Re:ゼロから始める主従関係 (rainy@執筆開始)
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第一話 新たな主従

リゼロです。

某ゲーム内のCGを見たことから想像が膨らみ、執筆致しました。

第一話、少し長くなっておりますが、お付き合い願います。


「ぎょえ~!なんじゃこりゃぁぁあ!」

 朝・・・より昼に近い時間、誰もが目を覚ましているであろう。

ナツキ・スバルの絶叫から一日が始まる。

 

 

 ベッドの上で彼は驚愕の表情を浮かべ肩で息をしていた。

心なしか顔色も青く、自分の死期を悟ったような顔にも見える。

彼が寝ていたはずのベッドは、彼がいないにも関わらずにふくれている。

 

 そこには綺麗な金色とオレンジ色を混ぜたような長く艶のある髪の毛。

必要以上に開いた胸元で自己主張の激しい胸。

今は閉じられているため、強気な瞳は閉じられている。

100人中100人は見惚れるといっても過言はない美女が寝ていた。

 

「あわわわわ・・・あわわわわわわわ。」

 

 ナツキ・スバルは思考停止・・・てんぱっていた。

目はきょろきょろと右へ左へ彷徨って、女性を極力見ないようにしている。

手も慌ただしく振っており、見る人が見れば、滑稽だ。と鼻で笑うだろう。

その筆頭たる女性は、今は眠っている。

 

「な、なななんだよ!?何でだよ!?どうゆうことだってばよ!?」

 

 彼は寝ている女性の横で大騒ぎしていた。

冷静になってしまえば、ここで起こしてしまった方が、確実に自分の首を絞めるとわかるはずだが、

彼は現在てんぱっている。わかるはずもなかった。

 

 大騒ぎしている彼の声に、煩わしかったのか、少し顔を顰めながらゆっくりと目を開いた。

まだ半分寝ぼけ眼だが、燃えるように真っ赤で綺麗な瞳。

その瞳にはしっかりと彼女の意思が宿っている。

 

「なんじゃ、凡愚。妾が眠っているのがわからぬか。いつもは慈悲をくれてやっておるが、

 今日という今日は許さんぞ?」

 

 彼女の言葉に彼は動きを停止する。

否、心臓も停止したが如く顔色が悪くなっていく。

言い訳を並べるより早くに、彼は行動に移った。

 

「申し訳ありません、許してください!俺にも何が何だかわかってないんです!

 本当です嘘じゃないです助けてくださいいい!」

 

 形振り構わずに綺麗に土下座を慣行している。

恥よりも生・・・等と考えているわけではなく、

彼自身本当に何が起こっているのかわかっていない様子だった。

そんな彼を詰まらなさそうに見ていた彼女が口を開いた。

 

「何を言っておる。昨夜は貴様から誘ってきたであろう?

 嫌がる妾をあれやこれやと手と口を使って手籠めに・・・」

 

 妖艶な仕草で胸元から扇子を抜き出し、口元に運ぶ。

そして、少しおどけたような口調だが、彼にしな垂れて言葉を紡いだ。

寝起きで着崩れている服。まだ少し眠たげで、普段より少し垂れている眼。

客観的に見てみると、事後の男女に見えなくもない。

しかし、男のほうから後ずさり距離をとった。

 

「いやいやいやいや!まてまてまて!事実無根だ!冤罪だ!

 俺はそんなこと言った覚えもないし、そもそも寝る時は一人でベッドに潜ったわ!」

 

 身振り手振りを交えて必死に弁明する男。

傍から見れば、浮気がばれて必死に弁明している旦那。の図である。

ベッドの上では逃げ場は少なく、ニヤニヤしながら追いつめていく彼女。

 

「そうじゃったか?しかし、この世の全ては妾の都合のよいようにできておる。

 ゆえに妾に不利益が起こることなぞない。

 今ここで妾が大声を出すと・・・貴様はどうなるのじゃ?」

 

 四つん這いの恰好で、一歩、また一歩とゆっくり近づいていく。

既に彼の顔面は青色を突破し、白色になっていた。

体同士が触れ合うくらいに近づいた彼女は、彼の耳元へ口を持ってくる。

 

「ほおら、貴様が今すべきことじゃなんじゃ?

 言い訳を並べることか?そんなことはただの凡愚でもできることよ。

 妾の機嫌は気紛れで、いつ行動を起こすかわからぬぞ?」

 

 言葉の後に舌をチロリと出して男の耳たぶを一舐めする。

妖艶な彼女の仕草も声も、今の彼にとっては死刑宣告に近しいものがある。

半ば諦め表情で彼は口を開いた。

 

「すいません申し訳ありません私が悪かったです本当に!

 若気の至りといいますか・・・本当に記憶にはございませんが、失礼なことをしてしまい・・・」

 

 言葉を続けていく最中に少しずつ折れていく腰。

ちょうど半分に折りたたまれた頃には綺麗な土下座が完成していた。

彼の様子を見ていた彼女は満足げにほほ笑んでいた。土下座中の彼には見えなかったが。

 

「反省しておるのなら良い。無かったことにする積りもないのじゃろう?

 妾の体に触れるなど、凡愚が百度輪廻を繰り返したとしても叶わぬことじゃ。

 光栄に思うがよいぞ?凡愚。」

 

 彼の顔から更に血の気がひいていく。

驚きっぱなしだが、一周回って少し冷静になっている彼。

覚えてないなんて損なんじゃね?等と不毛な考えをしていると、更に彼女から追撃がくる。

 

「そ・し・て。認めたということは・・だ。断る等あり得ぬとは思うが・・・

 責任は取るのであろうな?」

 

 口元は扇子で覆われているため見えないが、瞳は真剣そのもの。

答えを間違えれば首を刎ねる、と語っている。

彼は覚悟を決めたのか、瞳に決意を宿して彼女の瞳を見つめ返した。

 

「ああ・・・。わかってるよ。俺も男だ。

 ああだこうだ言ってしまったが・・・。責任はとる。ここで逃げれば男じゃねぇ。」

 

 拳を握りしめながら語る彼。

台詞はある程度見栄えがいいのだが、如何せん土下座慣行中により、滑稽さだけが目立つ結果となった。

 

「あっはっは。その潔さは良いぞ。褒めてつかわす。凡愚の割には良い決断力じゃ。

 誓いの口づけをさせてやろう。床に這いつくばり、羞恥と屈辱を噛みしめて

 野獣のように妾のおみ足を舐めるがよいぞ?」

 

 ベッドの端へ腰かけ、足を組みながら舐めろと出している。

彼は暫し茫然としていたが、理解できたのか、掌で顔を覆いながら首を振っていた。

 

「どうした凡愚?言われたことも出来ないなど凡愚以下じゃ。

 寛大な妾にも我慢の限界はある。あまり時間をかけるようじゃと

 貴様の頭と胴体が離れるだけじゃぞ?」

 

 言いながら、足を組み替える彼女。

妖艶なその姿に思わず見惚れてしまうのも無理はないこと。

彼は頭の中で高速でシミュレートしていた。

 

認める→足を舐める?→蹴り飛ばされる→首が飛ぶ?

 

断る→最終勧告→断る→首が飛ぶ

 

逃げる→捕まる→弁解する→首が飛ぶ

 

あれ・・・詰んでんじゃね・・・?と小さく零す。

彼は何故このような状況になっているのか、全く理解ができていなかった。

寝起きから怒涛のストレスラッシュにより、彼の頭で何かが切れる音がした。

 

「どうせ死ぬなら・・・いいぜ。やってやるよ。

 足にでも靴にでも好きなところに口づけをしてやるよ。ただし・・・」

 

 ゆらゆらと揺れながら静かに立ち上がる。

幽鬼の如く足取りで近づいていく。

顔は伏せているので表情は読めない。

彼女の前で立ち止まり、頭を下げながら彼は言葉を発する。

 

「どうせ死ぬなら好きにしてもいいってことだよなぁ!?昨日のことも覚えていないとか悔しいし・・・!

 お前の体を好きにしてもいいんだよなぁ!?そうゆうことだろ!?」

 

 差し出された足を掴みながら捲し立てる。

豹変ぶりにドン引きしていそうだが、彼女は目を細め、興味深そうに見ているだけだった。

そんな対応をされてしまい、勢いを失う彼。

 

「どうした?凡愚よ。好きにしたいのであろう?好きにするんじゃろう?

 なら何故足を掴んだままで固まっておる。貴様のしたかったことは足を掴むことか?

 そうではないであろう?妾の体を・・・滅茶苦茶にしたいんじゃろう・・・?」

 

 彼女から彼にしな垂れかかりながら言葉を紡ぐ。

慌てて支えようと手を差し伸べたところ、柔らかいナニカに当たってしまい、慌てて手を下げる。

手を下げたことにより、彼女を支えきれず、床に倒れこむ二人。

彼女が怪我をしないように、と下敷きになりながらも、包みこむように抱きしめた。

衝撃により一瞬、息が止まるがそれより彼女の怪我がないか目を向ける。

その瞬間に彼女と目が合い、少し瞳を潤ませながら、微笑みを浮かべていた彼女が口を開いた

 

「そうじゃ。それでいいのじゃ。もっと己の欲望に忠実になるがよいぞ。

 妾の体に触れたいであろう?この柔餅より気持ちのよい肌、触っていたいのであろう?

 今だけは特別じゃ。凡愚であるが、貴様は触ってもいいのじゃぞ・・・。」

 

 彼の首へ両腕を回しながら、真っすぐ瞳を見つめて告げる。

彼女の香や普段なら言わない台詞に彼はすっかりと酔ってしまっていた。

“もう・・・ゴールしてもいいよね”と心の中で呟きながら、理性が崩壊していく音を聞いていた。

 

「プ、プリシラ・・・俺・・・。」

 

 彼女の頬と後頭部へ手を添えて、ゆっくりと顔を近づける。

元々近かった二人の距離がゼロになる瞬間――

ガチャ と扉が開く音が響き渡った。

 

「スバルくーん。朝ですよ。スバル君のレムが起こしにきましたよー・・・。」

 水色の髪の毛をしたショートヘアの女の子、-特筆すべきところはメイド服をきているというところか-が、

起こす気はないのであろう、小声で告げながら入ってきた。

 

 扉が開く音がした瞬間に慌てて彼を顔を離す。

一瞬で顔中汗まみれになっており、焦っていることが伺える。

 

「プ、プリシラ。すまん。少しベッドの下・・・いや陰でいい。このまま隠れててくれないか?

 上手い事やり過ごして、すぐに出て行ってもらうからさ。」

 彼は返答を聞くまでもなく、彼女へ頼んだ!と告げて対応をしようとする。

そんな彼の態度に彼女は怒り心頭であった。

また、彼女には遠慮という言葉や空気を読むという言葉は無かった。

 

「レ、レム!おはよう!今日もいい朝だなぁ~!

 よっ「おい、鬼の娘よ。貴様は今何をしたのかわかっておるのか?」

 

 彼の言葉を遮りながら彼女は告げる。

瞬間、場の空気が凍ったことを彼は理解した。

そして、もう自分の言葉では絶対に止まらずに、(自分の)血をみるということを・・・。

 

「な、な、な何故プリシラ様がここに!?しかも・・・なんて恰好をしているのですか!?

