戦国エンブレム (公家麻呂)
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00話 主人公によるあらすじの話

やぁ…ぼくは、織田信雄だよ。

 

まぁ…なんと言うか転生者だった。

 

日本は織田幕府で安泰だよ。

ラストのあれを何とかすれば、こうなる運命だったよ。

 

独断で伊賀攻めしなきゃあ不当な評価は受けないことは解ってたし…基本何もしてなかった。

 

清州城や安濃津城をうろうろしてただけだな。

 

ん?現代知識を生かしてなんちゃらってやつか?

まぁ、一応やってないわけじゃないか。領民の副業として養蚕業推奨した。

推奨したわけじゃあないが、木綿も気が付いたら基幹産業になってたな。

あと、麻布もあるといいかなって思って、雑草的な扱いでそこらへんに麻植物ばら撒かせた自生した。牧畜関係の品目に羊(輸入品)を入れといた。

 

俺のベットを作るために、全体的に領地経営はふわふわさせといた。うまくいったような気がする。

 

本能寺の変は起きてない。

甲州征伐のおり、光秀の骨折り発言の時。切れかけた親父に、「それ、言葉の綾だぞ。」と言ってしまった為に、俺が凹されて半殺しにされた。実際顔は凹の形になってたし…。

 

あの時はマジで、俺が本能寺してやろうかと思ったけど。やめた、親殺しは世間体良くないし、そんな勇気ないしな。

 

ちなみに、天正伊賀の乱は起きてない。

あれ俺の失敗談代表みたいなやつだし、伊賀と戦うって無理ゲーな気がするもん。

だから、長い時間かけて懐柔する方向にしたよ。

だから、まあ反織田な空気もあるけど親織田もいて、目につかない程度の対立風な関係だったから伊賀攻めは起きてない。

 

その、あとからかな光秀が俺に懐いてきたのは…。

光秀は、親父にパワハラ食らってたし出世レースから自ら降りたってのもあるんだろうな。

ある程度、重臣だし。

饗応役になった時は、俺のアドバイス「味噌入り、砂糖増しましで」を真に受けて乗り切った。

 

こうなると、仮想戦記でよくある秀吉と家康の反乱だけど。

まあ、起きなかった。

 

秀吉は親父に心酔してたし、以前俺が言った「お前、実子こさえた方がいいんじゃね?家継んは養子より実子だろ?」発言が利いたのか。仕事してるとき以外は一日中女とやっているらしい。猿だけに…。

家康は、毎日天ぷら食ってたからメタボで死んだ。

あの時代に衣付きの天ぷら教えたのは不味かったか。

 

そんなこんなで、1582から数年で天下統一。

いやー、安泰ですわ。

 

 

で、ここが過去の日本だと思うだろ?

パラレルワールドなんだなぁ。

 

 

安土城で大評定が開かれるわけですよ。太閤立志伝みたいなの。

 

で、隠居した親父に代わって兄貴が言うわけですよ。

 

「エレブ大陸に行って貿易と外交して来い。」(超意訳)

 

地球じゃないんだなぁ。

ファイアーエムブレムの世界なんだなぁ…。

 

 

いざ、行かん剣と魔法の世界へ~。

 

清州帰って寝てたい。

 

 



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01話 最初の敵は山賊か海賊が基本。

 

そんなこんなで、エレブ大陸へ~。

 

織田幕府の船は、ファンタジー世界だけあって安宅船って言うわけじゃないんだ。

明とか清とか使ってそうなジャンク船だったよ。

完全な帆船じゃないのが、東洋のアイデンティティを主張してるよ。

 

この旅のパーティーは俺、織田家当主信忠の弟、織田中納言信雄を中心にして、明智光秀、津川義冬、土方雄久。後はモブ!!

