楓さんの弟はクールで辛辣な紅葉くん (アルセス)
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第1章
楓さんの弟はクールで辛辣な紅葉くん


登場人物紹介
高垣紅葉(もみじ)
物語開始時点で高校1年。高垣楓の弟。見た目は楓の髪を短くして目つきを鋭くした感じ。同じオッドアイだが左右が逆。
心の中での考え事は多いが、基本無口で姉以外とはあまり話をしない。東京の高校に進学し、姉と2人暮らしで"(こう)くん"と呼ばれている。忙しい姉に代わり家事全般を引き受ける。成績優秀だが姉以外の人のことを覚えるのが苦手。

高垣楓
開始時点で24歳。346プロダクションモデル部門所属。ミステリアスな雰囲気でクールに見えるが、実際はお酒とダジャレ好き。
男女関係なしにファンが多く、同じ事務所の後輩からも人気が高い。挑戦していることがあるが、まだ弟に言えずにいる。

城ヶ崎美嘉
開始時点で高校1年の紅葉と同級生で同じクラス。JKモデルとして売り出し中でカリスマを目指している。同じモデルの楓を尊敬しており、その弟の紅葉が少し気になっているが、周りの男子の中で唯一自分に興味がない紅葉相手に悪戦苦闘中。

神谷奈緒
紅葉、美嘉と同級生だが別のクラス。紅葉の声がちょっと気になっているのだが、そのせいで誤解をされ続ける。 


姉に容赦ない紅葉くん

 

「(21時・・・姉さん最近遅いな)」

 

「ただいま~」

 

「・・・お帰り姉さん。今ご飯温め直すよ」

 

「ごめんね紅くん。夕飯外で済ませてきちゃったの」

 

「はぁ・・・そういう時は連絡くらいしなよ。ならこれは明日の弁当・・・何してんの?」

 

「仕事で切れた紅くん成分を抱きしめて補給してるの♪」

 

「姉さん」

 

「なあに?」

 

「酒臭いからもう離れて」

 

「ぐふっ!」

 

「また飲んできたんだね」

 

「ほ、ほんの少しよ?おちょこにちょこっとだけ・・・ふふっ」

 

「・・・姉さん」

 

「ん?」

 

「2点」

 

「!?」

 

「ちなみに100点満点中だから」

 

「ひどいっ!」

 

「今日はもう風呂に入って寝なよ。ずいぶん疲れてるでしょ。」

 

「やっぱり紅くんにはわかっちゃうか。仕事中は誰も気がつかないんだけど」

 

「何年姉さんの弟やってると思ってるのさ。あまり無理しないでよ。」

 

「うん、ありがとう紅くん」

 

「ダジャレの方も無理しないでね。俺が疲れるから」

 

「そんなになの!?」

 

 

学校での紅葉くん

 

「(今日の夕飯は何にしようかな)」

 

「皆、おっはよー★」

 

「城ヶ崎さんおはよー」

 

「おはようございます城ヶ崎さん!」

 

「美嘉~、昨日載ってた雑誌見たよ~。相変わらず可愛かった!カリスマって呼ばれる日も近いかもね♪」

 

「ほんと!アリガト★」

 

「(肉もいいけど魚も・・・最近捌けるようになったからアジ買って焼きと刺身にするのもいいな)」

 

「高垣くんおはよ」

 

「(最近食中毒も多いからな。刺身は一度冷やしておこう)」

 

「もしもーし?聞こえてる?」

 

「高垣くんと美嘉って美男美女って感じで一緒にいると絵になるよねー」

 

「私も高垣くんともっと仲良くなりたいけど、ちょっと近寄りがたいっていうか」

 

「くっそう!毎日隣の席で城ヶ崎さんに話しかけられてる紅葉がうらやましい!」

 

「(姉さん今日も帰り遅いのかな。また連絡がないと困るんだけど)」

 

「た、高垣・・・くん?」

 

「それとも俺から連絡したほうがいいのか?」

 

「え?そ、それって連絡先交換しようってこと?し、しょうがないな~★急でびっくりしたけどどうしてもっていうなら・・・」

 

「ん、誰?」

 

「へ?アタシよアタシ!城ヶ崎美嘉!いい加減覚えてよ!」

 

「ああ、そうだった。おはよう」

 

「あ、うん。おはよ。・・・それで連絡先交換、する?」

 

「しない」

 

「即答!ひどくない!?」

 

紅葉くんと恥じらいの太眉乙女

 

「高垣くん、こっちはアタシの友達で隣のクラスの神谷奈緒。高垣くんに話があるんだってさ」

 

「は、初めまして!」

 

「・・・どうも」

 

「(やっぱり似てる!)あ、あのさ。いきなりで悪いんだけど、このセリフ読んでくれないかな?」

 

「ほんといきなりだね。でも高垣くんがやってくれるとは思わないけど」

 

「いいよ別に」

 

「やるんだ!?」

 

「えっと・・・頼んだぞ深雪」

 

「お、おお!」

 

「深雪にはかなわないな」

 

「すごい!」

 

「な、奈緒?」

 

「深雪に近づくことは俺が許さん」

 

「流石はお兄様です!」

 

「奈緒、アンタキャラ変わってるよ!?」

 

「ありがとう高垣くん!そっくりすぎて感動したよ。また何かあったらよろしくな!」

 

「ねえ奈緒、これって一体何な・・・行っちゃった」

 

「(深雪って誰だ)」

 

 

姉は紅葉くんのことが心配

 

「紅くん、高校には慣れた?」

 

「・・・もう慣れたよ。地元と違って人が多くて疲れるけど」

 

「友達はできたの?紅くん人付き合い苦手だから心配なのよ」

 

「姉さんに言われたくはないけど」

 

「うっ・・・それで、どうなの?」

 

「まあ、友達ではないけど話しかけてくる同級生はいる。あとよく遠くで俺の方見てヒソヒソ話してる奴とか」

 

「(遠くでって、たぶんいじめじゃないわね。ふふふ、紅くんは気づいてないけどやっぱりモテるのね)」

 

「よく話しかけられるのは・・・えっと、カリスマ?」

 

「変わったあだ名ね。クラスの人気者なのかしら」

 

「あとは・・・深雪?」

 

「まあ!紅くんに話しかけられる女の子がいるのね。どんな子なの?」

 

「よくわからないセリフを言わせられる。さすおにがどうとか」

 

「その2人に会ってみたいわ。今度の休みの日に連れてきてくれない?特に深雪さんって子はしっかり面接しないと」

 

「別にいいけど」

 

「暑くなってきたし、その時のお昼は冷麺がいいわね。面接の日にれいめんせっせと作る紅くん・・・ふふっ」

 

「1点。確かに作るのは俺だけどさ」

 

「まだ下がるの!?」

 

紅葉くんは名前を覚えていない

 

「そっか、カリスマって美嘉ちゃんのことだったのね。紅くんと同じ学校だったわね」

 

「お久しぶりです楓さん★いつも仕事先ではお世話になってます」

 

「(てっきり男の子かと思ってたけど、紅くんも中々やるわね。じゃあこっちの子が深雪さん)」

 

「はじめまして!か、神谷奈緒です。お会いできて光栄です!」

 

「・・・紅くん。そこに正座しなさい」

 

「姉さん?」

 

「え、あの・・・あたし何かしちゃった?」

 

「美嘉ちゃんのことはお姉ちゃんの勘違いだからいいとして、さすがに3股はよくないわよ。深雪さんを連れてこないで奈緒ちゃんがくるのはどういうことなの?」

 

「奈緒?いや、こいつは深雪だよ。」

 

「あたしは奈緒だよ!」

 

「本人がそう言ってるじゃない。深雪さんには断られたの?」

 

「いや、ここにいるでしょ」

 

「だからあたしは深雪じゃないってば!」

 

「え、じゃあお前誰だよ。」

 

「奈緒だってば!か・み・や・な・お!」

 

「深雪は?」

 

「そ、それはそのアニメ・・・ああもうっ!深雪のことは一旦忘れろ!」

 

「まあ!他の子のことは忘れて自分だけを見てってことなのかしら♪」

 

「あ、い、いえそういうわけじゃ・・・ち、ちがうんですって!」

 

「アタシ、アニメの登場人物にも負けてんの!?アタシだけまだ名前覚えられてないんだけど」

 

 

紅葉くん、姉の真実を知る

 

「(たまたまテレビをつけて放送してる歌番組を観たら)」

 

それでは歌っていただきましょう。高垣楓さんでこいかぜ。

 

「(姉さんが歌っていた)」

 

「ただいま~」

 

「おかえり姉さん」

 

「今日はまだ飲んでないから、紅くん成分を・・・あ」

 

「姉さん、これって?」

 

「そっか、今日だったのね」

 

「姉さんだよね、これ」

 

「ええ。黙っていてごめんなさい。実は春から新しいことに挑戦しててね」

 

「うん」

 

「夏から正式にモデルの仕事をやめて、アイドルになったの」

 

「アイドル・・・姉さんが?」

 

「ええ」

 

「人見知りで人前で話すのが苦手な姉さんが?」

 

「え、ええ」

 

「中学まで友達いなくて、庭でこっそりエア友達に話しかけて遊んでいた姉さんが?」

 

「あれ見ていたの!?誰もいないと思ったのに!」

 

「ずっと疲れた顔してたのはアイドルの訓練のせいで?」

 

「ええ。私は新しい可能性に挑戦したかった。だからアイドル部門のオーディションを受けてアイドルになったの。今度、大きな場所で同じ346プロのアイドル達とライブをすることになったわ。美嘉ちゃんも一緒で、私がセンターで歌う曲もあるの」

 

「そうなんだ」

 

「もっと早く話すべきだったけど、もう冬になってしまったわね」

 

「姉さん」

 

「なあに?」

 

「姉さんは今楽しい?」

 

「・・・ええ、モデルをやっていた頃よりも充実しているわ。アイドルになってよかったと思ってる」

 

「なら俺がいうことはないよ。俺は姉さんのことを応援してる」

 

「紅くん」

 

「そのライブ俺も観に行きたい」

 

「うん!私もそのつもりだったわ。シンデレラたちの楽しいライブをぜひたのシンデレラ!なんてね♪」

 

「・・・」

 

「何か言ってよ!」

 

終わり

 

 

 

 

 

 




かなり飛ばした話になりましたが、一応これがアニメ1話につながって春に卯月たちが~ということになってます。


10日遅れましたが、楓さん誕生日おめでとうございます!
これからも楓さんの活躍を楽しみにしてます。



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どこでも誰にでも紅葉くんの対応は変わらない

前回同様、かなり自由に書いていますので色々崩壊しています!

会話だけで話を作るのも難しいですね。

ちなみに美嘉ですが、パッションタイプでは一番好きなアイドルです!



紅葉くん初めてライブに参加する

 

「(姉さん、こんな大きな場所で歌うのか。大丈夫かな)」

 

「ご、ごめんなさい!ちょっと急いでて・・・」

 

「い、いえいえ。あの、そちらの方も大丈夫ですか?」

 

「うん、大丈夫。花も無事みたい」

 

「(階段を駆け上がった子がスタッフらしき人とぶつかって、そのスタッフが帽子をかぶったロビー用のスタンド花を持った子にぶつかった。俺も気をつけよう)」

 

「・・・」

 

「(スーツを着た大きな男性が下の階からさっきの3人組を見てる・・・そっとしておこう)」

 

会場内

 

「(最近寒くなってきたし、今日の夕飯は鍋にするか)」

 

「あの前すみません。隣あたしの席で・・・って、高垣!?」

 

「ん?ああ、お前は深・・・」

 

「それはもういいから!神谷奈緒だってば!」

 

「・・・奈緒も来てたのか」

 

「うっ!い、いきなり名前で呼ばれると恥ずかしいな・・・」

 

「じゃあ神谷」

 

「あ、えっと・・・奈緒でいいよ。ぜひそうしてくれ」

 

「呼び方多くてややこしいな」

 

「そっちが勝手にややこしくしてるんだろ!あたしは美嘉からチケットもらったんだ。他にも有名な子たちがたくさん出るからすっごい楽しみ!」

 

「そうなのか。俺は姉さんから貰ったけど、姉さんしか知らないな」

 

「もう美嘉のことは忘れないであげてよ。たまに涙目になってあたしに愚痴ってくるんだから」

 

「知らないと思うけど、実は人の名前と顔覚えるの苦手なんだ」

 

「知ってる!超知ってる!でも美嘉のことは覚えろよ!」

 

「?」

 

「美嘉ごめん。あたしじゃ無理だ・・・」

 

 

紅葉くん感動する

 

―――ほんの少し前、私たちは・・・

 

「っと、始まるぞ。楓さんのセリフからスタートだ」

 

「ああ」

 

―――この魔法は私たちだけのものじゃない

 

―――会場のみーんなが、王子様にシンデレラになれるからー★

 

「曲はおねシンからだ!改めて考えると、友達がアイドルってすごいよな。お、楓さんセンター?すごいじゃん高垣!」

 

「そうなのか?」

 

「そうだよ!って、何も持ってきてないのかよ。仕方ないなぁ、あたしの1つ貸すよ。はい」

 

「なにこれ」

 

「ペンライトだよ。周り見てみろって、皆曲に合わせて振ってるだろ?」

 

「ほんとだ」

 

「せっかくのライブだ。あたしたちも精一杯楽しもうよ!」

 

「そうだな」

 

「キュート!クール!イエーイ!」

 

「(あんなに楽しそうな姉さんを見るのは初めてだ。とても酔って玄関で寝たり、ダジャレを言って1人で笑ってるいつもの姉さんとは思えない。なんていうか・・・)」

 

「なあ、お姉さんがアイドルってどんな気分なんだ?」

 

「子供の成長を見て感動する親の気分、だな」

 

「お前弟だろ!うわ、なんか涙目になってるし本当に感動してるんだな・・・あたしは異性の同級生が急に涙流して複雑な気分だ」

 

尊い紅葉くん

 

―――楓ちゃん、若い子たちに負けてられないわよ。

 

―――ええ瑞樹さん。私たちで夢の向こう側を見せましょう!

 

「お、楓さんと瑞樹さん?何歌うんだろう」

 

「(あれは、たまに来る酔っぱらいの人に似てるな)」

 

―――この歌を聞いたら、きっとこの夜から帰りたくなくなるわ。時間を止めちゃう?

 

―――Nocturne!

 

「新曲だ!すごいぞ高垣!これサプライズだよ!」

 

「(力強い姉さんの歌。会場の皆が姉さんに魅了されてるようだ。俺も、身内だってことを忘れそうになる。この感情は一体・・・)」

 

「いい曲だったなぁ。絶対発売したらCD買うぞ」

 

「なあ、奈緒」

 

「お、おう。まだ慣れないな」

 

「アイドルってすごいな」

 

「っ!?」

 

「ん、どうした?」

 

「だ、ダメだ!いまこっちみんな!」

 

「?」

 

「(今の高垣の笑顔反則だろ!尊い、尊すぎる!これが尊み秀吉ってやつなのか!?)」

 

 

紅葉くん楽屋へ呼ばれる

 

「な、なあ。あたしも来ちゃったけどいいのかな」

 

「姉さんがいいってさ。席が隣なの知ってたみたいだ」

 

「じゃあ美嘉もいるんだ。と、当然だよな。あ~緊張してきた。この扉の向こう側にさっきまで歌ってたアイドルたちが・・・」

 

「失礼します」

 

「もう少し心の準備させてよ!」

 

「おや、誰か来ましたね!」

 

「(日野茜ちゃんだ。テレビで見てるのよりちっちゃくて可愛い!)」

 

「姉さん、お疲れ様」

 

「紅くん、私たちのライブはどうだった?歌も昔に比べて()()()上手くなっていたでしょう?」

 

「ああ、すごく感動したよ。だから特別にダジャレは5点で」

 

「・・・紅くんの優しさで胸が痛いわ」

 

「ライブ・・・らいぶ上手く?はっ!?今のギャグですか!」

 

「あ、茜ちゃん、それ追い討ちかけてるから。高垣くん、奈緒。今日は来てくれてありがとね★」

 

「こっちこそ感謝だよ。すっごい楽しかった!美嘉の曲もやっぱ生で聴くと違うよな!」

 

「とうぜんっ★アタシも今はカリスマJKアイドルだかんね。ファンの人たちには常に最高のアタシを見てもらわないと」

 

「ああ、いい歌だった」

 

「あ、ありがと。高垣くんにそう言ってもらえるとすごく嬉しいよ」

 

「さすがカリスマって名前だけのことはあるな」

 

「やっぱり覚えてもらってないの!?アタシ城ヶ崎美嘉だってば。もうすぐ1年になるんだけど!」

 

「そうか、カリスマじゃなかったか」

 

「い、いや確かに最高のカリスマ目指してるけど」

 

「ならカリスマでいいんだよな」

 

「・・・うわーん!なーおー!」

 

「あ、あーよしよし。きっともう少しだから、くじけずにがんばろうな」

 

「・・・瑞樹さん、私も撫でてもらえませんか?紅くんの精神攻撃のダメージがまだ残ってて」

 

「楓ちゃんは弟くんがいると性格変わるわよね」

 

 

紅葉くんと川島瑞樹

 

「弟くん久しぶりね。今日は楽しんでもらえたようでなによりだわ」

 

「ああ、あなたはやっぱりたまに姉さんを運んで来る酔っ払いの人」

 

「うっ・・・そんな純粋な目ではっきり言われると心にくるものがあるわね」

 

「わかります。私も紅くんに毎日色々言われているので」

 

「私には楓ちゃんがどうして嬉しそうに話すのか、全くわからないわ・・・」

 

「高垣は誰にでもああなんだな。ある意味すごいよ」

 

「オホン。それじゃあ改めて自己紹介するわね。アイドル川島瑞樹、ピッチピチの~じゅうはっさいでぇ~す☆」

 

「高垣紅葉です。いつも姉がご迷惑かけています」

 

「紅くん?外ではもう少しお姉ちゃんに優しくしていいのよ?」

 

「姉さん、今日は姉さんのこと見直してたのに今ので見損なったよ」

 

「ええっ!?」

 

「この人18歳なんだろ?未成年じゃないか。未成年と一緒に酒を飲むなんて何考えてるんだ」

 

「ええっ・・・」

 

「ね、ねえ2人とも。軽い冗談でそこまで険悪にならないで。その、ごめんなさい28歳です」

 

「奈緒がタイミングよくツッコミ入れないから。楓さん正座して小さくなってるじゃない」

 

「あたしのせいかよ!いっとくけど、美嘉もツッコミ担当だからな!」

 

「アタシも!?」

 

「皆さん楽しそうで何よりです!私はクールダウンするために走ってきます!」

 

「茜ちゃんはどんな時でもマイペースで安心するよ」

 

 

帰宅した紅葉くんと楓さん

 

「あら、いい匂いがすると思ったら今日は今年初のお鍋ね」

 

「お帰り姉さん。打ち上げで食べてきたんじゃないの?」

 

「少しだけ、ね。今日は紅くんと一緒に食べたかったから」

 

「じゃあ温め直すから先に手を洗ってきてよ」

 

「は~い」

 

「どうぞ、鱈が安かったから鱈鍋にしてみた。下ごしらえもちゃんとしたから煮崩れしてないはず」

 

「いただきます。・・・うん、やっぱり紅くんの料理は最高よ」

 

「姉さん前に言ったよね。アイドルになってよかったって」

 

「ええ」

 

「その気持ち、今日のライブで俺も少しわかった気がするよ。ステージ上はまるで別世界で、いつもとは違う姉さんが輝いて見えて」

 

「紅くん・・・」

 

「周りの客も皆姉さんたちに引き込まれて、物凄い一体感があった。アイドルってすごいんだな。あんなに感動したのは初めてかも知れない」

 

「ありがとう紅くん。あなたにそう言ってもらえるのが何より嬉しいわ」

 

「これからも姉さんを応援するよ。何か俺にできることがあったら遠慮なく言ってくれ」

 

「うん!じゃ、じゃあさっそくだけど。もう少しダジャレの採点を甘く・・・」

 

「ごめんなさいそれは無理。それは応援できない」

 

「相変わらずの即答!あんまりよ!」

 

つづ・・・く?

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 




もし次回がある場合は2年生4月からになるかと。
そして病弱なあのクールアイドルとの出会いが・・・

絵心がないので登場人物のイメージをドット絵の歩行グラフィックで表現しました


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紅葉くんは心配性?

前回の話のあと短編の日間ランキングで4位になってました。
ありがとうございます!これも皆さんのおかげです。
更新は遅めですが頑張ります!


今日もいつも通りの紅葉くん

 

「おはよう姉さん。ちゃんと起きられたんだね」

 

「おはよう紅くん。ええ、今日は朝早くに出発だもの。早く起床して気「朝ごはんできてるよ」・・・はい(ついに封じてきたわね)」

 

『いただきます』

 

「3日間の地方ロケだっけ」

 

「私がメインでやってる"ぶらり温泉旅特集"が評判いいらしいの。趣味が高じて紹介して欲しいって旅館が増えて、私が直接レポートすることになったわ」

 

「その間ちゃんと1人でやっていける?変なもの食べないようにね」

 

「大丈夫よ、ちゃんとやれるわ」

 

「飲みすぎもダメだよ?姉さん酒強いからってたまに、いや毎回酔うまでとことん飲むから」

 

「だ、大丈夫よ心配しなくても。そんなに毎度毎度酔ってないわよ?」

 

「心配なのは姉さんじゃなくて巻き込まれた周りの人のことだよ」

 

「あ、はい」

 

「それと知らない人に声かけられても決してついて行かないように。近頃は何かと物騒だから」

 

「・・・ねえ紅くん。私一応お姉ちゃんなんだけど。どんどん話の内容が子供向けになってない?」

 

「ごめん。姉さんってとても今年25になるように見えないし、外見だけだとたまに同年代に見えるから」

 

「あら、嬉しいこと言ってくれるわね」

 

「特に精神年齢がとても25歳だと思えなくて、下手すると・・・いやどう考えても年下に思えてくるんだ」

 

「褒めてなかったのね。最後まで聞かなければ良かった・・・」

 

 

新学期の紅葉くん

 

「2年生になって一週間経つけど、もう新しいクラスには慣れたかしら?」

 

「ああ。今年もカリスマが一緒だったし、奈緒とも同じクラスだから去年とあまり変わらないな」

 

「美嘉ちゃんに対しては少し変わったほうがいいと思うけど・・・」

 

「姉さんの仕事は4月になって変わることってあるの?」

 

「そうね。変わったことといえば、新しいプロジェクトが立ち上げられてるらしいってくらいかしら」

 

「新しいプロジェクト?」

 

「私も詳しくは知らないけど、私がアイドルになった時にお世話になったプロデューサーが責任者になって新人の子を募集してるらしいわ」

 

「へぇ、あんなにアイドルがいるのにまだ増えるのか。皆よく覚えられるな」

 

「紅くんが見たのは、全体の10分の1にも満たないんだけど・・・それでもたぶんその半分も覚えてないのよね」

 

「姉さんにも後輩が出来るんだね」

 

「そうね。あの人は笑顔を大切にするプロデューサーだから、笑顔が素敵な子を選ぶ可能性があるかしら・・・えがお、えがお」

 

「姉さん?」

 

「いい笑顔でチャン()()()?なんて、ちょっと強引すぎたかしら。ふふっ♪」

 

「・・・新学期になって姉さんもアイドル活動を頑張ってるから、評価を変えようと思うんだ」

 

「え、ええ。急に真面目な顔になったけど、私には不安でしかないわ」

 

「だから今回は37点をつけようと思う」

 

「ありがとう紅くん!相変わらず点数は低いけど、100点に一歩前進ね!」

 

「姉さん、いつから100点満点だと錯覚していたんだ?」

 

「なん・・・ですって・・・!?」

 

「今期から1000点満点にするよ。だから無理はしないでね」

 

「一気に100歩下がった!?お姉ちゃん仕事前に物凄くテンション下がっちゃったわ・・・」

 

 

新入生と紅葉くん

 

「(・・・はぁ。高校入って早々体調悪くて休んじゃった。これじゃ入院してた頃と変わらないじゃない)」

 

「(姉さんに合わせて起きたから今日はいつもより早く学校に着きそうだ)」

 

「(もうクラスじゃ仲良しグループ出来てるだろうし、考えるとまた具合悪くなりそう)」

 

「(今日から夕飯は一人分だから、まとめて次の日の弁当も作れるおかずにしよう)」

 

「やっぱりちょっと休憩。まだ時間あるしいいよね」

 

「(何にしようかな・・・ん?あの感じ)おい、大丈夫か?」

 

「え?誰?」

 

「高垣紅葉。その制服同じ高校だな。体調悪そうだけど無理はしないほうがいいぞ」

 

「な、なんでそんなことがわかるのよ(この人オッドアイってやつ?生で初めて見た)」

 

「顔色が俺の姉さんが体調悪い時と同じだからな。もしかして朝食もあまり食べてないんじゃないか?」

 

「アンタに関係ない・・・っていいたいところだけど、なんか本気で心配してくれてるみたいだし。そうね、最近あまり食欲ないかも」

 

「・・・これもってけ」

 

「え、これってお弁当箱?」

 

「さすがに1日に必要な栄養全部は摂れないが、それなりに数は入ってる。それ食って元気出せ(姉さんもこれで調子戻すこと多いし)」

 

「いや、さすがに初対面の男子のお弁当は食べられないよ。悪いし」

 

「いらないなら捨てていい。俺が勝手にやったことだから気にするな」

 

「・・・あ、ありがとう。アタシ北条加蓮。B組だけど学校に行くのは今日が初めてなんだ」

 

「道理で見たことない顔だと思った。俺もB組だからな」

 

「わっ奇遇!じゃあ今年一年よろしくね高垣くん♪」

 

「ああよろしく・・・コロネ」

 

「ぶつよ?」

 

 

勘違いの加蓮と紅葉くん

 

2年B組

 

「おはよーっす。高垣今日は早いんだな」

 

「ほんとだ。おはよー高垣くん」

 

「おはよう。今日は姉さんが朝早く地方ロケに行ったからな」

 

「あ、知ってる。楓さんますます人気になってくもんねー。アタシも負けてられないよ★」

 

「カリスマもすごいじゃないか。よく街のスクリーンやポスターで見かけるぞ」

 

「そ、そだねー。それでも身近な人に名前覚えてもらえないのはなんでだろうねー。あは、あははは★」

 

「ま、まずい。美嘉が朝から壊れかけてる。気をしっかりもてよ!諦めたらそこで試合終了だぞ!」

 

「相変わず2人は仲がいいな」

 

「そうだけど違うだろ!お前のその両目にあたしたちはどう映ってるんだよ!?」

 

―――きりーつ

 

「あ、先生が来た。じゃあな高垣。ほら行くぞ美嘉」

 

「莉嘉ーお姉ちゃん頑張ってるよー」

 

「あたしは妹じゃない!いいから来いってば!」

 

「(そういえば、全員揃ったはずなのに朝のあいつはいないな)」

 

1年B組

 

―――今日は全員揃ったな。出席とるぞー。

 

「・・・」

 

「ずっと休んでた子、どんなんだと思ってたけど可愛いな」

 

「お前後で声かけてみろよ」

 

「・・・」

 

「お前がやれよ。すごい不機嫌そうだし俺はやめといたほうがいいと思うぞ」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「いないじゃん!あいつどこにいるのよ!?」

 

―――ど、どうした北条!具合悪いのか!?

 

つづく!

 

 

 

 

 




ということで今回から加蓮も参加です。
加蓮と奈緒のスカウトはいつごろがいいんですかね。

後輩に前川さんも入れてみたいけど、増えすぎると紅葉くんが混乱してしまうので考え中です。


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紅葉くんの周りにはアイドルの卵が集まる

今回はいつもより真面目な話になってる・・・はずです。

少しずつアニメと話がつながっていってます。

後書きに特に意味のない登場人物のステータスを載せました。完全に思いつきです!

活動報告にコメントつけました。



友達思い?の紅葉くん

 

「なあ美嘉、知ってるか?最近この辺りじゃないけど不審者がよく出るらしいぞ」

 

「え、なにそれ怖い。やっぱ夜に出るの?」

 

「それが昼間に出るらしいんだよ。あたしの中学の友達の話だと、目つきが鋭いスーツの大男が、特定の女子高生にやたら話しかけてるってさ」

 

「へ、へぇ・・・目つきが鋭い大男ねぇ。ま、まさかね」

 

「毎日名刺サイズの何かを渡そうとして断られてるらしいぞ。ストーカーとかだったら怖いよな」

 

「名刺・・・どうしよう、心当たりがありすぎて嫌な予感しかしない」

 

「どうした?何の話だ?」

 

「あ、高垣。いやさ、最近ストーカーが近くにいるかもって話をね」

 

「奈緒、要約しすぎだってば!」

 

「・・・まさかカリスマを狙ってるのか?」

 

「ウウンチガウヨ。アタシナニモシラナイヨ」

 

「様子が変だな。やっぱり何かあるんじゃないか?」

 

「それはお前が名前覚えてあげないからだろ!」

 

「???」

 

「そんな純粋な目で見られるとこっちが間違ってる気になるから不思議だ」

 

「アハ、アハハ、アタシハカリスマJKダヨー★」

 

「やっぱりどこか変だし心配だな。これから帰りは俺が送っていくか?」

 

「え、それって高垣くんと一緒に帰れるってこと?」

 

「あ、美嘉が一瞬で帰ってきた」

 

「ああ。さすがに男が一緒なら何もしてこないだろうし、お前さえよければだが」

 

「い、いいの?」

 

「当たり前だ。俺はカリスマJKのファンで友達だからな」

 

「くっ、その笑顔が眩しすぎてこれ以上否定できない!美嘉、またどこかいくなー帰ってこーい!」

 

 

新入生と紅葉くん2

 

「いたーーーー!」

 

「ん?あれは確か・・・」

 

「なんだなんだ?見たことない子だけど、高垣の友達か?こっちみてるし」

 

「今日の朝初めて会ったばかりだ。それに友達は奈緒とカリスマしかいないしな」

 

「・・・言ってて悲しくならないか?」

 

「ちょっと!上級生なら上級生って言ってよ。探したんだから!」

 

「まだクラスの全員の顔と名前が一致しなくてな」

 

「それはいつか一致するのか?」

 

「とにかくあらためてありがとう。貰ったお弁当ちゃんと食べたよ。なんか・・・元気出たかも」

 

「そうか。なんならまた作るか?」

 

「それは悪いよ。今日のお礼もできてないんだし」

 

「朝も言ったことだが、俺が勝手にやることだから気にするな。昔の姉さんを思い出して放っておけなくてな」

 

「へぇ、お姉さんがいるんだ。もしかしてアタシに似てるとか?」

 

「いや全然」

 

「ぷっ・・・」

 

「・・・じゃあどうして?」

 

「俺の姉さんも昔は食が細くて今以上に痩せて顔色も良くなくてな。なんとかしたいと思って料理を覚えて体に良さそうな食材も勉強したんだ」

 

「そっか。アタシもその料理を食べたら体が丈夫になるのかな」

 

「それはわからないが、今より悪くなることはないだろう」

 

「そ、それじゃあお願いしよっかな。でもいつか必ずお礼はするから!」

 

「・・・いいなぁ」

 

「ん?奈緒もいるか?」

 

「あ、いやいや!別にうらやましくなんてないぞ?っていうか、そろそろその子を紹介しろよ」

 

「本当はうらやましいくせに♪」

 

「なっ!?うらやましくないって言ってるだろ!大体、こういうのって普通男女逆じゃんか」

 

「ふーん。つまりあなたが先輩にお弁当作ってあげたいんだ」

 

「そ、そりゃやっぱりそういうのは憧れ・・・ってそれも違うから!どうせあたしは料理できないよ!ってか誰なんだよお前!」

 

「中々いじりがいのありそうな面白い人だねー。じゃあ紅葉先輩、紹介よろしく」

 

「・・・」

 

「・・・先輩?」

 

「ああ、うん。やっぱそうなるわけだな。高垣に紹介してもらおうとしたあたしが間違ってた」

 

「顔色の悪いコロ・・・」

 

「ていっ!」

 

「痛っ!なんであたしを叩くんだよ!?」

 

「ごめんなさい。先輩がまた変なこと言いそうだったからつい」

 

「理不尽だ・・・もういい、あたしが先に名乗るよ。神谷奈緒だ」

 

「1年の北条加蓮だよ。よろしくね奈緒せ・ん・ぱ・い♪」

 

「うぅ・・・なんか気持ち悪いから先輩はやめてくれ」

 

「ひっどーい。どころでさ、このクラスに入ってからずっと気になってたんだけど・・・あの窓側の席で真っ白になって空見てるのって城ヶ崎美嘉?」

 

「ああ、うん。でも今はそっとしておいてやってくれ」

 

「う、うん。思ってたのと違って学校じゃ大人しいんだなって思っただけだから」

 

「・・・何も言えない」

 

「ドウシテソラハアオイノカナ。ナンデアタシカリスマナンダッケ?」

 

 

紅葉くんと蒼の少女

 

「(カリスマを346プロまで送ったら道に迷ってしまった)」

 

「ワンワン!」

 

「待ってハナコ!」

 

「ん?」

 

「ごめんなさい、ウチのハナコが。大丈夫だった?」

 

「大丈夫だ。実家で犬飼ってるし慣れてる。それよりも聞きたいことがあるんだ」

 

「え?」

 

「ここ、どこだ?」

 

「・・・は?」

 

 

紅葉くんと蒼の少女2

 

「突然真面目な顔で変なこと言うから驚いたよ」

 

「この辺に来るのは初めてだったんだ。東京に去年越してきてからはほとんど学校と家の往復だけだったし、姉さんがいる346プロにも行ったことなかった」

 

「346・・・」

 

「知ってるのか?」

 

「そりゃ知ってるよ。ここ最近で一気に有名になった芸能プロダクションだし、友達の中にアイドルのファンが何人もいる。それに・・・」

 

「そうか。アイドルってすごいからな」

 

「・・・お姉さんがいるって言ってたけど、アンタも346の関係者なの?」

 

「俺は関係ない。姉さんがアイドルやってるってだけだ」

 

「ふーん。アイドルってさ、誰でもスカウトされたりするものなのかな」

 

「それはないな。」

 

「言い切るね」

 

「俺は去年までアイドルには特に興味なかったし、姉さんがアイドルになってっていうことも知らなかった。だから、初めてライブを観に行ったときも特に何も思うことなく終わって帰るんだと思ってたんだ」

 

「・・・うん」

 

「けど実際はものすごい引き込まれた。何人もいるアイドルたち皆全く違う個性を持っているのに、それぞれがぶつかることなく混じり合って最高の輝きを放っていた。あんなに感動したのは生まれて初めてだったよ。本当のアイドルは、あの輝きを持ってる子じゃないとなれない気がする」

 

「そんなにすごかったんだ」

 

「ああ。姉さんは言ってた。私は新しい可能性に挑戦したい。そして、アイドルになってよかったって」

 

「新しい可能性・・・輝ける何か・・・私も、何か見つけられるのかな」

 

「ん?もしかしてスカウトされたのか?」

 

「まあ、そんなとこ。初めは無視してたんだけど、今はちょっと迷ってる」

 

「すごいじゃないか。スカウトした人は、その何かの一部を見出したんだろうな」

 

「笑顔とか適当なこと言ってたよ。私その人の前で笑ってなかったのに」

 

「笑顔・・・新しいプロジェクトか。でもその人の言葉は間違ってないな。さっきその子をなでていた時の笑顔は可愛かったと思うぞ」

 

「なっ!き、急に変な冗談言わないでよ」

 

「悪いが変なダジャレを見境なく言う姉のせいで、つまらない冗談は嫌いなんだ」

 

「ご、ごめん。急に悲しい顔にならないでよ。もし、もしも私がアイドルになったら・・・アンタは応援してくれる?」

 

「それはお前次第だな」

 

「ふふっ、そこは普通応援するっていうところじゃん。それにお前じゃない、渋谷凛」

 

「それは悪かった。高垣紅葉だ」

 

「高垣・・・もしかしてお姉さんって高垣楓!?」

 

「ああ」

 

「・・・わかった。もう少しちゃんと考えてみる。今日は帰るよ、じゃあね紅葉」

 

「じゃあな・・・ハナコ」

 

「ワン!」

 

「・・・私を見てハナコに挨拶されても困るんだけど」

 

「?」

 

「よくわかんないけどまあいいや。行こうハナコ」

 

「(結局ここがどこだかわからなかった)」

 

―――数時間後346プロ入口

 

「帰りは連絡してくれって言われたけど、アタシ未だに高垣くんの連絡先知らなかった!助けてー奈緒ー!」

 

つづく!

 

 




高垣紅葉
 クールS
家事全般A
  対楓S+
  成績A
人の名前E

高垣楓
クール(外)A
クール(家)D
  歌唱力S
  弟好きS
 ダジャレEX

城ヶ崎美嘉
パッションA
 カリスマA+
   人気A
 ツッコミC
  対紅葉E


神谷奈緒(アイドル前)
 クールC
ツンデレD
ツッコミA+
家事全般C
太眉乙女S

北条加蓮(アイドル前)
 クールB
  病弱A
 対紅葉B
ツッコミE
ジャンクS

渋谷凛(アイドル前)
 クールA
 犬好きS
ツッコミD
 対紅葉B
  蒼さB


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登場人物紹介2

かなり時間が空いていますがもう少しだけお待ちを・・・

今回は今までの人物の追加紹介と今後出る予定のアイドルの紹介です。
今後のアイドルは出る可能性があるということでまだ未定になります。

アニメをベースにデレステ要素もありますが、相変わらずキャラ崩壊がひどいです!



まったく作品と関係ない余談ですが、FGOアーケードを何度かプレイしました。
FGOのAimeカードが当たったのでそれを使ってオンラインモードをすることなく黙々とソロでやっております。

マルタを再臨出来て嬉しい。次はアルトリアを・・・




高垣紅葉

 

物語の主人公でアイドル高垣楓の弟。高校2年生。

感情を表に出すことが少なく、淡々とした日常生活を送っている。

 

成績は優秀でスポーツも得意。唯一の欠点は日本史の人物名が中々覚えられないこと。(特に深い設定はない)

 

容姿端麗で声も良く女子に人気はあるが、基本的に名前を覚えず反応も薄いために女子は徐々に離れていく。

頭の中では色々考えているのだが、それを言葉にほとんどしないのは天然なのか面倒なのか・・・

 

姉の楓のことはとても大事に思っており、高校も地元ではなく東京を選んだのは姉がいたからである。

が、感謝の気持ちを表さず楓へ言葉も辛辣なために紅葉が楓のことを大事に思っている事を知っているものは誰もいない。

 

自宅マンション近辺の小さな商店街へよく買い物に出かけ、そこの人たちとは比較的良好な関係である。

最近では魚のさばき方なども教わっており、料理を趣味として楽しんでいる模様。

 

 

高垣楓

 

紅葉の姉で346プロ内で知らないものはいないアイドル。25歳。

 

元々はモデルをやっていたが、自分の新しい可能性を見つけるためにアイドルに転身。

というのは建前で、本音は自分が歌を歌い舞台に出て輝くことで紅葉の少ない感情に何か変化が、笑顔の絶えない子になってくれるのではないかと思いアイドルになる決意をする。

理由は小さい頃から表情をほとんど崩さない弟がテレビのアイドルの歌を聴いて良い笑顔を一瞬見せたから。

 

歳の離れているせいもあって弟を溺愛しており、表ではクールで綺麗な高垣楓という印象も二人だけになると180度変化する。

趣味のダジャレを紅葉にきかせると少し嫌な顔をされるが、それも感情の変化があるいい傾向だと色々考えている。

ただ最近は点数制になりしかもものすごく低いためにショックを隠しきれない。

 

自分は完璧ではないのに周りからはそう思われているために少し疲れを感じるが、紅葉だけには自分を全く何もできないダメな子扱いされるためにちょっと嬉しい。

 

第一に紅葉の笑顔、第二にこんな自分でも応援してくれるファンの笑顔のために精一杯頑張ることを決意し、自分のやり方を変えようとするものがいたらたとえ誰であろうと立ち向かう覚悟を持っている。

 

 

城ヶ崎美嘉

高校生のカリスマとして人気を誇るJKアイドル。高校2年生。

 

周りが憧れや好意を向けている中で紅葉だけが全く無反応だったため、自分をわからせる為に最初は紅葉に近づいたが相手はほぼ無反応。

他の女子と違って諦めずに話しかけている途中で、今まで自分の周りにいなかった性格の紅葉に逆に惹かれる。

 

1年経っても相変わらず名前を覚えてもらえずにカリスマとしか認識されていないが、たまに見せられる優しさをとても嬉しく思っている。

 

美嘉が名前で呼ばれる時、それはカリスマに名前が勝つ・・・もしくはカリスマJKという名に陰りが出る時なのだろうか。

 

 

神谷奈緒

通称恥じらいの太眉乙女。高校2年生。

アニメやゲームが大好きで、最初は好きなアニメの主人公に紅葉の声が似ていることから興味を持つ。

 

他の子同様名前を覚えてもらえないどころか勘違いされてしまうが、美嘉以上の根気と根性で初めて肉親以外で紅葉が名前を覚えた人物となる。

 

実際は素直に自分の思ったことを口に出せずに否定してしまうツンデレ族なのだが、相手の言うことをそのまま信じる紅葉に対してはややこしくなってしまうために、無意識に紅葉相手には封印している。基本ツッコミ担当。

 

美嘉や楓という周りにいる友人でありアイドルである同性のレベルが高いため自分も普通に可愛いということを認識していない。

 

 

北条加蓮

中学までは病弱で入院経験のある後輩。高校1年生。

 

高校に入って多少ましになったため高校デビューにチャレンジするが初日から失敗。

このままでは登校拒否かと思われた矢先に紅葉に出会う。

 

紅葉の作った弁当を食べ続けることにより元気になり、普通に運動しても全く問題ない体に進化する。

 

奈緒と同じ日にアイドルにスカウトされ346所属に。その後に奈緒と凛3人で結成されるユニットは、紅葉の心にも届く素晴らしい曲を歌い上げる。

 

 

渋谷凛

紅葉が公園で出会った蒼歴史を作るかもしれない少女。高校1年生。

何かの節目で紅葉と度々出会い、相談することになる。

 

アイドルになった後も紅葉はハナコという名だと勘違いしているが、本人は自分の名前が覚えられていないと気づいていない。

 

 

川島瑞樹

楓の少し先輩のアイドル。28歳。

当然紅葉に名前を覚えてもらっておらず、それどころかアイドルという認識もされていないただの酔っ払いの人扱い。

 

楓と一緒に歌ったNocturneも、紅葉は別の人が歌っていると思っている。

 

 

前川みく

加蓮とは同じクラスで学級委員長。高校1年生。

皆に前川さんと呼ばれ慕われており、学校ではクールで頼れる人物となっている。

 

実はとあるプロジェクトに4月から所属しており、とある動物を演じている少女なのだが、それが一体何なのかはまだ不明である・・・

 

 

佐藤心

紅葉が商店街で見かけた個性が強いエキストラ。26歳。

 

自分のファンだと勘違いした心が紅葉に近づくが、一瞬で斬り捨てられてしまう。

この時は心が346プロに所属し、しかも姉の楓と一緒にユニットを組むことになることを紅葉は思ってもいなかったのである。

 

 

 

 

 

 

 



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高垣楓の日記1

時間をかなりあけてしまい申し訳ありません!

今回は楓さんの日記と称して少し今までと違った感じにしてみました。

原作改変どころじゃないし、これ誰?って思うかもしれませんが、相変わらず生暖かい目で見てもらえればなと。


そしてそんなこの作品をみてくれるたくさんの皆様、お気に入りに追加してくれた皆様、誤字報告してくださった方ありがとうございます!

紅葉くんのイメージ絵を描いてみたのでよければ参考に。
それとすでに短編じゃないなと思って連載に変更しました。



11がつ2にち はれ

 

きょうは、パパといっしょにママのいるびょういんへいきました。

 

びょういんの人にここでまっててねといわれて、パパといっしょにまってました。

 

いつもしずかなパパだけど、きょうはいすにすわらないでなにかいいながらあっちへこっちへおちつきがありません。

けど、どこからか赤ちゃんのなきごえがしたら、とてもうれしそうなかおをしてました。

 

「かえでもきょうからおねえちゃんだね」とパパにいわれました。

 

 

わたしにおとうとができました。まだちょっとよくわからなかったけど、赤ちゃんのかおを見たらうれしくなってきました。

 

 

11がつ3にち くもり

 

赤ちゃんのなまえをパパが字で見せてくれました。

まだがっこうでならっていないかんじでしたが、テレビで見たことがあったのでしっていました。

 

「えっと、こう・・・よう?こうくん?」

 

「お、楓はもうこの字が読めるのか。でもね、これはちょっと違って"もみじ"ってよむんだよ」

 

「もみじ?もみじくん・・・ちょっといいにくーい!こうくんがいい!」

 

「はははっ!そうかそうか。じゃあ、今はまだこうくんでもいいんじゃないか?楓だけの特別な呼び方だ」

 

「とくべつ・・・うん!パパ、はやくこうくんとママにあいにいこっ!」

 

こうくんはずっとねていたのでお話はできませんでしたが、とてもたのしかったです。

 

 

 

4月8日 晴れ

 

今日から紅くんも小学1年生。紅くんが生まれた時の私の年齢と1歳しか違わない。

 

あの頃の私は元気によく走り回っていたはずだ。今は人前に出て何かするのが少し恥ずかしくて苦手になり、友達も多くはないし普段からあまり話をすることもない。

 

その私ですら、紅くんは大人しすぎると思う。幼稚園に通っていた時も、誰かと遊んだなんて話を一切しなかったし、家でもほとんど会話をすることなくとても静かだ。

 

そういえばたまに観てるテレビに興味を持ってる時があったっけ。あれは歌番組だったかしら?

 

ともかく、これからの紅くんの小学校生活6年間。楽しい思い出になるように姉である私が精一杯サポートしないと。

自分が話すのが苦手とか言ってられない。可愛い弟のために高垣楓、頑張ります!

 

まずは毎日紅くんを学校に送って行って、同じ新入生で仲良くなりそうな子をスカウトね。

 

 

4月14日 雨

 

・・・甘かった。私の考えが甘々だった。

紅くんは可愛いしとても目立つ。年齢に合わないクールさと容姿に男女問わず皆話しかけてたわ。

 

けど、肝心の紅くんがまったく興味を示さなかった。

 

「もみじくーん!おはよー!」

 

「・・・だれ?」

 

毎回こんな感じである。あわてて私が援護を試みるも・・・

 

「ほ、ほら紅くん。お姉ちゃん知ってるわよ?昨日朝声かけてくれた泰葉ちゃんよね」

 

「うん!おなじクラスなの!」

 

「よ、よかったわねぇ紅くん。お友達が一緒に学校行きましょうって」

 

「よくしらないしいいよ。それよりもおねえちゃん、ちこくするからはやくいこう」

 

紅くんは同級生に興味なさげに足早に学校へと向かっていく。そしてその後の私の役目は決まっている。

 

「こ、紅くんちょっと待・・・」

 

「うえ~~~ん!」

 

「あ、ああ!ご、ごめんなさい泰葉ちゃん。あの子悪気は無いのよ?えっと、その・・・」

 

・・・周りの大人たちと小学生の視線が痛い。胃も痛くなってきた。そして追い打ちをかけるように、夜遅くまで勉強していた1時間目の小テストの内容が飛んでいってしまった。

 

紅くん、同級生の女の子だけじゃなく私まで泣かせるなんてさすがね。

 

 

 

12月12日 晴れ

 

 

高校受験を控えている私の日課は当然紅くんの世話・・・ではなく受験勉強だ。

 

けど、元々あまり体が丈夫ではなかったのと連日の勉強と胃痛で体調を崩し熱を出してしまった。

 

父も母も運悪く今日は遅くまで家に帰ってこない。紅くんもそろそろお腹を空かせて泣いているかもしれない。

あまり得意じゃないけど、紅くんのためにもご飯を作らないと。

 

疲労した体を無理やり起こし、布団から出ようとした時に部屋のドアがガチャリと開いた。

 

「おねえちゃん、だいじょうぶ?」

 

「紅くん。ごめんね、今ご飯作るから・・・あら?」

 

紅くんが両手で何かを持っていた。それはお盆の上にお椀が乗っていて、ほんのり湯気が出ている。

 

「おねえちゃんびょうきなんでしょ?ボクがおかゆつくったからたべて」

 

え、この子今何て?

作った?7歳の子が?て、天才!?・・・じゃなかった。

 

「だめじゃない子供が一人で火を使っちゃ!火事になったら大変なことになるのよ!?」

 

こういう時はしっかり叱らないとダメだ。嬉しい気持ちはおさえて、姉としての対応をとらないと。

 

「つかってないよ。あぶないし。これはテレビでやってたレンジでできるおかゆ」

 

「え!?そんなことレンジで出来・・・あ、ああそうね。もちろん知ってたわよ。一応確認をね」

 

私のほうが危なかったわ。主に姉としての威厳が。

 

「じぶんのぶんもつくったから、ぼくのことはしんぱいしないで。はやくよくなってね」

 

「紅くん・・・ありがとう。急に大きな声出してごめんね。しっかり食べて元気になるから」

 

そのまま私のところまでおかゆを持って来ようとしていた紅くんだけど、ちょっと足がおぼつかなくて不安だったから私が紅くんに近づいてから受け取った。

私がしっかり受け取ったのを確認したあと、紅くんは部屋を出る前に無表情でこう告げて去っていった。

 

「おねえちゃん。わからないことはわからないって、ちゃんといわないとダメだってせんせいがいってたよ。おねえちゃんがりょうりもせんたくもなにもできないの、ぼくはちゃんとわかってるから」

 

「ぐはっ!?」

 

私が間違っていましたごめんなさい。姉の威厳なんて最初から存在しなかったのね。

 

「ううっ・・・紅くん、おいしいけど少ししょっぱいよ~」

 

初めて弟に作ってもらった料理は、涙の味がした。

私の愛する紅くんは、すでに無邪気で辛辣な弟として一歩踏み出していたのだった。

 

 

つづく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ニコ動の方で投稿してるRPGでもデレマスメンバーが登場してますが、やっぱり皆個性があって話を考えるのが楽しいです。

色々なアイドルの話を書きたい気持ちはありますが、まずはこの作品とニコ動を完成させたい今日この頃です。


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考える紅葉くんには視線が集まる

本当は1日の出来事全部書いて投稿したかったのですが、それだとこの2、3倍の時間がかかりそうだったので今までとほぼ同じ文字数で投稿しました。

読んでくれた皆さん、お気に入りしてくれた皆さん、いつもありがとうございます!



話は変わりますが、最近デレステのPRPがようやく1500になりました!

クール編成ばかりで遊んでいるのでクール曲ばかりが10位以内に並んでいます。

主な編成はダブルプリンセス美波&乃々。我らが至高の御方オーバーロード系ロックスター李衣菜。極光ブースターアーニャ。そして茜色に酔った楓さんです。

スコアを伸ばすためにはどんな編成でプレイすればいいのかまだまだ勉強が必要です。



紅葉くん目覚める

 

 

朝、普段より30分遅い時間に目覚ましの音が鳴り目が覚めた。

ここ数日は姉さんがいない分、全て俺一人の用意で済むからだ。

 

基本的に食事、洗濯、掃除は俺が担当している。

それは姉さんには危険で任せられないという理由もあるが、何よりも地元の和歌山の高校を選ばず東京の高校に入学し、尚且つバイトをせず家賃を払っていない弟の俺を、今まで文句ひとつ言わずに養ってくれている姉さんに少しでも恩を返したいという気持ちがあるから。

 

元々料理は趣味でやっていたし、洗濯は一度やればすぐに覚えられるようなことなので特に苦労はしていない。

もっとも、自分用だけに食事を作るときはいつもより適当になってしまうが・・・

 

お湯を沸かし食パンをセット。その間に洗濯物を洗濯機に入れて顔を洗い歯を磨く。ベーコンエッグにサラダを用意し朝食を食べる。

 

「いただきます」

 

可もなく不可もない普通の味、普通の朝食。けど姉さんは毎日笑顔で美味しそうに食べる。

別に普通じゃないか?と聞くこともあるが、決まって姉さんは。

 

「誰かと一緒に食べる食事は美味しいし、紅くんが作ってくれたものだから尚更よ」

 

なんてことを言う。作る側としては嬉しいことだが、だからといって夜の酒の量を増やしたりわけのわからないダジャレの評価を甘くすることは絶対にない。それはそれ、これはこれだ。

 

用意を済ませ学校へ向かおうと玄関のドアノブに手をかけたとき、突然携帯から音が鳴った。

それは予想通り姉さんからのLINEだった。

 

『紅くん、学校行ってらっしゃい。私は今日の夕方に帰るわ』

 

『行ってきます。姉さんも仕事頑張って。夕飯用意して待ってる』

 

『じゃあお姉ちゃん、久しぶりの紅くんのご飯が楽しみだから、温泉街からスパっと帰るわね』

 

『15点。じゃあね』

 

『ううっ・・・1000点満点になってから紅くんがさらに厳しい』

 

むしろ俺の方を評価して欲しいくらいだ。姉さんは突然ダジャレを言うから、それがダジャレだと気づくのも大変なんだぞ。

そして低評価をつける時と違い、気づかなかったり敢えて無視したりした時の方は本気で悲しそうな顔をするから質が悪い。

 

 

紅葉くんとカリスマ姉妹

 

 

学校へ向かう途中はたまに視線や声が気になる時がある。女性はヒソヒソとこちらを見て友達同士で何かを話し合っていて、男性の方はリア充爆発しろなど聞き慣れない事を言っている。

 

確かに俺は自分でも無愛想だと思うし、オッドアイで普通の人とは違う部分がある。俺だけの問題なら別に気にしなくてもいいが、アイドルをやっている姉さんに迷惑がかからないようにしなければ。

 

「それでね!アタシもう皆と仲良くなったんだー☆」

 

「はいはい、その話は何回も聞いたから。前向いて歩かないと危な・・・あっ!?」

 

「!?」

 

「痛ぁ~い!」

 

急に角から後ろ向きで歩いていた少女とぶつかってしまった。今後のことについて考えていたとはいえ、少し注意が足りなかったな。

相手は小学生高学年か中学生くらいの子供だ。男の俺は何ともないが、向こうは怪我をしてしまったかもしれない。

 

「ごめんなさいウチの妹が!って、高垣くん!?」

 

「カリスマの妹?大丈夫か?すまない、不注意だった。怪我はないか?」

 

ぶつかったのはカリスマの妹らしい。相変わらずカリスマは俺が呼ぶと一瞬動きが止まるが、妹のほうはどうだろう。

 

「う、うん。ちょっと背中が痛いけど大丈夫!」

 

「リカ、チャントアヤマリナサイ」

 

「お姉ちゃん、どうしてカタコトなの?それに目が変・・・」

 

「リ~カ~!」

 

「お、お姉ちゃんがいつも以上に何か怖い!?ごめんなさい!」

 

「俺の方は大丈夫だから気にするな。俺は高垣紅葉。お姉さんとは同じクラスなんだ」

 

カリスマ妹があわてて丁寧に頭を下げて謝ってきた。どうやら怪我はないらしいので安心した。

 

「へぇ、そうなんだー!もしかしてお姉ちゃんのカレシだったりして☆」

 

「ち、ちょっと莉嘉!あ、あ、アンタ何言ってんのよ!」

 

「違うぞ、ただの友達だ」

 

「あ、う、うん。ソダヨネー」

 

妹としては姉に変な虫がついていないか心配なんだろうな。まだ小さいのにしっかりした子のようだ。

なので俺のような無愛想な男がカリスマの彼氏になれるわけがないと、最初にはっきりと告げておくのが一番だと思う。

ごまかしたり嘘を言うのは苦手だしな。

 

カリスマを見てみると若干下を向いて目がまた虚ろになっている。もしや、友達と思っていたのは俺だけだったのだろうか。

 

「カリスマ、大丈夫か?まさか・・・」

 

「え?あ、うん!全然ダイジョブ!超よゆーだから!あは、あはははは!」

 

「やっぱりお姉ちゃん変・・・」

 

「そ、それよりもほら!アンタも自己紹介しなさいよ」

 

「あ、うん。初めまして!妹の城ヶ崎莉嘉だよー。アタシも4月からお姉ちゃんと同じ346プロのアイドルなんだ☆」

 

「すごいな。姉妹揃ってアイドルか」

 

「アイドルって言っても、この子まだレッスンも受けてない新人の新人なんだけどね」

 

「しょーがないじゃん。Pくんがあと3人来るまで待てって言うんだもん。でもね、絶対お姉ちゃんみたいなアイドルになって、カリスマJCとしてデビューするんだー☆」

 

カリスマ妹は満面の笑みでそう告げた。一番近くにこんなすごい目標がいるんだ。彼女のデビューはそう遠くない未来だろう。

姉さんはモデルからアイドルになった時何を考えていたのだろうか、不安ではなかったのだろうか。ふとそんな考えが頭をよぎる。

 

そんな俺の考えを知るはずのないカリスマが、俺が黙っているのを不審に思ったのかこんなことを口にした。

 

「そういえば莉嘉のプロデューサーって見た目はアレだけどものすごい真面目だよね。アタシもデビューの時ちょっとお世話になったし、確か楓さんがデビューする時も色々と頑張ってたって話だよ」

 

「姉さんのプロデューサー?」

 

「うん、武内さんって言うんだけど」

 

「姉さんのデビュー当時のことは知らないんだ。テレビをつけたらいつの間にか音楽番組で歌を歌ってた」

 

「そ、それは衝撃的かも・・・」

 

姉さんは前に、新しいことに挑戦したいからアイドルになったと言っていた。だが歌が上手いとはいえ、わざわざ自分が苦手な人前に出るのが当たり前な仕事を選ぶのだろうか。しかも、今はとても生き生きと仕事を楽しんでいるように感じる。本当は何か他の理由がある?

