この世全ての善 (りおんぬ)
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Opposite to Opposite

──遠い昔。
私は、どこにでもいる信心深いただの村人だった。
特に災いもなく、それでいて大きな功績もなく。
ただただ、惰性のような人生を過ごしていただけだった。
……あの日が来るまでは。


「──やあ。最弱英霊ルーラーさん、お呼びでなくともとにかく参上、だよ」

 

そう嘯くのは、不自然な程に全身を白く染め上げた一人の少女だった。

その右手には、指と指で挟むようにして、都合四つの()()が握られている。

それに足して、彼女の視線の先にいる『彼』は、鬱陶しそうに告げた。

 

「やっほ。久しぶり」

「誰かと思えばテメェかよ、ルーラー」

「酷いな、その言い草はないじゃん」

「最弱の名前はオレのモンだ、勝手に奪おうとしてんじゃねぇ」

「というか、壮絶に論点がずれてる気がする」

「そこまでズレてねぇだろ。要するにこいつァどうしようもねえ()()()()()なんだからな!」

「どうしようアヴェンジャー、私聞いてて悲しくなってきた」

「奇遇だな、オレもだ」

「「ははははは」」

 

笑い声が、彼ら以外に人のいない洞窟を反響する。

そして。

すっ、と。少年は二振りの歪な短剣を構え、少女は無数の宝石を生み出し、翳す。

浮かべる表情は、互いに気味が悪いほどの笑顔。

 

「──疾ッ!!」

「──偽善(フォーレン)/神前(ステア)!」

 

一瞬の間をおいて、いびつな短剣と無数の宝石が交錯する。

 

■ ■ ■

 

ルーラー──スペンタマユは英霊である。

本人からしてみれば、特に功績もなければ犯罪歴もない自分がそんな所に祭り上げられるのは不思議でならないのだけれど。

彼女の功績とはそれ即ち──善神の依代としての側面である。かつてある少年が『この世全ての悪(アンリマユ)』として貶められたように──ある少女は、『この世全ての善(スペンタマユ)』として崇められたのだ。

しかし、その実情とてたかが知れている。

アンリマユが『全ての悪を押し付けられる』ことによって生まれたのに対し、スペンタマユは『全ての善を捧げさせる』ことによって生まれたのだ。言ってしまえば、体のいい奴隷のようなもの。

程なくして、文字通り全てを奪い尽くされた少女はその命を落とした。奇しくも、全てを押し付けられた少年と同じ日に。

そこに違いがあるとすれば……彼女が、皆を一切()()()()()()事だろう。

──私は善神(スペンタマユ)の写し身。なればこそ、皆に善を分かち、与えるのは当然のこと。

盲信や狂信よりも尚タチの悪い、いっその事()()()()と言ってもいいレベルの信仰が、その不条理を彼女にとって至上の名誉に書き換えてしまったのだ。

故に。

彼女は全てを救う。例え、代償として何を喪ったとしても。

 

■ ■ ■

 

「ひゃーっはっはぁ!!」

「これでどう!?」

 

穢れて歪んだ大聖杯を前にして、二人の『最弱』がぶつかり合う。

片や、死を厭わずに自らの全てを使いつぶす『死滅願望』。

片や、生の為ならその他の全てを利用し尽くす『生存願望』。

同一にして逆反対なる二つの願望が、いくつもの激突を繰り返す。

 

「頭から食べちゃうぞー!」

「あーらら、怖い怖い♪」

 

果たして何時間、いやさ何日経ったか。

無限に続く相対の末に、結末が姿を現した。

 

「逆しまに死ね──『偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)』!」

「匡正の時は来た──『生命綴り捧ぐ聖火(アータル・フラシェギルト)』」

 

原初の呪いと原初の祝福、やはり対極に座する宝具が解き放たれる。

──これは、名前を棄てたある抜け殻の物語。




10/23.マテリアル削除。
本編が終わるかモチベが終わったら別個で上げます


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Close to the night

スペ氏の見た目は白凛みたいな感じですかね。……白レンじゃないよ?
あと、コメントでゾロアスター教に関する意見をいただきました。が、なんとこの筆者はさらっとwikipediaを覗いただけで「よし、いけるな」とGOサインを出したドサンピンですので、その類の矛盾は生暖かい目で見過ごしていただきたく。


──気が付くと、彼女はとある町にいた。

 

「ここは……うん?」

 

頭に流れ込んできた知識を読み解いていく。

どうやらここはフユキという町だそうだが……内心、彼女は『またか』という気持ちだった。

というのも、ルーラーのサーヴァントは通常の聖杯戦争では召喚されない。

つまり、彼女がここにいる=ド級の厄ネタという訳だ。冗談ではない。

そして、今となってはそこそこ数の増えたルーラーの中から、何故彼女が選出されたのか。

その秘密は、万能の願望器たる聖杯現状と、ルーラーである少女の出自にあった。

 

「──アンリマユ」

 

アンリマユ。ゾロアスター教における悪神だ。

これより行われる聖杯戦争は『第五次』。となれば、当然の如くそれ以前にも聖杯戦争は行われている。

その内の一つ──第三次聖杯戦争にて、『魔術礼装としての』聖杯を作り上げた御三家が一、アインツベルンがやりやがった。

あまりにも勝て無さすぎて嫌気がさしたのか、それとも自らの策に自信があったのか……今となってはそれも不明だが、とにかく彼らはある英霊を呼び出した。

それこそがアンリマユ──『この世全ての悪であれ』と願われた、一人の少年である。

当然、明確な功績が残っているわけでも素晴らしい武勲を持っている訳でもない──つまり、スキルはおろか宝具すらも保有していなかった可能性が著しく高い──サーヴァントが人外魔境の集う聖杯戦争に勝てる訳がなく。アインツベルンは序盤であっさりと敗退した。

だが、問題はここから。

アンリマユはその性質上、立場としては『聖杯に願う側』ではなく『人々に願われる側』に近い。そんな存在が聖杯に取り込まれたのだ。そこから先は早かった──混線した大聖杯上に下にの大騒ぎ、てんやわんやにすったもんだな阿鼻叫喚の末──あら不思議、無色透明な中身が真っ黒なドロドロに早変わり。

かくして、聖杯は『悪意的手段で願いを叶える』というはた迷惑な代物になったのだった。

そのせいで反英霊も召喚可能になったのだが、代わりにルーラーのサーヴァントは一切召喚不可能となってしまった。

にも関わらず、何故ルーラーの彼女は召喚されたのか。その理由は、彼女の真名に隠されていた。

 

「よーし……『殻』は適当なマスター候補ちゃんのを借りたけど、どうやら私は私を維持できているみたいだ」

 

スペンタマユ。亡失された史実においても、正真正銘アンリマユと対極に位置していた善神。対アンリマユとしてこれ以上ない良カード。

その権能が聖杯の『泥』を精密に打ち消し、さらに抑止力が無理やり召喚の枠をねじ込んだのだ。まさに、彼女以外には不可能な荒業である。

 

「『この世の全て悪(アンリマユ)』と『この世全ての善(スペンタマユ)』……うーん、今回もゴタゴタになりそうだ。まさか私が調停に乗り出す羽目になるなんてね」

 

そう嘯きながら、スペンタマユは町を探索し始める。

自分の存在が、既に多くの魔術師に探知されているとも知らずに。

 

■ ■ ■

 

『マスター。新たなサーヴァントが召喚された』

「へえ、そう。クラスとかは分かる?」

『ああ。というか、目の前で見た条件に該当するクラスなど一つしか有り得んよ』

「条件? 何の話よ」

()()()()()()()()()()()()()──と言えば分かるか』

「へえ、マスターが居ないのね……ハァ!? それって!」

『ああ、ルーラーでほぼ確定だろう。気を付けてくれマスター、この聖杯戦争、確実に何かが隠されているぞ』

「ええ、精々気を張らせて貰うわ」

『そうしてくれ。……ところでマスター』

「何よ」

 

『サーヴァントの親類に心当たりはないかね?』

「アンタ馬鹿じゃないの?」

 

■ ■ ■

 

「アサシン」

「うん? 直に話をしに来るとは珍しい事もあったものよな。なんだ、私に惚気話はしても無駄だぞ」

「ルルブるわよ。じゃなくて、新たなサーヴァントが召喚されたわ」

「……そうか。言われずとも分かっているとは思うが、私は門番──間違っても接触せよと命じてくれるなよ?」

「そんな事話してるんじゃないわよ」

「ではなんだ、やはり惚気──」

「ルルブるわ」

「分かった、黙るからその奇っ怪な短剣を下ろしてはくれまいか」

「最初からそうしなさい」

「あいわかった。それで女狐、お主はどう出る?」

「どうもこうもないわ。宗一郎様と専守防衛よ」

専守防衛(ヒキコモリ)とな」

「──、」

「待てよせ分かった謝る謝るからその杖を下ろし「コリュキオン!」アッー!」

 

■ ■ ■

 

「……ほう。また変わったものが呼ばれたか、面白い」

 

「まあよい、せいぜい(オレ)の前に屍を晒せ──雑種」



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(In)dependense

視点はスペ氏寄りの三人称視点。
ジャンルはシュールギャグを目指しております。



「よお」

「おや」

 

夜の冬木市を探索していると、見るからに怪しい青年が道を塞いできた。

全身青タイツ、青い髪をポニーテールにした変態……もとい戦士である。

 

「お前、サーヴァントだろ。クラスは分かんねぇが……背中の短剣(エモノ)見るに、アサシンか?」

「そういうあなたはランサーですね」

「まあ、そうだな」

 

正直、ルーラー特権で姿を視認した瞬間に真名は看破している。

──クー・フーリン。アイルランドの光の御子ですか。

初っ端から嫌な相手に当たってしまった。

というのも、元をたどればスペンタマユはただの一般人だ。よって、力も技術も本職の戦士に大きく劣っている。そして、唯一と言っていい持ち味の敏捷も、こうしてステータスを除く限りではほぼ拮抗してしまっている。

つまり、戦ってもほぼ勝てない。というか、そもそもルーラーだからまず戦う意味がない。

そんな訳で、すぐさまクラスを暴露。

 

「……ちなみに、私はアサシンではありません」

「あん? じゃあ何だってんだ」

「裁定者、と言えば通じるでしょうか」

 

今度はクー・フーリン──ランサーが顔を歪める番だった。

聖杯戦争における裁定者──即ち、特権階級(ルーラー)のサーヴァント。

その言葉を聞いた瞬間、ランサーは己の失策を悟った。そして、()()()()()()()()()()()()と念話を交わす。

 

『おいマスター』

『どうした、ランサー。生憎だが、私は麻婆で忙しい』

『随分余裕だなテメェ! じゃなかった……ルーラーが出た』

『……ほう』

『容姿は……その、なんだ、いけ好かねえアーチャーのマスターにそっくりだ。んで、エモノは短剣二つ。接近戦タイプか?』

『ふむ。まあ、用心するに越したことはないだろう。そしてランサー、分かっているな』

『へいへい、精々偵察しておくぜ』

 

その言葉を皮切りに、ランサーは手に持つ朱槍を構える。

 

「んじゃまあ、ブチかますかね」

「……え、マジで言ってます? 私ルーラー、非戦闘員、オーケイ?」

「腐ってもサーヴァントなんだから必要最低限の戦力は持ってるだろうが」

「正論すぎて反論出来ません!」

 

ちくせう。

そんな訳で仕方なく、本っっっ当に致し方なく臨戦態勢へ。サーヴァントとはいえ真面目に元一般人なんだから勘弁して頂きたい。

そして。

 

「ぃよいしょっとぉ!」

「しゃあっ!」

 

勢いよく振り下ろされた槍を、背中に装備していた短剣で受け流す。

ギャリッ! と言う音と共に火花が散った。

というか、今の一合だけで短剣が一本ヒビが入った。

慌てて飛び退り、短剣──右手抱擁(アムルタート)の様子を確認する。

刀身半ばに見事な亀裂が走っていた。

 

「……Oh……」

「……あー……その、なんだ、すまん。まさかそこまで脆い剣だとは思ってなかった」

 

地に手をついて崩れ落ちるスペンタマユ。それを見たランサーが思わず謝罪する。

突然の事態に拍子抜けしてしまったがゆえ、ランサーは気づけなかった。

崩れ落ちた拍子に、コロコロと。彼女の袖からいくつかの宝石が転がり出したことに。

そして、その口から短く文言が紡がれた事に。

 

「──威光(プレスティーグ)

 

瞬間、眩い閃光が辺りを包み込む。

莫大な光がランサーの両目にクリティカルヒットし、いい歳した男が悶絶する。対遠距離攻撃用スキルの『矢よけの加護』があるとはいえ、流石に光は対象外だ。

そして、ランサーがまともな視界を取り戻す頃には、少女の姿は跡形もなくなっていた。

 

■ ■ ■

 

「はぁ、はぁ……あーもう! 冗談じゃない! なんで私がこんな目に……って、そうか私幸運Eだ! ハハハ!」

 

魔力を使って刀身の亀裂を()()()()()、一目散に駆け抜ける。

目指す先は……特に決まっていない。

 

「ええと、今回の聖杯戦争で修正すべき物は……教えて抑止力(アラヤ)さん!」

 

抑止(アラ)えもんに助けを求めると、帰ってきたのは簡潔な司令。

曰く、

 

・聖杯戦争の監督役が怪しいからどうにかしろ

・大聖杯もドロドロでヤバいからどうにかしろ

・何故かアーチャーが二人いるからどうにかしろ

 

の三つだった。大雑把スギィ!

 

「ええい、なんで私はこんな雑用ばっかりなんですか! 本望ですけども!」

 

そんなことを叫びながら、スペンタマユは駆け抜ける。近場にサーヴァントの反応がいくつかある為、アーチャーを探すためにとりあえずはそこに行くことになるだろう。



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The (Fake/Fate)

走り続けてかれこれ数十分。

ようやく、一番近いサーヴァント反応のもとへたどり着くことができた。

ルーラーの特権をもってしてもクラスの判別までは出来ないため、バーサーカーとかち合わない事を願うばかりだが……。

 

「それにしても、大きな家だなあ」

 

生前も、こんな大邸宅は見たことが無い。まあ、その生前の知識自体が割かし朧気ではあるけども。

それでも『彼』と違って呪法で名前を剥がれたりとかされていない──むしろ()()()()()()()──ため、まだしっかりと覚えている方だ。

 

「これがあのいけ好かないボブ野郎だったら不味かったでしょうけどねー」

 

脳裏に浮かぶのは、褐色白髪のデトロイト。あれで純日本人だと言うのだから、出会った当初はそれはもう驚いた。

たしかどこぞのミラクルハイパーエキセレントダイナマイツエロティックビーストがどうこうって話だったけど……。

 

「まあいいや。お邪魔しまーす」

 

格子の門を開けて入り込む。

入った先から防衛用の魔術と思しき代物が大量に飛んでくるけど、ルーラーなめんな。対魔力も高ランクで持ってますから。

そして、そのまま悠然と屋敷のドアに手をかけようとした、その時。

 

「──同調開始(トレース・オン)

 

そのドアを根こそぎぶち抜く形で、一本の矢が飛んできた。

というか、矢じゃなくて思いっきり剣だった。

 

「とぉおおおおおうっ!!?」

 

慌てて右手抱擁(アムルタート)ではじく。ちなみに今の一発で、今度こそ刀身が真っ二つになった。なんてこったい。

ちっくしょー、いきなり手札が一つなくなった!

 

「まあ、魔力さえあれば()()()()()んですけどね――ふっ!!」

 

潔く残骸を放り投げ、ついでに右手を思いっきり振り回す。

まとめて振り回される形になった袖から飛び出したのは、大小無数で色とりどりの宝石。

バラバラとあたりに散らばっていくのを確認して、呪を紡ぐ。

 

「――煙々羅(ヘビースモーカー)

 

バシュッ! と音を立てて、砕けた宝石からこれまた色とりどりの煙が噴き出した。

あっという間に、屋敷の周りがサイケデリックに彩られる。

そしてその煙に紛れて、少女はさっさと撤退していった。

その姿が、先ほどまで相手にしていた主従にしっかり見られているとも知らずに。

 

■ ■ ■

 

先ほどまで激戦(?)が繰り広げられていた屋敷、その二階にて。

双眼鏡を片手に敵を眺める二人組がいた。

そのうちの片方、赤い服のツインテールが口を開く。

 

「うわっ、本当にそっくりねあいつ」

「そう言ったろう」

「だからってサーヴァントの親類呼ばわりはどうなのよ!? ぶっ飛ばすわよ!」

 

肩をすくめるこれまた赤い褐色の美丈夫にたいして、うがーっ! ツインテールが噛みつくように叫ぶ。

しばらくして、努めて怒りを抑えているような風に言った。

 

「……で、相手に関して何か分かった? 私が見る限り、ステータスは中の下くらいだったけれど。しいて言うなら、敏捷値がやたらと高かったくらいね」

「ああ。少なくとも、相手(ルーラー)は宝石魔術を高い練度で習得していた」

「それは見ればわかるわよ。っつーか、あんだけばらまいてやることが煙幕だけって……コスパを完全に度外視してるわよね」

「それに関してだが……少し、気になることがあってね」

「なによ」

 

ツインテールが訝しげに問いかける。

それに対して、美丈夫が思い切ったように口を開いた。

 

「彼女が宝石を投げたのは見ていたと思うが……そこがおかしい。いくら袖口が広くとられているといっても、あそこまでの量の宝石を収容できるとはとてもじゃないが思えない」

「!」

「そして、私が狙撃でへし折った剣だが……彼女が投げ捨てた直後に、影も形も消えてなくなった」

「……は?」

 

唖然とするツインテールに対して、美丈夫はやれやれといった風に、再び肩をすくめて見せた。

 

「……どうやら、随分と面倒なサーヴァントが呼ばれたようだな。ルーラーであることが唯一の救いか」

 

■ ■ ■

 

「いやー参りました。まさか今代のアーチャーが抑止だとは! なんで教えてくれないのさ抑止(アラ)えもん! 怒るよアンリマユ!」

 

夜の街をとんでもない速度で駆け抜けながら、スペンタマユが吐き捨てる。

そして、袖口から宝石を取り出したかと思うと、それを一息に飲み込んだ。

途端に、ただでさえ速かった彼女の足がさらに速くなる。

目指すは聖杯の在処。

どこにあるかはわからないが、とりあえず諸悪の根源をぶん殴りに行こう。

 

「待ってろこんにゃろー!」




服装は槍エリの第二再臨を想定。ただし色は真っ白で、スカートももう少し貞淑になっています。


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Escape from The Undying Hero

スペンタマユのここがすごい!
・宝石魔術が使えるよ! プロ並みの熟練度だよ!
・滅茶苦茶素早いよ!

スペンタマユのここがダメ!
・魔術は三種類くらいしか使えない
・敏捷以外がことごとくクソステ
・宝具使うと即死、よくて消滅一歩手前
・しかも味方がいないとほとんど役に立たない
・幸運Eと自己暗示と精神汚染の合わせ技でほとんど無意識的に悪(=人に害をなすもの)へと突き進んでいく(本人に自覚なし)
・出自の問題で知名度補正もほとんど見込めない
etc.