 まさか・・・スバル君に夜這いを!?レムもまだしたことないのに・・・。」

 

 青髪の女の子・・・-レム-は混乱しているのか、はちゃめちゃなことを言っている。

対して金髪の彼女・・・-プリシラ-は堂々としたものだった。

先ほど転げた際に、更に着崩れしており、胸元は殆ど隠れておらず、

またスカートもずり上がっているため、下着も殆ど見えている状況だ。

 

「五月蠅いぞ、小娘風情が。妾の邪魔をするのでない。

 折角いいところじゃったのに・・・」

 

 プリシラはいつもの様に、扇子を口元へあてている。

レムも少し落ち着いたのか、売り言葉に買い言葉で応戦する。

当事者の彼、-スバル-はこの先の近未来を予想して、大きなため息をつくのであった。

 

 

「それで?説明してくれるかしら。」

 

 金髪縦ロールをしたようじょ・・・女性-ベアトリス-が声を出す。

額にはしっかりと筋が入っており、どれほど怒っておるかはすぐにわかる。

レムとスバルは既に顔面蒼白になっており、言葉を発することさえ出来ていない。

しかし、プリシラはどこ吹く風で、はだけた服もそのままにベアトリスを見つめている。

 

「そ・れ・で!?説明してほしいのかしら!?」

 黙ったままのレムとスバルに対して、堪忍袋の緒が切れたベアトリスは言葉を強めた。

顔を上げられないスバルに変わり、レムが慌てて説明をしようとする。

 

「あ、あの、ベアトリス様―「お前に聞いてるんじゃないかしら。

 そこで犬のように這いつくばっているあの男に聞いてるかしら!」

 

 びくっと体を震わせるスバル。

恐怖のあまり顔を上げることができなかったが、話が進まないことがわかると観念した。

ゆっくり、顔をあげていくと、満面の笑みを浮かべているベアトリスの顔があった。

彼は恐怖した。ベアトリス-通称ベア子-の満面の笑みなど見たことがなかったからだ。(パックを除く)

自身の死期を覚悟した彼は、一連の騒動の説明をし始めた。

 

 

「なるほど・・・あいつの言ってる事に間違いはないかしら?」

 縦ドリル-ベアトリス-がプリシラへ向けて言葉を放つ。

 

「ふむ・・・。半端モノ風情が何故偉そうにしておるのか、この際今は流そう。

 凡愚の説明で間違いはない、そのままじゃ。」

 服装は整えられ、普段通りの立ち振る舞いで応答するプリシラ。

少し離れたところで、隙あれば噛みつこうと、機会を伺うレム。

その横でやれやれと首を振りながら、ため息をついている、

赤い髪の鬼-ラム-がメイド服を着用して立っている。

 

 レムとプリシラの口喧嘩?は大きくなりすぎ収拾がつけられず、手が出る手前といった、

一触即発の雰囲気の中、ラムがお茶を持ってきたところで収拾がつけられた。

一人では手がつけられないと悟ったラムは、スバルにベアトリスを探してくるように指示を出す。

ベアトリスの到着から説明、今に至るまでスバルは当然のように正座から土下座のループである。

 

「普通に考えると、他所の王選候補者を疵物にした挙句、朝から盛ろうとするなんて・・・

 お前の命一つだけでは足りないくらいに失礼なことかしら。」

 真意はどうであれ、今回のプリシラと邂逅した経緯は“ロズワールが客として招いた”事。

お客様としてお招きしたにも関わらずに、真意は問わないが、疵物にされた事が問題だった。

プリシラが言いふらすかわからないが、彼女がこのことを言いふらしてしまうと

王選候補の一人、エミリアの当選は絶望的になる。

 只でさえ、エミリアの容姿絡みでほかの王選候補者より遅れをとっている状況だ。

その上で風評まで傷がついてしまうと、王選候補から外されることさえあり得る。

 

 ここまで大きな話になるとは思っていなかったスバル。

たとえ覚えがないことであろうと、自分がエミリアの枷になることだけは避けたかった。

彼は覚悟を決めた表情で口を開いた。

 

「プリシラ。頼みがある。

 身勝手な願いとはわかっている。でも聞いてほしい。

 俺の・・・俺の首一つでどうか勘弁してくれねぇか?」

 

 プリシラは表情を変えずに、スバルの瞳を見つめている。

無言で続きを促すように。

 

「今ここで、無様に死ねと言われれば自分で死ぬ。

 殺したいってなら、無抵抗で殺されてもいい。

 ただ・・・一つだけ約束してくれ。俺の首で、エミリアたんの・・・

 エミリアの陣営の邪魔をしないってことを。」

 

「お前なら、邪魔せずとも優勝しちまうんだろ?

 目の前の有象無象を踏み潰す為に、わざわざ労力を支払う理由もないだろ?

 だから・・・頼む。プリシラ・・・頼む・・・!」

 

 プリシラはただ黙って見つめるだけだった。

“やっぱ都合良すぎたかな”と自嘲するスバル。

スバルが再度口を開けようとしたところ、プリシラが遮った。

 

「うむ、一つだけ条件を付けたしていいのであれば、妾から何も言うまい。」

 

 ゆっくりと立ち上がり、一歩、また一歩とスバルへ近づく。

その光景を、死刑執行人に処刑される罪人の気持ちでスバルは眺めていた。

プリシラが約束を守るか分からないが、彼女も王戦候補者の一人。

誇りや矜持は人一倍持っているはず・・・とスバルは睨んでいた。

スバルの目の前で立ち止まるプリシラ。

口元の扇子をゆっくりとスバルの前へもっていき、告げる。

 

「凡愚よ。貴様が死ぬ前に妾へ罪滅ぼしを行うのじゃ。

 勝手に冥府へ逃げることは許さん。そのような勝手は凡愚ですらない。

 ただの屑じゃ。半魔陣営にただの屑がいたと風潮は嫌じゃろう・・・?」

 

 扇子でスバルの顎を持ち上げながら伝えるプリシラ。

プリシラの威圧から、スバルはすぐに返答ができずに息が詰まる。

しかし、ここで返答できずに、プリシラの気が変わることが一番怖い。

スバルは力を振り絞って、大きく頷いた。

 

「ああ・・・。わかったよ。やってやるさ、罪滅ぼしってやつをな・・・。

 その代わり、約束は守ってくれよ?約束さえ守ってくれるなら

 何だってやってやるさ・・・。」

 

プリシラを睨みつけるように、真っすぐ力強く宣言したスバル。

周囲の人間は最早、蚊帳の外である。

 

「何でも、と言ったの?吐いた言葉は取り消せんぞ?」

 

扇子を自分の口元へ下げ、睨みつけるようにして、語尾を強める。

スバルも負けじと睨み返しながら宣言する。

 

「ああ、男が一度言ったことは取り下げねぇよ。

 すぐに死ねと言われても死んでやる覚悟だ。

 しかし、何でもといっても、エミリアの陣営に害なすことはしねぇ。

 最初の約束すら意味がなくなってしまうからな・・・。

 それ以外のことで、何でも、だ。いいな?」

 

 スバルは釘を刺すように伝える。

 

「妾がそのような事に労力を割くと思うか?

 最初に約束した通り、半魔陣営に不利になるような流言はしない。

 嫌がらせ等も以ての外じゃ。

 この世は妾の都合の良いようにできておるのじゃぞ?

 今この瞬間もな・・・」

 

 プリシラが最後に呟いた言葉は誰にも聞こえていなかった。

約束が果たされたことで、満足そうに頷くスバル。

彼は死にに行くにも関わらず、笑顔でエミリア陣営の皆と挨拶を交わす。

 

 彼は慢心していた。

“ある能力”がある為、すぐに開放されると踏んでいたのだ。

まさかあのような事になるとは、この時は全くもって思ってもいなかった―。

 

 

 

 

「別れの挨拶は済ませたか?凡愚よ。妾はあまり待つことは好かん。

 さっさと済ませて、疾き乗るが良い。」

 プリシラは若干不機嫌そうな雰囲気を醸している。

彼の陣営からすれば、永遠の別れである。

時間など、どれだけあっても足りない。

しかし、別れの時はきた。

 

「スバル・・・。元気でね?今までいっぱいありがとう。

 スバルに精霊様のご加護がありますように・・・。」

 

 詳細を知らされていないエミリア。

スバルが必死に頼み込んだのだった。

 

『エミリアには詳細は伏せてくれ。

 大事な王戦前に、無駄な心労をかけることはないだろ?』

 

 やましいことがばれたくないわけではない。

決してやましいことがばれたくないわけではない。

 

「おう。あんがとな。エミリアたんも・・・エミリアも元気でな。

 王戦で勝てるように祈ってるぜ。」

 

「スバル・・・。」

 

 レムとラム、そしてロズワールはここにいない。

ラムは、レムがついていこうとしていたのを阻止している為。

ロズワールは魔獣討伐の為に夜遅くから出かけている。

 

「お前の顔を見なくなることでせいせいするかしら。

 もう帰ってこなくていいのよ。」

 

 ベアトリスはいつもの雰囲気と変わらず受け答えをする。

今はそれがありがたいスバルだった。

 

「ベア子も本当に世話になった。

 ありがとな。パックと仲良くしろよ?」

 

「当たり前なのよ。ベティーとにいちゃは愛し合ってるのかしら。」

 

 にやけた顔を隠すように少し顔を俯かせるベアトリス。

それが微笑ましく、スバルは笑った。

 

「そろそろお姫様の機嫌が天元突破しそうなので・・・

 行くとするわ。本当に世話になった。ありがとう。

 ・・・またな!」

 

 笑顔で告げて竜車に乗り込むスバル。

そして発進後も、竜車が見えなくなるまで、エミリアは手を振っていた。

 

「行っちゃった・・・ね。スバル・・・。

 寂しいの・・・かな?」

 

「あんなやついなくなってせいせいするのかしら。

 早く帰ってにいちゃと遊ぶのよ。」

 

 見えなくなった竜車を見送った後、一同は屋敷に戻るのであった。

エミリアは再度振り返り、何かをお祈りした後に、戻っていった。

 

 

「なぁ、そう言えば俺は何をすればいいんだ?

 何も聞かされていないが。」

 走る竜車の中、沈黙に耐えかねたスバルが口を開いた。

乗り込んでからというもの、プリシラは外を眺めるばかりで一言も発さなかった。

 

「妾の目には映らぬが、微生物以下のモノが喚いておるのか?

 妾の命令も聞けぬ凡愚以下のモノが喚いておるわ。

 貴様を生かすも殺すも妾次第。本当にわかっておるのじゃろうな・・・?」

 

 プリシラはドスをきかした低音の声でスバルに告げる。

少しびびりながらも、プリシラの目を見てスバルは答える。

 

「それについては本当に悪かったと思っている。

 でも、エミリアたんからすれば、永遠の別れなんだ。

 別れの時間ぐらい大目に見てくれねぇか?」

 

 真摯に、目を逸らさずに告げた。

プリシラの目も徐々に収まっているように見える。

 

「はぁ・・・。妾も甘くなったものじゃな。

 こんな凡愚の言葉に惑わされるとは・・・。

 よかろう、今回は惑わされてやるが、次はないと思え。良いな?」

 

 スバルは驚愕の表情を浮かべる。

プリシラがまさか許すとは考えてもいなかった。

“どうせ死ぬなら一瞬で死にてぇな~”と考えていたから、自分が生きていることが不思議だった。

 

「・・・え?まじで?えっと・・・プリシラさん?

 俺のこと殺さないの?」

 

「“まじ”じゃ。貴様の命は妾の気分次第と言ったであろう?

 貴様は凡愚であるが、道化にもなれよう。

 精々、妾の機嫌を損ねぬよう、道化に徹することじゃな。」

 

 プリシラが扇子を畳んで此方へ向けている。そして、口元を隠さずに、笑っていた。

スバルはプリシラの笑顔を初めて見た気がして、見惚れていた。

 

「何を呆けておる?早速道化ぶりを披露しておるのか?

 貴様の道化ぶりと言ったら、先日の必死な弁明が一番の道化じゃ。

 中々もって、妾を楽しませることがうまいと言えよう。」

 

 我に返ったスバルの目の前に、プリシラの真っ赤な瞳が近づいていた。

緊張からうまく舌が回らず、また狭い竜車の中で逃げ道など、無かった。

 

「な、何を言ってるんだよ?俺が道化?一体何のことだ?

 必死な弁明が必死すぎて面白かったのか?

 ・・・悪かったな。こちとて命がかかってるんですー!

 必死にもなりますー!」

 

 少し卑屈になり、子供っぽい口調で返すスバル。

プリシラは特に気にした様子もなく、更にスバルへと顔を近づける。

お互いの息がかかるくらいの距離。あと数センチで唇同士がくっつく、そんな距離で。

 

「貴様が本当に妾に手を出したと思っておったのか?

 そのような気概も度量も貴様にはなかろう。

 妾にとっては、本当にいい余興となった。

 褒めてつかわすぞ?道化よ。」

 

 囁くようにプリシラは告げた。

スバルの頭は真っ白になってしまい、怒りで頭が埋め尽くされそうになった瞬間に

唇の端辺りに、生暖かい、ヌルっとしたものが這った。

 

「・・・!!!プ、プ、プリシラ!

 お前何をっ・・・!し、舌で・・・!唇の端を・・・!?」

怒りで埋め尽くされていた頭は、一瞬でピンクに切り替わっていた。

顔を真っ赤にしながら大声を上げるスバル。

プリシラは自分の唇の端を舌で舐め上げ、告げた。

 

「なに、ただの戯れよ。

 それに本当に楽しませてもらった。罪には罰を。功績には恩賞を。

 当然のことであろう?それは、妾からの褒美、じゃ。

 今後も褒美が欲しければ、大いに妾を楽しませることじゃな、道化よ。」

 

 右手は胸の上に、左手は腰に添えて。舌で唇を舐め上げて、少し上目遣いに此方を見る。

“狙ってるだろ、お前・・・”とは言えないスバル。

少なくとも、今回の勝負はスバルの負けだ。勝負にすらなっていなかった。

プリシラが本気を出せば、男一人魅了するなんて、容易い。

 

「・・・ったく。わぁーったよ。俺の負けだ。

 はいはい、道化に徹しますよ。ご主人様?

