ブレイブルー 孤高の山猫(ワイルドキャット) (砂嵐に潜む昆虫)
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序章『その軍人、山猫につき』

 最近アニメ化されたゴールデンカムイ見て、やべぇめっちゃ面白いって思い、書籍も全巻読み上げまして、それでこの作品を書こうと思いました。楽しんで頂けたら幸いです。


 西暦は2100年。突如日本に出現した巨大な怪物『黒き獣』によって、人類は未だかつて見たことの無い災厄の存在に直面していた。

 その災厄は、瞬く間に日本の領土にいた生命を喰らい尽くしていき、その圧倒的力を前に、世界の国々は壊滅状態に瀕した日本への核兵器による攻撃を決断し、日本へ何十発もの核弾頭を発射した。しかし、大量の核弾頭の効果は、黒き獣には全く認められず、逆にこの核弾頭の一斉放射によって、日本はほぼ永久に生命の生きられない荒れ果てた地へと姿を変えだけの結果となってしまった。更には、黒き獣は新たな生命を求めて、人類の攻撃も虚しく、遂に人類は黒き獣のユーラシア大陸への侵攻を許してしまった。

 あらゆる通常武器を無効化する化け物を前に、力無き人類はただただその存在に怯えることしか出来なかった。

 

 「あれが『黒き獣』?あんなのただの『餓えた獣』だろ?」

 

 しかし、とある黒き獣との戦争で、一人の軍人が『黒き獣』を『餓えた獣』と(のたま)ったのだ。その軍人は、『黒き獣』をかなり近くで見たというのに、微塵も『黒き獣』に恐怖など抱いていなかったのだ。

 これは、そんな一人の軍人(やまねこ)の事象の世界へと巻き込まれていく物語…。

 

 

 

 

■■■■■■

 

 

 

 

 巨大な人工島の上に建国された、暗黒時代世界中の通常火器・兵器生産のおよそ三分のニを担っている軍事産業国家『ルドガン』。

 そのルドガンの敷地内のおよそ四割を占めるように設置されている軍事基地の、将校達が仕事を行っている区画を一人の男が歩いていた。歩いている道中、すれ違う軍人全員からは敬礼をされながら、男は『司令官室』と書かれた目的の場所まで到着する。

 

 「失礼します。カサイ、只今到着致しました」

 

 『入れ』

 

 カサイと呼ばれた男は、中にいる将校から入室の許可を貰うと、男は扉のドアノブをひねり、部屋の中へ入室する。部屋は豪華な内装となっており、武器・兵器売買による利潤から、このルドガンはそれなりに富があることは容易に想像出来る。

 扉から入ってすぐ左右には、成人女性の平均的身長程ある豪華な彫刻が施された壺が置かれてあったり、将校が職務を行っているデスクも美しい彫刻が施させている。美しい自然が描かれた絵画が壁に掛けられていた。

 しかし、豪華な部屋の内装は、将校の違和感で少し不自然に感じれてしまう。将校は部屋の中だと言うのに軍帽を深く被っており、その軍帽から覗く眼光は鋭く、カサイを射殺さんと睨み付ける。だが、カサイはそんな目を向けられているにも関わらず、無表情で将校と見つめ合う。

 

 「よく来てくれたカサイ、だが3分遅れたぞ。何処かで道草を食っていたのかな?」

 

 「申し訳ありません。昼食に頼んだアジの開きの身を食べるのに四苦八苦してしまい、こちらにお伺いするのが少し遅れました」

 

 「ほぉそうかそうか!それならば致し方あるまい。私もアジの開きは好きでね、身を全部綺麗に食べないと気が済まないんだ」

 

 先に口を開いたのは将校の方からであった。将校はカサイが遅れた理由を聞き、カサイはその理由を淡々と述べる。理由を聞いた将校は機嫌良さげに笑い出し、カサイも連れて笑みをこぼす。

 ただ、その二人の目が笑っていないのが、この雰囲気をぶち壊しているのだが。

 

 「今日貴様を呼んだのは他でもない、私達ルドガンがなんとか同盟関係にまでこじつけた魔道協会から救援要請が来た。内容は人員派遣、そこで貴様の部隊にはこれからイシャナに向かってもらいたい」

 

 「お言葉ですがゼンジ司令官、何故我々なのですか?人員派遣ならば我々の隊は数が少ないすぎます。それなら我々第四部隊よりこのルドガンで最も兵が多い第十一部隊が宜しいのではないでしょうか?あの部隊の兵の数は、約9師団分いるではありませんか」