クラスは独自色が強くて、俺は御一門大名(ロードっぽい)ってクラスらしい。光秀は銃騎馬武将(たぶん遊牧騎兵の亜種か?)。津川は弓騎馬武将(たぶん遊牧騎兵)だ。

光秀は大名から銃騎馬武将へクラスチェンジしたらしい。

ランクダウンとか言うと光秀はすごい嫌そうな顔をするから言ってはいけないぞ。

まさに、本能寺を焼く奴はこんな顔をしてるんだってくらいに、嫌そうな顔をするぜ。

土方は騎馬武将(たぶんパラディン)って言う役職らしい。

ちなみに俺たち全員上位職だ。

ジェイガンでないことを祈る…。

後は下位職のモブたちだが、騎馬侍(たぶんソシアルナイト)が3人、弓騎馬侍が2人、御徒侍(たぶん傭兵)が3人、足軽(ソルジャーだよな)が10人、雑兵(村人な感じがする)が8人、荷駄隊(輸送隊)が8人の大所帯だ。

 

なんで荷駄隊が8人もいるのかって?

征夷大将軍(王様)である兄貴の弟である俺は王族だからな、王族には王族らしい荷物の量があるらしい。光秀と義冬が言ってた。

 

 

 

なんだかんだで、船はリキア同盟領のラグナ侯爵領のイガル港に到着だ。

到着だ。

到着だったんだけど…。

 

「ヒャッハー!」「ヒャッハー!」

 

海から海賊、山から山賊がわいてきた。

 

 

 

初っ端から、族に襲われるって…。

もはや、入国の儀式ですか?

 

「あれは、ラグナ侯爵領に巣食うウジムシ山賊団とフナムシ海賊団ですな。ラグナ侯も随分と手を焼いているようですぞ。」

 

義冬が、指さして説明する。

 

「おや?イガル港の守備兵が出てきましたよ。面倒ごとは避けれそうだ。」

 

雄久は傍観するつもりのようだ。

 

 

 

「港から族を追い払うぞ!!」

 

守備兵のソルジャーが、山賊に攻撃を仕掛ける。

 

「ガハハ!この山賊の頭領ウジムシ様に、こんな攻撃が利くかよ!」

 

ウジムシの反撃、ソルジャーは死んでしまった。

 

「「「た、隊長―!?」」」

 

守備兵のソルジャー改め、守備隊長のソルジャーは死んでしまった。

 

「野郎ども!!やっちまえ!!」

 

守備隊不利の状態で戦闘が始まった。

 

 

 

自軍以外の味方って弱いのばっかりだしなぁ。

無名のソルジャーなんてゴミとかカスだもんなぁ。

 

 

「信雄様、我々も加わった方がいいのではないですか?」

 

光秀が俺に問うてくる。

一面ボスが二人いるって言うのは、なんだかなぁって思うけれど。

まぁ、やるしかないか。

 

「信雄様、敵は海側に海賊が、陸側には山賊がいます。とるべき策は2つ、船に籠っての籠城か。打って出るかです。」

 

 

「打って出るしかないんじゃないかなぁ…。」

さっきから、守備隊のソルジャーたちが悲壮な視線を送ってくるの…。見捨てたら化けて出そう。

 

「さすがは大殿の御子息、上様の弟君。天下にその勇名を轟かせんとするわけですな。」

「…いや、違うんだけど。」

「いえ、皆まで仰らずとも…この光秀、理解していますとも!!兄君を立てておられるのですな。」

 

なんなのこいつ、こいつは俺と会話をしていない。こいつの中の俺と会話していやがる。

 

「さすがは信雄様…、仔細、この光秀にお任せあれ。」

「お、おぉ…頼んだ。」

 

まぁ、こいつに任せときゃ間違いないってのは事実だし、任せるか。

 

「津川殿と土方殿は騎馬隊を率いて山賊どもの相手を!残りは私について海賊どもの相手をするぞ!!」

 

「任されよ!」「承った。」

 

光秀の言葉に、義冬と雄久は力強く答える。

 

「行くぞ!!」

「「「「「「おぉおおおおお!!」」」」」」

 

光秀の掛け声と共に兵たちは飛び出していった。

 

え!?俺は!?何も指示されてないんだけど!?どうすればいいの!?

