眼下に映る無数の色鮮やかなペンライトの光が私の目に映ります。
私たち9人それぞれの色は間違いなく会場中を照らしていました。
私の横に立つ最高の仲間たちは皆笑顔で、会場の皆様も勿論最高の笑顔で私たちを見上げています。
私たちは皆普通の女子高校生。されど、
自分たちの歌と踊りで、そして笑顔で、たくさんの人に笑顔を届ける素敵な
ステージに立つ姿は一時の幻でも間違いなく存在しています。
その証拠に手を繋いでいるみんなの手が徐々に汗ばんでいくのがよく分かります。
私の、私たちの立つこの場所は間違いなく最高のステージです。
「ラブライブ」
アマチュアアイドルであるスクールアイドルによって行われる、アイドルの甲子園のようなもの。この大舞台を夢見て散っていくアイドルが日本中にごまんといると聞きます。
その栄誉ある決勝の舞台に私たちは立っています。勝つ負けるすべて一瞬の時間。とにかく自分たちの持ちうる全ての力でもって臨んだこの大舞台。脚は震え、呼吸も早くなり、鼓動がとてつもない早さで私の胸を打ちます。
緊張からではありません。とにかくやりきった、という感情が大きい。
私たちを見ている人みんなが笑顔です。
それだけで胸がいっぱいになりました。
この景色、ステージの上で今ここに居ない、あなたに思いを巡らせます。
ファンにとって冒涜とも言えるような事ですが、これくらいはどうか許してほしいです。
会場の皆様方への挨拶が終わり、みんな舞台袖に戻ってきました。みんな肩を抱き合って共に泣き、今までの辛かった練習や、これまでのライブを思い出すと自然と涙が流れてきます。とても悲しい。
そして、私たちの耳にアンコールを望む声が聴こえてきました。
次第に大きくなるその声に、皆は涙を止め、次第に笑顔が戻ります。
もう一度あのステージに立てる。まだ、みんなと踊れる!
そう思っただけで止まったはずの涙が流れそうになります。
「まだ、歌えるよ!!!みんな、いこう!!!!」
その言葉に答えるようにステージに戻っていきます。
煌びやかなステージに再び立つとやはりどこか残念に思ってしまいます。
やはり、このステージだけはあなたに見ていて欲しかった…
今もほら、会場の一番奥で腕を組んで私たちを見ているあなたの幻が見えます。
ふふっ、我ながら相当重症ですね。。
さあ、くよくよしていられません!!
みんなを笑顔にしますよ!!!!
歌います!!!!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
同時刻
某ライブハウス
「今日は俺らのライヴに来てくれてありがとう!なんてお決まりの台詞は言わねぇ!今日1日短ぇ時間だけど自分の思うように騒いでくれ!!Next song is Called,『1917』」
強烈な印象のギターサウンドが流れ、爆発するようなシャウトボーカルのシャウトがライブハウス中に響き渡る。
フロアの客はある者はダイブと呼ばれるノリで人の上を流れるように転がり、ある者は強烈なモッシュをしたり、スペースを開け、ステップを踏んだり自由にノっている。
ライブはまだ、序盤も序盤始まったばかりである。小さな世界ではあるが既に混沌としている。
だが、これでいいのだ。
元来ライブハウスとは自由な場所。コンサートとは違い指定された席など存在しない。
故に客同士の喧嘩や、ディスり相など日常茶飯事なのだ。
そんな混沌としたフロアを歌いながら眺めている男。
名を
歳は19でこのライヴをしているバンド「
透き通るようなハイトーンボイスと地獄の業火のようなシャウト・デスボイスのツインボーカルで鮮烈なギターサウンドとツインペダルから繰り出される重厚なドラム、6弦のベースから流れる重く、綺麗なベースサウンド。
それがこのa crowd of rebellionである。
亮輔は歌いながら、今踊っている人物を思い浮かべる。
(もう始まってるか。勝てよ…そして笑顔を作ってこい…俺もこいつらすっげー楽しませっからさ!)
彼ら彼女らの
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第1章 始まりの始まり
春の日の予感
風に揺られ桜がまう春の季節俺
一歩また一歩確かな足取りで故郷の地面を踏んでゆく。
ここから出ていくまで住んでいた家の前に立ち止まるって大きく息を吸った。
これまで色んなことがあった、悲しいことも楽しいことも。そしてまた俺はここに戻ってきた。
「ハローハロー。ただいま!!ちゃんと戻ってきたぜ!!!」
誰に聞かれる訳でもなく、一言告げる。
茨城県で高校を卒業してまた東京に戻ってきた。ここを出たのが中学2年の時、今から約5年前だ。5年の時を経ても変わらない故郷に懐かしさをしみじみと感じる。
昔住んでいた家に今日から一人暮らしをするんだ。
新生活が始まる時は幾つになってもワクワクとドキドキでいっぱいだ。
「うっし!懐かしいけどとりあえず荷物を整理しますか!!」
顔をパンっ!と叩いて気合を入れ直し家のドアを開けると、5年前と全く変わらない家の中に嬉しさを感じた。
一軒家とあるだけ、一人暮らしには不必要な数の部屋があるが、音楽をしている亮輔に取っては大変ありがたい。
持参していた大量の荷物をリビングに運び出すと整理に取り掛かる。
まず最初は命と同じくらい大切なギターと機材を持って階段を上がっていくとL字型の廊下になっていて一番奥の部屋に荷物を持っていく。
4本のギターケースを開けそれぞれスタンドを立てて丁寧に掛けていくと、アンプを運んで設置し、音を自在に変えるエフェクターを積んだトランクのようなもの、通称エフェクターボードを開けて1本の年季の入ったヴィンテージギターに接続していく。
このギターはギブソンと呼ばれるギターで1番最初に手にしたギターで思い入れが特にあるものだ。
繋いでピックで一線掻き鳴らすと、エフェクターに繋いでいるため通常よりも凝った音が出る。
「くぅぅぅ〜やっぱこの音だわ〜。音楽やってないと生きてけないっしょ〜!とりあえず!!!やっぱ最初はこれだね!!」
慣れた手つきで弦を弾きながらメロディを奏でる。亮輔が好きなお気に入りの1曲ELLEGARDENのSalamanderを自分の曲のように弾いていく。
「There ain't no fear
There ain't no hope
There ain't no right
There ain't no wrong
Just make it loud
Just make it loud
Just make it loud
I feel no touch
There ain't no past
There ain't no fate
There ain't no thoughts
There ain't no rules
Spoken words
Broken hearts
Instant dreams…(怖いものなんて何もない希望なんてどこにもない正しいことも間違っていることもない。もっとでかい音で。そうだ、音量を上げてただ大きな声で叫ぶだけなんだまだまだ、そんなものかよ。過去もない運命もない考えていることもなければルールもない。口にした言葉があるだけ。口にした言葉があるだけ。壊れた心があるだけ。一瞬で消える夢があるだけ…)」
