ゼロの使い魔~真心~ (へドラ2)
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ゼロの使い魔~真心~プロローグ

初めてで至らない点が多々あります。ご了承ください。


 ここは東京秋葉原、一人の少年がウキウキとした顔で歩いていた。

「あぁ~やっと修理終わったぜ~」

 彼の名は「平賀才人」17歳高校生である。彼は壊れたノートパソコンを受け取った帰りである。このノートパソコンには才人がとても大切にしている物が保存されている。

「ん~だめだ!やっぱり我慢できない!」

 才人はガードレールに腰掛けると慣れた手つきでノートパソコンを起動し画像ファイルを開く。

「ウルトラマンにセブン!二世にエースに…かっこいいなぁ~」

 才人が大切にしている物、それは遠く光の国に住まう英雄「ウルトラマン」達の写真データコレクションである。中には才人がインターネットを通じて手に入れた膨大な写真データが収められている。一番のお気に入りは才人が幼少期の頃に地球人を怪獣災害から守ってくれていたウルトラマンメビウスの生写真データである。才人が自分のカメラで撮った唯一の物だ。

「はぁ~俺もウルトラマンになりたいな~」

 誰しも一度は見る夢を諦めきれない、それが平賀才人という少年だ。

「…むりだよなぁ…こっちは生まれついての人間、だからなぁ…でも」

 彼はノートパソコンの画面に目を落とす。

「やっぱりかっこいいなぁー!」

 大声で言ったところで才人は自分が人通りのある道路で惚けていた事に気付きノートパソコンを閉じる。

「さっ!続きは家でっ…て、なんだぁ?あれ」

 ウルトラマンに夢中になっていた才人が気付かない内に、目の前に縦2メートル横1メートルの黄緑色の鏡の様な物が現れていた。

「鏡…?って、こっちにくる!?」

 鏡の様な物はどんどん大きく膨れ上がり才人を飲み込もうとしていた。

「うわぁ!くっ来るな、くるなぁー!」

才人は慌てて反対方向に逃げ出すが鏡は何処までも膨らみ追いかけてくる。不思議なことに周りの誰も見えていないのか、騒いでるのは才人だけである。

「たっ助けっ」

 

 

 助けを求める声を聞き届けた人物は誰もいなかった。

 

 

 

 ほぼ同時刻M78星雲光の国。ここではウルトラの父の召集によりウルトラ兄弟が全員集められ緊急会議が行われ様としていた。いや、正確には「ほぼ全員」である。よく見るとエースがいない。待ちかねたジャックが誰となく尋ねる。

「誰か、エースを知らないか?定時パトロールはもう終わっているはずだ」

 するとタロウが答えた。

「何でも遭難した宇宙船を救助して母星に送り届けて遅れるそうですよ、ジャック兄さん」

 そうしているうちにウルトラの父が姿を見せる。

「すまない待たせた、これより緊急会議をはじめる。ゾフィー、データを」

「はい、それでは皆、このデータを見てくれ」

 ゾフィーが言うとスクリーンに多くのデータが投影された。そのデータを見て思わずセブンが驚嘆する。

「これは次元震のデータじゃないか。しかも通常観測される数値の3倍以上だ!」

 80も驚きを隠せない。

「しかもこの数値はここ3日程の物じゃないか!何故短期間にこれだけの次元震が!?」

 ウルトラマンが重々しく言う。

「私がかつてブルトンと交戦した時に観測されたデータと類似している…」

 メビウスは何故ブルトンが引き合いに出されたか理由が解らず困惑する。

「マン兄さん、どういう事か教えていただけませんか?」

「あぁ、かつてブルトンが地球に飛来した時私が交戦したのだが、ブルトンは空間を湾曲させて移動していた、その度にこの様に次元震が記録されていたらしい。つまりは…」

「まさかこの次元震の数だけ何者かが次元をいどうしたと!?そんな!」

 驚いているメビウス達を制しゾフィーがゆっくりと話し始めた。

「実はこの次元震全ての波長が一致している。つまり行先はすべて同じという事だ」

 これを聞いてやはり一番に反応したのはメビウスだ。

「間違いありません!これは侵略活動です!すぐにでも出動しないと!」

 慌てふためくメビウスを落ち着かせるようにレオが諭す。

「待て、メビウス。どうやって追いかけるというのだ。我々には次元を超える手段が無いのだぞ」

 そう、今の光の国には別次元に移動する技術が無いのだ。研究は続いているが未だ実現には至っていない。そこで、とウルトラの父が切り出す。

「現状打破の為に皆に意見を出して欲しい。この状況を打破するために…!」

 こうしてウルトラ兄弟が話し合っている時突如ユリアンが会議上に飛び込んできた。

「「「どうした(んですか)!ユリアン(さん)、何があった(んですか)!?」」」

 全員に注目され一瞬うろたえるユリアンだが、一旦落ち着き全員に緊急事態を伝える。

「大変ですっ!エースさんからのSOSサインが!」

 

 

 ユリアンから場所を聞くとウルトラ兄弟達はエースの救援に向かうために飛び立っていた。

 

 

 

 

 数10分後、才人は地面に寝転がっていた。遠くに石造りの城が見える何処までも続く豊かな草原の上に。

 

 

「あんた誰?」

 

 

 桃色がかったブロンドの髪をした透き通った白い肌を持つ美しい少女にまじまじと覗き込まれながら。

 

 

「誰って…俺は平賀才人」

 

 

 

 

 これは夢を諦められない少年「平賀才人」と誇り高き少女「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」の出会いから始まる物語。

 




次回へ続く。


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ゼロの使い魔~真心~第1話

オリジナルの設定多々あります。無茶苦茶にはならないようにしますのでご容赦を。拙い文章ですがよろしくお願いします。お話は前回の終わりの少し前の時間からです。
今回の話は少々長いです。


「あそこだ!」

 ゾフィーが指さした場所にはユリアンからの報告通りエースが居た。ウルトラ兄弟達は連続ワープを繰り返し即座に駆け付けたのである。しかし、様子がおかしい。エースからのSOSを受けて駆け付けたのだが、エースは誰と戦っているわけではない。その時ゾフィー達に気が付いたのかエースが叫ぶ。

「ゾフィー兄さん!それに皆も!お願いだ手を貸してくれ!」

 よく見るとエースは虚空に対して手を伸ばしウルトラ念力を使用しているようだ。状況が飲み込めないメビウスはエースに問いかける。

「どっ、どういうことですか?その空間になにが!?」

 メビウスには何も視認することができない。しかし、ゾフィーは気が付いたのか驚きの声を上げる。

「見ろ!皆!僅かだが空間に亀裂が!」

 よく見るとほんの小さな亀裂が出来ている。その中には人間サイズの黄緑色の光の玉が浮いている。

「そうだ!ゾフィー兄さん!あれは次元震でできた空間の亀裂だ!そしてあの光の中に人間が!このままでは飲み込まれてしまう!」

「何っ!?」

 ここまで来ると皆理解しエース同様光の玉を引きずり出そうとウルトラ念力をかけ始める。ウルトラ兄弟全員の援助で負担の減ったエースはこれまでの経緯を語り始めた。

「俺が遭難船を母星へ届けた後………」

 

 

 

 エースは光の国へ一直線に戻っているところだった。

「いやぁ遅くなってしまった。急がないと…」

 そんな時エースの周りの空間が揺れ始めた。本来宇宙空間が揺れを起こすことなどありえない。

「うわぁ!こ、これは次元震!」

 エースは態勢を整えようとするが感覚が狂いなすが儘に振り回される。

「ぐうぅぅっ…デエェェーイ!」

 渾身の力で脱出するとエースが直前までいた場所に小さな亀裂が入った。それはかつての仇敵、「ヤプール」の出現を思い起させた。まさか…エースが身構えると亀裂はほんの小さな物で止まった。

「よかった、一瞬の空間の歪みか」

エースが胸をなでおろした時、その中を光の玉が通っているのが見えた。なんだろう?そう思いエースが遠巻きに覗き込むと光の玉が空間の一点を超えたところで押しつぶされてしまった。その後も二つほど玉がその一点で押しつぶされる。そこでエースは見てしまった。押しつぶされた光の玉の中に人間の姿を。

「バっばかな!」

 そうしている間に新たな光の玉がやって来る。エースは全速力で亀裂に手を入れようとするが…

 

バチィ!!!

 

「うわぁ!」

 いともたやすく弾かれてしまう。数回繰り返すがやはり弾かれ入る事ができない。仕方なくエースは押しつぶされる一点に光の玉が到達しないように苦肉の策に出る。

「ウルトラ念力!」

 しかし、光の玉が引き釣り込まれる力が強くスピードが全く衰えない。

「このままでは…頼む届いてくれ!」

 エースは必死でウルトラサインを打ち上げた。

 

 

「これがここまでの経緯だ」

 エースの話の最中もウルトラ念力を使い続けているが光の玉を止めることができない。むしろ引きずり込む力がどんどん強くなっている。

「エース、おそらく押しつぶされる一点、それが次元の境界線だろう。光の玉が押しつぶされるのは次元の移動に耐えられない為だろう」

「そんな!ゾフィー兄さん!このままではあの人間は!」

 そんな中でもどんどん光の玉は引きずり込まれる。次第にウルトラ兄弟もエネルギーが無くなりカラータイマーが赤になる。

「何とか…しないと!…」

 メビウスが力なく呟くがどうにもならない。その時、ジャックがあることに気付く。

「皆、ウルトラマンヒカリからのウルトラサインだ!」

『光の国から観測したところ、その座標で起きた次元震はこれまで観測された次元震と同じであることが分かった』

 エースは何のことか解らず困惑するが他のウルトラ兄弟はやはりという表情をする。ジャックがウルトラサインで現状を伝えると、間髪入れずに返信のウルトラサインが届く。

『ウルトラの父がそちらに向かった』

 この事にはウルトラ兄弟は驚かざるを得ない。

「父さんが!?」

 タロウも驚くがその間にすでにウルトラの父が現場に到着していた。

「「「ウルトラの父!」」」

「すまない皆、待たせた、現状は聞いている」

 その手にはなんとウルトラキーが握られていた。ゾフィーがそれを見て驚愕する。

「ウルトラの父!何をする気ですか!?」

 ウルトラの父はとても苦しそうな表情で伝えた。

「こちらの世界から行く手段が我々には無い。異次元戦闘のエキスパートであるエースも通る事が出来ない。ならば…」

 ウルトラの父はウルトラキーを亀裂の中の光の玉に向ける。

「あちらの世界に向かう者をウルトラ戦士にするしかない……!」

「「「なんですって!?」」」

 ウルトラの父が何を言っているのか流石のゾフィーでさえ理解が追い付かない。

「今ウルトラキーにはプラズマスパークエネルギーが装填されている。次元移動に人間の体は耐えられない。しかし、ウルトラ戦士なら耐えうる事ができるはずだ…」

 ウルトラ兄弟が声も出せない中、タロウは慌てて止めようとする。

「待ってください!父さん!そんな事をしてはあの人間に何が起きるかわかりません!」

 タロウは必死にウルトラの父を説得する。しかし、その銃口を下ろそうとはしない。

「許せ…タロウ、このままではあの世界の侵略を防ぐことは出来ない。なすが儘、奴らの思うままだ。あの世界を守る戦士が必要なのだ…タロウ…私を、父を恨んでくれっ!」

 ウルトラの父が引き金に指をかけた時、ウルトラマン、ジャック、エースが声を上げた。

「ウルトラの父よこのままではどの道あの人間は助かりません」

「やるしかないでしょう…その方が助かる可能性があります」

「ウルトラの父っ!私は間違った選択とは思いません!この状況では最善です!」

 それに同調するように皆から賛成の声が上がる。しかし、セブンが異を唱えた。

「しかし、それはあの人間に生きたまま死以上の苦しみを与える結果になるかもしれません!」

 しかしそれに答えたのはなんとメビウスだった。

「セブン兄さん!確かにこれは苦しみを課すだけかもしれませんっ!しかし生きていれば希望はあります!どんな苦難にだって立ち向かえますっ!生きていればこそですっ…見捨てられません…あの人間を、助けましょう!」

 メビウスの必死な説得にセブンはとうとう折れた。しかし、…とセブンが言う。

「いくらウルトラキーといえどあの小さい次元の隙間に全てのエネルギーを通すのは難しいのでは?」

 この時80がウルトラ念力の出力を一気に上げる。

「タロウ兄さん、あの技しかありません!、あの技なら次元の隙間を広げられるはず、皆さんの分は私が変わります!」

「あの技かっ、しかし君たちの負担が…」

「タロウ教官…僕たちは大丈夫です…お願いします…」

 メビウスはエネルギーも尽きかけ意識を保つのもやっとである。タロウは覚悟を決めるとゾフィー・マン・セブン・ジャック・エースと手をつなぎ、ウルトラホーンにエネルギーの全てを集める。

「「「ウルトラ6重合体!」」」

 今、タロウ達はスーパーウルトラマンに合体したっ!全身のエネルギーを集結し次元の隙間に叩き込むっ!

 

 

「コスモミラクル光線!」

 

 

 宇宙最強の光線が次元の隙間に直撃、次元を歪め大きくする。

「今だっ!」

 ウルトラの父がウルトラキーの引き金を引きプラズマスパークのエネルギーを光の玉に照射する。そこで80達の限界が来た。ウルトラ念力が止まり光の玉は飲み込まれていく。押しつぶされる一点を超え…そのまま次元の奥に消えていった。見守っていたゾフィーは胸をなでおろす。

「成功した…か…」

 

 

 誰にも喜びは無かった。疲労困憊、憔悴しきったウルトラ兄弟達は声を出すことも出来なかった。良い結果になる事を皆願うしかなかった。

 




読んで下さり心からお礼申し上げます。次回に続きます。


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ゼロの使い魔~真心~第2話

才人がようやくハルケギニアに到着します。ルイズ等人間たちもようやくです。
そういえばレオ、前回は無言で念力使ってました。書き忘れたわけではありません。
お願いです信じてください。


 赤く光る何処までも続く空間、そこに才人はいた。上も下も無い、不思議な空間、しかし不思議と不安や恐怖といった物を何も感じない。

「ここは…どこだ…?」

 才人の周りにぼんやりとした影が現れる。目を凝らして見ようとする前に段々と濃くはっきりと見えるようになる。

「うっ…嘘だろ…まさか、そんな…」

 そこに浮かんだ影は完全に形になる。才人がよく知っている姿が露わになる。

「うっウルトラマン!セブンに二世にエースにタロッ…ウルトラ兄弟勢ぞろいだ!ウルトラの父も居る!」

 セブンが才人に話しかける。

「君にこのテレパシーが届いているか、それを私たちが知ることは出来ない。しかし届いているのならば君は生きているという事だろう」

「すっすげぇ…夢みたいだ」

 その感想には誰も答えずウルトラの父が語り出す。

「君に伝えなければならない事がある」

 伝えなければならない事。それはなんだろう?それもウルトラの父が自分に?才人は訳が分からなかった。

「今、君が向かっている次元には壁がある。君が意図して向かっているようではないが、そのまま向かえば君は死んでしまうところだった」

 才人は冷や汗をかいた。自分が死ぬかもしれなかった?しかし驚く暇もなくウルトラの父が続ける。

「我々ウルトラ戦士がその次元に助けに行くことは出来ない。その代わりに…」

 一呼吸置きウルトラの父が衝撃の事実を伝えた。

 

 

「君にはウルトラマンになってもらった」

 

 

「えっ…え…」

 

 

「えええっーーー!?俺がウルトラマンに?!」

 

 

 あまりの一言に才人は度肝を抜かれた。そんな才人には気にも留めずウルトラの父は話を続ける。

「君を救うにはこれしか無かった。それに君の向かっている次元には多数の侵入者がいる。罪の無い人々が苦しめられるかもしれない。そんな人々を救う存在が必要なのだ。君には重い重責だろう!だが、苦しむ人々の為に立ち上がって欲しい!」

 ウルトラの父の話を惚けて聞いていた才人だが、ここでウルトラ兄弟達の姿がかすれ始めた。

「まっまま、待ってっ!」

「君一人に押し付けてしまうことを恨んでくれっ!だが、その世界を邪悪の魔の手から救守ってくれ!」

 ウルトラ兄弟達は皆右手を掲げ叫ぶ。

「「「異次元の兄弟に栄光あれ!」」」

「待ってそんなっ…わあぁぁーー!」

 景色が急に遠のいていく。赤い空間が消えていくと同時に才人の意識も薄れていく。才人は消えゆく意識の中で「これは夢なんだろうか」と自問していた。

 

 

 石造りの城が遠くに見える開けた草原、そこで才人は眼を覚ました。今まで見ていた物は夢だったのだろうか…そう考えた所で…。

 

「あんた誰?」

 

 才人とあまり年の変わらない桃色がかったブロンドの髪をした少女が覗き込んで来た。

 

「誰って…俺は平賀才人」

 

 才人は何となく質問に答えたが、すぐに疑問が生じた。自分は秋葉原にいたはず。自分はいつの間にここに来たのだろうか?よく見ると才人たちの周りを少年少女が囲っている。

「ルイズっ!サモン・サーヴァントで平民を呼び出してどうするの?」

 平民…?なんのことだろう…?すると目の前の「ルイズ」と呼ばれた少女は鈴のような上品な声で怒鳴った。

「ちょ、ちょっと間違っただけよ!」

 赤毛の褐色肌の少女はそれを聞いて笑い出す。

「間違いってルイズはいっつもそうじゃないのよ、さっすがはゼロのルイズね~」

 それを皮切りに人垣がどっと爆笑する。

「ミスタ・コルベール!」

 ルイズは中年の男性に何かを話しに行く。才人は状況が飲み込めず大人しくしているしかなかった。

「あの……させてください!」

「…メだ。ミス…エール」

「どうし…」

 少し遠いせいか才人は話がよく聞こえない。魔法という単語が聞こえた気がする。

「でも!平民を使い魔にするなんて聞いたことがありません!」

 そう言うとまた周りが爆笑する。才人は使い魔とは何だろう?と疑問に思う。すると話が終わったのかルイズが戻ってくる。

「あんた感謝しなさいよね。貴族にこんな事されるなんて一生ないんだから」

 そう言うとルイズは何か呪文を唱え始める。

「な、なにするんだよ!」

「いいからじっとしてなさい」

 ルイズの顔がどんどん近づく。ついに唇が重なり合う。恥ずかしいのかルイズは顔が真っ赤になっていた。

「サモン・サーヴァントは何回も失敗したがコントラクト・サーヴァントはうまくいったね」

 コルベールが嬉しそうにしていた。才人は「何が嬉しいんだ、こっちはファーストキスを奪われたというのに」と怒りの感情をぶつけようとした。その時…

「ぐあ!ぐぁあああああっ!」

 才人の左腕にすさまじい熱と激痛が走る。

「熱い!俺の体に何した!」

「すぐ終わるわよ、ルーンが刻まれるだけっ」

 ルイズは他人事のように言い放つ。そして、「それに…」と続ける。

「平民が貴族にそんな口利いていいと思ってるの?」

 平民、貴族、ここで才人は気付いた。これは身分だ、ここには身分制度があるんだと。現代日本で育った才人には受け入れがたいものだった。

 数分後、珍しいルーンだとスケッチをするコルベールがスケッチを終え教室に戻るように言うと周りの少年少女は飛んで行ってしまった。

「お前ら、マジの魔法使い…?」

「はぁ?あんた何言ってんの?」

 その場で才人はルイズにトリステインの事、春の使い魔召喚の事など様々な情報を知ることができた。

「なぁ……ルイズだっけ?」

「はぁ?あんた呼び捨っ…」

「殴ってくれ」

「え?」

「殴ってくれ」

「何…言ってん…の?」

「全部夢なんだ…使い魔も異世界もウルトラマンも…いい加減夢から覚めたい…」

 ルイズは拳を握り振り上げる。同時に表情が険しいものになる。いろいろな感情がこみ上げて来たようだ。

「契約方法なんて誰が決めたのよ…ファーストキスだったのよ…このヴァリエール家の三女が…それを、夢ですってぇーーー!」

 

ドゴォ!

 

 威力がありすぎた拳は才人の意識を一瞬で刈り取った。

 

 

 才人は薄れゆく意識の中、現実逃避をしながらも現状をある程度受け入れていた。ああ自分はとんでもない所に来てしまったと。

 




次回に続きます。次回は変身するかも?


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ゼロの使い魔~真心~第3話

続きです。出てくる怪獣はストーリー展開に合わせて考えてます。昭和・平成はあまり意識していないです。今回も長いです。

※話数直しました。お恥ずかしい限りです。
※誤字直しました。重ね重ね申し訳ありません。


 才人は眼を覚ますとルイズの部屋にいた。ここまで引きずられて来たらしい。全身が擦り傷や打ち傷だらけである。

「これ何?」

 ルイズは才人が最初から持っていたノートパソコンに興味を持ったのかジロジロ見ている。

「これはノートパソコン、この世界には無いだろ?」

「どんな魔法で動いてるの?」

「魔法じゃない科学」

「科学ぅ?なにそれ?」

 ルイズは科学というものを知らないらしい。才人は目が覚めてから必死に自分が異次元・異世界から来たことを伝えていたが、全く信じてもらえない。

「はぁ…あっ!、そうだこの世界にウルトラマンはいないだろ?俺がこの世界の人間じゃないって証拠になるぜ」

 才人は手早くノートパソコンを起動し自身の宝物であるウルトラマン達の写真を見せる。これには自信があった才人だが、ルイズは…

「ふーん、なにこれ?良く出来た作り物?」

「なっだから本当だって!」

「はいはい、わかったわかった。私はもう寝るから明日ちゃんと仕事しなさいよ…」

「なっ、お、おい!待てって!てか、おれは!?」

「しいたげたでしょ?藁」

「いやっあのっ藁って…」

 ルイズはそう言うと眠りについてしまった。才人はついに諦めてへたり込んでしまった。

「まぁ…いきなり信じろって方が無理か…それにしても、仕事かぁ…」

 仕事とは主にルイズの身の回りの世話・雑用である。やることは説明された。もちろん抗議したが、「使い魔なんだからこれくらいしなさい!」と言われ押し付けられてしまった。才人は元の世界に帰る方法もないことを説明され半ば絶望しかけていた。

「風にあたろう…」

 才人はルイズを起こさないように部屋を出ると寮の屋上へと向かった。

 

 

「それにしてもすごいなぁ~、月が2つあるなんて…」

 才人がこの世界と元の世界の違いについて誰かに問われるなら、今だったら確実に月の大きさと数について答えるだろう。あまりにも美しい双月が才人の心を奪っていた。大きい方になら手を伸ばせば届きそうだ…そう思った、思って本当に手を伸ばしてしまった。

 

「あっ」

 

 滑った。バランスを崩した。理由は何でもいい。事実が大事だった。才人は今屋上から落ちる。これは変わらない。

 

「うわぁぁぁ……あれ…?」

 

………はずだった。

 

 才人は確かに落ちる感覚があった。しかし、現実には落ちていない。体が浮いている感覚がある、いや、実際に浮いていた。そのままゆっくり地面に着地する。

「えっえっなんでっ」

「大丈夫ですかっ!?」

 驚くサイトの傍にフードを着た杖を持った女性が掛けてきた。早まってはいけません、命を粗末にするなんて、とまくし立ててくる事から何か勘違いしているのだろう。

「大丈夫です!自殺じゃないですから落ち着いて!」

 女性を落ち着かせると才人はまずお礼を言う。

「助けて頂いてありがとうございました。魔法?ですよね今の。お姉さんも貴族?」

 問われた女性は落ち着いて話し始めた。

「いえ、私はロングビル。オスマン学長の秘書をしています。まぁ…没落貴族というものです」

 ロングビルの声色が沈んだのを感じて才人はまずいことを聞いてしまったと後悔した。

「あっごめんなさい!」

「いっいえ、気にしないで下さい。それにしても間に合ってよかったです。それにしても何故あんなところに?」

「夜風に当たりたくって」

 それを聞いてロングビルはホッとため息をつく。

「よかった、召喚されたショックで早まったんじゃないかと」

 それを聞いて才人は疑問に思う。なぜ自分を知っているのかと。

「何で召喚の事を?」

「初日から有名ですよ?平民が召喚されたって」

 人の噂はなんとやら、すでに学園中に広まっているらしい。才人は少し恥ずかしくなった。

「それに…下見中に自殺なんて縁起悪いの見たかないしね…」

「…?何か言いました?」

「いえっ何でも」

 ここで才人はロングビルがなぜここにいるのか疑問に思う。

「ロングビルさんは?」

「私はっ(下見とは言えないし…)実は花を育ててまして世話に来ましたの」

「へぇ~お花?」

「ええ、今度『固定化』の魔法で保存して知人の女性に送ろうと思っていまして」

「それにしてもこんな時間に?」

「ええ、昼間は忙しいので(一応、嘘は…言ってねぇよ?…)」

 せっかくだからとロングビルは才人を花壇まで案内して花を見せてくれた。

「これです。花の名前は……って言うんですよ」

「あっ……!?それなら俺の住んでたところにもある花ですよ!」

 ロングビルはそのクールな表情を崩し笑顔を見せた。自分の育てた花に興味を持ってくれた事が嬉しかったようだ。

「へぇ~そうなんですか!この花珍しいんですよ。良かったら少し聞かせてもらえません?(わかるやついたのか!結構珍しい花なのに!)」

「そうなんですか!俺の住んでるところでは普通に売ってますよ!?」

 才人がロングビルとの談笑で盛り上がっている時、突然空から獣の咆哮が轟く。

「なっなんだ!?」

「こっこれは!」

 ロングビルの驚愕と同時に空から鳥の頭を持った四足獣が落ちてきた。地面に激しく叩きつけられ虫の息になっている。ロングビルが駆け寄り様子を見る。

「沿岸警備隊の騎士が乗るグリフォンです!何故ここに?!」

 その騎士とやらは乗っていないようである。才人はグリフォンなど知りもしないがこの世界の生き物であることは分かる。しかし、グリフォンが紙切れをくわえているのを見つけ、ロングビルに渡す。それを読んだロングビルは顔を青くした。

「どうしたんですかロングビルさん!何が書いてあるんですか!?」

 

「海から巨大な生命体出現、トリステイン魔法学院へ向け進行中…」

 

 才人は巨大な生命体である物を連想する。怪獣だ。青い顔でロングビルは重々しく口を開く。

「別のところからここに来た貴方は知らないでしょう…今このトリステイン、いえ、世界中にこのような巨大な生命体の報告があるんです。軍隊でも追い返すのがやっとの恐ろしい怪物…」

 その時、グリフォンの咆哮が蚊の音に聞こえるような轟音が魔法学院に響き渡る。その主は地響きを上げ魔法学院の外壁から顔を覗かせる。

 

 魚のような顔、半月上の大きな背ビレ、強靭な肉体を持つ巨体。

 

「深海怪獣レイロンス」

 

 才人は見たこともない怪獣だったが、危険だという事だけは分かった。それ以上何も言葉が出ない。間近で見た怪獣はそれくらい存在感がある。ロングビルは才人に向かって言い放つ。

「早く非難を!他の生徒達に続いて!」

 レイロンスの咆哮で飛び起きた生徒たちが、同じく飛び起きた教師の避難誘導を無視して『レビテーション』で逃げていく姿が見える。そんな中何人かの生徒はレイロンスに立ち向かおうと魔法を放とうとしていた。なんとその中に寝間着のルイズがいる。才人は慌てて駆け寄る。

「なっ何やってんだ早く逃げるぞ!」

「逃げるわけにはいかないわ!敵に後ろを見せない物を貴族と呼ぶのよ!魔法が使える者を貴族と呼ぶんじゃない!」

「貴族のプライドなんかどうした!死んだら終わりだぞ!」

「あいつを倒せばだれも私をゼロのルイズなんて言わない!」

 才人はわからなかった「ゼロのルイズ」の意味もそうだが命を捨ててまで怪獣を倒した功績が欲しいのか、と。それを避難しようとしたロングビルの視界に写る。

「(なっ、クソガキどもっ!?)何してるの!早く避難しなさい!」

 ロングビルが駆けよった時、レイロンスの口から生徒等に向けて放たれた高圧水流が寮の外壁を崩し才人たちの頭上に落ちてくる。

 

「「「うわぁぁぁーーー!」」」

 

 この様子を避難誘導していたコルベールが目撃していた。駆け寄ろうとしたがオスマンに止められる。

「ミス・ロングビル!ミス・ヴァリエール!」

「いかん!危険じゃ!」

「しかし!」

 オスマンはコルベールを離す訳には行かなかった。避難誘導がまだ終わっていないからだ。コルベールは泣く泣く避難誘導を続けた。

 

 そんな時だった。レイロンスの目の前に巨大な光の柱が立ち上る。

 

「あっあれはなんだ!」

 

 この日の事を見た人は後々こう語る。「双月に照らされる巨人を見た」と。




次回に続きます。ごめんなさい、ウルトラマンの出番少なくて。


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ゼロの使い魔~真心~第4話

キャラクターの性格がだいぶ変わってます。苦手な人はご理解の上お願いします。
本文3000文字超える事が増えます。4000近くになるかも知れませんが、お付き合いお願い致します。
やっと変身します。


※話数直しました。重ね重ねお恥ずかしい。


 瓦礫の中、才人は痛みではなく暖かいぬくもりの中で目を覚ます。自分は確かルイズを瓦礫から庇い覆い被さったはず。なのに体の下にはルイズ、上には柔らかい感触がある。すると上から何かが垂れて頬を伝う。真っ赤な血だ。

「だ…だいじょ…うぶか…い…」

「ろっ、ロングビルさん!?」

 なんと才人の上にロングビルが覆い被さっていた。頭や頬、体の至る所から出血している。

「へへっミスっちまった…『錬金』が間に合…わなかった…よ…」

 よく見るとロングビルの上の瓦礫が柔らかい材質の物に変わっている。しかし全ては変えられずいくつか瓦礫が体に刺さっている。

「そ、そんな、何で!」

 才人の涙声の問いにロングビルは笑って答える。

「な…んで…ハハッ、なんでかね…あたしもヤキが回ったか…いや…」

 ロングビルは息を整えて話し出す。

「あんたが…「あの花」を好きっ…て言ってくれたから…かな?あの花はあたしに初心を思い出させてくれるいい花だ。だけど珍しくてね…誰も知りゃしない…」

 「だから…」とロングビルが笑顔で言う。

「嬉し…かった。理…解してくれ…る人が…いただけ…でっ、そういえば…あんた」

「えっ」

「名前……聞いて…無かっ…たねぇ…最後に…教えてく………」

 そこでロングビルは意識を失った。才人の頬を涙とロングビルの血が伝う。才人にとってロングビルはほんの少し話しただけ、気が合っただけの相手だ。しかし、異世界で初めて気の合った相手だ。

「しゃべり方…そっちが素なんですね…そっちの方が頼りになる感じで…いいな…」

 才人は涙を拭い、決意を固める。

「名前、絶対教えてあげます。助けますよ、絶対に。絶対に絶対に絶対に!」

 才人は自分の内にすさまじい力が沸き上がってくるのがわかる。あのウルトラの父は夢じゃない。現実だった。後は少しのきっかけさえあれば、と才人が考えた時…

「瓦礫の隙間から…光が…」

 それは双月の光だった。才人の伸ばした手に光が触れた時…

 

 

 奇跡が、起きる。

 

 

「モンモランシー!こっちだ!」

 ギーシュ・ド・グラモンは恋人モンモランシーの手を取りレイロンスから逃げていた。

「ちょっと、ギーシュ!強く引っ張りすぎよ!」

 そんな時、青く輝く光の柱が二人の後ろで立ち上る。

「「あっあれは!」」

 

 

 光の柱の中から月光のような美しい青い体を持つ巨人が現れた。

 

 

 

 才人は己の変わった姿に心底驚いていた。

(なれた…ウルトラマンに…)

 その体はウルトラマンヒカリのように青い体、才人が知る限り見たことのない特徴的な形のカラータイマーしかし、全身のシルエットは変わらない。才人が知る「あのウルトラマン」だった。

「デュアァァ!」

 才人は飛び上がると外壁から顔を覗かせるレイロンスに飛び掛かり一気に学院から遠ざける。レイロンスは驚きの混じった鳴き声で威嚇するが才人は意に返さずレイロンスを押し倒し連続でチョップを叩き込む。

「デュア!デュア!デュア!」

「キュオーン!」

 レイロンスはたまらず苦痛の叫びを上げる。しかし、レイロンスもやられてばかりではない。巨体から繰り出されるパワーで才人を押し返し逆にのしかかる。

「デュアァァ!?」

 レイロンスは巨体を少し上げるとまたのしかかりを繰り返す。そこで押し潰す寸前才人の拳が腹部に突き刺さり自身の体重も合わさりレイロンスは大ダメージを受ける。

「デュアアァァ!!」

 才人はレイロンスの大きな背ビレを掴んで一気に背負い投げをして地面に叩きつける。叩きつけられたレイロンスは悶えるが光線や高圧水流を乱射しながら立ち上がる。数発が直撃し才人は学院の壁に叩きつけられる。

「キュオーン!キュオーン!」

 レイロンスは勝ち誇った鳴き声を上げるがその隙に立ち上がった才人にタックルを受け押し倒される。馬乗りになった才人は次々とパンチを繰り出す。

(これはルイズの分!)

ドゴォ!

(これは沿岸警備隊の人たちの分!)

ドゴォ!

(そして、ロングビルさんの分だぁ!)

ドゴォォ!!

「キュ…ーン…キュオー…ン」

 レイロンスはダメージで動けないでいる。怒りから解放され冷静になった才人は止めを刺そうとしたところで手が止まる。レイロンスの鳴き声が酷く苦しく悲しそうに聞こえたからだ。

(このまま…殺してしまっていいのか?)

 地球に来たウルトラ兄弟は怪獣たちを退治してくれていた。だが、時には怪獣を助ける事も多かった。全ての怪獣が悪という訳ではない。

(この怪獣は現れてから別に誰にも危害を加えていない…俺たちを攻撃した時だって先に攻撃したのは俺達だ。沿岸警備隊の人たちも先に攻撃したから、応戦しただけなのかも…)

 その時、レイロンスの口から泡が一つ才人に向かって放たれた。それは毒泡で才人に少しダメージを与える。だが、才人が受け取ったのは痛みでなくレイロンスの記憶だった。

(これはこの怪獣の記憶?!)

 どこかの川、何かが泳いでいる。川から顔を出すと大きな建物が見える。この世界の工場だろうか?そこから流れ出る虹色の水、それに触れた時全身を切り裂く痛みが襲う。

(これもウルトラマンの力…?それにしても、この怪獣…元は普通の魚なんだ!それが人間のせいで…)

 戦いを止めた巨人に見ていた学院の生徒たちははやし立てる。「なにやってんだ!」「早く倒せ!」「殺しちまえ!」

(いや、そんな事…出来ない!ウルトラマンの力よ!)

 才人は優しかった。自分の身近な人を傷つけ怪獣にも助けたいという感情が湧いて出ていた。

(この怪獣を救う力を!俺にくれ!)

 才人が両腕を頭上に広げると双月の月光が光の粒子となり才人の腕の中に集まる。胸の前で円を描くように腕を回し光の粒子を全て右腕に集中する。

「デュアァァァ!(いっけええぇぇぇ!)」

 才人が突き出した右腕から放たれた光はレイロンスを包み込みその体を浄化、元の魚の姿に戻す。

(さっもう変なのに近づくなよっ)

 才人はレイロンスを光の粒子で包み込み近くの川までウルトラ念力で送り出す。その時、これまでの様子を見ていた学院側から歓声が上がった。それを聞き届ける事無く才人は空高く飛び上がった。

 

 

 

 翌朝、トリステイン魔法学院では怪我人の手当てが行われていた。怪我人と言っても自らの功績に先走った者のみである。それと同時にルイズとロングビルの救出活動も続いていた。指揮をとるコルベールは大声を張り上げる。

「急いでくださーい!一刻を争います!」

 そんな時、瓦礫が突如崩れ去る。慌てて周りの人間が離れると瓦礫の中から才人が立ち上がる。ルイズを背負い、ロングビルを抱きかかえて。

「おおっ!君は使い魔の!おーい直ぐに救護班を!」

 駆け付けた救護班にルイズとロングビルを預けるとコルベールは才人の手を握る。

「ありがとう!おかげでミス・ヴァリエールもミス・ロングビルも助かるよっ」

「そっか、助かるか…良かった…」

 才人の疲労もこの瞬間頂点に達し、その場に倒れてしまった。

 

 

 

 数十分後、ロングビルは救護テントの中で目を覚ました。何があったかを徐々に思い出し、旋律する。

「やばかった…もう直ぐ死んじまうところだった、ったく、こんなところで」

 そこへロングビルの声が聞こえた才人がやって来る。

「ロングビルさん!目が覚めましたか?!」

「貴方は!、そう、無事だったのね」

「ええ、ロングビルさんのおかげでっ!ありがとうございます。二回も助けてもらっちゃって」

 「そう」とロングビルが言うと立ち上がろうとする。

「なっ何してるんですかまだ動いちゃっ駄目ですよ!」

「大丈夫よ、それより少し歩かない?」

「へ?」

 才人はロングビルに連れられ再び花壇まで来ていた。それまでにロングビルが意識を失った間の事を才人は伝えていた。

「巨人ねぇ…」

「ええ、俺の世界ではウルトラマンて呼ばれてます。無敵のヒーロー、ですよ」

 その無邪気な笑顔にロングビルは笑みが零れる。

「ふふっ大好きなのね、ウルトラマン」

「ええ!」

 才人の即答にまた笑みが零れる。

「それにしても不思議ね、意識は無かったはずなのにそのウルトラマンに助けられたっていう感覚があるわ…そういえばミス・ヴァリエールは?」

「まだ寝てますよ、っていうか寝すぎだ寝すぎ!…あっ!そうだ!」

 才人は思い出したようにロングビルに言う。

「俺、平賀、平賀才人!よろしくねロングビルさん!」

「え?」

「名前教えてって言ってたじゃないですか」

「えっあ、あぁその事ね!?(覚えてたのかよ!てことはあたしの話し方も…!)」

「それにしてもロングビルさんの素の…」

 ロングビルは慌てて話題を逸らそうとする。あたふたと悩んだ末ウルトラマンの話題が才人の食いつきが良いことを思い出す。

「そう!そうよ、名前、あのウルトラマンの名前ってあるのかしら?」

「名前?」

 才人はそう言われて思い出す。そういえば自分が変身したウルトラマンには名前が無い。ロングビルには「セブン・エース・タロウ」というウルトラマンの個別の名前があることを伝えていたからこその疑問だと才人は思った。

「そうだっ!俺達でつけましょう!名前!」

 才人の提案にロングビルは目を丸くする。

「いいんですか?勝手につけて?」

「僕たちだけの呼び名ってことで」

 その時二人の視線は同じものに注がれていた。この怪獣騒動で瓦礫の崩壊に巻き込まれなかった花壇の花に。

「花言葉は「真心」人としてとても大切なことです」とロングビル

「今回ので被害が無いのもあやかれますね」と才人

 

 

 今この瞬間この世界におそらく一人であろうウルトラマンの名前が決まった。

 

 

 重なる二人の声

 

 

「「ウルトラマン コスモス 」」

 




次回に続きます。

ウルトラマンの名前、ロングビルの扱いには賛否両論あると思いますが、才人が今後どうなるのかをお楽しみ頂きたいと思います。


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ゼロの使い魔~真心~第5話

話数訂正しました。お恥ずかしい限りです。

それでは始まります。今回も長いです。


 レイロンスの事件から二日後、才人は学院の教室の片づけをしていた。何故か、ルイズが原因である。

「ゼロのルイズってのはこういう意味だったのか…納得だぜ…」

 ルイズの叱責が飛ぶ。

「うだうだ言ってないで手を動かす!」

 こうなった経緯は数時間前に遡る…。

 

 

 才人は前日「明日から授業が再開される日だから早く起こしてね!」とルイズに言われていた。言いつけ通り早く起こそうとした。が…。

「後5分~」

 この調子である。かれこれ15分、これでは遅刻する。才人は思い切って大胆な行動に出てみる事にした。

「お!き!ろ~~~!」

 ガバァ!と布団を引っぺがす。

「きゃぁ~~!さむ~~い!」

 才人は俺を藁で寝かせて自分は暖かい布団で寝ているくせにと思いカチンとくる。

「何が寒いだ!起きろ!遅刻だぞ!」

「え?もうこんな時間じゃないの!?なんで早く起こさないのよ、バカ犬~~!」

「さっきからずっと起こしてるよ!ほら着替えろ!」

 才人はあっという間にルイズを着替えさせる。その手際の良さにルイズは驚く。

「きゃっ、あんた人を着替えさせるの早いわね」

 確かに才人も初日はドキドキした。女の子を着替えさせる?俺が?目の前で無防備になる美少女。やらしい妄想が広がる光景。しかし才人は1日目にしてとある考えに至った。

「や、だって子ども着替えさせてるのとあんま変わんねえし?」

「誰が幼児体型だコラぁ~!」

 そんな風にして騒ぎながらも着替えを済ませて部屋を出ると先日の使い魔召喚の時ルイズをからかっていた褐色肌の女性と鉢合わせた。メロンのように大きいそれがルイズと対照的である。

「おはようキュルケ」

「おはようルイズ、あなたの使い魔って、それ?」

 朝一番から才人をバカにしてくる。

「…そうよ」

「あっはっはっ!ドッキリじゃなくてほんとに人間なのね!すごいじゃ…あっはっはっ!」

「うるさいわね」

「しかも、その平民に助けられて…なっさけなぁ~い!」

 ルイズの顔が悔しさと怒りで歪む。それを意にかえさずキュルケは才人を見つめる。

「あなた、お名前は?」

「平賀才人」

「ヒラガサイト?変な名前」

 キュルケは言うだけ言うと颯爽と去っていった。行ってしまうとルイズの堪忍袋の緒が切れる。

「きー!くやしーー!」

 才人は少しだけため息をついた。

「わかったから、急げよ…」

 

「何これ?」

「何って、餌よ?」

 食堂にて才人に渡された朝食は申し訳程度に色のついたスープ、真っ黒に焦げた失敗にしか見えないパン一切れだった。

「あれは?」

「生徒の」

 テーブルに並べられたのは大きな鳥のローストにワインやらリンゴパイやら、なんやらかんやら。

「昨日の非常食の方がましだぜ…」

「食べさせてもらえるだけ感謝しなさい」

 そう言うとルイズは美味しそうに食事を頬張る。

「ありがとよ…うれしくて涙が溢れますよ、まったく…」

 

 教室は大学の講義室のようになっている。ルイズと才人が入るとくすくすと笑いが起きる。その中には男子に囲まれたキュルケもいた。まるで女王のように祭られている。

「凶悪宇宙人・おっぱい星人だなありゃ」

「何か言った!?」

「いえ別に」

 少しすると教師の女性が入ってくる。

「皆さん、あの事件で犠牲者が出ず今日この日を迎えられ嬉しく思います。それにしても使い魔召喚は大成功だったようですわね。このシュヴルーズ、この新学期に様々な使い魔を見るのが楽しみで楽しみで…あらミス・ヴァリエール?変わった使い魔ね」

 教室中が爆笑に包まれる。

「おいルイズ!どこの平民連れてきたんだよっサモン・サーヴァント失敗かぁ?」

「違うわよ!呼んだらこれが出たの!」

 また別の生徒が言う。

「嘘つけ!」

「ミセス・シュヴルーズ!マリコルヌが私を侮辱しました!」

 ここまで来て才人はルイズという人間が少しわかった。床に座らせられながら。そんなこんなで授業が進み…

 

 

 今に至る。

「まさか魔法全部が爆発して失敗、ゼロになるからなんて分からねえよ」

「うっさい!」

「てか、よくそんなであの怪獣に突っ込んだよな」

 ルイズの顔が少し赤くなる。

「下手してたら死んでたぜ?もうすんなよ?ゼロのルイズ?」

 そして顔が鬼のように歪む。

「うるさい!うるさい!うるさい!お昼ご飯抜きっ!」

 才人は忠告したつもりでいたがルイズはバカにされたと思ったようで…才人は「やっちまった」と後悔した。

 昼休みルイズが昼食を食べている間、才人はあの花壇を訪れていた。崩れていた外壁は魔法で修理され元通りである。あの事件は夢だったのではないか?と思える程に。

「あら才人君、どうしました?」

 ロングビルがジョウロを持って歩いてきた。

「いやぁ、アハハ…」

「ミス・ヴァリエールと何かありました?」

 才人は慌てて話題を逸らすことにした。

「いっいやぁ…そういえばこっちではコスモスって春に咲くんですね、こっちは秋に咲くんですよ」

 ロングビルは微笑むとクスクス笑う。水を与える手を止め才人の隣に座る。

「いいえ、こちらでもコスモスは秋の花よ。実は秘密があるの」

「秘密?」

「ええ、あっ噂をすれば…」

 そうロングビルが言うと遠くからメイド服を着た女性がやって来る。

「ミス・ロングビル~ご用意できましたよ~」

「ありがとうシエスタ」

 近くで見るとカチューシャで纏めた黒髪とそばかすが可愛らしい。シエスタと呼ばれた少女はバケツに入った土を手渡す。才人は覗き込む。

「これは?」

 答えたのはロングビルではなくシエスタだった。

「これは私の田舎で使われている特別な栄養土なんです。なんと!季節の違う花でも育てられる優れものです。」

「ふふっ説明ありがとう」

 シエスタははっとして赤面し縮こまる。と、そこで才人の左手のルーンに気付く。

「貴方…もしかしてミス・ヴァリエールの使い魔の?」

「え?しってるの?」

 「はい」とシエスタは答える。

「あの怪物からミス・ヴァリエールとミス・ロングビルを助けたって噂ですよ」

 才人は少し恥ずかしくなる。するとぐうぅぅ…と腹の虫が泣く。才人は別の意味で恥ずかしくなる。それを聞いてロングビルが気を利かせる。

「そうだシエスタ、何か食べさせてあげて」

「いいですよ賄いでよければ」

 

 

 才人は厨房の奥に連れていかれると余りもので作られたシチューをもらう。久しぶりのまともな食事に思わず涙が零れる。

「ど、どうしたんですか」

「いや、俺こっち来てから使い魔だ魔法だ怪獣だで落ち着く暇無かったから…」

 才人は食べ終わるとシエスタに一つ提案する。

「何か手伝わせてよっお礼にさっ!」

 シエスタは微笑んで言った。

「じゃあデザートを運ぶのを手伝ってくれます?」

 

 大きな銀のトレイを才人が持ち乗っているケーキをシエスタが運ぶ。近くでキザな少年が数人の男子に冷やかされている。

「なあ、ギーシュお前…」

「…が恋人なん…」

「付き合う?…僕に…定の女性は…」

 その時ギーシュのポケットから香水が落ちた。才人は拾って渡す。

「はいよ、色男」

 その後も才人はケーキ配りを手伝う。すると今のところから騒ぎ声が聞こえる。

「それはモンモ…香水…」

「ち、ちがうっ…誤解…」

「…が証拠で…さよなら!」

 

バチーン!

 

「やっぱり…てたのね!…」

「そんな!…ごか…」

「嘘つき!」

 

ドカ!バキ!

 

「あのレディ達は薔薇の存在の意味を理解していないようだ」

 ぼこぼこの顔で言われても…。そう思う才人だったが後ろからギーシュに呼び止められる。

「待ちたまえ!君のせいで二人のレディの名誉が傷ついた!どうしてくれるんだ!」

「いや、二股が悪いよ」

 才人の即答に周りも「そうだ!そうだ!」とはやし立てる。

「いいや!君が余計な事をしなければ!」

「二股なんてそのうちばれちまうって」

 ギーシュの顔が怒りで歪む。図星をつかれてカチンときたようだ。

「君は貴族に対する礼を知らないようだな」

 ギーシュが決闘を申し込んだのはその直後だった。

 

「聞いて、メイジに平民は絶対勝てないの、早く謝ってきなさい!」

 ルイズはヴェストリの広場で決闘に応じる才人を説得しようとしていた。しかし、才人は聞く耳持たない。

「何でさ、先に喧嘩吹っ掛けたのはギーシュって奴だ。それに…下げたくない頭は下げられない!」

「もうバカ!、バカ犬!」

 才人は準備体操を終えるとギーシュの前に立つ。ギーシュは才人を見下した目で見つめている。

「逃げなかったのは誉めよう、君が傷つけた女性の名誉ここで取り戻す!」

「傷つけたのはお前だ…」

 才人が言い終わる前にギーシュが杖を振ると甲冑を着て剣を持った女戦士のような人形が現れる。それはいきなり才人の顔面を殴り飛ばした。

「ぐほぉ!」

 その行動にルイズが非難の声を上げる。

「ちょっと卑怯よギーシュ!」

「ごめんごめん彼があまりにもとろいのでね」

 その間にも人形「ワルキューレ」は才人に暴行を続ける。そしてついにその剣が振り下ろされる。

「はっはっはっ!平民ごときが!メイジに勝てると思っ…?!」

 振り下ろされた剣を才人は指でつかんでいた。よく見ると殴られたはずなのに傷一つない。これに一番驚いたのは才人自身だ。

「なんだこれ…いくら何でも…」

 体から力が溢れる、いや漏れ出す。才人自身にも抑えられない。才人はワルキューレに前蹴りを繰り出す。剣を捨て後ろに跳んだワルキューレに少しかする。それだけでワルキューレは粉微塵になってしまった。

(ウルトラマンの力!?…そんな!制御出来ない!)

 ギーシュはあまりの光景に怯え残り6体のワルキューレを作り出し一気に才人目掛け攻撃させる。才人が応戦しようとすると今度はワルキューレの剣を握った左手のルーンが輝く。

(今度はなんだ!?)

 更に加速した才人はワルキューレを全て一瞬で切り刻み、原型をとどめないほどにまでしてしまった。

 

「何よ…これ…わけわかんない…」

 ルイズは只々唖然とするしかなかった。

 




次回に続きます。ウルトラマン出なくてすいません。


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ゼロの使い魔~真心~第6話

続きです。武器屋行きます。


 ロングビルは今学園長室の扉の横に寄りかかっていた。というのもコルベールが慌てた様子で学園長室へ入っていき「人払いを」と言われ締め出されたのだ。

(ちっ、いつ入れと言われるかわからない以上、下見ってわけにもいかんしねぇ…)

 そうして聞き耳を立てていると声が少しだけ聞こえてくる。コルベールは興奮しているのか声が大きくなっていた。

(召喚された平民…才人の事か…えっ?何?ガン?ガンダー?…っち、聞き取れない…)

 ロングビルが耳を壁に押し当ててまで聞こうとしている時、突如シュヴルーズが走ってくる。

「ミス・ロングビル!大変です生徒が…何をしているんです?」

「いっいえ、何か?」

 シュヴルーズの報告を聞いてロングビルは眼を丸くした。

「才人が決闘!?学院長に報告してからすぐ行きます!」

 

 ロングビルが到着するとヴェストリの広場は大騒ぎになっていた。その人垣になんだこれはと驚く。しかしこのままでは才人が危ない。何とか止めないと、そう考えた所で人垣が「おお~!」と大きく動く。

(手間かけさせやがって!才人の奴!)

 才人の身に良くないことが、と思い人垣を超えると目に入ったのは信じられない光景だった。才人が一瞬でワルキューレを切り裂いてしまったのだ。しかしこれで謎が解けた。オスマンとコルベールが話していたのはこの事だったのだ。

「ガンダールヴ…伝説の使い魔…」

 

 

 才人は剣をギーシュの目の前に突き立てていた。ギーシュは恐怖で震えている。そのギーシュに言い放つ。

「もう終わりだ」

 才人はそう言うと剣を離し踵を返す。才人は一刻も早く戦いを止めたかった。これ以上やるとウルトラマンの力とルーンの力を抑えられず暴れ出してしまいそうだからだ。

 

 ドスッ!

 

「え」

 才人は痛みを感じた。胸元が熱い。よく見ると自分の胸から光の刃が生えている、いや、正確には背中から貫かれていた。

「きっきみがっ君が悪いんだ!…後ろを見せるから!…え?」

 才人を背中から「ブレイド」で突き刺したギーシュは震えながらも勝利の笑みを浮かべるが振り向いた怒りと憎しみを混ぜた目をした才人を見て怯え始める。

「嘘だろっ何で…うあ…ぁ…うわぁぁ!」

 才人が地面に突き立てていた剣を一瞬で引き抜きギーシュの首をはねようとした時…。

「「やめなさい!」」

 ロングビルとルイズが慌てて間に入り込む。

「止めて!ギーシュを殺す気?!」

「才人君しっかりして!あなたはこんなことをする人じゃない!」

 二人の言葉が届いたのか才人は今度は剣をへし折りギーシュに向け投げ捨てる。

「もう一回言う、もう終わりだ」

 その一言で才人は力尽き倒れてしまった。ギーシュは恐怖で泡を吹いて失神していた。

 

 

 才人はコスモスの花壇の前でロングビルから治療魔法を受けていた。

「まったく無茶しやがって!才人!危うく殺されてたんだよあんた!」

 ロングビルは自身の口調を偽る事も忘れ才人に説教しながら胸の傷を治療していた。横で見ていたルイズはその変わりように言葉を失っていた。

「ごめんなさいロングビルさん、助けてもらってばかりで…」

「しゃべんない!傷が開くよ!」

 才人は少しうれしかった。ロングビルが素の口調になるくらい自信を心配してくれている事に。

 

 

 オスマンとコルベールは『遠見の鏡』で一部始終を見ていた。

「間違いない、ガンダールヴじゃ」

 コルベールは興奮した様子でまくし立てる。

「これは大発見ですよ!現代に蘇ったガンダールヴ!これは王宮に報告しなければ!」

 しかしオスマンが一括する。

「待て、王宮のボンクラに知られれば戦に使われるのは目に見えてる。この件は私が預かる!」

「はい!」

 オスマンは空を眺めながらつぶやく。

「巨人に続いてガンダールヴ…頭が痛いのぅ…」

 

 

 

 

 決闘のあった週の虚無の曜日、才人とルイズは城下町に繰り出していた。理由は剣を買うためだ。何故かというと、決闘の一件でキュルケが才人に惚れてしまったのだ。キュルケは恋多き女。それが一人の平民に固執していると知って他の男が黙っていない。身を守るために剣を欲しがったのだ。

 もちろんそれを見逃すキュルケではない。物静かな親友を呼びに行く。ドアをいきなり開け小柄な親友「タバサ」の首根っこを掴みひょいと持ち上げる。

「タバサ~!今から出かけるわよ~!」

「虚無のよう…」

 言いかけたが「虚無の曜日なのだから好きな読書がしたい」らしいタバサ、しかし半ば強引に連れていかれる。小脇に抱えられながらキュルケの話を聞く。

「タバサ!私恋しちゃったの!恋よ、恋!なのにヴァリエールに連れてかれちゃったのよ!しかも馬で!あなたの使い魔じゃないと追い付けないわ!」

「わかったから…おろして…」

 タバサ達は窓から飛び降りるとタバサの使い魔風竜「シルフィード」に乗り才人達を追いかけた。その様子をロングビルは窓から見下ろしていた。青春か…私には…と思ったところで止めた。自分にはすることがある、と考え直し宝物庫に向かっているコルベールの後をつけた。

 

 ゴミや汚物が散乱する裏路地にその銅の看板はあった。

「この辺よ…あ、あった」

 中に入ると50くらいの男性の主人がパイプをくわえていた。

「貴族の旦那ぁ、うちはまっとうですぜ、目を付けられることなんざ…」

「客よ」

 途端に機嫌が良くなりルイズにおべっか使い始めた。こりゃあ鴨ネギだ、ふんだくってやろうという魂胆だろう。

「最近は貴族の方々の間で下僕に剣を持たせるのが流行ってましてねぇ」

 何故かとルイズが尋ねると主人が語り出す。

「いえ近頃ねでかい化け物やらが出て物騒でしょう?そんな混乱に乗じてメイジの盗賊『土くれのフーケ』が荒らしまわってんでさぁ」

「ふーん…」

 ルイズは興味なさげに聞き流す。いくつか主人から剣を見せてもらうが中々気に入る剣が無いのか、未だに他の剣を見せてもらっている。その間才人は樽に入った剣を物珍しそうに物色していた。するとどこからか声がする。

「やい娘っ子!お前さんに剣の良し悪しがわかんのかよ!」

「なんですって?!」

 ルイズは反射的に怒鳴るがそこには誰もいない。剣が積んであるだけだ。

「ちょっとあんた!」

 ルイズの怒りは才人に向かうが才人には身に覚えがない。すると主人が怒鳴る。

「やい!デル公!失礼すんじゃねえ!」

「デル公?」

 才人があさっていた樽から声がする。なんと錆びた剣の一本がしゃべっていた。

「珍しいじゃない、インテリジェンスソード?」

「俺はデルフリンガーってんだ!」

 才人は興味津々で手に取る。

「へぇ~すげえぇ!しゃべんのか!おもしれえぇ!」

「いてて!強く握んじゃねぇ!…なる程…おでれーた…」

 最初は不平を漏らしていたデルフリンガーがおとなしくなる。そのままルイズと主人は話を続けるがデルフリンガーは小声で才人に語りかける。

「おめえさんの中にすげぇ光が渦巻いてやがる、何者なんだ?」

 才人は驚愕する。

「わかるのか?!」

「ああ、ビンビン感じ…」

 その時、突如として空気を切り裂く轟音が響く。

 

 ゴゴゴゴゴゴゴ!

 

「なっなんだ!?」

 慌ててルイズと才人が外に出ると空から青い球体が降ってきて町の中央の広場に着地する。青い球体が割れると中から爬虫類のような肌、鋭くとがった牙を持った怪物が現れる。才人はかつて怪獣の資料で見たことがあった。

 

 

 

「宇宙怪獣、ベムラー!」

 

 

 ベムラーは一声咆哮すると町に向かって次々と青い炎を吐き出し破壊、燃やし尽くしていく。その太い尻尾を振り回し密集している家々を次々と破壊していく。その攻撃は才人達がいた武器屋にも及ぶ。

「「「うわぁぁぁ!」」」

 武器屋の母屋は半壊してしまう。才人はルイズを抱え逃げ出す。

「まさかこの次元にもいるなんてっ!」

 宇宙怪獣ベムラー、かつてウルトラマンが地球で初めて戦った相手だ。ベムラーが破壊活動を続けると王宮の方からグリフォンに乗ったメイジたちが飛んでくる。

「あれはわるどワルド子爵の魔法衛士隊よ!」

 ルイズは興奮した様子で見ているがその表情はすぐに落胆に変わる。魔法はベムラーの体に傷一つつけられない。逆に炎で次々と撃ち落される。

「そんな!そんなのって…」

 このままでは被害が広がる変身するしかない。才人はそう思うがルイズを抱えていてはばれてしまう。そんな時…

「ダ~リ~ン!」

 キュルケとタバサが空から降りてくる。

「大丈夫!?さっ早く逃げましょう!」

 キュルケが手を伸ばしてくれたのでまずルイズを預ける。キュルケの力を借りる事に不平があったようだがタバサに無表情で見つめられ、落ち着かせられる。才人も乗って安全な所で変身しようと考えた時、巨大な炎がキュルケ達と才人を分断する。

「ダ~リ~ン!」

「うわぁぁ!」

 激しい炎で合流できそうにない。仕方なくその場で変身しようとする。

 

 

 しかし…

 

 

「変身できない?!」

 才人は体の中でくすぶる力が上手く制御出来ず、力を表に出せない。

(こんな時にまた制御出来ないなんてっ!)

 

 才人の頭上には巨大な尻尾が迫っていた。

 




次回に続きます。投稿は安定したペースで書けていないので不定期ですが1~3日以内に投稿できればなと思っています。


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ゼロの使い魔~真心~第7話

続きです。今回は怪獣の設定を見て少しいじくってます。


 才人は燃え盛る市街地を走っていた。ベムラーの尻尾の一撃を辛くも逃れたが依然変身することが出来ない。この間にベムラーは段々と王宮の方に進んでいた。

「ルイズ達、大丈夫か?」

 才人は煙でむせながらご主人様の心配をする。はぐれてしまってから合流できていなかった。気が付くと才人は元居た武器屋に戻ってきていた。もう見る影も無いが。

「ひでえなぁ…あの店主大丈夫か…?」

 見ると店の瓦礫の下に手が見える。才人はあの店主が下敷きになっていると思い助けようと瓦礫を持ち上げる。大きな瓦礫だが今の才人なら簡単に持ち上げられる。

「お…りゃあああ!」

 ドスン!と瓦礫を遠くに投げ捨て、店主を助け起こそうとする。が…

「えっ…」

 そこには手しかなかった。肘から上には何もなかった。

「そっそんな…嘘だって…言ってくれ…誰か…」

 虚しく風に消えるはずだったそのつぶやきに答えた物がいた。

「よっ坊主!無事だったか?」

「えっ…」

 それは武器屋で才人の正体を見抜いたデルフリンガーだった。

 

 

 魔法衛士隊隊長ワルドは部隊を一時王宮に下げ体制を整えていた。衛生兵に手当てをしてもらっている。

「ちっ、こんなところでくたばって…たまるか…!」

 ワルドは立ち上がると部下のメイジたちに喝を入れる。

「皆!このままあの怪物の好き勝手させてはいけない!俺たちの国を守るのは俺達自身だ!」

 しかしそれを聞いて「まだ戦うのか」と怯えるメイジがいた。中には走って逃げ出す者までいる。

「貴様ッまて!」

 だがワルドは追いかけなかった。どちらにせよ考えてはいた事だ。そんなワルドを衛生兵が抑える。

「貴方もまだ無理です!少しでも寝て傷の回復をしなければ!」

「くっ…ん?あれは?」

 寝かせられたワルドが見たのは突如として歩みを止めたベムラーだった。

 

 

 突如歩みを止めたベムラー。その場で息を吸い込むと口を開ける。

 

 

「下等な虫けらどもぉぉぉ!」

 

 

 それは低く相手に威圧感と恐怖を与える声だった。しかしそれ以上に聞いた誰もが驚いていた。それを代表したような感想が王宮のテラスに飛び出たトリステイン王女アンリエッタからでた。

「かっ怪物が…しゃべった!?」

 慌ててマザリー二卿が下がるように言う。

「いけません姫様!」

「いえ、私はこの国と最後を共にする義務があります!」

 そんな時ベムラーの目が王宮に向く。

「よくキケェッ!虫けらぁ!生贄を差し出せぇ!お前らは俺の飯だぁ!…それとも…まだ俺様の力を味わいたいかぁ!」

 

 

 ベムラーは人間に対して脅しをかけていた。その様子を見て才人はある事を思い出した。かつてベムラーが地球に飛来した時、同時に飛来したウルトラマンと接触した化学特捜隊ハヤタ隊員の証言にこんな物があった。「犯罪者の怪獣」と。もしかするとベムラーは知能が高い生命体で宇宙規模の犯罪者だったのかもしれない。

「なんて野郎だ!人間を喰い物としか思ってないのか!」

 怒りに拳を震わせる才人を見てデルフリンガーは問いかける。

「なぁ坊主、おめぇさんの力が使えればあの怪物倒せるって本当かい?」

「ああ、だけど上手く制御が出来ないんだ」

「おでれーた、さてはなり立てで慣れてねーな?」

 それなら、とデルフリンガーは一呼吸置く。

「俺っちが手伝ってやるよ」

 手伝う?才人はいまいち話が読み込めなかった。「だーかーら!」とデルフリンガーは繰り返す。

「俺様が力を引き出すのを手伝ってやるってんだよ」

 軽々と言うデルフリンガーに才人は食いつく。

「どっどうやって!?」

「簡単だよ、俺っちを握って気合の出るよな言葉を叫べっ!それでお前さんの力が沸き上がりかけた時に後押ししてやる」

 才人はいくら異世界とはいえ、喋る剣とはいえ、こんな事ができるなんて普通じゃないと思った。

「お前…何者なんだ…」

 デルフリンガーは刀身を震わせると突如光り輝く。光が収まるとそこには光り輝く美しい刀身の大剣があった。

「俺っちは初代ガンダールヴの剣デルフリンガー様だ!」

「ガンダールヴ?」

「おでれーた…お前さん自分のルーンの力も知らなかったのか?」

 才人は左手のルーンを見る。ガンダールヴ?…そういえばギーシュとの決闘で剣を握った時、身体能力が強化された事を思い出した。それの事かと納得する。

「要は伝説の剣って事か。そんなにすごけりゃ納得だ。よしっ力を貸してくれ!デルフリンガー!」

「デルフでいいぜ!」

 才人はデルフリンガーを左手で持ち、腰元に構える。そして全力で剣を頭の上まで振り上げ自身のもう一つの名を叫ぶ。

 

 

 

「コスモーーース!」

 

 

 燃え盛る町の中、突如として光の柱が立ち上がりその中から青い巨人が現れた。その様子を避難所で火傷の手当てをされながらルイズ達は見ていた。

「なっなによ!あれ!」

 その問いにキュルケが答える。

「ああ、そう言えばあなた見てないんだっけ?あれが学院を救った巨人よ…名前は確か…ミス・ロングビルが報告してたわよ、ウルトラマンコスモス、だって」

「ウルトラマンコスモス…」

 ルイズはその姿に魅入っていた。しかしコスモスの登場を一番驚いたのは誰でもなくベムラーであった。

「げげぇ!ばかな!この世界にゃうざってえウルトラ野郎はいねぇはずだぁ!」

「ジェアッ?!(この世界?!)」

 今の発言からしてこのベムラーはどうやら元は才人の世界からやって来たようだ。

(ウルトラの父が言ってた奴らの一人か!)

「やろぉ!死にさらせぇ!」

 コスモスはベムラーが放った炎を右に跳んでよ避け、走り出すと飛び蹴りを浴びせようとジャンプする。その蹴りは寸分たがわずベムラーの顔面に直撃する、が…

「デュアァァ!?」

 その足はベムラーの強靭な顎で受け止められ、逆にベムラーから噛みつかれてしまった。そのダメージにコスモスは苦痛の声を上げる。ベムラーはさらに追撃にとコスモスを背中から地面に叩きつける。

「おめぇ…ウルトラ野郎にしちゃぁ弱っちいな!ビビッて損したぜ!」

 コスモスが立ち上げれない内にベムラーは次々と攻撃を叩き込む。炎、蹴り、尻尾による殴打が連続で続く。ベムラーはコスモスの首に噛みつき持ち上げると首を大きく振り投げ飛ばし炎を当て撃ち落す。

「そんな!あの怪物強すぎる!」

 ルイズは驚嘆の声を上げるが、王宮の医務室で見ていたワルドはその戦いを見てイライラしていた。

「受け身も取れていない!あれじゃ素人じゃないか!」

 コスモスはベムラーのパワーになすすべが無かった。脳裏には初代ウルトラマンがベムラーと戦った時の資料映像が流れていた。

(やっぱりウルトラマンはすげぇ…こんな強い奴をやっつけたのか…いや、俺が弱いだけか…)

 その時もう一人の声がする。

(やれやれ、だらしねぇもう諦めたのか?)

(デルフ…へっそんな訳ねえだろ…こいつは皆を苦しめて、悪魔だ…許せねぇ…許せねぇ…!)

(その調子だ坊主!やりたい技をイメージしろ!アシストしてやる!)

 コスモスは尻尾の一撃を避け転がると尻尾の射程から逃れる。そこから攻撃したいとイメージをする。

(さあっ、今ならビーム出るぜビーム!)

 コスモスは右手の手のひらをベムラーに向け突き出す。

「デュアァァ!(ルナストライク!)」

 青く輝く光線が放たれベムラーに直撃する…がベムラーはすんでのところで避け肩口を掠るだけに終わる。

「やりやがったなぁ!…さぁて…お楽しみだぁ!」

 ベムラーは突如王宮の方に向かって炎を吐き出す。それはテラスにいたアンリエッタ王女に直撃するコースだった。アンリエッタは突然の事に目をつぶるしかなかった。アンリエッタが蒸発するかと思った時…影が差す。コスモスが間に入り盾となっていた。

「あっ、ありがとう…ございます」

 アンリエッタはコスモスの吸い込まれるような透き通った瞳に魅入る。しかしそこでピーオン、ピーオンという音が聞こえる。よく見るとコスモスの胸の水晶が点滅していた。

(まずい、そろそろ限界か…)

 コスモスはその場に膝をつく。ベムラーは再度炎を吐こうとしている。コスモスは身を守りながら攻めたいとイメージする。

(それなら盾を作りながら行きゃいいぜ)

 ベムラーが炎を吐き出した時、コスモスはバリアで受け止める。そしてそのままベムラー向けて飛び出す。瞬間的に音速を超えるスピードを出し一気に肉薄、バリアをまとった掌底をベムラーの腹部に叩き込む。それは肉を潰し深く突き刺さり、これまでで一番のダメージを与える。

「ギャァァ!まいった!お願いだ!助けてくれぇ!」

 コスモスは倒れたベムラーの命乞いを聞き、後ろを向き星から出ていくようテレパシーで伝える。

 

「へっへっへ…馬鹿め!」

 

 ベムラーが背後から炎を吐きかけた時そこにコスモスはいなかった。

「どっ…ぶげぇ!」

 いつの間にかベムラーの頭上に飛んでいたコスモスはベムラーの頭頂部に掌底を叩きつける。

(不意打ちには一回痛い目見てるからな)

 ゼロ距離で放たれたルナストライクがベムラーの体を駆け巡り、その体を粉砕した。

 

 

 

 夕刻、火災が収まったころにキュルケ達は才人を探していた。

「ダ~リ~ン!こんなお別れなんていやぁ~!生きてたらへんじして~!」

「キューイ!」

 タバサもシルフィードと共に探して回る。ルイズはその中でも必死になって探していた。

(こんな、こんな最後?…私を助けてそれで自分は…?ダメ!絶対ダメ!)

「バカ犬~!ヒック、ヒッ…サイト~!生きてないと承知しないんだから~!」

 ルイズの瞳に涙が溜まり始めたころ…

「お~い!」

 才人が手を振りながら駆けてくる。その様子にルイズは思わず駆けだす。

「ッ!サイッ「ダ~リ~ン!」グベッ!」

 先に抱き着いたのはキュルケだった。二つのメロンに挟まれ才人は幸せそうだった。

「ちょっとキュルケ!離れなさい!」

「嫌よ!感動の再会だもの!」

「あんた部外者でしょうが!あんたもデレデレしない!」

 騒いでいるとタバサが才人の持ってる剣に気が付く。

「それは?」

 才人はようやくキュルケから離れると紹介する。

「俺の新しい相棒デルフリンガーさっ、こいつのおかげで助かったんだ」

「俺っちの事はデルフって呼んでくれ!よろしくな!」

「へ~?インテリジェンスソード?珍しいわねぇ~」

 そんなことより!とルイズが才人に食って掛かる。

「バカ犬の分際で心配かけて~…お仕置きよ~!」

「ちょっと待って勘弁してくれよ!」

 

 

 才人は怪我もあるのに、と必死で逃げていたが追いかけるルイズは心なしかいつもより笑顔だった。

 




次回へ続きます。ベムラーの大元の設定って結構変わってますよね。


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ゼロの使い魔~真心~第8話

続きです。オリジナル設定が少しずつ目立ってきています。この回はそれが顕著です。


 ベムラーの事件から一週間、才人はルイズの服の洗濯を終えて部屋へ戻る途中、考え事をしていた。ベムラー以降これといった事件は起きていない。しかしウルトラの父が言っていた侵入者がベムラーだけとは考えられない。ロングビルの花壇に立ち寄り考え事をしようと考えていると…

「あれ?ロングビルさん何してるんですか?」

「あら?才人君」

 ロングビルがコスモスを切っていた。切ってからすぐに『固定化』をかけ花束にしてまとめていく。

「綺麗に咲きましたね、コスモス」

「ええ!もう彼女に送れるわ」

「次何育てるんですか?」

「次っ…!?」

 ロングビルは才人との談笑の中で言われた何気ない一言が深く胸に突き刺さる。次…自分に次は…

「ごめんなさい…次は育てられないの…」

 ロングビルは今までに聞いたことの無いような暗い声で呟く。才人はまた聞いてはいけない事を聞いてしまったと思ったが、聞かずにはいられなかった。

「育てられないって…」

「私…この仕事、もうすぐ辞めるの…」

「えぇ!?」

 才人はロングビルの言葉に驚く。その様子を見てロングビルは慌てて説明を付け加える。

「ちっ違うのよ?そういう契約だったのよ!?」

「あっ…そうだったんですね!」

 二人の間に気まずい雰囲気が流れる。先に切り出したのは才人だった。

「そっそう言えば俺まだ部屋の掃除終わってなかったんだ!失礼しますね!」

「そっそうね、ミス・ヴァリエールは気にしそうだものね!?」

 才人が行ってしまうとロングビルはその場にへたり込んでしまう。自分はどうしてしまったんだと自問自答する。

(どうしちまったんだ…こんなはずじゃなかった、元はただ探りを入れるために潜り込んだだけなのに!)

 ロングビルの脳裏にあの少女が浮かぶ。そして何故自分がこんな事をしているか、何の為にしているのかを思い出す。

(あたしはやんにゃきゃならないんだ。絶対に!)

 しかしロングビルの胸には何かモヤモヤした感情が残ってしまった。

 

 

 ルイズは悩んでいた。近々行われる使い魔の品評会で才人に何をさせるのか。

「剣技なんかどうかしら?それとも何か特技あるのかしら?」

 そうしていると才人が戻ってくる。その表情は少し沈んでいるように見える。

「どうしたの?なんかあった?」

「嫌…特に」

「…そう、それよりもあんた何か特技ある?」

 才人は突然の質問に疑問符が上がる。

「特技?」

「そうっ、今度使い魔の品評会があるのよ!そこで使い魔に仕込んだ芸を披露するの!あんた何かできないの!?」

「何かねぇ…!」

 才人は何か思いついたのかノートパソコンを広げ音声ファイルを開き、音を流す。才人のお気に入りの曲だ。

「俺さ前に少し友達とバンドの真似事してさ、ちょっとだけギターできるんだ。ルイズピアノとかできる?一緒に演奏とか…」

 ルイズは聞いていなかった。ノートパソコンから出る音声に興味津々である。

「何よ何よ何よこれ!すごいどんな魔法?」

 才人はルイズにノートパソコンをまともに見せた事が無かった事を思い出す。

「前も言ったろ科学だよ科学、ほらこんなのもあるんだぜ」

 才人は自慢のウルトラ兄弟達の写真データを見せてみる。案の定ルイズは喰いつく。

「ええぇ!ウルトラマンってこんなにいるの!?」

「あぁ、俺のいた世界は怪獣が多くてな、ウルトラマン達が助けてくれてたんだよ」

 ルイズは暫く魅入っていたが目的を思い出すと「ごほんっ」と咳払いをする。

「ま、まあとにかくその歌で行きましょう。ピアノなら小さい頃習ってたわ。ピアノは学院のを借りられるわ。ギターは…ちょっと無理かしら?」

「じゃあ無理か…」

 才人がそう言うとルイズは「待って」と即答する。

「借りられないなら新しく買うわよ!」

 随分思い切りが良いなと才人は思う。しかしすぐに見当がついた。今日は一週間ぶりの虚無の曜日、先週は怪獣騒ぎでなにも出来なかった。先週の分も合わせて楽しむつもりだろう。

 町はベムラーの被害を受けて酷い有様だったが、それ以外のエリアは比較的いつも通りだった。荷物持ちに従事した一日だったがギターは買ってもらえた。

 

 その様子を見ていたキュルケがもっと高いギターをプレゼントしようと部屋に乗り込んできたのは別の話。

 

 深夜、ロングビルは自室で最終確認を行っていた。

(実行は品評会の日、時間は…よし完璧…しかし、まさか王女様が来たがるなんて…全く、嬉しい誤算さね)

 王女が来ればそっちに警備を割かなければならなくなる。

(とっても都合がいいじゃないか、これで皆こっちのもんさ…セクハラに耐えて調べた甲斐があるよ!)

 ロングビルは完璧な計画にほくそ笑む。しかしその瞬間胸に針が刺さったような痛みが走り、才人の顔が浮かんでくる。

(考えるな!やめろ!考えちゃだめだ!私には、あの子たちがいるだろ!)

 その感情に負けないように腕に爪を突き立てる。そうしてもう一つの自分の顔を作り出す。

(私はフーケ、『土くれのフーケ』なんだっ!)

 

 数日後学院の生徒や教員がこぞって校門に整列していた。急遽見学に来ることが決まった王女を迎えるためである。生徒達は王女が来ることに興奮を抑えられないが、唯一才人は冷めた目で見ていた。

(なんでこんな物の見学にお姫様が…普通復興の方が大切だろうに…)

 そうこうしている間に王女が到着する。才人は生徒達の隙間から覗いて見覚えのある顔に少し驚く。

(確か…ベムラーから守ったあの子!お姫様だったのか…)

 そんな才人をよそにお出迎えは終わった。しかし、ここからがアンリエッタの一番の目的だった。学長室に入ると王女、オスマンの二人だけで話が始まる。

「今日無理言ってきたのは他でもありません、ウルトラマンの事です」

 オスマンはとぼけたように答える。

「はて?なんですかな?」

「先日王宮を襲った悪魔のような怪物を倒した巨人の事です。調べましたよ?一度この学院にも表れているようですね」

 オスマンはここが限界と腹をくくる。

「実は一度現れております。確かに部下からの報告もありましたが…その時間僅か一分三十秒程。我々としても現実とは受け止められず報告を保留していた次第でございます」

「王宮の時は二分三十秒でしたね、確かに信じがたい出来事でしたが紛れもない現実です…ところで「ウルトラマン」という名前は誰が?」

「いえ、ミス・ヴァリエールの使い魔として召喚された平民の少年がその同族を見たことがあり、そこでの名称を踏襲したのです」

「ミス・ヴァリエール…!?」

 

 

 その夜アンリエッタはミス・ヴァリエールを訪ねてきた。旧知の友との久しぶりの再会に喜びがこみ上げてくる。

「ルイズ~!」

 思わず抱き着いてしまった。その様子をぽかんとした様子で見ている少年がいた。彼が例の使い魔だろう。ルイズとの談笑もよそに少年に向き直る。

「貴方にも会いに来たんですよ」

「え?」

 特に変わった様子は何もない。しかしその瞳に既視感を覚える。

(どこかで見たことがあるような、暖かい目…)

 アンリエッタは気になる事が多かったが、再開の感動の方が多く少ない時間とは言え楽しい時間を過ごす事にした。

 

 

 翌日ついに品評会が始まるタバサのシルフィードの出番が終わりついに才人とルイズの順番になる。

「お~い!ゼロのルイズ!何するんだ?!」

「ストリップでもするかぁ~?」

 汚いヤジがルイズ達に浴びせられるが才人が背中のデルフに手をかけると皆押し黙る。ルイズは咳ばらいをしてピアノの前に座り才人がギターを持ち直す。

「えっと…ルイズの使い魔の才人です。今日は私の住んでた地方での歌を紹介します。じゃあ聞いてください」

 ルイズはピアノの伴奏を始める。それと同時に才人も曲名を発表する。

 

『君にできるなにか』

 

 ルイズのゆったりとした伴奏に才人のギターが合わさり、落ち着いた雰囲気の曲が流れ始めた。

 

 

 フーケは宝物子の外壁の傍に待機していた。品評会で大騒ぎしている間にいただく算段である。

「よし、次だね、予定通り。覚悟、決めるよ…!」

 そんな時だった。才人の歌声が聞こえてくる。優しい伴奏と共に心に訴え、聞いてる相手を励ます、そんな歌詞。

「これは…!」

 それは覚悟を決めたフーケの心をかき乱す。

『夢をおいかけて…すべてが…』『愛は…その答えさえ…』

 才人の歌はフーケの心に突き刺さる。夢、自分に夢は有っただろうか…。そう言えば一つだけあった。自身がこうなる前、領地を修める立場にあった時、領地を一面自分の好きな花畑にするというのがあった。いくらあの子達の為とはいえ、夢を追っていた自分は今の自分をどう思うか…。

「あたしもそんな時期があったっけ、夢、愛か…やっぱりダメだ。『土くれのフーケ』としたことが、こんな簡単にほだされるなんて…」

 胸の感情…才人に対しての後ろめたさが大きくなり、体に力が入らなくなる。足が震え立っていられずその場に座り込んでしまう。涙が溢れ、それ以上感情を抑えきれなくなる。

(ごめん…皆…あたし、もう才人を裏切れない…才人と、才人と光の道を共に歩きたい!)

 

 

 

「それでいいのか?」

 

 

 

 

 突然聞こえる下卑た声。フーケは慌てて周りを見回すが誰もいない。だが、声は聞こえてくる。

「お前の心には闇が巣食ってる、醜い復讐の感情…素晴らしいっ!貴様が捨てる気ならそれを俺様が使わせてもらおう!」

 突如としてフーケの周りに黒い靄が現れその体に吸い込まれていく。フーケは声にならない叫びを上げながらのたうち回る。

 

 

 次にフーケが立ち上がった時、それは本来のフーケとは違う「別の何か」になっていた。

 

 

「ハハハハハッ!ギャハハハッ!」

 




次回に続きます。


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ゼロの使い魔~真心~第9話

書きたいことがきちんと伝わっているか不安になるとき『君にできるなにか』を聞いて気持ちを切り替えてます。


 才人とルイズの演奏が終わると生徒たちは静まり返っていた。才人は滑ったか…?と不安になるが特別席で見ていたアンリエッタの拍手で生徒達も拍手をする。

「素晴らしい演奏でした。初めて聞く異国の歌でしたが、不思議と力の湧いてくる良い曲ですね」

 泣いている生徒もいるのか嗚咽が聞こえる。感動してくれた事を嬉しく思う才人だが、一番の嗚咽は隣から聞こえた。

「ルイズ…」

「だって…だってぇ…グスッ…ウエッ…歌詞は練習じゃ無かったじゃない…!」

「いや…そうだけど…」

 

 

ドゴォォォォォン!

 

 

 そんな時突如として轟音が鳴り響く。ある者はその場にうずくまりある者は杖を抜く。アンリエッタの周りには護衛のメイジが一瞬で集まる。才人も驚くがルイズの前に庇うように立つ。

「大変だー!宝物庫に巨大なゴーレムが!」

 生徒の一人が駆けてくる。一番に動いたのはルイズだった。才人の制止を聞かずに走り出す。慌てて才人も後ろから追いつき現場に向かう。そこでは巨大なゴーレムが棍棒を振り回し宝物庫の壁を破壊していた。

「何じゃありゃ!?」

「ゴーレムよ!しかもサイズから見てトライアングルクラスのメイジよ!」

 解説するルイズめがけ振り下ろされる棍棒をデルフリンガーで受け流し、後ろまで跳んだ才人はゴーレムの上に人影を見つける。

「誰だっ!」

 影は待ってましたとばかりに答える。

「ギャハハハ!私か?私はフーケ!土くれのフーケ様だ!」

「土くれのフーケ!?」

 驚いたのはいつの間にか集まっていたタバサやキュルケなどの面々だ。才人は分からず不思議そうな顔をしているがキュルケが教えてくれる。

「最近噂の貴族専門の盗賊なのよダーリン!」

 キュルケは自分が言い終わる前に「ファイヤーボール」、タバサも続いて「アイスジャベリン」を放つが直撃したはずのゴーレムはびくともしない。フーケは高らかに宣言する。

「破壊の杖並びにその他宝物、すべて領収させていただきますよ…ギャハハハ!」

 フーケが杖を振るとゴーレムが崩れ、爆散する。

「うっおりゃぁぁ!」

 才人は学生の方へ飛んでくる岩を全てデルフリンガーで弾き飛ばす。

「相棒っ大丈夫か?」

「ああ、何とか」

 生徒達には被害は無かったが土くれのフーケは混乱の中で逃げられてしまった。

 

 

 その後品評会は中止となりアンリエッタは王宮に報告の為に戻っていった。学長室では今後を話し合うため教師達が集まっていた。皆口々に好き勝手な事を言う。「衛兵は何をしていた、警備はどうなっていたんだ」等と。そんな教師たちを制しオスマンはコルベールに向き直る。

「フーケと対した彼女らは?」

「三人はこちらに」

 キュルケ・タバサ・ルイズの三人である。才人も側にいるのに使い魔だからと数に入っていない。一番頑張ったのは自分だと才人は不機嫌になるが深く考えないようにする。

「私たちは到着が遅れフーケをしっかりとは見れていない。詳しく状況を教えてくれないかね?」

 ルイズ達はフーケが現れた時の事を詳しく説明していると、オスマンからフーケの行方の調査を命じられていたロングビルが戻ってくる。

「大変です!聞き込みで分かったのですが森の中にフーケの物と思われる隠れ家らしき小屋が!」

「何じゃと!?」

 

 

 ロングビルの話によると黒いローブを着た人物が小屋に入っていく様子を見た猟師がいたらしい。近場なのかというオスマンの問いにロングビルは馬で四時間ほどと答える。黒いローブこれにルイズが反応する。

「黒ずくめのローブ?間違いない!フーケです!」

「すぐに王宮に報告を!魔法衛士隊に頼んで討伐隊を差し向けてもらいましょう!」

 コルベールが叫ぶ。しかしオスマンが年寄りとは思えない怒号を上げる。

「バカ者!その間にまんまと逃げられてしまうわ!」

 それに…と続ける

「先の怪物騒ぎで王宮の戦力は大きな痛手を負っている、あてには出来ん…その上身にかかる火の粉を払えずして何が貴族!何がメイジ!当然我らが解決する!我をという者は杖を掲げよ!」

 誰も掲げない、俯く者ばかり。その中でルイズが杖を掲げる。それを見てシュヴルーズが驚く。

「ミス・ヴァリエール!あなたは生徒ですよ!ここは教師に…」

「誰も掲げないじゃないですか」

 才人はそれを見てまた「貴族のプライド」かと思った。間近であの強さを体感したというのに、立ち向かおうというらしい。一度痛い目にあっているはずなのに。

「ふん!ヴァリエールには負けていられませんわ」

 キュルケも杖を掲げる。

「心配」

 タバサまでも杖を掲げる。それを見てオスマンはむぅ…と唸る。

(ミス・タバサは若くしてシュバリエの称号を持つ騎士、ミス・チェルプストーは軍人家系の名門貴族…しかしミス・ヴァリエールは…いや、あのガンダールヴが!)

 オスマンが才人に熱視線を送るとそれに気付いた才人はやれやれ…とため息をつく。

「必ずやご主人様をお守りします(はぁ…やれやれ)」

「敵は夜の闇に潜む下賤な盗賊!闇を持って闇を制す!作戦は夜間強襲とする!魔法学院は諸君らの努力と貴族の義務に期待する!」

 こうしてフーケ討伐作戦が決行された。

 

 

 この結果に満足しほくそ笑むロングビルを見た者は誰一人としていなかった。

 

 

 数時間後、ロングビルの案内で到着した森、日が沈んだ暗がりの中。双月に照らされる小屋に才人は忍び寄っていた。

「いくらすばしっこいからって、一人で偵察かぁ…」

 小屋をのぞくと中には学院から盗まれた物が乱雑に転がっている。そこで不信に思う。せっかく盗んだ物の扱いが雑じゃないか?その時才人の足元が突如『錬金』で粘着性の強い泥沼に変わる。

「なっし、沈む!?」

 あっという間に才人は飲み込まれてしまう。慌ててルイズとキュルケが駆け寄る。

「ダーリン!」

「サイト!」

 二人は泥に手を突っ込むが何もつかめない。タバサも手を入れようとしたところでロングビルが何もせずに見ている事に不信感を覚える。

「手伝って…」

「残念、出来ない相談ね」

 双月に照らされるロングビルの目つきが笑顔から猛禽類の獰猛な目に変わる。

「眠ってろ」

 まばたきの速さで生み出されたゴーレムがルイズ達目掛け棍棒を振り下ろした。

 

 

 

 才人は必死になって泥沼から顔を出す。目の前に赤毛が見える。キュルケがボロボロになって横たわっていた。

「キュルケ!しっかりしろ!」

 息も絶え絶えのキュルケは必死に言葉を紡ぐ。

「ロン…グビル…が…フー…」

 そこで意識を失った。

「おい!おい!…くそっ!」

 脱出しようともがいていると巨大なゴーレムが歩み寄ってくる。その手にはボロボロになったタバサとルイズが握られている。そしてゴーレムの肩から飛び降り才人の前にドカっとロングビルが座り込む。

「よおぉ!ウルトラマン!調子はどうだい?」

 普段のロングビルとも、才人が知る素のロングビルとも違う異質な存在、それが、才人の正体を知った状態で目の前にいる。驚きを隠せない。

「だっ誰だお前はっ!」

「フーケ」

「えっ」

「私が土くれのフーケさ」

「そんな!嘘だっあの人がそんな…」

 うろたえる才人をよそにロングビルの様な物は話し続ける。

「本当さ、この体は土くれのフーケって名前で盗賊してたのさ、甲斐がいしいねぇ~孤児やら知り合いの娘やらをやしなうために体はってさぁ~」

 才人は衝撃の事実に打ちのめされていたが聞き逃さなかった。この体はと言った。

「お前、ロングビルさんに取り付いてるのか!?」

「ああ、そうさ、お前を捕えるためにな」

「何の為に!?」

 ロングビルの様な物は才人の問いを無視して言い放つ。

「さぁ!お前のカラータイマーをよこせ!この人質と交換だっ!」

「なっ?カラータイマー?!」

 カラータイマーを欲しがる。かつて一度地球にウルトラマンの力を狙ってきた宇宙人がいた。その名は…

 

 

「宇宙野人、ドロボン!」

 

 

「ご名答~!」

 ロングビルいや、ドロボンは浮かび上がるとゴーレムに吸い込まれる。それと同時にゴーレムは膨れ上がりゴツゴツとした巨人「ドロボン」になる。

 宇宙野人ドロボン、かつてタロウを狙って地球に来た宇宙人ウルトラマン二世のカラータイマーを奪いタロウを苦しめた強敵だ。

「行くぞデルフ!」

「おうよ!相棒!」

 

 

「コスモーーース!」

 

 

 双月に照らされ二人の巨人が相対する。

「さあ寄こせ!カラータイマーを!それがあれば俺は完全に蘇る事が出来る!」

 蘇る?こいつは死んでるのか?コスモスに考える暇も与えないようにドロボンは棍棒を振り回し何度も叩きつける。コスモスは飛んで避けようとするが棍棒から飛んでくる光線で撃ち落される。

「デェァ!?」

 苦痛に悶絶するがドロボンは情けなど掛けない。次々と蹴りを浴びせかけ段々とコスモスを追い詰めていく。しかし、コスモスは反撃出来ない。中にはロングビル、手にはルイズとタバサが握られている。

「はっはっはっ!これで俺様完全復活だぁ~!」

 ドロボンの手はコスモスのカラータイマーを力ずくでもぎ取ってしまう。

「デァァァーーー!」

 

 

 ドロボンはカラータイマーを自分の胸に取り付ける。ドロボンの手から落ちたルイズが見たのはドロボンの胸に輝く美しい水晶だった。

 

 

「ギャハハハ~!」

 




次回に続きます。


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ゼロの使い魔~真心~第10話

続きです。ドロボンが表現難しいので不安です。ロングビルに重きを置きすぎかな?


 何も無い真っ白な空間の中、コスモスは眼を覚ました。

「ここは…?」

 見渡しても何も無い。しかし遠くに真っ黒な瘴気が渦巻いてるのが見える。コスモスはそこまで行ってみる事にした。瘴気はある一点で渦巻き、生み出され続けている。その中心にあったのは…

「ろっロングビルさん!?」

 

 

「う…嘘…」

 ルイズやキュルケは唖然とするしかなかった。目の前には横たわったコスモス、勝ち誇るドロボン。

「そんな…負けちゃったの…?」

 ルイズは絶望感に包まれる。こんな奴にどう勝つというのだ…と。そんな中ドロボンが呟く。

「あん?体が土から肉体にならねぇ?復活できてねぇじゃんか!…はは~ん、あの女なが生きてるせいかぁ?まぁいい、じきに女は死ぬだろ。さっさとこの星からおさらばだ!」

 ドロボンは飛び上がろうとする。が、すんでのところでコスモスが立ち上がり掴みかかる。

「なってめぇ何でカラータイマー無しで動けるんだ!」

 その様子を見てルイズ達は声援を送る。

「さっすが!頑張れー!」

 しかしコスモスの体を動かしているデルリンガーは限界が近かった。

(相棒、まさかタイマーに入って行っちまうとは…俺っちも長くはもたねぇ、早く戻ってきてくれ!)

 

 

 コスモスはロングビルに近づこうとするが瘴気に弾き飛ばされてしまう。数回繰り返すが結果は変わらない。

「何て強い瘴気だ…こうなったら!」

 コスモスは胸の前でエネルギーを集め円を描くように右腕に集中させる。それをロングビルに向けて解き放つ。

「フルムーンレクト!」

 瘴気を完全に振り払いロングビルに届く。ロングビルは暖かい光に触れコスモスに気が付いた。

「あんたは…コスモス…」

「ロングビルさん!ここはどこかわかるかい?」

「ここは恐らくあたしの心の中…あたしはこのドロボンとかいう奴に乗っ取られてた。意識は薄れていたが、そん時あんたのその胸の水晶を奪っちまった。…だからあんたもここにいるんだろう…」

 コスモスはロングビルの辛く苦しそうな表情の原因がそれだけではないと思い自身の考えられる理由を問う。

「貴方が土くれのフーケ、というのは本当なんですか?」

 それを問われロングビルの顔はより一層悲壮感が強くなる。

「知ってるんだね…流石だよウルトラマン、そう私は土くれのフーケ、盗賊さ…そのせいでこいつの魂を引き寄せちまったんだろうねぇ…」

「魂…このドロボンはやはり…」

 才人は気が付く。このドロボンはかつて地球に来た「あの」ドロボンなのだ。死んで怨霊になってでも存在していて何かのきっかけでこの世界に来たのだろう。どうやってこの世界に来たのかは分からないが。

「あたしゃ生きてていい人間じゃ無いよ…このまま死ぬさ…」

 そう言うロングビルの体から瘴気があふれ出す。

「この瘴気はロングビルさんの!?」

 コスモスはロングビルの肩を掴み必死に呼びかける。

「自分を悲観しちゃだめだ!本当の君は優しい人間じゃないか!」

 ロングビルは激昂する。

「あんたに何がわかる!何にも知らないアンタなんかに!」

 ロングビルに触れている手から映像が流れ込んでくる。レイロンスの時にも使えた力だろう、記憶を見る力。そこには一人の女性とその人を取り囲む子どもたち、豊かな草原が写る。その全員がこちらに笑顔を向けている。

(これが彼女の守りたい物…)

「あたしには養わなきゃならない子達がいるんだ…なのに、なのに!」

 ロングビルの目には涙が溜まっている。

「あたしは一時の感情で…その子たちを!大切な物を!捨てようとしたのよ!自分の幸せが欲しくなって、全部投げ出した無責任な卑怯者なのよ!」

 この感情をドロボンに利用されたのかとコスモスは怒りに震える。そして、今の彼女を救えるのはウルトラマンの能力では無いと身に染みる。コスモスは自分のありったけの思いを伝える。

「何を言ってるんだ!あなたは何度も僕の命を救ってくれた!自分の命を顧みず俺をかばってくれたじゃないか!」

 コスモスの言葉を聞いてロングビルはあっけにとられる。自分がウルトラマンを助けた?かばった?…なおもコスモスは続ける。

「君は自分の好きな花の名前を俺にくれたじゃないか!」

 その言葉で気が付く。目の前にいるのは…

「才人…才人なのかい…?」

 コスモスは自身の体の前で腕をクロスするように回し、本来の才人の姿に戻る。

「さっ…才人が…ウルトラマン…?」

「ロングビルさん…」

 才人はロングビルを抱きしめる。

「ロングビルさん…俺はあなたがたとえどんな人でもいい、フーケだろうが卑怯者だろうが関係ない…あなたが本当は優しい人という事はよく知っている!」

 だから!と思いをぶつける。

「助けたい!君の大切な物も!君自身も!助けたい!」

 ロングビルは感情と涙が溢れてくる。

「こ…んな…あたしを…」

「ああ、助けたい」

 ロングビルは才人の胸に顔をうずめる。才人はロングビルに語りかける。

「逃げたっていいんです。くじけたっていい…生きてればやり直せるんですから」

 

 ロングビルの体から瘴気がはれ、光が溢れる。

 

「ああ!ウルトラマンが!」

 ルイズ達の目の前でコスモスの姿が霧散する。デルフリンガーの限界が来たのだ。

「ようやくくたばったか、しつけぇ奴だ」

 ドロボンは再度飛び上がろうとする。しかしそこでカラータイマーにヒビが入る。

「ぐあぁ!?なんだぁっ!?」

 ヒビはカラータイマー全体に及び、内側から粉砕される。そして中からロングビルを抱えた才人が飛び出してくる。

「ダーリン!なんであんなところから!?」

「皆がやられた後、俺も取り込まれちまってさ。でももう大丈夫さ」

 ドロボンは憎しみのこもった目で見てくるが、ロングビルを失い体を維持できなくなっているのだろう。どんどん崩れていく。棍棒を振り下ろそうとしてくるがそれより前にシルフィードに掬われる。

「タバサッいつの間に!?」

 キュルケが驚いているがタバサは淡々と言う。

「逃げるが勝ち」

 ちょっと待って!とルイズが止める。

「あんなのをほっとく気?!このままじゃあいつもっと暴れるわよ!どんな被害が出るか…」

 キュルケが真剣な目で見る。

「あなたに何ができるの?」

「くっ…だったら…私一人で!」

 何とルイズは飛び降りてしまった。才人はロングビルをキュルケに預け飛び降りて後を追う。空中でルイズを抱きしめると小屋の屋根に落ちるが、天井を貫き床に背中から着地する。

「いってぇ!おいルイズ!無茶すんな!貴族のプライド何てもんで命捨てたら…」

「そんなんじゃない!」

 ルイズの激昂に才人は黙る。

「私フーケについて武器屋で聞いた日から少し調べたの」

「えっ?」

 ルイズは静かに語り出す。

「フーケは大胆不敵な盗賊、でも人殺しはしない…らしいの、でもね昼間のフーケのゴーレムの爆発はあんたが助けてくれないと…」

「皆死んでた」

「そう、だから変だって思って…このままじゃ他の犠牲を出すかもって思って…だから…」

 よく見るとルイズは震えてる。恐怖からだろうか?