 

 「そうしたいのは山々なんだが今現在第十一部隊は他の仕事で九割方が出払っている。それにイシャナの魔道協会の連中は、屈強な兵士で構成された部隊寄越せと条件に突きつけてきたんだ。そこで、我ルドガンで随一の戦闘のスペシャリストが集まっているお前の部隊に白羽の矢が立った訳だよ。お願い出来るかね?」

 

 「了解致しました。その責務、このカムイ率いる第四部隊にお任せあれ。必ずや任務を遂行出来るよう善処致します」

 

 「ウム、その言葉が聞けて良かった。ただ…お前達第四部隊の連中揃いも揃って血の気の多い奴が多い。何か問題が起きなければ良いのだが…」

 

 カムイは、敬礼しながら任務を受諾する。それを聞いたゼンジは満足そうに頷きながら、おもむろに椅子から腰を上げ、ゆっくりとカムイの(そば)まで歩いていく。

 

 「お前のような冷静な奴でも、時に感情が荒ぶる時だってある。イシャナには気難しい性格の魔法使いもいるらしいからな………イシャナの連中といざこざだけは作るんじゃないぞ?」

 

 途端に冷たくなった声と共に、いつ抜いていたのか右手には軍刀が握られており、それがカムイの頭スレスレを通過する。

 空を切った軍刀であったが、カムイの被っていた軍帽が風圧で宙に舞い、真っ二つになって地面に落ちる。カムイはそれでも眉毛一つ動かさずに敬礼の姿勢を保つ。そんカムイを見ながらゼンジは小さく頷くと、軍刀を鞘に収める。

 

 「我々ルドガンは長い年月を掛けてやっと魔道協会と数少ない同盟を結ぶ事が出来た。あまりあちらで問題を起こして同盟関係に亀裂が走るのはなんとしても避けたい。それも十分理解した上で、今回の任務に取り組んでくれたまえ」

 

 「了解であります」

 

 「よろしい、下がってよし」

 

 ゼンジけら退室を許可されたカムイは、部屋から出ると、自身の部隊が生活している兵舎に向けて歩き出す。

 その道中、ふと開いている窓から外を見る。窓の外は中庭のようになっており、その花園で三人の少女が楽しそうに遊んでいた。その内の一人がこちらの視線に気付き、満天の笑顔をして手を振ってくる。他の二人も続くように笑顔で手を振ってくる。

 

 「カムイ中佐!今からお仕事ですかぁ!!」

 

 最初に声を掛けてきたのは、灰色のショートヘアーに、同じく灰色の瞳をした、カムイに最初に気付いた少女アメノだった。その頬は、僅かにだが朱に染まっている。

 

 「あぁ、今からここを発ち、イシャナへ行く。俺が留守の間、何か馬鹿をするじゃないぞ。特にガーラン」

 

 「…カサイの旦那ぁ、アタシらはそこまで頭足らねぇ馬鹿じゃねぇよ。しっかりお留守番しててやらぁ。但し、帰ってきたら今度こそ絶対アタシと手合わせしろよな!」

 

 ガーランと呼ばれた少女は、半袖にロングスカートをして、暁色の髪をポニーテールにしている紅蓮色の瞳の三白眼である。ニヤリと笑った口はギザギザの歯が見えており、獰猛さを醸し出しているようだった。

 

 「お前はまず、満足に留守番が出来るかどうか云々よりもその性格が心配なんだが。手合わせが出来ないストレスでトレーニングルームの備品を片っ端から破壊するんじゃないぞ」

 

 「う、うるせぇ!ありゃ悪かったって思ってるよ!それでも、逆にあんな簡単に壊れる方が悪いだろ!」

 

 「お前はもう少し手加減というものを覚えろ。俺との手合わせはまずそこからだ」

 

 しかし、カムイが指摘すると、途端に顔を赤くし反論する。しかし、その真っ赤な顔で反論しても、説得力皆無である。

 

 「まぁまぁカムイ様、そうガーランをいじめないであげて下さい。この子は少しカムイ様に見栄が張りたいだけなんですよ」

 

 「おいシュラ、変なこと言うなよ!アタシは別に見栄なんて張ってない!」

 

 「その否定の仕方は、貴女が本当の事を言われた時の反応なのよねぇ。どう頑張っても説得力無いわよぉ」

 

 「うるせぇ!」

 

 「シュラ、お前が俺よりガーランをいじめてどうする」

 

 「あらあら私のしたことが、あまりにガーランが可愛いものでしたからつい」

 

