ゲゲゲの鬼太郎 天翔の少年 (狂骨)
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人の世に蔓延る妖

この世界は不思議な事に満ちている

 

そしてそれを信じるものと信じないものとで分かれている。

信じる者は見え 信じぬ者には見えぬ。ただそれだけである。

 

だが、後者は長い人生の中で、いずれ思い知るであろう。

 

 

 

“見えてる世界が全てじゃない”ということを

 

 

ーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーーー

 

東京のとある中学校

 

周りとは違う制服『学ラン』を着た1人の少年が登校していた。その少年は顔を前髪で少し隠しており、表情が読み取れない不気味な印象を与える容姿である。

 

「おはよう!」

「おはよう!土日どっかいった?」

 

 

「おい!今度のライブ行こうぜ!?」

「行こう行こう!」

 

周りから挨拶や話が飛び交う中 その少年は誰一人とも話さなかった。

すると周りからヒソヒソと小声で耳打ちする声が聞こえてきた。

 

「ねぇ…あの子なんで学ランなの…?」

「さぁ…?何でもお金がないとか?」

「マジか!?ちょーかわいそうじゃん!(笑)」

 

周りからは哀れみや冷やかしの題材とされていた。そんなことは気にせず、その少年は校舎の中へと入っていった。

 

ーーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーー

 

「……退屈だ……」

 

朝おきて学校へ行き授業を受け学ぶ。普通だが俺にとっちゃ何か物足りない。

 

俺は席に着くと取り敢えず気を紛らわす為にイヤホンをつけ音楽を流し本を開いた。

耳から流れる音楽が周りの話し声をかき消し、気分を変えてくれる。

 

ガラガラガラ

「おはよう!」

音楽を流していてもデカイ声は入ってくる。

今の声は確か犬山 まなというやつか…?男子からは『デカまな』ってよばれてたっけ…?まぁどうでもいいが。

 

俺は読んでいた本のページをめくった。

そこには『見上げ入道』と書かれた一つ目の巨漢な男が載っていた。

俺は少しだけ妖怪に興味があった。

 

 

『同族』だからな。

 

それと俺は何故か虐められている。

「うわぁ〜!!また龍崎がいるし〜!!まじ最悪!」

「死んでくれっての!」

ある者は言葉で俺を攻め立て、またあるいは…

 

バンッ!

集団で暴力を振るい俺を脅す者

「は?聞こえなかったんだけど?もう一回言ってみろよ」

「……嫌です…」

俺がそう言うとソイツは俺の鳩尾に膝を入れてきた。まったく痛みは感じないが面倒だからわざと倒れる。

「う……ゴホッ!ゴホッ!」

「ジュースぐらい買ってきてくれよ?」

「俺たち友達だろ?」

鳩尾を入れた奴の他 2人が倒れている俺を見下ろしてきた。

「お……お金がないんです…」

俺がそう弱々しく言うとソイツらは爆笑しながら俺の頭を踏みつけた。

「ハハッ!そうかお前んち貧乏だっけか?こりゃぁ失敬♪お前にねだった俺らがバカだったわw」

そう言うとソイツらはそのまま去っていった。

「……くだらん」

俺はそう言い捨て 制服に付着した埃をはらうと教室に戻った。

 

 

 

ーーーーーーー

ーーーーーー

ーーーーー

俺は授業を終えるとすぐに校舎を出た。俺の家はスクランブル交差点の出た商店街の近くにある。ちなみに親はいなく一人暮らしだ。

 

俺はいつもの通り人混みの多いスクランブル交差点を抜け小さな商店街を歩いていると

 

バッ

突然横を通り過ぎた人のバッグに当たってしまった。当たった相手は俺より少し背が高く、赤いワンピースを着ている女だった。取り敢えず俺は謝罪をした。

 

「す…すいません」

俺が謝罪するとその女は大丈夫とだけ言い俺は頭を下げると通り過ぎた。あの女とは面識はないがぶつかった拍子に分かった事がある。

 

アイツは……『妖怪』だ。

 

 

ーーーーーーーーー

ーーーーーーー

ーーーーー

 

猫娘side

 

私は夕食の買い出しの為に人間の世界に来ていた。

私はいつもの通り行きつけの魚屋と八百屋に寄った帰り道

 

バンッ

 

「す…すいません」

1人の人間とぶつかった。背は私より低く学生服を着ていたから多分学生だろう。その人間はすぐに私に謝ってきた。目は前髪で少し見えなかったけど取り敢えず普通に『大丈夫よ』とだけ言った。その人間は頭を下げるとそのまま去っていった。その少年には気づかれてないと思うけど私は気づいた……

 

あの人間は………『妖怪』だという事を

 

 

 




設定

名前 龍崎 忍 (りゅうざき しのぶ)
身長 マナより少し高い。猫娘よりは断然低い
容姿 ベルゼバブの鷹宮忍 を小柄にした感じ

龍と人の間に生まれた半妖。10歳の時に母親が他界し父親は退治されその後 放浪しているところを1人の老婆に拾われ小学校に通えるようになり2年間を過ごした。2年が経ち小学校を卒業すると同時に育ての老婆が亡くなると蓄えた知恵で生活するようになり、その地から人口密度の多い東京へと上京し、自分や世界を知るために中学へと入学し、大学進学を目指すようになった。中学入学後はバイトで生活費を稼ぐ。
性格は龍の血の故か好戦的で妖怪が現れると髪をオールバックにし襲いかかる。
学校では虐めにあっており、パシリやリンチなどを何回もやられている。
意外と大食いであり、食費は大盛りチャレンジ等で賄う時がある。

顔は美形とはいえず、髪が目を隠しているのでいい印象を持たれていない。俗に言う陰キャ。髪をオールバックにした際は鋭い目が曝け出されるので大体の人から別人と思われる。額には過去の妖怪との激戦の証である深い傷跡がある。

また、綺麗事を嫌っており、絆や根性論を聞くとイヤホンをする時がある。


龍の鉤爪
小指と薬指 人差し指と中指をそれぞれ合わせて三叉にして相手を掴み、その部位を握りつぶし抉り取る

龍の舞
四肢に妖力を集中させ 相手に連続で100発以上ものパンチや蹴りを放つ。

龍の炎
体内にある膨大な妖力を青い炎に具現化させ手から放ち相手を塵にする。

天龍乱舞
龍の舞よりも上回る数のパンチやキックを放ち、相手を上空に打ち上げ、そこに向けて特大の波動を作り上げ相手にぶつける。

変化
巨大な龍の姿となる。見た目はミラユニコーン



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見上げ入道

俺は家に着くとすぐさまベッドに倒れこむように眠る。俺の体を静かに受け止めたベッドは眠気で俺を誘って来た。俺はそれに誘われるように静かに目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____ッ!!

 

突然、俺は妖怪の気配を感じ取り目を覚ました。そんじょそこらの低級供とは全く違う強大な妖気だった。

 

「…………距離 2千………ドームの方からか……?」

俺は学ランを着ると屋根から屋根へとフリーランニングをし、ドームに向かった。

 

ーーーーーーーーー

ーーーーーーー

ーーーーー

 

一方そのころ、現場であるドームの内部では

 

「フハハハハハッ!!!これで49997人目の魂を取り込んでやったわ!」

一つ目の巨大な男が高笑いしていた。この男の名は妖怪『見上げ入道』。空気を自在に操り、塊として吐き出す他、相手を霊界に飛ばすという恐ろしい技を持つ妖怪だ。そしてその妖怪の目の前には龍崎とすれ違った妖怪『猫娘』とクラスメイトの『犬山まな』が立っていた。

 

「く……鬼太郎が……」

猫娘は歯を噛み締め見上げ入道を睨んだ。いや、正確には見上げ入道なよ足元にいる男を睨んでいたのだ。

そこにいる男も見上げ入道に続くように笑うと猫娘達を指差した。

 

「先生!あそこにピッチピチの魂が2つありますぜ〜!」

そう言われると見上げ入道はその男へ目を向けた。

「ねずみ男…今までよくやってくれたな」

「そりゃ勿論っすよ〜!!見上げ入道先生がこの日本を支配するというならばアッシは何でもしますよ♪」

そう言った瞬間、見上げ入道の口がその男に向かって開かれた。

 

「ふむ。では"秘技 霊界送り”ッ!!」

「へ?」

そう唱えた瞬間、見上げ入道の口から鬼火がまるで龍のように唸りながらその男へと向かい、それと同時にその男をまるで川に流すかのように霊界へと送った。

 

「チキショー!!!裏切りやがったなこのクソ坊主!!」

その男が消えた瞬間 見上げ入道の身体が赤く発光した。

 

「フハハハハハハハ!!!!これで49998人目の魂。残りの2つは貴様らだ…!」

そう言うと見上げ入道は巨大な1つ目で猫娘達を睨んだ。

その威圧に猫娘は耐えたが、人間である まな は耐えることができず尻餅をついてしまった。

その時、猫娘がまな の目の前に立った。

「……鬼太郎なら大丈夫。アンタは早く逃げな!」

そう言うと猫娘は体制を下げ、両手を地面につけ四つん這いの状態となった。

その瞬間、猫娘の顔が一変した。

 

「ニャア………!!」

眼光は鋭く 口元が耳まで裂け、更にその内部にある歯はピラニアのように鋭利なモノへと変貌した。

 

「小癪な ハァッ!!」

そう言い見上げ入道は息を吸うとその息を空気の塊として猫娘目掛けて放った。

 

「ニャアッ!!」

その塊を猫娘は前に走り出すことで避け、そのまま見上げ入道の方へと向かった。そのスピードは凄まじく、すぐさま見上げ入道の足元へと近づいた。猫娘はそのまま足から見上げ入道の体に登り、腹に手がついた瞬間、そこから顔目掛けて大ジャンプをした。

 

「シヤァッ!」

その瞬間 猫娘は自分の爪を鋭利な刃物へと変え見上げ入道の目玉への強力な一閃を放った。

 

「がぁぁ…!!儂の目を…!よくも!」

見上げ入道は切り傷のつけられた目を抑えながら巨大な手で猫娘を掴もうとした。そのつかみ取りを猫娘はすぐさま上に飛ぶようにして回避し、見上げ入道の腕に着地するとすぐさまもう一閃を浴びせた。

 

「ぐぅ…己ッ!!ハァッ!!」

「なっ!?」

見上げ入道が突然吐き出した空気の塊は猫娘に直撃し、その場から地面へと叩き落とした。

猫娘は何とか態勢を保ったもののかなりのダメージを負い所々に傷が見え始めていた。

「猫娘さん!」

「バカッ!早く逃げなさいッ!!」

マナが駆け寄ろうとするも猫娘は一喝し逃走を促した。だが、見上げ入道はそれを逃さなかった。

 

「逃げられては面倒だ。まずは貴様からだ。“秘技 霊界送り”ッ!!」

吐き出されたその鬼火はまっすぐ まな の方へ向かって来た。その炎が残りわずかな距離となったとき

 

「危ないッ!!」

猫娘がまな へと身を投げ狙いをそらした。だが、結果としては前にでた猫娘にその鬼火が襲いかかった。

「くっ…!」

「猫娘さんッ!」

その鬼火は猫娘を攫うと霊界へと流れていった。

 

 

その時

 

ドォオオオオオオオオンッ!!!!!!!

 

 

突如 猫娘のいた場所のドームの壁が崩れた。その衝撃で鬼火はかき消され猫娘はその場から床へと落ち難を逃れた。

 

「な…何だ!?」

見上げ入道は突然の崩落に驚いた。猫娘やまな も同じで3人は崩れた壁の方へ目を向けた。

その時 その近くにいた猫娘には見えたのだ。砂埃の中にある “影”を

やがて砂埃が晴れると猫娘は目を開いた。

 

「ア……アンタは………!」

そこには、夕暮れの時に自分とぶつかった少年が立っていた。

 

 

 

 



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龍の力

「ア……アンタは……」

猫娘は突然 崩れた壁から現れた少年に目を丸くしていた。だが、それと同時に一筋の冷汗を流していた。

 

(な…何て膨大な妖気…すれ違った時とは全く違う…!)

猫娘は長年の戦闘経験より、その少年から滲み出る強大な妖気を感じ取っていた。猫娘の脳内は『逃走』という命令で埋め尽くされた。

だが、その威圧感をものともしない人物がいた。

 

「キミって……確か同じクラスの……」

まな が呟いたその言葉に猫娘の中で働いていた本能が収まった。

 

「アンタ コイツのこと知ってるの…?」

猫娘がそう聞くとまな は首を振り頷いた。

「龍崎 忍……私のクラスメイト…けどなんで君が…?」

すると ずっと黙っていたその少年は周りを見渡すと口を開いた。

「おや?犬山さんですか。なぜ貴方がここに?」

「それはこっちのセリフよ!?龍崎君の方こそ何でこんな所にいるのよ!?」

あまりにも能天気な言葉に対しまな は驚きの声をあげた。その一方、問いに対し龍崎は手を顎に当て「う〜ん」という表情を浮かべた。

 

「まぁただのひ…「ハアッ!」 ん?」

 

ドォオンッ!!!

 

龍崎が口を開いた直後 見上げ入道が空気の塊を放った。その塊は龍崎に直撃し 当たった瞬間 周囲の瓦礫を吹き飛ばした。

 

「龍崎くん!」

 

「フン 人間如き が儂の前に堂々と立つなど生意気な。まぁいい1人殺してしまったがそこにいる奴らで十分じゃろ」

そう言うと見上げ入道は一番近くにいる まな へと目を向けた。

 

「さて、では秘技霊界おく…ガバァ…ッ!!!」

見上げ入道がまな を霊界へ送ろうとした瞬間 見上げ入道の右頬が内側に向かって凹んだ。

 

「ぐぅ……」

見上げ入道は体制が崩れ地面に手をついた。

 

「な…何が…起こった……の?」

猫娘はもちろん まな も理解できずにいた。彼女達が見えたのは見上げ入道が突然倒れた ただそれだけだった。すると、見上げ入道の下から先ほどと同じ声質の声が聞こえた。

 

「随分と舐められたものだな。あんなハエが止まるような速度の攻撃で俺を倒せると思っていたのか?」

その声は見上げ入道の右手辺りから聞こえた。見上げ入道はそこへ目を向けた。だがそこには何もいなかった。

 

「ど…どこだッ!姿を現せッ!!」

そう叫びながら見上げ入道は1つ目で周りをくまなく探した。だが見えるのは瓦礫のみであり先程の少年の姿は一切映らなかった。

 

 

その様子を猫娘は遠くから見ていた。

「…今ならまな を逃がすことができるかもしれない…」

そう考えた猫娘はゆっくりと立ち上がると 深呼吸をし息を整えた。

 

「(あの巨大な手に掴まれたら終わり…掴まれる前にドームから出ればこちらの勝ち…)

そう心で思い浮かんだ作戦を頭に叩き込むと最後の力を振り絞り四つん這いとなった。

そして、見上げ入道の狙いがまな から逸れた時 猫娘は一気に力を放出し駆け出した。

 

「今しかないッ!!」

そう言い猫娘は見上げ入道の足元を通り過ぎ 尻餅をついているまなの元へ着くとすぐさま手を掴み 龍崎が作った入り口へと走った。

 

「なッ!?しまった!」

見上げ入道はようやく気づき すぐさま猫娘達を追った。だが見上げ入道が気づく頃には猫娘とまな は入り口付近へと着いていた。

入り口付近に着くと猫娘はまなから手を離し背中を押した。

 

「このままドームから逃げな。アイツは私が食い止めるから」

そう言い猫娘は向かってくる見上げ入道へと体を向けた。だがまな は逃げようとしなかった。

 

「そんな深手で…無理ですよ!一緒に逃げましょう!」

「一緒に逃げた所ですぐに捕まる…だったら誰かが残って足止めするしかないの!」

「猫娘さん…」

その時

見上げ入道の巨大な手が猫娘の身体を掴んだ。

 

「危ない危ない。もう少しで逃がす所だったな」

そう言い見上げ入道は猫娘を持ち上げた。

 

「猫娘さんっ!」

「バカッ!早く逃げなッ!」

まな が駆けつけようとするも猫娘は一喝し止め逃走を促した。

 

「黙れッ!」

見上げ入道は手の握力を強め猫娘を強く握りしめた。

 

「ぐぁ……」

 

「弱小妖怪の分際で小賢しい真似をッ…!このまま捻り潰してくれるッ!」

 

そう言い見上げ入道は握力を限界まで高めた。

 

「あ…(意識が……薄れてく…妙に眠い………これが死…………鬼太郎……ちゃんと伝えたかった………す……き…

 

猫娘の意識は闇へと落ちた。

ーーーーーーーー

ーーーーー

ーー

 

猫娘を握り潰すため見上げ入道は握力を限界まで高めようとした。だがその時 握りしめていた手が切断された。

 

「なっ…!わ…儂の手がッ!」

見上げ入道は混乱し急いで手を修復しようとするが次は反対側の手であった。

 

「グァァァァァァァッ!!!!手がッ!てガァァァァァァァァ!!!!」

 

そして、切り離された二本のうち 猫娘が掴まれた手を何者かが空中で受け止めた。

受け止めた者は龍崎であった。龍崎はまな の近くで着地すると猫娘を解放し まな へと預けた。

 

「犬山さん、この人をお願いします」

「えぇ!?龍崎君も逃げないと!」

まな は共に逃げようと言うも龍崎はそれを無視し両手を失いもがき苦しむ見上げ入道に向かってゆっくりと近づいていった。

 

「龍崎君!」

まな がそう名前を叫んだ瞬間 先程まで丁寧口調だった龍崎の口調が変わった。

 

「うるせぇな。テメェらがいると足手まといなんだよ。早く失せろ」

その気迫に押された まな は猫娘を背負うとその場から離れた。

まな達の姿がなくなるのを確認すると龍崎は両手を失しないもがき苦しむ見上げ入道へと目を向けた。

 

「さて、待たせたな見上げ入道とやら 。すぐに殺してやる」

そう言うと龍崎は手を握り締めるとその場所から消えた。

 

 

「ガバァ!?」

瞬時に見上げ入道の顎が突き上げられる。

強烈なアッパーを放たれた見上げ入道は何とか耐えるが、それよりも早く攻撃は襲いかかってきた。

 

「オラァッ!!」

「ガベェ…!?」

すると次は右に身体が崩れる。顎ではなく、頬に水平蹴りを放たれたのだ。

 

ドォン!

 

その威力はまさに自信よりも巨大な何かに殴られたかのような感覚であり、耐え切る事が出来なかった見上げ入道はその場に倒れた。

 

「がぁぁ…!!い…いてぇ…!何だこれは…!!」

何も分からない。自身はなぜ倒れている?何が起こった?理解できぬまま、見上げ入道はその元凶である少年を探す。

 

「終わりだ。死ね」

「!?」

その瞬間 自身の身体が青い炎に包まれた。

崩れゆく意識の中、見えたのは真正面からこちらに手を向けている少年の姿だった。

 

「おのれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」

そして炎が身体全てを飲み込んだ瞬間、爆発した。

 

ーーーーーーー

ーーーー

 

「……すめ ………娘………猫娘!」

 

「ッ!」

名前を呼ばれ私は目を覚ました。そこには鬼太郎の顔があった。周りの景色も見覚えがある…ゲゲゲの森だった。

「鬼太郎……助けてくれたんだ……」

私がそう言うと鬼太郎は首を横に振った。

「君を助けたのは僕じゃない」

「…え?じゃあ ……まな?」

それでも違うと鬼太郎は言った。

「君を助けてくれたのは まな とは違う人間だ。僕が霊界から戻ってきた時には見上げ入道は倒されていたよ…」

そう言い鬼太郎は遅くなってしまった事に対し謝ってきた。私は大丈夫と言いその場から立ち上がった。

 

「まだ寝てた方がいいぞ?疲れただろ?」

「平気…少し散歩してくる」

私はそれだけ言うとゲゲゲハウスを出て森の中へ歩いた。

 

ーーーーーーーー

ーーーーー

ーー

 

チャポンッ

 

私は森の中にある池のほとりに 座り込み 足を投げ込んでいた。

私の脳裏の中で浮かぶのは あの人間のことばかりであった。

頭の中で浮かぶ度にその人間への感謝の気持ちで心がいっぱいだった。あの人間がいなければ私…それに まな も見上げ入道に魂を奪われて日本は見上げ入道の手に落ちていた…。あの人間には多大な恩がある……

「今度会ったら……お礼を言おう……」

そう心に決めると私はそこで横になり目を閉じた。

 

 



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バレる正体 そしてたんたん坊との接触

昨日の見上げ入道の一件から翌週 学校に来て早々に犬山から屋上に呼び出された。

 

「何でしょうか?犬山さん」

俺は丁寧口調で聞いた。するとソイツは表情を変えずに聞いて来た。

「……聞きたいんだけど…龍崎君って『妖怪』なの…?」

「…」

今コイツに話すと面倒な事になりそうだな…誤魔化してみようか? いや、先週のアレ見られちゃ誤魔化してもしょうがない。丁寧口調も 止めだ。

 

「あぁ。そうさ。俺は『妖怪』だよ」

「急に口調変わったね…」

「うるせぇよバカ」

俺は口調を変えて答えた。バカと言われて頬を膨らませてるがどうでもいい。

「それで?俺が妖怪だと知ってどうしたい?学校から追い出すのか?口止めを条件に俺をパシリにするか?」

俺がそう聞くと犬山は首を横に振る。

 

「別にどうもしないよ…ただ、何で妖怪である君が学校なんかに…?」

「は?それは世界を知るためさ。これでも俺はまだ10代なんだぞ?お前らと同じぐらいさ。日本という狭い国で好き勝手やるより今の世の中 や世界を知る方が面白いだろ?」

「…意外と勤勉なんだね」

「そうだ。そこらにいる能無しの低級供と一緒にされちゃ困る。で、他に聞くことはあるか?なければ俺は戻らせてもらうぞ」

俺がそう言い、奴の隣を通りすぎる。

 

「待って」

「ん?」

「龍崎君は…何であの時 猫姉さんを助けてくれたの…?」

「猫姉さん…?誰だそれ?」

聞いたこともない名前を出された。誰だ?ソイツ。

「あの赤いワンピースを着た人だよ。覚えてないの?」

赤いワンピース…?あぁ。アイツか。

俺は思い出した。俺が着いた時にボロボロになってた奴か。

「アイツか。助けた理由?まぁ単純にあのデカブツと闘う時に邪魔だったから」

「そ…そんな理由で…」

「そんな理由だ。じゃ、俺は戻らせてもらう」

俺は犬山に背を向け屋上の出入り口向かった。ただその途中 言い忘れた事がありドアノブに手を掛けながら振り向いた。

「最後に言い忘れたが …この事は誰にも話すんじゃねぇぞ…?」

「うん… そう言えば…何であんなひどいいじめを受けてるの…?」

まな は龍崎に向かって問う。するとドアノブに手を掛けながら振り向くと答えた。

 

「……は?俺が大人しくしてたらアイツらが絡んできただけだ。まぁ俺にとっちゃどうでもいいがな。中学にもなってイジメなんていう くだらない事してる低レベルな奴に構ってちゃ時間が勿体無いだろ?」

「でも…あそこまでやられたら流石に!「あ〜うるせぇよ。他人の心配する暇あったら高校受験の勉強でもしてろ」

俺は犬山の言葉を遮り屋上の入り口を開けた。

(ま、そのイジメた奴らにはそれ相応の恐怖を与えてやるがな…)

俺は犬山に背を向けながら口角を広げると屋上を後にした。

教室に向かう途中 周りから罵声を浴びせられたが龍崎は無視した。

 

ーーーーーーーー

ーーーーー

ーー

猫娘side

 

何故だろう…先週の見上げ入道の件以来 突然現れた人型妖怪の姿が頭に思い浮かぶようになった。

思い浮かぶ理由は全く分からない。まぁその内 忘れるだろう。

 

「猫娘…?」

「ッ!」

名前を呼ばれて私は意識を戻した。

 

「どうしたのじゃ?お主 先週から少し様子が変じゃぞ?」

茶碗に入った湯に浸かりながら親父さんが私に聞いてくる。私は「何でもない」とだけ言い その場を去った。

 

ーーーーー

ーーー

時は戻り数時間前 屋上から教室へと向かった龍崎は教室へと向かっていた。

 

(アイツに話しても問題は無さそうだな。それに妙だな…前のドームの近くから微量だが妖気が感じる…)

龍崎は歩きながら窓の方を見た。妖気は感じるもののそれらしきモノは見当たらなかった。

 

「ま、いいか」

そう呟くと自分の教室へと入った。そして自分の机を見つけ 座ろうとしたが

 

「…」

とても座れると言う状況ではなかった。

表面には焼ごて で『死ね』や『消えろ』 等の文字を掘られ 教科書がビリビリに破き捨てられていた。

龍崎は周りのクラスメイトを見渡した。誰もこちらを見ない。

(中学にもなってこんな古いイタズラをするとは…ガキめ)

 

龍崎は破き捨てられた教科書を全て拾い集めるとグシャグシャに丸めゴミ箱へ捨て教室を出た。

龍崎が出た後 教室は何人かの大爆笑に包まれた。

 

ーーーーー

ーーー

 

「_____であるからしてここの文法はこのように活用し…」

あれから龍崎はすぐに戻り授業を受けた。それから数時間が経過し 今は帰りのSHRをおこなっていた。

 

「では、これでSHRを終わります。気をつけて下校してください」

SHRが終わると 下校する者や部活 クラブ等で残る者などがいた。因みに龍崎は前者だ部活にもクラブにも所属していない。本人曰く面倒だそうだ。

龍崎はいつものように改札を通り自分の家へと向かっていた。その時、背後から何かの気配を感じた。

 

「……」

龍崎はゆっくりと振り向いた。だが、そこには何もいなかった。

だが龍崎はその場を見つめていた。気づいていたのだ。何者かが近づいていることを。

そして龍崎は殺気を放ち警戒態勢を取った。

だが何も現れなかった。

「いるのは分かっていますよ」

すると、目の前の地面が歪み そこから頭部だけしかない巨大な妖怪が姿を現した。目は大きく口は耳元まで裂けており、 その口内に生えてる歯は鋭利に尖っていた。

 

「私の気配に気づくとは…貴様 そこらの妖怪とは一味違うな」

その場に響き渡る低い声。龍崎は屈することなく返した。

「これはどうも。貴方は…」

その質問に対しその妖怪は淡々と答えた。

「私は妖怪『たんたん坊』。『妖怪城』の主である。して、貴様の名は何という?」

相手が名乗ると龍崎は礼儀に習い答えた。

「『龍崎 忍』 そう呼んでください。それで…その『妖怪城』の主様が俺に何の用でしょう?」

するとそのたんたん坊という妖怪は口を開いた。

「簡単な事さ。お前…『ゲゲゲの鬼太郎』というのを知っているな?」

「『ゲゲゲの鬼太郎』?あの幽霊族の末裔ですか」

突然出された名 『ゲゲゲの鬼太郎』 。龍崎はこの妖怪については少し記憶があるのだ。幼き頃 己を育ててくれた老婆から聞いた昔話 その話に出てくる人物が『ゲゲゲの鬼太郎』だ。

 

「確かに知っていますが…それで何ですか?」

するとそのたんたん坊はその人物を憎むかのように低い声で語り出した。

「アイツは妖怪でありながら我ら同族を襲うのだ。理由は単に人間供を助けるだけ。人間なんぞ地球の環境を蝕んだ上に簡単な事で争いを起こし殺しあう。こんな憐れな奴らに加担するとはバカバカしいとは思わんかね?」

その質問に龍崎は「いや…分かりませんね」と返した。それでもたんたん坊は続けた。

「それ故に我らは今宵に妖怪城を復活させ鬼太郎たちを抹殺する。どうだ?我らと共に憎き鬼太郎に裁きをくだそうではないか?」

たんたん坊の話を聞く限り、要は自分の目的達成の為の勧誘。だが、龍崎にとってはその様な事は一番嫌いな面倒ごとである。龍崎は断ろうとするも考え直した。

(鬼太郎を抹殺…要するにあの有名な鬼太郎と戦うことが出来るってことなのか…?なら……コイツを少し利用してみる価値はあるな…)

たんたん坊を利用する事に決めた龍崎は笑みを浮かべると頷いた。

「分かりました。貴方に加勢しましょう。ですが、何故 俺なのですか?俺は人間の学校に通っています。貴方にとって気に食わないじゃないですか」

龍崎は自分の制服を見せるとたんたん坊は答えた。

「確かにそうだ。妖怪が人間の学校に通っているのは気に食わん。だが、私にとってはどうあれ、人間供を苦しめれる事が出来るのなら何だっていい。それだけだ」

「成る程。分かりました。して、いつ頃そちらへ?」

「今すぐだ。もうじき13本目の人柱が揃う。そうなれば妖怪城は完全復活するのでな。それと…」

「?」

たんたん坊は黙ると龍崎を睨んだ。

「万が一 他言したりするような真似を見せたらすぐに殺す。いいな?」

低い声でたんたん坊 は龍崎に忠告した。龍崎はそれに対しニッコリと笑うと頷いた。

「では、私は先に行っておる。因みにこれ住所」

「これはこれはご丁寧に」

龍崎に場所の書いた地図を渡すとたんたん坊は姿を消した。

姿が消えた瞬間 笑顔だった龍崎の目の色が変わった。

(ゲゲゲの鬼太郎…か。戦ってみたいな…)

その目は戦闘のワクワク感で埋め尽くされていた。

 

 

 



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復活の妖怪城

鬼太郎side

僕は今、人 一人も通らない夕方の工事現場で ある妖怪と接触していた。

その妖怪は子供を攫おうとした。だが寸前でリモコン下駄で防ぐ事が出来た。その妖怪は見る限り 身体中から妖気が溢れ出ており 相当な妖力を秘めている。すると髪から父さんが頭を出し注意を促した。僕は頷き 目の前にいる妖怪へ目を向けた。

 

「子供を攫っていたのはお前のようだなたんたん坊。子供を返してもらおうか」

「その要求丁重にお断りしよう。我らの目的のためには13本の人柱が必要なのだよッ!」

たんたん坊が拒否したと同時に僕に向けて口を大きく開いた。

僕は危険と察知しすぐさまその口が開いている軌道とは別の地点へ身体を動かした。案の定 その口から奴の体液が吐き出され 僕の横スレスレに後ろへ飛んで行った。その体液は地面に付着するとすぐに巨大な岩となった。

「気をつけろ鬼太郎ッ!奴の体液に触れると石にされるぞ!」

「はいッ!」

僕は距離を置き接近戦を避けるため 遠距離に長けたリモコン下駄でたんたん坊を攻撃した。だがたんたん坊はそれを地面に潜る形で避けると視界から消えた。

 

「ぬんッ!!」

「ガバァッ…!」

その瞬間 たんたん坊の巨大な図体が背後から突っ込んできた。

流石の僕もいきなり背後からの攻撃は防ぐ事は出来ず そのまま 上に位置する工事現場に吹っ飛ばされた。

僕は何とか着地をし 態勢を立て直そうとしたが その隙が命取りだった。

 

「終わりだッ!」

その声がする方向を向いた 瞬間 僕の体は硬直した。既に奴の体液が目の前に迫ってきていたからだ。

ーーーーーーーー

ーーーーー

ーー

 

鬼太郎がたんたん坊と接触してから数時間後 日は完全に沈み 夜になった頃。とある場所に一人の人間が侵入していた。

その人間は まな だった。彼女は最近 相次いでいる子供の誘拐事件の真相の真相を確かめるため 昼間見た 異様な魔法陣の書かれている工事現場へときていたのだ。目的の場所へ着くとすぐさま 昼間 撮った写真と見比べた。

 

「間違いない……ここだ!」

目の前には 魔法陣と 昼間になかった 13本の柱が立っていた。その13本の柱からは黒い靄のようなものが浮き出ていた。

それと同時にその柱 一本一本から子供が助けを求める声が聞こえてきた。

「早く猫姉さん達に知らせないと…!」

まな はすぐさま携帯を取り出すと柱の写真を撮り猫娘に送信した。その時

 

「おやおや、こんなところに小娘が一人。ふくふくして美味そうだね〜♪」

そこには二人の異形な姿の妖怪が立っていた。一人は髪から蛇のような生き物を垂らしている女性。

「待てよ二口女。好都合じゃねぇか。コイツで13本目が揃うんだぜ?」

もう一人は顔の骨格が人としては考えられない形をしており ボロ布を纏っている男だった。

その男は二口女という妖怪をなだめるとまな を睨んだ。

「だろ?たんたん坊」

するとまな の近くの地面が歪み そこからたんたん坊が現れた。

「おうよ。こんなに早く揃うとは俺達は実に運がいい。それに加え 新しい仲間も手に入ったしな」

「仲間?誰だいソイツ?」

二口女は気になるとたんたん坊に尋ねた。するとたんたん坊は自分の背後の暗闇に目を向けた。そこには一つの人影があった。

「コイツだ。おい!コッチにこい!」

たんたん坊に言われるとその影はゆっくりとこちらに近づいて来た。月明かりに照らされ その姿が露わになると まな は絶句した。

 

「りゅ……龍崎…君…」

そこには 自分のクラスメイトである『龍崎 忍』が立っていた。流石の龍崎も まな がいるとは思わなかった為、目があった瞬間 驚きの表情を浮かべたがそれ以外は何も反応を見せなかった。

一方で、まな の言葉を聞いた たんたん坊は龍崎を睨んだ。

「ほう?コイツお前の知り合いか?。まぁいい。これで準備は整った…カッ!」

そう言うとたんたん坊は まな へ向かって自分の眼光を当てた。その瞬間 まな のいる地面が歪み 底なし沼のようにズルズルとまな の身体を引き込んでいった。

まな は逃げようとしたが完全に脚をとられ もう逃げられなかった。

 

「き……きた…ろ……う…」

まな は飲み込まれる直前に最後の力を振り絞り その場にいる妖怪達 全員の姿を写し 猫娘へと送信した。

そして、送信音と共にまな の姿は見えなくなった。

ーーーーーーー

ーーーー

猫娘side

私は今 連続で相次いでいる子供の誘拐事件の調査をしていた。まな には危険だから関わらないことを忠告した。

夕方から調査を開始してから数時間が経ち すっかり夜になった時 私の携帯の着信音がなった。みると まな からだった。

 

『柱の中に攫われた子供達が囚われてるみたいなの!』

『約束破ってごめん』

『でもお願い!!皆を助けてあげて!!』

「ッ!まさか まな …!」

私はこの文面から 子供達と一緒にまな も捕まったと思いすぐさま砂かけ婆へ連絡した。見ると その文面には首謀者と思われる妖怪の写真も貼られていた。

その写真に私は目が止まってしまった。

 

「こ……コイツ……」

そこには、前に私を助けてくれた人型妖怪が写っていた。

私はすぐさまこの事を鬼太郎に伝えるため その場を去った。

ーーーーーーー

ーーーー

「ハッハッハッ!!これで13本目が揃ったッ!妖怪城の復活だぁぁッ!!」

たんたん坊の叫びと共にその場の地面が隆起し その中から巨大な城が姿を現した。

すると、龍崎は何かを感じとり たんたん坊達へ知らせた。

「たんたん坊様、妖気が6つ…こちらに近づいております」

「ほう。好都合なものよ。行くぞお前らッ!憎き鬼太郎を根絶やしにするのだッ!!」

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

一方で、城の砦の前では猫娘の知らせを聞きつけた鬼太郎とその他数体の妖怪達が集まっていた。

 

「この写真から見る限り…まな は多分 城の最深部にいる筈よ」

「よし…行くぞ皆ッ!!!」

「「「「「おうッ!!(えぇッ!!)」」」」」

鬼太郎の合図と共に皆は妖怪城へと乗り込んだ。

 

 

 



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妖怪城の決戦

龍崎side

 

俺は今 城の最深部にある13本の柱の隅にいた。たんたん坊にこの柱の見張りを命令されたからだ。

最初はムカッと来たが渋々了承した。

俺は13本の柱の一つに腰をかけると煙草を取り出し咥えた。

 

「ふぅ〜…」

 

ドォオオオンッ!!

 

その時 上から衝撃音が聞こえた。どうやら始まったらしい。

 

「楽しみだな」

俺は上を向くと煙を吐いた。俺の心の中は壮大なワクワク感で膨らんでいた。

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

鬼太郎side

僕らは今 妖怪城に乗り込み たんたん坊達と戦っていた。

 

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

「どうした?こんなものか?」

 

 

 

戦況は劣勢… その理由は 何度攻撃しても奴らは瞬時に再生してしまうからだ。

胴体を真っ二つにしようと…頭に風穴を開けようと…奴らは瞬く間もなく再生してしまう。身体だけではない。妖力もだ。恐らく原因は妖怪城…奴らはこの城が放つ妖力を吸って身体を極限まで強化しているんだ。

 

「くっ……どうすれば……」

僕は考えた。単純に城を攻撃しても無駄だ…。どうすれば………

 

…ッ!そうだッ!

 

「猫娘ッ!まなに電話を!」

「分かった!」

猫娘は頷きすぐさま まなへ電話をかけた。

 

 

 

 

僕は全神経を集中させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピピピピッ…

 

 

聞こえた…!

その音は僕の真下から鳴っていた。

 

 

「そこだぁっ!!!!!!!」

僕はちゃんちゃんこを腕に纏わせその拳を地面へ放った。放たれた拳は地面に突き刺さるとその場が陥没し一気に崩れた。崩れた拍子に僕の体はその場所へと落ちたが何とか体制を整え着地することができた。

 

「よし。ここだな。………!?」

僕の体は動きを止めた。僕がその柱を見つけた時 そこにはタバコを吸っている謎の男が立っていた。その男は下を向いたままこちらへ顔を向けなかった。

 

「お前が……ゲゲゲの鬼太郎か…?」

その男は何の前触れもなく喋りかけてきた。声質はまだ若いから まな と同じくらいだろうか。僕は答えた。

 

「そうだ。僕が鬼太郎だ。お前は何者だ?」

「俺が何者かなどどうでもいい」

「なに!?」

すると その男は立ち上がると僕を睨んできた。

 

「お前、俺と戦えよ」

「…っ!?」

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

猫娘side

 

私は今 鬼太郎が開けた大穴を見ていた。

 

「着信音で見つけるなんて…よく思いついたわね…」

「さすが鬼太郎じゃのう!」

確かに…でも何だろう…この感じ…凄くヤバイ感じがする…。それに妙だ。たんたん坊達は何故焦らないのだろう。自分達の妖力の源を見つけられたのに何故…

 

「フハハハハ!バカな鬼太郎め。下にアイツを置いておいてよかったわ!」

『アイツ』!?他にも仲間が!?

「鬼太郎!」

「おっと!」

私はすぐさま下へ降りようとしたがカマイタチが妨害してきた。

「下には行かせんぞ」

「く…!」

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「お前 俺と戦えよ」

そう言い龍崎はタバコを捨てるとワックスを取り出し髪を全て後ろに流し結ぶと学ランを脱ぎ捨てタンクトップ一枚となった。その身体からは青く透き通るような妖気がオーラのように出ていた。

 

「気をつけろ鬼太郎!あの妖力の量…只者ではないぞ!」

「はい!」

対する鬼太郎も話は聞かないと理解したのか戦闘態勢をとった。

 

 

「行くぞ」

「ガハ…ッ!?」

その声が聞こえたと同時に 鬼太郎の腹に龍崎の拳がめり込んでいた。

 

「い…いつのまに…!?」

「鬼太郎!一度後退するんじゃ!」

「おっと、逃がさんぞ?」

すると龍崎は逃げられないようにするため鬼太郎の足を踏みつけた。

その瞬間 追撃をかけるようにマグナムのような2発のパンチが鬼太郎を襲った。

 

「ぐっ…」

腹と顔をやられた鬼太郎は鼻から血を垂れ流す。それに加えてたんたん坊との戦闘で疲労があるせいか力が出せずその場に両手をついてしまった。

だが、龍崎はそれを良しとはしなかった。龍崎は鬼太郎へ近づくと低い声で言った。

「今から…右足で蹴り上げる…!」

「ッ!」

その宣告通り 鬼太郎が目を開けると自分の脇腹に龍崎の右足が迫ってきた。

何とか鬼太郎は自分の身を横へ投げその蹴りを回避した。だが回避はしたものの体力はもう残っておらず立つことすら出来なかった。

 

「ぐぅ…」

「あ?どうした?もうガス欠か?まぁそれもそうだな。上であんな奴らとやりあったんだしな」

そう言うと龍崎は動かない鬼太郎へ手を向ける。すると一瞬光り出したと同時にみるみる鬼太郎の傷が癒えてきた。

傷が癒えた鬼太郎はゆっくり立ち上がると龍崎へ顔を向けた。

 

「お前…何のつもりだ…?敵である僕を助けるなんて…たんたん坊達の仲間じゃないのか…?」

「は?」

すると龍崎は不満そうな表情を浮かべ答えた。

「誰が好き好んであんな低級な奴らと…俺はアイツらを利用しているだけだ」

そう言うと龍崎はタバコを一本取り出した。

 

「利用じゃと…?一体何の為に…?」

目玉おやじの問いに龍崎は煙を吹きながら答えた。

「それはお前と戦って見たかったからだよ」

「僕と?」

「あぁ。俺は元々戦闘を好む妖怪でな。一度でもいいからお前と戦ってみたかったんだよ。それで東京を彷徨ってたら丁度お前を付け狙ってた奴らがいたもんでな。それで一時的に手を組んだのさ」

 

「なんだと……!?」

鬼太郎は腹の底から怒りの声を張り上げた。

「そんな事の為に…何の関係のない まな を巻き込んだのかッ!!」

 

「落ち着くのじゃ鬼太郎!」

目玉おやじは鬼太郎に冷静になるよう促した。だが鬼太郎の怒りは治らなかった。

それに対し龍崎は尚も平然とタバコを吸いながら答えた。

「アイツがいたのは計算外だったよ。最初は止めようとしたがアソコで止めれば確実にお前と闘えなかったしな。まぁ安心しろ。目的は達成したし犬山は返す」

そう言うと龍崎は学ランを着用し柱へと近づいた。鬼太郎は信じ難いと思っているが見ることしか出来なかった。

 

柱へと近づくと龍崎は右の拳を振りかぶり一つの柱へ一直線に放った。すると拳が練り込むと同時に亀裂がはしりその柱がバラバラに砕け散った。すると砕けた破片の 中から捕らえられていた まな が出てきた。

 

「まな!」

鬼太郎は落ちてくる まなを受け止めた。するとまな も意識を取り戻し 涙を流しながら鬼太郎の背中に手を回した。

「これでアイツらはもう妖力を補充できない。後はお前らに任せるよ」

そう言うと龍崎は鬼太郎の開けた大穴へ向かった。

その時

 

「貴様ァァァァァァァァッ!!!!!!」

龍崎の頭上の壁が崩れ落ち そこから溶岩のように顔を赤くし憤怒の形相を浮かべたたんたん坊が降りて来た。

たんたん坊は着地すると すぐさま龍崎に向かって大量の体液を放った。だが龍崎はそれを全て軽快な身のこなしで躱したんたん坊から距離を取った。

 

「よくも我らを裏切ってくれたな!少しは話の通じる奴かと思っておったのにッ!」

 

「話の通じるだと?おいおい詰まらん冗談はよせよ。鼻からお前らに手を貸す気などない。俺はただ鬼太郎と戦ってみたかっただけだ。お前らの復讐ごっこに興味も微塵もねぇ」

 

「おのれぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!!!」

たんたん坊は遂に堪忍袋の尾が切れた。牙を剥き出しにすると龍崎目掛けて飛び掛かった。

だがその飛び掛かりは後ろに跳ぶ形で避けられる。

 

「おのれ ちょこまかと…!」

たんたん坊の飛び掛かかりを避けた龍崎はタバコを捨てるとたんたん坊を睨んだ。

「予定変更だ。やっぱ俺が殺す」

 

「ほざけッ!!!」

たんたん坊は口から石化の唾液を次々と発射する。

 

「ほっほっやっ」

龍崎はそれを全て軽業師の如く、バク転やバク宙、といったアクロバティックな動きで避けていった。

 

そして、たんたん坊から離れると、手に妖力を集中させる。すると、手は青く光だし、蒼い炎が漏れ出した。

 

“消えろ”

 

 

その一言と共にその青い炎はたんたん坊へ向けて放たれた。

「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁ…ッ!!!!!」

その炎は一直線にたんたん坊へ向かうと瞬時にその身体を包み込んだ。

 

「この力……まさか貴様ぁぁ…!!『六将』だったのかぁぁ…!!く…呪ってやるゾォォォ…!!!龍崎ぃぃ…!!!」

その言葉を最後にたんたん坊は龍崎を睨みながら炎の中で朽ちた。

その光景を目の当たりにしていた鬼太郎とまな はただ見ることしか出来なかった。

たんたん坊を葬った龍崎は崩れる中 鬼太郎達へ目を向けた。

 

「治療はしてやったが傷が癒えたがまだ完治した訳じゃない。次に戦う時はちゃんと万全な状態でいろよな…?ゲゲゲの鬼太郎」

 

それだけ言うと龍崎はたんたん坊の開けた出口に跳躍し外へと出て行った。

ーーーーーーー

ーーーーー

ーーー

「よっと」

龍崎が外へ出ると城の崩壊はもう始まっていた。石垣は崩れ落ち 天守もボロボロに朽ちていた。

「さて、そろそろ帰る…「よくもぉぉぉぉぉぉッ!!!!!」 ん?」

龍崎が帰ろうと足を踏み込もうとした時 前方から憤怒の表情を浮かべた二口女が迫ってきていた。

だが龍崎は動じない。それだころかスマホで時間を確認しだした。

「もう3時半か…そろそろ寝るとしよう」

そう言いスマホを閉じるとすぐさま二口女が迫ってきている道へと自ら足を踏み込み駆け出した。

 

「よくも私たちを裏切ってくれたねぇぇぇぇぇぇぇ!!切り刻んで蛇のエサにしてやるぅぅぅぅぅ!!!」

「ん?」

その時 龍崎はようやく気づいたのだ。自分の行く先に敵がいる事を。いや、障害物がある事を

 

すると龍崎は走りながら指を出した。

 

「邪魔だよお前」

 

ヒュンッ…!

 

 

その一言を放ったと同時に二口女の胴体は縦に両断された。

両断され地面に落ちた肉片に目もくれず龍崎はそのまま塀に向かって跳躍し林の奥へと飛び去っていった。

 

その後 妖怪城は完全に崩壊したのだった。

 



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終幕。そして早すぎる再会

龍崎がその場を去ってから数十分後

 

猫娘達は元に戻った競技場で鬼太郎達と合流した。目玉親父は拐われた子供達の容態を確認していた。

 

「ふむ…身体に異常はなさそうじゃな。あとは人間の医者に任せればよかろう」

子供達の安全を確認すると まな はホッと息を撫で下ろすと共に鬼太郎へ頭を下げた。

 

「ごめんなさい…鬼太郎の言う事を聞かないで……迷惑をかけてしまって…」

その謝罪に猫娘は反論した。

 

「謝る必要はないわ。まな がいたから倒せたのは間違いないじゃない。そうでしょ?」

「……うん…でも倒したのは僕じゃない」

「え…?」

猫娘の問いに鬼太郎は首を横に振った。周りの皆は予想外の反応に驚いた。

 

「ど…どう言う事じゃ鬼太郎!?たんたん坊はお前が倒したのじゃろ!?」

砂かけ婆は焦りながら鬼太郎に問う。だが鬼太郎はまた首を横に振った。

 

「違う。一緒にいた妖怪…猫娘の言っていた制服をきた人型妖怪さ…」

「なッ!」

猫娘の頭には以前自分を助けた妖怪が浮かび上がった。

砂かけ婆は首をかしげ「だ…誰じゃ?」と猫娘へ聞いた。すると猫娘は口を噛み締めながら答えた。

 

「前に見上げ入道の時に突然現れたの…私は見てなかったけど…ソイツはたった一人で見上げ入道を倒した…やっぱりアイツだったのね…」

その時 猫娘はたんたん坊が言った言葉を思い出した。

 

『下にアイツを置いといて良かったわ!』

「あの妖怪…一体何が目的なのよ…私達を助けるわ……たんたん坊に協力するわ…終いには裏切って……」

猫娘の疑問に目玉親父はただ「わからぬ」としか言えなかった。

その後まな と鬼太郎は和解すると同時に まな に学校での龍崎への干渉をなるべく控えるように言った。

 

 

ーーーーーーー

ーーーーー

ーーー

 

一方で龍崎は妖怪城を後にし帰宅していた。

 

「ふぅ疲れた…」

龍崎は部屋に入ると制服等を脱ぎ捨て上裸 半ズボンとなり、帰る途中に買ってきたカップ麺を開けお湯を入れた。

 

「取り敢えず5分でシャワーを終わらせよ…」

そう言うと龍崎は全裸になり風呂場へと入った。

 

〜5分後

 

「ふぅ…」

龍崎は頭にタオルを乗せるとカップ麺を手に取り口に運んだ。

食べ終えた龍崎は電気を消すとカーペットに敷いた布団に倒れこむようにして睡眠に入った。

ーーーーーーー

ーーーー

 

翌日

 

今日は土曜で学校はない。俺は少し自然な風景を楽しみたく台東区にある上野公園へと来ていた。

「ふわぁ…」

俺は池の近くにあるベンチへ腰を下ろした。土日なのか子供が多く結構うるさかった。

まぁ学校に比べればどうってことはない。俺は買ってきたパンや飲み物を出し口にした。

「ふぅ…やっぱ公園は落ち着くな…」

そう垂れ流しながら俺は飲み物の蓋を開けた。

 

「隣 失礼するわね」

「お気になさらず〜」

飲みながら返事をしたから顔は分からないが声の質からしてまだ若い女性が俺の隣に座った。

 

ん?どっかで聞いた事のある声だな……

 

ーーーーーーー

ーーーーー

ーーー

 

たんたん坊の件から翌日

あれからというもの私の頭から人型妖怪の顔が離れる事はなかった。思い出す度によく分からない感情に見舞われた。

だから私は気分を安らげるために台東区にある上野公園へと来ていた。

 

「はぁ…変な感じ…」

そう垂れ流しながら歩いているとベンチを見つけた。先客がいたけどもまぁ一人だから大丈夫だろう。

 

「隣 失礼するわね」

私はそう言いながらそのベンチへと腰を下ろす。

 

「お気になさらず〜」

相手からも許可の声が返ってきた。声の質からしてまだ学生だろう。

さて 少し寝よう………ん?