結論:わざわざ召喚する奴の気が知れない。


「ひゃあああああああーっ!!?」

 

スペンタマユは絶叫していた。

それはもうすっごい焦っていた。

なぜならば。

 

「■■■■■■■!!!」

「なーんーでぇぇええええええええええっ!!?」

 

筋肉モリモリマッチョマンの変態に追い掛け回されているからだ。

事は、数分前に遡る。

 

とりあえず近場のサーヴァント反応を目指して爆走していたスペンタマユ。しかし焦りからか、不幸にも黒塗りの大男に追突してしまう。必然的に全ての責任をおっかぶる事になったスペンタマユに対し、大男の(マスター)、イリヤスフィールが出した示談の条件とは……。

 

「どこのサーヴァントかは知らないけど……まあいいわ。やっちゃいなさい、バーサーカー」

「■■■■■■■■■■──────!!!」

「なんでさぁ!?」

 

示談(物理)だった。

一応目視した時点で真名は割れているが、その文余計に絶望がでかくなる。

その名はヘラクレス──ギリシャの大英雄。十二の試練をその手でもってねじ伏せてみせた、本物の化け物。

しかもバーサーカーというクラス補正のせいで、ただでさえ手に負えないステータスがさらに上昇している。ルーラーなだけでゴミステの最弱サーヴァントにどうせいと。

そんな訳で、袖口からバラバラと宝石を散らばしながらスタコラサッサと遁走中。幸いにして諸事情で()()()()()()()()()()()()、とりあえず撒いておくだけでも一定の効果が期待出来る。

例えば、尖った部分が土踏まずに直撃したり、丸みを帯びた物を踏んで足を滑らせたり。

さらにステータス上ではスペンタマユの敏捷は『A++』、ヘラクレスは『A』となっている。この+二つ分の差が、着実に距離を稼ぎ始めた。

が、そうは問屋が卸さない。

距離が離され始めていることに気付いたバーサーカーのマスターが、短く指示を飛ばす。

 

「バーサーカー、()()()!」

「■■■!!」

 

ズンッ! と、あまりの脚力に地面が陥没する。バキッと甲高い音が響いたのは、恐らく地中の水道管にダメージが入ったためだろう。後始末担当の教会の苦労も考えてほしいものだ。

そして、大英雄が宙を舞う。肩に白銀の幼女を乗せて。

 

「うっそぉ!?」

 

慌てて飛び退くと、先程までスペンタマユが立っていた場所に大英雄が降ってくる。冗談ではない。

そして、その手に持たれていた石斧が大きく振りかぶられる。

咄嗟に肩のマスター目掛けて宝石を放り投げ、その場で起爆。

マスターを庇って体勢を崩したバーサーカーを尻目に、スペンタマユは再び逃走を開始した。

 

「誰かー! 誰か武力に訴えずに理性的に会話してくださるサーヴァントのお客様はいらっしゃいませんかー!?」

 

交差点事にランダムに方向を転換し、少しでも撒こうと努力する。

そしてその結果。

 

「もう逃げられないわよ」

「■■■……!」

「……あらー……」

 

見事に追い詰められていた。

ここは行き止まり。そして目の前には筋肉モリモリマッチョマンの大英雄。

 

(詰んだ……)

 

全身からダラダラと冷や汗を流す少女。

というか、ルーラーだっつってんのになんでどいつもこいつも殺意が高いのだろうか。そこまでして裁定者を排除したいかそうなのか。隠れて一体何をしようとしてるんだ。

そう思って、申し訳程度にバーサーカーのマスターを睨みつける。

その視線を意にも介さず、幼女は首をかしげた。

 

「うーん……あなた、キャスターかしら? それともアサシン? というか、どうしてトオサカの所の魔術師にそっくりなのかしら。そういうスキル?」

「それよりもそこの臨戦態勢な大英雄(バーサーカー)どうにかして下さいませんかね」

「ダメ、だってそうしたら逃げるでしょ?」

「そりゃまあ」

 

ここまで散々ばらまいてきた宝石を使ってもいいけど、出来れば穏便に済ませたい。というかそれやったら確実に大問題になる。神秘の隠匿、大事。

 

「はあー……私にも仕事があるんですけどね……」

「サーヴァントなのに?」

「サーヴァントなのに、です」

「ふうん。ま、いいわ。じゃあ、さよなら──」

「──取り替えっこ(エクスチェンジ)!」

 

バーサーカーが石斧を振り下ろした瞬間、少女の姿がかき消える。

代わりと言ってはなんだが、その一撃は()()()()()()()()()()()()を木っ端微塵に叩き割った。

あまりに突然の事態に、マスターはおろかバーサーカーすら一瞬驚愕する。

 

「■■■■■■■■──────!!!」

 

いち早く『逃げられた』という事実に気付いたバーサーカーが怒りの雄叫びをあげた。近所迷惑待ったなし。

そして、そこから少し離れた場所、先程まで少女と変態が疾走していた道路にて。

あちこちにばら撒かれていた宝石を回収しながら走り回る影が一つ。

 

「あー、危なかった……()()()()()()()()()()()()()()()()を真似してみましたが、やってみるものですねーっと」

 

そんなことを嘯きつつ、白い影──スペンタマユは走っていく。

こうして、初日の戦争は終わりを告げた。

 

さあ、運命(Fate)に出会う時だ。



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(Know/No) matter

翌日。

 

「もっきゅもっきゅ……ふむ、ニホンの料理というのも悪くないですね」

 

スペンタマユは寛いでいた。

左手にたこ焼き、右手に焼きそば。両手に花とはこのことか。全然違う。

魔術で作り出した宝石を売っぱらうことで資金を確保して、片っ端から現代の料理を制覇しているのだ。

『宝石を作る』っていうと大仰だが、このご時世では然るべき機械を使って炭素に圧力かければ誰だって人工ダイヤがザラザラと生み出せる。だからといって鉛筆を圧力鍋に詰めて火にかけるのは大分アレだが。だから断じて魔法じゃない。あんなゲテモノと一緒にしないでほしい。

ともあれ、質屋の顔面に大小無数の宝石をぶん投げる事で得た資金を元に、少女は食べ歩きを続けている訳だ。

 

「もっきゅもっきゅ」

 

幸せそうな表情で料理を頬張るスペンタマユ。

その目があるものを捉えた。

 

(あれは……)

「シロウ。今日の夕飯は何でしょうか」

「慌てるなってセイバー。スーパーで何が安いか見てから決めるよ」

 

赤銅色の髪をした少年に付き従う、金髪碧眼の少女。

それを視認した瞬間、スペンタマユの脳裏に正確なデータが打ち出された。

 

■ ■ ■

 

サーヴァント:セイバー

【真名】

アルトリア・ペンドラゴン

 

【ステータス】

筋力B 耐久C 敏捷C 魔力B 幸運B 宝具C

 

【宝具】

風王結界(インビジブル・エア)

ランク:C 種別:対人宝具

レンジ:1〜2 最大捕捉:1人

 

全て遠き理想郷(アヴァロン)

ランク:EX 種別:結界宝具

レンジ:0 防御対象:1人

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー)

ランク:A++ 種別:対城宝具

レンジ:1〜99 最大捕捉:1000人

 

■ ■ ■

 

(……ふむ。誰かと思えばブリテンの王様ですか)

 

マスターの問題か、それとも召喚に不具合が生じたか。何故か本来よりもステータスが低下しているが、流石は再優のクラス──特権階級の(はずの)スペンタマユよりも平均してステータスが高い。宝具もちゃんと役に立つ──何故かひとつ使用不可能なのが混ざってるけど──ものだ。ランクも総じて高め。……あれ、目から汗が……。

 

(とにかく、しばらくはもう一人のアーチャーを探しましょう。戦闘が起きたらそこに急行する感じで大丈夫かと)

 

現状確認出来ているのは、

 

・セイバー:『ブリテンの王』アルトリア

・ランサー:『ケルトの豪傑』クー・フーリン

・バーサーカー:『十二の試練』ヘラクレス

 

の三体だけ。正規のアーチャーに関しては剣をあんな風に飛ばして爆破するキチガイじみた戦法に心当たりがほとんどなかったため、暫定で戦闘スタイルが酷似していた抑止力をピックアップ。

それから、山に二つの反応があって、森の奥にも一つ、街中に四つ、目の前に一つ……

 

「……ええい煩わしい! それもこれも全部アンリの奴が悪いんです!」

 

うがーっと頭を抱えながら叫び、ヤケクソ気味に目の前の料理に食らいつく。

程なくして、全てを綺麗に平らげた少女はその場を後にした。

そして、()()()()()()()()()()()()()使()()()の背後に音もなく回り込み、迷いなく破壊する。

おっそろしく精巧な作りだったから、多分キャスターの仕業だろう。というか神代言語で操作しているとなると、キャスターでなければおかしい。神代言語は現代人にはほぼ発音不可能だからだ。

 

「あ、夕焼け」

 

そこで、スペンタマユはいつの間にか日が暮れているのに気付いた。丸一日を食べ歩きで文字通り食い潰してしまったようだ。

もうまもなく、聖杯戦争が再び幕を開ける。

少女はそれに思いを馳せながら、

 

「お願いだから私は狙わないでね……」

 

と頭を抱えるのだった。

そう、あんまりにも狙われすぎて皆が失念しているかもしれないが、彼女はルーラーである。

だがしかし、彼女は幸運E。歩いているだけで不幸がやってくる──実際のところは彼女が不幸に向かって突っ込んでいる──体質の持ち主だ。

残念ながら運命は非情だった。

 

「よう、嬢ちゃん。また会ったな」

「あーっ! 出たわね私の偽物!」

「……やれやれ、やはりこうなったか」

「え? 遠坂が、二人……?」

「シロウ、気を付けて下さい! あの白い方のリンはサーヴァントです!」

 

目の前にセイバーとそのマスター。右側にランサー。左側にアーチャーとそのマスター。そしてここは三叉路。

 

……見事に囲まれてしまっていた。



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Glorious Servants and more

魔神さん出なかったのでエリちゃんのファンやめます


「うっわぁ……」

 

思いつく限りで下から何番目かの事態だった。なんてこった。

というか、あれです。アーチャーはやっぱり抑止さんでした。そんな訳で、この緊張し尽くした場を緩めるべく一言。

 

「……見せ筋」

「ぐはっ!」

「アーチャー!?」

「っ、気を付けてくださいシロウ! あのサーヴァント、三騎士の対魔力を貫通する程の術の使い手です!」

「え? いや、あれは単純に痛いところを突かれただけじゃ……」

 

ぐだぐだとしているセイバー・アーチャー陣営に対して、ランサーは油断なくこちらを睨めつけながら口を開く。

 

「よお、()()()()。相変わらず見ててイラつく顔してんな」

「えっ、やっぱりこの『殻』じゃダメですか」

「……『殻』?」

 

不可思議な物言いに、ランサーが首を傾げる。その脇では、セイバーが「ルーラーだと!?」と驚愕し、そのマスターの少年が「ルーラー……定規?」と首を傾げていた。

そこへ、めそめそしているアーチャーを蹴っ飛ばしながら、マスターの少女が割り込んできた。見れば、その両手に宝石を構えて露骨に戦闘態勢だ。

 

「そう、私が訊きたいのはあなたの事よ! あなたサーヴァントでしょ!? どうして私にそっくりなの!?」

「どうしてって……それは、なんか丁度よかったので」

「はあ?」

「申し遅れました」

 

かつん、と踵で地面を叩き、純白の少女が一礼する。その見事な所作に、先程まで怒気に塗れていた少女はおろか、落ち込み気味だったアーチャーすらもご瞠目した。

そして、顔を上げた少女は告げる。

 

「サーヴァント・ルーラー。ゾロアスター教よりまかり越しましたスペンタマユと申します。以後お見知り置くと共に、間違っても私に宣戦布告なんてしないでください後生ですから!」

 

そしてそのまま半泣きで土下座に移行した少女──スペンタマユを見て、誰もがこう洩らさざるを得なかった。

 

「「「「「……なんだこれ」」」」」

 

■ ■ ■

 

スペンタマユが冷静になったあたりで、アーチャーのマスター──遠坂凛と言うらしい──が問う。

当然の如く、内容は現状に対する説明の要求だった。

そんな訳で、スペンタマユは当たり障りのないレベルで情報を開示。

 

 

「……はあ。それで? この聖杯戦争が色々と危ないから裁定に来たの? 私の姿を借りて?」

「まあそういう事になります」

「……なんであなたなの?」

「すいませんねルーラーなのにクソステで。大聖杯が汚染されてるせいで私くらいしか適任がいなかったんですよ」

「……本当なんでしょうね?」

「裁定者が嘘ついてどうするんですか」

「それもそうね」

 

続いて、ランサーが問いかけてきた。

 

「そもそも汚染っつーのはどういうこった。オレは聖杯からなんも聞いてねえぞ」

「自分にとって不利益なのに言うわけないでしょう」

 

それもそうか、とランサーが頭を掻く。

そして、何故か『汚染』という単語のあたりで冷や汗を流しながら顔を背ける騎士王が若干約一名。

……怪しい。カマかけてみよう。

 

「そう言えば抑止(アラ)えもんから、そのアーチャーが複数いる原因はどこぞのビーム撃つ剣士だと聞いたんですが」

「「「抑止(アラ)えもん!!?」」」

「ぶふっ!」

 

仮にも人類の守護者とまで呼ばれる超位存在(?)のあんまりな呼び名に、並み居るサーヴァントやマスター達が愕然とし、アーチャーが噴き出した。

そして、スペンタマユにじとっとした視線を向ける。

 

「……仮にも自分の上司をネコ型ロボット呼ばわりはどうかも思うが」

「だって重要な時にポンコツなのは一緒ですし」

「……、」

 

天を仰ぐアーチャー。

しかし実際事実なので始末に負えない。

そも、抑止力(アラヤ)がアンリの召喚を許可しなければこんな事にはなっていないのだ。結論、八割がた抑止力(アラヤ)のせい。残りの二割は聖杯を作った……なんだっけ、火蜥蜴、銭亀、不思議種? とにかくそんな感じの御三家のせい。

 

「まあそんな訳で、基本的に私はどこの陣営にも肩入れしません。ただし大聖杯がドロドロになった直接の原因は私がシバき倒しますのでそのつもりで」

「原因……アンリマユか」

「YES。というか、あれは宝具の性質が性質なので、私以外には相手にできません」

 

この世全ての悪(アンリマユ)』、その性質は『報復』。

『やられたらやり返す』が主軸の存在だ。というか、生前やられるだけやられた結果がこれなのだが。

現状この場にいる中では、スペンタマユは唯一その呪いを完膚なきまでにねじ伏せれる存在なのだ。

他の存在が下手に戦うと、呪いで足止めされた挙句に泥に食われるという最悪の展開になりかねない。

 

「じゃあ、私はこの事を教会の方に伝えてきます。そちらも、何かあったら教会へどうぞ。ま、私って異教徒なんですけどね! ミャハハ!」

「お、おう……」

「あ、それと。怪しいアーチャーのお客様を見つけたら可及的速やかに連絡下さいねー!」

 

それだけ言って、スペンタマユは走り去っていった。

ちなみに、『怪しいアーチャー』と聞いて皆が一斉に抑止の守護者の方を見つめたのはここだけの話。

 

「……おっと、心は硝子だぞ」




セイバー
筋力:B 耐久:C 敏捷:C
魔力:B 幸運:B 宝具:C

ランサー
筋力:B 耐久:C 敏捷:A
魔力:C 幸運:E 宝具:B

アーチャー
筋力:D 耐久:C 敏捷:C
魔力:B 幸運:E 宝具:???

キャスター
筋力:E 耐久:D 敏捷:C
魔力:A+ 幸運:B 宝具:C

ライダー
筋力:C(B) 耐久:E(D) 敏捷:B(A)
魔力:B  幸運:D(E) 宝具:A+
※()内のステータスは本来のマスターの場合

アサシン
筋力:C 耐久:E 敏捷:A+
魔力:E 幸運:A 宝具:??

バーサーカー
筋力:A+ 耐久:A 敏捷:A
魔力:A 幸運:B 宝具:A

(真アサシン)
筋力:B 耐久:C 敏捷:A
魔力:C 幸運:E 宝具:C

ルーラー(主人公)
筋力:D- 耐久:E  敏捷:A+
魔力:C-- 幸運:E++ 宝具:B+

A7・B6・C5・D4・E3の数値換算(±はそれぞれ0.3を足し引きする)で平均値を算出すると、
セイバー:5.5、C++
ランサー:5.33、C+
アーチャー:4.3~5.55(投影した宝具によって変動)、D+~C++
キャスター:5.05、C
ライダー:5.22(5.55)、C+~C++
アサシン:4.05(※宝具なし)D、
(真アサシン:5.17、C)
バーサーカー:6.55、A
ルーラー(主人公):4.77、C-

すっげえ低いステータスだな!


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(Anti/Un) holy Priest

北斎で殴った時に相手の残りHPが1313(いざいざ)になりました。
……これが運命か。


真夜中の街を駆けずり回ること数十分。

ようやく教会に辿り着くことが出来た。

 

「なーんでこんなに時間がかかっちゃうんですかね……」

 

解答:単純に方向音痴だから。

ぶすっと不機嫌そうな顔を隠そうともせず、教会の扉を開く。

目の前に縁起の悪そうな顔をした男が立っていた。

 

「冬木教会へようこそ」

「失礼しました」

 

静かに扉を閉じようとするが、ガッ! と隙間に聖書を挟み込まれた。おい、それでいいのかキリスト教徒。

そしてそのまま腕を掴まれ、教会に引きずり込まれる。

この間わずか3秒。鮮やかな手腕だった。

 

「……何するんですか」

「いやなに、噂に聞くルーラーのサーヴァントがどのような見た目かと思っていたのだがね。思いの外可憐だったからつい手が出てしまった」

「ダウト」

 

ニヤついた表情でそんな事言われても説得力に欠ける。

というかサラッと流しかけたが、彼は少女がルーラーであると普通に知っていた。何故だ。

……というより、なんだ?

目を細めるスペンタマユ。

神父を見ていると、時折()()と姿が入れ替わる。そして、それと同タイミングで何故かステータスが開示されてしまう。

 

■ ■ ■

 

サーヴァント:■■■■■■■

【真名】

言峰綺礼

 

【ステータス】

筋力?? 耐久?? 敏捷?? 魔力?? 幸運?? 宝具??

