鉄板屋「龍驤」 (モチセ)
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01話

 

 

 

 

 

 ここは横須賀鎮守府から歩いて1分程度の場所にある一軒屋。その寝室で、古ぼけたタヌキの目覚まし時計が鳴る。

 

~~~~あっさでっすあっさでっすあっさでっすヨォオォ

 

「ん~、やかましいなぁ~」

 

~~~~あっさでっすあっさでっすおっきまっショォオォ

 

「やかましいわボケ」

 

 耳元で鳴り響くバリトンボイスな目覚ましを叩いて黙らせ、布団から這い上がる。洗面所に向かって洗顔と歯磨きを終わらせ、ボッサボサの髪の毛を整え、いつもの髪型にする。ポニテもええけどやっぱウチにはツインテやな。

 寝室に戻り、枕元においてあるいつもの服に着替える。艦娘から引退した身やけど、この服はウチにはぴったりやからな。

 ダイニングキッチンに移動し、朝食をごはんと味噌汁と昨日の作り置きである煮物、それとたくあんで済ませる。その後再び歯磨き。

 

 完璧に準備を済ませたらガレージへと移動してシャッターを開ける。ガレージには二台の車があるが軽トラへと乗り込む。

 今から向かうは魚市場。深海棲艦が発生した頃はやっていなかった。しかし、深海棲艦をある程度押し返したときに、商魂たくましい漁師達が危険を顧みずに海へと出て行った結果、今では普通に開かれている。

 キーをまわしてエンジンを掛け、目的の魚市場へとアクセルを踏んだ。

 

 

 

 

 

 魚市場。昔は高かった魚も、今では安い相場に落ち着いている。それでも深海棲艦が現れる前のほうが安かったんやろな。

 

「おっちゃん、タコ」

「まいど。イカは買ってイカないの?」

「せやな、ついでに買うとくわ」

「スルーかー、毎度ありー」

「そんなもんや」

 

 今では常連となったからか、おっちゃんが寒いオヤジギャグも言ってくれるようになった。昔は「はいよ」しか言わないくらい堅かったんやけどな。

 この光景がいつもの、になるには結構時間が掛かったものだとしみじみ思っていると、なにやら騒々しい声が聞こえてきた。

 

「くおらあああ! またんかあああああ!!」

「待ツ奴ガドコニイルンダアア?!」

 

 肌の色が限りなく白に近い少女が逃げ、それを年寄りのじいさんが追いかける。

 少女は黒い水着の上に黒いパーカーを着ただけの、まるで海水浴に来たような少女だ。さらに、尾てい骨付近から太いしっぽみたいなものが生えており、その先端には禍々しい雰囲気をかもし出す黒いナニカ。肌の色とも合わせて人間に見えない人間のような存在。

 ――――簡単に言えば、人類の敵、深海棲艦レ級がそこにいた。

 

「……またやってるんかあいつは」

「相変わらずやかましいな」

「何をしでかしたんやろか」

「いつもどおりだろ」

 

 よくみると、しっぽにある禍々しいナニカの口にタコがくわえられている。おそらくもって行ったのだろう。ウチが来る前からの光景らしい。

 人とは思えない速度で魚市場を駆け抜けていく少女。それを同じ速度で追いかける老人。深海棲艦であるレ級はともかく、それを追う漁師のおじいさんは超元気なんやなぁ。深海棲艦の存在より高速で駆け抜けるおじいちゃんの方が信じられないのは内緒だ。

 

「相変わらず信じられへん光景やわ」

「そうか?」

「初めて見たときは恐怖しか覚えんかったわ。なんでこんなところにおるんやろうなってな」

「そうか?」

「……深海棲艦って分かるか?」

「人類の敵だろ?」

「じゃああそこにいるのは?」

「レッちゃんだろ?」

「……そうやな」

 

 初めてこの魚市場でレ級を見たときは無意識に戦闘態勢に入っていた。ここに初めて来たのは引退前で艦娘やったけど、ウチだけでは対処できんわと諦めてたな。

 その様子を見ていたその辺のおっちゃんが、ウチに「どうして彼女に敵意を向けるのか」と聞いてきたので、「アレは深海棲艦、ウチ等の敵や」と答えたんや。そうしたらおっちゃんに「レッちゃんが深海棲艦なのは分かった。なら、敵だという証拠はどこにある?」と言われたんよ。

 改めてレ級の様子を見てみると、何かから楽しそうに逃げている様子。追っていたのはまだ白髪じゃなかったころの頃のおじいさん。おじいさんは包丁片手に追っかけてたな、今思うとおじいさんの方が圧倒的に怖いな。今よりも早かったし。

 

『敵ならば誰かを襲っているはずだろ? しかし、そうしていない以上は敵ではない。まぁそうカッカすんな、タコでも買ってけ』

 

 今思えばこの出来事が常連になるきっかけになっていたりする。ちなみに今のタコのおっちゃんは2代目のタコのおっちゃんだ。

 

「でも割と迷惑かけとると思うんやけど」

「問題ねーよ、工藤の爺さんの健康維持も兼ねてるらしいぜ」

「初耳なんやけど」

「教えてないからな」

 

 クックックと笑うおっちゃんを尻目に、これを鎮守府の皆に教えたらどういう反応するんやろうなと考えていた。

 この光景はかれこれ15年以上続いているらしいが、コレを知っている艦娘はウチだけ。電あたりに教えると面白いやろなと想像を膨らませていると、あたりでドタドタといっていた足音が大きくなる。大方こちらにあいさつをしに来たのだろう。振り返ると予想通り、レ級の姿がそこにあった。

 

「オー、リュッチー、オヒッサー!」

「1日ぶりやけどな。ぜんぜんおひさやないけどな。じっちゃんは?」

「息切レ起コシテタゼ、ヤッパ年寄リハ無理シチャイカンヨ」

「無理させとんのは何処のどいつや」

「アタシヤナー」

「無理させんといてや」

「考エトクー」

 

 レ級はそういうと、騒動の始点である工藤のじいさんのスペースへと戻ろうときびすを返す。その直後、何かを思い出したかのように振り返り、どこかから袋を取り出してしっぽでくわえていたタコをそのなかに落とす。

 

「コレサービス」

「いやあかんやろ」

「サービス料金5000円イタダキマース! アリガトウゴザマース!」

「随分とぽったくるな!」

「買ッテクレナイノ?」

「上目遣いやめーや!」

「買エヤゴラ」

「上から目線もやめーや!」

 

 結局、おじいさんが復帰したことでレ級は再び逃走。

 仕方がないのでおじいさんに5000円を渡そうとすると「いらんから持ってけ」といわれてしまった。そして鬼ごっこ再開。なんやホンマたのしそうやなぁ。

 

 

 

 

 

 自宅へ帰るとタコとイカの処理。昼の営業のためにさっさとやらんといつもの奴等が文句言うからな。

 タコをさくっと仕留めてから捌き、小さいサイズに切り分けたあとに加熱処理。もう手馴れた。続いてはイカ。墨袋を傷つけないように開いて内臓を取り、ある程度のサイズに切り分ける。それらの準備が整ったらタネを仕込む。昼営業はオーソドックスに粉モノやからな。たこ焼きとお好み焼きの2つや。それぞれのタネを作ったら準備は終了。これらを保管場所に入れてから鉄板の火を起こす。

 

 この店舗は、工作艦の明石がウチに楽に営業してもらえるように改造した鉄板屋である。カウンター席しかない小さな鉄板屋だが、ウチにはちょうどいい。奥のカウンター席は他の席と比べて広めになっている。大方、明石がウチで作業するために広くしたのだろう。

 レバーを引くとただの鉄板がたこ焼き用鉄板に入れ替わる。今はこれだけだが、これだけでも営業の幅が広がる。全ての面が変わるわけではないので、お好み焼きとたこ焼きが両立できるのだ。ただし、運用には燃料が必要である。そこだけが難点っちゃ難点やな。

 では鉄板も熱くなってきたところで営業を始めよう。

 

 のれんを店の先にかけ、ついでに外の様子を見てみる。

 外に置いたベンチには、明石、青葉、伊58の3人が座っていた。

 

「待ちましたよ龍驤さん、とりあえず奥の席は取らせていただきます」

「頼むから改修は工廠でやれや」

「では龍さん! 青葉に奥の席を取らせてください!」

「お前も自分の部屋で新聞書けや」

「燃料持ってきたよ、あと眠いので奥の席くだち」

「許可」

「「そんな!」」

「悔しかったらゴーヤのようになんか持って来るんやな」

「それでは私はこのネジを」

「ウチだと使いどころないやろが」

「それでは青葉はこの秘蔵のガサの写真を」

「いらんわ」

「あ、古鷹の写真もありますよ」

「盗撮か、あとで古鷹に言うわ」

「そんな殺生なぁ!?」

 

 鉄板屋龍驤は今日も元気にオープンする。

 



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02話

やっぱりウチはコレがないとな。


 

 ウチの鉄板屋は昼営業、夜営業でメニューが変わる。昼はたこ焼き・お好み焼きの2種で、夜営業はもんじゃやら鉄板焼きやらありとあらゆる鉄板モノを日替わりで扱う。昼時間はたまに鎮守府まで出張営業もする。ガレージにもう一台ある営業用の移動販売車がそれだ。

 まぁ今回は店舗で通常営業なんだけどさ。珍しくいつもの面子が集まったんやしな。明石に青葉、伊58(ゴーヤ)が三人並んで座っている。ゴーヤは奥の広めの席で爆睡しとるけどな。

 

「今回はゴーヤさんが寝ているので改修できませんね」

「寝てても寝てなくても改修すんなや邪魔や」

「いいじゃないですか、どうせ今の時間帯はお客さんこないんですし」

「来ないからいいって訳やないやろが」

「じゃあ龍驤さんのおごりでお好み焼き1つ」

「お前もう帰れや」

「冗談です冗談、たこ焼きでお願いします」

「やっぱお前もう帰れや」

「落ち着いてください龍さん。青葉が払いますから」

「青葉さんが出してくれるそうなのでお願いしますね」

「明石お前ホンマ図々しいな」

「それほどでもないですよぅ」

「普通に非難されてますよ明石さん」

 

 仕方がないのでたこ焼きを焼き始める。食べるものがないのはなんか嫌やからな。片面をたこ焼きプレートにし、そのすべてに油をしいてからタネを入れる。全面は流石にウチひとりやと間に合わないので片面だけだ。たこもいれて焼きあがり次第、ピックを使ってひっくり返していく。

 

「よし、龍驤さんが作り始めました!」

「新聞を書くなら今ですねぇ!」

「お前ら黙るでち」

 

 いつの間にか起きていたゴーヤが2人の頭を掴んでいた。掴まれていた2人は何かを察したかのごとく顔を蒼くして冷や汗をかいている。オリョクーラーとも呼ばれるゴーヤは横須賀鎮守府、いや、おそらく全艦娘の中でも特に練度が高い。なぜなら、いつも勝手にオリョールに出撃しているからだ。朝起きてオリョクルして顔洗ってオリョクルして以下略と、某ドイツの出撃狂並みの出撃頻度である。命令ではなく好きでやっていることなので止めづらく、提督も「もう勝手にさせておけばいいんじゃね」と匙を投げている。それと比べ、明石はそれほど出撃しておらず、青葉もまた同様だ。つまりな、今の明石と青葉は練度的にゴーヤに対抗する力がない。ちゃうか、ゴーヤの練度がアホみたいに高いだけや。現役の頃のウチでも無理やろな。あれ? ゴーヤってもしかしてレ級レベルなんとちゃう?

 

「い、いつの間に起きていたんですか? ふだんは起きないのに……」

「たこ焼きを焼く音で起きたでち。決してお前らの声で起きたわけじゃないよ」

「い、いつになく口が悪いですねぇ……」

「それは無理やり起こされたらこうなるでち」

「やっぱり私達じゃないですか! やだー!」

 

 ゴーヤは2人の頭を掴んだままテーブルに叩きつける。テーブルも明石によって改造を受けているため、どんな力で叩きつけられても壊れない素敵仕様である。叩きつけられた2人は気絶し、店の中は静かになった。ホンマ2人が黙ると快適空間やな。

 

「じゃあ龍驤さん、たこ焼きくだち!」

「切り替え早いな」

「と思ったけど、体がうずいてるからオリョールいってくるでち!」

「いつ頃帰ってくるん?」

「だいたい1時間程度でまた来るでち」

「ホンマ驚異的な早さやなぁ」

 

 ゴーヤはじゃーねーと手を振りながら店を出て走り去っていく。オリョールまで相当距離があるけどゴーヤなら1時間で物資回収して帰ってこれる。艦娘だからできることとはいえ、普通なら半日かかるものなのだが、そこはもうゴーヤだと思考停止するしかあるまい。考えても仕方ない連中はおるんや、どっかのレ級みたいにな。

 

「せや、たこ焼きどないしよか……アカンなぁ……」

 

 明石も青葉も気絶した今、たこ焼きを消費する面子がウチしかいない。仕方がないので鎮守府に持っていくことにしよう。この店に来るのは基本艦娘、たまに提督や引退した艦娘たちだ。別に店を開けても構わないのである。

 当然、明石と青葉はここにおいていく。いるだけ邪魔やからな。

 

 のれんを片付け、出張中の看板を入口に立ててから、たこ焼きのタネとたこ、その他もろもろをガレージにおいてある軽トラではない派手な塗装の車に乗せる。移動販売車、鉄板屋龍驤だ。

 目指すは徒歩1分の横須賀第二鎮守府。超近いけどな。

 

 

 

 

 横須賀鎮守府。横須賀鎮守府は正確には第一と第二で2つあり、それぞれ別の提督が運用している。

 ウチが来たんは第二鎮守府。こっちは主に支援や教育、訓練を主に行う鎮守府や。最初は1つの鎮守府やったんやけど、大きくなるにつれ教育が間にあわんくなってな。前線や遠征を担当する第一鎮守府と、支援や教育を担当する第二鎮守府に分かれたんや。ちなみに第一鎮守府はここから車で30分程度のところにあるで。第一で営業しとうないからこっちに来とる。第一いくと空母がすぐやってきて買い占めるからな。

 

 到着したウチはまず開店準備。メニューを近くに立てかけ、窓を開けてついでに小さな台も置いておく。艦娘の中には窓に届かないちっさい奴もおるからな。あとは先ほどの作り置きを再加熱し、適当にソースや青海苔他をかけてパックにいれておく。

 今現在11時。まだ訓練時間中やな。でも暇を持て余した教官あたりは来るやろ。

 と思っていたら早速本日のお客1号が走ってやってきたようだ。水色ではなく黒っぽい色のセーラー服を着て、中には黒いインナー。こげ茶のショートヘアに、昼の間でも光っている左目。あのごっつい艤装はしていないが、確実に古鷹である。この様子やと青葉が何かしよったな。

 近づいてきた古鷹は全力疾走していたであろうにも関わらず、そんなに息を切らしていないようだった。

 

「すみません龍驤さん! 青葉を見ませんでしたか!?」

「アイツならウチの店で寝とるで」

「ありがとうございます! ちょっと行ってきますね!」

 

 古鷹は再び走り出し、ウチの店の方角へと消えていく。心の中で青葉に合掌……いや、親指さげておこか。

 古鷹は鎮守府の中でも古参、というかウチと同期であり、今は第二鎮守府で教官をしている。ガタが早く来てしまったウチや電とは違い、今でも前線に行ける艦娘である。古鷹が頑張っていないっちゅうわけやなくて、古鷹がタフすぎるんやけどな。でも、ここ数年で自身の衰えを感じたらしく、今では前線から引いて教官をしている。動きを見る限り衰えてないけども、本人が感じるならそうなのだろう。

