ダンガンロンパ インフィニティ (アカツキ)
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Prolougue『希望の持つことのできない世界』
プロローグ ~前編~


初めましての方は初めましてアカツキです。
この度ダンガンロンパの二次創作。所謂創作論破を書いていきたいと思います。
創作論破は初めてなので指摘などがありましたらよろしくお願いします。


Prologue『希望の持つことの出来ない世界』

 

 

 

ああ、どうして、オレはここに居るのだろう。

 

 

希望などありはしないこんな絶望の世界に。

 

 

ああ、何故、オレは足を踏み入れてしまったのだろう。

 

 

こんな世界に足を踏み入れなければよかったのに。

 

 

ああ、過去に戻れるならやり直したいものだ。

 

 

まだこの世界に希望を持つことが出来た時に。

 

 

誰かこの世界に希望を。

 

 

希望という名の光を。

 

 

オレが諦めてしまったこの世界に。

 

 

この世界に希望という名の光を…………

 

 

…………オレが本当の意味で希望を失ってしまう前に。オレが染まってしまう前に…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『私立希望ヶ峰学園』

 

誰もが一度は憧れたことがあるであろう学園である。

あらゆる超一流の才能を持つ高校生達が通う完全スカウト制の政府公認の学校。

目的はもちろん各々の才能を育て上げることだろう。

 

『卒業すれば人生の成功が約束される』

 

ここまで言われている学園に入れた以上、入学した時点で人生勝ち組コースだ。

ただ、唯一懸念する点を挙げるとするなら……

 

「オレなんかが入ってもいいのか……?」

 

この学園に入るという重みだ。

毎年数十人程度しかこの学園には入れないらしい。高校生と言っても全国に同年代は100万人は軽く居るだろう。そんな中の数十人。

果たしてオレにその価値があるのだろうか?

 

「ただ、スカウトはされたのは事実だし受けたことも事実だな……」

 

そうだ。本当に嫌なら断ると言う選択肢があったのだ。それをしなかった以上ここでグズグズしていても仕方ない。それにここの入学案内パンフレットとかも貰ったんだ。よし、行くか。

そう決意を新たにし、一歩踏み出す。一歩、また一歩と歩いていき、そして門の元まで辿り着くと……

 

 

 

景色が歪み始める。

 

 

 

歪みはどんどん酷くなり、

 

 

 

どんどんどんどん酷くなり、

 

 

 

遂に真っ暗になってしまう。

 

 

 

そこでオレの意識は途絶えた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を開けると真っ先に飛び込んできたのは白い天井。

 

「ここは……?」

 

オレは見覚えのない部屋の見覚えのないベットで横たわっていた。

オレはさっきまで確か……?あれ?希望ヶ峰学園の校門をくぐったのは覚えている。あれ?そこからどうしたんだ?もしかして、倒れたのか?

 

「なら、ここは学園の保健室か……?」

 

いや、それにしてはおかしい。この部屋の作りはどう考えても学校の保健室と言うよりはホテルとかの個室。こっちの方が近い。

それに保健室にしては……いや、ホテルとかどっかの個室にしたっておかしな点がこの部屋に最低でも二つある。

 

 

窓と思われる場所に打ち込まれている鉄板。

そして、部屋の天井の隅にある監視カメラ。

 

 

この二つが存在していることは不思議だ。この部屋を調べるか……もしかしたら、監禁されているかもしれないしな。

 

「ん……?」

 

ふと木製の机の上の紙に目が留まる。その紙には……

 

 

『めがさめたひとからたいいくかんにしゅうごう。

 たいいくかんはへやをでてまっすぐひだりにいってね』

 

 

……全部平仮名とか舐めてんのか。まぁ、多少汚い字で書かれているが恐らく……

 

 

『目が覚めた人から体育館に集合。

 体育館は部屋を出て真っ直ぐ左に行ってね』

 

 

こう書きたいのだろう。これぐらい漢字表記にしたって小学生以外なら読めるはずだぞ?

というか、体育館?ということはここはやっぱり希望ヶ峰学園なのか?

 

「……まぁいい。ここでじっとしていても時間を消費するだけだ」

 

そう思いオレは軽く身なりを整えて部屋を出る。……あれ?こんなブレザー着てたっけ?というか、うちの中学のヤツだぞコレ。

 

ガチャ

 

普通に開いた。あれ?カギしてなかったのか。

 

ガチャ

 

すると、右の方から扉が開く音がする。

よく見るとオレの隣の部屋だ。というか、同じような扉が向こうまで……あ、よく見たら反対側にも続いている。……ということは、やっぱりここはホテルなのか?

 

「あぁぁぁぁぁぁっ!」

 

そしてオレを見るなり騒ぎだす中から出てきた不審者。

この不審者……服装は意外に普通だ。白っぽいTシャツの上に水色っぽいカーデガン。下は普通の長ズボン。どうやら、オレと似たような立場の人間のようだ。

 

「よ、良かったぁ……人がいた……」

 

そこかよ。というか、そこだけで驚いたのかよ。

 

「ねぇね、君名前は?」

「……天原恭也」

「天原くんって言うのか……よし覚えた。僕は鹿野和馬。よろしくね」

 

目の前の不審者改め鹿野はオレをキラキラという効果音が似合う音で見てくる。

 

「何か変か?」

「本当に人なんだなぁ……って」

「人だわ」

 

出会い頭に失礼な奴だ。

 

「ほらさっさと行くぞ鹿野」

「行くって……何処に?」

「なんだ。部屋に指示書(?)があっただろう。行くんだよ体育館に」

「そう言えばそうだった!行こうよ天原くん!もしかしたら、僕たちと同じように人がいるかもしれないよ!」

 

まぁ、少なくとも指示を出した奴が居るんだ。誰かは居るだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが入り口みたいだね……」

「そうだな。開けるか……」

 

体育館の重々しい雰囲気の扉を開ける。開けた中には……

 

「これで16人。もうこれ以上待っても誰もこないだろうな」

 

上下運動部を思わせるようなジャージ男がそうつぶやく。

彼の言う通りこの場には16人のいずれも高校生と思われる人達がいた。

 

「えーっと、君たちは誰?」

 

隣の鹿野がつぶやく。そう。オレたちは初対面。相手の名前なんて知るわけがない。

 

「そうですね。(わたくし)も皆様を存じ上げません。ここは一つ自己紹介をしましょうか」

 

燕尾服を着た青年が提案する。妥当なところだ。

 

「じゃあ、誰から言ってく?」

 

こちらもまた運動部っぽいジャージを来た女子が言葉を発する。さっきの男の人のと色合いがちょっと違っているが。

 

「そうですね。私が提案したのです。私から言いましょう」

 

そう言ってコホンっと咳払いをする。

 

「私は和合伸太郎。超高校級の交渉人と言われております」

 

 

 

【超高校級の交渉人  ワゴウ シンタロウ】

 

 

 

交渉人……なるほど。いまいちピンとこない才能だ。というか、ここに集められた人は全員超高校級の生徒ってことか?

 

「交渉人ってことは交渉する才能ってこと?」

「はい。ですが私ごとき。まだまだ超高校級と呼ばれるだけの交渉をしているってわけではありませんが」

「そうなのか?」

「はい。例えば、生徒会に部費の値上げを交渉したりとか……」

 

うわっ。規模小さ。

 

「市の教育委員会に教育についての交渉をしたりとか……」

 

うわっ。規模が大きくなった。

 

「後はそうですね。海外での紛争地域に赴き紛争している両国と交渉して紛争を止めさせた……ぐらいですかね」

 

遂にグローバル。そりゃあ。超高校級の交渉人と言われても不思議じゃないわ。

 

「というわけで、全然未熟者の交渉人です。では次の方。お願いします」

 

謙遜する交渉人、和合。オレの予想だと紳士か執事だと思ったんだけどなぁ……。

 

「じゃあ、次は俺が言うか。俺は熊沢真裕。超高校級の司令塔だ」

 

 

 

【超高校級の司令塔  クマザワ マサヒロ】

 

 

 

「えぇっ!?熊沢くんって塔に変身出来るの!?」

 

……はぁ?何を言い出すんだ?

 

「アハハ、面白い冗談だ」

 

笑い飛ばす熊沢。いや、この反応は冗談とは思えないが……

 

「悪いが俺は塔には変身出来ねぇよ」

「そうなんだ……」

「では、熊沢様はどういった司令塔でございますか?」

 

質問する和合。様を付けて呼んでるあたり本当にこいつは執事じゃないのか?

 

「そうだなぁ……サッカーにバレー、バスケなどまぁ、チーム競技全般か?俺の場合特にサッカーか。まぁ、欲を言えば『超高校級のエースストライカー』とか『超高校級のゲームメイカー』の方がカッコイイんだけどな」

 

なるほど。熊沢はサッカーをやっていたのか。

 

「もしかして、熊沢くんも和合くんみたいなことをやったの?」

「ないない。俺は単純に弱小サッカー部とバスケ部を全国一に導いたぐらいだ。ありきたりだろ?」

 

……確かに漫画やアニメではありきたりだとは思うけどさぁ……。

 

「そんなことより次の人だ。次は……そうだな。さっき質問して来たお前。自己紹介を頼むよ」

 

そして、熊沢は鹿野に自己紹介するよう指示を出す。まぁ、才能が司令塔だし、彼が纏めていっても不思議では無い。というか、エースとかでは無いあたりこっち系の才能を買われたのだろう。

 

「僕は鹿野和馬。よろしくね」

「あれ?君、才能は?」

 

ふわっとした感じの、色も緑に近いようなワンピースを着た女の子が声を掛ける。

 

「僕の才能は……その…………カなんだ」

「え?なんて言ったの?」

「…………バカなんだ。超高校級の」

 

 

 

【超高校級のバカ  カノ カズマ】

 

 

 

……いたたまれない空気がこの場を支配した。ほぼ全員が鹿野の才能に驚き、哀愁と慈悲を込めた眼差しで彼を見る。

そして、そんな誰も口を開けなくなった空気をぶち壊した者が居た。

 

「つまり、鹿野の才能は私とは真逆の才能ってことだな」

 

黒基調のセーラー服(?)を着た女子だ。

 

「口を開いたついでに自己紹介も済ませるとしよう。私は神戸光沙。超高校級の勉強家だ」

 

 

 

【超高校級の勉強家  コウド マリサ】

 

 

 

勉強家とは……鹿野とは真逆の才能って言うのは間違ってないな。

 

「べ、勉強家……?」

 

鹿野が恐れるように神戸に聞く。確かに、鹿野のバカってのも神戸の勉強家ってのも超高校級なのだ。どれ程の奴か見当もつかない。

 

「なに、私は勉強が別に好きってわけじゃない。ただ、知らない言葉や気になったことを勉強し続けていったらこんな風に呼ばれるようになっただけだ」

「そ、そうなんだー」

 

恐らく超高校級と言われるほどだ。常人には彼女の勉強量は想像を絶するものとなっているだろう。

 

「おいおい鹿野。というか、お前はどれだけ勉強ができないんだ?超高校級のバカって呼ばれるほどなのだろう?」

「失敬な。僕だってこの肩書は不名誉だと思っているんだよ」

 

……それが普通だ。

 

「超高校級のバカか……おい鹿野。三つ質問するから答えてみろ」

「あ、うん」

「第一問。化学『H()O』は何か答えなさい」

「……ごめん神戸さん。僕英語は苦手なんだ」

 

……それは化学式だバカ野郎。

 

「第二問。数学三角形の面積の求め方は?」

「えーっと、(底辺)×(高さ)だね!」

 

……それは長方形の面積しか求まらないぞ?もしくは正方形。

 

「……第三問。明治時代に活躍した人物を三人挙げなさい」

「えーっと、卑弥呼と小野妹子と織田信長かな?」

 

全然違うわ。というか、三人とも生きた時代からして既にバラバラだしな。

 

「……よくそれで中学卒業できたな…………」

 

あまりの解答の酷さに神戸は頭を抱える。

そして再びいたたまれない空気がこの場を支配した。

 

「あはは……あ、自分が自己紹介していいッスか?マサっち?」

 

そう言って名乗りを挙げたのは先程のワンピースを着た女の子。

 

「……マサっちって俺のことか?」

「そうそう」

 

おかしなあだ名を付けられた熊沢。お疲れ様です。

 

「まぁいい。どうせ全員言ってもらうしな」

「ありがとね。自分超高校級のイラストレーターの清田紘子って言うッス。よろしくッス」

 

 

 

【超高校級のイラストレーター  キヨタ ヒロコ】

 

 

 

「よ、よろしくっす?」

「そうそう。自分の中で語尾に『ッス』を付けるのが流行りなんッス。分かったっスか?まろく?」

「ま、まろく……?」

 

どうやら鹿野のあだ名はまろくに決まったようだ。

どうも清田のあだ名の付け方はよく分かんない。まぁ、一発で分かるわけないか。

 

「イラストレーターの清田か……吾輩は聞いたことあるぞ」

 

そう言って現れた(正確には元からいたけど目立ってなかっただけだ)のはパーカーを着たちょっとぽっちゃり系の男。後眼鏡をかけている。もしや、超高校級のオタクか?

 

「おぉ~自分って有名になっていたんッスね?」

「ああ。今、あらゆるアニメや出版会社から引く手数多で、描かれたイラストは本物のようって噂だ」

「そんな大袈裟ッスよ。自分は絵描きたい物をただ、思うままに描いてるだけッス」

「それでも、素晴らしいことだと吾輩は思うがね」

「ありがとうッス」

 

へぇ~そんなに有名なんだ。

 

「そんなに有名なんだな。清田って」

「……え?天原くん逆に知らなかったの?」

 

……何だその心外そうな眼は。凄いムカつくのだが。

 

「じゃあ、次は君。よろしく」

 

そう言って指を指されたのは先程のぽっちゃりの子。

 

「吾輩の番ですか。吾輩は荒川良一。超高校級のパソコン部です」

 

 

 

【超高校級のパソコン部  アラカワ リョウイチ】

 

 

 

正直オタクだと思っていた。でもパソコン部……まぁ、そんな気もしなくはないか。

 

「パソコン部?超高校級の?」

「そうです鹿野殿」

「えーっと、具体的には……?」

「そうですね。タイピングの速さや正確さはもちろんのこと、パソコンで出来ることは大抵高いレベルで出来ます」

「凄いんだね!という事はパソコンを作れるの!?」

「その発想は無かった……。プログラムを作ることは可能だがパソコンそのものを作れるかとは……さすが鹿野殿。常人ではありえない発想ですな」

「いや~照れるなぁ。そんなに褒めなくても……」

 

いや、パソコン部=パソコンを作れるわけじゃないからな。

後、多分それ褒めてないから。常人ではそんなパソコンを作るなんてことパソコン部はしないって分かってるから。

 

「さて、そろそろウチも自己紹介しよかな?ウチは海部弥香。超高校級のダイバーです」

 

 

 

【超高校級のダイバー  カイベ ミカ】

 

 

 

そう言って自己紹介をしたのはジャージを着ている女子だ。

 

「ダイバー?それって百円ショップの……」

「それはダイソー」

「あ、もしかしてラ〇ライブが好きな……」

「それはライバー」

「じゃあ、プラスとマイナスの工具セットに入ってる……」

「それはドライバー」

「分かった。あの運転免許証を持っているのに運転しない……」

「それはペーパードライバー」

「……これも違うのか。なら鉛筆の芯からできるって言われる……」

「それはカーボンナノファイバー」

 

徐々に離れていってる。というか、どうしたらダイバーからカーボンナノファイバーになるんだ?というか、カーボンナノファイバーなんて良く知ってたな?バカの癖に。

 

「じゃあ、辛さが癖になる小学生に人気の料理……」

「それはカレー……ってもう伸ばし棒しか合ってないじゃない」

 

全くだ。というか今までダイバーの最後のイバーが合ってたことに驚きだ。

 

「いい?鹿野君。ダイバーっていうのはダイビングをする人のことだよ」

「え?ダビング?」

「それは違うからね?ダイビングってのは簡単に言えば海に潜ることだよ」

「へぇ~」

「潜水士っていえば分かる?」

「おーそれなら分かるよ」

 

何故ダイバーってものを説明するのにここまで労力を使うのだろうか?

 

「要するに海女さんみたいな人だね?」

「なんか違う……今度説明してあげるから今はそれでいいや」

 

諦められたぞおい。

 

「あはは……じゃあ、次は……」

「なら、ワシが行こう」

 

そう言って一歩前に出たのは学ランをきた男。

 

「ワシは柴典孝じゃ。こう見えて超高校級の文化委員じゃ。よろしく頼む」

 

 

 

【超高校級の文化委員  シバ ノリタカ】

 

 

 

口調がどうもおじいさんみたいな奴だ。てっきり役作りをしている役者か演劇部と思ったよ。

 

「超高校級の……文化委員?」

「そうじゃ」

「……ダメだ。今までのどの才能よりもイメージが湧かない」

 

そこは同感しよう。

……でも、お前の場合どの才能も正しいイメージが湧いてなかったよな?

 

「まぁ、普通の反応じゃのう。それにワシの場合中学の文化祭で学校の経営難を救ったくらいで特に何もしとらぬしなぁ」

 

……それでも十分凄いと思うのは気のせいか?

 

「へぇ~でも、文化委員って何やってたの?」

「そうじゃな。文化祭の統括とか……あ、後、文化財の保護もしたかのう」

 

……あれ?急に話のスケールがデカくなったぞ?

 

「あれ?それって、学校単位の話で済む話じゃないよね?」

「おっ、そこに気付くとは鹿野よ。意外と話は伝わってるのじゃな」

「失礼な。会話ぐらいできるよ」

「まぁ、半分嘘じゃ」

「あ、何ださっきの文化財の保護なんて話。半分嘘だっ――」

「本当は文化祭で総括じゃなくて企画運営を裏でやっておった」

「――――うん。そこどうでもいいよね?」

 

全くである。

 

「じゃあ、次の人……」

「あ、ぼくが」

 

ふむ。我先にと自己紹介をしようとしているな。丁度16人の内8人終わったし、きっと最後を締めくくりたくないのだろう。当然だ。まぁ、その点オレは自己紹介を……あれ?まだ済ませてなくない?

 

「ぼくは屋代秋乃って言います。超高校級の幸運で入りました。よろしくお願いします」

 

 

 

【超高校級の幸運  ヤシロ アキノ】

 

 

 

なるほど。このピンクっぽいカッターシャツを着た子が例の幸運枠か。

 

「超高校級の……幸運?」

 

どうやら鹿野は知らないらしい。

 

「僭越ながら私が答えましょう。『超高校級の幸運』本来、希望ヶ峰学園は完全スカウト制、学校側が認めたあらゆる分野での一流をスカウトし、この学園に通わわせています。しかし、1人だけ。そんな才能など関係なしに入れる人がいます。それが『超高校級の幸運』です」

「へぇ~でも、なんでそんな枠を?」

「そうですね。この希望ヶ峰学園が通っている生徒の才能について研究しているのはご存知ですか?」

「も、もちろん(知らない)さ」

「その研究の対象として、この何百万人に一人をランダムで選んでいるのです。意図を深くは存じ上げませんが、『幸運』というのもこの学園の研究対象なのでしょうね」

 

細かく説明を和合がしてくれたおかげでオレや他の一部の人も改めて彼女の才能について分かったみたいだ。

 

「ん?鹿野殿。頭から湯気が出ているぞ?」

「まさか、この程度の情報だけで脳みそがパンクしたのか?」

 

ただ一人。隣のバカを除いて。

 

「おい鹿野しっかりしろ。あまりの事に荒川と神戸が心配しているぞ?」

「えーっと研究対象が幸運でランダムに生贄を捧げ魔王を召喚して……」

 

ダメだこりゃ。おかしな方へと発想がいっている。

 

「あはは……でも、ぼくなんて全然だよ。皆と違って偶然入っただけだし……皆みたいに凄くないし……」

 

若干暗めの幸運こと屋代。

 

「大丈夫だよあっきー。まろくに比べたら全然オッケーだよ」

 

そして清田に勝手に比べられるまろく。比べられたまろくはと言うと、

 

「はっ!超高校級の幸運ってことは宝くじの一等当たり放題で億万長者も夢じゃない!……僕ってもしかして超高校級の天才?」

 

とてつもなくどうしようもなく救いようのない阿呆なことを言っていた。

 

「いや、宝くじは買ったことないからぼくには分からない……かな?」

「よし、今すぐ宝くじを買いにいこう!」

「待て待て鹿野。まだ全員自己紹介終わってないだろ。買いに行くなら自己紹介終わってからにしろ」

 

いいのか熊沢。買いに行かせたら碌なことにならないだろ?

 

「……分かったよ」

「よし。分かってくれて何よりだ。じゃあ、次はそこの君。お願いできる?」

「わ、ワタシですカ?ワタシは超高校級のボーカリスト、ノエル・フレイザー・ペイナーデス。お願いしマス」

 

 

 

【超高校級のボーカリスト ノエル・フレイザー・ペイナー】

 

 

 

 

自己紹介をしたのは、ブラウスにデニムって言う普通の私服でいる外国人と思われる子。

いや、名前からして外国人か。

 

「えーっと、ノエル・フレイザー・ペイナーさん。えージャパニーズオーケー?」

「ノエルで大丈夫ですカズマサン。日本語も問題ありまセン」

 

確かに、こちらの日本語も理解しているようだし、間に翻訳者はいらないか。

 

「ノエル・フレイザー・ペイナーか。まさか、あの有名なアメリカ人ボーカルに会えるとは……」

「あれ?荒川くん知ってるの?」

「ああ、噂でな」

 

荒川って見た目通りこういう事に精通してるんだなぁ。

 

「ところで、素朴な疑問なんだけどさ。歌手とボーカルに違いってあるの?」

 

ここにきて初めて鹿野がまともな質問を繰り出した。おぉー。

 

「私が答えよう」

 

ここで現れたのは神戸。まぁ、超高校級の勉強家なら知ってて当然だろうな。

 

「……と言ってもそうたいした差はない。歌手はそのまま歌を仕事とする人って意味や歌い手を意味する。ボーカルは歌を仕事とする人達の中でもバンドの中での歌う人って意味合いが強いな。まぁ、根本は同じ歌う人ってことだ」

 

なるほど。分かりやすい。

 

「はい。ですから、歌う事は得意デス」

「ふむふむ。そういうことなのか……まぁ、大きな差はないってことだね!ノエルさん」

「そうデス。カズマサン」

 

……それで済ませたけどいいのか?まぁいいのだろう。

 

「では、次はわたしが自己紹介をしましょう」

 

現れたのは、いかにもメイドですって感じの服を着た人。あれ?でも、メイド喫茶(?)とかよりも本格的なのが現れたぞ?

