ミカベネ物語 ファンファン編 (ミ景)
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1、はじまり

 探偵編もありますが、書きたくなったので書きました。

 ロボとかよくわからない人でも楽しめるように頑張ります。




 時代や理由は違えど、人の戦いは文明の発展をもたらし、歴史には必ず存在した。

 技術が向上する度に道具──兵器も進化し、今で指一つ動かせば想像付かないほどの生物が殺せる時代が訪れる。

 中でも、巨大人型兵器AWM(アーマード・ウォー・マシナリー)は多くの局面で開発、投入されると戦火を広げていった。

 現代では生身の兵士ではなく、鉄の巨人たちが戦場を駆けている。

 

 

 

 

 

 

 俺の視界には闇夜で広がる山間部の斜面と森。

 両脚に備え付けられてローラーで滑る六つの影。

 後方に続くのは依頼主が今回の任務の為に用意した聖日皇国産AWM『羽嶋』の派生【烏丸】と呼ばれるものだ。

 黒塗りのボディと機動力を重視した5つの影は俺の動きにしっかり追従してくる。

《隊長!  今回の任務は本当にこれだけの戦力が必要なのでしょうか?》

 男の声を回線が拾う。

 番号はすぐ後ろの奴のものだ。

《ははは! ビビりの媚売り野郎が珍しく疑問を持ったか?》

 最後尾の奴が茶化すのを俺が制止すると一言付け加える。

「あー、なんでも、今回選ばれたお前らは『優秀』らしいからな。 期待はしてるぜ」

 俺の言葉に満更でもなさそうに反応したのは3人といったところか……。

 残り二名からは殺気にも近い気配。

 優秀な援軍? とんでもねえ。

 どうせ連中は俺を信用してねえから監視役でも欲しかったんだろうよ。

 それで状況次第なら俺ごと始末しろとか、な……ったく傭兵も楽じゃねえ。

 斜面を登り切り、見下ろせるポイントに到着。

 俺は改めて依頼の内容を確認する。

「俺たちの目標はこの山奥に囲まれたとある施設の破壊だ。 それに関しては詳しい説明はされてねえが傭兵の俺にも下っ端のお前らにも関係ねえとは思う」

 というか、知りたくないというのが本音だ。 何せ相手は現在世界の半分近くを牛耳ってるとされる国家なのだ。

 腕には自信はあるが国一つを相手取る程暇ではない。

「それとこれから先進めば恐らく『奴』の範囲に入ると思う。 全員チャンネル回線は開いておけ」

《……奴?》

 俺は言葉を続ける。

「いいか、合図が聞こえたら全員散開だ。 固まってると的になる」

 理解が追いついていないものは恐らく全員だろう。 それでも、それ以上に説明しようがない。

「ああ、きっと『奴』の好みが変わってないならジャズが聞こえてくると思うぜ?」

 

 

 

 俺たちは慎重に進軍していく中、それは急に鳴り響く。

 一瞬はノイズのように掻き乱されたと思えば、耳が音を拾い上げ、それが音楽と認識。

「全員! 広がれ!!」

 空から近づく落下音を外部スピーカーが拾う。

 俺は咄嗟に機体を前方へ飛ばし、その場を離れると共に後方から爆音。

 後ろを確認すれば僅かに逃げ遅れた一機の右足が消し飛んでいた。

《た、隊長! 動けません!!》

「各機! 説明した通りに進め! 施設破壊が最優先だ!!」

 救援を求める声を無視して、指示を飛ばす。

 悪いが俺はテメエのママじゃねえからよ。

 コックピットに流れるサックスのメロディが嫌に響いた。

 

 

 一人で突き進む俺は今までの行軍が嘘のような速度で走らせる。

 木々を物ともせず駆る機体は今回の任務には打ってつけだ。

 高機動と強襲を主に置いたAWM『パンサー』をベースに組み込んだカスタマイズ機【ジャガーマン】は烏丸同様の黒い塗装で、そのフォルムは両脚の膝とつま先から生える突起が目立つがこれを使うことは滅多にないだろう。

 レーダーを見れば、味方の反応は先程より既に二つ減った。

「ったく、案山子かよ」

 悪態を吐いて、俺は速度を上げる。

 データではそろそろという頃に前方上空に暗闇を彩る花火が見えた。

 それが枝分かれする弾道ミサイルと分かる前に身体が動く。

 操縦桿と動かし回避運動と同時にサブマシンガンから火を噴かせた。

 弾丸が見事に撃ち抜くと内心ガッツポーズ。

 日頃から整備を怠らない機体の感度は百点満点の出来だ。

「もちろんです、プロですから!」

 俺は更に機体の速度を上げた。

 

 

 

 しばらくすると、森から少し開けた場所へ出た。

 レーダーを確認するも俺以外の光点は一つだった。

 その反応は前方を指し示している。

 

《よぉ、久々だな【黒豹】》

 

 軽快なジャズの音色に合わせ、通信を呼びかけてきたのは紛れもない『奴』だ。

 白を基調にしたボディ。

 AWMでも巨大な図体をし、背中には規格外な武装を装備。

 放熱のためか蒸気の音を外部スピーカーが拾う。

「よぉ、鯨野郎! 相変わらずな選曲だな!」

 互いに視認できる距離にも関わらず武器は構えていない。

 殺意がないわけでもない。

 ただ、話がしたいだけなのだ。

 これから殺す相手と、お互い最期になるかもしれない会話を。

「テメエとはかれこれ三度目か?」

《……そうだな、敵対『だけ』を数えるなら》

 俺は傭兵だし、奴さんも似たようなもんだ。

 共闘の一つや二つはあったな。

「三度目の正直だ」

《二度あることは三度ある、とも言うが?》

「っるせぇな!」

 俺はフットペダルに載せる足の重心を調整する。

《なぁ、お前ほどの腕のある奴がなんで皇国なんかに力を貸すよ?》

 その声には理解不能の声音。

「……さあな、長いものには巻かれろってやつか」

 適当な返しをしながら、両手のグリップ位置を確認。

《せっかくだから大人らしく話合おうぜ?》

 このくそったれな世界で今更何を話し合うよ?

