狐女房とOLさん (のゔぇんぶれ)
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その少女、裸エプロン。

6月、ジメジメっとした梅雨の季節。

もう少しすれば少しはカラッとして…いやしないか。それでも、ビールが美味しい季節が来る。

いや、ビールはいつでも美味しいんだけれど。一年で一番、ビールが飲みたい季節が来る。

そう思いながら、私、髙森帆乃香(たかもりほのか)は会社から電車と徒歩で一時間かけて愛しの我が城(と言っても2DLKのマンションだけど、住んでいればまあ、どんなところでもお城ってことで)に帰ってきた。

鍵を開けて、誰も居ない部屋に頭を下げたまま入って。

 

「ただいま」

 

と声をかけた。そう、それまではいつも通りだった。

 

「あ、主様。おかえりなさい、なのじゃ」

「うん、ただいま」

 

…ん?んんんん?

いや、いやまてまて。この部屋には人間は私、しか居ないはずだ。

だが、確かに声はした。「おかえりなさい」と。

頭を上げると、そこには裸エプロンの狐耳を生やした、少女が居た。

私は目をパチクリさせて。

 

「ああ、すみません。部屋を間違えました」

 

そう言って、扉の外へ出た。

え、えーっとちょっとまってくれ。いつの間に私はあんな変態趣味に。

確かに風邪ひいた時とかお酒に酔ってる時は「寂しいなあ、なんかこう、裸エプロンでお迎えしてくれる彼女とか居てくれたらなー」とは思ってたよ!だけど実際居ると恐怖でしかないよ!

っていうか知らないよ!あんな子!誰だよ!不法侵入だよ!!!!

とりあえず警察に

 

「ま、まつのじゃ主様!ワシじゃ!メイじゃ!」

「メイ…?」

「そうじゃ!メイじゃ!」

「メイは狐です。貴方のような少女ではない」

 

とりあえず警察に連絡して自首しないと……きっと酔っ払って連れて帰ってきちゃったんだ…狐耳があるのは不思議だけどきっとカチューシャかなにかだよ…。

はー…駄目な飼い主でごめんねメイ…。

 

「くぉーんっきゅー」

「あ、メイっ!」

 

確かに愛狐の声がしたので扉を開ける。

が、そこにいるのは裸エプロン狐耳少女だ。愛狐ではない。

扉に手をかけて、出ようとするとぐいっと引き寄せられた。

 

「ほら、これでどうじゃ。もふもふじゃろ…?」

「うわっ本当だもふもふだ…」

 

人の形しているのにもふもふだ…。

どういうことなの…と抱きつかれた状態から顔を上げると。

人の形をした狐がそこに居た。

 

「…どういうことなのメイ」

「うむ。主様、こないだ風邪で苦しんでいた時、「ああ看病してくれる彼女がほしい…」って言っていたじゃろ?」

「えっ?私そんなこと言っていたの?!」

 

口に出していたらしい。

いやそんな覚えないのだけれども。譫言だったのかもしれない。

…あれ?私だいぶやばかったのあの時。

 

「で、ワシ、考えたんじゃ。大好きな主様のためになにかしてあげたいと。

そこで、じゃ。ワシの地元に伝わる秘技である人化の術があったのを思い出しての」

「秘技」

「秘技じゃ。それをどうにかこうにか狐づてをつかってな、なんとか聞き出したのじゃ」

「狐づて」

「うむ。持つものは友じゃ」

 

カッカッカと笑うメイ。

…なんだろう、現実感はないし、夢か何かを見ているような気がするんだけれども。メイの言葉に嘘は見られない。

いや、ただ嘘、と思いたくないだけかもしれないのだけれども。

それにしても、メイがそんなふうに思っててくれたなんて…。

 

「…うっぇぇぇぇぇぇぇ」

「ど、どうしたのじゃ主様?!?!?!?!?!?な、なにか痛いこととか辛いことがあったのか?!

メイでなんとかできることかや?!」

「…あ゛り゛がどう゛メ゛イ゛イ゛ィ゛ィ゛」

「お、お礼?!?メイなにかお礼言われるようなことしたかや?!

主様…。そ、そうじゃこういう時は」

 

メイが困惑顔のまま私の頭を撫でた。

もふもふに包まれている。今私はもふもふに包まれているのです。

 

 

 

もふもふにつつまれているのです。(大事なことなので二回いいました)

 

 

 



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その少女、人化の術により

引き続いて6月の私の家。

とりあえず泣き止んだ私はメイと一緒にリビングにある椅子付きテーブルに向かい合って座ってた。

珈琲がテーブルの上で湯気を立てている。あっちあっち言いながらメイが淹れてくれた。尊い。

あ、今はちゃんと人の顔で人の形しております。毛は入っておりません、大丈夫です。

 

「で、メイ」

「なんじゃ?主様」

「いや、…メイの出身地って海外だった気がするんだけど日本語が達者だなっていうのと、人化って日本独特の文化じゃないかなーって」

「あー…。あれじゃ。狐の世界は幻想郷的なところがあっての?」

「あー…。なるほど。なんだかんだでつながってる的な?」

「そうじゃそうじゃ。で、まあ、その関係でな」

「なるほどねー」

 

納得いった。そりゃ確かに日本語も上手にもなるし、人化もするわ。

しっかしそうかあ。幻想郷かあ…。いいなあ。ちょっと行ってみたいかもしれない。

なんて考えていたら。

 

「まあ、いつかの?」

 

って声が聞こえて。

 

「あれ?私声に出してた?」

「いんや?そんな気がしただけじゃ。主様はわかりやすいからの」

「そう?」

「そうじゃ」

 

そう言って、クス、と笑うメイ。

そうかー、私そんなにわかりやすいかー。なんて思いながら珈琲を口に運び。

 

「あ、ちゃんと私の好みになってる」

「確かミルクなしで砂糖2つじゃったよな?」

「うん、そうそう。ちゃんと見ててくれたんだねー」

 

そう言って私はテーブルの向こうに手を伸ばしメイの頭を撫でてやる。

ごきげんそうに笑顔を向けるメイ。本当に可愛い。

なでなでとしていると。

 

「主様。主様や」

「うん?」

「流石に撫ですぎではないかの?」

「…そう?」

 

それでもやめないし。なぜならメイは可愛いからだ。

 

「ぬーしーさーまー」

「…むぅ…。わかったわよ」

 

残念そうにメイの頭から手を離す私。

いや、嫌がられるなら仕方がないんだけれども。はー…メイをもっと可愛がりたい…。

 

「とりあえず、ビール持ってくればいいのじゃ?」

「あ、ありがとう。じゃあお願いしようかな」

「じゃあちょっとまっててほしいのじゃ」

 

そう言って、椅子から立ち上がり冷蔵庫の方へ向かっていくメイ。

冷蔵庫を開けて、ビールとピザが出てきた。

 

「夕飯まだじゃろ?冷凍でわるいんじゃが…」

「あ、ありがとー。最近の冷凍食品って美味しいのから、ねー」

「そうじゃな。最近の冷凍食品凄いのじゃね」

 

そう言って笑いながらこちらに持ってきたビールをこっちに持ってきたメイ。

いやはや、私一人ならきっと寂しくピザを温めてビールを飲んでたんだろうな、って思っている。

いやあ…メイが人化してくれて本当に良かった。本当によかった…。

いけない、また泣き出しそうになってきた。

 

「…これからもよろしくね、メイ」

「もちろんじゃ、主様」

 

そう言って笑いあったのでした、と。



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その少女、朝につき

色々あった日の翌日。

今日は土曜日なので会社はお休みです。…まあ、給料低いし拘束時間もそれなりに長いけれど、毎週土日が休みなのは本当に助かってる。

…トラブルがなければ、今日と明日は完全オフー。

なんて思って寝惚け眼でなっている目ざまし時計に手を伸ばすと。

 

ぷにょん。

 

何やら柔らかい感覚のものを掴んでいた。

いやこれ間違いなく、あれだ。私には標準装備されてない…いや、私も寄せてあげればBぐらいは、あるあれの、感覚だ。

とはいえそこまで大きくもなく、かと言って私のように小さくもなく。そう、とてもちょうどよい大きさでほどよい柔らかさのもの。

 

「主様、おはようなのじゃ」

「…んぇ…おはよう…」

 

まだ、寝惚け眼で声が聞こえた方に目をやると。

メイがおっぱいを掴まれていた。私におっぱいを掴まれていた。

いやなんの反応もないから、このおっぱいは幻影なのかもしれないけれど。

 

「ところで主様や」

「なんでしょう」

「このおっぱいを掴む行動は挨拶か何かなのかや?」

「……ごめんなさい…」

 

本物だった模様。ということでさ、っとメイのおっぱいから私の手を離す。

 

「いやいや、なんで謝るのじゃ主様」

「いやほら挨拶ではないから…なんというか訴えないでください…」

「そんなに大げさな話になるのじゃ?!?!?!」

「セクハラだからねこれ…」

「そうなのじゃ?!?!?!?!?!?…いやまあ、それ自体はてぃーゔいーみてしっておったのじゃが、そうなのじゃ?」

「そうなのです…」

 

土下座しながらそういった私。そういえばメイは最近テレビを見ている、とは昨日言ってたなあ、なんて思いながら。

電気代がまた増えるなあ、と思うけれど、元々夏とか冬はエアコン入れっぱなしだったし(お部屋を快適にしておかないとメイ死んじゃうから)そんなに問題はなかった。

いや懐は寒くなるけれど、それよりメイが死んじゃうほうが悲しいので、意地でもエアコンは入れっぱなしにしておいた。

 

「か、顔をあげてくりゃれ、主様。土下座されるとこっちが困るのじゃ…」

「警察へは何卒…何卒よろしくお願いいたします…」

「わ、わかったのじゃ。警察へはいかないのじゃ」

「ありがとうございますぅー!」

 

なんとかなった。いや、なんとかなったってなんだよ…。

 

「…ご、ごめんね。お胸もんじゃって」

「いや、いいのじゃ。それに…主様なら別におっぱい揉まれても平気じゃし…」

「いやほら、それはそれで、あれだし…、まだ朝だし…」

 

そう、これはまだ朝の話であります。

朝なのです!ASA!

 

「そ、そうじゃな!…ご飯できてるけれどどうするのじゃ?」

「そ、そうだね。いただこうかな…」

 

二人共なんとなく恥ずかしくなったのでちょっともじもじしながらお部屋をでました。

ご飯は和食でした。美味しい!

 



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その少女 友達来襲につき

さて、朝にラッキースケベがあってからの話。

朝ごはん後。

 

「ごちそうさまでした。なんだ、メイ、ちゃんとご飯作れるじゃない」

「お粗末様でした。ちゃんと口に合ってよかったのじゃ」

「うん。…ところでメイ?玉ねぎとか食べてないよね?」

「もちろんじゃ、人化できるとはいえ。やっぱり中毒は怖いからの。…友達は一回間違えて食べてしまったようだがの…」

「危ないっ」

 

流石に犬科の皆さんにそういう中毒物は本当に大変なことになるからね。

みんなも気をつけようね。

 

「しっかし、メイのお友達ってどんな子なの?」

「んー…確か、神様の使い…じゃっけな?なんかそんなのやってるらしいのじゃが」

「ほほー。神使ってやつかな?」

「それじゃそれ。えーっと確か…笠間様?いや王子様だったかの…?両方だったかもしれんのじゃ。まあ、わっち、お二人にも良くしてもらってるのじゃが」

 

笠間稲荷神社と王子稲荷神社。まあ、関東に住んでる人間ならよく知ってる二大稲荷神社である。

凄いな-メイ。私でも知ってる神社に勤めている友達いるんだーってなる。

ああ、でも、人化の術使えるっていうことは、そういう事なんだろうなあ、って思う。

 

「…あ、そういえば笠間の神様も王子の神様も人間界で働いてて…えーっとたしかPGやってるっていってたかの…?」

「神様がプログラマ?!?!?!?」

「そうらしいのじゃ。えーっと…確か丸丸商事っていっておったの…?」

「うちの会社ぁ?!あれ、笠間さんも王子さんもいた…?…あ、いたかも…」

 

よくその二人とご飯をしてる気がする…。

いやはや、あの二人が神様なんて…どんなラノベか何かかな、ってなるけれども。

まあ、神様もお金を稼がなきゃいけないとなるとちょっと世知辛いよねっていう。

そんなことを思っていると。

玄関のチャイムが鳴りました。

 

「お、Am○zonかな?いやー、なかなか本屋いっても置いてない本、つい頼んじゃうんだよねー」

「あーあるのじゃあるのじゃ」

「ねー、もうちょっと置いといてくれてもいいのにー」

 

なんて話をしながら私は玄関へと向かいました。

で、はーい、なんて声を上げながら扉を開けると。

 

 

十二単をきた黒髪長髪女性と黒髪ショート少女の組み合わせが二組、立っておりました。

 

「ここは、髙森嬢のお家で間違いありませんか?」

「あ、はいそうですが…」

「よかったー…駅から遠くてどうしたものかと」

「ああ…それは申し訳ありません。え、えーっとどちら様で…?」

「あ、そっか。この格好だとはじめまして、かな。笠間典子でーす」

 

そう言って、軽く手を上げてこちらをぎゅっとする十二単の方の…おっぱいがある方。

笠間典子さんって言ってたけど…メガネを掛けてて仕事ができそうで茶髪のお姉さんタイプの笠間さん…?

ということは…笠間稲荷神社の偉い神様?!?!?!?!?

 

「笠間様、その姿でその挨拶はどうかと…。ごめんなさい、髙森様。私、王子直美と名乗っております。本来の姿は王子稲荷神社で神様を…」

「なお、かたーい。いいじゃない。どうせ私達同期なんだし」

「親しい中にも礼儀ありです。それにお家にお邪魔しているんですから挨拶はちゃんとしないと。あ、セイ。手土産を」

 

セイ、と呼ばれた少女がすすい、と扉の中に入ってきて手土産を私に持たせた。

何かな-とは思うんだけど、私、笠間様に抱きつかれてて見えないから手土産がわからない。

 

「主様ーどうした……おおぅ…」

「あ、メイ。無事人化の術成功したのですね。よかったよかった」

「お邪魔してるよー」

「笠間様に王子様…。来られるなら前もって文を送っていただければ色々と準備できたのですが…」

「サプライズってやつー」

 

やっと私を離してくれた笠間様がそういって、メイに手を降っていた。

いやぁ…おっぱいこわい…。…そして本当に笠間さんも王子さんも神様なんだなって思う。

…今後の付き合いどうしようかなー…普段どおりの付き合いとかできないよなー…



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その少女 お客様への対応中につき

現在、笠間様と王子様という二大稲荷様がお家に来ております。

というか、うちの会社、神様雇ってて凄いなあ、と思うんだけど、神様って知ってるの私だけかもしれないんだよなあ。

 

「…あの、笠間様、王子様?」

「んー?」

「なんでしょう?」

「そろそろ離れてほしいのですが…」

 

笠間様と王子様が三匹(顔だけケモノ)(メイ、笠間様のお付きの子、王子様のお付きの子)を間に挟んで、ほっぺたをスリスリしているのに対して、一番真ん中にいるメイが口を開いた。

 

「「えー」」

「……いえ、笠間様も王子様も暑くないのですか…?」

「んー、そうでもないかなー」

「そうなんですか…?メイもその子たちもモフモフしてるのですが」

「まあねー。…っていうか、高森ちゃん、口調硬いよー?」

「そうですよ。ほら、いつものように」

「………うーん、天罰とかくらいませんかね…?」

「大丈夫大丈夫ー」

「ええ、大丈夫ですわ」

 

そういって、にこやかに笑うお二人。

いやいや、なんだろう。その笑顔逆に怖いです。そしてその怖さが「ああ、この人達は本当に神様なんだな」って改めて思うことになる。

あ、現在お二人は来たときの和服ではなく、会社であうような(うちは私服可)格好になっております。

笠間様は可愛らしい服装にメガネ、そして茶髪。可愛らしい服装で仕事ができそうな雰囲気を出せるんだから本当に凄いし実際仕事できる。まあ、神様だから、それは普通のことなんだろうけれど。

対して、王子様は…あ、十二単ではないですが和服です。そういえば普段から和服でした。黒髪でロングなのもそんな変わりないです。

つまり普段から王子様は神様modeだったのでは…?って思う。

そりゃ、うちの会社のエースですわ。抜けられたらうちの会社回らなくなっちゃう。

 

「まあ、抜けたくても抜けられないからねー」

 

メイ及び笠間様、王子様のお付きの方のほっぺすりすりをやめて、そういう笠間様。

あ、そうなんだ、って思う半面、心を読まれてちょっとびっくりする。いや、神様だからできるんだろうけれど、あんまりやらないでほしい。

心臓に悪い。あとあんまりエッチなことかんがえられな…いいや、考えてないよ?!普段から「この二人レズセしてないかなー?仲いいからなー。…ああでもあんまり生物で考えるのよくないなー」って思って…ないとはいいきれない!

ごめんなさい!神様でそんな事を考えてごめんなさい!

 

「まあ、それはおいておくとして」

「あ、はい。…でえーっとなんでやめられないんでしょう…?」

「んー、うちらの神様の上司がねー」

「伏見様、って知ってます?」

「伏見稲荷大社の…?」

「そうそう」

「その伏見稲荷大社の神様が、私達の社長さんで」

「…………おおう………あれ?私普通の人、だよ、ね…?」

 

こんな神様ばっかりの会社に勤めていたとは思わなかった。そしてよく入れたな私。

…本当に私は人間?もしかしてご先祖様凄い人とか前世がすごい人とかない?

 

「話についていけないんじゃけど…」

「私もだよ、メイ…」

 

私のことなのについていけてない私とメイ。

というかメイはまだ笠間様と王子様のお付きの子にぎゅーってされてます。離れたくないのかなーと思いながら、なんだかとても癒やされました。

いいぞれずって。…いや私NTRのけはなかったです。



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その少女 お客様とのやりとりにつき

さて。笠間様と王子様が来られているお家。

そろそろお昼ご飯のお時間、にちかい11時半です。

えーと王子様たちが来たのが10時ぐらいだから、1時間半でありますね。

とても濃い一時間半でした。

その間、うちのメイさんはずっとスリスリされております。

 

「の、のう、セイにヒナよ?」

「「こゃ?」」

「いや、ワシそろそろお茶か何かを飲みたいんじゃが」

「このままーのめる?」

「のめる!」

「いやいやいやいやいや、なんで儂じゃなくてヒナが答えるんじゃ」

 

青いリボンを頭の上につけた子がヒナ、赤いリボンを頭の上に付けた子ががセイというのをメイから教わりました。

このお二人…、セイちゃんとヒナちゃんは、メイさんよりいくつか下なのでこんな話し方なのだとか。

メイさんは小学校高学年から中学生ぐらいだとして、セイちゃんヒナちゃんは小学生中学年から低学年ぐらい、と思ってくれると嬉しい。

…いやほんと、中学生ぐらいが家にいたときの恐怖よ。いやあ、ほんと、通報されなくて良かった…。

 

「どうしたのじゃ、主様?」

「どうしたの?」

「のー?」

 

なんとかスリスリ地獄から抜け出せたメイがこちらに近づきながらそう聞いてきて、そしてその後をヒナちゃんとヒメちゃんがとことことついてきました。

可愛い。可愛いけれども、たまーに心臓に悪い。

 

「いやぁ、お昼ご飯どうしようかなーって」

「あ、もうそんな時間ですか?」

「あー…思わず長居しちゃったお詫びになにか奢るよー?」

「あ、いえ、そんな、神様に奢らせるなんて」

「遠慮しなくてもいいのにー。後私ら神様ではないしー」

「あくまで神使ですわね」

「神使…?」

 

思わず首をかしげる私。

神様とは違うっていうのも神使というのもちょっと言葉しか知らないというか。あ、後、王子様とか笠間様みたいな偉い人でも神使なの…?みたいな。

いやほら、私はそういうのにまったくもって疎い世界にいた人間だし。

なんて考えていると。

 

「神様は社長、神使は部下って考えるととてもわかり易い」

「そうですね」

「そうなんですか……」

「そうそう、だから、帆乃香と変わらないよー」

 

そう言って抱きついてくる笠間様。私の身長は笠間様の胸のあたり。(笠間様173cm、私155cm)先程抱きつかれたときもそうなのだけれども、私の顔は笠間様のおっぱいに埋もれるのである。

あらあら、と笑って見ているだけの王子様。

いやほら、見てるだけじゃなくてこう、助けて?!おっぱいが顔を襲ってくるんだよ?!おっぱいが!