 ちなみに青葉は教官と言うわけではなく、広報や通信などを担当している。ウチに入り浸る癖がついとるけどな。

 

 それからしばらくして昼休憩になったのか、ぞろぞろと艦娘たちがやってくる。第二鎮守府は基本的に駆逐艦が多い。そもそも駆逐艦の絶対数が多い以上、仕方のないことだ。ただ、駆逐艦の割合が多いだけで戦艦や空母がいないという訳ではない。

 つまり言いたいことは、真っ先に来るのは餓えたそいつらであって――――。

 

「すみません先輩! お姉様が先輩のたこ焼きを2つご所望です!」

「千円頂戴するでー」

「はいっ! おつりはいりませんのでそれでは!」

「ずいぶん気前ええな……ってぴったりやないかーい!」

 

 本日のお客様第一号は戦艦教官の比叡だった。

 え? 明石? 青葉? あれはノーカンやノーカン。

 

 

「1つおねがいしまーす!」

「あいよー」

「2つお願いする」

「あいよー」

「鮭を所望するクマ」

「川いって獲ってこいや」

「すみません、1つお願いします」

「あいよ」

「青葉も1つお願いしますねぇ」

「あいよって生きとったんかワレ」

「脳天に一撃貰っただけですよ」

「あの古鷹がキレるってお前一体何したんや……」

「嫌ですねぇ、軽いスキンシップですよ」

「軽かったら古鷹キレんやろ」

「私はたこ焼き要らないので改修の許可をください」

「お前何のためにならんだんや」

「熊を所望するクマ」

「共食いやめーや」

「共食いじゃないクマ、球磨は熊じゃないクマ」

「次のお客さんええでー」

「あ、ちょっと、普通に1つちょうだいクマ」

「龍驤さん、大丈夫ですか? 手伝いますか?」

「古鷹か、スマンがソースやらかつおぶしやら青海苔やらかけてくれへんやろか」

「分かりました!」

「そういやいったい青葉が何をしたんや?」

「それはその、秘密です」

 

 タネが切れるまでひたすら焼いてはパックに詰めていく。それに古鷹がソースや青海苔、その他もろもろをかけて提供していく。ここまで混雑するのはそれほど珍しいわけではなく、混雑するたびに古鷹が手伝ってくれる。流石に教官としての仕事があるのでピーク終了までついてくれるわけではないのが残念である。古鷹が引退したら絶対雇うわぁ……。

 

 今日も元気に鉄板屋龍驤は営業中。

 



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03話

 

 タネが切れたので営業を終えて帰宅。掃除等メンテナンスを終わらせると既に夕方。さっさと夜の準備をせねばなるまい。準備しようと動いた矢先、固定電話が鳴り響いた。一体誰からやろかと電話の液晶を見てみると、そこには「電ちゃん」の文字。ガチャッと受話器を取り、耳に当てる。

 

「ウチや、どないした?」

『あ、やっと繋がったのです。私です、電です』

「おう、久しぶりやな」

『お久しぶりなのです』

「どないしたんや」

『また龍驤さんのお店で呑まないかというお話なのです』

「あ、もうそないな時期なんか」

『はい』

 

 月2回ほど、古参組で呑み会を行っている。全員が全員参加しとる訳やないけどな。前々回なんか皆用事あってウチと電ちゃんの2人だけやったわ。古参組(2人)とは一体なんなん?

 

「今回の参加者はどないなっとるん?」

『はい、今回は私と龍田さんです。古鷹さんは仕事次第とおっしゃっていました』

「そか、青葉に忠告しとくで」

『ありがとうございます』

「それで、開催はいつになるん?」

『3日後を予定しているのです』

「3日後な、りょーかいや」

 

 電話を切り、あさっては準備で忙しくなるなぁと思いながら、夜の部の営業準備を始める。言うても、材料の在庫と今日出せるメニューの確認位なんやけどな。夜のメニューは種類が多いが、全て出せるとは言ってへん。だからこそ日替わりやな。困ったときはそれ来月からなんですよと言えばええわ。出鼻くじいたる。飲食店としてはアカンけど、来るのは基本艦娘やから問題あらへん。そこ、意識低いとか言うなや。

 今日出せるものを確認したら再び点火。夕方ではあるが別に開店してしまっても構わないだろう。外に出しておいた出張中の看板を取り、暖簾をかける。そのままあたりを確認してみると、伊58が外の椅子に座っていた。

 

「ただいまでち、これお土産の燃料だよ」

「おおきに、っちゅーても今のところ余っとるから無理せんでもええで」

「無理はしてないよ? でも大型建造するらしいからフル稼働状態だよ!」

「なんやまた大型に手ぇ出すんか」

「上からの指令なんだって」

「お疲れさんや。今からまたオリョクルかいな?」

「そうだよ! じゃあ行って来るね!」

「ほどほどにしとけやー」

「もちろんでち!」

 

 燃料をウチに渡したゴーヤは海の方角へと走っていく。あとは潜って回収してついでに敵艦隊全滅させてくるのだろう。今思えばゴーヤは着任したときからこんなもんやったなぁ、とにかく資源回収に追われてるっちゅうかなんちゅうか。憑いてるんとちゃうんか?

 余談だが、伊58は鎮守府分割前からの艦娘で、分割後はどちらにも属していない珍しい艦娘である。伊58の手綱(しゅつげきぐせ)を誰も握れないからだとか、公平に資材を提供するためだとか、いろいろ説があるようだ。

 

 

 

 

 夜の部の鉄板屋は夜11時くらいまで営業する。第二鎮守府の教官達が来るため、わりと遅い時間まで営業するのだ。なんや? 別に遅くないって? 朝起きて魚市場いかなアカン以上、この時間でも遅めなんや。艦娘にも睡眠時間は大事やからな。閉店後の清掃はウチがやらなアカンけど、洗浄とかは自動でやってくれる。神様仏様明石様や。感謝はしとるけど絶対本人の前では言わん。

 今日の面子は古鷹、瑞鳳のようだ。とりあえずお好み焼きを出しておく。瑞鳳は鎮守府が少し大きくなったあと、最初に着任した艦娘である。今は第二鎮守府で軽空母艦娘の教官を担当している。鎮守府の拡大が始まるまでは古参の6人でやっとったから、瑞鳳が来て手が増えたのは嬉しかったわ。

 

「青葉が仕事ほったらかしにしてるんですよ」

「大丈夫? 玉子焼き食べる?」

「いつも持ち歩いてるんかそれ……」

 

 瑞鳳は持ってきていたカバンから玉子焼きの入った大きな弁当箱を取り出すと、皆が手を伸ばせる位置に置いた。ちなみに瑞鳳の玉子焼きの持ち込みは許可している。

 

「あ~お~ば~が~~」

「なんやホンマ大変そうやな」

「らいじょうふ? たまおやひぃたべひゅ?」

「全部飲み込んでから言えや、一個貰うで」

「ん……今回の出来はまぁまぁね」

「いや、十分うまいんやけど」

「焼き加減が微妙なのよ」

「そうですか?」

「もうちょっと火を通すべきね」

「言うて人の好みは千差万別やろ」

「それでも誰もがおいしいと言ってくれる物が作りたいのよ」

「よう言うた」

「それはそうと龍ちゃん、お好み焼きちょっと火を通しすぎじゃない?」

「マジか、焼きなおすわ」

「古鷹にはよくわかりません……おいしいです……」

「それはそれでええんよ? あと今日ホンマ大丈夫か?」

 

「それはそうと、ちょっと聞いてよ龍ちゃん」

「どないしたん?」

「私ね、軽空母艦娘の教官してるじゃない」

「せやな」

「ついでに正規空母艦娘の教官もしてるのよ」

「マジでか」

「マジよマジ。指導する艦娘が減ってきたから担当が増えたの」

「それでどないしたん?」

「その正規空母艦娘の指導も終わりかけなのよ」

「そか」

「このまま行くと事務になるじゃない」

「せやな」

「来てください」

「落ち着け古鷹」

「そうなると玉子焼きの研究の時間が減るのよ」

「そんなこと言わず来てください」

「落ち着け古鷹」

「ちょっとだけでいいんです」

「1時間なら余裕は作れるけど」

「それで構いません」

「え? 1時間でいいの?」

「はいそれでいいです」

「乗せられとるで古鷹、一旦頭冷やせや、ちゃんと瑞鳳の顔見ろや」

「ねぇーりゅーちゃーん」

「はぁ、瑞鳳もタチの悪い冗談言うなや」

「ばれてた?」

「あたりまえやろが」

「え、あれ、冗談ですか?」

「冗談やで古鷹、とりあえず青葉に一撃いれたるから落ち着け」

「ここまでとは結構深刻な問題ね……」

 

 今日も鉄板屋の夜は更けていく。

 後日、手が空いたときは瑞鳳が手伝うようになって、さらに青葉がサボるようになったとかなんとか。あとで会ったらぶっ飛ばしたろか。

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 青葉が出たら一発かましたるわと意気込みながら、魚市場へと向かう。魚市場に青葉は出現せえへんけどな。

 

「お()さんいい加減にしろおおおお!!」

「待テト言ワレテ待ツノハ愚カ者ナリィィィ!!」

「今回待て言ってねえぞおおおお!!」

「止マルンジャネエゾォォ!!」

「止まれやこのクソガキャァァアア!!」

 

 今日も今日とて包丁持ったおじいさんがレ級を追いかけていた。いつもよりおじいさんの口が悪い。しかも今日持ってる包丁は一目で分かるほどの業物である刺身包丁だ。ガチだ、ガチで行ってるこれ。レ級の尻尾を見てみるとまるで捌きたてのマグロのサクがくわえられていた。ああ、そらガチだわ。

 マグロは深海棲艦が現れてから漁獲量が激減した魚であり、その希少価値はおそらく最高峰。

 

「マグロがあるなんて珍しいな」

「龍驤ちゃんも慣れてきたね」

「深海棲艦より怖い奴がおるからな」

「違いねえ、おっかねえぜアレは」

 

 さて問題や、怨念に塗れた形相でこちらに砲撃で攻撃してくる深海棲艦、憤怒の形相で業物の包丁を持って高速で走ってくるおじいさん。どっちが怖い? いや、どっちも怖いんやけど、滅多に見ないおじいさんの方が怖い。

 それはそうと、ここは大きくない魚市場だ、マグロ漁船なんて来るわけない。というか、マグロ漁は今の情勢では危険すぎるので禁止されているはずだ。どこかの鎮守府は運営費稼ぎのために獲ってるとか聞いたことあるけど。

 

「……ちょいまて、なんでここにマグロがおんねん」

「レっちゃんが獲ってきた」

「もうアイツ深海棲艦やなくて漁師でええんやないかな」

「何言ってんだ、アイドルだろ」

「アイドルがマグロ獲るんか」

「結構昔のアイドルは無人島開拓していたらしいぞ、マグロ獲ってもおかしくないだろ」

「アイドルってなんやねん……」

 

 あたりを見回してみると、まだ解体されていないマグロが2匹おった。既に解体されていたのも含めて3匹いたことになる。希少価値とは一体。

 

「……せや、ちょい頼んでみよか」

「どうしたんだ?」

「ああ、明後日にウチで呑み会するんや、なんやええモンないやろか思ってな」

「そうなのか。そう言えば、そろそろホタテがいい具合になる時期だな。くれてやろうではないか」

「ええんか?」

「その代わり今日も買っていけよ?」

 

 おじちゃんのところでタコとイカを多めに買うと、逃げ切ったのだろうレ級がマグロのサク片手にやってきた。既にかじられた跡がある。

 

「ラッシャーセーリュッチー」

「手、手づかみで食うんか」

「ン? アタシ体温ナイカラ鮮度ニ問題ナイアルヨ」

「そういう問題やないんやけど」

「ウチガ獲ッタモンヤシ? 別ニエエジャナイカエエジャナイカ!」

「希少価値高いんやでソレ」

「ソレハソウトイツモゴ利用アリガトーゴザイマス! コレアゲルワヨ!」

「食いかけやないか」

「鮮度ニ問題ナシ!」

「衛生的にあかんやろ」

「ワタクシ海ノ者、コレ、海ノ物、同ジ存在ダカラ問題ナッシン!」

「精神衛生的にあかんやろ」

「レッチャンノ食ベ残シト言ウ希少価値ダヨ?」

「希少価値に希少価値が合わさって残念になっとるわ」

「シカタネーヤローダナ、コレクレテヤルワ、感謝シナ」

 

 レ級は尻尾の口から密封された冷凍マグロのサクを取り出してウチに渡してきた。いや、精神衛生ホンマよろしくないんやけど……。でもありがたく受け取るんやけどな。

 

「冷凍サセネート寄生虫ガオッカナイカラナ!」

「誰か当たったん?」

「ネーガ腹壊シテテ草ハエタ」

「ネーってネ級か、深海棲艦も寄生虫には無力なんか……」

「寄生虫モマタ海ノ物、アタイノ前デハ無力ダケドネ!」

「耐性違うんか……」

 

「ああ、せや、レっちゃん」

「ドナイセッチューネン!」

「まだウチ何も言ってないんやけど!?」

「ホタテノ黒イ部分ハ貝毒マミレダカラ食ウナヨ!」

「あの会話聞いてたんか!? そしてそれマジか!?」

「ソマ! ブチ抜イテ捨テヤガレ!」

 

 ウチ食ってたんやけど……。

 

 




息抜き完了したので次回の更新は未定です


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04話

 いつもの昼下がり、工廠から逃げ出した明石が奥の席でチュインチュインと何らかの作業をしていた。だからなんでここですんねん。環境的にも向こうの方がええやろが。

 

 

「龍驤さん、屋台をやりましょう」

「デジャウ」

「今なんて?」

「却下」

「却下ですか?」

「当たり前や、店あるし」

「残念、既に作ってあります」

「お前えらい準備早いな!?」

「当然ですが海上でも開けるよう、海上用の屋台も存在します」

「誰が"当然ですが"って決めたんやボケ」

「今回は変形機構のあるロマン型ではありませんが、その分特化していますので問題ありません」

「今回はってなんやねん、以前もあったみたいな言い方やめーや」

 

 いやーな予感がして店の外を見に行くとになんかでっかいものがあった。無視や無視、勝手に作ったうえにココに持ってくるなアホ。

 

「戦意をなくすためのマイナスイオン発生装置も取り付けてありますので深海棲艦と遭遇しても安心です」

「マイナスイオンってそういうモンやないと思う」

「まぁまぁ騙されたと思ってやってみましょうよ」

「騙されて戦闘になったら終わりなんやけど。ウチの戦闘能力はもうガタガタなんやけど」

「海上屋台と言うだけで客引き効果も期待できますよ? たとえば、オリョール前のゴーヤさんとかオリョール帰りのゴーヤさん、オリョール中のゴーヤさんですね」

「対象がゴーヤだけやないかい、そんなんでよう客引きなんて言えるわ」 

「そうだ、龍驤さん、弟子を作ってその人に屋台を営業させましょう」

「弟子は取らん」

「なんでですか?」

「ウチもまだ修行の身や。師匠なんてガラやない」

「24回連続で第二鎮守府で最も師匠と呼びたい艦娘ランキング一位のあなたが!?」

「なんやそのランキング! いつの間にやってたんや!」

「しかも25連覇目前ですよ!?」

「現行かい! あとウチ昔に引退した身やろが!」

「いやぁ、教官層からの支持がぶ厚くて」

「教官より生徒の方が多いやろが! どうなってるんや!」

「1人何票とか決めていませんので。私が龍驤さんの票を8割くらい持ってます」

「投票しすぎやドアホが!」

「2位が実質1位なので心配しなくていいですよ」

「もう殿堂入りさせろや……」

「自ら殿堂入りを願うなんてホント傲慢ですね、それとも強欲ですか?」

「誰のせいやと思ってんねん!!」

 