《──ほら、ランチ2回奢ってやったろ?」

「俺は13回奢らせられたぞ!!!」

 足と腕が反射的に動いた。

 無意識に口走った怒号を乗せた俺の発進に野郎は驚いた様子はないが、構わずサブマシンガンを撃ち放つ。

 瞬間加速においては明らかに優位な俺の攻撃は『白鯨』の装甲の前にビクともしていないかもしれないが、そんなのは百も承知である。

 フェイントを掛けながら接近しつつ、左上腕に装備された鉤爪を振り下ろす。

 だが、その巨体からは想像も出来ない反応で突撃銃が迎え撃ち刃を拒む。

 がら空きの左ボディにサブマシンガンを向けるも背中に搭載された主砲の存在。

 ブーストを噴かし、緊急離脱。

 離れると奴は同時に背中から六連式ロケットランチャーを生やし立て続けに発射。

 六つの帯を躱しながら、思考を巡らせる。

 距離を置いたところでそれでは余計に不利になることは変わらない、それも長期戦はますます死をイメージさせた。

 この煩わしい音楽が鎮魂歌になる想像を振り払い、俺は覚悟を決める。

「うぉおおおおおおお!!」

 雄たけびと共に再び接近。

 それを待っていたとばかりに背中の主砲が応えた。

 身体が許す超反射で操縦桿を動かす。

 反動でその巨体を揺れるのが見えたかと思えば、こちらにも衝撃。

 機体の状態を示すモニターには右腕から警告アラームが鳴り響いているのを俺は生きているし、俺に応えてくれた機体に感謝するだけであとは目の前の敵に集中。

 幸い残った左腕の鉤爪では、既に武器を構える奴には遅いと判断した俺は奥の手を使うことを決意。

 最早特攻に近い加速で接近する。

 おおよそ体感で二秒以内では激突し、雌雄は決するだろう。

 僅かに心残りなんかが過るが、それは無駄と悟った。

 何せ、俺が勝てば解決するのだから。

 

互いの影が交錯しようとした次の瞬間だ。

 

 眩い閃光。

 加えて、機体だけでなく大地を揺らすような衝撃が俺を襲った。

 

 

 

 そこから先は俺は覚えていない。

 だが、きっとこれは言える。

 

 

 

 例え死んでも生きてても、俺の戦いは終わらねえだろうということだ。

 



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2、森の目覚め

 目を覚ました僕が最初に見たのは木の葉から漏れる光だ。

 いつも寝ていた安っぽいベッドの上じゃなく、草が生い茂る地面の上に寝ていた。

 いい加減眩しく感じた木漏れ日を右手で遮る。

 ゆっくりと意識を回想へ移すと、記憶を遡らせた……が。

「あ、あれ?」

 そこで僕は最大の疑問に行き当たった。

「僕って誰だ?」

 例えるなら検索するキーワードを入力する直前に忘れてしまうような……いやいやなんで変な知識は残っているんだ!?

「とりあえず……ここはどこだ?」

 自分の名前や経歴は思い出せない……俗にいう記憶喪失ってものかもしれない。

 だが、自分以外に関しては大まかながら記憶……というより知識として残っている。

 少なくとも今は『日常』からかけ離れている状態というのは本能的に理解した。

 自身の身体に異常がないか確認。

 少なくとも怪我をしたようには感じず、不審な手術跡なんかもない。

「寝てる間に臓器を抜き取られる──なんて、都市伝説じゃあるまいし」

 乾いた笑みの後に、なんでこんなことは覚えているのか本当に疑問が湧いた。

 立ち上がると長く横になっていたせいか、若干の立ち眩みで足がもつれる。

「本当に大丈夫かな?」

 今は陽が高いために大丈夫かもしれないが、夜になれば野生の猛獣なんかがいるかもしれない。

 歩き出した僕は不安で溜息が漏れた。

「…………大丈夫、かなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 しばらく、歩くと身体も道に馴染んできたのか山道にも関わらずサクサク進んでいた。

 僕自身の恰好は動きやすいもので、もしかしたらハイキングや何かの用事でここを訪れたのかもしれない、と楽観的に考えることにする。

「それにしても……」

 辺りを見渡せば、草や林が生い茂って道らしき道はない。

 つまり、ここを通る人間は少ない、どころかいないのかもしれない……いやいや悲観的になるな!

「うんうん、きっと大丈夫だよ……きっとそう」

 歩みを緩め、遂には止まってしまう。

「ああああ、冷静になれ!! というかだいぶ歩いちゃったけど戻れるのか? いや、無理だよな!?」

 とりあえず、叫んでみたが現状が改善されるわけではない。

 昔からアクシデントには弱いな──ん?

「昔、から?」

 決して全部ではないが断片的なものが頭を過る。

 もしかして、叫んだ効果なのか……?

 だったら──

大きく吸い込んだ息を言葉に変える!

「きゃあああああああ!!」

 ん? いつから僕は女らしい叫び声になったんだ?

