銃と鋼鉄の世界の運び屋 (単細胞)
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ルール1 報酬の上乗せは当たり前

砂嵐吹き荒れる荒野、岩と砂しかない場所に停まっている1台のクルマ。

 

その運転席に俺は収まっていた。

 

「砂嵐、ひどくなりそうだな・・・」

 

ボディに容赦なく叩きつけられる砂粒の音に紛れてガチャガチャという金属音が聞こえてきた。

 

それを聞いて俺はシートを起こしエンジンを掛ける。同時にドアが開き砂が車内に吹き込んでくる。

 

砂漠迷彩に身を包んだ男が2人、女が1人乗り込んできた手には某宇宙戦争映画に出てきそうなSFチックなライフルを手にしている。今回の依頼人だ。

 

「街まで頼む!途中でPKプレイヤーの集団に見つかっちまった!」

 

バックミラーを見ると砂嵐で視界は悪いが微かにシルエットが見えた。おそらく荒地を走ることに特化した4輪のバギーだろう。

 

端末を操作し地図がホログラムとして空中に投影される。セーフゾーンの街までは24キロと表示されていた。

 

「早くしてくれ!追手がすぐそこまで来てるんだ!」

 

助手席にいるリーダーと思しき男が叫ぶ、しかし車は動かなかった。

 

「あいつらを排除したら報酬を上乗せしてくれるか?」

 

俺はリーダーにそう言った。3人は啞然とした。

 

「バカ言え!相手はバギー3台で6人乗ってるんだぞ!それに俺たちは光学銃しか持ってないんだ!」

 

後部座席の男が言った。彼らはモンスターハンターが専門、実弾の武器は護身用のハンドガン位しか持っていない。

 

「この車はラリー用のベース車だがこの路面では相手の方が速い、すぐに追いつかれてハチの巣にされるぞ」

 

リーダーの方を見た。渋い表情で考えていたがやがて・・・

 

「分かった。アイツらを頼む」

 

「りょーかい!」

 

1速に入れてアクセルを煽る。クラッチを繋いだと同時にハンドルを切ってアクセルターン、バギーと向かい合う形になった。

 

「相手の装備は?」

 

「多分7.62ミリのアサルトライフルよ、それにバギーには50口径の重機関銃が載ってたわ。あの人たち、私たちがレアドロップした装備を拾ったのをどこかで見ていたのね・・・」

 

女が答えた。漁夫の利狙いのPK集団はこのGGOだと珍しいことではない。

 

バギーとの距離が縮まってくると載っている人の姿が見えた。モヒカンにグラサン、変な肩パット、まるで世紀末漫画の男達のようだ。

 

「コスプレ集団か、大したこと無いな・・・」

 

相手も此方に向かってくる車に気が付いた様だ。運転手はハンドルを片手に旧ソ連のアサルトライフルAKを、後席に立っている男はアメリカの重機関銃、ブローニングM2を向けた。

 

バギーから赤い線が伸びる。弾丸の軌道を示すバレットラインだ。

 

俺はハンドルを右に切った。曳光弾の光が車の左側を通過する。

 

濃密な弾幕は尚も俺たちを追ってくる。50口径の弾丸が当たってしまえば俺たちは1発で終わりだ。

 

相手に近づくにつれて弾幕が薄くなった。相手は横に大きく広がっているために仲間を撃ってしまうのを避ける為だ。

 

「下に転がっているヤツを取ってくれ」

 

「これのこと?」

 

「どうも」

 

俺は短銃身の散弾銃、サーブ スーパーショーティを受け取った。そしてなるべく相手の射線が被るようにしつつ相手に接近する。

 

極端に銃身の短いこのショットガンは車の中でも取り回しがし易い、まさに俺にピッタリの武器だ。

 

しかし銃身が短い故に散弾の分散が大きい、その為接近して撃たないと相手に致命傷を与えられないというデメリットもある。

 

あらかじめ開いたままで固定してあるフォアグリップを窓枠に引っ掛けて初弾を薬室に装てんする。そして・・・

 

「まずは1台・・・」

 

ドンッ!

