歪んだ愛 (とうしついのち)
しおりを挟む

1話

他のキャラも書きたい


 私は走る

 

 乱れる呼吸も

 

 纏わり着く髪の毛も

 

 顎を伝って落ちる汗も

 

 何も気に止めない

 

 

 私は一心不乱にヨークシンの街を駆け抜ける。大通りなため車の交通量は勿論、街行く人々も多いが、そんなものは知ったこっちゃない。

 

 大勢の人達を避けながらも右手に着けている腕時計で時刻を確認すると、短針は1を指し、長針は6の前まできていた。

 

 

 これは不味い。

 これは不味いぞ。

 

 

 大事な事すぎて二回も言っちゃったよ。

 だって完全に遅刻だもん。

 えっ?なに??遅刻した理由??

 そんなのただ一つ。

 

 

 

 寝坊したから。

 

 

 

 いや、違うの。

 お願い、弁解、いや、言い訳させて。

 今日が楽しみだったの。

 楽しみすぎて眠れなかったの。

  

 

 いや、幼稚園児か私!

 

 

 ねぇ待ってお願い私をそんな目で見ないでぇ……

 っていうか取り合えず速く着かないと!!

 

 

 問答無用で指詰められた後に高額な医療費をぶん取られて物乞い生活を送る事になる!!!そんな事させるかぁ!!私の甘~~~い生活は誰にも邪魔させぬぅぁい!!!

 

 

 私は更に足の回転を速め、腕も素早く振る事でスピードを上げる。周りの人々はあまりのスピードに驚いて目を向くか、風圧で舞い上がるスカートを悲鳴をあげながら手で押さえるしかない。やばい。興奮してきた。

 

 

 落ち着け私。

 

 

 ごめんなさい街行くスカートの女性たち。

 そして良かったな、街行く男性たちよ。

 私に感謝したまえ。

 

 

 なんてどうでも良いことを思いながらも足は止まらない。頭の中で地図を広げ、目的地までの最短ルートを作り上げながらそれに沿って走り続ける。

 

 

 目の前の信号を右に曲がり、三個目の十字路を左に、そして四個目の曲がり角を曲がれば────

 

 

 

 

「マチー!!!!」

 

 

 

 

 仲間が待っている

 

 

「大声で人の名前呼ばないでよ」

 

 

 でへへ、怒られちゃった☆

 

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

 

 

 時刻は14時5分。

 私の隣を歩くピンク色の髪で鋭い目付きの女性──

 マチからの『有り難いお話』と指を詰められかけた後に、今回の目的であるお洋服ショッピングをする為のショッピングモールへと向かう。

 

 

「ていうか、なんで私な訳?

 買い物だったらパクやシズクでも良いんじゃない?」

 

 

 その道中にマチが此方をチラリと見ながら、何処か不服そうに言った。

 

 

「あー、確かにそうなんだけどさ……。パクは身長が大きくてモデル体型だから参考に出来ないし、シズクはお洒落に無頓着とまではいかないけど、あんまり興味無いからさー。」

 

 

 そう、あの二人相手では私がしたいようなお洒落とはベクトルや考え方が違うのだ。

 

 

 パクは182cmという高身長に細いウエスト、そして出るべき場所はしっかりと出ているという、その恵まれた体型を意識した着こなし、そして大人っぽい雰囲気の服を好む。

 

 

 ファッションに対する知識もかなり豊富でお洒落番長──もとい、お洒落スケバン(本人の前では絶対に言えない)なのだ。

 

 

 しかしそんな彼女のファッションを私が真似すればどうなるだろうか?

 

 

 身長もあまり高くなく、童顔な私がパクのような格好をしてもそれは『大人になろうと背伸びしている子供』になってしまうのだ。

 

 

 パクの知識量なら私に似合う服を選んでくれるだろうが、それでも人には趣味嗜好というものがある。

 

 

 現に昔、パクに買い物についてきて貰い、服を選んで貰った事があるが、どれも普段私が着ないような服、そして着ても違和感を抱いてしまうよなものばかりだった。

 

 

 可愛い系よりも落ち着いた美人系。

 明るい色合いよりもモノトーン。

 ストリートのダボダボよりもスマートに。

 

 

 うーん……ごめんよ、パク。

 貴女の服装は私には到底着こなす事のできない遠く及ばない次元なんだ………トホホ……。

 

 

 そしてもう一人、シズク。

 彼女は基本ジーンズに黒のロンTを着ていて、あまりお洒落に興味はない。唯一興味を持つのは指輪やイヤリングといった装飾品だろうか?生憎だが私は装飾品には興味がない。あっても腕時計くらいだが、もう持っているので必要ない。

 

 

 そしてパクと同様に彼女も両胸に爆弾を所持している。向こうが核爆弾だとしたら此方は爆竹程度だろう。

 

 

 くぅぅ、悔しいです。

 

 

 まぁね、わたすは胸は大きさよりも形が大事だと思うんですよ。

 

 

 でもシズクの胸って凄いよ。

 形もすごく綺麗。

 あれはね、勝てない。

  

 

 今度絶対揉みしごいたる!