「ってそんなわけないじゃないか!」

 内心ボケた自分に突っ込むと声の方向へ走り出す。

 

 

 意外と近くに人影を発見。

そこにはフードを被った人物が明らかにガラの悪い男と飄々とした青年の二人組に絡まれているところだった。

「おいおい、俺たちは別に乱暴しようってわけじゃなくてだなぁ」

 フードの人物に男が近づこうとすると少女の悲鳴。

「だ、誰か助けてください!!」

 その声が先程の悲鳴と一致。

「や、やめてあげましょうよ!」

 僕は気づいたら身体を少女と男の間に割って入った。

「あん?」

 明らかに不機嫌そうな声音で男が睨みつけてくる

 その腰からぶら下がる拳銃が目に入った時、僕は僅かに後悔。

 次の瞬間には頭が吹っ飛ばされるのを覚悟していた。

「……やっぱり人選ミスだな。 お前に任せた俺が馬鹿だったよ」

 その声は男の後ろに立つ青年からのもので、彼は両耳からイヤホンらしきものをぶら下げていた。

 対して、その言葉に男は吼える。

「ああん? だったらテメエが声掛けろよ!!」

「じゃんけん勝負でお前が決めるって言ったんだろ? それに俺はシャイなんだよ」

 青年がそう言うと男の脇を抜け、僕の前にやってくる。

悪気はないと思わせる爽やかな笑顔だ。

「勘違いさせてすまなかったな、俺たちは単に道を聞こうとしただけなんだ」 

 青年の笑顔は何とも言えない……”作り物”に見えた。

僕の雰囲気が伝わったのか、柄の悪い男が吹き出した。

「おいおいおい、お前のせいで余計に怯えてんだろうが!」

「うるせえ! 笑顔なんて相当久々で表情筋ガチガチなんだよ!!」

 笑顔のまま怒鳴る彼に恐怖を抱く。

「はぁ…………笑顔なんてこの際どうでもいい」

 青年の開き直るような声音。

 対して表情は幾分も変わりないというのが何とも薄気味悪さに拍車を掛けた。

 それは先程の笑みとは明らかに違う意味を孕んでいる。

「ともかく、俺たちには時間がない……近くの村はどこだ?」

 その質問は僕ではない……後ろの彼女に問いたものだ。

「……」

 答えに窮している様子を見かねた僕は改めて少女を庇うように前に出た。

「なあ、お前は何か思い過ごしをしているようだが、危害を加えるつもりなら既にお前を殺すことだって可能なことはわからないか?」

 その言葉には信憑性があり、納得してしまう。

 それでも、僕は──

「さあな、それならアンタらこそ他を当たれよ」

 退かなかった。

 

 その様子を見て目の前の男は笑みを僅かに動かした。

 懐から取り出した拳銃の安全装置は恐らく外されており、カチリと撃鉄は起こされた。

「ああ、そうするとしよう」

 銃口と共に向けられた視線を辿ると青年の顔が映り込む。

 僕はその表情が掴みどころを感じさせなかった彼の本当の笑顔だと思えた。

 咄嗟に目を閉じたのはきっと反射的な事かもしれない。

 大きく乾いた音が耳を打ち鳴らすと身体を走った衝撃で僕の意識は刈り取られていった。



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2、森の目覚め-2

短いですが、あとで一つにも出来るので少しでも更新優先にしてみました。


 目を覚まして最初に見えたのは顔を覗きこんできた少女の顔だった。

「───!」

 僕と視線が合うと短い悲鳴と共に入口まで跳び退く。

 声を掛けようにも、風圧で靡いたフードを慌てて抑えると、外へ飛び出した後ろ姿はあっという間に消えてしまった。

 一度部屋を見渡し、現状の理解に努める。

 僕が下に敷いていたのは布団……と呼ばれているもののはず。

 記憶──知識はそう答える。

 内装の造りも東洋寄りの木造で、多少古びているがそれは長い年月も保たれている技術なのかもしれない。

 そこで、はて? と首を捻る。

 改めて僕がここに寝かされていた理由とは?