 

銃声と同時に一番近くにいたバギーが一宙を舞った。この手の車両はタイヤの付け根のシャフトがむき出しになっている。そこを折ってやると簡単に車体から根元ごとタイヤが外れるのである。

 

「はい次・・・」

 

今度は運転手のハンドルを持っている腕に当てた、コントロールを失ったバギーは砂地にタイヤを取られ横転した。

 

2台が無力化されると再び銃撃が開始される、相手も射線を気にする必要が無くなった為だ。

 

このままでは近づけない・・・が手が無くなった訳ではない。

 

すると突如銃撃が止まる。急な出来事で慌てるガンナー。何やら運転手と言い合っている。

 

チャンスとばかりに回り込んでバギーと並走すると俺はセンターコンソールの小物入れから手の平より少し大きいくらいの球体を取り出す。

 

慌ててM2から持っていたアサルトライフルに持ち替えようとするガンナーと目が合う。

 

俺は・・・

 

「あげる」

 

そう言って俺はその球体、「デカネード」をバギーに向かって放り投げた。

 

デカネードをキャッチしたガンナーはギョッとする。

 

俺はバギーからできる限り距離を取った。

 

直後、デカネードが青いプラズマを帯びた爆炎を上げた。

 

「汚ねぇ花火だ・・・」

 

俺はミラーでその爆発を確認しつつ呟いた。

 

 

 

 

あっ、これ違うネタか・・・



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ルール2 重量制限はキッチリ守れ

とあるイベント

 

銀行の前にスバルWRXが停車した。

 

ミッションは現金を強奪して指定の場所への輸送、要するに銀行強盗である。

 

今回の荷物はその強盗犯と現金の輸送だ。

 

強盗犯は今店内にいる、まだ静かだということはヤツらはまだ動いていないのだろう。

 

今回のイベントは逃走側と追跡側にチームが分かれている、プレイヤーは追跡側と逃走側を選択すると自動的にチームがマッチングされてイベントが始まる仕組みだ。

 

強盗チームが銀行を襲い、警報が鳴ると追跡側に情報が伝わり現金の争奪戦が始まる。

 

つまり今は追跡チームが来る心配は無いのだ。

 

俺はラジオを点けた。丁度流れていたのはジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョンのベルボトムズという曲だ。

 

あ、この曲好きだわ・・・

 

これから強盗犯を載せて輸送ミッションを行うということも忘れてラジオに聞き入ってしまっていた。

 

曲のリズムに合わせて勝手に体が動く。

 

フットレストを靴で軽く蹴ったり、シフトノブを爪で弾いたり、運転しながら音楽を聴くときの俺の癖なのである。

 

曲も盛り上がってきたとき、銀行の非常ベルが鳴った。と同時に入り口から覆面を被った強盗犯がこっちに向かって走ってくる。

 

「さて・・・やりますかねぇ・・・」

 

俺はキーを捻ってエンジンを掛けた。アクセルを踏むと伝統の名機、EJ20ターボエンジンが唸りを上げる。

 

強盗犯が乗り込むその瞬間・・・

 

俺はエンジンを停めた。

 

急に静まり返る車内、強盗犯達は焦る。

 

「おい!早く車を出せ!」

 

助手席に座った強盗犯が声を荒げる、女性の声だった。

 

後ろに座った3人も女性だ。この4人が今回の依頼者、ミス・アルセーヌス。大会でそこそこな成果を上げている珍しい女性だけのチームだ。

 

そう、4人居るのだ。この車の中に俺以外の人間が4人も、ついでに現金が30キロ。

 

「相手チームが来ちゃうよ!どうして行かないの!?」

 

なんと言われても俺は動かない。

 

「60キロ・・・」

 

「なんだと?」

 

俺の言葉に助手席のリーダー、ジェーンは訳が分からないといった様子。

 

「60キロの重量オーバーだ。依頼だと3人と言っていたが4人居る」

 

「それがどうした、この車は5人乗りだろう?」

 

ナンシー、他3人も苛立ち始める。

 

「あんたらが指定したルートは市街地と砂利道を走る。アホみたいなルートを選択したせいで重量に余裕がない」

 

「人間一人くらい問題ないだろ?」

 

全く・・・こいつらは何も分かっていない。

 

「もう一度言うがあんたらがアホみたいな逃走ルートを指定したせいで全地形対応型にするほかなかった。例えば、重量が60キロ追加されたら柔らかめに設定したサスペンションのセッティングだと段差で底突きしてマウントが壊れる、足が逝った車は走れない。それに砂利で滑ったら崖に真っ逆さまだ。俺は拠点にリスポーンするがこの大切な車はロストす・・・」

 

早口でまくし立てる俺についにキレたジェーンは俺の額にイタリア製の半自動回転拳銃、マテバモデル6ウニカの銃口を当てた。

 

「いい銃だな、なんかのイベントの成功報酬だろ?」

 