 次の褒美は唇にしてもらうぜ?覚悟しとけよ?」

 

 精一杯の強がりを見せるスバル。

そんなスバルをプリシラは微笑みながら眺めている。

 

「ふっふっふ。それは道化が妾をどの程度楽しめるかによる。

 精々励め。道化よ。

 期待しておるぞ・・・?スバルよ。」

 

片目を閉じてばっちりとウインクを決めるプリシラ。

“歳考えろよ”と頭に浮かんだが、似合いすぎてて言えなかったスバル。

というより、顔が真っ赤になっており、何を言っても負け犬の遠吠えになることがわかっていたのだ。

無言の抵抗をしていると、最後の追撃をプリシラが仕掛ける。

 

「何を照れておるのじゃ、凡愚よ。

 妾は疲れたから寝る。宿につくまで静かにしておれよ、凡愚。

 ・・・おやすみ、スバル。」

 

 もはやリンガの如く真っ赤になったスバル。

優しい微笑み付きで、名前を呼ばれるなんて卑怯だ・・・と呟く。

普段とのギャップにやられてしまったが、仕返しなんてした暁には10倍返し・・・いや100倍。

プリシラの寝顔を遠目に眺めつつ、今回の負けは認めるスバル。

いつか復讐すると胸に誓い、竜車の外を眺める。

 

「ってーか、行先聞いてないのに、いつ起こしたらいいかわかんねぇぇぇ!?」

 

「五月蠅いぞ凡愚!

 首を直ぐに落とされたいようじゃな!」

 

「すいません・・・まだしにとうないです・・・。すいません・・・。」

 

 彼に明日の日は拝めるのか。

頑張れスバル。

例え永遠に勝てない主従関係をしてしまったとしても。

明日には今日よりいいことがあると信じて―。

 

「これからどうなるんだよぉぉー!?」小声

 

 




息抜きに書き始めたところ、筆がのる…?すらすらと書けたので、投稿。

以下おまけ



“今日のぷりしらさん”


某豪邸 禁書庫

【彼と仲良くなる10の行動】

「こ・・・これは!?」

「ふむふむ・・・なんとっ。」

「早速実践じゃな。」 イソイソ

「ふむ・・・よく寝ておる。」

「起床時が楽しみじゃ。」

・・・ZZZzzz...

数刻後

「・・・」

「・・・」

「ぬぁぁぁぁ!何で起きておるのじゃ!」

「妾はやり直しを所望する!疾き寝よ!」

【その1.彼の寝顔を覗き、寝起きにおはようと伝えること】

※本編とは全く関係ありません。


あまり時間がとれず、更新がいつになるかわかりませんが、ちょこちょこ更新します。

今回では、時系列等もわかりにくいと思いますが、次回である程度わかると思います。

一人でも面白いと感じて頂けると幸いです。

誤字脱字報告や感想などお待ちしております。



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第二話 違和感 前編

第二話です。

少し長くなってしまったので、前編後編にわけて投稿します。

プリシラの出番が殆どないよ~


メイザース領 アーラム村

 

「ちくしょう・・・なんだってんだよ。」

 

 男、スバルが一人で村を歩いている。

村に到着後、宿につくなりプリシラに追い出されたのだ。

『妾はこれから水浴びをする。道化は道化らしく芸を磨いてきたらどうじゃ。』

有無言わさず締め出されたスバルは嘆きながら一人で村の散策を開始した。

 

「まぁ、プリシラに振り回されるのはいつも通り・・・なのか?

 というか、アルはどうした。あいつがいないと抑えられる気がしねぇ。」

 

 一人でぶつぶつと呟きながら歩く姿は、普段の目つきの悪さと相まって、近寄りがたい雰囲気を醸している。

屋敷からの買い物でよく村へ来ていたスバルからすれば、特に真新しいものも何もなかった。

 

 暫く歩いていると、子供達が集まって騒いでいるのが目に入る。

いつも一斉に飛びかかってくる勢いで纏わりつかれるので、身構える。

しかし、目が合っているにも関わらず、誰も来ない。話しかけてすら来ない。

扱いの違いに困惑していたところ、子供たちの輪から一人の女の子-ぺトラ-が歩いてきた。

 

「お兄ちゃん、どうしたの?迷子にでもなった?」

 

 プリシラと似たような髪の毛の色で大きな赤いリボンをつけている、村一番の美少女と名高いぺトラ。

まだまだ子供らしさが抜けておらず、大人になるための第一歩を踏み出し始めている頃。

スバルと“何度も遊んでいる”はずのぺトラ。

しかし、対応が可笑しく、スバルは首を捻らせていた。

 

「ぺ、ぺトラ・・・?何かの冗談か?俺は何度もここに買い物もきているし道に迷うわけないだろ?

 それとも、新しい遊びか何かか?俺も混ぜろよー。」

 

 ちゃんと笑えていない顔で話しかけるスバル。

一方、話しかけられたぺトラは首を傾げなら目をまんまるとさせていた。

心なしか一歩引いているような感じもする。

 

「えっと・・・お兄ちゃん何で私の名前を知ってるの?会ったことあったっけ?」

 

 心底不思議そうな顔をしているぺトラ。

“知らないおじさんについていっちゃだめだぞー”と後ろから聞こえてくる。

 

「は・・・?新たな虐めか?俺メンタル弱いから泣いちゃうぞ?」

 

 三白眼を若干潤わせて、ぷるぷると体を震わせている。

ニートであろが、なかろうが、知らない振りは堪えるものがあった。

 

「本当に会ったことあったかなぁ・・・?

 ・・・ごめん、記憶にないよ。」

 

 “嘘だろ・・・”と、自然と腕を伸ばしていたスバル。

後ろから男の一人-ダイン-がぺトラの腕を掴んで連れて行ってしまった。

一人残されて呆けているスバル。

“わけがわかんねぇ”と呟いて、その場を後にした。

 

 

「思い返せば可笑しいことがおおくね?

 アルもいねぇし、プリシラが何か若干俺に対して優しくね?

 俺の知ってるあいつなら100回は殺されてるよな・・・。」

 

 宿へ戻る最中もずっと考え込んでいた。

俯き加減で、顎に手を当ててぶつぶつ呟きながら歩いている。

“今日の獲物は誰にしようかな”と、考えているわけではない。

 

「まず、プリシラにアルの行方を聞いてみるか。

 たまたま別行動してる、とかなんだろうけどな。」

 

 前を向き、気持ちを固めて歩き始めるスバル。

“今日の獲物はぺトラだ”とか、考えているわけでは、ない。

 

 

「はぁ?何を言ってるのじゃ凡愚よ。道化らしく妾を楽しませようとするのは良い。

 だが、意味不明な事を抜かすばかりじゃ、不快ぞ。」

 

 割とマジで不快感を露わにしているプリシラ。

“アルってどこにいんの?”と尋ね、返ってきた言葉はこれだった。

冗談で言ってるわけではなく、本気で言ってる事が伺える。

 

「わ、わりぃ。ちょっと寝ぼけてたみたいだ・・・。

 夢の中でプリシラの従者をしてるやつが出てきてさ。

 そいつの名前が“アル”って言ってたんだ。夢とごちゃ混ぜになってたな。ははは・・・。」

 

 何とか返事をしたが、スバルの心の中はぐちゃぐちゃだった。

“アルがいねぇとか何で!?” “子供らに忘れられてるのは何で!?”

 

「スバルよ。貴様が何を申したいのか、妾には全く理解できぬ。

 妾はこれまで従者など仕えさせておらんかった。必要なかったからじゃ。

 この世は妾の都合のよいようにできておる。

 故に、貴様が従者となったのも必然であり、これまで従者が必要なかったのも必然、じゃ。」

 

 脳がオーバーヒートしており、頭から煙が噴き出していた。

意を決して口を開こうとした時、外の騒然が大きくなっており、怒鳴り声が聞こえていた。

 

『探せ探せ!こんな時間にいなくなるなんて、ただ事じゃねぇ!』

 

『村の中にはいなかった!まさか森に・・・。』

 

『見てくれ!結界が・・・!」

 

 嫌な考えが過ったスバルは慌てて駆け出した。

背後から“待たぬか!スバル!”と聞こえていたが、聞こえないフリをして走り続ける。

宿から飛び出して、近場にいた大人に駆け寄った。

 

「すいません!どうしたんですか!何があったんですか!?」

 

肩で息をしながらも、質問をしていく。

 

「兄ちゃん誰だ・・・?今はそんなことより・・・!子供たちが行方不明になっちまったんだ!

 6人一気に・・・!今探索中で手が離せないから、後にしてくれ!すまないな。」

 

 一気に血の気が引いていき、顔面蒼白になるスバル。

“あの時の状況に似ている・・・!”スバルは過去を思い出していた。

まだこの世界にきて間もない頃に自分が経験した魔獣戦。

たまたまかも知れないが、その時と状況が酷似していた。

 

「なんだってんだよ、畜生っ・・・!」

 

 まだ息も整っていない様子だが、すぐさま森へ駆け出して行った。

 

 

 

 真っ暗闇の森。月明かりのみを頼りに、男が一人走っている。

息も絶え絶えで、今にも倒れそうな状態だが、走るのを辞めない。

これまで、何度も“死んで”きた男のセンサーに引っかかる何かがあったのだ。

 

「くそっ、間に合ってくれよ・・・!」

 

 言葉で自信を奮い立たせながら、彼は走る。

“以前の記憶では、この辺りだったはず・・・!”

がむしゃらに走り続けた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・この辺りのはずだ。」

 

 膝に手を吐きながら、息を整えつつ、辺りを見渡している。

暗くてよく見えないが、視界の端に小さな足が映りこんだ。

“まさか・・・!”

慌てて駆け寄るスバル。

 

「おい!大丈夫か!?おい!」

 

 ぐったりした状態で倒れている5人の子供を見つけた。

一番近くで倒れていた少年-リュカ-の肩を掴み揺さぶる。

 

「しっかりしろ!何があった!?」

 

 大声を出しながら激しく肩を揺さぶるスバル。

深夜の森の中、大きな音を立てることは自殺行為だが、今のスバルにそのような考えをする余裕はなかった。

功を奏したのか、少年が目を開いた。

 

「昼間の兄ちゃん・・・?何でここに・・・。」

 

「気付いたか!何があったのか理由を話せるか?あと、今ここにいないぺトラは一緒じゃないのか!?」

 

 意識が戻ったことに喜びを隠せないスバル。

しかし、今は聞くことが先決として、一気に捲し立てる。

 

「わかんない・・・。何かに呼ばれた気がして、皆で森に入ったところまでは覚えてる・・・。

 そこから記憶がないから、ぺトラがどこにいるかわかんない・・・。」

 

 若干、話すのが辛そうにしながらも、教えてくれた。

一生懸命に伝えてくれたことに感謝するスバル。

 

「そっか・・・。わかった。後は兄ちゃんに任せておきな!

 頑張ったな。今はゆっくりお休み。起きたら全て元通りだ・・・。」

 

 安心させるように、笑顔を見せながら伝える。

少年は、少し安心した顔を見せながら、再度意識を失った。

刹那、背後から草の揺れる音が聞こえる。

 

「っ・・・。先ほど大きな声を出しちまったからな・・・。

 魔獣か・・・?くそっ、子供たちは俺の命に代えても守ってやる!」

 

 がさがさ・・・と音が次第に大きくなってくる。

睨みつけていると、真っ赤に光った二対の瞳が・・・10や20ではきかないほど集まっていた。

“おいおい、オーバーキルすぎるだろこれ”と、嘆くスバル。

しかし、彼は諦めずに、近場に落ちていた木を拾う。

 

「来るならこいよ!子供達には指一本・・・牙一本触れさせねぇ!!」

 

 雄たけびをあげながら、勢いよく魔獣に向かって木を振り上げる。

鼻先に当てられ、怯む魔獣。

しかし、多勢に無勢だ。一匹が怯んだとしても、次、また次と襲い掛かってくる。

一匹一匹だったら対処のしようがあったかもしれない。

また、子供たちを守りながらでなければ、逃げることもできたかもしれない。

しかし、現実は無情だった。段々受けきれなくなり、徐々に傷が増えていくスバル。

五匹目を吹き飛ばしたところで、木が折れてしまった。

 

「あぁ・・・。ここで終わりか・・・。子供達も守れないのか。俺は・・・。

 くそ・・・。死に戻ったら必ず助けるから・・・。ごめんな・・・。」

 

 悔しさから涙を流すスバル。

襲い掛かかってくる魔獣達を視界に捉えながら、来たるべき痛みに備えた。

 

「スバル君。スバル君のピンチには、いつでも駆けつけますよ?」

 

 聞こえるはずのない声が聞こえた。

次の瞬間、鎖が伸びる金切り音が聞こえてくる。

鎖の先には鉄球がついており、襲い掛かろうとしていた魔獣に激突する。

吹き飛ばされた魔獣はぴくりとも動かなくなっていた。

 

「まさか・・・何でここに・・・!」

 

 魔獣に囲まれていることなど忘れて、鉄球が飛んできた方向を見やる。

暗闇の中から一歩、また一歩とゆっくりと歩いてくるメイド服をきた少女。

暗くても、月光に反射してきらびやかな髪の毛が揺れる。

 

「レム!」

 

 レムと呼ばれた少女は、戦場とは思えないほど穏やかな顔で、微笑みを浮かべていた。

 

「スバル君のピンチですよ?レムが、駆けつけないわけない、です。」

 

 鉄球を持っていない手の人差し指を立て、軽くウインクしている。

“はは、余裕そうですね、ぼかぁ、死にかけですが”と、軽口を叩きながら座り込むスバル。

レムの強さは無類なきものであり、スバルが無条件に信頼できるものであった。

 

「スバル君は、少し休んでいてください。レムが残りを片付けます。」

 

 勇んだところで、足手まといになってしまうことがわかっていた彼は、素直にうなずく。

子供達の盾くらいにはなれると思いつつ、子供達の壁になれる位置へ下がり、座り込んだ。

 

「魔獣ども・・・レムのスバル君を傷つけた罪を重いですよ・・・?レムのスバル君への想いよりは軽いですけど。

 死ぬ覚悟はいいですね・・・?いきますっ!」

 

 レムの姿がぶれるほど高速に動き回る。

鉄球を振り回しながら、回りにいた魔獣達を巻き込んでゆく。

数舜のうちに、約半数は屍となっていた。

 

「はは・・・レムはやっぱすげぇなぁ・・・。」

 

 独り言のように呟いた。

彼女には聞こえていたようで、振り返ってニッコリとほほ笑む。

 

「レムは、スバル君がいれば、無敵ですっ。

 スバル君を守るため・・・スバル君の為に戦っているレムは・・・鬼ががっています!」

 

 言葉を発しながらも動くことを辞めていない。

鉄球を投げて潰し、叩きつけて潰し、鎖で巻き上げて潰す。

殆どの魔獣が討伐され、残った数匹も分が悪いと悟ったのか、一目散に逃げていった。

その姿を確認して、周囲の索敵を終えて、敵がいないことを確認したレムが戻ってきた。

 

「レム!本当に助かったよ。ありがとな。でも、どうしてここがわかったんだ?