 

 

 

 

 翌日。魚市場。

 今日は飲み会の日なのでその準備をしに魚市場へとやってきた。龍田はいつもの竜田揚げを持ってくるやろうし、電は分からん。おっちゃんがホタテを仕入れているはずなので、ホタテの刺身やな。あとは、鉄板の機構をちょいといじれば炭火焼になるから、それを利用してのしょうゆ焼きやな。

 

 まぁそれはそれとして。

 

「ウニィィ!!」「うにだー!」

「うにー!!」「誰だ栗投げた奴!」

 

 今日も今日とてレ級がウニを人に向かって投げていた。超危ないんやけど。

 ちなみに、元から高級食材だったウニは超高級と化している。初見の人は高級食材の惨状に気絶待った無しだ。慣れてへんと卒倒してまう魚市場とかイヤや。

 

「……おっちゃん、説明」

「レっちゃんがウニ祭り」

「そらそうやろなぁ」

 

 おっちゃんの一言しかない説明で大抵把握してしまうウチも、この混沌極まる魚市場に染まってもうたんやなぁとしみじみ思う。次は何の市場価格を荒らすんやろなぁ。

 

「あ、おっちゃん、ホタテ。あとついでにタコも」

「おう、準備してるぜ。お代はこんくらいだな」

「なんや、随分まけてくれるんやな」

「相場が落ち着いてきたみたいだからな」

「……アレか? レっちゃんがやったんかいな?」

「いやいや、レっちゃんは関係ない。他所でも養殖を再開し始めたそうだ。まぁここら辺は相当前から再開してたけどな! レっちゃん様々だぜ」

「そか。あ、これお代や」

「まいどー。次も頼むぜー」

 

 おっちゃんのところから離れ、適当に見て回る。レ級が(市場的な意味で)暴れているせいか、最初に来たときよりいろいろ価格が下がってきているようだ。変わってないのはサザエ等の一部貝類とか、ワカメ等の海藻類、サケ・マスとかイクラ。この流れだとカツオも欲しいけど、そっちはレ級の毒牙に掛かっているみたいで、下がっているようだ。哀れカツオ。ひどいやレーさーんってか。

 話は変わるが、ツマミにさきいかはどうやろかと考えていると、ウニもったアイツが現れた。レ級だ。説明不要である。

 

「オイウニ喰ワネェカ」 

「パイぶつける構えとんなや、顔面ウニとか凶悪すぎるわ」

 

 わかってねえなあというようなジェスチャーを取ったレ級は、尻尾の口から黄色い何かが入っているタッパーを取り出した。ウニである。

 

「コチラガウニヲ開イタモノニナリマース。当然塩漬ナンテスルワケナイカラ3000円」

「安すぎるわ相場崩壊も甚だしい」

「ウニハヤベェゾ。ナマヲ食ベチマウトミョウバン漬ケノ世界ニ戻レナクナル……」

「どういうことや」

「店売リ……トイウカ、開キタテ以外受ケ付ケナイ体ニナル」

「いや、今の時代、店にウニとか置いてへんやろ。超高級やで」

「セヤナー」

「せやなー」

「ソヤナー」

「ストップ」

「ソレハソウト、リュッチ、新シイ技ヲ見テクレ」

「ええで」

 

 レ級はどこからともなくサバと味噌を取り出すと、それを自分の尻尾の口の中に強引にねじ込んだ。

 

「えぇ……」

「マズ原料ト調味料ヲイタダキマス」

 

 さらに砂糖やら味噌なんやらを尻尾にねじ込んでいく。材料だけでなく包装ごとねじ込むあたり何が起きるか全然分からない。

 

「最後ニボーキサイトと鋼材ヲイレマス」

 

 容量なんかしったこっちゃねえといわんばかりのペースで、ボーキサイトをねじ込まれるレ級の尻尾は、心なしか表情が悲しみを携えたように見えてきた。ちゅうかなんでここにボーキあんねん。

 

「コレデ缶詰ガ完成シマス」

「全然分からんわボケ」

 

 口をあけた尻尾の中には何の変哲もない缶詰が何個も積み重なっていた。この間数秒である。

 

「当然加熱殺菌ハ済マセテアルノデ安心」

「どのタイミングで加熱したんや」

「企業秘密ダゾ☆」

「そもそも理解できんからやっぱええわ」

「缶詰ノ次ハ干物ダ!」

「そかー」

「長期保存デキル物ガ今売レ行キイインデナ」

「売るんか……販売許可とか大丈夫なん?」

「"ばなな"ッテ言イナガラ許可出シテクレタゾ」

「何が起きたんや」

 

 

 

 

 

 昼。自宅兼鉄板屋。誰の胸が鉄板じゃい。いつもいじりおってコンニャロメ。

 今日は夜の仕込み――そんなに多くないけど――もあるので、販売車で外には行かない。明石は今回工廠でなにかしているようで、ここにはきていない。サボリの青葉だけだ。

 

「青葉お前出禁や、ハウス」

「青葉が、青葉が何をしたっていうんですかぁ! 何もしてないのに!」

「何もせえへんっちゅうのが問題なんやドアホ、なんで昼なのにここにおんねん」

「逃げるために決まっているでしょう!」

「お前古鷹の負担考えとる?」

「瑞鳳さんが古鷹を手伝っているので大丈夫ですとも!」

「もうこいつクビでええんやないかな」

「そういうわけにもいかんでち」

「ゴーヤさん!」

「青葉はあの鎮守府で唯一まるゆネットワークに接続できる艦娘でち」

「なんやそれ聞いたことないんやけど」

「まるゆネットワークというのはですね、世界各地のまるゆさんが情報を集めてそれらをアップロードしているネットワークのことですよ」

「え、世界中にまるゆがおるん? なんで?」

「まるゆネットワークに接続できるということは、海の全ての情報を持っているといっても過言ではないでち」

「スルーせんでお願いやから」

「深海棲艦の大量出現位置から超高級食材の位置まで、まるゆネットワークはなんでもござれでち」

「まるゆ高性能すぎひん?」

「噂によると、一部の深海棲艦も利用しているよ」

「なんや心当たりあるんやけど」

「最近は食材の位置ばかり聞いてるらしいでち」

「心当たりが確定したんやけど」

「それはそうと、漂っているまるゆさんを見つけたら保護してあげましょう。漂っているということはケガをしている証拠ですから」

「ケガが治るまで保護したら海に帰してあげるでち」

「まさかの野生動物扱いに涙を禁じ得ないんやけど」

「保護すると幸運を上げてくれるかもしれないまるゆシールをくれます。これをまるゆの恩返しといいます」

「鶴どこいった鶴」

「鶴姉妹なら第一鎮守府ですよ?」

「そっちの鶴やないわボケ」

「保護してもケガが治る前にまるゆさんに何らかの不都合を働いてしまうと、どこからともなくウニが顔目掛けてとんできて7.7mm機銃に刺され運貨筒に転がされドラム缶に潰されます」

「数年前にどこぞのブラック鎮守府がやらかした事例でちね」

「これをくろまる合戦といいます」

「流石にかわいそうだと思った朧さんのペットのカニさんが仲裁したことで有名でち」

「ツッコミがおいつかんわボケ」

 

 

 

・・・

 

 

 ゴーヤが再びオリョールに戻り、青葉がスマホをいじりだした頃。そろそろ下準備をしようかと思った矢先、忘れていたことを思い出す。

 今日の飲み会は電ちゃんに龍田、古鷹だ。そう、仕事が忙しい古鷹がいるのだ。そして忙しくなる原因である青葉がここにいる。ゴーヤの登場ですっかり頭から抜けていた。アカンわ。

 

「青葉、今すぐ帰って仕事せえ」

「イヤです仕事したくないです」

「ドタマぶちぬかれたいか」

「なんか随分と過激ですね!?」

「なら連れてったるか? 今なら拳で運ぶで?」

「鎮守府まで殴り飛ばされるんですかぁ!? ここから結構距離ありますよぉ!?」

「大丈夫大丈夫、先っちょだけや」

「先っちょだけで殴り飛ばされるんですね分かりますともぉ!!」

「ええからはよいけや、ホンマにやってもええんか?」

「わかりましたよわかりましたぁっ! お願いですから殺気を放つのだけはやめてくださいよぅ!」

 

 ダッシュで第二鎮守府へと向かう青葉。それを見送るウチ。いいことしたあとはスッキリ爽快や。古鷹来れるとええなぁ。

 



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05話

追記2019/10/18
ホタテの管理方法が間違ってたので修正


 

 青葉が猛ダッシュで出て行った後、本日貸切の掛札をかけて準備に入る。今回のウチが使う食材はタコとホタテ、ついでにウニだ。

 ウニは処理する必要がないし、タコは慣れてるからええとして、問題はホタテや。まだ生きとるし、刺身でいただくことも可能なんよ。そのためには殻開いて中身を取らなアカンけどな。

 ここには漁師の人が使うような細い両刃ナイフなんてない。つまり、包丁でやることになる。殻が開いたところで包丁を入れて殻と身を切りはなすんやけど、ホタテが全力で抵抗するんよ。おかげで殻に挟まれる包丁が進まないのなんの。これが細いナイフやったら、殻を閉じる力の影響を受けにくいから全然スルスルいけるんや。開いたところ見たことあるから分かるで。

 

 慣れた手つきでタコをシメ、たこ焼き用のサイズにカットする。あとはいつものようにタネを作って寝かせておく。刺身用ホタテとウニは冷蔵庫にシュートした。クーラーボックスで氷の上に鎮座している焼く予定のホタテ共には保冷剤をくれてやるわ。

 そういった準備が終わる頃には、夕方から夜になりかけの時間帯だった。そろそろ電ちゃんと龍田が来るかなと思い、清掃しておく。"全力全快殺菌消毒"妖精さんお手製の空気清浄機清掃が終わり、今か今かと待ち望んでいると、勢いよく扉が開かれた。しかし、扉を開いた人物は想像とは違っていた。

 

「あれ、私が一番のり?みんなおっそーーい!!

「本日は古参組で飲み会のため本店は貸切でございます。ご了承ついでにはよ出て行けや」

「いや私も古参組なんですけど!?」

「開店日にやらかした食い逃げを忘れてへんからな」

 

 店に飛び込んできたのは薄い色合いの金髪と黒いウサミミっぽいリボン。"私が社長です"と達筆で書かれている白いシャツに、快活さを感じる青いジャージ。露出度が減り、代わりにイロモノ感が増した彼女は島風。一応古参の1人である。

 

「まーそれはそれとして」

「"それ"にすんなアホ」

「急遽仕事が楽になったので飛び入り参加するね」

「それはええけどはよ金かえせ」

「ちょーっと余裕がありません!」

「嘘つくな社長」

「金の切れ目が縁の切れ目って言うよね?」

「言わんわ」

「返したらりゅーさんに捨てられないか怖いんだよ」

「お前ウチをなんやと思っとんねん」

「鬼畜」

「はったおすで」

「それでりゅーさん、おみやげがあるんだけど」

「唐突に話変えるなアホ」

「ポン酒持ってきましたー!」

「これ大吟醸鉄底海峡ってちょい待ちこれクソ高いやつやん、どこから盗ってきたんや」

「盗ってきてないよ!? 買ったんだよ!?」

「買う金あるんならはよ返せや」

「イヤ!」

「イヤやないわドアホ!!」

「じゃあこれあげない!」

「スマンかったウチが悪うござんした」

「ゆるさぬ! だんじてゆるさぬぞ!」

「んなつれへんこと言わんといてな社長様」

 

 島風はダサTに書かれている"私が社長です"の文字のとおり、社長である。民間の海上警備会社で、艤装でもある連装砲ちゃんを使い、鎮守府に頼むほどでもないちょっとした警備を請け負っているそうだ。たとえば、釣りの護衛だとか漁の護衛だとか。経営は順調らしく、たまに現れてはこうしてお高いものを置いていく。そのたびに食い逃げのときの料金(1,000円)を要求するのはお約束やな。ちなみに、このあたりではあまり深海棲艦が発生しないためか、会社は横須賀(ここ)ではなく千葉にある。そのため、飲み会に参加することは多くないんよ。今回の参加はちょっぴり嬉しかったりするで。全力でいじったろ。

 

「何かにぎやかだな~て思ったら~、しまちゃんじゃな~い、おひさ~」

「お久しぶりなのです! 飛び入りですか?」

「うん! だって私は速いから!」

「速さは関係ないやろ」

 

 そうこうしているうちに龍田と電ちゃんが来たので焼く準備を始める。お楽しみ(ウニとホタテ)は後からや。

 ……なんや古鷹が来ないなぁ?

 

 

 

・・・

 

 

 たこ焼きの焼ける匂いが充満する中、各々が持ち込んだ食べ物を皆でいただく。ウチはたこ焼きを焼いているので後からやけどな。

 

「電ちゃんは~今回おでん~?」

「なのです」

「電ちゃんのおでん……お電ちゃん……」

「今なんと言ったのです?」

「なんでもあらへんわ」

「お電ちゃんだって」

「島風ワレェ!」

「そうですか……龍驤さんも相変わらず鉄板みたいなのです」

「今なんて言うた?」

「龍驤さんも鉄板ですね、と言ったのです」

「私のセリフが取られた!」

「しまちゃんのセリフじゃないよね~?」

「あ、手が滑ってカラシが出てもうたー、どないしよー」

「今も出てるよ!? どんどんたこ焼きの中に入っていくよ!?」

「ロシアン~?」

「大量のカラシをたこ焼き1つだけに収める技量はさすがなのです」

「いやいやそれほどでもないで?」

「褒められてもカラシがとまらないんだけど!?」

「大丈夫よ~、しまちゃん食べるんでしょ?」

「一言も言ってないよ!?」

「おのこしは許しまへんのです!」

「カンベンして欲しいんだけど!?」

「冗談や冗談、使い所はもう決まってるしな」

「何に使うの!?」

「あー、社長、依頼があるんやけど」

「はいなんでございましょうか!?」

「このたこ焼きを横須賀第二鎮守府の青葉っていう艦娘の口にぶち込んで欲しいんやけど」

「なぜ!?」

「古鷹が来ぇへんのや」

「そういえば来てないのです、仕事ですか?」

「しまちゃんの登場ですっかり忘れてたわ~」

「青葉がサボるから古鷹は仕事なんよね」

「ゴーなのです。無慈悲に叩き込んでいいのです」

「あと3個ほど作らないかしら~?」

「1個で十分や。青葉が倒れて古鷹の負担が増えたら本末転倒やからな」

「私怨お断りって言いたいんだけど今回は特別にやっちゃうよ」

 

 島風が指をパチンと鳴らすと店の扉がゆっくり開かれる。しかし、あけた人の姿は見えず、代わりに連装砲ちゃんがいた。彼こそが島風の会社の秘書にして長年の相棒、連装砲ちゃん(大)である。

 連装砲ちゃん(大)は島風からたこ焼きを弾のように装填してもらうと、猛ダッシュで第二鎮守府へと向かっていった。トコトコ猛ダッシュである。

 

「アプローチ変えたのです?」

「うん、こっちの方がかっこいいかなって思って」

「かっこいいというよりかわいいけどね~?」

 

 

 

 

 

「ハァ、なんとか抜け出すことに成功しました……」

――キュイ

「それにしても、今日の龍さんの様子ちょっとおかしかったですねぇ」

――キュキュキュ

「これは店に言って様子を……って、連装砲ちゃんですか、どうしてここに」

――パスッ

 

「ふがっ!? なんれすこへ、はこ焼き…………からぁぁぁああぁぁぁぁ!?