 

「わたしは久保山水月。超高校級の家政婦をさせていただいております」

 

 

 

【超高校級の家政婦  クボヤマ ミツキ】

 

 

 

なるほど。メイドでは無く家政婦だったか。

 

「家政婦……?あードラマとかに出てくるああいう家政婦のこと?」

「そうですね。鹿野さんに分かるように言い変えるのであればメイドと言った方がいいですか?」

「メイド……メイド……メイド喫茶か!」

 

ダメだ。こいつの頭の中にはメイド=メイド喫茶に出勤している人になっている。

 

「……あれ?何か違いますね……」

「あれ?違うの?」

「そうやったら、『お手伝いさん』って言い変えた方が分かりやすいのではないかのう?」

「そうですね。そっちの方が分かりやすいです」

「おぉー柴くん凄いんだね」

「そんなに褒めて何も出せないぞ?」

 

なるほど。そうやって伝えればいいのか。

 

「まぁ、わたしに関しては本当に説明することがないですね。何か聞きたいことはありますか?」

「じゃあ、聞くけど。何処に仕えていたの?」

「そうですね……この国のある程度豪華な家に何度か。皆さんが知っているとなると……十神財閥とかでしょうか」

「やっぱり、金持ちは違うんだねぇ~」

 

家政婦を雇う人なんてある程度裕福な家であろう。そりゃ、一般家庭の一庶民が家政婦を雇っていたらすぐに生活費は赤字になるだろうな。

 

「さて、熊沢さん。私は以上ですので、次の方を」

「そうだな……取りあえず、さっきから参加する意思の見られない四人の自己紹介を終わらせるか」

 

そう。今までの自己紹介を聞いていたか怪しい人達がこの場には四人も居る。まぁ、聞いてはいた……よね?

 

「むにゃ~それってゆめのこと~?」

 

そうやって声を出したのはピンクのパジャマに可愛らしいナイトキャップを被った女の子。

 

「そうだな。君も自己紹介をしてくれ」

「わかった~ゆめはね~ちょーこうこうきゅーのスリーパーの涼宮ゆめだよ~」

 

 

 

【超高校級のスリーパー  スズミヤ ユメ】

 

 

 

ちょ、超高校級のスリーパー?

 

「え、えーっと涼宮さん?超高校級のスリーパーって……何?」

「仕方ないな~教えてあげよ~う。ゆめのね~趣味はねること~特技もねること~気づいたら大抵ねてる~」

 

あーだからスリーパーね。

 

「???寝るのが好きな人のことをスリーパーって言うの?」

「そうじゃないと思いますカズマサン。ユメサンが言いたいのは、英語のsleeperつまり眠っている人のことデス」

「なるほどね。気付いたら寝ている。だから、超高校級のスリーパーということね」

 

分かってない鹿野のためにノエルと海部が説明する。やれやれだ。

 

「現にほら、もうこの子ねているよ?」

「むにゃ……」

 

海部の言う通り既に涼宮は夢の中。やれやれ。これ実は才能よりも病気に近いんじゃねぇのか?

 

「じゃあ、次は……白衣を着た君。お願いできるかな?」

「うむ。どうやら我の出番のようだな」

 

白衣を着てその上眼鏡。うん。こいつの才能は絶対学者とか研究者とかそういう系だ。主に理系の。

 

「我は、白数智也。超高校級の数学者である!」

 

 

 

【超高校級の数学者  シラス トモヤ】

 

 

 

なるほど。数学者だったか。

 

「へぇ~お前があの白数だったか」

 

そしてそれに反応したのは神戸である。

 

「え?神戸さん。白数くんと知り合いなの?」

「いや、私が一方的に奴を知っているだけだ」

「へぇ~どんな人なの?」

「そうだな。奴は幼くしてミレニアム問題の二つを解き、新たな定理の提唱もし、その才能っぷりから『オイラーの再来』と噂されるほどだ」

 

へぇ~でもさ神戸。オレは理解できたが……

 

「ミレニアム問題?お、おいらのさいらい?」

 

鹿野が理解出来るわけねぇだろ。

 

「ミレニアム問題は簡単に言えば数学において最高難易度を誇る問題で解ければ懸賞金がもらえる。まぁ、これを解くのは私でも無理だ」

「そんな……。じゃあ、僕が解くなんて絶望的じゃないか!」

 

それは最初からだろ?

 

「次にオイラーだが、フルネームで言うならレオンハルト・オイラー。まぁ、過去の超凄い数学者だったって解釈でいいだろう」

 

凄い大雑把で手抜き感しかしない!まぁ、そういった説明の方が……

 

「なるほど。オイラーさんは凄い数学者だったんだね!」

 

こいつの頭には入りやすいか。

 

「ふはは。我の事を知っている者がいたか。まぁよろしく頼むぞ」

 

何と言うか……頭のねじが飛んでそう。

 

「次はそこの着物を着た君」

「……俺に指図するな司令塔」

 

……やべぇ。遂に反抗的な奴が来てしまった。むしろ今までがすんなり行きすぎたと思うけどさ。

 

「しかし、貴方様の名前を知らないと何かと不便でしょう?せめて名前と才能だけでも教えてはくださいませんか?」

「フン。まぁいい。交渉人の言う通り才能と名前を言ってやろう」

 

うん。本当に反抗的な奴が来てしまった。

 

「俺の名は古屋敷賢人。才能は碁打ちだ」

 

 

 

【超高校級の碁打ち  フルヤシキ ケント】

 

 

 

棋士でなく碁打ちとはまた渋い。というか、何でここの人達は若干予想とずれた才能を有しているのだろう?

 

「ご、碁打ち?」

「簡単に言えば囲碁を打つ人のことだ」

 

誰からもフォローがなかったのでオレが答える。

 

「囲碁か……回り将棋しかできないなぁ……」

「いや、全然違うからな?囲碁と回り将棋って全然違うから」

「じゃあ、五目並べ?」

「碁石は使うけど!使うけどさ……!」

「えぇい!〇✕ゲームのことか!」

「一気に遠ざかった!凄まじい勢いで囲碁から遠ざかった!」

 

もうダメだ。こいつへのツッコミは疲れる。

 

「じゃあ、次はそこの君。お願いできる?」

 

そして残った黒のスーツに身を包んだ女子(?)に自己紹介を促す熊沢。

 

「……杉谷玲奈」

 

うん。名前からして女子だ。この名前は男子にはあまりつけないだろう。

 

「えーっと……才能は?」

「……スパイ。超高校級のスパイ」

 

 

 

【超高校級のスパイ  スギタニ レイナ】

 

 

 

わぁ。スパイなんて実在するんだね。

 

「超高校級のスパイ!?」

 

鹿野が驚くように大声を上げる。

 

「むにゃ、かのうるさい」

 

そして、その声によって起きた涼宮が覇気のない声で注意する。

 

「それって……それって……!」

 

鹿野が手を握り締める。まぁ、スパイって言うのは凄くはあるが、どっちかと言えば犯罪者に近いからな。鹿野が怒るのも無理ないか。

 

「それって…………凄くカッコイイじゃん!」

 

訂正。ただ単純に興奮しているだけだった。

 

「……ええと……ありが……とう?」

 

おい鹿野。あまりの事に杉谷が動揺してるぞ。

 

「スパイかぁ……カッコイイよね~ねぇね。もしかして、スパイ道具とかあるの!?」

「……あるにはある」

「おおっ!スパイカッコイイ~あ、握手してよ杉谷さん!」

「……いいけど……」

 

手を握って凄い勢いで振る鹿野。とまどう杉谷。

 

「……彼の反応が異常だと思うのボクだけ?」

 

安心しろ。オレもこいつの反応はおかしいと思う。さすがバカの極みだ。

 

「おぉっ!スパイってカッコイイよなぁ~」

 

……この男に付いていくのは大変そうだとしみじみ思う。

 

「さて、後自己紹介してない奴居るか?」

 

ふむ。後、自己紹介してないのは……あ、オレか。

 

「あーオレか。もしかして最後?」

「あーそうみたいだな。もしかしなくとも最後」

 

はぁ。まぁ、気楽に無難に終わらせますか。

 

「オレは天原恭也。よろしく」

「あれ?天原くん才能は?」

「あー才能な……悪いが覚えてないんだ」

 

 

 

【超高校級の???  アマハラ キョウヤ】

 

 

 

「本当に!?」

「ああっ。覚えてない」

「才能を隠しているんじゃないのか?アンノーン」

 

古屋敷からの疑いの眼差し。いや、古屋敷だけじゃねぇな。半分くらいの奴が怪しむように見ている。

 

「ああ。本当に覚えていない。というか、隠す必要ないだろ?この場にはスパイもバカも居る。隠す必要なんて微塵もない。むしろ隠すメリットが見当たらない。古屋敷もそう思わないかい?」

「……フンッ」

 

そう。本当に綺麗に才能を全く覚えていない。

というか、記憶も所々欠けているし……一体オレは何者なんだ?

 

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

 

 

その鐘は何の前触れも鳴り響いた。絶望の始まりを知らせる鐘の音が……



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プロローグ ~後編~

キーンコーンカーンコーン

 

突如鳴り響く鐘の音。その場にいる者、ある者は警戒を強め、ある者は音の出どころを探り、ある者は興味なさそうに目を閉じる。

 

『オマエラ全員揃ってるなぁ?』

 

そして響く誰かの声。無論この十六人の者のでは無い。また別の声だ。

 

『では、これから入所式をとり行いたいと思います』

 

声はステージの方から聞こえる。他の皆も気付いたようで全員がステージを注目する。

そして、声の主は現れた。

 

『全員起立!』

 

いや、正確にはステージの上に飛び出してきた。

 

『って言ったけどオマエラ起立してるよね?じゃあ、礼!おはようございます』

 

オレ達は誰も口を開かない。いや、開けなかった。

 

『あれれ?オマエラまさかの反応なし?生きてる?』

 

だって、出てきた声の主って言うのが……

 

「クマの……ぬいぐるみ?」

 

……クマのぬいぐるみだったからだ。

あまりの衝撃の大きさと現実味のなさに言葉が出なかった。

 

『うぷぷ。あまりの衝撃に声も出なかったようだね』

 

笑うクマのぬいぐるみ。

よく見るとそのクマのぬいぐるみは体の右半分を白色に。もう片方の左半分を黒色に塗っていて……うん。一言で言うなら可愛さのかけらもない。気色悪いぬいぐるみだ。

というか、動いて喋っている時点でもうただのクマのぬいぐるみではない。きっと、中には機械が詰め込まれているだろう。あの中身は綿じゃないはずだ。

 

『後、ボクはクマのぬいぐるみじゃないよ!ボクはこの施設の施設長のモノクマなのだ!』

 

……一瞬で頭の中に情報が流れ込んでくる。

モノクマ?この施設?施設長?何を言っているんだこの目の前の奴は。

 

「モノクマ?」

『そう!ボクはモノクマ。そしてオマエラは希望ヶ峰学園の認める才能の持ち主たち。世界の希望だね』

 

世界の……希望?

 

『そんなオマエラにはこの施設で共同生活を送ってもらいます』

 

……はぁ?

 

「モノクマとやら。それはどういうことだ?」

 

熊沢がオレ達を代表する形でモノクマに問う。

 

『うぷぷ。共同生活は共同生活だよ。鹿野クンの想像しているようなのと同じ意味だよ』

「なるほど……つまり、僕の理解は正しかったのか」

 

大方、共同で生活するって思ってたんだろうが、むしろそれ以外にどうやって解釈できるんだよ。

 

「違う。俺が聞いているのはそうじゃない。共同生活させる目的だ」

『目的?それはオマエラのような優秀な才能を持った高校生を保護することだよ』

 

優秀な……才能?

 

「えへへ~これは褒められていると受け取っていいんだよね?」

「優秀な才能?このバカもか?」

「……ありえない」

「うん。ぼくもそれはないと思う」

「神戸さんも杉谷さんも屋代さんも酷いよ!?僕の才能が認められてるってことじゃないの!?ねぇ天原くん!」

「ああ。世界中がお前のことをバカだと認めているってことだな」

「何だと!?モノクマ!人をバカ扱いして……ふざけるのも大概にするんだ!」

 

はぁ。だから、こいつはバカなのか。

 

『えぇーちなみにですがこの共同生活に期限はありません。つまりオマエラは一生ここで暮らすのです!』

 

…………今なんて言った?

 

「ワシの聞き間違いかのう。今、一生ここで暮らすと聞こえたのじゃが……」

「はい。ワタシもそう聞こえまシタ」

「いえ、お二人共。聞き間違いではないと思います。私も確かに聞いたので」

「ゆめもそう聞こえた~」

 

……一生暮らせ……だと?

 

『心配いりません。予算は豊富、食料も寝床もしっかりあります。ボクはオマエラに何不自由ない生活を送らせることをクマの神様に誓いましょう』

 

はぁ?

 

「まさかあの鉄板はウチらを閉じ込める為に?」

「吾輩達は閉じ込めたのか?」

 

クッ……もう拒否権はねぇってことかよ。

 

「これが袋のねずみ……」

「最悪ですね……」

 

清田と久保山が呟くがまさしくその通りだ。

 

「ふざけるのも大概にしろよ。ぬいぐるみ」

 

そんな中。怒りを表に出したのは意外にも古屋敷だった。

 

「予算とかそんなんじゃない。そもそもの問題、この施設で一生暮らせるわけがない」

「そうだ。古屋敷の言う通り我の計算でも99.99%不可能だ」

 

続く形で白数も反抗する。

 

『コホン。話は最後まで聞くものです』

 

咳払いをして、話を進めようとするモノクマ。

 

『そんなこの施設をどうしても出たいという人のためにあるルールを設けました』

「ルール……だと?」

『そうですよ天原クン。ルールです。殺し方は問いません』

 

はぁ?殺し方は問わない?何の事だ。珍獣狩りでもするのか?異世界人とでも戦うのか?

 

『誰か殺した生徒だけが出られる。それだけのシンプルなルールなのです』

 

誰かを……殺す?

 

『殴殺刺殺撲殺斬殺焼殺圧殺絞殺呪殺何でもいいよ?……うぷぷ』

 

なるほど……だから殺し方は問わないと。

 

「おい、ぬいぐるみ。一つ聞かせろ」

『おぉ?何かな古屋敷クン。もしや、もう誰かを殺す気になったの?』

「違う。その殺す相手はぬいぐるみ。貴様の操縦者を殺してもいいのか?」

 

古屋敷からの殺害宣言。その宣言に対しモノクマは……

 

『アヒャヒャヒャヒャヒャ。アヒャヒャヒャヒャヒャ……』

 

ただ、笑っている。狂ったように笑っている。

 

「何がおかしい?」

『アヒャヒャヒャヒャヒャ。まだ理解してないようだね?いいかいオマエラ?これからはこの施設こそがオマエラの家であり、暮らす場所であり、社会であり、世界なんだ。やりたい放題やらせてやるって言ってんだよ』

「そうか……なら、ぬいぐるみ。貴様はスクラップだ」

 

手をポキポキ鳴らしながらモノクマに近づく古屋敷。

 

「古屋敷……本気でやる気か?」

「止めるのかアンノーン?」

 

その腕を掴んで止めさせるが……

 

「いいや。オレもこの理不尽さには頭に来ている」

 

……こいつの眼は本気だ。オレも乗ってやるか。

 

「フン。勝手にしろ」

「はぁ。俺も仕方ない。一応この中だと武闘派の部類に入りそうだし……やるか……」

 

オレ、古屋敷、熊沢の三人でモノクマに仕掛けようとしたその時、

 

『うわわあああ。施設長への暴力行為はルール違反だよぉ。おいで!グングニルの槍』

 

オレ達三人の……いや、十六人の回りの至るところから槍が出てきた。

 

「……っ!?」

 

後数センチ……いや、数ミリずれていたら刺さっていただろう。後ろの皆も同様だ。

 

『うぷぷ。今回は未遂ってこととボクの権力の偉大さを見せつけるためワザと外したけど……ボクに暴力を振るおうものならどうなるか。今ので分かった?』

 

槍が体育館床にしまわれて行くのをオレは冷や汗を掻きながら見ることしかできなかった。

 

「で、でも!槍が地面から生えるなら空から奇襲すればいいじゃないか!」

 

そんな中。鹿野が突拍子もないことを言い出す。……空から奇襲すればいいって……。

 

『うぷぷ。もしもその時は……』

 

降りてきたのはガトリング銃。あーこれは、

 

『ハチの巣にしちゃうからね』

 

無理ゲーだ。コイツにはどうあっても敵わない。そう、圧倒的な武力と圧倒的な権力の前に人は……屈することしかできないのだ。

 

『ではでは、入所式はこれで終了となります。何か質問のある生徒はいますか?』

「では、私から一つ。よろしいですか?モノクマ様」

「おいおい、和合よ。モノクマに様をつける必要ないじゃろ」

「そうですよ和合さん。わたしもそう思いますよ」

「いえ。私の癖でして……」

 

どんな相手にも敬意を表せるのはいいことだと思うけど……さすがにモノクマには必要ないでしょ。

 

『うむ。いいでしょう和合クン。質問を認めましょう』

「ありがとうございます。先程モノクマ様は施設長への暴力行為はルール違反と仰っていました。では、お聞きしますが施設長への暴力行為以外にルール違反となる行為は存在するのでしょうか?」

 

そういえばそうだ。確かに、まだモノクマはこの施設でのルールを説明していない。

 

『あー、そういえばオマエラにすっかり渡すの忘れていたよ。はい、電子生徒手帳』

 

そう言ってモノクマはオレ達一人一人に端末を渡してくる。ふむ。大きさはスマートフォンと同じくらいか。

 

『一人一台。オマエラ専用だからな?故障とかしても、修理やメンテナンスは受け付けません!』

 

なるほど。そう思って起動させてみる。すると起動画面にはオレの個人情報が……?

 

「おいモノクマ」

『はい、何でしょう天原クン』

「オレの才能を示す欄が『超高校級の???』となっている。どういうことか説明あるか?」

『うぷぷ……さぁ?天原クンのだけ故障していたんじゃない?まぁ、修理する気はないけど』

 

分かりやすい嘘だ。コイツ……絶対ワザとだな。

 

『でも、ほら。生きてりゃいつか分かる日が来るって』

「それがコロシアイをさせたい奴の言葉か?」

『うぷぷ~施設長の言葉だよ?ありがたく頂戴しておいたら?』

 

……コイツは一体。何がしたいんだ……?

 

『えーコホン。そんなことより施設の規則の欄を見てください』

 

言われるままに施設の規則の欄を見るオレ達。そこには……

 

 

 

1.生徒達はこの施設内だけで共同生活を行いましょう。共同生活の期限はありません。

 

2.夜10時から朝7時までを“夜時間”とします。夜時間は立ち入り禁止区域があるので、注意しましょう。

 

3.この施設について調べるのは自由です。特に行動に制限は課せられません。

 

4.施設長ことモノクマへの暴力を禁じます。監視カメラの破壊を禁じます。

 

尚、規則は順次追加していく場合があります。

 

 

 

「我から質問いいか?」

『はい。何でしょう?』

「校則が追加された時は我らにしっかり知らせてくれるのか?」

 

あーそういうことか。

 

「天原くん。白数くんは何でそんな事聞いてるの?」

「あー例えば、廊下を走ってる最中に『廊下を走るな』って規則が追加され、それに気付かなかったらアウトだろ?だから、追加云々がされた時にオレ達に伝える手段があるかってことだよ。もちろん。全員平等にな?」

「そ、そういうことか……」

『んーまぁ、追加された時に分かるんじゃない?』

 

なんて適当な野郎だ。

 

「じゃあ、私からいいか?多分今の段階では最後の質問になると思うが」

『何でしょう。今ならボクのスリーサイズまで公開しちゃいますよ?』

「そのぬいぐるみのか?それとも操作している奴のか?」

『うぷぷ。その冗談は笑えないよ神戸さん?ボクに操作している奴なんていないよ?』

「まぁいい。では、率直に聞こう」

 

そう言って神戸は一息吸って……告げる。

 

「貴様の目的は何だ?何故こんなことをする?」

『あぁー誰か一人は絶対聞いてくるよね?目的。そんなにオマエラに取ってボクの目的が大事なの?ボクの目的を知っても無意味じゃないの?』

「御託はいい。さっさと教えろ」

『そうだね。ボクの目的は――――絶望。それだけだよ』

 

絶望……だと?

