃ豚肉が安いけど、こっちのスーパーじゃ牛肉が安い』。ちびしぐちゃんはどっちのスーパーでお買い物する?」

 

ちび時雨「ぎゅうにくをかう!!」

 

妙高先生「...それはなんで?」

 

妙高先生は少し真面目な顔をした。

 

ちび時雨「だって、うしさんおいしいもん!!」

 

妙高先生「そっかあ...。でもね、ちびしぐちゃん。その時牛肉と豚肉を比べたら豚肉の方が安いかもしれない。今持っているお金じゃ牛肉は買えないかもしれない」

 

妙高先生「そうなったらちびしぐちゃんはどうする?」

 

ちび時雨「ぶたにくをかう...?」

 

妙高先生「そうね、ちびしぐちゃんは『豚肉を買う』という判断をしたけど、ほかにも『今はお肉を買わない』とか『お店の人に頼んで値切りしてもらう』なんて選択肢がある。ちびしぐちゃんはお肉を買うだけでいろいろなことを考えなくちゃならないの」

 

ちび時雨「へええ」

 

妙高先生「お勉強はそういう『考える力』を育てるところなの。いろいろな選択肢の中で今の自分にあった一番良い選択肢を選び取る力をお勉強を通して鍛えてるのよ」

 

ちび時雨「そーなんだあ」

 

ちび時雨は妙高の話に少し納得したようだった。

 

妙高先生「さ、ちびしぐちゃん。お手紙はもっと文章にしてから書いていらっしゃい。提督に聞きたいことをこのような一文じゃなくて、今自分がどのように思っているのかをつけて書くと提督もわかりやすいと思うわ」

 

ちび時雨「はーい」

 

こうしてちび時雨は授業時間中いっぱい頭を悩ませて、用紙全面を埋めることにした。

 

 

ー2限目・理科ー

 

1限目が終わってから束の間の休憩を挟み、駆逐級の面々は理科室へ移動した。

 

駆逐艦s「足柄先生、おねがいします!!」

 

足柄先生「はい、お願いします。今日は『テコの原理』をやるわよー!!」

 

元気にそういうと足柄先生は横になっている棒の中心の部分が動くT字状の器具と分銅を取り出した。駆逐級の面々は先生の机の周りに集まって話を聞いている。

 

足柄先生「まず右の腕に分銅をぶら下げると、右側に棒が傾く」

 

足柄先生「同じように、左側に同じだけ中心から距離が離れた位置におなじ重さの分銅をぶら下げると...」

 

足柄先生「棒が水平になりまーす!!」

 

駆逐艦s「おおー」

 

我々大人たちからみたらなんてことない実験。だが初めて見る子供たちは興味津々だ。

 

足柄先生「このように重りとぶら下げる腕の長さによって棒が水平になることを『力の釣り合い』と言うの。...さて、いつもは実験して終わりだけど、今日はここから一歩進んで数学的な話をしましょうか。みなさん席に戻ってください」

 

そういうと足柄先生は黒板で説明を始めた。

 

ちび時雨は数学がまだわからない。いつものように窓の外を見始めた。

 

足柄先生「コラ、ちびしぐちゃん!! 先生の話聞いてる!?」

 

ちび時雨「せんせえ。しぐれ、まだすうがくわかんないよお」

 

足柄先生「...うーん。まだわからないかあ。文字式やってないから難しいかしら」

 

足柄先生は悩み出した。

 

ちび時雨「ねえ、せんせえ!」

 

唐突に質問するちび時雨。足柄先生は少し驚いたようだった。

 

足柄先生「もーびっくりした。どうしたの? ちびしぐちゃん」

 

ちび時雨「なんでしぐれはおべんきょうするの?」

 

足柄先生「えっ!?」

 

足柄先生は突然のことに動揺が隠せない顔だ。

 

足柄先生「なんでって...。今やっているお勉強は戦場で使う知識だからよ」

 

そう言うと足柄先生は全員に向き直って話し始めた。

 

足柄先生「ちょうど良い機会だし、今やっているお勉強がどんなところに役に立っているか、皆さんで考えて見ましょうか」

 

足柄先生「今やっている理科の内容、これは難しい言葉で『古典力学』と呼ばれるものよ。古典力学では物体に力を加えた時の変化を見ることが多いの。例えば、物体を投げるとどういう風に飛んでいくのかとか、そもそもこの物体を決めた距離だけ飛ばすにはどれだけの力で投げれば良いのかとか」

 

足柄先生「そういうことが計算するだけでわかっちゃうの」

 

初春「それが、発射された砲弾の軌道だったり、必要な爆薬の量を算出したりできるのじゃろ?」

 

足柄先生「ええ、そうよ。よく勉強しているわね」

 

ちび時雨にはよくわからなかった。だけど戦いで役に立つということだけわかった。

 

足柄先生「ちびしぐちゃんも、そのうち艤装が持てるようになったらわかると思うわ。だから今のうちに理論だけでもお勉強しておきなさい」

 

そう言うと足柄先生はちび時雨に理解できない難解な話を始めた。

 

ー昼食時ー

 

艦娘学校の教官たちはみな名古屋鎮守府所属なので食堂は鎮守府の方を利用する。妙高型4姉妹は午前の出撃を終えた羽黒と合流して食堂で昼食を摂り始めた。

 

足柄「今日の授業でちびしぐちゃんに難しいことを聞かれたわ」

 

妙高「それって、『なんでお勉強するの』ってこと?」

 

足柄「そうよ...って妙高姉も聞かれたの?」

 

妙高「うん」

 

それから足柄はさっきの授業のことを話した。

 

那智「あのチビにも思うことはあるんだろうが、勉強はやってもらわなくてはな」

 

羽黒「そうですね...。でも姉さんたちも一度は思ったことがあるんじゃないですか? なんで勉強するのか」

 

妙高「私、提督に初めて会った時それを思ったわ」

 

那智「それな」

 

足柄「私は落ちこぼれの時はずっと考えていたわ」

 

羽黒「でも、こうして教官になる(時が経つ)と忘れてしまうものなんですね、『初心』」

 

足柄「ええ、忘れないようにしないとね」

 

妙高型の席は少ししんみりした雰囲気になってしまった。

 

那智「ええい、この話はまた後だ! とりあえず、次の時間は私の授業なんだ。プレッシャーかけるのやめてくれ!!」

 

妙高「あら、ごめんなさい。余計なお世話だったかしら?」

 

足柄「那智姉、次の時間ちびしぐちゃんの標的にされちゃいなさいよ〜」

 

那智「二人ともからかっているのか!?」

 

羽黒「那智姉さん顔赤いですよ〜? 動揺してるんですか〜?」

 

姉妹3人にからかわれる那智であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




TIPS:
・艦娘学校生徒は艦種ごとに定められた制服を着用しなければならない。
・艦娘学校では教官を、駆逐級・潜水級のみ「先生」呼称を容認しているが、それ以外は「教官」と呼ばなくてはならない。
・艤装を持たない艦娘は「遠征実習」「射撃実習」を免除される(ちび時雨だけの特例)。


長くなりそうなので後編を作りました。そのうち、ちび時雨が主人公のスピンオフを作ろうと思います。



ーそれぞれの主張ー


叢雲:将来必要になるから

時雨:やっていれば、楽しくなるから

妙高:判断力を育てるため

足柄:道具として必要だから(そのうちわかるから)

あなたの納得のいく説明はあったでしょうか? 後編へ続く。


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