 

 

 



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02話 他人の恋バナは苦行、特に男には

賊狩りは、船の甲板で置いてけぼりを食らって、おたおたしている間に光秀たちが族の頭領ウジムシとフナムシを討ち取っていた。

 

 

「ありがとうございます。おかげで町は救われました。」

 

港町の町長からは、定型文な礼の言葉を受ける。

自分は何もしていないので、気持ち的には非常にもどかしい。

部下の手柄は上司の手柄とも言うし、もやもやする必要はないんだが、やはりもどかしい。

 

「う、うむ。当たり前のことをしたまでだ。」

 

う~ん、背筋がかゆい。

背後で、誇らしげにしている光秀…。

一応言っておくが、君の手柄なんだよ?

 

町の役人がやって来て、ラグナ領軍の到着を知らせる。

5騎のソシアルナイトと、10人のソルジャーと5人のアーチャー、20人の雑兵を率いてやってきた。

ソシアルナイトの一人が馬から降りて、私のもとにやってくる。

 

「賊討伐の協力に感謝します。ラグナ侯爵に代わりお礼申し上げます。」

「う、うむ。」

 

いやぁ、もやもやする。

 

「清州領主織田候、これよりは我々がラグナ候城へご案内します。」

 

そうか、彼らは賊討伐の軍じゃないのか

そういえば、後ろの方の雑兵は賊出現の知らせを受けて途中の村々で徴兵したのだろう。

やる気のなさを感じる。

ちなみに我々が連れている雑兵は、ちゃんと給金を払っているし有事以外は世話役の様な者だ。兵士としての給金と世話人としての給金両方をもらえる訳だし、うちの雑兵はやる気に満ち溢れているわけじゃないが、やる気がないわけでもない。

そう言った意味でも、ラグナ領軍の雑兵よりは上だ。

 

ちょっとした優越感。

 

おっと、悦にひっている間にラグナ候城に着いたようだ。

小姓の少年が馬車の扉を開ける。

ラグナ領の使用人が開けるのか、うちの小姓が開けるのか少し気になったが、うちの小姓が開けることになっていたようだ。

 

ラグナ候の使用人、初老の執事が丁寧な挨拶をして我々を城内の客間に案内した。

 

ラグナ侯爵ドバノンとその妻及び娘と会席を設けられた。

ステーキやローストビーフ、サーモンマリネとかそう言った料理が出される。

うまいな、肉は牛に限る。

 

そうか、ドバノン殿の奥さんはイリアの天馬騎士なのか。

イリアの騎士と言えば傭兵なのでしょう?お二人のなれそめは?

 

両軍の騎士として雇ったのですか。ほぅ…それはそれは。

 

いやはや、なんと。

うーむ、それはそれは。

 

 

…あー……うん………えぇ…………あ、はい……………。

 

とりあえず、人との恋バナなんて聞くべきじゃない。

特に自分と接点のない人間なんて、自分に関係ないのだから…。

序盤こそ、楽しく聞かせてもらったが中盤以降は飽きる。

つまらない、おい娘さんが飽きて寝てしまってるぞ?

 

「おや、娘さんはお疲れの様だ。」

「これは失礼。」

「今日のところは、ひとまず。」

 

ドバノン候の娘さん。セルディア姫ナイスだ!よく寝てくれた!

これで、興味のない他人のコイバナから解放される。

侯爵との交易関連の交渉は、光秀か義冬にやらせようかな。

これ以上恋バナは聞きたくない。独り身の俺にはな!辛いんだよ!思いのほか!

 

となると、明日はどうするか?

侯爵夫人と会うか?

いや、それだと旦那の仕事中に人妻に迫る間男みたいで何か嫌だ。

じゃあ、娘さん?一桁前半の子供を相手にして何が楽しい?私はロリコンじゃない。そう言うのは柴田殿の担当(超失礼)だ。

 

では、どうする。

部屋で仮病を使ってだらだらしよう。

光秀、あとは頼んだ。

俺は、寝る。たまに酒を飲む。

あ、違った。

私は深謀遠慮の考えの末、光秀にこの交渉を任せることを最良と判断したのだ。

うむ、その通り!間違いない!