 

【スキル】

愉悦部[B+]

本気狩(マジカル)八極拳[A]

デミ・サーヴァント[C-]

 

【宝具】

なし

 

■ ■ ■

 

「なんですか、これ」

「……ふむ?」

 

スペンタマユの呟きに、神父──言峰綺礼は首を傾げる。

そして、なにかに気付いたようになおもニヤついた笑みを浮かべながら、

 

「どうやら、君には私にも分からぬ()()が見えているようだ。だが、焦ることは無い。落胆も、絶望も、決意もする必要はない。これは私が()()()()()結果なのだから」

「なっ……馬鹿なんですかあなた!? 死にますよ!?」

 

心からの叫びに、しかし綺礼は何処吹く風。

その荘厳そうな立ち姿とは正反対の雰囲気を漂わせながら言う。

 

()()()()()()()()()()()。ここでこうして生きているのはほとんど惰性か、さもなくばこの世に未練があるからだろう」

「私みたいな異教徒が言うのもなんですが、それでいいのかキリスト教徒」

 

というか、曲りなりにも悪神の一部を取り込んでおきながらケロッとしているコイツも大概か。

なんということだろう、教会すら信用出来ないなんて。

つまり、スペンタマユは

 

・大聖杯のドロドロを浄化して、

・二人目のアーチャーを調査(あわよくば討伐)し、

・聖杯の監督役をぶっ飛ばす

 

の3つの工程を自分でやる事になったわけだ。クソステで。

仏頂面を保ちながら、少女は内心世の不幸を嘆く。それもこれも全部アンリマユって奴が悪いんだ。

 

「なんだと、それは本当かね?」

「──、」

 

心の底から楽しそうな笑顔でそんな事を言われた。

見てて非常に心が波立ってくる。端的に言うとイライラする。……これは、纏ってる『殻』の影響もあるのだろうか。だとすると、アーチャーのマスターはこの神父を随分と嫌っているようだが。

袖の中で遊ばせている宝石に気を向けつつ、裁定者は言葉を選ぶ。

 

「……大聖杯が大惨事になっているのは知っていますね」

「そうでなければこんな有様にはなっていないとも」

「では。私は、教会に対してある程度の『不干渉』を願いたいと思います」

「……何?」

「ぶっちゃけ言ってしまえば信用出来ません。この件に関しては私がどうにかします」

 

ついでに言えば、何故か二人いるアーチャーのタネも割れた。

分かってしまえば簡単な話──受肉しているのだ。おそらく、聖杯の中身を何らかの形で浴びたのだろう。

いくらドロドロに汚染されているとはいえ莫大な魔力の塊である事に変わりはない。飲み込まれた対象にあの果てなき怨嗟を飲み干すだけの我の強さがあれば、()()()()()()()()はあるだろうが難なく受肉できるだろう。

少女の言葉に、神父はフッと唇を歪める。

しかし、何を言うでもなく、あっさりとそれを承認した。

 

「いいだろう。今後、我々聖堂教会はそちら側からの要請があるまで動かない事を宣誓する」

「……最低限後始末だけはして下さいよ?」

 

少女は不気味なほど反抗しなかった神父に対して眉をひそめるも、それだけ言って教会を後にした。

それを見届けた神父は、

 

「喜べ裁定者。君の願いは、遠からず叶う」

 

と呟き、奥へと引っ込んでいった。



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Hidden Battle

「さてさて。とりあえず今日は全部のサーヴァントに通告しに行きましょう」

 

教会で胡散臭い神父と心理戦(?)を繰り広げた翌日。

少女は、この周辺て唯一ある山へと歩を進めていた。

円蔵山……だったか。

ココ最近ずっと思っていたが、入口周辺の竹林には対サーヴァント結界が張ってあるし頂上付近にある二つの反応は互いに至近距離なのにぶつかった形跡が見られないし、とにかく怪しさMAXなのだ。これは声をかけるしかあるまい。

……ゴタゴタで随分と行くのが遅れたが。

 

「ヘエーエ エーエエエー エーエエー ウーウォーオオオォー ララララ ラァーアーアーアー……」

 

最近この近辺でよく聞く歌(なのか?)を口ずさみながら、階段をひたすら登る。

……長い。

それでも根気よく登り続けていると、二つある反応の内の一つが近付いてきた。

やがて、木造の門らしき何かが見えてくる。それに、和装姿の青年も。

瞬間、彼のステータスが開示された。

つまりあれもサーヴァント。聖杯戦争の参加者だ。

 

「……うん?」

 

■ ■ ■

 

サーヴァント:アサシン

【真名】

佐々木小次郎(******)

 

【マスター】

メディア(キャスター)

 

【ステータス】

筋力C 耐久E 敏捷A+ 魔力E 幸運A 宝具×

 

【スキル】

心眼(偽)[A]

宗和の心得[B+]

透化[B]

燕返し[―]

 

【宝具】

なし

 

■ ■ ■

 

「おいこら」

 

なんということだろう。思いっきりルール違反だった。

ルーラーがいるっつってんのになんでどいつもこいつもやりたい放題なのか。神明裁決で全員自害させるぞ。強制終了させるぞ。

しかも宝具なしってどういう事だ。サーヴァントとして召喚されたのなら、ランクはともあれ必ず宝具を持っているはずなのに。

 

「……まあ、本人に聞いてみればいいことです」

 

そのまま階段を登り切り、青年――アサシンに声をかける。

 

「アサシンですね」

「……む。いかにも、私がアサシンのサーヴァントだ。名を佐々木小次郎という」

「出会って数秒で真名名乗るとかそれでもサーヴァントですかあなた」

 

ずっと思っていたが、やはり今回の聖杯戦争はずば抜けて頭がおかしい。

存在しないはずの八騎目のサーヴァント、汚染された大聖杯ついでに監督役、抑止の守護者と裁定者の重複……なんなの? ここだけ呪われたりしてる? いや呪われてたな。ご同輩(アンリマユ)に。

 

「……まあ、真名が云々に関しては私も人のことは言えませんが。どうも初めまして、ルーラーのスペンタマユです」

「ふむ、ルーラーとな。して、何cmだ?」

「違う、そうじゃない」

 

どうしてそうなる。

ともかく、アサシンの正体、あとついでにキャスターのルール違反も発覚したため、手っ取り早く寺に向かう。

が、このアサシンが鬱陶しかった。

 

「ああ、待たれよ娘っ子」

「なんですかアサシン。こっちは仕事が山積みなうえにたった今もう一つ増えたせいでイライラしてるんですけど」

「あいやそれは女狐が申し訳ない。だが、それは別としてだな」

 

瞬間。

しゃりん! という音が響いたかと思うと、アサシンの脇にあった木に斬り跡がついた。

ほとんど中心近くに到達するほどの深い傷だ。一撃でも貰ってしまえば、ルーラーなだけでクソステの少女には致命傷だろう。

そして、スペンタマユの脳裏には腰あたりから両断された自身の姿がありありと浮かんでいた。

 

「生憎と女狐からの指示でな、ここを通すわけにはいかんのだ」

「……だからルーラーだっつってんでしょうが」

「ええー? ほんとにござるかぁ?」

 

もうなんか、もうだった。

かくして裁定者の堪忍袋の緒は引きちぎられ、ルール無用の戦闘が幕を開ける。未だに昼間だというのに。

数時間後。

ある武家屋敷のテレビ画面には、()()()()()()()()()によってボロボロになった柳洞寺の石段が映されていたという。

また、現場ではフードを被った麗人によって和装の青年が説教されている光景が。

そして、そこから少し離れた場所で、()()()()()()の前で純白の少女が土下座している光景が見られたという。



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Berserk

アサシンとルーラーが激突した、その日の夜。

柳洞寺爆発事故(仮)の張本人であるスペンタマユは、疲れきった表情で路地を歩いていた。

というのも、昼間から派手にやらかした──何度も言うが、本来彼女は中立の立場である──件について、抑止力(アラヤ)からこってり絞られたのだ。

ただでさえ白いその姿をさらに灰のように白く染め上げ、のろのろとした動きでサーヴァント反応へとむけて足を動かす。

そうすると、

 

 

「■■■■■■■■■■──────!!!」

「はあっ!!」

「セイバー! 気を付けてく……ルーラー!?」

「」

 

向こうからやってきた。世界は悲劇に満ちている。

しかも、よりにもよってステータスの鬼とまで称されるバーサーカーと最優のクラスと名高いセイバーのコンビだ。余裕で死ねる。

あゝ無情。

 

「どうもです、セイバーのマスターさん」

「お、おう……大丈夫か? その、何か、白いぞ?」

「ご心配なく、いつも通りですから」

「そ、そうか……」

「私は基本的にただの傍観者ですからね……いくらお上からの仕事があるとしても、最低限監視くらいはしないといけないんですよ……あー、胃が痛い」

 

治癒魔術を仕込んだ宝石を作って、それを一息に飲み込む。

何故こんな面倒なことをしているかと言うと、纏った『殻』のせいなのか、魔術が宝石にしか使えなくなったからだ。その分効果は上昇しているので、まあ一長一短といった所か。

お腹の奥が暖かくなるのを感じながら、少女は死んだ魚のような目で二騎の激戦を眺めていた。

そして気づく。

 

「ねえ、セイバーのマスター君」

「はい?」

「──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

その問を投げかけた直後。

 

「■■■■……!?」

「ぐっ!?」

 

バーサーカーが何かに気付き、力任せの一撃でセイバーをはね飛ばした。

そして、大きく後ろへ下がったセイバーを尻目に、どこかへ向けて疾走していく。

 

「セイバー、どうした!?」

「分かりません! ですが、これは……?」

「……嫌な予感がします。具体的に言うと私の出番な予感が」

 

困惑するセイバーとそのマスターをよそに、スペンタマユはさっさと突然撤退したバーサーカーを追う。

よほど拙い事が起きたのか、咆哮しながら全速力で駆けていた。唯一の長所と言っていい敏捷A+の恩恵で何とか追いつけたが、一体何をそこまで焦っている……?

 

「■■■■■■■■■■!!!」

「なっ、加速した!?」

 

さらに速度を上げたバーサーカー。慌ててルーラーがその肩に掴まり、ほとんど横にぶら下がる形で追従する。バーサーカーも本気で焦っているのか、ルーラーに意識を向けるどころか気付いてさえもいない。もはやその速度は並の乗用車を突破し、ある地点へ一直線に駆けていく。

そして。

 

バガンッ!! と、どこともしれない家屋の扉をぶち破り。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「■■■────■■■■■■■■!!!」

「うわぁあああっ!!?」

 

その衝撃によって今度こそスペンタマユは投げ出された。

しかしそこは裁定者の底意地、転んでもただでは起き上がらない。

空中で体を捻って速度と方向を調整し、目の前で呆然とへたり込んでいる少女──確か、バーサーカーのマスターだったか?──をかっ攫う。­

そしてそのまま、内装も何もあったものじゃない屋敷跡(?)から飛び出した。

 

「あ、あなた……!」

「いっつつ……最弱英霊ルーラーさん、お呼びでなくともとにかく参上……!」

 

そして、ガラスのない窓へと大量の宝石を投げ込んでいく。

マスターとはいえサーヴァントならざる生き物を巻き込む以上、ルーラーのやる事は決まっていた。

カチッ、と右手の親指でボタンを押すようなモーションをする。

次の瞬間。

 

「──吹っ飛べ馬鹿野郎!!」

 

屋敷跡が眩い光を発したかと思うと、木っ端微塵に弾け飛んだ。

辺り一体に撒き散らされる光と瓦礫の中から、勢いよくバーサーカーが飛び出してくる。

彼にマスターの少女を預けつつ、裁定者の少女は背中にある一対の双剣に意識を向けた。

やったか、などという馬鹿丸出しのフラグ発言はしない。する必要も無い。

何故ならば──

未だ、相手は健在なのだから。

 

「──随分と慌ただしいな、雑種?」

 

ガリ、と大地を踏み締める音が耳に届く。

そして。

人は愚か天地すらもが平伏するであろう、とてつもない『高貴』が姿を現した。



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"Golden Dawn"

サーヴァント:アーチャー

【真名】
ギルガメッシュ
 
【マスター】
なし 

【ステータス】
筋力B 耐久C 敏捷A 魔力B 幸運A 宝具EX


【スキル】
単独行動[A+]
対魔力[E]
神性[B]
カリスマ[A+]
黄金律[A]
コレクター[EX]

【宝具】
王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)
ランク:E~A++
種別:対人宝具
レンジ:-
最大補足:1000人

天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)
ランク:EX
種別:対界宝具
レンジ:1~99
最大捕捉:1000人


スペンタマユの脳裏に、黄金の男のステータスがすぐさま開示される。

単純なステータスだけで見れば、バーサーカーやセイバーなら勝てるだろうが、問題は宝具。

変動するし評価規格外だしで正確なランクは不明だが、開帳されたらろくな事にならないのは嫌でもわかる。

しかもマスター不在。魔力Bとあるが、何処から調達されたのか。まさか魔術回路とセットで受肉したのか。

 

「Jesus Christ……!」

 

ただし悪態は異教徒から出る。

本当に冗談ではない。何が悲しくてこんなクソステでチートの代名詞と戦わねばならないのだ。

しかし、やれと言われたからにはやらないといけないのが下っ端の悲しいところ。

実力差がなんであれ、玉砕覚悟で突っ込むのだ。一人だけ世界観が大戦末期の日本である。

対して、黄金のアーチャー──ギルガメッシュは優雅なものだった。

 

「どうした雑種。(オレ)を前にしているのだ、する事など決まっているだろう?」

 

言外に『平伏しろカス共』と断言しながらこちらを睥睨する。

何回も言うが冗談ではない。

バーサーカーは理性が消し飛んでいるからアテにならないし、そのマスターはマスターで何があったか知らないが完全に怯えている。

つまり、必然的にスペンタマユが矢面に立つしかないわけだ。

意を決した裁定者が口を開く。

 

「……はあ。じゃ、代表して私から」

「ほう?」

「初めまして、()()()()()()()()()()()()()。私はスペンタマユ──ゾロアスター教からやってきた、史上初めてとも言えるクソステのルーラーです」

 

それを聞いたギルガメッシュは、いきなり爆笑し始めた。やめろ、こっちも気にしてるんだぞ。

第一、一番高いステータスと一番低いステータスの差が酷すぎるんだよ。そも、ルーラーのステータスにEランクってあっていいのか。どうなんだ抑止力(アラヤ)

 

「……ふっ」

「……、」

「フハハハハハハッ!! ルーラー! 人類の裁定者たる(オレ)の前で、言うに事欠いてその有様で裁定者を名乗るか! フハハハハハ──」

 

そして、収束するかのように冷徹な表情へと戻っていく。

カジュアルな服に包まれた体、その右腕を天にかざし──

 

「──下らん。疾く去ね」

 

──振り下ろす。

その動作に呼応するかのように、ギルガメッシュの背後の空間がぐにゃりと捻じ曲がり……黄金の()()から、大小無数の武具が射出された。

当然、ルーラーとしてはたまったものではない。

慌てて横っ飛びに回避し、間髪入れずに波紋めがけて宝石を投げる。

案の定当たらなかった。

が、代わりにギルガメッシュの服を少し掠めた。

ピキッ、とその額に青筋が浮かぶ。

 

「雑種の分際で(オレ)に楯突くか……その不敬、万死に値する!」

「知るか!」

 

こちらめがけて飛んでくる武具を躱し、受け止め、更には発射方向を調整することで潰し合わせつつ──少女はなおも走り続ける。

その脇では、

 

「■■■■■─────!!!」

 

バーサーカーが雄叫びを上げてギルガメッシュへと突っ込んでいった。戦いを切り上げてでもマスターを救いに行ったのは素晴らしいが、そのマスターを放っておいて敵に突っ込むのはどうなのか。

仕方ない。人死には出したくないのが本音だし、ギルガメッシュはバーサーカーに任せよう。仮にもギリシャの大英雄なのだ、自身のマスターが逃げる時間くらいは稼げるはず。

 

「逃げますよバーサーカーのマスター!」

「で、でもバーサーカーが!」

「生きてれば私が神明裁決でも使って呼び寄せます! とっとと逃げなさ──ッ!?」

 

ズガガガガッ!! というとんでもない音を立てて、少女達を取り囲むように円周上に武具が降り注ぐ。

見れば、ギルガメッシュはバーサーカーと相対しながらもこちらを見据えていた。

 

(オレ)を差し置いて何処へ行く気だ?」

「逃げるに決まってんでしょうがこの歩く抑止案件! 威光(プレスティーグ)!!」

 

宝石を投じ、すぐさま起爆。

辺り一帯をサイケデリックな光で彩りながら、スペンタマユはバーサーカー共々ギルガメッシュへと踊りかかる。

その隙に、バーサーカーのマスターが逃げようとするが──

 

「思い上がったな」

「■■■■──!?」

 

黄金の波紋から現れた黄金の鎖が、ただでさえあちこち傷だらけだったバーサーカーを縛める。

それに気を取られたルーラーの腹に剣の峰を叩き込んだ。

 

「なっ──げほっ!!」

「この程度か」

 

崩れ落ちた少女を見下しながら、ギルガメッシュは逃げ惑うバーサーカーのマスターへ手を向けた。

三度波紋が現れ、マスターの足を剣が切りつけた。

 

「あっ……!?」

「鬱陶しい。走り回るな、人形」

 

地面に転げ回るマスターの少女。

そこへ向けて、ギルガメッシュはゆっくりと歩を進める。

 

「……っ、やめなさい、ギルガメッシュ……!」

「雑種の分際で(オレ)に指図するか。大きく出たな、善神のなり損ない」

 

黄金の波紋から一つの剣を取り出す。

そして、なおも地を這って逃げ回る少女へ向けて、その一撃を振り下ろ──

 

「──ッ! 偽善(フォーレン)/神前(ステア)!!」

 

──せなかった。




FNaFのUCN楽しい。


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Fallen/Stare

「む?」

 

めこ、と。

マスターの少女、その両脇の地面が盛り上がる。

そして、次の瞬間。

 

「何っ!?」

 

隆起した地面から()()()()()が飛び出し、黄金の青年めがけて鋭く突き込まれた。

慌てて剣を振るい、その二振りを叩き砕く。

その一合だけで、ギルガメッシュはカラクリを看破する。

 

「この感触……忌まわしい、贋作風情が!」

 

思わぬ伏兵に、ギルガメッシュが苛立ちを募らせる。

その大元である小娘に鉄槌を下さんとするが……。

 

Link:First,Second,Third,Forth(第一から第四位階まで接続)──Reboot(同調再開)

 

見れば。

先程まで地に這いつくばっていたはずの雑種(ルーラー)が、確かに二本の足で立っていた。

その両腕には、無数の()()()()が走っている。

 

「……今度はどんな手品を見せるのだ? 雑種よ」

Lost is only Lost(亡国に至るを知らざれば) , It's nothing else than that(之れ即ち亡国の儀につき)

 

嘲るような表情でその様子を眺めるギルガメッシュ。

変化はすぐだった。

 

The name of "Spənta Mainyu"(善神の名の元に),Follow me(私に付き従え)……!」

 

その言葉と同時に、眩い光が辺りを照らす。

しかし、それは宝石から撒き散らされるような極彩で無粋な光ではなく。

まるで、全てを包み込むかのような……。

 

「うわっ! なんですかこれ!? 光ってる! 後光放っちゃってますよ私!」

 

本人のノリの軽さは相変わらずだが。

対して、ギルガメッシュの眉間に深い皺が刻まれた。

そして、その感情のままに、ある問を投げかける。

 

「その溢れんばかりの忌々しい気配……貴様、さてはもどきではなく本物の神か……?」

「は? 何いってんですかあなた。私は私であり、信仰心強すぎてちょっと依り代紛いな事までやってただけな一般人Aですよ?」

 

ひらひらと手を振ってみせるスペンタマユ。

しかし、今やその一挙手一投足がギルガメッシュを苛立たせる要因となっていた。

 

「そうか、あくまで惚けるか。ならばそれも良い──その不敬、貴様の命で贖え」

 

瞬間、裁定者を中心に無数の波紋が現れた。

そこから顔を覗かせるのは、剣、槍、弓、斧、杖……大小無数の武具。

その一つ一つが有史以来語り継がれてきた伝説の武器──その原典であり、弱小サーヴァントなルーラーでは文字通り掠っただけで消し飛んでしまう。

だが。

 

「ふっ!」

 

空中に無数の宝石がばら撒かれる。

それらは武具が直撃する寸前に自壊し、その衝撃波で武具の軌道を逸らすのだ。

結果。

トガガガガガッ!! というとんでもない音とともに、スペンタマユを中心とした半径2mほどの円が、大小無数の武具によって象られる。

ちなみに当の本人は内心壮絶に冷や汗を流していた。

 

(死ぬかと思ったなんか気付いたら躱してたやっべぇええええええ!)

「貴様……小手先の付け焼き刃で(オレ)の財を穢すか!」

(いやぁああああすっごい怒ってるぅううううう!)