最大限のリスペクトの気持ちを込めて丁寧に歌い上げていく。それを聴くものは誰もいなくて、ただ1人の部屋に響き渡るだけ。
でも、それでも亮輔は歌い続けていく。
そして4分とちょっとで曲を歌い終えると、大変満足ですと言いたげな顔をしていた。
「おっと、これ以上続けちまうと片付けが進まなくなっちまう!とりあえず片付けをしよう」
ギターをスタンド掛けると部屋を出てリビングで日用品などの片付けを再開する。
片付け始めたのは14時頃だったがすべて終わる頃には日が暮れてしまっていた。
「ふぃぃぃ〜あーようやくおわった〜。いやどうにもこうにも1人だとやっぱり暇だよな。飯食ってもなんかやっぱ寂しいし…」
時間は午後20時。丁度いい夜の時間。
既に夕食と入浴は済ませてある為とても暇な時間になってしまった。
今は少し早いがベッドに入り、ケータイを弄っていて、来ているメッセージに返信中だったりする。
「……………………」
「……………………」
カチカチカチと規則正しく時計の針が回る音だけがする。
ケータイを弄り出してからどれくらい時間が経ったのだろうか。
亮輔の瞼は次第に重くなっていき半分寝ているような感じになっていた。
「ふぁぁ明日は色々やることあるし今日はもう寝ようかな〜土曜日だしね〜つっても学校とかないけどさ。というわけで寝ます。おやすみ…zzz」
引っ越してから数日はやることが山積しているため翌日の事も考え亮輔は襲いかかる睡魔に意識を落としていった。
その日。懐かしい夢を見た。
1人の女の子が俺の目の前で半べそをかいている。美しい青黒い髪をした凛とした佇まいの何歳か年下の女の子。
どうやらこれは5年前の引っ越しする時らしい。この女の子は…誰だったかな。覚えてはいるけど思い出せないそんな歯がゆい感じ。
でも俺はなんでか分からないけど、どうしてもこの子には泣いて欲しくなかったんだよね。
「泣くなって!別にもう一生会えなくなるって訳じゃないじゃん」
「グスッ…そうですけれど…やっぱり…グスッ…寂しいです…」
俺は目の前で半べそをかく女の子を前にしてオロオロしていた。
女の子はどうやら俺と別れるのが寂しいらしくなかなか涙が止まらない様子。
どうしたものかと俺と親父とその子のお母さん。
「じゃあ分かった。ひとつ約束しよう。俺は絶対にかっこいい曲作るバンド作って会いに来るよ!約束な?」
俺は女の子にそう言って小指を目の前に差し出す。
すると女の子はポカンとして、すぐに涙を止めて俺の小指に自分の指を絡める。
「やっ、約束ですよ!絶対会いに来るって!!破ったらしょうちしませんからね!」
「おおう。そいつはおっかねぇなぁ。約束するよ。絶対戻ってくる。な?だからもう泣くな」
「泣いてなどいません!これは…その目にゴミが入っただけで…」
「ほうかいほうかい。んじゃあまたな。〝うみちゃん〟」
そこで目が覚めた。既に辺りは明るくなっていてカーテンの隙間から光が漏れている。
「随分と懐かしい夢を見たもんだ。引っ越す前になーんか約束したけど誰と約束したか忘れちまったわ〜。とりあえずもう…11時か。ぼちぼち準備して出るとしますか。」
ノロノロとベッドから起き上がり、トーストを2枚サクッと平らげて洗面所で顔を洗う。
パジャマを乱雑に脱ぎ捨てて、4XLととてもオーバーサイズの赤の染色体と呼ばれている白に赤のTシャツ、レディース用の裾幅がバカ広い黒のワイドパンツの上に薄手の黒いジャージを羽織る。
基本だぼだぼした格好が好きな亮輔はめちゃくちゃでかいTシャツをよく好んで着るのだ。
ワックスで軽めにセットして、ハイライトが入った色の抜けた黒茶の髪の毛を整える。
準備は万端だ。
「ハンコと、通帳と〜あとボールペン。あとっとっは、財布とケータイっとかーぎ!うっし!おっけっしょ!」
愛用のスニーカーを履いて扉を開ける。
4月のまだ少し肌寒い風が染みる。
なんだか今日は何かが起きそうだ
そんな予感を胸に歩き出していった。
こんばんははじめまして。くれないEXと言います。
この小説は作者の完全な趣味も物語です。
さっそく出てしまいました。ELLEGARDEN。
この主人公?である亮輔くんは僕の音楽の趣味のコピーみたいな子です。前回のa crowd of rebellionに続いて現実のバンド2つ目です。
ぶっちゃけELLEGARDENめちゃくちゃ好きなんです。!!!!!!!!
とりあえずSalamanderを亮輔に歌わせてみました。
拙い文章ではありますが、頑張って完結させようと思ってるのでよかったら応援よろしくです!(´;ω;`)
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再開
「はい。これで住民登録は終了です。お疲れ様でした。」
「ありがとうございます。お世話様でした。」
お昼真っ只中の午後13時亮輔は区役所を出た。
引っ越してからずっと茨城県で生活をしていたため、茨城県にあった住民票を東京に移しに来ていたのだ。
「とりあえず、やるべき事は終わったかな。いやあ、とにかく腹が、減った…そのへんで何か食べようか」
やるべき事は既にもう終わっていたので頭はお昼ご飯を食べることにシフトしていた亮輔。
ふらふらっと街中を歩いてちょうど良い所を探している。
「おっ、あそこなんかおシャンじゃんか。丁度いいしここいらで腹ごしらえしますか」
こぢんまりとした喫茶店を見つけた亮輔。
カランカランと軽快な音を鳴らすドアを開けるとアンティーク調でされど、落ち着きのある店内が目に入る。
ウエイターが亮輔に気が付き声をかける。
「いらっしゃいませ。おひとり様でしょうか??」
「あ、はい。」
「かしこまりました。ご案内致します。」
ウエイターと簡単なやり取りの後窓際の席へと案内された。
窓からは人々が行き交う光景が見られる。
「割といい所だなぁ。さて、と。メニューメニューっと。おっ、『自家製パスタ ミートソースバジル』とか美味そうだな。割と量ありそうだしこれにしとくか。後は…オリジナルブレンド珈琲の…Mだな。すみませーん!注文お願いします!」
数分後、亮輔はテーブルに運ばれてきたパスタを瞬く間に平らげていた。
コーヒーを啜りながらポケットから煙草を1本取り出して口に運ぶ。
亮輔くんは未成年でしょっていうのはご愛嬌。
「っす〜〜っはぁぁぁ〜」
吐き出されモクモクと漂う紫煙を目にやりながらまた一口コーヒーをすする。
「個人的に食後の一服+コーヒーは最高だと思うの」
至福の時を過ごしながら何気なしに入口のドアを見つめる。
カランカランと音を立ててドアが開かれた。
「おぉ〜すごくいい感じ!やっぱり当たりだったね!」
「うん!すっごく素敵なの!」
「こら、店の中で騒いではいけませんよ!んもう」
中に入ってきたのはオレンジ色の髪をサイドで束ねた快活さを前面に出した少女と、長い薄グレーの髪をしたふわふわとした印象のふんわりした少女。
そして最後に、すごく既視感のある綺麗な青黒い髪をした凛とした雰囲気の少女。
不意に青黒い髪の少女と目が合う。
すると、少女は亮輔の顔を見るなり、驚きいっぱいの表情を浮かべ、こちらに寄ってくる。
「ん??俺になにか用かな??どっかで会ったことあったっけ?」
なんか見たことあるようなないような女の子が近づいてきたんだけどなんでだろう?
あ、でもこの子今日夢で見た子に似てるんだけど…
あれ?なんか近くない???