 

この声どっかで………。

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

するとお互いはゆっくりと顔を向けた。

 

 

 

 

 

 

「「あ」」

 

 



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猫と龍

ガタン

 

「どうぞ」

「あ…ありがと…」

差し出された飲み物を受け取ると蓋を開け口に流した。

 

「ふぅ……」

これは一体どういう状況…?昨日までムシャクシャしてた原因の奴とこんなに早く再会するなんて…しかも隣合わせ。

 

「ていうか…何でアンタがここに…?」

私が聞くとソイツは普通に答えた。

 

「唯の気分転換です」

「それだけ……(私も同じだけど…)」

何故だろう……隣にいるだけで不思議な感覚にみまわれる。しかも前と違って今のコイツから発せられる妖気は凄く鮮やかだった。

取り敢えず私は今まで気になっていた奴の名前を聞いてみた。

 

「前々から気になってたんだけど………アンタ……何者なの…?」

そう聞くとソイツはすぐに答えた。

 

「? あ…まだ名乗っていませんでしたね。俺は『龍崎 忍』 龍の妖怪です」

「龍…!?」

私は少し距離を置いた。昔 本で読んだことがある。『龍』とは妖怪の中でもかなり希少な部類であり、個体数は少ないがとてつもない妖力を兼ね備えていると言われている妖怪…。まさかコイツが……

襲われる前に逃げた方が……

 

「ま、正確には龍と人間の間に生まれた混血児 今で言うハーフと言ったところでしょうか。大丈夫ですよ。襲ったりしませんから警戒を解いてください」

…!?こ…心読んでる…!?

 

「で?貴方の名は?」

そう言うとソイツは私に名を聞いてきた。向こうが名乗ったならこっちも名乗るべきか…

私は答えた。

「私は…『猫娘』…猫の妖怪よ」

「『猫娘』ですね…ズズズ……」

 

 

 

「で?『猫娘』さん、他に何か言いたい事があるんじゃないですか?」

「ッ…!?」

ま…また心読んでる…!?

「読んでませんよ」

「いや読んでるでしょ!?」

うぅ…取り敢えず言いたいことは言おう…。

 

「……この前は……助けてくれてありがとう……」

言いたい事は言えたが少し恥ずかしく小声になってしまった。すると覚えていたのかソイツは飲みながら応えた。

「あーあの時ですか。別にいいですよ。俺はただアイツと戦ってみたかっただけですから。それに貴方を助けたのはただ単に邪魔だっただけです」

「う……」

何かグサっと来たけどまぁいいか…。

取り敢えず私はもう一つ気になっている事を話した。

「もう一つ質問させて…アンタ…どうしてこの前はたんたん坊達についていたの?」

私はどうもコイツのことがよく分からなかった。ある時は助けてくれ 、またある時は敵として対偶する。何の目的でコイツは私たちの前に現れるのだろう…。

 

「あぁ あの時は……ん?」

そいつが口を開こうとした時 ソイツの頭に一本の空き缶が飛んできた。ソイツは避けなかったため その空き缶はソイツの頭に直撃した。

 

「よう龍崎 こんなとこで女とデートか?」

その声がした方向を見ると見た目からしてチャラそうな男子達が7人いた。

 

「斎藤さんですか…なぜこんなところに?」

「いや~偶然ここに来たらお前を見つけてよ~」

 

すると斎藤と呼ばれたオールバックで髪を後ろに縛ったリーダー格の男が笑いながらこちらへ近づいて来ると私へ目を向けた。

「可愛い娘じゃねぇか。お前にもようやく春が来たようだな?」

この男は私を龍崎の彼女と思い込んでいた。私はすぐに訂正するため口を開こうとした時

その斎藤と呼ばれた男が龍崎の頭を無理やり掴みだした。

 

「ちょっとこっち来いよ!」

そう言いながらソイツは掴みながら龍崎を後ろの仲間のいるところへ連れて行った。

私は動かず連れていかれる姿を見ていることしかできなかった。

 

すると龍崎は仲間のいる場所へ連れられると突然斎藤と呼ばれた男に殴りとばされた。

殴られた龍崎は近くにある木まで吹っ飛ばされ斎藤に続くようにその取り巻き達が倒れている龍崎に向かってキックやパンチなどを何発も繰り返した。

 

「ちょっと 待ちなさい!」

もう見ていられなくなった私は止めるため龍崎と男子達の間に入ると龍崎から引きはがした。

 

「アンタ達さっきから何やってんのよ。一人に対して多勢なんてクズにも程があるわよ!」

すると引き剥がされた男子達は私を睨んできた。

「あ?何すんだテメェ。俺にこんな事していいと思ってんのかよ?謝るなら今のうちだぞ?」

「なによアンタ。随分な物言いね。富豪の息子とでもいうの?」

私がそう言うと取り巻きの中で小柄な奴がヤクザのように突っかかってきた。

「おうおうおうおう姉ちゃんよぅ。この人を誰だと思ってんだ?この人は関東の名のある高校をすべて制圧した最強の不良 『帝王』斎藤さんだぜ?」

『帝王』?聞いたことない。脅してるようだけど私にとってはただ子犬が吠えてるようなもの。というか…なんで妖怪である龍崎がこんな奴らからいじめを…?

私はそこがどうも腑に落ちなかった。

すると私の肩が叩かれ 振り向くと土まみれの龍崎がいた。

「彼らには関わらない方がいいです…早く謝罪を…」

「は!?何言ってんのアンタ!こんな奴らなんてアンタ程なら威嚇一つで…「いいですから!」…く…」

確かに…下手に手を出したら大騒ぎになる…。私は龍崎に言われた通り頭を下げた。

 

「…邪魔して…すいませんでした…」

そう言うとソイツらは笑いながら私を突き飛ばし再び龍崎へ暴行を加えた。

龍崎がボロボロになるとソイツらはそのまま去っていった。

男子達が見えなくなると私は龍崎を睨んだ。

「何で私が謝んなきゃいけなかったのよ。幾ら何でもおかしいでしょ。それに、妖怪であるアンタが何でやられっぱなしなのよ」

そう言い私は龍崎を責めた。すると、先程まで物静かな龍崎の雰囲気が一変した。

 

「悪いな。アイツらにはまだ正体バレる訳にはいかねぇからよ」

その喋り方は先程までとは真逆であり、目も鋭くなっていた。それに『まだ』…コイツは一体何を企んでいるんだ…?

 

「因みに何故俺がたんたん坊についていたか教えてやる。『ゲゲゲの鬼太郎』と戦いたかったからさ」

 

…!?

鬼太郎の名が出た瞬間 私は爪を伸ばしながら奴の目の前に瞬時に移動し首元に爪を突きつけた。

 

「アンタ…鬼太郎に何したの…?」

「なぁに。ちょっといたぶっただけさ。たんたん坊供と戦った為か妖力がかなり減ってたからまた今度って形で見逃してやったよ」

私は爪を下す事が出来なかった。やはりコイツは敵だ。狂っている。己の欲で人に害をなす者に味方をする…明らかに異常者だ…!

 

「なんだ?やるのか?幸いもう人っ子一人いないからやりやすいかもな」

ソイツの言う通りもう辺りには誰もいない。だがいまここでやりあえば確実に私が負ける…コイツの妖力は一目見るだけでも分かるほど強大だ。

結果、私は爪を下した。するとソイツはつまんなそうなため息をついた。

 

「まぁいい。今回はこっちに合わせてくれて感謝する。じゃあな 猫」

そう言うとソイツは私の横を通り過ぎそのまま去っていった。私は咄嗟に振り返ったが、そこにはもう奴の姿は無かった。

 

「私…猫娘なんだけど……」

 

 

 



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龍の通り風

都内某所にて

数ある建物の中で下の階を指す看板がある。

その目印が指す看板に沿って一人の少年が地下へ続く階段で降りていった。

 

辿り着いた先は何十人もの柄の悪い若者と酒やドラッグの臭いが漂うゲームセンターである。

「なんだテメェ?ここはガキが来ていいとこじゃねぇぞ?」

一人の不良がその少年を見つけると睨み威嚇する。するとその少年は表情を変えずに問う。

「突然で申し訳ありませんが…あなた達のボスに会わせていただきませんか?

「あぁ?誰だテメェ?見た限り中学生だがよぅ。ここはテメェが来るとこじゃねぇんだぞ?」

「そうですか。では失礼します」

そう言い少年が出て行こうとすると出口を数人の男女が塞いだ。すると人ごみを掻き分けリーダー格の男が姿を現した。

 

「このまま帰れると思ってたのか?タダで返す訳ねぇだろ」

その言葉と共に周りからもヤジが飛ぶ

 

「勝手にウチらの島に入り込んできやがってよぉ!」

「覚悟できてんのか!あぁん!?」

 

するとその少年は頭をかく。

「困りましたね…どうすれば帰してくれるのですか?」

「有り金全部置いてけや」

「それは勘弁していただきたい。私は独り暮らしの身 故にお金は命の次に大事なものです」

「知ったことかよ。おいお前ら!やっちまいな!」

 

「「「おうよ!」」」

すると数人の男がその少年に向かってきた。

 

「やれやれ…ただふつうに帰してくれるかボスに会わせてくれれば痛い目に遭わずに済んだものを…」

その瞬間 少年の雰囲気が変わった。取り出したワックスで髪を全て後ろに流し結んだ。そしてその少年の顔が明らかになった時 不良達の目が変わった。

 

「お…おい見ろよ!額の傷!」

周りの皆はもちろん向かってきた男達も後退りした。リーダー格の男は冷汗を流しながら推測した。

 

「額の傷に鷹のような鋭い目…間違いねぇ!コイツは『帝王』だ!!」

その瞬間 不良の皆は一斉に騒ぎ出した。

 

「マジかよ!?あの帝王だと!?」

「たった二週間で関東甲信越を制圧したと言われているあの……!?」

 

すると不良のリーダー格が一喝した。

「やかましいぞテメェら!相手は一人だ!ここでやっちまえば関東は俺らのもんだ!」

その言葉に周りの不良達は皆 冷静になると花瓶や金属バッドを持ち始めた。

 

「やっちまぇぇぇ!!!!」

 

その言葉と共に一斉に不良達は少年へと向かった。するとその少年は不敵に笑った。

 

ーーーーーーー

ーーーー

 

数十分後 不良のリーダーである男の前では壮絶な景色が広がっていた。

あれだけいた仲間が一瞬でたった一人の子供にぶちのめされた。その子供は自分とは別の尻を抜かしている女子の元へと歩み寄っていた。

 

「ま…まてお前!女だぞ!殴るのか!?」

「…は?」

「殴れねぇだろ!?殴ったとしたら相当のクソやろ…ガバァッ!」

少年は最後まで言おうとした女子の顔に横から蹴りをいれ吹き飛ばした。

不良の目は恐怖で埋め尽くされた。目の前にいる『帝王』は女であろうと容赦しない絶対的な者であるということ。

 

「『女はか弱いから殴られない』そういう考えを持つ女が1番嫌いなんだよ。俺は女であろうと容赦はしないよ」

そう言い少年はその女子の顔に再び蹴りを入れた。命に別状はないが鼻はへし折れ歯は何本も折れていた。

その女子が気絶し意識を失うと少年は倒れ伏しているリーダー格の男へと目を向けた。

 

「元々俺はお前に用があるんだ。この辺りで結構暴れているようだが…いいか?関東は俺のナワバリだ。勝手に荒らしてんじゃねぇ」

「す…すいません!!」

そう言い少年は出口の階段を上っていった。

 

「はぁ…!はぁ…!はぁ…!」

リーダー格の男は息を切らしていた。自分が行けば確実にやられていたと。男はすぐさま携帯を取り出し救急車を呼んだ。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

人が皆 仕事を終え家へと帰る帰省ラッシュ。中でも渋谷のスクランブル交差点は特に混んでいた。その中を一人の少年と少女が歩いていた。

 

「帰省ラッシュはやっぱりすごいですね父さん」

「ふむ…やはり都心は違うのぅ」

「まぁ、東京はそれが当たり前だしね」

鬼太郎と父親である目玉おやじ そして猫娘はゲゲゲの森の入り口である場所まで歩いていた。

そんな中 多くの救急車が車道を通った。その数は何と5車体以上だった。

「珍しいのう…こんなに救急車が通るなんて…」

「恐らく喧嘩よ。ゲームセンターで溜まった不良たちが他校同士で大喧嘩したんじゃない?」

「物騒ですね父さん」

そう言いまた歩き始めた。

その時

人混みですれ違う中 ある声が耳に聞こえた。

 

 

 

 

「次に会ったら…もっと楽しませてくれよ」

 

『ッ!?』

鬼太郎は勿論 猫娘も気づき背後へ体を向けた。だがそこに声の主らしき者はいなくただのサラリーマンや学生だけであった。

 

「猫娘…今のは…」

「えぇアイツよ…アイツはまた必ず…私達の前に姿を現わす…!」

猫娘はかつて鬼太郎やたんたん坊を追い詰めた人型妖怪 『龍崎 忍』を思い出す。そして、彼が再び自分たちの前に姿を現わす事を予測した。

 

 

 

 



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龍の通り道

ある夏の日

龍崎は半袖学生ズボンというラフな格好で長野県のとある山岳へと来ていた。

目当ては釣りである。本人曰く少しでも食費を減らすのが目的である。

「東京と違って空気や水が美味いな」

そう言い釣り糸を垂らしている湖の水を手ですくい口に運んだ。

すると糸が震えすぐさまリールを巻き引き上げた。するとイキのいいニジマスがピチャピチャと音を立てながら姿を現した。

「これで40匹目くらいか」

そう言い釣れた魚を持ってきた袋の中へといれる。中は釣れたニジマスでギチギチになっていた。

 

「さて、もう帰るか」

そう言い龍崎はまだ昼だというのにカバンを持つと山を下る。因みに徒歩で来たらしい。

 

ーーーーーーーー

 

「取り敢えず夜までにはつけるといいかな。こんだけあれば二週間は持つだろ」

大きな空洞のあいた木の根元を通り過ぎながら言った。

 

その時その空洞から何かが姿を現した。

 

「ようお若いの。ここら辺じゃ見ねぇ顔でねぇか。どこから来たんだい?」

突然後ろから声を掛けられた龍崎は振り向いた。そこにはふとましい体型をしたおばさんが立っていた。

「東京から来て今帰るところです」

「東京か?なんで都会っ子かい。それでよ都会っ子。オメェのカバンからいい匂いがするなぁ。もしかしてニジマスか?」

「はい。でしたらなんでしょう?」

「1匹オラにくれねぇか?」

その問いに龍崎は無理ですと断る。すると相手はとんでも無いことを言い出した。

「なんならお前喰わせろ!若くてうまそうだな〜」

そう言い汚らしくヨダレをたらす。龍崎は正体を悟った。このおばさんは『山姥』という妖怪だということを。

だが龍崎は動じず断る。

「それもダメです。魚ならご自分でお願いします」

そう言い龍崎は去る。だが山姥は引き下がらず後をついてくる。

「頼むよ〜!3日も何も食べてねぇだ!魚恵んでくれよ〜!」

「だったらバイトでお金を稼いでください。今日初めて会った人に物など与えませんよ」

「ならお前を喰わせろや」

「それもダメです。私はまだ生きたいので」

「だったらニジマス喰わせろや!」

何度断っても山姥は引き下がらずだんだん言葉に感情が強張っていた。すると山姥は龍崎の肩を掴む。

 

「捕まえた。さぁ選ぶだ。魚を渡すか自分を食わすか!」

その傲慢言わざるを得ない態度に龍崎の首筋に青筋がたつ。

 

「お前…いい加減にしろよ…?」

「…!?」

言葉と共に発せられた威圧に山姥は冷や汗を流し手を離した。

 

「さっきから偉そうに…初対面の上に恵んでもらう相手には普通敬語だろ?何普通にタメ口叩いたんだ。そのうえ選べだ?傲慢にも程があるだろ」

そう言い龍崎は手の筋肉に力を入れ握りしめた。

 

「な…な!オメェまさか妖怪か!?」

「だから何だ?知る必要ねぇだろ。今死ぬんだからな」

そう言い首を掴む。山姥は引き剥がそうとするも力に勝てず引き剥がせなかった。

 

「待つだ!頼むやめてくれ!殺すのはやめてくれ!」

山姥は涙を出しながら必死に命乞いをする。だが怒った龍崎にその言葉は届くことはなかった。そして龍崎は指に力を込めた。

 

「しね」

 

グシャ

その音と共に指が食い込み山姥の肌を引きちぎり骨を砕いた。血が吹き出すと山姥は糸人形のように首を垂れ下げ絶命した。

 

「さて、早く帰るか。魂までは壊してないからすぐに生き返るだろ」

そう言い龍崎はその場から東京へ向かっていった。

 

ーーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーー

 

「ようやく着いた」

あれから一時間経ち龍崎は東京へと戻ってきた。現在は夕方であり、帰宅する学生達で溢れていた。

 

「さて、家に戻って焼くか」

そう言いそこから跳躍するとビルからビルへと飛んで行った。

 

ーーーーーーー

 

パチパチ……パチパチパチパチ

大通りから離れた誰もいないボロいアパートの外で龍崎は火を起こしその近くに串刺しにしたニジマスを置いた。

そして龍崎は近くにある岩に腰を掛けた。

 

「ふぅ…少し疲れたな…」

そう言い目を薄めながら火を見た。置いてあるニジマスから少しずつ脂が滲み出てきて香ばしい匂いを漂わせる。

 

「そろそろだな」

そう言い手に取りかぶりつく。

咀嚼しながら龍崎は頭の中で今後の学費の事を思い浮かべた。

今のバイトでも十分に稼げているが高校が私立となると話が変わってくる。やはり都立か国立にするべきか。

 

「ま、いっか。今は自分のやりたいことやろ」

そう言い二本目に手を出そうとした時

 

「……まずい囲まれた…」

そう言い辺りを見渡す。見ると魚の匂いで10匹の野良猫達が龍崎の周りに座りマジマジと焼かれているニジマスに目を向けていた。

龍崎はため息をつくと皿の上に魚を数匹乗せ野良猫達の前に出した。

すると猫達はすぐさまニジマスにかぶりついた。相当お腹が減っていたらしい。

「食ったら早く帰れよ。流石に宿は提供してやれねぇからな」

そう言い龍崎は2本目のニジマスにかぶりつく。因みに内臓や骨も食べる。

 

「ニャ〜!」

全ての魚を食べ終えると魚を貰った猫達が龍崎へと擦り寄ってきた。御礼の意味を表しているのだろう。

「はいはい。美味かったのか?」

そう言い猫達の頭を撫でる。撫でられ目を細める猫達はとても可愛らしく無理矢理には引き剥がせなかった。

「はぁ…そら、もう暗いから帰りな」

「ニャ〜」

そう言われると小猫達は近くの塀や道へと走っていった。

「ふわぁ…そろそろ俺も寝るか…」

欠伸をすると龍崎は部屋へと入っていった。

 

そして週明け

 

新たなる週の始まりとなる月曜日となり、朝から通学路である駅は混雑していた。

しかも今日は郊外ボランティア活動の掃除がある。そのため早く登校しなければいけないのだ

学校へ着くと龍崎はすぐに着替え皆と共にバスへと乗る。

バスの中 皆は子供らしくワイワイ騒いでいる中 龍崎は1人読書をしていた。

「おいおい龍崎、少しは楽しもうぜ?」

「そうだそうだ!トランプ持ってきたけどやるか?」

そう言い龍崎に話しかけてくる人物はクラスメイトの『そうま』とその取り巻きである。彼らは他の皆とは違い物静かな龍崎にフレンドリーに話しかけてくる数少ない友人のような存在であった。

龍崎は悪いと思いつつも雰囲気についていける気がしないので

「すいません。英検がもうすぐなので遠慮しておきます」

そう言い断る。彼らは「相変わらず勤勉だな〜」と笑いながら了承した。

 

ーーーーーーー

 

 

東京から約 数時間 目的地へと到着した一行は班に分かれて掃除する事となった。因みに犬山が同じである。

龍崎達が掃除をする場所はとある老婆の宅である。木造の昔ながらの雰囲気を出す家であった。

「ちょっと!そうま達ちゃんと掃除しなさい!」

「ちゃんと掃除しなさ〜い!だってよ?」

「犬山らしいわ!」

「何ですって〜!?待ちなさぁい!!」

そう言い犬山はサボる2人の男子と追いかけっこを始める。その様子を龍崎は家の主人らしき老婆から出された茶を飲みながら眺めていた。

「ほほほ。元気だね若い子は」

「まだ中学生ですからね」

すると 1人の男子が祠へと足をぶつけてしまい倒れてしまった。そしてその衝撃で祠も横へゆっくり倒れた。

 

「あ〜あ」

そう呟き龍崎は祠へ目を向ける。倒れた祠からは大量の妖気が感じ取れた。

だが龍崎にとっては関係ないので放っておく。ソッと湯のみを置くと立ち上がりまた1人で掃除を再開する。

そして清掃が終わるとまた東京への長時間移動となった。

 

数時間後

東京へと帰ってきた皆はそれぞれ下校する。

龍崎はいつものようにスクランブル交差点を抜けスーパーへ立ち寄り街はずれへと戻ってくる。

 

「さて、特売で買った肉でも焼くか」

使われていないアパートへと戻ってきた龍崎は部屋へと入っていった。

 

ーーーー

 

ある日の 午後

私は暇なのでまな に何処かでお茶でもしようかと連絡してみた。

 

 

『今日どっかいかない?』

それから数時間経っても返信が来なかった。よくスマホをいじる まな がこんなにも返信が遅いとは考えられない…。

おかしいと思った私は外に出てまなを探してみた。

 

私は近所の野良猫達に聞いてみた。

 

「(ねぇここら辺で『犬山まな』っていう女子中学生は見かけなかった?)」

「(さぁ…見てないなぁ…あ!そんな事よりも聞いてよ猫娘さん!この前 凄い人に会ったんですよ!)」

「(凄い人?)」

「(そうそう!すぐ近くの使われていないアパートに住んでる男性なんですけどもニジマスをたくさんくれて仕舞いには私達の毛を整えてくれたんですよ!)」

「(そ…それは凄いわね…じゃ、私はいくから。ありがとね)」

私はおばさんのように口々に話し出す猫から逃げるようにすぐに話を終わらせた。

というかあの猫の言っていた『凄い人』って…誰?

私は少々気になっていたけども今はまなが先なので無視する事にした。

 

というか…本当にまなはどこにいったんだ…

 

 

 

ーーーーーーー

 

「ん?なんだ?強い妖気が微かに感じる」

読書をしていた龍崎は突然感じた妖気に耳を鳴らした。その方角は街に設置してある鏡から感じ取れた。

 

「鏡からか……だとすると正体は『鏡じじい』か?」

そう言い龍崎は鏡を睨む。

「まぁいいや。それより勉強しねぇと」

そう言いまた読書へと戻った。

すると

 

ガタガタガタガタガタ!

家が突然震えだし小規模の地震が起きた。だが龍崎は慌てずにドアを開けた。

 

「ったく。普通にノックしろよ。八尺」

そこに立っていたのは身長が呼び名の通り八尺[240㎝]程のスーツを着たポニーテールの女性が立っていた。

「だって玄関は入りづらいのよ。少しは私の身長の事も気遣って」

その女性は不満そうな表情を浮かべた。

 

彼女の妖怪としての名は『八尺様』 田舎に住んでいる巨大な女の妖怪であり 魅入られてしまうと呪い殺されると噂されているのだ。

以前 というより一ヶ月前に田舎を訪れた龍崎を気に入り 呪い殺そうと仕掛けたが逆にボコボコにやられてしまい その時 龍崎から無差別な殺生よりも世界を見てみないかと提案され東京へ上京し 『八神 沢子』という名前で社会へと溶け込んでいた。因みにこう見えて知能が高く パソコンの『word』や『PowerPoint』といったアプリケーションソフトやスマートフォンの使い方を一日でマスターしたのだ。その知能をとある大手の商業会社より買われて以来その会社で働いているのだ。

話を戻し 八尺は部屋へと入ってくると巨大なパソコンを取り出し常人以上の速さで文字を打っていた。

 

「ったく。オフィスでやれよそんくらい」

「しょうがないじゃない!社員が仕事に集中できないって部長に言われたんだから!それにこの書類今日中に終わらせないといけないのよ!」

「そうかいそうかい。……で、どうだ?一ヶ月間 人間の職についてみて」

龍崎は本を読みながら聞いた。ハ尺もパソコンのキーボードを打ちながら答える。

「中々 面白いわね。生まれてずっと田舎で生きてたから知らなかったわ。まさか人間の技術がここまで進んでいたとは思いもしなかったわ」

「同じ感想だな。どうだ?このままここで仕事を続けるか?それともまた田舎に戻るか?」

「いや。田舎に戻るよりもこのままここに居続けてもっと学びたいわね。そして外国にも行ってみたいわ」

「そりゃよかった」

キーボードを打ち終えると八尺は龍崎を抱き上げた。

「なんだ?」

「少し付き合いなさいよ」

そう言い八尺は龍崎と共に家を出た。

 

 

沢山の人が帰る中 2人は渋谷のとあるグルメタワーへと来ていた。

「ここは?」

「イタリア料理の専門店よ。私をここまで導いてくれたお礼がしたくてね。ここのラクレットチーズが凄く美味しいのよ?」

「ラクレットか…新宿のテレビで見た事があるな」

そう言いながら龍崎は出された水を飲む。その間に八尺が注文し数十分後

鉄板の上で焼かれたハンバーグとウインナーやポテトが届いた。

「すげぇな…で?どこにチーズがあるんだ?」

「それはね…あ、普通の量でお願いします」

「かしこまりました」

すると巨大な固形チーズが現れ店員はその切れ目の側面からナイフで切り落とすように滑らせた。するとその側面がトロッと溶け出しゆっくりとハンバーグへ流れた。

「おぉ…これは美味そうだな」

「でしょ?」

実物を目の当たりにした龍崎は舌を鳴らした。

 

「ハグッ…!」

あまりの絶品さに龍崎は涙を流した。食べたと同時にチーズの臭さとハンバーグの香ばしさが合わさりジューシーな肉汁が口の中を満たした。

 

「上手いな…こんな料理食べた事がねぇ…」

「でしょでしょ!いやぁ気に入ってもらえてよかった!」

それから龍崎はゆっくりと味わいながらチーズを堪能した。

 

ーーーーーー

 

「ふぅ…ご馳走さま」

「どういたしまして」

帰り道 2人は並んで歩きながら暗い住宅街を歩いていた。すると何かに気づいた八尺が龍崎へ伝えた。

 

「確かこの辺り最近 通り魔が出てるらしいよ?」

「通り魔?」

「えぇ。主に小学生を狙って 殺してるらしいの」

「お前と同類だな」

「それは昔でしょ!?確かに悪い事したとは思ってるけど…」

「どうだか」

そう言い歩いていると

 

「ねぇ」

後ろから声を掛けられた。見てみると赤いコートを纏った女性が立っていた。見てみると美しい女性で 顔の下半分はマスクで覆われていた。

 

「はい?どうしました?」

龍崎は突然声を掛けられ理由を尋ねた。すると相手の女は龍崎へ近づくと聞いてきた。

 

「ワタシ…きれい?」

「「?」」

その質問に2人はカクンと首を傾げた。

 

「きれい?っていわれても…どう思う?」

「まぁあんまり綺麗とは言えないわね。でも初対面だから気を遣わないと。はい綺麗です」

その言葉に女はマスクを掛けている耳へ手をかけた。

「だったら……これでもかぉぁぁ!!!!」

マスクが外され出てきたのは耳まで裂けている大きな口だった。

 

「これでも綺麗かぁぁぁぁ!!!!」

そう言うとその女性は刃物を取り出し2人に向かって襲い掛かってきた。

 

『………』

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後

 

「あの…すいません。これで全部なんです」

あの後 女性の正体は口裂け女という妖怪である事が分かり 襲ってきた口裂け女を2人はボコボコにすると、土下座をさせて財布の中身を抜き取っていた。

 

「へえ。万札2枚に千円札3枚か。もっとあるだろ?」

「ジャンプしてみなさいよ?」

「 いや!本当に無いんです!勘弁してください!」

因みに、その後 口裂け女は何とか解放されたが、一生に残るトラウマを抱えたのだった。

 

 

 



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河童の逆襲

「じゃあ仕事行ってくるわね」

「あぁ」

その言葉と共にビジネススーツを着こなした八尺は龍崎に手を振るとアパートを出て行きその姿を龍崎は見送った。

 

「さて、俺も行くか」

そう言い龍崎も鞄を持ち学校へと向かった。

 

ーーーーー

 

教室に入るや否や 龍崎の頭が突然真っ白になった。

 

「……ケホ…ケホ…」

手に付着した粉を見る限りチョークの粉だろう。しかも真っ白ではなく赤や黄色も混じっており学ランも黒色の筈が他の色が混じった事により酷く汚れてしまった。

龍崎は汚れをはらい落とすと辺りを見渡す。見ると何人かの男女がニヤニヤしながらこちらを見ており目が合うと同時に顔を逸らした。

 

「はぁ…」

ため息をつき嫌がらせだと認識した龍崎は何も言わずに席へ向かった。

 

「…?」

だが、同じような光景が自分の席でも広がっていた。

コンパスや焼きごてで『死ね』 『学校やめろ』 『貧乏神』等の誹謗中傷等のメッセージが彫られていた。常人ならここで鞄を捨てて帰る程のショックを受けるが龍崎は意に介す事なくその上に教科書等を並べた。

 

ガラガラガラ

 

「はい席に着いて。HR始めるわよ」

それからは誰も手を出してくる事は無かった。だが時折 まなが此方へ顔を向けてくる事があったが龍崎は顔を逸らす形で目を合わさないようにしていた。

 

ーーーー

 

「ではこれにてHRを終わります。気をつけて帰ってください」

ガラガラ

 

 

 

「よしゲーセンいこうぜ!」

「いいねぇ〜!その後ステーキいこうぜ!お前奢りな!」

「は?ふざけんなし笑」

帰りのHRが終わると同時に何人かの男女は走り去るように教室から出て行った。

龍崎も荷物をまとめ椅子から立ち上がり教室をでた。

 

「あ、今日バイトだったの忘れてた」

中学ではあまり許可されていないのだが龍崎は家庭の事情と言う事で了承してもらっている。

 

ーーーーーー

 

私は今日の夕食の材料を買うためにいつもの八百屋に来ていた。

 

「あら猫ちゃん。今日もいいの揃ってるよ」

店長のおばちゃんとは結構長く付き合ってるのでもう顔見知りだ。

 

「取り敢えず今日はキュウリの塩漬けにでもしようかしら。キュウリ キュウリっと…あれ?」

よく見るといつも大量に置かれているキュウリが一本も無かった。今日だけでない。先週からずっとだ。

 

「おばちゃんキュウリどうしたの?」

「あぁすまないね。なんでも都内の会社が東京中のキュウリを買い占めて。ウチも先週からずっと買い占められてるんだよ」

「うそ!?。しょうがない…ナスの味噌漬けでいっか」

「毎度あり〜」

 

先週からキュウリを買い占める会社……何かありそうね…。

 

ーーーーーー

 

都内某社にて

 

2人の帽子を被った配達員が暗い廊下を荷車を押しながら歩いていた。

「まったくこれで一週間連続だぜ?きゅうり数百本。ここの会社どうなってんだ?」

「さぁな。取り敢えずいつものように置いてすぐ帰ろうぜ」

「だな」

そう言いながら2人は大量に積み重ねられたきゅうりの箱を指定されたオフィスの入り口へ置いた。

すると、その扉が少し開いているようで中から声や光が見えてきた。

 

「なんだ?……!?」

その瞬間 見た片方の男性は固まった。

 

「どうした?…!?」

もう片方の男性も固まった。

 

そこには頭に皿を乗せ背中に甲羅を背負った不気味な生命体の集団がスーツを着用して業務作業を行なっていた。

 

 

「な…なんなんだよこれ…!?あれって河童だよな!?」

「河童!?ンなもんいるわけねぇだろ!?あれだよ!池に潜んでる尻子玉が好物の変質者だよ!」

「モロ河童じゃねぇか!河童確定じゃねぇか!河童+河童じゃねぇか!!」

「ンなこと言ってる場合か!早く逃げるぞ!」

その時

 

「見たな?」

『ヒィ!?』

2人の背中に水掻きがついた手が置かれた。

恐る恐る振り返るとそこには見たものと同じ生物が3匹立っていた。

 

「お…お助け…!」

「見られたからにはただじゃおかん。やれ!」

1人の生物の合図と同時に他の2匹は人間とは思えない手の速さで男達の尻へ手を伸ばした。

 

『アッフゥゥゥゥンッ♡』

 

ーーーーーーー

 

その夜

 

龍崎はいつものバイト先で荷物分けをしていた。

 

「よっと」

軽く10kgはある箱を片手にに10個づつ積みながら次々に荷分けする姿は働いている職員も目を丸くする程であった。

 

「最近の中学生はすごいね。あんなに持つなんて…今の子供達はやっぱちがうね〜」

「ンな訳ないでしょ」

 

龍崎は荷物を運び終え一休みし近くの台へ腰を下ろした。

「ふぅ。いい汗かくな。ん?なんだ?」

その時 その職場に設置してある小型テレビに映っているものに目がいった。

 

「ご覧ください!突然大勢の人々が力が抜けたかのように倒れております!」

そこに映し出されていたのは噴水のある公園だった。

見ると辺りにスーツを着た社会人達がまるでフニャフニャになったかのように倒れ伏していた。

 

「何だありゃ?」

その時 レポーターの後ろに黒い影が現れた。

 

「ケケケッ!」

「ぎゃぁぁぁ!!」

すると同時にそのレポーターは叫び出し黒い影が消えるとその場に倒れた。

 

「面白そうだな。行ってみるか。店長。俺はもう上がります」

「はいよ〜」

龍崎は衣服を着替え学ランを着用するとすぐさまその場へ向かった。

 

ーーーーーー

 

一方で、その目的地では

 

『ケケーッ!!』

多くの河童達が辺りにいる人達へ襲いかかり次々と尻子玉を抜き去っていた。

この現場を撮影していたニュースキャスターも容赦なく襲いたちまちに人は逃げていった。

 

「逃すな!全員の尻子玉を抜き取れッ!!」

『ケケーッ!!』

リーダー格らしき河童が支持すると他の河童達も雄叫びをあげ次々と人を襲った。

 

その時

 

「やめろ!」

辺りに響き渡る声と共に近くの建物から何かがこの場へと飛び降りてきた。

 

「これ以上 人間に手を出すな!」

その正体は小柄な少年であった。河童達はその少年の姿を見ると驚きの声を上げた。

 

「鬼太郎だ!」

「なに!?鬼太郎だと!?」

そんな中 リーダー格の河童が前に出た。

 

「太郎丸!なぜこういう事をする!やっても何の意味もないぞ!」

鬼太郎はリーダー格らしき河童へ制止を促した。すると太郎丸と呼ばれた河童は下を向きながら答えた。

 

「鬼太郎さん…これは私達が生きるための事です…いくら友達の貴方でも…邪魔するなら容赦はしません!」

そう言いうと太郎丸や他の河童達は一斉に戦闘態勢を取る。それに対し鬼太郎も話は通じないと判断したのか構えた。

 

その時

「ケケケッ!!」

「きょぽ!?」

突如背後から別の河童が現れ鬼太郎の尻子玉を抜き取った。

 

「鬼太郎!!しっかりせい!」

目玉親父が気を確かに持つように促すも鬼太郎はふにゃふにゃになってしまい立ち上がる事すら出来なくなっていた。

 

「鬼太郎!大丈夫!?」

「応援に来たばい!ってあんれ〜!?」

後から駆けつけた猫娘達も鬼太郎の姿を見た瞬間に絶句した。

 

「一足遅かったか…既に尻子玉を抜かれておる…!」

「嘘でしょ!?…こうなったら私達がやるしかないわね!」

猫娘は鬼太郎が戦えない状態と判断して自分達で河童を止める事を決める。だが、河童達は勢いを崩さず猫娘達へ目を向けた。

 

「女だからと言って容赦はしないぞ?」

『ケケケッ!』

「ッ!?」

河童のいやらしい手つきに猫娘はすぐさま尻に手を当てながら逃走した。それに対し河童達は手を向けながら後を追った。

 

「来るな〜ッ!!!」

『ケケケッ!』

「変態〜ッ!!!』

『ケケケッ!』

ドドンッ!

「ぬりかべ!」

「ケケッ!」

「ぬっ!?」

猫娘を守ろうと立ち塞がったぬりかべもすぐさま餌食となり倒れてしまった。

 

「もうやめよ太郎丸!」

砂かけ婆も太郎丸へ制止を呼びかける。だが太郎丸は止まる意思を見せなかった。

 

「砂かけ婆さん…貴方は傷つけたくない…ですが邪魔するなら…!」

『ケケケッ!』

「…え!?」

砂かけ婆も標的とされてしまい河童達は一斉に砂かけ婆を追いかけ始めた。

 

「うぎゃぁぁぁ!?レディに対して何たる破廉恥な〜!!」

 

ーーーーーーー

 

一方で鬼太郎は未だに力を出すことが出来ずふにゃふにゃとなっていた。

するとそこへ

 

「ハハッ。久しぶりに儂の出番みてぇだな」

「おお!?いそがし!?」

そこへ現れたのは一つ目の『いそがし』という妖怪だった。

 

「ちょいと取り憑くぜ」

そう言うといそがしは鬼太郎の身体へ自分の身体を半透明化させると吸い込まれるようにして消えていった。

 

ーーーーーー

 

一方で猫娘と砂かけ婆は河童達に回りを包囲されていた。

 

「くっ…こんなにいると流石に厄介ね…」

「さてどうしたものか…」

2人は打開策を考える。だが一向にその案は出ずこの場を脱するのは不可能と確信し始めた。

 

その時

 

コツ コツ コツ

 

 

聞き慣れない足音と共に奥の暗い道から1人の学生服を着た少年がその場に現れた。

 

「人間か!?ハッわざわざ来るなんて馬鹿なもんだぜ!」

「お前ら!コイツらよりも先に人間をやっちまえ!」

『ケケケッ!』

太郎丸の合図と共に猫娘達を囲んでいた河童達は一斉にその少年へと向かっていった。

 

「ぬぉ!?逃げよ!尻子玉を抜き取られるぞ!」

砂かけ婆はその少年へ逃げるよう促した。だが横にいる猫娘は戦慄の表情を浮かべすぐさま河童達へ声をかけた。

 

「ダメ!ソイツに手をだしたら!」

だが河童達にその声は届かなかった。

 

その瞬間

少年の口角が吊り上がった。

 

それと同時に辺りに鮮血が飛び散った。

その少年に向かっていった河童達 全ては手や足が引き千切れ無残な状態となり辺りに散らばっていた。

 

「邪魔だよお前ら」

そう言いながらその少年は自分の目の前に落ちた河童の手を蹴ってどかすと猫娘達を見た。

 

「久しぶりだな」

 

その瞬間 猫娘の目から殺意が溢れ出た。

「なんで…アンタがここにいるよ…

 

 

 

 

 

“龍崎”ッ!!!!!

 

 

 



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災厄との激闘そして起こる最悪の事態

「なんで…アンタがここにいるのよ!龍崎ッ!!」

猫娘は爪を伸ばし殺意を溢れさせた。それに対し龍崎は不敵に笑った。

 

「ハハッ。相変わらず凶暴だな 猫。なぁに、別にこれといった理由はねぇよ。バイトしてたら面白そうな光景が映っててここに来た訳だ。最初は残念だと思ったよ。コイツら全然面白くないし」

「うぐぅ!?」

そう言い龍崎は再生し立ち上がろうとしている河童の頭を踏みつけた。

「だが、お前がいたから来て正解だと改めて思ったよ。お前がいるって事は『鬼太郎』もここにいるって事だろ?棚からぼた餅とはまさにこの事だな」

「なんですって…!」

笑いながら放たれたその言葉には狂気と殺気が込められており猫娘や砂かけ婆を震えさせた。

猫娘はもちろん 横にいる砂かけ婆も初めて見る龍崎へ最大レベルの警戒態勢を取った。

「猫娘…奴が前に言っておった…」

「えぇ…たんたん坊達に加担していた人型妖怪よ。気をつけて!アイツはたんたん坊達を一撃で倒す程の力をもってるわ…!」

「なんじゃと!?これまた骨が折れそうじゃ!」

2人は戦闘態勢を取り龍崎を睨んだ。それに対し龍崎は落胆の声を上げる。

「俺がやりたいのは鬼太郎だぞ?お前らに用はない。消えろ」

 

その言葉が終わった瞬間 猫娘の姿が消えた。

 

「消えるのはアンタよッ!」

「お?」

突如 横から猫娘が現れ伸びた鋭い爪を刃物のように振り回してきた。その刃物は龍崎の右半身を捉え肩から腕へ抜けるかのような傷を負わせた。

 

「ハァッ!」

更に追い討ちをかけるように猫娘はすぐさまその体制さら爪を上に振りかざし龍崎の頬へ傷を入れた。

 

「ほぅ」

龍崎はその場から後ろへ飛ぶと2人を睨んだ。

 

「なんだ。やるのか?なら……」

 

 

『…ッ!』

 

2人は絶句した。垂れた髪を取り出したワックスで後ろに流し結ぶ姿から強烈な殺気と妖気が放たれた。さらに曝け出した龍崎の額には抉られたかのような傷が現れ更に濃い狂気を漂わせていた。

 

「容赦はしねぇぞ…?」

小柄な身から考えられない程の濃い妖気に猫娘や砂かけ婆は汗を流し攻撃しようにも仕掛ける事が出来なかった。

 

「来ないのか?ならこっちから行かせてもらうぞ?」

それに対し龍崎は戦闘態勢を取り2人目掛けて攻撃を仕掛けようとした。

 

その時

 

「髪の毛針ッ!」

 

「ん?」

空から無数の針が龍崎目掛けて降り注いだ。龍崎はその場からすぐさま跳躍する形で避け背後に着地した。

 

「やっとお出ましか。ゲゲゲの鬼太郎…ッ!」

 

「やぁ。久しぶりだな」

そこに立っていたのは河童に尻子玉を取られダウンしていたはずの鬼太郎だった。

 

「鬼太郎!アンタ河童達に尻子玉取られてたんじゃ…」

 

「いそがし が取り憑いてくれたんだ。お陰で普段の数倍以上のやる気が出てくるよ」

 

「成る程。いそがし という妖怪か。それで尻子玉があればさらに強くなるという訳か」

そう推測している時 龍崎の足元や周りにいた河童達が立ち上がった。

 

「お前……よくもやってくれたな…!」

「ただじゃおかねぇ!河童を敵に回したこと思い知らせてやるッ!」

 

『ケケケッ!!!』

 

そう言うと河童達は龍崎を取り囲み四方八方から襲いかかって来た。だが、それは間違った選択であった。

その行動自体が、龍崎を苛立たせた。

「邪魔なんだよ…!」

「ッ!」

 

 

その言葉と同時に龍崎の手が一番近くにいた河童の手を捉えた。

そしてその掴んだ手を引き河童の胴体を自分の目の前に持ってくると縦横無尽に振り回した。

 

『ぎやぁぁぁぁ!!!!!』

周りにいた河童達はその風圧に押され一気に吹き飛ばされた。振り回した事によって四肢が全てグシャグシャになった河童を放り捨てると直視出来ないほどの速さで吹き飛ばされた河童へと向かった。

 

「う…!?うぎぁぁ!!!」

「がハァッ!!」

「うぁぁ!!」

龍崎は次々と河童達の四肢をもぎ取り辺りに放り投げた。

 

「やめろっ!」

 

「あぁ?」

鬼太郎の制止の声に龍崎は反応し 最後の1匹を殴る手を止めた。

 

「別にいいだろ?どうせ時間が経てば再生するし」

 

「だからと言って惨すぎるぞッ!お前に河童達の痛みは分からないのか!」

 

「痛み?ンなモン知るか。ただ単にコイツらがわりぃだろ。力の差も理解しないで向かってくる愚かさがこの現実を招いたんだからな」

 

「ッ!」

グシャァ

「ぎゃぁぁぁ!!!」

鬼太郎の言葉に耳を貸すことなく龍崎は最後の河童の手を握り潰し残りの手足を引きちぎった。辺りには河童達の血で溢れあまりにも残酷な風景が広がっていた。

 

「さて、待たせたな。精々楽しませてくれよ?」

そう言うと龍崎は学ランを脱ぎ捨てタンクトップ一枚になると髪を結び直した。

 

「お前には…キチンとした痛みを知ってもらう必要があるな…ッ!」

対する鬼太郎も激昂したのか普段よりも数段階も低いトーンで声を上げ戦闘態勢を取った。

 

 

「じゃあ教えてくれよ?その痛みというのをよッ!」

龍崎は拳を握りしめるとすぐさま鬼太郎へ向かって殴りかかろうとした。

 

「2人とも下がれ!」

鬼太郎は猫娘と砂かけ婆を離れさせるとその拳を避けた。だが避けた瞬間 龍崎の上半身が鬼太郎の方向へと振り向きそれと共に下半身も動き出し強烈な回し蹴りが放たれた。

 

「オラァッ!」

 

「うぐぅ!?」

 

それは見事に鬼太郎の腹に命中し近くの噴水へと吹き飛ばした。

 

「まさかこの程度じゃねぇだろ?」

 

「当然だッ!髪の毛針ッ!」

鬼太郎は立ち上がると自分の髪の毛を硬質化し龍崎目掛けて放った。それに対し龍崎は頬を三日月のように釣り上がらせると両腕を交差するような形で身を守った。するとその針は次々と弾かれた。

 

「俺の四肢は少し硬くてな。ンな刃物じゃ皮膚は通らないんだよ」

 

「ッ!?だったらコイツはどうだ!」

 

「ん?」

すると鬼太郎は自分の手を地面につけた。見ると地面には先程 壊れた噴水の水で辺りが水浸しになっていた。

 

「何をする気だ?」

距離が離れているのに地面に手をつくその瞬間 龍崎は何かを予測した。

 

「まさかッ!」

 

「そのまさかだよ!体内電気ッ!!」

 

「!?」

その瞬間 鬼太郎の身体が輝き出すと同時に龍崎の全身に激しい電流が流れた。

 

「ぐぅ!?……」

龍崎は即座にその場から跳躍し近くのビルへと着地した。鬼太郎は電流の放出を止めると身体から湯気が出ている龍崎を睨んだ。

 

「……反応を見る限り『電気』が弱点らしいな?」

 

「ハハッ!よく分かったな。俺は高圧電流が苦手でな。受けるとしばらく動けなくなるのさ」

 

「変な奴だな。自分の弱点の効果を暴露するなんて」

 

「こうでもしなくちゃ面白くねぇだろ?」

そう言うと龍崎は手に青く光る炎を生成した。

 

「さぁ…!もっと楽しませてくれよ…!」

 

「ッ!」

その瞬間 青い炎は鬼太郎へ向かって放たれた。

 

「くっ!?」

鬼太郎は咄嗟に霊毛チャンチャンコを広げ炎を防いだ。その炎はチャンチャンコに触れると同時に飛散し辺りに飛び散った。

 

「ほう?今のを防ぐか。ならコイツはどうだ?」

そう言うと龍崎は拳を握りしめると全身から青い炎が溢れそれが次々と腕に集まり発光した。それと同時に龍崎の目は透き通るような青い目へと変化し身体から発せられる蒼炎は辺りを美しく照らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ______いくぞ?」

「ッ!!」

燃え盛る炎を纏いながら龍崎はその場所から一気に飛び出すと鬼太郎へ向かって拳を振るった。対する鬼太郎も自身の腕にチャンチャンコを巻きつけ迎え撃つ。

 

「オラァッ!」

「霊毛チャンチャンコッ!」

2人の拳がぶつかり合うと、辺りを閃光が包み込んだ。

 

ーーーーー

 

「何て強さじゃ…いそがしの力が合わさったと言うのにあそこまで追い詰められるとは…」

猫娘の肩に乗りながら目玉おやじは龍崎とぶつかり合う鬼太郎の姿を見ていた。だが決して優勢というべきではなかった。むしろ劣勢となっていた。

 

「親父殿!何か方法はないのか!?」

「このまま鬼太郎がやられるところを見てるだけなんて…」

「ふぅむ…」

目玉親父は頭を振り絞り考えた。どうにか奴を足止めできないか。

そう考える間 闘いは止めることなく続いていた。

「…!そうじゃ!」

 

ーーーーーー

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

「どうした?もう終わりか?」

現在 鬼太郎は満身創痍の状態で地面に膝をつき息を切らしていた。鬼太郎に取り憑いたいそがし も少しずつ限界が近づいていた。

「く……まだだ…!」

鬼太郎が立ち上がろうとした時 心の中にいる いそがし は止めた。

 

「(やめた方がいい…コイツは次元が違いすぎる…)」

 

「(な…なんだって…!?)」

 

「(お前だって分かるだろ…あの妖力の量…儂とお前の妖力を足してもまったくたりねぇ。それにさっきから全開でやってるんだがな…それでもアイツは平然と追いつくどころか上回ってくる。妖力ももうすぐ底についちまうぞ…)」

改めて鬼太郎は龍崎を見る。傷は所々にあるというのに疲れどころか、息切れ一つも見せていない。

 

「(じゃあ…どうすれば…)」

 

「(今から一気に残りの力を出す。お前は逃げる事だけを考えろ…)」

 

「(そんな…!)」

いそがし の思いついた策。それは『逃走』だった。今のいそがし の妖力を全開すれば少なくとも時間は稼げる。だが 逃亡するとなると確実にオババや猫娘に被害が及ぶと考えた鬼太郎は流石にそれは賛成できなかった。

だが、他に手はない。

 

「なんだ?さっきからだんまりだな」

龍崎は倒れ伏している鬼太郎に近づこうと足を動かした。

 

だが次の瞬間 背中に巨大な衝撃が襲った。

 

バァンッ!!!