 

 

 いや一体、何の話だよ。

 思いっきり話それちゃったよ。

 

 

 とにかく!

 シズクともあんまり趣味嗜好が合わない!

 ごめんね、シズク。

 

 

「なるほどね。それで私って訳だ」

 

 

 そう。

 そういうことなのですよマチ先生。

 

 

 彼女と私は体型が同じくらいだし、マチのセンスは良い。

 

 服装の趣味嗜好も似ていて、『仕事』以外のプライベートではストリート系の着こなしを彼女はしている。

きっと良い感じに私に似合いそうな服を身繕ってくれると思い、私は彼女に今回のショッピングの話をメールで持ち掛けたのだ。

 

 

 そして二つ返事で答えてくれたマチはやはり優しい。

 何故かメールの返信が4日後にきたけど。

 

 

 行くかいかないかを迷ってたとかじゃないよね??

 まぁ、それでも結果来てくれたんだから良いけどさ。

 

 

 そんな彼女は鋭い目付きや物騒な言動から怖い人という印象が強いが、身内には優しいし歳も近くて相談もしやすい頼れる女性だ。

 

 勘も良く当たるし。

 

 それは関係ないか!ぶわははは!

 いや~~兎に角、ほんとに良い人なんだよ~~!

 

 

「買い物は良いけどさ、あんまり私に近づかないでよ。

 間違って縫っても責任取らないから」

 

 

 前言撤回

 めっちゃくちゃ怖いですこの人。

 いやいやいや、

 いやいやいやいやいや、何言ってるんですか?

 物騒すぎですよマチ先生。

 貴女先生は先生でも、元不良の先生ですか?

 

 恩師と出会い、ぶつかり、そして救われて『今度は私が救う番だ!』っつって悪いことから足洗って先生になることを目指したパターンのやつですか??

 

 

「あ、あの……ひとつ伺いたいことがあるのですが……?」

 

「なに?」

 

「……一体それはどういう事でしょうか?」

 

「言った通りの意味だけど?自分の身は自分で守らないとね」

 

「……ま、ますます言っている事が分かりません」

 

「……どうせあたしに際どい下着や水着を着させようとしてたんだろう?」

 

「……オ、オホ、オホホホ、嫌ですわぁマチさんったら。私がそのような事をするわけないじゃないですか」

「こっち見て言いな」

 

 バ、バレてるぅぅぅ!!!

 厭らしく艶かしい際どいところを攻めたあれやこれやを着させようとしてたのが、バレてるぅぅぅ!!!

 

 な、なんで!?

 バレないように心音を出来る限りでコントロールしたり表情筋や動作にまで気を使ってたのにぃぃ!!!

 

 

「はぁ……。普段通りを意識しすぎて逆にぎこちなくなってる」

「……うぐっ!」

 

「目も血走ってるし」

「……ふぬぅっ!」

 

「頬赤いし」

「……あべしっ!」

 

「どうせあたしに際どい下着を~~らへんから鼻血出てた」

「……ひでぶっ!」

 

「指詰めるよ?」

「誠に申し訳ございませんでした。」

 

 だってマチに着てみて欲しかったんだもん。

 際どい下着や水着。

 

 あ~~あ、超ミニスカート、ホットパンツ、ガーターベルト、マイクロビキニ、その他もろとも遠退いた~!

 

 

「ユリってほんとにその名の通りだね。ジャポンじゃ女性の同性愛の事を百合って呼ぶらしいよ」

 

「へぇ~、そうなんだ。じゃあ私は私の名に誇りを持たなくっちゃね!」

 

 

 ちょっとマチ

 ため息つきながら額を右手で覆わないでよ。いや、ちょっと、なんで項を垂れてるの?

 

 一緒に楽しい百合ライフを送ろうよ!