 

「あ~お~ば~? ここにいたの? 仕事にぃ戻って、ね?」

 

 

 自らが大声を上げてしまったことにより発見されてしまった青葉は、口の中で暴れまわる辛さで動けず、抵抗することもなく古鷹に捕まる。普段、青葉は見つかったとしてもまた逃げるのだが、口を押さえて「み、みず……」と某世紀末救世主の如くうめいている様子を見て、古鷹は青葉がサボっていたことを忘れ、心配の声をかける。

 

「どうしたの青葉? 大丈夫?」

「たこ、やきが、カラシ」

「たこ焼き? あっ、そういえば今日は飲み会だった!」

「の、飲み、会?」

「もう始まってそうだし、仕事を早く終わらせないと!」

「ちょ、ふるたか、みず」

「青葉も早く戻ってきてね!」

「いや、ちょ、待って」

 

 猛スピードで事務室へと戻る古鷹。置いてけぼりにされる青葉。水を求めて立ち上がった青葉は、一旦思考を整理して給湯室へと向かった。

 

(それにしても連装砲ちゃんがなぜココに? 島風はこの鎮守府にはいないはずですが……まるゆさんにでも訊いてみましょうか)

 

 

 

 

 

 たこ焼きを食べ、おでんちゃんを味わい、竜田揚げに舌鼓を打つ。そして呑むは大吟醸鉄底海峡。このお酒は本当にレアもので、売られるときには店に長蛇の列ができ、たどり着いても売り切れです、申し訳ありませんが次回の販売をお待ちください、と釣られた猫のTシャツを着た看板娘に言われるまでがテンプレと化している。

  

「すみません! 遅くなりました!」

「まだ大丈夫やで」

「おっそーい!!」

「え!? うそ、島ちゃん!? 来てたの?」

「当然! だって私速いもん!」

「速さは関係ないわよね~?」

「さて、これで全員集合したな?」

「龍驤さん、何か隠し玉でもあるのですか?」

「魚市場のおっちゃんからホタテ買うてな?」

「ええ!? ホタテですか!?」

「天然もの~?」

「いや、残念ながら養殖や」

「養殖再開してたの? はっやーい……あ、そういえば」

「島風さんどうしたのですか?」

「最近養殖地域の防衛が増えたなって思ったらそれだった」

「なんや防衛って、泥棒でもおるんか?」

「たまーにいるんだよね」

「そうなのですか」

「随分と面倒ねぇ~」

 

 刺身は〆にしたいので、焼く用のホタテをクーラーボックスから取り出し、ボタンを押して金網と化した鉄板の上に乗っける。しばらく焼いて殻が開いたらひっくり返し、殻を外してからバター醤油を希望した人数分のバターをのせてしょうゆをかけ、外した殻を戻して蒸し焼きの状態にする。あとは適当に焼けるまで待つだけだ。最初に殻は開へんのかい、やて? これが唯一知ってるやり方なんよ。

 

「できたで」

「いただきまーす!」

「あ、黒い部分は貝毒あるから気ぃつけぇや」

「え!? 食べちゃったんだけど!?」

「龍ちゃん忠告遅かったわよ~?」

「すぐ腹壊すわけやないから別にええか」

「別に問題ないのです」

「いや、問題ありますよ!? 島ちゃん大丈夫ですか!?」

「大丈夫やって、ダメって分からん奴ら皆食べとるしな」

「赤信号も皆でわたれば怖くないわよ~?」

「渡った先が貝毒なんだけど!? というか何で私がツッコミしてるの!? 速いから!?」

「いつもウチはツッコミ側やからな、たまには休みたいねん」

「嘘だっ!!」

「話の流れなのです」

「そうね~、しまちゃんだし~?」

「え、あ、あの、私が代わりましょうか?」

「大丈夫だよ!」

「そうですか……」

「おい島風ワレェ! なに古鷹泣かせとんねや!」

「なんでぇぇ!?」

「いえ、泣いてないですよ龍驤さん」

「あ、そか」

「分かってたよね! 絶対分かってたよね!!」

「せやな」

「絶対許さない! もう二度とこの店に来ないもん!」

「ホタテの刺身があるで」

「許す」

「ちょろいのです」

「ちょろいわねぇ~」

 

 食べ終わった後、最後の〆であるホタテの刺身と生ウニを準備する。島風の分は多めにしておこう。

 大吟醸鉄底海峡がきれたので、店においてある適当な酒を飲み、それぞれの近況を訊き合って夜は更けていった。

 

 

 

 

「りゅーじょーさーん、これ燃料でちー……なんでちかこの死屍累々な地獄は……」

「あ? ごーやかいな? ええよええよその辺においておいてー」

「意識あったんだ……あ、そういえば、りゅーじょーは明石が海上用屋台を開発したのはご存知だよね?」

「せやな~」

「利用したいから明日オリョールで開いて欲しいんだよね」

「ええで~」

「言質は取ったでちよ?」

「ええでええで~……いや、ちょっち待ってゴーヤ」

「キャンセルはないでちよ~、さらばでち~」

「…………アカン、やってもうた」

 




 
「ホタテを刺身にしたりバター醤油焼きにするときに水道水で洗うと味が数ランク落ちるので気をつけましょう。私の知ってる方は基本洗いませんが、洗いたいときは海水と同じ塩分濃度の塩水を使うこと。これはホタテ以外の海産物にも言える事です。ただし、塩蔵ワカメは絶対に水洗いしてください」
 
 ッテジーチャンガ言ッテタ!
 レーノ出番ネェカラココデ出ルシカネェンダヨ! 察セ!
 アトコノ発言ニハ責任取ラネーカラナ!!



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06話

 

 翌朝。

 ゴーヤに海上営業してもいいと言ってもうた以上、それの準備をせなアカン。今回は料理ばかりであまり呑んでいなかった為、そこまで頭は痛くない。さっさと準備を始めてしまおうか。

 外に出て“本日臨時休業”と書かれた看板を出す。ここに来る艦娘たちの都合を考えると“本日海上屋台営業中”という看板を作ったほうがいいかもしれない。遠征帰りにちょっと立ち寄るかもしれんし。ま、海上経営をホンマにやるときになってから考えるけどな。

 昨日屋台らしきものが置いてあった場所を見ると、依然変わりなく屋台が鎮座していた。まぁ鎮守府に取りに行くよかマシやなと考え、携帯を取り出して明石に電話をかける。プルルルルとコール音が鳴るまでもなく、明石が電話に出てきた。早すぎや。

 

「あ、明石か? ちょいと用事あるけどええか?」

「お話はゴーヤさんから伺っております。海上屋台ですね?」

「話が早いな」

「まず、龍驤さんの店の近くに置いたのは水陸両用屋台です。艤装のようにリンクさせることで陸上営業と海上営業を切り替えることができます」

 

 屋台に手を当て、艤装のようにリンクさせる。艦娘は自分の名の元となった艦をモデルにした艤装を自らにリンクさせることで、艤装を操ることができるようになり、深海棲艦と戦う力を得る。この屋台も艤装と同じ機構を採用しているようだ。つまり、この屋台は“龍驤”をモデルにした屋台型艤装である。なんや屋台型龍驤って、バカにしとんのか。まぁこれから使うんやけど。

 

「屋台の下の部分に変形機構があるので変形させてみてください。命じるだけで構いません」

「お、車輪がでっかい浮き輪になったで。なんや海上やとめっちゃ揺れそうやな……」

「屋台を水平に保つ自動制御機構も導入していますので大丈夫です」

「流石やな」

「もっと褒めてください」

「嫌や」

「ですよね」

「移動は?」

「自分で引っ張りましょう」

「ウチもう引退したんやけど」

「そういえばそうでした。でも、そちらに島風さんがいますよね?」

「なんで知ってんねん……いや、ゴーヤか」

「ご名答です。ゴーヤさんから聞きまして」

「まぁこれならなんとか営業できそうやな」

「それではご健闘をお祈りしますねー」

 

 

・・・

 

 

 屋台と言う名の艤装とのリンクを解除して店の中へ戻ると、島風と龍田が起きていた。古鷹と電はまだお休み中である。あと一人の古参である響がいないのがちょっと残念だ。まぁしゃーないな、あいつ忙しいし。

 

「シマ、ちょっと連装砲ちゃん貸してくれへんか」

「りゅーさんどしたの? というか久々にシマって呼ばれた」

「そか?」

「りゅ~じょ~ちゃんってば~、いつも社長呼びだもんね~」

「そか」

「なんに使うの?」

「海上屋台の移動にと思てな」

「海上で屋台するの~?」

「なにそれ行きたい」

「あのサイズやと定員3名や」

「社長権限を使用して貸切ります」

「しまちゃん私の分もよろしくね~」

「……まぁ席ひとつ空けておくなら問題あらへんな」

「問題大有りなのです」

「あら~。おはよう電ちゃん」

「おはよう電ちゃん」

「おはようございます皆さん」

「……古鷹は起きひんか」

「このまま寝かせてあげるのです」

「そうしましょ~」

「それはそうと、海上屋台というのは聞き逃せないのです」

「あら~、眠ってて良かったのに~、うふふっ」

 

 その後、電ちゃんと龍田の間で勃発した仁義なきじゃんけん合戦は、20秒に及ぶあいこ合戦の末、裏の裏を読んで表に敗北した電ちゃんの負けとなった。ホンマすまんな、この屋台、3人用なんや。珍しくはしゃいでいる龍田を横目に、悔し涙を流す電ちゃんを見て、次にやるときは連絡を入れるようにせんとアカンなと考えていると、唐突に店の入口が開かれた。

 

「おはようございまーっす龍さーん! 青葉新聞でーっす!」

「ウチは新聞はとらんからはよ帰れや、あと静かにせえ」

「開口一番ひどいですねぇ!? 洗剤も持ってきたのに!」

「ウチはそんなもんで釣られへんで? あと静かに」

 

 入ってきたのはサボリ重巡こと青葉。あれ、直々にシバかれに来たんかな?

 

「鉄底海峡に釣られたのは誰かなぁ?」

「それは釣られざるを得んねん」

「あれ? そのお姿は……ってえええええなんですかこのレジェンドの集いは!?」

 

 辺りを見回し、店にいる面子を理解した青葉が騒ぎながらもカメラを取り出すが、一瞬で撮られると理解した島風が目にも止まらぬ速さで青葉のカメラを奪い、これまた一瞬で龍田が現役時代に使用していた薙刀を取り出して青葉の首筋に刃を当てる。突然の出来事に硬直した青葉を電ちゃんが羽交い絞めにして終わりだ。正確には、身長差の問題で羽交い絞めになってないけど、電ちゃんのパワー的に青葉は動けないだろう。現役時代で最も錬度が高かったのは電ちゃんやしな。なおゴーヤは殿堂入りなので除外する。

 

「肖像権侵害はぁ、よくないわよ~?」

「…………あれ? 今何が起きました? 青葉全然理解できないんですけど」

「おう青葉、カラシたこ焼きの味はどないやった?」

「ダメージがでかくて寝られません! 徹夜ですよ徹夜!」

「……んぇ、青葉?」

「あ、古鷹さんが起きてしまったのです」

「起きちゃったね」

「ふるちゃんおはよう~」

「さて青葉。疲れて眠っていた古鷹を起こしたわけやけど、なんや遺言はあるか?」

「ああこれ青葉散るんですね、敵ジャナイ、アレ味方デス、ワレアオバ」

「それが遺言でええんやな?」

「横須賀鎮守府のレジェンドが集っていたら撮りたくなりますって」

「ここに深夜のノリで誕生してもうた、だれも食べようとしないコゲたたこ焼きが1つあるんやけど」

「見るも無残なほど真っ黒なんですが」

「ん~? 青葉それ食べるの? 頑張ってね~」

「寝ぼけてないで起きてください古鷹! 今はあなただけが頼りなんですが!?」

「そのたこ焼きはワサビたっぷりのたこ焼きなのです」

「ロシアン~って言いながら酔った龍田がワサビをガッツリ入れたの覚えてるよ」

「そうだったかしら~?」

「青葉が何をしたっていうんですかぁ!?」

「古鷹が完全に覚醒する前にやってまうか」

「そうしよう」

「いやあぁぁぁ! たすけてくださいふるたかぁぁ!!」

「余計なこと言うと~、その口縫い合わすぞ~?」

「ひぃっ……」

 

 今だダメージの残る口の中に再びワサビの火薬庫を突っ込まれる青葉。サボるのやめてマジメに仕事しよう、サボリ魔がそう心に誓った瞬間だった。

 

 

 

 

 

 カラシの砲撃により口内が大破していた青葉がワサビの雷撃で床に轟沈した後、一旦解散することに。古鷹は青葉の惨状に気づかず、また寝始めた。まぁ疲れているやろし寝かせておこか。島風は今この場にはおらず、ウチの家の中で会社に連絡している。ホンマご苦労やな。

 

「では今度海上で営業するときは教えて欲しいのです」

「当然や、最優先で連絡するで」

「それではお先に失礼するのです」

「電ちゃんまたね~」

「はい、またなのです」

「あ、またねー電ちゃーん」

「島風さんもお元気でー」

 

 電ちゃんを見送った後、本日の海上屋台営業のために必要な材料を準備する。ここ最近たこ焼きと海鮮ばっかりやし、お好み焼きにでもしよか。

 

「龍ちゃん、なにか手伝う~?」

「あ、今日はお好み焼きにするからキャベツ2個くらい切ってーな」

「了解~、あははは♪」

「りゅーさーん、こっちの用事は終わったけど何かすることなーい?」

「せや、豚肉がなかったから買うて来てもらえるか」

「了解! 行ってきまーす!」

「龍ちゃん、全部切り終わったわよ~?」 

「早すぎや」

「他にやることないかしら~?」

「……もうタネも作ってもうたし、シマが戻るまで待つしかあらへん」

「龍ちゃんも早いわね~」

「龍田ほどやないわ」

 

 

・・・

 

 

 海上に変形した屋台を浮かばせ、手配した連装砲ちゃん2体の砲身に引き手を引っ掛けていざ出発。今まで艦娘としてしか海上に出たことのない身としては、何かに乗りながら海に出るというのはとても新鮮だ。船でなく屋台で海にでたのはウチらが世界初やと思う。普通考えへんやろこんなん。

 

「じゃあ出発するでー」

「連装砲ちゃん、一緒に行くよ」

「一緒どころか先頭やけどな」

「出撃しま~す。死にたい船はどこかしらぁ?」

「なんやこれウチも行ってみようって言わんとアカンのか」

「それにしても海に出るのは久々かしら~」

「私はちょくちょく出てるけどね」

「ウチも久々や」

「しまちゃん仲間ハズレ~、うふふっ」

「なんで!?」

「揺れるから騒ぐなアホ」

「なんで?」

「流石に小さすぎるわよ~」

 

 

 

 

 

 