「ゴホッ…!?」

その発せられた衝撃によって龍崎は胃液を吐き出しながら近くのビルへと叩きつけられた。

 

「…!ぬりかべ!?」

 

「ぬり!」

そこには尻子玉を抜かれダウンしてた筈のぬりかべが張り手のポーズを取りながら立っていた。恐らく龍崎はぬりかべの張り手によって吹っ飛ばされたのだろう。

 

「鬼太郎さん!」

するとそこへ河童の太郎丸の弟である次郎丸が走ってきた。

「鬼太郎さんごめん!尻子玉を返すよ!」

 

「きょぽ!?」

そう言うと次郎丸は鬼太郎の肛門へ尻子玉を押し込んだ。すると同時に鬼太郎の身体から倒れるようにしていそがしが出てきた。

「いそがし!」

 

「へ…へへ…流石に力を出しすぎたか…こりゃ参ったぜ…」

それだけ言うといそがしは意識を失ってしまった。

 

「いそがし…ありがとう…後は任せてくれ」

鬼太郎はいそがしを一反木綿に渡しここから離れるように言った。

そして皆は先程 ぬりかべの張り手によって吹き飛ばされた龍崎が突っ込んだビルへと目を向けた。

 

だがそこには何もいなかった。皆はまさかと思いすぐさま目の前に目を向けた。

 

ドォオオオオオオオオンッ!!!

 

『ッ!』

何かがその場に飛来した。見てみるとそこには 切り傷を負いながらも未だ平然な龍崎の姿があった。皆は絶句した。ぬりかべのパワーは巨大なサイの突進をも凌ぐ程ある。その上あの至近距離でのその威力の張り手を喰らったからにはただでは済まない筈なのに切り傷しか与えられていなかったのだ。

 

「次郎丸…河童達を頼めるかい?」

 

「うん!任せて!」

次郎丸は再生して立ち上がろうとしている河童達を説得すると安全な場所へと連れて行った。

次郎丸達がいなくなると同時に龍崎はタバコを握り潰すと立ち上がる。

 

「んん?お前って確か尻子玉抜かれてなかったか?どうやって元に戻ったんだ?」

龍崎は立っているぬりかべに指をさした。すると横にいた砂かけ婆は懐からひとつまみの砂を出した。

 

「この『オババ特性気配消しの砂』のお陰じゃ。これを一振りするだけで数分間 自分から目を離している相手に限り気配を完全に消すことができるのじゃ。さっきからお主は鬼太郎ばっかに意識を集中しておったからその隙を突いて河童達から尻子玉を取り返して回復したという訳じゃ!」

 

「なるほど。道理で…まぁいいい。来いよ?全員まとめて相手してやる」

手を招くような形で挑発すると鬼太郎達は全員戦闘態勢を取った。

 

風が吹く中 両者は睨み合った。

 

その時砂かけ婆の手が動き出した。

 

「砂玉ッ!!」

 

「!?」

砂かけ婆は懐から出した玉を龍崎に向かって投げた。すると同時にその玉は割れ中から大量の砂が竜巻のように吹き荒れた。流石の龍崎も予想外なのか咄嗟に目を塞いだ。

 

「……ん?」

龍崎が目を開けたそこにはもう鬼太郎達の姿はなかった。

 

「ッ…逃げたか。まぁいい。またの機会だな」

鬼太郎への興味が尽きる事がない龍崎は脱ぎ捨てた学ランを拾うとこの場を去った。

ーーーーー

 

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

一方で姿を消した鬼太郎達はゲゲゲの森へと戻ってきていた。中でも鬼太郎やいそがしは疲労の為か横になっており後の皆も全速力で退却したため息がきれていた。

 

「流石の奴もここへは来られないわね…」

 

「あぁ。太郎丸達よ大丈夫か?」

 

「はい…なんとか…」

鬼太郎の他にもその場を離れていた河童達もゲゲゲの森へと帰還していたのだ。すると太郎丸は突然頭を下げた。

 

「皆さん…すいませんでした…。私たちの所為でこんな事になってしまって…」

 

「僕からも謝ります…兄ちゃんが迷惑かけて本当にごめんなさい!」

太郎丸に続いて次郎丸も頭を下げた。すると目玉親父は首を横に振る。

 

「今回はお主達の所為ではない。奴の出現は予想外じゃったからな。じゃがお主達はお主達で悪い所がある。無差別に尻子玉を取ることはよくない。ちゃんと返しておくのじゃよ」

 

「はい!」

 

「だけど……参ったわね…龍崎のあの妖力の量…私達全員でもまったく行き届かなかったわ…」

 

「うむ…奴について少し調べねばなるまい…」

それから河童達は先程の場所へと戻り龍崎がいない事を確認すると尻子玉を全て持ち主に返し、ゲゲゲの森へと戻ってきた。そして鬼太郎達と別れると自分たちの住処へと帰っていきそこで再び暮らす事に決めたのだった。

 

翌日

 

目玉親父達は今後の龍崎への対策について考えていた。

 

「さて…あの龍崎という妖怪についてどう対策をとるか…」

目玉親父は首を傾げていた。すると隣にいる猫娘が提案する。

 

「奴の狙いは恐らく鬼太郎よ。何故かは分からないけど…鬼太郎以外には手を出さないと思うわ」

 

「そうか…ならしばらくは鬼太郎は人間界に立ち入らない方がよいな。まぁあまり人間界に行かないから別にいつも通りということじゃな。だが…まなちゃんは奴と同じクラスなのじゃろ?大丈夫なのだろうか…」

 

目玉親父はまな の事を思い浮かべた。一番忘れてはいけない事。龍崎が自分達と一番親しい人間であるまなと同じクラスであるという事。つまり平日は四六時中一緒にいるという事だ。

「確かに心配ね…それにまなのクラスメイト達も…」

 

ーーーーーーー

 

「あ?なんだ龍崎?その目は?」

「…」

斎藤やその取り巻きに加え自分を今まで虐めてきた人達に龍崎は不敵に笑っていた。

 

「気持ち悪い顔 見せんじゃねぇよ!」

バンッ

 

斎藤のアッパーからの蹴りは見事に命中し龍崎を教室の隅に叩きつけた。だがそれでもなお龍崎は笑みを消すことは無かく壊れた人形のように笑い始めた。

「なに笑ってんだテメェ!」

「フフ…昔 読んだ本の中に『弱者は群れる』と書いてあって本当なんだなと思いまして」

その言葉が斎藤やその取り巻き達を刺激した。

 

「んだとッ!龍崎の癖に生意気なこと言ってんじゃねぇッ!」

そう言い斎藤は龍崎に向かって拳を振った。

 

ガシッ

「え?」

斎藤の拳は見事に受け止められていた。その瞬間

 

「うぁぁぁぁぁ!!!!」

斎藤の悲鳴がその場に響いた。皆は耳を塞ぎながらもう一度2人の姿をみた。

 

そこには

 

「お…おいおい嘘だろ…!?」

 

右手を抑えながらうずくまる斎藤 それを怪しい笑みで見つめている龍崎の姿が映っていた。

すると同時にクラスの何人かは口を押さえた。その理由は斎藤の腕が骨が見える程まで握り潰されていたからだ。

 

「て…テメェ!何やってんだよ!そこまでする必要ねぇだろ!」

「そうだ!」

後ろにいる取り巻き達は口々に龍崎に言った。だが龍崎は表情を歪ませるどころか 更に口角を釣り上げた。

 

「面白いな…虐められっ子に逆襲され…絶望に叩き落される虐めっ子の反応は。さて、お前達はどんな反応をするのかな?」

龍崎は黒く鋭い目を向けた。その瞬間 斎藤の取り巻きや他の虐めっ子 はたちまち悲鳴を上げながら教室を出て行き始めた。

 

「うわぁぁぁ!!!」

「先生ぇぇ!!!助けてぇぇ!!」

「龍崎が!龍崎がぁぁぁ!!」

逃げ惑うその姿を龍崎は嘲笑うかのように見つめていた。

 

「ハハ。どうせ逃げても無駄なのに」

笑い終わった龍崎は教室へ戻るとうずくまる斎藤の他に壁に倒れかかっているまなや他の生徒へ目を向けた。

目を向けられた まな 以外の皆は怯えて立つ事すら出来ずにいた。

 

「別にそんな怯えなくとも。貴方達は俺を虐めてないから殺しませんよ。俺が殺すのは…コイツとアイツらですから」

そう言うと龍崎は髪を後ろに流し結ぶとうずくまる斎藤へ目を向けた。斎藤は顔を上げ龍崎の顔を見た瞬間 全身を震わした。

 

 

今 鬼太郎達が予想していた最悪の事態が起ころうとしていた。

 

 

 



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始まる仕返し

髪を上げさらけ出したその素顔にうずくまる斎藤の顔は恐怖で染まった。

「ま…まさかお前が本物の『帝王』だったのか…!?」

今 自分が目の前にいるのが本物の帝王だという事に身体を震わせていた。

 

「ハハッ。俺はそんなあだ名で呼ばれているのか。まぁいい。お前…今から数十発殴るから」

 

『ッ!?』

龍崎の突然の発言に皆は絶句した。その言葉の重さそしてトーンから脅しでない事だけが読み取れた。

 

「どうした?そんな青ざめて。怖いのか?自分がやってきた行いを返されるのが」

「こ…怖い訳じゃねぇよ!それにいいのか!?俺のバックにはヤクザがついてんだ!万が一手を出したらお前の人生を滅茶苦茶にできるんだぞ!?」

その脅し文句に龍崎は笑うのをやめた。

 

「どうした!?怖くなったか!?だったらここで土下座しろ!『斎藤様 無礼を働いて申し訳ありませんでした』となぁ!」

「……」

龍崎は何も喋らなくなるとポケットをまさぐり、携帯を取り出すと一枚の写真を見せた。

「そのヤクザって…コイツらのことか?」

「え…ッ!?」

その瞬間 斎藤は希望が失ったかのような表情になった。

 

見せられたその写真には窓ガラスが割れカーテンも千切れ書類等が散乱している無残なオフィスと、それを背景にして何十人もの青年達が満身創痍の状態で倒れている姿が写っていた。

 

「こ…これは…!?」

 

「最近 ここら辺で警察が手を焼いてる暴力団がいるって聞いてな。 実際に言ってみればただの高校生の集まりだったよ。コイツらはバイクに乗って騒いでいたり 麻薬を吸っていたりしていた上に女子を騙し無理矢理 飲酒させ強姦した事が分かった。そして数日前 コイツらが俺のとこに来たから郊外の無人ビルに連れてってこうしてやったよ」

 

「そ…ソイツらが俺の言ってたヤクザである確証はねぇだろ!?」

 

「あるさ。コイツらのリーダーを問い詰めたらアッサリと吐いてくれたよ。お前に金を渡されてやった。とな。あともう一つ お前の知り合いに組の関係者はいるか聞いてみたらいないと答えていたな」

 

「…!あの野郎…!」

 

「今の反応からするに どうやらヤクザは嘘らしいな。因みに実際はンな事 聞いてねぇよ。カマをかけてみたがバカは引っかかりやすくて助かるよ。それに…」

 

「ヒィ!?」

龍崎の口角がつり上がる。窯をかけられた事で斎藤の後ろ盾が明るみになった。

だが、龍崎は一度つりあげた口角を戻すと鋭い目を斎藤に向けて睨み、言い放った。

 

「ヤクザが何だよ?関東甲信越を手に入れる為に幾つの事務所を壊したと思ってるんだ…?何処の組が来ようと今更ビビらねぇよ」

 

その言葉に斎藤は涙を流す。そして今の言葉は本当であると確証したのか涙を流し叫んだ。

「…!ち…畜生がぁ…!!訴えてやる!傷害罪で訴えてお前から慰謝料を大量にぶんどってやるからな!!」

龍崎に論破されプライドがズタズタにされた斎藤は涙を流し叫んだ。その叫びに龍崎は携帯をしまうと口角を吊り上げた。

 

「ハハッ。訴える?確かに俺はとんでもない額を請求されるなぁ。なら俺もお前に紛失した教科書代・制服のクリーニング代・今までのいじめに関する精神的苦痛に対しての慰謝料・壊した携帯代などなどたくさん請求させてもらうよ。因みに今までのいじめの件は全て録音してあるから逃げたアイツらからも請求でる上に言い逃れは不可能だ」

 

「ヒィ!?」

龍崎の言葉に自分が確実に不利だと分かった斎藤はすぐさま叫び出し周りに助けを求めた。

「だ…誰か助けてくれぇ!」

その叫びに耳を傾ける者は誰もいなかった。

「いいぞ?反論がある奴は遠慮しなずに言えよ。俺は何も言い返せさないからよ」

龍崎の言葉を掛けられたとしても誰も斎藤の声に耳を傾けてる者は現れなかった。

「お…おいお前ら!クラスメイトが困ってんだぞ!助けろよ!」

「ハハッ。気づけよ。皆 お前の事が嫌いだから誰も助けようとしないんだぞ?哀れだな」

「う…うわぁぁぁ!!!!!!」

遂に精神の限界にきたのか斎藤は涙を流しながら泣き叫んだ。その叫びが大きすぎるのか聞きつけた一年生は全員 教室へと集まってきた。

 

その時

 

「おい!何をしている!」

生徒達を掻き分けながら担任である眼鏡を掛けた男性教師が駆けつけた。それに続いて龍崎を虐めていた生徒も戻ってきた。

 

「先生!アイツがいきなり斎藤を殴ったんです!」

 

「何だと!?おい!龍崎!今すぐ生徒指導室に来いッ!」

 

そう言い担任である教師は龍崎を連行するため腕を掴んだ。だが

 

「離せよ」

 

龍崎はその手を乱暴に払うと同時に笑いながら教師の身体に向けて強烈な蹴りを入れた。教師はその蹴りによって廊下側のガラスに叩きつけられた。

 

「先生!」

 

吹っ飛ばされた教師へ何人かが駆け寄る。その様子を見ている龍崎にまな は止めるよう促した。

「龍崎君 もうやめて!これ以上やったら停学になっちゃうよ!」

「あ?うるせぇよ。お前は下がってろ」

 

そう言い龍崎はまな の横を通り過ぎると倒れ伏した担任の顔を見下ろした。

 

「こんな時に生徒指導室に来いとかカッコつけか?普段 俺が虐められてる現場を見て何も言わない上にか?」

 

「な…何を言っているんだ!デタラメを言うなッ!」

 

「デタラメじゃねぇから言ってんだろ?汚職教師が」

 

そう言い龍崎は担任の首を掴み持ち上げた。

 

「ぐ…!?お…お前…教師に向かって暴力とは…た…退学だぞ…!?」

 

「ハッ。原因はお前らだろ?今までの事を全て話せば俺は悪くても停学だ」

 

バンッ!

龍崎は拳を握りしめると鼻から血を出した担任を殴り飛ばした。身体は窓ガラスを突き破り廊下へと放り出された。普段の龍崎の変わりように皆は驚くと同時に恐れ何も言えなくただ立ち往生する事しか出来なかった。

 

「さて、次はお前らだ」

 

そう言い龍崎は鋭い目を自身の背後にいる生徒達へ向けた。

龍崎は誰も反応できない速さで近づくと強烈な水平蹴りを放ち数人を窓ガラスへと叩きつけた。

 

「そらっ」

 

『ガハァ…!?』

 

ガラスに叩きつけられた3人は身体が重なり合うように倒れ気絶した。

龍崎は倒れた男子たちの前に近づくと顔を持ち上げた。その男子の顔は鼻から血を出しており身体にはガラスの破片が刺さっていた。

 

「どうだ?虐めてる奴に蹴り飛ばされた気分は」

 

「う…ゔぐぅ…!?」

 

その時、後ろにいたもう数人の男子達が龍崎の脇腹から腕を通し羽交い締めにした。

 

「よし抑えたぞ!やれ!」

 

「オオッ!!」

 

取り押さえた男子の合図と共にそこにいた2人の男子は龍崎の顔へ蹴りや拳を打ち込んだ。

 

「この!龍崎の癖に生意気なんだよ!」

 

「オラオラ!俺らに逆らった罰だ!」

 

 

だが

龍崎には全く痛くも痒くもない。

 

「ハッハ。なんだ?マッサージか?」

 

そう言うと龍崎は自分を抑え込んでいる手を強引に折り曲げた。

 

「がぁぁぁぁぁぁ!!!??」

 

抑え込んでいた男子はその痛みに耐えきれず手を離し崩れ落ちた。

 

「さて次は」

ガッ…

 

「なぁ…!?」

 

「ヒッ!?」

龍崎は向かってきた2人の手脚を掴み取ると笑みを浮かべた。

 

「確かお前らは桃山の下着を盗んで俺に罪を被せたっけか?」

 

その言葉に男子生徒達は汗を垂らしながら訳もわからない言い訳をする。

 

「知るかよ!そんな事!」

 

「そうだ!テメェマジで調子乗ってんじゃねぇぞ!」

強く叫びながら彼らは犯した罪の全くの否定をする。だが、拳と脚を掴まれた彼らにはもう威勢は感じられなかった。

龍崎は2人が睨む顔を見ると笑みを浮かべながら答えた。

 

「調子に乗ってるのはお前らだよ…ッ!」

 

ボキャッ

 

その時 その場に骨が砕ける音がした。

脚を掴まれた男子はその状態で持ち上げられると同時に振り回され教室の床へと叩きつけられのだ。それによって膝の骨が砕け脚が明後日の方向へと向いてしまった。

「さて、次はお前だ」

 

「!?…まっ…!」

『待って』という言葉を出す前に龍崎の手が動き出し手を掴んだまま男子生徒を引き寄せると膝を上げ男子生徒のヒジへと叩きつけた。

 

よってヒジの骨がバラバラに砕けその男子生徒の片腕はダランと力が抜けたかのように柔らかくなった。

 

『ギャぁぁぁぁぁ!!!!!』

 

その場骨を複雑に折り曲げられた3人の絶叫が響き渡った。

 

「ハハハッ!どうした?もっと頑張れよ。俺をリンチしていた時はあんなに勢い付いてたじゃないか?」

 

痛みに悲鳴を上げうずくまる3人を見て龍崎は笑みを浮かべると、その内の一人の首元を掴むと何発も拳を顔面に放った。

 

「ほら。ほら。どうした?俺をやるんじゃなかったのか?」

 

「がばぁ…や…やめガベェ…」

殴っているうちに気絶すると龍崎はその生徒の首を離し、

その近くにいるもう3人の女子生徒へと目を向けた。

 

「あぁ。お前らもそうだったな。確か下着の一件で幾らか金を巻き上げたっけ?」

 

「ヒィ…!?」

その鋭い目に睨まれた女子生徒の3人は恐ろしさのあまりその場に座り込んでしまった。

「まっ…待ちなさいよ!女子を殴る気!?」

 

「か弱い女子を殴ろうとするなんて最低!お…男としてどうなのよ!」

 

二人の目女子生徒の放った言葉に龍崎は脚を止めると笑い始めた。

「ハハッ『か弱い?』ほんと近頃の女はおかしいなぁ。自分は か弱い女子だから殴られないし蹴られない。どっからそんな理論が出てくるんだよ。笑える」

 

「うぅ…!?」

そう言うと龍崎は一人の女子生徒の髪を無理矢理 掴むと顔を目の前に近づけた。その女子生徒は龍崎の凶悪な素顔に涙を流していた。が、龍崎は容赦なく言い放った。

 

「女はか弱いから何をしても許されるのか?気弱な男子を虐めても殴られない。気の強い奴でも殴られない。けれども自分達は殴れる…一般的な奴にはそういう理屈は通じるがな…俺は違う…」

 

 

 

俺は男女関係なく容赦しねぇんだよッ…!

 

「ッ!」

その瞬間 女子生徒の身体が後ろへ吹っ飛ばされ机の上へと落ちた。

 

「あ…あぁ……!!」

 

「や…やめて…こないで…」

残りの二人はもう涙を流し身体を痙攣させた。

 

「泣いてどうなる?どうにかなるのか?…………何もならねぇんだよ」

 

「がぁ…!!」

そう言うと共に2人の身体は龍崎の蹴りによって横へ吹っ飛ばされた。

 

 

「さて、最後はっと」

 

「…へ…?」

龍崎は横にいる斎藤へ目を向けた。目を向けられた斎藤は涙を流し叫んだ。

 

「も…もうやめてくれ!俺達が悪がっだ!ゆるじでぐれッ!」

龍崎の容赦ない本性を見た斎藤は恐怖に染まりすぐさま涙を流し謝罪をした。だがそれでも龍崎の暴走は止まらなかった。

 

「泣いて謝れば何でも済むと思ったら大間違いだ。お前にはコイツらよりも倍以上の苦しみを与えてやる」

 

「や…やめてくだざい!!お願いじまず!!金ならいくらでも!だから!」

だが龍崎は手を止める様子を見せる事なくゆっくりと拳を握りしめると涙でグシャグシャになった斎藤の顔へ自分の拳を放った。

 

「ガバェ…!?」

放たれた拳は見事に顔の中心を捉え 鼻の軟骨を骨折させた上に歯を何本か折ってしまった。

 

「ハハッ!いい顔じゃねぇか。もう一発」

 

「う…うぁぁ…!!ガァッ……」

二発目の拳を龍崎は容赦なく打ち込んだ。龍崎は手を止めない。何度も何度も斎藤の顔を殴った。

 

終いには鼻は完全にへし折れ 歯は奥歯や前歯が欠けていった。

 

「ん?」

龍崎は手を止めた。

見ると限界に達したのか斎藤は涙を流しながら泡を吹き失神していた。

 

「何だ。つまんねぇな」

 

龍崎は斎藤の胸倉を離すとオールバックを解き前髪を垂らすと学ランを着直した。すると騒ぎを聞きつけた他の職員が駆けつけてきた。今の教室の状況は窓ガラスが割れ机が散乱 そして幾人もの生徒と担任が気絶しているという惨状だった。駆けつけた教師はその真ん中にいる龍崎が深く関わっていると思い質問した。

 

「こ…これは一体…龍崎くん…何があったんですか…!?」

 

「あぁ先生。事情は後で全部洗いざらい話しますからどうかお静かに」

 

ーーーーーーーーー

 

「………君はなぜあんな事をしたのですか?」

現在 生徒指導室にて龍崎は眼鏡を掛けた女性教師から取り調べを受けていた。あの後 何台もの救急車が駆けつけ重傷を負った 10人の男女は病院へと担ぎ込まれていったのだ。

 

「ただ虐められた仕返しですよ。一学期の頃から毎日 冷やかしやカツアゲを受けていたのでストレスが爆発してしまいまして」

 

「そう。私達が君が虐められている事に気付かなかったのは本当に申し訳ないと思っているけれど…どうして早く相談に来なかったのですか?」

 

「何回か相談しましたよ。けど担任の教師は『虐められるお前にも原因があるんじゃないか?』『俺は今忙しい』『自分で解決しろ』の一点張りでした。それで相談しても無駄だなと思い実力行使です。そしてさっき現れた途端に俺の話を聞かずに周りの奴らに言われるがままに俺だけを連れて行こうとしました」

 

「そんな事が………」

 

その時 後ろの入り口が無理矢理開かれそこには顔を溶岩のように赤く募らせ激怒の表情を浮かべた斎藤の母親とその横ではそれを宥める父親が立っていた。

「あ、斎藤君のお父さんとお母さん…」

 

龍崎が目を向けると目が合った母親は部屋へ入り龍崎を睨んだ

「アンタが龍崎ね!?ウチの琢磨になんて事してくれたのよ!」

そう言い母親は龍崎の首元を掴んだ。

 

「アンタの所為でウチの息子はもう義手になったのよ!どうしてくれるのよ!」

涙ながらの訴えに龍崎はやれやれと呆れそのままの体制で口を開いた。

 

「向こうもそれなりにやってきたじゃないですか。その上 仕掛けてきたのも向こうですし。自業自得ですよ」

 

「ふざけんじゃないわよ!アンタなんてちょっと小突かれた程度じゃない!」

 

「小突かれた…?」

すると龍崎の表情が変わった。鋭い目を剥き出すとその目から発せられる圧で母親を無理矢理引き剥がした。

 

「一言言わしてもらうがな…俺は入学当初からずっとやられてきたんだぞ?教科書の紛失は日常茶飯事 時には携帯破損 また時には濡れ衣。これが小突かれた程度に思えるのか?それにその紛失した教科書代なんかは全部 自己負担だ。これだけの事があれば本来なら手足を一本一本引きちぎり脳髄をぶちまける程の苦しみを与えてやるとこだがな…。けどアレだけで済んでむしろ感謝して欲しいな」

 

「なんですって…!?」

龍崎の口調を変えた説明に母親は怒った。すると隣にいる父が母親を押しのけ前に出てきた。

 

「あなた!」

 

「お前は下がっていろ…。龍崎君。今回の事は息子が原因なのは分かった。謝罪しよう。だが君にはキッチリと治療費を払ってもらわなければならない。それに今回の件は警察にも連絡させてもらうよ」

 

その言葉に龍崎は笑いながら返す。

「ハハッ。別に払ってもいいですが…そうなるとコチラからも今まで紛失した教科書代・破損した携帯代及び虐めの精神的苦痛に関する慰謝料を請求させてもらいますよ。それに警察に言えば俺も貴方の息子さんの悪事を公表します。それでもいいならお支払いしますが…?」

 

「う…」

龍崎の言葉に父親は反論出来なかった。その上 自分の会社の社員にこの事が知れれば確実に信頼がおち業務が回らなくなる恐れもあると見て引き下がろうとした。その様子を見て龍崎はある提案をした。

「ではこんなのはどうでしょう?そちら が慰謝料や治療費を請求しないかつ今回の件を警察沙汰にしない事を約束するならば俺も請求はしません。加えてこれまでの虐めの件を全て水に流しましょう。どうですか?」

 

「つまり…両方とも不幸な目に合わさずに丸く収めるということかな?」

 

「えぇ。悪くはないと思うんですが」

龍崎の提案に父親は少し考え込むとすぐに答えを出した。

「いいだろう。そうさせてもらう。それに加えて息子には二度と関わらないと約束してもらうぞ?」

 

「ソチラが手を出さなければ俺も手を出しませんよ。交渉は成立ですね」

そう言うと龍崎は夫妻の横を通り過ぎ部屋を出た。

 

ーーーーーーーー

 

「子供は母親の遺伝子を濃く継ぐと言われてるが正にそうらしいな」

斎藤とその母親を頭に浮かべながら怪しく笑うと龍崎は学校を後にした。

その後 龍崎は斎藤や他の生徒への暴力で校長から二週間の停学を言い渡された。だが龍崎だけでなく、龍崎の虐めに関わっていた生徒も処罰の対象になり彼らは一ヶ月の停学となった。

中には斎藤の両親と同じように慰謝料や治療費を請求する家庭がいたが 龍崎の言葉によって何も言えなくなり今回の件は学校側のただの喧嘩だと小さくまとめられ大事になる事はなかった。

 

 

 




『か弱いから殴られない』とか『女子を殴るとか最低』っていう考えを持って調子乗る女子は本当嫌いです。


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龍の日常

まなside

 

先日の龍崎君が起こした事件によって、彼は停学となりその他の虐めていた人達は皆 全治一ヶ月の怪我を負い入院となっていた。いや、中には一生残る傷を負わされた子もいた。特に深く関わっていた斎藤君は右手がもう使い物にならなくなり、また他の幾人かは手や脚の骨が粉々になり完治には行き渡らないらしい。

 

 

翌日にはクラスの皆の話す話題が殆ど龍崎君のことだった。

「龍崎君って普段 大人しいのに怒るとあんなに変わるんだ…」

「凄いかったよね。ほぼ別人だったもん」

皆にとって普段の龍崎君はただ大人しいそれと頭が良いと言うのが印象だった。けど今回の件でそれが180°変わってしまった。凶暴で女子男子関係なく容赦ない。そして暴力思考。それが新しい龍崎君の印象 故に『不良』と釘付けられた。

普段から龍崎君に目を向けない人達も今回の件で注目し、中には近寄らない方がいいと広めている人もいた。

「今後 アイツと話すのやめようぜ…?」

「だな…あんな凶暴な奴と話してたと思うとゾッとするぜ…」

その声は男子の方から聞こえてきた。彼らは龍崎君と委員会の事でいろいろと話し合っていた人達だ。言わば龍崎君と一番話しているといってもいい。一番親しい彼らがそんな事を言ったとなると相当なショックだったのかもしれない。

けれども、その言葉を否定する人だっていた。

「龍崎君がどうであれ今回はアイツらが悪いじゃない。なんで龍崎君が悪いみたいになってんのよ」

「そうよ!アイツらの自業自得よ!」

「あぁ…。あぁなるのも無理はねぇよ!アイツ入学当初から虐められてたらしいじゃねぇか!それに…気づかなかった俺らも十分悪いんだからよ!」

そう言い何人かの人はその2人が言ったことを否定した。その中には蒼馬もいた。

 

「お前ら簡単に言ってるけどよ…本当にそう思えるのか!?斎藤達を殴ってる時のあの表情を見ただろ!?」

2人のうち 1人が言った言葉に皆は思い出した。あの時、龍崎君は斎藤君や先生の顔を殴りながら……“笑っていた”。

それを思い出すと皆は何も言えなくなってしまった。

 

「笑いながら人を殴るなんてもう普通じゃねぇだろ!」

「そうだよ!完全なる不良だよ!あんな奴!」

そう言い2人は口々に龍崎君の悪口を言い始めた。それに対して怒りを見せて反論する子もいれば同意する子もいてその子達の口喧嘩が始まってしまった。

ガラガラガラ

 

「はい席について。HR始めるぞ」

新しい担任の先生が入ってきた事によって皆の口喧嘩は収まった。因みに担任の先生は龍崎君の虐めの件で最初から知っていた事とずっと無視し続けていた事を認め学校を辞めさせられる事となった。

 

HRが開かれ 普通の日常が始まった。

 

ーーーーーーー

 

「はぁ…!はぁ…!はぁ…!」

新宿駅近くにある路地裏にて1人の制服を着て髪を金色に染めたスケバンらしき女子高生が息を切らしていた。

 

「なんなのよアイツ!何処までも追いかけてくるじゃない!」

そう言い女子高生は噴水の影から自分の走ってきた場所を見た。そこには追いかける様子を見せる人はいなく 通行人しか映っていなかった。

 

「ふぅ…何とか撒いたわ…ていうかあの中学生なんなのよ!ガチでキモいわ…」

そう言いながら女子高生は前へ向き歩き出した。すると、突然 何かにぶつかった。

 

「ッ…痛ぇな!何処見て歩いてん…だ……」

その瞬間 女子高生の顔は恐怖に飲まれた。目の前にいるのは自分と同じくらいのtシャツに学生ズボンというラフな格好をした龍崎が立っていた。

 

「よう、逃げても無駄だぞ」

「ッ…!」

 

時は数十分前

 

龍崎は都内にある『超大盛りラーメン 20分で食べ切れたら無料』というシステムのあるラーメン屋へと向かうため 山手線に乗っている時だった。

 

ガタッ

 

「あ、すいません」

「いえ、こちらこそ」

既に夕方なのか車内は混み合っており、今もスーツを着たサラリーマンとぶつかってしまった。最近は痴漢冤罪が多発しているため 多くの人は片手にビジネスカバン、そして吊革や、両手を交差しながら鞄を抱えるという風にそれぞれの間違われないようなスタイルで立っていた。龍崎も片手に吊革 片方はポケットの手の中にしまっていた。

 

その時だった。ポケットに入れてあった龍崎の手が突然 捕まれた。

 

「コイツ痴漢です!」

「?」

突然 車内に響き渡った声に皆は一斉にその声のした方向に目線を向けた。

 

「あの…私はポケットに手を入れていただけですが?」

「嘘つくな!今 私の胸触ったろ!次の駅で降りろ!」

女子高生の言い分は正に言いがかりだった。そもそもこの女子高生の位置は龍崎の真後ろ。胸を触るとなると必ず身体を曲げなければならない。だが 曲げたとなると横にいる人にもそれなりに負担がかかる。故に胸を触る事などほぼ不可能な筈だ。龍崎が訳を話そうにもその女子高生はギャーギャーと騒ぎ出し手がつけられなった。そして、次の駅に着いた時に手を引かれ言われるがまま強引に降ろされた。

 

「つまり貴方はこの人の胸を触ったと?」

「いえ。私はずっと吊革を掴んでいました。それに片方の手もずっとポケットに入れてましたよ?」

龍崎が言い分を話すと横から女子高生が大声で叫んだ。

「とぼけんな!胸さわっただろ!ちゃんと私は見たんだ!これ以上シラを切るなら警察呼ぶぞ!」

「お…落ち着いて」

取り調べをしているのは随分と小柄な駅員だったため 女子高生の気迫に押され落ち着かせる事が出来なかった。女子高生は静かになる事なく、次々に龍崎へと要求した。

「今すぐ土下座しろ!そして示談金寄越せ!」

今の言葉で龍崎は確信した。この女は示談金目的で冤罪を被せてきたのだと。

 

「(ッ…人をダシにして金を稼ぐのか…人間にはこういう奴もいるんだな…)」

そう思いながら反論しようとした時 1人のサラリーマンが声を掛けてきた。それは初めに龍崎がぶつかったサラリーマンである。

 

「ちょっといいですか?」

「なんだよおじさん!」

女子高生は敵意をむき出しにする。それを無視しサラリーマンは駅員へと顔を向けた。

 

「彼は無実です。私が立っていた時 彼女は彼の真後ろにいました。それに加え彼の手はずっとポケットに入っていてもう片方の手もずっと吊革を掴んでいましたよ?」

「!」

サラリーマンの証言を聞いた女子高生は罰が悪そうな顔になった。

 

「そうですか。ありがとうございます。さて、少し貴方にもお話しを」

駅員が女子高生の方へ首を向けた時 その女子高生はいきなり走り出し龍崎を突き飛ばすと改札の方へと消えていった。駅員は跡を追おうとしたが龍崎が別にいいと言った。

 

「俺は疑いが晴れたので別にいいです。ありがとうございました」

駅員から名誉毀損として訴える事ができると言われたが気にせず 龍崎はサラリーマンに御礼を言うとその場を後にした。

 

 

だが、龍崎は許してなどいなかったのだ。相手をダシにして金を稼ぐと言う考えは龍崎にとって一番嫌いな考えだった。また、今回 自分が標的にされた為 怒りを露わにしていた。

ーーーーーーー

 

そして龍崎はその女子高生の跡を追って今に至ると言うわけだ。

 

「な…何よアンタ!さっきからずっと付けてきやがって!このストーカーが!」

「はぁ?お前が逃げるから悪いんだろ?証拠も何もない罪を被せやがって」

龍崎は鋭い目を向け女子高生を睨んだ。彼女はすぐさま助けを呼ぶため大声で叫んだ。

 

「助け…!むぐ!?」

「喋んなよクソアマ」

叫ぼうとした口は龍崎の手によって無理矢理塞がれ人に気づかれる事はなかった。女子高生は涙を流し何とか口を開こうとする。

 

「最近の本で読んだよ。痴漢って結構重い罪だったっけな?冤罪だろうと有罪である確率が高いらしい。しかも被害者は多額の金を払われるらしいな。お前、まさかそれが目的で仕掛けてきたのか?」

怒りの意思を込めながら龍崎は問いただす。女子高生は頷こうとはしなかった。

 

「反応を見せないとなると、認めるか。他人の人生を壊して金を稼ごうとするとはどこからそんな考えが思いつくのか不思議だな」

そう言い龍崎は片方の腕に筋肉を集中させた。

 

「取り敢えずここで死ね。冤罪を掛けられた上に予定も狂ったから流石にムカついた」

「ッ…!!ムゥ!!」

龍崎の本気で殺そうとする姿勢に女子高生は涙を流し何かを叫ぼうとした。だが、龍崎は止まらない。

 

「何か言いたそうだがお前に言う権利なんてねぇよ。じゃあな」

「ッ…!」

涙でグシャグシャになった顔に龍崎の握り拳が放たれた。

その放たれた拳により顔が陥没し、身体は後ろのコンクリートの壁へと叩きつけられ絶命した。

「恨むなら冤罪を掛けた自分を恨むんだな」

そう言い龍崎はその場から消え表通りへと出ると屈伸をした。

 

「ん〜…あんまスッキリしねぇな。ラーメン食って発散させるか」

そう言い龍崎は目的地であるラーメン屋へと向かった。

 

ーーーーーーー

 

龍崎が向かった先はビルが少なく居酒屋が多い場所に立地するラーメン屋であった。

 

「えっと…これか。すいませんこれ一つ」

「はいよ!超大盛りチャレンジ入りました!」

『よいしょッ!』

まるで祭りかのように頼むと同時に店長が叫びそれに応えるように次々と店員達も神輿を担ぐかのように叫んだ。

すると周りにいる酔ったサラリーマンやキャリアウーマン達が手を叩きだした。

 

「お!?店長特製の超大盛りラーメンチャレンジが始まったぞ!?」

「今度の挑戦者は結構な ちびっ子じゃない!」

「頑張れよにーちゃん!」

 

ラーメンを一つ頼んだだけで店内はもうヒートアップし、大宴会が始まった。

すると

 

「へいお待ちッ!」

店長の力強い声と共に龍崎の目の前に通常よりも二倍の大きさの器に丸ごとと言っていい程のチャーシュー、 そして面を隠すかのような大量のもやしが乗っけられており、麺の姿はどこにもなかった。

 

「凄い量ですね」

「ハッハッハッ!先週考えた奴でな。まだ誰も制限時間内に完食出来てねぇんだ」

「制限時間?」

「おうよ。20分以内に食べ切れたら無料 かつ割引券プレゼント 30分以内は2000円 それ以降は全額支払いとなっている。因みにスープも全部飲んでな」

「成る程」

見ると店長の手にはストップウォッチが握られていた。

 

「では……スタートッ!」

合図と同時に龍崎は麺を見つけるため もやしを次々と口にいれた。その速度はとてつもなく、周りにいる人たちは皆 驚いていた。

 

「す…すげぇ…難関ポイントであるもやしをペロリと…」

「あの小さい身体のどこに入ってくんだ!?」

周りの声に耳を貸すことなく龍崎は次々と迫り来る食感と味に興奮し、食べ進めていた。

そしてもやしを食べきると麺が現れた。だがその量も計り知れず。店長曰く6玉いれたらしい。だが、興奮状態となった龍崎に量など関係なかった。素早い手つきでチャーシューを裂きそれを麺と共に口に運んだ。

 

「ッ!うまい…」

あまりにもの食感と味に思わず口に出てしまった。口に運んだ瞬間 チャーシューがすぐに崩れ 歯ごたえのある麺を噛むと同時にその味や欠片が染み付き最高の旨さを伝せてきた。

一方で周りの皆は龍崎の勢いが予想外過ぎた事にドン引きすると同時に先程よりも一層 盛り上がっていた。

 

「すげぇぞにーちゃん!」

「食べ始めてから10分であそこまで食い終わるなんてな!」

「こりゃあ見ものだぞ!」

「いけいけぇー!!」

 

龍崎が食べている前では店長は何も言えずただ見ることしかできなかった。

 

「す…すげぇ…相撲取りやラグビー選手でも10分でそこまでいけなかったんだぜ…?アンタ…何かやってんのか…?」

その質問に龍崎は麺を食べる手を止めると答えた。

「何もやってませんよ。ただの中学生です」

「!?」

店長の反応を見る事なく答えた瞬間にまた食べ始めた。

 

ーーーーーーー

 

「ご馳走さまでした」

最後のスープが飲み干されたと同時にストップウォッチが押された。

カチッ

 

「じゅ………15分……35秒…」

押されたタイムを店長が読み上げた瞬間 店内や、他の店から見にきた観客達が一斉に大歓声を上げた。

 

『うぉおおおおおおおおお!!!!』

「すげぇぞ!あの超大盛りを時間内に食べきりやがった!」

「しかも中学生だぜ!?」

「信じられねぇよ!」

まるでオリンピック時のようなムードに包まれ、辺りは大騒ぎとなっていた。そんな中 店長は涙を流していた。

 

「嬉しいぜ…創業以来であんなに美味そうに食べてる奴を見るのは初めてだ…。しかも完食しちまうとはな…にいちゃん、俺の負けだぜ。約束通りお代は結構だ。また、食いに来てくれるか?」

その問いに龍崎は笑みを浮かべ答えた。

「えぇ。また来ますよ」

その後 龍崎は店長や沢山の酔っ払い達に見送られながら夜の街へと消えていった。

 

 




ほんと 示談金目的で冤罪を掛ける女性って最低ですよね。最近 漫画チャンネルでよく見ますけどもマジで死刑にした方がいいと思う。
というかそもそも何で他人の人生を壊してでも金を稼ごうという考えが思いつくんですかね?


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学校の七不思議

皆さんは七不思議というものをご存知だろうか?

何処の学校にも存在する文字通り7つの噂である。そして7つ全て知ってしまうと不幸が訪れるというとても恐ろしいものです。

有名なのはトイレの花子さん、ヨースケくん、走る二宮金次郎、理科室の人体模型、光るベートーヴェンの肖像画、などなど、たくさんの言い伝えがある。

ちなみに、龍崎の通う中学校にもその7不思議というものは存在していた。

 

ーーーーーーー

 

「ふわぁ…」

停学一週間と一日が経ち、残り6日となったある日の午後 龍崎はアパートの屋根に寝転んで空を見ていた。何もする事がなく、あるとすれば残りの中学範囲の予習かつ復習。だが 分からない箇所があり、聞きに行こうにも聞きに行けず困っている最中なのだ。

「ま、別にいっか。今日は一日中こうしてよ…」

そう言うと目を閉じた。

 

ーーーーーーー

 

……………暇だ。

 

私は携帯を置き敷いてあるミノの上に寝転がった。今 私以外は誰もいない。何故なら鬼太郎と親父さんは温泉旅行。砂かけ婆と子泣き爺は外出中。故にお留守番していた。けど、誰もいないとなるとつまらない。

 

「……」

辺りを見回してみた。少し散らかっている……。

 

「仕方がない…少し掃除してあげよ」

ーーーーー

 

「うわぁ!凄い綺麗だなぁ!これ猫娘がやってくれたのかい!?」

「うん!鬼太郎に少しでも喜んで欲しくて!」

「ありがとう!僕は凄く嬉しいよ!大好きだよ猫娘!」

ーーーーー

 

な…なんて事はないか。鬼太郎はこんなに明るくないし。それに…私は鬼太郎の事なんて好きでもないし!取り敢えず掃除を…

 

 

「だ〜ひゃっひゃっひゃっひゃっ!!!!」

「!?」

突然部屋中に笑い声が響きよく見ると子泣き爺が転がりながら大爆笑していた。

 

「猫娘も可愛らしくなったの〜!!鬼太郎がいない間に掃除とは!やはり若いのは羨ましいわい!」

「う…うるさいわね子泣き爺!大体なんで私が鬼太郎の為に掃除しなきゃなんないのよ!というか何でここに!?砂かけ婆と一緒に買い物行ってたんじゃないの!?」

「帰りに温泉に寄ってきたんじゃが久しぶりに混浴でもせんかと言われてなぁ。ババァの身体見ても何も得ないからぬけてきたワイ!」

よし。今の言葉録音完了。砂かけ婆に送信っと……。あれ?まなから連絡が…

 

ーーーーーー

 

「ごめんね。突然呼び出して…」

「いいわよ。で?どうしたの?」

頼んだドリンクをズズッと飲みながら猫娘はまなへ質問する。

「じ…実は…最近妙な事が起きてるの。授業中に視線を感じて上を見たら天井に変なシミがついてたり…

私がテストで困ってる時に変な声が聞こえてきて答えを教えてくるんだけど…その答えが…」

ーーーーーー

「えぇと…『坊ちゃん』を書いた人は……」

『ケツメ漱石!』

「誰…!?」

ーーーーーー

 

「一番怖かったのはお弁当の時で!」

ーーーーーー

 

「ふんふんふん〜♪」

ガタガタッ!

「な…なに!?」

突然お弁当箱が動き出して開けてみたら…中から小魚が出てきたの!

 

ーーーーーー

 

「私ならそのお魚、美味しくいただいちゃうわね♪」

「いやいやいや!そう言う問題じゃないですよ!で…さっき私の下駄箱の中に黒い百合が供えられてて…知ってますか?花言葉…。『呪い』っていうらしいです…」

「呪い…ね。少し調べてみましょ…。あ、まな、少し聞いてもいい?」

猫娘は突如 まなへ 質問した。

「え?どうしたんですか?まさか……龍崎君の事ですか?」

まな の予想は的中し猫娘は頷いた。猫娘は上野公園で会って以来 ずっと龍崎と日常的に同じ空間にいるまなを心配していたのだ。

「アイツは学校でどう過ごしてるの?」

「えっと…ただ普通に勉強してるだけ…それだけですね。うん」

「特に危害とか加えられてない?」

「それはないですね。けど一週間前に虐めっ子達を殴って停学になっちゃいましたけど…」

「そう。ありがと」

猫娘の様子にまな はハッと思いつくと質問した。

「もしかして猫姉さん龍崎君の事が好きなんですか?」

「ちょ!な…何言ってるのよ!私があんな奴 好きになる訳ないじゃない!私が好きなのはき…」

猫娘は真っ赤になりながら咄嗟に口を塞いだ。

「き?」

「と…兎に角!その変な現象の正体を確かめに行くわよ。案内して」

「はぁ〜い」

 

その後 猫娘は皆がいなくなった夕暮れ時にまなと共に学校へ赴くこととなった。

 

ーーーーー

 

「……さて、寝てばっかじゃなく勉強もっと……ん?」

日光浴を終えた龍崎は勉強をするため部屋へと戻り鞄の中からノートを取り出そうとした。だが、それらしきものは見当たらなかった。

 

「ッ…学校に置いてきたか。まぁ夕方には誰もいないから取りに行くか」

そう言うと制服に着替えて夕方になった街へと出た。

 

ーーーーーーーー

夕暮れ時に学校へ着いたまなと猫娘は校舎の中を進んでいた。

「七不思議…?」

「そ。どこの学校でもあるでしょ?あれは殆ど 妖怪の仕業よ」

「確か内の学校にもあったかも…『走る二宮金次郎』『渡り廊下の人面犬』『音楽室のベートーヴェン』『理科室の人体模型』『三階の女子トイレの花子さん』『二階の男子トイレのヨースケ君』 とか…これ全部妖怪だったなんて…」

「取り敢えず、花子とは友達だから今回の事について聞いてみましょ」

「はい!」

そう話していると三階の女子トイレが見え猫娘達は中へ入りノックした。

 

コンコン

「花子 私よ。猫娘よ。いたら返事して」

だが返事は返ってこなかった。試しに猫娘はジャンプして中を見てみたが何もいなかった。

「う〜ん…いないみたいね…」

「どうしてだろ…」

「分からない…取り敢えずまな の教室に行きましょ」

そう言い2人はトイレを後にした。

 

一方教室では

「んふふ♪まなちゃんの為に今日も俺は頑張りますよっと♪」

1人のボロ布を纏った男が手に雑巾を持ち机を拭いていた。顔は少し大きくネズミのようなヒゲが特徴的だった。格好からして明らかに部外者である。

 

ガラガラガラッ

「!?や…やべ!」

突然教室を開けた音に男は身をビクッと震わせるとすぐさま掃除用ロッカーへと身を隠した。

 

ーーーーーー

猫娘とまな はまなのクラスである1-Aの教室の前に来ていた。

「ここがまな の教室?」

「うん」

すると

 

ズル……ズル……ズル……

誰もいない教室の中から何やら水気のような音が聞こえてきた。

「え…!?だ…誰もいないはずなのに…!」

慌てるまなを猫娘は宥め静かにさせると教室のスライドドアを一気に開けた。

 

「……誰もいない」

見渡す限り誰もいなかった。すると、たくさんある机の中で一つの席だけ雑巾が置かれ水浸しになっているものがあった。

「私の席が……こ…これって妖怪『机舐め』!?」

「そんな妖怪いません。……近くにいるわね?」

猫娘は猫特有の警戒態勢を取り辺りにいる自分達以外の気配を悟った。その気配は掃除用ロッカーの中から伝わってきた。

 

「どうやら、花子でも七不思議でもない“何か”がいるらしいわね」

そう言いロッカーへと近づいた。

 

「ど…どうしよ…」

「心配ないわ。この『ニャニャニャの猫娘』に任せなさい。見つけてギッタンギッタンにしてあげるから」

そう言い猫娘はどう料理してくれようかという表情を浮かべ拳の骨を鳴らすとロッカーの扉を力強く開けた。

ガンッ!

