fate/grand order ~caster of Ptolemy~ (ドロイデン)
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プロローグ 出会い

 魔術師とは大体が鬼畜な連中ばかりだ。

 

 いや、魔術師に限らず大抵の人間は自分の常識でしか物事を理解しない奴等ばかりで、その中で魔術師関連の人間が尽くその上位だ。

 

 各言う自分もその魔術師の一人なのだが、如何せん王道だが廃れた分野を専攻してるだけに回りからの軋轢がヤバイ。

 

「……」

 

 事実、名前的に好印象なこのカルデアに来てからというのも、ただでさえ欧州に比べたら魔術の遅れている……といったら微妙だが……日本人で、しかもどちらかと言えば一般枠に近いただの占星術(トレミス)系魔術師の自分には形見が狭すぎる。

 

 霊装も、安く大量に手に入れた十二正座のホロスコープが刻まれたプラスチックカードを、一族から踏襲してきた刻印を魔力と共に刻んだだけの安物。それぞれ予備含めてざっと一万枚。

 

 弾数制限こそあるが、下手なガンド寄りは使えると自負はあるし、魔術回路も現在齢17で15本、起源が『星座』ということも含めて相性も良いから大負けは多分ない、と思いたい。

 

「先輩、そろそろミーティングですよ」

 

「ん?もうそんな時間か」

 

 やれやれと思いつつ、愛用してるホルダーにカードをとりあえず30枚ずつ補充し、あの見てて退屈のしない所長のいるブリーフィングルームへと脚を運ぶのだった。

 

 

 

「クククッ……」

 

 ブリーフィングが終わり、後方支援担当の俺は笑いながら先程の光景を思い出していた。

 

「まさかあの所長の目の前で船を漕ぐ度胸があるとはな……」

 

 正直言うとあれはツボに入った。たまさか隣にいたカドックも笑いこそしてなかったがプルプルと震えていたことから見ても滑稽だったのは間違いない。

 

 まぁ笑ってしまったせいで、俺も彼の船漕ぎと共に留守番を命じられたのは仕方ないと言えばそこまでだろう。

 

「しかし藤丸立香か……面白い同郷のやつが居たもんだ」

 

 部屋にお邪魔してやろうか、と変な気分に駆られ彼の少女の部屋に向かって歩き出す。

 

 途中所長に内緒で廊下に隠し張りしてる十二正座とは別のホロスコープを一枚確認しつつ、恐らく今ごろサボってるだろうあのホンワカ青年と喋ってるのだろうなと簡単な考えをしながらその部屋に入ってみると、案の定、二人が仲良く喋ってる姿があった。

 

「おいおいロマンさん、女の子部屋に連れ込むのは犯罪だぜ?」

 

 勿論弄り倒す気満々だが。

 

「ちょ!!君は何を言ってるんだ!!」

 

「うーん、ロマンさんが女の子の部屋に勝手に入ってピロートークしてるところ?」

 

「そんなんじゃないから!!」

 

「いや知ってますから」

 

 何を!?と驚いてる白衣の青年を無視し、俺はベットに座ってる少女を見据える。

 

「どうも、さっきは面白かったよ。藤丸立香さん」

 

「お、面白い?」

 

「おう、あのオルガマリーをプルプル震わせるなんて中々見れた姿じゃないからな。お陰で俺も待機組に残っちまったが」

 

 そう言いつつ軽く笑うと、立香はなんとも言えないような苦笑を浮かべるだけだった。

 

「っと悪い悪い、自己紹介がまだだったな。俺は天生(あもう)ルセ。数少ない同じ日本人として仲良くしようや」

 

 

 

「てことは藤丸はカルデアでは珍しい一般枠なのか。へぇ、なるほど」

 

 置いてあった珈琲メーカーの珈琲を飲みつつ聞いた話を聞くと、俺は興味深く頷いた。

 

「しかし一般……一般枠か……藤丸はあれだろ?魔術師の家系とかそんなんじゃないんだろ?」

 

「はい。けどどういうわけか魔力の量……ですか?それが多いみたいで」

 

「ふーん、てことは突然変異みたいなもんか。珍しいなそれは」

 

 普通の一般人が魔術に関わるとなれば、かの聖杯戦争のマスターに選ばれるか、はたまた特殊な事情で養子となって後継になるかのどちらかぐらいだが、そのどちらでもないとなると結構珍しいタイプだ。

 

 まぁ元が魔術師の家系で、それを知らなくて一般人として生活してる奴も少なくはないけど偶にいるがな。

 

「えっと、流星さんは魔術師なんですか?」

 