俺は落ち着いてそういった。

 

「ゴタゴタ抜かすな、さっさと車を出さないとお前の眉間に風穴を開けるぞ!」

 

「もうコイツ殺してボスが運転しなよ!」

 

仲間の一人が言った。これだけ切羽詰まっている理由は相手チームのSUVが俺たちのクルマを囲んでいるからだ。すぐに打たない理由は生け捕りにするとボーナス報酬が発生するからだ。

 

「この車はパスワードを入れないとエンジンが掛からんぞ、それともそこら辺のクルマをパクって逃げるか?言っておくがそこら辺の車で逃げても拠点につく前に死ぬぞ」

 

「・・・」

 

車内を沈黙が支配した。そして・・・

 

「クソッ!」

 

ジェーンは銃口を後部座席に向けて一人を撃った。

 

「どうも」

 

俺はエンジンを掛けた。

 

そう、パスワード云々は嘘だ。そんな機能は実装されていない。

 

「失敗したらお前を殺す!」

 

「お好きなように・・・」

 

道路は完全に包囲されているが抜け穴はある。隣の喫茶店だ。

 

ギヤをRに入れてアクセルを床まで踏み込んだ。テラスの柵を壊しながらWRXは相手のSUVの包囲を突破した。

 

相手のプレイヤーは急いでSUVに乗り込んで俺たちを追いかけ始める。

 

そろそろ生け捕り報酬を捨てるころか・・・

 

SUVの窓が開いて男が身を乗り出す。そしてこちらに向かってアサルトライフル、SCAR-Lを構えた。

 

ミラー越しにバレットラインが見える。狙いは俺の頭か。

 

良くわかってらっしゃる・・・

 

相手が発砲する瞬間、俺はハンドルを切って反対車線へと入った。

 

銃弾はそのまま前を走る車両に当たる。車がふらついて縦列駐車の列へと突っ込む。

 

向かってくるNPC車両を避けつつ相手の射撃も躱す。相手は市街地だろうが構わす俺たちに向かって発砲した。まぁゲームだしな・・・

 

大通りをこのまま走るのは不利だ、俺は住宅が密集する裏路地に向かった。

 

通行人や端に置かれている箱を避けながらWRXは疾走していく。

 

道幅一杯に使ってテールスライド、階段を下りつつ街の外へと向かった。

 

階段を下る振動が小気味よいリズム尻に伝わってくる。

 

「サスペンションは大事だろう?」

 

俺がジェーンに問いかけると彼女は「あぁ、そうだな・・・」と返した。今はそんなことよりも目の前に迫ってくる壁との恐怖に戦う事で忙しいのだろう。

 

再び車道へと出て道が開けると後ろのSUVが横に広がって銃弾の雨を浴びせる。

 

4つのバレットラインを見極め車体を揺らすと一緒に右へ左へと体が揺さぶられる。

 

「ねぇ・・・ボス・・・運転手間違えたんじゃ・・・?」

 

口を押えながら頑張って話す仲間の一人。

 

「かもな・・・」

 

ジェーンも少し気持ち悪そうだ。

 

「ここがVRの世界で本当に良かったよ。そろそろあいつ等を巻こうぜ」

 

俺たちは市街地を抜けて田舎道へと向かった。幹線道路を外れて林道へと入る。

 

路面は砂利の細い一本道、揺れる車では相手もおいそれとは当てられないだろう。

 

俺は彼女たちに言った。

 

「いいか、狙う場所はラジエーターだ。冷却水が漏れてエンジンが焼き付く。車高の高いSUVだからタイヤも有効。出来るなら相手を撃ってもいい」

 

「攻撃開始!」

 

「「イエスマム!」」

 

ジェーンの号令と共に後席の2人が身を乗り出して撃つ、2人の獲物はHK416と89式小銃だ。

 

言った通りタイヤとラジエーターグリルを狙って撃っている。しばらく弾幕を浴びせると・・・

 

バキィン!

 

金属音と共に破片が飛んでいくのが見えた。同時に緑色の液体が流れていく、冷却水だ。

 

数秒後、先頭のボンネットから煙が出てSUVの速度が落ちる。

 

「戦闘ダウン!次!」

 

「なんだ意外と楽勝じゃん、さっさと残り3台も片づけて・・・」

 

バシュッ!