 

もしかすると俺は、姉さんの一番近くにいるにも関わらず姉さんのことをよくわかっていないのか。いや、特に何も考えず姉さんのことは全部わかった気になっていたんだ。

 

たまに・・・いやよくダジャレを言うのも、家ではいくら飲んでも酔わないのに外で飲むと必ず酔って帰って来て俺に介抱されるのも、何か俺には言えない隠された秘密があるのだろうか。

 

そんなことを考えながら登校する俺の表情はいつも以上に険しかったらしく、カリスマは遠慮して一切声をかけず、学校が近づくにつれ周りの生徒たちから浴びせられる視線が一層強くなったように感じていた。

 

つづく

 




今後もこんな感じで地の文入れていきつつ話を進めたいと思います。

主人公もいろんなアイドルと絡ませつつ、彼女たちの力になれるような人物になれたらなと。


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やっぱり楓さんが気になる紅葉くん

デレステ3周年おめでとうございます!

これからも皆でシンデレラたちを盛り上げて行きましょう!
ちなみに今回の奈緒と加蓮のSSRは我が事務所でお迎えすることができました。


今後も増えるかもしれませんが、地の文でのアイドル達の呼称が紅葉くんが呼ぶ名前になっています。
もし誰が誰かわかりにくい場合は振り仮名をつけることも考えています。

名前に関して不快に思う方がいるかとは思いますが、悪意は全くないです。皆とても好きなアイドル達なので。


そして話が全く進まない件・・・まとめる力が欲しい今日このごろです。


紅葉くんと笑顔の少女たち。時々プロデューサー

 

 

放課後、昨日と同じようにカリスマを346プロへ送った。

 

帰りの心配もしたが、いざとなればプロダクション関係者が家まで送ってくれるそうだ。

 

「それに、不審者に少し心当たりもあるし大丈夫。ありがと★」

 

満面の笑みを浮かべ俺に礼を言ったカリスマは、とても輝いて見えた。

同時に少し羨ましくもある。感情を素直に表すことがうまくできない俺には、到底真似できない笑顔だから。

 

 

道に迷った昨日とは違い、帰りは迷いなく馴染みの商店街へ向かおうと思ったのだが、ふと"ハナコ"のことが頭をよぎる。

彼女は結局どのような答えを出したのだろうか。

 

別に遠回りなわけでもなかったのであの公園に立ち寄ってみる。遊具で遊んでいる子供、日向でのんびりしているお年寄り。

その中で、大きな桜の木の下でひときわ目立つスーツ姿の背の高い男性と犬、そして二人の少女の姿が目にとまった。

 

「あれは・・・ハナコ」

 

呟いた俺の声が聞こえるはずもないはずだが、もう一人の少女から視線を外したハナコが俺を見つけこちらに早歩きで近づいてきた。

急に歩き出したハナコに驚いた様子の少女と男性だったが、少し間を置いて同じように俺の方へと向かってくる。

 

「こんにちは紅葉。昨日ぶり」

 

「ああ。答えは出たのか?」

 

「それは・・・まだ」

 

「そうか」

 

「うん」

 

そして会話が終わる。最近カリスマや奈緒と学校で話すことが多いから忘れがちだが、俺はあまり人と会話するのが得意な方ではない。が、どうやらそれはハナコも同じようだ。

 

数秒の沈黙のあとにそれを見かねたのか、少女が助け舟を出してくれた。

 

「あ、あの凛ちゃん。この人は・・・」

 

「あっ、ごめん卯月。話の途中で急に移動しちゃって」

 

「いえいえ、いいんです。ちょっと驚いちゃいましたけど」

 

「この人は高垣紅葉。昨日少し相談に乗ってもらってたんだ。紅葉、この子は島村卯月で・・・えっとアイドルってことになるのかな?」

 

「そ、そんな私なんて!受かったばかりのまだ卵です!」

 

「高垣紅葉だ。よろしく"卵さん"」

 

「うぅ・・・そうはっきり他の方から言われるとショックですが。島村卯月です。よろしくお願いします!」

 

「!」

 

驚いた。昨日のハナコもそうだったが、アイドルの素質があるとこうも一般人と笑顔が違うものなのか。

 

「あの、どうかしましたか?」

 

「いや、いい笑顔だと思っただけだ」

 

「え?あ、あの・・・ありがとうございます!私、笑顔だけは自信があるんです!」

 

「紅葉ってさ、この人の親戚か何かなの?昨日もそうだったけど同じようなこと言ってる」

 

「ん?」

 

ハナコがスーツの男性のことを見て俺に質問してきた。男性は少し困った様子で、首を手で触りながら俺とハナコを見ている。

そういえばこの人は誰なんだろう。卵さんの親にしては全く似ていないし、もしそうだとしたら彼女と俺も親戚ということになってしまう。

東京に親戚がいるなんて聞いたことがないから、ハナコの予想はハズレだ。

 

「残念ながら東京に親戚はいないんだ」

 

「あ、うん。ちょっとした冗談だからそんな真面目に答えられると困るよ」

 

「・・・少しよろしいでしょうか?」

 

なんだ冗談か。ハナコが表情をあまり変えないで言ったから本気なのかと思ったぞ。

そしてそれ以上に表情を変えず、人によっては睨まれているのではと勘違いされそうな男性が、俺に話しかけてきた。

 

「はい。そういえばあなたは・・・」

 

「申し遅れました。私は、こういう者です」

 

そう言った男性は手馴れた様子で懐から名刺を取り出し、両手で丁寧に俺の前に差し出してきた。

軽く会釈をして受け取った名刺には、346プロ、シンデレラプロジェクトのプロデューサーと書かれていた。

 

「シンデレラプロジェクト・・・ということは、あなたが姉さんやカリスマが言ってたプロデューサーさんですか」

 

「お姉さん、というのは、やはり高垣楓さんのことでしょうか?」

 

「はい」

 

この人ならアイドルになった時の姉さんをよく知ってるはず。俺の知りたかった答えが案外早くに見つかるかもしれない。

本来なら姉さんに直接聞くべきだが、俺はプロデューサーさんに質問することにした。

 

「姉さんはどうしてアイドルになったんでしょうか?」

 

「と、言いますと?」

 

「新しいことに挑戦したいからだと俺には言ってました。けど、最近それだけじゃない気がして」

 

「・・・」

 

再び沈黙が流れる。いくら姉弟だからと言って、仕事関係の情報を本人の許可なく教えるのは無理なのだろうか。

 

横目にハナコを見ると、俺たちの会話が気になるのか聞き耳を立てて様子を伺っている。卵さんの方は状況がよく理解できていない様子だ。

そういえば、彼女には姉さんのことは言ってなかったな。

 

「申し訳ありませんが、その問いにお答えすることはできません」

 

「そうですか。こちらこそ無理なことを聞いてしまってすみませんでした」

 

「いえ、そうではないのです。私の知っていることは、恐らくあなたと同じ程度だと思います。ただ・・・」

 

「ただ?」

 

「高垣さんの、あなたのお姉さんの初舞台は、お客様が十数名の小さなものでした。ですが、歌い終わった時の表情は、とても晴れやかで、素晴らしい笑顔でした」

 

「・・・」

 

「あなたのお姉さんの選択は、間違っていなかったと。あの時あの場所に自分が居合わせることができて幸運だったと、今でも思っています」

 

「そうですか」

 

「すみません。あなたの知りたい答えに、なっていないですね」

 

プロデューサーさんはゆっくりと一言ずつ丁寧に告げてくれた。確かに知りたい答えではなかったが、自分の姉の進む道が間違っていないと言われたのは素直に嬉しかった。

 

「ありがとうございました。確かにまだ納得のいかない部分はありますが、俺が姉さんを応援することに変わりはありません」

 

なぜなら・・・

 

「なぜなら、俺は姉さんの笑顔が大好きだから。アイドルになった姉さんは今までよりもずっと輝いて見えるから」

 

「!?」

 

「紅葉・・・ま、まあ、悪くないかな」

 

「わぁ!素敵ですね!」

 

俺の答えに3人がそれぞれ大きく反応したんだが、そんなに変なことを言っただろうか?

いや、答えよりも俺の顔を見て反応した気がする。自分が話している時の顔はよくわからないから少し気になった。

 

「ねえ」

 

「はい。なんでしょうか、渋谷さん」

 

「アイドルって、皆を今の紅葉みたいな笑顔にすることができるのかな」

 

笑顔?俺は笑顔になった覚えはないんだが・・・

 

「あなたなら、必ず」

 

「凛ちゃん。一緒にアイドルになって頑張りましょう!」

 

「卯月・・・」

 

これ以上ここにいて邪魔するのも悪いから、挨拶をして立ち去ろう。

そう思って一歩踏み出したところで、ハナコが真剣な表情で俺の方を見た。

 

「昨日と似た質問になっちゃうけど、紅葉は私がアイドルになったほうがいいと思う?」

 

「それはお前が自分で決めることだ。他人の俺がどうこう言っても意味がないし、自分で決めたことじゃないと結局続かないぞ」

 

「ふふっ、相変わらず厳しいね。でも、紅葉ならそう言うと思った」

 

「ただな」

 

「え?」

 

初対面の俺が言っても変な奴と思われるだけだと、昨日言わなかったことが一つある。

 

「あの時の笑顔は、他の人とは違った何かがあった・・・と思う。もしアイドルになってテレビの向こうで、舞台で見れるのなら、俺はまた見てみたい」

 

「紅葉・・・うん、ありがとう」

 

お礼を言われることは何もしていないが、ここは素直に受け取っておくべきだろうな。

少し目を閉じ、何かを考えていたであろうハナコは、プロデューサーさんと卵さんと向かい合い、真剣な表情で次の言葉を口にした。

 

「もう一晩だけ気持ちの整理がしたい。そして明日の放課後、あのカフェでちゃんと返事を言うよ。」

 

「はい、お待ちしています」

 

「待ってるね!凛ちゃん!」

 

恐らくハナコの中で答えは出ているのだろう。シンデレラプロジェクトがどういう物なのかはわからないが、カリスマ妹もいることだしデビューもすぐのような気がする。

 

「じゃあ俺はここで」

 

これ以上の長居は無用だ。あとは3人の問題だし、あまり帰りが遅いと商店街の店が閉まってしまう上に先に姉さんの方が家に着いてしまう。

 

「高垣さん、何かありましたら、その名刺に書いてある番号に連絡下さい。力になれることが、あるかもしれません」

 

「ありがとうございます。ではプロデューサーさん、卵さん、ハナコ。さようなら」

 

「お疲れ様でした」

 

「わ、私。ちゃんとしたアイドルになれるよう頑張ります!」

 

「ワン!」

 

「・・・だから、どうしてアンタはハナコにだけ挨拶するわけ?」

 

「?・・・あ、一つ言い忘れていました。知っているかもしれませんがプロデューサーさんに報告が」

 

「何でしょうか?」

 

「うちの高校で噂になっていたのですが、この辺りに不審者が出るそうなんです。まだ明るいし人通りも多いので大丈夫だとは思いますが、二人をきちんと送っていったほうがいいと思います」

 

「・・・はい」

 

「あ、あははは・・・」

 

「紅葉って、実は冗談好きなんじゃないの」

 

 

紅葉くんと北条加蓮

 

なぜか困ったような顔をした3人と別れて公園の入口から出ると、見知った姿があった。

誰かと待ち合わせという雰囲気ではない。ちらちらと公園の方を見たあとに俺のことを見つけると、手を振ったのでそれに軽く答える。

 

「やっほー先輩。こんなところで奇遇だね」

 

「奇遇なのか?」

 

「うん、それは本当。でも驚いた。先輩、あの子と知り合いだったんだ」

 

あの子というと卵さんかハナコのどちらかだろう。ということは、コロネも知り合いだったというわけだ。

東京は人が多いのに知り合い同士が会うことはかなり多いな。

 

「声をかけないでよかったのか?」

 

「うん。たぶん向こうはアタシのこと知らないと思うし。ほら、アタシってば中学の時入院期間長かったから」

 

「そうか、それは悪かった」

 

「別に謝らなくていいよ。で、何話してたの?アタシに言えないこと?」

 

コロネは俺たちが話していた内容が気になっているようだ。特に秘密な様子はなかったし、アイドルの話をしても問題はないだろう。それほど詳しいわけじゃないしな。

 

「男性が346プロのプロデューサー。片方はアイドルの卵で、もう片方は最近スカウトされたらしい」

 

「ええっ!?」

 

「あの様子だと、どっちも346プロの新プロジェクトに参加することになりそうだ」

 

「すごい・・・どうしてアタシの周りに急にアイドルばかり」

 

「それはお互い様だな」

 

確かに俺の周りはアイドルが多い。俺に普通に話しかけてくるのは、アイドル以外ではコロネと奈緒くらいだ。

 

「アイドルかぁ。やっぱ憧れるよね」

 

「そうだな」

 

「へぇ意外。もしかして先輩もアイドルになりたかったり?」

 

「いやそうじゃない。皆俺にはないものをたくさん持ってるから、憧れるし羨ましいと思うことがある。同時にそんな彼女たちを応援したいとも」

 

「・・・ふーん。ま、とはいえアタシには遠い職業かな。ダンス練習とか下積み時代とか色々大変そうだし、そういうのガラじゃないし~」

 

「・・・」

 

憧れると言いながら興味なさそうな態度を取るコロネの表情はどこか淋しそうだ。

彼女は普通の人よりも色白で、体力がなさそうに見える。昨日初めて会った時も体調が悪くて休んでいたんだったな。

入院が多かったせいもあり、普通以上の生活を諦めているのだろうか。

 

「まずはちゃんと飯を食べろ。すぐには無理だろうけど、必ず俺が何とかしてやる」

 

「なっ!?・・・べ、別にアタシアイドルになりたいわけじゃ」

 

「ん?アイドルになりたいのか?」

 

「ち、違うから!別に渋谷さんのこといいなぁ、なんて思ってないから!」

 

「俺はそんなこと聞いてないんだが」

 

「うっ!」

 

色白な分余計に赤くなると目立つコロネの顔。これ以上俺が何か言うと沸騰してしまいそうなので、落ち着くのを待った。

 

「・・・もう嫌なんだ。あの入院生活に戻るのは。アタシだって強くなりたいよ」

 

コロネはずっと病気だけじゃなく孤独とも戦っていたのだろう。俺にはどんな辛い時でも姉さんが必ずそばにいてくれた。

だからコロネの気持ちはわからない。わからないが、病弱であるにも関わらず常に明るく振舞おうとしているコロネに、本当に明るく強い学生になって欲しいとは思う。

 

「とにかく、昨日も言ったように俺が弁当を作るから、それをしっかり食べるんだ。それと、ジャンクフードなんかは控えろよ」

 

「えー!ポテトも!?」

 

「ポテト?普通のじゃがいもなら問題ないが、フライドポテトだったらダメだぞ」

 

「そんなぁ・・・アタシ生きていけないかも」

 

がっくりとうなだれるコロネ。ここまでになるほどのポテト好きには初めて会ったが、もしかすると病院食が長かった分の反動なのかもな。

 

「夏を目標に体力作りもしっかりとな。面倒でもやるしかない。今の状態を変えたいなら」

 

「・・・わかった!わかりましたっ!もう、これじゃあアイドルになったのと変わらないじゃない」

 

「そういえばそうだな。姉さんも酒は別としてそれ以外に健康と体力作りには気を使ってるし」

 

「やっぱりー!いいわよ。こうなったら意地でも克服して、街でスカウトされるんだから!見てなさいよ!」

 

「その意気だぞコロネ」

 

「あ、また言った。じゃあ1回追加ね」

 

「ん?何のことだ?」

 

「先輩がアタシをコロネって言う度に、奈緒先輩をいじる回数が1回増えます!」

 

「????」

 

 

一方その頃奈緒の家

「くしゅん!なんだなんだ?ものすごい嫌な予感がするぞ!?」

 

つづく!

 



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相変わらず楓さんには人一倍厳しい紅葉くん

今回はまた普通とは違った内容を入れてみました。
頭の中で想像している動きを文字にするのはかなり難しいですね。

お気に入り、感想ありがとうございます!
たくさんの方に見てもらえて嬉しいです。

通常楽曲になったガールズ・イン・ザ・フロンティアがフルコンできない・・・


紅葉くん商店街へ

 

 

コロネと別れたあとは、まっすぐになじみの商店街であるこの場所へやってきた。

 

マンションの近くにあり、安くて新鮮な食材が揃っている便利さ。そして俺が最もこの場所を利用する理由は、商店街の人には悪いが人通りの少なさだ。

東京は人が多くたまに視線を感じることもあって、人ごみが苦手な俺は1年住んでも中々慣れることができない。そういった意味でもここは家の次に落ち着ける場所であるとも言える。

 

「あら紅葉くんいらっしゃい!」

 

「おう紅葉。お前の姉ちゃんの番組観たぞ!」

 

行く先々で声をかけられるのは、人が少ない以外に若い子がここによく来るのが珍しいからだそうだ。人付き合いが下手で苦手な俺でも、この場所の人たちは普通に接してくれる。皆が親戚のおじさんおばさんたちのようであり、食を学ぶ上での先生でもある。ネットなどでは得られない実際に役立つ知識がここには数多く存在した。

 

 

今日のメインは肉か魚どちらにしようか考えていると、ちょうど魚屋の前で店のおじさんに声をかけられた。

 

「ようボウズ!今日も活きのいいのが入ってるぜ!」

 

「こんにちはおじさん。今日のおすすめは?」

 

「もちろん全部・・・と言いたいところだが、今日は特にこれだな」

 

魚屋のおじさんが指差す方向に、色鮮やかな大きな鯛が並べられている。確かにこれは食べごたえがありそうだし姉さんも喜んでくれそうだが、さすがにちょっと高いな。

 

「お前には特別に、これくらいでどうだ?」

 

そんな俺の考えを読んだのか、どうしても買ってほしいのか、電卓を取り出し新たな金額を提示してきた。今店頭に書かれている値段より3割は安い・・・迷うな。

 

「うーんいい匂い。こんな場所があったなんて知らなかった・・・うげっ!お魚にゃ・・・なんかみくの方見てる気がする」

 

「ん?」

 

ここでは珍しい俺と同い年くらいの少女が、この魚屋の前を通った時に嫌な顔をしてすぐに立ち去った。あまり大きな声じゃなかったので他の人には聞こえなかっただろうが、魚を見てその態度は失礼だ。・・・仕方ない。人に食べられるために捕られた彼らのためにも、ここはおじさんの厚意を受けて鯛を買う事にしよう。

 

「まいどあり!どうする?捌いてやろうか?」

 

「何度かおじさんに教えてもらったし、今日は自分でやってみるよ」

 

「おおそうか、今度感想を聞かせてくれ。」

 

「ありがとう。じゃあまた」

 

あとは他に必要な食材をいくつか買って帰ろう。急げば姉さんが帰る時間にじゅうぶん間に合いそうだ。

 

紅葉くんのお魚講座

 

 

「ただいま」

 

家に着いて早速準備に取り掛かる。まずは先に米を研いで昆布を入れた出汁に浸けておき、鯛を準備する。

 

「刺身にするのは半分だな」

 

焼いて食べるのもいいが、せっかくだから刺身と鯛めしにしようと思っていた。まな板を縦にしてシンクの上にセット。こういう時のために、うまく蛇口の下にはまるまな板を買っていたんだ。

 

鯛は水を流しながらの鱗取りから始める。水を流しながら取るのは前の経験からだ。あの時は台所中に鱗が飛び散って片付けが大変だった。

 

「おっと、忘れるところだった。こっちだけでいいんだ」

 

しっかり取るのは鯛めし用の片面だけで、刺身用の半分は頭と背びれ、腹の部分の鱗だけを取る。刺身にする半分は皮を引かなければならない。キレイに取るには多少力を入れても大丈夫なように鱗が必要だ。

 

「よし。次は・・・」

 

おじさんから教わったことをゆっくりと思い出す。頭を左、尻尾を右にして胸ひれと腹びれを取る。180度回転させてからひっくり返して、反対側も同様にひれを取る。

 

その後、えらの部分に包丁を入れて開いていったら内臓を取る作業だ。腹の部分の鱗はとっているから、少し力を入れるだけで包丁がうまく通る。えらの中央付近から縦にしっかりと包丁を通し、えらと一緒に内蔵も取る。そしてカマの部分も一緒に頭を落とす。

 

「ここまでは上手くいったな。ここから先が問題だ」

 

内蔵を全部取ったら腹の中をしっかりと洗って水を止める。あまり水を身につけすぎるのも良くないそうだ。

 

次に三枚に卸す作業に入る。頭を右、尻尾を左にして腹の下の部分に身を出来るだけ残せるように中骨の上に沿って包丁をあてる。一気に尾の付け根付近まで包丁で切ったあとに、同じように中骨の下の部分も切る。

 

その後は頭と尻尾の向きは変えずに縦に回転させ、背の部分を切る作業だ。ここは何度やっても上手くいかなかったために、おじさんがこんなやり方もあるぞと俺にとってやり易い方法を教えてくれた。

 

「・・・上手くはまるか?ここだな。よし、このまま」

 

鯛の背びれの部分はよく見るとすこしだけ隙間がある。そこに包丁を入れると中骨に近い部分に上手く包丁が入った。ここで大事なのは逆刃に包丁を持ち、頭からではなく尾から包丁を入れること。そして包丁を手前に引くのではなく、尾から頭にかけて包丁の中骨に当たった部分の向きを変えないよう、すーっと頭まで奥に引いていくことだ。

 

「・・・きれいに身が取れた。今日は成功だな」

 

恐る恐る包丁を鯛から離して中を覗くと、きれいに骨の断面が見え身が骨にほとんど付いていないことが分かる。結局骨も味噌汁用に使うから身は残っててもいいんだが、まあ気持ちの問題だな。

 

そのあとは一気に包丁を突き刺し二枚卸しに。ひっくり返して同様のやり方をすれば三枚卸しの完成だ。

 

鱗の取った半身は軽く火で皮を炙り、塩を振って手軽な大きさに切る。そしてそのまま浸けておいた米の中に入れて炊飯器のスイッチを押す。

 

次は刺身用の半身だ。鱗のおかげで多少力を入れても皮を引いた時に途中で切れることはなかった。それにあまり包丁を上に向けすぎると身が一緒に切れてしまって、きれいに取れないから注意だ。

 

「・・・ふう。こんなこと毎日やってたら肩が凝りそうだな」

 

鍋とやかんに水をいれお湯を沸かす。その間に頭を半分に割って取った骨も程よい大きさに切る。2つの半身の腹骨も一緒に洗ってからボウルに入れ、沸騰したお湯をかけて少し冷水を。味噌汁の他の具材はネギだけじゃ物足りないので、じゃがいもと大根を入れることにした。

 

 

楓さん帰還する 

 

 

「あとは待つだけだ」

 

片付けをして皿を用意していると、タイミングよくチャイムが3回鳴った。誰かを確認するまでもなくこの鳴らし方は姉さんだ。

 

「おかえり姉さ・・・」

 

「ただいま紅くん!元気だった?」

 

扉を開けるとすぐに姉さんが抱きついてきた。高校生にもなって姉に抱きつかれるのは恥ずかしいのだが、この姉さんの嬉しそうな顔を見ると何も言えなくなる。今後も誰かに見られないよう願うばかりだ。

 

「お姉ちゃんに会えなくて寂しかったでしょう?」

 

「いや、全然」

 

「うっ・・・小さい頃はいつもお姉ちゃんのそばを離れなかったのに!」

 

「そんな記憶はないけど。離れなかったのは姉さんの方じゃないか?」

 

「ぐ・・・そ、そうだったかしら。そうとも言えなくもないかもしれないわね」

 

「そんなことはどうでもいいから、早く手を洗って着替えてきなよ」

 

「そ、そんなこと!?数日家を空けてもいつも通りの反応でお姉ちゃん悲しい!」

 

全然悲しそうな顔をしていないんだが。むしろ喜んでいるようにも見える。けどやっぱり姉さんがいないと静かすぎて物足りないよな。改めて、おかえり姉さん。仕事ご苦労様。

 

 

「「いただきます」」

 

ご飯が炊けたのでお互いのここ数日の出来事を話しながらの夕食になった。俺の方はほとんど変わらない日常だから、話す内容は姉さんの方が多いが・・・そうか、これは失敗したな。

 

「ごめん姉さん」

 

「え、急にどうしたの紅くん」

 

「姉さんは温泉街での仕事だってことすっかり忘れてた。刺身は食べ飽きたよな」

 

姉さんが帰ってくるからいつもと違う料理を、と考えたのが裏目に出た。姉さんの仕事は一般じゃなかったんだ。

だが姉さんは肯定もせず、優しい顔で俺に話す。

 

「何言ってるのよ。紅くんが作ってくれる料理に飽きるなんてことあるわけないじゃない。それにこのお味噌汁も・・・うん、美味しい。やっぱり紅くんの作ってくれる料理が一番あたたかくてほっとする」

 

「姉さん・・・」

 

「鯛のご飯が家で食べられるなんて一人暮らしの時は考えられなかったわ。今日の鯛づくしの料理最高よ。紅くん、何かめで()()ことでもあったみ()()ね♪」

 

油断してるとすぐこれだ。この状況で無理しなくていいのに。

 

「いや、何もないよ。店のおじさんが安くしてくれたから買っただけ。それと、今のは普通すぎて点は付けられないから」

 

「くふっ!?ふ、普通だなんて!低い点数よりも残酷よ!」

 

 

 

ひと通り姉さんの話が終わったあと、俺は今日の夕方の出来事を話すことにした。やっぱり姉さんからも話を聞いてみようと思ったからだ。

 

「今日帰りにプロデューサーさんに会ったよ。例のプロジェクトの人」

 

「そう・・・」

 

「姉さんの最初の舞台の話も聞いた」

 

「・・・そう」

 

「姉さん、何か隠してることないか?言いにくいこととか」

 

「え?」

 

「俺は姉さんのことをよくわかってるようでわかってないんじゃないかと思ってさ」

 

俺の問いに姉さんは何か考えているようだ。やはりアイドルになった理由には何か他の真実が隠されているんだろう。

 

「・・・言っても怒らない?」

 

「当たり前だろ。どんなことがあっても姉さんは姉さんだし、俺は応援するよ」

 

俺の言葉に安心したのか、姉さんは深呼吸をして下を向きながら話した・・・んだが。

 

「ごめんなさい!実はいつものお酒とは別に、部屋に秘蔵品を隠していました!」

 

「・・・は?」

 

何を言っているんだこの酔っぱらいは。いや、まだ飲んでないか。

 

「最近レッスンで遅くなるって言った3分の1は行きつけの居酒屋で飲んでいました!」

 

「・・・」

 

「でもね紅くん勘違いしないで。確かに『しんでれら』のお酒もお料理も美味しいけど、紅くんの料理の方がね」

 

「何言ってるかよくわからないんだが、俺が聞きたかったのはそれじゃないぞ?」

 

「ええ!?紅くんの事だから、全部知ってて私から謝らせようとしてたんじゃ・・・」

 

「そんな事わかるわけないだろう。俺は姉さんの部屋に入らないし、伝言も疑わないの知ってるだろ」

 

「はっ!?そうだった!わ、罠に嵌ってしまったわ!」

 

やっぱり俺の考え過ぎか。姉さんが前に話したように、新しいことに挑戦したいだけなんだろうな。けど、知りたくないことまで知ってしまった以上、このまま終わって甘やかすわけにはいかない。

 

「姉さん」

 

「な、なあに紅くん?」

 

「3日間アルコール禁止。もちろん外でもだぞ」

 

「そ、そんなぁ!お姉ちゃん死んじゃう!」

 

「そんなわけないだろう。健康になっていいじゃないか。もちろん部屋にある酒も没収ね」

 

「あぁ・・・私の楽園が・・・でも数日ぶりに紅くんの厳しい言葉に触れられて嬉しい自分も・・・どうしたらいいの!?」

 

やっぱり姉さんはどこまでいっても姉さんだ。余計なことは考えず、これからも姉さんのアイドルとしての活動を応援しよう。

 

つづく!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




商店街に現れた少女は一体何川さんだったのか・・・謎に包まれています。
そして良いダジャレが思いつかない!


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高垣楓の日記2~そして紅葉くんとの新生活が始まる~

今回は一番長い約7000文字です。
紅葉くんが楓さんと一緒に住むまで一気に書きました。
今回の話に伴い、登場人物紹介2の一部変更しました。


ミステリアスアイズのイベント皆さん楽しんでますか?
楓さんの高音はやっぱり最高です!

自分は順位気にせずとにかく楽しみます。
デレステを始めて初の楓さんイベントなので。


5月13日晴れ

 

 

ここ1、2年で両親共々気づき始めたことがある。

ううん、そんなわけがないと皆気にしないようにしていたのよね。

 

一体何がというと、マイ・スイート・ブラ・・・じゃなかった。大事な大事な弟の紅くんのこと。

 

紅くんは喜怒哀楽をほとんど表さないのだ。ある程度話せるような年齢になってからは泣いたところを見たことがない。

 

お笑いを見ても笑わないし、何かあっても怒ったり暴れることもない。親としては外出した時におとなしくしているから手のかからない良い子だと認識され、逆に私が場の空気を良くしようと奮闘するたびに冷たい目で見られていた。

 

でも私は悪くないわ!紅くんが感情を出せない社会が悪いのよ!

 

そして昨日、どうしても私は紅くんの笑った顔が見てみたかったので、以前から研究していたダジャレをいくつか披露してみた。

 

小さい子でもわかるような、アルミカンの上にあるミカン。うまはうまい。ハエははえーなどなどを心を込めて叫び続けた。

 

・・・結果は散々。表情がいつも以上に消えていき、最後は物凄く残念そうな目でため息をつかれた。

 

さすが私。紅くんにあんな目で見られるなんて、他人でも中々出来ることじゃないわ。

 

でも、私のほうが別の何か違う感情に目覚めそう・・・紅くん、恐ろしい子!

 

 

5月15日雨

 

 

紅くんのことでもう一つ気になっているものがある。それは人の名前を全く覚えていないという点だ。

 

動植物や地名、道具などの名詞は1度聞いただけですぐ覚えられる賢い子なのに、歴史上の人物や同級生、有名人の名前は一度も口から出てきたことがない。

 

感情表現の件も含めて、一度お母さんが医者に看てもらったが特に異常はなかったらしい。特別な病気などではないと安心したが、解決にはなっていたなかった。

 

 

・・・はい、今この日記を書いている間に気になったことが出てしまったのですぐに紅くんに聞いてきました。

 

何となくの答えは出たけど、小学3年生が感じることではないし、今の私じゃどうしようもないことがわかりました。

内容はこんな感じ。

 

「ねえ紅くん。クラスのお友達の名前、皆ちゃんと言える?」

 

「友達なんていないよ」

 

「え、まさかいじめられてるの!?お姉ちゃんちょっと先生に相談してくる!」

 

「違う、そこまで仲いいクラスの子がいないだけ」

 

「それはそれで問題なんだけど・・・」

 

「名前は・・・うーん、おぼえてない。あんまり人にきょうみないし」

 

「え、もしかして興味ないから覚えてないの?」

 

「・・・よくわかんない」

 

「ち、ちちちちちなみに、お姉ちゃんの名前は・・・い、言えるよね?」

 

落ち着くのよ楓、まさか紅くんに限ってそんなことあるわけがないわ。

 

「・・・」

 

「・・・」

 

かえで

 

よかったぁぁぁ!お姉ちゃん信じてた!

 

「・・・お姉ちゃん苦しいから離れてよ」

 

一瞬の間が永遠に感じたけど、私のことをとても大好きな頼れる姉だと認識しているみたいだから安心した。

危なく毎晩寝ている紅くんの耳元で自分の名前を囁き続けるところだったわ。

 

 

6月14日晴れ

 

 

今日は私の18歳の誕生日。学校から帰ると、なんと紅くんが私のためにお母さんと一緒にケーキを作っていたの!

 

喜びのあまり踊りまわっていたら、お母さんが大きなため息をついていた。

 

「ハァ・・・紅葉は小さいのに家事も掃除も手伝ってくれるいい子ねぇ。それに比べてあんたは」

 

「何よ。料理なんて出来なくても生きていけます~」

 

「・・・ハァァァァ」

 

「無理だよお母さん。ダメなお姉ちゃんの分も僕が頑張るから」

 

「紅くんありがとう!お姉ちゃん、紅くんのお料理毎日楽しみにしてるわね」

 

「ハァァァァァァ・・・」

 

もはやため息になっていない大げさなお母さんの事など気にしてられない。なぜなら、紅くんが私のために毎日美味しい料理を作ると言ってくれたのだから!

 

 

8月8日曇り

 

 

今日は前代未聞の出来事が起こった。テレビを観ていた紅くんが、かすかに笑顔になった!ような気がした。

 

私もテレビを観ていたので紅くんをずっと見ていたわけじゃないから確信は持てないけど。

 

「すごい・・・」

 

「何が・・・って紅くん!?」

 

「え?」

 

一瞬だったから見間違いかも知れないので、これから紅くんと一緒の時は携帯のカメラを常に準備しておこう。

 

それと私の紅くんに色目を使った可能性のあるテレビ出演者のアイドルは"絶対に許さないリスト"にそっと加えておいた。

 

 

6月14日曇り

 

 

季節は巡り20歳の誕生日。特に何の目的もなく地元の大学に通っていた私もついに成人した。

 

お祝いに両親と一緒に初めてお酒を飲む。こんな素晴らしい飲み物がこの世にあるんだと、自分の今までいた世界の狭さを実感した。

 

・・・気がついたら、家にあるお酒は全て消えてしまっていた。たった数時間で一体どこにいったのだろう。

 

 

6月16日晴れ

 

 

初めてサークルの飲み会に参加。特に誰かと親しいわけではないが、同性ばかりということだし、と多少話す先輩に誘われて行った。

 

・・・気がついたら私以外全員酔いつぶれて寝ていた。まだ始まって3時間しか飲んでいないのに残念。また今度にしよう。

 

 

6月17日雨

 

 

紅くんごめんなさいそんなに怒らないでしばらくお酒は控えます。正座やめて足崩してもいいですか?だめですねはい。

 

 

9月26日曇り

 

 

短大生の私は今年で卒業。就職先もほぼ決まっていたが、いまいちピンと来ない。私がやりたいことって何なのだろう?

 

そんな時家に1次審査合格という謎の手紙が届く。受取人は私だ。内容は・・・え、東京?モデル?

 

困惑していると携帯が鳴った。相手は大学の友人だ。

 

「もしもしー、そろそろ合格通知届いた?」

 

「これ送ったのあなただったのね。一体どういうことなの?」

 

「やっぱり審査通ったんだね。楓は色々もったいないよ。背が高くてモデル体型なんだし、同性の私でも見惚れるほど美人なんだもん。絶対モデルになるべきだって」

 

「で、でも。私人前に立つの苦手だし」

 

「女優やるわけじゃないんだし、そんなに心配いらないんじゃない?それにその言い方、別に嫌なわけじゃないっぽいじゃん」

 

「それは・・・」

 

確かに少しだけ、将来モデルに・・・なんて思ったことはある。

 

体の弱かった中学時代までとは違い、紅くんの料理を毎日食べていたおかげか健康的になり周りの見る目も変わっていった。紅くんだけには徐々に残念そうな目で見られていた気がするけど。

 

モデルになれば雑誌に載るだろう。有名になった私を見れば、もしかすると紅くんにも何か変化が出るかも。そう思ってはいたけど、自分から行動を起こす勇気はなかった。

 

「一度親と相談してみるわ」

 

「いい報告待ってるよ。私も友達が有名人になったら鼻が高いし♪」

 

「もう、まだ早いわよ」

 

両親は思ったよりあっさり許可してくれた。どうやら友人と同じくもったいないと思っていたらしい。

問題なのは家事スキル0の私が一人暮らしできるかということだけ。ほっといてよ!

 

「姉さん東京に行くんだ」

 

「合格したら、の話よ。お姉ちゃんがいないと淋しいだろうけど」

 

「いや、それは大丈夫」

 

「ぐっ・・・そんなはっきり」

 

「むしろ淋しいのは姉さんの方でしょ」

 

「う・・・」

 

「別にずっと会えないわけじゃないんだし、姉さんは自分のやりたいことを頑張って」

 

「そ、そうね。お姉ちゃん頑張る」

 

紅くんはあれね、今流行りのツンデレってやつなのね。きっとそうに違いない。私がこの家からいなくなったら毎日部屋で泣いてるんだきっと・・・私が!

 

 

11月2日雨

 

 

346プロダクションモデル部門。老舗のプロダクションに籍を置いてからもう3年が経った。私は346のモデルとしてそこそこ有名になり、何度も雑誌に掲載され、街では時々私のポスターを目にするようになった。

 

それなりに裕福な生活。だが何か満たされない。何かが違うけどそれが何かはわからない。

 

モデル仲間とは可もなく不可もなくといった関係性。私は居酒屋で飲むのが好きだけど、向こうは決まって嫌な顔をする。

 

逆に相手に合わせて飲みに行っても、遠慮して大好きなお酒をあまり美味しいと感じられない。

 

346のきれいな建物の自分の部署へと向かう途中で、笑い声が聞こえてきた。この会社では珍しいなと思い、壁を見るとアイドル部門の名があった。

 

「アイドル・・・」

 

そういえば最近新しくアイドル部門が346に出来たという話を聞いたことがある。私も他のプロダクションのアイドルと何度か一緒に仕事をしたことはあった。

 

作られた、言われた通りに作った私の表情とは違い、自由に表現している姿がそこにあったのを思い出す。

 

「やっだぁ~、比奈ちゃんそれ本当?」

 

「いやぁ、お恥ずかしい話っスが、化粧っていうのはどうも苦手で」

 

「もう、ダメよ!アイドルは顔が命なんだから、それに油断してるとお肌の曲がり角もすぐやってくるわ。アンチエイジングも大事なんだから」

 

「ち、千枝もオトナっぽくなりたいです」

 

「わかるわ~。千枝ちゃんくらいの年齢になるとお化粧にも興味持つものね。じゃあ全部お姉さんに任せなさい!」

 

羨ましい。そう感じてしまった自分がいた。ここでは自分を好きなように出せるのだと。まあ、私はいつでも自分の思う自分をやってきてると思う、けど。

 

部署で挨拶を済ませマンションへと帰宅。そしてメイクを落とすよりも先に携帯を手に取る。電話する相手は、もちろん紅くんだ。

 

「はい、もしもし」

 

「紅くん?お誕生日おめでとう」

 

「ありがとう姉さん。プレゼントも届いたよ、ありがとう」

 

「気に入ってくれたら嬉しいわ。紅くん、自分じゃあまり服を買わないし。似合うと思うけど、今度家に帰った時に見せてね」

 

「わかった」

 

本来ならここで終わる会話だが、気になったことを紅くんに聞いてみる。

 

「紅くん、お姉ちゃんが載ってる雑誌って見たことある?」

 

「父さんや母さんが買ってくるからたまに見るよ」

 

さすがに自分からは買わないか。

 

「どう?お姉ちゃんも立派になったでしょ」

 

「・・・」

 

「あ、あれ?どうしたの?」

 

「姉さん、無理してない?」

 

「え・・・」

 

「仕事を頑張ってるのは知ってるけど、あまり楽しそうじゃないなって」

 

「そ、それはそうよ。遊びじゃなくお仕事なんだからしっかりやらないと」

 

「そうか」

 

「ええ、そうよ」

 

冷静を装っては見たものの、内心はドキドキしている。紅くんにはお見通しだったようだ。さすが私の紅くん!

 

でも、これじゃあダメなんだ。このままの私では、紅くんを笑顔にしてあげられない。どうすれば・・・

 

「俺、高校は東京の高校に行くよ。受ける場所も決めてある」

 

「へ?」

 

「姉さんをずっと一人にしてたら、どんな食生活をしてるかもわからないしな」

 

「そ、それって一緒に住むってこと?」

 

「うん、合格したらだけど。ダメかな」

 

「それは大歓迎だけど、お姉ちゃんのために高校を決めるのにはちょっと賛成は出来ないなぁって」

 

「別に姉さんのためじゃないよ」

 

「うっ、そ、そうよね」

 

「いや、それも少しあるけど。自分が将来やりたいことがまだよくわからなくて。もっと色々な世界を見てみたいんだ」

 

「東京で見つからなかったらどうするの?」

 

「先のことはまだ。でも後悔しないためにも東京で考えたい」

 

「そう。お父さんとお母さんが賛成してるならもう決まったようなものだし、これ以上お姉ちゃんからは何も言わないわ」

 

「うん、それじゃあまた」

 

「ええ、お正月には帰るから」

 

弟が、紅くんが来年からここへ来る。それはとても嬉しいことだけど、不安でもある。

 

今の私は紅くんに誇れるような自分では決してない。紅くんが私を見ても何も変わらない、変えられない。

 

お風呂に入り、寝る前の一杯を飲みながら、自分が載ってる346の雑誌に目を通す。いつもは気にしないページに気になる記事があった。

 

「今の注目はこの子たち。ブルーナポレオン・・・あ」

 

そこには、今日見たアイドルたちが全員載っていた。佐々木千枝、上条春菜、荒木比奈、松本沙理奈、そして。

 

「川島瑞樹。年齢・・・えぇ!?」

 

驚いた。私よりも3つ上だ。けど年齢なんて気にしない、関係ないという堂々とした姿が掲載されていた。

 

「アイドル」

 

私は昼間に続き2度目のその言葉を口にした。

 

「そういえばあの時」

 

昔紅くんと一緒にテレビを見た時に、紅くんに何か変化が感じられたのをうっすら覚えている。あれは確か当時有名なアイドルが新曲を歌っていた時だったはずだ。

 

「アイドル」

 

3度目のその言葉を口にした時に、私はモデルを辞める決意をした。

 

 

3月31日曇り

 

 

あれから次の日にすぐアイドル部門のオーディションを受けた。特にモデル部門に許可も取らずに、何となくで受けてみたと言ったら、審査員は困った顔をしていた。

 

けど、歌を歌ったら相手の顔が変わった。誰かに褒められたわけじゃないけど歌には少し自信があったから。中学高校とエア友達相手に家で歌を披露していたのがまさかこんなところで役に立つなんて。

 

それからしばらくレッスンの日々。普段使っていない筋肉を使うから大変だったけど、体を動かして汗を流すのは気分がよかった。

 

そして臨時でのプロデューサーと初舞台が決まり、今日はその大事な日。私がアイドルとしてようやく一歩踏み出す日だ。自然と気持ちが高揚する。

 

「高垣さん、準備はよろしいでしょうか」

 

「はい、プロデューサー。いつでもいけます」

 

武内さんというプロデューサーは背が高く見た目は怖そうに見えるが、仕事はしっかりと、そして何もわからない私をやさしくサポートしてくれる。

 

歌はしっかり練習してきた。モデル時代とは違い、毎日が充実していた気がする。

 

「お客さんは何人くらいなんでしょうか?」

 

「・・・それが、まだまだ弊社のアイドル部門は出来たばかりなため、きちんとした宣伝が・・・」

 

「少ないんですね」

 

「申し訳ありません」

 

「いえ、よかったです。あまりに多かったら、緊張しすぎて声が出なかったかもしれませんし」

 

「は、はぁ・・・」

 

私の答えが予想外だったのか、プロデューサーは首に手を置いて少し困った顔をしていた。

 

「今日は、笑顔で頑張りましょう」

 

「はい。皆も笑顔に、()()()()()、ですね」

 

「・・・」

 

私の歌を聴いてくれる人が1人でもいるのなら、全力で歌う。そして笑顔で帰ってもらう。それがこの数ヶ月で私の出した答えだ。

 

モデル時代には紅くんの心には何も届かず、返って心配させてしまっていた。それは私の心に迷いがあったからだと思う。

 

明日から紅くんは私の家で一緒に住む。迷った顔をしたらすぐにわかってしまう。これ以上は立ち止まっていられない。一歩でも前へ進もう。

 

「では、行ってきます」

 

どうか、届いて・・・!

 

 

 

 

「今日来てよかったなぁ」

 

「ああ、あの子の歌最高だった」

 

「私ファンになる!」

 

「私も応援するわ!」

 

小さな舞台でのライブは大成功だった。お客さん1人1人の表情が歌っている時でもよく見えたから。

終わったあともまだ気持ちが高揚している。こんなことは初めて。

 

「お疲れ様です」

 

「お疲れ様です、プロデューサー」

 

「いい、笑顔でした」

 

「はい。皆もいい笑顔でした。私、アイドルになってよかったです」

 

これなら上手くやっていけそうだ。でも、紅くんに話すのはまだ先。もう少し、もっと大きな舞台に立てるようになってからにしよう。

 

 

4月1日晴れ

 

時計を見る、携帯を見る、ドアの前に立つ。今日これを何度繰り返しただろう。駅まで迎えに行くって言ったのに、紅くんは自分で行けるからと却下した。

 

ここに来るのは初めてだし、東京は人が多い上に紅くんはカッコイイから変な誘惑に惑わされないか心配だ。

 

「来たっ!」

 

チャイムが鳴った。私は勢いよくドアを開け、大好きな弟の顔を見る。相変わらずの無表情だったけど、私は嬉しかった。

 

「来たよ姉さん」

 

「うん。お正月に会ってからまた背が伸びたわね。もうお姉ちゃんと変わらないわ」

 

「そうだね。すぐに追い越してみせるよ」

 

「ふふっ。紅くん男の子だもの、夏ごろまでには実現しそうね」

 

「それじゃあ、お邪魔します」

 

「そうじゃないでしょう?」

 

少し遠慮しがちに部屋に入ろうとした紅くんに少し意地悪をしたくなった。両手を広げて通せんぼ。紅くんは少し困った顔をしたけど、理由はすぐわかったみたい。

 

「・・・ただいま姉さん」

 

「ええ、おかえりなさい紅くん。そしてようこそ。これからまたよろしくね」

 

「ああ。で、さっそくだけどこれは何?」

 

「え?・・・あっ!」

 

部屋には、呑んだお酒のビンやビールの空き缶が散らばっていた。

 

「ち、違うの紅くん。これはね、いつもこうじゃないのよ。昨日色々あってちょっと1人でプチ打ち上げを・・・」

 

「姉さん、正座」

 

「・・・はい」

 

ああっ!懐かしいわ!前はよくこうやって紅くんにお説教を「姉さん聞いてる?」はい聞いてます。

 

こうして私と紅くんの東京での生活が始まった。私はこれからアイドルとして、自分のため、これからできるかもしれないファンの皆のため。そして大好きな弟の紅くんのために歌い続けるわ!

 

だから紅くん、今日は少し軽いのでお願い!

 

つづく!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




やっぱり楓さんがポンコツになっていく・・・
それでも楓さんは紅葉くんのために頑張ります!


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紅葉くんの真実?

今回名前に関しての話の一つを繰り上げて作成しました。

感想にあったように、このままだと不快に思う方が増えると思ったので。
一気には無理ですが1人1人やっていきたいと思ってます。

ちなみに服装や顔などの記憶の話ですが、実は私の実話なのです。
多少周りに無関心な部分があったための結果ですが、その辺もこの作品に少しつながっているかもしれません。


長い勘違いだった紅葉くん

 

姉さんの泊まりがけの仕事から幾日か過ぎ、4月ももうすぐ終わろうとしている。

あの仕事の出発の日以来、相変わらず姉さんは俺が起こさないと朝起きてこないし、夜は仕事やレッスンで忙しいと思いきやたまに酔って帰ってくる。

 

別に大人なんだし飲むのは悪いことではないんだが、帰ってきてからの俺への絡み方がとてもしつこい。

正座させて説教をすると、最近は特に喜んでいるように見えてわざと絡んでいるのではと疑いたくなるほどだ。

 

だがそんな酔っぱらいで朝弱くて家事も出来ない困った姉さんが、テレビではとても凛々しく世間では歌姫などと言われている。

ドラマの出演も増え、たまにゲームアプリなどの声優もやるそうだ。世の中何が真実なのかわかったものじゃないな。

 

プロデューサーとアイドルの卵たちと会って以来、特に変わったこともなく平和な・・・家以外では平和な日々が続いていた。

唯一違うことはカリスマがたまに学校を休むようになったことだろうか。

 

「美嘉?今度ライブがあるんだってさ。それ以外のスケジュールもギリギリだから、学校休んで仕事頑張ってるらしいぞ」

 

カリスマとクラスで一番仲が良い奈緒は彼女の情報にとても詳しい。当然学校外でも連絡を取り合っているのだろう。

俺はカリスマのことを友達だと思っているが、まだ俺が話しかけた時の彼女の対応はぎこちない。それにアイドルという立場上一般の、しかも異性との連絡先のやり取りは問題や迷惑になるかもしれないと交換もその手の話もしていない。

 

「先輩って変なところ真面目だよね。いや全部真面目なんだろうけど」

 

「この変に真面目な性格と勘違いが美嘉を悩ませてるんだけど、本人は絶対気づかないからなぁ」

 

「何の話だ?」

 

カリスマに悩みがあるなら力になりたいが、俺が話すといつもの状態になるし結局何もできないということになる。

・・・ん?いつの間にコロネがいたんだ。

 

「だーかーらー!高垣が美嘉の名前を覚えて・・・って、なんでまたお前がここにいるんだよ!?」

 

「いいじゃん休み時間なんだし。それに奈緒先輩だっていつでも遊びに来ていいってこの前言ってくれたじゃない」

 

どうやら奈緒も同じことを考えていたようで、俺の心の声を代弁してくれた。この二人もすぐに仲良くなり、先輩後輩という距離感をあまり感じさせない。

 

それよりも奈緒が気になることを言っていたが、この件前も話していたな。あの時は意味が分からずそのままにしていたが、一応聞いてみるか。

 

「奈緒、一つ教えて欲しいんだが」

 

「珍しいな高垣が質問なんて。なんだ?あたしに答えられること?」

 

「前にも言ってた気がするんだが、カリスマが俺にぎこちないのと名前に何か関係があるのか?」

 

「大アリだよ。美嘉のことをいつまでたっても覚え・・・あれ?何か変だな」

 

話の途中で奈緒が腕を組んで考え事をし始めた。それほどの難解なのだろうか。やはり、友達と思っているのは俺だけだったのか?

 

「ねえ紅葉先輩、アタシも気になったから質問。今の話の流れ、美嘉先輩イコールカリスマって認識してるように聞こえたんだけど」

 

「そう!それだよそれ!」

 

「どれだ?」

 

「あたしも美嘉がいる時に気を使って聞かなかったけど、というかこんな質問普通しないからきちんと聞くのためらってたけど・・・」

 

「俺に答えられることなら答えるぞ」

 

「高垣ってもしかして、城ヶ崎美嘉って誰かわかってる?」

 

「・・・」

 

一瞬奈緒が何を言っているのか理解できなかった。確かにこんな質問はクラスメイトや友達同士で聞くことじゃないな。

 

「誰って、カリスマのことだろう?」

 

『ええええええ!?』

 

俺の答えに奈緒とコロネが一瞬口を開けたまま動かなくなり、同時に大声を上げた。元々休み時間は何人かの視線を感じていたが、今回はクラス中が一斉にこちらを見てきた。

2人は何を驚いているのか。

 

「知ってたのかよ!なんだよーあたしの苦労を返せー!」

 

「それであの対応だったなんて、先輩ってかなりドS・・・」

 

「加蓮、みなまで言うな・・・」

 

今度は同時にため息をつく二人。今の話とカリスマのぎこちない対応に何か関係があるのか?

 

俺は人の名前が覚えられない。その件に関して昔姉さんには小さかっためよく分からず興味がないと話した。

確かに他人に関してあまり興味がなく、無関心だ。名前に関しても記号のようにしか捉えられず、人のこともよく覚えられない。

 

それ以外で小さい時苦労したことがある。家族でデパートに行った時にはぐれてしまったんだが、家族を探す時に顔ははっきり覚えてるのにその日皆がどんな服を着ていたのか全然思い出せなかったんだ。

あの時は姉さんが俺のことを見つけてくれたが、少しだけ焦ったのを覚えている。

 

 

カリスマに関しては、そう。確かに去年の途中まではその他のクラスメイトと同じ認識だった。それでもカリスマJKという話は周りから聞こえていたので呼び名だけは知っていたが・・・

本当に彼女を認識できたのはあのライブの時だ。彼女は舞台の上で輝いていた。周りのアイドルに引けを取らずに堂々とパフォーマンスを見せてくれるのを見て、同じクラスメイトとしても少し誇らしかった。

 

その時のパンフレットに顔と名前が出ているのを見てはっきりと認識し、敬意を込めて改めてカリスマと呼んでいたんだが・・・

 

「カリスマにカリスマだろう?と聞いたときも否定しなかったから問題ないと思ったんだが」

 

「問題しかないよ・・・高垣は去年今以上に言葉少なかったからなぁ。あたし、最初はアレだったけどよく覚えられたな」

 

「目の前で叫ばれたからな。実はあの時顔がぶつかるんじゃないかと心配だった」

 

「なっ!あたしそんな顔近づけてた!?くぅ~急に恥ずかしくなってきた」

 

「奈緒先輩ってば大胆だねぇ。ちなみにアタシのことは?」

 

「・・・コロ」

 

「ストーップ!」

 

「・・・ちっ

 

「お前が変なこと言うとあたしがいじられるんだからな!加蓮も舌打ちしない!」

 

「まっ、アタシは"まだ"いいけどね。色々と面白いし♪」

 

「くっそ~・・・誰かあたしが勝てる相手はいないのか」

 

カリスマはカリスマなのにカリスマと呼ぶと問題がある?だが周りはカリスマをカリスマと尊敬の眼差しで見ている。

俺と他の人たちと何が違うのか・・・

 

「あのさ高垣。確かに友達はあだ名で呼び合ったりするけどさ。女の子は名前で呼んでもらったほうが嬉しい時もあるんだよ」

 

「・・・そうなのか?」

 

「うん。だから今度美嘉に会った時は、ちゃんと名前で呼んであげて欲しい。お願いだ」

 

「わかった」

 

「まあ、美嘉先輩の場合違った意味でまた固まるかもしれないけどね」

 

「ぷっ!確かに!」

 

周りの視線が集中してる中、それに全く気づいてない様子の2人は相変わらず仲良く笑い合っている。

その笑顔は、アイドル達に引けを取らない純粋な良い笑顔だった。

カリスマを"美嘉"と呼ぶだけ。そんな簡単な話だったのか。

 

「・・・失礼します。ここに北条加蓮って子は・・・あ」

 

「げ・・・"前川"さん」

 

休み時間がもうすぐ終わるという時に教室の後ろのドアが開き、そこには見知らぬ少女が誰かを探している様子だった。

 

 

 




次回は紅葉くんを346プロに突入させる予定です。
アイドルの新規参戦は少ないですが。


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紅葉くんが真面目になるとアイドルは笑顔になる

すみません!投稿が遅れた上に前話のあとがきの予告まで進めませんでした!
次話こそかならず・・・


楓さんといえばこの前のPretty Liarのイベントですね。
かなりボーダーが高かったようで、ミステリアスアイズのイベントをみんなが待ち望んでいたことがよくわかりました。

個人的にはTwitterにあげたPretty Liarの編集曲が初めてバズったのでかなり驚きました。
が、お陰で多くのPさんと相互フォローしてもらえて嬉しかったです。


紅葉くんたちとマジメ/ネコチャン

 

 

「失礼します」

 

少女はそう言ってゆっくりとこちらに近づいてきた。

何故かコロネは奈緒の後ろに隠れ、ものすごく嫌そうな顔をしている。

 

「もう、探したんだから。クラスの誰に聞いてもあなたがどこにいるか知らないって言うし」

 

「あ、あはは・・・」

 

どうやら少女はコロネをさがしていたようだ。ということは1年生か?

間で壁にされている奈緒がどうしていいかわからずに困っている。

 

「コラ加蓮!人の後ろに隠れるなよ」

 

「あはは!コラ、なんて久しぶりに聞いた。奈緒先輩お母さんみたい♪」

 

「お、お前なぁ・・・ああ、えっと、加蓮に用事か?」

 

怒った様子を見せながらもその場から動こうとせずにコロネに前の立つ奈緒。

彼女は面倒見がいいので、コロネだけではなくいつもクラスで頼りにされている。

 

「はい。私は北条さんと同じクラスで学級委員長をしている、前川みくって言います」

 

「そっか。あたしは神谷奈緒。で、こっちは」

 

そう言って奈緒は俺の方を見た。とりあえず静観しておくつもりだったが、自己紹介は必要か。

 

「高垣紅葉だ」

 

俺が名乗ると・・・委員長は会釈をしすぐにコロネの方へ向き直った。

相変わらず間に立たされている奈緒は、委員長の視線にどうしていいか分からず困った様子だ。

 

「すみません先輩方。私はただ先生に提出するプリントを、クラス全員分集めていただけなんです」

 

「あ・・・」

 

「朝から集めていたんですが、北条さんはいつも授業が終わるといなくなって開始のベルまで戻ってこなかったので」

 

「あー、確かにここ最近の休み時間はここに来てたな。ウチのクラスの子も慣れたみたいで何も言わないし」

 

「そうだな」

 

俺と同じく人付き合いが苦手、という風には全く感じない。そもそも、クラスメイトと一緒にいるより先輩と一緒にいる方がハードルが高いと思うんだが、コロネは全く遠慮せずに奈緒や俺と話をしている。ならクラスにいたくない理由があるのか?