「あの…私のこと…憶えてますか??」
「うんにゃ?見たことはあるかもしれないけど、俺は昨日ここにきたばっかりだからなあ」
「本当に憶えてませんか??あの、間違っていたら申し訳ないのですが、大森亮輔さんですよね??」
少女は先程の表情とは一変して悲しそうな表情を浮かべて亮輔の言葉を待っている。
「そうだけど…俺のこと知ってんの??あ、もしかして俺らのバンドが密かに有名になってきてたとか??」
「やっぱり、今でもバンドを続けているのですね…園田海未。この名前に本当に覚えはありませんか??」
「え、今〝うみ〟って言った??」
カチリと亮輔の頭の中にピースがハマった気がした。
思い出した。全部思い出したよ。
「思い出したよ。〝うみちゃん〟遅くなってごめんな?帰ってきたぜ」
首に手を当てて困った顔をする。
そんな亮輔をみて〝うみちゃん〟と呼ばれる少女は満面の笑みで
「はいっ!おかえりなさい!りょうすけさん!」
いつの間にか2人だけの空間が出来上がってしまい置いてけぼりを食らう2人の少女。
この2人との出会いはここから始まった。
「なるほど。それで昨日戻ってきたのですね。」
「そーゆー事。んまこっち来ても俺のやることは変わらないけどな」
「まだバンドをやっているのですね。やっぱりギターですか?」
「おうよ。俺はあの日から1度も弾かなかった日はないぜ」
あの後すぐに喫茶店を出て、街を歩いている。今まで呆気に取られて置いてけぼりの2人の内オレンジの少女が割って入る。
「ねぇねぇ海未ちゃんそろそろ穂乃果達にもその人の事教えてくれても良くない?」
自らを穂乃果と呼ぶオレンジの少女は頬をぷっくり膨らませてすねた感じ。
「そうですね。穂乃果、ことり、この方は大森亮輔さんと言って昔近所に住んでいたお兄さんです」
「ども〜大森亮輔でーす」
「穂乃果は、高坂穂乃果!海未ちゃんの幼馴染だよ!よろしくね!」
とオレンジの少女改め高坂穂乃果。
「同じく穂乃果ちゃんと海未ちゃんの幼馴染の南ことりですぅ〜よろしくね亮輔君♪」
ほわほわした少女改め南ことり。それぞれが簡単に自己紹介をする。
「よろしくね〜みんなうみちゃんと幼馴染って言ってたけど同級なの?」
「うん!そうだよ!明日から高校2年生になるよっ!」
「ほっか〜若いっていいね〜おじさん羨ましいよ…」
トホホと穂乃果とことりを観て改めて歳をとったなぁとしみじみ実感する。
「そうでもないよぉ〜あ、亮輔くんはぁ〜今は大学生なの〜??」
純粋なことりの疑問。
恐らく年上なのだからきっと大学に通っているに違いないと言う半ば確認に近い疑問。
「いや、それが俺学校行ってないのよ。ま、所謂フリーターってやつだな」
「ええ!?フリーターさんなの?!」
驚きの声を上げることり。穂乃果も同じだったみたいでえ!?とびっくりしていた。
「まあ、な。夢って言うかずっとやりたい事があってそれを叶える為に今は頑張ってる最中って感じかな〜」
「やりたい事って?」
矢継ぎ早にされる質問に亮輔は少し苦笑いしながらも答える。
「俺はさ、ロックで勇気を与えられる人になりたいんだ…」
いつの間にか取り出した煙草に火をつけながら空を見つめながら答える。
今でも昨日のように思い出せる自分のルーツとなる出来事を思い出していた。
『いつかお前みてぇな奴とステージに立ちてぇな。なあ、少年。いつかここに上がってこいよ?俺は待ってっからな?』
遠い日の約束。その人はまだまだ自分なんかとは比べ物にならないくらい先を常に走っている人。その言葉を、約束を、今でも胸に大切にしまっていた。
「ふふっ。昔と変わっていなくて安心しました」
俺の横であるっているうみちゃんが嬉しそうに笑う。
それにつられて、穂乃果とことりも笑う。
そして亮輔も。
「あったりめーだよ。俺はこれしか知らねぇし他じゃいやなんだよ」
「全く、あなたらしいですね。それで、約束は思い出しましたか?」
「もちろん。思い出したよ。でも約束を果たせるくらいおっきなバンドじゃないから約束はまだ続いてるぜ?」
「ふふふ。別におっきくなくてもいいですよ。ちゃんと戻ってきてくれたのですから。それだけで十分です」
元々綺麗な海未の顔が最大級の笑顔によって加速され、亮輔も思わず顔を少し赤くする。
「お、おう」
また喫茶店のように2人だけの空間が出来上がってしまった。
「むぅぅ〜また2人だけで変な感じ!穂乃果たちを仲間はずれにしないでよ!」
再び穂乃果が拗ねる。
「すみません穂乃果。また後でちゃんとお話します。あ、そろそろですね。私はこれで、りょうすけさんまた。穂乃果とことりはまた明日、始業式で」
「そろそろ穂乃果達も帰らなくちゃ!じゃあまたね!亮輔君!」
「ことりも〜亮輔くんバイバイまたねっ」
穂乃果とことりが亮輔に手を振って自分達の帰路に着く。亮輔も手を振り返しながら
「おーう。またな!」
3人の姿が見えなくなるまで後ろ姿を見送り、ケータイを取り出しメッセージアプリを起動する。
「さーて、俺も大口叩いたからにゃ頑張らねーとな!!」
4人ほどに連絡を終えると、亮輔も自宅への道へ戻る。
そろそろ本格的に活動しないとな
フッと笑みを浮かべ家路を急ぐ。
その姿を、確かな足取りを、空は捉えていた。
今回は海未ちゃんと穂乃果とことり、出してみました。
いかがでしたでしょうか??