 

一人の顔に赤い斑点ができた被弾の目印だ。

 

「ボス!セラが撃たれた!」

 

セラはそのままぐったりと倒れる。

 

「構うな!マガジンを回収して撃ち続けろ!」

 

もう一人がベストからマガジンを回収して自分の持っている89式に装てんした。

 

どちらもNATOのSTANAGマガジンを使用しているためそのまま使えるのだ。

 

此方の弾丸がタイヤに命中、姿勢を崩したSUVが崖へと落ちて行った。残り2台。

 

「運転手!ゴールまであとどれ位だ?」

 

「このペースだとあと10分だ。あと少しで林道を抜ける、そしたら・・・うぉっ!?」

 

俺は慌ててハンドルを切った。道に倒木が横たわっていたのだ。

 

「林道を抜けたら舗装された路面になる。そしたら・・・あれ?」

 

後部座席に彼女の姿はなかった。さっきの急ハンドルで振り落とされてしまったのだ。

 

「わりぃ・・・」

 

一応ジェーンに謝っておいた。

 

「気にするな、だが2人だと迂闊な事は出来ない。林道を出る前にもう1台片づけておきたかったが」

 

「今は逃げることに集中しよう」

 

といった矢先、俺とジェーンの間に垂直に赤い線が伸びてきた。

 

「掴まれ!」

 

俺はとっさにブレーキを踏んだ。と同時に目の前が爆発した。

 

「グレネードだ。相手にM79 40ミリグレネードランチャーを持っているヤツが居る!」

 

マジかよ・・・めんどくせぇモン持ってんな!

 

ドンッ!

 

突然後ろから衝撃が来た。

 

「クソッあの野郎ぶつけてきやがったな・・・」

 

レースゲームだと故意に相手にぶつかっていくこ事は重大なマナー違反だ。たまに荒らし目的でぶつかってくる輩が居るが真剣なレースに水を差すクソ野郎が俺は大嫌いだった。

 

「いや・・・お前が急にブレーキを踏んだから相手がぶつかってきたんじゃ・・・」

 

と冷静に突っ込みを入れるジェーン。

 

しかし俺にはそんな声は聞こえていなかった。

 

「テメェみたいなクズには、絶対に負けねぇからな!」

 

やられたらやり返すが俺のモットーだ。出来れば倍返しで。

 

道が広がる。車2台が横に並んで走れる道幅だ。

 

俺はブリッピングしてギヤを下げる。エンジンブレーキが掛かってWRXは徐々に速度を落としていった。

 

これで相手はぶつかった衝撃で何かが壊れたと思ってくれるだろう。

 

予想通りSUVが加速してWRXの横についた。

 

そして一瞬遠ざかった後、こちらに迫ってきた。

 

反対側は崖、現金もろとも谷底に落とす作戦か・・・

 

ぶつかる寸前、俺はアクセルを踏み込んだ。

 

サイドプレスを外したSUVがリヤウィンドウを横切った。そしてそのままSUVが谷底へ向かう。

 

爆発音と黒煙が上がる。これで残り1台・・・

 

林道を抜けて車道へ出た。目的地まで残り僅か、追手を振り切るまでは拠点に近づけない。

 

再びNPC車両を縫うようにして高速道路を爆走する。

 

「私がやる!」

 

窓を開けてジェーンが身を乗り出す。彼女が持っていたのはFN社製MINIMI、自衛隊でも分隊支援火器として使われている機関銃だ。

 

MINIMIはベルト給弾の他にSTANAGマガジンが使える。きちんと弾薬の統一は出来ている訳か。

 

「おい、あの車、他のと違うじゃないか!」

 

そう、ラストの1台はアップアーマードハンヴィー。通常のハンヴィーに防弾性能を持たせたモデルだ。

 

つまり通常弾では歯が立たない。

 

最後にとんでもねぇヤツ残しちまったな・・・

 

俺はバックミラーでハンヴィーを確認する。

 

ルーフの銃座にはマシンガンが装備されていないな、ということはM2でハチの巣にされる可能性は無いわけか。

 

リスキーだがやってみるか・・・

 

河川敷に向かった。この作戦を成功させるには他の車が無い広い場所である必要がある。

 

車の走っていない真っすぐな2車線、ここで決めるしかない!