おっぱい怖い!私のあるかないかわからないおっぱいに手を当てて精神を安定させてるけれどとてもこわい!おっぱいこわい!

 

 

 

そんなことをしてたらお昼ご飯は王子様がうな重を頼んでてくれてなおかつお金も建て替えててくれました。

メイ達も食べれるの?と聞いてみたところ、食べれるそうです。

うなぎはとても美味しい!ので、神使様だとか偉い神様だとかはもう忘れました!いや忘れてはいけないんだろうけれど!

今日のところは忘れました!明日からはわからない!



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その少女 お胸の話につき

笠間様と王子様がやってきた次の日、つまりは日曜日の10時頃。

高森帆乃香とその飼狐、で化け狐に最近なったメイがゆっくりと休日を楽しんでいた。

 

「いやぁ…昨日は大変、だったね」

「そうじゃなあ…突然、だったからのぅ…」

「本当にねえ…。はー、明日から笠間様と王子様を見るたびに「ああ、この人達、そういう、こう人を超えた人たちなんだなあ」って思うわけだし、社長の写真を見るたびに「ああ、この人もこう人を超えた人なんだなあ」って思うようになるんだろうなあ」

「なかなかに…あれじゃのう」

「そうだねえ…」

 

ため息をつく私。

いやほら、本当、昨日はいろいろありすぎたと言うか。いろいろとわかったことがあって頭が一杯一杯になったというか。

ほんと、世の中って不思議でいっぱいなんだなぁ、とは思いました。

…いや、今にして思えば、メイのことも大分不思議だよね。

私の周りが不思議でいっぱいなだけかもしれないけれど、…まあ、いいや、いろいろと考えてても仕方がない、とは思う。

 

「ど、どうしたのじゃ?なにかこう眉間にシワを寄せておるぞ?」

「ああ、いや、なんでもない、なんでもないの」

 

心配そうに、半狐(狐が二足歩行してると思ってほしい)状態で私の顔を見つめてくるメイにたいして、急いで横に首を振る私。

とはいえ、そういう対応も更に心配させるんだろうなあ、と思いすぐに首を止めてじぃ、とメイをみる。

…ところで。

 

「ねえ、メイ?」

「なんじゃ?」

「胸、苦しくない?いやほら…私のブラサイズとメイのブラサイズ、合わないだろうし…」

「んー…。苦しいのじゃ。いや、ブラサイズの問題じゃなくての?メイはこういうのやったことないし…」

「…それもそうか。メイ、狐だったもんね。だけれど、人として生きていくならあんまりノーブラで生活してほしくないしなあ」

「そうなのじゃ?」

「うん。まあ、あれなのよ。エッチな目で見る人はいっぱいいるからね」

「主様みたいに?」

「……何も言えない」

 

いや、ほら、なんというか、おっぱいじゃん?

そりゃ、おっぱいが揺れてたらつい見ちゃうよ。いやほら、揺れちゃうのを隠すためにあれですよ。

やっぱりブラって大事だよね。

 

「…むぅ、そうじゃ。主様」

「ん?」

「デート、にでもいくかの?デート、というかお買い物じゃが」

「そうだね。…流石にいつまでもノーブラっていうのもあれだし、更に私のサイズの合わないブラでメイのおっぱいが崩れても困るしね」

「崩れるのじゃ?!」

「崩れるらしいよ?」

 

いや、よくわからないけれど。私は崩れるほどない…いや、ないけれど?!

うん…仕方ないですよ。育たなかったんだもの。私の胸は育たなかった。

しかた、ないね。

 

 

 

ということで、メイとお買い物へいくのです。



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その少女 初デパートにて

「主様ーはようはようー」

「まって。まってー。エレベーターも下着もはそう逃げないよー」

「むぅ」

 

はい、ということでメイと一緒にデパートに来ております。

まあ、なんというか、そのメイの胸と私の胸のサイズが全然違うので、メイに合う下着を買いに来ました。

んー、私もメイに合わせるべきか…。でもPADかあ…。ならそのままでもいい気がするんだよなあ…。

 

「どうしたのじゃ、主様。難しい顔をして」

「いや、なんていうか。同じ性別なのにここまで違うかーと」

「?」

「…まあ、今更考えても仕方ないよね。女性下着売り場って何回だっけなー」

 

なんて、言いながらエレベーター乗り場にある案内板を読んで。

 

「二階じゃな」

「二階かー…。じゃあ、エスカレーターか階段でいいかな」

「そうじゃな。…儂はできるだけこの階から離れたいのじゃが」

「ん?…ああ、そうか、化粧品?」

「そうじゃ…。なんかこう、気持ち悪くなりそうでの」

 

まあ、狐…というか、犬科の皆さんは人間の嗅覚より優れてると言うしあんまり強烈な匂いのところにいるとそうなるのかもしれない。

まあ、私も化粧品の匂いが混ざったところにあまりいたくないし、さっさと一階を離れようと、エレベーター乗り場の隣りにある階段を上がって二階へいこうとあるき出す。

 

「しかし、主様もそうなんじゃが、毎朝、あんなにきつい匂いを体につける人間ってすごいの」

「あー。そうね。人以外からしたら化粧って不思議な事だよね」

「そうなのじゃよ。元々お風呂とか入っていい匂いなのじゃからそんなに盛らなくてもいいと思うのじゃが」

「まあ、そうね。若いうちはねー…」

 

そう、若いうちはあまり化粧しなくても「かわいいねー」とか「美人さんだねー」と言われるが、まあある年齢を超えてくるとそうも言ってられなくなる。

お肌の曲がり角、と言われるんだけれど。ほんと、化粧のりが悪くなるというか…なんかすごい悲しくなる。

私も子供の頃はなんであんなに盛るんだろう、って思ってたけれど実際その歳に近づいたりその歳をちょっとこすともるようになる。

…まあ、そんなすごい悲しい気分になっていると。

 

「あ、…その、ごめんなのじゃ。主様。でも、主様はそのままでも十分かわいいのじゃ…」

 

そう言って、私は顔を覗き込んでくるメイの頭をなでてやる。

いやあ、まあ、なんだろう。身内とは言え、「かわいい」とか言われるのはやっぱり嬉しいもので。もっともっと皆言っていこう、って思う。

 

「ん、ありがとうメイ。メイも可愛いよ」

「えへへへへへへへー」

 

にこにこと笑いながら、抱きついてくるメイ。うん、可愛い。

…いや、そうではない。なんか見られてるな、と思ったらここデパートだし、階段の踊り場だ。

いやあ…なんかこう恥ずかしくなってきた。

 

「…い、いこっか」

「そ、そうじゃな。儂の胸が崩れないうちに」

「そうだね!」

 

そそくさ、とその場を離れる私とメイ。いや、まあ、そんなに早く胸は崩れないけれども。

擦れたりして痛くなる前に、さっさと下着を買おうと決めました。



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その少女 買い物に付き

さて。メイと一緒に来たデパートの二階。

 

「のう、主様」

「なぁに、メイ」

「下着と言ってもいろいろと種類あるのじゃな?」

「そうだねえ。…メイはどういう下着がいいの?」

「うーん…主様が気に入ってくれるならなんでもいいのじゃが…」

 

なかなかに難しい問題を投げられました。

いやいや、メイに似合う下着かあ…。いや、中学生ぐらいなのだから可愛い下着でいいんじゃないかな、と思もうんだけれど、でも中学生の頃ってちょっと大人っぽいのを好むだろうし…。

…いや、ちょっとまって?

 

「ねえ、メイ?」

「なんじゃ?」

「メイは、人間でいうと何歳ぐらいなの?」

「うーむ…。中学生ぐらいかの。14歳といったかや?」

「ああ、なるほど、じゃあ中2から中3ぐらいか。となるとそんなに可愛いのはあれかな?」

「かもしれないの…」

 

ふむ。私の中2ぐらいってなんだっけなあ。

…あれだ、スポーツ下着だ。そして今もスポーツ下着だ。いや着やすいんだよ、スポーツ下着。

やはり、私は参照にはならなかった。まあ、仕方ないね。帰ったらビールのも。

 

「…さて、胸囲は測っててよかったね」

「そうじゃな。Dじゃったな」

「うん、D。店員さーん」

「はい、お呼びでしょうか」

「えーっとこの子に似合いそうなDサイズの下着を探しているんですが」

「はい、こちらの方ですね?」

「よ、よろしくおねがいします」

 

少々緊張気味のメイ。まあ、そりゃ自分が変化した狐だってバレ内容にしないといけないし、そうでなくても他人に裸を見られるって緊張するよね。

…いやまあ、裸を見られるわけじゃないんだけど。まあ、なんだろうね。あれだよね。

さて、店員さんに連れて行かれたメイ(お財布にクレジットカードをいれて持たせてあげた)を見送りながら私は下着売り場をちょっとうろつく。

いや、最近の下着はすごいね。ほんと可愛いものからこう際どいものまでいっぱいある。

いや、多分私が中学生の頃からこういう可愛いものから際どいものまであったんだろうけれど。私には両方共縁遠いものだったけれどね…。

 

「主様…?」

「ん、どうしたの、メイ」

「いや…えーっと下着買えたのじゃが…ちょっと見てもらってもいいかの?」

「ああ。うん、そうだね。じゃあ、えーっと試着室試着室ー」

 

といって、試着室へ向かう道すがら。

なんかドキドキしてきました。いや、まだメイはペット…いやなんだろう、ペット…。

 

「どうしたのじゃ?主様?」

「…いやなんでもないよ?」

 

いけないいけない、顔がこう真っ赤になりそう。

…いや、ほら、ペットと主人を超えたことはなんどかしてる…かもしれないししてないかもしれないけれど。

あれぇ…風邪引いたかな…?そんなはずないよなあ…。

 

 

どきどきした試着タイム、とても満足しました。

とてもとてもかわいくてお似合いでした。



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そのOL 酔っぱらいにつき。

メイの下着を買った翌週の金曜日のこと。

私は5時から始まった会社の飲み会を早めに切り上げ、8時ちょっと前から帰路についておりました。

 

「いや、ですからね。私は言ってやったわけですよ…、わかりますか、典子、帆乃香」

「あ、はい…」

「なお~、それ何度目ー?あと分身しないでよー…」

 

何故か酔っ払った王子直美様と笠間典子様と一緒に。いやほら、神様って・・あ、じゃないか、神使様ってお酒強いんじゃないの…?

あ、私も相当飲んでます。…が、この二人ほど酔ってないというか。この二人を見なきゃいけないのでそんなに酔えないというか。

ちゃんと水飲ませてはいたんだけれどー、まあ。それはそれでもこの状況なのは…どういうことなんだろうね…。

とりあえず私はお二人に水のペットボトルを渡しながら、やれやれ、と思うのでした。

 

「私は分身してません!大体にして典子!貴方はお酒そんなに強くないんだからそんなに飲んではいけないっていったじゃありませんか!」

「うぇー…。わかってるよー。わかってるけれど、お酒美味しいし…」

「そんな事はわかっております!ですが、ちゃんと大人として…!」

「人目につくから落ち着いてください、王子様」

「帆乃香も帆乃香です!いつまで「王子様」呼びなのですか!私達、お友達なのですから、直美と呼んでくれたっていいじゃいいじゃないですか!」

 

あ、やば。こっちに攻撃が飛んできた。

いや、確かに友達って言ってくれるのもそう思ってくれてるのも嬉しいんだけれど、なんだろう。流石に王子様レベルの神使さんを直美、と呼び捨てもできないしかといってさんっていうのは…。

あ、そうそう。流石に王子様呼びなのはこういう風に三人でいる時だけです。会社の人達とか…電車の中ではさすがにさんです。

いや、今回は「様」呼びしたけれど。

 

「いやいや、王子様だって始めは…」

「始めははじめです!それ以外はずっと、帆乃香呼びでしょう!」

「あ、はい」

 

まあ、酔っ払ってない時は高森さん呼びだけれど。帆乃香呼びするのはどちらかと言えば…

 

「zzzzzzzzzz」

 

いつの間にか私に寄りかかって眠っちゃってる笠間様である。

いや、なんていうかいいんだけれども。いや、良くないよ。お胸が見えそうだよ!

 

「……………すぅ………」

 

王子様もいつの間にか私に寄りかかって眠りについっちゃったよ!いや、このお二人お胸大きいから気をつけないといけないのに!

 

「すぅ…帆乃香…もっとなかよく…」

「zzzz……帆乃香…もっと私やなおを頼っていいんだよ……」

 

まあ、お二人から見れば私は後輩なわけだし、ずっと心の中でいろいろあったし、メイのこともあったから、今、爆発したのかもしれない。

まあ、私としてはこの二人のお手を煩わせないように、と頑張ってきたけれどそれがちょっと迷惑だったのかな、って思う。

もうちょっと頼ってあげよう、と思った。

 

 

ただ、今一番頼られてるのは私、なんだけどね!

とりあえずメイに連絡して、お二人のお付の方に…と思ったけどセイちゃんヒナちゃん幼すぎるからあんま外出したくないなあ…。

…とりあえずメイとの連絡が先だな、って思いました。

 



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そのOL 酔っ払い達の世話の途中により

さて電車内から、私の最寄り駅におりそこから私が住んでるマンションまで歩いていきたいんだけれど。

 

「んぁー…眠いよぉ…帆乃香ぁ……だっこぉ…」

 

眠気眼で尚且甘えてくる笠間様と。

…というか甘えていいんだよって言ってたのは笠間様だったような…

 

「ごめんなさい!高森さん!酔って説教なんて私なんてはしたない事を…」

 

ちょっと眠ったら大分酔がマシになったのか、なんかこのまま五体投地しそうな王子様。多分まだ悪いお酒残ってる。

後、笠間様いい匂いなんだかお酒のにおいなんだかわからない匂いがまざってる。いやあ、私そんな酔ってなくてよかった。

いや、これ、絶対もうちょっと酔ってたら悪酔いして戻してた。よかった…助かった…。

 

「ほ、ほら、典子!しゃきっとしなさい」

「えぇー、いいよぉ…。なお…ねよぉ…」

「きゃっ!寄りかからない!」

 

私から王子様にターゲットを移した笠間様。

いいぞ、もっとやれ。…じゃないわ。

いやたしかにこれ以上どうなるかは見ていたいけれど。流石にここは公共の場。

 

「ほ、ほら、皆さん見てますし…」

「そ、そうですよ。ほら、典子!」

「んぅ………」

 

そう言いながら、王子様から離れない笠間様。

ただ、あまり迷惑そうに見えない王子様。まあ、コレは完全にアレですね。付き合ってますね。

やりました、百合百合してます。大勝利です。

 

「…高森さん?」

「はひっ?!」

「………貴方もこの酔っぱらい百合百合にはいります?」

「あ、ごめんなさい」

 

そうだった。王子様、神使様だから心の声読める…?

いやわからないけれど!それはわからないけれども。

まあ、それでもほら、見てる分にはあれだから。セーフだから。

…こういう思考に支配されるってことは私も大分酔ってた。まあ、仕方ないね。酔っ払いと一緒に飲んでたんだもん、酔っちゃうよ。

雰囲気にもやられちゃうし、お酒にもやられちゃうよ。

…とりあえずホームを出て近くのコンビニにやってきました。

 

「とりあえずお味噌汁ですかね」

「お豆腐がいいですわね」

「えぇ…しじみじゃないの…?おるにちん、だっけ…?」

「オルニチンもいいのですが、なんかお豆腐の…なんでしたっけ…?」

「いえ、お豆腐は私の趣味です」

「なるほど」

「なおの趣味はいまはいいよぉ…しじみかっておこ…」

 

ふらふらーと、お味噌汁売り場に向かっていく笠間様。

いやちょっと危ないので、とその手を取りながらお味噌汁売り場へ向かう王子様。

うん、やっぱりいい。とてもとてもいい。

なんて思いながら、メイに電話するのでした。

 



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そのOL 帰宅にて

はい、ということで。

酔っ払いの神使様連れて、酔っ払いの私が私の愛しいメイが待つ私のお城に帰ってまいりました。

あ、ちゃんと電話しました。多分、王子様と笠間様の・・・、いや、流石に無理か。

化け狐ちゃんたち、って言っても姿が幼すぎるもの。流石に夜に歩かせたりしないよね。

なんて思いながら、私の家の扉を開けたら。

 

「この度は我が主が申し訳ございませんでした」

 

なんて、正座しながら和服の女の人が言ったから思わず扉をしめました。

あれ?これデジャビュ…?

なんか見たような気がするけれど…。いや、我が主って言ってたし、メイでないことは確かなんだけれども。

 

「あー、主様や、主様や」

「な、なにかなメイ」

「あれじゃ。セイじゃ。決して知らない女の人ではない」

「…セイちゃん…?」

「そうじゃ。セイじゃ」

 

セイちゃんってあの小学生ぐらいの…?いやいやまさか

 

「あー、そうですね。高森さんに、あの姿を見せるのは初めてでしたっけ」

「…かもぉ…」

「そうなんですか?!っていうかあの姿?!」

「普段は小学生ぐらいですが、いざとなるとああなります」

「…ねぇ…普段も可愛いけどあの姿もかわいいよぉ…」

 

なお、あの後聞いた話によると、ヒナちゃんが王子様、セイちゃんが笠間様のお付きの方らしいです。

ということは、大人になっているのは笠間様の方のお付きの方、ということで…?

 

「そろそろ扉の方開けてもらってもー…?」

「あ、ごめんなさい」

 

扉の向こうから、そんな声が聞こえたので、とりあえず扉をあけてお部屋の中に。

やっぱりメイと…和服の、和服のとても美人な方が一緒にいらっしゃる。

そしてこの間来てた、ヒナちゃんがいました。ひなちゃんはロリのままでした。

 

「ねーねーセイ」

「なんですかヒナ」

「なんでヒナはロリのままなのー?」

「………元の姿に戻ればいいじゃないですか」

「あっ、それもそうかー」

「…メイももしかして其の姿仮の姿なの?」

「いや、儂はまだ、なりたてじゃからの。大人の姿にはなれんのじゃ」

「そういうものなの?」

「ものじゃ」

 

なるほどなるほど。なんだろう、妖力とかそういうものなのだろうか。

なんて勝手に理解し、勝手に納得しました。

なんて納得している間に、笠間様がその大人になっているセイちゃんに抱きついてました。

 

「えへへへへへ、セイ-…。いい匂いー」

「主様はお酒臭いです」

「えへへへぇー、いっぱい飲んできたー」

「でしょうね」

 

やれやれ、と呆れながら笠間様を抱き返すセイさん。

いいぞ、いいぞ。

 

「高森さん?」

「あっ、はい、申し訳ありません」

 

いけない、押しカップル替えはいけない…。

というか、隣で笑っている王子様がちょっと怖かった。

 

 

はいということで、元の姿になったセイさんが笠間様をおぶって帰って、オネムのヒナちゃんを王子様がおぶってかえりましたとさ。

私?私は…ベッドいった記憶はあるけれどそれ以降の記憶がなくて、気がついたらメイと一緒に裸でネてました。

…いっせんこえちゃった?!?!?!?!?!