まだまだ拙い文章ではありますが、よろしくお願い致しますm(_ _)m
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突然の宣告
狭いスタジオの中で様々な音が入り乱れている。
歪んだギターの音や、重たげなバスドラムの音、リズム隊の先頭を突っ走る重くテンポの良いベースライン。それに乗ってボーカル2人の歌声が部屋中に行き渡る。
スタジオは完全防音仕様のため、扉を開ける以外には滅多な事では音漏れしないのだ。
やがて演奏が終わり、轟音の様な部屋から一変して静寂に変わる。
それは、綺麗に切りそろえられた赤髪の男によって切り捨てられた。
「いや、入りがワンテンポはええ。俺はいりづらいこれじゃ。ハク、イントロのギターリフもうちょいアレンジして早められない?あと、亮輔走りすぎ、ちょくちょくズレてんぞ。」
亮輔のバンドメンバーである大作、
彼はこのバンドの実質的リーダーで亮輔と最初に組んだ男で、冷静ながらも熱い想いを秘めていて、ライヴでは悪魔のような叫び声を放つ例えるならば包丁のような男。
「わりぃ、次治していくわ。てかさ、次の新しい曲のちょっと良いの考えたんだけどさ、こんなんどうよ?」
エフェクターボードのペダルを踏んで音を変え、歪んだ音からエッジの効いたメリハリのある音が流れる。
「りょーちゃん今は〜新曲って場合じゃあないと思うよ〜」
重たげな印象の髪型のリードギター
丸山はメンバーからはハクとかしろとか呼ばれていて、フランクな性格の陽気な男。
「ああ、何しろ次のライヴまでもう2週間しかないぞ。とりあえず合わせるだけ合わせねぇとな。誰かさんが引越しとかで忙しそうにして練習できなかったからな」
ベースのタケシは亮輔をジト目で見やる。
「うっ。それはまじでごめん。…よし!も1回合わせようや!」
「了解した」
先程まで自身のドラムの音を調整していたa crowd of rebellionのドラマー、ケイジが短く答える。
そう、亮輔が東京に越してきて三日目。ようやく今亮輔たちが組んでいるバンド、a crowd of rebellionのスタジオ練習の日。
彼らは後2週間後にライヴを控えていて、そのため音合わせをする必要があるのだ。
「つっても練習もほどほどにしとかないとノルマをクリアできるほどまだ客呼べてないし、そっちもやるべきじゃないか?」
大作が現状最大の問題に切り込む。
亮輔はニッと笑い
「客呼びはTwitterのバンドアカウントなり、メンバーアカウントなんなり使って随時告知していくしかないっしょ!」
「それが1番確実だな。後は交渉して引っ張ってくるしかない」
「とりあえずノルマ超えねぇと俺らも金やばいぞ」
「大ちゃん今回は何枚売ればいいんだっけ〜?」
「今回は40だな確か。ドリンク別500のチケ代2500¥」
「25で40はわりときちぃな」
そう。ライブハウスに出演する者にはノルマというものが付き纏う。
ノルマはライブハウスの売上にもなっていて、ドリンク代だけでは当然賄えるものでも無い。その為、チケット代のノルマを出演者側に課してライブハウスの運営を図っている。
余談だが、ライブハウスはドリンク代、チケット代に加えて出演者がわの支払う金によって回されている。
機材の維持費や光熱費、土地代、スタッフの給料等もそこから回される。
「とりあえず次のライヴのセットリストはもう決めてあるから、その曲たちを重点的にやっていこう!」
「さっすが大作ぅ!頼りになるリーダー!」
大作は仕事の早い男で抜け目ない性格だ。
「じゃあちゃっちゃと曲回すか!えーっと大作が作ったセトリは…初手Nexusね…結構えぐい仕上がりじゃん」
「当たり前だろ俺が作ったんだから。いいから合わせるぞ!ハク、亮輔、準備しとけよ?」
「おうよ!(うん!)」
静かな始まりのSEが長れる。
『Nexus』はa crowd of rebellionの持ち味、光を闇を存分に体現したココ最近で1番の傑作の曲。
SEの終わりちょっと前くらいから大作は息を吸い始めると、目を見開いて爆発させた。
「ぃやァア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!!」
大作の強烈なシャウトがスタジオを揺らす。
それを皮切りに豪快でリズムの良いギターリフが炸裂し、テンポのすごく早いバスドラムの音が曲を彩っていく。
『色彩は掠れて夢の島ゴミと化した。たったこれっぽっちの棄てられた僕達焼却炉』
『痛みよ、痛みよ〜』
亮輔の綺麗な声で曲に肉を付けていくと、
大作の
『
ハク・タケシ・亮輔のコーラスは完璧に合わさりa crowd of rebellionらしさを前面に押し出すAメロ。
『あれは遠い夏の夢〜』
『alone this life 』
『消し去る』
『あゞ〜窓のない空間で突き刺せよ僕を
(いつだって歪んで泣いて)』
『あゞ〜忘れないんだ〜I wan't forget
あの日のまま〜Let me hear your voice』
亮輔と大作 光と闇の歌声が交差し矛盾のハーモニー。
矛盾こそが真骨頂。
文脈のない歌詞に隠された伝えたいことを声に乗せて歌っていく。
ライヴまで2週間
彼らのスタジオ練習はまだまだ続いていく。
ところ変わり、音ノ木坂学院。
女子校として地域にもよく知られている昔ながらの伝統ある高校。
本年度も新入生を新たに加えて始業式が始まった。
体育館に1年から3年までの生徒全員に加え、全職員がこのだだっ広い体育館に集まる。
壇上に薄グレーの少し若めの理事長である〝南 理事長〟が歩いてくる。
「みなさんこんにちは。本年度も新しく始まりました。みなさん春休みはいかが過ごされたでしょうか?勉強するもよし、遊ぶもよし、今しか出来ない青春を十分に謳歌してください。さて、ここで新入生にも在校生にも残念なお知らせをしなければいけません。
みなさんも知っての通り、年々この音ノ木坂学院の入学者数が減っています。1年生は良くわかると思いますが、今年は1年生が3クラスしかありません。このまま入学者が減少してしまうと、この伝統ある本校の運営にも関わってしまいます。
ですから、今年の学校見学会、つまり、オープンキャンパスにて入学希望者アンケートを取り、今年よりも同じくらい、もしくは下回ってしまった場合、残念ながら本校は来年度からの入学者の募集を取り下げ、近隣の学校と合併する事を決定しました。
新入生のみなさん入学早々、こんな話をしてしまってごめんなさい。ですが、皆さんのこれからの学校生活にもとても関わりのある事なので言うべきだと思い、この場で話しました。
残り少ない期間ではありますが、ここ音ノ木坂学院で良き思い出、良き友人を作り、音ノ木坂での学校生活をより良いものにして言ってください」
つまり話をまとめると、入学者少ないから来年から募集しないで、近くの高校と合併するよ。っていう話だ。
音ノ木坂学院は由緒ある伝統校だが、それだけなのだ。
部活動が強い、偏差値が高い、文化祭が毎年凄いなどの目を引かれる、〝目に見えた強み〟がないのだ。
悪くいえば普通の高校と言える。
最近では近くにUDX高校なる、最先端の学校が出来てしまいそちらの方に入学者が吸い寄せられてしまうと言う自体が起きてしまっている。
華々しい高校生活を夢見る受験生達はやはり、華があり、少しでも楽しめる所に行ってしまうのは仕方の無い事だろう。
そんな理事長の話は生徒に少なからずの動揺と落胆を与えているのは確かだった。
みな愛校心などは無くても、愛着はあるのだろう。それとも普段の生活が崩れてしまうのが嫌なのか、どちらかは推し量りかねるが、今まで過ごしてきた所がなくなってしまうと言うのは寂しさ等の感情を抱くのには十分すぎた。
「ええ!?廃校だって!?なくなっちゃうの!?音ノ木坂学院?!」
「穂乃果、少し落ち着いてください。気持ちはよく分かりますが…私たちにはどうする事も出来ませんよ…」