 

俺はブレーキを踏んだ。ハンヴィーと横に並ぶ。

 

ハンヴィーの窓が開いたかと思うと男はIMIガリルを此方に向け、撃った。

 

だがここまでは予想済み、このWRXは防弾だ。といっても完全ではないが・・・

 

俺の真横でビシビシと強化ガラスに弾が当たる音がする。

 

「おい・・・大丈夫なのか?」

 

心配するジェーン、運転手が死んだらミッション失敗も同然であるため仕方がない。

 

サイドウィンドウの耐久値が限界寸前になったとき、射撃が止まった。おそらく弾切れだ。

 

俺は後席に手を伸ばした。取り出したのはお馴染みのサーブスーパーショーティ。

 

向こうもマグチェンを終えて顔を出す。

 

「俺が丸腰だと思うな!」

 

ズドン!

 

この距離だと外さない自信があった。ショットガンの弾をモロに食らった男の顔は真っ赤だ。

 

「ジェーン、座席の下にあるケースの中身を渡してくれ!」

 

「分かった」

 

ジェーンは座席の下からアタッシュケースを取り出して中に入っていた銃を俺に渡した。

 

アサルトライフルにしては短すぎる全長、ケルテック社のPLRだ。

 

とても短い銃身ながら5.56ミリライフル弾を使用するハンドライフルである。

 

開きっぱなしの窓に1マガジン分ぶち込んでやった。

 

ハンヴィーとWRXだと車高が違いすぎて運転手を直接狙うことができない。

 

だったら・・・

 

間接的に殺せばいいだけの話だ。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

突如ハンヴィーが発火した。そして花火の様に沢山の爆発音と共にハンヴィーが粉々になった。

 

そういえばアイツら、グレネードランチャー持ってたんだっけか・・・

 

「マジかよ・・・」

 

後方に広がる爆炎を眺めながらジェーンは啞然としていた。

 

「さて、目的地に行きますか・・・」

 

こうして無事に俺たちはミッションを達成できた。



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ルール3 パブリックエネミーでも依頼人は依頼人(レンとの邂逅①)

「知ってるか?全身ピンクのPKプレイヤーの噂・・・」

 

「あぁ、砂漠フィールドに出現するヤツだろ?銃までピンクで徹底してるらしいな」

 

「ガキみたいにちっこくてアジリティ強化でちょこまかと動き回る上にピンクが保護色になって数メートルまで近づかれないと気付かないって話じゃねーか」

 

「ピンクの砂漠迷彩か・・・第二次大戦の時にイギリスの戦車が砂漠でそんなカラーリングだったよな?」

 

へぇ、よく考えたもんだな・・・

 

俺は隣で飲んでいる男たちの話を盗み聞きしていた。

 

お客さんたちがよく話していて耳にしたことはあったがまさかそんなに凄腕だったとは。

 

これは新しい需要ができるかもしれないな・・・なんてビジネスの話を考えてみたりする。

 

俺はコーヒーを飲み干して店を後にした。

 

外に出ると雨上がりの湿った風が頬を撫でる。雨は止んだがまだ強風は残っているようだ。

 

「ダンジョンの入り口辺りで客を待つかな・・・」

 

路駐してあるWRXへと向かう。運転席へと乗り込もうとした時・・・

 

「リヤの車高、こんなに低かったっけ?」

 

若干だが後ろの方が低く見えた。

 

俺はトランクを開けてみた。すると―――

 

「動かないで!」

 

トランクの中から銃口が飛び出してきた。

 

銃口の形状からしてチェコスロバキア製のVZ61、そしてその色を見て俺は驚く。

 

ピンク・・・まさかこれが噂の・・・

 

 

 

 

 

迂闊でした。

 

私は路地を全速力で駆け抜けました。追手を振り切る為です。

 

偶然立ち寄っただけのこの町でまさか正体がバレてしまうとは・・・

 

私の噂はすでに広い範囲に広がっていたようです。強風で一瞬ポンチョが靡いた時でした。

 

「噂のピンクの悪魔だ!」

 

丁度街の自警団として活動しているチームに見つかってしまいました。

 

そのチームは私を追いかけました。人が居ない路地や下水道に入ると彼らは私に向かってアサルトライフルを撃ってきました。

 

いくら全速力で走っているとはいえ銃弾の速度は音速を超えます。さすがに私も音より速く走ることはできません。

 

逃げているうちに銃弾が何発か命中しライフが半分ほどになりました。幸い動くことは出来るのですが生憎回復キットは切らしているのです。

 

命からがら街中へと出はしましたが。いつ追手が追い付いてくるか分かりません。

 

ダメージの所為で視界が眩んできました。

 

何かにもたれ掛かった時、私は思いつきました。

 

私がもたれ掛かっていたのは自動車だったのです。

 

彼らは私を探すとき、窓から車の中を覗き込んだり、小さな段ボールまで開けていました。車内に隠れるのはやめた方が良さそうです。

 

開錠スキルでカギを開け、私はトランクの中に隠れました。しばらくここで休もうとしましたが・・・

 

ピッピッ!