 



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その少女 お留守番中にて

「さて、主様は会社へ行ったの」

 

先週の金曜日、でろでろに酔った王子様と笠間様を連れてきた主様。

この休日は見事に二日酔いでつらそうだったので、儂、メイが看病しておった。

そして、今日は月曜日。主様である、高森帆乃香はOLさんとしてお仕事へ行ってしまった。

…ということで今日は、儂、メイのちょっとした日常を皆様に知ってもらおうと思っての。

 

まずは、主様のお弁当作りじゃ。今日は、卵焼きと鶏の照焼、あと簡単なさらだじゃな。

主様が持っていくぽっとにはお味噌汁を入れておる。今日の具はなめこ。

なめこ汁は美味しいのじゃよ。

 

続いて、主様を起こして、お弁当と一緒に用意しておいた朝ごはんを主様に食べていただく。

今日はぱん、と炒り卵、…なんといったかの。そうじゃ、すくるらんぶるえっぐじゃ。

ぱんとすくらんぶるえっぐとこーひー。主様は朝はどちらかと言えば、ぱんしょく、のほうが好きらしい。

むぅ…。まあ、それはそれでよいのだが。儂はどちらかと言えば和食のほうが得意なのじゃ。いや、主様が毎日和食では飽きる、とおもって練習はしておるがの。

あ、後最近は、中華も練習はしておるの。…あ、うちは餃子とか味見できんで、其のへんはすーぱー、で出来合いのものを買ってきておる。

いやほら、いくら人化してるとは言え、玉葱は食べれぬし(酢豚のときは、玉葱は抜いておる)、あまり味濃いのは好かぬ。

主様はそれなりに味濃いのがお好きなのだがの。其のへんは主様に合わせて作っておる。

 

さて、主様を見送った後、まずはお掃除から始まる。

このお部屋は3LDK、三部屋とだいにんぐ、きっちんじゃったかの。確か家賃は七万、とかいっていたかの。

 

「まあ、郊外だから、そんなに高くないよー」

 

とのこと。…都内でこのぐらいというと15万とかするらしいのじゃ。恐ろしいのじゃ。

いやあ、なんていうか、その。人間様はとても大事じゃのお。ほんと、主様を見てるとそう思うのじゃ。

 

そうそう、お掃除をしながら洗濯機、も回しておるのじゃ。

まあ、この時期はほぼ部屋干しじゃな。もうちょっと、時期が行くと、外干しするのじゃが。

…というか外干しするの夏から冬にかけてだけって主様いっておったの。花粉がなにやら、っていっておったのじゃ。

…あれ?主様花粉症だったかや?なんか、そんな記憶は一切ないのじゃが。まあ、そうならないために部屋干しっていうのもあるかもしれんからの。おひさまの匂いは、とりあえず夏から秋にかけて、楽しむとするのじゃ。

 

 

と、とりあえずお昼まではこんなところかの。

 



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その少女 家事中につき

とりあえず、どこまで説明したかの。

そうじゃ、洗濯までだったかの。部屋干しの話もしてあったの。

掃除と洗濯を終えるとちょうどよくお昼の時間に近づいておる。

ここはぐうたらたいむ、というやつじゃ。お茶を飲んだり、読書をしておったりするの。…あ、時たま酢飯も作っておる。まあ、お昼ご飯の準備じゃな。

家事の時も読書の時もらじおがお供じゃ。まあ、もっぱらろーかるらじお局、えっとなんていうんじゃったかの。

えーえむ、じゃなくて…そうじゃ、えふえむじゃ。えふえむのらじおを聞いておるの。まあ、たまーにご主人が好きなタレントがやってるラジオを聞いてることもあるが、そういうのはなんじゃろう。

ばらえてぃ、みたいなのじゃ。だから聞き始めると本じゃなくてらじおに集中してしまっての。とっちらかっちゃうのじゃ。

ので、家事中とか本を読むときはえふえむがおおいの。聞いてるところは…まあ、場所が特定されそうじゃから言わぬ。

突撃されてきたら怖いからの。

 

さて、ちょっとのんびりしてお昼の時間になると儂のお昼ご飯の準備じゃ。

とはいえ、ご主人がいないからの。手抜きが多い。きつねうどんかお稲荷さんがおおいの。豪華にしたいときは五目ご飯を作ってそれをお稲荷さんの具にしておる。

何?やっぱりお稲荷さん、というか油揚げ好きなんじゃな、って?

そりゃ、そうに決まっておろう。美味しいのじゃぞ、油揚げ。こう、ぎゅっ、と味が染み込んでおっての。こうなんとも言えないのじゃが、こう、こう、美味しいのじゃ。

美味しいものを美味しいといえるのは幸せ、そうじゃろ?

このときはてれびを見ておる。…てれびをみているのは本当にこのときぐらいか、後はご主人が一緒にいるときぐらいかの。そのご主人も基本的に映画を借りてきてたり…最近は、ぴーえすふぉー?とやらのあまぞんぷらいむ?かあとはしーえす?の番組を見ていることが多いので、ちじょうは、との時間はこのぐらいじゃ。

まあ、それで大抵のことがわかってしまうからの。最近は情報社会、というが、ちゃんと欲しいものを取れる事なんて、そうないしの。てれびでばらえてぃをみるのはお昼ご飯の時間、で十分じゃ。

にゅーすは正直、らじおといんたーねっと、で取れるしの。

 

さて、お昼ご飯を食べたらー…、皿洗いをして、後は夕方のご主人の迎えとお買い物までぐうたらたいむじゃ。

大抵、昼までに家事終わるからの。…そうそう、この時間にお昼寝をしてしまうことが多いのじゃ。

いやの、らじおから聞こえてくる音楽もまた、いい睡眠導入になっての?気がついたらよく寝ている事が多い。

いやあ、ほら。後、日差しがちょうどよくの。いい感じで…指してくるんじゃ。するともう眠りについてしまう。

 

 

起きるとまあ、大抵夕方のご主人迎えとお買い物のお時間に近づいておる。

準備して、出発じゃ。



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その少女 お迎えにつき

所謂、お昼寝から起きるとちょうどよく主様である帆乃香が会社を出る時間に近づいておるので、買い物も兼ねての迎えに行く、というところまで解説したかの?

ということで、さ、っと準備をして、お迎えに出発じゃ。本当はお風呂にも入りたかったんじゃが、まあ、それは家に帰ってからかの。

しっかし最近のでんしきぐ、はすごいの。遠く離れてても、でんわ、ができなくとも、すぐ連絡がつくのじゃからの。人間の進歩はほんと、すごいのぉ。

…いや、儂、そんなに歳とっておらんがそう思うってことは、ほんと、歳のいったおば…お姉さま方はもっとそう感じるんじゃろうなあ。

むぅ、歳には勝てん、ということか…。いや、だから儂そんなに歳いっておらんのじゃが。大事なことだから二回も三回も言うぞ。

 

と、まあ誰に対しての言い訳かは置いておくとして。

とりあえず地元の最寄り駅から、電車に乗り2,3駅離れた大きな街に電車に乗ってゆく。

いや、そういうのはそうそうないのじゃが、今日はちょっと外食を、と主様に言われたから、お出かけでもあったのじゃ。

まあ、今日は平日なのじゃが…主様、この週末の埋め合わせに、明日、明後日と有給?とやらを取ったと言っておったし。デートも兼ねて、というところかの。

…いや、まだ主様とそういう関係になってないわけじゃが。

いやあ、なんじゃろうな。アプローチはしておるのじゃが、未だにあたりがないというか。いやだって、好きな人jとじゃないと下着なんて買いに行かんじゃろ?!それなのに、話が主ときたら…。

いや、まあ、そんなところもまた好きなんじゃが。むしろ、そこが変わったら、なんじゃろう。我が主じゃない、というか。

…まあ、なんじゃろうね。他の…他の人間だと、そんなに好かれそうにないのじゃ。いや、まあ、ほら。それはそれ、これはこれ。

 

なんて思っていると、目的の駅に電車が到着したのじゃ。まあ、けいたい、でねっと、を見ていると数十分なんてあっという間だしの。

いや、ほんと。最近のでんしきぐは本当にすごいのう。…さて、儂はこれ何回目かの。

でも本当に凄いのだから、素直に褒めるのじゃ。…なんて思いながら、儂は人並みに飲まれつつ目的地、主人との待ち合わせ場所である本屋さんへ向かうのじゃな。

大きな本屋さんだから、待ち合わせの時間よりちょっとだけ早く着いても時間を潰せるのはだいぶありがたいことじゃな。昔じゃったら…、どうしてたのかのぉ。けいたいでんわもないし、こういう大きな本屋もそうそうあるわけではない。

ほんと、主様と儂が出会ったのが、今でよかった。もし、時期がもうちょっと早かったら、…会えていなかったかも、しれんからの。

そう考えると、神様には感謝じゃ。

 

「…だーれだっ!」

「主様」

「せいかーい。…もうちょっと悩んでくれてもいいのに」

「儂にこういうことをするのは、主様ぐらいじゃろ」

 

なんて、話しながら首だけで後ろをみると、やはり主様、こと帆乃香であった。

にっこり、と笑っているので、こちらもつられて笑って。その後、体をくるり、と回転させぎゅぅ、と抱きつくのじゃ。

抱き返してもらって、こうして、儂の一日はほぼ終わる。普段だったらこれから夕飯の材料かって夕飯作りがあるのじゃが…。

 

 

 

今日は、これから、でーと、じゃ。



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その少女 デート中につき

地元の最寄り駅、から5駅ほど言った、それなりに大きな街の本屋。

そこで私、高森帆乃香は一緒に住んでいるメイ、とよんでいる少女、と一緒にそこにいました。

いや、メイはほら…妖狐、だっけ?なんかそんなのになった愛狐だから一緒に住んでいるのは全然おかしくないし犯罪ではない。

もしかするとメイのほうが年上の可能性もあるから、メイのほうが犯罪者に…、いや、犯罪狐に…?

いや、これ以上考えるのはよしておこう。悲しくなっちゃうからね。

 

「ん?どうしたのじゃ、主様」

「いや、なんでもない」

 

首を振って、そう言って。せっかくのデート、なんだし、そんな事考えちゃだめだよね。

いや、こっちはデートと思っていてもむこうはどう思ってるかはわからないけれど。

よくあるんだよね、リリィトラップ的な何かが。…いやそういう呼び名でいいのかはよくわからないのだけれども。

むこうはどう思っているかわからないけれど、こう、最近ね。私、メイを家族、…いや、たしかにそういう関係も家族って呼ぶんだけど、そういう家族じゃなくて、こう…夫婦的なね?感情をね?持っている気がするんですよ、私。

まだ、その感情を恋とかなんとか言っていいのかはわからないけれど、メイのことは今まで以上に大切にしたいな、なんて。

 

「………のぅ、主様?」

「何?」

「主様、儂の事妖狐、といっておったじゃろう?」

「えっ?ああ、いや言った…?言ってはいないよ?思ってるぐらいだよ?」

「まあ、そんなことはどうでもいいのじゃ。…主様の気持ちは、本当かの?」

「えっ、あっ…。う、うん。それは本当だけれど」

「ふむ…」

 

え、あれ?!妖狐さんって心よめるの?!

いや。本当に?いやよく知らないからあれなんだけれども。いや、どうなんだろう、いやほんとそこ。笠間様と王子様は神使だから心読めてもおかしくないし、実際読まれたけれども、普通の狐も読めるものなの…?

 

「…ん。まあ、今日のところはそんな感情を持っている、とわかっている所がわかったのでよしとするのじゃ」

「んえっ?!そう…?いや、でも、うん。…今日ね、ちょっと気合い入れていいところのレストランと、いいホテルを取ってあるから…」

「…………なんか急に照れくさくなるの?!」

「…ね」

 

いやほんと、そんなつもり、ではなかったんだけれども。

なんか、こう、そんなつもりで取ってるように取られちゃったかもしれないしむしろ自分がそう取っちゃってるからこまる。

いや、だいぶ混乱している私。どうする私、次からどうする私。

 

「…主様…」

 

そういって、ぎゅぅーと抱きついてくるメイの頭をなでながら、とりあえず、ディナーの予約をした料理店へいくのです。



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そのカップル ディナーのあとにつき

さてさて、私とメイは予約していたちょっとお高いレストランで食事を終えたあと、そのレストランの近くにあるホテルの一室で、ワインをいただきながら外を眺めていました。

いや、なんていうかその、あれなんですよ。…すごい緊張する。ワインの味がよくわからない。

 

「…主様」

「なっ?何かな?!」

「いや、この街、きれいじゃなって」

「…そうね。めったにこないからね、ここ」

「そうじゃなあ。うちの近くで事足りるものな」

 

そう言いながら、ワイングラスを口に運ぶメイ。…メイは、どう思っているんだろう。私はドキドキが、止まらないんだよ。いや、ほんと。あの時、酔って帰ってきてからの朝。二人して裸で寝ていたあの時から、ちょっと意識して、ドキドキすることが多くなった。

メイは…どうなんだろう。聞いてみたい気もするし、聞いてしまったら、今までの関係ではいられないような気がして、それが怖い。ドキドキしてくれてるかな、それとも、何も感じないのかな。ぐるぐる、と私の頭の中を色んな考えがめぐる。

いや、考えてても始まらないんだけど。

 

「……主様」

「はいっ?!?!?!?」

「主様は………、儂の事、どうみてるんじゃ?」

「んえっ?!?!?!?!?!?!?ど、どうって?!」

「ペットとしてみているのか、それとも…その…」

「…………、え、えっと、ほら。いつだったか私が酔っ払って帰ってきた時あったじゃん?」

「先週の金曜日のことじゃな?」

「あれ、まだそんなたってない?ま、まあいいや。あの日、二人して裸で寝てたじゃないですか」

「あー。あれな?大変じゃったんじゃぞ、ベッド行ったあと、主様嘔吐してな?」

 

嘔吐してたー!!!!そりゃ、MAPPAにされますよ。そりゃMAPPAで寝ますよ!

…いや、とんでもない事実を知ってしまった。そうかー、私嘔吐してただけかぁ…。よかったような、よくなかったような。

 

「…それは申し訳ない。ところでベッドは大丈夫そうだったけれども?」

「まあ、ご主人の服とご主人と儂が被害受けたからの、あとちょっと床も汚れたからその後掃除したが」

「いやほんとごめんなさい…」

「いや、いいのじゃ。…………ところで、その時、体を洗うためにシャワーを浴びたんじゃが?覚えておるだろうか?」

「シャワー………?シャワーがどうしたの?」

「いや、覚えてないならいいのじゃ。うん」

 

いや、嘔吐したんだからそりゃシャワーぐらいは浴びるけれど、それがどうかしたのだろうか。…いや、ちょっとまって?シャワー……?

いやいやいやいや、そんな、まさか。

そんな、えぇ……?いきなりなんていうかニッチすぎない…?

 

「…と、とりあえずあれだよ。…うん……」

 

とりあえず、私は、決めた。どんな結果になるかは、わからないし、というか最初がそういう場所だったのはともかく、それで嫌われたかもしれない、し。それでも。

それでも私は。



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そのカップル 告白につき。

私、高森帆乃香は自慢ではないが、今までの人生で告白、というものは受けてばかりでこちらからしたことはなかった。とはいえ、されたことも両手で数えられるぐらいなのだけれども。少なくとも、こちらから、というのは今回が初めて、…で、もしかしたら最後になるかもしれない。そう、最初で最後、にする予定の告白。

……すごい、緊張する。いや、さっきまでも緊張したけれど、それとはまた別の緊張というか。

 

「「あ、あの」」

「あ、メイからどうぞ?」

「いやいやいやいや、主様からどうぞなのじゃ…」

「……………」

「……………」

 

みたいなやり取りを何度か繰り返している。まいった、私達は思春期の中学生か何かかな?

とりあえず、緊張をほぐすためにワインを、なんて思ったけれど、うん、ペース上げすぎてもきっとこの間の二の舞である。少し自重しよう。…ちょっとだけ、ホテルのルームサービスを頼んでたりしている。

大丈夫、…きっと、大丈夫。

 

「あ、あのね、メイ」

「な、なんじゃろ、主様」

「…んとね……」

 

思わずもじもじしてしまう私。いやだって、初めての告白だよ?!緊張もするよ。

私に告白した人たちも、きっとこんな気持だったんだろうなあ、って思うとちょっとおもしろくなってくるけれど、まあ、本人的には笑えない。

そんなこんなでなんか時間を過ごしていると、途中でルームサービスがきたので、それの対応をして、改めて。

 

「…そのね、メイ、がどう思っているかはわからないけれども。あのね、私」

「うん?」

「その、ね。メイのことが、その…」

「…………」

 

なにか、期待しているのか、それとも、ただ、待っているだけなのか、わからないけれども。メイが黙って私の話を聞いてくれている。ここで、下がっては女がすたる気がして。

 

「あのね、メイ。私、私、メイのことが」

「………」

「好きなの。その…、家族、として、じゃなくて、一人の女の人、として」

「…………」

 

くるり、と後ろを向くメイ。…まあ、それも、そうか。まあ、そうだよなあ。女の子同士だもんなあ、なんて肩を落としながら。

 

「あ、アハハハ、ごめんね。こんなこと言っちゃって。冗談だよ冗談。驚いた?」

 

いや、冗談にしようとしているけど、自分でも声が震えているのがわかる。いや、でもそれはそうだ。私も、メイも。女性で、同性だ。同性からこんな告白されたら、嫌だろう。なんでそんな単純なことに気が付かなかった。

…いや、気がついても見て見ぬ振りをしていただけかもしれない。私は、後をむいたメイにたいして。

 

「本当にごめん。………ちょっと頭冷やしてくる。大丈夫、すぐ戻ってくるよ」

 

そう言ってから、後ろを向いた、メイに対して、背を向けた。



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そのカップル 返事につき

儂、メイは告白される方するのも告白されるのも生まれてはじめてである。まあ、初めてで最後になりそうなのじゃが。

いや、そもそもこういうところで告白ってことはそういうことであろう。儂、テレビでよく見たからな。きっとそういうことなのじゃ。

うーん、あれじゃ、ニヤニヤがとまらん。落ち着け儂。

 

「あのね、メイ。私、私、メイのことが」

「………」

「好きなの。その…、家族、として、じゃなくて、一人の女の人、として」

「…………」

 

き、きたのじゃ。い、いかん、顔が。顔が…!

思わず、ニヤニヤしたまま儂は後ろを向いた。落ち着け儂。顔を、こう、落ち着かせるんじゃ。

…………、いかん。ニヤニヤもそうなのじゃが、顔があっつい。多分鏡で見たら真っ赤じゃ。なかなか主様のほうを向けん。

なんて、思っておったら…

 

「あ、アハハハ、ごめんね。こんなこと言っちゃって。冗談だよ冗談。驚いた?」

 

震える声でそういった主様。い、いかん、完全に誤解しておる!そうじゃないのじゃ、ただ、儂の。儂の顔が見せられたものじゃないから。と、とりあえず早くそちらを見なければ。

…いや、今のとんでもない顔を見せて平気じゃろうか…。いやでも、だいぶ勘違いしておるじゃろうし、ぱっと、顔を上げて後ろをむこうとしたときには。

 

 

「本当にごめん。………ちょっと頭冷やしてくる。大丈夫、すぐ戻ってくるよ」

 

そう言って、儂に背を向けてあるき出そうとしている主様が。

い、いかんっ!これはいかんぞ!……儂は主様の方向を向いて、服を掴む。

 

「……どこへ行こうというのじゃ」

「どこって………、メイには関係ないでしょ」

「関係なくないのじゃ…!まだ、返事を言ってなかろ?!」

「返事…?返事をきかせてくれるの?」

「…のぅ、主様。主様は、儂が人になって主様と初めてあった時、覚えておるかの?」

「………うん」

「そろそろ一ヶ月になるかの。色々あったのぉ、主様」

「そうだね。濃かった。…………とても濃かった」

 

頷きながら、どうやら、ちょっと泣いている主様。ああ、そうか。儂の、対応は少し間違っておったのかもしれぬ。とりあえず、抱きしめる。凄いドキドキしておる。

 

「のぅ、主様。主様が告白、をしてくれた時。とても嬉しかったのじゃ。嬉しくて嬉しくて、顔がとても、な。見せられたものじゃなくて…」

「…いや、とかじゃなくて…?」

「嫌だったら儂はさっさと帰っておったし、そもそも、この街へはこないの」

「…本当に…本当に…?」

「本当の、本当じゃ」

「……メイ、あのね………」

「わかっておる。主様の気持ちはわかっておる。……のぅ、主様。儂、妖狐になって日が浅いし、まだまだ妖狐としても主様の彼女としても未熟かもしれんが、儂と一緒に居てくれる、かの?」

「………もちろん………」

「良かったのじゃ。…主様、大好きじゃよ」

「メ゛イ゛…わ゛だし゛も゛ぉ゛」

「ふふっ……」

 

子供のように泣きじゃくる主様の頭をなでながら、儂は優しく笑ったのである。



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そのカップル 翌朝につき

告白、したような、告白されたような、あの夜の次の日。

私とメイはベッドの上で裸で、抱き合っていました。…いえ、流石にそういう場所じゃないからね?自重はしたよ?