 

傍から見れば繊細な技巧で受け流したように見えるが、当人達のやり取りからわかるように完全なる偶然だった。

結果として、より苛烈な武具の嵐が牙を剥き、少女が全力でそれを受け流す。

史上稀に見る絶望的な持久戦だった。

と言うのも、確かに宝石を爆破させるだけなら一工程(シングルアクション)で済むが、地雷のように元から設置してあるのでもない限り、そこには『投げる』または『仕込む』という工程(ラグ)が存在する。

対して、ギルガメッシュの方は完全に撃ちっぱなし。しかも撃ったら撃ったで勝手に回収するものだから、やっている事は殆ど流れ作業に近い。

 

「ふはははははっ!」

「……辛い」

 

もはやルールも何もあったものじゃなかった。

ルーラーの目から涙がちょちょ切れる。

──ああ、この場から逃げたい。というかアンリぶっ飛ばして他のは今次の聖杯戦争参加者に丸投げして帰りたい。

そして、この国にはこんな諺があるらしい。

曰く──

 

「──『思い立ったが吉日』! 夜闇(シェイド)!」

 

周囲にありったけの宝石をばら撒く。

その直後、一斉に周囲が暗闇に包まれた。

驚くことに、大小無数の宝石が光を吸収しているのだ。

 

「何っ!?」

 

ギルガメッシュが驚愕する。

そうしている間にも、スペンタマユは駆け出し、バーサーカーのマスターをかっさらい、ついでにバーサーカーに巻きついていた鎖を解いてさっさと逃走した。

理性はなくとも戦闘勘は健在なようで、バーサーカーは解かれた瞬間速やかに霊体化。

結果として、ギルガメッシュは誰一人仕留めることが出来なかった。

 

「くっ、雑種風情が……! おのれおのれおのれおのれ!」

 

大人気なく地団駄を踏むギルガメッシュ。

この数分後、なぜか付近の家屋が数件倒壊した。

幸いにもそれらは幽霊屋敷となって久しい場所だったため、警察は『老朽化による自壊』だと結論づけたという。



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(S)talker

戦争の裁定者(笑)と人類の裁定者(自称)が激突した翌晩。

裁定者(笑)は柳洞寺へと訪れていた。

理由は無論、アサシンとの再戦……ではなく、キャスターとの直談判である。

今日という今日こそは文句言いに行ってやる。

そんな思いを胸に秘めつつ、歩き続けることしばし。

また、気に入らねえ和装の野郎の姿が目に飛び込んできた。

知らず知らずのうちに表情が歪む。

 

「……む。誰かと思えば、いつぞやの娘っ子ではないか」

「ぶっ飛ばしますよアサシン。それとも神明裁決してやりましょうか」

 

※良い子のみんなは真っ当な令呪の使い方をしよう。例えルーラーになったとしても私怨で誰かを自害させてはいけません。

 

「冗談だ。して、此度は何用だ?」

「この前と一緒ですよ。キャスターに直談判&説教です」

「そうか。ならば通るがいい」

 

すっ、と道を譲るアサシン。

その余りのあっさりさに、むしろルーラーが拍子抜けした。

 

「……足止めとかしないんですか?」

「それが、この前の一線で随分と怒鳴られてな。裁定者には喧嘩を売るなとキツく言われたのだ」

「明らかに自業自得ですね」

「言ってくれるな。そなたも大概だぞ」

「喧嘩売ってます?」

 

思わず特権濫用に走ろうとするスペンタマユだったが、すんでのところで思いとどまった。

これ以上不祥事をやらかしたら今度こそ上司にしばかれる、そう思ったからだ。

実際、この前の戦闘で上司はだいぶお冠だった。貴様それでもルーラーか、としこたま怒鳴られたのだ。

嫌にならないわけが無い。

 

「まあ、通してくれるってんなら是非もないです。失礼」

「おうさ、通れ通れ。女狐の妖術のせいで体感入口が狭くなってはいるが、その体つきなら特に問題あるまい」

「全部終わったらその鼻にチューブのわさび流し込むからな。覚えとけよコノヤロウ」

 

驚くほどドスの効いた声を放ちながら、裁定者はキャスターの元へと向かう。

途中で何人かのジャパニーズプリーストとすれ違いつつ、スペンタマユは一直線に歩いていった。

程なくして、キャスターの元にたどり着いた……が、

 

「あら、ルーラーじゃない」

「……何してんですかキャスター」

「見て分からないのかしら」

「意味がわかりません」

 

そこに居たのは、マスターらしき男性に膝枕をする『裏切りの魔女』だった。その顔はとても幸せそうな表情になっていて、とてもではないがキルケー敗北拳──古代ギリシャから続く女の呪い──の被害者には見えない。

 

「で、要件は何かしら」

「分かって言ってるでしょう。この際アサシンについては諦めますから、とっとと街に仕掛けた術式解除してください。っつーかしろ」

「嫌よ。何が悲しくて伴侶も胸もない裁定者に従わなきゃならないの」

 

が、返答は簡潔な拒否。しかも煽り文句にさらっと呪詛まで乗せてきた。

呪詛に関しては対魔力で弾きつつ、スペンタマユは口を開く。

 

 

「……あのですね。こっちだって暇じゃないんですよ。果てしなくブラックな監督役にドロッドロに汚染された聖杯、果ては抑止の守護者にあのギンギラアーチャー!! これ以上! 私に! 何を! 求めてんですか!? なんなの!? 過労死でもさせたいの?! ええしてやりますよ今のこの場で私が宝具開帳すれば聖杯もろとも盛大に自爆できますとも! だけどそれじゃ二人いるアーチャーの問題が片付かないからわざわざ宝具封印してまで駆けずり回ってるんですよ!? それなのになんだ今次のサーヴァントは! ルーラーだっつってんのにどいつもこいつも容赦なく狙ってくるしなんかランサーは監督役とパス繋がってるし!! バーサーカーとか本当に死ぬかと思いましたよ!? ねえステータスの暴力って知ってる!? こちとら敏捷しか取り柄のない最弱サーヴァントですよ!? 聖杯のせいで召喚せざるを得なかったクソザコナメクジですよ!? そして挙句の果てにはキャスター! あなたですよ!! なんで容赦なく赤の他人の一般人巻き込んでんの!? ライダーも狙ってたみたいですけどアレはまだごまかせる範囲でしたよ!? だって範囲狭かったですもん!! なのになんであなたは万単位の人間巻き込んでるんですか!? 後始末する側のことも少しは考えなさいよ!! おかげで連続して起きてる爆発事故の重要参考人にされてるガス会社とか酷い有様ですよ!! 株価大暴落! 倒産待ったなし!! なんなの!? 馬鹿なの!? 死ねよ!! 神明裁決なりなんなり使ってやりますからいっその事くたばりなさいよ!! 一刻も早く!! ああもう聖杯戦争とかどうでもいいから聖杯もろともサーヴァント全滅しろーっ!!!!!!

 

 

スペンタマユ、魂の叫び。

そのあまりの剣幕にキャスターはドン引きし、そのマスターは目を覚まし、周りからはなんだなんだと一般人が集ってきた。

魔術で手早く民衆の記憶処理と暗示を済ませ、キャスターに向き直る。

 

「ぜえ、ぜえ……とにかく!! 町中に仕込んだ術式を止めるなり何なりしてとっとと処理しなさい! 以上ッ!!!」

 

それだけ言って、裁定者は肩で息をしながら去っていった。

残されたのは、呆然としているキャスターと事情が掴めず困惑しているマスターのみ。

 

ちなみにその後、町中に仕掛けられた魔法陣の効力が突然弱まり、アーチャーのマスターをたいそう困惑させたという。



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(N)ever last

すごいスピードで駆け抜けていきそうなコメントを貰ってやや困惑しています


月に照らされた冬木大橋、その頂点に腰掛ける少女が一人。

あの顔・姿、どう見ても。つぶれアンマンならぬ、紛うことなき最弱英霊スペンタマユである。

 

「~♪」

 

満点の星空を眺めながら歌を口ずさみ、手に持ったワッフルにかぶりつく。その様子は、とても微笑ましいものに見えた──その少女の目が死んでいなければ。

いっそガラス玉と呼び変えてもいいレベルで虚ろである。その辺に寝転がっていたらしたいと間違えられるかもしれない。

 

(もうやだ。おうちかえりたい。たすけてあらやさま)

 

内心で際限なく幼児退行を繰り返しながら助力を乞う。

だが、返答は無情なものだった。

 

『頑張れ』

「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ッ!!!」

 

絶叫。

どう考えても見た目年頃の女の子が出してはいけない声をあげながら発狂するスペンタマユ。そろそろスキルに狂化が追加されそうだ。

そして、ひとしきり叫んだ後、ふらりと立ち上がって覚束無い足取りでその場をあとにする。

そして、何を思ったのか橋の頂点から身を投げた。

そのまま川に飛び込み、それはそれは見事なフォームで小一時間狂ったように泳ぎ続けた。

たまたまそれを見かけたライダーは、見なかった事にして速やかにそこから離れたという。

 

■ ■ ■

 

「あーはぁーん☆」

『やめてえええええっ!? ちぎれる、サーヴァントの膂力で引っ張られたらさすがのルビーちゃんも危ういですよーっ!?』

「……衛宮くん。これどうしましょう」

「いやオレに言われてもな……」

「……かつての部下(ランスロット)と同じ匂いがします」

「これが社畜の末路か……一歩間違えれば、私もこうなっていたのだろうな」

 

遠坂邸。

そこに、喋って暴れるステッキを弄ぶ死んだ目の少女がいた。

それが誰かはもはや言うまい。

そしてそれを憐れみの目で眺めるのは、一時的に同盟関係にあるセイバー・アーチャー陣営。

見事に発狂してしまった裁定者を眺めながら、ヒソヒソと会話を続ける。

 

「(……これどうするのよ)」

「(……どうするって言われてもなあ……メンタルケアなんてしたことないぞオレ)」

「(……シロウの料理で釣るというのはどうでしょうか)」

「(……それで釣られるのは君だけだ、セイバー)」

『あああああんっ!? 軋んでる! ルビーちゃんのボディ(持ち手)がミシミシ言ってますよ!? 助けて元マスター!!』

「そのままへし折れなさい駄礼装」

『ほああああっ!!? あっ、だんだん気持ちよくなってきたような…♡』

 

苦痛を喜悦に変換しつつある愉快型魔術礼装のことはさておき、四人は話し合う。

だんだんその声に軋む音が混ざり始めているが、誰も気にとめなかった。

 

「それで、ルーラーは何の仕事をしているんだ? この前聞いた時は触りくらいしか話してくれなかったし」

「……抑止力(アラヤ)曰く、監督役の調査、大聖杯の浄化、黄金のサーヴァントの除去だそうだ」

「……黄金のサーヴァント?」

「ああ。話せば長くなるが──」

 

守護者説明中。

その説明が終わる頃には、マスターの少女はすっかり頭を抱えてしまっていた。

 

「……冗談でしょ……」

「ああ、それでこの前、ルーラーとバーサーカーが……」

「宝具に関して、奴の右に出るものはいないだろう。だが、そのお陰ですっかり慢心している様だ。付け入るとしたらそこしかない」

「だとしても、戦力足りるの?」

「……、」

「おい、こっちを見なさいアーチャー」

「わからん。だが、だいぶ厳しい戦いになるのは間違いないだろう」

 

そう締めくくるアーチャー。

ちょうどそのタイミングで、スペンタマユが正気に戻った。

 

「ハッ! 私は何を……?」

「元に戻ったか、ルーラー」

「あっ、見せ筋」

「やめたまえ。君もご同輩(筋力D)だろうに」

「見た目の話をしてんですよ」

 

サラリとアーチャーを罵るルーラー。

そして、先程の発狂具合からは想像もつかないほど真面目な表情になり、

 

「……金ピカに挑むんですね」

「まあ、君だけでは不安だからな」

「すいませんねクソステで。それならまあ、これを貸します」

 

そう言って、背中に背負っていた双剣をアーチャーに押し付けた。

即座にそれを解析したアーチャーが目を見開く。

 

「……これは、君の宝具ではないのか?」

「ああ、ご心配なく。この『殻』を纏う時に違う誰かと()()()()()()みたいでして、その双剣と宝石だけは無制限に生み出せるんです」

 

その混ざった不純物に心当たりのありすぎるアーチャーが顔を僅かに歪める。

ちなみに、戦闘スタイルからしてスペンタマユも薄々勘づいていた。

 

「まあ、吹聴はしませんよ」

「そうしてくれると助かる」

「後で美味しいお菓子を所望します」

「」

 

流れるような動きでカジュアルに脅迫してくるスペンタマユ。ルーラーとは一体なんだったのか。いや、戦争に関して中立でさえあればいいから、問題はないのか……?

 

その後、アーチャーは大量のパンケーキを作る羽目になったとか、ならなかったとか。




ゲスト出演:愉快型魔術礼装(マジカルルビー)

ちなみに出番がないだけでサーヴァントは全員生存しています。


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Slap/Clap trap

別シリーズのネタを考えて遅れました。申し訳ない。


「……さて。私は私で()()に入りますかね」

 

そう言って、スペンタマユは遠坂邸を後にした。

目指すは大聖杯。円蔵山の地下洞窟、龍洞に築かれた諸悪の根源だ。

敏捷値をフル活用して突っ走る裁定者。

だが、幸運E(E++)の値は伊達ではなく、やはり逃れえぬ騒乱に巻き込まれてゆく。

持ち前の方向音痴を重ねに重ね、辿り着いた先は……

 

「……ここ、どこ?」

 

遠坂邸とはまた違う大邸宅だった。

彼女は知らなかったが、そこは『間桐邸』と呼ばれる……まあ、言ってしまえばCERO-Z指定待ったなしの地獄的サムシングである。

内実は知らずとも彼女にもその黒すぎるオーラは伝わったようで、

 

「なんですかここ……うわっ、鼻曲がりそう」

 

と顔を顰めていた。

ルーラーとしてこれは見過ごせない。原因がなんであれ、取り敢えずヤバそうなものは始末しておくに限る。

 

「ダイナミックぅ~、おじゃましまーっす!!」

 

と言いつつ、やる事は霊体化しての潜入だった。小物臭が半端ない。

そう。もしかすると、放っているオーラがアレなだけで正真正銘一般人の邸宅かもしれない。だから迂闊に姿を現すのは危け──

 

(……あらー……)

 

危険、と言い切る前に魔術結界を発見した。

どう足掻いても誤魔化しようのないクロだった。

いやまて、落ち着けスペンタマユ。アレだ、聖杯戦争には無関与のただの魔術師が住んでいる邸宅という可能性が──

 

『何してるライダー! とっとと行くぞ、ノロマめ!』

(Oh)

 

──全然なかった。完膚無きまでに関係者だった。

どこまで外法に手を伸ばせばここまで空気が汚れるんだ。そしてまた仕事が増えた。

仕方なく、声がした方向に進んでいくルーラー。

程なくして、何やら怒鳴り散らすワカメと落ち込んでいる女の子、そしてバイザー装備のノッポ女──

ガキンッ!!

 

「なんだライダー! 何の騒ぎだ!?」

「……今、とても屈辱的な事を言われた気がしました」

「なんの事だ!」

 

ヒエッ。

……あっ、真名看破出ました。

ギリシャ神話からメドゥーサさんです。

さもありなんとスペンタマユは頷く。元々ゴルゴン三姉妹はロリ体型が完成形だから、一人だけ成長してしまった自分が疎ましいのだろう。それが、最終的に怪物(ゴルゴーン)に行き着いてしまったとすれば尚更に。

が、見る限りその主従にアウトな点は見当たらない──せいぜいマスター権を一時的に移譲しているくらいだが、専用礼装に令呪まで使っているしまあセーフ──のでほかの所へ行くことに。

 

(怪しいとすれば……下の方かな)

 

一部、進めば進むほど負のオーラが強くなる場所がある。

もう確定的にそこだろう。

霊体化は一応しているが、そろそろと進んでいく。

何重にも侵入防止用の結界が張られた、露骨に怪しい両開きの扉を発見した。

いや絶対ここだろ。

持ってもいない直感スキルが警笛を鳴らす。つまりそれだけ危ないという事。

が、裁定者としてこんなものは見過ごせない。なんか聖杯戦争内での役割から逸脱している気がするが、それでも見逃せない。

どうやら霊体化のままでは通れない様なので、その場で実体化。

両手に双剣を取り出した。

 

「──右手抱擁(アムルタート)左手抱擁(ハルワタート)

 

そして、結界もろともドアを滅多切りにする。

筋力D-とはいえサーヴァントの膂力に耐えきれるわけもなく、ドアは木っ端微塵になった。

姿を現したのは、地下へと続く石の階段。

この奥から、もういっそ不快と言っても問題ないレベルの瘴気が流れ出てきている。

ついでに、サーヴァントの召喚陣の残滓の気配も。

 

「……、」

 

ゆっくり、ゆっくりと下っていく。それに比例するかのように、だんだんと空気が湿り、澱んでくる。

──もうなんか本当、帰りたい。

そう思うスペンタマユだったが、しかし戦争に関連していることなので手は抜けない。

そして、階段を降りきったその先にあったのは──

 

「……うん?」

 

薄暗くて湿っぽい和室だった。

その脇には机が置いてあり、『ぞうけん』と書かれたシールの貼られたビンに一匹の虫が収まっている。

そして、その部屋の隅には……

 

「……孫怖い孫怖い孫怖い孫怖い孫怖い孫怖い孫怖い孫怖い孫怖い孫怖い孫怖い孫怖い孫怖い孫怖い孫怖い孫怖い孫怖い……」

 

ブツブツと何かを呟きながら小刻みに震える一人の老人。

よっぽどなにかに怯えているのか、こちらに気付いてもいない。

それをいい事に、スペンタマユはなにか怪しいものがないか周囲を探索するが……

 

「……何ですかこれ。ノート?」

 

ふと、一冊のノートが目に付く、

部屋がやたらと暗いために見にくいが……どれどれ……。

そして、表紙に書かれたタイトルを見て、少女の身体と思考がフリーズする。

そこにはこう書かれてあった──

 

『よいこのめっさつしりーず』

『いちにちさんさつ』

『ジャプニカ暗殺帳』

 

そして、表紙には何故かライフルのスコープらしきものに収められたアーチャーのマスターの姿が……。

 

(あ、これあかんやつや)

 

そう察したスペンタマユは、速やかに霊体化してその場を後にする。

そのまま、ライダー陣営には何があっても介入しないことを誓ったという。




申し訳程度のHollow要素


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Your journey is done,it's because──

──I came.


「……、」

 

紆余曲折を経ながらも、少女は無事に龍洞に辿り着いた。

目指すは大聖杯、かつて『冬の聖女』と呼ばれたホムンクルスをバラして組み替えることによって造られた、埒外の超弩級魔術礼装。

しかしそれは今、そのほかならぬその作り手によって極限まで汚染されている。

故に、スペンタマユはここへ来た。

自身の同輩の後始末をする為に。

だがしかし。ここで邪魔しに来る影が一つ。

 

「……久方ぶりだな」

「……何のつもりですか、キリスト教徒」

 

やたらと縁起の悪そうな顔をした男。

もとい──聖杯戦争の監督役、言峰綺礼。

その手には丁字型の木で出来た柄のようなものが複数握られていた。

確か、あれは……。

 

「ええと……白鍵でしたっけ、それ。確か人外専門の……そう、代行者とかが使うっていう」

「残念だが逆だな。黒鍵、だ」

「そうですか」

 

それで、とスペンタマユは話題を区切る。

本題はここからだ。

 

「──その黒鍵を両手いっぱいに構えて、どうする気でしょうか? 聖杯の泥に洗礼でもかまします?」

「貴様なら分かっているだろう、裁定者──」

 

そして。

 

「──!!」

「せっ!!」

 

その次の刹那。

裁定者と代行者、人ならざるモノと善ならざるモノが、トップスピードで激突した。

周囲一帯に衝撃波が撒き散らされる。

ギリギリと鍔迫り合いをしながら、スペンタマユは内心壮絶に焦っていた。

 

(ヤバイヤバイヤバイヤバイ! なんですかこの男! 筋力Dとはいえなんでサーヴァントと拮抗してるんですか! クソ野郎(アンリマユ)の加護受けてるとはいえブーストされすぎでしょう!?)

「……ふむ」

 

ガン! ガン! ギィンッ!! と連続して金属のぶつかる音が打ち響く。

双剣を振るのに乗じて宝石をばらまくが、撒いた先から巧みなステップによって尽くを()()()()踏み砕かれる。

 

「ハッ!」

「疾ッ!」

 

バキン!! と甲高い音が響いた。

サーヴァントと人外神父の膂力に耐えきれず、互いの武器が砕けたのだ。

というか、いくら低ランクかついくらでも直せて生み出せる量産品とはいえ、宝具を砕く人間がいてもいい物なのか。

……この神父、本当に人間か?