 

私が中に入った直後、車のロックが解除される音がしました。この車の持ち主が返ってきたのです。

 

私はラッキーだと思いました。そのままどこかに運んでくれるなら一石二鳥です。

 

しかししばらくしても車のエンジンが掛かりません。それどころか・・・

 

ガチャッ!

 

トランクが開いたのです。おそらく車内から操作したのでしょう。

 

私は一気に窮地に立たされました。こうなったら相手を脅して運転してもらうしかありません。

 

相手から私の姿が見える直前、私は彼に銃口を向けて叫びました。

 

「動かないで!」

 

トランクはこれ以上開きませんでした。

 

持ち主の男性はしばらく黙っていましたがやがて私に向かって言いました。

 

「アンタが噂のピンクの悪魔か?」

 

おそらく彼は私の銃の色とトランクに余裕で入れる体のシルエットを見てそう答えたんだと思います。これを利用しない手はありません。

 

「そうよ、殺されたくなかったらこのまま荒野フィールドまで私を運んでちょうだい」

 

私は彼に要求を告げました。

 

彼はまたしばらく黙りました。拒否できる状況で無いはずなのに・・・

 

そして彼の返答は私の予想外のものでした。

 

「報酬は?」

 

驚いたことに彼は私に見返りを要求してきたのです。

 

「自分の状況を分かっているの?報酬は貴方の命の保証でどう?」

 

私は彼に言いました。このまま無賃乗車する作戦です。

 

しかし彼は怯みません。

 

「ピンクの悪魔さんよ、そっちこそ自分の置かれた状況が分かっていないんじゃないか?」

 

「どういう意味?」

 

私は彼の言っている事が理解できませんでした。

 

「中に紙袋があるだろう?その中身を確認してみろよ」

 

言われた通り私はすぐ横にあった紙袋の中に手を伸ばしました。中には少し固めの粘土のようなものが3つ入っています。一つの大きさはレンガくらいでしょうか。

 

「えっ!?ウソ・・・まさかこれって・・・」

 

私は気付てしまいました。この袋の中身は粘着性のリモコン爆弾です。

 

車両にくっつけて遠隔起動で爆破させることのできる爆弾、そんなものが私のすぐ横にあるのです。窮地どころか絶体絶命の状況になってしまいました。

 

「ちなみに起爆装置はこれな」

 

彼はトランクの隙間から携帯端末の画面を見せてきました。画面には起爆と書かれたボタンが見えます。彼の親指は今にもそれを押しそうな位置にありました。

 

「そんなことしたら貴方も死ぬわよ?」

 

この量の爆薬を起爆したら間違いなく彼も死にます、彼だって手持ちの装備をロストするなんてことはしたくないはずです。

 

「さっき手持ちのアイテムを全部換金してきたから俺は別に構わないぞ」

 

ダメでした。

 

「じゃぁもういいです!撃ち殺すなり刺し殺すなり轢き殺すなり好きにしてください!私はいまクレジットが無いので報酬は払えません」

 

私は諦めました。こうなってしまってはもう打つ手がありません。私にとっては初めてのデスカウントです。

 

トランクを開け放ちポンチョを脱ぎ捨て銃も手から放しました。こうなっては処刑を待つ罪人と同じです。

 

しかしいつまでたっても彼は何もしてきませんでした。

 

「プロフィールを送れ」

 

「えっ?」

 

突然の要求に彼が何を言っているのかよく分かりませんでした。

 

「プロフィール情報を俺に送れといったんだ。アンタを逃がす代わりに俺はアンタのプロフィール情報をもらう」

 

戦場で一番大事なものは情報だと何かの本に書いてあった気がします。つまり私の正体を彼にバラすということです。

 

「そんなものを貰ってあなたは何をする気なの?」

 

大切な個人情報です。見ず知らずの人に渡すくらいならここで死んだ方がマシな場合もあります。

 

「何もしないさアンタが俺に何もしなければ」

 

彼の言っていることはいちいち回りくどいです。

 

意味を尋ねると彼は答えました。なんでも彼はこのGGOで運び屋をやっているらしく、最近は砂漠エリアで仕事をすることが多いのだそうです。

 

だらか砂漠に出没するPKプレイヤーである私に自分を殺さないという保証を求めてきたのです。

 