 

 

 



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03話 タニア領にて、特になし

 

ラグナ領と一応の外交交渉を済ませ、関税協定なんかを結んで次の行先へ行くわけだ。

確か次の行先は、えーとタニア領だったか。

 

移動は馬車だな、籠を使ってもよいのだが、馬車に比べると見栄えが悪いような気がするし、馬車の方が早い。というか、この人数で籠を使った大名行列しても、パッとしないしなぁ。

やれと言われればやるけど…。やれと言う奴もいないからな。

 

そして、現れる山賊。

 

「げへへへへ、命が惜しければ金目のもん全部置いて行きな。クソムシ山賊団の名前くらい聞いたことがあるだろ?」

 

何だこいつら?腐ってもこっちは正規軍なんだけど!?

ほぼ同数で挑んでくるとか。バカなんだろうか?

そもそも、村からそんなに離れてないし…。

治安悪すぎないか?無法者多すぎないか?

 

とりあえず、どうにかしないとな。

 

「光秀、山賊どもを蹴散らしてこい。」

「っは、お任せを!!者ども掛かれ!!」

 

輸送隊を残して、兵士たちを率いて進軍していく光秀たち。

輸送隊と小姓に武器を持たせて待機することに…。

なんで、俺のこと置いて行くの?ロードのクラスだよ!?育てろよ俺を!?

ラスボス戦で詰むぞ!?おい!!

 

とにもかくにも、暇だ。

ふむ、近くの民家に山賊が現れたことを知らせるか。

小姓を連れて「すいません。誰かいますか?」

 

「おや?どちら様です?」

「うむ、異国の使節団の者だが、近くに山賊が現れてな。少々危険かと思い知らせて回っているのだ。」

「おお、それはそれは御親切に…よろしければこれを。」

 

信雄は、ニンジンを手に入れた。

 

周辺の民家に声をかけて回る。

 

信雄はニンジンを5本手に入れた。

 

うん、戻ろう。

 

「殿!山賊は片付けましたぞ!!」

「私は、ニンジンを5本手に入れたぞ。」

「は?」

「私は、ニンジンを5本手に入れたぞ!」

「…あ、なるほど!周辺の民家に危機を知らせておられたのですな!!なんと慈悲深い!!」

「う、うむ。」

 

なんで、これで解るんだろう。光秀は優秀だなぁ。

って言うか。今、一瞬「は?」って言ったぞ!?どんな風に脳内で修正加えたんだ?

できれば、私を放置するのをやめてほしいのだがな!!

 

 

「そこの一団!!無事であったか!!ん!?その身なりは倭の者か?となると清州候であらせられるか?」

「うむ、その通りだ。」

 

いかついアーマーナイトと言うかジェネラルか?が駆け寄ってくる。

あんな重そうな鎧着て、よく走れるな。

 

「なんと!?これは失礼した。タニア候護衛隊長のゴルドーと申します。主人も近くにおりますので合流してタニア城までご案内します。」

「頼む。」

 

その後、我々はゴルドー殿に連れられ、タニア候と合流。

タニア城まで通された。

 

 

タニア城でも、領主と会食をして一応の外交交渉を済ませ、関税協定なんかを結ぶ流れだ。

少々気やすいかもしれないが、テラスの方でお茶を飲みながらだ。

 

「ところで、清州候はオスティアへはこの後、どのように?」

 

「旧サンタルス領を抜けてラウス領・トリア領を抜けようかと思ってる。」

 

「ラウス領はやめといたほうがいいですな。ラウス候エリックには悪いうわさが多い。旧キアラン領、トスカナ領を抜けてトリア領に出る形にした方がいいでしょう。」

 

「ラウスはそんなに治安が?」

 

「治安もなきにしもですが、ラウスは15年前リキア同盟の裏切未遂の前科もありましたので若干孤立しているのです。貴国の外交団がラウスに立ち寄ったとなると貴国の今後にも悪い影響が出かねませんよ。」

 

「なるほど、御忠告感謝します。」

 

「もし、貴殿が不快に思わないのであればカートレーまでは我が領の兵で護衛しようと思うのだが?」

 

「それは助かります。」

 