が、そこで止まるならそもそも激突などしていない。

次の刹那には互いに己が武器を元通りに修復し、再びぶつかり合う。

ある弓兵の起源が『殻』に混ざりこんだ事もあってか、こと修復に関しては裁定者の方に一日の長が合った。だが、神父は修復のロスを補って余りある膂力と初速を発揮し、あっという間に彼女に追いついてみせる。

そのまま再びの拮抗。

もはや目指できないほどの速度で互いに武器を振るう。

あまりの速さにかまいたちが断続的に生み出され、周囲にあるものに深い切り傷を刻んでいた。

先程から、スペンタマユの頭で『生存願望』由来の直感が警笛を鳴らしている。

英霊ならざる人の身ではあるが、目の前の神父は立派な脅威なのだろう──こと、霊体相手ならば。

だが、ここでスペンタマユが動いた。

 

「──『破滅の息吹(ルイン・クイーン)』!!」

 

床に撒き散らされた宝石、その大小無数の破片が光を放つ。

術式ごと砕かれた以上、正規の方法では起動しない。だが、そこには一つ例外がある。

『弾込め』に失敗した際に使う、言わばガス抜きのような技術があるのだ。

だが、ちゃんとガス抜き用の術式が機能しているならともかく、今回の場合は仕込んだ術式諸共に砕かれている。

つまりどうなるかと言うと──

 

「っ、!? くっ!」

 

キュガッ! と二人を中心にして莫大な魔力と土煙が吹き荒れる。

崩壊した術式を無理に動かしたために、宝石が暴走・起爆したのだ。

EXランクの対魔力を持つルーラーはさておき、神父の方はただでは済まないだろう。事実、周りにはちょっとしたクレーターが出来ている。

そして。

煙が晴れた先には、傷だらけで膝をつく言峰綺礼と、今度こそ砕け散った黒鍵の柄。

肩で息をする神父に対して、裁定者は告げる。

 

「私の勝ちですね」

「……ふっ」

 

だが、満身創痍ながらも神父は不敵に笑ってみせる。

その仕草に不穏なものを感じる少女。

次の瞬間、彼女は己の直感に従って全力で飛び退いた。

直後。

ズガガガガゴンッ!! と。

恐ろしい程の轟音とともに、ついさっきまでスペンタマユの立っていた地点が()()()()()()()()()()()()()()()()

こんな阿呆みたいな攻撃を繰り出してくる輩など一人しかいない。

ざり、と地面を踏みしめる音が耳に届く。

そちらを向いて、叫ぶ。

 

「何の用ですか……ギルガメッシュ!」

 

人類最古の王、ギルガメッシュ。

聖杯戦争における絶対的優位性を誇る、まさしく歩くチート系主人公。

 

「下らん児戯に身をやつしているようだな、紛い物よ」

 

パチン、とギルガメッシュが指を鳴らす。

それに呼応するように、剣、斧、槍、弓──大小無数、多種多様の武具が黄金の波紋から顔を覗かせた。

そして、

 

「貴様のような神もどき風情に我が財を使うのは癪だが、その財を守るのも(オレ)の務めよ。存分に足掻くがいい」

 

ギルガメッシュが掲げたその腕を振り下ろす。

照準完了。

その瞬間、一斉に武具が射出された。

哀れな犠牲者へ向けて、無慈悲な刃が大挙をなして迫り来る。



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Gilgamesh the King of hero

「どうした、何かして見せよ!」

「無茶言うなこっちは回避で精いっぱいなんだっつーんです!」

 

本日の天気は晴れ時々『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』。地獄のような荒れ模様だった。

降り注ぐ大小無数の武具を弾き、いなし、躱し、防ぎながら駆ける裁定者。そしてそれを後から追う、空飛ぶ船に乗った黄金の青年。

もはや聖杯がどうこう言っている場合ではなかった。こんな状況に諸悪の根源(アンリマユ)が混ざったりなんてしたら、二人まとめてボッコボコにされる。最弱同士でタイマンならまだしも、チート相手に勝てるほどお互い強くない。

 

「フハハハハハッ!」

「くっそぉおおおおおおお!」

 

故に、スペンタマユはこうして逃げ回るしか策がない。

一手どころか三手も四手も足りていない。変に反撃に出たところで、カミカゼよろしく希望の華が咲き誇るのがオチだろう。時折かく乱目的で宝石をばらまくが、片手間で壊されるどころか「返すぞ」と打ち返されてきたため早々に諦めた。

嗚呼世界は斯くも無常なり。裁定者はそう嘆く。

だが、抑止力が見放しても運命は彼女を見捨てなかった。

 

「あれは……ルーラーだ! セイバー、彼女を援護してくれ!」

「了解しました、シロウ!」

「アーチャー、加減はなしよ! 全力でそこの金ピカ狙いなさい!」

「了解した。つまりいつも通りにしろという訳だな」

(ああああああ感謝いたします我が至高の善なる神よ!!!)

 

最優のサーヴァントと名高いセイバーの主従が現れたのだ。

その姿を認めたとき、スペンタマユは思わず自身の原形(スプンタ・マユ)に祈りをささげていた。

だが、

 

「よう坊主。悪いがここは通行止めだ」

 

現実は非情であった。

空中から派手に姿を現したのは、アルスターの大英雄と名高いクー・フーリン。

彼は逃走劇を繰り広げる二人とセイバー主従の間に割り込み、獰猛な笑みを浮かべて槍を構えてみせる。

その雄々しき後ろ姿に、裁定者はドヤ顔でダブルピースするアンリマユ(にっくきクソ野郎)の姿を幻視したという。

ブチリ、と彼女の中で何か細い線が切れる音がした。そしてそれに呼応するかのように、裁定者の背中が赤い光を放ち始める。

 

「……裁定者スペンタマユの名において、この戦争に参加せし戦士たちに命ず……!」

「あん?」

「……フン」

 

そして告げる。

 

「──聖杯戦争に仇なすモノを討ち果たせ(サボってねえでテメェらも働け)ッ!!」

 

効果は絶大だった。

ぐるん! と今まさにセイバーへと襲いかかろうとしていたランサーの体が方向転換し、ギルガメッシュへと向けて手に持つ槍を構える。

それと同時に、セイバーとアーチャーにはスペンタマユ(浄化フィルター)を通した聖杯からの魔力が大量に供給され、一時的に全てのステータスがブーストされる。

その様子を見ていたギルガメッシュは短く舌打ちし、

 

(オレ)の前で群れるのは結構だがな、雑種。身の程を弁えよ」

「弁えろっていっても立場的には私の方が上ですし」

「戯けが。たかが戦争の裁定者ごときが人類の裁定者たる(オレ)に歯向かう、その行為を身の程知らずと呼ばずになんと呼ぶ?」

「っつーか古代の遺物が今更しゃしゃっちゃ駄目でしょうよ。貴方が統治してた時代から何年経ってると思ってんですか」

 

ビキリ、と。

不気味な音を立てて、ギルガメッシュの額に青筋が浮かぶ。

務めて口調を平静に留めながら、彼は問うた。

 

「……では、何だ。貴様、よもや(オレ)の出番はないと、現代の人間は(オレ)が裁定する必要も無いほどに優れていると、そう言いたいわけか」

「いやそうじゃなくてですね……」

 

ろくろを回すようなハンドジェスチャーを交えながら、自分でも思考を回しつつ裁定者は語る。

 

「まず、そもそもの大前提として私達はサーヴァントです。分かります? 従者(サーヴァント)ですよ? キャスターとかライダーみたいに見えないところからチマチマ削ったり一度全員の意識を奪った上で姿を現すなら、まあ百歩譲って許しましょう。魂食いに近い所業してるのでルール違反のペナルティは確定しますが。さて英雄王ギルガメッシュ、翻って貴方はどうでしょう? 本来舞台裏で暗躍すべきサーヴァントが思いっきり表舞台に出てどうするんですか。神秘もへったくれもあったもんじゃないですよ。神秘は人に認知された瞬間に神秘じゃ無くなるんです。いくら受肉してようが、サーヴァントの大元たる神秘が欠片も残さず消し飛んだ世界で現界し続けれるわけが無いでしょう。そうして残されたのは突然の事態に右往左往する無辜の人々だけ。そうやって遠回しに自分の存在を否定するのは結構ですけどね、頼むから自殺なら一人でやってくれませんか? こう言うのもなんかアレですけど、そんな調子だからウルクが滅びたんですよ」

「……、」

 

もはや言葉すらなかった。

ギルガメッシュの顔は至る所に青筋が浮かび、もはやメロンか何かのような様相を呈している。

だが、

 

「……ハハ、フハハハハハッ! そうか! 神との決別がとうの昔に果たされた現代において、(オレ)の裁定は不要と宣うか! フハハハハ! ならばそれも良し! 中々の道化ではないか、ハハハハハハ──」

 

腹を抱えて笑い出すギルガメッシュ。

突然の事態に、ルーラーを除いた他のサーヴァントは呆然としていた。

しかし、ある一瞬の後、青年の顔が能面のような無表情に塗りつぶされる。

 

「──ハァ。(オレ)()()が、よもやそこまで腑抜けていようとは」

 

再びその手を掲げる。

同時、ギルガメッシュの背後から無数の波紋が出現し──そこから、幾千もの武具が顔を覗かせた。

その一つ一つが、無銘の一級品──歴史の影に埋もれた、知られざる業物。

その圧倒的な武威を誇るように外界に晒しながら、しかし対照的にどうしようもなく諦観と怒気を纏って彼は告げる。

 

「もうよい。児戯に付き合うのも飽きた──貴様らのような雑種如き、(オレ)の裁定まで生きる必要などあるまい」

 

──裁きを受けるが良い。それが、貴様らにとってただ一つの慈悲だ。



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Sword (or/nor) Death

テストも終了したのでぼちぼちと。


「──フン」

 

ギルガメッシュが鼻を鳴らす。

現在、龍洞周辺は大惨事の様相を呈していた。

あちらこちらにクレーターや黄金の武具が点在し、しかもそれらが現在進行形で増えていっている。

まあ、それらが増殖している原因の半分は彼なのだが。

そして、もう半分はと言うと……

 

「ふぁーーっ!」

同調開始(トレースオン)……!」

投影(トレース)開始(オン)!」

「はっ!」

「このっ、数多すぎじゃない!?」

「あっぶねぇ! 当たるかっつーの!」

 

上から

・スペンタマユ

・アーチャー

・セイバーのマスター

・セイバー

・アーチャーのマスター

・ランサー

の順である。もう大方察しているだろうが、全力のジリ貧だった。

まず、アーチャーが咲き誇る花のような盾(ロー・アイアス)を投影し、飛来する武具の殆どを弾く。その取りこぼしを、セイバーのマスターが投影した剣で、アーチャーのマスターとスペンタマユが宝石魔術で迎撃しているのだ。ちなみにアーチャーのマスターが使う宝石は、スペンタマユが投影したものである。

そして、残るはセイバーとランサー。彼女たちは巧みに武具を躱しながら、絶妙なコンビネーションでギルガメッシュを狙う。

サーヴァント四人がかりでようやく拮抗という辺り、奴の規格外さが良くわかる。何せ、一人だけ魂の容量がぶっちぎりなのだ。宝具の性質の問題もあるだろうが、それにしたって通常の三倍の容量はどうかと思う。

ギリッ、とスペンタマユが歯噛みする。

 

「ジリ貧! 圧倒的ジリ貧! ちょっとエミヤ丸どうにかなりません!?」

「やっている! あとその呼び方はやめたまえ!」

「ねえ、今『エミヤ』って──」

「ええい一かバチか、武具偽造(トレース)!」

 

ガコン! と音を立てて、薄い何かを重ねて作った分厚い何かが生み出された。

よく見ると、その一層一層が魔力のこもった純宝石なのだが……あまりに層が多すぎるせいで、まるで重ねたセロファンのように暗い輝きを放っている。

 

「宝石盾キシュアってところですか……!」

 

宝石盾キシュア。

宝石剣ゼルレッチをベースとした礼装──言わば『対・第二魔法用礼装』とでも呼ぶべき代物だ。

製作者が本人ではない上に正規の礼装では無いため、その性能は著しく低下しているが──『平行世界からの干渉を阻止する』という特性上、山門のアサシンのような相手には破格の防衛力を発揮する。

また、その『平行世界』の定義を少し弄れば……。

 

「ぬ?」

 

ガクン、と武具の射出ペースが一気に低下した。

怪訝に思ったギルガメッシュが見てみれば、武具が何かに引っかかっているかのように動きを阻害されている。

ギチギチと縄を引きちぎるような音を立てながら武具がゆっくり姿を現してくる様を見て、青年は眉を顰める。

その目の前で、アーチャーのマスターが裁定者に掴みかかっていた。

 

「サラッと人ん所の家宝パクらないでくれない!?」

「纏ってる『殻』があなたのなんですから仕方ないでしょう! 文句言うなら宝石魔術以外の腕も磨きやがれください!」

「つ、使えるわよ! その、ガンドとか!」

「アレに効くと思ってんですか悔い改めろ!」

「……というよりも、私としてはサラッとゼルレッチ翁の作品に肉薄する代物を作っているという事実を気にしたいのだが」

 

その脇で、アーチャーが疲れたような声を発する。ちなみに、セイバーのマスターは魔力枯渇でダウンしていた。

盾のおかげでいくらか構成は緩んだが、しかしそれでも楽観はできない。

残業がなくなっただけで、まだ正規の業務は残っているのだ。ここから書類(難題)が追加されないとも限らない。

というか、いい加減あの外道神父を追いかけないと絶対よくないことになる。

 

「ちょっとここは任せます! この盾があれば私がいなくてもある程度は耐えれるはずです!」

「うぇっ!? ちょっとアンタ、何を言って――」

「エミヤ丸、この盾壊れたら適宜投影してくださいね! なんなら増産してくれても一向にかまいません! だって私のじゃないですし!」

「このうえさらに面倒ごとを押し付けてくるか! だが承知した、そこで伸びている青二才よりか私はしぶといぞ! あとその呼び方はやめたまえ!」

 

そして、敏捷A++の底力を遺憾無く発揮。初速からトップスピードをたたき出したスペンタマユは、そのまま龍洞へと駆けていく。

当然、ギルガメッシュはそこに追撃をかけようと試みる。

黄金の波紋の一部が向きを変え、裁定者へ向けて必殺の一撃を叩き込もうとする、その刹那。

 

■ ■ ■

 

「――優しく蹴散らしてあげましょう」

 

■ ■ ■

 

「なにっ!?」

 

ドゴォッ!! という轟音とともに、一条の光が突き抜ける。

それは放たれた武具の一切合切を蹴散らしたかと思うと、その勢いのまま黄金のサーヴァントへと突貫していった。

その正体をいち早く看破したアーチャーが叫ぶ。

 

「ライダー!!」

「チッ!」

 

ギルガメッシュは鋭く舌打ちし、黄金の波紋から武具を無理やり引っ張り出す。

そしてそれを構え、目前へと迫る下手人――幻想種(ペガサス)に騎乗せしライダーへと全力で振り抜いた。

ガキンッ! と甲高い音が響く。

ライダーは咄嗟に鎖付きの短剣を使い、その一撃を受け流したのだ。

そしてその姿はそのまま天へと遠ざかっていき、対照的にルーラーは地を駆け龍洞へと突入していく。

 

「……おのれ」

 

ギリッ、と奥歯をかみしめる音がする。

目を血走らせ、ギルガメッシュは憤懣やるかたなしといった調子で咆哮した。

 

「おのれおのれおのれ!! 汚らわしい魔性の分際で、財を汚すだけに飽き足らず王たる(オレ)に歯向かうか! その不敬、万死に値するッッッ!!」

 

叫び、そして黄金の波紋を全周に発動。

現れたその数は、どう楽観視したとしても四桁には上るだろう。

そしてその全てから千差万別の武具を覗かせながら、バビロニアの英雄王は宣告した。

 

「数が足りんのならば無理やりにでも補えばよかろう! 昏々と屍晒せ、雑種ゥ!!」



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(Golden/Black) Cyanide

水着ですね。
50連してばらきーとジャンヌゥを引きました。欲を言えばヨシツゥネも欲しかったですが、ロビンフッドとヘクトールの星3二大巨塔(?)が頑張ってくれやがったせいで出ませんでした。っつーかロビン、キミ出るガチャ間違えてるぞ。隣だぞ。


「……わーお」

 

龍洞の最奥部。

そこに、超弩級魔術礼装──全ての元凶たる大聖杯が鎮座していた。

しかし、その威容は泥による汚染によって地に堕ち、今はただ使用者に破滅をもたらすだけの盛大な自爆装置と化してしまっている。

 

「……これはまた」

「驚いたかね」

 

その脇から姿を現したのは、やはりというかなんというか、縁起の悪そうな顔立ちの神父──言峰綺礼。

その手に掴まれているのは、聖書でも黒鍵でもなく……うん?

やけに捻くれたあの短剣、何処かで見たような。

 

「いやまあ、大体の予想はついてましたけど……やっぱり直に見ると凄いですね。非ッ常に気持ち悪い」

 

にべもなく吐き捨てる。

そうしている間にも、聖杯の泥はまるで再誕の時を待つかのように不気味に泡立っていた。

極力サーヴァントを脱落させないように立ち回ったおかげで、どうやら完全に動き出すまでには至っていないようだ。

……ここからでも、金ピカ一人脱落してしまえばあっさり顕現可能な程の魔力が手に入るだろうが。

 

「はあー……抑止(アラ)えもんも面倒な仕事を押し付けてくれたもんです。どうせなら大火力でまとめて焼き潰せばいい物を。皆殺しは抑止の十八番(オハコ)でしょうに」

「君も大概酷くないかね?」

「腐っても鯛、クソステでも善神(もどき)ですよ。価値観の類はとっくに相互理解不可能の域まで達してます」

 

取り出した短剣をぶんぶんと振り回しながら、スペンタマユはなんということもなしに告げる。

そう、あまりにも言動が俗っぽすぎて忘れられがちだが、これでも彼女は善神の依り代として『座』に祭り上げられた英雄である。

故に、基本的な価値観がどうしようもなく乖離しているのだ。

 

「ま、上司のサボりのツケはいつも部下に来るものです。とっとと殺して済ませましょう」

「……私がそれをさせるとでも?」

「あー、そこなんですよねー、うん」

 

苦い顔をする裁定者。

そう、この神父、信じ難い事にそのサーヴァントと融合することによって(!?)サーヴァントとタイマン張れるようになったという頭のおかしい経歴の持ち主なのだ。

しかも、融合したのが寄りにもよって自身の対極(アンリマユ)と来た。どうしてこんなにも無駄に運命的なのか。おお異教の神よ、理想を抱いて憤死しろ。

 

「──ま、出来る出来ないではなくやるしかないんです。下請けの辛いところですね」

「ああ、そうだな」

 

そうして、二人は互いの武器を構える。

片や、銀の短剣と無数の宝石。

片や、極限まで鍛え抜いた己が鋼の体。

さあさ、之より始まるはただ一つの死合──白と黒が潰しあう、情け無用の合戦なれば。

いざ、尋常に──

 

「貴方を倒して、私が勝つ」

「貴様を殺して、私が勝つ」

 

──始め。

 

■ ■ ■

 

「はっ!」

 

門が開く。無数の武具が空を割く。

龍洞周辺はもはや地獄すらも生温い惨状を呈していた。

地面にはクレーターの上からさらにクレーターが生成され、大雑把な露天掘りのようになっている。

周囲に生えていた樹木は一本残らず切り倒され、切り刻まれ、もはやその残滓を探す方が難しい有様だ。

 

「思い上がったな!!」

「チッ、全然近寄れねぇ! やっぱ頭おかしいんじゃねえのかアイツ!?」

 

ランサーが叫ぶ。

実際その通りで、撃ち放たれる武具の数はもはや狂気的な域に達していた。

粗製とはいえ元は宝石剣にも匹敵する礼装からの束縛を受けてなおこの密度。もしこれがなかったらどうなっていた事か。

アーチャーが舌打ちする。

 

「くっ、冗談ではない! マスター、そっちはどうだ!?」

「こっちもギリギリよ! ああくそとっとと仕事済ませなさい裁定者ーっ!!」

投影開始(トレース・オン)──!」

 

黄金武具と投影武具と宝石が宙を舞う。

それだけ聞くと優雅に感じるかもしれないが、実情は先にも書いた通り。中東の紛争地帯と比較してもなお酷い、文字通りかすっただけで死人の出る必殺武器の大盤振る舞いだ。並の人間なら秒と持たないだろう。

熾烈な防衛戦を繰り広げている彼らの勝利条件は、『裁定者(スペンタマユ)が大聖杯を処理するまで時間を稼ぐ』あるいは『ギルガメッシュの撃破』。

現在アーチャー、遠坂凛(アーチャーのマスター)衛宮士郎(セイバーのマスター)が前者の達成を狙い、セイバーとランサー、そしてライダーが後者の達成を狙っている。

六対一でようやく拮抗という常識外の強さ。

はっきりいって冗談ではない。

 

「はあっ!」

「下らん」

「そらよっ!」

「──精度を上げておくか」

「はぁぁぁっ!」

「侮るな」

 

貫き、蹴散らし、押し通る。

そうまでしてなお倒せない、黄金の英雄王。

だが、そこで男は眉をひそめた。

龍洞の方に振り向き、怪訝そうな表情をする。

 

「……言峰。しくじったか……? いや違う、これは──」

「戦闘中に他所見たァいい度胸だ!!」

「囀るな、犬」

 

ランサーがすぐさま襲いかかり、ギルガメッシュがそれを弾き飛ばす。

そのまま戦況は動から静へ──だが、それは決して平穏などではない。

張り詰めた糸、あるいは表面張力のギリギリまで器に注がれた水のように危うい静寂だ。

 

──そして。

 

『──、』

 

()()()は、龍洞の奥から姿を現した。




ちなみに
FGOのIDは415-421-112、ユーザー名『(アラ)(マ )宗介(ソウカイ)
オールにおいてあるLv.90金枠スキルマサリエリが目印です


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True or Fake

水着イベ、ストーリー突破。
未クリアな人のためにネタバレは控えますが、まあ……案の定、でしたね。
それにしても同人ポイント100万いけるかな……


「──!」

「ッ!!」

 

ガッキィィィン!! ととてつもない轟音が響く。

スペンタマユの短剣と言峰綺礼の黒鍵が正面からぶつかり合ったのだ。

そのまま互いをはじき飛ばし、距離をとったかと思えば再び交錯する。

その繰り返しだ。

時折、周囲一帯にばらまかれた宝石が炸裂し、洞窟に炸裂痕と亀裂を刻み込む。

一見すると戦況は完全に拮抗しているように見えるが、しかし内心ルーラーは勝利を確信していた。

 

(いくらクソ野郎(アンリマユ)と一体化してるといえど、人間をやめた訳では無いはず。だとすれば、このまま持久戦に持っていけば削り殺せる……!)