私が約束を破って彼を殺すと私のプロフィール情報を各エリアの自警団や討伐部隊に流すのだそうです。

 

「まぁ、それなら・・・」

 

別にリアルの自分に関する情報は一切書いていないのでそれ位なら大丈夫だと私は判断しました。

 

プロフィールを彼に送ると彼のプロフィールが送られてきました。

 

「これで近くに俺が居るとわかるだろう?」

 

彼のアカウント名はSYMS(シムス)というらしいです。まさかこんな形でGGO内でプロフィール交換をするなんて思ってもいませんでした。

 

その時、遠くからバイクのエンジン音が聞こえてきました。しかも複数台です。

 

真っ黒なバイクに真っ黒なライダースーツに真っ黒なフルフェイスヘルメットの集団、私は嫌な予感がしました。

 

先頭の男の人と目が合った気がしました。すると・・・

 

通過した筈のバイクが一斉にUターンしてこちらに向かってきました。

 

「やばい見つかった!どうしようシムスさん?」

 

「俺のことはシムと呼んでくれ!逃げるぞ!」

 

私は助手席へと急いで座りました。シムさんが乗り込むとエンジンを掛けていきなりバックしました。

 

てっきり前に向かうと思っていた私は車のダッシュボードに顔をぶつけてしまいます。

 

「シートベルトを締めとけよレン!無事にお前を逃がしてやる!」

 

そう言って運転するシムさんが私はとても頼もしく思いました



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ルール4 作戦を考えるより行動しろ  (レンとの邂逅②)

「クソ、厄介だな・・・」

 

俺はバックミラーに写る黒い影を見ながら呟いた。

 

相手さんが乗るバイクはヤマハのYZF-R3、軽量コンパクトな車体に320ccの空冷エンジン、鋭い加速と乗りやすさが特徴だと友人から聞いたことがある。

 

大通りは一般車が多くて不利、しかし路地に入ると相手の方が小回りが利く為不利・・・

 

アレ・・・俺達詰んでね?

 

「シムさん、作戦は?」

 

レンがVz61にマガジンを込めながら尋ねた。

 

作戦か・・・

 

そして俺はレンに答えた。

 

「ない!」

 

はっきりと、自信満々に言ってやった。そんな俺に対してレンが目を丸くする。

 

「今・・・なんて?」

 

よほど信じられないのか、レンは聞き返す。

 

「作戦は無い!ノープラン、アドリブだ。敵の動きを見て臨機応変に対処する」

 

と俺が言い放った途端、レンはドアハンドルに手を伸ばした。

 

「降りる!」

 

彼女がレバーを引こうとする直前、俺はドアをロックした。

 

必死にレバーをガチャガチャ引くがドアはびくともしない。

 

「ルール1、契約厳守。報酬を貰っている以上俺はアンタを送る義務がある」

 

「いや、もうそういうのいいから!」

 

「それに相手さんに俺のことも覚えられただろうからな、この町では俺も晴れてお尋ね者だ」

 

俺たちは一般車を縫うように進んでいく、体の小さいレンは後部座席で右へ左へとゴロゴロ転がり回っていた。

 

「あぁ、別の車に隠れてればよかった・・・」

 

レンは絶望に満ちた表情で呟く。

 

相手のバイクが横に広がると背中に掛けていた銃で俺たちに銃弾を浴びせ始めた。

 

かなりレートの高い銃声、ボディに当たる金属音から銃弾自体、あまり威力のあるものでは無いだろう。おそらく拳銃弾。

 

サイドミラーからわずかに見えたシルエットから察するに、H&K社のMP5Kだ。

 

速い射撃速度に取り回しやすいコンパクトなボディ、バイクに乗りながら撃つのにぴったりな銃だな。

 

「撃たれてるけどこの車は大丈夫なの?」

 

「多分大丈夫」

 

「多分って・・・」

 

「念のため前の席に座っておけよ。気休めくらいにしかならんが・・・」

 

レンは助手席へ移動した。小さい体のお陰で狭い車内でも特に不自由はしないようだ。

 

敵の攻撃は止まない、このままだとWRXの耐久が無くなってジ・エンドだ。

 

「こっちからも撃ってくれ、このままだと車が持たない!」

 

俺は助手席の窓を開けると、レンが身を乗り出して応戦した。

 

しかし敵は向かってくる銃弾が見えているかのように車体を左右に揺らして躱している。

 

当然だ、相手にもレンの持っているVz61から伸びるバレットラインが見えるのだ。

 

「ダメ、全然当たらない!」

 