したかったけれど自重した。いや、ほら、ホテルの皆さんにそういう行為の後始末させるのもちょっとあれだしね。チップ払うあれもないし。

…あれ?最近日本でもチップ、みたいなのって出てきたんだっけ…?なんて思いながら上体を起こすと。

 

「んぁ…主様…おはよう…」

「あ、ごめん。起こしちゃった?…まだ、朝早から寝てていいよ?」

「んぅ……。そうかや…。でも、朝餉の用意を…」

「ホテルだから、大丈夫だよ」

「…そうじゃった…」

 

そう言ってもう一度、眠りにつこうとするメイ。そのメイの頭をなでて。

私はベッドから出て、ベッドの近くにある時計をみる。

 

「…5時かあ…。ううん、私ももう一眠りする…?」

 

と呟いたはいいけれども、なんとなくそんな気分にはなれず、メイが起きないようにカーテンを開ける。

清々しいほどのいい天気です。…梅雨明けにはまだちょっと早い気もするけれど、きっと今日明日、ぐらいで梅雨はあけるはず。

夏が。始まる。メイと、初めての夏が。

…いや、別に初めての夏ってわけじゃないんだけど。メイ、私の家きてから3年はたっているから。でも、なんとなくこういう事になってからの、夏だから、初めての夏、って事でいいんじゃないかな、と自分に言い聞かせる。

なんか、コーヒーが飲みたくなってきたので、客室にあったコーヒーメーカー(UOCのやつ。)で、コーヒーをいれて、近くにあったコップに注ぐ。

うん、割と馴染みのある味というか。うちの会社にも、さらに言えばお家にもこのコーヒーメーカーおいてあるからよく飲んでるというか。まあ、客室にあるコーヒーメーカーだから文句は言えない。ホテルにまでおいてあるのがお家で飲めるぐらいいい時代になったというべきなんでしょう。

 

「…主様」

「あれ、眠り浅かったかな?おはよう、メイ。コーヒー、いれたら飲む?」

「んんー、いいのじゃ。空腹にコーヒーはあまりよろしくないし、もうすぐ朝餉じゃろ?ちょっとその前に顔洗ってくるのじゃ」

 

そういって、私に断りをいれて、浴室へ向かうメイ。後姿もかわいいなあ、なんて思いながらそれを見て。

確か朝のバイキングがやってるレストランは7時ぐらいから開いているから、それぐらいに向かうとして。ちょっと、客室でイチャイチャ出来るかなーなんて思っていると。

 

「のぉ、主様。ちょっとラジオつけてもいいかの。ニュース知りたいのじゃ」

「ん。テレビじゃなくていいの?」

「んんー、テレビでもいいのじゃが、どちらかといえばラジオ派じゃしの」

「そういえば、ラジオ派だったね。んじゃあラジオつけようか」

「ん、わかった。じゃ、入れるね。メイ、窓際の椅子に座ってて」

「はい。主様のぶん開けておくのじゃ」

「わーい。メイ大好き」

「ふふっ、儂も主様大好きじゃよ」

 

 

そう言ってベッド近くのラジオの電源を入れる私。ラジオを入れると、ますますコーヒーが飲みたくなる。

まあ、あんまり空腹にいれるのはよろしくないのはわかっているから、よしておくけど。

そして、メイの隣のあいてる席に座って。愛しいメイの頭に、空いてる手をおいて。愛おしく撫でて。

 

 

そうして、ホテルのレストランが開くまでの間、愛おしい時間を過ごしたのです。



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そのカップル 日常に帰還につき

ホテルをチェックアウトした後、私とメイはちょっとしたデートをして、家に帰ってまいりました。

まあ、明日からまたお仕事だしね…。なんかしょんぼりしてきた。

 

「主様?」

「……休み明けだからね…」

「ああ、なるほどなのじゃ。あの日曜日の夜によくなるやつじゃな?」

「そうそう、それだよぉ…。はー、やだよぉ、働きたくないよぉ…」

「むぅ。気持ちはわからんでもないが、主様や」

「正論はなしね」

「うっ…」

「わかってはいるんだよぉ、働かないと生きていけないことぐらい。でもぉ、もうちょっと休んでても…」

「……そうじゃなあ。のぅ、主様」

「ん?」

「今度はどこへいこうかの、デート」

「んんー、そろそろ暑くなってくるからね、避暑地とか海とか、行きたいよね」

「そうじゃな。じゃあ、其のためには?」

「お金が必要」

「そうじゃな。儂とのデートのお金を稼ぐ、と考えれば頑張れる、かの?」

「…うん」

 

そう言って、なんとなく笑った私の頭を撫でるメイ。うん、撫でられるとちょっとだけやる気が出る。ちょろい、かもしれないけれども。

いやだって、好きな人に頭なでられてみて?すごいやる気出るよ?本当に本当だよ?

もうちょっと甘えたくなって、ぎゅうって抱きしめてみると、抱きしめ返してくれるメイがとても愛おしくて。

 

「…えへへ、メイ」

「ん、なんじゃろ、主様」

「大好き」

「……儂もじゃ」

 

ぎゅーと、抱きしめ返してきた力がちょっと強くなるメイ。顔を見たいんだけれども、多分私も、メイも顔真っ赤だから見れたものじゃない。

まあ、仕方ないっちゃ仕方ないのだけれども。なにせ告白して返事をもらってまだ一日ちょっとである。初々しくもなるよ。

というか実際初々しいよ。付き合いたてだもの。

 

「…えへへへへへへー」

「ふふっ」

「めーいー」

「ぬしさまー」

「めーいー」

「ぬしさまー」

 

なんてやり取りを何回もやっちゃうよ。だって二日目だもの。

…まあ、こんなやり取りしてると割とすぐ分かれるっていうデータもあるからそんなにしない方向にしようかな、と思うけれど、それはそれ、これはこれ。

後、二人共、こういう関係になる前に3年間ぐらい一緒に居て、性格はわかっているから、まあああいうやり取りを続けてても別れないけれどね。別れるぐらいなら私は死ぬ。

 

「…別れるわけないのじゃ。主様が死ぬまで、一緒にいるのじゃよ」

「…健康に、長生きするね」

「もちろんじゃ。儂も料理など、主様の健康を気をつけるからの。あんまり働きすぎないようにの」

「うん」

「お酒も控えるようにの」

「…それは、約束はできない」

「むぅ……。まあ、主様がストレスで倒れるよりは」

「でしょ?」

「だが、のぉ。…まあ其のへんはおいおいじゃな」

「ん」

 

なんて言いながら二人で、ベッドへと向かったのでした。

明日から頑張るぞ。




間違えて「恋する吸血鬼」のほうでやっちゃった…


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そのOL 昼ごはんにて

私、高森帆乃香は私の城(マンション)がある最寄り駅から電車に揺られること、Ⅰ時間半のオフィス街に立っている4階建てのオフィスビル、丸丸商事ビルに入っていく。そこが私が努めている会社だ。

さて中々にたるい午前中の業務(私はPG。うちの会社はまだギリギリブラックではない。ギリギリではあるけれど)を終えて、楽しい楽しいお昼御飯の時間。私は私のデスクでメイが作ってくれたお弁当を広げて食べよう、としたところに。

 

「ほーのか」

 

と声をかけられたので、声をかけてきた人の方を見る。にっこにこで、コンビニの袋を持っていたメガネをかけて可愛らしい女性と、和服でちょっと大きめのお弁当箱を持ってきている女性。うちの会社のエースPGの笠間典子先輩と、エースSEの王子直美先輩。

まあ、このお二人は…まあ、そのお話はまだ先でいいか。

 

「あ、はい。いいですよ。あ、じゃあ、ちょっと屋上行きます?今の時間だといっぱいかな?」

「大丈夫、じゃないですかね。…屋上、日陰あるとはいえ、日差し強そうですけど。」

「そうなんだよねえ。かと言って今から食堂、はいっぱいだろうしなあ。…近くに公園なかったっけ?日陰で涼しい所が良いよねえ」

「んんー………ちょっとまってくださいね。……あ、休憩室。あそこでお弁当食べてても平気でしたよね」

「そうだね。エアコン聞いてるしそうしようかー」

 

私がちょい、とパソコンを弄り会社の自鯖HPで開いてる部屋を探して、見つけた部屋の名前を言う私。まあ、休憩室ならすぐそこだし、と立ち上がり向かう私と先輩達。屋上とか日差し怖いからね。仕方ないね。

そして、てくてく、と休憩室へ向かう。それなりに混んでは居たけれども、ちょうどよく三人座れる場所を見つけて、そこに腰掛ける私達。

 

「さてさて、帆乃香さんや。私の入れ知恵はうまく言ったかな?」

 

そう言って、いたずらっぽく笑う典子先輩。…いや、まあそうなんです。先日のホテルで告白云々はこの笠間典子先輩の入れ知恵というか。私オリジナルではなかったというか。まあ、私オリジナルではあそこまで考えられないしいいアイデアだったんですkれども。

 

「…それは、うまく」

「まあ!よかったですわね」

「まあ、私のアイデアだからね!うまくいかないっていう選択肢はないよ!…どう?よかった?」

「よかったですよ。…それはうまくいきましたし…」

「まあ!まあまあ!」

「よかったよかった。私もなおも上手くいくように祈ったかいがあったってもんだよぉ」

 

そう言って笑う典子先輩と直子先輩。まあ、この二人が祈ってくれてるなら、そら上手くいくよねえ、なんて思いながら、ちょっと顔を赤くしつつ、メイの作ってくれたお昼御飯を食べるのでありました。

美味しいけれど…味があまりわからない…!わかるのは美味しいってことと、ちょっと顔が熱くてあまりここに居られる気がしないって事ぐらいだ・・・!



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そのOL 同期と

さて、お昼ごはんが終わると先輩達も私も、そして食事をしに行った同僚達も自分の仕事をするために、自分の仕事場所であるデスクへと戻る。まあ、営業さん達は自分のデスクにいる方が少ないと思うけれど。まあ、営業さんがお仕事を持ってきてくれないと、私達技術職は仕事がなくなってしまうからね。あと、営業さんは私達技術職とお客様の間に立ってくれるから、すごい助かってる。

さて、仕事しようとパソコンをスリープから起こしてロック画面まで持っていくと。

 

「高森さん」

「はい?」

 

隣の席で、同期の豊田琴子(とよだことこ)さんに話しかけられた。いや、珍しい。ほら、仕事関係ではたまーに同じ仕事をやったりするし、話したことがない、ということはないのだけれども、こういうふうに同じ仕事をしていない時に話しかけられるのはめったに無い。

茶髪でメガネを掛けてて、とても美人さん。高嶺の花、といえば高嶺の花になる。私と比べたら月とスッポンである。もちろん私がすっぽんの方。…まあ、自分を下げるのはこの辺にしておこう。あまり精神面によろしくないし。

 

「高森さん、最近、恋人ができたんですって?」

「ああ。はい。それは、そうですね」

 

一体どこから漏れたんだか。いや、心当たりは二人ほどあるけれども。…いや実際一人か。直美先輩は、言わないだろうし。

とりあえず、少し頭をかきながら、豊田さんの方を見やる。なんだか、とても真剣な顔をしている。

 

「…あの、本日、時間ありますか?ちょっと、相談したいことが」

「今日ですか。少し待ってくださいね」

 

ポッケから手帳を取り出す私。携帯の手帳にも予定は書いてあるんだけれども、データが吹き飛ぶこともあるだろうから、と手帳も持っている。まあ、データが吹っ飛んだことなんて一度もないのだけれど…。いや、あるか。一回携帯をトイレに落としたんだよね。あのときは泣いた。でもって、その時から、手帳を持つようにした。流石に入れ直しはとても大変だからね。

 

「…、あ、今日空いてますね。飛び入りでお客様の無茶振りがなければ、ですが」

「よかった。じゃあ、アドバイスがほしいな、って思いまして…」

「アドバイス。仕事関係ですか?それとも、プライベートのことで?」

「プライベートのことですね。………まあ、詳しい話は食事をしながら」

 

こちらを真剣な目でじ、と見つめながらそういった豊田さん。…そう、なんか。その真剣な目はまるで、メイに告白する前の私、にみえた。いや、見えただけで実際ぜんぜん違うのだけれども。

私はうなずいて、携帯でメイに「今日は同期とご飯食べてくるから、夕飯いらない。あと待ってなくていいから、早めに寝て、体壊さないでね」と連絡を入れた。

……いや、ほんと、メイに体を壊されてしまっては私が泣くからな。早めに寝てもらおう。うん。



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そのOL 恋愛相談を受けるまで。

静かなBRA。そこのカウンター席で私、高森帆乃香は同期の豊田琴子さんと飲みを初めていた。いや、ここは完全に豊田さんのチョイスで、よく来るお店だそうだ。いやあ、おしゃれな人ってよく来るお店もおしゃれなんだなあ、って思う。

私はマッカランの12年のロックとタコライス、豊田さんはフィノとホットサンド。それと二人で食べるように選んだ色々と。…ううん、私が選んだ組み合わせのおしゃれのなさよ。いや、この場合女子力って言うべきなのだろうか。

よく食事へいく先輩方がそんなに強くないのにお酒大好きな二人なので、あの二人とあとその二人のおつきの人とメイとで夕飯なんか行く時はこういうおしゃれな所じゃなくレストランでビールとかだったりするから、女子力が上がるようなお酒をそこまで知らないっていうのもあるんだろうけれど。うーん、彼女ありとはいえ、女の子としては女子力を上げるようなお酒を勉強しておいたほうがいいのだろうか。

 

「高森さん、乾杯、しましょ?」

「あ、はい。そうですね。お疲れさまです」

「はい、お疲れさまです。」

 

あまり音を立てずにコップを合わせる。こういうおしゃれなところで音を立てるのはどうにも恥ずかしい、というか、きっとマナーとしてよろしくないのだろう。

とりあえずあの二人はともかくメイと二人のおつきの人はあまり連れてくるのはよろしくないだろう。…いや、外見的にも多分よろしくないからね。

 

「・・・というか、ごめんなさい。突然、親しくもない人から相談、それもプライベートの事なんて迷惑、でしたでしょう?」

「いえ、そんなことは。むしろ、頼りにしてくれて嬉しいです。豊田さん、同期の中で高嶺の花でしたし」

「そう、だったの。なんか皆遠巻きにみてるなー、ぐらいでしたが」

「まあ、見てるだけで幸せっていう感じでしたからね。同期の営業の藤嶋に「お前、同期の花の豊田さんの隣の席とか羨ましすぎるだろうが。変わってお前外回り言ってこいよ、その間に俺豊田さんと仲良くなるから」なんて話をされるぐらいですからね」

「まあ…。高森さんだって美しいのに」

「お世辞だとしても嬉しいです。…いやまあ、それはそれとして。相談、でしたよね。どんなことで?」

 

いや、なんとなくわかってはいる、というか、このお店に入ってから、豊田さんはバーテンダーの人をちらちら見ているため、つまりそういうことなのだろう。ふむ、私はたしかにいるといえばいるがうまく乗れる気がしない。

 

「…あの人、どう思う?」

「豊田さんが目で追いかけてる人ですか?」

「そう」

 

豊田さんがそういって頷く。…ふむ、そう言われれば確かにイケメンでいい感じの雰囲気である。いやまあ、内面まではわからないけれど。



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そのOL アドバイスっぽいものをする。

豊田さんが目で追いかけているバーテンダー。いや、たしかにイケメンでいい雰囲気なんだけど、…いやイケメンって女の人に言っていい言葉、なんでしょうか。

そして、豊田さんが私にアドバイスを求めた理由がわかった。なるほどね、私なら兎も角他の人が私のように同性のパートナーにたいして偏見を持ってない、とはわからないからね。

そりゃ、私に対して「彼氏」とは言わずに「恋人」っていいますわね。理解した。

 

「………実は、彼女、私の幼馴染でして」

「幼馴染。ぁー。なるほどそれは、また」

「長年一緒にいるわけですから、互いの気持ちは互いにわかっているのです、ですが」

「それはそれ、これはこれ、ですね?」

「でして」

「つまりこれ、あれですね?どうやって告白するかっていう話ですね?」

 

恋愛相談だと思ってたけれども、そうではなくて告白する勇気がほしいだけだこれ!

いや、私が笠間先輩と王子先輩に相談した時もそうだったんだけれども!恋愛相談とは一体…うごごごご…

いやしかし幼馴染、かあ。私にも一人いたけれど、その子はあっさり結婚を決めていったなあ、なんて思いながら。まあ、世の中の女の子なんてそんなものなのかもしれない。私が…いやなんでもない。きっと私だけではない、とは思いたい。

 

「ところで、豊田さん。デートプランとかはお考えで?」

 

私は少し、大きめな声で豊田さんにそう聞いてみる。ぴくん、バーテンダーさんが反応した。まあ、そうだよね、デートプランとか気になるよね。

 

「でーとぷらん、ですか?」

「そうです、デートプランです」

「デートプラン…」

 

うん、めっちゃくちゃバーテンダーさんが反応している。気になるよね。気にはなるけれど、豊田さん私といるし、そんないつもみたいに反応(しているかどうかはわからないけれども。)できないよね。まあ、そもそも向こうさんはお仕事中…いやでもバーテンさんのお仕事って私達と会話するとかもありそうだし。

 

「ねえ、バーテンさんも気になりますよね?」

 

なんて、声をかけてみよう。にっこり、と笑いながら。おや、ちょっと豊田さんが下をむいてしまった。バーテンさんに声をかけるのは悪手だったかな…?

いやでも、…豊田さんのほっぺが赤い。照れてるだけっぽい。

 

「そうですね、お客さんのデートプラン、気になりますね。お二人共ですが」

 

そういって、にっこりと笑いながら返すバーテンさん。なるほど、これはこういう厄介な客(私)みたいな扱いはきっと慣れておられる。まあ、そうじゃないとバーテンなんて続けないか。

さて、デートプラン、か。



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そのOL 実践をさせられる。

…さて、豊田さんの相談を受けた週の週末。そう、こないだ、デートプラン、っていう話をしたところまでは、よかったのだ。

その途中でなんと。

 

ーーーーーーーーーーーー

「つまり、その高森さんはデートプランを、彼女さんとやるわけですね?」

「………うん」

「その様子、見せてもらってもいいですか?」

「………うん?」

「あ、私も興味あるなー」

「えぇ……」

「お手本見せてください」

「みせてください」

「……はい……」

ーーーーーーーーーーーー

 

なんていう展開になりましてね?今ですね、そのデートプランをやることになりまして。

今、多分どこかで豊田さんとバーテンダーさんが見ていると思います。緊張してきた。

ということで、今、住んでいる所から一時間ぐらいかかる所でメイと待ち合わせをしていた。

なんかいつも以上にソワソワしている気がする。

 

「主様。待ったのじゃ?」

「あ、メイ。……今日のデートはまた、女の子っぽい格好、だね?朝はそんな事なかったのだけれど」

「ふふーん、どうじゃどうじゃ?デートの前にちょっとヒナにお手伝いしてもらっての?似合うかや?」

「……うん、とても可愛い」

「…ありがと、なのじゃ」

 

私が褒めたら顔が赤くなりながら下を向いちゃったメイ。いや、まあ、いたずらっぽく笑いながらだったからマジレスされるとは思ってなかったんだろうなあ、って感じがするけれども。

うーん、こっちもドキドキしてきたぞ。

 

「…え、えっと、これからどうするんじゃっけ…?」

「あ、えっと。とりあえず、映画を見に行こうかな、って。恋愛物がいいかなーって思ったけれど、メイ、恋愛もの苦手だもんね?」

「そうじゃな。なんか見ているとこう、もやもやーとか「どうしてそうなるんじゃろ?」っていう疑問が湧いてまともに見られたりしないんじゃわ」

「あー、それはすごいわかるけれど。まあ、それもまとめて楽しめないとなあ、って感じがするし、まあ、デートだからふたりとも楽しくないとつまらないから、それはよしといて。そうだね、名探偵のあれにしといたわ」

「あー!ちょうどみたかったやつじゃ!さっすが主様。儂のことをよくわかってるのじゃ」

 

すりすり、と「なでてー」と体を合わせてくるので、メイの頭をなでてやる。

いやぁ、いいですなあ。あのお二人はどこから見てるのかはわかりませんが、少しは参考にしてもらいたいところであります。

いや、されても少し恥ずかしいのだけれども。どっちだ私。

 

「ん?どうしたのじゃ主様。早く映画館の方へいこうなのじゃ」

「あ、うん、そうだね。そうしよう」

 

撫でられてた頭から私の手を取り引っ張っていくメイ。はたから見れば中学生に引っ張られる大人って感じに見えるのであろう。まあ、女性の成長は中学生で止まる人も多いし、格好が格好だからメイも成人女性にみられている、とは思うのだけれども。

捕まることは、ないよね。ないない。

 

 

ということでデート編はじまるよー。



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そのOL デートにて。

「のぅ、主様ー。映画といえばやっぱりポップコーンと飲み物だと思うのじゃが、ポップコーンは何がいいかの」

「そうだね、キャラメルか塩か、だよね。あ、でもうめしばもいいかなあ。悩むよね」

 

ということでデート中の私達です。私達が並んでいる2つ後で。

 