子供がきゃっきゃと騒ぐ声が聞こえる。

視線を向けると、重騎士見習いと思しき少年と品のよさそうな少女が遊んでいるのが見えた。

 

「ご息女ですかな?」

 

「えぇ、身内の贔屓目に見ても将来は美女になるでしょう。将来の嫁ぎ先に貴国から婿を迎えるなど?」

 

この手の奴か…。織田幕府は大陸国家に珍しいものや、大陸で貴重とされる武具なんかを輸出しているので、外交利益で黒字を出している。

資金的に援助が欲しいという切実な理由を持っている者もあるが、そうでなくても婿嫁の候補には上がりやすい。

 

「ティーナ、こっちへ来なさい。清州候にご挨拶を…。」

 

タニア候に呼ばれたティーナ姫は、こちらにやって来て挨拶をしてくれた。

 

「初めまして、清州候様。タニア候が、息女ティーナです。以後お見知りおきくださいませ。」

 

まぁ、でもタニア候のそれは社交辞令的なものだな。

年齢は10行くか行かないかと言ったところ、娘さんを見ていると少々お転婆なようだ。

しかしながら、教育は行き渡っているようできちんと貴族の娘さんだ。

 

「礼儀作法もしっかりとして、聡明そうな娘さんだ。タニア候としても鼻高々でしょうな。」

「っはは。」

「はずかしいですわ。」

 

こういうリップサービスにも対応しきれる当たり、若くても貴族の娘さんだ。

 

「清州候、良ければしばらく、こちらで逗留されては?」

「タニア候、さすがにそれは悪かろう。」

「トスカナ領、ラウス領には使者を出したので、使者が戻るまで滞在なさって欲しい。清州候の仕事の邪魔にならんように使者は馬車ではなく早馬で出しているから、そう長くないはずです。」

 

タニア候は聡明であるな。

ここは招待を受けるべきか…。

 

「では、よろしくお願いしよう。」

 

タニア領では3泊ほどすることに、その3泊で何かあったわけではないので割愛。

その3日でタニア候弟ランウォードとも接点を持つことか出来た。

二人とも聡明な人物であった。今後の外交交渉では、引き継だ誰かが苦労しそうだと、心の中で苦笑した。

 

3日目の夜、タニア候に酒のお誘いを受け。

候の私室へとお邪魔することに、表向きは私的なものだが、表情の細部を見るにそれなりに重要な話の様だ。

その日の夜、秘密協定だなんだの交渉もあるだろうと予想した私は、光秀と義冬を連れてタニア候の指定した小さめのサロンルームへ通される。

やはりと言うべきか。タニア候の他にも候弟ランウォード、タニア領軍宿将ゴルドーが席についていた。

間違いない、きな臭い話だ。

 

「清州候は、最近のベルンの動きはご存知かな?」

「えぇ、それなりには…。」

 

「ベルンでは最近、お家騒動があって先王デズモンドが廃され、長子ゼフィールが戴冠した訳だ。そのゼフィールは最近、軍の更新再編を完了させつつある。」

「正攻法ではないやり方で王位を手に入れたのですから、先王派などと張り合うには軍を掌握するのは当然ではないのかな?」

 

「確かにその通りです。最近は先王派やその他対立派閥の貴族たちの粛清が相次いでいる。それこそ、軍も動いている。」

「そう珍しいことではないでしょう?」

 

タニア候と信雄は問答を繰り返す。

 

「少し引っかかることがありまして、ベルンは最近、国境線があいまいなサカ地方に対して、たびたび国境紛争が繰り返されています。先王や先々王時代の倍です。」

「リキアも狙われていると?ですが、それも珍しいことではないでしょう?」

 

リキアのタニアは織田を戦争に巻き込みたいのか?武器輸出には協力してもいいが…。

 

「えぇ、国家の規模や厚生から見てもエトルリアよりも我々リキアの方が狙われやすいと思いますからね。国境の重なる部分はこちらの方が多い。」

 