 どこかの海で。

 尻尾に大きなマグロをくわえさせた深海棲艦と、艦娘であろう銀髪の少女が対峙していた。深海棲艦は黒いパーカーを来た悪名高き最強の深海棲艦、対する艦娘少女はその体格から駆逐艦の艦娘と思われる。もし、この場に艦娘か提督などの状況を分かる人物がいたら、あまりの戦力の差に絶望するだろう。しかし、実際は深海棲艦が艦娘の砲撃をよけながら逃げているという状態である。もし、この場に他の深海棲艦がいたら、逃げてないで攻撃しろと言っているだろう。強者が弱者に追われているという異様な光景である。

 

「干物OK、缶詰OK、アト何ガ残ッテルト思ウ?」

「君は何を言ってるんだい」

「ソンナコトヨリ砲撃ヤメテクレナイカナ? セッカク捕ッタマグロガ駄目ニナルンダガ」

「私が止めないと密漁し続けるだろう?」

「確カニ、漁ノ許可ハデテネーシ、密漁ッチャ密漁ダナ」

「大湊はちゃんと許可を貰ってるから、君も貰えばいいんじゃないかな」

「ハァ? 個人ノ遠洋漁業ガ許可貰エルワケネーダロ」

「それもそうだね、すまなかった」

「ンデモ攻撃ハヤメテクレナイノナ」

「それが私の仕事だからね、君も早く当たってくれないかな」

「マーマーゴ苦労ナコッテ。ア、ソウイエバマルイ奴ガ言ッテタンダケド」

「……なんだい?」

「リュッチ……イヤ、オ前ノ知ッテル龍驤ガ、今カラ海上屋台ヲ営業スルラシイカラ、暇ナラ覗イテミレバ? 横須賀近海ニイルト思ウゼ」

「私は暇じゃないんだけど」

「ナァニ、コレカラ暇ニナルサ」

「……一体何をするつもりだい」

「逃ィゲルンダヨォォオ! アーバヨートッツァーン!!」

「待っ」

「ワガレ級ノ速力ハ世界一ィィィ!! ヨシンバ2位ダトシテモ世界一位ィィィ!!」

 

 尻尾がマグロを一飲みし、気にするものがなくなった深海棲艦は猛スピードで戦場を離れていく。突然の加速に対応できなかった艦娘の少女は、ポツンと残されてしまう。密猟者を逃がしてしまったことを理解した少女は呟く。

 

「……そうだな、たまには顔を出してみようか」

 

 龍驤の鉄板料理を思い出してよだれがたれてしまった少女は、手の甲で口のあたりをふきながらハラショーと呟きを残し、先ほどの深海棲艦ほどではないものの、高速で横須賀近海へと向かった。

 




後書きに書こうと思ってたセリフが本文に残っていた件
「設定作ルト過去編書キタクナラナイ?」


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07話

あー、頼むから二番煎じ生まれんかなー。鉄板屋「龍驤」っていう響きはごっつ好きなんやけどなー。誰か書いて、もしくは描いてくれへんかなー。ウチがどんな形でもええから鉄板屋やってるとこ見たいわー。鎮守府内部とか隣接営業とか夢がひろがりんぐやー。

って書いてから2年経ってたことにちょっとした哀愁を感じるんやけど


 出発してから数時間。オリョールまで連装砲ちゃんの速度だと1日かかるやんと思いなおしたウチは横須賀近海で営業することにした。時折、第二鎮守府の艦娘が教官である艦娘と共に抜びょうしていくのが見える。あれは瑞鳳やな、珍しい。一緒にいるのは……アカン、ウチには分からんわ。

 話を戻すが、海上営業を始めたのをどこから聞いたのか、ゴーヤが既に席に座っていた。

 

「ゴーちゃんは~、まだオリョール行ってるの~?」

「オリョール以外の選択肢はないでち」

「ゴーヤが行き過ぎて深海棲艦の対潜能力が強化されたって話聞いたけど」

「ゴーヤを誰だと思ってるんでち」

「対策されてもそんなこと言えるんか……」

「対策は無駄でち、だいたい手札に盃あるから余裕でち」

「あれ何の話してたっけ」

「なければタンで誤魔化すでち。赤か青でればラッキーでち」

「花札の話よね~?」

「でも丁半とかチンチロは無理でち。確実に取られるでち」

「オリョールは賭場だった……?」

「賭場はあかんやろ」

「奴等に法律もクソもないでち。当然上限なんてノーリミットだよ」

「誰か大損した~?」

「この前呉の提督がボーキ4万すっててクッソワロタでち」

「何やってんねや呉の提督ゥゥゥ!」

「あそこの初心者はチンチロで沈む定めにあるでち」

「覚えておくわ~」

「龍田お前行く気なんか」

「ゴーちゃん、ポーカーってどこにあるかしら~?」

「それは深海賭場ハワイ支店にあるよ。あとで案内する?」

「お願いするわよ~。天龍ちゃんと一緒にいくわね~?」

「天龍さんが負けてるの見たいだけじゃん!」

「天龍ちゃんは~、所詮、賭け事の敗北者じゃけぇ~」

「センスどころか運命の神にすら見放されとるしなぁ……」

「ジャンケンもいつも負けばっかりだしね」

「誰も取り消さないっていう非情な現実でち」

 

 

 

 

 

 

 再びゴーヤがオリョールへと向かってからしばらく時間がたったころ。

 

「暇だわ~、しまちゃんなんか面白いことして~」

「イヤだよ!?」

「ええやん減るもんないんやし」

「精神が磨り減るよ!?」

 

 ウチらはとてつもなく暇になっていた。食べるか話すか呑むかしかないし、昨日も相当語り合ったし、話の種のゴーヤも今はオリョールに行っている。

 

「もう、しかたないなぁ」

「え、やってくれるん?」

「暇になるとは思ってたよ」

「何か準備してたの~?」

「そういうわけじゃないんだけどね」

 

 島風が指をパチンと鳴らすと、どこかからズドドドと水を高速でかき分ける音が聞こえてくる。音の発信源に目を向けると、かき分けられる水で姿が隠れているものの、何かが高速でこちらに向かっている様子。たぶん連装砲ちゃんだろう。それにしても早いな。

 水をかき分けて進んできたのは、腰らしき部分に紐を巻きつけて何かを引っ張ってきた連装砲ちゃんだった。その砲身には長めの釣竿が4本刺さっており、紐の先には釣り道具の入った道具箱が浮き輪に縛り付けられている。絶対中身ぐちゃぐちゃなっとるやろそれ。

 

「釣竿を準備しましたー!」

「ちゃんと沖用か?」

「当然!」

「昔しまちゃん釣竿へし折ってたもんね~」

「だって沖の魚があんな強いって思わないじゃん!」

「岸壁のと沖のは明らかに魚のサイズちゃうやんけ」

「魚が掛かったこと自体レアケースだけどね~」

「糸短かったしな」

 

 それぞれ竿を連装砲ちゃんから借り、釣りの準備をして沖へと糸を垂らす。現役時代の話やけど、一時期食糧難に陥ったことがあるんよ。出撃よりも食糧確保のために釣竿を手に海へ出たんやけど、そのときに岸壁釣り用の釣竿を持ってった島風が釣竿をへし折ったんよね。そもそも岸壁釣り用は沖の魚の力に耐えられへん。普通に折れるって知らんかった当時のウチらはめっちゃいじってたな。これ島風には内緒な。

 

 

 

 

 

 垂らしてから10分くらいたったころ、突然ウチの竿にとても大きな力が加わる。思わず海に引っ張られそうになってもうたウチは、元艦娘パワーでどうにか持ちこたえる。

 

「おゔッ!?」

「今持ちネタパクられた気がするんだけど」

「やかましいわボケェ!」

「りゅーちゃんの竿凄いしなりね~」

「ちょっち助けてや!」

「あ、ヒットした」

「私もヒットしたわ~、頑張ってねりゅーちゃん」

「誰か助けてやぁ!!」

 

 

 

 

 それから1時間後。正直余裕がないので2人の状況を見てられない。

 

「進捗どう?」

「一進一退の攻防やね!」

「私は相当釣れたから満足よ~」

「お、弱くなってきたで、コレはウチの勝ちや!」

 

 リールを巻き上げていくと海面に黒い巨大な魚影が移る。1m以上は確定だ。結構な時間格闘したおかげで、もう魚には抵抗する力が残っていない様子。最初とは比べて素直に上へ上へと上がってくる。ここは勢いよくやらんとダメやな、思いっきり引っ張って派手に釣り上げたろ!

 

「これは大物やぁー!!」

 

 ザバアと勢いよく海から飛び出したのは黒い魚影。白い肌に黒いフードはそのままに、尻尾を体にぐるぐる巻きにして形を誤魔化しつつ、巻いた尻尾にまでペイントまで施したその姿は、どうにかしてみればマグロに見えなくもない。ご丁寧に下半身にマグロらしき尾びれスーツを着用しているあたり、奴の芸人魂が伺える。ついでに尻尾が相変わらず哀れ。

 

「…………」

「…………」

「……ハァイ、ジョージィ」

「ウチはジョージやないわボケ」

「釣レテル?」

「一時間粘って最悪の当たりやボケ」

「オーゥ……マグロジャ不満?」

「黙れやボケ」

 

 釣り針を口にくわえるその人物は、語るまでもなく()だった。いや、こいつはレやない、魚や。釣った魚は逃げないようにせんとな。

 釣り道具の箱を連装砲ちゃんに連結されている浮き輪から取り、その浮き輪の中央に奴をぶっ刺す。浮き輪にはまったレ級は身動きできずにいた。ざまぁ見やがれ。

 

「動ケナインデスケド」

「んなもん知らんわ」

「りゅーちゃん、この人誰なの~?」

「なんか浮気現場見た妻みたい」

「そんなん見ての通りマグロや」

「マグロね~」

「セヤデーウチハマグロヤデー」

「違うよね!?」

「何言うとるんや島風、そこにおるんはマグロやろ」

「動カナイトアタシ死ンジャウンデスケド」

「何この私がおかしいって流れ何!?」

「ココガ中トロデス」

「手がヒレになってる!? 芸が細かい!?」

「いやー、ええもん釣れたわー」

「そうね~」

「ココガカマトロデス」

「いやヒレで部位指しても分からないよ!?」

「これは魚市場に卸さんとアカンな」

「食べないの~?」

「今は超高級魚やからな、ええ値で売れるで。ウチの行きつけの魚市場に卸すわ」

「マグロ ハ ニゲダシタ!」

「ああっ! 連装砲ちゃんがーっ!!」

「あ、巻きつけたまんまやったな、スマンスマン」

 

 マグロに引っ張られる連装砲ちゃんの抵抗もむなしく、逃げ出したマグロは高速で離れていった。もう点にしか見えないってあいつどんな速力してんねん。マグロか。

 

「連装砲ちゃーん!!」

「アレ大丈夫なの~?」

「あー、うん、大丈夫やろ」

「しまちゃんよかったね~」

「全然大丈夫じゃないんですけど!?」

「あぁ、アイツは特殊やから」

 

 たぶん翌日あたり魚市場に引き連れて現れるやろ、たぶん。

 

 

 

 

 

 一方その頃、どこかの海にて。

 

「それにしても久々の日本だ、懐かしい」

「オウ、サッキブリヤナ。アトココ太平洋ド真ン中ネ、ジャパンカラ遠イアルヨ」

「……なんだいそのふざけた格好は」

「マグロ」

「そうじゃなくて」

「マァマァコレドウゾ」

「これは!? 島風の連装砲ちゃんじゃないか!」

「セヤナー」

「一体何をしたんだ!?」

「マグロシテキタ」

「すまない、よくわからないんだが」

「ソイツニ海案内シテモラエ」

「…………」

「アンタ方向音痴ヤロ」

「そうでもないのだが」

「方向音痴ハ皆ソウ言ウ……」

 

 




東に向かっていたら西に出ていたとか
海沿いに向かってたら内陸の町に出てきたとか
上り列車と下り列車乗り間違えて逆方向に行ったとか
6年間住んだ町で道に迷ったとか
あげく隣町で迷ったとか地元の町で迷ったとか
そんなことあったけどウチは方向音痴やないで


ネタの参考元の動画が著作権の非親告罪化に伴い、投稿者によって消えていた悲しみ


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08話

 

 

 海上屋台してから数日後。今日も今日とていつもの魚市場行こうとしたら、ガレージの前に誰か分からないけど人らしき影と角ばった小さなナニカがいた。いつもの奴等は今の時間来ないし、一体誰やろなと思って近づくと、足音に気づいた人影がこちらを振り向く。頭に鍋を被り、その隙間からワカメが垂れている。昔から着ていた制服は土だらけで、甲子園球児を髣髴とさせる。いつかレ級に引っ張られていった連装砲ちゃんを引き連れた彼女は、古参の中で唯一現役でフリーランスの艦娘である響だった。やってることは島風と似通ってるけどね。

 

「響お前そんな格好でどないしたんや」

「ちょっと道に迷ってね」

「キュイッ!」

「迷ったレベルの惨状やないでコレ」

「奴から連装砲ちゃんを渡されてから直行したはずなんだが」

「蛇行にも程があるわ、シャワー貸すから体洗ってき」

「スパシーバ」

「いやいや1人で行くなウチの店が惨状になる」

「どうして信用されないんだい?」

「自分の格好鏡で見てからもう一度言えや」

 

 駆逐艦、響。古参組の一人であり、極度の方向音痴である。

 

 

 

 

 

 シャワーを浴び終えた響にはウチの赤いジャージを貸しておいた。うんうん、ウチの予想通りサイズぴったりや。あ、余計なこと考えた奴は屋台で轢くからな。

 ちなみに連装砲ちゃんは島風にでも呼ばれたのか、いつの間にか消えていた。アイツもニンジャの類なんか。

 

「スパシーバ」

「ええでええで」

「連装砲ちゃんがいなかったらもっと迷ってた」

「案内された上で迷うってどういうことや」

「それはそうと、これから市場かい?」

「……まぁそうやな」

「じゃあ私もついてっていいだろうか」

「ここに残す方がマズイから来てほしいんやけど」

「相変わらず信用されないね」

「仕事せえへん時は信用できひんからな」

 

 響は仕事においては方向音痴ではない。仕事中の彼女の勘に従うと、なぜか資材を補給できるポイントにたどり着いてしまうような頼れる存在なんやけど、仕事でないとその反動なのか見当違いなところに行ってまうんよな。執務室から自室に帰ろうとしたら演習場にたどり着いてたって時もあった。一旦外でないと行けへんぞそこ。

 

 ガレージの軽トラに乗り込んでエンジンを掛けていざ出発や。ちょっと出遅れたけどそこまで問題はないやろ。

 

「そこ右に曲がらないか?」

「断る……あ、赤や、別の道通ろか」

「じゃあここは左だな」

「元に戻ってどうすんねん……あれ、右に曲がったはずなのに知らん道に出た」

「マジか」

「マジや……なんでや? こんな道あったか?」

「私に聞かれても困る」

「迷うのはアカンからおとなしくUターンしよか……」

 

 

 

 

 

 

 

 やってきました魚市場。かなりの時間が経過しており、それなりに商売が終わった区域もあるようだ。そんな中、いつものおっちゃんはやってきたウチと響を見て一言。

 

「龍さん彼女連れかい?」

 

 開口一番これである。ウチは女やぞ。

 