「琴子は、どれ食べたい?」

「こういうところでぽっぷこーんを食べるのは初めて、でして…。亜希子のおすすめで」

「そう、ならドノーマルでキャラメルでいいかな。次くるときは塩にしよう」

「次…。そ、そうですね。次は塩にしましょう」

 

なんて話し合ってる豊田さん達の声が聞こえる。まあ、次のデートの約束をきちんとしている事は褒めてあげましょう、バーテンダーさん。豊田さん、こういうくるのはじめてなんだー、なんて思いながら、私達が注文する番になる。

 

「それじゃあ、うめしば味のポップコーンとコーラ、カルピスウォーターで」

「しゅわしゅわは苦手での」

「はい、わかりました。うめしば味のポップコーンとコーラとカルピスウォーターですね。他になにか」

「……主様、儂、ホットドッグも」

「じゃあ、プレーンホットドッグとチリホットドックもください。プレーンホットドックの方は玉ねぎ抜いてもらって」

「はい、わかりました。お会計はー」

 

てきぱきと仕事をしていく店員さん。そして、その値段にちょっと驚きつつ、それでも払う私。いや、こういうところの料理って美味しいんだけどちょっと割高なのがなあ、とは思うんだよ。まあ、そういう美味しいのも作るのもそんなにお金かかるってことなんだろうなあ。

 

「主様?」

「あ、うん。いくいくー」

 

先にチケットもぎり場所に向かっていたメイを追いかけるように私も店員さんに頼んだものを受け取ってチケットもぎり場所へと向かっていった。映画楽しみだなー。

 

 

「いやあ、やっぱり名探偵のは面白かったのじゃあ」

「そうだね。まあ、少し不満はない、といえば嘘になるけれども」

「ん、どこがあれだったのじゃ?」

「犯人があまりにも分かりやすぎじゃない?普段はもうちょっとひねるじゃない?」

「あー。…まあでもそれはそれ、なのじゃないかの」

「まあ、それはそうね。それはそれ、よね」

 

なんて、言いながらメイと二人でちょっとゲームセンターに来ております。まあ、ご飯がはいるぐらいにお腹が空くぐらいは、なんて思いながら。

 

「結、何見てるの?」

「あっ・・・えっと、あのぬいぐるみ、ほしいなって…」

「仕方ないなあ、取ってあげるよ」

「本当ですか?!」

 

みたいな会話をしてるだろうなあ、と思う豊田さんとバーテンダーさんを横目で見ながら、だけどね。

いやほら、多分向こうもこっちに気づいているけど気づかないふりしてるだろうからこっちもしないといけないんだよねえ。メイはお二人知らないし。

 



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そのカップル デートの最後にて。

さて、ゲーセンで色々なものを物色しながらデート中の私達。

 

「のぅのぅ、主様。このホラゲーみたいのをやりたいのじゃ」

「あー…。これなあ。とっても高難易度だよ?」

「そうなのじゃ?むぅ、難しすぎると儂すぐ死んでしまうからの…」

「フロムゲーとかすぐやられちゃってるもんね」

「なんなのじゃ!ゲームなのだからもっと儂つえーさせてほしいのじゃ!」

「でもフロムゲーは好きでしょ?」

「うむ」

 

そういってうなずきながらも高難易度ホラゲーはスルーしたメイ。いやまあ、フロムゲーと違ってただ単に高難易度だからね、仕方ないね。

なんというか、そういうゲーム多いよなあ、なんて言いながらもう少しゲーセンを物色してたりしました。いやあ今の音ゲー…というか昔から音ゲーってつかれるよね。

まあ、私がそんなに得意ではないんだろうけれど。

 

「……うぅ……ぞんびが…ぞんびがおそってきます…あと、音大きい…ので…酔いました…」

「あははは、琴子ゲーセンなんてめったにこなかったもんねえ。外、出よっか?」

「そうですね…。高森さんの華麗なステップみれましたし…」

 

なんて声が聞こえて。…いやあ、そうかー。見られてたかぁ…。いやほら、まあ、付かず離れずだから見えてるよねえ。

 

「の、のぅ。主様?……あそこのお二人に、一緒にデートしませんか、って誘ってきてくれんかの?」

「いいの?私は知ってるけど、メイは知らない人だよ?」

「それでも主様の会社の人、なんじゃろ?…あとあれじゃ、ついてこられるのちょっと怖い」

「あー…。なるほど、そうか。そうなるよねえ」

 

それは思ってなかった。いや、大事なことなんだけれどね。うん、よろしくなかった。ということで、私だけ、豊田さんとバーテンダーさんの所に近づいて。

 

「えー、うちの嫁さんが怖くなりだしたのでダブルデートになりました。OK?」

「お、おーけー」

「あー。うん、そうなるよね。わかりました」

 

にこ、と笑ってそう答えるバーテンダーさんと、音にやられている、という豊田さん。とりあえず豊田さんの体調を鑑みて、外へでて改めて挨拶することに。

 

「えー、と。うちのお嫁さんのメイです」

「高森メイです。よろしくおねがいするの…お願いします」

「メイさんね。私は梵葵(そよぎあおい)。でこっちでダウン寸前なのが」

「とよだ…ことこです…。どうぞ、よろしくおねがいします…」

 

少し緊張気味のメイと楽しそうに挨拶をするバーテンダーさんこと梵さん。そして、弱々しく頭を下げる豊田さん。映画館→ゲームセンターは流石に初心者には高レベルすぎたのかもしれない。

ということで、改めて。豊田さん達と私達、ダブルデートになりました、と。

 



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そのカップル ダブルデートにて

ということでダブルデート中の私達と豊田さん達。あ、一日デートです。お昼はまあ、映画館で食べたしいいかなって。

映画館、ゲーセンという大音量に負けていた豊田さんをすこし落ち着かせるために少し大きな公園で夕飯のお時間まで、と思いましたが途中でお買い物もしようということで、少しだけに。

 

「いやあ、こういうところでゆっくりするのもいいね」

「でしょう?とはいっても、梵さん達はこういうデート多いんじゃないんですか?豊田さん大きい音に弱いですし?」

「いや、そんなことはないよ。確かに琴子とゲーセン行くことはないけれどね。映画館とかカラオケとかはよく言ってるよ」

「そうなんですか?豊田さんはどういう曲を?」

「そうだね、演歌が多いかなあ」

「あ、それはなんとなくイメージ通りというか」

 

豊田さんとメイは飲み物を買いに行きました。ということで今は梵さんと一緒にベンチでゆっくりしています。

しかし、見れば見るほどイケメンであります。そりゃ、豊田さんが惚れるわけですよ。

 

「梵さんと豊田さんは幼馴染、なんですっけ?」

「そうそう。…あれ?それは私が言ったんだっけ?琴子から聞いた?」

「どうでしたっけ…。いや、豊田さんから聞いた気がするんですよね。その辺よく覚えてなくて」

 

なにせあの日はそれなりに飲んでいたのである。記憶もうっすらです。

豊田さんはそんなに飲んでなさそうだったから、記憶は残っていそうだけれども。いやあ、やっぱりその辺は女子力の差というか、きっとそういうものなんだろうなあ、と私は反省する。

 

「何の話をしていたんです?」

「いやあ、こないだの話。私と琴子、どっちが幼馴染でー、みたいな話をしたんだっけ?」

「それは、私からです。…まあお二人共、それなりにお飲みになられてましたし?」

「それも仕事のうちだからね」

「本当ですか?」

 

ジト目で見てくる豊田さん。いやまあ、多分仕事もあるよ…多分。とはフォローしようと思ったけれどフォローするとなにかこう、あれかなって感じがするからやめておいた。

メイが私にお茶を、豊田さんが梵さんにコーラを渡す。

 

「しゅわしゅわするの、苦手なのじゃが梵さんは大丈夫、なのですか?」

「そうだね。炭酸は好きだよ。強炭酸も飲む機会多いしね」

「強炭酸で割るお酒多いですしね」

 

そういった私に頷く梵さん。なんでそんなことを知っているんだ、みたいな顔をして私を見るメイ。私はお酒が好きなだけなので、という顔をしているとそういえばそうじゃった、みたいな雰囲気を出しながら小さくため息を付いたメイでしたとさ。

いやなにさー、いいじゃんお酒。幸せになるためのお薬だよ。飲みすぎてもあれなんですけれど。

 

「・・・そろそろ、お買い物、いきましょう。大丈夫です。私は落ち着きました」

 

そう言って、ニッコリと笑いながら梵さんの手を撮り歩き出そうとする豊田さん。

 

「そうだね。琴子の水着を見つけに行こう」

「えっ?」

「そうですね、そうしましょう」

「そうじゃな!」

「えっ」

 

ということで次回は水着回!別にプールってわけじゃないけれども!



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そのカップル達 百貨店にて

さて、私、高森帆乃香とメイ、豊田琴子さんと梵亜希子さんはデート中であります。して、行き先はというと、大きな百貨店で洋服を探しております。

いえ、水着から、と行きたかったところなんですが、豊田さんが

 

「こういうのはゆっくりお店を回るのが大事なのです…!」

 

と力説してきたので、ゆっくりお店を回ることにしました。

いやまあ、でも百貨店ってそういう楽しみ方もあるからね。わかる。まあ、すぐに目的を済ませてその後ゆっくり回るっていうのも乙なものだと思うので。

こうね、豊田さんにばれないように水着売り場へと急ぎつつ、かといって、他のところをおろそかにせず、みたいな回り方をしておりますよ。ふふっ、いやでもバレそうなところはあるけれども。

 

「ね、ねえ皆様?すこしだけ、すこしだけ早く回っておりませんか?」

「えー、そんなことないよ?」

「そうですそうです、ないんですよ」

「そ、そうじゃなあ。そんなことはないな…」

「皆様白々しくありません?!まだ水着は買いませんよ?!」

 

くっ、バレていらっしゃる。いや、メイが明らかに動揺してたから仕方ないんだろうけれども。

しかし豊田さん、スタイルはいいんだからそんなに水着になることに拒否しなくていいのに、とは思うのだけれども、まあ、それは個人的なところがあるのでしょう。深く突っ込んで嫌われるのもあんまり好ましくないからね。

ということで水着回はもうないです。そう、豊田さんが断ったからね。無理強いはできない。

 

「いやー、残念だなー。琴子の水着見たかったなー」

「………(ぼそ)」

「ん?…ああ、そうだね。そうしよう」

「……」

 

そんな会話をしたあと、少し顔を赤くしてそっぽを向く豊田さんと少しほっぺを書く梵さんをみて、なんとなく察しました。そうだよね、そうなるよね。

…もうなんだろう。告白とかすっ飛ばして結婚とかしてません?このお二人。ちょっと羨ましさはある。

 

「…主殿。儂も後で、その…」

「……………ん、あとで、ね」

「にしし、新しい水着、見つけてきたのじゃ」

「…いつの間に?」

「内緒、じゃ♪」

 

なんて、いたずらっぽく笑うメイを、とりあえずなでてやる。いや、まあ、ほら。私達もそんな事あるよね、みたいな。うちの彼女は世界一かわいい。どのカップルもそう思うんだろうけれども、うちの彼女が一番かわいい。

こっちもなにかこう、照れくさくなり頭をなでながら顔をそらしていたのでした。

 

「「………むっ、そろそろ………」」

「あ、すみません。梵さんなにかありました?」

「い、いや。こちらこそ申し訳ない。高森さんもなにかあったのでは?」

「そ、そうですね。そろそろご飯のお時間かなーって」

「そう。そうだな、そうしよう」

「…メイさん、高森さんと亜希子はどうしたのでしょうか?」

「どうしたんじゃろうか?」

 

何か気まずくなった私と梵さん、に対して、小首をかしげながら顔を見合わせるメイと豊田さん。

うん、まあ、どちらかといえば私達のほうが初心だったということで…。

 

ということで、ご飯へいって解散となりました!デートおしまい!

 



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そのOL 反省会をする。

さて、デートがあったあと日の次の日。

メイが会社まで迎えに来てくれたので、夕飯は外で食べよう、ということになったのだけど、ちょうど豊田さんも一緒だったので一緒にファミレスで食べることに。

あ、笠間様と王子様も一緒になりました。まあ、豊田さんはこの二人の正体、っていうとなにか違う気がするけれど、まあ、正体しらないので呼ぶときは笠間さんと王子さんですけれども。

 

「さてさて、高森ちゃん、豊田ちゃん。ダブルデートはどうだったかなー?」

「たしかにそうですけど…。それは私達が聞く必要はどこにあるのでして、典子」

「特に必要はないけれども。私が聞きたいから聞く。先輩だからね。…って言いながら、直美も聞きたくて来たんじゃないの-?」

「うっ」

 

図星だったようで少し顔をそらす王子様。いやあ、いつもは王子様のほうがちょっと強めに出ているのでそういうこともあるんだなーと。

いや、私が見ているところだと、確かに笠間様の方もわりと反撃してるというか上に立ってるというか。こういうのナンていうんだっけ、リバース…?

 

「何を考えてるのじゃ、ご主人」

「いや、ほら、王子さんと笠間さんのやり取りを見て、こういうの組み合わせでなんて言うんだっけな-って」

「くみあわせ…?」

「はっ、そうだ。豊田さんがいるんだった」

「儂もわからない・・・ということにしておくのじゃ」

「メイさんはわかりそうな事ですか?!」

 

私も思わず顔をそらしました。いや、ほら、豊田さんがいなければ割りとそんな話をしているなあ、みたいなことなので…。笠間様と王子様はわりと分かってました。

メイのいないところでもしてるつもりだったんだけれど、まあ、私の部屋にはわりとそういう本があるから、掃除してると見えちゃうよなあ。

それは申し訳ないというか。いや、まあ、そのへんも含めて、私のことを愛してくれてるんだろうなあ、なんて思うのでちょっと照れくさいというか。

 

「…はい、ということで、高森ちゃん、豊田ちゃん」

「はい?」

「デートはどうだったの?うまくいったの?」

「まあ、それは…」

「うまくいったというか…」

「大成功というか」

「そうですね、大成功ですね」

「おお-、大成功ならいいなー」

「そうですわね。典子のデートプランはいつも一緒なんでデートプランはどうなのか、聞きたいですわ」

「そういって、楽しんでるの知ってるんだからね。…でも、うん。私のデートプランはいっつも同じって言われてしまえばそうだからね。二人のデートプランもききたいなー」

 

デートプラン、ですか、なんて考えていると、豊田さんも同じ顔をしていました。

うーん、今度は三組合同かな…。



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そのOLさん 反省会が続く

「・・・で、でーとぷらんなんですが」

「今回は私が考えまして」

「高森ちゃんがー?いつも困ったら私に聞くのにー?」

「そうですね、そういう事は笠間さんが詳しいので」

 

うなずきながらそういった私、高森。隣ではメイがカレイの煮つけ御膳を食べております。

そのとなりでは豊田さんがおしゃれなパスタを食べております。うーん、なんだろう、私もおしゃれなパスタにするべきだったか。そんな私はハンバークグリル。いや、仕方ないじゃない。仕事終わりの夕食だからガッツリ食べたいというか。誰に言い訳しているんだ私。

目の前の笠間様はカレー、王子様はお刺身御膳、そして一緒にソーセージ詰め合わせをつまみにビールを飲んでおります。うん、私もビールを頼もうかな…。

 

「ご主人、明日もお仕事あるじゃろ?」

「あっ、はい」

「???頼んじゃえばいいじゃん?」

「笠間さm…笠間さんほど、うちの旦那様は強くないので、の」

「んー、そっか。でも、私と直美、飲み会ではいつもお世話になってるよ?」

「そう、いえば。笠間さんも王子さんもいつも高森さんに連れられて帰ってるような」

「そうですわね。その度はほんと、お世話に」

「いえいえ、こちらこそ、いつもお世話になっておりますので…」

 

なんて言いながら、私と王子様が頭を下げている。いや、なんかこのままデートプランの話有耶無耶にならないかなーなんて思ってたりもする。

いや、なんだろうね。聞くのも言うのも実践するのもわりと恥ずかしいよね。笠間様はわりとあっけらかんと答えてくれるけど、いざこちらが話すってなると中々に恥ずかしいというか。

ただのプランっちゃプランなんだけれども、それはそれ、これはこれ。

 

「まあ、それは人それぞれか。あんまり強要するとパワハラ、えーっとなんて行ったけ典子?」

「アルコールハラスメント、通称、アルハラですわね。とり方は人それぞれだと思いますが。…そうですね、あとは顔とかその人との距離感もあると思います」

「あー、わかります。多分、笠間さんと王子さん以外に言われたら「うわ、アルハラだ…」って思うかもしれない、ですね」

「私、も。でも、笠間さんもそのへんは分かっておりますし…」

「そうじゃな。さすがは笠間さm…さんじゃ」

「いやー、それほどでも、あるかな。もっと褒めてくれていいんだよ?」

「よっ!うちの会社の可愛いエース!」

「えーす!」

「エース!」

「えへへへへへへへへへ」

「あんまり、典子を甘やかさないでくださいね」

 

私達後輩、とメイが笠間様を盛り上げているとジト目でこちらを見やる王子様。

なるほどなるほど。

 

「豊田さん、王子さんも褒めてほしいそうですよ?」

「なるほど。…お綺麗で、笠間さんぐらいに仕事ができて、それでいて優しい。さすが我社のWえーす」

「さすが!エース!」

「エース!」

「そ、それほどでも…」

 

顔を赤くしながら、まんざらでもない動きをする王子様。うむ、うちの会社のエース様たちはとても可愛い。

そしてこのままデートプランは有耶無耶にしたい!したいのだ!