 

 

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 時刻は18時30分

 

 

 マチに買い物を手伝って貰い、黒と白を基調とした革のハイカットのスニーカーに、黒地で横に白のラインが入ったジャージ、上は白のロング丈のカットソーでマチは私をコーディネートしてくれた。

 

 

 因みにお値段はかなり高額である。

 

 

 靴が高すぎて笑えないよ。

 何故高い良い靴を買ったのか、それはお洒落は足元からという考え方を私とマチがしているから。

 

 確かに安くてもデザイン性に富んだ良い靴もあるが、高くて良い靴を買えば靴が良い場所へと履いてる人を運んで行ってくれるのだ。

 

 

 そしてこの靴はマチが選んだ訳ではなく、私の一目惚れ。無理を言ってマチにこの靴に合いそうな服を選んで貰った。 

 

 

 いや~、にしても完璧。

 靴を最初に買い、そこから全体をコーディネートをしていくのは其なりに大変だと思う。

 

 それに自分では無く他人をコーディネートするのだ。

難易度は高い。

 

 それなのに私が満足いくようなコーディネートをしてのけたマチには尊敬の念を抱くと共に、頭が上がらない。

 

 靴を買った事を後悔はしていないけど……暫くはひもじい生活になりそうだなぁ。

 

 

 

 そう思いながらも目の前でフォークをクルクルと回転させてパスタを巻き付け、それを口へと運ぶマチを見つめる。

 

 

 う~ん……上品だねぇ。

 ただ食事してるだけなのに華やかで、

 そしてどこか色気のようなものを感じるねぇ。

 

 

 良い、良いよぉ、マチちゃん。

 もっとおじさんに全部をさらけ出しちゃおう。

 

 にしても、マチの食事風景をいつまでも見ていたいし、そのプリッとした唇に貪りつきたいよ。それかその綺麗な顎を触ったり、食べ物で少しだけ膨れた頬っぺたをプニプニしたい。

 

 

 ……いや、落ち着こう。

 

 

 唇に貪りつきたいは、はしたないよね。

 そうじゃなくて……もっとこう……上品にだね……

 チュッと触れて唇の感触を楽しむような……

 

 

「ねぇ、食べづらいしさっきから声に出てるんだけど」

 

 

 ハッと思考の海から意識を現実世界に浮上させると、そこには鬼の形相を浮かべながらフォークと私のステーキ用に置いてあるナイフを此方に向けているマチが居た。

 

 

 殺気が痛いです。

 気絶しそう。

 もしかしてオーラも飛ばしてる?

 

 なんか皮膚がピリピリするし、テーブルに置いてある私のグラスが割れたんですけど?

 

 グラスの中身だったオレンジジュースがテーブルに染みを作っちゃってるんですけど??

 

 

「ご、ごめんなさい」

 

 

 冷や汗を垂らしながら頭を下げ、精一杯の謝罪をする。ひぃ……久しぶりにマジな方で怒ってるよぉ……

 

 

「……次は無いよ」

「は、はいっ!!」

 

 

 助かったー!!!

 お慈悲をかけてくださった!!

 ふうぇ……ありがたやぁ……。

 涙が止まらないよぉ……。

 もうこれからは声に出ないように気を使わねばならぬな!

 

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

 

 

 ユリ=ユカミ

 

 

 最初見たときは生気が感じられない子だった。

 感情表現が乏しく、何かする訳でもなくいつも何処かをボーッと眺めていた。

 

 

 一応呼び掛けには反応していたが、呼びかけなければいつまでも同じ場所で虚空を眺めていそうだった。

 

 

 それでも私たちが『幻影旅団』として活動を始めた時は、珍しく興味を示した。

 

 そう仕向けたのは恐らく、パクと団長の仕業だ。

 理由なんか無い、ただの勘だけど。

 

 

 まぁここで大切なのは、ユリが『幻影旅団』の正規メンバーでは無いということ。ユリは非正規メンバーとして私たちをバックアップするような形でサポートに徹してくれている。

 

 

 良い奴だとは思うよ。

 現在では良く笑うようになったし、明るい女の子に成長した。まぁ……どこで同性愛者になったのかは分からないけどね。

 

 

 それはそうと私はユリに聞きたい事がある。

 今回、二人で買い物にいこうと誘われた時は正直乗り気じゃなかった。仮に襲われても撃退できる自信はある。

 

 まぁそんな事、ユリはしないだろう。

 

 

 それでも厭らしい目で見られたり、際どい服を着させられるのはたまったものじゃない。着る気は毛頭ないけどさ。

 

