事実は小説よりも奇なり (霧島菊花)
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痛恨

 

 

 

 

高校二年に無事進学し少し早めに教室へ向かう。

彼女達がいる事を知っているからだ。

 

美「おはよう、早いな。」

 

僕に挨拶をしながら何かを書き写している、何かとは宿題以外の何物でもないのだが…

 

美術部で何を描いているのかは分からないが、彼女は口癖のように『時間が無い』と言っている。

宿題をやる時間を削ってまで何をやっていることやら?

 

僕は自分の机に鞄を置いて彼女達の方へ足を向けた。

 

もう一人の放送部の娘から挨拶をされるも、軽く受け流し美術部の娘へ声を掛けようとした。

 

美「ところで、宿題はやったのか?」

 

僕「やってないよ。」

 

美「そうか、期待していたのだがな…」

 

何だそれ?

写す気満々ヤル気無し…

 

僕「もし良かったら、写し終わったら見せてくれない?」

 

美「何で私が貸さなければならんのだ?こっちから借りればいいだろう。」

 

彼女の言い分も最もだ。オリジナルは放送部の娘なのだから、しかし、僕はこれを断った。

 

僕「大変有難い申し出では有りますが、丁重にお断りさせて頂います。」

 

僕の言い方が大変お気に召された様で放送部の娘が割って入った。

あからさまに不機嫌な態度で…

 

放「私、何か貴方の気に触る様な事言った?」

 

僕「へ〜、身に覚えが無いんだ?」

 

放「放送部Bさん、貴方に対し気があるよって言っただけでしょ!」

 

この女…

一度ならず二度までも言い放ったな…

 

あの時と同じ様に、いや、今回は怒気を孕んだ視線を投げつけた。

一度目は呆然と眺めるだけしかできなかったから…

 

美「何だ、そういう事か…」

 

彼女は一言そう零すと事情を察した様で、僕に写したノートを貸してくれた。

いきなりバレてしまった様だ。

 

今回はこの娘の優しさに甘えるとしよう。

 

僕「ありがとう。」

 

彼女からノートを受け取り自分の席へ行こうと振り返ったら背後から話し声が聞こえて来た。

 

放「どういう事?」

 

美「アホかお前は!」

 

先が思いやられる…

ガリ勉って恋愛の機微に疎いのね…

 

話は三ヶ月前に遡る。

 

一年生の頃は放送部Bの娘とクラスメイトであり、彼女が一緒に試験を受けようと僕を誘ったのだ。

試験の補習の時に隣のクラスであった彼女達と知り合う事になる。

この時に何の因果か?

放送部の娘と二人きりになり、痛恨の一撃を食らったのだ。

 

その後、学校の帰り道

クラスメイトの放送部の娘と並んで下校している時の事。

 

放送部B「私と一緒にいるの迷惑?」

 

僕「えっ?そんな事ないよ。」

 

放送部B「さっきから溜息ばかり付いてるけど…」

 

僕「えっ?そうなの?…気が付かなかった。」

 

放送部B「あの…私に言える事があるなら言って。」

 

言える訳ないでしょう…

こうして二人の溜息合戦が始まった。

 

この時、僕は彼女にバレていると言う事を知らなかった。

 



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