 

「………」

あったのはただの箒やチリトリといった掃除用具。それだけであった。特に目立った物は何もなかった。

「気の所為か…な!」

再度開けてみたがやはり何もいなかった。

 

「う〜ん…私の勘違いだったみたいね」

「そっか。じゃあもう帰ろう」

「そうね」

帰ろうと決めた時

 

『!?』

入り口から何かが走り去っていく姿を捉えた

 

「いた!待ちなさい!」

2人はすぐさまその影を追いかけ教室を跡にした。

 

ーーーーー

「ふわぁ…弱すぎて欠伸がでる…」

夕焼けがなくなりうっすらと暗くなった頃の路地裏にて、龍崎の周りには全身に打撲を負った高校生達が倒れていた。しかも1人ずつ必ずどこかの骨が骨折しておりとても軽傷と言われるものはいなかった。

 

「て…テメェ…よくもやりやがったな…!」

「は?カツアゲしたお前が仲間呼んだから悪いだろ?言っとくが報復しにきたらこれじゃ済まさねぇからな。因みにお前らの財布の中から1000円ずつ持ってくから。じゃあな」

そう言い龍崎は抜き取った財布を投げ捨てると路地裏を出て行き表通りへと出た。

 

「ったく学校の目の前だっていうのにめんどくせぇ事させやがって」

そう落胆しながら龍崎はそこから跳躍すると昇降口へと着地し中へと入った。

 

「さて…早くいくか」

そう言い真っ暗な廊下を歩き自分の教室を目指した。すると、ふと気がついた。

「…?なんかいるな。しかも複数。まぁいいか」

龍崎は複数の妖気を感じ取るも興味が無いため放っておく事にした。

真っ暗な廊下は昼間の賑やかな雰囲気と違い誰もいない不気味な景色へと変わっていた。

龍崎は階段を登り二階へも上がりさらにそこからまた三階へと登っていき自身のクラスである1-Aの教室へと着いた。

 

ガラガラガラ

 

扉を開け自身の机の中を探るといくつかのノートが置かれていた。

「あったあった。よし、帰るか」

目的を達成した事により、龍崎はもう用がない為 教室から出て行った。

すると、突然下の階から何やら物音がきこえた。

バタッ! ガタガタッ!

 

「何だ?まだ誰かいるのか?まぁ通り道だし行ってみるか」

そう言い龍崎は下の階へと向かった。

 

ーーーーーーーー

 

コンコンッ

 

「いるのは分かってるのよ!出てきなさい!」

下の階では、猫娘とまな、そして途中で合流した砂かけ婆や一反木綿そして頭に巨大なタンコブを作らせた子泣き爺達は怪しい人物を男子トイレへと追い詰めていた。

その人物はトイレに閉じこもっている模様で、一向に出てくる気配はなかった。

「あれ…?ここって確か…」

その時、まな は何かを思い出した。

「そうだ!二階の男子トイレ!」

その発言に猫娘は七不思議の一つを思い出した。

「って事は…七不思議のヨースケ君…!?」

猫娘は閉じこもっているのはヨースケという妖怪なのかと考えた。

 

一方で中にいる人は…

「だ…誰だよヨースケって…花子さんじゃないのかよ…?」

その時

 

 

 

「花子がどうしたって…?」

突然 誰もいない背後から声が聞こえねずみ男は悲鳴をあげた。

 

「ギャァァァァ!!!」

そしてその勢いでトイレから転げ出て、外で待つ皆の前へと姿を見せた。いきなりのねずみ男の登場に一同は驚きを隠せないでいた。

「ねずみ男!?」

「何でお主が!?」

ねずみ男を見て猫娘は「まさか…」と言い先程の変な物音や最近のまな の身の回りで起きている事がねずみ男なのではないかと思い爪を伸ばし目を鋭くした。

「全部アンタの仕業だったってこと…?」

「ち…違ぇよ!俺もお前らと同じだよ!俺もまなちゃんを変な奴から守ろうとして…」

「怪しいのぅ〜?」

砂かけ婆の言葉に頷くように皆はねずみ男の言う事を信じようとはしなかった。

「信じてくれって!それよりも出たんだよ!って…ヒィェッ!?」

するとねずみ男のいた個室から制服を着た不気味な男子生徒が姿を現した。ねずみ男はまたもや悲鳴をあげると皆の所へ駆け寄った。

「お前か…お前がやったのか…」

現れた男子生徒はふらふらと声を震わせながら皆を睨んできた。

 

「この子には指一本触れさせんけんね!」

一反木綿はまなの前に立ち塞がるがその男子生徒もといヨースケはそれを否定した。

「そんな女に興味はない。用があるのは……」

「へ…?」

その薄暗い隈がかかった目はねずみ男へと向けられた。

「お前だッ!」

「お…俺!?」

そう言うと同時にヨースケの身体は浮くとねずみ男の身体を持ち上げた。

 

「お…お助けぇぇぇ!」

ねずみ男の叫び声と共にヨースケはそのままトイレから出て行ってしまった。取り残された一同はその様を見ている事しか出来なかった。

 

「行ってしもうた…」

「よかったよかった」

「良くないじゃろがクソジジイッ!」

 

「にしても…ヨースケ君…って何者?何でねずみ男を攫ったの…?」

先程の不可解な光景に猫娘は疑問に思う。すると一反木綿はある事を予想する。

「実は男が好きだとかい?」

「両思いには見えなかったがのう…あ…あらやだ///」

まさかのBLに頬を染める砂かけ婆。取り敢えず助けるため 皆はヨースケが向かった先へと進んだ。

 

ーーーーーーーー

 

「ん…ここから結構感じるな」

二階へと降りた龍崎は更に下に降り妖気が異常に濃い体育館へと来ていた。

「……何だこれは?」

入り口の扉を開けるとそこには、異様な光景が広がっていた。

 

天井に黒い影が6つ吊るされており、そこには二宮金次郎 や人面犬などの七不思議の妖怪達がいた。

それを見ていると突如 そこから声が響いた。

 

「お…お〜い!アンタ!助けてくれ〜!」

「ん?」

そこには布を纏った見知らぬ男が吊るされていた。馴れ馴れしく自分に助けを求めてくるが全く知らない男だった。

「?貴方は誰ですか?」

当然ながら名前を問うが男は名乗るどころか暴れ出した。

 

「俺が誰かなんてどうでもいいんだよ!今すぐ助けろ!いや助けてくださぁ〜い!!お願いしまぁす!!」

「はぁ…」

ねずみ男は妖怪だとバレたらマズイと思い名前を名乗らずジタバタと暴れる。それは龍崎には理解できず只の礼儀知らずという風に受け取ってしまった。それでも溜息をつくとしょうがないと言いロープを生成した炎で燃やそうとした。

その時

 

「誰だお前は?」

 

「ん?」

突然体育館のステージ裏から足音が聞こえ 少しずつ表へと出てきた。それはヨースケであった。ヨースケは龍崎を睨むと口を開いた。

 

「まさかお前か?俺の花子を隠したのは…!」

 

「…は?」

今のヨースケの精神は花子不在の件で侵されており、目の前にいる龍崎を犯人だと疑い始めた。そうとは知らず龍崎は違うと答えた。

 

「俺はただノートを取りに来ただけです。それに花子さんと言う人に面識はありません」

 

「嘘を……つくなぁぁぁぁぁ!!!」

ヨースケは拳を振り回し龍崎へ向かってきた。だが、そのパンチは弱々しく、素人レベルとほぼ同等と言っていい程の弱さだった。

 

「はぁ…」

溜息をついた龍崎はノートを置くとその放たれた拳を受け止めた。そして片方の手で腹に向かって強烈なパンチを放った。

 

「ガハァッ…!?」

その拳は深く潜り込みヨースケの口から肺の空気を吐き出し床へ崩れ落ちた。

 

「がぁぁぁ…!!ゲホッ…ゲホッ…!」

鳩尾にモロに入り込んだ事により、痛みに苦しむかのようにその場でもがき始め嘔吐もした。

 

「何言ってるんだお前は。オイ」

そう言い龍崎はもがき苦しむヨースケの頭を鷲掴みし持ち上げた。

 

「さっきから花子花子って、四六時中女子トイレにいるアイツか?何も知らねぇぞ俺は」

 

「うぐ…!?お前が…隠したんだろ!俺の…花子を…!」

 

「ッ…」

龍崎は舌打ちをすると乱暴にヨースケの頭をその場から2メートル離れた地点へと放り投げた。

 

「ガハァ…」

 

「ったく。めんどくせぇ奴だな。おい アレをやったのはお前か?」

吊るされている人面犬達を指差してヨースケに問う。するとヨースケは血反吐を吐きながら答えた。

 

「そうだ…!アイツらは俺の花子に手を出した…だから懲らしめてやったのさ!」

 

「…ふぅん。あっそ」

質問したのにまるで興味が無いかのように返すと龍崎はヨースケへと背を向け歩き出した。

 

「お…おいアンタ!助けてくれるんじゃねぇのかよ!?」

 

「知るか。自分で何とかしろ」

アッサリと頼みを断るとそのまま体育館の扉へと向かい帰ろうとした。その時

 

 

ガラガラガラ

 

突然誰かが体育館の扉を開けた。入ってきた人物は龍崎がよく知る者だった。相手は龍崎を見つけるや否や目を大きく見開いた。

 

「あ…アンタは…!」

 

「龍崎…くん…!?」

 

「…何だお前らか」

 

それは まな、そして先日 対峙した猫娘達だった。

 

 

 

 



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龍の気まぐれ

龍崎と再び合間見えた猫娘達は咄嗟に戦闘態勢を取った。それに対して龍崎は手を上げ戦う意思がない事を示した。

 

「まてまて。俺はお前らと戦うつもりはない」

今回の目的は達成されたし今は運動する気分ではない。そういう心情であった。だが、先日対峙した相手に構えを解くほど彼女達は甘くはなかった。

猫娘や皆はまなを守るように態勢をとる。

「そんな言葉…信用できると思ってるの…?」

「怪しいのぅ…」

信じないのも無理はないが少々疲れている為 顔を手で覆ってしまう。

 

「と言うか…何で停学中の龍崎君がここに…?」

「俺はただノートを取りに来ただけだよ。んで体育館にやたらと妖気が集まっていたから来てみたらあんな感じだ」

そう言い龍崎は天井を指差す。砂かけ婆は知り合いである二宮金次郎を見て絶句した。一方でまな も最近起こらなくなっていた七不思議の原因はこれだと言う事に確信した。

 

「まさか…アンタがやったの?」

「ハッ。何故俺がこんな事を。やったのはそこに転がってる奴だよ」

皆は龍崎の指差す方を見た。そこには先程自分達の前でねずみ男を攫ったヨースケが腹を抑えうずくまっていた。

 

「確かあのヒゲを生やした男が花子に手を出したとか言って吊るし上げてたな」

「はぁ!?」

その言葉に猫娘は青筋を立て猫の目になるとねずみ男を睨んだ。

 

「ちょっと!まさかアンタが犯人だったの!?」

「し…知らねぇよ!俺が愛してるのは『まなちゃん』だっつーの!」

「え…」

 

ねずみ男の唐突な発言に猫娘は腑抜けた声を出す。一方で龍崎はそうなのか?という表情を浮かべる。

 

「アイツってお前の彼氏だったのか?」

「え?いや…ただの知り合いだけど」

龍崎は普通に質問をするとまな はアッサリと否定した。それに対してねずみ男は絶望的な表情になりグッタリとした。

ねずみ男が喋らなくなると龍崎は話を戻した。

 

「話を戻すが、そこに転がってる奴は俺に喧嘩をふっかけてきたから返り討ちにしてやったんだよ。ほら。これで分かっただろ?分かったらそこ開けろ」

「…」

龍崎は殺気を出さずに追い払う仕草をする。信じ難いが彼がこれまでの事を起こしたという確証や殺気がない為 渋々と信じ道を開けた。

そしてゆっくりと皆の横を通り過ぎると扉を開けこの場から去っていった。

 

「アイツ…前と雰囲気が全く違ったわね…」

「うむ…殺気などは全くない上に激しかった妖気も穏やかになっていたのぅ…」

龍崎がいなくなると皆はねずみ男たちを降ろそうと正面を向いた。だが、先程と少し風景が変わっていた。

 

「あ…あれ?ヨースケは…!?」

見るとそこにはヨースケの姿がなかった。

 

「逃げられたか!?」

「くぅ…取り敢えず金次郎達を助けましょう」

ヨースケを追うのを後にし、猫娘達は金次郎達の救出を優先した。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「はぁ…!はぁ…!はぁ…!」

一方で体育館から少し離れた二階の男子トイレでは姿を消したヨースケがトイレに顔を隠しながら身体を震わせていた。あの後すぐに姿を眩ましトイレへと戻ってきていたのだ。だが、その顔は何かに怯えるようで額からは大量の汗が流れていた。

 

「な…何なんだアイツは…!この学校にあんなドス黒い妖気を纏った奴がいたなんて…!」

そう言い頭の中で全身から黒い妖気を放つ龍崎を思い浮かべる。

 

「ここにいたら確実に殺される…!急いで離れないとッ!」

ヨースケの異常な花子への執着心は龍崎に対する恐怖感に負け すぐさま逃走という選択肢を選んだ。

 

そして夜が明けると同時にヨースケはこの中学校を去っていった。

ーーーーーーー

 

それから数日後

 

龍崎の謹慎期間はすぎ、久しぶりの登校となった。

 

「ふわぁ…?」

あの件以来 周りの生徒達はあまり近づかなくなり龍崎の横を通ろうとする者はいなず、通り抜ける時は目を下に向け逃げるようにしていった。

「(流石に暴れすぎたか…これはしばらく目立つな…)」

 

自分の仕返しに少々 後悔しながらも教室を目指した。

 

ーーーーーー

自分の教室に入ると同時に皆の視線が龍崎に向けられる。

 

「…」

皆から視線を向けられると龍崎は穏やかな目ではなく鋭い目で辺りを見回す。

それから数秒経つと自分の席へとついた。外見から見ればクラスの雰囲気は賑わっておらず、ガラガラだった。

その原因は10人の欠員。

欠員した10人は全て龍崎を虐めながら盛り上がっていたので、それが無くなった事でクラスの賑やかさは消えていった。

 

皆は座った龍崎へと視線を向けたままだった。その中には前の夜中に会ったまな も一緒である。

それからしばらくして、授業が始まった。授業はいつもよりも静かでどの教科もスムーズに終わった。

 

ーーーーーーー

 

「では、今日はこれで終わりです。気をつけて下校するように」

担任のSHRが終わると龍崎は鞄を持ち教室を出た。

 

「ふわぁ…」

これからあるアルバイトに少々気が向かず欠伸しかできなかった。

すると

 

「りゅ…龍崎君…」

「…?」

突然名前を呼ばれ背後を振り返った。そこには背が龍崎と同じで髪をV字に分けたロングヘアの女子が立っていた。

 

「貴方は確か……『雅』さんでしたっけ?」

この少女の名は『桃山 雅』 と言い、以前 水泳の授業で龍崎に下着を取られてしまった生徒である。雅はモジモジとしており、何かを話そうとしていた。

「どうしました?」

すると

 

「ごめんなさい…!」

突然頭を下げられた。龍崎は何が何だか分からず首を傾けた。

 

「あの…今まで龍崎君の事…ずっと犯人だと思ってて…」

「あぁ〜」

龍崎は思い出した。実はプールの件での犯人は龍崎ではなく、斎藤達の策略である。仕返しの際に事実が発覚した事で雅は凄く根に持ってしまったらしい。

 

「別にいいですよ。俺は気にしていません」

軽く返すが相手は応じなかった。龍崎からしてみれば軽い事なのだが、彼女にとっては馴染みが無いにしても龍崎は大切なクラスメイトであり、彼を犯人だとずっと疑っていた自分を許さなかったのだ。

 

「でも…その所為で龍崎君はずっと…」

「だから大丈夫ですって」

龍崎は手で何度も大丈夫だという意思表示をした。

 

「分かった…ありがとね」

「えぇ」

雅は手を振ると龍崎から離れていった。彼女の顔がこちらを向かなくなると歩き始めた。

 

「さて、アルバイトにいくか…」

 

ーーーーーーーー

 

 

ここは東京から何百キロも離れた四国地方のとある土地である。

緑が多く 山は野生の動物達の住処となっていた。

 

そんな森の中に一つの巨大な岩が祠に祀られていた。その石には一枚の札が貼られており、その札からは不思議な力が発せられ、それ故か誰も近づこうとはしなかった。

 

そんな中、1人の黒衣の男がその祠の前へ現れた。

その男は何かを憎むかのように言葉を唱えた。

すると、その石に貼り付けられていた札が突然燃え上がり、燃え尽きた瞬間 その石から強大な妖気が溢れ出た。

 

「憎き妖気集いし妖…何とも甘美なることか…」

 

そう言うと同時にその男はまるで靄のように消えていった。

 

そして

 

「ヴォォオオ!!」

邪悪な妖怪が石の中から姿を現しその怒声を発すると共に周りの草木が枯れていった。

 

「今こそ日本を我らのモノにッ!!」

 

『おおおおおおッ!!!!!』

 

 

 

 



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四国旅行 そして復活する隠岐刑部

謹慎が開けてからの3日後の土曜日

 

龍崎は四国を訪れていた。なぜかというと本場の讃岐うどんが食べたいと唐突に思ったからである。

その他にももう一つ理由がある。それは、ある妖怪と会うためである。

 

ーーーーーーー

 

「お待たせしました」

とあるうどん専門店にて、頼んだうどんを龍崎は勢いよく啜っていた。そして目の前には、半袖と頭にタオルを巻いた少年がその様子を見ながらジト目を向けていた。

 

「相変わらずよく食うなお前」

「そうか?」

この少年は獅子という妖怪であり、その中でも最も強い妖力を秘めた部類である『炎獅子』という妖怪の子孫である。因みに彼も妖怪と普通の人間との間から生まれた混血児だ。

名を『炎谷 貫九郎』

彼は中国四国地方を住処にしており勉強大嫌いな現 社会人である。

 

「…で?話って何だ?」

最後のうどんを飲み込むと龍崎は質問をする。実は四国地方に来たのは炎谷から呼び出されたからである。

それに対して炎谷は顔をしかめつらせながら小声で話し始めた。

 

「実はな。四国の『刑部狸』が何者かによって目覚めさせられたらしいんだ」

そういい炎谷は水をすする。『刑部狸』とは、かつて四国を支配していた狸であり、『八百八狸』という808匹の狸達を眷属に持つ凶悪な妖怪だ。

「で?目覚めたからなんだ?」

「それでな。お前にソイツらを倒してきてもらいたいんだ」

「はぁ?」

炎谷は要するに龍崎へ刑部狸及び八百八狸の討伐を依頼したいらしい。それを聞くと龍崎は嫌そうな顔を浮かべる。

 

「いいだろ?闘い好きなお前にとっちゃ吉報じゃねぇか」

「何で俺が。四国はお前のナワバリだろ?」

龍崎は資格試験が近い為に面倒事は起こしたくないと思い普通に拒否をした。だが、炎谷はとんでもない事を告白した。

 

「だってソイツらお前のナワバリである東京に行っちまったんだもん」

その言葉を聞いた瞬間 龍崎の手に筋が立ち持っていた割り箸が粉々に割れた。

 

 

「ッ…分かったよ。引き受ける。これは一つ貸しだからな」

「はいよ」

 

それから炎谷と別れた龍崎は宿を借り、二泊してから東京へと戻る事にした。

 

ーーーーーーーー

 

その一方で、龍崎がいなくなった東京ではとんでもない事態が起きていた。

 

帰りの帰省ラッシュで混み合う渋谷や新宿にて、歩く人々は皆 空を見上げていた。

「お…おい…何だありゃ…」

「こんな事があんのか…!?」

 

そこには

 

“月が二つあった”

 

 

本来ならば存在するはずのない物がそこに存在していたのだ。だが、大きさは同じに見えるが実際に宇宙にあるのではない。地上から数百メートル離れた地点に浮いていたのだ。だが、その大きさは計り知れなかった。半径だけでも数百メートルはくだらない程の大きさがあり、今にも落ちてきそうだった。

しかも、色が白ではなく、赤く染まっており、中から何やら胎動らしき音が鳴り響いていた。

 

そしてその月の事は当然に 首相の元にも届いていた。

 

「これはいったい…」

初めて見る超常現象に総理や他の議員達も驚いていた。その時

 

ザザザザ……

 

目の前に映っていたモニターの画面がブレ出したかと思いきや突然画面が切り替わった。

 

そこには、無数の狸とその真ん中の玉座に居座る1匹の巨大な狸が映っていた。

『人間供よ。我らは四国の妖怪『八百八狸』だ。単刀直入に言う。今すぐ政権を我らに譲渡せよ』

 

『!?』

突然の発言に周りの議員達は慌てふためいた。

 

「な…何だこれは!?誰のイタズラだ!?」

「しかも電波を妨害するなど…法律違反だぞ!」

 

『誰かが作った映像だと思っている奴が多いと思うが これは本物だ。我らは実在する』

「!?」

そんな中 テレビに映っている映像がこちらが言っていることが聞こえているかのように答えると皆は固まった。

 

『第2の月は警告にすぎん。今の要求を呑まずに我々に歯向かえば更に恐ろしい災厄が訪れるぞ…』

 

ジジジ…

 

それだけ言い残すと電波が途切れ元の映像へと戻った。

 

静かな空間の中 1人の議員が真っ先に提案をする。

 

「総理!先手必勝です!今すぐ撃ち落としましょう!」

だが、その提案を総理は受け取らなかった。

 

「そんな事をしたら…誰が責任を取るのですか?」

「だったらどうするんですか!」

総理は『責任』が回る事を恐れ撃ち落とす計画を受理しなかった。

 

「まずは第2の月半径5キロ圏内にいる市民達に緊急避難命令を。その他の地区には外出禁止令を出してください」

総理は撃ち落とす事よりも市民の避難を優先させた。

ーーーーーーーーー

 

「…う〜ん繋がらない…」

第2の月と狸の警告。まなはヤバイと思いすぐさま猫娘へと連絡をしたが電波が妨害されており連絡が取れなかった。するとまな はある方法を思いついた。

 

「そうだ!妖怪ポストに書けば!」

確かに妖怪ポストならば時間がかかるが確実に届く。そう思いすぐさま手紙を書きポストへ入れる為 外へと出た。

 

 

ーーーーーーー

 

 

「ふぅ…極楽じゃ〜」

一方で、ゲゲゲの森では目玉親父が湯船に浸かり鬼太郎はそれを見ていた、

 

「父さん…猫娘から聴いたのですが…また“あの妖怪”と遭遇したらしいです」

「ふむ…あの少年か…」

鬼太郎は旅行から帰ってきた後 猫娘から再び姿を現した事を聞いたのだ。だが、今回は何もしてこない上に妖気から全く殺気や闘気が感じられなかったらしく、疑問に思っていたのだ。

 

「確か『龍崎 忍』と言ったな。猫娘によると『龍』の子孫らしい…」

「龍…の子孫…?どういう事でしょうか?」

「ふむ」

目玉親父は湯船から上がると頭を拭きながら話し始めた。

 

「龍とは本来 世界中に存在するんじゃよ。例えばケルト神話によく出てくる『ドラゴン』 西遊記に出てくる『玉龍』。つまり『龍』とは言わば種族みたいなものじゃ。皆それぞれ多種多様な力を持っていて弱い龍もいれば強い龍もいる」

「へぇ…知りませんでした。てっきり龍って…1匹の生物だと思ってましたよ」

「まぁ一般的にそう伝わっているじゃろう。話を戻すぞ。つまりあの少年がその数ある中の龍の子孫という事じゃ」

「成る程…」

 

鬼太郎が納得する。すると何故か目玉親父はふと疑問に思った。

 

「じゃが龍とはいえ…あれ程の妖力は備えて無い筈…なぜじゃ…?」

すると

 

カァーッ!

 

突然 窓からカラスの声が聞こえ、見てみると何かを加えていた。

 

 

「お?手紙か?」

「そのようですね。差出人は…まな からです」

「ほほぅ。どれ、読んでみてくれ」

「はい」

目玉親父に言われ読み上げていくと

 

「ッ!?」

鬼太郎の目が変わった。

 

「どうした?」

「…『刑部狸』が…政権を奪おうとしているらしいです…」

「何じゃと!?」

鬼太郎はまな からの手紙を読み終えるとすぐさま支度をし、人間界へと向かった。

 

 




新キャラ

炎谷 貫九郎 (えんや かんくろう)

見た目 べるぜバブの赤星


龍崎より10歳年上

身長は龍崎より少し高く。いつもタオルを頭に巻いている。獅子と人との間に生まれた半妖であり、炎を自在に操る事ができ戦闘力が高い。因みに両親は2人とも他界している。
勉強が大嫌いで、小学校に通わず学歴がない。けれども一般常識だけは覚えようと思い 12年掛けて中学卒業レベルまでの学力を身につけた。 今では大工の仕事をしており、力仕事だけはできる。

中国・四国をナワバリに持っているが、あまり表に力を見せない為に妖怪達はその正体を知らない。

最近では稼いだ金と技術で家を改築したらしい。






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東京占拠 狸達の進撃

鬼太郎は猫娘と共に人間界へと出た。目の前には手紙通りの第2の月が浮かんでいた。

 

「月が…赤い」

「恐らくあれは月ではない。奴らが崇める妖怪獣の卵じゃ」

月を見ながら目玉親父は あれは本来月ではなく卵である事を伝えた。

 

「今は浮いているだけで危険ではない。じゃが…あれが万が一地上へ落ちればたちまち妖怪獣が復活してしまう…」

「その前に止めないとやばいわね」

その時 後ろの草むらが揺れ猫娘の友達である黒猫が現れた。

 

「クロ?どうしたの?」

「ニャー!」

その猫は何か慌てており鬼太郎では何を言っているのか分からなかった。だが、猫娘は猫の鳴き声を聞いた瞬間 血相を変えた。

 

「まなが…狸達に攫われたらしいわ!」

「なんだって!?」

 

ーーーーーーーー

 

 

 

「刑部狸様〜!!」

「ん?」

地下世界にて、多くの狸達が集まっている広場で名前を呼ばれた巨大な狸は振り返った。そこには多数の狸と連れ去られたまな そして、ねずみ男が立っていた。

 

「この人間は『犬山 まな』と言って鬼太郎と結構仲がいいんですよ!」

 

ねずみ男の放った言葉の中で“鬼太郎”という単語に刑部狸は反応した。

「鬼太郎というのは前に話していた“正義の味方気取り”の妖怪の事か?」

「そうですよ!アイツらの所為で俺がどんなに痛い目に遭っているか〜!」

「いっつも助けてもらってる癖に…」

まるで泣き言のように話すねずみ男の様子をまな はジト目で睨んだ。するとねずみ男はやらしい笑みで耳打ちをした。

 

「まなちゃんよ?ここは妖怪の国だ♪人間の言葉と妖怪の言葉…場違いというものがあるだろ?」

「……」

どう考えてもおかしい言動にまな は更に腹を立てた。

その時

 

「ぎゃん!?」

暗闇の奥から一足の下駄が高速で向かってきた。その下駄は風を切る音を出しながらまな のすぐ近くにいるねずみ男の側頭部に向かってその身体を吹っ飛ばした。

 

『!?』

 

周りの狸達は驚きすぐさま下駄の向かってきた方向へ首を向けた。

そこには

 

「鬼太郎!猫姐さん!」

怒りの表情を浮かべた鬼太郎と猫娘が立っていた。周りの狸達は一斉に鬼太郎達に向けて戦闘態勢をとった。

 

「ほう?コイツが鬼太郎か」

「あら、いい男じゃない」

 

そんな中、刑部狸は2人を見つけると睨んだ。

 

「鬼太郎とやら。お前は『妖怪大辞典』の巻頭を読んだ事はあるか?」

「あぁ。『21世紀は妖怪の時代』と書かれていたな」

「その通り。つまり、我らの支配は予言されていた通りだ。お前も妖怪の端くれならなんの不満もなかろう」

その言葉に対し鬼太郎は吐き捨てた。

「そんなものに興味はない」

「フン。何と言おうと人間はいずれ我等が支配する。鬼太郎よ。お前は他の妖怪達に我等の支配下になるように説得するのだ」

「そんな事できるか!」

いきなりの要求に鬼太郎は更にトーンを低くし拒否した。

 

だが、向こうには人質がいた。

 

「嫌ならこの雌豚がどうなってもいいのかい?」

「誰が雌豚よ!?」

着物を着用した女狸は自分の簪の切先をまな の首元へと向けた。これでは流石に手が出せない。

 

「くっ…」

その時 耳元に目玉親父が小声で囁いた。

「鬼太郎…儂に考えがある…!………」

「……はい」

 

何かを伝えられた鬼太郎は返事を催促する狸達へ向かって返した。

 

「分かった。言う通りにしよう。その代わり まなを返してもらうぞ」

「ふん。いいだろう。だが…」

刑部狸はまな の身体を掴み上げた。

「へ?」

 

すると刑部狸はまな の手へと自分の鼻を擦り付けた。

「いやぁぁぁ!!」

「まな!」

 

鼻を離すと刑部狸は鬼太郎へ指を指した。

「此奴に呪いを掛けた。万が一 お前が約束を果たさなければ儂は念を掛ける。そうすれば此奴は我等と同じ狸となる」

「なんだと…!?」

呪いを掛けられた事を知った途端 まな は刑部狸の手の中でもがき始めた。

 

「そんなの嫌だぁぁ!!!」

「ならお前からもしっかりと鬼太郎に頼むんだなぁッ!」

もがくまな を刑部狸はそう言いつけながら鬼太郎達へと投げた。

 

投げつけられたまなを猫娘は受け止めると狸達を睨んだ。

 

「鬼太郎よ。ちゃんと約束は果たせよ?さもなくばその女は我等の仲間になるからな」

「…」

その後 鬼太郎と猫娘とまな は狸達に連れられ外の世界へと出された。

 

「2人は先に行ってくれ。僕は地下へ戻る。この事はオババ達にも伝えておいてほしい」

鬼太郎は地上へは戻らずまな と猫娘だけを出し自分は中へと戻っていった。

街道を走る中 2人はなぜ鬼太郎が戻ったのかは知るよしもなく、言われた通りにすぐに砂かけ婆達へと知らせに向かった。

 

ーーーーーーー

 

「総理!こ…これは一体…!」

「…」

その一方で国会では、皆は戦慄していた。軍艦を用いて撃墜をしたはずの月が無傷で湖へと墜落したのだ。

だが、問題はその後だった。撃ち落とした瞬間 その月が割れ始め 中から“何か”が姿を現したのだ。

 

それは異形な生物だった。巨大な体躯に鋭い牙 そして不気味な目 その怪物は姿を現わすと同時に港へと上陸し次々と建物を破壊し始めた。

 

「っ…これが…狸達が予告していた第2の災いだというの!?これで都民に被害があったら…私たち政府の責任じゃない!?」

未だに責任の事でしか考えていない総理は次々と破壊されていく景色に混乱していた。

何十機もの戦闘機がミサイルを放つも傷一つつけられず街の破壊は止むことはなかった。

 

その時

後ろの入り口が乱暴に開かれ 大勢の狸達が乗り込んできた。

 

「た…狸!?」

「どうやってここまで…!?警備はどうした!?」

皆が慌てふためく中 シルクハットを被った狸『団一郎』はタバコを吹きながら答えた。

 

「もちろん正面から。警備の方々には寝ていただいたよ。者共 すぐさま捕らえろ!」

『へいッ!』

 

団一郎に命令された狸達はすぐさま皆を縛り拘束した。

 

「さて、貴方方に問います。このまま政権を渡さなければ妖怪獣様によって東京は壊滅。都民の安全も保証できません。ですが、譲渡するならばすぐに止めましょう。如何かな?」

 

「……譲渡したら責任は…貴方方に移るんですよ!」

「勿論承知の上ですよ。さぁ…どうする?」

「……分かりました…そちらの言う通りにします」

アッサリと政権を譲渡した総理に皆は反論した。

 

「総理!?なぜアッサリと!」

「ふざけないでください!」

皆が次々と反感の声を上げる中 団一郎は一喝した。

 

「黙れッ!!」

気迫あるその叫びに皆は一斉に口を閉じた。

 

「総理が決めたんだ。もう無理さ。政権はもう…我々に譲渡されたのだからなぁ?」

その言葉に誰も歯向かう事は出来なかった。

 

 

深夜 12時 10分

 

総理は日本の政権を狸に譲渡し、新たに『刑部狸』が総理となった。

 

 

 



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龍の帰還

翌々日の朝 旅館を出た龍崎は近くの寺で休んでいた。

 

「ふわぁ…」

安らかな風に吹かれながら風景を堪能していると突然 携帯が鳴った。

 

「なんだ?」

画面を開いてみると追加した覚えがない『桃山 雅』から連絡が来ていた。

 

「桃山?なぜこんな時に…?」

開いて内容を見た瞬間 龍崎は絶句した。

 

『今日どうしたの?学校だよ?』

その文面を見た瞬間 龍崎は今日は学校である事を思い出しすぐさまここから走り東京へと向かった。

 

「ッ!よりによって今日 月曜かよ!時間感覚が狂ってやがる!」

周りの皆が直視出来ない程のスピードで龍崎は四国を後にした。

 

 

ーーーーーーーー

 

狸達が政権を奪ってから 私達の高校生活が変貌した。世の中で狸派と反狸派と別れて反狸派の人達は物凄い差別を受けていた。

狸蕎麦を頼めば逮捕。火災が起きても消防車は決して火を消してくれない。更に学校では反狸派の人達は資格試験の申し込みの禁止かつ調査書を作成しないという規則を出された。

 

そして

 

「おい。テメェ反狸派の癖に俺らに口出すのか?」

「調子ぶっこいてんじゃねぇぞ!」

反狸派は壮絶ないじめを受けていた。私のクラスの殆どは狸派へと移行し私や雅 他数名の人達はその日から蔑まれるようになった。

 

だけど、そんな環境下でもあの子は変わらなかった。

 

鬼太郎…どこにいっちゃったの…。

ーーーーーーー

 

「ふぅ…ようやく着いた…」

あれからかれこれ5時間半 現在は12時半となり、龍崎は東京へと戻ってきた。

 

「……随分と変わったな」

途中から感じ取れた狸達の妖気。都心に着いた時、その妖気の濃度は極限まで高まっていた。その様子から、狸達が政権を乗っ取った事を悟る。

 

『狸様の為にッ!!』

『反狸派は逮捕だッ!!」

『狸派に逆らってんじゃねぇぞッ!!』

辺りから次々と聞こえる狸達を崇拝する者の声。それを聞くたびに龍崎の額に筋が浮かび上がる。

 

 

 

あの低級妖怪共が………

 

_______随分と調子に乗ってくれたじゃねぇか…!!!!!!

 

 

 

龍崎の身体から湧き出たドス黒い妖気はスクランブル交差点の中心から東京全域に撒き散らされる。そして、その妖気は次第に形を変えると怒り狂う目を持つ龍の顔となった。

 

 

 

『ヴゥゥゥゥ…!!!』

 

その場に響き渡る龍崎の唸り声。それはいつもの声ではなかった。地の底から響く様な低い声。正に野生動物の声だった。

 

 

「……取り敢えず学校に向かうとするか」

 

ーーーー

ーー

 

ガラガラガラ

 

「すいません。遅刻しました」

そう言い龍崎が入ると同時に黒板消しが飛んできた。それと共に担当する教師の罵声が飛んでくる。

 

「何をやっていたんだ!」

「…すいません。寝坊しまして…」

 

そう言い訳すると教師は額に筋を沸き上がらせて更に怒りの声を上げる。

 

「反狸派な上に遅刻してくる生徒に授業を受ける資格はないッ!廊下に立ってろッ!」

そう怒鳴られた龍崎は担任に無理やり廊下へと立たされた。今の担任は『山口』という保健担任であり、昼夜生徒へ怒鳴り散らすという人気が皆無の教師であった。

 

それから廊下へと立たされた龍崎は先程の言葉の中にある『反タヌキ派』という単語を思い出すと首から筋を浮かび上がらせた。

 

「随分と勝手な事しやがったな…!!」

 

 

ーーーーーーー

 

ホームルームが終わり、放課後となった。

龍崎は通学路である道を通っていると 近くの暗い建物の間に女子が集っていた。

 

「ん?」

見る限り何かを囲んでいる様子で龍崎は何だろうと思い近づいてみた。そこには数人の女子生徒が一人の女子生徒に詰め寄っていた。

 

「す…すいません…お金はないです…」

「は?アンタさっきお菓子買ってたでしょ?だったらあるじゃん?出しなさいよ」

そう言いリーダー格らしき女子は囲まれている女子へ蹴りを入れた。辺りにはスクールバックに入れてあるものまで散らかっていた。

 

「いい?反狸派はねぇ私達 狸派ましてや先輩から金求められたら嫌な顔一つせずに差し出せばいいのよ。こんな事も分かんないの?」

何の説得力もないかつ、理不尽な理論に龍崎は溜息をつくと話しかけた。

 

「おい。狸の尻尾つけた変人共が群れてんじゃねぇよ」

「あぁ!?」

そう言うとその女子達は振り向いた。

 

「アンタは確か暴力沙汰で停学になった龍崎じゃない?なによ。文句あるの?」

 

「大ありだよ。ていうか下級生に金せびるとか いつの時代だよ。そんなに金に困ってんならバイトでもしたらどうだ?」

 

「はぁ!?」

龍崎のど正論に女子達はキレた。1人の女子を囲んでいた3人の女子達は尻にある尻尾を見せた。

 

「アンタ この尻尾が見えない訳?これ以上 口出しするなら……『刑部狸』様に言いつけるわよ?」

 

「刑部狸……か」

その名前を出された瞬間 龍崎の口角がつり上がった。

 

「そうか。言いつけたらどうなるんだ?此処にくるのか?なら今すぐ呼べよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“見つけて殺す手間が省ける”

 

 

 

「!?」

衝撃的な発言に女子達は尻餅をついた。言葉とトーンの重み そしてとてつもなく邪悪な笑み。今の発言は間違いなく本物だ。嘘でも悪ふざけでもない。それを認識した女子達は額から冷や汗を流し始めた。

 

「に…逃げるぞ!!」

「うわぁぁ!!」

 

すると女子達はすぐさまこの場から逃げていった。それを見届けた龍崎は残念がる様に少し溜息をつく。

 

「はぁ…呼んでくれないのかよ…折角 仕事が片付くと思ったのに」

すぐに仕事が片付きそうだったというのに惜しい事をしたと思いながら龍崎はうずくまっている女子へと近づいた。

 

「大丈夫ですか?」

そう言うと女子は顔を上げた。見ると知っている顔だった。

 

「貴方は…桃山さん?」

「りゅ…龍崎くん…?」

その女子の正体はクラスメイトである雅だった。

 

「何故貴方がこんな嫌がらせを?」

「じ…実は…」

 

龍崎は雅から今の東京の現状を教えてもらった。

 

狸達が東京を支配した後、反狸派と狸派とで別れ反狸派は社会から相当 蔑まれているそうだ。中でも学生の反狸派は資格試験申請の不許可かつ、虐めという最悪な状況下に立たされているらしい。そして自分はその対象者だったのでこういう事をされたのだ。

 

「成る程。貴方は狸派にうつらないんですか?」

手を取り立ち上がらせながら龍崎は雅に問う。

 

「私は嫌だ…何で狸達に従わなければいけないのかよく分かんないし…」

ごもっともな意見に龍崎は頷くと散らかった荷物を集め鞄に入れてあげた。

 

「取り敢えず家まで送りますよ」

「うん。ありがとう」

龍崎は情報提供のお礼として雅を家まで送った。

「これからは気をつけてください」

 

「うん。本当にありがとね。龍崎くんも気をつけて…」

 

「えぇ」

雅を送り届けた後 龍崎は人混みの多いスクランブル交差点へと戻ってきていた。周りには狸の尻尾を付けた者で溢れかえっており、警察が尻尾を付けていない反狸派を取り押さえている光景が所々に映っていた。

 

「さて…『刑部狸』とやらの情報を集めるか」

 

そう言い龍崎は夜の街へと消えていった。

 

かと思いきや歩いて眠気が出たのでアッサリ切り上げ帰宅したのだった。

 

 



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龍を呼ぶ猫

この数日間で調査して分かった事がある。

 

刑部狸は総理であるが表舞台には姿を現さず手下に指示を出し政治を行なっている。

また、東京の何処かに、その刑部狸が潜んでいる世界へ行く入り口が複数存在する。

蛟龍という妖怪獣が奴らの首領であり、今は大都市の外れに眠っている。

“要石”というものが妖力の源であり、それを破壊すると狸達は死ぬ。

昼には活動せず、真夜中の見回りで多くの狸達が姿を現わす。

 

 

「これが今のとこか。そっちはどうだ?」

「思った通りだわ」

一応 八尺にも調査に協力してもらった。奴は活動範囲が結構広いから表面上は狸派として今は尻尾を付けてもらっている。内容は奴らの現れる場所。

 

「場所は突き止めきれてないけど夜になると多くの狸達が民家や神社から出てくるわね」

「となると神社の方が手っ取り早そうだな。明日に行ってみるか」

 

ある程度 情報は掴めた。後はどうやって奴らのいる世界へ入るかだな。

ーーーーーーーー

 

あれから数日 鬼太郎は帰ってくることは無かった。

 

あの日 狸達の事をオババ達に伝えて まな を帰らせてからもう一度来てみたら穴が塞がれていて侵入が不可能だと思った私たちは一時的に森に戻った。

 

「むむ…どうしたものか…」

「…」

私はどうしたらいいのか分からない。けれど私は必ず帰ってくると信じていた。

だから待った。

 

けれど、数日経っても帰ってくる事は無かった。そうしている間に政権は狸達に乗っ取られ 奴らが好き勝手に政治を動かしていた。そうなると私はまなが心配になった。また 攫われる恐れがある。

 

「おばば、まなが心配だから見に行ってくるわ」

「なら 儂らも行こう。今の世間はお主だけでは危険じゃからな」

「ありがとう」

 

私達はすぐさま まなの家に向かった。

 

ーーーーーーー

 

 

皆が眠る深夜 まな も自室で睡眠していた。

 

すると

 

トントン

 

「ん?」

誰かが窓を叩く音が聞こえ目を覚ました。目をこすりながら見てみると そこには猫娘が立っていた。

 

「猫姐さん!」

すぐさま駆け寄り鍵を解くと窓を開けた。

 

「あの時から連絡がないから心配で心配で…」

「えぇ。心配かけたわね」

すると後ろから一反木綿に乗った砂かけ婆や子泣き爺がゆっくりと部屋へと入ってきた。

 

「まさかこの歳になって泥棒の真似事をするとはの〜」

まなは突然の訪問に驚いていた。

 

「こっちもまなが心配だったのよ。それに、レジスタンスの相談もしなきゃね。どこもかしこも狸だらけ」

そう言い猫娘はヒールを抜くと部屋へと入った。

 

「鬼太郎は…来ないんですか?」

「…」

唐突にそのことを聞かれた猫娘は動きを止めた。そして震える声で数日経っても姿を見せない事を話した。

 

「まさか…鬼太郎は…もう…」

もうダメなのかと言いかけたまな に猫娘は答える。

 

「そんな事はない。鬼太郎に限ってそんな事は…」

 

その時 ズシンズシンと地響きがし、ベランダを見るとぬりかべが何かを手に持っていた。

 

「ぬりかべ。どうしたの?」

「目玉親父 見つけた」

そう言いまな の部屋へと手を入れ 握っていた手を開いた。 そこにはボロボロで脚を引きずっている目玉親父がいた。

 

「皆…すまん…心配かけたの…」

そう言い目玉親父はぬりかべの手から滑り落ちたが猫娘がギリギリで受け止める。

 

「親父さん!?大丈夫!?」

「わ…わしの事よりも…鬼太郎が…!」

 

それから目玉親父はアレからの出来事を話し出した。

 

“要石”と呼ばれる狸達の妖力の源を壊そうとしたものの その要石には“妖怪が触れると石化する”という呪いがかけられており、鬼太郎はその呪いによって石化してしまった事を。

 

 

「そんな…鬼太郎が…石に…」

あまりのショックに猫娘は俯いてしまった。そして目玉親父は涙を流した。たった一人の息子を石にされたとなると相当なショックとなるだろう。

 

「これからどげんすれば…」

「何とか要石を壊さねば…でなければ日本は狸の国になってしまう…」

 

だが今の人数では確実に負ける。皆は考えた。

 

「私に考えがある…」

顔を俯かせながら猫娘はある事を思い付いたのだ。

 

「どんな考えじゃ!?」

「まさか…囮とか!?」

皆が期待する中 猫娘は顔を上げた。その顔は酷く歪んでおり、何か悔しみのある表情をしていた。その表情を見るだけで思いついた作戦がとてつもないデメリットのある作戦だと皆は読み取った。

 

「まな…“アイツ”とクラスが一緒なら…連絡先は分かるわね…?」

「え?うん…あまり話さないから追加 はしてないけど…」

「すぐに私のところに送って…」

猫娘の顔はとても深刻だった。成功すれば鬼太郎を救えると共に狸達全員を葬れる。だが、失敗すれば自分は殺されるだろう。それ程までに危険な考えであった。

目玉親父は汗を流した。

 

「猫娘…お前 まさか…!」

 

目玉親父の予想は的中していた。

猫娘は自身の中で最も強い妖怪へと助けを求めるのだ。

「アイツを…『龍崎』を呼ぶ…!」

 

 

 




ガチで東京行きたいな〜


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共闘

「龍崎を呼ぶ…!」

猫娘の思いついた策に皆はすぐさま反対の声を出した。

 

「猫娘!よせ!あんな奴に頼るなぞ!」

「そうじゃ!奴と協力しても裏切るかもしれんぞ!」

だが、猫娘が考えた策はこれしかなかった。

 

「けど…鬼太郎を助けるにはアイツの手を借りるしかない…」

すると砂かけ婆達は黙ってしまった。

猫娘は送られた龍崎の連絡先を追加するとすぐさま 電話を掛けた。

 

ーーーーーー

 

「ほら、吐けよ?お前達の根城はどこだ?」

人 一人もいない真夜中、龍崎は見回りをしている1匹の狸の首を掴んでいた。だが、狸は未だに自分達の住処の場所を話さなかった。

 

「ぐぎがか……誰が人間…ごときに…!」

「話すもんか…か?なら死ね」

 

グキャ

 

骨と肉が握りつぶされる音がすると狸の身体が力が抜けたかのように地面に崩れた。

 

「はぁ…口が固いな。これで8体目か…」

 

そう言い空を見上げた。あれから刑部狸について調べた後、龍崎は街へ出て手当たり次第に狸を縛り上げ場所を聞き出そうとしていたのだ。だが、誰も場所を吐かず、かれこれ2時間が経過した。

 

すると突然携帯が鳴り響いた。

 

「ん?」(猫…?どうやって俺のアカウントを…?)

掛かってきた相手 に疑問に思いながらも龍崎は通話ボタンを押し電話へ出た。

 

『…龍崎で合ってるかしら?』

「何だいきなり。というかどうやって俺の連絡先を知った?」

『まな に送ってもらったわ。それで追加した』

「そうか。で?何の用だ?前に自分達を襲った相手に」

『……単刀直入に言うわ…私達に…協力してほしい…』

 

いきなりすぎる要求に龍崎は首を傾げた。

 

「単刀直入すぎるな。内容を言え。それ次第だ」

そう言い理由を尋ねた。万が一 狸の事と関係がない場合 すぐに切ろうとした。

そう思いながら耳を傾けていると

 

『…狸達の…要石の破壊を…手伝ってほしい』

「……ほぅ?」

狙いが同じだという事に龍崎は驚いた。

 

「なぜお前らが要石を?」

『……鬼太郎が要石に触れて石になった。だから助ける』

「そうか」

龍崎は理由が違えど同じ要石を破壊するとなると猫娘達と行動した方が何かと効率が良いと考え了承した。

 

 

「いいだろう。だが、タダでは動かん」

『…勿論承知の上よ。だから…要石を壊した暁には……私の魂を貴方にあげるわ』

ーーーーーーーー

 

猫娘の突然すぎる言葉に皆は血相を変えた。

 

「猫娘!何を言っておるんじゃ!?」

砂かけ婆はすぐさま携帯を取り上げようとしたが猫娘は軽快な動きで躱し屋根の上へと登った。

 

『そこまでして狸供を殺したいとはな。そんなに鬼太郎を助けたいのか?」

「えぇ。だからお願い…私達に力を貸してほしい…」

『……一つ聞く』

「…何かしら?」

『お前ら狸供の住む地下世界の入り口って分かるか?」

その質問に猫娘は頷いた。

 

『そうか。じゃあ問題ないな』

「えぇ」

そう言い電話を切ろうとした。だが、寸前のところで龍崎は呼び止めた。

『その前に条件がある』

「?」

『俺が良いというまで要石は破壊するな』

猫娘は龍崎の条件の意味が分からなかった。だが、協力してくれるならば何だっていい。

そう思い猫娘は了承した。

 

「分かったわ」

『それだけだ。あと、テメェの魂なんざ興味ねぇからいらん。対価としては何か奢れ』

それだけ言うと通話は切れた。

 

「ッ…//////」

猫娘はホッと胸をなで下ろすと同時にアッサリと魂を拒否られ、先程の自分の発言に赤面すると下へと降りた。

降りると皆は目に涙を溜めていた。

 

「猫娘…お主…自分の命を犠牲にしてまで…」

「猫姐さん…やだよ…そんなの…」

まな は泣きながら猫娘へと抱きついた。目玉親父も大量の涙を流していた。

 

「お…落ち着いて。実は…」

 

それに対して猫娘は皆を落ち着かせると交渉の件を話した。

すると皆の涙が一気に引っ込んだ。

 

「驚かせおって!」

「全くじゃ!」

 

「ご…ごめん…」

 

猫娘は謝るとすぐさま 指定した場所へと向かった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

誰もいない神社にて、龍崎は一人タバコを吸っていた。

 

「ふぅ…」

その時 ハイヒールやわらじの足音が聞こえてきた。

 

「……来たか」

そう言い龍崎は顔を上げた。神社の鳥居の下には猫娘達の姿があった。だが、皆は既に警戒するかの様な表情を浮かべていた。

 

「やっぱり警戒はするか。まぁ当たり前だよな」

 

龍崎はタバコを握りつぶすと立ち上がる。

 

「さて、案内してもらおうか」

「いや…その…入り口なんだけど…」

猫娘は行く前に自ら入った入り口が塞がれている事を教えた。だが、龍崎は構わないと言った。

 

ーーーーーーー

 

神社から少し離れた民家の近くにて、そこには巨大な岩が置かれていた。

 

「ここよ。ぬりかべ お願い」

「ぬりかべ!」

猫娘に頼まれ ぬりかべ は張り手で岩を退かした。見てみると元は入り口があったかのような穴の跡があり、その中に岩が敷き詰められていた。

 

「へぇ。これぐらいなら問題はない」

そう言った瞬間 龍崎は手に妖力を集中させ握り締めた。すると手が青く燃え上がり腕を包み込むと辺りを照らし始めた。

「離れてろ」

龍崎は両腕を振り上げると一気に穴の中へと振り下ろした。

 

ーーーーーーー

 

ドオンッ!