 タイミングもばっちりだったし・・・まさか、見てたな!?」

 

 助かったことが嬉しかったのか、饒舌に騒ぐスバル。

 

「いえ、本当に危ないところでしたが、スバル君が無事で良かったです。

 場所がわかった理由は、スバル君の匂いですよ。スバル君、臭い、ですからっ。」

 

 満面な笑みを浮かべながら、レムが告げる。

 

「臭いって・・・それ悪口!レムりん、悪気ないのわかってるけど、傷つくから!

 すっげぇ、傷つくから!!!」

 

 悲壮な顔を向けながら必死に伝えるが、彼女は微笑みを浮かべたまま首を傾げている。

ため息をつきながら、いつものこと、と流すことにした。

 

「そうだ、レム。頼みがある。ここに子供達が5人いるんだが、ここに放っておくわけにはいかない。

 レムに運んでもらいたいんだが・・・出来るか?」

 

 少し考えるように、指を顎に当てて、唸っている。

服と顔に血がついていなければ、“美少女が悩んでる姿は絵になるのにな・・・”と思う。

 

「そうですね。無理なことはないです。ただ、一度に5人は運べないので・・・

 無理して運ぶとなると、こうなっちゃいますね。」

 

 レムはそういって子供達の方へ向けて歩き出した。

一人、また一人と運び、1列に並べられた状態。

じっと見守っていると、レムは鎖に子供を(男の子)を巻き付けて、引きずり始めた。

“ぶっ”と噴き出したスバル。

 

「ちょ、レム!それ大丈夫なのか・・・?」

 

「・・・?何か問題があるでしょうか・・・?

 あ!襲われても大丈夫ですよっ。レムは素手でも強いので。」

 

 細い腕を叩きながら、力こぶを作るポーズを見せてくれる。

力が抜けていくことを感じたスバルは、好きにしてくれと投げやりに返した。

 

「いいか、レム。子供達は無事に村まで送り届けてくれ。

 俺はもう一人行方不明になっている子がいるから、そっちを探す。」

 

「スバル君・・・危険ではないですか?レムが戻るまで待つことは出来ませんか?」

 

 不安そうな顔をしながら、上目遣いでレムが懇願する。

可愛さに揺れるが、ぺトラの事を考えると悠長なことをしている暇はなかった。

 

「大丈夫だ。逃げ足には自信があるぜ?

 それに・・・、情けない話だけど、俺のピンチにはレムが駆けつけてくれるんだろ?

 なら、安心だ。俺の安全は、レムにかかってるんだぜ?」

 

 おどけながら告げるスバルに、レムも困った表情を浮かべながら笑顔を浮かべた。

 

「しょうがないですね・・・。わかりました。レムも出来る限り早く戻ります。

 スバル君は、自身の安全を第一に考えてくださいね?

 いつもいつも、体を張って自身が傷つくことを厭わないスバル君ですから・・・。」

 

 “言ってもしょうがないでしょうけどね”と、付け加える。

スバルも約束はできないため、苦笑いで応えていた。

 

「ぺトラも心配だし、そろそろいくよ。

 レム、本当にありがとう。レムも気をつけてな。」

 

 踵を返し、森の奥へ進むスバル。

そのうしろ姿が見えなくなるまで、ずっと青い髪の少女は見つめていた。




以下おまけ


“今日のぷりしらさん”

「ふむふむ・・・なるほどっ。」

「これはいい書物じゃ。所謂、“ばいぶる”と言うやつじゃな。」

「今度はこれを試すのじゃ。」

ぷりしら、水浴びのため移動中

「予期せぬ状況であったが、同衾まで一気に進めたのは幸いじゃった。」

「“ばいぶる”によると、同衾した後は一緒に水浴びすることが当たり前と記載されておった。」

「あれだけ何度も伝えたのじゃ。彼奴にも伝っておろう。」

・・・

・・・

「何でこないのじゃぁぁぁぁ!?」

【その3.同衾の後は一緒に汗を流す】

※本編とは全く関係ございません。


レム登場

徐々に違和感の正体が・・・?

誤字脱字報告や感想などお待ちしております。


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第二話 違和感 後編

後編 更新です。

メインはプリシラ。

異論は認めます。


 真っ暗闇の森の中、一人の男が疾走している。

視界も悪く、小枝に引っ掛けてしまい、生傷は絶えない。

更に体力の限界は超えているのであろう、酸欠になっており、顔は紫色に変色している。

それでも彼は走るのを辞めない。

自分を兄と慕ってくれた少女を助けるために。

 

「はぁ・・・はぁ・・・。体が怠い・・・。俺ってこんな体力無かったっけ。」

 

 愚痴を零しながらも足は止めない。

彼の予想が正しければ、親玉が残っているはずだった。

違うところは多いが、彼が過去に体験している事に酷似しているのだ。

 

「くそ・・・。この体が恨めしいぜ。パトラッシュがいてくれればなぁ・・・。」

 

 走り続けていると、少し開けた場所が見えてくる。

様子を見るために、間を縫うように木の陰から陰へ移動する。

息を整えながら、月明かりに照らされている広場の様子を伺った。

 

「っ・・・。やっぱりかよ・・・。何で復活してんだあいつ。」

 

 彼の視線の先には、チワワ程度の大きさの犬が一匹。

周囲には覆い尽くすように魔獣が待機している。

数えるのも馬鹿らしくなる戦力差だった。

 

 彼は考える。どうすればいいのか。

最優先事項はぺトラの救出だ。しかし、奴らを放置していいものか。

彼自身は戦えない。しかし、ぺトラを発見した後に奴らを撒いて逃げ切れるのか。

レムが来てくれれば、何とかなるかもしれない。

 

「第一にぺトラの保護が最優先。次点にレムの合流だな・・・。」

 

 結論を出して、その場を離れようとした際に足元に落ちていた木の枝を踏みつけてしまう。

“ペキッ”と大きな音ではないが、鳴らしてしまった。

魔獣達は一斉に彼がいる方向へと身構えていた。

 

「はぁ・・・。漫画やアニメじゃあるまいし、何でここでドジっちゃうかな、俺は・・・。

 主人公補正なんてない俺は、すぐに死んじゃいますよ?

 レムりん、早く俺を助けにきてね・・・?ヒロインのピンチに駆けつけるヒーローの如く。」

 

 彼は小さくため息をついて、周囲に目を向ける。

武器になりそうなものを素早く探すが、見当たらずに諦めた。

軽く息を整えつつ、魔獣達の方へ意識を向ける。

魔獣達はまだ襲い掛かってはこずに警戒をしている。

 

「これは僥倖・・・。まだ姿も見られてはいない。正確な場所は掴まれてないだろ。

 逃げるのは今しかねぇ・・・。ぺトラ、必ず助けに行くからもう少し待っててくれ。」

 

 彼は背を低くして、見られないように走り出した。

後ろから魔獣達の足音が聞こえており、追いかけてきていることがわかる。

追いつかれないようにと必死に走る。“レムが追いつくのが先か、俺が追いつかれるのが先か・・・”

分の悪い賭けにはなるが、ただで食われるわけにもいかない。

彼は吸い込まれるような暗闇の森を全力で疾走した。

 

――――――――――

 

“ふむ・・・ここを通ったのか”

 場所は変わって暗闇を歩く女性が一人、深夜の森を歩くには適さない恰好をしている。

扇子を手に持ち、何かを考えるように佇んでいた。

 

「妾の言葉を制止するだけでは飽き足らず、そのまま森へ行くなど凡愚以下の行い。

 見つけ次第、首を刎ねてやろうぞ。」

 

 見た目にはわらないが、静かに怒りを燃やしている様子が伺える。

普段とはあまり変わらない凛とした表情。人を見下すような視線も変わらない。

扇子を持っていない手は握りしめられており、森の奥を睨みつけながら歩き始める。

 

「謝っても許してやらん。どうせまた何かに顔を突っ込んでおるのじゃろ。」

 

 “妾の時のようにな・・・”と小さく零した。

 

彼女は迷うことはない。

 

彼女が向かう先にいると確信している。

 

彼女が望んだもので、叶わぬ願いなどないのだから。

 

 彼女が空を見上げると、雨が降り始めていた。

ため息を吐きながらも、足取りは軽く、彼女は森の奥へと足を進めた。

 

――――――――――

 

「はぁ・・・はぁ・・・死ぬ・・・これはまじで死ぬ・・・。魔獣に食われる前に心臓が破れるって・・・。」

 

 しとしとと雨が降り始めていた。

彼はまだしぶとく逃げ続けている。

魔獣とはつかず離れずの距離を保ったまま、全力疾走していた。

魔獣達が本気を出せば追いつかれるのは必須。

しかし、天が味方をしたかの如く幸運が重なり、逃げ続けれている。

 

魔獣達は警戒していたのか、追いかけてくるのが遅かったため、最初に距離を稼げたこと。

 

途中から降り始めた雨のお陰で、匂いがかき消されていたこと。

 

何故か急に木が倒れはじめ、魔獣達を巻き込んだこと。

 

しかし、人間の肉体ではスタミナは無尽蔵にあるわけではない。

ずっと走り続けている彼の肉体は限界だった。

注意力が落ちていた彼は、足元に出ていた木の根に気付かず、躓いてこけてしまう。

 

「ぐっ。いてぇ・・・。木の根か?・・・くそっ。折角距離を稼いでいたのに!」

 

 彼は背後を振り返ると、魔獣が追いついていた。

目視では3体。少し警戒する素振りを見せながら、彼を囲むつもりなのか、少し離れて陣取る。

咄嗟に逃げはせずに、魔獣達へ体を向けながらも逃げ道を探す。

 

“レムはまだか・・・”

諦めにも似た呟き声が彼の口から零れた。

 

 

周囲に目をやる。 

 

武器はない。

 

逃げようとしても、背を向けた瞬間にやられる。

 

絶体絶命の中、彼の意識は思考の海へ沈む。

 

【何故あの魔獣は復活していた】

 

【今回は誰も呪われていないのか】

 

【プリシラは・・・】

 

「ぁ・・・!やべぇ・・・。プリシラ放置じゃん・・・。言葉遮って、そのまま出てきてんじゃん。

やっちゃたよこれ俺詰んだよ。 絶対死ぬ、首と胴体がおさらばする・・・。アイツは絶対にやる。」

 

 今の状況とは別の意味で顔が青ざめていく。

“あれ、逃げられてもどっちみち詰みなんじゃね?”

諦めの境地。逃げることも面倒になった彼は座り込む。

 

「はぁ・・・。これでゲームオーバー?俺らしいっちゃらしいのか・・・?中途半端だよなぁ・・・。

 死に戻ったらどこに戻る?今朝か?昨日か?昨日ならもっとうまくやれるかな。」

“屋敷を出ることもなく・・・”とは言葉にならなかった。

 

空を見上げるスバル。雨はまだ止んでおらず、月は見えなかった。

視線を魔獣に戻すと、今にも飛びかかろうとしてる姿が映る。

“あぁ・・・今回も痛いんだろうな、一思いに殺してくれねぇかな”

3体で一斉に飛びかかってくる姿を一瞥し、彼は目を閉じた。

 

 

――――――――――

 

 

“首と胴体がおさらばする・・・。アイツは絶対にやる”

 

 ふと聞こえてきた言葉に、彼女は足を止めて聞こえてきた方に目を向ける。

そこには3体の魔獣に囲まれている男がいた。

顔は青ざめており、全てを諦めたような表情をしている。

 

「ふむ。凡愚の割には妾のことをよくわかっておるようじゃな。

 罪には罰を。信賞必罰をせず、誰がついてこようか。」

 

“はぁ・・・。これでゲームオーバー?俺らしいっちゃらしいのか・・・?