 

『うぷぷ~じゃあ楽しんでね~この施設で』

 

そう言って、体育館下に消えていくモノクマ。モノクマが消えた後を追ってみるもそこには何もなかった。脱出口らしきものも、ただの床で本当に何も残ってはいなかった……

体育館に訪れる沈黙。しかし、この沈黙は鹿野がやらかした時の沈黙とは違う。

疑心暗鬼。互いが互いを警戒し、誰も口を開かない状態。重い……この沈黙は重すぎる。

その沈黙状態は数分続いた。いや、体感時間的には数十分にも数時間ともとれる長い沈黙。

 

「なぁ、一旦話し合わないか?今の俺たち現状について、これから何をすべきかを」

 

最初に口を開き、沈黙状態を打ち破ったのは熊沢だった。

 

「そうですね。ぼくも賛成です」

「そうじゃのう。話し合えば現状の解決策を見出せるかもしれないし」

「……ボクも賛成。モノクマの言う通りに動きたくないし」

 

続く形で屋代と柴と杉谷も賛同する。

 

「フン。貴様らだけでやってろ司令塔。俺は降りる」

「そうだなぁ。我も参加する気はないな」

 

そう言って颯爽と体育館から出ていく二人。

 

「アイツらに協調性はないわけ!?」

「落ち着いてくだされ海部殿。まだ、吾輩たちは所詮会って数時間という関係。いきなり協力出来るとは限りません」

「で、でも……」

「ミカサン。今は心を落ち着けて、現状を見まショウ」

「ノエッチの言う通りだよこういう時こそ冷静に……ね?」

 

どうやら、ここに残った14人は一応協力する気はあるらしい。

 

「さてと、何から話し合うかだが……」

「ゆめは今は話し合わなくていいと思う~」

「どういうことだ?涼宮」

 

涼宮の意見に神戸が聞き返す。

 

「だって~……」

 

ピンポンパンポーン

 

『施設長が夜時間をお知らせします。それではオマエラ。おやすみなさい』

 

鳴り響くアナウンス。どうやら、もう夜らしい。いや、起きたのが何時か分からない以上今が夜の10時って認識で合ってるだろう。

 

「なるほど。確かに涼宮様の言う通り明日の方がよろしいですね」

「え?どういうことなの和合くん?」

「いいか鹿野。この規則に書いてある通り夜時間は立ち入り禁止の区域がある。話し合いもいいが探索となった時に夜じゃ探索できない場所もある」

 

というか、現状で話し合うことなんて特にないし。

 

「あ、そう言えば朝食ってどうするの?」

 

今そこかよ。まぁ、食事は大事だが……

 

「あ、電子生徒手帳に施設マップ欄がある」

 

海部の言う通り開いてみるとマップが出てきた。

 

「食堂は……二階にある見たいだね」

 

屋代の言う通り、二階には食堂。一階には大きくは皆の個室(?)と体育館があるみたいだ。

 

「でも、ワシらのうち誰が作るのじゃ?ワシは料理なんて出来ないのじゃが……」

「柴殿と同じだ。吾輩も料理は出来ない」

「ゆめも~無理~」

 

早々に三人からの出来ない宣言。

 

「あー俺も無理だわ。そうだな。この中のメンバーで料理ができる奴。手を挙げてくれないか?」

「オレは一応出来るぞ?」

「嗜む程度にやっておりましたので」

「家政婦にとって料理も仕事ですから」

「あー私も出来るぞ」

 

そう言われて手を挙げたのはオレと和合、それに久保山に神戸だ。

 

「えぇっ!?和合くんと久保山さんはともかく天原くんと神戸さんは料理できるの!?」

 

驚くバカ。そんなに意外なのか?

 

「おいこら。オレも一応料理もできる……らしいぞ」

「何で『らしい』んだよ……」

「記憶が欠けているんだよ……だが、まぁ、料理は出来る」

 

自分でも何ができて何ができないのか。残っている記憶から探っていかないといけないな。

 

「もしかしてあまっちの才能って超高校級の料理人とか?」

「キョウヤサンはシェフなのデスカ?」

 

いや、それは多分違うとは思うけど……

 

「そんな天原の正体なんて今はどうでもいい」

「いや、結構オレの正体って重要なことだと思うのは気のせいですか?」

「ああ、そんなの気のせいだ。今はどうでもいい」

 

酷い!まぁ、確かに現状で話し合っても意味ないと思うけどさ!

 

「そんなことよりも鹿野に私が料理をできないと思われていたことの方が問題だ!」

「なわけあるか!そっちの方がどうでもいいだろ!」

「はぁ!?あの鹿野にバカにされたんだぞ!黙ってられるか!」

「それはあの鹿野にバカにされるお前の問題だろうが!」

「まぁまぁ、二人共落ち着いてよ」

「……そうそう。喧嘩は良くない」

「全く……海部さんと杉谷さんの言う通りだよ。ほら、二人とも仲直りは?」

「「黙っていろこのバカが!」」

「ねぇ泣いていい!?」

 

ギャーギャーと騒ぐ主にオレと神戸。

まさか、ここまで話の分からない勉強家だとは思わなかった。勉強家の名折れだろ。

 

パンパン

 

二回手を叩く音が響く。その音に反応してオレと神戸は口を瞑る。

 

「はいはい。喧嘩はおいといて、明日は朝8時までに食堂集合。来なかった奴は呼びに行く。分かったな?」

「では、そうですね……朝食組は7時には集まりましょうか?よろしいですねお三方共?」

 

オレ達は了承の意味を込めて頷いておく。

 

「なら、解散」

 

この後、これ以上の口喧嘩はお互いの利にならない。続きは明日にしようということで話は終結した。

…………というか、明日もやるのかよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

当ての割れた個室。その中のシャワー室で、今日あったことを思い出す。

学校の門を通ろうとしたら意識を失ったこと。

目が覚めたら施設に監禁されていたこと。

施設長と名乗る謎の者(ぬいぐるみ)にコロシアイを宣言されたこと。

そして……

 

「オレは一体……何の才能でここに呼ばれているのだろう?」

 

……自身の才能が何かを忘れてしまったこと。

オレの才能が記憶からなくなっている。モノクマの反応とか対応を見る限り奴はオレが何の才能を持ってるか分かっている。いや、正確には知っている……か。

はっきり言って気味が悪い。

自分のことを自分が知っていないのに他の奴がオレについて知っている。

 

「まぁいい。出よう」

 

身体を拭きタオルを腰に巻きクローゼットを見ると同じブレザーが数枚ほど。……え?このブレザーで寝ろと?

 

「おいモノクマ……って、出て来るわけないよな」

 

カメラに向かって声を掛けてみるも反応はない。仕方ない。このまま寝るか。

 

「呼ばれたのでやって来たよ~」

 

律儀にドアを開けて入ってくるぬいぐるみ。……ん?ドアを開けて?

 

「おいモノクマ。オレってカギしていなかったか?」

 

おかしいな。ロックをかける時に『ここに電子生徒手帳をかざして下さい』って書いてあったからしっかりとかざしたのだけど。

 

「いいや?しっかりと電子ロックはかかっていたよ?」

「え?じゃあ、何でお前平然と入ってこれたの?」

「ボクは施設長だよ?天原クン。マスターキーぐらい持ってるさ」

 

なるほど。マスターキーねぇ……

 

「……ってこれはどう考えても不法侵入だろ!職権乱用じゃないのか!?」

 

モノクマがいつでも入ってこれるなんてこの個室にはプライバシーなんて存在しないじゃないか!……まぁカメラがある時点でプライバシーなんて初めから存在していないが。

 

「というか用件あるならさっさと言ってよ。ボクだって寝たいんだよ?」

「あ、ブレザー意外にオレの服ってあるか?日中は別にいいんだが、寝る時ぐらい制服以外のもので寝たい」

「ああそういうこと。それなら、しっかりと用意されていたでしょ?クローゼットの下の引き出しに」

 

確かにクローゼットの下の引き出しには、Tシャツと短パンが。まぁ、Tシャツの柄は無地の黒だな。うん。シンプルでいい感じだ。

 

「全くしっかりしてよ~天原クン」

「悪い悪い。じゃあなモノクマ」

「いい夢が見られるといいね。天原クン」

 

そう言ってドアを開けて出ていくモノクマ。取りあえずロックをかけて……と。

 

「今日はもう寝よう」

 

そのまま電気を消しオレは寝ることにした。

……もしこれがただの夢なら醒めてほしいと願いながら……

 

 

 

 

 

 

 

 

Prologue『希望の持つことの出来ない世界』 完

 

生き残り人数  残り16人



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生徒名簿

プロローグ時点での簡単なキャラクター紹介です。
本編完結後には最終的なキャラクターまとめ的なのが出せたらいいなぁ……何年後の話だろう?
後、並び順は適当です。上半分が男子、下半分が女子ってこと以外。


【名前】 天原恭也 (アマハラキョウヤ)

【身長】 175cm

【体重】  66kg

【胸囲】  91cm

【平常時の服装】 ブレザー

【呼び方】一人称「オレ」

     男女ともに呼び捨て

【呼ばれ方(清田に限る)】あまっち

 

【才能】超高校級の???

不明。

 

【備考】

才能不明。

料理できる。

一応本作主人公。

 

 

 

 

 

【名前】 鹿野和馬 (カノカズマ)

【身長】 172cm

【体重】  62kg

【胸囲】  86cm

【平常時の服装】 白のTシャツに水色っぽいカーディガン。そして普通の長ズボン。

【呼び方】一人称「僕」

     男性「名字+くん」、女性「名字+さん」

【呼ばれ方(清田に限る)】 まろく

 

【才能】超高校級のバカ

バカである。超絶なバカである。

 

【備考】

知能レベルは小学生と大差なく、気になったり疑問に思ったことをすぐに口に出す。

脳みそがパンクしやすい。

よく人を信じ込みやすい。

 

 

 

 

 

【名前】 白数智也 (シラストモヤ)

【身長】 162cm

【体重】  50kg

【胸囲】  65cm

【平常時の服装】 白衣に眼鏡

【呼び方】一人称「我」

     男女ともに呼び捨て

【呼ばれ方(清田に限る)】 らすっち

 

【才能】超高校級の数学者

頭がおかしい研究者だが数学に関しては頭一つ飛び抜けている。

 

【備考】

『オイラーの再来』と呼ばれる程に数学に関しては他者からも認められている。

神戸と違い完全に才能型人間である。

頭がおかしく、頭のネジの一、二本が吹っ飛んでる。

 

 

 

 

 

【名前】 荒川良一 (アラカワリョウイチ)

【身長】 154cm

【体重】  62kg

【胸囲】  99cm

【平常時の服装】 パーカー

【呼び方】一人称「吾輩」

     男女ともに「名字+殿」

【呼ばれ方(清田に限る)】 いっつん

 

【才能】超高校級のパソコン部

パソコンで出来ることの大概はこなせるパソコン部。

 

【備考】

一人称は吾輩で相手に殿を付けて呼ぶが、喋り方は割と普通。

二次元に精通する典型的なオタクタイプ。

自分だけ太っているのが少しコンプレックスになっている。

 

 

 

 

 

【名前】 古屋敷賢人 (フルヤシキケント)

【身長】 187cm

【体重】  71kg

【胸囲】  92cm

【平常時の服装】 着物

【呼び方】一人称「俺」

     男女ともに才能呼び(モノクマはぬいぐるみ)

【呼ばれ方(清田に限る)】 けんけん

 

【才能】超高校級の碁打ち

囲碁のプロで最年少でプロ入りし、負けなしと称される。

 

【備考】

典型的な一匹狼タイプ。

他人からの指示を嫌い、何かと反抗する。

自分の認めた相手しか、名前で呼ばず、頭はキレる。

 

 

 

 

 

【名前】 熊沢真裕 (クマザワマサヒロ)

【身長】 190cm

【体重】  76kg

【胸囲】  97cm

【平常時の服装】 運動部っぽいジャージ

【呼び方】一人称「俺」

     男女ともに呼び捨て

【呼ばれ方(清田に限る)】 まさっち

 

【才能】超高校級の司令塔

スポーツ全般の司令塔のことを指す。指示を的確にかつ正確に出す。

 

【備考】

弱小サッカー部とバスケ部を全国一に導いた経験を持つ。

運動部のため、本人の運動神経もかなり高い。

司令塔と呼ばれるだけあって皆のまとめ役になっている。

 

 

 

 

 

【名前】 和合伸太郎 (ワゴウシンタロウ)

【身長】 176cm

【体重】  65kg

【胸囲】  87cm

【平常時の服装】 燕尾服

【呼び方】一人称「(わたくし)

     男女+モノクマ「名字+様」

【呼ばれ方(清田に限る)】 マサっち

 

【才能】超高校級の交渉人

交渉に関しては超一流。些細な交渉から規模の大きなグローバルな交渉までこなす。

 

【備考】

とても謙遜的で誰に対しても常に敬語で話す。

料理もできて家事全般をそつなくこなせる。

主に天原から執事では無いかと疑問を抱かれている。

 

 

 

 

 

【名前】 柴典孝 (シバノリタカ)

【身長】 166cm

【体重】  58kg

【胸囲】  75cm

【平常時の服装】 学ラン

【呼び方】一人称「ワシ」

     男女ともに呼び捨て

【呼ばれ方(清田に限る)】 たかぽん

 

【才能】超高校級の文化委員

文化祭の実行から文化財の保護までこなす謎の文化委員。

 

【備考】

日本の文化財の保護を目的として活動をしている。

学校経営を救ったが本人は何も自慢と思っていない。

話かけやすく親しみやすいと思われる。

 

 

 

 

 

【名前】杉谷玲奈(スギタニレイナ)

【身長】 163cm

【体重】  54kg

【胸囲】  87cm

【平常時の服装】 黒のスーツ

【呼び方】一人称「ボク」

     男女ともに「名字+さん」

【呼ばれ方(清田に限る)】 なっつん

 

【才能】超高校級のスパイ

他国への侵入、調査、情報収集などをこなす。

 

【備考】

才能は犯罪者に近いが本人は常識人に近い。

口数はあまり多い方では無い。

娯楽などに疎く、二次元を含めて一般教養以外あまり知識がない。

 

 

 

 

 

【名前】海部弥香(カイベミカ)

【身長】 167cm

【体重】 58kg

【胸囲】 85cm

【平常時の服装】 運動部っぽいジャージ

【呼び方】一人称「ウチ」

     男性「名字+君」、女性呼び捨て

【呼ばれ方(清田に限る)】 みかりん

 

【才能】超高校級のダイバー

ダイバーとしては超高校級。ダイビング部では無い。

 

【備考】

超高校級のダイバーらしく、息が常人よりも長く持つ。

典型的な活発系女子で運動が大好きである。

また、海が好きで、よく潜りに行っている。

 

 

 

 

 

【名前】久保山水月(クボヤマミツキ)

【身長】 160cm

【体重】  56kg

【胸囲】  84cm

【平常時の服装】 家政婦らしいメイド服

【呼び方】一人称「わたし」

     男女ともに「名字+さん」

【呼ばれ方(清田に限る)】 みつきん

 

【才能】超高校級の家政婦

そのまま。超高校級の家政婦で、とても万能である。

 

【備考】

本職なので家事全般を和合以上にこなすことが出来る。

性格は温厚。優しく相談にも乗ってくれる。

有名な財閥などに仕えたこともある実績の持ち主。

 

 

 

 

 

【名前】涼宮ゆめ(スズミヤユメ)

【身長】 142cm

【体重】  42kg

【胸囲】  74cm

【平常時の服装】 ピンクのパジャマにナイトキャップ

【呼び方】一人称「ゆめ」

     男女ともに名字(ひらがな)呼び捨て

【呼ばれ方(清田に限る)】 ゆめゆめ

 

【才能】超高校級のスリーパー

何時でも何処でも寝られ、ある意味病気を疑ってしまうレベル。

 

【備考】

ゆったりとしていて、基本はマイペース。

特技、趣味、好きなことを全て寝ることと答え、一日の半分以上を寝て過ごす。

よく『~』を付けて伸ばして話す。

 

 

 

 

 

【名前】神戸光沙(コウドマリサ)

【身長】 159cm

【体重】  51kg

【胸囲】  84cm

【平常時の服装】 黒基調のセーラー服

【呼び方】一人称「(わたし)

     男女ともに呼び捨て

【呼ばれ方(清田に限る)】 マリー

 

【才能】超高校級の勉強家

自身の知らないことを勉強し、解答を求め続けた才能。典型的な努力型人間である。

 

【備考】

疑問に思ったことは全て調べないと気が済まない。

料理も勉強の結果できるようになった。

天原と反りが合わず、性格等も合わないらしい。

 

 

 

 

 

【名前】屋代秋乃(ヤシロアキノ)

【身長】 156cm

【体重】  51kg

【胸囲】  84cm

【平常時の服装】 カッターシャツ

【呼び方】一人称「ぼく」

     男性「名字+くん」、女性「名字+さん」

【呼ばれ方(清田に限る)】 あっきー

 

【才能】超高校級の幸運

特になし。抽選で選ばれただけの幸運。

 

【備考】

特に普段から幸運というわけでもない普通の女子高校生。

ギャンブルや宝くじなどはしないいい子。

周りの凄さ(一部を除く)に圧倒されている常識人。

 

 

 

 

 

【名前】ノエル・フレイザー・ペイナー

【身長】 173cm

【体重】  58kg

【胸囲】  92cm

【平常時の服装】 ブラウスにデニム

【呼び方】一人称「ワタシ」

     男女ともに「名前(カタカナ)+サン」

【呼ばれ方(清田に限る)】 ノエッチ

 

【才能】超高校級のボーカリスト

海外のバンドグループのリーダー兼ボーカルである。

 

【備考】

才能通り歌が上手く本人も好きである。

日本語もある程度分かり、話せるが難しすぎると理解できない。

最後がカタカナで終わるがこれは日本語が完壁ではないからである。

 

 

 

 

 

【名前】清田紘子(キヨタヒロコ)

【身長】 151cm

【体重】  47kg

【胸囲】  78cm

【平常時の服装】 ワンピース

【呼び方】一人称「自分」

     男女ともにあだ名

 

【才能】超高校級のイラストレーター

描かれたイラストがまるで生きていると錯覚させられるほどの腕の持ち主。

 

【備考】

人におかしなあだ名を付けてそれで呼ぶ。

自分の中で流行っているのか語尾に『ッス』をつけることが多い。

その手の有名人だが本人は自覚なし。




後、pixivでもキャラ絵はありません。
理由はシンプル。作者の絵のレベルがゴミレベルだからです。
それに加え、知人友人に頼むこともできないコミュ力の低さ。
誰か描いてくれる心優しい人がいればなぁ……と思う作者です。


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第一章『知は時に死を招く』
(非)日常編 1


翌朝。オレは目が覚めて周りを確認し…………落胆する。

 

「はぁ、結局コレが現実なのか……」

 

監視カメラに鉄板。うん。間違いなくここは昨日も使ったがオレに割り振られた個室だ。

昨日の一件が夢であってくれれば良かったのに……切実な思いである。

 

「まぁ、一晩寝ただけで記憶が戻るわけでもないか……」

 

昨日に引き続き自分の才能は思い出せそうにない。一種の記憶喪失だろうか?まぁ、今考えても仕方がない。思い出せないものは思い出せないのだ。

時刻は朝の6時23分。集合がオレは朝食組のため7時。

余裕を持って食堂に行こうとしたってまだまだ時間はある。

パジャマ代わりに着ていたTシャツと短パンを脱ぎ、昨日とは別の制服のセットを着る。あーこれらを洗い物に出したいなぁ……でも夜中とか朝に仕掛けると迷惑になるのかな?洗濯機のまわる音で他の人の睡眠を妨害したらこっちが申し訳ない。

この部屋って防音加工なのかな?後で検証してみるか……誰か使って。

軽く歯を磨き、寝癖を整え身なりをきっちりとする。ついでにベッドも綺麗に直して……

 

「よし、行くか」

 

ガチャ

 

部屋を出ると誰もいない。当然か。だってまだ六時台だし。

階段を上がって二階へと進みそのまま食堂に入る。すると、既に和合と久保山が居た。

 

「おはようございます。天原様」

「おはようございます。天原さん」

「うん。おはよう。和合。久保山」

 

二人ともオレより早く来ているなぁ……って、

 

「あれ?神戸は?」

「後ろだ天原」

「わっ!?」

 

いきなり後ろに現れた神戸。怖っ……。

 

「あ、神戸様もおはようございます」

「おはようございます。神戸さん」

「二人ともおはよう。ついでに天原もおはよう」

「お、おはよう」

 

……ってオレはついでかい!