 

 とにかく。

 あたしがユリに視姦されるリスクを背負ってでもここに来たのは───

 

 

「あんた……『系統』が変わったらしいね」

 

 

 これを聞きたかったから。

 

 もし、仮に系統が変わったのだとしたら 

 彼女に何らかの影響があるのではないかと私は思う。

 

 その影響がどんなものかをこの目で見て、

 感じて、

 見極めたかった。

 

 だから私は今日ここまで来た。

 

 もうあの日のようなユリを私は見たくない。

 

 

 ユリはステーキを食べていた手を止め、フォークを置くと私を真っ直ぐに見据える。数度咀嚼し、口の中のステーキを飲み込むと、ウェイターが新しく持ってきたオレンジジュースを一口含み、飲み込んで喉を潤す。

 

 

「まぁね。新しく『誓約』を足したんだ。そしたら出来ることが増えてさ~、水見式してみたら葉が枯れて『特質系』になってた」

 

「へぇ……実際にあるんだ。系統が変わる事って」

 

「うん。激レアパターンだけどね。考え方とかも変わってきたよ。前までは理論的───というよりは屁理屈だけど、今は考えるのが面倒に感じるし、マイペースだったのが最近は他人に合わすようになったかな」

 

「ふぅん……。ねぇ、ユリ……別にそこまでしなくても良いんじゃない?」

 

 

 そこまで言って私はユリから視線を外した。

 今はユリをどうしても正面から見ていられなかった。

 今の彼女には目を当てられない。

 そんな顔しないでよ。

 折角笑えるようになったんだ。

 あんたには笑顔が似合ってる。

 

 さっきみたいな『無理矢理笑う』なんてこと

 しないでよ。

 

 

「確かにあんたと私たちの間には『正規』と『非正規』の壁があるかもしれない。けど、あたし達は仲間だし、皆あんたの事を───」

 

 

「マチ」

 

 

 ユリが私の名を呼ぶ。

 それは私の口を止める程の大きな声ではなく、寧ろ小さくてそこらの雑踏でかき消されてしまう程の声量だった。しかし、そこには有無を言わさぬ何かがあることを私は感じとる。  

 

 私は口をつぐんだ。

 

「……マチはやっぱり優しいね。私の事を心配してくれてる」

 

「……別にそんなんじゃないよ。ただ、あんたに死なれたら夢見が悪いだけだ」

 

「それでも、だよ」

 

「あんたのそういうとこ、大嫌い」

 

「知ってる。何年一緒に過ごしてきたと思ってるの?」

 

 そう言いながらも微笑むユリ

 その微笑みは十数年経って初めて私に魅せるような笑顔だった。それはとても可愛らしく、どこか儚くて消えてしまいそうで思わず見惚れてしまうような───

 

 

「あれ?マチ、ちょっと顔赤いよ?」

「…………うっさい」

「あれ!?あれれれれ!?もしかしてこの私の可憐な笑顔に見惚れちゃったのかなぁ~???」

「うっさい!!!!」

「はひぃっ!ごめんなさい!!」

 

 

 クソ!

 やっぱり来なければ良かった!!

 

 

 苛立ちから私はテーブルに置いてある残り僅かだった水を飲み干した後に、ユリのオレンジジュースに手を伸ばし、中身を一気に飲み干してやった。

 

 

「あぁー!!私のオレンジジュースがあああああ!!!」

 

「あの……お客様、誠に申し訳ございませんが……大きな声でのお話は他のお客様のご迷惑になりますので、ご遠慮ください」

 

「あっ、は、はい。ごめんなさい……。もう!マチのせいで怒られちゃったじゃん」  

 

 

 そう言いながらユリがプリプリ怒りながらも此方を睨み付けているが、知ったこっちゃないね。ざまあみろ

 

 

 

 




靴と上のカットソーのイメージは、
Ri○k Owe○sです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2話※

※閲覧注意
性についての話題になります。




「いっっえーーーーい!!!!」

「煩い」

 

 

 ぶへへへ、怒られちゃった♡

 

 

 でも叫んじゃうのも無理は無いと思うんだよねぇ。

 うんうん。

 だって!!

 だってだって!!!

 

 

 パクの家でお泊まりなんだもん!!!!