 死に...ら...戻る?今朝か?昨日か?昨日なら........”

 

 雨と風の音で全てを聞き取ることはできなかった。

 

「げえむおぉばぁ?戻る?彼奴は何を言っておる。気でも触れたか?

 弁解を聞く前に、周囲の五月蠅い虫を払うとしようか。」

 

 彼女は胸元から扇子を取り出し、ゆっくりと歩き出した。

 

 

――――――――――

 

 

 襲い来る痛みを覚悟して目を閉じたが、一向に痛みが無いことに疑問を持ったスバル。

ゆっくり目を開いてみると、派手なドレスで身を包んでいる後姿が見える。

真っ赤なドレスは、これからの自分の未来を示唆してる気がした。

 

「プリシラ・・・。」

 

 そこから周囲を見渡すと、倒れ伏している3体の魔獣を見つける。

“プリシラの戦闘は殆どみたことなかったけど、つえぇな・・・”

言葉にはせずに飲み込んだスバル。

彼女-プリシラ-はゆっくりとスバルへ振り向いた。

 

「何か言葉は必要か?凡愚よ。辞世の句は聞いてやってもよいぞ?」

 

 口は釣りあがっており、少し弾んだ声で問いかけてくる。

しかし、目は全く笑っておらず、プリシラの機嫌を表していた。

 

「いや・・・その。・・・言い訳はしない。プリシラの言葉を遮ったのことも、何も言わずに飛びしたことも

 自分で決めて、自分で行動した結果だ。プリシラにどうされても文句は言えない。言わない。」

 

 目を逸らすことはせずに、見つめたまま一息で告げた。

プリシラは少し目を細めたまま、更に言葉を告げる。

 

「ほお・・・?生を諦めるか?それも良かろう。言い残す言葉は他に無いのじゃな?」

 

 持っていた扇子を畳み、スバルへ突き付ける。

返答次第では、そのまま首を刎ねるつもりなのだろう。

 

「言い残す言葉・・・か。あるさ。いっぱいあるよ。それよりも思い残したこともいっぱいある。

 エミリアたん大丈夫かな?レムは上手い事村に子供を運んでくれたかな?」

 

 段々とプリシラの目つきが厳しくなっていく。

それでもスバルは言葉を続ける。

 

「それに・・・プリシラの事をもっと知りたかった。折角主従関係になったのに、殆ど話せなかった。

 本当はもっとたくさん話したかったんだぜ?プリシラの事をもっと知りたかったし、俺の事を知ってほしかった。」

 

 “今更だけどな”と小さく零しながら続ける。

 

「それだけが心残りだ。お互いをもっとよく知りたかった。

 色々言ったけど・・・以上だ!もう何もない。一思いにやってくれよな。」

 

 スバルは告げることは告げたと、座り込んだまま目を瞑る。

一方、彼女は少し考えるような仕草をしたまま黙り込んでいる。

 

「凡愚・・・いや、スバルよ。その言葉に嘘偽りはないか。」

 

「・・・え?」

 

「真偽を問うておる。どうなんじゃ?妾に生死を儘にされておる状況で

 貴様は先ほどの言葉を吐けるのか?」

 

 言葉と目つきのキツさは変わらないが、どこか不安そうしていると、スバルは感じた。

口元を緩めながら、スバルは即答する。

 

「当たり前だ。お前の事を知りたいって言ったことも、俺の事を知ってほしいと言ったことも

 俺の本心だ。最初に連れてきた時の事を思い出してみろよ?今の状況と殆どかわんねぇって。」

 

 “死を覚悟してたんだしな”と付け加えた。

 

「・・・わかった。なら、今回の不敬は目を瞑ってやる。

 妾の為に、馬車馬の如く働くのじゃ。」

 

「え・・・?まじで?ほんといいの?俺死ななくていいんですか本当ですか?」

 

「“まじ”じゃ。そして・・・妾とゆっくり語り合うと約束じゃ。」

 

 扇子で口元を隠したまま、少し目を細めて言葉にする。

少し悪戯っぽくて、年相応に見えた。

 

「ん・・・。約束だ。ほら」

 

 彼は言葉と共に小指を差し出した。

プリシラは何のことかわからず、不思議そうに小指を眺めている。

 

「何じゃ?小指を差し出しおって。折ればよいのか?」

 

「ちげーよ!約束だよ!何でそこでバイオレンスな考えできんの!?

 俺の故郷では約束ってこうやんの!」

 

 彼はプリシラの小指を無理やり絡めとり、指切りを始める。

 

「指切りげんまん、嘘ついたらハリセンボンのーます。指きった。」

 

 指切りをしている間も、プリシラはどこか呆けたような表情をしている。

勝手に手を取ったことから、殴られるくらいは覚悟をしていたスバルも呆けている。

指を切ったはずが、きれずに繋がったままという、異様な光景だった。

 

「あのー・・・?プリシラさん?指を切ってくれないと約束が締結しないのですが・・・。」

 

「っっ!痴れ者!誰の許可を得て妾に触れておる!・・・前もって言わぬか・・・。」

 

「あぷりこっ!」

 

 我に返ったプリシラから一方的に指を切られ、そのままの勢いでスバルは殴り飛ばされた。

殴り飛ばされたにことよって、プリシラの最後の言葉はスバルには届かなかった。

 

「いてて・・・。あ、そうだ!まだ一人行方不明な女の子がいるんだ!急いで探さないと!」

 

 スバルは起き上がると同時に叫ぶ。

慌てて行動を起こそうとした際に、襟首を捕まれた。

“ぐえっ”と聞こえてきたが、プリシラは無視して言葉を紡ぐ。

 

「慌てるでない。スバルよ。“その子はもう助かっておる”。

 心配する必要はないのじゃ。」

 

「は・・・?助かってる?何言ってんだよプリシラ。

 そもそも、お前はその女の子が誰か知ってるのか?」

 

「やれやれ・・・何度も言わせるでない。世界は妾の都合の良いようにできておる。

 何故、妾がここにおると思うておる?」

 

 自信たっぷりと、胸を張りながら腕組みをしている。

 

胸器・・・いや凶器が目に入って毒だ、なんて考えていない。

 

「む・・・貴様、このような状況で何処を見ておる。

 妾の体が彫像の如く美しいが為、見惚れることは許す。しかし時と場合を弁えよ。」

 

 言いながらも、胸を強調するポーズは辞めない。

“こいつ誘ってんじゃねぇの”とスバルが考えても仕方のないことだった。

 

「うるせぇ・・・こっちはいっぱいいっぱいで、今にもパンクしそうなんだよ。

 何だよそれ。俺の頑張りは無駄ですかそうですか、その胸を揉み倒してやろうか。」

 

 視線を斜めに下げて、アヒル口をして拗ねていると全開でアピールをしているスバル。

男がそのような拗ね方をしても気持ち悪いだけだと、今の彼は気付いていない。

 

「ふん。出来ぬことを吠えよるわ道化が。

 心配なら村に戻って確認すればよいのじゃ。ゆくぞ。」

 

 プリシラは踵を返して歩き出した。

スバルは慌てて追いかける形で歩き出す。

“なんだかなー”と小さく零しながら、彼は空を見上げた。

雨はいつの間にか止んでおり、頭上には綺麗な星と月が瞬いていた。

 

 

――――――――――

 

「スバルくーん。どこですかー?スバルくーん。」

 

 森の中、一人の少女が鉄球を引きずりながら歩き回っていた。

急な雨により、彼の匂いをかき消えてしまい、途中から追いかけられなくなっていた。

 

「途中で女の子を拾って、全員無事に送り届けたので、ご褒美に頭なでなでを所望しようと思っていたのに・・・。

 スバル君、レムを、褒めてくれますか?」

 

 空を見上げながら彼女は呟く。

雨も上がったが、彼の匂いを辿ることが出来ない。

明確なナニカの意思に邪魔をされているかの如く。

彼女は探し続ける。既に探し人がいない森の中を。

魔獣達の屍の山を一瞥もせずに、彼女は歩き始めた。

 

――――――――――

 

 

 スバルとプリシラが村に着いたことに、広場へ集まっていた大人たちが気付き集まってきた。

 

「おう、兄ちゃん!無事か!?ロズワール様のところで働いているメイドの嬢ちゃんがきて、

 “スバル君がこの子達を保護していました。レムは変わりに連れてきただけです”って言っててな。

 なかなか兄ちゃんも帰ってこないし、迎えに行くと言っていた嬢ちゃんも帰ってこないから心配してたんだ。」

 

『兄ちゃん!ありがとなー!』『本当にありがとう・・・。』

 

『ちょ、ちょっとだけカッコいいじゃない・・・。ちょっとね!?』

 

『若いのに、人間できておるのぉ。』

 

 スバルは村人たちの大喝采についていけなかった。

彼からすれば、確かに子供たちは見つけたが、助かったのはレムのお陰だと思っている。

連れてきてくれたのもレムで、誇るべきはレムだと思っているからだ。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれよ。俺は何もしてねぇよ。レムが助けてくれたんだ。」

 

「その嬢ちゃんはお前が助けたって言ってたぜ?

 どちらにせよ、探しに行ってくれたこと、助けてくれたことにはかわらねぇ。本当にありがとな。」

 

「止めてくれよ、そんなんじゃねぇって。

 ところで、子供たちは無事なんだよな?」

 

「おう、全員まだ眠っているが、外傷もなくて問題なしってとこだ。」

 

 “良かった”と呟く。

知っている人間が死ぬのは、ある種自分が死ぬより辛いことがあると、スバルは身に染みてわかっていた。

安堵したところで気付いた。

“あれ、プリシラいないんじゃね?”

周囲を見渡しても、あれだけ目立つプリシラがいなかった。

 

「ん・・・?金髪の嬢ちゃんか?先ほど宿へ向かってたぜ!」

 

 “置いて行かれた!”

絶望しながら叫んで、彼は思う。

プリシラも助けてくれたんだから、一緒にいればよかったのに、と。

彼女なりの照れ隠しなのか、素で面倒なのかは、まだ彼にはわからない。

しかし、彼女も-表には殆ど出ないが-人を思いやる気持ちはあるし、

スバルなんかよりもっと出来た人間だ。

“きっと恥ずかしかったんだろう”と勝手に決めつけて、彼も宿へと向かった。

 

 

――――――――――

 

「遅かったな。凡愚よ。妾は歩き疲れた。もう寝るので静かにするのじゃぞ。」

 

 宿に戻ったスバルを出迎えたのは、黙れという一言だった。

少なからず、プリシラと思いが通じ合えたと感じていたスバルは堪えきれずに言葉にした。

 

「ちょ、語り合いは!?何となくお互いいい雰囲気になりましたよねぇ!?

 ここでお預け・・・というか、待てはちょっと酷くない!?」

 

「五月蠅い。締め出されたいのか?妾は眠いと申したじゃろ。静かにせい。」

 

 有無を言わせない眼力と強い物言いに言い返せなくなっている。

“悪戯してやろうか”とは口に出せない、ヘタレ系男子は黙ることしかできなかった。

 

「まぁ、また明日話せばいいか。色々と聞きたいこともあるしな。

 おやすみ、プリシラ。また明日な。」

 

 告げて出ていこうとすると、何かに服を引っ張られる感触があった。

振り返ってみると、プリシラが腕だけ伸ばし、顔は此方に向けずに引き留めている。

 

「待て、スバルよ。何処に行くというのじゃ。貴様の寝床は其処じゃろう。」

 

 プリシラは床を指さしながら告げる。

 

「は!?ちょっと待てよ!俺も疲れてるの!ベッドで寝たいの!疲れを癒したいの!

 わかる?床で寝ちゃうと疲れがとれるどころか、もっと疲れるよ?OK?」

 

「何をわけのわからんことを・・・。そんなに床が嫌であれば寝具で寝ればよい。」

 

「え・・・?この部屋にベッドは一つしかないですけど・・・?まさか・・・?」

 

 漸くプリシラは此方を振り向く。

その眼は眠たそうに、半分ほど閉じられている。

 

「妾の隣があいておろう・・・?妾は眠いのじゃ。疾き来るがよい。」

 

「いやいやいや!プリシラさん何言ってんの!?俺男だよ!プリシラは女だよ?