(怖いんだろうな…それを分かったうえで…)

 才人は貴族のプライドで来たのかと思っていたが、ルイズなりに考えての事だったのだ。

(こういうの勇気っていうんだろうなぁ…こんなん見せられたら頑張るしかねぇじゃん)

 才人が考えているとルイズは木箱を取り出してくる。

「これよねっ破壊の杖って!」

 中には杖とはかけ離れた物が分割されて入っている。それに才人は驚愕する。

「こっこれは…!?」

 その時天井が吹き飛び崩れかけのドロボンが現れる。才人は破壊の杖を素早く組み立てるとドロボンに向ける。

「これがありゃこっちのもんさ!」

 才人は破壊の杖の引き金を引く。先端から放たれたそれはドロボンの体を跡形もなく吹き飛ばしてしまった。

「すごい…これが破壊の杖…」

「いや、こいつはマルス133、俺の世界の兵器だ…!?」

 突如ドロボンの残骸から黒い煙が出る。

「まだだぁ!誰かに負の感情を持つものに取り付いてぇ!」

 煙は恐らくドロボンの怨霊だろう。上空にいたシルフィード向けて飛んでいく。

「逃げて」

 キューイと小さく鳴くとシルフィードは急旋回して逃げる。

「なんでこっちくんのよ!」

 キュルケは驚いているがタバサは冷静に考えていた。もしや自分か?…と。

 

 

「相棒っ!こっちだ!」

 下で見ているしかなかった才人をデルフリンガーが呼ぶ。

「デルフ!どうにか出来ないか?あれ!」

「ああできるさ!俺っちを掲げろ!」

 才人は迷わずデルフリンガーを掲げる。するとデルフリンガーが煙を吸い込み始めた。

「俺っちは魔力を吸い取る事が出来るのさ!奴はあの女の魔力でギリギリ存在を保ってる!吸い取っちまえばあいつはおだぶつよ!」

 言ってる間に全ての魔力を吸い取ってしまったのかドロボンは断末魔をあげ消滅してしまった。

「ギャぁァァぁあぁああ!」

 

 

 ドロボンを倒してから才人達は馬車で学院に戻っていた。タバサ、キュルケそしてルイズは疲れてしまったのか眠っている。キュルケとルイズは馬車に乗るまでルイズが飛び出した事で喧嘩していたが。才人は行きで手綱を持ってくれたロングビルの代わりに手綱を握っていた。隣にはロングビルが眠っている。

「いろいろと大変だったなぁ…」

「相棒…今に始まったこっちゃねぇだろ…」

「ああ…しかしなんでマルス133がこの世界に…」

 話しているとロングビルが目を覚ます。まだ体が動かせないのか身じろぎしている。

「あたしは…」

「目さめた?ロングビルさん」

 そこで才人はどうしようと考える。ロングビルがフーケであった事に変わりない。この事実をどうすればいいのか?と。そこでロングビルが呟く。

「マチルダ」

「え」

「マチルダ・オブ・サウスゴータ、あたしの名前…ほんとの名前さ…あんたには覚えていて欲しい…」

 才人は気が付いた。ロングb…マチルダはこの先学院で兵士に受け渡されると思っているようだ。貴族相手の盗賊、極刑は免れないだろう。

「させませんよ…絶対に…守ってみせる!」

 

 

 才人は不思議そうにするマチルダに力強く言い放った。

 




次回に続きます。


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ゼロの使い魔~真心~第11話

長らくお待たせしました。前回の続きです。今回ほんの一場面にオリジナルキャラが登場します。


 才人達は学長室に集まっていた。学院に帰ってきた時すでに朝方だったが、寝ずに起きていたオスマンに呼ばれていた。才人はロングビルを抱きかかえたまま立っていた。

「よくぞフーケを捕えてくれた君たち!おまけに宝物を全て取り返してくれるとは!」

 オスマンは喜々としながら話す。

「よもやミス・ロングビルがフーケだったとは…驚いた…」

 しかしオスマンには身に覚えがある。初めてロングビルとあったのは町の酒場。ロングビルから話しかけて来たのだ。この時その色香に負け「秘書にならんか?」と下心から声をかけたのだ。その時からすでに狙われていたのだろう…その事をオスマンは胸の中にしまっておく。

「君たちのシュヴァリエの爵位申請を王宮に出しておいた。追って沙汰があるじゃろう。と言ってもミス・タバサはすでにシュヴァリエの爵位を持っている為精霊勲章の授与を申請しておいた」

 ルイズ達三人の顔がぱあぁっと輝く。しかしルイズはロングビルを抱えて立つ才人を見つめる。

「オールド・オスマン…サイトには…」

「残念ながら彼は貴族ではない」

 返す言葉の無いルイズは黙り込んでしまう。

 

 

「ちょっと待った」

 

 

 言い放ったのは才人。ロングビルをソファに下ろし、オスマンに詰め寄る。才人という人間を詳しく知らないオスマンでもその普段と違う雰囲気に身を引いている。

「何にもないんですか?こん中じゃ一番頑張ったのに?」

「しっしかし…」

 才人はルイズ達に向き直る。

「悪い、少し席を外してくれ」

 オスマンは勝手な事をするなと言おうとするが、ルイズ達は分かっていたかのように部屋の外へと出てしまった。

「これでよし…」

「…どういうつもりじゃ?」

 オスマンは警戒しながら問いかける。すると…

「こういう事さ」

 才人は服の下に隠していたマルス133の銃口をオスマンに向ける。

「そっそれは破壊の杖!?」

「撃つかどうかはあなた次第です、お話聞いてくれますか?」

 オスマンは才人が言う前に杖をふるい魔法を放とうとするがそれよりも早く才人が後ろに回り込む。

「銃口が向けられると攻撃されるのが分かる…破壊の杖の正体を知ってる証拠だ…お話、いいですよね?」

 この様子を扉の前で盗み聞きしていたルイズ達は後にこう語る。こんなに怖い才人は初めてだ、と。

 

 

 オスマンの口から語られたのは三十年前の森での出来事だった。

「ワイバーンを一撃で消し炭に変えたその武器、それを持っていた彼は君の言うオレンジの服装をしていたよ。同じ墓に埋葬してある。おぬしは彼と同じ世界から来たんじゃろう…」

 そうですかと呟く才人にオスマンは恐る恐る問いかける。

「…そろそろ杖を下ろしてくれんかね?…それは私の命の恩人の杖だ、それを向けられるのは…」

「はい、じゃあこれからが話の本筋です」

 オスマンは内心驚いていた。才人が戻る方法が無い事が分かったのに妙に落ち着き、動揺していないからだ。それは才人がウルトラの父が言っていた侵入者の事もあり帰るという考えを持っていなかった為だ。才人はマルス133を下ろさない。これからが一番大事という事だろう。

「実はこの破壊の杖とその他の宝物を取り返した恩賞をもらいたいんですよ」

「おぬしは欲が強いのかな…?」

「さあ?ただ守りたい人がいるんですよ」

 オスマンはロングビルを見る。

「…フーケの事かね?」

「彼女はロングビルです」

「…ほう?」

「彼女はロングビル、魔法学院長オールド・オスマンの秘書ロングビルです。フーケは戦闘中に死にました」

「…なるほどの」

 オスマンは才人の意思を理解したのか考えこむ。

「それが君の望みか…その者は今までにいくつもの悪行を重ねた盗賊、いつこちらに牙を向くとも…」

「それは無い」

 才人の断言に思わずオスマンは黙り込む。暫く無言の時間が続く。

「何故じゃ?」

「彼女は自分の犯行の愚かさに気付きました。もう二度としないでしょう、それに…」

 才人は悩むが、オスマンに話す事にした。

「彼女はこの世界の貴族社会の影の部分での被害者だ。路頭に迷った孤児達を助けるために罪なき者を喰い物にしてきた貴族から金品を奪っていたんです。復讐の意味で」

「…それが正当化されるとでも?」

「いいえ」

 才人はあっさりと言う。

「ならば何故?」

「あなた達貴族は責任を取る必要があります。自分たちの栄光の為に犠牲になってしまった人々の為に…それにこの話はあなたにとっても悪い事じゃないですよ?」

 その時「確かに」と第三者の声がする。

「ロングビルさん!」

「フーケ!」

 ロングビルは立ち上がるとオスマンに向き直る。少しよろけてしまうが、才人に支えてもらう。

「大体、今の給料でこの仕事の量は厳しかったんだ…すこし上げてもらって再雇用ってのもいいかもねぇ…」

 確かにロングビル程の優秀な人材はそういない。しかし、それだけで王宮に虚偽を報告し、フーケを見逃すのは…とオスマンは悩む。そこでロングビルはダメ押しをする。

「オールド・オスマン女湯覗き二十八回セクハラ四十二回」

「ふぉっ!?」

 オスマンの驚嘆の声が上がる。

「シェヴルーズ不正会計六件、クレシェンテ教諭横領500エキューその他にも…」

「待ってくれ!まっ、まさか…」

「あぁ、これ系統の事はすでにまとめてある。裁判では全て話す事になる。それでもいいかい?」

 これらはロングビルがいざという時の為に調べておいた学院の不祥事及び隠蔽されてきた事柄である。これらを全て突き止められる能力を見せつけられてしまい、更に裁判で話すと迫られ、ついにオスマンが折れた。

「わかった…降参じゃよ、あっぱれじゃ。…私も手を貸そう」

「ごめんなさいオスマンさん脅してまで話を聞いてもらおうとして…」

 才人はオスマンに謝るとマルス133をオスマンに渡す。

「いや…友の杖を取り戻してくれた事は事実じゃ、礼を言う」

 そう言うオスマンは静かに木箱にマルス133をしまう。懐かしいのか少し悲しげな様子をしていた。そして同時に自身が使い方もわからなかった物を完全に使いこなす才人に脱帽した。

(やはりガンダールヴ…侮れんなぁ…)

 その後才人は部屋を出てロングビルとオスマンの二人にする。これから後は二人の話し合いだ。

 

 

「頑張ってね、マチルダさん…」

 

 

 数日後、魔法学院では『フリッグの舞踏会』が行われていた。フーケ騒ぎで延期になっていたが数日遅れで行われる事になったのだ。今年の主役はルイズ・キュルケ・タバサの三人。フーケ討伐によるシュヴァリエ授与が大きい。

「ダ~リ~ン!後で踊りましょうね~!」

 …と言っていたキュルケは10人近い男に囲まれている。このままでは才人と踊るのは明け方だろう。タバサは寄ってくる男たちが持ってくる料理と格闘している。先日までゼロのルイズと馬鹿にされていたルイズは美しいパーティドレスに身を包み、その美しさを存分なまでに輝かせ急に言い寄るようになった男子達とダンスをしている。

「なぁ相棒お前さんなら無理言えば入れてくれんじゃねぇの?」

 デルフリンガーがぼやく。才人は使い魔だからとホールに入れてもらえず学院内の芝生の上に寝ころんでいた。しかし、才人は首を横に振る。

「いいんだ、興味なんか無いし…今は一人が良い…」

 実はルイズもこの事に抗議したのだが才人が自分から断ったのだ。

「まだ気にしてんのかい?過ぎた事だろ?」

「簡単に何か割り切れないさ…俺は人を脅した。それも怪獣用の兵器で。後悔してるよ…それしか出来なかった自分が嫌いになるね」

 「気にしすぎさ」と言いかけたデルフリンガーが鞘に戻る。急に黙ってしまった事に問いかける前に二人の人影が現れる。

「それで助かったあたしがいる。それでいいじゃないか」

「シエスタ!ロングビルさん!」

 現れたのはシエスタとロングビル、しかしロングビルは顔をしかめる。

「おいおい才人だけはマチルダって呼んで良いっていったろ?」

「あっ…ごめんごめん。まだ慣れなくて」

 マチルダとシエスタは才人を挟むように座る。するとシエスタはサンドイッチを取り出し二人に渡す。

「まあまあ、せっかくのミス・ロングビルの復帰祝いなんですから喧嘩しないでくださいよ」

「そうだマチルダ、あの後どうなったんだ?まだ俺詳しく知らないんだけど?」

「ああ、そうだね…」

 マチルダは数日前の事をかいつまんで説明してくれた。再び学院で働く事になった事、以前の給料の数倍で雇用してもらっている事、これなら盗賊をしなくてもやり繰りすれば仕送りを続けられること等。

「だから才人、全部あんたのおかげなんだよ。自分を責めるようなことはしないでよ」

「そうですよ才人さん!こんな凛々しいしゃべり方のミス・ロングビルの方が私好きです!」

「ありがとシエスタ」

 そっか…救われた人がいる…それでいいじゃないか…と才人は考えるようにした。罪悪感は消えないが。

「辛気臭い顔してないでさっ飲みましょ!」

 シエスタが取り出した飲み物で3人は乾杯するが才人は思いっきりむせる。

「こっこれ酒!?未成年に何飲ませんだよシエスタ!」

「ええぇ!才人さん未成年なんですか!?」

 ここで才人はこの世界での成人が16歳と知るのだった。

 

 

 一時間後、才人とマチルダはシエスタの大いびきを聞きながら飲んでいた。

「シエスタが酒乱だったとは…」

 マチルダはあたしも知らなかったよと笑っている。…が目は笑っていない。

(シエスタの奴、抜け駆けはダメって約束したじゃないか…酔ってすぐに忘れて才人にキスしやがった!)

 酔ったシエスタは才人に抱き着き頬にキスをしたのだ。

(年上舐めると痛い目見るよ!)

 いつの間にか二人は謎の協定を作っていたらしい。そんなことをマチルダが考えていると才人に話しかけられる。

「マチルダ、ありがとう励ましてくれて…」

「いいんだよっ、元はあたしのせいだしね…それに」

 マチルダは笑顔で言う。

「才人はあたしの初心を思い出させてくれた。才人がいなけりゃもっと盗みをしていたし大切な人たちを苦しめていた…才人はあたしにとっての『コスモス』さ」

 マチルダは何か思いついたのか才人の頬に触れると顔を寄せる。それは一瞬か、永遠か。才人にとってはどちらにも感じられた。

 

 

「お礼だよ、あたしのコスモス」

 

 

 マチルダはそう言うとシエスタをおぶって「また明日ね」と行ってしまった。突然の出来事だが妙にはっきり記憶に残り、才人は顔が鮮血のように赤くなっていた。

 

 

 

 才人のセカンドキスは甘く優しいものだった。




オチを考えるのに時間をかけすぎました。申し訳ないです。


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ゼロの使い魔~真心~第12話

今回から少し話変わります。原作とは違う流れで行きます。お待たせしてすいません。


 フリッグの舞踏会から数日、才人は一人芝生の上でデルフリンガーの素振りをしていた。今の時間授業に使い魔がいらないので才人はトレーニングをしていた。

「せいがでるねぇ相棒!体鍛えてもてたいのかい?」

 才人が鍛えたい理由は二つある。一つ目は自分自身のウルトラマンの力を制御する事、いつまでもデルフリンガーに頼る訳にもいかない。二つ目は純粋な戦闘力の強化。ベムラーには力負けし、ドロボンには手も足も出なかった。真正面からカラータイマーを奪われてしまった。これから先何とかなる可能性は限りなく低い。強くなる必要がある。

「今何回目だ?デルフ?」

「この次で30000回!」

「よし、きゅうけ~い…」

 才人はばたりと倒れ込む。流石に疲れたようだ。そこにシエスタがやって来る。

「才人さんお疲れ様!はい!賄いのシチューとパンです!」

 シエスタは才人を労いに来てくれたようだ。しかし少し恥ずかしそうに頬を赤らめている。才人は何かを察する。

「お酒の事は気にしてないから」

「ほんとに…ごめんなさい…」

 

 才人とシエスタは談笑しながら食事をしていた。ルイズに貰う餌より断然いいものを食べられるので最近はシエスタによく恵んでもらっていた。

「悪いね、シエスタ」

「いいえ!唯の余りものですから気にしないでください!」

 ここで一つ嘘がある。才人の分だけはシエスタが他の賄い食とは別に丹精込めて作った手作りである。そこまでする理由は秘めたる想いからか。

「才人さん腕疲れてるでしょう?はい、あ~ん!」

「いいって、うんいいよ大丈夫だよ!?」

 赤面する才人をかわいいと思いながらシエスタは思い出したかのようにああっ!と手を鳴らす。

「そうだっ!才人さんくらい強ければあの事件も!」

「事件?」

「最近町でメイジの通り魔事件が多いそうなんです。手口もバラバラで複数犯いるんじゃないかって言われてるんですけど、才人さんなら簡単にやっつけちゃいますね!」

「そんなっ、俺はそんなに強くないよ?」

「いいえ!メイジを倒せる才人さんなら簡単ですよ!最近では相手を蝋人形に変えてしまうっていうメイジもいるらしいですよ?」

 ここで才人は蝋人形に引っかかる。そういえば…そんな奴が昔地球に来たような…?

 

 

 そのころ王宮ではアンリエッタの直属部隊銃士隊が発足され任命式が執り行われていた。これは魔法衛士隊がベムラーによる攻撃で甚大な被害を受けた為、再編を行った際にアンリエッタが自身の身辺警護の為に作ったのだ。

「アニエス・シュヴァリエ・ド・ミランあなたを近衛隊長に任命します」

 杖を肩に置かれたシュヴァリエを拝命した女性、アニエスは通る声で言う。

「はっ!このアニエス、姫様に全てを捧げましょう!」

 しかし内心アンリエッタは不安と罪悪感で一杯だった。

(初任務がこれとは…彼女たちに苦行を強いる事になりますね…)

 現在、王宮内では混乱が続いている。ウルトラマンの存在、怪獣災害による不安感が大きい要因だ。更にこの混乱に乗じて王女の命を狙うものまで現れている。アンリエッタには身を守る物が必要だった。それが銃士隊である。しかし今起きている問題は簡単には解決できないものだった。

 

 

 次の虚無の曜日の朝、ルイズの部屋のドアに一通の手紙が挟んであった。見つけたのは才人だが字が読めないので起きたルイズに読んでもらう。

「ふ~ん…」

 読み終えたルイズは呆れた表情で手紙を才人に投げ捨てる。

「これ、あんたあてよ?しかもギーシュから」

 ギーシュ?誰だっけ?と才人は見当がつかない。ルイズが可哀そうに…と呟き才人に教える。

「あんたと決闘した相手よ、不意打ちしたら首飛びそうになった奴」

「ああ!あいつか!」

 あの時は痛みで朦朧としていたとはいえ、すまない事をしたなと才人はようやく思い出した。

「決闘じゃないけど…呼び出しみたいね…一時間前に」

「…マジで…?」

「あたしじゃないと字読めないのに…知らなかったみたいね…」

「…一応、行ってみる…」

 才人の足取りは重かった。呼び出されたのは学園の裏手の木の下、人目に付きにくい所である。仕返しをされないか少し心配になりながらドアを開けた時、

「やあ」

 目の前にギーシュがいた。

「「わぁぁぁ!」」

「来ないからこっちから来たよ!」

 

 

 

 

 ギーシュの話によると、才人の力を借りたいという事だった。何と頭を下げ床にこすりつけんばかりだ。

「君に不意打ちをしたことはとても恥じている、すまなかった。それと…それが原因で完全にモンモランシーに愛想をつかされてしまって…」

「で、何かしらの手柄を立ててよりを戻したいと?」

「都合よすぎない?」

 ルイズと才人に見下ろされながら頭を下げたギーシュは懇願する。

「お願いだ!もう他に頼れる人はいないんだよ!それに、これは才人!君の実力を見込んでのことだ!」

 才人は分かったよ…と渋々了承する。

「頼むよ!相手は今町を騒がせている通り魔だ、君なら大丈夫さ!何せこの僕を倒したんだからね!」

 不安が膨らむサイトであった。

 

 

 数時間後、才人とギーシュはトリステインの町を散策していた。町はベムラーの被害から立ち直りかけていたところでの通り魔騒ぎで活気はあまりなかった。

「この雰囲気を僕らで払拭してやろうじゃないか!なぁ!才人!」

「はいはい…元気なこって…」

 この時才人は今回の手口がかつて地球でも起きた事件と酷似している事に不安を覚えていた。この世界に似たような魔法があるのかそれとも…と考えていると女性の叫び声が聞こえた!

「きゃぁぁぁぁ~!」

「っ!こっちだ!」

 ギーシュが言うが、それを聞かずに才人は駆けだしていた。急いで走っているが間に合わないのではないかと焦燥感に駆られる。だからだろう、周りを見れていなかった。近くの横道から出てきた女性に気付かなかったのだ。

 

ドン!

 

「うわぁ!」

「うっ!」

 

 女性は兵隊なのか全身に鎧を着こんでいたのだろう、ぶつかった才人の方が激しく吹き飛ばされる。それに対して女性は多少よろめいた程度だ。

「副長!大丈夫ですか!」

 同じような服装をした女性が気にかけている。遅れてきたギーシュは何が起きたのかわからずほけっている。才人がぶつかった青い髪をした凛々しい女性が怒鳴りつけてくる。

「何をしている!素人が首を突っ込むんじゃない!」

 恐らく才人の背中のデルフリンガーを見て大体の事を察したのだろう。才人はすいません…としか言えなかった。

「急げ!」

 女性たちは悲鳴の方角へ走って行ってしまった。嵐のような出来事に男二人はボーッとしていたがギーシュが我に返る。

「美しい女性だったなぁ…じゃなくて!才人立て!このままでは手柄を逃すぞ!」

 そう言って走って行ってしまった。しかしここで才人は地球での事件の詳細を思い出したのだ。

「美しい女性…そうか思い出した!…ちょっと待て…本当にそうだとしたら…やべぇ!」

 才人はデルフリンガーを握りガンダールヴの力を発動させ全力で走り出す。

「どうした?相棒。必死じゃねぇか」

「必死にもなるぜ!相手はもしかすると…っ!」

 なぜ今の今まで思い出せなかったんだろうと悔しさが溢れる。才人はその事件の事を図書館にある昔の新聞でしか見たことが無かったが、その恐ろしさは鮮明に覚えている。この世界には色々な侵入者がいる事はウルトラの父が言っていたことだ。しかしここまで凶悪な存在がいるとは思っていなかった。

「おりゃあああ!」

 家一軒を気合のジャンプで飛び越える。才人はなりふり構っていられなかった。

 

 

 ギーシュは全力で女性の後を追っていたが途中でスタミナ負けしてしまいワルキューレの背中に負ぶってもらいながら追いかけていた。ようやく広い所に出ると三人の女性がにらみ合っていた。二人は先ほど才人とぶつかった女性、もう一人は白い服を着た不気味な雰囲気の女性だった。

「…キヒヒっ!」

 不気味に笑った女の髪飾りの花から突如怪光線が放たれる。青髪の女性は華麗に飛び上がり逃れるがもう一人の女性には直撃してしまう。

「なっなにこれ…いやっ、そんな!…う…そ…」

 何と女性は体が完全に蝋となりその場に崩れてしまった。あまりの光景に青髪の女性はその場に立ち尽くしてしまう。このまま隙だらけの姿をさらせば次に狙われるのは道理。ギーシュは助けようとワルキューレを走らせるがすでに放たれた光線が青髪の女性に直撃する。

 

 

寸前、才人が飛び込みデルフリンガーの鞘を身代わりにと投げつけ、盾にする。蝋になった鞘が砕け散る前に青髪の女性を抱えて飛びのきギーシュ同様影に隠れる。

「何て恐ろしい奴なんだ…想像以上だよ…」

「やっぱり…」

「才人、あいつを知っているのかい?」

「あぁ…思い出したくなかったぜ…あんな奴…」

 その時第三者の声がする。先ほど助けた女性だ。酷くショックを受けていたようだが早くも立ち直ったようだ。

「奴は何者だ?あんな力どんなに高名なメイジでもありえない!」

 

 

 才人は言うか迷ったが言わざるを得なかった。

 

 

 

 

 

「奴はアトラー星人、かつて俺の故郷で大勢の人間を殺したやつさっ!」

 




中々時間が取れず更新が遅くなる事があります。ご了解ください。


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ゼロの使い魔~真心~第13話

続きです。お待たせいたしました。楽しんで読んでもらえればうれしいです。


 アトラー星人、かつてウルトラセブン、ウルトラマンレオが地球に滞在していた時代に地球に二度襲来したことのある宇宙人。(別名 宇宙の蝋人形師と呼ばれる)一般人、防衛隊、双方に甚大な被害を出した宇宙人だ。

「うちゅーじん?」

 ギーシュは聞きなれない単語に疑問符を浮かべるが、青髪の女性は気にせずに才人に問いかける。

「どうでもいいが奴の目的は何なんだ!無意味に人殺しをしているのか!?」

 才人もそこまではわからず考え込む。侵略なのか?ただ殺すだけでは根本的な侵略にはならないはずだ。しかしあまり考える時間はない。今は瓦礫に隠れているがいつ見つかるか…

「ゲームだよ?」

「えっ?」

 誰かが言うが、三人とも喋っていない。

「ゲーム」

 三人は上を見上げる。そこには…

 

 

「キヒヒッ、ミーツケタッ♪」

 

 

「「「ギャァァァーーー!」」」

 才人は青髪の女性を抱えたまま、ギーシュはワルキューレにおんぶされたまま全速力で走り出す。狭い路地の中後ろから飛んでくる光線を右に、左にと壁ギリギリに跳躍しながら避けていく。

「ギーシュ!後ろはダメだ!前にしろ!光線に当たるぞ!」

 才人に怒鳴られ気付いたのかギーシュは慌ててワルキューレの前面に回りお姫様抱っこの体制になる。

「全く、皆して「何が君なら大丈夫」だ!超やばい奴だったじゃねぇか!」

 そんな時光線が一発当たりそうになる。才人は盾になる物をとっさに思いつかず、抱えている青髪の女性の胸当てを引きちぎり光線に向けて投げつけ盾にする。

「きっ貴様~~!何をするか~~!」

 顔を赤くしている青髪の女性に怒鳴られるが才人は謝るしかない。

「ごめんなさい!お叱りは生き残った時に!」

 才人はとんでもない奴に手を出そうとしていたギーシュに恨み言を言いたい気持ちだったがそんな余裕が無い。変身しようにも女性を抱えたままでは…

「おいギーシュ!ワルキューレもう一つ作れ!」

「え!?」

「早く!」

 才人の指示に一瞬固まるが催促に合わせて一体ワルキューレを作る。

「よっ」

 才人は青髪の女性をワルキューレに持たせアトラー星人に向き直る。

「早くいけ!振り返るな!」

 ギーシュは振り返ろうとしたが青髪の女性を抱えてる事もあり、才人を信じて走り出す。

「死なないでくれたまえよ!」

 才人は無言でうなずくとアトラー星人に切りかかる。振り下ろされたデルフリンガーを避けると才人目掛けアトラー星人の拳が飛んでくる。体を回転させ紙一重で避けると今度は回し蹴りを叩き込む。

「キヒヒ♪イタクナイ♪」

「なっ!?」

 今度はアトラー星人の張り手が才人の腹部を撃ち貫く。

「ぐぼぉっ…」

 才人は壁に叩きつけられてしまう。アトラー星人はレオと張り合えるほどの格闘センスを備えている。それには才人のガンダールヴもウルトラマンの力も及ばなかった。

「カーワイイ♪タベチャオウカナ?」

 アトラー星人が才人に馬乗りになり腹部に次々と拳をめり込ませる。才人の骨と肉がつぶれる音が響く。

(このままじゃ…やべぇ…)

「コッ…ス…モース…!」

 才人の体が淡く輝きコスモスに変わる。アトラー星人の拳を受け止めると掌底、ミドルキック、裏拳を連続で叩き込む。たまらずアトラー星人は吹き飛ばされる。

「キヒッ、イッターイ…アナタ、トクベツテン?コノウチュウニモ、イタンダ?」

「特別点?!何のことだ!」

 アトラー星人はゆっくり立ち上がりにたりと笑う。

「ゲーム、ダカラ」

 そう言うとアトラー星人が巨大化しその本来の姿を露わにする。町に突如現れた巨大な怪物にトリステインの市民たちはパニックを起こし逃げ惑う。そんな中青髪の女性とギーシュは青髪の女性の仲間と思わしき女性達と合流する。

「副長!ご無事ですか!?あの怪物は?!」

「私にもわからない。だが彼らの話によると別の星から来た奴らしい。とにかく、今の私

達にできるのは避難誘導だ!急げ!」

「「はっ!」」

 指示された女性たちはテキパキと行動を始める。ギーシュは事態が飲み込めずうろたえる。

「きっ君たちは何者なんだい?」

「私たちは銃士隊、アンリエッタ姫様直属部隊だ」

 その時コスモスもアトラー星人に合わせて巨大化する。それを見て青髪の女性はアトラー星人が巨大化した時よりも驚いていた。

「なっあれは?!」

 

 

 巨大化したアトラー星人は胸の花から次々と光線を放ち町や逃げ遅れた人々を蝋に変えていく。コスモスは避けながら反撃のチャンスを伺うが中々チャンスが無い。一瞬光線が止んだ時に踏み込んで懐に入り込む。

「セアァ!」

 拳を叩き込むが、簡単に受け止められる。

「デァッ!?」(なんてパワーだ!?)

 今度はアトラー星人に腕を掴まれたコスモスが地面に叩きつけられる。脱出しようと試みるがそのパワーに抵抗できず何度も家屋や街道、商店に叩きつけられる。そのまま空中で振り回され頭から地面に落とされる。

「デァァ…」(うぅ…)

「トクベツテン、モラッタ」

 アトラー星人は光線を乱射しながら進んでいく。それは避難誘導していた青髪の女性のところにまで及ぶ。

「急げ!早く逃げろ!」

 ギーシュも自ら避難誘導をかって出ていた。ワルキューレを使って盾にしているのだ。だが、その様子をアトラー星人に見られてしまう。

「こっ、こっちに来る?」

 アトラー星人はギーシュと青髪の女性の方へ歩いてくる。ギーシュは急いで走り出す。

「うわぁ!」

 しかし青髪の女性はその場から動かない。

「何をしているんだ君!早く逃げるぞ!」

「…終われない」

「え?」

「こんなところで終わるなんて…まだ…まだ…」

 よく見ると頭に怪我をしている。瓦礫がぶつかったのだろうか?意識が朦朧としていて動かない青髪の女性を必死に連れて行こうとするギーシュだが、アトラー星人は目前に迫っていた。光線が寸分たがわず二人に向けて放たれる。

 

 

 

「ダァ!」(やらせない!)

 

 

 コスモスは間に割って入り瓦礫で防ぐ。二人を手でかっさらうとそのまま跳躍し距離を取る。

(どうすれば…)

(相棒!分かったぜ!)

 コスモスの中にいるデルフリンガーが何かに気が付いたのかコスモスに語る。

(奴の光線は当たった物全部に吸収されてそれを蝋に変えている!何かを盾にしろ!)

 コスモスは二人を瓦礫の中に下ろして隠すと瓦礫を一握りする。そして一気に駆けだし、アトラー星人が光線を放つと同時に瓦礫を投げつけ、光線を防ぐ。

「デェァ!」(今だ!)

 コスモスはルナストライクを放つ!…が、アトラー星人が間髪入れずに連射した光線でルナストライクが蝋と化す。

(バカなッ!)

 コスモスの狼狽したスキを狙いアトラー星人の猛攻が襲う。顔面に幾度となく拳があたり瓦礫の中に沈められる。コスモスのカラータイマーは警告音を放ち始め、タイムリミットを伝える。

(このままじゃ…)

 コスモスは再び立ち上がろうとするが、力が入らない。その場に崩れ落ちる。朦朧とする視界の中、アトラー星人の勝利の笑みが見える。

 

 

 

 このままじゃまずい、やられてしまう。しかし自分には何も出来ない。…いや、待て。今の自分にはこの杖がある。これがあれば、全力を尽くせば変わるのではないか?と、「そいつ」は思った。

 

 

 コスモスに迫るアトラー星人、その足元。突然黒い水が広がっていく。アトラー星人は何が起きたのか分からないままその場で転倒、全身黒色になる。

(この匂い…油…と、石油!?何で…いや、チャンスだ!)

 コスモスは残りのエネルギーで最後のルナストライクを放つ。それは油と石油の混合物に着弾、引火し巨大な火柱と爆炎を作り出す。火中のアトラー星人は女性のすすり泣くような断末魔を上げ吹き飛ばされてしまった。

(やった…)

 そこでコスモスは意識を失い、その体は虚空に消えてしまう。そこには一人、本来の姿に戻った才人が残った。

 

 

 才人が目を覚ましたのは野戦テントの中だった。目を覚ますなりマチルダとルイズが抱き着いてくる。

「まっマチルダ!?ルイズ!?」

「良かった…目を覚まさないかと…」

 二人はその目に涙を溜めている。マチルダは涙を拭うと気を引き締める。

「何無茶してるんだい!死ななかったから良かったものの、危なかったんだよ!」

 事情を知るマチルダの心配は計り知れない。今回の事件を聞いて飛んで来たんだろう。よく見ると近くにいるギーシュの頭に二つたんこぶが出来ている。自分にゲンコツが落ちてこないのは才人の怪我への気遣いか。

「全くこのバカ犬!無駄な心配かけて!」

 ルイズは小さく「無事で良かった…」と呟く。

「皆…ありがとう…」

 そんな再会を喜んでいると包帯を頭に巻いたあの青髪の女性が入ってくる。

「そろそろよろしいですか?」

「あっ!」

 才人は彼女の鎧の胸当てを引きちったのだ。その事を思い出して怒られると思うが青髪の女性は冷静に自己紹介する。

「私は銃士隊副隊長ミシェル、先ほどはご協力ありがとうございました。今私の命があるのはあなた達のおかげです」

 ミシェルは才人の耳に口を寄せる。

「あのことは内密に」

 才人は絶対に漏らさないと約束する。するとそこへ新たに金髪の女性が入ってくる。

「遅めの挨拶はすんだか?ミシェル」

「はい」

 では次は私が、と咳払いをする。

「私は銃士隊隊長アニエス。副長を救っていただきありがとうございます。ご協力ありがとうございました」

 才人はこんなにも連続でお礼を言われた事が無く「まぁ…どうも…」くらいしか答えられない。その後二人はまだ救援活動があるからと行ってしまった。マチルダは見届けるとルイズ、才人、ギーシュに向き直る。

「さっ、早く帰るよ!明日も授業だ!」

 才人はギーシュに肩を借りて歩き出す。帰り道、目に入るのは蝋に変えられた町の様子。コスモスが叩きつけられ崩れた家々。それを見て心が痛む。

(俺がもっと強ければ…それにしても…)

 才人が気になったのはアトラー星人の足元が変わった事。あれは恐らく『錬金』の魔法だ。しかし誰が?

(ギーシュ…だったら自慢してるだろうし…)

 考えても答えは出ない。しかし一つだけ確かな事がある。

 

 

 

(強く…ならなきゃ…!)

 

 

 

 




次回に続きます。ミシェルはアニメオリジナルで登場少ないのですがお気に入りです。アルビオンの話はもう少し後になります。お待ちい下さい。


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ゼロの使い魔~真心~第14話

続きです。今回もレオの宇宙人です。


 暗く閉ざされた空間。そこに彼らはいた。

「おい!アトラー星人がやられたぞ!」

「この世界にウルトラマンはいないんじゃないのか!」

 こんな抗議の声が聞こえるが、後ろで座っている影が制する。

「まぁ待て、あのウルトラマン、そこまで強くないじゃないか。特別点としてはねらい目なんじゃないか?それに…このゲームに参加してるくせに自信が無いのか?」

 その言葉に彼らは激昂する。

「バカな!宇宙最強の我々を愚弄するか!次は私が行く!」

 影はほくそ笑む。

「一週間で8000人特別点は2000」

「いいだろう!我々ゲーム参加者は強者ばかりと聞く!それくらい余裕だ!」

「いい意気込みだ…では、ゲームスタート!」

 

 

 

 才人はその日もトレーニングに精を出していた。アトラー星人に手も足も出なかった事、何者かの手助けが無ければ負けていた事が才人を精神的に追い詰めていた。

「おい相棒、もう素振り止めたらどうだい?俺っち酔って来たぜ」

「まだ、もっと…もっと…」

 もう50000回を過ぎてるのに…とデルフリンガーが考えていると「ダ~リ~ン!」とキュルケが走ってくる。

「今日も頑張ってるわねぇ~!休憩にお茶でもどうかしら~!」

 と言いながら、才人にタックルをかまして押し倒す。カエルがつぶれた時のような声が聞こえるがキュルケは気にしない。

「ダ~リ~ン、何を焦っているのか知らないけど、無理は禁物よ?このままじゃ体壊すわよ」

「キュルケ…」

 才人はキュルケの突然の神妙な顔に冷静さを取り戻す。そして疲労がどっと押し寄せてくる。

「休むか…」

 それを聞いたキュルケの目が豹のように鋭くなる。一瞬で関節を決めて押さえつける。疲れている為か才人は抜ける事が出来ない。

「さ~あ!ダ~リ~ン!私の部屋で!お茶しましょ!できればベットの上なんてどう!さあ!さあ!さあ!」

「ちょっ痛い!痛い!痛い!てかベッド!?待って待って待って!」

 才人は少し身の危険を感じるがそこで助けが入る。

「こら~!キュルケ~!」

 ルイズが鬼の形相で走ってくる。キュルケは軽く舌打ちをすると才人を開放する。

「人の使い魔に何してんのよ!アンタもアンタよ!デレデレしちゃってぇ~!」

 才人がキュルケのメロンににやけていたのは否定できない。が、キュルケが言い返す。

「な~に?無い物ねだり?それにしても…そんなにムキになるなんてよっぽどダーリンの事が好きなのねぇ~?」

 その言葉でルイズは真っ赤になる。

「なっ!?誰が使い魔に!そりゃぁ…なんだかんだ一緒にいると楽しいし?けっこう頼りになるけど…」

 ごにょごにょと話すルイズにキュルケは少し呆れる。

(ルイズの奴…ガチじゃん…素直になればいいのに…)

 そんなこんなで騒いでいるとマチルダが走ってくる。何か焦っているのか全力疾走だ。

「はぁ、はぁ、ああいた!ミス・ヴァリエール!ミス・ツェルプストー!急いで学院長室に!」

 

 

 学院長で二人が話している間マチルダと才人は部屋の前で待っていた。

「なぁマチルダ?二人に何があったんだ?」

「二人というよりは、二人の実家だね」

「実家?」

 どうやら二人の実家のある土地で連続通り魔事件が多発しているらしい。

「通り魔って…」

「そっ、こないだのと同じようなことがね、起きてるんだと。手口は刃物らしいけど…最初はツェルプルトー領、次はヴァリエール領でね」

「手口が刃物…」

 考え込む才人にマチルダが口を寄せる。思わずドキリとするがマチルダはいたって真面目だ。

「また、あんなやつなのかい?」

「いや、手口だけじゃ予想がつかない。けど…もしかするとアトラー星人と同じ一派かもしれない。あいつゲームだって言ってたから、他にいてもおかしくない」

「ゲーム…まさか、あの殺戮がゲーム?」

 だとしたらいかれてやがる。とマチルダは呟く。

「ああ、それから」

「えっ?」

「例の奴だけど…」

 才人はメイジであるマチルダにアトラー星人戦の『錬金』について調べてもらったのだ。

「あんなのが出来るのは最低限トライアングルクラスのメイジだ。だがあの場に私はいなかった…魔法衛士隊にもあんな事が出来る奴がいるなんて聞いたことも無い。お手上げだよ」

「そっか…ありがとう、マチルダ」

「仲良さそうねぇお二人とも」

 才人とマチルダが振り向くとルイズがイライラした様子で鞭を持っている。しかしマチルダは動じず切り換えす。

「お話は終わりましたか?ミス・ヴァリエール?」

「ちっ…行くわよ!バカ犬!」

「わっこら引っ張んな!」

 マチルダが才人が連れていかれるのを見届けるとキュルケが出てくる。

「お疲れ様です。ミス・ツェルプルトー」

「ありがとっ…私たちに暫く帰ってこないで欲しいですって。危ないから」

「そうですか」

 キュルケも行ってしまった後マチルダは考え込む。

(今回の通り魔、時間と場所を計算すると確実に領地を移動している。進行方向は確実にトリステイン…)

 

 

 

「また厄介な事にならなければいいけど」

 

 

 

 数日後、全校生徒が集められ緊急集会が行われていた。

「諸君、先の怪物騒ぎでトリステインの町は甚大な被害が出ている。そこで我々魔法学院からボランティアとして復興の援助に行くことが決定した。今日から三日間授業を臨時休校とし、町での復興作業に従事する!」

 マチルダからも説明が入る。

「宿泊施設などは…」

 その様子を才人はルイズの横で聞いていた。周りの生徒は嫌な顔をしているが才人は賛成だった。

(俺がもっと強かったら、守れた街だもんなぁ…)

 ルイズも少し嫌な顔をしているが仕方ない、という様子だった。

 

 

 町に着くとその凄惨な状況が目に入る。瓦礫の撤去が始まるとその下から行方不明者の死体が見つかったり蝋になった人間が見つかったりと地獄の様相だった。才人はサボるキュルケや取り巻きの男どもをしり目にひたすら作業に集中した。そこで最近見知った顔に出会う。

「お前は…確か、ヒラガ、サイト?」

「っ!ミシェル副隊長!アニエス隊長!」

 復興作業に従事している銃士隊の二人だった。アニエスは口元を緩め照れ臭そうにする。

「隊でない者に隊長と呼ばれるのはなんだか照れ臭いな…」

 それを聞いてミシェルが釘を刺す。

「そう恥ずかしがらないでください、これからもいろいろな人に呼ばれるのですから」

「分かっているさ」

 アニエスは顔を引き締めると改めて敬礼する。

「「ご協力感謝いたします」」

 二人はまた歩いて別の場所にいる学院生に挨拶に行く。才人は立派な大人達だなと思った。命を懸けてアトラー星人を追い、避難誘導をして民間人を守る。出来る限りを尽くして戦っている。才人の目にはただただかっこよく映った。

 

 

 アニエスとミシェルは二人で挨拶回りをした後、銃士隊全員に指示を出して回っていた。

「初任務からのこれとは、なかなかやりごたえがありますね隊長」

「ああ、姫殿下がお戻りになるまである程度はめどを立てたいな」

 今アンリエッタはゲルマニアに復興の援助を依頼するために訪問中だった。その間の国政はマザリーニ卿が取り仕切っている。

「もうこんな事件が起きない事を願うよ」

 アニエスが言った時…女性の叫び声が聞こえる。

「「そうはいかないか(ですね)」」

 二人は声の方へ走り出した。

 

 

 二人が到着すると首を飛ばされた銃士隊隊員が倒れている。その中心には大きな複眼を持ち両手が刃物になっている怪人がいた。

「貴様!何者だ!」

「キェーー!」

 怪人は答えず襲い掛かってくる。アニエス、ミシェルはとっさに剣で受け止めるが段々と押し負ける。

「私たち二人がかりで押し負けるなんて、何て力だ!」

 少しずつ刃物が二人に迫る、その時…

「おりゃぁぁーー!」

 叫びを聞いた才人が飛び込んで怪人を突き飛ばす。顔面に蹴りを入れその場で一回転し着地する。

「大丈夫ですか!」

「君は!」

 三人は剣を怪人に構える。ミシェルは才人に怪人の正体を問いかける。

「奴は分かるか!ヒラガ!」

「ああ!知ってる!…こんな奴まで…」

 才人はその正体に震えあがる。

「奴は奇怪宇宙人ツルク星人…ウルトラマンを倒した事のある奴だ…」

 アニエスは驚きを隠せない。この小さな奴が?…と。しかしミシェルは納得する。

「奴も大きくなれるのか?」

「あ…!」

 才人が返事をする前にツルク星人が切りかかってくる。その早い斬撃に三人は防戦一方になる。才人の首を狙ったと思えば、次はミシェルの心臓を、アニエスの脳天を狙ってくる。

「でりゃぁぁ!」

 アニエスの一撃が右の剣を弾くが、すぐさま左の剣に狙われる。それをミシェルが弾くがツルク星人は高く飛び上がり距離を取る。

「くそっ!強い!」

「隊長!このままでは!」

 その時ミシェルの首を狙った一撃を才人が受け止める。しかし蹴りをくらい吹き飛ばされてしまう。

「うわぁ!」

 今度は才人に凶刃が向けられる。才人が「殺られる」そう思った時…

 

 

「はぁ!」

 

 『ブレイド』を構えたマチルダが割って入る。意外な人物の登場に驚く三人をよそにマチルダはブレイドを突き出す。しかしそれを右の剣で受け止めたツルク星人は左の剣で突きを出す。

「ふっ!」

 殺られる。三人がそう思った時、マチルダは刀身に手を添え流れるように受け流し、腹部に蹴りを入れる。その拍子にツルク星人はバランスを崩す。

「っ!今だ!相棒!」

 デルフリンガーの叫びに寸分たがわず答えた才人はツルク星人の懐に潜り込み一気にデルフリンガーを胸に突き刺す。

「キェェァァー!?」

 ツルク星人はそのダメージに苦しみ、慌てて逃げ出す。ミシェルとアニエスは後を追おうとするが、疲れた体は言うことを聞かない。

「ありがとうマチルダ」

「才人は無茶するねぇ…無事でよかった」

 マチルダはアニエス、ミシェルにはばからず才人を抱きしめる。その柔らかい二つに才人はにやけるが、そんなことよりと気を持ち直す。

「マチルダ、さっきの技は…?」

「あぁ、あれかい?私の家に伝わる古武術みたいなもんさ」

 アニエスが立ち上がり駆け寄ってくる。

「ありがとうございます。ミス・ロングビル、あそこまでお強いとは…」

「いやいや!護身程度さ!」

 元フーケだとばらすわけにもいかず、マチルダは適当にはぐらかす。すると今度はミシェルが来る。

「あの、マチルダというのは…?」

「そう言えばあの怪人は!?」

 マチルダは話題を変える。才人はその問いに困る。

「どうだろう?また来るかもしれない…あれが通り魔なら、今回もゲームかも…」

 黙り込む四人。その時才人はマチルダに向き合う。

「マチルダ!お願いがある!」

「え?」

 

 

 

「俺を鍛えてくれ!」

 

 

 




次回に続きます。アニエス、ミシェルのキャラが崩壊していると思いますが私の力不足です。申し訳ないです。


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ゼロの使い魔~真心~第15話

続きです。一回書いた15話がパソコンの誤作動で消えました。((((;゚Д゚))))
お待たせしてすみません。


 ツルク星人は傷を抑えながら暗い空間に帰還する。奥に座っている影はそれを見て嘲笑する。

「ふん!…奇怪宇宙人とまで言われた天下のツルク星人がまさか原住民程度に負けるとはなぁ…?」

 ツルク星人は怒りに震えて言い返す。

「ふざけるな!私の実力はこんな物ではない!それに…」

 この後の一言が場を騒然とさせる。

「俺を刺した男がウルトラマンだ!」

 影は衝撃の一言に立ち上がる。

「何だと!あのガキが!?」

「間違いねぇ…近づかれた時、光の力を感じた!」

「…そうか」

 影は少し考え込むと立ち上がる。

「お前の残り3000人、ウルトラマン一人で相殺する。正体を掴めたのなら早々に始末するに越した事はない、行け!ツルク星人!」

 

 

 ツルク星人襲撃事件後、学院生は宿泊先の宿に到着した。襲撃事件は学院生の混乱を招くため、教師陣にのみ伝えられた。しかし、急に復興救援を中止にする訳にもいかず、護衛に銃士隊をつける中での続行が決まった。キュルケ達は早々に自分の部屋に戻る。学院生の中には友人の部屋を訪れ談笑する者など、不謹慎にも旅行気分である。そんな中、才人はルイズにことわり裏庭でマチルダと特訓していた。

「うわぁ!」

 才人はマチルダに投げ飛ばされる。これが何回も続いている。しかし才人は何度も立ち上がり、また投げ飛ばされる。

「ぐわぁ!」

「肩に力が入りすぎだよ!流れる水を意識しな!」

 マチルダは厳しく顔を引き締め稽古をつける。しかし実はにやけるのを我慢するためだった。内心才人の力になれるのがとても嬉しいのだ。

「お願いします!」

「行くよ!」

 特訓はまだまだ続く。

 

 

 

 ミシェルとアニエスは宿の一室で打倒ツルク星人の作戦会議をしていた。が、妙案が浮かばず悩みこんでいた。

「こんな時に魔法衛士隊がいれば戦力的に何とかなるのに…」

 ミシェルが呟く。アニエスが即答する。

「無い物ねだりをするな。それに…」

 アニエスの言葉にミシェルが重ねる。

「「頼れるのは己の剣のみ」」

 ですね、というミシェルにアニエスは呆れる。分かってるくせに言うな、という顔をしている。今回、アンリエッタのゲルマニア訪問に近衛隊である銃士隊が何故ついて行っていないのか。銃士隊を信用せず魔法衛士隊びいきの老中達のせいもあるが…

「あいつらに復興活動は出来んからなっ!」

 細かい仕事が出来ないのだ、あいつらは。とアニエスは少し小バカにする。気を取り直してミシェルに質問する。

「なあ、ミシェル。あのヒラガサイトという少年、あの怪人の正体を知っていたよな?何かしらの弱点を知ってるんじゃないか?」

「いえ、彼も過去の文献で知る程度で詳しくは…」

「…そうか」

 話は振り出しに戻ってしまった。暫くして、アニエスは長く座っていた為か体が固まってしまったのだろう。立ち上がり、う~んと伸びをする。

「ミシェル、剣の稽古だ、付き合え!」

「はい!」

 二人は気分転換に裏庭で剣の稽古をする事にした。

 

 

 

「はぁ!はぁ!はぁ!」

 才人が特訓を初めて二時間になる。復興作業からのツルク星人戦、二時間に及ぶ特訓で才人は体力を使い果たしていた。しかし、まだ続けようと立ち上がろうとする。そのまま崩れ落ちてしまった。

「休憩だよ、才人」

「まっ…まだ…出来る…」

 才人はマチルダに支えられ抱きかかえられる。

「休憩も特訓の内さ」

 そう言われマチルダに自然に膝枕される。才人は頭をマチルダに撫でられ赤くなり、気恥ずかしくなったのか起き上がるとマチルダの横に座る。

「そうだ才人。あの歌聞かせてくれないかい?」

「あの歌?」

「品評会の歌さ」

 才人はそう言えば、マチルダは聞いた事が無かったなと思い出す。特訓のお礼の意味も含めて歌う事にした。

「伴奏は無いけどごめんね」

 才人は息を整えると、伴奏が無い分心を込めて歌い出す。

『記憶の……消え……』『思い出して……か』

 それを聞いていたのはマチルダの他にもう二人。アニエスとミシェルだ。

「初めて聞く歌だな」

「ええ…」

 二人は初めて聞く歌に聞き入る。するとアニエスの目じりから涙が零れてくる。それを見たミシェルは驚き駆け寄る。

「どうしたのです、隊長!」

「お前こそ」

 言われてミシェルも自身が涙を流している事に気が付く。その手で拭うがあふれ出して止まらない。ミシェルは静かに呟く。

「故郷を思い出しますね…」

「故郷?トリステインじゃないのか?」

「ええ、トリステインも故郷といえば故郷ですが、私の本当の意味での故郷は…もう帰れないんです…」

 ミシェルは遠い目をするが、アニエスが肩を抱く。

「私もさ」

「え?」

「私も帰る故郷が無いんだ。同じだな…涙の理由も」

 ミシェルははっとすると涙を拭きこの話はやめましょう、と提案する。しかし、当のアニエスは何か気が付いた様子だ。

「思い出して…ヒラガサイト…そうか!」

「どうしたんですか隊長!」

「ヒラガサイトの歌の歌詞だ!思い出したんだ奴に初めてダメージを与えた時の事を!」

 言われてミシェルも思い出す。初めてツルク星人にダメージを与えたのは才人だ、自分達が両手の剣を押さえつけている時に。

「三段階なら…!有効打を与えられる!」

「そうだ!セニカを呼べ!我々も特訓だ!」

 セニカは銃士隊ではアニエス、ミシェルに次ぐ実力ナンバー3である。警備の交代の合間に睡眠をとっていたセニカは、アニエスに叩き起こされ特訓の為に裏庭に引きずられて来たのだった。この時のアニエスの様子を後にセニカはこう語る。

 

 

アニエス隊長に夜這いされるかと思った、と。

 

 

 翌日、銃士隊の隠密な護衛の下、学院生達の復興作業が始められた。しかし、それを知る由もない学院生達は無気力な態度で従事している。キュルケは汗を流しながら不平を言う。

「何でこんな汗まみれにならないといけないのよ…」

「大切な支援活動」

「ハイハイッ…後、おねが~い」

「押し付けないで欲しい」

 タバサの不平もそこそこにキュルケは教師陣の目を盗んでサボり始める。それに呼応するように男子生徒何人かが付いていく。キュルケは日陰の下に腰掛けると取り巻きの男どもに扇がせ、肩を揉ませる。しかし、その心は満たされない。一番欲しい男が手に入っていないからだ。

(はぁ~あ…ダーリンともっと一緒にいたいなぁ~…)

 キュルケの胸に伸びるギムリの手を叩き落とす。

(ダーリンは他が目に入らないくらいの勢いで作業に集中してるし…最近はミス・ロングビルも怪しいのよね…)

 キュルケがライバルに先を越されないようにどうすればいいか考えていると、突然肩に何かが落ちたような軽い衝撃が走る。そこには確かペリッソンが肩を揉んでいるはずだ。

「ちょっと何してるの…」

 そこにはペリッソンはいた。しかし、いると言っていいのだろうか?首から上が無かった。血液が流れだし、その首元から少しずつ赤く染めていく。キュルケは肩に落ちた物を恐る恐る見る。

 

 

 ペリッソンの首だった。再び振り返るとそこには血塗られた剣を舐めているツルク星人がいた。

 

 

「「「ギャァァァーーー!」」」

 

 

 

 複数の叫び声に一番に反応したのはコルベールだ。すぐに学院生が全員いるか確認する。アニエスは驚愕を隠せない。

「バカな!この警備網をすり抜けたのか!」

 コルベールはそんな事より、とアニエスに詰め寄る。

「とにかく今は全員の安否を!」

 確認作業が即座に行われるが重大な事実が明らかになる。

「ミス・ツェルプストーがいません!」

「男子生徒も数人見つかりません!」

 大騒ぎしている中ふと、ルイズが呟く。

 

「……サイト?」

 

 

 キュルケ達はひたすら走っていた。止まるわけにはいかない、少し前につまずいたスティックスがツルク星人に首を飛ばされている。それより前に杖を構えたマニカンは杖ごと縦に切り裂かれ、真っ二つになった。全てキュルケは目で追えなかった。本能的に理解した。勝てない、殺される。

「はぁ…はぁ…あっ!」

 ここでキュルケはバランスを崩し転倒する。他の男に助けを求めようとするが、誰もキュルケに目もくれず逃げ出してしまった。

(嫌!死にたくない!死にたくない!死にたくない!)

 キュルケは恐怖から後ろを振り向く事さえ出来ない。振りかぶる音が聞こえる。死んだ、キュルケは確信した。しかし、いつまでたっても意識がある。

(あ…れ…?)

 冷静になってくると不思議な感覚がする。まるで抱きかかえられているような…

「生きてる…?」

 キュルケはいつの間にかツルク星人を遠くから眺める距離にいた。暖かく包み込む感覚が全身を包んでいる。

「ダーリン…?」

「もう大丈夫…助けに来たよ」

 才人はキュルケを物影に下ろすとツルク星人の前に立ちふさがる。ツルク星人はにたりと顔を歪める。

「まんまと来たな、トクベツテンはモラッタぁ!」

 ツルク星人が激昂する、が才人に対して落ち着けよ、とデルフリンガーが言う。

「銃士隊の作戦なら奴を倒せる!それまでもたせるんだ!相棒!」

 才人は落ち着いて呟く。

「もう来てるよ」

 才人の視界にはツルク星人の後ろから駆け寄るアニエス達が見えていた。

「行くぞ!ミシェル!セニカ!」

 アニエス達はアニエス、ミシェル、セニカの順番に並びを変える。

「「「突撃!」」」

 三人は全速力でツルク星人に飛び込んでいく。ツルク星人は急な事に驚いてはいるが迎え撃つために剣を振る。

「はあっ!」

 一太刀目をセニカが全力で弾き、横に転がる。

「せいっ!」

 二太刀目をミシェルが押し返し、後ろへすり抜ける。

「とどめぇ!」

 がら空きになったところにアニエスが全力の突きを顔面に叩き込み、そのままの勢いでツルク星人を蹴り飛ばす。

「やったか…?」

 固唾を持って見守る才人がポツリと呟く。蹴とばされて倒れ込んでいるツルク星人は、数回痙攣した後完全に息を引き取る。

「やった、やったぞ~!」

 ツルク星人を倒した事に銃士隊の面々は抱き合って喜ぶ。当面の危機は去った、そう思い安堵する才人だが…

「兄者~!」

「え?」

 声の方に全員が振り向くとそこには今しがた倒したはずのツルク星人が立っている。

 

 

「よくも兄者を!許さんぞ~!」

 

 

 倒されたツルク星人を兄者と呼ぶツルク星人は巨大化し才人達目掛け攻撃を始めた。

 

 

 




次回に続きます。少々お待ちください。


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ゼロの使い魔~真心~第16話

続きです。最近仕事の都合で書くペースが遅くなっています。気長にお待ちいただけると幸いです。



 才人は再びキュルケを抱えると迫る巨大化したツルク星人の凶刃から必死に逃れていた。蝋化しひしゃげていた家屋の中に滑り込みツルク星人の目から一時期的に逃れる。

「足音は…よし、遠ざかってる、大丈夫か?…キュルケ?」

 才人が振り返ると、キュルケはいつもの元気が無く静かに震えていた。しかし次の瞬間才人に全力で抱き着いてくる。

「きゅっ?!キュルケ?!」

 才人は狼狽するが、すぐに気が付いた。ひたすらにキュルケが呟いている。

「怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い…」

 よほどの恐怖だったのだろう。一時的に逃れた今でさえ恐怖に支配されているようだ。

「キュルケ!キュルケ!」

 才人はひたすらキュルケに呼び掛ける。キュルケは少しずつ正気に戻り目の前の才人に気が付く。

「さい…と?才人!、才人!才人!…うわぁぁぁ…」

 泣き崩れ才人の胸に顔をうずめるキュルケ。才人は泣き崩れるキュルケに、いつもの妖艶な雰囲気とは違う年相応の少女の姿を見た。

(こんなに震えて…ほっとけねぇな…)

 才人は小さな隙間からツルク星人の姿が遠くにあるのを確認すると、キュルケを抱えて家から飛び出し走っていく。本来学院生が復興作業をしていた場所にまで戻るがそこにはすでに誰もいない。避難した後だろう。しかし…

「「ヒラガ!(サイト!)」」

 二人の女性が走ってくる。ミシェルとルイズだ。ミシェルはツルク星人巨大化後はぐれていたが無事だったようだ。

「無事だったか二人と…」

「バカ!バカ犬!」

 突然ルイズの罵倒が飛んでくる。才人は訳も分からず狼狽する。

「突然いなくなって心配させないでよ!急にあんな化け物が出てくるし!」

 ルイズは心配していたのだ。突然いなくなってしまった才人に。その目じりには涙が溜まっている。

「ルイズ…ごめん…」

「もう何回目よ…私に心配ばかりさせて…!私の気持ち考えた事ある…?」

 才人はルイズが震えている事に気が付く。

「あんたを無理やり呼び出したのは私…なのにあんたは恨みごとも言わず毎日私の使い魔やって、笑顔が絶えなくて…一緒にいると、楽しくて…でも、無茶ばっかりして」

 ルイズには罪悪感があったのだろう。日々言葉にしなかった感情が今爆発しているのだ。ルイズはその場に崩れそうになるが、横にいたミシェルが肩を支える。

「ミス・ツェルプストーとミス・ヴァリエールは私に任せろ、ヒラガ、セニカを探してくれないか?」

「えっ?」

「まだ合流していないんだ、頼む…」

「…わかった」

 それを聞いてルイズは叫ぶ。

「ちょっとサイト!?」

 大丈夫、と才人はルイズに向き直る。

「必ず、戻るから、俺を信じろ!」

 才人はそう言うと全力で町の方へ走っていく。才人は走りながらマチルダの話を思い出していた。

(二つの領地での通り魔事件、ツルク星人が二人いたからなのか…それとも、まだ他に?)

 考えた所で誰にも見られない建物の影に来る。セニカを探したいのは山々だが、根本の元凶を絶たねばならない。

「行くぞ!デルフ!」

「おうよ!相棒!」

 才人はデルフリンガーを引き抜き頭上に掲げる。

「コスモーーーース!」

 蝋化した町に巨大な光の柱が立ち上る。

 

 

 

「見つけたぞっ!兄者のカタキィ!」

 ツルク星人は逃げるセニカを見つけ狙いを定めていた。刃を地面に突き刺しながら執拗に追ってくる。

「はぁはぁ…こんなの…聞いてないよ…」

 セニカは今回の作戦に選ばれた事を少し後悔していた。銃士隊員としての責任感はあるが、自分の身の方が大事だ。

「死ねぇ!」

 ツルク星人が大きく振りかぶる。ここまでか、と思いセニカは目をつぶる。響く轟音。しかし生きてる。何故だろうとセニカは目を開ける。

 

 

「デヤァ!」

 

 

 そこにはコスモスが構えを取って立ちふさがっていた。右手を前に出し左手を頭上に掲げる独特の構えだ。先ほどの轟音は、コスモスがツルク星人に体当たりして遠くまで吹き飛ばした音だったようだ。

(ツルク星人…マチルダに習った拳法なら、こいつを倒せるはずだ!)

「よくも兄者を!兄者は私と一心同体、二人で一人!この恨み!はらさでおくべきかぁ!」

 どうやらツルク星人は二人だけらしい…そうコスモスが考えていると素早い剣撃が繰り出される。側転、バク転、を繰り返し何とか有効範囲から逃れる。

(何て速さだ…危ない!)

 コスモスの首を狙う一撃を慌てて上体をそらしてかわす。そのまま足を全力で振り上げツルク星人の肘を打ち付ける。

「ギャォォ!?」

 ツルク星人は不意の一撃に対応できず、狼狽する。その隙を付いてコスモスはツルク星人を押し倒し首筋、肩口、眉間に連続でチョップを叩き込む。ツルク星人はたまらずもがき暴れる。

「デァァ!?」

 コスモスはバランスを崩し落とされてしまった。しかし即座に前転、ツルク星人に向き直る。ツルク星人は息を荒くし雄たけびを上げ、刃を水平に構え突撃体勢になる。

「グギャォォ!」

 走り出したツルク星人は凄まじい速度で刺突を繰り出す。コスモスは紙一重で避けるが、二撃目が一撃目を超える速度で繰り出されカラータイマーギリギリを掠めていく。

「デァァ!」

 コスモスはたたらを踏んで膝をつく。が、改めて構え直す。

(普通に避けようとしても駄目だ!マチルダとの特訓を思い出せ!)

 ツルク星人は再びコスモスに向かって突撃してくる。二連撃の刺突攻撃。コスモスはギリギリまで自身に引き付けその時を狙う。ツルク星人の刃が指の先端にまで近ずいた時…

「セャァッ!(今だ!)」

 コスモスはツルク星人の左の刃を手のひらで受けると、突き刺さる前に手首をひねり刃の側面に触れて受け流し、体を前に出す。迫るニ撃目を構えた左手で上から叩き落とし、がら空きになったツルク星人の腹部目掛け、コスモスは両手を合わせた掌底を叩き込む。

 

 

 グシャア!

 

 

「グギャァァ!?」

 ツルク星人の肉を叩き潰す音が響く。ツルク星人はダメージよりも自身の得意技、必勝戦法が破られた事に戸惑いと怒りが入り混じった怒号を上げる。ツルク星人は何かの間違いだ、偶然だ、と思い再度攻撃をしようと身構える。

「グシャァー!」

 身を低くかがめ、タックルのように走り出してコスモスの心臓を狙う。しかしコスモスは両手を胸の前でクロスさせながら左、右の順に払いのけ全力で蹴り上げる。ツルク星人の顎を正確に打ち抜いた蹴りはその巨体をはるか後方に吹き飛ばす。

「グゴガァァ!」

 

 

 

 その光景を見ていたトリステイン国民が歓声を上げる。

「いいぞ!でっかいの!」

「トカゲ野郎をぶっ飛ばせ!」

 マチルダは学院生を避難させながらその光景を見ていた。心の中で歓喜のガッツポーズをする。

(やったじゃないか!流石だよ才人!)

 そこからはコスモスの大攻勢が始まった。放たれ続ける斬撃を全て受け流し次々と打撃を叩き込む。顎、脇腹、脳天に連続で攻撃を叩き込む。ツルク星人の懐に入り込むと首と下腹部を掴み、地面に投げつける。

「兄者…兄者の…敵を…」

 ツルク星人はなおも立ち上がろうとしてくる。コスモスはツルク星人にテレパシーで語りかける。

(この星から去るんだツルク星人、これ以上悪行を重ねてはいけない)

 ツルク星人は激昂する。

「貴様…この俺を侮辱するかぁ!」

 ツルク星人は全力で刃を振り回す。そこにはもはや二段攻撃をしていた戦士のツルク星人はいない。半狂乱になった哀れな姿が目に余る。その時コスモスのカラータイマーが警告音を鳴らし始める。

(デルフ、両手から同時に光線を撃つぞ!)

(よーし!俺っちがサポートしてやっから全力でやれ!)

 コスモスは迫る刃を受け流し懐に入り込む。両手をツルク星人の顔面に叩きつける。

「デュアアァァ!」

 両手から放たれた二つのルナストライクはツルク星人の上半身にゼロ距離で放たれ、木端微塵に吹き飛ばした。

 その時、トリステインの国民全員が大歓声を上げた。

 

 

 暗い空間で影が立ち上がり、座っていたイスを蹴り壊す。

「畜生!何だあいつ!急に強くなりやがった!…これは計算外だ、やべぇぞ…」

 影はあれほどまでに見せつけていた冷静さを失い取り乱す。しかし見ている映像に奇妙なノイズが走る。

「これは…?ほうほう、はっ!こんなところにこんな奴が!こいつは使えるぞ」

 影は不敵にほほ笑み、暗い空間から出ていった。

 

 

 

 蝋化した町から避難してきたルイズ、ミシェルは銃士隊が作った臨時の避難所にキュルケを連れてきていた。

「よし!ヒラガとセニカを…」

「大丈夫だよ」

 急に話しかけられ驚いて二人が振り返るとセニカをおぶった才人が歩いてくる。

「サイト!無事だったのね!」

「ヒラガ!それにセニカ!」

 ミシェルがセニカを預かるとルイズは才人に抱き着く。よほど嬉しかったのか嬉し涙を流している。

「心配したじゃないの!」

「信じろって言っただろ?」

 才人はルイズを落ち着かせるとミシェルの方へ向き直る。そこに到着を見つけたアニエス、マチルダが駆けてきた。

「ヒラガ!よくやったぞ!セニカを助けてくれたか!」

 頭を撫でてくるアニエスに才人は赤面するが、マチルダが自身の胸に才人を抱き寄せた事で耳まで真っ赤になる。

「才人!才人!よくやったよ、頑張ったよ!ありがとう!」

 それを見てまた大騒ぎするルイズをしり目にミシェルはその場を後にする。まだ被害状況の確認、被害者、行方不明者の捜索等する事は数えきれないほどある。書類仕事が苦手なアニエスに変わり私がしなくては。と考えた所で低い声に呼び止められる。

「よう」

 聞いたことの無い声に振り向き剣を構える。そこには土気色のローブを着た男がいた。

「誰だ!」

 男はローブをめくるとその顔を明らかにする。その顔を見てミシェルは後ずさりして驚いている。

「何故こんなところに貴様が!」

「ほう…ツルク星人、アトラー星人は知らずとも、俺の存在は流石に知っているか」

 ミシェルは男の名を叫ぶ。

「知っているさ!知らない奴の方が少ないよ!」

 

 

「サーベル暴君、マグマ星人!」

 

 

 




次回に続きます。ミシェルの設定で一番入れたかった事を次回から加えます。


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ゼロの使い魔~真心~第17話

続きです。最近パソコンの誤作動が多く、書いた物が消える事件が多くあります。今回も一回全部消えて、書き直しました。…変え時かな?



 ミシェルとマグマ星人は路地裏に移動していた。フードをしているとはいえ、この人間離れした容姿のマグマ星人と一緒にいるところを他の誰かに見られるわけには行かないからだ。路地裏に入るなりミシェルは剣を抜きマグマ星人の首元に突きを繰り出す。

「おっと!」

 しかし、マグマ星人は危なげもなく横に十センチほどずれ躱してしまう。ミシェルは隠すも無く舌打ちする。

「おいおい、随分なご挨拶じゃないか?」

 ミシェルは少しへらへらした態度のマグマ星人にイラつきを隠さない。もう一度突きを繰り出そうとしたところでマグマ星人が手で制す。

「止めとけ、生命体としての戦闘力が根本的に違うんだからなぁ?…ところで、いつまで人間の恰好してるんだ?脳波でわかるぜ?」

 どうやらマグマ星人はミシェルの正体に気が付いてるようだ。全て分かった上での接触らしい。

「性悪が…」

 ミシェルは両手を重ね頭の上から下に降ろす。それだけでミシェルの見た目が完全に変わる。面影が一つもない。(服装は変わらないが)

「やっぱりな…俺の宇宙船のモニターに入ったノイズを解析したら特徴的な脳波パターンだったのさ…その複眼、その横並びの牙、間違いねぇ」

 

 

「変身怪人、ピット星人!」

 

 

 ピット星人は怪人呼ばわりよりも、容姿を解説されたことに更にイラつきを募らせる。

「…で、何でお前の様な奴がこの星にいるんだ?」

 愚問だな、とマグマ星人は嘲笑する。

「っふ!…おいおい、俺たちは同じ穴のムジナだろ?侵略以外で来る奴がいんのか?」

 ここでついにピット星人は限界が来る。

「あんな奴らと一緒にするな!」

 ピット星人の怒鳴りに思わずマグマ星人はたじろぎする。

「分かった、分かった!…じゃあどうだ?ゲームに参加しないか?」

 ゲームという単語にピット星人は警戒心を更に高める。

「…ゲーム?」

 ああ、とマグマ星人は相槌を打つと説明を始める。

「今この星でゲームを開いてるのさ!制限時間内に決められた数の人間をぶっ殺すんだ。報奨金がごまんと出る、ところが残り一人でね。なぁ~に…『○○』インだろ?楽勝さ…」

 『○○』の単語を聞いた時、ピット星人は完全に理性を失う。右手に剣を、左手に杖から出した『ブレイド』を構えて飛び掛かる。

「その名を口にするなぁ!」

「おっと!」

 二つの刃が交差するが、すでにマグマ星人は後ろに跳んでいた。本来壁のある場所が揺らぎ、虚空に消えていく。

「ハハハハハ!お前が何故この星にいるのかは知らんが、気が変わったら何時でも来い!ハハハハハ!」

 ピット星人は暫く警戒を解かないが、完全にマグマ星人の気配が消えるとミシェルの姿に戻り、急いでその場を後にした。

 

 

 マグマ星人は自分の宇宙船に戻るとドカっと椅子に座る。そして、一人物思いにふける。

(あいつ…『○○』に異常に反応したな…調べさせるか)

「コンピュータ!この星の巨大な生命エネルギーの中で『○○』を探索しろ!」

 その間マグマ星人はアトラー星人、ツルク星人兄弟に殺害させた人間のリストを整理する。このゲームには人数のノルマの他にある程度の標的が存在する。主に宮廷関係者や軍務に携わる者たちばかりだ。これはゲームの賞金を餌にして実力者を集め、大量の被害者を作る中に政府要人を紛れ込ませ、徐々に内側から食い破る。マグマ星人の侵略作戦の一つなのだ。

(そうとも知らずに…バカな連中だな。こいつら…)

 マグマ星人は一人暗闇でほくそ笑んだ。すると急に通信が入る。

「隊長!失礼します!」

 通信してきたのは、このマグマ星人を隊長と呼ぶマグマ星人だ。

「少尉か。作戦の首尾は上々だ、まぁ、アクシデントはあったがな!」

 少尉と呼ばれたマグマ星人は疑問を持つ。

「アクシデント?」

 ああ、とマグマ星人隊長は答える。

「ウルトラマンがいた」

 それを聞いた少尉とその後ろにいるであろうマグマ星人の同胞からどよめきが上がる。

「なっ!?大丈夫なのですか!」

「うろたえるな…あのウルトラマン少しはやるようだがそこまででは無い。お前たちは安心して高みの見物をしてろ」

 この少尉や他のマグマ星人は、ハルケギニアより一惑星分離れた所にいる。ゲームの参加者にこの作戦を悟らせない為にだ。

「分かりました、ご武運を!」

 少尉が通信を切った後、隊長のマグマ星人は少し冷や汗をかく。

(大丈夫、大丈夫さ…まだ『アイツ』と『最終兵器』がある…なぁに…心配する必要は、無い!)

 マグマ星人はこの時、少し焦っていた。部下の手前ああは言うが、現状は好ましくはないのだ。暗い船内に独り言が響く。

 

 

「大丈夫…大丈夫…大丈夫…大丈夫…」

 

 

 ツルク星人の襲撃事件で魔法学院の復興支援はやむなく中止となった。全員が複数の馬車に乗って学院に帰還する。犠牲者が出ている以上、致し方の無い事だ。才人はルイズやキュルケ、タバサ達の乗る馬車の手綱を握らされていた。が、マチルダが呼びに来る。

「才人!副長さんがお呼びだよ!」

 才人はミシェルさんが?と疑問に思うがすぐに忘れる。マチルダのふくれっ面が目に入ったからだ。

「…マチルダ?」

「何!ほら、手綱は変わるから早く行ってきな!」

 膨らんだほっぺが可愛らしい。

「ふん!もて男は辛いね!別れ際に女から呼び出しなんてさ!」

 才人は何か誤解してるな?と思い、一応と思い言っておく。

「俺とミシェルさんはそんな関係じゃないよ?お別れの一言くらいじゃないかな?」

 マチルダはジト目になる。

「…告白かもね…しかも副長さん今暗い路地裏にいるし…」

 才人はおちゃらけて返す。

「まさか!」

 才人はマチルダに手綱を渡すとミシェルがいるという路地裏に行く。確かにそこにはミシェルがいた。しかし、俯いている。

(告白って雰囲気じゃなさそう…だな)

 ミシェルは顔を上げると同時に剣を抜き、突如として切りかかってきた。才人はとっさにデルフリンガーを盾にして防ぐ。

「みっ!ミシェルさん!?何を!」

 ミシェルは黙ったまま連続で確実に急所を狙い、突きや斬撃を繰り出してくる。才人は狭い路地で上手くデルフリンガーを振り回せない中、何とか防いでいた。

「はっ!」

 ミシェルが気合の一突きを放ったのを避けた時、突如としてミシェルの左の裾から出てきた杖が『ブレイド』を生み出し、才人の首をはねようとする。才人は驚きを隠せない。

(なぁ!?『ブレイド』?!ミシェルさんがメイジ!?)

 ツルク星人のような二連撃が次々に才人の首を狙ってくる。才人は完全に気おされ劣勢になってしまった。

(そういえば…マチルダも事情があってメイジって事を秘密にしてたもんな…不思議じゃないのっうわあぶねっ!)

 才人は首を引っ込め『ブレイド』と剣の同時攻撃をかわす。このままではまずい、そう思い路地から出ようと全力で後ろに飛びのくが、凄まじい電撃が才人を襲う。

「グワァァ!?」

 バリアだろうか?突然のダメージに才人は戸惑う。しかし、すぐに理解する。この星の技術じゃこんなものを、こんな限定的な場所に使う事が出来ない。しかし、ルイズに聞いた話では二つの魔法を同時に使う事は出来ないらしい。しかし、ミシェルは今のところ常に『ブレイド』を展開している。

(魔法でも…ない…!ミシェルの正体はいったい…?)

 才人はバリアを背に構える。やるしかない、と覚悟をする。ミシェルは正確な『ブレイド』を放ってくるが、才人はデルフリンガーを離し右手で表面を撫でるように受け流す。手の平が焼けるように痛い。しかし、かまっていられない。

「だぁぁ!」

 ミシェルの剣が振りかぶられる前に懐に入り込み腕を押さえつけ押し倒す。しかし、どうしたことか押し倒した途端にミシェルはおとなしくなる。

「…ふう、やはり無理か…」

「ミシェルさん、教えてくれ!何で急にこんな事を!あなたはいったい…」

 ミシェルは分かったと頷き、衝撃の言葉を口にする。

 

 

 

「全部教えるよ…ウルトラマン」

 

 

「なぁ!?」

 この短い時間で才人は何度も驚愕するのであった。

 

 

 

 ミシェルと並んで向き合った才人は、ミシェルの話を真剣に聞いていた。

「こんな事をしてすまなかった。ヒラガ、まずは私の正体についてだ、お前の察したとおり、私はこの星の人間じゃ無い。ピット星の生命体なんだ」

「ピット星人!?」 

 ピット星。才人は自身が集めていたウルトラ兄弟の写真データの中で、ウルトラセブンが三日月状の角を持つ怪獣『エレキング』と戦っている物を持っていた事を思い出す。その時、地球に侵略に来たのがピット星人だ。

「この星に侵略に来た!…のなら、正体をばらさない…よな?」

「事情を話すよ、私はこことは別次元の宇宙出身なんだ」

 才人はそれを聞いて「自分も同じ世界から来た」と、ある程度の事情を説明する。ミシェルはこの事に心底驚いていた。ウルトラマンが同じ世界から来ていた事は知らなかったようだ。

「そうだったのか…話を戻すが、私は元々軍人でも何でもない唯の一般人だった。しかし姉が軍人でね。この世界が見つかった時、調査任務を受けたんだ。それで私の育てていたエレキングを護衛、土木作業用の為に連れていく事が決まってね、一緒についてきたんだ」

 才人はエレキングがペット感覚で飼育されていることに驚きを隠せないが、ぐっとこらえ話を聞く。

「ピット星人は女しかいない、繁栄には他の種族の男が必要なのさ。そういうのを攫うための任務でもあった…が、時空を超えた時のダメージが大きすぎて宇宙船は爆発、仲間は全員死んだ」

 しかし、と更に続ける。

「姉がギリギリのところで私とエレキングを助けてくれたんだ。…それが姉の最後だった。その後、私とエレキングは離れ離れになってしまった」

 ミシェルは自らの肩を強く握りしめる。思い出したくは無い様だ。

「そこで私はこの『ミシェル』という存在を殺してしまったんだ」

 才人には意味がよくわからない。

「存在?殺した?」

「ああ、元々いた『ミシェル』を不時着時の事故で死なせてしまったんだ。私も重傷を負って…生き残るにはお互いを融合するしかなかった。そして、私たちは完全に一体化した。互いの記憶は残ってるが…」

 それで、とミシェルは本題を切り出す。

 

 

 

「実は、ウルトラマン。私の『リム』を見つけ出して欲しいんだ。」

 

 

 

「…『リム』って…誰?」

 




次回に続きます。皆さん気長にお待ちください。なるべく早く次回を書きます。


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ゼロの使い魔~真心~第18話

続きです。お待たせしました。話の内容を上手く書けず時間がかかりました。気楽にお楽しみください。


(リムって、エレキングの名前なんだ…)

 才人は怪獣に固有名詞がある事に若干のカルチャーショックを受けながらマチルダのいる馬車に戻る。

「おーい!マチルダ!」

 マチルダは待ちくたびれたという顔をして出迎える。

「お疲れさん、早く乗ってよ」

 しかし、才人は乗る事を拒んだ。ごめん、と一言謝る。

「どういう事…だい?まさか…」

「あの女と何かあったの!?」

 突然割り込んできたのはルイズだ。窓から身を乗り出している。今にも落ちそうなルイズに、才人は落ち着いて説明する。

「悪いルイズ、俺の腕が必要らしいんだよ。火事場泥棒が増えるから、とっちめるの手伝ってくれってさ」

 渋々ルイズは了承する。

「そう…まぁ、頼られるのは悪い事じゃないわよね…」

 才人は次にマチルダに耳打ちする。

「ごめん、俺ミシェルさんに協力する事にしたんだ。後は頼むよ」

 マチルダは才人をにらみつける。

「やっぱりあの女と!」

 才人は普段の柔らかい表情を消して、真面目な顔になる。

「お願いだ…これは『コスモス』としてのお願いなんだ」

 マチルダはその一言でだいたいを悟ったのか落ち着きを取り戻す。

「分かった…何かあったら呼びな…絶対力になるから…!」

 才人は一言、ありがとうと伝えその場を後にした。

 

 

 再び路地裏で合流した才人とミシェルは場所を移し静かな公園に来る。…元はトリステイン国民の憩いの地だったが、アトラー星人の攻撃で完全に蝋化してしまっている。今は静けさが全てを満たしていて物悲しい。

「なぁ副長さんよ?一つ聞いていいかい?」

 それをデルフリンガーのあっけらかんとした声がぶち壊す。

「おいデルフ…」

「いいじゃねえか相棒、このままじゃいつまでも座りっぱなしだぜ」

 確かに、才人がミシェルの頼みを受けたとはいえ、お互い重大な秘密を言い合ったばかりで、気まずい雰囲気の真っ只中にいるのは事実だった。

「で、副長さんよ?その見た目はホントの姿なのかい?」

 瞬間、ミシェルの体が跳ねる。才人はその反応でだいたいが分かった。確かに才人もピット星人の存在を資料でしか知らない。本来の姿など知りもしないのだ。だが、ミシェルに「見たい」とは言いたくなかった。

「そっ、それよりも、ミシェルさん…」

「無理をするな、ヒラガ」

 ミシェルは震えをこらえながら言う。そして少しずつ話し始める。

「私がピット星人とミシェルの融合体というのは話したな?」

「ああ」

「だが、ミシェルの魂が死んだわけじゃない。私はミシェル、ピット星人の二つの魂が混ざり合ってできているんだ」

 才人はその状態の苦しさが何となく想像できた。

「だからかな…?自分のピット星人としての姿を、私の中のミシェルが受け入れられないんだ…」

 ミシェルは少し俯いてしまう。才人は震えるミシェルの肩に手を置き、一言だけ呟く。

「そっちが無理すんなよ…」

 ミシェルの震えが止まる。

「悪かった、もう大丈夫。「ミシェル」がどういう奴についてはまた今度教えるよ、今は『リム』についてだ」

 ミシェルは脱線した話を元に戻す。

「『リム』…エレキングは私と離れ離れになった時、私はこの国側に落ちた。だがリムはあの方角に落ちて行ったんだ。私にはそこに行く手段が無くてな…」

 ミシェルは空を指さし物思いにふける。きっと自分の力で助けに行きたいという気持ちなのだろう。

「よし!分かった!じゃあ、俺の手に乗って、そこまで行こう!」

「頼むっ」

 それを聞いたデルフリンガーは意気揚々と鞘から飛び出し、才人の手に収まる。

「よっしゃ!いくぜ、相棒!」

 才人はデルフリンガーを高く掲げる。

「コスモーーース!」

 

 

 

 悠然と飛び上がるコスモスを、マチルダは馬車を走らせながら見送った。

「あなたなら大丈夫…才人、必ず帰って来なさいよ」

 

 

 

 コスモスが飛び立って二分、ミシェルをバリアで包み高速で飛んでいる時、巨大な湖を見つけた。コスモスはミシェルにテレパシーを送る。カラータイマー音が大きくミシェルの声が届かないからだ。

(ここは?)

(ここは…ミシェルの知識で知っている。ここはラグドリアン湖、水の精霊が住む湖だ…しかし、ここまで大きかったか?)

 しかし、これだけ大きければ…と思い、コスモスは人里離れた森の中に着地して才人の姿に戻る。

「よし、周りに家が見えたから聞き込みをしよう。もしかすると何か情報が手に入るかもしれない」

「ああ、行こう」

 才人達が歩いていると湖の中に家が沈んでいるのが見える。水かさが以前より増えているのだろうか?と、考えて歩いている事二時間程、空を飛んでいる時に見えた家が見えてくる。ドアをドンドン!と叩いてみる。

「すいませーん!誰かいまブっ!」

 ドアが突然開き才人は顔面に強烈な一撃をもらう。

「おお、あなたは国の騎士さまでおいでですか?」

 ドアから出てきた初老の農夫がミシェルに詰め寄る。

「あ、ああ、そうだが…」

 初老の農夫は表情が明るくなる。

「来てくださったんですかい!?ありがたいこって!」

 ミシェルはこの農夫から詳しく話を聞くことが出来た。得られた情報は、いくら領主に頼んでも今だ誰一人として来てくれなかった事。水かさがどんどん増えて村が沈みかけている事。そして…

「とんでもねぇ化け物が湖に住み着いちまったんでさぁ!」

 一番知りたかった情報だった。化け物は夜に現れる事が多く、近隣住民は眠れぬ夜を過ごすらしい。二人は夜まで待つことにした。

 

 

 

 

 双月が湖を照らす頃、二人は小高い丘の上で今か今かと待ちくたびれていた。才人はミシェルに鼻の手当てをしてもらいながら湖を眺めていた。しかし暇なのでミシェルに何となく話しかける。

「なぁミシェルさん、何で俺がウルトラマンって分かったんだ?」

 それは最初から才人が持っていた疑問だった。何故自分の正体が分かったのか?、と。

「それは…脳波さ。初めてあんたとあった時に受信した脳波と、巨大化したあんたの脳波が完全に一致してたからね。その時に」

 才人はアトラー星人戦の時の事を思い出す。そう言えばミシェルの胸当てを引きちぎり、胸を見てしまった事も一緒に思い出し顔が赤くなる。

「何を思い出してるんだ…なぁヒラガ?」

 少し怖くなったミシェルの気を逸らそうと才人は考えをめぐらす。そう言えばあの時…助けてくれたのは…

「なぁミシェルさん、あの時の『錬金』はミシェルさんなのか?」

 才人一人では倒せなかったアトラー星人。あの助けがあったからこそ倒せたのだ。そして、ミシェルはメイジだ。

「ああ、あの時か。そうだよ、私さ。只のピット星人でしかなかった私は力が無くてリムを助けられなかった。だけど…ミシェルと一体化した私には杖の力があるんだ!…って、思ってね。どうしようも無い状況を何とかしたいって、全力を尽くしたいって思ったのさ」

「そうだったんだ、ありがとうミシェルさん」

 才人は助けてくれた事への感謝の気持ちを込めて、笑顔でお礼を言う。しかし、ミシェルは突然そっぽを向いてしまう。

「どっ、どうしたの?ミシェルさん?」

「…見るな」

「え?」

「ヒラガ、今はこっちを見るな」

 ミシェルは自分でもわかるくらい激しく照れていた。恐らく顔は真っ赤だろう。

(何故だ…!…なぜこんなに照れる!にやける!只礼を言われただけだろうが!…ごまかそう)

「ヒラガ、今回の事件の黒幕についてだが…」

 ミシェルが言いかけた時、突然空気を震わす咆哮が二人を貫く。才人は驚き、周りを見渡す。

「これがリムの鳴き声か?」

 が、すぐにミシェルは否定する。

「いや、違う!こんな声じゃない!別の怪獣だ!」

 その時、ラグドリアン湖から巨大な影が立ち上がる。

 

クギャァァァン!

 

 魚の様な見た目、青い体、才人が持っている写真データに入っている。ウルトラマン二世とウルトラマンエース、ウルトラマンメビウスとの戦闘記録が残っている怪獣だ。

「巨大魚怪獣、ムルチ!」

 ムルチは歩きながら家々に迫る。このままでは家が踏みつぶされるだろう。ここで才人は一つ疑問を持つ。怪獣がいるのに犠牲者が出たという話を農夫からは聞いていなかったからだ。

(何故なんだ…?)

 その時、長い尻尾が水中から伸びムルチに巻き付き、水中に引きずり込もうとする。それは才人は写真で、ミシェルは毎日のように、見ていた事がある物だった。それの持ち主はゆっくりと湖から上がり姿を現す。

 

キィィィィ!

 

「「リム!(エレキング!)」」

 エレキング…『リム』は強引にムルチを湖に引きずり込もうとする。ムルチはもがくが電撃を受けてしまい、逆らえずそのまま引きずり込まれてしまった。

「どっ!どうなってんだ?」

 才人とミシェルは茫然と立ち尽くすしかなかった。

 

 

 翌日、ミシェルと才人は朝から手分けして聞き込みを続けた。怪物を見たという住民は多くいたが犠牲者は誰一人としていなかった。昼頃、二人は湖畔で合流すると情報を整理する。

 才人は、だいたいの事情が読めた。

「ミシェルさん、たぶんだけど…リムは人間をムルチから守ってくれているんじゃないか?」

 犠牲者がいない現状、昨日見た光景、才人が導き出せた答えはそれしか無かった。ミシェルの顔が明るくなる。

「リムは…あの子は優しい子だった!それじゃやっぱりあれはリムなんだ!生きてたんだ!」

 ミシェルは幼い子どものようにはしゃぐ。それを見ていて、才人は少し微笑ましくなった。この人もこんな笑顔で笑えるんだ、と。

「良かったねミシェルさん」

「ああ!ありがとうヒラガ!君のおかげだ!」

 ミシェルは感極まって才人に抱き着く。その豊満なふくらみにより才人は幸福に包まれる。が、すぐに頭を振り現実に戻る。

「でも、再会にはまだ早いよ」

「分かってる、ムルチだろう?」

 ミシェルは才人から離れると、改まって向き直り頭を下げる。

「ヒラガ、ムルチを倒してリムを自由にしてやってくれ!」

 才人は即答する。

「当たり前だよ…行くぞ!デルフ!」

「おうよ!行くぜ!相棒!」

 才人はデルフリンガーを引き抜き叫ぶ。

 

 

「コスモーーース!」

 

 

 

 




次回に続きます。


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ゼロの使い魔~真心~第19話

続きです。今回は二回も書き途中の文が消失しました。悲しいです。でも、負けずに書いたので、読んでってください。


 コスモスはラグドリアン湖に飛び込み、ムルチとエレキングを探す。水はとても澄んでいるが、広く深いためすぐには見つけられない。コスモスは体をなるべく動かさないようにしエネルギーの消費を抑える。

(どこだ…リム、ムルチ…)

 そうしていると全身を謎の違和感が包み込んでいく。それはついに全身に広がり、コスモスは指一つ動かせなくなる。

(なっ!?何だこれは!?)

 

 単なるものよ…何故我が世界を侵す…

 

 この時、コスモスはテレパシーでもない、口語による会話でもない不思議な声を聴く。この時コスモスは村の住民やミシェルから聞いていた水の精霊の話を思い出した。

(まさかこいつが、水の精霊!?)

 

 出ていけ…単なるものよ

 

(待ってくれ!俺はエレキングを迎えに来ただけだ!あなたには危害は何も加えない!)

 

 エレキング…この世ならざるものか…

 

 この世ならざるもの、確かにエレキングはこの星の生命体ではない。水の精霊の表現はある意味正しいだろう。

(そうだ!そいつを迎えに来ただけだ!絶対に危害を加えない!)

 水の精霊は突然黙り込む。その時コスモスのカラータイマーが警告音を鳴らし始める。コスモスが焦りを隠せなくなってきた時、水の精霊が話しかけてくる。

 

 単なるものよ…異なるもの達を滅せるか…

 

 異なるもの、恐らくムルチの事だろう。ムルチは才人のいた地球では公害、大気汚染によって生まれた怪獣だ。この星のムルチもそうなのかは分からないが、以前学院を襲った魚の怪獣と同じ経緯だろう。それにしても達とは、他にもムルチがいるのだろうか?

 

 異なるものが来てから…月が二回交わった…その間…奴らは私の世界を荒らしまわっている…

 

(ああ!任せろ!俺なら浄化して助ける事が出来る!)

 

 

 ならば…我が世界を侵す異なるもの達を…滅してほしい…残念だが…我は異なるものを滅する力が無い。滅するならば…その代わりに…この世ならざるものの所まで…案内しよう。

 

 

 水の精霊がそう言うとコスモスを拘束していた水が解ける。そしていつの間にかコスモスのカラータイマーに青い光が灯っていた。警告音も止まっている

 

 

 失っていた力を戻しておいた。…単なるものよ、この先に異なるものがいる。奴らを滅して欲しい、頼んだぞ…。

 

 

 コスモスは水の精霊が作り出した水流に乗り一気に水底に向かう。水流に身を任せ、瞬く間に湖底に到着する。そこではエレキングとムルチ達が死闘を繰り広げていた。そこに割って入ろうとするが、急に目の前を影が通り過ぎ驚いてしまう。

(うわぁ!?)

 目の前に覆い被さったのは首の骨をへし折られたムルチの死体だった。よく見ると他にも多数のムルチの死骸が漂っている。

(ムルチがこんなに…これだけの数をエレキングが!?)

 凄まじいタフネスだ。昨日から戦い続けているのか、それよりももっと前からか、どちらにせよ、尋常じゃない。電撃を使わないのは湖の他の生命体を傷つけない為か。その戦闘能力の高さが伺える。

(リム、すごいな…)

 見てばかりはいられないとコスモスは両腕にエネルギーを溜め、エレキングを襲うムルチ達に肉薄する。

「デェァァァ!(フルムーンレクト!)」

 一度に複数のムルチを包み込み、体内の有害物質や不純細胞を排除、浄化していく。光が消え去るとムルチは全て元の魚に戻っていた。

(よしっ!)

 

キィィィィ!

 

(ッ!?)

 コスモスはエレキングの苦痛の咆哮を聞き慌てて振り向く。エレキングの肩口・首・腕にムルチが三匹噛みついていた。コスモスは助けに飛び出そうとするが横っ腹にムルチの体当たりを受け吹き飛ばされる。

(しまった!)

 このままではエレキングが危ない!そう思うコスモスの前で、首に噛みついているムルチの首が突如260度回転する。エレキングが尻尾を巻き付け首を捻じ曲げたのだろう。首が自由になったエレキングは肩口のムルチを乱雑に振りほどき、腕のムルチを湖底に叩きつけ絶命させる。

 コスモスは振りほどかれたムルチを浄化し魚に戻す。エレキングに向き直り改めてその力に感服する。

(こいつは凄い。昔、地球に来たエレキングとは比べ物にならないな…っとあぶねっ!?)

 突如エレキングの尻尾がコスモスの首目掛け伸びてくる。どうやらエレキングに敵と思われてしまっているらしい。すぐさま避けるが、今度は体当たりを繰り出してくる。その速さに追い付けずもろに食らってしまう。

「デハァッ…(かはぁっ…)」

 そのままコスモスに組み付いたエレキングは尻尾をコスモスに巻き付け絞め殺そうとしてくる。

(このままじゃ…マジでやば…いかも…)

 コスモスは尻尾から抜け出そうと全力で上へと飛び出す。エレキングはその場で踏ん張るが、連戦の疲れもあったんだろう。浮かび上がり一緒に湖面へと連れていかれる。コスモスはラグドリアン湖から巨大な水柱と共に飛び出ると、そこでついに力尽き地面に向けて落下する。

「ヒラガ!、リムゥゥゥ!」

 ミシェルは地面に叩きつけられたコスモスとエレキングに慌てて駆け寄った。その間にコスモスは瞬く間に才人に戻る。エレキングの尻尾を潜り抜けミシェルは才人に駆け寄り、抱き起こす。

「ヒラガッ!しっかりしろ!ヒラガァッ!」

 

 

 才人は頭に柔らかい感触を感じながら目を覚ます。しかし、上は見えない。大きな丸いふくらみが二つ、才人の視線を遮っている。

「凶悪宇宙人、おっぱい星人二代目…」

 才人のつぶやきを聞いて、起きた事にミシェルが気付き覗き込んでくる。

「ヒラガ!目が覚めたか!」

「すいませんごめんなさい」

「え?」

「いえ、何でも」

 才人はミシェルに膝枕してもらっていた。その柔らかさ、眼福に思わず頬がにやける。しかし、気になる事があった。

「あれ?エレキング…リムは?」

 ミシェルはあっけらかんと答える。

「ああ、ヒラガの腹の上にいるよ」

「えぇ!?」

 才人はとても驚く。自分の上にエレキングがいる?そんなバカな!思わずその場で起き上がろうとして、ミシェルの左の胸に顔をうずめてしまう。

「あっ…」

「ヒラガ…お前はぁ!」

 ミシェルの拳が高く振り上げられた時、突如として電撃が才人の体を貫いていく。

「「あばばばば!」」

 …ミシェルごと。

「こらっ!リム!いきなり電撃をうつんじゃない!」

 しかし、あの巨大なエレキングはどこにもいない。才人はどういう事かと見回してみると自身の腹部にちょこんと座る『何か』がいた。

「…え?これが…リム!?」

 そこには真ん丸の体、短い手足、ほんの少ししかない尻尾、「ちんちくりん」と呼べるような、呼ぶしかないような、そんな生き物がいた。しかし、体の模様は間違いなくエレキングだった。

「ピキィィ!」

 ちんちくりんのリムは才人の上でジャンプすると、ミシェルの頭に飛びつき肩車状態になり才人を威嚇してくる。

「すまない、ヒラガ。お前ばかりかまっていたからリムは嫉妬してるみたいだ」

「嫉妬?」

 才人は何かした覚えも、された覚えも…膝枕の事だろうか?

「ここはリムの特等席だもんな」

 ミシェルはひょいとリムを掴むと先ほどまで才人がいた自身の膝の上に座らせる。

「ピキィ♪」

 その途端リムはご機嫌になりミシェルに甘え始める。なるほど、と才人は思った。この様子を見るに昔からの定位置なのだろう。

 

 

 その幸せそうな様子を見て、頑張って良かったなと心から思った才人だった。

 

 

「私はリムが生まれたころからずっと世話してるんだ。子どもみたいなものさ」

 ミシェルは疲れが溜まっていたのだろう眠ってしまったリムを、優しくなでていた。

「へぇ?ずっと?」

 才人はミシェルの隣に座り、話に耳を傾ける。

「もうずっとさ、この子をたくましい子に育てたくてね…一緒に頑張ってきたんだ」

 なるほど、十分味わったよ。と才人は呟く。

「そう言えば…何でこんなにちっちゃくなってるんだ?こういう能力か?」

 才人が質問すると、ミシェルは懐から小型の銃を取り出す。

「縮小光線銃、これでリムを小さくしてるのさ。流石に大きいサイズのままじゃダメだろう?」

 へ~、と才人が感心していると、ミシェルが才人の肩にもたれかかってきた。才人は驚くがなるべく平静を装う。

「なっ何!?ミシェルさん!」

「…ありがとう…ヒラガ…」

「え?」

 ミシェルは才人の手の甲に自身の手を重ねる。

「お前がいなかったら、リムとは再会出来なかった…お前がいなかったら、そもそもアトラー星人の時に死んでいたかもしれない…本当に心から、感謝している」

 才人は真正面から真剣な礼を言われ気恥ずかしくなる。しかし、そこからミシェルの口調が少し沈んだ物になる。

「…ヒラガ、聞いてくれ」

「何だよ急に?」

「今回の連続した宇宙人襲撃事件だが…黒幕が接触してきたんだ」

「黒幕が!?」

 突然の情報に戸惑ってしまう。才人は「それで!」と、ミシェルに詰め寄る。

「この殺人ゲームを取り仕切っているのはサーベル暴君、マグマ星人。凶悪な宇宙人だよ」

「マグマ星人…」

 マグマ星人はかつて才人のいた地球にも来たことがある。あまりにも甚大な被害を出したことで有名で、教科書にも書かれている程有名な宇宙人だ。

「そんな奴がどうし、危ない!」

 才人はミシェルを突き飛ばす。ミシェルは突然何をするのかと驚くが、その瞬間才人の腹部を見えない何かが貫く。

「ヒラガ!?グボッ…なっ、何だ…?」

 今度はミシェルの首に見えない何かが巻き付き締め上げる。すると突然人影が現れる。それは人間の姿をしてはいるが、どうやら見えない何かはそいつから伸びている様だ。

「何…者…だ…」

「へっ、弱っちいピット星人に何か言うこたぁ無いね!ウルトラマンも不意打ち一発たぁ拍子抜けだぁ」

 ミシェルは才人に目線を動かす。才人はピクリとも動かない。意識を失っている様だ。才人は度重なる変身で体力を消耗していた。その隙に襲われてはどうしようも無いだろう。

「まぁ、何はともあれ特別点はいただきだ。ウルトラマン、エレキング合わせて10000点だぜ!」

「えれ…?まさ…っか、リム!?」

「ピキィィ!」

 そいつはいつの間にかリムの首根っこを掴んでいた。

「こいつを主催者さんがご所望なのよ!…あらよっ!」

 そいつはミシェルを脳天から地面に叩きつける。ミシェルは血を流しながらも立ち上がろうとするが、力尽き、崩れ落ちてしまった。

 

 

 ミシェルが最後に見たのは、高笑いをするそいつと、もがくリムの姿だった。

 

 

 

 




次回に続きます。頑張って早く更新したいです。


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ゼロの使い魔~真心~第20話

続きです。「そいつ」の正体、分かります。


「馬鹿野郎!」

 暗いマグマ星人の宇宙船の一室、そこでマグマ星人は「そいつ」に怒鳴りつけていた。

「おいおい、主催者様?何だってんだ!?」

 そいつは全く分かっていないようだ。

「何故縮小光線銃を奪ってこなかった!これじゃ役に立たないだろうが!」

 マグマ星人は絶縁ボールに閉じ込めたエレキングを指さす。

「そこはあんたが解析して、自分でやれば…」

「そんな簡単に出来たら苦労しねぇんだよ!」(せっかくコンピュータに見つけさせたってのに!)

 マグマ星人は完全に落ち着きを失っていた。普段の冷静さも失っている。

「おい!特別点4000だ!ピット星人から奪ってこい!ウルトラマンは始末したんだろう!?」

 そいつは少し考えこんで、ため息をつく。

「特別点のためだ…しょうがねぇなぁ…まぁ、ウルトラマンは始末したし、楽勝か…」

 

 

 ミシェルは痛みと共に目を覚ます。そこは見慣れた銃士隊の救護室だ。何故ここにいるのだろう?…今までのは全て夢だったのだろうか?そう考えた所で慣れ親しんだ声が聞こえる。

「っ!気が付いたか!ミシェル!」

「ア…ニエス…隊長…?」

 ベッドのそばに座っていたアニエスは立ち上がるとミシェルを抱きしめてきた。よく見ると目じりから涙が流れている。痛いくらいの抱擁だったが、ミシェルは何故か痛みよりも安心感の方が何十倍も強かった。

「ヒラガに感謝しろミシェル、ヒラガも大怪我をしていたのにお前を負ぶって連れて来てくれたんだ。全く、たいした奴だよ」

 ミシェルは才人の名を聞いて、周りを見る。するとそこには、怪我の手当てを受けたボロボロの才人が横たわって眠っていた。看病していたのだろう、傍らにはセニカが眠っていた。

「…何故セニカが?衛生兵でも無いのに…?」

 何か心に黒い靄がかかるミシェルに対し、アニエスが、さあ?心配だったんじゃないか?と、あっけらかんと言う。

「何だ?嫉妬か?盗られてしまうんじゃないか…なんて…」

 ミシェルは顔を真っ赤にする。アニエスはミシェルの反応を楽しんでいる様だ。

「そんなっ!自分とヒラガはそんな関係では…!」

「だったら」

 アニエスの顔が柔らかい笑みから銃士隊隊長の顔つきに変わる。

「話してくれるな?無断で隊を離れていた間、お前たちがいったい何をしていたのかを」

 そう言うとアニエスは懐から何かを取り出す。

「それはっ!私の杖!」

 ミシェルは慌てて体を触るが、どこにもない。やはりアニエスの手に握られているのは本物だ。

「お前は…騙していたのか?…私たちを…」

 少し俯くアニエスにミシェルはショックを受ける。気丈なアニエスが気落ちする、それだけの事を自分はしたのだ。ミシェルは正直に話すしかない、そうしなければいけない、と確信した。

「…お話します。『ミシェル』の全てを…」

「…聞きたいな、俺も」

 唐突な声に驚き二人が振り返ると、フラフラの才人が壁にもたれかかりながら立っていた。

「駄目です!毒も受けてるんですよ!安静にしなきゃ!」

 セニカが才人を強引に座らせた。

「毒っ?!毒って…!?」

 ミシェルが動揺するが、才人はいいから、と話すように促す。

「鋏に塗ってあったみたいなんだ…。けど、もう大丈夫。それより聞かせてよ、ミシェルさんの話…」

 確かに才人の体は人間のそれとはかけ離れている。大丈夫なのだろう。そう思いミシェルは息を整え、自身の過去『ピット星人』そして『ミシェル』の事を語り始めた。

 

 

「…そうか、そんな経緯が…ではお前はミシェルではあるが、あの怪物と同じような、うちゅじんという奴なのか」

「正確には違いますが…大体は…」

 ピット星人について説明を終えたミシェルは、続いて自身の過去について語り始めた。

「次は、『ミシェル』についてです。ミシェルはこのトリステインの貴族の出身でした。しかし、国家の不祥事の責任を押し付けられ、父と母は自殺。幼かったミシェルは貴族としての地位を失いました」

 ミシェルは一度咳払いすると、言いづらそうにしているがアニエスに話すよう目で促され話を続ける。

「その後は貴族のプライドを捨て、盗み、物乞い、何でもしてミシェルは生き伸びました。時には命や貞操を守るために…その杖で人の命を奪うことも…」

 才人はそんな事が!と驚いているが、アニエス達はここまでは没落貴族ではよくある話だと思いながら聞いていた。しかし、次の一言がアニエスを驚愕させた。

「そして、成長したミシェルは高等法院長リッシュモンの部下になり、銃士隊にスパイとして潜入しようとしていたのです」

「リッシュモン!?」

 アニエスはミシェルに掴みかかり、責め立てる。

「どういうことだ!奴と繋がっているのか!教えろ!知っている事全て!」

 慌てて才人とセニカが割って入る。

「落ち着いてください!アニエスさん!どうしたんですか!?」

「隊長らしくない!落ち着いてください!」

 アニエスは落ち着きを取り戻すと静かに座る。

「…すまなかった。続けてくれ…」

 ミシェルは座り直すと再び話しだす。

「実際にはその前にピット星人と融合したので、スパイ行為は何もしていません。ピット星人としての存在が大きいせいもあって、国家への復讐心など跡形もありませんがね」

 ミシェルはふっ、と自嘲する。

「そもそも何故スパイを?」

 才人が当たり前の質問をする。

「それは…宮廷内の情報を得るため…『レコン・キスタ』に情報を流すためだ」

「「レコン・キスタ!?」」

 才人以外の二人が大声を上げる。才人は驚いて腰掛けていたベッドから落ちてしまった。

「イテテ…何だよ!れこん・きすたって!」

 セニカが重く口を開く。

「アルビオンで起こった宮廷革命運動の中心組織です。まさかトリステインにまでその手が迫っているなんて…」

 アニエスが少し興奮気味にミシェルに詰め寄る。

「という事は、リッシュモンもレコン・キスタと繋がっているという事か?!」

 ミシェルは無言で頷く。アニエスは一人ブツブツと呟き始めたので、才人が話を戻す。

「何はともあれ、今のミシェルさんはスパイだったミシェルさんじゃないんだ、そっちは気にしないでいいだろ?今は目の前の問題だ」

 アニエスは確かに、とミシェルに向き直る。

「今はうちゅうじんのミシェルの方の問題の方が大きいな。これからは二重スパイとして動いてもらうことも視野に…」

「あ、やっぱ駄目だ」

 完全にリッシュモンの事で頭がいっぱいになっているアニエスを端にやると、ミシェル、セニカ、才人で話し合う。

「そのマグマ星人っていう奴が黒幕なんですね?しかも、リムって子を人質に取られていると?」

「ああ、何とかして取り返す事は出来ないか…」

「せっかく再会できたのにな…」

 三人で考え込んでいると…

 

きゃぁぁぁ!