「でも!!でも!!!なくなっちゃうんだよ!?」
「それも大人の事情と言うやつでしょう。仕方の無いことです…」
先程の理事長の廃校についての話を受けて、騒いでいる穂乃果と、それを宥める海未。
穂乃果を戒める海未の光景は半ば様式美のようになっていた。
「うん…お母さんもここ数日すっごく悩んでたみたいなの…穂乃果ちゃん、お母さんを悪く言わないで欲しいなっ」
「うぅぅ、ことりちゃぁん…」
理事長の娘であることりが言う。
「そうだ!」
「どうしたのですか?」
突然、何か思いついたように項垂れていた頭をバッと上げた。
「私たちでどうにかして廃校を止めようよ!!!!」
突拍子もないことを言い出す穂乃果。
「穂乃果、いくら何でもそれは無理だと思いますよ?私たちはまだ学生ですし…」
実際問題、大人のあれこれを止めるには、高校生の彼女らには荷が重すぎる話だ。
よほどの奇跡が起きない限り、高校生である彼女が半ば決まっているような廃校の事実を覆すことは不可能であると、誰が見ても聞いても言うだろう。
だけど、それでも、高坂穂乃果と言う少女は諦めない。
「やってみなきゃわかんないじゃん!!やるだけやってみようよ!!」
その青色の瞳は諦めなど知らないかのように爛々と輝き、海未とことりを見つめる。
昔から穂乃果は決めたら、どういう結末になろうとやり切る子だと知っているのだろう。
海未はため息を深く吐いた。
「はぁ。まあ穂乃果は1度決めたらテコでも折れないですし、やるだけやってみましょう」
「海未ちゃん!?穂乃果ちゃんが頑張るならことりもがんばります!!」
高坂穂乃果と言う少女の諦めの悪さは幼馴染の彼女らはよく分かっているようで、止めても無駄だと付き合うことにしたのだ。
「それで、穂乃果?何かに方法はあるのですか?」
「まだ無いよ!!これから考えるの!!」
「だと思いましたよ。今日の放課後、穂乃果の部屋に集まって廃校を止める方法考えましょう」
「賛成〜」
本日の放課後、作戦会議が決定した。
「お〜い。お前ら席つけ〜そろそろ1限目始めるぞ〜」
穂乃果たちのクラスの1限目である国語の教師が入ってきて、席に着くように促す。
やがて全員が席に着くと、クラス委員の号令で授業が始まった。
放課後、海未とことりは穂乃果の実家である和菓子屋『穂むら』の2階、穂乃果の部屋に集まっていた。
「まず、どうやって廃校を止めるのか考えましょう。それからです」
「どうやって人を増やせばいいのかな〜?」
「部活動とかで有名になるとか?」
「夏までにそれは無理でしょう却下です」
尤もである。夏まであと数ヶ月しかない。夏には運動部の大会が集中するが、数ヶ月で優秀な成績を収められる保証も無いし、よほどのミラクルがない限り部活動と言う方法は現実的でないと言える。
「たはは、だよね〜」
「穂乃果ちゃん!こ〜ゆ〜のはどうかなっ?」
先程までノートパソコンでアプローチを掛けていたことりが、穂乃果と海未に画面を向ける。
「何これ?スクール、アイドル、?」
「うんっ!最近有名になりつつあるらしいよ!」
それはある高校の〝スクールアイドル部〟のページだった。
スクールアイドルとは本業のアイドルとは違い、アイドル活動を部活動として活動しているアマチュアのアイドルだ。
その人気は今上がってきていて、人数も増えてきているらしい。
今年には、そんなスクールアイドルの甲子園、『ラブライブ』が開かれるらしい。
全く新しいタイプの部活だ。
そんなスクールアイドルに穂乃果はピンと来たようで、ハッとした顔をした。
「そうだ!!!スクールアイドルだ!!!ラブライブって大会に出られたらかなり入学したいって子増えると思う!!海未ちゃん!ことりちゃん!アイドルやろう!!?」
「あ、あ、アイドルですか!?あの、短いスカートを履いて歌ったり踊ったりする!?」
「そう!そのアイドルだよ!!私たち3人でスクールアイドルになればきっと入ってくれる子がきっと増えるよ!」
「お断りします!!大体、アイドルなんて破廉恥です!!」
元来、目立つことを嫌う海未は穂乃果の提案をバッサリ切り捨てた。
「えーー、なんでよ!?やろうよ!!」
「お断りします!!」
「ことりは賛成だよ〜可愛い衣装とかも着られるしね♪」
「全くことりは穂乃果には甘すぎます!」
「ことりちゃんはやるって言ってるよ!!海未ちゃんもやろうよ!!!」
「お断りします!」
「やろうったらやろうよ!!!」
穂乃果も海未の衝突。半ば穂乃果は駄々をこねている様にも見えるが、一向に曲げる気配はない。
その熱意に次第に海未は折れていって、スクールアイドルをやる事を了承した。
「はぁ…やると決まったからにはやりますが、曲はどうするんですか?作曲は?作詞は?」
「作詞は海未ちゃんでしょ!!中学校の時、なんだっけ、ポエム?みたいなの書いてたじゃん!」
「ななななななな、なんで穂乃果がそれを!?」
「なんでって、前海未ちゃんち行ったら机の上置いてあったんだもん」
「恥ずかしい…やりませんよ、作詞なんて…」
「えぇぇぇ〜お願いだよ海未ちゃん!」
「ことりからもおねがぁい」
ことりの援護射撃。ふわふわでタレ目のことりの上目遣い攻撃は海未に大ダメージを与えた。
「仕方ないですね…作詞はやりましょう。曲はどうするんですか??まさかプロの方に作ってもらわけにもいかないですし」
「それならいい人が居るよ!1年生の髪の赤い子!」
以前、入学式の日に何気なく音楽室からピアノの音が聞こえてきてつい覗いてしまった。
そこには楽しそうにピアノを弾きながら歌う赤い髪の少女の姿があったそうだ。
恐らくその子に頼むつもりなのだろう。
「それに、こないだあった亮輔君にも作ってもらえばいいじゃん!!」
「りょうすけならば頼みやすいですね。私から言ってみましょう」
亮輔には海未が、赤い髪の子には穂乃果がそれぞれ作曲をお願いしに行くことが決まった。
「よーし!!明日からスクールアイドルやるよ!!がんばろう!」
こうして、穂乃果達はスクールアイドルを結成した。現時点でメンバーは3人で、持ち曲も無い。全くゼロからのスタートだが、不思議となんかやれそうな気がする3人だった。
その後徐々にガールズトークにシフトしていき、夜になるまで話は続いたらしい。
こんばんは、くれないです。
ようやく筆が乗ってきました(どうでもいい)
次回から原作メンバーをちょくちょく出していこうと思います。
感想・評価等よろしくお願いします。
暖かい目で見守っていただけると嬉しいです( ¨̮ )
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お願いと準備①
まだまだ精進していきます!
翌日、穂乃果は例の赤い髪の少女が昼休みに訪れると言う音楽室に向かっていた。
校内で唯一ピアノがある場所である音楽室に来れば確実に会えると思ったのだろう。
穂乃果はいつもはゆっくり食べている昼食も、早く食べて音楽室に足を運んだ。
音楽室に近づくにつれて、やはりと言うべきか綺麗なピアノのメロディが聴こえてくる。
ドアの扉から中を覗いてみると、赤い髪を肩下まで切りそろえ、ふんわりさせているお嬢様然とした女の子が、自らが奏でるピアノの旋律に身を預け、踊るような鍵盤裁きで赴くままに歌っていた。
その光景の美しさ何たるや、しばらくの間穂乃果は声もかけずに見とれてしまっていた。
やがて、少女は鍵盤から手を離すと、こちらをキラキラした瞳で小拍手しながら見つめてくる穂乃果に気がついた。
「すごーい!!!キミ、すごく歌とピアノが上手なんだね!!!」
穂乃果が少女に声をかけながら中へと入っていく。
すると、少女は明後日の方向を向いて、自らの髪を指でクルクルと弄りながら微かに頬を紅く染める。
「べっ、別にこのくらい普通よ!出来て当然よ!」
「ほぇぇぇ、とてもじゃないけど穂乃果には絶対できないよ!!本当にすごいよ!!