 

「ん…?」

突然地下世界に鳴り響いた音に刑部狸は目を覚ました。

 

 

「どうなされましたか?」

「…塞いだ筈の場所から何者かが侵入した…。団一郎、直ちに見つけ出して捕縛しろ」

「お任せを」

『オオオオッ!!』

狸達は雄叫びを上げあると直ぐ様音のする方向へと向かった。

 

ーーーーーー

 

入り口を壊した龍崎はその先に広がる空洞に少し驚いていた。

 

「へぇ。地下にこんな物があったとわな…」

そう言うと龍崎は後ろからついてくる猫娘達を見た。綺麗に空いた穴に猫娘はもちろん まなは腰を抜かしていた。

全員が地下世界へと入ると皆は先へ進んだ。

 

「ところで目玉、要石の場所は分かるか?」

「あぁ。このまま真っ直ぐじゃ!」

目玉親父の案内の元で皆は要石を目指した。

 

「となると、刑部狸も近くにいるな。だったら好都合だ」

 

「おぬし…何をするつもりじゃ…?」

目玉親父 は未だ不明の龍崎の目的に関して質問する。すると龍崎は口角をつり上がらせ答えた。

 

「殺すんだよ。俺の縄張りを荒らしたからな」

 

『!?』

 

「縄張り!?どういう事!?」

訳の分からない残酷な言動に猫娘は質問するが龍崎はめんどくさいといい答える気は無かった。

 

その時、後ろから太鼓のような音が聞こえてきた。

「いたぞッ!」 

「捕まえろッ!」

皆は振り返ると、そこには大勢の狸達が自分達の後を追いかけてきていたのだ。

 

「狸じゃ!」

「ぐぬぬ…バレてしもうたか…」

 

 

そんな中、龍崎は狸の軍団の中に見覚えのある顔を見つけた。その者は狸達に自身らが敵かつ、鬼太郎の仲間である事を示唆した。

 

「皆さん!アイツです!アイツらが鬼太郎の仲間ですよ〜!!」

『ねずみ男!?』

「へぇ。アイツねずみ男って言うんだ」

そこにはねずみ男の姿があった。見る限り完全に寝返っているようだ。

「アンタ後でとっちめてやるからねッ!」

「その後があったらな〜♪」

 

ねずみ男が猫娘へベロベロバーと小馬鹿にしていると、団一郎は高く飛んだ。

「セイヤッ!」

そして被っていたハットをまるでブーメランのように投げてきた。そのハットはまるで鈍器のように急降下し、皆の頭上へと向かってきた。

 

「危ない!」

砂かけ婆の声に皆はハットに気づきすぐさま二手に分かれるように避けた。そのハットは近くの岩へと着弾し、岩に亀裂を走らせた。

 

「ほぉ?面白い技を使う狸がいたもんだな」

 

皆は立ち上がると再び脚を進めた。だが、狸達も逃すまいと走り出した。皆との差が次々と縮まり逃げていては捕まると考えた砂かけ婆は龍崎へ伝えた。

 

「ここわ儂が食い止める。お主は…猫娘達を頼んだぞ」

 

先程まで龍崎を全く信用していなかった砂かけ婆の意外な言葉に龍崎は一瞬驚き間を置くも、すぐに答えた。

「あぁ」

 

砂かけ婆は立ち止まり、狸達に向かっていった。

 

「儂もいくばい!」

「オババを一人にさせないわい!」

 

「子泣き爺!一反木綿!オババ!」

猫娘は向かっていった皆を呼び戻そうとした。だが、それには誰も応じなかった。砂かけ婆は振り返り猫娘達へと叫んだ。

 

「止まってはいかんッ!!鬼太郎はすぐそこにいるんじゃ!進めッ!!」

「ッ!」

 

砂かけ婆に叱咤された猫娘は涙を拭くとすぐさま後を振り返らず 再び走った。

 

 

「このジジイがぁぁッ!!」

「おんぎゃぁぁぁぁッ!!」

 

ガァァァンッ!!

筋骨隆々な体格を持つ団三郎と子泣き爺の石化した腕がぶつかり合った。その場に耳を塞ぐほどの金属音が響き渡り発生した衝撃波によって団一郎 団二郎以外の狸達は四方八方へ吹っ飛ばされた。

 

「やるな」

「お前もな」

 

一方で砂かけ婆はお召し物をした雌の狸 団二郎と対峙した。

 

「いっさ出陣ッ!」

「ばーさん、やろうってのかい?」

 

その瞬間 団二郎の鋭い簪と砂かけ婆の持つ扇子がぶつかり合った。

 

「へぇ?老人にしてはやるじゃない」

「ハッ!青二才なんぞにまだまだ遅れはとらんわい」

「いってくれるわね!」

 

ーーーーーーー

 

一方で龍崎達は目玉親父の案内を元に道を進み 崖のような地点へと着いた。そこには巨大な妖気が溢れ出ている岩 すなわち『要石』が設置されており、その付近には石と化した鬼太郎の姿があった。

 

「鬼太郎!」

猫娘とまな はすぐさま駆け寄り鬼太郎へ手を伸ばした。

 

だが、猫娘の手を龍崎が掴んだ。

 

「何するのよ!」

「騒ぐな。見て分からねぇのか?」

そう言い龍崎は岩を指差した。

 

「あそこから湧き出てる妖気と同じ質の妖気がコイツの表面に覆われている。つまり、今のコイツに触れればお前も石になる」

「…!だったら早く要石を!」

そう言い猫娘はまな と共に要石へと向かおうとした。その時

 

「やっと追いついたぞ」

『!』

後ろから声が聞こえた。3人は振り返る。そこには全身から他の狸とは全く違う妖気を纏った団一郎か立っていた。

 

「ヴァァァァァァァァッ!!」

突然 団一郎が雄叫びをあげると身体が膨張し始め着こなしていたスーツが破れ 2メートルを越す巨体へと変化した。

 

変化した団一郎は目を血走らせ歯を剥き出しにすると猫娘達へ向けて鋭い爪を振り下ろそうと襲い掛かってきた。

 

「死ねぇぇぇッ!!!」

 

 

だが、その行動はすぐさま阻止された。

 

「な…なに!?」

団一郎の剛腕がその4分の一ほどの大きさの龍崎の手によって掴まれていたのだ。

「!?貴様は!?」

そんな中 団一郎は龍崎の顔を見た瞬間 何かを思い出した。

 

 

 

ーーーーーーー

それは政権を乗っ取った翌日の真夜中だった。

 

 

『団一郎、よくやってくれた。だが、政権を取ったからといって油断はできん』

『何故でしょう?我らは日本を手に入れたのですよ?それに妖怪獣様もいます。人間であろうと妖怪であろうと我らに刃向かう心配はないと思いますが』

政権を手に入れたというのに 何か不安気な刑部狸に団一郎は疑問に思った。

 

『お前は[六将(りくしょう)]を知っているか?』

『[六将]…ですか?いえ…耳にした事がないですね』

団一郎が知らないというと刑部狸は説明した。

 

『[六将]とは 妖怪の中でも群を抜く程の力を身に付けている六体の妖怪だ。それぞれ北海道、東北、関東甲信越、近畿、中国・四国、九州と 日本を六分割し、一つの地をナワバリとしている。我等は今東京を占拠している。となるとナワバリを荒らされたと気付いた六将がすぐに我等を討とうと姿を現わすだろう。

奴を討ってこそ本当の支配となる。万が一 そのような者が現れたらすぐに知らせろ。よいな?』

『……御意』

 

ーーーーーー

 

「(この妖力の量と質…そこらにいる奴じゃねぇ…。まさかコイツが『六将』!?)」

そう思った瞬間 自分の手が握り潰された。

 

「ウギャァァァ!!!」

感じた事もない痛みに団一郎は悲鳴を上げながら手を抑えその場に崩れ落ちた。

 

「ハハッ。どうだ?痛いだろ?俺のナワバリを荒らしたんだ。これぐらいの罰は受けてもらわねぇとな」

「!?」

団一郎は『ナワバリ』という言葉を聞いて確信した。今 自分を見下しているオールバックの少年こそが自分の主人である刑部狸の話していた『六将』である事を。

 

理解した時にはもう遅かった。

 

「消えろ」

 

その一言共に自分に向かって視界を埋め尽くす程の炎が放たれた。

 

「ヴァァァァァァァァ!!!!」

炎に飲み込まれた団一郎の身体は次々と炎に焼かれていった。

 

 

「クソがァァァァッ!!!」

断末魔を上げながら団一郎の身体は炎へ消えていった。

 

 

ーーーーーーー

 

「ん?団一郎の妖気が消えた…。奴が倒されたとなると…やはり現れたか 『六将』め…!」

その目には炎が揺らめいており、それと共に身体から妖気が溢れ出た。

 

その時

 

遠くの暗闇から何かが迫ってくる音がした。

 

「何だ…あれは!?」

それはとてつもなく巨大な砂の洪水だった。その砂は刑部狸を飲み込むと同時に辺りに四散した。

 

目を開けてみれば辺りには団三郎や団二郎が気を失っており、中には自分に媚びを売ってきたねずみ男も混ざっていた。

 

「どうしたお前達」

 

「あ…アイツらメチャクチャ強いんですよ!特にあの人間の『まな』ていう奴も一緒で!」

「何だと!?」

ねずみ男の報告に刑部狸は焦る。要石の呪いは人間 及び半妖には効果が無いのだ。となると、要石を破壊されるのは時間の問題だろう。

 

「いや…待てよ…?」

 

だが刑部狸はある事を思い出した。

 

まなに“呪い”が掛けてある事を

 

「はぁぁ…!」

 

ーーーーーーーー

 

「さて、邪魔者は片付けた。俺は刑部狸の所に行ってくるよ。合図はバイブで知らせる」

「えぇ。分かったわ」

団一郎を片付けた龍崎は漂ってくる刑部狸の妖気を感知すると暗闇の奥へと消えていった。

 

「猫姉さん…龍崎君とどんな取引をしたんですか?」

まな は先程から気になっていたのだ。猫娘はどんな条件で龍崎の手を借りる事が出来たのかを。

それに対して猫娘は述べた。

 

「要石の破壊は自分が合図した時、あと ご飯奢り で交渉成立したわ」

「えぇ…軽いような重いような…」

「別に大した事ではないわ…。それより…」

猫娘は数十分前の龍崎の発言に疑問に思う点があった。

 

『ナワバリを荒らされたからな』

 

「どういう意味なのかしら…」

その時

 

「うぅ!?」

まな の身体から巨大な鼓動が聞こえた。それと同時にまな の身体から毛が生え 眼光が鋭く 牙が鋭利に尖るように伸びていった。

 

「まな!?」

「まさか呪いが発動してしまったのか!?」

猫娘は咄嗟に止めようとした時 何かに首を掴まれた。

 

「ガァッ…ま…まだ残っていたの…!?」

そこには血走った目を剥けながら満身創痍の団三郎が立っていた。

 

「へへ。惜しかったな。だがもうこれで終わりだぁ!」

 

 

ーーーーーーーーー

 

「妖怪に変化したな。これで要石はもう破壊できまい」

刑部狸はまな を妖怪へ変貌させた事により 要石の破壊はもう不可能だと確信した。

 

「さて、妖怪獣様を再び動かすとしようか」

そう言い刑部狸は念を送ろうとした。

 

その時

 

カツ…カツ…カツ…

 

 

暗闇の奥から足音が聞こえ何かがこちらへ向かってきた。

 

「何者だッ!」

刑部狸は怒りを交えた声を発した。 足音は次第に近づき、周りにある結晶の反射する光によってその正体がゆっくりと露わになった。

 

「お前が刑部狸か」

「!?」

そこには学生服を着用したオールバックの少年が立っていた。

 

「誰だお前は?」

突然の訪問者に刑部狸は睨みながらとう。それに対して少年は龍のような鋭い目を向けながら口を三日月のように釣り上げた。

 

「俺が誰かなんてどうでもいい。それより、よくも俺のナワバリを荒らしてくれたな?」

「ッ!?」

『ナワバリ』という単語に刑部狸は反応したと同時に身体中の毛がまるで怯えるかのようにそそり立った。

 

「まさか…貴様が…『六将』…!?」

 

 

 

今、龍の裁きが下される。

 

 



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天龍の裁き

「ガハァッ…!」

「猫娘!」

突如現れた団三郎に猫娘は首を掴み上げられ身動きを取れなくなってしまった。そしてその一方でまな も狸の妖怪と化し唸り声を上げながら悶え苦しんでいた。

 

「ヴァァ!!!」

「まなちゃん!」

獣と化したまな の脳内に刑部狸の『要石に触れろ』という命令が流れ込み 、まなの身体は従うようにゆっくりと要石へと近づいていった。

 

「まなちゃん!やめるんじゃッ!まなちゃんまで石になってしまうぞッ!!」

「まな!目を覚まし…ガァ…!」

目玉親父や猫娘は懸命にまな へ自我を取り戻すように呼びかけた。するとそれに答えるかのようにまな は自分の頭を抑え込み動きを止めた。

 

まだ自我が少しだけでも残っているようだ。だが、それも時間の問題だ。刑部狸の命令がその自我を蝕み始め 再びまな を要石へと動かそうとしていた。

 

「どう呼びかけようと無駄さ!刑部狸様の命令は絶対だからなぁ!」

そう言い団三郎は左手に力を込めると猫娘を葬ろうとした。

 

 

「…ま……な……」

 

 

ーーーーーーーー

 

「ん…?何だ?全然出ねぇな。何やってんだアイツら?」

先程まで刑部狸が鎮座していた岩場にて、龍崎は大きな遺物に座りながら携帯を見ていた。彼が座っているものの周りには、無数の狸達が腸を抉り出されたり、頭部が潰されて脳髄が溢れていたり、更には頭蓋骨を砕かれていたりと、とてつもなく悲惨な光景が広がっていた。妖怪であっても人目見れば嘔吐しそうな程の雰囲気の中、龍崎は顔色を変える事なく、携帯をポケットにしまうとその遺物から飛び降りた。

 

「直接行くか。成功の知らせとして、コイツの首でも持ってけばいいか」

そう言うと龍崎は横たわる刑部狸の首を無理矢理もぎ取ると要石へと向かった。

 

「ん〜……ストレス発散にはちょうど良かったな…」

そう言うと不気味な笑みを浮かべながら口の周りについた血を舐め取った。

ーーーーーー

 

所変わり、要石がある崖では 団三郎が今にも猫娘へトドメを刺そうとしていた。

 

「終わりだ…!」

「うぐぅ…!?」

もうダメだと思い 猫娘はゆっくりと目を閉じた。

 

その時だった。

 

グシャ

 

団三郎の腹が何者かの手によって貫かれた。

 

「ガハァッ!?」

腹を貫かれた事により、団三郎は血を混じらせた胃液を大量に吐いた。団三郎の身体を貫いた犯人は背後にいた。

 

「何だ。バイブ流したのに 出なかったのはこういう事だったのか」

 

団三郎の背後に見えた人影に猫娘は目を見開いた。

 

「り…龍崎…!」

そこに立っていたのは龍崎であった。本人は猫娘に目を向ける事なく貫いた手を引き抜いた。

 

団三郎は猫娘を掴んでいた手を離すと同時にその場に崩れ落ちた。

「お前はさっきの…!刑部狸様は…!」

「あぁ。コイツの事か?」

「!?」

目の前に差し出された物を見た瞬間 団三郎の顔は絶望に落ちた。

 

 

それは刑部狸の“生首”だった。白目を剥き、舌が力を失ったかのように垂れていた。

団三郎はそれを見た瞬間に刑部狸を殺めた犯人が龍崎であると確信した。

 

「お前が刑部狸を!?」

「あぁ。案外 弱かったな。他の狸よりも強そうだったから少し本気を出したら一瞬で片付いちまったよ。ま、殺しても要石があるからどうせすぐ再生するんだろ」

そう言い要石へ目を向けた。

 

「あれ?犬山は?」

龍崎は辺りを見回した。すると、要石の方向へ手を引きずりながら向かっていくまな の姿を確認した。

 

「なんだ、もう終わるじゃねぇか」

「!?」

そう言われた瞬間 団三郎は止めようと立ち上がる。だが、龍崎に頭を地面に叩きつけられ身動きが取れなくなってしまった。力自慢の団三郎でさえ小柄な龍崎の腕力に勝てなかった。

 

「動くなよ。東京を狙った時点でお前らの死はもう確定してるんだ」

「ぐぅ…!」

団三郎は恨みの目を龍崎へと向けた。だが、龍崎は団三郎へ目を向けずまな の方を見ていた。

 

一方で 刑部狸が死んだ事で呪いが解けた まな は要石に触れ 押した。要石はまなが歩くたびに一切 抵抗を見せる事なく動いていった。

 

そして 崖に差し掛かった時 まな はゆっくりと要石を押した。

 

押された要石は崖から音を立てずに落下すると垂直抗力の力を受け 地面へと落ち砕けた。

 

その瞬間

 

 

「ぐぁぁ!!」

団三郎は口から血を吐き散らすと苦しむようにもがきながらその場で生き絶えた。

 

 

他の狸達も同じだ。周りから狸達の悶え苦しむ声が聞こえ、数分経つと段々と静まってきた。

すると、要石を壊された事によって 鬼太郎を覆っていた妖気が晴れ 石化が解かれた。

 

「うぅ…!」

「鬼太郎!」

倒れる鬼太郎をまな は急いで抱きとめた。

 

「ゲホッゲホッ!」

「おいおい大丈夫か?」

「余計なお世話よ…!」

そう言い猫娘は誇りを払い立ち上がる。

 

「けど…ありがとね。感謝するわ…」

「目的が一致しただけだ。感謝される筋合いはない」

お礼を言われた龍崎は一瞬笑みを浮かべるも、見せない様に横を向き髪を下ろした。

ーーーーーー

 

「鬼太郎!大丈夫!?」

「あぁ…何とか…」

鬼太郎はまなに支えられながら立ち上がる。

 

「鬼太郎〜!」

「父さん!」

駆け寄ってきた父である目玉親父を鬼太郎は手に乗せた。

 

「お〜!無事で何よりじゃ〜!」

「父さん 泣きすぎですよ」

大量の涙をおいおいと言いながら流す目玉親父を鬼太郎はなだめた。

すると、 微量ながら妖気を感じ取った鬼太郎は後ろへ振り返る。

 

「ッ!」

咄嗟に鬼太郎は戦闘状態へと入った。それもそうだ。幾日か前に自分を襲った相手が目の前にいるのだから。

 

「猫娘!ソイツから離れろ!」

咄嗟に鬼太郎は龍崎へ向けて指鉄砲の姿勢をとった。

 

「待って鬼太郎!龍崎君は鬼太郎を助けるのを手伝ってくれたの!」

「え…?」

 

まな は咄嗟に止めると今までの経緯を話した。最初は納得しようとしなかったが、目玉親父の証言や猫娘と話す姿を見て納得したようだ。

鬼太郎は立ち上がると龍崎へ手を差し出した。

 

「疑って悪かった。ありがとう。皆を助けてくれて」

それに対して龍崎はフッと笑うと手を出さず、背を向けて歩き出した。

 

「俺はただ単に刑部狸供を殺したかっただけだよ。お前の救出なんざついでにすぎん」

そう言うと龍崎はそこから上に向かって炎を放つと穴をあけそこから外へと出て行った。

 

すると

洞窟も崩れ始め 瓦礫が落下してきた。

 

「急いで避難だ!」

「えぇ!」

その後 鬼太郎達は砂かけ婆達と合流すると龍崎が開けた穴を使い外へと脱出した。

 

ーーーーーーーー

 

一方で、一足早く洞窟を出た龍崎はとある平地を歩いていた。

 

そこは富士の裾野であり、辺りには森が広がっていた。

 

そして、 龍崎の行く末には “何か”が佇んでいた。

「これか、妖怪獣『蛟龍』というのは」

目の前には刑部狸達が崇めている『妖怪獣』が眠っていた。

 

 

『おのれ六将めぇぇぇぇぇッ!!!』

「お?」

突然、天を揺るがす程の怒声がその場に響き渡り上を見ると紫色の炎が空を覆っていた。

それは 刑部狸の憎しみと憎悪が固まってできた“怨霊”である。

 

『よくも我らの邪魔をしてくれたなぁぁぁぁ!!!貴様だけは許さんぞぉおおッ!!!』

恨みを込めて叫んだ刑部狸の怨霊は妖怪獣の身体へ吸い込まれるように消えていった。

 

その時 妖怪獣の目が光り出し倒れていた身体が起き上がった。

 

「さぁ…楽しませてくれよ?狸ども…!」

目が金色に輝き歯を剥き出しにしながら笑みを浮かべると再びオールバックにした。

 

『ギャォオオオオオオオッ!!!!』

妖怪獣は龍崎へ威嚇するかのようにその場に巨大な砂嵐が吹き荒れる程の咆哮をした。

するとその場に台風よりも激しい突風が吹き荒れ辺りの木を根こそぎ空の彼方へと吹き飛ばしていった。

 

「ハッ!いい鼻息だ」

まるで子供のように頬を染め興奮した龍崎は学ランを脱ぎ捨てるとタンクトップ一枚となった。脱ぎ捨てられた学ランはその暴風に吹き飛ばされ消えていった。

 

 

暴風が鎮まると妖怪獣の巨大な口がゆっくりと開かれた。

 

「ほぅ?」

その瞬間 龍崎の立っていた地面が大爆発を起こした。

原因は妖怪獣の放った高密度の妖力の玉である。体内から練り上げられたその妖力の玉が放たれた事により そこの地面にはクレーターが出来上がっていた。

だが、妖怪獣は辺りを見渡していた。今の一撃に手応えが感じていなかったのだ。

 

 

 

「へぇ。やっぱすげぇな」

「グゥゥ…?」

声のする方向へと妖怪獣はゆっくりと目を向けた。そこには先程 自分の足元にいた龍崎が巨木の枝の上にあぐらをかきながらこちらを見ていた。

 

「さて、俺からも行くぞ?」

龍崎は立ち上がると両手両足に妖力を集中させ青い炎を纏った。

そしてその場から脚に力を集中させると妖気を爆発させ、それを機動力として一気にその場から妖怪獣に向けて飛んだ。

 

 

「ハァッ!!」

「グゥァァァァァッ!!!」

龍崎は炎を纏った拳を妖怪獣の頬へ向かって突き刺すように放った。

その拳は頬へ突き刺さると同時に炎が一瞬 光った途端 大爆発を起こした。

 

「グルル…ギャァォオオオオオオオオオッ!!!」

妖怪獣は頬から伝わってくる激痛と高温に悲鳴を上げながら巨体をヨロケさせるもすぐに体制を立て直し龍崎へ向かって粒状の妖気をマシンガンのように放った。

 

「へぇ。多彩な奴だ」

龍崎はその攻撃を横へ駆けながら避けた。妖怪獣は龍崎の挑発に乗るかのように首を傾け次々にマシンガンを龍崎へ当てようとした。それに対して龍崎はまるで遊んでいるかのように笑いながら避けていった。

 

「どうした?どうした?全然当たってねぇぞ」

 

「グァァァァァァァッ!!!」

 

そして、最後の一発を避け終えると、龍崎の全身から蒼いオーラが溢れだした。その輝きはもはや宝石に匹敵する程の美しさで、暗い景色を蒼く照らした。

 

「さぁ!もっと楽しませろ!まだ前菜にも行き届いてねぇんだからな…!」

 

 

ーーーーーーー

 

一方で龍崎の開けた穴から出た鬼太郎達は目の前で起こっている小規模の戦争のような戦いに圧倒されていた。

 

「これは…何という妖力のぶつかり合いじゃ…」

「今まで何百年も生きてきたが…ここまで激しい戦いは初めてじゃ…」

子泣き爺の言葉に鬼太郎は頷く。

猫娘も河童達の時とは全く違う妖気の質に恐怖感を抱いた。

「今のアイツの妖気…こんな遠距離からでも感じ取れる程 濃いわ…河童達の時とは比べものにならない…」

「それにあの龍崎という少年…未だに本気を出しとらん。完全に遊んでおる…底が知れぬ…」

 

ーーーーーーー

 

 

龍崎は走りながら踏み込み、大きく跳躍すると、纏っていたオーラを手に纏わせ、そのまま妖怪獣へ向かって拳を振りかぶった。

 

「フッ!」

「ビギャァァァァ!!」

龍崎の放った空中からのストレートパンチが妖怪獣の額へと放たれた。当てられたと同時に拳に纏わりついていた炎が青から赤へと変色すると爆発し更なる苦痛を与えた。

傷口から更に火傷を負わされた妖怪獣は苦痛の叫びを上げるとその場に倒れた。見れば傷口から相当な量の妖力が溢れ出ていた。

 

「おいおいどうした?妖力がどんどん無くなってくじゃねぇか」

倒れた妖怪獣の額に着地した龍崎は見下ろした。

 

「何だよ。たった数発殴っただけで終わりかよ?」

「…」

妖怪獣は何も答えなかった。唸り声も上げず ただ言われるがままになっていた。だが、分かりにくいが身体が何故か痙攣しているのだ。まるで何かに怯えるように。

 

「おい…何とか言えよ…?」

ナワバリを荒らされた事で怒りを混ぜた声で龍崎は妖怪獣の胴体を脚で突いた。

 

その瞬間 妖怪獣の全身という全身から汗が滲み出てきた。

理解したのだ。自分が何を相手にしているのかを。

 

 

その恐怖感が全身を支配し 妖怪獣の身体を縛っているのだ。

 

 

 

そうとは知らない龍崎にとってはもう動かない妖怪獣は用済みである。

「はぁ…だんまりか。つまらなかった」

そう言い龍崎は手に青い炎を集め凝縮させた。すると、炎を取り込んだ腕は青く光り出した。

 

 

「死ね」

 

その言葉と共に龍崎の力の込もった重い一撃が妖怪獣の身体へと放たれた。

拳が深く突き刺さるとその地点から妖怪獣の身体の所々に青い亀裂が走り始めた。龍崎は拳を抜くとその場から跳躍した。

 

 

そして

 

ドォオオオンッ!!!

 

草むらへと飛び降りた直後 妖怪獣の身体は青く光り破裂した。

バラバラになった身体から青い魂が浮き上がりその魂はその場で静かに燃え尽きていった。

 

 

 

「綺麗な花火だな」

着地した龍崎はそう呟きながらその場から跳躍し我が家へと向かった。

 

 

 



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戻る日常そして起きる怪奇現象

あれから2週間後

 

人は政権を取り戻した。狸達がいなくなった事で狸派と反狸派との差別がなくなり、尻尾をつけるものもいなくなった。

その他にも、妖怪獣襲撃の際での失態やアッサリと政権を放棄した事に対しての不平不満をぶつけられ総理は鬱となった。その事で来年へ向けての選挙が準備されている。

 

だが不思議だ。人間にまで巻きついていた狸の邪悪な妖気が一夜にして何処かへと飛び去っていってしまった。

何が原因かは分からん。

 

ーーーーーーー

 

「ふわぁ…なんかスッキリしないなぁ…」

そう言い龍崎はあくびをする。周りからはいつも変わらずの人の足音が聞こえてくる。

 

ガラガラガラガラ

 

学校に着き、教室のドアを開けてみると 何故か人数が多かった。

 

その理由は 龍崎を虐めていた者たちが皆 退院したからだ。だが、その姿は決して完治したとは言えなかった。包帯をつけている者が殆どであり、男子より身体が弱い女子に限っては顔や頭を縫っていた。

そして、一番 被害にあった主犯格である斎藤は 義手になっており、右手から機械のような腕が生えていた。

 

一見可哀想に見えるが自業自得だと周りの皆はそう言い距離を取っていた。

彼らは龍崎の姿を見るとすぐさま目をそらす。

 

その様子に龍崎は笑みを浮かべながら通り過ぎ席へとついた。

 

「(今日から普通の日常か…つまらんな)」

そう思い頬杖をつきながら窓を見た。

 

ーーーーーー

 

「ギャァァァァ!!」

 

渋谷駅の改札にて 1人の女性が悲鳴をあげていた。その悲鳴が耳に届いた者はすぐさま振り返る。悲鳴が聞こえた先にはとんでもない光景が広がっていた。

 

そこには 炎に焼かれている二人の男女がいたのだ。

既に二人に意識はなく 、肉となったその亡骸の腹が裂け中から臓器が漏れ出しており、その臓器が焼かれ周囲に只ならぬ異臭を漂わせていた。

 

「な…何だこれは!?何があったんですか!?」

駆けつけた警察が近くで尻餅をついている車掌らしき人物へと問う。車掌は口をあぐあぐとさせながら分からない…と答えた。

 

「おい!消化器持ってこい!水でもいい!早く!」

「皆さんは下がって!」

 

警察が駆けつけ 大混乱へと落ちる渋谷駅。人がパニックに陥る中 その景色を見て微笑んでいる1人の若者がいた。

 

そしてこの事態はすぐにSNSへと掲示されニュースへとなった。

 

ーーーーー

 

「…ねぇ鬼太郎」

「なんだい?」

「これ見て」

猫娘は目玉親父の入浴を眺めている鬼太郎にある画像を見せた。それは渋谷駅で起きた事件だ。

 

「これは…」

「たった今 投稿された画像よ。渋谷駅で男女2人の身体がいきなり燃えたらしいの」

「なんじゃと!?」

猫娘の話を聞いた瞬間 目玉親父は風呂から飛び出た。

 

猫娘から画像を見せてもらうと目玉親父はう〜んと考える。

 

「このような現象…今まで見た事がないの……炎を操る妖怪でもこんな芸当はできん…」

「となると…誰が…」

「うむ。調べてみるか」

 

 

ーーーーーーー

 

一方で 警察が押し寄せテレビが集まる渋谷駅にて

 

 

「あ〜あ。失敗か。爆散せずに燃えたか」

学生服を着た1人の少年がビルからその景色を面白そうに見ていた。

 

「完成にはしばらく掛かるな。さてと、次の機会を待とうか」

そう言うとその少年の姿が消えた。

 

渋谷で起きたこの怪事件 ニュースでも取り上げられ、全国的に話題となった。専門家達はこの現象を『人体発火現象』ではないかと予想した。

 

 

ーーーーーー

 

翌日

 

「ねぇねぇまな。これ知ってる?」

「うん。人がいきなり燃え上がった現象だよね」

学校でまな は友人である雅から昨日の出来事について話していた。

 

「しかもこれ一回じゃないみたい。今朝にも起きたらしいよ?」

「怖いなぁ…」

その写真を見ながら2人はため息をつく。

 

その2人の横を教科書を手に持つ龍崎が通り過ぎた。

「そう言えば龍崎君ってここずっとあんな感じだよね。いつも物理と化学の教科書 読んでるよ」

「うん。テストでいえば分かるけどまだ遠いし…検定でもあるのかな…?」

理学の教科書を黙読しながら廊下を歩く龍崎を2人は不思議に思った。

 

ーーーーーーー

 

「ここが現場か…」

SNSへと挙げられた場所へと着いた鬼太郎と猫娘は辺りを見回した。

 

「…妖気が感じ取れない…」

「おかしいのぅ…」

そんな中 猫娘は人混みの中である人物を見つけた。

 

「あれ…アイツ…!」

それは妖怪獣の件以来 姿をくらましていた龍崎だった。猫娘は龍崎なら何かを知っているのではないかと思い走り出し人混みの中へと入り込んだ。

 

「ちょ!猫娘!」

 

その後 猫娘が乗った電車は走り出し鬼太郎と目玉親父はポツンと駅に取り残された。

 

ヒュ〜…

 

「……戻りますか」

「そうじゃな」

 

 

 

 

 

 

 



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龍と猫 再び

「……」

「……」

車内にはとても緊迫した空気がながれていた。龍崎はいつもと変わらず真顔 それに対して猫娘は少し頬を染め上がらせていた。

その原因は現在の体勢である。

先に乗った龍崎は窓側におり、 長身の猫娘がそれを正面に立つ形でいた。それに満員の為、猫娘の顔が自分より背の低い龍崎の頭部へと当たろうとしているのだ。

 

「…どけ」

「どけるなら最初からどいているわよ…!」

小声で話す二人組 周りからすればもはや姉弟だ。 龍崎はどくように促すが一歩も動けない状態である。

 

その時

 

「きゃ!」

「!?」

電車が急停止し、車内中が揺れた。猫娘は突然の揺れに驚き 前のめりに倒れてしまった。

 

『ただいま車両に不手際が発生したため 急停止いたしました。点検のため しばらく停車いたします。ご乗車のお客様に多大なるご迷惑をおかけします。しばらくお待ちください』

車内放送を聞くと辺りからは落胆の声が上がる。

 

そんな中 猫娘は頬をもうリンゴのように真っ赤に染めていた。その理由は電車が急停止した事で、揺れが生じ猫娘の身体が龍崎の方へ倒れてしまい 結果 抱きつく形となってしまったからだ。態勢を直そうとしたものの満員なのでほぼ不可能であった。

 

「……苦しい。首がしまる」

「…!う…うるさいわね!満員なんだからしょうがないでしょ…!?」

離れたくとも離れられなくなり猫娘の顔はますます赤く染まった。

 

そしてこの気まずい態勢が何十分も続いた。

 

数十分後

 

『運行を再開いたします。ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした』

アナウンスが入ったと同時に電車は動き出した。けれども態勢はそのまんま。

 

ーーーーーーー

ーーーーー

ーーー

 

『次は目黒 目黒です。お降りのお客様は左側へ』

 

「お、そろそろか」

龍崎は目黒駅に着いたと知ると自分の前で態勢を直し顔を反らしながら乗っている猫娘の横を通る。

 

「俺はここで降りる。じゃあな」

「ち…ちょっと待ちなさい…!」

猫娘は車両から降りると龍崎の肩を掴んだ。

 

「なんだよ。まだ何かあるのか?」

そう言い龍崎はめんどくさそうな表情を浮かべた。対して猫娘は携帯を取り出すとある写真を見せた。それは巷で噂になっている『人体発火現象』だ。

「この写真…アンタ 何か知らない?」

その写真を見せると龍崎の表情が変わった。

 

 

 

 

 

 

「あ〜あ。また失敗か」

 

 

「ッ!」

 

その時

猫娘のうなじに衝撃が走った。

 

「がぁ…」

 

どんどん意識が遠のいていき、視界が少しずつ暗くなってきた。

 

「俺もバカだなぁ。よりにもよって自分でバラしちまったなんてな」

 

「ぐ……りゆ…ざ…き…」

 

ドサッ

猫娘の目は完全に閉じられ意識がなくなり その場に倒れた。龍崎は溜息をつきながら猫娘の身体を肩に担いだ。

 

「ま、休憩スペースくらいには運んどいてやるよ。ったく、これから大岡山の大学のオーキャンに行かなきゃなんねぇのに…めんどくせぇな」

一人でブツブツと愚痴をこぼしながらも龍崎は駅内の休憩用スペースに猫娘を寝かせるとそのまま立ち去った。

 

「さてと。急ぐか」

 

ーーーーーーーー

ーーーーー

ーー

 

「……ん」

「大丈夫かいお嬢ちゃん」

目を覚ますと目の前に50代くらいの清掃員のおばちゃんがいた。

 

「私は…何でここに…」

「あー。二時間くらい前にね、若い兄ちゃんがここに運んできてくれたんだよ。覚えてないかい?」

「兄ちゃん……そうだ!」

私は全てを思い出した。龍崎を見つけ質問をした途端 気絶させられた事を。

 

すぐさま私は駅から飛び出した。

 

「まずい…!すぐに何とかしないと…次の犠牲者が…!」

 

ーーーーー

ーーー

 

「ギャァァァァ!!」

「あ…アンタぁぁ!!しっかりしてよ!なんなのよこの炎!」

夜の新宿歌舞伎町の路地裏にて一人の男性の身体が燃えていた。付き添いらしき女性はその火を服で仰いだりして消そうとしたがいくら仰いでも炎の威力は弱まらなかった。

その目の前ではその光景に笑みを浮かべている少年がいた。目は青白く輝き瞳は炎のように揺れていた。

 

「アンタ…!私の恋人になにしてくれてんのさ!」

女性はその少年を睨みつけた。対する少年は笑いながら答える。

 

「何って、そちらが先にやってきたじゃないですか。お前が落し物を探して欲しいと言ってきて俺がここまでついてきてやったのに結局 金目当ての美人局。それでいきなり出てきた男が金を出せと言い始め突っかかってきた。ハッハ自業自得だろ」

 

少年は見下すように笑いながら答えた。それに対し女性は涙を流しながら醜く歪んだ表情を表し発狂した。

「何よ!学生ごときが偉そうに!私たちは大人なのよ!年下が年上に金を払うのは当然でしょ!」

「え?どこから生まれたんですか?そんな理論。年上のために年下が金を出す?ましてや何の関わりもない赤の他人に?笑えますね」

そう言うと同時にその少年の顔が少しずつ変化して、最終的には殺意を剥き出しにした表情へと変わっていった。

 

「取り敢えず お前は生きる価値がない」

「ぐぁ!?」

そう言うと少年は女性の首を掴みあげた。

 

「ぐ…苦し……い…!だ…だれ…か…」

助けを呼ぼうとしたが喉仏を強く押さえられており声を張りあげる事はできなかった。

 

「死ね」

 

パァン

 

そう言い放った瞬間 女性の身体が青く光ると同時に爆発した。周りには血や肉片そして骨や臓器が飛び散り悲惨な光景が広がる。

 

「はぁ。やっぱ手でやらないと上手くいかないな」

少年はつまんなそうな表情を浮かべるとその場から去っていった。

 

 

ーーーーーーー

 

あれから猫娘は目黒区を探し回ったが、龍崎らしき妖気は感じられず、見つけることが出来なかった。気づいた時にはもう夜となっていて渋々 戻る事にした。

 

『あ〜あ。また失敗か』

あの時の龍崎の言葉で猫娘は確信した。この件は彼が深く関わっていることを。

ゲゲゲの森に戻るとすぐさま鬼太郎と目玉親父にこの事を伝えた。

 

「なんだって…!?あの事件にアイツが!?」

「えぇ。深く関わっているのは確かよ」

それを聞いた瞬間 鬼太郎はどうするべきか考えた。真正面からかかっても勝てる相手じゃない。かと言ってこのままにしておく 次々に被害者が出てくる可能性がある。

 

「く…どうすれば…」

 

鬼太郎や親父たちは頭を絞り考えたが、一向に打開する策は浮かばなかった。

 

 

「…一旦…奴について調べてみるか…」

そう言い目玉親父は家を飛び出すと書籍のある巨木へと走っていった。

 

 



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学生の天敵

最初の発火現象から数週間が経った。未だに現象は治まる事はなく、それどころか2日に一回 は起きるようになった。

この怪事件はついに全国ニュースにも取り上げられ ミステリーな現象としてそれを題材とした番組まで放送されるようになった。

多くの番組がこの現象の謎を突き止めようとしたが、誰1人とも真相に辿り着くことはできなかった。

 

それもそうだ。誰も眼力で燃やしているなんて考えもしないのだから。

 

『続いてのニュースです。今朝 駅のホームにて また 女性の身体が発火する現象が起こりました』

渋谷や新宿のスクランブル交差点にて、ビルの画面にそのニュースが流れ人々は目を向けた。

 

周りからは次々に不安な声が上がってきていた。

 

『おいおいこれで何件目だよ…』

『怖いな…何であんな現象が起こるようになっだよ』

 

皆は祟りなのか、はたまた 新手のテロなのかという考えを出していたがどれも違う。

 

これはたった1人の中学生による単なる実験なのだ。

 

ーーーーーーー

 

「さて、10人目も失敗っと…」

新宿で皆が戸惑う様子をグルメタワーのガラス際の席から見ながら 龍崎はノートをまとめていた。

 

「中々 うまくいかないなぁ。示談金目当てで冤罪を吹っかけた女3人とそれに加担した男1人は焼死。あと勝手に絡んできた男2人も同じ結果…と。さて…次の実験台はどうしようか…」

そう言い龍崎は辺りを見回した。

 

「(まぁいい。取り敢えずこの技は後回しだ。テストが近い…)」

背伸びをしながらノートを閉じ 龍崎はその場から料金を支払うと出て行き自宅へと向かった。

 

ーーーーーー

 

次の日

 

誰もいない教室にて 2人の男女が向かい合っていた。

1人は龍崎 であり、もう1人は…

 

「じゃあ始めますよ」

「はい先生!」

桃山 雅である。

何故こうなったのかというと、帰ろうとした龍崎を雅が呼び止め 理数科目と英語をどうしても教えて欲しいと懇願されたからである。理由を聞いてみると今回 赤点があった場合 即 携帯没収という学生にとって厳しい約束を課せられたからである。

最初は断ろうと思っていたが、教えれば自分にとっても復習に繋がるので了承したのだ。

「分からないところは?」

「えぇとココなんだけど…」

「空間図形ですね。これはまず定理を覚えてからだと簡単に解けます。取り敢えず定理を読みながらこの問題を…

龍崎は雅が分からないところを黒板に書きながら説明していった。

対する雅も真剣なのか せっせとノートへ板書していった。途中何度も首を傾げてしまう時があったが、龍崎の説明を聞いているうちにだんだんと理解するようになってきた。

 

30分後

 

「できた!」

龍崎は雅の書いた答案をチェックすると赤ペンで丸を描いた。

 

「全問正解です。よくできました」

「やった!」

雅はピョンピョンと兎のように飛び跳ねながら喜んだ。

 

「さて…これで空間図形は問題なしと…次はどこですか?」

「次は理科の物理なんだけど……」

「ではまず力の向きを書いてみましょう。それから釣り合いを考えて……」

 

それから1時間 雅は自分の頭に物理の公式を叩き込み 基礎問題は解けるようになった。

 

「ふぅ。このくらいですかね?」

「うん!ありがと!」

時計を見てみると時刻は5時半となっており、沈みゆく夕日が教室を照らしていた。

 

「さて…帰りますか。途中まで送りますよ」

「うん!」

 

龍崎は雅を家へと送った。

 

「今日はありがとね」

「いいですよ。俺も復習できましたし。テスト 頑張ってください」

「うん!」

 

雅は龍崎と別れ家に入るとすぐさま 二階へと駆け上った。

 

「雅、夕飯できてるわよ?」

「ごめん!ちょっと勉強するから後にして!」

バタン!