 

「「「っ!」」」

 突然の悲鳴に全員が走り出した。

 

 

 銃士隊の詰め所の入り口近くで『そいつ』は暴れていた。

「ピット星人を出せぇ!ここにいるのは分かってるんだぁ!」

 剣で切り付けてくる銃士を次々と吹き飛ばしていく。誰一人として近づく事が出来ないでいる。アニエスとミシェルは駆け付けると剣を構える。

「貴様!リムはどこだ!」

 そいつはミシェルが出てくると下卑た笑みを浮かべる。

「出たなぁ…お前の縮小光線銃をよこせ!それで俺は得点トップになれるんだ!」

「ちっ…答える気は無いという事か…」

 するとアニエスが剣を構えたまま、ミシェルに耳打ちする。

「落ち着けミシェル…奴がその、何とか…を欲しがるという事は、お前の話が真実という前提なら、リムは無事という事じゃないのか?」

(そうか…奴らはリムを侵略に利用するために…)

 先ほどまで話も聞かなかったアニエスは何処へやら。そこには銃士隊隊長のアニエスがいた。

「よこせぇ!」

 そいつが叫ぶと突然大きな衝撃が二人を襲う。気配を読んで剣で弾くが、目視では何も見えなかった。

「おい!ミシェル!こいつはどんなうちゅうじんなんだ!?」

「すいません!私もそこまで詳しくは!」

 二人で見えない一撃を警戒しながら攻撃のチャンスを伺うが、そいつは全く隙が無い。その時…

「でやぁぁ!」

 セニカが物陰から強襲する。しかし、また見えない何かに弾かれてしまった。

「うわぁ!…あれ?」

 セニカは壁に叩きつけられる、と思っていたが、何の衝撃もない。才人が抱き留めていたのだ。

「てってめぇ!生きてたのか!?」

 才人はセニカを降ろすと、デルフリンガーを引き抜き構える。

「へっ!ならもう一回串刺しだぁ!」

 そいつが放った見えない一撃を、才人は跳躍でかわすと同時に、そいつに肉迫する。

「おりゃぁぁ!」

 デルリンガーで一刀両断しようとするが、両腕で受け止められ逆にデルフリンガーを叩き落とされる。

「くっ!」

 二人は手四つで組み合う。しかし、そいつは余裕だ。ほくそ笑むが、それに対して才人もほくそ笑む。

「何!?」

 次の瞬間才人はそいつの腕を支柱に、逆立ちのように空中に舞う。そして足で見えない何かを弾き飛ばしてしまう。

「ぐわぁ!?バカな!」

 何が起きたかわからない周りの面々をよそに才人は高らかに言い放つ。

 

 

「正体は分かってるぜ!さそり怪獣アンタレス!」

 

 

「なっ!?」

 そいつ…アンタレスは自分の正体を見抜かれ狼狽する。

「何故だ!何故!」

「簡単さ、お前の同種が昔、地球に来た時の記録を見た事があってね。その手口を覚えていただけだよ」

 才人はデルフリンガーを拾い上げ構え直す。

「やるなっ!相棒!このままぶっ飛ばしちゃえよ!」

 しかし、才人は首を振る。

「いや…アンタレス!見逃してやる!さっさと星に帰れ!」

 アニエス達は突然何を言うのかと驚いているが、才人はなおも帰るように促す。

「このまま巨大化して戦っても勝ち目はないぞ!どうする!」

(このウルトラマン…甘いな…しかし、不利なのも事実…)

 アンタレスは不利を悟り、その場から逃げ出した。その時、ミシェルの脳にテレパシーが届く。

(後をつけようミシェルさん!)

 そういう事か、と納得する。ミシェルはセニカ、アニエスにアイコンタクトで伝える。

 

 

 四人は気づかれず、見失わないようにアンタレスの後をつけ始めた。

 

 

 




続きます。今回会話が多かったかな?と思います。バランスよくって、難しいです。


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ゼロの使い魔~真心~第21話

続きです。今回も会話多いです。


「はぁ!はぁ!…くそっ…」

 アンタレスはトリステインの町から数キロ離れた森の中、ある一点目掛け走っていた。それを追う影が四人。

「奴は何処までふぐ!…」

 才人はついこぼすが、すぐさま他の三人に口を塞がれる。静かにするよう三つの目が訴えてくる。

 そうしている内にアンタレスが突如虚空に消える。何事だ!と飛び出そうとするセニカ、アニエスを今度は才人が引き留める。ミシェルがアニエス達に説明する。

「これでいいんです、奴らの本拠地は見つけました。奴らは「そこ」にいるんです」

 才人はデルフリンガーの力を借り、超能力を使って虚空を見つめる。「そこ」には確かに巨大な鉄の宇宙船があった。

「光学迷彩か…まさかこの星で見つかるとは思ってないだろうなぁ…」

 アニエス達が説明を聞いて、光学迷彩の仕組みをぼんやり理解すると、リム救出及びマグマ星人撃滅突入作戦が開始された。

 

 

 しかし、その様子を影から見ている影が一人…

 

 

 

「なにおめおめと逃げ帰って来てるんだお前は!」

 暗い空間にマグマ星人の怒号が響き、アンタレス目掛けサーベルから光線が飛ぶ。吹き飛ばされたアンタレスはマグマ星人に怒鳴りつける。

「無理だってんだよ!技を見破られてるんだ!俺には勝てねんだよ!」

 マグマ星人は、イラつき床を踏み鳴らすアンタレスの事は視界に入っていなかった。自身の手ごまが全て敗れた事で、冷静な心を完全に失う。

(畜生!畜生!畜生!打つ手は『最終兵器』しかねぇ!でも…もし、ダメだったら…あぁ…あぁ…)

 その時、船内に警報が鳴り響く。

「なっ!?なんだ!?」

「けっ警報!侵入者か!?」

 マグマ星人はモニターで侵入者を確認しようとする。が、モニターに近づいた途端、モニターが内側から爆発する。

「ギャァァ!?」

 その爆炎はマグマ星人の顔面を焼き焦がす。その炎が収まると才人達が顔を出した。

「げほっげほっ!…まさか爆発するとは…」

「すまん、『錬金』する場所選びを失敗してしまった」

 ミシェルが『錬金』した時、どうやら重要な機械を壊してしまったらしい。才人達はミシェルの『錬金』を使って穴を開けて侵入したのだ。煙が治まると、アニエスがアンタレスとマグマ星人を見つける。

「ッ!いたぞ!ミシェル!セニカ!ヒラガ!」

 マグマ星人はリムを連れ逃げようとするが、四人に剣を突きつけられ、身動き取れなくなる。才人達がアンタレスとマグマ星人を取り囲むと、ミシェルが怒りのこもった声で言い放つ。

「ここまでだ!リムを返せ!マグマ星人!」

 アンタレスは打開策を探すが一つしか見つけられない。

「巨大化するしか…」

「バカ野郎!そこをウルトラマンに狙われたら即死だぞ!」

 マグマ星人は何か…何か…と考え、何か弱みが無いかを考えた時、ミシェルの正体について思い出す。

「おい!ピット星人てめぇの大事なエレキングだろ!?ほらよ!」

 マグマ星人がリムを入れている絶縁ボールをミシェルに投げつける。ミシェルがキャッチすると、突如マグマ星人のサーベルから光線が出てミシェルを吹き飛ばす。

「うわぁ!」

 すると、突如ミシェルの姿にノイズが入り始め、少しずつミシェルの顔がドロドロと崩れていく。

「なっ!?何故!?…!みっ見るな!見るな!ヒラガ!見ないでくれぇぇ!」

 ミシェルは剣を放り出しその場にうずくまってしまう。突然の事にアニエス達は動くことが出来ない。陣形が崩れてしまう。マグマ星人は自身で作りだしたこの好機を完全に生かす。

「へへっ!今だ!行くぞ!アンタレス!」

 二体は宇宙船内で巨大化、圧倒的な質量で押し潰す。宇宙船の爆発と共に崩れてきた瓦礫にアニエス達は押し潰されてしまった。

「「うわぁぁぁ!」」

 巨大化したマグマ星人は安堵のため息、アンタレスは安堵の尻もちをつく。

「ふぅ~、危うくあの世行きだったぜ!なぁ主催者さんよ、これからどうするんだ?」

(邪魔なこの世界の軍人たちは既に始末してある…大規模な軍事的反撃はありえねぇ、一番邪魔なウルトラマンもぶっ殺した!)

「よしっ!ラストゲームだアンタレス!勝てば賞金十倍だ!乗るか?」

 圧倒的有利な状況、魅力的な条件。これに乗らない者はいない。アンタレスはマグマ星人の手を取る。

「乗った!で、内容は?」

 分かり切っている事を、と思いながらもマグマ星人は高らかに言い放つ。

「決まっている!この星の侵略だ!」

 

 

 

 体が大きく揺さぶられる。名前を呼ぶ声が聞こえる。あまりの騒がしさに才人は目を覚ます。

「ん…?ここは?」

 目に映るのは日の光が差し込む木々。ここは何処だ?と起き上がった途端柔らかい衝撃が才人を包み込む。

「才人ぉ!」

「マチルダ!?何でここに!?」

 才人を包む柔らかい衝撃の正体はマチルダだった。抱きしめながらも、痛みの無いように優しく包み込んでくれている。

「ちょっと心配になって町まで行ったらあんたたちを見つけてね、付けさせてもらったんだよ。そしたら…」

 マチルダが助けてくれたのか。さすがは元盗賊、アニエス他誰も尾行には気付いていなかったが、それがかえって良かったのだ。

「他の皆は!?」

 マチルダはそこだよ、と指を指すが行かないように肩を抑え首を振る。

「今は…しかし、副長殿の本当の姿には驚いたよ…」

 そこではミシェルがうずくまっていた。マントで顔を隠したまま震えているようだ。才人はなおも声を掛けようとするが…

「来ないでくれ!」

 ミシェルの悲鳴とも怒号ともとれる声で拒まれる。セニカが才人の肩に手を置き待つように訴える。

「さっきからずっとこんな感じで…話にもならないんです」

 今度はアニエスがミシェルの腕を掴み、無理にでも立たせようとする。

「立て!ミシェル!どうしたのか理由を言え!」

 しかし、ミシェルはうずくまったまま、顔を上げようとしない。一言だけ呟く。

「戻せないんです…」

「…え?」

「ミシェルの姿に戻れないんです!」

 どうやらマグマ星人のビームの一撃で変身する能力に異常をきたしてしまい、元に戻れなくなってしまったらしい。

「でっでも、副長?それが副長の本来の姿なんですよね?正体は皆もう知っているんですから…」

「そうじゃないんだ!」

 セニカの問いが決めてになり、ミシェルは自身の感情を爆発させる。

「お前たちは美しくていいな…私の醜悪さとは大違いだ!」

「え?」

「私は!私は!ミシェルと融合した時、その魂も混ざり合った!そして気が付いたんだ!ミス・ロングビル、アニエス隊長、セニカ!あなたたちの容姿の美しさと!ピット星人としての己の醜さに!」

 ミシェルは矢継ぎ早に言葉を吐き出す。

「私は鏡を見た!そこに写る私は!化け物だ!銃士隊に入って!アンリエッタ姫様を見て!給仕の女性たちを、魔法学院の生徒達を見て!…あぁぁぁぁ!」

 才人は少し前から気が付いてはいた。が、ここまで苦しんでいる事には気が付いていなかった。人間とピット星人の融合により、ミシェルには二つの価値観が融合し混じり合っている。これによるズレがミシェルの中で大きな苦しみになっているのだろう。

「ピキィィ…」

 リムも心配そうにミシェルのマントを引っ張っている。才人は猛烈にミシェルを救いたい、助けたいという気持ちが込み上げてくる。

(ミシェルさん…あなたはこの星に来てからずっと苦しんできた…誰にも言えず、周りに人がいるだけで…苦しみに襲われるなんて…)

 才人はおもむろに、ミシェルの首元を掴み上げてその手をこじ開け、顔を直視する。

「なっ!?やめてくれ!見ないで!見ないでぇぇっ!」

 大きな複眼、牙の様な鋭い歯。才人にとっては初めて見るピット星人だった。複眼からは大粒の涙が流れだし、救いを求める声がする。

「やめ…てぇ…もういゃ…ふむ!?」

 その瞬間マチルダは目の前で起きたことを理解できなかった。いや、受け入れたくなかった。才人が自分から、進んでミシェルの唇を奪ったのだ。アニエスとセニカは開いた口が塞がらない様子だ。

「ふぇ…んむぅ…っはぁ…」

 ミシェルはいきなりの事に流されるままだ。

「っはぁ!…ミシェルさん…いや、ミシェル!」

「ふぁぃ!」

「君は何でミシェルなんだ?!」

 意味不明の質問に全員が疑問符を浮かべる。

「体がミシェルだからか!?見た目がミシェルだからか!?脳みそがミシェルだからか!?違うだろ!」

 ミシェルは才人の言葉に引き込まれる。

「君の心がミシェルだからだろ!見た目がどうだろうが、どれだけ周りと違っていても関係ないんだ!君は一人の魅力的な女性『ミシェル』なんだ!」

 徐々にミシェルは落ち着きを取り戻していく。

「君がどんな姿をしていようが、俺にはキスしたいくらい魅力的だよ…?」

 才人が思いをぶつけ終わるとミシェルはふと呟く。

「ありがとう…目が覚めたよ、サイト」

「「副長!(ミシェル!)」」

 ミシェルは皆に向き直り改めて礼を言う。

「ありがとうございます。もう、大丈夫。戦えます!」

 そこにはピット星人の姿を隠さない、凛としたミシェル、戦士の姿があった。マチルダは呆けていたが、頬を叩くと気持ちを切り替える。

「まっまま、まぁ元に戻ったのならいいさ。さぁ、奴らを止めないと!」

 マチルダが指さした方を全員で見ると、マグマ星人とアンタレスがトリステインの町に向けて歩き出していた。しかし、セニカが当然の疑問をぶつける。

「でっでも!あんなに大きくなっちゃったのにどうやって!?」

 ミシェルが不敵に笑うと、懐から何かを取り出す。

「大丈夫…自慢の子がいるからね」

 

 

 

 マグマ星人が町に向けて歩いていると、突如甲高い鳴き声が聞こえる。

 

キィィィィ!

 

「なっ!?あれはエレキング!?奴ら生きてるのか!?」

 元のサイズに戻ったリムはアンタレス目掛け走り出す。アンタレスは慌てて中腰になり尻尾の鋏を構えるが、リムはお構いなしに突っ込みアンタレスを吹き飛ばしてしまう。

「ギャァァァ!」

 そのパワーにマグマ星人は腰を抜かす。

(ばっばかな!ある程度の戦力にはなるかと思ってさらってきたが、ここまで何て考えてなかった!)

 そうしている間にもリムの尻尾がアンタレスを打ち付け、痛めつけていく。マグマ星人の余裕が消え去る。

(あり得ねぇ…ここまで強いエレキング何て、知らねぇ、聞いてねぇぞ!まてよ…こいつが生きて巨大化してるって事は…ウルトラマンも生きて…!)

 

 

(そんな…うあぁ…あぁぁぁぁ!)

 

 

 




次回に続きます。お楽しみに。『最終兵器』登場…予定。


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ゼロの使い魔~真心~第22話

続きです。マグマ星人、動揺しすぎて「まてよ」を「まえよ」って言ってますね。
…はいミスです。すいません。直しました。


 アンタレスは鞭の様なリムの尻尾から転がって逃れる。起き上がると、尻尾を頭上に構え火炎放射を放ちリムを火あぶりにしようとする。

「くらえぇ!」

 リムは炎に怯み後ずさりする。その隙にマグマ星人はサーベルを中腰に構えると、リムののどを狙って突撃する。しかし、リムは三日月型の光線を放ち、マグマ星人を吹き飛ばす。二対一の状況で、リムは互角の戦いを繰り広げていた。

「いいぞ!リム!次は尻尾が来る!叩き落とせ!」

 ミシェルの指示がリムのアンテナに届き、その通りにリムが応戦する。完璧なコンビネーションだった。才人も変身して加勢しようとするが、すぐそばにアニエスとセニカがいて変身できなかった。

(何とかして離れられないか?)

 マグマ星人は、ウルトラマンが出てこない事で、少しだけ心に余裕が生まれる。やはりウルトラマンは死んだのだろう、と。

「ようし!アンタレス!一気に焼き払え!エレキングに指示しているピット星人を殺せば戦力は格段に落ちる!」

 アンタレスは更に火炎放射の火力を上げ、ミシェルを焼き殺そうとする。アニエスとセニカを炎から逃すために、マチルダは二人を連れて横っ飛びに逃れる。もちろん、マチルダは全てを分かった上での行動だ。

(ありがとう、マチルダ!)

 才人はミシェルを抱えて反対方向に飛びのき、ミシェルを木の影に降ろす。

「俺も行くよ」

 才人は変身しようとする。しかし、そこでミシェルから声を掛けられる。

「ありがとうサイト!おかげで私も戦える!リムと私が付いているんだから、絶対勝つぞ!」

 才人はもう心配ないな、と安心すると、デルフリンガーを腰元に構える。

「ああ!頼りにしてるよ、ミシェル!よし、行くぞデルフ!」

「おう!久しぶりに喋ったぜ!相棒!」

 才人はデルフリンガーを振り上げ頭上に掲げる。

「コスモーーース!」

 

 

 アンタレスはリムの両腕を抑え、足を踏みつけ、身動きをとれなくする。マグマ星人が尻尾を押さえている間に、アンタレスはリムの肩口目掛け鋏を突き刺そうと構える。

「ギェェェ!」

 アンタレスが全力で振りかぶった時、コスモスが巨大化し、マグマ星人に体当たりして弾き飛ばしリムの尻尾を開放する。

「デァァ!」

 コスモスは即座に反転、飛び上がると、アンタレスの鋏に目掛けて、エネルギーを溜めて強化した全力の飛び蹴りを直撃させる。その一撃で鋏は根元から千切れてしまった。

「ギャァァ!」

 痛みでのけぞるアンタレスだが、後ずさりできずつんのめる。アンタレスが踏みつけていたはずのリムの足が、気が付かない間にアンタレスの足を踏みつけていた。

「グォ!?」

 抑え込んでいたはずのリムの腕に、逆に掴まれ逃げられなくなる。もがいているとアンタレスは足元から体を這いずり回る感覚に襲われる。

「グギャォォ!」

 リムの尻尾がいつの間にかアンタレスに纏わりついていた。万力の様に締め上げられ苦痛の叫びが出るが、その光景を見たマグマ星人はアンタレスがどうなるか即座に分かってしまった。

(くそっ!生きてやがったかウルトラマン!マズイッ!今戦力を失う訳にはいかねぇ!)

 マグマ星人はリムを後ろから突き刺そうとするが、目の前にコスモスが現れ、蹴りでサーベルを弾き飛ばされてしまった。

(あぁ!)

 その瞬間、光が瞬き世界が白く染まる。何が起きたかは考えるまでも無かった。光が治まると、マグマ星人にとって絶望の光景が待っていた。

「あ、あぁ…アンタレス…」

 リムの凄まじい電撃で黒焦げになり、絶命したアンタレスが横たわっていた。もう、マグマ星人と共に戦ってくれる存在はこの星にいなかった。マグマ星人がその場にへたり込むと、リムとコスモスが同時に振り向く。

(もうダメだ、おしまいだぁ…)

「ハハハッ!ヒャハッ!ヒヒヒヒッ!」

 マグマ星人は狂乱し、笑い出す。何事かとリムとコスモスが身構えると、マグマ星人はサーベルの小手の部分を開き、そこにある赤と黒のスイッチを同時に押す。

「ヒヒッ…これで『最終兵器』が動く…もう終わりだぁ!何もかも、ぶっ壊してやる!ぶち壊してやらぁぁぁ!」

 

 

 同時刻、マグマ星人(本隊)宇宙船内。突如響き渡る警報音。

「何事だ!」

 オペレーティングルームに飛び込んできたマグマ星人少尉が、他のマグマ星人に事態の説明を求める。

「大変です!『最終兵器』を拘束する鍵が解除されました!」

「何!?転送装置が起動していないのにか!?」

 しかし、調べると転送装置も起動している。どうやら同時に起動した様だ。しかし、これでは問題があった。

「転送装置は起動しても、隊長の位置をレーダーが見つけてから転送が始まるんだ!それより先に拘束を解くなんて!」

 その時、宇宙船が大きく揺れる。『最終兵器』が宇宙船内で暴れ出した様だ。

「うわぁ!隊長、何故!?何故こんな事を!」

 スイッチは隊長しか持っていない。冷静な判断が出来なくなる、隊長がそこまで追い込まれていたのだろうか?と考えた所で、オペレーティングルームでも爆発が起きる。吹き飛ばされたマグマ星人がフラフラと立ち上がり、話しかけてくる。

「少尉殿!転送装置を早く起動させる事は出来ないのですか!?」

「駄目だ!アレは『最終兵器』の体内に埋め込んである!」

 その時、また宇宙船が大きく揺れる。崩れてくる宇宙船の部品にマグマ星人数人が押しつぶされる。重力発生装置が働いている副作用だ。

「隊長…そんな…こん…な…最後…何で…」

 五秒後、マグマ星人の宇宙船は大爆発を起こし、この宇宙から消滅した。

 

 

 

 不穏な雰囲気を感じたコスモスが、何かされる前に先手を打とうと飛び出すが、その瞬間、マグマ星人の周りに虹色の光が溢れる。

「ハハハッ!来たぞ!我が『最終兵器』!こいつは俺でも操れない!全てを滅ぼすまで止まらない破滅を体現した怪獣だぁ!」

 虹色の光から怪獣が現れる。転送されてきたのは赤い体と黒い体の巨体、見た目はその体色以外違いが無い。特徴的な背中の刃、頭の角、筋肉質な体。

 

 

「行けぇ!レッドギラスjr!ブラックギラスjr!」

 

 

(jr!?あの二体の子どものだっていうのか?!)

 レッドギラス、ブラックギラス。かつてマグマ星人の配下として地球に連れてこられ、日本を沈没させようとした恐ろしい怪獣だ。その被害の大きさから才人の世界の教科書に載るほど有名でもある。しかし、もっと有名な事実が一つ。

(かつてウルトラセブンを倒した事もある強力な怪獣!)

 その時のウルトラセブンは度重なる戦いで疲弊していたのだが、それを知る者はほとんどいない為、世間にとってはウルトラセブンを倒した強力な怪獣という認識しかない。マグマ星人は高笑いをしながら光の無い瞳で虚空を見つめている。

「ハハハハハッ!こいつらは特殊能力のほとんどを受け継がせられなかったが、その分パワーが何十倍にも強化されている!さあ行け!全てを壊してしまえ!この星を滅ぼせ!草木一つ残すなぁ!」

 その時、二匹の牙がマグマ星人の首元に突き刺さる。リムとコスモスは突然の事で面喰って動けなくなる。しかし、その間にも二匹の牙がマグマ星人を襲う。骨を砕き、肉を引きちぎられる音が響く。ゴキンッ!という鈍い音と共に、マグマ星人の首が体から離れる。そのまま内臓を引きずり出され、腕や足をもぎ取られてしまい、マグマ星人は断末魔を上げる事無く肉塊に変えられてしまった。

(何て凶暴な奴らだ…主人であるはずのマグマ星人を殺しちまった!)

 その様子を見ていたセニカは気絶してしまった。マチルダ、アニエスも嘔吐感を抑えられない。そんな中、二匹は大地を震わせる程の咆哮を上げるとコスモス、リム目掛け突進してくる。

(来たっ!)

 コスモスは突進を横っ飛びに躱す。しかしリムは躱せず、まともに突進を喰らってしまう。受け止められるという判断だったのかは分からないが、完全に力負けし吹き飛ばされてしまった。

「リム!」

 ミシェルはリムが押し負けた事に驚愕していたが、慌てず次の指示を送る。

「足元を狙え!転ばせるんだ!」

 リムは長い尻尾を薙ぎ払い、二匹を転ばせようとする。ドシンッ!と直撃した鈍い音が響き渡る。しかし当たったブラックギラスjrは何事も無かったかの様に直立している。

「「グギャアァァ!」」

 レッドギラスjrはリムの尻尾を掴み上げるとジャイアントスイングで放り投げる。コスモスは空中で受け止めるが、そこへブラックギラスが跳躍して来て、その牙で食らいつこうとする。コスモスは慌てて空中で体をひねり躱して着地する。

(何て跳躍力だ!昔地球に来た個体よりパワーが上がってる!?)

 レッドギラスjrはコスモスに狙いをつけたようで、重点的に攻撃してくる。ブラックギラスjrはリムに足を攻撃された事が頭に来たようだ。執拗に狙い続ける。

「グギャアァァ!」

 レッドギラスjrの角からの光線をコスモスは側転でかわしていくが、それを見越していたかのようにブラックギラスjrが回り込み突き飛ばしてくる。

「デァァ!?」

 腕四つで組み合ったリムとブラックギラスjrは一歩も譲らない力比べの末、リムが押し負け投げ飛ばされる。

キィィィィ!

 二体は互いに叩きつけられその場に崩れ落ちる。それを見てレッドギラスjrは有利を悟り、ブラックギラスjrと抱き合う。ミシェル達は何が起こるのか分からないでいるが、コスモスは何が起きるのかすぐに分かった。

(あれは…マズイぞっ!)

 抱き合った二匹は回転を始めその回転数を上げていく。最強の合体技、『ギラススピン』だ。迫りくる最強の一撃を避けようにも、リムとコスモスはダメージで動けない。直撃を喰らい天高く打ち上げられ、地面に叩きつけられる。

キィィ…

 リムはよろよろと立ち上がるが、ダメージが大きすぎたのだろう。限界が来てその場に崩れ落ちる。しかし、二匹はなおも追い打ちをかけようと『ギラススピン』の体勢に入る。カラータイマーが警告音を鳴らし始めたコスモスは最後の賭けに出る。

(ウルトマンレオがあいつらを倒した時…やってみるしかない!)

「デァァァァ!」

 コスモスは飛び上がると二匹の上空で急速回転を始め、一気に急降下する。

「デァァ!(きりもみキック!)」

 ミシェル達は起死回生の一手だと歓喜する。横はダメだが上はがら空きだ、と歓喜した時…

 

 

 突如、『ギラススピン』の回転数が三倍以上速くなる。そのあまりの速さに二匹の頭上から竜巻が発生する。

 

 

(何!?ぐわぁぁ!?)

 コスモスは突然の攻撃を躱せず全身に竜巻が直撃する。コスモスは木の葉が巻き上げられるかのように、空高く打ち上げられ、全身を切り刻まれる。受け身も取れず無残にも地面に叩きつけられてしまった。コスモスはそれだけのダメージを受けながらも立ち上がろうとするが、指一つ動かせない。ミシェル達は固唾を飲んで見守るが…

 

 

 

 そのままカラータイマーの警告音が消えてしまい、コスモスは完全に沈黙した。

 

 

「「才人ぉぉ!(サイトォォ!)」」

 

 

 マチルダとミシェルの悲痛な叫びはブラックギラスjr、レッドギラスjrの勝利の咆哮にかき消されてしまった。

 




続きます。きりもみキックのきかないギラス兄弟って、結構強いんじゃないでしょうか?


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ゼロの使い魔~真心~第23話

お待たせしました!続きです。物凄い悩みましたがようやく出来ました。どうぞ読んでいって下さい。


 アニエス、セニカは森の中を全力で走る。コスモスを倒したブラックギラスjr・レッドギラスjrは、人が多くいるであろうトリステインの町目掛け進撃していた。トリステインの町からわずか数キロしか離れていない現在位置から、二匹を追い抜いてアニエス達が町に到着する事は不可能だ。

「はあっ!はあっ!待って下さい、たいちょぉ!」

「しゃべる前に走れ!セニカ!」

 二人はトリステインに残っている銃士隊に、迫る危険を伝えるために、見張りが狼煙を視認出来るところまで移動していた。

「狼煙さえ確認されれば、彼女たちが避難誘導をしてくれる!急げ!」

 銃士隊は、度重なる怪物被害への対応の一環で、住民の避難訓練を徹底的に行っていた。狼煙さえ届けば人的被害はゼロになるだろう。移動中、セニカはアニエスの後を追いかけるので精いっぱいだった。しかし余裕のない中でも、セニカはどうしても気になる事があった。

「副長とミス・ロングビルは大丈夫でしょうかっ!?ウルトラマンの蘇生を試みるって言ってましたけど!」

 アニエスは足を止めずに話す。

「二人は本気だった!あの思いを信じるしかないだろう!他に出来る事も無いんだ!」

 二人が話している間に、開けた丘に到着する。セニカが即座に可燃物を用意し、アニエスが火を手際よく起こす。瞬く間に狼煙が立ち上る。

「頼む…気付いてくれよ…」

 アニエスは、祈る事しか出来ない自分が不甲斐無かった。

 

 

 

マチルダとミシェルは無力感に包まれていた。コスモスが敗れた時、絶望感に打ちひしがれた。大切な物を、愛する者を奪われ、踏みにじられたのだ。だが、諦めていなかった。自分たちを絶望から救ってくれた才人を、諦める気にはなれなかった。しかし、確かな方法が無いのも事実だった。

「蘇生ったって、どうすればいいんだい?あたしのゴーレムの心臓マッサージは効果無かったし…」

 ミシェルは、縮小光線銃で小さくしたリムを抱えながらため息をつく。

「リムの電気ショックもダメだった…」

 二人は、万策尽きた、という状態だった。

「なぁ副長さん?ウルトラマンについて何か知らないかい?」

 ミシェルは首を横に振る。

「流石に知らないさ。ウルトラマンは有名ではあるが、あまり詳しい情報は明らかになっていないんだ…」

 そうか…、とマチルダが呟くと、暫く沈黙が続く。それを破ったのはミシェルだった。

「明かりはいらないだろう?まだ昼だぞ?」

 マチルダもほぼ同時に声を掛ける。

「光?別にまだ…」

 

 

「「ん?」」

 

 

 マチルダはきょとんとしている。

「副長さん…?あたしは何も…」

 ミシェルも同様だ。

「ミス・ロングビル?…いえ、私も何も…っ!まさか!テレパシー!?」

 二人は意識を集中し、微かに聞こえるその『声』に耳を傾ける。

 

 ひ…か…

 

 ひ…か…り…を…タイ…マーに…

 

「これは、間違いない!才人だ!才人の声だ!」

 二人は才人が生きていた事に歓喜する。すぐにミシェルが何かを思いついたのか、杖を取り出す。

「ミス・ロングビル!『錬金』だ!鏡を作って太陽の光を集めよう!カラータイマーに照射すれば、エネルギーが戻るに違いない!」

 ミシェルは杖を掲げると、いくつもの鏡を『錬金』で作り出す。マチルダは太陽の位置から角度を計算、カラータイマーに出来るだけ多くの光を集められるように鏡を配置していった。

 

 

 

 

 暗い、暗い、光の無い…寒さと、息苦しさしかない世界。そこで才人は目を覚ます。見回そうにも、何も見えない。光が、暖かさが、欲しかった。手を伸ばしもがき、光を求めていると、声が聞こえる。

「大丈夫だよ、相棒。落ち着け」

「デルフ!?いるのか?」

 いつも一緒だろ、とデルフリンガーが呟くと、才人に現在の状況を説明する。

「…と、まあこんな感じだね」

 才人は、自身の体たらくに落ち込んでしまう。

「そっか…俺、また負けたのか…」

 ドロボンの時から成長してないな…と、自嘲する。しかし、デルフリンガーはあっけらかんと笑い飛ばす。

「何でぇ相棒!おでれーた!気分はもう、救世主ってかい!」

 才人は、デルフリンガーの突然の嘲りに戸惑う。

「なっ何だよ!?デルフ!?」

 デルリンガーは言い聞かせるように話し始める。

「なぁ相棒、お前さんが戦い始めたのは高々ここ一、二ヶ月だろ?言っちゃぁまだまだ、しろーとだ。むしろよくやってらぁな。」

 だけど、とデルリンガーは続ける。

「まだ一人で何でもできる訳ねぇだろ?他の奴らを頼って少しずつ強くなりゃ良い。負けたっていいさ、逃げ出したって良い。仲間を頼れ、一人で抱え込もうとすんな。な?相棒、そう…落ち込むなや?」

 デルリンガーは励ましてくれていたのだ。そう気付いた才人は、もう少し言い方が無いか?と、笑みが零れる。その時、遠くから声が聞こえる。

「ほら。姉御さんたちが呼んでるぜ」

 才人は、遠くに小さな光が差し込んできた事に気が付く。声は微かにしか聞こえないが、誰のものかはすぐに分かった。

「マチルダ…ミシェル…」

 入り込んでくる光がどんどん強くなり、才人を包み込む。二人の想いが込められた優しい光、冷え込んでいた才人の心が暖かくなるのを感じた。

「…ありがとよ、デルフ、ミシェル…マチルダ。おかげで、まだ戦えそうだ!」

 才人は光を取り込み、自らの光に変換、より巨大なエネルギーを生み出す。

 

 

「ウオォォォォ!」

 

 

 ミシェルはマチルダに怒鳴りつける。

「もっとしっかり持って!ずれてるよ!」

 マチルダは逆に怒鳴り返す。

「そっちこそ!ちゃんと持って!あたし一人で持ってるようなもんじゃないか!」

 ミシェル達は、コスモスのカラータイマーに太陽の光を集める鏡を『錬金』したまでは良かったが、大きく、バランスが取れず、重いので、二人がかりで支えていたのだ。

「どうだい!副長さん!何か変化あった!?」

 マチルダが聞くと、ミシェルはちょっと待って、と目を細めながらコスモスを覗き込む。

「ッ!、カラータイマーが赤く点滅してる!エネルギーが戻ってるんだ!もうちょっとだよ…?!」

 その時、コスモスの体がまばゆいばかりに輝きはじめる。

 

 

 ありがとう…マチルダ…ミシェル…行ってくる!

 

 

 コスモスのテレパシーに、頷いて答えた二人は、光る光球となったコスモスを見送った。

 

 

 

 戦いの傷跡深いトリステインの町に、レッドギラスjr、ブラックギラスjrはついに到着、逃げ回る住民を攻撃、蹂躙し始めた。しかし、既に銃士隊が動いていた。

「急げ!押すんじゃない!落ち着いて避難するんだ!」

 アニエス、セニカの狼煙が届いたのだ。避難は九分九厘終わり、残るはわずかになっていたが、流石に間に合わない。銃士隊員の内何人かがマスケット銃で目玉を狙い、ブラックギラスjr、レッドギラスjrの注意を引く。その間に逃げ遅れた住民を他の銃士隊が逃がす作戦だ。

「こっちだ化け物!」

 人間からのこざかしい小賢しい抵抗に腹を立てたのだろう、レッドギラスjr、ブラックギラスjrはその場で抱き合い、回転を始める。

「なっ!?なん…うわぁぁぁ!」

 二匹はその場で回っているので、町への直接のダメージは無い。しかし、『ギラススピン』による突風により、町がえぐられ、砕かれ、銃士隊員を吹き飛ばす。このままでは頭から地面に落ちる。死を覚悟した銃士隊員だが…

 

 突然、柔らかい感触に包まれる。

 

「間に合ったか!」

 駆け込んできたアニエスが、すんでのところで受け止めたのだ。見ると横に疲弊しきったセニカもいる。 

「た…たい…ちょ…はぁ、はぁ…も、無理ですよ…」

「現状は!?」

 アニエスは、セニカの訴えを半ば無視して、銃士隊員に状況報告を求める。

「避難は殆ど終わりました!しかし、化け物をどうするかは…」

 大丈夫だ、とアニエスが言うと同時に空に巨大な光球が現れる。

(やったか…流石だな、ミシェル…)

 

 

「デァァ!」

 

 

 光球がコスモスの姿に変わり、光の粒子を右手に集中、地面に着地と同時に解き放つ。

(フルムーンレクト!)

 光の粒子が、二匹を包み込む。しかし、『ギラススピン』で全ての粒子を吹き飛ばしてしまった。二匹の咆哮がトリステインの町を震わせる。

(効かない…あいつら生まれ持っての凶暴さ、残忍さって事か…)

 頭上にも死角は無い。どうすれば、と考えているとレッドギラスjrは後ろを向き、逃げた住民たちの方へ向かっていく。

(っ!待て!)

 コスモスは走り出すが、ブラックギラスjrが立ちふさがる。にたりと口角を上げるブラックギラスjr。それはある事実を示していた。

(こいつら!わざと人間を襲って見せる気か!)

 なんて残忍な事を…コスモスは怒りに震える。…内側から溢れ出る怒りの感情。

(これは…相棒、お前さんの努力が実る時が来たぜ…)

 コスモスは両腕を上空に向け、太陽の光エネルギーを全身で吸収する。

(マチルダ、ミシェル!俺に力を貸してくれ!太陽よ!俺に力を、皆を守れる力を!)

 

 

「デァァァァ!」

 

 

 コスモスの体が半透明になり、筋肉が何倍にも膨れ上がる。体が二回り近く大きくなり、頭部に三日月の様なトサカと、赤いクリスタルが生まれる。最後に体の青いラインの殆どが赤く染まり、左右非対称のカラーリングになる。

「デァァ!」

 そこには以前とは違い、力強さ溢れる巨体がいた。その変わりようにアニエスも驚いており、言葉が出ない。ブラックギラスjrも突然の事にたじろいでいるが、牙を向きだしにして喉を狙い突撃してくる。

「フンッ!」

 コスモスがその剛腕を振りぬく。それだけでブラックギラスjrの角をへし折り、地面にめり込ませてしまった。何事かと後ろを振り向いたレッドギラスjrは、ブラックギラスjrの姿を見て戸惑うが、自身の兄の惨状を見て怒りに吠える。

「グギャゴォォ!」

 コスモスはレッドギラスjr向け走り出すが、それよりも速くレッドギラスjrが懐に飛び込み、コスモスの喉目掛け角を突き刺す。デルフは、簡単に懐に入られたコスモスの、動きの鈍さが気になった。

(…ははーん、こりゃ相棒の頑張りすぎたな。今まで鍛えてきたパワーを反映できたのはいいが、筋肉の付きすぎだ。こんなんじゃ、まともに動けないな…っま、いいか。今は)

 コスモスの喉に突き刺さったはずのレッドギラスjrの角。それはコスモスに触れた途端に砕け散り、逆にレッドギラスjrが吹き飛ばされる。苦痛に悶えるレッドギラスjr、その体を片腕で掴み上げると動けないブラックギラスjrに向け投げつける。

「「グギャォォ!」」

 凄まじいダメージを受け、痛みの悲鳴を上げる二匹。しかし、互いに支えあって立ち上がると『ギラススピン』の体勢をとる。回転が速くなりコスモスに迫りくるが、一歩も動かずに静観している。

「何をしている!避けろ!」

 アニエスの叫びに、デルフリンガーは一人呟く。

(大丈夫、増えすぎた筋肉は伊達じゃねえ、だろ?相棒…)

 

 ドガァ!

 

 『ギラススピン』の直撃!…しかし。

 

「デアッ!」

 コスモスは真正面から受け止め、完全に『ギラススピン』を静止させる。よく見るとコスモスの指が二匹の体に深々と突き刺さり、鮮血が流れ出していた。コスモスは指を引き抜くと両腕を振りぬき、二匹を地面に沈ませる。

「「グガァ…」」

 もう体を動かすことも出来ない。そんな二匹にコスモスは両拳を突きつけ、その間にエネルギーを溜めていく。それは球状に固まり、炎の超破壊球弾となる。

 

「ドアァァ!(止めだーー!)」

 

 

 打ち出された一撃はレッドギラスjrブラックギラスjrに直撃、その体を木端微塵に吹き飛ばす!断末魔の叫びを上げる事無く、二匹は消滅した。

 

 

(やったぜ、マチルダ…ミシェル…全部、終わった…)

 コスモスは一人、心の中で呟くと、その姿を消した。

 

 

 

 




続きます。今回からぶっコロナ、登場です。


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ゼロの使い魔~真心~第24話

続きです。今回から新しいお話です。キャラクターの性格がだいぶ違います(今更)ですが、今回は顕著です。

※脱字直しました。失礼しました。


 この日、アンリエッタはゲルマニア訪問からの帰路についていた。その馬車の中、アンリエッタはひたすらにため息をついていた。

「これで本日ひゃ…」

「言わないで…マザリーニ枢機卿…」

 今回の、ゲルマニア訪問で、トリステイン復興支援を取り付ける為に、ゲルマニアの皇帝に嫁ぐ事に決まったのだ。しかし、これには他にマザリーニ枢機卿の一つの思惑があった。

「目下、ゲルマニアとの同盟は急務なのです。ご理解いただきたい」

 アンリエッタは口をへの字に曲げて言う。

「分かってますよ、アルビオンでの『革命』でしょう?今のトリステインだけで戦う事は出来ませんもの」

 アンリエッタは再びため息をつく。何か物思いにふけっている様だ。実は一回の訪問で全てが上手くいったのはもう一つの理由がある。その事を考えていた。

「まさかゲルマニア、その他諸国にも怪物が現れていたとは…」

 ゲルマニア、ガリア、ロマリアにも怪獣が現れているらしい。それらは各軍隊が撃退したらしい、あくまで『撃退』だ。倒してはいないのだ。

「トリステインに現れた『ウルトラマン』、これについてやたら質問されましたからなぁ…」

 ゲルマニア、その他諸国にとっても、怪物を倒してくれる『ウルトラマン』の存在は是が非でも知りたい情報のようだ。

 そんな会話中、二人に伝令が届く。

「何事だ?…何っ?トリステインの町が!?」

 アンリエッタは頬杖をつきながらマザリーニ枢機卿に尋ねる。

「また何か…?」

 マザリーニ枢機卿は言いにくそうに答える。

「実は…我々のゲルマニア訪問中にも、怪物の襲撃があったようで…『ウルトラマン』が全て倒してくれたようですが、…町は…」

 マザリーニ枢機卿から被害状況の資料を受け取ったアンリエッタは、もういいです、と言うと椅子の上に寝転がる。

「姫様!何とはしたない!」

 アンリエッタの瞳に光は無く、乾いた笑みで答える。

「ははは、今くらい良いではないですか…あぁ、もう嫁ぐどころか、国ごと売ってしまわないと、いけないのではないでしょうか?」

 マザリーニ枢機卿は痛ましく思い、一粒涙を流す。自分はなぜこんなに無力なのだろう。姫とはいえ、まだ十七歳の少女にこれだけの負担と苦しみを与えなければならないとは…

「姫様起きてください…ワルド君!」

 マザリーニ枢機卿は同行していた魔法衛士隊、グリフォン隊隊長ワルドを呼び出す。ワルドが馬車のすぐそばまで来る頃には、アンリエッタは起き上がり衣服の乱れを直していた。

「すまないが先行してトリステイン魔法学院へ行ってくれないかね?そこにいるラ・ヴァリエール嬢に文を届けてもらいたい」

 ワルドは一瞬驚いた表情をするが、すぐに平静を装う。

「了解しました、猊下」

 ワルドは文を受け取ると隊を離れ、グリフォンと共に飛んで行った。それを見送るとアンリエッタはマザリーニ枢機卿をにらみつける。

「ルイズに何様ですか?」

「いえ、我々が帰国しだい、すぐに王宮に来るように手配を。残念ながら、町にこれだけの被害が出ているとなれば寄り道する暇はありません。本来なら魔法学院に寄り、休養をと思っていたのですが…」

 アンリエッタはきょとんとする。そして直ぐにほほ笑む。

「へぇ…あなたも少しは気が利くのですねぇ」

 いえいえ、とマザリーニ枢機卿は肩をすぼめた。

 

 

 

 マグマ星人との戦いから早一週間。色々あったが、ミシェルは今も銃士隊で働きながら、日々頑張っているらしい。もちろんリムも一緒だ。ペットとして飼っているらしいが、他の人間に不思議がられると、軽い催眠術で誤魔化しているようだ。それでも不都合がある時は、セニカとアニエスが正体を知っている分、協力してもらっているらしい。

「ミシェルさんが救われて良かった」

 この一言を聞いたマチルダが、キスの件も有り問い詰めて来たが、何とかして誤解を解いた。実に一時間も掛かってしまったが。それ以来、マチルダは会えるときはやたらと引っ付いてくるようになってしまった。まぁ、才人は二つの柔らかい感触にご満悦だったので、拒みはしなかったが。

「また会おう、サイト!」

 ミシェルと別れ際にした約束。それを守る意味も込めて、才人は暇が出来れば、町に行って復興作業や銃士隊の手伝いをしていた。その度にルイズが睨み付けてくるが。

 

「~~~~♪」

 そんなある日、才人はマチルダの代わりに花の世話をしていた。普段マチルダが忙しい分、手伝いを申し出たのだ。今はコスモスの花と、ブーゲンビリア、チグリスフラワーを育てているのだ。

「しっかし、チグリスフラワーね、珍しい花だなぁ、地球では見た事ないぜ。しかも百年に一度か…上手くいけば直ぐに咲くらしいけどなぁ…」

 マチルダ曰くサハラから来たらしい。サハラとはこの世界での砂漠地帯との事。そんな花でも咲かせられるかもしれないとは、シエスタの故郷の土とはどれだけすごいのだろう。

「こりゃあ長い付き合いになりそうだな!」

 才人は必ず咲かせて見せるぞ!と決意を固めていた。

「そろそろいい頃だな」

 才人はブーゲンビリアの花を一房取ると、ルイズの自室、の前にあるキュルケの部屋に向かう。コンコンと軽くドアを叩く。

「…入るぜ?…いいか、キュルケ?」

 ドアから出てきたのはキュルケではなくタバサだ。

「…また、来てくれたの…?」

「ああ、流石に心配でな…」

 キュルケはツルク星人の一件以来、男性を才人以外近づけなくなり、部屋に引きこもってしまった。いつまでもキュルケと一緒にいれない才人は、励ますために、こうして時々花を届けるようになった。ルイズもこれに関しては何も言わなかった。

「…ありがとう。ブーゲンビリアの花言葉は…」

「『情熱』、あいつにピッタリさ」

 才人は、ブーゲンビリアをタバサに託すと、ルイズの所に戻る。キュルケが元気になる事を、立ち直る事を信じて。

 

 …その夜、魔法学院に一人の来客があり、マチルダが対応に当たっていた。魔法衛士隊グリフォン隊、隊長ワルドだ。

「お疲れ様です、ワルド子爵。お急ぎのご用件ですか?」

 マチルダに聞かれたワルドはいや、と一言答える。

「そこまで急ぐ事ではない。だが、今夜中にミス・ヴァリエールに合わせていただけないだろうか?姫殿下からの親書があるのだ」

 それを聞きマチルダはそういう事なら、と面会を許す。

「ただし!もう時間も遅いのであまり長くならないようにして下さい。彼女も学生ですので」

 気迫が込められたマチルダの態度に、思わずワルドはたじろぐ。

「あっああ!そこはわきまえるさ!」

 少し怪しい反応になってしまったかな、と少し後悔したワルドだった。

 

 コンコンッ!

 

 ワルドはルイズの自室の扉を叩く。

「久しぶりだな…当時彼女は十歳、覚えているだろうか…」

 ドアが開くとワルドは精一杯の笑顔で対面しようとする。…が、出てきたのはルイズでは無くパッとしない顔の少年だった。

「あれ?どちら様ですか?」

 少年はこちらが誰かわからないようだが、それはこちらも同じだった。それよりも問題の事がある。

「ここはミス・ヴァリエールの自室のはずだが…」

「ああ、俺はルイズの使い魔で、ここで厄介になってます」

 この一言がワルドの琴線に触れる。

「という事は…ここで二人一つ屋根の下…?ふざけるな…」

「え?」

 突如怒り狂ったワルドは少年、才人に掴みかかった。

「え?え!?何!?何事!?…ワルド子爵!?」

 騒がしさに驚いて飛び出してきたルイズが見た物は、幼き日以来の再会となるワルドが、才人を押し倒している様子だった。

「あっいや、ハハハ、久しぶりだねルイズ…」

 

 

 

 才人は訳が分からなかった。突然現れた貴族の男が押し倒してきたと思えば、そいつを見たルイズは顔を真っ赤にしてド緊張している。何でも、ルイズの『婚約者』らしい。才人はとりあえず部屋の隅で座って見ている事になった。

「そうかそうか!彼は使い魔で、そう言った関係ではないのだね!」

 ワルドは何か機嫌が良さそうだ。会えなかった間の事を喜々と話し始める。しかし、ルイズはごにょごにょ呟いている。

「あの…ワルド子爵?こっ婚約っていっても、その、そのっ親が決めた事…それに、好きと言ったのも子どもの、あっ、憧れの様な物で…」

 ワルドは聞こえていないのか、話すことに夢中なのか、まったくもって耳に入っていないようだ。すると、部屋の隅の才人に目線が写る。才人が気が付くと、ワルドは不自然な瞬きを繰り返す。

(何だ…?)

 その時、背中のデルフリンガーが囁く。

「気を利かせろってことだよ」

 才人はああ!と気が付く。

「すいません。気が付かなくて、今お茶を入れますね」

 ワルドはずっこける。

「そうじゃないだろ!」

 才人は、言われて赤面する。

「えっ、ああ!そういう事!ハイハイ!ごめんなさいね!?」

 才人は慌てて部屋を出ようとする。しかし、サラッとルイズに呟く。

「頑張れよ!お前にとっちゃ、滅多にないチャンスだ!」

「なっ!?あたしそんなんじゃ…」

 いいから、いいから、ごゆっくり~、と才人は部屋を出た。少し気まずいルイズはテーブルを叩くように立ち上がり、真っ赤な顔でワルドに話しかける。

「そっそそそ!それでごごごごごご用件は!?」

「あっああ!実は…」

 

 

 

 才人は、部屋を出てからどうしようか?とデルフリンガーに尋ねようとするが、その時才人の腹の虫が鳴る。

「シエスタの所に行くか、何か食べさせてもらおっと」

 才人はシエスタのいるはずの厨房にやって来る。時間も少し遅いがまだいるはずだ。

「シエスタ~!何か残って…あれ?」

 シエスタという単語を聞いた途端に厨房の雰囲気が極端に暗くなる。

「どっ、どうしたんです?マルトーさん?」

「ああ、『我らが剣』か…実はな…」

 マルトーというのは、この魔法学院のコック長だ。ギーシュとの決闘以来、才人の事を『我らが剣』と呼び、食事の面倒を見てくれていた。彼が言うには…。

「昨日シエスタが連れていかれた!?」

「ああ、王宮の勅使のジュール・ド・モットって奴がな…いつも気に入った平民の女を買って、持って行っちまうのさ。夜の相手をさせる為に!」

 マルトーは壁に拳を叩きつける。相当悔しい様だ。

「あの子がどんな目に合うかよくわかってるのに…俺たちは何も出来なかった!貴族と平民ではよくある事だ…そんなんで納得できるか!」

 すまない、とマルトーは呟く。

「シエスタがこれを…『我らが剣』にってさ…」

 それは手紙だった。別れをつづったのだろうか、シエスタの心境を考えると才人は苦しくなる。が、手紙を開けると才人の表情が一変する。

「マルトーさん…モットって奴は何処にいるんですか…?」

「え?」

「何処にいるんですか!」

 マルトーからモットの屋敷の場所を教えてもらうと、才人は厨房を飛び出し全力で走り出す。遠くからマルトーが止めるように叫んでいるが、それを聞いている暇はなかった。

「おいおい、相棒!どうしたんだ?何て書いてあったんだ!?てか、相棒字読めるのか!?」

「あぁ、すごいことが書いてあったよ!」

 

 

 手紙にはこう書かれていた。

 

 

 

「彼女は預かる。取り返したくば、我が屋敷まで来るのだ。ウルトラマン」

 

 

 

 才人の世界の言葉で…。

 

 

 

 




次回に続きます。モットさん?登場です。ワルドの違和感、すごいですよね。ゼロの使い魔~真心~ではこれで行きます。ご容赦ください。


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ゼロの使い魔~真心~第25話

続きです。書いてて、後半だれてしまっているかもしれませんが、どうぞ読んでいってください。


 才人は双月の明かりを頼りに、モット邸に向かう。馬は眠っていて、無理に起こせない為、ガンダールヴとウルトラマンの力、二つ合わせての全力疾走だ。

「相棒、体力持つかい?」

 デルフリンガーは少し心配そうだが、才人は至って平気だった。

「大丈夫さ、それよりもシエスタが心配だ!」

 デルフリンガーは、少し焦っているように見える才人に、再度問いかける。

「何て書いてあったんだい?あの手紙にはよ?俺っちは読めなかったが…」

 才人は叫ぶ。

「脅迫だよ!シエスタを返してほしければって!しかも俺の世界の言葉で書かれていたんだ!敵は俺たちを狙ってるんだよ!」

「おでれーた!宣戦布告とはなぁ!相手さん、よっぽど自身があるとみえる」

 デルフリンガーはあまり緊張感を持っていないようだ。余裕綽々という感じだ。

「おいおい、デルフ!少しは焦れって」

 デルフリンガーは少し黙り込むと、尋ねるように聞いてくる。

「なぁ、相棒?お前さん、真正面から乗り込むつもりかい?」

 え?、才人は質問の意味が分からない。

「やっぱりね。その気満々だったろ?いいか、こういう時は人質かっさらって、ハイさよなら。これが一番だ」

 その後向こうから攻めて来たら?と才人に問われたデルフリンガーはケラケラ笑って答える。

「そんときゃ、返り討ちにしてやれ」

 

 

 

 数分後、モット邸。才人は、門番がいる入り口を遠目で見る事の出来る木の上で息を整えていた。

「はぁ…はぁ…あそこが、入口か…」

 見ると、入り口は見張りが厳重だが、その他は比較的薄い。横の高い壁の所には人は一人もいない。

「まっ、あんな壁よじ登ろうって奴はいねぇな!」

 デルフリンガーの考察が正しいだろう、と考えた才人は、回り込み、壁の所まで来ると、一気に壁を飛び越えて侵入する。花壇の花の中に隠れると、デルフリンガーの力を借りて透視能力を使いシエスタを探す。

「…いたっ!二階のあの部屋だ!…横にいるのは…あいつが敵か」

 透視で見たシエスタの影の隣に、人間とは大きく違う頭を持った影が映る。間違いなくこの星の住人では無い。異星人だろう。シエスタのすぐ近くに敵がいる、このままではシエスタに危害が及ぶのも時間の問題と才人は考える。

「デルフ、お前の案はダメみたいだ」

「…らしいね」

 才人は他にも仲間がいないかと探すが、どうやら一人の様だ。才人はその場で踏ん張ると、一気に二階の部屋目掛け飛び上がる。窓をデルフリンガーで細切れにすると、シエスタと異星人の間に割って入る。

「サっ!?サイトさん?」

 才人はシエスタの前に立ち、かばう様にデルフリンガーを構える。デルフリンガーを突きつけられた異星人は見た目は完全に人間だった。身なりからしてモットだろうか?入れ替わっているのかもしれない。

「やっ、やあ!待っていたよウルトラマン!」

 腰を抜かしていたモットは、ハハハと笑いながら立ち上がると杖を構える。

「言いたい事も有るだろうが、すまない。まずは君の実力を試させてもらおう!」

 こっちに来い!そう叫ぶとモットは扉に飛び込み大広間に出る。

「大丈夫か?シエスタ、何もされて無いか?」

「いっいえ、何も」

 きょとんとしているシエスタに隠れるように言うと、才人はモットを追い、大広間に飛び出る。そこではモットが待ち構えていた。

「行くぞ!」

 モットは大きな水球を作り出し投げつけてくる。才人はデルフリンガーで吸い込むが、その隙にニ撃目、三撃目が飛んでくる。才人は二階への階段まで飛び上がり躱すと、モット目掛けデルフリンガーを構え、飛び降りる。

「おりゃぁぁ!」

 モットは身を引いて躱すが、鼻先をかすめて足元に突き刺さるデルリンガーにたじろぐ。

「うわぁっ!?…流石に強いな!…だが!」

 モットは水で竜を作り出すと、才人に喰いつかせる為に打ち出す。しかし、才人はあえて竜の口の中に飛び込み、内側から切り裂き四散させる。モットに肉迫した才人は、首筋にデルフリンガーを叩きつけようとする。

「おりゃぁ!」

「うわぁぁぁ!?」

 モットはギリギリで水の壁を作り防ぐが、衝撃を受け止めきれず吹き飛ばされる。才人が止めに心臓を一突きしようとした時、モットは両手を上げる。

「待った、待った!実力を試すような事をして悪かった!降参だ!」

 突然の降参、才人は戸惑うが、相手が人質をとる卑劣な相手だと、戸惑いを捨てる。

「降参…?シエスタを攫っておいて!ふざけるな!」

 才人はモットの心臓目掛けデルフリンガーを突き刺そうよする。制止を求めるモットは必死に才人を説得しようとする。

「おっ、お願いだ!話を聞いて…」

 才人はモットの話を聞かず、全力で振り下ろす。

 

 

 

「まっ、待ってください!」

 

 

 

 そんな時、どこで隠れて見ていたのだろうか?メイド服の少女がモットをかばう様に立ちふさがる。才人は咄嗟に剣を引き、後ろに下がる。少女は力強く才人をにらんでいた。

「君!どいてくれ!そいつの正体は異星人!君の知っている本当のご主人じゃないんだ!」

 才人は少女に退くように怒鳴る。何も知らない人を巻き込む訳には行かない。しかし、返って来たのは思いもよらない一言だった。

「知っています!」

 その叫びに一番驚いたのはモットだった。なんだって!と大声を上げる。すると、その声を聴いて、他の使用人が駆け付け、あっという間に才人とモットの間に人垣を作ってしまう。

「ご主人様を守れ!」「誰だお前は!」「近づかないで!」

 メイド、衛兵、執事等がモットをかばう様に立ちふさがる。

「まさか!操られているのか!?」

 才人は身を守るために、デルフリンガーを盾のように構えながらモットに怒鳴る。しかし、モットの行動は想定外の物だった。

「お前たち!この人は悪い人ではない!落ち着け!落ち着け!」

 何と人垣を押しのけ、使用人たちから才人をかばう様に前に出たのだ。才人は意図が読めず混乱する。その時…

「才人さ~ん!」

 シエスタが奥から走ってきて才人の前に躍り出る。

「お願いです才人さん!お話を聞いてください!」

 才人は攫われていたはずのシエスタにまでこう言われてしまい、訳が分からないまま、デルフリンガーを下ろした。

 

 

 

 才人は少し広い部屋に通され、モット、シエスタ、一番にモットを助けようとしたメイド、老齢の恐らく執事長であろう男性と一緒に丸いテーブルを囲んで座る。後者二人を使用人代表として、他の人たちは扉の向こうにいる様だ。

「…先ずはいきなり襲い、実力を試すような事をした非礼をお詫びしたい」

 モットが立ち上がり深々と頭を下げる。この光景は本来なら絶対にあり得ないことだ。才人は先ずは一番知りたいことから問いかける事にした。

「…聞かせてくれ、あなたが…何者なのかを、何が目的なのかを…」

 モットは使用人代表の二人の方を向き、知っているのだな、と問いかける。二人が頷くと、シエスタにも問いかける。

「…先ほどお見せしたが、一応確認させてくれ。…大丈夫かい?」

 シエスタも頷く。それを見てからモットはその場でクルリと回る。それでようやくモットの正体が明らかになる。モットの姿の時とは正反対のスレンダーな体、小さないが牙のあるおちょぼ口、そして…特徴的な頭。

 

 

 

「私はバド星人…この星に侵略しに来た、バド星人侵略隊の一員だ」

 

 

 

 モット、いやバド星人は重々しく言うが…才人はその頭にしか目がいかない。どうしてもその割れ目に視線が行ってしまう。才人はボソッと呟く。

「…尻」

 瞬間、シエスタが吹き出す。バド星人はその反応で顔を真っ赤にしてうったえる。

「ええい!先ほどシエスタ嬢にお見せした時もそうだが!こういう骨格なのだ!理解して頂きたい!」

 よく見ると使用人代表の二人も笑みをこらえている。そして、扉の向こうの使用人たちからも小さな笑い声が聞こえてくる。

「ええい!本題に入らせてくれ!」

 バド星人は咳ばらいをして、仕切り直す。

「んっ、んん!私は、この星の政治状況等を探り、本体に報告するためにこの星に来た。しかし、侵略行為は嫌いでな…まぁ、兵役で軍に入っただけだし…それで、この『モット』という人物と融合して潜伏したのだ」

 才人はミシェルとピット星人の事を思い出す。何処の星でも無理に軍隊に入れられたり、兵役があったりするんだなぁと、故郷の地球に思いをはせる。

「しかし、この星に来て、バド星で失われた自然を、オゾン層を見て分かった!この星の美しい自然を奪い取ろうなんて、侵略なんて、何と野蛮な事か!」

 侵略なんて許してはいけない。とバド星人は言い切る。

「あいつらは自分たちを『宇宙の帝王』などと言っているが、やっている事はこの星の『貴族』がやっている非道な事と何ら変わらない!」

 あいつら、とはバド星人侵略隊の事だろうか?

「その中でも!『モット』は酷い領主だった!税金を領民から搾り取り、国には虚偽の報告で収入を偽り私腹を肥やす!そのせいで領民たちはバド星の最低賃金の半分の収入も無い!こんな状況ほっておけ無い!」

 一気にしゃべり切ったバド星人はなおも続ける。

「一番許せなかったのは、女性の人権無視だ!無理やり連れて来て!乱暴して!子を孕んだら処分する!こんな『モット』を私は許せなかったが、この星の『貴族』の中では『よくある事』だと言う!認められない!認められる物か!」

 話を聞いていた才人は分からない事がある。何故、狂言誘拐してまで自分を、ウルトラマンを呼ぶことになったのかだ。しかし、それはすぐに分かった。

「そこで私は『モット』となり、この星の貴族社会を!人を!変えなければならない!と言う考えに至ったのだ!同時にあいつらの蛮行を許すわけにもいかない!そこで!」

 バド星人は才人に向き直る。

「君に、ウルトラマンに協力して欲しいんだ!君の力を借りれれば、絶対にこの星の罪の無い人々を救える!だから、頼む!協力して欲しい!」

 一度に話し終えたバド星人は息切れを起こしながら、才人をまっすぐな瞳で見ている。才人は立ち上がると、おもむろにデルフリンガーに手をかける。一瞬、場に戦慄が走る。才人の内側から光が生まれ、それが消えるとそこには才人はいなかった。シエスタと、使用人二人は、目の前の光景に息を飲む。

「本当に…才人さんが、ウルトラマン!」

 そこには等身大に変身したコスモスがいた。

「君のこの星への想い、同胞たちを撃つことになる覚悟、全て伝わった」

 コスモスは右手を差し出す。

「俺にも是非、協力させて欲しい!」

 それを聞いたバド星人はコスモスの手を取り固い握手をする。

「ありがとう、ウルトラマン!ありがとう!ありがとう!」

 

 

 

 この日、モット邸でバド星人侵略隊に対抗するための共同戦線が組まれた。

 

 

 

 




続きます。私、この宇宙人好きなんです。私の中でのあだ名は「宇宙のおいど」です。

意味 (おいど=尻)


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ゼロの使い魔~真心~第26話

続きです。今回はとても過激なシーンがあります。これを書くかどうかで暫く悩みましたが話的に必要だと思って書きました。


※やばかったら修正します。



 モット邸ではバド星人の侵略作戦の詳細が説明されていた。何処から持ってきたんだろうか?ホワイトボードに書きながら説明される。ファンタジーに慣れた才人にとっては、新鮮な違和感だった。

「作戦の内容はこうだ。ガリア、ゲルマニア、トリステイン、ロマリア、アルビオン、これらの主要国の都市部を強力な爆弾で破壊し首脳部の人間を全て殺害、政情が混乱している時に制圧する。という物だった」

 コスモスはスケールの大きさに驚愕する。が、一つ気になる事が。

「…だった?」

 バド星人の過去形の説明に疑問が生まれる。よく聞いてくれた、とでも言うようにバド星人は語り出す。

「実は、そこにベムラーが関わってくるんだ」

 シエスタと使用人代表は訳が分からないようだが、コスモスには覚えがあった。

「ベムラーとバド星人に関わりが!?」

 バド星人は頷く。

「実は、以前この星を襲撃したベムラー、我々と協定を結んでいたのだ。共同戦線をはり利益を分け合うという物だ。だが…」

「…裏切られた」

 コスモスは以前対峙したベムラーを思い出す。とてもじゃないが、相手との約束を守るような性格には思えない。バド星人達がどんな目にあったか即座に予測できた。

「あぁ。奴のせいで宇宙船は大破、乗組員は私を含め10人を残し死亡した。それで大幅な作戦の遅れが出てな、宇宙船の修理後、情報を集め直したのだ。その結果、作戦決行はアンリエッタ姫がゲルマニア訪問から戻る2日後に決まったのだ」

 説明が終わると、シエスタが口を開く。

「それって、あまり時間が無いんじゃ…?」

「そうなのだ、だが奴らの宇宙船は作戦結構日まで異次元空間に隠れていてこちらから侵入できない。私でさえもな」

 話を聞き終えたコスモスが確認する。

「つまり、作戦結構直前に異次元空間から出てくる宇宙船に、奇襲をかけるっていう事か?」

 バド星人はその通り、とホワイトボードの宇宙船の絵を指さす。

「ああそうだ、狙うのはそこしかない。侵入には、私の空間移動能力を使う」

 バド星人曰く、彼らには鏡を使い空間移動する能力が有るらしい。

「そしてその後、即座にトリステイン城に空間移動する。実はトリステイン城にも一人スパイがいるのだ。これを抑えなければならない」

 トリステイン城にまでスパイを送り込んでいた事にコスモスは驚くが、これまでの事件の混乱のさなか、潜り込むのは簡単だろう。

「では、ウルトラマン!よろしく頼む!」

 

 

 

 コスモスは才人に戻ると、モット邸のバルコニーで星空を眺めていた。短い時間に色々あったのと、全力疾走の疲れが来てしまい、すぐには学院に戻れそうになかったのだ。

「ここにいらしたんですね、才人さん!」

 その時、シエスタがバルコニーにやって来る。才人からバド星人を一番に庇ったメイドも一緒だ。

「どうですか?息抜きにお茶でも?」

 どうやら才人をお茶に誘いに来たようだ。しかし、二人はジロジロと才人の全身を見ている。

「…やっぱり、気になる?」

 才人は二人の意図が大体想像できる。ウルトラマンが目の前にいる事が信じられないのだろう。

「「いえいえいえ!」」

 二人は見事にハモる。その様子が才人は少し気になる。まるでこの二人以前からの知り合いの様な…?

「二人は、知り合い?」

 聞かれたシエスタは元気に答える。

「はい!彼女は『アイ』、以前まで一緒に魔法学院で給仕をしていたんです!」

 しかし、メイド…アイは少し俯く。

「まぁ…モットに目をつけられて、ここに連れて来られたんですけどね…」

 シエスタはしまった、という顔をした。そうだろう、以前一緒に働いていたアイがモットに連れて来られた。これが意味する事は…。しかし、俯いていたアイは顔を上げると、何か覚悟を決めた目で才人を見つめる。

「ウルトラマンさん…聞いて欲しい話があるんです、今のご主人様がどのような人か知って欲しくて」

「話?」

 アイは少し震えながら話始めた。

「私たちがご主人様の正体を知っていた理由なんです」

 

 

 

 その日アイはいつものように毎日の仕事を終えた後、モットに呼び出されていた。湯あみも許されず、呼び出されるのはモット邸地下にある一室。そこには数多くの拷問器具が隠してある。

「…失礼します」

「遅い!」

 入るなりモットの罵声が響く。時刻通りだろうが、とアイは心の中で舌打ちをする。

「早く支度しろ」

 これはモットが只楽しむだけの行為。アイにとっては望むものでは無い。しかし、逆らえない、平民は貴族に逆らえないのだ。アイはメイド服を脱ぎ、壁際に取り付けられた鎖付きの手錠を自分ではめる。すると魔法が働き、鎖が壁に吸い込まれ腕が固定される。

「…私に、この惨めなメス豚に…ご主人様のお慈悲を…」

 今までに散々言ったセリフだ。

「ほほほっ!いいぞ!いいぞ!」

 モットは興奮した様子で鞭を振り回す。アイの体に鞭傷がつくたびにモットは喜び、鞭の激しさを増していく。…これがアイにとっていつものことだった。…この異常な光景が。

「ハハハ!泣け、わめけ!」

 モットは散々アイを痛めつける。アイが気絶すると、魔法で生み出した水球をぶつけ無理やり起こす。これが繰り返され、アイを傷つけていく。

「ようし…そろそろだな」

 この後は決まってモットに汚される。醜くおぞましい汚物に蹂躙される。これがアイにとってのいつものことだ。最も、本人が納得しているはずないが。

(また…これ…嫌、死にたい…でも…)

 自分がいなくなっても他の少女が連れて来られる、他の誰かがモットの毒牙に…そうなるくらいなら…少なくともモットが飽きるまで、自分が全てを受け止めるつもりでいたのだ。しかし…。

(いつまで…続く…の?)

「相変わらずいいなぁ!」

 アイは心労と疲労とで意識が遠くなる。そんなアイにモットが欲望を叩きつけている時…。

 

 

「貴様ぁ!その女性は拒んでいるだろう!やめるんだ!」

 

 

 アイは薄く目を開けているだけでやっとだ。その微かな視界に、おおよそ人間とは思えない怪人が現れる。

「なっ!?化け物!どこから入ってきた!」

「そんな事!貴様に関係ない!女性を苦しめる悪魔め!許さん!」

 そこから激しい戦いが始まった。怪人を水流で吹き飛ばし、何度も何度も壁に叩きつけるモット。何度も何度も立ち上がりどれだけ傷ついても立ち向かう怪人。怪人は腕を水流でへし折られるがなおも立ち上がる。

「ええい!しぶとい化け物!止めだ!」

 モットは全魔力を使い、大きな水の竜を作り出す。怪人に直撃する!アイは思わず目をつぶる。しかし、突如として怪人はその場から消えてしまう。

「何!?どこだ!?…っ!ぐあぁ…」

 モットが怪人を探している間に、怪人はモットの真後ろの水たまりから突如現れ、拷問器具の一つであろう焼きごてで、モットの後頭部を強打する。怪人は意識が混濁するモットの頭を掴むと、すぐそばの三角木馬に叩きつける。

「ぐぎゃ!?」

 その一撃でモットは脳天を割られ絶命した。その様子を薄目で見ていたアイは、体力の限界で気を失ってしまうが、薄れゆく意識の中、冷えた体が温もりに包まれる。最後の記憶は優しく語りかける声だった。

 

 

「もう大丈夫、誰も君を傷つけないよ。お嬢さん」

 

 

「それからです。ご主人様の様子がガラリと変わったのは。今まで無視していた領民たちの願い出を全て実行して、税金を見直して、必要な分に減らして…私たちのお給料も増えて…何より、各地から無理に連れて来ていた女性たちを全員解放したんです。深々とした土下座と慰謝料付きで」

 自分の辛かった事を話し終えたアイは、その後の事を喜々として語る。余程嬉しいことなのだろう。才人はその話を聞いてバド星人がどういう人物かがよく分かった。

「…それだけ変われば皆さん気付きますよね!」

 シエスタは良かった、良かったと表情で言いながら頷く。しかし、すぐにそれでぇ?、とアイに悪戯っぽく聞く。

「女性たちは解放されたんでしょ?なんでアイはまだここにいるのかなぁ~?…自分から残るって言ったの?」

 シエスタの的を得た指摘にアイの頬が赤く染まる。図星だ。

「シッ、シエスタに、かか関係ないでしょ!?」

 応援するわよ~と、アイをからかうシエスタを横目で見ながら、才人はもう一度星空を眺め、決心を新たにする。

 

 

(こりゃあ…何が何でも、守らないとなっ!)

 

 

 才人は体力が戻ると、コスモスに変身、シエスタを連れ学院に戻って来る。シエスタを連れ帰ったのを見たマルトーは開いた口が塞がらないようだ。金魚の様に口を動かしていた。

「才人さんありがとうございます。おかげで戻ってこれました」

 才人はお礼を言うシエスタをしり目にルイズの部屋に戻る。かれこれ二時間近くたっていたが、ワルドは帰っただろうか?

(三日後…それに備えないとな!)

 とりあえず、もう夜中なのでさっさと寝よう。そう思って部屋の近くに来ると、扉の前に誰かいる。

「あれ?マチルダ?」

 そこにいたのはマチルダだった。ちょうど来たばかりの様で扉をノックする寸前だったようだ。

「才人?ミス・ヴァリエールと一緒にいたんじゃないのかい?」

 違う、と才人が答えるとマチルダの顔が青ざめていく。

「…実はワルド子爵が時間を過ぎても戻って来ないんだ…才人が傍にいると思ってあまり心配してなかったけど…」

 このままでは『間違い』が起きるのではないか。とマチルダが考えたその時、部屋から大きな音がする。二人は慌てて部屋に入ろうとするが鍵が掛かっていた。才人は思い切り扉を蹴り飛ばし踏み込む。

「「大丈夫(か)(ですか)!?」」

 そこにはベッドにルイズを押し倒したワルドがいた。ルイズとワルドが同時に入ってきた二人と視線が合う。

「きっ!?君たち!?まっ、待つんだ!私はカーペットにつまずいて転んだだけで!?」

「そっ!そうよ!?別にやましい事なんて何も…」

 二人の釈明を聞き終えたマチルダは微笑んで拳を鳴らす。

「それだけですか?ワルド子爵。言い残すことは」

 瞬間マチルダの怒号が響く。

「この暴行魔がぁぁ!」

「誤解だーーー!」

 

 

 この後、マチルダのお説教が一時間、二人が誤解を解くのに二時間かかったそうだ

 

 

「は~疲れた…」

 ワルドを見送った後、ルイズはベッドに倒れ込んでいた。

「まぁ自業自得だな。節度は守れ」

 才人の呟きを聞いたルイズは真っ赤になって反論する。

「な!?そんなんじゃないわよ!」

 いつもならここで鞭が飛んでくる。そう思い才人は身構えるが何も来ない。

「はぁ…まあ明日に備えて寝ましょうか…」

 才人は何も来ない事よりも、ルイズが明日する事に備えるという事に疑問を持つ。

「何かあんのか?」

 ええ、ワルド子爵もそのために来たの、とルイズは念を押して言う。

「何でも、姫様が予定より早く帰国するみたいで、城に来て欲しいっていう姫様直々のご指名よ?絶対に送れる訳には行かないもの」

 そう言ってルイズは眠りにつく。才人は今聞いた事実が受け入れ難く、固まってしまっていたが、直ぐに現実に引き戻される。

 

 

「あっ!?明日だぁぁ!?」

 

 

 

 

 

 




続きます。次回からバド星人たちとの戦いが始まります。


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ゼロの使い魔~真心~第27話

続きです。仕事が大変でしたが、何とか最新話です。楽しんで行って下さい。

※一部修正しました。最後の所。


 翌朝、ルイズは才人抜きでトリステイン城に向かっていた。

「何よ!使い魔のくせに!どうしてもついて来れないってどー言う事よ!」

 ルイズが起きると、才人は既に外出しておりいなかったのだ。マチルダが事情を教えてくれなければ、人さらいかと騒ぐところだった。今は学院長の指示で、一緒にコルベールがついてきてくれている。

「何でも使い魔君の剣の腕が必要だとか。まぁ、大丈夫でしょう。ミス・ヴァリエールの自慢の使い魔でしょう?」

 ルイズは複雑な心境だったが、城下町の入り口で待っていた出迎えのアニエスと目が合う。

「お待ちしておりました。ミス・ヴァリエール」

 そこからは案内されるがままついていく。復興しかけのトリステインの街並み、そこで強く生きる住民たちの様子が目に入る。

「だいぶ復興してきたのね…」

 ええ、とアニエスは感慨深く答える。

「色々ありましたが、何とかここまで来ましたよ」

 ルイズは青い空を見上げて呟く。

「まっ…暫くは平和でしょ。その間に復興しちゃうわよ!この町の人たちならね!」

 

 

 

 

 平和は長く続かない。トリステイン城にもバド星人のスパイがいる以上、アンリエッタ姫が予定より早く帰って来る事はバド星人侵略隊本隊に伝わっているだろう。才人はルイズの話を聞いてから、モットの屋敷にとんぼ返りしたのだった。もう疲労困憊である。時間が少しあるので仮眠をとっていたが、アイが起こしに来る。

「才人さん!ご主人様が来てくださいって!」

 才人は飛び起きると、アイに連れられモットの待つ大鏡の前に来る。モットは何か機械を操作している。

「…よし、時空が安定した。これで移動できる」

 どうやら準備が出来たようだ。バド星人は才人の方に向き直る。

「ウルトラマン、ついに奴らがこちらの次元に出てきた。準備はいいね?」

 才人が頷くと同時に、突然後ろからアイが縄で縛りつけてくる。

「「え?」」

 バド星人と才人がハモる。アイは自慢げに解説する。

「捕まえたふりをして相手を油断させる作戦です!」

 バド星人はいきなりの提案に固まっているが、「あっ、ああ…いい作戦だな」とアイの提案を受け入れる。才人はいきなり縛られた事より、アイの押しの強さに面喰っていた。

(こりゃ、将来尻に敷かれるぞ…敷かれる方も尻じゃねぇか…)

 どうやら縄はすぐに切れるように切れ込みが入っている様だ。これなら奇襲にぴったりだろう。

「よし、行くぞバド星人!」

「あっ、ああ!行くぞ!」

 二人は鏡に飛び込む。才人はバド星人に誘導され、空間の出口に到着する。

「出るぞ!」

 二人が出るとそこには四人のバド星人が待ち構えていた。

「おお!来たか、潜入官1967221!予定より早いが作戦開始だ!…ん?そいつは…?」

 相手のバド星人は、才人の顎を掴み顔を覗き込む。1967221ことバド星人(モット)は静かに言う。

「そいつは我らの一番の懸念材料、ウルトラマンだ」

 バド星人達はどよめく。

「落ち着け、皆!変身する力は奪ってある。こいつは役立たずさ」

 それを聞くやいなや、四人は才人をその場に押さえつける。

「へっ!そういう事なら、気兼ねなくやれるな!」

 その中、女性のバド星人だろうか?一人が才人の胸を足で踏みつける。

「ねぇ、私に頂戴よ。こいつ。ウルトラマンを玩具に出来るなんてすごくない?」

 歓喜に満ちた声で、女性のバド星人は周りに問いかけている。

「…いいね、遊んでもらおうか」

 才人の呟きに女性のバド星人は疑問符を浮かべる。しかし、その時はすぐに訪れた。

「ふん!」

 才人は縄を引きちぎると、女性のバド星人を股下から真っ二つに切り裂く。

「な!?どういう事だ!1967221!」

 モットは懐から杖を取り出すと、『ブレイド』で二人続けて切り裂く。

「馬っ馬鹿な!裏切ったのか!」

 その時、最後のバド星人の姿が虚空に消える。おそらく透明化能力だろう。才人は身構えるが、どこから来るか分からず緊張で心臓が鳴る。その時、何かに気付いたデルフリンガーが叫ぶ。

「右だ!相棒!」

 才人は即座に振り向き、一気に突き刺す。消えた刃先から血が流れ、少し上から血のあぶくが溢れてくる。

「後四人!」

 その時、突如全てのドアにロックが掛かる。それと同時に響く高笑い。

『ハハハハハ!ウルトラマン、裏切り者め!毒ガスで死ぬが良い!』

 残りのバド星人だ。ここで二人纏めて始末する気だろう。モットは水泡を作り出し、その中に二人で顔を入れ、その場しのぎの安全地帯を作る。

「すまないウルトラマン!この水泡は毒の濃度が上がれば持たない!直ぐにドアを開けるから時間をくれ!」

 モットは電子パネルを操作してドアを開けようとする。

「このドアはバド星最強の光線銃でも貫けない!何とかロックを解除する!」

 どうやらこの仕掛けの事はモット本人も知らなかったようだ。慌てて入り口を開けようとしている。しかし、才人は気にせず拳を握りしめる。

「下がって。てりゃぁ!」

 才人は全力で拳を振りぬいた。分厚い扉はその一撃で粉砕される。すごい…と、呟くモットはあっけにとられている。

「まぁ…これでも鍛えてるんでね!大丈夫!行くぞ、モット!」

 才人がドアを吹き飛ばしたせいで、毒ガスが船内に広がる。モットが水泡を二つに分けると、二人で船内を見て回る。才人達を閉じ込めたバド星人であろう死体が通路に倒れている。

「…毒ガス何か使うから…」

 才人が手を合わせていると、モットは急いでコンピューターを操作して、他のバド星人の行方を探す。

「くそ!遅かった!自爆装置が動いてる!しかも三人とも、既に爆弾を持ってトリステインにワープしてるようだ。後を追うぞ!残り5セコンド、急げ!」

「あっ!おい引っ張るなって!」

 才人はモットに連れられ急いで鏡に飛び込む。しかし、鏡の中にも爆炎が入り込んでくる。このままでは間に合わない。モットは、他のバド星人達が出た出口より手前で外に飛び出る。出てきた先は暗く狭い空間、どこかのロッカーだろうか?

「狭い…」

「早く…出よう…」

 その時、後ろの鏡が爆発して炎が噴き出す。どうやら、通路を閉じるのが間に合わなかったようだ。二人は一気に押し出される。

 

 

 

「何故…私のロッカーが爆発して、お前が出てくるんだ?…えぇ?、サイト…?」

 

 

 …半裸のミシェルの前に。

「待って、いきなりであれだけど事情があるの。お願い剣と杖を収めて。待って!待って!待って!」

 

 

 

「なる程な…そういう事なら協力しよう」

 ミシェルは才人をボコボコにした後、二人から事情を聴くと、モットとお互いに自己紹介をし、協力を快諾してくれた。

「ところでここは?トリステイン城のどこらへん?」

 ミシェルは大体の位置を教えてくれた。どうやらここは謁見の間の数階下らしい。才人はモットに確認する。

「なぁモット、奴らが爆弾を仕掛けるのはどのあたりだ?」

「場所は分かるが、その前にアンリエッタ姫を保護するんだ。奴らに人質に取られる可能性がある」

 三人はアンリエッタ姫がいる謁見の間に向け、全力で走り出した。

 

 

 

 

 謁見の間ではルイズとアンリエッタが顔を合わせていた。コルベールは別室で待機である。久方の友との再会を邪魔されたくないアンリエッタは、最低限の護衛を部屋の外に待機させ二人きりで談笑していた。

「あら…?ところでルイズ?あの使い魔さんは?」

 ルイズは、一国の姫との謁見よりも、用事を取ったなんて口が裂けても言えない。

「あっ、あんな汚い生き物を姫様の前につれて来る等…」

「駄目よルイズ、使い魔は一心同体。常に傍におかなければ…」

 アンリエッタが言いかけた所で、部屋の外が騒がしくなる。何かあったのだろうか?二人が音の方に視線をずらすと、謁見の間の扉が勢いよく開かれ、男性二人と女性一人が駆け込んでくる。

「ミシェル!それにサイト!あなた達なんでっ…その人は、モット伯爵…?」

 ルイズは突然現れた面々に、驚きよりも怒りの感情が湧いてくる。

「あなた達!姫様の御前で…」

 ルイズが言い終わる前に、何事かと人が流れ込んでくる。その時、アンリエッタに近づいた一人のメイドにモットが指を指す。

「ウルッ…才人君!奴がスパイだ!」

 言うがいなや、才人はデルフリンガーを抜きメイドに向かって投げつける。それはメイドの心臓を貫き、アンリエッタの後ろの壁に縫い付けてしまった。

「っ!貴様!姫様に刃を!」

 駆け付けていた人の中にいたワルドは、杖を抜き構えるが、間にミシェルが入り込む。

「待って下さい!ワルド子爵!私は銃士隊副隊長ミシェル!そこのメイドの姿のよく見て下さい!」

 その時、謁見の間にいた人全てがメイドの姿を見る。既にメイドではなく、バド星人の姿になっていた。その光景に動揺が走る。

「こっこれは!?」

 才人はアンリエッタの前でひざまずく。

「お姫様!話を聞いて下さい!今この城を爆破しようと工作員が侵入しています!安全な所に避難をしてください!」

 それを聞いたアニエスは即座に銃士隊に指示、アンリエッタの周りを固め、安全を確保する。ワルドや他の人たちはモットがいた事が大きかったのか、すぐに信じてくれて手早く動いていく。

「ちょっと、どういう事なのよ!」

 ルイズは突然の展開についていけず、才人に詰め寄る。するとセニカがやって来る。

「ミス・ヴァリエール、姫様とこちらに」

 ルイズは少し待つように言うと才人に向き直る。

「今回も何かヤバい事の手伝いさせられてるの?」

 才人は誤魔化そうとせずに、はっきりと危機的現状を伝える。

「そう…なら、必ず帰って来なさい」

 ルイズはセニカについていくが、振り向いて一言、言い残す。

「あんたならどうにか出来る。だから、絶対守りなさいよ?」

 そう言うとルイズは行ってしまった。残された才人はモットとミシェルに向き直る。

「…期待には応えなきゃな!先ずはバド星人と爆弾を見つけなきゃ!」

 分かれて探そうとすると、突然ワルドがやって来る。

「待ちたまえ、ミシェル、モット伯。それと、少年。私も協力しよう」

 才人はワルドの実力が、ルイズから聞いた通りなら役に立ってくれると思い、共同戦線を張る事にした。モットは爆弾の形状を三人に伝える。

 

 

 

 

「頼んだぞ三人とも!今この国を救えるのは我々だけだ!行こう!」

 四人は爆弾排除、バド星人の一掃の為に一斉に駆けだした。

 

 

 

 

 

 




続きます。次回、バド星人戦決着。


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ゼロの使い魔~真心~第28話

続きです。恐らく過去一番長いです。頑張ったので、見て行ってください。


 ミシェルは、トリステイン城にある女性更衣室に勢いよく入っていく。女性専用の部屋はミシェルが全て任されたのだ。女性達の了承をそこそこに、衣類をあさり爆弾を探す。三人目のロッカーを開けようとすると、鍵が掛かっているのか開かない。

「これは誰のロッカーだ!?」

 女性達は互いに見合うが、誰一人難しい顔しかしない。どうやら分からないようだ。これ程ねらい目な所は無い。ミシェルは全力で引っ張ったり、剣で切り裂こうとしたりするが、びくともしない。

「ちっ…、リムーー!」

 ドドド!という足音の後、ドアを勢いよく蹴破りちんちくりんの不思議な生き物が入って来る。

「ピキィー!」

 縮小光線で縮んだリムだ。普段は銃士隊の待機室で他の銃士隊員達に可愛がられている。

「リム!頼む!」

 リムは縮んでいても『宇宙怪獣エレキング』強力な力を持つ怪獣である。ロッカーのドアに引っ付くと全力でもぎ取る。リムがもげたドアの下敷きになってもがいているが、ちょっと可愛いので放っておきロッカーの中を物色する。

「…あった!」

 そこには青いクリスタルのついた白くて細長い物体が握られていた。モット曰くバド星最新の爆弾らしい。ミシェルはリムの上のドアをどかして抱えると、次の部屋に向かう。

(バド星人が言うには、持ち出された爆弾は全部で八個、後七つ!)

 

 

 

 モットは城内に飾られている鎧の中や絵画の裏、各部屋の家具の下を這いつくばって探す。以前のモットを知る貴族からは驚嘆の声が上がる。

「なっ!?何をしているんですか?」

「それではお汚れになってしまいます!おやめください!」

「下々の者にやらせればよいでしょう!?」

 以前のモットに取り入っていた貴族たちだろうか?汚れにまみれ、爆弾を探すモットを止めようとする。

「いいや!駄目だ!この城にいる全ての人が危険にさらされている!汚れがなんだ!それよりも!」

 モットは貴族たちに叫ぶ。

「避難指示に従い逃げるんだ、事態は一刻を争う!」

 貴族たちはモットの変わりように驚いているが、指示に従い部屋から出て避難指示に従い避難する。

「…良かった、行ってくれて」

 モットはベットをひっくり返し、裏についている爆弾を取り外す。

「彼らがいる時に爆発しなくて良かった…」

 ミシェルからのテレパシーは既に届いている。

(残り六つ!)

 

 

 

 

 ワルドは魔法衛士隊グリフォン隊の詰め所に来ると、ポーカーで盛り上がっている全員に喝を入れる。

「バカ者共!この非常時が分からんのか!」

 喝を入れられた隊員たちは途端に背筋を伸ばし、敬礼をする。ワルドから事情を説明されると、避難誘導に行くように指示される。

「さあ行くんだ!総員、作戦開始!」

 グリフォン隊が全員外に出ると、一応と思い部屋を探してみる。すると、自身のデスクの位置が微妙にずれている事に気付く。

(今朝より少し右にずれている…?)

 ワルドは慎重にデスクに近づき、引き出しを開けてみるが、何も無い。しかし、デスクの上に置いてあった本の近くに、紙くずが落ちている。

(まさか…)

 本を持ってみると中がくり抜かれており、モットから聞いていた爆弾が顔を覗かせる。

「やはりか!」(この部屋に入れるのはグリフォン隊のみ…まさか…?)

 

 

 

 

 才人は城内の廊下を走っていた。各部屋を透視能力で見ながら爆弾を探す。見つけた!、才人は見えた部屋に飛び込む。

「見つけ…あ、すいません!」

 入った中ではメイドと、兵隊?だろうか。二人で抱き合っていた。才人は入ってはいけないと思い、慌てて外に出る。

「…待てよ?」

 才人はもう一度、中を透視能力で見てみる。よく見ると、爆弾は抱き合っている二人の間に挟まっている。才人は透視能力の感度を上げる。そして、その正体を見破る。

「やっぱり!お前らが!」

 才人はドアを蹴り飛ばし中に飛び込み、剣を構えるが、既に二人は窓から飛び降りて逃げていた。見つかりそうになったから慌てて抱き合い、爆弾を隠したのだろう。

「くそっ!」

 才人は部屋を出る前に、一応爆弾を探して見る。すると花瓶の中に一つ隠されていた。取り出すとモットとミシェルにテレパシーを送る。

(バド星人を見つけた!城の北西側だ!爆弾を四つは持っていた、急いで捕まえよう!)

 

 

 

 

 ミシェル、モット、才人はワルドの位置をテレパシーで確認、合流する。

「どうだった皆?」

 モットの問いに三人は回収した爆弾を取り出す。

「よし、解除は私が出来る。渡して欲しい」

 その一言にワルドは少し懐疑的になる。当たり前ではあるが。

「…モット伯爵は解除できるのですか?」

 モットはボロが出ないように冷静に答える。

「私は異国の技術に興味がありましてな。勉学に励んだ事があるので、出来ますよ」

 ワルドはモットに爆弾を渡す。才人からバド星人の存在を聞いていたミシェルはワルドにそれとなく伝える。すると、逃げた北西という所に反応する。

「北西には姫様の避難場所が!」

 才人達は急ぐワルドについて行き、アンリエッタの避難場所へ向かった。

 

 

 

 

 城の北西部、王族の避難場所に三人はたどり着く。入るとアンリエッタの周りにグリフォン隊と、銃士隊員が護衛についていた。才人にはグリフォン隊の服装に見覚えがあった。

「あの服だ!」

 才人が言うやいなや、ワルドが叫ぶ。

「風!」

 その叫びにグリフォン隊が一斉に跪く。軍隊で用いられる、スパイを見破る為の合言葉だ。一人だけ反応できず立ち尽くしている。

「やはり我が隊に!」

 ワルドは素早く杖を抜き、グリフォン隊に紛れ込んだバド星人に向けるが、それより早く才人がデルフリンガーを下投げでほうり、バド星人を仕留める。すぐ近くに怪人がいた事に動揺が走るが、ミシェルが一喝する。

「うろたえるな!分かっているぞ!出てこい!貴様がここにいるのは、分かっている!」

 もう逃げられない、そう理解したのだろう。メイド服のバド星人はルイズを後ろから押さえつけ、銃を押し付けて人質にする。

「近づくな!近づけばこの女の命は無い!それと、この爆弾を起爆させるよ!」

 メイドは腹部に隠していた爆弾を見せる。兵士たちはルイズが人質になっている為に手出しできない。

「どけ、どけ!どっ、がふっ…ゴホォ!」

 逃げようとしていたバド星人が突如として口から血を吹き出す。バド星人の拘束が弱まり、抜け出したルイズが見たのは喉から『ブレイド』が生えたバド星人だった。

「なっ、何が…?」

「大丈夫かい?ルイズ!」

 ルイズはワルドの手を取る。

「えっええ…あれ?」

 目の前にはワルド、先ほどまで前方にいたはずのワルドが何故?

「僕の得意魔法だよ。『風の偏在』って言うんだ」

 ワルドは魔法で分身をバド星人の後ろに作り出し、奇襲を仕掛けたのだ。とりあえずの危機を脱した事で、場に安堵の空気が流れる。ミシェルが爆弾を回収していると、突然アンリエッタの側にいた護衛の大男が爆弾の一つをかっさらう。大男が立ち上がると、顔がバド星人に変わっていた。最後の一人、バド星人侵略隊の隊長だ。

「ええい!1967421め焦りおって!こうなったら貴様らまとめて!」

 隊長は爆弾を起爆させようとする。

「まずい!」

 三人が飛び込むには遠く、『風の偏在』も間に合わない。全員吹き飛ぶ。そう覚悟した時、赤く細長い何かが伸び、隊長の腕に巻き付いて焼き焦がしていた。

「グわぁ!?」

 取りこぼした爆弾をミシェルが滑り込んでかっさらう。何が起きたのか?誰もが細長い何かが伸びる大元を見ると、そこにいたのは何とコルベールだった。

「ふうっ…何とかなりましたな」

 今のはコルベールの炎の魔法だったのだ。魔法を心得る貴族なら、今の芸当にどれだけの技量が必要か分からない者はいない。コルベールは何者なのだ?という皆の視線にコルベールは少しおどけて答える。

「まあ…これでも魔法学院の教師ですぞ!それ相応の物は持っとります!」

 しかし、流石は侵略隊隊長。素早くドアに体当たりし、外に飛び出して逃げる。しかし、出た先にはモットがちょうど来たところだった。

「爆弾の解除が終わりまし…隊長!?」

 モットと隊長は互いに武器を構え牽制する。しかし後ろから才人達が来たことで完全に劣勢になる。

「…そうか、1967221!貴様が裏切っていたのか!」

「元から仲間だったつもりは無いがな!」

 隊長は突然全力で走り出し、噴水に飛び込む。数秒後、噴水が爆発する。ワルドは自害したか、と嘲笑しているがモットは慌てている。

「まずい!奴らは鏡の中を移動できるのだ!」

 なんだって!?驚いているワルドをよそに、三人はテレパシーを使って隊長の脳波を追う。ミシェルが微かな脳波を捕えた。

「これは…モット、あなたの領地では無いか?」

 モットにはすぐに隊長の意思が読める。自分が裏切った理由。恐らくそれがある場所に行き、全てを壊そうという事だろう。

「才人君!」

「分かってるさ!」

 走り出そうとする二人をワルドが呼び止める。

「まっ待て!どうする気だ!?」

 才人はワルドに急いで説明する。

「あいつは俺たちに任せてほしい、ワルド子爵はルイズや姫様を守ってくれ。お願いできるか?」

 ワルドは誰に物を言っている、とでも言うように胸を張る。

「ああ、任せろ」

 才人は走り出す直前ワルドに耳打ちする。

「うちのご主人様と仲良くするチャンスだぞ?」

 ワルドはものにして見せるさ!と走り去る背中に呼びかけた。

 

 

 

 

 別の鏡からモット邸に戻ってきた才人とモットは、外から聞こえた轟音を聞き、慌てて外に出る。そこには巨大化した隊長がいた。

「1967221!裏切りの報いを受けろ!」

 モットは突っ込んでくる隊長の前に立ちふさがるように巨大化、受け止めてから蹴り飛ばす。

「ふん!たかが調査員のくせに、たてつきおって!」

 隊長は右腕についていた機械を操作する。すると、中から数多くの機械部品が飛び出しその体に装着されていく。モットは訳も分からず、見ているしかできなかった。

「これは貴様も知らないだろう!わが軍のトップシークレットだ!」

 全身に装着された鎧、バド星人特有の頭の形状に合わせられた兜、全身武装されたその姿。

 

 

 

 

「これぞ!『フルアーマード・バド星人』!私の最強兵器だ!」

 

 

 

 モットはまったく知らない兵器が出て来て戸惑っている。その隙に隊長は懐に飛び込みモットをアッパーで吹き飛ばす。

「グホッ!…グアァ…」

 モットを一撃でダウンさせた隊長は、モット邸に向き直る。すると鎧が展開し、各部からミサイルが顔を覗かせる。

「これで全てを失え!ハハハ!」

 放たれるミサイルの雨、モットの脳裏に浮かぶアイや使用人たちの顔、全てを失う恐怖が悲痛な叫びを生む。

 

 

「やめろォォーー!」

 

 

 

 

「コスモーーース!」

 

 

 

 

 巻き起こる爆炎。勝ち誇るバド星人隊長だが、その目に入ってきたのは瓦礫の山では無かった。赤く、異常なまでに膨れ上がった肉体。

 

『ウルトラマンコスモス・コロナモード』

 

「デヤァッ!(俺を忘れるなよ!)」

 隊長は驚くが、余裕の笑いを上げる。

「ハハハハハ!いかにウルトラマンと言えど、この『フルアーマード・バド星人』の敵ではないわぁ!くらえ、ぺダン合金より硬いバド合金で作った特殊ブレードだ!」

 手甲から現れたブレード、それが寸分の狂いも無くコスモスの首筋を捕える。

 

 

パキーン

 

 

 簡単に折れる。

「馬鹿なぁ!?」

 ぺダン合金より硬いというのはハッタリのようだ。隊長は諦めずコスモスに拳のラッシュを打ち込む。

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラァァァァァァーーー!」

 

「ギャァァーー!」

 

 コスモスの体を殴りつける隊長の手甲が粉々に砕け、その手を痛めてしまう。

「デァァ…(見かけ倒しか…)」

 コスモスは、目の前で苦しんでいる隊長の頭を掴みあげ、全力で放り投げる。

「デァァ!」

 隊長は頭から地面に落下、地面に突き刺さる。コスモスは動けない隊長に両拳を突きつけ、その間にエネルギーを溜めていく。作り出すのは炎の超破壊球弾。

 

『プロミネンスボール!』

 

 目標に吸い込まれたそれは、それを完全に粉砕。巨大な爆炎を生み出す。

 

 

 コスモスはモットを助け起こし、硬い握手を交わす。

 

 

(終わったぜ)

(ありがとう…感謝の気持ちしか無いよ、ウルトラマン…)

 

 

 

 

 二人の巨人は虚空に溶けるように、その姿を消したのだった。

 




続きます。フルアーマード・バド星人…自分で考えてて、「中二病だなぁ~」って思いました。


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ゼロの使い魔~真心~第29話

続きです。仕事忙しくて笑えません。それでいて、今回あまり話進まないです。


 夕焼けの中、才人は目を覚ました。モット邸の庭の木に寄りかかっている。眠る前の記憶が曖昧だ…自分はどうしたんだろう?少し横を見ると、同じ様にモットが眠っていた。

「…あぁ…そうか…そうだったけ…」

 才人は自身が眠る前の事を思い出した。バド星人隊長を倒した後、二人は疲労に耐えられなくなったのと、事件が解決した安心感から眠りこけてしまったのだ。

「目が覚めましたか?」

 才人が声の方に向くと、アイがいた。眠っていたモットを眺めていたのだろうか?モットの眼前でしゃがみこんでいる。

「不思議ですよね…」

 才人は何が?と問いたくなるが、アイは続けて語り出す。

「あんなに憎くて、殺したかった相手が、こんなにも愛おしく思えるなんて…」

 才人は、そのアイの表情が、憎しみと幸福に包まれた複雑な表情に見えた。アイにとって今のモットは複雑な存在だろう。

「…好きなんだ?」

 アイは首を振る。

「愛してる」

 きっぱりとした答えだ。

「さぁ、そろそろ起こしましょう。パーティーが始まります」

「パーティー?」

「ええ、事件解決のお祝いに。ささやかな物を」

 目線を遠くに移すと、使用人たちが準備を進めていた。よく見ると領民たちだろうか?手伝いをしている。

「気がつきました?実は…ご主人様の正体を教えてしまったんです」

 アイ曰く、コスモスとバド星人の戦いを見てしまい、どういう事かと屋敷に詰め掛けて来たらしい。そりゃあ巨人の戦いだ、見えない者は殆どいない。そこでついに使用人たちは話してしまったらしい。

「でも、ウルトラマンさんのおかげで助かったんですよ」

 領民たちは最後の二人の握手を見て、『あの』ウルトラマンと握手をする仲。と認識、信頼していたらしい。その正体が最近やけに良政をするようになった領主様と知って、怪物と罵り排除しようとする者はいなかったらしい。それどころか勝利をたたえる宴の準備をかってでる者が後を絶たなかったそうだ。

「役に立てて光栄ですよ」

 才人の答えにアイは微笑むと、さて!とモットの顔を掴む。

「起きてください、ご主人様」

 アイはそう言うと、モットの口を自らの唇で塞ぐ。才人はその行為をされた事もあるし、自分からしたこともあるが、そう慣れる物ではない。やはり気恥ずかしさが込み上げてくる。

「んぐぐ、ぐうっ、ぐぶうっ!」

 甘い雰囲気が徐々に消えていく。モットが苦しそうにうめいている。

「ぶはぁ!な!?何だ?」

 モットは息苦しさで目が覚めたのか、飛び起きる。事情がよく分からないモットはアイに促されるままパーティーの中心に連れていかれ、わけの分からぬまま胴上げされていた。

「…さて、俺は帰るか。ルイズも待ってるし」

 才人はそう呟くとモットにテレパシーを残し、変身。モット邸を後にした。

 

 

(この星の皆の為に、戦ってくれてありがとう…これからも領民の為に頑張れよ…)

 

 

 ルイズ達が心配している、そう思いトリステイン城に戻ってきた才人が見たのは素っ頓狂な光景だった。

「そこで!私は感付いたのだ!敵は中に潜んでいると!」

「「「流石はワルド子爵!かっこいいーー!」」」

 トリステイン城の食事処にて。雄弁を振るうのはワルド。はやし立てるのはルイズとその他魔法衛士隊と銃士隊の面々。どうやら酒が入っている様だ。正常ではない。

「こっちだ才人」

 呼ばれた方を振り向くとアニエス、ミシェル、セニカが他の面々とは離れて座っていた。巻き込まれたくないからだろう。セニカが才人に事情を教えてくれる。

「実は、事件の後始末が終わった後、皆姫様から今日一日の休暇をいただきまして…」

 結果、祝勝会と称した飲み会が始まってしまったらしい。アニエスがやれやれとため息をつく。

「我が隊といい、情けない話だ。しかも本来、止める側の教員までもがああなってしまってはなぁ」

 よく見るとコルベールも席に座っている。自分には自慢できる話が無い、と泣き上戸だ。これを見たら雷を落とす人がいるな、と考えた時…

「ふふふっ、そのお話をお詳しくお聞かせ願いますわ!」

 アンリエッタの姿を、その中に見つけてしまった。ミシェルはリムのお腹を撫でながら才人に言う。

「まあ、姫様もお疲れのご様子。少しでも羽を伸ばしたかったのでしょう…それよりサイト、一緒に食事でもどうだ?」

 才人は三人と座ると、お疲れ様、と労をねぎらい合う。才人が座ると、セニカが横に飛んできて腕を絡ませてくる。

「お隣失礼しま~す♪」

 途端にミシェルの目つきが鋭くなる。

「…わざわざ横に座る必要あるか?…セニカ?」

 セニカは早い者勝ちとでも言うような、勝ち誇った顔をする。

「えぇ!才人さんにお話もあるので」

 話?話って何だろう?気になった才人が聞こうとすると、セニカが囁いてくる。

「今夜、私のお部屋に来てください」

 囁いたはずだが、ミシェルは聞いていたようだ。リムを二人の間に入れ、才人の横に回り込み腕を絡める。

「才人を不埒な目でしか見ていないお前の部屋に行かせるわけにはいかないな」

 二人の視線が火花を起こす。そんな二人の首根っこを掴み、アニエスは自分の横に座らせる。

「おいおい、女の争いは後にしてくれ。今は疲れを癒そう」

 二人はアニエスの一言で落ち着きを取り戻した。ミシェルは腕を絡めた事が恥ずかしいのか俯いている。その後、四人は談笑しながら食事をした。乾パンとシチューだけだが、ワインを飲んで大騒ぎしている連中よりは食事を楽しむ事が出来ただろう。

 

 

 

 翌日、ルイズは見慣れぬ部屋、いつもの半分以下のベッドの上で目を覚ました。二日酔いで頭がガンガンする。ほい、と渡された水を一気に飲み干す。

「…はぁ!ありがと…サイト…あれ?」

 水を渡してきたのは才人ではなく、ミシェルだった。

「副長さん?」

 ミシェルはコップを受け取ると、ルイズの身だしなみを整えてやる。

「ここは私の部屋だ。覚えてないか?」

 ルイズは昨夜の記憶が殆どない。ミシェルに説明してもらう。

「昨日、酔いつぶれたミス・ヴァリエールとミスタ・コルベールをそのまま帰すわけにもいかないからな。私の部屋に才人含め全員泊まってもらったよ」

 ルイズが横を向くとコルベールが床にタオルを掛けられて眠っている。二日酔いのせいか苦しそうにうめいている。

「そういえば才人は?」

 ルイズは自身の使い魔の不在に疑問を持つ。が、すぐに汗をかいた才人が部屋に入って来る。

「起きたか?ルイズ」

 どうやら外でトレーニングをしていたようだ。息が上がり、肩が上下している。この時、ルイズはある事に気が付く。

「…あんた、副長さんと変な事してないでしょうね?」

 そこは才人の必死の説明で誤解の無いように伝えた。ルイズは終始ジト目だったが。その時、アニエスが部屋を訪ねてくる。

「おい二人とも!姫様がお呼びだ!至急謁見の間に来るんだ!」

 

「「姫様?」」

 

 

 数分後、二人は謁見の間でアンリエッタに謁見していた。ほとんどの護衛も外に出されており、いるのはアニエスくらいだ。

「朝早くから…ありがとうございま…うぷ…」

 …二日酔いが酷い様だ。

「今日来てもら…ったのは…お二人にご相談があっての事、なのです。土くれのフーケを退治し、トリス…テインの町の為に尽力して、くださったお二人への…」

 アンリエッタは頭を押さえながら話を続ける。

「実は今回のゲルマニア訪問にて、同盟、復興支援をとりつける為に…私はゲルマニアの皇帝に嫁ぐ事になったのですが…」

 それを聞いたルイズが悲鳴を上げる。

「そんな!あんな野蛮な国に姫様が!?」

 アンリエッタは言葉を控えるように言う。

「ルイズ、控えなさい。…ですが実は、一つ問題があるのです。礼儀知らずのアルビオンの貴族たちが…」

 そこでアンリエッタが説明したのはハルケギニアの政治情勢だった。アルビオンの貴族たちが王宮に反乱を起こした事、反乱軍が勝利すれば次にトリステインに侵攻してくるであろうこと。そのために婚姻を妨げる材料を血眼になって探している事…

(ミシェルのいたレコンキスタの事か…)

 才人はミシェルが今、二重スパイをしていることを思い出す。

「まさか姫様の婚姻を妨げるような材料が!?」

 ルイズがまさか!という表情をしていると、アンリエッタは悲しそうに俯く。

「私が以前、したためた手紙なのです。ウェールズ皇太子にあてた…」

「プリンス・オブ・ウェールズ?あの、凛々しき王子さまに?」

 アンリエッタは悲痛そうに言う。

「手紙は今アルビオンにあるのです…ウェールズ皇太子の手元に…死を命ずる事と変わりません…ですが、お願いできますか…?」

「もちろんです!姫様!このルイズ、いつまでも姫様のお友達であり、理解者であります!永久に誓った忠誠、忘れること等ありません!」

 即答だった。才人もこの複雑な政治情勢の中、苦労しているアンリエッタの力になりたいと思い、頷く。

「ありがとうございます!ルイズ・フランソワーズ!あなたの忠誠と友情、一生忘れません!」

 感極まったのだろう、二人は力強く抱き合う。それから、アンリエッタは才人の方を向く。

「ルイズをお願いします。頼もしい使い魔さん」

 アンリエッタは才人の瞳を見つめる。本人は何故見つめられているのか分かっていないようだが、アンリエッタはその瞳に視線を集中する。

(やはり…ウルトラマンと同じ、暖かい瞳…。昨日の事件で見た彼の戦闘能力…まさか…いえ、考えすぎね…)

 アンリエッタがウルトラマンを見たのはたった一度だが、その様子は忘れること等出来なかった。それくらい印象的だったのだ。アンリエッタはそれと同じ瞳を持つ才人に引き付けられているのだ。

「使い魔さん」

 アンリエッタはすっと左手を差し出し、手の甲を上に向ける。

「いけません姫様!使い魔にお手を許すなど!」

「いいのですよ。忠誠には報いるところが…うぷっ!」

 その瞬間、アニエスが袋を用意、アンリエッタをマントで隠し、才人が抱き合っていたルイズを連れて部屋の外に飛び出る。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※!