 

「これで四人揃いましたね。さて、今日の朝食はどうします?御三方とも」

「わたしは何でもいいですよ?でも、16人分作るんですから早く決めた方がよろしいのでは?」

「16人分か……作っても食べるか?若干二名ほど」

「古屋敷と白数の二人か。あの二人なら『そんな毒が入ってるかもしれないもの食べるか』って言いそうだな」

「同感だよ神戸。今日は話が合いそうだな」

「奇遇だ天原。今日はお前と意見が合いそうだ」

 

昨日の敵は今日の友。昨日は言い争ったとしてもオレ達は犬猿の仲じゃない。だから意見が合う時もあるだろう。

 

「でも、16人分は作りましょうよ。あの二人も食事をとらないと死んでしまいます」

「久保山様の言う通りです。一応16人分を用意しておく。これでよろしいですね」

「まぁ、そこは異論はねぇ」

「全くだ」

 

というか、正直言って14人分作るのも16人分作るのも大差ねぇしな。

 

 

ピンポンパンポーン

 

『オマエラおはようございます。朝7時になりました。今日も一日、元気に過ごしましょう』

 

 

へぇ、この放送って朝の7時にも鳴るようになって居るんだ。

 

「今の時刻は……7時ですか。では、御二方。本日の朝食は何にいたしましょうか」

「そんなの決まっているだろう?」

「ああ、朝食と言ったらこれしかない」

 

そう言ってオレと神戸は同時に言う。

 

「「朝食と言ったらご飯(パン)だろ……ああん?」」

 

意見不一致。どうやらコイツとは意見が合わないらしい。でもまぁ、説得はしてみますか。

 

「おいおい、神戸。朝からパンだって?朝といったら白米に温かい味噌汁それに焼いた魚で決まりだろ?」

「はぁ?貴様こそ何を抜かしている天原。朝はトーストにヨーグルト。後は数種のカットフルーツで決まりだ」

 

説得失敗。コイツとはやはり合わないようだ。

 

「おい、神戸。ここは日本人らしく和食と行こうぜ?」

「はん。日本人だから和食?その理屈は実にくだらん」

「なら、何でテメェは朝からパン食を勧めたんだよ?」

「そんなの私が好きだから以外に理由が必要なのか?」

「テメェこそくだらねぇ理由じゃねぇか」

「少なくとも貴様より自分というものを持っている」

 

視線がぶつかり合う。本当にコイツとは意見が合わねぇ。

 

「まぁまぁ、天原さんも神戸さんも落ち着いて」

「そうですよ。御二方。食べられればどちらでもいいじゃありませんか」

「「良くない!」」

「そうですね……でしたらこう言うのはどうでしょうか?」

 

すると和合がオレと神戸の間に入り事態を収拾する案を提案する。

 

「ここで両方作るなんて案はあり得ません。ですので、ここは一つじゃんけんで決めてはいかがでしょう?」

「じゃんけんだと?」

「何だ。勝った方の提案を呑むってことか?」

「はい。そして、負けた方が全員分の朝食の片づけをしてもらう。これなら文句ないですよね?」

 

さすが超高校級の交渉人。これなら、納得の提案だ。

 

「おい、神戸。降りるなら今のうちだ」

「はん。天原、貴様こそ降りるなら今のうちだ」

 

ふむ。どうやら、コイツは降りる気がないらしいな。

 

「じゃあ、御二方。行きますよ?最初はグー。じゃんけん……」

「「ポン」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから、十分ぐらいした後に熊沢、杉谷、海部の三人が。7時30分ぐらいには鹿野、柴、涼宮、屋代、ノエルの五人。その十分ぐらい後に荒川と清田の二人が揃い、例の二人を除いて全員が揃った。

 

「ほら、出来たぞ」

 

そう言って持ってくるのはパンとヨーグルト、それにカットされたフルーツに野菜ジュースと何だか健康に良さそうな朝食になった。

では、この朝食が意味するものは何か?至ってシンプル。オレがじゃんけんで負けたということだ。畜生。明日は勝ってみせる。

 

「皆様、少し早いですが食べ始めましょう」

 

和合がそう提案する。

 

「あの二人は待たなくていいの?」

 

海部が質問をするが、

 

「あの二人を待っていたら吾輩達はいつ食事にありつけるか分からんぞ」

「そうじゃな。先に食べておくかのう」

 

荒川が返し、柴が賛同する。

 

「ぼくお腹がすいた……」

「……ボクも」

「ワタシもデス」

「あーもう!らすっちとけんけん遅いよ!」

「いえ、あの二人は知らないと思いますよ?八時にここ集合って」

「あ……そういえばそうだったね」

 

何か女性陣が話しているがそう言えば白数も古屋敷も八時に食堂集合って知らないじゃん。

 

「だったら食べ始めようか」

 

すっかり、まとめ役のポジションが似合う熊沢がそう提案する。

 

「そうでございますね。いただきましょう」

 

和合からの食べ始める宣言。聞いた瞬間にみんな一斉に食べ始める。……お腹すいてたんだね……君たち。

 

「あ、あの神戸さん」

「何だ鹿野」

 

食べ始めて数分。オレの右隣に座る鹿野が、鹿野の正面に座る神戸に話しかける。ちなみに席順は適当だ。皆が思い思いの場所に適当に座っている。

 

「僕、野菜ジュースじゃなくて普通のジュースがいいなぁ~って」

「ゆめも~あっぷるじゅーすがいい~」

 

それにオレの左隣に座る涼宮も賛同する。あ、起きてたのね。

 

「そうか。野菜ジュースを飲みきったら勝手にしろ」

「んな横暴な!」

「そうだそうだ~おーぼーだ~」

 

反抗する二人。それに対し、神戸は……

 

「そうか。そんなに嫌か……おい天原。例のブツを持ってこい」

「えぇー自分で取って来いよ」

「じゃんけん。敗者。オマエ」

「……ッチ」

 

おかしいな。あのじゃんけんにこんな権限はなかったはずだぞ。……と考えながら冷蔵庫に置いてあるものを取ってくる。

 

「ほら、二人とも。これでも飲んどけだと」

「わぁーい……って、これ何ジュースなの?神戸さん」

「ん?どっからどう見てもグリーンジュースだろ?」

「ぐりーんじゅーす~?」

「グリーン……グリーン……そうか!スイカか!」

 

バカか。スイカで緑なのは皮だけだ。せめてメロンって答えろよ。……まぁ、メロンにしては緑が濃いが。

 

「「いっただきま~す」」

 

ゴクゴクと飲む二人。そして、

 

「「に、にがぁ~ぁ!?」」

 

あまりの苦さにあの普段は眠そうな涼宮さえもが目を見開いていた。

 

「言っただろ?見た目はグリーンジュース中身は私お手製の青汁ってな」

「言ってないからな?」

「そうだったか?」

 

そして二人の反応を心底楽しんでいるようにみえる神戸。まぁ、オレも楽しんでいるが。

 

「……ねぇ、神戸さん。天原くん。グリーンジュース飲む?」

 

……こいつバカだ。ここで「はい、飲みます」って言うわけねぇだろ?

 

「ああ、もちろん飲むさ。なぁ、天原?」

「はぁっ!?」

 

コイツ何を考えていやがる……!何故ここで飲むという選択肢が取れるんだよ……!

 

「そんなに飲みたいんだね~しょうがないなぁ~」

 

そういいながらオレ達のコップに注がれるグリーンジュース(神戸特製青汁)。うわぁ……本当に緑じゃねぇか……。体に良さそうではあるが。良さそうではあるが……!

 

「に、苦ぁ~っ」

 

予想よりも苦い。あの二人が目を見開くのも納得だわ。

 

「ふぅ~やはり食事にはこれが必須だよな」

 

そう言って美味しそうに飲む神戸。

 

「「……ゑ?」」

「何だ天原に鹿野。その顔は。『お前味覚大丈夫か?』って顔してるぞ?」

 

それってどんな顔だよ。いや、合ってるけどさぁ。

 

「なぁに、何年も毎食後私はこれを飲んでいるんだ。いい加減慣れている」

 

賽ですか……。

 

「さぁ、天原。残すのは私が許さんぞ?」

 

アンタは鬼かよ。そう思いながらオレは奴のお手製ジュースを飲み干すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

口の中に残る苦味。これに慣れるとか実は神戸は味オンチじゃないかと疑いながらオレは話を聞く体制になる。

 

「さて。昨日言った通り、とりあえず、今後の方針を決めたいと思う」

 

最初に口を開くのはもちろん熊沢である。もうオレ達のリーダー的ポジションだな。完全に。

 

「まず、現状分かっていることについて。まず、ここが何らかの、そして何処かの施設であること。俺たちは全員希望ヶ峰学園の新入生であること。ここまではいいな?」

 

オレ達は肯定の意味で頷く。

 

「よし。なら、順を追って整理していくぞ。まず俺たちは学園に入学。入学式の日の朝、登校中に意識を失う。誰か日にちや時間が違うやつはいるか?」

 

オレも確かに入学式の日の朝だったな……そこは一緒だ。

 

「そこで仮定だ。俺たち16人は、入学式の日の朝。何者あるいは何処かの組織に拉致されここに連れてこられた」

「はい」

「海部か。何か意見か?」

「意見というかアレなんだけど、多分組織じゃないかとウチは思う」

「根拠は?」

「根拠というか、個人の犯行にしてはみんな朝とかだし、それにウチらは容易かもしれないけど熊沢君やここにはいないけど古屋敷君を拉致するなんて個人だと難しくない?」

「確かに、みかりんの言う通りかもッス。それに分身を使わない限り16人を同じ日の朝に拉致するなんて無理ッスよ」

 

なるほど……確かに個人の犯行では無理に近い話だ。

 

「……でも不思議」

「何がですか?杉谷さん」

「……確かに体格の大きい熊沢さんや古屋敷さんもだけど、ボクは超高校級のスパイ。そう簡単に拉致されたとは思えない。もしそうなら相手はかなりのやり手のはず」

「となると……超高校級の犯罪者とかデスカ?」

「いや、超高校級の拉致師かもしれない」

「うわぁ……なんじゃその不名誉な称号は。さすがに引くぞい」

 

ノエルに鹿野……それはさすがに不名誉すぎるよ……。

 

「だがノエル殿や鹿野殿の言うことにも一理あるかもしれませんね。ただ、相手が高校生とは思えませんが」

「そうなると……元超高校級の犯罪者とか拉致師ですか?」

 

屋代。元をつけて大人にしてもその不名誉な称号は何とかならないのか?

 

「えぇー皆様。今、私たちが持っている情報では、おそらく何も見えてきません。全て憶測で終わってしまいます」

「確かにな。私たちは和合の言う通り、裏付けするものを持っていない」

「ならどうするの~?」

「まずは、この施設について調べてみましょう。何か分かるかもしれません」

「そうだな。そうと決まれば行動あるのみだ。午後1時にもう一度集まろう。異論はないな?それと、なるべく二人以上で行動してくれ。今の段階ではモノクマの動向が読めんからな」

「「「はーい」」」

 

こうしてオレ達は探索を始めることにした……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、オレは今、約束通り食器を洗っている。探索しろって言われたけど致し方なしだ。だって、約束だしな。……決して破った時が怖いわけでは無い。

 

「何か手伝ってもらって悪いな。和合。久保山」

「いえいえ、私は最初から一人に任せるつもりはありませんでしたよ?」

「そうですよ。食事係なのですから、後片付けまでやるのは当然ですよ」

 

……この言葉を今の神戸が聞いたらどう思うのだろうか。

 

「でも、三人も後片付けに必要はなさそうですね」

「なら、オレと神戸で夕食の後片付けぐらいはやるよ」

「そうですか。なら、朝食の後片付けはわたしと和合さんが。夕食の後片付けは天原さんと神戸さんが。という風に分担しましょうか」

「そうですね。昼食は、その時に応じて。ということにしましょう」

 

何か話がすんなりと決まったな。

 

「そう言えば、ここの食材って何日分あるんだ?量はあったがこっちは高校生16人分。いずれ尽きるんじゃないのか?」

 

ここで、皿を拭きながら思ったことを口にする。朝確認したら量はあった。それもかなりの。ただ、消費するのは高校生16人。普段では想像もつかないスピードで食材が使われるはずだ。

 

「それなら、心配ありませんよ?」

「どうしてだ久保山?」

「朝、モノクマさんがわたしと和合さんに、『ここの食材は無くなったら補充する』と言っていました」

「はい。それにモノクマ様は調理器具も壊れたり使えなくなったりしたら直接言ってくれれば補充してくれるそうです」

 

なるほどね。黒幕側としてはあくまでオレ達にコロシアイをして欲しいわけだ。だから、そのための環境は整えてやるって感じか……胸糞悪いな。まるで、黒幕の掌の上で踊らされているようで。

それから数分。オレ達は後片付けを黙々とこなして……

 

「よし、終わった。二人はこの後どうするんだ?」

「そうですね。わたしはもう少し食堂やキッチンを調べてみたいと思います」

「では私もお手伝いいたしましょう」

「じゃあ、オレはどこか他の場所でも調べて来るよ」

 

キッチンと食堂。うん。ここに三人も必要ないはずだ。

 

「なら、私たちが昼食は準備しましょう。ここを調べるついでに」

「そうですね。それが良さそうです」

「悪いな二人とも」

「いえ、そんなに凝ったものを作るつもりはありませんから、お気になさらず。あ、神戸様にも昼食は私たちが作ることをお伝えください」

「ああ、分かった」

「それに、調査する人数は多い方がいいはずですよ。ですから、調査頑張ってください」

 

二人に言われるようにしてキッチンを出る。すると……

 

「…………すや」

 

食堂で爆睡中の涼宮がいた。おいおい、今はこの施設(?)を調査中じゃないのか?

 

「涼宮。起きろ」

 

そういや、こいつ。寝ることが才能だったか?

 

「……むにゃ?あさ?」

「そうだが?」

「朝ご飯?」

「いや、さっき食べただろ」

 

どうやら、寝ぼけているらしい。……全く。呑気な奴だな。

 

「……すや……」

「寝るな」

 

軽く頬を抓って起こす。

 

「いたい」

 

そう言ってオレの手を払う涼宮。

 

「お前調査しなくていいのか?」

「ちょーさ?…………おぉ~そう言えばちょーさしないといけない気がしました~」

 

……いや、調査しろよ。何が調査しないといけない気がするだ。

 

「おんぶして~」

「何でだよ」

「ゆめを運んで~」

「自分で歩けよ」

「疲れて足が~」

「疲れてないだろ」

「……むぅ~ケチ」

「……はぁ。分かったよ」

 

そう言ってしゃがんで涼宮が乗りやすいようにする。

 

「ほら、乗れよ」

「わぁ~い」

 

そう言って乗ってくる涼宮。……こいつ軽くね?まぁ、身長を考えるとこんなものか。

 

「えへへ~大きいね~」

「お前に比べたらな」

 

全く……無邪気というか何と言うか。

 

「で?何処行くんだ?涼宮」

「どっか行こ~」

 

うわっ。超適当。それって一番困るやつじゃん。

 

「じゃあ、二階から捜索してみるか。な?涼宮」

「……すや……」

「寝るの早すぎないか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局オレ達は食堂のあった二階から捜索を始めたが、二階は食堂以外の場所が閉まっていた。おそらく使えないと言うことだろう。そう言うことなら仕方ないと諦め、朝使った方の階段の方へと歩いて行く。

 

「あれ?このシャッター……?」

「んにゃ?しゃったーがどうしたの~?」

 

目の前にあるシャッターは一階へと続く階段のすぐ隣にある。

 

「天原も疑問に思ったか」

「ん?」

 

声がした方へと振り返ってみると……

 

「ヤッホー二人とも。へぇ~その二人で動いてるんだね」

 

熊沢と海部がいた。

 

「そ~だよ~」

「というか、天原。お前……何で涼宮をおんぶしているんだ?」

 

うん。そりゃ気になるよね?

 

「こいつと探索しようと思ったらおんぶするのが最適なんだよ」

「……えーっと。ウチには分からなかったからもう少し分かりやすく……」

「涼宮が探索中だろうと寝るからな。はぐれたりトラブルが起きないための措置だ」

「そうか……」

 

そう言うと熊沢はオレの肩に手を置き……

 

「お前は超高校級の御()りだったのか」

 

などと言ってきた。はぁ?オレが超高校級の御守り?

 

「それはないない」

「いや、お前の正体はあらゆる可能性がある。……本当に御守りかもしれないぞ?」

 

それは……なんか嫌だ。性に合わないというかなんか嫌だ。

 

「良かったね涼宮。天原君は子どもに優しいみたい」

「えへへ~だからね~安心して寝られ……すや」

「あはは……こりゃ、天原君大変そう……」

 

いやいや海部。笑い事じゃないから。何なら今すぐ君と立場を交換しようか?

 

「そういや、二人は二階の探索か?」

 

話を探索の話に戻す。

 

「ああ、他の皆は基本一階へと向かったからな」

「そうそう。だから、ウチと熊沢君は皆が見ていない二階を探索することにしたの」

 

なるほど。賢い選択だ。

 

「でも、二階の設備って食堂しか使えないよな?」

「ああ。俺たちも確認したがそれ以外はシャッターが降りていたり、カギがかかって入れない」

「うーん。あそこには何があるんだろう……?」

 

三人で考えてみる……が、何も出てこない。そりゃそうか。ノーヒントであそこにある設備が何なのか当てられる方が凄いか。

 

「後、気になるのはこの目の前のシャッター。おそらく三階への階段だと思うのだが……」

「そこは俺も同感だ。だが、この施設を外から見たことない以上。何階まであるのかは予測がつかないな」

「そうだよね……でも、どうやったら開くんだろうね?この階段もだし、他の設備も」

「皆目見当もつかないな。何か特定の行動をする……とかか?」

「……ゲームじゃあるまいし……」

「うーん……?」

 

ダメだ。何故ここのシャッターが降りているか分からない。何故だ?何故なんだ…………?

 

「よし。俺と海部はもう少し二階を探索してみる。もしかしたら何かあるかもしれないし」

「そうだね。分かったよ。天原君達は?この後何処に行くの?」

 

オレ達か……。

 

「オレ達は一階へ行ってみるよ。そっちにも同じようにカギがかかった部屋があるかもしれない」

「そうだな……じゃあ、1時の集合には遅れるなよ」

「オッケー」

「じゃあ、天原君。また後でね」

 

二人と別れ階段を降りていく。……閉ざされているシャッター。一体……何のためなんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

階段を降りて、客室の方に行こうか体育館の方に行こうか迷った結果。体育館に行くことにしたオレと涼宮。その通路に……

 

「何か……おかしなものが多いな……」

 

今まで……というか、昨日はあまり気にしていなかったが、この通路には絵とか誰かの作品とか美術品(?)が置いてある。でもまぁ、

 

「センスが悪いんじゃねぇのか?モノクマの銅像とか……他にもいろいろと」

「……同感ですね」

「わぁっ!?……って、杉谷か……驚かすなよ」

 

突如隣に現れたのは杉谷だ。さすが超高校級のスパイ。隠密行動が得意というわけか……!

 

「わぁっ!」

「……何してんだ清田?」

「何で驚かないんッスかあまっち!なっつんのは驚いたのに!」

「気配でバレバレだ。出直して来い」

「……というか、ボクは驚かすつもりなかったんだけど……」

 

というか、この二人で組んでんのかよ。明らかに性格正反対だろコイツら。

 

「むにゃ。あまはらうるしゃい」

 

ぺシッという効果音が似合う感じで頭を叩いてくる涼宮。うるさいって……

 

「あ、ゆめゆめ起きたッスか?というか何であまっちが……?」

「食堂で寝ていた涼宮をオレが探索に連れてきた」

「きょ~せ~れんこ~されてます」

「……最低?」

 

おっと杉谷。それは誤解だ。オレは善意でやってるからな。

 

「……はっ!分かったッス!」

 

すると、何かが分かったご様子の清田。

 

「あまっちの才能……ズバリ!超高校級の御守りッスね!」

 

……あれぇ……?さっき誰かに言われなかったっけ?

 

「……なるほど」

「いやいや納得されても困るから!絶対に違うから!」

「……証拠は?」

「証拠?」

「……うん。天原さんが超高校級の御守りじゃない証拠」

 

グぬぬ……否定できる証拠がない……!

 

「なら御守りで決まりッスね。まぁ、自分はいいと思うっスよ!」

 

勝手にオレの才能が御守りにされる……まぁ、不明よりマシだけどさぁ……!マシだけどさぁ!

 

「……ところで清田さん」

「なにかな?なっつん」

「……この絵。誰がモデルなの?」

 

杉谷が指す絵。そこには、金髪に近いような感じのツインテールで、笑顔でモノクマの人形を抱き締める女の子が。…………え?誰?この人。

 

「はっ!こ、この人は……!」

「なんだ?有名なのか?」

「全く知らない人ッス!」

 

ガクッっと崩れるオレと杉谷。…………こいつから鹿野と同じバカの匂いがするぞ。

 

「でも、絵は上手いッスね。プロとかそういう人たちに描いてもらった感じがするッス」

 

……まぁ、上手くないとこんなところで貼り出されないだろうよ。下手なのに貼り出されたらそれはもうただの恥さらしだ。

 

「……上手い……の?」

「あれ?なっつんにはこの絵の上手さが分からないッスか?」

「……うん。あまり、こういう絵とか全然分からないから……」

「なら自分が今度教えるッス」

「……いいの?」

「もちろんッスよ!」

 

盛り上がる杉谷と清田。こうなるとオレはもう蚊帳の外だな。

そう感じとったオレは二人にバれないように体育館通路を後にするのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

体育館に入ったオレ。そこでは……

 

「何やってんだ?柴。荒川」

「天原も来たのじゃな」

「おお、天原殿か」

 

いや、先ずオレの質問に答えろよ。

 

「うむ。ここの体育館の窓には鉄板があって脱出が不可能ということが分かったのじゃ」

 

……ふーん。で?見りゃ分かるだろ。

 

「モノクマが現れた演説の台にも仕掛けはなかった」

 

……ふーん。で?

 

「で?君たちは何でボールとかたくさん出してるわけ?」

 

オレが見える限りではバスケットボール、サッカーボール、野球ボール、テニスボール、卓球の球、バドミントンの羽……何でこんなものが?