私は、光秀と義冬に目配せをする。

タニアはベルンと国境が接している。

そして、この3日で気が付いたがタニアの騎士団はベテラン勢が年齢的に佳境に差し掛かっている。ゴルドー将軍のように上位士官ならばまだしも、前線で戦う一兵卒では困る。

だからこそ、その息子や孫に引き継がせている最中なのだろう。

ベルンが野心を見せているこのタイミングで、ベテランから新兵へ切り替えを行うなど不安であるのかな。

だが、私にできることなど限られているのだけど。

光秀が耳打ちで、「ここは私が」と言ってきたので任せることにした。

 

「我が国としては、オスティア候次第ではありますが、武器やその材料の輸出の用意はあります。我が国の玉鋼などは…」

 

後は光秀と義冬に任せてよいだろう。

タニア候は軍拡に肯定的で、我が国と積極的にかかわろうとしている。

リキア同盟は候の集合体でたくさんの派閥がある。

オスティア候、まぁタニア候もだが、いやエレブ大陸全体に言えることだが、騎士団・兵団は白兵戦主体。ほとんど、うちの織田幕府軍限定と言ってもいいのかもしれないが射撃戦主体の軍の兵装が適合するのだろうか。

 

我が国の日本刀、向こうでは倭刀と呼ばれているのか。

倭刀事体、切れ味はキルソードと対をなす。自分としてはそれ以上と自負する武器だ。

これを輸出するのもありだ。ただ、値が張るのでリキアの一領主ではキツイ出費だ。

となると、原材料の玉鋼。玉鋼はエレブ鋼より軽く、鉄より硬い。両者のいいとこ取りをした存在だ。エレブ鋼より割高だが、倭刀を買うよりは安くつく。

そっちの購入だろうな。

そういえば、うちの軍の主武装は火縄銃だ。親父が、若いころにこれからは銃の時代と織田家の軍は銃の配備が進められた。

銃にはある種のロマンがあるし、火縄銃用の銃剣が開発されて近接戦闘も弱点と呼べるほどではなくなった。優秀な武器なんだよな、でもエレブ大陸では人気がないし、兄貴・親父も売りたがらない。

売り込みに成功すれば莫大な富を生むのに…、なんて思ってた時期もあるが、弱点はまだ存在する。命中精度だ、陸の兵なら横隊で段撃ちで何とでもなるが、飛竜や天馬騎士となるとこれがまた、なかなか当たらない。弓同様特攻なんだが、命中精度がどうしても悪いんだな。

 

 

ん、下らんことを考えていると光秀たちが、タニア候と話を詰めたようだ。

後で、詳細を聞いておこう。

 

あー疲れた。特に何もしてないけど疲れた。寝る。

 

 



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04話 オスティア候領幕府公使館

翌日、我々はタニア領を立つことにした。

我々は旧キアラン候領を、タニア領軍の護衛を受けて通過した。

旧キアラン領は、現在オスティア候の飛び地として直轄管理されていて、旧キアラン軍がオスティア軍として治安維持をしているのだが、タニア候はその辺りもひっくるめて、話をつけていたようで、これと言った問題も無かった。

 

護衛を引き受けてくれたのは、候弟ランウォード殿であった。

ランウォード氏は候ではないが爵位は男爵で、タニア候庇護下の小領主であった。

つまり、どのみちタニア城からウォード城へ戻らなくてはならないので、自分たちが帰るついでに軽く遠征して行こうという感じらしい。

 

「ところで、清州候。ここのキアラン候の話はご存知かな?」

「確か、以前お家騒動で候弟ラングレン派と孫娘リンディス派が爵位継承を争ったとか。」

 

「えぇ、お家騒動の方はリンディス派が勝利したのですがキアラン候が亡くなられると、爵位は継承せずに故郷のサカへ帰っていったそうです。当時のリンディス派の家臣たちは優秀な人物も多く、彼女自身も聡明な人物だっただけに、爵位を継承しなかったのはもったいない話でした。」

 

「ほぅ、我が国にも地位や名声に興味を持たない人物は、たまにいます。私の知る者たちより、どちらかと言えば、サカの遊牧民族の血が貴族の堅苦しさを嫌ったのでしょうな。」