 

 

まさか・・・

 

「・・・いじめ、か?」

 

「え?」

 

「お、おい高垣。急にどうした?」

 

「コロネがこのクラスに頻繁に来る理由を考えていたんだ。普通は慣れない上級生のクラスに来ているのは、もしかして俺たちに助けを求めていたんじゃないかと」

 

「ま、まっさかぁ。加蓮に限ってそれはないだろ。なあ加蓮?」

 

「・・・実はそうなの。毎日いじめにあってクラスにいるのが苦痛で・・・くすん」

 

やはりそうだったのか。ようやく本音を話せたコロネは、両手で顔を覆っている。恐らく泣いている顔を見せたくないのだろう。今までそんな素振りを見せ無かったとは言え、全く気付かなかった俺にも責任はある。

 

今後のことを奈緒と話し合おうかと思ったが、何故か奈緒は薄目で無表情のままコロネを見ている。

 

「・・・おい嘘泣き加蓮。くすん、じゃない!そんなのに騙されるやつなんているわけないだろ!」

 

何?冗談?どういうことだ。

 

「そ、そうです!私たちのクラスにいじめてなんてありません!むしろ、北条さんの事情を知った皆は積極的に話をして仲良くなろうと・・・」

 

「はぁ・・・それだよ。それが問題なの」

 

「え、どういうこと?」

 

状況が理解できない俺のことを誰も知るはずもなく、奈緒の後ろにいたコロネはようやく前に出て委員長と対峙している。奈緒はやっと解放されたと呟いて、机一つ離れた俺の隣までやってきた。

 

「アタシの入院のこと、先生が話したんでしょ?」

 

「うん、だから皆・・・」

 

「それが嫌だって言ってるの!」

 

「うにゃ!?」

 

「うにゃ?」

 

うにゃ?

クラス中に響き渡るコロネの大声に委員長が変わった声を上げる。奈緒もそれに反応して首をかしげているが、コロネは気にせずに委員長を睨みつけていた。

 

「最初は皆普通に話してたのに、入院のこと知った途端大変だったね。とか、今日は大丈夫?無理しないで、何かあったら言ってね。とか、気を使った会話ばっかり!アタシは同情されるために学校に来てるわけじゃないし、ちょっと昔のアタシを知ったくらいで今のアタシの何がわかるって言うのよ!」

 

「わ、私はそんなつもりじゃ・・・」

 

「・・・ごめん、少し言い過ぎたかも。委員長1人のせいじゃないのに。何も言えないアタシにも問題あったし、ただの八つ当たりだった」

 

「北条さん・・・」

 

「な、なあ高垣。あたしたちはどうしたらいいんだよ」

 

「・・・」

 

コロネの言葉は委員長だけじゃなく、俺にも言っているのではないかと思った。初めて会ったときから今まで、俺はコロネの体調に気を使って接していた部分がほとんどだ。昔の姉さんに重なった部分があり少し気にしすぎていたかもしれない。

 

奈緒はコロネの昔のことを知っても普通に接していたから問題ないだろうが、俺のことは上級生でしかも無表情な異性のために強く言い出せなかったのではないだろうか。だとしたら、俺の方から謝るべきだ。

 

「コロネ、悪かった。嫌な思いをさせていたみたいだな」

 

「・・・へ?なんで先輩が謝るの?」

 

「俺もお前のクラスメイトと同じだろう?最初から体調を気にして接していたからな」

 

「この状況でこんな盛大に勘違いできるのって高垣だけだよな・・・」

 

「ふふ・・・ふふふ・・・あはははは!やっぱり先輩は面白いね!他の人とは全然違うよ」

 

「まあ、高垣だからなぁ」

 

「だね♪」

 

「ん?」

 

相変わらず状況が理解できない。何故か奈緒とコロネが意気投合して笑っている。許してもらえたのだろうか?

 

「先輩が本気でアタシのこと心配してくれてるってわかってるよ。不快だなんて思ったことは一度もないし、今まで通りの先輩でいてよ」

 

「・・・いいのか?」

 

「もちろん。むしろそうしてもらわないと困るんだけど?お弁当は美味しいし、奈緒先輩はいじれるし♪」

 

「なっ、あたしは関係ないだろ!」

 

「あ、あの北条さん・・・」

 

「ごめん委員長。戻ろっか?プリントは机の中にあるから戻って渡すよ」

 

「う、うん」

 

「それと改めてごめん。それと探しに来てくれてありがとう。クラスのことはまだ考える部分があるけど、先輩のお陰で少し軽くなった気がする」

 

「何かあったら言えよ?あたしに出来ることなら協力するからさ」

 

「うん!当然奈緒先輩には色々協力してもらわないと。この時間の紅葉先輩の発言で2回いじれるし!」

 

「げっ!流したのかと思ったら覚えてたのかよ・・・」

 

「当たり前じゃない。じゃあまたね先輩たち」

 

「ああ、またな」

 

「無理してくるなよ!絶対だぞ!」

 

どうやら今まで通りでいいらしいので安心した。

笑顔で手を振り走って行ったコロネを見送った奈緒は、やれやれとため息を吐いて自分の席に戻る。俺も次の授業の準備のために席に着こうと思ったが、迎えに来たはずの委員長は入口でじっとコロネの向かった先を眺めていた。

 

北条さんの笑顔、クラスで見たことない。・・・みくも、みくもファンをあんな笑顔にできるアイドルになれるのかにゃ

 

小さな声で何か呟いていたようだったがここからではよく聞こえなかった。が、明るくなったコロネとは逆に委員長の表情は暗いままだった。

 

つづく。

 

 

 




もう少し前川さんを前面に出して行きたかったですが、それはいずれ。


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紅葉くんと未来の蒼ノ楽団のアイドル達1

相変わらずの遅筆で申し訳ありません。
それでも読んでくれる皆様には感謝しかないです。ありがとうございます!


ロックとねこみみと紅葉くん

 

 

「はい、承っております。こちらに記名をお願いします」

 

「わかりました」

 

受付で名前を書き、ゲストと表記されたスタッフカードを受け取った。

まさか、こんな形でここに来ることになるとは・・・

相変わらず困った姉だ。

 

俺は今美城プロダクション、通称346プロに来ている。正門まではカリスマ・・・美嘉を送るために何度か来たことがあるが、内部へ入ったのは今日が初めてだ。

 

 

 

あれから放課後、急に姉さんから連絡が入った。平日のこの時間に珍しいと思いながら内容を聞いたら、どうやら契約関連の更新に必要な印鑑を忘れたとのこと。

 

『ごめんね紅くん。お姉ちゃん取材とレッスンがあってどうしても抜け出せないの。家からいつもの引き出しにある印鑑、持ってきてほしいのよ』

 

「はぁ・・・だから大事なことは先延ばしにするなっていつも言ってるのに。わかった、学校終わったら家に帰って取ってくる」

 

『ありがとう紅くん!受付には連絡しておくからお願いね。お礼は何がいいかしら♪』

 

「・・・一週間家でのダジャレ禁止でいいよ。それじゃ」

 

『ま、待って!お願い!それだ・・・』

 

 

まあこんな感じだ。最後に何か姉さんが言ってた気がするが俺は気にしない。

 

「新館5階の応接室でお待ち下さい。そちらのエレベーターから5階へ、応接室は突き当たり右の部屋になります」

 

「ありがとうございます」

 

てっきり受付近くで姉さんを待っていればいいのかと思っていたんだが、来客者扱いで本格的にこの大きな事務所の中に入ることになったようだ。

 

案内された通りにロビーにあるエレベーターへ。時間帯が関係しているのか人通りは大きな事務所にも関わらずあまり多くはなく、学生服の俺が目立ってしまう状況だ。すれ違う人は多少怪しんだ様子で俺を見るが、スタッフカードのおかげか呼び止められることはなかった。

 

「5階だったな」

 

「ちょ、ちょっと待って!乗りまーす!」

 

「ん?」

 

30階以上もあるボタンの中から目的の階のボタンを押した瞬間に慌てた様子の高い声が聞こえた。

"開"を押したまま待っていると、同じ年くらいの少女2人が息を切らしてエレベーターに乗り込んだ。

 

「はぁ、はぁ・・・あ、危なかったにゃ」

 

「ね、ねえみくちゃん。別に慌てなくても良かったんじゃない?もう荷物取って帰るだけだったんだし」

 

「うっ・・・ま、まあそれはそれにゃ!」

 

「・・・」

 

この2人は事務所の職員というわけではないよな。片方は頭に猫のような耳があるので、その状態でバイトというのも考えられない。言葉も少し変わっているし、アイドルと関係性がある線の可能性が一番高そうだ。

 

「あっ、すいません。30階お願いします」

 

「はい」

 

「待ってくれてありが・・・げっ!先輩にゃ!?」

 

「?」

 

片方が俺に行き先を告げたのでそのボタンを押すと横から奇妙な声が聞こえた。

が、恐らく人違いだろう。俺を先輩と呼ぶのは1人だけだし、猫のような耳の知り合いはいないはずだ。

 

「みくちゃんの知ってる人?あ、私は多田李衣菜。高校2年生でロックなアイドル目指してるんでヨロシク!」

 

「ロックなアイドル・・・中々カッコイイな。俺は高垣紅葉、同じく高2。この事務所関係者の姉の忘れ物を持ってきただけの一般人だ」

 

「えへへ、カッコイイって言われちゃった♪ほらねみくちゃん。わかる人にはわかるんだよ!溢れ出るロック魂を隠しきれないっていうか」

 

「そんなことよりも今気になることを言ってたにゃ。もしかして先輩のお姉さんって・・・アイドルの?」

 

「ああ、一応そうだ」

 

「そんなことって何さ!だいたいみくちゃんは・・・え?高垣・・・高垣・・・楓!?」

 

奈緒たちもそうだが、皆俺が姉さんの弟だと知ると・・・いや、姉さんの名前に驚いてばかりいる。俺は姉さんのアイドルとしての立ち位置を聞いたことがないし、いつものどうしようもない姉さんしかほぼ知らないので何に驚いているのかさっぱりわからない。

 

「高垣楓は俺の姉だ。改めて2人とも初めまして。どっちもアイドルということでいいんだよな?姉がいつも世話になっている」

 

「はじめ、まし・・・て?え、ひどくない?」

 

「いやいやいや!私たち会ったことも話したこともないしお世話だなんてそんな。ってどうしたのみくちゃん。今まで見たことない顔してるよ」

 

「あの3人には先越されるしみくのデビューはいつになるかわからないし学校の知り合いに会ってちょっとまずいかもと思ったけど全然覚えられてないし・・・むむむむぅぅぅ」

 

猫の子が何やら考え込んで唸っている時に音が鳴り、俺の目的地である5階に着いた。考え事の邪魔をしては悪いと思ったので、軽く会釈をしてエレベーターを出る。

 

「みくは負けないからね!絶対ぜーったい、トップアイドルになってみせるにゃぁぁ!!」

 

「うわわっ!み、みくちゃん落ち着いて!」

 

さすがはアイドルの事務所だ。皆普通の人と気合の入り方が違うし、自分の仕事に誇りを持っているんだろうな。

俺もいつか自分がなりたい職業に就くことができるんだろうか。同年代の知り合いが次々と自分の目標に向かって歩き出しているのを見ている分、少し不安になってきていた。

 

 

 

相変わらず無自覚に恐ろしい紅葉くん

 

 

 

「それじゃあ紅くん案内するわね。上へ参りま~す♪」

 

「でも本当にいいの?俺が勝手に歩き回ったら色々と迷惑になるんじゃないのか?」

 

「大丈夫よ。少しの間だけどちゃんと許可は取ってあるし、紅くんだって興味あるでしょう?」

 

「一般人が普通は入れない場所だからな。気にはなるよ」

 

応接室でしばらく待っていると姉さんがやって来た。動きやすい格好に髪を結んでいたのでどうしたのか尋ねたら、この後まだレッスンがあるのだそうだ。格好に反して表情は家にいるときと違い、どちらかと言うと舞台にあがっている時の表情に近い。これが皆の知っている"高垣楓"なのだろうか。

 

「そんなに違う?私は特に意識していなかったのだけど、紅くんがそう言うならそうなのかもしれないわね」

 

そう答えた姉さんの笑顔はいつもの2人で会話している時の表情に戻っていた。いつもの見慣れた姉さんの表情のお陰か、この大きな事務所に入ってからの妙な緊張が少し解けた気がする。

 

それからすぐに印鑑を渡して帰ろうと思っていたんだが、姉さんが事務所内を案内してくれるという。返事をする間もなく俺の手を引き部屋を出て、さっき2人のアイドルと話をしたエレベーターで上の階へと向かっていた。

 

「さすがにまだ未発表の曲や企画関連のあるフロアには行けないけど、十分楽しめるはずよ」

 

「うん」

 

「だ、だからね。これをお礼ということにして一週間ダジャレ禁止はなしになら『ない』・・・わよね、わかってたわ」

 

案内された場所は様々なものだった。さらに活躍中のアイドルの写真や表彰された物などが展示された区画もあり、鳴り止まない電話に対応する事務員たちが忙しそうに働いているフロアでは、通り過ぎる時は姉さんは丁寧にお辞儀をして通っていった。特に誰かが見ていたわけではなかったが、俺もつられて頭を下げた。

 

最初の階から徐々に下に下がり、ここが最後だという3階へ。案内板にトレーニングルームと書いてあったフロアにはエステルームやサウナといった変わったものが並んでいた。

 

「こんな施設まであるのか。芸能事務所ってこういうものなの?」

 

「ふふふっ、驚いたでしょう?特に今346プロはアイドル育成に力を入れているから年齢が様々な新規の子も多いし、幅広い層の全てのケアができるように内部施設が豊富なの。ここまで整っているのはこの事務所だけじゃないかしら」

 

どうやらこの事務所が特殊のようだ。得意気に話す姉さんと一緒に歩いていると、今までとは違い音楽や手拍子が聞こえてくる。ガラス戸越しにちらりと見ると、部屋ごとに数名ずつダンスの練習をしている様子だった。

 

「この辺りは来ても大丈夫なの?練習の邪魔をしても悪いと思うんだけど」

 

「今の時間はまだデビューしていない子のレッスンだったり、発表しているライブのレッスンだから大丈夫よ。まあ、普通は見られるものじゃないけど♪」

 

「だろうな。ファンの人たちが俺の状況を知ったら何を言われるやら」

 

「紅くんの場合、今ここにいる状況よりも日常の状況の方が羨ましがられると思うけど・・・さあ着いたわ。最後はここよ」

 

「ん?」

 

通路の最奥の部屋でも同じくレッスンは行われていた。中の様子が見れない部屋だったし最後ということでそのまま帰るのかと思ったんだが、姉さんが扉をノックする。

そういえば他の部屋と違って指導する側と思われる声がやけに聞き慣れた声だ。それにこの曲・・・

 

「失礼します。練習中にごめんなさい。見学に来ました」

 

「か、楓さん!?」

 

部屋にいる人の驚いた声から、向こうに連絡がいってないことが分かる。それにやはり知っている声だ。

 

「ほら、紅くん入って」

 

「え、嘘!まさか・・・」

 

扉の前で手招きする姉さんに従い近づいて部屋を覗いてみる。そこにはやはり美嘉が驚いた様子でこちらを見ていた。

しかも知り合いは美嘉だけじゃない。ハナコもいたことに今度は俺のほうが少し驚いた。

 

「練習中邪魔をしてすまない。姉さんの用事でここに来ていたんだが、まさか2人が一緒だとは思わなかった」

 

「高垣くん知り合いだったの?」

 

「あら紅くん、またお姉ちゃんが知らない間に女の子と仲良くなったの?」

 

「・・・」

 

「え、えっと・・・」

 

姉さんと美嘉の謎の圧力に、俺だけじゃなく常にクールだと思っていたハナコまでもたじろいだ。だがこのまま無言というわけにもいかないので、簡潔に説明することにする。

 

「家とこの事務所の間にある公園で知り合ったんだ。ほら、姉さんが前に話していた新しいプロジェクト。それにスカウトされたんだ。名前はハナコ」

 

「まあ、そうだったの」

 

「は?違うけど」

 

「ん?」

 

「紅くん?」

 

「ああ、高垣くんまた・・・」

 

なんだ?プロデューサーにスカウトされたって聞いたんだが、何か間違ったんだろうか。

紹介を否定したハナコは目の前に立ち俺を睨みつけている。

 

「今まで何か変だと思ってたけどそういうこと。私、ハナコじゃないから」

 

「・・・どういうことだ?」

 

確か初めて会った時何度もその名前を口にしていたはず。俺としては何故か覚えやすい名前ですごく助かったんだが・・・

 

「はぁ・・・わかった、もう1度自己紹介してあげるからよく聞いて。私の名前は渋谷凛。凛だよ。わかった?」

 

「あ、ああ」

 

「り・ん!ほら私の名前、ちゃんと言って」

 

「り・・・り、凛」

 

「うん」

 

なるほど。どうやら俺の勘違いだったようだ。となるとハナコとは一体・・・?

奈緒の時と同じような謎が残ってしまった。

 

「紅くん!やればできるじゃない!えらいわ!」

 

「か、楓さんの褒め方が高校生に向けるそれじゃないんだけど。まあ高垣くんだし?仕方ないのかなぁ」

 

近頃度々"俺だから"といった単語が出てくるが、段々といい意味で使われていないことが分かってきた。が、今はそれよりも改めて凛を紹介すべきだろう。

 

「姉さん、346プロの新プロジェクトに参加することになった凛だ。部外者の俺が言うことじゃないかもしれないけど、先輩として良くしてやって欲しい」

 

「ええ、もちろんよ紅くん。新しい仲間が出来て嬉しいわ♪凛ちゃん、私は高垣楓です。これからよろしくね」

 

「は、はい!よろしくお願いします!」

 

あわてて凛が頭を下げる。俺と話すときと随分態度が違うな。

 

「姉さんは2人がここにいることを知って俺を連れてきたんじゃないのか?」

 

「さすがに凛ちゃんのことは知らなかったわ。ただ美嘉ちゃんがここを使っていることは知っていたから、どっちも驚かせようと思って」

 

「驚きましたよ。楓さんだけじゃなくまさか高垣くんまでいるなんて思ってなかったし」

 

「どうして2人で一緒に練習していたんだ?新プロジェクトには確か妹だけ参加すると聞いていたんだが」

 

「シンデレラプロジェクトは、まあ関係あるといえばあるかな★今度のアタシたちのライブのバックダンサーに凛たちを推薦したんだ」

 

「なるほど」

 

だから美嘉の曲を使っていたのか。

 

「紅くん。あっさり納得してるようだから一応説明するけど、バックダンサーとはいえ事務所に入ってすぐデビューだなんてとてもすごいことなのよ。私も最初の舞台に立つのには何ヶ月か厳しいレッスンを繰り返していたし」

 

「姉さんの場合歌は良くてもダンスが問題だったんじゃないのか?体力的にも色々と」

 

「うぐっ・・・た、確かに大変だったけど!途中で上半身中心の動きに替えられたけど!お姉ちゃんだって頑張ったんだから・・・」

 

「た、高垣くんと楓さんが一緒にいるといつもの楓さんのイメージが・・・」

 

隅でいじけ始めた姉さんを美嘉が励ましているのを横目に、俺は凛に質問をした。

 

「凛たちということは、プロジェクトメンバー全員で参加するのか?」

 

「ううん。私と卯月と、それと未央って子の3人だけ。2人と違って私はダンスの完全な素人だから、迷惑かけたくないし、何より負けたくなかったから個人的にレッスンを頼んだんだ」

 

「そうか。楽しくやれそうなんだな」

 

「それは・・・まだわからないよ。こんなに早く仕事が決まるなんて思ってなかったし実感ない」

 

出会った時よりは幾分表情が明るくなった気がするが、まだまだ悩んでいる部分が多いようだ。何か言葉をかけようにもいい言葉が出てこない。彼女たちに対して俺に出来るのが応援することだけというのが残念と、悔しい気持ちになる。こんなことは今までなかったから余計に強く感じるな。

 

「今は出来ることを全力でやるしかないんだろうな。俺も凛の2番目のファンとして出来る限り応援するよ」

 

「2番目?なんで2番目なの?」

 

「1番のファンはプロデューサーじゃないのか?凛の才能を誰よりも早く見抜いて行動に移したんだろう?」

 

「あ・・・そっか。そういうことになるの、かな?でも紅葉もファンになってくれるんだ。まだデビューしてもいないのに」

 

「言っただろう。俺は凛の笑顔が好きだし、舞台上で見れるならまた見てみたいって」

 

「なっ!真顔でそんなこと急に言わないでよ。それに笑顔がす、好きだなんて言われてないし・・・」

 

「そうだったか?」

 

「そうだよ!でも、うん。紅葉の言う通り、今私に出来ることを全力でやってみるよ。だから見ててね」

 

「ああ」

 

さっきよりも凛の目に力が入っている。次のライブが楽しみになってきたがそのライブのことを知ったのは今日だ。まだ俺が席を取ることができるのか、あとで姉さんに聞いておこう。

 

姉さんの方を振り返ると、どうやら元に戻ったようだ。逆に美嘉の方が疲れているようだが、ライブの件はカリスマである美嘉なら大丈夫だろう。なので余計なお世話かもしれないが、俺の方からも凛たちのことを頼むように言っておこうか。

 

「姉さん、これ以上はレッスンの邪魔になるだろうし帰るよ。今日は案内してくれてありがとう」

 

「そうね。私もレッスンがあるしちょうどいいわ。夕飯までには帰るからよろしくね♪」

 

「ああ。凛、次のライブまだ見に行けるかわからないが応援してる」

 

「まったく相変わらずだね。そこは絶対行くっていうところじゃないの?」

 

「事実だから仕方ない」

 

「ふふっ。ならもし来れなかった時に思い切り悔しがるように練習しておくよ」

 

「それと」

 

「ふえっ!た、高垣くん!?」

 

今日あまり話すことができなかった美嘉の前に立ち、そっと肩に手を置く。友人としての応援の意味と、凛の先輩としての願いの意味を込めて。

 

「"美嘉"、お前のことも応援してる。良いライブにしてくれ。それと、まだまだ新人の凛のことも頼む」

 

「う、うん!アタシに任せてくれれば何も問題ないって★絶対最高のライブにしてみせるんだから!」

 

「ああ、楽しみにしてるぞ。じゃあ、失礼しました」

 

2人に別れを告げて姉さんと部屋を出る。そこですぐ姉さんとも別れたが、静かになったと思われた美嘉たちのいる部屋から急に声が聞こえた。

 

「あ、あれ?高垣くん今アタシのこと、み、みみみ美嘉って!?・・・ふにゃぁぁぁ!?」

 

「ち、ちょっと美嘉!?一体どうしたの!なんで白くなってんの!?もうっ、これじゃあ練習にならないじゃない!」

 

2人の大きな声が後ろから聞こえてくる。気合は充分なようだ。ここから先は俺が何かできる部分じゃないし、ただ楽しみにして待つだけだな。

 

つづく!




少しずつ名前を通してアイドルと仲良くなっていく紅葉くん。
そして未来への不安をどう考えるのか。

まだまだ先は長い・・・はず。


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紅葉くんとスウィーティー

今回は少し駆け足ですが一気に書けたので投稿します。

やっと以前に登場人物紹介したアイドル全員を・・・


紅葉くんと商店街

 

 

「なんだか今日は騒がしいな」

 

346プロでの見学を終え、いつも通り夕飯の食材を買うために商店街へやって来たんだが人の数が多い。

 

それも見慣れた主婦やお年寄りではなく、10代~20代くらいのこの場所ではあまり見かけない人ばかりだ。

 

「皆同じ方向へ向かってるようだな」

 

「ようボウズ!お前さんも他の連中と目的は同じか?」

 

魚屋のおじさんが店の前で声をかけてきた。商店街が賑わうのはおじさんたちにとって良いことだと思うんだが、その表情は逆に不機嫌そうだ。

 

「こんにちは。何かあったんですか?俺は何も知らないんですが」

 

「ああそうか、いきなり悪かったな」

 

いつもの表情に戻ったおじさんは、腕を組みながら少し遠くの方に視線を移した。その先を俺も見てみると、さっきの人たちが一斉に集まっている。

 

「撮影だとよ。なんでも有名な芸能人のドラマ撮影だってんでたくさん集まってきてんだよ。ったく、久々に客が増えたかと思ったら店の前通るだけで魚臭いだのボロい店だの、近頃の若いのは礼儀がなっちゃいねぇ」

 

「・・・それは、すいません」

 

「いやこっちこそすまん。ボウズが悪いんじゃねぇんだ。それよりも商売だな!さあ、今日はどうする?」

 

「そうですね。今日は・・・」

 

 

 

 

夕飯と明日の朝食、弁当分の買い物を済ませたあとに少し気になったので、俺も周りと同じ野次馬になろうと人が集まる先へ行ってみることにした。

 

以前は芸能人に特に興味はなかったが、今は姉さんを含めアイドルの知り合いが増えている。付け焼刃になるのは分かっているが、特にまだデビューしていない凛に自分が今後どう声をかけるべきなのか・・・何か答えが見つかるきっかけになるかもしれないからな。

 

「カット!カァァット!」

 

「うわ、あの人まただよ」

 

「誰なのあれ。エキストラだよね?」

 

撮影している通路の中で比較的人が少ない場所を選んで様子を伺ってみると、遠くから監督らしき人の大声が聞こえ撮影が中断された。

周りの人の話を聞く限りだと、同じ場面で何度もやり直しているらしい。

 

「またキミか!キミだよキミ、そこの変な服の子!」

 

「ん?はぁとのこと?やぁん、もしかしてカントクジキジキの特別指導受けられたり!?おねがいしまぁーす☆」

 

「キミは一体何なんだ!?わかってるのか?キミはエキストラなのエ・キ・ス・ト・ラ!」

 

「もちろん知ってまーす☆はぁとは今かけだしの女優。トップを目指すため演技の一つ一つに命をかける女!どう?どう?はぁと輝いてた?」

 

「だーかーら!キミはエキストラなの!セリフなんて一言もなくヒロインたちの横を普通に歩くだけでいいの!」

 

「だからぁ、すこーしアレンジして一つの場面をちょー盛り上げようとしてみたり?ねぇそこのキミ。はぁとの演技よかったっしょ?」

 

「・・・」

 

運がいいのか悪いのか、エキストラの女性と目が合ってしまった俺はいきなり話しかけられてしまった。演技といっても今来たばかりだから何も見ていないんだが。

 

「おいおい、引くなよ☆」

 

「はぁ、もういい。ここにだけ時間かけるわけにいかないから次いくぞ」

 

「はぁい、がんばりまーす☆」

 

「・・・いや、キミはもういいから。お疲れ様」

 

「え、え?ご、ごめんなさーい☆マジで許してー?次はもっといい演技するから☆マジでマジでマージーでー☆」

 

ドラマの撮影っていうのは思っていたイメージと全然違うんだな。エキストラは目立たずに主演や名前のあるキャストの後ろでサポートする役割とばかり思っていたんだが・・・

 

こうなると、美嘉のバックダンサーをする凛たちも何か目立った動きをして会場を盛り上げる役割を担っているのだろうか?

そう考えると姉さんの言う通りに、スカウトされてすぐにデビューするアイドルが担当するには大変な役だ。だからこそ凛が他のメンバーに負けないよう練習しているのもわかる。

 

芸能界という物を少しだけだが理解できたので、おじさんたちには悪いが俺にとってはいい刺激となった。

食べ物以外の雑貨をいくつか買って、姉さんが帰ってくる前に夕飯を作ってしまおうか。

 

 

 

 

30分ほどではあるが、全ての買い物が終わった頃にはいつもの人通りの静かな商店街に戻っていた。店の人の話ではこの商店街での撮影箇所は全部撮り終えたらしい。

 

商店街の出口へ向かって歩いていると、横の路地で変わった服を着てうなだれている後ろ姿の女性がいた。背中に羽が生えているような・・・

 

「もぉー、ちょっと張り切りすぎただけなのになー。また失敗か。」

 

「・・・」

 

もしかするとさっきのエキストラか?なんとなく声に覚えがある。誰もいない場所で撮影が終わっても自主練習をしているのはたいしたものだ。やっぱりプロは違うな。

 

「これ以上失敗したら切るって言われてたし、明日からどうしよっか」

 

「失敗?成功じゃないんですか?」

 

「え、誰?」

 

思わず声をかけてしまった。まずいな、変な奴だと思われる前にどう説明すべきか。

 

「あ、キミってさっきの子。なになに?もしかしてはぁとのファンだった?いやーん、はぁとってば人気者☆」

 

「いえ違います」

 

「オイ、即否定すんなよ☆」

 

「切るって、クビってことですか?」

 

「ぐっ・・・いきなり現実を突きつける怖い子だわ。確かにはぁとは今の事務所をクビになった。でもそれは逆に言えばもう自由!そう、はぁとはこの翼で新たなセカイへ飛び立つの!」

 

「・・・」

 

「何か言えよ☆」

 

何か言えと言われても、どこまでが演技でどこまでが素なのかよくわからない会話に対して一体何を言えばいいのか・・・

だがクビになたっというのは確かなようだ。

 

ドラマで目立ってクビ?なぜそうなのかはわからないが、このままこの変わった人がここで終わってしまうのはもったいない。

いつかデビューした凛やまだドラマ出演のない姉さんと共演したら楽しそうな気がするんだが・・・そうか。

 

「あの、いきなりですがアイドルに興味ありませんか?」

 

「ん?キミってばスカウトの人だった?それともはぁとを変なとこに勧誘するヤバイ人?後者だったらぶっとばすぞ☆」

 

「いえ、俺はスカウトする側じゃないんですが知り合いにプロデューサーがいるんです。346プロなんですが」

 

何かあれば連絡していいと言っていたし、346にアイドルが増えるのは悪いことじゃないはずだ。とりあえず前に受け取った名刺を目の前の女性に見せてみよう。

 

「これです」

 

「・・・わぁお☆これホンモノ?346って超大手じゃない!はぁとアイドルにスカウトされちゃった?ていうか、し・ろ☆」

 

「いや、だから俺がスカウトするわけじゃないんですが」

 

「だったら早くその名刺の人に連絡・・・あ、待てないからはぁとから電話ちゃおう☆ピ・ポ・パ・っと」

 

ピポパ?

 

「あ、もしもーし。アナタのはぁとをシュガシュガスウィート☆さとうしんことしゅがーはぁとだよぉ☆え?誰かって?もうっ!じゃあもう1回やるからちゃんと聞いてね。ていうか、聞け☆」

 

情報量が多すぎて何が何だか全くわからない。自分から誘っておいてあれだが、この人一体何者なんだ?

これではプロデューサーも困るはずだ。何もせずにこの人を不採用にするわけにもいかないし、俺が話をしてみないと。

 

「すいません、えっと・・・」

 

「だーかーらっ。アナタのはぁとをシュガシュガスウィート☆さとうしんことしゅがーはぁとだぞ☆」

 

「し・・・しゅが・・・しゅがは・・・さん?」

 

「うーん、まいっか☆で、何?」

 

「俺に代わって下さい。・・・もしもし高垣です」

 

『ああ、高垣さん。急なことで驚きました』

 

「いきなりすみませんでした。実は・・・」

 

その後なんとか話が終わり、しゅがはさんは後日346のアイドルオーディションに参加できることが決まった。

 

オーディションがあるのかとしゅがはさんは不満そうだったが、プロデューサーの話ではなぜか俺が選んだのならとある程度合格が決まっているらしい。

ただの高校生の俺の判断がそのまま通るのかと疑問に思ったが、姉さんや凛のプロデューサーであるあの人の言うことだ。きっと別のちゃんとした理由があるに違いない。

 

 

そしてこの時の俺はまだ、このしゅがはさんが着物を着て本当に姉さんや他のアイドルたちとユニットを組んで歌い、踊ることになるなんて夢にも思わなかった。

 

 

続く!



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神谷奈緒の憂鬱

そうそう!今のはぁとがあるのはジャーマネのおかげ☆
このまま相方とともに一気にトップまでかけあがるの!

えい☆えい☆おーー!

って、おい。目をそらすなよ☆

~アイドルフェスサプライズ新ユニット
 "プルート"のハート担当へのインタビューより抜粋~


奈緒思う、ゆえに奈緒あり

 

 

(よ、よし!今日こそこれを渡すぞ!)

 

端を何度も強く握った1枚の紙は、少しよれよれになっていた。

心の中でこの言葉を叫んだのも何度目だろう。でも今日こそ最後だ。日にち的にも色々とマズイ。

 

 

 

あたしの名前は神谷奈緒、16歳の高校2年生。どこにでもいる普通の高校生だ。成績は普通で容姿もたぶん普通・・・だと思う。

 

特に褒められたことがあるわけじゃないし、周りにはアイドルを始め可愛い子や美人な子が多い。

 

そう、アイドル。その部分だけ普通じゃない。あたしの友達は1人はカリスマアイドルで、もう1人の友達・・・うん、多分友達だよ、な?

 

そういやあいつあたしのこと本当はどう思って・・・いやいやいや!今はそんなことはいいんだ!とにかく、もう1人の方は姉がここ1年で急に現れて一気に人気アイドルの仲間入りした高垣楓さんだ。

 

その友達。楓さんの弟のもみ・・・高垣との出会いは単純だった。

1年の時に共通の友達の紹介で仲が良くなったカリスマJKアイドル、城ヶ崎美嘉と話していたところに遭遇したのがきっかけだ。

 

まあ、一方的に話していたのは美嘉の方だったけどさ。同性でも憧れる美嘉が話をしているのにも関わらず、顔色一つ変えずに何やら考え事をしている変わった姿にちょっと興味が湧いたんだ。

 

 

それからクラスは違ったけど何度か話をして、勘違いもあったけど名前も覚えてもらえて・・・普通すぐ覚えるけどな!

 

で、色々と高垣のことがわかってきた。

あいつは自分が興味がないことにはとことんだ。頭はいいんだけどたまに一般常識に欠けている。だから、話すようになってからはなんか手のかかる弟・・・みたいな感じに思ってた。

 

高垣の話からすると高垣家で一番手がかかるのは楓さんだという話だけど、まさか・・・ねえ?

 

そんな高垣が名前を呼ぶのが身内以外であたしだけだと知ったときは嬉しかった。

べ、別にす、すす好き、になったとかそんなんじゃないからな?勘違いするなよ!あたしはそんな単純な女じゃないんだ!

 

結局美嘉のことも名前で呼ぶようになったしさ。相変わらず美嘉は真っ白になるけどな。

 

で、高垣が興味を持つものの1つに最近は演劇や歌があることを知ったんだけど、今はどうやら数日後に迫ってるHappy Princessのライブに興味があるらしい。

 

「ネットで抽選があるらしいな。応募できるか調べてみようと思う」

 

なんて言ってたけどさ。高垣、それは遅すぎだよ。さすがに開始数日前から始まるチケット抽選なんてないぞ。

 

あたしは何気ない顔をしていたし、今月に入ってからは聞かれるまで全くその話題をしていなかったんだけど、実は前から応募して当たっていた。それも2枚!

 

美嘉は用意してくれるって言ってたけどさ、前にも同じことしてもらったし何度もは悪いと思って断った。高垣にも話をしようと思ってたみたいだけど・・・まあ、ほらアレだよ。いつものアレで話が進まなかったみたいだ。

 

 

そこで最初の話に戻る。そう、あたしが持ってる紙はライブのチケットだ。

最近は後輩の加蓮と一緒にいることが多いから中々渡せないし、放課後も美嘉の付き添いで別々に帰るから渡す機会がないから仕方ない・・・なんて、色々と自分で言い訳を考えてみる。

 

でも何度も言うけどもうマズイ。時間が迫ってる。今は加蓮がいないし、美嘉の付き添いも終わったようだしチャンスは今しかない!

 

放課後靴箱に手をかけ校舎から出ようとする高垣の後ろでずっと考えていたあたしはようやく重い一歩を踏み出す。

 

「た、高垣!あのさ!」

 

「ん?ああ、奈緒か」

 

名前を呼ばれるのを前は少し恥ずかしかったけど、今は少し心地いい。なんて考えてる場合じゃないな。早くしないと。

 

「一緒に帰るか?」

 

「あ、うん・・・じゃなくて!」

 

「帰らないのか?」

 

「いや帰るけど!ああ、もうっ!」

 

ダメだ。肝心なことを話そうとするといつも調子が狂う。

 

無表情が多かった高垣も最近は困ったり喜んだ顔が少しだけ出てる気がして左右の色が違うオッドアイが綺麗で・・・じゃ・な・い!余計なこと考えるなあたし!

ただライブに誘うだけでいいんだよ!しっかりしろ神谷奈緒!

 

・・・あれ?誘う?2人で?

 

「・・・」

 

「奈緒、どうしたんだ?」

 

こ、これってまさか・・・デ、デート!?

 

「いやいやいや!違うから!そんなんじゃないから!運良く2つ手に入って1つ余ったから渡すだけだから!」

 

「何がだ?」

 

「勘違いするなよ高垣!そういうんじゃないからな!」

 

「何を言ってるのか全くわからないんだが・・・」

 

「だから!今度のライブのチケット余ったからあげるって言ってるの!」

 

よ、よーし言ったぞ。は、ははは。なんだ簡単じゃないか。これでミッションコンプリートだ!

 

「いや、いらない」

 

「うん、それで時間だけど・・・って、はぁ!?」

 

え、何?何が起こったの?あたし断られた?う、うそ!

 

「知り合いのプロデューサーがくれたんだ。奈緒も持ってるってことはライブに行くんだな。なら一緒に行かないか?」

 

「ア、ハイ。ソウデスネ」

 

あ、あたしの数日の苦悩と苦労は一体・・・しかも高垣のやつあっさり誘ってきたし。

 

「先輩たち今帰り?一緒に帰ろ?」

 

「カ、カレン、カ?」

 

「ぷっ!どうしたの奈緒先輩。なんか美嘉先輩さんみたいになってるよ」

 

そうか、これが美嘉の気持ちになるってことか・・・ってうるさい、ほっとけ!

 

「そうだ奈緒。チケット余ってるならコロネも誘ったらどうだ?」

 

「なになに?何の話?ああ、奈緒先輩は1回ね♪」

 

「ア、ハイ。ソウデスネ」

 

「今度の美嘉たちがやるライブのチケットだ。奈緒が1つ余ってるらしい」

 

「わあ!行きたい行きたい!ねえ奈緒先輩いいでしょ?ちゃんとお金は払うから!」

 

「ア、ハイ。ソウデスネ」

 

 

 

こうしてあたしの挑戦は終わった。蓋を開けてみれば何もしなくても同じ結果になったような気がする。いや、何かした分加蓮という後輩がついてきたから失敗、成功?

 

あーーーっ!もういい!どっちにしろライブは行けるんだ。こうなったらとことん応援して騒いで楽しんでやるからな!覚悟しろよ美嘉!

 

 

つづく!  

 




今回はちょっと変えて奈緒視点で話を進めました。

ちなみに二次創作とはいえオリジナルユニットを結成させて書くのは抵抗ありますかね?
いくつか増やしたいとは思うんですが。

追伸、誤字報告ありがとうございました。
それとお気に入りが1000を超えていたのでビックリです。
皆さんありがとうございます!


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改めて奈緒と加蓮の仲の良さを実感する紅葉くん

凛と"奈緒"・・・アタシには大切な仲間がいる。

そしてアタシを、ううん。アタシたちを最初から応援してくれる人がいる。

その皆がいる限り、アタシたちTriad Primusは誰にも負けないよ。

この絆は、例えどんなことがあっても消えることはないんだから!

~Triad Primus 2ndシングル発売記念
北条加蓮インタビューより抜粋~


紅葉くんの決意

 

 

346プロダクションHappy Princess Live!

それが今日観に行くライブの名前だ。

 

今思い返しても、一昨日と昨日の2日は今までで一番長い日だった気がする・・・

 

 

その理由はまず2日前に遡る。

2日前の奈緒たちと一緒にライブへ行くことが決まった放課後、少し調子が変だった奈緒は下校途中1人で何かをブツブツ呟いていたかと思うと、急に立ち止まって大声で叫んでいた。

 

~2日前~

 

「こうなったら特訓だ!」

 

「ん?」

 

「わっ!びっくりした。奈緒先輩どうしたの?」

 

俺とコロネは明日からのゴールデンウィーク中の宿題の話や何をするかなど話していたんだが・・・いや、俺は聞いていただけか。

 

突然のことで驚いた俺たちは顔を見合わせ首をかしげる。

学校からはそこまで離れていなかったため、他の生徒たちは一瞬俺たちの方に振り返った。これじゃあ外にいてもいつもの教室と変わらないな。

 

「特訓だよ特訓!明後日のライブに向けて特訓するんだよ!」

 

「ふーん、大変だね」

 

「そうか、よくわからないが頑張れよ」

 

「おーい!2人共もう少し興味もてよな!特に高垣、お前は他人事じゃないぞ。むしろ高垣のための特訓なんだからな」

 

「俺の?」

 

なぜ俺がライブの特訓をする必要があるんだ?美嘉のように歌うわけではないし凛のようにバックダンサーでもないただの観客だ。

 

用意するものは以前奈緒に借りたペンライトくらいじゃないのだろうか。

 

「その顔はやっぱりわかってないな。ちなみに聞くけどさ、明後日のライブの出演者。高垣はどのくらい知ってるんだ?」

 

「なるほどなぁ。そういうことか」

 

コロネはこの質問の意味がすぐに理解できたようだが、俺は一体それが特訓にどう繋がるのか見当もつかない。

 

が、何故か真剣な表情の奈緒の質問だ。頭の中でライブ関係者のことを思い出してみるとするか。

 

「・・・まずは美嘉だな」

 

「うん、よかった。最初に美嘉の名前が出てきて本当に良かったよ・・・」

 

「あとは凛だ」

 

「う、うん?凛?誰それ。あたしの方が知らないんだけど」

 

「奈緒先輩。凛ちゃんは美嘉さんのバックダンサーする子だよ。アタシと中学同じなんだ」

 

「へ?そうなのか。何でそんな子を高垣が知ってるかはあとで聞くとして、他はどうだ?」

 

「・・・」

 

「・・・オイ。沈黙するの早すぎだろ!」

 

そう言われてもな。ライブに行くことを目的としていたから誰が出演するなんて考えていなかった。とりあえず今後は姉さんの所属する346のライブを出来るだけ観たいと思ってただけだからな。

 

「ただ観に行くだけじゃ駄目なのか?」

 

「そりゃ悪いとは言わないよ参加の仕方は人それぞれだし。高垣の場合はちょっとズレてる気もするけど」

 

「アタシも全員の名前とその人の曲名わかるくらいかなぁ。去年まではあまり情報入ってこない場所にいたし」

 

「加蓮、さりげなく重い話を持ってくるな!今は聞かなかったことにするからな」

 

「はーい」

 

「話を戻すぞ。ただ観に行くだけが悪いとは言わない。けどさ・・・」

 

「けど?」

 

両手をそれぞれ力強く握り締めながらうつむいている奈緒は、溜めていたものを吐き出すかのように叫んだ。

 

「美嘉も他のアイドルたちも、ライブのためにファンのために一生懸命練習してるはずなんだ!苦しくても頑張って、1人でも多くのファンを笑顔にして喜んでもらえるようにってさ!」

 

「奈緒」

 

「その凛って子も同じはずだろ?だったらさ、観る側のあたしたちも精一杯応援したくなるじゃんか!ありがとうって、こんな良いライブを届けてくれてありがとうって!それにはやっぱりしっかり曲を覚えてさ、皆でひとつになってコールしてさ、そう言うのも大事だと思うんだよあたしは・・・」

 

「先輩・・・」

 

徐々に声が小さくなりつつも力のこもった言葉一つ一つが奈緒の素直な気持ちなんだとよくわかった。

 

よくよく思い返せば、確かに以前ライブで会った時の奈緒も新しいイントロが流れる度に曲名を言いながらペンライトの色を変え、楽しそうに何かを叫んでいたような記憶がある。

 

あの時の俺はどうだったか。ペンライトを受け取りながらも特に何もすることなく、ただ状況に感動しながら無言で歌を聴いていただけだ。そして聴いていた歌を覚えているかというと・・・姉さんの曲と美嘉の曲がかすかに思い出される程度。

 

これでは舞台に立つアイドルにも、わざわざ俺にチケットをくれたプロデューサーにも失礼だな。

 

「つまり特訓というのは明後日のライブを盛り上げるために必要なことなんだな。そして今後の俺のためにもとても重要なことであると」

 

「わかってくれたか高垣!後半はよくわからないけどそういうことなんだよ」

 

「わかった、期間は短いが頼むぞ奈緒」

 

「うん!普通は参加アイドルの名前は5分あれば全員覚えるけどな!」

 

「頑張ってね先輩たち。一応、応援はしてあげるよ」

 

「お前も参加だ加蓮。さっきの話だとじゅうぶん参加の資格がありそうだし」

 

「えー」

 

俺は最初からコロネも参加するものだと思っていたんだが、当の本人は乗り気ではないようだ。

 

最近知り合ったばかりではあるが、彼女に関して少しわかったことがある。コロネは俺とは違った意味で物事に関して関心を示さないのだ。

 

詳しくは聞いていないが、恐らく今までの入院生活が関係しているのだろう。奈緒と話している時の笑顔の中に、度々公園で凛のことを知った時の寂しい表情が垣間見えるのを何度か見ている。

 

体力に関しては何とかしたいと自分で言っていたから協力はしているが、それ以外に関しては口を挟んでいない。興味がないわけではないが、こういったことは自分から動かないとあまり意味がないと思うからだ。

 

もちろん助けを求められたのなら、俺にできることは協力したい。

 

そんな事を考えてコロネを見ていると、乗り気ではない顔から急に何かを思いついた顔に変化していた。奈緒をからかう時の表情と同じだったからすぐにわかる。奈緒はいつも気づいていないけどな。

 

「そうだなー。紅葉先輩の家でするならアタシも参加してもいいけど?」

 

「え、た、高垣の家!?」

 

「ん?俺は別に構わないぞ」

 

どうやら俺の考え過ぎだったらしい。公園や広場では目立つ可能性もあるし、異性である俺を自分の家や同性の奈緒の家に呼ぶのは抵抗があるということだろう。

 

その点俺のマンションなら多少防音機能があるので歌ってもあまり問題ではないし、もう少しすれば姉さんが帰ってくるからアイドルとしての意見も何か聞けるかも知れない。

 

今出来る最善の選択を即座に思いつくとは、やるなコロネ。

 

「おっと、やっぱりこんなことじゃ紅葉先輩は動揺しないかー」

 

「3人だと周囲に聞こえて迷惑をかける可能性もあるからな。俺の住んでるマンションなら多少の音なら大丈夫だ」

 

「ワー、先輩って大胆ダナー」

 

「え、え?音?大胆?え、まさか・・・え?」

 

何故動揺する必要があるのかわからないが、それでいったら奈緒の方が動揺している気がする。すぐにコロネが参加に同意したことに驚いているのか?

 

「姉さんもよくやってるから大丈夫だぞ。特別大きな声じゃなければ姉さんの声は俺の部屋まで聞こえてこないし」

 

「ヘー、楓さんもよくやってるんだー。意外ダナー」

 

「ちょ、ちょっと待て!か、楓さんお前がいても気にしないのか?」

 

「姉弟だし気にしないだろ。まあ確かに昔は気づかれないようこっそりやってたみたいだが」

 

「気にするだろ普通!っていうか気にしてよ楓さん!」

 

姉さんは家の庭や、誰もいないと思ってる家内でよく何かを口ずさんだり物語を勝手に作って話してたりしてたからな。

 

最近は台本を読んだり自分の歌を歌うのに変わってるみたいだが。

 

「アタシや奈緒先輩は一人っ子だし考え方が違うんじゃない?知らないけど♪」

 

「い、いやちょっと待って!少し気持ちの整理させて!」

 

「ん?もしかしてやめるのか?奈緒に協力してもらわないと困るんだが」

 

「困る?あ、あたしじゃないとダメ・・・ってことか?」

 

「ああ」

 

「ソダネー」

 

現状知り合いでアイドルのことに一番詳しいのは奈緒だ。姉さんはあまり他のアイドルと組んでいるのを見たことがないし、情報に関しては奈緒が最適だろう。さっきまで一生懸命に誘っていたにも関わらず、急に戸惑っているのは気になるが。

 

また一人で何かブツブツ呟きながら辺りをウロウロとしている奈緒。そしてそれを見て俯いて何故か震えているコロネ。

これは一体どういう状況なんだ?時間はあまりないんだが。

 

「・・・いやいややっぱりダメだ!そ、そういったことはもっと時間をかけてだな!ち、違うそうじゃない。時間があればいいってわけでもないぞ!とにかくこの話はおしまい!まさか高垣がこんな冗談を言うようになるなんてなー。でもそういう冗談話は女の子にするもんじゃないぞ?あたしだったから良かったものの・・・」

 

「冗談じゃなく本気だぞ」

 

「他の子だったら・・・え、ほ、本気なの?」

 

「そうだ」

 

・・・くくくっもうダメ。そろそろ可笑しすぎて爆発しそう

 

「奈緒じゃないと明後日のライブの曲もわからないし、時間もない。歌の練習だけならカラオケに行くという手もあるが、姉さんの意見も聞きたいしな」

 

「ライブ・・・歌・・・防音?楓さんもして・・・ああああああ!」

 

「ぷはっ!あははははは!」

 

「かーれーん!お前知ってたな!!知ってて高垣に合わせてたんだな!」

 

「はははは!はぁ、はぁ・・・お、可笑し過ぎてお腹痛い!」

 

何だ?急にコロネが笑いだしたぞ。またいつものような2人だけにしかわからない話になったんだろうか。

 

「変だと思ったんだ。急に話がいつもと違う感じになってたしさ!」

 

「えー。いつもと違うってどんなことー?奈緒先輩は一体何の話だと思ったのかなー?」

 

「おーまーえーはー!今日という今日は絶対許さないからな!」

 

「キャー!奈緒先輩に襲われるー!」

 

「まだ言うかこのっ!まて加蓮!」

 

「1回は1回だよーだ♪」

 

「・・・行ってしまった」

 

相変わらずあの2人は仲が良いな。そっちは俺のマンションじゃないんだが。

 

急に追いかけ合いが始まって立ち尽くしていた俺だが、自然と周りの目は俺に集まっている。

またあの2人はここが人目の多い通学路だということを忘れてるな。

 

コロネは奈緒のスピードに負けず走っている。ちゃんとトレーニングはしているようだ。

 

だが今はそんなことより時間はない。

残り2日出来ることをやって、美嘉と凛のライブの成功に少しでも協力できる努力をしよう。

 

 

続く! 




次回予告(仮)

楓「(何を言ってるのかわからないと思うけど私も何が起こってるのか分からないわ)」


紅葉「さあ行くぞ。奈緒、加蓮」


みく「うげっ・・・どうしてまた先輩が」


美波「・・・高垣くん?あとでちょっとお姉さんとお話しましょうか?」


今西部長「ぜひ君の意見を聞いてみたいね」


内容は一部変更になる可能性があります。

シンデレラガールズ7周年おめでとうございます!


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楓さんに奈緒、時々紅葉くん

大変長らくお待たせいたしました(待ってない)

今回は前書きに台本形式で1つ
本文は楓さん視点から始まり紅葉くん視点にという読みにくい構造になっています

____________________


紅葉「さあ、入ってくれ」

加蓮「お邪魔しまーす。へぇ、ここが先輩と楓さんが住んでるマンションかぁ」

奈緒「あたしは2回目だな。前は楓さんと美嘉もいたけど」

加蓮「結構綺麗にしてるんだね。さっすがあの楓さんって感じかな?」

紅葉「(リビングの掃除は俺担当なんだが。姉さんの部屋は恐らく地獄だ)」

奈緒「ほらほら、時間ないんだしすぐ始めるぞ。高垣、何か資料になりそうなものはあるか?明日はあたしがちゃんと持ってくるけどさ」

紅葉「資料か・・・ああ、それなら」

加蓮「ねえねえ、先輩の部屋ってこっち?入ってみていい?」

紅葉「別にいいが、特に何もないぞ?」

奈緒「2人とも、そう言うのは後にしてまずは特訓だって!」

加蓮「とか何とか言って、奈緒先輩だって気になるでしょ?」

奈緒「そ、それは気にな・・・らない!いいから始めるぞ!」

紅葉「ああ、資料だったな。ここの引き出しに・・・」

加蓮「あ、このポスターってもしかしてこの前の」

紅葉「ん?姉さんの温泉番組のやつか。旅館の人が姉さんのことを気に入って、旅館の宣伝にぜひ協力して欲しいって頼まれたらしい」

加蓮「やっぱり楓さんは絵になるなぁ」

奈緒「そうだな、それにたぶんこのポスターまだ世に・・・って!見入ってないで特訓だ特訓!高垣も余計な相手しないの!」

紅葉「わ、わかった。取り敢えず資料になるのは姉さんの持ってるこの・・・」

加蓮「あれ、この写真は楓さんとファンの人?でも人が少ないような」

紅葉「ん?それは姉さんの初めてのライブ後の写真だ」

奈緒「うぐぐぐ・・・」

加蓮「なんか意外かも。楓さんのことだから、最初から大きなステージとたくさんの人の前で歌ってるのかと思った」

奈緒「・・・・・・」

紅葉「当時は346がアイドル部門を立ち上げてからそんなに時間が経ってないのもあって、宣伝にもあまり影響力はなかったみたいだ。俺ですら姉さんがアイドルをやっていたのを知ったのはテレビに出てからだからな」

加蓮「へぇ、そうだったんだ。ねえ奈緒先輩。先輩は知って・・・」

奈緒「ぐすっ・・・うう・・・」

紅葉「奈緒?」

加蓮「え、ちょ・・・せ、先輩?」

奈緒「ひぐっ・・・うぅ・・・うぇぇ・・・」

楓「ただいま~。今帰ったわよ紅く・・・ん?」

紅葉「ね、姉さんおかえり」



楓さんの気持ち、奈緒の気持ち、紅葉くんの気持ち

 

マンションのエレベーターに乗っている間、私はいつも色々と考える。

 

今日の紅くんの作ってくれる夕飯は何だろう?どんなダジャレを言えば点数を上げてもらえる?今日の撮影した映像を紅くんが見た時、笑顔で喜んでくれるだろうか。

 

1分にも満たない少しの間だけど、最愛の弟の事を考えるのは至福の時だ。

勘違いしないように言っておくけど、私は決してブラコンではないわよ。紅くんがとても大事なだけなの。って、心の中で誰に言い訳してるのかしら。

 

部屋の入口のドアを開けると、見慣れない靴が2組。

まさか紅くんにお友達が!?やったわね紅くん。ついに同性のお友達が出来・・・てないわね。これはどう見ても女の子の靴だ。

 

「美嘉ちゃんとあとは奈緒ちゃん・・・だったかしら。私がいない時に女の子を部屋に入れるのは考えものだけど」

 

紅くんなら特に意識して連れてきたわけじゃないはず。高校2年生の男子が女の子2人を部屋に入れて意識しないのはそれはそれで問題なのだけどね。

 

奈緒「ひぐっ・・・うぅ・・・うぇぇ・・・」

 

楓「ただいま~。今帰ったわよ紅く・・・ん?」

 

紅葉「ね、姉さんおかえり」

 

 

私がリビングに入り紅くんに声をかけるのと奈緒ちゃんの泣き声が聞こえたのはほぼ同時だった。

 

・・・待って、とりあえず状況を整理しましょう。

珍しく困惑した表情の紅くん。困った顔も素敵ね!

 

そして何故か泣いている奈緒ちゃんと、紅くんの隣で慌てている美嘉・・・え、誰?誰よこの子。また知らない子が家に!?

 

「(紅くんの作る晩御飯を楽しみに家へ帰ったら、素敵な紅くんが知らない女の子と奈緒ちゃんを泣かせている現場に遭遇した。何を言ってるのかわからないと思うけど私も何が起こってるのか分からないわ)」

 

けど、こんな時こそ姉としての威厳を示さないと!落ち着いて冷静にクールに対応して3人に尊敬される楓お姉さんになるのよ。

 

戸惑いの表情を表には出さず、真っ直ぐ紅くんを見て声をかける。この間、紅くんが私におかえりと言ってから約3秒。

 

「・・・それで、その子は泣いている奈緒ちゃんがどうして?隣にいる子は一体紅くんなのかしら?説明しにゃさい」

(訳:紅くんの隣の子は誰かしら?奈緒ちゃんはどうして泣いているの?説明しなさい)

 

「・・・姉さん」

 

「え、えっと」

 

「ぐすっ・・・」

 

無理無理無理!こんなの冷静でいられるわけないじゃない!考えなんてまとまらないわよぉぉぉぉ。

紅くんの目が徐々に呆れた目になってるし・・・あ、それはいつものことだったわ。

 

「姉さんに前話してたよね。朝作る弁当が増えた理由のコロ・・・」

 

「初めまして、会えて光栄です。アタシは紅葉先輩の1年後輩の北条加蓮です」

 

「え、ええ初めまして。紅く・・・んんっ。紅葉の姉の楓です」

 

なるほど、この子が私のお昼ご飯がたまに紅くんの手作りじゃなくなった原因の通称コロネちゃんね。

また紅くんは勝手にあだ名をつけて、しょうがないわね。でも加蓮ちゃんは気にしてないみたいだしいいのかしら。

 

「で、奈緒ちゃんは一体どうしたの?」

 

「いや、俺にもよくわからなくてさ」

 

「奈緒先輩、急に泣き始めちゃって・・・」

 

2人にも原因はわからないみたいね。奈緒ちゃんのことは紅くんとの日常会話である程度聞いてはいるけど、実際には1度しか会ったことないから私にもわからないわ。

 

「うぐっ・・・ずずっ・・・あ、あた・・・えぐっ・・・あだしだげ・・・まじめに・・・ひっく・・・ばかみだいじゃないか!」

 

「な、奈緒ちゃん。少し落ち着きましょう。紅くんお水を」

 

「あ、ああ」

 

腕で顔を隠してはいるけど、抑えきれない涙が感情と共に1粒2粒と床に落ちていく。

ここまで泣くなんてただ事じゃないわ。原因が紅くんたちにあるにしろ奈緒ちゃん自身にあるにしろ、さすがにこのまま終わりになんて出来ない。

 

「かえでさんが、た・・・ひっく・・・たかがきを!あまやかす・・・から!いづも・・・うぅ・・・みんな・・・うわあああああん!」

 

「ええ!?私が原因なの!?」

 

ちょっとどういうことよ!