 

「ふむ。それがのう。体育館の倉庫の中に入っていたのじゃ」

「体育館倉庫?」

「なら、天原殿付いて来てくれ。案内する」

 

そう言って二人に案内され、緑色の扉の中に入る。するとそこには……

 

「うわっ。普通の体育館倉庫じゃん」

 

特に変哲のない体育館倉庫があった。

 

「というか、色んな物がおいてあるな。何でこんなに用意したんだ?」

 

そこにはバレボールの支柱から、卓球台から、マット、跳び箱、ボクシンググローブそしてミニサッカーゴールまで……普通の体育館倉庫にしては品揃え豊富だな。

 

「コホン!それについてはボクから説明しよう!」

 

すると、呼ばれていないのに出てきたモノクマ。それに対してオレ達の反応は……

 

「帰れ」

「呼んでないぞ」

「また今度な」

「オマエラ酷くない!?」

 

上から柴、荒川、オレの順である。

 

「というか、いきなり現れてやったのにノーリアクションかよ~つまんない人間共だな!」

 

何かぬいぐるみにつまらない人間と言われた。ぬいぐるみに言われた。ムカつく。

 

「で?モノクマさんよ。さっさと説明しろや」

「うぷぷ。天原クン。そんな言葉遣いじゃ、超高校級の御守りへの道はまだまだ遠いよ!」

 

このぬいぐるみ野郎。監視カメラでオレ達の会話聞いてやがったな。

 

「あーだから涼宮をおんぶしていたのじゃな」

「何か自然過ぎて気付かなかったわ」

 

そしてお前ら。なんだよその反応は。というか、涼宮を背負っているのが自然ってどういうことだわ。

 

「コホン。ではではオマエラの為に何故無駄に体育館が広いのか。何故無駄に体育館倉庫が充実しているのか説明してあげよう」

 

そしてぬいぐるみ。テメェは上から目線で物言うのをやめろ。

 

「いいかい?健全な高校生たるもの。時には運動も不可欠なにです!それにこんな閉鎖空間で発散する場がなければイロイロと溜まっちゃうでしょ?」

 

ニヤつくモノクマ。ああ、確かにそうだな。テメェへの怒りとかこの環境へのストレスとかテメェへの怒りとかな。

 

「おい、モノクマ。サッカーやろうぜ!」

「おぉ。天原クン……そんなにボクとの仲を深めたいんだね!」

「お前ボールな」

「天原クン!人を何だと思ってるだよ!」

「お前クマのぬいぐるみだろ」

「どっちにしろボールじゃないよ!」

 

どうやら、オレとモノクマも反りが合わないらしい。……まぁ、逆に合ってもどんな反応すればいいかわからないが。

 

「まぁまぁ、天原殿。冗談はそれぐらいで」

「そうじゃぞ。モノクマに暴力行為をしたらワシらが校則違反で罰せられるぞ」

 

止めに入る荒川と柴。まぁ、今のはさすがに冗談だ。

 

「冗談はおいといて、モノクマ。一つ聞く」

「何さ天原クン」

「……お前は姑息な事しないよな?」

「姑息な事?」

「例えばサッカーのシュートを撃った時にシュートコースにワザと現れて暴力行為だとかな」

「そんな小物くさい事するわけないじゃん。ボクはそんな小さなことをしてオシオキをして優越感に浸るほど小物じゃないよ」

「……今の言葉。聞いたからな?」

「ボクも確かに言ったからね?」

 

これで言質は取った。ククッ。面白いこと考えた。

 

「じゃあ、ボクは行くね」

 

そう言って消えるモノクマ。

 

「じゃあ、オレ達も別の場所を探索してくるよ」

「うむ。ワシらはもう少しここを探索しておる」

「ここは柴殿と吾輩に任せてくれ。隅々まで調べよう」

 

そう言ってくれた二人に後を任せ、オレは体育館を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

通路を通ったが特に杉谷とか清田とかに鉢合わせることなく、そのまま倉庫に入っていった。

 

「何だお前らも来たのか」

「キョウヤサン。それにユメサンモ」

 

倉庫には神戸とノエルの二人がいた。

 

「で?ここには何があるの?」

「ああ、一言で言えば多種多様な物がある」

「…………はい?」

「ノート、スケッチブック、シャーペンなどの文具セットから拳銃、ナイフ、改造スタンガンなどの人を殺せそうなものまであるってことだ」

「うわぁ……物騒だな」

「でも、キョウヤサン。マイクもあったんですヨ?これで歌が歌えマス」

「それは良かったね」

 

……何なんだこの置いてあるものの多さ。そう言えばモノクマはオレたちにコロシアイをさせたいんだっけ?なるほどそういうことね。

 

「ところで天原。お前涼宮を背負ってるようだが、まさかお前の才能って――」

 

はいはい。超高校級の御守りって言うんでしょ?さすがに分かってますよ。二度あることは三度あるって言うしね。いや、もう三回ぐらい言われたか。

 

「――超高校級のロリータコンプレックスなのか?」

「誰がロリコンだコラ!」

 

というか、略さず言うなよ!もっとストレートで分かりやすく言おうよ!

 

「お前」

「こいつ!何のためらいもなく言いやがった!」

 

こいつの中でのオレの評価ってどうなってるんだろうか?甚だ疑問である。

 

「まぁまぁ、落ちついて下サイ」

 

制止に入るノエル。というか、思ったが……

 

「ノエルって、背が高いし、スタイルいいよな」

「へ?あ、ありがとうございマス?」

「神戸って、ノエルと並ぶと子供っぽく見えるよな」

「天原。それは私への挑戦と受け取っていいのか?」

「いいや?事実をありのままに述べただけ」

「よし。その喧嘩買った。表に出やがれ」

「まぁ、外には出られないみたいだけどな」

「二人トモ!今は喧嘩はダメデス!」

 

ノエルの制止が入る。ッチ。さっきの仕返しなのに……。

 

「今は仲良くしましょうヨ。ネ?」

「「こいつとは無理だ」」

 

綺麗に声が重なるオレと神戸。どうやら思ってることは同じらしい。

 

「Oh……これが犬猿の仲ってやつですネ……」

 

お、ノエル上手い。

 

「やれやれだ。そういや、神戸」

「何だ天原」

「昼食は和合と久保山が作るって言ってた」

「そうか……何かあの二人に任せるのは悪いな」

「まぁ、それはな」

「そうだ。当番制にするってのはどうだ?」

「当番制?他の奴らも巻き込むのか?」

「違う違う。朝食は私たち四人で。昼食はあの二人。夕食は私たち二人で作る。これならアイツらだけに負担は大きくないはずだ」

 

なるほど。確かに、こうやって分担すればいいかもな。一番作る量とか大変そうなのをオレと神戸が受け持ってあの二人を少しでも休ませるというのは。……それだったら、朝食をオレ達二人が受け持った方が良くないか?まぁ、どっちでもいいけどさ。

 

「じゃあ、会議の時に和合たちに言っておくか」

「そうだな」

 

そうと決まれば何を作ろうか考えないとな。うーん……。

 

「お二人は凄いですヨ。料理も出来て羨ましいデス」

「そんなことないよノエル」

「そうだ。ノエルにだって料理が出来るようになる。やろうとすればな」

「そうでしょうカ?」

「だって、ここの勉強バカにも料理ができるんだぜ?ノエルも必ずできるようになるさ」

「そうだ。そこのロリコン野郎にも料理は出来る。お前も絶対出来るさ」

「そうですネ……今度挑戦してみたいデス」

 

やる気になったノエル。そんなノエルを尻目に……

 

「おい天原(ロリコン)。誰が勉強バカだ」

「そんなこと言ったら神戸(勉強バカ)。誰がロリコン野郎だ」

「貴様。勉強バカになるほど私はバカじゃない」

「そんなこと言ったらオレがロリコンなんてあり得ないだろ」

「何ですぐに言い争うのデスカ!?」

 

この後、オレと神戸が言い争い、ノエルが止めようとしても止まらず、結局涼宮が起き、オレの頭を叩くまで続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だアンノーン。俺の顔に何かついてるのか?」

 

個室のある方に向かう途中。オレは古屋敷に遭遇した。

 

「ま、まさか、古屋敷までもが探索しているとは思わなくて……」

「探索だと?くだらん。俺はこの地図が正しいか検証しているだけだ」

 

そう言って見せてきたのは施設マップの欄だ。

 

「ただ、この地図には不備がある」

「不備だと?」

「例えばこの部屋とか。カギが開かない部屋はこの地図には載っていない」

 

なるほど……そう言えば二階のところには食堂しかないしな。開かない部屋とかはいくつかあったのに。

 

「じゃあな。俺は行く」

 

去ろうとする古屋敷。

 

「その前にいいか?」

「……何だ?」

「……今日の13時に食堂に来てくれ。今後の話をしたい」

「……それは16人でか?」

「ああ」

「フンッ」

 

そう言うと本当に去っていく古屋敷。……クールというかドライというか興味なさそうだな。

 

「全く。ああいう奴は困るな」

「ああ、同感だ……」

 

白数の言葉に頷くオレ。ああ、本当にああいう一匹狼タイプは――

 

「――って、ちょっと待て。白数。お前も人のこと言えねぇからな?」

「我か?まぁ、確かにそうだな!」

 

何でお前はそんなに偉そうなんだよ……

 

「でも、我にはそんな会議に出る意味を感じないのだが?」

「意味を感じないって……」

「まぁ、気が向いたら顔ぐらいは出してやってもいいが」

「だから何でそんなに偉そうなんだよ……」

 

何故だろう。この男は何かがおかしい。

 

「さて、我は行くぞ?」

「何処に?」

「どこかに」

「あ、そうですか」

 

そのまま歩いていく白数。現状、白数と古屋敷はオレたちと協調する気がない。……はぁ。何でこんな訳の分からない状況で纏まることができないのだろうか……。

 

「いや、これが普通かも知れないな」

 

そう思うことにしてオレは個室の方に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん。どうやっても入れないね……」

「それはそうだと思うよ?」

 

自分の個室の方に向かって歩いていくと、ある部屋の前で腕を組んで立つ鹿野と呆れる屋代が居た。

 

「どうしたんだ二人とも?自分の個室なら入ればいいのに……ってこの部屋オレの部屋じゃねぇか」

 

二人の立っていた目の前の部屋はオレの部屋だった。

 

「おい、鹿野。お前の部屋は隣だろ?」

 

どう考えてもアマハラキョウヤと書かれたネームプレートがこの部屋の扉についている。カタカナで書かれている以上鹿野が読めなかったわけではないと思うが……。

 

「いやね。天原くん。僕は考えていたんだ」

 

そう言って鹿野は自分の考えを口にする。

 

「……どうやってこの部屋に侵入するかを」

「よし。貴様を警察に突き出してやろう」

 

何でこの男は真面目に人の部屋に侵入することを考えているんだよ。

 

「わわ、ま、待ってよ。これには訳があるんだ」

 

言い訳を始めようとする鹿野。いや、人の部屋に不法侵入しようと考えている時点でアウトだから。

 

「分かった。言い訳を聞いてやる」

「実は「女子部屋に侵入するための方法を考える」ためなんだ!って屋代さん!?それじゃあ僕がただの変態になってしまうよ!」

 

……こいつ。バカだけじゃなくて変態でもあったのか……。

 

「はぁ……いいか?鹿野。精神年齢が五歳児でも、身体や戸籍上は高校生だ。そんなことしたら捕まるぞ?」

「いや知ってるからね!そこまでバカじゃないから!」

「「「え……?」」」

「何で三人してそんな意外そうな顔ができるの!?」

「だって、鹿野だし」

「はい。鹿野くんですから」

「かのだからね~」

「何その評価!まだ会って一日経ってないよね!?」

 

出会った時間は関係ない。ただ、一日経たなくともお前の性格は大抵わかったということだけだ。

 

「……って涼宮さん!?何で天原くんの背中に!?」

 

……うん。久しぶりに聞いたわこの反応。やっぱこれが普通――

 

「まさか天原くん!こんないたいけな少女を誘拐していたのか!」

「なわけあるかい」

 

――やっぱ、こいつはバカだ。

 

「あまはらはね~とても優しいんだよ~」

「良かったね涼宮さん。天原さんがいい人で」

「えへへ~」

 

どうやら、涼宮は起きたらしいな。

 

「ところで鹿野と屋代。部屋を調べてたのか?」

「うん。でも、防音性に優れていたこと以外割と普通だったよ?」

 

……お前の部屋には監視カメラがあって窓枠に鉄板が打ち込まれているのか?お前は実は囚人か?

 

「あ、後女子と男子では部屋の作りに違いは無かったですよ」

「そうか……ん?防音性に優れているといったよな?」

「うん。そうだけど?」

「なら、夜にランドリーを使っても迷惑にはならないな」

「ら、らんどりー?」

 

おっと。この鹿野の反応はもしや、ランドリーを知らないのか?

 

「……ねぇ鹿野くん。ランドリーでまさか通じないわけがないよね?」

「も、もちろんわかってるさ!」

「じゃあ、説明してみろ」

「え、えーっと、ランランってトリがダンスをするところだよね?」

 

………………こいつ高校生か?実は体は高校生、中身は五歳児とかいう裏設定ないか?

 

「えぇーい皆して僕をバカを見る目でこっちを見るんじゃない!」

 

よくわかってるじゃないか。

 

「そうだ!涼宮さんも分からないよね!?」

「洗濯をするところ~洗濯機があるはず~」

「……なぁ鹿野。今どんな気持ち?」

「……ちょっとショックを受けた気持ち」

 

……哀れなり鹿野和馬。

 

「そうだ。この機会に洗濯しておくか。溜め込むと面倒だし。まだ時間はあるよな?屋代」

「あ、うん。一応あるよ?」

「ちょっと洗濯物を取ってくるわ」

「あ、僕も」

 

そう言って部屋に入る。あ、

 

「机の上にメモ帳があったな。一応メモしておくか……」

 

何となく一番下のメモ用紙に書いておくか、

 

防音性〇

部屋の鍵〇

 

……よし、行くか。

その後、オレ達四人はそれぞれの洗濯物を持って行き洗濯機を動かした。まぁ、若干二名程洗濯機を動かすのに時間がかかったり、洗剤の量を間違えたりいろいろやらかしたが……。

そんなドタバタを終えると丁度いいくらいの時間だったのでそのまま四人で食堂に向かうことにしたのであった。



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(非)日常編 2

そして午後一時。オレたちは報告も兼ねて食堂に集まっていた。

 

「これで、14人……仕方ない。定刻となったし始めようか」

 

オレたちは和合と久保山の作ってくれたサンドイッチを片手に会議を始めようとしたその時、

 

「これで16だ。司令塔」

「うむ。我らで最後だな」

 

声のする方に顔を向けると、そこには食堂の出入り口に立つ古屋敷と白数の姿が。

 

「二人とも……!」

「フンッ。そこの御守りがどうしてもというから来てやっただけだ」

「御守りってオレのことか!?」

「貴様以外に誰がいる。元アンノーン」

「誰だ!誰がそんなことを言った!」

 

食堂に集まったメンバーを見渡すとほぼ全員がオレと目を合わせようとせず顔を背けた。背けなかったのは涼宮と和合と久保山と……

 

「なんだロリコン。私の顔を見るなりため息をついて」

 

神戸だった。

 

「……テメェ……後で覚えとけよ……勉強バカ」

「はぁ。俺に教えてきたのはぬいぐるみだ。御守り」

「あのクマ野郎の仕業か!」

 

あのクマ……!自分が安全圏にいるからって調子に乗りやがって……!

 

「そんなことより司令塔。さっさと話を進めろ」

「そうだぞ。我だって暇じゃないんだ」

 

……一番協調性ない君たちがそれを言っちゃったよ。

 

「じゃあ、まず各自報告があるものから言っていくことにしよう。まず二階を探索した結果だが……」

「うん。ウチらが調べた限り、この階で使えるのは食堂だけみたい。後はシャッターが降りていたりして入れなかったり鍵が開かなかったよ」

 

やっぱり、開かなかったか……となると二階で使えるのは食堂だけということか。

 

「それに、階段のところにもシャッターが降りていたから少なくともここは三階以上の建物だと思う」

 

謎だ……施設の規則ではこの施設を調べることは自由。だが、いまのオレたちでは調べられない場所もある。一体そこには何があるというんだ……

 

「そうでございますね。二階で唯一使える食堂を調べた結果色々と分かりました」

 

そう言うと和合と久保山が食堂について調べた結果を報告する。

 

「そうですね。まず、ここの食材はモノクマさんが補充してくれるそうです。冷蔵庫や冷凍庫も大きくかなりの量も入りそうです」

「それって飲料もか?家政婦」

「はい。元々あるのに加えて希望すれば用意すると言っていました」

 

なるほど。食の面では十分。飢え死にさせるつもりはなしというわけか。

 

「後は食器がそれぞれ16人分ずつあったことでしょうか」

「16人分ずつ?」

「はい。小皿にティーセット、グラス、箸、スプーンやフォークなど全て16人分ずつ用意してありました」

 

……本当に用意周到というか何と言うか……。はっきり言って怖いぐらいだ。

 

「分かった。ありがとう。じゃあ、次は……」

「ワシらから話そう」

 

そう言い出したのは柴だ。という事は体育館についてか。

 

「吾輩たちは体育館について調べた。まぁ、体育館の広さは昨日集まって見てもらった通り、普通の学校の体育館より少し広いかな程度。体育館倉庫には様々なスポーツ用の道具が置いてあった」

 

そこまでは、知っている。確かにここの体育館は少し広い。まぁ、運動出来る場所が広いのはありがたいことだ。

 

「後はワシらが調べた限り開かなかった扉が三つ。こじ開けようとしたが無理じゃった」

 

開かなかった扉……か。

 

「後は窓があると思われる場所の鉄板。あれも壊すことも外すこともできなかった」

「熊沢よ。体育館は以上かのう。あまり役に立てそうな情報がなくてすまないのじゃ……」

「そんなことないさ。これだけ分かれば充分だ。ありがとう」

 

体育館にも開かなかった扉。どうやら、この施設は調べれば調べるほど色んな物が出てきそうだな……。ただ、調べられればの話だが。

 

「ところで、イラストレーター」

「何ッスか?けんけん」

「……けんけんだと?」

「はいッス。古屋敷賢人だからけんけん。いい呼び名でしょ?」

「くだらん。人の名前ぐらいしっかりと呼んだらどうだ?」

 

……それ君が言っちゃう?君も人のこと名前で呼ばないよね?

 

「……そんなことより、古屋敷さん。清田さんに聞きたいこととは何ですか?」

「ああ。そうだったなスパイ。イラストレーター、あの体育館通路の置きものや絵は何なんだ?貴様は美術系の才能だ。何かわかるんじゃないのか?」

「何なんだと聞かれても困るッス。作者不詳製作意図不明何ッスから」

「……でも、ボクはあの絵とか結構うまい人が書いたと思う」

 

それは、オレも見て感じたよ。

 

「そうッスね。後は銅像を動かしても絵を回転させても何も仕掛けが発動しなかったッス」

「……本当に何のためにあの美術品たちはあそこに置いてあるんだろう。不思議」

 

いやいや君たち。それで、おかしな仕掛けが発動されても困るからね?主にオレたちが。……まぁ、それが脱出につながればありがたいがそんなこと、あのモノクマというか犯人たちがするわけがない。

 

「そうか……体育館の方も目ぼしい発見は無しか……」

「先に言っとくが私とノエルの調べた倉庫には脱出できそうなところはなかったぞ」

「お役に立てず申し訳ありまセン……」

 

堂々と言い切る神戸と申し訳なさそうに言うノエル。

 

「でも、マイクとか使えそうなモノも沢山ありまシタ」

「へぇ~例えばどんなものがあったのノエルさん」

「そうデスね……スケッチブックなどの文具セットから、懐中電灯などの非常時セット後は……」

「スタンガンとか凶器となりそうなモノも多くあったぞ。まぁ本当に多種多様だな」

 

スケッチブックと聞いた時には清田の目が輝いたが、凶器という単語が出てきた瞬間、みんなの表情に陰りが見えた。やはり、ここはモノクマによって作られた閉鎖空間内でコロシアイをさせようとしている場なのだと痛感する。

 

「後は、備品のチェックリストなるものが存在していなかった作っておいた方がいいかもしれない」

 

そう言うと言い終えたということで熊沢に進めろという感じの空気を出す。古屋敷や白数があからさますぎるが、神戸も協調性という観点で言えば低そうだな。まぁ、オレが言えたことでは無いが。

 

「そうだな。今後のためにもこの後何人かの面子を募ってリストを作成した方がよさそうだな」

 

凶器もあるんだ。なくなってても分かるようにしておいたほうがいいだろう。念のためにな。

 

「後、報告がある人はいるか?」

「あ、僕らから一応」

「うん。部屋とランドリーについてだね」

「部屋は防音性に優れていたのと不法侵入ができなさそうってことかな。防犯面はいいね」

 

……まぁ、マスターキーを持っていていつでも誰の部屋にでも侵入できそうなクマを知ってるけどな。でも、別に言う必要性はないだろう。

 

「ランドリーには16台の洗濯機が置かれていた。説明書や洗剤、カゴとかも近くに置かれていたよ。今使ってみているけど、普通の洗濯機と変わらないと思う」

「なるほど、あの音は洗濯機を回す音だったのか」

「あれ?白数くんもランドリーに居たっけ?」

「いいや?我は廊下を歩いていたが、まぁ、音の正体が分かってよかったな」

 

なるほど。廊下は音が聞こえるのか。まぁ、ランドリーは部屋というかそういうスペースに近い感じだったし当然か。

 

「これで以上か……この後は各自自由。調理担当。夕食は何時にする?」

「ああ。じゃあ、19時ぐらいでいいか?」

「分かった。なら、それまで解散だな。後、さっき言ったように倉庫や体育館の方の倉庫も備品リストを作りたい。協力してくれる人は俺と来てほしい」

 

わぁー熊沢って、司令塔というか、キャプテンとかリーダーだよな。完全に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから、流れ解散になったオレたち。オレと神戸で夕食を作る旨と当番制という提案を和合と久保山に伝えたところ、二人とも快くオーケーしてくれた。それに加えて、大変だったら手伝うとも。何ていい人たちだろうか。どこかの勉強バカとは大違いだ。

熊沢以下鹿野、柴、荒川、和合、久保山、屋代、ノエルの計八人は、倉庫の備品チェックリストの作成に行った。残った面子はと言われるとまぁ、各々に過ごすそうだ。オレは15時半に食堂に来ることを神戸に言われたので後二時間ほど、何して過ごそうか部屋で横になりながら考える。

 

「大体三十分ぐらいしたら洗濯が終わるはずなんだよな……」

 

そしたら、洗濯機から洗濯物を出して……あ、干す場所どうしよう。まぁ、クローゼットの中にハンガーがあったし、部屋にあるシャワー室でいいか。あそこにある突っ張り棒になら掛けられるだろう。

 

「考えても仕方ない。暇つぶしに体育館にでも行くか」

 

八人ほどが倉庫でワイワイやってるのを尻目にオレは体育館に到着した。

 

 

ザスッ

 

 

体育館につくとバスケットボールがゴールリングをくぐるのを目にした。お、ナイスシュート。誰がやってるのを見てみると……

 

「なんだ。杉谷に海部か」

「……天原さん」

「天原君も運動に来たの?」

「何となく時間つぶしにな。二人は?」

「……運動した方がお腹がすくから」

「こんな空間に閉じ込められているから。運動したくて……ね」

 

なるほど。杉谷はともかく、海部は運動部だったか。

 

「本当はプールや海で潜ったりしたいんだけどね」

 

そう言えば彼女はダイバーだったな。水に潜れないのは彼女にとってはこの環境は酷なのだろう。

 

「二人とも運動神経よさそうだよな」

「……運動神経の悪いスパイはカッコ悪い」

「腐っても運動系の才能。運動神経はいい方だと思ってるよ」

 

確かに言えてる。この二人はおそらく女子の中では運動神経がいい方なのだろう。

 

「……ところで、涼宮さんは?」

「そうそう。彼女はいないの?それか、鹿野君」

「あの二人とセットで考えるな。涼宮はどうせ寝てるだろうし、鹿野は倉庫にいる」

 

やれやれ、何故セットで考えられてしまうのか。

 

「さて、オレは観戦でもしてのんびりするか」

「……やらないの?」

「別に。運動しに来たわけでもないし、どっちでもいいよ」

「やって見たら天原君。もしかしたら、超高校級のバスケットボール部かもしれないよ?」

 

……なるほど。散々御守り御守り言われたが、オレの才能は結局のところまだ不明。出来るものから試すのも悪くはないな。

 

「じゃあ、やってみようかな」

「……でも、その服と靴でやるの?」

 

そっか、オレの服装ってブレザーというか制服だわ。

 

「確かにネクタイは危ないから取っておくか」

「いや、制服でバスケやるのが問題でしょ」

「そうか?」

 

ブレザーとネクタイを取り、上をカッターシャツだけにしておく。

 

「別に問題はないだろ。というか、靴って……あれ?二人はそんな靴履いてたか?」

「ううん。体育館倉庫に十六人分あったよ?しっかり誰のか分かるように名前付きで」

「じゃあ、ちょっと取ってくる」

 

倉庫に向かい割と手前のほうに体育館シューズと呼ばれるものが並んでいた。あれ?こんなの置いてあったっけ?まぁいいか。とりあえず、オレの分のを履くがこれまた綺麗にサイズが合うやつだった。モノクマはこういうところが変に意識されてるというか何と言うか。アレは何がしたいんだ?