 

 

「いっっえーーーー

「次言ったら追い出すわよ」

「はい、ごめんなさい」

 

 

 ぶへへへ、怒られちゃった♡(2回目)

  

 

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 薄暗いとある町外れ。

 街灯はなく、人の気配が全く無い廃ビルに囲まれた地下の一角。そこが今回の仮宿だ。

 

 

 仮宿には4人の姿がある。

 一人は背中に逆十字の刺繍が施された黒のコートを着たオールバックの男。その男は瓦礫に腰かけて本を広げている。

 

 

 そしてその横には頭をチョンマゲにし、着物と足袋を履いた『侍スタイル』の男がいる。

 

 

 そしてその二人から少し離れた場所に、身長の高い女と低い女が居る。身長が高い女は、何処かうんざりしたような様子を見せながらも、身ぶり手振りも交えて一生懸命に話す身長の低い女の話を時おり微笑みながらも聞く。

 

 

「今日はパーティーしないの?」

 

「えぇ。この人数じゃね」

 

「なーんだ。つまんないの」

 

 

 

 そういって身長の低い女はため息を───

 

 ねぇちょっと待って。自分で言っててムカつくんだけど……。なに身長の低い女って?あるわ。身長ちゃんとあるわ。平均的な身長だわ、こちとら。パクが特別大きいだけなんだよ。身長だけじゃなくて胸も。パクと並んでるから何もかもが小さく見えるだけ。別に小さくないもん。

おっ?なんだその目は?やんのか??

 

 

 

「……ちょっとユリ、抱きつかないでちょうだい」

 

 

 あ、やべ。 

 無意識下でパクに抱きついてた。

 

 

 まぁ仕方ないよね、

 だってパクの抱き心地が凄く良いんだもん。腰回りや足には一切余分な脂肪はついておらず、抱きつく事によって見た目以上の細さを実感する。

 

 

 しかし、パクの体で気にするべきところはそこじゃない。

 

 

「っ!!!」

 

 

 ───この胸とお尻だ

 素晴らしい!素晴らしいぞ!!

 胸は綺麗な円を描くダイナマイトお椀型で、ハリ、弾力を感じると共に柔らかい。とてもこの世のものとは思えない。

 

 ていうかパクって仕事の時はノーブラだよねぇ!!!

 抱きついてるだけで感触がしゅごいよぉぉ!!!!

 

 

 そしてパクのその細いウエストから、徐々に膨らんでいくこのお尻のライン!!これはまるで桃だ。桃のように丸い。掌がお尻に吸い付き、そして沈む。弾力も何もかもが私のお尻だとは違う。

 

 

 思わず涎が垂れてパクの胸元が開いたスーツを汚しかけたその時──

 

 

 視界が回転し、背中を固い地面に打ち付ける。あまりに突然の出来事だっため、受け身も録に取ることができず、衝撃で息が詰まった為その場で噎せかえった。

 

 

「おいたが過ぎたわね。

ユリ、何か言い残しておきたい事はあるかしら?」

 

 

 肩で息をし、酸素を取り込みながらも視線をあげると、そこには冷たい目で私を見下すパク───ではなくパクノダ様が居た。

 

 その冷めた目で見下されて、ちょっと興奮してしまっているだなんて口が裂けても言えない。

 

 いや、どうした私。まさかこの短時間でMの才能を開花させてしまったというのか?んもぅ、変態さんなんだからっ☆

 

 

 いやいやいや、何考えてんだ。

 こんなふざけてる場合じゃないぜ。

 なんか言わないと………っ!

 

 

「えっと……最高……でし……た」

 

「そう。それは良かった」

 

 

 私はこれでもそこそこ腕が立つ

 修羅場もいくつかぬけてきた

 そういう者にだけ働く勘がある

 その勘が言ってる

 私はここで

 

 死ぬ 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アーーーーーッ!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

「ここはどこ?私は誰??」

「アホやってねぇーで山分けすんぞ」

 

 痛い!!

 何故か数十分前の記憶が一切無いが、それよりもチョンマゲ男──ノブナガ=ハザマの手刀が痛すぎてどうでも良い。

 

 

 頭部を擦りながらノブナガを睨み付けるが本人はどこ吹く風、気にせずにオールバックの男──クロロのもとへ向かう。

 

 

 クロロは本から此方に向かってくる私たちへと視線をチラリと向けると、本を閉じて立ち上がり、背後にある『財宝』たちへと体を向ける。

 

 

 財宝には既にパクが手をつけており、ダイヤの指輪などを目の前に持っていっては、吟味していた。

 

 

「俺はもう選んだ。後はお前たちが好きにしろ。」

「「了解」」

 