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そのOL達 反省会のはずが

まあ、いつものようにそれなりにお酒が入り、反省会どころではなくなったのでセイさんにお迎え(車運転できるんだって、すごいね)してもらいながら帰ることになりました。

あ、豊田さんはお酒入ってないですし、一人で帰れる、とのことでしたが、女性一人で帰すのは怖かったので、タクシー呼びました。…いや、タクシーもそんな安全ではない、と思ったけれども、それでも歩いて帰すよりは全然安全なわけで。タクシー代は王子様がもってくださいました。

本当は梵さんという手もあったのだけれども、それはほら、いまお仕事中でしょうし呼べませんでした。メールするにも今、多分見れないだろうしね。仕方ないね。

さて、豊田さんをタクシーで送り、セイさん(今の姿でちゃん呼びはできない。今日はカジュアルコーデでした。かっこよかったです)が運転席、笠間様が助手席、私、メイ、王子様が後に乗って送られることになりました。

 

「いえ、なんか、すみません。私達も駅まででいいんですけれども」

「そうもいきません。豊田さんは私と初対面ですから、乗せるのは私にとっても豊田さんにとってもプレッシャーになりますから余り強く言えませんでしたが、高森さんと私は初対面ではありませんよね?」

「そうですね、何回か」

「ですので、安全なお家までお送りいたしますわ。メイの大切な人ですし」

「………。いや、セイに言われるとなんかこう、小恥ずかしいのぅ」

「そうですか?…まあ、メイだけじゃなく、王子様にとっても、こっちの酔っぱらいにとっても大事な人ですし」

 

運転しながら、隣でこっくりこっくり、と船を漕いでいる笠間様を少しみやって、ため息を付きながらそういったセイさん。

おおう、なんか笠間様にだけ毒を吐いているぞ。いや、毒っていうにはまだ弱いけれども。

 

「まあまあ、セイ。明日は、祝日ですしいいじゃないですか」

「あー。そうでしたっけ。一日、主、いるんですね」

「あー。私達、基本的にお出かけ、しませんからね」

 

まあ、PGとかSEにとって休みは基本お家でぬくぬくとするお時間なのは、理解できるし、実際私もぬくぬくしている事が多かった。

多かった、と過去形なのはまあ、メイが居るからなんだけれども。ただ明日は久しぶりに二人でのんびりお家でぬくぬくしよう、と決めていたからであった。

 

「そうですねえ。典子と一緒にでかけたのはいつ以来になるかしら…」

「ここ10年、20年は一緒にでかけてないのでは…?」

「そんなになります?」

「…そんな…ことないょう……。去年、一緒に温泉行った、ょう…」

「あー。そういえば、社員旅行で行きましたっけ」

「…ぅん…」

 

こっくりこっくり、と船をこいでいた笠間様がそう言ってた。あ、まだぎりぎり起きてましたか、そうですか。

まあ、ビールを2杯なら、そこまで眠くはならないよね。うん。…いや、疲れに酔っては割とすぐ効いちゃうだろうけれど。

 

「社員旅行では行きますけど、二人っきりとなると、10年、20年はいってない・・かもしれない」

「……えぇー………?」

「神様の時間の流れって10年、20年あっという間なのでは?」

「そう思う、のじゃ」

「それは…」

「いえ、そんなことないです。ただ、うちの主が出不精なだけですよ」

 

なんとか笠間様のフォローをしようとする私とメイだったが、あっさりセイせんにぶった切られました。ひえええ…きょうのセイさん強い。

 

「セイ、なにかありました?」

「……ヒナと一緒にご飯食べてアニメ見てたのに…」

「…なんかもうしわけない…」

「いえ、王子様と高森さんとメイが悪いわけじゃないんです。何もかもうちの主が悪い」

「…んぅ……、ごめんねぇ…。アイスかっていいから…」

「ヒナの分も含めてダッツですからね」

「あ、典子私の分も」

「………仕方、ないにゃぁ…。帆乃香とメイは…?」

「儂達もいいのじゃ?それなら…」

 

ちらり、と私を見るメイ。まあ、本当なら一回断る、っていうのを入れたほうがいいと思ったんだけども。

 

「それじゃあ、お言葉に甘えよっか、メイ」

「はいのじゃぁー。やったのじゃ、ダッツー」

 

ダッツにはかなわないからね、仕方ないね。

 



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そのカップル 休日の会話。

「いやぁ…うん、やっぱこの時期はお家でダラダラするのがいいよね」

「それ毎季節聞いてた気がするのじゃが」

「毎季節、やっぱりお家でダラダラするのがいいんだよ。春は花粉だし、夏は暑いし、秋は花粉だし、冬は寒いからね」

「花粉がかぶっているのじゃぁ…」

 

そう言いながら、リビングにあるソファーでダラダラしている私とメイ。

いやほらね、あれなんですよ。今の季節、夏真っ盛りですよ。そら外暑いですよ。

メイの水着は見たいけれども、それでも暑いのはちょっと外へ行く気力が削がれるよ。

 

「花粉をなめてはいけないよ、メイ。あれはね、人を間違いなく殺める」

「そうなのじゃ?!」

「アレルギー反応だからね。玉ねぎとかと一緒」

「それは確かに人を間違いなく殺めるのじゃな」

 

私の説明を聞いて、うんうん、とうなずくメイ。いやほんとね、植物さんも生き残るために必死なんだろうけれど、だからといって人類を滅ぼしかけるのはやめてほしい。確かに薬とか飲めばなんとか収まるんだけれど、それでも、きついときはきついからホントやめてほしい。

科学でなんとかなるとはいえ、どうしてもならないところがあるわけで。そのなんともならないあたりがとてもつらい。花粉、人体から抜けるのもだいぶ時間かかるからね。できるだけおとなしく飛ばしてほしい。

と、ここでメイがふと、思いついたように。

 

「そういえば花粉症になる人は動物にも弱いと聞いたことがあるのじゃが」

「あー。というか、ダニの死骸とかによわよわ、ってなる人はいるかな。同じようなアレルギー物質だからね」

「そうなのじゃな。でも、ご主人は動物にはよわよわではないのじゃろ?」

「そうだね。よわよわだったらメイ飼ってないからね。そのへんはつよつよだよ」

「よかったのじゃぁ…」

 

ほ、と小さく安堵の息を落とすメイ。まあ、それは不安になるよねえ。というか、私も動物の毛とかダニの死骸に弱かったら、なんて思うと、少しゾッとする。

だって、それはつまりメイに会えなかったということで。動物アレルギーだった私はそれで平気なのかもしれないけれどそうじゃない私は平気ではない。大切な家族が一人いない、となるときっと悲しみにくれるのである。

ほんと、動物アレルギーはなくてよかった。心の底からそう思う。

 

「んー、ごしゅじーん」

 

そう言いながら、甘えるように体を擦り付けてくるメイ。頭をなでながら、開いてる手でこちらに寄せる私。

うん、今日やることはやったし、まだちょっと太陽は温かいけれどベッドへ…?

 

「いや、ベッドはまだいいのじゃ」

「冷静に心を読まないで?!」

「そういう雰囲気ではないのじゃ、まだ」

「…そっか。じゃあそういう雰囲気になるまで、こうしてよっか」

「そうじゃな」

 

なでなで、と頭をなでながらそういう私とうなずくメイなのでした。



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そのカップル お昼ごはん時。

「今日は、そうめん、じゃ。暑いからの」

「わぁい!そうめん!そうめん、帆乃香大好き!」

「なんかあれじゃな。そう言うとアニメキャラが言ってるように思えるのじゃな…」

「まあ、同じ名前のキャラいるからね。漢字と歳は違うけれど」

 

はい、ということで今日のお昼はそうめんです。いや、ほら、こう暑いとね、メイもこういう風な時だってあるよ。

でも、まあ、それは夏だから。あ、メイが料理してますがエキノコックスなんかは大丈夫です。妖狐なので。あと、エキノコックスって狐ばっかり言われるけど、イヌとかネコでもいるからね?皆、糞を片付けるときは手袋をするとか色々と対策打とうね。大変なことになるからね。

 

「ん、どうしたのじゃ主様」

「いや、なんとなく。いやほんと、なんでだろうね。イヌとかネコに比べてキツネってそんなに家で飼うイメージないのかな?」

「ないんじゃろうなあ。キツネはイヌとかネコよりお高いからの」

「そういえば、そうだったね。100万だっけ。一括で飼い始めるとか私思い切りよかったんだね…」

 

いやあの時スゴイ疲れてたのは覚えてる。大学生のころからちょくちょくためてたお金のお陰でメイを飼って一緒に数ヶ月ぐらいの貯金はあったけど、100万を一括て。今の私では考えられないね。

分割なんかでパソコンを買うときも大分悩むもの。いや、だって100万以上かかるんだよ?!そりゃ悩むよ。

まあ、メイのお洋服とかは悩まずに飼っちゃうけれど。

 

「それはどうかと思うのじゃが」

「はっ、心読まれているんだった。いやでも、メイかわいいじゃん?そりゃ買っちゃうよ」

「いや、うん、嬉しい、嬉しいんじゃが…」

 

顔を赤らめてそっぽを向くメイ。いやぁ、ほんと、こういうところ。こういうところだと思うんですよ、ほんと私のお嫁さんは可愛いなあ!

 

「ほんとかわいいなあ!」

「わぁー!声に出すのはやめるのじゃ!恥ずかしい!」

「そんなところもかわいいなあ!」

 

可愛いから声に出しました。可愛いから。

 

「…そうめん、伸びちゃうから食べちゃわないと行けないと思うのじゃ」

「そうめんって伸びるものだっけ?」

「伸びるのじゃ!そうめんも儂も!」

 

多分そうめんは伸びないけれど、メイは伸びてしまいそうなのでこのへんでよしておく。

いや、だってねえ。伸びられたらちょっと困るんだよね。というかそろそろいじるのやめないと逆襲が飛んできそう。

 

「…飛ばしていいのじゃ?」

「いや、よそう。ほら、二人して恥ずかしい思いするのもあれだし」

「…かーわい♪」

「かっ、かわいくないよぉ!」

「かわいいのじゃよ?」

「よしてぇ!ごめんねぇメイ!」

 

なんていいながら、そうめんを食べたのであった。



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そのカップル お昼からのデートにて。

お昼ごはんをたべて、少しだけデートしよう、ということで外へ。

いやあ、やっぱ夏だな、って思うし、外暑いわ。

 

「主様ー…」

「ああ、うん、そうだね。メイは更に暑いよね。…やっぱりデートやめる?」

「いやじゃ。デートはしたいけれど、暑いのは暑いのじゃ。でもデートをやめるのは嫌なのじゃ」

「そう。なら、できるだけ日陰を通りつつ、休みながら行こうか」

「そうじゃな…」

 

私の二、三歩後ろを歩きながら、ちょっと辛そうなメイ。人になれるとはいえ、私とはちょっと違うんだなあ、なんて思いながら。いや、私も辛いけれどね。

ということで、日陰を通って直接日光を避けつつ、買い物デートを二人ですることに。

 

「主様、今日は何にしようかの」

「そうだね、そうめん、でいいんじゃない?」

「いや、それだとばらんす?がよろしくないのじゃ。…そうじゃ、今年、丑の日らしいことを一切しなかったからの。お肉、にするのじゃ」

「おにく。…そういや、今年、鰻食べなかったね」

「そうじゃな。…ん、スーパーに行く前に、あの、げーせん、に行きたいのじゃ。涼みたい」

「そうだね、そうしよう」

 

ということで、買い物デート、というかお夕飯を決めて買い物をする前にゲームセンターによります。

いやほら、涼みたい、っていうからね。

 

「そういえば、メイはゲーセンの音、そんなに気にしないよね?」

「そうじゃな。その辺は術のお陰じゃ。…多分かけそこねたら大変なことになるの」

「人の数倍だもんね。まあ、それでも昔よりは煩くなくなった、とは思うけれど」

「そうなのじゃ?」

「まあ、私もそう詳しいわけじゃないけれどね。友達と一緒にプリクラを取りに来たり、UFOキャッチャーをしたり、友達がやってるのを見てるぐらいだったし。それでも音はちょっとおとなしくなった、かなあ」

 

ということで、涼みに来たゲーセンでそんなことを話す私とメイ。

そういえば、昔はもうちょっと煩かったんだよなあ、みたいな顔をしながら私は言った。なんでだかわからないけれど、何時からかゲーセンの音は大人しくなった気がする。良いことのような、それはそれで寂しいような、複雑な気分である。

 

「そうなんじゃな。…音を落とすと何か電気代が安くなったりするんじゃろうか」

「あー。…あるのかな?」

「あるかもしれんのじゃな。あと、ねっと、でみたのじゃが。げーせんで飲み物買うとその分、げーせんにうりあげが入るらしいのじゃ」

「ほほー。じゃあ、ちょっと売上に貢献しちゃおうかな」

「しちゃうのじゃしちゃうのじゃ」

 

そう言って私達は飲み物をかって、ゲーセンの売上を献上しつつ、遊んで、夕飯の買い物をして、デートを楽しんだのでした。

さーて、明日からまた頑張るぞ。

 

 

 



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そのOL 夢を見て。

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「・・・ねえ、髙森」

「何?」

「もし、私がーーーーするって言ったらどうする?」

「………………。祝福、するよ」

「ちょっと間あった?」

「いや、そんなこと。…あったね。いや、突然言われたものだから」

「まあね、突然言ったから」

「そうだよね。前フリもなくきたものね。…いつ、結婚するの?結婚式には呼んでよ」

「そうだね、それはー」

 

 

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「…ぬーしーさーまー?」

「・・・んぅ…?」

「おはよう、なのじゃ」

「…んぅ。おはよう…」

 

なんだか、とても懐かしい人の夢を見た気がするけれど、それはまあ、夢だからよく覚えてない。

目覚めたらそこにあるのは、愛しいメイの顔だけです。おはようございます。

なんだか心配そうにメイが私の顔を覗き込んで来ている。まあ、そうか、多分今の私の顔はそんなに人に見せられた顔じゃない。…いや、メイク前だからっていうのもあるんだけどそれはそれとして。

 

「なにかこう、あまり見たくなかった夢を見たようじゃな?」

「んー、まぁね。私の、初めての恋が終わった時の夢を。…なんか久しく見てなかったんだけれど、そうか。もう、そんな時期かあ」

「………今の時期に何か、あったんじゃな。正直聞きたいところ、じゃが、あまり突っ込んで主様に嫌われても嫌じゃしなあ」

「ふふっ、私がそうそうメイを嫌いになるわけないじゃない。とはいえ、あんまり聞いてて愉快な話じゃないからね。朝からする話じゃない」

「そう、いうものなのじゃ?」

「そういうもの。…まあ、あんな夢を見たってことはそろそろ行く、べきなんだろうなあ」

 

とはいえ、あんまり気乗りしないのは気乗りしない。暑いし、少し遠いし、何より親の結婚しろ攻撃が多少面倒くさい。

いや、多分一番最後のあれが一番行きたくない理由である。大体にしてうちの親はそういうのに煩くないはず、だったのだけれども。ここ最近はうるさくなってきたのである。

いや、まあ、確かに、早く孫が見たい、っていうところはあるのだろうけれど、私がそういうの、っていうのはわかっているはずだしわかっていてくれてると思っていた。

……あ、いや。実際わかってくれてるし「そうでもいいから結婚しろ。早く彼氏、というか彼女の顔でもいいから見せろ」っていうこと、か。いやたしかにね?お一人様でいるのはあれだと思うよ?でもね、好きでいるわけじゃないんですよお一人様!

 

「主様、主様。儂がいるじゃろ?」

「……犯罪者だと思われない?????」

「…うーん……」

 

メイの外見は中学生である。その子を「私のお嫁さんです」とか連れてったら間違いなく通報される。

それだけは、避けたいので。…まあ、いつかは行かなくちゃな、とは思うのだけど、今ではない、はず。

 

そんなことを考えながら朝ごはんをいただくために、リビングへと向かうのでした。

 

 



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その OL、母親に連絡を取る

「…………」

「どうしたのじゃ、主様。難しい顔して、アイフォーンを見て」

「いや…母親から連絡が」

 

そう言って母親からのラインが来ている画面をメイに見せる私。

いやほら、そら今日の夢見は悪かったしそんな感じのラインが来るかな、みたいな予感はしていたけれども。はー、そうですか。そんなに来ますか。

 

「…そうじゃな。そろそろ連絡する、時かもしれんの」

「えっ?!メイ?!何を言い出すの?!」

「………。なあ、主様。儂達、付き合って何ヶ月じゃ?」

「2ヶ月、ぐらいになるかな」

「うむ。そうじゃ。2ヶ月じゃ。知っとるか、主様、世の中のカップルは2ヶ月になると親御さんに紹介するそうじゃ」

「………た、たしかにそんな風潮はありますが」

「じゃろう?だったら、儂はそろそろ主様の親に紹介されるべきだと思うし、してほしいのじゃ」

 

真剣な顔で私を見るメイ。…確かに、それはよくある話だし。

でも、それでも…

 

「儂の外見、かや?でも、よくいるような感じ、じゃろ?」

「中学生、なら」

「んー。…んぅ…」

 

少し考えるような仕草をするメイ。だが、一瞬でやめ、こちらを見やると。

 

「化粧、でどうにかならんかのぉ」

「化粧で…?」

「化粧で、じゃ。主様もよくやっとるじゃろ?」

 

と言ってきたのである。

確かに、化粧で化ける人は化ける。私も化ける方、と言われるが、まあはたから見ればきっとそうなんでしょう。私はそんなに変わらないと思うんだけれどもなー、なんて思いながらも。

でも、しかし化粧。メイの肌に合えばいいけれど、あわないと大変なことになる。アレルギー反応で死んでしまうことだってあるかもしれない。そんなことになったら私は生きていけない。メイのいない私の人生なんてもうカッスカスのカッスカスである。

私が難しい顔をしていると。

 

「まあ、主様の考えることもよくわかっておる。じゃが、そのへんは心配ご無用じゃ」

「…へ?」

「笠間様と王子様に儂に合う化粧品を見つけてもらうか、いざとなったら作ってもらえば良い」

「…………作れるの??」

「まあ、作れる人材はちょちょいのちょいで集めてくれるじゃろ」

 

かっかっか、と笑うメイ。……そうだよね、王子様と笠間様、そういうの強そうだものね。いや、まあそこまで権力があるかはわからないけのだけれども。神使ってそんな力あるものなの??神様の代わりってことぐらいしかわからない。

だけれども、だけれども、だ。

 

「………本当に、大丈夫、なんだね?メイは覚悟、あるんだね」

「覚悟、というほど大げさなものではないけれども。主様と一緒なら、どこへでも」

「わかった。……一週間後、ぐらいに実家、帰ろうか」

「はい」

 

私も、覚悟をして。母親へのラインに「一週間後、彼女連れて帰える」と書いて送るのでした。



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そのOL 化粧品売場にて

はい、ということで来週の里帰りに向けて、メイの肌に合う化粧品、というかメイがしても大丈夫な化粧品を探しにデパートの化粧品売り場に来ております。

いやはや、やっぱあれだね。匂いきついね。人間の私が、この匂いきつい、ってなってるんだからメイはもっときついんだろうなあ、と思いながらメイの方を見てみると。

 

「なんじゃ、主様?」

「あれ…意外と平気…?」

「ああ、そうじゃそうじゃ。こういうな、化粧品の匂いが色々と混ざった所にいった時用に、セイに薬をもらっておっての。嗅覚を、少しだけ弱めて、人ぐらいの嗅覚にしてもらう薬をの」

「なにそれ羨ましい。私もほしい」

「主様は人間じゃろうて」

 

かっかっか、と笑うメイ。まあ、そうなんだけれどさ。こう、化粧品の混ざった匂いは人間でも辛いわけで。とはいえ、慣れてしまえば慣れてしまうのだろうけれど、めったに来ないと中々に慣れない。

普段はスーパーとかの化粧品売場で買っちゃうことが多いので、そうするとこう大きな所ではないのだ。そして大きな所はこう、ごちゃっとした感じの匂いがする。…でもまあ、こういう所でないと、肌弱い人にあう化粧品とかを探すのは苦労するので、来なければいけないのだけれど。

 

「まあ、儂だけで聞いてもいいんじゃがな」

「あー…。いやでも、それはあまりやりたくない手というか。こういうのは一緒に選びたいというか」

「主様儂のこと大好きじゃな?」

「大好きだよ、メイ」

「うむ、儂もじゃ、主様」

 

にこにこ、と笑いながらそう私に言ったメイ。うん、可愛い。とてもとても可愛い。こういう可愛いと思う事はとても大事なんだと思う。長続きするカップルはそういうのよくあるって言うし。

互いにときめきがあるからこそ、長続きするんだろうな、って。…私はきちんとメイにときめきをあげれているだろうか。

 

「できて、いるのじゃよ。大丈夫、メイはいつでも主様にときめいている」

「…………あっ、心読めるんだっけ?!」

「ふふー、そうじゃな」

 

にやり、と笑うメイ。いや、できてるならいいんだけれども。できてるんならいいんだけれどさあ。なんだろうなあ、恥ずかしい。ぽりぽり、と頭をかきながら、顔をそらす。いや、ほら、顔暖かくなってるから、赤面しているんだと思うし。あまり赤面しているところを見られたくない、というのはある。

…そんなことを考えながら、化粧品売り場を見ている。例えば、こんな色はメイに似合うな、とか思いながら、それでも肌とか体に合うかな、なんて思う。

 

「儂はブルベだって言われたことがあるの」

「ブルベ????誰に言われたの?」

「メイじゃったかヒナじゃったか。あれ、大人に变化しておったし、真面目にいったんじゃろ」

「そう。ブルベ色。………だとしたら、この辺、かなあ。あ、でも肌に合うか」

「そのへんは、店員さんにきくべきかの。すみません」

「すみませーん」

 

そんな感じで、化粧品を見ながら、買い物を続けるのでした。



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その狐 初化粧にて

「ん、メイ。こんな感じに出来たけれども、どう?」

 

とりあえずつぶっていた目を開いて、鏡を見る儂ことメイ。

デート、で化粧品を買ってきた日の事。儂は主様である帆乃香に儂の肌に合うかどうかも合わせて、化粧を教えてもらっておった。中々に難しいがこれはなれ、と言われた。

なれ、かあ。そんな事をなれる人間様はとてもすごいのじゃよなあ。

 

「…なんじゃろ。なんじゃろうな。これ、儂?」

「そうそう、メイ。うん、やっぱり化粧ってすごいね。人を化けさせるよ」

「本当じゃな…」

 

本当に、儂?ってなっている儂。いやほら、肌の方は大丈夫だし、臭いもまあ…なんとかなっておる。いやほら、混ざっておらなければ、そこまで臭いとは思わないんじゃなあ。

中々に不思議である。嫌なんで混ざるとあんな臭いんじゃろうな????