 

 

 音が聞こえなくなり少ししてから、二人は謁見の間に入る。そこには妙にスッキリしたアンリエッタがいた。ルイズに手紙を手渡す。

「ウェールズ皇太子にあったらこの手紙を渡してください。件の手紙をすぐに返してくれるでしょう」

 それからアンリエッタは右手の薬指から指輪を外す。

「母君から頂いた『水のルビー』です。せめてものお守り、お金が心配なら売り払って旅の資金にしてください」

 ルイズは恐縮しながら、深々と頭を下げる。アンリエッタはルイズ達に祈りを捧げる。

「母君の指輪がアルビオンに吹く猛き風から、あなた達を守りますように…」

 

 

 

 

 ルイズはアンリエッタからの密命に燃えているが、才人は痛ましい姿のアンリエッタを思い出してしまった。

(姫様があんなに酒飲んだのは、辛い現実から少しだけ目を逸らしたかったから、なのかもな…)

 

 

 

 




続きます。次回よりウェールズ編突入です。


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ゼロの使い魔~真心~第30話

続きです。お待たせしました。今回仕事云々の前に、すごい悩んでしまいました。本文は長くなってしまうし、怪獣は出てこないし…でも、書き上げたので見て行ってください。


 夜、一人部屋にて。いつの間にか届いていた指令文書の封を開ける。ここにはいつも自身の立場を利用し、出来うる限りの成果を上げるよう書かれている。毎度無茶な指令が多いので、時折見るだけで憂鬱になる指令文書だが、これも己の理想、願いの為。見ないわけにはいけない。

「…なんだって…無理難題じゃないか…」

 どうしようもない、どうにもならない、という諦めの感情と一緒にベッドに横になる。今回のは今までの中で一番の無理難題だった。暗殺任務なのだが相手が大物すぎる。

「…プリンス・オブ…ウェールズ…」

 アルビオン王国の皇太子、金髪の美青年、高い実力を持つメイジ、まさに絵に描いたような王子様だ。そんな人物に近づくなんて余程の事が無ければ無理だ。他者を寄せつけぬ厳戒な警備をかいくぐり、寝首をかく。言うは楽だが、やるのは無理に近い。…やりようは無くも無いが。

「いくら俺でも…うぅん…」

 今回は立場を利用しようが無い。どうすればよいか。寝転がりながら考えていると…。

 

コンコンッ!

 

 吉報がやって来た。それは、こちらからは普段ご機嫌伺いしかしない上司だった。だが、この日程、自分の上司が輝いて見えた日は今まで無かった。今まで一度も…。

 

 

 

 

 日が沈む頃、ルイズと才人は王宮から戻ると、学院に戻り遠出の準備をしはじめた。オスマン学院長には全てでは無いが、事情は説明してある。今回は特別に、授業については単位を用意してくれるらしい。

「…なぁルイズ?手伝ってくんない?」

 返事が無い。振り向くと、既にベッドでご就寝だ。明日、朝早く出発するので早く寝ると言っていたが、せめて準備が終わってからにしてほしかった。…まぁ王宮での事件、その後のどんちゃん騒ぎ、と地味に疲労が溜まっていたのだろう。アルコールもまだ完全には抜けていないだろうし。

「よっこいせ、と」

 才人は全ての準備を終えると、寝床の藁に座り込む。相変わらずこの藁はチクチクするなぁと、不平を漏らしていると…。

 

コンコンッ!

 

 誰かが部屋のドアを叩く。こんな時間に誰だろう…と言いたいがまだそこまで遅い時間ではない。才人は「はーい」とドアを開ける。

「あれ?タバサ?」

 それは普段訪ねてこない意外な相手だった。小柄な体に美しい青髪が印象的な彼女は、こちらから尋ねない限り会話をする機会は殆どない。

「どうしたんだ?」

 タバサは何も言わずに、才人を目の前の部屋…キュルケの部屋に促す。

「暫く、お願いしたい」

 どういう事だ?才人が尋ねるとタバサは言いずらそうに呟く。

「急用が出来た…どうしても、行かなきゃならない」

 そう言う彼女の手元には小さな筒が握られ、中から紙がのぞいている。手紙だろうか?しかし、自分たちの事もある。返答に困る才人だが、タバサの決意のこもった瞳に強い意志を感じる。

「…分かった、大事な用事なんだろ?キュルケはこっちに任せてくれ。あっ、でも俺も行かなきゃいけないところがあるから、シエスタに頼むことになるかもだけど…いいか?」

 タバサは小さく頷くと、窓へ駆け出しシルフィードに飛び乗る。

「ありがとう…」(私には、守る物が他にもあるから…)

 タバサは呟くと、そのまま夜の闇に消えてしまった。才人は今のキュルケの状態を確かめようと思い、デルフリンガーを留守番にして、キュルケの部屋のドアをノックする。

 

コンコンッ!

 

「キュルケ…才人だよ、入っても…いいか?」

 返答は無く、沈黙が流れる。やっぱり、まだ人と話せる状態じゃないのかな、と才人は思い、シエスタにこの事を頼むために立ち去ろうとする。その時…。

「…どうぞ」

 か細い声が聞こえる。以前のキュルケからは考えられないような弱弱しさ。あの元気な頃を知っている身としては悲痛だった。

「入るよ…」

 中には毛布を頭から被り、美貌のかけらも無い、生気の失せたキュルケがいた。部屋に双月の灯りしかない為、キュルケの姿がよく見えない才人はキュルケに近づこうとした。が、布を踏んで転んでしまう。

「イデっ!?…これ…」

 才人が踏んだのは薄い布だった。なんだろうと思い拾い上げると、それは見覚えがあるものだった。以前キュルケが才人を誘惑する時に着ていたネグリジェだ。

「捨てて!」

 キュルケの必死の叫びに、才人は咄嗟にゴミ箱を探し投げ込む。

「見たくもない、見たくもない!…男を寄せ付ける物なんて!」

 そう言うとキュルケは毛布で全身を覆い隠れてしまう。その震える様子には恋多き魔性の女の面影は無かった。おそらくキュルケが自分で引き裂いたのだろう。才人はキュルケを治せないにしても、何か出来ないか、元気付けられないかを考え込む。

「…サイト…何をしに来たの?」

 キュルケの問いに才人はタバサの事を伝える。キュルケは驚いて泣き叫び、暴れだし才人に掴みかかる。才人が必死になだめると落ち着きを取り戻すが、震えが止まらない。才人は考えた末、キュルケを癒す方法を一つ思いつく。

「…えっと…なぁ、花を見に行かないか?」

 

 

 

 

 学院にあるマチルダの花壇。それは、シエスタの故郷の不思議な土の効果もあり、季節外れの草花も育てることが出来る花壇。才人はそこにキュルケを連れて来た。相変わらず毛布にくるまっているが…。

「綺麗…」

 才人の世界には『フラワーセラピー』という言葉がある。今育てているコスモス・ブーゲンビリアにその効能があるかどうか分からないが、少しでもキュルケを癒せればと考えたのだ。

「そうだろ?…ん?…あれ?っあ!」

 才人はその時、信じられない物を見た。いくら何でも早すぎる、あり得ない事だ。まだそこまで遅い時間ではないが、寝ぼけているのではないかと目元を強めに擦る。

「マジか…芽が出てる…チグリスフラワーの芽が出てる!」

 才人はチグリスフラワーに駆け寄り、見間違いじゃないかとまじまじと見つめる。キュルケは訳が分からず才人を眺めている。が、すぐに才人に手を引かれる。

「キュルケ見てくれよ!」

「あっ…!」

 キュルケは引かれるまま、芽の前まで連れて来られる。そこには小さく芽吹く可愛らしい姿があった。

「…可愛い…」

 キュルケは、人間の吐息で揺れてしまうような小さな命に魅入る。才人はその姿を見て、呟く。

「…チグリスフラワーは百年に一度しか咲かないんだ」

 百年に一度、その事実はキュルケを驚かせるのに十分だった。

「え?…百年?!」

 才人はキュルケが食いついたことに「これだ!」と思い、続けて話す。

「そう、百年。奇跡だね、俺たちはすごい奇跡を見てるんだ。俺もまさか芽吹いてるなんて思わなかった…でも」

 キュルケは…何?と呟く。

「キュルケはこの奇跡が続くと思うかい?」

「え?」

 どういう事だろう?キュルケが疑問符を浮かべる。

「この小さな命が芽吹いたのは奇跡、だけどそれを育てるのは人間なんだよ、誰かが世話しないといけないんだ。キュルケは出来る?」

「無理よ」

 即答だった。才人はたじろぐが負けじと続ける。

「そうかな?キュルケは面倒見いいじゃん」

「今の私に出来るとでも!」

 キュルケの本音だ。自分の状態についてはよく理解しているようだ。悲痛な叫びに心えぐられるが、ここで負けて押し黙る訳にはいかない。

「出来るさ!…覚えてる?俺が無理なトレーニングをしてた時、誘うふりして止めてくれただろ?ルイズに対してもさ、からかうようにして、クラスで孤立しないようにしてくれてただろ?キュルケは…優しいよ。」

 キュルケは自分の事をよく見ていた才人に驚く。

「俺さ、明日からアルビオンに行かなきゃいけないんだ。…だから花の世話を頼みたいんだ。シエスタに手伝ってもらってさ…だから、ちょっとずつ、外に出てみようよ」

 才人は少しでも元のキュルケに戻って欲しかった。だから、才人なりの全力で思いをぶつけたのだ。最初は少しでも癒しになればと思ったが、いつの間にか全力になってしまっていた。

「…ふふっありがと、サイト…こんな私を心配してくれて…」

 キュルケが笑みを浮かべた。ツルク星人の時以来見ていなかった笑顔だ。キュルケは才人の手を握り、その胸に顔をうずめる。

「分かったよ、サイト。私やってみる…ありがとう、連れて来てくれて」

 キュルケは花の世話を引き受けてくれた。これがいい方向に転ぶかは分からない。でも、少しでもキュルケの治療になる事を願う才人だった。

 

 

 

「ふぅ…」

 才人は学院の廊下に腰を下ろす。キュルケを部屋に送った後、シエスタにキュルケの事を頼んできたのだ。そのまま部屋に戻…らずに新しく出来た用事を済ませに行く。

 

コンコンッ!

 

「何じゃね?」

 ここは学院長室。オスマン学院長のいる部屋だ。もっとも、用事があるのはオスマンではない。

「マチルダいますか?」

 用事があるのはマチルダだ。チグリスフラワーの事を伝えなければならない。

「才人!少し待ってね」

 マチルダは仕事終わりだったのか荷物を片付けていた。オスマンにお先に失礼します、と言うとマチルダと才人は学院室を後にする。

「マチルダ、少し話があるんだけど、花壇に行かないか?」

 才人が誘うと、マチルダは真剣な表情になる。

「ああ、あたしも話があるよ…」

 才人とマチルダは花壇に来ると、チグリスフラワーの芽の前に並んで座る。

「チグリスフラワー!芽が出たんだね!」

 マチルダが、才人が思っていた以上に喜んでくれたので嬉しくなる。キュルケに世話を頼んだ事も伝えると快諾してくれた。

「他の女だったらどういう事か問い詰めるけどね…」

「?何か言った?」

「何にも」

 マチルダは少し膨れっ面だが、すぐに真剣な表情になる。

「才人…また危険な所に行くのかい?…詳しくは言えないんだろうけどさ…」

 才人はマチルダが心配そうにしているのを感じ取り、安心させようと明るくふるまう。

「大丈夫さ!いつものように帰って…」

 瞬間、マチルダが才人を抱きしめる。普段抱き着いてくるより激しく、力強い抱擁だ。いつもの幸せな感触より先に戸惑いが生まれる。

「才人は!才人はそうやって!いつも、いつも無茶して!怪我してばっかじゃないか!」

 才人はマチルダの涙声を聞いて、軽々しく大丈夫と言った事を激しく後悔した。今まで、自分は何度怪我をして帰ってきただろうか?…才人は少し考え、何かを思いついたのか立ち上がる。

「見てて…マチルダ」

 何をするのか分からず見守るマチルダの前で、才人は両腕を胸の前で交差し力を溜める。

「…ァァアアアッ!コスモーーース!」

 才人が叫ぶと、二人は光に包まれる。マチルダがまぶしくて目を閉じ、目を開けるとそこは学院のはるか上空だった。

「えぇ!?」

 マチルダは慌てて自分のいるところを見る、青い、地面?いや…これは!

「コスモスの手の上!?」

 コスモスの手のひらの上だった。

「自分で変身できるようになったのかい!?」

 コスモスは首を横に振る。

(いや、実は今のはたまたま上手くいっただけ。練習では200回に一回、出来るかどうかかな?)

 その間に、マチルダを青いバリアが覆っていた。

「これは?」

(バリアだよ、マチルダを守る為のね。じゃ!行くよ!)

「え!?ちょっ、何!?」

 コスモスはあっという間に雲を抜け、宇宙に出る。マチルダは驚いて目を瞑っているが、コスモスに目を開けるように促される。

「なっ、なにを?…え、ふわぁ!すごい!」

 その時マチルダの視界に入ってきたのは…

 

 

 

「何だいこれ!?星の光がこんなに!」

 宇宙に煌めく、星々の輝きだった。コスモスはマチルダにこの光景を見せたくて、ここに連れて来たのだ。マチルダは子どもの様にはしゃいでいる。

 

 

(なあマチルダ)

「?何だい?」

 コスモスはマチルダに謝罪する。

(すまなかった、軽々しく大丈夫などと言ってしまって…これはその…謝罪の気持ちだ)

「あぁいや、あたしこそすまなかった。ムキになっちゃって…」

(…マチルダ、俺には夢がある。憧れていたウルトラマン達の様になる事だ)

「夢…」

(自分の力で手に入れたわけじゃないけど…手に入れたからには夢を叶えたいんだ…憧れた英雄に…だから)

 マチルダは真剣に聞いている。

(俺の無茶、少しだけ目を瞑ってくれ。それで救われる人がいるなら、俺は救いたいんだ)

 マチルダは考え込んで、ため息を漏らす。

「…分かったよ、あんたはウルトラマンだもんね。でも…約束っ!」

 マチルダはコスモスに小指を突き出す。

 

 

「絶対死ぬな!あたし、待ってるから…」

 

 

 

 コスモスはマチルダと固く約束した。必ず生きて帰って来ると。そして煌めく星々に誓った。必ず自身の夢を叶えると。

 

 

 

 

 

 




続きます。ようやく次回、出発です。


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ゼロの使い魔~真心~第31話

お待たせいたしました!続きです。ようやく出発します。その道中の話です。


 翌朝。才人は起床後、寝不足の頭痛に苦しめられながら起き上がる。まだ空が明るくなり始めたばかり、小鳥のさえずりすら聞こえない時間だ。

「お~い…ルイズー、起き…あれ?」

 才人はベッドを見るが、いつもの寝坊助ルイズがそこにいない。何処だろうと見渡すと、窓の所に腰掛けるルイズが視界に入る。

「起きた?夜更かしバカ犬」

 朝っぱらから罵倒されるいわれは無いはずだが、先に起きて、いつもの制服に着替えまで済ませていたルイズには言い返す事は出来なかった。

「…早いな」

「そりゃぁね…とっても大事な事だもん…おちおち寝てらんないわ」

 昨日速攻寝たくせに、とはあえて言わない才人だった。しかし、そこである事に気が付く。ルイズが窓の所から動かず、顔がほんのり赤い。

「…どうした?ルイズ?顔が赤いぞ。大丈夫か?」

 才人が近寄ろうとすると、ルイズが手で制する。

「サイト…あんたには普段生活の世話させてるわよね、掃除とか、洗濯とか。色々」

 それがどうした?と疑問に思うが、すぐにルイズが教えてくれる。

「寝汗かいてね、着替えようと思ったの。で、脱いだんだけど…しばらく自分で着替えて無かったでしょ…?」

 才人はつまり…と、ルイズの状態が容易に想像できてしまう。ルイズはもじもじ、くねくねしながら…

「…下着どこ?」

 と、可愛く呟く。ルイズはノーブラ・ノーパンだった。才人は締まらねぇなぁ…と頭を抱えた。

 

 

 

 

 朝靄の中、才人とルイズは馬に鞍をつけていた。ルイズはいつもとは違い、乗馬用のブーツを履いていた。どうやら長く馬に乗るつもりらしい。

(そういや、アルビオンってここからどれくらいなんだ?…ていうか)

「なぁ?ルイズ、このギターいるか?」

 才人はデルフリンガーと一緒に、ギターも背負わされていたのだ。デルフリンガーと一緒になので、バランスがとりづらい。

「当たり前じゃない!いざという時はあんたの歌で路銀を稼ぐのよ!姫様の大切なルビーを売り払う訳にはいかないんだから!」

 ルイズが言うには、姫様の大切な物を簡単に売り払うような恥知らずになる訳にはいかないらしい。才人は自身の歌が認められている事に笑みをこぼすが、同時に複雑な気持ちになる。こんな事で今回の任務をやり遂げる事が出来るだろうか?…その時。

「…ーい…」

 どこからか声が聞こえる。こんな朝靄の中、誰か来たのか?と二人が入口の方を向くと馬より大きい何かがやって来る。しかし、才人には見覚えがあった。

「グリフォンだ!」

 以前一度だけ見た事のあるグリフォン。しかし乗っている人間には最近よく合う。

「おーい!やあ!会いたかったよ、僕のルイズ!」

 乗っていた人物はグリフォンの上からルイズをかっさらい、お姫様抱っこをする。その意外な人物の登場に才人とルイズは声を合わせる。

「「ワルド子爵!」」

 ルイズをかっこつけて抱き抱えたワルドは、ルイズと見つめ合いながらキスをしようとする。

「待って待って待って!?急すぎですワルドさま!?まず何故ここに!?」

 おお、すまないね。と、ワルドは咳払いをする。

「実はマザリーニ枢機卿が、様子のおかしかった姫様を問うたところ、君たちへの密命が明らかになってね。やはり心ともないという事から僕が使わされたんだ」

 一個部隊を動かせない為、隊長のワルドが選ばれたとの事。たった一人でもこの任務を託されるとは、実力の証明だろう。

「さあ!出発…の前に」

 ワルドは才人に向き直る。

「使い魔くん…実は急いでいた為汗をかいてしまってね、シャツを用意してもらえないかな?」

 才人は心の中で一言。お前もか、と呟いた。

 

 

 

「それでは気を取り直して、諸君!いざ出撃だ!」

 こうしてようやく出発した一行。グリフォンと馬で並走する才人だったが、今回の旅の行程を聞いて才人は驚く。

「一日!?馬で二日も掛かる距離を一日で行くってか!?」

 今回の旅の最初の目的地の港町ラ・ロシェールはトリステインから馬で二日の距離にあるという。駅で馬を乗り変えつつ向かうらしいが、どう考えてもペースが速い。

「「急ぎの任務だから仕方ない(じゃないの!)」」

 二対一で負けた才人は渋々了承する。一人なら飛んで行くのになぁ…と考えるが、今は流石に無理である。才人は、グリフォンにまたがり背中をワルドに預けるルイズと、昔のことを思い出し、談笑するワルドが酷く羨ましく見える。

(談笑する余裕あるのか…いいなぁ…俺も話し相手が…あ、いた)

 才人はデルフリンガーを鞘から少し出す。

「よう相棒!なんだ?一人がさみしいかい?な~に!俺っちがいるさ!そういえば昨日の夜、あの姉さんやキュルケの嬢ちゃんと一発ヤッ…」

 余計な事、有りもしない事を言いそうなので、才人はデルフリンガーを鞘に戻す。

(話し相手…欲しいなぁ…)

 その様子をワルドはルイズとの談笑がてら横目で見ていた。

(ほう…馬で僕のグリフォンに追いつくか…それにしてもあの左手のルーン、どこかで見たような?いや、しかし…)

 才人がグリフォンの左側にいる為、しっかりと確認できないのでどうとも言えないが。そうこうしている内に駅を二か所越え、馬を交換しながら尚も走り続ける。三つ目の駅に差し掛かった時、道を遮るように何かが置かれているのが一行の視界に入った。

「何だありゃ?」

 三人は顔を近づけて見てみる。道の端から端に渡されたバリケードに紙が縫い付けてある。書いてある文字を才人は唯一読めないが、ワルドが声に出して読んでくれた。

「ふむ?通行禁止…だって!?」

 ワルドが驚きの声を上げたのと、ルイズと才人が顔を見合わせたのは同時だった。

「そんな!何でこんな何もないとこが通行禁止なのよ!こっちは急いでるのに!」

 ルイズが金切り声を上げるが才人が何とか抑える。

「まあまあまあ!何か事情があるのかもしれないじゃないか!」

 とは言いつつも、実は才人は内心喜んでいた。もう半日も走りっぱなしで流石に休みたかったからだ。その時、ワルドは仕方ない、と呟くとグリフォンから降りる。

「こうしていても埒が明かない。ここの代表と話してこよう」

 ここは駅と言っても、旅人が休めるような宿泊施設があり、ある程度の人口がある町でもある。ここの代表ならば事情を説明してくれるだろう。と思い一行は町中に向かった。

 

 

 

 

 

 町中に入ると人が慌ただしく行き来している。歩いていると視界の外から急に男性が走ってきて、ぶつかりそうになる。事実、何度かルイズがぶつかりそうになるが、才人とワルドがその度に壁になり守っていた。

「こりゃあただ事じゃねえな…」

 才人が右へ左へ、と行きかう人々を見ていると、ある共通点に気付く。

「皆持ってるの、非常食と水じゃないか?」

 言われてルイズ達も気付く。

「こんなに急いで非常用の準備を整えている何て…何か大きな災害でもあるのだろうか?」

 そんな急いでいる住民の一人をワルドが呼び止める。

「おい君!どうしてそんなに急いでいるんだ?」

 しかし無視される。この後、八人ほど声をかけるが…皆無視される。

「どうなってんのよ!?誰か一人ぐらいこっち見なさいよ!」

 ルイズのご機嫌がどんどん悪くなる。このままでは間違いなく炎が飛んでくる。よくわかっている才人はワルドとアイコンタクトを交わし、頷き合う。ちょうどその時、真横を通り過ぎた少女の手を掴み、少し強引に引き留める。

「なっ?!あなた誰!」

 驚いて足を止める少女。そこにワルドが紳士的な態度で割り入ってくる。

「やあ、私の従者が失礼した。しかし、どうしてもお嬢さんとお話がしたくてね。失礼、自己紹介がまだだった。私はジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。魔法衛士隊グリフォン隊隊長だ」

 少女は紳士的な態度の男が貴族と分かり、驚きの声を上げる。

「きっ!、貴族様!?」

 ワルドはよし、と頷いているが、才人は少し驚いていた。

(ワルドが名前だと思ってた…ジャンなんだ、名前…ルイズのラ・ヴァリエールみたいなもんか?)

 そんな二人にルイズが冷たく、人を射殺すような敵意を込めて言い放つ。

「…なに、ナンパ?」

 ワルドと才人は背筋が凍り付く。

「「違う違う違う違う違う!誤解です誤解です!」」

 

 

 

 

 ワルドがナンパ、もとい呼び止めた女性はこの町の町長の娘さんで、名前はレーヌ。これから家に戻るところだったらしい。一行は今何が起きているのかを知る為、町長に話を聞くために同行する事にした。しかし、道中弾んだ会話はあまりない。ルイズの不機嫌がマックスに近いのだ。

「あの…あちらの方、大丈夫ですか?」

「「お気になさらず」」

 一行が到着すると家の中、の地下室に通される。そこには中年の男性と麗しい女性がいた。おそらくこの娘さんの両親…町長夫妻だろう。

「やあ、よくぞいらっしゃいました。旅の貴族様。私、この町の町長をしているラハディと申します。娘から聞きましたが、皆さまは交通規制の理由を知りたいとの事で」

 町長は静かに語り出す。

「実はこの町には魔獣伝説という物があるのです」

「「「魔獣伝説?」」」

 三人の声が重なる。イラついていたルイズも不穏な単語に落ち着きを取り戻す。

「五百年に一度、僅か一日ですが、ラ・ロシェールへの道から魔獣が現れ、破壊を尽くすという物です。その五百年目が…」

「「「今年…?」」」

「迷信と馬鹿にされるのも結構。しかし、こちらをご覧ください」

 町長が横にずれると、大きな石板が姿を現す。そこには無数の傷が、ある程度の規則性を持ってついていた。

「これは一年に一度、魔獣が現れるまでの残り年数を数える為に傷をつけている石板です。これを我が一族は使命として続けてきました。そして明日が五百目の傷をつける日なのです」

 説明を聞いてルイズが疑問を唱える。

「何故正確に五百なのですか?」

 町長はそれを聞いて奥さんに奥まで照らすように言う。

「ご覧ください…」

 そこには一行が息を飲む光景があった。先ほどの石板と同じものが十枚近く並んでいる。もちろんすべてに五百の傷がついている。

「これが証拠です。我が一族の使命の重みですよ。これのおかげで町の人も私を信じてくれるのです。」

 町長の一族は少なくとも五千年以上これを続けてきたことになる。この事実は一行に全てを信じさせるだけの説得力があった。

「だから皆、隠れる準備を…」

 一行は交通規制の理由をようやく理解した。そして地下室の意味も。地下室は身を守るためのシェルターになっているのだ。一行は少し考え込むが、ワルドが切り出す。

「ルイズ、今回の任務は急ぎの物だ。だが、急がば回れとも言う。伝説通り一日だけならまぁ…そこまで影響もないだろう。この町で魔獣とやらをやり過ごそう」

 ルイズと才人は異議なしと頷く。すると町長がそれならと手を叩く。

「それなら向かいの宿屋をご利用ください。地下に旅人用のシェルター兼、宿があります。もちろん貴族様でもご満足出来る部屋もございますから」

 一行は町長の紹介の下、その宿に一泊することにした。貴族用の部屋は他の部屋より蝋燭が多いだけだが、それでもありがたかった。

 

 

 

 

 一行はゆっくり休息し、魔獣が過ぎ去るのを待つことになった。

 

 

 

 




続きます。今回の最後の魔獣、分かる人には分かるかも?こいつどうしても出したかったんです。「ゼロの使い魔~真心~」を書くうえで絶対に書きたかった奴なんです。


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ゼロの使い魔~真心~第32話

お待たせしました。続きです。魔獣の正体とは…


 才人は地下室に入ると、ベッドが二つしか無い事に気付く。一つはルイズ、一つはワルドである。もちろん自分のは無い。

「(…やっぱりか、おりゃ使い魔だもんな)二人で寝てよ。俺は外で変な奴来ないように番してるから」

 部屋を出ようとすると、ワルドに肩を掴まれ側に引き寄せられる。

「まあまあ、ちょっと待つんだ」

 ルイズに少し待つように言うと、二人は一旦部屋を出る。出るなりワルドは才人の耳元で囁く。

「いいかい?ベッドは二つ、人は三人。一人がベッドで寝ないという選択肢よりもだ、もう一つの選択肢の方が良いとは思わんかね?」

 才人は言われて気付く。そのもう一つの選択肢という物に…その大胆さにも。

「まさか、二人で寝るのか!?いくら何でも早くないですかい旦那!?」

 ワルドは不敵にほほ笑む。

「なに、僕のルイズは素直になれないところがある。少々積極的にならねばな‼」

 才人はぼそっと呟く。

「この間は酒で失敗してましたからね…」

 ワルドは痛い所を疲れうめくが、咳ばらいをする。

「ゴホンッ!…とにかくだ、協力、頼むよ?」

 才人は「もちろん」と、即答した。二人は部屋に戻るとルイズに一つのベッドに二人が寝る事を提案する。

「まあ!ワルドさま!なんてお優しい、うちの使い魔なんかを布団で寝かせてくださるなんて…ありがとうございます」

 ワルドは「なんのなんの」とニヤついている。思ったよりすんなりいって機嫌が良い様だ。その時、ルイズのお腹が可愛く鳴く。同時にルイズは真っ赤なリンゴの様になる。

「そう言えば朝から食事していなかったね、まだ明るいし店も開いてる時間だ。何か買いに行こう」

 

 

 

 ワルドはルイズの手をとると一緒に買い物に行った。才人は二人きりにしろというワルドのアイコンタクトを受け取り一人別行動をとる事になる。

「言ってもそんなに開いてる店ないな…」

 一人、道を歩く才人だが、やはり魔獣への備えで早々に店を閉じてしまう所が多い。どこもかしこも閉店だらけだ。そうして歩いていると、少し開けた広場にやって来る。

「…ん?何だ?」

 その広場の真ん中で、大きな声で一人の男性が叫んでいる。周りにはそれに呼応するように「そうだー!」、「ひゃっはー!」と叫ぶ人々が。見る限りは、皆若者の様だ。

「魔獣なんか迷信だー!世迷い事だー!」

 どうやら、魔獣の事を信じていない者もいる様だ。演説して支持を訴えている。しかし、才人がどうこう言って何とかなる問題では無い。才人は無視して、まだ食料品を売っている店を目指して歩き出した。

 

 

 

 戻ってきた三人は食事を始める。ワルドの過去の武勇伝で盛り上がるが、ルイズは以前聞いていた事もあり少し盛り上がりに欠けるようだ。そんな空気を換えようと才人が話題を切り出す。

「あっ!そうだ!ここでなぞなぞタ~イム!」

「「え?」」

 二人は驚いているが、もう引っ込みがつかない。才人はいくしかない、と続ける。

「朝は四本、昼は二本、夜は三本足、これな~んだ?」

 才人からしたらそんなに難しい問題では無い。かつてスフィンクスが旅人に出したといわれるなぞなぞだ。しかし、この国の人間からしたら難しいようだ。二人は首をかしげる。

「まさか、僕の知らない幻獣が?いや、しかし…」

 ワルドとルイズが物凄く悩み出してしまい才人はミスった。と反省した。結局二人は分からず、休む事にした。ルイズは疲れが出たのか、すでにまどろみに包まれる。が、ワルドは流石は軍人。そうも疲れていない。今がチャンスだ!と思いルイズの肩を引き寄せる。才人はそれを見てベッドに入る。

「さ、もう疲れただろう。ベッドに行こうか」

 ワルドはルイズをベッドに導こうとする。ルイズは眠い目をこすりながらワルドの背中に手を添える。

「お休み…ふわぁ~…」

 そのままワルドに布団をかけ、反対側の布団に入る。

 

 

「「…あれ?」」

 

 

 何故かワルドと才人が向かい合って布団に入り、ルイズが反対側のベッドに入る。二人は跳ね起きてルイズの方を見るが、既に寝息をたてていた。

「…俺、見張りしますね」

「…頼んだよ」

 二人は、何とも言いがたい空気に包まれたのだった。

 

 

 

 才人はデルフリンガーに何か起きたら起こす様に頼み、ドアの前に座りながら仮眠をとる。そうして朝を待つことにした。まどろみの中、先ほど見た一団の事を思い出す。

(…もしも本当は魔獣がいなかったら、あいつらは得意な顔をして喜ぶんだろうな。けど…俺たちが信じてるように本当に魔獣がいたら…危険なんじゃないか?…流石に非難するよな…?)

 しかし、そこまで考えた所で昼間の疲れに全身を包まれ、眠りに落ちてしまった。

 

 …………………

 

 朝方まで眠っていると、地下室全体が震え、轟音が響き渡る。

「…ッ!魔獣が出たのか!?」

 才人は驚いて飛び起きて、咄嗟に身を守ろうとデルフリンガーを引き抜くが、デルフリンガーに落ち着くよう言い聞かせられる。

「おいおい、今ここに出た訳じゃねえだろ?」

 才人は落ち着きを取り戻すが、同時に大切な事を思い出す。

「そうだ!あいつら!」

 才人は慌てて地下室から飛び出す。何事かと起きて来たルイズや、ワルド達をしり目に地上に飛び出す。

 

 

 広場近くにそいつはいた。四つの複眼を持ち、四本の触覚が生えていて、どことなくぎこちない動きの四つ足で動く怪獣。

 

 

「あれが魔獣!」

 遠くを見るとラ・ロシェールの山の方に大きな穴が開いている。おそらくそこから出てきたのだろう。どことなく幼い印象を持たせる鳴き声が特徴的だ。

「キューン!キューン!キャッ!キャッ!」

 怪獣は何かを追いかけている。襲っているというよりは遊んでいる様だ。しかし、追いかけれれているのは…。

「「「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」」」

 昨日、魔獣はいないと豪語していた若者たちだ。才人はやっぱりか、と舌打ちをしながら助ける為に駆けだす。一気に駆け寄り、三人両脇に抱える。本人たちが何が起きたか分からない内に、安全な宿の地下室の入り口まで運び、また何人かを抱えて運ぶを繰り返す。最後の一人になったところでついに怪獣に気付かれてしまう。

「キャ?キュッキュッ!」

 怪獣は標的を才人に帰る。急に向きを変えて来たので、才人は慌てて踵を返す。

「マジか!?」

 才人は全力で逃げ回るが、逃げ切るには巨大すぎる体。建物を踏みつぶしながら近づいてくるそれを、建物の間を最低限の動きで抜ける事で逃げていく。その時、怪獣の腕が吹き飛ばした家が才人の上に降ってくる。

「くそっ!」

 デルフリンガーで人が一人通れる穴を切り裂き、針の穴を通すように抜け出す。巻き起こる粉塵に紛れ、才人は怪獣から逃れようと全力で走り、何とかして少し離れた家々の影に隠れる。怪獣は才人を見失ったようだ。少し周りを見渡すと、家をもぎ取り重ねて遊び始める。

「何だ?積み木のつもりか?」

 才人は今回無理に怪獣に関わらず、戦わなければ良いなと思っていた。しかし、ここまで被害を出されては放っておけない。才人はデルフリンガーを掲げ、変身しようとする。

「行くぞデルフ!」

「おうよ!相棒!」

「コスモーー…」

 

 

 待って!

 

 

 才人は突然の声に変身を止める。誰かに見られたかと思い周りを見渡すが、誰もいない。改めて変身しようとするが、再び声が呼び掛けて来る。

 

 

 お願い!やめて!あの子を傷つけないで!

 

 

「誰だ!何処にいる?何を知っているんだ!?」

 才人が叫んでいると、宿からワルドが走ってやって来る。

「大丈夫か!?話は彼らから聞いたよ。あれが魔獣か…」

 「彼ら」とは才人が今しがた助けた人達だろう。ワルドは杖を構えると、怪獣を睨みつける。

「あまり関わりたく無かったが、こうなればしょうがない。僕の魔法で黒焦げにしてやる!」

 ワルドは建物の影から飛び出そうとした時、再び声が聞こえる。

 

 

 やめなさいジャン!傷つけてはダメ!

 

 

 ワルドにも聞こえたのだろう。つんのめって、たたらを踏む。しかし、先ほどとは少し様子が違う。何と、ワルドを名指ししたのだ。ワルドもこれまでに無い程、取り乱している。

「…どういう事だ…?何で!どうして!?あり得ない!」

 ワルドは半狂乱になって叫ぶ。

 

「何処にいるんだ!母さん!」

 

 才人は突然出て来た単語に驚く。この声の正体がワルドの母親?十分驚きだが、例えそうだとしても姿を現さないのは何故だ?この怪獣の何を知っている?

「何処だ!?何処にいる!?返事をしてくれー!」

 ワルドは冷静さを完全に失っていた。ここまで取り乱すなんて、ワルドにとって母親はどのような存在なのだろうか?ワルドはそのままフラフラと歩きだしてしまう。

「駄目だ!見つかる!」

 才人は慌ててワルドを担ぎ上げると、怪獣の視界に入らない事を祈り宿に飛び込んだ。丁度地下室から上がってきたルイズとぶつかって怒られるが、それどころではないとルイズも連れて直ぐに地下室に入る。

「ワルドさま!?どうなさったんですか!?」

 ルイズはワルドが担がれている事に驚嘆するが、説明は後で、と才人に言われベッドまで運ぶのを手伝う。

「母さん!母さん!かっ…ん?ここは…?」

 段々と落ち着いてきたワルドを寝かせると才人は座り込んで考え込む。ここに隠れていれば安全か?それともここまで探しに来るか?そんな時、また外で轟音がする。才人とルイズは宿から出て様子を見に行く。

「「な!?」」

 そこには家を踏みつぶし、地下室の入り口に手を入れる怪獣の姿があった。

「キャッ!キャッ!」

 おそらく穴を掘って遊んでいるつもりだろうが、そこに避難している人からすればたまったもんじゃない。才人は何とかして止めないといけないと思い、何かを思いついたのか地下室に走る。

「ちょっとサイトどうしたの?」

 追いかけるルイズに才人は振り返らずに答える。

「ギターだよ!あれを使えばもしかすると…」

 ルイズはますます疑問が広がる。なぜ今ギター?才人は部屋からギターを持ってくると、ルイズの前でしゃがみ込む。

「手伝ってほしい、乗ってくれ!」

 ルイズは勢いに負け才人の背におぶさる。才人は怪獣に近づきながら作戦を説明する。

「一か八か、子守唄を歌う。あいつは生まれたばかりの赤ん坊みたいなところがあるんだ、上手くいくかもしれない」

 ルイズは怪獣の巨体を見てあれで赤ちゃん?と疑問になる。…確かに、無邪気に遊んでいるように見えなくもないが。才人に歌詞を教えられると、掴まる腕に少し力を入れる。

「…危なくなったら守りなさいよ」

 才人は、固い決意を述べる。

「…命に代えても守るよ」

 二人は怪獣の前に来ると、大きな音で注意を引き、子守唄を唄い始める。

「「ね~むれ~、ね~むれ~、母のむ~ね~に、ね~むれ~ね~むれ~、母のて~に~」」

 怪獣は初めて聞く音に興味津々になり聞き入っている。上手くいった!二人が確信した時、怪獣はおとなしくなりその場に突っ伏して可愛い寝息をたて始めた。

「「やった…」」

 二人は上手くいった事より、緊張から解き放たれた事に安堵し、その場でへたり込む。

(それにしてもワルド子爵の取り乱しよう…何が…?)

 二人は眠る怪獣を背に、ワルドを介抱するため宿に戻る事にした。その時、またあの声が聞こえた。

 

 

 

 イフェメラを…イフェメラを傷つけないで…!

 

 

 

 

 




続きます。魔獣の正体はイフェメラでした。まあ…分かってる人結構いたみたいで…


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ゼロの使い魔~真心~第33話

続きです。…繰り返しになり、今更ですが…ワルドの母について、ひいてはワルドについて。あまりにも色々と設定が違い過ぎますが、ご容赦を。後、今回も長いです。


 才人とルイズは地下室に戻るとワルドの介抱を始めた。濡らしたタオルで頭を冷やすと、ようやく冷静さを取り戻しため息をつく。

「…すまなかった、皆。もうこんな失態は…」

 詫びるワルドの唇にルイズの人差し指が伸び、話を中断させる。

「ワルドさま、私たちは何とも思っていませんわ。謝罪何て止めてください。それよりもサイトから聞きました。『あの声』の事…『あの声』が言っていた『イフェメラ』とは何か…。詳しくお教え下さらない?」

 ルイズはいつもの元気な声では無く、相手を包み込み慰めるような優しい声で語りかける。謝罪しか頭に無かったワルドは静かに語り始めた。

「…僕の母は、アカデミーの首席研究員だった」

 ワルドは自身の母について語り始めた。辛い過去なのだろう。体が震えている。ルイズはマズイことを聞いてしまったと思い止めさせようとするが、ワルドは覚悟を決めた目でルイズを見つめる。

「いや…聞いて欲しい、聞いてくれ。君にはいつか言わなければと思っていたんだ」

 ワルドは一度大きく深呼吸し、気持ちを切り替える。

「母は採鉱の研究をしていた。しかし、ある時から気が狂ってしまったんだ。どうしてそうなってしまったのか…だが僕はそんな母が怖くなって、見ていられなくて…っ!」

 感情を抑えられなくなり体を丸めるワルドをルイズが抱きしめる。無理をしないように訴えるルイズにありがとう、と言うと衝撃の一言を口にする。

 

 

「その後、父はついに見ていられなくなって…血の涙を流して母をその手にかけた」

 

 

 ルイズと才人の目が大きく見開く。二人は手で口を押えるが、一番辛いのは誰かを知っている。あえて何も言う事は無かった。

「…それから母の日記を見つけてね…そこにはびっしり書きなぐられていたよ。『聖地を目指せ』とね。今となっては理由何て分からないがね」

「…聖…地?」

 才人は分からず首をかしげるがルイズ曰く、ブリミル教の始祖ブリミルがこの世に誕生した場所らしい。説明が終わるとワルドが続ける。

「なぜ死んだはずの母の声が聞こえたのかは分からない。イフェメラという単語も。しかし、あの魔獣が何か不思議な力があって、身を守るために人間に幻影を見せるといった何かしらの力を使ってるんじゃないか?」

 ワルドの考察にそうなのか?と考える二人だが、デルフリンガーが長い沈黙を破ってしゃべり出した。

「よう、俺っちも話していいかい?」

 あまりにも空気を壊す事を言うんじゃないかと心配する才人だが、別の意味で驚く言葉を耳にする。

 

 

「あん時喋ってたのは俺っちだ」

 

 

 三人は一瞬固まるが、すぐにデルフリンガーにどういう事だ!?と、詰め寄る。しかしそれでもデルフリンガーは動じず続ける。

「俺っちの中に魂が入って来たんだよ。追い出してやろうと思ったが何か必死でな。体を貸してやったんだよ。…時間が無いんだな?分かった。また変わってやるよ」

 デルフリンガーはそう言うと暫く沈黙を続ける。三人が固唾を飲んで見守る中、少し刀身が揺れると再びデルフリンガーがしゃべり出す。しかしその声は優しい女性の声に変っていた。

「ジャン…私の可愛いジャン…」

 先ほどまで聞こえていた声だ。ワルドが目を見開いている事から、これが間違いなくワルドの母なのだろう。ワルドの母は少し焦るように話を始める。

「私には時間があまりありません。今話せるのは大地の精霊の力を借りているからなのです。しかし、それも長くはもちません」

 才人は水の精霊の事を思い出す。どうやらこの大地にも精霊というのがいる様だ。

「私は死ぬ間際、気が狂っていたのですぐには成仏できず、悪霊になりかけていました。しかし、ジャン。あなたの守護霊となる事で自我と理性を取り戻したのです」

「それじゃあ…ずっと僕を見守って…?」

 ワルドの母の声が少し暗くなる。

「…ええ、あなたの今までの全てを見てきました。軍に志願した事、魔法衛士隊の隊長になった事、そして…今しているあなたの『全て』を」

 ワルドは『全て』と言われ息を飲む。

「私は何も言いません。そうなってしまったのは全て私のせいだから。あなたはあなたの道をお行きなさい。私はあまり進めたくはないですが…」

 ワルドは少し表情が暗くなる。どうやら二人だけに分かる世界なのだろう。

「あなたの人生はあなたの物。生きたいように生きなさい。私はいつまでも見守っていますよ…」

 そうしてデルフリンガーから光が抜け出ようとする。おそらくワルドの母だろう。しかし、まだ聞きたいことがある。

「「「待って!イフェメラは!?」」」

 光がまたデルフリンガーに入り込んでいく。

「…ごめんなさい。元々…地の精…にイフェメラを救…を頼まれ…た…に…」

 ワルドの母の声が段々とかすれてくる。タイムリミットが近い様だ。

「イフェ…ラはたっ…一日の…いの…儚き…いの…一日…見…守って……」

 そこまで言ったところで光はデルフリンガーから完全に消えてしまう。切ない気持ちになるが、肝心の事はあまり聞くことが出来なかった。

「一日、見守って?…儚き…」

 ワルドは母の言葉を噛みしめていた。その時、どこからか騒がしい声が聞こえる。おそらく地上からだろう。どうした事かと才人が考えると、ルイズがふと呟く。

 

 

「そう言えば…サイトが助けた人たちは何処?」

 

 

 才人達が外に出ると、今朝の若者たちが何か騒いでいる。その騒ぎを耳にして他の避難していた人たちも恐る恐る地下室から出て来ていた。既に日は高く上り、昼頃になっていた。

「見ろ!魔獣は貴族様たちが眠らせてくれた!今ならこいつを殺すチャンスだ!」

 才人が目を見開く。殺す?抵抗できないこの怪獣を?しかし、焚きつけられた若者や住民たちは呼応して「そうだー!」、「殺しちまえー!」と叫んでいる。しかし、そこに町長ラハディと娘のレーヌが割って入る。

「待つんだ皆!魔獣に手を出してはいけない!危険だ!」

「お願い!危ないことは止めて皆!」

 そんな悲痛な叫びを聞こうともせず、若者たちは鍬や鎌、自衛用の剣など武器を取り出してくる。なおも止めようとするレーヌに若者たちを先導していた男性が近づいていく。

「レーヌお前はいつもそうだ。大人の話を聞くいい子だったな…うぜぇんだよ!」

 男性の拳がレーヌの顔面にめり込む。そのまま殴る蹴るの暴行が始まり、殴り飛ばされる。レーヌにルイズが駆け寄り、助け起こす。

「ちょっとあなた達!女性に手を上げるなんて!」

 ルイズに言われ怖気づく男性だが、目の前には細い小娘が一人。頭に血が上っていた事もあり、叩きのめしてしまえという感情が湧き出る。

「この小娘!」

 振り上げられた拳に目を瞑るルイズだが、その拳が届く事は無い。ワルドがその腕を斬り飛ばしたからだ。凄惨な光景に足を止める住民たち。

「貴族に手を出す愚かさを身を持って教えてやろうか…?」

 住民たちは完全に勢いを失う。

「悪いが、イフェメラに手を出させないよ(母さんの頼みだ…)」

 杖を突きつけられて徐々に後ろに下がるしかない住民たちだが、その背後からズシン、ズシンと大きな足音がやって来る。この町の自衛用に配備されている亀砲兵だ。しかも、六匹も。

「なっ!?どうやって連れて来たんだ!?(こういったのは簡単には連れだせないはず!?)」

 驚くワルドに向け、容赦なく大砲が放たれる。連れて来たのはワルドが腕を斬り飛ばした男性の友人の様だ。敵をとろうと攻撃してくる。ワルドはルイズとレーヌを抱え逃げ回る。

「くそっ!守りながらでは!」

 その時、才人が飛び出し亀砲兵の頭を蹴り飛ばし、そのまま人ごみに紛れる。その隙にワルドもつぶれた家の地下室に隠れる。レーヌはルイズに助け起こされると震えながら呟く。

「亀砲兵の管理場所の鍵を持っているのは町長の父だけです…ま…さか…」

 レーヌはそこで力尽きこと切れる。ルイズはまさか、という顔でワルドを見るがワルドは首を振る。

「暴徒化した人間は何をするか分からない。あり得る話だ…」

 その時、外から大砲の音が響く。どうやらイフェメラに対して攻撃が始まったようだ。ワルドとルイズは地下室を出て、崩れた家の瓦礫の間からその様子を見る。

「キューン!キューン!」

 砲撃を受け目を覚ましたイフェメラは苦痛の声を上げる。それを聞いた人間たちは益々攻撃の手を強める。

「撃て!撃て!撃て!ひゃははー!」

 こんな声も聞こえてくる。ルイズは悔しさに血が滴る程唇を噛みしめる。

「あいつら…あいつら!」

 ルイズは杖を取り出すが、ワルドに止められる。

「待つんだ、今行けば君が危険だ!」

 その時、イフェメラは必死に踏ん張り、体をねじり砲撃から逃れると、二本足で立ち上がる。が、そこにまた砲撃が浴びせられイフェメラは転倒する。イフェメラは攻撃を受け続けながらも必死に這い、大きな見張り台を支えに立ち上がる。

「ワルドさま!ワルドさま!あの子は…イフェメラは生まれたばかりの赤ん坊みたいな物です!それを、それを…こんな!」

 ルイズは瞳に大粒の涙を溜めワルドの胸に顔をうずめる。その時、ワルドはふと呟く。

「人間だ…」

「え?」

「昨日の使い魔くんのなぞなぞの答えさ」

 ルイズは何故今と思うがワルドは続ける。

「朝は四本足、『赤ん坊』昼は二本足『大人』夜は三本足『杖をつく老人』…母が言っていた一日の儚さとは、この事だったんだ」

 ルイズも言われてから気が付く。イフェメラの儚さの正体、それは…。

「まさか…一日の命…?人の一生を一日で全部…?」

 ルイズは涙が止まらなくなる。今人間がしている事は、何て酷いんだろう、醜いんだろう。

「止めなきゃ…止めなきゃ!」

 意思を確認し合った二人は覚悟を決め、杖を構え駆けだす。その時…

 

 

 光が溢れる。

 

 

 才人は暴徒に襲われ撲殺されたラハディの遺体を抱え、村長の家の地下室にまで戻ってきていた。

「相棒…行かねぇのか?」

 才人は何が?と問い返す。

「このままじゃ少なからず人間が死ぬぜ…?」

「いいよ…あんな奴ら、死んじまえ…ラハディさん…」

 デルフリンガーは怒鳴ろうとするが、黙り込んでしまう。否定したいが、悔しくも同じ気持ちだった。涙を流す才人は袖で拭うとデルフリンガーを掴む。

「…でも、このままじゃイフェメラが…それは、ダメだ」

 

 

 

「コスモーーース!」

 

 

 

 ルイズとワルドの前に現れた光はイフェメラと砲弾の間に入り込む。それは実体化し、砲弾からイフェメラを庇う。住民とワルド、ルイズの声が重なる。

「「「ウルトラマン!」」」

 住民たちは一度砲撃を止めさせるが、「ウルトラマンは敵だったんだ!」という片腕の無いあの男の叫びで砲撃が再開される。コスモスは砲撃を浴びても動じず、ひたすらイフェメラを守る。

(怪獣というだけでこんなにも残酷になるんだな…人間って…)

 コスモスが庇っていると背中から電撃が浴びせられる。イフェメラの触角から放たれた一撃だ。しかし、それにはイフェメラの強い思いが込められていた。イメージとなってコスモスの脳裏に広がる。

(そうか…イフェメラ、君は…)

 思いを届けたイフェメラはついに力尽き、その場に崩れ落ちる。ルイズは憎しみと悲しみが入り混じった叫びを上げるが、それは住民の歓喜の声にかき消される。

「デァァ!」

 歓喜の中、コスモスはイフェメラの亡骸を動かす。それを見たある者は歓喜し、ある者は驚嘆する。

 

 

「「「卵!」」」

 

 

 ルイズは涙をこらえる事無く、美しい顔をぐしゃぐしゃにしながら天を仰ぐ。

「イフェメラ!イフェメラ!あなたは、あなたは次の命を紡ぐために、一日を…一日を精一杯生きるのね!何て美しいのかしら!なんて!なんて!」

 ワルドは母の肖像画の入ったペンダントを握りしめる。それは母への報告だった。守りたかった物を守ったと。しかし、すぐにそれは怒りに塗り替えられる。

「魔獣の卵だ!壊せ!壊してしまえ!」

 再び亀砲兵が大砲を構える。ワルドとルイズは怒りに囚われ、杖を振りかぶる。が、今まで聞いたことも無いような怒り、悲しみがこもった叫びに体が強張る。

「この声…ウルトラマン?」

 コスモスは肩を震わせ今にも人間に向けて光線を撃とうとしていた。その衝撃に住民は腰を抜かし、亀砲兵は怯えて住民を踏みつぶしながら逃げていく。

「デ…デァァ!」

 コスモスはイフェメラの亡骸を持ち上げ、卵を抱えると空高く飛び立ち遠くの空へ消えていった。

 

 

 

 

 

 

 ガリア地方の人気のない山の中、コスモスは降り立った。山を手で崩し、そこに卵とイフェメラの亡骸を埋める。砂をかける時のコスモスの背中は、悲しみが満ち満ちていた。

(イフェメラ…俺は誓うよ…これから先、君の子孫や君の同族がいたら必ず守る。守るから…)

 

 

 

 その日、ガリア、ロマリア、トリステイン、アルビオン、ゲルマニア、果てはサハラまでコスモスの心の叫びが届いた。

 

 

 

 

 




続きます。イフェメラのストーリー。いかがでしたでしょうか?儚い命…このテーマをやったウルトラマンコスモスはやっぱり凄いです。…楽しんでいただけたでしょうか?私は思いを全部ぶつけました。


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ゼロの使い魔~真心~第34話

続きです。本当にお待たせしました。読んでってください。


ウルトラマン出ないんですけどね…(ボソッ)


 夜、草木も眠る頃。ラ・ロシェールに向かう道中最後の駅に続く街道を走る二つの影があった。一つはグリフォン、もう一つは馬だ。しかし、乗っている人間は夜の静寂を乱す馬の足音と反比例するかの様に静かだった。

「…」

 誰一人として喋ろうとしない。彼ら…ルイズ、サイト、ワルドの一行は一言も話す事も無く旅路を進めていた。

(…皆…)

 そんな中、一人ルイズは思い出していた。その日の夕刻の出来事を…。

 

 

 

 

 コスモスがイフェメラを連れて行ってから数時間後…ルイズとワルドは才人を探して廃墟と化した村を探し周っていた。住民たちはウルトラマンを敵に回してしまった事に恐怖し、また地下室に潜り込んでいた。

「サイト~!返事して~!」

 ワルドは倒壊した建物の残骸を『エア・ハンマー』で吹き飛ばしながら、くまなく探していく。

「使い魔くん!返事をするんだ!生きていてくれれば助けられる!」

 そうして探していると、二人はレーヌの遺体が横たわっている家の前にたどり着く。

「…ほっとく訳には…いかないわよね…」

 ワルドも頷く。

「…そうだね…」

 しかし、ワルドは小さいようで、大きい異変に気付く。中に進もうとしたルイズを引き留める。

「待つんだルイズ!あさった形跡がある!」

 ルイズは慌てて瓦礫を見る。そこには微かに瓦礫を動かした形跡が残っていた。だが、ここにあさる物は一つしかない。

「まさか…レーヌさんの遺体を?」

 ルイズはせっかく閉めた堪忍袋の緒が斬れるのを聞いた。

「…遺体を盗むなんて…許せない!必ず取り返してやるんだから!」

 ルイズは残っていた足跡の進む先へ走り出す。ワルドも続いて走り出すと、並走しながら足跡が続いている場所…村の裏手の雑木林へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 ルイズ達は雑木林の中に走っていくと、小高い丘に出る。そして、その上に二つの人影を見つける。犯人だと思い込んでいたルイズは杖を引き抜き人影に向けるが、ルイズ達に気が付いた人影が叫ぶ。

「ワルド子爵!ルイズの目を塞いでくれ!」

 叫んだのは二人にとって聞き覚えのある声だ。ワルドは咄嗟にルイズを自身のマントで覆い視界を隠す。ルイズは何か分からず困惑するが、鼻についた異臭が全てを二人に教えてくれた。

「使い魔くん…それから、町長婦人…」

 才人は一心に穴を掘っていた。ワルドは離れた所から見ていたが、その傍らにいる人物には見覚えがあった。町長ラハディの奥さんだ。しかし、服装は変わっており喪服だ。

「使い魔くん、君が掘っているのは…」

「…墓穴」

 簡潔な答えだ。しかし、誰の?と聞くにはワルドにはとても勇気が足りなかった。しかし、横たわる二人分の遺体と奥さん。これで誰の墓なのかは容易にわかる。

「…そうか…やはり町長さんも…」

 この会話の間も才人は掘り続け、二人分入る墓穴を掘る。しかし、尚も才人は掘り続ける。

「まだ…掘るのか?」

 ワルドに聞かれた才人は、後ろに置いておいた数個の大きな袋を指さす。…よく見ると袋には赤い染みが数多く広がっている。が、何よりも目を引くのは袋から飛び出た一本の『手』だろう。

「…っ!まさかそれは!」

 ワルドは中身が何かすぐに分かった。尚更ルイズに見せる訳にはいかない、とルイズを覆うマントに力が入る。

「あのでっかい亀がぺちゃんこにしちまったのさ…」

 才人の手には血がこびり付いていた。亀砲兵に踏みつぶされ原型を失った肉塊も集めていたのだろう。このまま放っておけばカラスについばまれ、疫病の広がる元になる。片付けるしかないのだ。しかし、才人にはもう一つ理由があった。

(俺が…俺が、殺したようなもんだ…)

 あの時…自分が怒りを抑えていれば…そう考えただけで才人は心臓をえぐり掘られ、胃の内容物が吹き出そうになる。才人はそれに耐えながら肉塊を集めたのだ。ワルドは才人の心内が分かるわけでは無いが、辛く苦しかった事だけは容易に理解出来た。

「もう少しで掘り終わる、そしたら手伝ってもらえません?結構数あるんで…」

「ねえ二人とも」

 ルイズはワルドのマントの下から声をかける。凛とした声だ。震えを押し隠しているようにも感じられる。ルイズは拳を握りはっきりと言い放つ。

「私にも手伝わせて」

 これにワルドと才人は心底驚く。今目の前にある光景がどんな物か、会話の流れで容易に理解できるはずだ。なのに何故?驚いて止めるよう強く言うワルドに対し、ルイズは静かに呟く。

「この目でしっかりと見たいの。私たち人間の愚かしさを…、醜さを。私だけ一人何も知らないままじゃいられない。…ちゃんと、向き合わなきゃ」

 ルイズの覚悟を聞いた二人は考え込むが、互いに頷き合い、意志を固める。

「分かった…後悔すんなよ」

 才人が言うと同時にワルドがマントからルイズを出す。ルイズは目の前の現実に息を飲み、崩れ落ちそうになるが、ワルドに支えられる前に力強く自分の足で立ち直す。

「ふぅ~…二人ともこんな光景を見ていたのね。確かに平気で何かいられないわ…」

 ルイズは二人に深々と頭を下げる。普段のルイズからは想像する事が出来ない行為に戸惑う二人だが、そんな二人をよそにルイズは続ける。

「ありがとう。私にちゃんと見せてくれて…。あなた達の苦しみを少し理解できたわ…それに、サイト…使い魔の気持ちを理解出来ないご主人様何てメイジ失格だもの」

 ルイズは強がってはいるが、体が震えていた。これが今のルイズに出来る精一杯なのだろう…。ワルドはそう思うと胸が苦しくなる。何とかルイズを元気付けたいが、掛ける言葉が見つからない。

 

 

 

 

 その後、三人は協力し遺体を埋葬していった。血みどろになり、吐き出したい感情の全てを押し殺しながら。

 

 

 

 

「ふぅ…」

 誰ともなくため息が出る。夕日が沈んだ頃、遺体の埋葬が終わり、墓の代わりに町長親子の名前を刻んだ棒切れを刺したところで三人は疲労でへたり込む。

「ありがとうございます。これで二人も浮かばれるでしょう…」

 町長夫人はそう言うと纏めていた荷物を手にする。ワルドは疲れた体を起こすと、夫人を呼び止める。

「…やはり、町を出るのですか?」

 いつの間にかルイズと才人も起き上がり視線を夫人に向けている。

「…はい、この町には家族の思い出が多すぎます。あの子が生まれてからずっと…」

 夫人は背を向けているので分からないが、恐らく泣いているのだろう。大切な人との思い出が多いこの町にいるのは、それだけで苦痛だ。しかし、夫人にはすぐにでも町を出なければいけない理由がもう一つあった。

「…また命を狙われないという保証、ないものね…」

 ルイズの言う通り。冷静になった住民が事実を隠蔽しようと命を狙われないとも限らないのだ。今はこの町から出るのが夫人にとって一番安全なのだ。

「…行く当て、あるんですか?」

 才人の問いに夫人は頷いて見せる。

「実家が一つ前の駅の町にあるので…そこに…」

 夫人は涙を拭くと馬にまたがり、出発しようとしたところで才人達の方に向き直る。

「…ありがとうございました。貴族様たちが弔ってくださった事で、夫も、娘も…浮かばれるでしょう…」

 

「さようなら」

 

 そう言うと、夫人は夜の闇に消えていった。三人はその背中に声をかける事が出来なかった。しばしの沈黙の後に、ワルドが口を開く。

「さあ、僕たちも出発しよう」

 才人も「そうだな」と呟き、腰を上げる。唯一、ルイズは驚いた声を上げる。

「まっ、待って!?こんな状態で出発何てそんな…」

 言い終わる前にワルドはルイズを抱きかかえ、口笛で呼んだグリフォンにまたがらせる。

「無理だよルイズ。急ぐ旅というのもあるが、夫人と同じ危険が僕たちにもあるんだ。ここにはとどまれない」

 ワルドに言われルイズはハッ!とした表情になる。そう、命を狙われる危険は何も夫人だけではないのだ。

「…いこう、ラ・ロシェールまで近いんだろ?夜明け前にはつけるはずさ」

 才人が馬にまたがると一行は出発した。その足は瞬く間に速くなる。この町から一刻も早く離れたかったのだ。軍人であり、戦場を経験しているワルドでさえ心労で苦しんでいる。才人とルイズには凄まじい心労を与えていたのだ。

 

 

 

「…ここまでくればいいだろう」

 ワルドの一言でルイズは意識を現実に戻す。たどり着いたのは巨木、見上げると何処までも続いているような感覚のする巨木だ。

「流石に休もう皆、この巨木なら木の上で休めるだろう」

 才人は馬とグリフォンを巨木の下につなぐとワルドの『レビテーション』で巨木の枝の上に上る。三人はルイズを真ん中に座り込む。

「…なんだか、物凄い一日だったわね…」

 ルイズの呟きに二人は無言で頷く。しかし、そこから会話が続く事は無い。誰も喋る気力が残っていないのだ。しかし眠る事も出来ない。眠るには目が冴えてしまっていた。その静寂をデルフリンガーが壊す。

「なぁ相棒、娘っ子、旦那。いつまで辛気臭くしてるんだ?こういう時は何か気晴らししろよ!」

 あっけらかんと言うデルフリンガーにワルドは苛立ちを覚えるが、才人は「いいな…そうするか」と背負っていたギターを降ろす。

「気晴らしに一曲…」

 弾こうとしたした才人の手をルイズが止める。

「止めて、今の私たちにあの歌は…ドンピシャだもの…『誰かを救えるはずの力で誰もがまた争う』」

 そう言って顔を埋め膝を抱えるルイズ。ワルドは聞いたことは無いが、ルイズの雰囲気から今聞いて心地良い物では無い、と直感的に理解したらしい。才人に向けて首を振る。

「いや…たまには別の歌さ」

 才人はルイズに優しく語りかけるとギターを弾き始める。それは『君にできるなにか』とはまた少し違う歌だった。

「まぁ俺のオリジナルじゃないし…只の流行歌何だけどさ。まっ、聞いてよ…」

 

 

『君だけを守りたい』

 

 悲しみがある限り…人は夜に惑うよ…心の中に君の未来があるのさ…誰よりも何よりも…愛だけを信じたい…愛しい人の胸に…

 

 

 

 ワルドとルイズは歌に聞き入っていた。ワルドにとっては初めての異世界の歌という事もあるが、理由はそれだけでは無いだろう。才人が歌っているというのもあるだろう…哀しみと励まし、愛を失ってはいけない、大切な物を守る事の大切さを投げかけてくる歌だった。

「うぅ、グスッ、グスッ…」

 ルイズは込み上げてくる涙を必死に抑える。覚悟を決めて現実と相対したはずなのに、涙なんてっ!、と。ワルドも自分がしっかりしなければならないと思い、歯を食いしばっているが、目頭が熱くなるのを抑えられない。

「なぁ娘っ子、旦那。無理すっこたねえんじゃねぇの?」

「「無理?」」

 二人からすれば、何も無理なんてという気持ちだが、ここまで分かりやすい物も少ない。デルフリンガーはやれやれと思いながら続ける。

「ヤな事あったらな、泣けばいいのさ。大声出して、なりふり構わず、全部流しちまえ。ヤな事溜めこんでると壊れちまう。涙と一緒に流しちまえば楽になるさ」

 それを聞いた途端、二人の涙腺は崩れた。プライドの全てを投げ捨てて大声で泣きわめく。才人も演奏が終わったところで一緒に泣き出す。

 

 

 その夜、ひたすらに泣きわめく声が響いていた。しかし、その声を聞いた者は誰もいない。

 

 

 

 

 




続きます。『君だけを守りたい』の歌の印象は私の主観的な物です。「違うよ」という人はごめんなさい。なるべく次は速めに。


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ゼロの使い魔~真心~第35話

続きです。ようやくラ・ロシェールに到着します。ワルドが決闘します(直球)


 才人達一行がラ・ロシェールに到着したのは翌日の朝だった。全員泣き疲れて眠ってしまい、小鳥のさえずりで目を覚ましたのだ。

「はぁ………ようやく着いた…長かったなぁ…」

 才人の長いため息は全員の気持ちの代弁だった。ほんの二、三日の間なのに一月以上の疲労感だった。ワルドはルイズと少し話し合い、才人に伝言を伝える。

「よし、僕たちは『桟橋』に行って乗船の交渉をしてくる。使い魔くんはグリフォンと馬の番を頼むよ」

 グリフォンと馬の手綱を任された才人は、腰掛けられる高さの柵に腰掛けぼんやり行きかう人々を眺めていた。流石は港町、数多くの商人や町人が行きかっている。もちろんそのはず、ラ・ロシェールは人が絶えず常に住民の十倍近い人間が闊歩しているのだ。

「港町が栄えるのはどの世界も変わらねぇのな」

 ぼんやりとしていた才人の視界にふと黒いローブを着た人物が写る。どことなく怪しい雰囲気…。人が集まる所には犯罪は付き物だ、そういう人間もいるのだろう。

「…早く戻って来ないかなぁ二人とも」

 才人が少し心細くなった時、その黒いローブの人物が才人に気付きこちらにやって来る。才人はそんなにジロジロ見ていたかな?と思うと同時に身の危険を感じる。

「あっ…あれ?どうかしました…か?(あれ?ヤバい?ヤバい?)」

 とうとう才人がローブの中の顔を見れるまでになる。ローブの中の顔はよく整った美しい女性だった。

「…ど、どうも」

「いいわ…すっごくいい…」

 黒ローブの女性に突然褒められ困惑する才人だが、女性はお構いなしで勢い良く才人の両手を掴む。

「あなた!可愛い顔ね!うちの店で働かない!?」

「…え?」

 女性はどうやら勧誘の様だ。何の仕事だろう?と才人が聞く前に女性が教えてくれた。

「うちは娼館を経営しているんだけど、男娼が足りなくてね。あなたは顔もいいし、直ぐにトップ取れるわよ!うちで働きましょう!」

 物凄い勢いでまくし立てられるが、男娼とは何だろう?…才人には大体予想はつくが。

「え~と…、男娼って…」

「ああ!知らないのね!えっと、同性愛者や女性に春を売る男性の総称よ♡」

 才人は全身に泡が立つ。

「おおおお断りします!おっおっ俺にそんな趣味無いです!旅の途中なんですまた別の人を探してください!」

 黒ローブの女性の手を必死に放そうとするが、物凄い力で掴まれ逃れられない。

「いいえ!あなたならトップ取れるわ!諦めないわよ、新たな才能を他に取られてたまるもんですか!」

「他でもやりませんって!」

「あら童貞!?大丈夫!初めてでもお姉さんが優しく教えてあげるわ!絶対に後悔させないから!むしろそれは商品価値としてアリよ!」

「ナシだよ!世の中の人が全員って訳じゃないだろうけど、俺は絶対後悔するよ!」

 もみ合いになっているその時、黒ローブの女性が突如はるか遠くに蹴り飛ばされる。女性を蹴り飛ばしたのはワルドとルイズだ。

「彼は拒否している。しつこい勧誘は止めてもらおうか」

「この変態女!才人は渡さないわよ!」

 物凄い剣幕の二人ににらまれ黒ローブの女性は仕方なくという雰囲気でその場を離れる。

「諦めないわよ!絶対にうちの店に入れてやるんだから!」

 という捨て台詞を残して。

「ありがとう二人とも…割と本気で怖かった…」

 ルイズに肩を抱かれた才人は少し震えていた。

 

 

 

 こういった需要はどの世界でも変わらないんだな、という現実と恐怖を味わってしまった才人だった。

 

 

 

 助けられた才人がワルド達から聞いたのは吉報、では無かった。

「今日はアルビオン行きの船が出ない?」

 ワルドが頷くとルイズが分かりやすく説明してくれる。

「明日の夜に月が重なるの。『スヴェル』の月夜って言うんだけど、その翌朝アルビオンが最もラ・ロシェールに近づくのよ。まったく、急ぎの任務なのに…」

「へ~(潮の満ち引きでも関係してんのかな?)」

 口を尖らせているルイズを見て、ワルドはそれじゃあ、と目を輝かせる。

「さっ宿をとってある。そこで今日はもう休もう。ここに来るだけで色々あったから」

 一行はワルドがとった『女神の杵』亭に泊まる事になった。貴族を相手にするラ・ロシェール一番の上等な宿で豪華な作りである。

「部屋割りは僕とルイズ、使い魔くんは手狭だが一人部屋でいいかい?」

 部屋割りに驚いたのはルイズだ。

「ええ!サイトに一人部屋!?」

 しかし、才人はワルドの小脇をつつく。

「思い切りましたね旦那~、二人っきりだなんて!」

 ワルドは得意そうだ。

「ふっ!この間は三人一緒だから失敗した。同じ失敗はしないさ」

 かっこよく決めたワルドに連れられルイズは部屋に入っていく。才人も部屋に入ると、視界に飛び込んできたのは狭くも豪華な作りの立派な部屋だった。窓も大きい。

「すげぇー、外が良く見えr…」

 見えたのは建物の影からこちらを覗く黒ローブの女性だった。身の毛がよだった才人はルイズとワルドの部屋に飛び込む。

「ギャァァーー!俺もこっちにしてぇぇ!」

「なっ!?使い魔くん何のつもりだ!」

「ちょっとサイト!何してんのよ!」

 

 

 結局部屋が一つになった一行だった。

 

 

 一つの部屋になってしまった一行だが、三人でテーブルを囲んで遅めの朝食をとる事にした。最も、乾パンと紅茶という簡単な物だが。その時、ワルドは才人の手に刻まれたルーンに目が行く。

「そう言えば使い魔くん。その左手のルーンについて何だが、僕は始祖ブリミルの伝説の使い魔『ガンダールヴ』だと思うんだが、何か知っているかい?」

 質問するワルドの声はいつもより強張っていた。それに答えたのは才人ではなくデルフリンガーだった。

「おうよ!相棒は『ガンダールヴ』なのさ!そう言えば娘っ子には言ってなかったな」

 ルイズは「何ですって!」と驚いているが、当の才人は「それがどうしたの?」ときょとんとしている。

「あんたそんなに凄い使い魔だったの!?何だってそんなすごい使い魔が私の…」

 慌てふためくルイズをなだめたワルドは瞳の奥を光らせる。

「どうだい、伝説の使い魔の実力、是非とも見たい物なんだが…」

 才人もそれを聞いて口角を上げる。

「決闘…ですか?」

 ルイズは驚いて声を上げる。

「そんな!決闘なんて!今はそんな時じゃ…」

 ワルドは首を振る。

「そうだね、でも貴族ってのは厄介でね。強いか弱いかが気になってどうにもならないのさ。それに…」

 ワルドは一呼吸置いて呟く。

「アルビオンでも敵を選ぶつもりかい?」

 ルイズはその一言で返す言葉を失い、介添人を任されたのだった。ルイズは中庭の元兵連場を借りる許可を取りに宿の主人の許可を取りに行く。完全に部屋を出た後、ワルドと才人は耳元で小声で話し合う。

「で、本当の目的は?」

「ルイズの前でカッコいい所を見せたいのさ」

 君のせいで二人きりになれなくなったからね。と言われ才人は目を泳がせる。

「分かりましたよ僕が突っかかってわざと負ける、でいいですね?」

 ワルドは無言で頷く。その表情は満足そうだ。

「では行こうか(実際戦っても勝てるかどうかは五分だ…ならまぁこういう形の方がいいだろう)

 二人が中庭に到着すると、ルイズの前で互いに武器を構える。緊迫した空気の中、才人が挑発をする。

「前から気に入らなかったんだよ!カッコつけやがって!」

 ワルドは挑発に乗らずに言い返す。

「キミトノジツリョクサヲ、ミセテアゲヨウ!」

 超棒読みで。

(ワルド子爵~!それはダメでしょ!)

(くそっ!上手くやろうとすればするほど変になる!)

「おっ、おりゃあ~!」

 才人は戸惑いながらワルドに切りかかる。しかし、流石は魔法衛士隊隊長、真正面から受け止め受け流す。才人が足払いを掛けるとワルドはバク転で華麗に避ける。

((流石だ…強い!))

 ワルドは杖で才人の攻撃をさばきながら呪文を詠唱、『エア・ハンマー』を繰り出すが才人はそれを切り裂き四散させる。的確に繰り出されるワルドの素早い突きを才人はそれ以上の速さで避ける。

(そろそろ頃合いかな)

 ここで才人はスピードを落とし、わざとワルドの突きを受けデルフリンガーを弾かれる。しかし、ここで思いもよらない誤算が。

「しまった!」

「え?」

 急な才人のスピードダウンに対応できなかったワルドがたたらを踏み、つんのめって才人に倒れ掛かってきたのだ。二人はもつれて転がり樽に突っ込む。

 

ドンガラガッシャーン!

 

「「ギャァァーー!」」

 

 樽から吹き出た小麦粉が粉塵となり、二人を包み隠す。ルイズは心配になり駆け寄るが、ぶはぁ!と思わず下品にも吹き出してしまう。

「あはははは!なっ何よ二人とも!その顔~!」

 言われてワルドと才人は顔を見合わせる。互いに小麦粉に顔面を突っ込んだので真っ白になっていた。二人そろって鼻から小麦粉が吹き出ている。

「あはははは!ヒー…お腹痛い…ありがとう」

 爆笑していたルイズからの突然の謝礼に二人は目を丸くする。

「二人で励ましてくれたんでしょ?私の事。あーあ、こんなになっちゃって…ふふっ♪」

 ルイズは二人の顔を丁寧に拭いて、頬に唇を落とす。

「お礼よ、ありがとう」

 ルイズはワルドを助け起こす。

「さ、まだ時間はあるわ。皆でお買い物でも行きましょ!」

 才人はこれで良かったのか?と、ワルドにアイコンタクトを送るが、それは無用だった。ワルドの目はハートになっていた。

「満足そうだぜ、相棒」

「…そだね」

 壁に突き刺さっていたデルフリンガーの意見に同調した才人だった。

 

 

 

 その時だった。地面が大きく揺れたのは。

 

 

 

 才人達は揺れの起きたラ・ロシェールの入り口に向かっていた。何か悪い予感がする。これまでの怪獣災害の経験からくる予感だ。ラ・ロシェールの入り口が見えた時、突如巨大な影が覆い被さり光が遮られる。しかし、直後マグマの様に煮えたぎった赤い光が町に降り注ぎ着弾点から爆炎が上がる。

 

「ギャオオオ!」

 

 入り口に現れたその巨体にワルドとルイズは息を飲み、才人はその名前を叫ぶ。

「「「あれは!」」」

 

 

「凶暴怪獣 アーストロン!」

 

 

 しかし、才人は自分が知っているアーストロンとは大きく違う所を見つけ目を見張る。

 

 

 

「腕が…無い!あれは…鎌!?」

 

 

 

 

 

 




続きます。そういえばこの「ゼロの使い魔~真心~」に出して欲しい怪獣とかいますか?
読んでくださる皆さまの中にそういった希望がある方、私の文章で見てみたい怪獣がいる方はリクエストの所にでもご一報下さい。一応、タルブ村での決戦までの登場怪獣は決めてあるので、その後の登場になりますが。もしかすると前倒しで出すかもしれないです。

(例・アンタレス)

…ネタ切れじゃ…ないよ?


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ゼロの使い魔~真心~第36話

続きです。お待たせしました。今回はアーストロン(?)戦です。


 前触れも無く突如ラ・ロシェールに現れたアーストロン(?)足元にいた才人達に気が付かないわけも無く、容赦なくマグマ光線を吐き出してくる。

「ルイズ!こっちだ!」

 ワルドはルイズを抱きかかえると跳躍からの『エア・ハンマー』で一気に距離をとる。才人も全力で駆け抜け、何とかマグマ光線から逃れる。才人は変身しようとデルフリンガーに手を掛けるが、ワルド達がいる事を思い出してその手を止める。

(駄目だ!何とかして離れないと!)

 その時、アーストロンの鎌が振り下ろされ、舗装された地面を打ち砕く。粉塵と瓦礫が飛び散る中、一つの大きな瓦礫が逃げ惑う人々の方へ飛んでいってしまう。

「うわぁぁ!」

「キャァァ!」

 悲鳴が響き渡る中、才人は全力で走り瓦礫を追い抜いてデルフリンガーで粉々に切り裂く。間に合った!と、喜んだのもつかの間。突如才人の視界を染めたのはマグマの様な真っ赤な光だった。

「危ない!」

 ワルドが叫ぶと同時に放った『エア・ハンマー』が才人の横っ腹を直撃、アーストロンのマグマ光線からすんでの所で助け出す。

「ワルドさま!乱暴すぎじゃ!?」

 ルイズの抗議を受け、たじろぐワルドだがきっぱりと言い切る。

「いや、使い魔くんを救うにはこれしかなかったんだ。許してくれ」

「サイト…」

 心配そうに見つめるルイズだが、すぐに笑顔に戻る。

「ありがとうワルド子爵!」

 才人の元気な声が聞こえたからだ。ほっとしたのはルイズよりもワルドだったが。気を取り直したワルドは才人に向け叫ぶ。

「使い魔くん!我々は避難誘導に当たる!君も避難誘導をやってくれ!」

 才人は間髪いれず答える。

「分かりました!ルイズをお願いします!」

 まかせろ!という声と共に去っていく足音を聞いた才人はデルフリンガーを杖に立ち上がる。

「イテテ…やりすぎだぜワルド子爵…まぁ結果オーライだ。行くぞ!デルフ!」

「相棒!気をつけろ!あの怪物、今までのと何か違うぞ!」

「わかってらぁ!」

 才人個人を狙うかのような攻撃の仕方、本来のアーストロンには無いはずの腕の鎌。何かがおかしい。しかし被害を広げないようにするには戦うしかない。

 

 

 

「コスモーーース!」

 

 

 アーストロンが進撃する港方向、その目の前にコスモスは降り立つ。

「デァァ!(これ以上行かせねぇ!)」

 コスモスは腕を回しエネルギーを溜め、アーストロン目掛け右腕を向ける。

『フルムーンレクト』!

 コスモスの右腕から放たれた光の帯はアーストロンに吸い込まれるが、アーストロンに変化は無く、コスモスに向け恐ろしい咆哮を上げる。

(駄目か…だが、意識はこっちに向けられた!)

 コスモスはアーストロンに肉迫、掴みかかり町から引き離そうとする。しかし、掴みかかったコスモスの腕から煙が上がり、肉の焼けこげる匂いが漂う。

「デァァァ!?(あっちっ!?)」

 コスモスは思わず飛びのいてしまう。ウルトラマンの体にダメージを与える程の体温、そんなアーストロンがいるはず無い。そういう生物がこの世にいないとは言い切れないが、少なくともアーストロンがそれに該当するはず無い。

(増々分からねぇ…こいつはいったい!?)

 驚いて動きの止まって隙だらけのコスモスを見逃すアーストロンでは無い。その鎌をコスモス目掛け振り下ろしてくる。コスモスはバク転を繰り返し何とか逃れるが、今度はマグマ光線が襲い掛かる。

「デァァ!」

 コスモスはバリアーをはり何とかマグマ光線を防ぐ。バリアーに着弾したと同時に真っ赤なフラッシュが発生、コスモスの視界を塗りつぶす。

(マズイ!相棒、罠だ!)

 コスモスがデルフリンガーの忠告を聞いた時には手遅れ、バリアーの目の前には一気に駆け寄ってきたアーストロンの凶刃が迫っていた。

「グギャォォォ!」

 全力で振りかぶられた一撃はバリアーをいとも簡単に粉砕、コスモスの胸元を切り裂く。

(グアァァァ!)

 コスモスは慌てて離れようとするが、右肩に鋭い痛みが走り内側から焼き焦がされる。コスモスは肩に突き刺された鎌のせいでその場に̌楔にされてしまう。

「グギャ!グギャ!グギャォォォォォ!」

 動けないコスモスに連続で鎌が振り下ろされ、その体をズタズタに切り裂いていく。切り付けられた後に熱のダメージに襲われコスモスは膝から崩れ落ちる。

「デァァ…」

 崩れ落ちたコスモスの顔面目掛け、アーストロンの足が振りぬかれる。コスモスの顔を焼き焦がし、その体を軽く吹き飛ばす。宙に浮いたコスモスは町の上に叩きつけられ、家々を潰してしまう。

(まじかよ…つえぇ…諦めねぇけどな!)

 コスモスは満身創痍の体で立ち上がると、右腕を天に掲げる。

(行くぞ、デルフ!)

(任せな!『赤』だろ!)

 コスモスの右腕から赤い光があふれ出し全身を覆う。コスモスが体の前で両手を交差すると、その体が赤く変化する。『ウルトラマンコスモス・コロナモード』だ。

「デァァ!(行くぞ!)」

 コスモスはアーストロンの体に、両腕を突き出した拳を叩きつける。並みの怪獣ならこの一撃でダウンできる。しかし、コスモスの腕から伝わってきたのは生物の感触ではなかった。

「デァァ!?(こっこれは!?)」

 伝わってきた感触、それは生物ではない、鉄や鋼を殴りつけたような固い感触だった。しかもコロナモードでもアーストロンの体温でダメージを受けてしまう。

(『赤』でもダメなのか!)

「グギャォォ!」

 コスモスが接近するという事は、アーストロンの間合いにも入り込んでしまう事。アーストロンの口が開くとコスモスの左肩にその鋭い牙を突き立ててくる。

「デァァ!?」

 ここでコスモスにとっての大きな誤算が生じる。アーストロンの牙がコロナモードの強靭な肉体に突き刺さったのだ。ギラススピンやミサイルの直撃に耐えたコロナモードの肉体に、だ。

(確かに、つきすぎた筋肉を落としはじめてから多少防御力は落ちてきた!でもここまで落ちてはいないはずだ!)

 再び逃れられない状態になったコスモスをアーストロンの鎌が襲う。コロナモードの肉体を容易く切り裂き、コスモスはさらに傷ついていく。

(ばっ…バカな…)

 コスモスは首を狙った一撃を右腕を盾にして防ぐが、その一撃で右腕を折られてしまう。それが決定打になり、ついにその場に倒れ込み動かなくなってしまった。アーストロンはコスモスを一睨みすると悠々と町への進撃を再開、去っていった。

 

 

 

 

 ラ・ロシェールの『桟橋』それは海の港ではない、巨木につり下がった『空船』が停泊する空の港なのだ。そこでは避難してきた人々が『空船』に乗って逃げるための準備を進めており、既に乗船が始まっているのだ。その中でコスモスの戦いを見ていたルイズは思わず呟く。

「嘘…でしょ?赤いウルトラマンが負けた…?」

 このラ・ロシェールにもウルトラマンの勇名は届いている。そのウルトラマンが負けた。それは人々をパニックに陥れるには十分だ。

「俺だ!」

「私よ!」

「わしじゃ!ボケども!」

「ボケはてめぇだくそ爺!」

 我先にと周りの人間を押しのけ、船に乗り込もうとする人々。ルイズの脳裏によみがえるのはイフェメラの時の悲劇。ルイズは止めようと叫ぼうとするが、その前にワルドに止められる。

「まずい、あの化け物この『桟橋』を目指して進撃している。ここに居続ける方が危険だ!」

 ワルドが言うと同時、アーストロンはマグマ光線を放って別に停泊していた『空船』を攻撃、たったの一撃で破壊してしまう。

「「ああ!?」」

 ルイズ達が驚きの声を上げると破壊された「空船」が町目掛けて落下、爆発し町に火の手が上がる。その時の轟音で人々のパニックは収まったが、代わりに人々は生きる希望を、助かる希望を失う。

「もう…おしまい…なの?」

 ルイズの呟きと同時にアーストロンはルイズの方を向き、口を開いた。

 

 

 

 

(相棒、しっかりしろ!相棒!)

(デルフ…デルフか…?)

 コスモスはデルフリンガーの呼びかけで目を覚ました。右腕を庇いながらだが、何とか立ち上がる事は出来た。しかしその時体から赤い光が霧散してしまう。

(『赤』を…維持す…る…エネルギーが…ねぇのか…)

 本来の『ルナモード』に戻ってしまったコスモスはアーストロンを探して辺りを見渡す。そこで港の方から火の手が上がっている事に気が付いた。

(急がないと…)

 何とか飛び立とうとした時、突如デルフリンガーに呼び止められる。

(何だよデルフ?)

(いや、あれ見てくれ相棒)

 あれ?コスモスが言われた方を見ると、そこにはアーストロンの足跡が残っていた。そこは地面が沸騰してドロドロに煮え立っている。

(…何て奴だ)

 コスモスは驚くばかりだが、デルフリンガーは別の事に気がついていた。

(なぁ相棒、あの化け物…あいつもしかして鉄で出来てんじゃねぇか?)

(鉄?)

(ああ、殴った時の感触、ありゃどう考えても生き物じゃねぇ。鉄だ。鉄の俺っちが言うんだ間違いねぇ)

 コスモスも言われてみればそうだ、と考え込む。そしてコロナモードの肉体にダメージを負わせていた理屈にもある程度察しがついた。

(そうか、高温なのは鉄の体を動かすために柔らかくしてるんだ。その副産物で、あの鎌は『溶断』っていう特性を持つ。それなら『赤』の体を傷つけられるかもしれない)

 それなら、まだ勝ち目があるかもしれない。コスモスは作戦を思いつき、実行するためにフラフラと飛び上がって港へ向かった。しかし、飛び上がったコスモスの視界に入ったのは巨大な木だった。

(何だありゃ?すげぇ…あれがこの世界の船なのか…)

 感心している場合じゃないと頬を叩くと、船目掛けマグマ光線を吐き出そうとするアーストロンに意識を向け直し、全力で突っ込む。そのまま体当たりでアーストロンの体勢を崩し、マグマ光線の射線をずらし船からそらす。

「ウルトラマ~ン!やっぱり生きてたんだ!」

 フラフラと立ち上がったコスモスが聞いたのはルイズの歓喜の声、どうやらこの『桟橋』にいるらしい。

(失敗は出来ない…ここで倒す!)

 コスモスは左腕をアーストロンに向け、その手の中にエネルギーを集めていく。が、それは霧散と集合を繰り返していた。

(デルフ、頑張ってくれ!エネルギーが安定しない!)

(無理言うな!俺っちも全力だ!)

 そうしている間にアーストロンが立ち上がり、マグマ光線を発射しようと大口を開ける。それとコスモスのエネルギーが溜まったのは同時だった。

(いっけぇ!)

 アーストロンがマグマ光線を放つより、一足早く打ち出されたコスモスの水色のエネルギー弾がアーストロンの体に直撃した。しかし、マグマ光線発射は防げずコスモスに直撃してしまう。

「デァァ!(グハ!しまった…だが…!)」

 アーストロンは突如軋みをあげ始める。コスモスの放った『ルナコールド』により全身が急速冷凍されたのだ。

「グ…ギ…ゴ…ガァ…」

 アーストロンは小さなうめき声を上げるとその場で完全に動かなくなってしまう。その体は動いていたときからは想像出来ない程、鉄の塊のようになり、さらに全身にヒビが入る。

(鉄は急激に冷やされると脆くなる。今だ!相棒!)

「デァァァァ!(うおぉぉぉ!)」

 

ドゴォォォ!

 

 コスモスは残された全エネルギーを使い、音速で飛行。アーストロンに体当たりを繰り出す。顔面から直撃するが、アーストロンの体はその一撃で完全に砕け散ってしまった。

(やった…何とか…勝った…)

 コスモスは体当たりの勢いのまま落下、仰向けに倒れ込んでしまう。が左腕を伸ばし最後の力を振り絞り、『コスモシャワー』を打ち出し町の火の手を消化する。

「デァァ…」

 

 

 

 

 コスモスは火が消化されるのを見届けると、静かに虚空に消えていった。

 

 

 

 

 

 




続きます。今回ぶっコロナ完全にかませでしたけど、今後かませになり下がらないようにこの扱いが定着しないように気を付けていきたいと思ってます。


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ゼロの使い魔~真心~第37話

続きです。お待たせしました。頑張って書いたので見ていって下さい。ウルトラマン出ないんですけどね…


 瓦礫の町の中、才人は目を覚ます。立ち上がって状況を確認しようとするが、右腕の激痛でのたうち回る。

「がぁっ…そういやぁ腕、折れてたっけ…」

「無理すんな相棒、その内救助隊とかが来るから。まぁ待ってろや」

 才人はその場で倒れ込むと、ぼんやりと空を見上げる。今までの戦いなんて無かった、夢だったとでも思わせるような澄んだ空。

「…守れたかな?俺」

「守れたさ」

「…なあデルフ?」

「ん?」

 才人はデルフリンガーに聞いてみたい事があると言い、考え込みながら話し出す。

「『青』の姿のまま、赤色になれねぇかな?」

「何でぇ相棒?イメチェンか?」

「いや、俺の憧れるウルトラマン達は基本的に赤色で…個人的にはそっちの方がカッコいいかな~…何て…」

 話の途中から声が小さくなる才人だった。デルフリンガーがもう一度言うよう促そうとすると…。

「お~い!」

 誰となく呼びかける声。その後、遠くから「誰かいるかー!」と別の人間の呼びかける声が聞こえる。どうやら救助が来たようだ。

「おーい!俺っち達はここだ~!」

 疲れている才人の代わりに、デルフリンガーが答える。これで何とか助かる、そう思って才人は安堵する。

 

 

「あ~!あの時のボクじゃない!?」

 救助に来たのが黒ローブの女性と知るまでは。

 

 

「えっ?」

 才人の瞳から光が消える。言い表せない悪寒、恐怖、絶望が身を包む。肌が泡立ち、少しずつ体が震えだす。しかし何故か体は強張り逃げ出す事が出来ない。

(あれ…何で?動かねぇ…あれ?マズイ、もしかして、さらわれる…?)

 気が付くとすぐ近くに黒ローブの女性が立っていた。その手が才人に近づいて来る。

「さっ、もう大丈夫よ」

 黒ローブの女性は才人を抱きかかえる。このままじゃ連れ去れる、と恐怖にかられ何とか身をよじるが逃れられない。凄まじい力で固定され体が動かないのだ。

「あら、安心して。怪我人を無理に連れ去る~なんてしないから。恩は売るけどね♡」

 可愛らしくウインクされるが、結局恩返しに何を要求されるか分かったもんじゃない。やっぱりダメだ、と逃げようとする。

「おりゃあ!」

「キャッ!?」

 地面を転がりながらデルフリンガーを支柱に立ち上がると、体を引きずりながら逃げ出す。

「逃がさないわ!」

 黒ローブの女性は飛び上がりダイブタックルで才人を押し倒そうとする。しかし才人に手が触れる寸前、巨大な爆発が起こり黒ローブの女性を吹き飛ばす。

「ちょっとアンタ!うちの使い魔に何してくれてんのよ!」

 ルイズとワルドが駆け付けてくれたのだ。おそらく合流できなかった才人を探しに来てくれたのだろう。才人にとってはまさに天からの助けだった。

「うわぁぁ!助かったぁぁ!」

 才人は思わずワルドに抱き着いてしまう。ルイズとワルドは杖を構えて黒ローブの女性を警戒するが、焦げた黒ローブの女性は鼻血を流しながら叫ぶ。

「年上と年下!それはそれでアリよ!」

「「知るか!」」

 『エア・ハンマー』と『ファイアボール…の様な爆発』が放たれ、黒ローブの女性が遥か遠くまで吹き飛ばされたのが、才人が意識を失う前に最後に見た光景だった。

 

 

 

 

 

 

 翌日、『女神の杵』の中に建てられた仮設医務室で治療を受けた才人は、自分たちの部屋に戻ってきていた。折れた腕をつられた痛々しい姿ではあったが、その顔は安堵の色に染められていた。

「ホントにありがとう二人とも、二人がいなかったら…」

 ルイズはハイハイ、と答えると才人の額を軽くつつく。

「あんな不審者に使い魔をとられる程、不甲斐無くないわよ。私はね」

 ルイズの笑顔に少し照れる才人だが、そこにワルドが割って入って来る。

「そうだ!ウルトラマンのおかげで火災も鎮火、早くも町の活気が戻ってきているんだ、少し買い物にでも出かけないかい?使い魔くんの快気祝いだ」

 ワルドは才人の脇腹をつつく。

(何君が良い感じになってるんだ!)

(すっ、すいません…まぁ、デートのいい口実になったでしょ?)

 ルイズは少し考え込んでいた。重要な任務を前に遊んでいていい物かどうか、不審者対策についてどうするか、という事だ。しかし、どうやっても出発できるのは明日、ルイズの心に若い女性としての遊びたい気持ちが勝ち残る。

「気持ちの切り替えも大切よね!よーし!遊びに行きましょ!」

 ルイズは二人の手を取ると、町へと駆けだした。町は戦いの傷跡が色濃く残っているが、人々は以前と同じように活気に包まれていた。

「もうこんなに活気が戻ってる何て…」

 才人は人々のたくましさに目を見張るが、ルイズは少し冷めた目で見ていた。

「まっ、図太いとも言うわね。あの時のパニックったら見てられなかったわ」

 ワルドから何があったのか聞いた才人は乾いた笑いしか出来なかった。並んでいる露店には土産物屋や軽食店、アクセサリーショップ等々ありルイズは目移りしてしょうがない。

「ほらっ!あそこのお店行きましょ!」

 ルイズが駆けだしていってしまうのに慌ててついて行く二人。その時、ワルドの瞳の奥が鋭く光る。少し足を速め才人に追いつくと、小声で耳打ちする。

「すまない、少し離れるよ。厠に行ってくる。僕のルイズを頼む、不審者にも気を付けたまえ」

 そう言われ才人が振り向くと、そこには既にワルドの姿は無かった。

 

 

 

 

 

 ワルドは商店の間の路地に入ると、唐突に振り向き忍び寄っていた人物に杖を突きつける。

「はーい♡」

 わざとらしくおどけて見せたのはあの黒ローブの女性だった。『女神の杵』を出てからずっと後をつけて来ていたようだ。

「貴様、まだつきまとうか?」

 ワルドは黒ローブの女性に全力の殺気をぶつけるが、それを物ともせず黒ローブの女性はおどけて見せる。

「残ね~ン!今はア・ナ・タに用事があるの♡」

 黒ローブの女性は流れる様にワルドの間合いに入り込み、耳元で囁く。

 

 

 

「我らが『レコン・キスタ』有志、魔法衛士隊隊長ワルド子爵?」

 

 

 ワルドは咄嗟に飛びのき、いつでも魔法を撃てるように構える。ワルドに気づかせない程の素早い身のこなしにも驚いたが、この黒ローブの女性は今何と言った?