 間違いがおこるよわかりますかねぇ!?」

 

「いちいち五月蠅いやつじゃ・・・。

 ・・・いいから。おいで?」

 

普段では聞くことの出来ない、彼女の甘えたような声で告げる。

スバルはその一言で何も言い返す事もできず、ふらふらとベッドの隣に入り込んだ。

 

「ふふふ、初めからそうしておったら良いものの・・・。

 疲れたろう?眠るがよいぞ。おやすみ・・・。」

 

 既に目はあいておらず、告げることを告げてすぐに寝息をたてはじめる。

起きた後の事を考えると、頭を抱えたくなったが、流されることに決めた。

“役得だしな”と呟き彼も目を瞑る。

 

「おやすみ、プリシラ。今日は本当にありがとうな・・・。」

 

 頭を少し撫でて、意識を闇に落とす。

撫でられた彼女は嬉しそうにほほ笑んでいたが、彼はそれに気づかず眠りについた。

 




以下おまけ

“今日のぷりしらさん”

「うぅ・・・暗いのじゃ・・・。何でこんなところに入ったのじゃぁ・・・」

がさがさ

「ぴっ!音がしたのじゃ・・・!」

「風・・・。驚かすでないわ!」

ごそごそ

「ふ、ふん。どうせ風じゃろ。何度もひっかからんわ!」クルッ

「・・・」←足のない透けている人

「・・・」←ぷりしら

「うぅ~ん。」気絶

・・・・・・・・・

「はっ!」きょろきょろ

「いない・・・。夢じゃったのか・・・。」

がさごそ

「ぴぃ!もう嫌なのじゃ・・・怖いのじゃ・・・すばるぅ・・・。」うるうる

「・・・」

「っ!どこいってたのじゃ!滅茶苦茶探したのじゃ!心配させおって・・・。」

「ふん、絶対に許さん。首を飛ばしてやるのじゃ。」ぷいっ

「どうしてもと言うなら・・・今晩一緒に寝るのじゃ。」

「仕方ないからそれで許してやるのじゃ。」



※本編とは全く関係ありません


第二話 後編 でした。

次回、きっと説明をする回。

誤字脱字報告や感想などお待ちしております。


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第三話 王都へ

第三話です。

少し短めです。

キャラ崩壊が目立ってきますので、NGな方はブラウザバックをお願いいたします。


 

朝、子鳥のさえずりが聞こえている。

カーテンが開いていたため、眩しい日差しが男の顔を覆う。

太陽の高さから正午前といったところか、男は漸く目を覚まし、体を起こした。

 

「あれ・・・プリシラがいねぇ。つーか、もう昼か。

 昨日の晩も食った記憶もねぇし、腹減った。」

 

 きょろきょろと辺りを見渡して、独り言を呟く。

スバルは疲れた体に鞭を打ちながら、倦怠感が酷い体を動かし始める。

目指すは食堂。昼食の用意が出来ていることを祈りながら向かった。

 

「ここにもプリシラがいねぇ。ちょっとあいつ自由すぎるんじゃね?

 折角語り合いながら、楽しく昼食を出来ると期待してたのにな・・・。」

 

 プリシラの姿が無いことに、小さくため息を零しながら席につく。

昼食が運ばれてくるまで、スバルは上の空で考え事に没頭してゆく。

 

【結局、昨日のあいつらは何だったんだ。】

 

【何か目的があったのか。】

 

【以前、倒したやつとは別個体なのか】

 

 頭の中で、同じような内容がぐるぐると回っている。

運よく彼が死なずに済んでいるのは、レムとプリシラのお陰だ。

彼女たちのどちらかがいなければ、スバルは確実に死んでいただろう。

 

【あれ、そういえばレムって何であそこにいたんだろう】

 

【俺が屋敷を出る時はいなかったはず。姉様に止められているとかで】

 

【まさか、俺を追っかけてなんて・・・ないな】

 

 彼女が、自分の居場所を捨てるところが想像できなかった。

何よりも家族を大事にしているレム。姉様を放ってくるとは考えられない。

 

「はぁ・・・わかんね。全く何がなんだかわかんねーな。

 つーか、アル。本当にどこにいんだよ。」

 

 頭を抱えて、がしがしと掻いている。

一人でぶつぶつ呟いたり、周囲から見れば割と痛い人であるが

スバルはそのような事は気にしない人間だった。

 

「プリシラもいねえし、飯食ったら色々と動き探ってみるか。」

 

 ちょうど昼食が目の前に運ばれ、腹ごしらえを優先することにしたスバルはフォークを握りしめた。

 

 

―――――――――――

 

 昼食を食べ終え、ぶつぶつと呟きながら街を歩き回っていた。

 

 

【何度か思ったことはあったけど、プリシラの態度もおかしい】

 

「数度しか会ったことなかったけど、あそこまで態度が柔らかいやつじゃなかったよな・・・。

 何で俺は、殺されもせずに連れまわされてるのか。何でアルじゃなく、俺を選んだのか。

 ああ、だめだ。考えてもわかりゃしない。プリシラと話しをするしかないな。」

 

 考えても仕方ない事は、考えることをやめて本人に聞こうと思い立った彼は、

プリシラを探し求め、手始めに宿へ向けて歩き始めた。

 

 宿の部屋へ戻った彼が目にしたものは、窓際で椅子に座り、読書をしているプリシラの姿だった。

窓から差し込む日差しに照らされてながら本を読む姿は、まるで絵画のようで、スバルは息を飲みこんだ。

容姿端麗でスタイル抜群なプリシラは、黙っていれば男が放っておくわけがない。

一部は罵られた方が喜ぶような輩もいるが、今は割合する。

そんな彼女が真剣な表情で読書をしている。

E・M・Tを信条にしているスバルも、少し心が揺れてしまうほどだった。

 

「そんなとこで突っ立って何をしておる。妾は座っておるぞ?

 頭が高いであろう?控えるのじゃ。」

 

 読書の邪魔をされたためなのか少し毒舌で、しかし、本から視線を外さずにプリシラが告げる。

スバルはプリシラの言葉に従って、近くのベッドを腰を掛ける。

“眠そうな時以外は可愛げねぇな”と、間違っても声には出せない思いを抱いていた。

 

「あのさ、プリシラ。少し話がしたいんだ。」

 

「妾は読書をしておる。暫し待つのじゃ。」

 

 取り付く島もないとはまさにこの事である。

読書をやめるどころか、視線すら本から動いていない。

 

「唯我独尊、ここに極まり・・・だな。」

 

「・・・?何じゃそれは。」

 

「俺の故郷の言葉で、正にプリシラを指した言葉のことだよ。

 自分が優れていると自負することだ。」

 

 スバルは苦笑いしながら伝える。

本来では、あまりいい意味でつかわれることは少ない。

イメージだけだと、某信長など、自己中や自分勝手な人間が言ってそうだ。

 

「ほう・・・?まさに妾のためにある言葉じゃな。

 “ゆいがどくそん”結構じゃ。この世に妾以上に優れたものなど存在せん。」

 

 漸く顔を上げたプリシラがスバルへ視線を向けながら告げた。

足を組んでおり、太腿の上に本を置き、いつものように扇子で口元を隠している。

目は細められているが、雰囲気が柔らかい感じがするので、喜んでいるようだった。

 

「そうだな・・・。お前ならそう言うと思っていたよ。

 プリシラ、少し聞きたいことがある。」

 

「何じゃ?申してみよ。」

 

 聞きたい事や言いたいことが、頭の中でぐるぐると回っており、何から聞けばいいのか、よくわかっていない。

意を決して、しかし一息いれてから言葉を紡ぎ始めた。

 

「正直に答えて欲しい・・・。俺とプリシラってこれまでそこまで接点もなかったよな?

 それなのに、今はこの状況だ。正直混乱してるし、わけがわからない。」

 

「ふむ。」

 

 プリシラの目が続けよ。と物語っていた。

スバルは、プリシラから瞳を逸らさずに、そのまま続ける。

 

「お前の都合の良いようにってのは、この間聞いた。

 でも、俺がお前の近くにいることが、お前の都合にいいのか?わからないんだ。」

 

「それにな・・・。こないだは夢だと伝えたけど・・・俺の中にはお前が別の従者を連れていた記憶がある。

 そして・・・この間の魔獣を倒した記憶もあるんだ。もう本当にわけがわかんねぇ。」

 

 一気に捲し立てるように告げた。一度口にしてしまうと、もう止めれなかった。

 

「スバルよ。」

 

「何だ。」

 

「それを聞いてどうする?世の中には、知らないほうが幸せなこともある。

 それでも聞きたいと思うのか、知りたいと思うのか・・・どうなのじゃ?」

 

 殺気・・・まではいかないが、緊張感が部屋を満たし、温度が一気に下がった。

プリシラから放たれる緊張感に、スバルは喉を鳴らして息を飲む。

 

「お前は・・・何を知ってるんだ。俺の事も最初から知っていたのか?

 俺は知りたいんだ。知りたいと思うことは間違ってるのか?」

 

「・・・いいや。間違ってはおらん。凡愚の考えなど想像もできぬが、知りたいと思う気持ちは理解できるのじゃ。」

 

 緊張感が和らぎ、スバルの顔にも少し安心の色が見える。

プリシラは仕方がないと言いたげに、首を振りながら扇子を構える。

 

「ならば勝手にするが良い。妾は何も言わん。」

 

「ん・・・?教えてくれるってわけじゃないのか?」

 

「何故妾から伝えぬといけないのじゃ?凡愚でも凡愚らしく足掻いてみたらよかろう?

 なんなら、ここで妾の足を舐めて懇願してみるか?出来れば考えてやってもよいぞ?」

 

 プリシラはそっと靴を脱いで素足を曝け出す。

そのままスバルの方へ向け、試すような目線で見つめた。

シミ一つなく、真っ白なおみ足が目の前にあらわれたスバルは、つい魅入ってしまう。

少しの葛藤の後、スバルは首を振りながら口を開いた。

 

「馬鹿かお前は!そ、そそそそんなことするわけねぇだろ!?」

 

「誰に馬鹿と申しておる、このどうて「それはらめぇぇぇ!」

 

「どどどどど、・・・ってちゃうわ!何を言わすんだよプリシラ!ってか、そんな言葉どこで覚えた。」

 

 スバルは顔を真っ赤にしながらも、プリシラの一言を遮りながら叫ぶ。

対してプリシラは涼しい顔のまま、足を差し出したままのポーズから身動き一つとっていない。

扇子で隠された口元が露わになったが、やはり歪んでいた。

 

「ふん、妾に向かってそのような暴言を吐くからじゃ。

 金輪際気をつけるがよい。次はないぞ。」

 

 腕を組み、少しソッポを向きながら目線はスバルへ。

全身で少し拗ねていますとオーラが出ているようだった。

 

「ああ・・・。すまない。勢いでつい言っちまって・・・。

 って、でも俺のほうがダメージでかくないですかねぇ!?否定できねぇけど!否定できねぇけど!!」

 

 両手を頬にあて、今にも世界の終わりのような表情。

所謂、ムンクの叫びをリアルに体現しているスバル。

 

「なんじゃその顔は。道化らしくて少し楽しめるが、悪い顔が一層悪くなっておる。

 女どころか子供も男も近寄らんぞ。妾は嫌いではないが。」

 

 扇子でスバルの顎を持ち上げて、至近距離で目線をあわせながら言った。

瞬間、スバルの顔は戻ったが、みるみるうちに真っ赤に染まっていく。

 

「なんじゃ顔を赤くして。やっぱどうて「もういいって!ほんとやめて!」

 

 肩で息をしながらも、言葉を遮って制止した。

足を組んだ姿勢のまま、スバルの顔を覗き込んでいたプリシラ。

無理な姿勢のため、胸が強調されており、そこに目線がいってしまう男の子なスバル。

健康な男子からすれば、眼福であり凶器でもあった。

 

「淑女なんだろ?そんな恰好すると、その・・・どうしても目がいっちまうからさ。

 俺の理性もいつまでもつか・・・なんというか。もっと、ほら、貞淑に・・・。」

 

「む?妾の体を見られて嬉しいはずであろう?見られて恥ずかしい身体でもないのじゃ。」

 

 腕を組んで、胸を強調しながら話すプリシラと、食い入るように見つめるスバル。

彼は男であり、健全な青少年である。目がいくのも仕方がないのである。

仕方がないのである。

 

「ほれ、食い入るように見ておる。こういうのが好きなんじゃな・・・?」

 

「あー!本当にヤメテ!理性がもちません!俺が悪かった!ほら、他の話をしようぜ?な?」

 

 話題が変わったことにより、お互いがほっと息を吐いた。

スバルはプリシラが息を吐いたことに疑問を感じながらも、ぶり返したくもなく、気にしないことにした。

 

「そう言えばさ、いつ王都に向かうんだ?お前の屋敷もあるんだろ?」

 

「もうすぐ出るつもりじゃ。」

 

「おい!もっと早く言えよ!俺もすぐ準備するから!」

 

 準備の為に走る回るスバルを、見つめ続けているプリシラ。

何かを言いたげな目をしていたが、出ていくスバルに声をかけることもなく目を伏せて独り言を呟く。

 

 

「貴様は真実を知ったときに、なんと言うのじゃ・・・?その時の感情は?