 

「……閃いた」

「何を?」

「……天原さんの才能の絞り方」

「ほう」

「……ボクたち二人と勝負して勝ったら運動部系とか身体を動かす才能。勝てなければ少なくともバスケ部では無い」

「なるほど。そして運動神経がなければ運動系の才能でもない。杉谷って賢いんだね」

「よし。じゃあ、やってみるか」

 

かれこれ一時間ほどやっただろうか。予想通り……というか、予想以上に二人の運動神経は高かった。流石超高校級だ。オレ一人では二人と互角に相手するのが精々だった。三人で食堂に移動し、スポーツドリンクを取り出して一気に飲む。

 

「……運動の後の一杯は最高」

「そうだよね玲奈ちゃん。疲れた身体に染みわたると言うか何というか」

 

この一時間で、この二人の仲は少し進展したようだ。まぁ、一緒に汗をかけば仲も深まる……って運動部の青春かよ。

 

「……天原さん強かった」

「ほんとだよ天原君。何であんなに強いの?」

「さぁ、オレにはわからん」

 

特に才能に関する記憶のないオレにとっては、あ、自分ってこんなに動けたんだ程度にしか思わなかったけど。どうやら、相手をした二人から見ればオレは強いらしい。

 

「……でも、これで文化系の才能はなそう」

「ほんとだよ。これで超高校の読書家とか言われたら笑い物だよ」

「案外そうかもしれないけどな」

 

そう言うと二人はお互いを見合って笑う。まぁ、読書家は嫌だな。……何か神戸の才能と近い感じがするし。

 

「というか、二人も凄いな。やっぱ、スパイとダイバーだからか?」

「……物心ついた頃にはスパイになる特訓をさせられていた。だから、人よりは運動神経があると思う」

「物心つく頃からって……」

「……うん。一般教養も教えてもらってたし、スパイとしての心得?的なのも教えてもらった」

「玲奈ちゃんも勉強してたんだね……」

「……でも、ボクは必要以上のものを教え込まれていない。だから、弥香さんや天原さんの方が人としてはいろんな事を知ってると思う」

 

なるほど。だから、絵のうまさとかがイマイチ分からないのか。納得した。

 

「というか、記憶の欠如した人間に知識量で負けてることはないだろ」

「……そうかな?」

「そうだよ。多分」

 

そう思うとオレって、もし神戸みたいな才能だったらかなりの記憶が失われていることになるのか……何か嫌だな。

 

「大丈夫だよ弥香ちゃん。私もダイビングは詳しくても、勉強とかはイマイチだったから」

 

そっか、海部はダイバーだもんな。ダイビングに詳しくて当然か。

 

「でもダイバーって、学校にダイビング部でもあったのか?」

「ううん。学校では水泳部に入っていたの」

「まぁ、さすがにダイビング部はないか」

「でも、実家がダイビングショップで部活の友達とよく潜ってたんだよ」

 

なるほど。実家がダイビングショップか。さっきの杉谷もだし、各々の才能には親とか家族の影響もあるのだろうか。なら、オレの親は何をしていたんだろうか。…………ダメだ。思い出せない。才能が関わっているからなのか?

 

「……やっぱり、泳げないとダイビングって出来ないの?」

「そんなことないよ。泳ぐのとダイビングは違うからね。正しく器具を扱ったりすれば誰でも出来るよ」

 

へぇ~てっきり、泳げないとダメかと思った。

 

「……そういうものなの?」

「そうなの。そうだ。ここから出たら皆でダイビングしに行かない?」

「いいかもなそれ」

「……楽しそう」

「絶対楽しいよ!だって、海の中に広がる景色っていうのは凄いんだよ!」

「……でも、ボクなんかが……」

「海って言うのは誰もが入れるの!ダイビングするのに資格はいらないの!」

 

面白そうだな。ここから出たら是非ダイビングを一度、体験してみたいものだ。

その後軽い談笑をした後、オレたちはシャワーを浴びたりするためにそれぞれの自室に帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャワーを浴びた後、一つ重要な事を忘れていたことに気付いた。

そう。洗濯機から洗濯物を出してないことだ。

すぐにランドリーに向かうと、ランドリーには二人の人影が見えた。

 

「……やっぱり、鹿野と屋代か」

「あ、天原くんだ」

「天原くんも洗濯物を取りに?」

「まぁな。すっかりバスケやったり、話をしていて忘れていた」

「ぼくもついさっき思い出したところ。これから体育館で備品のチェックだけど、抜けてきたんだ」

「僕も屋代さんに言われるまですっかり忘れてたよ」

 

さすが鹿野だ。やはり記憶力も低かったか。

 

「というか、倉庫の方は終わったんだな」

「うん。何か色んな物が出てきて、こんなに時間がかかったよ」

 

現在は3時を過ぎたぐらい。つまり、8人がかりで一時間半もかかったんだ。きっと、あの倉庫にはかなりの量のモノが入っていたのだろう。まぁ、広さもそこそこあったしな。

 

「大変そうだったな」

「そうだよ。ところで天原くんは誰とバスケを?まさか一人で?」

「そんなわけないよ屋代。海部と杉谷の二人とだよ」

 

この言葉に屋代と鹿野の反応は違った。屋代は……

 

「あれ?涼宮さんや神戸さんと一緒ではなかったんですね」

 

いやいや、あの二人とオレをセットに考えるなよ。一方鹿野は、

 

「天原くん!君ばっかり何で女子と一緒に居るのさ!」

 

っと、軽い嫉妬心をむき出しにして言ってきた。ただな、

 

「お前の隣にいる奴は女子だろ?」

「……あ」

 

……お前は最低か。

 

「いいよ。ぼくなんて皆に比べたら可愛くもないし……」

「そんなことないよ!屋代さんも凄い可愛いと思う」

「ありがとね。お世辞でも嬉しいよ」

「なわけないだろ屋代。このバカにお世辞を言うだけの頭はない」

「そうだよ!僕にお世辞が言えると思ってるの!」

 

……どうしてお前は胸を張って言ってるんだよ……。

 

「うん。そうだね」

「というか屋代。思ったんだけど、お前って謙虚っていうか、自分が超高校級の生徒と一緒にいることに後ろめたさみたいなのを感じているよな?」

 

最初の自己紹介でも思ったことだ。何か自信がないって言うか……まぁ、普通の学校生活ならいざ知らず、今はコロシアイをしろとか訳の分からん状況だし、案外こういうのが普通なのかもな。

 

「……だって、皆ぼくなんかより凄い人ばかりだし……」

「別に誰もお前が幸運だからって下に見たりしてねぇだろ」

「でも……」

「なぁ、鹿野。屋代って凄いよな」

「うん!だってだよ!屋代さん僕よりも物知りなんだ!」

 

それはほとんど皆に当てはまるだろう。

 

「少なくとも僕みたいに超高校級のバカなんて不名誉な肩書きより幸運の方が絶対いいよ!」

「な?それにオレは不明だし。下手したらそこの鹿野より笑い物になる才能かもしれねぇしな」

「……ロリコンとか?」

「それだったら大爆笑だな」

「……ありがとう。もう大丈夫だよ」

 

少しは元気が出た様子の屋代。まぁ、流石にオレの才能は鹿野よりも笑い物になる事は無いだろう。……無いよね?本当に。

 

「ところで、二人とも」

「なんだ鹿野」

「なんですか?」

 

立ち止まる鹿野。やれやれ、今度はなんだ?

 

「さっきランドリーでこんなの拾ったんだけどさ。見覚えある?」

 

そう言って見せてきたのは一枚のコイン。

 

「さぁ?オレは分からん。屋代は?」

「ぼくは見覚えあるよ」

「え?」

「……というか既に何枚か拾った」

 

そう言って見せてくる何枚かのコイン。どうやら、鹿野の持ってるものと同じもののようだ。

 

「一体なんだろうね……」

 

呟く屋代。うーん。イマイチ分からん……ゲーセンで使うのか?いや、ここにはゲーセンなかったと思うし……

 

「コホン。お答えしましょう!」

 

目の前に現れたのはモノクマ。

 

「わぁっ!」

「で、出たぁ!」

 

鹿野と屋代は驚くような反応を見せる。対してオレは……

 

「さっさと説明しろ」

 

別に驚くことは無かった。いや、午前中に会ったばっかだし、いい加減慣れた。

 

「天原クンは何で冷たいのかな……まぁいいや。気をとり直して説明しましょう!」

 

妙にテンション高めに言ってくるモノクマ。このテンション面倒くせぇ。

 

「それは、モノクマメダルです」

「「モノクマメダル?」」

 

そう言ってメダルを見る二人。

 

「あ、モノクマの顔が彫られてる」

「全然気付かなかった……」

「で?このメダルの使い道は何だ?まさか、何の使い道もないただの記念メダルか?」

「そんな無駄なものボクが配るわけないでしょ?」

「さぁな?まぁ、この電子生徒手帳は割と便利だがな」

「そうでしょ。もっと褒めてもいいんだよ」

「はいはい。さっさと話を進めろ」

「そうだね。そのモノクマメダルを使って、モノモノマシーンを回すことが出来るのです」

 

ふーん。で?そもそもモノモノマシーンって何?

 

「あ、もしかして、モノモノマシーンって、ランドリーの近くにあったガチャガチャのこと?」

「その通りです!」

 

へぇーそんなのあったんだ。

 

「屋代さんよく見てるんだね……全然気付かなかった」

「最初使った時に偶然見つけたの。まぁ、鹿野くんと涼宮さんは洗濯機と戦ってたし、天原くんも二人に使い方を教えてたからね。気付いてなくても無理はないと思うよ」

「要するにガチャガチャを回すためのコインってことだろ?」

「その通りです!何が出るかはお楽しみ。少なくとも普通のガチャガチャなんかより出て来る種類が豊富ってことは施設長であるこのボクが保証します!」

 

保証ねぇ……全く当てにならねぇな。

 

「というわけで記念に君たちにメダルをプレゼント~。早速回してみたら?うぷぷ。じゃあね~」

 

そう言って三人に一枚ずつそのモノクマメダルとやらを渡してくるモノクマ。

 

「二人とも!一緒にガチャガチャをやりに行こう!ほら、善は急げってやつだよ!」

 

別に急がなくてもモノモノマシーンとやらは逃げないだろ。

 

「ぼくはいいけど……」

「悪い。オレはパスだ」

「何で?」

「これから神戸と夕食の準備を始める。メダルはやるからお前たちだけで遊んで来い」

「わぁーい。ありがとう」

 

メダルを渡すと喜ぶ鹿野。実に単純な奴だ。

 

「……天原くんって……やっぱり御守りなのかな?」

 

誰が御守りだ誰が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「天原。悉く貴様とは意見が合わないな」

「そうだな神戸。オレもいい加減にして欲しいぐらいだ」

 

食堂にて、またも火花が散っているオレと神戸。

 

「お二人トモ……喧嘩はその辺にしたらどうでショウカ」

「「そんなわけにはいかない!」」

「Oh……どうしたらよいのでショウカ」

「放っておくのが一番だぞ。ノエル殿」

「で、デモ……」

「どうせ、天原殿と神戸殿のことだ。そのうち収まるさ」

 

何やらノエルと荒川が話しているがそんなの関係ない。

 

「夕食のメニューには肉料理にする。これは決定事項だ」

「何が肉料理にするだ。そんなのより魚を使うべきだ」

「おい天原。肉の方が好きな奴は多い。だから肉料理にすべきだ」

「神戸。誰が肉の方が好きだって言ったんだ?魚の方がいいに決まってるだろ」

「「ああん?」」

 

まさか、ここまで話の分からんやつだとは思ってもいなかった。

 

「ところで、リョウイチサン」

「何だ。ノエル殿?」

「何故食堂の方にいらしていたのデスカ?」

「ああ、おやつの時間だったのでな。ちょっと食べに来ていた」

「そうでしタカ」

「ノエル殿は?何故ここに?」

「ハイ。ワタシは料理を勉強しようカト」

「そうか。勉強熱心だな」

「ありがとうございマス」

「でも……あの二人から学ぶことが出来るのか?」

「それは……分かりまセン」

 

口論をし続けるが、一向に神戸は折れない。何て頑固な野郎だ。

 

「いいだろう。こうなればジャンケンだ」

「望むところだ。朝は負けたが今回は勝つ」

「ほう。言い切ったな」

「ああ、今回は勝たせてもらう」

 

今回こそ、オレが勝って夕食は魚をメイン料理にしてやる。

 

「ところで、魚と肉、両方使うのはダメなのでショウカ」

「なるほど。それなら天原殿も神戸殿も争わなくて済むな」

「「それは却下だ!」」

 

神戸と声を揃え、荒川とノエルの提案を却下する。

 

「何故デスカ?お肉もお魚も使われていて、いい提案だと思いマスガ」

「そうだ。二人が妥協すれば済む話だろう」

「「最初から妥協する戦いは嫌いだ!」」

「お前ら……子供かよ……」

「そう……デスネ」

 

こういう時だけはコイツと意見が合うな。本当に。

 

「おい天原。ただのジャンケンじゃつまらない。そうは思わないか?」

「まぁ、確かにな。ならどうするんだ?」

「心理戦アリで行こうと思う」

 

なるほど。心理戦アリか……

 

「何故わざわざ心理戦アリにするのデショウ」

「悪いが、吾輩にもこの二人の考えが分からん」

 

ハッハッハッ。君たちには分かるまい。

 

「乗った。じゃあ、オレはグーを出す」

「ほう。なら私はパーを出そう」

「じゃあ、行くぞ?」

「「最初はグー!ジャンケン、ポンッ!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ~夕食は魚がメインなんだね」

 

夜の7時になる少し前。時間に遅れないよう食堂にやってきた鹿野がそう呟く。

 

「これで14人。一応揃ったな」

「あれ?僕が最後?」

「そうだよまろく」

「あれ?古屋敷くんと白数くんはいいの?」

「お前らと一緒に食べる必要はない。とか言って先に自分で食べて戻っていったよ」

「そ、そうなんだ……」

「熊沢の言う通りだ。古屋敷も白数も大体6時頃食堂に来て、何か食べて戻ったよ」

 

やれやれ、本当にあの二人は協調する気がないと言うか何というか……

 

「とりあえず、食べましょうか」

「そうだな。じゃあ、いただきます」

 

熊沢の号令の下、一斉に食べ始める。今回のメニューは和食をイメージしている。炊き込みご飯に味噌汁。後はメインの焼き鮭に、おひたしときんぴらだ。

 

「おいしいね。天原くん」

「まぁな。てか、作ったのオレと神戸だし」

「というか、何で神戸さんは不機嫌そうな顔をしているの?」

 

そう。鹿野の目の前に座っている神戸はいかにも不機嫌ですって顔をしている。その空気には隣に座る熊沢と屋代も耐えられないのか、少し距離を取っている。

 

「……なんでもない」

「なに、単純な話だよ鹿野。ジャンケンで神戸が負けて今日の夕食の献立を決める権限を奪われたからだよ」

 

あの後話し合った結果。どうせ、他のメニューを決める時も反発するのだったら、もう勝った方が全部決めればいいってことになり、まぁ、オレが全部決めたってことだ。

 

「……クソ。まさか、この男が単純にグーを出すとは想定外だった……」

 

そう。あの心理戦を制したのはオレ。まぁ、オレは宣言通りグーを出したが、神戸が深読みしてチョキを出し、オレの勝利。やったね。

 

「あまはら~」

「何?涼宮」

「おさかなのほねとって~」

「……自分でやれよ」

「むぅ~だって~取りにくいもん」

「はいはい」

「わぁ~い」

 

ったく。仕方ねぇやつだな。

 

「ねぇねぇ天原くん」

「何だ鹿野」

「僕のお魚の骨も取ってほしいなぁ~って」

「自分でやれ」

「だって、取りにくいじゃん」

「知るか」

「対応が雑!?」

 

やれやれ、呆れた奴だ。

 

「……って、あれ?屋代さん」

「どうしたの?ぼくの顔に何かついてる?」

 

鹿野がオレの正面でご飯を食べる屋代に話しかける。

 

「いや、その魚の皿が綺麗だなぁって、骨はなかったの?」

「うん。ぼくの食べた部分は骨が一本もなかったよ」

「……これが超高校級の幸運の実力か……」

 

いや、たまたまじゃないのか?

 

「というか、鹿野」

「なんだよ天原くん」

「あらかじめ大きな骨は取ってあるんだ。別に小さな骨ぐらい食べても平気だろ」

「そっか、それもそうだね」

「だろ?あ、涼宮、取れたぞ」

「わぁ~い。ありがと~」

 

納得する鹿野。やれやれ、単純な奴で助かった。

 

「おい、天原」

「なんだ神戸」

「おかわり」

「いや、自分で行けよ」

「おかわり」

「だから、自分で……」

「お・か・わ・り」

「……仕方ねぇな」

 

奴から差しだされた茶碗を手にご飯を付けに行く。やれやれ、

 

「……そんなに食ったら太るぞ。ほら」

「あぁ?何か言ったかロリコン」

「いや、何でも」

 

はぁ。何というか、神戸って負けず嫌いなところがあるんだな。

 

「あ、天原くん。ついでにウチの分もおかわり」

「……え?」

「なら、俺の分も頼めるか?」

「……はい?」

「天原よ。ドリンクが切れたのじゃ。新しいものを持ってきてくれないか?」

「いや、あの……」

 

ちょ、ちょっと待ってくれ三人とも。いつから、オレはそんな役になったんだ?

 

「あ、吾輩の分もおかわりを頼む」

「ねぇねぇあまっち。デザートとかってあるッスか?」

「……そうですね。ボクも甘いものが欲しくなりました」

「キョウヤサン。ワタシの分の魚の骨も取ってほしいのデスガ」

 

加えて四人からのオーダー。

 

「ま、待て。何でそんなことをオレが――」

「天原」

 

すると、すぐそこに座る神戸から一言。

 

「口より身体と手を動かせ」

「「「うんうん」」」

 

うんうんって頷いてんじゃねぇよ!

 

「あーあもう!分かったよ!やりゃいいんだろやりゃ!要望のあるやつはさっさと言いやがれ!」

 

畜生!これじゃ、雑用みたいじゃねぇか!