「何故その事を…?」

 ワルドは、返答によっては殺さなければならない。と身構えるが、黒ローブの女性は「大丈夫、大丈夫」とへらへら笑っている。

「安心してワルド子爵。私も同志よ。任務でこの町に来たの」

 ワルドは一転、安堵のため息を漏らす。

「…そう言う事か、驚かせないでくれ。所で、何の任務だい?」

 黒ローブの女性は待っていたとでも言わんばかりの笑みを浮かべると、良く通る低い声で呟く。

「裏切り者の始末よ」

 ワルドは瞬間、背筋が凍る。心の臓を握りつぶす様な殺気、吹き出たそれに当てられワルドは身震いする。自分に該当していないはずなのに。

「また物騒だね、我らが同志に裏切り者が?」

 黒ローブの女性は残念そうに「えぇ」と呟く。

「今更怖気づいて逃げ出した奴が一人ね、船ごと吹っ飛んでもらったわ」

「ほう…?船ごと…船ごと!?」

 その時、ワルドの脳裏に映し出されたのは昨日の事件。巨大な怪物がラ・ロシェールを襲い、船の一つを吹き飛ばしたあの光景。

「まっまさか!?」

 驚くワルドを見て黒ローブの女性はクスクスと不気味に笑う。

 

 

 

「えぇそうよ。あの戦神を操っていたのは私。そしてあの戦神を作り出したのは我らが同志『オリヴァー・クロムウェル』よ」

 

 

 ワルドは目を見張る。あのウルトラマンを一方的に責め立て、追い詰めた怪物を操っていた?作り出したのは『オリヴァー・クロムウェル』?衝撃の事実に狼狽する。

「まぁ驚くわよね。私もウルトラマンが出て来た時にはどうなるかと思ったけど…でもこれでもう裏切り者は出ないでしょう。いい見せしめになったわ」

 言葉の出ないワルドを見て、黒ローブの女性が近づいて来る。その手を取ると、そっと何かを握らせてくる。

「…?」

「これはもう一つの任務、あなたに渡すようクロムウェル卿から頼まれていたの。必ずあなたの力になってくれるらしいわ」

 それは筒状のカプセルのような物だった。しかし、受け取ってよいのか?あんな怪物を作り出し、操るような連中から…。

「…ありがとう」

 ワルドは受け取るしかなかった。拒否して裏切りを疑われればあの怪物をけしかけられる。そうすれば確実に命は無いからだ。

「そう言えば話は変わるけど…」

 黒ローブの女性はまたワルドの耳元まで来ると、小声で囁く。

「お仲間の女の子の事が好きなのね♪」

「っ!?」

 ワルドは顔を真っ赤にして、どうしてわかったか黒ローブの女性に問いただす。

「あら、女は敏感なのよ?そういうの。…そうそう、あの女の子落としたら男の子の方私に頂戴よ」

「………それは…まぁ…」

 答えを渋るワルドに黒ローブの女性は頬を膨らませる。

「何よ、はっきりしないわね。まぁ、女の子がダメだったらあなたがうちの娼館に来ても…」

「断固断る!」

「即答じゃない」

 

 

 

「すまない遅くなった」

 黒ローブの女性から逃げるように離れたワルドはすぐにルイズ達と合流した。ルイズ達は出店で何か買ったのかキャイキャイ騒いでいる。

「あっ!ワルドさま~!手を出してください!」

 ルイズはワルドに走りよると、その左腕に何か装飾された腕輪をはめる。そこまで上等な物では無いだろう。よく見るとルイズの左腕にもはめられていた。

「これは?」

 ルイズは屈託のない笑みで答える。

「これ、幸運を呼ぶ腕輪らしいんです。今回の任務が無事に成功するようにって思って…三人で付けようかなって買ったんです」

 一瞬お揃いで喜んだワルドだが、三人というワードが引っかかり才人の腕を見る。確かに才人の腕にも腕輪が付いていた。しかし、どこか違和感を感じる。何と言うか…ボロボロで少し錆びていた。

「ああ、実は才人のは…新品が売り切れちゃって…」

「いいんですよ、俺のは中古で」

 口ではこう言う才人だが、ワルドにアイコンタクトで伝えてくる。

(これで貸し借りなしで…いいですか?)

(ああ!)

「さっ!この腕輪に誓いましょう!」

 ルイズは二人の肩を寄せると円陣を組み、三人の手を重ねる。

「絶対任務成功させるわよ!」

「「「オー!」」」

 

 

 

 声を合わせて叫んだが、ワルドは一人複雑な心境だった。自分がしようとしている事はこの誓いとは真逆の事なのだから。

(これでいいんだろうか…だが、裏切れば…っ!)

 ワルドは一人苦悶するのだった。

 

 

 

 

 




続きます。黒ローブの女性、大事なポジションです。次回、ラ・ロシェール出発(ようやく)


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ゼロの使い魔~真心~第38話

続きです。仕事が休みなので一気に書きました。長いです。やっと出発したのに、まだ着きませんが。後、今回閲覧注意です。


 朝、才人は外が暗いうちに目を覚ます。床で眠っていた為か体が軋むが、腰を回して関節を鳴らし紛らわす。

「ん~、もう朝か…」

 才人はルイズとワルドが眠っているのを確認すると、一応と思い部屋の前や窓の外を確認する。

(よかった…あの不審者はいないみたいだ…それにしても、ついにアルビオンに出発か…)

 才人は少しずつ出て来た日の光をぼんやり見つめる。なんだかんだあったが、ようやく本来の目的地に向けての出発だ。

(船が飛ぶってことは…アルビオンも空にあるのかな?…空にある大陸ってイメージかな?)

 才人は思わず身震いする。

(あーあ、ヤな事思い出しちまった…忘れよ忘れよ!)

 才人は考えたことを頭の奥にしまい込むと、眠る二人を起こす。ワルドはすぐに起きてくれたが、「もう五分~!」と言ってルイズは起きない。才人は、無理に起こそうとしたら飛んできたルイズの拳に意識を刈り取られ、結局ワルドにルイズを起こしてもらったのだった。

 

 

 

 

「もうこのバカ犬!いつまで寝てんのよ!」

 才人、ルイズ、ワルドの三人は『桟橋』へ向け全力で走っていた。出航の時間まであと五分程度しかないのだが、才人が起きなかった為に出発が遅くなってしまったのだ。

「怪我人の俺を無理やり寝かせたのはルイズだろうが!」

 痛い所をつかれ顔を赤くするルイズだが、小さく「ふんっ!」と鼻を鳴らして黙ってしまった。

「いいから急ぐよ君たち!」

 ワルドに促され家と家の間の階段を大急ぎで駆け上がり、船の発着場までやって来る。

「あそこの船だ!」

 三人は外されかけていたはしごを全力で駆け上り、滑り込んでどうにか間に合った。甲板に尻もちをついて着地したのを見て驚いた船員がやって来る。

「どっ、どうしたんですか!?定期便のお客様ですか!?」

「あ、ああ、そうだよ…」

 ワルドは息を整えるとゆっくりと立ち上がり、乗船許可証を三人分見せる。

「先日船長と交渉した者さ、言えばわかるよ」

 すぐに確認をとった船員に連れられ、三人は船室に招かれた。

「初航海頑張ってくれよ!船長!」

 船長らしき人物に挨拶をしたワルドは、一息つくと椅子に腰かける。

「…いやぁ間に合って良かった」

 三人は顔を合わせてほっと溜息をつく。才人は無理して走った為か、骨折した腕に鈍い痛みが走る。毎回慌ただしいが、何とかアルビオンへ向かう事が出来る。そこで才人がふと気になった事をルイズに尋ねる。

「なあ?そういや、何で定期船何か出てるんだ?前聞いた話じゃ今アルビオンって大変な時期なんだろ?定期船出せるくらいには落ち着いてんの?」

 才人は最初、武器商人の船に乗せてもらうのかな程度に考えていたのだが、定期船に乗れるとは思いもしなかった。

「ああ、それは…」

「それは僕が説明しよう」

 ワルドはルイズの代わりに事の理由を教えてくれる。何でも両軍とも軍部の重職達が暗殺や事故により軒並みいなくなってしまい、両軍ともにらみ合い状態になっているらしいのだ。

「僕たちがトリステインを離れている間に町を蝋に変えた怪物騒ぎがあっただろう?どうもその怪物にやられたらしい。その他にも各国の重職達が蝋に変えられた、切り刻まれていたなどの事件が報告されているのだ」

 才人はマグマ星人の時の事を思い出し、そんなに多くの犠牲者がいた事に驚き、胸を痛める。まぁ…それがマグマ星人達のかつての作戦と才人は知る由もないのだが。

「まぁおかげでアルビオン軍が勢力を盛り返してきていてね。港は取り返され、定期便が出るまでになったのさ」

「へ~」

 才人が聞いていると船はどんどん高度を上げていく。船室の窓から見えるのは遠く離れていくラ・ロシェールの街並みだ。

(やっぱり…空に行くのか…)

 才人は自分の考えが当たっていた事に喜ぶよりも先に、嫌な事の方を先に思いだす。

(空の大陸…あの事件も確か…)

 顔をしかめた才人にルイズは眉を寄せる。

「どうしたの?空は苦手?」

 才人は首を横に振る。

「いや、空の大陸って言うと…俺の世界である事件があってね…」

「「事件?」」

 ルイズとワルドは同時に首をかしげる。才人は言うのを拒んだがルイズに急かされ重い口を開く。

「昔な、俺の世界の空飛ぶ船…まぁこの世界の空飛ぶ船とはだいぶ違うんだけど…が突然現れた空の大陸に不時着して、そのまま行方不明って奴があったのさ。200人規模の救助隊が出たんだけど、結局見つからなかったのさ」

 ルイズとワルドは顔を青くして身震いする。

「何ちゅー話聞かせてんのよ!」

「これから空の旅なんだぞ!」

「だから言いたくなかったんだよ!」

 言い合って疲れ、三人で横になって一時間ほどたった時、船内に魔法で放送が入る。どうやらあの船長のようだ。

『乗船の皆さま、お待たせしました。只今アルビオンに到着しました。お降りの際はお忘れ物の無いよう…』

 やっと着いたか、と降りる準備を始める才人だが、ルイズとワルドは表情が固まる。

「ワルドさま…」

 ルイズは震えながらワルドの手を取る。

「何だい?ぼっ、僕のルイズ?」

 ワルドも震えながらルイズの手を握り返す。

「こんなに早く…アルビオンにつきましたっけ?」

 ルイズの怯える目線が、震えるワルドの視線と交わる。

「いや、いくらアルビオンが近づいて来ていても…三時間は、掛かるよ?」

 ルイズは、ぼそりと呟く。

「…早くない?そう言えばこの船の船長って初航海なのよね?」

「そうだよ…もしかするとアルビオンとの距離関係をそこまで分かって無いかもしれないね…」

 

 

 バァン!

 

 

 ルイズとワルドは船室の窓を開けると急いで飛び降りようとする。

「わー!?何やってんですか!?アンタらは!」

 才人が慌てて二人を捕まえて中に引きずり戻すと、誰も通さまいと窓の前に立ちふさがる。

「サイト!これは主人命令よ!どきなさい!」

「使い魔くん!ここは急がば回れだ!別の便でもいいだろう!」

「別の便が出る前にあの世へ直行便だよ!」

 慌てふためく二人を前に、才人は冷静に説得を試みる。

「待ってよ、もしかすると早く着いただけかもしれないじゃないか。降りてみればわかるさ」

 アルビオンの港町が目に映るはずさ。そう言われ落ち着いたルイズとワルドは降りる荷造りを整え、他の乗客と一緒に船を降りる準備をする。

 

 

 ドガガガガッ!

 

 

「「「うわぁぁ!?」」」

 その時だった。船に凄まじい衝撃が走り、大きく揺れる。ワルドの上にバランスを崩したルイズが倒れ込み、才人はすんでの所で踏ん張って転ばないようにする。

「なっ何だ!?」

 才人は慌てて甲板に出る。才人の視界に入ってきたのはアルビオンの港町…では無く、うっそうとした暗い雑木林だった。

「これは…?」

 どうやら船は突然現れたこの雑木林に不時着してしまったようだ。船の後方を見に行くと詳しい状況が見えて来た。どうやら船はスピードを抑えられずに着地したのか、地面を大きくえぐり傾いてめり込んでいた。

「何よ…これ…」

 いつの間にかやってきていたルイズは茫然と雑木林を見ていた。横にいるワルドも目を見開いていた。

「アンタが、才人があんな話するから~!」

 ルイズは涙目になりながら才人に掴みかかる。が、ワルドが冷静にルイズを抑える。

「待つんだルイズ、あくまで偶然だよ。それとこれとは別さ。僕たちはとにかく脱出経路を見つけないと、あと船を飛べる状態にしなければ帰るに帰られないぞ…」

 恐らく船底には大穴が開いているだろう。こぼれ出た風石が翡翠色に輝いている。

「僕は船長に掛け合ってくる。調査班と修理班に人を分けるんだ」

 流石は魔法衛士隊隊長、先ほどのまでの慌てた様子は何処へやら。テキパキと行動し周りを引っ張っていく。船長の所へ向かって十分後、直ぐに戻ってきた。

「お待だぜ、づがいばぶん。びにはぢょぶざばんだ」

 顔面ボコボコで。

「「ちょっと待って!?何があったの!?何で冷静なの!?」」

 才人とルイズは何故かボロボロになったワルドに肩を貸す。

「…実ば」

 どうやら船長に状況の説明を求めた乗客が殺到していたらしい。その中にいた四十代後半くらいの女性にぶつかり、痴漢を疑われて…だそうだ。

(どの世界もおばはんこえぇ)

 ともかく船長達と話はついたようで、船員たちが乗客30名(才人・ワルドを除く)を警護し船を修復する班。ワルドと才人、船長が調査をする班にしたらしい。ルイズは抗議したが、大人しく船の中で待っていてもらう事になった。その説得だけで一時間もたったが。

 

 

 

 

 

「これは…」

 調査に出て五分、船長は声が出なかった。目の前の光景がこの世の物とは思えない。自身のミスでこんなところに来てしまったとはいえ、ここは何処なのだろうか?何の為に存在しているんだろうか?

(絵具をぶちまけたような沼…人間を襲う植物…この世にこんなところが…)

 ここに来るまでに一度謎の植物に襲われたのだ。一緒に来てくれていた貴族様と剣士がいなければそこで死んでいたに違いない。

(何で…何で…僕の時に限って…)

 自分以外の誰かならいいのか?と言われればそうじゃない、と言いたいとは思う。しかし実際にそうなればこう思うのが普通だろう。きれいごと何て考えられない時もある。

「…やっぱり…ここ…」

 自己嫌悪する船長をよそに、才人は悪い予感が的中してしまった事をその目で確認してしまった。才人のノートパソコンの中に、古い新聞記事のデータが入っている。ウルトラ警備隊のスカイダイビング中の事故、その時の記者発表の記事だ。

「アマギ、ソガ両隊員の報告通りだ…やっぱりここは…」

 

 

 うわぁぁ!?

 

 

 才人は考え事をしていた為、『それ』の接近に気が付かなかった。船長がいつの間にか『それ』に襲われていた事にも。

「あいつは!」

 

 

『宇宙蜘蛛グモンガ』

 

 

 六本の足を持つ巨大な蜘蛛が船長に襲い掛かっていた。上からのしかかり、その巨大な顎で噛みつこうとしている。よく見ると他にも二匹、船長に迫っていた。駆け寄るワルドを才人は慌てて制止する。

「待ってワルド子爵!そいつは口から毒ガスを出すんだ!むやみに近づかないで!」

 ワルドは慌てて足を止めると素早く詠唱、『エア・ハンマー』をグモンガに放ち、その体を粉砕する。残る二匹の内一匹に肉迫した才人は、一匹を念力で拘束、デルフリンガーの突きで串刺しにし、逃げ出したもう一匹はデルフリンガーを下投げに投擲。木に縫い付け絶命させる。

(左腕しか使えないのは厳しいな…)

「危なかったよ使い魔くん、危うく毒ガスの餌食になる所だった」

 デルフリンガーを抜いた才人はワルドからの礼にこそばゆくなるが、直ぐに気持ちを引き締める。

「ワルド子爵、俺があの蜘蛛の事を知ってるってことは…」

「ここが例の事故を起こしたところと同じという事…なんだね?」

 ワルドの冷静な判断、理解力に感謝する才人だった。

「えぇ。正確には場所が違いますが、首謀者は同じでしょう。首謀者は…」

 

 

 

 リリリリリリリリリリリリリリリッッッ!!!

 

 

 

 突如として三人の耳をつんざく気高い音。まるで鈴の鳴る音。突然のそれに三人は耳を塞ぐ。

「なっ!?これは!これは何だ!?使い魔くん!…使いまっ!?」

 ワルドの声が才人に届く事は無かった。何故なら才人は苦痛にのたうち回り、絶叫する事しか出来なかったからだ。船長が耳を塞ぎながら近づいていく。

「どうしたんだ!君!大丈夫か!」

 耳元で叫んでも才人は苦しむばかり。才人はウルトラマンになった事で人間以上の聴覚を得たが、今はそれがあだになっていた。

「人…間の脳波…を狂わ…す音波…間違い…ねぇ!」

 才人は陽炎のように揺らめく空間から現れた虫のような見た目の巨大な怪人を睨みつける。

 

 

『音波怪人・ベル星人』

 

 

「やっぱり…てめぇか!」

 才人はデルフリンガーを構え、変身しようとするが、立ち上がる事もままならない。雄たけびを上げ、デルフリンガーを振り上げるが変身することはかなわず、その場に倒れ込み気絶してしまった。

 

 

 

 

 

「うぅ…」

 酷い頭痛の中、ワルドは目を覚ました。めまいで起き上がれないが、ルイズに助け起こされる。

「あぁ…ありがとうルイズ…ルイズ!?」

 ワルドは船にいるはずのルイズがいる事に目を丸くする。見渡せばそこは先ほどまでいた雑木林では無く鉄格子の牢獄の中。よく見ると船の乗客や船員、船長も周りにいる。

「船の修理が終わった後、突然鈴の音がして…怪人が現れたの。そいつらに連れて来られて…」

 ワルドは杖を探すが何処にもない。武器は鉄格子の向こうにまとめられていた。何とか取ろうとするワルドだがいい案は浮かばない。そんな時、鉄格子の向こうからあの怪人が歩いてくる。大きさは人間と同じになってはいるが、その威圧感は隠せない。

「やあ皆さんこんにちは。私、ベル星人のカニバと申します」

 ベル星人は深々と頭を下げる。体つきからして女性のようだ。一度咳ばらいをすると、さらりと恐ろしい事を話し出す。

 

 

 

「あなた達はこれから食肉になって頂きます」

 

 

 

「何ですって!?」

 ルイズは鉄格子に掴みかかり、カニバを睨みつける。カニバは「はっはっはっ」と笑って聞き流し奥から人間が吊るされた台車を持ってくる。

「ッ!?サイト!?」

 そこに吊るされていたのは才人だった。ベル星人の殺人音波で憔悴しきっているのか、目には光が灯っていない。

(カッ…カニバ…)

「ん?」

 才人はテレパシーでカニバに問いかける。

(何故…こんな…事を?)

「ふふっあなた、テレパシー使えるのね」

 カニバは怪しく微笑む。

「私たちの星はもう住めない程に科学物質に汚染されてしまってね、以前『地球』という星で私たちが住めるかどうか実験したの。その時サンプルとして捕えた人間達をね、食用として買いたいという知的生命体がいたのよ」

 聞いていたルイズは顔を青くする。そんな奴がいるのか?と。

「結局その時はウルトラセブンに邪魔されて失敗してしまったわ。でも人間タイプの生命体を売る商売を始めたのよ。すごかったわ~、その時のサンプルだけで星人が全員居住できるだけのコロニーが買えたのよ?それからは同じ事を他の星々で繰り返したわ。只…最近、宇宙警備隊の監視が強くなってきてね…」

 カニバは才人の顔を覗き込む。

「そこで、この世界に来たの。あなた達『超高級食材』を手に入れる為にね。別にいいじゃないの。あなた達だって牛や馬を食べるでしょ?一緒よ」

 カニバはナイフを取り出し、シャン!シャン!と砥石で研ぎだす。

「さっ、見てなさいあなた達はこうなるのよ。男は捌くのに時間がかかるのよ」

 才人の首にナイフが当てられる。才人は暴れるだけの体力も残っていないようだ。ルイズの泣き叫ぶ声も聞こえていないようだ。

 

 スッ!

 

 カニバのナイフが一閃、頸動脈を切り裂く。才人の首からは血が流れ落ちバケツに溜まっていく。「これも商品よ」とカニバは血が出きるのを待つ。

「出た出た。さてと」

 

 ゴキンッ!

 

 ルイズからは影になって見えないが、カニバは何かをねじ切ったようだ。ルイズは全身から汗が吹き出す。考えたくない、考えたくない!

「よいしょ」

 カニバはねじ切ったそれを横に置いておいた杭に突き刺す。それは…

 

 

 

 才人の生首だった。

 

 

 

「いやあぁぁぁぁぁーーーーー!」

 ルイズの悲痛な絶叫は、他の人間達の恐怖の叫びにかき消された。

 

 

 

 




続きます。「え?続けられるの?」って感じですが、続きます。


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ゼロの使い魔~真心~第39話

続きです。今回、才人君解体ショー。勿論、閲覧注意です。


「ふんふふんふふーん♪」

 カニバは慣れた手つきで才人の肛門周りに切り込みを入れ、腸の出口を縛り中身が出ないようにする。そうして、消化管を体から切り離す。すると今度は刃先に丸い球のついたナイフを取り出す。

「これを使えば中身を傷つけないのさ~」

 すうっとナイフを走らせ、才人の体を切り開く。するとそこから腸間膜に包まれた内臓がずるりと零れだしてくる。

「おえぇ!げえぇ!」

 ルイズはもう何度目になるか分からない嘔吐をする。もう中身なんてない、水分だけだ。でも吐き気は収まらない。少し見渡すと周りにも同じく嘔吐する人間が多くいる。当たり前だろう。

「よっと」

 カニバは腸間膜に包まれた内臓を全て取り出すと、別の容器に分けて入れる。すると奥から女性のベル星人がまた二人現れ、小腸・大腸などの選別、洗浄をしていく。

「あっ、あんな怪人…があんなに!?」

 ワルドは驚愕する。あんな恐ろしい思考を持った奴らがこんなにいるのか、と。その間にカニバはまたナイフを持ち替える。

「消化器系を出しちゃおう~」

 後腹膜に切れ込みを入れ、消化器系を全て取り出し他の二人に手渡す。

「お次は肌をぞりぞり~、肉側に毛穴を残さないように~」

 

 

 ゾリッ…ゾリッ…

 

 

 ついに才人は全身の皮をくまなくはがされる、が途中で腕輪と爪が邪魔になり、作業が止まる。するとカニバは何処からかペンチを取り出し、爪を一つ一つはがしていく。

 

 ペキッ…ペキッ…ペキッ…

 

 しかし腕輪だけはどうしても取れず、そこだけ皮を残す事にしたようで、カニバは他の皮を剥いでいく。

「順番間違えちゃった。ま、いいか。よいしょ」

 皮をはぎ終えたカニバは、ナイフを持ち替えると才人の胸元を開き、肋骨を折って大きく広げる。肺と心臓、気管支に舌を横隔膜ごとそっと手に取り、優しく取り出す。

「この心臓先に出す方が楽なんだよね~」

 心臓や肺を他の二人に任せると、カニバは大きな包丁を取り出し上段に構える。

「せいっ!」

 

 

 バキッ!

 

 

 才人の腕が斬り落とされる。

「そい、そい、そい!」

 

 

 バキッ!バキッ!バキッ!

 

 

 残りの腕と両足も切り落としていく。ルイズはその光景をうつろな目で見ていた。既に狂い出して来ているか「ヒッヒヒッ」と乾いた笑いが口から洩れる。

「狂ってる…奴は、奴らは…悪魔だ…ッ!」

 壊れたルイズを想い、ワルドは怒りで狂いそうになっていた。今すぐにでもベル星人達を八つ裂きにしてしまいたい、しかし体が言う事を聞かない。それにより憤りが溜まっていく。

「そーい!」

 

 

 バキンッ!

 

 

 最後に才人の背骨が一撃で両断され、二つの肉塊に分かれる。才人が完全に肉塊になった瞬間だった。こうして分かれた肉塊を吊るすとベル星人は鉄格子に向き直る。

「ふう…これでお終い。皆これからこうなるからね」

 この一言がその場にいた人間を凍り付かせる。一人の悲鳴からパニックが起こり皆鉄格子から離れ壁際に集まる。残ったのはワルドとルイズだけだ。ワルドは立ち上がるとカニバとルイズの間に立ちふさがる。

「ルイズには指一本触れさせん!」

 その時、ワルドの横を誰かが通り過ぎる。

 

 美しいブロンドの髪…ルイズだ。

 

「待つんだルイズ!何を!?」

 振り向かせたルイズにかつての美貌は無かった。瞳は焦点を失い何処を見ているのか分からない、首は傾きフラフラと歩く姿は痛々しい物だった。ワルドは言葉を失う。

「どうせ…皆死んじゃうのよ…あんなになっちゃうのよ…サイト、さいとぉ…今、そっちに行くからね…ねぇ早くしてよ…早くしてよ!」

 ルイズの突然の激昂にたじろぐカニバだが、直ぐに鉄格子を開けルイズを出す。

「大丈夫、首元が熱くなって、それで終わりだから」

 ルイズはカニバに連れられ、才人が吊られていた台車に導かれる。

「待つんだルイズ!諦めるな!ルイズーーーッ!」

 ワルドは必死に叫ぶが、ルイズの耳には届かない。されるがままのルイズの体に拘束具がつけられた時…。

 

 

「娘っ子や、諦めるのが早いんじゃねぇか?」

 

 

 突然聞こえた声にベル星人達は慌てふためき、辺りを警戒する。

「何者だ!何処にいる!」

 叫ぶカニバに「こっちこっち」と呼ぶ声は荷物の方から聞こえる。ベル星人達が振り向くとそこにはカタカタ動く大剣が一本。デルフリンガーだ。

「バカな!剣がしゃべった!?」

 ベル星人は驚き、すくみ上る。

「いやお前らみたいなトンでも野郎達には言われたくないね。それよりも娘っ子!」

 ルイズは振り向かないがピクリと体が震える。どうやら聞こえたようだ。

「早い?何が?何を?もうサイトは…サイトは…」

 涙が頬を伝うルイズにデルフリンガーは「まったく…」とため息交じりに声をかける。

「使い魔契約は使い魔が死ぬとどうなるんだっけ?!」

 ルイズはうつろな様子で呟く。

「契約は…切れ、次の使い魔が…呼べるようになる…」

 デルフリンガーは「違う違う!」と否定する。

「その前!使い魔の死体は?!」

 ルイズは肉塊になった才人を見る。

「死体は…契約が切れ…ルーンが消える…あれ?」

 デルフリンガーはようやく気が付いたか、とケラケラ笑う。ルイズはその光景に釘付けになった。

 

 

 

「ルーンが…消えて…ない?…消えてない!?」

 

 

 

 言われてワルドも才人の左腕を見る。そこには確かに『ガンダールヴ』のルーンが刻まれたままだった。どういうことだと言う前に、ルイズが叫ぶ。

「まさか!あり得ない!でも!でも!」

 デルフリンガーは「そう言う事」とふんぞり返る。

「ええい!どういう事だ!全く訳が分からんぞ!」

 状況が理解できないカニバ達ベル星人。どういう事か問いただそうとルイズとデルフリンガーに詰め寄るが…。

 

 

 突如として才人の腕輪が光り輝き、その光に目を焼かれる。

 

 

「「「ぐわぁぁぁぁ!?」」」

 光はベル星人の目だけを焼き、ルイズ達には傷一つ付けず、優しく包み込む。光が治まると、腕輪の光に包まれた才人の左腕が浮かび上がる。ルーンも光りはじめ、腕輪の光と共鳴しより強く光り輝く。

「「すごい…」」

 ワルドとルイズは呟く事、見守る事しか出来なかった。二人の前で更にあり得ない事が起きる。今まで解体された内臓や腕に皮、肉塊になっていたはずの才人の体がまるで時が巻き戻るかのように集まり、才人の体を形作っていく。

「…奇跡よ」

 ルイズの呟きはもっともだった。絶対にありえない光景、それが目の前で起きているのだから。視界が戻ったカニバは驚嘆の声を上げる。

「ばっ!?バカな!?死んだはずだ!バラしたはずなのに!」

 他の二人のベル星人が駆け寄るが、既に才人は完全に復活していた。才人は駆け寄るベル星人を睨みつけると全力の拳を一人のどてっぱらに叩き込む。

 

「よくもやってくれたなぁ!」

 

 拳は容易くベル星人を貫き一撃で絶命させる。カニバは慌てふためく。

「そんな!あり得ない!」

 慌てふためくカニバをかばう様にベル星人が立ちはだかるが、才人の掌底が連続で叩き込まれ膝をつく。更にその顎に才人の強烈な蹴り上げが直撃、首と体を分断し、ベル星人を絶命させる。

「よくもルイズを…こんな目に合わせやがったなぁ!」

 才人の一撃を這いずり回って避けたカニバは、才人の拳が直撃した床を見て啞然とする。

(あ…穴開いてるじゃない!?このままじゃ勝ち目ゼロだわ!)

 カニバは空間を揺らめかせ、テレポーテーションで部屋から逃れる。才人は後を追わずにルイズを助け起こす。

「大丈夫か!?ルイズ!」

 ルイズは衝撃の連続に目を丸くしていたが、目から大粒の涙をこぼして抱き着く。

「バカバカバカ!バカ犬!ぼんどに、ぼんどにじんぢゃったとぼもっだんだがらぁぁ!」

 鼻水を垂れ流し、ぐしゃぐしゃの顔になってはいたが、それは泣き顔では無く満面の笑顔だった。才人は悲しませてしまった事に心を痛め、同時にまたこの笑顔に会えたことを嬉しく思った。

「しっ、しかし、どうやって!?」

 ワルドはどうなっているのか訳が分からず混乱するばかりだ。才人は左腕の腕輪を見つめる。それは錆びてボロボロだったはずだが、今は眩い金色に光り輝いていた。

「これのおかげさ。どうやら俺のだけすげえマジックアイテムだったみたいなんだ。一度だけ死んでも蘇る事の出来る奇跡のマジックアイテムさ」

 才人はルイズの手を取る。

「どうやらお守りに一つだけ本物が入ってたらしい。ルイズ、助かったのはお前のおかげだよ」

 ルイズの顔にはみるみる生気が戻っていく。ルイズは一人で立ち上がると才人がとってきた杖を渡される。

「よーし!皆下がって!派手に行くわよ!」

 ルイズは『錬金…のような爆発』を起こし鉄格子を吹き飛ばす。才人はワルドに杖を渡すと全員に向かって叫ぶ。

 

 

 

 

「よーし!脱出だ!」

 

 

 

 

 才人達は牢の壁を破壊。船員、乗客を連れ、走り出す。どうやら地面の中に埋まっていたようで地上への階段まで来ると、一気に駆け上がる。

「船は!?」

 皆が見渡す中、才人は透視能力で木々の中を見渡す。

「っ!見つけた!向こうだ!」

 才人達は走り出すが、その前の空間が揺らめき突如として巨大化したカニバが現れる。

「逃がすか!全員行け!捕えろ!」

 カニバの号令で更に八人のベル星人が揺らめきから現れる。

「そんな!まだこんなに!?」

 船長が悲鳴を上げるが、ワルドは杖を構える。

「ふん!不意打ちさえなければこちらの物だよ!」

 ワルドは素早く詠唱すると大きな竜巻を起こす。竜巻はベル星人達が放とうとした殺人音波をかき消していく。

「急ぐぞ!長くはもたん!」

 ベル星人達が混乱している間に全員が走り出す。しかし、才人はその場に残る。

「サイト!?」

 才人は木の一本を切り裂くとベル星人の一人に向け蹴り飛ばし、その体に命中。突き刺さる。

「俺も時間を稼ぐ!急いで船を動かしてくれ!」

 そう言うと才人は何本も木を切り裂き、蹴り飛ばし始める。

「必ず戻って来いよ!」

 ワルドの叫びに才人は叫び返す。

「奇跡の命!無駄にはしないさ!」

 

 

 

 

 ワルド達が行くと才人はデルフリンガーを腰に構える。

「なあ、相棒?」

「何だ?デルフ?」

 突然デルフリンガーが話しかけてくる。

「タネ教えてくれない?どうやって復活したの?」

「すぐに教えてやるよ、行くぞ!デルフ!」

「おうよ!」

 才人はデルフリンガーを思い切り振り上げる。

 

 

「コスモーーース!」

 

 

 カニバは竜巻が治まると同時に立ち上った巨大な光の柱に後ずさりする。その中から出て来たコスモスの姿を見てベル星人達は恐れおののく。

「きっ貴様!ウルトラマンだったのか!?」

 ベル星人達からは「ウソでしょ!?」、「この世界にはいないはずじゃあ!?」と驚きの声が上がるがカニバは冷静に指示を出す。

「大丈夫!数はこっちの方が多いのよ!勝てるわ!音波撃てぇー!!」

 ベル星人達はコスモスに狙いを定める。

(相棒!耳塞げ!)

 デルフリンガーは叫ぶが、コスモスは腕輪にそっと手を当てる。

(あり?相棒?それ変身しててもついてるの?)

「デアァ!(ああ!そういう武器なのさ!)」

 才人は超能力で腕輪を変化させる。ベル星人達が放った殺人音波、それは才人が変化させた腕輪だったものに吸い込まれていく。

 

『ウルトラディフェンダー』!

 

「何ぃ!?何故だ!何故奴は平気なんだ!?」

 ベル星人達は全力で殺人音波を放ち続けるが、コスモスは何もダメージを受けていない。ついにはベル星人達は体力が尽きてしまい、その場に膝をつく。

「デアァ!(お返しだ!)」

 コスモスは腕輪を変化させた盾を突き出すと、吸収した殺人音波を一点に集中する形でベル星人に発射する。

「「「ギャアアァァァ……」」」

 その一撃はベル星人三人を直撃、その体を木端微塵にして葬り去る。

「あれは!あれは!『ウルトラブレスレット』!?」

 カニバはコスモスの武器の正体がわかるやいなや、途端に震えだす。

(『ウルトラブレスレット』?何だいそれ?)

(超兵器だよ。ホントにすげえんだから、行くぜ!)

 コスモスはウルトラディフェンダーを頭上に掲げると、その形を短剣に変える。

(デルフ!念力補助頼むぜ!)

(おうよ!)

 コスモスは全力で短剣をベル星人に向け投げつける。

 

『ウルトラスパーク』!

 

 短剣は光の刃に形を変え、猛スピードで飛んでいく。コスモスは全力の念力で軌道を操る。一撃で一人目のベル星人の首をはね、二人目のベル星人を真っ二つに切り裂く。三人目のベル星人の体に風穴を開ける。しかしそこで念力の集中が途切れ、ベル星人の後方に落下してしまう。

(こっ、こんなに難しいのか…ウルトラマン二世はすげぇ、こんなのを自在に操ってたのか…)

 疲れたコスモスは膝をついてしまう。それを見たカニバは好機とほくそ笑む。

「しめた!奴はまだ完全に使いこなせていない!かかれ!」

 ベル星人二人が駆けだした時、コスモスは『ウルトラスパーク』が太陽光を吸収している事に気が付く。

「デァァ?(まさか?)」

 コスモスは『ウルトラスパーク』に微かな念力を送り『発射スイッチ』を起動する。その瞬間『ウルトラスパーク』から『ウルトラスーパー光線』が二方向に放たれ、後ろからベル星人二人を爆殺した。

「そ、そんな…嘘よ…ぜっ、全滅何て…」

 カニバは負けを悟ると慌ててコスモスと逆方向に飛び立つ。全速力で飛び立つカニバを見てコスモスは右腕を天に掲げる。

「デアァァ!」

 右腕から赤い光が溢れ、その体を染め上げていく。『ウルトラマンコスモス・コロナモード』になると両拳を突き出しその中にエネルギーを溜め球状にする。それは超破壊球弾。

 

『プロミネンスボール』!

 

 真っすぐ、寸分たがわずカニバの背中に吸い込まれた一撃は、カニバを粉々に吹き飛ばしてしまった。

(あの世で食肉にした人達に謝りやがれ)

 

 

 

 

 そのころ、船は離陸準備に追われていた。しかし、問題が起きていた。離陸のための風石が足りないのだ。このまま無理に飛ぼうとすれば風石が足りなくなり、ラ・ロシェールにも帰れず、アルビオンにも行くことが出来ないだろう。

「ワルドさま、風の魔法でどうにかなりませんか?」

 ワルドは表情を曇らせる。

「すまないルイズ、さっきの竜巻で魔力を使い切ってしまってね。打ち止めなんだ…」

「そんな…」

 せっかく助かったのに、と気落ちするルイズだが、突然の一報に表情を歪ませる。

「大変だ!大陸が、大陸が消えかかってる!」

 ベル星人が全て倒された事により、この大陸が消えかかっているのだ。このままでは船が落ちる。それまでに何とかしないと!ルイズは考えを巡らせるが何も思いつかない。

「まずい!もうそこまで来てる!」

 ワルドの声を聞いて皆が地面を見る。確かにもうすぐそこまで消滅が迫ってきていた。ルイズは思わず奇跡を願い目を瞑る。

(サイト…ッ!)

 その時、船体が浮かび上がる。やった!何とかなったんだ!とルイズは歓喜するが、船長は戸惑っていた。

「何で浮いてるんだ!?」

 全員が驚き、慌てて甲板に出てみる。するとそこには…。

 

 

 

 船を持ち上げ浮かべているウルトラマンコスモスがいた。

 

 

 

「「「ウルトラマン!」」」

 全員の歓喜の声が重なる。ウルトラマンコスモスが安全圏まで船を運ぶと、大陸は消えてしまった。船が自力で飛び出したのを確認すると、コスモスは虚空に消えていった。

「…あれ!?そういえばサイトは!?」

 全員が思い出した時、反対の甲板から声が聞こえた。

 

 

 

「おーい!おーい!」

 

 

 

 才人だ。手を振って走ってくる。

「サイト!乗ってたんならすぐ来なさいよ~!」

 言葉は怒ってこそいるが、才人を抱きしめたルイズやワルド、他の面々は皆涙混じりの笑顔だった。

 

 

 

 




続きます。前半の所、自分で書いてて嘔吐しちゃいました。(じゃあ書くな)
あと解体の所、私がてきとうに書いただけなので全くのでたらめです。科学の教科書引っ張ってきて書きました。なので真似は絶対しないでください。
(んな奴おるかい!…いないよね?)


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ゼロの使い魔~真心~第40話

続きです。なんだかんだでもう40話です。長いような短いような…。40話で原作二巻の話が終わってないって…。予定では終わってるはずだったんですけどね!(無能)


閲覧注意が続きましたが、今回は何もないですよ。期待してる人…いないよね?


 ベル星人の異次元空間から脱出し、空の旅を再開した才人達。船はアルビオンの港目指して一路進んでいた。

「なあ相棒?こんな隅っこで何してんだい?」

 才人はワルドに「ルイズと二人きりになれるようにする」と言い、一人離れて甲板の端の方に座り込んでいた。

「いや、ちょっとな」

 才人は腕輪に指を当てると少し撫でる。

「ところで体は大丈夫かい?」

 デルフリンガーの心配に才人は笑って答える。

「ああ、大丈夫さ。折れてた腕も治って調子いいよ」

 才人も最初ルイズの介抱をしようと思ったが、ワルドに任せた方がいいかなと思い、譲ったのだ。そして、自分自身も一旦落ち着けるようにしたかったのだ。

「『ウルトラブレスレット』…こんな物がこっちの世界に来てる何て…」

 確かにマルス133、科特隊隊員がこの世界に来ているという事は、どこかに行き来するような出入り口があるのだろう。しかし、まさかウルトラマン二世の超兵器が来ているとは思いもしなかったのだ。

「ん?」

 腕輪を撫でる指が、クリスタルの部分に触れた時、突如才人の脳内に映像が流れ込んでくる。

「何でいこりゃぁ!?」

 どうやらデルフリンガーにも見えているようで、驚いて慌てふためいている。才人の視界には緑色の光が広がり、そこに赤い光が集まり巨人の姿を形作っていく。

「これは!ウルトラッ…マン?」

 そのシルエットは確かにウルトラマンだが、才人の知る中ではどのウルトラマンにも該当しない姿をしていた。

 

 このブレスレットを手に取っているのが同族である事を願いたい。私は宇宙警備隊、量産型『ウルトラブレスレット』試験隊員、シャプランだ。

 

 シャプランと名乗るウルトラマンは才人を見て話してはいなかった。どうやら記録映像の様で、自動で再生されている様だ。

 

 私はブレスレットの運用試験の為の任務中、巨大な次元震に遭遇。空間が裂け、その次元の狭間に引きずり込まれてしまった。当初ヤプールの復活かと身構えたがそうではないようだ。しかし、そこで私は『やつ』に遭遇してしまった。

 

 そこまで話したところでシャプランの姿にノイズが走る。どうやら古い映像の様で、上手く再生できないようだ。

 

 『やつ』は今まで見た事も無い…な巨大な怪獣だった。本部の怪獣のデータベースにも乗って…いだろう。私は…に…われた。そして…体を…粉砕された。腕輪の…活能力で蘇る事は…が、私は一人では絶対に勝てないことを確信した。そ…この情報をブレスレットに残し、同胞の手に渡…を願う。

 

 どうやら、シャプランは既に亡くなっている様だ。一人異次元で散ったのはどれ程悔しかっただろうか。考えるだけで才人は胸が痛んだ。

 

 何としても本星に…持ち帰…しい。『やつ』を野放しに…いけ…い。ブレスレットを手にした者よ…頼んだぞ。…から友よ最後に会い…った。メビウス…。

 

 そこで映像は終わり、才人達は現実に戻ってくる。どうやらシャプランはあのウルトラマンメビウスの友人であったようだ。

「ありがとうございます。貴方のおかげで俺は助かりました。いつか戻れたら…必ず渡しに行きますから…」

 才人は後の人の為にブレスレットの再生能力をあえて使わなかったシャプランがどれ程の覚悟を決めて死を選んだのかを考えると、「自分には真似できないな」と自嘲した。

「それにしてもブレスレットを持っていたシャプランが勝てないなんて…『やつ』…どんなに恐ろしい奴なんだろう?」

 才人は図らずも知れた強大な存在に一抹の不安を覚えるのだった。

 

 

 

 

 

 アルビオンの港まであと30分という距離にまで来た時、鐘楼に上っていた見張りの船員が大声を上げる。

「右舷上方の雲中より船が接近!」

 才人は船?と思いながらその方向を見てみると、確かに船が一隻近づいてくる。それは才人達の船より一回り大きかった。船体に装備された武装を見て才人は眉をひそめる。

「大砲…こっちに向いてる?」

 ワルドは見張りの声を聞いて船長のいる操舵室までやって来る。

「反乱勢…貴族派の軍艦か?」

 船長はワルドの問いに青ざめた顔で振り返る。

「副長の報告によると、旗を掲げていないようです。恐らく…内乱に乗じて活動が活発になっている空賊かと…」

 「逃げろー!」誰からという訳では無いが、叫び声が上がる。恐らく普通の反応だろう。責めようもない。しかし、時すでに遅かった。

「無理だろう」

 ワルドが呟くと、タールで黒く塗られた空賊の船はこちらの船と並走し、20数個も並んだ砲門をこちらに向けている。

 

ドゴン!

 

 空賊の船から才人達の船の進行方向に一発の砲弾が放たれた。脅しの一発だろう。しかし、才人達の船には自衛用に用意されている移動式の大砲が3門甲板にあるばかり。戦力差は歴然。才人達の船は停船するしかなかった。

「空賊だ!抵抗するな!」

 空賊の船からメガホンを持った男が叫ぶ。

「空賊ですって!?」

 何事かと驚いて甲板に出たルイズが驚きの声を上げる。他の乗客も驚いて、狭い甲板を逃げ惑うばかりだ。空賊の船の甲板にはフリント・ロック銃や弓矢を構えた男たちが狙いを定めている。更には手に斧や剣を持った男たちが乗り込んでくる。才人はルイズをかばう様にデルフリンガーを構える。しかし、いつの間にか来ていたワルドに肩を叩かれる。

「無理だ。戦場で生き残りたかったら敵との戦力差をよく考えるんだ。しかも、僕はまだ魔法が使えない。ここは耐えるんだ」

 その時、甲板につながれ、空賊に吠えていたワルドのグリフォンの頭が青白い雲で覆われる。その瞬間すぐにグリフォンは倒れ寝息をたて始める。

「眠りの雲…確実にメイジがいるな」

 才人は全員を庇いながら戦うのは無理だと判断した。結果的に才人達の船は降伏、空賊に従うしかなかった。

 

 

 

 

 空賊に捕らわれた才人達乗客は船倉に閉じ込められた。武器をとられ、鉄球のついた足かせと手錠を掛けられている。船長達乗組員は船の曳航を手伝わされているらしい。才人はふと呟く。

「ベル星人に今度は空賊…今日は厄日だな…」

 その時、ルイズの息が荒い事に気が付く。二人は慌てて駆け寄る。ベル星人の時にあれだけ嘔吐したのだ。まだ体調がいいはずがない。才人は見張りの男に駆け寄る。

「おい!医者はいないのか!?病人がいるんだ!」

 それを聞いた男は一言、「いねぇよ」と呟き無視を決め込む。才人がどうしようか悩んでいると、別の男達が現れ船倉を開ける。

「おい、女は出ろ!」

 仕方なく女性の乗客たちは従い船倉を出る。

「お前もだ!」

 男の一人が乱暴にルイズを立たせる。ワルドは「病人だぞ!」と叫ぶが男はワルドを突き飛ばすとそのままルイズを連れて行ってしまった。

「何て野蛮な奴らだ!」

 ワルドは憤り壁を叩く。女性だけを連れて行った、これが意味する事を男性なら大体は予想が付く。ワルドもその考えに至っているのだろう。妻や娘を連れて行かれた男性陣は悔し涙を流している。才人はワルドの肩を寄せ耳打ちする。

「子爵、奴らは今油断しきってる。今なら奇襲のチャンスだ」

 ワルドはとてもそうは思えない、という表情だ。

「考えてくれ子爵、男は全員拘束してあるとはいえ、誰一人始末してないんだぞ?それで女をだけ連れて行く何て油断しきってるぜ」

 それに、と続ける。

「このままじゃルイズが危ない。なりふり構ってらんないだろ?」

 この一言がワルドの背中を押した。

「で、どうやるんだ?策でもあるのかい?どうやるにしてもこの枷をどうにかしないといけないぞ」

「大丈夫さ」

 才人は船倉の出入り口まで来ると、見張りの男に声をかける。

「すいません」

 男はうっとうしそうに答える。他の連中のお楽しみに参加できなくてイラついているのだろうか?

「何だ!」

 

 

 

「伸びててもらえます?」

「は?」

 

 

ドガン!

 

 ワルドは何が起きたのか一瞬分からなかった。突然船倉の扉が吹き飛び、見張りの男が壁と扉に挟まれて気絶しているのだ。

「第一関門クリア」

 才人は冷静に呟く。何と才人は扉を蹴り壊して見張りの男を無力化したのだ。才人は軽く手を横にひき、手錠を破壊する。

(俺からデルフをとったのがまずかったな、抑えきれないエネルギーが溢れてきやがる)

 才人はデルフリンガーにウルトラマンの力の制御を手伝ってもらっている。デルフリンガーがいなければ完全に抑える事は出来ない。

(ま、いても抑える気無いけどな、今は)

 才人は他の乗客の手錠や足かせを全て力任せに破壊する。

「使い魔くん。分かってはいたが…いやはや、君は凄いな」

 ワルドが驚くのも無理はない。

「さあ、行くぜ!」

 才人達は勢いよく駆け出した。

 

 

 

 

 

 船長室、ルイズはそこに乱暴に通される。やたら豪華なそこにはこの船の頭が大きな水晶のついた杖をいじりながら、ドカっと派手な椅子に腰かけている。どうやらこの頭、メイジのようだ。周りにはガラの悪い連中がニヤニヤ笑ってルイズを見ている。

「なあ嬢ちゃん?お前さん貴族だろう?名前は?何しにアルビオンに行く?まさか今のアルビオンに旅行はねぇよなぁ?」

 頭はからかうような口調でルイズを見下す。ルイズは答えようとも思わなかった。こんな下賤な者に話すことなどない、という態度だ。

「もしかしてアルビオンの貴族派かい?ならこっちは手荒な真似できねぇんだよな~。なんせ、クライアントだからな。もしそうだってんなら、送ってやるよ?まぁ…楽しませてもらってからだけどぉ?」

 空賊たちは下卑た笑いを上げる。元々沸点の低いルイズ。頭にきてつい本当のことを口走る。

「バカ言っちゃいけないわ!誰が薄汚いアルビオンの反徒なもんですか!私はトリステインを代表してアルビオンに向かう大使よ!」

 やってしまった、とルイズは焦るが、それを見せてはいけないと言葉を続ける。

「それ相応の処遇を要求するわ!」

 その時、空賊たちの顔から笑みが消える。頭は深呼吸するとルイズに問いかける。その顔に先ほどの下卑た笑みは無かった。

「…何しにいくんだ?今は多少盛り返してはいるが、明日には消えちまうぜ?奴ら」

 ルイズは毅然とした態度で答える。

「アンタらに言う事じゃない」

「貴族派につく気は…」

「そうするくらいなら死を選ぶわ」

 ルイズは男にも負けない気丈さをもって話していた。しかし、体は細かく震えている。本当は怖いのだ。頭からの再度の誘いもきっぱり断る。

「そうか…」

 頭は呟くと、部下たちと目くばせする。その瞬間、周りの空賊たちは一斉に直立した。ルイズは戸惑う中、頭は立ち上がりルイズに向き直る。

「失礼した。貴族に名乗らせるならこちらから名乗らなければな」

 その時、頭の黒髪が落ちる。どうやらかつらだったようだ。顔の変装を外すと、そこには凛々しい金髪の若者が立っていた。

 

「私はアルビオン王立空軍大将、艦隊司令長官アルビオン王国皇太子ウェールズ・テューダーだ」

 

 ルイズは口をあんぐりと開けたまま動けなくなってしまった。しかし、慌てて自分の名を名乗る。

「とっ、トリステイン王国大使、ルイズ・フランソワーズ・ド・ラ・ヴァリエールです!」

「アルビオン王国にようこそ。大使殿、敵をあざむく演技とはいえ、失礼した。さて、御用を…」

 言いかけたところで、突如船内から轟音がする。駆け付けた船員に何事かとウェールズが問うと、船員が叫ぶ。

「ほっ捕虜の男たちが逃げ出して、こちらの船員を奇襲!今そのほとんどが戦闘不能に!」

「何だって!?」

 そんなことをしでかす人間に二人ほど心当たりのあるルイズは顔を青くする。

「くっ!手荒な真似はしたくなかったが致し方ない!鎮圧に!」

 

ドゴン!

 

 ウェールズが変装をし直した時、突如床から何かが付きあがってくる。テーブルを下から吹き飛ばし、天井にめり込んだのは船員の一人だ。

「見ーつけた…」

 続いて穴から人影が二人、飛び上がってくる。ワルドと才人だ。二人はルイズを見つけると、空賊たちを睨みつける。

「へー、か弱い女の子をこの大人数で寄ってたかってってか?」

 と、才人。

「男のくずだな」

 と、ワルド。

「「覚悟できてるだろうなぁ!(だろうねぇ!)」」

 ルイズは変装を直したばかりのウェールズを見る。

 

(タッ、タイミング最悪~!?)

 

 そう考えている間にも戦闘は始まってしまう。ルイズを守るためにと戦う二人は鬼のように強く、ワルドは才人からでも教えられたのだろうか?次々と迫る船員にローリングソバット、サマーソルトキック、サマーソルトドロップを決め昏倒させていく。才人は敵の攻撃を体術で全て受け流して掌底、正拳突き、飛び蹴りを決め屈強な男たちを沈めていく。

(こっ、このままじゃウェールズ様が!?)

 ルイズはこの二人の強さをよく知っている。誤解だという事を早く伝えなければウェールズの命が危ない。ルイズは慌ててウェールズの前に立ちふさがる。

「落ち着いて二人とも!話を聞いて!この人は…」

 戦いの騒ぎの中でルイズの言葉は二人には届かず、逆にあらぬ誤解を与えてしまう。

 

「「人質にする気かぁ!」」

 

 もう完全に頭に血が上っている。ウェールズは仕方なく杖を構えようとするが、それを見た才人がまだ外していなかった自身の足かせの鉄球を引きちぎり、杖を狙って投げつける。

「うわぁ!てっ、鉄球だぞ!?」

 杖を弾かれたウェールズにワルドが肉迫、ルイズをかっさらうと素早く後ろに回りウェールズの体に両腕を巻き付け抑え込む。

「くらえぇ!」

 そのままワルドは上半身を逸らせウェールズの頭を床に叩きつける。室内に響き渡る床にめり込む音、才人は綺麗なジャーマンスープレックスだと喜んでいるが、ルイズは自身の血の気を引く音を聞いた。

 

 

 

(うぇっ、ウェールズさまーーー!)

 

 

 

 

 

 




続きます。最後酷いギャグ展開になってしまった…でもずっと書きたかった所なので、書いてて楽しかったです。


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ゼロの使い魔~真心~第41話

続きです。前回ジャーマンスープレックスをくらったウェールズ皇太子。こんな目に合う皇太子ってここくらいな気がします。


「ウェールズさまーーー!」

 ルイズは頭が床にめり込んでひっくり返ってるウェールズに駆け寄り、今にもその首をはねようと手刀を構える才人の前に滑り込む。

「この人はアルビオンの皇太子ウェールズ様なのよ!」

 ルイズはウェールズを助け起こす。しかし、ワルドと才人は今までの行動からウェールズと信じる事は出来なかった。そんな二人の視線を感じてルイズはウェールズの変装をとる。

「ほらっ!これは変装なのよ!こうして空賊に成りすまして、反徒達の補給線を絶つための作戦をやってたのよ!きっと!」

 その変わりようを見て才人は驚いているが、ワルドは表情を変えない。

「ルイズ、君は騙されているんだよ。女性を辱めようとする奴らがアルビオン軍、ひいてはウェールズ皇太子であるはずが無いだろう」

 ワルドは男たちが持っていた曲刀を手に取ると、その首をはねようと構える。

「まっ、待ってくれ!頼む!」

 才人達にのされていた船員の内一人が意識を取り戻し、這ってくる。才人は拳を構えるが、船員は必死に訴えかけてくる。

「お願いだ聞いてくれ…その人は正真正銘のウェールズ皇太子だ…女性たちの事は心配しなくていい、船倉より…環境のいい船室に移しただけだ…」

 それを聞いてもなおも曲刀を構えたままのワルドの手を才人が止める。

「待ってくれ、こいつを起こして話を聞いてからでもいいんじゃないか?」

 ワルドは仕方ない、という表情で曲刀を床に突き刺す。

「怪しければ首をはねる。これは同意をもらってもいいね?」

 才人は頷くと、ウェールズに近づき頬を軽く叩いて目を覚まさせる。目を覚ましたウェールズは才人達を見て一言呟く。

「君達のような優秀な戦士がいれば…戦局は大きく違っただろうね…」

 ウェールズは立ち上がると、才人達に敬礼する。

「私はアルビオン王立空軍大将ウェールズ・テューダーだ。よろしく…そうだね、僕が皇太子という証拠を見せよう」

 ウェールズは自己紹介を終えるとルイズの水のルビーを指さす。

「それはアンリエッタがはめていた水のルビーだろう?これはアルビオンに伝わる風のルビーだ」

 二つのルビーが近づくと互いに共鳴し合い、虹色の光を生み出す。

「王家にかかる虹の架け橋さ」

 本物という証拠を見せられ、ワルドはひざまずき、名を名乗る。

「申し訳ございません。無礼をお詫びしますウェールズ皇太子。私はトリステイン王国魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵」

 才人もワルドの真似をしてひざまずく。

「ルイズの使い魔の平賀才人です。先ほどのご無礼、お許しください」

 ウェールズはふらつきながら叩きつぶされた椅子の上に腰掛けると、ため息をしてうなだれる。

「すまないが、場所を移して話そう。まさか君たちがこんなに強い何て…ニューカッスルの城までご足労願おう。少し休みたいんだ…」

 

 

 

 

 才人達を乗せた軍艦『イーグル』はアルビオンの海岸を3時間ほど進むと、突き出た岬の所までやって来る。それは歴史を感じさせる見事な城だった。

「あれがニューカッスル城…」

 才人はその姿に魅入っていたが、船が突如沈むような航路をとる。才人はどうしてかウェールズに聞くとニューカッスル上の上空を指さす。

「かつての本国艦隊旗艦『ロイヤル・ソヴリン』号だ。反徒に奪われてからは『レキシントン』と名を変えているがね。あいつが空を塞いでいてね、嫌がらせのように大砲をぶっ放していくんだ」

 あれの反乱から全てが始まった。と呟くウェールズはどこかさみしそうだった。

「という訳で、大陸の下の秘密の港から出入りするのさ」

 ルイズはふと疑問が生まれる。

「ウェールズさま?何故普通の港から入らないのですか?情報では港を取り返したとか…」

 ウェールズは首を横に振る。

「配下の一人…60年来の爺やが先日裏切ってね、取り返した時の戦力を全て奪われた挙句、港も奪われたのさ」

 ルイズ達は顔を青くする。

「もしあのまま港に行けば、全員貴族派に捕らわれていただろうね」

 どうやら、ウェールズ達は補給線を絶つと同時に、おびき寄せられた船を助ける任務も担っていたのだ。それを知り、才人達は改めてウェールズに感謝したのだった。

「まあ…君達なら何とかなったかもしれないけどね…」

 ウェールズの悲しげな呟きは、風にかき消され誰の耳にも届かなかった。日が差さず、厚い雲で視界がゼロの大陸の下。反乱軍が絶対に入ってこれない領域だ。そこを『イーグル』号は苦も無く進んでいく。

「王立空軍の航海士なら測量と魔法の灯りだけで行けるさ。反徒共は所詮、空を知らぬ無法者さ」

 ウェールズが言う間に船は黒い大穴に吸い込まれ、ニューカッスル秘密の港に帰航した。ウェールズに促され一行はタラップを降りる。

「パリー…何故…」

 またウェールズは悲しげに呟く。才人はパリーという人物を知らないが、恐らくここに来るまでに聞いた長年仕えてくれた爺やの事だろう。気の毒に…と同情する事しか出来ない才人だったが、それを口に出すことは絶対にしなかった。

(んな、分かり切った事。言われたかねぇよな)

 ルイズ達はウェールズに付き合い、ニューカッスル城の彼の居室へと招かれる。そこは殆ど物が無い、とても質素な部屋だった。

「では、本題に移ろうか?」

 ルイズから手紙を受け取り、それを読んだウェールズは机の引き出しを開けると、宝石の散りばめられた小箱を取り出す。

「僕の宝箱さ」

 箱の中身を覗き込むルイズ達にウェールズは照れ臭そうにはにかんで見せる。箱が空いた時、唯一中を覗けたルイズが見たのは蓋の裏側に美しく描かれたアンリエッタの肖像画だった。

「これが君たちのお目当ての手紙だよ。確かに返却したぞ」

 ルイズは元々手紙が入っていた封筒に丁寧にしまう。ウェールズは手紙を渡す時、手紙に愛おしそうにキスをしていた。それだけでウェールズとアンリエッタがどういった関係なのか、ルイズ達はすぐに分かった。

「失礼します!殿下!」

 突然の声に才人達が振り向くと、扉の前に伝令兵がやってきていた。扉越しに報告するようウェールズに促された伝令兵は慌てた声で報告する。

「ご報告します!明日の正午、反徒共がこの城に攻撃を仕掛けると宣戦布告してきました!」

 ルイズ達は目を見開くが、ウェールズはあっけらかんと答える。

「伝え返せ!正々堂々、真正面から撃ち合ってやるとな!」

 伝令兵は少し戸惑っていたがすぐに返事をし、また駆けて戻っていった。

「なっ!?大丈夫なんですか!?今のこんな状態で!」

 ルイズはウェールズに詰め寄るが、ウェールズはきっぱりと言い切った。

「ああ。これで残るは反徒共に王家の誇りと名誉を示して敗北するのみだ」

 その発言を聞いてルイズは震える。死を恐れないのかと問わずにはいられない。言いかけるルイズの両肩に手が乗せられる。ワルドと才人だ。

「ルイズ、軍人ってのは、男ってのは厄介な生き物でね。戦いの中で敗北にでさえ美徳を持ってしまうんだよ」

 ワルドは諭すようにルイズに語りかける。しかし、才人は少し呆れながらルイズに語りかける。

「お前だって、前はそんなだったろ?…ったく、この世界の貴族って奴は…王族って奴は…」

 言いたい言葉を飲み込む才人。しかし、ルイズはアンリエッタの事を思い出す。こんな事、彼女が望むはずがない、と。ルイズは俯きながらウェールズに問いかける。

「…王軍に、勝ち目は…無いのですか?」

 しかし、ウェールズは何でも無いように答える。

「無いよ。我が軍は百にも満たない。軍とも呼べない程だ。対して敵軍は五万、万に一つの可能性も無い。我々にできるのは精々勇敢な死にざまを見せつけるだけさ」

 ルイズは拳を握りしめながら言葉を漏らす。

「殿下の、犬死も…その中に含まれてんの…?」

 ルイズの言葉が少しずつ荒くなる。握る拳からは血が滴る。才人はその異変に気付いていたが、ルイズの気持ちを考えると指摘する気になれなかった。

 

 

「当然だ、私は真っ先に死ぬつもりだよ」

 

 

 その一言がルイズの堪忍袋の緒を引きちぎった。振りぬかれる拳、簡素な木のベッドを押し砕き叩き伏せられるウェールズ。こんな事普段のルイズは絶対にしないだろう。顔を青くして止めに入る側だろう。しかし、親友を思う女は違う。ルイズはウェールズの胸倉をつかみ上げる。

 

 

 

 

「女舐めてんじゃないわよ!女残して死ぬっての!?そんなの女が望む訳ないでしょ!?責任とりなさいよ甲斐性なし!」

 

 

 

 

 ここまで怒ると思ってなかったワルドと才人はその剣幕に思わず腰を抜かす。しかしウェールズは臆さずルイズを真っすぐ見つめて問う。

「まさか従妹のアンリエッタと僕が恋仲だったとでも?」

「分かんない奴が何処にいんのよ!この手紙も恋文でしょう!?」

 響くルイズの怒号。

「私は幼き頃、恐れ多くも姫様のお遊び相手を務めさせていただきました!姫様の気性は大変良く存じております!分け隔てなく優しい事!負けず嫌いな事!あの姫様が愛した男を見捨てる事をするはずが無い!手紙には書いてあったんでしょ!亡命してくれって!書いてあったんでしょ!」

 ウェールズは首を横に振る。

「とぼけないで!」

 ウェールズは苦しそうに呟く。

「私は王族だ、嘘などつかぬ」

 嘘だ、ルイズはすぐに分かった。

「アンリエッタは王女だ。自分の都合を、国の大事に優先させるわけがない」

 恐らくウェールズはアンリエッタを庇おうとしている。情に流される女と臣下に思われるのが嫌なのだろう。でも、分かっていてもルイズは感情を抑えられなかった。言葉が溢れてくる。

「関係ないでしょ!姫様だって、姫様だって女です!姫様だって!姫様だって!…姫様だって…ひめ…うぅ」

 次にルイズからあふれ出したのは涙だ。手で押さえても溢れる程の涙が頬をつたう。ウェールズは俯き言葉を失うが、立ち上がるとルイズの肩に手を置く。

「君は…正直だ。とても、とても。しかし…それでは大使は務まらんよ?」

 ウェールズは時計に目をやる。

「そろそろパーティだ…君たちも出席して欲しい。僕たちがもてなす最後の客人だ」

 

 

 

 

 パーティは城のホールで行われた。簡易の玉座が置かれ、そこに年老いたアルビオン王ジェームズ一世が腰掛けている。才人は皮肉を込めて呟く。

「明日で終わっちまうからって、派手なこって…」

 ワルドもルイズの隣で頷く。

「終わりだからこそ…か」

 ジェームズ一世が立ち上がると演説が始まった。明日の戦は一方的な虐殺になるであろう事、勇敢な配下の貴族たちを死なせたくない事を述べると、『イーグル』号で脱出するよう促す。しかし、配下の貴族は血気盛んに叫び始める。

「耄碌には早いですぞ!陛下!」

「我らがお待ちする命令は唯一つ!『全軍前へ!』それ以外の命令は耳に届きませぬ!」

 響き渡る「アルビオン万歳!」の声。それは広がり続け、ついにはホール全体での大合唱にまでなる。才人は憂鬱になってきた。死を前に明るく振る舞う人たちが、この上なく悲しい存在に見えたのだ。

「ねぇ?サイト?」

 おもむろにルイズが尋ねてくる。才人は自然とルイズの手元に目が行く。どうやら一口も食べていないようだ。まあ、才人も同じだったが。

「何?」

「私、この旅で色んな体験をしたわ。特に多かったのが…人の死…」

 才人はルイズの横顔を眺める。それは物憂げな顔をしていた。

「皆、死ぬことが怖くて、怯えて、逃げ出して…イフェメラの時も、すごかったわ…相手を攻撃してまで生き残りたい…そんな執念を感じた」

 才人は心の中で今までの事を思い出す。ほんの数日間の旅なのに、どれだけの命が失われただろうか?才人がいたせいで消えた命もあれば、いなくても消えた命が数多くあった。

「なのに何で?何でこの人たちは死を恐れないの?皆、必死に生きてたのに…」

 才人は水を一口飲むと、ルイズに向き直る。

「お前にだってあるだろ?貴族の誇り、名誉、プライド…それをあいつらも持ってて、勇敢とはき違えた感情で必死に守ってんのさ」

 私もああだったのかしら?とルイズは呟く。

「完全に同じって訳じゃないけど…あったばっかの頃は…あんなんだった」

 ルイズはそう…、と呟き俯き、才人の手を握る。

「ウルトラマンは…ウルトラマンは助けてくれないの…?」

 才人はルイズの手を握り返せなかった。

「ウルトラマンは…コスモスは…俺たちがどうしようもないくらいピンチの時に来てくれるんだ…俺の世界いたウルトラマン達は、絶対に人間同士の戦争には介入してこなかった」

 ルイズは握り返さない才人の手を無理にでも握ってくる。

「ミス・ロングビルの時、来てくれたわよ?イフェメラの時だって、今日の事件だって…私たちのピンチにはいつでも、来てくれたわよ?」

 才人にはルイズの頬には涙が伝っているように見えた。泣きすぎて涙も出ないくらい乾ききっているはずのルイズにだ。

(ルイズ…)

 才人は無性にルイズの手を握り返してやりたくなった。しかし、こらえた。耐えた。自分に、『ウルトラマンコスモス』はその手を握り返してはいけないのだ。

「俺だって、俺だって…」

 

 

 

 助けたい、力になりたい、その言葉を才人は飲み込み、心の奥に封じ込めた。

 

 

 

 少しして、才人は疲れ切っているルイズをワルドに預ける。料理を小皿に分け、水を一杯注ぎ、お盆に乗せる。

「食べさせてやってくれ、今腹ん中空っぽだろうからさ」

 ワルドはルイズを背中に負ぶると、お盆を受け取る。

「気遣いありがとう。使い魔くんはどうする?」

 才人は頬をポリポリとかく。

「まずは、王子に謝ってくる」

 今日だけでウェールズにどれだけ暴力を振るったか、失礼をしたか。冷静になると一国の王子様になんてことをしでかしてしまったのか…。

「ルイズを頼むぜ、婚約者さん?」

 ワルドが部屋に行くのを見届けると、才人は貴婦人に取り囲まれるウェールズに声をかける。

「やあ、君はラ・ヴァリエール嬢の使い魔くんだね?」

「そうです。先ほどは主人が大変失礼しました」

 気にしなくていい、ウェールズは笑いながらそう言い、ワインを仰ぐ。才人は言うかどうか迷うが、思い切って聞いてみる事にした。

「ちょっといいですか?」

 才人は場所を変えるよう提案し、バルコニーに出る。

「何だい?話って?」

 才人は咳払いしてウェールズに問いかける。

「失礼ですけど…その、負けが分かり切っている戦を何でしなくちゃいけないんですか?」

 ウェールズは笑みを消し、毅然とした態度で答える。

「我らは勝てずとも、勇気と名誉を反徒共に見せつけ、王家達が弱敵でない事を示さねばならぬのだ。それが王家に生まれた者の…義務だ」

 才人は少し俯く。

「姫様は貴方を愛してる、亡命の事、手紙に書いてあったんでしょ?」

 ウェールズは黙ると少し首を傾ける。肯定だろう。

「愛するが故に、知らぬふりを…身を引かなければならない時がある。私がトリステインに亡命すれば…それは反徒共の攻め入る格好の口実になるだろう」

 この事はアンリエッタには秘密にな。そういい笑うウェールズに才人は言い返す。

「分かりました。勇敢に戦って死んでいきましたって言っときますよ」

「ありがとう…ところで君はラ・ヴァリエール嬢の恋人かい?」

 唐突な質問に才人はすぐに反応できないが、「いいえ」と短く答える。

「婚約者はワルド子爵の方ですよ」

 そうか…と言うウェールズは考え込んだまま黙り込む。「僕とアンとのはもう無理だが…」と呟いた後、次の言葉を待っていた才人が聞いたのは思いがけない一言だった。

 

 

 

 

 

 

「伝えてくれ、明日君たちの結婚式を執り行いたいと」

「え?」

 

 

 

 




続きます。ゼロの使い魔の二次創作で多いのが、ウェールズ生き残らせるか問題。はてさてゼロの使い魔~真心~はどうなるでしょう?

ルイズについて、今回はっちゃけました。こんなことしねー!という意見もあると思いますが、ご容赦を。


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ゼロの使い魔~真心~第42話

続きです。運命の結婚式。


 双月の光のみが差し込む寝室、疲れたルイズは食事もそこそこに、ワルドの胸に身を任せていた。ワルドは胸の高鳴りが聞こえないように心臓の反対側にルイズの頭を抱えている。

「落ち着いたかい?僕のルイズ」

 ルイズは小さく頷く。そのはかなげな目はワルドを下から見つめてくる。ワルドは今しかないのではないか?と自分に問う。

(今なら行けるのでは!?でもルイズの弱みに付け込むなんて卑劣な…!)

「ねぇ?ワルドさま?」

 ルイズはワルドの裾を掴む手に力を入れる。

「私、もう一度王子様を説得するわ」

 ワルドはバツの悪そうな顔をする。

「いや、それは…」

「無理だろうよ」

 突然の声に二人が振り向くと才人が入って来る。才人は暗い事に不平を言いながら部屋の蝋燭に灯りをつけていく。

「無理ってどういう事よ!」

 ルイズは才人に掴みかかる。顔は既に怒りで歪みかかっている。

「愛する者の為に戦うとよ」

 才人はウェールズに直接話をして来た事を伝え、床に座り込む。ルイズの体調が良くなったのを知り安心すると、持ってきていた水のボトルを一気に仰ぐ。

「ぷはっ…実はさ、その王子様からお知らせがあってさ…」

 才人のいつになくハッキリとしない態度にルイズがイラつきを募らせる。

「何よ、はっきり言いなさいよ!」

 才人は少し小さい声で呟く。

「あっ、あなた達の結婚式が明日執り行われる事が決まりました…」

 ワルドとルイズは「え?」と目を合わせる。聞こえていないと思った才人は、深呼吸してハッキリと言う。

「あなた達の結婚式が明日執り行われます!」

「「聞こえてる!(わよ!)」」

 二人の顔がどんどん赤くなっていくのが見て取れる。ワルドは混乱が激しくブツブツ何やら呟いている。

「たっ確かにこの旅で落としてやるとは考えていたがそんな急な…」

「急すぎない急すぎない急すぎない!?たっ確かに子爵はいい人よ?でもでもでも…」

 舞い上がるワルド、混乱するルイズに才人はウェールズからの伝言を伝える。

「…王子様がな、自分たちはもう無理だからって…代わりに、幸せな未来ある二人の婚姻の晩酌を務めたいって」

 舞い上がっていた二人は途端に冷静さを取り戻す。しかし、ルイズは少し晴れやかな顔になる。

「…そう、やっぱり王子様も少しは心残りなんだ…」

 ウェールズが完全に想いを捨てた訳じゃない。それが分かって晴れやかな気持ちなのだろう。ワルドはその様子を見て腹をくくる。

「使い魔くん、殿下に了承とお礼を伝えて来てくれないかい?」

 それを聞いた才人は立ち上がり、式の流れをある程度説明する。

「式は俺抜き、三人だけで行う。まあ、脱出の準備もあるし…何より決戦前だしな。それじゃあ伝えてくるよ」

 ルイズは才人が出ない事に残念そうだが、ワルドはついにここまで来たかと舞い上がっていた。

「すまないルイズ、トイレに行ってくるよ」

 本心は違う。にやけている顔を見られるのが恥ずかしいからだ。浮かれながら廊下を歩いていると声をかけられる。

「もし、もし。もしや魔法衛士隊隊長ワルド子爵ではないですか?」

 ワルドはこの声に聞き覚えがあった。物凄い猫なで声だが、忘れたくても忘れられない声だ。

「貴様っ!何故ここに!?」

 ワルドが振り向くとそこには黒ローブの女性が立っていた。ローブを深くかぶっているせいで顔が見えないのが、より不気味さを生み出している。

「ふふっ、ご結婚おめでとう。とでも言おうかしら?」

 黒ローブの女性は、まるで時を止めたかのような感覚に陥らせる程の速度でワルドに近づき押し倒す。

「『任務』、忘れてないでしょうね?」

 ワルドは抵抗しようとするが体がピクリとも動かない。物凄い怪力だ。

「…もっ、もちろんだとも!」

 黒ローブの女性の顔がワルドの顔に近づいてくる。

「話聞いてたわよ?三人だけになれるんでしょう?そこで殺っちゃいなさいよ」

 耳元で囁く声は甘く囁くものから凍り付くような冷たい声に変わる。

「じゃなきゃどうなるか解ってるわよね?」

 背筋が凍るワルド。しかし、今の状況から見た自身の見解を伝える。

「一つ問いたい。今、勝利が確定している今、『任務』を遂行する事に何の戦略的価値がある?」

「あら?気になる?」

 黒ローブの女性がワルドに説いたのはウェールズの戦術的価値だった。

「この戦いで王子様に逃げられれば、いつか興国のシンボルとしていつか奉られるでしょう。本人が望む望まないに関わらずね♪同志が求めているのは確実性よ?」

 黒ローブの女性はワルドの首筋に唇を押し当てる。同時に走る鋭い痛み。

「ッ!?」

 ワルドは慌てて手で押さえると、血が流れ出ている。いつの間にか離れていた黒ローブの女性は何処か楽しそうに話す。

「ふふっ…おいしい。もっともっと味わいたいけど…私も王子様を狙うわ。けど警備が多くて逃げられるかもしれない。だから、頼むわね♪」

「あっ!?」

 ワルドは思わず声を上げる。黒ローブの女性はすでにいなくなっていた。しかし、ワルドが声を上げたのは別の理由がある。去り際に、にやけて見せた黒ローブの女性の『それ』を見たのだ。黒ローブの女性の口が突如として耳元まで裂け、『それ』が見えた。

 

「あれは…牙?」

 

 見えたのは双月の光を反射する鋭い牙だった。

 

 

 

「そうかい、ありがとう」

 ウェールズにそう言われると才人はありがとうございます。と頭を下げ、部屋を後にする。才人はそのまま廊下をさまよう。別に戻る部屋を忘れた訳ではない。ただ、邪魔しちゃ悪い、そう思って廊下をさまよっていたのだ。

「なあ相棒?覗かねぇの?たぶん今頃しっぽり…」

「わー!わー!わー!」

 才人は顔を真っ赤にして、大声で誤魔化す。親父かよ…とデルフリンガーに文句を言うと、壁を背もたれにして床に座り込む。

「あーあ、これでルイズともお別れか…」

「何でぇ娘っ子の所出ちまうのか?」

 デルフリンガーは何で何でとしつこく聞いてくる。そりゃそうだろ、と才人は呟く。

「新婚の所に、使い魔とはいえ人間がいるとなったら邪魔だよ」

 才人は少し寂し気に呟く。

「さよなら、俺の可愛いご主人様…お幸せに…」

 デルフリンガーは、ははーん!と笑いかけてくる。

「相棒も娘っ子の事好きだったのかい?」

 才人は思わずせき込む。

「ブッ!ゴホッ!ゴホッ!そんなんじゃねえよ!…只、なんだかんだで…な。俺さ、あいつにこの世界に召喚されてからずっと一緒だったから少し寂しくなっちまった」

 デルフリンガーは突然黙り込むと才人に問いかける。

「なあ相棒?もう無理に娘っ子の所にいる必要はねえんだ。元の世界に帰っちまうのはどうだい?」

 才人は首を振る。

「帰り方が分かんねぇよ。そりゃあ…母さん父さんには何も言わないでこっち来たから心配してるだろうし…一度は帰らなきゃって考えたよ。でもさ、この世界は侵略者に狙われている。『ウルトラマンコスモス』が必要なんだ。それに、『ウルトラブレスレット』を残したシャプランを殺した怪獣がいつこの世界に来るかも分からないんだ。そしたら犠牲者が出る。帰れないよ」

 その化け物怪獣に勝てる保証は無いけどさ…、呟く才人にデルフリンガーは問いかける。

「ロングビルの姐さん守りたいもんな?」

「ああ」

 

 

「「……………」」

 

 

 

「やっぱりか!やっぱりか相棒!」

「だー!待て待て!話を聞け!」

 才人はさっき以上に顔を赤くする。

「違うんだよそういうのじゃなくて…」

 才人は一度咳払いをする。

「俺はこの世界に来て色んな人たちと関わっちまって…今更無関係でしたーはねぇだろ?マチルダさんもその一人だよ…それ以上は…まだ分かんない。今までウルトラマンが大好きで、そっちに夢中でさ…色恋なんてしたこと無かったんだよ。だから、自分の気持ちがどうだ何て…」

 

 

ドタンッ!

 

 

 

 突然の凄まじい音に才人とデルフリンガーは会話を止め臨戦態勢になる。曲者かもしれない、そう思いデルフリンガーを構えると、音の方へ静かに向かう。音の場所まで到着すると壁を背に覗き込む。

「…ワルド子爵?」

 見るとワルド子爵が押し倒され何か話し込んでいる。

(襲われている…のか?)

(別の意味で襲われてんじゃね?)

(ちょっと静かに、デルフ)

 

「三人だけになるんでしょ?そこで殺っちゃいなさいよ」

 

 何て冷たい声だろう。才人は背筋が凍る。…間違いない、あれは人間じゃ無い。まるで…そう、悪魔だ。才人は体が震え、デルフリンガーをにぎ握る手に自然と力が入る。しかし、ふとその言葉の意味が頭に引っかかる。

(…三人だけ?ワルド子爵に関する事で、三人だけって…え?殺る?殺るって言った?)

 

「…頼むわね」

 

 才人が考えている間にワルドに覆い被さっていた影は消え去ってしまう。才人は追えなかった事より、会話の内容で頭がいっぱいになっていた。

 

 

(殺る?殺る?犯る?ちがう。殺る?誰を?え?誰を?え?)

 

 

 

 寝室、一人残されたルイズは布団にくるまっていた。つい先ほどまで晴れやかな顔をしていたが、今は表情が暗い。男二人がいなくなった事で改めて冷静になって考えてみたのだ。

「ワルド子爵は私の婚約者…いつか私と結婚する運命にある人…」

 ルイズはこの旅で幾度となくワルドに助けられ、その人となりを見て来た。子どもの頃のあやふや記憶や、ぼんやりとした憧れという感情とは関係なしにワルドの事を好いているのは事実だろう。しかし…。

「サイト…私の使い魔、私のいぬっころ…」

 才人の事がルイズの頭から離れないのだ。あくまでも使い魔であるはずの才人の事がなぜこうも思い浮かぶのだろうか?…ルイズは自分の手を見つめる。

(まだ…残ってる…)

 先ほどルイズは才人の手を握りしめていた。ウェールズ達をどうにか助けたい、その手を伸ばしたいと思った時に半ば無意識に力強く握りしめていたのだ。その時の感触がまだ残っていた。

(不思議な所もあるけど、一緒に笑って、一緒に泣いて…思いのほか、頼りになって…何より、一緒にいると何だか楽しい…)

 確かにこの旅の前からモヤモヤした気持ちを抱えていたのは事実だ。そして、この旅でワルドへの好意を自覚すると同時に、才人との絆が以前より深まった気がする。

(私、もしかしてサイトの事……ダメ!…これじゃギーシュと一緒よ!サイテーッ!)

 ルイズは頭から布団をかぶると、ゆっくりと自分の手を握る。

(でも、サイト…握り返してくれなかったな…)

 どれだけ助けを求めても、どれだけすがっても、才人は手を握り返しては来なかった。拒絶こそしないが、気持ちを受け止めてはくれなかった。

(何よ、使い魔のくせに…私の、私の、使い魔のくせに…)

 ルイズは延々と考えを巡らせる。才人がどうして握り返さなかったのか、本当の理由の分からぬままどれくらい時間が過ぎたたろう?一日の疲れに襲われ、眠気が押し寄せてくる。

(こんな気持ちでワルドさまと結婚なんて…おこがましいわ…間違ってる…こんな…)

 ルイズはひたすら自分に問いかけ続け、自分の気持ちを推し量れぬまま悩み続け、眠りについた。

 

 

 

 

 

 翌日、ニューカッスル城内にある、始祖ブリミルの像が置かれた礼拝堂にて。ウェールズは皇太子の礼装に身を包み、新郎新婦の登場を待っていた。帽子で揺れる七色の羽はアルビオン王家の象徴だ。

 

 

バタン!

 

 

 扉が開き、ルイズとワルドが入って来る。ルイズの頭の上にはアルビオン王家より借り受けた新婦の冠がかぶせられていた。それは魔法の水で永久に枯れぬ花があしらわれ、ルイズの美しさをより高めている。

「いよいよだ…」

 ワルドは緊張で震えながらも、覚悟を決めた表情でどうどうと歩く。しかし、ルイズは表情が晴れない。結局悩みは解決しないままついにここまで来てしまったのだ。

(サイト…いる訳ないわよね…)

 ルイズは礼拝堂の中を一度見渡す。しかし、ふと我に返る。今は自分とワルドの結婚式、なのに無意識にサイトを探してしまった。今サイトは脱出船への非戦闘員乗船の手伝いに行っているのに。

(…私、無意識に…探してた?)

 そうしている間に、ルイズの肩に新婦のみが羽織る事の許される純白のマント…乙女のマントがかけられる。

「では、式を始める。」

 ウェールズの一言でついに式が始まってしまう。ルイズはどうすればいいんだろう、と考えるがあれよあれよと言う間に式は進み、誓いの言葉にまで来てしまった。

「新郎、子爵ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。汝は始祖ブリミルの名において、この者を敬い、如何なる時も支え合い、愛し、妻とする事を誓いますか?」

 ワルドは重々しく頷き、杖を持った手を胸の前に置く。

「誓います」

 ウェールズは頷くと、ルイズに視線を移す。

「新婦、ラ・ヴァリエール…」

 誓いの為の詔を読み上げるウェールズの声が礼拝堂に響く。今、目の前で起きているのは子どもの頃から想像してきた未来。なのに…気持ちが沈む。

「…誓いますか?…新婦?」

 ルイズは、はっと意識を取り戻す。言葉が出ず戸惑う。こんな時どうすればいい?誰も教えてはくれないだろうが、誰かに聞きたい衝動に駆られる。

「緊張しているのかい?まあ初めてだからね。仕方ないさ」

 ウェールズはワルドの「初めて以外あっては困るのですが?!」という呟きを聞き流してにっこりと笑い、続ける。

「…誓いますか?」

 目の前に迫る選択の時。ルイズは自分で答えを出さないといけない事に気付く。行きついたのは答えとは到底呼べないモノだが。

 

 

 

 

「…誓えません」

 

 

 

 

「「…え?」」

 ウェールズとワルドはルイズが何を言ったか分からない。いや、頭が受け付けない。ワルドは震えながらルイズに問いかける。

「るっ、ルイズ?きっ緊張してるんだね?そうだね?」

 ルイズは悲し気な表情になり首を横に振る。目じりからは涙が零れており、ルイズはその場に膝をつく。

「ごめんなさい、ごめんなさい…ごめんなさい!ごめんなさい!」

 ルイズは涙を振りまきながらワルドに謝罪の言葉を吐き出す。ワルドは突然のルイズの豹変に驚き、戸惑うしかない。あの気位の高いルイズがここまで取り乱し、許しを請うなんて。

「私、私ッ!自分の気持ちが分からなくって!全然ッ!理解出来なくて!ワルドさまが好きなはずなのに!子どもの頃から!好きだったのに…」

 ルイズはワルドにしがみつく。

「サイトがっ!サイトがっ!頭から離れないの!こんなのおかしい!あっちゃいけない!こんな気持ちで結婚なんて…こんな!こんな気持ちで!貴方と結婚なんて…そんな不貞、出来ないわ…」

 ワルドはルイズの肩を抱く。

「そうか、あの使い魔くんが君の中でそんなに大きな存在になっていたんだね」

 ワルドは正直才人を恨み、憎んだ。しかし、ルイズを苦しめたのは自分だと自分を責める。

(そうだよねルイズ。僕が散々君を放っておいたんだ…。急に来たのは僕の方。君を乱したのは僕だ、それに…使い魔くんは僕たちを応援してくれたんだ。恨む事は無いさ)

 その時、礼拝堂が微かに震える。どうやら攻撃が始まったようだ。礼拝堂に敵が押し寄せてくるのも時間の問題だろう。ワルドはその表情をいつもの優しいものから、冷酷な顔に変える。

「ルイズお願いがある」

 ルイズは不思議そうにワルドを見上げる。

「…え?」

「君の気持ちは分かった。でも僕は諦めない。必ず僕を好きにして見せる、だから…僕についてきて欲しい。詳しい事は後で話す。今は時間が無いんだ」

 ルイズはワルドに身を預ける。無言の了承だろう。

「僕は果たさなければならない任務がある。ルイズ、君を守るためにはこうするしかないんだ。僕はなんと罵られようが構わない。全ての汚名を身に受けよう」

 ワルドは完全に蚊帳の外になっていたウェールズに向き直る。

「殿下、お願いがあります」

 ウェールズは半ば茫然としていたが、ワルドに声をかけられ慌てて返事をする。

「なっ何だい子爵?まあ、今回は残念だが…今の僕に出来る事なら何でも言ってくれ」

 ワルドは素早く詠唱する。

 

 

 

 

「殿下のお命をいただきたい」

 

 

 

 

 瞬時に杖を引き抜くウェールズ。しかしワルドは既に詠唱を終えている。ルイズが声を上げる間もなく『ブレイド』がウェールズの胸に吸い込まれる。

 

 

 

 

 

 

 寸前ウェールズが消える。

 

 

 

 

 

 

「何!?」

 空を斬る『ブレイド』。ワルドは慌ててウェールズの立っていたところを見る。そこには大きな穴が開いていたのだ。

(まさか緊急用の脱出口!?)

 ワルドは穴を覗き込むが、ウェールズの姿を見る事は出来なかった。その前に何かが飛び出してきたのだ。

 

 

 

 

 

 

「何してんだ子爵ーーー!」

 飛び出してきた才人の拳にワルドは遥か後方まで吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 




続きます。ルイズが悩みます。自分で書いててもホントに悩みました。「これ●ッチじゃね?」って…賛否ありますがご了承ください。お願いします。



そして…サラッとけなされるギーシュ。


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ゼロの使い魔~真心~第43話

続きです。死闘。


 ルイズは言葉を失う。目の前で起きた激動の全てをその目にしていたからだ。ワルドに殺されそうになったが、突如姿を消したウェールズ。遥か遠くまで殴り飛ばされたワルド。そして、そのワルドを殴り飛ばした才人。

「サイト!あんたっ、なんで!?」

 ワルドとルイズの間に立ちふさがるように才人が躍り出る。

「昨日王子様の暗殺計画を知っちまってさ、結婚式の前からずっと地下に隠れてた。で、王子様がヤバくなったからデルフで穴開けて助けた」

 ルイズはそれを聞いて顔を青くする。ずっといたという事は、自分の気持ちを全て知られてしまったという事だ。

「ルイズ…お前の気持ち、知っちまった…悩ませちまったな…」

 才人は申し訳ないと目線で訴えてくる。ルイズはその目を直視できなかった。そうしているとワルドがうめき声を上げる。

「悪かったな。お前の結婚は延期だ」

 才人はデルフリンガーを抜くと、礼拝堂の椅子に叩きつけられたワルドに向け構える。

「まず一番にするのは帰る事だ。…あのバカの目ぇ覚まさせてな!」

 才人は全力で駆け出し、ワルド目掛けデルフリンガーの峰を振り下ろす。それはワルドの体に触れる事無く床を叩き砕く。

「ッ!?」

 才人は身をよじりその場から離れる。瞬間、『エア・ハンマー』が一度に三方向から放たれ床をえぐり取る。

「流石はガンダールヴ…今のを躱すか」

 いつの間にか立ち上がり、まるで三発同時に放ったと錯覚させる程の速度で攻撃してきたワルド。才人はデルフリンガーを構え直す。

「流石は魔法衛士隊隊長、それが本気ですか?」

「まさか」

 そう言うとワルドの杖に魔力が集まっていき、風の刃を作り出す。

「『エア・ニードル』…風の使い手が使えば『ブレイド』をはるかに超える威力を持つ僕の隠し玉だよ」

 言い終わるまでにワルドは踏み込み、その風の刃を才人の心臓目掛け突き出してくる。才人は全力で避けるが間に合わず、肩に突き刺さる。「閃光」の名に恥じぬ速度に才人は感嘆する。

「流石っ!…です…ねぇ!」

 才人は床を蹴り砕き舞い上がる粉塵で姿を隠す。しかし、ワルドは「無駄だ」と見せつけるように風を起こし、粉塵を吹き飛ばす。

「なにっ!?」

 ここで誤算が一つ。才人は粉塵に紛れはしたが、その場からは動いていなかった。肩から刃を抜いて、その場に留まっていたのだ。フルスイングで放たれたデルフリンガーの一撃がワルドの脇腹を直撃する。

「ごはぁっ!」

 ワルドは吹き飛ばされる。そう思ったルイズだが、突然ワルドの姿がかき消える。その瞬間才人は足のばねだけで跳躍、自身の後ろに現れたワルドに蹴りを叩き込む。

「グホっ!」

 今度は直撃したのかワルドは柱に叩きつけられる。

「ぐほっ!…そう言えば君は一度見ていたね…」

 ワルドは『風の偏在』を使い入れ替わっていたのだ。しかし、手ごたえで見抜いた才人はバド星人の時の事を思い出し、後ろに跳んだのだ。才人はワルドを睨みつけると、デルフリンガーの切っ先を向ける。

「子爵!一つ教えろ!なぜ裏切った!?なぜ王子を!?」

 ワルドは黙り込むが、悲し気な表情を浮かべる。

「ガンダールヴ、知った所で君には何も出来ないさ。…どうしても知りたいなら僕を倒せ!」

 それを聞き、才人は決意を込めた目で答える。

「やってやるさ!『風の偏在』も見切ったからな!」

 ワルドは小声で詠唱し、杖を振り上げる。

「なら、これはどうかな?」

 突然ワルドの周りの風が勢いを増し、集まっていく。それは四つに集まり、動き出す。

「…へっ、ヤバいだろ…」

 才人はデルフリンガーを握る手に自然と力が入る。目の前に現れたのは本体を合わせて合計五人のワルド。今のワルドに出来る全力の布陣だった。

「行くよ!」

 走る閃光。才人は全ての剣戟をいなそうとする。しかし、最後の一太刀をかわし切れず脇腹をかすめてしまう。

「ぐっ!」

 才人は一体に肉薄し全力の横なぎでその首を殴打する。しかし、それは霧散してしまう。外れだ。その隙に四方を囲まれた才人はワルドの杖に輝く雷を目にする。

「くらえぇ!」

 ワルドの杖から放たれた『ライトニング・クラウド』。普通の人間なら掠っただけで命を落とすような魔法が四方向から放たれる。二発はデルフリンガーが吸い込むが、吸い込み切れなかった二発が才人の体を打ち貫き、焼き焦がす。

「がぁぁ!」

 才人は思わず膝をつく。その才人にワルドが二人飛び掛かるが、その刃は床を貫くだけに終わってしまう。一瞬で体を宙に浮かべ、上から二人のワルドを攻撃、首を斬り飛ばし霧散させる。

「やるな!だがその程度かガンダールヴ!それではルイズを守れないぞ!」

 ワルドは杖を構えて才人に狙いを合わせる。

「僕の覚悟の重さを身を持って知れ!」

 才人に迫る剣戟。才人はデルフリンガーを下投げに投げ、最後の分身の胸に突き立て倒す。それを見て驚いたのはワルドだ。武器を捨てた事に戸惑いながらも、今がチャンスだと飛び掛かる。

「はぁぁ!」

 しかし、その刃が才人に届く前、放たれた才人の拳がワルドの体をくの字に曲げ吹き飛ばす。ワルドは柱にめり込みドサッと落下してくる。

「ぐおぉ…」

 ワルドは腹部を抑えながら気合で立ち上がり杖を構える。ボロボロになりながらも、その目には力強い光が宿っていた。

「僕は…まだ…動けるぞ!」

 息も絶え絶えのワルドは『ライトニング・クラウド』を連続で放ち才人をけん制する。才人はバク転、側転を繰り返し何とかデルフリンガーを手に取る。

「相棒!何で斬らねぇ!」

 デルフリンガーに怒鳴られるが、才人は『ライトニング・クラウド』を避けながら軽く小突く。

「その気だったら最初から拳で殴りゃしねーよ!!」

 その時、突如降り注ぐ雷の量が増加する。どうやらワルドは再び『風の偏在』を使い、分身。攻撃の勢いを強めてきたのだ。

「うおぉぉぉ!」

 雄たけび。ワルドは凄まじい気迫で『ライトニング・クラウド』を放ってくる。それは束ねられ、まるで巨大な龍のようにうねり才人に襲い来る。才人は全力でデルフリンガーを回転させ雷を吸い込んでいく。が、吸いきれなかった雷が才人の左腕、右腕、右足を焼き焦がす。

「ぐあぁっ!」

 才人は痛みで動きが鈍り、防御が手薄になってしまった。しかしワルドの『ライトニング・クラウド』は留まる事を知らない。デルフリンガーが吸い込み切れなかった分が才人の体を打ち貫き、血液を煮えたぎらせ、全身を焼き焦がす。

「…ぁ…」

 崩れ落ちる才人。しかしワルドの『ライトニング・クラウド』も打ち止めのようで、疲労からその場に膝をつき息を荒げる。勝利を確信し顔を上げるワルドだが、その目には信じられないものが写った。

「…ぉ…ぉぉ…」

 何と才人が立ち上がったのだ。

「なぜ、そこまで…そこまでするんだーーー!」

 ワルドは才人の執念におののくが、『エア・ニードル』を五人のワルドで構える。

「うわぁぁぁ!」

 駆けだすワルド達。才人もデルフリンガーを構え、迎え撃つ為に意識を研ぎ澄ませる。一呼吸すると才人も全力で駆けだしていた。

「「うおぉぉぉ!」」

 二人の唸り声が重なる。才人はボロボロの体を動かすために感情を昂らせ、気合でデルフリンガーを振るう。

 

 

 

 

 それに呼応するかのようにルーンが輝きを増していく。

 

 

 

 

 ワルド達が繰り出す、五つの斬撃。「当たる!」そう確信したワルドの思惑は外れる。

 

ガキキンッ!

 

 なんと全ての斬撃が急激に加速した才人に防がれたのだ。

 

ドドドドッ!

 

 しかも防がれたと同時に四つの斬撃がワルドの体を打ち据える。ワルドは何故防がれたのかを考える暇も無く膝をつき、杖を手からこぼした。

「ぅ…ぅぅ…」

 ワルドは礼拝堂の椅子に寄りかかりながら立ち上がるが、その膝は震え、立っているのもやっとのようだ。才人はデルフリンガーを床に突き刺して立ち上がり、問いかける。

「ワルド子爵…なぜあなたが…こんな…」

 ワルドは俯いているが、椅子を掴む手が強く握られるのを才人は見逃さなかった。

「…ぁぁぁあああっ!」

 ワルドは椅子を持ち上げると才人目掛け振り下ろす。それは才人の頭頂部に直撃する。しかし、才人は「それがどうした」とでも言うようにワルドに歩み寄り、全力でのけぞる。

「何があんたをそこまでさせるんだ!」

 振り下ろされる頭突き。叩きつけられたそれはワルドの額を引き裂かれる。飛び散る鮮血、しかしワルドは踏みとどまり、吠える。

「ルイズの為だ!」

 振りぬかれる拳。それは才人の頬に突き刺さる。鋼鉄をも砕くような一撃。だが才人も負けじと踏みとどまり、拳を振り返す。

「何がルイズの為だ!」

 ルイズは訳が分からない。自分の為?裏切って反徒に味方し、ウェールズを暗殺する事が?ルイズが疑問に思う中、尚も二人の拳の押収は続く。

「僕は母の異変の真相を知るために!聖地を目指すためにレコン・キスタ軍に参加した!」

 ワルドの母…見ていられなくなったワルドの父がその手にかけた。と本人が言っていた事を思い出す。確かに目指す場所はレコン・キスタと同じだ。しかし何故?…魔法衛士隊隊長の地位を持つ彼が?ルイズは疑問しか浮かない。

「ルイズは無関係だろうが!」

 才人の拳が眉間にめり込み、血が飛び散る。しかし、ワルドは倒れない。

「レコン・キスタの勢いは増すばかりだ!今のバラバラになった国々では立ち向かえない!」

 ワルドの拳が才人の肩の傷口を打ち、それを広げる。

「だからって!」

 才人は激痛なぞお構いなしに拳を振るう。

「それだけじゃない!」

 同時に放たれ、同時に交差する拳。二人は血を吐きながら、たたらを踏んで後ずさる。

「…グハッ…ルイズは、ルイズは…僕の父の…グフッ…死の理由を、覚えているかい?」

 ルイズは血みどろの戦いに怯えながらも、ワルドの問いかけに答える。

「えっ…えぇ…確か昔、戦で…」

 ワルドは口元の血を拭う。

「…そう…ランスの戦で…戦死したんだ…だがそれは事実とは…違う…」

 ルイズは訳が分からず困惑する。才人は身構えながらも、ワルドの話に聞き入っていた。

 

 

 

「僕の父は…ルイズ…君の父上に…殺されたんだ!」

 

 

 

 衝撃の一言に才人は耳を疑う。ルイズは膝をつき力なく崩れ落ちる。

「え?…ウソよ…ワルドさま?…ウソですよね?…空気の読めない、質の悪いウソですよね?…お願いです…お願いです!ウソって言って!ウソって言って下さい!」

 ワルドは首を横に振る。

「君には…もっと落ち着いた時に…打ち明けるつもりだったんだ」

 それからワルドは自身に起きた過去の出来事を話してくれた。父の死後、従軍してからラ・ヴァリエール邸を訪ねた時の事を。

「酔っぱらった君の父上が部屋で呟いていたよ。次はワルドの息子の手柄をもらおうかな、と。婚約の話があれば繋ぎ止めておけるともね。僕たちの婚約は僕の一族を利用するための口実でしかなかったんだ」

 ルイズは言い知れない感情に支配され、震える。確かに、その戦いでルイズの父は多大な戦果を上げ勲章を得たと自慢げに話していた。母や二人の姉もとても喜んでいた事を今でも思い出す。

(そんな…お父様が…ウソよ…)

 ルイズは自身が今まで信じていた父の姿が崩れる音を聞いた。しかし、ならば尚更疑問が浮かぶ。何故ワルドは自分を助けようなどと?

「…ルイズ、僕は君が好きだ。あの小さな池で出会った頃から…君の優しさ、純真さが好きになった。年の差だ何だと言われようが、この気持ちは揺るがない。例え、仇の娘でも」

 ルイズは強く胸をうたれる。ワルドは仇の娘である自分をなお愛してくれているのだ。

「このままではルイズ、君も父上に利用されるかもしれない。そう考えただけで…僕は怖くなった。助けなきゃいけないって思ったんだ」

 ルイズは驚愕した。ワルドは愛の為に国を裏切り、ウェールズを殺そうというのだ。今日結婚を焦っていたのは何としてでも自分を連れて行く為だったのだろう。

「だから…レコン・キスタに?」

 ワルドは無言で頷く。才人は拳を握る腕から力が抜けていく。戦う気持ちに迷いが生まれたのだ。

「ガンダールヴ!」

 才人は突然の問いかけに思わず身構える。

「君はルイズを守り切れるか!?」

「守る…」

 才人は即答できなかった。ルイズを、レコン・キスタから…父親から守り切れるのか?…ウルトラマンコスモスではない。人間、平賀才人は守り切れるのか?