 

「でも、これなら私のお嫁さん、っていっても引かれたりはしない、かな」

「引かれるのかの?!」

「うん。…というか通報されるかもしれない」

「あ。……もう少し大人の方が良かったかの???」

「いや、それはそれ。これはこれ、だよ。どんな姿でもメイはメイだし、私の大好きなお嫁さん」

「………………」

 

なんか照れ隠しに蹴りたくなってきたので、思わず蹴ってしまう儂。いやほら、真顔でそう言われると中々に攻撃力が高いのじゃな。まあ、儂もたまーに言うと思うが。

いや、言っておこうと思う。

 

「主様は毎朝、こんな事をして大変なのじゃな。お疲れ様なのじゃ」

「まあ、ねえ。一応社会人としてのマナーと言うか」

「マナー?」

「なんだろう、他の人と上手くやるための約束事というか?」

「あー…。なんじゃろう、狐同士でもあるの」

「ある、よねえ。…ヒナちゃんとセイちゃんは平気かな、って思ったけれどきちんとしてそうだったわ」

「ヒナとセイ、特にセイはな。笠間様があんな感じじゃしの」

「仕事場ではかっこいいんだよ?うちの会社のエース様なんだから」

 

うんうん、と頷きながらそう言う主様。会社でエース、というのはよくわからないけれど、多分偉い人、なのじゃろう。なにせ神の使い様である。普段はちゃらんぽらんだけれどやる時はやる、のじゃろう。

いや、見てないからわからないのじゃけれど。王子様の方は普段からしっかりしておるし、えーす、と言われてもなんの違和感もないのだけれど。

 

「……今度、笠間様がどんな仕事してるか、カメラでとってくるね」

「あ。声か何かにだしていたかの???…大丈夫じゃか?その個人情報も扱っておるのじゃろう?」

「そのへんはほら…あー…難しいかあ。笠間様が仕事でどれだけやれるかって説明したいんだけどなあ。普段が普段だものね…」

 

いや、大事な先輩なのはこう言ってもらうと伝わっているのじゃが。じゃが…。

まあ、なにはともあれ、これで主様のご実家へいける、ということである。そこで、どうなるかは分からないが。きちんと挨拶をして、それで認められると、いいのじゃよなあ…。



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その狐 髪の毛を整えた主をみて。

さて、儂が化粧をした次の日。主様が仕事から帰ってくるとなにか、雰囲気が変わっていた。

今まで主様は外ハネしているロングヘアーだったのじゃが、今は、そう、なんといったかの…。ナチュラルボブ、というんだったかの??それになっておる。外ハネはしておる。

 

「そ、その髪、どうしたのじゃ?いや、似合っておるのじゃが」

「ふふー、今日、実は午後休をとっててね、そのときに美容院にいっていきたんだ」

「びよういん、に」

「そう。まあ、今週の金曜日、実家帰るしね」

「!そうじゃな、つまりあれじゃな?気合を入れるための」

「そう、気合を入れるための。…いや、それだけじゃないよ?」

「それだけじゃないのじゃ???」

 

小首をかしげながら聞く儂。いや、でもなんじゃろうな。儂はまあ、髪の毛を変えると、儂の狐の状態での毛も変わってしまうから切れないのじゃが。なんかこう、気合を入れる時は髪の毛を切るっていうのはなんとなくわかるのじゃ。

あとはそのー…。

 

 

「はっ、まさか主様?!」

「違うからね?!メイが思ってることはぜんぜん違うからね?!ほら、暑いじゃん。それもあるからさ」

「あー、あつあつなのじゃな」

「そうそう、あつあつ」

 

うんうん、と頷きながら儂をなでつつ、そういった主様。よかったのじゃ、失恋とかじゃなくて。…いや、儂以外に恋する相手が居たらそれは不倫にあたってしまうの???なら失恋してよかったということになるのでは…???

いやまあ、でも主様が悲しむ顔を見たくないし中々にあれなのじゃ。あれ。もやもやはするけれども、それでも、みたいな。うーん、中々に言葉にするのは難しいのじゃな。

 

「どうしたの?」

「いや、なんでもないのじゃ。儂の考えすぎじゃったしな」

「そうなの???」

「そうじゃ」

「そうかー」

「……。あのの、主様」

 

真面目な顔をして主様に向き合う儂。今日は、これを言おう、としているのじゃ。

頑張れ儂。負けるな、儂。

 

「お風呂にする?ご飯にする?それとも…わ、し?」

 

これを言ったあと顔真っ赤になるのがわかった。いやだって、これはその、あれじゃろ。わしって言われたら色々とすっとばしてあれをしなければいけないのじゃろ?いや、言ったからにはやる準備はできてはいるのじゃが。

じゃが!

 

「…………メイ?」

「んぅ?」

「それ、どこで覚えたの?こうドキドキはするからメイ、っていいたいんだけれども」

「言ってくれていいのじゃよ???…どこで覚えたかはその…内緒じゃ」

 

いたずらっぽく笑って。フフ、うまく言ったのじゃ。儂の勝ちじゃな。いや勝ち負けとかの話ではないのじゃが。

 

「そうだね。お風呂はいって、ご飯たべて…それから。メイ。私は全部欲しいよ」

「ぜん、ぶ。全部じゃな?」

「うん、全部。だって、メイは私の…お嫁さん、なんだから」

 

…こう言われてしまえば、儂はどんどん主様が好きになる。つまり、勝負に勝って試合に負けたのだ。やはり主様は強いのである。

ぎゅぅー、と一通り抱き合ったあとお風呂入って、ご飯食べて、それから。

 



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そのカップル 電車の中にて。

がたん、がたん、と揺れる車内。そう、私達は私の実家に帰るために、新幹線に乗っていた。

行く場所は、広島の私の実家。…いや、私そんな訛ってないからそんなイメージはないだろうけれど、広島なんよ。まあ、割とそういう人って多いと思うんだよね、広島の人って。関西の人とかは訛りをそのままにしておくイメージ。

どっちがいいか悪いかは人それぞれだから、あまり強く言えないけれど。訛り女性がいい、って言う人達も多いわけだしね。

 

「あ、主様主様。冷凍みかん買ってくれなのじゃ」

「いいね。駅弁もそろそろ食べようか」

「そのために朝ごはんを食べてこなかったからの、ぺこぺこなのじゃ」

 

やっぱり電車での旅って駅弁とか食べたいよね、っていう話。なんであんなに駅弁って美味しいんだろうね。いや、美味しく作ってるから、って話ではあるんだけど、なんかこう、特別感がそんな感じをさせているのか。わからないけれども、わかるのは美味しいお弁当。

なんて思いながら新幹線に揺られる間。

 

 

「中々に広島って遠いんじゃな…」

「まあ、新幹線だからね。飛行機なら一時間ぐらい、かなあ」

「そんなに早いのじゃ?!」

「そうだね。飛行機はそれぐらい。まあ、それだけお金かかるけれどね」

「そうなのじゃな。一長一短か」

「そうそう。それに、私は新幹線のほうが好き」

 

なんだろうね。本当に飛行機は便利なんだけれどなにかこう、安全性という意味では新幹線のほうが一つ頭抜けている感じがする。安さでは深夜バスだし、速さでは飛行機なんだけれどね。学生のときは深夜バスお世話になってたけれどね。

こう、なんていうかあれだよね。新幹線とか安定して乗れるようになると「あ、大人になったんだな」って思うよね。少なくとも私は思った。

 

「そろそろあれかな、静岡にはいる頃かな??」

「つまりあれじゃな????富士山じゃな?」

「そうそう、富士山。…富士山はホントどっちのものなんだろうね」

「それはもういろんな戦争の種と同じで一生決着つかないじゃろ」

「あー、かもしれない。とはいえきのこたけのこはそれこそ公式以外はそんなに煽ってなくない?」

「いや、煽ってるんじゃよなあ。それはもう、とある村が燃やされるぐらいは…」

「すぎのこ…」

 

すぎのこ、美味しかったのにね。なんかきのこたけのこ戦争に巻き込まれてそのままフェードアウトしたイメージはたしかにある。とはいえ、公式、一緒に入った袋を売ってたりするんだけどねえ。どうしてあんなに煽るのか。そして我々はその煽りに乗ってしまうのか。

それが、わからない。



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そのカップル 広島駅周辺にて。

「いやぁ、ついたついた。…メイ、眠くない?」

「んぁ……ご飯食べた後寝たから大丈夫、なのじゃ…」

 

まだまだ眠気眼のメイと一緒に広島駅のホームに着いたのがお昼の12時をちょっと過ぎた頃。まあ、私達が家を出たのが5時ぐらいだから、なんというか片道だけで半日潰れるわけで。帰りは飛行機です。ちゃんとチケットも取ってあるよ。いや、突然取れないってことがないようにね。

時間だけは間違えないようにしないとあれ、とても大変なことになる。ついでに撮ったのは19時出発だから、実家からは16時ぐらいを目安に出れば間に合う、と思う。

いやまあ、向こうみたいに突然電車がグモって止まったりすることはないので、大丈夫だと思う。大丈夫だといいな、大丈夫であってほしい。

 

「……どうしたのじゃ?」

「いや、一応帰りのことも考えておかないとね、とおもってさ。広島空港って割と遠いから」

「遠いのじゃ?」

「そうだねえ。まあ、そもそも空港っていうもの自体が割と遠くに作られてる事が多いかな」

「そういうものなのじゃな?…あれ?成田とか羽田はそれなりに街近くないかの?」

「そうだっけ。あんま使わないからなあ」

 

まあ、そのへんもなにか色々と考えてはいるとは思うんだけど。そういや、羽田は割と騒音問題で大騒ぎになりやすいんだっけ。まあ、飛行機の音、すごいデシベルらしいから問題にもなるよねえ、って。

実際住んでないからわかんないからそこまで強く言えないんだけれども。

 

「そうじゃ、主様。お昼はどうするかの。お腹すいたのじゃ」

「そうだね。お昼、どうしようか」

 

そう言って携帯で近場のご飯を食べる所を探す私達。駅前広場にいくか、それとも駅ビルに入ってるところに行くか。うーん。

 

「そうじゃそうじゃ、のう、主様。儂、お好み焼き食べたいのじゃ」

「お好み焼きかあ。じゃあ駅前広場いこうか。あそこならお好み焼き屋さんいっぱいあるし」

「そういうところがあるのじゃな?儂、土地勘ないし主様に任せるのじゃ」

「私も帰ってきたの、久しぶりだからなー。なんか色々と変わってそうで」

 

親に会うのが数年ぶり、というわけではない。いやほら、メイいると旅行に行くのは割と気がひけるので、基本来てもらったり、外であったりが多くなる。法事とかでいっても一日いればいい方、だものね。

あとー、まあ、親はいいんだけど、親戚でね。まあ、田舎あるあるですよ、田舎あるある。今回の帰郷もその親戚居ないときを狙って帰ってきてはいる。いや、いつかえってきててもおかしくはないんだけれど、親に連絡取ってその親戚が海外旅行言ってる間に帰郷している。

その親戚も、その考えをおしつけなきゃいい人なんだけどね、押し付けてくるからね。

 

「…大丈夫なのじゃ?」

「ああうん、大丈夫大丈夫。それより、美味しいお好み焼き探そ」

「さがすのじゃー」

 

そういって、私達は駅前広場、へと向かうのでした。



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そのカップル 実家にて。

お昼ごはんを食べ、広島駅から、JRに揺られ12駅。

中島駅降りると、ロータリーへと向かうと、久しぶりに見た車が私達を待っていた。

 

「そろそろ来ることじゃ思うとった」

「ねーちゃん。いつかえってきとったの?」

「ちいと前じゃわ」

 

運転席でそう言いながら笑った私の姉、高森静流。普段は九州の方でローカルアイドルをしているらしい。いやもう、アイドルって歳じゃないだろ、といいたけれども多分それを言うと私だったものが広がる。

昔から姉と喧嘩して勝てたことがないし、なんかこう頭も上がらない。

そしてスラスラと出る広島弁。関東に出てそれなりになったはずなのに地元に戻ればこんな感じである。まあ、染み付いちゃったからね、それは仕方がない。

 

「それで、そっちの子がうちのかわいい妹をたぶらかした女の子かな?」

「そう。可愛いじゃろ?」

「うちの妹は昔から怪奇に好かれやすいのがなあ。なんか祟られにゃあええけれど」

「は?」

「ゆわんかったけどうち見えたり分かったりするんよ。そっちの子は、んー…。なるほど、こっちではそう見んけれど、狐の子か」

 

なんかぴんっ、とメイの耳が警戒するように立ったように、みえる。まあ、初めて会う人でただでさえ緊張しているのに正体がばれてしまってはそうもなる。

しかし姉が見える人なのもびっくりだが私の好きな人が皆怪奇だったっていうのも驚きである。いや私よく無事だったな。というか気がついてたなら助けてくれ姉よ。

小さくため息をつく私。

 

「あー。そがいに警戒せんでもええよ。見たり分かったりはするけど払う力は一切ないけぇ。それに妹がベタぼれしとる相手を払うほど、うちゃ野暮じゃないよ」

「ナ、何を言い出すんじゃろうか!?」

「そう、ですか?…………お義姉さん」

「もうそこまで進んどるのかー。ますます払うような事はできんね。馬に蹴られてしまうわ」

 

くく、と笑う静流に、顔を真赤にする私。嫌なんだこの状況。なんで私は路上でそんな話をされないといけないのか。そもそもそんな話になるのは想定外なのでは。

いや、たしかに其の話をするために実家に帰ってきたのは事実なんだけどさあ。事実なんだけどさあ!はー、と深い溜め息をつく私。

なんかメイもまた安堵したように深い溜め息をついた。

 

「ふぅー…。私の名前は高森メイです。どうぞ、よろしくおねがいします」

「メイちゃんね。うちの名前は高森静流。こちらこそ、末永ううちの愚妹をよろしゅうしたいところじゃ」

「…うちのねーちゃん、変わってるでしょ?」

「いいお姉さんだおともうのじゃよ?」

「せめて見えたり分かったり、なおかつ私の好きな人が人外であることぐらい教えるとかさあ…」

「教えたところで、うちにも帆乃香にもどうしようものうない?」

「そりゃそうだけどー、そうなんじゃけどー…」

 

払う力はないからどうしようもないのは其の通りなんだけれども、なんかこう、いまさら教えられてももやもやするだけではあった。

そんな感情を持ちながら、私達は静流が運転してきた軽に乗り込んだのであった。



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その狐 彼氏の実家にて。

「よう来たね、入って入って」

「ただいま。いやぁ、やっぱこっち来るのにゃあだいぶ時間かかるね。

駅からは快適じゃったけれど」

「そうじゃろ、そうじゃろ。迎えに行かして正解じゃったわ。

ほら、そちらのお嬢さんも」

「あ、はい」

 

ということで、今儂は儂の主である帆乃香の実家に来ておる。いやなかなかに広いお家でびっくりしている。いや、まあ、たしかに儂をかえるのだからそれなりにお嬢様だとは思っておったが。

お姉さんもなかなかにお嬢様感はあったけれど、それ以上にアイドル感があったのは確かである。

そして、通された居間がまた、広い。うーんなんかソワソワするの。

 

 

「まあ、まあそがいな緊張せず、自分のおうちじゃ思うてくつろいでつかぁさいな。

お父さんもそろそろ帰ってくるけぇのぉ」

「あ、いえ、そんな。お構いなく」

「始めてきた家で緊張するなっていうなぁ割と無茶言いよる思うたほうがええ思うよ、お母さん。

ごめんね、メイ。大変でしょう?」

「いいや、いいのじゃ。主様の素がみれてそれはそれで新鮮で楽しいのじゃよ?」

「普段、この子、猫かぶってんのかー」

「そがいなコトないよ、ねえ、メイ?」

「いや普段は、標準語、じゃろ?」

「…あー」

「それはウチもか。いや、ウチは福岡の方だけど」

 

まあ、住む所によって色々と言葉が変わるっていうのはるだろうし、そういうのはあまり気にしない方ではあるのじゃ。ただまあ、方便のほうが可愛いっていう意見があるのはわかる気がするし、実際そうだろうな、とは儂はおもう。

というか、方言をしゃべる主様、可愛いのじゃ。うんうん、これは儂だけの特別にしよう。

 

「二人共広島弁しとってるの?なんてもったいない。そがいなのを使うてこそ彼氏、彼女を捕まえるテクニックじゃ」

「仕事をしとるのに方言は流石に色々とまずいの。お客様はあまり広島弁聞き慣れんのじゃし」

「イメージ的なものがあるんよ。博多弁の方を話したほうが受けがええし」

「そがいなものなのかん。きっともっとええ感じになる思うんじゃけど」

 

お茶を居間に持ってきながら、主様のお母様がそう言って現れた。

まあ、主様のお母様の言い分もわかるし、主様達姉妹の言い分もわかる。色々と大人の世界って大変なのじゃなあ、って思う。

そりゃ地元で就職したいって人がいるのはわかる。

 

「こっちならそがいなこたぁないんじゃろうけれどさ。大阪から東の人たちなんて口調すごい優しいけぇのぉ。博多の方へ言うた姉の気持ちはそがいなわからんけれど」

「まあ、そりゃあるかもしれん。たまーに関東の人たちもこっち来るけど、其のたびに「あれ?なんか怒らしてしまった?」っていっとるもん。そがいなコトないんじゃけどのぉ」

「そんなんなのかん」

 

お母様はそういって、首を傾げながら、座った。



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その狐 義家族と会話をする。

さて、ご主人の実家にいるわけじゃが。ご主人と姉様は一緒に買物しにいって、今、家には儂とご主人のお母様しかいない。

いやまあ、初めてあった人との会話なんてそうそう盛り上がるはずもないのじゃが。

 

「そうだ、卒業アルバムでも見る?」

「あ、いいんですか?少し見たいとは思ってまして」

「ほいじゃあ、ちいと待っとって。すぐ持ってくるけぇ」

「あ、はい」

 

まあ、お母様もそういう事をわかってか、卒業アルバムで場を盛り上げようということなのじゃろう。

まあ、勝手に見てしまうのはちょっと罪悪感はあるのじゃが、それはそれ、これはこれじゃ。実家に来たなら、卒業アルバムを見ないと行けない、みたいな話もあるしの。

 

「はい、こっちが帆乃香の小学校のやつ、で、こっちが中学校のやつ。

たちまちこの2つを読んどってもろうて。高校生の時なぁもうちいとまっとってほしいかな」

「わー。なんか、すみません」

「ええんよええんよ。これぐらいしか、うちゃできんし。テレビを見よってもろうとるだけっていうのもなんか違う思うけぇのぉ」

「それもそうですね。私は地方のテレビを見る機会はないので、楽しいですけれどね」

「そう?まあ、でもうちもメイちゃんとお話したいし、高校生の頃のも持ってくるわ。じゃけぇ、ちいとまっとってね」

「あ、はい。ごゆっくり」

 

ごゆっくりというのもおかしい気はするが。言葉に甘えて、とりあえず小学校の頃の殻見始める。

なるほどなるほど、ご主人の小さい頃、ってこんなこう、可憐なんだな、って思う。いや、今も可憐だとは思うのじゃけれど。それはそうなのじゃけれども。

そんなこんなしていると、お母様が高校生の卒業アルバムをもってきて、更に新しいお茶を入れもらった。うん、なんじゃろうな。儂はお客様なのだからそれぐらいされても別に罰は当たらないのだけれど少しだけお手伝いしたほうがよかったかな、とも思っている。

 

「どがぁ?こまい頃の帆乃香、可愛いじゃろ?それがなんてまた、あがいな擦れてしもうたかなあ」

「そんなに擦れてますか?」

「擦れとる擦れとる。もう何百回と見たビデオテープぐらい擦れとる。

中学校ぐらいかな?なんかこう、なにか大人ぶるようになったというか」

「まあ、そういう時期なんですよ。成長期といいましたっけ」

 

そういって、儂は入れてもらったお茶を一口飲む。はー、美味しい。

 

「すごいですね、こんなに美味しいお茶を入れられるなんて」

「やだぁ、めいちゃんったら。そがいなお世辞を言うたって出るなぁお茶請けだけよぉ」

 

なんていいながら、どこから出したかわからないけれどお漬物が出てきた。

すごい、いい感じに使ってそうな色をしておる。とりあえず、お漬物をいただきつつ。

 

とりあえず卒業アルバムの内容については、もうちょっと後じゃ。



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その狐 アルバムを見ながらしゃべる。

さて、お茶請けの漬物とお茶をいただきながらご主人の卒業アルバムを見ているわけじゃが。

 

「……………」

「あら、どしたん。なんかやねこい顔してしもうて」

「やねこい?」

「ああ、難しいってこと。メイさん、ぶちやねこい顔して帆乃香の卒業アルバムを見よる時があるけぇ」

「あー…。そうですか。私はそんなつもりはないんですけれどね」

 

ふふっ、と笑いながらそういった儂。いや、まあ、たしかに親しそうな女の子と一緒にいるときのご主人を見ると胸がきゅーっ、となるときはあるのだけれども。そういう時に難しい顔になっているのかもしれないのじゃ。