「貴国の地位や名声に拘らない人物とは?」

「代表的なのは宗教者ですな。後は茶人や歌人と言った文化人でしょうか。武芸者は、なんだかんだで我々のような者が囲い込みますので、これには入らないでしょう。」

 

 

ランウォード殿と雑談をしているうちにトスカナ領に着いた。

トスカナ候領でランウォード殿たちの警護が終了する。

オスティア候はタニアの上司に形式上あたるので形式を通せば。度量を示して通過許可ぐらいは下りるそうだが、トスカナは同列なので警戒さえたりなんだでタニア領軍の通過の許可は下りなかったそうだ。

ここで、ランウォード殿たちタニア領軍と別れることになる。

また、トスカナ候領では何もなかった。本当に何もなかったので割愛させてもらう。

 

そして、トスカナ候領を出てトリア候領に入ることになる。

トリア候オルンはオスティア候ヘクトルと従兄弟にあたり、いわゆる一門だ。

我が国も一門は国内の要地か、本領の近くに配されるので、そういうことだろう。

 

そして、恒例ともなってきた侯爵との対談である。

 

「近頃は、ベルンの様子がおかしいとのことでな。従兄上には軍備の強化を言われているのだ。貴国から武器を輸入したいが、相場はいかほどか?」

 

トリア候オルン殿は我が国から武器を輸入することに前向きの様だ。

折角なので、売り込んでおくか。

確か、火打ち式は絶対輸出しないと兄上が言っていたな。

火縄式は非推奨って感じで、交渉権は一応持ってる。

 

「…そうですな。火縄銃は1丁金貨5000が、妥当ですな。日本刀は金貨1400と言ったところでしょうか。」

 

オルンは後ろに控えさせていた財務担当者とこそこそ話し合う。

予想外に高くて引いているな。

銃は数揃えるの無理だろうな。もともと、注目されてないし…。

貴族のおもちゃに1丁と日本刀十数本と言ったところか?

 

「原材料の玉鋼で剣や槍を作るという手もあります。」

 

まぁ、我が国の鍛冶師とエレブの鍛冶師じゃ、玉鋼の扱いに練度の違いがありそうなものだが黙っておこう。

 

「うぅむ…そうなるか。支払いは物ではダメか?」

「ものにもよりますが…。」

 

「赤の宝玉10つと小金塊が2つでどうだ?」

「では、金貨30000枚と等価値と考えましょう。」

 

「もうすこし、何とかならんのか?」

「では、オスティア候の従兄弟でいらっしゃるオルン様ですので、色を付けて金貨35000で考えましょう。」

 

オスティア候の一門だからなぁ…多少色付けて、よくしておいた方が得か。

 

「で、何が入用で?」

「うむ、清州候が仰る様に、玉鋼で従来武器を作ろうかと思っている。我が領としては銃や倭刀は少々割高なのでな。」

 

その方向で収まったか。妥当なところか?

 

「そうですか。詳細の方は光秀に任せているので、後で文官を引き合わせて下さい。」

「あぁ、わかった。」

 

玉鋼製武器はエレブの主武器の鉄製武器や鋼製武器よりも高品質だが、一番の供給先であるリキアでもその充足率は高くない、と言うよりも低い。

 

リキア諸侯の常備軍が玉鋼の武器を配備中と言った程度だ。

それでも多少値の張る玉鋼を購入しているのは、ベルンの軍拡によるところが大きい。

 

通常ならリキアにベルン、ついでにエトルリアにも分け隔てなく売るのだが、ベルンと言う軍事大国がエレブを統一した場合。さらに領土を拡大するために我が国とも戦争する可能性がある。

 

だから、ベルンには武器の輸出はしない方針だ。

だが、売れ行きはあまり良くない。リキアは経済的な理由で、エトルリアはやる気の問題、つまりベルンを仮想敵国として認識していない。むしろ内側の問題があるのだろう。

オスティア候一門のトリア候オルンですら、大量購入ができない時点で日本刀や銃はもちろん玉鋼が高価であるかが解る。

それでも、買いたい人間がいる。少なくても日本製武器の品質は他国より頭二つほど抜きんでているということだ。

 