「良いことを教えてやろう!」

 飛び出すワルド。才人は一瞬反応が遅れ、その一撃を腹部に受け吹き飛ばされる。

「ラ・ロシェールの町を襲った鋼鉄の化け物!あれもレコン・キスタの兵器だ!」

「何だって!?」

 才人は飛び上がりワルドに飛び蹴りを浴びせる。

「あんなものを相手に戦って勝てるはずが無いだろう!奴らにつくのが得策という物だ!」

 ワルドは顎を蹴られるが踏みとどまり、先ほどのお返しとばかりに頭突きを繰り出す。才人は顔面にもろに受けるが、膝をつかずに俯く。

(あんな化け物をこの世界の技術で作り出すのは絶対に無理だ…この世界に長くいた訳じゃねぇが、それくらいわかるぜ…)

「守るさ!」

 才人はワルドに肉迫。みぞおちに一撃を叩き込む。

「ぐうっ!戯言を!何が出来る!」

 才人とワルドは手四っつで組み合う。

「一人じゃ無理だ!でもワルド子爵、あんたと一緒なら守り切れるはずだ!」

「今更僕に君たちの所に戻れと!?僕の覚悟をバカにするな!何としてでもルイズを連れて行く!」

 二人は同時に額を叩きつけ合う。互いに血を流すが、意にかえさない。

「うぬぼれるな!ガンダールヴ!人間の力なんてたかが知れているんだ!たとえ君がどれだけ強くてもだ!あの化け物を作り出すような奴らからルイズを守れるのか!」

 才人は昨日の夜の出来事を思い出す。ルイズの手を握れなかった自分…ウルトラマンコスモスとしての自分。だが、ワルドはどうだ?自らの愛を貫くために己の全てを捨て、今、只愛の為に修羅の道を選び自分と拳を交えている。

 

 

 

 

 才人は心の中で呟く。「皆さんごめんなさい」…と。

 

 

 

 

「諦めるな!お前がレコン・キスタからも!ルイズの父親からも!逃げ出すってんなら俺が戦う!」

 迷いのない一撃、それはワルドの胸板を強く打ち付ける。

「グボォ…僕が逃げただと!?」

 才人のみぞおちに突き刺さる今までで一番強い一撃。才人はよろめき倒れそうになるが、床を踏み砕いて足を突き刺し体を支える。

「そうだ!お前はルイズを安全な所に隠そうとしただけだ!一人では戦えないから逃げようとしてるだけだ!」

 ワルドは侮辱に怒り狂う。乱雑に放たれる拳、才人はそれを受け流し掌底を叩き込む。

「お前の惚れた相手は誰だ!?お前が守ろうとしてるのは只守られてるだけの女か!?違うだろ!お前が愛しているのはルイズだ!」

 ワルドはついに膝をつく。

「誰よりも気高く優しいルイズだ!只守られてるような珠じゃない!隣に立って一緒に歩んでくれる女だ!」

 才人は全力で叫ぶ。

「お前は一人じゃない!俺だって、ルイズだっているんだ!頼れよ!一緒に戦わせてくれよ!仲間だろうが!」

 ワルドは涙が流れてきた事に気が付く。痛みからでも、悔しさからでも無い。こんな自分を、未だに仲間と言ってくれる暖かい存在にだ。目の前にいる才人の拳がワルドの顔面目掛け放たれる。ワルドは戦う力は殆ど残っていなかったが、拳を返さない訳にはいかない気持ちになる。

「「うおぉぉぉ!」」

 互いの顔面に突き刺さるが、崩れ落ちたのはワルドだけだった。才人はワルドに優しく語りかける。

「俺にも…守らせてくれよ…ルイズを…今まで散々応援してきてやったじゃねぇか…最後までやらせろよ…?」

 才人は床に突き刺さったデルフリンガーを引き抜く。

(いいんだな?相棒…)

「俺なら…どんな化け物が相手だってルイズを守れる。…ホントは人間同士の争いごとには首突っ込んじゃいけないんだぜ?俺。でも、あの化け物どもを倒すためなら、ルイズを守るためなら…俺は戦う」

 

 

 

 

 

 才人の体が淡い光に包まれていき、収まる時には全く別の姿に変わっていた。ワルドも、ルイズも、息を飲むしかなかった。

 

 

 

 

「俺はウルトラマンコスモス、君たちを守る為に戦わせて欲しい」

 

 

 

 

 

 

 




続きます。…キャラ改編が激しいです。ルイズの父親、急に出て来て屑野郎になってます。まあ最初からこの予定だったんですけど。

これも賛否両論激しいですがご容赦をお願いします。




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ゼロの使い魔~真心~第44 話

お待たせしました。続きです。時間中々取れなくて…(言い訳)

そう言えば、前回のワルド戦、才人に私の好きな漫画のキャラクターの技を使わせてたんですよ。気が付きましたか?


 ワルドとルイズは目を丸くして硬直している。それもそうだ。まさか才人が突然ウルトラマンコスモスに変身するなんて、誰も思いはしないだろう。

「…今まで黙っていてすまなかった。二人とも…むやみに正体を明かしては混乱を招くことになる。そう思って黙っていたんだ」

 コスモスはワルドの手を取ると肩を貸し助け起こす。そのままルイズの所までくると椅子に座らせる。

「ルイズ」

 コスモスに声をかけられルイズは思わず飛び上がる。

「ひゃいっ!」

 コスモスはルイズの手を取り、優しく包み込む。

「昨日の夜、ルイズの手を握り返さなかった事を許して欲しい」

「え?」

 ルイズは自分を悩ませていた事をコスモスが謝ってきた事に驚く。確かに自分はそれで苦しんだ。しかし、それをコスモスも苛んでいたとは思わなかったからだ。

「俺は…さっきも言ったが、人間とかの戦争には自分からは介入しないようにしている。その星に混乱をもたらすだけだからだ。だから…昨日ルイズの気持ちに答えられなかった」

 ルイズは心にかかっていた靄が少し晴れた気がした。握り返さなかった理由、それは自分に興味が無かったわけでは無い。ウルトラマンの使命故だったのだ。

「だが、俺は決めた。ラ・ロシェールを襲った怪獣、あんな兵器を作るような奴を放っておけない…それに…」

 コスモスはルイズとワルドの手を取る。

「ルイズ、ワルド、俺は君たちの力になりたい。共に戦いたいんだ」

 ワルドとルイズは顔を見合わせる。そして互いにこれまでのコスモスの戦いを思い出していた。イフェメラを守るために本気で人間に怒った事、ラ・ロシェールを守るために命をとして戦った事、謎の空間から助け出してくれた事…。

「「ウルトラマンコスモス」」

 ルイズとワルドは、示し合わせた訳でもなく声が重なる。

 

 

 

「「私たちと一緒に戦って下さい」」

 

 

 

 ルイズとワルドはコスモスの手の上に自分達の手を重ねる。コスモスは頷くと二人の肩を抱き寄せる。

「改めてこれからよろしく!ルイズ、ワルド!」

 ルイズとワルドは一瞬惚けるが、自然と笑みが零れる。先ほどまでの落ち着いていた雰囲気は何処へやら、コスモスは、いつも通りの才人の雰囲気に戻っていた。

「ふふっ!…よろしく!ウルトラマン…いえ、サイト!」

「ああ、これ程頼りになる人はいないよ!ウルトラマン…いや、サイト!」

 三人は笑い合った。ここまで来るまでの道のりは長かった。悲しい事が多かった。互いの大切な物の為にぶつかり合った。でも…今は分かり合い、共に歩んでいける。それだけで三人は嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなに上手く行くわけないでしょう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然の謎の声に三人は慌てて振り向く。ここにはワルドとルイズ、才人、ウェールズ以外には誰もいないはずなのだ。この結婚式の事を知る者は他にいないはず…。

「驚きました。まさかあなたがウルトラマンだなんて」

 そこにいたのは背の高い青年だった。ワルドとルイズは全く見覚えのない人物の登場に戸惑うが、コスモスはその声に聞き覚えがあった。

「お前…あの時の伝令兵か!」

 ルイズとワルドも思い出す。昨日ウェールズの部屋に報告に来たあの伝令兵だ。

「あなたには失望しましたよ。ワルド子爵?」

 伝令兵は見下した目でワルドを見てくる。この状況を見て、この発言。三人の中で伝令兵の正体が分からない者はいなかった。

「お前、レコン・キスタか!」

 それならば納得がいく。コスモスも昨日、城内に潜入してワルドと接触していた人物を見ている。他に潜伏していた人物がいてもおかしくない。

「ワルド子爵?カプセルはお持ちで?」

 コスモスがルイズとワルドを庇うように前に出た時、伝令兵が突然ワルドに問いかける。コスモスとルイズは何のことか解らないがワルドは懐を漁ると、はっと驚いた顔をする。

「バカな!壊れてないだって!?」

 ワルドの手には綺麗な筒状のカプセルが握られていた。それには傷一つ付いていない。あれだけ激しい戦闘をしたにも関わらずに、だ。

「そうでしょうね。それは生半可な事では壊れないように作られています。安全対策にね」

 生半可、あれだけ激しかった戦闘を伝令兵は生半可と言った。このカプセルはどれ程固いのだろうか?コスモスが思った時、伝令兵は懐から赤いボタンのついた機械を取り出す。

「全く、半径五十メイルでしか反応しないなんて厄介ですね」

 コスモスは本能的に危険を察知、機械目掛け『ルナストライク』を放つが、着弾する前に押されてしまう。

「ぐっ!…ふふふ…残念。間に合いませんでしたね…」

 その時、絶叫が礼拝堂に響く。コスモスが振り返るとワルドがカプセルを持った手をおさえ、苦痛にのたうち回る姿が見える。

「ふふふ…ははっ…ハハハッ!見るがいいウルトラマン!我らが進化の奇跡を!」

 伝令兵は勝利の笑みを浮かべると、礼拝堂の出入り口から走って逃げだしていた。追いかけようにも、まずはワルドだ。二人は慌てて抱き起す。

「ワルドさま!ワルドさま!」

「ワルド!しっかりしろ!ワルド!」

 二人はワルドに必死に呼びかけるが、その顔色はどんどん青くなっていく。コスモスがワルドの手をこじ開けるとあれだけ硬かったはずのカプセルが割れていた。

「なっ、何だ!これは!?」

 そこには黄緑色の粘液がうごめいていた。只の液体という訳では無いようだ。それは少しずつワルドの手に染み込んでいくいく。

(あの機械は…これを開けるための…?)

 粘液は瞬く間にワルドの腕を侵食していく。ワルドは息を荒げながら叫ぶ。

「離れ…ろ!ルイズ!サイト!」

 ワルドは二人を突き飛ばす。満身創痍のワルドからは想像できない程の怪力、体が宙に舞う程だ。ルイズを抱きかかえ着地したコスモスはワルドに向き直る。

「待ってろ!今助ける!」

 コスモスは腕を頭上に掲げ光の粒子を集め、胸の前で腕を回し右腕に集中させる。

『フルムーンレクト』!

 コスモスが放った光はワルドの腕に入り込むが、何の変化も起きない。

「効かない!?」

 コスモスは何度も繰り返し『フルムーンレクト』を放つが効果が無い。コスモスはデルフリンガーにどうなっているのか問いかける。

(デルフッ!?)

 デルフリンガーは冷静に説明する。

(相棒、今まで浄化してきたのは相手の体の中にくっついてた悪い粒だ。だが、ありゃ違う。何か違うんだ!体から離れるのを拒んで耐えてやがる!訳わからねぇ!)

 コスモスにはにわかに信じられない事だった。細胞が意志を持って離れるのを拒んでいる?考えている間に徐々にワルドの体が膨張していく。

「…に…にげ、ろ…ル…イ…ズ…ルイ…ズ、ルイズゥゥゥッ!」

 叫ぶワルドがのけぞると、礼拝堂一杯にその肉体が膨れ上がる。コスモスはウルトラ念力で隠していたウェールズを持ち上げるとルイズを抱えて礼拝堂を飛び出る。

「ワルドさま!ワルドさまーーー!」

 ルイズが泣き叫ぶ中、ワルドはついにその面影を失い、六本の角、四本の爪、どっしりとした巨躯の怪物へとその姿を変えた。

 

 

 

 

「ギシャァァァッ!」

 

 

 

『異形進化怪獣・エボリュウ』

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!はっ!はっ!」

 伝令兵は礼拝堂の瓦礫から逃れるため必死に走っていた。巻き込まれて死んだ何て事になったら笑えない。彼は元はといえば真面目で、誠実なアルビオンの軍人であった。しかし、とある人物との出会いが彼を変えた。

「はっ!はっ!はっ!…任務遂行しました!」

 彼はニューカッスル城外にある、礼拝堂を見下ろせる丘まで来ていた。そこにいた彼を変えた人物に報告するためである。

「はーい♪待ってたわよ♡」

 彼を変えた人物…黒ローブの女性だ。黒ローブの女性は伝令兵の腕をとると、体を引き寄せその豊満な胸に顔をうずめる。

「保険で用意しといてよかったわぁ」

「え?」

「こっちの話」

 伝令兵はまだ二十代、この年になるまで女性とは交際した事は無く、穢れを知らない…天使だった。…だからこそだ、この出会いが彼を大きく変えたのは。

「約束は果たしました!それで…その…」

 伝令兵は顔を真っ赤にして黒ローブの女性に敬礼する。黒ローブの女性は怪しく微笑むと、自身の太腿を下から指でなぞり、そのまま乳頭までくると軽く弾く。

「分かってるわ、ふふっ!貰って欲しいんでしょう?…君の」

 伝令兵は唾を飲む。

「…え、えぇ…僕の…初めてを!」

 彼は黒ローブの女性の色香に惑わされたのだ。この気持ちが分からない男性の方が少ないだろう。こんな事の為に裏切りを?!…と、言うは容易いが…同じ立場になって、抗える者がどれ程いようか?

「えぇ、貰ってあげるわ…君の…」

 黒ローブの女性は伝令兵に体を絡めると、背中に手を回し密着する。

 

 

 

 

 

 

「イ・ノ・チ・♪」

 

 

 

 

 

 言うやいなや、伝令兵の目の前で黒ローブの女性の口が耳元まで裂ける。その光景はいきり立っていた伝令兵を瞬く間に縮こませる。

「え?」

 ずらりと並んだ鋭い牙、それは既に何かを咀嚼している。伝令兵が、それが自身の顔の左半分だという事に気が付く事はついぞ無かった…。すぐに残り半分も黒ローブの女性の口内に収まったからだ。

「ん~、美味しい♪…喰い殺されるなんて、『初めて』しかない特別な体験よ?『初めて』貰ってもらえて、良かったわね♪」

 黒ローブの女性は血で汚れた口元を拭うと岩の上にドカっと座り込む。伝令兵の体をつまみながら巨大化するワルドを眺めていた。

「…まだ実験段階なんだけど…いい結果が取れそうねぇ…ふふっ、期待以上だわ。ワルド子爵?」

 黒ローブの女性はほくそ笑みながら巨大化するウルトラマンコスモスを見つめる。

「お出ましね、ウルトラマン…さあ、どうなるかなぁ~♪」

 そう言うと、黒ローブの女性は取り出した伝令兵の心臓にかぶりついた。

 

 

 

 

 

 

 

 コスモスはルイズとウェールズを脱出穴の所に降ろすと、巨大化、エボリュウに向き直る。

(流石に脱出船は…行っちまったか…)

 今すぐに安全圏まで逃がせられない事に歯がゆい思いをするが、コスモスは過ぎた事だと思い考えるのを止めた。

(まずはワルドを助けないと!)

 迫るエボリュウにコスモスは掴みかかり、ルイズ達から遠ざけようと全力で押し返す。しかし、体に力が入らない。

「デアァ?(力が…?クソッ!ワルドとの戦いのダメージが多すぎたんだ…)」

 エボリュウは弱弱しいコスモスをはねのけ、その剛腕で叩き伏せる。コスモスは立ち上がろうとするが、剛腕が振りぬかれるたびに地面に沈む。

「ギシャァァァァ!」

 エボリュウが咆哮すると、右の腕から触手が生え、コスモスを打ち付ける。コスモスはエボリュウの後ろに転がり込み逃れるが、今度はその首に巻き付けてくる。

「デアァ!」

 どんどん締め付けてくる触手を振りほどこうとするが、無理をするとエボリュウ…ワルドを傷つけてしまう。コスモスは体を回転、触手を体に巻き付けながらエボリュウに接近、掌底を打ち込みのけぞらせ触手を外させる。

「ギシャァァァ!」

 エボリュウは触手を振り回しコスモスを捉えようとするが、コスモスはバク転、側転を繰り返し何とか逃れる。そうしながら右腕にエネルギーを溜めていく。

「コスモス!ワルドさまを助けて!」

 ルイズは戦いを見守りながら必死に声援を送っていた。その声で気絶していたウェールズは目を覚ます。

「う…うぅ…ここは?」

 目が覚めた途端に視界に入るエボリュウとコスモス、驚かないはずが無い。

「なっ!何がどうなってるんだ!?」

 ルイズはこれまでの経緯を説明する。才人の事も、ワルドの裏切りの理由も。ウェールズは悲しそうな顔をするが、ふっ…と嘲るように笑う。

「同じ立場なら、僕も同じことをしたよ。絶対にね」

 ウェールズが嘲たのは、恐らく自分自身だろう。ウェールズは大声を出してコスモスに話しかける。

「ウルトラマン!彼を助けてくれ!彼も僕と同じ、愛の為に全てを捧げられる男だ!」

 コスモスの耳には確かに届いていた。その応援がコスモスの戦う心に火をつける。

(当たり前だ!)

 コスモスは前に飛び込みながら前転、右腕で掌底を打ち込み、零距離で右腕のエネルギーを開放する。

『フルムーンレクト』!

 コスモスのエネルギーはエボリュウの全身を駆け巡る。しかし、やはり何の変化も起きない。ダメか、またも失敗したことにコスモスは焦りが生まれる。それがコスモスの反応を鈍らせた。

「ギシャァァァ!」

 突如としてエボリュウの両腕から放たれた電撃、『ライトニング・クラウド』と比べ物にならないそれはコスモスを駆け巡り、焼き尽くし、膝をつかせる。コスモスは立ち上がれず、もうダメか、と諦めかけた時、突如として轟音が響く。

「砲撃!?」

 ウェールズが大声を上げる。ニューカッスル城の遥か上空にいた『レキシントン号』がエボリュウ目掛け砲撃を行ったのだコスモスが後ろを見ると、レコン・キスタ軍が大挙して押し寄せてくる。コスモスとエボリュウの戦いで戦争どころではなくなったのだろうか?それとも…。

「既にアルビオン軍は全滅したか…」

 ウェールズは血が滴る程に唇を噛みしめる。最後の最後に指揮をとれなかった事が悔しいのだろう。そんな悔しがるウェールズの気を知る者はレコン・キスタ軍にはいない。しかし、エボリュウが危険だという事は分かるようだ。レコン・キスタ軍のメイジたちは次々と魔法を唱え、他の兵は大砲を打ち込んでいく。『レキシントン号』の砲撃も加わり凄まじい火力になる。

「ギシャァァァァァァァ!」

 エボリュウは苦しそうな声を上げる事は無く、むしろ怒りに震えているように見える。エボリュウは腕を振り回すと、狙いをつけずに電撃をばらまき無差別に攻撃する。

「うわぁぁぁ!」

 レコン・キスタ軍はこれだけで数多くの死者が生まれる。皆攻撃から逃れようとするが、巨大な雷から逃れるすべはなく次々に消し炭にされていく。ついには攻撃は『レキシントン号』にまで及び、二、三発掠る。それだけで船内で火災が発生。消火の為に『レキシントン号』は雲の中に隠れ、エボリュウから逃れる。

(クソッ!どうしようも無いのか!)

 コスモスはルイズとウェールズの前でバリアを張り守っていたが、その内にエボリュウが眼前に迫る。エボリュウは剛腕を振るいコスモスのバリアを破壊する。コスモスはエボリュウを抑えようとするが、簡単に弾かれてしまう。

「デアァ…(やべぇ…)」

 エボリュウはルイズとウェールズの目の前にまで迫ってきていた。二人は逃げ出そうにも恐怖で体がすくみ、動けなくなっていた。

「ギシャァァァァァァ!」

 振り上げられるエボリュウの左腕。二人はこれまで、と目を閉じる。コスモスが飛び込もうとするが間に合わない。左腕が、振り下ろされた。

 

 

 

 

「…あれ?」

 ルイズとウェールズはいつまでたっても自分たちが生きている事に疑問を覚える。何事かと思うとコスモスが視界に入る。コスモスは手を伸ばしながら茫然としているようだ。コスモスの視線の先…エボリュウをルイズは見上げてみる。

「ウソ…」

 そこには信じられない光景があった。

 

 

 

 

「グゥゥゥ…」

 エボリュウが振り下ろした左腕を、エボリュウ自身が右腕で抑えつけていたのだ。尚もルイズ達に迫ろうとする左腕にエボリュウは右腕の爪を食い込ませる。

「……ゥゥゥウガァァァァァ!」

 

 

ブチブチブチッ!

 

 

 ルイズは思わず声を上げる。何とエボリュウが自身の左腕を引きちぎったのだ。…何故?考えられる事は一つしかない。

(ルイズを守るため…?)

 コスモスとルイズは同時に気付く。

 

 

 

 

((ワルド子爵は生きてる!生きて怪物と戦っているんだ!))

 

 

 

 

 

 

 




続きます。突然のエボリュウ、でも黒ローブの女性からもらったカプセルが何もないわけないでしょう?


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ゼロの使い魔~真心~第45話

お待たせしました。続きです。どうなるワルド。


 左腕を自分で引きちぎったエボリュウはたたらを踏んで尻もちをつく。コスモスは慌ててルイズとウェールズの前に滑り込み、庇うように立ちふさがる。

「グ…ゥゥゥ…」

 エボリュウは苦痛で苦しんでおり、腕を抑えているが、ルイズとウェールズを睨むと立ち上がり再びその巨体で迫りくる。コスモスは右腕を絡め取ると、その場に組み伏せる。

「デアァッ!(ワルドッ!)」

 コスモスは何度もテレパシーで呼びかけ、エボリュウの中で戦っているワルドの意識を呼び起こそうとする。しかし、エボリュウに変化は見られない。

「ギシャァァァッ!」

 咆哮、エボリュウは全身から電気エネルギーを放出させコスモスを攻撃、振りほどこうとする。しかし、コスモスは離そうとはしなかった。

(ここで負けてたまるか!)

 コスモスは電撃の痛みに耐えつつ、手のひらから常に浄化エネルギーを放射。エボリュウに注ぎ続ける。

「ギシャァァ!」

 エボリュウは右腕から触手を出すとコスモスの首に巻き付け攻撃してくる。コスモスは首を絞め上げられながらも、振りほどこうとはせずにひたすらテレパシーで呼びかけ、浄化エネルギーを送り続ける。

「グゥ…ァァ…ァッ!」

 コスモスが苦痛の声を漏らした時、耐えかねたルイズがエボリュウに向かって叫ぶ。

「ワルドさま!もう止めてっ!本当のあなたは、そんな!…そんな怪物には負けない、強い人のはずよ!」

 エボリュウはルイズの声が聞こえたのか、一瞬だけ触手を絞める力を弱める。が、直ぐに触手がまた激しくコスモスの首を絞めつける。

(ぐあぁ!…くそぉ…)

 コスモスは拘束を解きエボリュウを立たせると、左手でその体を押さえつけながら、右の拳を握りしめる。

(ワルド…目を…覚ませぇ!)

 コスモスは浄化エネルギーを握りしめた拳をエボリュウの顔面に叩きつける。瞬間、コスモスの脳裏に映像が流れ込んでくる。

 

 

…セ…

 

 

 コスモスの脳裏に写り込んだのは必死に何かを訴えてくるワルドだった。しかし、何を言っているのかコスモスは聞き取る事が出来ない。

(くそっ!もっとだ!もっと話してくれ!ワルド!)

 コスモスはエボリュウを押し倒すと顔面に頭突きを入れる。コスモスはより密着しワルドからのメッセージを聞き取ろうとしたのだ。

 

 

…コ…ロセ……コ…ロ…シテ…クレ…

 

 

 ワルドが必死にコスモスに訴えていたのは自分を殺してくれというものだった。このままではルイズの命を奪うかもしれないという不安な感情も同時に伝わってくる。

(ふざけんな…)

 コスモスは怒りで震えた。ワルドをここまで苦しめ、死を望ませる原因を作ったレコン・キスタに。そのワルドを救えないでいる自分自身に。そして…

「デアァァァァッ!(諦めんなぁぁぁぁっ!)」

 全てを諦めようとしているワルドに。

(俺たちは一緒に戦うんだろう!?一緒にルイズを守るんだろう!?何より!お前、ルイズが好きなんだろう!?こんな…こんな事で諦めてんじゃねぇぇぇっ!)

 コスモスは頭突きを何度もエボリュウに叩きつけると、その巨体を両手で持ち上げる。

「ダアァッ!」

 コスモスはエボリュウを全力で投げ飛ばし、地面に叩きつける。エボリュウは体を強く打ち付け、ダメージのせいで動けないでいた。

(諦めて、たまるかぁぁっ!)

 コスモスは両手を胸の前まで持ってくるとその間に浄化エネルギーを溜めていく。それはどんどん密度を高め、零れた光の粒子がルイズ達を照らす。

「ギシャァ…」

 エボリュウは未だに立ち上がれないでいた。このチャンスは逃せない、とコスモスは全力でエネルギーを蓄積させていく。その時、ふと脳裏に今までのワルドとの思い出が蘇ってくる。

 

 

 

 

 学院で再会し、一緒に旅だった時。

 

 

 ワルドが母と再会した時、多くの悲しみを生んだイフェメラの時。

 

 

 ラ・ロシェールで黒ローブの女性から助けてもらった時。

 

 

 謎の空間でベル星人と戦った時。

 

 

 派手なプロレス技を教えて、空賊達と一緒に戦った時。

 

 

 結婚式を行うと伝え、皆で舞い上がっていた時。

 

 

 互いの死力を尽くして戦い、分かり合えた時。

 

 

 

 コスモスは足を開き、力強く踏みしめる。集めたエネルギーを右腕に固定、エボリュウに向ける。その時、コスモスの中にいたデルフリンガーはある事に気が付く。

(…?こりゃあ…へっ、相棒…やったな。自分の力で…想いの力で、技を昇華させやがった!)

 溢れて、零れていた光の粒子が凝縮、完全な光の光球に変わる。そこからゆっくりと、光の帯が伸びていく。それはゆっくりと、しかし確実にエボリュウの体に吸い込まれていき、その体を優しく包み込んでいく。ルイズは最初、コスモスがワルドを殺そうと光線を放ったと恐々としたが、今はその光景に見惚れていた。

「…暖かい…優しい光…」

 コスモスは自身のカラータイマーが警告音を鳴らし始めても、なお光を放ち続ける。諦めない、絶対にワルドを助けたい。その気持ちがこの技を生み出した。

 

 

 

 

 

 

 

『ルナエキストラクト』!

 

 

 

 

 

 

 

 光に包まれたエボリュウの額から「何か」が浮かび上がってくる。それはコスモスの『ルナエキストラクト』の光を伝い、コスモスの手の中にゆっくりと納まる。

「デアァ!」

 コスモスは跳び上がると、ルイズの側に着地ふわり、と着地する。ルイズが駆け寄ると、目の前にエボリュウから浮かび上がった「何か」を優しく下ろす。ルイズはそれを見て思わず笑みをこぼす。

 

 

 

 

 

「ワルドさま!」

 

 

 

 

 

 それはエボリュウと完全に融合していたはずのワルドだった。ワルドが自分で引きちぎった左腕は修復されていなかったが…そこにはエボリュウに取り込まれる前の人間の姿をしたワルドがいた。コスモスはエボリュウを浄化するより、ワルドを分離させる事で救い出したのだ。

「ありがとうコスモスッ!」

 ルイズの笑顔の礼を聞くと、コスモスはエボリュウに向き直る。エボリュウを包んでいた光が消えると、エボリュウは何事もなかったかのように咆哮を上げる。

「ギシャァァァァッ!」

 触手を振り回し迫るエボリュウ。しかし、その中にワルドはいない。そこにいるのは生命に寄生する凶悪な生物のみだ。コスモスはもう手加減する理由が無い。コスモスはその左腕のブレスレットに手をそえる。

『ウルトラムチ』!

 コスモスはブレスレットを鞭に変え、エボリュウの右足を絡めとる。突然の事に驚き、暴れ出すエボリュウだが、いとも簡単に足を引っ張られその場に転倒する。

(今だ相棒!)

(ああ!)

 コスモスは右腕を天に掲げると、赤い光が溢れ出す。それはコスモスを瞬く間に包み込み、『ウルトラマンコスモス・コロナモード』に変える。

 

 

ピコン!ピコン!ピコン!

 

 

(相棒っ!残り時間は多くないぞ!)

(ああ、急ぐぞ!)

 コスモスは起き上がろうとしていたエボリュウに掴みかかると、片手で持ち上げる。そのままニューカッスル城の城壁に向けて投げ飛ばす。

「デアアァッ!」

 全力で投げ飛ばされたエボリュウは城壁に突き刺さり、城壁を崩壊させる。崩れた瓦礫の下敷きになったエボリュウは、片手でふらつきながら立ち上がる。コスモスはエボリュウに向け、両腕を突き出す。

「デアアアァ!(細胞をひとつ残らず焼き尽くしてやるっ!)」

 この時、デルフリンガーはある事に気が付く。コスモスが…才人がデルフリンガーの助けを借りる事無く、自分の力で新たな技を生み出そうとしている事に。

(…相棒、成長したな…全力でやんな!)

 コスモスは、自身がイメージできる中で一番力強く、力を発揮できるポーズを思い描く。それは今まで憧れ、夢見て来た戦士たちが得意とする技の構え。

(行くぜっ!)

 コスモスは両腕に宇宙エネルギーを限界ギリギリまで溜めると、右腕を直立、左腕を添えてL字を作る。それは…その技は、今のコスモスの最強の必殺光線っ!

 

 

 

 

 

 

『ネイバスター光線』!

 

 

 

 

 

「デアアアアァァァァァーーーー!」

 コスモスの右腕から放たれた紅蓮のエネルギー波は、寸分違わずエボリュウに直撃。エボリュウの体を瞬く間に駆け巡り木端微塵に粉砕。細胞を一つ残らず燃やし尽くし、爆散させた。

 

 

 

 

 

 

 コスモスは才人の姿に戻ると、ワルドの左腕の手当てをしていたルイズとウェールズに駆け寄る。どうやらワルドが意識を取り戻したようで、介抱していた。

「ワルドっ!無事か!?」

 才人はワルドを助け起こす。ワルドは一つ伸びをすると、なんとそのまま自分の足で立ち上がったのだ。

「ありがとう、ルイズ、サイト。諦めかけていた僕を助け出してくれて」

 ルイズは元気なワルドを見て涙を流しながら抱き着く。

「良かった!一時はどうなる事かと…本当に無事で…無事で…っ!」

 ワルドは右腕だけでルイズを抱きしめると、額にキスをする。

「すまないルイズ、また君を苦しめてしまった…僕のせいでどれだけ危険な目に合わせてしまったか…っ!」

 才人はいや、と首を振る。

「ワルドはよくやったよ。あんな怪物に飲み込まれて…でも、自分の意識を保ってた」

 諦めかけてたのは頂けないけどね!と、才人は悪戯っぽく言う。三人は思わず笑い合う。しかし、完全に蚊帳の外だったウェールズが咳払いをしているのに気付く。

「んっん…悪いが、感動の再会という訳にはいかないようだよ」

 ウェールズは杖を構える。ルイズ達は気になりウェールズの視線の先を見ると、信じられない者達がそこまで迫っていた。

「「「レコン・キスタ!?」」」

 なんとエボリュウにさんざん痛めつけられ、撤退していたはずのレコン・キスタ軍が戻ってきたのだ。どうやら意地でもウェールズの首をとりたいらしい。

「君たちは速く逃げるんだ!ここは僕が囮にっ!」

 ルイズは、「まだ死ぬ気でいるの!?」と抗議の声を上げるが、才人がそれを制する。共に戦うはずだった味方を全員失い、一人死に損ねたウェールズの気持ちを考えるといたたまれなかったからだ。

「速く!君たちの任務はその手紙を持って帰る事だろう!」

 その時、ウェールズにワルドが語りかける。

「…死ぬ気か?」

 ウェールズは短く呟く。

「ああ」

 

 

 

 

 

 

 

「ならば少し付き合わせてもらおうかな」

 

 

 

 

 

 

 

 突然、ウェールズの隣にワルドが躍り出て杖を構える。これに才人が驚き声を上げる。

「何やってんだワルド!」

 ワルドは振り返らずに静かに答える。

「僕はここで奴らをくい止める」

 才人はワルドの肩を掴むが、ワルドは優しくその手を包む。

「勘違いしないでくれ、僕はウェールズ皇太子に最後まで付き合うつもりは無いさ」

 ワルドは才人の手を引き、その肩とルイズの肩を抱き寄せると二人に優しく囁く。

「僕は絶対に死なない。必ず生き残る。どんな事になっても」

 ワルドは二人を離すと、才人の手をとり固く握手する。

「ありがとうサイト。君のおかげで、僕は最後まで諦めない事の大切さを知る事が出来た。君にならルイズを任せられる、ルイズをどんな危険からも守れるはずだ。頼んだよ?」

 ワルドはルイズに向き直ると、小指を立て、ルイズの右手の小指に絡める。

「ルイズ、必ず君を幸せにしにいくよ。約束しよう?いつかの小舟の上の時みたいに」

 ルイズは目じりから涙が零れるが、何も言わずに笑顔で頷く。

 

 

 

 

「「ゆびきりげんまんウソついたらはりせんぼんの~ます♪ゆびきったっ!」」

 

 

 

 

 二人は楽し気に約束を交わす。無邪気で幼かったあの頃のように。

「すんだかい?」

 ウェールズに聞かれたワルドは頷き、隣に立つ。

「まさかあなたと肩を並べて戦う時が来るなんて思いませんでしたよ。ウェールズ皇太子」

 ウェールズはふっと、鼻で笑う。

「確かに、誰が思うだろうね?…しかし、君が羨ましいよ」

「と、言いますと?」

「愛の為に、必ず生き残ると約束出来て…僕は愛の為に生き残れない愚か者さ」

 ワルドはいいえ、と首を振る。

「あなたは愛に生きる男だ。それに、僕だって何の算段も無いわけじゃ無いんですよ?あの怪物に取り込まれていた為か、魔力が回復し、体力も戻ってるんです」

 ワルド曰く、左腕以外元気そのものだそうだ。

「僕は全力でいけますよ」

「なら、互いに全力を尽くそう」

 才人は二人の会話を聞くと、ルイズを抱きかかえて、背を向ける。

「ワルド!早く帰って来いよ!ルイズの気持ちが完全に俺に向かないうちにな!」

 ワルドは背を向けたまま答える。

「当たり前だ!それと、抜け駆けするんじゃないぞ!」

「そんな卑怯な事するかよ!」

 ワルドと才人は笑い合うと、互いに全力で駆けだした。一人は戦うために、一人は守るために。

 

 

 

 

「「生きて会おう!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 才人はエボリュウが開けた城壁の穴から脱出すると、森の中を全力で駆け抜ける。目指すは森の向こう、アルビオンの港だ。そこで船を奪い、脱出するのが才人の作戦だった。

(くそっ!飛べりゃあなぁ…エネルギーねぇから無理だけどよ…)

 才人はコスモスに変身しようにも、エネルギーが足りなくて歯がゆい思いをしていた。そんな気持ちだったからだろう。『それ』の接近に気が付かなかったのは。

 

 

 

「ピキューーーンッ!」

 

 

 

 

 突然響き渡る巨大な生命体の鳴き声。才人は思わず立ち止まり、『それ』を見上げる。

 

 

 

 

「あっあれは!?『宇宙大怪獣・アストロモンス』!?」

 

 

 

 

 




続きません。(え!?)次回より、何でアストロモンスが出て来たの?という話をします。


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ゼロの使い魔~真心~第46話

本当にお待たせしました。続きです。皆さん、お久しぶりです…仕事忙しすぎぃぃぃっ!書く時間なーーーーい!


何とか書きました。読んでって下さい。(早く赤青隕石登場させてぇ…)                                    


 トリステイン城内の執務室、そこでアンリエッタはひたすら書類仕事に追われていた。今までそれらを担当していた役人達の殆どがマグマ星人達の策略によって暗殺され、後任が誰も決まっていない為だ。

「はぁ…」

 アンリエッタは物憂げにため息をつく。ルイズ達に任せた任務はどうなっただろう?あの優しく暖かい目をした使い魔の少年はちゃんとルイズを守ってくれているだろうか?どうしても気になり、その事ばかり考えてしまう。

「(ワルド子爵がついているとはいえ…)…心配だわ…」

 その時、ノックと同時にマザリーニ枢機卿が入室してくる。どうやら、また新たな書類のようだ。アンリエッタは露骨に嫌な顔をする。

「…姫様、そのように露骨に表情に出されますと…その…私も気が滅入ります」

 マザリーニ枢機卿は気まずそうにアンリエッタに書類を渡す。受け取ったアンリエッタは表情を一転、とても、と・て・も素敵な笑顔を作る。

「…で?後任の大臣他役職は決まったのかしら?」

 アンリエッタのあからさまな態度。マザリーニ枢機卿は思わず視線を逸らす。

「…いえ、その…まだ…」

 アンリエッタはマザリーニ枢機卿に飛び掛かると、背中にまたがり両手で首を拘束。全力で背骨を折りにかかる。

「いつまでかかるんですか!もう一週間ですよ!一週間!いつまで人事が決められないのですか!」

 マザリーニ枢機卿は必死に逃れようともがくが、逃れられず仕方なくそのまま答える。

「申し訳ありません!姫様!残っている有能な人材となると…ぐほぉっ!」

 マザリーニ枢機卿が泡を吹き始めたので仕方なくアンリエッタはマザリーニ枢機卿から降り、自分の椅子に座る。

「で?私の出した条件をもった方はいらっしゃいましたか?」

 アンリエッタの苛立ちと怒りの感情が渦巻く一言。普段のアンリエッタならあり得ないが、今のアンリエッタは膨大すぎる仕事量で爆発寸前だった。

「はい、とにかく実務能力の高い者ですね。リッシュモン殿やモット殿、ご存命の貴族の中で実務能力が高いのはこの二人です。ですが…」

「他は…いないと?」

 マザリーニ枢機卿曰く、貴族の子息たちは多いがどれも経験の無い者達ばかりで、いきなり国政は任せられない。かと言ってリッシュモンやモットは既に割り振られた職務があり、これ以上の兼任は出来ないという事だ。

「(まぁ…リッシュモンに要職の兼任をこれ以上させる訳にはいけませんからね…)あぁ、そういえば…」

 アンリエッタは幾つかの書類の中から、モットが作成した書類を取り出す。

「この各有力貴族達の不正会計、横領の証拠書類、これを作成したのはモット伯爵だったわね?」

 マザリーニ枢機卿は「そうです」と答える。

「全ての証拠を集めているのよね…何故かしら?」

 マザリーニ枢機卿は思わず首をかしげる。

「何故…と申されますと?」

 アンリエッタは訝し気な顔をする。

「少なくとも私の知るモット伯爵はこのような人物では無いわ。こんなふうに真面目に仕事をするなんて(只のエロ親父がっ)…しかも、自身の横領金を全額返金してきたわ」

 マザリーニ枢機卿はアンリエッタが呟いた罵声は聞かなかった事にし、良い事ではないですか、とアンリエッタに問いかける。

「まぁ、これで自身の罰則を免除して欲しいという事なのでは?その為に他の貴族たちの情報を売り渡しているのでしょう」

 アンリエッタはふむ、と考え込む。

「…この報告書が正しければ、即座に他の貴族達からの返金を指示しなければ。それだけで国庫は大分潤います。町の復興費の工面は何とかなりそうね…その為にも」

 アンリエッタは鋭くマザリーニ枢機卿を睨みつける。

「業務の効率化が必要です!貴族でも平民でも身分は問いません!早く有能な人材を探してらっしゃい!」

 マザリーニ枢機卿を追い出すと、アンリエッタは再び書類の山に向き直る。

(はぁ…ウェールズさま…あなたに会いたい…)

 

 

 

 

 

 

 

 銃士隊副隊長ミシェルは、馬を走らせ一路モット邸に向かっていた。勿論エレキングのリムも一緒である。ミシェルの頭の上にちょこんと乗っている。入り口の所までやって来ると男性の使用人が出迎え、中に通される。

「しばらくお待ちください」

 そう言って男性の使用人が行ってから五分後、モットがやって来る。…何故かコソコソして。

「何をしているんだ?」

 モットは誤魔化すように笑う。

「はははっ…まあ色々あってね。で、ご用件は?」

 ミシェルは鞄から幾つかの書類を取り出すと、モットに手渡していく。

「これが今の段階でわかる限りの証拠品だ」

 それは細かい金額が不透明な決算報告書や、額に差異が有る納税表など、貴族達の不正な金の流れの証拠の数々だった。

「ありがとう、ピット星人。これでかなりの貴族たちの不正が明らかになった。これらを取り戻せれば大分この国の財政は潤うだろう」

 今、ミシェルとモットはこのトリステインの財政を立て直す為に必死になって動いていた。というのにも理由がある。バド星人と融合する前におこしていた不正をモットが確認していると、色々な不正の記録が溢れ出してきたのだ。ベムラーやマグマ星人の攻撃によって出た被害の復興財源が無くて困っているというのに、貴族達は呑気に私腹を肥やしていた。その状況を解消するためにモットはミシェルに協力を仰ぎ、二人で不正を暴いていたのだ。

「あぁ、ようやくか…」

 ミシェルは少し疲れたようにため息をつく。このために暫く働きづめだったのだ。ひと段落して疲れが出たのだろう。その時、モットは「そう言えば」とミシェルに問いかける。

「『レコン・キスタ』は何か動きはあったのかい?」

 ミシェルは首を横に振る。

「いや、アルビオンで大規模な攻勢に出るという伝達が来て以降何もないんだ」

 ミシェルは元はレコン・キスタのスパイだった人間。ピット星人と融合した今はその立場を利用し、二重スパイをしているのだ。勿論、こちらもモットと協力して行っている。

「ばれたということは?」

 モットは心配そうに聞いてくるが、ミシェルはいや、と首を振る。

「無いな。暫く本部からの連絡も無いし、リッシュモンとの接触も無い。ばれたという事は無いよ」

 モットとミシェルにとってこれは喜ばしい事であり、同時にもどかしい事でもあった。ばれていない事は良い事だが、リッシュモンに近づけなければ有益な情報も、リッシュモンの不正の証拠もつかめないからだ。

「という事は、こちらは進展なしか…」

「「はぁ…」」

 二人が同時にため息をついた時、突然どたどたと廊下を駆け回る音がする。ミシェルは何事かと目を丸くするが、モットは突然慌てふためく。

「ああぁっマズイ!」

 モットは慌てて鏡の中に逃げ込もうとする。しかしドアが勢いよく開き、アイが飛び込んでくる。

「いたー!見つけましたよご主人様!」

 そう言うとアイはモットの服の襟首を捕まえる。離すよう訴えるモットに引きずって行こうとするアイ。状況が飲み込めないミシェルは、とりあえず興奮するアイを落ち着かせる。

「まあまあまあ、どうしたんですか?伯爵が何か?」

 アイはミシェルの方を向くと、目を細めミシェルの全身をくまなく見始める。

「なっ何かな?」

「貴方、ご主人様の愛人か何か?」

 ミシェルはアイの冷たい声に思わず震える。ミシェルはアイが少し怖くなり慌てて否定する。

「違う違う違うっ!愛人なもんか!」

 アイはそれを聞いくと途端に笑顔を作り、深々とお辞儀する。

「これは失礼しました。ご主人様は今からお食事なので申し訳ありませんがお引き取りを…」

 その時、モットが慌てて口を挟む。

「待てアイッ!私はもう食べた、食べたぞっ!」

 アイは笑顔でモットの頬をモニモニと揉みしだきながら、強い口調で語りかける。

「まだ半分ですよ!」

 モットは必死にもがく。

「平民の食事二日分だぞ!一食でそんなに食べられるか!」

「前のご主人様は食べていました!」

「今の私には無理だ!」

「食べなければやせ細ってしまいます!」

 ミシェルは苦笑いするしかなかった。やせ細る?モットが?むしろその方がいいだろう。…とは口が裂けても言えないだろう。アイの目線が怖い。しかし、そこでミシェルはふと気が付く。

「おや?リム?」

 先ほどまでミシェルの頭の上に乗っていたリムが見当たらない。周りを見渡すと、窓の冊子に登り伝書鳩とにらめっこをしていた。

「ピキィィィ……ピキ?」

 ミシェルは飛び掛かるタイミングを見計らっていたリムの腹を抱きかかえると、頭の上にちょこんとのせる。

「ハイハイ、後で遊んであげるから待っててね。この子は私に用があるみたいだ」

 伝書鳩はミシェル達銃士隊がモット邸との連絡ように使用する伝書鳩だった。ミシェルは伝書鳩の足から手紙を取り外すと椅子に座り、リムを膝にのせて読み始める。

「何の連絡かな…?……なっ!?」

 ミシェルは内容に驚き思わず立ち上がる。…突然ミシェルが立ち上がった為、膝に乗っていたリムはころんと転げ落ち、「ピキっ!?」と顔面から落ちていた…。

「おい大変だ!魔法学院へ急ぐぞモット!」

 ミシェルはリムの首根っこを掴むと、出口へ向かって駆けだす。モットは事情が呑み込めないが、ミシェルの急変にただならぬ物を感じ駆けだそうとする。

「何処へ行くんですか!まずは食べてください!」

「もがが!?」

 アイに捕まったモットは口に料理を詰め込まれる。アイにガッチリ拘束され、モットはミシェルを追う事が出来ず苦し紛れにテレパシーを送る。

(すまない!すぐに追う!すぐに追うから…後で事情を説明してくれ!)

 ミシェルはテレパシーで急ぐように伝えた。…苦笑いを隠しながら。

 

 

 

 

 

さかのぼる事一日前、トリステイン魔法学院にて。その敷地の片隅にある、マチルダが様々な花を育てている花壇、そこに赤髪の美女、キュルケはいた。その傍らにはメイド服の女性、シエスタもいる。

「さっ!今日もお花にお水をあげましょう!ミス・ツェルプストー!」

 キュルケはシエスタに肩を抱かれながら、花に水をあげていた。以前まで毛布に身を隠して部屋から一歩も出られなかったキュルケだが、少しずつ変化が見られていた。

「ふふ…今日も元気ね、シエスタ」

 恐怖体験から失っていた笑顔を時折見せるようになったのだ。そして、今の服装は学院指定の学生服である。何かに身を隠す事が無くても人と接する事が出来るようになったのだ。今でも一人で部屋の外に出る事は難しく、男性と接する事も出来ないが、確実に良い方向へ向かっている証拠だった。

「しかし、もうこんなにチグリスフラワーが大きくなっているなんて思わなかったわ」

 キュルケの髪と同じ美しい赤色の花は、花壇の中、他の花々を押しのけん勢いで咲き乱れている。その花弁の大きさも花々の中では一番大きい。

「ミス・ツェルプストーが毎日お世話を欠かさないからですよ!…でも、もうそんなになるんですね。ミスヴァリエールが…才人さんが旅立ってから…」

 キュルケは空を見上げるシエスタの横顔を静かに見つめる。まだ一週間程しか経っていないのに、シエスタの横顔はまるで何か月も会っていないような寂しさを感じさせた。

「…彼の事…好きなの?」

「はい」

 即答だった。シエスタの迷いのない答え、キュルケは羨ましかった。自分は才人の事をダーリンなどと呼びながら、本当に好きだったのだろうか?自分が問われたら即答出来ただろうか?…いや、出来ないだろう。

(サイトは私の為に必死になってくれた…サイトは私を外に連れ出してくれた…サイトは私を優しさで包み込んでくれた…)

 キュルケは惚れっぽかった。自分では抑えられない程、どうしても。そんな自分が、この真っすぐな気持ちの女性の前で才人の名を口にする資格は無い。そう思い、今も『彼』としか聞けなかった。

「…それにしても、この土って不思議ね?どんな仕組みなのかしら?」

「さあ?実は私も詳しくは知らないんですよ」

 キュルケは疑問にモヤモヤしていたが、水を浴びて嬉しそうに揺れるチグリスフラワーを見るとそんな疑問はすぐに忘れてしまった。

「ふふっ!チグリスフラワーって植物って言うより、まるで動物みたいですね?」

 シエスタの愉快そうな笑いに、キュルケはふと今日までの事を思い出す。そういえば水をあげた時、よく動いていたような…?キュルケが考えていたその時、今のキュルケが一番聞きたくない音が聞こえてくる。男性の声だ。

 

 

 

 

「おやぁ?こんな所でサボりとは、感心しないねぇ。ミス・ツェルプストー?」

 

 

 

 

 キュルケは男性の声を聞き、思わずシエスタの後ろに隠れる。喋りかけて来たのは魔法学院教師のギトーだ。教師というのはどの世界でもあだ名という物をつけられるが、このギトーにつけられたあだ名は『不気味』である。相手を小ばかにする表現、物静かという事もあるが、一番の理由は一部の女性を気持ち悪い目で見るからだ。

「そうやってサボっているから頭に栄養が行かない、無駄な贅肉ばかりつくんだよ」

 …今キュルケの胸元に送られている『視線』がそれである。キュルケは胸元を手で隠すと、よりギトーから距離をとる。

「ふんっ!まぁいいさ。ミス・ツェルプストーはそこまでの女でしかない」

 この発言に怒りを覚えたのはキュルケではなく、シエスタだ。ギトーの教育者としてあるまじき発言に食って掛かる。

「ミスタ・ギトーッ!貴方それでも教育者ですか!ミス・ツェルプストーの気持ちを考えてください!それに彼女は今休学中です、非難を受けるいわれはありません!」

 ギトーはシエスタのもの言いが頭にきたのか、射殺すように睨みつけると杖を握る手に力を入れる。

「下賤な平民の使用人ごときが…っ!…いいだろう。貴様がどれ程下賤でいやしく、矮小な存在か、その身に刻み込んでやるっ!」

 ギトーは杖を振りかぶり、『ウインド・ブレイク』をシエスタに向け放つ。それは寸分の狂いも無くシエスタの体を打ち据え、全身の骨を粉砕する。

 

 

 

 …はずだった。

 

 

 

 突然、シエスタの前に巨大な土くれが現れ、『ウインド・ブレイク』の身代わりになる。ギトーは突然邪魔をして来た相手は何処かと見渡すが、振り向こうとしたギトーの首筋に『ブレイド』が突きつけられる。

「ミスタ・ギトー?このままさらし首にでもなりますか?下賤な者どもと同じように」

 『ブレイド』を首に突きつけ、今にもギトーの首を跳ね飛ばそうとしているのは、シエスタとキュルケの様子を時折見守っていたマチルダだ。

「おやおや、ミス・ロングビル。冗談ですよ冗談、杖を下ろしてください」

 ギトーは笑ってマチルダに話しかけるが、マチルダは杖を下ろさない。むしろその視線を鋭くする。

「私には、通用しませんよ?」

 ギトーはここにきて初めて表情に焦りを見せる。「分かりました、もうしませんよ」と言うと、そそくさとマチルダから離れる。

「そうそう、言い忘れていましたよ。そこの使用人」

 シエスタは指を指されると、警戒して睨み返す。

「あなたにも一つだけ、誇れる物がありましたよ。その肥え蓄えられた肉体ですかね?はっはっはっ!」

 ギトーは捨て台詞を吐くと、振り向いて去っていった。ギトーの姿が見えなくなると、シエスタは全身の力が抜けその場に崩れ落ちる。

「怖かった~…助かりました!ミス・ロングビル!」

 マチルダは二人に駆け寄ると優しく抱きしめる。

「二人とも大丈夫かい?間に合って良かった」

 キュルケはシエスタの後ろに隠れた時から耳を塞ぎ、目をつぶって震えていた。抱きしめて来たマチルダに言われるまでギトーが去った事にも気が付かなかったのだ。

(私、やっぱりダメだ。もう男を信じられない…)

 マチルダは二人を慰めながら、ギトーの様子に一人違和感を抱いていた。

(おかしい…確かにギトーは自身の才能を鼻にかけてる奴だったし、自分より弱いものを平気でいたぶるような奴だったが…わざわざミス・ツェルプストーの所に来て、騒ぎを起こしてまで何を?)

 キュルケがこの状態になった時は何も行動を起こさなかったのに。何故今頃?ギトーはマチルダがフーケ時代に調べていた情報の中にも不審な情報はない人物。しかし、マチルダの不安は増すばかり。

(何も起きなければいいが…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの女ども、許せない。魔法の中で最強の属性、風を操るこの私を侮辱して…大体、あの赤毛の女は以前からそうだったのだ。この私を敬う気持ちを一つも持ち合わせていない。今日が最後のチャンスと、時間をくれてやったのに。そうすれば愛人くらいにはしてやったのだが…。

 まあいい、私をバカにした女ども。貴様ら全員をひざまずかせ、孕ませ、屈服させてやる…ふはっ!…明日が楽しみだ…ハハッ!ハハハハハッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




続きます。本当にお待たせして申し訳ない。年末忙しくて。なるべく時間を見つけて書くので今後とも気長にお持ちください。


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ゼロの使い魔~真心~第47話

続きです。今回、一人の犠牲者が。そのキャラが好きな人、ごめんなさい。



 夜、マチルダは学院長室でオスマンと二人話し合っていた。内容はマチルダによって報告されたギトーについてである。

「何と…あの男が使用人に手を上げたと?」

 マチルダは少し俯きながら頷く。

「あぁ。あたしが助けに入らなきゃシエスタだけじゃない、ミス・ツェルプストーの命も危なかった」

 教師が生徒の命を奪おうとした。これは学院始まっていらいの大変な不祥事である。ところが、当のギトー本人からは何の報告も無い。それどころか、夕食をとって就寝したというのだ。

「あたしもさっき部屋に行ってみたが、『ロック』の魔法が掛かっていて開けられなかった。しかし、無理に『錬金』で開ける訳にも行かない」

 無理にこじ開けてプライバシーだ何だと言われるわけにもいかない。仕方なくマチルダはオスマンの所に相談に来たのだ。

「ギトーはあたしが前に粗を探った時、何も出てこなかったんだ。その時はよく考えなかったが今にして思えば変だったんだ」

 オスマンは首をかしげる。変、とはどういう事か?

「綺麗すぎたんだよ。不自然な程に。他の奴らには大小様々だけど横領とか何かしらの汚い部分があった。まぁギトーの性格からして、何もしていないんだろう程度に思っていたんだが…」

 オスマンにとっては自身の部下たちの不正を見せられている為、耳が痛い。

「…ウォッホンッ!とにかく、この件はわしに預けて欲しい。ギトーには監視をつける。ミス・ロングビル、君は休みなさい」

 オスマンは言い終わると目を細める。

「君には本腰を入れて事に当たってもらわなければならない可能性がある。その時は…どうか頼む」

 マチルダは言葉で答える事は無く、只無言で頷いた。

 

 

 

 

 

 

 夜、キュルケは一人窓から星空を眺めていた。毛布にくるまり、暖を取りながら只茫然と眺めていた。その時、入口の方からキィ…と音がする。キュルケの同居人だろう。

「おかえりなさい、フレイム」

 キュルケの使い魔、フレイムだ。フレイムはキュルケがああなってしまってからは、暫くキュルケの友人達で世話していたのだ。最近はキュルケが良くなってきたので、また以前のように同じ部屋で暮らすようになっていた。

「さぁもう遅いわ、寝ましょう?」

 そうキュルケが言った時、突然フレイムが窓に向けて唸り声を上げる。どうしたのだろう?キュルケが振り向くと、信じられない光景が飛び込んできた。

「ひぃっ!?」

 キュルケは部屋の端まで逃げ出す。しかし、自分の見た物を信じたくなくてもう一度窓の方を見てみる。

「キャァ!」

 変わらない、その光景はまだ窓の向こうに広がっていた。

 

 

 

 

 

「あっ、あれは…蔦?」

 

 

 

 

 そこには今にも窓を破壊しようとしている蔦があった。フレイムはキュルケの前に盾になるかのように立ちふさがり、蔦に威嚇する。

「ひっ!」

 キュルケの脳裏に蘇るのは巨大化前のツルク星人。正体の分からない、得体の知れない圧倒的な暴力、恐怖。全くの別物であるのにも関わらず、キュルケは蔦にその恐怖を重ね合わせる。

「来ないで、来ないで…」

 以前までのキュルケならその炎で焼き尽くしていただろう。しかし、今のキュルケにそれは適わない。フレイムの影に隠れ、只震えるのみだ。

 

パリンッ!

 

 窓を割り部屋に侵入してくる蔦。それがキュルケの足元にまで這いよってきた時、フレイムが口から火を吹き出し蔦を攻撃する。蔦は吹きかけられる炎に怯えるかのようにのたうち回るが、それでも何とかしてキュルケに近づこうとする。

「嫌、嫌よ、嫌っ!怖い、怖いぃぃっ!」

 蔦はキュルケの叫びと同時に飛び上がり、キュルケの頭の上にまでその先端を伸ばしてくる。キュルケは咄嗟にしゃがみ込み頭を低くする。これにより蔦で頭を撫でられるだけで終わった。キュルケは反対の壁まで這ってくるとフレイムの後ろに隠れる。

「今よフレイムっ!早く、早く!」

 急かされるフレイムは口から炎を吹き出し蔦に直撃される。表面を炎で撫でられた蔦は苦痛に悶えるような動きをすると、窓から外へ逃げていった。

「…い、行った?」

 キュルケは恐る恐る窓から顔を覗かせる。何処かにあの蔦が潜んでいるんじゃないか?と思うと体が震えだすが身の安全を確かめたいという気持ちが勝ったのだ。

「ありがとう、フレイム」

 キュルケは主人の為に必死に戦ってくれた自身の使い魔を抱きしめる。しかし、助かった事の余韻に浸っている暇は無い。キュルケは部屋を飛び出すと一心不乱にある所を目指す。

「ミス・ロングビルッ!お願い!開けて!いたら返事して!」

 マチルダの部屋だ。キュルケにとって今戦力として頼りに出来るのはマチルダしかいなかった。扉をドンドンと乱暴に叩き、何としてもマチルダに出て来てもらおうとする。

「ミス・ツェルプストー?」

 丁度その時、後ろから声を掛けられる。キュルケは即座に振り向くが、それが今しがた学院長室から戻ってきたマチルダと分かると途端に泣き崩れる。

「みっ、ミス、ミッ、うぅ…あぁぁぁ…」

 何事かと慌てふためくマチルダ。しかし、泣いている生徒を無視する訳にはいかない。マチルダはキュルケを部屋に通し落ち着かせてから話を聞く。

「…分かりました。学院長は既にお休みなので、私が警備の者たちに伝えてきます。それまでここで待っていて下さい」

 キュルケから事情を聞いたマチルダは直ぐに警備員に報告、厳戒態勢をとらせるように指示をした。部屋に戻る間、マチルダはふと考え事をする。

(警備員達は侵入者はいないと言っていた。見逃すはずが無いと…まさか全てギトーが?いやしかし、彼の魔法の系統は風…風の魔法で植物を操れるのかしら?出来ない事も無さそうだけど、でも…うーん…)

 部屋に戻って来たマチルダは一端考えるのを止め、キュルケの横に座る。

「もう大丈夫よミス・ツェルプストー。警備員に伝えておいたから、賊だろうが魔物だろうがじきに成敗されるわよ。さっ、今夜は一緒に寝てあげるから。休みましょう?」

 キュルケはそう言われた途端に体の力が抜けたのか、ベッドに崩れ落ち眠ってしまった。マチルダも体を軽くタオルで拭くと、キュルケの隣に横になり同じ布団に入る。

「ゆっくりお休み、ミス・ツェルプストー」

 マチルダは全てを包み込むような優しい表情でキュルケの額に唇を落とすと、目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 明朝、警備員達の間では張り詰めた空気が漂っていた。夜半にあったマチルダからの報告、その正体が今だ分からずにいたのだ。

「なぁ見間違いかなんかじゃないのか?」

 一人の男が愚痴を漏らす。それを皮切りに次々に不満の声が上がる。

「見た女生徒ってあのデカ乳だろ?部屋に閉じこもってるあのビョーキ女」

「そうそう、あの女の妄想じゃね?」

 警備員達のバカにした笑いが続く。

「大体、貴族の野郎ども普段偉そうなくせに何だ?あたし男が怖いの~ってか?」

 男はそう言いながら体をくねくねと気持ち悪く動かして見せる。

「あんだけ男遊びしといてそりゃねぇよっ!ギャハハハッ!」

 いつの間にか張り詰めた空気は消え、誰もが蔦の正体を探すこと等忘れていた。そんな時、一人の男が体を震わせる。

「わりぃちょっとしょんべんしてくるわ。見回り頼むぜ」

 男はそう言うと、そそくさとその場を離れる。その時、何かを思いついたのか向かった先は厠…ではなく、マチルダの花壇だ。

「へへへ、出ちまう出ちまう。あのベッピンさんの育ててる花にぶっかけてやるぜ。あのベッピンさんにぶっかけてるみてぇで…へへっ…」

 才人やマチルダが見たらまず命は無いであろう行動をしようとする男。その粗末な物を取り出した時…。

 

 

 

 

 

 

 突然、花壇から巨大な蔦が伸び、男のその粗末な物に巻き付く。それは一滴も出させまいと物凄い力で締め上げ始める。

 

 

 

 

 

「グゲッ?!ぐぼぉ…」

 その蔦は瞬く間に男の全身にまとわりつき、その全身の骨を軋ませる。次第に鈍い音が響くようになり、ついには男の頭の形がぐにゃりと歪む。蔦は完全にこと切れた男を地中に引きずり込む。その姿は朝靄に隠れ、見た物は誰もいなかった。

 

 

 

 

 

「おい。あいつはまだかよ」

 いつまでも戻って来ない男に苛立ちが募り始める警備員達。詰め所に戻っているかと思い、全員で戻ってみるがそこには誰もいなかった。

「ったく、何処でサボってんだよっ!」

 一人の男が詰め所のドアを蹴り飛ばした時、コンコン、と扉を叩く音がする。

「はい!誰!?」

 男が苛立った声でドアを乱暴に開けると、そこには立派な服を着た男が立っていた。

「こっ!これは失礼しました!ミスタ・ギトー!」

 扉を叩いたのはギトーだった。部屋に入るなりギトーはそこにいた警備員達に軽蔑と侮蔑の視線を浴びせる。

「汚らしい、実に汚らしい」

 その言葉に警備員達は腹を立てるが相手は貴族、逆らう訳にはいかない。

「なっ、何か異常でもありましたでしょうか?ミスタ・ギ」

 その男は最後まで言う事が出来なかった。その前に下顎より上が粉砕されていたからだ。警備員達がおののき、恐怖に震えている中、ギトーはその長い杖を警備員達に向ける。

「汚らしい、実に汚らしい。その口で私の名を呼ばないでくれ、私が汚れる。君たちは私の理想の世界には生存する事すら許されない汚物だ」

 ギトーは誰に話しかけるでもなく、淡々と独白する。その間も杖を振るい続け、ついに警備員は最後の一人になる。

「ミ」

 男は命乞いでも言おうとしたのだろうか?しかし、ギトーは名を呼ばれる事をよしとせず、その首を風の刃で切り落とした。

「ふふ…これで邪魔者はいない。さあ来い!私の軍隊たちよ!」

 ギトーは杖を上に掲げると、『ライトニング・クラウド』を放ち詰め所の天井を破壊する。その雷は朝靄に包まれる魔法学院から空に立ち上り、ある者達への合図となる。

「見ろっ!合図だ!」

 ある者達…彼らは鎧に身を包み、剣で武装している。山賊とも傭兵部隊のようにも見えるが、中には杖を持った者達もいる。

「全ては同志の名の下にっ!」

 一人の男が叫ぶと、それに続けて「同志の名の下にっ!」と全員が叫ぶ。先頭の男が剣を掲げると、全員が魔法学院目指し一直線に走り出す。

 

 

 

 

 

「全ては我らの崇高なる聖戦の為にっ!『レコン・キスタ軍』前進っ!」

 

 

 

 

 

 それからはあっという間の出来事だった。魔法学院内になだれ込んできたレコン・キスタ軍に生徒たちは杖をとる間もなく拘束され、食堂に集められる。教師たちは杖をとり応戦する事が出来たが、生徒達を人質にされ食堂内に攻め込むことが出来ずにいた。今は食堂を教師たちが取り囲み、一触即発の状態だった。そんな時、学院の一室にて。

「まだいないか探せ!」

「こちらは誰も残っていません!」

「他を探すぞ!」

 大声を上げ走り回っていた男たちの足音が遠ざかっていく。それをキュルケは真っ暗な空間で聞いていた。目が覚めるとこの状況で疑問しか浮かばない。しかも物凄い圧迫感だ。何か上に乗っているのだろう。

(なっ何?どういう事?)

 キュルケはもぞもぞと動くと、顔に押し付けられているふかふかしたものをどかそうとする。しかし、押してもびくともしない。

「まだ動いちゃダメッ!」

 突然聞こえて来た小声に全身が硬直するが、直ぐに声の主が誰か分かった。

「ミス・ロングビル?」

「えぇ、おはよう。まだ動いてはダメよ?あいつらが戻って来るかもしれないわ」

 この時、マチルダは大体の状況をキュルケに教えてくれた。この学院に賊、正確には『レコン・キスタ軍』が攻め込んできた事。他の生徒達は大半が捕えられてしまった事。まだ眠っていたキュルケを助ける為に床下に用意しておいた隠し部屋に二人で潜んでいる事。

「そろそろ…行くよ」

 マチルダはそろりと床板を開けると、周りを警戒しながらキュルケを助け起こす。

「行くって、何処に?」

 マチルダは机の上に乗ると、キュルケを手招きし支えるように頼む。

「よいしょ」

 ガタンッ!

「え?」

 キュルケは目を丸くした。突然天井の板が取れて、人が通れるくらいの大きさの穴が現れたのだ。

「ふふっ!いざっていう時の為にね?この穴は学院中に繋がってるわよ」

 マチルダは穴に入るとキュルケを招き入れ、再び天井の板をはめ込む。

「すごい、こんな仕掛けが学院にあったなんて…」

 それを聞いたマチルダは体をビクリと震わせる。

「まぁ…ハハハッ…他の人達にはないしょにね?」

 その一言で何となく察したキュルケだった。

 

 

 

 

 

 

 食堂内にて。集められた生徒たちは杖を破壊され、男女分かれて二ヵ所に集められていた。レイナールは殺されるのではないかという恐怖に苛まれながらも、ある種別世界の事のように冷静に状況を把握していた。

(賊は今学院内を探している奴を含めて全部で15人…内メイジは三人。しかも…その中に何でギトー先生が…?まさかギトー先生が内通者?)

 その時、集められた生徒達を前にギトーが立ち、演説を始める。

「生徒諸君、君たちは選ばれたのだ!我らが聖戦に参戦する名誉が与えられたのだ!」

 ギトーは食堂のテーブルの上に立ち、体を無駄に動かして演者ぶった動きをする。

「男子生徒諸君!君たちは栄えある『レコン・キスタ軍』の戦士として!戦える栄誉が与えられる!」

 男子生徒達の方を向いて演説していたギトーは次に女子生徒たちの方へ向き直る。

「女子生徒諸君!君たちは聖戦に赴く戦士たちを癒し、慰める聖母として!『レコン・キスタ軍』をより強固な物にし、戦士を増やす聖母として参戦する名誉が与えられたのだ!」

 レイナールは恐怖にその身を震わせる。要は男は戦争の為の奴隷戦士に、女は従軍慰安婦…俗っぽく言えば性奴隷になれという事だ。女子生徒達から悲鳴と怒りの声が上がる。中にはギトーを罵倒する声も上がる。

「黙りなさいっ!」

 食堂に響く怒号、突然の怒号に女生徒の他に『レコン・キスタ軍』の男達まで硬直している。

「今喋った方たちには少々指導が必要ですね。さ、指導を」

 ギトーは『レコン・キスタ軍』の男たちに目配せする。それで全てを察した男たちは下卑た目で女生徒たちを品定めし始める。

「俺はこいつだな」、「俺はこの女だ!」、「おっ、オデはこいつだ!」、「貴族の女をヤれるなんて最高だぜ」と女子生徒達に群がる男達、女子生徒から悲鳴が上がるが、同時にその動きが止まる。

 

 

 

 

 

グゥ~…

 

 

 

 

 腹の音が鳴る。男たちは今日の為に前日からずっと学院近くで待機していたのだ。腹が減っているに決まっている。

「おい、大将!俺たちゃ腹減ってんだ。何か喰うもんクレや!」

 男たちは口々に不平を言う。ギトーはふむ、と女生徒たちを見渡す。

(あの褐色女はいない…あの眼鏡女と一緒におびき出すにはちょうど良いかもな。あれを捕まえておいて良かった)

 ギトーは杖を振るうと食堂の片隅から何かを運んでくる。それはどれだけ酷い仕打ちを受けたのだろうか?全身から血を流しており、虫の息だ。運ばれてきたそれは男たちの前に乱雑に叩きつけられる。

「見よ!これは神に与えられた聖肉!火の竜、サラマンダーである!これを我らの血肉とし、聖戦の為の糧とせよ!」

 

 

 

 

 

 

 それはサラマンダー、キュルケの使い魔、フレイムだった。

 

 

 

 

 

「へへっ、肉だ肉だ!」

 男たちはフレイムに群がると刀をその喉に突き立てる。フレイムはもがき苦しむが、断末魔を上げる力も残っていなかったのだろう。声を上げる事無くこと切れた。男たちはフレイムの肉を切り刻み、火のついた松明で炙ってくらいついていく。

(フフフ…何処かで見ているんだろう?さあお前の大切な使い魔が喰い殺されたぞ?さぁ怒れ、私の前に来い、私の前に来て怒りをぶつけてみろ!その時には私の前に屈服させてやる!)

 

 

 

 

 

 

 学生寮の屋根裏。そこでマチルダは泣き崩れるキュルケを優しく抱きしめていた。マチルダは自身の経験から大切な物を奪われる気持ちがよく分かる。だからこそ、ギトーが許せなかった。

(食堂の屋根裏に行った時に合わせてあんなことをするなんて…分かっていてやったとしか思えない!しかも、今のミス・ツェルプストーに!)

「ミス・ツェルプストー、貴方はここにいなさい」

 言った途端キュルケはより力強くマチルダを抱きしめ、首を横に振る。悲しみに捕らわれ誰かにすがりたいのだろう。マチルダは優しくキュルケを撫でると、その雰囲気をどす黒い物に変える。

「あいつらをこのままにはしておけない。あたしに任せなツェルプストー、ギトーの野郎に『土くれのフーケ』の恐ろしさを味合わせてやる!」

 マチルダはキュルケの額に唇を落とすと、キュルケに自身のローブをかけ、その場を去る。

 

 

 

 

 

 

 キュルケは一人、涙を流し暗闇にうずくまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




続きます。別にキュルケが嫌いとか、そういう訳じゃ無いです。


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ゼロの使い魔~真心~第48話

2018年最後の投稿。そして恐らく過去最長。




一人暗闇に残され、悲しみに沈むキュルケ。その運命や…


 暗闇…音も無く、風も無い孤独な空間。そこでキュルケは一人涙を拭う。何故自分がこんな目に合うのだろう?確かに、世界にはもっと苦しい、辛い目に合っている人は多くいるだろう。いや、いる。

「でも…受け止めきれないわよ…」

 しかし、それを受け止めて前向きに生きるには強い心が必要だ。キュルケも元々は気丈でたくましい、強い心を持っていた。今のキュルケになってしまったのは、全てはツルク星人のせいで被った死の恐怖の為である。

「探せー!まだいるはずだっ!」

 突然の怒声にキュルケは震える。どうやら『レコン・キスタ軍』がまだ探し回っているらしい。声は段々と近づいて来る。

(このままじゃここもばれちゃう…逃げなきゃ…)

 キュルケは杖を持ち、非常時に備え…ようとしたが、ここでキュルケは大変な事に気が付く。

(杖が無いっ!?)

 どうやらキュルケは薄暗い屋根裏の移動中、何処かで杖を落としてしまったようだ。このままではいざという時身を守る事も出来ない。その焦りが、キュルケの恐怖をかき立てる。

「逃げなきゃ…逃げなきゃ…嫌だ…嫌だ…サイト…サイトォ…」

 キュルケは屋根裏の降り口から出ると、声とは反対方向に逃げ出す。少しでも身を低くして見つからないように、見つからないように、慎重に逃亡する。後ろの男がこちらを向かないか確かめながら…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…だから、気が付かなかった。目の前の男に。

 

 

 

 

 

 

 

 キュルケは突然体が浮き、首を締め上げられ羽交い絞めにされる。後ろしか見ていなかった為か、何が起きたか分からずパニックになる。

「ヒぃっ!?ひぃぁっ!ぁァァァァっ!?」

 後ろから締め上げて来た男は下卑た笑いを浮かべる。

「えへへへへぇ…おーい!いたぜ!ここだ!」

 呼ばれた男はキュルケの前まで来ると、キュルケの着ているブラウスを引きちぎり両の乳房を握り潰す。

「えへぇぇ…間違いねぇ…こいつだ、あの大将さまが欲しがってる女だぜっ!」

 男たちはキュルケをその場に組み伏せると、乱雑に下着を破り取る。

「あの大将様が抱きたがってる女だ。どんだけ良いもんなのか、先に楽しませてもらおうじゃねえか」

 キュルケは必死に暴れ、大声を出そうとする。しかし、口を押さえられ声も出せない。助けを求めることも出来ない。ここに才人がいたら、マチルダがいたら、フレイムがいたら…そう思うキュルケの脳内に響く二人の男の下卑た笑い声。

「そんじゃさっそく…おりゃっ、へへぇ、綺麗なもんだぜ。遊んでそうな見た目してよ」

 男の汚く、醜く、歪な欲望がキュルケに叩きつけられる。キュルケはどうすることも出来ない恐怖、絶望の中、その痛みを覚悟する。

「……?」

 キュルケは暫く全身に力を入れて、痛みに耐えようとしていた。が、その痛みがいつまでたってもやってこない。キュルケは閉じていた目を開けると、口を押さえていた手も外れている事に気が付く。

「ウソ…」

 キュルケは目の前で起きている光景から目を離すことが出来ない。『あの蔦』がキュルケの目の前で二人の男に巻き付き宙に浮かべ、首とその歪な物を締め上げている。男たちはもがき苦しみながら口を動かしている。助けを求めているのだろうか?

「誰が助けるもんですかっ!」

 キュルケは慌ててその場から走り出す。一歩でも遠くに逃げる為に。その時、キュルケの足に何かがぶつかる。キュルケはそれが何か直ぐに気が付き、慌てて拾う。

(私の杖!何でこんな所に!?)

 キュルケは全力で走りながら近くの部屋に飛び込み『ロック』の魔法で施錠する。一息ついたキュルケは部屋にあった女性ものの服を拝借する。

(ここは…モンモンの部屋かしら?服きっつ…)

 サイズどころか、体格まで違う二人だ。下着に関しては下がギリギリで、上は不可能だった。

「後で弁償するから、ごめんね?モンモン」

 キュルケは壁に寄りかかると、先ほどまでの恐怖が再び襲ってくる。が、今のキュルケは怯える以外に一つの考えが頭に浮かぶ。

(今の私は偶然助かった…でも、他の娘たちは?)

 フレイムが殺された時、学院の生徒達は全員集められていた。もしかすると女子生徒は自分と同じ目に合うかもしれない。それも、助けがくる確率は…無い。

(ミス・ロングビルがいるけど、いくら何でも一人では…)

 その時、キュルケの脳内に浮かぶのは自分と同じ目に合う女子生徒達、マチルダ。もしもそうなったら皆どうなるだろう?

 

 

 

 

 

 自分と同じように心に傷を負うに決まってる。自分よりも深い傷を。

 

 

 

 

「あたしの気持ちを理解してくれる人が増える…でもあたしは…そんな人、いらない」

 キュルケの中に猛烈な怒り、憎しみの感情が燃え上がり、今まで心を覆っていた恐怖を焼き尽くす。キュルケは立ち上がると杖を自分の胸の前に掲げる。

「…待っててねフレイム。貴方の仇、必ず取るから。…あたしは、あたしは許さない。あたし達をこんな目に合わせた奴らを…女を人とも思わない外道をっ!」

 あの蔦も気になるが、今一番危険なのは女子生徒達だ。彼女たちを救うためにキュルケは部屋を出て急いで食堂の方へ駆けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ほぼ同時刻。マチルダは食堂の周りを取り囲んでいた教師たちと合流する。どうやら教師達は突入作戦の話し合いをしていたようだ。

「ミス・ロングビル、何か妙案は無いかね?」

 良い案が出なかったのか、マチルダは来てすぐにオスマンに問い詰められる。マチルダは自身が考えた突入作戦を伝えようとした時、食堂から怒鳴り声が聞こえる。

「オスマン学院長につぐっ!こちらの要求を受け入れたし!受け入れたし!受け入れられない場合、生徒たちの安全は保障しない!」

「要求?」

 オスマンはマチルダに聞かれると気まずそうな表情になる。

「実はの…ミス・ロングビル、君を人質半分と交換しようと奴らが持ちかけて来ておるのじゃ」

 マチルダは何となく理由が理解できた。今、敵の全体の指揮をとっているのはギトーだ。奴は昨日の事で自分を目の仇にしているんだろう。

「こちらに裏切り者がいた以上、今回ばかりはわし達だけでは解決できん。今しがた王宮に応援要請を出したところじゃ、それまで時間稼ぎが出来ればよい。奴らに屈しない為にも要求を呑む訳にはいかんっ!」

 力強く言うオスマンにマチルダは満面の笑顔を見せる。

「いいえぇ~呑んであげましょうよ?その要求」

 オスマン達教師陣は驚くが、マチルダの表情を見て途端に全員縮こまる。マチルダは満面の笑顔だったが、その目は猛禽類のような鋭い凶悪な物に豹変していた。

 

 

 

 

 

 

 

 食堂内ではフレイムを食べ終えた男たちが女子生徒たちに群がっていた。食堂内には女子生徒たちの悲鳴が響き渡っている。

「ちっ!うるせぇ!少しは静かにしやがれっ!」

 泣き叫ぶ少女たちに男達が暴行を加え、力づくで黙らせていく。

「へへぇ、大人しくなったぜ」

 顔面を腫れるほど殴られ、抵抗を止めた女子生徒に男がまたがった時、突如食堂の入り口のドアが勢いよく開けられ両手を上げたマチルダが入って来る。

「さぁ来てあげたわよっ!」

 マチルダが入ってきたと同時、ドアが勢いよく閉まる。

「…やっぱり、人質解放する気はさらさら無かったって事だね」

 マチルダが呟くと同時、全身に暴風が叩きつけられその体が床に叩きつけられる。

「ぐぼぉっ!」

 マチルダは内臓を激しく痛めつけられ吐血する。ふらつきながら立ち上がると、その顎に強烈な蹴り上げが叩き込まれる。床に倒れ込んだマチルダの背に足が叩きつけられ、踏みつけられる。

「やぁミス・ロングビル、いえ、『マチルダ』でしたっけ?いい格好ですねぇ?」

 マチルダを踏みつけていたのはギトーだ。何度も何度もマチルダの背中を踏みつける。

「抵抗してごらんなさいよぉ…ほらぁ…ほらぁっ!」

 人質がいるから手が出せない。それが分かっているからこその行動だ。見守る男たちからは下卑た笑い声、生徒たちからは悲鳴が上がる。

「さぁ…早速ヤらせてもらいましょうか?」

 ギトーは生徒たちに見せつけるようにマチルダを引きずり上げると、その服を引き裂こうとする。が、握力が無いのか引っ張るだけで服は破けない。

「…滑稽だねぇ…」

 マチルダの呟きにギトーは眉をひそめる。

「何ですか?」

「こんな大それた事して、女ヤるだけ、あんた何がしたいんだい?」

 ギトーは嘲笑すると、マチルダを地面に叩きつける。

「知れた事!私は魔法の中でも最強の属性『風』を操る偉大なる魔法使い!私は一介の教師で終わるような存在では無いのです!いずれはこの世の全てを!この手に!」

 ギトーはまるで物語の主人公にでもなったかのように大仰に体を動かし、演技をして見せる。しかし、マチルダは冷ややかな視線を送る。

「のわりには女を抵抗できないようにしてから襲う…卑怯もんさね…」

 ギトーはふらつきながら立ち上がったマチルダを睨むと、杖を構える。

「…もう加減は無しだ。徹底的に君を屈服させる。まずはその減らず口を叩き潰してやろう!」

 マチルダはほくそ笑む。

(私の演技と血糊に気付かんようじゃ…あんたは終わりさ)

 マチルダが服の袖に触れた時、突如食堂の奥の扉が開く。

「へへえへへぇ、大将~、もう一匹女がいましたぜ~!」

「いやぁ!離してぇ!」

 奥から男が薔薇の花飾りをした女性を羽交い絞めにして入って来る。杖は既に奪われているようで、全員の見ている前でへし折られる。

(ちっ!めんどくさい。あんな風に捕まってちゃ巻き込んじまう…他の人質の中に一緒に放り込まれるのを待つしかないか…?)

 その時、マチルダはある事に気が付く。

(…女?少しごつい気が…?)

 女性は辺りを見渡すと、急に落ち着き男に問いかける。

「…あなたを含めて13人。…いけるな」

 女性は全力で足を後ろに振り上げ、男の股間を強打する。

「ッッッ!?」

「てめぇふざけやがって!」

 各所で生徒たちを見張っていた男たちが女性を取り押さえようと駆け寄ってくる。そこでギトーは直ぐに違和感に気が付き、叫ぶ。

「待て!お前ら!」

 その時、マチルダも気が付く。違和感の正体に。

(へぇ…中々。頭が回る時もあるじゃないかアンタ、見直したよ。まっ、私一人でもどうにかなったけどね)

 女性は薔薇の花飾りを引き抜く。それを一振りすると花びらが舞い男たちの前に舞い落ちる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行けっ!僕の華麗なるワルキューレ達!」

 女性はその服を脱ぎ捨て、その服でメイクをすかさずふき取る。生徒たちはその素顔を見て目を丸くする。

「「「ギーシュッ!?」」」

 

 

 

 

 

 

 

 ワルキューレは男達に飛び掛かると、その強固な体から繰り出される打撃で次々と沈めていく。中には剣で応戦する者もいたが、青銅で出来たワルキューレの体を切り裂けず逆に剣をへし折られラリアットや飛び蹴りをくらい吹き飛ばされる。

「大丈夫ですか!?ミス・ロングビル!」

 ギーシュはマチルダに駆け寄り体を支えようと手を貸すが、マチルダは何も無かったかのように平然と立っていた。

「あれ?」

「大丈夫、全部演技よ。それにしても、杖を偽装するなんて大胆ね?」

 ギーシュは照れ臭そうに頭をかく。

「いやぁ…はは…最初は怖くて隠れてたんですけど、それじゃダメかなって。サイトとの約束もありますから」

 突然出て来た才人の名前にマチルダは目を丸くする。

「サイトが出発する前、僕に頼んでいたんですよ。『何かあったら、学院を守るのはお前だぞ』って」

 マチルダは突然言いようの無い幸福感に包まれる。

(才人…あんたって奴は…何処にいても、私を守ってくれるんだね…)

 その時、凄まじい風が吹き荒れ、全てのワルキューレを木端微塵に吹き飛ばす。ギトーの『ウインド・ブレイク』だ。

「何っ!?」

 ギトーは怒りを隠そうともせず、怒鳴り散らす。

「雑魚の分際で!その体をバラバラに引き裂いてくれるっ!」

 ギトーが杖を構えるとギーシュは慌てふためくが、突然マチルダが笑い出す。

「お前の負けさっ、ギトーッ!」

 マチルダは袖の中に隠していた杖を取り出すと、ワルキューレによって一か所に集められていた男たちの足場に『錬金』をかけ、粘着性の高い泥に変える。

「「「うわぁぁぁぁぁぁぁ?!」」」

 メイジの三人はすんでの所で『フライ』で逃れるが、他の男たちは皆その泥に飲み込まれる。首まで沈んだところでマチルダは再び『錬金』、元の足場に戻し完全に拘束する。

「ホントはバラバラだったあいつら全員同時に『錬金』するつもりだったんだけど、おかげで手間がはぶけたよ」

 ギーシュは目の前で起こった事に目を丸くする。別に自分は要らなかったのではないか?と思わせるほど。

「バカなっ!こんな事がっ!?」

 その時、ギトー達三人のメイジは突如巨大な何かに殴り飛ばされ、食堂の外に吹き飛ばされる。ギーシュは一瞬の事で理解が追い付かなかったが、それは食堂の床から生えた巨大なゴーレムの腕だった。食堂の外では、突然吹き飛ばされてきた三人に驚き、杖を構える。

「馬っ馬鹿な…いったい何が…?」

 鼻血を吹き出し、震えながら立ち上がるギトーの背中に強い衝撃が走る。マチルダが足で踏みつけていたのだ。

「アンタは間違いを二つ起こした。一つは実力に見合わない大それた事をしようとしたこと。二つ目は…」

 マチルダは他の二人をゴーレムの腕で拘束する。

「私を『マチルダ』と呼んだこと。その名で呼んで良いのは才人だけ…ふざけ半分で呼んだ奴がどうなるか…その身を持って教えてあげるわ!」

 ギトーは蹴り飛ばされ無様に地面を転がる。起き上がりマチルダの顔を見たギトーは恐怖に顔を歪ませる。それはこの世の憎しみを詰め込んだような表情だった。

(こっこれが、あのガキ以外がこの女を『マチルダ』と呼ばない理由か!?)

 マチルダの『ブレイド』がギトーの首を跳ね飛ばそうとした時…

 

 

 

 

 

 

 

 

「待って」

 

 

 

 

 

 

 

 突然呼び止められ、マチルダはその手を止める。振り向くとそこにはここにいないと思っていた人物がいた。

「ツェルプストーッ!何でここに!?」

 それはキュルケだった。服装の違い、そして服についた無数の血液に気が付いたマチルダは何があったのか問い詰めようとするが、キュルケは手で制すると、ギトーの前に立つ。

「あなたにチャンスをあげるわ。ミスタ・ギトー」

 キュルケは杖を構える。

「決闘よ」

 ギトーは訳が分からず一瞬惚けるが、直ぐに狡猾な表情になる。

「へぇ…で、内容は?」

「あなたが勝ったら、身の安全を保障するわ。後、私の実家の領地と私のこの体をあげる。あたしに『参った』と言わせればいいわ。それであなたの勝ち」

 マチルダは待つようにキュルケに詰め寄るが、キュルケはそっとマチルダに囁く。

「やらせて」

 と一言。ギトーはキュルケに問いかける。

「で、お前が私に求める物は?」

 キュルケは途端に表情を変える。

「お前の命」

 その瞬間、決闘が始まった。オスマン達が止めに入るが、それをマチルダが止める。「何故!」と言うオスマン達に一言。

「やらせてあげて。これはあの子の弔い合戦なんだ」

 しかし、マチルダには気になる事がある。

(あの子のトラウマは…?)

 その時、食堂からレイナールが青い顔で駆けてくる。

「タッ大変です!ミス・ロングビル!」

 レイナールから話を聞いたマチルダは同じく顔を青くする。

「ツェルプストーがレコンキスタの男たちを皆殺しにしたっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 キュルケは巨大な『フレイム・ボール』を作り出し、ギトー目掛け放つが、それはギトーの風で簡単に霧散してしまう。

「はははっ!一つ授業をしてやろうミス・ツェルプストー!この世で最強の属性は『風』だ!『微熱』の君が足元に及びもしない最強の属性なのだよ!」

 キュルケは何度も炎を打ち出し、ギトーに叩きつけるがその風の壁を超える事は出来ない。しかし、キュルケは打ち出す『フレイム・ボール』をドンドン大きくする。

「はぁっ!はぁっ!はぁっ!」

 キュルケは魔力の使い過ぎで既に息切れを起こしていた。

「フハハハハハッ!所詮その程度だっ!では、私の奥義を見せてやろうっ!」

 ギトーの周りの風が集まり、ギトーが二人に分身する。

「『風の偏在』、君には手の届かない次元の魔法さっ!」

 二人になったギトーは激しい風を起こし、キュルケの炎を吹き飛ばす。そのまま二人のギトーは杖を合わせ、強力な魔法を放ってくる。

『ライトニング・クラウド』!

 それはキュルケの全身を打ち貫き、その体を焼き焦がす。その場に突っ伏すキュルケ、ギトーは勝利の笑い声を上げるが、キュルケがそれ以上の大笑いをする。

「「なっ、何が可笑しいっ!」」

 キュルケは立ち上がると、高らかに言い放つ。

「あたしの勝ちよ!」

 そう言った瞬間、二人のギトーの周りに巨大な火柱が立ち上る。それは瞬く間に円を作り出し、ギトーを包み込む。

「ウギャァァァァッ!熱い、熱いぃぃぃぃぃ!何故、なぜぇぇぇっ!?」

 キュルケは狂ったように笑い出す。

「アハハハハハハハッ!あんたは自分の力を過信しすぎたのさ!死ね、死ねぇ!薄汚い男め!この世に一片も残さず燃え尽きろォォォッ!アハハハハハハハッ!」

 キュルケが放っていた『フレイム・ボール』、それはギトーの風で霧散したかのように見えていたが、全てギトーの周りに燃え移っており、その力を隠していたのだ。機を待っていたキュルケはギトーが油断した隙に一気に魔力を解き放ち、焼き尽くしたのだ。

(あんたがワルド子爵のような実力者ならともかく、その程度ならあたしの足元にも及ばないわ…)

 ギトーは全身が燃える中、『何か』を取り出す。

(もうダメだ…おしまいだ…ならば、ならば…全てを壊してやるっ!)

 キュルケが狂った笑い声をあげていると、その炎が膨れ上がり、突如霧散。中から異形が姿を現す。

 

 

 

 

 

「ギシャァァァァッ!」

 

 

『異形進化怪獣・エボリュウ』

 

 

 

 

 突然の怪物の出現に教師達はパニックを起こす。マチルダはあまりの事に動けないでいるキュルケをかっさらいエボリュウが振り下ろした鞭から救い出す。

「ぼさっとしない!走るよ!」

「えっ、あ、はい!」

 キュルケとマチルダは迫るエボリュウから逃れようと全力で走る。しかし、エボリュウはギトーとしての意識が強く残っているのだろうか?オスマン達の攻撃を受けてもお構いなしに追いかけてくる。

「「ここは!?」」

 いつの間にか二人はマチルダの花壇の所まで逃げて来ていた。これ以上は逃げられない。二人は覚悟を決め花壇を背に杖を構える。

「いくよツェルプストーッ!」

「えぇっ!ミス・ロングビル!」

 振り下ろされるエボリュウの鞭、キュルケは全力の『フレイム・ボール』を打ち出し、マチルダは巨大なゴーレムを作り迎え撃つ。エボリュウの体にあたり弾ける『フレイム・ボール』、エボリュウの鞭で崩れ去るゴーレム。

((ここまでか…))

 二人は目を閉じようとしなかった。ギトーに負ける訳にはいかない。最後まで戦ってやる。という気持ちの表れだった。

 

 

 

 

 

 だからこそ、『その瞬間』を見逃さなかった。

 

 

 

 

 突然蔦が二人の後ろから無数に伸び、エボリュウの体を絡め取ったのだ。そのまま後ろに引きずり倒す。

「ギシャァァァァ!?」

 二人はあっけに取られていたが、その蔦の一本がキュルケに近づいてくる。身構えるキュルケだが、蔦は花壇からチグリスフラワーを一本取ると、それをキュルケの髪にさす。

「え?」

 次に蔦はキュルケの頭を優しく撫でまわす。まるで、甘えるように。キュルケはよく見ると蔦がチグリスフラワーと同じところから伸びている事に気が付く。そして、今までの蔦の行動を思い出す。

(最初の時、この蔦はあたしの頭を撫でていった。もしかして…あたしを励ますため?次は私を襲った男たちを殺した。あたしを守るため?まさかあたしの杖を持ってきてくれたのも?)

「まさか…あなたが?全部!?」

 蔦は頷くようにぴょこぴょこと上下する。マチルダは理解が追い付かず不思議そうな顔をしているが、キュルケは全てが繋がる。蔦はキュルケに頬ずりすると、その杖に巻き付く。キュルケはそれで何かを察する。

(まさか…でも…そうか…あなた…分かったわ!)

 キュルケは杖をとり、呪文を詠唱する。それを聞いたマチルダはぎょっとする。

「そっそれは!?」

 キュルケが杖を構えると、その傍らに黄緑色の鏡の様な物が現れる。

 

 

 

 

 

 

「サモン・サーヴァントッ!おいでっ!あたしの使い魔、チグリスフラワー、いえ、『チグリス』!」

 『サモン・サーヴァント』のゲートはキュルケの隣で凄まじい勢いで巨大化、膨張していく。それに比例するようにマチルダの花壇が陥没、沈んでいく。ゲートから現れたのは腹部に巨大なチグリスフラワーが生えた巨体。

 

 

 

 

「ピキューーーン!グギャァァァッ!」

 

 

 

『宇宙大怪獣・アストロモンス』

 

 

 

 

 

 

 




続きます。それでは、良いお年をお迎えください。(残り3分切って何言ってんだ)


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ゼロの使い魔~真心~特別というか…設定について書きたくなった回

新年あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。今回は本編は少しお休みして、ゼロの使い魔~真心~の才人達の設定について色々お話しようと思いつきました。


こんな事を考えて今まで書いてたよというのを書いていきます。「興味ねーよ」という方は次回をお待ちください。



 主人公から順番に。

 

平賀才人

 トンでも理論でウルトラマンコスモスに変身する能力をもらった主人公。原作とは別人レベルで性格が違っている。スケベな所は意識して書いているがあまり上手く書けている気がしない。最初はウルトラマンの写真を見るだけでニヤついてたのに、いつの間にか殆ど見なくなってしまった。(私自身時折忘れる…)今の所それ以外設定にぶれは無い。

 

 

 

ルイズ

 正直言って最初は空気キャラにする気満々だった。と言うより、今まで見て来たゼロ使クロスオーバー(ルイズ以外がヒロイン)が皆そうだったから。だが自分で書いてみて、原作も再度読み直してみて、それじゃもったいない良い女だと思い直し、アルビオン編では出ずっぱりになった。今後も大活躍予定。

 

 

 

フーケ

 どうしてこうなった?レベルで原作と違う人。才人をギーシュとの決闘前にウルトラマンに変身させたくて、ついでに名前も一緒に明かせないかな?と考えていたら、レイロンス戦のストーリーを思いついた為、盗賊という事を隠しながらも才人を助けてくれるお姉さんになっちゃった。今では完全に年上ヒロインに。ついでに言うと、花についての設定は私の捏造。原作には全く関係ない。

 

 

 

ギーシュ

 クロス物で一番に魔改造主人公の餌食になる人。それが嫌であえてその前にレイロンス戦を挟んだ。結局才人と決闘はするんだけど、それも次のベムラー戦に繋げたかったから後ろからの不意打ちという卑怯な事をさせてしまった。逆にそれがあったから前回のギーシュ大活躍を考え付いた。だから才人・ルイズ・ワルドについて行かせなかった。ここは違和感を持った人がいたかもしれない。

 

 

 

キュルケ

 こんなのキュルケじゃない。と自分で書いてて思ってしまう程違う人。アストロモンスの話に繋げたくて色々考えていたら、気丈なヒロインが落ち込むのはどうだろうと思いつき、実際にそうしてしまった。フレイムの件も合わせて酷いことをしてしまったと結構後悔している。でも怪獣を使い魔にしているキャラクターがどうしても欲しかった。

 

 

 

タバサ

 現状完全な空気。今後活躍させる。これ絶対。

 

 

 

ミシェル

 昔アニメを見てから「おっぱいいいなぁ…」と思ってたキャラクター。改めて見直して「おっぱいいいなぁ…」と思い直したキャラクター。ゼロ使クロスオーバーで私の尊敬する大先輩にあたる方の作品を見て、メインヒロインに入れたいと思い、登場させた。そこで最初から考えていた味方のピット星人の役割を割り当てた。(と、言うよりアニメオリジナルで詳しい設定が無い為好き勝手し放題と思い、現状、好き勝手してる)本編で出す予定が無いのでここでばらすが、ピット星人名は「セーラ」

 

 

 

アニエス

 最初ピット星人の姉は生きてる予定で、アニエスはその姉という設定にしようと思っていた。しかし、一度書いてみて「なんか…なんか違う」と思い変更。別の設定に変えちゃおうと思い今のアニエスになった。

 

 

 

セニカ

 銃士隊の実力ナンバー3。ツルク星人を銃士隊が倒す時、銃士隊の名前のある人が上記二名のみだった為考えたキャラクター。性格はお茶らけとまではいかないが、明るい性格。ミシェルと才人を取り合う描写も書けて、私個人的に「ラッキー♪」と思ってる。名前の由来は「ドラゴンクエストⅪ」の「賢者セニカ」。大元の人とは全く関係ない。(ついでに言うとイフェメラの時の村のラハディ村長もドラゴンクエストⅪの登場キャラクターから名前をもらった)

 

 

 

モット

 てめぇ誰だよ?レベルでアニメと違う人。そもそも原作出てないし。ていうか尻(バド星人)だし。最初は本当に悪いバド星人で「アーマード・バド星人」もこいつだった。が、その前に何の偶然か「銀河英雄伝説」(古い方)を見てしまい、その登場人物の「ヤン・ウェンリー」みたいな人を出したくなってしまった。しかし、「ヤン・ウェンリー」という人物を書く技量が私に無いため、バド星人の穏健派、アイの尻に敷かれる尻になってしまった。(ヤン・ウェンリー好きな人いたら、その名前を出してしまい本当に申し訳ない)

 

 

 

モット(大元)

 クズ・ゲス・デブ・変態の四重苦。まぁもう死んでるからいいか。

 

 

 

アイ

 モットの家の使用人。私オリジナルのキャラクター。モット(大元)とモット(尻)の違いを分かりやすく伝えたかった為考えた。名前の由来は十八禁ゲームの「魔法少女アイ」のヒロイン「アイ」から(検索しちゃ、ダメよ♡)セニカと同じく大元の人とは全く関係ない。

 

 

 

ギトー

 原作にちゃんといる。私は卑怯な野心家、凄まじいナルシストに書いたが原作ではそもそも出番が殆ど無い。(私も読み返すまで忘れてた)

 

 

 

クレシェンテ教諭

 最初の方に出て来た初のオリジナルキャラクター。500エキュー横領しただけの人。名前しか出てないし、今後出す気は微塵も無い。名前の由来…というか適当にキーボードカチャカチャして出て来た予測変換の一つを名前にしただけ。

 

 

 

アンリエッタ

 はっちゃけさせ過ぎた人。原作はあんなではない。…とも言えなくもない。(なんせロイヤルビッ…ゴホンゴホン)

 

 

 

ウェールズ

 原作読み直して「え?暗殺する必要ある?」と思い、自分で暗殺する理由を絞り出して書いた人。プロレス技を喰らわせることは最初から決めていた。決定事項だった。生き残させるかどうかが問題になってくるゼロ使クロスオーバーで若干扱いづらい人。(昔、ウェールズがウルトラマンの力を得るというクロス物もあり、「それしたい!」と思っていたが才人の設定的に無しにした。)

 

 

 

ワルド

 お前は誰だっ!偽物めっ!正体を現せっ!レベルで原作と違う人。原作ではルイズの『虚無』の可能性を確信し、狙っていたが、ゼロの使い魔~真心~ではホントにルイズが好きなキャラクターにした。その為にだいぶ前から本編に出し、出来る限りのひょうきんさを書いていた。才人とのラ・ロシェールでの決闘ではルイズがヒロインだと才人が負けて悔しがり、ルイズがヒロインじゃないと才人が負けて「君じゃルイズを守れない」と言われても「あ~、はいはい」というのが私の見て来たテンプレだった。違うのにしたいと思った。と、言う訳で前々から準備をし、顔面粉まみれの結果にした。個人的には気に入っている。才人とワルド、二人の死闘は私の全力をぶつけて書いた。同じようなのをもう一度書けと言われたら、「無理」と即答する。

 

 

 

黒ローブの女性

 えっちぃ人。最初は現在の黒ローブの女性のポジションはミョズニトニルンで考えていたが、どうせならレギュラーにしちゃおうと思い、現在に至る。設定は固めているが、今はないしょ。(吸血鬼ではないか?と思っている人はいるだろうか?私の技量不足でホントに吸血鬼っぽくなってしまっている描写があるが、断言します。違います)

 

 

 

リム(エレキング)

 丸い、小さい、ちんちくりん、可愛い。個人的には一番のお気に入り。戦闘能力面では強くしすぎた感が凄いが、「…へっ…出て来たって無理無理┐(´∀`)┌」というふうにはしたくなかった為、現在の戦闘力に。後、私の持論。ちっちゃいは可愛い。名前の由来は「ウルトラマンメビウス」に出て来た「リムエレキング」から。

 

 

 

 

 

 

 以上、こんな感じで終わります。次回をお楽しみに。

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでくださった皆様、ありがとうございます。突発的に思いついてしまったので今回書いてしまいました。次回より、ちゃんと本編です。




紹介が遅れました。

へドラ2
 むっつり助平。中二病。


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ゼロの使い魔~真心~第49話

本当にお久しぶりです。お待たせしました。続きです。そして、今回も長いです。詰め込みすぎました…まずは前回書き忘れた所から。



デルフリンガー
 まさかの変身アイテムになった剣。素人状態の才人がいきなりコスモプラックを作り出して変身するのは変かな?と思い、現在の立ち位置に。原作動揺色々設定を考えているが、まだまだ先の話。戦闘面でアドバイスを出す時に一番重宝し、不自然じゃないと思っている。また、才人とデルフリンガーだけで会話出来て、話を進行できて便利。と、私が勝手に思っている。


 アニエスから魔法学院に賊が侵入したという一報を受け、モット邸から飛び出し一時間、ミシェルは学院近くの街道に到着、同じく学院へ向かう銃士隊本隊と合流していた。

「状況は!?」

 馬で並走するセニカに話を聞くと、賊は生徒達を人質をとり立てこもっているとの事。一刻も早い事態の収束が迫られる状況、急がねばならない。

「おいっ!?ミシェル!あれは何だ!?」

 学院が見えてくるという所まで来たところで、アニエスが驚きの声を上げる。ミシェルがアニエスの隣に馬を寄せると、学院の外壁越しに肝を抜かれる光景が待っていた。

「あっ、あれは?!」

 学院の敷地内を暴れ回る見た事も無い不気味で、巨大な生命体。それだけでも十分驚きなのに、直ぐ後に信じられない程大きな『サモン・サーヴァント』のゲートが発生。更に巨大な奇怪な生物が姿を現す。

「宇宙大怪獣アストロモンス!」

 

 

 

 

 

 

 オスマンはとうとう耄碌したかな?と自問自答する。人よりも遥かに長く生きて来た自身の人生の中で一度も見た事も無い巨大な『サモン・サーヴァント』のゲート。そこから出て来たのは何だ?ドラゴン、ワイバーン…そんなものでは足元にも及ばない程巨大で、今しがた焼け死んだはずのギトーが膨れ上がり誕生した異形、それよりも更に大きい体。

「無駄に長生きしても得る事は無いと思っておったが…これは…」

 オスマンは今しがたその巨大な魔獣を呼び出した少女を、異形達の足の間から視界に収める。

「良いものを見せてもらったよ、ミス・ツェルプストー」

 オスマンはどっこいしょと他の教師たちに身を任す。老骨に鞭打ちすぎたようだ。全身を疲れに支配される。オスマンは他の教師達と一緒に事の成り行きを見守る事にする。

(わし達に出来るのは…見守ることのみ…行きなさい…やりなさい。ミス・ツェルプストー。君の思うままに…)

 オスマンが独白するのと、二匹の巨体が吠えるのは同時だった。

 

 

 

 

「グギャァァァァッ!」

「ギシャァァァァッ!」

 

 

 

 

 『チグリス』とエボリュウの戦いが始まった。互いに突撃し、ぶつかり合う巨体。衝撃波は学院を揺るがし、見ている者を恐怖ですくませる。パワーで遥かに勝るチグリスは何の苦も無くエボリュウを吹き飛ばし、学院の外壁に叩きつける。

「ギシャァッ!?」

 あっさり吹き飛ばされたことに戸惑うエボリュウだが、立ち上がる前に追撃の鞭を浴びせられる。自身も鞭を伸ばし対抗しようとするが、あまりにも強靭なチグリスの鞭の前に容易く弾かれてしまう。

「ギャァァァァッ!」

 叩きつけられる度にエボリュウの体を打ち砕き、叩き潰し、破壊していくチグリスの鞭。エボリュウはその巨体を転がし逃れると、両手の鞭を一房にまとめ上げ、チグリスの鞭と同じ太さにする。

「グギャァァァァッ!」

「ギシャァァァァッ!」

 互いに放った鞭の一撃…一瞬互角に見えたが、それは瞬く瞬間に終わる。痛々しい引きちぎれる音と共に、エボリュウが苦痛の咆哮を上げる。轟音を上げ、倒れ込むエボリュウ。

「いいわよチグリスッ!そのままやっちゃえ!」

 チグリスの戦闘力に喜び飛び跳ねるキュルケ。側で見ていたマチルダは衝撃の光景に腰を抜かしていた。

「…こっ…これが、チグリスフラワーの正体…?」

 その時、エボリュウがこちらに視線を向けたことにマチルダは気が付く。その瞬間、エボリュウの右腕に一本残った鞭が二人に迫る。

「「うわぁっ!?」」

 一瞬で巻き付くエボリュウの鞭。凄まじい勢いで引き寄せられ、エボリュウの手の中に納まる。

「グギャァ?!」

 人質のようにチグリスに二人を見せつけるエボリュウ。ギトーの意識が少なからず残っている分、頭も回るようだ。先ほどまでの攻勢とは一転、チグリスは攻撃できなくなる。

「グルルルル…」

 攻撃に移れず唸るチグリス。それを見てエボリュウは嘲るように笑い、左腕から電撃を放ちチグリスを攻撃する。

「グギャァァッ!?」

「ギシャァァァァッ!」

 腹部に電撃を受け、その場にうずくまるチグリス。立ち上がろうとすると、エボリュウの左足に蹴り飛ばされ、踏みつけられる。

「チグリスッ!あたしに構わずに攻撃してっ!」

 叫ぶキュルケ。チグリスはイヤイヤ、と首を振ってキュルケに訴えかける。しかし、キュルケは大声で叫ぶ。

「お願いっ!戦ってチグリスっ!あなたまで失いたくないっ!」

 キュルケは涙を流してチグリスに訴えかける。キュルケはフレイムを殺されている。これ以上目の前で自分を想ってくれている者を奪われるのは我慢ならなかった。その時、キュルケの肩に優しく手が置かれる。

「安心しなツェルプストー、今出してやるっ!」

「え…?ろっ、ロングビルっ!?」

 いつの間にかマチルダはエボリュウの鞭から抜け出し、『ブレイド』で鞭を切り裂きキュルケを助け出そうとしていた。

「どうやってっ!?」

「なーに、肩外せば楽勝さねっ!」

 キュルケは想像しただけで身震いする。しかし、流石は元盗賊『土くれのフーケ』。どんな危機的状況も乗り越えてしまう。

「もう…少し…だぁぁっ!」

 肉を引き裂く音と共に、キュルケを絞めつけていた鞭が切り裂かれる。宙に投げ出された二人は『フライ』でその場から離れようとした。…ところである事に気が付く。

「「魔力切れっ!?」」

 キュルケは『フレイム・ボール』連打、マチルダは今の全力の『ブレイド』で魔力が底をついてしまったのだ。このままでは地面に激突する。

(せめてツェルプストーだけでもっ!)