 

 クロロ──もとい、団長は私とノブナガの返事を聞くと踵を返し、手をヒラヒラと振りながら私たちに背を向けて闇に溶けていった。流石と言うべきか、もう団長の気配は感じられず、最初っからこの場に居なかったのではないかと思うほどだ。

  

 

 私は団長が歩いて行った方を眺めていると、ノブナガは財宝の方へと歩いて行き、座り込んだ。

 

 

「にしても仮宿まで持って帰ってくるのが面倒だったな。こういう仕事の時ほどシズクの能力が役立つってぇのによォ……。一体何処で何やってんだか」

 

 ノブナガはそうボヤキながらも丸められた掛け軸へと手を伸ばす。

 

「でもシズクの能力って、最後に吸い込んだ物しか出せないんじゃなかったっけ?」

 

 私も財宝の方へ向かって掘り出し物を探していると、黒色の長方形の箱を見つけた。それを手に取り、上下左右斜め下斜め上といったあらゆる角度から見て、触り、振ったりして中身が何かを推察する。

 

 

 まぁなんにもわかんないんだけどさ。

 気になるから開けちゃえ!

 

 

 私は箱の開け口に指をあてて、ソーッと箱を開けてみる。財宝の中から、こういう中身が何か分からない箱を一気に開けるのは非常に危険だ。念が込められているような感触は無いとはいえ、何が起こるか分からない。警戒しておいて損はないだろう。

 

 

 パカッという小気味良い音と共に箱が少しだけ開いた。

 

 

 

何も起こらない。

 

 

 

 ホッ。

 とりあえず、少しでも開いた瞬間にトラップが発動するようなタイプの箱では無いようだ。これなら一気に開けても大丈夫だろう。中身はネックレスとかかな?

 

『ぶっぶー!!外れだよー!!!』

「うわぁ!!!」

 

 全然大丈夫じゃなかった。

 箱を一気に開けると、中から『ハズレ』という看板を両手に持ったピエロの人形が喋りながら飛び出してきた。背中にはバネが着いており、未だにビヨンビヨンと伸び縮みしている。

 

 

 うぅ……驚きすぎて心臓と尻餅をついた衝撃でお尻が痛い。

 

 

 私は箱をマジマジと見つめ、ビックリしたよ~と笑いながら二人に話しかけようとしたその時。

 

 

 私は愕然とした。

 信じられない。

 あり得ないよ。

 だって、そんな、まさか───

 

 

 

 

「うふ、うふふふ……」

「ぶわはははははっ!!!」

 

 

 

 

 私が二人にハメられたなんて。

 

「ちょ、まさかこの箱……!」

 

 私は右手で口を隠しながら上品に笑うパクと、左手でお腹を抑え、右手で私を指差しながら爆笑しているノブナガを見上げる。

 

「えぇ。私たちが仕組んだのよ」

「こいつは傑作だぜ!まんまと引っ掛かりやがった!!」

 

 そう言いながらもパクは私から顔を背けて肩を震わせているし、ノブナガはお腹を抑えながら地面を何度も叩く。

 

 ぐぅ………。

 なにさなにさ。二人とも私を玩具にしちゃってさ。そんなに笑わなくても良いじゃん。確かに、まんまと引っ掛かって二人の思惑通りの結果になっただろうけどさ。ふーーーんだ。

 

 

「あら?」

「おいおい、拗ねんなよ」

「……別に拗ねてなんかないもん」

 

 

 ……拗ねてなんかないもん。

 体育座りして指で地面を弄ってるけど、別に拗ねてるからこんな事してる訳じゃないもん。

 

 

 視界の端でパクとノブナガが顔を見合わせているのが見える。パクは苦笑いを浮かべ、ノブナガは頭をガシガシと掻き、お手上げだと言わんばかりに両手を上げた。

 

 

 暫くお互いに無言の時間が流れる。

 

 

 廃ビルに囲まれている上に、ここは地下の為、音はほとんどしない。聞こえるのは3人分の微かな呼吸音と私が地面を指でなぞる音だけだ。

 

 しかしそこに新しい音が足された。

 パクのため息とピンヒールの小気味良い音だ。

その音が此方に向かって来て、止まった。

 

 

「仕方ないわね……。ねぇユリ、今晩私の家に泊まりに来ない?」

「……行かない」

「私の手料理も振る舞ってあげるわ」

「むっ………」

「来ると言うならパンケーキも作ってあげるわよ?」

「ほんと!?じゃあ行くー!!」

「単純なこった」

 