まあ、そんなことは置いておいてトリア領を抜ければリキアの中心たるオスティア候領だ。

トリア候オルンとの交渉が終わり、トリア領を出発する。

この辺りまでくれば、山賊が現れることはほぼない。

特に名乗りを上げてくるような、ヤバそうな奴らはいない。

無論、海賊もいない。海ないし…、でも極々稀に川とか池みたいなところに自称海賊がいることもあるが、海にいない時点で海賊を名乗るのはどうかと思う。

 

そして、オスティア候領オスティア。リキアの中心地、実質の首都だ。

街壁に囲まれた大きな街だ。

 

一般的な住居もたくさんあるが、商店もたくさんある。

この、街を攻め落とすとなると大変な労力を要しそうだ。

まず、街を覆う外壁。そして、街の中にあるオスティア城。城自体も城壁に囲まれているし、城内もそれなりに複雑だ。

 

オスティアの町の商店で武器以外の者を売ったり買ったりした。

オスティア候にアポを取って後日面会の約束をとって、初日は街の中を観光することにと言っても、特に印象深い人物に会ったわけじゃないので、大した内容はない。

 

「馬ですかい?駄馬なら銀貨2・30でいいですよ?ちゃんとしたのなら金貨払いじゃないと売れませんぜ。」

「どうせ荷運び用ですし駄馬でいいですか?義冬様?」

 

馬屋とモブの文官が交渉し、津川義冬は最終的な判断を下すだけだ。

 

「うむ。駄馬で構わん5頭頂こう。」

 

「では、駄馬を5頭用立ててください。」

「へい!かしこまりました!」

 

 

 

 

「イリア傭兵の雇用相場は、大体そんなものですか。」

 

光秀は宿屋に滞在していたイリアの傭兵隊長から、雇用相場を聞き出しいろいろと考える。

 

「では、天馬騎士の相場は…?………それくらいが相場ですか。」

「よければ、書面で書いてやろうか?」

 

「いいのか?…店主、この者に酒を支払いはこっちでやる。」

「へい!ただいま!」

「で、傭兵隊長殿。遠国への長期雇用の相場なのだが…」

光秀はイリアより傭兵の雇い入れを検討していた。

 

 

土方はよくわからん。使節団の兵の訓練とか、適当な店で適当にやっているだろう。

あいつ、ほぼモブだもん。

 

そして、私。織田信雄であるが、今回はリキアの中心、実質首都のオスティアであるわけで公使館も一応ある。

 

織田幕府の駐在公使阿閉貞大のところで酒を飲んで過ごしていた。

 

「しっかし、最近のリキアは父が生きていたころに比べると弱体化してるね。」

 

阿閉貞大の父、貞征は先代の公使だ。オスティアの駐在公使は親子二代でやっている。

15年前の騒ぎを生で知っている彼には、現状が良くないことを実感しているのだろう。

 

「あー、やはり思うところがあるわけだ。」

「それはもう、大体うやむやにはなってるけどキアランの継承問題やラウスの騒乱もどき、あと眉唾だと思うけど黒い牙が暗躍してたとか。色々、リキア弱体化の要因が多すぎるよ。」

「たしか、ここ20年くらいで3家ぐらいつぶれてたな。え~と、キアラン、サンタクルス、コンウォルだったか。」

「そうそう。でもコンウォルは金銭問題だったな。」

「3つも潰れたのか。その3つはオスティア候領に組み込まれた。オスティア候の中央集権化が進み、残った候は潜在的に警戒し、一枚岩でなくなった。そこへベルンか…。大丈夫なんだろうかこの国?」

「まぁ、ベルンと戦いになったらいくらかは確実に食われるでしょうな。オスティア候を中心に軍備を強化しているようですが、軍拡中のベルンに対抗できるものかと言われれば。無理と言えますな。」

「うぅむ、幕府としては面白くない話だ。」

「そうでしょうな。」

「我が国にとってはベルンの現王ゼフィールも、先王デスモンドも厄介には変わりなかったが、現王ゼフィール…兄上の予想以上に難敵やもしれん。」

 

 



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