 

部屋のドアが閉まる音がすると、雅の母親は口に手を当て驚いた。

 

「珍しい…あの子が勉強だなんて…何があったのかしら?」

 

ーーーーーーー

部屋へと入った雅はすぐさま 買っておきながらも手をつけなかった参考書を開いた。

「えぇと…この公式は………すごい…!分かる!」

 

スラスラと 復習した事や覚えた事などを思い出しながら 次々と迫り来る問題達を倒していった。

 

「あ…ここ分かんない…うぅ…解説みよ…」

数学からの物理のとある問題でつまづいた雅はすぐに付属の解答解説を開いた。

 

「なるほど…こうするのか…!」

読んでも分からなかった項目が 次々に理解できていた。

 

「いける!よしもう一回!」

雅は勉強をまるでゲームをプレイするかのように次々と問題を解き始め 何度もやり直した。

 

 

それから1週間後

 

 

いよいよ勝負の時は来た。

 

「始めてください」

試験管の合図と共に雅は問題用紙を裏返し向き合った。

 

「…!(分かる!)」

今まで暗号のように見えていた数式が今では 簡単なパズルのように見えていた。

 

「…(よし…!ここはこうして…!)」

1週間 みっちり覚えた事がスラスラと頭から湧き出てきた。

そして 時間があと10分の時 周りの皆はようやく全問を解き終わったのか見直しをしていた。

だが一方で、龍崎はもちろん 雅はもうペンを置いていた。なぜなら既に全て解き終わり 見直しも完了したからだ。

 

「終了です。ペンを置いてください」

監督の指示と共に皆はペンを置き答案を前へと渡した。

 

「最後の問題解けた?」

「難しかったなぁ。私 パスした」

「私も」

 

今回の数学の期末テストは中々 難しかったらしく、皆は落胆の声を次々にあげていた。

 

「ふぅ…」

「雅!どうだった?」

親友であるまな からの質問に雅は苦笑しながら答えた。

 

「分かんないなぁ…ボチボチってとこかな?」

「私も…」

 

その後 物理の問題も雅は先人を切る武将のように次々と問題達を倒していった。

 

 

ーーーー

ーーー

ーー

 

そして 3日後

今日は一時限目からテスト返却であり、まずは数学からだった。

 

「では テストを返すぞ。市岡くん!」

「はい!」

「犬山さん!」

「はい!」

次々と名前が呼ばれる中 雅は内心 少し不安だったのだ。

 

「…(単位や符号はちゃんとチェックした…どうだろう…)」

 

「やった80点!」

「やるじゃんまな!」

まな が高得点だった事に耳を傾けていると少しずつ不安が募り出してきた。

 

「…うう…(どうなる…どうなる…!)」

 

「桃山 さん!」

自分の名前が呼ばれた瞬間 力強く返事をした。

 

「はい!」

そして 一歩ずつ一歩ずつ 力を込めて戦地へと赴くように教卓へと向かった。

 

そして前に立った時 先生が答案を取り出し差し出した。

それをゆっくり受け取ると心臓が激しく鼓動しながらもゆっくりと開いた。

 

「!」

 

その瞬間 雅は叫んだ。

 

「やったぁぁ!98点!」

その瞬間 教室の皆が驚きの声を上げた。

 

「「「おぉぉぉ!?」」」

 

「マジで!?数学がダメダメだった雅が!?」

「98点だとぉ!?」

皆は雅の机へと集まった。答案は表裏に問題が記されていた。表は全て正解 そして裏は最後の発展記述問題に三角がつけられており、4点中 2点が引かれていた。だが、それ以外は全て正解だ。

 

 

「はいはい席に戻りな。さて最後に龍崎くん」

「はい」

皆が席に戻るとすぐさま 龍崎の名前が呼ばれた。返事をした龍崎は普通に教卓へと向かっていった。

すると数学科の担任が切り出した。

「おめでとう100点だ!」

『おぉぉぉ!!』

その瞬間 またもや教室が騒ぎ出した。

 

「はい静かに!」

先生が強く言い静まらせると模範解答を見ながら解説をしだした。

 

「今回は最後の問いに躓いた人が多かったな。まずは解説していこう。ここはまずここの線分ADに目をつけて…」

皆は先生の解説を必死に書き写していた。雅も98点だからといって浮かれず 失点した2点の原因を探し出した。因みにだが、 今回の数学のテストのこのクラスの平均は全クラス中 下から3番目であった。

理由は簡単である。龍崎を虐めていた10人の男女の内 7人が30点台や20点台だからである。皆がテストで盛り上がっている中 その7人は教室の隅に固まりこちらを恨めしそうに睨んでいた。

 

そして 次の返却科目である物理や英語も雅は高得点を取っていった。物理は89点 そして英語に限っては作文から4点引かれただけであり、それ以外は全て正解していた。その結果 雅は学年でも10位というトップ圏内へと入った。

 

一方で、龍崎は国語以外の全ての科目で100点を獲得しておりアッサリと学年一位となった。

ーーー

ーー

帰りのSHRが終わると龍崎の席に雅が寄ってきた。

 

「龍崎君ありがと!お陰で高い点数が取れたよ!」

そう言われるが龍崎は否定する。

 

「俺はただ教えただけです。高い点が採れたのは貴方の実力ですよ」

それもそうだ。龍崎はただ教えただけであり、テスト中 教えたりという手伝いはしていない。しかも教えたとしてもたった2日だけだ。それ以外は彼女が自分自身でやったに過ぎない。

それでも雅は龍崎へとお礼をした。

 

そして自宅では…

 

「凄いじゃない!学年でトップ圏内に入るなんて!」

「へへ〜ん!私だってやればできるんだから!」

母親の目が飛び出しており 今にもスッ転げそうな勢いで驚いていた。父親も高笑いしながら雅の頭を撫でた。

「よくやった!ご褒美に今夜は回転寿司にいくぞ!」

「やった〜!!」

 

それから雅は勉強を通しての達成感を知り、毎日必ず2時間以上は勉学をする事に決めた。

 

 

因みにだが、龍崎が今回 学年で一位になれたのは実は彼女のお陰でもあるのだ。雅は元々 国語は十八番だったらしく、理数系を教えてもらう代わりに国語を教えてあげていたのだ。その結果 いつも50点台だった龍崎の点数は一気に80点へと跳ね上がったのだ。

 

 

「ふわぁ…もう今日は寝よ…」

いきなり頭をフル回転させた事で疲労がきた雅は食事を取らずゆっくりとベッドへ倒れ込んだ。

 

 

 

 



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枕返し

「じゃあこれのデータを纏めて明日の昼までにデータ送っといてくれ」

「はい」

とあるサラリーマンが上司と思わしき人物から分厚い書類の束が入った袋を渡された。

 

「はぁ…こんな書類…明日の昼までには無理だろ…」

夕方の街頭が照らす道を歩いているとふと 遊んでいる小学生の子供達を見つけた。

 

「いいなぁ…あの頃に戻ってみたいよ…」

どんな大人でも必ずそう思う時があるだろう。会社の呪縛から解き放たれもう一度あの自由な少年時代へと戻りたい。

そう思った時だった。

 

「戻りたいの?」

目の前に浴衣を着た少女が現れた。足音もなければ気配もなかった。普通の人ならばそう思い慌てふためくが、疲労している男性にとってはどうでも良い事だった。

 

「あー戻りたいね。あの時は絵をたくさん描いていたな」

そう言い子供達を見ているといきなり手を引かれた。

「だったら、連れて行ってあげるよ」

「え?…」

少女がそう言った直後 目の前に光が現れ男性と少女を包み込んでいった。

 

光が収まるとそこには 目を瞑り倒れ伏す彼の姿があった。

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「鬼太郎、手紙が来てるわよ」

「ん?」

猫娘からポストに届いていた手紙を渡され 鬼太郎は受け取ると読み上げた。その内容は 父親がある日を境に眠りについてしまい目を覚まさなくなってしまったのだ。

 

「なんだって…!?」

鬼太郎はすぐさま人間界へと赴き手紙を出した少年へと会いにいった。

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

人間界へと着いた鬼太郎は差出人の少年に会うと父親が入院している病院へと案内してもらった。見てみると父親が横たわっており、昏睡状態だった。

「数日前からずっとこんな感じです…さすっても往復ビンタをしても…鳩尾にストレートパンチしても起きないんです…」

「君のその涙は悲しいのか悔しいのかどっちなんだ?」

 

目玉親父は明らかに妖怪の仕業だと思いう〜んと考え込んだ。すると、ある事を思い浮かべた。

 

「夢の妖怪といえばアイツがおった!詳しく聞いてみよう!」

 

鬼太郎と目玉親父と少年『ヒロシ』 そして途中で加わった猫娘と まな の5人はアイツと呼ばれる妖怪の場所へとの所へと向かった。

 

ーーーーーー

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!?俺の仕業だって!?ふざけんじゃねぇよ!」

誰もいない山の中に 一つの小屋があり、そこの住人は大きな声で怒鳴った。

 

「なんじゃ。お主の仕業ではないのか? 『枕返し』」

目の前にいる小鬼のような姿をした妖怪を見て目玉親父は驚く。この妖怪こそ、目玉親父のいっていた夢に詳しい妖怪 『枕返し』である。

今から何年も前に、子供達の夢に侵入し 悪事を働いていたのだ。だとしたら今回の件も察しがつくだろう。

 

だが、

「そんな事する訳ねぇだろ!?ったく!どいつもこいつも俺の所為にしやがって!」

「別に聞いたのはワシ1人だけじゃろ?」

本人はこのように否定していた。けれども夢の関連となると枕返ししかいない。彼がやっていないとなると一体誰がやったのだろう。

 

「何年も前に偉い坊さんにコテンパンにやられてからもう何もしてねぇよ。ふわぁ…それじゃおやすみ」

そう言い枕返しは証言と共に眠りにつこうとした。

 

「お…おい!せめて 夢から覚ます方法だけでも!」

「うるせぇな。こちとら昨日 徹夜で『ぬらりひょんの孫』一気見したから眠くてしゃーないんだよ」

まるで親父のようにベソをかきながら どうでもいい言い訳をし、枕返しは目玉親父の助けに手を貸そうとはしなかった。

もう打つ手がない。そう思った時だった。

 

「なぁ〜んだ。夢の事に詳しいって聞いてたのに全然詳しくないんだね〜?」

 

 

「…なんだと?」

まな が放ったその言葉に枕返しの神経が反応し横にしていた身体を立ち上がらせた。

 

「俺は夢の専門家だ!妖怪の中でも随一のなッ!夢に関しちゃ俺の右に出る者は決しておらんッ!」

「ホントに〜?なら見せてよ〜?」

「あ〜!もう上等だよ!テメェら付いてきな!」

そう言うとズカズカと家から出て行った。

 

「やるじゃない まな!」

「グッ!」

猫娘に褒められた まな は満面の笑みでサムズアップした。

 

 

皆は枕投げに雲の上の崖に案内された。すると、枕投げは空の彼方へと枕を掲げた。

 

「やぁぁぁぁッ!!!」

 

 

すると突然枕が七色に輝きはじめ、そこから空へ向かって巨大な虹が掛けられた。すると枕投げは掛けられた虹へと乗ると歩き出した。

 

「おら!ボサッとすんな!この橋は5分しか持たねぇんだ!」

皆も虹へと乗ると枕投げの後を追いかけた。

 

「凄いなぁ…初めてだよ虹の上を歩くの…」

まな は初めて体験する。 誰もが一度は夢見た 虹を渡る。まさかこの歳で体験するとは思わなかったらしく、顔を赤くしすごく興奮していた。

 

「ハッハッハッ。気をつけろよ。今俺たちは他人の夢の中に入り込もうとしてる。本来 夢はどんな無理な事でも叶っちまうからな。 何でもかんでも想像しちまうとそれが具現化しちまうぜ?例えばこの橋の後から怪物が襲ってくるとか」

 

『ギクッ!?』

そう言われた瞬間 ヒロシとまな の身体がビクッと震えた。

その反応を見た猫娘は冷や汗を垂らした。

「ま…まさかアンタ達…」

 

そのまさか だ。ヒロシとまな は怪物が襲ってくる事を想像してしまったのだ。まぁ原因は枕返しなのだが。

 

「ギャォォォォォッ!!」

『!?』

見ると背後に黒く巨大な怪物が現れ次々と虹を喰らい尽くしながら追いかけてきた。

 

「逃げるゾォォォォッ!!!」

『ぎゃぁぁぁぁぁ!!!』

皆はすぐさま走り出し怪物から逃げた。

 

「ちょっと!なんで言われて想像しちゃうのよ!」

「ごめんなさ〜い!!」

まな は走りながら謝罪するも後の祭りだ。怪物はどんどんと近づいてくる。ここでまたまたやらかしたのが枕返し

 

「これで分かっただろ!?いいかテメェら!決して想像すんじゃねぇぞ!………例えばこの虹が消えちゃったりとか…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………』

 

 

その言葉にまな とヒロシは黙った。

 

「ま…まさかアンタ達…」

 

そのまさかだ。猫娘の問いに頷くと同時に足元の虹はパッと消えた。

 

「余計な事言うから〜!!!」

「あ…ごめん」

皆は一気に落下していき、鬼太郎はヒロシと枕返しを抱き抱えた。

 

一方で猫娘とまな はそれぞれ別の場所へと落下していった。

 

ーーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーー

 

「……ん?」

目を覚ますと辺りが木に囲まれている場所にいた。木陰が多く、木々の隙間からは太陽の光が差してきていた。

 

「ここが…夢の世界…?」

あまりにもの普通すぎる世界に私は目を疑った。

 

「お姉さん……だれ…?」

「!?」

突然後ろから声をかけられ 私は振り向いた。そこには背がヒロシ君よりも少し小さい小学生らしき男の子が立っていた。その男の子の顔は髪で隠れていてよく見えなかった。私は妖怪だという事を隠す為に偽名を名乗った。

 

「私は…『猫 ヒロミ』よ」

突然 思いついたため、よくある名前を使用してしまった。その男の子は不振に思わないのか頷いた。

 

「へぇ。綺麗な名前ですね」

「あ…ありがとう…てそんな事してる場合じゃない!」

私は夢の中に来た目的を思い出しすぐさま鬼太郎達を探した。だが、辺りは木に囲まれていて鬼太郎らしき姿は見当たらなかった。

 

「鬼太郎ー!どこー!?」

大きな声で叫んでみたが返事は返ってはこなかった。

 

「叫んでも無理ですよ?ここは結構な山奥ですから」

「そんな…」

その子の言葉を聞いた瞬間 私は森のど真ん中で膝をついてしまった。

 

「はぁ…どうすればいいのよ…」

「…少し休んで行きませんか?」

「え?」

肩を叩きながらその子は私を立ち上がらせると前へと進み私を案内し始めた。

 

 

 



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少年の正体

「ふわぁ…」

大きな口を開け あくびをしながら龍崎はその場で寝転がった。

 

「今日はもうここまでにして少し寝るか…」

そう言い布団を敷くと毛布を掛けずに目を閉じた。

 

龍崎が眠った時刻は 鬼太郎、そして猫娘達が夢の世界へと入った時と同時刻であった。

 

ーーーーーーーーー

 

夢の妖怪『枕返し』の見せる夢には他者の夢に介入する能力に加え、もう一つの力がある。

 

それは

 

ごく稀に 自分が脳内でよく思う人物が眠っている時 その人物の過去を見る事ができる。

けれども、そんな事は滅多にない。確率で表すならば宝くじで2等が当たるに等しい程だ。仮にあったとしたらその者の記憶に大きな違いを生み出してしまうだろう。

 

だが、それは起こってしまった。

 

ーーーーーーーーー

 

 

森で出会った少年に連れられ猫娘は山小屋へと案内された。見る限り古く、小さく、少し腐っており、中には少しだけであるがキノコが生えていた。

明らかに一般の家庭とは思えない様式に猫娘は不振に思う。

「そこに座っててください」

「そうさせてもらうわ(古い小屋ね…この子一体何者なのかしら…)」

不審に思いながらも少年の言われる通りに段差がある場所へと腰を下ろした。

 

「キノコとか生えてるけど、大丈夫なの?」

「えぇ。毒性はないので」

そう言い少年はキノコを収穫する。

「でもこんなに狭いとこじゃ、両親とかが窮屈じゃないの?」

 

そう言い猫娘は質問をする。すると、少年の口から信じられない事が出された。

「僕の両親は…もういません。数年前に他界してしまいました」

「!?」

今の言葉に猫娘は目を見開いた。この少年はまだ幼いながらも家を持っていない上に家族も失っているのだ。

 

「偉いわね。一人で生きていくなんて」

「いえいえ。これぐらい慣れっこですよ。取り敢えず今夜中にここを出発して東に向かいます」

「東?旅でもしてるの?」

「いえ。ビルが建ち並び、人が大勢いる『東京』という場所を目指しています」

「!?」

猫娘は驚きのあまり立ち上がる。そして恐る恐るこの場所を聞いた。

 

「えぇと…ここって何県…?」

「長野県ですね。位置だと南アルプスらへんです」

すると猫娘は頭に地図を思い浮かべた。南アルプスとなれば長野県の端だ。東京へと行くとなるとバスが思い当たるだろう。

「バスでいくの?」

そう質問した時、驚くべき答えが返ってきた。

 

「徒歩です」

「え…えぇ!?嘘!?徒歩!?バス 使わないの!?」

「お金が勿体無いですから。それにたった3日ぐらい歩けば着くので」

「3日!?」

更なる衝撃が猫娘に走る。大人でさえも途中で休憩、野宿を挟んでも5日以上は掛かる距離をこの子は3日で着くと言った。ここまで来るとこの子は本当に人間の子なのか怪しく思えてくる。

いや、怪しくはない。 私は先程から微量に感じ取れる妖力に疑っていたが、この言葉で確信した。

 

「もしかして…アンタ…妖怪…?」

その言葉と共に少年は笑みを浮かべながら応えた。

 

「えぇ」

 

 

 

 

「…!?」

私はその笑みからすぐさま戦闘態勢をとる。本能が反射的に私の身体へ命令したのだ。『離れろ』と。その子から僅かながら感じた妖気は私が前に感じたものと酷似していた。そこら辺にいる妖怪よりも更に濃い妖気。まさしくこの少年は『アイツ』だ。

 

「(こ…コイツ…まさか…)」

その時だった。

 

私のいた空間が歪み出した。

 

「ちょ…!?何これ!?」

私の足場はなくなり、辺りは少しずつ黒く染まり始めた。

 

目の前にいる少年の姿も少しずつ歪み始めた。

 

 

 

私は脚を動かしその子…いや、そいつへ向かって走り出し叫んだ。

 

「待って…!待ちなさいよ!………『龍崎』ッ!!!」

 

その叫びを最後に私は夢の世界から現実へと引き戻された。

 

ーーーーーーー

 

そしてその同時刻

 

「!」

龍崎も目を覚ました。頭の中には幼少期の頃の記憶が映されていた。

 

「…変だな…なんで猫が出てきたんだ?」

見ていた夢に突然 見慣れた女性が現れ龍崎は首を傾げた。何とも不思議な夢だった。昔の自分の姿を見ている時、突然 後ろから猫娘が現れるとは。

 

「何故だ…?奴とはあの時 会った覚えはねぇんだが…ま、いいか」

起き上がるとアパートを出て行った。

 

ーーーーーーー

 

「!」

目を覚ますと枕返しの住処である小屋にいた。周りにいる皆は寝ておりまだ夢の中の世界のようだ。

 

「……なんで……子供の頃の龍崎が…?」

私は先程見ていた夢を思い返した。私は過去に会っていたのか?いや、それはない。これも枕返しの能力なのか?

何も理解できず、私はただ皆の帰りを待つだけであった。

 

 

 

 



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バイト

「お…おいなんだよ斎藤。こんな時に呼び出しやがって」

夜の東京の使われていない廃ビルに 数十人もの若者達が集まっていた。どの若者も金髪に茶髪にピアスといった 印象の悪い者達だった。

 

そんな中で、ソファに座り自分の義手を憎々しく掴みながら斎藤は怒りの声で言う。

 

「龍崎を…あの野郎をマジでブチ殺してやるんだよ」

前回 龍崎に一番酷い目に遭わされたにも関わらず彼は反省していなかったのだ。彼は自分の情報と金を駆使して、都内中から、武闘派のガラの悪い高校生を集めていた。

その中には 高校を中退した者、鑑別所から出た者、はたまた前科を持つ者達 ばかりであった。

 

「ちょいとばかし…先輩方に頼まれてくれませんか?コイツを連れてきて欲しいんです」

そう言い斎藤は写真を男達へ渡した。

「何だコイツは?」

「最近 関東で名を轟かせている『帝王』です。先輩方にも覚えがありますでしょ?」

「そうだな。関東で知らねぇ奴はいないと言われてるからな。要するにこのガキを捕まえればいいんだな?」

「はい。そしてここに連れてきてください」

「なら、それ相応の見返りをもらうぞ?」

「報酬としては一人5万でどうですかい?」

斎藤に提示された報酬に男達は頷く。

 

「では、お願いしますよ。ただ、今はやめておいた方がよろしいです」

「何故だ?」

「とっておきの餌がまだ見つかっておりませんので…」

そう言い斎藤はスマホの写真を見た。そこには街中を歩く猫娘の姿が写っていた。

 

 

ーーーーーーーー

 

ある休日

 

龍崎は動物園でバイトをしていた。しかも、本来 バイトにはやらせてくれない動物への直接の干渉をさせてもらっている。それは、全部の動物が龍崎に懐くというより、手懐けられているからだ。

 

「ぐぅぅ〜」

「分かったから。そんな顔を擦りつけんなよ」

史上最大の肉食獣であるホッキョクグマでさえも、龍崎を見た途端に懐き、顔を擦り寄せてきた。

休日なので、子供を連れてきた親達も、あまりにもの懐きっぷりに目を疑っていた。

 

「ほれ、魚だ」

「〜♪」

龍崎の投げた魚をホッキョクグマは嬉しそうに口でキャッチする。

 

「さて、シロクマはここで終わりと。次はライオンだな」

檻から出る龍崎をホッキョクグマは見送る様に見つめていた。因みに龍崎は主にライオンやシロクマといった大型の哺乳類や、ワニやカバなどと言った特級の危険生物の世話を任されていた。

 

ガチャン

ライオンの檻に着くと、龍崎は渡された餌である肉を辺りにいるライオン達へと投げた。するとライオンは次々とキャッチしていった。

餌をやり終えると、立派な鬣を持つ雄ライオンが寄ってきて、龍崎の肩に手を置くと顔を舌で舐め始めた。

 

「俺は食いもんじゃねぇよ。ほら、アンタの奥さん嫉妬してるぞ?」

「グルゥ!?」

見ると 高低差のある檻の下らへんから、そのライオンの番らしき雌ライオンが恨めしそうにこちらを見つめていた。

 

すると、その雄ライオンはアッサリと龍崎から離れていった。

「やれやれ。さて、次は…パンダっと」

そして檻を出ると次の檻へと向かっていった。

 

「いやぁ助かるよ。君のお陰で休日見にくるお客さんも増えてきたし」

向かう途中 園長らしき人に声を掛けられる。

「別に、俺がやりたくてやってるだけですよ」

そう軽く言うと檻へと向かっていった。

 

「ようし。お前ら〜竹だぞ〜」

そう言うと辺りに竹を置く。すると、パンダ達が集まり、竹をバキボキと音を立てながら噛み砕いた。

「よし食え食え。さてと、次は…ヒョウにコンドルにナイルワニ…まだまだたくさんいるな」

肩を鳴らしながらも龍崎は次の檻へと向かっていった。

 

 

ーーーーーーー

 

 

「ほら雅〜!早く〜!」

「はーい!」

動物園の入り口にて、雅は、友達と共に動物園に来ていた。まな も誘おうとしたが、鳥取県の境港へと出向いており、不在な為、いつもの4人ではなく、3人で来ていた。

 

「最初何見に行く?」

「じゃあライオン見に行こ!結構近いし!」

「賛成〜!」

3人は入場料を払うと中へと入っていき、近くにあるライオンがいるエリアへと来た。

 

「やっぱり雄ライオンって迫力あるねぇ…」

「うん。特にあの牙…すごいなぁ〜」

3人は目の前のカバーガラスの前を通るライオンに圧倒されていた。すると、餌の時間となり、飼育員が中へと入り、餌をライオンに投げ与えていた。

 

「凄い食いつきっぷりだなぁ」

「というか、あの飼育員さんも凄いよね。よくこんな怖いところに入れるよ」

「ねぇ。………ん?」

そんな中、雅は目を疑った。自分の見間違いか?と思い一度 目を擦り、もう一度見てみる。

 

「ねぇ…あの飼育員さん、どっかで見た事ない?」

「「え?」」

3人はライオンに懐かれている飼育員をジッと見つめる。

 

「あれ……もしかして龍崎君じゃない…?」

「もしかしてなくても…龍崎君だよね…」

「うん…」

3人は口々に龍崎である事を言う。

 

「まぁでも見間違いか。バイトで餌やりなんてさせてもらえないし」

「そうだね。人違い人違い」

「そう…かな?」

雅は若干 疑いながらも2人に合わせる。

 

ーーーーーー

 

「次 何見に行く?」

「う〜ん…取り敢えず何か食べよ」

3人は園内を歩き回った事に疲れたため、軽い食事を取ろうと、近くの喫茶店へと入る。

店内はとても賑わっており、家族連れやら、カップルやらで溢れていた。

 

そして、3人は食事を済ませていると、園内へ放送が流れた。

 

『ただいまより、中央広場にて、『トラとの触れ合い』を開催します。トラと直接 触れ合う事ができるので、興味のある方は是非いらしてください』

とんでもない放送に皆は興奮した。

 

「トラとの触れ合いだって!」

「行こう行こう!」

3人はすぐさま店を出ると中央広場へと向かった。

 

ーーーーーー

 

カチャン

 

「よし。行くぞ」

龍崎はトラの柵を開けると二匹のトラを選抜し、檻から出した。

 

「グルル……」

「ん?嫌なのか?触られるの。まぁそう思うのも仕方ない。まぁいいだろ?今日は最高級の肉 やるからさ」

「グル♪」

肉に反応したのかトラは喜び龍崎の肩に抱きつく。

 

「分かった分かった。ほんじゃ、2人ともちゃんとサービスしてくれよ」

そう言い龍崎は紐 なしでトラ達を中央広場へと連れていった。

 

ーーーーーー

 

 

一方で中央広場は既に人がたくさん集まっており、雅達は人混みの中 トラを待っていた。

 

「やっぱ人 いっぱいだね…」

「そりゃあそうだよ。生のトラに触る機会なんて滅多にないしね」

「でもよくよく考えるとちょっと怖いな。襲われたらどうしよ」

「ビビり過ぎだよ雅。ちゃんと手懐けられてると思うよ」

すると、後方にいる人達がいきなり騒ぎ出した。

 

 

「ぅおお!?」

「きたぞ!?」

「……てちょっと待てよ…縄つけてねぇぞ!!」

見るとそこには紐無しで、ほぼ放し飼いの状態で飼育員の後をついてくる二匹のトラが見えた。周りの人達はあまりにも予想外な出来事に次々と写真を撮り出す。本来動物はフラッシュは苦手だが、スマホで撮るものが多いのでそこの所は心配は無かった。

 

雅達はトラに目がいきすぐさま周りにい集まった。すると、飼育員の人がマイクを持つと呼びかける。

 

「え〜本日はトラの触れ合いに来てくれてありがとうございます。それでは、皆さんにご紹介しましょう。まず右の子はベンガルトラの『アム』君で、こっちはベンガルトラの『シマラ』ちゃんです。では、小さい子を優先してお好きに触れ合ってください」

 

すると、周りの小さな子達が次々とトラの周りに集まった。

 

「うぉ!すげぇ!」

「カッコいい!」

「毛がふさふさしてる〜!」

好奇心旺盛な子供達は次々にトラに触りまくる。そんな中、雄のアムは目の前にいるが、怖がって近づかない女の子にゆっくりと顔を近づけると顔を舌でペロリと舐めた。

 

「うわぁぁん!!怖いよ〜!」

するとその子供は泣き出し、親の元へと走っていった。

 

「あはは。やっぱり怖いよね。いきなり舐められちゃうと…」

「でも懐いてる証拠だよね」

雅達はその光景を見ながら早く触りたいと思いワクワクとしながら順番を待っていった。

 

そして、順番が回ってくると、雅達は早速 トラの毛に触れる。

 

「うわぁ!凄い!フサフサしてる!」

「写真写真!」

3人は雌のシマラを背景にスマホで写真を撮る。

 

「でも、本当に大人しいよね」

「どんな訓練してるんだろ…」

雅や皆は不思議に思いながらもトラの鼻の上を撫でる。すると、トラは雅の手に顔を擦りつけてきた。

 

「わわっ!?」

「おや、懐いてますね」

その光景を見た飼育員は微笑ましそうに言ってきた。

 

「シマラがそこまで積極的に懐くのは珍しいんですよ」

「へぇ〜。そうなんで……え!?」

3人は飼育員の顔を見て驚く。なぜなら、飼育員をしていた者は同じクラスの『龍崎』だったからだ。

 

「龍崎君!?」

「おや、貴方方は」

龍崎も皆がいる事に驚いた。

 

「なんでここに!?」

「そりゃバイトですよ。休日は稼ぎ時ですからね」

「だからってハード過ぎない?トラと一緒に歩いてて怖くなかったの?」

雅の質問に龍崎はシマラの顎を撫でながら答える。

 

「えぇ。怖くありませんよ。動物は普通に接していれば仲良くなれます。こんな感じに」

すると、シマラの顔が少しずつトロけて、最終的には地面に寝転んでしまった。

 

「す…凄い…ちょっともう一回…」

雅がもう一度 撫でようとした時

 

「グァ!」

「きゃぁ!?」

シマラが突然 状態を起こし雅の肩に前足を乗せてきた。襲われるかと思い目を閉じていたが、みると、シマラは雅の顔を舐めていた。

「相当 懐かれてますね。あなたの撫で方が気に入ったんでしょう」

「そ…そうなんだ」

「グルル♪」

シマラは嬉しそうに雅の頬に積極的に頬を当てにきた。

 

 

すると、横のアムの触れ合い場で騒ぐ声が聞こえた。

「すっげぇ!マジで大人しいぞこのトラ!」

見ると1組のカップルのうち、彼氏と思わしき高校生ぐらいの男性がトラの上にまたがっていた。

 

「きゃ〜!よっちゃんカッコいい〜!」

彼女と思わしき女性はその姿をスマホで次々と連写していった。一方でまたがっているトラのアムは不機嫌そうな表情をしていた。

 

「アーアア〜!!」

まるで自分がターザンになったかのように騒ぐ男性に周りの人達は少し引いていた。だが、そんな事は知らずに、男はまるでロデオでもしているかのように身体を上下に揺らした。

 

「あれはちょっとねえ…」

「うん。アム君が可愛そうだよ…」

 

すると、

雅に抱きついていたシマラは雅から離れ、乗っている男に近づくと服を引っ張り引き摺り下ろした。

 

「おわっ!?何すんだよ!」

引き摺り下ろされた男性は起き上がるとシマラを睨んだ。

 

「グルル……」

一方でシマラも 親友であるアムに嫌がらせをした事にたいして、怒っており、唸っていた。このままでは、シマラは確実にこの男性を襲うだろう。そう思った龍崎は間に入る。

 

「お客様、触ってもいいとおっしゃいましたが、なにも乗っていいとは言っておりませんよ」

「はぁ!?別に触るも乗るも同じだろ!?大体なんでだよ!さっきの子供 は乗ってたじゃねぇか!」

「小学 低学年以下の子供だからいいんです。大人もいいだなんて一言も言っておりませんよ?それに、そこに書いてあるじゃないですか。デッかく」

そう言い龍崎は看板を指差す。見ると『トラへ乗ろう』という文字の下に、『対象年齢は小学生低学年以下または身長120cm以下とさせていただきます』と赤い文字で書かれていた。

 

「はぁ!?全然分からねぇじゃねぇか!テメェ舐めてんのか!?」

「ん?」

男性は完全にキレたのか龍崎の胸ぐらを掴んだ。その時だった。

 

「グォォッ!!」

「うわぁぁ!?」

雄のアムが飛び出し男性を地面へと押し倒した。すると、雌のシマラも参戦し、二匹で男性の顔へ牙を近づけた。

 

「た…助けて!怖い!怖いよ!死にたくねぇよ!!」

「よっちゃん!?ちょっと!飼育員!何とかしなさいよ!」

連れの女性は龍崎に詰めかかる。が、龍崎は「よく見てください」と言い、男性の頭部を指差した。

 

よく見ると、二匹は男性を襲っているのではなく、顔を舐めていた。

「ただ舐めてるだけですよ。この子達は少々 悪戯好きでしてね。こうやって、襲うと見せかけて舐めるというのがよくあるんですよ」

説明すると、龍崎は二匹を離れさせた。

だが男性は完全にビビっており、ズボンから液体を流しており、龍崎の隣にいる三人は少し引いた。

 

「お客様。すいませんがここでマーキングはやめてくださいよ?」

「く…くぞぉぉぉぉ!!!!」

男性は泣き叫びながら女性を置いて入口の方へと走っていき、女性も後を追っていった。

 

「まぁ自業自得だな」

そう言い擦り寄ってきたアムの頭を「偉いぞ」と言いながら撫でる。

 

「さてと、あのお客さんの所為で貴方達の前のお客さんはどっかいったし。ここいらで閉めるか」

龍崎はシマラに指で帰る仕草をすると、後をついてきた。

 

「では、3人はゆっくり楽しんでいってください」

『う…うん…』

先程の出来事に3人は若干冷や汗を流しながらも、手を振り見送った。

 

「何て言うか…龍崎君って…何でもできちゃうよね…」

「うん…勉強もできてスポーツもできて喧嘩もできて 猛獣も手懐けられるし…」

「逆に何でもできすぎて少し気持ちが悪い…」

 

改めて三人は龍崎の恐ろしさというより、気持ち悪さを目の当たりにするのだった。

 

 

 

 



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境港へ

動物園のバイトから翌日

 

龍崎は現在 まな がいると言われている境港へと来ていた。その理由は炎谷に呼ばれたからである。東京から幾つもの山を越え、およそ5時間を掛けて境港へと着いた。

 

来るように指摘された港へと着くと、Tシャツにボンタン、そして頭にタオルを巻いた炎谷が現れた。

「よう龍崎。久しぶりだな!」

「あぁ。んで?呼び出した理由はなんだ?」

「あ?そりゃあ花火だよ花火。境港の花火は結構すげぇからな。礼も兼ねてビールとか蟹食いながら見ようぜっと誘った訳だ。“他の奴ら”にも声を掛けたが3人全員忙しいっていう理由で断られてな」

「それでか…まぁいい。久しぶりに休むのもありか」

溜息をつくも、最近 東京の不良や、幽霊を相手にして少し疲れていたので、休暇としては丁度いいと思い了承した。

 

「よし!ほんじゃ、まずなんだが…地引網のてつだ___ぶべぇらッ!?」

喋ろうとした炎谷の頬に龍崎のパンチが炸裂する。

 

「はぁ?まさか用意されてねぇのか?準備段階で呼んだのか?もしかして手伝わせる為に呼んだんじゃねぇだろうな?だとしたら断った奴らに大体 察しがつくぞ?」

そう言い第2発目を放とうとする。

「待て待て待て待て!?それは謝るから!取り敢えず話を聞け!」

 

ーーー説明中ーーーー

 

「なに?この 昨日から漁に出かけた奴らが行方不明だと?」

「あぁ。なんでも、網を仕掛けに出かけた漁船の人達が全員 な。だから、調査に手伝ってほしいんだよ」

結局またもや依頼かと龍崎は舌打ちをする。

 

「休めると思ったのにこれかよ」

「頼むって!お詫びに取れた海の幸は無料で食い放題にするから!な!?」

無料という言葉に龍崎はアッサリと惹かれてしまう。無料で食い放題と言われては乗らない訳にはいかない。そう思い依頼を受ける事にした。

それに炎谷は強大な力は持っているものの、水の中だと無力と化してしまう。それ故に仕方ないと思っていた。

 

「まぁいいだろう。取り敢えず案内しろ」

「おぅ」

 

ーーーーーーーー

 

龍崎は炎谷の案内の元、 浜辺に繋がる高台を歩いていた。見ると海は黒く濁っており、濃い妖気が感じ取れる。

 

「汚ねえな」

「元は綺麗だよ。取り敢えず ここから船を出して調査するぞ」

そう言い浜辺に着くと、遠くに少数であるが、十人程 人が集まっていた。その中にはなんと、旅行中のまな もいたのだ。

 

ーーーーーー

 

「大丈夫?まなちゃん。何があったの?」

海面から這い上がってきたまな を伯母であるリエが上半身を抱き上げ、安否を確認していた。まな は何とか息を整えると話し出した。

 

「妖怪が…妖怪が現れたの!」

「妖怪?」

「うん」

まな は起こった事を話し出した。船へ乗り、行方不明の皆を見つけようと辺りを見渡していた時 突如 辺りから白装束を着た謎の幽霊の集団が現れ船へと乗ってきたのだ。同伴していた者たちは皆 海へ引きずり込まれ、自分も引きずり込まれそうになっていた時、その中の1人に抱き抱えられ、浜辺側へと放り出されたのだ。そのお陰で、幽霊達に気付かれず、浜辺へと戻ってくる事ができたのだ。

 

「ッ!」

そして、 まな はもう一つ気づいたのだ。自分の服の中に野球ボールが入っており、それは伯父である庄司が肩見放さず持っていたボールだった。

 

「(まさか逃してくれた妖怪は…庄司おじさんだったの…!?)」

そう思った時

 

 

「お〜い。皆さんお揃いでどうしたんですか?」

遠くから手を振りながら2人の男性が歩いてきた。

 

「あれ?炎谷さんじゃない」

「へ?誰?」

「最近 越して来た人でね。漁業をやってる人なのよ」

「へえ…そうなん……ん!?」

まな は炎谷の他にもう1人の男性を見た瞬間 驚いた。なぜなら、そのもう1人いた男性はクラスメイトであら龍崎だからだ。

 

「り…龍崎君!?」

「ん?なんだ、お前もいたのか」

龍崎はもうめんどくさいのか、敬語ではなくタメ口で話し出した。

 

「あれまぁ。こりゃ酷いな。真っ黒じゃないですか。何があったんですか?」

すると、まなは炎谷にあった事を話し出した。

話が終えると炎谷は龍崎を連れ漁船がある方へと向かった。

「ちょいと俺達 も調査してくるんで漁船 一隻貸してもらいますよ」

「だ…ダメ!行ったら炎谷さんも引きずり込まれちゃいますよ!?」

「ハハ。大丈夫だよ嬢ちゃん。こう見えてお兄さん 強いから」

そう言うと浜辺から姿を消していった。

 

「どうしよ…また1人犠牲者が出ちゃうよ!」

その時 空からカラスの鳴き声が聞こえ、見上げると大勢のカラス達が引っ張る 紐に捕まりながら降りてくる鬼太郎の姿があった。

 

ーーーーーー

 

一方で、船場へと着いた2人は一隻の漁船に乗るとエンジンをかけた。

 

「いくぜ?」

「あぁ」

そして船は発進し、黒く濁る地点へと向かった。

 

「どうだ?何か見えたか?」

操縦席から炎谷が聞いてくる。甲板で海を見渡している龍崎はまだ何も見えないといい 捜索を続けた。

 

しばらく捜索をしていると、遂に目的の地点へと着いた。

 

「さて、ここいらで俺も調査開始するか」

炎谷もエンジンを停止させると辺りを見回した。

 

その時

 

「柄杓をくれぇ」

「柄杓をくれぇ」

地の底から響いてくる不気味な声が辺りから聞こえてきた。

 

「なんだ?遭難者か?」

「違ぇよバカタレ。コイツらは『船幽霊』だ。言われた通りに柄杓をやると海水を掬って沈没させようとしてくるんだ」

「はぁ。なんとも傍迷惑な奴だな。んで?どうする」

すると炎谷は何かを取り出した。

「そこで、これだ。底の抜けた柄杓を渡すんだよ」

そう言い伸びてくる無数の手にそれぞれ用意した柄杓を渡した。すると、船幽霊達は水を掬い漁船を沈めようとするが、渡された柄杓が底抜けなため、沈める事が出来なかった。

 

「なるほどな」

すると船幽霊達がだんだんと海の中へ消えていった。

「んで、去っていくと。いやぁ海の妖怪 調べておいてよかったぜ〜」

 

その時、 不気味な琵琶の音がその場に響き渡った。

 

 

ーーーーーー

 

「なに!?龍崎が!?」

まな から事情を聞いた鬼太郎は驚く。

 

「うん。炎谷っていう人と一緒に…」

すると

 

ブゥゥゥゥン

漁船のエンジン音がし、皆が目を向けるとそこには黒い海へ一隻の漁船が出ていた。

 

「どうしよ…一緒に乗ってる炎谷さんって人 一般人だよ!?」

その時

 

ドォオオンッ!!

 

龍崎の乗っていた漁船が巨大な水柱を吹き上げながら海の底へと飲み込まれていった。

 

「うわぁぁ!炎さんの乗ってる船が飲み込まれたぞ!?」

「大変だ!また犠牲者が出ちまった!」

皆が慌てふためく中、鬼太郎は自身も行くと言い 筏(いかだ)を見つけるとそれに乗り込んだ。

 

「まな 達は危険だから絶対に来ないでくれ!」

「ちょ!?」

止めようにも既に手の届かない地点へと出ていってしまった。

 

「どうすれば…」

その時

 

「ぶばぁ!」

『うわぁぁ!?』

海面からダイバー服を纏った謎の男が現れた。

 

「やれやれ、マジで最悪だぜ。数時間も探索したのに1円一枚もねぇや」

そう落胆しながら男は被っていたマスクを外す。なんと、ねずみ男だったのだ。恐らくだが、海の中で金目の物を探していたのだろう。

 

「ねずみ男さん!?」

「お?まなちゃんじゃねぇか」

 

 

 



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境港の人々の絆

海へと出た鬼太郎は筏を漕ぐ。すると、周辺から船幽霊達が姿を現した。

 

「鬼太郎!」

「はい」

鬼太郎は親父から教えてもらった豆知識である船幽霊の対策を実行した。それは炎谷がやった事と同じ底抜けの柄杓を渡す事である。

目玉親父の言う通りに鬼太郎は柄杓を渡す。すると、先程の龍崎達と同じように船を沈める事が出来ないと船幽霊は理解し、全員 海の中へと消えていった。

 

その時だ。

 

ベーンッ ベーンッ ベーンッ

 

数メートル離れた地点で渦が巻き起こり、その中から不気味な琵琶の音が聞こえてきた。そして その中からは青白い身体を持ち、琵琶を手に持つ老人が現れた。

「やはり貴様か。ゲゲゲの鬼太郎よ」

「お前は……『海座頭』!」

「やはりお主の仕業だったか…!皆を船幽霊にしたのは!」

「その通り。海底に沈んでいる船の財宝を手に入れる為に境港の住人を我が僕にしたのだよ!」

「なんだと!?そんな事が許されると思っているのか!?」

「フン!知った事か!ようやく長い封印から目覚める事ができたんだ!邪魔はさせぬ!」

そう言うと海座頭は琵琶へと手を掛けた。

 

「貴様らも海へ沈むがいいッ!」

ベンベンベンベンベンッ!

 

弾かれた琵琶の音色は脳内へと響き渡り頭痛を巻き起こした。それと同時に周辺の海水が湧き上がり今にも鬼太郎を飲み込もうとしていた。

 

「くっ…!」

その時だった、

 

「鬼太郎!」

「まな!?」

すぐ近くに漁船が現れ ねずみ男を乗せたまな が姿を現した。

 

「鬼太郎!今から境港の皆と一緒に庄司おじさん達の魂を取り返すから!」

そう言うと持っていた携帯を隣にいるねずみ男の耳へ当てる。

 

『こんな時くらい役に立ちなさいよね!』

「わ…わかったよ!行きますって!」

どうやら猫娘達も来ているようだ。ねずみ男は潜水服を着用すると、黒い海へと飛び込んだ。

 

だが、それを見逃す程 海座頭は甘くはない。

 

「何をやっているだ船幽霊供!奴らを仲間にせぬか!」

ベーンベーンッ!

 

琵琶を弾くとそれに呼応するように船幽霊達は海へと潜る。

 

一方でねずみ男は魂が封印されている倉庫らしきモノを見つけると、その引き出しの取手へ碇を掛けた。

そしてすぐさま海面へと上がると まな へ合図をする。

 

「よし!リエおばさん!準備できたよ!」

『はいよ!皆いくよ!」

『『おおおお!!!』』

 

浜辺でまな の合図を受け取ったリエは皆へと呼びかけると一斉に綱を引いた。だが、扉は簡単には開いてはもらえなかった。

 

「うぐぐぅ……重てぇ…!」

「こんだけの人数で引いても開かねぇのかよ!?」

10人以上もいるのにも関わらず、扉が開く気配は無かった。

 

それどころか、徐々に海へと引かれていった。

 

「なんだ!?引っ張られてるぞ!?」

「どうなってんだ!?」

 

引っ張らるモノの正体は船幽霊達だ。扉を開けさせまいと皆が引っ張るひもを逆に引っ張り返し、全員を引きずり込もうとしているのだ。

 

「うぐぐぅ……無理だ…!」

「どんどん引っ張られる…!」

「負けるな…!皆…!」

脚を地面とは鋭角になすように後方に状態を落とし踏ん張ろうとするが、どんどん綱は引っ張られていった。

 

その時 皆の頭上を白い反物が飛んだ。

「ようやく間に合ったな!」

その声と共に 曇りが晴れ青空が見える空に一反木綿に乗った猫娘 砂かけ婆 子泣き爺が姿を現した。

 

「もう!一反木綿ったらほんとスピード出ないんだから」

「しょうがないばい。重い女二人と石の爺を乗っけてるから」

「なんじゃと!?」

「なんですって!?」

 

そんなやり取りをしていると網を持つ最後尾の人の後ろの砂が盛り上がり 腰に綱を巻きつけたぬりかべが現れた。

 

「ぬりかべ!」

 

砂かけ婆達は一反木綿から飛び降りるとすぐさま網を持つと叫んだ。

 

「ほれ!いくぞ皆!」

『おおおお!!』

砂かけ婆の呼びかけに皆は答えるとすぐさま綱を引く。そして、重量がトンにも達するぬりかべは皆が引っ張ると同時に後ろへ思い切り倒れる。

 

「ぬりかべ!」

 

その瞬間 ぬりかべの体重に綱が全て持っていかれ、海中にいる船幽霊も同じ反動で引っ張られた。

 

結果

 

 

ドバァァァンッ!!!

 

扉を破壊したと同時に綱を持っていた船幽霊達は青空が指す海面へと放り出されたのだ。

壊された倉庫からは捕らえられた魂達が脱出し、それぞれ自分の肉体である船幽霊へと宿った。すると、皆は次々と人格を取り戻し海面へ顔を出した。

 

「ぷはぁ!助かったぁ!」

「死ぬかと思った…」

 

ーーーーーー

 

一方で 魂を解放された事で手駒を失った海座頭は眉にしわを寄せると激昂した。

 

「おのれぇぇ!!よくも邪魔をしてくれたなぁぁ!!許さんぞッ!!」

ベンベンベンベンベンッ!

とてつもない速さで琵琶を鳴らすと鬼太郎の乗っている筏を中心に渦巻きが発生した。

 

「沈むがいいッ!!」

「ッ!」

そして海座頭は身動きが取れなくなった鬼太郎へ向け、他の海面から水を巻き上げると鬼太郎へ向けて放とうとした。

 

 

 

 

 

その時だった。

 

 

 

 

 

「「おい」」

 

 

 

ガシッ

 

 

 

「…ッ!?」

何者かが海座頭の肩を左右から掴んだ。その掴む握力に海座頭は驚き 琵琶の動きを停止させた。よって鬼太郎を襲う渦巻きはなくなった。

そして海座頭は汗を流し震えながらゆっくりと振り返る。

 

そこには

 

「てめぇ…よくも海に落としてくれたな…?財布がビチョビチョになった所為で千円札と万札が散り散りになっちまったじゃねぇか…?」

「こっちも同じだよ…。どうしてくれんだ…?」

海に飲み込まれ行方をくらませていた龍崎と炎谷が怒りの表情で海座頭の肩を掴んでいた。

 

「あぁ…そのいや…年寄りのした事だから穏便に…」

 

「年寄りだからって何でも許されると思ったら…」

「大間違いなんだよ…!」

そして二人は拳を振りかぶると

 

 

「「このクソ爺がッ!!!」」

バァァンッ!!

「ぐばぁ…!?」

 

一斉に海座頭の両頬へストレートパンチを放った。

見事に打ち込まれた拳に海座頭の身体は妖気を放出し魂だけを残し消滅した。

 

ーーーーーーーー

 

 

ヒュ〜

ドーン! ドンドーンッ!

 

「おぅ?デカイのが上がったな」

あれから海坊主の件は終わり、皆はそれぞれ祭りの準備に取り掛かった。都会から帰ってきた若者達はアイドルへの出場依頼、そして屋台の用意。この地にずっと居続けてきた者達は名産の海の幸を捕獲するために漁へと出かけ それぞれ役割を分担していった。

 

そして、準備が終わり、県外からも多くの観光客が訪れ、花火が間近で見れる港は多くの人で溢れていた。

その中で 龍崎は祭りの本部のテントで打ち上がる花火を見ながら蟹を食べていた。

 

「ハッハッハッ。やっぱビールを飲みながら見る花火は最高だな!」

そう言いながら炎谷は缶ビールを一缶一気に飲み干した。

「お!?炎さんいい飲みっぷりだな!」

「これでも酒は強い方なんでなぁ!」

「「ハハハハハ!!!」」

完全に酔っている様で実行委員と共にワイワイと騒いでいた。

 

「まぁ…たまにはこう言うのもいいかもな…」

やれやれと苦笑しながらも内心 少し楽しんでいた龍崎は空に浮かぶ花火の大群を見ながらうっすらと笑みを浮かべた。

 

 

 



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復活する者達 

翌日 陽が上がり始めた午前5時ごろ 龍崎は目を覚ました。

 

「ふわぁ…」

窓を開けるとまだ明け方の街を陽が少しずつ照らしていた。

 

「腹減ったな…」

昨日は結構食べたが、代謝が激しいのかすぐに腹は空で泣いていた。

 

「取り敢えず朝食まで時間あるから外でも行くか」

財布と携帯を持つと ロビーへ移動し、港へと歩いて行った。

 

ーーーーーー

 

朝日が照らす港はとても綺麗だった。海からくる潮風が顔へ辺り眠気を覚まさせてくれる。

その景色に惹かれた龍崎は何十分かその場で胡座をかき、海の先を見つめていた。

「ま、朝食なんていっか。早いとこ帰ろ…と」

 

ーーーーーー

 

一方で 龍崎の他にも泊まっている者がいた。

 

「んん〜!」

猫娘だ。別の部屋ではあるが鬼太郎も同じホテルに泊まっていた。彼女達は最初はまな に誘われたが、流石に迷惑だと思いホテルを借りたのだ。因みに彼らは龍崎が同じホテルにいる事を知らない。

 

朝の日差しに照らされた猫娘は背筋を伸ばしながら起きた。いつもはシニヨンにしている髪型が解かれており長くしなやかな髪が流れていた。

「ふわぁ〜…今は…6時か」

時間を確認しながら猫娘は部屋のカーテンを開け朝日に照らされる海の景色を見た。

 

「綺麗………ん?」

よく見ると誰かが堤防に座っていた。その人物をよく見た瞬間 猫娘は驚く。

 

「(龍崎…!?なんでアイツがこのホテルに!?)」

驚くのも無理はないだろう。昨日は 龍崎はずっと妖気を潜めていたのだから。見つめていると 突然 こちらを振り返ってきた。

 

「!?」

シャッ

目があった瞬間 すぐさま猫娘はカーテンを閉めた。

 

「き…気づかれた…?いや、ないない。結構 距離あるんだし…取り敢えず朝ごはん食べに行こ」

猫娘は部屋を出ると鬼太郎を起こしに向かうため 一階下へと降りた。

 

「鬼太郎。ご飯食べよ」

「あ〜……先に行っててくれ…」

「はぁ〜…わかったわよ。(鬼太郎って確か 早起きが苦手だったのよね)」

やれやれとため息をつきながら猫娘は自室へと戻ろうと階段の方へ向かった。すると前から半袖に学生ズボンというラフな格好の少年が歩いてきた。

その時だった。

 

「…!」

その歩いてくる人物を見た猫娘は身体を硬直させた。その歩いてきた少年は龍崎だった。警戒する猫娘に対して龍崎は軽く手をあげ挨拶してきた。

 

「ほぉ?お前もこのホテルだったのか」

「そ…そうよ。何か文句でもあるの?」

「別に。文句も何もねぇよ。それよりさっき見てたろ?妖気がダダ漏れだったぞ」

「うぅ…」

先程見ていた事を言われ苦い顔をする。

 

「見る時は普通 妖気を隠すだろ。人間なら気付くのに数秒かかるが妖怪の場合はすぐに感知される。これぐらい常識だぞ。それにまた妖気を応用さえすれば背後からの攻撃だって回避できる」

「う…うるさいわね!何でアンタに説教されなきゃなんないのよ!」

見ていた事よりも見ていた時の態勢を何故か指摘されている事に猫娘はムカムカとし、怒鳴った。

 

「ハッ。弱いからアドバイスしてやったんだよ。そんぐらい出来なきゃこの先来る闘いからは生き延びれんぞ?」

「何でそんな話になんのよ!全然意味が分かんないわ!」

「分かんないんだったら、いいさ。これから分かる。それと、今の事は鬼太郎にも伝えとけよ?」

 

 

 

ーーーーーー

 

 

「さて、早く戻るか。土産は充分にもらったし」

海の幸が入った袋を持ちながら龍崎は空へと飛び立った。龍の血を引いている故に 空を浮遊する事ができるのだ。

 

風を切りながら迫り来る風圧をものともせず龍崎は東洋の龍のように空を駆けた。

 

「よっと」

長野県付近にある日本の屋根である山脈の頂上へと着地し、ジャンプ台として強く踏み出す。

 

そして、およそ3時間後 龍崎は東京へと戻ってきていた。

 

ーーーーーー

 

一方で龍崎が去った境港では、実行委員と共に呑んだくれて自室ですっかりと寝てしまった炎谷が目を覚ました。

 

「ふわぁ〜!!結構寝ちまったなぁ〜。ん?龍崎の気配が無くなってるな。ったく、挨拶ぐらいしてけっての」

そう言い龍崎が去った事を悟ると起き上がり作業服へと着替えた。

 

「さてと、今日は何が獲れるかな」

大きな荷物を背負うと改築した家を出て、港へ着くと師匠らしき男性と漁船へと乗った。

 

「親方〜!準備できましたぜ〜!」

「おう」

エンジンをかけると、激しい音を立てながら発車した。

 

ーーーーーーー

 

港からすぐ近くの浜辺では鬼太郎や猫娘たちが寛いでいた。空から差してくる日差しがパラソルを立てているのにも関わらず 額を焼いてくる。

 

「あ…熱い…ぬりかべ〜。ちょうっと前に出てくれる?」

「ぬり」

猫娘のお願いにぬりかべは承知すると目の前にたち日差しを遮断する。

 

 

すると、 皆の目の前の風景に一隻の漁船が映った。

 

「あ!漁船が出てるわ!今夜も海の幸食べ放題かも!」

魚介類が大好きな猫娘は漁船を見て頬を染め上げる。そんな中 まな は何か 不思議に思っていた。

 

「どうしたの?さっきから」

「う〜ん」

隣にいる猫娘は不振に思い尋ねた。

 

「いや…昨日の祭りの後の閉会式の時に司会してた人いるでしょう?」

「あ〜。あの炎谷って人ね」

猫娘は姿を思い浮かべる。

 

「あの人がどうかしたの?」

「それがね…もしかしたら妖怪かもしれないんだと思って…」

「あら…まな も気づいてたの」

「うん…て、猫姉さんも!?」

「えぇ」

 

時は昨日

ーーーーーーー

 

「え〜。今回は、帰ってきた若者。そしてここに昔から住んでいる方々のお陰で今まで以上に楽しく愉快な祭りとなりました』

何故か大会役員でもない炎谷が縁に立っており、そこからマイクで皆へと呼びかけていた。というか、今まで以上と言っているが炎谷は今回が初参加である。

その様子を鬼太郎達はまな と共に見ていた。そんな中

 

「ッ…!」

 