「うーん、まぁ魔術師と言われればそうだし、魔術使いと言われればそれもまた然りなんだよな」

 

「そうなんですか?」

 

 そ、と俺は呟くと一枚のカード……『うお座のホロスコープ』が描かれたそれを彼女に一枚手渡す。

 

「例えばこれ、俺の魔術霊装なわけなんだが、これが二枚あれば瞬間移動できる」

 

「え!!凄い!!」

 

「ただし移動する側と移動させる側両方にかなりの魔力を消費させるうえに、移動できる距離は最大でも五キロまで。日本なら車か自転車、はたまた頑張れば歩いても到着できる距離だ」

 

 さらに言うと、このうお座のホロスコープ……正確には瞬間移動用には一対になるように特殊な刻印を刻んでるのと、使用したカードは全て効力を失うから再利用できないという欠点もある。

 

 まぁ基本的に魔術なんてものは欠点しかないものが多い中で、擬似的に、さらにかなりの下位互換とはいえ魔法に近い魔術は、それだけで封印指定されてもおかしくないわけだが。

 

「ちなみにどれくらいの魔力を使うんですか?」

 

「最大距離を移動しよう物なら魔術回路一本はダメにするだろうな」

 

「いや、それかなり異常な消費量だよね!!」

 

 ドクターのあまりの驚きように苦笑してしまう。まぁ実際魔術回路一本消費なんて、普通に考えても消費量と実利が釣り合わない。

 

「まぁこの瞬間移動って、正座の力を利用した物だからな。夜でうお座が見える場所でなら、ある程度消費は抑えられるけど」

 

 正座は古来より神秘を内包してると言うくらいだし、占星術使いの家柄としては、由来を曲解させて効力を産み出すなんて何時もの事だ。

 

「占星術か~、ということはもしサーヴァントを呼ぶとしたらキャスターかい?」

 

「うーん、まぁ正解と言えば正解かな。二番手はアーチャーだけど」

 

「キャスターとアーチャー?てことは魔術師と弓兵だよね、魔術師はともかく星座と弓兵ってあんまり関係無さそうだけど?」

 

 彼女は頭に疑問符を載せているが、俺は苦笑いで答えた。

 

「そうでもないぞ。神話で星座に祭り上げられた有名な英雄だって居るんだからな」

 

「あ、そっか!!オリオン座といて座だよね」

 

exactly(その通りだ)。ギリシャ英雄の一人であるオリオンや、いて座のモチーフとなった英雄ケイローン、どちらも星座とは無関係とは言えないからな」

 

「キャスターには東方の三賢者も所属してる筈だからね。まぁ、大抵のキャスターはいろんな意味でずれてるのも多いけど」

 

「寧ろ自分としては魔術師にマトモな奴が居るならそれはそれで見てみたいですけどね」

 

 まぁ多分、自分の魔術の始祖であろう英霊も多分マトモな神経はしてないんだろうけど。

 

「って、ロマンそろそろ行かねぇとレフの野郎が五月蝿いぞ」

 

「う、そうなんだよね……はぁ、仕事しに行きますかね」

 

「アハハ……」

 

 立香の渇いた笑いに俺も釣られて苦笑したその時だった。

 

「「「!?」」」

 

 けたたましい程に鳴り響く緊急を告げるサイレン、各所に張り付けていたホロスコープから関知した異常、明らかに緊急事態。

 

「こちらロマニ!!これはいったい……シバに異常発生!?コフィンにもだって!!」

 

「っ!!それってかなりヤバイぞ!!」

 

 予定なら今頃コフィンには俺と立香以外の二人全ての探索部隊メンバーがコフィンに乗り込んでるはずだ。そしてもしこの情報が本当だとするのならば――。

 

「行くぞ藤丸!!せめて安否確認と生存者を救出する!!」

 

「わ、分かった!!」

 

 俺は目の前の少女と共に駆け抜ける。目的の場所に近付くにつれて感じる異常な熱を無視しながら、とにかく走り抜ける。

 

「これは……!!」

 

「ッ……!!」

 

 駆けつけたそこは正しく地獄、明らかに自然発生した火災ではないうえに、瓦礫まで散乱している。人為的、何者かによる妨害工作と見るに他ならない。

 

 そしてここまでの大破壊をしでかした奴だ、恐らく生存者は壊滅的だろう。

 

「マシュ!!しっかり!!」

 

「!?」

 

 と、藤丸がまだ生きてるのであろう後輩の名を呼んだ。慌てて俺もそこに行こうとするが、途端目の前に瓦礫が落ちてきて道を塞いでしまう。

 

「くそ!!」

 