この後、結局14人分のデザートを作ったり、神戸に扱き使われたり、涼宮と鹿野の面倒を見たり、神戸に働かされたり、色々とあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「結局、収穫なしか……」

 

既に時刻は夜の9時30分を回っていて、まもなく夜の10時だ。神戸と後片付けをしたり、シャワーを浴びたり、ああ、涼宮に洗濯取りに行くようにさせたり、うん。まぁ色々とやっていて、ようやく一心地付けたところだ。

 

「記憶もイマイチだしなぁ……」

 

ベッドの上で横になり、天井を見つめながら呟く。

朝からこの施設を探索したが、外へとつながる出口はない。それに、オレの才能に関する記憶はまだ何も掴めていない。

 

「というか、才能に関する記憶がないって割と重要だよな」

 

今更ながら置かれている状況の深刻さを知るオレがいた。

そう。才能に関する記憶がないということはこの生きてきた人生の下手したらほとんどの記憶を失っているかもしれないのだ。一番厄介なのは何処から何処までのどんな記憶を失っているかをオレ自身が把握出来ないことだ。オレは一体どんな記憶を失っているのか……

 

「そういや、記憶を失う前のオレって、どんな性格だったんだろうか」

 

今は何かこんな感じだが、元のオレって、どんな感じだったのだろう。体育会系の才能を持っていて暑苦しい奴だったのか?それとも、古屋敷みたいな、ボードゲーム系の才能を持っていた冷静な奴だったのか?どれも想像だし、正しいのか分からない。

 

 

ピンポンパンポーン

 

『施設長が夜時間をお知らせします。それではオマエラ。おやすみなさい』

 

 

考え事をしていると、気付けば夜時間突入か。考えても仕方ない。寝るに限る。明日も早いしな……。



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(非)日常編 3

翌朝。昨日と同じく8時には既に14人が食堂に集まり、食事をとる。今日の朝食もパンが主食だ。これが何を意味するか?単純だ。オレがじゃんけんに負けた。畜生明日こそは勝ってみせる。……何かこれ昨日も思ってなかったか?

 

「あはは、今日は若干神戸さんの機嫌がいいってことは……」

「あまはらがまけたんだね」

 

おまけに、神戸は勝つとご機嫌だし、負けると不機嫌。うわっ。こいつ面倒くせぇ。

 

「てか、お前。それまずくねぇの?」

 

昨日と同じで、奴特製のグリーンジュースを指差しながら尋ねる。

 

「やれやれ。貴様は味オンチじゃないのか?」

 

お前に言われたくない。

 

「これの何処がまずいのだ」

 

全部だよ。というツッコミを心の中に止め牛乳を飲む。ふむ、

 

「神戸。ロイヤルミルクティーを一つ」

「はぁ?自分でやれよ」

「あぁ、悪かった。お前にそんな高度なこと頼んでも無駄だったな。自分でやるわ」

 

椅子から立ちあがり、キッチンというか厨房というかまぁ、そこへ向かおうとしたところで、

 

「あぁ?貴様なんかより上手く淹れられる。仕方ないからやってやる」

 

神戸が立ちあがってスタスタと歩いていった。よし。

 

「神戸も案外扱いさえわかりゃちょろいな」

「天原、そのゲスな笑みはやめろ。悪人にしか見えねぇぞ」

 

熊沢が何か言ったようだが知らん。

 

「ところで、あまはら。ろいやるみるくてぃーってなに?」

「そうそう。ミルクティーと何が違うの?」

「あぁ、それは……」

「水や熱湯で煮出した紅茶にミルクを混ぜるのがミルクティー。茶葉を直接ミルクで煮出すのがロイヤルミルクティーでございますね。あ、鹿野様、涼宮様。空いたお皿をお下げしますね」

「ありがとう。和合くん、詳しいんだね」

「わごーすごい」

「いえいえ、これほどのこと。一般常識の範疇でございますよ。あ、熊沢様に屋代様のもお下げしましょうか?」

「あ、悪いな」

「ありがとう」

 

何だろう。特に知識をひけらかせるわけでもなく、こう淡々と答えていく姿って何かカッコイイというか、和合にぴったりというか。

あ、オレには聞かないのかって?オレは神戸の特製ジュースを取りに行かされたついでに下げといたからな。……神戸の分も。

 

「ほら、頼まれたものだ」

「いただくよ。ふむ……おいしい」

 

月並みな感想だがやはりおいしい。ん?やはり?今ある記憶の中では飲んだことはなかったはずだが……きっと、失った記憶の中で飲んだことがあったのだろう。

 

「そうか……」

「ありがとな。神戸」

「別に」

 

あれ?何だろう。自棄に素直というか……まぁいいか。オレは優雅にこの時間を楽しむとするか。

 

「さて、今日の方針だが」

 

カップを小皿に置き、ゆっくりと声のする方に目を向ける。皆に話しかけたのはもちろん我らがリーダー熊沢だ。

 

「基本各自自由でいこうと思う。昨日みたいに探索をし続けても大した成果は得られないしな」

 

なるほど。闇雲に昨日みたいに探索をし、成果が得られなければ精神的に辛いだろう。

 

「ただ、午前中は最初体育館に集まらないか?」

「え?どうして?」

「こんな閉鎖空間に居てはストレスが溜まるだろう。ちょっと運動でもして発散した方がいいかなと思っただけだ。それに、遊ぶことも重要だと思う」

「なるほど、それは名案だね!」

 

熊沢の言葉に真っ先に反応したのは海部。

 

「とりあえず、集まりたい奴は一時間後に体育館に集まってくれ。気晴らしくらいにはなると思うぞ。じゃあ、解散」

 

そう言って締める熊沢。一人、また一人と自分の部屋に戻っていく。まぁ、確かにこんな閉鎖空間で、しかも外にも出れないんだ。どうしても、精神的にはストレスは溜まってくるだろう。まぁ、別に部屋とかで一人でやることもないし、いいかもな。

 

「天原くんはどうするの?」

「ん?あー行くよ。別に見学だけでも面白そうだし」

 

特に熊沢の才能は司令塔。集団スポーツにこそ発揮されるものだ。本当に発揮されるかはともかく、見てみたいという好奇心は少なからず存在する。

 

「じゃあゆめもいく~」

「あ、神戸はどうするんだ?」

「私は運動に興味がない。部屋で過ごすさ」

「ふーん。それって、運動音痴だからじゃないのか?」

 

ピキッっと、神戸の額に青筋が入るのが見て取れた。なるほど、図星かな?

 

「いいだろう天原。貴様に私の運動能力を見せてやる」

 

あ、面倒なことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

熊沢の言っていた一時間後には既に14人が体育館に集まっていた。あれから熊沢は古屋敷と白数にも声をかけたが興味がないだのくだらないだので拒否されたらしい。各々が動きやすい服装(と言ってもあんまり変わってない)に着替えた。

 

「あれ?屋代に鹿野。お前らってジャージが支給されてたのか?」

 

オレは昨日同様、ブレザーとネクタイを取っただけだが、二人はジャージに着替えていた。寝巻きかなんかだろうか?

 

「ううん。違うよ」

「そうそう。これは昨日屋代さんがモノモノマシーンで引き当てたんだよ」

「……は?あのガチャガチャそんなのまで出てくるの?」

 

というか、出てくるカプセルって、そんなに大きいのか?いや、さすがにジャージは入らないと思うんだけど……

 

「うん。大きいやつは引換券的な感じで引いた直後にモノクマが現れて交換してくれたんだ」

「あーそれなら納得だ」

「あ、でも、他にも色々と引き当てたんだよ。何か囲碁できるセットとか、初心者向けの漫画セットとか」

「へー鹿野は?何引いたんだ?」

「……天然水にただの石ころ」

 

なるほど。あのガチャの中身は豊富なようだ。そして、鹿野の引いたものはおそらくはずれ枠だろう。

 

「んじゃ、とりあえず、バスケでもするか。やりたい奴は集まってくれ」

 

そう言う熊沢。そんな彼の近くに集まったのは和合、柴、荒川、海部、杉谷、ノエル、久保山の七人。

 

「じゃあ、チーム分けでもするか」

 

向こうは勝手に話が進んでく。さてと、

 

「じゃあ、残った面子は何する?」

「おひるね~」

「それはお前だけだろ」

「うーん。五人だし、卓球とかでいいんじゃない?」

「ダブルスで回してくか。よし、鹿野準備するぞ」

「えーなんで僕なのさ」

「お前はあのか弱い女子たちにそんなことやらせるのか?」

「本音は?」

「やらせたら後が怖い」

 

神戸とか神戸とか、後神戸とか。

そんなこんなで準備完了。

 

「さて、ペア分けだが、どうする?」

「ゆめはねてる~」

「あ、自分は昨日あっきーに貰った漫画キットで絵を描いてるッス。というわけで最初は四人でどうぞッス」

「あれ?屋代さん。あげたの?」

「うん。ぼくには必要ないからね。あ、囲碁セットは古屋敷くんにあげたよ」

「……貰ってくれたの?」

「まぁ、一応。いらないのなら貰っといてやるっていう感じで」

 

古屋敷らしいというか、何と言うか。というか、この四人か。

 

「よし、オレと鹿野がペアだな」

「ちょっと待って天原くん。それは不公平じゃないかな」

 

……っち。

 

「じゃあ、鹿野。お前、神戸か屋代。どっちと組みたい」

「屋代さんでお願いします」

 

即答だった。まぁ、アイツ怖いもんな。うん。

 

「おい神戸。お前と組むことになった」

「天原か。せいぜい私の足を引っ張るなよ」

「というか、卓球のダブルスのルール分ってるよな?」

「ああ。テニスと違って交互に打っていくんだろ?知ってるさ」

 

そこはさすが勉強家だ。まぁ、細かく言うと面倒だし、そこまで厳密にやるつもりはさらさらない。

 

「じゃあ、そっちのサーブで」

「うん。屋代さんどうぞ」

「分かった」

 

屋代さんからのサーブ。オレが返して、鹿野がそれを返す、そして神戸が……

 

スカッ

 

空振る。

 

「…………」

 

続いて屋代のサーブを神戸が……

 

スカッ

 

またも空振る。

 

「…………」

 

無言で神戸にサーブをするようにボールを渡す。

 

スカッ

 

空振り。

 

スカッ

 

空振り。

 

「お前下手過ぎないか!?」

 

あまりのことに声を上げずにはいられない。

 

「し、仕方ないだろ!苦手なんだから!」

「苦手って次元じゃねぇだろ!」

「あはは……」

 

その後、神戸に渡ると10本に9本は空振りを見せる事態に陥ったが、まぁ、それなりには楽しんだ。そんな中、

 

「あ、危ない!」

 

鹿野がなんか言っている。それと同時に周囲を確認すると、バスケットボールがこちらに飛んできていた。

 

「……ッチ!」

 

すぐ隣にいた神戸を抱き寄せ手を伸ばしボールを弾く。ただ、抱き寄せた拍子に神戸が床に躓き(躓くようなものは無いはずだが)こちらに倒れこむ。当然、そんな事態になると思ってないオレは神戸が躓いたのに巻き込まれ背中から倒れる。

 

「大丈夫か!?」

 

熊沢の驚く声が聞こえた。神戸に衝撃がいかないよう咄嗟に守ったが……あー背中痛い。

 

「平気平気ー」

 

ひと先ず座り、体制を整えてからボールを返す。てか、誰だよこっちに投げたやつ。

 

「立てるか?」

「ふん。別に」

「てか、お前運動神経ゼロだろ」

「なっ!」

「いや、いきなり抱き寄せたオレも悪かったが、いくら何でもお前……」

「ああそうだ!運動神経悪いが文句あるか!」

 

肩で息をしながらオレに怒鳴る神戸。

 

「てかお前。これくらいで疲れたとか、体力もゼロだろ」

「うっさい!私よりスポーツがちょっと出来るからって調子に乗って……!」

「別に?事実をありのままに述べただけだが?」

「貴様にスポーツ以外だったら勝てるし!」

「じゃあ、やってみる?」

「ああ、臨むところだ!」

 

売り言葉に買い言葉。そんな感じで出ていくオレと神戸。

 

「え?ちょっと、あー」

 

後ろから鹿野の声がしたが無視をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、どうする?」

「うーん。僕ら二人でやろうか」

 

ということで、ダブルスの相手がどっか消えたので、僕らはシングルでやることにした。屋代さんのサーブで始め、のんびり、ラリーをしながら話をする。

 

「何であの二人ってあんなに仲が悪いんだろうね?」

「うーん。仲が悪いというより、何かが合ってないってだけだと思うよ」

「そう?ぼくには嫌悪してるようにしか見えないけど……」

「でも、本当に嫌悪していたら、あんな風に一緒に居ないでしょ」

「そうかな……?」

 

神戸さんと天原くんはなんだかんだで一緒にいることが多い。その度に些細なことで衝突しているけど、うーん。別に神戸さんが心の底から天原くんを嫌ってるわけでも、その逆ってわけでもないと思うんだけどなぁ。……まぁ、まだ出会って日数経ってないけど。

 

「ふっふっふっ。あの二人は表面上では喧嘩しているように見せ、裏で実は相思相愛のラブラブのカップルだったッス!」

「な、何だってぇ!?」

「その証拠に今も二人きりで隠れて……」

 

な、何だって!そんな!今二人は隠れてあんなことやこんなことを……!

 

「まぁ、どうせ喧嘩してるッスね」

「ですよねー」

 

うん。あの二人だけはないと思う。

 

「やれやれッス。自分がイラストを担当した作品ではお互いのことを嫌いでもふとしたきっかけで恋に落ちるっていうのもあったッスけど」

「あの二人の場合、ふとしたきっかけで喧嘩しかしないよね」

「全くその通りッスよあっきー。さっきだって、マリーがあまっちに恋心を抱いていいはずの場面なのに、何で喧嘩しちゃうんッスかね」

「うーん。神戸さんが素直になれていないのか……天原くんが余計なことを言っちゃうのか……」

「でも、清田さん。清田さんって、どんな風な作品のイラストを担当してたの?恋愛系?」

「自分ッスか?自分はオールジャンル行けますよ。バトルものから日常ものとか恋愛ものまで、何でも来いって感じッス。あーでも、あれッスね。一番描きやすいのは日常ものッス」

「え?何で?」

「いやぁ、バトルものって、あんまり現実にそういうモデルがいないじゃないですか。その点、日常ものとかは現実にモデルが沢山いる分描きやすいんッス。ほら」

 

そう言って見せてきたのは、僕と屋代さんが、卓球をやってるところの絵だった。鉛筆だけで描かれているため黒と白しか色はないが、それでも全然すごいと思う。

 

「こうやって、現実で見たものを描くのは得意ッス。まぁ、画像をもとに妄想というか、想像で膨らませるのも出来なくはないッスがちょっと苦手なんッス」

「でも凄いね。短時間でこんなに綺麗に描くなんて流石超高校級のイラストレーター。僕なんかとは比べ物にならないよ」

「まぁ、自分は絵で認められている人間ッスからね」

「でも、凄いですよ。本当に」

「そんなに褒めても何も出ないッスよ。あ、もっといい絵の構図を思いついたッス!二人とも向き合って欲しいッス」

 

清田さんに言われるがままに向き合う僕ら。

 

「さっきのあまっちたちがいい構図のヒントをくれたッスからね。物は試しッス。というわけであっきー。まろくにキスして欲しいッス」

「えぇぇっ!?」

「あれ?意味が分かんなかったッスか?チューして欲しいんッスよ」

「いやいや、そうじゃなくて……」

「さっきのあまっちとマリー。あのまま、マリーが床ドンしてキスすれば最高だったんッスけど」

「神戸さんならそのまま頭突きを喰らわしそうだけどね」

「そうなんッスよまろく……というわけで二人ともお願いします」

「どういうわけですか!?」

 

手を合わせ頼み込む清田さん。驚く屋代さん。

 

「頼まれてもやりません」

「えぇ~っ。見たいッスよね?ゆめゆめ」

「どっちでもいい~」

「そんなぁ……」

 

ガクッ、と項垂れた後に、

 

「仕方ないッス。想像で描くッス」

「描かなくていいです」

「あっきー?」

「描かなくていいです」

「……はい」

 

一瞬。屋代さんから恐ろしい圧を感じたけど気のせいにしておこう。

 

「いや~久しぶりの運動はやっぱり疲れるのう」

 

と、ここでこちらに向かってきたのは、

 

「柴くん」

「うむ。そっちは楽しんでいるかの?」

「うん。久しぶりに卓球をやっているけど楽しいよ」

「そう。ところで、天原と神戸の姿が見えんようじゃが……」

「あはは……喧嘩しに行った……かな?」

「う、うん……」

「…………なぜそうなるのじゃ……」

 

呆れる柴くん。でも、この反応が普通なんだよね……

 

「そういえば、バスケの方は?何か杉谷さん、海部さん、熊沢くんしか見えないんだけど……」

「荒川が疲れすぎてのう。あそこで倒れておる。それをノエルが看て和合と久保山がドリンクを持ってくると食堂に向かったのじゃ」

「適度な休憩は大事だと思うよ?」

「ゆめもそーおもう」

「ゆめゆめは休憩しかしてないッス」

「僕らも休憩する?屋代さん」

「うん。ちょっと汗かいちゃったし……」

 

僕も疲れたってほどじゃないけど、ちょっと休憩しよう。

 

「そう言えば鹿野くんって意外にバカじゃないよね」

「……え?それってどういう意味?」

 

唐突な発言に僕らは目を丸くする。

 

「あ、えーっと、ぼくのイメージだと超高校級って言うくらいだからてっきり何も知らないとかそんなレベルだと思っていたんだけど……」

「うーん。そういうわけじゃないと思うよ。僕はただちょっと考えると勉強が苦手で……」

 

バカだとは言われたりするけど、超高校級ってほどだとは思わなかった。

 

「じゃあ、ちょっとクイズを出してみるとするかのう」

「クイズ?」

「うむ。ワシは文化委員として日本だけでなく、世界を巡ったことがあってのう。外国のことも少しは知っておるのじゃ」

「せかいいさんとか~?」

「もちろん。世界の遺産。特に文化が関わるものに関してはすべてみたいと思っておる。いつか世界一周して全ての遺産をこの目で見てみたいのう」

「で、クイズって世界遺産に関することッスか?」

「それでもいいんじゃが、そうなると如何せん掘り下げてしまう可能性がある。だからもっと想像しやすいものじゃ」

「想像しやすいもの……?」

「漢字じゃ」

 

漢字かぁ……漢字。あんまり難しいのは分かんないなぁ……

 

「外国の国名を漢字で表記する仕方があってのう。まぁ、当て字みたいなものじゃ。漢字も文化の一つ……なんて言わぬがちょっと面白くて一時期調べたことがあるのじゃ」

「へぇ~カタカナを漢字にしたんだね」

「まぁ、カタカナは全世界共通ではないからのう。それは日本とかが外国名を表すのに使ってるだけじゃ」

「そうなの!?」

 

てっきりカタカナは世界共通かと……

 

「じゃあ、主要なところで『アメリカ』はどう書くか知っておるか?」

 

アメリカ……さっき柴君は当て字みたいって言ってたから。

 

「『雨理科』とか?」

 

清田さんからスケッチブックを借りて漢字で書いてみる。

 

「なるほどのう。鹿野が自分の知ってる漢字を使って作ったのがヒシヒシと伝わってくるのじゃ。ただ、こんな風には書かぬのう」

「そんな!」

「ふっふっふっ。甘いッスよまろく。正解はこうッス」

 

そうやって書いたのは『飴梨花』……?

 

「一番左の漢字ってどっかで見たことあるような……後、真ん中のも」

「一番左の漢字はのど飴とかの飴だよ。ほら舐めたりするあの」

「ふむふむ」

「真ん中のはナシだね。果物の」

「なんかおいしそうな漢字を並べた感じがするがこれも違うのう」

「そんな!」

「答えは……こうだよね?柴くん」

「えーっと『亜米利加』?」

「そうじゃな。他にも色んな表記の仕方があるそうじゃ」

「屋代さんって物知りだね!」

「ううん。たまたま知ってただけだよ」

「よぉし!次は正解してみせる!」

「あ、まろくには負けないッスよ!」

「どっちもがんばれ~」

 

こんな感じで何問かわいわいと和合くんたちが昼食と呼ぶまで続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食堂に着いた僕らは珍しい光景を目撃した。

 

「ここだな」

「ほう。なかなかいい手だ」

 

珍しい……って言うのは単純に古屋敷くんを食堂で目撃しているって事なんだけどね。で、向かい合うように座っているのが天原くん。

 

「お二人とも、囲碁をずっとやっているんですよ」

「久保山さん……え?ずっと?」

 

あれ?天原くんは確か神戸さんと一緒に体育館から出て行ったような……。

 

「……お前らの分だ」

 

うわぁ。凄い不機嫌そうな神戸さんが昼食を運んでいる……本当に不機嫌そうだ。何があったのか聞きたくないレベルだけど……さっきから天原くんの方を見ていることから何かあったんだろうなぁ……。流石の僕でも分かる。

 

「ま、マリー?どうしたんッスか?相当不機嫌ッスよ?」

「あまはらがなんか言った~?」

「……そういうわけじゃない」

「えーっと、二人で出て行った後、何があったの?」

 

屋代さんが恐る恐るといった感じで聞いている。これには、食堂にいるメンバーも割と気になってる様子だ。

 

「あの後、手近で勝負できる物ってことで囲碁をすることにした。天原も『やった記憶はないけどルールは覚えてるから問題ない』って承諾し、古屋敷から借りて食堂で一局やった。で、惨敗した」

 

その瞬間。僕らの中で彼女が不機嫌になってる理由が明らかになった。

 

「リベンジしようとしたが古屋敷が『俺がやる』って言ってそれからずっと二人でやってる……!」

 

ヤケになって神戸さんは自身のお手製のグリーンジュース(言っちゃ悪いけどマズい)を飲む。……ん?でもそれって……

 

「古屋敷くんに天原くんを取られて嫉妬しているってこと?」

 

その瞬間。空気が凍った気がした。え?なんか僕マズいこと言った?