 怒りか?悲しみか?・・・失望か?絶望か?」

 

 ぶるっとプリシラの身体が震える。

自身の身体を抱くように腕を回しながら俯く彼女の顔は見えない。

 

「怒りに身を任せるのなら、受け止めよう。悲しみに明け暮れてしまうのなら、慰めよう。

 失望される場合は・・・。」

 

 更にきつく腕を回して、身体を抱く。

顔を上げた彼女の顔は、迷子になった子供のような表情をしていた。

 

「絶望に打ちひしがれるのなら、妾の全てを賭して立ち直らせてみせよう。」

 

「恨むなとは言わない。だけど・・・嫌わないで・・・。」

 

 瞳に涙を浮かべながら、悲痛な声で呟くプリシラ。

スバルの前では決して見せない、19歳の、“ただの”少女の姿がそこにあった。

 

 

―――――――――――

 

 

竜車内

 

「王都に着くころには夜だな。今日はそのまま寝るのか?」

 

「そうじゃ。明日は“色々”な事がある。努々覚悟しておくことじゃな。」

 

 アーラム村を出発して暫く走った竜車内。

竜車での移動に少しは慣れたスバルも、長時間の移動は疲れるものがあった。

 

「そうだな・・・。わりぃ、プリシラ。少し横になるよ。」

 

「好きにすると良い。妾は読書の続きをするのじゃ。」

 

 横になり、目を瞑るスバル。横目で眺めながら、プリシラは本を取り出した。

気にする素振りは見せずに、続きのページを開き読み進める。

外では日が傾き始めており、王都までもう暫くかかりそうだった。

 

 

 

 本を読み終えたプリシラ。周囲を見渡すと既に暗くなっており、結構な時間が経過していた。

スバルのほうへ目を向けると、ただ寝にくいだけなのか、悪夢を見ているのか、顔を顰めながら寝ている。

何かを思いついた顔をしたプリシラは、口角を上げながら近づいてゆく。

 

「よく眠っておるが、なにゆえそのような顔をしておるのか・・・。

 悪人顔が尚更悪くなっておるぞ。」

 

 小さく笑い声を零しながら真横にくる。

頬を突いたり、そっと髪の毛に触れたりしている。

 

「ふむ・・・。」

 

 頭の真横に腰を下ろしたプリシラは少し考えた素振りをする。

頭を掴み、起きないことを確認して、そっと持ち上げた。

自身の身体を少し横へずらし、ゆっくりと頭を下す。

 

「どうじゃ?最高級の枕よりもふかふかで、暖かくて、気持ち良いはずじゃ。」

 

 ふふふ、と笑いながらスバルの髪の毛を優しく撫でる。

最初のうちは寝苦しそうにしていたスバルだが、次第に安らかな寝顔に変わっていった。

 

「安らかな顔をしおって、現金な奴め。妾の膝枕はどのような宝物よりも貴重。

 この世で何人が享受できると思うておる・・・?」

 

 返答がないことは知りながら、話しかけ続けるプリシラ。

その光景は、王都に到着するまで続けられていた。





以下おまけ

“今日のぷりしらさん”


「本日もばいぶるで勉強するのじゃ。」

「ふむふむ・・・。なるほど。これは・・・。むむむ・・・。」

「妾には難しい・・・?否、このような事が出来ないわけがないのじゃ。」

「早速実行するのじゃ。」

―――――

「すばるーすばるー。」

「此処に座るが良い。」

「そして・・・どーんっ」ゴンッ

「あれ・・・?何で急に寝ておるのじゃ?」

「むむむ・・・仕方がないの。少し寝かせてやるか・・・。」

「床が固くて、頭が痛かろう。特別に膝を貸してやるのじゃ。」

「光栄に思え。」どやっ

「・・・頭が重いのじゃ~。」

【その4.彼に膝枕をして、疲れを癒す】

※本編とは全く関係ありません


第三話でした。

核心には触れておらず・・・。

王都到着後も書いてしまうと長くなるので、ここまで。

誤字脱字報告や感想などお待ちしております。


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第四話 王選候補者集結

第四話です。

キャラ崩壊や独自設定含みます。

また、口調に違和感がある部分がある可能性があります。

許せない方はブラウザバックをお願いいたします。


 

 

 竜車を走らせ続けて、半日ほどが経った頃、漸く王都ルグニカへ到着した。

既に殆どの人は寝静まっている時間のため、出歩いている人たちは見当たらない。

そんな時間に、若い男女の二人は歩いていた。

 

 “竜車で直接行った方が早いんじゃね”

ぶつぶつと呟きながら、女性の後ろを追いかけている男-スバル-。

プリシラの“ここから歩くぞ”と、鶴の一声で決まり、なし崩し的に後を追いかける形となった。

眠たげな眼を擦りながら、あっちこっちへ千鳥足を披露しているが、なんとか見失わないようについてゆく。

 

「プリシラ。一つ聞きたいんだけど。」

 

「なんじゃ、スバル。」

 

「何で歩いてんの?」

 

 プリシラは振り返りもせずに返事をした。

スバルも気にした様子はなく、彼もプリシラに視線を向けずに話を続ける。

 

「なに、大した理由はない。ただ、歩きたかったから歩く。

 人間は何故足がついてると思うておる?」

 

 プリシラの皮肉めいた言い方にも耐性がついているスバルは、気にする事もなく流す。

いちいち言い返していると、10倍以上になって返ってくることも理解していた。

 

「歩くため、だろ?いいや、何かを蹴るためにあるのかもしれない。

 歩くことだって、言ってしまえば大地を蹴るわけだろ?」

 

「しょうもないことをほざくでない、凡愚。

 それで、聞きたい事とはそれだけか?もっと他にもあろう?」

 

 ひたすら前を歩き続けるプリシラの表情はスバルには見えない。

聞くべきかどうか迷っているのか、暫し沈黙した後に答えた。

 

「いや・・・。ただ眠かったから聞いただけだよ。

 特に深い理由はねぇ。いっちょ気合いいれて歩きますか。」

 

「ふん。気合いを入れんでも歩けるのじゃ。

 小さな事まで何かしらの理由をつけなければ出来ないとは、凡愚ここに極まり、じゃ。」

 

「それちげぇよ!そんな使い方するもんじゃないの!

 ただの悪口だからそれ!」

 

 いつもの調子で、いつものような掛け合いに応じて、普段通りを装う。

歩きながら空を見上ると、いつも以上に綺麗な月が輝いていた。

 

 

――――――――――

 

 

 翌朝、二人は城へと向かう。歩いている間に会話は殆どなかった。

あまり歩きなれている道ではないスバルは、少しそわそわしながら、辺りを見渡している。

 

「あまり変な行動はするでない。珍しいものでもなかろう?

 田舎者らしくて良いかもしれぬが、妾の品格まで疑われるのじゃ。」

 

「慣れてるわけないですよね!?俺殆どこんな場所に来たことねぇよ!」

 

 息を荒げて反論するスバルだが、プリシラは相手にもせずにスタスタと歩いてゆく。

置いて行かれるわけにもいかないので、必死に追いかけるスバル。まるで、大人に連れられて初めての場所へ向かう子供のようだった。

暫く歩くと、一際大きな扉が見えてきた。

 

「着いたのじゃ。妾に任しておれば万事うまくゆく。騒ぐでないぞ?」

 

「わかってるよ。静かにしてますー。お口にチャックしてますー。」

 

 顔を顰めて苦言を告げるが、プリシラはスバルの方を見向きもしない。

二人が扉の前に到着すると同時に扉が開かれる。

 

「お待ちしておりました。プリシラ・バーリエル様と従者の方ですね。中へどうぞ。」

 

「うむ。苦しゅうない。良きに計らえ。」「あ、ありがとう。」

 

 プリシラは普段通りの受け答えで通っていくが、スバルは慣れていないため少しどもって答えた。

目線を彷徨わせ、俯きがちに扉を通る。

“庶民には居た堪れないぜ”と零しながらも、必死にプリシラへ着いて行く。

 

 扉を潜り抜けた部屋の中はただっ広い空間になっている。

騎士が一糸乱れず隊列を組んで整列している部分と、学者みたいな恰好をした人間が集まっているブースがある。

一斉に視線を向けられ、スバルは少し萎縮してしまうが、プリシラは当然の如く受け止め歩く。

 

“わかっていた積もりだったが、こいつとは住む世界が違うんだな”

 

 再認識したスバルは、置いて行かれないよう必死に背筋を伸ばしてついていく。

その姿は、親の後ろをついて回る子鴨のようであった。

 

 プリシラ達が到着した時には、既に【アナスタシア・ホーシン】【クルシュ・カルステン】が到着しており、整列していた。

両名はプリシラを一瞥したが、すぐに意識を逸らして前方へ視線を戻す。

プリシラも特に気にもしていないようで、視線を向けることさえしなかった。

 

「エミリアたんはまだきてないのか・・・。ってかお前、いいのかよその態度。

 挨拶しろとは言わないが、目線くらい合わせてもいいんじゃねぇの?」

 

「何故、妾が目線を合わせる必要があるのじゃ。有象無象に興味などない。」

 

 心底興味がなさそうにプリシラは答えた。

プリシラ達が位置につき、スバルがそわそわしていた時に一際大きな音を立てて扉が開いた。

視線を向けると、派手なドレスを身に纏っている【フェルト】と剣聖【ラインハルト】が同時に入ってきた。

 

 パッと見ただけではフェルトがどこぞのお嬢様に見えるが、彼女の素性を知っているスバルはげんなりしていた。

“あれぜってぇストレス溜めてるよな”

目線が鋭くなって据わりはじめているフェルトを見て、スバルは一人呟いた。

 

「あまり視線を動かすでない。動じるなまでは言わぬが相応の振る舞いをするのじゃ。」

 

 叱責されたスバルは背筋を伸ばして、視線はプリシラで固定をする。

プリシラは堂々とした態度で普段と全く変わった様子はない。

その様子に中てられたスバルも、“せめて堂々と、ふてぶてしくしていよう”と考えを改めるのであった。

 

 

 

「こちらへどうぞ。貴女方が最後の組みです。」

 

 扉が開く音の後に、警備兵の言葉が聞こえる。

スバルは振り向きたい衝動に駆られるが、堪えて正面を向き続ける。

コツコツと足音が響く。“3人分”の足音を聞きながら、スバルは思考した。

 

【あれ?ロズっちとエミリアたんの二人できてるんじゃねぇの?】

 

【ラムかレムか・・・?いや、どちらかを置いてくる理由がない】

 

【そう言えば、以前はプリシラ組が最後で・・・フェルトは後から登場じゃなかったか・・・?】

 

 様々な事を考えていると足音が止まった。

そして、賢人会の老人たちが集まってくる。

これから長々と説明が始まるのだが・・・スバルはそれどころではなかった。

横目でちらりと盗み見した瞬間、見えてしまったのだ。

一度見たら忘れれないような、特徴的な恰好。

ボロボロのズボンに緑色のベスト。その上から黄色のマントのような外套をつけている。

そして、頭には一度見れば忘れることもできないような、フルフェイスヘルム。

この世界にはいないと思われていた“アル”がそこにはいたのだ。

 

 スバルは混乱していた。周囲の話も全く耳にも入っておらず、思考の海へとダイブしている。

“何故・・・何故・・・”と、時折ぶつぶつと呟きながら、状況の整理を行った。

 

【アル・・・だよな。何でエミリアたんといるんだよ。】

 

【何だよ、行方不明じゃなかったのかよ。会えてうれしい気持ちもあるが、いる場所が複雑すぎるだろ】

 

【何故・・・あそこにアルがいるんだよ。俺の居場所は・・・】

 

 がしっと肩を掴まれて、我に返ったスバルは顔を上げる。

そこには真剣な顔をしながら睨みつけるように視線を向けているプリシラがいた。

 

「スバルよ。貴様が今何を考えているのか、妾にはわからぬ。

 しかし、酷く狼狽えておることはわかる。」

 

「プリシラ・・・。」

 

「自我を保つのじゃ。感情に飲み込まれるな、貴様は妾の従者、ナツキ・スバルじゃろう。」

 

 一言一言を区切って、説明するような口調で諭すプリシラ。

彼女なりのエールとはわかっていたが、それでも感情が追いつかないスバルだった。

 

「でも・・・。」

 

「でももなしじゃ。後でどれだけ喚き散らしても構わん。今は大人しくするのじゃ。よいな?」 

 

「・・・。」

 

 スバルは答えはしなかったが、しっかりと頷いた。

頷きを確認したプリシラは、周囲にばれないよう小さなため息を吐いて正面へ向き直った。

“後で確認しなきゃな・・・”

スバルは多少落ち着きを取り戻し、敢えてアルの方へは目も向けずに向き直った。

 

――――――――――

 

 

「ちょっと待ってくれ。」

 

 長く退屈な話も終わり、皆思い思いに退出していく最中、スバルはエミリア達に声をかけた。

振り向いたエミリアは少し驚いた顔を見せた後に、寂しそうに微笑みを浮かべる。

ロズワールは席を外しており、もう一人の付き人“アル”がゆっくりとした動作で振り返る。

 

「スバル・・・そんなに日は経っていないけど、なんだか久しぶりだね。元気にしていた?」

 

「エミリアたん・・・俺は元気だよ。でも、ごめん。今日はちょっと付き人の彼と話をしたい。」

 

「スバル・・・?どうしたの?なんだか、怖い顔してるよ?何かあったの?」

 

「いいや、大丈夫だよエミリア。そちらの彼と話をしたい。少しだけ時間をくれないか?」

 

 アルから視線を外さないスバルに、エミリアは少し違和感を感じていた。

もう少し詳しく聞き出そうとしていたところ、アルから声があがる。

 

「あ~。いいよ。俺は。でも、先に嬢ちゃんを部屋に送り届けてからだ。

 そんぐらいの時間はいいだろ?“兄弟”」

 

「・・・。わかった。全然それで問題ないぜ。“アル”」

 

 エミリアに宛がわれた部屋へ向けて歩きはじめる二人。

納得はできていなかったが、険悪な雰囲気でもなかったため、問いただせなかったエミリアも後ろから続いた。

 

 

 

「そんで?兄弟は何が聞きたいわけ?俺がここにいる理由?