奈緒ちゃんを落ち着かせようとハンカチで涙を拭こうとしただけなのに、急に矛先が私に向いてるのだけど!?

 

 

これ以上私が話しかけると悪化しそうだったので何もせず泣き止むのを待ち、ようやく落ち着きを取り戻して水を一気に飲み干した奈緒ちゃんの顔は、茹でたタコのように真っ赤になっていた。

 

タコ・・・揚げタコ・・・タコぶつ・・・焼酎・・・いえ、ワインも捨てがたいわね。

 

 

十数分後、奈緒ちゃんからこれまでの経緯を聞くことができた。

どうやら2日後に開催される瑞樹さんたちのHappy Princess Live!へ向けて、紅くんに参加アイドルの名前や曲を覚えてもらおうとしていたらしい。

 

「2人ともやる気になってくれたみたいだし、あたしはライブを一緒に楽しみたかったから、さあ頑張るぞー!って気合入れてたのにさ。この家に来たら全然話聞いてくれなくて・・・結局楽しみだったのはあたしだけだったのかなぁって思ったら堪えきれなくなっちゃったんだ」

 

「ごめんなさい先輩。アタシがちょっとテンション上がってふざけちゃったから」

 

「いや、俺も悪かった。せっかく奈緒が色々考えてくれていたのにな」

 

仲直りをすぐに出来たのはいいことだけど、私には腑に落ちない点が1つある。

それは私が紅くんを甘やかしているという奈緒ちゃんの言葉だ。

 

今まで私は紅くんを甘やかしたりなんてしたことがない!悪いことをしたらちゃんと怒られるし、寝坊しそうになったら厳しい言葉をいいつつ起こしてくれるし、連絡せず帰りが遅い時は1時間は正座させられてお説教だ。

 

とんでもない誤解だからきちんと訂正しないとダメよね。

 

「それでね奈緒ちゃん。私のことだけど・・・」

 

「ご、ごめんなさい楓さん!急にあんなこと言っちゃって」

 

「あ、うん。いいのよ。きちんとわかってくれたならそれで・・・」

 

状況が状況だし、奈緒ちゃんは混乱していたのね。誰かに八つ当たりをせずにはいられなかった。それが紅くんじゃなく私だったのは良かったのかもしれないわ。

 

「でもこの際だから言うけど、高垣がこうなったのにはやっぱり楓さんにも責任がありますよ」

 

「え?」

 

「高垣がどんなに相手のこと興味なくても、名前覚えなかったり変わったあだ名で呼んでも、楓さんは何も言わなかったんでしょう?」

 

「え、ええ。小さい時から紅くんがいいならそれでいいかなって。いつも私が(無理やり)面倒を見てたから両親は多分知らないでしょうけど」

 

紅くんが小学生の時は私も頑張ったんだけど、当の本人が友達とかいらなそうだったんだもの。無理に覚えさせようとしたら可哀想じゃない!

 

「高垣も別に気にしてないんだろうけどさ、やっぱあたしは気にするよ。もうその・・・と、友達になったんだし」

 

「奈緒」

 

「同級生は男女関係なく最初は高垣に話しかけるけど、徐々に離れていくじゃない?まあ原因は高垣が興味なさそうに相手してるからだけどさ。でもその時色々話聞こえるんだよ。あまり言いたくないけど・・・その、高垣の悪口みたいな?」

 

紅くんの悪口ですって!?こんなに素敵な子になんてことを言うの!

いいわ、こうなったら戦争ね。これ以上私の紅くんが悲しまないように全力で戦うわ。

 

「奈緒ちゃん、とりあえず悪口を言った子全員の名前と住所を教えてくれる?私が直々に」

 

「楓さんは黙っててください!今真面目な話をしているんだ!」

 

「あ、はい」

 

お、おかしいわね。私も十分真面目なんだけど。奈緒ちゃんの迫力がお説教モードの紅くん並で思わずたじろいでしまったわ。

 

「あたしには関係ないって言われればそれまでだけど、やっぱり周りが高垣のこと誤解したままでいるのは嫌なんだ。だから今回の特訓はチャンスだと思ってる。ここできちんとアイドルのことを覚えられれば、その応用でクラスの皆への態度も少しは変わるんじゃないかなってさ」

 

「先輩そこまで考えてたんだ」

 

「なあ高垣、お前はどう思ってるんだ?」

 

「・・・・・・」

 

紅くんがいつにも増して険しい表情をしている。何度か私や2人と視線を交わして目を閉じる。

 

ああ、結局私には何も出来ないんだ。紅くんがこんなに自分のことを考えているのに私は手助けしてあげることが出来ない・・・悔しい。

 

『楓さんが高垣を甘やかすから』

 

奈緒ちゃんのさっきの言葉が何度も心の中に響く。

 

そう、わかってる。わかってはいた。私が紅くんに何も言わなかったのは単に嫌われたくなかっただけ。

たった1人の大切な弟が離れていくのが怖かっただけ。

悔しいのは・・・この悔しい想いは、紅くんが良い方向へ変わっていくかも知れないきっかけを作ったのが私ではなく奈緒ちゃんだったということ。

 

結局私は紅くんのためと言いながら自分のことしか考えていなかったのだ。

 

「俺は・・・」

 

悔しさを表に出さず後ろに隠した手を強く握り締めながら、私たちは紅くんの答えを黙って聞いていた。

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

「そろそろ待ち合わせの時間だが、2人とも遅いな」

 

そして長い2日間が終わり、ようやくライブ本番というわけだ。

2人は一緒に待ち合わせのこの場所に来るという連絡があったが、中々姿を見せないでいた。

 

「・・・確かに今までとは違う気がするな」

 

待ち合わせ場所が駅前なこともあって人がとても多い。以前の俺なら居心地が悪く周りをよく見ていなかったんだが・・・

 

「今はそうでもないか・・・」

 

確かにまだ慣れないが、今後のためにもきちんと自分を持つべきだ。

 

「先輩!おまたせー!」

 

「ごめん待たせたな、高・・・も、()()

 

「いや、時間ちょうどだ」

 

「もう、()()ったら中々家から出てこないんだもん。ちょっと焦っちゃった」

 

「し、仕方ないだろ!色々あるんだよ色々!」

 

「どうせ興奮して夜中々寝れなかったとか、着ていく洋服を選べなかったとかでしょう?」

 

「お、お前何で知って・・・い、いやいや違うからな!」

 

「だって奈緒はわかりやすいんだもん。紅葉先輩を呼ぶ時も赤くなっちゃって可愛いなぁもう!」

 

「か、可愛いとか言うなぁ!まだ慣れてなんだって!」

 

「紅葉先輩もそう思うよね?」

 

「ん?ああ、その服よく似合ってるぞ奈緒」

 

「うえっ!?あ、その・・・あ、ありがと・・・」

 

「ふふふっ、奈緒がもっと赤くなった♪」

 

「ああくそっ!結局あたしはいじられるんじゃないか!」

 

「ねえ先輩?アタシにも何か言うことはないの?」

 

「ちゃんと朝飯は食べたか?ライブは思った以上に体力使うからな」

 

「はぁ・・・やっぱり先輩は先輩だね。でもまあ、先輩らしくていっか」

 

「さあ行くぞ。奈緒、()()

 

『うん!』

 

奈緒と加蓮、そして姉さんが協力してくれたこの2日を無駄にしないためにも、今日のライブは自分なりに楽しんでいみよう。

 

 

続く!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




かなり時間が空いてしまった上に予告全部の内容を書けなかった!

次はもう少し早く投稿したいと思ってます。


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第2章
誰が為に紅葉くんは進む?


全然話が進まない・・・

でも早めに投稿するために一区切りつけました。
ここから第2章ということになります。

それと今回さらに一部原作改変があるので人によっては不快に思うかもしれません。
けどあのイベントが・・・2人の曲イベントが・・・忘れられないんだ!


紅葉くん、特訓前の変化

 

「なあ高垣、お前はどう思ってるんだ?」

 

まだ目と鼻の周りが少し赤い奈緒が、真剣な表情で俺にそう問いかける・・・

 

 

 

昔から1人でよかった。1人が楽だった。

勉強も運動も人並みには出来ていたと思うし、その事で困ったりはしなかった。

 

だから他人と一緒に何かしようとは思わなかったし、友達というものが欲しいとも一切思わなかった。

 

 

だが新学期になりクラスや学年が変わる度周りは俺に話しかけてきた。

その理由は今でもよくわかっていない。別にクラスの中の1人くらい気にしなければいいのにな。

 

特に話したいことも気になることもなかったからいつも適当に返事をしていたと思う。

 

そうすると少しずつ話しかけるものが減っていく・・・それでいい。

愛想のない奴、調子に乗りやがって等等の言葉が聞こえる・・・別に気にしない。

 

 

『あなたのそのオッドアイ。皆は楓お姉さまと同じでキレイだと言うけど、私はそうは思わないわ。あなたのその瞳に、本当に今目の前にいる私が映っているのかしら?』

 

ふと、数年前に話をした同い年の従姉の言葉が浮かんできた。

当時は意味がわからなかったが、今なら少しわかる気がする。

 

 

彼女の金色の瞳の中に映る俺は、彼女を見ているようで見ていなかった。

さすがに親戚の名前は覚えているがその程度だ。そして、姉さんを勘違いで崇拝している彼女には何となく俺の性格が分かっていたのだろう。

 

 

改めて奈緒をはっきりと見る。いつもは何故か真っ直ぐ見ると目を逸らされるが、今は真剣な表情だ。

 

コロネを見る。彼女は心配そうに奈緒と俺を交互に見ている。

 

そして姉さんを見る。が、何か様子がおかしい。唇が僅かに震え、俺の視線に気づくと目を逸らす。

それは、いつもの悪いことをした時のそれとは明らかに様子が違っていた。

 

 

・・・そうか。こんな当たり前のことを気づかないなんて俺は大馬鹿者だ。

1人でいい?1人が楽?ふざけるな。

 

俺の隣にはいつも姉さんがいた。まるで俺の代わりのように怒って、泣いて、そしていつまでも子供のように無邪気な笑顔を見せてくれる姉さんがいたんだ。

 

姉さんにはいつも助けられてばかりだ。そしてこんな性格の俺に特に何も言わない姉さんに甘えていたのは事実だ。

 

もし俺がこのまま他人と距離を置き、姉さんの仕事関係の人にも失礼な態度を撮り続けていたら、例え姉さんが何も言わなくても俺のせいで周りの姉さんに対する評価が下がってしまう。それは避けなければいけないことだ。

 

そして、東京に来てこんな無愛想で他人に興味のない俺と知りつつも未だに仲良くしてくれている友人が出来た。

 

美嘉、奈緒、加蓮、凛。

 

今もし、彼女たちが他の者と同じように俺に愛想を尽かして去っていったら・・・そう考えると何故か心の奥がズキリと痛む。

この気持ちが何なのかはうまく説明できないが、いい事じゃないのは確かだ。

 

今日この時が人生における最初のチャンスかもしれない。

自分のやりたい何かを探すために東京へ来たにも関わらず、結局何もしていない今を変える一歩目なのかもしれない。

 

他人に興味がない、1人でいいなんてくだらない自分の考えは捨て、きちんと周りと向き合ってしっかり前を見てみよう。

姉さんや彼女たちがこんな表情をしなくて済むように・・・

 

 

進化した?紅葉くんいざ出陣!

 

 

「開始まではまだ余裕があるな」

 

ようやく着いたライブ会場だったが、俺は中に入らずに2人を待っていた。

 

奈緒が加蓮を連れて真っ先に物販コーナーへ走って行ったからだ。その勢いに呆然とした俺は取り残されてしまったが、入口で待っていると連絡をして姉さんから借りたパンフレットを眺める。

 

やはり何度見ても今回の主役であるアイドル達の写真は載っているが、バックダンサーの3人の写真はなかった。

 

島村卯月、本田未央。そして渋谷凛の3人だ。

 

一昨日の特訓前、アイドルよりも身近だった凛達のことを知ろうと思った俺は、奈緒に美嘉へ電話してもらい凛以外の2人の事を聞くことにした。卵さん・・・と認識していた島村さんの名前を覚えておらず、もう1人の本田さんは会ったことすらなかったからだ。

 

奈緒から携帯を借りて美嘉と話をしたんだが、相変わらずあたふたしており聞くまでに時間がかかってしまった。やはり美嘉は俺のことが苦手なのだろうか。

 

 

「も~!ポテト売ってないじゃん。奈緒の嘘つき~」

 

「だからお前は何言ってるんだ?映画観に来たんじゃないんだぞ。だいたいライブ中に食べる暇なんかある訳無いだろ!」

 

俺の特訓とは別に、俺たち3人にも多少変化が出ていた。島村さんたちのことを聞いた後に奈緒が言ったのだ。

 

『ちょうどいいから高垣、隣の後輩の事もちゃんと覚えとけよ!あたしはもういじられたくないからなっ!』

 

『え~つまんない。だったらアタシも奈緒先輩のこと呼び捨てにしちゃうよ~?』

 

『ああそれでいい。この際もう何でもいい!だから頼むぞ高垣!』

 

『わかった』

 

『あ、じゃあ奈緒も紅葉先輩のこと名前呼びね。何でもいいみたいだし♪」

 

『げっ!?』

 

そんなことがありお互いの呼び方が変わったんだが、奈緒は俺の名前が呼びにくそうだ。嫌なら無理することもないと思うんだが。

 

加蓮にも友達なのだし、学校の外では呼び捨てでも構わないといったが、俺のことは先輩でいいらしい。その方が特別感がどうとか言っていたな。

 

会場に入り見取り図とチケットを改めて確認してみる。が、これもパンフレット同様結果は同じだった。

奈緒と加蓮の席は隣同士だったが、俺の方は大きく離れ上の階の角の方にあった。

 

「やっぱり先輩とは結構離れちゃってるね。プロデューサーさんから貰ったのに変なの」

 

「人気のライブだ。さすがに関係者でも無理があったんじゃないのか?そもそも無償でくれただけでも十分感謝することだし、上から見たほうがステージをよく見れるはずだ」

 

「たか・・・も、紅葉!あたしたちと離れてるからって気を抜くなよ。特訓を忘れずに一緒に盛り上げるんだからな!」

 

「わかってる」

 

今度はしっかり記憶に残しておかないとな。

 

「奈緒が離れて淋しいけど一緒に楽しもうね。だって♪」

 

「んなこと言ってなーい!!」

 

「あ、ああ。加蓮も一緒にライブを楽しもう」

 

「うん!アタシライブって初めてだからものすごく楽しみ」

 

人ごみを気にせずいつもの追いかけ合いが始まった2人と途中別れ、上の階へと続く階段へと向かった。

 

 

内部は既に多数のファンで席が埋まっており、話し声や歌声が聞こえてくる。

俺の席はこの階の最前列右から4番目。特に迷うことなく席へ歩いていると、目的地付近も全ての席の人は座ってライブが始まるのを待っていた。

 

「すみません、前通ります」

 

先に座っている人の邪魔にならないよう腰を低くして席へ向かうと、2つの声が同時に聞こえた。

 

「あ!お姉ちゃんのカレシさんだ!」

「うげっ!またまた先輩にゃ!」

 

すぐ横を見ると美嘉の妹が。そして俺のことを先輩と言った方を見るとショートボブの少女が嫌そうな顔で俺を見ている。

 

「美嘉の妹か、久しぶりだな。あと・・・誰だ?」

 

「うにゃああああああ!またにゃ!」

 

にゃ?また?

この語尾に聞き覚えはあるが、あの少女は猫のような耳をつけていたから人違いか。

だが向こうが知ってる以上自己紹介はきちんとするべきか。

 

そういえばよく見ると俺の席の2つ後ろにロックなアイドルもいるな。

 

「とりあえず初めまして?高垣紅葉だ。それとロックな子も久しぶり」

 

「うん、久しぶり。ていうか最近ぶり?」

 

「フシャァァ!いいにゃ!こうなったらもう戦争にゃ!」

 

「???」

 

「み、みくちゃん落ち着いて!皆見てるから!」

 

続く!

 

 

 

 

 

 

 




眼鏡をかけた学級委員前川さん

キュートなねこみみアイドル前川みく

ショートボブの可愛いみくちゃん

3人と知り合える紅葉くんは幸せ者・・・
みくはキュートで一番好きなアイドルです!


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紅葉くんとプロジェクトメンバー

あと残り1話で以前の予告まで終わるはず・・・!

それぞれのアイドルのペンライトの色を番号以外で表現するの難しいですね。
単純に赤や青だけでいいのかな。

投稿日火曜なので1つ…
まだ火曜かよう~


 紅葉くんと未来の蒼ノ楽団のアイドル達2

 

 

「みくちゃん、他のお客さんの迷惑になるからそこまでにしましょう。ね?」

 

「う・・・み、美波チャンが言うなら仕方ないにゃ」

 

両手を挙げ今にも後ろの席から襲いかかってきそうな少女だったが、俺と少女の間の席にいた女性の言葉ですぐに席に座り直した。

 

それを確認した女性が今度は俺の方を見る。まるで子供に言い聞かせるような落ち着いた優しい声と同様、落ち着いた雰囲気の顔立ちで、姉さんと比べると随分大人に見える。

 

美嘉の妹がいるということは、ここはシンデレラプロジェクトメンバーの席ということなのだろう。つまりロックな子を含め皆凛達の仲間だ。それならプロデューサーさんがくれた席の理由も多少納得がいく。

 

「みくちゃんと李衣菜ちゃんの知り合いなのかな?だったら私も自己紹介しないとね」

 

自己紹介・・・という言葉に少し緊張が走る。今までは特に何も考えずにいたが、相手の言葉を聞き逃さず集中しないといけない。

奈緒が言うには普通の人なら特に気にせず出来ることらしいが。

 

「初めまして、新田美波です。346プロダクションの新人アイドルとして新しいプロジェクトに参加しています。ここにいる11人・・・全員合わせると14人になるけど、その中では一応お姉さんかな。よろしくお願いしますね」

 

「に・・・にった・・・新田さん、ですね。予想通り姉さんと年齢が近そうだ。改めまして高垣紅葉です。高2ですので敬語は不要です」

 

ふう・・・なんとか覚えることが出来た。新田さんの反応を見る限り間違ってはいないだろう。

姉さんと同じ事務所内に新田さんのようなしっかりとした女性がいるのは安心できる。姉さんが俺のいない所でハメを外しすぎた時は遠慮せず叱ってもらおう。

 

「えっと、お姉さんがいるのね。ちなみに聞くけど、お姉さんはいくつなの?」

 

名前を覚えることに集中して肝心なことを伝えていなかった。今後のこともあるから失礼の無いようにしないとな。最初が重要だ。

 

「今年25になります。何かあった時、新田さんは頼りになりそうですね」

 

「うわぁ・・・先輩最低にゃ」

 

「ふ、ふふ、フフフ。そう、そうなの」

 

「あー、ミナミ?どうしました?」

 

新田さんが奇妙な笑を浮かべ俯くと、何故か場の空気が変わった気がした。先ほどの少女は呆れた様子でこちらを見ており、新田さんの隣にいる銀髪の子は不思議そうに彼女の様子を窺っている。何だ?何もまずいことは言ってないと思うんだが。

 

「・・・高垣くん?あとでちょっとお姉さんとお話しましょうか?」

 

「!?」

 

「ひぃっ!」

 

それを見た新田さんの前の席にいるリボンや服が黒い少女が悲鳴を上げる。

新田さんは笑っている。顔は笑っているのだが、声に感情が入ってはおらず不思議な気配を纏っている。

俺は何故か急に膝が震え止まらなくなっていた。

 

これがもしかすると、恐怖・・・というものなのだろうか。

 

 

『おおー!』

 

タイミングが良いと言うべきなのかはわからないが、突然内部が暗くなり人々の声がざわめきから歓声に変わった。

 

すると新田さんを含め、プロジェクトのメンバーも一斉に表情が変わりステージ上を見るようになったので、俺は自分の席へと向かい同じようにステージを見下ろす。いよいよか。

 

「ついに舞踏会の幕開けか!」

 

右隣に座る黒い少女が興奮気味で叫ぶ。舞踏会・・・確かにそうだな。346はシンデレラをモチーフにした物がいくつもあるし、彼女たちのプロジェクトもそうだ。

今はまだここにいる11人はシンデレラで言う城へ憧れる町娘かもしれないが、いずれ姉さんや美嘉と一緒に城での舞踏会で歌い踊ることになるのだろう。

先に一歩踏み出した凛達と共に。

 

紅葉くん、本当の意味で初めてライブに参加する

 

 

ステージの幕が少しずつ上がっていき、中から5人のシンデレラがそれぞれ特徴的なポーズのまま現れる。その中心には美嘉がいて、堂々とした様子で客席へと目を向けていた。俺と話す時のような挙動不審な様子とは違うカリスマアイドル城ヶ崎美嘉だ。

 

ライブ開始1曲目は346ではおなじみの曲、お願い!シンデレラ。

特に誰の曲とは決まっておらず、ライブによって歌うアイドルが変わり中心になるアイドルも変わるのが楽しい・・・らしい。

そういえば前は姉さんが中心で歌っていたな。

 

歌が終わると拍手と歓声の中、美嘉が一歩前に出た。

 

「会場のみんなー!今日はアタシたちのライブに来てくれてありがとー★」

 

「今日はこの5人で精一杯歌います!」

 

「まだまだ夏は遠いですが、この会場だけは夏以上に熱く!燃えていきましょう!」

 

『わああああああ!!』

 

美嘉に続く小日向美穂さん、日野茜さんの言葉で会場が一体となる。奈緒曰く、日野さんとは会ったことがあるらしいんだが・・・いつだ?

 

「それじゃあ早速次の曲に行きましょうか!」

 

「美穂ちゃん、準備はいいですか?」

 

「う、うん。大丈夫!」

 

川島さん、佐久間まゆさんの言葉に続き小日向さんが答えると、他の4人はステージから去っていった。

小日向さんがステージ中央で目を瞑り人差し指を交差する。すると会場のペンライトがピンクやそれに近い牡丹のような色に変わったため、俺も習って奈緒に借りたペンライトの準備をした。

 

 

その後に佐久間さん、川島さんと続いたがやはり前とは違う。曲を知り、歌うアイドルを知って聴いていると、俺も会場の皆と一体になったような感覚を覚えた。

下の席をみると奈緒と加蓮を見つけることができ、加蓮は奈緒に釣られながら思い切りペンライトを振っている。

 

それを見て自然と笑みがこぼれたのに気づき自分で驚いてしまった。周りはたまに俺の笑顔が・・・などと言うが気づいてはいなかった。自分で笑ったと実感したのは一体いつぶりだろうか?初めてか?

 

 

川島さんの曲が終わり舞台から去ると、歓声と共に新たな曲が流れる。この曲は・・・いよいよか。

 

誰を見るわけでもなくペンライトをオレンジに変える。美嘉が現れ男性女性関係なくさらに大きな歓声が聞こえる。そして歌が始まる数秒前に、美嘉の後ろの床から一斉に3人の少女が現れた。

 

凛に島村さん、本田さんの3人だ。出てきた時の表情は一瞬だったが、美嘉に負けない輝きを放っているように感じた。

 

隣や後ろからも声が上がる。仲間の登場に他のメンバーも喜んでいるんだろう。歌が始まりペンライトを振っているうちに、気が付けば俺も他のファン同様立ち上がり美嘉の曲を口ずさんでいた。

 

「本当の私を見てね・・・」

 

美嘉は真っ直ぐな性格で、学校ではクラスの皆から慕われ本人も男女関係なく明るく接している。が、俺と話すときはたまに目を逸らしカタコトになる。この事に関して奈緒や加蓮に聞いては見たが、ため息をついて自分で考えろというばかりだ。

 

俺の方に問題があるということか・・・

 

そして姉さん。やはり本当の姉さんを俺は知らない。一昨日のような表情をする姉さんを知らない。本人に聞いても何でもないと言うだけだ。俺が今後姉さんや美嘉にしてあげられることは何か、よく考えてみようと思う。

 

会場の盛り上がりは最高潮になり、後半のアルファベットの場面ではプロジェクトメンバーも一体となって声を出していた。俺も一緒になって声を出し、美嘉達のTOKIMEKIの文字が終わると同時に曲が終了。

 

歓声が最大となり気分が高まっていく。やはりアイドルはすごいな。こんな俺の気持ちまで変えてくれるのだから。

 

川島さん達同様すぐに次の曲に変わると思っていたが、美嘉が話をし始めた。ファンへの感謝の言葉の後、後ろを見ながら話を続ける。

 

「ところで今日、バックを勤めてくれたこの子達!まだ新人なんだけど、アタシが誘ってステージに立ってくれたんだー★」

 

『おお!』

 

なるほど、凛達の紹介か。3人にとっては突然の事だったようでぼーっと立ったままだ。今まで練習した成果を失敗せずに出し切ったんだ。これで終わったものだと思っているだろうな。

 

美嘉が島村さんに感想を聞くも、慌てて何を喋っていいかわからない様子。多少彼女と面識がある側としては息を呑む展開だが、どうやら問題なさそうだ。

 

島村さんが凛と本田さんを見るとお互いがお互いに応えるかのように表情が変わった。そして・・・

 

『最高ーーーー!!』

 

『わあああああ!!』

 

3人が両手を挙げて喜びを表現すると、観客側もそれに答えるかのような大声援。

よかったな凛、お前達の初めての舞台は大成功だ。

 

続いての日野さんの曲の後に全員での曲がいくつか続き、最後にこのライブの為の新曲"Happy Princess "が披露され全プログラムが終了した。

 

ペンライトを持った手や体から汗が出ている。疲労感はあるがそれがとても心地いい。本当に奈緒には感謝しないといけないな。

 

「じゃあ、俺はこれで」

 

「待って」

 

プロジェクトメンバーに軽く挨拶をして去ろうとしたんだが、新田さんに止められてしまった。

まさか、さっきの続きなのだろうか。額からライブの時とは違う汗が出てくる・・・

 

「はい、はい・・・今一緒にいますけど。え?わ、わかりました」

 

新田さんは電話をしていたようだ。何かに驚いているが、俺と関係あるのか?

 

「高垣くん、今から私たち卯月ちゃんたちに会いに楽屋へ行くんだけど、プロデューサーさんがあなたもぜひどうぞって」

 

「俺が、ですか?」

 

「あなた関係者だったの?」

 

「いえ、確かにプロデューサーさんとは先日知り合いになりましたが俺は無関係です。姉は関係していますが・・・」

 

「そういえばさっきもお姉さんがどうとか言っていたわね」

 

「美波チャン、先輩の苗字をよく思い出すにゃ」

 

「え・・・あ!」

 

少女の言葉に新田さんが一瞬で戸惑いの表情から驚きの表情に変わった。そういえば姉さんの名前を言っていなかったな。

 

以前は姉さんがいたから楽屋へ入れたはずなんだが、こんな簡単に一般人がアイドルの楽屋へ行っていいのだろうか。

俺は奈緒に連絡し状況を報告したあと何故か2人の夕飯を奢ることになってから、新田さん達の後に付いて楽屋へと向かった。

 

続く!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




Happy Princessという曲はアニメにないはずなのでオリジナルということになります。
最も歌詞等は全く作っていませんが、属性は全タイプです。

初対面の美波を怒らせる紅葉くんはさすがですね!


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成長しても紅葉くんの勘違いは止まらない

新アイドルが新曲をいきなりだしたり、デレステの方では色々と注目されていますね。

そういえば曲の歌詞ってオリジナルだったら小説内に表記しても大丈夫なんでしょうか。
詩扱いになるのかな。

今回は今までで一番文字数が多いかもしれません。


紅葉くん、特訓の成果を見せつける!

 

 

関係者控え室へと向かう途中、俺にとってはかなり厄介な事件が起きた。

発端は俺の隣を歩いていたロックなこの子だ。

 

「そういえば皆自己紹介がまだじゃない?ここで出会えたのも何かの縁ってね」

 

「さんせーい!」

 

「にゃは!自己紹介は大事だにぃ」

 

その言葉に美嘉の妹と年の近そうな彼女の隣を歩く少女と、彼女の手を引く俺よりも背の高い子が同意した。

 

まさかここで全員覚えるのか?

だが姉さんや美嘉たちと関係がある以上、いずれまた再会する日が来るだろう。

ロックな子を含め新田さん以外の名前を誰も知らないし、その時に失礼の無いようにする必要があるか。

 

 

「じゃあ私から改めて。多田李衣菜。ロックでクールなカッコイイアイドル目指してます。学年一緒だし私のことは李衣菜でいいよ」

 

そう言った彼女・・・李衣菜の笑顔には迷いが一切なかった。すでに目標を決めて前へ進む姿勢は同年代ながら尊敬するものがある。

 

「よろしく李衣菜。俺のことも紅葉で構わないぞ。ロックでカッコイイ曲をテレビやライブで歌う李衣菜を楽しみにしてる」

 

「うん♪期待しててよ!」

 

「はいはーい!アタシも莉嘉でいいよカレシさん☆」

 

そうか、美嘉の妹はり、り、莉嘉・・・そう言われると前に聞いたような。

しかし何度言っても勘違いをしているんだが、俺と同じで覚えるのが苦手なのか?

 

手を挙げて何度も飛び跳ねながら話す莉嘉は美嘉以上に元気がいい。

俺が莉嘉くらいの年齢だった頃とは正反対だな。いや、今の俺と比べてもか。

 

「さっきも言ったが俺は美嘉の彼氏じゃない。普通の友達だ」

 

「えーつまんない。お姉ちゃん全然そんな話ないんだもん」

 

つまらないかどうかはさておき、姉妹とはいえあまり姉のプライベートを晒すのはどうかと思うんだが。

姉さんと違って美嘉は家と仕事でそこまで行動に差がないだろうし、うかつなことを言うと皆信じそうな気がする。

 

奈緒も加蓮も俺が姉さんの普段の生活を話しても全く信じてくれなかったからな。

昨日と一昨日少し一緒にいたせいか、なんとなく嘘じゃないとわかってきたみたいだが。

 

 

その後次々に自己紹介をされ、俺は顔と名前を覚えるのに必死だったが何とか上手くいった。

まだプロジェクト開始したばかり且つ、レッスン以外はアイドルらしいことをしていないと言うがなるほど・・・あのプロデューサーさんの選んだ人選、中々に個性豊かな面々が揃っている。

 

 

三村さんにはどこから取り出したのか、手作りだというお菓子をプレゼントされた。

俺も料理はするが甘いものを作るのは姉さんの誕生日のケーキの時くらいだ。その話をしたら色々とアドバイスをくれた。

 

アナス・・・アーニャは最初ロシア語で簡単な挨拶をしたので日本語がまだ話せないのかと思い、自分のわかる簡単なロシア語で返したら日本語で喜んでいた。どうやら勘違いだったようだ。

 

それとブリュンヒルデさんは・・・ん、どうした?蘭子でいい?どっちが本当の名前なんだ。

また2つの名があるパターンに遭遇したんだが、女性とはそういうものなのだろうか。

 

・・・そして新田さんは相変わらず笑顔だが俺は恐怖を感じている。

 

 

「ほらみくちゃん、あとはみくちゃんだけだよ」

 

「ふーんだッ!」

 

李衣菜が最後の1人に自己紹介をするよう促すが、本人は乗り気ではないらしい。それどころか機嫌が悪い。

この少女は初めから俺に対して良い印象を持っていない様子だった。

 

「どうしたのみくちゃん?そう言えばずっと紅葉くんに対して何か怒ってるみたいだけど」

 

「李衣菜チャンには関係ないにゃ」

 

「なっ、何それ!だいたいみくちゃん、前会った時1人だけ自己紹介してなかったじゃん」

 

「うえっ・・・それは」

 

まずいな。俺のせいで2人の雰囲気が悪くなり始めて、それが周りにも影響を与えている。

怒っている理由を聞いてきちんと謝ったほうがいいだろう。

 

「待ってくれ李衣菜。高垣楓の弟というだけで元々俺は部外者だ。それがこうやって一緒に関係者の場へ行こうとしているのに反対している人がいても不思議じゃない」

 

「え、うん。そうだけど何か違うような・・・」

 

「全然違うにゃ・・・むしろ見当違いすぎてだんだん馬鹿らしくなってくるにゃ」

 

少女が何か言っているが独り言のように小さすぎてよく聞こえない。

耳は悪い方じゃないんだが、館内のBGMもあって余計に小さな声は聞き取りづらくなっている。

が、その表情は友人たちが俺に対して呆れている時によく似ている気がするな。

 

だが李衣菜が気になる事を言っていた。前にあった時・・・と。

李衣菜に会ったのは346プロのエレベーター内の1回だったはず。

 

そうか、怒っている原因はこれか。

 

「もしかして李衣菜と一緒にエレベーターで会ったか?」

 

「・・・うん」

 

「俺の方に完全に非がある、本当にすまない。実は人の顔や名前を覚えるのが少し苦手なんだ。友人のお陰で最近まともに覚えられるようになったから、出来ればもう一度だけ名前を教えてくれないだろうか」

 

「う・・・そ、そんな真面目な顔で言わなくても。し、仕方ないにゃあ、もう1回だけだよ?」

 

「ああ」

 

もう1回?そもそも李衣菜の言ったことが正しいなら、俺は彼女の名前を元々知らないはずなんだが。

 

そのことを聞き返すよりも早く荷物からねこみみを取り出し、両手を握りまるで猫のようなポーズを取った。

なるほど、あの時の猫のようなアイドルと同一人物だったとようやく思い出せたぞ。

 

「前川みくにゃ!キュートなネコチャンアイドル目指して頑張るから、応援よろしくにゃん♪」

 

さっきまでと打って変わっての表情や動作に驚いた。この子もすでにプロなんだな。

そしてしっかりとこれからの自分を決めてそこへ向かって全力で頑張っている。俺もそのパフォーマンスに思わず拍手をしてしまった。

 

「今度こそよろしく前川さん。今後の前川さんの活躍が楽しみだよ」

 

「・・・無表情で拍手されても反応に困るんやけど」

 

全員の自己紹介が終わり、未だ笑顔でこちらを見ている新田さんに耐え切れなくなった俺は、メンバーの一番後ろに移動し控え室まで案内されるようについていった。

 

俺が一体新田さんに何をしたのか・・・これを本人に聞いたら状況がさらに悪化しそうなのでやめておくことにしよう。

 

 

 

控え室までたどり着くと、先頭の莉嘉がいきなりドアを開けて中に入っていき、それに続いてみりあ、三村さんと次々に中に駆け込んでいく。

俺も入っていいのか迷っていたんだが、それに気づいたのか諸星さんが笑顔で頷いたので頭を下げて中に入った。

 

パーテーションで仕切られた向こう側からは男性の声が聞こえている。話からアイドルとスタッフ全員が揃っているようだ。

プロジェクトメンバーの後ろから少し覗いてみると凛たちの姿を確認することができたので少しホッとした。

知っている人が誰もいなかった場合、自分のことをどう説明すればいいのか困るところだった。

 

 

紅葉くんとHappy Princess

 

 

「みくもステージに出たいにゃああああ!」

 

凛たちとプロジェクトメンバーが一通り感想を言い合い前川さんの叫びを最後に、スタッフと思わしき人たちが次々と部屋を後にする。

何人かが俺のことをちらりと見たが、何か言う人はいなかった。

 

「あ、紅葉」

 

「あら、弟くんじゃない。久しぶりね」

 

「え、たたた高垣くん!?」

 

初めて気がついたのか、凛が俺の名前を不思議そうな顔をして呼んだ。それに反応するように俺に視線が集まり、川島さんも俺の存在に気づいた様子だ。

ここはきちんと挨拶をしておいた方がいいだろう。今までは何も言われなかったが、家に姉さんを送り届けてくれた時も含め何度か失礼な態度をとっていたはずだ。

 

そういえば川島さんは前に18歳と言っていた。今思うと俺と1つしか違わないのに随分としっかりしていたんだな。

 

美嘉は相変わらず挙動不審になっているんだが、落ち着くまで挨拶は控えたほうがいいだろうか。

 

「お久しぶりです川島さん。姉さんがいつもお世話になっています。凛、それと島村さん、本田さん。それに皆さん。素晴らしいステージをありがとうございます」

 

「ふふっ、楓ちゃんから聞いていたけど、ついに覚えてくれたみたいね。なら私も紅くーん♪って呼んだ方がいいかしら?」

 

「いえ遠慮しておきます」

 

「おっと、そのはっきりとしたところは相変わらずなのね」

 

「ねえしまむー、しぶりん。この淡々としたイケメンさんって知り合い?川島瑞樹さんも知ってるみたいだけどさ」

 

「すみません、私がライブを含めて、彼を招待しました」

 

「ああ、彼が例の」

 

「はい」

 

本田さんが俺を見ながら凛と島村さんにヒソヒソと何かを伝えている。

 

彼女とは自己紹介がまだだったので近づいて説明しようと思ったが、俺が言葉を発するよりも早く、プロデューサーさんともう1人年配の方が何やら話をしそうだったのでそれを待つことにした。

 

「皆さん、こちらは弊社のアイドル、高垣楓さんの弟さんで、高垣紅葉さんと言います。高垣さんを始め、ここにいる渋谷さん。そして、もう1人の方がアイドルになるきっかけの1つをくれた人です」

 

「・・・高垣紅葉です。本日はお招き頂きありがとうございました」

 

とりあえず挨拶をしては見たがどういうことだ?姉さんがアイドルになるきっかけ?そんなはずないだろう。

 

プロジェクトメンバーも含め、俺のことを知らない佐久間さんや小日向さんがそれぞれの反応を表しているが、姉さんのことが気になりよく話を聞いていなかった。

 

「やあ高垣くん、初めまして。部長の今西です。お姉さんにはいつも我が社は助けられているよ」

 

まさかそこまで重役の人だとは思わなかった。プロデューサーさんとは対照的に小柄で優しそうな見た目。それにわざわざ一般人の俺に自分から挨拶をしてくるとは、346プロダクションはアイドルだけじゃなく社員全てが素晴らしい人たちのようだ。

 

「初めまして今西部長。こちらから先に挨拶できずに申し訳ありません」

 

「はっはっはっ、随分としっかりした子のようだ。それに・・・うん。お姉さんとは少し違うが良い目をしている。武内くんが気にかけるのも納得だね」

 

「・・・・・・」

 

プロデューサーさんが困ったように手を首にあてているが、あれは癖なのか?

 

「そっかそっか。じゃあもーくんだね!本田未央です。よろしくね!」

 

「あ、ああ。よろしく」

 

もーくん?

 

「紅葉、私たちのダンスどうだった?」

 

「ああ、他のダンサーに負けないとてもいいステージだったぞ。登場した時も笑顔が輝いていた」

 

「そ、そう。ありがと・・・」

 

なんだ?俺としては褒めたつもりだったんだが、凛が珍しく視線を外して俯いてしまった。

また知らないうちにまずいことを言ったのか?

 

そういえばもう1つあったな。

 

「凛のステージは加蓮にとってもいい刺激になるだろうな」

 

「・・・は?加蓮って誰」

 

加蓮の名を聞いたら今度はしっかりとこちらを見てきた。いや、見ているというより睨んでいるような気もする。

 

「加蓮は凛と中学が同じだと聞いたんだが・・・」

 

「ふーん」

 

「そ、そういえば高垣くん。私のこと島村って!」

 

何故か少しまずい雰囲気になりそうだったところを見かねたのか、島村さんが間に入って来てくれた。

 

「はい、以前は失礼しました。島村さんの楽しそうな舞台でのダンスは見ていてこちらも楽しくなりました」

 

「えへへ、ありがとうございます♪」

 

「ねえねえ弟くん。どうせなら私たちの感想も聞きたいわね」

 

「え、アタシも!?」

 

そう言った川島さんが、美嘉や他のメンバーを連れて近くまで来た。

美嘉はちらちらとこちらをみているが、あまり聞きたくはなさそうだな。

 

「川島さんは他の方以上に余裕が感じられてとても自然で楽しい曲でした。会場全体を盛り上げるのも上手だし、とても俺と1つしか違わないとは思えませんね」

 

「え、えっと弟くん。もしかして、まだあのこと本気にしてるの?」

 

「姉さんのことも助かってますが、未成年なのだし酒をすすめられても断ってくださいね。まあ姉さんに限ってそんなことないとは思いますが」

 

「瑞樹さん・・・」

 

「や、やめて美穂ちゃん!そんな悲しそうな目で私を見ないで!」

 

「なるほど!あの時の人でしたか!」

 

そうか、近くでこの元気な声を聞いて思い出した。

以前奈緒と一緒にライブ後の姉さんたちに会いに行ったとき日野さんにも会っていたんだ。

 

すぐにどこかに走って行ったからいつも以上に顔を覚えていなかったんだが、この熱い声は記憶にあったようだ。

 

 

「日野さんの歌はとても元気が出ました。周りの応援も一層盛り上がって、会場の熱気が今日一番だったように感じました」

 

この小さな体のどこにあんな大きな力があるのだろうか。まるで姉さんとは正反対だな。

姉さんが日野さんと同じようなパフォーマンスをしたら5分と保たず倒れるだろう。

 

「はい!元気だったら誰にも負けません!足りないのでしたらもっと元気を分けてあげますよっ!!」

 

「だ、大丈夫です」

 

ライブ後にこの体力は想像以上だ・・・アイドルはやはりすごいんだな。

 

「あ、あの。わ、私の歌も聞いてくれましたか?」

 

日野さんの熱に気圧されそうになっていると、不安そうに小日向さんが質問をしてきたんだが、舞台での印象と随分違うな。

 

「・・・小日向さんですよね?」

 

「は、はい。そうですけど」

 

やはり間違ってはいない。さすがはアイドルというべきなのだろうか。

 

「すみません。ステージ上での堂々とした歌い方に特に周りの男性は魅了されていたように感じました」

 

「た、たまに舞台とは違うって言われることはあるので気にしないでください。でも、そうですか。皆に私の気持ちと笑顔が届いていたのなら嬉しいです」

 

「次はまゆの番ですね。どうでしたか高垣さん?」

 

小日向さんの後ろに控えていた佐久間さんが笑顔でそう言った。笑顔・・・確かに笑顔で俺をじっと見ているんだが何か違和感がある。

一瞬考えて視線を外してしまったんだが、その隙にいつの間にか佐久間さんは小日向さんと俺の間まで来ていたようだ。

 

「・・・?どうしましたぁ?」

 

「あ、いえ」

 

視線を佐久間さんに戻すと、彼女は相変わらず俺をじっと見続けている。

違和感が気になったので俺もしっかりと佐久間さんの瞳を見ていたんだが、そこで従姉の言葉を再び思い出した。

 

なるほど、それを思い出すと違和感の正体が見えてきた。俺と少し似ているが全く違う。

佐久間さんは俺を見てはいるが見ていない。見ている俺に意識がほとんどないんだ、と思う。

 

ステージで歌う彼女に観客は他のアイドル同様に魅了され応援していた。

佐久間さんの視線も一人一人のファンを丁寧に見ながら歌っているようだった。2階席にいた人からも、曲の後に目が合ったなどの声が聞こえたくらいだ。

 

「・・・佐久間さんは、歌を伝えたい人に伝えられましたか?」

 

「!?」

 

思わず口に出してしまった言葉に佐久間さんが初めて驚きの表情を見せた。

 

「・・・面白い人ですねぇ。まゆもまだまだみたいです」

 

どうやら怒ってはいないようだが、少し俺を見る目が変わったような気がする。

これ以上話をすると本当に怒らせてしまうかもしれないのでやめておこう。

前後から冷たい笑顔を向けられたら流石に耐え切れる自信がない。

 

「美嘉、やっぱりお前はすごいな」

 

「え?あ、アタシ?」

 

「あ、あの・・・まゆの感想は?」

 

「自分の練習もあるのに3人にも付き合ってくれて、大変だったろうに学校ではいつもの笑顔を皆に見せていた。同級生として、友人として誇りに思うよ」

 

「べ、べべ別にそんなの普通のことだし?アタシには超よゆーだし」

 

「高垣くん、まゆの・・・」

 

「俺も思わず歌を口ずさんでしまったよ。最高のステージだった」

 

「まゆ、の・・・」

 

「ふ、ふふふ。あははは!何それおっかしい!高垣くんがアタシの歌歌ってるところ見てみたかったかも★」

 

「・・・やっといつもの美嘉に戻ったな」

 

「まゆ、そろそろ泣いてもいいですかぁ?」

 

最近話しかけす度に挙動不審になっていた美嘉だったが、もしかするとレッスンでの辛さや仕事の大変さを隠していただけなのかもしれないな。

 

「うん、ゴメン。ちょっとアタシらしくなかったかも。これからはちゃんといつも通りの城ヶ崎美嘉に戻るから、覚悟してよね★」

 

「ああ。覚悟?」

 

「失礼します」

 

一通り俺が感想を話している間は、プロジェクトメンバーたちはそれぞれライブに出た3人に改めて感想を言い合っている様子だった。

それをプロデューサーさんと部長さんが見ていたんだが、その後ろ。パーテーションの裏の入口から聞き慣れた声が聞こえてきた。

 

 

「お疲れ様です部長、プロデューサー。ライブに参加した皆さんもお疲れ様」

 

そこから入口から姿を現し挨拶をしたのは、俺が声を聞き間違えるはずもない姉さんだ。

丁寧にお辞儀をして前を見た姉さんが俺の姿を見つけると、少し悲しそうな笑顔を向けていた。

 

「楓ちゃんじゃない!一体どうしたの?あ、言わなくてもわかるわ!心配しなくても弟くんはちゃんと私たちが面倒見てるわよ」

 

面倒を見られた覚えはないんだが。

確か姉さんは今日番組の打ち合わせだったはずだ。

 

「いえ瑞樹さん。紅くんはしっかりしてるから心配はしていません。前の打ち合わせが早く終わったので、ライブ後の皆さんの顔を見たくて来ちゃいました」

 

メンバーの中から俺に対して、本当に弟だったんだ。よく見ると似ている。などの声が聞こえてきて、それと同時に新田さんの冷気が消えていった。

 

姉さんのお陰で助かったのか?

 

「それにこの後瑞樹さんと生放送ラジオの仕事がありますから、始まる前に一緒にお食事でもと思いまして」

 

「いいわね。どうせならいつものメンバーも誘っちゃう?」

 

「瑞樹さん、このあとも仕事があるんだ」

 

「あ、アイドルって大変なんですね」

 

「何言ってるのしまむー。私たちだってもうアイドルじゃん」

 

凛たちじゃないが俺でも大変だと思う。ライブの疲れを感じさせず、すぐに次の仕事へ気持ちを切り替えていくのはさすがプロなんだと感心させられた。

 

 

「ふむ、せっかくだしちょうどいい。高垣くん、ああ弟の紅葉くんだったね。君に聞いてみたいことがあるんだ」

 

「自分にですか?」

 

急に部長さんが口を開いたのでアイドルが一斉に話すのをやめて耳を傾けた。

俺に話とは一体何だろうか。何かまずいことでもしたか?

 

「まあそんなに畏まらず答えてくれ。単刀直入に、もしお姉さんが新しいユニットを組むとしたら誰がいいか。ぜひ君の意見を聞いてみたいね」

 

「い、今西部長!?」

 

「そう慌てなくてもいいよ高垣くん。一般の、というよりも一番身近な君の弟がどう思っているのか興味があってね。あくまで参考程度だよ」

 

いきなりとんでもない質問をしてくるんだな。参考といってもここには一緒に歌ってる川島さんもいるし新プロジェクトの子もいる。全員興味がないはずないだろう。

 

前川さんに至っては眼力でものすごくアピールしている気がする。

 

「そ、そういうことでしたら。紅くん、遠慮・・・はしないわね。思ったことを口・・・にいつもしてるし。とにかく紅くんに任せるわ」

 

・・・姉さんは何が言いたいんだ?

 

だがやはり姉さんの元気がないように見える。一昨日から急にだ。俺が姉さんの力になれることと言ったらいつもの家事程度。

だとしたら、ユニットとして一緒にいると楽しくなる人がいいかもしれない。

 

それは川島さんにも言えることだが、部長さんの望む答えにはならないだろう。日野さんだと逆に姉さんが引っ張られすぎて今以上に疲労しそうな気もするし・・・さて。

 

周りを見るとたくさんのアイドルたちが俺の答えを待っている。そして俺はこの人たち以外のアイドルをほとんど知らない。

 

この人たち以外?ああ、そうかあの人がいたな。あの人が姉さんと一緒に歌ったら面白そうだとあの時思っていたんだ。

 

「・・・自分はしゅがはさんがいいと思います」

 

「しゅがは?誰かねその子は」

 

「紅くん?」

 

「以前プロデューサーさんに電話で紹介したあの人です」

 

「な、なるほど。佐藤さんですか」

 

「武内くん、知っているのかい?」

 

「はい。以前、当プロジェクトとは別のオーディションに合格した、佐藤心さんです。まだレッスンのみで、活動はしていませんが、やる気と秘められた能力はかなりのものかと、担当から聞いています」

 

「ほう、それは面白いね。ありがとう紅葉くん、参考になったよ」

 

「は、はい」

 

 

その後は解散となり、プロジェクトメンバーと舞台に出た3人はそれぞれ戻っていった。

俺も奈緒と加蓮を待たせているし、美嘉たちは着替えなどがあるので軽く挨拶をしてから外に出ることに。

 

「紅くん、今日は少し遅くなると思うの。夕飯も済ませてしまうし、鍵をかけて先に寝ていても大丈夫よ」

 

「ああ、川島さんとのラジオだろう?」

 

「ええ」

 

そう言って微笑んだ姉さんはやはり何故か寂しそうだった。

もしかしてダジャレ1週間禁止の影響なのか?

 

「あまり川島さんに迷惑かけないでよ。あの人18歳なんだし、本来なら姉さんが帰りの面倒みないとだめなんだぞ」

 

「え、ええ!?」

 

「じゃあね姉さん」

 

「え、あ、ちょっと紅くん!まだそれ続いていたの!?もうっ!みーずーきーさーん!!」

 

川島さんと、仲間と一緒にいる時は楽しそうだ。

俺を見る笑顔が悲しそうなのはどうしてか。本当の姉さんのことを知りたい気持ちと、知るのが怖い気持ちが今の俺に入り混じっていた。

 

 

続く!




これでようやく予告分が終了に・・・

中々上手くまとめられないです。


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レイ・ディスタンスのマジックアワー

今回は台本形式になります。

この作品では珍しい、敬語メインの楓さんですね。


楓さんとラジオ番組

 

 

瑞樹「マジックアワーのお茶会へようこそ!」

 

瑞樹「皆さんこんばんは。シンデレラのお茶会へウェルカム♪このラジオは346プロダクションから毎週ゲストをお呼びして楽しいおしゃべりを楽しむ番組よ。皆さんがディナーをちょうど食べ終えた頃のちょっとした時間だけど、今日からぜひ私たちのラジオに耳を傾けてね」

 

 

瑞樹「月替わりで皆さんをおもてなしするパーソナリティー、記念すべき第1回目はこのわたくし川島瑞樹28歳、28歳!がお相手するわ」

 

瑞樹「それじゃあまずはマジックアワーメール、略してマジメのコーナー・・・といきたいんだけど、始まったばかりだからお便りがないのよね。だから皆さんどんどん送ってきてね」

 

瑞樹「というわけで、今日はさっそくゲストを呼んじゃうわね。1回目のゲストはこの方。今や346に欠かせない私も公私共に仲良くさせてもらってるこのアイドルよ♪」

 

楓「皆さんマジアワ~、高垣楓です。1回目の放送のゲストということで少し緊張していますけど、川島さんと一緒なので自由にやれそうですね」

 

瑞樹「今日はラジオ前の食事も一緒だったわね。早苗ちゃんや美優ちゃんも一緒で盛り上がったわ」

 

楓「はい、川島さんたちにはいつもよくしていただいて。私、結構人見知りなタイプなので助けられてます」

 

瑞樹「うっそぉ、人見知りだなんてそんな感じ全然しないわよ。何か最初から仲が良かった気がするわ」

 

楓「川島さんは輪の中心で皆の良いところを見つけて楽しく引き込んでいくのが得意ですから。その観察眼はさすが、元アナウンサーというところでしょうか」

 

瑞樹「やだもぉ、急に褒めても何も出ないわよ。そう言えば楓ちゃんは元モデルなのよね。皆も聞きたいと思うんだけど、当時の楓ちゃんはどんな子だったの?」

 

楓「モデルの時、ですか」

 

瑞樹「あら、急に暗くなっちゃったけど。もしかして聞いちゃいけない話だった?」

 

楓「いえ、そんなことはありませんよ。ただ特にこれといって思い出がないというか」

 

瑞樹「モデルの世界も色々と大変そうだものね。楓ちゃんはスカウトでモデルに?」

 

楓「友達がいつの間にか応募しちゃってて。それで何度か審査するうちに最後は合格、という感じです」

 

瑞樹「すごいじゃない!346のモデルオーディションは厳しいことで有名なのに」

 

楓「そこでやりたいこともあったんですけど、何かが違う気がして・・・3年で辞めちゃいました」

 

瑞樹「じゃあそのあとすぐアイドルに?」

 

楓「はい。アイドルになるきっかけはいくつかあったんですけど、実は1つが川島さんなんですよ。川島さんがお話をしているアイドル部門の前を何度か通ったこともあります」

 

瑞樹「ええ!?初耳よそれ!」

 

楓「はい、今初めて言いましたから♪」

 

瑞樹「私は楓ちゃんのことはよく知らなかったのよね。当時はアイドルになりたてで自分のことで精一杯だったし」

 

楓「わかります。私もモデルとアイドルでは全然違っていたので最初はかなり戸惑いました」

 

瑞樹「でも今や346を代表する歌姫、高垣楓だものね。アイドルになってからは以前より充実してる感じかしら?」

 

楓「ええ、とっても。アイドルになって、あの時アイドルになる決断をしてよかったと今でも思っています」

 

瑞樹「その原動力は何かしら?やっぱりお酒?」

 

楓「ふふふっ♪それはもちろんありますよ。仕事を終えたあとの1杯は格別ですから」

 

瑞樹「ちょっとやだもう楓ちゃん!私たちまだまだ若いんだから、そんなおじさんみたいなこと言わないの」

 

楓「すみません。お酒は大事ですし、もちろんそれ以上にファンの皆さんに私の歌を届けたいという想いは強いです。けどやっぱり一番は・・・」

 

瑞樹「どうしたの?言いたくない話なら無理しなくていいわよ」

 

楓「いえ、言いにくいわけじゃないんですけど・・・(私じゃなくてもいいみたいだし)」

 

瑞樹「え?」

 

楓「これも初めて話しますけど、一番は紅くん・・・弟のためですね。いつもクールな弟の色々な表情が見てみたい。最初はそれがきっかけでした」

 

瑞樹「わかる!わかるわ!あの子全然表情変えずに的確に言い返せないこと言ってくるんだもの!」

 

楓「ふふっ、すみません。弟は昔からあの調子で」

 

瑞樹「ああ、ごめんなさい。リスナーの皆さんをおいてけぼりにしちゃってるわね。楓ちゃんに弟がいるって話、知ってるファンも多少いるとは思うけど、触れたことって今までなかったのよ。せっかくだし今少し話してもいいかしら?」

 

楓「ええ、構いませんよ」

 

瑞樹「お姉さんの許可も得たところで、まずは私の知ってる情報から話すわね。弟の名前は紅葉くん。楓ちゃんとは結構歳が離れてるのよね?」

 

楓「はい。今年高校2年生ですね」

 

瑞樹「容姿は、そうねぇ。簡単に言うと楓ちゃんの髪が短くなって男っぽくなったって感じかしら」

 

楓「左右違いますが瞳の色も一緒なので、親戚に会うと似てるってよく言われます」

 

瑞樹「身長は楓ちゃんよりも少し高いわね」

 

楓「去年まではほとんど一緒だったんですよ。でも1年ですぐ追い抜かれちゃって、今は174センチ位だって言ってました」

 

瑞樹「男の子だもの、まだまだ伸びるわよ。私も何度か楓ちゃんを家に送る時に会ってるけど、冷静な対応でたまに弟くんがお兄さんじゃないかって錯覚に陥るわ」

 

楓「お、弟はし、しししっかりしてますから」

 

瑞樹「でもまだ高校生だもの。やっぱり楓ちゃんが面倒を見てあげないとダメなんでしょう?」

 

楓「ええ、そそそうですね。しっかりしないとダメですね」

 

瑞樹「慣れない東京での姉弟2人暮らしは大変よね。育ち盛りだし、楓ちゃんご飯用意するの大変じゃない?」

 

楓「ま、まあ、た、確かに・・・私は時間が決まってる仕事ではないですし、毎日ご飯作るのは大変ですね!(紅くんが)」

 

瑞樹「楓ちゃんそういう隠れたところも立派よねぇ。ちなみに得意料理は?」

 

楓「えっと、魚の煮付けでしょうか。おいしいっていつも褒めてますね!(私が!)」

 

瑞樹「結構庶民派なのね!いいわねぇ、歌って踊れて料理もできるアイドル」

 

楓「あ、あは、あはあははは・・・」

 

瑞樹「ぱっと見たところリビングも綺麗に片付いてたし、楓ちゃんマメにお掃除もしてるのね。偉いわぁ、私の部屋なんて誰にも見せられないもの」

 

楓「汚れていたらきっちり叱りますからね(紅くんが!)部屋の乱れは心の乱れだと、正座でお説教です!(私の部屋は絶対見せられないけど!)」

 

瑞樹「うんうん。楓ちゃんがいるなら弟くんも安心して学業に励めるわね」

 

楓「ソウデスネー(紅くんごめんなさい!どうかこのラジオ聞いていませんように!)」

 

瑞樹「弟くんの将来の話とかしたことあるの?何になりたいとか」

 

楓「・・・いえ、紅くんは自分のことあまり話しませんから。きっと私がいなくても・・・

 

瑞樹「あ、あら大変!あっという間に時間が来ちゃったわ。最後は一緒に締めましょうか。楓ちゃん、ここ一緒に読んでね」

 

楓「あ、はい・・・え、こ、これは」

 

瑞樹「お茶会も盛り上がってるところではあるけど、魔法の時間は過ぎるのが早いものでもうお別れの時間がやってきたようね。マジックアワーのお相手は川島瑞樹と」

 

楓「まだ一週間過ぎ・・・あ、高垣楓でお送りしました」

 

瑞樹「それでは皆さん、来週のシンデレラのお茶会も」

 

楓・瑞樹『たのしんでれら!』

 

 

楓「紅くんごめんなさいいいいいいい!!」

 

 

 

 

 

 

高垣家マンション・ラジオ終了後

 

紅葉「・・・姉さん、最近様子がおかしかったのは自分で家事がしたかったからなのか?とりあえず約束のダジャレ一週間禁止を破ったのはどうするべきか」

 

 

続く!