なんじゃろうな。これが嫉妬というやつなのか。

 

「ちょくちょくご…帆乃香さんと一緒に写って親しそうにしている方、いらっしゃるじゃないですか」

「ああ。幼馴染の遥ちゃんかな。小中高、と一緒じゃった」

「遥さん…」

「そうそう、そんでもって、帆乃香にとっての…」

「ただいまー」

 

ご主人のお母様が大事なことを言おうとしていたところにご主人さまと見知らぬ男性が帰ってきてリビングにやってきたようで。いや、まあ、それはそれでいいのだけれども。

ご主人にとっての…ご主人にとってのなんじゃ…

 

「いやあ、この時間になるとやっぱスーパーそれなりに人おるね。それなりに時間取られたわ。

あ、あとお父さんも拾うてきたけぇ」

「拾うてきたってなんじゃ拾うてきたって」

「実際そうじゃろうよ。………って、メイ…?その手に持ってるものは…?」

「あー……。帆乃香さんの卒業アルバム、じゃ」

「おわあああああああああ!?お母さん!?何勝手に人の思い出、見しとるの!?」

「手持ち無沙汰じゃったけぇのぉ。食い入るように見てくれんさって嬉しかったわ。それに、メイさん意外と興味津々じゃったわよね?」

「否定はできない、です」

 

おおおおおう、と膝から崩れるご主人。なんじゃろう、ここまであれだと見なければよかったまであるかもしれない。まあ、そうじゃよな。誰にだって知られたくない過去ってあるよの…。

とりあえず、膝から崩れ去ったご主人の近くへ言って。

 

「ごめんなさいなのじゃ。儂が無理言って見せてもらってたから」

「………いや、まあ……。うん………。大丈夫。見せに帰ってきたところはあるから…」

「時間が省けてよかったじゃない」

「母さん!?見した人が言うセリフじゃないよそれ!?父さんからもなんか言うて」

「母さん、…………いや、そのなんじゃ。結婚前の年頃の女の子の過去を晒すような真似は良うない」

 

一緒に帰ってきた男性は御父様だった模様で。

御父様にそう言われ、舌をちろ、と出しながら頭を下げたお母様。うん、これは実は反省していない。まあ、たしかにノリノリで見た儂も儂なんじゃが。否定はしないぞ。

 

お姉さまが帰ってくるまで、なんかこのなんとも言えない感じは続きました、とさ。



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そのカップル お布団にて

「………いやぁ」

「……………。なんじゃろうね、凄い緊張するのじゃ」

「いつも、とそう、かわらないはずなのにね」

「のじゃ」

 

はい、私の実家で、一組の布団で二人で寝る、という状況になっております。それはまあ、普段、どおりといえば普段どおりなのでそんなにおかしい話ではないのだけれども。ホテルとかでもよくやってるし緊張する、ということもないんだろうけれども。

なんだろう、心臓が凄い鳴っている。これから、何言われるのか、とかそんな不安もあるのだろうけれど。そりゃ、アルバム見てたらね、色々と聞きたいこともあるよね。

 

「のう、ご主人」

「……うん、どうする?今から話すと徹夜になるかもだけど」

「じゃあ、よしとくのじゃ。彼氏の家で徹夜とかそんな勇気はないのじゃ」

「そうしとこう。……いや、うん。合体もそんな、しないほうがいいよね」

「壁薄いんじゃろ?よしとこ」

 

 

心臓がバクバクしているのに、この、何もできない感じ。なんだろう、初夜に近い感じがする。いや、私達の初夜はこんな初々しいものではなかったけれども。めっちゃくちゃ酔ってる状況で、っていうことだったかもしれないし…。

あ、いや、あれをなしとするなら、やっぱり初夜になるのか…?いや、全然そんなことなかったわ。その後それなりに数をこなしていたわ。だから、このドキドキ感は…初めてかもしれないし、そうじゃないかもしれない。

 

「主様…。あのじゃな…」

「うん?やっぱり聞く?」

「…いや、それじゃないのだ。いやそれも聞きたいんじゃが」

「まあ、明日、その子の…お墓いくし」

「お墓!?…いや、お姉さまの話では基本人外だからお墓なんて」

「……まあ、そうね。そういう話なんだけど。まー、なんていうかその」

「もしかして…」

「そう、出会った頃からもう彼女は…。……なんだろうねえ、言われたときは驚いたしショックも受けたよね」

「それで夢を見ることに」

「そうだね。…まあ、多分そろそろ墓参りこいって話なんだろうけれど」

 

ここ数年はあまり顔を出してなかったからか、いよいよ顔を見せろ、ということであの夢を私に見せたのだろう。それならあのときのままの夢じゃなくてちゃんと、と思ったけれど夢魔ではないからそれは無理なのかー、とは思った。

いや、夢魔だからといって夢に入られるのはあれなのだけれども。ホント勘弁してほしい。

 

「いい人、だといいじゃが」

「まあ、いい人、だとは思うよ。良い幽霊、か。少なくとも悪霊とかそんな感じではない、と思うけれどどうだろう…」

「悪霊だったら逃げるのじゃ」

「そうだね、逃げよう」

 

なんていいながら、眠くなるまで会話をしていたのでした。

 

 

 



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そのカップル コンビニにて

ということで、私、高森帆乃香の実家二日目。今日は墓参りがメインイベントです。

まあ、明日、帰る前でも良かったんだけど、多分疲れるだろうから、本日やっちゃいます。

…いやほら、おじさん達が明日帰ってくるっていうし、面倒事が増える前に。朝からいって文句言われたくないからね。

 

「コンビニってこういうのも売ってるんじゃなあ」

「あー、そうね。お墓が近いと売ってるよね。えーっとなんていうんだっけ…」

「お供えのお花、でいいんじゃないかの?」

「そうだね、お供えのお花。菊っていうのも味気ないしいっつも竜胆なんだけど、菊のほうが良いのかな?」

「うーん、どうなんじゃろ。それはもう個人の趣味によるとしか」

「それもそうか。あとはお酒ーと」

「管理人さんに飲ませるんじゃな?」

「あー、そうね。それ用もあるか」

「あ、そうか。普通はそれだけでいいじゃけど」

「普通じゃないからね。…そう言ってくれたのは彼女だけだけど」

 

ふふ、と笑ってそういった私。そう、私が付き合ってきた来た人は人外が多かったわけで。それでも両手で数えるぐらいだけど。なんだろうね、ちょっと悲しくなってきた。

ぽんぽん、と私の頭を撫でるメイ。

 

「そういえば向こうの方はバリバリ広島弁なのじゃろ?つまり広島弁のご主人がまた見られるわけじゃな?」

「そうだね、いや、二人っきりのときでも使うよ?」

「それはその、通訳必須になりそうなのじゃ」

「あー。そうかもしれないね。…東北の方ほどじゃないけど、こっちも中々に通じにくいものね」

「あと、北陸もなにいってるかわかりにくいのじゃ。…いや、北陸の方は主にテレビを通じてしかみんから、ちょっとあれも入っているかもしれんのじゃけれど」

「あー」

 

仕事関係の人でも北陸から来ました、って人は殆ど見ていないかもしれない。割と人にあってるような気もしたけれどまだまだ全然あってないんだなあ、って思う。転職も考えてみるか、と思ったけれど、転職したら先輩二人がとても悲しがりそうなのでやめておこう。

あの人たちの飲み会のときの世話を焼く人たちを他の人に任せられないし…。いや、多分いい感じでやり過ごすようにはなるんだろうけれどなんかその後、ウチに突撃してきそうだし。そういうことを考えるとやっぱり転職はできそうにない。

…まあ、転職先がブラックじゃないっていう可能性も少ないし、もうちょっとだけウチの会社に居るべきなのだろう。ちょっと給料上げてほしいな、とは思うけれども。

 

「言ってみればいいんじゃないかの?」

「…でもいわゆるそういう立場の人でしょ?恐れ多いよ」

「…あー、言っておったな、そんな事」

「うん。……まあ、帰ったら、かな。そういうことは」

「そうじゃな。今は旅行中じゃ」

「そうだね。墓参り終えて、明日の予定建てよう」

「そうじゃそうじゃ」

 

そう言って、コンビニで支払いを済ませ、姉の待つ車へと向かうのでした。

墓参り編がもうちょとだけ、続くよ。私は誰に言っているんだ。



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そのカップル 霊園にて

「ほいじゃあ、お姉ちゃん、車置いてくるけぇ」

「うん、よろしゅうお願いのぉ」

「先行ってますね」

 

そう言って姉の運転する車から降り、今回の目的である彼女のお墓の前へと行くためにあるき出す私達。

まあ、本当はそこまでノリノリってわけじゃないのだけれども。普段タバコ吸わないのだけどタバコを吸いたくなるぐらいには億劫ではあったりする。でもここまで来ちゃったわけだし、今更帰りまーすはできないのであった。

 

「…なるほどの」

「ん?感じる?」

「まあ、時期が時期じゃからの。とはいえ、そんなに悪いのはおらんし、大丈夫じゃろう。…それにあれじゃろ?主様の元カノが締めておるのかはしらんが、悪さをしようもんなら大変なことになるんじゃろ?」

「どうだろうなあ、ただ彼女は気に入らないことがあると殴る、ってタイプだったからなあ」

「DV野郎かの?」

「いや、私には手を出してこなかったよ。壁とかにはあたってたけれど」

「ふむ…、いやそれも十分DVなのでは?」

「…どうなんだろうね」

 

首を傾げながらそういった私。ものに当たるのもDVなのかもしれないかもなあ、とは思ったけれど、付き合ってるときはそんなことなかった、なんだろう、恋愛ハイってやつだったのかもしれないし、そういうのに疎かっただけかもしれない。

まあ、でも、そんな私だからうまく付き合えてたのかもしれないし。

 

「そうじゃ、掃除道具」

「そうそう、掃除道具。いやまあ、やってくれてるとは思うけれど、せっかく来たんだしねえ」

「こういうところに管理人さんは大変じゃろうなあ」

「他のところは見えない人がやってるんじゃないかなあ。……ここは今から、その人のお墓に行く人が管理人やってるんだけど」

「普段は管理人室で寝てる感じじゃな?」

「そうだね、家買ったって報告ないし」

 

「なになに、うちの話?」

 

私がメイと話をしていると後からそう話し掛けられた。びくぅっ、と肩を上げる私達。

 

「そがいに驚かれると、ちいと傷つくなあ。…久しぶり、帆乃香」

 

私達が後ろを振り向くと同時に、そう話しかけてきた、小麦色の肌をした背の高い女性。服装は半袖のシャツにロングスカートといった出で立ち。

 

「突然こがいな場所で話しかけてくる方が悪いたぁ思わん?…遅うなってすまんのぉ、遥」

「ほんと、ずっと待っとったうちの身にもなってよね。んで、隣の子が今の彼女?元カノの墓参りに連れてくるたぁどがいな考えなのかしら」

「別れ話を切り出したしたなぁ遥の方じゃろ。じゃけぇ、ちいととした復讐よ、復讐。まったくあの頃の夢を見してまで、来てほしかったんじゃろうに」

「そうじゃったかな?…まあ、ええや。はじめまして、今の彼女さん。うちの名前は崎元遥。気軽に遥お姉さんって呼んでくれんさってええわよ」

「ええわよってなん…」

 

ため息を付きながら、私はメイの方に向いて。

 

「今回の帰郷の目的の子。えーっと何年やってるんだっけ、幽霊」

「何年じゃったっけな、もうね、長いことやっとると年数やらどがぁでもようなるんよ」

「そ、そんなもん、なんですね…」

 

なんとも言えない顔をしているメイ。いやまあ、多分そんな反応になるよねえ。私も苦笑いをむけるしかないもの。

とりあえず、雪に持ってきた差し入れをわたし、お墓へと向かう私達なのでした。



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そのカップル 管理人部屋にて

とりあえずは掃除を軽くして、挨拶を、と思ったのだけれど、なんだかいつの間にか管理人室にいます。

いや、掃除は遥と後に合流した姉も含めてやったけれども。

 

「いやあ、こがいな暑い中掃除するもんじゃないわ。汗がダラダラでー…。麦茶、えっと作ってあるけぇお替りしてええわよ」

「あ、はい。頂きます」

「そうはいっても長い休み取れるの、この時期ぐらいじゃしね。秋もあるけれど、秋は他のところ行きたいし」

「そりゃわかる。お墓参りなんて、一年に一回でええわよ。それをなんべんも」

「まあ、こっち側としても一回でええかな、たぁ思うんじゃけれど。そうすると立ち行かんようなるんよね」

「世知辛いですね」

 

どこの業界もそうだしどんな生物でもそうなんけれど、やはり生きるためには食べなきゃいけないわけで。食べるためにはお金が必要なわけですよ。そりゃ、お墓参りは一回でいいって幽霊側が言った所で、管理している側が一回だけだと食っていけない、となるなら、お盆だなんだってイベントとしていれるよなあ、ってなるわけですよ。

いやあ、やっぱどこも世知辛いね。

 

「私たちはコンビニで色々買ってきたましたけれど、やっぱりこういう管理している所で買ったほうがいいんですか?」

「そっちのほうがありがたいっちゃありがたいかなあ。納骨やらもあるけぇそがいに気にせんでもええ、っちゃええんじゃけど、そがいなのも毎月あるもんじゃないし」

「まあ、そうならんように病院も色々手を尽くすじゃろうしね」

「そうですよね」

 

多分、私がそういう状況になったら、病院とか知り合いだとか色々手を尽くしそうなメイがそういって頷く。いやほら、私はそんなに長く生きたいとは思ってはいないのだけれど、そうするとメイを一人にしてしまうわけで。そうすると長く生きなきゃなあ、なんて思うわけですよそれは。

 

「まあ、早うこっち来られてもうちも困るし嫌じゃし」

「まだその予定はないよ、まじゃのぉ」

「帆乃香は肝臓の数値気ぃつけんさいよ」

「そうだそうだ、高うなってからじゃあ遅いんじゃぞ」

「そうだそうだ、私を一人にするつもりかー」

「気をつけます…」

 

気をつけてても高くなるときは高くなるとは思うのだけれども、それはそれ、これはこれと返されそうなので素直にそう言っておく。

お酒控えなきゃ、とは思って入るのだけれども、お酒を飲まないとやってられないシチュエーションが多くてその。

 

「それはわかっておる。そのうえで肝臓に気をつけて、ということじゃ」

「社会人はね、お酒に逃げたいこともあることばっかりじゃけぇの」

「それもそう、なんよね。普通の職業でないうちですらそうなんじゃし」

 

心を読まれつつ、そうなのだ、とうなずきながら、私は麦茶をいただいた。

 



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そのカップル 実家に向かう車内にて

さて、お墓参りも終わったことだし、後は東京に帰るだけとなったのだが。

遥がパーティをしようと言い出し、それに姉とメイがのり、なぜだか実家でパーティをすることに。いあやまあ、新幹線の切符は大丈夫なんだけれども。ホテルに泊まる気だった私としてはその。

 

「なにさ、ホテルでなにするつもりじゃったわけ?」

「はー、あれじゃなあ。都会にいってかわったなあ、穂乃果は」

「実家じゃそうできんし…。って何を言わせるんじゃ君たちは。恥を知れ恥を」

「まあ、ここ数日、ご無沙汰ではあるからの…」

 

男がいたらとんでもない事を言っている気がするのだけれど、まあ、それは、女しかしない車内だからこそ、っていう。

あ、事務所はきちんと閉めてきました。「めったにかかってはこんけれど、携帯電話の番号も書いてあるし、なんかありゃあかかってくるさ」とは遥の談話。

 

「メイも気軽にそがいなこといわんの。乙女じゃよ乙女」

「「……乙女?」」

「女の子は何歳だって乙女じゃよ。貴方達、なんか。否定するんか!」

 

いや、私だって乙女かそうでないか、って言われればそうではない歳だよ。否定はしないよ。だけれどもだ、乙女だっていう恥じらいがなければ女の人としてその何かが。何かが失われる気がするんだ。

それがわかるようになったらたぶんその人は若くはない。…いや、私は誰に言っているんだろうか。よくわからなくなってきた。

 

「いや。昔はそんなんゆわんかったけぇさ。ちいと驚いとるだけじゃ」

「そうね。恋をするっていうこたぁそがいなことなんじゃろうなあ」

「突然どうした、二人して。うちゃ割と昔からそんなんを言いよった気がするんじゃけれども。つい最近の話じゃないよ」

「…確かに酔うとそんなことばっかり言ってたような…。酔ってる人の戯言と重いって聞き流していましたけど…」

「メイ!?」

 

まあ、確かにね。素面ではなかなか言えないですよこんなこと。でも今は素面なんですよ。酔ってない。飲んだのは麦茶だけです。

そして、素面でもそんなことを言いたくなるお年頃なんです。お年頃が抜けてないっていう話なんだけれども。

 

「はー。酔うとらにゃあねえ。…いやまあ、歳を実感するなぁそがいなのもあるのか」

「眠うなってしもうたりするの早うなったりするんじゃろうか」

「やめろやめろ、うちゃまだそがいな歳じゃない。ピッチピチの二十代じゃ!」

「お肌の曲がり角に近いのじゃろ?」

「メイ!?」

 

なんか、今日メイ私に辛辣じゃない?私なんかやった?いや、いろいろとやらかしてる感じはあるのだけれども。だからって今ぶつけなくても!?

なんだか、こう私悲しくなっちゃうよ!?



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そのカップル 帰りの新幹線内にて。

さてさて。長いこといた、気がする広島から地元へと帰る新幹線の中。

前日の話?とんでもなく酷かった(KONAMI)

まあ、また時間ができたら来る事を約束して、向かうよ。

 

「いやぁ、楽しかったの」

「楽しかった?ならよかったわ。私はだいぶ疲れたよー」

「旦那様、だいぶいじられておったからのぉ」

 

クスクス、と笑うメイ。いやはや、メイもだいぶいじってた方なんだよなあ、なんて顔をしつつ。。

お昼に広島駅で駅弁を買って食べてます。私は、もみじ弁当。メイは夫婦あなご飯を買ったよ。いや、私もあなご飯にしようかな、って思ったけれど、広島の思い出としてもみじ弁当に。

まあ、4時間ぐらいかかるし、途中でまた何か買うことになりそうである。

 

 

「寝たりしないのかの?」

「多分寝てても…新横浜ぐらいで起きちゃいそうだしね。ビールとかあれば話は別だけれど」

「売り子さんきてからかの」

「そうなるんじゃないかなあ」

 

お土産はたくさん買ってある。いやまあ、ほとんど会社の人に渡すので、私たちの家に残るのはそんなにないのだけれども。嬉しそうに喜んでくれそうな人ばっかりなのでまあ、渡しがいがあるのでお土産を買って帰りがいがあるというか。

まあ、そこまでお土産を持って会社に行くっていうことの数をこなしてはいないのだけれども。一人で旅行なんてそうそういかないしね。

 

「やっぱり一人ではいかないのかの?」

「そうだねえ。ほんと、広島帰るぐらい?まあ、帰ってきたのも…いや、一年に一度は帰ってるか」

「一年に一回は帰ってるのに、遥さんは呼んだん?」

「いやあ、毎年呼ばれてるしね。この季節の風物詩みたいなものだったなあ」

「そっかぁ。来年も呼ばれるんじゃろうなあ」

「来年も一緒にくる?」

「もちろんじゃ」

 

うんうん、とうなずきながらそう言ったメイ。それをみて私は安堵をする。いやほら、来ない、とか言われたらショックだし。とはいえ何がある変わらないから、来年になるまでは何もわからないのだけれども。

 

「そうじゃなあ、一寸先は闇じゃなあ」

「乗り越えられるといいね…」

「まずは旦那様の体の健康からじゃな。ここ数日、たくさん飲んだから当分なしでいいかの?」

「そんな殺生な…命の水をとりあげんといて…」

「そんな言うかの?」

「いうなあ」

 

お酒は命の水。それは人類共通だと思うんだ。それはどんなところでも、どんな人種でも。多分、きっと、そう。

 

「なんだか最後の方よわいのぅ」

「仕方ないね、私は日本人っていう人種でしかないし」

「それも、そうじゃな?…お、売り子さんきた」

「おねーさん、ビールとなにかつまみとー…アイスいる?」

「アイスとお茶をもらおうかな…」

 

そういって、二人で注文したのでした、と。あー。明後日から仕事かあ、なんて言葉をビールと一緒に飲み流すためにね。



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