鬼太郎は感じていた。その青年から放たれる獄炎の妖気を。

「父さん…」

「あぁ。あの炎谷という青年…おそらく妖怪じゃな」

目線の先には炎谷がいた。鬼太郎が感じた妖気は炎谷から発せられていた。だが、ただの妖気ではない。その発せられる妖気はまるで煮えたぎるマグマでさえも燃やし尽くしてしまいそうな程の超高温なものであり、一般の妖怪が強く感じれば燃え尽きてしまう程だった。

「なんでしょう…この身体が燃えそうな程の…熱い妖気は…」

「火を扱う妖怪でもここまでの熱は発しない。あの青年は一体…」

ーーーーーー

猫娘の話を聞いてまなはうなずいた。

「へぇ…そんな事が…」

「あの時は私も感じてたわ。あの炎谷って人…一体何者なのかしら…」

 

 

すると、

「お〜い!祭りで余った蟹 もらってきたぞ〜!!」

 

大きなザルに大量の蟹を乗せながらねずみ男が走ってきた。

 

ーーーーーー

 

 

「よぉ〜し!大量大量!」

一方で漁を終えた炎谷は打ち上げをしていた。上司から受け取ったビールを口に流し込むと体内に溜まった疲労を全て吐き出した。

 

「かぁ〜!ウメェな!やっぱ仕事終わりに飲むビールは最高だ!」

 

それから給料を貰うとその場から住宅街のある道へと出た。

 

「さて、帰ってまた酒でもっと……ん?」

道を歩いていると突然 曲がり角から巨大な僧侶が現れた。巨大といっても2メートルどころではない。3メートルはある。

その僧侶は顔を傘で隠したまま炎谷を見ると突然口を開いた。

 

「大足二足 小足八足 横行自在にて目は天をつく。これいかに…」

「…は?」

突然の問答。頭がバカな炎谷にとっては理解しがたいものであった。境港に来て間もないが故にこの土地事をよく知らないので、炎谷は馬鹿正直にこれも境港の文化だと解釈してしまった。

 

「成る程。大足二足……か」

炎谷は頭の中に該当するものを思い浮かべた。すると、ある…“虫”が思い浮かんだ。

 

「ッ!答えは『蜘蛛』だ!」

その答えは確かだ。一般家庭にいる蜘蛛で有名な女郎蜘蛛は足は8本あり、二本の牙を持っている。だが、一つだけズレているものがある。それは…目が天。つまり、上を向いていない事だった。そうとは知らずにハッキリと答えた炎谷は自信満々だった。

 

対して問答をかけた僧侶は大きく言う。

 

「否ッ!」

「!?」

その瞬間 その僧侶の口から白い泡が溢れ出し炎谷を包み込もうとした。

 

「危な!?」

咄嗟に炎谷は後方へ跳躍し、何とか回避した。見ると先程立っていた地点が石化していた。どうやらあの泡は触れると石になる効力があるようだ。

 

「へぇ。石にする妖怪か。50年前のメデューサ以来だな。まぁでも今は酔いが回ってるからちょいと御免だな」

そう言うと炎谷は人差し指と中指に妖気を集中させ炎を出し、合わせるとクイッと上げた。

すると 僧侶の足元の周りから炎が現れた。

 

「ぬぅ?」

「ちょいとばかし止まっててもらうぜ」

そう言った瞬間 現れた炎は一気に燃え上がり僧侶の姿を炎で包んだ。そして炎谷はすぐさまその場から跳躍すると屋根へ飛び乗った。

 

 

「じゃあな」

そこから一気に走り出すと屋根へ屋根へ飛び移りながら消えていった。

 

「ッ…彼奴は違うたか…」

一方で炎に包まれた僧侶は口から泡を出すとその炎を石にして破壊した。炎谷を追いかけようとしたものの 既に彼の姿は消えていた。

僧侶は青い空を見上げるとゆっくりと呟いた。

 

「姫様…何処に……」

ーーーーーーー

ーーーー

「ふむ…やはり奴の情報はあまり詳しく載っておらぬな…」

夜の神社の境内にて、ねずみ男が貰ってきた蟹を食べながら目玉親父たちは龍崎について調べていた。だが、確証のある情報は皆無であった。

 

 

 

「昨晩に見た彼の情報もあまり詳しくは載ってないわ。ただ…ある程度その人の正体が分かったかも…」

「ほ…本当に!?」

画面をスライドしながら呟く猫娘に鬼太郎は驚く。目玉親父が首を傾げると猫娘はある画面を見せた。それは、炎を扱う妖怪の一覧だった。見ればつるべ火や、サラマンダー等の海外の妖怪の事も記されていた。

その中でも猫娘はある名前を指差す。

 

「『炎獅子(えんじし)』……じゃと…!?」

その名を目にした瞬間 目玉親父は戦慄する。鬼太郎は炎獅子の事について聞くと目玉親父は話した。

 

『炎獅子』とは数ある獅子の中でも最も強い妖力を持つ獅子であり、身体に纏う炎は少し触れただけで瞬時にその物を燃やし尽くす程の火力を備えているのだ。しかも本気を出せば、豆粒程度の大きさで全てを燃やし尽くす焦熱地獄の炎と同等の炎を作り出す事ができのだ。

故に炎獅子をまともに相手にできるモノはごく少数である。

 

「んん…待てよ…?あの炎谷とかいう青年…龍崎と仲がいいように見えていたな……まさか…奴らは…!」

目玉親父はまたもや言葉を詰まらせた。普段はここまでの仕草を見せないので鬼太郎も少し表情を強張らせていた。

 

 

そして 目玉親父はゆっくりと口に出した。

 

その名を聞いた瞬間 猫娘と鬼太郎は身体をこれまで以上に震え上がらせたのだった。

 

 

「おいおい、俺抜きで何の話してんだよ?」

そんな中、トイレを済ませてきたねずみ男が興味があるかのように言いながら戻ってきた。それに対し猫娘達は事の内容を話した。

 

「龍崎や、炎谷っていう人について調べていたの」

「龍崎……?もしかして…あの時学校にいた奴か?」

「えぇ。アンタも知ってるでしょ?アイツの事」

猫娘の言葉にねずみ男はあの時の光景を思い出した。向かってくるヨースケを一切の手加減なく床に叩きつけるその行為は流石のねずみ男でも背筋が凍る程であった。

 

「確か名前の通り龍の妖怪だってな。んで?ソイツがどうかしたのか?」

未だに疑問に思っているねずみ男に目玉親父はまだ気づかんのか?と言う。

 

「お前は『龍』『炎獅子』と聞いて次に何を思い浮かべる?」

「は?龍…炎獅子……となると次は……ッ!」

ねずみ男は連想した事で何かを思い出し言葉を募らせた。顔からは汗を流しており心臓も鼓動が早くなっていた。

そしてねずみ男は恐る恐る口を開いた。

 

「おいおい嘘だろ…?……まさかあのチビが…」

 

その時だった。

 

「ぎゃぁぁぁぁ!!!」

『!?』

 

ホタテを取りに行っていた一旦木綿の叫び声が響いた。

 

 

 

 



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不気味な男

東京の上空にて、1人の仮面を付け、黒いマントを着用した不気味な男が 歩道を歩く社会人や学生達を見下ろしていた。

その人間一人一人から、黒いモヤが身体から滲み出ていた。

「ふ…ひひひひ…」

男は奇妙な声を上げながら笑うと、一人一人の人間から滲み出る黒いモヤを舐めとるように舌を震わせる。

 

誰もこの男の正体を知らない。誰も見た事がない。何もかもが不明なこの男は『謎』の塊であり、『妖怪』そのものでもある。

 

「ん…」

だが、そんな彼は地上をふと見た瞬間 一瞬にして姿を消した。

 

 

「ほぅ…?妖気を一瞬出しただけなのにすぐに気付きやがったのか。面白そうな奴だな。アイツ」

この男は気付いていた。誰も直視した事がない得体の知れない彼でもこの男の驚異的な視力と感知能力からは逃げられない。

 

龍崎はスクランブル交差点の中心から先程男がいた場所を見つめていた。

彼の鷹をも超える驚異的な視力は誰も逃さない。例えそれが液体の妖怪であろうと、透明なモノであろうと、彼の目は全てが見える千里眼のようなモノであるため逃れられない。

 

ーーーーーーーーーー

 

一旦木綿が石化された姿を見た鬼太郎達は言葉を失っていた。

 

「いったい誰が…」

見渡してみても。妖気を感知しようとするもそれらしき妖怪はどこにも見当たらなかった。

すると、

 

「あ〜あ。あの泡に当たるとこうなっちまうのか」

 

「!?アンタは!?」

後ろから声が聞こえ、見ると頭にタオルを巻いた青年がじろじろと一反木綿を観察していた。 猫娘は驚きの声をあげる。そこには龍崎と一緒にいた青年である炎谷が立っていた。

 

「貴方は確か…祭りで司会をしていた…」

 

「おぉ。ゲゲゲの鬼太郎か。初めましてか?」

鬼太郎に初めて会う炎谷は気さくに声を掛けると手を差し出す。

 

「俺の名前は炎谷 貫九郎。よろしくな?」

 

「あ…どうも…」

鬼太郎は 最初は警戒しようとはしていたものの、妖気が穏やかな事や殺気が全く出ていないので今は解いていた。

手を差し出し握手すると鬼太郎は何か知っているのかと思い尋ねてみる。

 

「炎谷さん…貴方は…何か知っているんですか?」

 

「おぅ。確か昨日、でかい坊さんがいてな。ソイツに問答みたいなの掛けられて答えたら泡出してきたんだよ。まぁ、すぐ逃げれたけどな」

 

「むむ?問答に泡じゃと?」

『泡』そして『問答』に鬼太郎の頭に隠れていた目玉親父は何かを思いついた。

 

「まさか其奴……」

 

「おぉ?何か知ってんのか?」

 

「あぁ。確か…」

 

その時だった。

 

 

 

 

 

_____チリン

 

鈴の音が聞こえた。

 

「!?」

 

「お?」

鬼太郎や炎谷は振り返る。そこには、見上げる程の大男が立っていた。身長は目測で2メートル後半はある。

それを見た炎谷は面倒臭そうなため息をつく。

「はぁ〜。またアイツか」

 

「また!?じゃあ奴が!?」

 

「あぁ。問答かけてくる奴だ。間違いねぇ」

鬼太郎達はすぐさま臨戦態勢を取る。すると、僧侶は噂通りの問答をかけてきた。

 

「大足二足 小足八足 横行自在にて目は天をつく。これいかに」

 

その問答の後の結末を知っていた炎谷は鬼太郎達へ注意を促す。

 

「気を付けろよ?間違えでもしたら泡吹かれるからよ」

炎谷は避難の為に後ろへ少し下がる。

 

「答えるしかないってことね…」

 

「よっしゃ!ワシが答えてやる!」

すると夜泣きジジイが名乗りをあげ、僧侶へと近づくと指を刺しながら答える。

 

「答えは蜘蛛じゃ!」

 

「(俺とおんなじ間違えしやがった…)」

活き活きと答える子泣きじじい。その瞬間 巨大な僧侶は叫ぶ。

 

「否ッ!!!」

「へ…?」

 

ブクブクブクブクブクブクブクブク

 

 

「ほんぎゃぁぁぁぁ!!!???」

子泣き爺は絶叫する。その叫びを最後に子泣き爺は泡に塗れてしまった。

 

「子泣き爺!」

泡が晴れるとそこには石化した子泣き爺が佇んでいた。本来の能力ではなく、完全なる石化だった。

 

「く…正解しなければ石にされるというのか…」

「だったら今度は私がいくわ!!」

そう言うと今度は猫娘が名乗りを挙げて向かっていく。

 

「大足が二つに小足が八つ!左右に動いて目は上向き!答えは『蟹』よっ!!!」

 

「…!!」

その答えを聞いた瞬間、僧侶の身体が硬直した。

 

「あれ…?もしかして…正解…?」

猫娘は雰囲気からそう思う。だが、次の瞬間 僧侶の目つきが再び戻る。

 

「否ッ!!」

「にゃ!?」

その叫びと同時に先程の子泣き爺と同様に僧侶は猫娘へ泡を吹きかける。吐き出された泡は俊敏な猫娘でさえも逃がさないようにすぐさま包み石と化した。

 

「猫娘!」

 

「次は貴様らだ!」

「!」

僧侶の目が後ろにいる鬼太郎と炎谷へ向けられた。

 

「ハァッ!!」

「な!?」

すると今度は問答をかけずにいきなり泡を噴射した。その動きを予測できなかった鬼太郎はすぐさま泡に飲み込まれてしまった。

 

「ぐぁぁ…!!」

 

ガタン

石となった鬼太郎は猫娘と同様にその場に金属音を立てながら倒れてしまった。

 

残されたのは…炎谷ただ1人。

「あらら。やられちまったか。今のって確か『初見殺し』って言うんだっけか?」

鬼太郎の石像を見ながら1人見解する。

 

「残るは貴様だッ!」

「お?」

だが、僧侶はまたない。次の標的にされた炎谷は僧侶を見上げる。

 

「はぁ…しょうがねぇ。来いよ?相手してやるよ…!」

「!」

その瞬間 僧侶は一歩後ろへ後退する。

炎谷の目に炎が現れると同時に辺りに超高温の妖気が漂い始めた。

 

「見せてやるよ…鉄鉱石でさえも軽く溶かす俺の炎をッ…!!」

そう言うと炎谷の手に紅蓮の炎が灯される。

 

その時だった。

 

「ぬぉ!?皆!!」

神社の入り口から砂かけ婆が走ってきた。

 

「鬼太郎!!猫娘に子泣きや!」

「あ?誰だあの婆さん」

砂かけ婆を初めて見る炎谷は炎を止めると、僧侶とともに砂かけ婆を見る。

 

すると

「ッ…!!」

僧侶の身体が硬直した。

 

「ひ……姫さま…?」

そう呟くとその僧侶は砂かけ婆の方へと身体を向ける。

 

一方で砂かけ婆は次の標的にされたと思いすぐさま境内から逃げ、外で待機していたトラックの荷台に飛び乗った。

 

「すまぬ!出してくれ!!」

「お?おぅ!」

 

その走り去っていくトラックを僧侶はすぐさま追っていった。

 

「何なんだ?今のは」

その場に取り残された炎谷は首を傾げると、この場を去った。

 

 



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不穏な幕開け

死んだものが行く場所『あの世』

『天国』と『地獄』で別れており、生前、悪行の限りを尽くした者は地獄へ落とされる。

 

そんな中 死んだ者全てが必ず通る最初の場所 地獄の『閻魔殿』にて、1人の獄卒が息を切らしながら駆けつけてきていた。

 

「大王ッ!!」

「ん?牛頭か。どうした?」

牛の頭を持つ地獄の門番の1人 牛頭は汗を垂らしながら報告をする。その表情は深刻だった。

 

「報告します…。現世にて『六将』の活動を確認。中でも二位の『天龍』が活発な模様です…!」

「ほう?」

大王は顔をしかめる。最近 亡者の量が時々増えており、その中の殆どは生前、悪行を成した人間達であり、全員が地獄行きとなっていた。もしやと大王は疑っていたのだ。

 

「奴め…随分と調子に乗っておるな…。“一位”はどうなっている?」

 

「現在も封印されている模様です」

 

「ならよい。他の『茨木童子』『鈴鹿御前』『炎獅子』『麒麟』は?」

 

「ハッ!4名とも目立った動きはありません!」

 

「そうか。引き続き監視を続けろ」

牛頭が閻魔殿を出ると大王は地獄の炎で赤く燃え上がる空を見上げた。

 

「何か…よからぬ事が起きるやもしれぬな…」

 

ーーーーーーーー

 

夕暮れの東京にて、大通りから外れた人っ子1人いない墓地に、2人の少年が歩いていた。

 

「ホントにここでいいんだよな?」

「うん。確か、提示板にもそう書いてあったよ」

2人は小学生だ。彼らはネットのある情報を頼りにここまで来たのだ。

 

「ここで呪文を唱えれば…」

「うん。四丁目の入り口ができて…お化けの学校に行けるって…」

「でもなんか嘘臭いな…」

「でもやってみないと分かんないよ」

そう言うと1人の少年は前に出て呪文を口ずさんだ。

 

「『サンマイダーラーナギダーラーモウジャノヨコネニキモツイタ。サンマイダーラーナギダーラーモウジャノヨコネニキモツイタ』」

すると、目の前の空間が歪みだし、巨大な入り口が現れた。

 

「開いた…嘘じゃなかったんだ!」」

「行こう!!」

2人は実話であった事に興奮すると、何のためらいもなく、一気に駆け出していき、その暗い入り口の中へと消えていった。

 

その瞬間 ドアはゆっくりと閉ざされ、消えた。

 

 

ーーーーーーーーー

 

境港で、蟹坊主の事件を解決した鬼太郎やまな達は東京へと戻り、それぞれの日常を過ごしていた。

ただ、そんなある日、ゲゲゲの森に一通の手紙が届く。

 

ーーーーーーー

 

「ふんふふ〜ん♪」

夕暮れの帰路を歩いていたまなは、ふと公園のブランコで見覚えのある影を見つける。

 

「裕太君」

「まな姉ちゃん?」

そこに座っていたのは自身の家の隣に住んでいる裕太だった。

 

「どうしたの?一人でこんなところに」

聞くと裕太は少しうつむく。何か悩みを抱えているようだった。

 

「実はね……ある噂が僕の小学校で流行ってるんだ」

「噂?」

「うん。お化けの学校っていう…」

「お化けの学校?」

「うん。それでね、大翔くん…、いっちゃったんだ…」

大翔とは、まなのクラスメイトの蒼馬の弟である。

すると、後ろから誰かが声を掛けてきた。

「その話 詳しく聞かせてもらえるかい?僕のところにも同じような手紙が届いたんだ」

鬼太郎だ。面識のある裕太は驚く事なく何があったのかを話した。

 

夜中の3時に三丁目の墓地にいき、呪文を唱えると本来存在しない四丁目への扉が開き、お化けの学校に行けるという噂話が流行っているのだ。自身の小学校でも試した者がいるらしく、その子達は一向に帰ってこないという事なのだ。

 

「…お化けの学校…か…」

 

話を聞いた鬼太郎は早速試す事を決める。

 

•••••••••••••••••••••••••

 

「ふむ。四丁目……とは…」

「変ですよね。この街は三丁目までですよ」

そんな事を言いながら鬼太郎は墓地にやってくる。夜中の墓地はやはり不気味だ。

目的の場所まで来ると、鬼太郎は裕太から教えてもらった呪文を唱え始めた。

 

「サンマイダーラーナギダーラーモウジャノヨコネニキモツイタ。サンマイダーラーナギダーラーモウジャノヨコネニキモツイタ」

 

すると、目の前の空間が歪み始め、扉のような形になると引き戸のように開いた。

 

「これが…四丁目の入り口…」

「とにかく行ってみるのじゃ」

「はい」

 

鬼太郎は噂が真実であった事に驚き、ゆっくりとその扉の中へと入っていった。

 

 

 

 



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お化けの学校?

4丁目の扉が開く前日の昼。

 

「なに?お化けの学校?」

 

渋谷のファストフード店でコーヒーを飲んでいた龍崎は口に運ぼうとしていたカップの手を止める。片手には携帯が握られており、誰かと通話しているようだった。

 

『えぇ。何でも噂らしいわよ。夜中の3時に三丁目のお墓で呪文を唱えると四丁目の扉が開いてお化けの学校に行けるって』

 

「へぇ」

話している相手は大人のように少し声が低く、喋り方も色気のある女性だった。

 

「お化けの学校か。聞いた事ねぇ上にくだらねぇ」

龍崎は記憶を辿りながらコーヒーを口にする。

 

『まぁごく最近の情報だから。でも結構有名みたいよ?数人の友達が帰ってこないとか』

 

「…神隠しみたいだな」

 

連想しながら龍崎はノートに参考書の計算式を書き記していく。

 

『えぇ。ま、調べるのはアンタの自由よ。あ、この後オペだから。じゃあね』

 

「あぁ」

通信が途絶えると同時にその計算式は終わりを迎えた。

 

「ッ…何で俺のナワバリにはこんな面倒事が多いんだよ…」

舌打ちをした後、コーヒーを飲み終えるとゴミを片付けて店を出て行った。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

4丁目の入り口を潜った鬼太郎と目玉親父。

中へと入ると、現れたのは変わらぬ人間の景色。だが、空は怪しく光っており、辺りには小さな妖気が所々に存在していた。

 

「…本当に…4丁目に来たんですね…」

「うむ…」

 

しばらく歩くと、昭和の時代にあった寺子屋を思わせるのような建造物が現れた。これが『お化けの学校』だろう。

 

「…!これが…お化けの学校…」

中からは何匹もの強い妖気を感じる。ここで間違いないようだ。

「うむ…じゃがどうやって入るか…」

「一応変装します」

鬼太郎は懐から丸いサングラスを取り出すと装着する。

 

「それで変装になるのかのぅ〜…」

 

これで変装のつもりなのだろうか、私から見ればただサングラスを掛けているだけに過ぎない上にちゃんちゃんこや下駄という個性的な特徴が丸出しであるので、これで鬼太郎と気付かない者がいればその者は完全なる大バカ者だといえる。

ーーーーーーー

 

カランコロンカランコロン

 

足場が木造のためか、鬼太郎の下駄の音がハッキリと響く。廊下は暗いが、月の明かりが照らされ、少し青く染まっていた。

 

「父さん…誰もいませんね…」

「そうじゃな。だが油断してはならぬぞ」

誰もいないものの、辺りの妖気はハッキリとしている。油断は禁物だ。

すると、明かりのついている教室が見えてくる。

 

「ん?」

鬼太郎は気づかれないように覗いてみた。

 

見てみると教卓につく人影とそれに集う子供達が見えた。鬼太郎は教卓に立っている者に目を向けた。

 

「はぁい。これがカエルの内臓よ!」

「!?」

見るとそれは龍崎に真っ二つに切り裂かれた二口女だったのだ。

 

「二口女!?龍崎にやられた筈じゃ…」

復活していることに驚く鬼太郎と目玉親父。そんな中で授業を聞いていると、子供の好奇心を誘う解剖などを次々と行っていた。

 

『では心臓を取り出してみたい人〜!』

 

『『『はぁい!!!』

その楽しげな雰囲気に鬼太郎は首を傾げる。

「…やけに楽しそうですね…」

「う…うむ…」

 

それからその教室から離れるとまた別の教室が見えた。今度はかまいたちだ。

 

「では〜、この壺にある液体と水をどれくらいの割合で混ぜれば血液ができるか〜?答えてもらおうか」

そう言いかまいたちは次々と生徒を指名していく。

 

次の場所は『校長室』だった。今度は子供だけでなく、親も来ていた。進路相談を妖怪がしてるのかと思い、目を凝らしてよく見る。見れば今度は『見上げ入道』だった。

 

「演劇の主役は陽菜はやりたくないと言っているのがわからんのか!?」

 

「で…でも今だけでも前に立たないと…」

 

「それでもし陽奈が失敗し、皆から非難されるようなことがありでもしたら…そんな事も考えなかったのか!?自身の気持ちばかり押し付けて子供の将来を考えない!それでも親か!」

 

自身の意思を子供に押し付ける親に見上げ入道はまるで保護者であるかのように一喝する。確かに現社会でも自身の子供に意思を押し付ける親は多い。

 

「……」

全く的を射ている事に鬼太郎は何の手も出せず、その場を後にし、散策を続けるべく暗い廊下を進んでいった。

 

そしてその日 鬼太郎が帰って来ることは無かった。

 

◇◇◇◇◇◇

 

鬼太郎が4丁目へ向かってその次の日、心配した猫娘は寸前まで一緒にいたまなに鬼太郎の行方を聞く。

そして、聞いた後に、自身もその場へと向かう為に1人夜の道を進んでいた。だが、その道中、待ち伏せていたのか、はたまた追いかけてきたのか分からないが、何故かまなと合流した。

 

「はぁ…私はついて来いとは言ってないわよ」

 

「けど…蒼馬達までいなくなっちゃったんだから…」

 

昨日、まなのクラスメイトである蒼馬も同じく四丁目へと消えてしまったのだ。確かに心配でついてくる気持ちは分からなくもないと猫娘は納得しながらも、溜息をつく。

 

「何があっても知らないわよ?鬼太郎だって戻ってこないんだから…」

 

猫娘は今回の怪奇現象が危険である事をまなに伝える。けれども、まなは帰る気はないようだ。

 

「それに猫姉さん 四丁目に行くための呪文知らないじゃないですか」

 

「う〜ん…」

 

そう話していると目的の場所へと着く。そして、まなは情報の通りの呪文を唱えた。

 

「サンマイダーラーナギダーラーモウジャノヨコネニキモツイタサンマイダーラーナギダーラーモウジャノヨコネニキモツイタサンマイダーラーナギダーラーモウジャノヨコネニキモツイタ」

 

すると、目の前の空間が襖を開けるかのようにゆっくりと景色が横に動き、黒い入り口が現れた。

 

「これが…四丁目の入り口…」

 

「…」

まなは真相を目の当たりにして驚いているが、猫娘にとっては珍しくないのか、特に反応を見せなかった。そして、完全に入り口が開くと猫娘は黙ったままゆっくりと中へと入っていき、まなも続いた。

 

 



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蘇りし妖怪達との激闘

 

四丁目の入り口を通り抜け四丁目へと辿り着いた猫娘はまなと共に暗い道を進んでいた。元々、存在しない場所なのか人気がない。明かりだけはあり辺りの建物の電気がついていた。だが、人気がない代わりに感じられるのは妖怪達の妖気。目を向ければ物陰から自身らを見つめていた。

 

そんな中、猫娘はまなにある事を尋ねた。

 

「そう言えばまな…あれから龍崎はどうなってるの?」

 

「え?」

 

尋ねられたまなは唐突すぎる質問に首を傾げながらも答えた。

 

「う〜ん…特に変わった事はないかな…。学校でも問題を起こさない様になったし…」

 

「そう」

 

「えっと…どうして急に?」

 

まなはその質問をなぜ今尋ねたのか不思議に思い猫娘へと尋ねた。するとその質問を聞いた猫娘は表情を険しくさせる。

 

「まなは知らないだろうけど…アイツがとんでもない妖怪だったからよ」

 

「え…どういう……」

 

 

 

その時だった。

 

 

 

付近から巨大な爆発音が響いた。

 

「「!?」」

 

突然と辺りに響き渡った爆発音に二人は驚き話を中断させると即座に駆け出した。

 

そして その爆発が聞こえた場所へと向かうとそこにあったのは数名の妖怪達と鬼太郎が対峙している光景であった。

 

「鬼太郎!それに……アンタ達…!!」

 

それを見た猫娘は驚きの声を上げた。その声を聞いたのか数名の妖怪の内、巨大な図体を持つ見上げ入道が振り返った。

 

「お前は…猫娘!」

 

「なんだとぉ!?」

そして次々と妖怪達が自身へと目を向けてくる。見上げ入道だけではない。蛇女にかまいたちそしてたんたん坊といった過去に自身や龍崎が撃破した妖怪達であった。

 

「お前も来たか。なら、鬼太郎共々 我らが消し去ってくれるわ…!!」

 

「やれるもんならやってみなさい!!まなは下がってて!」

「うん!」

 

まなを下がらせた猫娘は四つん這いとなり戦闘モードへと移行すると鋭い目を向けながらかまいたちへと向かって行った。

 

すると行く手を阻むかの様に見上げ入道は口から圧縮した空気の塊を発射する。

 

「ハァ!!」

 

「…!」

 

向かってくる空気砲を次々と避けていき遂にかまいたちのすぐ側までたどり着いた。

 

「な!?コイツこんなに強かったか!?」

 

「追いついたわよ…!!」

 

「やらせるものか!」

 

「…!!」

 

驚くかまいたちへと爪を振りかざそうとしたその時であった。予想だにもしない方向から蛇女が飛び掛かってきた。

 

 

だが、何故か猫娘の目にはそれが一瞬___

 

 

 

 

____止まって見えていた。

 

 

 

「…!!」

 

その動きを見た瞬間 猫娘は即座に身体を横に跳躍させる形で回避すると爪を伸ばし蛇女へと振り下ろした。

 

「がぁ!?」

 

振り下ろされた爪は見事に黄色の軌跡を残しながら蛇女の身体を三等分に切り裂いた。

その一方で、猫娘は先程の現象に驚き自身の額に手を当てた。

 

「私…なんで…」

 

猫娘は疑問を抱く。先程の即座の軌道変更による回避。あれは恐らく今までの自身ではまず無理であった。ではなぜ出来たのか。

 

そんな中、一つの答えにたどり着いた。

 

「まさか…!!」

 

猫娘は脳裏にある男を思い浮かべる。それはよく遭遇している“あの男”であった。

 

「アイツの動きを…見てきたから…って事…なのね…」

 

 

すると

 

「き……貴様……なぜそんなに素早く…!!!」

 

背後から黒い靄を身体から漏れ出し今にも消えかけようとしている蛇女の声が聞こえてきた。それに対して猫娘は振り向くと答えた。

 

 

「アンタ達なんか…“龍崎”に比べたら止まって見えるわよ!!」

 

 

その言葉と共に蛇女の身体は黒い靄が溢れ出すと共に消滅して魂は何処かへと飛び去って行った。

 

そして蛇女を葬った猫娘はかまいたちへと目を向ける。

 

「まずは一人目…次は…!」

 

「ぐぅ…!」

 

かまいたちが一歩後ずさった時であった。

 

 

「避けろ猫娘!!!」

 

「!?」

 

鬼太郎の叫び声が響くと共に身体が何者かに掴み上げられた。

 

「な!?」

 

「フハハハ!すばしっこい猫が!捕まえてやったわ!」

 

「ぐぅ!?」

 

猫娘を掴み上げたのは鬼太郎と交戦していた見上げ入道であった。見れば鬼太郎は見上げ入道の【霊界送り】によって空中に停止させられていた。鬼太郎は霊界と現世を自由に行き来できる。故に見上げ入道はそれを考慮して鬼太郎が送り火から抜け出せない様にワザと空中で停止させたのだ。

 

「猫姉さん!見上げ入道みこ___むぐ!?」

 

「黙ってろ!」

 

咄嗟にまなは見上げ入道を消す呪文を叫ぼうとするが背後に回ったかまいたちによって口を抑え込まれた。

 

「まな!ぐぅ!?」

 

「よくも蛇女をやってくれたな!このまま握り潰してくれるッ!!!」

 

「…!!」

 

 

その言葉と共に見上げ入道の握り締める力が強くなると共に全身が締め付けられる。

 

「ぐぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

全身に痛みが巡ると共に身体中から悲鳴を上げるかの様に骨の軋む音が響き渡った。

 

「猫娘!!くっ!!」

 

「鬼太郎!早くこれに掴まれ!」

 

「あぁ…!!」

 

鬼太郎は咄嗟に旧校舎の屋根に登ってきたねずみ男の差し出した棒へと手を伸ばす。

 

だが、それをしている合間にも猫娘を握り締める見上げ入道の力が強まっていった。

 

 

「ぐ…!!ぎぃ…!!!」

 

「終わりだッ!!!!」

 

 

見上げ入道は遂に最大限まで力を強めようとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時であった。

 

 

 

「おい。俺のナワバリで何勝手なことやってんだよ」

 

「「「「…!!」」」」

 

突然とその場に第三者の声がこだます。

 

「この声…!?」

 

その声が聞こえた直後だった。驚いていた猫娘を掴み上げていた見上げ入道の身体が真っ二つに裂かれた。

 

真っ二つに裂かれた事によって猫娘は見上げ入道の手から解放され地面へと着地した。地面に尻餅をつくように落下した猫娘は目の前の光景を目にした瞬間 目を震わせた。

 

「り……龍崎…!!」

 

そこには全身から着用している学生服よりも更に黒いオーラを放つ龍崎の姿があった。

 

「よぅ猫」

 



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暴龍


猫娘と龍崎


 

 

「犬山は分かってたが…まさかクラスの奴らまでいるとはな」

現れた龍崎は全身から黒いオーラを放ち辺りの者を見渡す。龍崎が現れた瞬間 まなの口を塞いでいたかまいたち、鬼太郎へ向けて石化効果のある唾液を吹きかけようとしたたんたん坊の動きが止まった。

 

辺りの皆が静止する中、倒れている猫娘は驚きながら龍崎に尋ねた。

 

「な…なんでアンタがここに…」

 

「あぁ。今朝方、知り合いの妖怪から話を聞いてな」

 

ーーーーーー

 

「お化けの学校?」

今朝の渋谷のファストフード店にて。コーヒーを飲みながら勉強を進めていた龍崎は通話をしていた相手からのその単語に手を止める。

 

『えぇ。何でも噂らしいわよ。夜中の3時に三丁目のお墓で呪文を唱えると四丁目の扉が開いてお化けの学校に行けるって』

 

「ほぅ?」

話している相手は大人のように少し声が低く、喋り方も色気がある女性だった。

 

「お化けの学校か…聞いた事ねぇな」

龍崎は記憶を辿りながらコーヒーを口にする。

 

『まぁごく最近の情報だから。でも結構有名みたいよ?数人の友達が帰ってこないとか』

 

「…神隠しみたいだな」

 

『えぇ。ま、調べるのはアンタの自由よ。じゃあね』

 

「あぁ」

そう言うと通信が途絶える。

 

「ッ…何で俺のナワバリにはこんな面倒事が多いんだよ…」

舌打ちをした後、コーヒーを飲み終えると、ゴミを片付けて店を出て行った。

 

ーーーーーーー

その後、深夜にて龍崎は言われた通り三丁目の墓地へとやって来た。街からは少なからず5人の子供が消息を絶っている為に電話の女性が言っていた事は真実だろう。話によればクラスメイトも数名消えているらしい。

 

「(ま…俺のナワバリの範疇とならば、野放しはできんな…)」

 

時刻は情報の通り3時。眠気が漂う中、手にポケットを入れながら目的地である神社に到着すると辺りを見回した。

 

「さて…ここか?」

着いた場所を見て、龍崎は何かを感じ取る。それは、別の世界へと繋がる線のようなモノだった。

 

「幻術か…?まぁいいか」

龍崎は軽く咳払いをし、喉の調子を整えると呪文を唱えた。

 

『サンマイダーラーナギダーラーモウジャノヨコネニキモツイタ。サンマイダーラーナギダーラーモウジャノヨコネニキモツイタ』

 

龍崎の口から次々と妖気の込められた声が辺りへと呪詛の様に浸透していった。

すると、目の前の空間が歪みだし、扉が現れた。その中から小さいながらも大量の妖気が感じ取れる。

 

「これが四丁目の入り口か。さてと…いくか…」

鬼が出るか蛇が出るか。何かがいる事は間違いない。戦闘スタイルであるオールバックにし、髪を縛るとその扉を潜り抜けた。

 

 

扉を潜ると、いつもの街中とは異なる住宅地の景色が映り込んできた。

 

「これが四丁目か…?あんまし変わらねぇな」

辺りを見回してみると社会からは多くの妖怪達の視線が感じられた。

 

「(結構な数だな…。何でここに集まってんだ…?)」

こちらから目線を移すとすぐさま逃げていく。まぁ当然だろう。龍崎の身体からは一般の妖怪よりも遥かに巨大な妖気が漏れ出しているからだ。

 

ドォオオン!!

 

「ん?何だ?」

 

その時 近くから何かが壊れる音がした。

 

「…?(この妖気…まさか…)」

瞬時に感じ取った妖気。それは以前感じた事のあるものだった。疑問に思った龍崎はその漂う妖気の跡を追う。

 

「何で生き返ってんだ?」

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

「それで来たんだよ。カスみてぇな妖力が集まってると思ったらやっぱりお前らだったんだな」

 

「な…儂らがカスだとぉ…!?」

 

龍崎の言葉にたんたん坊は堪忍袋の尾が切れ、口内から煙を吐き出す。

 

「悉く馬鹿にしおって…ちょうどいい…!!ドームでの雪辱…今ここで晴らしてくれるわ…!!」

 

その言葉とともに口内からは次々と唾液が噴射されていった。その唾液は空気を突き破り、凄まじい速度へと達しながら龍崎に目掛けて飛んでいく。

 

その瞬間

 

 

 

 

 

「…ドン」

 

その言葉と共に龍崎の手先から青い光線が放たれ唾液を貫くとともにその線上に存在するたんたん坊の眉間を貫いた。

 

 

「が…あぁ…!!!」

 

眉間が貫かれたたんたん坊はそのままうめき声を上げながら身体中から靄を出し遂には消えてしまった。

 

「…!」

 

猫娘は驚きながら龍崎の手を見る。見れば彼の人差し指が輝いていたのだ。

 

「な…指鉄砲!?」

 

「違ぇよ。指鉄砲は空気を妖力で圧縮させて放つ技。これはただ単に体内にある妖力を指先から光線として出しただけだ」

 

驚く猫娘に説明し終えた龍崎は消えたたんたん坊から目を離し、背後にてまなをまなを人質に取るかまいたちへと振り返る。

 

「さて、次はテメェだ」

 

「な…!?」

 

龍崎はたんたん坊へ行った時と同じように指先を向ける。すると、指先が再び輝き出した。指先を向けられたかまいたちは咄嗟にまなを盾に首筋へと刃を突きつけた。

 

「おいお前!この小娘がどうなってもいい…がぁ!?」

 

「知るかよ」

 

かまいたちが喋り終わるその直前に龍崎の指が再び輝き出すと光線が放たれかまいたちの脳天と心臓を貫いた。かまいたちが消滅した事で人質に取られていたまなは無事に解放された。

 

「まな!」

 

全ての妖怪が倒された事で猫娘は傷つきながらも立ち上がるとかまいたちから解放されたまな へと向かっていった。

 

すると その様子を見ていた鬼太郎は龍崎へと声を掛けた。

 

「龍崎…」

 

「ん?あぁ鬼太郎か。お前もいたな」

 

声を掛けると龍崎はまるで鬼太郎自身を忘れていたかのような口調で振り向いた。それに対して鬼太郎は長らく疑問に思っていた彼の目的について尋ねた。

 

「お前は一体…なにが目的なんだ…?僕達の敵なのか?味方なのか…?」

 

「ふむ…」

 

その質問に対して彼は顎に手を当てる。

 

「敵と答えたら?」

 

「特に何も…けど…もしも僕らの仲間に手を出せば絶対に許しはしない…」

 

「なら、答えはどちらでもない…だ。俺はただナワバリを荒らす奴らを消すだけであってお前らと偶然にも目的が合致しただけだ」

 

「…そうか」

 

その答えを聞いた鬼太郎は頷く。だが、鬼太郎にはもう一つ気になる点があった。それについて目玉親父も知っているのか、代弁するかの如く尋ねる。

 

「ならばもう一つ聞かせてもらおう…猫娘から聞いたんじゃがお主…前に『これから来る闘い』について言っておったが…どう言う意味じゃ…?」

 

「あぁ。猫から聞いたのか。ふむ…」

 

目玉親父から尋ねられた龍崎は目玉親父を見つめながら顎に手を当てる。

 

「な…なんじゃ…?」

 

「いや、別に。これからくる戦いってのは簡単だ。『不死鳥の復活』」

 

「不死鳥…?」

 

龍崎から聞かされたその単語に目玉親父は首を傾げる。それは初耳というよりも一度耳にした覚えがあるかのような反応であった。首を傾げる目玉親父に対して龍崎は欠伸をすると背を向けた。

 

「お前なら一番良く知ってるだろ?元“統率者”様」

 

「…!!!」

 

その言葉を聞いた目玉親父はこれまでにない程まで身体を硬らせ、全身から汗を流し始めた。

その一方で背を向けた龍崎はそのままクラスメイト達にも目を配る事なくその場を去っていった。それを見た鬼太郎は咄嗟に彼の後を追うべく脚を踏み込む。

 

「お…おい龍崎!今のはどういう意___ぐぅ!?」

 

その時だ。急な強風が舞い辺りに砂が吹き荒れ始めた。それによって鬼太郎は後を追おうとする脚を止めざるを得なくなり、顔を腕で覆った。校庭全域に広がる砂嵐は龍崎を中心に吹き荒れ辺りの皆の視界を塞いでしまったのだ。

 

 

 

そして砂嵐が止んだ時には既に龍崎の姿は消えていった。

 

「くぅ…」

言葉の真意を確かめる事が出来なかった鬼太郎は歯を噛み締めながらも即座に倒れている猫娘へと駆け寄った。

すると 山と山の間から朝日が登り、四丁目を照らし出した。すると、景色が歪みだし、校舎は消えて元の3丁目の墓地の景色となったのだった。

 

長い夜の戦いが終わったものの、鬼太郎達の中にある龍崎への不信感は消える事は無かった。

 




電話の女性

龍崎の知り合いで天才外科医。数十年前に海外の大学の医学部へ進学し博士を取得。その後数年間に渡り世界中を飛び回り自身の手で数多くの患者を救い、活躍してきた。2年前に帰国し、現在は京都大学医学部附属病院で外科医をしている。(フィクション)
六将の一人であり、知能や医療技術は全妖怪の中でもトップ。一時期は恐山病院にて特別顧問を担っていた。


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鈴鹿御前

 

 

 

龍崎が去り、数日。ゲゲゲの森では鬼太郎が龍崎の言葉に疑問を浮かべていた。

 

「父さん…奴の言っていた言葉の『不死鳥の復活』とは…一体なんなんでしょう…?」

 

「うむ…」

 

鬼太郎が尋ねると、目玉親父は何故だか、いつもよりよそよそしく、唸り出す。

 

その様子に鬼太郎は首を傾げる。

 

「どうしたんですか父さん?あれから様子が変ですよ?」

 

「いや…何故だか聞き覚えがあるんじゃ。『不死鳥の復活』……う〜ん……」

 

その時であった。

 

__カー!!カー!!

 

窓から化けガラスが入り込み、手紙を差し出してくる。

 

「これは…妖怪の…取り敢えず、今の話は後にしましょう」

 

「そうじゃな……」

 

鬼太郎の手に乗り、髪の毛に入り込んだ目玉親父は何故だか化けガラスの介入に安堵するのだった。

 

 

ーーーーーーー

ーーーー

 

 

深夜の高速道路。京都から東京へと続く長い道路にて。暗い道路を一定区間に配置された街灯が照らし過ぎ去っていくことで渋い雰囲気を醸し出してくれる。そんな道を多くの種類の車が一定間に設置された街灯のスポットライトを次々と潜り抜けながら走り去っていき、同じく走り去っていく一台の高級車があった。

 

「珍しいわね、貴方がドライブに付き合ってくれるなんて、龍崎」

 

運転席に座るのはスーツにサングラスを掛けたクールなビジネスウーマンであった。スラッとした身長に加えてやや凹凸のある魅惑的な身体が見る者の目をくすぐってくる。

 

「たまには悪くないからな」

 

そんな彼女の助手席にはいつもの様に学生服を着用し、窓に肘を置きながら外の景色を眺めている龍崎の姿があった。

 

「何か変わった事でもあったの?」

 

「いや、特に。取り敢えず近況報告だ。鬼太郎に“例の件”について伝えてきた。まぁ、案の定 奴は無反応だったが、“霊壱”の方は何となく察してたな」

 

「やっぱり。まぁ、アタシはそれよりもアンタがよく話す“猫ちゃん”についても聞きたいわね〜」

 

「うるせぇぞ女狐」

 

彼女の頬を釣り上げながら切り出された話題を龍崎は跳ね返すと、“ある件”について尋ねる。

 

「奴の封印はあとどのくらいだ?」

 

「私の見立てによればザッと数年…てとこかしらね。それまでに準備を終えないと……確実に世界は終わるわ」

 

 

その言葉と共に街灯の灯りが彼女の顔を通り照らす。それを聞いた龍崎は顎に手を当てながら頷いた。

 

「そうか。なら、俺も手を早めるか」

 

 

 

そんな時であった。

 

____ブゥウウウン

 

 

「…ん?おい、目の前の車、なんか変だぞ」

 

前方を走っていた一台の車が、直線ではなく、何度も何度も左右に揺れ始めていき、終いにはコチラに向けて蛇行運転をし始めた。

 

それを見た龍崎は最近のニュースを思い出したのかため息をつく。

 

「こいつは…煽りか。最近になって増えてきたな。ついてねぇ」

 

「うふふ…何言っているのかしら?むしろ好都合よ。ストレス発散には丁度いいもの」

 

そう言うと女性は舌なめずりしながらギアに手を掛け、アクセルを踏み込んだ。

それによって龍崎の乗っていた車が激しいエンジン音とと共に走り出し、煽り運転をしていた車へと進んで行く。

 

 

 

 

そして

 

 

ガン___!!! 