 

 

 

 

 




次回予告

酔って家に帰った楓さんは、紅葉くんに全てをぶちまける?
人生初の姉弟ゲンカの予感!


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紅葉くんと楓さん、初めての・・・

川島さんのアドバイス

 

 

「姉さん、流石に遅いな。仕事は終わったと思うんだが」

 

時刻は深夜0時過ぎ。

先に寝ていろとは言われたが、聞きたいことがあったし連休中なので帰りを待っているが中々姉さんは帰ってこない。

 

いつもは遅くなる時に連絡はしてくるし、基本遅くならなくても連絡はくれる。だが今日は逆にこっちからかけてみても反応が全くない。

 

まさか帰宅途中で何かあったのでは?と少し心配になってきたので、周辺を探してみるかと着替えてドアに手をかけた時にチャイムが鳴った。

 

確認のためにドアのレンズから向こう側を覗く。安心した俺はそのまま鍵を開けてチャイムを鳴らした相手に挨拶をした。

 

「こんばんは川島さん。度々姉さんがすみません」

 

ドアの先では自分より身長のある姉さんに肩を貸したまま、川島さんが若干疲れた様子で笑っていた。

 

「こんばんは弟くん。遅くなってごめんね。楓ちゃんには最初に連絡するように言ったんだけど全然聞いてくれなくて」

 

「ちょうどマンション周辺に探しに行くところでした。こちらから連絡しても反応が全くなかったので」

 

「もう、高校生がこんな遅くに出歩こうとするなんてダメじゃない!って言いたいところだけどそんな状況じゃないか」

 

姉さんの方を見ると、川島さんに肩を貸してもらっている状態だが2本の足でしっかりと立っている。が、うなだれていて寝ているのか起きているのかわからない状態だ。

俺は反対の腕を持ち、川島さんと交換するように姉さんに肩を貸して部屋に入ることにした。

 

「今日の楓ちゃんは初めから飛ばしてたのよね。こんな状態になるまで飲むなんてことも初めてよ」

 

「そうですか?いつも飲んで帰ってきた姉さんはこんな感じだったと思いますけど」

 

家に着くとすぐに俺に抱きついてきてリビングまで運ばせるからな。

 

「え?だっていつもは・・・ああ、そういうことか」

 

どういうことだろうか。姉さんを優しげな表情で見たあと、川島さんは急に真面目な表情になって俺に話しかけた。

 

「弟くん、楓ちゃんをお願いね」

 

「はい、あまり迷惑をかけないようしっかり言い聞かせます」

 

「ううん、そうじゃないの。楓ちゃんの気持ち、ちゃんと聞いてあげて。たぶん、それを聞けるのは弟くんだけだと思うから」

 

「どういうことですか?姉さんはあまり自分のこと話しませんけど」

 

「ふふふ、やっぱりあなたたち姉弟なのね。変なところも似てるんだから」

 

何故か笑われてしまった。そういえばラジオを聞く限り、川島さんは実は姉さんよりも年上らしい。

通りで今まで酔った姉さんをここまで送ってくれたわけだ。

 

そうなると最初の自己紹介の年齢はただの冗談だったということか?

この件に関して姉さんを叱ったこともあったが、そこはきちんと謝らないといけないな。

 

「さて、タクシーも待たせてあるからもう帰るわね」

 

「はい、今日もありがとうございました。明日姉さんから話を聞いてみます」

 

「・・・弟くん。それだけじゃなくて、ちゃんと自分の考えも伝えるのよ?クールなのもいいけど、たまには熱くなったって構わないんだから」

 

「?」

 

「あなたがお姉さんを大事にしているのは傍から見るとわかるわ。でも、楓ちゃん本人がどう思ってるかどうかは別。思いは、想いは言葉にしないと伝わらない時もある。アナウンサーとして色々と経験してきたお姉さんからのアドバイスよ」

 

「思い・・・」

 

「それじゃまったね~。弟くんが二十歳になったら楓ちゃんと3人で飲みましょう♪」

 

「・・・はい」

 

そう言って後ろ向きで手を振りながら去っていく川島さんの言葉の意味を考えながら、いつも通りに姉さんを運ぶことにした。

 

 

楓さんの思い、紅葉くんの思い

 

 

「姉さん起きてる?」

 

「んん・・・まだ、飲めます、よ~」

 

夢の中でも飲んでるのか。今回は本当に眠ってるようだな。とりあえず靴を脱がせて玄関からリビングへ行こうとすると、その動きの影響か姉さんが身動ぎし始めた。

 

「ううん・・・あれ、紅くん?」

 

「おはよう姉さん。もう家に着いたぞ。川島さんが送ってくれたんだ」

 

「わあ、紅くんだぁ♪」

 

「ちょ・・・」

 

肩を貸していただけの姉さんが急に抱きついてきたせいで体勢を崩してしまいそうになる。

なんとか持ちこたえようとしたが、フローリングに靴下という組み合わせのせいで滑ってしまった。

 

俺はなんとか姉さんに怪我のないよう頭を抱え仰向けに倒れる。

 

「痛っ・・・ね、姉さん怪我はないか?」

 

「紅く~ん。お姉ちゃんは頑張ってるわよぉ」

 

少しまだ背中が痛むが姉さんの方は無事のようだ。

今は倒れた俺の上に姉さんが抱きつきながら同じように倒れているんだが・・・軽いな。昔から細い人だったが、身長が伸びでも体重はあまり増えてないんじゃないだろうか?

そういえば、あまり姉さんが飲み以外で間食をしているのを見たことがない。

 

俺が姉さんのことを心配していたのだが、当の本人は抱きついたまま顔を埋めて離そうとしない。これだけ近くにいるのに不思議と酒の匂いはせず、かすかに優しい香りだけがする。

 

「わかってるよ。姉さんはアイドルとして頑張ってるよ」

 

「・・・」

 

俺の言葉のあと静寂が訪れる。また寝てしまったのだろうかと確認しようとしたところ急に俺の首元に抱きついている姉さんの腕の力が強くなり、少し震えだした。

 

「・・・・・・

 

「え?」

 

「・・・じゃない」

 

「姉さん?」

 

「全然わかってないじゃない!!」

 

「!?」

 

突然姉さんが顔を上げ腕の力が弱くなったかと思うと、今度は覆いかぶさるような体勢になり床に大きく音を鳴らしながら手をつき叫んだ。

 

今までとは違う大きな声の出し方に驚きながら真上にある姉さんの顔を見ると、悲しそうな悔しそうな顔をして両目には涙がうっすらと浮かんでいる。

そして今にも俺の方に落ちてきそうだった。

 

「アイドルになる前だってずっと私なりに頑張ってた!紅くんの笑顔を見るためだったら何でも出来た!紅くんがテレビを見て笑顔になったのは物凄く悔しかったけど、私がアイドルになったらすごく喜んでくれて嬉しかった!」

 

「・・・・・・」

 

「けど、けど!別に私じゃなくてもいいのよ!紅くんが笑顔になれるのは私が歌わなくても踊らなくても、モデルで活躍しなくてもいいのよ!他の輝いてる子がいれば私なんかいなくたって・・・」

 

・・・何だって?姉さんが急に思っていることを吐き出そうとしていたのでそのまま黙って聞こうとしていた。

が、やめろ、それ以上言うな。そんな言葉をそんな悲しそうな姉さんの口から聞きたくない。

 

「別に私なんかがいなくたって紅くんは楽しく生きていけるのよ!」

 

「そんなわけないだろ!!」

 

「!?こ、紅くん?」

 

思いは、想いは言葉にしないと伝わらない時がある。川島さんの言葉を知ってか知らずかそのまま表しているのが今の姉さんだろう。

確かに姉さんのわからない部分がわかったが、俺は生まれて初めて心がモヤモヤとして思わず叫んでしまった。

 

自分の感情に驚いているがそれは姉さんも同じようだ。これは怒り…もしくは悲しいという思いだ。

だがここで終わらせるつもりはない。どうせなら言いたい事を言ってしまおう。

 

「私なんかいなくたってだって?冗談でも笑えない、いつものダジャレよりひどいぞ。俺は姉さんがいたから今までやってこれた。子供の頃からどれだけ感謝していたか。姉さんにどれだけ助けられていたかわからないだろ!」

 

「わ、わかるわけないじゃない!紅くんは何も言ってくれないもの!」

 

「なら聞けばいいじゃないか!俺がそういう嘘や冗談を言わないの知ってるだろ!」

 

「聞けるわけないわよ!もし私のことだってどうでもいいなんて思われてたらって考えたら怖くて聞けないわよ!」

 

「姉さんに対してそんなこと思うわけないだろ!」

 

「わからない!わからないわよ!本当の紅くんの気持ちなんて全然わからない!」

 

「なっ・・・」

 

「何よ!高校生になって一緒に住めるのが嬉しいと思ってたのに、最近は美嘉ちゃんや奈緒ちゃんの話ばっかり!」

 

「姉さんだって俺に友達が出来るように昔から何かしてたじゃないか」

 

「で、でもでも!よりにもよって女の子ばっかりじゃない!しかもいつの間にか他のアイドルの子達とも仲良くなっちゃって!」

 

「それは姉さんがアイドルだからその関係でなったと思うんだが」

 

「くっ・・・ど、どうせ紅くんは私といるよりも他の子といるほうが楽しいのよ!そ、そのほうが・・・グスっ・・・そ、そのほうが・・・」

 

「そのほうが・・・何だよ」

 

「私よりも奈緒ちゃんたちと一緒にいるほうが笑顔でいられるのよ!」

 

「まだそれを言うのかよ!」

 

「ええ、言うわ!言いますとも!・・・悔しかった。紅くんが良い方向に変わって嬉しかったけど、変えたのは私じゃなかった。私はあの時奈緒ちゃんに嫉妬したわ。私は紅くんの態度を叱って、それで紅くんに嫌われたらどうしようっていつも自分のことばかり考えてた」

 

「・・・・・・」

 

「私に出来なかったことを奈緒ちゃんは簡単にやってみせた!だから私がいなくたって紅くんは!」

 

姉さんの様子がおかしかったのはそれが原因だったのか。こんな簡単なことだったのか・・・だったら。

 

「俺が変わろうと思ったのは、俺自身のためじゃない。姉さんのためだ」

 

「え?」

 

「これから先姉さんはアイドルとしてもっと人気者になって上を目指していくだろう。そうなると俺も今までを考えるとアイドル関係者に会う機会も増えてくる。その時に毎回失礼な態度を取っていたんじゃ、姉さんにまで迷惑をかけてしまう」

 

「紅くん?」

 

「だから変わろうと思ったんだ。でも今回の件で、俺の周りの影響で姉さんがこんな悲しい顔をするんだったら・・・やめてやる」

 

「なに・・・を・・・?」

 

「奈緒たちと友達になるのをもうやめるっていってるんだ!それならね・・・」

 

「バカ!!」

 

「!?」

 

突然の大きな音と共に、右の頬に痛みが走った。それと同時に少し冷静になる。俺はとんでもないことを言ってしまったようだな。

 

左手を掲げている姉さんは俺を少し睨みながら相変わらず涙を浮かべている。姉さんに叩かれるなんて、初めてのことだ。

 

「せっかく出来たお友達じゃないの!そんなこと言わないでよ!私のために紅くんが悲しい思いをするなんて嫌よ!」

 

「それは俺だって同じだ!」

 

「いいえ!私の方が嫌です!」

 

「俺の方が姉さんの!」

 

「お姉ちゃんの方が嫌で・す!」

 

「・・・くっ、ふふ」

 

「ふふ・・・紅くん、こんな時に何笑ってるのよ・・・ふふふ」

 

「姉さんこそ笑ってるじゃないか」

 

「だって・・・ふふふ。私たちって」

 

「ああ、そうだな」

 

どうやら川島さんの言ったことは正しかったようだ。俺たち姉弟は根本的なところで似ていた。

互いが互いを思いやるあまり、全然見当違いの誤解で状況を悪くしていたんだな。

 

「紅くん、ぶったりしてごめんなさい。痛かったでしょう?」

 

「いや大丈夫。あれは俺が悪かった。ごめん姉さん」

 

心配そうに俺の頬を撫でる姉さんの手は暖かくて、痛みが少し引いていくようだった。

 

この暖かさは何かを思い出させるようだった。…そうだ、物心つく前だったはずなので曖昧にしか覚えてない、もしくは全部夢だったのかもしれないがあることを思い出した。

 

「姉さんはさっき俺がテレビを見て笑顔になったって言ったの、アイドルの歌番組だよね?」

 

「え、ええ」

 

「たぶんそれ違うよ。いや、違わないけどきっかけが違うと思う」

 

「どういうこと?」

 

2、3歳の頃だったと思う。俺は夢を見ていた。真っ暗で何もない、どこまで歩いてもなにも見えない夢。

とても怖かった。叫ぼうとしても声は出ず、徐々に動けなくなっていっても夢は覚めない。

 

でもその時急に何かが聞こえた。たぶん、歌だったと思う。

決して上手ではなかったけど、暖かく心が落ち着く歌。

俺はその時に初めて歌というものを知ったのだろう。だから、同じことをしているテレビの向こうの人を見てすごいと思ったんだ。

 

「紅くん・・・覚えていてくれたのね・・・」

 

「え?」

 

「ありがとう紅くん。お姉ちゃん元気が出たわ!ちょっと気持ち悪い気もするけど全然大丈夫!」

 

「・・・それは飲み過ぎだからだろう」

 

「う・・・そ、そうよ紅くん!今日は久しぶりに一緒に寝ましょう!」

 

「久しぶり?一緒に寝たことなんてあった?」

 

「くっ・・・それはそれ!これはこれよ!」

 

「どれなんだ・・・」

 

そう言った姉さんは倒れたままの俺を起こし、無理やり自分の部屋に引っ張っていった。

 

初めて入った姉さんの部屋は、同じような優しい香りがしたと同時に見たこともない冷蔵庫や酒が転がっていた。が、今日は見なかったことにしよう。

 

「紅くん、おやすみなさい」

 

「おやすみ、姉さん」

 

シングルのベッドに大きな2人が寝るには多少狭かったが、姉さんと手を繋いで寝ると不思議と安心できてすぐ眠りにつくことができた・・・

 

 

動き出す時計

 

 

いつもよりも少し早い起床。多少の眠気と戦いながら、俺は2人分の朝飯を作っていた。

 

昨日、いや今日か。すぐ眠りにつくことはできたはいいが、結局最終的には目が覚めたあと中々眠りにつくことができずに今に至る。

 

原因は当然姉さんだ。

 

「全く、困った姉さんだな」

 

脇腹をさすりながら食事を作っているのは、姉さんの寝相が悪すぎたせいだ。

これならケンカの時の平手打ちの方がマシだったかもしれない。

 

「ケンカ、したんだな」

 

あれがたぶん姉弟喧嘩なのだろう。初めてのことだが不思議と嫌な気分じゃない。自分たちの言いたい事を良い合えたし、むしろ継続的に行うべきか?

 

「ふあぁぁ。おはよう紅くん」

 

「おはよう姉さん。随分早いね」

 

欠伸をしながらやってきた姉さんはいつも通り寝ぐせが凄く、そしていつもより顔色が悪かった。

 

「だって目が覚めたら紅くんがいないんだもの。それに、うう・・・頭が」

 

「だから飲み過ぎなんだよ。川島さんにちゃんと礼を言うんだぞ。ここまで運んでくれたんだから」

 

「はぁい」

 

 

 

『いただきます』

 

いつも通りテレビのニュースを流しながら2人で朝食を食べる。

すると姉さんが突然箸を置いて話始めた。

 

「決めたわ」

 

「ん?」

 

「紅くんのお願い、私叶えるわ」

 

「何のことだ?」

 

「ほら、昨日の楽屋での話よ。私とユニットを組むなら誰がいいかって、紅くん話していたじゃない」

 

姉さんが言うのは部長さんに聞かれたあの話か?確かにあの時しゅがはさんと組むと面白そうだと思ったが。

 

「佐藤心さんだったわね。私はまだ会ったことないけど、プロデューサーに相談して何とかしてみるわよ」

 

「そんなこと出来るのか?」

 

「ふっふっふー。紅くん、お姉ちゃんを甘く見たらダメよ?これでも346ではそれなりに発言出来る立場にあるんだから!」

 

「いや、知ってるけど」

 

「う・・・そ、そう?とにかく、高垣楓と佐藤心。ユニット名は何がいいかしら?紅くんしゅがはさんって言ってたわね。なら、メープルシュガーとか?」

 

「・・・甘そうだな」

 

 

その後、本当にユニットを結成することが決まり、話が次々進んでいったらしい。何でも、数ヵ月後のサマーフェスとやらに間に合わせるのだとか。

 

ちなみに姉さん考案のメープルシュガーはしゅがはさんに却下された。彼女曰く、自分だけ苗字なのは全然スウィーティーじゃないとのこと。

どう考えても甘いような気がするんだが・・・

 

決まったユニット名はどちらの名前も取った"プルート"。デビュー曲は"Pluto"で、こちらは冥王星の方らしい。

意味も一応あるようで、冥王星は実際に存在するが太陽系の惑星から除外された存在。あるのにないことにされた惑星だ。

 

姉さんとしゅがはさんのプルートは逆に、元々なかったけど俺の発言が原因であることになったユニット。それを掛けたそうだ。

 

何でも、冥王星が地球へ自分の存在を主張する歌になるということだが、俺はまだ曲を聴いていない。

 

 

そして、美嘉のバックダンサーをした凛たちと、応援に来ていた新田さんたちには同じような出来事が待ち受けていた。

 

 

 

 

 

 

 

トライアドプリムスの出会い

(まだまだ先の話ですが、紅葉くん不参加のイベントのため先に作りました)

 

 

加蓮「渋谷凛・・・ちゃん、だよね?」

 

凛「?」

 

加蓮「北条加蓮。中学一緒だったんだけど。クラスは違ったけどね」

 

凛「北条・・・加蓮・・・加蓮?」

 

加蓮「高垣紅葉、って言ったらわかるよね」キラン

 

凛「・・・そう、あの加蓮なんだ」ギロ

 

奈緒「な、なあ。どうしていきなり険悪なんだよ」オロオロ

 

加蓮「こっちは神谷奈緒」

 

奈緒「ど、どうも」

 

凛「・・・」ペコリ

 

加蓮「ちなみに紅葉先輩が名前覚えるようになったのは奈緒のお陰だよ」ニヤリ

 

奈緒「ちょ、お、おい加蓮!」アタフタ

 

凛「・・・ふーん。アンタがね」ギロリ

 

奈緒「(めっちゃ睨まれてる!)」

 

加蓮「アタシたち一応346プロ所属のアイドルなんだ。先輩も賛成してくれてね」ドヤァ

 

奈緒「やめろよ加蓮!これ以上火に油注ぐな!」

 

凛「へぇそうなんだ・・・」ジーッ

 

奈緒「あ、あははは(なんであたしの方だけ睨むんだよ!)」

 

加蓮「とりあえずアイドルとしては目標ってことで、よろしくね♪」

 

凛「・・・」

 

奈緒「お、お前ら!いい加減にしろよな!これから仲間になるんだからさ!」

 

加蓮「ん?どうしたの奈緒?アタシ達別にケンカなんかしてないよ?」

 

凛「そうだね。今はまだ、ね」

 

奈緒「もう!これ以上言い争うならあたしにも考えがあるぞ!」

 

凛「考え?」

 

奈緒「いいか!2人がこれ以上あたしも巻き込んでケンカするっていうなら・・・」

 

加蓮「・・・いうなら?」

 

奈緒「・・・泣くぞ」

 

凛「は?」

 

加蓮「!?」

 

奈緒「あたしが泣くぞ!本気だぞ!」

 

凛「アンタ、一体何言って・・・」

 

加蓮「ま、待って奈緒!ごめん、もうしないから!ほら、あなたも早く謝って!」

 

凛「え?何で?」

 

加蓮「いいから早く!奈緒が泣いたら大変なんだから!」

 

奈緒「・・・グスっ」

 

加蓮「わあああ!待って奈緒!ほら早く!」

 

凛「う、うん。ご、ごめん、なさい」

 

奈緒「・・・もう言い争わないか?」

 

加蓮「はい!奈緒先輩!」

 

奈緒「仲良くするか?」

 

凛「す、するよ」

 

奈緒「そうか!よかった!」ニコッ

 

凛・加蓮『(守りたい、この笑顔)』

 

続く!

 

 

 

 

 

 

 




「久しぶりね紅葉」

「お前は・・・」

商店街で偶然会った金色の瞳の少女。
彼女は一体何者なのか!?

次回、「紅葉くんとフライングな少女」他。お楽しみに!


わかりにくい表現ですが、ケンカ中楓さんは床ドンしています。
楓さんに床ドンされて冷静でいられるのは世界中探しても紅葉くんだけでしょう。


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平凡な商店街も紅葉くんがいるとアイドルを呼び寄せる

第8回総選挙始まりましたね。

一気に3位に現れた彼女は最終的に何処まで行くのか。

それと加蓮と楓さんには一緒に歌ってほしいです。


紅葉くんとフライングな少女

 

 

酔いが覚め晴れやかな表情の姉さんが仕事へと向かった数日後。

ゴールデンウィークも終わり学校が終わった放課後、俺はいつも通り近所の商店街へ夕飯の買い出しに来ていた。

 

必要な野菜とメインの肉を買い、帰るために商店街出口付近へと足を運んでいると、前方から同年代か少し上かと思われる女性がこちらの方へ向かっているのがわかった。

 

この商店街は基本的に人通りは少ないが、その中でも特に学生が立ち寄るような店がほとんどないため俺のようは男子学生は目立つ。

 

今は近所の主婦や老人の方々に顔を覚えてもらっているようなので気にされることはないが、高校1年の初めは珍しいものを見るかのような目で見られたものだ。

 

そして同じく前方から歩いてくる女性はこの場に似つかわしくないため、通り過ぎる人が彼女を見て様々な表情を浮かべていた。

 

そんな中、その女性と俺の目が合ったかと思うと、彼女は一瞬驚き、そして少し笑みを浮かべ迷うことなく俺のもとへと歩いてきているように感じだ。

 

俺の方へ、というのは勘違いではないだろう。なぜなら、俺もその女性が何者なのか思い出したからだ。

 

「久しぶりね紅葉」

 

「お前は・・・」

 

最後に会ったのは数年前・・・中学生の時だ。

以前もそうだったが、今目の前にいる彼女はより一層大人びて見える。初対面だったのなら同年代だという事を疑うほどだ。

 

バッグを肩に下げ、何故か違和感を感じる学生服姿の彼女はとても落ち着いており、前と変わらないのはそのじっと俺を見つめる金色の瞳のみ。

 

「・・・奏、か」

 

「あら、ちゃんと覚えていてくれたのね。こんな場所で偶然見つけて驚いたけど、また会えて嬉しいわ」

 

彼女の名は速水奏。母方の親戚で、俺とは同じ年齢の従姉だ。

 

そういえば東京に住んでいたんだったな。親戚の集まりは和歌山でやることが多かったからすっかり忘れていた。

 

「その顔、私の家が東京だってこと忘れてたんでしょ」

 

「・・・・・・」

 

「やっぱりね。あなたって、思ってることが顔に出やすいから」

 

唇に指を当て微笑む奏。やはり俺は彼女が苦手だ。

顔に出やすいなんてことは奏以外から言われたことはない。

この前の姉弟ゲンカの内容からでもわかるように、姉さんですら俺の考えが理解できなかったのだ。

 

「でも・・・ふーん。少し変わったわね。ちゃんと今は私を見てるみたい」

 

「・・・色々あったからな」

 

「そう。ところで楓お姉さまは元気?」

 

「ああ」

 

相変わらずの観察眼で今の俺の状況にすぐ気づいたようだが、そこに対して興味はないのだろう。

奏の本題は姉さんのことのみだ。

 

奏は姉さんを尊敬、崇拝している。

それを知ったのは初めて会ってすぐのこと。

 

姉さんは親戚や近所で知り合いに会う時は、ある意味テレビや舞台でのアイドル高垣楓に似た雰囲気を出していた。

それは高垣家の長女だからなのか、格好をつけたいからなのか、又は人見知りの為に緊張しているからなのか俺は知らない。

 

だがそのクールで大人びた姉さんを初めて見た奏は衝撃を受けたのだろう。

自分も常に姉さんのようになりたいと、外での姉さんのように振舞う努力をすることにしたらしい。

 

そんなことを姉さんは知らない。奏が"お姉さま"と言うのは俺といるときだけだ。

彼女が姉さんと話すときは、いつも楓さんと呼んでいる。

 

そして奏も知らない。姉さんの本当の姿が全く真逆であるということを。

 

「あなたから見て今の私はどうかしら?少しはお姉さまに近づいた?」

 

「いや、全然」

 

むしろ遠くなって行ってるような気がするんだが・・・

 

奏の中の理想の高垣楓を追えば追うほど、現実の高垣楓から離れていく。

本当のことを伝えてもいいんだが、それで奏が今の姉さんのようになるとは思えないし、誰も得をしないだろう。

 

はっきりと奏の質問に対して否定したので、何かしら不満や敵意を向けてくるのかと思い多少警戒する。

 

一部の女性は俺が思ったことを口にすると物凄い気配を漂わせるということを新田さんで知ったからだ。

 

「それならよかったわ」

 

わずかな笑みを浮かべた奏の言葉は、しかし俺の予想を簡単に裏切った。

 

「つまり、お姉さまはまだまだこんなものじゃない。そう言いたいのでしょう?」

 

「ん?いや・・・」

 

「何も言わなくてもいいわ。あなたがお姉さまのことで嘘をつくはずがないもの」

 

「それはそうだが」

 

どうやら余計に勘違いさせてしまったようだが、当の本人は嬉しそうだ。

そしてこの様子を興味深そうに見ている人たちが何人もいる。

 

この商店街では人通りが少ないと同時に常連や店の人たちが限られてくる。

つまりほとんどが俺のことを知っているのだ。

余計な噂が立つ前に奏を別れてここを離れたほうがよさそうだな。

 

「・・・じゃあ俺は行くぞ。またな」

 

「また、ね。あなたからそんな言葉を聞けるなんて夢にも思わなかった」

 

そう言って奏は帰り道なのか、手を挙げて別れの挨拶をすると同時に俺が来た方向へと歩き出す。

それを確認した俺も逆に帰り道である奏がやって来た方向へと歩き出した。

 

「ああ、そうそう」

 

「ん?」

 

「近いうちに直接お姉さまに会いにいくわ。驚かせたいから、今日私にあったことは内緒よ」

 

再び声をかけられて振り返った先の奏は、人差し指を唇に当てて内緒だというサインを笑顔で送った。

その笑顔は今までとは違い年相応の、少し無邪気ないい笑顔だった。

 

 

紅葉くんとウォーリーキャット

 

 

 

「先輩って本当に美人の知り合いが多いんですね。もしかして今の人もアイドルか女優さんなんですか?」

 

何人かがちらちらとこちらを見ているのを気にせずにマンションへ帰るために歩いていると、すぐに横の路地から声をかけられた。

 

先輩、という言葉に最初は加蓮かと思ったが、相手を見ると違っていた。

制服から俺と同じ高校の生徒には違いないしどこかであった気がする。

何かしらのイベントがあるわけでもないのにこの場所で同世代の女性2人に会うのはとても珍しいことだ。

 

このショートボブにメガネをかけた生徒は確か・・・

 

「委員長か。久しぶりだな。加蓮を呼びに来た時以来か?」

 

「・・・は?」

 

自己紹介はされていたかもしれないが名前は覚えていない。が、クラス委員長であったことは加蓮の言葉からも間違いではないはず。

にも関わらず不思議そうな、少し怒っているかのような表情をしているのは自分の質問にきちんと答えていなかったせいだろうか。

 

「すまない。さっきのは従姉なんだ。久々に会ったから話をしていただけだ」

 

「ああ、そう・・・じゃなくて!」

 

「?」

 

違うのか?他に思い当たる節が見当たらないんだが。

 

「委員長だよな?加蓮の同級生の」

 

「そうですけど!そうじゃないですよね!?」

 

「・・・実は名前を覚えるのが少し苦手なんだ。あの時のことをよく覚えてないから、もしよかったらもう1度名前を教えてくれないか?」

 

「はぁ!?知ってるにゃ!ってかこの前この件やったばっかにゃぁぁ!」

 

にゃ?

この語尾最近流行ってるのか?それとも・・・

 

「もしかして、前川さんのファンなのか?まだデビューしてないのにすごいな」

 

「なんなん!?この人ホンマなんなん!?」

 

何度も叫びながら頭を抱えている委員長だが、当時の印象と随分違う。もう少し俺と似てあまり話をしないタイプかと思っていたんだが。

 

「うぅ・・・このままだとみくのアイデンティティがクライシスしそうだにゃ」

 

「大丈夫か?気分が悪いなら病院に行ったほうがいいぞ」

 

「誰のせいにゃ!」

 

「?」

 

「はっ!まさか・・・でもそれなら今までの先輩の態度も百歩譲って納得できるし・・・」

 

今度は腕を組んで頭をひねりながらあちこち歩き回る委員長に、徐々に興味を失っていたはずの商店街の人たちの視線がまた集まってきた。

 

そしてその様子を特に気にする様子もない委員長は意を決したように立ち止まり、突然メガネを外し、持っていたカバンから何かを取り出すとそれを素早く頭の上に付けた。

 

まさか・・・

 

「・・・前川さん本人か?」

 

「そうにゃ!」

 

「委員長が前川さん?」

 

「やっぱり!先輩はみくをどこで判断してるにゃ!?」

 

そういうことだったのか。だとしたら今までの前川さんの俺への態度に納得がいく。

誤解が解けていたようで実は全く解けていなかったということか。

 

それにしても常時あの耳を持ち歩いているとは・・・やはりプロだ。

 

「学校では普通の喋り方なんだな」

 

「当たり前にゃ。みくは可愛いネコチャンアイドル目指してるの!公私の区別はきちんと付けてるもん」

 

「ん?つまり今は仕事中か。語尾がアイドルの時と同じだものな」

 

「ぐぬぬぬぬ!この人素で言ってるから余計タチ悪いにゃ!」

 

「そういえばどうしてこの商店街に?ここの人たちには悪いが、女子高生が好きそうな物は置いてないぞ」

 

「急に普通の話題に・・・自由すぎてもうつっこむなくなるにゃ」

 

最初に思っていた疑問を投げかけると、何故かため息をついた前川さんは猫の耳を外し再びメガネをかける。

すると、気のせいかもしれないが急に落ち着いた表情になり、アイドル前川みくではなく高校生の前川さんに変化した気がした。

 

「私、346の寮で一人暮らしをしているんです。食事はよくスーパーの惣菜を買ったりするんですがたまに自炊もしてて」

 

「なるほど。ここの商品は結構安いからな」

 

「はい、初めて来た時には驚きました。なので、今日も何か夕飯になる物がないか探していたんです」

 

「そうだったのか。だったら俺が今日見たお勧めを教えるよ。ここは常連なんだ」

 

「あ、そういえば北条さんが先輩にお弁当をどうとか言ってましたね」

 

「ああ、俺が作ってる。姉さんの分も含めて2つも3つも変わらないしな」

 

「え?でもこの前のラジオでお姉さんが自分で料理はしてるって・・・」

 

「・・・それで今日安かった商品だが」

 

この姉さんの見栄か冗談かわからなことに関してはあとできちんと問いただそう。

 

「魚屋ではカレイが安かったぞ」

 

「お、お魚!?」

 

「煮ても焼いても上手いからな。煮付けのレシピがわからないなら教えるよ」

 

「あ、ああ煮付け!煮付けですか!い、いやぁ残念です。お魚は昨日食べたばかりで・・・」

 

「そうか。なら肉か?毎週今日の曜日はひき肉が普段より安いんだが。ハンバーグが定番だよな」

 

「ハンバーグ!今日はハンバーグにします!」

 

「あ、ああ。決まったのなら良かったよ」

 

よほどハンバーグが好きなのだろうか。魚を提案した時の表情と全く違っていた。

 

俺自身はすでに買い物を済ませていたので、一応肉屋の場所を前川さんに教えたあと、これ以上誰かにあって目立つのも困るので足早に商店街を出て家に着いた。

 

 

 

 

「(同じ学校でみくのこと知ってるはずの人にすらよく覚えてもらえてないなんて・・・みく、このまま言われた通りにレッスンばかりで本当にアイドルになれるのかな)」

 

「(そりゃあ少しは小さなお仕事もらえたりはするけど、誰もみくのこと知らないしみくじゃなくても出来るお仕事ばっかり)」

 

「(あとから入った3人には簡単に追い抜かれて、美波チャンたちもデビューが決定。みく、これからどうすればいいの?)」

 

「(先輩が羨ましいにゃ。言いたいこと言えてやりたいことやって、アイドルのお友達が増え・・・て?)」

 

「(そうにゃ!いっそのことみくも言いたいこと言わせてもらうにゃ!何もやらないよりは全然マシ!)」

 

「こうなったらデモにゃ!ストライキにゃ!やったるにゃぁぁぁ!」

 

 

 

翌日の放課後、知らない電話番号から着信が入った。不審に思いつつ取ると、電話の相手は俺の知っている少女の凛からだった。

どうやら美嘉から番号を聞いたらしい。

 

凛の声は珍しく慌てていて、何度も事情を聞いたのだがイマイチ飲み込めないでいる。

 

「・・・すまない、もう一度言ってくれ」

 

『だから、みくが大変なの!紅葉の真似だとかストライキだとか言って、莉嘉や杏と一緒にカフェで立て篭ってるの!』

 

「・・・」

 

『プロデューサーを探してるんだけど見つからないし、私たちじゃかえって状況が悪化するかもしれない。だから、みくがこうなった原因かも知れない紅葉がなんとか説得してよ!』

 

「・・・とりあえず346プロに向かう」

 

『うん。早く来てね』

 

やはり全くわからない。カレイを勧めたのが原因か?それともひき肉の状態が良くなかった?

とにかく急いで向かわなければならないようだ。

 

続く!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回はみくのストライキ編から。
ここで少し紅葉くんは自分の心境を吐露する予定です。


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紅葉くんの感情の赴くまま

また少し間が空いてしまいましたが投稿です!

少しずつ原作アニメの内容もまた出てきます。


紅葉くん、再び346プロへ

 

 

「さて、どうしたものか」

 

346プロに着いたはいいが、俺は入口前で入るのをためらっていた。

ここまで来ておいて今更だが、明確な理由もなく勝手に入っていいか迷っていたためだ。

 

以前は姉さんに会って頼まれていたものを渡す目的があったから問題はなかったが、今回もし社内の人に呼び止められたらどう答えればいいのか。

 

そもそも凛の言うカフェの場所もわかっていない。

姉さんにはそこは案内されなかったからだ。

凛が入口にいれば問題はなかったんだが・・・

 

「あれ?ジャーマネ?」

 

「ん?」

 

あまりこの場所に留まり敷地内を見つめていても不審がられるなと思った矢先、突然後ろから肩を叩かれた。

 

聞きなれない単語だったので言葉だけなら自分のことだとは思わなかったが、後ろを振り向くとそこには以前商店街で会ったしゅがはさんが若干喜びの表情で俺のことを見ていた。

 

「やーん、もしかしてはぁとに会いに来てくれたの?ジャーマネのお陰で話がトントン拍子に進んでホント夢みたい☆」

 

「いえ、違います。ですが企画は順調のようですね」

 

「おいおい、また即否定すんなよ☆でもでもぉ、ジャーマネのお姉さんが高垣楓だったなんてね。いきなりユニット組むことになってボーカルレッスンで実力差を見せつけられたけど、すぐに追いついてやるんだから!」

 

しゅがはさんはやる気十分のようだ。それだけでも部長さんに紹介してよかったと思う。

 

姉さんの方も家でとても喜んでいた。歌の方はまだ初心者に近いようだがそれはきちんとトレーニングをしていないからとのこと。

その初心者ならではの技術を気にしない高い声量に、姉さんも負けないように練習していると言っていた。

 

部屋でもたまに美嘉や日野さんの歌を口ずさんでるようで、リビングの方にも聞こえていた。

なぜその選択なのかは謎だが。

 

と、そうだ。しゅがはさんならカフェの場所を知っているんじゃないか?

 

「しゅがはさん、346内のカフェが何処にあるかわかりますか?」

 

「ん?もちろん知ってるわよ。ははーん、なるほどねぇ。はぁとわかっちゃった☆」

 

「しゅがはさんも知っていましたか」

 

どうやら前川さんのことは思った以上に大事になっているようだ。外から戻ってきたはぁとさんにすら情報が伝わっている。

 

「やっぱり最初からはぁとを見る目が違ってたものね。ジャーマネも年上のお姉さんをナンパしたいお年頃、これは仕方ないわうんうん」

 

「・・・は?」

 

「いた!紅葉こっち!」

 

「ん?」

 

はぁとさんが急に腕組をしてうんうん唸り独り言を言っていると、俺は敷地内から勢いよく手を捕まれた。

そのままこちらを振り返ることなく手を掴んだまま走る少女に合わせて俺も抵抗せず走り出したのは、その相手が後ろ姿で凛だとはっきりわかったからだ。

 

「おっけー。それじゃあカフェデートに・・・って、いない!?」

 

 

 

 

「状況はどうなってるんだ?」

 

「変わってない。私たちは後から来たんだけど、きらりが話しかけても杏を筆頭に話が通じなくて。今未央と卯月がプロデューサーを探しに行ってるとこ」

 

「そうか」

 

敷地内を屋内に入らずぐるりと周り目的地にたどり着くと、そこには社員やアイドルと思われる人たちの人だかりが出来ていた。

 

"MISHIRO CAFE"と書かれたカフェの入口の1つにテーブルでバリケードが設置してあり、中から前川さんが拡声器でこちら側に話しかけている。

 

息を整えながら少しずつ状況がわかってきたところで、未だに同じように真剣に前川さんの方を見ながら息を整えている凛と手を繋いだままになっていることに気づく。

最も、掴んでいるのは凛の方で俺は全く力を入れていないのだが・・・

 

さすがに周りに気づかれたら問題だな。

 

「凛、もう大丈夫だ。手を離してもいいぞ」

 

「え・・・あ!ご、ごめん」

 

「いや、場所がわかったし助かった」

 

「・・・アンタってこんな時でも冷静だよね。それにこういうのって普通立場逆だと思うんだけど」

 

「逆?俺が案内するってことか?」

 

「はぁ・・・もういい!」

 

呆れたようにため息をついた凛になぜか睨まれてしまった。

何も間違ってはいないと思うんだが。

 

だが今は考えても仕方がない。俺がここに来たのは黙って状況を見ているためではなく、前川さんを説得するためのようだ。

何ができるかはわからないが、まずはカフェに近づいて前川さんと話をしてみよう。

 

凛をみる限り彼女はここで待っているつもりらしい。自分たちだと悪化するという何かが原因だろう。

 

徐々に近づいていくと毎日見慣れた後ろ姿があることに気づく。

どうやら姉さんも騒ぎを聞きつけていたようだ。

一応声をかけようとしたが、隣の人と話している声が聞こえた。

 

「敵の食料補給を断つのは戦略の基本であります」

 

「食を断たれるのはショックね。うふふふふ♪」

 

「・・・姉さん」

 

「こ、紅くん!?ど、どどどどうしてここに!」

 

声をかけようとせずに離れた場所から近づけばよかったな。

お陰でしばらく聞いていないダジャレを聞いてしまい力が抜けてしまった。

 

「とりあえず今のは4点。じゃあ急いでるから」

 

「ま、待って!違うの!今のは本気じゃないの!ちなみに1000点満点ってまだ続いてるの?・・・ねえ?答えてよ紅くーーん!」

 

今は姉さんに構ってる暇はない。

後ろで未だ叫んでいる姉さんを無視して諸星さんたちがいる場所へと向かった。

 

 

紅葉くんとストライキキャット

 

 

「にょわ?高垣・・・くん?」

 

「あ、えと・・・その・・・こんにちは」

 

「こんにちは、お久しぶりです」

 

カフェ近くの柱の前で中の様子を見守っていた諸星さん。そして彼女の後ろで気付かなかったが、緒方さんもいたようだ。

 

この2人とは自己紹介の時以外では話す機会がなかった。李衣菜と違い年齢も不明なので、失礼の無いように敬語で話すのが妥当だろう。

余計な事を言うと新田さんの二の舞になってしまいそうだしな。

 

・・・こうしてよく考えると、俺はどうやら新田さんからの圧力が相当トラウマになっているようだ。

ここにいなくてよかったと思うべきか。

 

「凛から聞いて来ました。俺のことも話に上がっていると。前川さんとは昨日会って少し話をしていたのでそれが原因なのかもしれないですが」

 

「みくちゃん、高垣くんみたいに自分の言いたいことをはっきり言うんだーって叫んでたにぃ。杏ちゃんと莉嘉ちゃんもそれに賛成しちゃって・・・」

 

「あっ、あの。皆のこと、あまり叱らないでください」

 

緒方さんはそう言うと俺に頭を下げた。どうやら俺が前川さんたちを注意しに来たと思っているようだ。

関係者じゃない俺がそんなことできる立場じゃないんだが、緒方さんの必死の言葉からとても仲間思いなのだということは伝わって来る。

 

「安心してください、状況は何となく理解してきましたが叱りに来たわけじゃありません。プロデューサーさんもまだ来ていないようですし、とにかく少し話をしてみます」

 

「はい!」

 

柱から顔を出しもう少し近づこうとすると、真っ先に莉嘉が俺の存在に気づいた。

一瞬驚いた様子だったがすぐさま指をこちらに向ける様子を見て、嫌な予感がしたので先手を打つことにした。

 

「彼氏じゃないぞ」

 

「あー!お姉ちゃんの・・・って、まだ何も言ってないのにー!」

 

やっぱりな。こんな大勢が見ている前でそんなことを言ったら信じる人も出てくるかもしれないだろう。

そうなったら美嘉に迷惑がかかる。今回は何とか防げたな。

 

双葉さんは俺をみて特に興味なさげな表情で隠れてしまったが、前川さんは驚いた表情で口が空いたままだ。

とりあえずは莉嘉と話をしてみるか。

 

「その美嘉はこのことを知っているのか?」

 

「お姉ちゃん?ううん、知らないよ」

 

「お前は美嘉を目指してアイドルになったはずだろう」

 

「う、うん。そうだよ」

 

「周りを見てみろ、美嘉は今のお前のように皆に迷惑をかけるようなことをするか?」

 

「だってだって!Pくんが全然アタシの話を聞いて・・・」

 

「もう一度聞くぞ。美嘉はこんなことをするか?お前が目指す美嘉は、カリスマアイドルの美嘉は人に迷惑をかけてまでこんなことをするか?」

 

「・・・しない」

 

「だったらこの後どうすればいいかわかるだろう。これ以上こんなことをやってたら美嘉が悲しむぞ」

 

「う・・・うわぁぁん!お姉ちゃんごめんなさぁぁぁい!!」

 

「ん?」

 

おかしい、なぜか莉嘉が泣きながら走り去ってしまった。

ごく普通のことしか言っていないはずなんだが。

 

「!?」

 

莉嘉が去った瞬間、急に背中に寒気を感じた。

気になって振り返ると、そこには少し涙目になって俺を見ている緒方さんと、それを支える諸星さんがいた。

 

「ひどいです。叱らないって言ったのに・・・」

 

「いや、俺は」

 

「叱らないって・・・」

 

「ち、智絵里ちゃん。きらりと一緒に莉嘉ちゃんのところいこ?」

 

「・・・はい」

 

諸星さんは少し困ったような笑顔を俺に向け、緒方さんを連れて場を後にした。

状況を理解して気をきかせてくれたのだと思う彼女に軽くお辞儀をして答える。

しかしなぜこうなった。

 

「さすがは先輩にゃ。中学生にも容赦なく冷静に口撃するなんて。みくも見習・・・これはやめておくにゃ」

 

段々と俺のほうが悪いことをしているように見えてくるんだが。しかも占拠を止めようとしているこちら側に味方が誰もいない。

一体どうなっている?

 

「前川さん、いつまでそうしているんだ?」

 

「先輩には関係ないにゃ!」

 

「その関係ない俺を引き合いに出しているようだが」

 

「うぐっ・・・みくたちのデビューを約束してくれるまではここを動かないにゃ!」

 

「ええっ!?じゃあ杏も降りるよ」

 

「杏ちゃんまで!?」

 

今まで隠れていた双葉さんが突然顔を出したかと思うと、すぐにやる気のない表情でのそのそとバリケードから出ていく。

前もって同じ考えで集まったメンバーじゃないのか?

だがこれで残りは前川さん1人。

 

しかしながら前川さんもおかしなことをいう。

デビューを約束?すでにプロジェクトメンバーに選ばれた時点で決まってるものじゃないのか?

 

「前川さんはオーディションに合格してプロジェクトメンバーになったんだろう?ならデビューは決まってるんじゃないのか」

 

「・・・それっていつ?」

 

「え?」

 

「デビューっていつなの?どうすればアイドルとしてデビューできるの?毎日毎日頑張ってるけどプロデューサーは全然答えてくれない。もっとみくが頑張ればいいの?」

 

「それは・・・」

 

「みく、ちっちゃい頃からずっと可愛い女の子になりたかった。憧れてた。そんな時テレビの中でキラキラ輝いてる女の子たちが歌って踊ってた」

 

「それがアイドルか」

 

「うん。みくはこれだ!って思ったの。アイドルになって誰よりも一番輝く可愛い女の子になるんだって。オーディションに受かった時は本当に嬉しくて飛び跳ねたもん。でも・・・」

 

前川さんも小さい頃にアイドルを観て育ったんだな。俺と違うのは、そこからすぐに将来の夢を見つけたというところ。

 

「でも、後から来た子にも一緒に受かった子達にもどんどん置いてかれて、小さいお仕事を頑張ってやっていけば次はみくが・・・って思ってもそうじゃなくて」

 

前川さんをはじめこのプロジェクトのメンバーは本当にすごいと思う。同年代でも尊敬できるこの少女に一体俺が何を言える?

 

「ねえ先輩。みくはどうすればいいの?全然わかんない。わかんないよ!」

 

とても繊細で真剣な悩みだ。俺がどうこうできる話じゃないのはわかってる。

前川さんだって俺に明確な答えを期待しているわけじゃないだろう。

 

それでも、的外れな答えでも、今にも泣いて壊れてしまいそうな少女に、姉さんと意味合いは違うがわからなくて悩んでいる少女に、自分の思いを口に出さずにはいられなかった。

 

「前川さんはすごいよ。子供の頃からの夢を一生懸命に頑張って叶えようとして、後一歩まで近づいてる。俺は前川さんを尊敬する」

 

「なっ、急にどうしたにゃ!?」

 

「それに比べて俺は何もないんだ。小さい頃からの夢もない。やりたいこともない。考えるために東京に来たけど、まだ答えのきっかけすら見つからない。前川さんたちを見ていると、尊敬すると同時に少し焦っている自分もいる・・・」

 

「先輩・・・」

 

「いや、今は俺のことは関係ないな。もう少しだけ待っていられないか?このプロジェクトが開始してまだひと月ちょっとだ。デビューするにしても同時じゃなく順番がある可能性も考えられる」

 

「それは、そうだけど・・・」

 

「それに知ってるかどうかわからないが、姉さん・・・高垣楓がデビューしたのもオーディションに受かってから数ヶ月だ。そしてその時のプロデューサーも武内さん」

 

「え、楓さんが?」

 

「それでも不安なら、関係者じゃないが俺がプロデューサーさんに話し合いの場を作れないか聞いてみる。俺がダメなら、迷惑になるだろうけど姉さんにも相談する」

 

「紅くん・・・」

 

「俺は前川みくが可愛いアイドルとして活躍できるって信じてる。だから、今日のところはこれでこの場を開放してくれないだろうか」

 

「先輩、そこまでみくのこと真剣に・・・」

 

俺は最後に頭を下げて頼んだ。

思わず自分のことまで話してしまったが、改めてアイドルの卵たちと自分の差を実感してしまった。

 

相変わらず将来が見えない自分自身。焦りと、このままでは前川さんとは違うが凛たちに友人としてもおいていかれるという不安。

この前は友達をやめてやる、なんて姉さんに言ったばかりなのにな。

 

「みくは」

 

「前川さん!」

 

頭を下げたままの俺に前川さんが何か言葉を発しようとした時、後方より低いがよく声の通った男性の声が聞こえた。

周りはざわつき始め俺も後ろを振り返ると、そこには本田さんを先頭に島村さんと凛が武内さんを連れて来ているのが見えた。

 

今更だが最初以上にこの場にいるのが少し場違いが気がしたので、俺は前川さんを再び見ることなく、何か言いたそうな姉さんの横を無言ですり抜け、プロデューサーさんに言った。

 

「あとは頼みます。前川さんの悩み、聞いてあげてください」

 

「・・・わかりました」

 

「あ、紅葉!」

 

最後に凛が何か俺に話したようだが、何て答えたかは覚えていない。

気がついたときは部屋のベッドでうつ伏せになっていた。

 

心臓の音が鳴るのが聞こえ、顔が熱くなっているような感覚がある。

無言でいるとさっきまで自分が前川さんに話していた言葉が一字一句思い浮かんでくる。

不安や焦りとは別の、もう1つの感情が渦巻く。

 

俺は大勢の人が見る中で随分と恥ずかしいことを口にしていたんじゃないか?

他人に自分の悩みを話すのが身内の時と違いこんなに大変なものだとは。

 

 

そのまま俺は寝てしまい、気が付くとすでに夕飯の時間。

材料は買ったが準備をしていないことに気がつきキッチンに行くと、代わりに夕食を作ろうとしていた姉さんのお陰で、周りが散乱した食材と調理道具の地獄絵図と化していた。

 

 

 

凛、紅葉くんを心配する

 

「あ、紅葉!」

 

私に目もくれずプロデューサーを話したあとに去ろうとした紅葉を呼び止めた。

まだ彼に伝えてないことがあったから。

 

「私、CDデビュー決まったんだ。卯月と未央と一緒に」

 

「そうか」

 

「うん、それで今度ライブもやることになってさ。紅葉も観に来てくれる?」

 

「・・・ああ、楽しみにしてる」

 

その間紅葉は私の方を一切見ることなく、そのまま下を向いて去っていった。

 

私たちが来た時にはもう紅葉とみくの会話はほとんど終わっていて聞いてない。

みくが何か言った?それともまさか近くにいる楓さん?

 

あの後みくに聞いても何でもないの一点張り。でも不思議なことに私たちと勝負しようという話は出なくなった。

 

莉嘉は紅葉の名前を出すと何故か知らないけど「お姉ちゃんごめんなさい」しか言わないし、智絵里は涙を浮かべてしまう。

 

よくわからないけど、紅葉が暗くなってるのは事実だ。

だったら私がなんとかしなきゃ。ライブを必ず成功させて、紅葉を笑顔にするんだから!

 

続く!

 




各メンバーのライブに向けての一言

卯月「が、頑張ります!」

未央「一体どのくらい集まるんだろう!楽しみ!」

凛「こんなんじゃ足りない・・・もっともっと練習しなきゃ」


美波「少し不安だけど、頑張ろうねアーニャちゃん!」

アーニャ「ダー、美波が一緒なら安心です」

紅葉くんの影響が凶と出るか大凶と出るか!


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番外・アイドルの能力とインタビュー

楓さんとの仲が深まり、アイドルたちとの話も増えるので、次からは第3章にしたいと思います。

なので以前やったアイドルステータスが当時と最新話でどう変化しているのかと、新規アイドルのステータス、一部質問コーナーを設けました。

少しメタ発言があるかも?


高垣紅葉(4話)

 クールS

家事全般A

  対楓S+

  成績A

人の名前E

 

高垣紅葉(ストライキキャット)

 クールA+

家事全般A+

  対楓S+

  成績A+

人の名前B

 

紅葉のクールはランクが高いと無表情、無感情度が増していく。

アイドルたちとの出会いを経て、徐々に感情を出せるようになっている。

 

家事全般スキルは毎日上昇。最近はお菓子作りも出来るようになる。

 

対楓スキルはどれだけ高垣楓に対して意見を言えるか。

だが、これ以上上がってしまうと楓が毎日泣いてしまうかもしれない・・・

 

人の名前スキルが上昇したことにより、成績も上昇。

ちなみに人の名前スキル上昇といってもあくまでこれが一般レベル。

 

 

 

高垣楓(4話)

クール(外)A

クール(家)D

  歌唱力S

  弟好きS

 ダジャレEX

 

高垣楓(ストライキキャット)

クール(外)A+

クール(家)E+

  歌唱力S

  弟好きS+

 ダジャレEX

 

楓のクールスキルはファンが想像するアイドル・歌姫高垣楓。

皆の理想が高くなるほど、楓は素を出したいと思いつつも期待に応えたいという思いも強くなる。

その影響で家での自堕落さが増していくが、被害を受けるのは弟の紅葉だけなのであまり気にしていない。

 

歌唱力はすでに普通のアイドルのレベルを超えているが、まだまだ未知数。

現時点では持ち歌はあまり多くなく、本領を発揮できる機会は少ない。

その透き通るような声を活かし、歌だけではなくCMやナレーションでも人気が出ている。

 

 

───楓さんに質問です。弟さんとケンカをしたそうですが?

 

はい。でもすぐに仲直りしましたよ?むしろ以前よりも仲が良くなったくらいで。

 

私が先に酔った勢いで思わず今まで考えていたことを口に出してしまったんです。

そしてすぐに謝ろうと思っていました。ですので、紅くんがあんなに大きな声を出したのには驚きました。

 

 

───普段弟さんは大きな声を出さない?

 

というよりも、初めてのことですね。いつも姉の私よりも冷静で、どんな時でも淡々と状況を整理する性格ですので。

 

そのあとは売り言葉に買い言葉。あの時初めて紅くんの頬を叩いてしまった手の痛み。私は忘れることはないでしょう。

 

 

───そういえば何度か楓さんの発言の後に淡々と点数をつけることがありますね。

 

え、ええ・・・

意外と思われるかもしれませんけど、私、よくダジャレを言うんですが・・・

 

他の人は何故か聞いていないふりをしたり苦笑いを浮かべるんです。

でも紅くんだけはきちんと評価や感想を言ってくれるんです!

お姉ちゃん思いのいい子ですね♪

 

 

───それにしてはダジャレの評価が低いようですが。

 

うぐっ・・・そ、それはほら、あれです!

この前も言いましたが、まだ私の全力のダジャレを見せていないからです。

ええ、そうです。私の渾身のダジャレを聞いたら最後、紅くんは感動して満点を出すに違いありません!

 

 

───弟さんの他にきちんと評価をしてくれる人は?

 

他、ですか?うーん・・・

 

あ、これもまた身内になってしまいますが、奏ちゃんでしょうか。

彼女ならきっと、紅くんとは違った観点から的確な評価を出してくれると思います。

 

 

───奏ちゃんとは?

 

速水奏ちゃん。

母方の親戚の子で、歳は紅くんと同じです。

小さい時からわがままをほとんど言わない聞き分けのいい子で、会うと私にいつもぴったりついてくる可愛い子なんです。

 

東京に住んでいるので、私が上京した時は速水家に挨拶に伺いましたが、久しぶりに会ったら随分と大人びていて驚きました。

今度は紅くんと一緒に会いに行こうと思います。

 

 

───最後に、楓さんは今後どのようなアイドル活動をしていく予定ですか?

 

はい。まずは目の前のお仕事に集中していきたいです。

新しくアイドルになった佐藤心さんと一緒に、紅くんが笑顔で楽しめるよう精一杯心を込めて歌います。

 

私の全ては紅くんの笑顔の為に・・・

 

それと、もう一つ思い出の地でライブを行う予定があります。

まだ日程は正式に決まっていませんが、あの日あの時あの場所で出会った全ての人に感謝をして、アイドル高垣楓の成長を皆さんにお見せ出来ればと思います。

 

 

 

城ヶ崎美嘉(4話)

パッションA

 カリスマA+

   人気A

 ツッコミC

  対紅葉E

 

城ヶ崎美嘉(ストライキキャット)

パッションA+

 カリスマA+

   人気A+

 ツッコミC

  対紅葉D+

 

明るく元気、シンデレラプロジェクト以前では日野茜と双璧をなす346プロのパッション代表。

彼女の歌はファンに力を与えてくれる。

 

カリスマは城ヶ崎美嘉に欠かせないスキル。

そしてその人気は留まる事を知らず、特に同年代の女性からの支持は他のアイドルを圧倒する。

 

対紅葉スキルはランクが上がるごとに紅葉へきちんと対応できるようになる。

高位ランクになれば紅葉も動揺し従うようになるが、美嘉はまだ成長途中である。

 

 

───本人からのコメント。

 

最近莉嘉の方が出番多くない?

 

 

 

神谷奈緒(アイドル前・4話)

 クールC

ツンデレD

ツッコミA+

家事全般C

太眉乙女S

 

神谷奈緒(アイドル前・ストライキキャット)

 クールC

ツンデレC

ツッコミA+

 アニメA

太眉乙女S

 対紅葉A

 

奈緒のクールスキルはまだまだ発展途上。クールアイドルの基本CGR(クールスキルランク)がCの為に何とかというところ。

 

家事全般スキルは紅葉が自分を圧倒している為に隠し、代わりにアニメ好きを隠すことが少なくなってきている。

と、いうよりも奈緒の場合は隠していても仲が良くなればすぐわかる。

 

太眉乙女・・・それを 捨てるなんて とんでもない!