キミ、1年生だよね?名前は何て言うの??」
穂乃果は照れてそっぽを向いている少女に素直な賞賛を送り、本命である名前を聞いた。
「真姫よ。西木野真姫。それで?貴方は??上級生の貴方がなんの用?」
「私は高坂穂乃果!!真姫ちゃん!お願いがあるんだけど、聞いてもらえるかな?」
恐る恐る穂乃果が真姫に問いかける。
「お願い??お願いって何よ」
「私ね、今はスクールアイドルをやってるの!それでね、真姫ちゃんに曲を作ってもらえないかなってお願いしに来たの!」
「そう、作曲ね。そうね、もちろん…」
「本当に!?」
穂乃果の目が期待で輝き始めるが、真姫はため息をついて
「ええ、お断りするわ」
キッパリと言いきった。
「ええ〜!?なんでなんでなんで!!!」
断れる事も予想してたとはいえ、なんやかんやどうにかなると思ったいただけに不満を口にする穂乃果
「そんなの誰でも普通は断るわよ。だって私は貴方の事何も知らないもの。なんで、知らない今日初めて会った人に作曲なんてしなきゃいけないのよ。私これでも忙しいんだから」
「そ、それは、そう、だけど…」
真姫の尤もな意見に思わず穂乃果は引き下がる。
少し、いや考えなくても、初対面の人に突然『歌とピアノが上手だから曲を作ってくれ』と言われても普通は誰だって断るに決まっている。
固まる穂乃果を尻目に、真姫は手早く片付けをしていく。
「それじゃあ私は戻るから」
そう言って、音楽室から自身の教室へと戻って行く。
音楽室から程よい長さの廊下を歩いて下の階に続く階段を降りていくと、小さくため息
「全く、本当になんなのよ」
「たはは〜やっぱり断られちゃったなぁ…」
元からいきなり曲を作ってって言って作ってもらえるなんて思ってかったけど、真姫ちゃん怒らせたりしちゃったかなぁ…
歌もピアノも本当に上手で綺麗なんだけどなぁ。
でも1回ダメだったからって私は諦めないよ!今日初めて会ったばかりだから、よく知らないのはしょうがない!
また明日もお話しに行こう!
真姫ちゃん明日も音楽室来てくれるといいな〜
「よぉ〜し!明日も音楽室くるぞー!あっ!昼休みだったの忘れてた!!昼休みもうすぐ終わっちゃう!!」
昼休みは13:15に終了の合図の予鈴が鳴り、授業開始の13:20までに次の授業の準備をしなけらばならない。
現在時刻13:12。
昼休み終了まで残り3分。
無駄に広い音ノ木坂学院は校内をフルで移動するとなかなか時間がかかるのだ。
ここから穂乃果の教室までは約2-3分ほどの距離なので走って戻ればまだ間に合う時間だ。
穂乃果は急いで音楽室を出ると教室に戻っていった。
時間ギリギリで教室に戻ると、既にクラスは準備タイムに入っていた。
海未は何やら珍しく、ケータイを手に何やら唸っている様子で、それを見てことりは苦笑いを浮かべる。
2人は戻ってきた穂乃果に気づいたようで、揃って穂乃果に向き直る。
「穂乃果ちゃん随分遅かったね、それで、曲作りの話はどうだった??」
「いやぁ、見事に断られちゃったよ〜あはははは。そういえば、海未ちゃん、亮輔君にも作曲の話してくれた?」
海未は渋い顔で
「……れ…き……ま…でした」
「うん?」
「その、りょうすけと会えたのはいいのですが、肝心の連絡先を知らなかったのです…すみません…」
そう、海未と亮輔は付き合いこそすごく長いが、亮輔が長期間別の場所で暮らしていたため、戻ってきた今、連絡をする手段がない。
こないだ会えた時は連絡先を教える、教えてもらうと言う事が頭からスッパり抜け落ちてしまっていた。
「え、亮輔君の連絡先知らなかったの!?」
「よく考えれば、どこに住んでいるかも知りませんでした…昔住んでた家はわかるのでふが、同じところに住んでいるとは限られませんし…」
「そっか〜じゃあさ、今日放課後、亮輔君探しに行こうよ!!!だってこっちに住んでるって言ってたんでしょ??ならその辺に居るかもしれないし!」
「ことりも賛成〜私も行くねっ♪」
「海未ちゃんも行くでしょ??」
海未は数瞬考え
「私も一緒に行きます。絶対に見つけてみせます!!!!!」
どうやら気合十分らしい。海未はまだまだ亮輔はなしがあるようだ。
こうして穂乃果達は3人は急遽、亮輔探しに乗り出すのであった。
まだまともに活動すら出来ていないのに不思議間と焦りはあるようには感じられなかった。
とりあえず目下の目標は作曲と衣装作りと、まずは眠気という魔物が潜んでいる、魔の5限目の授業を乗り越えることだ。
評価・感想等随時よろしくお願いします!
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お願いと準備②
野々山伸一郎 様、緋炉 様、RODEO様、ヤザワ様、お気に入り登録ありがとうございます!!
これからも精一杯頑張らせていただきます!
応援よろしくです!
では、本編です!
午後の授業は存外スイスイと過ぎていきあっという間に放課後になった。
亮輔を探す穂乃果達は学校から離れ、商店街に来ていた。
この間亮輔と会ったのもこの商店街だった為、もしかしたらこの辺にいるかもしれないと言う考えに行き着いたのだ。
ゆっくりと、不振に思われない程度にすれ違う人の顔を見ながら歩いていく。
もう、30分ほどは歩いただろうか。
割と飽きっぽい性分の穂乃果が1番先に音をあげた。
「うへぇ、なかなか見つからないねー」
「だらしがないですよ穂乃果。まだ30分くらいしか経ってないじゃないですか」
「そーだけどー、、歩いてればすぐ見つかると思ってたから」
「これだけの人数の中から人1人見つけるのは難しいですよ。もしかしたらここには居ないかもしれないですし、、ほら、シャキッとして歩く」
ぶーたれる穂乃果に活を入れる海未。
ことりはふんわりとした笑みを浮かべて亮輔探しに精を出す。
「じゃあ〜あと2.30分探して、いなかったら場所変えない??」
穂乃果ちゃんも大分飽きちゃって来てるし、と、ことりからの提案。
確かに連絡の取れない人一人を見つけるのは至難の業だ。
居そうな場所にヤマを張って虱潰しに回るのが1番だろう。
「そうだね、次、アキバあたり行ってみようよ!!」
そう言って秋葉原にやってきた一行。
その後、秋葉原で探すも亮輔は見つからず転々と場所を変え、辺りは既に日が落ち暗くなってしまっていた。
「なかなか見つかりませんね…」
「そうだね、、、根気よく見つけるしかないのかなぁ」
時間をかけて探してもなかなか亮輔は見つからない。
かなり歩いたのだろう、穂乃果も海未もことりも足が結構疲れていた。
「そうは言っても行きそうな場所は大方回りましたし…あっ、そう言えば1つ行っていない場所がありました」
「え!そうなの海未ちゃん!?どこどこ!?」
「それは…」
「それは?」
「昔住んでいたりょうすけの家です。居るかどうかも分かりませんが、行ってみる価値はありそうです」
「なるほど〜海未ちゃんの家の近くだったんだっけ?」
「そうです。これで見つからなかったらそのまま今日は帰りましょう」
「そうだね〜行ったら今日はもう帰ろう」
そうして亮輔の家にやってきた。
「ほ、ほんとに海未ちゃんの家の近くなんだね…」
ことりが言うのも無理もないだろう、海未の家と亮輔の家は歩いて1.2分程の距離なのだから。
「とりあえず行ってみようー!」
穂乃果が表札も見ずにインターホンを押してしまった。