 

僅かに口元を綻ばせる裁定者に対して、人間はしかし冷徹な表情のままに黒鍵を振るう。

それに対してスペンタマユは右手の短剣──右手抱擁(アムルタート)を沿わせることでその軌道を逸らし、返す刀で左手抱擁(ハルワタート)による刺突をかます。

しかし神父はそれを体を捻って最小限の動きで回避し、すぐさま反撃に転じていく。

説明すればただそれだけの動き。

しかし互いに残像ができるほどの速度でこなしていれば、それは立派な脅威に値する。

ガガガガガガガガッガガガガッギギギギギィ!! と断続的に連なった金属音が静寂を引き裂く。

ここに来て、言峰が明確なアクションを示した。

鍔迫り合いから互いに互いを弾き飛ばし、無理やりに距離をとる。

そうして取り出したのは、黒鍵とはまた違う一対の歪な短剣──ってまさか!?

 

右歯噛咬(ザリチェ)左歯噛咬(タルウィ)!? オイコラどっから持ち出しやがりましたか代行者ァ!!」

「たまたま懐に入っていたのだがな。これがなかなかどうして使いやすいのだよ」

 

絶対嘘だ。

右歯噛咬(ザリチェ)左歯噛咬(タルウィ)──自身の対極たるアンリマユの扱う短剣。それぞれ、『武器奪取』と『武器破壊』を司っている。この地味ぃな陰湿さはいったい誰に似たのか。持ち主に決まっているだろう。

いくらこちらも無限に武器を生成できるとしても、作るたびに破壊と強奪を繰り返されるのではらちが明かない。

そう判断したスペンタマユは、すぐさま戦法を中距離戦闘へシフトした。

所かまわず宝石をばら撒いていく。

その中に込められたのは単純明快な爆破術式。トリガーは『()()()()()()()()()()()()()()()()()()』。

立て続けに爆音と振動が炸裂する。

男と女は互いにそれを躱しながら、空中で激突する。

 

「ハッ!!」

「甘い」

「せぇあっ!!」

「ふっ」

 

時折至近距離でぶつかり合う。

砕けるのは常に裁定者の短剣だが、無限に生成できる以上あまり関係はない。

だが、どうしても生成というラグは存在する。

互いに互いの武器を狙い、何度も何度も衝突を繰り返す。そしてその度に砕けた銀の欠片が宙を舞い、そして地面に落ちる前に粒子となって融けていく。

そんな、いっそ幻想的にも見える光景が広がっていた。

だが、洞窟からすればたまったものではない。

何せ、宝石が炸裂するたびにそこら中に亀裂が生まれ、そこから壁が崩れていくのだ。

見る見るうちに壁の亀裂が広がり、敷き詰められた回路が損壊していく。

 

(……そろそろやばいかも? さすがに所かまわず爆破はまずかったですかね──)

「何処を見ている」

「おっと」

 

思考が膨大な情報の中に埋もれていく。

しかしそれも一瞬、次の刹那には裁定者は神父と激突していた。

宝石と銀の雨が降り注ぐ。宝石の巻き起こす小爆発が、大地を揺らしていく。

龍洞の外は目も当てられない大惨事となっているが、こちらもそれに負けず劣らず大惨事だった。むしろ崩落の危険がある屋内という都合上、こちらのほうが潜在的な危険度は飛びぬけている。

そして、ついにその瞬間がやってきた。

天井から岩盤が剥離し、バラバラと瓦礫となって降り注ぐ。

そして、二人の眼前で、その瓦礫が投げ放たれた宝石と衝突する──

 

「「──ッ!!!???」」

 

閃光、衝撃、轟音。

二人の体が一瞬で吹き飛び、洞窟の壁面へと叩きつけられた。

その威力たるやすさまじく、叩きつけられた勢いで壁面にクモの巣状の亀裂が生じるほど。そこから剥がれ落ちるように瓦礫が降り注ぎ、縁起の悪そうな男と真っ白な少女はあっという間に岩に埋もれて視認できなくなった。

やがて。

バカン! と岩が砕かれ、そのうちの片方、純白の裁定者がその姿をのぞかせる。

多少土埃で煤けているところはあったが、しかし彼女は健在だった。

 

「はぁ──サーヴァントでなければ即死でした。……で、アイツは仕留めましたかね? 『やったか!?』なんて言いませんよ私は」

『やったか!?』

「だから言わねえっつってんでしょうが! ……ん?」

 

叫び、そして首をかしげる。

おかしい。あの神父をノックアウトした以上、今この場にはスペンタマユしか存在しないはず。

ならば、今の声の出どころはどこだ?

 

「……まさか」

 

少しの黙考。

そして、恐る恐る振り返る。

そこに鎮座するのは、辺り一帯をメタメタに崩されてもなお暗い輝きを放ち続ける霊脈の集結地点にして終結地点──大聖杯。

そして。

 

「いよぉ! 最弱英霊アヴェンジャー、お呼びでなくともともかく惨状! おっと違った大参上!」

「出やがりましたね……クソ野郎!」

 

白と黒。

亡失された史実、その対極同士が対面する。



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I'm Black , Then I'm White.

「にっひっひ」

 

意地の悪そうな笑い声とともに、大聖杯から1人の少年がずるりと体を引っ張り出す。

その姿は、暗闇で形作られたかのように真っ黒だった。

それはその筈、彼は周りからの『願い』によって極限まで歪められている。分かりやすく言えば、体は諸悪で出来ていて、血潮は我欲で心は悪辣なのだ。

そんな男──『この世全ての悪(アンリマユ)』は、人を食ったような笑み(?)を浮かべてこう言った。

 

「アインツベルンっつったか? 馬鹿だよなー、反則するにしてもどーしてオレみたいなクソザコナメクジ呼んじゃったのよ。せめてルーラーでしょうが。あとはそう……フォーリナーとか、アルターエゴとか?」

「ルーラーはまだしも後ろ二つはまだ存在してない。最低限セイントグラフが周知されるまで待たないと駄目でしょ」

「あっそう」

 

()()が過去に存在しているフォーリナーはまだしも、アルターエゴは正真正銘未来産の英霊(?)。召喚するのに並々ならぬ苦労が必要なのは考えるまでもない。え? チェイテ城の守護神? あれはイレギュラー中のイレギュラーだし……。

ともあれ、あの当時において選択肢がルーラーかアヴェンジャーしかなかったのは事実。そしてその二択の中でも、アインツベルンは最大最悪の外れくじを引いて見せた。

はあ、と裁定者がため息をつく。

 

「それにしても。貴方は随分変わりましたね。生前はもうちょっと明るかったでしょ。あとそんなのっぺりしてた顔じゃありませんでした」

「明暗法も遠近法も無視して全身一律真っ黒なんだし、平らに見えんのはしゃーない。あと明るいってのもそっち系で言ってるだろ」

「そりゃもちろん」

「……テメェは全然変わってねぇな」

「判断材料そこですか!?」

 

愕然とするスペンタマユ。

まさかこんな犬も食わない問答で己が変化を測られようとは。屈辱の極みだった。

それに対して、復讐者はケタケタと笑う。

そして、自身が漬かっていた聖杯の泥を手で掬いながら、彼女にこう問うた。

 

「なあ白」

「なんですか黒」

「ところでコイツを見てくれ。これ、どう思う?」

 

そう言って、彼は泥を辺りに振り撒く。

するとあら不思議。地面に飛び散った泥から真っ黒な『影』が姿を現したではないか。

唐突にかましてくれやがったアンリマユに限界まで表情を歪めながら、少女はこう返した。

 

「すごく……シャドウサーヴァントです……」

 

シャドウサーヴァント。

サーヴァントのなり損ない、あるいは残留思念のようなもの。要するに、英雄の姿を模した幽霊であると考えればだいたい合ってる。

それが、聖杯の泥がばら撒かれるのに呼応して、文字通り湯水のように現れているのだ。当然、裁定者たるスペンタマユからしてみればたまったものではない。

 

「だろ?」

「『だろ?』じゃないわよ何してくれてんの!?」

「いやー、こっちのほうが楽しいし」

「そうよね()()以降アンタがそういう破滅的な趣味嗜好になったのってそういう事よね! ぶっ飛ばす!!」

「ハッハーッ! やれるもんならやってみやがれ! ここが正規の最弱決定戦だ!」

 

笑う復讐者、叫ぶ裁定者。裁定者のほうに至っては怒りのあまり『殻』本来の性格が出てしまっている。

そして。

 

「──疾ッ!!」

偽善(フォーレン)/神前(ステア)! この場でくたばれこん畜生!!」

 

無数のシャドウサーヴァントが洞窟の外へ向けて進軍していく中で。

相反する二色が、世界の命運とついでにブービーという名の崖っぷちを懸けて激突する。

 

■ ■ ■

 

『■■■■!!』

 

影の一人が叫び、天高く剣を掲げる。

それに合わせて、その場にいた無数の影兵が進撃を開始した。

兵の個性は多種多様。二槍の遊撃兵、群集劇の暗殺者、黒い靄を纏う狂気の黒騎士──数えればキリがない。

そしてそれらが一斉に、冬木市へと向けて侵攻を始めたのだ。当然、抑止の守護者たるアーチャーとて黙ってはいられない。

だが、対応しようとした彼に迫る無数の武具。

言わずもがな、ギルガメッシュの仕業である。

 

「ギルガメッシュ、貴様何のつもりだ!?」

 

叫ぶアーチャー。

それに対して、ギルガメッシュは欠片の動揺もなくこう言い切った。

 

「『何のつもりだ』だと? ──決まっている。これは王たる(オレ)が定めた人類への試練であり、さらに()()()であるからだ」

 

その言葉に、アーチャーが視線を鋭くする。

だが、それすらも意に介することなく彼は続けた。孤高なる己が視点から十年という月日をかけて眺めてきた、現代の人々の評価を。

 

「先の大災害。まあ、アレには(オレ)も関わっているからな、言い逃れはせん。だが、なんだあの体たらくは。あの程度で死ぬなどヒトの風上にも置けん」

 

それはお前の所がおかしいと、その場にいた誰もが思った。

それがただの火災であったなら、確かにまだその余地はあっただろう。だが、それが必要悪としての怨嗟が積もりに積もった、炎の皮を被った闇属性のナニカであれば話は別だ。

科学の黎明期と呼んで差支えの無い現代に、そんな狂気じみたものに耐えられるものなどそれこそ雀の涙ほどしかいないだろう。

だが、その眼鏡に合致しなかった脆弱なる人類へと向けて。

彼は、無慈悲に宣告した。

 

「死に絶えるのならそれでよい──自らの罪で消え去るのなら、生きる価値などありはすまい。(オレ)が欲しいものは雑種ではない。地獄の中ですら生き延びられるモノにこそ、支配される価値がある。──その点で言えば前回のは落第だったな。あの程度の火で死に絶えるなど、今の人間は弱すぎる」

 

──故に。(オレ)という法の下に裁きを受けよ。



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Monochrome Vivid

『■■■■■──Aaaaaaaaaaaaaaaa!!!』

 

影兵の一人、真っ黒な姿の上からさらに黒い靄を纏った騎士が絶叫する。

そして、たまたま近くに落ちていた剣型の不発弾──セイバーのマスターの作品。アーチャーの『壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)』を真似しようとしたはいいが、肝心の起爆プロセスが分からなかった──を引っ掴み、真っ先にセイバーの元へと突撃していく。

 

「なっ、くぅっ!?」

『AaaaaarrrrrthurrrRRRRRRRRR!!!!』

 

不可視の剣でその突撃を防ぐ。

だが、狂騎士はそこで止まることなく、そのまま鬼のような連撃を繰り出し始めた。

その全てを的確に防ぎながら、セイバーは叫ぶ。

 

「そうまで──そうまでして私に罰されたいと望むか、()()()()()()!!」

『Ooooooooooo!!』

 

絶叫、咆哮。

宝具『騎士は徒手にて死せず(ナイトオブオーナー)』によって簒奪された贋作が、星の聖剣の担い手を追い詰めていく。

その様子を、ギルガメッシュは嘲笑と共に眺めていた。

 

「くっ、ハハハハハッ! 理性は愚か自我すらも失ってなお罰を求めるか! 滑稽よなぁ、狂犬!!」

「何を……っ!?」

「其奴等はサーヴァントのなり損ないよ。さしずめ『影』か。それが、純然たる狂気のみで目的を保持しているというのだから笑いものだ! さてセイバー、そこな狂犬はどれほど貴様に焦がれていたのだろうな!?」

『AaaaaaaAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!』

「くっ……ランス、ロットォォおおおおおッ!!」

 

そして、騎士王と黒騎士から少し離れた場所。

そこでは、抑止の守護者と二槍流の青年が対峙していた。

守護者──アーチャーの表情は優れない。

 

「くっ……」

『■■──「■■■■■■(■■・■■■■)」!』

 

というのも、青年が二槍の片方──紅い槍を振るう度に、アーチャーが投影した武器がまとめてかき消されているのだ。いくら投影出来るといっても限度がある。

そして、アーチャー自身も相対している相手には早々に予想がついていた。

というか、槍の銘さえ分かってしまえば、そこに辿り着くのは極めて容易い。

 

(紅槍ゲイ・ジャルグ──『輝く貌のディルムッド』か)

 

ディルムッド。

ケルト神話におけるフィオナ騎士団に所属していた戦士であり──この手の美形の例に漏れず、色恋沙汰のゴタゴタによって落命した不遇の人物だ。

しかし、その類稀なる強さには目を見張るものがある。

彼に知る由はなかったが、ディルムッドは第四次聖杯戦争の際にランサーとして召喚され、生前と同じく主君と一人の女をめぐって対立(※なお、本人にはそんなつもりは全くない。すべては()われた黒子のせい)し、最終的に令呪によって全てを呪いながらその命を散らした。端正だったであろうその顔立ちが尽きせぬ憎悪に歪んでいるのはそれ故か。

 

『■■■■■■■■■■■■!!!』

「伊達に英霊の影をやってはいないか……なかなかどうして手癖の悪い」

 

ただでさえ、アーチャーには剣術の才がない。槍術も棒術も柔術も、一般人より少し上程度の才しか有していない。

故に接近戦での勝利は早々に諦めた。しかし、そう易々と距離を取らせるほど目の前の槍兵も甘くはない。

よって、アーチャーが狙うのは時間稼ぎ。

裁定者までもが動いているのだ、時間さえ確保できればあとは勝手に決着がつく。

問題は──

 

「フハハハハハッ!!」

 

あそこで高笑いしている金ぴかがどう動くか、それに尽きる。

先ほどから周囲へ向けて断続的に武具をばら撒いているようだが、その矛先がこちらに向かないことを願うばかりだ。

断続的に剣矢を放ちながら、アーチャーはなおもシャドウサーヴァントを吐き出し続ける龍洞の入り口に視線を向ける。

 

(頼んだぞ、ルーラー……! 表記上のステータスがサーヴァントの決定的な差ではないということを教えてやれ!)

 

──やかましい、という声が聞こえた気がした。

ついでに言えば、ルーラーとアヴェンジャーのステータスはほぼ互角である。

 

■ ■ ■

 

「はぁっ!」

「しゃオラァッ!!」

 

ガキン! ガィン! と剣戟の音が響く。

白と黒の光が宙を舞い、互いに互いを殲滅せんと衝突を繰り返す。

果たしてそれは何度目の激突か。

やがて、穢れて歪んだ大聖杯を起点として、龍洞の内部でとある異変が起こり始めた。

ぐにい、と。まるで粘土細工のように洞窟の壁面が修復されていく。

そこから姿を現したのは、アンリマユと同じく()()()()の姿を模した、出来損ないのさらに出来損ない──誰が呼んだか『無限の残骸(アンリミテッド・レイズ/デッド)』。

その役割は『聖杯戦争を()()()こと』。だが、それを望む主君はすでに無く──また、それを望む従者も既に亡い。

故に、その権限は彼ら彼女らには遠く及ばず。

結果として、龍洞の中の時間軸だけが捻じれて歪んで破断して──さながらメビウスの輪のように、終わりのない闘争を続けさせる。

そして。無限の剣戟の中、必要悪はポツリと口を開いた。

 

「──テメェにゃあ関係のない話だろうがよ。こんなのがあったんだ」

「……何の話ですか?」

「女の話だ。テメェと違って、捨てられたものを置いていかなかった女の、な」

 

言いながらも、その手は緩まない。

短剣がぶつかり、交差し、砕け散り──それぞれ黒と銀の破片を撒き散らしながら、その言葉はなおも紡がれる。

 

「なあ裁定者。お前、この聖杯戦争が()()()か、分かるか?」

「何日目といわれましてもねえ……相当に事がハイペースに進んでますし、()()()()()()()()()()?」

 

その言葉を聞いて。

云われ無き復讐者は、わずかにその口元を綻ばせた。

 

「……ま、俺にもテメェにも関りはない話なんだがな。救われたモンは確かにあったってこった」

「……???」

 

それだけ言って。

彼は『それ』を持ち出した。

彼にしかわからない、終わりの続きを終わらせるために。

 

「──さぁて、派手にやられますかねえ!!」




あれ、どっちが主役だ?