 

数々の提案により対紅葉スキルが発現。

奈緒の真剣な言葉は紅葉の心に響く為、紅葉を変化させる能力は現状1位である。

 

 

───初めて紅葉くんに会った時お兄様とおっしゃっていましたが、お兄さんに似ているのですか?

 

あたしは一人っ子だよ!ってか、もう忘れろ!

 

 

───よくアイドルのライブに行っていますが、彼女たちを見てどう思いますか?

 

ああ、アイドルって凄いよな!可愛くてかっこよくてキラキラしてて。

落ち込んだ時や悩んでる時はいつも曲を聴くんだけどさ、すぐに元気になれるんだ!

 

 

───自分もそうなってみたいとは?

 

は?あたしがアイドルに?

ないない!あたしなんかがなれるわけないだろ。

 

そりゃ憧れるけどさ。それとこれとは別の話で、あたしはいたって普通の女子高生だし。

 

 

───奈緒さんは可愛いから問題ないのでは?

 

・・・はぁ?アンタ何言ってんだよ。

目がおかしいんじゃないのか?あたしが可愛いとかありえないだろ。

 

周り見てみろよ。

すぐ近くに美嘉とか最近じゃ加蓮もそうだし、楓さんはテレビで見てた時も思ったけど、改めて近くで見るとそれ以上に物凄い美人だし。

 

って、考えてたら段々自分に自信なくなってきた。あんたのせいだからな!

 

 

───すみませんでした。お詫びにこれをどうぞ。

 

ん?何かくれるの?

 

・・・なぁ、なんでいきなり人のバッグ開けてんだよ。

ってか、勝手にティッシュ入れんなよ!いらないっての!

 

 

 

北条加蓮(アイドル前)

 クールB

  病弱A

 対紅葉B

ツッコミE

ジャンクS

 

北条加蓮(アイドル前・ストライキキャット)

 クールB

  病弱C

 対紅葉B

煌き乙女B

ジャンクS+

 

紅葉考案の食生活改善と運動により、医学顔負けの結果が。

代わりにジャンクフードを制限されているため、ジャンク好きが増して発作を起こしかねない。

適度にポテトを与えるのが精神的にも良い。

 

ツッコミを奈緒に任せることによりスキルを削除。

代わりに病弱スキルが下がったことにより夢が広がっていき、"煌き乙女"が発現する。

 

 

───紅葉さんとの出会いは少し変わっていましたね。

 

うん、普通ありえないよね。

初対面でいきなりお弁当渡すなんてさ。しかも男の子だし。

 

でも今はあの時やる気がなくなってた過去の自分に感謝、かな。

お陰で先輩に、奈緒に出会えたし、毎日が楽しいって思えるようになってきたから。

 

 

───紅葉くんのことは好きなんですか?

 

ふふっ、いきなり直球だね。

でも残念、アタシは奈緒と違って素直なんだから。

 

もちろん好きだよ。でもLOVEじゃなくてLIKEって感じ。

 

アタシさ、今の空間が好きなんだ。

先輩がいて奈緒がいてアタシがいて。3人でふざけあってはしゃいでる空間が好き。

だからまだ呼び方も紅葉"先輩"でいいの。

 

 

───紅葉くんは会う度に知り合いになる女の子が増えているようですが?特に凛さんとは仲が良さそうです。

 

・・・渋谷さん、ね。

中学が一緒だったのは知ってるよね?

あまり見る機会はなかったけど、あの頃も今と同じでクールな感じだった。

 

でも、他の子とは何かが違ってたんだ。

アイドルになったって聞いてた時、もちろん驚いたけど同時に納得しちゃった。

ちょっと悔しいけどね。

 

 

───加蓮さんもアイドルになりたいと?

 

そりゃ憧れるよ。先輩にもいったけどね。

でも自分からオーディション受けるなんて絶対嫌。

渋谷さんがスカウトされたんならアタシだって!じゃないとなんか負けた気がするし。

 

だからまずは体力作りから。

もしアイドルになれたとしても、彼女が普通にこなしてるレッスンについていけなかったら悔しいもん。

 

 

 

渋谷凛(アイドル前)

 クールA

 犬好きS

ツッコミD

 対紅葉B

  蒼さB

 

渋谷凛(ストライキキャット)

 クールA

 犬好きS

アイドルC+

 対紅葉B

  蒼さB+

 

元々クールアイドルとしての素質があった凛。

そのクールスキルは現状変化なしだが、紅葉と違い上がれば上がるほどアイドルとしての可能性は広がる。

 

凛もツッコミスキルが消え、代わりにアイドルスキルが発現。

これは凛がアイドルをどの程度楽しみ、充実しているかにより上がっていく。

 

これは噂だが、蒼さが一定値まで行くかクールに並ぶと、新しく"蒼歴史"というスキルに変化するらしい。

 

 

 

───プリンセスブルーについて一言お願いします。

 

綺麗な蒼紫色の花だよ。花言葉は"永遠の幸福"

でもなんで花の名前を?

 

え?ユニット名?

ち、違うから!あれは私じゃないってば!

 

 

───紅葉くんのことはどう思っていますか?

 

紅葉って変わってるよね。

私も紅葉もあまり話すの得意な方じゃないから、あまり会話は続かないし言うことちょっときついなって思うときもあるけど、それでも何故か心に突き刺さる。

 

嘘偽りのない言葉だからなのかな。紅葉の言葉には結構助けられてるよ。

 

最近は何か悩みを抱えてるようだし、私も力になれたらって思う。

 

 

───紅葉くんは凛さんの2人目のファンですしね。

 

紅葉はそう言ってたね。2番目だって。

 

確かに紅葉の言ってたことは最もだけど、ファンだって言ってくれたのは紅葉が初めてだし、私にとっては1番も2番もないかも。

 

だから今度のライブのレッスンは全力で取り組むよ。

バックダンサーとしてじゃなく初めての私たちの曲で、初めてのファンに向けて精一杯歌を、思いを届けようと思う。

 

だからもう終わりでいいでしょ?この後残ってまだレッスンがあるんだから。

 

 

 

多田李衣菜

 クールB

キュートC+

  料理B+

 ロックC+

ロック魂A+

 

 

 

───ロックなアイドルを目指す李衣菜さんに質問です。ロックとは何か教えてください。

 

へ?

ほ、ほら!あれですよあれ。

簡単には言い表せないというか、色んな考えがあるというか・・・

ま、まあ皆違っていいじゃないですか!

 

 

───なるほど。つまり考えるな、感じろ。ということですか。

 

そ、そう!それが言いたかったんです!

 

 

───大変勉強になりました。今後のロックな李衣菜さんに期待します。

 

はい!

アイドルリーナのロック魂、皆に見せてやるぜー!

 

 

 

前川みく

キュートA+

 クールB

 猫好きS

ツッコミA+

 魚嫌いEX

 

───紅葉くんのカレイの煮付けは回避できましたが、1度あることは2度ありますよ?

 

・・・何言ってるの?

それを言うなら2度あることは3度ある、にゃ。

 

 

───つまりさらにもう1度経験したいと?

 

だから一体なんのことにゃ!

お魚の話よりみくのことを聞いてよ!

 

 

───ありがとうございました。

 

うにゃぁぁぁ!

このインタビュアー雑すぎるにゃぁ!

 

 

続く!

 



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第3章
紅葉くん再びライブへ!


相変わらず更新が遅くて申し訳ありません!

お詫びでも何でもないですが、ニコ動の方でこの作品のノベマス動画投稿してます。
立ち絵ありで3%ほどセリフに修正を加えた1話からの作品なので、興味がある方はぜひ!
【NovelsM@ster】楓さんとクールで辛辣な弟 という題名になってます。

ちなみに見た人はまだいないかもしれませんが、魚屋さんに関してのイメージはハーメルンで初登場させた時からあんな感じでした。




大胆な紅葉くん?

 

 

「奈緒、明後日の日曜に予定はあるか?」

 

「へ?と、突然なんだよ紅葉」

 

前川さんたちのストライキから約2週間。

姉さんの用事や美嘉の送りがない状態だったため、特に346と関わりのない日々が続いていた。

 

CDデビューが決まりライブを控えている凛へ、俺自身の恥ずかしさや不安などの感情を整理した頃に何か手伝えることはないかと連絡したところ・・・

 

『必要ない』

 

ただその一言だけで終わってしまった。

 

その答えは当然といえば当然なのだが、凛の声が若干焦っていたように感じたのは気のせいだろうか。

 

 

5月の終りが近づくにつれ、僅かではあるが徐々に凛たちの情報が表に出るようになっていた。

 

凛、島村さん、本田さんのユニット名はnew generations。

赤を基調とした衣装に身を包んだ3人の姿が載った雑誌を姉さんに見せられた時、少し誇らしかった。

 

そんな折、凛から夜に連絡が来た。

また何か問題か?などと思っていたが、内容は俺の知りたかったものだった。

 

『紅葉、今度の日曜の夕方にライブするから』

 

「いよいよ決まったんだな」

 

『うん。まあ、本当はもっと前に知ってたんだけどね』

 

「・・・ん?そういえばチケットは持っていないぞ」

 

『それは大丈夫。そういうのいらない場所なんだ』

 

「そうなのか。なら奈緒たちを誘っても大丈夫だな」

 

『・・・また知らない女の子の名前』

 

「・・・・・・・・・」

 

電話越しに冷たい風が吹いてくる感覚に襲われる。

なぜ俺の周りの女性は友達の名を出すとこうなるのだろうか・・・

 

『・・・未央も友達呼ぶって言うし別にいいんじゃない』

 

「何か怒ってないか?」

 

『怒ってない!』

 

「そ、そうか」

 

もしかするとライブ前で気持ちが高ぶっているだけなのかもな。

会う時は基本冷静な凛だが、やはり自分のユニットの初ライブとなると色々違ってくるのだろう。

 

『とにかく、絶対見に来てよね』

 

「当たり前だ。俺は凛のファンだからな」

 

『・・・うん』

 

「それでどこに行けばいいんだ?」

 

『あ、うん。場所は・・・』

 

 

そして現在は凛から連絡のあった次の日の放課後。

帰ろうと鞄に手をかけた奈緒に声をかけ、予定がないか聞いてみる。

 

突然のことだし予定があってもおかしくないからな。

 

「べ、別に予定はないけど・・・」

 

やや伏し目がちの小さい声で奈緒が答える。

本当は何か予定があるのではないのだろうか?無理をさせては悪いんだが。

 

「先に決まった予定があるなら構わないぞ?」

 

「な、ないから!超暇だから!」

 

「なら一緒にサンセットシティに行かないか?」

 

「お、おう。紅葉にしては珍しい場所だな。何か買い物とか?」

 

「それもいいな。夕方だし、食事をするのもいいかもしれない」

 

「そ、そそそれってまさか。あ、あたしとデ、デデ・・・」

 

「そうだ。さすがに知っていたか」

 

やはり奈緒は情報通のようだ。

元々1人、もしくは加蓮と行く予定だったのだろうか。

 

「そう、new generationsのデビューライブだ」

 

「デ!びゅ・・・う?」

 

「加蓮はこのことを知ってるのか?あいつは凛の同級生だったし、興味あるはずなんだが」

 

そう奈緒に問いかけると、奈緒は両手を握り締め下を向き震えていた。

なんだ?奈緒も気持ちが高ぶっているのか?

 

「し、知るかー!ばかーー!!」

 

突然の大声に思わず耳を塞いでしまったが、奈緒は顔を赤くし少し涙目になりながら俺を睨み続けていた。

 

 

紅葉くんとデビューアイドル

 

 

「へぇ、ここって来たことなかったけどキレイな場所だね」

 

「噴水広場はアイドルやアーティストの登竜門的な場所でもあるからなぁ。あたしは何度か来たことがあるよ」

 

奈緒を誘った2日後の日曜日。

加蓮も行くことを了承し、3人でサンセットシティへやって来た。

 

行き交う人々で賑わってはいるが、まだ広場で立ち止まっている人は少ない。

 

「一応姉さんも誘ったんだが、仕事があって来られないそうだ」

 

「いやいや紅葉先輩。新人アイドルのデビューのお客さんが有名アイドルって、お客さんの視線がステージに向かなくなっちゃうよ」

 

「楓さんはその場にいるだけでも目立つからなぁ」

 

どうやら姉さんは来なくて正解だったらしい。

確かに姉さんは家族と外出する時、やたらとテンション上げて両親から白い目で見られていた。

 

あの姿を高校生になって見るのはとても忍びないか・・・

 

昔のことを思い出し吹き抜けになっている広場を見上げると、上の階で気になる集団がいた。

M・I・Oと書かれた垂れ幕を下げ楽しそうに談笑している10人ほどの男女。

 

「エム、アイ、オー・・・みお・・・ああ、本田さんか?すごいな、もうあんなにファンがいるのか」

 

「ん、どこ?・・・いや、あれは同級生なんじゃないのか?ほら、同じ制服着てる人が何人かいるし」

 

俺の呟きに奈緒が答えてくれた。

となると、どこかに凛や島村さんの同級生もいるのかもな。

 

改めてライブ前の広場を見渡す。

先程より何人かはライブ開始を待っているように見えるが、それでもまだ通り過ぎていく人の方が多い。

 

そして逆に舞台上で設置作業をしている人たちが減っている。

時計を見るともうすぐ開始時間だということがわかった。

 

「そろそろ始まる時間だが観客が少ないな。皆ギリギリに来るのか?」

 

「そういえばそうだね。じゃあその辺のところを解説よろしく、奈緒♪」

 

「勝手にあたしを解説役にするな!まったくもう・・・えっと、もしかして2人ともこの前の美嘉たちのライブみたいなイメージしてない?」

 

「違うのか?」

 

同じ346のアイドルのライブだ。

冬のライブの時も同様だったのだから、今回もそれなりに賑わうのかと思っているんだが、奈緒の答えはどうやら違うらしい。

 

加蓮は奈緒を見て首をかしげている。考えていることは俺と同じようなものなのだろう。

俺たちの反応を見た奈緒は腰に手を当てため息をついて話を始めた。

 

「あのライブと今回のライブは全然違うんだぞ。

美嘉を含めHappy Princess Liveのメンバーは346だけじゃなく全国的にもかなり有名なアイドルのライブなんだ。

だから宣伝は大規模だし人も集まってチケットも売り切れる。逆に2人に聞くけどさ、全く知らないアイドルのライブの宣伝見て絶対行きたいって思うか?」

 

「あー・・・そう言われるとそうかも。へぇ、ここでこの子たちライブやるんだ、って思うくらい?」

 

「俺もライブには興味出てきてはいるが、それは知っているアイドルがいるからだな」

 

「だろ?宣伝に対しての反応は新人と有名人じゃ全然違うんだよ。

とはいえ、ここでやる意味は十分にあるかもな。さっきこの噴水広場は登竜門って言ったけど、全員がここでライブ出来るわけじゃない。

new generationsは最近雑誌で目にしたし、それなりに期待されてるんだろうな。もしくは宣伝者の実力?」

 

奈緒の答えは納得するものばかりだった。

つまりプロデューサーさんの実力が本物で、プロジェクトにはそれだけ力を入れているということだ。

そう考えると前川さんや李衣菜たちのデビューも楽しみになってくる。

 

前川さんの目指す可愛いアイドル、李衣菜が目指すロックなアイドル。一体どういうものになるのだろうか。

 

「なるほどね。さっすが奈緒。奈緒って何でも知ってるよね」

 

「何でもは知らないぞ。知ってることだけだ。(くぅぅ!まさかこのセリフを実際に言える日が来るなんて!)」

 

「・・・なんでそんなに感動してるのよ」

 

「ん?」

 

奈緒と加蓮のやり取りの中、突然広場に青い光が照らされ音楽が変わる。

通り過ぎようとしている人も何事かと辺りを見渡していた。

 

「いよいよnew generationsライブか」

 

「だね。あれ、でもそれだけじゃないんだよね奈緒?」

 

「加蓮も少しは自分で言えよ!今日はLOVE LAIKAのデビューもあるんだよな高垣?」

 

「ラブライカ?」

 

「まさか知らなかったのか?雑誌にも一緒に載ってただろ」

 

全く知らなかったが他のアイドルのデビューもあったのか。となるとやはり同じプロジェクトのアイドルなのだろうか。

なぜだかわからないが一瞬寒気を感じた。

 

『はーい、皆さんこんにちはー!』

 

舞台袖より司会と思われる女性が駆け足で中央にやってきた。

考えても仕方ない、相手が誰か出てくればわかるはずだ。

 

今俺たちがいる場所は広場中央よりやや通路側、ステージには少し遠い位置だ。

あまり前に出すぎると凛の視界に入って邪魔になる可能性もあるが、もう少し前にいても大丈夫だろう。

 

「2人とも、少し前・・・」

 

『・・・新田美波ちゃんとアナスタシアちゃん2人のユニットLOVE LAIKAと、

本田未央ちゃん、渋谷凛ちゃん、島村卯月ちゃん3人のユニットnew generationsの2組でーす!』

 

・・・何?聞き間違いか?今、新田美波と聞こえたんだが。

 

『それではお待たせしました!LOVE LAIKAの登場です、どうぞー!』

 

「!?」

 

どうやら聞き間違いではなかったようだ。司会の紹介のあと新田さんとアーニャの2人が少し緊張した面持ちで登場する。

その白や水色の衣装に身を包んだその姿は、どこかロシアの風景を連想させた。

 

だが、まさか新田さんもデビューすることになっていたとは・・・

嬉しいことではあるが、どうやら時間が経っても中々彼女に対する苦手意識は取れないようだ。

 

「どうした紅葉?」

 

「先輩どうしたの?前行くの?」

 

「い、いや。ここにいると危険だ。もう少し後ろにいよう」

 

「危険って、お前は何と戦うつもりなんだよ」

 

「初めまして『LOVE LAIKA』です」

 

「聴いてください、私たちのデビュー曲」

 

『Memories!』

 

曲の紹介を2人同時に行い、新田さんとアーニャがそれぞれ背中合わせに向きを変えると同時に曲が流れる。

ここからは下手に動いたら迷惑がかかるかもしれない。今はただ、2人のデビュー曲に集中しよう。

 

登場時緊張していたように見えたのは気のせいだったのかもな。

今の2人はとても真剣、曲のようにクールな表情で息のあった動きを見せている。

少し懐かしい気持ちになる曲に合ったその歌声はきれいで大人びたようにも聴こえ、新田さんだけではなくアーニャももしかすると歳上なのかもしれないと感じた。

 

青と白の光が煌き、ゆっくりと力強いダンスは一度も失敗することなく続いていた。

 

「いい曲だなぁ。デビューのことは知らなかったっぽいけど、紅葉はあの2人も知ってるのか?」

 

「ああ、この前のライブの後にプロジェクトメンバー全員と自己紹介だけはした」

 

「うんうん、どうやら先輩の特訓は成功だったみたいだね。よかったね奈緒」

 

「うん・・・って、だからお前はいちいちあたしにふるな!」

 

『ありがとうございました!』

 

曲が終わり2人が挨拶すると、疎らではあるが観ていた人たちから拍手があがる。

奈緒も加蓮も笑顔で拍手をしており、俺も自然と手を叩いていた。

 

「スパシーバ!」

 

「ありがとうございます!」

 

その反応がよほど嬉しかったのか、2人は目に涙を浮かべ観客に手を振って喜びを表していた。

 

「!?」

 

新田さんが上の階の人たちへ手を振ったあとにもう一度同じ階の広場へと目を向ける。

その時に目が合った気がした。

だが今は恐怖を忘れこちらもこのライブへの感謝を表現するべきだと思ったので、拍手を続けると同時に頷きで表す。

 

「(ありがとう)」

 

恐らく俺に向けた新田さんの声に出さない口だけの動きがそういった気がした。

その笑顔はとても穏やかで優しく、今までの恐怖を本当の意味で忘れさせるには十分なものだった。

 

続く!




今回ちょっとしたことですが活動報告も出しました。
作品同様コメントもお待ちしています。


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紅葉くんと"new generations"そして・・・

前回からの投稿の早さに自分で驚いています。

今回オリキャラが出るのでタグにも入れておきますね。
コメント下さった方には感謝です。

ここもまたアニメと違う部分がいくつかあるので注意を。

それと以前投稿した人物紹介ですが、一部内容が変わってきたのでその部分消そうと思います。


紅葉くんとデビューアイドル2

 

 

新田さんとアーニャの素晴らしいライブが終わり、2人が舞台から去っていく。

すると青と白のライトに照らされた広場が一瞬のうちにピンク、オレンジ、青の3色のカラフルな色に変わった。

 

これは3人のイメージでもあるのだろうか?となると、凛は青色なのではと思う。

今彼女はどんな気持ちで自分たちの番を待っているのか、そんなことを考えながらカーテンに隠された舞台袖に視線が行く。

 

「先輩、いよいよだね。アタシちょっと緊張してきたかも」

 

「そうだな」

 

舞台袖から視線を外さないまま一言答える。

加蓮の方を見なくても言葉から表情が硬くなっていることがわかる。

 

あの美嘉のバックダンサーで初めてにも関わらず素晴らしいパフォーマンスを見せてくれた凛と島村さん、本田さんの3人だ。

自分たちのデビュー曲となれば、あの時以上に練習し魅力的な舞台にしてくれることは間違いない。

 

俺も加蓮と同様に、期待ともしどこかで失敗したらという若干の不安で緊張してきたようだ。

 

『では続いて、new generationsの登場です。どうぞー!』

 

先ほどの2人同様、司会の紹介の後舞台袖のカーテンが開き凛たちが現れる。

本田さんを先頭に駆け足でやって来た3人。その表情は新田さんたち以上に緊張しているように感じられた。

 

そしてしばし静寂が訪れる。

曲も始まる気配はないし一体どうしたのか。特に中央に位置する本田さんの様子がおかしい。セリフでも飛んだか?

 

確か凛の話では本田さんがユニットのリーダーということだ。ならば先ほどのLOVE LAIKA同様本田さんからまずユニットの紹介があるのかと思ったのだが。

 

「み、未央?」

 

「未央ちゃん?」

 

小さな声ではあったが凛と島村さんの声が聞こえた。

その声に反応した本田さんが我に帰ったように正面を向き言葉を発する。

 

「は、初めまして・・・new generationsです」

 

「私たち3人のデビュー曲をぜひ聴いてください」

 

「曲名は、せーの『できたてEvo! Revo! Generation!』」

 

本田さんの後に島村さん、凛と続き、曲名を一斉に紹介するがその声のトーンがバラバラだったために息が合った紹介には聞こえてこなかった。

思った以上に緊張しているようだが、3人の調子とは関係なしに曲は始まっていく。

 

LOVE LAIKAのクールなイメージの曲とは違い、出だしから元気が出るような明るい曲調だ。

3色の光が飛び交い、舞台後ろの柱もそれに合わせて光っていく。

 

前奏から楽しませてくれるいい曲なのだと思い、3人もそれぞれ笑顔で歌い始めると思ったんだが・・・

 

「・・・・・・・・・」

 

依然として3人の様子がおかしい。表情がバラバラ、歌声も動きもバラバラだ。

 

本田さんは俺たち観客の方をあまり見ずにやや下を向いたまま一番小さい声で歌っている様に聞こえてくる。

こちらを見ないことが悪いことだとは思わないし、そういう演出があってもおかしくはないが敢て見ないようにしているように感じる。

 

逆に凛は真剣な表情で一番よく声が通っている。

が、素人の俺が言うことじゃないかもしれないが良い意味ではないな。

 

その目の鋭さは必死にも捉えられ、楽しんでいるようには感じられずこちらも力が入ってしまいそうな気になる。

声が大きく歌声は素晴らしいものではあるが、無理をしすぎているのかたまにうわずり余計に目立つ部分があった。

動きも一番大きく見せているが少し硬い。

電話していたとき同じような必死さが伝わってきたが、その時に理由を聞くべきだったのだろうか・・・

 

その対照的な2人に頑張って合わせようとしているのだろう。

島村さんはちらちらと本田さん、凛を見ながら困ったような表情で歌と踊りを続けている。

一番安定しているようには見えるが、2人を気にしすぎていてたまにステップでバランスを崩しそうになる場面があった。

 

「・・・帰る」

 

「ん?」

 

「お、おい加蓮?」

 

隣にいた加蓮が急に舞台から背を向けた。

突然のことに奈緒と顔を見合わせ声をかけたが、加蓮は振り返らず歩き続ける。

 

「アタシが見たかったのは、憧れていたのはこんな世界じゃない。あんな渋谷さんじゃない!」

 

「ちょ、加蓮!悪い紅葉、あたしは加蓮を追いかけるよ!」

 

「あ、ああ。頼んだぞ」

 

加蓮が突然走り出し慌てた奈緒が追いかける。

俺もその行動が気になるところではあるが、凛のことも心配だ。

今は奈緒に任せて最後までこのライブを見守ろう。

 

 

そして数分後、ひらひらと紙吹雪が舞う中曲が終わり、凛たちのデビューライブは幕を閉じた。

 

島村さん、凛の順に感謝の気持ちを述べ、片膝をついて最後のポーズを取っていた本田さんが立ち上がる。

そしてその様子は始まる時以上におかしく呆然としている、とても以前のライブの時のような笑顔ができる雰囲気ではなさそうだ。

 

もしかすると体調がよくなかったのかもしれない。

そして本田さんを心配して2人は集中できなかった・・・ということなのか?

 

「new generations、これからもよろしくお願いします」

 

「よろしくお願いします!」

 

舞台前方では十数人が集まっており、その人たちの拍手が続く中で凛と島村さんが最後に挨拶をする。

 

声をかけることはさすがに出来ないが、ちゃんと見に来たことを知らせる必要があるな。

そう思いやや後方にいた俺は拍手をしながら前へと移動する。

 

「あ・・・」

 

凛が俺に気づいたようだ。だがその表情は険しくなりなぜか目をそらす。

同時に上の階から本田さんへの声援が聞こえてきた。

なるほど、ライブ終了後なら声をかけても良さそうか?

 

「り・・・」

 

意を決して凛になにか一言送ろうともう1歩踏み出す。

が、声援を聞いた本田さんと一緒に凛も俺を見ることなく・・・いや、目をそらして舞台から早歩きで去っていった。

 

「未央ちゃん!凛ちゃん!」

 

残された島村さんは最後にもう1度観客にお辞儀をし、俺の方に少し困ったような笑顔を見せ2人を追って舞台を去った。

 

「これがアイドルのデビューライブか・・・」

 

観客が次々その場からいなくなるのを余所に、俺自身も何とも言えぬ感情のまましばらく舞台を見つめ立ち尽くしていた。

 

 

 

奈緒と加蓮の運命の日

 

 

加蓮のやつ、急にどうしたんだ?

 

4月からの短い付き合いではあるけど、それなりにあいつのことはわかってきたつもりだ。

いつもはふざけあったりからかわれたりして笑ったり困ったり・・・でもあんな表情は初めてだよな。

 

館内は人が多かったせいもあって走り去った加蓮に中々追いつけずにいた。

でも外は広く人通りも思ったより多くない。

息を整えながら辺りを見渡し、加蓮の居場所を探した。

 

「・・・いた!」

 

あいつ、あんなに足速かったか?

体力もそこまで続くとは思えなかったんだけど、紅葉のお弁当効果なのかな。

やっぱうらやま・・・って、今はそんな場合じゃない!

 

どうやら加蓮はまっすぐ駅に向かっているみたいだ。ってことは本気でこのまま帰るつもりなんだろうな。

けど残念だったな。いくら体力がついてきたといってもあたしに勝てるもんか!運動にはそこそこ自信あるんだ。

 

「どうぞ~」

 

「あ、はい。どうも」

 

「おねがいしまーす」

 

「は、はぁ・・・」

 

・・・なんだよこれ。

こっちは急いでるってのにティッシュ配りにやたらと遭遇する。

走ってるんだから察しろよティッシュマン。素直に受け取るあたしもあたしだけど!

 

くっそう、走って止まってを繰り返してるから余計疲れてきた。

気が付けば加蓮を見失い、携帯に連絡しても全然繋がらない。

 

とりあえず駅を目指し改めて走る。もう声をかけられても無視だ無視。

ごめんなティッシュマン、アンタたちに罪はないけど許してくれ。あたしのバッグはもうティッシュでいっぱいなんだ。

 

などと考えてるうちに駅前の交差点へとたどり着いた。

これ以上先にいたらもう駅の中か?っていた!加蓮だ。

 

「おーい、加蓮!」

 

「あ、奈緒。どうしたの?」

 

どうしたの?じゃないだろ!誰のせいでこんなに・・・よく見たら加蓮の顔色はあまりよくなくかなり汗をかいてる。

ほらみろ、やっぱり無理してたんじゃないか。でも何故か表情は落ち着いてるな。

 

「お、そっちの子もそこはかとなく良い感じだね!2人は友達?」

 

「は?な、なんだよアンタ」

 

加蓮に意識がいっていたせいでその前にいる男性に気付かなかった。

身長は紅葉と同じかやや低く、灰色の髪に少しかかっている赤い瞳が値踏みするかのようにこちらを見ている。

っていうか、今の絶対褒めてないだろ!

 

はっきり言って物凄くあやしい。

こいつもしかして加蓮をナンパしてるのか?

だったらちょっと怖いけど先輩としてちゃんと守ってやらないとな!

 

「悪いけど人待たせてるから他あたってくれ。ほら、いくぞ加蓮」

 

「あ、待ってよ奈緒違うってば」

 

「へ?」

 

加蓮の手を取って相手の次の言葉を待たずに戻ろうかと思ったんだけど、加蓮が踏ん張って進めなかった。

違うってどういうことなんだろう。

 

「ねぇ、さっきの名刺奈緒にも渡してくれない?」

 

「おっけー。じゃ、これどうぞ」

 

あやしいスーツの男が懐から白い紙を取り出しあたしによこした。

確かに名刺のようだけど、その内容に驚く。

 

「346プロダクションアイドル部門プロデューサー。鈴科行道(すずしなゆきみち)・・・はぁ!?」

 

何で346のプロデューサーがこんなとこで加蓮と話をしてるんだ!?

しかも鈴科って確か聞いたことあるぞ。

 

「もしかして・・・美嘉のプロデューサーか?」

 

「お、ウチのアイドルだけじゃなく俺のことまで知ってるなんてな。有名になったもんだ」

 

「いや、美嘉から聞いたことあるだけだ。自分のプロデューサーは見た目あやしいけど腕は確かだって」

 

「あやしいって・・・俺って美嘉ちゃんからそんな風に思われてたのかよ。ショックだ」

 

「で、そのプロデューサーが加蓮に何のようだよ」

 

「アタシ今スカウトされたみたい」

 

「スカウトぉ!?」

 

とんでもないことをあっさりと、笑顔で言う加蓮。

広場でのあの表情は一体どこに行ったんだよ。あたしの心配を返せ!

 

「あれ、そういえば2人とも美嘉ちゃんの知り合い?」

 

「うん。アタシは学校の後輩で、奈緒は同じクラスの友達だよ」

 

「へぇ、そりゃまた出来すぎた偶然だ。それでどう?今すぐ返事はしなくていいけど」

 

「うん・・・ちょっと待ってね」

 

そう言って汗を拭き息を整える加蓮。

そして最後に深呼吸をして私と向かい合う。

その目は、今までにないくらい真剣だった。

 

「奈緒、さっきは勝手に帰っちゃってごめん」

 

「え、いや、うん。別にいいけどさ」

 

「前にちょっと話したよね?アタシが渋谷さんと同じ中学だったって」

 

「あー、うん。そういえば聞いた」

 

それ以外の詳しいことは聞いてないけどな。

あの時はそれどころじゃなかったし。

 

「渋谷さんがアイドルにスカウトされたって聞いて、何となく納得したの。

アタシとは違うんだ~って。でもね、同時にちょっと悔しかった。

だから体力つけて、トレーニングをしっかりして、いつか見返してやるんだって思ってた」

 

「そうだったのか」

 

「ふふっ。昔のアタシならすぐに諦めてただろうな。こんなに毎日が楽しく思えるようになったのは奈緒と先輩のおかげだよ」

 

「お、おう・・・そんなこと正面から言われると照れるな」

 

いつものあたしをからかっている加蓮と違うからどう対応していいか分からずに困る。

これって変なフラグじゃないよな。

 

「トレーニングするにも目標がないとダメでしょ?だから渋谷さんを目標にしてたの。今日はそんな目標がどんなデビューをするか見に来た。

なのにあれは何?あれがアタシの目標?ふざけないで!アタシの目指すアイドル渋谷凛はあんな情けない姿なんかじゃない!

何があったか知らないけど、あれじゃ先輩はもちろん誰も笑顔にできない!」

 

「お、落ち着けって加蓮!」

 

「はぁ・・・はぁ・・・けほっけほっ。そんなこと考えて走ってたら、タイミングよくこの人に声かけられたの。だから、アタシはなるよ。アイドルに」

 

「え?」

 

「渋谷さんよりももっとすごいアイドルになって、逆に目標にさせてみせる。それで彼女よりも・・・ううん、楓さんよりも有名になって紅葉先輩を笑顔にしてみせる!それが今アタシに出来る一番のお礼だと思うから」

 

「加蓮、お前そこまで考えて・・・」

 

「というわけで、なーおー♪一緒にアイドルしよう?」

 

「なっ!な、なななななぁぁ!?」

 

何を言ってるんだコイツは。あたしなんかがアイドルになれるわけないだろ!

 

「あ、何言ってるんだって顔してる。奈緒は可愛いんだし問題ないよ」

 

勝手に心を読むな!そして可愛いとか言うな~~!

 

「ねえプロデューサーさん。奈緒も一緒で問題ないでしょ?」

 

「おう、全然問題ないぞ。奈緒ちゃんも可愛いし絶対アイドルになれる!」

 

「や~め~ろ~よ~!」

 

こうしてあたしの意見を全く聞かない2人のせいで、次々と話が進んでいった。

なんで両親も止めないんだよ!

こんなこと紅葉にどう説明したらいいんだ。誰か教えてくれ!

 

続く!

 

 




後半ちょっと雑な感じになったような気も・・・
こういうスカウトになるとは最初は考えていませんでした。

オリキャラプロデューサーのイメージと声は明るい一方通行風だと思っていただければ。
あくまで風です。


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紅葉くん、デビューライブの裏側を知る

今回も少しアニメ6話をなぞる形になりますが、少し違った視点からになっているかなと。

早見さんデレステニコ生出演!やったね!
松井さんとの絡みも待ち望んでいたんです!


紅葉くんとデビューアイドル3

 

 

夜、家に着いた俺は凛に電話をかけてみた。

今回は終わったあと挨拶へ向かう・・・などということは当然できないため、電話で凛へデビューの感想や本田さんの調子などを聞こうと思ったからだ。

 

「・・・やっぱり出ないな」

 

だが何度かけても繋がらない。

打ち上げをするにしても高校生があまり遅くまで外出するということはないだろう。

一番可能性が高いのは、疲労で帰ってすぐに眠ったというところか。

 

ちなみにライブが終わったあと奈緒へ加蓮の状況確認の連絡を取ったがこちらも繋がらなかった。

 

が、しばらくして奈緒と加蓮両方からメールでこのまま帰宅するという報告と、

加蓮からは謝罪の文章も送られてきた。

 

あの場を立ち去った理由は今度直接会って話すということだったので、

加蓮のことはその時にわかるだろう。

 

「デビューライブ・・・色々あったな」

 

今まで体験したライブの中では約10分という一番短い時間ではあったが、

変わったことばかり起こったので心の中がいまいちすっきりしない。

いや、驚きはしたが新田さんたちのライブに関してはとても素晴らしいものだった。

 

「そうか、一応聞いてみよう」

 

やはり凛たちのことが気になったのでもう1人心当たりに連絡を入れる。

さすがに何度も多忙なプロデューサーさんに私用で連絡するわけにもいかないし、

姉さんは今回全く関わっていないはず。

ならば他に事情を知ってる可能性がある人物は・・・

 

『も、もしもし!た、高垣くん?』

 

「ああ、美嘉。夜遅くすまない」

 

美嘉ならば以前の関係でまだ3人と繋がりがあるだろう。

当事者と同じとはいかないだろうが、もしかすると何かしら相談を受けていたかもしれないからな。

 

『ううん、ぜんぜんだいじょーぶ★って、こら莉嘉!』

 

「ん?莉嘉もいるのか。いや、家だったら当たり前か」

 

『う、うん。ごめんちょっとまってね今部屋に戻るから』

 

「ああ」

 

電話越しに2人の声が聞こえてくる。

何やら言い争っているようにも聞こえるんだが、間が悪い時に電話をしてしまったか?

 

『ほんとにもう莉嘉は・・・高垣くんお待たせ★』

 

「忙しいようならやめておくが」

 

『ち、違うの!莉嘉が電話の相手が高垣くんだって知ってからかってきただけなの!』

 

「そうか」

 

なぜ相手が俺だとからかわれるのか。

莉嘉はまだ勘違いしてるのか?

 

だがどちらにせよ夜遅くに電話をしたことには変わりない。

用件を早く伝えるべきだ。

 

「new generationsの件なんだが、今日がデビューライブということは知っていたか?」

 

『・・・・・・・・・』

 

「美嘉?」

 

『・・・はっ!?そ、そっかそっか★そっちの話ね!』

 

「大丈夫か?」

 

『ゼンゼンダイジョウブ★色んな考えを頭で整理してただけだから』

 

一瞬話し方が先月までと同じように感じたんだが。

 

美嘉とは徐々に普通に話せるようになっては来たが、

それでもまだ美嘉は他の男子を含めたクラスメートに対してよりも、

俺と話すときにどこかぎこちなさを感じる。

 

『えっと、ニュージェネのことならだいたいわかるよ。アタシあの場にいたし』

 

「そうだったのか」

 

『うん。でね、えっと・・・』

 

「関係者以外に話せないことなら無理しなくていいぞ」

 

『そうじゃないんだ。あー、あまり口外する話じゃないのは確かだけど誰かに聞いて欲しかった部分もあるんだ。

愚痴も含むかもしれないけど・・・聞いてくれる?』

 

「ああ、教えてくれ」

 

美嘉の話によると、舞台裏にはプロジェクトメンバーの何人かも応援に来ていたという。

そのメンバーを激励し、ライブの終わった凛たちを通路で見つけて労いの言葉をかけようと思ったらしいのだが。

 

『未央と凛がこっちも見ないでまるで逃げるように楽屋へ向かっちゃって。卯月も何が起こったかわからない様子だったの。

それでプロデューサーが2人を追いかけたんだけど・・・』

 

「確かに2人、特に本田さんの様子がおかしかったのはライブを観てた俺も感じていた。体調が悪いのではと思ってたんだが」

 

『ううん、それはないよ。本番直前までは物凄いやる気だったし。その理由はプロデューサーとの会話でわかったんだ・・・けど』

 

「美嘉?」

 

美嘉の声が急に小さくなる。

どう言えばいいのかを俺に聞こえるか聞こえないかの声で整理しているようだった。

 

『・・・未央が辞めるのアタシも関係するかも』

 

「辞める?アイドルをか?」

 

なぜそんなことになったのか、そして美嘉がその原因になるのか。

その理由を美嘉は途切れ途切れにゆっくりと話す。

 

どうやら本田さんは以前にバックダンサーをしたライブと同規模の観客を予想していたようだ。

そして期待に胸をふくらませライブへ望んだ結果、その期待が大きく外れアイドルを辞めるという発言をするに至る・・・ようだが。

 

「美嘉は悪くないだろう。お前は3人のことを思って、何かしらの可能性を見出してバックダンサーに選んだんだろう?」

 

『そうだけど・・・』

 

「誰かがお前に何か言ったのか?」

 

『・・・言ってない』

 

「だろうな。むしろ感謝している可能性がある。あの舞台があったこらこそ3人の、プロジェクトのデビューがここまで早くなったんじゃないだろうか」

 

『それはわかんないよ』

 

いつもの元気な美嘉と違い、弱々しく、ネガティブな考えが頭から離れないようだ。

周りが本田さんたち3人に意識が向いている中、自分のことは誰にも言えなかった可能性がある。

 

いや、プロとして、先輩としてもいつも通りふるまっていたんだろう。

仮に俺が今日のライブ以外の用件で電話をした場合もいつも通りだったはずだ。

 

俺にできることは尊敬する友人城ヶ崎美嘉の味方で有り続けることくらいだな。

 

「俺に発言力があるわけじゃないが言わせてもらう。本田さんの件は美嘉のせいじゃない。

他の誰かが何か言っても気にするな。どんなことがあっても俺はお前の味方だ」

 

『・・・高垣くん!うん、ありがと★』

 

「そのあとのプロデューサーさんの対応はどうだったんだ?」

 

『あ、うん。今日の結果は当然だって。それで未央が・・・』

 

「辞めると言いだしたのか?』

 

『うん・・・』

 

「俺も聞いただけだから詳しくはないが、デビューアイドルのライブの観客数はあれが普通なんだろう?

認知度も高いわけじゃないだろうし、プロデューサーさんの言ってることは間違いないと思うんだが」

 

『そうなんだけど、未央は言葉の意味を勘違いしてるっぽいんだ。自分がリーダーだったからお客さんが集まらなくてライブが失敗したって』

 

「そんなことあるはずないだろう。それでプロデューサーさんと本田さんは?」

 

『・・・それだけ。未央はすぐ帰っちゃって連絡もつかないみたい』

 

「・・・・・・・・・」

 

これは想像以上に深刻な事態になっているようだ。

凛だけじゃなく本田さんまで連絡がつかないとは。

 

ん?凛はそのあとどうなったんだ。

 

「本田さんの状況はわかったが、凛の方はどうなんだ?本田さんと一緒にいてプロデューサーさんとのやり取りも聞いていたんだろう?」

 

『たぶん、ね』

 

「たぶん?その場に凛はいたんだよな?」

 

『うん。未央と一緒にプロデューサーに呼び止められて立ち止まったけど、うつむいたままで何も喋ってなかったんだ。

走って行っちゃったあとはそのままゆっくり楽屋に向かってた。で、卯月と一緒に帰ったみたいだけど全く話をしなかったみたい』

 

何も話さないのであればそうなった理由を誰もわからないか。

だが凛も本田さん同様ライブ前はかなりやる気だったはずだ。

それはライブの日を教えてくれた時の声が証明している。

 

『でね、凛のことなんだけど・・・高垣くん何かあった?』

 

「俺と?」

 

『前に346のカフェで立てこもりがあったじゃん?高垣くんそこにいたんだよね」

 

「ああ、凛に呼ばれて行ったぞ。姉さんも野次馬の中にいたな」

 

『卯月が言うには、そのあとからちょっと様子がおかしかったみたい。怖いくらい真剣にレッスンしてたって』

 

「・・・・・・・・・」

 

あの時凛と何かあったか?

場所を案内されてそのあと会っていないような・・・

 

自分の記憶を少しずつ辿ってみる。

確かに何か引っかかる。あれからどうしたんだったか。

 

『凛ってさ、アタシも会って間もないからそこまでわかってるわけじゃないけど。

ニュージェネ3人の中では一番クールだけど、心の中にある情熱っていうのかな。表に出さない部分も一番熱いと思うんだ。

今日のダンス見てて思ったんだけど、そういう内側の部分が表に出た感じ?』

 

美嘉の言葉の意味を俺もなんとなく理解できる。

よくよく考えると凛が何かを決意して俺に告げる時、その目はいつも真剣で想いが伝わってくるようだった。

 

目・・・真剣・・・そういえば前川さんの一件に帰ろうとした時、凛と話をしたんだった。

そして俺は凛の目を全く見ずに返事をしていた。

 

『私、CDデビュー決まったんだ。卯月と未央と一緒に』

 

『そうか』

 

『うん、それで今度ライブもやることになってさ。紅葉も観に来てくれる?』

 

『・・・ああ、楽しみにしてる』

 

まさか・・・

 

「島村さんの考えは正しいかもしれないな。あの日から変わったというなら俺が原因の可能性が高い」

 

『え、ほんとに!?一体何があったの?』

 

「前川さんの件で何とも言えない感情になってしまってな。凛ともまともに顔を合わせられなかった。

あの時俺自身がどんな顔をしていたか、それを知ってるのは凛だけだ」

 

『(それは見てみたかったよ!)』

 

「凛は初めて会った頃にプロデューサーさんに、自分が皆を笑顔にできるのかどうか質問していた。

だから2番目のファンである俺の表情を見て、何とかしようと思ったんじゃないだろうか」

 

『確かに・・・あの子真面目っぽいし、考えたら一直線って感じがする』

 

「美嘉、明日346プロで凛に会えるか?来るかどうかわからないが、もし来たなら伝言を頼みたいんだ」

 

『あー・・・ごめん高垣くん!明日うちの部署に新人になる予定の2人が挨拶に来るらしくってさ。アタシも顔合わせに参加しなくちゃダメなんだ』

 

「そうか。いや、こっちこそすまない。色々聞いた上に無理を言った」

 

『そんな、アタシに出来ることならいつでも協力するって★

まったく、うちのプロデューサーは!相変わらず思いつきでスカウトするんだから』

 

ただいま~!

紅くん、お姉ちゃんが帰ってきたわよ~!

 

「(姉さん、少し酔ってるな・・・)美嘉のお陰で状況はわかった。凛と本田さんのことは外側から出来ることはやってみる」

 

『うん、ありがとう』

 

「時間も時間だし、これから姉さんの介護があるからこの件はここで終わりにしよう」

 

『介護って楓さん・・・わかった、じゃあね高垣くん、おやすみなさい★』

 

「ああ、おやすみ」

 

とは言え、どこから手をつければいいのか。

凛と連絡がつかなければどうしようもないし、当然住所がわからないから直接行くことも不可能だ。

 

そんな考えはお構いなしに、姉さんが俺を探す声が聞こえてくる。

リビングにいないなら自室にいることくらいわかってるはずなんだが。

 

そうか、この件なら姉さんにも頼めるな。

迷惑をかけるのは重々承知だが、あまり時間をかけるのも良くない。

出来るなら早めに解決するべきだ。

 

「おかえり姉さん」

 

「ただいま紅くん、部屋にいたのね♪」

 

笑顔で両手を前に出し、恐らく抱きついてくるために少しずつ近寄ってくる姉さん。

その姉さん同様俺も両手を出し、抱きつきを防ぐために顔を抑えながら話しかける。

 

「紅くん、前が見えないんだけど・・・」

 

「姉さん、相談があるんだ」

 

続く!

 

 

 




美嘉のところに新人アイドル!?
一体誰が・・・


この作品動画でも出してますが、普通ノベル系動画って何分くらいが見やすいのか。
探りながらやっております。


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紅葉くんの知らないところでアイドル達は出会う

もっと簡潔にして次々進める予定だったのにどうしていつも・・・

今回は卯月視点と凛視点になっています。
見づらいかもしれませんがご了承ください。

それと仮ではありますが、
後書きに楓さんとはぁとのユニットの曲の歌詞を1番だけ作って書いてみました。

オリジナルなら歌詞載せても大丈夫なはず!



side 卯月

 

みなさん、こんにちは!

new generationsの島村卯月です!

 

えへへ♪そうなんです。

ついに夢に見たアイドルデビューです!

 

私と凛ちゃん、未央ちゃんの3人のユニットnew generations。

初舞台としてサンセットシティの噴水広場でデビュー曲、

できたてEvo! Revo! Generation!を歌わせてもらえることになりました。

 

精一杯頑張りますので楽しみにしていてくださいね。

 

 

・・・そうラジオで告げて私たちは本番に臨みました。

 

凛ちゃんはレッスンの途中からものすごいやる気が伝わってきて、

未央ちゃんも持ち前の運動神経でダンスの上達がとても早かったんです。

 

私も2人に負けないよう、毎日たくさん練習しました。

 

 

結果は・・・はい。デビューできたことはとても嬉しかったんです。

でも、初めてのライブが終わったあとの気持ちは少しモヤモヤしてしまいました。

 

 

次の日、つまり今日です。

プロジェクトルームへ行くと、そこにいたのは俯いた凛ちゃんだけでした。

声をかけても反応が少なく、落ち込んでいるようにも感じました。

 

そして未央ちゃんは時間になっても現れません。

まさか本当に昨日言ったようにアイドルを辞めてしまうんでしょうか。

 

しばらくするとプロデューサーさんが部屋へとやって来ました。

思い切って未央ちゃんの家へ行ってみようと提案しましたが、プロデューサーさんは自分に任せて欲しいと言うばかりでした。

 

その間も凛ちゃんはずっと黙ったままで、そのままレッスンの時間になってしまいました。

 

昨日のお昼までは3人でお喋りしたり笑ったりだったのに、どうしてこうなってしまったのでしょう。

私の頑張りが足りなかったのかな・・・

 

 

そんなことを考えていたからでしょうか。

レッスン中急に頭がぼーっとしてきて、凛ちゃんも足がもつれて転んじゃって・・・

 

そして周りの雰囲気が暗くなった時、レッスンルームの扉が開いたんです。

 

 

side 凛

 

 

「凛ちゃん!?」

 

「渋谷さん大丈夫?」

 

卯月とトレーナーさんの声が聞こえ自分を見ると、レッスンルームで倒れているのに気づく。

 

卯月?トレーナーさん?

・・・あれ、私いつここに来たんだっけ?

 

我に返ると昨日のことを鮮明に思い出す。

それは同時に紅葉のあの顔を思い出したということだ。

 

デビューライブの私の結果は散々だった。

プロデューサーが未央に言った当然だという言葉。

あれは私にも当てはまる。

ううん、一番の原因は私だ。

 

ダンスは力任せ、歌は2人を無視したただ大きいだけの声。

 

あんなはずじゃなかったのに・・・

もっと上手くやれたはずなのに・・・

 

紅葉にみくたちのあの一件の時みたいな顔をさせないよう、

笑顔でいられるよう頑張ろうと思ったのに、ライブの後の紅葉は逆に私を心配するような顔をしてた。

 

あの時紅葉に何て言われるか待つのが怖くてその場を逃げ出してしまった。

何度も鳴った携帯も怖くて取ることができなかった。

 

私ってこんなに臆病だった?

アイドルになって自分が輝く何かを掴めそうな気がしたけど、それがまた遠くなった気がする。

 

「失礼します」

 

卯月たちが心配そうに私を見る中、部屋の扉が開き声が聞こえた。

それは私が知ってる声、そして今2番目に会いたくない人だった。

 

「・・・楓さん」

 

そう、入ってきたのは346のトップアイドルであり、紅葉の実の姉の高垣楓。

いきなりの登場にトレーナーさんを含めたこの場にいるプロジェクトメンバー全員が沈黙した。

 

「レッスン中に邪魔をしてごめんなさい。皆さんとは以前1度会ったとは思うけど自己紹介がまだだったわね。

改めて初めまして、高垣楓です。同じ事務所のアイドル同士よろしくお願いします」

 

自己紹介をした楓さんは丁寧にお辞儀をし、数秒そのままの姿勢を保ったあとゆっくりと顔を上げ笑顔で私たちを見た。

 

その姿はとても様になっていて、同性の私ですら見惚れてしまうほど。

それは他の皆も同じだったみたいでさらに沈黙が続き、挨拶をした楓さんがちょっと困ってる。

 

「ま、前川みくにゃ!弟さんは学校の先輩で、とても良くしてもらってるにゃ!」

 

「みくちゃん急にどうしたの?」

 

みくが突然楓さんに飛びかかりそうな勢いで自己紹介を始めてる。

慌てた李衣菜が止めに入ったけど、なんか最近この2人仲いいよね。

 

それにしても紅葉の学校ってどれだけアイドルがいるんだろう。

 

「李衣菜ちゃんこの前のライブのこと忘れたの?楓さんにみくのこと覚えてもらえたらデビューできるかもしれないにゃ!」

 

「ええ・・・それはどうかな」

 

「み、みくちゃんね。弟にもう1人知り合いの後輩がいたのには驚いたけど、ごめんなさい。

今は心さんとのユニットのことでいっぱいで・・・」

 

「うぅ・・・でもみくは負けないもん!」

 

ストライキの一件以来、みくのやる気はますます磨きがかかったみたい。

うなだれながら窓際に戻るみくと李衣菜。

そして話をしていた楓さんの視線はみくたちから私の方へ向けられた。

 

「凛ちゃん、少しいいかしら?」

 

「私、ですか?」

 

何となくそんな予感はしてたけど、どうやら当たりだったみたいだね。

みく、絶対私のこと睨んでるでしょ。後ろから物凄い視線を感じるんだけど・・・

 

「ええ、お話したいことがあるの。もちろん、レッスンが終わるまで待つわよ」

 

「・・・わかりました」

 

数十分後メンバーとはその場で解散となり、私は楓さんの待つ休憩所へと向かった。

卯月は終わるまで待つって言ってくれたけど、今日は先に帰ってもらうことにした。

 

 

side 卯月

 

「楓さん、凛ちゃんに一体何の用事なのかな?」

 

調子が悪そうだった凛ちゃんでしたが、楓さんが来たら少しいつもと同じに戻っていました。

それは嬉しいことなんですが、やっぱり2人のことが気になります。

 

未央ちゃんもいないし、久しぶりに1人で歩く346のエントランスはとても大きく感じて、

行き交う知らない社員さんたちの多さもあり、少し淋しくなってきました。

 

「うわあ!見ろよ加蓮、やっぱり大きいな!」

 

「ふふっ、奈緒ったら少しはしゃぎすぎ。子供みたい」

 

そんな中、入口から聞いたことのない声が聞こえてきました。

近づいてみるとこれもまた知らない制服を着た2人の女の子。この子たちもアイドル?

 

声をかけようかどうしようか迷っていたら、大きな声を出した子と目が合いました。

 

「島村卯月さんだよね?new generationsの!」

 

「は、はい。そうです」

 

「あたしたち昨日のライブ観に行ってたんだよ。理由あって途中で帰っちゃったけど」

 

「そ、そうだったんですか」

 

目を輝かせながら話してくれる女の子は、私たちのことを知っているようでした。

デビューしたばかりなのにこんなことがあるなんてすごく嬉しいです!

 

「あ、ごめんごめん。あたしは神谷奈緒。んでこっちは・・・」

 

「初めまして島村さん。新人アイドルになる予定の、北条加蓮だよ♪」

 

「新人さん、ですか?」

 

「そ、あたしたち昨日スカウトされたばかりなんだ。これからよろしくな、先輩!」

 

「あ、あわわわ!先輩だなんてそんな!」

 

笑顔で手を差し出されて握手をしましたけど、私だってまだまだ新人なのにどう返したらいいんでしょうか!?

 

「そうだ、渋谷さんに伝えてくれる?」

 

「え?」

 

突然、北条さんが真面目な表情になり、凛ちゃんの名前を出しました。

神谷さんの方はため息をついて私同様北条さんの次の言葉を待っています。

 

「今はまだ後ろにいるけど、あなたがそのまま止まってるならすぐに追いついて追い越すから、覚悟してねって」

 

「おい、加蓮」

 

「とりあえず宣戦布告、かな。もちろん、あなたにも負ける気はないから」

 

「は、はい・・・えっと、私も頑張ります!」

 

宣戦布告という言葉は怖かったですけど、そう言った北条さんは笑顔で手を差し出しました。

なので私も精一杯の笑顔で握手をします。

なぜかはわかりませんが、この2人とは今後も色々な形で付き合っていく、そんな予感がしました・・・

 

続く!

 




Pluto
歌:プルート(高垣楓 佐藤心)


あなたに遠く暗い 小さなこの星で

目覚めた時 周りには誰もいなかった
探しても見つからない 叫んでもこだまするのは私の声だけ

恐怖に怯え 寒い夜を一人で過ごす
何度朝を迎えても 目を開けても誰もいない

ある日私は空を見上げた いつもと変わらない空のはずだった

でもその日は違ったの 見つけた・・・あなたを


私のことが見えない? ならあなたが気がつくまで力の限り踊り続けるだけよ
私の声が聴こえない? なら声が続く限り叫び歌い続けるだけよ

ようやく見つけたあなたのために私は輝いてみせるわ
あなたに遠く暗い 小さなこの星で


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特訓とか努力とか根性とか、そういうキャラじゃないんだよね

2日遅れましたが加蓮誕生日おめでとう!
そしてこの作品にも登場してるまゆ、今日の誕生日おめでとう!

というわけで、今回は加蓮視点になります。

次からは紅葉くん視点に戻る予定です。


ちなみに2章の 「成長しても紅葉くんの勘違いは止まらない」
ここのアイドルとの自己紹介ですが、ニコ動の方で全員分作ってますので興味ある方は是非。


奈緒と加蓮、アイドルの第一歩

 

 

「んじゃ、ちょっと待っててね。皆連れてくるから」

 

346プロダクションへとやって来たアタシと奈緒は、島村卯月さんに宣戦布告をしたあと受付で指定された部屋へとやってきた。

 

そこで待っていたのは昨日会った灰色の髪で少し細身のプロデューサー1人だけ。

会った時から思ってたけど、あの前髪邪魔じゃない?

隙間から見える赤い瞳のせいで余計あやしいんだけど。

 

改めて考えたら、アタシってばよくこんな人にスカウトされてOKしたよね。

確かにあの時は自分の中でムカムカやモヤモヤがぐるぐる回ってて冷静じゃなかったけど・・・

 

あ、アイドルになろうと思った理由はもう言わないよ。

自分の心の内を誰かに話すのって結構勇気いるし、恥ずかしいもん。

 

「皆って言ってたけど美嘉先輩の他にも何人かいるってことだよね。奈緒は知ってるの?」

 

そもそもアタシは奈緒や紅葉先輩とはよく行動するけど、美嘉先輩と話した記憶はほとんどないんだよね。

しかも学校で見る美嘉さんはガチガチに固まってて、まるでロボットのパントマイムをする人みたいなんだもの。

話しかけるのをちょっとためらっちゃう。

 

ま、原因は当然知ってるけどね。

 

「・・・・・・・・・」

 

「どうしたの奈緒?」

 

奈緒がまずいって顔してる。

たぶん知る知らない以前に美嘉先輩に話すの忘れてたっぽい。

昨日の今日じゃ仕方ないけど、ホント奈緒ってば思ったことが顔に出やすいんだから。

 

「美嘉先輩にスカウトのこと言ってなかったんでしょ」

 

「う・・・し、仕方ないだろ!ずっと自分の気持ちの整理で頭がいっぱいだったんだよ!」

 

ほら、思った通り。

顔真っ赤にして言い訳してる奈緒可愛い!