 シュラと呼ばれた少女は、糸目で、腰まで届く藍色のロングヘアーに、出るところ出て、引っ込むところは引っ込んでいる、所謂グラマーな体型の少女だった。そんな彼女は、Sの気があるのか酷く焦り戸惑っているガーランの様子を心底楽しそうに眺めていた。

 

 「お前達、ここで俺と駄弁るのは一向に構わんが、そろそろ自由時間も終わる頃だ。早く寮に戻ってやることしっかりやれよ」

 

 「「「はーい」」」

 

 カムイはそんな仲の良い三人の光景に一瞬口元に笑顔を作り、直ぐに無表情に戻ると、再び歩き出す。彼女達も、遊び疲れたのか談笑しながら寮の入り口に向かって行く。しかし、最初にカムイに気付いた少女だけは、その場から動かず、カムイの姿が完全に見えなくなるまで笑顔を絶やさずに手を振り続けていた。




如何でしたでしょうか?

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『魔導国と山猫』

そっと二話目置いときます。楽しんでいって下さい


 その日、イシャナの人々はその集団に好奇心と不快感を抱いていた。孤島に結界を張って建国された魔道都市イシャナ。この世界の裏舞台で受け継がれてきた『魔術』を管理、その使い手を育成、世界の礎を支え続けてきた。そんな彼らは、今朝がた大型の軍用船に乗ってこの地へとやって来た他国の兵士達に様々な思いを抱いていた。

 その中でも、イシャナの最高戦力とさえ謳われる十聖の一人、ナインは、周囲の人間すら怯えて近寄らせないほどの不快感を露にしていた。その横には姉の雰囲気に苦笑いを浮かべる妹のセリカ=A=マーキュリーとこんな状況でも笑顔を絶やさないナインの数少ない友人のトリニティ=グラスフィール、その三人のすぐ後ろには、黒き獣討伐に参加した獣兵衛、ハクメン、ヴァルケンハイン=R=ヘルシング、そこから更に離れた場所にはユウキ=テルミがいる。

 

 「…どうしてあんな役立たず共がこんな所にくるのかしら。そのまま帰ってくれればいいのに」

 

 「お姉ちゃん落ち着いて、周りの人たちが怖がってるから」

 

 「周りの連中の反応なんて知ったこっちゃないわよ。私は、どうして連中みたいな役にも立たない兵士がこのイシャナに来たのかが疑問なのよ」

 

 「まぁまぁナイン、落ち着いてましょう~」

 

 「そうだナイン、確かにお前の言いたい事は分かるが、彼らを呼んだのは魔道協会の連中なんだろ?お前なら聞けるんじゃないのか」

 

 「とっくに聞いたわよ。でもあいつら、『今は知る必要なない』の一点張りで、まともに取り合ってくれなかったわ」

 

 「ということは、魔道協会の上層部が何か企んでるのは明白だな」

 

 「アンタの言う通り、連中はあの役立たず共を使って何かをしようとしている。それもあたし達十聖には何も言わないでよ。不快な事この上ないわ」

 

 そんなナイン達の視線の先には、魔道協会が遣わせたと思われる魔法使いと隊長と思われる男が話していた。どうやら自分達が活動する駐屯地をどこに立ててよいかで話し合っているようだ。

 隊長の男は、軍服の上に迷彩色の外套を着ており、目には光沢がなく、髪はオールバックにしていた。するとそこに、他の魔道協会の魔法使いがやってくる。何を話しているのは分からなかったが、話し終わると、男は魔法使い二人に連れられそのまま魔道協会へと続く道へと案内される。その道中男はナイン達の近くを通り過ぎる。すると、男が止まり、ナイン達の方に顔を向ける。その視線は、キョトンとした顔をしたセリカに向けられていた。

 

 「ちょっとアンタ、何気安くセリカを見てるのかしら、燃やされたいの?」

 

 「………いや、その子から不思議な気配がしたものだから気になってな。その子、何か特別な力でも持ってるのか?」

 

 「ッ!!」

 

 「待てナイン!魔法を打とうとするな。ここは市街地だ、周りに被害が出るぞ」

 

 男の一言に、ナインは条件反射で火炎魔法を展開しようとし、獣兵衛が制止する。ナインも獣兵衛も声で我に返り、右手に展開していた魔法陣を握りつぶす。

 

 「…何か彼女の気に障る事を言ってしまったようだな」

 

 「いや、こちらこそすまない。俺たちの仲間が迷惑をかけたな。ところで、お前は?」

 