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Verg Avesta

大変長らくお待たせしました。
現実的なゴタゴタと某ゲームに熱中していたのもあってだいぶ遅くなりました。
では。


瞬間。彼の体を黒い靄が包み込み、その姿が俄に視認できなくなる。

それでも。

スペンタマユは、彼が浮かべている表情をありありと想像できた。

 

「行くぜ、裁定者」

「来なさい、復讐者」

 

靄が収束する。

形作られるは漆黒の獣――原初の呪いの体現、『報復』という万物に許された絶対的な権利の象徴。

 

「──オォォォオオオオオオオオオオッッッ!!!』

 

咆哮。

そしてその瞬間、アンリマユとスペンタマユの間でラインのような物が接続された。

ともすれば対魔力に気を配るだけで途切れてしまいそうな些細な繋がり。だが、それはこの状況においてはこの上なく悪辣で陰湿なものとなり得る。

 

「……まあ、『報復』って言っても何もしなければ意味無いんですけどね」

『テメェふざけんな! どれだけ苦労してNP貯めたと思ってやがる!』

「そりゃ違う世界(Grand Order)の話でしょうが!」

 

吠える裁定者。さすがに今の発言は許容の範囲外だった。メタ発現ダメ絶対。

しかし、ここでの『動かない』という選択肢は残念ながら悪手である。

何故ならば――

 

『■■■■──!』

「げえっ、シャドウサーヴァント!?」

 

そう。

二人の世界に没入しすぎたせいですっかり忘れ去られているが、今まさに現在進行形でシャドウサーヴァントは絶賛増産中なのだ。おかげで大聖杯周辺は隙間なく真っ黒になっていた。

さて、何故彼らは出口から出ていかないのか。

その答えはアンリマユが知っていた。

 

『なあ知ってるか──今、俺の分体のせいでここと外は断絶状態にある。さながら配水管の詰まった洗面器だな。そんな場所でよ、際限なしにザブザブ水流したらどうなるよ?』

「……道理でこんなインドも真っ青の人口密度になってるわけです。じゃあその貴方の分体とやらを刻めば解決ですね?」

『残念、そいつら倒してもダメージはフィードバックされるぜ』

「『…………、』」

 

「『一大事じゃん!!』」

 

ようやく気づいた。

全時空から孤立した洞窟が、サーヴァントのなり損ないによって埋め尽くされていく。

このままでは、サーヴァントという物理的な形に変換された魔力によって洞窟が吹き飛ぶ危険性がある。

言わば、水蒸気爆発ならぬ『魔力爆発』だ──Aランクの魔力放出を軽く上回る魔力が、時空の壁を突き破る程の出力でもって全方位に撒き散らされるのだ。さて、どれほどの被害が出てしまうのか。

ちなみにだが、この時とある万華鏡の翁は二桁単位でルートが潰れることを覚悟していた。

神明裁決は効果なし、実力でも頭数でも完全敗北。

さて、ここからどうすべきか。

 

「ええいこうなったらだれかれ構わず爆撃してやっ──あいたぁ!?」

 

不用意に残骸を殴ったせいで、痛覚のフィードバックが飛んできた。頭を抑えてのたうち回る裁定者。それでも周りのシャドウサーヴァントを蹴っ飛ばしながら暴れているあたり、器用というかなんというか。

対する復讐者は宝具を発動しながらこれ見よがしに仁王立ちしているが、見向きもされていない。

 

『すっげー傷つく。オレ泣いていいかな?』

「そんな暇があったらとっとと自害しなさい殺しますよ」

『オレの対極が辛辣過ぎる件』

「やかましい」

 

シャドウサーヴァントに殴る蹴るなどの狼藉を働きながらスペンタマユが冷めた表情で言う。まあ、原因が他ならぬアンリマユなため残当だが。

さて、問題は溢れんばかりにその存在を主張するシャドウサーヴァントの群れ。

一体どうしてくれようか。

 

「……まとめて爆破しよっかな」

『おいやめろ馬鹿、さっき自爆したばっかだろうが』

「倒れる時は前のめりでしょう?」

『話を聞け』

 

ボソリと危険なことを呟く裁定者を必死に制止する復讐者。普通は逆の事が起こるはずなのだが……。

しかしここで、スペンタマユがポンと手を叩いた。嫌な予感しかしない。

 

「蠱毒です。倒せないなら同士討ちさせましょう」

『思ったよりまともな意見だった』

 

すちゃ、と懐から取り出した短刀を構える。

さて、非力なサーヴァントの非力な武装でどこまで削れるか。

半分は削れるといいな、と思いつつ──

 

「──はっ!!」

 

──単身、無限にひしめくシャドウサーヴァントへと踊りかかっていった。

 

■ ■ ■

 

「……ぬ?」

 

怪訝そうな声を発しながら、英雄王は眉をひそめた。

そして、シャドウサーヴァントの供給をぷっつり途絶えさせた龍洞の方を見据える。

ギルガメッシュ本人は攻撃の手を緩めていないが、しかしシャドウサーヴァントの絶対数が減少したことにより、僅かに攻勢が緩んでいた。その事実に、僅かながらに不快感を覚える。

そんな彼の背後をとるように、純白の空飛ぶ馬が鋭角の軌道を描いて突撃した。

 

「『騎英の手綱(ベルレフォーン)』……!」

「チィッ!」

 

ライダーの一撃を躱し、莫大な量の武具砲撃でもって返礼する。

そんな事をしている間にも、シャドウサーヴァントは刻一刻とその数を減らしていた。

そして。

混沌としたチェス盤に、場を動かすピースをもう二つ。

 

「──全く、裁定者権限なんて随分な事してくれるじゃないの。こんな夜中に出かけるなんて、後であの人たちになんて言われるか。後でたんまり文句をいわせてもらいましょう」

「まあそう言うな。私としては山門以外の景色も見れて満足しているのだ──であれば、その礼をせずにはいられまい」

「は? 何それ初耳なのだけれど」

「聞いていなかったか? 娘っ子が片手間で私の依り代をすげ替えていたのだが」

「道理で平然と着いてきてる訳よ! 自然体にも程があるのではなくて!?」

 

ざり、と地面を踏みしめる音がする。

そうして姿を現したのは、同じく裁定者の令呪によって呼ばれたキャスターとアサシンだった。

キャスターを守るように前に立ちながら、アサシン──佐々木小次郎は抜き身の刀を構える。

 

「して、私は何をすれば良いのだ?」

「見てわかるでしょう? あの子が大本を断つまでの時間稼ぎ」




久しぶりに上げておいてなんですが
いよいよごっちゃになってきた


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Unlimited Raise/Dead

「──30体目ぇっ!」

 

ズバンッ! とシャドウサーヴァントの胸腔が吹き飛ぶ。そしてその中から飛び出してきたのは、すっかり薄汚れてしまった白装束を纏う裁定者。

 

「ぺっぺっ! 塵が口に入った!」

 

わずかに咳き込みながらもその速度は衰えず、迫りくるシャドウサーヴァントのことごとくを踏み台にしながら駆け抜けていく。

スペンタマユによって殺されたシャドウサーヴァントはことごとくが正規の消滅プロセス──光の粒子となって消滅──をたどらず、その場で黒い塵となって消滅する。

それは違う世界線では『虚栄の塵』と呼ばれて大変重宝されているが、そんなこと今の彼女が知ったことではない。いくら霊基再臨しようが、相手に勝てなければ意味がないのだ。

裁定者は叫ぶ。

 

「数が多い! っていうか倒した先から補充されてませんかこれ!?」

『だろうなー』

 

そう。倒しても倒しても、リスポーン地点が目前なのだ。程度はどうあれ補充速度>討伐速度という図式が成立してしまっている以上、数が減るわけがない。

着々と人口密度が上昇していく中で、純白の閃光が黒い大波を引き裂いていく。

その光景を眺めながら、復讐者はポツリ。

 

『……「洞窟で 無謀に猛る モヤシども」。最弱英霊アヴェンジャー、心の一句』

「詠んどる場合かーッ!!」

『イテッ!? テメェ、オレを踏み台にしやがったな!? (いたかどうかも覚えてない)親父にだって踏まれたことねえんだぞ!?』

「それよりひどいこと散々されてきたでしょうが!」

『そういやそうだった』

 

すれ違いざまにガッツリと後頭部を踏みつけられる。

そしてそのままの勢いで、スペンタマユは両手に持った短剣をシャドウサーヴァントの後頭部にぶっ刺した。

杯や瓢箪などの絢爛豪華な装いをしていたそのサーヴァントはたちまち霊基を維持できなくなり、塵へと姿を変えていく。

それと同時に、

 

『……あっ、効果切れた」

 

ポン、と気の抜ける音とともに、アンリマユの姿が元に戻る。一度発動した以上は誰かが攻撃しなければ効果は解けないはずだが、どこぞの馬鹿が無限の残骸に攻撃を仕掛けたようだ。

さて、これでアンリマユも晴れて自由の身(?)デバフの待機状態(スタン)も解け、自由に動ける状態だ。

となれば、やる事は一つ。

 

「よっしゃあ加勢してやるぜ裁定者!」

「結構です!」

「えー」

 

援護を申し出たが、速攻で拒否された。

アンリマユは仕方なく、シャドウサーヴァントの股をくぐるようにしてするすると通り抜け、一匹ずつ自らの残骸を仕留めていく。

 

「お前もツイてないよなぁ。大方目当てはあそこの聖杯の泥と魔力使って『産まれる』ことだったんだろ? 見てみろ、あそこのマッシロムスメのせいでテメェの目当てが全部おじゃんだぜ、なあ?」

 

霊核めがけて短剣──『右歯噛咬(ザリチェ)』と『左歯噛咬(タルウィ)』をグサグサと突き刺しながら、復讐者は自らの破片へと話しかける。といっても、相手は胸と頭の霊核を貫かれてとっくにお陀仏しているが。

そして今もしぶとく足搔き続けている自身の対極の姿を眺めて、

 

「オレと違ってアイツは生きる方向に特化してるからな。ま、そう面倒なことにゃなんねえだろうさ」

 

それだけ言って、彼は底なしの悪意で出来た漆黒の大海へと飛び込んでいった。

 

■ ■ ■

 

バーサーカーとルーラー、そして元凶たるアヴェンジャーを除き、現存する全てのサーヴァントが龍洞前に集結した。

対するは人類最古の王ギルガメッシュ、並びに数は減ったが未だ大軍と形容していい物量を維持しているシャドウサーヴァント。

勝利条件は二つ──『敵の殲滅』か、『作戦時間までの生存』か。

前者は極めて至難の業だ。というのも、相手はあのギルガメッシュ──宝具を利用した暴力的なまでの弾幕によって、近づく者すべてをハチの巣にする、頭のおかしい移動砲台だ。

それに引っ張られる形で、後者の達成難度も跳ね上がっている。本人の目的地が戦場に位置しているため、逃げられるようなことがないのは不幸中の幸いか。

 

「……おのれ」

 

ギリッ、と奥歯を噛み締める硬質な音が響く。

空中に鎮座し、その光輝を余すことなく振り撒きながら──しかし、人類最古の王は確かに怒りを表していた。

 

「おのれおのれおのれッ! 王たる(オレ)にこうも刃向かうか、雑種共が!! その不敬、貴様らの死をもって贖わせてくれる……!」

「英雄王ともあろう者が知らないのか? 暴君には革命が付き物だだとな」

「然り。生憎山篭りの身ゆえ、私には政略はとんと分からぬが──それだけ上に座しているのだ、下克上されるなど当然、予測できて然るべきであろうよ」

 

その叫びに対してアーチャーが皮肉り、それにアサシンが首肯する。

そうしている合間にも、シャドウサーヴァントは着々と姿を消していた。

一刀のもとに斬り伏せられ、飛来した矢に射抜かれ、神代の魔術でもって焼き尽くされる。

 

「チィッ!!」

 

舌打ちとともに、大量の武具財宝が撃ち出される。しかし、そのことごとくが中空で撃ち落とされていった。

それに気を取られ、一瞬のスキが生じる。

そこ目がけて、ライダーの宝具たるペガサスとアーチャーの矢、そしてランサーの槍が放たれる。

さらに。

 

「■■■■■■■■■────!!!」

「何っ……!?」

 

突然、ギルガメッシュの周囲がわずかに暗くなった。

自らの直感に従ってその場から飛び退くと、一瞬遅れて先ほどまで彼が立っていた場所を黒い塊が通り過ぎていく。

()()は空中で体を捻り、シャドウサーヴァントを数体踏みつぶしながらも見事に着地して見せた。

その姿に、誰もが瞠目する。

筋骨隆々の巨体に赤熱したかのように幾重もの赤い線を走らせ、その右手に持つは見慣れた無骨な石斧ではなく円状に刃を走らせた黄金の大斧。

誰であろう、その正体は。

 

「貴様……この期に及んで未だ(オレ)に刃向かうか、()()()()()()!!」

「■■■■……■■■■■■■■!!」

 

ギリシャ神話において数々の武勇をなした、一人の男。

バーサーカー──『不沈の英雄』ヘラクレスであった。



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Ignite , The beginning of the end

さて、その異変が起こったのはどの辺りからだったか。

 

「……んう?」

 

すうっ、と。

まるで波が引いていくように、シャドウサーヴァントがその姿を消していっているのだ。

気が付けば、残る数はわずかに十数体。はてさてこれは一体どういうことなのか?

不審に思い、大元の原因たる大聖杯を見てみれば。

 

「……あらー……」

 

ゴポゴポと不穏な音を立てて、()()が露骨に泡立っていた。

それはまるで、得体のしれないナニカを産み落とそうとしているかのように。

呆然と立ち尽くすスペンタマユの隣で、いつの間にやら自分の仕事を済ませていたアンリマユが嗤う。

 

「よう裁定者。知らず知らずのうちに爆弾の起爆に一役買ってた気分はどうだい?」

「考え得る限り最ッ悪ですね。何を企んでんのかと思いましたが、こういう事ですかよくわかりましたさあ死ね」

「おいやめろ馬鹿オレを狙うな! 言っとくけどオレはどちらかと言えばストッパー側だかんな!」

「は?」

 

短剣を振りかざす少女に、少年が弁解する。

曰く、

 

・お察しの通り聖杯の中身は『この世全ての悪』

・その目的は魔力を糧に受肉して再誕すること

・ただし悪にも色々あって一枚岩とは限らない

・そのうちの一つが聖杯の中に身投げして復活の時を狙っていた

・それで、シャドウサーヴァントの量産はその一角

・サーヴァント一騎分にも満たない申し訳程度の量の魔力を大量に食らうことで受肉を目論んでいる

・よってオレは悪くない。オーケイ?

 

とのこと。

ひとしきりその話を聞いたスペンタマユはどうやってしまっていたのかも不明なこぶし大の宝石を懐から取り出し、

 

有罪(ギルティ)

「おいやめろ馬鹿自爆する気かテメェ!? 知ってるからな、それ魔力も質量もお前が持てるギリギリのレベルまで圧縮されてんだろ!?」

「起爆すればここら一帯消し飛びますね。もう一周回ってそれもアリかもって気がしてなりませんが」

「根本的解決になってねえだろバーカ!!」

 

そんな喜劇をしている合間にも、状況は進んでいく。

ズアッ! と聖杯の中からどす黒い腕のようなものが飛び出したかと思えば、辺りにあるものをのべつ幕なしに食らい始めたのだ。

はじかれるようにその奔流から逃げ出しながら、彼らは言葉を交わし続ける。

 

「あーらら。そうまでして魔力が欲しいかね」

「生まれるために必要だからでしょう、っと!」

 

迫りくる腕の一本を切り落とす。

その途端に金属音のような悲鳴を上げながら、大量の腕が進路を転換し、白い少女目がけて殺到した。どうやら攻撃してきた奴から潰していくように術式が組まれているようだ。

 

「数が多いなあ……イソギンチャクでも目指してるんですかね?」

「あくまで人から生まれたモンだ、ベースは人型だろうさ。ま、変な因子が混ざってりゃその限りじゃねえけどな」

「そうですか──ハッ!!」

 

持ち前の敏捷性を最大限に生かして迫りくる触腕のことごとくを斬り落としながらも、裁定者の表情は優れない。

というのも、復讐者が無限の残骸を破壊し尽くしたことで時空のねじれが解けたのか、外に出ていたシャドウサーヴァントが一斉に中に入り込み始めたのだ。

あるいは聖女の死とともに狂った大元帥が。あるいは云われなき風聞に今なお苦しむ護国の鬼将が。あるいはある男への憎悪に猛り狂う美麗なる女戦士が。あるいは月に魅せられたまあ偉大な皇帝が。

歪んだ大聖杯へ向けてなおも進軍を続けていく。

 

「チィッ、アンリ!」

「なんだマユ!」

「愛称で呼ぶな虫唾が走る! その辺のシャドウサーヴァントを片付けといてください!」

「横暴だなテメェ!」

「口より先に手を動かす!」

「いってぇ!!」

 

ガツン、と少年の後頭部にこぶし大の宝石が直撃する。もちろん、その正体は先ほど少女が創ったニュークリアジュエルだ。

幸い衝撃には強いようで、ショックで起爆するようなことは無かった。

しかし忘れるな。アレは裁定者が有り余る魔力を使って生み出したド級の爆弾にして極上の魔力源である。

 

「あっ!? しまった!」

 

無数に伸びる触腕の一つが、その宝石塊を掠め取る。それに気付いた時にはもう遅く──それが大聖杯の中へと放り込まれた、その瞬間。

スドォッ!! という轟音と共に、大聖杯の中身があふれ出した。

それは周囲を汚染しながら無秩序に流れ出るかと思いきや、直後に統率の取れた動きを見せる。

──最初に生まれたのは、一対の巨大な『腕』だった。

それらは龍洞の天井に巨大な手のひらを押し付けると、

 

【──────!!!!!!】

 

轟音、咆哮。耳をつんざくほどの音とともに、龍洞が崩落する。

そうして姿を現したのは──全身をドロドロに蕩かしてなお倒れることの無い、黒き巨人だった。

崩落する瓦礫を足場に駆け上りながら、かつてその名を冠していた必要悪は告げる。かつてその対極に座していた良心の残滓が叫ぶ。

大手を振って世界が誇る、人類史における負の象徴──その真名を。

 

「は、ははは……現界()やがった! 本当に復活しやがりましたよこの野郎!!」

「ヤッベェなこりゃ……さあテメェら気張りやがれ、悪神(アンリマユ)サマの復活だ!!」

 

■ ■ ■

 

「■■■■■■■■■■■■■■■!!!!」

 

咆哮とともに暴走を続けるヘラクレス。

先の激突の際に粗方の武具に対する耐性は得たのか、それとも一緒くたに『刺殺』というカテゴリに押し込めることで対応しているのか──理由は不明だが、ギルガメッシュの攻撃でも特に傷を負っている様子はなかった。

そして、その様子を呆然と眺めるマスターたちの元へ近寄る影が一つ。

 

「ふう。なんとか間に合ったみたいね」

「あ、アンタ……」

 

相も変わらず魔力枯渇でひっくり返っていたセイバーのマスター──衛宮士郎に甲斐甲斐しく世話を焼く白い少女。

そう、彼女こそがバーサーカーのマスターにして聖杯を作った三大元凶の一角・アインツベルンからやってきた刺客、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンである。

 

「アインツベルン……」

「ええ。私がそうよ」

「……なんで今更来たのよ」

「それは……バーサーカーのせいね」

 

ほら、と少女の指が今も暴れ狂う大英雄を示す。そういえば以前とは姿かたちが微妙に異なっているが、今度は一体何をしでかしたのだろうか。

 

「ちょっと英霊としての格を上げるのに手こずったのよ」

「ただでさえ半神半人の大英雄をこの上格上げとか何考えてんの!? 魔力切れたらコイツみたいに倒れるだけじゃすまないわよ!?」

「ええ。当然分かってるわ。そのくらい、対策して当然でしょう?」

「……具体的には?」

 

アーチャーのマスター──遠坂凛が問う。

それに対してイリヤスフィールは事も無げに、

 

「魔力源は全部ルーラーに肩代わりしてもらってるの」

「結局人任せか!」

「それはそっちもでしょう?」

 

なにおう! と憤慨する凛。

しかしマスターがノックアウトされているはずのセイバーの魔力供給も含めて人任せにしているのはこちらも同じなため、それ以上は何も言い返せなかった。

だがその時、異変が起こる。

 

「……ふむ、地震か?」

 

僅かにだが、大地が揺れている。

それに気付いたアーチャーが弓をつがえながら眉をひそめるが、その他のリアクションは絶大だった。

ギルガメッシュはあれだけ好き放題にバラ撒いていた宝具の数々を一斉に回収し、手元にある一本だけに留めてしまう。

アサシンはそのスキをついてアーチャー達の元まで後退し、そこへキャスターが素早く結界を張った。

セイバーとランサーは追撃に入る直前の体勢で動きを止め、不審そうに龍洞の()を見据える。

 

そして。

 

【──────!!!!!!】

 

凄まじい轟音と共に、あろう事か()()()()()()吹き飛んだ。

その奥から顔を覗かせているのは、その体をドロドロに融かした不気味な巨人。

呆然とする彼ら彼女らに、鋭い警告が飛ぶ。

いや、それは警告ではなく──諦念と、嘲笑だった。

 

「は、ははは……現界()やがった! 本当に復活しやがりましたよこの野郎!!」

「ヤッベェなこりゃ……さあテメェら気張りやがれ、悪神(アンリマユ)サマの復活だ!!」



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Anti Holic Utopia

えー、申し開きもございません。
史上稀に見る大爆死でモチベーションが遥か万里の彼方まですっ飛んで行ったのと、別のソシャゲにハマってそっち原作の小説書いてたりで超絶遅れました、はい。シンプルにごめんなさい。

では。


【■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!】

 

咆哮。

周囲一体に山だった物の残骸を撒き散らしながら、『それ』は姿を露わにする。

その姿は正しく黒い巨人──際限なき悪意で満ちたヒトの悪性の極致。

スペンタマユは山の残骸を弾き飛ばしながら、先程まで激戦を繰り広げていたセイバー達のすぐ近くに着地する。

 