「そないなわけないやん」

「違ったのか、彼女できた記念にオマケしてやろうと思ったのに」

「彼女や」

「龍驤手のひら返すの早いね」

「彼女さん俺と釣り行かない?」

「丁重にお断りさせてもらうよ」

「クッソガードが固いな」

「奥さんに報告したろか。それはそれとして本日のオススメはなんや?」

「脂が乗りすぎたサバを干したの」

「どんなものだい?」

「干したのに煮物にしないとやってられない脂のくどさが売り」

「買って欲しいと思えへん説明やな」

「レっちゃんが試験的に作ってばらまいた奴。なお本日の我が家の食卓に並ぶため非売品」

「なぜオススメしたんや」

「売り切れてこれしかねえからな」

「普通に売り切れって言えや」

「イヤだ面白くない」

「ちょっとまってくれレっちゃんってどんな人だい?」

「ここのアイドル」

「異議ありや」

「とりあえず却下する」

「どこにいるんだい?」

「少し離れた倉庫付近で作業してるよ」

 

 

  

 

 

 

 レっちゃんの居場所を聞いてからスタスタと歩き出した響についていって外へと出る。あたりを見回して見ると探すまでもなく奴がいた。奴の周りには木の枠に張られた網の上で、しらすがたくさん横たわっている。干しているんだろうか。

 

 奴は砂漠で空から襲ってきそうなしかめっ面の太陽のお面を被り、「らむなんとかてんてぃりす」と書かれた30cm平方の小さいピラミッドの上で、背筋を伸ばし体をYの字にしながらぐるぐる回っていた。尻尾の顔の部分は白くペイントされ、その上で赤い線が複雑に、それでいて神々しく描かれている。

 

「タイヨォォォォォ!!!」

 

 

 太陽混ぜすぎやろ。 

 

「………………」

「どうしたんや響」

「なぜここに深海棲艦がいるんだい?」

「んなもんウチが聞きたい」

「しかもこいつは」

「オ、リュッチジャネーカ」

「瞬間移動してくるなうっとおしい」

「連レハ彼女サンカ?」

「なんやここの人間はウチが誰か連れてると彼女扱いするんか」

「ワシ人間ジャナイワイ」

 

 

 しかし、砲身を向けられてゐレ級はやれやれと言わんばかりに肩をすくめている。

 

「なんで密漁者がここにいるんだい」

「シラス干シテンダヨ見レバワカンダロ」

「これも密漁かい?」

「ッチ、説明スンノモ面倒ダナ」

「貴様を密漁の罪で連行する、何か言い残すことはないかい? 30秒あたり78円だよ」

「国際電話かい!」

「ンー……ウシロウシロ」

「後ろ? 一体なんだい――――」

 

 いつの間に来ていたのだろう。響がレ級から目を離さない程度に横を向くと、目に留まらぬ速さで響がレ級に向けていた砲身が何者かにつかまれる。

 なんやなんやと掴んでいる人物を見てみると、レ級を追いかけているじっちゃんが無表情で響を見下ろしていた。

 

「お前さんや、ここは魚市場だべ、ンなあぶねえモン取り出してんでねぇ」

 

 響は抑えられていた砲塔を手放して体を回転させ、敵と認識した背後の人物に裏拳で対応する。

 

「おっと」

 

 じっちゃんは突然飛んできた裏拳を受け止め、掴んだまま響を組み伏せようとする。対応が素早かったためか響は抵抗することもできず、地面に押さえられてしまった。

 

「ぐぅっ……!」

「レ級、こいつであってっぺか?」

「ソイツデ合ッテルヨジッチャン」

「……あれ、今何が起きたん」

 

 一応艦娘の力は一般男性よりも強いはずなんやけど、それを老いてるはずのじっちゃんが受け止めたことが衝撃的過ぎて、ウチの理解が追いつかない。

 

「くっ、ここは敵の本拠地だったか……!」

「敵かどうかは話を聞いてから判断すっぺす」

「イヤ、ジッチャン、私ッテ艦娘ノ敵ヨ? 深海棲艦ヨ?」

「だな、すっかり忘れてたべ」

「ねえさっきからウチ置いてきぼりなんやけど」

「おい龍さん、嬢ちゃんの名前はなんだべが」

「えっ、あっ、響って言うんやけど」

「イヤジッチャン、コノ子ハ別府チャンダヨ」

「ほんだら別府ちゃんだべな」

「ウチに聞いた意味ィ!」

「んで別府ちゃん、お前さんが見てぇもんはこれだべす。レ級」

「コチラガ完成シタモノニナリマス」

「これは……漁業許可証?」

「んだ。許可が出ているこいつは密漁者でばねぇ」

「密漁者ではない、という意味だろうか?」

「ゴメンナ別府、ジッチャンバ方言ガ抜ゲネンダ」

「お前もうつっとるやないかい」

「偽造ではないのか?」

「んだば今まで出してきた許可証全部見っぺか?」

「…………いや、いい、信じよう」

 

 その言葉を聞いたじっちゃんは押さえていた響から離れる。響は立ち上がって体をほぐすように腕をぶんぶん振っていた。

 

「誤解ガ解ケタ所デ本題ト行キヤショウゼ、ジッチャン」

「お前さんにレ級の確保を依頼したのは誰だべが」

「……言えない」

「ヘェ、コノ状況デモソンナ事言ッテラレルンダァ」

「レ級、アレ持ってこいアレ」

「ヘイ大将」

 

 レ級はそのあたりにおいてあったクーラーボックスを開け、そこから何かを取り出す。茶色の殻に覆われたそいつはまごうことなくホタテそのものであった。

 

「アカン」

「い、いったい何なんだ龍驤」

「アレを口にしてもうたら一生戻れなくなるで響」

「ところで龍驤はそれから私を助ける気はないのかい?」

「ない、同じ沼に浸かろうや、なぁ響」

「くっ、龍驤も洗脳されていたとは……!」

 

 ウチらはあの飲み会のとき食ってもうたせいで、もう新鮮なホタテ以外を受け付けない体になってしまったんや。あれは悪魔や……全てのホタテを過去にしてまう悪魔の食べ物や……。

 レ級はどこかからナイフを取り出し、貝殻の隙間に差し込んでぐりぐりすると貝のふたが開く。そこからまだ動いているホタテが現れた。

 

「本日持ッテキタホタテデース! 当然ウチ産ヤデェ!」

「これ……は、白ではない!?」

「何いってんだ、ホタテは白でばなぐ肌色だべ」

「気をつけえや響、ウチらの味覚を破壊した兵器や……!」

「リュッチ助ケル気皆無デ草」

「いやなんやもうええかなって」

「サテ、依頼者ノ事吐カナイナラコイツヲ焼イテ食ワスゾ」

「ぐっ……」

「デモ吐イタラ刺身デ食ワセルゾ、ドウスル」

「…………」

「"シーグース"は聞き覚えあっぺか?」

「!」

 

 なんやそれ。聞き覚えはないけど、響が反応したってことはなんや響と関係あるんやないやろか。

 ウチが首をかしげていると、じっちゃんがいつもの様子とは打って変わって、レ級を追っかけているときのような雰囲気をかもし出した。圧がすごい。

 

「……龍驤、こいつは"信頼に足る"か?」

「なんや、どういうことや」

「正しいことは正しい、間違いは間違いと立場かかわらず言える艦娘か?」

 

 え、訛らずに言葉話せるんか。失礼だけども、そんなことを思い浮かべてしまった。いやいやマジメに考えよう、今はおふざけは許されへんわ。

 じっちゃんの言葉は立場に左右されず自身の信念を貫けるかってことやろか。もしそうなら。

 

「信じてええよ」

「……んだば信じてみっか、とりあえず場所変えるべ。別府ちゃんや、あべ」

「あべって何のことだい」

「一緒ニ行コウッテ意味ダッタハズ……ア、リュッチハドスル?」

「来んな。この件には関係ねえべ」

 

 じっちゃんは話が終わると一人でどこかへと歩き出す。ウチには事実上の戦力外通告。ここまで話を聞かせておいて放置するとか。

 

「……生殺しされた気分やで」

「無関係者ハ巻キ込ミタクナイッテイウ考エナンダヨ、ジッチャンツンデレナンダヨ分カレヨ」

「分かるか」

 

 

 





明日と明後日も更新でち。


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09話

 

 戦艦レ級の朝は早い。深夜帯から一日が始まる。

 

「貴様ラトノ点差ハ40000点以上! シカモオーラスデ逃ゲ切リ目前! ソシテコノ5巡目ダメ押シリーチデドーデショウ勝負デ勝ッタ勝負快感!!」

「ネ級モ追ッカケルワネ、リーチ」

「まるゆもテンパイしました。リーチしますね」

「……ッチ、北カ。一発ツモハナイガ風前ノ灯火タル貴様ラニ勝チ目ナゾ――」

「ロン、立直一発北ドラ1で満貫ネ」

「ロンです、リーチ一発字一色小四喜で96000ですね」

「イ゛ヤ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」

「ダブロンアリデ-104000、アンタハコ割レ。負ケネッヘッヘッヘ!!」

「オ"ア"!? オ"ア"ア"!? ホ"ア"ア"ア"ア"!!!! YES! GET! LOST!」

「そういえばレっさん、こういった情報を手に入れたんですが……」

「先生、ダイスキ…………アー、コレマジ?」

「まるゆ392号が目撃、あとは23号と33号が裏取りしました。確かです。その紙はお渡ししますね」

「コレハアタイダケジャ無理ダナ。他ニ協力者探サナイト」

「一瞬デ戻ルノ草」

「タダデ教エテヨカッタノカネマルユ君? 割トヤバイ情報ダゾ?」

「負け続けのまるゆに大きい手を上がらせてくれたお礼です」

「嫌味カ貴様」

 

 

 

 

 賭場で稼いだチップと燃料を交換し、一気飲みするところから一日が始まる。

 

「マタ麻雀デ溶カシタノ?」

「70000点行カナイ程度ニ点棒アッタノニ、ソコカラハコ割レスルナンテ思エナイジャン。燃料一杯クレ」

「ヲー……ハイ、燃料1ツ、ヲ疲レサマ。ドウセイキッテ負ケタンデショ?」

「芸人タルモノ大勝デ終エナイヨウニ爆散シナキャダメヤロ」

「モッタイナイナー」

 

 

 

 

 燃料を補給した後、明け方に自らの活動する海域のパトロールを行う。"前マデハニギヤカダッタンダケドナー"とレ級は語る。

 日本が制海権を深海棲艦から取り戻した後、操業を再開した漁業を狙う犯罪組織が現れた。

 "シーグース"と名乗る奴らは深海棲艦の出現により高騰した海産物を狙い、ありとあらゆる漁場で乱獲の限りを尽くしていた。さらに、養殖海産物の盗難も相次いで発生している。許可を取っていない彼らがしていることは密漁に他ならない。

 レ級のいるこの漁場も例外ではなかった。"海ノ物ハ全テ私ノモノ"と豪語するレ級がそんな暴挙を許せるわけもなく、組織の人間を見つけては片っ端から吹き飛ばしていた。

 深海棲艦に刑法199条(殺人罪)は適用されない。敵に情状酌量の余地も与えず轟沈させるその姿は、深海棲艦の中でも特に残忍と言われるレ級そのものであった。

 結果、レ級のいる海域には組織の人間は現れなくなった。しかし、それはここの海域に限った話である。他の海域では未だに組織の犯行は続いている。答えは簡単、警備できていないからだ。

 さらに、警備しようにも深海棲艦に襲われ命からがら逃げ切った事例がある。安全面を考慮して深海棲艦への対応ができる無所属の艦娘を雇う他ないのだが、乱獲による漁獲量の減少や盗難で雇う金の余裕ができていないのが大半。

 現在は安価で警備を依頼できる"株式会社シマちゃん"の連装砲ちゃん警備サービスが普及し始めているものの、需要に供給が追い付いていない状態である。

 

 

「ッチ、何ノ新シイ情報モナイナ……モドレ、艦載機」

『ウチは今日本で最大の養殖漁場だぁ。前まで来てたってのになんで来ねんだ?』

「私ノ存在ガ邪魔ナンダロウネ、フリー艦娘ノ別府チャンヲ刺客トシテ差シ向ケタ位ダシ。アト訛リヤメテイイヨ。タマニ分カラナイカラ」

『……一度パトロールやめてみるか?』

「賛成。ヤメルダケジャ奴ラハ来ナイダロウカラ、奴ラガ狙イソウナ別ノ漁場ニ実際ニ姿ヲ出ストカ?」

『お前さん思い当たる漁場はあるか?』

「イクツカアル」

『お前さんが行ってる間、ウチの漁場はどうすんだ』

「大丈夫、私ニアテガアル。任セテチョウダイナ」

『おう、任せた。どこの漁場に行くか決まったら教えでけろ。オラが説明しておくっけぇ』

「アリガト、助カルヨ、ジッチャン」

『感謝はいらねーからさっさとあいつらの犯行をやめさせてくれ』

「ソダネー、切ルヨ」

『頼んだぞ、レ級』

 

 レ級は通信機を切って再び艦載機を飛ばすと、陸へと向かって歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 ウチが魚市場で置いてけぼりにされた翌日、鉄板屋「龍驤」。

 なんや朝っぱらから来たレ級が話ある言うたから特別に貸し切りにしたんやけども。

 

 

「トイウコトデ今回ハ、オ好ミ焼キヲ作ッテイクワネ」

「作るのウチやけどな」

「頼リニスルワ。オ頼リスギテオ手紙ガ届イタワネ」

「へぇーどんなんやーきになるわー」

「『仕事がたまりすぎたせいで仕事にいきたくありません、応援メッセージください』」

「一番は無茶せんでな? 1人でため込まずに周りの手も借りよか、抱え込んで身が壊れてもうても会社は救ってくれへんからな」

「『PN;ワレアオバ』」

「青葉ワレェ!! 働けェ!! お前は壊れろォ!!」

「『P.S.ウチの鎮守府に連装砲ちゃんが常駐するようになって常にこちらの口に砲身を向けてくるのですが』」

「知らんわ!!」

「手ノヒラマワッタワネ、マワリスギテ…………今日ハコノクライニシトイテアゲルワ」

「あぁ、言葉が出なかったんやな」

 

 焼けてきたお好み焼きを勢いよくひっくり返す。ちなみに、今回はイカ玉のお好み焼きである。レ級がショバ代と称して持ってきたイカを使わせてもらった。

 さて、おふざけはここまでにして本題に入ろか。焼きあがったお好み焼きを半分に切り、片方をレ級に渡す。

 

「んで、今日はなんで来たんや」

「昨日ノ話ダケド、諸事情デ龍驤ヲ巻キ込ム事ニシタイ」

「話だけは聞いてやるで」

「イヤネ、ウチノ漁場ノ話ナンダケドサ――――」

 

 

 

 

 レ級から漁師を脅かす密漁シンジゲートの話を聞いた。レ級のせいで市場価格狂ってるけども、海産物は高級品やからな。そういう組織があってもおかしくはないんやろな。

 

「へえ、そんな組織が発足してたんやな」

「ソウソウ、デ、アイツラ来ナクナッタカラ、コッチカラ行コウッテワケヨ」

「まるゆネットワークやったっけか、それから情報得れへんのか?」

「マルユハアクマデ海限定ダカラネ、陸上ノ情報ハ集マリニクイ」

 

 残り一口分のサイズになったお好み焼きを口に入れる。ウマイものにウマイしか言えないから上手なことは言えんけど、以前より上達したと言える。なお、レ級は最初の一口で丸のみしていた。奴なりの味わい方らしい。

 

「んー、何でウチなん?」

「今朝ナー、新タナ情報ガ入ッタンダナー」

 

 そういってレ級は1枚の紙を渡してくる。解体済みと大きな赤い印の押されたその紙には、ある駆逐艦の艦娘の情報が載せられていた。所属は呉、解体日時は……2カ月前か。レ級がなぜこの書類を持っているかは考えないことにして。