 「あぁ紹介がまだだったな、俺の名はカサイ。このイシャナ島の魔道協会のお偉いさん方に呼ばれて遠路はるばるここまで来た軍人だ。ここで楽しく喋るのも悪くはないが、今丁度魔道協会に呼ばれててね、行かなきゃいけないんだ。話は魔道協会のお偉いさん方の堅苦しい話が終わってからにしようや。ほらお前ら、そこでビクビクしてないでさっさと俺を魔道協会に連れていけ」

 

 「は、はい!」

 

 カサイは、ナイン達を前に萎縮している魔法使い二人に声をかけ、再び魔道協会に案内させる。去り際、カムイが顔を少しだけナイン達に向けると、頭の髪をかきあげながら軽く会釈してその場から去っていく。

 

 「……先に言っておくわ。私は、あのカムイって男がユウキ=テルミの次に嫌いよ」

 

 「…ハァ」

 

 「……」

 

 「…これから共闘するかもしれん相手にそこまで言うか…。先が思いやられる」

 

 「お、お姉ちゃん…」

 

 「あらあら~」

 

 カサイの去り際の行為から、既に敵意剥き出しでいたナインは、カサイが自分達から見えなくなった後に、彼に対する明確な敵意をはっきりとその場にいる面々に告げる。獣兵衛は嘆息、ハクメンは沈黙、ヴァルケンハインは頭を押さえ、セリカはその場でアワアワ、トリニティはいつものように柔らかな笑みを浮かべていた。

 因みにテルミは、腹をかかえて爆笑していたが、即座に飛んできたハイヒール靴先でに顎を蹴られ、盛大に舌を噛み、そのままナインと口喧嘩を開始するのであった。

 

 

 

■■■■■■

 

 

 

 場所は変わり、カサイは現在、魔道協会の責任者達がいる会議室にいた。8席全ての椅子には、とんがり帽子を被った魔道協会の審問官達が座っていた。

 

 「よくぞこのイシャナに来てくれたなカサイ殿!ルドガンからの長旅は疲れたであろう。だが、生憎長旅での疲れを癒す時間は今は無い。我々と共に、あの厄災を葬る手助けをして欲しいのだ」

 

 「はい、心得ております」

 

 「貴方の国と同盟を結んでから、我々は優先的に多くの物資を貰っていること、大変感謝しております。だからこそ、同盟国としてお互いに手を取り、今こそ一致団結して黒き獣を倒すという人類の悲願をやり遂げなくてはならないのです!」

 

 「仰る通りかと」

 

 「あなた方ルドガンが日本で発見されたと言う『ルーン技術』、これと我が魔道協会が受け継いできた『魔法』を合わせれば、正に向かう所敵無しでしょうな!」

 

 「そうですね」

 

 最初は、一番奥の審問議長からの挨拶から始まり、そこから他の審問官達が共に闘おうと熱く語ってくる。カサイは、それを短い言葉で受け流しながす。

 

 「(何が手助けだ感謝してるだ敵なしだ。実戦経験も無い連中が安全な所から何ほざいたって意味なんて無いだろう。口先だけの連中が、さっさと用件を話せ用件を)」

 

 そんな審問官達の話を他所に、カサイは頭の中で別の事を考えながら、自身に現在進行形で襲いかかっている睡魔と必死に戦っていた。昨晩遅くまで銃の手入れをしていたのが裏目に出た事を少しだけ後悔したが、反省はしていない。

 このまま睡魔に負けたり、変に気を緩めれば、恐らく自分は立ったまま寝てしまうだろう。ましてやそれが魔道協会の審問官達の前ならば必死に寝るのを我慢するのも当然だった。

 建前ばかり話され辟易し始めたカサイは、心中で審問官達に呪詛を吐きながら長々とした話に適当な相槌を打っていた。

 

 「さて、前置きはそこまでにしてここからは真面目な話をするとしよう」

 

 「…はい、なんでしょうか」

 

 「ウム、君はここに着いたときに、獣人や巨大なゴーレムのようなのを連れた一人の魔法使いを見なかったか?」

 

 「見ました。その魔法使いとは少し会話もしましたが、妹さんの話になった途端攻撃されそうになりましたよ。近くにいた獣人に止めてもらわなかったら今頃俺はここに来られなかったかと」

 

 ニヤリと笑いながらその出来事を語るカサイを見た審問官達は、お互いに顔を見合わせながらどう反応していいのか分からず、苦笑いを浮かべるのであった。

 