 

激しい音を鳴り響かせながら龍崎達の乗っていた車が前の車へと激突した。

 

「おい、あまりやりすぎるなよ?」

 

「分かってないわね。目には目を。煽り運転には煽り運転。やられたらやり返すのが鉄則よ」

 

そう言い彼女はアクセルを緩める事なく次々と踏み込みながらスピードを出していき、何度も何度も前の車へと激突していった。激突していくたびに前の車体は歪んで行き、それと共に此方がスピードを上げているために次々と前へと突き進んでいった。

 

 

そして、遂にはコチラのスピードが上回り車を押し始めてしまった。歪んだ車を押していく中、運転していた彼女は怪しい笑みを浮かべながら、アクセルを踏む足へと力をこめていく。

 

 

「このままブレーキを踏めば大きく転倒するわ。向こうもそれを察してるのかブレーキを踏む様子がない…賢い判断よ。けど_______

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_________高速から落とされる事が想定できないならまだまだね♡」

 

 

 

その瞬間

 

 

アクセルが限界まで踏まれると共に車は最高速度を発しながら目の前のカーブへ目掛けて突き進んでいく。

 

「はぁ…めんどくせ」

 

そんな中、女性の考えを読んだのか龍崎はシートベルトを外し、同じくシートベルを外した彼女と共に左右のドアへと手を掛け扉を開けると同時に飛び出した。

 

 

 

そして 二人が同時にドアを開け、車から飛び立つと_______

 

 

 

 

 

 

________二人が乗っていた車は猛スピードを出したまま直進し続けていき、前のカーブを突き抜け、押していた車と共に落下していったのだった。

 

 

 

その後 何かが砕け散る破壊音と共にとてつもない大爆発が巻き起こり、下からは炎が燃え盛った。

 

 

高速道路にある柵へと降り立った二人は、高速の下にある崖に転落し燃え盛る2台の車を見つめていた。

 

「おい。炎が森に移ったらどうするんだ?」

 

「問題ないわ。最初から消すつもりだったし」

 

 

そう言うと女性は懐から一枚の札を取り出すと、ゆっくりと呪詛を唱え始めた。すると、その女性の指に挟まれていた札が水色に輝き、無数に分裂しながら雲の中へと飛び立っていく。

 

 

 

その時であった。

 

 

____ポタ。

 

 

その場……否、その場所が含まれた都道府県全域に雨が降り始めた。空から降り注ぐ無数の雨水は次々と地面に落ちて四散していくと凹んだ場所に溜まっていった。

 

それによって先程、爆発して燃え盛っていた車の炎が次々と鎮火されていく。

 

 

「相変わらず、お前の呪術はすげぇな」

 

「ふふ。これでも弱めにしてやった方なんだけどね〜」

 

 

そう言い女性は目を鋭くさせながら妖艶な笑みを浮かべると、龍崎に笑みを浮かべる。

 

【六将 第5位『狐鈴 林檎』】

 

「悪いわね。東京まで送ってあげられなくて」

 

「いいさ。歩いて帰れる。それよりもまた何かあったら報告する」

 

「えぇ♪こっちも、たまには関東にお邪魔させてもらうわよ」

 

そう言い狐鈴は投げキッスをすると、その場から高速の下にある森へと飛び降りていったのだった。

 

 

 




オリキャラ
狐鈴 林檎 (こすず りんご)

見た目 べるぜバブの風嬢 林檎

龍崎と同じ六将の一人で序列は第5位。鈴鹿御前と人間との半妖であり、狐の子であるために呪術が得意。また、妖怪でも屈指の知能を持っており、呪術のみならず医術、交渉術、といった様々なスキルを取得している。一時は恐山大病院にて執刀医をしていた。


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西洋妖怪襲来


【挿絵表示】


主人公と猫娘です。


 

 

山奥にあるボロボロな教会。そこには過剰な信仰を行う宗教団体が集う場所があり、人々は近づかず、近隣の村人には恐怖の対象とされていた。

 

だが、その場所は既に昔の“ある事件”によって焼け落ちており、人の気配は勿論だが動物達の気配もない。

 

そんな廃墟に二つの影があった。

 

「何だいきなり?こんなとこに呼び出して」

 

「新しい知らせよ。海外にいる私の助手から」

 

一人は龍崎。そしてもう一人は狐鈴である。狐鈴は懐から一枚の写真を取り出すと龍崎へと見せる。

 

「…ん?」

 

そこには巨大な月を背景に一人の金髪の少女が箒に乗りながら空を飛んでいた。

 

「誰だコイツ?見るからに西洋妖怪の魔女だが」

 

「えぇ。その子が日本に向けて飛んでくのを見たんだって」

 

「何のために?」

 

「さぁ?けど、魔女がこんな急に日本に来るなんて普通じゃないわ。多分だけど……」

 

 

そう言い狐鈴は自身の憶測を龍崎へと話す。彼女の話を聞いた龍崎は目の色を変えると笑みを浮かべた。

 

「……そうか。ならソイツらが来たらまとめて消してやるとするか」

 

「その方が手っ取り早いようね。今回はアンタに任せるわ。わざわざ私達全員が“ソイツら”ごときの為に集まる必要もないし。まぁ炎谷と麒麟児には伝えておくから」

 

「あぁ」

 

そんな中であった。

 

「「…!!」」

 

突如として二人は日本妖怪にはない異質な“妖気”が日本へと入ってきた事を感じ取った。

 

「……この気配…妖気…いや、魔力か」

 

「ご登場…って訳ね。それに場所は…人間界じゃ無さそうだわ」

 

「好都合だ。一度行ってみたかったからすぐに向かうよ。『ゲゲゲの森』へ」

 

そして 龍崎は飛び立つと、ある一点から感じ取れる妖気を探りながらその場を後にしたのであった。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

その一方で いつものどかで静かなゲゲゲの森は_____

 

 

 

 

 

 

____戦場と化していた。

 

生い茂る緑を次々と飲み込む炎が各地で燃え上がり、それを消すべく奮闘する妖怪達を、現れた西洋妖怪が蹴散らしていった。

 

 

「あはは!!弱い弱い。所詮島国のやつなんてこの程度なのね〜♪」

 

その現状を嘲笑いながら見渡す妖艶な女性の名は吸血鬼『カミーラ』彼女の手によって生み出された無数の蝙蝠がゲゲゲの森を飛び回り、子泣き爺達を襲っていた。

 

「そうそう…よく噛んで…食べるんだよ〜♪」

 

そんな蝙蝠に苦しむ妖怪達を食らうが如く現れた凶悪な合成獣(キメラ)とそれを操るフランケンシュタインの少年『ヴィクター』

 

 

ーーーーーーーー

 

 

そして 場所は変わり平地となる広大な場所では___。

 

 

「随分と生意気な猫だなぁ…!!!」

 

猫娘と対峙する凶悪な狼男『ヴォルフガング』その身体は満月の夜によって不死身となっており、つい先程に猫娘から付けられた切り傷が一瞬にして修復されていった。

 

「鬼太郎には指一本触れさせないわ…!!」

 

「ハッ!ならばまず貴様から先に片付けその首を手土産にしてやろうかぁ!!!」

 

鋭利な爪が生える剛腕を向けながら迫ってくるヴォルフガングに向けて、猫娘は爪を構えると、ヴォルフガングに向けて振り回した。

 

「ヴァア!!!」

 

「ニヤァオッ!!!!」

 

 

二人の鋭利な爪がぶつかり合い、周囲に衝撃が伝わっていく。

 

 

そして両者は次々とぶつかり合っていった。

 

「ふん。どうした?速さがおちているんじゃないかぁ?」

 

「ハァ…ハァ…ハァ…!!」

 

睨み合う中、ヴォルフガングの身体には傷一つついていなが、猫娘の身体には所々服が破けると共に出血し始めていた。

 

 

それもそうだ。猫娘は攻撃型といえどスタミナと妖力は有限。それに対してヴォルフガングは超攻撃型な上に不死身であり圧倒的に不利であったのだ。

 

だが、猫娘は決して倒れることはなかった。

 

「絶対に…通さない…わよ…!!」

 

鬼太郎を何としてでも死守すべく、その鋭い目をヴォルフガングへと向けた。対して、ヴォルフガングは喉を唸らせながら鋭い眼光を光らせる。

 

「ふん。ただのペットの猫ごときが……野生に生きる肉食動物に敵う訳なかろうがぁ…!!!」

 

 

そして ヴォルフガングは最後の一撃で猫娘を葬るべく、飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

その時であった。

 

 

「見つけたぞ」

 

「ギャファン!?」

 

突如として何者かが横から飛び入るようにして入り、ヴォルフガングを蹴り飛ばした。

 

 

 

ドガシャァァァァァン

 

 

「えぇ…!?」

 

 

その場に凄まじい衝撃音が響き渡る中、猫娘はヴォルフガングを蹴り飛ばした謎の影へと目を向けると、目を震わせた。

 

「な…!…龍崎…!!!」

 

「よぅ猫」

 

流れる長いボサボサな髪に加えてその髪の下から覗かせる鋭い目。そこには全身に返り血を浴びた龍崎が立っていたのであった。

 

「アンタ……何でここに…!?」

 

「変な妖気を感じてな。それで、辿ってきたら着いた。にしても酷い有様だなぁ〜?」

 

そう言い龍崎は周囲を見渡した。

 

「まさか癇癪起こしてここまでするとは」

 

「いやこれやったの私じゃないからね!?元はと言えばアニエスが鬼太郎を……そうだ!!鬼太郎!!!」

 

 

何かを思い出した猫娘は即座に鬼太郎の元へと向かうべく走ろうとした。

 

 

その時であった。

 

「ハッ。まさか人間界の妖怪がここへ来るとは…俺達が暴れ回った為か人間界との境界が随分と崩れ掛けているようだな。まぁ良い…!!!」

 

「…ん?」

 

吹き飛ばされた先にある瓦礫の山が吹き飛び、その瓦礫の山を踏み潰しながらヴォルフガングが姿を現した。

 

それを見た猫娘は驚きの声をあげる。

 

「アイツまだ…!!!」

 

「え?あれって狼男じゃねぇか。まさかアイツが来てたなんてな」

 

龍崎も驚きの声をあげる一方で、瓦礫の山から抜け出したヴォルフガングはその場から龍崎目掛けて飛び出した。

 

 

「何人こようと無駄ダァー!俺の不死身の力の前では何もかもが無力なんだぁよぉ!!!!」

 

その言葉を置き去りにする程の速度で飛び出した狼男の身体は龍崎へと迫っていく。

 

 

そして狼男はその剛腕な腕に生える鋭い爪を向けた。

 

「俺の名は『ヴォルフガング』!!冥土の土産に持っていくがいいッ!!!」

 

「龍崎!!」

 

ヴォルフガングが迫り、猫娘の叫び声がその場に響く。

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間

 

 

 

 

「そうか。だが最近、化学の内容を覚えるのに手一杯でな」

 

「…!?」

 

龍崎の姿が一瞬にして迫ってくるヴォルフガングの目の前へと現れ、その腕が胴体を貫いた。

 

「がはぁ…!?」

 

「悪いけどその名前を保存しておく程の余裕はない」

 

その言葉と共に、ヴォルフガングの胴体を貫いた腕が青く発光し______

 

 

 

 

 

 

 

_______大爆発を起こした。

 

 

それによって貫かれたヴォルフガングの身体はバラバラに吹き飛ばされ、黒煙を纏いながら地面へと落下していった。

 

「うそ……私じゃ手も足も出なかったやつを…」

 

 

そして その場に着地した龍崎は肩を鳴らすと上空へと目を向ける。

 

 

「さて…今度はあの2匹の魔女も駆除するか」

 

 

 

 



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龍と西洋妖怪

ゲゲゲの謎が公開されましたね!!!皆さん見ましたか!?私は見ていないですが、情報によるとかなりダークな内容らしいです…6期らしいですね。しばらくしたらこの作品にも絡ませて見ようと考えています!


 

 

『魔女』

 

それは海外にて、人間界で紛れ込みながら生活する妖怪の一種である。その姿は人間でありながらも妖怪と同じ特殊な力『魔力』を操り、攻撃など多彩な魔術に応用する『魔法』を扱うという。

 

燃え上がるゲゲゲの森の上空にて、赤い結界の中に閉じ込められている金髪の少女に、銀髪の女性は鋭い瞳を向けていた。

 

「全く面倒を掛けさせてくれたなアニエス」

 

魔女『アデル』

 

ヴォルフガング達と共に攻めてきた西洋妖怪の一人である。

 

そして、そんな彼女に対して、結界の中にいる少女は恨みの込められた鋭い目を向けていた。

 

「アデル…」

 

魔女『アニエス』

 

アデルの妹であり、鬼太郎達へと協力を願い出た魔女だ。彼女の目的は姉であるアデル達の思惑を阻止すること。

 

故に彼女は海外から飛び出してこのゲゲゲの森に逃げ込んだのだ。

 

 

その時であった。

 

「「…!!」」

 

突如としてその場に巨大な妖気が現れた。

 

ーーーーーーーー

 

その一方で、下でヴォルフガングを木っ端微塵にした龍崎は上を見上げていた。彼の目を向ける先にはアデルとアニエスの姿があり、龍崎はそれを次の獲物として見ている様だ。

 

「なるほど。アイツらが魔女か。絵本とかに出てくるまんまな奴らだな」

 

「アンタ…まさかあの二人を追ってきたというの…?」

 

「別に。ただ単に面白そうだから見にきただけさ」

 

「道楽って訳ね…アンタらしいわ…」

 

龍崎の答えを聞いた猫娘は怒り返す事もなくむしろ呆れながら息をついた。

 

そんな中、龍崎はある事に気づく。

 

「そういえば鬼太郎はどこだ?アイツもここの住人だろ?」

 

「そうだ!!」

 

龍崎の言葉にようやく猫娘は思い出すとすぐさま鬼太郎の倒れていた場所へと向かおうとした。

 

 

 

 

 

 

 

その時であった。

 

「「…!!」」

 

突如として目の前から想像を絶する程の妖気が感じ取れた。その妖気を間近で感じ取っていた龍崎は驚きながらも笑みを浮かべる。

 

「なんだこの妖気…随分と膨れ上がってるじゃねぇか…!!」

 

「鬼太郎…」

 

その直後、その瓦礫の山が散開すると同時に青と黒が入れ混じった禍々しいオーラを纏った“何か”が空中へと飛び出した。

 

 

それはなんと、鬼太郎であった。

 

「おいおい…なんだ?この妖気…全く感じ事もねぇな。……いや、所々に魔女と同じ質の魔力が混じってやがるな」

 

そう言い龍崎は額から微量の冷や汗を流す。鬼太郎の全身から溢れ出る妖気。その量は軽く見積もっても普段の数十倍以上にまで膨れ上がっており、その妖気からはアニエスと同じ魔力を感じ取っていたのだ。

 

 

 

その一方で

 

「一旦木綿!!」

 

「はいよぉ〜!!」

 

飛び出した鬼太郎は上空から急降下してきた一旦木綿へと飛び乗ると、そのまま上空へと向かっていった。

 

 

全身から溢れ出る妖気を感じ取り、その様子を見ていた龍崎は猫娘へと目を向けた。

 

「おい、アイツ何があった?あの量の妖気は尋常じゃねぇぞ?」

 

「……」

 

龍崎から問われた猫娘は何かを思い出したのか、歯を食いしばりながらも答えた。

 

「あのアニエスって奴の魔法で…無理やり妖力を増幅させられたのよ…」

 

「ヘェ〜通りで。んで溢れ出た妖力にようやく慣れた…と。今まで寝てたのはその妖力によって身体が硬直してたからか」

 

 

そう言い龍崎は上空で髪の毛針を放出させながらアニエスを救出しアデルと交戦する鬼太郎へと目を向けた。

 

 

その時であった。

 

 

「貴様ぁ…!!!」

 

「お?」

 

背後から巨大な怒声と共に龍崎と猫娘を影が覆った。見ればそこには先程、龍崎によって爆散させられたヴォルフガングの姿があったのだ。

 

「ヴァゥッ!!!」

 

「ふん」

 

唸り声と共にその巨大な腕が振り下ろされると、龍崎は咄嗟にその腕を掴む形で受け止めた。

 

 

「ほぅ?生きてたか。たしか満月の夜の狼男は不死身なんだっけか?」

 

「よく知っているな…!!」

 

「やっぱり」

ヴォルフガングの腕を受け止めながら、不死身という特性に気付いた龍崎はため息をつくが、すぐに笑みを浮かべる。

 

「だが、残念だったな」

 

不死身とならばどんな攻撃も効かず、消耗戦となるだろう。

 

 

 

だが、裏を返せば_____

 

 

 

 

 

 

_____ただのサンドバッグであった。

 

 

「不死身なら技の実験台に丁度いい」

 

その言葉と同時に龍崎のもう一方の指先が光りだす。

 

 

__『龍殺弾』

 

その瞬間 龍崎の指から1発の妖力の弾丸が放たれた。

 

「な…なに!?ゴハァ…!!」

 

その弾丸はヴォルフガングの身体を一瞬にして貫き彼の身体に穴をあけた。

 

それだけでは終わらない。再び龍崎の指先が光ると共に彼の周囲に次々と妖力の光弾が形成されていった。

 

「粉々に吹き飛びな」

 

__【連続龍殺弾】ッ!!

 

その言葉と同時に龍崎の生成した妖力の弾丸がヴォルフガング目掛けて一斉に放たれていった。

 

「ぐぅ!?」

 

何百発という圧倒的な手数によって放たれたその光弾は輝く軌跡を残しながらヴォルフガングの身体を貫いていき、再生したばかりである彼の身体を蜂の巣へと変えていった。

 

 

それによって、不死身といえどダメージに限界が来たのかヴォルフガングの身体がその場に崩れた。

 

「な…なんだこのバカでかい妖力は…!?貴様…一体何者なのだ…!?」

 

「単なる人型妖怪さ。それよりも…」

 

龍崎は目を鋭くさせるとヴォルフガングを睨みつける。

 

「一つ聞くぞ?お前ら西洋妖怪が何しに来た?」

 

その質問にヴォルフガングは笑みを浮かべながら傷が塞がった身体で立ち上がる。

 

「答える気などないなぁ。いずれ“バックベアード”様に支配される奴になぞ…!!!」

 

そして、彼がその言葉を言い終えると共に___

 

 

「あら?ヴォルフガングったら、アンタまさか押されててんの?あんな坊やに」

 

「おやおや〜滑稽ですね〜。んん?あのコ意外と強い妖力秘めてますよ〜」

 

周囲から更に2体の西洋妖怪が現れた。

 

一体はアタッシュケースを手に持つ小柄な少年だが、その身体には所々に縫われた跡があった。

 

『ヴィクター・フランケンシュタイン』

 

そしてもう一体は長い髪を揺らし英国風の衣装に身を包む妖艶な女性であるが、その柔らかな口元からは鋭い牙を覗かせていた。

 

『吸血鬼 カミーラ』

 

 

新たなる西洋妖怪が集結した事で猫娘は驚きの声をあげる。

 

「な…まだいたなんて…!!」

 

「はっ。見る限りフランケンとヴァンパイアってとこか。ゾロゾロと出てきやがったな」

 

それに対して龍崎は取り乱すことも慌てることもなく、寧ろ全身から妖気を解放させると腕の骨を鳴らし始め、再び戦闘体勢へと入った。

 

「さて、3匹になった事で続きと行こうじゃねぇか。どいつからだ?フランケンのガキか?それとも厚化粧のババアか?それかもう一度やるか?ワンコ」

 

「「「あぁ…!?」」」

 

「ち…ちょっと龍崎…!!」

 

龍崎の言葉は全てまるまる正確に三人へと届いていた。それを耳にした猫娘は咄嗟に止めようとするものの、既に遅い。

 

「ガキだってぇ〜!?」

 

「ば…ばば…ババア!?」

 

「ワンコだとぉ…!?」

 

3体の西洋妖怪はその言葉によって頭に来たのか、目を鋭くさせながら妖気を溢れ出し龍崎へと向けた。

 

「上等だよチビがぁ!!!」

 

「その血を吸い尽くしてやるわぁ!!!」

 

「ウヒヒヒヒ!!その前に全身を解剖して差し上げますヨォ〜!!!」

 

そして その3体の身体が再び変化を遂げた。ヴォルフガングは狼男へ、カミーラは無数の蝙蝠へ、そしてヴィクターは周囲から再び合成獣を召喚させる。

 

 

「ハッ。最近勉強でストレスが溜まってたから発散には丁度いい」

 

それに対して龍崎も取り出したワックスでオールバックにし髪を縛り戦闘モードへと移行すると上着を脱ぎ捨ててタンクトップ一枚となった。

 

「楽しませてくれよ?西洋妖怪ども」

 

 

 

 

その時であった。

 

 

_ほぅ?____我が配下を相手にここまでとは…随分と手練れがいたものよ…

 

 

 

「「「「…!?」」」」

 

突如としてその場に第三者の声が響き渡った。その声を耳にした瞬間 周囲一帯を超巨大な魔力が覆い、衝突しようとした龍崎や西洋妖怪そしてアニエスを救出した鬼太郎は動きを止め、上空へと目を向けた。

 

 

すると

 

 

___パリィィン…

 

突如として空がガラスの砕ける音が響き渡ると共に割れ、その隙間から液体のような黒い物体が姿を現した。

 

そして、その物体はやがて球体のようになると、その真ん中に裂け目が走り、不気味な一つ目を覗かせた。

 

 

その妖怪は姿を現すと、最も付近にいる鬼太郎とアニエスへと目を向ける。

 

「ふむ…貴様がゲゲゲの鬼太郎か」

 

「…!!」

 

その言葉を耳にした鬼太郎は即座に戦闘体勢を取ろうとする。

 

 

だが、

 

 

「ぐぅ!?」

 

「きゃぁ!」

 

それをまるで読んでいたのか、その妖怪の巨大な目玉が彼らを睨みつけると、その場に謎の重力が発生し、鬼太郎とアニエスを地上へと叩き落とした。

 

 

すると、

 

 

「…まさか貴方様が直々にお越しになられるとは…」

 

空中で静止していたアデルはその妖怪へと目を向け、突き落とされたアニエスに目を向ける事なく跪いた。

 

「バックベアード様」

 

「お前が苦戦する相手に興味が湧いてな…一目見たく来てしまったが…期待はずれだ。魔力を纏いこの程度とは…」

 

 

その言葉と共にバックベアードの目が今度は地上に立っている龍崎へと向けられた。

 

「貴様はどうだろうな」

 

 

その瞬間 

 

「お!?」

バックベアードの巨大な瞳の延長線上に立っていた龍崎が、バックベアードの目玉から放たれた赤い妖気に覆われると共に先程と同じ超重力が襲った。

 

 

だが、

 

「……ハッ。重力魔法か?西洋妖怪らしいな」

 

その重力魔法の中、龍崎は何ともないかのように直立しており、そのままバックベアードを見上げていた。

 

「ほぅ?我が力にここまで耐えるか」

 

「軽い軽い。こんなもん“地獄で鍛えた”時と比べたら可愛いモンだ」

 

 

「「「「「「!?」」」」」」」

バックベアードの重力に当たる中、龍崎の口から出た言葉に彼の近くで倒れていた猫娘は勿論だが鬼太郎達も驚きの表情を浮かべた。

 

「地獄…!?アンタ!どういうことよそれ!」

 

「言葉通りだ。俺は一時期地獄にいてな。そこで修行して自分の力を完全にコントロールさせたのさ」

 

猫娘に答えた龍崎は全身から青い妖気を生み出すと右腕に集中させる。

 

すると、その腕に集まった妖気はやがて炎の渦を巻く巨大な球体へと変化した。

 

そしてそれを作り上げた龍崎はバックベアードへと目を向ける。

 

 

「こんな風になぁ」

 

 

その瞬間_____

 

 

 

 

 

_____龍崎の手から妖気の玉がバックベアード目掛けて放たれた。

 

 

「小癪な」

 

それに対してバックベアードは瞳を変形させると、全身から黒い妖気を集めて目の前へと収束させると龍崎と同じく妖気の玉を生成し向かってくる妖気の玉目掛けて放った。

 

 

 

____!!!!

 

 

放たれた妖気の玉は互いに衝突すると、爆発すると共にその場に巨大な衝撃波を発生させた。

 

 

 

そして、煙が晴れた時には____

 

 

「……逃げたか」

 

_____既に狼男、フランケン、吸血鬼に加えて空に浮かび上がっていたバックベアードの姿は消えていた。もはや国内からも感じ取れないとなると、恐らく本拠地へと戻ったのだろう。

 

 

「つまらねぇな。まぁ…あの口ぶりからするとまた来るからその時でいいか」

 

西洋妖怪の気配が消え、もう日本にさえもいない事を確認した龍崎は興醒めしたのかその場から立ち去ろうと歩き出した。

 

「ま…待ちなさい…!!」

 

「待たねぇよバカ。ボロボロの雑魚に用はねぇ」

 

「ざ…!?」

 

背後から猫娘の呼び止める声が聞こえてくるものの、その声に龍崎は淡々と返しながら鬼太郎の近くで座り込んでいるアニエスへと目を向けた。

 

「あと金髪魔女。西洋妖怪共に伝えとけ。もしナワバリで暴れたら徹底的に潰すってな」

 

「え…?ち…ちょっとどういう事!?」

 

アニエスが呼び止めるよりも早く、龍崎の身体は一瞬にして消え失せるとゲゲゲの森から消えた。

 

 

そんな中、

 

「……」

 

地面に倒れ伏していた猫娘は下を向きながら拳を握り締めていた。

 

「くぅ…!!!」

 

いつも見せるその可憐な顔は、いつの間にか戦闘時の瞳が縦に長い獰猛な猫と化していながらも、その瞳からは涙を流し、歯を食いしばっていた。

 

「なんで……私はいつも…!!!」

 

ーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

それから数日後。

 

「…何でテメェがここにいる?」

 

昼休みの屋上にて、休んでいた龍崎の目の前には金髪の魔女『アニエス』の姿があった。

 

「お願い…指輪の破壊を手伝って!」

 

「断る。帰れ。興味ねぇ」

 

「はぁ!?」

 



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魔女アニエス

 

 

「お前は…あ〜あの時の魔女か」

 

「アニエスよ!!……貴方は?」

 

「『龍崎 忍』しがない半妖さ」

 

「龍崎…ね。じゃあ龍崎、早速だけど___」

 

「断る」

 

「って早いわよ!!!」

 

それからアニエスは自身の目的であるアルカナの指輪の破壊や、バックベアード達が目論むブリガドーン計画について話した。

 

 

だが、龍崎の答えは____

 

 

「やだ」

 

「ち…ちょっと!何で手伝ってくれないの!?ふぎ!?」

 

詰め寄ろうとしたアニエスの頭を龍崎は鷲掴みする。

 

「ゴチャゴチャうるせぇんだよ。何で何の交流もねぇテメェに俺が協力しなきゃいけねぇんだ?あぁ?」

 

「いいいいいたいいたいいたい!!!」

 

「そもそも頼むときは『お願いします』だろ?なぁ?」

 

「分かった!分かったからやめてぇ!!!」

 

ーーーーーーー

ーーーーー

 

「ぜぇ…ぜぇ…」

 

「アルカナの指輪と、人間を妖怪奴隷にし世界征服するブリガドーン計画…か。ソイツ何歳だ?世界征服なんてこのご時世イタすぎるだろ」

 

「知らないわよ!それに信じらんない!か弱い女子にこんな事するなんて!」

 

「差別はよくねぇからな。男だろうが女だろうが、俺は全力で締め上げるぞ」

 

それから龍崎は再び詳しくそのことについて聞く。

 

「んで、アルカナの指輪は不定期な場所に現れるから、見つけたら急いで向かわないといけないと」

 

「そ!鬼太郎達にも頼んだけど…人手が足りないと思ったから…」

 

「だから俺を探してたって訳か」

言いづらそうにアニエスは目を逸らしながら答えるが、龍崎は首を横に振る。

 

「興味ねぇ」

 

「はぁ!?」

 

龍崎の放った一言にアニエスは再び驚き彼に詰め寄った。

 

「全人類が奴隷にされるのよ!?それでもいいの!?」

 

「だったらその時に動く。奴らが攻めてくる気配がねぇウチは放っくんだよ。それに、テメェの都合なんて知ったこっちゃねぇ」

 

「くっ…!!」

 

そう言い龍崎が欠伸をしながら淡々と告げるとアニエスは歯を食い縛りながらその場を飛び立った。

 

「じゃあもういいわよ!!このチビ!」

 

「あぁ…?」

 

「いや…あの…いいです…他当たります…」

 

「よろしい」

 

ーーーーーーーー

ーーーーー

ーー

 

それから翌日。

 

「さて…気晴らしにラーメンでも食いにいくか」

 

土日となり、学校が休みになった為に龍崎はTシャツに黒い長ズボンといったラフな服装で道を歩いていた。

 

 

そんな中であった。

 

「ウヒ…ウヒヒヒヒ!見ぃ〜つけたぁ〜!!」

 

「あ?」

 

突如として背後から不気味な笑い声が聞こえ、振り返るとそこには数日前にゲゲゲの森を襲撃した西洋妖怪の一人 ビクターの姿があった。

 

「テメェは西洋妖怪か。何の用だ?」

 

「決まってるでしょ〜!!」

 

不気味な風貌から予想できる歯切れの悪い言動と仕草。見ているだけで身体が震えてしまいそうな程の雰囲気を漂わせていたビクターはアタッシュケースを開く。

 

「アニエス様を返してもら____」

 

 

だが、彼の言葉が言い終わる前に龍崎の拳が動いていた。

 

「ガハァ!?」

 

「うぜぇ」

 

放たれた龍崎の拳はビクターの顔面へと深く突き刺さると彼の身体を吹っ飛ばし、アスファルトの地面へと倒れた。

 

「ハッ。脆いな」

 

「い…いつつ…痛い痛いヨォ…!!!」

 

「ん?」

 

龍崎が落胆する中、倒れ伏したビクターは小刻みに震えながら起き上がった。

 

 

すると

 

「痛い痛い痛い…イタぁイヨォオオオオオオ!!!!!」

 

その身体が変形し、一瞬にして3メートルを超える筋骨隆々の大男へと変化を遂げた。下半身は勿論だが、上半身の筋肉の発達は常軌を逸しており、片手で龍崎の身体をまるまると掴めてしまう程であった。

 

 

「ヴァァァアアァアアァ!!!!」

 

もはやその叫び声は元の少年のような声などではない。この世のものとは思えぬ死者の叫び声であり、その叫び声を鳴り響かせながらビクターは龍崎目掛けて拳を振り翳した。

 

「ヴワァ!!!!」

 

「ふん」

 

振り下ろされたその拳を龍崎は避けるが、その拳が地面へと衝突すると、巨大な衝撃波を発生させ、住宅地を揺らし岩盤をも砕いた。

 

その拳の一撃を受ければどんな妖怪であろうともタダでは済まないだろう。

 

 

 

 

だが、龍崎にとってそんな変化など______

 

 

 

 

 

 

 

 

___________ダンゴムシが身体を丸める程度のものであった。

 

 

 

グシャ

 

 

「あぁ…!?」

 

その直後。巨大化したビクターの腹部に風穴が空いた。

 

「お前に一つ教えておいてやる。自我を失うパワー型はタフになるから確かに便利だが、欠点がある。それは重心が脆い事だ。そのパワーを維持するなら支える重心にも相応の負荷が掛かる。身体の重心を破壊すれば一気に崩れてただの自我のない肉の塊になるんだよ」

 

「がぁ!?グハァ!!」

その言葉と共にビクターの身体へと次々と風穴が空いていった。

 

それによってビクターの巨大な身体は、自身の体重による負荷を支えきれず、その組織が次々と崩れていき、遂には粉々になりながら地面へと崩れ落ちていった。

 

「な…なに…!?コレぇ!?」

 

「妖力の弾丸だよ。高密度に圧縮させて弾丸の様に撃ったのさ。だがこの攻撃も見えねぇとなると、狼男もそうだが、テメェらと戦っても全く面白くなさそうだな」

 

ビクターをバラバラに破壊した龍崎は、いまだに蠢こうとするその身体に目掛けて手を向けた。

 

すると、龍崎の腕が蒼く発光し、掌へと蒼い光球を形成した。

 

「じゃあな。俺に挑んだことを後悔しな」

 

そう言い龍崎は生成した妖力の塊をビクター目掛けて放とうとした。

 

 

 

 

 

その時であった。

 

突然と目の前の空間が歪み、その中から銀髪の長身の女性が姿を現した。

 

「ん?テメェは」

 

「…」

 

その女性に龍崎は見覚えがあった。そうだ。彼女は以前、ゲゲゲの森を襲撃した西洋妖怪の一人であり、アニエスの姉『アデル』であった。

 

現れたアデルはすぐさま宝石を取り出して握り締める。

 

すると、空間が歪みバラバラに破壊されたビクター共々姿を消したのであった。

 

「…ッ。邪魔が入ったか」

彼女によって、ビクターは回収され、仕留め損なった事を理解したのか、妖力を消し、舌打ちをついた。

 

 

すると

 

「り…龍崎!?」

 

「ん?」

 

背後から聞き覚えのある声が聞こえ振り向くと、そこにはアニエスのみならず まなの姿があった。

 

「何だテメェか」

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

あれから場所を移動して龍崎はアニエス、まなと共に喫茶店へと来ていた。

 

「えっと…龍崎くんは何であそこにいたの?」

 

「変なフランケンが俺に喧嘩ふっかけてきてな。取り敢えずバラバラにしてやって、消そうとしたが銀髪の女に連れてかれて逃げられた。それもりも、何でお前らが二人でいる?」

 

ホットコーヒーを啜りながらまなの質問に答えると、今度は龍崎がまなの横で座っているアニエスへと目を向ける。

 

「えっと…指輪を見つけて路頭に迷ってたらまなに会って…」

 

「ふぅん」

 

「そんな事より…」

 

「あ?」

 

龍崎が頷きながらコーヒーを口にすると、アニエスは突然と詰め寄った。

 

「ビクターを追い詰めたんでしょう!?やっぱりアンタ強いじゃない!」

 

「ビクター?さっきのフランケンか。ただデカいだけの雑魚だったぞ」

 

「だったら話が早いわ!!やっぱり指輪を…」

 

 

アニエスが身を乗り出そうとした時であった。

 

 

 

_____座れ小娘ッ!!!!

 

「…!?」

 

突如として頭の中に龍崎の怒声が響き渡り、口から出掛けていた言葉を詰まらせると、すぐさま座った。

 

そして、それを龍崎は鋭い瞳で見る。

 

「さっきのは偶然だ。俺にちょっかい掛けて来たからやったんだよ。だからと言ってテメェに手を貸すって話にはならねぇだろ?」

 

「……」

 

「返す言葉なしってことはじゃじゃ馬のテメェにも理解できたようだな」

 

龍崎のその一言にアニエスは何も言葉にできず、ただ暗い表情のまま俯いてしまった。

 

俯くアニエスに鋭い瞳を向けながら静かにコーヒーを飲む龍崎。その二人の空間に取り残されたまなはどうすれば良いのか分からず気まずそうにしていた。

 

「えっと…り…龍崎くん!!何か頼む!?アニエスも!私なんかお腹空いちゃったな〜!!あはは…」

 

 

そんな中であった。

 

〜♪

 

「…ん?」

 

突然と龍崎の携帯が鳴り、龍崎は取り出すと耳に当てた。

 

「なんだ“茨木”か。どうした?……あぁ分かった」

 

しばらく通話した龍崎は携帯をしまうと千円札を置いて立ち上がる。

 

「急用ができた。俺はこれで失礼するよ」

 

「えぇ!?ちょっと待ってよ!どこに行くの!?」

 

「九州」

 

龍崎はまなの呼び止める声にただ一言だけ残して店を出て行き、取り残されたまなは必死にアニエスを慰めるのであった。

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

それから九州で急用を終えた龍崎は、現在は京都の病院の屋上にいた。

 

「今回の件もすぐに片付いた様ね。相変わらず、因習のある村には容赦がないわね」

 

「ふん。どいつもコイツも厄災払いのために生贄だの、何だのくだらねぇ」

 

彼の隣には手術があったのか、外科医の衣服を身に纏う狐鈴の姿があった。

 

そんな中であった。龍崎はある事を彼女に尋ねる。

 

「で?“第一位”の奴の結界はどうなってる?」

 

「問題なく安定しているわ。この調子なら、あと2.3年は大丈夫だと思う……けど」

 

「けど…?」

 

狐鈴のこぼした最後の言葉に龍崎は反応して聞き返すと、彼女はため息をつきながら答えた。

 

「先日、その周辺を『ぬらりひょん』がうろついていたと報告が入ったの」

 

「…!!」

 

その言葉を聞いた龍崎は思わず飲んでいた口を止め、瞳を鋭くさせた。

 

「厄介な奴が気つきやがったか…いや、既に気付いていた…と言うべきか」

 

『ぬらりひょん』それは老人に似た姿であり、自在に気配を消す能力を持つ妖怪である。力こそあまりないものの、その知能は高く持ち前の能力を利用して現在の政府に顔が効く程の立場を会得しているのである。

 

そして現在こそ老いてはいるものの若き頃はその知能のみならず、巨大な力も保有しており、幾多の妖怪を従えて百鬼夜行を率いていたその姿から『日本妖怪総大将』と呼ばれていた。

 

「…まぁ、奴を見つけたらすぐに殺すしかねぇな」

龍崎は目を鋭くさせると飲み終えたジュースの箱を握り締める。

 

「俺もそろそろ本腰を入れるか…ぬらりひょんはともかく、奴を仕留められるのは幽霊族だけだからな」

 

「あ、そうだ。今日はハロウィンだそうじゃない」

 

「ハロウィン?あぁ、全国中の魑魅魍魎が渋谷で百鬼夜行起こす祭りか。それがどうかしたのか?」

 

すると、狐鈴はニコニコとしながらある画面を龍崎へと見せる。

 

「限定スイーツ、お願いできるかしら?」

 

そこにはハロウィンの限定スイーツの広告があった。

 

 



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吸血鬼のハロウィンパーティ

 

10月31日。その日はケルト神話における収穫を祝うお祭りであり、アメリカでは子ども達が仮装をしお菓子を貰う、日本では良い歳した大人達が露出の多い服装やアニメのコスプレをし、渋谷をただ歩き回りその様子をSNSに投稿するイベントである。

 

 

そして、その同時刻。

 

「猫姉さんがハロウィン嫌いだったなんて知らなかったよ〜…ごめんね?こんな時にイベントに誘っちゃって」

 

「いいわよ。スイーツに罪はないからね」

 

その映画館の列には猫娘と、彼女と同じ格好をしたまなの姿もあった。猫娘はハロウィンに対して良い思いを持ってはいなかったが、スイーツが出るならば話は別であり、まなに連れられて、限定スイーツが配布されるイベントに参加する事になったのだ。

 

それから彼女らは映画館の受付へと入ると、受付へとチケットを渡す。

 

 

「はい。んじゃ、これ掛けて中入ってくださいよ〜」

 

「……」

 

その聞き慣れた声に猫娘の目が変わり、VRゴーグルを受け取る手が止まった。

 

「…ほら、突っ立ってないで早く席に……げぇ!?猫娘!?」

 

そのゴーグルを渡したのはねずみ男であった。

 

「ガッカリ…アンタがいるって事はスイーツ配った後に高い布団を買わされる類の詐欺イベントってことね?」

 

「違うわ!!俺は正式にアルバイトとしてやってんだい!!」

 

ねずみ男がそう言うとまなは首を傾げる。

 

「え?ねずみ男さんはハロウィンとか楽しまないの?」

 

「け!だーれがあんなもん!!ハロウィンなんざ商業主義の産物!人は混むしゴミは散らかるし、全くロクなもんじゃねぇ!本当にハロウィン爆発しろっ!ってんだ」

 

「あははは…」

 

「……何か否めない…」

 

ーーーーーーー

 

 

それから猫娘達が劇場へと入っていくと、ねずみ男はため息をつく。

 

「全く。なんで猫娘まで来るんだか」

 

すると

 

「すいません。チケットを」

 

「はいはい〜」

 

再び来客の声が聞こえ、ねずみ男は軽く返事をしながらゴーグルを手渡した。

 

そんな中であった。

 

「コイツをつけて……てぇ!?」

手渡した際に相手の顔を見た途端にねずみ男の全身に鳥肌がたった。

 

「あ…アンタは…!!」

 

「あ?あ〜テメェは」

ーーーーーーー

ーーーーー

ーーー

 

その後、猫娘はまなと共に席に座りゴーグルを掛ける。因みにまなは映画の説明で流石に怖気付いてしまったのか、手を握り締めていた。

 

 

それから映画が始まるのであった。

 

「…」

 

映ってくるのは定番の逃げ惑う人々やそれを追うゾンビ目線の映像。更にその光景は映画館であった。

 

「ひぃ…!!猫姉さん…!!」

 

「VRVR。慌てすぎ」

 

 

その映像は劇場の入り口へと向かって行き、その扉をゆっくりと開く。

 

 

そんな中であった。背後から近づいてくる足音と気配を感じ取った。その気配に猫娘はあらかた検討がついていた。

 

そう。それは嫌がらせである。映画館にてよくある暗闇である事を逆手に痴漢などを行う輩がおり、更に今回は視覚どころか感覚もあやふやとなるVRゴーグルを被っているため周りの皆も目にしていないので窃盗なども働く輩もいるのである。

 

その類であると勘付いていた猫娘はそのまま手を伸ばし___背後から伸びてきた手を掴み投げた。

 

「えぇ!?」

 

「…やっぱり。こんな事だろうと思ったわ……」

 

まなが驚く中、猫娘はゴーグルを取り出して目の前の現実へと目を向けた。

 

 

そこには____

 

 

 

 

 

 

_______10人以上もの青白い顔をした人間がこちらへ牙を向けていた。しかもその顔色だけでなく、瞳の色も人間と異なり真っ赤に染まっており口元からは鋭い牙がのぞいていた。

 

 

「え!?」

 

「か…囲まれてる!?」

 

すると

 

 

猫娘とまなが驚く中、目の前のモニターが光出し、そこには以前ゲゲゲの森へと攻めてきた西洋妖怪である吸血鬼『カミーラ』の姿が映し出された。

 

『この吸血劇場の支配人としてカミーラがようこそと言っておくわ』

 

「アンタは…西洋妖怪!」

 

『オ〜ホッホッホ!さぁ、ここからがショータイムよ」

 

 

パチンッ

 

画面越しに高笑いしたカミーラは指を鳴らすと、数人もの青白い顔をした女子高生達が向かってきた。

 

 

「まな!逃げるわよ!」

 

「う…うん!」

 

猫娘は即座にまなを抱き上げるとその場から跳躍し出口へと駆けていくのであった。

 

ーーーーーー

 

劇場から出た猫娘とまなは、その目の前にある入り口へと来ていた。そこには先程まで受付をしていたねずみ男の姿があった。

 

「アンタ…!まさか西洋妖怪と組んでたって訳!?」

 

そう言い猫娘は目を鋭くさせ、口を耳元まで裂けさせると戦闘状態へと移行して長い爪を向けた。

 

 

だが、そんな彼からはいつもの怯える反応が見られなかった。

 

「…ん?ねぇ!聞いてるの!?」

 

すると、彼がゆっくりと振り向き此方へと顔を向けてきた。だが、その顔は___

 

 

 

____先程の女子高生達と同じく真っ白に染まり赤い目と鋭い牙を光らせていた。

 

「まさかねずみ男さんまで!?」

 

「成る程…アイツも嵌められたって訳ね」

 

まなが驚き、猫娘も彼の様子と日常の行動から納得すると、すぐさま彼の前に立つ。

 

それに対して、ねずみ男も口元から牙を光らせた。

 

「シャァァァ!!」

 

すると

 

ガチャ

 

振り向いて動いた際に彼の身に纏っているボロい布が入口の取手に引っ掛かると、それによって入り口が開き、巨大な風が発生した。

 

「おわぁぁ!?」

 

その風は外へと吹くかのように、その風によってねずみ男はその場から出口の向こう側へと吹き飛ばされていった。

 

「……」

 

その光景を目にしていた猫娘は疑いながらも慎重に扉へと手を掛ける。だが、その扉が開くことはなかった。

 

「一時的なものだったみたいね。完全に閉じ込められたわ」  

 

「そんな…!」

 

 

すると 先程出てきた劇場の扉が開き、吸血鬼と化した女子高生たちが再び此方へと向かってきた。

 

それを見た猫娘は咄嗟にまなの手を握る。

 

「こっちよ!」

 

「あ…うん!!」

 

 

 

 

 

 

 

その時であった。

 

 

 

 

「どけ」

 

 

「「!?」」

突如として第三者の声と共に襲い掛かろうとしてきた女子高生達が壁へと吹き飛ばされた。

 

その聞き慣れた声を耳にした猫娘とまなは足を止めて振り返ると驚きの表情を浮かべた。

 

「な…なんでアンタがここにいんのよ!?」

 

そこにはいつもと異なりTシャツとダボダボのズボンといったラフな服装の龍崎が立っていた。

 

「知り合いにスイーツを頼まれていてな。それよりも妙に感じ慣れてる妖気があると思えばやっぱりお前か」

 

 

すると、彼の背後から吸血鬼と化した人間達が襲いかかってくる姿が見えた。

 

「龍崎くん!後ろ!!」

 

「分かってるさ」

 

まなの叫び声が届くと同時に龍崎は拳を握り締める。

 

その瞬間

 

__!!__!!__!!

 

 

数発もの打撃音と共に龍崎へと襲い掛かろうとした吸血鬼達がその場に倒れた。

 

「やっぱり。気絶すりゃ黙るようだな。さてと…?」

 

ーーーーーーーーー

 

ーーーーー

 

ーー

 

龍崎と合流した猫娘とまな。そんな中で龍崎はあくびをしながら現在の状況を分析した。

 

「成る程。ドアが開かないのか」

 

そう言い龍崎は猫娘達と同じく扉へと手を掛けるも開くことは無かった。

 

「アンタでも無理なの?」

 

「あぁ。映画館全体を特殊な魔力が覆ってやがるからな」

 

「て事は、あの吸血鬼を倒さないといけないって訳ね…」

 

「いや、アイツを倒しても意味がねぇぞ」

 

「え?」

 

猫娘が驚く中、龍崎は扉の取手を指でなぞる。

 

「感じられる魔力の質が違ぇ。どっちかと言えばあの金髪の小娘に近いな」

 

「アニエスの!?」

 

「あぁ。俺がゴリ押しすりゃ開けられるが、まずナワバリで勝手な真似したあの吸血鬼を殺さなきゃ気が済まねぇ」

 

そう言い龍崎はその場から奥の部屋へと目を向ける。

 

「お前らはどうするんだ?」

 

「私は……」

 

猫娘は自身の横に立っているまなや倒れている女子学生達へと目を向ける。龍崎はいまだに得体が知らないために何があるか分からない。だが、それでもここにいればいずれ他の吸血鬼にされた人間達が襲ってくるだろう。

 

「〜!!」

 

故に猫娘は苦渋の末に決める。

 

「一緒に行くわ…それに、奴の居場所についてはだいたい目星もついてる」

 

「そうか。でも、俺の邪魔すんなよ」

 

「くぅ…分かってるわよ……」

 

それから3名はカミーラの元へと向かうのであった。

 

ーーーーーーーー

ーーーーー

ーー

 

 

場所は変わりその映画館の数ある部屋のうち、ソファーや古時計などが揃えられた洒落た部屋の_____

 

 

 

_____鏡の中に広がる“その部屋”では。ソファーに座りくつろぎながらワインを飲み、目の前にあるモニターで猫娘、まな、龍崎の行動を見物するカミーラの姿があった。

 

「うふふ。甘いわね。確かに私は“ここにいて”…“ここにはいない”。貴方達に見つけられるかしら?」

 

 

その時であった。

 

「成る程?鏡の中に魔力で別空間を作ったのか」

 

「!?」

 

背後から声が聞こえ、すぐさま振り向くとそこには立て掛けてある鏡から入ってくる龍崎の姿があった。

 

「え!?は…早くない…!?」

 

「あぁ。お前の魔力が鏡の中からダダ漏れだったからな。一直線ですぐに見つかったよ」

 

「ッ…面白くない。けど…いいわ。相手になってあげる」

アッサリと潜伏場所を暴かれたカミーラは舌打ちをするものの、すぐに立ち上がると龍崎に向けて鋭い目を向ける。

 

すると、カミーラの身体が次々と分裂し無数の蝙蝠と化していった。

 

「勝てるかしら?私達崇高な“西洋妖怪”に貴方のような“妖力のない日本妖怪の雑魚”が」

 

そして、その言葉が言い終える頃には、龍崎の周囲を無数の蝙蝠が覆っていった。

 

 

そんな中である。

 

「いやそりゃそうだろ。普段から妖力なんざ使わねぇんだから」

 

「え…?」

 

龍崎がその一言を放つと共に髪を全て後頭部に纏め、上着を脱ぎ捨ててタンクトップとなる。

 

 

 

その瞬間

 

 

龍崎の全身が蒼く光ると共に蒼い炎が溢れ出した。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「な!?なんなのよ…この妖力の量は!?」

 

「お前に一つ教えておいてやる。妖力ってもんは制御すればいくらでも応用が効く。威嚇にも攻撃にもな」

 

溢れ出したその炎は空間全域へと伝わっていき、龍崎を取り囲んでいた蝙蝠を次々と焼き払っていった。

 

「分かってるだが、それは無限って訳じゃねぇ。バッテリーみたいに使い終わったら寝るなり食うなりして充電しなきゃいけねぇのさ。だから俺はそれを防ぐために普段は妖力を消してるんだよ」

 

「クソが!!」

その威力にカミーラ自身も耐え切れないのか、すぐさま分裂体である蝙蝠を収集し、本体へと戻る。

 

 

だが、それが彼女の敗因となった。

 

 

彼女が本体へと戻った時にはすでに、炎を纏った拳を振りかぶっている龍崎の姿があったのだ。

 

「ふん」

 

「ガハァ!?」

 

その拳は見事にカミーラの顔面へと深く突き刺さると彼女の顔を歪めながら吹き飛ばした。

 

「に…日本妖怪の分際で___ぐふぉ!?」

 

「血筋だけが取り柄のゴミが何いってんだよ」

 

壁へと叩きつけられ、その場に膝をついたカミーラが顔を上げるよりも早く。接近した龍崎は彼女の顔を蹴り上げた。

 

「ぐ…うぅ!?」

 

「おいおいたった2発で終わりか?もっと楽しませろよ。俺を雑魚呼ばわりしたんだからよぅ」

 

そう言い龍崎はその場に倒れたカミーラに向けて腰を下ろすと彼女の髪を無理やり掴み上げた。

 

「お前らから喧嘩ふっかけて来たんだぞ?なのに先にのびちまうなんざ、カッコつかないだろ」

 

「く!?ふざけんじゃねぇ!!!」

 

カミーラは激昂の叫び声を上げると、鋭い爪が生える強靭な腕を龍崎に目掛けて突き出した。

 

だが

 

「その程度の突きで俺が殺せるとでも?」

 

「ぐぁあああ!!!!」

 

龍崎にはその攻撃など蠅が止まる程度のものであり、アッサリと掴むとその腕を握り潰した。

 

それによって、その場に彼女の苦痛に悶える叫び声が響き渡る。

 

「お前らのボスに伝えておけ。もしまた日本で勝手な真似をすれば俺が直々に出向いて殺すとな。ま、___

 

 

 

_____生きて帰れればの話だが」

 

その一言と共に龍崎はカミーラの髪から手を離し、倒れ伏す彼女に手を向けた。すると、ビクターの時と同じく、龍崎の腕に蒼い炎の玉が作り出された。

 

「わ…私は…崇高な吸血鬼……」

 

「分かった分かった。あの世で好きに自画自賛しな」

 

 

 

 

その時であった。

 

龍崎を結界が覆う。それは映画館を覆っていた魔力と同じものであった。

 

「…!!!」

 

咄嗟に龍崎は生成した妖気の玉を目の前の結界に目掛けて叩きつける。

 

 

 

 

 

_______ッ!!!!!

 

 

 

叩きつけられた妖気の玉はその衝撃によってその場で大爆発を起こし、巨大な結界をガラスが壊れる音と共に粉々に破壊して周囲を黒煙へと包み込んだ。

 

 

そして、龍崎は咄嗟に腕を振り払い、カミーラがいた場所へと目を向ける。

 

だが、そこには既に彼女の姿はなかった。

 

 

「逃げられたか」

 

ビクターの時と同じである。龍崎は再び獲物を逃してしまったのであった。

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

その後、カミーラを撃破した龍崎は鏡から元の世界へと戻ると、そこにはまだ猫娘の姿があった。

 

「犬山は?」

 

「鬼太郎と一緒に帰ったわ…」

 

「そうか。俺は恥ずかしながらあのババアを仕留め損なった」

 

カミーラを取り逃したことを伝えると龍崎は背負っていた服を再び着用して髪を解く。

 

「俺は帰る。じゃあな」

 

「待ちなさい!」

 

龍崎が入り口へと向かおうとすると、猫娘は大声で叫びながらそれを止めた。

 

「何だ?」

 

「良い加減教えなさいよ…アンタの目的は一体何なの!!私達の抹殺!?西洋妖怪の撃退!?遭う度にアンタは私達の敵を追い払うわ私達に敵意を向けるわ…本当に訳がわかんないのよ!!」

 

その叫び声はその場に響き渡り周囲を沈黙に包み込む。

 

だが、猫娘のその叫びに対して龍崎は何の感慨も浮かぶ事がないのか、淡々と答えた。

 

「そうだな。今回は普通に俺のナワバリで勝手な真似をしたから…だな。別にお前らと西洋妖怪のイザコザなんてどうでも良い。日本を荒らすなら俺“達”が相手をする。ただそれだけで、それ以外の何でもない」

 

「……」

 

その言葉に猫娘は何も答えることはなく、ただ彼の青い瞳を睨む。

 

「何だ?疑ってるようだな」

 

「えぇ…何か“別の目的”があるように思えるわ…」

 

「あははは!ご名答!」

 

猫娘の答えを聞いた龍崎はこれまで見せた事が無いほどの高笑いをすると猫娘へと目を向ける。

 

 

「そうさ。さっき言ったのは理由の半分に過ぎん。もう一つあるのさ。“俺達”新世代に課された任務がな」

 

「新世代…?」

 

「あぁ。俺達の目的は鳳凰を_____」

 

 

龍崎は猫娘へと話そうとした。己の真の目的を_______

 

 

その時であった。

 

 

〜♪

 

「ん?」

 

突如として龍崎の携帯が鳴り出した。その音に龍崎は答えようとした口を止めて携帯を取り出す。

 

「もしもし?あぁお前か“狐鈴”……ほぅ?また西洋妖怪か……分かった」

 

通話を終え、電源を切ると龍崎は入り口へと向かう。

 

「な…待ちなさい!!」

 

「悪いな。急用が出来たからまた今度話してやるよ。その時は鬼太郎と『霊壱』も一緒にな」

 

「え…!?」

 

その言葉と共に龍崎は部屋を出ていき、後から猫娘が追いかけた時には既に彼の姿は消えていたのであった。

 

 

 

 



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