 記憶を遡らせようとすると首筋に痛みが走る。

 口から声が洩れ、首を片手で抑える。

 どうやら、強打されたような痛みで……心当たりは───森で出会った二人組の男たち……それと──。

 入口を見れば心配そうにこちらを窺っている先程の少女の姿。

 間違いない。

 彼女は男たちに絡まれていた子だ。

「……」

 僕と視線が合っているが、今度は逃げようとはしない。

 だが、彼女の両手は裾を必死に掴んでいた。

 無言が支配すると彼女の口元がボソボソと言葉を紡ぐ……。

「……だ、だいじょうぶ?」

「え、ああ。 うん、大丈夫ありが」

 ありがとう。 とこちらが言い終わる前に誰かが入ってくる。

 少女はその人物のように明らかに雰囲気が変わった。

「あ、お姉ちゃん」

 入室してきた人物も頭にフードを被り、僅かに覗かせた顔立ちは確かに少女に似ていた。

「ワラビィ……人間は危険だから近づくなと言ったはずだが?」

 隠す気のない不機嫌さを漂わせる女性に委縮する少女。

「で、でも──」

「デモもクーデターもないぞ。 いいか、確かに見張りはしてもいいとは言ったが過度な接近はダメと言ったはず」

「ご、ごめんなさい」

 素直に自らの非を認めた妹の頭を撫でると、外へ出るように促す。

 少女の姿が見えなくなるのを確認すると、女性がこちらを振り向いた。

 その時、僕は一瞬心臓がキュッと引き締まった錯覚を覚える。

 それは彼女の目だ。

 こちらを見据える瞳には明らかな憎悪や敵意が込められているもので、それを視線から離そうにも身体がいうことを利いてくれない。

 目だけではなく、呼吸器もその機能を忘れたかのように止まり、動けと脳が信号を送っても拒絶。

 僕の視界は酸素不足でチカチカと赤く明減。

 横隔膜に残る空気を絞り出すだけの機械になった気分だ。

 このまま、死ぬのか? ありえなくもない未来が過るが。

「ふむ……にぃあるほど」

 彼女のその言葉と共に身体を縛り付けていた何かが解けた。

 僕は砂漠でオアシスを見つけた旅人のように空気を堪能する。

 これからはもっと空気を大切にしよう。

 ダメ、空気汚染絶対!! そう心に強く誓う。

「おい、人間」

 一息ついた僕の近くに女性は立っていた。

「お前をこれから族長の元に連れて行く」

「…………はあ?」

 反抗的な意味ではなく、事態を掴み切れていない僕の襟首を彼女は問答無用とばかりに引っ手繰る。

「ぐぇっ!」

 間抜けな声を上げてしまうが、地面を引き摺られる僕はまたしても呼吸困難に陥る。

 ああ、こんなのばっかりなのですか、大切にするって約束したんですから、助けてくださいよ大気様ぁ!!

 どんどん意識が遠のいて行く中でふと、思い出した。

 

 

 

 自身の記憶はまだまだ欠落していることを。

 



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開戦、レティアの惨劇

本編というよりも、世界観や背景のようなものです。


ミュルトン大陸中央に領土を布き、今なお勢力拡大を目指す【ザガリア帝国】

 首都コンティノプルから南西に下り、ガハラ運河付近の町、【レティア】

 河の近くということもあり、漁で獲ったものを市場に卸す者、舟を利用する者、そこを経由する旅人。

 決して裕福という訳でもないが、そこには人々の生活が構築され、生きていた。

 だが、その日──町は戦場へと名を変わった。

 

 

 石材で造り上げられた建造物が爆風で粉砕され、硝煙と鉄の匂いが充満し、辺りは炎と黒煙で包まれた。

 炎と黒煙、当然のように転がる屍の山は血だまりの海を形成。

 開戦わずか30分で生まれたとは思えない地獄絵図を作り上げたのは”巨人”であった。

 体長はおおよそ10メートル未満。

 金属の無骨なボディは灰色の装甲版に覆われ、ギラリと頭部中央に輝く一つ眼のメインカメラは神話に登場する一つ目の巨人を彷彿とさせた。

 無抵抗に逃げ惑う人々を次々と両手に持った機銃が撃ち抜き、足元の人影を踏み潰し、建物をその拳で叩き壊した。

 その集団はどこからともなく現れ、この殺戮を開始したのだ。 

まるで破壊の限りを尽くす、蛮族の所業で合計五体の巨人によってレティアを壊滅にまで追い込むと、その後は何事もなかった姿を消したのだという。

 もちろん、その凶行に走った犯人たちの正体を追ったが、当時の帝国は諸国や反抗組織とも争っていたこともあり、候補も多数挙がり捜査は難航。

 しかし、それも有力な情報によって事態は大きく動く。

 情報元は当事者……辛うじて生き残った生存者たちによってもたらされたもので、襲撃者たちの特徴や状況を説明され、中でも巨人たちについての情報が注目された。

 レティアを襲った灰色の巨人たちの肩には派手な模様が描かれ、曲線と直線を複雑に結び絡ませ構築されたそれらは実は文字であり、両肩に一文字ずつで『聖』と『日』や『万』と『皇』など形も組み合わせも様々であったというもの。

 五体の襲撃者たちの後方に控えた一体は巨大な旗を掲げ、白地で中央に向かう無数の赤い斜線が描かれた柄と、大きく書かれた『聖日皇国』という四文字。

 これらの情報を得て、帝国上層部は頭を抱えたそうだ。

 なにせ、このミュルトン大陸にそのような国どころか、組織さえも”存在が確認出来なかった”のだ。

 それは大陸の歴史を遡ってすらも同様な結果だった。

 そこで帝国の長である皇帝はこう結論付け、声明を発表。

 

 

 異世界からやって来たであろう【聖日皇国】は平和を脅かす明らかな敵であり、ザガリア帝国はこれに対して徹底的な抗戦で迎える、と。

 

 

 そうして、現在は『世界』同士での戦争へ発展し、後に【第一次異次元大戦】と呼ばれるものとなった。



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3、宣告

「お、目が覚めたかよ、眠り姫」

 僕が目を開けると見覚えのある顔が見えた。

 あの少女を襲っていた……? 二人組の片割れだ。

「黒豹殿、どちらかといえば王子になると思うぞ」

 その声は女性で襟首を掴んで引きずり回した張本人。

「そんなことはどうだっていいだろ。 それよりも早くその族長様に会わせてやれよ」

 僕の前で二人はドンドン話を進めている。

 すっかり状況に追いつけない僕は辺りを見回すと、引きずられるまでに居た家の内装より豪華で大きい。

 「何がどうなっているんだ?」

 こちらの言葉が聞こえていたようで中年の男が言葉を紡いだ。

「……そりゃ、俺たちのセリフだぜ。 変な爆発に巻き込まれたと思いきや見知らぬ場所で、そんでもって賊や異人に襲われるしな!」

「それは災難であったな」

 女性の心が籠っていない言葉に中年の男がカッと目を見開いて食いつく。

「その異人ってのがお前らだけどな!」

「それはお互い様である。 貴様らが我が妹を襲ったのだからな」

 グッと痛いところを突かれたと風に言葉を濁すが。

「だから、あれは道を聞いただけ……てか、そもそもお前らの族長ってのが俺たちを呼んだんだろうが!?」

 その言葉に女性の方もたじろぐが。

「ふ、ふん! その件については現在、族長が話を聞いているところだ! そもそも貴様らのような人間に頼るなどありえん!!」

 まるで自分が人間ではないような発言だな……。

 そう僕が思っていると、奥から人の気配。

「さっきからどうしたんじゃ……こうも五月蠅くては話もまともに出来んわい!」

 暖簾らしき仕切りを跨ぐのは子供。 恐らく、十歳を行くか分らない女の子だ。

 恰好は寝間着……いや、着物? 浴衣だろうか?