「このまま撃ち続けろ、牽制にはなる筈だ」

 

俺の指示通りレンは撃ち続けるが、このまま防戦一方だと状況は好転しない。

 

大通りから曲がって住宅街へ入った。

 

道が細くなって相手も横に広がって撃てなくなる。これで火力を少しは減らせる筈・・・

 

「ねぇ、バイクの数が減ってるんだけど・・・」

 

レンに言われて俺もミラーで確認する。確かに半数ほどいなくなっていた。

 

後ろのバイクに向かってレンが発砲する。だがなかなか当たらない、自動車にとっては狭い道でもバイクにとってはまだ広い道のようだ。

 

路地を進むと前方にバイクの集団が見えた。おそらくさっき分散した別動隊、別の道から回り込んできたらしい。

 

レンも前を見てギョッとした。

 

「挟まれた!?どうするの?」

 

前方のバイクとの距離はどんどん詰まってくる。

 

どうするか・・・俺だって誰かに聞きたいくらいだ。

 

と思った時、ふとレンの方を見る、彼女は背中にもう1丁のVz61を背負っていたのだ。

 

そういえばピンクの悪魔はサブマシンガン2丁で襲ってくるっていう噂があったような・・・

 

「レン!もう1丁のVz61は使えるのか?」

 

「え?もちろん使えるけど・・・」

 

「だったら頼む!」

 

俺はサイドブレーキを思い切り引いた。

 

直後、後輪がロックしてリヤが流れ、WRXは道路に対して真横で滑り始めた。

 

両側の窓を開けるとレンも俺の作戦に気付く。

 

すかさずもう1丁のVz61を取り出して両腕を広げ、左右に構えた。

 

前後から来る敵にどちらともに攻撃する方法・・・

 

それは自らが横を向いて2丁で応戦すれば良いのだ。

 

レンが2丁のVz61で攻撃。

 

予期せぬ相手の動きに対応が遅れたライダー達、バレットラインを見る間もなく6人のうちの3人に命中、転倒したバイクに巻き込まれて更に2人が転倒。

 

十字路のど真ん中にWRXは停止した。

 

相手の着ていたライダースーツは破れ腕や腰には赤いメッシュのエフェクトが表示されていた。広い範囲を擦り剥いた証拠だ。

 

それに腕が変な方向に曲がっている人も居た。現実世界なだ重症である。

 

そう、二輪車の大きな欠点は相手に生身を晒している事と、事故をすると即大怪我になることだ。

 

「だから2輪は怖いんだよな・・・」

 

そう言って痛みに悶えるライダーたちに俺はケルテックPLRの5.56ミリライフル弾を撃ち込んであげた。

 

すると燃料タンクに数発か命中し、バイクは炎上、閑静な住宅街のど真ん中でバイクは大爆発した。

 

辺りに響く炎の燃える音と断末魔の叫び声、叫び声が止んだ頃、炎の中にDEADという表示が3つ現れた。

 

「シムさん、結構エグイ事するね・・・」

 

反対側の敵を片付け終わったレンが俺の起こした惨状を見てドン引きする。

 

「いや・・・焼夷弾を装填してたの忘れてたわ・・・」

 

せめてもの言い訳だった。

 

「さて・・・追っても片づけたから大通りに戻って荒野へ向かいますかね・・・」

 

WRXを再び発進させた。

 

もうすぐ住宅街を抜ける、幹線道路に出たら周りの流れに合わせて目立たないように街を抜けていけば―――――

 

「―――――ッ!」

 

幹線道路へ出る為曲がった直後、俺はブレーキを踏んだ。

 

ガツン!

 

というのは車がぶつかった音ではなくレンがダッシュボードに頭をぶつけた音だ。

 

「いてて・・・急ブレーキをするなら前もって言ってよ~」

 

「前もって分かるなら急ブレーキはしないんだよ、曲がった先に壁があったら誰だって急ブレーキ・・・を・・・する・・・」

 

俺は目の前のモノが壁でない事に気が付いた。と同時に後の言葉が継げなくなった。

 

「どうしたの?そんなにびっくりした顔をして・・・って、えっ?」

 

レンと俺はしばらく固まった。

 

壁だと思っていたモノは鋼鉄製で迷彩柄の車体だった。

 

そして、目の前にあったもの、それは・・・

 

「これはいくら何でもやりすぎじゃね?」

 

「私もそう思う・・・」

 

 

 

 

 

105ミリ戦車砲がこちらを向いていたのである。

 

 



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