「ああもう冗談じゃない! いったい誰なんですかねアンリマユ(あんなヤツ)なんて召喚した馬鹿は!? しかもなんかめっちゃ成長してますし! なんなんですかなんなんですかなんなんですか!?」

「……それに関しては何も言えないわね」

 

召喚した馬鹿の本拠地(アインツベルン)からきた少女が視線を明後日の方向へ逸らす。実際自分たちの先達(?)がやらかした大ポカなので、何も言えなかった。

そのすぐ横では、アンリマユが衛宮士郎と対面していた。

 

「いよっす()()()! 元気してた?」

「えっ、俺……?」

「ああ、分からないならそれで別に良いぜ。名前なんて記号だし、俺はそれが塗り潰されてるだけだからな。っつー訳で最弱英霊アヴェンジャー、真名『アンリマユ』! 呼ばれてなくともとにかく参上ってな!」

「お前は帰れ必要悪!」

「イッテェ!?」

 

ガツン、と復讐者の後頭部にこぶし大の宝石が直撃する。当然のように裁定者がぶん投げたものだ。

アンリマユはその場でたたらを踏み、頭を押さえながらスペンタマユに抗議する。が、彼女はそれを完全にスルー。そして、聖杯戦争の参加者たる七騎のサーヴァントに告げた。

 

「ええと、こうなっては致し方ありません。聖杯戦争の続行は不可能とみなし、皆さんには事態の収束に協力していただきます!」

「不可能……まあ、しょうがないわよね……」

 

今なお聖杯を寄る辺に肥大化を続ける巨人。それを見て、遠坂凛が苦々しげに言う。

だが、巨人を撃滅するにあたって打倒しなければならない障害が存在する。

それは──

 

「フハハハハハッ!! この世全ての悪などと大仰な名を冠してはいるが、やはり所詮は()()()()か!! (オレ)からすればこの程度、十把一絡げの魔獣と大差ないわ!! この(オレ)を打倒したくば、最低でもその5倍は持って来い!!」

 

目の前で高笑いしている、この金ピカだ。

見ているだけで目が腐りそうな汚泥の塊のそばにいるにもかかわらず、平然と高笑いを続けている。いや、メンタル化け物か。あんな代物に呑み込まれたら自分でもただでは済まないだろう、と裁定者は考えているのに……ああ、つくづく霊基の位階の差が憎らしい。

しかもその最大の元凶はと言えば、

 

「いやぁ、お宅も隅に置けないねぇ! こーんなイイ女侍らせちゃってさ、うらやましいぜホントに! ほら、オレってばかくあれかしって貧乏くじ押し付けられちゃっただけの一般人Aじゃん? だからさ、恋愛沙汰とかそういうのとは無縁だったわけよマジで! そこで目についたのがアンタの無自覚ハーレムよ! 羨ましいったらありゃしねぇ! まあ他にも理由があって実はそっちが本命なわけだがまあそれはさておき、そんな訳でオレはアンタの殻を借りたってわけ!」

「お、おう……??」

 

暢気にも衛宮士郎に対して怒涛のマシンガントークを繰り広げている。当の本人が困惑しているよ、いい加減気付けよ。

正直言って今すぐにでも殺してやりたいほどの衝動がスペンタマユを襲ったが、生憎とそうは出来ない理由がある。

 

「おい復讐者!」

「あん? なんだよ裁定者」

「手っ取り早く聞きます、あのクッソ汚い下水野郎のコアは何処ですか!?」

 

なおも肥大化を続ける黒い狂人を指さし、半ギレ状態で裁定者が投げかけたその問いに対して──復讐者は首を捻った。

顎に手を添え、何かを思い出すようなしぐさを繰り返し、その場を何周か歩き回り……そして、唯一確認できる目の部分を笑みの形に細め、両手を広げてこう言い切った。

 

「わっり、全然わかんねぇ!」

「こいつっ! 殺してやる! この場で殺してやる!!」

「落ち着けルーラー! 気持ちはわかるがここでそいつを殺してしまえば本当に手が付けられなくなるぞ!!」

「離してエミヤ丸! こうなったらアイツを殺して然る後にフユキごと大聖杯を消し飛ばして始末をつけるわッ!!!!」

「いよいよもって思考パターンが抑止力(アラヤ)に似てきたな君は!? あと『殻』本来の人格が出てきている!! これ以上は私のマスターの沽券にも関わるからやめてくれ!!」

 

両手に短剣を構えて暴れるルーラーを、アーチャーが背後から羽交い絞めにする。

なおも抵抗を続けるスペンタマユだが、背丈の差は残酷だった。傍から見れば、完全に駄々をこねる娘を嗜める父親にしか見えない。

メディアとメドゥーサはドン引きの表情だし、佐々木小次郎はニヤニヤと見ていてイラつく笑みを浮かべている。

とそこで、アーチャーのマスター──遠坂凛がおずおずと手を挙げて言った。

 

「ええっと……ルーラー? 訊きたいことがあるのだけれど」

「なによ! この期に及んで何か言いたいことがあるっていうの!?」

「うわっ、色違いの別人とはいえ自分と話すのって結構気持ち悪いわね……じゃなくて! その、あの巨人……『この世全ての悪』だったわよね。極限まで要約しちゃえば、アレもサーヴァントの一種なわけでしょ? 特に神霊とかそういう類の存在じゃなくて」

「え? ええまあ、そうなるわね……はい、そうなりますね、一応は。マスター不在の上に神明裁決も通用しないので、完全に制御不能ですが」

「じゃあ、当然サーヴァントの攻撃も通用するわよね?」

「その筈ですけど……」

 

アーチャーの拘束から脱したルーラーがそう答えると、遠坂凛はニヤリと性格の悪そうな笑みを浮かべる。

そして、こう言い放って見せた

 

「私にいい考えがあるわ」



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Atar Frashegird

ところでCCC復刻だそうですね。
メルトほしいなぁ


「いい? 多分チャンスは一度きりよ──アーチャー、やれるわね」

「相変わらずサーヴァント使いの荒いマスターだ……だが、オーダーには答えて見せよう」

「ええ、頼りにしてるわ。ルーラー、そっちは?」

「正直準備不足ですけど、まあいけます。魔力フィルターも問題ありません、今この場にいる全員は一時的に私を通じて大聖杯と直接繋がっています」

 

裁定者が頷く。その脇では、『わたしは駄目な復讐者です』という立て看板とともに全身真っ黒な青年が首まで埋められていた。

彼はブーブーと不満げな声を上げ、

 

「いくらなんでもこの扱いはないんじゃねーの!? オレにだって人権の一つや二つ認めてくれたっていいじゃんかよ!」

「うるっさい必要悪! 大体アンタはとっくに人間やめてるでしょうが!!」

「アッー痛てぇヤメロォ!? 宝石落とすな痛い当たる顔に顔に当たってる!!」

 

ぶかぶかの袖を振り回すスペンタマユ。その度に袖口から色とりどりの宝石が飛び出し、的確にアンリマユの顔面にぶつかって行く。

そして、彼女は余り気味の袖から両手を出し、印を組んで静かにこう唱えた。

 

「──『増幅(アンプリファイア)』」

 

変化は如実に現れる。

地面に散らばった宝石の全てが淡く光を放ち始めた。

それを見た遠坂凛は、

 

「触媒もなしに魔力を増幅するなんて不思議な魔術ね……」

「その分手間が膨大なんですよ。私はこのプロセスが終わるまで何もできません──だから、あなた方の協力が必要なんです」

「ええ、分かってるわ──衛宮くん! そっちはいいわね!?」

「えっ!? あ、ああ! こっちは大丈夫だ! ──セイバー、行けるな」

「はい。この剣に誓いましょう、シロウ」

「メディアさんと……コジロー、あなた方二人は私のそばにお願いします。メディアさんは基本的に後衛で細工する立場でしょうし、コジローは、その……こういう場面で役に立つんですか?」

 

裁定者の辛辣な物言いに対しても、小次郎は飄々とした態度を崩さない。これでは。よっぽどのことがあっても彼はこの姿勢を崩す事はないだろう。

小次郎は刀を肩に担ぎ、ようやく肥大化を止めた黒い巨人を見据えながら、

 

「まあ、私のような外面を借りただけの無銘では近づくことすら厳しかろうな。仕方があるまい。私は大人しく娘っ子の壁に徹するとしよう」

「ホントに覚えてなさいよこの野郎、絶対神明裁決でひどい目に合わせてやりますからね」

「はっはっは、手厳しいな」

 

たわごとを無視して、今度はメディアの方へ目を向ける。ローブのフードに覆われてその表情は伺えないが、彼女はため息をついてこう言った。

 

「まあ、あの金ピカはアーチャーだものね。基本的に私は対魔力持ちの相手には不向きだし、こちらのほうが適任だわ」

「です。幸いそっちのデカブツは対魔力どころかスキルすらも持ってないハリボテなので(大本営発表)、魔術だったら打ち込み放題ですよ」

「そう。……じゃあ、精々魔術の復習にでも使わせてもらうわ」

 

そう言って、彼女は杖を構える。途端に、ビシャアン! と巨人の頭に大きな雷が落ちた。轟音と共に、巨人の頭頂部がごっそりと削れる。が、すぐに再生して元通りになる。

ドン引きする裁定者をよそに、メディアは杖の頭を片手でパンパンと叩き、

 

「いいわね、これ。ちょうどいい実験材料だわ」

「うわっえっぐ」

「何か言ったかしら?」

「いえなにも」

 

クー・フーリンは……特に指令を出すまでもなく、先ほどからずっとギルガメッシュとかち合っている。

 

「おのれ、狗風情が(オレ)に噛みつくかッ!! 疾く去ね、不敬者がァ!!」

「生憎とオレはケルトの奴らとオレが認めた奴ら以外に払う敬意なんざ持ってなくてなァ! その点テメェは落第だ!!」

「おのれおのれおのれおのれェッ!!」

 

吠えるギルガメッシュ。それに対してクー・フーリンは不敵な笑みを浮かべながら、変幻自在の槍裁きで迫りくる武具の悉くを打ち落とし、目の前の相手の命をつけ狙う。

そこへ、新たな影が姿を現した。

そう、この中で唯一第四次聖杯戦争においても英雄王との因縁のあるサーヴァント──セイバー、アルトリア・ペンドラゴンである。

その姿を見て、彼は先ほどまでの怒りの表情から一転して不敵な笑みを浮かべた。

 

「英雄王ギルガメッシュ──今度こそ、私の手でケリをつける!!」

「ハハッ、フハハハハハ!!! いいぞ、どのような雑種であろうと貴様には及ぶまい、セイバー! 来るがよい、10年前は果たし損ねたが──今度こそ、この(オレ)手ずから貴様を屈服させて見せるわ!!」

「敵の前でよそ見たぁ随分余裕だな!?」

 

その隙をつき、ランサーが大きく槍を振り回し、迫りくる武具の全てを弾き飛ばす。そして、持ち前の敏捷性をフルに発揮し、ギルガメッシュへと肉薄した。

だが、英雄王はちらりと視線を向けてパチンと指を鳴らし、

 

「戯けが。その言葉は強者が吐くものよ──その点、貴様は役不足だな? 狗」

「うおっ!?」

 

同時、ジャラリッ!! という音と共に、黄金の鎖がクー・フーリンめがけて躍りかかった。

間一髪でその拘束をかわすが、その鎖はまるで生きているかのようにうねり、光の御子をつけ狙う。

 

天の鎖(エルキドゥ)──貴様のような雑種風情に使うのは業腹だが、仕方あるまい。それは神をも縛る鎖よ、貴様ごときではひとたまりもないであろう」

「チィッ、めんどくせぇ! 悪りぃな、あとは任せたぜセイバー!」

「言われずとも……!」

「ランサー、こちらへ!」

「おっとすまねぇなライダー!」

 

メドゥーサの駆るペガサスに飛び乗り、クー・フーリンは一度大きく距離を引き離す。黄金の鎖はそれでも標的を逃すまいと追いすがるが、速度差で強引に振り切られた。

それを見たギルガメッシュは小さく舌打ちし、鎖を蔵に仕舞う。

そして、魔力放出によって高速で迫るセイバー──アルトリアへ向けて、『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』から無数の剣を一斉に撃ち放った。

その悉くを躱し、受け止め、弾き──アルトリアはまっすぐにギルガメッシュへ向けて一直線に突っ込む。

 

「ハァアアアアッ!!」

「来るがいい! 貴様の全てを受け止めて見せよう──!!」

 

──決戦は続く。



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Atar FrashegirdⅡ

キングプロテアってマジですか……。ヒュージスケールがエグすぎる。あれは味方側に入るとどんな感じなんでしょうかね。『毎ターン自身に最大HPがアップする状態を付与(5T)』みたいな?
CT長そう……12-10くらいありそう……。


「『増幅(アンプリファイア)』……『増幅(アンプリファイア)』……『増幅(アンプリファイア)』……!」

 

スペンタマユは魔力逆流を利用した魔力の増幅を繰り返していた。

その脳裏をよぎるのは、先程遠坂凛と話し合った『作戦』の内容。

 

『ルーラー、あなたがあの黒い巨人のカウンターとして呼ばれたのなら、当然あれに対する有効打も保持してるわよね?』

『はい。というか、宝具がまさにそれです』

『なら、あなたを切り札にするわ。私達がギルガメッシュと巨人を食い止める、だからあなたは宝具を発動させなさい』

『……いや、単体ではほぼ発動不可能ですよ? イグニッションになる魔力源がないと──』

『そんなの自分で作ればいいじゃない。宝石魔術を使えば着火点くらいは簡単に作れるわ』

『でも、時間が──』

『だーかーらー! その時間を私たちで稼ぐから、その隙にとっとと宝具を発動しなさいってこと! オーケー!? いいわね!?』

『アッハイ』

 

「……まったく、サーヴァント使いの荒いマスターですね」

 

とそこで、足元から横槍が入る。

首まで埋められたアンリマユだ。

 

「オイオイオイ待て待て待て! テメェまさか本気で『アレ』を使う気か!? やめろオレが余波で死ぬ! そしたら今度こそあの巨人野郎が制御不能になっちまうぞ!?」

 

そう、先程アーチャーがルーラーを制止していたのには当然訳がある。

どれだけ容姿と性質に変容があろうと、あの黒い巨人と足元に埋められている黒い少年が『この世全ての悪(アンリマユ)』という同一存在であることに間違いはない。そこには確固たる繋がりがある。

復讐者はそこを突いた。彼らだけに見えているラインを伝い、強引に肉体の制御権を奪ったのだ──あの黒い巨人がここまで肥大化と再生以外のアクションを一切行っていないのも、そこに起因する。

要するに、動きたくとも動けないのだ。

 

「別に構いません。アレが動き出す前に私が仕留めます」

「その自信はどっから湧いてくるんだ!? 馬鹿か、馬鹿じゃねーか! まさかとは思うがテメェの頭ン中も真っ白なのか!?」

「やかましい。貴方なら知ってるでしょう、私の宝具はそういうものだって」

 

その言葉に、アンリマユが押し黙る。

スペンタマユの宝具はズバリそのもの『対悪宝具』。いつかの時代にて、とある騎士が持っていた『盾』や『槍』と同レベルの代物である。

それは『この世全ての悪』に対する最大の切り札。

人類の善性を極限まで肯定した、究極の一。

その銘は──

 

「ふんっ!!」

 

掛け声と共に、メディアが歪な形の短剣を地面に突き刺す。

見れば、辺り一帯は聖杯の泥によって覆い尽くされ、今にも裁定者たちの方へ向けて押し寄せんとしていた。

その泥の津波へ向けて彼女は宝具を突き刺し──

 

「──『破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)』ッ!!」

 

真名を開放する。

直後、花火が弾けるような軽快な音と共に、円蔵山を丸ごと覆いかけていた泥がまとめて消し飛んだ。

しかし、彼女の表情は優れない。

 

「やっぱり駄目ね……泥自体は大聖杯の術式ともあの巨人の存在とも関係のない副次的なものだから、まとめて消し飛ばしたりは出来ないわ」

「いえ、泥の侵攻を初期化できるだけでも十分です! そのまま辺りの警戒をお願いします──『増幅(アンプリファイア)』!!」

 

彼女が術を唱えるごとに、辺りに散らばった宝石の放つ光が強まっていく。

あまりの光量に、彼女を中心とした一角だけがまるで昼間のようになっていた。

そこへ、いくつかの黄金の武具が飛来する。言わずもがな、ギルガメッシュが撃ち放ったものだ。彼がこちらに対して見向きもしていないところを見ると、おそらく流れ弾である可能性が高い。

そして、真っ直ぐにスペンタマユへの直撃コースを突き進むそれを──

 

「はあっ!」

 

小次郎が一つ残らず弾き落とす。

直撃コースに乗っていなかった武具のいくつかはそのまま脇を通り過ぎ、そのうちの一本がアンリマユの前髪を掠めた。

 

「うひゃあ怖ぇ!! 掠った! 前髪掠ったんだけどちょっと!?」

「やかましい、黙りなさい」

「なんでさ!!」

 

嘆く復讐者。こちらも段々と『殻』本来の性格が出始めてきているが、誰も気にするものはいなかった。

その後も、泥を消し飛ばし、武具を弾き、術を唱え──刻一刻と移り変わる状況に食い下がってく。

しかし、それにも限界はある。

バキンッ!! という甲高い金属音が響いたかと思えば冷や汗を流しながら佐々木小次郎が呟いた。

 

「──これが限界か。刀がなければ私など、路傍の石と変わらんと言うのに……」

 

見れば、彼の持つ刀が刀身半ばで真っ二つになっている。

いかに大雑把な撃ち方をされていようとも、彼が弾いていたのは正真正銘一級品の宝具。

ただの刀では、些か役不足だったか。

折の悪いことに、そこへ一直線に飛来する一本の直剣が。

彼──『佐々木小次郎』の殻を被った誰かは、それを見て覚悟を決めた。

今なお自分目がけて突き進む名もしれぬ宝具へ向けて、折れた刀を静かに構える。

それを見た裁定者は目を剥いた。

 

「ちょっ、正気ですか!? 今さっき自分で言ってましたよね、刀のない自分はクソ雑魚……失礼言いすぎました、とにかく弱いって!!」

「ああ、確かに『この』私はそうだろうな」

 

──だが。

()()()()()、果たしてどうだろうな?

小次郎はそう言って、宝具へ向けて真っ直ぐに突っ込んだ。

そして。

 

「秘剣」

 

 

「燕返し──!」

 

彼は、その言葉と共に折れた刀を振り下ろす。当然、それは目の前の宝具には届かない。

だがどうした事か──その両脇から迫る二本の剣閃。

他ならぬ……否、()()()世界から彼が呼び寄せた剣閃は、その宝具へと寸分違わず叩き込まれた。

轟音と共に、宝具が地面へと突き刺さる。

唖然とするスペンタマユに、彼はこともなげに言った。

 

「なんということは無い、ただの棒振りが生涯をかけて成し遂げただけの児戯だ。だが、剣を撃ち落とす程度など造作もないことよ」

「いやいやいやいやそっちじゃないでしょ! そっちじゃないですよね!? 今明らかに人智を超越した何かが起こってましたよね!? えっ? 貴方本当にただのアサシンなんですかコジロー!?」

「実際そう召喚されているのだからな。それと、私に噛み付く暇があるなら手を動かした方がいい。そら見てみろ、女狐が今にも殺してきそうな勢いでこちらを睨んでいるぞ」

「アッハイ」

 

しかし、そんなふざけた事をしている間で準備は整った。彼女は気を引き締め、この場にいる全員に告げる。

 

「準備完了です! 気をつけてくださいね、割りと何が起こるか分かりませんから!!」

 

そして。

 

 

「──其は白き善なる神、陽のいと聖なる主」

 

「邪悪を許さず、不徳を許さず、不義を許さぬ不滅の聖者(アムシャ・スプンタ)

 

「我が身体(からだ)を、我が精神(こころ)を、我が運命(たましい)を余すことなく捧げよう」

 

「正義と法を生みし知恵ある者よ。我が行い、我が運命、我が成しうる聖なる献身(スプンタ・アールマティ)を此処に」

 

「いざ謳え、今こそ匡正の時来たれり」

 

 

 

 

 

「──『生命綴り捧ぐ聖火(アータル・フラシェギルド)』!!」



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