 

「別に責めてないってば。でもそれって逆に面白いんじゃない?もしかして、紅葉先輩がいる時みたいに真っ白な美嘉先輩が見れたりして!」

 

「お前なぁ・・・この状況でもそういうとこぶれないのは尊敬するよ」

 

 

 

「よし、さっそく自己紹介から始めてもらうとするか」

 

「全く相変わらずだよねプロデューサーは。アタシたち何も聞いてないんだけど」

 

「新しい仲間ですか!どんな人たちなのか楽しみですね!」

 

「レッスンの途中で抜け出してきたけど良かったのかな。トレーナーさん怒ってるんじゃ・・・」

 

扉の開く音が聞こえて何人かの声が次々聞こえてきた。

プロデューサーと、そのあとの声は美嘉先輩かな。

アタシたちのこと伝えてないって、あの人大丈夫なの?この先がちょっと不安になってくる。

 

扉からアタシと奈緒の座ってるソファーの位置までは通路が壁に阻まれて死角になってる。

だからお互い相手が誰なのかわからない状態なんだけど、念の為に挨拶するために立って待つことにした。

 

お待たせ、と最初に顔を出したのはプロデューサーだ。

そして次に姿を見せた相手の顔が一瞬にして驚きの表情に変わった時、思わず奈緒と顔を向き合わせて吹き出しちゃった。

 

「な、奈緒!?え、どういうこと?それに隣の子は加蓮・・・だっけ?ちょっとプロデューサー!どうなってんの!?」

 

「どうなってるって言われても、俺も驚いたんだよね」

 

予想通りの結果にアタシは満足!

2人のやり取りを見ていたあと2人のアイドルはこの前のライブにも出演してた有名な子たちだ。

いずれアタシもこの子たちと同じ舞台に立って歌やダンスを披露する。

そう考えると、少し緊張もあり楽しみでもある。

 

仕方ないなぁ、このままじゃ話が進まないし、アタシから自己紹介しますか。

奈緒は『あはは・・・』と苦笑いでどうしていいか困ってるし、先にスカウトされたアタシからやるべきだよね。

 

「お久しぶりです美嘉先輩。そして皆さん初めまして。この度、鈴科プロデューサーにアイドルとしてスカウトされた北条加蓮です。今日からよろしくお願いします」

 

「・・・う、うん。よ、よろしく」

 

親しき仲にもなんとやら。

きちんと挨拶して最後にテレビで見た楓さんの見よう見まねで丁寧にお辞儀をしてみた。

 

元の姿勢に戻ると、奈緒が『誰だコイツ?』って顔で見てる。

失礼しちゃうなもう。アタシだってやればちゃんと出来るの!

 

でも作戦は成功。

開いた口の塞がらない奈緒の顔撮っておけばよかった。

あとで紅葉先輩に見せたらお互いどんな顔をするか面白そうだったのに♪

 

「ほら奈緒、挨拶」

 

「お、おう。か、神谷奈緒です。加蓮と一緒にスカウトされました。あたしがアイドルなんてまだ信じられないけど、よろしくお願いします!」

 

ようやく落ち着いたのか納得したのか、今にもプロデューサーに掴みかかりそうだった美嘉先輩がアタシたちを交互に見て笑顔になる。

 

やっぱり学校の先輩とは違うなぁ。

何もしてないのに普通の人とはオーラっていうか雰囲気が凄い。

カリスマJKの名は伊達じゃないってことかな。

 

「そっか、2人がアイドルにねぇ。ま、アンタたちならなってもおかしくないか。これから先輩としてビシバシ指導するからよろしくね★」

 

「はい、よろしくお願いします美嘉先輩!」

 

「おう、よろしくな。美嘉セ・ン・パ・イ!」

 

「うぅ・・・やっぱり先輩禁止!」

 

アタシに続いて奈緒が追撃をかける。

恥ずかしくなった美嘉先輩を見た奈緒が小さくガッツポーズとして『勝った』って喜んでる。

うんうん、奈緒は負け続きだったからねぇ。原因はほとんどアタシだけど。

 

「おお!そういえばあなたは前に会ったことありますね!日野茜です!好きな食べものはお茶で好きな飲み物はカレーです!よろしくお願いします!!」

 

「よ、よろしくお願いします・・・ん?カレーが飲み物?」

 

「茜ちゃん、逆になってるよ。小日向美穂です。これから同じ部署同士仲良くしましょうね」

 

「ちなみに奈緒と加蓮はアタシと高校一緒なんだ。奈緒は1年の時からの友達で学校では助けられてるんだよ」

 

「ほとんど紅葉関連だろ?あれはその、まあ仕方ないって」

 

「ちょっと奈緒!高垣くんのことは今は・・・って、そういえば聞くの忘れてた。いつの間に高垣くんのこと名前で呼ぶようになったのよ」

 

「うっ・・・それは・・・色々あったんだよ」

 

アタシにとっては今更な気もするけど、やっぱり美嘉先輩も気になってたか。

しょうがない。奈緒をアシストしてあげますか。

 

「Happy Princessのライブ前に奈緒がどうしても名前で呼びたいって言ったんだよね♪」

 

「は、はぁ!?加蓮、お前何言ってるんだよ!」

 

「あれ、違った?」

 

「ちがーう!そもそも原因はお前にあるんだろ!」

 

「なーおー!一体どういうことなのよ!」

 

ありゃ、間違えて美嘉先輩をアシストしちゃった♪

でも学校でのノリになっちゃって緊張感が抜けてきちゃったかも。

これ大丈夫かな?プロデューサー怒ってたりして・・・

 

「・・・・・・・・・」

 

よかった、考え事してるみたいだけど怒ってないっぽい。

茜さんは頭にはてなマークがついたような可愛い表情で奈緒たちを見てる。

 

一方美穂さんのほうは何か思い出したように言い争ってる2人に普通に話しかけた。

あの2人に割って入れるなんてただ者じゃないよ。

 

「あ、あの。今2人が話してる人って、もしかして私たちのライブの時に楽屋に来た男の子?」

 

「うんそうだよ。高垣くんも同じクラスなんだ」

 

「やっぱり。あの人すごいなぁって感心してたんだ。あんなにたくさんのアイドルに囲まれてるのに平然としてるし、部長さんにも自分の意見をちゃんと言ってたし」

 

「そ、それは高垣くんだからとしか・・・ねえ、奈緒?」

 

「うん、あいつが緊張してる姿なんて想像できないよな」

 

やっぱり何においても先輩だから、で完結しちゃうんだよね。

実はアタシは前に一度あることを先輩に聞いたことがある。

 

先輩はアイドルと一緒だったりアタシや奈緒たちと一緒でも平然としてる。

なんていうんだろ、たまにいる同級生と同じような女の子をいやらしい目で見たり、からかってスキンシップを取っても恥ずかしがることが一切ないの。

 

そりゃ、身近に物凄くキレイな姉がいるんだから基準がおかしいとは思うよ?

でもあの反応はちょっとおかしいなって思って、最悪のことを想定したことがあったの。

 

ここはあえて濁すけど、先輩に質問したのは簡潔に『先輩、男子が好きなの?』だ。

そうしたらなんて返ってきたと思う?

 

『ん?あまり話さないけど父さんは好きだぞ』

 

だよ!?

しかも真面目な顔で答えたし。

先輩は純粋すぎる!きっとアタシの質問を全く理解してなかったんだよ!

絶対楓さんの育て方が良すぎたんだってば!

 

「やっぱりか。美嘉ちゃんたちが今話してるのって、楓さんの弟だろ?」

 

「そうだけど、プロデューサー知ってるの?」

 

「あくまで噂だけね。美穂ちゃんもあの場にいたんだよね?その紅葉くんと部長が話してるとこに」

 

「は、はい。えっと、楓さんとユニットを組むなら・・・っていうお話のことですか?」

 

先輩あの時そんな話してたんだ。

あのあと一緒にご飯行ったけど、詳しいこと全然話してくれなくて奈緒が怒ってたんだよね。

 

またいつもの話をよく聞いてない感じなのかと思ったんだけど、何かに恐怖していたような気もする。

 

「そうそう、それ。それ今実現中らしいよ。あの高垣楓が新人アイドルとユニット組むって」

 

「えぇ!?アタシそれ知らないんだけど」

 

驚いた美嘉先輩が奈緒とアタシを見る。

けど当然アタシは何も聞いてないし、それは奈緒も同じようで首をブンブン横に振ってる。

 

「・・・あ、これまだアイドルには内緒だった。ここだけの話ってことで」

 

「ちょっとプロデューサー!ここまできたらちゃんと話しなさいよ!」

 

「い、いでででで!わ、わかったから美嘉ちゃん離して!首締まる!」

 

「み、美嘉ちゃん!とりあえず落ち着こう?」

 

「タックルの練習ですか!?私もやりますよー!!」

 

「あ、茜ちゃんも落ち着いて!」

 

・・・これどうするのよ。

もしかしてこのメンバーっていつもこの調子なの?

熱血系は柄じゃないっていうか、ついていけないっていうか。

 

美穂さんだけじゃ止めるの大変だし、今後は奈緒も止める側かなぁ。

奈緒、ファイト!

 

「げほっげほ・・・あー死ぬかと思った。まだ確定の話じゃないんだし内緒なんだから本当にここだけの話にしてよ」

 

「わ、わかった。ごめんなさいプロデューサー」

 

そしてプロデューサーの話にアタシも驚いた。

先輩はいつの間にか1人アイドルにスカウトしたらしい。

 

そのアイドル、佐藤心って人が楓さんとユニットを組んでレッスンをしているそう。

 

「俺の勘だけど、上はあの2人を仕上げてサマーフェスに持ってくるんじゃない?

楓さんのこいかぜのあとにでもいきなり持って来れば皆驚くし面白い」

 

「うっそ!」

 

「ねえ奈緒先生。サマーフェスって何?そんなにすごいの?」

 

プロデューサーの話に美嘉先輩だけじゃなく、美穂さんや茜さんも言葉を失ってる。

アタシには何がすごいのか全然わからないから、アイドルに詳しい奈緒先生に聞くことにした。

 

「だからあたしは説明係じゃないっての!346のSUMMER FESTIVALは一大イベントだ。この前のライブよりもずっと大規模で、特定のグループじゃなく346のアイドルから選ばれたメンバーが総出演のライブなんだよ。去年は4時間くらいやってたって話だけど」

 

「うわすっご・・・この前のでも十分すごかったのにそれ以上なんだ」

 

そのライブに新ユニットが出ることがほぼ決まってる。

それは楓さんの実力からか、新人の潜在能力からか、はたまた紅葉先輩の発言からか・・・当然アタシたちには知るすべがない。

 

それだけでもまだ素人のアタシでさえ驚くことなのに、このプロデューサーは続けてとんでもないことを口にした。

 

「慌てなくても美嘉ちゃん、茜ちゃん、美穂ちゃんは出演させるって。今後はサマーフェスを目標に調整かけるからよろしく」

 

「はぁ!?普通この状況でいきなり言う!?アタシ7月も8月も撮影やイベントで結構埋まってるんだけど!」

 

「そんなのもちろん知ってるよ。俺が考えた企画だし。大丈夫、3人なら出来る!」

 

「くぅぅぅ!このプロデューサーはいつもいつも!」

 

「み、美嘉ちゃん。プロデューサーさんのことは諦めて私たちがんばろう?」

 

「ライブですか!燃えてきましたね!」

 

「心配しなくても、加蓮ちゃんと奈緒ちゃんも出演させるつもりだから安心してよ」

 

『ええええっ!』

 

このとんでもない発言でアタシも奈緒と同様、今まで出したことのない大きな声で叫んじゃった。

だってそうでしょ?アイドルになっていきなりその日にライブに出ろ、だよ?

まだ何もわからないのに出来るわけないじゃん。

 

「さすがにまだソロデビューもユニットデビューも未定だけどね。ほら、タケのとこの3人。美嘉ちゃんのバックダンサーやったでしょ?」

 

「う、うん。ニュージェネの3人ね。あ、まさか」

 

「そういうこと。まず2人には美嘉ちゃんのバックダンサーとして出てもらう。もちろんその前に少しずつ小さな仕事はこなしてもらうけど。

あの時よりも時間あるから十分なダンスを披露できるし、大きなステージで知名度も上がる。度胸もつくし一石三鳥?」

 

「い、いきなりライブって言われても・・・そんなの無理に決まってる!」

 

「大丈夫大丈夫。時間はまだまだあるから」

 

「うぅ・・・おい加蓮、お前もなんとか言えよ!」

 

「・・・・・・・・・」

 

当然、さっきまで奈緒と同じ意見だった。

出来るわけない、やれっこない。そんな先のことに向けて頑張るなんてアタシには無理・・・でも。

 

「やるよ、アタシ。サマーフェスに出る」

 

「加蓮!?」

 

渋谷さんたちよりも十分なダンスを披露できる。

その言葉に心が少し動いてしまった。

今はまだスタート地点で渋谷さんとの距離は遠いんだ。なら、最初の一歩は大きい方がぐっと近づける!

 

・・・こんな負けず嫌いだったなんて自分自身驚いてるし、あんまり好きじゃないけど、このチャンスは絶対掴んでみせる。

 

「いいじゃない、せっかく出してくれるって言うんだし、やれるだけやってみようよ」

 

「そ、そりゃこんなこといきなり出来るなんてすごいと思うけど・・・」

 

「奈緒がやらないならアタシ1人で先行っちゃうよ?紅葉先輩も喜んでくれるだろうなぁ」

 

「う・・・わ、わかったよ!こうなりゃヤケだ。トコトンやってやる!」

 

「うんうん。2人ともやる気なようで何より。じゃあさっそくだけどレッスンいってみようか。動きやすい服は持ってきてるよね?」

 

「ごめんね奈緒、加蓮。うちのプロデューサーいつもこうだから、早めに慣れてね」

 

「美嘉ちゃんは2人のこともよろしくね」

 

「ハイハイ、わかってますって」

 

「よろしくな美嘉先輩!」

 

「よろしくお願いします美嘉先輩」

 

「んもう~~~~!だから先輩禁止!」

 

 

 

こうしてアイドル初日は夏のライブに向けてのレッスンからスタートした。

曲はもちろん、美嘉先輩のTOKIMEKIエスカレート。

 

柔軟をして、ダンスの基礎を教わって曲のレッスンに入る。

 

でも、アタシは自分自身の考えがまだまだ甘かったと実感する。

まだまだ普通の人より体力がないのだと思い知らされる。

やっぱりアタシに努力とか練習とか、キツイのは無理。

 

30分、40分とレッスンが続く中であれほどやる気だったにも関わらず

自分の中の諦めモードが強くなっていき、気がついたときには医務室のベッドで天井を眺めていた。

 

 

続く!

 




サマーフェスは前から考えてた構想なので早くここまで進めたいですね。
作品はまだ6月。
でも6月は楓さんの誕生日!
ここの話はちゃんと作りたいです。


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1つ謎が解けて安心する紅葉くん

また遅れたけど奈緒誕生日おめでとう!

プラチナチケットの結果は安定の5等でした。
それでも石3000とガシャチケ10枚ならまあ……


とある挑戦を決める紅葉くん

 

 

夕方、夕飯の準備をしていると姉さんからの連絡が届いた。

 

内容は凛に関してのもので、『公園で待っている』とのこと。

夕飯のことは心配するなという言葉も書かれていたが、ちょうど完成したところだったので、テーブルに並べ急いで準備をして家を出た。

 

昨日、俺は姉さんに凛へどうにか話をできないかと伝言を頼んでいた。

話をするにも電話は繋がらないし、プロダクションに何度も足を運ぶわけにもいかないだろうと思ったからだ。

 

美嘉に頼むことも考えたが、昨日の話を聞く限りではプロジェクトに顔を出しにくいだろうと考えてやめることにした。

 

その美嘉だが、今日クラスで顔を合わせると思った以上に元気で安心した。

少しは俺の言葉が役に立ったのだろうか。

 

だが美嘉とは逆に奈緒の様子がおかしかった気がする。

昨日のことを聞いてみたが、『うん……』『ああ……』と力のない返事ばかり。

加蓮の方は珍しく休み時間に1度も俺たちの教室にやって来ることはなかった。

弁当が無駄になってしまったが仕方ない。明日も同じようなら一応確認に行ってみるか。

 

2人とも今までにない状況なのでまた俺が何かしたのかとも思ったが、全く心当たりがない。

……いや、ここ最近はそう思っていても俺が原因だったりするわけだが。

 

だが今はまず凛のことに集中し、1つ1つ解決していったほうがいいだろうな。

凛と話をして次は本田さんか。

せっかく島村さんを含めて本格的にデビューしたんだ。このまま終わらせるわけにはいかないだろう。

 

 

黄昏時、夏に近づくにつれ暗くなる時間が遅いこの季節。公園ではまだ幾人かの子供が遊ぶ声が聞こえる。

4月には花が咲いていた園内の桜も、今は緑の葉がついているだけではあるが、その存在感が変わっていない気がした。

 

その桜の木の下にあるベンチの1つに、俺と歳がそう変わらないと思われる少女が座っている。

そして彼女の足元には俺も知っている犬が寄り添っており、先にその犬の方が俺の存在に気づいたようだ。

 

「あ、紅葉……」

 

犬が急に吠えたため、その先を見た凛も少しずつ近づいていく俺の存在に気づく。

一瞬立ち上がりこちらに向かってくるかのような素振りを見せたが、すぐに考えを改めたのか立ち上がったまま下を向いている。

 

「凛」

 

「うん……」

 

そして以前と同じように沈黙が続く。

何を話していいかわからないわけじゃない。どこから話せばいいのかわからないんだ。

 

最初に昨日はお疲れ様というべきか?

 

……違うな。その前に言うべきことがあった。なぜ凛が今俯かなければならないか、そこが問題なんだ。

 

 

 

「凛、すまない。俺のせいで……」「ごめん紅葉。私……」

 

『え?』

 

 

同時に頭を下げ謝り、同時に顔を上げ互いの顔を見る。

俺と同様、凛もなぜ相手が謝ったのかわからないといった表情だ。

 

「なぜ凛が謝るんだ?」

 

「なぜって、私ライブ上手く出来なかったし、電話も無視してたし」

 

「それは俺が原因だったんじゃないのか?前川さんの時の俺の状態でだろ?」

 

「それはそうだけど……ううん、ライブは私自身の問題だよ。誰かのせいにしていいわけない」

 

「確かにそうだな」

 

「紅葉にあっさり納得されるとそれはそれで腹が立つんだけど」

 

凛が俺を睨みつけ今までの弱々しかった顔が消えた。

あとはあまり話したくはないが、前川さんの時の俺の状態をちゃんと話すべきか。

 

「凛は俺と前川さんの会話を聞いていたか?」

 

「急に何?私たちが着いた時にはもう話は終わってたよ」

 

「あの時少し俺自身のことを話していたんだ。夢が見つからないとか、凛たちアイドルを尊敬しているが焦っているってな」

 

「そんな話してたんだ。だからみくは言いたくなかったのかな」

 

「俺は自分のことを他人に話したことがなかったんだ。だから初めて恥ずかしいという感覚に陥ってたんだと思う。それで凛にあまり見られたくなくて、あの場から早く立ち去りたくてな……」

 

「そうだったんだ」

 

以前のことを思い出し少し視線を外してしまう。

迷いや悩みがある分、真っ直ぐ自分の進むべき道へと歩き、又は走り出している凛と顔を合わせられない……

そう、言動が恥ずかしかったんじゃない。考えると言いながら先を何も考えていない自分自身が恥ずかしかったんだ。

そのことを今改めて実感した。

 

自己分析して再び沈黙してしまった俺の顔を覗くようにして見る凛。

彼女の顔を見ると、さっきとは変わって優しい笑顔で俺を見ている。

不思議に思った俺が疑問を投げかけるよりも早く、凛の方から話を始めた。

 

「別にいいんじゃない?まだ何も決まってなくたって」

 

「え?」

 

「私だって紅葉が思ってるほど将来を考えてるわけじゃないよ。確かに何かが掴めそうな気がするけど、それが何なのかはまだわからない。だったら一緒に探そう?

自分の夢は自分で決めることだけど、その過程は誰かと一緒だって構わないんだから」

 

卯月とみくはもう決まってるんだろうけどね……と、凛は最後に付け足した。

 

「そう……だな」

 

今まで1人で何でもやってこれたからだろう。

自分に関してのことを誰かに助けてもらうという考えが思い浮かばなかったな。

姉さんとも今まで将来のことは真面目に話をしていない。あのケンカの反省を俺は全く活かせていなかった。

 

「困ったときはよろしく頼む」

 

「うん、任せて。ところで話は変わるけどさ」

 

「なんだ?」

 

今度は凛の方が何かを言いにくそうに考え込んでいる。

俺もまだライブの感想を言ってなかったな。

 

お互い何を考えているかわからないはずだったが、意外と話は同じだったらしい。

 

「紅葉が話しにくいことを話してくれたんだし、私も聞くよ。昨日の私たちのライブ……どうだった?」

 

「ああ。あの時近づいてお疲れ様と言おうと思ったんだが、凛はすぐに舞台裏に行ってしまったからな」

 

「え、それだけ?もっとひどいこと言われるのかと思った」

 

「……」

 

ひどいこととは一体何だ?

確かに素人目から見て満点とはいかないだろう。恐らく本人も自覚しているはずだ。

 

だが逆に今までのアイドルたちのようにこんな舞台だった……という感想が出てこない。

美嘉からの話もあるし、凛が本田さんと同じ状態だったのかを聞いてみるべきか。

 

「凛は広場の観客の数を見てどう思った?」

 

「ごめん、実はちゃんとやろうってことに頭がいっぱいであまり見てなかった」

 

「それは……本当にすまない」

 

「い、いいってば!私が勝手にやったことなんだし、理由もわかったから」

 

「凛が必死にやってくれたことはよくわかった。だがそれで凛は楽しかったのか?」

 

「それは……」

 

答えに詰まる凛だったが、本人が楽しくなければ相手にも伝わらないということは俺以上に凛本人がわかっていることだ。

それは美嘉のバックダンサーをしていた凛が証明している。

これ以上聞くのはやめておこう。

 

「あ、紅葉のさっきの質問のことだけど」

 

「ん?」

 

「お客さんの話。昨日みたいな状態じゃなかったとしても、たぶん気にならなかったと思う。楓さんの話を聞いてるし」

 

「そういえばそうか」

 

「ただ未央は……」

 

なるほど、本田さんは少し誤解をしていたということか。

だから自分のせいで人が集まらなかったと思っていると。

 

「一度本田さんに会う必要があるな」

 

「プロデューサーは自分に任せてって言ってたけど。あの時は自分のことしか頭になかった。

やっぱり私も未央と話をしたい」

 

今は理由は全く違うが誰かと顔を合わせにくかった俺と同じように、本田さんはアイドルを辞めると言ったプロデューサーさんに一番会いたくないのではないだろうか。

 

その点俺ならあまり面識はないし、怪しまれる可能性も考えて凛と一緒なら多少プロデューサーさんよりも会える確率があるはずだ。

 

問題の解決は出来ないかもしれないが、せめてプロデューサーさんと本田さんが話せる機会を早めることが出来ればと思う。

 

「凛は本田さんの家がどこかわかるか?」

 

「……ごめん、わからない。卯月も聞いてたけどやっぱり自分に任せての一点張りだった」

 

「それは困ったな」

 

2人が知らないならどうしようもない。

プロデューサーに俺が聞いても結果は同じだろうし、結局待つしか手はないのだろうか。

 

 

 

「ん?姉さん?」

 

凛と共に諦めかけていた時、携帯が鳴り相手が姉さんだと気づく。

また帰りが遅くなるとかそんな話だと思っていたんだが……

 

『紅くん、わざわざ夕飯作っていてくれたのね』

 

「ちょうど出来上がる時だったからね。家に着いた連絡をわざわざしたのか?」

 

『いいえ、そろそろ凛ちゃんとの話が終わる頃かと思って。色々聞いたから大丈夫だとは思うけど、仲直りは出来た?』

 

「別にケンカをしていたわけじゃないし問題ないよ」

 

『なら、次は未央ちゃんよね?』

 

「どうして本田さんのことを?」

 

俺は凛と話をしたいとは言ったが、本田さんのことは話していない。

凛を見ても首を振っている。なら誰から聞いたのか。

 

『美嘉ちゃんにも少し話を聞いたの。途中で彼女のプロデューサーが会いに来て行っちゃったけど』

 

「そういうことか」

 

『だからその後武内プロデューサーに会いに行ったのよ。これでも凛ちゃんたちよりも彼のことは知ってるつもりだったから』

 

「……一体何を」

 

プロデューサーさんに本田さんを説得するよう頼んだのか?

元々そのつもりだっただろうし、姉さんの意図が全く読めない。

 

『紅くんも話をしたいんじゃないかと思って、プロデューサーから未央ちゃんの住所を無理やり聞いてきちゃった♪』

 

「なっ……」

 

物凄いタイミングだ。

しかも今回に限って初めて完全に俺の考えを読んでいる。

一体どういうことだ……まさか。

 

「本当に姉さんなのか?それとも何か悪いものでも食べたとか」

 

『ひどいっ!お姉ちゃんだってやる時はやるのよ!?』

 

どうやら本物のようだ。

プロデューサーさんには悪いことをしたが、本田さんへの考えは同じはず。

きちんと報告して謝れば許してくれるだろう。

 

『今日は遅いから明日ね。お姉ちゃんも行ければいいんだけど』

 

「そこまでは大丈夫だよ。ありがとう姉さん」

 

電話を切り凛へ状況を説明する。

凛も驚いていたが、やはり一緒に行ってくれるようだ。

島村さんにも連絡をするということなので、早いなら放課後すぐか凛たちのレッスンが終わってからになるな。

 

 

そして俺は凛に別れを告げマンションへ帰ることにしたが、ようやく解けた謎が1つあった。

前に凛の名前だと思っていたハナコだが、どうやら凛の飼っているあの犬だったらしい。

 

「紅葉は相変わらずだね」

 

と、凛にため息を吐かれた。

 

 

 

今回の件、まだ全て解決したわけではないが姉さんにはかなり助けられている。

そのお礼をしたいところだが、本人に言っても何もいらないと言うかダジャレ、酒関連のお願いになるだろう。

 

だから全てをあと約2週間後に迫っている姉さんの誕生日に込めたいと思った。

 

今まではケーキや料理を作り簡単なプレゼントを渡すだけだったが、今回は少し変えよう。

以前から考えていたことでもあるが、俺たち姉弟は一緒に外食をすることがほとんどない。

 

なので誕生日は俺が金を払い、少し高めの店で姉さんが好きな酒を飲みながらの夕食がいいのではないだろうか。

 

 

誕生日は姉さんが必ず休みを取るのでその点は問題ない。

問題は金……俺自身で手に入れたことのある金がまだないということだけ。

 

小遣いも生活費も全て姉さんの負担だ。

姉さんの誕生日に姉さんの金で外食するのはあまり意味がない。

短い期間でも俺がバイトできる場所があればいいんだが。

 

 

 

 

「ここは……」

 

考え事をしながら歩いていると、すでにいつもの商店街にまで辿り着いていたようだ。

 

時間的にもいつも以上に人通りが少なく、昼間はいないサラリーマン風の男性も何人か見える。

 

「ようボウズ。こんな時間に珍しいな」

 

「おじさん、こんばんは」

 

魚屋の前ではいつも通りおじさんが立っており、この時間でも集客に力を注いでいた。

店頭を覗くとほとんどの商品はなくなっていて、見切り商品がよく目立つ。

 

この人には商店街を知った始めの頃からお世話になっている。

しかも日本人ではなくアイルランド人。

学生時代に日本に留学し、この国の食文化に触れ感動して移住することにしたそうだ。

 

年齢はわからないが最初におじさんと言っても何も言われなかったのでそのままにしている。

身長は俺より10センチほど高く、後ろで結った青い髪は男性にしては長いほうだ。

趣味は釣りで、休みの日はよく出かけるらしい。

 

そうだ、ここでバイトするのはどうだろうか?

魚のことなら多少おじさんに教わっているし初めてではない。

誰かを雇ってるのも確認したことがないし、事情を話せば雇ってくれるかもしれないな。

 

「おじさん、ここでしばらく働かせてくれませんか?」

 

「っと、いきなりだな。とりあえずまずは理由を聞かせてくれ」

 

 

事情を話すとおじさんは快く引き受けてくれた。

放課後の少しの間と土日の午前中だけだが、2人で食事をするにはじゅうぶんなバイト代が得られそうだ。

 

 

続く!

 

そしておまけ↓

 

───翌日346プロ───

 

鈴科P「加蓮ちゃんは大丈夫?」

 

奈緒「今日少し熱があって休んだけど、明日には復帰できるって」

 

鈴科P「悪いことしたなぁ。加蓮ちゃんのメニュー少し変えるべきか」

 

奈緒「それ、たぶん加蓮は嫌がるぞ。気にするなって言ってたしあたしと同じでいいと思う」

 

鈴科P「そう?本人がいいならいっか。じゃあ次は仕事の話ね」

 

奈緒「切り替え早いな……え、仕事?」

 

鈴科P「そ、仕事」

 

奈緒「レッスンじゃないの?」

 

鈴科P「それはもちろんあるけど、ちゃんと仕事も取ってきたから安心してよ!」

 

奈緒「不安しかないんだけど!い、いきなり仕事って何やるんだよ!?」

 

鈴科P「少しずつライブより前にも場慣れしてもらおうと思ってね。

普通はあまりやらないけど、うちのアイドルたちがよく出演させてもらってるCMの会社のティッシュ配り」

 

奈緒「てぃ、ティッシュ~~!?」

 

鈴科P「場所はほら、ここ。この商店街、人通りあまりよくないけど、最初ならあまり緊張せず出来るでしょ?」

 

奈緒「ああ、ここかぁ。確かにここなら大丈夫かも」

 

鈴科P「じゃあ明日からよろしくね。加蓮ちゃんには俺から伝えておくから」

 

奈緒「お、おう。この商店街なら同級生が欲しいものないはずだし、知り合いに会うことないよ……な?」

 

 




たまには楓さんが活躍する機会があってもいいんじゃないか!
ご都合主義な部分があるのは否定できませんが。

紅葉くんと凛の場合、たまに紅葉くんの方がヒロインになるのが不思議。



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大真面目の紅葉くんはいつも通り勘違いを生む

今回少し短いですが話を区切ることにしました。
未央の件はそこのみに話を絞りたいと思ったので。

まあ、未央の話書くつもりがいつの間にかこうなってしまったってのもありますが!


紅葉くんと続・マジメ/ネコチャン

 

 

翌日、1時限目が終わったあとに1年生の教室に行ってみることにした。

加蓮の教室に行ったことはないが、確か最初あったとき俺と同じB組と言っていたはずだ。

 

見慣れない生徒……ほぼ下級生しかいない階に入ると当然知っているものはおらず、

それは周りの生徒も同じ気持ちのようで、通り過ぎるときにちらりと横目で俺のことを見る者が何人もいた。

 

B組の教室を覗くと俺のことを見た生徒は先ほどの生徒同様興味深そうにし、友人同士で何やら話している者もいた。

 

だがこれは恐らく悪口や不審な目を向けているのではない。

原因は十中八九姉さんだろう。

 

以前の川島さんとのラジオの影響だ。

俺は全く許可した覚えはないんだが、姉さんが俺の特徴などをラジオで話したせいだろう。

俺が高垣楓の弟だということを学校内で知る生徒が今まで以上に増えていたのだ。

 

肝心の加蓮の姿を確認できないために注目される時間が増えていく。

これ以上ここに留まると生徒たちが集まってきそうな雰囲気だったため、諦めて戻ろうと思ったんだが……

 

「北条さんなら今日休みですよ」

 

後ろから最近では聞き慣れてきた声が聞こえ振り返ると、何やらプリントを抱えた前川さんが立っていた。

 

「そうか。欠席の理由は聞いているか?」

 

「体調不良としか。あ、それが例のお弁当ですね」

 

「ああ」

 

俺の左手にある弁当を見てここに来た理由を察した前川さんは、『ちょっと待っていてください』と言い残し、プリントを教壇に置いたあと再び廊下へと戻ってきた。

 

「北条さん、昨日も様子が変でしたよ。私やクラスの子が話しかけてもいつも以上に上の空でした」

 

「つまり昨日から調子が悪かったということか?そういえば奈緒も同じような状態だったな」

 

他に共通点があるとしたら一昨日ライブを観に行ったということだが、その時に体調を崩したということなのだろうか。

だから途中で帰った……いや、そう考えるとあの真剣な表情は説明がつかないか。

 

そういえば美嘉はあのライブにプロジェクトメンバーも応援に来ていたと言っていたな。

前川さんもいたのか?

誰よりもデビューを待ち望んでいた前川さんだ。同じような状況に陥った時どう思うのか聞いてみよう。

 

「前川さんも凛たちのライブの応援に来ていたのか?俺も加蓮と奈緒と一緒に観に行ったんだが」

 

「……いえ。別の仕事があったので行ってません」

 

途端に前川さんの表情が険しくなる。

凛のように女性の名前をだしたせいなのかと思ったが、どうやら違うようだ。

 

「先輩は3人の状況知っているんですよね?」

 

「ああ、その日に美嘉から聞いた」

 

「私にはわかりません。せっかくデビューしたのに……私たち他のメンバーより先にアイドルになったのに、簡単に投げ出すなんて!」

 

拳を握り締め少し震えながら小さくも力強い声で発した言葉は、この前の騒動の件もあり前川さんの思いがよく伝わって来る。

 

あの後どうなったかは詳しく聞いていないが、プロジェクトメンバーで一番デビューしたいということを表に出したのが彼女だ。

色々と許せない部分や納得できない所があるのだろう。

 

廊下の教室とは反対側の壁を俺が背にし、前川さんと向かい合ってる状況で小声で話していたせいもあり、同じクラスの生徒たちには俺たちの声が聞こえているとは思えない。

が、前川さんの態度が普段と違うのには気が付いているようで、ドア越しにこちらを見てくる生徒が増えてくる。

 

場の雰囲気を良くするにはどうしたらいいのか考える。

いつも奈緒たちといる場合同じ状況になっても……若干納得はいかないが『俺だから』で済んでいる。

 

しかしここは俺のことをほとんど知らない下級生の教室前だ。

ライブの話を振った原因でもあるし、何か出来ることはないか。

 

そう思い前川さん同様一瞬下を見て左手に弁当を持っていたのを思い出した。

 

「そうだ前川さん。この弁当、よかったらもらってくれないか?」

 

「へ?」

 

「昼の用意があるのなら、すぐに悪くなるわけじゃないから夕飯のおかずにしてもいい。

加蓮の体力作り用に作った物だから、前川さんの健康のためにもなるはずだ」

 

「え、えっと。いいんですか?実は少し前から気にはなっていたんですが」

 

「ああ、家は姉さんのリクエストで夕飯が決まってるからな。出来れば受け取ってもらえるとありがたい」

 

「……じゃあ、お言葉に甘えて。ありがとうございます」

 

どうやら上手くいったようだ。

前川さんの表情も柔らかくなったし、生徒もそれに気づいたのか『おお!』という声が一斉に聞こえてくる。

 

これで自分たちのクラス委員長を困らせている上級生。といった風な誤解を受けることはなさそうだ。

姉さんにも迷惑がかからないだろう。

 

そろそろ次の授業が始まる。

戻る前に最初に聞きたかったことを聞いておこう。

今後の前川さんにとっても避けては通れない事のはずだしな。

 

「最後にもう1ついいか?」

 

「なんですか?」

 

「今後の前川さんのデビューライブ。もし人が集まらなかったらどう思う?」

 

一瞬考える素振りを見せ目を閉じるが、すぐに答えが見つかったのか頷き真っ直ぐ俺見て答えた。

 

「やっぱり最初は戸惑うかも知れないですけど、あまり関係ないです。私の……みくの夢が叶う最初のステージだもん。1人でも見てくれる人がいるなら精一杯歌いたい」

 

「そうか」

 

「それに……」

 

きょろきょろと周りを見て誰もいないことを確認する前川さん。

後ろでは同級生が見ているけどな。

 

そして右手で小さく招き猫のようなポーズをとったあと、片目だけを閉じ小声でもはっきりとこう言った。

 

「それに、もし誰1人お客さんがいなかったとしても、絶対ぜーったい紅葉チャンが来てくれるにゃん♪」

 

「そうだな。必ず行くよ」

 

一瞬にしてアイドル前川みくになった彼女は、俺の答えに納得したのか満面の笑みで教室に入っていった。

 

 

続く!




皆さんのお陰でUAが15万を突破しました。
お気に入りも増えていき、喜びとありがたさしかありません。
本当にありがとうございます!

こちらとニコニコの方の感想、コメントも本当にありがとうございます。
書くための活力になり、新しい発想のヒントになり、皆さんのおかげでここまでやって来れています。


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少しずつ自分のこと以外でも熱くなっていく紅葉くん

今回でnew generationsデビューの件は終了になります。

長いうえに時間がかかってしまい申し訳ありません!

それと奈緒と加蓮のアンケートありがとうございます!
"お任せ"が1番多く"トラプリ結成前にソロがあり"が2番目でした。

色々考えていたものが繋がり始めたので、ソロが先に出ることになると思います。

この結果を踏まえ、あとがき後半にてちょっとしたイベント発生時期のネタバレ的なものを表示するので、行間は空けますが見たくない方はあとがき後半は無視してください!



紅葉くんと凛、ようやく本田家へ

 

 

放課後、いつもの公園で凛と待ち合わせをし本田さんの家へ向かった。

 

俺が公園に着いた時にはすでに凛は待っており、後は島村さんを待つだけだと思っていたんだが……

 

「島村さんが風邪を?」

 

「うん。それでレッスンにも出れないって連絡があったんだ。プロデューサーがお見舞いに行くって言ってたから、事情話して私も休ませてもらった。

楓さんと話がついてたみたいだから、未央の家に行くの止めなかったよ。納得はしてないみたいだけど」

 

「休んでよかったのか?」

 

俺の質問に凛は『何を今更』とため息を吐く。

元々レッスンがあるならそれを待って本田さんの家へ行こうと思っていた。

凛も同じ考えだと思っていたが違ったらしい。

 

「次はちゃんと、3人一緒に練習したいから」

 

「そうか」

 

俺を真っ直ぐ見るその目には力強い意志が感じられた。

どうやら凛は今まで通りきちんと前に進む決心がついたようだ。

 

加蓮も体調が悪くて休んだんだ……と言おうと思ったんだが、加蓮と言った瞬間凛が薄目になり無言の圧力をかけられたような気分になった。

 

もしかすると加蓮と凛は中学時代にお互い知ってて仲が悪かったのでは?

いや、加蓮からはそんな雰囲気は感じられない。

となるとやはり謎だ。

 

電車に乗り、降りた先から姉さんからの情報を頼りに歩いて目的の場所へ。

駅から思ったより遠くはなく、すぐに住所の一致するマンションを確認できた。

 

入口前にあるインターホンは凛に任せることにした。

仮に本田さん以外が出た場合、面識がほとんどない俺が説明しても怪しまれると思ったからだ。

 

『……はい』

 

凛が少し緊張した様子で押したボタンの先に出た声は、本田さんではなく俺たちより少し年齢が低いと思われる男性の声だった。

 

「あ、あの。私未央の……未央さんと同じ346プロダクションの渋谷凛って言います。未央さんに会いたいのですが」

 

『少し待ってください』

 

そこで一旦途切れ、その場で待つことに。

凛は小声で俺に、『未央、お兄さんと弟がいるって言ってた』と教えてくれた。

つまり今のはその弟ということなのだろう。

 

1、2分すると無言だったインターホンの向こうから雑音が聞こえてきた。

恐らく本田さんが取ったのだと思われるが、彼女からの反応はない。

凛もそれに気づいたようで、俺が頷くと小さく深呼吸をして言葉を発した。

 

「未央。何度かメッセージは送ったけど、直接話がしたくて来たんだ」

 

『……話って何?わ、私は何もないん……だけど』

 

「ライブのこと未央に謝りたい」

 

『え?』

 

「紅葉も一緒に来てる。少しでいいから会えないかな」

 

『へ!?な、なんでもーくんまで!?』

 

やはり俺も来たことに驚いているようだな。

この前も気になっていたが、どうやら俺の呼び方はもーくんで確定らしい。

 

それにしても凛の言葉には俺も少し驚いた。

ライブに関して凛が本田さんに謝る部分というのは自分のミスのことか?

まずは説得してからその話は後でするのかと思っていたんだが。

 

2人の会話の内容を少し考えていると、服が少し引っ張られる感覚に気づき我に返る。

当然引っ張っていたのは凛で、俺が気づいたのを見るとインターホンの前から一歩横移動した。

俺にも会話に入れということか?

 

「本田さんお久しぶりです。事情は聞きました。それに関して姉さんからも預かっている物があるので見てくれませんか?」

 

『こ、今度はか、楓さん!?』

 

「え、紅葉何それ?」

 

俺の言葉に今度は本田さんだけでなく凛も驚いた表情を見せた。

 

そういえば凛には言ってなかったな。

俺が持ってきた物のことを。

 

『ちょ、ちょっと待ってて。すぐ行くから!』

 

どうやら本田さんは話に応じてくれるらしい。

凛もホッとした様子で入口をジッと見つめていた。

 

 

紅葉くん、本心を語る

 

 

「未央ごめん!」

 

本田さんがマンション内から俺たちを発見し、少し気まずそうな雰囲気でこちらに目を合わせず入口の扉を開けた瞬間、凛が頭を下げて謝った。

 

突然のことに慌てた本田さんは周りを見回し、誰もいないことに安心したあと凛を引っ張りマンション内へと入っていく。

俺も同時に手招きされ一緒に入り、通路の角で俺と凛が本田さんに向かい合う形になった。

 

「しぶりん、一体どうしたの?何で謝ってるのかさっぱりわからないよ」

 

俺の隣で未だ俯く凛に困惑している本田さんがこちらを見るが、俺としても凛が何に対して謝っているのか全部わかっているわけではない。

本人が話を始めるまで待つしかないと思った矢先、凛は顔を上げ真っ直ぐ本田さんを見て話し始めた。

 

「私、ライブの時自分のことしか考えてなかった。改めて思い返すとひどかったよね。未央と卯月の歌もダンスにも全く合わせようとしないで、ただただ必死だったんだ」

 

「そ、そんなことは……」

 

「それだけじゃないんだ。私はデビューライブにどのくらいお客さんが来るのか何となくわかってた」

 

「え……」

 

「未央がずっと期待してた通りにならないって、たぶん心のどこかで気づいてた。でも自分のことでいっぱいで、気づかないふりをして、聞いていないふりをして……」

 

「それって、しぶりんも私がリーダーだったから失敗したって言いたいの!?」

 

「それは絶対違う!」

 

凛の大きな否定の声が静かな廊下に響き渡る。

今にも泣きそうになっていた本田さんだったが、その声に驚いたのかぐっとこらえて凛を見つめ返していた。

 

やはりまずは本田さんの誤解を解く方がいいのではないだろうか?

そしてそれには言葉だけで説明するよりも、証拠となるような物があった方がわかりやすいはずだ。

 

凛の話に割って入るのは申し訳ないが、ポケットに入れていた物を取り出し2人に見えるように差し出した。

 

「本田さん、これを見てくれませんか?」

 

「これって、写真?楓さんが写ってるけど」

 

「はい。これが姉さんから預かった物です」

 

昨日の夜に姉さんから渡された1枚の写真。

俺も見るのは初めてだったが、そこにはデビューした時にファンと一緒に撮ったという姉さんの姿が写っていた。

 

「姉さんのアイドルデビューの時の写真です。周りにいるのはお客さんで、これで全員です」

 

「え、全員って……まさか」

 

「はい。高垣楓のデビューライブに来てくれた観客はこれで全てです」

 

「うそ!?」

 

本田さんだけでなく、このことを知っていた凛も写真を見て改めて実感したのか、同じように驚いた表情をしてじっと見ている。

 

姉さんの後ろにいる人数は20人にも満たない。

だがその表情は姉さんを含め全員が笑顔で、晴れやかで、とても満足しているように見える。

 

今度はライブのことを言葉で納得してもらう番だ。

本来ならプロデューサーさんが言うことなんだろうが、それだとまた本田さんに反発されてしまうかもしれない。

そうなると今後の信頼関係にも関わってくる可能性があるので第三者から言われた方が関係が崩れることはないだろう。

 

話すことは奈緒の受け売りだがな。

 

「本田さんはいくつか誤解をしている点がありますが、そのまず最初はあなたたちが美嘉のバックダンサーをしたライブのことです」

 

「え?」

 

「あのライブは美嘉たちHappy Princessの為のライブでした。new generationsの3人を知っているのはほとんどいません。

ちなみに、本田さんは友達にライブのことを話したりは?」

 

「う……確かにほとんど話してない。練習に必死だったし、本当にデビューしたわけじゃないし」

 

「あの日パンフレットで俺も確認したんですが、3人の名前は載っていませんでした。だから本田さんたちの名前が表に出始めたのは、先日のライブ前からです」

 

「う、うん……」

 

「ここで質問ですが、本田さんはほとんど名前だけしか知らないアイドルのライブに絶対に行きたいって思いますか?」

 

「ちょ、紅葉。そんな言い方しなくたって」

 

「凛もどうだ?」

 

「え、私も?」

 

困惑している本田さんを見かねたのか、凛が助けに入ろうとする。

が、事実を知ってもらうためには必要なことだ。

それに凛の意見もあれば納得しやすくなるだろう。

 

「わ、私は元々アイドルに興味なかったし。行こうとは思わない……かな」

 

「うぅ……私もしぶりんと同じかも」

 

2人とも一気に落ち込んでしまい空気が重くなる。

知ってるはずなので凛までこうなるとは思わなかったんだが……

 

「つまりnew generationsとLOVE LAIKAのライブを観たのは、俺や奈……俺たちや本田さんの友人以外は宣伝を見てやって来た人と偶然居合わせた人です。

その点を踏まえての言葉が本田さんからの質問に対するプロデューサーさんの『当然の結果』に繋がると思っています」

 

「あ……」

 

「そ、そうだよ未央。それでも未央が失敗したって思うなら私にも責任があるよ」

 

「しぶりん……」

 

「俺のライブの感想は凛に言った通りだが、ライブ自体は失敗だとは思ってない。あくまで俺個人の考えだが」

 

「どういうこと?」

 

ここから先は凛にも言っていない俺の感想だ。

そして姉さんのデビューライブの写真を見て改めて思った感想でもある。

 

「確かに本田さんの思ってるような観客の数じゃなかったかもしれない。歌ってる途中でその場を去る人もいたかもしれない。

けど、最後まで歌を聴いて真っ先に舞台前に駆けていって拍手する人、その場で声援を送る人がいたのも事実なんだ。

そしてそれは、姉さんのデビューライブの時の人数よりもはるかに多かった」

 

「楓さんよりもお客さんが……弟のもーくんに言われると本当のような気がしてきた」

 

「その中の全員とはいかないかもしれませんが、きっと本田さんたちのファンになった人がいるはずです。

このことはきっと次に繋がります」

 

「new generationsの?」

 

「それだけじゃないと思います。あのライブはnew generationsとLOVE LAIKAが他の346のアイドルの仲間入りをした証。

そしてシンデレラプロジェクトの次に繋がる第一歩になるんじゃないかと思うんです」

 

「皆の……」

 

ロックなアイドルを目指す李衣菜。

美嘉のようなアイドルを目指す莉嘉。

アーニャやブリュンヒルデ……蘭子のように海外に関係する子もいる。

 

そして目標があっても上手くいかず、真剣に悩んでいた前川さん。

 

「あなたたちは同じようにアイドルを目指して日々頑張っている前川さんたちの最初の一歩として、代表としてあの舞台に立った。

初めての経験でわけもわからず逃げ出してしまいそうになったかもしれない。

けどまだその一歩を踏み出していないもっと不安な子たちもいるんです。

その子たちを前にしてアイドルを辞めようなんて考えるなら俺が許しません。全力で阻止します」

 

「も、紅葉!アンタ何言って……」

 

しまった。

前川さんの件や皆と自己紹介をして時のことを考えていたら余計なことまで話してしまったようだ。

 

最近は話しすぎるとその前に考えている以上のことを言ってしまうな。

元々話す機会が少なく苦手なのもあるのだろうか。

 

「す、すみません。部外者が生意気なことを言ってしまいました」

 

「ふふっ、慌てる紅葉も面白いね。でも嘘は言ってないんでしょ?」

 

「ああ。嘘や冗談は苦手だからな」

 

「だと思った」

 

慌てていた凛が急に笑顔になった。

 

問題は本田さんだが、ほぼ面識のない俺が余計なことを言ったんだ。

怒ってこの場を去っても不思議じゃない。

 

「……ふふ、はははは!もーくんって思ってたよりもずっと面白いね!

褒められてるんだか説教されてるんだかわかんなくなってきちゃった!」

 

「そ、それは」

 

「でも……うん!私がしなくちゃいけないことはわかったよ。このまま辞めたら絶対後悔するもんね。

本当はわかってたんだ。アイドルをここで諦めていいのかって」

 

「本田さん」

 

「未央……」

 

「もう、それ!本田さんって言われるの気になってたんだよね。

未央でいいよ。それに敬語も禁止。だってもう、私たち友達でしょ♪」

 

今までの少し暗い表情と違い、誰よりも明るく元気な表情へと変わった。

これが本当の本田未央なのだろう。

つまりはうまくいったということなのだろうか。

 

「わかった、未央」

 

「うん!」

 

「未央、よかった」

 

「迷惑かけてごめんねしぶりん。本田未央、完全復活であります!」

 

「ううん……ううん!本当によかった」

 

凛と未央は抱き合いながら少し涙を浮かべて喜んでいる。

確かにうまくはいったが、まだ終わりじゃないんじゃないか?

 

辞めないという結果になったら最初にやることがあるだろう。

 

「2人ともまだ終わってないぞ」

 

『え?』

 

「2人のことを一番心配してたのは誰だと思っているんだ」

 

「えっと……プロデューサー?」

 

「……」

 

「紅葉、何でそんな残念そうな顔してるの!?」

 

本当にわかってないのか?

俺がわかるのだから当然2人も、と思っていたんだが。

 

どうやらまだ冷静に状況を判断できないらしい。

 

「島村さんに決まっているだろう。ライブの時もずっと2人を気にして踊っていたんだぞ」

 

『あ……』

 

島村さんだってデビューのことは楽しみであると同時に不安だったはずだ。

だがそれを周りに言わず、尚且つ2人のことを心配しながらライブを続けていた。

 

体調不良になったのも疲れが一気に出たからということでも不思議じゃない。

 

「し、しぶりん。今すぐしまむーのとこに行こう!」

 

「う、うん。プロデューサーもお見舞いに行ってるし一緒に話しようか」

 

「え!しまむー病気なの!?」

 

「あ、そこからか……」

 

 

そしてすぐ2人は慌てて外へ駆け出していった。

いや、慌てていたのは未央の方か。

完全に置いていかれてしまったが、元々ここからは本当に3人とプロデューサーさんの問題だ。

俺が何もしなくても上手くいくだろう。

 

家に帰り夕飯を食べながら姉さんに感謝の言葉と同時に写真を返す。

やはり姉さんには助けられてばかりだ。

誕生日には夕食以外にも何か気持ちが伝わるものを渡した方がいいだろうか。

 

そういえば凛は家が花屋だと言ってたな。

相談して花束を買うのもいいかもしれない。

 

 

夕飯後、しばらくすると凛から電話が来た。

島村さんは軽い風邪ですぐ良くなるようで安心した。

 

プロデューサーさんともきちんと話をしたらしく、この先も未央はアイドルとして頑張っていくとのこと。

 

これで明日以降のバイトも気持ちに問題なく行えそうだ。

……いや、奈緒と加蓮の件が残っているな。

 

気になって加蓮に連絡をしようと思ったが、学校を休んでいる状態だ。

すでに眠っていても不思議じゃない。

加蓮の体調が戻ったら話を聞いてみるか。

 

 

 

そう思い眠りについたのだが、奈緒と加蓮の件は意外な場所で意外な事実として聞かされることになった。

 

続く!

 

 




9月10月とデレステでは加蓮と奈緒の限定が続き、担当のPさんは嬉しさと同時にお迎えするのに必死だったのではないでしょうか?

自分は何とか両方手に入れることができ、プラチナスカチケはエターナル凛を選んでとても満足です!

そしてここから下部はまた原作と違うイベント関係の話になるので見たくない方はここまででお願いします!





























プルート結成によりシンデレラプロジェクト夏合宿へ高垣楓、佐藤心の参加が決定しました!

アンケート結果により、同合宿へ神谷奈緒、北条加蓮の参加が決定しました!

高垣楓の行動が不安な為、高垣紅葉の合宿参加(おもり、料理担当)が決定しました!


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第4章
紅葉くんと光の御子とアイドル


思った以上に早く完成した本編の続きです。
お陰でイベントが全く進まない!

これってクロスオーバータグ必要なんですかね?
完全に同キャラじゃないですが、必要だったらつけます。


加蓮の真実

 

 

「先輩ごめんなさい!」

 

翌日1時限目の授業が終わってすぐ、加蓮が俺のところにやってきて頭を下げた。

 

ここ数日は謝ったり謝られたりの繰り返しだな。

特に加蓮に対して怒っていた訳でもないので、気にするなということと何があったのか説明を求めた。

 

すると周りに人がいる状況、特に加蓮の第一声でいつも以上に注目が集まっている状態では話しにくいのか、『ここではちょっと』ということで廊下に出ることにした。

 

「なんであたしもなんだ!?」

 

と言いつつ、素直に加蓮に手を引かれ連れて行かれる奈緒も一緒に。

 

 

 

「アタシね、渋谷さんに憧れてたの。彼女を目標に4月からやってたから、今の彼女は一体アタシよりどんなに前へ進んでいるんだろう……

それを確かめるためにもこの前のライブを観に行ったんだ」

 

そう話始めた加蓮の顔色は特に悪いという風には見えず、1日に休んで元に戻ったことを確認できて安心した。

だが話の流れからすると、やはり俺が最初に思っていた体調不良のために帰ったということではなさそうだ。

 

「だからあのライブを観て正直がっかりだった。もう見ていられなかった。アタシの目指す渋谷凛はあんなんじゃないって、だから……」

 

「それであの場から去っていったのか」

 

「……うん。本当にごめんなさい。せっかく誘ってくれたのに、勝手な理由で帰っちゃって」

 

「いや、さっきも言った通り気にするな。体調が悪くなったんじゃなくて安心した。それに凛に関しては俺にも原因がある」

 

「どうして先輩が関係あるの?」

 

「はぁ?紅葉、お前一体何やったんだ!?」

 

「……」

 

暗い雰囲気から一転、奈緒までも急に怒るような表情で詰め寄ってきた。

この圧迫感は以前の新田さんや緒方さんとは違うが、どうやら全て話さないと納得してもらえる状況ではなさそうだ。

 

凛のことに関しては、前川さんや莉嘉たちの件も話さないといけないため少し躊躇ったが、今までと違い恥ずかしいという感情はほとんどなく、いつも通りの感情で話すことができた。

 

それは、奈緒や加蓮……特に奈緒が俺が名前を覚えるのが苦手だったことに真摯に向き合ってくれたことが関係するのだろうか。

 

「なるほどな。じゃあとりあえずニュージェネはもう大丈夫ってことなのか?」

 

「ああ、次のライブは期待してもいいはずだ」

 

「ふぅん。ま、そうじゃないと倒しがいがないもんね」

 

「倒す?」

 

加蓮は凛と何か勝負でもしているのか?

ああなるほど、だから凛は加蓮の名前を出すと雰囲気が悪くなっていたのか。

 

「ちょ、加蓮!それはまだ言うなって!ていうか勝手に敵対すんな!」

 

「ん?奈緒は知っていたのか?」

 

「え?あ、いや、その……」

 

「ねえ奈緒先輩。まだ言うなって何のこと?アタシも詳しく知りたいなぁ♪」

 

「お・ま・え・なぁ!」

 

また加蓮が逃げ、奈緒が追いかけるといういつもの日常が目の前で繰り広げられる。

ちなみに加蓮は学校では奈緒を今まで通り先輩と呼ぶことにしたようだ。

確かに上級生に頻繁に出入りして相手を呼び捨てにするのはお互いにとっていいことではないか。

 

これで2人の方も解決したな……と思っていたが、先日の奈緒の調子が悪かった理由を聞きそびれていた。

 

そのことに気がついたのは放課後で、バイトのために急いで商店街に向かわなければならず、奈緒もホームルームが終わると一目散に教室から出たあとだった。

 

 

紅葉くんバイト開始!