 喋り方も不思議であったが、何よりも驚いたのが少女と思われるその部位的特徴。

 フサフサの白い尻尾とイヌ科を彷彿とさせる尖がり耳が生えていたのだ。

「oh、Jesus!?」

 中年の男が驚いた声で反応したから、僕は少しだけ冷静に対処できた。

「……」

 その少女の後ろから現れたのは中年の男の片割れで、僕に銃を向けてきた男だ。

 男を見た瞬間に僕は違和感に駆られたが、声でそれがかき消される。

「ぞ、族長! 話は済んだのか!?」

 詰め寄ろうとする女性を片手を上げ、待てと指示。

 ピタリと静止した女性の横を通り過ぎ、少女は僕に近づく。

「ふむ……なるほど、なるほど」

 座っている僕の両頬を掴むとマジマジと見つめてきた。

 その際、何故かわからないが頬を上気させ、尻尾を振り、耳をピコピコと動かし、黄金の瞳がキラキラと輝かせながら。

 少女は満足したのか、手を放すと両目を閉じ腕を組んでから、一考するようにウンウン唸る。

「族長! どうなのだ!?」

 その様子に溜まらず女性を問う。

 何やら深刻そうな空気に僕は息を呑んだ。

「ふむ、そうさな……若くていい男じゃな!」

 その答えに女性と僕と中年の男はズルっと体勢を崩す。

「ま、冗句はともかく……”当たり”じゃな」

 女の子は僕の方をジッと見つめる。

「お主、名は?」

 

 ……名前?

 

 僕は自身の名前すら覚えていないのだ。

 

「あ、えっと……」

 

 当然ながら答えに窮した……。

 不審に思う一同の中、声が上がったのは意外な人物だ。

 

「……ロック」

 

「え?」

 その人物は今まで黙っていた青年で、静かな瞳でいつの間にか片耳にはイヤホンを付けていた。

 ゆっくりと歩いてきた彼の恰好は最後に見た格好とは違い、和服で左腕の袖が宙で靡いている。

「お前の名前は【ロック=セカンド】……だろ?」

 この人は僕のことを知っているのか? そう思っても仕方ないような自信ある発言に自然と肯定していた。

「恐らくだが、気絶した際のショックで記憶が曖昧になっているんだろう……よくあることだ」

 右手を差し出してこう言ってきた。

「俺の名前は【御景=ヴァ―ルシュタイン】だ」

 ミカゲ、と名乗る男の手を見つめると、意を決して僕も手を差し出す。

 グッと引っ張り起こされると、今度は中年の男が話し出した。

「俺は【ベネット】──」

「本名はベンジャミンだ」

「て、てめぇ!」

 二人が取っ組み合いになりそうなところを女性が制止。

「貴様ら、いい加減にわきまえろ。 族長の前で!」

 呵々と笑う少女は愉快そうに手を振るう。

「良い良い。 この際じゃ、お主も紹介しておけ」

「……【タピオカ】だ」

 明らかに嫌々そうに名乗る女性。

「お、肝心の儂がまだじゃったの。 儂はこの集落を治める【ヨネ】じゃ」

 とりあえず、全員の紹介が終わったわけなのだが……。

「そ、それで族長、”当たり”と言ってはいたが、本当か?」

 タピオカさんの言葉で思い出す、少女の言葉を。

「うむ、どうやら、そのようじゃ。 漸く儂らの使命を終える日が来たということじゃ」

「……そうか」

 しんみりとした空気の中、ベネットさんが口を挿む。

「いや、悪いが話が見えてこねえ、要点だけ伝えてくれねえか?」

 代わりに答えたのは御景さんで。

「『【朗報】伝説の勇者降臨したったww』……だ」

「……なるほど」

 

 ……っ!? そんなことで納得できるのか!?

 真顔でネットスラングを口頭で伝える和服青年とかシュール過ぎませんか!?

 

「え、というか、勇者ですか!?」

 

 

 あまりにも自然に唐突に僕は”勇者”となっていました。

 



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3、宣告-2

 それから僕は……いや僕たちは族長のヨネさんに言われて、奥の部屋に招かれた。

 造りは同じく和式なのだが、独特な空気がある。

「あー、それでどこまで話したかの……」

 考え込む女児に御景さんが助け舟を出す。

「予言……でしたかな。 我々と思わしきものと、貴女たちに伝わる勇者の登場など……そして──」

「おぉおお! そうじゃったそうじゃった、感謝するぞ白鯨殿」

 いいところで遮るような声を出されたことに一瞬だがムッとした表情を浮かべる。

 まあ、それもすぐに元の真面目な雰囲気に戻ったが。

「そう、予言にはこうじゃ、『白鯨と黒豹を現れし時、勇者再臨す』とじゃが──」

 ダンと足を踏み出し、歌舞伎役者のような立ち振る舞いで言葉を紡ぐ。

「ここからが本題。 『勇者再臨す、それが鐘と鳴り、世界は闇に包まれる』とな」

 僕はその言葉の意味がよくわからない。

 鐘がなると、世界は闇に包まれる……一体どういうことなんだ。

「あー、まあ……偶然ってことはないのか?」

 ベネットさんは頬を掻きながら反応に困る。

「偶然……それは構わんが俺たちがこうして異世界なる場所に飛ばされたことや、白鯨と黒豹って馴染みあるワードが繋がったのも偶然だってか?」

 御景さんが早口で捲し立てると、ベネットさんは声を荒げた。

「だいたいテメエこそ、異世界だとかファンタジーでメルヘンな世界はないってほざいてたじゃねえかよ!?」

「あれはお前の好きな創作染みた話に関してだ。 俺は現実主義で今、この瞬間を認識しているんだよ」

 二人の間に火花が散っているように錯覚するが僕は急いで止める。

「お二人とも、やめましょうよ。 喧嘩なんてみっともないですよ」

「るせぇ!! ガキは黙ってやがれぇ!!」

 僕の手を払いのけ臨戦態勢に入るベネットさん。

 