 

「ソイツァコピーサネ」

「心を読むな心を」

「聞キタソウナ顔シテタリュッチガ悪イ……コホン」

 

 ケラケラ笑っていたレ級は咳払いをすると、ヘラヘラしている顔を引き締め、いつになくマジメな顔つきで話し始めた。

 

「"シーグース"ガソノ艦娘ヲ手ニ入レタソウデ」

 

 なんやと。

 

「オ、ヤット真面目ニ聞ク態度ニナッタナ。トリアエズ席ニ着ケィ」

「ええからはよ説明せえや」

「マァエエカ。アル鎮守府デナァ、解体サレル艦娘ヲ解体セズ秘密裏ニ売ッテルラシイゼ。当然ナガラ違法ナンダガ証拠ガ無イノヨネー」

「それ呉やないの? 提督がカジノで摩ってるって」

「呉ノ提督ハ回収率1超エテルゾ、ボーキハ0ニ近イケドナ。呉ノ提督ハ白ダ」

「……そか」

「話ヲ戻スワネ。"シーグース"ハ、コノ艦娘ヲ我ノイル海域ニ攻メ入ラセル準備ヲ進メテイルソウヨ」

「…………え、駆逐艦でレ級に勝つってまず無理やろ」

「艦娘サエ居レバ深海棲艦ハドウニカナルト考エテルンダロ。アタイ最強ナンダケドナー」

 

 何級だろうが一般人だけで深海棲艦に遭遇したら死であるからか、深海棲艦のそれぞれの名前とか強さは一般には知られていない。わざわざクソ強いやつを紹介して国民の混乱を引き起こしてしまっては面倒になるというのが本音である。

 

「デ、アタシャ他ノ海域ヲ防衛シテクルカラヨ、龍驤ニハコノ艦娘ノ対応ヲオ願イシタイ」

「ええけどウチ引退した身やから装備はないで?」

「何言ッテルンダネリュッチ、君ニハアレガアルジャナイカ」

 

 レ級は立ち上がってリヤカーを引くしぐさをする。ウチにあるリヤカーのようなものって……。

 

「海上屋台とか言わんよな」

「ソレダヨソレソレ。戦意削ゲバワンチャン」

「ええ、マジか……」

 

 こんな形で海上支店を営業することになろうとは一切考えてなかった。戦意削ぐで思い出したけど、屋台から発せられるマイナスイオンでどうにか……いやならんやろ、マイナスイオンってそういうものやない。

 

 

「ふむ、話は聞かせてもらったよ、やはり海上屋台か、いつ出発する、私も同行する」

「別府ヌ院」

「響やけどな?」

 

 店の奥から現れたのはウチが貸したパジャマ姿の響。響は昨日、じっちゃんとレ級との対談を終えた後、滅茶苦茶意気消沈していたので連れ帰って泊まらせていた。

 帰り道で道に迷って営業が遅れたのはいい思い出や。もう響の言う通りには進まん。

 

「龍驤、私から言っておきたいことがある。そこのレ級には昨日伝えたが、私にレ級の逮捕を依頼したのは呉の副官なんだ」

「なぁレ級、まさかある鎮守府って呉かいな? 提督は白やったんやないんか?」

「提督ハ白ダ、提督ハナ。副官ハ別ダゾ。サテ龍驤、海域防衛ドウスル?」

「不安なら私が護衛するよ。報酬はお酒とツマミでいいよ」

「ああもうええよ。やったろうやないかい」

 

 

 

 









 以下あとがき
 
 
「ボツネタ供養ゾーンへよく来たでち、ゴーヤだよ。本編では起こってない事柄だから注意してね」
 




 
 ガレージ。
 
(マズいマズいですよ明石さん、龍驤さんが深海棲艦とつながってました、しかもあの姿、悪名高いレ級ですよ)
(そんなことより青葉さん)
(そんなことで流されたぁ!)
(この屋台はマイナスイオン粒子で深海棲艦かどうかを判定しています)
(マイナスイオンってそういうものではないですよねぇ?)
(もし感知したら、マイナスイオン粒子を全開にしありとあらゆる機器を無力化した上で、屋台に仕込まれた45口径の46cm三連装砲2門をフルバーストする機能がついています)
(なんでそんな殺意高いものを仕込んでるんですかぁ!? あとマイナスイオンの可能性ぃ!)
(そしてこの位置でフルバーストすると鉄板屋が崩壊して龍驤さんの怒りを買います。私たち終わりですね!)
(レ級とか大和砲フルバーストとかがかすれてしまうほどの殺意が襲ってくるじゃないですか!! こんなところでくたばりたくないです!)
(しっかし反応しませんねぇ、故障でもしたんでしょうか)
(反応してたら今頃私たちこんな会話できてませんよ!)
「なんや聞こえる思て来てみたらお前ら……」
「ドシタノドシタノー」
『脅威感知、深海棲艦レ級です。迎撃を開始します』
「「あ」」

『斉射』
 
 
 
 
 鉄板屋龍驤が爆発炎上したその日以降、明石と青葉の姿を見たものは誰もいなかった・・・。


 BAD END「青葉とばっちりなんですけど」


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10話

 

 

 鉄板屋龍驤、海上屋台支店。真夜中の海上にひっそり灯る屋台の光。端から見れば深夜の海上に屋台とかホラーでは? ウチは訝しんだ。

 搭載されていた屋台用艦載機が近くを偵察している中、ウチと響は出来立てのたこ焼きを食べていた、優雅やな。

 いや、屋台用艦載機ってなんやねん。ワケ分かんないで。なんで爆弾の代わりに搭載してんのたこ焼きやねん。

 

「客引き用屋台艦載機だよ。直上からの急降下でたこ焼きをお見舞いして鉄板屋を宣伝する目的で作られた艦載機だよ。宣伝に全てを費やしたために攻撃力が皆無になった産廃艦爆の通り名もあるよ」

「たこ焼きに攻撃力あってたまるか」

「制作者は正気と狂気の狭間で兵器開発をする横須賀の工作艦明石という説が有力かな」

「変な肩書ついとるなアイツ」

「それよりも私が屋台引いて大丈夫だろうか」

「ええで、ウチより機動力あるからむしろ適任やろ」

「スパシーバ」

「最終確認やで。ウチらは攻撃したらアカン。艦娘としてではなく、鉄板屋として来てるからな。せやから相手の息切れを待つ作戦で行こか。やることは簡単、避け続けるだけや」

「"目"は頼んだよ」

「ウチに任しとき。あ、見つけたわ、移動するで」

 

 

 

 

 艦載機からの情報を元に、相手の進軍ルート線上に移動し終える。たこ焼き式艦爆はまだ空を飛んだままだ。

 

「響、あの辺に照明弾」

「ダー」

 

 響が指示通りに照明弾を撃ち込むと、捕縛目標である艦娘の姿が照らされる。彼女は焦りながらもこちらの屋台の光に向かい、持っていた砲塔を向けた。

 

「……来たな、回避するで。前進」

「ダー」

「突っ込むのは最後や。乗り切るで」

 

 

 

 

 

「取り舵後前進や」

「……照明弾の時の反応も合わせるとずいぶん練度が低いね。経験すら積んでないんじゃないか」

「指示出してる奴が戦い上手なら練度の差なんて覆せるで、警戒して行こか」

 

「止まれや」

「単調だね、いいから撃て撃てって感じがするよ」

「油断させておいての手があるかもしれへんで?」

 

「あー適当に前進……バカスカ撃ってきたわ」

「さっきまで深読みしていた龍驤はどこに」

「夜戦なのにバカスカ砲だけ使って魚雷使ってない時点でお察しやで」

「今さっき思ったんだけど、彼女の司令って"シーグース"の誰かになるはずだ。元提督とかいたりするのだろうか」

「いたらこんな適当な戦い方せんやろ。とにかく撃て撃てって経験のないやつに指示するのが間違うてる……あ、魚雷発射しおった。ひーびき♪ 被弾したら材料が全部吹き飛ぶでー♪ 自力で避けえや♪」

「舐めプはよくないよ」

「正直ウチ必要ある?」

「ない」

 

 

「お、頃合いやな。突っ込んで確保するで」

「全速前進ダー!」

 

 

 

 

 

 先ほどまで攻撃していた艦娘のもとにつくと、見るからにうなだれていた。

 いくら経験がないとはいえ、弾切れするまで一切攻撃があたらなかったのも相当キているんやろ。

 

「弾がねえのにどうしろってンだよ……」

「ドーブライヴェーチェル。海上屋台支店だよ。屋台と言えばおでんが食べたくなるよ」

「検討するわ。ところでアンタが江風で間違いないな?」

「江風? それが私の名前なンですか?」

「……ふむ、君はどこの鎮守府所属だい?」

「分からねぇ、説明されずここに来てアンタらを攻撃してたンだ」

「…………ほほう。なるほどなるほど」

「なんかわかったんか」

「うーむ、今ここでは話せない、許してくれ」

 

 響は難しい顔になったし、それほど深い問題なんやろな。しゃあないし今の状況を考えよか。江風を無力化して確保したんはええけど、これからどないしようか。

 そう考え始めた矢先、レ級から受け取っていた無線機から通信が入った。

 

『リュッチ、今スグソイツカラ離レロ!』

 

 いつになく慌てた様子のレ級の声が聞こえた。言うてイヤホンしてるウチにしか聞こえてない。

 

「え、どないしたんや急に」

『ソイツノ艤装ニ爆弾ガ仕掛ケラレテル!』

「艤装に爆弾が仕掛けてあるやと!?」

「なンだってぇ!?」

「なんだって!?」

 

 思わず江風の艤装に手を伸ばす。確保されたとなれば起爆シーケンスに入っているかもしれない。艤装の接続を解除すれば間に合うかもしれない。そう願って。

 

 

 

『危険信号感知、MIフィールド展開』

 

 しかし、それよりも早く無機質のようで聞きなれた明石の声が屋台から鳴り響いた。それと同時、屋台のあちこちから白い煙のような何かが吹き出して屋台を覆い始める。

 

「なんやなんや急にぃ!!」

「何が起こってるンですか!?」

「ウチにわかるわけないやろ!!」

「二人とも一旦落ち着こうか。素数だよ、落ち着いて数えるために早見表を作っておくといつでも慌てられるよ」

「こんな状態でボケられても困るでぇ!?」

 

 やがて、霧が屋台を覆うとこの状況を作り出したであろう張本人(明石)の声が屋台柱のスピーカーから鳴る。さっきのもここやったのか。

 

『どーもどーも! 皆さんご存じ"最も龍驤さんに近くて妬ましいランキング"王者の明石です!』

「なんやねんそのランキングゥ!」

『今適当に作りました』

「皆さんご存じなワケあるかァ!!」

『あ、これ録音したのを再生しているだけです。先ほどの発言は不自然ですが、龍驤さんがツッコんでくれると信じてます』

「ウチのツッコミ読みィ!!」

 

 明石が録音した音声を再生しているだけなのになんでこんなウチは疲れるんやろか。パニックが一周周って落ち着いてしまった。

 

『この屋台は龍驤さんを守るために、接続されている状態だとマイナスイオン粒子、略してMI粒子を放出しています。MI粒子が危害を加えそうな信号を感知すると屋台から粒子を一斉に放出させ、信号の伝達をさえぎることができます。他にも無線が通じなくなったりレーダーから映らなくなりますがオマケですね』

「マイナスイオンってなんやろな」

「江風に言われてもわかンねえ」

「マイナスイオンだよ。和製英語だよ」

「そういうことやなくってな」

『まぁでもこのメッセージが流れるという事は、今店内には遠隔起動の何かしらがブロックされたってことですね! ねえどんな気持ち今どんな気持ち!?』

「録音で煽んなや」

『……はぁ、はぁ、録音なのに屈伸煽りしても意味ないですね。疲れました』

「無駄の極みが過ぎるわドアホ」

「わざわざ律儀に突っ込むんだね、龍驤」

『あ、龍驤さんが屋台との接続を切るまではイオンが出続けます。爆弾抱えてたら処理してくださいね。以上録音メッセージは終了です』

「……とりあえず明石んとこ行こか、響」

「ダー。久しぶりの鎮守府だよ」

「江風はどうすりゃいいンですか?」

「とりあえずこのまま席に座っとれ……うわマジや、アイツに通信繋がらへんわ」

「マイナスイオンってなンですか?」

「ホンマなんなんやろな」

 

 明石ならたぶん何とかしてくれるやろ。それにしてもこの艦娘……これからどないしようか。

 自身がどこ所属かわからず、あげく、自分の名前すらもわからなかったんやからなぁ。たぶんやけど、保護したのがウチになるからウチが面倒見んとアカンのやろなぁ。

 

 

☆ 

 

 

 無線機がフッと切れる。リュッチに切られたのだろうか、すぐに通信しようとするが反応がない。

 

 

「…………」

「ハハハハハッ! これで貴様の仲間は海の藻屑だぁ! 残念だったなぁ、深海棲艦!!」

「…………」

「人間ってのは欲汚ねぇ生き物なんだよ! 買収に応じないあいつらもそうなんだ。お前は人間ってやつをわかっちゃいねえ! あいつらは便利なお前を利用しているだけなんだ!」

「…………」

「なぁ、お前は金が欲しいんだろ? わざわざ高級食材取ってきてそれをあいつらの魚市場で売りさばいている! あそこだけじゃなくいろんなところで売りさばけば更なるお金が手に入ったんだ!」

「…………」

「それを俺たちが手伝うって言ったのに断った! 今爆発したお前の仲間はその代償だよ! ハハハハッ!!」

「……自爆装置ニ、所属ト自身ノ判別不可能ナ記憶処理。裏ガ確定シタヨ。アリガトウ」

「は?」

「イヤハヤ、残ルハ証拠ダケドモ、現行犯ジャナイ限リ難シイナー。ア、タカガ組織ノ一員デアル君ニハ……イヤ、組織ニ関係ナイ話ダネ」

「ハッ、意味が分からないことをごちゃごちゃと」

 

 他の密猟者は皆沈んだ。残るはこのギャーギャー喚くコイツだけだ。起爆装置を握りしめているそいつの襟を尻尾で加えて持ち上げる。

 これから沈むだろう彼の表情は勝ち誇った笑みのままだ。恐怖なんてものは感じられない。つまらん。

 

「オ前達コソ、深海棲艦ヲ何モ分カッチャイナイ」

「冥土の土産にぜひとも聞かせてくれっ!!」

「ドッカニ無線機繋イデル人間ニ聞カセルワケネーダロバーカ、沈メ」

「ごふぇっ」

 

 最後の1人が海に沈んでいったのを見、周囲に誰も残っていないことを確認した私はぼそりとつぶやく。

 

  

「コレハレッチャンノ身の上話ナンダガナ……」

 

 ()()ハ金ナンテイラネエ。帰ル場所ガ欲シカッタダケヨ。受ケ入レテクレタダケデ十分ナンダワ。

 

 

 

 

 

 

 横須賀鎮守府工廠。途中で勘が発動した響が例の海域に戻ったので、ウチが屋台引いて鎮守府に到着。

 現在、MI粒子を振りまいている屋台付近で、江風の記憶処理と爆弾解体が明石の手により進められている。明石の手により常時放出モードに切り替えたことで接続し続ける必要のなくなったウチは岸壁に立って海を見続けていた。響は大丈夫やろか……。

 勘が働いてる時の響は大丈夫や。問題は勘が退勤した後。いつもの響になってまうんよ、ウチはそこがどうも心配や。そんなことを考えながら佇んでいると、無線機から通信が入った。遮断されててすっかり忘れてたわ。

 

『ザザザーッ、リュッチーザザッ、ドンナザザッ、感ジデッシャロカー、ザザッ、応答セヨーザザザッ』

「わざわざ声でノイズ再現せんでよいわ」

『ザーッ、ザザザッ、ザッザザザー!!』

「せめて言葉を話そか」

『ソノ様子ダト無事ミタイダナ、ドウヤッタカ知ランーケードー』

「ウチもよう分からんねん。せやけど、感謝したくないやつに感謝せなアカンのが苦痛や」

『ツンデレサンヨナ。ツインテハツンデレニ限ルゼ全クヨォ』

「いやアイツが調子乗るとロクでもないことになるからなんやけどな……」

『……リュッチ』

「お、なんや急に」

『アノ時逃ガシテクレテアリガトウ、オカゲデ今ノ私達ガココニイル』

「どういうことや? そもそもウチ現役時代にレ級を逃がしたどころか戦ったことないで」

『アルヨ、貴様ガ覚エテナイダケダズェ』

「アンタみたいなぶっ壊れ深海棲艦やったら覚えてるはずなんやけどな……まぁええか」

『今ハ昔ダカラナー、ハッハー!!』

「そか。で、江風は」

『ソチニ任セルデオジャル。ワタクシハトットト帰リマシテヨ。サラダバー100人前』

「ワケ分からん言葉で締めるのやめてくれへん……? あ、切れてるわ」

 

 過去にウチが戦ったことがある……?