幸い、電気は付いている為、誰かしら出てくるだろう。
「あ、こら!穂乃果!いきなり押しては…えっ」
直後、海未が固まった。穂乃果やことりも同様に固まってドアの方を見ている。いや、厳密に言えば開いたドアを見ている。
「ったくこんな時間に誰だよ、、えっ、なんでお前ら俺んち知ってんの?」
なぜならば、渦中の大森亮輔その人がドアを開けて出てきたからだ。
なんで俺んちきた?と驚きながらも言う。
「あ、あの!お願いがあるの!!曲を作って欲しいの!」
「曲?なんでまたそんなものを」
「あのね、」
「そこからは私が話します」
穂乃果が続きを紡ごうとすると、海未が前に出る。
海未は亮輔の目をしっかりと見つめ何時もの凛とした感じで話し出す
「私たちの音ノ木坂が廃校になるらしいのです。それで穂乃果が、廃校を阻止しようと今話題のスクールアイドルになって有名になれば廃校もなくなるんじゃないか!と言い出しました。
勿論、私も、ことりもやりますが、、
それで私達には曲がありません。私たちが今から作るとなると時間がかかってしまい、廃校に間に合いません。そこで、バンドをやっていてオリジナルの曲も何曲も作っているりょうすけに作ってもらえかなと思い来ました。」
自分達の経緯や、音ノ木坂の事、スクールアイドルの事、そして、その為に曲が必要だと言うことを亮輔に伝える。
でもなぁ、と考えるように頭を掻く亮輔。
「りょうすけがバンドに本気でその為に忙しくしていることもわかっています。
勿論、私達の曲全部を作って欲しいという訳ではありません。作曲の出来る生徒に心当たりがあるのでその子にも頼んでいますが、どうやら返事は芳しくないそうです…ですので、その子が曲を作ってくれるという事になるまででいいのです、お願い、出来ませんか?」
なかなか自分のわがままや、意見を言わない海未の声。穂乃果やことりも腰を折って亮輔にお願いします、と、懇願している。
すると、亮輔は海未に向き直り、穂乃果とことりを見据える
「わーかったよ、わかった!俺もライヴが近いからそんなに作ってやれねぇけど、何曲か見繕ってやるよ!女の子にそんなにお願いされちまったら逆に申し訳ねぇよ…言っとくけど、俺らもまだ全然売れてねぇしそれでもいいんだな?」
思いもよらない好返事に目を見開き、すぐさま笑顔になる3人。
「「「はい!!それでも大丈夫です!!!」」」
「お、おう、ならいいんだけどよ。とりあえず1曲出来た連絡するわ。って、俺お前らの連絡先しらんかったわ。教えるからケータイ出しな」
3人ともケータイを出すと、順番に亮輔と連絡先を交換していく。
「曲が出来たら連絡するから、今日はもう帰りな。夜も遅いし、な?」
現在時刻20時30分を回った所。
女子高校生が歩き回るには少し遅い時間。そう思い亮輔は穂乃果に帰るよう促す。
「そうします。あの、りょうすけ、本当にありがとうございます。。」
「いいって事よ、ほかならないうみちゃんのお願い、だからな」
「また、今度、ライヴに行っても良いでしょうか??私、またりょうすけの音を聞きたいです…」
「ああ、また聴きに来いよ待ってるからさ。あ、でも今のバンドは前と全く違う雰囲気だから楽しめるかわかんねぇけどな」
そう、a crowd of rebellionは謂わばメタルコア。もしくはハードコア、ラウドロックにカテゴライズされるバンドでノリも激しく怪我する事も少なくない。
故に、万人受けせず、コアなファンかメタル好きしかあまり来ない
亮輔は、華奢な海未が今の自分達のライヴに来たところで楽しめるか不安なのだ。
「それでも、りょうすけの音には変わりはありません。それに、魅せてくれるのでしょう?」
「ははっ、違いねぇや。再来週、渋谷の
ありがとうございます!とそれぞれの帰路に着いていく。
バラバラに自分達の家へと歩いていく背中を見ながら亮輔はドアを閉めるて、玄関に設置されている簡単なテーブル椅子に腰掛けると、ポケットから煙草を取り出して1本咥えると、火をつける。
「まっさか、あの引っ込み思案なうみちゃんがアイドルやるなんてなぁ、おっきくなったもんだ。作るからには今自分で作れる力でいいもの作んなくちゃなぁ、うっしやったるか!」
咥えた煙草を勢いよく吸って吐き出すと、吸殻を灰皿に押し付けて日を消すと、亮輔は中に戻っていく。
その足で、音楽部屋に入るとギターを握る。
余談だが、亮輔はその日、朝方まで弾き続けていて音楽部屋で寝てしまい、ここに来た大作に叩き起されたらしい。
閲覧ありがとうございます。
いかがでしたでしょうか??
感想、評価等お待ちしておりますので、よろしくお願い致します!
あと、本編で出したバンドを紹介しておきます!
曲調とか知っておいてもらえると、さらに楽しめるのかなと思うので、ぜひチェックしてください!!
すごくいいバンドです!
ELLEGARDEN/Salamander
https://youtu.be/-Uf5ZhHDKsE
a crowd of rebellion/M1917
https://youtu.be/MgmtPUnyr9A
a crowd of rebellion/Nex:us
https://youtu.be/j47QKKrIUpY
また、お会いしましょう!
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始まりを告げる旋律
徐々に閲覧数が増えていってとても励みになります!!
フユニャン様、お気に入り登録ありがとうございます!
では本編始まります!
亮輔に作曲を頼んでから数日、穂乃果は走繁く真姫の元へ通っていた。昼休み、放課後、できるだけ時間を作り、音楽室に足を運んだ。
そして今日も、穂乃果は真姫の元へ来ている。
「はぁ。また今日も来たの?言ったでしょ?私は忙しいの、曲を作ってる暇なんてないの」
「そこをなんとか!!私達には真姫ちゃんの力が必要なの!!ね、お願い!!」
「いやよ。お断りします」
そう言って穂乃果を視界から退け、鍵盤に手を置き、旋律を奏で始める。
もはや恒例とも言えるような穂乃果と真姫のやり取り。
鬱陶しくもあるが、そこに真姫はある種心地良さのようなものも感じていた。
元来、友達の少ない真姫は自然と他者との関わりが薄くなっている。
別に、話したくない訳ではないし、友達だって欲しい。
だが、真姫の素直になれない性分も相まってか人付き合いが上手ではないのだ。
本音を言えば、穂乃果ともっと話したいし、曲だって作ってあげたいらしいのだが、そこは真姫ちゃんクオリティのツンデレの為、素直に言えないらしい。
そうこうしているうちに真姫ちゃん帰宅の準備が終わってしまった。
「それじゃあ私は帰るから、ちゃんと音楽室閉めといてよね」
「あ、真姫ちゃん!まってよー!ってもう行っちゃった」
そそくさとスクールバッグを肩に担いで音楽室を出てしまった。
また今日も残されてしまった穂乃果。
「はぁぁ〜また今日もだめだったよ〜でも真姫ちゃん忙しいならなんでピアノ辞めないんだろう」
単純な疑問を抱く。作曲は時間がかかってしまうので断られるのはまだわかる。
でも、忙しいならピアノは弾けないはずだ。否、弾く時間がないはず。
よっぽど無理くり時間を作らない限りは。
自らを忙しいと表現する真姫は、どうにかしてまでピアノを弾く時間を捻出している。
どうしてなのだろう?