 「そ、そうか。だがしかし、そういう事なら話は早い。カムイ殿にはこれからその魔法使い--十聖ナインに協力しつつ、彼女を監視してもらいたい」

 

 「失礼ですが、なぜ十聖ナインを監視しなければならないのですか?」

 

 「………この情報は本来外部の者には明かせない。たとえ同盟国の代表者として来てくださったカサイ殿にも、教える事は出来ない。だがバックアップは任せて欲しい。ナインと同じく十聖のセブンとエイトに既にこの旨は伝えておる。その二人と協力して、十聖ナインを監視してくれ。最年少で十聖になったあの天才も、まさかカサイ殿のような一兵士に警戒するはずが無いしのぉ」

 

 「…了解いたしました。話は以上ですか?俺もこの事を隊員達に伝えないといけないので」

 

 「ウム、話は以上だ。くれぐれも十聖ナインには悟られんようにの。頼みましたぞカサイ殿」

 

 カサイは、敬礼した後に会議室から退出していく。魔道協会の中庭へと続く魔道協会の通路を歩いている道中、大きな欠伸をしながら体を解し、丁度近くにあった休憩用のベンチに腰掛ける。

 そこで疲れを抜くようにまた大きな欠伸をすると、外套の中の軍服のポーチの中をまさぐり、そこからラップで包まれた饅頭を取り出し、それにかじりつく。饅頭の中身は白あんになっており、口の中にほのかな甘みが広がっていく。

 

 「…やっぱりばあちゃんの作る饅頭は上手いな」

 

 「はじめまして、君がルドガンから来たカサイ君だね?」

 

 「…あんたらは?」

 

 祖母が作った饅頭を堪能していたカサイは、横から掛けられた声に、饅頭を咀嚼しながら顔を向ける。

 そこには、白い魔術師の服をキチンと着て眼鏡をかけた紳士的な青年と、やや露出度の高いセクシーな衣装に身を包んだ女性がいた。そして、二人の頭にナインと同じようなとんがり帽子があることから、カムイは二人が十聖であることを理解する。

 

 「あら、十聖に対してあんたらなんて、随分と失礼な同盟国の隊長さんね」

 

 「止めろエイト、私達は嫌味を言いに来た訳ではない。今回はこのルドガンから派遣された彼と、彼の部隊と共にナインの監視をするよう命令されているだろう?」

 

 「…そんなの分かってるわよ」

 

 女性の方が嫌味を言ってくるが、眼鏡の青年は彼女を冷静に叱咤する。女性は、悪びれもなく鼻を鳴らしてそっぽ向く。

 

 「監視…と言うことはお前達が俺の協力者の…」

 

 「あぁ、私の名前はセブン、そしてこっちの女性がエイトだ」

 

 「なるほど理解した。それと年はお前らより上だから、君付けは止めてくれ」

 

 「えっ、あなた私達より年上なの!」

 

 「…彼女の失礼極まりなる発言は許してやってくれ。改めて、よろしくカサイ」

 

 「別に構わん、よろしくセブン」

 

 カサイはセブンと握手を交わし、そのままエイトにも手を向ける。エイトは、渋々といった感じでさっさと握手を交わす。どうやらエイトは、あまり部外者と慣れ親しむ気は無さそうだ。

 

 「さて、お互いの自己紹介が終わった訳だし。私からカサイに質問がある」

 

 「なんだセブン、俺に答えられる範囲でなら答えてやるぞ」

 

 「なに、簡単な質問さ。まず、君達ルドガンがどうやってこの魔道協会と同盟を結べたのか。ここに来た君達は一体どうやって黒き獣に対抗するつもりなのかだ。まさか只の火器・兵器で黒き獣と戦ったりはしないだろう?それに、この質問を審問議長に聞いたら『それは本人から聞いてくれ』と言われてね」

 

 「アタシもそれは気になるわね。その肩に背負ってる古い銃なんかで黒き獣と渡り歩けるのかしら」

 

 セブンからの質問に、カサイは二人が連中から何も聞かされていないのだと理解し、めんどくさそうに頭のオールバックを整えながら頭を掻く。説明するの構わないが、カサイ自身仮眠をとりたいと思っており、あまり気乗りではなかった。

 

 「…そうだな、秘密はこの弾薬にある」

 

 カサイは、軍服の弾薬ポーチから一発の弾丸を取り出し、二人に見せる。セブンは弾頭から薬莢の隅々までじっくりと観察し、エイトは顎に指を添えながら大雑把に観察する。

 