 すると──

「せいっ!」

 鋭いタピオカさんの手刀が彼の首筋を捉え、ぐぇっと悲鳴を漏らしたベネットさんが倒れ、そのまま床に伏した。

「案ずるな、当身だ。 …………目が覚めても痛みが取れるかは保証はせぬが」

 うん、後半は聞かなかったことにしよう。

 

 

 仕切り直すように咳払いをしたヨネさんは話し出した。

「それでお主たちには是非確認してもらいたいところがあるのじゃが──」

「族長! まさか、『シロキヌシ』の所に!」

 キョトンとした表情は見た目通りなのだが、話し方とのギャップに違和感を感じる。

「当然じゃろ、この地で勇者と縁あるのはあの場所だけじゃ」

 しかしと食いつくタピオカさん。

「ふむ、案内役はお主に頼もうかと思うたが……これはワラビィにでも──」

「族長!!」

 タピオカさんの荒げた声音。 それは下手をすれば敵意すら含んでいたのかもしれない。

「貴女という人はあそこか我が一族にとって如何に神聖で危険性を孕んでいるのか理解しているのか!?」

「……当然。 むしろ、今立たなくてはこの先はもうないやも知れぬものじゃ……お主にこれを頼むは確かに酷じゃが、儂らや一族の為にも頼む」

 そういうとヨネさんは深く頭を下げた。

 僕たちも戸惑うが、タピオカさんはそれ以上だろう。

「……わかった。 こいつらをあの場所に案内すればいいのだろう?」

 無言でコクリと頷く少女に、鼻で鳴らしタピオカは部屋を立ち去ろうとする。

「あ、それとだ」

 立ち去る直前に肩越しに首を向けてきた。

「付き添いはいらん。 私だけでいい」

 

 

 …………。 長く感じられた間。

 

「あい、わかった」

 その返事に張り詰めた緊張感が霧散していくと今度こそタピオカさんは部屋を去って行った。

 

 

 

 

 ヨネさんが深い溜息を漏らした唇を僕は自然と見ていた。

 小さく動いた筋肉を読み取る。

 せ わ を か け る。 

 そう言ったように見えた。

 

 相変わらず気絶したベネットさんはともかく、僕は隣の御景さんを見ると、彼もまた何か感じることがあったらしく、機嫌が良さそうには見えず、片耳に掛けたイヤホンを弄っている。

 

 

 これからどうなってしまうのか……。

 早速、僕は運命とやらに不安を抱きだした。

 

 



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4、シロキヌシ

 意識ないまま移動していたことが多くて気付けなかったが意外にこの付近の技術は進んでいるようで、普通に電気も自動車と思わしきものも存在した。

 ヨネさんなどを見ていたせいかてっきり一昔の文明と思い込んでいたが、そんなことは無かったみたいだ。

 そんな僕の肩を叩いたのはベネットさんでその表情はどこか同情めいたものを感じる。

「わかるぜ……俺もファンタジー世界と思い込んでたら実は現代風の文化取り入れてます……だもんな」

 僕の表情がどんなものかはわからないが少なくとも彼が勘違いするようなものだったのだろうか?

「相手をしなくていいぞ、妙な妄想するのが趣味な中年だからな」

 御景さんはそういうと僕たちの後ろを通りすぎて行く。

 既にタピオカさんはその先を行っており、僕とベネットさんは慌てて追いかけるという感じになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらく歩くと、山と山の間を繋ぐように鉄線で結び、それを行き来する鉄の箱が見えた。