 マチルダはキュルケの頭を抱えると、自身の背中を下にし、目を閉じて迫る衝撃に備える。

「…?」

 しかし、軽い衝撃だけで落下による痛みは襲ってこない。マチルダは恐る恐る目を開けると、地面から微かに浮いている事が分かった。腰の下から伝わるのは丸い感触。

「…?…ッ!リムちゃん!?」

 二人を受け止めていたのはミシェルが慌てて投げ込んだリムだった。二人をそっと下ろしたリムは「ピキィ!」と誇らしげに小さい胸をはると、ふんぞり返っている。いつの間にか銃士隊が学院の敷地内に突入していたようだ。キュルケは足蹴にされているチグリスに向け叫ぶ。

「私たちは大丈夫っ!思いっ切りやりなさいっ!」

 チグリスはそれを聞くと同時、踏みつけてきていたエボリュウを背中で跳ね飛ばす。エボリュウは背中から叩きつけられるが直ぐに立ち上がり、両腕を振り上げチグリスに殴りかかる。が、それは容易くチグリスの鞭で受け止められる。

「ギシャ?!」

「グギャァッ!」

 チグリスはエボリュウの右腕を抑え込むと後ろに回り込み、左腕の鎌を振り下ろしエボリュウの右腕を切り落とす。エボリュウは激痛に吠えながらその場に崩れ落ちると、辺りを見渡して学院の教師達に目をつける。正確にはそこに捕らわれている二人のメイジに。

「ギシャァァァァッ!」

 エボリュウは決死の力で飛び出すと、マチルダが作り出したゴーレムの腕に捕らわれている二人をゴーレムの腕を吹き飛ばしてかっさらう。

「ギシャァァァァッ!」

 エボリュウは二人を全力で握りつぶす。突然の狂行。あまりの凄惨さに学院の教師や、銃士隊の一部面々は目を覆うが、オスマンは何かに気が付いたのかキュルケに叫びかける。

「いかんっ!急ぎ奴らに止めを刺すのじゃミス・ツェルプストーッ!」

 キュルケはオスマンの叫びに反応できず、チグリスへの指示が出せない。その時、握りつぶされたはずの二人のメイジの体が膨らみ始め、エボリュウの腕から零れ落ちる。着地したそれは、一瞬で膨張し巨大化する。

 

 

 

 

 

 

「「ギシャァァァァッ!?」」

 

 

 

 

 

『異形進化怪獣・エボリュウ』

 

 

 

 

 

 

(あの男達が持っていた筒が割れると、あのような魔獣に変わるのか!?)

 オスマンは二人のメイジが握りつぶされる直前、確かに見た。ギトーが変化した魔獣が二人のメイジを握りつぶす時、的確に二人の懐にあった筒を壊していたのを。しかし、重要なのは目の前の状況だ。

「魔獣が二匹っ!?」

 新たに現れた二匹のエボリュウは最初は戸惑っていたが、チグリスを見つけると途端に襲い掛かる。チグリスは突然の事に反応できずのしかかられ、鞭の殴打を受ける。

「グギャァァァァッ!」

 苦痛の咆哮を上げるチグリス、キュルケは大声でチグリスに指示を出す。

「鞭で足払いを掛けてっ!そしたら直ぐに反撃よっ!」

 チグリスは指示通りに鞭を振るい、二匹のエボリュウを転ばせる。チグリスは立ち上がると怒りをこめて二匹のエボリュウを睨みつける。チグリスは咆哮を上げると、口元から赤い光を吹き出す。

「グギャァァァァッ!」

 チグリスは口を大きく開けるとそこから凄まじい勢いで一万度の火炎放射を吐き出す。エボリュウの一匹は逃れようと身をねじるが、もう一匹は逃れる事が出来ず直撃する。

「ギシャァァ………」

 エボリュウの全身に引火。エボリュウはもがき苦しむが、その場で力なく倒れ込み炎の中で燃え尽き、崩れる。チグリスは立ち上がろうとするもう一匹のエボリュウに向き直ると、腹部のチグリスフラワーをエボリュウに向ける。チグリスは力むと足を踏み込み、腹部から霧状の溶解液を噴射する。

「ギシャァァッ!?」

 体表を溶かされ、ダメージによろめき膝をつくエボリュウ。それを見たチグリスは腰を落とすと、全速力で突進。自身の角をエボリュウの腹部に突き刺す。エボリュウが凄まじい悲鳴を上げる中、チグリスの角が激しく発光する。

「グギャァァァァッ!」

 チグリスはエボリュウの体内で角からの破壊光線を連続で発射、その体を内側から破砕しようとする。エボリュウは必死にもがくがチグリスの鞭で拘束され見動きとれない。遂にエボリュウは力尽き、内側から爆発、跡形も無く吹き飛んだ。しかし、そこでチグリスは体力が尽きたのか、その場に膝をつき息を荒くする。それを見たギトーが変化したエボリュウの口角が上がった。ようにマチルダは見えた。

「あいつ、笑ってる…?」

 エボリュウは左腕を振りかぶると、キュルケ達に向け電撃を放つ。チグリスは慌ててキュルケ達の前に立ちふさがり自身の体を盾にする。チグリスは苦痛の咆哮を上げるが、エボリュウは不気味な笑い声を上げる。その声を聞いて、キュルケは歯噛みする。

「あいつっ!分かっててやってるのねっ!」

 チグリスが体力を消耗し、キュルケ達を庇わなければならない状況を作り出したエボリュウは勝利を確信したかのように全力でチグリスを攻撃する。チグリスの肉の焼きただれる匂いがその場に広がる。このままでは…誰もが諦め掛けた時、ミシェルが叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「待っていろっ!今助けるっ!頼むぞ、リムっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 ミシェルに呼びかけられたリムは両手をぴっ!と真っすぐ上げる。その途端、チグリスを傷つけていたエボリュウの電撃がねじ曲がり全てリムに吸い寄せられ、直撃する。

「「あぁっ!」」

 キュルケとマチルダが叫ぶが、ミシェルは「ふふんっ」と得意そうな顔をすると、心配そうにしている面々にウインクして見せる。

「ふふっ!うちのリムなら心配ありませんよ!」

 言われて見ると、リムに降り注いでいた電撃はリムを傷つける事は無く、その全てが吸い込まれていく。エボリュウは驚くが、邪魔なリムを吹き飛ばそうとその左腕から放たれる電撃の威力を大きく上げる。

「ギシャァァァァッ!」

 数倍の太さに膨れ上がる電撃。しかしそれすらリムは余裕で吸い込んでしまう。

「ピキィ♪」

 電撃を吸い込んでいくにつれて膨れ上がるリムの腹部。明らかに余裕なリムを見たエボリュウは効果が無いと気が付いたのか、慌てて電撃を放つのを止める。

「ギシャァァァァッ!?」

 …エボリュウは電撃を放つ事を止めたはずだ。しかし止まらない。いや、正確には止められないのだ。踏ん張っても、腕を振り回しても、電撃を止められない。

「ピキィィィィッ!」

 なんとリムはエボリュウの電撃を伝い、その体内の電気エネルギーに干渉。無理に引き出させその全てを吸い尽くしてしまおうとしていたのだ。エボリュウは後ろを向き逃げ出そうとするが、左腕だけはリムの方を向いたまま電撃を放ち続ける。自身の体から力が吸いだされる事にもがき苦しむエボリュウ。しかし、抵抗虚しくリムにエネルギーを全て吸い取られてしまう。

「ピキュッ!」

 普段にも増して丸く膨れ上がったリムはげっぷを一つすると、その場にゴロンと仰向けに転がる。…膨らみすぎて手足が地面に届かず起き上がれないが。

「ギシャァ…ァァ………」

 消え入りそうな鳴き声を上げたエボリュウの体はゆっくりと光りに包まれ、光の粒子となり天に昇り消滅してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 学院の敷地内にて。全ての電気エネルギーを吸い取られ、本来の人間の姿に戻ったギトーは銃士隊に取り押さえられていた。しかしオスマン他、その場にいた面々は驚きを隠せなかった。ギトーが怪物になり、それから元に戻れた事に。

(電気エネルギーが底をつくと人間に戻るのか…?)

 ミシェルがギトーを縄で縛りあげながら考えていると、突然ギトーの体が震え始める。

「ふっ、ふふふ…ふははははははっ!」

 突然笑い出したギトーに驚く面々。しかし、いち早く反応したアニエスがギトーの左腕の関節をきめて頭を地面に押し付ける。

「貴様ッ!何が可笑しいっ!」

 ギトーは地面に頭を押さえつけられながら、キュルケやマチルダを見て狂ったように笑い続ける。

「ふははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!ふははははははっ!ふははははははっ!ふふははははははっ!」

 その時、ギトーの胸元からぽろりと何かが落ちる。ミシェルが何かと気になり拾ってみると、どうやら丸められた手紙のようだ。見覚えがあったミシェルは最初思い出せないが、三拍おいて思い出す。

(これはレコンキスタの指令書っ!)

 ミシェルが広げてみると、それは今回の学院占拠についての指令書だった。よく見ると宛名がミシェルになっている。これは本来ミシェルに届けられるはずのものだったのだろう。

(そうか…今まで送られてきた指令書は一度ギトーの所を通って来ていたのか)

 この指令書の内容をギトーが実行していた事。これらからミシェルはある事実に行きつく。

(今まで指令書が届かなかったのはギトーの所で止まっていたから…そしてその任務をギトーが実行。恐らく本来は唯の仲介役でしかなかったギトー自身を本部に売り込む為…)

 本来ならあの怪物になる何らかの『物』も自身に送られるはずだった…そう考えただけでミシェルは身震いする。今回はギトーの欲望に助けられたな、と思わずにはいられなかった。

「ふははははははははははははっ!ふははははははっふはっ!ふははははははっ!ふははははははっ!ふははははははっ!ふははははははははははははっ!ふははははははっ!ふふへほへはははひひひはははっ!」

 ミシェルが考えている間もギトーは笑い続けている。流石のアニエスも気味が悪いのか苦い顔をしている。

(どうしたんだこいつは…?………っ!?)

 その時、ギトーの頭を押さえるアニエスの右腕に、突如ぬるりとした感触が伝わってくる。アニエスはついに耐えられなくなりギトーから跳びのく。…その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 ギトーの頭がドロドロに崩れ出したのは。

 

 

 

 

 

 

 突然の異常事態にその場にいた面々に衝撃が走る。アニエスはより一層気味が悪くなり慌ててグローブを脱ぎ捨てる。それを見たセニカはアニエスに何かあったのかと心配になり、アニエスに駆け寄る。

「大丈夫ですか隊長っ!」

 アニエスとセニカは、手のひらを見て何も起きていない事に安堵し一息つく。その間にギトーは笑い続けながらドロドロと溶けていき、ついには骨も崩れ原型を留めない程になってしまう。キュルケは慌ててチグリスに向けて叫ぶ。

「チグリスッ!全部燃やしてしまって!」

 それを聞いたチグリスは威力を加減した火炎放射を『ギトーだったドロドロ』に放つ。火炎放射はドロドロに引火し完全に燃え尽きてしまった。

「これで…終わった…」

 キュルケは一言呟き自身の肩を抱くと、とても頼もしく巨大な新しい使い魔に寄りかかる。

 

 

 

 

 

 

 

 今回の事件の当事者全員は、燃え盛る炎から目が離せなかった。僅か半日に満たない時間で起きた衝撃の出来事の数々、彼等はこの日の事を忘れられないだろう。現に、今この場にいる者達全員ギトーの笑い声が頭から離れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数時間後、ミシェル達銃士隊はギトーの部屋を捜索していた。レコンキスタについて何か有益な情報が無いかを探すためだ。その間、キュルケはマチルダの花壇の前にいた。キュルケはチグリスの鞭に乗ると持ち上げてもらい、チグリスの口に自身の唇を押し当てる。正式な使い魔契約の儀式だ。

「これからよろしくね。チグリス♪」

「グギャッ♪」

 その様子をギトーの部屋の窓から見ていたミシェルは、今になっても目の前の現実が信じられなかった。

「あの凶暴なアストロモンスが人間になつくなんて…」

 そこにセニカがやって来る。ベッドの下から見つけたレコンキスタからの指令書を抱えて。

「すいません副長、お願いします」

 見つけられた指令書は古い物から新しい物まで様々だった。古い情報から新しい情報まで。細かい確認は戻ってからにして、今は簡単な確認にしようと指令書を流し見ていると、今日が結構日の作戦の通達所を見つける。

「ふん…ニューカッスルに攻め込む。アルビオンか…ん?」

 その時ふと思い出す。先ほどマチルダから聞いた話だが、今才人達は何処に行っているのだっただろうか?マチルダ曰く、一週間ほど前に朝早くに魔法衛士隊隊長ワルド子爵と共に出発したらしい。

「次は…と……うん?」

 ミシェルは一つ前の通達所を読んだ時、指令内容に眉をひそめる。

「ウェールズ王子暗殺…?実行は………ッ!?」

 ミシェルはそこに書いてある衝撃の事実に驚愕し、事の全てをアニエスに報告する。

「何だと!?本当かミシェル!」

「間違いありません!このままではサイトとミス・ヴァリエールが危険ですっ!」

 アニエスは予想外の報告にその場で腕組みをして考え込む。

「行きたいのはやまやまだが…しかし、どうやってアルビオンに行く?…今からではとてもじゃないが空でも飛べないと間に合わんぞ?」

 その時、ミシェルの口角が上がる。

「大丈夫です、あてがありますよ。とっても頼りになる子がね…」

 ミシェルは疲れて学院の外壁に寄りかかり、キュルケにじゃれているチグリスの姿を見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………と、言う訳でサイト。貴方を迎えに来たってわけ♪」

 ラ・ロシェール遥か上空。才人はキュルケからこれまでの事の顛末を聞かされていた。しかし、才人は半分程度しか内容が入ってこなかった。今自身が置かれている状況を受け止めきれていないからだ。

(…何で俺、『宇宙大怪獣・アストロモンス』の背中に乗っかってるんだ?)

 若干惚けている才人にマチルダとミシェルは心配そうに声を掛ける。

「まぁ…突拍子もないな。こんな事…」

「まっ、まぁ。助かったんだから良かったじゃないか」

 ミシェル、マチルダ、キュルケの三人はギトーの部屋で見つかったレコンキスタからの指令書を見た後、疲れ切っているチグリスに無理をさせてまで才人達を助けに来てくれたのだ。

「いや。急に鞭に巻き付かれて死ぬかと思ったんだけど…」

 才人の呟きを聞き流したキュルケは、空を飛ぶことの出来たチグリスを褒めながら優しく撫でていた。そんなキュルケを見て、「そんな事よりっ!」と叫ぶ人物が。

「キュルケもう何ともないのっ!?平気でいられるのっ!?」

 ルイズはキュルケに怒鳴りつけながらも、心配という感情が顔に滲み出ている。キュルケは一瞬押し黙るが、才人とルイズの肩に手を回すとあっけらかんと笑って見せる。

「アハハハッ!ありがとう二人ともっ!心配してくれて。もう大丈夫よ!」

 そう言うとキュルケは二人の頬に唇を落とす。すっかり元の調子に戻ったキュルケに安堵したルイズは何か言いたそうにしていたが、押し黙ってしまう。才人には直ぐに見当がついた。

(助けに戻って!…って言いたいんだろうな…)

 ワルドはまだニューカッスルで戦っているのだろうか?助けに戻りたいが、キュルケから聞いた話では今のアストロモンスは相当疲弊した状態だ。無理をさせる訳にはいかない。

(ルイズ…)

 才人の心配そうな視線に気づいたルイズは首を振り、ウインクで返事をする。

(『信じてるよ』…か)

 才人が納得した時、遂に限界が訪れたのだろう。ルイズは才人に体を預け、眠り込んでしまう。ルイズが完全に眠ったのを確認したキュルケは唐突に才人の唇を奪う。

「ふぐっ?!」

 本当に唐突な出来事に声も出せないマチルダとミシェル。そんな事お構いなしのキュルケは、才人の唇から離れるとそっと才人に寄りかかる。

「ありがとうサイト。貴方がチグリスとめぐり合わせてくれなかったら…貴方がいなかったら…あたし今頃死んでいたわ…あたしとチグリスを会わせてくれて、…ありがとう…」

 キュルケはそう言うとルイズ同様眠り込んでしまう。激動の一日で疲れが溜まっていたのだろうか。マチルダ達は仕方ないといった表情をすると、そっとしておいてやる事にした。そんな二人の様子をしり目に才人は遠く離れていくアルビオン王国を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

「必ず、帰って来いよ…ワルド」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅くなったっ!状況はどうなっているアニエス隊長!」

「全て終わっていますが?」

 結局、間に合わなかったモットだった。

 

 




続きます。今回で原作二巻のお話はお終いです。次回より、原作三巻のお話に進みます。


…遅くなってごめんなさい。次回はなるべく早いうちに。


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ゼロの使い魔~真心~第50話

続きです。記念すべき?第50話。ようやく才人達の話に戻ります。…そう言えば、主人公って才人なんですよ…まさか忘れてる人いないでしょうね?


 トリステインの王宮。ブルドンネ街の突き当りにあるそこでは、現在厳戒態勢が敷かれていた。当直の魔法衛士隊『マンティコア隊』の面々は幻獣に跨り、門の前を闊歩している。それというのも、今国中に広がる『ある噂』のせいだった。

 

 

 

 戦争が近い。隣国アルビオンを制圧した『レコン・キスタ軍』が侵攻してくる。

 

 

 

 この噂は王宮の警備体制が信憑性を高めていた。王宮の上空は幻獣、船を問わず飛行禁止令が出され、門をくぐる人物のチェックがいつもの十倍近く厳しくなっていた。いつもなら顔パスの仕立て屋や菓子屋の主人まで全員がチェックを受ける。

「待てっ!その者を取り押さえろっ!」

 青髪の女性とブロンドの髪の女性が門を通された時、背中に身の丈ほどもある大剣を背負った少年が兵士に取り押さえられる。…才人だ。

「おい何でだっ!身体チェックどころか何の用事かも聞かないのかよ!?」

「おいっ!早くこいつの剣を取り上げろっ!」

 才人達はチグリスにトリステインの町の近くに降ろしてもらい、アンリエッタ姫へ今回の密命について報告に来たのだ。

「俺は前二人の知り合いだっ!ルイズの使い魔だっ!」

 デルフリンガーを取り上げられた才人は必死に兵士に訴えるが、兵士は顔色一つ変えず言い放つ。

「無礼な平民だな。平民風情が貴族に話しかけるという法は無い。黙れ」

 この兵士の態度にカチンとくる才人だが、先に行っていたミシェルが戻ってきてくれた。

「お待ちください、彼は銃士隊副隊長ミシェルの付添人です。今朝がたの魔法学院立てこもり事件の被害者側の重要参考人として、ご同行をお願いしたのです」

 密命の事は誰にも口に出来ない。よってルイズと才人はこういった名目で王宮にやって来たのだ。これを聞いた兵士はミシェルを小ばかにしたような目で見る。

「ほ~う、どうやら副長殿はこのような男がご趣味なようで?いい趣味ですな~」

 ミシェルは頬が引きつるが、女ばかりの銃士隊が軍内で舐められているのはよく知っている。だからこそ無理に言い返して事を荒立てないよう愛想笑いをする。

(王宮内にはサイトを知っている人間も多い。彼等にもサイトの身の潔白の証明を…)

 ミシェルが周りを見て助けを求めようとした時、才人がポツリと呟く。

「お前ら…俺はいいけど、ミシェルをバカにすんな…」

 才人が怒りで今にも爆発しそうなのは誰が明らかだった。恐らく兵士はそれが狙いだろう。暴れた才人を逮捕するという状況を狙っているのだ。この兵士の明らかな点数稼ぎだと気が付いたミシェルは才人をなだめようとするが、それよりも早く、走って戻ってきたルイズが間に入り込む。

「お待ちくださいっ!この者はヴァリエール家三女、ルイズ・フランソワーズ・ド・ラ・ヴァリエールの従者に間違いありません!」

 ルイズは兵士に何度も頭を下げる。それを見て兵士と才人は驚愕する。あのルイズが頭を下げる?

「あああっ頭をお上げ下さい!ヴァリエール嬢!これはあくまで警備の為でして!武器を所持している以上別室で一度取り調べをするだけですのでっ!頭を上げてください私の首が飛んでしまいます!」

 その時、一人の大柄でたくましい髭ずらの男がやって来る。マンティコア隊の隊長だ。

「これは失礼しました。どうぞお通り下さい。ただし、武器はこちらでお預かりします。よろしいですね?」

 ようやく解放された才人は差し出されたルイズの手を取らず、自分で立ち上がり、三人並んで歩き出す。

「ごめんルイズ。デルフがいないから今力加減が出来なくて…」

「いいわ。それより大丈夫?怪我はない?あんたが感情的になって暴れでもしたら、この国の軍隊は全滅よ?!」

 それを聞いたマンティコア隊隊長が眉をひそめる。自分たちが全滅?この男一人に?

「失礼、ヴァリエール嬢。聞き捨てなりませんな。このマンティコア隊隊長ド・ゼッサール、をその者が一人で倒すと?」

 ルイズははっ!と、言い過ぎたと後悔した。事実だが、この場では明らかに不適切だ。一気にマンティコア隊にピリピリとした雰囲気が広がる。

「平民風情がバカにしやがって!」

 先ほどの兵士が才人に手袋を投げつけてくる。決闘の申し込みだ。

「さっ、サイト?落ち着いて?これは任務なのよ?密命なのよ?最後までやり遂げて、初めて任務達成なの?」

「サイト、落ち着け。暴れれば死人が出てしまう」

 必死に才人をなだめるルイズとミシェル。しかし、才人はギーシュの時同様、既に頭に血が上っている様だ。

「大丈夫、手加減するから」

 この一言がマンティコア隊全員に火をつけた。全員が杖を引き抜き、飛び掛かって才人に襲い掛かって来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アンリエッタは、執務室で相変わらず書類仕事に追われていた。目の前の書類の山と格闘している時、城の城門の方から騒ぎ声が聞こえてくが、多少の事は無視して仕事を続ける。…その時。

 

 

 ドガァァン!

 

 

 突然の轟音。アンリエッタはその衝撃に目を丸くする。いったい城門近くで何が起きているのだろう?仕事よりも、そちらが気になってしまう。その時、マザリーニ枢機卿がドタドタと執務室に駆け込んでくる

「姫様一大事です!城門前でマンティコア隊が平民相手に決闘を行っているそうです!」

「何ですって!?」

 守るべき国民を相手に杖を向けるなど、ド・ゼッサールは何をやっているのか?一刻も早く止めなければとアンリエッタは城門へと足を急がせる。

「あなた達っ!杖を収めなっ…!?」

 アンリエッタは城門から宮殿内への中庭で起きているであろう、凄惨な光景を想像して声を荒げた。…確かに、目の前には凄惨な光景が広がっていた。しかし、アンリエッタの想像とはまるで違っている。その違いに驚き、アンリエッタは言葉が止まる。

 

 

「うあぁ…」「たしゅ…けてぇ…」「うえぇ…お、おがーちゃーん…」「いたいよぉ…いたいよぉ…」

 

 

 マンティコア隊の隊員がボロボロになって倒れていた。いったいどれ程の暴行を受けたのか?中には元の顔が分からない程に顔面が腫れあがっている者もいる。ド・ゼッサールの姿が見えず探して見ると城壁にめり込んでいる姿が確認できた。

「ごべん…ぱさい、ごぺんばさい…」

「っ!」

 目の前の光景にばかり気をとられ気が付かなかったが、その中心にマンティコア隊の隊員が一人、襟元を掴まれ持ち上げられていた。持ち上げていたのは見覚えのある人物だった。よく見ると二人の女性がその人物を必死に止めようとしている。

(あれは、ルイズに、ミシェル…そして、ルイズの使い魔の少年…まさか!?全部彼が一人で!?)

「ミシェルに言ったこと、取り消してくれるかい?」

 才人は笑顔で、それでいて相手を威圧する鋭い眼光で先ほどミシェルをバカにした兵士を締め上げる。

「ばい…どりげじまず…どりげじまずがら…ゆるじぃでぇ…」

 兵士の謝罪を聞いた才人は手を離し、解放する。それを確認したアンリエッタは恐る恐るルイズに声を掛ける。

「あの~、ルイ…ズ?おっ、お帰りなさ~い…」

「「ひっ!?、姫さまぁ!?」」

 ルイズとミシェルは、現状一番会いたくない人に出会い声が裏返ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「…そのような事が…ごめんなさいルイズ。無礼な部下が…失礼しましたわ…」

「いえっ…あの、そのような事はっ!」

 アンリエッタの私室。そこには気まずい雰囲気が充満していた。先ほどの事件はアンリエッタはマンティコア隊が平民に先に杖を向けた事実を追及。才人の行為を不問にしてくれた。だからと言って、それで全てが丸く収まるわけでは無いが。…才人は頭が冷えて冷静になったのか、部屋の隅で小さくなっている。

「あのルイズ!帰ってきたという事は…」

 アンリエッタに言われて、ルイズは慌てて手紙を取り出す。

「姫さまっ!件の手紙はこちらにっ!」

 ルイズは今回の任務の出来事をアンリエッタに伝えた。駅の町での悲劇、ラ・ロシェールでの鉄の怪物事件、謎の空間での事件、ワルドと自身の父の真実、ウェールズ皇太子の戦い…才人の正体以外全て報告した。

「…そうですか…では、ウェールズ皇太子もワルド子爵も生きているかもしれないのですね?」

「えぇ…と言っても、生死を確認できなかったので…なんとも言えないというだけですけれど…最後にワルド子爵と一緒に戦っていたのでもしかすると…というだけです」

 少し暗い顔になるアンリエッタ。その表情からして、やはり亡命してほしかったのだろう。才人はそれを見て、ウェールズ皇太子から言うように頼まれていた遺言を思い出す。しかし、それはあくまで遺言。生きているかもしれない時に言ってよいのか考えてしまい、結局言い出せなかった。アンリエッタは暗い気持ちを押し込めると笑顔を作り、ルイズに微笑む。

「ありがとうルイズ。おかげで私の婚姻を妨げようとする暗躍は未然に防がれました。これで無事に我が国はゲルマニアと同盟を結ぶことが出来ましょう。」

 アンリエッタは明るい声で話そうと努めているが、唇が震えていた。内心心配と不安が渦巻いているのだろう。ルイズはポケットから『水のルビー』を取り出す。

「姫様、これ、お返しいたします」

 アンリエッタは首を横に振る。

「忠誠には報いるところが必要です。今回の報酬として、受け取ってくださいな」

 アンリエッタの私室から出たルイズと才人はミシェルに案内され宮殿内を後にした。どうやら、ミシェルが馬車で学院まで送ってくれるらしい。

「いいの?ミシェル」

 才人が聞くと、ミシェルは気まずそうに答える。

「あぁ…これ以上変なのに絡まれて軍に被害を出すわけにはいかんからな…」

「ごめんなさい…」

 まぁ、銃士隊本隊はまだ学院にいるし、リムも迎えに行かないといけないし、もう一つ用があるからな。と言うとミシェルは馬車を走らせた。その様子を、アンリエッタは窓から眺めていた。

 

 

 

 

 

「彼が強いのかしら?それともマンティコア隊が弱かっただけ…?どちらにせよ、彼の力…この国の為に役立ててもらえないかしら…?」

 医務室に運び込まれるマンティコア隊の情けない姿を見て、頭が痛くなるアンリエッタだった。

 

 

 

 

 三日後、正式にトリステイン王国王女アンリエッタと帝政ゲルマニア皇帝アルブレヒト三世の婚姻が発表、式に先立ち軍事同盟が締結される事となった。締結式の翌日、アルビオンの新政府樹立が布告されトリステイン、ゲルマニア両国に緊張が走るが、アルビオン帝国初代皇帝クロムウェルは両国に特使を派遣。不可侵条約を打診した。これにより、ハルケギニアに表面上の平和が訪れた。…政治家にとっては、夜も眠れぬ日々だが。

 

 

 

 

 

 魔法学院に戻ったルイズと才人は事の全てをオスマンに報告。労をねぎらわれ褒められた二人は凄まじい疲労から、早々に休む事にした。ルイズの部屋に向かう途中、才人はふと気が付く。

「あれ?アスト…チグリスは?」

 言われてルイズも気が付いたらしい。確かに、宮殿から帰って来てからあの巨体を見ていない。するとルイズの前の部屋からドタドタと物音がする。そこはキュルケの部屋のはずだ。何を騒いでいるのだろうと二人が聞き耳を立てた時…。

「くきゅ~!」

 バタンッ!

 突然ドアが開かれ、才人の顔面に直撃する。

「ぐはっ?!」

 ドアを勢いよく開けたのは、才人の視界に写る限りでは、ちんちくりんの生き物。しかし、ここで疑問が一つ。リムはミシェルがおんぶして帰ったはずだ。では、この生き物は何だ?

「こら~!もう寝んねの時間よ!」

「くきゅ~!」

 ちんちくりんを追いかけて飛び出してきたのは寝間着姿のキュルケだ。すれ違いざまにちんちくりんを抱きかかえたキュルケはふぅっ、と一息つく。

「やっと捕まえた~、もう!やんちゃなんだから!」

 キュルケはそこで茫然と見つめるルイズと顔面が赤くなった才人に気が付く。

「あらお帰りなさい。どうしたのサイト?その顔?」

 そのちんちくりんのせいだ!と、言いたかったが、そのちんちくりんの正体に気が付いたルイズと才人は目を丸くする。

「「それってまさか…」」

 キュルケは愛おしそうにちんちくりんを抱きしめる。

「そっ!この子はチグリスよ?」

「「えぇ~!?」」

 ルイズと才人の声が重なる。目の前にいるのはリムと同じようなサイズにまで縮んだチグリスだった。チグリスは鞭をキュルケの頭に巻き付けると、よじ登って肩車の体勢になっている。

「銃士隊の副長さんがね『しゅくしょーこーせんじゅ』っていうのをくれてね、チグリスを小さくしてくれたのよ」

 キュルケは懐から縮小光線銃を取り出す。ミシェルが言っていた用とはこの事だったのかと才人は気が付く。ルイズは理解できず首をかしげる。

「『しゅくしょーこーせんじゅ』って、何?」

「『縮小光線銃』な?そっか、ミシェルがもう一個用意してくれたのか」

 その反応を見て、キュルケは真剣な表情になる。

 

 

 

 

 

「…それを知っているっていう事は、副長さんが言ってたサイトの秘密は本当って訳ね」

 

 

 

 

 

 それを聞いてルイズは目を丸くする。才人の秘密…それは才人がウルトラマンコスモスである事に他ならない。それを副長さんが知っていて、キュルケも知っている?どういう事だ?

「あ~、まぁそっか。そういうの洗いざらい伝えないと、縮小光線銃持ってる理由説明できないもんな」

 才人は一人納得すると、ルイズがまだ知らない事を全て伝えた。ミシェルがピット星人である事、以前から共に戦っていた事、マチルダ、シエスタ等正体を知っている人が他にもいること等。それを聞いたルイズは頭がパンクしそうになるが、自分で頭の中を整理する。

「なるほどねぇ…(そう言うのは一番にご主人様に教えるべきなんじゃないかしら?…そういう訳にもいかないか…聞く分にはしょうがない場面が多いし…本当は言えない秘密なんだものね)」

 キュルケはチグリスを肩から降ろすと、胸の前で抱きかかえる。

「さっ、今日はもう休みましょ?お互い疲れてるし…」

 その時、チグリスも「くきゃ~…」とあくびをする。キュルケに聞いた話では、チグリスも相当に頑張ったらしい。そのあくびを合図に三人はそれぞれの寝床に入った。

 

 

 

 

 

 

 

「おやす…」

 ルイズは言い終わる前に布団に倒れ込み眠り始める。才人はルイズを仰向けに寝かせてやると布団を掛ける。そうして自分は藁の上に寝転がる。

「デルフ、お休み」

「おうお休み、相棒っ!」

 才人はデルフリンガーにおやすみを言うと目を閉じる。疲れに支配され、眠りにつこうとする。しかし、どうしても眠りにつく寸前、昼間の光景が脳裏に浮かぶ。

(俺が…傷つけた。あの人たちを傷つけた…)

 朝方にワルドと死闘を演じたばかりだったというのもあるのだろうか?あの時の自分はやけに頭に血が上るのが早かった。そんな気がする。でも、問題はそこじゃない。

(人を傷つける事に…慣れて来てる…?…喜んで…っ!?)

 そう考えた時、才人は激しい自己嫌悪に陥る。慣れる?喜ぶ?何を考えているんだ?そんなの、俺じゃない。人間、平賀才人じゃない。今まで戦う時には、守りたいものがあった。それが相手の命を奪う行為でも、それにより悲しむ存在がいると分かっていても、守りたいモノがあった。その為に力を使い、敵の命を奪ってきた。でも、あの時は違った。

(イフェメラの時もそうだった…どうも…頭に血が上ると、俺は暴力的になっちまうらしい…)

 自分の感情の赴くまま快楽の為に、自身が満足感を得る為に相手を傷つける…それは才人が一番嫌な事だ。でもそれを自分はしてしまった。思い出すと手が震えだし、反対の手で抑えても止まらない。もしマチルダやルイズ、ミシェルにキュルケ。大切な人たちにまで怒りで我を忘れ危害を加えてしまったら…。

(ダメだ…ダメだダメだダメだっ!)

 今日の行いを激しく後悔し、反省した才人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、才人は認めざるを得なかった。自分の心の中にある争いを嫌う感情を隠れ蓑に、争いを求め、力で蹂躙する事を喜ぶ感情が少なからずある事を。それが人間だったころから眠っていた物なのか、はたまたウルトラマンコスモスになってからの物かは、才人自身分からなかったが。

 

 

 

 

 

 

 

 




続きます。人を傷つける事に慣れる。喜びを感じる。そんなふうになりたくはないですよね…。


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ゼロの使い魔~真心~第51話

続きです。今回はキュルケが結局どういう所に落ち着いたかを書きます。まぁ暫くは平和が続きますよ。…たぶん。(でも今回閲覧注意です♪)


 黒ローブの女性は『レコン・キスタ軍』の兵士を連れてニューカッスルの戦場跡へとやってきていた。目的は一つ、ウェールズ皇太子の死体だった。

(…ウェールズ皇太子の死体が無い?)

 かつての名城、ニューカッスルは瓦礫の山になり無残に焼け焦げた死体が転がっている。しかし、レコン・キスタ軍の完勝…という訳では無かった。死傷者四千人の大損害を受けたのである。最も、半分はエボリュウの攻撃によるものだが。

(百倍以上の敵に対して、自軍の十倍以上の損害を与えた戦い…俗に言う、伝説の戦いっていう奴ね…まぁ、全滅してちゃ意味無いけど♪)

 黒ローブの女性は死体や瓦礫をどかしながら、コスモスとエボリュウの戦いを思い出していた。

(ウルトラマン、最後に諦めてエボリュウ普通に殺してたわよね?ってことは、ワルド子爵も死んじゃったはず…よね?…あーっ!もう!途中食べるのに夢中になって見てなかったのよね…)

 そう。黒ローブの女性は途中、伝令兵の内臓にむしゃぶりついていて見ていない時があったのだ。そこを境にウルトラマンがそれまでの受け身から一転、攻勢に移っていた。そこが唯一モヤモヤする所だった。

(あの間に何かあったんじゃないかと思うと、モヤモヤするわぁ~…)

 レコン・キスタ軍の兵士達にも探させているが、どれだけ探しても見つからない。死体を確認してこそ、確実にウェールズ皇太子が死んだと言えるのだが、見つかるのは全て焼け焦げた死体ばかりだ。

(顔も分からなくなるくらい燃えちゃったのかしら?…死体になってこそウェールズ皇太子には利用価値があるっていうのに…)

 そんなふうに考えていると、兵士たちから歓声が上がる。どうやら、死体から金品を剥ぎ取っては大騒ぎしているようだ。中には金品を飲み込んでいないかと、死体を切り裂いてまで探している兵士までいる。

(全く、あれが同じ人間にする事かね…?酷いもんだ…本当、人間ってのは愚かで、醜くて、汚らしくて…)

 黒ローブの女性は両手で頬を抑え、恍惚な表情を浮かべ体をくねらせる。

 

 

 

 

 

 

(…美味しそう♪)

 

 

 

 

 

 

 

 黒ローブの女性は今にも兵士達に食らいつきたい衝動に駆られるが、すんでの所で踏みとどまる。

(ダメダメッ!今は只でさえ先の戦いの被害のせいで人手が足りない時なのよっ!これ以上のつまみ食いはダメよっ!)

 …つまみ食いしていた事が既にあるようだ。黒ローブの女性は一人頭を抱えていると、後ろから兵士の一人に声を掛けられる。

「ミスッ!我らが同志、オリヴァー・クロムウェルが到着いたしましたっ!」

 黒ローブの女性は呼ばれると顔を引き締め、「すぐに行くわ」と伝えると兵士の後について行く。白毛の美しい馬が引く大きな馬車の荷台、そこから快活な声が聞こえる。

「やぁ!ミスッ!久しぶりだねっ!」

 黒ローブの女性は馬車の中に入ると、窓から一人のメイジに『サイレント』の魔法をかけるよう伝える。

「大事な話があるから、お願いね♪」

「はっ!」

 ドアと窓をしっかり施錠すると、黒ローブの女性はクロムウェルに向き直ろうとする。瞬間、軽い衝撃が黒ローブの女性の腹部に走った。同時に黒ローブの女性はあきれ顔になる。

「うわ~ん、会いたかったよ~んっ!ぼくちゃん、ちゃみちかったんだぞ~っ!」

 抱き着いたのは何と、オリヴァー・クロムウェルだ。黒ローブの女性の腹部に何度も顔をこすりつけてくる。

「も~う!予定の日になっても帰って来ないからぼくちんぱいしたんだぞっ!」

 …これが良い年した男の言動だろうか?世の中に誰一人としてこういう人物がいないと断言するという訳では無いが。黒ローブの女性は一つため息をつくと、クロムウェルの頭を優しく抱きしめる。

「ふふふっ!ごめんね~?そんなに心配してくれたの~、ありがと~♪私も寂しかったのよ~っ!今日はいっぱいギューギューしてあげるからね~♪」

 クロムウェルは馬車の中で黒ローブの女性を押し倒すと、上着を脱がせ息を荒くする。

「ねえねえ!今回の作戦、首尾はどうだった?」

 黒ローブの女性は笑顔でクロムウェルを抱きしめ、その豊満な胸で挟み込む。

「う~ん、少し狂っちゃったけど、何とかなりそう!大丈夫、私にまかせて!私たちが力を合わせれば必ずこの星を手に入れられるわ♪」

 クロムウェルは上機嫌になると、その体にノイズが走る。それを見た黒ローブの女性は明るくクロムウェルに語りかける。

「あら?外に音は漏れないし、見られる事も無いわ。無理に姿を変えなくていいわよ~?♪」

「それもそうだね!」

 クロムウェルはそう言うと顔の前で両腕を交差する。その瞬間、体はクロムウェルの姿から一変。銀色の鎧のような体に尖った頭、紫色の肉体を持った異形に変わる。

 

 

 

 

 

 

『悪質宇宙人・レギュラン星人』

 

 

 

 

 

「は~疲れた~っ!人間の恰好ってホントにカタッ苦しいんだよね~」

 そう言うとレギュラン星人・クロムウェルは背筋を伸ばし大きく伸びをする。腰を捻って音を鳴らすと、クロムウェルは改めて黒ローブの女性に覆い被さる。

「君がくれたこの『アンドバリの指輪』!すごいね、このマジックアイテムっ!これのおかげで人間共『虚無』を信じて疑わないんだよ!」

 黒ローブの女性はほくそ笑む。どうやらクロムウェルは上手くこちらの指示通りに役をこなし、人望を得られている様だ。まさに黒ローブの女性の思惑通りだ。

「君の戦闘力と情報収集能力、そこに僕の知略と演技力が合わされば出来ない事は無いっ!」

 黒ローブの女性はクロムウェルの楽しそうな言い方に軽く苛立ちを覚える。

「んっ!そっ、そうね…(…ガバガバの作戦しか立てられないくせに…っ!まったく、最後に作戦の粗を埋めてるのは誰だと思ってんのよ…)」

「あっ、そうそう」

 黒ローブの女性の上でクロムウェルは何かを思い出したのか、動きを止めずに何処からか書類を取り出し黒ローブの女性に読んで聞かせる。

「ガリアから一人女の使者が来たんだよ。何でも、サハラで学んだエルフの技術を提供しに来たらしいんだ。何でも、大砲の技術でね?この星の平均的な大砲の1.5倍の射程が有るらしいよ?でもさ~、その程度でふんぞり返ってるんだよ?あの女?」

「んっ、ん、ガ、リア?」

 黒ローブの女性は軽い衝撃に突き上げられながら、ガリアという国について考えを巡らせる。

(ガリア…そう言えばレコンキスタを作る時に金銭的に利用した国ね…んっ、ん…そう言えばこっちのやる事に色々注文つけて来てるのよね…なるほど、見張りっていう訳ね。レコンキスタがガリアの奴らの思い通りに動いているかどうかの……あっ、ん……)

「しかもぼくちゃんの側近にしろだなんて欲張りなんだ!」

 黒ローブの女性は少し息を整えると、クロムウェルの耳元で囁く。

「んあっ!、だ、大丈夫。ある程度中に潜り込ませてあげないと、あの国に不信感を与えてしまうわ。この星を手に入れるたっ、為に…不審な行動は禁物よ…あぁっ!…技術も上手く使わせてもらいましょうっ!不自然すぎて他の勢力に疑われると厄介よっ!(特にウルトラマンに)あんっ!」

 クロムウェルは囁いた後の黒ローブの女性の反応に気を良くしたのか、動きを激しくする。

「そうだね!僕の星の武器を知能の低い人間共に使わせる訳にもいかないし。かといって鋼鉄魔獣も使いすぎる訳にはいかない。なるほど、いい案だっ!流石だよっ!」

 黒ローブの女性はクロムウェルの動きに合わせると、腕をクロムウェルの背中に回す。

「あっ!(そうそう、あんたは私の言うとおりにしてればいいのよ…あまりの無能さに故郷の星から追い出された哀れな目立ちたがり屋…まぁ、その分私から敵の目を逸らさせるのに最適なんだけど♪)」

 その時、黒ローブの女性はクロムウェルを抱き寄せると眉をひそめ、顔をしかめる。

「んあぁ!(……唯一の懸念事項はウルトラマンに鋼鉄怪獣の存在を知られていて、尚且つ弱点を見破られている事ね…一応、対策を講じたけど…それを破ってくる可能性が高い。何せ相手は『あのウルトラマン』なんだもの…油断できないわ…)」

 黒ローブの女性は、次にウルトラマンと戦う時は全力で戦わないとこちらがやられてしまう。そう、覚悟した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな中、黒ローブの女性はふとため息をついた。いくら利用する為とはいえ、自らの目的を果たすためとは言え、『男を立てる』事がこんなにもめんどくさいとは考えていなかったからだ。正直言ってどんな任務よりも、どんな懸念事項よりも、クロムウェルを立てる事がめんどくさい。めんどくさすぎる。

(女は我慢よ…我慢っ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 王宮から帰った翌日、才人は朝早く目を覚ます。これはいつもの習慣だ。ルイズが顔を洗うために洗面器に水を張り用意するのだ。

「ん?」

 しかし、才人は不思議な事に洗面器を見つけられない。旅立つ前に置いておいた場所に無いのだ。何処だろう?そう思って部屋を見渡した時、絶対にあり得ない異常な事に気が付く。

「ルイズがいない?」

 普段この時間絶対に起きることの無いルイズが起きている?そんなバカな。確かに旅立ちの朝には早起きしていた。しかし、旅の間はルイズの起きる時間は普段とあまり変わらなかった。

「ルイズ何処だ!ルイズッ、ルイズーー!?」

 もしや、ルイズの身に何かあったのか?心配になった才人は部屋を飛び出そうとするが、それより先に部屋のドアが開き、既に着替えを終え制服姿のルイズが入ってくる。

「何よ朝から騒いで?」

 才人は思わずルイズに飛びつき何があったのか問いただす。ルイズは戸惑いながら説明を始める。

「いやぁ…私もね、一人で起きれなくっちゃダメかなって…何でも使い魔にやらせっぱなしという訳にもいかないでしょ?」

 ルイズは何を言っているんだ?才人はルイズの異常な発言に耳を疑う。

「どうした、ルイズ?まだ体調が良くないのか?熱でもあんのか?お前がそんな身の回りの事を自分でやろう何て…よく着替えの場所覚えてたな?」

 ルイズは言われて顔を真っ赤にする。

「どーいう意味よ!何でもかんでもやってもらわなきゃ出来ない訳じゃ無いわよ!」

 才人は呆然とする。ルイズに一体どんな心境の変化があったのだろう?確かに昨日までの旅は人の考え方、人生観を変えてしまう、悪く言えば狂わせる程の物だったろう。しかし、ここまでか?才人は疑問符が絶えない。

「じゃ、じゃぁ洗濯物出しとけよ…後で洗濯しとくから…」

 才人はそれしか言えなかった。というか、それしか言葉を出せなかった。目の前のルイズの変化に戸惑いが隠せないのだ。しかし、ルイズの返答に才人はまたも戸惑い、今度は腰を抜かしてしまう。

 

 

 

 

「洗濯ならもうしたわよ?」

 

 

 

 才人は目の前のルイズが偽物なんじゃないかと疑いたくなる。こんなにも自分の身の回りの事を積極的に行うなんて、ルイズらしくない。

「そっ、そう…か」

 才人は戸惑う事しか出来ず、ルイズを気まずそうに見上げている。その視線に気が付いたルイズは顔を赤くすると才人の手を取る。

「ほっ、ほらっ!朝ごはん食べに行くわよっ!?」

 才人はルイズに促されるまま後をついて行く。才人はルイズに言い表せぬ不気味さを感じながら、後について行くしか無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人は食堂までやって来たが、いつもより人がいない事に気が付く。食堂の入り口には立ち入り禁止の札がかけられており不気味な物静かさに包まれていた。

「あれ?今日は食堂使えないのかしら?」

 才人も分からず不思議そうにしていると、後ろから懐かしい声に呼び掛けられる。

「才人さ~ん、ミス・ヴァリエールッ!朝食はこちらですよっ!」

 二人を呼んだのはシエスタだ。才人は久しぶりの再会に喜ぶが、ルイズは少し不機嫌そうになると二人の間に入りシエスタに説明を求める。

「べたべたしない!で、どういう事!?」

 シエスタはきょとんとした顔をしている。

「ミス・ツェルプストーから何も聞いてないんですか?」

 才人とルイズは顔を見合わせるが、詳しくは本人から聞くようにシエスタに促され二人は中庭に連れて行かれる。中庭には簡易的な食堂があり大勢の生徒が集まっていた。その中にキュルケを見つけた二人は詳しい事情を聞いてみる事にした。

「お~い!キュルケ~?」

 キュルケはチグリスを膝の上に乗せ一緒に食事をとっていた。が、チグリスが中々食べようとせず悪戦苦闘していた。

「あらサイトッ!ちょうどいい所に!チグリスが全然食べてくれないのよ~、何か分からない?詳しいでしょ?」

 チグリスは口を開こうとせず、イヤイヤと首を振っている。アストロモンス、口、才人は直ぐに気が付きキュルケからスプーンを預かる。

「アストr…チグリスはここが口なのさ」

 そう言うと才人はスプーンをチグリスの腹部に入れる。するとチグリスは嬉しそうに食べ始める。

「「へ~、あなたそこが口なのね!」」

 キュルケとルイズは物珍しさに沸いているが、才人は一人気まずそうな顔をする。

(超獣まるまる一匹丸飲みに出来るとは、言えねぇよなぁ…)

「あぁそう言えばキュルケ?あんた食堂使えない理由知ってる?」

 ルイズはチグリスを撫でているキュルケに気になっていた事を聞いてみる。キュルケは屈託のない笑顔で二人に向き直る。

 

 

 

 

 

 

「あ~!食堂ね。私が殺した汚物共がまだ埋まってるのよ」

 

 

 

 

 

「「…え?」」

 二人はキュルケの発言に凍り付く。…殺した?…キュルケが?

「だって、汚物共はフレイムの仇よ?あんな物を生かしとく理由はないわっ!それに、汚物共はあたしを見捨てるような奴ばかり…生きていていいのはサイト、貴方だけよ。他の汚物はいらない。そう、貴方だけっ!」

 わざとだろうか?キュルケは笑顔で楽しそうに話している。才人にはそれが作り物の笑顔では無く心からの笑顔である事に気が付き背筋が凍る。

「サイト、貴方にはとっても感謝してる。貴方がフラワーセラピーを進めてくれなかったら私はチグリスと出会えなかった…心の底から、感謝してる」

 その時、キュルケの目から感情が消え、口元だけに笑みが残った。優しくチグリスを撫でる様子が不気味でならない。

「ありがとうサイト、貴方はあたしの『ウルトラマン』よ」

 

 

 

 

((怖っ、え、あっ!?怖っ!?))

 

 

 

 

 「また後で」と言いそそくさとキュルケの側を離れた二人はひそひそと話しながらルイズの朝食が用意されている席に向かう。

「ルイズ?俺怖いよキュルケってあんなんだったっけ?」

 ルイズは恐ろしそうに首を振る。

「あれ全然大丈夫じゃないわ…確かに男が平気になってるけど、あれは絶対、ダメな方」

 才人はフラワーセラピーが効果があって嬉しかったが、キュルケの変化が大きすぎた事への違和感が晴れない。

(人は変わりゆく物…だとしても変わりすぎじゃないか?…これ…)

「ほら、座んなさい」

「あぁ、ありがと…ぇ?」

 才人は変な声が出てしまう。ルイズは早く座るよう促すが、本来そこに座るはずのマリコルヌが抗議の声を上げる。

「おい、ゼロのルイズっ!そこは僕の席だぞ!お前の使い魔ごときを座らせる何てどういうつもりだっ!」

 ルイズはマリコルヌをキッと睨みつける。

「座る所が無いなら椅子を持ってくればいいじゃないの」

 才人は茫然としていた。何だこのルイズの態度は?昨日、急いでいたとはいえ才人の事を頭を下げてまでマンティコア隊から庇おうとしたり、それまで才人にやらせていた身の回りの事を自分でやったり…。

「ルッ、ルイズ…ルイズ?お前も頭大丈夫か?」

「大丈夫よっ!」

 ふとっちょのマリコルヌは自分が無視されかけている事に腹を立てたのか、ルイズの胸倉に掴みかかる。

「ふざけるな!平民の使い魔を座らせて、僕が椅子をとりに行く?そんな法は無いぞ!おい使い魔!その場に這いつくばれ!ここは貴族の食卓だぞ!」

 マリコルヌは正直なところ、才人を舐めていた。ギーシュを倒した?そんなの偶然さ。フーケを倒した?『破壊の杖』があったからだろう?そんな奴がゼロのルイズと一緒に調子に乗っている。というふうにしか見ていなかった。

「っ!待って落ち着いてサイトッ!」

 ルイズは自分が掴みかかられているにも関わらず、才人に落ち着くように言う。それと同時にその一帯から生徒や使用人が慌てて離れていく。マリコルヌは何事だと周りを見渡すと、ひそひそと話す声が聞こえる。

 

「確かあの使い魔…マンティコア隊の隊長を倒したんじゃ…」

 

「俺は一人でマンティコア隊を全滅させたって聞いたぜ…?」

 

「俺は…」

 

 どうやら既に昨日の事が噂になっている様だ。マリコルヌは「まさか…」と思っていたが、突然両手に激しい痛みが走りルイズから手を離してしまう。

「いだっ、ギャァァァァッ!?」

 マリコルヌは何事かと自身の手を握りしめる相手を見ると、それは才人だった。必死に笑顔を作ろうとしているのだろうか?頬が痙攣しているが、目は、笑っていない。

「女の子に暴力はダメなんじゃないかな?」

 極めて明るい、優しい声。しかし、顔は笑っていない。マリコルヌは必死に腕を振りほどこうとし、才人とルイズに罵声を浴びせ続ける。が、ルイズは構わず才人に抱き着く。

「お願い止めてっ!落ち着いてっ!私は大丈夫だから、怪我とか何もしてないから!」

 才人は必死に叫ばれハッとする。また自分はやってしまった。最近自分は怒りっぽすぎるなとマリコルヌの手を離す。その瞬間、マリコルヌの拳がルイズに当たる。

「痛っ!?」

「あっ!?」

 マリコルヌは才人を狙ったんだろう。しかし、がむしゃらに振り回していた手が偶然ルイズに当たってしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 それが…まずかった。

 

 

 

 

 

 

「ごめん、ルイズ」

「気にしない方がいいわ。悪いのはマリコルヌだもの」

 二人は並んで座って食事をしていた。才人は結局、ルイズが急に態度を変えた理由は分からなかったが。その一方で、ルイズは顔をしかめていた。

(やっぱり才人『私を守る』っていう事に敏感になってるみたいね…無自覚かもしれないけど…)

 ルイズはちらりと才人を横目で見る。

(やっぱり…サイト…人間にしか見えない。でも、本当はウルトラマン何て…誰が分かるって言うのよ…そう…誰が分かるって言うのよ!)

 ルイズは胸が苦しくなり、締め付けられるような感覚に襲われる。ルイズはそれが何か直ぐに分かった。自己嫌悪だ。

(着替えに…掃除に…洗濯に…食事は、床で…?私は誰に、何てことを!この世界を、トリステインを、姫様を守ってくれていた『あのウルトラマン』にそんな事をやらせていたの!?『あの』!?『あのウルトラマン』に!?この世界の英雄に!?)

 ルイズは才人に正体を明かされてから『才人はウルトラマン』という事が頭から離れずどうしても気を使ってしまっていた。しかし、アルビオンから帰ってきた翌早朝、何故か早起きしてしまったルイズはとんでもない事に気が付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 自分の部屋で、ウルトラマンが藁の上で眠っている。

 

 

 

 

 

 

 

(ああああぁぁぁぁぁぁぁっ!)

 ルイズは自己嫌悪で潰れてしまいそうだった。勿論、才人はこんな事気にしないだろう。だからこそ、ルイズは苦しかった。自分が今までして来た事が何一つとして許せなかった。才人は終始不思議がっているが、ルイズはあまりの恥ずかしさに言い出せないでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 追伸・マリコルヌは、もう二度と女性に手を上げないと誓うまで殴られ続けたらしい。

 

 

 

 

 




続きます。才人が段々切れる若者みたいになってきています。犠牲になる人がかわいそうです。(じゃ書くなよ)
さて、クロムウェルを出しましたが…黒ローブの女性と何をしていたかって?口にしてはいけません。これ絶対。
ルイズの変化、このくらいが普通?だと思います。半ば奴隷扱いの相手が実はウルトラマンだった。もうね、手のひらクルーですよ。





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ゼロの使い魔~真心~第52話

大変長らくお待たせいたしました。続きです。…これから書く内容は本編と関係ありません。全くの無関係、私の只の溢れ出る感情を書きなぐった物です。興味のない方はお話へどうぞ。




私事でお話と全く関係ない話ですが、体調不良で暫く臥せていました。その間、仕事から離れていたので時間が出来ました。それで、録画していたSSSS.GRIDMANを見て、全て見終わりました。(二か月遅れ)元々のグリッドマンが世代じゃないので見た事が無かったんです。なので原作DVDを借りて細々見ながら予習をしていました。結論から言うと原作のグリッドマン見なきゃ良かったです。あれ見たせいで最終回に凄い興奮して発狂しちゃいました。(体調悪いのに)「カッコイイイイーーー!マジかマジかマジか!ここで原作ОP!?」ってなっちゃいました。普段使わないし、俗っぽい言葉なんですけど、これでしか言い表せません。神アニメでした。


…以上!見てない人、興味ない人にはなんのこっちゃな話でした!すいません!お話へどうぞ!


 朝靄の中、才人は目を覚ます。太陽がまだ登り切っていない、薄暗い学院のヴェストリの広場の片隅、そこに張られたテントの中に才人はいた。

「起きたか相棒、おはようさん」

「あぁデルフ、おはよう」

 才人はかけていた毛布をどけるとテントから飛び出し、一回転して腕から着地。続けて腕のばねだけで飛び上がり、体を空中で回転させながら静かに着地をする。

「ふぅっ…よし、行くか」

 軽く体を動かしウォーミングアップした才人は学院の外壁にそってランニングを始める。300周程走るとデルフリンガーの素振りを始める。これを15000回。その後はマチルダから習った拳法の基本の型を繰り返す練習。これを二時間。以上が才人の朝の運動だった。

「はぁ…はぁっ…」

「よし、そんくらいでいいだろ相棒。お疲れさん」

 才人は流石に疲れてその場にへたり込む。…以前までの才人はここまで朝の運動は激しくなかった。しかし、ルイズが自力で起きるようになり、着替えに洗濯まで自分でやるようになった為、才人は朝の時間が大幅に増えたのだ。それに伴い、運動量も増やしたのである。

「そろそろ行こうか」

 才人は洗濯物を持つと水場へ向かい洗濯をする。服はパーカーを一着しか持っていないが、シャツは使用人のおさがりをシエスタに頼んでいくらか貰っている。汗をかいて濡れたシャツと一緒にそれらを洗濯しに行くのだ。

「おはようございますっ!サイトさん!」

「おはよう!シエスタ」

 この時間、シエスタも洗濯をしにやって来る。使用人達に洗濯を任せている生徒たちや、使用人の服を洗うためだ。才人は洗濯する時はいつもシエスタと一緒にしている。これはルイズの洗濯物を洗っていた頃から変わらない毎朝の光景だ。

「おはよう…サイト…シエスタ…ふわぁ…」

 そこに可愛くあくびをしながらやって来るのがルイズだ。頑張って朝起きてはいるが、やはり眠たいらしい。瞼がほとんど閉じている。

「おはよう、ルイズ」

「おはようございます!ミス・ヴァリエール!」

 ルイズは冷水が効いたのか、ビクッと体を震わせ完全に目を覚ます。

(っ!…これを私は毎朝『ウルトラマン』にやらせてたのね…ホント、打ち首ものよ)

 才人はルイズの様子を見て少し笑いそうになるが、頑張ってるんだから笑っちゃダメだと自身の頬をつねると、ルイズに明るく問いかける。

「なぁルイズ?『例の』は出来たのか?」

 『例の』?シエスタは疑問に思うがそこまで詮索して良い物では無いだろうと察し、洗濯に集中する。…何分、シエスタの洗濯物の量は二人のそれより遥かに多いのだ。

「…う~ん、少し出来たんだけど…聞いてくれる?」

 才人が頷くと、ルイズは静かに呟く。

「え~とね、『炎は熱いので気を付ける事』」

「事は詩的ではないだろ」

「あと、『風が吹いたら、樽屋が儲かる』」

「それことわざ」

「…こんな感じで…」

 ルイズはため息をつく。どうやらあまり進んで無いらしい。才人も、もうちょっと何とかならないものかと考え込む。

(でも、ぱっと見なにこれ?ってなるけど、実は奥が深いウルトラマン二世のウルトラ五つの誓いに通ずるものが…無いか…)

 才人はウルトラマンジャックが地球を去る際、坂田次郎少年に残したとされる五つの誓いを思い出していた。

 

 

 

 

 …ところで、何故才人は一人ヴェストリの広場で寝起きしていたのだろう?それは、数日前にまでさかのぼる。

 

 

 

 

 

 アルビオンから帰った翌日の朝食後、ルイズは学院長に呼び出されていた。学院長室ではオスマンが一冊のボロボロの本を見ながらぼんやりと髭を捻っていた。

「おおミス・ヴァリエール。旅の疲れは癒せたかな?…思い返すだけで辛かろう?」

 ルイズは途端に青くなり顔を伏せる。どうやら一番辛かった『才人の解体』を思い出してしまったようだ。

「私をお呼びと聞いたのですが…」

 オスマンは優しくルイズに語りかける。

「おぬし達の活躍で同盟が無事締結されるじゃろう…トリステインの危機は去ったのじゃ。そして、来月にはゲルマニアで無事王女とゲルマニア皇帝の結婚式が執り行われる。全て君たちのおかげじゃ胸を張りなさい」

 それを聞いてルイズは悲しくなる。幼馴染みのアンリエッタが政治の道具として好きでもない男と結婚する…アンリエッタの悲しむ表情が脳裏に浮かび胸が締め付けられる思いだった。ルイズが黙って頭を下げると、オスマンがボロボロの本を差し出してくる。

「これは?」

 ルイズは突然渡された本を怪訝な表情で見つめる。

「始祖の祈祷書じゃ」

「始祖の祈祷書!?これが!?」

 始祖の祈祷書といえば伝説の書物。国宝である。それが何故こんなところに?

「トリステイン王家の伝統で、王族の結婚式の際には貴族より選ばれし巫女を用意しなければならんのじゃ。選ばれた巫女は始祖の祈祷書を手に式の詔(みことのり)を詠みあげる習わしになっとるんじゃよ」

「はぁ…?」

 ルイズは王宮の礼儀作法にそこまで心得が無いため、気のない返事をする。

「姫様はの、その巫女にミス・ヴァリエール、そなたを指名したのじゃ」

「姫様が!?」

「その通り。巫女は式の前より始祖の祈祷書を肌身離さず持ち歩き、読み上げる詔を考えねばならぬのじゃ」

 ルイズは突然大役を任された事に戸惑いを隠せない。

「姫はミス・ヴァリエール、そなたを指名したのじゃ。これは大変名誉な事じゃぞ?王族の式に立ち会い、詔を読み上げるなど一生に一度あるかどうかじゃ」

 本当の所、ルイズは、アンリエッタが幼馴染みである自分を巫女に選んでくれた事が嬉しかった。しかし、やはり戸惑いの方が大きい。

「わっ、分かりましたっ!?謹んで拝命いたします!」

 ルイズは震えながら始祖の祈祷書を受け取る。オスマンは目を細める。

「快く受けてくれるか?良かった良かった。姫様も喜ぶじゃろうて」

 ルイズが退出すると、オスマンはため息をつく。

「どうしたんですか?」

 オスマンは、ルイズがいる間席を外してもらっていたマチルダが差し出した紅茶をすする。

「ふぅ…いや、あの始祖の祈祷書じゃが…偽物が国中にある事はおぬしはよく知っておろう?」

「…?えぇ、まぁ」

 マチルダは元盗賊。そういった事情には人一倍詳しい。

「あれは全くもって酷い出来じゃ…文字一つ書いとらんかったわい…」

「へぇ…(いやぁそうとも限らない…かな?まぁ、あくまであたしの感だけどね…)」

 夜、ルイズから話を聞いた才人は凄い、良かったじゃないかとルイズを褒めたたえた。しかし、ルイズは難しそうな表情を崩さない。

「どうしたんだよ?もっと嬉しそうにすればいいじゃないか」

「ううん…こんな大役、私に出来るのかしら…いえ、出来はしないわ…」

 才人はこんなにも落ち込むものなのだろうかと思うが、結婚式と言えば一生に一度しかあってはならない大切な物。詔一つで台無しにしてしまう訳にはいかない。しかもお姫様の物となれば重圧も計り知れない物だろう。下手をすれば姫様が一生の内に二回目の結婚式を計画しなければいけない事態になりかねない。

「…もう寝ましょう。何だか疲れちゃった」

 布団に入ったルイズを見て、才人も藁の上に寝ころぶが直ぐにルイズの慌てた声が聞こえる。

「そっ、そんな所じゃ体に悪いわっ!?こっ、こっちで寝なさいよ!」

 才人は瞬間、顔を引きつらせ飛びのきルイズにデルフリンガーを向ける。

「っ!やっぱお前ニセも」

「違うわよ!」

 才人の言葉を遮りルイズは顔を真っ赤にして反論する。才人も透視能力を使ってまでルイズが本物か探ろうとしたところで止めた。

「…そうだよな。そんなわけ無い…どうしたんだよルイズ?朝から変だぞ?」

 ルイズは正直に言ってしまう事にした。自分が『ウルトラマン』に今までしていた事、それに気が付いたこと。それについて気を使っていた事を。

「おいおい、そんな事気にしてたのかよ?」

「サイト…もうちょっと自覚持った方がいいわよ?自分がウルトラマンだって」

 その時、ルイズはふと以前から才人の正体を知っていた面々の事を思い出す。

(皆も自覚なさすぎよ!)

 才人は気を使わなくていいと言うが、ルイズは頑として譲らなかった。

「ともかく、ウルトラマンを藁の上で何てそんな…サイトには布団に寝てもらうわ」

 才人はルイズの肩に手を置くと首を横に振り、きっぱりと断った。

「っ!?どうしてっ!?」

「…ワルドに、不義理だ…」

「あっ…」

 ルイズは改めて思い出した。自分の想いが才人にばれている事、ワルドが才人に自分を守るよう約束したことを。

「あいつと約束したんだ。帰って来るまでルイズには手を出さないって…俺がルイズと一緒の布団で寝た何て知ったら、相当悔しがるぞ?」

 ルイズは才人がワルドとの約束を守ろうとしている姿を見て、自分が恥ずかしくなった。そもそもの原因を作ったのは自分なのに、自分を愛してくれる人の想いを踏みにじろうとしたのだ。

「…ごめんなさい」

 才人は少し考え込むと何か思いついたのか指をパチンと鳴らす。

「そうだっ!俺がこの部屋出るよ」

「…えぇ!?」

 ルイズは何か才人を怒らせてしまったのではと取り乱すが、才人はルイズを落ち着かせながら説明を始める。

「なぁルイズ?今日一日見てて思ったんだけどさ、いくら何でも気を使いすぎて無いか?」

「そんな事…」

 無いとは言えない。

「でもって、姫様の為の詔を考えなくちゃいけない…俺に気を使ってちゃ集中できないだろ?」

 才人の考えはこうだ。詔を作っている間だけでも離れて生活し、ルイズが気を使うことなく最高の詔を作れるように配慮したい。その間に、才人…『ウルトラマンコスモス』との付き合い方も少し考えてみてはくれないか?という物だ。

「それに、大切な幼馴染みの結婚式だ。…たとえ政略結婚だったとしても、最高の思い出にしてやれるかもしれないだろ?」

 それを聞いてルイズは胸が少し苦しくなる。そうだ、自分が姫様に出来る事は…。

「分かったわ。私、頑張るっ!姫様に最高の詔を献上するためだものっ!」

 

 

 

 

 

 この様子を見守っていたデルフリンガーはある事に気が付く。

(相棒が部屋を出る…それはそれでいいとして、一人になった相棒を他の娘っ子共が狙わないとは限らねぇんじゃねぇかい?…娘っ子共は心で砥いでた爪を剥き出しにするかもな。あの姐さんも…これは面白くなりそうだぜっ!)

 

 

 

 

 

 こういった経緯があり、才人は一人ヴェストリの広場で寝起きしていたのだ。勿論ルイズと一緒に授業には出るが、ルイズと一緒に授業に出なくていい間は才人はマチルダの花壇の修理に勤しんでいた。

「はぁ…はぁ…土が…足りない…はぁ…はぁ…」

 才人は汗を流しながらその場にへたり込んでしまう。実はマチルダの花壇の修理はここに来て手詰まりになってしまっていた。チグリス一匹分、5万8千tもの質量が抜け出たのだ。穴を埋める土が全く足りないのだ。

「…これが…さ、い…ごぉ…っ!」

 麻袋に詰まったシエスタの故郷の不思議な土。これを一気にぶちまけるが、大きすぎる穴を前にしては虚無感しか無かった。

「今度シエスタに頼んで故郷から土を送ってもらわないとだな…それとも俺が取りに行くか…?嫌ダメだ。場所が分からん」

 恐らくシエスタから教えてもらっても駄目だろう。飛べば直ぐだろうが…この世界に土地勘のない自分では聞くだけでは迷子になるのがオチだ。案内してもらえればいいが、日々仕事を真面目に頑張るシエスタを無理に連れ出す訳にもいかない。

「はぁ~あ…今日はここまでにするかなぁ…ん?」

 その時、教室の窓からルイズがさりげなく手招きしているのが見えた。またかな?と最近になって新しく日々の生活の中に増えたある事だろうとあたりを付ける。

「よっと」

 才人は手早く壁の凹凸や窓の冊子に手足を引っ掛けルイズのいる教室の窓の下まで来ると、ルイズから手紙を受け取る。ルイズは軽くため息をつくと、小声で才人に話しかける。

「また副長さんからよ。何て書いてあるかわかんないけど、まさか…こっそり逢引してんじゃないでしょうね?」

「違うよ。何なら読もうか?『海岸に怪獣が現れた。銃士隊は出動できない為、事態を収拾してもらいたい』だってさ。丁寧に学院からの地図付きさ」

 手紙はミシェルの伝書鳩が持ってきた物で、才人にも読めるように日本語で書かれていた。トリステイン国内には以前から怪獣の被害があり、それは才人がこのハルケギニアにやって来る以前からだ。アルビオンから帰って以来、被害の拡大を防ぐためにと頼まれたのだ。ミシェルとリムが行ける範囲の怪獣はミシェル達で何とかしているらしいのだが、流石に遠い所までは手が回らないからだそうだ。

(まぁマンティコア隊をボコった責任あるしな…)

「じゃ、行ってきます」

「気を付けなさいよ」

 ルイズが声を掛ける頃には既に才人の姿は無く、学院から見える遠くの空にコスモスの後ろ姿が見えるばかりだった。…その姿を生徒の一人が見つけてしまい教室中が大騒ぎになったのは別の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 コスモスが空を飛んでいるとデルフリンガーが気味悪く笑いながら語りかけてくる。

(へっへっへ、なぁ相棒?娘っ子に最後の所言ってねぇだろ?何て書いてあったんだい?お礼は私の体で~とかでも書いてあったんだろ?娘っ子に読めない文字で書くとは、あの副長さんもやるねぇ~!)

「デァァッ!?(バッ!?ちげぇよっ!)」

(じゃあなんだよ~?誰にも言わないから俺っちにだけ言ってみな?な?)

 少ししつこいデルフリンガーに仕方なくコスモスは白状する事にした。

(怪獣倒したら一緒に食事でもどうだって…帰りに王宮の近くでも飛んでテレパシーで断りでも言っとくよ)

(え~何でぇもったいねぇなぁ)

(次の授業使い魔が一緒に出ないといけないんだよ…ほら、もう着いたぞっ!)

 デルフリンガーのからかいを聞き流しながら山を越えると、向かいから飛んできた小さな竜にぶつかりそうになり慌てて身をよじる。

(あぶねっ!…ありゃタバサか?)

「キューイッ!キューイッ!」

(っ!?ウルトラマン!?…こちらを見ている…?)

 どうやら学院を離れていたタバサが帰ってきたようだ。…キュルケの様子を見てどう思うだろうか?コスモスが考えていると直ぐに海岸線が見えてくる。

(いたぞっ!)

 そこには緑色の体色に体の各部の体毛、角の様な物が生えた甲羅を持った巨体が口を地面に叩きつけながら暴れ回っていた。

 

 

 

 

「グシャァァァァァ!」

『虫歯怪獣・シェルター』

 

 

 

 

 

 『虫歯怪獣・シェルター』かつてウルトラマンタロウが地球を守っていたときに宮崎県に現れた怪獣で、ZATの作戦及び訓練の不備について世論が厳しく追及した一件の中心となった怪獣だ。別名で虫歯とあるが、別に当時のシェルターが虫歯であったわけでは無い。ZATの水中ロケットが歯の間に挟まってしまい、それを取ろうとして誤って関係のない歯を無理やり抜いてしまったのだ。

(あいつは…俺のいた世界じゃ人間のせいで暴れちまってな…また人間の都合で殺してしまった怪獣なんだ…)

 デルフリンガーは先程までのおどけた様子では無く、真剣な声色で呟く。

(っていう事は…元は大人しい奴なのかい?)

(あぁ、きっと今暴れているのも何か理由があるんだ!)

「デァァ!」

 コスモスは海岸沿いの家々の上に倒れ込むシェルターに飛び掛かると羽交い絞めにして何とか住宅街から引き離そうとする。

「グシャァァァァ!」

「デァァ!?」

 しかし、暴れるシェルターを抑えられず背中の大きな角で海中にまで弾き飛ばされてしまった。コスモスは再度シェルターに近づこうとするが、シェルターが振り向いたと同時に火炎放射を放ったため慌ててバク転で躱す。

「デァァァ!(しょうがない、『赤』だ!デルフ!)」

 コスモスは右腕を掲げると全身を赤い光で包み込み『コロナモード』に変わる。改めてシェルターに構え直すと今度はシェルターの前に立ちふさがり、真正面から抑え込む。

「デァァァ!」

 シェルターも負けじと押し返してくるが、コスモスはより腰に力を入れ一気に押し返し家々から距離を取る。

「グシャァァァァ!?」

 シェルターはその強靭な腕でコスモスを激しく打ち据えるが、コスモスは顔色一つ変えずシェルターを持ち上げて投げ飛ばし、背中から地面に着地させる。シェルターは少しダメージが大きかったのか起き上がれずもがいている。

「デアァ!(今だ!)」

 コスモスは透視能力でシェルターの全身をくまなく探し、何処か異常が無いかを探る。すると口元に何かが刺さっている事が分かった。

(あれかっ!)

 コスモスはシェルターの口を開かせようと掴みかかるが、触られるだけでもシェルターは苦しいようで先ほどとは比べ物にならない程に暴れ出しのたうち回る。

「グシャァァァァ!?」

 シェルターはコスモスに馬乗りになると、何度も殴りかかり火炎放射を吐きかける。コスモスはシェルターの背中を蹴り飛ばして脱出するが、状況は振り出しに戻ってしまった。この時、同時にコスモスのカラータイマーが警告音を鳴らし始める。

「デァァ!(くそっ!時間が…ん?)」

 その時、コスモスはシェルターの瞳から零れ落ちた物がはっきりと見えた。

(涙…そうだよな、辛いよなぁ…待ってろよ!)

「デァァァ!」

 コスモスはウルトラ念力を使いシェルターを抑え込むと何とかその口をこじ開ける事に成功する。

「デァァァ!(見つけたっ!)」

 それは船のいかりだった。鋭い部分がシェルターの奥歯の一本に突き刺さり、いかりに付いていた錆がシェルターの歯を腐食させていた。腐食具合から見るに相当古い物だ。恐らくずっと昔に人間が海に捨てた物を口にしてしまい、それが歯に刺さったのだろう。このシェルターは本当に虫歯だったのだ。

(今取ってやるからなっ!)

 コスモスはシェルターの口の中に手を入れる。シェルターが本能的に噛みついてくるがコスモスは狂い無くシェルターの奥歯を掴むことに成功する。

「デァァ!」

 

 

 

 スポンッ!

 

 

 

「グシャァァァァ!?」

 シェルターは力づくで歯を抜かれた痛みで大粒の涙を流してその場にうずくまるが、コスモスはすぐさま『ルナモード』に戻り、右の手のひらにエネルギーを溜める。

「デァァァ!」

『コスモフォース』!

 コスモスの腕から放たれた光はシェルターの口に注ぎ込まれ、抜かれた歯の部分の痛みを取り除いていく。シェルターは痛みが治まった事に気が付くと途端に大人しくなる。

「キュ?キュキュッ!」

 シェルターは先ほどまで暴れていたのがウソのように穏やかになると、スキップでもするかのように海の中に帰って行った。コスモスはそれを見届けると、安堵のため息をつき虚空の中に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 十分後、才人はコスモスに変身し帰り道についていた。

(ふ~、何とかなったなぁ…風呂にでも入って、ゆっくり休みたいなぁ…)

 以前、コスモスは厨房で使わなくなった大なべをマルトーたちコックからもらいヴェストリの広場に自分用のふろ場を作ったのだ。学院では平民の風呂は地球で言うサウナの様な物だったので才人は一日で入るのを止めている。

(風呂ってあれかい?裸でお湯につかるあれかい?)

 デルフリンガーが喰いついてきたことにコスモスは不思議そうにする。

(あぁそうだけど…それがどうしたんだよ?)

(いや、別に)

 デルフリンガーの素っ気ない返事に疑問を隠せないコスモスだが、タバサ達のようにまた前を見ないでぶつかりそうになるかもしれない。コスモスは飛ぶことに集中する事にした。

 

 

 

 

 

 

(相棒が裸で一人っきり…こりゃぁ娘っ子共が黙ってねぇな)

 

 

 

 

 

 

 

 




続きます。シェルターの回知らない人がいたらぜひ見てください。…ネットではコスモスブチギレ案件何て言われてます。






追伸・皆さんイン●ルエ●ザには気をつけましょう。


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ゼロの使い魔~真心~第53話

お待たせしました。続きです。さて、お風呂です。いや~原作読んだ当時ドキドキしましたね~。キスシーンよりも、ルイズの着替えよりも、キュルケの誘惑よりも、シエスタの真っ裸にドキドキした人、いると思います!(キモイ)

色々な怪獣のストーリーを考えていて、思いついたら何処に組み込もうかとか考えながら書いていますが、今回は風呂です。(今まで散々閲覧注意な♡シーン出しといて風呂シーンで喜ぶ哀れな私…)


 湯気が立ち込め、体を芯から暖めてくれる…そして、どこか不思議な魅力を放つ摩訶不思議空間。

 

それは…『風呂』

 

 ここはとても大きい湯舟、人が何人入るだろう?百人。皆が座ればそれくらい入れるであろう贅沢で巨大な風呂。そこに一人、飛び込むマナー違反者がいた。

「イィィヤッホォォォォーーーーー!」

 そいつは大きな湯舟をまるでプールでも泳ぐかのようにバシャバシャと泳ぎ回り、クロールなどをしてはしゃいでいる。

「いや~贅沢贅沢!」

 そいつは程よく引き締まった体を大の字に広げ、ぷかぷかと浮かびながら奥にある脱衣所で着替えようとしている女性に声を掛ける。

「お~い!早くおいでよ!一緒に泳ごうよ~~~~っ!」

 程よく引き締まり、メリハリのついた体の…クロムウェルは黒ローブの女性に声を掛ける。

「(ったく、誰得だよ…)は~い、ちょっと待っててね~!」

 ここはクロムウェルがアルビオンの首都ロンディニウムに作ったレコン・キスタ軍の地下活動拠点、の敷地内に作らせた巨大な彼専用の風呂場である。彼はこの拠点に滞在中は毎夜必ずここに入るのだ。そして、黒ローブの女性はここにいる間、必ず風呂に付き合わされているのだ。

(だから任務でここから離れたいっていうのもあるのよねぇ…)

 黒ローブの女性は一つ、どうしてもここから離れられない理由があるのだ。それはクロムウェルも知らない彼女だけの秘密、彼女の求める物の為にどうしても必要な物についてだ。

(アレの波はもうすぐ安定する…でも、『反応』が出るまでは油断できない…)

「お~い早く来てよ~!この前してくれたあのマットでのムフフなヌルヌルまたしてよ~!」

 そんな黒ローブの女性の気を知らず、クロムウェルはしつこく呼びかける。いつの間にか人間の姿から本来のレギュラン星人の姿に戻っており、念入りに体を洗っている。

「(あれ疲れんのよねぇ…)ちょっと待ってて~♡今服脱ぐから~♡」

 黒ローブの女性がその黒ローブを脱ごうとした時、脱衣所の入り口から若い男性の声が聞こえる。

「ミスッ!ご入浴前に失礼しますっ!」

 その瞬間、黒ローブの女性の目の色が変わる。

「(やった!ついに来たっ!風呂何か入ってる場合じゃねえっ!)すぐ行くわっ!」

「例の物が赤く光っ…」

 若い男性の使用人だろうか?彼が言い終わる前に黒ローブの女性は走り出す。彼女がクロムウェルにも秘密で作った実験室、そこまで一瞬でやって来ると部屋に勢いよく入り赤く光る『石』が入っている透明なガラスケースの前に滑り込む。

「来た来た来た来たきったぁぁぁーーー!」

 黒ローブの女性は周りの計器に顔を押し付けると、その針の位置を確認。『石』から放たれるエネルギーの周波数が安定し、乱れが一切無いのを確認すると自らの作業が成功したことを確認する。

(時空波が完全に安定した…この『赤い石』さえあれば…フフフ…ハハハ…)

「アーーーーハッハッハッ」

「あの…ミス…?」

 黒ローブの女性は自身が高笑いしていたのを若い男性の使用人が見ていた事に気が付き表情が固まる。

「………」

 

 

 

 ガシッ!

 

 

 

「あひぃっ!?」

 黒ローブの女性は、若い男性の使用人の足の間にその手を叩きつける。突然の衝撃と快感に若い男性の使用人は目を白黒させているが、黒ローブの女性はその瞳を覗き込むと怪しく微笑む。

「ここで見た事は全て忘れなさい…そうしたら…天国を味わえるわよ♡」

 言い終わると同時に黒ローブの女性の瞳が紫色に光始める。

「ひぐぅぃひっ!?」

 若い男性の使用人は激しい快楽に身をゆだね、その紫色の光に包まれる。光が治まった後、若い男性の使用人はズボンに大きな染みを作り、フラフラと部屋から離れていった。

(クロムウェルに隠すのも楽じゃ無いわ…)

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ~~~~~まだぁ~~~~~~~?」

 一人で待ちぼうけをくらい、のぼせかけているクロムウェルだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 シェルターを大人しくさせ海にかえしたその日、全ての授業が終わった才人はヴェストリの広場の自身のテントの横にある大釜に水を張っていた。

「後は薪を燃やして…」

 才人は大釜の下にくべた薪に火打石で火をつけ燃やす。張った水の中に木の蓋を沈めると、くべる薪を増やし大釜の水を温めお湯にする。

「ふ~。出来た!」

 これは才人の風呂だ。この世界の平民用の風呂は地球で言うサウナの様な物。日々日本の風呂に入ってきた才人からしたらそれを風呂とは認められなかった。満足できなかった、我慢できなかった。そこで才人は自分で作ってしまおうと思い、コック長のマルトーに頼み込み使い古しで廃棄寸前だった大釜を一つ貰いそれを風呂にしていたのだ。

「ふ~…」

「いい気分みたいだね」

「いい気分だよ…」

 日が陰り、双月が薄っすらと顔を覗かせる頃、才人はゆったりと湯舟に浸かっていた。今日はマチルダの花壇を直す為に体中ドロドロになったり、シェルターとの戦いでエネルギーを使いすぎたりするなどして既に疲労困憊の状態なのだ。

「はぁ~あ…」

 しかし、才人は少し満たされた感情だった。それは、シェルターを救えたところが大きい。ミシェルに怪獣の処理を頼まれてから初めて救えたのだ。だが、才人はこの数日間に現れた怪獣の事を思い出してしまう。

(キングマイマイ…それに、あの鋭い歯の怪獣…)

 才人が名前を知らない怪獣は『肉食地底怪獣・ダイゲルン』と呼ばれる怪獣なのだが、才人の世界には一度も出現していない為その名を知る事は無かった。

「助けたかったなぁ…」

 才人は寂しそうにふと呟く。『変幻怪獣・キングマイマイ』は長い冬眠から見ざめたばかりだったのだろうか?怯えたように暴れ回っていたのだ。何とかフルムーンレクトで落ち着かせようとしたが、何度やっても興奮を抑えられず…人間に被害を出すわけにはいかない…と、結局最後は『プロミネンスボール』で倒してしまったのだ。

(鋭い歯の奴の方は…どうしようも無かったしなぁ…)

 『肉食地底怪獣・ダイゲルン』は文字通り『飢えた獣』だった。出現したのはラ・ロシェールから少し行った所にある『タルブの村』。奴はその村にいる人間達を捕食しようとしていたのだ。かなり長い間食事をしてこなかったのだろう、コスモスにまで食らいついきそのわき腹を食いちぎろうとしたくらいだ。フルムーンレクトでは落ち着かせる事すらできず、村人たちを守るために『ウルトラスパーク』でその首を跳ね飛ばしたのだ。

「おいおい相棒、過ぎた事はどうしようもねぇだろ?」

 才人のつぶやきを聞いていたのか、釜の横に立てかけてあったデルフリンガーがカタカタと鳴る。才人は夜空を見上げてため息をつく。

「でもさ…」

 才人に似合わないうじうじとした態度にデルフリンガーはたまらず声を上げる。

「だーっ!何だよ相棒っ!?さっきまで元気だったくせにっ!急にしょぼくれやがってっ!?」

 才人は何も言い返すことなく只黙っている。デルフリンガーは何かを察したのか、急に笑い出す。

「ハハハハハッ!相棒、どうした?お前さんは何でもかんでも救える神様にでもなりてぇのかいっ!?」

 才人は急に芝居臭くなったデルフリンガーの様子に気が付かず声を荒げる。

「そんなっ!俺は唯っ!」

「目の前の命全てを助けたいってか?…それ、ちっとワガママが過ぎるんじゃねぇの?」

 才人はデルフリンガーの言葉に打ち抜かれ、反論に詰まる。

(ワガママ…俺の誰かを助けたいって気持ちはワガママでしかないのか…?)

「しかも時折怒りの感情、破壊の衝動が抑えられないってんだ。困ったもんだねっ!」

 デルフリンガーのこの一言に才人は青くなる。何故デルフリンガーはそんなことまで知っているのだろう?この事はデルフリンガーには伝えていないのに。その時、デルフリンガーはからかうような態度から一変、真剣な声色になる。

「相棒…少し昔話に付き合ってくれるかい?」

 才人はデルフリンガーの雰囲気に飲み込まれながら、知らない内にうなずいていた。

 

 

 

 

 

 

 

「むかーし、むかーし、そのまた昔の話、この世に始祖ブリミルってぇ奴が現れる…そのまたむかぁしの事さ…」

 デルフリンガーはどこか遠く、空の彼方を見つめているようにも見える。

「ある所に性格が真逆の兄弟がいた。どちらも人の心を集める力があった。兄はその実力とリーダーシップで、弟はその優しさと包容力で…。だが、二人には欠点があった。兄は暴力的で、弟は甘ちゃんだった。ある時、兄弟はどちらかが二人を慕う者たち全てのリーダーにならなければならなかった」

 デルフリンガーの声が悲しそうな物に変わる。

「…兄は自分が選ばれるものだと思い込んでいた。弟より高い実力、破壊力、皆の信頼…。その力でリーダーになれると信じていた」

 才人は何となく結果が分かった。

「…なれなかった」

「そうさ、なれなかった。…その兄弟の住む国には王より偉い長老がいた。そいつの鶴の一声で弟がリーダーになったのさ。勿論兄は反発した。何故自分じゃないのかと、何故実力で劣る弟がリーダーに選ばれたのかと。そして兄は、憎しみの感情に、怒りの感情に飲み込まれた」

 才人は息を飲む。

「兄はその感情の赴くまま自らを慕う者たちを率い、もう一つの集団を作りそのリーダーとなった。そして、自分の正義を振りかざして多くの命を奪った…ここまでくりゃ大体わかるだろ?」

「まさか…兄弟で、殺し合い…?」

「その通り。だが、兄は分かっていた。どんなに怒りに飲み込まれていても、自分に優しい弟は殺せない。だから、兄は伝える事にした。甘いやり方では失う物が大きすぎるという事を身を持って教える事にしたのさ…」

 才人は兄がどうなったか直ぐに分かった。

「兄はわざと…」

「殺された…まぁ、弟も兄を殺せなくてな…結局弟の部下に殺されたのさ…」

 

 

 

 

 

 才人はデルフリンガーに問いかける。

「なぁ、このままだと…俺はどっちになるんだ?兄か?弟か?」

「さぁな、分かんねえ…まぁ言えんのこの兄弟はどっちも他の誰かの命を守りたかった事、兄は怒りの感情と破壊の衝動に飲み込まれちまったことさね」

 才人はもう答えを突きつけられているような物だった。

(このままいけば…)

 しかし、デルフリンガーは才人に優しく語りかける。

「相棒…怒りっていうのはな…この兄のように誰しも持ってる物なんだ。勿論それに飲み込まれちまう事も有る。でもな…それが生き物なんだ」

「生き物…」

「あぁ、怒りの感情を持たない生命体何てこの世にはいねぇ。流されるまま飲み込まれろとは言わねぇが、その怒りの感情を受け入れるんだ。受け入れて…それを誰かを守る為の力に変えるのさ」

 デルフリンガーは咳ばらいをすると、静かに話し始める。

「相棒…おめぇさんはまだ戦い始めたばかりだ。これから先、まだまだ数えきれない困難にぶつかりまくる。全てを救える神様になりたいってのはワガママが過ぎるし、この兄弟のようになりかねないが…まぁちょっとワガママなくらいがちょうどいいさっ!おめぇさんはやりたいことを全力でやんなっ!何度くじけようが、倒れようが、がむしゃらに突き進めっ!」

 才人はデルフリンガーから目を離せなかった。

 

 

 

 

 

 

「怒りの感情を誰かを守る為の力にっ!お前さんの目の前の命を助けたいっていうワガママを通すための力に変えるんだよっ!自分を見失うなっ!」

 

 

 

 

 

 

 デルフリンガーは言った途端、鞘に潜り込んで黙ってしまう。

「…自分で言っておいて恥ずかしがるなよ…でも、ありがとな」

「…」

 才人は相変わらず不器用だなとデルフリンガーを見つめる。こいつはいつもそうだ、なんだかんだ言ってこっちを励ましてくれる。…しかし、疑問に思う事が一つ。

「なぁデルフ?お前…本当は何者なんだ?伝説の使い魔、初代ガンダールヴの剣っていうだけじゃねぇだろ?」

 デルフリンガーは鞘から少しだけ出てくる。

「…覚えてねぇなぁ…忘れちまった」

 才人は嘘だと思いながら、ふとデルフリンガーのある一言を思い出した。

 

 

 

 

 

『さあっ、今ならビーム出るぜビーム!』

 

 

 

 

「なぁデルフ…お前、何で『ビーム』っていう言葉を知ってたんだ?」

 初めてデルフリンガーと出会い、ベムラーと戦ったあの時。デルフリンガーは確かに『ビーム』と言った。この世界には存在しないはずの単語を。あの時は戦いの途中で気にも留めなかったが、今になって思い出せば不自然である。ビームという言葉を、意味を、どこで知ったのか?

「…そんな事あったっけか?…覚えてねぇや」

 分かりやすくはぐらかすデルフリンガーに才人は明るく声を掛ける。

「お前…いつか、教えてくれよ?」

「…思い出したらなっ、…それより相棒、誰か来たみてえだぜ?」

「ん?誰っ?」

 才人が声を掛けると人影はビクリと震え、持っていた何かを取り落としてしまう。陶器の様な物が割れる音が月夜に響く。

「わわわっ!?やっちゃった…くすん」

 それは、才人がよく慣れ親しんだ声だった。

「シエスタッ!?」

 月明かりに照らされ現れたのは、仕事終わりのシエスタだった。才人はシエスタの姿を見てほっと胸をなでおろす。今のデルフリンガーとの会話を誰かに聞かれてしまったのではないかと焦ったが、シエスタはモットの一件で才人の正体を知っている。彼女になら聞かれても問題は無い。

「な…何…やってるの…?」

 …聞かれて問題が無くてもシエスタが何故ここに来たのかは気になる。才人は、しゃがんで何かを必死に拾い集めているシエスタに声を掛ける。

「あっ!あの、そのっ!あれです、あれですよっ!とても珍しい品が手に入ったので才人さんにご馳走しようかと思いましてっ!決してたまに覗いてたとか、才人さんが一人なのを良いことに襲おうとか思ってませんから!…思ってませんからね!」

「シエス」

「思ってませんから!」

 シエスタは落としてしまったのであろうティーカップの破片を拾い集めると、釜の近くにまでやって来て才人にお茶を渡す。

「これは東方、ロバ・アル・カリイエから運ばれた珍しい品とか『お茶』って言うそうですよ?」

「お茶!?俺の故郷の物じゃないかっ!」

 才人は純粋に驚いた。確かにマルス133の例もある、才人の世界の物がこの世界にやって来ていて不思議な事は無いのかもしれない。しかし、異世界でまさかお茶に出会えるとは思わなかった。嬉しくなった才人はシエスタからカップを受け取り口に近づける。

「…ん?」

 才人はお茶を口に含もうとした時、お茶の香りの中に別の香りが混じっている事に気が付く。

「なぁシエスタ?何か変なにおいがするんだけど…」

 才人が指摘した途端、シエスタは才人の手からカップをひったくり中身を地面にぶちまける。

「おっおい何して…」

「いや~、学院に来るまでに長い時間がかかりますからっ!その間に茶葉が痛んでしまったのかもしれませんね!こんなの才人さんにお出しできませんよっ!」

 シエスタはティーポットの中身も同様に地面にぶちまける。

(才人さんまさかほんの少量の睡眠薬の匂いに気が付く何て…流石はウルトラマンさんですね…)

 この世界で生きて来たシエスタから見ればそうなのだが、才人は日本にいたころは一般的な高校生程度にお茶を飲んでいた。ある程度の異臭には気が付くのだ。

(…どうしましょう…何とかして…)

「あ…あの…シエスタ?そんなまじまじと見られるとちょっと恥ずかしいんだけど…」

 いつの間にかシエスタは才人の裸を凝視していたようだ。恥ずかしがりながら風呂に浸かる才人に対しシエスタは策を一つ思いつく。

「キャァァァァーーーーッ!」

 

 

 ドポーンッ!

 

 

「ええぇぇっ!?」

 才人は突然のシエスタの行動に驚きの声を上げる。シエスタは悲鳴…というより気合一発という勢いで叫びながら釜の中にダイブしてきたのだ。

「ぷはっ!…ごめんなさい才人さん、下が水でぬかるんでて…ワーンビショビショダー」

「いや、俺には頭から飛び込んだように見えたけど…」

 シエスタはふうと一息つくと空を見上げながら呟く。

「うふふ…気持ちいいですね…これが才人さんの世界のお風呂なんですよね…」

 才人はシエスタの行動に驚かされながらも、この風呂を気に入ってくれた事に気を良くする。

「そうだよ、これが俺の世界のお風呂…まぁ服を着ながら入ったりはしないけどね」

 シエスタの瞳の奥が鋭く輝く。

「じゃあ脱ぎます」

 才人が慌てて止めようとするが、その時既にシエスタはお湯から出てメイド服を全て脱ぎ捨てていた。濡れたメイド服を薪を使って焚火の近くに干すと、そのまま体を隠そうともせず風呂に入って来る。

「まっまずいってシエスタッ!」

 才人は両手で顔を覆うがシエスタはお構いなしに才人の正面に座る。

「大丈夫ですよ。服は火で乾かせば直ぐに乾きますし…この『お風呂』にちゃんと入ってみたいんです私」

 才人は困惑を隠せない。シエスタはもしかして自分に気があるのだろうか?その為にこのような行動を?それともこの世界の女の子は皆、好奇心旺盛で何でもやってみたくなるのか?それともシエスタに恥じらいが無いだけ?

「うわぁ気持ちいいっ!あの共同サウナ風呂もいいけど、こうやってお湯につかるのも気持ちいいですね…貴族の人たちが使っているお風呂みたい…そうですね羨ましいならこうして自分で作ればいいんですね…」

 シエスタは両腕を上げ伸びをしながら頬を上気させている。そんな事をすればもちろん胸元は丸見えだ。才人はこれ以上は見てはいけないとシエスタに背を向ける。

「そんなに照れないでください。私も照れるじゃないですか…」

 そう言いながら才人の脇の下にシエスタの足が伸びてくる。いつもスカートの中に隠れて見えなかったシエスタの生足だ。白くて…健康的で…。

「シエスタッ!まずいって!」

 もう才人の顔は真っ赤だ。のぼせてなのか、恥ずかしさによる赤面なのか分からない程に真っ赤である。

「別にまずくないですって…こんなことするの才人さんだけですよ…?」

 才人はいつの間にかすぐ後ろにシエスタの気配がある事に心臓を乱舞させる。もちろんその背中の感触にも。その時、背中の感触が失われる。離れてくれた…そう才人が安心した瞬間、何かが才人の背筋をはい回る。

「ゃひっ!?」

 これはシエスタの指だろうか?背中を何かを描くようにはい回る。突然の感触に変な声が出てしまった。只ひたすら、ドキドキする…あれだろうか?何と書いているか当てろとでもいうのだろうか?

「…何て書いたでしょーか…?」

 そのようだ。しかし、当然ながら才人にはこの世界の文字は読めない。何を書いたなんてちんぷんかんぷんだ。

「おっ俺…文字…読めな、いし…」

 才人は正直に答えるが、シエスタは分かってたとでも言うようにクスリと笑うと、再び才人の背中に近づいてくる。才人の耳元にまで来ると、囁くように答えを教えてくる。

「正解は…す」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーーーーーっ!何やってんだいシエスタッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 突然の大声に驚き二人は固まると、その声の方へと向き直る。声の主を見た才人は思わず声が裏返ってしまう。

「マッマチルダ!?」

 そこにはタオルと桶を小脇に抱えたマチルダが立っていた。

 

 

 

 

 

 

(やっぱりこうなったか…へへへっ、さーてどうなるかな?俺っち楽しみ楽しみ!)

 

 

 

 

 

 

 




続きます。風呂が続きます。そういえば、私の♡なシーンでその…あの…き、きもちよ…ゲフンゲフンしてる人っているんですかね?自分で書いといて何だけど、いたらちょっと恥ずかしいかな~…何て(〃ノωノ)




…あえてデルフリンガーには触れていかないスタイル(個人的には分かる人そんなに多くないと思ってます。只、少し調べればわかっちゃうかも?)