 

 なんかノブナガが言ったような気がするけど知ったこっちゃない。パクの手料理はとても美味しいし、パンケーキなんかは絶品。『幻影旅団』辞めて飲食店開いた方が良いんじゃね?それかバー経営した方が良くね??と思うレベルである。

 

 そんなパクの手料理を食べられるんだったら行かない理由は無い。いいよ。認めてやるよ。拗ねてたよ私わ。

私はパクの手料理で釣られました。

 

 うし、行こうか。

 

 

「パク!早く行こうよ!!」

「はいはい。……じゃあね、ノブナガ」

「バイバイノブナガー!」

「おォ、またな」

 

 

 そうして私とパクはノブナガと仮宿に別れを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………まるで嵐だな」

 その呟きが誰かに聞こえる事はなかった

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 私は走る

 

 

 乱れる呼吸も

 

 

 纏わり着く髪の毛も

 

 

 顎を伝って落ちる汗も

 

 

 何も気に止めない

 

 

 

 走りながら気がついた。

 

 念が使えない。

 

 私の身長も縮んでおり、いつもより短い手足を使って必死に走る。服装はズタボロに引き裂かれ、服の役割を果たせていない。辺り一面に光は無く、自分が前を走っているのか、上下左右の感覚すら分からない。

 

 

 後ろをチラリと振り返ると、無数の手が私を捕まえようと迫ってきていた。

 

 

 私は冷や汗を垂らし、過剰に分泌された唾液を飲み込むと、前を向いて更にスピードをあげる。

 

 

 しかし無数の手の伸びる速さは私の走るスピードよりも遥かに速く、どんどん差が縮む。そして遂に私の足を掴むと、私は急に足を掴まれて推進力を失い、前のめりで倒れ込み、地面にぶつかった。

 

 

 それでも這うようにして前に進もうとするが、何かが私の上に覆い被さった。逃げようにも私の足は相手の足でロックされ手で頭を捕まれ身動きが取れない。

 

 

 荒い男性の息遣い───まるで獣のような唸り声と共に胸を触られる。

 

 

 そこには此方を気持ち良くさせようとするような意思は感じられず、ただただ己の欲求を満たすためだけの行為だった。

 

 

 やがてその手は胸から下に降りていき、おへそを経て股へと手が伸びた。嫌悪感から私はもがくが、今の縮んだ体型では意味を成さない。

 

 

 男の指が私の秘部に触れ、指を入れようとしてくる。濡れてもいないカサカサの状態だというのに、ローションや唾液をつけずに指を入れようとしてくるのは痛みしか感じない。では、ローションや唾液がついていなければ痛くないのか?と聞かれたら答えはNoだ。

 

 

 私は痛みから更にもがくが、それは相手の欲情を煽るだけであり、刺激となって相手を興奮させてしまうだけであった。

 

 

 男は自身のパンパンに膨れ上がった性器を扱きながらそれを私の性器へと近づける。

 

 

「待って!!お願い!!それだけは止めて!!!初めては好きな人と───!」

 

 

 私は身を捩って何とか男から逃れようと試みるが、後頭部に衝撃が走り、意識が一瞬飛んだ。恐らく殴られたのだろう。目の前がチカチカして星が飛んでいる。

 

 

   

 

 

「──────あっ」

 

 

 

 

 

 抵抗を緩めてしまった瞬間

 下腹部に今まで感じたことのないような衝撃と異物が私の中に入ってくる感触。自身の性器からミチミチという音と生ぬるい何かが溢れ、膜が破れてしまった痛みが走る。

 

 

「~~~~~~~~~ッ!!!!」

 

 

 私は人知れず、涙を流した。

 

 

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 目が覚めた時に発したそれは、言葉だったのか、ただの意味も持たない声だったのかは私にも分からない。

 

 

 迫り来る吐き気に口を手で覆い、一目散にトイレを目指して、便器に被さるようにして胃の中の物を吐き出す。食道を逆流し、中途半端に消化された吐瀉物が便器を汚す。

 

 

 パクが作ってくれたお手製のシチューも、パンも、パンケーキも、全てを吐き出す。

 

 

 パクへの申し訳なさや生理的なもの、胃酸のきつい臭いからといった、ごちゃ混ぜの涙を流しながら荒く息を吐いた。

 

 

 

 

 一体便器に被さってからどれくらい経ったのだろうか。それは数分でも、数十分でも、もしかしたら数時間だったのかもしれない。

 