「はあぁあ、ゴンドラリフトまであるのかよ!!」

 ベネットさんの叫び声はともかく、これには僕も度肝を抜かれた。

「お前たち、もしかしなくても我々を馬鹿にしてるだろ」

 明らかに不機嫌な声音。

「なに、少なくとも半日は歩くと覚悟していたんでな」

 御景さんのフォローに必死に僕とベネットさんが頷くのを見てそっぽ向く彼女。

 何とも言えない空気の中、歩き続けると乗り場があった。

「……定員は二人、か」

 重量制限を考慮してるのか、ゴンドラの大きさなのか、そう記された注意書きを読み上げる御景さん。

「それじゃあ、組み分けはどうする? 恨みっこなしであみだ籤でも───」

「俺とロック……ベネットとタピオカ氏でいいだろ?」

 遮られた声に棒切れで地面に線を描いていたベネットさんは静止。

 タピオカさんはピクリと反応した。

「……何故、そうなる?」

 彼女の問いに、御景さんはイヤホンを弄りながら答えた。

「まず、俺とベネットは君から信用されていない。 乗るのが後にしても先にしても逃走の恐れがあるそんな二人を一緒に乗せるなんて論外だと思わないか?」

「……貴様ら程度なら例え逃げようと、追って仕留められるぞ?」

 安い挑発。 だが、その視線の先には御景さんの靡く左袖。

 緊迫した空気。

 御景さんとタピオカさんの間に火花がぶつかり合うように見えた。

「やめろ。 くだらねえことで喧嘩することねえだろ……オメエも左腕だからよかったもんをよ、次は首でも飛ばすか?」

 意外にもベネットさんがそれを制すように肩を掴む。

 掴まれた御景さんがその手を振るい払うと、べネットさんは肩を竦めて停止していたゴンドラへ乗り込んだ。

 何を言うでもなく、タピオカさんもそれに続く。

 二人が乗り込むとドアは閉じられ、そのまま鉄の箱は向こう岸へ進みだした。

 それを見送りながら、僕たちは次のゴンドラが来るまで待機していたのだが。

「……えっと、左腕って怪我を、されたんですか?」

 ベネットさんの言葉と、僕の記憶を繋げるとやはり気絶している間に何かあったらしい。

「……大したことじゃあない。 俺の油断が招いた結果だ」

「……はあ」

 それ以上は追及するな、そう目で言ってきた彼に僕は従うしかない。

「あ、そういう言えば聞きたかったんですが、僕と貴方って以前からの知り合い──友人だったりするんですかね?」

 そう、自身が今名乗ることになった『ロック』という名前はこの人が教えてくれたのだ。

 イヤホンを弄る彼の横顔には思考の面影。

 ん? 何だろう……この間は。

「いや、俺はお前を知らないぞ?」

 脳天を何かで叩かれたような錯覚。

「えっと、それは、どういう」

 僕の疑問への回答あくまで冷静。

「俺は記憶喪失前のお前さんを知らないってことだ……正確には森で出会ったところから知らないが」

「つまり、僕のロック=セカンドってのは?」

「それは”ラナイ”が考えた名前で、まあ偽名って奴だな。 俺のセンスは酷いが、あの子のはまあまあいいだろ?」

 

 

 なんということだ。 また振り出しに戻ってしまった。

 僕の記憶はこの人たちに出会う前の森で目覚めた場所から残っている。

 だが、それはつまり御景さんは本当に僕のことは知らないということに他ならない。

 知れば知る程、現状の深刻さが身に染みてきた。

 

 

 

「……どうやら、記憶喪失ってのはデマじゃないようだな。 というか、お前も俺たちと同じように飛ばれてきた人間なのかもな」

「……はい?」

 そういえば、ヨネさんたちと話している時も似たような話を……勇者がどうとか……

「って、なんで僕が勇者なんですか?」

「知らん、俺たちも変な賊を追い払ってる時に通信が入って来たんだよ。 それで俺とベネットはそれに乗ってここら辺までやった来たってわけで……」

 一旦言葉を切り、ジトーッとした目でこちらを見てきた。

「俺らが道を聞いてただけで暴漢と間違うやつもいたしな。 本当に嫌になるよ」

「いや、あれはどう見たって」

「……不審者だろうな。 というかそういう知識はあるみたいだな」

 

 言われてみればそうだ。

 自分のことはさっぱりでも、ある程度の常識や知識は必要な時に湧いてくる。

 それが当たり前かのように。

 偉人風にいうなら『吾輩の辞書に自分はいない』とでもいうようなものだ。

 

 

 

 ……うん。 本当になんでこんなことばかり覚えているんだろう。

 

 

「……良ければ俺たちと行動を共にするか?」

「え、本当ですか?」

 その誘いは有り難いし、心強い。

 二つ返事をしそうなところで僕は、ふと思う。

「それって、貴方たちにメリットってあるんですか?」

 ニヤリと御景さんの口元が三日月で歪む。

「ここで二つ返事でしてきたらどうしようかと思ったが、それも杞憂だな」

 彼は僕を試したようで、右手でイヤホンの位置を調整。

「それでメリットは?」

 少し強気に攻めた僕の言葉を御景さんはこちらへ視線を真っ直ぐ向けて答えた。

「特にないな、むしろお荷物……と考えるのが普通だろう」

 だが、と言葉を切る。

「俺とベネットは変わり者だし、旅は道連れとも言う。 それで納得はしてくれないか?」

 差し出された右手。

 僕はまたしてもそれに応えて握手した。

 それは、この人がどこか頼りになるというのはわかるし、悪い人ではないのも感じた。

 

 

 

 

 それに───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  この人が何を隠し、背負っているのかが非常に興味を注がれたからだ。 



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4、シロキヌシーⅡ

最近、更新速度遅くて申し訳ございません


 御景とロックを残して、ゴンドラに揺られるベネットとタピオカは窓から覗く景色を眺めていた。

 互いに張り詰めたような緊張感があるわけでもない。

 しかし、決して警戒を解いているわけでもないが。

 

「黒豹殿は……」

 タピオカは目線を合わせることなく、ベネットへ話しかける。

「あの白鯨殿とはどういう関係なのだ?」

 中年の目線は同様に窓を見つめたまま、答える。

「……どう見える?」

「恋仲というわけではなさそうであるな」

「HAHAHA!! 寝言は寝てから言え!  ……まあ、あれだ……腐れ縁みてえなもんだ」

 その回答に納得でもしたのか、それ以上追及はしてこない。

「というか、これから行く場所ってどんなところなんだ?」

「……神聖な場所だ。 皆にとってはな」

「お前にとってはどうなんだ?」

 その時、彼女から漂う雰囲気に殺気が混じるがそれもすぐに霧散した。

「…………私にもこの感情は整理がつかん」

 明らかに不機嫌な声音を聞くとベネットは肩を竦めた。

「へいへい。 まあ、上手く割り切るこったな……」

 彼の経験上、それ以上踏み込まないのが無難と判断。

「そう言えば、俺たちの機体はどうなってんだ?」

「……村の工房で見ているそうだが、貴殿の方はともかく白鯨殿のは……」

「あー、デカいよなあれは」

 この”世界”で使用されている金属やら何やらは確かに異なる部分があるが、もしかすればベネットのジャガーマンが欠損している右腕の代わりが見つかるかもしれないと話は出たが……。