 深海棲艦を撃沈まで持っていけなかったことは多々あるけど、あんなぶっ壊れが敵におったら刺し違えても沈めるで?

 いったいどういうことやろか。

 

 

 

 

 

「……なぜ貴様がここにいる?」

「契約違反だって? 私はただ頼まれた通り"密漁者を捕まえているだけ"に過ぎないのだが?」

「話が違うぞっ、お前は協力者じゃなかったのか!?」

「私はいつから犯罪者の協力者になっていたんだい?」

「くそッ、化け物めッ!!」

「密漁と盗難を繰り返す君たちの方が化け物だよ。さて、出頭の時間だ。言い残すことはあるかい? 30秒当たり78円だよ」

「国際電話かッ!!」

 

 

 





続きはまた夢を見たくなったら書くでち。


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11話


 え? もう覚えてへんって? 今すぐ読み直してこいや。
 安心せえウチも忘れてる。



 

 

 あれから数日後。夜明け頃。朝日が昇り始めた開店前のウチの店に、いつもの客メンツに加えて新顔が一人増えていた。

 本来はゴーヤにだけ紹介するつもりだったのが、早番である青葉とテンションが妙に高い明石もついてきた。ついてくんな。

 

「紹介するで、新入りの江風や」

「よろしく頼ンます!」

「元気があってよろしいでち」

 

 元々いた鎮守府において、解体済み扱いされているために帰る場所のない江風を店員第一号として雇うことになってもうて。

 鎮守府で匿えられればよかったのだが、現在の軍紀では艦娘の管理が非常に徹底されており、"いつの間にか増えました"が通る世界ではなくなっており不可能である。解体済みはある意味抜け道。

 そこで江風の受け入れ先として候補に挙がったのがウチの店である。鉄板屋「龍驤」は引退した艦娘が経営してるってだけで鎮守府ではないから受け入れられるっちゅうことやねん。

 まぁウチとしても話が来た時点で覚悟はしとったからええんやけど。問題はカウンター席でぴーちくぱーちく騒ぐ客共である。

 

「龍驤さぁぁん! 弟子は作らないって私の前で誓ったじゃないですかぁぁ!!」

「言うたけど誓ってへんしコイツは弟子ないで明石」

「でも実質弟子ですよね? これはもう仕事放って新聞書くしかありませ」

「江風最初の仕事やこのクズを鎮守府の古鷹のところへ連れてけや手段は一任するで」

「わかりましたァ!」

「ハッ、たかが知れてる練度の駆逐艦が横須賀の古株たるこの青葉に対し何ができるというんですか」

「ゴーヤパイセンよろしくお願いしまァス!」

「請け負ったでち」

「それは禁じ手ですっていや待ってそんなおっきな魚雷入らないですよゴーヤ先輩ワレアオバですワレア"オ"ア"ア"ア"ア"ア"!!!!!」

 

 

 

 

 

 ゴーヤが腹パンならぬ腹魚雷で気絶させた青葉を引きずり、ついでに明石を追い出し開店準備に取り掛かる。テンション高い様子見るに徹夜しとったから放るとカウンターで爆睡しかねない。ワレの部屋で寝ろや。

 今まではウチひとりでやってたけど今後は江風とやらなアカン。指示を出す頭も動かさねばならない。

 

「龍驤さン、これからどこへ行くンで?」

「まずは買い出しや、近場の魚市場にいこか。運転はウチやけどそのうち任せるかもしれんから道は覚えとき」

「了解しましたァ!」

「ああそうやあと一つ言わなアカンことがあった」

「なンでしょうか?」

「魚市場では一切の常識を捨てるんや」

「どういうことですか龍驤さァン!?」

「話すより見たほうが早いな、習うより慣れろや」

「使い方間違えてまセン?」

 

 とりあえずシートベルト締めろやと江風に注意して軽トラのキーをまわしていつもの魚市場へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 到着しましたヤツの出没する魚市場。

 中に入り真っ先に目に付いたのはヤツとは違う銀髪の少女。そこそこ年の行った漁師からなにやら魚の入ったバケツを押し付けられている様子。

 

「いいから持ってけ響ちゃん」

「いやこんなに食べられないのだが……」

「だってあのクソ泥棒共を海の藻屑にしてやったんだろ? 俺らからしたらこのくらい安いもんだ!」

「いや沈めてはいないし価格の問題でもないのだが……」

「ウチの知らぬ間に仲良くなりおってまぁ」

「ちょっと待ってください龍驤さン」

「なんや」

「あそこにおられる方は今もなお現役の生ける伝説駆逐艦響ですかね?」

「生けるポンコツ方向音痴の間違いやないの?」

「ひどいいいようだね、龍驤」

 

 結局ワカメを受け取ってしまった響がこちらへとやってきた。

 バケツにはワカメが大量に入っていた。艦娘パゥワーでごまかしてるとはいえかなり重いだろう。

 

「ちゅうかあの時屋台にいた響やで、見覚えはあるやろ?」

「なンと言いますか今初めてきづいたンですよ」

「仕方ないさ龍驤、あの時の江風はいっぱいいっぱいだったんだ。私は気にしないよ」

 

 

 それはそうとその大量のワカメどうするん? と聞こうとしたところにヤツのうれしそうな声が聞こえてきた。

 

「ア! リュッチダー! オーイ!!」

 

 レ級が手を振りながら勢いよく走ってきて察した。笑顔でゆるやかに手を振るハイタッチしたげな上半身と比べ、下半身は力強く踏み込んでいる。この走り方は駆け寄るような走り方ではなく、何かの予備動作であると。

 艦娘であったころの経験が騒ぐ。この構えはドロップキックの構え――いや待てどんな経験したんやウチ。とりあえずウチもハイタッチの構えを取り、同時に回避しようとレ級の動きに集中する。

 

「ワイワイヘッヘー!?」

「甘い」

 

 ウチのところにたどり着く寸前で跳ねるレ級。その瞬間半歩右にずれるウチ。レ級のドロップキックは悲しくも宙を切り、そのままビターンと地面に激突した。

 

「貴様が最近の流行に便乗することくらいお見通しや」

「マサカ、レッチャンノネタノ提供元ガ割レタダト?」

「いや嘘や。そんな気がしたから避けただけやな……というか流行なんかソレ」

「流行リ間違イナク流行リ」

「ええ怖……」

 

 そして江風の方を向くと案の定固まっていた。常識の一切を捨てろって言うたのに、いやこれはウチが毒されすぎか。

 

「放心シチャッテルヨドウシテクレンノサ龍驤サン」

「間違いなくお前のせいやろが」

「ビッキチャンハスグ適応シタッテイウノニ」

「例外やで?」

「あれを適応というのか?」

「チナミニ龍驤ハ瞬ク間ニ艦載機全展開シテタゾ」

「マジか」

「ナゼニリュッチガ驚ク」

「いやそらウチにそこまでした記憶がないから無意識でやってたっちゅうことやからな」

「できても不思議じゃないな」

「ワチキ実際ニ見タモン」

 

 ぶりっ子ぶるレ級を余所目に江風を見てみるとなにやらぶつぶつつぶやいていた。

 

「え、レ級、え? 深海棲艦? なンで? 江風ここで沈むンで?」

「海鮮ノ海ニ沈メタルサカイ先制雷撃ジャイ!」

 

 レ級が江風の口にワカメを突っ込む。突っ込まれた江風は静かに咀嚼そして飲み込む。

 

「なンと言うか思ったより弾力がある」

「フム、良好ダナ……生ノ時期ハ生ニ限ル」

「しかし驚くほどに味がないなー」

「食卓ニ米トワカメシカ並ベラレナイ地獄ヲ知ッタ上デホザクカ貴様! マヨ醤油デ米進メナアカンノヤゾ!!」

「なンといいますかすンませン」

「知ッテルカ貴様。ワカメハ買ウモノデハナイ、貰ウモノナノダ、腐ルホドナ。ヨク覚エテオケ」

「わかりました胸に刻ンでおきます」

「刻むほどのことでもないと思うんやけど」

「龍驤これを見ても同じ事を言えるかい? 実はあと1つあるんだ」

「すまんかった」

 

「そういや聞きそびれたんやけど響はなんでここにおんねん」

「事後処理だよ。詳しいことは言えないよ」

「真実ハ昨日魚市場デ酔イツブレタビッキーヲ保護シタカラダゾ、嘘ツクナコノオマヌケメ」

「ああ、そうだね、そういうことにしておこうか」

「本当かウソか分からん話にせんでもらえる?」

 

 

 

 

 

 鉄板屋へと帰宅。響からバケツワカメを渡されるのを拒否してタコのおっちゃんのところに行ったらバケツワカメをオマケでプレゼントされた。青葉に食わせるか。

 

「んでなんであんたらまで来てるんや」

「ヤル事全部終ワッテ暇ダカラ」

「次の任務待ちで暇だからだよ」

「いやバケツワカメ3つになってもうたけどどうするんこれ」

「地獄ノワカメオンリーシャブシャブ」

「味噌汁」

「あれこれ江風も提案する奴かい?」

「まずは鎮守府におすそ分けする、むしろせんとアカンな」

「輸送なら島風にお任せー! だって速いもん!」

  

 突如店の扉が開き、"スーパーCEO"と書かれたTシャツとジャージを来たどこぞの社長である島風が現れた。

 

「なんでおんねん貴様」

「だって速いから」

「理由になってへんよ?」

「コレニハ訳ガアルンダリュッチ」

「ほう聞かせてもらおうやないの」

「ワテクシガ商談デ社長ヲ呼ンダノヨ」

「島風呼ばれました!」

「ソシタラココデ話シタイト帰ッテキタモンデ」

「だって島風速いもん!」

「ソレ言えば大概のこと許されるって思ってへんかワレ」

 

 レ級って島風と接点あったんかという驚愕を他所に島風はレ級の隣に座る。

 ちらっと響の方を見てみるとウチと同じような顔をしていた。そりゃあ追ってた奴が仲間の知り合いだってわかったらそうなるか。

 

「商売上のお付き合いがあるからね! 早速だけど本題に入るよレッチャン!」

「さらっと思考を読むんやない」

「アイヤ待タレイコイツガ漁獲量ヲ纏メタ書類デヤンス」

「ほうほうなるほど見せてもらうね」

 

 そこそこ厚い書類の束をばらばらーとめくっていく島風。それ確認できてるん……って聞くと"だって速いから"って帰ってきそうだから茶化すのはやめておいた。

 確かに思考の回転は速いし動体視力も現役時は鎮守府2位だったし、不可能ではないかもしれんな。ちなみに堂々の1位はゴーヤである。

 

「ついていけない、助けてくれ龍驤」

「江風でも分かるレベルの伝説の艦娘が2人もいるなンて……」

「私たちを伝説というなら目の前の龍驤だってその枠だよ?」

「…………まさかあの立場なんて関係ない軽空母で有名なあの?」

「いやそれは初耳だな」

「ちょっち待て江風その話詳しく教えろや店長命令」

「"適材適所、全ての艦娘には役割がある"っていう言葉がありまして、単純に生かしきれていない貴様が悪いって視察先のよろしくない提督の襟掴んでいい放っ」

「青葉ァァァア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!」

 

 そのとき、ウチの中で何かがキレた。

 

「一瞬で青葉が犯人って分かってるねアレ」

「そういえば龍驤そんなことやらかしてたねー」

「ということは本物なンすか……」

「普通ニヤバナイ?」

「龍驤以外だったら許されない案件だったねアレは」

「龍田も許されそうじゃないか?」

「ああ確かに許されそう……というかあのときにやってなかった? ほら、視察に来たときの」

「そういえばやっていたね、気絶させられて前後の記憶が吹き飛んでたらしいよ」

「いったいどうなってンすか伝説組……」

 

 

☆ 

 

 

 

「敵艦見ゆ! 鉄板屋方面から"鬼"が来ています!!」

「誰だアイツをキレさせたド阿呆は!!」

「提督! 青葉の姿が見当たりません!」

「やっぱりアイツかこんちくしょうもう腹くくるしかねえ!!」

「司令官! これはいったい何の騒ぎ」

「いい所に来たな伝説と演習するいい機会だぞお前ら全力で当たって砕けて来い!!」

「やっぱり砕ける前提なんですね!?」

「第一艦隊から第三艦隊は至急出撃、鉄板屋方面から来る"鬼"にあたれ! 第四艦隊及び古鷹は青葉の捜索をしろ! 他の全艦娘は見て学べ! 全てだ!!」

「青葉発見しました! 現在太平洋に逃走中!!」

「第四艦隊は青葉確保に出撃! 手段は問わん、どうせアイツ沈まないから多少痛めつけてもかまわん!」

「え!? 轟沈させてしまったらどうするんですか!?」

「"鬼"が本気出しても中破で済ますような奴だぞ!? どうせ応急修理要員勝手に持ち出してるから安心しろ!」

「ゴーヤさんと連絡取れました、現在地オリョールです!!」

「全艦隊出撃準備できました提督!!」

「いいかお前らゴーヤが帰ってくるか青葉を捕まえるまでの辛抱だ! 深海棲鬼が笑えるレベルの辛い戦闘になると思うが鎮守府を守るためだ! 気張っていけ!」

 

 

 その日、横須賀鎮守府を襲った"鬼"による襲撃は、オリョールを廻る者が引きずりながら連れてきた小破状態の戦犯に全力の重い一撃を入れたことで収束。

 横須賀鎮守府の被害は戦犯が沈んでないのが不思議といえるレベルの大破、その他交戦した艦娘全てが小破という結果に。

 MVPである戦艦の艦娘は「比叡が"龍さんは近接戦闘仕掛けた時が最も恐ろしいですよ"って言ってたのは本当だったんだネー」と涙をこぼしていた。

 

 余談だが、戦犯の確保に向かった第四艦隊の艦娘は口をそろえてこう語る。

 

「そりゃあ"鬼"からあんな殴られ方してたらタフくなりますって。小破させたのもゴーヤさんですし、私たちは何もできませんでした」と。

 

 





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