 私には時間を気にしていられるような余裕は無かった。しかし、ある程度胃の中の物を吐き出し、涙を流して呼吸を整えたことにより、時間と、背中に沿えられている暖かい手に気づけるほどの余裕が出来たようだ。

 

 

「………ごめん、パク」

 

 

 何の謝罪なのか、自分でも分からなかった。

 

 

 辺りが真っ暗な事から時刻は恐らく夜、もしくは真夜中。寝ていたであろうパクを起こしてしまった事への謝罪か、せっかく作ってくれた手料理を吐いてしまったことへの罪悪感か、それとも便器を吐瀉物で汚してしまった事への申し訳なさなのか。それら全てを纏めた謝罪なのか。また、それらとは全く別の事に対しての謝罪なのか。

 

 

 それは私にも分からなかった。

 

  

 

「ごめん」

 

 

 

涙と謝罪の言葉が溢れ出た

 

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

 

 

 やってしまったと思った。

 ユリの能力は操作系。今は系統が変わって特質系だが。

 

 幻影旅団の中にもシャルナークが操作系だが、彼はアンテナを指した相手を操り、アンテナが取れるか操る相手が死んでしまえば操れなくなってしまう。

 

 

 しかしユリの能力にそれはない。

 

 

 相手や周囲に気付かれる事無く、意のままに操る能力───流石に相手が死んでしまっては使えないけれど。

 

 

 そんな強力な力を無条件に使える訳がない。それ相応の手順を踏み、『死』というリスクを常に背負いながら彼女は生きている。

 

 

 そしてその能力の発動条件は彼女にとって最悪なものだった。  

 

 

 念能力にはイメージが大切になってくるが彼女はこのイメージが上手くいかず、自身にとって一番思い出したくない筈だった事が一番鮮明にイメージされてしまうという皮肉な結末を生んだ。

 

 

 彼女は能力を使う度にトラウマに襲われる。

 

 

 今回の仕事の前、私たちの為にと彼女は能力を使った。止めはしたが、彼女の耳に私の言葉は届かなかった。それは他の団員たちも同じ事。

 

 

 私は───私たちはユリに辛い思いをさせている。

 

 

 ユリは私たちの役に立つためだけに生きていると宣言するほど、何処か盲信的に働いている節がある。それをどうにかしなくてはならないと思い、話し合ってはいるけれど……結局答えは出ないままだ。

 

 

 そして今日で1つの大きな仕事が終わり、団長からユリのフォローを頼まれたが為にこのお泊まりを進言し、少しでも気が紛れ、笑顔になれるようにとノブナガと私で企てたほんの少しの悪戯も、結局気休め程度にしかならなかった。

 

 

 涙を流しながら震える彼女をそっと抱き寄せる。

 体温は低く、暗がりで顔色は見えないが、恐らく真っ青だろう。

 

 

「────ごめんなさい」

「……どうしてパクが謝るの?」

「そうね………私がユリの仲間であり、家族だからかしら。立てる?」

 

 

 暗闇にも目が慣れてきたお陰で、ユリがポカンとした表情をしているのが見えた。ユリは暫くすると微笑み、私の差し出した手を取って立ち上がる。

 

 

「明日何処か行こうよ」

「行きたい所でもあるの?」

「無いよ。でも大丈夫。

 パクとなら何処に行っても楽しいから」

「……ユリの体調が良ければ行きましょうか」

「任せて。寝たら治る」

「寝られるの?」

「寝られる。パクが手を握ってくれてたら───だけどね」

 

 

 そう言って彼女は笑った。

 私はため息をつくとユリに新しいパジャマを着せ、枕元に常温のミネラルウォーターのペットボトルを置き、同じベッドに潜り込む。

 

 

 私が彼女の手をほんの少し握ると、それと同じ程の力で握り返された。

 

 

 私は彼女の左手を握る自由の効かない右手に代わって、左手でソッと頭を撫でるとくすぶったそうに身を捩るユリに思わず笑みがこぼれる。最終的にはスリスリと甘えてきて、数分後には落ち着いた寝息が聞こえてきた。

 

 彼女の幸せそうに眠る寝顔と、目元に残る涙の跡を見て、私も目を瞑る。

 

 

「おやすみなさい、ユリ」

 

 

 明日はきっと良い日になるわ。

 

 

 




どうしてこうなった……
やっぱり書き溜めしていないと駄目ですね。



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。