「アイツのモビーディックは色々と規格外だからな。 それと本人もあんまり他人に触らせたがらないってのもある」

 ベネットはジャガーマンを工房へ運んだが、御景はそれを拒否し移動させていた。

 聞いた話では元々あの機体自体がいくつか作られた試作機の一つだとかで、ハッキリ言ってその時点で危うい部分が多いとは思える。

「それよりも俺が驚いてんのはこんな辺境でも整備が出来たことなんだが」

 確かに辺りは森と山で囲まれた大自然……という印象が大きいせいか、最新鋭機の整備が出来るなんて夢にも思わなかったどろう。

「いくつか気になる言葉があったがそれは流す。 そう思われても仕方ないがここいらでは”機兵”に使われる良質な材料なんかが採れるのだ」

「へえ、特殊な金属や泥とかか?」

「金属はわかるが、泥? 貴殿の所では泥で兵器を作るのか?」

「いや、そうじゃねえが……なんか、こう……ゴーレムとかないのか?」

 首を傾げたタピオカに落胆したように表情を曇らせるベネット。

「私は知らぬが、族長ならそこら辺は詳しいと思うぞ」

「マジか、やったぜ!」

 どこかはしゃぐ中年の反応を見て、何とも言えない顔になるタピオカであった。

 

 

 

 

 

 二人を乗せたゴンドラが停まると、ベネットは緩んでいた空気を締め直す。

 懐の銃を取り出し、注意深く外へ出た。

 だが、それに続くタピオカからは緊張感は感じられず、どちらかと言えば銃を取り出したベネットへ警戒しているくらいだ。

 辺りを見回して銃口を下すとベネット。

「ここには、なにもいねえのか?」

 タピオカは近場の岩に腰掛けると、問いに答えた。

「いるにはいるな。 しかし、好んで近寄りはしない。 野生に生きる者の方が余程賢いのだろう」

 再び動き出したゴンドラを見送ると、独白した彼女の言葉を理解するより、今は辺りの警戒へと専念することにしたベネット。

 いや、それよりもこれ以上は考えたくないのかもしれない─────何故か脳内で鳴り響く、警笛の正体を。

 



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4、シロキヌシーⅢ

 次のゴンドラでやって来た御景とロックの二人と合流したベネットたちは再び目的地へ向かうことにしたが……何やら雰囲気が変わったことに気付いた。

 それを察してか、誰もそれを指摘しない。

 誰もが存ぜぬといった顔をするが、ただ一人ロックだけが気まずそうな表情を浮かべていた。

「どうした、腹でも壊したか?」

 殿を務めるベネットに乾いた声で青年は答える。

「ははは、そうじゃないんですが……なんというか空気が」

「なんだ、こんな自然溢れる空気は性に合わないってやつか?」

「そういうわけじゃないんですが……」

 返答に窮した様子を見かねてか、前方から助け舟が流れてくる。

「おい、中年。 それ以上やるとパワハラもしくは、こじつけでお前を訴えるぞ」

「はあ!? 俺はただコミュニケーション取ろうとしてるだけだろ!?」

「それが傍から見ればどう見えるのかも考えろ」

 ただし、その船には大量の火薬が積んでいるみたいだが。

 そのやり取りの間に挟まれたロックの表情は更に困ったものになる。

 先頭を歩くタピオカは何も言わず、時折溜息を吐いているようであった。

 

 

 

 

「着いたぞ」

 そう言ってタピオカが示したのは、岩場を削ったような洞穴。

 幾分か時間も経っているのか、入口付近には藻や草木が生えていた。

「ここが目的地、ですか?」

 そうだ、と彼女が冗談を良いようなタイプでないというのは分かりきっていたのでロックはすぐさま納得。

 青年の視線は隣を並ぶ、二人の男に向けられていた。

 ベネットは腕を組んで、一人納得した頷きで首を揺らし、御景の方は何かを読み取るような視線を巡らせている。

「それで、どうするのだ? 行くか? 止めるか?」

「おいおい、ここまで来てそりゃあねえだろ! な?」

 ロックの肩に腕を回して、ベネットは謎の同調を促す。

「え、ええ。 まぁ……」

 ベネットの思惑とは別にロック本人も気になっていた。

「いいねぇ!」

 何故か上機嫌のベネットは肩に回していない手で青年の髪をワシワシと掻き乱す。

 じゃれる二人からタピオカの視線が忌々しそうに横に動いた。

 その視線を受けとるが速いか。

「俺はここで待っておく」

 と即答。

「おいおいおい、こんな明らかにお宝が眠ってそうな洞窟前にして行かないってお前それでも男か! ボール付いてんのか!?」

「お前こそ自身の年齢とかもう一度加味した上で、その言葉が言えるかしっかり考えろ」

「言えるだろ。 冒険心に歳は関係ねえよ」

 そう胸を張って言う辺り彼は本物なのだろうと、ロックは謎の確信。

 頭を抱える御景は、ともかく! と何かをベネットに手渡しながら言葉を続けた。

「俺は少し整備と、見張りをやっておくから、お前ら三人で中を見て来い! なんなら、このカメラで撮れる部分を撮ってこい! 以上」

 言い切ったとばかりに御景はそのまま離れていった。

「あのバカが……まあ、しゃあない。 あんな奴気にしないで、入ろうぜ!」

 はしゃぐ中年を見て、何とも言えない空気になりつつも、ロックはタピオカを見る。

「そうだな、あのような愚か者は森で不幸な事故で死んでもらうことを祈るとしよう」

 早く来いよぉ! と急かすベネットに歩む彼女の背を見て、ロックは何か声を掛けようと思ったが止めた。

 

 その背中を。

 

 どこかで。 そう、どこかで見たことあるような……そんな気がしただけだから。

 



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