 「何よ、只の兵士が使ってるような弾薬じゃない。これが黒き獣と対抗するのにどう関係があるのよ」

 

 「よく見ろエイト、弾丸部分に魔法で文字が彫ってある。魔方陣に何処と無く似ているが…これは?」

 

 セブンが指摘されたエイトは、もう一度弾薬の弾丸部分を目を凝らして見てみる。するとそこには淡く発光している記号のような物が彫り込まれていた。

 

 「これは『ルーン文字』。魔法の対なる物にして、魔法と同等の力を持っている物だ。これを、俺たちルドガンは保有している。この『ルーン文字』の技術で、数多くの弾薬等に『ルーン文字』を彫り込んで使用している。この『ルーン文字』があったからルドガンは魔道協会と同盟を結べた訳だ」

 

 「なるほど、因みにこの『ルーン文字』、主にどういった魔法が行使できるんだ?」

 

 セブンは、未だ見たことの無い『ルーン文字』に少しだけ興味を抱いたようで、表情は先程から全く変わっていないが、眼鏡の中の瞳は、好奇心で僅かに輝いていた。

 

 「使える魔法には今のルドガンの技術ではかなり制限されるているが、炎魔法、氷魔法の二種類位か?」

 

 「どうやって魔法を弾薬に彫りこんでいるんだ?」

 

 「セブン、流石にそこから先は軍事秘密ってやつだ。知りたくても、俺の口から教えることは出来ないぞ」

 

 「…失敬、少々好奇心が沸きすぎた」

 

 「ねぇ、話終わったぁ?こっちは暇で暇でしょうがなかったんですけど」

 

 「あぁ終わった。待たせてすまないねエイト」

 

 カサイの言葉で、やや興奮気味だったセブンは、正気に取り戻し、興奮を醒ます。蚊帳の外だったエイトは、二人の会話に入れず、ソファに座って欠伸をしていた。

 

 「それじゃ俺はここら辺で失礼するよ。部下共に色々指示をしなくちゃならないからな」

 

 カサイは弾薬を弾薬ポーチの中に仕舞うと、肩に背負っていたM14マークスマンライフルを背負い直し、中庭から外へと続く通路を歩き出し、曲がり角を曲がって二人の視界から見えなくなる。

 

 「…どうなのあの男、貴方から見てあいつは信用出来る?」

 

 「それはまだ分からない。只、彼は『ルーン文字』に関してまだ他の事を隠してた。それはつまり、まだ私達は彼から信用さていないようだ」

 

 「何よそれ、仮にもお互い協力者なんだし、全部話せば良かったのに」

 

 「エイト、彼は軍人だ。軍人がそう易々と自国の軍事秘密を全てペラペラ喋ると思ってるのかい?そんな間抜けをこのイシャナに派遣するなら、ルドガンの上層部は相当お気楽だぞ?それに、そもそもルドガンは軍事国家だ。今現在、世界中に出回っている凡そ63%の武器・兵器は殆どがルドガン製だ。そんな軍事国家の、厳しく訓練された兵士がそんなに馬鹿な訳が無い。君は少し考えてから発言したらどうだ」

 

 「何よ、あの小娘みたいな事言っちゃって!分かったわよ今度からちゃんと考えてから言うわよ!」

 

 「ハァ…本当にそうしてくれエイト」

 

 セブンとエイトは、そんな話をしながら自分達の任せられた十聖としての仕事を済ます為に、カサイが来た道を歩いて行く。

 誰もいなくなり、静寂と化す中庭。すると、先程カサイが曲がっていった所から、出口へ向かった筈のカサイが顔だけ出してきた。

 

 「……そりゃあお前らみたいなイマイチ信用に欠ける奴等に、俺がホイホイ自国の軍事秘密情報をくれてやる訳が無いだろう」

 

 カサイは、曲がり角を曲がってからそのまま壁に張り付き、気配を殺して二人の会話を盗み聞きしていたのだ。

 二人から何か有益な情報が得られれば良かったのだが、結局、痴話喧嘩のような会話しか聞けず、無駄な時間を過ごしてしまったなと思い、壁から離れると歩き出し、魔道協会の正門から外に出る。

 

 「中々面白い所だな、ここは。当分飽きなさそうだ」

 

 カサイは、雲一つ無い太陽が照らしてくる青い空を見上げながら、一人ニヤリと笑顔をを浮かべ、自分の部下達がせっせと作業している駐屯地に向かって歩いて行くのであった。




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