 俺は悪態をつきながら二人の居るであろう場所へ向かおうと努力する。が、この火によってできた煙と熱せられた瓦礫のせいで動くこともままならない。

 

「くそ!!」

 

 魔術師としてではなく人として、二人を見捨てられないそう思った俺はホルダーから先程とは別のホロスコープを出そうとしたが、熱さのせいで座り込んでしまった。

 

 同時に安全のための隔壁が下ろされ、脱出することさえ不可能になった。

 

「くそったれが……」

 

 そんな最後の呟きと共に、視界が強く白い光に飲み込まれることになった。

 

 

 

「ぐ……な」

 

 謎の痛みと共に目を覚ました俺が衝撃的なものだった。

 

 街だろうか、その全てがまるごと炎に飲まれているのだ。木々は一本としてなく、あるのは瓦礫と火炎、先程までの状況が地獄絵図ならば、ここはさしずめ地獄の一丁目だろうか。

 

 そして自分がいる場所も不可解で、どういうわけか和風の武家屋敷のような場所で、燃えてないが結構危険と呼べるほどに崩れかけていた。

 

「ここはいったい……」

 

 恐らく最後に見た光は恐らくレイシフトの光なのだろう、だがここはどこだ?さっぱり検討がつかない。

 

 第一自分が無事だというなら、恐らく藤丸とマシュも……

 

 そんな考えをしてたのが悪かったのか、目の前に現れた髑髏の兵隊が来てることにも気づかなかったのは。

 

「っ!!水瓶よ(aquarius)!!」

 

 慌ててホルダーから水瓶のホロスコープが描かれたそれを取りだし、激流のごとき水を発射する。威力は然程だが、数を相手にできる魔術としては優秀なこれは、結構お気に入りだったりするのだが、それを食らっても髑髏兵は殆ど無傷だった。

 

「くそったれ!!宝瓶(aquarius)巨蟹(cancer)双魚(pisces)!!」

 

 ならばと四代元素のうち水を司る三枚を組み合わせた高出力水流砲撃を使うが、それさえも直線上の大多数は消し飛ばせたが、すぐにわらわらと別の骸骨が集まってきやがる。

 

「くそ!!」

 

 後退しながら追い払うが多勢に無勢、土蔵のすぐそばまで下がらされてしまい、身動きが取れなくなった。

 

「ぐ……」

 

 まさに絶体絶命、そう思ったその時だった。突如、背後の土蔵の中からとてつもない光が溢れ出してくる。

 

「いたっ!!」

 

 それと同時に左手の甲に特徴的な紅い痣のようなマークが浮かび上がる。

 

「これって……まさか!!」

 

 この現象、恐らく間違いはない。地元である日本で行われてきた大規模魔術儀式、そのうちの一つである奇跡。

 

「――やれやれ、こんな暑苦しいところで、星も見えないような場所で呼ばれるなんて」

 

 その鬱憤が溜まったような声と共に射たれた白色の魔術の弾丸が、骸骨共を鎧袖一触のように消し飛ばした。

 

「けどまぁ、()が呼ばれた理由ははっきりしてる。というより、僕を呼べるのなんて数が少ないんだけど」

 

 暗く見えづらかったその中から現れたのは、白地のローブを纏った銀髪の背の低い少女、そしてその手にはホロスコープのマークが描かれた大きめの書物。

 

「君は……」

 

「おいおい、僕を召喚しといて僕が誰かなんて野暮な質問は無し……と言いたいところだが、時間がないから名乗らせてもらおう」

 

 そう言って少女はローブをはためかせ、開いていた書物を閉じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サーヴァント、キャスター。真名はプトレマイオス、星見の弟子の一族の召喚に応じて参上した。学者だからと侮ると痛い目に合うという事を覚えておいてもらおうか」



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第一節 星見の始祖

 キャスター、プトレマイオス。本名クラウディオス・プトレマイオス。古代ローマの天文、数学、占星学と数々の分野で業績を残した英霊。

 

 その功績は幅広く、有名なところでは星座の概念を最初に産み出した存在として、『トレミーの48星座』と名前が使われ、現在でもその多くが有名所として使われているほどだ。

 

 が、しかし……

 

「プトレマイオスが女性……」

 

 サーヴァントなんだから性別がずれるということはたまにだがあるらしい。故にそれは別にいいのだが、まさか自分と同年代ぐらいの少女だと誰が思ったことやら。

 

 しかも僕っ娘という、属性が組合わさりすぎて少しだけ頭が痛い。

 

「正確には僕は男性でも女性でもあったというべきかな?」

 

「?どういうことだ?」

 