 

「あ゛あ゛ぁ?」

「ごめんなさい!」

 

物凄い勢いでにらまれた。ドスの効いた声も合わさって無茶苦茶怖い。

 

「今のは鹿野くんが悪い」

「かのどんまい」

「まぁ、まろくだから仕方ないッス」

 

うぅ……何で僕ばっかりこんな損な役回りに……。

 

「そう言えば、皆は午後からどうするの?」

 

和合くんたちが作り神戸さんが運んでくれたサンドイッチを食べながら皆に聞いてみる。午後からは自由行動って聞いていたけど……

 

「ゆめはねる~」

「自分は絵を描いてるッス」

「……ボクも行っていいですか?清田さん」

「もちろんッス!」

「……ありがとうございます」

「うーん。ウチは探索かな~あのガチャガチャ引いてみたいし」

「わたしはお菓子でも作ってみます」

「ミツキサン。ワタシも一緒にいいデスカ?」

「もちろんです。一緒に作りましょう?」

「ぼくは……何も考えていないかな」

 

女性陣はこんな感じか。一人、ずっと二人の囲碁の戦いを見ていて声をかけづらいからスルーしておこう。

 

「吾輩は疲れたので部屋で休む」

「ワシも行っていいか?生憎手持ち無沙汰でのう」

「じゃあ、男二人で何か話でもするか柴殿」

「俺はもう少し運動したいな。行くか?和合」

「分かりました。私も身体を動かしたい気分ですので」

 

……困った。聞いといてあれだけど僕自身が何をしようか考えていない。かと言って一人で過ごすのも退屈だよね……夕食の時間までは全然先だし。久保山さんたちのお菓子を食べに来たとしても結局暇なんだよね……。

 

「ねぇ、鹿野君。屋代。暇ならウチと探索しない?」

 

おっと、これは願ってもない提案だ。

 

「ぼくはいいよ。鹿野くんは?」

「もちろん。やることなくて困ってたくらいだよ」

「三人ならあのメダルも発見しやすいだろうし、何より屋代の幸運があるから問題なし」

「期待してもらっても……ぼくはそんな幸運ってほど運はよくないよ……」

 

口ではそう言ってるけど彼女の幸運は所々発揮されてる気がする。今更だけど彼女にあのマシーン引いてもらえばいいものができるんじゃないのかな?というか、脱出した後彼女にゲームのガチャとかそういうものをやってもらったら結構いいもの引けるんじゃないかな。もしかして、買い物とかである福引きとかでポケットティッシュ以外のものが引けるんじゃないかな。後は自販機でもう一本当たりとか……なんてことだ。夢が膨らむ。

 

「屋代さん。ここから出たら付き合ってほしいんだけど」

「「「えぇっ!?」」」

 

驚きの声を上げるほとんどの人。あれ?僕何かマズいこと言った?

 

「うるさいぞ貴様ら。静かにできないのか」

 

と、ちょっと不機嫌になって声をかけてくるのは古屋敷くん。その声で静かにはなったけど……

 

「まろく……大胆ッスね」

「こんな堂々と言えるなんて……」

「バカここにありじゃのう」

「え、えーっと……その……ぼくはじゅ、順序が大切だと思うの……だからそんな急に言われても……」

 

???何で皆こんな反応するんだろう?

 

「鹿野。その付き合うの中身を具体的に言ってみろ」

 

碁石って言うんだっけ?それを盤の上に置きながら指示してくる天原くん。え?そんなの……

 

「ほら、屋代さんって幸運だから買い物とか一緒に行って福引きとかあればポケットティッシュ以外のものが貰えるんじゃないかなーって思ったんだけど……」

 

一瞬で空気が冷めた気がする。うーん。言葉って難しいね。

 

「昼食も食べ終えたしワシらは行こうかの」

「あ、自分たちも行くッス」

 

一人また一人と食堂から人が減って行く。

 

「じゃあ、僕らも行こうよ。海部さん。屋代さん」

 

ということで、僕らも行ってくることにした。ただ、屋代さんの僕に対する評価が下がった気がするのは何でだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日はこの辺りにしておくか。アンノーン」

「そうだな古屋敷……って呼び方戻ったな」

「ふん。貴様は結局才能不明なままだ。確定していない以上アンノーンと呼ぶのがふさわしいだろ」

「いや、だったら普通に名前呼べよ」

 

少なくともこの名前は本物なんだから……。

 

「あ、古屋敷さんに天原さん。今、クッキーが焼けますので一緒に食べませんか?」

「お前らの作った料理など何が入ってるか信用ならん」

 

というか今……ゲッ。三時くらいじゃねぇか。一体何時間集中していたんだよ……というか、

 

「お二人ともお昼ご飯も食べずに熱中されていましたから小腹が空いているのでは?」

 

昼食抜き。あぁ、意識すると更にお腹が減る。

 

「腹が減ってるからと言って毒が入ってるかもしれないものを口にするわけがないだろ」

 

そう言って出て行ってしまう古屋敷。

 

「はぁ……」

 

あの男は全員を疑ってる。まるでモノクマのあの言葉に従って誰かが脱出のために誰かを殺すと思い込んでる。いや、確かに出会って日数も経ってないオレたちを全員信用しろって方が無理な話だろう。

 

「ほら、天原。疲れただろ?お前も食べるか?」

「すまないな。実はすごい腹減ってる」

「そうだろうな。そう思ってお前用に私が特別に作っておいた」

 

差し出されるのは見た目は普通のクッキー。何というか、凄い不自然な気がしてならない。

 

「いただくわ」

 

そして一枚手に取り、一口分食べると、口に広がるのは辛み。これは、唐辛子の辛みだな。むちゃくちゃ辛いがオレは笑顔を作って感想を言う。

 

「うん。おいしいぞ」

「なっ……!バカな!」

 

そう言ってオレの手から奪い、それを口に含む。

 

「からっ!これがおいしいとか正気か貴様!」

「バカめ!おいしいって言えばテメェが確認のために食うと予想してたんだよ!」

「道連れにしたな!」

「そうだよ!」

 

そろそろ演技も限界で辛さのあまり涙が出てくる。目の前の神戸も同じ状況に陥っている……あれ?こいつ味オンチじゃねぇのか?まぁいい。

 

「生憎タダでやられるつもりはなくてね……!」

「ふざけるなよ……!」

「仕掛けたのはテメェだろ……!」

「ああそうだ文句あるか……!」

「文句しかねぇよ……!」

 

ヤバい。凄い辛い。早く口の中の辛さを洗い流したい。

 

「えーっと水は入りマスカ?」

「「いる!」」

 

声を揃えて水を要求する。

 

「あれ?二人ともどうしたの?」

「泣いてる……?」

「何があったの?」

 

すると、鹿野、屋代、海部が食堂に入ってきた。

 

「「こいつが悪い!……ってはぁ!?」」

 

何言ってるんだ?オレに非があるわけねぇだろ。バカか。

 

「お前がこんなもん作らなきゃよかったんだろうが……!」

「貴様が一芝居打って私を道連れにしたのが悪い……!」

「ざけんなよ……!元はといえばテメェが……!」

「その前に作らせる原因となったのは貴様だ……!」

 

お互いの言い分は平行線をたどっている。

 

「要するにいつもの喧嘩だね」

「なんだ。よかった」

「「よくない!」」

「二人とも……お水デス」

 

渡されたコップの中の水を一気飲みする。ようやく口の中の辛みが少し紛れた。

 

「で?このクッキーどうするんだ?」

「心配するな私が手を加えたのは三枚。今一枚食べたから……」

「後、二枚か……」

「なんだ?その手は」

「これ以上被害を増やすわけにもいかない。さっさとよこせ。その危険物を処理する」

「危険物とはなんだ!お前をはめるために作ったんだぞ!」

「はまってやるから寄越せって言ってんだよ!」

「誰がやるか!私が責任を持って処理する!」

「ねぇ。なんでこの二人は言い争ってるの?分からないの僕だけ?」

「大丈夫。ウチにも全然分からないから」

 

結局、お互いに一枚ずつ食べて処理するという何ともありきたりな結論に至った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜ご飯は肉中心のメニューだった。つまり、負けたと。

 

「なぁ……天原」

「何だよ神戸」

 

夜ご飯は終わり後片付け。各々が好きに過ごすため食堂に人は居らず、厨房もオレたちのみ。

 

「お前はこのまま過ぎると思うか?」

 

何をとは聞かずに皿を拭いて脇に置く。

 

「オレとしては何事もなく過ぎてほしいけどな」

 

もうここに来てから三日目が終わろうとしている。初日のインパクトは確かにあったもののモノクマからのコンタクトはあれ以降ない。いや、少し違うか。奴はオレたちにこの施設の説明をしているだけで何の行動も起こしていないのだ。

 

「ヤツも分かってるはずだ。このまま何もしなかったら何も起きないくらい」

「そうだな」

 

誰かを殺したやつが出られる逝かれたルール。だが、そのルールがあるだけで他のことは何一つ不自由がない。

 

「例えば食糧が補充されないなら誰かはアクションを起こすかもしれない。期限を設けていれば誰かは動くかもしれない。でも奴は何もしてこない」

「だが、奴の望みを考えれば必ずアクションを起こす。今日にでもな」

「望みだと?」

「言ってただろ?奴の望みは絶望だ。こうやって、親しくなっていった奴が殺される、或いは殺したりした日には……」

「深いダメージを負う……まさか」

「この時間は猶予だ。猶予でありオレたちの心を落とすための準備期間だ」

『うぷぷ~』

 

うざったい笑い声が聞こえたのでオレたちは厨房の出入り口を見る。そこには一体のモノクマがいた。

 

『さすがは天原クンに神戸サン。君たちはやっぱり鋭いねぇ』

「どういう意味だ」

『そのまんまの意味だよ。君たちってさ、赤の他人の死に一々絶望をする?殺人事件が起きる度「オレがあそこにいれば……!」なんて思ったりする?思わないよね?』

 

そりゃそうだ。誰が生きて誰が死んで、赤の他人のそれまで一喜一憂していたら身が持たない。名前も顔も知らない他人のことを考えるなんて普通はあり得ない。

 

『でもさ、もしそれが知り合いだったら?仲間だったらどうかな?冷酷な人間でない限り、絶対に後悔するよね?悲しむよね?』

「だからお前は何もしなかった。私たちが赤の他人同士から仲間になるまで」

「で?何をするつもりだ」

『君たちは早いなぁ。本当に。まぁ、ボクとしても今の状況はクソほどつまらないからね……ここからが本番だよ』

 

そう言うとオレたち目の前から去って行く、モノクマ。そして、

 

ピンポンパンポーン

 

『えぇーオマエらにお知らせです。今すぐ全員体育館に集まってください。五分以内に来ないやつはオシオキだからね』

 

「行こうか」

「ああ」

 

オレたちは手を止めて、軽く拭いたりした後、モノクマの言うように体育館に向かう。

オレたちが体育館につく頃には既に14人が集まっていた。

 

「あ、天原くん。ねぇ、急な呼び出しって何だろうね……」

 

オレたちが入って真っ先に声をかけてきたのは鹿野。

 

「ふん。どうせ下らないことだろうがな」

「我も暇じゃないというのに」

 

不機嫌になっている古屋敷。白数も、二人とも夕食時には見なかったがしっかり集まっているようだ。

 

『結構結構。時間通り集まってくれてボクは嬉しいです!』

 

初日と同じようにステージの上へと飛び出してくるモノクマ。だが、二回目だし何が来るかとかは分かっていたので驚きはない。

 

「わわっ!?」 

 

たった一人を除いて……。

 

『ボクは悲しいよ……オマエらに冷たい目で見られて。シクシク。オマエらのために食料の補充から物の手入れ、清掃からゴミ捨てまでやっているというのに……』

「なるほど。モノクマ様のお陰できれいだったのですね」

『その通り!だからもっと施設長を敬うのです!』

 

てか、それ施設長の仕事ってか雑用の仕事だろ。

 

「それより、呼び出した理由は何だ?俺たちはそんなことを聞くために呼び出されたのか?」

 

熊沢が代表してモノクマに問う。

 

『何かをなすには「動機」や「モチベーション」って大切だよね?勉強するにも、スポーツをするにも、やる気を出すにはやっぱり必要になってくるよね?』

 

まさか……な。

 

『オマエらが何故殺そうとしないのか!それは「動機」が不足しているからです!』

「で、でも、人を殺すような動機って……なんッスか?」

『オマエら。外の世界が今どうなってるか知りたくはない?』

「「「…………っ!」」」

 

何人かの表情がこわばった気がする。

 

「じゃ、じゃが、ワシらはここに来させられてたった三日。そんな三日程度で世界がガラッと変わるとは思えん」

「……そう。そんなことあるはずがない」

『うぷぷ。君たちは本当に三日程度しか経ってないと思うの?』

「ど、どういうことですか……?」

『まぁ、三日でもいいんだけど。でもさ、なら不思議じゃない?何で誰も助けに来ないんだろうね?』

 

さっきから不安を煽るような発言を繰り返すモノクマ。

 

「きっと外では警察の人が動いているはず……」

『そう信じていられるうちは平和かもね。まぁいいやー。じゃあ、本題です。オマエら一人ひとりにビデオを用意しました。名付けて「動機ビデオ」安直だって?でも分かりやすいでしょ?』

 

動機ビデオ……か。

 

『既に全員の部屋にビデオ……というか動機のDVDとそれを見られるような機材を配布しておきました』

「ふん。罠だと知って踏むバカがいるか」

『そうだね。ボクも絶対見ろだなんて言わないよ。でも、「動機ビデオ」には君たちの知りたい外の世界の情報が映ってるよ。それは保証します』

 

さっきまでの煽りはそういうことだったか。

 

「で、でも処分してしまえば……全員分処分してしまえば動機はなくなるのでは?」

『うぷぷ~そんな事はさせないよ』

 

ピロリーン!

 

全員の電子生徒手帳から一斉に電子音が鳴り響く。

電子生徒手帳を開くとそこにはデカデカと『規則が追加されました!』との文字が。そして規則一覧を見ると、

 

 

1.生徒達はこの施設内だけで共同生活を行いましょう。共同生活の期限はありません。

 

2.夜10時から朝7時までを“夜時間”とします。夜時間は立ち入り禁止区域があるので、注意しましょう。

 

3.この施設について調べるのは自由です。特に行動に制限は課せられません。

 

4.施設長ことモノクマへの暴力を禁じます。監視カメラの破壊を禁じます。

 

NEW 5.仲間の誰かを殺したクロはこの施設から“退去”となります。

 

NEW 6.施設長の配布した動機ビデオ並びにその器材を処分することを禁じます。

 

尚、規則は順次追加していく場合があります。

 

 

……やりやがったな。

 

「この処分というのは、ゴミに捨てるとか以外にも壊してもダメなんだろ?」

『その通りです。鹿野クンにも分かりやすく補足するなら「動機ビデオを見れない状態にすることを禁止する」って感じだね。じゃあ、ボクはこれで~』

 

そう言い残して消えていくモノクマ。しかも6の校則追加に乗じて5も追加されている……が、こっちは特に変わらないな。

 

「皆。動機ビデオは見ないようにするんだ」

 

熊沢がそう提案する……が。

 

「うーむ。我はそれはやめておいた方がいいと思うぞ」

 

白数からの反対意見が出た。

 

「どうして~?」

「そうだよ。ウチらが全員で見ないと約束すれば……」

「本当に見ないと言い切れるか?貴様ら」

 

古屋敷からの厳しい意見。

 

「処分ができない以上俺たちはそのビデオと隣り合わせ。中身は外の世界の情報。こんな拘束力のない約束を本気で全員が一生守れると思うか?」

「そ、そんなの……」

「断言しよう。不可能だ。最初はいいだろう。だが、時間が経てば『本当に誰も見てないか?』と不安になり最後は『自分だけ見てないのでは?』と移ってゆくに違いない」

「違いないってそんなのやってみなくちゃ……」

「何故、ぬいぐるみは規則に『動機を絶対見ること』ではなく、『動機の処分の禁止』を追加したか。単純だ。強制しなくとも誰かは絶対に見る。しかも、強制しない方が疑心暗鬼に陥りやすい」

 

なるほどな。オレたちは四六時中互いに監視し合うわけにはいかない。必ず一人になる時間は訪れる。強制しないっていうことは、誰が見ていて誰が見ていないのか。その実態が絶対に掴めない。だから疑心暗鬼に陥る……か。

 

「…………なら、どうすればいいと思う?」

「我は全員が見た方がいいと思うぞ。そうすれば、誰が見た見てない議論は生じない」

「司令塔。本当に貴様はこいつらを信じているのか?」

「そりゃあ……人殺しなんて絶対しないと思ってるけど」

「なら、見てもいいだろう。それともなんだ。たかだかビデオを見たくらいで人殺しなをすると思ってるのか?」

 

古屋敷は頭がいい。そしてこういうことをズバッと言う。

 

「正直個人の裁量に任せたらいいんじゃないか?見たいやつは見る。見たくないやつは見ない。どちらかに強制するよりもそっちの方がまだいいと思うが」

 

気になってるやつに我慢しろと言うのも酷だろうし、見たくないやつに見せるのは意味がない。一体感とか度外視して個人個人に任せるべきだろう。

……もっとも、ほとんどのやつは見るだろうが。

 

「……分かった。天原の言うとおり個人に任せよう」

 

そして、話が終わると古屋敷と白数は最初に立ち去る。後から一人、また一人と立ち去っていき、オレも流れに沿って立ち去ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋に入ると机の上に『天原恭也用動機DVD』と書かれたDVDと再生するためのDVDプレイヤーが置かれていた。

 

「さてと」

 

わざわざ丁寧な説明書までつけてくれたがそこまで複雑なものでもないなと思いながらセットする。

オレはこのビデオを見る。モノクマがわざわざ動機って言ってるんだ。つまり、この中にはオレに関する情報が流れてくる可能性が高い。

 

「スタートっと」

 

スタートすると同時に画面には『超高校級の??? 天原恭也』という文字が出て来て……。

 

『えぇー超高校級の???である天原恭也クンのDVDは都合上作成できませんでした。でも、ここから出たら記憶が戻るのでそれなりに頑張ってください』

「ッチ」

 

思わず舌打ちをしてしまう。つまり、オレには何もないってことか。

 

「流石にボロは出さないか……」

 

オレの才能もそれどころか自分がどういうやつかすら分かってない。その理由はやはりモノクマに記憶を奪われたこと。クソ。一体何なんだ。

だが分からない。何故オレの才能を隠す?何故オレの記憶を奪ってる?どういう意図で、やっているんだ?

 

コンコンコンコンコン

 

そうやって考え事をしていると、ドアをノックする音が聞こえる。来訪者か。

 

「へいへいっと」

 

ドアを開ける。そこにいたのは、

 

「どどどうしよう!天原くん!僕、ここから早く出ないと……」

「鹿野。一旦落ち着け」

 

鹿野。なんとなく予想していた。普通のやつなら慌ててるからと言ってあんなにノックしない。

 

「とりあえず、入れ」

 

ここでやりとりしてもよかったが迷惑がかかるといけないから部屋に招き入れる。

 

「で?何が映ってた?まずはそこを教えてくれ」

「う、うん……」

 

鹿野が言うには最初は鹿野のお母さんとお父さんがビデオに出てきて、家で撮られた応援メッセージ的な感じだったらしい。途中、僅かなノイズと画面の乱れが起きた後、次の瞬間には家の内装はズタボロ所々には血痕のようなものがついており、母も父も画面には現れなかったそう。

そして、最後には『鹿野クンの家族は一体どうなったのか!答えはこの施設を出た後で!』の文字が画面に現れて終わったらしい。

鹿野の話を聞く限りビデオにはそいつの家族や親しい者が出て来る。そりゃあ、オレのには何も映らねぇわけだ。だって、映してしまったら記憶を戻すヒントを与えることになるからな。

 

「ど、どうしよう……この前まではなんともなかったのに……」

 

家族の安否を曖昧にする。しかも背景には凄惨な光景……確かに動機になり得るな。十分すぎる。

開けない方がよかったか開けた方がよかったか。だが考えるだけ無駄だ。開けてしまった以上もう引き返せない。

 

「一旦落ち着け。心配になるのは分かるがまずは落ち着け」

「で、でも……」

「いいか?多分お前だけじゃない。他のやつもこのビデオを見てお前と同じ気持ちになっている」

 

しかも他のやつは既にあらゆる事を考えすぎてコイツのように他のやつに頼ろうとはしない。頼ってしまった時点で自分がビデオを見たということになるし、頼ったやつが本当に信用できるか分からない以上一人で抱え込んでいる可能性がある。

だからある意味真っ先に、しかも正体が分かってないオレのところに来たコイツは良くも悪くもバカなんだろう。

 

「まずは信じろ。家族が安全だと信じろ。お前の両親だって、お前に人を殺してまで自分たちの安否を確認してほしいと思うか?」

「……ううん。そんなのはダメだ」

「そうだ。それでいい」

「そう言えば天原くんは見たの?」

「ああ」

 

オレのは説明してもあれなので流して見せることにする。

 

『えぇー超高校級の???である天原恭也クンのDVDは都合上作成できませんでした。でも、ここから出たら記憶が戻るのでそれなりに頑張ってください』

 

やっぱり中身は変わらない。

 

「何もないんだね……って、僕見てもよかったの?」

「問題ないだろ。モノクマは一言も他人に見せるなとは言ってない。禁止もされてないしな」

「そ、そう……で、でも皆も天原くんと同じ感じなら……!」

「それは絶対ない。オレだけがイレギュラーだ」

「そう……だよね」

 

落ち込む鹿野。そんな中、

 

ピンポンパンポーン

 

『施設長が夜時間をお知らせします。それではオマエラ。おやすみなさい』

 

「夜時間か……」

「じゃ、戻るよ。また明日ね」

「あぁ……おやすみ」

「うん。おやすみ」

 

そう言って部屋を出て行く鹿野。

誰が見て誰が見てないのかなんて分からない。だが見たやつは絶対に何かしら心に変化が現れてる。クソ。あの熊野郎……!だが、妙に気になる。モノクマの発言もだし今のビデオもだが、本当に三日間なのか?ダメだ。オレに記憶がなさ過ぎて時間の感覚が分からない。

 

「寝るか……」

 

分からない。疑問はつきない。だが明日はまたやって来る。今はその明日に備えて休むときだろう。



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