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ゼロの使い魔~真心~第54話

長らくお待たせいたしました。続きです。はい、風呂本番。(閲覧注意)え?デルフリンガーの設定がわけわからん?それはまた今後ですね。


 才人は震えていた。今のシエスタとの状況は誰かに見られて良い物では無い。しかも、その相手がマチルダなら尚更だ。

「マッマッ、マチル…ダ…これはその…」

 マチルダは無言で近づいて来ると、目にもとまらぬ速さでシエスタの両頬を掴み上げ、全力でつねりあげる。

「…シエスタ?…抜け駆けは無しだって約束は…協定はっ!?ドウナッタ~~~!?」

 グニョングニョンとこねくり回されるシエスタの両頬。シエスタは必死に手を振りほどこうとするが、かなわずされるがままだ。

「ふへぇ~っ!ふびゅっ、むにゅむ~っ!?」

 シエスタが何と言っているかは分からないが、謝っているんだろうか?そうこうしている内にシエスタはマチルダの手を振りほどく。

「ふんっ!そう言うミス・ロングビルだってそのタオルと桶は何ですか!?才人さんがここでお風呂してるって聞いて入りに来たんでしょう!?抜け駆けする気満々じゃないですか!」

 マチルダは言い返そうとするが押し黙ってしまう。空を仰ぎ、ふう…と一息つくと突然その場で足のバネだけで飛び上がる。と同時に全ての服を脱ぎ、空中で一回転すると同時に全ての下着を取り去り風呂に静かに着水する。お湯が殆どはねない程綺麗な着水だ。

「ふぅ…これが才人の世界の風呂…気持ちいいね…」

「なっ、マッマチルダ!?」

 突然目の前に入ってきた全裸のマチルダに才人は顔を覆うが、マチルダはお構いなしに才人に密着する。

「ミス・ロングビルッ!?何をっ!?」

 マチルダは驚くシエスタに不敵にほほ笑む。

「なぁに、今回は全面対決と行こうかなと思ってね…」

 才人の顔を覆う手を両手で開き抑え込むと、自身の裸体に才人を押し付けるマチルダ。才人は幸せな感触に包まれるが、同時に全身の熱い流れが一点に集まりつつある事に気が付き離れようともがく。

「は、離して…マチルダ…あ、ありがひっ!?」

 マチルダは拘束していた才人の両手を離した瞬間、両足で才人の全身を抑え込み完全に密着させる。才人が最後の砦にと閉じていた瞼に触れると優しく押し開く。

「見て…才人…」

 才人の視界にマチルダの優しい微笑みが飛び込んでくる。いつの間にか髪にタオルを巻いていたマチルダは胸を寄せ、才人の顔を押し付ける。

「ミス・ヴァリエールから聞いたけど、ここんとこ怪物を追っ払うの手伝ってるんだって?アルビオンから帰ってきたばかりだってのに…無理しないでおくれ、心配して待ってる女がいる事を忘れんじゃないよ…?」

 才人は優しく囁かれ、幸せな感触に包まれ…ふっと全身の力が抜ける。今までの疲労を一気に引き出されたような感覚だ。才人は思考が出来なくなる程ぼうっとし、全てをゆだねてしまおうという気持ちになる。

 

 

「才人さんっ!しっかりしてくださいっ!誘惑に負けてはダメッ!」

 

 

 ぼやけた思考を爆散させる良く通る声。その声を上げたシエスタは才人の顎下に手を滑り込ませると、才人を引き抜く。自身の胸で才人の頭を挟み込むと、両方から押し付けたり擦り付けたりして才人の意識をマチルダから逸らそうとする。

「才人さ~ん?どうです?私の胸の感触…ミス・ロングビルにだって引けを取りませんよ…うふふ、このハリと弾力は私の自慢ですよ~?」

 才人はまたも幸せな感触に包まれるが、その表情はにやけ顔から一変し引きつっている。何故なら目の前にいるマチルダが恐ろしい顔をして睨み付けてくるからだ。

「ほ~…才人?気持ちいいかい…?なら今度はこうさ」

 才人は気配でマチルダが何をしようとしているかを察知する。才人はダメだ、してはいけない、と言おうとするがシエスタが力強く胸を押し付けてくるせいで口を開けない。そう考えている間にマチルダは既に才人の体にまたがり、覆い被さってくる。

「よっと…」

 マチルダは才人の太腿の所に腰を下ろすと、才人の顔の正面から胸を押し付け包み込む。才人はシエスタとマチルダ、二人の胸に挟まれる形になる。

「ッ!?!?!!」

 才人は言葉にならない悲鳴を上げる。本来なら世の男性が才人を妬み殺しそうな程の体験をし、幸せなはずの自分。しかし、シエスタから放たれる凄まじい執念の感情が才人の背筋を凍てつかせ、先ほどまでの優しかった雰囲気は何処へやら、マチルダから放たれる殺気により全身を引き裂かれそうな感覚になる。

(ここは天国か…いや逆だ…)

 先ほどまで全身を駆け巡っていた熱い流れは完全に鎮静化し、今にも全て止まってしまいそうな感覚すらする。

「…ん?元気なくなってるじゃないか…」

 マチルダの体には触れまいと必死に離していた『それ』。しかしマチルダにはその存在が分かっていたらしく、その変化に瞬時に反応してくる。

「まさか…私が相手だからかい…?」

 寂しげに呟くマチルダだが、その表情は寂しさとは全く関係ない感情で塗り固められ、貼り付いている。才人は恐怖で涙を流しそうになるが必死にこらえる。

(…その顔が怖いからだよぉ…)

 シエスタとマチルダ、二人のドス黒い感情が渦巻くその場所に置いて唯一冷静で、十中八九この状況を楽しんでいるでる存在・デルフリンガー。

(うへぇ…想像以上さね…こりゃあちょっとやべぇな…どうするぅ?相棒?…)

 カタカタと小刻みに揺れながら状況を楽しんでいると、突如この二人に匹敵する、いや凌駕すらしそうなどす黒い情念をまとった魔力を察知する。瞬間、デルフリンガーは鞘を飛び出し才人達が入っている釜の前に立ちふさがる。

 

 

 ゴォッ!

 

 

 それと同時にはじけ飛ぶ巨大な火球。デルフリンガーは全て吸い込もうとしたが急な事に対応できず、吸い切れなかった分がはじけてしまったのだ。

「うわぁっ!?」

 その場の空気を一変させた者、三人は慌ててその方向に向き直る。いったい誰が何故急に攻撃を?しかし、シエスタとマチルダは振り向いた瞬間納得し、才人は胃に穴が開いたような感覚に襲われる。そこにいたのは美しい赤毛を持つ女性…。

 

 

 

 

「へぇ~…楽しそうなことしてるじゃない、シエスタに、マチルダ?」

 

 

 

 キュルケだった。声は極めて明るいが、口元に小さく笑みを浮かべるのみで感情が表情に現れていない。可愛く首をかしげているつもりだろうが、その様には狂気を伴う。そんなキュルケの手にはしっかりタオルが握られている。考える事は誰も同じ…そういう事なのだろう。シエスタとマチルダとキュルケ、三人の視線が合わさる。その瞬間、キュルケの目に感情が宿る。互いに相手を睨め付け合い、静寂がその場に訪れ…才人の心臓を少しずつ締め上げていく。

「はっ!」

 キュルケはタオルを上に放り投げるとその場で跳躍、それと同時に衣服を全て脱ぎ全裸になり空中でタオルを手に取り髪をまとめ上げる。釜の直前で体を回転させ勢いを殺すと、静かにお湯に着水する。シエスタとマチルダを押しのき、才人の目の前に綺麗にだ。

「へ~っ!これがサイトの世界のお風呂なのね~、貴族のお風呂とはまた違ったものがあるわぁ~」

 言いながらキュルケは才人の口元に顔を近づける。勿論それを黙って見ている他二名ではない。マチルダはキュルケを羽交い絞めにし、シエスタはキュルケの下腹部に掴みかかり少しでも体から離そうと全力で持ち上げる。

「これがほんのちょっと前まで男にビビってた女の行動力かいっ!?」

「猫被ってたんじゃないんですかっ!?」

 当のキュルケは巧みな体重移動で尚も才人に近づき行動を続けようとする。

「あら?そんな私を助けてくれたのは皆じゃない。皆のおかげよ?私がここまで元気になれたのは?その事に関しては心の底から感謝してるわよ?」

「恩を仇で返してんだよツェルプルトーッ!」

「そうですっ!私の気持ち前に聞いてましたよねっ!?その上でのこの行動ですかっ?!というか、チグリスちゃんはどうしたんですっ!」

 キュルケはあっけらかんと言い返す。

「あら、それとこれは別よ?男の取り合いに恩も正義も無いわ。あなた達がこうして取り合っていたのがその証拠じゃない。それに、チグリスはもう疲れてお眠よ」

 シエスタとマチルダは図星なので言い返せないが、キュルケの考えと同じ考え方でキュルケを止めにかかる。

「「くそっ!だったらっ!」」

 同じく才人の唇に顔を寄せる二人。才人は三人の女性が殺意の形相で目の前で互いに押し合いながら自分の唇をめぐって争いを繰り広げる状況を震えながら見守るしかなかった。自分が入り込める余地が何処にあろうか?今逃げ出そうとしたところで逃れることなどかなうはずが無い。一人を選べば、残る二人に命を刈り取られるだろう。考え方を変えるんだ、楽しもうじゃないかっ!…何度もそう考えたが、何処にも楽しさを見出すことが出来ない。

「ひゃふぃっ?!」

 そんな時才人の『それ』に誰かが手を触れる。優しく包み込み、激しい感覚を才人に与えてくる。才人にとって初めて他人に触れられる感覚、それを抑えきる事が出来ず全て表情に出てしまう。

 

 

 

 ザバァッ!

 

 

 

 瞬間、シエスタとマチルダとキュルケは立ち上がり全員で手を組み合い額を叩きつけ合う。今までの比較的静かな争いから一変、怒号交じりの争いに変わる。

「やりましたねミス・ロングビルッ!」

「ロングビルあなたそれでも教育者ッ!?」

「ふっ!あたしゃ学院長秘書ッ!教師じゃないんでねっ!ついでに言うと才人も生徒じゃないっ!悪いが小娘どもには負けないよっ!」

 才人は自分の忍耐力の無さを激しく後悔した。自分がもう少し耐えることが出来たら…そう思う事もおごりなのだろうか?自分ではない誰かならこの状況を回避、もしくは解決できただろうか?…まぁそんな人間をこの三人が気にいるかどうかは別の話だが。

(マズイ…マズイ…)

 マチルダとキュルケはいつ杖を抜いてもおかしくない程興奮し、シエスタはデルフリンガーを片手で振り回し始めそうな勢いだ。このままでは誰かが怪我をする。才人は死を覚悟して三人の間に割って入り、争いを止める為に手で三人を制する。

「待」

 言いかけた時、突如として地面が大きく揺れる。水面が振動で波打ち、四人の意識を一気に集める。振動は比較的近くで発せられたようだ。才人は慌てて辺りを見渡すと、直ぐ近くの学院の外壁から見上げるほどの巨体が才人達を覗き込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

「キィィィィッ!」

 

『宇宙怪獣・エレキング・超特異個体(要はリム)』

 

 

 

 

 

 才人は最初エレキングに襲われると身構えたが、直ぐに巨大化したリムだと気が付き安堵のため息を漏らす。

「何だ…リムか…びっくりした…」

「「これがリムちゃんっ!?」」

 普段のちんちくりんしか知らないシエスタとキュルケは驚きの声を上げまじまじとリムを見上げている。才人は無理も無いだろうと思っているととても重要な事に気が付く。

(リムがここにいるって事は……あ)

 『そいつ』はリムの肩の所に乗っていた。普段来ている制服とは違い、薄紫色のドレスに身を包んでたたずんでいる。

「ナニヲシテイルノカナ~~~?サ~イトッ?!」

 あからさまに怒りの感情をぶつけてくる『そいつ』…銃士隊副隊長ミシェル。

「ミシェルッ!?あっいやこれは」

 ミシェルは肩を震わせながらぽつりぽつりと呟く。

「授業があるからと誘いを断られ…なら明日は非番だから今夜食事でもどうかと誘いに来てみれば…張りきって初めて化粧をしてみたのに…っ!」

 よく見るとミシェルは化粧をしていた。恐らく自分一人で全てやったのだろう、不慣れなのが一目でわかる。明らかに顔におしろいをつけすぎ、真っ白になっている。頬にはチークが厚く塗られ凄まじく濃いピンクに、さらにそれに被りそうな程口紅がはみ出ていた。シエスタとマチルダとキュルケは吹き出しそうになるのを必死にこらえていた。

「そんな事…そんな事…」

 ミシェルは顔を真っ赤にしながらスッ…と右手を上げる。才人は何をしようとしているか直ぐに察しシエスタとマチルダとキュルケをつかみ上げ風呂の外に放り投げる。

 

 

 

 

 

 

「結婚前にしちゃ、いけないんだぞーーーーーっ!」

 

 

 

 

 

 

 下ろされるミシェルの右手、同時にリムが口から放つ雷のように激しく輝く電撃。ワルドの『ライトニング・クラウド』とは比べ物にならない威力のそれが正確に才人に直撃する。

「ギャァァァァーーーー………」

 才人は一瞬で意識を刈り取られ、湯舟の中に沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 数分後、シエスタ、マチルダ、キュルケ、ミシェルは一緒に才人の風呂に入っていた。ミシェルはその酷い化粧を落とすため、他三名は才人に放り投げられた際に泥だらけになったためだ。しかし、そこに会話は無い。只静かに時が流れる。唯一声を発しているのは四人に囲まれた真ん中で腹を上にして浮かんでいる縮小光線銃で小さくなったリムだけだ。

「ピキィー…」

 リムは気持ちよさそうに手足を伸ばしぷかぷか浮かんでいる。しかし、女性陣には静寂が訪れていた。

「…あのう、副長さん?」

 一番に静寂を破ったのはシエスタだ。おずおずとミシェルに話しかける。

「誤解して欲しくないのは…今回のはあくまで」

「サイトは悪くない、だろう?」

 今、才人は服を着せられテントの中に寝かされていた。流石にリムの電撃はこたえたらしい。ふと、キュルケが口を開く。

「副長さんもですか?」

 具体的に何がとは聞かない問い。それにミシェルは只頷いて見せるだけ。再び場に静寂が訪れると、マチルダは深く深呼吸して話し出す。

「全く、才人も罪作りだねぇ…」

「「「その通り」」」

 全員の意見の一致、誰からとは言わずその場から笑いが漏れ始める。

「ふっ、フフフ…」

「「はははっ…」」

 それは段々と広がり、最後には全員で笑い出してしまう。才人を巡ったギスギスとした争いは終わり、いつもの彼女たちに戻っていた。何の気なしに世間話が始まり、女子会のような雰囲気が生まれる。

「それでその時マルトーさんが…」

「えぇ!?あの人がー!?…」

「そう言えばそのお化粧は…」

「あぁ、実は…そう言えば縮小光線銃の調子は…」

「えぇ大丈夫よ…」

「あれは決められた個体しか…」

 そんなふうに楽しく語り合っている時、マチルダがふっと思い出したのか、シエスタの肩を叩く。

「なんでぶにゅ」

 振り向いたシエスタの頬にマチルダの指が沈み込む。シエスタは怒ってむくれるが、マチルダは笑ってやり過ごし話の本題を振る。

「ごめんごめん、実は花壇の事なんだけど…」

 チグリスが出て来た為に大穴が開いたマチルダの花壇、そこにシエスタの故郷のタルブ村の特殊な栄養土を入れたいという相談だった。

「そうですねー…あぁそれなら、今度久しぶりに帰郷しますからその時にでも貰いに行きましょう」

 シエスタ達使用人にはアンリエッタ姫のおめでたい結婚ということで特別に休暇が出るのだ。マチルダは休みの日を聞くと、自分もその日に休みを取ると約束する。

「…実は、才人さんにも来てほしかったんですよね…私の故郷、タルブ村って言って何にもない辺鄙な村ですけど…とっても綺麗な草原があるんですよ…」

 他三人の目が一瞬で敵意のこもった物に変わるが、次の言葉を聞いて落ち着きを取り戻す。

「人ずてに聞いたんですけど…この間そこに怪物が出たらしくて、才人さんがやっつけてくれたらしいんです…少しでもお礼が出来たらなって思って…皆さんもどうですか?」

 ミシェルは難しそうな顔をする。流石にシエスタの休みの日に非番が被るという偶然は無い。悔しく思うがタルブ村の件に関しては自分が才人に頼んだ事なのでなんとも言えなかった。

「う~ん私は…」

 キュルケは胸の下で腕を組み、少し考え込んでいる。少しすると何か思いついたのか、パッと笑顔になる。

「私もついていくわ、チグリスを育てた土がどんなものか、少し気になるもの。あっ、タバサも誘っていい?」

 言われてミシェルはハッとする。

(そうだ…本来とても凶暴な『宇宙大怪獣・アストロモンス』が人間になつくなんておかしいと思っていたが…もしやその土に秘密が?くっ気になる…気になるっ!)

 しかし、銃士隊の仕事がある。歯がゆい気持ちのミシェルだった。

「よし。じゃあ才人が起きたらあたしから伝えておくよ」

 マチルダが言った時、同時に三つの口が開き、言葉を発する。

「「「いやいや、私が」」」

 今度は四人で立ち上がり手を組み、額を叩きつけ合う。

「この後に及んでまだ抜け駆けしようとする気かい!?」

「一番に言い出したのは貴方ですよミス・ロングビルッ!?」

「ええい信用ならんっ!お前たちはさっきまで散々だっただろうがっ!私から伝えておくっ!」

「そんな化け物みたいな顔サイトに見せられないわよっ!」

「化粧は落とすわっ!というか、遂に本音が出たなっ!」

 再び始まった、一人増えた女の戦い。姦しく騒ぐ女性陣の中、ひときわ大きく…わざと聞かせようという意思が込められたため息が聞こえる。全員が誰かが見ているのかと警戒するが、ため息の主はほんのすぐ近くに居た。

「なぁお嬢さんがた…そろそろ…止めようや…」

 デルフリンガーだ。ミシェルが来た頃から静かにしていた為全員その存在に気が付いていなかった、忘れていたのだ。デルフリンガーの冷静な一言に頭が冷えたのか皆一様に腰を下ろす。

「まぁそのお誘いの事なら俺っちから相棒に伝えておくから…お前さんたちは早く風呂から上がんなさい。皆揃ってのぼせるぜ?」

 冷静に言われた全員はそそくさと風呂から出るとサッと着替えを済ましてしまい、風呂の後片付けをパッパと終わらせてしまう。

「出来ればテントまで連れてってくれない?」

 無言の全員にテントまで送ってもらったデルフリンガーは才人の横に寝かせてもらうと「あんがと」と一言礼を言う。何となくその場で解散する雰囲気が漂い、全員はアイコンタクトするとその場から去ろうとする。…その背中に、デルフリンガーが呼びかける。

 

 

 

 

 

 

「今日の事が相棒の悲痛なトラウマにならなきゃいいなっ!」

 

 

 

 

 

 

 全員の肩がビクッとするのが気配で分かる。まぁ、フォローしとくよとデルフリンガーは続けるが、誰からの返答もなかった。

(すまん相棒。途中助けようとも思ったんだが…俺っちとしたことが、完全にビビっちまった…楽しもうとして済まんかった。反省する)

 

 

 

 

 

 次があったら全力で止める。助ける。そう誓ったデルフリンガーだった。…次が無いのが一番だとも思ったが。

 

 

 

 

 

 

 




続きます。…皆様ならどうでしょう?この状況羨ましいですか?怖いですか?


私は怖いですね。





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ゼロの使い魔~真心~第55話

お待たせしました。続きです。新生活、新体制が始まる時期ですね…。それに向けての準備が忙しくて忙しくて…本当はもっとお話書きたいんですよ。チクショウ…(´;ω;`)


 風呂場でうっふん大パニック(!?)から数日後、トリステイン上空にて。コスモスは一路港町を目指して飛んでいた。シェルターが以前出現した港町とは少し離れた所にある港町で、先日長い冒険から帰ったばかりだという行商人の一団が滞在しているらしい。

(おう相棒…大丈夫かい?ここ何日か飯と運動と授業以外何もしてねえけどよ…)

 デルフリンガーの問いかけにコスモスは首を振る。

(大丈夫だよ…今は目の前の問題だろ?…変な心配すんな…)

 コスモスは先日のトラウマレベルの出来事を胸の奥にしまい込む。今はそれよりも大事な事があるのだ。

(にしても、手紙には例の行商人が今回の一件を王宮に伝えて来たらしいじゃないか…何か変なの連れて来たんじゃないだろうなぁ…?)

 過去に才人のいた地球でも人間が自己の利益の為に何かをやらかし、怪獣を呼び覚ましたり、連れてきたりといった事案が数多くあるのだ。

(見えて来たぜっ!相棒っ!)

 そうこうしている内に現場が見えてくる。今回ミシェルから依頼されたのはこの町に現れた大亀…亀砲兵の十倍以上の巨大な化け物を何とかして欲しいという物だった。突如港町に現れ、大暴れしているとミシェルからの手紙には書いてあった。…最後に『この間はすまなかった、今度埋め合わせをする』とも書かれていたが。

(懲りてねぇな…いたっ!)

 遂にコスモスは港町で猛威を振るう存在に出くわす。それは怒り狂い、手当たり次第に家に頭を突っ込んでいた。

 

 

 

 

 

 

「キィェェェェェッ!」

『大亀怪獣・キングトータス』

 

 

 

 

(あれはっ!キングトータスッ!?)

 そこには正に巨大な亀がいた。口腔から飛び出るほどに長い牙、頭頂部の角が特徴的な亀の怪獣だ。

(本来大人しいはずのキングトータスが…何か人間がやらかしたか?)

 しかし、今はキングトータスを止める事が大切だ。コスモスはキングトータスの前に降り立つと、間髪入れずに右腕を突き出す。

「デアァッ!(フルムーンレクトッ!)」

 光の粒子がキングトータスに全て吸い込まれる。コスモスはこれで大人しくなってくれる事を期待したが、そうはいかなかった。

「…ッ!キィェェェェェッ!」

 一瞬、大人しくなったキングトータスは身震いをすると、コスモスに敵意を向け襲い掛かってくる。キングトータスはその強靭な肉体で体当たりを仕掛けてくる。コスモスは受け流そうとするが、突然キングトータスがふわりと浮かび上がり不意の一撃を浴びせてくる。

(ぐあぁっ!?…そうだ…キングトータスは飛べるんだった!)

 キングトータスは回転しながら何度もコスモスに体当たりをする。コスモスは読めない軌道に翻弄されなすがままだ。

「デァァァ!」

 吹き飛ばされ背中から海に突き落とされるコスモス。キングトータスはコスモスの前に降り立つと大口を開ける。首元に迫るキングトータスの噛みつきをコスモスはバックステップで躱すが、キングトータスは躱されると同時に喉の奥から赤い球体を吐きかける。

(あれはっ!)

 コスモスは体をねじり躱そうとするが、かわし切れず背中に幾つか付着してしまう。コスモスの背に戦慄が走る。

(やば)

 

 

 

 

 ドゴォォォンッ!

 

 

 

 

「デアァァァッ!」

 赤い球体は突如として大爆発、コスモスを爆炎で包み込む。背中を吹き飛ばされたコスモスはその場に膝をついてしまう。慌てて立ち上がろうとするコスモスだが、キングトータスはその隙を見逃さない。

「キィェェェェェッ!」

 再び放たれる赤い球体。これは赤い卵のようにも見えるが、実際には卵ではなく『火炎玉』というキングトータスの武器である。これが今度はコスモスの全身に付着、大地を震わす爆音とともにコスモスを吹き飛ばし爆炎の中に沈める。

「キィェェェッ!」

 天を仰ぎ勝利の咆哮を上げるキングトータスだが、それは瞬間、戸惑いの鳴き声に変わる。

「キィェッ!?」

 突如として爆炎の中から伸びて来た二本の腕、キングトータスの右肩と左脇腹に掴みかかったそれは凄まじい握力でキングトータスの甲羅を軋ませる。その腕に持ち上げられたキングトータスは背中から地面に叩きつけられる。

「ドアァァッ!」

 

 

『ウルトラマンコスモス・コロナモード』

 

 

 コスモスは火炎玉の爆発直前、コロナモードに変身し火炎玉の爆発に耐えたのだ。コスモスはキングトータスに向けて構えを取ると、再びつかみ上げようと手を伸ばす。キングトータスは何度もやられてはたまらないと飛び上がり逃れると、高速回転しながら全速力で体当たりを仕掛ける。

「キィェェェェェッ!」

 コスモスは両腕を広げ、腰を落とし力強く構える。

「デアァッ!(来いっ!)」

 高速回転し、円盤に見える程にまでに速度をあげ迫るキングトータス、コスモスは全身にエネルギーを行きわたらせ、迫る衝撃に備える。

 

 

 

 ドゴォォォォォォォォォッ!

 

 

「ドアァァァァァァッ!」

「キィェェェェェッ!」

 

 

 

 空気を揺らし、衝撃波をまき散らした衝突は轟音を響き渡らせる。キングトータスは勢いのままコスモスを吹き飛ばそうとする。コスモスはそれに耐えようと踏ん張り、地面をズルズルと滑っていく。コスモスは港町から2㎞以上離れた山に背中から叩きつけられるが、これ幸いと山に背中を預け全身に力を入れ直す。

「デアァッ!」

 気合一発、キングトータスの回転を完全に制止させると甲羅の上から拳を一撃叩きつける。その一撃でキングトータスはコスモスの足元に叩きつけられる。

「デアァァァッ!(うぉおおおおおっ!)」

 コスモスはキングトータスの体を持ち上げると、全力で投げ飛ばす。背中から叩きつけられたキングトータスは苦痛の鳴き声を上げる。

(よし、もう一度フルムーンレクトをっ!)

 その時、コスモスの視界が港の倉庫から出てくる物を見つける。何か大きな物を人間が巨大な台車で運びだしている様だ。布を掛けられていて何かは分からないが、コスモスはそのシルエットに気が付き背筋が凍る。

(あれは…まさかっ!?)

 コスモスはすぐさま飛び立つと倉庫の前に降り立ち台車の前に立ちふさがる。

「デアァッ!(待てっ!)」

「「「うわぁぁぁぁっ!?」」」

 人間達は目の前に現れたコスモスに腰を抜かす。が、キングトータスに止めを刺さずに来たコスモスを睨みつけると口々に叫び出す。

「何やってんだウルトラマンッ!怪物をぶち殺せっ!」

「お前それでもウルトラマンかっ!怪物を殺すのが存在意義だろぉっ!」

「早く殺してこいっ!そうすりゃ俺たちは安全に『商品』を運べるんだよぉっ!」

 コスモスは人間達の叫びを無視すると、無言でしゃがみ込み台車から布を引きはがす。人間達は罵詈雑言を浴びせかけてくるがコスモスはその全てが右から左へと流れていた。…何故か?…それは怒りに震えていたからだ。

(こっ、これは…っ!)

 

 

 

 

 

 

「キュゥゥン…」

『大亀怪獣・クイントータス』

 

 

 

 

 

 そこには手足を巨大なモリで撃ち貫かれ台車に縫い付けられ、首に大きな穴がいくつも開いた痛々しい姿のクイントータスがいた。首元の穴は麻酔薬を流し込むために開けられた穴だろうか?ろくな止血もされず少し血が流れ出している。クイントータスはコスモスを見上げるとその大きな瞳から大粒の涙を流す。

「キュゥゥ…」

 コスモスがその涙を拭うと、クイントータスの記憶が…感情が流れ込んでくる。

 

 

 

 

 

 ハルケギニアのどこか…外敵もおらず平和な島。卵を産みに砂浜にやってきて、苦しみ、激痛に耐えながら、大切な夫との愛の結晶を産み落とし…六個の卵を産み終えた時、突如首元に突き刺さる鋭い何か。それと同時に大勢の人間が駆け寄りよじ登ってくる。そして、首元に突き刺さった何かを通して流し込まれる冷たい物…そこで一度意識が途切れる。

 

 

 

 次に目覚めたのは大きな木の板の上、動こうにも手足に激しい痛みが走り身動きが取れない。前を見ると人間達が木で出来た何かの上で大騒ぎしている。その中に見た、確かに見た。見てしまった。半分に割られその中身を貪る人間達。半分に割られていた物…それは…それは…大切な夫との…愛の結晶。

 

 

 

 

 

 

「ダアァァァッ!」

 コスモスはその場でよろめき、膝をつく。人間達が貪っていた物それは…『卵』

(喰ったのか…子どもを…親の見ている前で…母の見ている前でっ!)

 人間が鳥の卵を食べるのと何が違う?肉を食べるのと何が違う?そう問われればそこまでだ。何も変わらない、只の食物連鎖。お前が普段食べている物は何だ?そう言われればそこまでだ。コスモスだってそんな事は分かってる。理屈も分かる。だが、そんな偉そうな理屈を並べて相手を黙らせ、ふんぞり返れるコスモス…才人では無かった。

(アァァァァァッ!)

 コスモスはクイントータスの怒り、憎しみ、恨みの感情を理解すると人間達に向け拳を振り上げる。人間達は恐怖に震えるが、結局拳が振り下ろされる事は無かった。

(クッ…イメージの中で喰ってたのは五人…)

 コスモスはクイントータスを乗せた台車を運ぼうとしていた人間達を数える。丁度五人だ。よく見ると亀甲状の蕁麻疹が全身に出ている。…昔、聞いたことがあった。怪獣の卵を食べた人間は全身に蕁麻疹が出て、それを目印に怪獣の親に殺されるという。都市伝説のような物だとばかり思っていたが、それはキングトータスとクイントータスの卵の事だったのだ。

「ダアァッ!」

 コスモスはクイントータスの腕を台車に縫い付けているモリを一本ずつ引き抜く。それを見た人間達はどよめきを上げる。

「何すんだっ!俺達が半年かけて捕まえたんだぞっ!」

「これからそいつに芸を仕込んで、そいつの卵を売っ払って大儲けすんだよっ!」

「ウルトラマンは人間の味方じゃねぇのかよっ!」

 コスモスに石を投げてくる者もいる。コスモスはそんな人間の言葉を全て無視すると刺さっていたモリを全部抜き取る。立ち上がったコスモスは両腕をクイントータスに向ける。

(やるぞ、デルフ)

(おうよ、今回は俺っちも頭に来てるからな)

「デアァッ!」

 コスモスの両腕から暖かい光流が放たれ、クイントータスに注がれる。傷ついた腕、足、首とクイントータスの傷口に光流が吸い込まれると、吸い込まれたところから傷口が塞がっていく。

 

 

 

 

 

『ヒーリングシャワー』

 

 

 

 

 

 人間達は自分の目を疑った。あれだけの酷い怪我が瞬く間に治っていく。その時、後ろから地響きが聞こえる。人間達は後ろを振り向くと、力を振り絞ってクイントータスの所までやって来たキングトータスがいた。

「うわぁぁっ!化け物だぁ!」

 一人が叫ぶと五人はその場に集まりガタガタ震えだす。そんな人間達の頭上を突如光流が通り過ぎていく。何事かと一人が振り向くと、コスモスが『ヒーリングシャワー』をキングトータスに向けても照射していたのだ。

「なっ!?ウルトラマンッ!怪物を助けるってのかっ!?」

 そう言う頃には二匹の怪我は完全に治り、二匹の怒りの咆哮が響き渡る。

「「キィェェェェェッ!」」

「「「ギャァァァアアァァアアアッ!」」」

 同時に響く五人の悲鳴。しかし、それはキングトータス、クイントータスの咆哮に容易くかき消され霧散する。クイントータスの腕が振りぬかれ、一人を腕にこびり付いた血の染みに変える。キングトータスの足が踏み出され二人を血だまりに変える。二匹はその場で手足を引っ込めると、高速回転し少しずつ二人の人間に近づいて行き二人の人間を追い詰めていく。

「「うわぁぁぁっ!助けてっ、助けてぇーーーウルトラマーーーーンッ!」」

 二人の人間が泣き叫ぶが、コスモスは見ているだけで何もしない。助けようとしない。

「何でっ、なん」

 そこまで言ったところで、二人の人間は高速回転するキングトータス、クイントータスに挟まれ、文字通りひき肉にされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 才人は一度人間の姿に戻ると、クイントータスが押し込められていた倉庫の中を漁っていた。少しすると小さな木箱が五つ見つかり、中からトータス夫婦の卵が見つかった。

「良かった、残りの卵は無事だったんだ…」

 才人は慎重に卵の入った木箱を持ち上げると、トータス夫婦の前に置いていく。トータス夫婦は卵の無事を知ると涙を流して喜んでいた。互いに抱きしめ合い嬉しそうな鳴き声を上げていた。

「よいしょっと…」

 最後の卵を運び終えた時、唐突にデルフリンガーが話しかけてくる。

「よくやった」

「急にどうしたんだよデルフ?まだ全部終わってないぜ?これから卵をキングトータス達の故郷に返さなきゃいけないのに…」

「そっちじゃねぇよ」

 デルフリンガーは静かに才人に語りかける。

「復讐を最後まで見届けた事さ」

 その一言で才人の動きが止まる。

「相棒…お前さんはあの亀達を殺して、あの人間達を守れたはずだ。だが…それを助けず、亀達の復讐を遂げさせた」

 才人はデルフリンガーを背中から降ろすと、胸の前に抱き寄せる。

「…俺は、復讐を正当化しようとは思えない。でも、人間がやった事の責任は取らせなきゃいけない」

「それはお前さんがすべき事かい?」

 才人は首を振り即答する。

「違う」

「そうさね、違う。でも、誰かがやってくれるわけでもない。誰かがやんなきゃいけない事なのさ…あの人間達にも家族がいたのかね?」

 デルフリンガーが呟いたと同時、才人の体が震える。

「あの人間達の家族からしたら俺たちゃ仇だ。間違いなく『罪』だろう。だが、俺達が責任を取らせる役割をするなら、それをする俺達はそれを背負わなきゃならねぇっ!今回目を背けなかった事、これはその第一歩だ。人に言えるこっちゃぁねぇし、恨まれ…憎まれる事だろうが、最後までやりとおそうぜっ!」

 才人はより強くデルフリンガーを抱きしめる。デルフリンガーは『達』と言ってくれた。これから先も一緒に戦ってくれるという意思表示だろう。その事が何より嬉しかった。だが、デルフリンガーが言った『役割』…自分に出来るのだろうか…?今回の戦いでも怒りを抑えられず人間に向け拳を振るい…そして、人間という存在に一つの考えを持った。持ってしまった。持ちたくなかった。デルフリンガーに聞きたくなる。その答えを教えて欲しくなる。

「…ありがとよ、デルフ。気が楽になったよ」

 だが、聞く事が出来なかった。その答えは自分で見つける事が大切だとも思ったし、仮にデルフリンガーから正解を聞けるとして…それを聞くのが怖かったからだ。

「よし、行くぜっ!」

 才人はデルフリンガーを引き抜き、頭上に掲げる。

「コスモーーースッ!」

 再び巨大化したコスモスはトータス夫妻の卵を丁寧に抱きかかえると、トータス夫妻の住む島に向けて飛び立つ。島の位置はクイントータスの記憶から特定してある。コスモスは後を付いてくるトータス夫妻の心配をしながら飛行するが、コスモスの心の中にはデルフリンガーに問いたかった一つの言葉が鳴り響いていた。

 

 

 

 

 

 

『人間を守る価値はあるのか?』

 という言葉が。

 

 

 

 

 

 トータス夫婦及び卵を送り届けたその日の夕方、才人はテントの中で横になって休んでいた。キングトータスとの戦闘は予想以上にエネルギーを消耗したのだ。

(このところ色々あったからなぁ…俺自身、疲れてるのかも)

 僅か短期間に自分の醜さ、人間の醜さをまざまざと見せつけられたせいもあるのだろう。いくら励まされても、体を休めても、精神的な疲れは取れていないのだ。

(明日は朝早いし…もう眠ろう…)

 体を大の字に投げ出してもう眠ってしまおうとした時、テントの前に人の気配を感じる。

「ルイズの使い魔~?…いますか~?」

 才人は起き上がると、聞きなれない声に首をかしげる。キュルケでも、マチルダでも、シエスタでもない。ましてやルイズであるはずが無い。

「誰?」

 急に声を掛けられた相手は驚いていたが、咳ばらいをするとコソコソとテントの中に入って来た。ロールの金髪にそばかすが特徴的だ。才人はその相手が何度かルイズをからかっているのを見た事があるが、実際に話したことは殆どない。

「え~と…モンモンモンラララーシュ…?」

「おしいっ!…わけ無いわよっ!そんなふざけた名前なわけないでしょっ!モンモランシーよっ!」

 才人は言われてやっと思い出す。そう言えばギーシュとの会話でよく出てくる名前だ。…確かギーシュがよりを戻したくて四苦八苦していた相手だ。

「で、モンラシーが俺なんかに何の用?」

「モンモランシーーーーッ!…もういいわ。それより本題に入らせて。実はね…頼みがあるの。貴方にしか出来ない事よ…」

 モンモランシーが言うには以前学院で起きたギトーの事件での事だ。捕らわれた女子が乱暴されそうな中に颯爽と助けに来たギーシュ。結局最後に解決したのがマチルダ、キュルケとは言えそのギーシュの活躍は『ヒーロー』と呼ぶものにふさわしい物だった。これを聞いて才人はモンモランシーが何を頼みたいのか大体わかった。

「そう言えばギーシュの奴最近女の子を何人も侍らせてるっけ」

「そうっ!そうなのっ!あいつ調子に乗ってるのよっ!私にした浮気の事なんか反省してなかったのよっ!お願いっ!ギーシュともう一度決闘して?そこでコテンパンにしてあいつの目を覚まさせて欲しいのよっ!」

 ギーシュがよりを戻したがっていた時には拒んでいたのに、ギーシュがモテ始めると嫉妬心が湧き出す。女心は分からないなぁと思いながら才人はキッパリと言う。

「ダメだ」

「どうしてよっ?!」

 怒気を孕んだ大声を上げるモンモランシーに才人は冷静に伝える。

「俺明日からマチルダ達とちょっと出かけなきゃいけないんだ」

 そう言うと才人は再び横になる。

(そう…明日から俺たちはタルブの村に向かう…前に一度だけ行ったことがあるけど、のどかで自然が豊かな良い所だ…休むにはピッタリかもしれない。それに…)

 才人はルイズの部屋がある方向に視線を送る。

(ルイズも誘った。ああいう落ち着けるところなら、詔もはかどるかもしれないし)

 そう、才人はルイズも誘ったのだ。ルイズは今でも詔に苦戦しているようなので、助けになればなと思ったのだ。

(明日に備えないと…)

 そう思った所で才人の疲労はピークになり、深い眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ、いやいやいやっ!急に寝ないでよ?!私放置ッ!?」

「お休み…モンモン…」

「お休みなさ~い…じゃないわよっ!ちょっと?ねぇ、起きてよっ!起きてよっ!起きてってばぁっ!」

「娘っ子、あんまり悠長にしてると他の女に見つかっちまうぜ?」

 デルフリンガーが呟くと同時、モンモランシーは全速力でその場から駆けだしていた。

 

 

 

 

 

 

 




続きます。なるべく早く次回を投稿したいです。本当に。


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ゼロの使い魔~真心~第56話

皆さまお久しぶりです。こんなに期間が開いてしまった理由を釈明させて下さい。分かりやすくお伝えます。


『車』(ブーン)     『私』

    ドーンッ!
    『車→私』

            血   
    『車』   血『私』血
            血
という感じです。



 早朝、才人はマチルダの花壇に土を入れていた。シエスタの故郷の栄養土では無いが、穴を埋める全ての土に栄養土を使う必要は無い。ある程度は普通の土でも良いのだ。…まぁ足りないが。

「よっと…まぁこのくらいか」

 才人が一息ついた時、自分を呼ぶ声に気が付く。

「サ~イト~ッ!そろそろ行くわよ~!」

 早起きが出来るようになったルイズが才人に駆け寄ってくる。

「は~いっ!」

 才人は駆けだすと、待っていたキュルケ、タバサ、マチルダ、シエスタの所にやって来る。

「お待たせ、それじゃあ行こうか」

 それを聞いたタバサは口笛でシルフィードを呼ぶが、それには及ばないとキュルケが胸の谷間から拳銃の様な物を取り出す。

「…それは?」

 タバサの問いに皆が顔を見合わせる。そういえば、タバサはその時学院を離れていた為、キュルケが取り出したものが何か知らないのだ。

「ウフフッ!見ててねタバサ?」

 キュルケは悪戯っぽく笑うと、肩車していたチグリスを下ろす。

「じゃ、頼むわよっ!チグリスッ!」

「ピキュッ!」

 キュルケが持つ縮小光線銃から赤い光がチグリスに放たれる。何をするのか見守っていたタバサは目の前の光景に目を見開き、腰が抜けてしまった。

 

 

 

 

 

 

「グギャァァァァッ!」

『宇宙大怪獣・アストロモンス』

 

 

 

 

 

 シルフィードは巨大化したチグリスに驚き、怯えてタバサの後ろに隠れてきゅいきゅい泣いている。シルフィードは昨日まで一緒に遊んだり、お昼寝したりと面倒を見ていて、弟のように可愛がっていたチグリスが見上げる程に巨大化した分余計に驚く。そんなタバサ達の新鮮な反応にキュルケは笑みを浮かべる。

「どうどうどう?びっくりしたタバサ?チグリスの事ならいくら冷静な貴方でも驚くと思ったわっ!」

 驚かない方がおかしいというタバサの非難の視線を受け流しながら、キュルケは高らかに言い放つ。

「さっ、これで目的地にまでひとっとびよっ!」

 しゃがみ込んだチグリスの背中に乗る面々だが、才人、ルイズ、シエスタ、マチルダの心は一つだった。

 

 

 

 

((タバサじゃなくても絶対驚くと思うよ…)) 

 

 

 

 

「いざ、しゅっぱーつ!」

 非日常的な冒険のような状況に少しテンションが高いキュルケだった。シエスタも空の旅に興奮し「キャッホーッ!」と叫んでいる。才人はいつものように元気な面々にあの夜の惨劇は夢では無いかと思ってしまう。

(この旅の間はゆっくり出来るといいな…ダメダメ、こんな事を考えたらま~た何か起きる…止めよ)

 才人はシエスタによりかかると一息ついて全身の力を抜く。

「…シエスタ、俺が寝っ転がろうとした時急に後ろに来たよね?」

「…何のことですか?」

「とぼけな…えいっ!」

 才人は良くない未来が見えた。それから逃れる為に即座に跳ね起きると、他の誰の視界にも入らないよう高速で移動しタバサの横にいたシルフィードに寄りかかる。シエスタが気が付くころには才人は既に移動した後だった。

「ちっ」

「どうしたのシエスタ?」

「いえ、何もありませんよ?ミス・ヴァリエール。それよりも気持ちいいですね~っ!メイジの皆さんが『フライ』で空を飛ぶ感覚ってこんな感じなんですかね?」

 ルイズは即答できない。彼女自身『フライ』が使えない為、飛ぶ経験などチグリスの背中や飛行船程度だ。

「そっ、そそそ、そうね~!?まっまぁ、こんなもんかしらねぇ~!?」

 ルイズは冷や汗が頬をつたう感覚があるが、それを必死に誤魔化す。そんな様子を横目で見ていた才人だが、肩をとんとん、と叩く感覚に振り向く。どうやらタバサがその大きな杖で肩を叩いてきたようだ。

「?何だい?タバサ何か」

「ありがとう」

 才人は突然のお礼に疑問符が浮かぶが、タバサの視線が全てを物語っていた。その視線は楽し気にはしゃぐ人物に注がれていた。

「…キュルケの事か…?」

 タバサは無言で頷く。

「話はある程度聞いた…ありがとう…」

「たいした事してないよ。只、チグリスとキュルケをめぐり合わせるのに一役買っただけさ」

 タバサはそれを聞いて少しほほ笑んだ…ような気がした。あまり表情に出ない為才人には判断できないが。

「それでも、あの笑顔を取り戻してくれた…それで充分…」

 そっか、才人はそう呟くと騒いでいるキュルケとシエスタに視線を移す。

「あの笑顔を俺がね…そう言ってもらえると少しは嬉しい、かな?」

 キュルケが才人以外の男性を『汚物』と呼んでいる事はまだ問題だが、これから少しずつ良くなるだろうと才人は思う事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 八分後…

「※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※っ!」

「※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※っ!」

 才人達はタルブの村に向かう途中にある廃村にやって来ていた。理由は、シエスタとルイズの空を飛ぶことに慣れていない二人が酔ったのだ。現状は上記の通りである。

「おっおい…ルイズだいじょ」

「話しかけなっ※※※※っ!※※※※っ!※※※※※※※※っ!」

 ルイズはタバサに背中をさすられながら胃の内容物をばらまいている。一方のシエスタは…。

「※※※※っ!…お願いです才人さんみないっ※※※※※※※※※※※※っ!※※っ!」

 キュルケに背中をさすってもらっていた。これはもうしばらくかかるな。そう思った才人はマチルダに一声かけると、少し廃村の中を歩いてみる事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この村、なんでこんな事になっちまったんだ…」

 家々は誰の修復も施されず雨風に撃たれボロボロに、生い茂った草は家を飲み込みそうな程に生い茂っている。崩れたレンガが道に散乱し足を取られそうになり、手を付いた壁はウルトラマンの力を完全に抑え込んでいる才人の手が触れただけで崩壊。風化してしまう。いったいいつからここには人がいないのだろう?才人がそう考えた時、コツンッ!と才人の足が何かを蹴りつける。

「こりゃぁ…」

 それは木と布で作られた人形だった。よく見ると頭と思われる部分に毛糸が縫い付けられている。才人は自分の幼少期の記憶に重なる物があった。

「…人形…」

 それは女の子たちがおままごとで使っていた人形だった。幼馴染で高校も一緒の『高凪春奈』も遊んでいたのを思い出す。恐らく今握っているこれも同じ用途だろう…この村にもかつて人が住んでいた。その証拠だ。才人は人形の頭を撫でようとするが、指先が触れた瞬間頭が取れ、足元に落ちる。その瞬間バラッと崩れてしまった。才人の手の中の人形の胴体もいつの間にか崩れてしまい、風に飛ばされてしまう。

(この村を離れる時に落として行ったのか…持っていく暇も無いくらい急いでこの村から逃げ出したのか…)

 才人はそう考えると同時、生い茂る木々の中に全速力で走り出していた。何故才人が『村人が逃げ出した』という考えを持ったのか?その答えが才人の向かう先にいた。

「へぇ…初めて見た…やっぱりこの世界はファンタジーなんだなぁ」

 才人が走り付いたのは木々に隠れ外界との関りを拒絶するように村の奥に鎮座する荒廃した寺院。木々の間から覗き込むと見えるそこにたむろする異形の存在。怪獣とも、宇宙人とも違う。才人にとっては正に『ファンタジー』の存在。

「オーク鬼…」

 才人は元の世界ではゲーム、漫画でしかその存在を見た事が無いし、そもそも現実には存在しない。才人にとっては怪獣よりも身近に存在しない生き物。身の丈はハルケギニアの単位で二メイル、中にはそれ以上の大きさの個体もいる。体重は優に人間の五倍以上はあるだろう醜く太った体。突き出た鼻の顔は文字通り豚だ。才人はこの豚鼻を鳴らす微かな音をウルトラマンの聴力で聞いてしまい、その存在に気が付いたのだ。

「早くみんなに伝えないと…」

 才人が踵を返そうとした時、人が歩いてくる気配がする。デルフリンガーを抜こうとした時、デルフリンガーに落ち着くよう諭される。

「大丈夫だ相棒。姐さん達だよ」

 気が付くとマチルダ達がやって来ていた。シエスタとルイズは吐き気も収まったようで一緒についてきていた。

「探したよ才人。どうしてこんなところに?もう出発するよ」

 才人は奥を見てみるよう指を指す。オーク鬼に気が付いた面々は目を丸くする。

「オーク鬼が…この村を廃村に…関わらない方がいい…」

 タバサの意見に同意した面々は物音を立てずにその場を去ろうとするが、才人の耳に微かな声が届きその足を止めさせる。

「待って」

 才人の一言がマチルダ達の足を止めさせる。才人はデルフリンガーを引き抜くと再び木々の間からオーク鬼の様子を覗き始めた。

「ちょっとサイト何し…なに、アレ?」

 キュルケが才人を連れて行こうと肩に手を置くが、才人の視線の先にある何かに気が付き傍で同じくオーク鬼の様子を伺い始める。シエスタやマチルダ達は悩んだが才人の事だから何かあると思い、動かなくなってしまった二人の側でオーク鬼達の様子を見る事にした。オーク鬼たちは突然騒ぎ始めると寺院の奥からやって来たオーク鬼を見て歓喜の咆哮を上げる。そのオーク鬼は何か大きな袋を持ってきていた。後から鎖に繋いだ何かを引きずり、もう一匹のオーク鬼が現れる。

「何か始まるんだ…才人、何かに気が付いたのかい?」

 マチルダの訝し気な問いに才人は短く答える。

「…聞こえたんだ。『助けて』って」

「え?」

 マチルダは才人の返答にまさか、という表情をするが、才人の視線はオーク鬼から離れていなかった。オーク鬼は木を組んで作ったのだろうか?十字架を立てるとそこに鎖で引きずっていた何かを引っ掛け、吊るす。それは赤黒く、一部を欠損しているのか骨も見えている。ところどころにハエがたかっていたが、とても分かりやすいシルエットをしていた。それを見た才人は無言で走り出す。マチルダ達の制止も聞かずに。

 

 

 

 

 

 

 

 そのシルエットは、『人間』だった。

 

 

 

 

 

 

 

 才人は十字架の側にいたオーク鬼の首をデルフリンガーの横なぎで切り飛ばし、目の前にいたオーク鬼に飛び掛かると素早く肩に登り後ろからオーク鬼の目に五指を突き刺す。

「プギャァァァァッ!?」

 流れ出る鮮血、響く苦痛の咆哮。突然の事にどのオーク鬼も動けず固まってしまう。そんなオーク鬼達の目の前で才人はその両腕を真横に広げる。

 

 

 

 バキバキッ、ゴキ、ブチッブチッ!

 

 

 

 頭蓋骨を真っ二つに砕かれ首をもぎ取られ、崩れ落ちるオーク鬼。驚き固まっていたオーク鬼達はそこで我に返り怒りの咆哮を上げる。

「プギャアァァァァァァァァッ!」

 オーク鬼達は棍棒を手に取ると乱暴に振り回し目の前の華奢な人間に振り下ろす。人間の剣士は五人がかりでオーク鬼一匹分の力しかない。長い人間との戦いの中でオーク鬼達は学習していた。奇襲のように見えたそれは一人の人間が勇気と無謀をはき違え飛び込んできただけ、オーク鬼達にはそう見えたのだ。

「フギィッ!」

 真っすぐに才人に直撃する棍棒。オーク鬼はぐしゃっという手ごたえを感じる…はずだった。

 

 

 

 バキバキッ!

 

 

 

「プギャアッ!?」

 棍棒はオーク鬼の手の中でバラバラに砕け散る。オーク鬼は何が起きたか分からなかった。分からないまま、絶命した。才人の拳は棍棒を真正面から砕き、オーク鬼の顔面に直撃、頭蓋を粉砕し脳みそを散乱させたのだ。オーク鬼達は目の前で起きた真実に怯え始める。才人はそんなオーク鬼達を無視して、オーク鬼達が運んでいた大きな袋に目を移す。それはもぞもぞと動いていた。才人は優しく袋の上からもぞもぞと動く物を撫でる。

「聞こえたよ、君だったんだね。『助けて』の声」

 袋の中のもぞもぞはビクンッ!と跳ねると、直ぐに泣き出す声がする。女性…鳴き声から感じる幼さからしてまだ少女のようだ。今まで恐怖で震えていたのだろう、安堵の鳴き声が聞こえる。オーク鬼は人間の子どもが好物なのだ。恐らく食用として攫ってきたに違いない。才人はオーク鬼が振り下ろす棍棒を蹴り砕くと、その巨体に勢いのまま足を叩きつけ肉を吹き飛ばし、風穴を開ける。

「大丈夫、直ぐに終わるから」

 才人は優しく言うとデルフリンガーを構える。オーク鬼達はこの時既に理解していた。こいつは自分達の適う相手じゃない。このままでは全滅する。その時、オーク鬼の鋭い嗅覚がうまそうな若い人間のメスの匂いを嗅ぎつけ、その場所を特定する。目の前のこいつにはどうやら仲間がいる。しかもメスだ。そいつらを人質にしてこの化け物を潰そう、メス共は喰ってしまおう、オーク鬼はそう考えた。

「ブヒィィィィィッ!」

 オーク鬼達は一目散に才人と反対側、マチルダ達の方へ走り出す。その矢先、吠えた一匹のオーク鬼の口の中に特大の『フレイム・ボール』が吸い込まれる。オーク鬼の頭は爆散した。

「サイト~ッ!一人で突っ走らないでよ?私たちがいるんだから、一緒に戦いましょ?」

 キュルケはそう言うと才人にウインクして見せる。才人はごめん、とジェスチャーして見せるがその間にもオーク鬼の剛腕がキュルケに迫る。

「まったく、あたし達の力を知らない訳じゃあるまいし。頼ってほしいね」

 マチルダはそう言うとゴーレムを作り出し、まとめて五匹ほどのオーク鬼をつかみ上げ地面に頭から叩きつける。オーク鬼達は目の前のメス共がメイジだったことに気が付き狼狽する。目の前にはメイジ、後ろには化け物、勝てる見込みは無い。その時、一匹のオーク鬼がゴーレムの上に青髪の少女が立っている事に気が付く。

「ブヒィ?」

 青髪の少女は飛び降りると同時、杖を振るう。マズイ、あいつもメイジだ。オーク鬼が周りのオーク鬼達に知らせようとした時、既に終わっていた。残りのオーク鬼達は一匹残らず倒れていたいったい何が起きたのか?よく見ると首筋に何かが突き刺さっている。それが何か確認する前に最後のオーク鬼の前にブロンドの髪の少女が現れる。

「くらいなさいっ!『フレイム・ボール』ッ!」

 最後のオーク鬼は『フレイム・ボール…のような爆発』を真正面からくらい、その頭を粉々に打ち砕かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦いが終わると、キュルケは『フライ』でゆっくり降りて来たタバサに抱き着き、その胸で挟み込む。

「や~んっ!さすっがタバサッ!頼りになるわ~!」

「苦しい」

 タバサは素っ気ない返事をするが、実は嬉しいのか口角が少し上がっていた。マチルダはそんな様子を見守りながら内心少し驚いていた。

(ミス・タバサ…意外とやるね…まさか一発でオーク鬼達の頚骨に『ウインディ・アイシクル』を撃つなんて…まるで裏の人間の手際だよ)

 シエスタは一騎当千の戦いを見せた才人に抱き着いていた。

「凄い!凄いですっ!あの凶暴なオーク鬼を一瞬でやっつけちゃうなんてっ!」

 才人はシエスタに笑い返すのもそこそこに十字架にかけられていた人を下ろすことにした。今治療すれば一命はとりとめるかも知れない。ルイズ達に袋の中の少女を任せると才人は十字架から人を下ろす。

「脈は…ある。喋れますか?」

 どうやら男性のようだ。全身は恐らく激しい暴行にあったのだろう、赤黒く変色している。両足と左腕はオーク鬼に食いちぎられたのだろうか?骨が見えている。壊死も酷く、何らかの感染症にも感染している様だ。恐らく、もう…。

「…ぁ」

 その時、男性が何か語りかけてくるが、声は弱弱しく消え入りそうだ。才人は優しく囁く。

「大丈夫、伝えたいことがあれば心の中で思うだけで俺には伝わります」

 そう言うと才人は意識を集中し、男性の記憶を、想いを受け取る。伝わってくるのは激しい憎悪と、憎しみ。悲しみに、悔しさ。

(これは…)

 才人に流れ込んでくる男性の記憶。男性はどうやら行商人の一団の一人らしい。馬車の列の中妻と、娘と談笑する姿が映る。幸せなひと時…それを突如森の中から襲い掛かってきたオーク鬼達が全てを破壊する。叩き殺される馬に、護衛の傭兵たち。才人は凄惨な光景を拒むことなく全てその目にした。目の前の男性は実際の被害者なのだ。目を逸らすわけにはいかない。

(ひでぇ…)

 次に移ったのは捕らわれた行商人たち、中には抵抗する人もいたが簡単にオーク鬼にその命を奪われ、肉片を捕食される。暫くするとオーク鬼達は今才人達がいる寺院の前に移動。子どもがいる父親達の足を乱雑に食いちぎり始める。その子のいる前で。すると今度は身動きできない父親を鎖でつなぎ…、

 

 

 

 

 

 

 父親の見ている前で子どもを捕食し始めた。オーク鬼達はほくそ笑んでいる。全て分かった上でやっているのだ。

 

 

 

 

 

 

「があぁっ!」

 瞬間、才人の脳裏にクイントータスの記憶がフラッシュバックする。こんな事をするのは何も人間だけではないらしい。その時、寺院の中に子どもたちの母親や女性が泣き叫びながら引きずられて連れて行かれる。目の前で子どもを食べられれば誰しもこうなるだろう。そういう意味で言えばクイントータスも人間の母も変わらないのだ。すると、何人かの子どもたちは袋に入れられ、その父親達は一緒に連れて行かれる。一度には全ての人間を食べない気らしい。しかし、その行動さえもオーク鬼達は計算していたのだ。寺院の中で行われている行為を見せるという楽しみの為に。

「キャーーーーーッ!」

 その時、寺院の中から先ほど聞いた少女の声が聞こえる。才人は直ぐに察してしまった。少女が何を見たのか。

「…ぁ…ぁぁっ!」

「大丈夫、娘さんは生きてるよ。只、貴方の奥さんを見ちまったみたいだ…大丈夫、もう無理しないでくれ。貴方の娘さんはしかるべき所に引き取ってもらうよ。だから…」

 才人の言葉に安心したのか男性は大きく一息つくとそのまま息を引き取った。才人は男性の瞼を閉じると、寺院の中へ向かった。

「才人さ~んっ!」

 入った途端にシエスタが泣き付いてくる。今まで鳴き声が聞こえなかったのは少女を励ましていたからだろうか?しかし才人の姿を見て我慢できなくなったのか。才人はシエスタをあやしながら周りを見渡すと少女の母親の遺体を見つけた。父親の記憶の通りの行為を受けたという証拠が遺体に見られた。

「あ…あぁ…」

 才人は言葉を失い、怯える少女をマチルダに預けると少女の母の遺体に手を合わせる。母親の遺体は凄まじい異臭を放つ白くドロドロした液体と血の混じった物の中に転がっており、下顎が引き裂かれて無くなっていた。喉は大きな棒を詰め込まれたかのように丸く押し広げられている。下腹部は下から張り裂け内臓にハエがたかっており、そこにも白いドロドロした液体が見られる。…よく見ると周りにも同じような女性の死体が数多くある。才人はいつの間にか手が震えていた。怒りが抑えられず拳を地面に叩きつけたい気持ちになる。そんな時、ルイズが才人の手を取る。

「才人…トリステインには…ハルケギニアにはね、領主が村人の訴えを無視して見捨てられたこういった村がいっぱいあるの。この事は姫様にも相談するわ。ほっておくとこういった被害が起きるって」

 才人はルイズの手を優しく握り返すとポツリと呟いた。

「ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 才人は母親の遺体を抱き上げると他の全ての遺体と一緒に運び出し、村から少し離れた所にある日の光がさんさんと降り注ぐ心地よい、見晴らしの良い丘の上に埋葬した。才人は土だらけになってまで手伝ってくれたキュルケやシエスタ達にお礼を言うと、木陰で少女をあやしていたマチルダの隣に座り込む。タバサやルイズ達も疲れて木陰に寝ころぶ中、才人はマチルダの胸の中で泣き疲れて眠る少女に視線を落とす。

「助けられたのはこの子だけか…」

 悲し気に呟く才人にマチルダが励ますように声を掛ける。

「生存者無しから生存者一人になったんだ。世の理不尽から救えた、それは誇るべきさね」

 言われて才人は眠る少女の頭を撫でる。

「あぁ…そうだね。生きていれば…生きてくれていれば…それで…」

 そう言うと才人はその場で寝ころび、ひと眠りする事にした。戦いで疲れたし、今は静かに休みたかった。眠る間際、才人は一人自身の戦う理由を考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

(『ウルトラマン』として戦うのも…『人間』平賀才人として戦うのも…結局は理不尽な力に振り回される命を守る為なのかな…?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




続きます。タバサの技は『必殺仕事人・飾り職人の秀』みたいな感じです。(簪でブスッ!の人…古いの見ないと分かんないかも…)



令和一発目の内容がこれとは…。本当は「平成最後のーっ!」という感じでもう二話程出してる予定でした。まぁ、『ゼロの使い魔~真心~』が未完で終わらなくて良かったです。(利き手のヒビですんで良かったです。ホント)





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ゼロの使い魔~真心~第57話

お待たせいたしました。続きです。タルブの村に到着します。私が近年見た中で2~3番目に可愛くて(一番じゃないんかい)お話が面白かった怪獣を出します。





 マチルダはチグリスの背中の上でオーク鬼達から救助した少女を起こさないよう優しく抱きかかえていた。オーク鬼戦後才人達は一時間の休息の後、再びタルブの村に向け飛び立ったのだ。

(こうしていると…あの子達の事を思い出す…今は元気にやっているだろうか?)

 今アルビオンはレコンギスタの勝利によって統一され、大きな戦闘は無い。しかし、いつ起きるか分からない大きな戦いの事を考えると胸が苦しくなる。

(あそこは人里から離れているし、あの子の『力』なら何とかなるとは思うがね)

 少なくともこちらからの仕送りは届いているし、あの子の筆跡のお礼の手紙も届いている。特徴的な癖字の為、何者かに偽造されている可能性は限りなく低い。現状は一時的な停戦協定とはいえ、少なくとも国民に危害が及ぶ事は無いだろう。

「皆~、着いたわよ~っ!」

 キュルケの元気な声が聞こえる。どうやら一人で考え込んでいる間にタルブ村の近くまで来ていたようだ。タルブ村の近くに到着した一行は着陸すると、チグリスを縮小光線銃で小さくして残りは歩きだ。『肉食地底怪獣・ダイゲルン』の襲撃に遭い村人たちは化け物に敏感になっているはず、そんなところにチグリスが現れれば大混乱が起きる。それを避けるためだ。

「なぁシエスタ?教会は近いのかい?」

「ええ直ぐですよ。村の中にあるので、直ぐにつきます」

 助けた少女を保護してもらうため、一行はまず教会へ行くことにしていた。

「村の教会のシスターさんは今までにも身寄りのない子たちを引き取って、育てて来てくれたんです。シスターさんならきっと…」

 シエスタ曰く、シスターさんは村の名物的な人らしい。何でも、豪快な性格のおばあちゃんだとか。

「へ~、何か会うのが楽しみ…ん?」

 その時、先を歩いていたタバサとキュルケ、ルイズが立ち止まって動かなくなってしまう。

「どうしたん…え?」

 才人はどうしたのだろうかと三人の前に回り込んだ時、『それ』を目撃した。後から来たマチルダとキュルケも『それ』を目撃し、目を丸くしている。全員の視界に映ったのは異様な光景だった。才人は思わず呟く。

「…なんじゃありゃぁ?」

 のどかで穏やかな村の入り口近く、そこに鎮座する異様なまでの巨体。青い体に、どこか植物の根・蔦のような印象を思わせる触手。背や腕にあたる部分には灰色の甲羅の様な物が段々になって付いている。口だろうか?それにあたる部分に花が付いており、その上にあるつぶらな瞳が優しくこちらを見つめてくる。才人は見た事も無い怪獣だった。才人の世界にはいなかった怪獣だろう。それも驚きだが、一番全員をあっけに取らせたのはその怪獣の背中に括りつけられた垂れ幕だ。怪獣から少し離れた所の地面に突き刺さっている長い木の棒の天辺に反対側が括りつけられている。そこにはこう書いてあった。

 

 

 

 

 

 

『おいでませ・天の使いの村・タルブ村へようこそっ!』

 

 

 

 

 

「「「ようこそ~っ!?」」」

 才人は文字こそ読めないが、この状況の異常性だけは理解できた。怪獣は大騒ぎする来訪者たちを見て不思議そうに首を傾げ、『ポロロロロロッ?』と可愛らしく鳴き声を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 村の中は賑わっていた。やたら賑わっていた。村人がやたらと走り回り、屋台を組んだり荷物を運んだりと才人にはお祭りの準備をしているように見えた。この時期には大きい祭りがあるのだろうか…怪獣にちなんだ。

「なっなぁシエスタ?今はお祭りの季節なのかい?」

 シエスタは村人たちの様子を見て惚けていたが、才人に声を掛けられ『はっ!』と意識を取り戻す。シエスタは才人やマチルダ達に振り向くと全力で首を振る。

「ちっ違いますっ、違いますっ!タルブ村は普段こんなふうじゃないんですっ!それにあんな怪物見た事ないですっ!」

 それはそうだ。と才人は思った。以前あの肉食怪獣を倒しに来たときはあんな入り口の垂れ幕は無かったし、あんな怪獣は影も形も無かった。今は大人しくしており、暴れる気配は無いが面々には常に不安がつきまとう。少しすると一人の老人がこちらに気が付き話しかけてきた。

「おぉ…シエスタ?シエスタかい?!」

「あっ!村長さんっ!」

 その声で周りの村人達も気が付いたのかシエスタの周りに集まってくる。一人二人ではなく、その場にいた村人の殆どが集まってくる。

「魔法学院に奉公へ行ってたんじゃないのか?」

「おかえりシエスタねぇちゃん!」

「おおっ!お休みがもらえたんか?」

「遂に孫の所に嫁に来る決心が…」

「それは無いです」

 シエスタの即答にその場に大きな笑いが生まれるが、付いていけない才人やマチルダ達は茫然としている。村長はルイズやキュルケ、タバサの存在に気が付くと笑顔で語りかけてくる。

「ややっ!あなた方はもしや貴族様でっ!?もしや観光ですか!ようこそ天の使いの村・タルブ村へっ!」

 才人は何となくタルブの村の現状が見えて来た。あの怪獣が大人しい事を良いことに観光資源にしようとしている様だ。現に今もルイズ達に『天の使いパイ』『天の使いワイン』等入り口の所にいた怪獣がモチーフになっている商品をやたら売り込んでいる。そんな時、一人の青年が才人に近づいて来る。

「お前シエスタのなんだっ!」

「え?」

「だからっ!お前はシエスタの何なんだっ!」

 才人は突然詰め寄る青年に戸惑うが、シエスタは青年を軽く押しやり間に入り込む。

「気にしないで下さい才人さん。この人がさっきのおじいちゃんのお孫さんなんです」

「シエスタはおらの嫁さなるんだっ!ぶべっ!」

 青年はシエスタに無言で殴り飛ばされる。

「ほんっと~に気にしないでください…この一家が勝手に言ってるだけで、うちの家族も了承出してないんで。とにかく、まずは教会に行きましょう」

 一行はしつこく売り込んでくる村人たちから逃れるように教会へと向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼しますっ!シスター・ドーラ様はいらっ」

「久しぶりじゃないかシエスターーーーッ!」

「久しムギュッ!」

 教会に足を一歩踏み入れて早々、シエスタ目掛け一人の大柄なおばあちゃんが駆け寄り力強く抱きしめる。彼女がこの村の名物的なシスターさんだろうか?

「久しぶりですドーラ様っ!」

「学院への奉公に出ていくあんたを見送って以来だねぇ~!」

 シスター・ドーラはシエスタの脇に手を入れると、子どもをあやすように持ち上げ楽し気にその場でクルクルと回っている。見た目の年齢からは考えられない程元気なおばあちゃんの姿にあっけに取られていた才人だが、気まずそうに声を掛ける。

「あっ…あの~」

「思い出すよ~っ!初めて教会に連れてこられた頃のシエスタはまだこんなにちっちゃかったのに~!」

「もうっ!生まれたばかりの時の洗礼の話ですよ~。何年前だと」

「「「あの~っ!お話良いですか~っ!」」」

 おいて行かれていた面々の声で才人達に気が付いたシスター・ドーラはシエスタを下ろすと才人達に向き直る。

「あぁ、すまんすまん待たせたね。そいであんた達のご用件は?教会への寄付?それとも寄付?もしくは寄付かい?」

「寄付しかねーじゃんかっ!そうじゃなくて、実はお願いが…」

 才人達は教会の礼拝堂の裏にある部屋に通されると、そこでこれまでの経緯を話した。オーク鬼の手により家族を奪われ一人ぼっちになってしまった少女の話を。シスター・ドーラは腕組みをして聞いている。

「…という事があって、この子を」

「分かった」

「負担でしかないのは重々承知しています。ですが…え?」

 シスター・ドーラが分かったと言ったことに後から気が付いた才人は思わず変な声が出る。マチルダやキュルケは簡単に了承したことに目を丸くする。話の速さにあのタバサでさえ目が点になっている。

「な~に私に任せなよ。今だって何人も育てているんだ。一人増えた所でそこまで変わらんさね」

 シスター・ドーラは才人達に立ち上がるように促すと教会の裏手、少し大きな広場に連れて行く。そこには12人の子どもたちがかけっこをしたり、地面にお絵かきをしたりして楽しそうに遊んでいた。

「こんなにっ!?」

 キュルケが人数の多さに驚いていると、シスター・ドーラは優しくキュルケの頭を撫でる。

「な~に、これでも少ない方さね。多いときはこの何倍もいたよ。私が世に送り出してきた子達も数知れずさ。お嬢ちゃんくらいの年の子もいた事あるよ」

 その時、何人かの女の子たちがこちらに気が付き駆け寄ってくる。

「ドーラばあちゃんっ!その子が新しい家族の子?」

「ドーラおばあちゃんっ!また家族が増えるのねっ!」

 女の子たちはマチルダが抱きかかえている少女に興味津々である。少女は少し前から目を覚ましていたが、怯えた様子でマチルダから離れたがらなかったのだ。シスター・ドーラはそれを見てさっ、と少女をマチルダから引き離し優しく抱きしめる。

「さっ、お嬢ちゃんお名前を教えてくれるかい?」

 少女は怯えて今にも泣きだしそうだが、シスター・ドーラは包み込むように抱きしめ背中をトントンと叩き優しく囁きかける。

「だ~いじょうぶ。ドーラばぁは皆のばぁばだよ、どんな奴からだって守り抜いてやる。そこにいるお兄ちゃんと同じかな?それくらいにばぁばは強いから」

 シスター・ドーラの優しい囁きに少しだけ心を許したのか、少女は小さく呟く。

「…アイリス」

「アイリスか~、いい名前だっ!花言葉は『希望』に『未来』に『友情』っ!アイリスはこれからドーラばぁと一緒に未来への希望を持って一緒に歩もうじゃないか。他の皆と友情を築く事も出来るんだ、いい事だろうっ!さあ、まずは挨拶がてら皆と一緒に遊んどいでっ!」

「…うんっ!」

 少女はそう言うとシスター・ドーラの手から降り他の子どもたちと一緒に遊び始めた。才人達が手際の良さに関心していると、シスター・ドーラに背中を押される。

「さっ、あんた達も子どもたちと遊んでやってくんなっ!」

 ルイズとタバサは戸惑っているが、キュルケと才人、シエスタはそれぞれ子どもたちの所におもむき一緒に遊び始める。シエスタは女の子のおままごとに付き合い、キュルケは子どもたちの目の前で炎の魔法を使って輪や星、ハートを作って見せて楽しませている。

「そうれ捕まえてみなっ!」

 才人は男の子達と鬼ごっこをして遊んであげていた。子どもたちに捕まりそうで捕まらない、その微妙な加減で子どもたちを楽しませていた。ルイズとタバサは最初は戸惑っていたが、子どもたちに手を引かれ一緒に遊び始めた。只、マチルダだけはその場に留まっていた。

「やぁ、あんたも遊んであげてくれるかい?」

 マチルダはシスター・ドーラの問いかけに頷くが、指を二本立てて見せる。

「その前に二つ、質問良いいですか?」

 シスター・ドーラはマチルダの様子が変わった事に気が付き、口元に小さく笑みを浮かべる。

「いいよ。何でも聞きな」

 そう言われたマチルダの目は鋭い猛禽類のような目、『土くれのフーケ』の目に変わっていた。

「まずは一つ、あんた何者だい?一人でこの人数を面倒見てるのも凄いが、それだけの金をどうやって用意した?絶対寄付金だけじゃ無理だ。…答えによっちゃぁ」

 マチルダの手にはいつの間にか杖が握られている。しかし、武器を構えたのはシスター・ドーラも同じだった。いつの間にかその手には短剣が握られている。

「なあぁに、裏稼業に手は染めちゃいないよ?若い頃は…まぁ傭兵みたいな感じさ。欲望の赴くまましこたま稼いでね…というか、恥ずかしい話今でもそこは変わってないんだが…バカな話、稼いだ金の使い道を何一つ考えて無かったのさ。…そん時の金で今はやり繰りしてんのさ」

 マチルダはそれを聞いて安心したのか杖を下ろす。シスター・ドーラは悪人じゃない、それが分かっての安堵ともう一つ。シスター・ドーラと戦わなくて済んだ事への安堵だ。

(この人はマジだ、この人は本当に才人並みに強い。経験の差を考えると才人より強いかも…)

「で、もう一つの質問は?」

 既に短剣を収めたシスター・ドーラに問われ、マチルダも気になっていた事を口にする。

「村の入り口にいる…天の使い?っていうのについて何だけど…ありゃぁ何だい?」

 シスター・ドーラは口元に笑みを浮かべる。先ほどとは違う、優しい笑みだ。

「それは…そうだね。昼飯の時にでも教えてやるよ。今は…」

 シスター・ドーラはマチルダの背中を優しく押す。

「子どもたちと一緒に遊んでくんなっ!あんた、経験者だろ?子どもたちが待っとるよっ!」

 言われると同時、マチルダの目の前に子どもたちが集まってくる。皆目を輝かせて、何をしてくれるのかと楽しみにしている。

(あたしが子どもたちの世話をした事があるのも見抜いてる…こりゃ敵わないね)

「よ~せてっ!」

 マチルダは子どもたちの輪の中に入ると『錬金』で犬や猫の土人形を作ったり、ウルトラマンコスモスの形をした小さなゴーレムを作って動かして見せたりして遊んでやり始めた。

(ホントに、あの子達と遊んでやってた事を思い出す…)

 才人達は久方ぶりの、楽しく、笑顔に包まれた時間を過ごしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遊び始めてから一時間ほどして、シエスタは家族の所に帰郷の報告に行った。才人の事をしきりに紹介したがっていたが、マチルダとキュルケに阻まれそれは適わなかった。その間に才人達は遊んでいた広場で子どもたちの昼食作りを手伝っていた。マチルダの華麗な包丁さばきにシスター・ドーラは感嘆の声を漏らす。

「ほう!やっぱり、マチルダさんあんたは上手だねぇ」

「そういえば、どこで気が付いたんですか?あたしがこういう経験あるって?」

「勘さね」

 そうこうしている内にシチューが出来上がっていく。タバサやキュルケが手伝った事もあってあっという間に出来上がっていく。

「なんで私は調理を手伝わせてもらえないのっ!?」

「俺とお前がいなかったら皿とか椅子とかを出す奴がいなくなるだろ?」

 才人が不平を言うルイズをなだめていると、シエスタが戻ってくる。いくらか食材を持ってきてくれた様だ。

「ありがとねシエスタ。助かるよ」

「いえいえ、私たちの分の食材は私たちが出さないと。教会に負担はかけられませんし」

 それを聞いたシスター・ドーラは「アハハハハハッ!」と豪快に笑う。

「よく言ったシエスタっ!人様への気遣いが出来るっ!これが良い嫁になる為の第一歩さっ!」

 そんな談笑の中、ついにシチューが完成し大きなテーブルで子どもたちを含めた全員での昼食が始まった。子どもたちやルイズ達が食前の祈りを唱える中、才人も聞きながら真似をして祈りを唱える。才人は未だこのお祈りになれておらず文言も覚えていなかった。

(な~んか覚えらんないんだよね…)

 全員が食事を終えた時、シスター・ドーラがおもむろに語り出す。

「さて、そろそろ話すべきかね…お客さん方が気になっているあの『天の使い』様についてなんだがね」

 才人はずっと気になっていた事なので身を乗り出してまで話を聞こうとする。

「この村に来た詳しい理由は分からないんだが、この間…鋭い牙を持ったバカでかい怪物がこの村に現れた日から三日後の事さ…」

 その怪物とは才人が倒した怪獣(『肉食地底怪獣・ダイゲルン』)だろう。才人が思い出しているとシスター・ドーラは一人の女の子を呼び地面に木の枝で絵を書かせる。女の子は絵を描くのが上手なようで流れる様に絵を描いていく。完成したのは小さな頭、鋭い牙、太い手足に特徴的な体。才人は直ぐにそれが何か分かった。

「この怪物が村に現れたのさ」

 

 

 

 

 

 

 

『どくろ怪獣・レッドキング』

 

 

 

 

 

 

 

 才人の世界には何度も現れており、才人の世界での知名度はとても高い怪獣だ。無類の暴れん坊で、その剛腕から繰り出される怪力は今までに多くの怪獣を葬っており、その威力はダイナマイト一万トン分の一斉起爆に相当するという見解を示す学者もいるほどだ。

「レッドキングがこの村にっ!?」

「あの怪物を知ってるのかい?そうさ、こいつが現れた。前の奴の時もそうだが、あんなのには人間は適わないからね、皆逃げるしか無かった。領主に兵を出すよう手紙を送ったが…村の皆はなんも期待何かしてなかった」

 才人は言われて思い出す。これまでミシェルからもらった手紙の場所に言った時、少なくともそこの領主が兵を出して避難・救助活動を行っていたが、タルブ村の時は兵が一人もいなかった事を。

(俺が来なかったらタルブ村もあの廃村のように…見捨てられていたのかも…)

「誰もが諦めかけたその時、あの『天の使い』様が空から現れたのさ」

 シスター・ドーラの口から語られたのは驚く内容だった。あの大人しい『天の使い』がレッドキングをその触手で激しく打ち付け、口から放出した黄色い粉を吹きかけて攻撃。レッドキングを追い返してしまったというのだ。

「村の連中、即物的な奴らが多くてね。最初『天の使い』様が来たときはまた怪物が来たって泣き叫んでいたくせに、助けて貰ったら手のひら返しやがったのさ」

 それ以来村の入り口付近に勝手に居着いてしまい、それ以降特に進展も無く現在に至るらしい。

「まぁ悪さする訳じゃないからね。それに私の提案で観光資源として活用していく事が決まったのさ」

 それを聞いて才人達は全ての疑問が解け、納得した。

「あなたがこのお祭り騒ぎの言い出しっぺか。」

 才人が呟くと、シスター・ドーラは笑って見せる。

「売り上げの一部を教会に寄付するっていう契約も結んでるからね。まぁ相手が何であれ、例え『天の使い』だろうと活用できる者は活用するべきなのさ。だから私としてはもっと積極的にやってほしいくらいさ」

 才人は、村の入り口にいる怪獣がどんな目的で来たのかはとても気になったが、それよりも『まだ積極さが足りないと思っているのか』と驚くしかなかった。

「そういえばシエスタから聞いたけど、あんたらタルブ村の栄養土をもらいに来たんだって?」

 シスター・ドーラの問いかけに才人は頷く。

「ええ、一番の目的はそれなんですよ」

「ちょっと待ってな。私から村長に話付けよう」

 そう言うとシスター・ドーラは子どもたちに留守を任せ、才人達と一緒に村長の所に向かう事になった。どうやらタルブ村の栄養土の管理は村長が行っているらしい。こんな事なら村に来たときに直ぐに頼めば良かったと少し後悔した才人達だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一行が村長の所に向かう時、才人は村の入り口のあたりが騒がしい事に気が付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 




続きます。可愛かったのはレッドキングじゃないですよ?「ポロロロ」言ってた方ですよ?



骨はもう少しで完治するので、そしたら投稿ペースアップ出来るはずです。(まだ結構痛い)





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ゼロの使い魔~真心~第58話

大変長らくお待たせいたしました。続きです。オチ滅茶苦茶悩みました。頑張ったので見ていって下さい。


腕、治りました。






 才人達は村長に話を通したシスター・ドーラとシエスタの案内で村の裏山にやって来ていた。

「はぁ…はぁ…まだなの?…はぁ…」

 ルイズは懸命に歩いたが、途中で疲れてしまいシスター・ドーラにおんぶされていた。おんぶされている間に息を整えようとするが、ある事に意識が集中してしまい中々整えられない。

(シスター・ドーラには悪いけど…おいくつなのかしら?お年からは考えられないくらい物凄い筋肉…)

「もうすぐですよ~」

 シエスタが言ってから暫くしている内に才人達は山の中腹までやって来る。その時、才人は木々の間から漏れる光に視界を奪われる。才人は開けた場所に出ると思い歩を進めるが、後ろからシエスタの慌てた声が聞こえる。

「あぁっ!才人さん止まって~っ!」

 遅かった。才人は既に歩を進めてしまっていた。その時、才人は突然の浮遊感に襲われる。何故か?本来力強く踏みしめるはずの地面がそこには無かったからだ。

「っえ?」

 素っ頓狂な声を上げながら才人は下を見る。そこには大きく削られた山の側面が見れた。村から見れば裏山の、更に裏側だ。

「ぅぉおおおおおお!?」

 次に才人の体は重力の力を受け落下を始めた。迫る地面には木の根や岩の様な物が見える、才人ならば死ぬ事は無いが…ぶつかれば只では済まない。マチルダ達の悲鳴が聞こえる中、才人は慌てて拳を山の側面に向けて打ち込む。それは深々と突き刺さり才人の体を釘付けにする。

「イテテ…助か」

 

 

 ボコンッ!

 

 

「てねー!」

 才人の腕の周りの土が大きく崩れ、結局また落下してしまう。マチルダはゴーレムを作って才人を受け止めようと慌てて杖を抜くが、それよりも先に才人は受け止められていた。マチルダが杖を抜くよりも早く行動し、才人のいる所まで移動してきたのだ。

「シスター・ドーラッ!」

「まずは落ち着きなお兄ちゃん。落ち着けばこれくらい、どうって事無いだろ?お兄ちゃんなら?」

 シスター・ドーラは空中で才人に肩を貸すと、崩れていた才人の体勢を整えてやる。そのまま二人は体を前方に何回か回転させ勢いを殺し、ゆったりと着地する。

「ありがとうございます。助かりましたシスター・ドーラ」

 シスター・ドーラは才人の頭を撫でながら豪快に笑う。

「ハハハハハッ!いいって事さ。助かればそれで良しっ!…まぁ何が起きても平常心を忘れないこったね」

 才人は心底驚いていた。シスター・ドーラからは底知れぬ実力を感じていたが、まさかこれ程とは思わなかったのだ。

(いったい…何者なんだ?)

 驚いていたのは才人だけではない。マチルダ達も目を見開いている。タバサやキュルケはその動きを追えず目が点になっていた。

「凄い…タバサ今の目で追えた?」

「無理…(見た目からは考えられない…)」

 

 

 

 

 

「あの~、…私がいる事、忘れないで…おぇっ…」

「「あ」」

 

 

 

 

 

 シスター・ドーラに忘れられていたせいで、目を回し酔ってしまったルイズだった。

 

 

 

 

 

 

 才人が落ちた崖、そこには登り降りする為に縄と重しで作られた原始的なエレベーターが付いている。それで降りて来たマチルダ達は真っ先に才人に飛びつく。

「才人っ!怪我は無いかいっ!?」

 才人は抱きしめて来たマチルダの幸せな感触に飲み込まれそうになるが、すんでの所で正気を取り戻し、全員に怪我も無く大丈夫だと伝えた。それを聞いたシスター・ドーラが手をパンッ!と叩く。

「良しっ!それじゃ改めて。土堀を始めようじゃないかっ!」

 こうして才人達の土堀が始まった。才人達はそれぞれ分かれるとシャベルで土を掘り始める。しかし、今回必要なのはとんでもない量だ。とてもでは無いが直ぐに終わりはしない。チグリス…アストロモンス一匹分。5万8千トンもの質量が抜け出たのだ。その全てを栄養土で賄わなくても良いと言っても、とても人力だけで掘り出せる量じゃない。

「なぁキュルケ…」

「何?才人?」

 才人はキュルケの隣に来るとシスター・ドーラとタバサに聞こえないように小声で話しかける。

「なぁ、シスター・ドーラとタバサをどうにかしてここから離せないか?そうすれば俺が変身してやれるから手っ取り早いんだけど」

 キュルケは即座に首を振る。

「駄目よ。こんな事にウルトラマンの力を使う訳にはいかないわ。それより、何でチグリスを呼んじゃダメなのよ?」

 才人も即座に首を振る。

「それこそ駄目だよ。チグリスには帰りに土を持って帰ってもらわなきゃならないんだ。ここで体力を消耗させる訳にはいかないよ」

 シエスタが持ってきてもらうように頼んでいたときは少量を送ってもらっていた。今回、元々は才人がコスモスに変身して土を持って帰って来る予定でいたのだが、キュルケとタバサが一緒に来ることになった為予定を変更したのだ。いかにタバサと言えどむやみやたらにコスモスの正体をばらすわけにはいかない。その為にチグリスに土を持って帰ってもらおうとしたのだが…。

(あの肉食の怪獣だけじゃなくて『ドクロ怪獣・レッドキング』までこの村に現れていた何て…)

 タルブ村には短時間で2匹も凶暴な怪獣が現れている。例の『天の使い』という怪獣が守ってくれているという状況とはいえ、ここでまた怪獣が現れれば村人の恐怖を煽る結果になりかねない。その為、チグリスに土を掘ってもらう訳にはいかなくなったのだ。

「どっちにしたってもうしばらくはこのままっていう事ね。頑張りましょう」

 才人は仕方ないか…と思いながら手を動かす。どれくらい時間がかかるだろう?それまで持つだろうか?…ルイズが。

 

 

 

 

 

 

「もう無理疲れた~っ!何でこんな事しなきゃいけないの~っ!」

 もう無理だった。

 

 

 

 

 

「ルイズッ!もう休んでていいぞ。詔を作る方を頑張ってくれっ!」

 ルイズは元々落ち着いた静かなこの村で集中して詔を作るために連れて来たのだ。村が天の使い騒ぎでうるさくなってしまっていた為に仕方なく土堀を手伝ってもらっていたが、ここらが限界だろう。むしろ頑張った方だ。

「そうするわ…」

 ルイズはそう言うと岩の上に座り込んで『始祖の祈禱書』とにらめっこを始める。それを見届けた才人はまた土堀に精を出す。なるべく早く作業を終わらせる為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 才人達が土堀に精を出している最中、村の入り口では大騒ぎが起こっていた。何と、タルブ村のある土地の領主が突如訪問してきたのだ。村長は『天の使い』グッズを売り込む村人たちを落ち着かせると村の代表として挨拶をする。

「お久しゅうございます領主様。今日この日に領主様にお会い出来ました事、幸福の極みでございます」

 村長は深々と頭を下げるが、領主は意にも介さず歩を進め、領主の一団を不思議そうに見つめる『天の使い』の前までやって来る。

「ほう…こやつが噂の…」

「はい。我らが『天の使い』様でございます。我らの危機にご降臨し、我らを救済してくださったお方にございます」

 領主は興味無さそうに聞いているが、ふと村長に問いかける。

「おい、こやつは暴れたりはしないのか」

 脈略の無い突然の質問。村長は訳が分からず疑問符を浮かべる。

「はぁ?」

「答えろっ!」

 突然の領主の激昂。村長は怒らせてしまったと焦り、慌ててその場に跪いて額を地面に擦り付ける。

「もっ、申し訳ありませんっ!はいっ、『天の使い』様は我らを見守っていて下さり、絶対に我々村の者や旅の者には危害を加えませんっ!」

 それを聞いた領主は静かに呟く。

「そうか…」 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 作業を始めて2時間程、流石にキュルケやタバサ、シエスタに少しずつ疲労の色が見えて来た。ここいらで休憩をとった方がいいだろう、そう思い才人が提案すると満場一致で決まった。

「はぁ~、この年で力仕事はやっぱり堪えるねぇ…」

 シスター・ドーラがそう呟くと全員から驚嘆の声が上がる。

「なっ、何だいあんた達っ!これで平気だったらあたしゃバケモンだよっ!?そこまでじゃ無いさっ!」

 そんな面々をよそに才人はルイズの隣に腰掛ける。才人はルイズの詔が進んだかどうかが気になったのだ。

「よっ!ルイズ、ちょっとは出来たか?」

「サッサイト!?」

 ルイズは急に近くに座ってきた才人に驚き、顔を真っ赤にする。

(ちっ近っ!?…サイトったら、私の気持ち忘れてるんじゃ…)

 今のルイズは二人の男の間で揺れ動く不安定な存在。片方はワルド子爵だがもう片方は才人だ。そんな相手に密着されれば照れもする。しかし、才人はそれが分からないわけでは無い。その証拠に才人はルイズの耳元で小声で囁く。

「すまん。これが一番平和なんだ」

 ルイズは言われてそうか、と気づく。周りを見ると他の女性陣の視線は自分に突き刺さっている。皆余程才人の隣になりたいらしい。が、それで起こる争いを回避するのはこれが一番だろう。

(そっか、私の気持ちは皆まだ知らないんだものね…)

 それにしてももう一回囁いて欲しいなと心の片隅で思いながら、ルイズはこの事について考えるのを止めた。しかし、この二人の考えには一つ誤算があった。二人は気づいて無いのだ。ルイズの才人への気持ちがバレバレだという事に。

(相変わらず分かりやすいわね~ルイズの奴…まぁあの二人なら、ね…)

 そう考えるキュルケは才人の隣を狙うのを止めた。マチルダやその他面々も同じ気持ちだった。ルイズならそこまで積極的に迫れはしないだろう、と。

「お茶が入りましたよ~」

 シエスタが用意してくれたお茶で喉を潤したルイズは、改めて書けた詔を才人の前で読もうとする。最初の一言を口にした瞬間…。

 

 

 

 

 

 

 ドゴオォォォォンッ!

 

 

 

 

 

 大砲の爆音が響いた。

 

 

 

 

 

「なっ!?何だ!?」

 その場にいた面々は突然の事に驚くが、素早く行動しシエスタとルイズ、シスター・ドーラを守るように取り囲みそれぞれの武器を取る。

「落ち着け相棒っ!それにお前さんたちもっ!着弾点はここいらじゃない」

 その時、続けて二発、三発と響く大砲の爆音。それに続く悲鳴。

「ポロロロロロロロッ!?」

 シスター・ドーラは何が起きたのか直ぐに分かった。

「『天の使い』様が攻撃されてるんだっ!」

 突然の事にシエスタは驚きを隠せない。

「なっ、何で急にっ!?」

 誰もが返答に困る問いかけに才人は一つ心当たりがあった。

「そうだっ!ここに来る前、村の入り口辺りがやけに騒がしかったけどあれって!」

 言われてシスター・ドーラは気が付く。

「そうだっ!そういえばさっき村に領主が来たっていう話を村長から聞いたっ!まさかあいつらがっ!」

 その時、その場に口笛の音が鳴り響く。

「乗って」

 タバサが呟くころにはタバサの横にシルフィードが降り立っていた。背中には直前までお昼寝をしていたであろう、寝ぼけまなこのチグリスが欠伸をしている。

「良しっ!」

 キュルケ・シエスタ・ルイズ・タバサはシルフィードの背中に乗り、マチルダと才人は飛び上がったシルフィードの足に捕まる。シスター・ドーラはチグリスの背中に背負われていた。

「へ~、ちびちゃん力持ちなんだねぇ」

「ぴきゅっ!」

 シルフィードは力強く飛び上がるとあっという間に山を越え、村の教会の上空にまでやって来る。そこから見えたのは悲惨な光景だった。

「ポロロロロロロッ!?ポロロロロロロッ!」

 大勢の兵士が並び大砲を『天の使い』目掛け打ち込んでいた。大砲は弾道が緻密に計算され、その全てが『天の使い』の目玉に直撃するコースに設定されていた。完全に無抵抗な『天の使い』に対し人間からの一方的な攻撃が絶え間なく続いている。

「何て事しやがるっ!」

 才人が怒りに震えた時、その視界の端に縄で縛られた村人たちを見つけた。村の入り口で商売をしていた村長や村人たちだ。村人たちは必死に抗議の声を上げ続けている。

「止めろーっ!」

「『天の使い』様に何と罰当たりなっ!」

「うちの村の守り神様だぞー!」

 その時、一発の火球が村人の一人の頭を吹き飛ばす。あの自称、シエスタの婚約者だ。どうやら後ろで攻撃の指揮をとっている領主のメイジが『フレイム・ボール』を撃ったのだ。シエスタはあまりの光景に手で顔を覆う。

「黙れたかが平民どもめ!こやつは『天の使い』などでは無いっ!只の化け物だっ!この私が直々に怪物を成敗してくれるっ!」

 領主の腹からの声に委縮し、村人たちは途端に大人しくなる。しかし、それに比例して才人達の怒りが高まっていった。

「何て奴らだっ!」

 才人は激昂するとシルフィードの足から手を放し飛び降りる。そのまま大砲の真上に着地して踏み砕き、完全に使い物にならないようにする。領主の私兵は何事かと戸惑っているがその隙にマチルダの作り出したゴーレムが残りの大砲をその剛腕で破壊していく。

「何事だっ!何故ゴーレムが…っ!?」

 領主がゴーレムに気を取られている間にシルフィードから飛び降りていたシスター・ドーラは、短剣を素早く引き抜き村人たちを縛り上げていた縄を切り裂いていく。その間0.01秒。領主の目には何が起きたのかまるで理解できなかった。

「くそっ!何者だっ!」

 領主が叫んだ時、領主の私兵の頭上に氷のつぶてが降り注ぎ、大砲を打ち出すための火薬の備蓄に巨大な火球が直撃、大きな爆発を引き起こす。

「「「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!」」」

 上空からの奇襲の効果もあり領主の私軍は瞬く間に陣形を乱され、壊滅させられた。地面に降り立ったシルフィードから降りたシエスタは村長たちに駆け寄る。

「村長さんっ!大丈夫ですか!?お怪我は!?」

「『彼』以外は…何とか…」

 シスター・ドーラとシエスタ、ルイズに助け起こされる村人たちと『天の使い』を領主たちから庇うように立ちふさがる才人達。それを見た領主は怒りを露わにする。

「貴様ら何者だっ!この私を誰か知っての狼藉かっ!」

 領主は杖を構え才人達を威嚇するが、才人達は顔色一つ変えずに領主を睨み返す。その怒りの表情に領主は腰が引け震えだす。

「大体分かるよ。あんたこの辺の領主だろ」

 才人はデルフリンガーを領主に向けると、冷静に呟く。その領主に言いたい事があったのに全てが喉元から出てこない。

「あんた…この前この村に怪獣が出た時、兵を出したか?」

 才人の問いかけに領主はバツの悪そうな顔をする。才人はなおも続ける。

「その後にレッドキングが暴れた時…この『天の使い』がこの村を救った時!お前はこの村を救おうと兵を出したのかっ!」

 領主は黙ったまま何もしゃべろうとしない。そこへシスター・ドーラが怒気を含んだ声で領主に問いかける。

「まさか…この『天の使い』が大人しい事を知って兵を出したのかいっ!?」

 領主はなおも無言だ。しかし、この沈黙は完全に肯定だった。それが何を意味するのか。キュルケが呟く。

「敵いもしない化け物の時は見捨てて、簡単に殺せそうな大人しい生き物を殺そうっていう事ね!」

「てめぇぇぇっ!」

 才人は完全に怒りに囚われていた。抑えきれない程の憎しみの感情にその身を包み込まれ、才人はデルフリンガーを突きの体勢で構えると領主の喉元にピタリと狙いを定めた。デルフリンガーは気が付いた。このままではマズイ、と。

「相棒落ち着けっ!このままじゃお前さんの力を抑えきれないっ!暴走しちまうぞっ!」

 才人が領主を突き殺す為に駆けだそうとした時、領主の後方から大勢の兵士が現れる。どうやら領主が用意した第二陣のようだ。領主の危機に駆け付けた兵士が領主を押し倒し、才人の突きは空を貫く。

「今だっ!」

 領主が叫ぶ。攻撃後の才人の一瞬の隙、その隙に領主の『フレイム・ボール』が放たれ才人の腹部に直撃。才人をはるか後方まで吹き飛ばしてしまった。才人は民家の上に墜落、その民家は『フレイム・ボール』の炎が引火、火災が発生する。

「撃てぇー!」

 マチルダ達が才人を心配する声を上げる暇も与えず響く領主の号令。それと同時に兵士たちの大砲が轟音を上げる。

「隠れてっ!」

 第一陣が使っていた5倍の数の大砲。この量の砲弾に対しマチルダは巨大なゴーレムを作り砲弾から村人やキュルケ達を守るための壁にする。しかし、砲弾はマチルダ達だけでなく『天の使い』にも着弾していた。苦痛の鳴き声が再度村に響き渡る。

「ポロロロロロッ!」

「撃て、撃て、撃てぇーっ!奴らは反乱者だ、怪物の手下だーッ!殺してしまえーっ!」

 どうやら領主は歯向かってきたマチルダ達もろとも『天の使い』を殺そうという魂胆らしい。先ほどまでの計算された砲撃とは違い、領主の命令でただばらまかれるだけの砲弾。どうやらタルブ村にも何発か着弾している様だ。

「なんて野郎だっ!滅茶苦茶だっ!」

 マチルダの叫びを聞いたキュルケは胸元から縮小光線銃を取り出す。

(こうなったら…チグリスに汚物共を燃やしてもらうしか…)

 その時、領主とマチルダ達の間に巨大な光の柱が立ち上る。それは徐々に収束し、中から赤い巨人が現れ『天の使い』を庇うように立ちふさがる。

「ウルトラマンコスモスッ!」

 ルイズは才人が無事だった事に喜ぶが、それ以上の歓声が領主の私軍から上がる。

「見ろっ!」

「ウルトラマンだっ!」

「我らを救うために、化け物と手下を成敗するために来てくれたぞーっ!」

 各々好きな事を言う兵士達。そんな事はあり得ないと知っているマチルダ達からしたら心底腹が立ったが、マチルダは先ほどのデルフリンガーの一言を思い出す。

 

 

 

 

 

(暴走しちまうぞっ!)

 

 

 

 

「最初から『赤』…まさか…マズイッ!やめろコスモスーーーッ!」

 マチルダの叫びの意図が分からないタバサとシスター・ドーラは不思議そうにしているが、意味の分かったルイズとシエスタは戦慄する。

「まさかっ!?」

「やめてーーーっ!ウルトラマーーーンッ!」

 その時、コスモスの右腕に『天の使い』の太い蔦が絡みつく。蔦が離れるとコスモスは優しく『天の使い』の頭を撫で、領主の私軍に向き直る。その時、コスモスの右腕には凄まじいエネルギーが溢れ出していた。コスモスはその手をゆっくりと持ち上げる。領主は何が起きるか直ぐに分かり、恐怖で顔を歪め、一目散に逃げ出す。

 

 

 

 

 

 

 

「うわああああぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 コスモスの手は勢い良く振り下ろされ、激しい光の奔流が領主たちに降り注いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




続きます。そう言えば、もう直ぐ一年たつんですよ。「ゼロの使い魔~真心~」時間が経つのって早いですね。


一周年記念に何かしたいと思ったんですが、何も…思いつかない。





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ゼロの使い魔~真心~一周年記念的な何かの回

去る6月22日のこの時間。書き続けて丁度一年が経ちました。特別な事を何も思いつかないので、以前も行った設定をダラダラ書いていく回を再び。敵キャラメインで。






黒ローブの女性…えっちぃ人。こいつの正体を皆が気にしているかは分からないけど、やたら出てくる私のお気に入り。戦闘能力に関してはかなり高め。レコンキスタを裏で操る謎の存在。口が耳元までぱっくり開く時点で人間では無いし、嗜好的な意味で人を食べる。オリジナルの怪物では無いが、設定的にいじくりまくっているので原型が分かりにくい。…ある意味、一番生き生きしてるかもしれない。(お色気方面というか…下ネタ担当?)

 

 

 

 

クロムウェル(レギュラン星人)…現状、黒ローブの女性の傀儡。本人はそうは思っておらず、対等な関係性である。と、思っている。♡な事が好き…なのは私でよく↑の人と絡んでる。絡ませてる。これから活躍する日は来るんだろうか…?(たぶんこない)

 

 

 

 

アーストロン(鋼鉄)…story0見て無いと元ネタわかんない奴。見てみてね。(面白いかは当人の感性による)

 

 

 

 

 

エボリュウ…ティガ見た時、恐ろしさよりも悲しさが残った怪獣。

 

 

 

 

 

ベル星人(カニバ)…ヤベー奴。後から見直して「あっ、自分頭おかしい」ってなった奴。…これ以上は触れません。

 

 

 

 

 

バド星人隊長…モット(おいど)が味方になった為生まれた敵。「アーマード・バド星人」という超中二病モードがある。(こういう事を書いてる時点で中二病)

 

 

 

 

バド星人戦闘員…あっさりやられる奴ら。人数が提示されていたのは私が人数を忘れない様にする為。

 

 

 

 

 

シェルター…タロウ見て「えぇー!?」ってなってこの子が助かる話を書きたかった。

 

 

 

 

 

ダイゲルン・キングマイマイ…地の文でやられた怪獣。思い入れが無いわけでは無いが、地の文でやられている怪獣が欲しく選ばれた。

 

 

 

 

 

 

トータス夫婦…タロウ本編でも人間の醜さを描いていたが、それ以上に苦しい目に合わせてしまった。どうしても書きたかった。主人公が人間の醜さに苦しむところが。

 

 

 

 

 

 

レッドキング…生きてるよ?死んで無いよ?再登場?するかもね。

 

 

 

 

 

オーク鬼…エ●ゲー、エ●漫画の常連。R18じゃなくてもファンタジー物に大概いる。最近はゴブリンにその立場を揺るがされてる感がある。

 

 

 

 

 

マンティコア隊…かませにしてごめんね。

 

 

 

 

 

ギトー…ナルシストとして書いた。死ぬシーンは怪奇大作戦(初代)のとあるストーリーを元にしてる。

 

 

 

 

 

ギトー配下…いわゆる雑魚キャラ。女生徒たちに性的暴行をしようとして、誰一人性的暴行出来ず首ちょんぱされた奴ら。

 

 

 

 

マグマ星人軍団…ミシェルの話をする時、主人公が強くなる展開が欲しくて出したキャラクター達。宇宙船の中に居たらギラスjr達に殺された。…もっと出してやればよかった。

 

 

 

 

マグマ星人大佐…部下の前での建前、強がりと現実のギャップに押しつぶされた人。社会では苦しい事が多い。そんな時はこの人と同じにならないようする為に恥をかなぐり捨てて誰かに頼ってもいいと思う。

 

 

 

 

 

ベムラー…原作の少し変わった設定を見た時、「こいつ出してみよ」と思い出したキャラクター。既に死んでるけど、バド星人の時は地味に絡めた。…いくら何でもこいつ単体で時空移動は無理があるだろう、無理だ。

 

 

 

 

アトラー星人…トラウマ。やる事する事ヤベー奴

 

 

 

 

 

ツルク星人兄弟…かませ。アニエス達のジェット●トリーム●タックでやられた兄と、主人公のパワーアップイベントの為に倒される弟。

 

 

 

 

アンタレス…読んでくださる方のコメントで存在を思い出し、登場させたキャラクター。大分活躍させられたと私が思ってるだけ。

 

 

 

 

ギラス兄弟jr…マグマ星人といったらこいつら。只諸々の特殊能力を書くよりは、ぶっ殺ナ(ムキムキ)を目立たせたいため脳筋になった。

 

 

 

 

 

ムルチ…たぶん一番かわいそうな目に合ってる。

 

 

 

 

レイロンス…可愛い。

 

 

 

 

ドロボン…フーケ…泥棒…ハッ!

 

 

 

 

 

 




こんな感じです。では、次回をお楽しみに。


↑という内容を書いたのが6月22日午後。初回と同じ日、同じ時間に投稿しようと思い投稿予約したが、パソコンの不具合で予約出来ておらず…。



リアルにパソコンひっぱたいた。



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