「当時は学者ってのは結構命の危険と隣り合わせでね、権力者に目をつけられたら困るし、反論を掲げる学者からも命を狙われてた。故に、学者っていうのは性別や年齢を騙す変装の技術が不可欠だったのさ。処世術とも言える」

 

 なるほどと、俺は余裕の少ない頭をフル回転させながら納得する。確かに昔の学者ほど、権力者から敵視された者は数多い。

 

 かの地動説を唱えたガリレオも、権力者によって職を失い死んだ、さらに古い時代のプトレマイオスならばさらに酷いことになっていたのは考えるまでもない。

 

「さて、話をしてる間にこれまた大多数のお客さんだな」

 

 と、そんなこんなをしてるうちに再び骸骨達が群れをなして行軍してくる。

 

「……キャスター、全て倒せるか?」

 

「君は誰にものを言っているのかねマスター?」

 

 キャスターはそれだけ言うと、手元の本を開き見たことの無いサインを一つと、見覚えのあるサインを2つ浮かび上がらせる。

 

「……毒矢は全てを狙い打つ」

 

 その詠唱一説、たった一発の紫色の魔力弾が発射されたかと思うと、それは目の前にいた全ての骸骨を貫き、一瞬にして溶かしてしまった。

 

「これは……!!」

 

「なに、蠍座と射手座、そしてうみへび座(ヒュドラ)を使った、触れれば神霊ですら殺す毒の弾丸さ。あぁ、安心したまえ、マスターには事前に蛇使い座のサインを魔力で刻んであるから、一度だけなら耐えられる」

 

「ヒュドラ!?」

 

 なんて恐ろしいものを組み合わせたんだと愕然としながらも、ここまでできるキャスターに畏怖さえ覚える。

 

「なぁ、キャスター」

 

「トレミー」

 

「へ?」

 

 キャスターの突然の言葉に俺はぽかんと口を開ける。

 

「キャスターなんてクラスで呼んでくれるな。どうせすぐにキャスターなぞ増える、僕のことは戦闘以外では愛称で呼んでくれて構わないよ」

 

「……分かった。トレミー」

 

「いい弟子だ。流石は僕を召喚しただけあって、順応が早い」

 

 その言葉と自然な笑みにドキリとしながらも、俺は咳払いを一つついて目の前のサーヴァントに問う。

 

「それでトレミー、君の魔術はどこまでやれるものなんだ?」

 

「僕が関連する星座ならばなんでもできるよ。さっきみたいにヒュドラの毒や、星座になっている生物を召喚・使役することもできる」

 

 ペガサスとかなんかはその一例かな、と呟く彼女に頭がさらに痛くなる。

 

「じゃあもう一つ、お前のステータスはいったいなんだ?」

 

 彼女のステータスははっきり言って異常だ。筋力、耐久、敏捷の三項目が全て?。魔力と宝具はEXだしで異常が過ぎる。幸運がB+なのはどうかと思うが。

 

「あぁ、僕のステータスは変わり種というか、星座のサインによって変わるのさ」

 

「……具体的には?」

 

「そうだね、仮に僕自身に『ヘラクレス座』の魔力を刻めば、その三つはかの大英雄ヘラクレスのそれに僕自身の素のステータスをプラスした値になる」

 

「ちなみに素のステータスは?」

 

「筋力D-、耐久E、敏捷Cだ」

 

 なるほどというべき答えに納得すると同時に、魔力と宝具の謎が気になる。

 

「ちなみに魔力が判定なのは、スキルの一端というやつだ」

 

「スキル?」

 

「EXスキル『星の開拓者』……正確に言えば僕の場合は文字通り『星座という概念を産み出した』ことから、僕は今居る場所が夜である時に限り、星座からの魔力を直接自身の魔力として、ほんの少し使うことができるのさ」

 

 聞くところによれば星の開拓者のスキルはそれぞれでスキルの内容が若干異なるらしく、さらに言えば文字通り星を産み出した事から、他の同スキル持ちに比べて彼女のそれは若干だが優秀らしい。

 

「けど夜だけなら元に戻るんじゃ?」

 

「そこは僕の宝具であるこの本が、余剰な魔力を星のサインとして変換・保存することで溜め込んでるのさ。使って良いものを使わずに返すなんて、学者としてはこれほどもったいない事はないからね。研究資金とかは特に」

 

 さて、と彼女は再び本を閉じると目を1度閉じる。

 

「うん、どうやらマスターと同じ人間が二人、そしてサーヴァントが一人生き延びてるな……これは合流するのが吉だな」

 

「場所は?」

 

「ここからそう遠くない河川敷だな。しかしこれは不味い」

 

 不味い?