と穂乃果は思ったが、当の真姫本人は既に居ないため、頭を切り替え、音楽室を後にした。
音楽室からの帰り道、真姫は少し苛立っていた。
無論、穂乃果の事もあるが、素直になれない自分に対しての方が割合が大きい。
「どうして、素直になれないんだろ…はぁ家帰って勉強勉強。私にはやらなくちゃ行けないことがあるんだから、曲なんて作ってる暇なんてないわ」
何処か自分に言い聞かせるように発した言葉は己のみに刺さり、周囲には届かない。
素直になりきれないのはどうやら周りだけでなく、自分にもらしい。
踏み出そう、踏み出そう。だが、1歩進み切れない。
まだ、壁は厚そうだ、
真姫はまた今日も退屈な家に帰る。
意識は既に、勉強の事に切り替わっていて周りには注意が向いていない。
真姫は気づかない。落し物をしていることに。
「あれ、なんか落ちてる。生徒、手帳…?誰のだろう?あっ、これって…」
真姫の落とした生徒手帳を薄緑の少女が手に取る。
手帳を見て驚く少女。
「これ、届けた方がいい、よね?住所は…あ、載ってた」
その落とし物が、真姫の、また、少女の運命の歯車を動かす事に。
「ここに行けば西木野さんに渡せる」
気づかない。
まだ、物語は動かない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「こ、ここが西木野さんのお家…おっきいなぁ」
時は既に夕刻。市街地からそう遠くないとある豪邸の前に少女は立っていた。
豪邸の表札にはオシャレなクラシック朝で〝Nishikino〟と書かれており、その建物が如何な物かをすでに物語っている。
その大きさ、漂う雰囲気に一瞬呑まれた少女はインターホンを押すことを躊躇うが、意を決してインターホンを押す。
ピン、ポーン。と少女の決意とは裏腹に間延びした音が響く。
『はい、どちら様でしょうか?』
声からして既に気品さ溢れる声がインターホン越しに聴こえてくる。
「あ、あの!西木野さんと同じ音ノ木坂学院の1年の小泉花陽って言います!西木野さんの生徒手帳が落ちていたので届けに来ましたっ!」
思わず声が上ずってしまったが、なんとか立て直し要件を告げる。
『そうだったのね、今開けるから、上がっていって』
声の主はそう言ってインターホンを切ると、長い玄関を開けた。
小泉花陽と名乗った少女は、あっけに取られながらも、あれよあれよと、されるがままに遂に家に足を踏み入れた。
「わざわざありがとうね〜はい、これ紅茶ね。熱いから気をつけてね〜」
「あ、お構いなく、だ、大丈夫ですっ」
「あらあら、遠慮しちゃって〜いいのよせっかく真姫ちゃんの生徒手帳届けに来てくれたんだもの、真姫ちゃん帰ってくるまでゆっくりしていって」
そう言って紅茶を出し終えると、台所に戻っていく真姫ちゃんママ。
子が子なら親も親で、真姫の綺麗な赤髪はきっと母親譲りなのだろう。
スラリとした体型に、母としての年齢を感じさせないほどの美貌が赤髪を一際目立たせている。
「それで、花陽ちゃんは真姫ちゃんのお友達なの?」
「い、いえ!とんでもない!西木野さんは頭も良くて、歌もピアノも上手で、高嶺の花みたいな感じ…です…」
最後の方は虫のような消えそうな声で言葉を紡ぐ。
「そう、私はてっきり、真姫ちゃんがお友達を連れてきたのかと思ってびっくりしちゃったわ!真姫ちゃん、小さい頃から勉強勉強ばっかりで、お友達なんて1人も連れこなかったから…」
「勉強、ですか?」
「そう。家は街でも大きな病院を経営しててね、一応真姫ちゃんが跡取りって事になってるの。それで、昔からお医者さんになるって言って勉強してるのよ」
「お、お医者さんですか…なんか大変ですね…」
「勿論、跡を継いでくれたら私達も嬉しいのだけどね…でも私は真姫ちゃんが好きなことをさせてあげたいのよ…」
真姫ちゃんママはそう言って顔に僅かな影を落とす。
自分の娘が跡を継いでくれるのは大変嬉しいことだが、自分の娘だ。
やりたい事を押し殺させてまで、継いでは欲しくないのだろう。
それに、他者との関わりが全くと言っていいほどない真姫に対して引け目を感じている様子だった。
「好きなこと…ピアノ、ですか?」
「そう…ピアノよ。あの子昔からピアノを弾くのが大好きなのよ。私はね、あの子に…」
「ただいま〜ママ〜誰か来てるの??」
真姫ちゃんママの話を遮り、真姫が帰ってくる。
ガチャっとリビングのドアを開けると、ソファに座って紅茶を飲む花陽と目が合った。
「貴方、なんでここに…!」
本来なら交じわうハズのない2つのレールが今交差する。
「私は西木野さんの生徒手帳を届けに来ただけだよ」
「生徒手帳?あれ?確かにない…!」
「あら真姫ちゃんおかえりなさい。ちゃんと花陽ちゃんにお礼言うのよ?お友達でしょ?」
「ママ!?私は友達だなんて一言も、」
「違うの?」
「そ、そんな事、って、痛ったぁーーい!!」
同様する真姫はテーブルの角に足をぶつけてしまい堪らず苦悶の声を上げる。
その姿を見て花陽はクスッと笑った。
「ふふっ、西木野さんて面白かったんだね。」
「わ、笑わないで!」
「ふふっ、ごめんね。でも西木野さん案外話しやすそうで安心した」
普段の学校生活では考えられない真姫の姿に思わず笑が零れる。
これがホントの西木野さんなんだ。
「ねぇ、真姫ちゃん。本当はやりたいんでしょ?ピアノ」
「ママ!?何言って…」
「隠さなくても分かるわ。だって真姫ちゃんのママですもの。いいのよ、たまにはわがまま言っても。ずっと我慢して勉強してたもの。それに、真姫ちゃんがやりたい事を我慢して病院を継いでも、ママ嬉しくないわ」
「ママ…」
思いもよらない母の言葉に固まる真姫。
それを微笑みながら見守る花陽。
「だから、やりたい事やってもいいのよ。勉強なんて学校でも出来るし、大学行ってからでも遅くないわ。だから、我慢しなくてもいいのよ?」
そう言うと、真姫は柔らかい笑みを浮かべ母に向き直る。
「ママ、ありがと…」
その顔に迷いはもう無いようだった。
「あ、もうこんな時間!あの、紅茶ありがとうございました!西木野さん〝また明日〟ね!」
時間がどんどん夜の時間になっていく為花陽は真姫ちゃんママにお礼をいい、急いで玄関に向かう。
ふと後ろから声を投げかけられる。
「花陽ちゃんまた、おいでね」
真姫ちゃんママが優しく声をかける。
その声に花陽は
「はい!また来ます!お邪魔しましたっ!」
笑顔で応える。
その日の深夜。
家中の電気が落ちている中、一部屋だけ電気が付いていた。
一心不乱に聴こえるベースやギター、ドラムの楽器音。
真剣な顔をした亮輔何やら唸っている。
「だぁぁぁぁ!!こうでもねぇ!!あとちょっと、なんか足りねぇ!!」
亮輔は海未に依頼された作曲に取り掛かっていた。
既に7割方出来上がっていて、後はギターのリズムを嵌めれば完成という所まで来ていた。
「あぁぁぁ時間そんなにねぇっつーのに!!これじゃあ明日になっちまうぞ!!!!ん??明日??あっ!!!!!」
独りでに呟いた自らの言葉に何かを感じ取る。
「そうか!!!なるほど!!!間に合いそうだ!!!!」
なにかに閃いた亮輔は、置いていたギターを手に取り再び弾き始める。
「こりゃあ、いい曲作れそうだぜ!!!」
ニヤリと笑いながらギターを弾いていく。
その音色が形を作る曲は確かに明日を向いていた。
こんばんは、くれないです!
読んでいただきありがとうございますっ৲( ˃੭̴˂)৴
いかがでしたでしょうか???
真姫ちゃん、そして花陽ちゃん回でした。
最後ちょろっと匂わせた曲、みなさんおわかりですよね?
ヒントは『明日』です!
引き続き、感想、評価等お待ちしております!!
これからも完結に向けて精一杯頑張らせていただきますので、応援よろしくです、
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