 ・・・それとも他の何か?」

 

 エミリアを送り届けた後、二人は上層部から抜け、王都にある広場へやってきていた。

夕暮れで陽が沈みゆく中、ベンチに腰をかけている二人。

 

「全てだ。何故お前はエミリアと一緒にいたのか。今までどこで何をしていたのか。

 そして・・・今のこの状況はなんなんだ。何故お前はプリシラといなかった。

 何故おれは今プリシラと一緒になっていて、お前はエミリアと一緒になっているんだ。」

 

「ちょっとちょっと。一気に言われてもわかんねぇって。

 一つずつゆっくりいこうや兄弟。別に時間がないわけでもないんだろ?」

 

 宥めるように話すアルに、少し落ち着きを取り戻したスバル。

広場には、既に人もいなくなっており、二人の世界になっていた。

風の音もせず、痛いくらいの沈黙が続く中、沈黙を破ったのはアルだった。

 

「まずはじめに。俺が今何故お嬢ちゃんと行動してるかについて、だ。

 先日、二日三日ほど前だったか?俺はある森で生死を彷徨っていた。

 何をしていたかは、今は置いておく。そこであのピエロのような人間に助けられたのさ。」

 

「ピエロって・・・ロズワールのことか?」

 

「そうだ。そのあとに、嬢ちゃん達と会った。回復魔法をよくかけてくれたぜ。

 治療の最中だが、今回の集まりがあっただろ?嬢ちゃんは屋敷から出ないといけなくなった。

 そして俺も治療の為についてきたってわけさ。わかったか?兄弟。」

 

 “実はまだ本調子じゃないんだよな”

呟きながら手を開いたり握りしめたりしている。

アルの説明に納得したスバルは、視線で続きを促す。

 

「今まで何処に行ってたのかってのは・・・今は言えないね。時期がくれば話すぜ。

 それに今の状況ってのは、抽象的すぎて答えられねぇよ。」

 

「ちょっと待てよアル。言えないって何だよ?そんな答えで俺が納得できると思ってるのか?

 今の状況は、わかんだろ。何で俺がプリシラサイドでアルがエミリアサイドなんだよ。」

 

 スバルは苛立ちを隠そうともせずに、立ち上がりながら捲し立てた。

一方アルは、意に介さずに静かに聞いていた。

更に熱くなって畳みかけようとしたところ、アルに遮られる。

 

「そんなこと俺が知るかよ。姫様曰く、世界は姫様の都合の良いようにできてるんだろ?

 じゃあ、兄弟が姫様につく方が都合に良かったんじゃねぇの?」

 

「は・・・?プリシラに都合が良い?意味がわかんねぇ。

 だが、アルがこの事に関して話したくないのなら、もう聞かない。でもこれは答えてもらう。」

 

「何故お前は俺と一緒の記憶を持ってるんだ。

 この世界は何なんだよ?以前に倒した敵が蘇ってたり、王選が再度始まったり。

 時間が巻き戻ってるのか・・・?」

 

 “ふむ”と、少し考えるように、顎へ手をやりながら押し黙るアル。言葉を選んでいるのか、なかなか口を開こうとしない。

煮え切らない態度のアルに、スバルの怒りは爆発した。

 

「何で答えないんだよ!何か知ってるんだろ!教えてくれよ!本当に意味がわかんねぇんだ!

 もう気が狂いそうなんだよ!俺が何をしたんだよ!教えてくれよおぉ!!!」

 

 肩を掴み、揺さぶりながら激高するスバル。対してアルは冷静に腕を掴んで離す。

 

「落ち着けよ、兄弟。別に何も話さないってわけじゃねぇって。

 話せる部分はちゃんと話す。大人しく聞けって。いいな?」

 

「・・・わかった。熱くなってしまってごめん。頼めるか、アル。」

 

「オーケイ。任せろ兄弟。そうだな、まずは記憶の話からするか。」

 

 スバルは深呼吸をしてから落ち着いたところ、再度座って話を聞く態勢に入った。

 

「先に言っておくが、原因については俺の口から言うことはできねぇんだわ。悪いな。

 んでもって、お前も違和感を感じたりしなかったか?今回の流れについて。」

 

「そうだな・・・。正直、時間逆行ではないとは思っている。以前と違い過ぎてるしな・・・。

 そもそも、レムと俺が仲良くなったのだって、魔獣騒ぎの後なのに、今回はその前から以前のような態度なんだ。

 正直、それもあって最初はわけわかんなかった部分もある。」

 

 今回のレムとの始まりはプリシラとの言い合いだった。

当時はこんなことになっていると考えてもいなかったため、全く気にも留めていなかったが、戻っていると仮定したとしても、レムの態度はおかしいのだ。

 

「そうだな、それはあってるぜ兄弟。実際に時間が戻っているわけではない。

 第三者の介入があり、俺らがこっちの世界へ来た時と似た状況ってわけだ。」

 

「第三者の介入・・・。アル。お前はそれが誰が何をしてこうなったのか、わかってるってことでいいのか?」

 

「ああ、そうだな。わかってるさ。でもそれは俺の口から伝える事は出来ねぇし、するつもりもない。

 ここまでヒントをやったんだ。これまで試練を乗り越えてきた兄弟なら、自分で探せるだろ?」

 

 スバルは腰をあげて、アルへ視線を向けて大きく頷いた。

その瞳は先ほどまでと打って変わって怒りや戸惑いの色は無くなっており、やる気に満ちていた。

ぐっと握りこぶしを作って告げる。

 

「そこまでで充分だよ。アル、本当にありがとな。本当は喋ってもいけないことまで喋ってるんじゃねぇのか?

 お前には前からずっと助けられっぱなしだよな。いつか、前の分もあわせて借りを返すから待っててくれ。」

 

「水くせぇよ兄弟、気にすんなって。俺がやりたくてしてることだ。

 本当はもっと教えてやりたがったが、これ以上はちょっとマジで危ないんだわ。悪いね。」

 

 アルも立ち上がり、フルフェイスヘルムの後頭部辺りを掻くような仕草をした。

照れたような仕草が珍しくて、また、自分の味方がいたことに感動を覚えたスバルはアルへ向かって掌を差し出す。

がっちりと握手をしたまま、笑顔を浮かべて告げる。

 

「オーケー。俺は俺なりに、だな。恰好悪くとも必死にもがいてやるさ。これまでそうしてきたように、壁を打ち破ってな。

 俺はそろそろ戻るよ。怪我している身体に鞭を打ってまで時間を割いてもらって悪かった。ありがとう。」

 

「気にすんなって。じゃあな。達者でやれよ、兄弟。」

 

 そう告げたアルは握っていた手を放して踵を返した。

後ろ向きで手を挙げて挨拶していくあたり“実にアルらしい”と小さく零した。

その後ろ姿が見えなくなるまで見送り、自分に宛がわれている部屋へ戻るためにプリシラの屋敷へ向かった。

 

 

――――――――――

 

 

 屋敷へたどり着いたスバルは、プリシラを探していた。

食堂や書斎を探しても見つからず、探し回った結果、最後に彼女の部屋の前へたどり着いた。

 

「これでいなけりゃ笑えるな・・・。おーい、プリシラ。いるか?」

 

 ノックと共に部屋に向かって声を上げるスバル。

暫く返答がなく、踵を返そうとした際に返答があった。

 

『あいておるぞ。入るがよい。』

 

 “いるなら何で返事してくれないんだよ”とは、口にせず、苦笑いを浮かべながら扉を開いた。

 

「邪魔するぜ。」

 

「邪魔しにきおったのか?不敬であろう。首を刎ねられたいようじゃな。」

 

「ちげぇよ!部屋に入るときの挨拶だろ!社交辞令的な!?」

 

「騒がずともよい。して何用じゃ?」

 

 立ち上がり、スバルの目前まで近寄ってくる。

扇子はいつもの口元にあてており、表情はあまりよく見えない。

 

「今日のことでな・・・。少し話したくて。

 広間では取り乱しちまって、本当にわりぃ。あの時は自分でもわけわかんなくなっちまってな・・・。」

 

「そのことか。もう良い。スバルなりに何かがあったのであろう。

 その事だけなら謝罪は必要ない。疾き出ていくがよい。」

 

 興味を失ったのか、スバルに背を向けて歩き出した。

ここで遮られてしまうと、次いつ話せるかわかったものではなく、スバルも食らいつく。

 

「それとな・・・。あともう一つだけあるんだ。なんつーのかな。俺の決意表明?みたいな?」

 

「決意表明・・・か。何じゃ。申してみよ。」

 

 振り返ったプリシラの瞳は少し揺れているようにも見えた。

普段見せないような弱弱しい瞳に、言葉を失いかけるが、腹の底から言葉を絞り出す。

 

「俺さ、正直わけがわからないことだらけで。結局は流されてばかりだった。

 俺自身のことを俺自身が信じられなくて。頭がおかしくなったのか、勘違いすることもあったし、戸惑いの連続だった。」

 

「スバル・・・。」

 

「今日さ、ある人と会ってきて少し話をしたんだ。それで俺は思い出した。俺なりのやり方・・・これまでもやってきてたことを。

 でも俺ってさ、出来る事って限られてるんだ。プリシラみたいな振る舞いもできない。ラインハルトのように強いわけでもない。

 それでも、出来ることを少しずつやっていくしかねぇんだ。

 プリシラ。俺は、この世界の謎を解く。」

 

 言い切った後に、瞳を閉じてプリシラの反応を待つ。

どのような反応が返ってくるかわからないこの時間は、恐怖に押しつぶされそうになる。

 

「スバルよ。貴様は妾の従者じゃ。弁えているなら何も言うまい。」

 

 プリシラの言葉に反応して、スバルは瞳を開けて見つめようとした。

しかし、話は終わりと言わんばかりに、既に背をむけておりベッドに入ろうとしていた。

 

「いやいやいや、ちょっと待ってくれ。何で寝ようとしてんの!?

 あれ、俺の一世一代の表明って無意味ですか!?何も感じなかったんですかねぇ!?」

 

「五月蠅い。時間を考えるのじゃ。用が終わったのなら、疾き去ね。」

 

「わかったよ。遅くに悪かったな。お休み、プリシラ。」

 

 告げた後にスバルが部屋から出て行った。

扉へ目を向けて確認したプリシラは、座りなおす。

 

「核心については聞いておらぬようじゃな・・・。問題の先送りではある、が。

 ・・・。安心、しておるのか・・・妾は。」

 

 一人になった部屋は、広くて、寂しく感じる。

 

 世界で一人になってしまった感覚。

 

 寒い。

 

 一人は嫌だ。

 

「・・・・・・。

 一人にしないで・・・。スバル・・・。」

 

 少女の呟きは

 

 スバルに

 

 届かない。 




以下おまけ

~今日のぷりしらさん~

「本日はこれじゃ!」

「これで一気に急接近!?なるほどっ。」

「妾もだいぶけいけんちが溜まってきたようじゃな。」

「実践あるのみじゃ。」


「のう、すばる。妾は寒いのじゃ。」てくてく

「何で散歩したいって言ったのかって?」

「急にほしが見たくなったのじゃ!」

「すばるに任務を与えるのじゃ。」

「妾の手を温めるがよい!」

「え?無理?」

「無理なことなどない!手を繋げばすぐであろう?」

「うんうん、それでいいのじゃっ」にこにこ

※本編とは全く関係ありません


今回は説明会・・・核心に触れてはおらず。

そのため、会話がメインになってしまったと思います。

読みにくい部分もあると思いますが、少しでも楽しんで頂ければ幸いです。

誤字脱字報告や感想などお待ちしております。


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