 

「ふむ、どうやらそこはランサーの餌場のようだ、数秒で接敵するだろうな」

 

「な!!急ぐぞトレミー!!」

 

「案ずるなマスター。マスターにはここから瞬時に移動できる術があるだろうに」

 

 瞬時に移動できる……その事に首を傾げると、

 

「あ……うお座のカード」

 

 そう、あの時彼女に渡した瞬間移動用のカードを、俺は彼女に渡したままだったことに今更ながら気付いた。

 

「けど、アレを使うにはあちらからも魔力が必要で」

 

「安心せい、丁度今日の星座にはうお座がある。ならば僕の魔力をマスターとのパスに繋げば……」

 

 そう言って彼女は俺の背中に触れると、とてつもない魔力が体の中を駆け抜ける。

 

「彼方も戦闘中だし、これだけあれば此方からの魔力だけで移動できる」

 

「助かる。……行くぞ、キャスター」

 

「了解した」

 

 そして俺は彼女に渡したカードの対となるカードを取りだし、

 

「双魚よ、番の元へと移動せよ」

 

 その詠唱と共に風景が一瞬にして変化する。目の前には盾を構える……ってアレは。

 

「なんでマシュが!?」

 

「うわ!!」

 

「え!?ルセ!!アンタなんでここに!?」

 

 俺の驚きに気付いた二人の女性……藤丸立香とオルガマリー・アムニスフィアが振り返りながら俺に声をかける。

 

「立香の持ってる俺のカードを伝って来ました。それよりランサーは?」

 

「デミサーヴァントになったマシュが懸命に戦ってくれてるわ。それより貴方も生きてるってことはサーヴァントが」

 

「ハイハイ、言われずとも居ますよカルデアの所長さん」

 

 と、妙に口調を変えながら空からキャスターがやって来ると、目の前で鎌のような槍を振っているランサーとその回りを訝しげに観察する。

 

「石化した人間像に、鎌のような槍……なるほど、ランサーはメドゥーサと見るべきかな」

 

「メドゥーサ……ギリシャ神話に出てくるゴルゴーンの三姉妹の1体か」

 

「その通り、そしてペルセウス座の光星の一つのアルゴルのモチーフでもある」

 

 となると、あの槍は恐らく不死殺しと呼ばれる『ハルペー』だろう。結構厄介な相手だ。

 

「キャスター、援護できるか」

 

「安心したまえ。まだ夜中だからね。魔力の量はそれなりに余裕だ」

 

 そう言ってキャスターは本を開き、また見たことの無いサインを2つと見覚えのあるサインを……って、

 

「キャスター?いったい何を」

 

「安心しろマスター……縛れ、純血の破壊者よ」

 

 2節詠唱で現れたのは帯状の魔力の鎖、それはランサーの周りを縛ると同時に、ランサーはまるで力が抜けたかのように崩れ落ちる。

 

「……弱点であるペルセウス座、縛るアンドロメダ座、そして強固にするための蟹座を組み合わせた対ランサー用の封印魔術だ。暫くはまともに立てないし、動けないよ」

 

「なら今のうちに倒すべきだよな……」

 

 俺の質問にキャスターはコクりと頷く。

 

「――ならその役目、俺がやらせてもらおうか」

 

「っ!!誰だ!!」

 

 ホルダーからカードを取りだし構えていると、それは廃ビルの上から降りてきた。

 

 青いフード付きのローブに、丈夫そうな樹の杖、青い髪に紅いイヤリングをした男……サーヴァントが諸手を上げて近づいてくる。

 

「近くから見せてもらった。ランサーをこうも簡単に倒すたぁかなりの強者だ、もし俺がキャスターじゃなくて本職なら少しは楽しめたんだがな」

 

「……敵対するわけじゃ無さそうだな」

 

「寧ろお前さん達の味方だよ。俺としてもこの状況は何とかしなきゃならんからな」

 

「証拠は?」

 

「あのランサーに止めを刺す役目を任せてくれれば、すぐに分かるさ」

 

 俺はジッと男の目を睨むが、サーヴァントはそれを軽く受け流す。

 

「……良いだろ、その代わりあとで真名を教えろ」

 

「ま、教えるもなにもすぐわかるだろうけどな……アンサス!!」

 

 その一言の直後、まるで炎の槍が現れたかのような火焔がランサーの足下から噴出し、数分と経たずに焼き付くし、粒子と変えた。

 

「さて、それじゃあ名乗らせて貰おう。俺はキャスター、真名はクー・フーリンだ。1度くらいは名前を聞いたことあるだろ?」



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