 

 

 

「おじさん、今日からよろしくお願いします」

 

「来たかボウズ。よし、じゃあ裏に回って準備してくれ」

 

「はい」

 

いよいよバイトの始まりだ。

おじさんに挨拶をしたあと、迷うことなく裏手に回り扉を開ける。

 

東京に来てから何度かおじさんに魚の捌き方などを教わっていたお陰で、この辺は勝手がわかるからな。

 

ちなみに一度急いで家に戻り、制服からシャツとジーパンに着替えてきている。

最初の頃気にせず制服のままで教わっていたら、魚の匂いが取れずに大変な目にあったからだ。

 

置きっぱなしにしてある長靴を履き、エプロンをかける。

準備が出来たところで、店先にいるおじさんの元へ店の中から近づいていった。

そういえば商品が置いてあるここまで入るのは初めてだな。

 

「準備出来ました」

 

「んじゃボウズ……って言い方もよくねぇな。そういや互いに名前知らないんじゃなかったか?」

 

「そういえばそうでしたね」

 

すっかりおじさん、ボウズの呼び方が定着していたから忘れていたが、この人とは本当に自己紹介していなかったんだった。

だがある意味それでよかったかもしれない。

以前の俺だったら完全に名前を覚えていなかっただろうからな。

 

「高垣紅葉です。改めてよろしくお願いします」

 

「おう、よろしくな紅葉。俺はセタンタ。まあ、この商店街じゃセタで通ってる」

 

「セタンタさん。そういえばアイルランドの神話に同じ名前がありましたね」

 

「お?お前さんそっち方面も詳しいのか。俺は孤児でな。育ての親でもある師匠が名づけてくれたんだ。『神話に出る英雄のように強くあれ』ってな」

 

ある意味その師匠の望む通りになったのではないだろうか。セタンタさんは身長が高く、Tシャツの上からでもわかる引き締まった筋肉。

場所がここでなければ格闘家か何かと勘違いするだろう。

 

「では俺もセタ師匠と呼んだ方がいいでしょうか?」

 

「……ん、何だって?すまんがもう一度言ってくれ」

 

「せ、セタ師匠と……」

 

セタンタさんが俺をジッと見下ろし何やら考え始めた。

蛇に睨まれた蛙のように全く身動きが取れない。

何かまずいことを言ったのだろうか?

 

セタンタさんは商店街の人たちと同じように俺の生活の師だ。

バイトを始めるにあたっては上司になることだし、おじさん呼びにしない方がいいかと思ったんだが。

 

「悪くねぇ!今まで師匠と呼ぶことはあったが呼ばれることはなかったからな!」

 

「そ、そうですか」

 

どうやら気に入ってくれたようだ。

問題ないのなら威圧はやめてほしいと思うのは俺だけなのだろうか。

 

「よし、じゃあさっそく仕事を手伝ってもらうぞ」

 

「はい」

 

「紅葉はある程度魚の知識はあるからな。その辺はまあ大丈夫だろう。ってことで、まず最初にやるのは声だしと客の対応だ」

 

「わ、わかりました」

 

いきなり難問だな。

声を出すのも人と接するのも苦手な分野だ。

客商売のバイトを始める以上避けては通れないが、まさか一番最初にやることになるとは。

 

「まずは俺の手本をよく見ろよ」

 

「そこのお兄さん。今日は何がいいの?」

 

「へいらっしゃい!今日はアジがオススメだよお嬢さん!」

 

タイミングよくお客さんがやってきたが、お嬢さん?

どう見ても老人に見えるんだが・・・・・・

 

「やだもうお嬢さんだなんて!いいわ、それとそれくださいな」

 

「まいど!」

 

だが老人は喜んでおり、アジだけでなく鮭の切身も買って笑顔で去っていった。

師匠の方も今まで見たことない笑顔で手を振って見送っている。

 

「ま、ざっとこんなところだ。せっかく店に寄ってくれたお客さんだ。そのお客さんのお陰で俺たちは飯が食える。気分良く買って帰って貰った方がこっちとしても嬉しいし、向こうもまた来てくれるだろ?」

 

「確かにそうですね」

 

「だが変に下手に出るなよ?横柄な客にはそれ相応の報いを、だ。お客さんはあくまで客。自分は神様だなんてくだらないこと言ってる客は相手にしなくていい」

 

「は、はい」

 

それで大丈夫なのか?

だが、そうだな。相手に満足してもらえるような接客か。

人を褒めるというのはほとんど経験がないんだが、嘘を吐かずに相手の良いところを見つけて何とかやってみるか。

 

「夕方で客も少ないからここは俺1人でなんとかなる。お前はこれを持って練習がてら売り込みだ。ほらよっ」

 

「っと、こ、これを持つんですか」

 

「おうよ、さあ行った行った。何事も経験だ!」

 

店先に突き刺してあるのぼり旗。

それを引き抜き俺に投げつける師匠。

 

師匠よりもさらに長さがある青い布ののぼりには、赤で『大漁祭り』とかかれており、これを持って歩いたら目立つのは間違いない。

 

本当にやるのかと聞こうと思ったが、師匠はすでに次のお客さんにかかりきりであり、こっちを見ようともしなかったために仕方なく商店街を歩くことにした。

 

 

商店街を歩く紅葉くん

 

 

さて、何を言えばいいのか。

歩きながら呼び込みしようとしていたが、同じく商店街を歩く人も旗に一瞬目を取られるがそのまま通り過ぎてしまう。

 

たまに他の店先で俺への声援が聞こえるが、それはお客さんではなく店員さんの方だ。

 

立ち止まっている人に声をかけるべきか、そう考えていたとき、ちょうど同じように立ち止まっている2人組が見えた。

 

後ろ姿から片方は何かおろおろとして周りに話しかけているように見えるが、もしかすると何か商品を探しているのかもしれない。

魚を買ってもらうチャンスだな。

 

後ろ姿ではっきり容姿は分からないが、年齢はここでは珍しい若い女性だろう。

見たまま褒めて挨拶すべきか。

 

「すみません、そこのきれいな髪の声が可愛いお嬢さん。少しお話いいですか?」

 

・・・・・・今思ったんだが、店先じゃない場合ナンパと何が違うんだ?

 

「ふえっ!?あ、あたし?」

 

「あ、紅葉先輩」

 

「ん?加蓮か?」

 

逆に名前を呼ばれてその声に反応すると、そこには私服に着替えた加蓮がなにやらカゴを持って立っていた。

となると、俺が声をかけたこの少女は・・・・・・

 

「な、奈緒?どうしてここに」

 

「お、おま、い、今な、なななんて言った!?」

 

「きれいな髪の声が可愛いお嬢さんと言ったんだが、まさか奈緒だったとはな」

 

「は、はぁぁぁ!?き、ききき・・・・・・とか、か、かわ・・・・・・とか2回も言うなぁぁぁ!」

 

「自分で聞き返したんだろう」

 

「奈緒ずるーい!」

 

「キミが紅葉くんか。噂は色々聞いてるよ」

 

「・・・・・・あなたは?」

 

突然俺の前に現れたのは灰色の髪で赤い瞳のスーツを着た不思議な男性だった。

少し警戒して尋ねると、すぐに名刺を差し出してきたので確認する。

・・・・・・何だと?

 

「346プロダクションアイドル部門プロデューサー。鈴科行道」

 

「よろしくね。担当アイドルはキミも恐らく知ってる美嘉ちゃんと美穂ちゃん茜ちゃん。

それにここにいる新しくスカウトした加蓮ちゃんと奈緒ちゃんだよ」

 

「・・・・・・は?」

 

「あはははっ♪奈緒、思ったよりも早くバレちゃったね」

 

「うわ、うわあ、うわあああああ!」

 

理解が追いつかず改めて状況を確認しようとした矢先、奈緒が頭を両手で抱え動き回る。

加蓮と同じく持っていたカゴは地面に落ち、大量のポケットティッシュが道に散乱していた。

 

 

続く!

 

 




歌詞使用の条件はまだよくわかっていませんが、これなら奈緒と加蓮やその他アイドルの曲のオリジナル増やさなくても良さそうですね。

それにしても奈緒がセンターのトラプリ曲は名前どうなるんでしょう。
thrice?tripartite?

英語はさっぱりです!


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馴染みの場所ではアイドルより顔が利く紅葉くん

今回でバイトの話は一旦終了です。
2話で終わらせられてよかった!

今後も日常編はあると思いますが、メインのアニメの話も早く進めたいですね。

ここで久々にありえる未来を一つ…
凛「見ててね紅葉。さあ、2人とも行くよ!

卯月「島村卯月、この曲を全力で歌います!

未央「2人とも燃えてるねぇ。よーし、私も頑張るぞ!

奏「ふふ、新人とはいえ負けていられないわね。皆準備はいいかしら

フレ「おー!

楓「おー!

瑞樹「楓ちゃん。あなたはこっち。


加蓮を語る紅葉くん

 

 

「ところで紅葉先輩。その面白い格好一体どうしたの?アタシたちより目立ってるような気がするんだけど」

 

振り返り未だ動き回っている奈緒を見たあと、今度は状況整理が追いついていない俺を下から上まで不思議そうに見ている加蓮が質問した。

 

バイトを始めたということと、その理由が姉さんへの誕生日プレゼントだと簡潔に答える。

が、加蓮はなぜかまだ納得していないようだ。

 

「その格好で大漁の旗持ちながらナンパするのがバイト?何それおっかしい!随分変なバイト始めたね!」

 

「いや・・・・・・」

 

やはり他の目からもそう見えていたのか。

師匠の接客を自分なりに変えて思ったままを相手に伝えるだけでこうなってしまうとは。

 

知り合いなら笑い話で済むだろうが、そうでなければ4月に現れたという不審者と同一だと思われる可能性があったな。

最初に会ったのがこの2人でよかったと思う。

 

とりあえず誤解を解いておこう。

信じてもらえるかわからないが、加蓮に魚屋のバイトだとどう分かるように説明しようかと考えていたところ・・・・・・

 

「あははは!はぁ~面白かった!それで?アタシには言うことないの?」

 

「ああ、今言おうと思ってたところだ」

 

ひとしきり笑った加蓮が呼吸を整え少し冷静に告げた。

先にそう言ってもらえるのはありがたい。これなら普通に話すだけで良さそうだ。

 

「魚屋のバイトを始めたんだ。店の人とは知り合いだったからすぐ話がまとまってな」

 

「違う違う。そうじゃないってば。そんなの見ればすぐわかるよ」

 

どういう意味だ?

魚屋のバイトだとわかってナンパのバイトだと言ったのか?

ああ、俺も奈緒と同じように単にからかわれただけか。

 

だがそれだと加蓮の問いの説明がつかないんだが。

 

「だから、アタシにも奈緒と同じようにナンパみたいなやつやってみてよ♪」

 

「・・・・・・」

 

一体何を言い出すんだ?

急にやれと言われても少し困るんだが。

 

さっきは誰かわからずに思ったことを口にした。

だが今目の前にいるのは友人である加蓮だ。

魚を買ってくれるよう頼む言葉がいいのか、思ったことを口にするのがいいのか・・・・・・

 

加蓮はとても期待するような目で俺をずっと見ており、その後ろでは奈緒が未だ何やら呻いている。

やはり加蓮が望むのは思ったままを口にすることだろうか。

 

そういえば直接言う機会はなかったな。

姉さんに俺が何を考えているかわからないと言われてから少し考えていたことでもある。

 

他人に何と思われようと俺にはどうでもいい話なのは変わらないが、近しい人には少しでも自分の考えを知ってほしい。

そんな感情が芽生え始めていた。

 

なら今はちょうどいい機会だ。

俺が加蓮のことをどう見ているのか話すのもいいかもしれないな。

 

「加蓮は最初会った時、昔の姉さんと同じ表情をしていたと言ったな。だが改めて考えるとそれ以上に儚く、今にも壊れそうなそんな状態だった。

だから話かけたんだ」

 

「う、うん。確かにそんなこと言われた気がするけど何か思ってたのと違うような・・・・・・そ、それで続きは?」

 

「今はあの時に比べて顔色も良くなって良い表情をするようになった。元々加蓮自身が備え持った性格なのかもしれないが、今みたいに加蓮が笑って奈緒が怒って追いかけて・・・・・・そんな空間にいるのが俺は悪くないと思ってる」

 

「先輩も同じ気持ちだったんだ。アタシも3人でふざけあってるのが今は一番好きかも・・・・・・って、そうじゃなくて!」

 

「俺はお前が人知れず努力しているのを知っている。過去のことは詳しくは聞いていないが、それでも悔しさや負けたくない気持ちが人一倍強いのも知っている。だから俺は隠れて必死に頑張っている北条加蓮の力になりたい。何がわかると否定されればそれまでだが」

 

「ちょ、ちょっと先輩!?い、一体何の話を」

 

「その透き通るようなきれいな声は絶対武器になる。加蓮がアイドルとして歌えば皆注目するはずだ。

そしてその皆の視線の先のお前が、努力を糧に得た自信のある表情で歌えばきっと魅了されてファンになると思うぞ」

 

「わ、わかった!わかったからもう降参!ごめんなさいアタシが悪かったから許して!」

 

「何だ?言われた通り思ったことを言っただけなんだが」

 

「あぅぅ・・・・・・皆の見てる前で真っ直ぐこんなこと言われるなんて。恥ずかしすぎてもうダメ」

 

両手で顔を隠す加蓮の表情は読み取れないが、隠していない耳はあの公園の時のように真っ赤だ。

怒ったわけではないというのはわかるが、正直に話すと加蓮も奈緒もなぜこうなるんだ?

 

「ふむ・・・・・・」

 

それまで静観していたプロデューサーさんだったが、顎に手を置き俺の方を見て何やら考えているような素振りを見せる。

一方加蓮は回れ右をして奈緒に急に顔を隠すように抱きつき、そのお陰か奈緒の方は冷静さを取り戻したようだ。

 

「あの、何か?」

 

「ああごめん。いや、よく2人のことを見てるなと思ってね」

 

「友達ですから」

 

「キミ、誤解されることばかり言うといつか刺されるぞ?」

 

苦笑しながらずいぶんと物騒な事を言う。

あまり本当のことでも思ったことを口にするものではない。そういった助言だろうか。

 

奈緒がよくわからずも抱きついている加蓮を撫でているところ、プロデューサーさんは落ちたポケットティッシュを拾い始める。

それを手伝っていると、今の状況を改めて説明してくれた。

 

「2人に会ったのは日曜日。ニュージェネのライブの日だよ。

加蓮ちゃんをスカウトして、彼女を探していた奈緒ちゃんも合流して一緒にスカウトしたんだ」

 

「なるほど、そういうことでしたか」

 

加蓮は元々アイドルに憧れている口ぶりだったから何となく分かるが、まさか奈緒も了承するとはな。

つまり了承したものの、まだ気持ちの整理がつかないためにしばらく学校で上の空だったというところか。

 

全てのティッシュを拾い終わる頃には2人も落ち着いたのか、俺たちの前にやってきた。

それでもまだこちらを見ずに下を向いているが。

 

そうか、2人はアイドルになったのか。

自分たちがやりたいことが見つかり、実現しているんだな。

つまり今後は姉さんや凛たちのようにデビューする日が来る。

さっき加蓮にも言ったことだが、ライブで歌う日が来る。

 

その時俺は1人で応援しに行くだろう。今後3人で笑いながら会場へ向かう日は来ないかもしれない。

2人のことを嬉しく思うと同時に、何故か心に穴があいたような・・・・・・そんな気分に一瞬なってしまった。

 

「!?」

 

「加蓮?どうかしたか?」

 

「ううん。何でもない。それよりも奈緒、まだもう少し時間あるんだし、仕事しないと」

 

「お、おう」

 

2人の会話は小さい声だったためよく聞こえなかったが、仕事という単語だけは聞こえた。

プロデューサーさんが奈緒にティッシュの入ったカゴを渡す。

つまりあれを配ることが仕事というわけか。

それにしても最初見た感じ上手くいってなさそうだったな。

 

「プロデューサーさん、2人の仕事はティッシュを配ることなんですよね」

 

「うん、俺はタケ・・・・・・武内みたいな一般のコネはあまりないんだけど、英会話教室とか携帯会社とかゲームや雑誌関係の知り合いは多くてね。

そこから新人の仕事に良さそうなのを回してもらったんだよ。今回は見られることに慣れてもらうのが目的」

 

「そうでしたか」

 

だがティッシュ配りは無視されるケースも多い。

俺もあまり関わりたくない場合、遠くから見つけたら迂回する時もある。

加えて、加蓮は大丈夫そうだが奈緒は渡すのに躊躇していた。

せっかくだし2人のことを覚えてもらいたいんだが、何かいい手はないか・・・・・・

 

「な、なあ紅葉。何か真面目そうに考え込んでるところ悪いんだけどさ、その旗持ってるせいで違和感しかないというか」

 

「絶対アタシたちより目立ってるよね♪」

 

「紅葉くん、俺もさっきから思ってたけど、よくそんなの持ってて疲れないね。重くない?」

 

「いえ、仕事ですので大丈夫です」

 

「そ、そう。やっぱり少し変わってるねキミ」

 

一瞬忘れかけていたが、俺もバイト中だった。

さすがに初日から真面目に行わないのはまずいだろう・・・・・・そうか、この手があった。

 

「プロデューサーさん、1つ提案があるのですが」

 

「うん?なんだい?」

 

「場所を変えませんか?自分としてはやはり2人のことを少しでも皆に覚えてもらいたいので」

 

「いいよ。この商店街はキミの方が詳しそうだ。2人もそれでいいかな?」

 

「うんいいよ。先輩なら間違ったこと言わなそうだし」

 

「あたしは何か嫌な予感がするけど、ここは素直に従うよ」

 

「こっちです。付いて来て下さい」

 

客引きは出来なかったが大丈夫だよな?

師匠には悪いとは思うが、時間も俺向きになってきたしあの場所を利用させてもらうことにしよう。

 

 

紅葉くんの作戦開始!

 

 

「師匠、戻りました」

 

「おう、早かったな・・・・・・って、おいおい。本当に連れてきたのかよ」

 

何故か驚いた顔をしているんだが。仮に3人がお客さんだった場合は普通喜ぶんじゃないのか?

 

「いや悪いな。まさかいきなり上手くいくとは思わなくて驚いちまった」

 

「いえ、すみません。実はお客さんじゃなくこっちの2人は知り合いなんです」

 

「ほう、知り合いね」

 

先ほどのプロデューサーさんのように、顎に手を置き奈緒と加蓮を見る師匠。

加蓮はいつも通りに見えるが、奈緒は師匠の様子に緊張しているのか背筋をまっすぐ伸ばしている。

 

「初めまして、北条加蓮です」

 

「か、神谷奈緒です!」

 

「おっと挨拶が遅れたな。俺はセタンタ。セタでいいぜ」

 

「セタ師匠とは俺が東京に来た頃からの知り合いなんだ。魚の捌き方なんかも教わってる」

 

「なるほどねぇ。だから師匠なんだ」

 

「ああ」

 

「で、どっちがお前さんのコレだ?まさか両方か?やるじゃねぇか紅葉!」

 

「は?コレ、とは?」

 

音が鳴るほど勢いよく俺の肩を叩く師匠の手が地味痛いんだが。

笑顔で小指を見せているのには一体どんな意味があるのだろうか。

 

「さあ、どっちでしょう?ね、奈緒?」

 

「は、はぁ!?あ、あたしに聞くな!紅葉、お前は知らなくていいからな!」

 

2人は知ってるようだが知らなくていいらしい。

師匠の小指に一体どんな秘密があるのだろう。

 

「ま、それはそれとしてだ。一体これから何しようってんだ?」

 

「はい。実は・・・・・・」

 

2人がアイドル、男性の方がプロデューサーであることを伝えると、プロデューサーさんの方が師匠に名刺を渡す。

それに納得したあとに今回のことを説明した。

 

内容は簡単だ。

魚屋へやって来たお客さんにティッシュを配るというだけ。

しかもこの時間帯は商店街の一部は店を閉め逆に買い物客になる人も多い。

そうなると俺はお客さんがほとんどが知り合いになるため、挨拶をしつつ確実に2人のことを話すことが出来るのだ。

 

「ほう、そりゃ面白ぇな。なら店の前はお前に任せるぜ。俺は明日の仕込みを始めるから困ったら聞いてくれ。出来るか?」

 

「はい、ありがとうございます」

 

「なるほど、良い案だね」

 

「あ、すみませんプロデューサーさん。勝手に決めてしまって」

 

「いや、俺も面白いからいいと思うよ。じゃあ2人ともそこに立って始めようか」

 

『はい』

 

2人が返事をして店の横に立つ。

まだ少し緊張しているようだが、自分たちで相手を探すよりは楽になるだろう。

あとは俺が上手く相手に話を出来ればいいだけだ。

 

「おや、さっき見た時もしやと思ったけど、やっぱり紅葉くんじゃない」

 

「おばさん、お疲れ様です。っと、いらっしゃいませ」

 

早速知り合いである商店街のおばさんが買い物に来てくれた。

今はすぐ隣に奈緒と加蓮が立っていて、少し離れた場所でプロデューサーさんがそれを見ている状態だ。

 

「バイトを始めたんです。短い間ですがよろしくお願いします」

 

「なんだ、それならウチに来てくれても良かったのに。じゃあ今日は奮発して少し多めに買おうかしら」

 

「ありがとうございます。それと隣にいる2人なんですが」

 

「そう、ちょっと気になってたんだけど、この子たちも売り子さんなの?」

 

「いえ、実は2人とも俺の友人なんですがアイドルになりまして。346プロダクションってご存知ですか?」

 

「もちろん知ってるわよ。あなたのお姉さんのことは家族揃ってファンなんだし」

 

「ありがとうございます。こちら、神谷奈緒と北条加蓮。姉さんと同じく346に所属することになりました」

 

『よろしくお願いします!』

 

同時に頭を下げてティッシュを渡す。

おばさんはそれを笑顔で受け取ると、2人に話しかけた。

 

「あらあら、2人とも可愛い子ねぇ。絶対人気になるわよ。息子と娘にもちゃんと伝えておくわ」

 

『ありがとうございます!』

 

「じゃあまたね紅葉くん。セタさんもまたよろしくね」

 

「おうよ!オヤジさんにもよろしく言っといてくれ。また皆で飲もうってな」

 

こんな感じで続いていき、何人かの商店街の人たちと交流したあと、時計を見たプロデューサーさんが仕事の終了を告げた。

 

何とか上手くいったようで安心した。

奈緒も加蓮も最初はぎこちなかったが次第に慣れていったようで、たまにお客さんと談笑する姿も見受けられた。

 

元々俺と違いコミュニケーション能力が高い2人だ。

普段通りであれば初対面の人とも普通に会話できるのは道理だな。

 

「いやぁ助かったよ紅葉くん。今日は思った以上の成果をあげられた」

 

「お役に立てたのなら良かったです。俺も初めてのバイトということを忘れて上手く出来ましたし」

 

「キミはやっぱりあれだね。人をちゃんと見ている。そして今どんな状況かを素直に言葉にすることが出来る。ある意味それは才能だよ」

 

「いえ、先ほども言いましたが2人が友人だったからです」

 

人を見ているなんて初めて言われたから驚いたな。

元々他人に興味はなく、まともに見ずにいたし他人に対してそれは今もほとんど変わらない。

 

周りに人たちに対しては今まで見ていなかった分必死なんだと思う。

それに単なる俺個人の感想だ。奈緒や加蓮が本当はどんな人間なのか。俺にはわからない。

わからないがわかりたいとは思う。

姉さんの時のように悲しい顔を見るのは御免だしな。

 

「お陰で俺も2人のことを少しわかった気がしたよ。キミが言ったような声に関することもね」

 

「声、ですか?」

 

「うん、ちょっと伝手を当たってみる。さあ、2人とも今日は帰ろう。明日からはボーカルトレーニングだ」

 

「ボーカルトレーニング?ダンスレッスンじゃないのかよ」

 

「バックダンサーなんだし歌わないんじゃないの?」

 

「もちろんそっちもやってもらうけどね。ちょっとサンプルが必要になるかもなんだ」

 

「美嘉の言ってるように急なんだな・・・・・・」

 

「でも、今は1つ1つ言われたことをこなしていくしかないんじゃない?」

 

3人が集まって話し始めたので、仕事の話もあると思いあえて聞かないことにした。

ちょうどよく普通のお客さんがやって来てそれに対応すると、再びプロデューサーさんが俺に声をかける。

 

「それじゃあ俺たちはこれで失礼するよ。またね紅葉くん。今日はありがとう」

 

「はい。お疲れ様です」

 

「また明日学校でな紅葉」

 

「ああ、また明日」

 

手を振る奈緒の隣で加蓮は何か考える素振りを見せ俺に近づいてきた。

そのまま普通に別れの挨拶をするのかと思っていたんだが、その表情は少し暗い感じがした。

 

「どうした加蓮」

 

「その・・・・・・先輩、大丈夫?」

 

「ん?何がだ?俺は何ともないが」

 

「そう・・・・・・そう、だよね。アタシの思い違いかな」

 

「何のことだ?」

 

「ううん、何でもない。じゃあね紅葉先輩。また明日!」

 

「ああ」

 

3人が帰ったあとしばらくして俺の初バイトの時間も終了となった。

師匠が言うには仕事は問題ないらしく、これからも頼むとのこと。

 

家に着いた瞬間、今までなかった疲労感が急に押し寄せてくる。

だが不思議と悪くない。初めてバイトをした達成感のようなものがあるからだろうか。

 

しかし、2人がアイドルか。

せっかくのチャンスだ。このまま上手くデビューしてくれるといいんだが。

プロデューサーさんは良い人そうだし、美嘉もいるなら安心か。

そちらはあまり気にせず、残り2週間もない姉さんの誕生日までバイトを頑張ろう。

 

 

 

 

加蓮が見た紅葉くん

 

 

一瞬だった。

本当に一瞬だったんだけど、先輩が悲しい顔をしたように見えた。

本人に聞いてみたけど何でもなさそう。アタシの勘違いかな?

 

それならそれでいいんだけど、もし勘違いじゃないのならあんな顔はして欲しくない。

 

今のアタシがあるのは先輩の、紅葉さんのお陰でもある。

 

アタシが今こうして笑っていられるのは、この時間をくれたのは神様でも何でもなく紅葉さんだと思ってる。

この時間は絶対零さないし零したくない。

 

紅葉さんと、それに奈緒との出会いは運命だと思う。

アタシたちがアタシたちでいられるため、今まで以上に頑張るよ。もちろん、倒れない程度にね♪

 

まずは美嘉先輩のバックダンサーとしてデビューして、一歩一歩確実に渋谷さんに近づいてみせる。

あんな恥ずかしいことを目の前で言われちゃったら、期待通りに皆を魅了するアイドルになるしかないじゃない?

 

 

続く!




今回ちょっとした新しいアンケートがあるので興味のある方はぜひ。
お遊びのようなものなので軽い気持ちでどうぞ!


この作品、当初思ってた以上にたくさんのUAを頂いて物凄く感謝しております。
その分評価の幅が多く、主人公も変わっているため下がっていくのは仕方ありませんがw

感想もそこまで多くない作品なのでこのまま進めて行っても大丈夫かなと思う時がたまにあります。
とは言え否定的な意見が多かったらそれはそれで困るんですが。

変な愚痴を語ってしまい申し訳ありません!
ちなみに、一人称とか極端にアイドルの話し方が変だと思ったら報告してくださると助かります。



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Flower Shop ✿ SHIBUYA

すまない…思ったより長くなりそうで2回に分けることになって本当にすまない…




準備に余念がない紅葉くん

 

 

6月7日。

姉さんの誕生日があと1週間に迫ってる今日、何とか夕食の予約を取り付けることができた。

 

この件に関しては川島さんにもアドバイスをもらっていた。

外食をあまりしない俺が、ネットや情報誌だけを頼りに都内のレストランやホテルを探すには良し悪しがわからないし、出来るだけ今まで姉さんが行ったことのない場所を選びたかったからだ。

 

せっかくの誕生日、普段はやらないのだが思う存分飲んでもらおうと飲み放題のコースがある場所を選んだ。

本来なら複数人での予約のみ可能なはずだったが、これも川島さん協力の元特別に許可を貰った。

 

川島さんは嫌な顔一つせず、喜んで協力してくれていた。

酔っぱらいの人などと散々言っていた過去の自分に説教をしてやりたいところだ。

 

 

ここ2、3日の集中が切れホッと一息というところで、もう一つのことを思い出した。

プレゼントの花のことだ。

 

まだそう遅くない時間だたっため急いで凛へ電話する。

凛の家が花屋だというのは、何度か話してるうちに話題として出ていたため知っていた。

 

『もしもし、どうしたの?』

 

いつものように落ち着いた芯のある声が携帯越しに聞こえてきた。

以前のような焦った様子もなく、怒っている様子もなく、アイドル業が順調にいっているのだと思い少し安心した。

 

「今大丈夫か?少し頼みたいことがあるんだが」

 

『うん、大丈夫だよ。何か問題でもあった?』

 

「いや、別に深刻な話じゃないんだ」

 

今までの電話でのやり取りがやり取りだったからだろうか。

俺の言葉に凛は少し緊張した低い声に変わった。

 

そういえば凛は女性の名前を出すと雰囲気が変わるんだったな。

姉さんなら大丈夫だったと記憶しているが、一応出来るだけわかりやすいように話したほうがいいか。

 

「実は1週間後の14日が姉さんの誕生日なんだ。

食事と一緒に花をプレゼントしようと思っていたんだが、凛の家が花屋だということを思い出してな。

花のことは詳しくないし、出来れば凛に任せたいんだが、やってくれるか?」

 

『なるほどね。うんいいよ。じゃあ今から紅葉はお客様だ。

……ではお客様、ご予算はお決めになられていますか?』

 

急に凛の話し方が変わった。一瞬誰かと思ったぞ。

雰囲気も変わった気がするし、さすがに慣れているようだ。

 

「い、いえ。相場がわからないのでそちらにお任せしようかと」

 

『ふふふっ。どうして紅葉まで他人行儀になってるの』

 

「そ、そういえばそうだな」

 

それからいくつか説明を受け、8千円ほどの花束を頼むことにした。

少しおまけすると言われたが悪いと思ったので断ると、

 

『私がそうしたいんだから気にしないで。それに紅葉が任せるって言ったんでしょ』

 

と言われて言い返せなくなってしまった。

 

最後に受け取りの日と同時にどこで渡すのかという話に。

レストランでの食事の時、誕生日のケーキサービスも頼んでいたのでその時に渡すのはどうだろうか。

そう答えたところ、すぐに返事が返ってきた。

 

『うん、それがいいんじゃない?楓さんもきっと喜ぶよ。だったら紅葉だけ1度早めにレストランに行って花束を向こうに渡したほうがいいね』

 

「そうだな。そういえば肝心なことを聞くのを忘れていた。凛の家はどこにあるんだ?」

 

恐らくあの公園近辺にあるのだろうが、何度か公園や346プロと家を往復していた時もそれらしい店はなかったからな。

 

『え、私の家?ど、どうして急にそんなこと』

 

「ん?ああそうか。自宅で店を開いているわけじゃないんだな」

 

『あ、ああ!そういうことか。ごめん何でもない。紅葉の言う通りだね。えっと、住所は……』

 

一体どういうことなのかよくわからなかったが、これで準備は全て整った。

あとは当日姉さんに楽しんでもらうだけだな。

 

 

紅葉くんと花屋

 

 

いよいよ姉さんの誕生日当日となり、学校が終わってすぐに駅へと向かう。

最近は奈緒や加蓮もいつも通りとなり、さらにレッスン等の話が日常会話に加わっていた。

 

今日もプロデューサーさんが話があるとかで、校門で別れることとなった。

 

先週の凛の情報を頼りに迷わずすぐたどり着けるか若干の不安はあったが、すぐに杞憂に終わる。

駅を出てほぼ真っ直ぐの道のり、小さなカフェの隣に説明された通りの店があった。

 

「フラワーショップ……SHIBUYA。ここだな」

 

売り物なのか置物なのかはわからないが、様々な花が店頭に並んでおり、横目に見ながら開いたままの入口から中に入る。

 

近くにも奥の方にも人影が確認出来なかったため、『すみません』と声をかけるとすぐ近くで声がした。

どうやらしゃがんで作業をしていたらしく、花に紛れてこちらからは見えなかったようだ。

 

「はい、いらっしゃいませ」

 

「あ、えっと……」

 

思わず言葉に詰まってしまう。

なぜならてっきり凛が店番をしていると思ったのだが、相手は凛に似ている少し年齢が上の女性だったからだ。

 

姉妹がいるという話は聞いていないし、恐らく母親だろう。

以前のこともあり直接年齢に関することは聞かないが……

 

「もしかして紅葉くん?」

 

「はい。凛……さん、から聞いていましたか?」

 

「ええ、それはもう。最近のあの子の話は、卯月ちゃんや未央ちゃんの他はプロデューサーさんとあなたの話ばかりだもの」

 

他の3人はともかく、俺の話?何か話すようなことがあっただろうか。

基本的に俺と凛が話す内容は一言二言で終わってしまうんだが。

 

それよりもこちらの意図が上手く伝わらなかったようだ。

予約していた花束のことを聞きたかったが説明不足だったらしい。

 

「そうだ、先に上がってお茶でも飲んで行きなさいな。凛はまだ帰ってきていないし、あなたからも凛のことを聞きたいし」

 

「い、いえ。俺は……」

 

俺の説明よりも凛のお母さんの行動の方が早かった。

さらにこちらの返事を聞く前に店の奥へと向かっていく。

あの行動力は凛に似ているところではあるが、性格というか対人関係というか、そういったところは正反対のようだ。

 

せっかくの厚意だが、あまり時間をかけるわけにはいかない。

だが、とりあえず凛が帰ってくるまで待った方は良さそうだと奥へ向かおうとしたところ、タイミングよく後ろから聞き慣れた声が聞こえてきた。

 

「ただいま。あれ、紅葉もう来てたんだ。ごめん、待たせちゃったね」

 

「おかえり凛。いや、今来たところだから問題ない」

 

「お、おかえりって……」

 

「ああ、違うか。お邪魔しています、の方が正しいか?」

 

「べ、別にどっちでもいいけど……」

 

なぜか俯き居心地が悪そうな雰囲気の凛。

この場合はどうしたらいいのだろうか。

一応このまま一緒に凛のお母さんがいる部屋まで向かうべきなのか?

 

「紅葉くん。コーヒーと紅茶どっちが……あら、凛おかえりなさい」

 

「え、お母さん。一体何の話してるの?」

 

「何ってあなた。せっかく噂の紅葉くんが来たんだもの。娘の話を色々聞きたいじゃない?」

 

「なっ!?」

 

「紅葉くんもそれでいいわよね?」

 

「それは、はい。俺に話せることなら話しますが……」

 

「そんなのいいから!今日紅葉はお客さんなの!」

 

「当たり前じゃない。だから話を聞こうと」

 

「ち、違うってば!お店!うちの店のお客さん!」

 

俺を間に挟むような形で親子で言い合いになっている。

どうやらこの話を聞く限りでは俺の予約のことは伝えていなかったようだ。

 

しかしこれはこれで少し面白いな。

いつものあまり表情を変えず冷静に話をする凛と違い、表情を度々変化させ声を大にして言い合っている。

 

こう言った一面は初めて見るかもしれないが良い表情だ。

プロデューサーさんもこんな凛をわかっていてスカウトしたのだろうか。

 

「……ちょっと紅葉。何笑ってるの?」

 

「ん?笑っていたか?」

 

突然矛先が俺に向けられる。いや、元々俺の注文が原因でこうなったんだが。

 

先程までの会話とは違い、いつもの凛……よりもさらに静かな声、そして据わった目が突き刺さる。

ここはあまり長引かせるのは良くないな。

悪いがお母さんの方には説明をして断ったほうがいいだろう。

それに凛の目が俺に何とかしろと言っている気もするしな……

 

「先ほどの話でしたがすみません。

実は今日姉の誕生日でして、その花束をこちらの店に頼んでいたんです。

このあとすぐ出なければいけないので……」

 

「あら、そうだったの。凛ったら何も言わないんだから。じゃあ話はまたの機会に、ね」

 

「はい」

 

「もう……」

 

ため息を吐く凛を気にする様子もなく、お母さんの方はそのまま奥へと消えていった。

ここは凛に任せるということなのだろう。

 

「ちょっと待ってて、すぐ持ってくるから」

 

「ああ」

 

どうやら用意はすでに出来ていたようだ。

にも関わらず凛しか状況を知らなかったのか。どこかにわざわざ隠していたのか?

 

「お待たせ、どうかな」

 

両手で大事そうに抱える花束を見て、さすがは花屋の娘だと納得させられる。

花の知識はないに等しいため名前はわからないが、色とりどりセンスのある並びの立派な花束がそこにあった。

 

「さすがだな。凛に頼んでよかったよ。これなら姉さんも喜んでくれるはずだ」

 

「そう、よかった。中心にあるピンクと紫の花、これ何だかわかる?」

 

「いや、初めて見るな。何か特別な花なのか?」

 

そう言われてじっとみると、花束の中央に位置し他よりも目立つ花が2種類あった。

というよりも1種類か?見た目は同じように見える。

 

「どっちもグラジオラスって花なんだ。6月14日、今日の誕生花なんだよ」

 

「なるほど、そういった花もあるのか」

 

誕生花なんて注意して観察したことはなかったからな。

姉さんが知ってるかどうかはわからないが。

 

「花言葉なんだけど、ピンクの方は『たゆまぬ努力』『ひたむきな愛』。紫の方は『情熱的な恋』」

 

「努力、恋……なるほど。姉さんがアイドルに至るまでの過程や今、そして姉さんの歌にもあてはまるいい花だな」

 

「うん……(まあ、愛とか恋とか、たまに歌というより紅葉に対して向けられてるような気がしないでもないけど)」

 

「ありがとう、本当に助かった。また何かあった時はよろしく頼む」

 

「任せてよ。ちなみに……あ、ううん何でもない」

 

「ん?」

 

「何でもないったら!ほら、急がないとまずいんじゃない?」

 

「そうだな。じゃあ凛またな。お母さんにもよろしく言っておいてくれ」

 

「そんなこと言ったら紅葉が来るまで何か言われそうだけど……まあいいや。とにかく、今日は楽しんできてね」

 

「ああ」

 

これで本当の意味で準備は整ったな。

あとは姉さんと一緒にレストランに行って、凛が言ったように楽しんでもらおう。

 

 

 

「まったく、私も何言おうとしてんだろ。自分の誕生日が……なんてね」

 

 

 

続く!

 




このあとか次の話のあとにエクストラコミュを投稿します。
内容は以前紅葉くんがCPと自己紹介した時の李衣菜とみく、莉嘉以外略した全員分の自己紹介です。

これは動画にした物の逆輸入になるのですぐ投稿できると思いますが、それだけだと面白くないのでちょっと変わったことを付け足します。

なぜこの話をやるかというと、今後CPに関わっていく際、自己紹介部分の内容が必要になる可能性があるからです。

ちなみに楓さん以外の誕生日で年齢の変化云々はややこしくなるのでやりません!


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Happy Birthday Dear My Sister!

相変わらずの超亀更新ですが投稿です。

そしてついに楓さんの2曲目が!
等身大の楓さんの素晴らしい曲。
さあ3曲目はいつに!?


紅葉くんと楓さん

 

 

「おまたせ紅くん。どうかしら?」

 

「良く似合ってるよ姉さん」

 

凛の店で花束を受け取りレストランへ置いてきた後、急いで家へと帰ったが時間に少し余裕があったせいか、姉さんの方の準備はまだ出来ていなかった。

 

そのため後から来た俺の方が着替えが早く終わりしばし待つことに。

 

普段とは違い髪をまとめ、黒のドレスを着た姉さんは元モデルであったこともあり、歩き方、佇まいは一般人のそれとはかけ離れているように見えた。

 

「ありがとう。紅くんも素敵よ」

 

俺の方は滅多に着ないカジュアルスーツだ。

 

ちなみに服に関してはほとんど姉さんに任せている。

いや、別に俺自身は特に気にしないんだが、基本的に否定しない姉さんが唯一と言っていいほど俺の服のセンスにだけは難色を示しているからだ。

 

 

タクシーが着いたとの連絡が来て家を出る。

珍しく姉さんはサングラスをかけていた。

 

タクシーで向かうのもそうだが、今日は誰にも自分のことを気づかれたくないそうだ。

 

都内にある静かな音楽の流れるレストランに着いて席へと向かう。

黄昏時、5階の窓側の席ということもあり、外はとても良い眺めだった。

 

「ね、ねえ紅くん。ちょっと値段の高そうな場所なんだけど大丈夫なの?」

 

「貰ったバイト代で十分払える場所だよ。ただコースは決めてあるからそこはごめん」

 

「そんな、謝ることじゃないわよ。紅くんに全部任せるわ」

 

「ちなみに言ってなかったけど、アルコールの方は飲み放題だ。選べるのは少ないけどね」

 

「!!!」

 

その言葉に子供のような純粋な目を輝かせる姉さんが、なぜか一瞬にして我に帰る。

普通に喜ぶかと思ったんだが。

 

「そ、その。気持ちは嬉しいけどあまり飲み過ぎると紅くんが・・・・・・」

 

ああ、いつもの説教を気にしていたのか。

普段俺は飲みすぎて周りや俺に迷惑をかける点と体のことを心配しての注意してるだけなんだが。

 

姉さんには言ってないが、実のところ姉さんが酒を飲むのは嫌いではない。

酒の匂いがきつかったり、必要以上に絡んでくるのは別だが、飲んでいる時の姉さんはとても幸せそうで見ているとホッとする部分があるから。

 

「今日は姉さんの誕生日なんだ。怒らないし気にせず楽しく飲んでよ」

 

「そ、そう?じゃ、じゃあ今日はリミッターを解除するわね♪」

 

・・・・・・何だって?

普段あれで制限してたとでも言うのか?

余計なことを言っただろうか。

 

先に飲み物が来てグラスに注ぐ。

当然俺は普通のお茶だ。

 

グラスを持ち、笑顔の姉さんは俺の言葉を待っていた。

 

「姉さん、誕生日おめでとう。今日は思いっきり楽しんでくれ」

 

「ありがとう紅くん。お姉ちゃんとっても嬉しいわ」

 

グラスのぶつかる音が小さく鳴り、タイミングよく料理もやってくる。

普段食べない料理に選んだ俺自身も満足の内容。

姉さんは終始笑顔で、料理を食べる数倍のペースで次々酒を飲んでいった・・・・・・

 

「楽しい場所だと()()()()()()きれいにみえるわね♪」

 

「・・・・・・61.4点」

 

「そんな!誕生日なのに!?しかも小数点付きなんて初めてよ!」

 

「誕生日だから少し甘くしたんだ。点数も今日に合わせたんだし」

 

「だ、だったら別に614点でも・・・・・・」

 

「それは10年分の誕生日プレゼントになりそうだな」

 

「そこまで!?」

 

普段と変わらない会話もしつつ時間も後半に差し掛かった時、不意にBGMが小さくなり誕生日の音楽が流れ出す。

 

その状況に姉さんが俺を見る・・・・・・が、演出のことは全く聞いてないんだが。

普通にケーキと花束を持ってきて渡すだけだと思っていたのに、照明が消えレストラン内の人々が一気に静かになり、照らされたライトが俺たちの席にあてられて一気に注目を集める。

 

台車を引きやって来る従業員。そこには当然というべきかケーキが置いてあり、もう1人が花束を持ってやって来る。

 

・・・・・・ちょっと待ってくれ。なぜマイクを持っているんだ?

そういえば川島さんが特別な演出がある店だと言っていたが、まさかこれのことか?

 

ケーキに刺さったロウソクに一つ一つ火がつけられテーブルへと運ばれる。

従業員の人は俺に花束を持たせ、笑顔でマイクも渡してきた。やっぱりそうなのか。

 

困ったな。セリフなんて何も用意してないぞ。

まさかこんなことになるとは全く思ってなかった。

が、姉さんは期待の眼差しで俺を見ている。それを今日裏切るわけにはいかない。

 

なら仕方がない。師匠のもとでやったように、自分の素直な気持ちをここで伝えてみるか。

普段は言わないがちゃんと名前も呼んで・・・・・・

 

「楓姉さん。改めて誕生日おめでとう。姉さんはいつも俺の傍にいてくれた。それが当たり前のように感じていたかもしれない。そしていつも甘えてばかりだ」

 

「そんな、紅くん。お姉ちゃんなんだから当然じゃない」

 

「俺は姉さんのように目標や夢をまだ見つけていない。でも東京に来て、姉さんと一緒に暮らせて本当に良かったと最近実感してる。

楓姉さんが俺の姉で本当に良かったと思ってる。まだまだ未熟な弟だけど、困ったことがあったら何でも言ってくれ。俺はこれからも姉さんの力になりたい」

 

「紅くん!ありがとう・・・・・・本当にありがとう!今日は一生で一番嬉しい日よ!」

 

周りから一斉に拍手とおめでとうの言葉が送られた姉さんは、少し涙ぐんでいたようだった。

マイクを戻し、花束を姉さんへとプレゼントする。

 

「中心にある花はグラジオラスって名前らしい。今日の誕生花なんだ。ピンクの方は『たゆまぬ努力』『ひたむきな愛』。紫の方は『情熱的な恋』」

 

「努力、愛・・・・・・」

 

「アイドルとして頑張ってる姉さんにはぴったりだと思う。と言っても俺も今日初めて知ったんだけど」

 

「ふふふっ、そこは別に言わなくてもいいのに。紅くんらしいわね」

 

花束を受け取った姉さんがロウソクに息を吹きかけ、あたりが暗闇に包まれる。

その瞬間再び拍手が起こり、しばらくして照明と音楽も元に戻った。

 

ケーキを食べている間、短い時間だが姉さんは何か考えているようで、ほとんど会話はなかった。

食べ終わりグラスを一気に飲み干すと、ようやく考えがまとまったのか俺に話し始めた。

 

「紅くん、いずれやろうと思っていたことがあるんだけど、聞いてくれるかしら?」

 

「うん」

 

「私がアイドルとしてデビューした思い出の場所があるの。以前渡した写真の場所よ」

 

「ああ、ゾフマップ・・・・・・だったか」

 

「ええ。そこで機会があればまたライブをやろうと思ってたの。小さくても関係ない、始まりの場所だから」

 

「そうか」

 

「そのライブを必ず今年中にやるわ。そして、紅くんにも来て欲しい。私と一緒に思い出を共有して欲しいの」

 

酔いながら顔の若干赤い姉さんが真面目な顔で何を言い出すかと思ったら・・・・・・そんなの、答えは決まってるじゃないか。

 

「もちろん行くよ。呼ばれなくても行くつもりだ」

 

「ありがとう♪それじゃあ、時間も迫ってきたことだし、じゃんじゃん飲んじゃいましょう!」

 

「あ、ああ」

 

俺の想像以上に限界を越えた姉さんは最後の最後まで飲み続け、会計の頃にはほとんど眠ってしまっていた。

若干苦笑いの従業員に申し訳なく思いながらも、姉さんをおぶって迎えのタクシーに乗り込む。

 

家に着く頃には完全に眠りについた姉さんの寝息が聞こえ、そのまま部屋のベッドに寝かせても全く反応がなかったが、その寝顔はとても安らいでいた。

 

「おやすみ姉さん。もしかすると途中から記憶がなくなってるかもしれないけどな」

 

そういえば今日は仕事を休みにしたようだが明日はどうなのか聞いてなかった。

俺は普通に学校だし、一応朝食を用意して出発する時に起こしておくか。

 

 

 

 

紅葉くんとアイドル再び

 

 

姉さんの誕生日からしばらく日が経ち、シンデレラプロジェクトの面々は徐々にメディアに進出し始めていた。

奈緒と加蓮は未だ完全なデビューとはいかないが、それでも小さな仕事やレッスンはこなしているようだ。

 

7月になりますます日差しが暑い祝日。

あれ以降も日数は少ないが続けているバイトがない日に、美嘉から連絡が来た・・・・・・が、様子がおかしく話がまとまっていない。

 

『お願い高垣くん。莉嘉を助けて!』

 

「どういうことだ?」

 

一体莉嘉に何が起こっているのか。

また以前凛から連絡があった時のように、ストライキでも起こしているのだろうか。

 

 

次回 Our world is full of joy!!~side紅葉~

 

「渋谷凛さん・・・・・・だよね?」

 

 

続く!

 

 




ということで次の話はまた少し時間が飛びます。

それと以前のコミュアンケート結果もあるので、少し早めに美城常務と紅葉くんの部分ちょっとやりたいですね。


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Our world is full of joy!!~side紅葉~

おかしい、美嘉回になるはずだったのにどうしてこうなった!?
今回ちょっと長め、そしていくつか独自設定がまたあるので注意してください。


紅葉くん原宿へ!

 

 

『お願い高垣くん。莉嘉を助けて!』

 

電話を取った瞬間美嘉の第一声。

その声からはいつもとは違った焦りを感じた。

 

話を聞いても美嘉自身上手く内容をまとめ切れないらしいのと、時間がない可能性も含めイライラ感も出ている。

 

確かに妹の身に何かあった可能性があるなら当然のことか。

俺も姉さんに何かあった場合は……まあ、いつも通りだと逆にいったん冷静になるな。

 

どんな状況なのかほとんどわからないが、莉嘉が原宿周辺で行方不明だということはわかった。

ならば、俺がやることは1つだけだろう。

 

「わかった。今から原宿に向かう」

 

『え、いいの?』

 

「そのために連絡したんじゃないのか?」

 

もしかすると手当たり次第に友人に連絡していたのだろうか。

そして運良く都合のつくのが俺だけだったと。

 

美嘉が仕事関係で自分から助けを求めるのはよっぽどのことだ。

以前のnew generationsの時でさえ、俺から言わなければ自分で抱え込んでいたのだから。

 

「莉嘉は1人なのか?」

 

『ううん。ごめん、ありがとう高垣くん。少し落ち着いたかも』

 

「そうか」

 

少しずつ冷静になった美嘉から現状が伝えられる。

その間、急ぎのことなので俺は準備を済ませ駅へ早足で向かいながら話を聞いていた。

 

美嘉によると、莉嘉、みりあ、きらりさんの3人はプロジェクト第5弾のユニットとして活動を開始したらしい。

凛たちのnew generations。新田さんたちのLOVE LAIKA。蘭子はソロ、そして双葉さんたちとほぼ同時に莉嘉たちの活動が始まったと。

 

今回は若者向けのファッションブランドとのコラボが決まり、都内でいくつかイベントを行っているのだとか。

そして移動中になぜかプロデューサーが警察に捕まり、莉嘉たちの居場所がわからないと……確かにこれは説明しづらいな。

 

美嘉の方も早く探したいだろうと思ったので、こちらから色々質問するのはやめておいた。

莉嘉たちや他のアイドルからの連絡で混線する可能性もある。

なのでこちらから連絡するのは莉嘉が見つかった時だけ、そう言って電話を切る。

 

以前会った時きらりさんは、まるで姉のようにしっかりと莉嘉やみりあの面倒を見ている様子だった。

あの人が一緒なら問題はないだろうが、途中で3人バラバラになった可能性も考えられる。

次のイベントも控えているようだし、出来るだけ迅速に解決したほうがいいだろう。

 

となると俺1人では探すのに限界がある。

休みだということは聞いていたので、申し訳ないとは思ったが奈緒と加蓮に連絡を入れてみるとすぐに手伝ってくれると言ってくれた。

どうやら美嘉は2人に連絡はしてなかったらしく、奈緒は水臭いと少し怒っていた。

 

奈緒たちには別々に探してもらうとして、他に誰かアテがあるか考える。

姉さんは仕事で東京にいないので無理だ。

こんな時は自分の交友関係が狭いのが裏目に出るな。

 

「……1人だけ心当たりはあるか」

 

ふと思い出した人物がいた。

苦手なのであまり関わり合いになりたくはないのだがそうも言っていられない。

当然、あいつの携帯の番号は知らないが、姉さんに言われ念のためにと自宅の番号は登録したのが役に立つとは。

 

「……おばさん、お久しぶりです。紅葉です。はい、俺も姉さんも元気にやってます。ところで……」

 

 

 

 

 

紅葉くんとフライングな少女2

 

 

「遅かったわね」

 

「早いな……奏」

 

電話をしたのは親戚である速水家。

そして頼ったのはそこの長女である従姉の奏だ。

 

気温が上がり日差しが強くなってきたためか帽子を被り、腕組みをしながら待っていた奏は、若干不機嫌そうにしながら一言そう言った。

 

俺が電話をした時一瞬姉さんだと思いため息をつきながら話を聞いていたんだが、仕方ないと言いながらも俺より先に駅へ来てくれたようだ。

 

今回は以前の制服と違い、私服を着ているためかより大人びて見える。

そういえば昔から年相応のというか、可愛いと呼ばれる服には興味なかったか?

これも姉さんの影響なのだろうか。

 

「まさか来てくれるとは思わなかったぞ」

 

「あなたが私に頼みごとなんて初めてのことだもの。もちろん、それ相応のお返しはしてもらうけれど、つまらない物だったら今すぐ帰るわ」

 

「……姉さんに2人で外食してもらうよう頼んでおく」

 

「何してるの紅葉。早く人探しを始めるわよ」

 

「……」

 

相変わらず姉さんが絡むと人が変わる。

そもそもこんな簡単なことは自分で頼めばいいはずなのだ。

姉さんだって妹のように接している奏の頼みなら、喜んで一緒に食事するなり買い物に出かけるだろうに。

恥ずかしいのかプライドが邪魔しているのかは俺には分からないが、奏から姉さんに頼みごとをするというのを聞いたことは一度もない。

 

「ところで、以前言ってたように姉さんとは会ったのか?俺は何も聞いていないが」

 

「う、うるさいわね。あなたには関係ないでしょう!」

 

どうやらこちらの方も全くだったらしい。

会えば会ったで普通に話をするのに、自分から会いに行くということは結局いつもしない。

 

よく姉さんは、アイドル高垣楓としては神秘的で話しかけづらい……

等という話を聞くのだが、その一般に出回っている嘘を奏が信じているとも思えないし、小さい時から姉さんのことはよく知っているはずだ。

多少仮面を被った姉さんを見ていたとしても、その本質を身内が見抜けないはずないんだが。

 

「頼みごともそうだけど、それが友達のため……なんてあなたが口にするなんて驚いたわ。万年ぼっちだったのにね」

 

くすくすと笑いながら話す奏の言葉に、確かにそうだなと納得する。

昔は友達なんていらない、特に興味ない等とよく話していたものだ。

それがこの1年で随分変わったな。

 

友達で思い出したが、奏からも友達の話は聞いたことないな。

いつも親戚の集まりで俺たちが話すことはそう多くはないが、内容は決まって自分のことか姉さんのことだけだったはずだ。

 

「お前の方はどうなんだ?普段友達とどんな話を?」

 

「……っ!?今はそんな話はどうでもいいじゃない!」

 

「お前からその話を振ってきたんだろう……」

 

まあ確かに奏の友達の話をされてもどんな感想を言えばいいかよくわからないしな。

奏曰く、俺は顔にすぐ思ったことが出やすいようだし、それが分かって自分の話はしないのだろう。

 

「そういえばまだ聞いてなかったけど、探す相手の特徴はどんな感じ?それがわからないと私には探しようがないわ」

 

「そうだったな。探す相手は3人、その内2人は……俺より小さいな」

 

「……他には?」

 

「あとの1人は……俺より大きいな」

 

「帰っていいかしら?」

 

そう言われてもなんと答えていいのかわからないから困る。

せめて莉嘉の今日の服装だけでも美嘉に聞いておけばよかったか。

 

「はぁ・・・・・・まったく。私はあなたと漫才をするほど暇じゃないのよ。とにかく歩いて探しましょう。ここにはいないのでしょう?」

 

「ああ」

 

駅から少しずつ離れ、周りを注意深く確認しながら人通りが特に多い場所へと向かう。

裏路地等の方が見つかりやすい場所ではあるが、さすがにそんな関係のないところにはいないだろうという俺たちの考えだ。

 

すると、何やら特に人が集まっている場所を発見した。

もしやと思い近づいてみたが、残念ながら予想は外れたようだ。

 

「ここは、クレープ屋か。随分と人気なんだな」

 

「ミリオンクレープ……ああ、ここだったのね」

 

奏が店名を確認し1人納得していた。

並んでいる人も店内の客も男女関係なく俺たちか少し上くらいの年齢が多い。

クレープのことは詳しくないが、よほど美味しい店なのだろうか。

 

「有名なのか?」

 

「クレープがってわけじゃないわよ。アイドルとコラボしてるのよ、ここ」

 

やはりというべきか、奏は俺の考えていたことが分かっていたらしく、知りたい答えを教えてくれた。

なるほど、コラボというのは色々なところで行われているんだな。

ここもシンデレラプロジェクトが関係しているのだろうか。

 

「765プロの新規プロジェクトが多方面で活躍してるらしいわね」

 

「765?初めて聞く名前だな。346の新しいアイドルグループなのか?」

 

疑問に思い質問したのだが、奏は両目を見開き、まるで信じられないといったような表情で口も開けたまま俺を見て硬直している。

バッグも落としたんだが、拾ったほうがいいのだろうか。

 

「う、ウソでしょ!?765プロを知らないなんてあなた本当に日本人なの!?」

 

「俺が外国人なら姉さんもそうなるだろう。いや、オッドアイな部分を見ると一概に違うとも……」

 

「真面目に考えないで!ああ、従弟のあまりの残念さに目眩がしてきたわ」

 

「少し大げさじゃないのか?」

 

落ちたバッグを拾い奏に渡すと、『ありがとう』と言いながらも眉間に手を当て大きくため息を吐いた。

そのオーバーリアクションからなのか奏が目立つからなのかはわからないが、少し周りに注目されているような気もする。

 

「765プロは346よりも前からある日本で一番といっても過言じゃない有名なアイドルプロダクションよ。

そこのトップはもちろん……いいえ、あまり言いたくはないけど、お姉さまよりも全国での認知度は高いわ」

 

『テレビやラジオでも何度かお姉さまと共演しているでしょう?』と言われたが、全く覚えていない。

ようやく346のアイドルの誰が誰かわかるようになってきたところなんだ。

他のことを考える余裕があるわけ無いだろう。

 

つまり他のプロダクションでも色々とコラボを展開しているということか。

莉嘉たちの活躍がどのような形になっているのかはまだわからないが、いずれこのクレープ屋のように訪れる客が皆笑顔になるような、そんなコラボになってくれればと思う。

 

奏なら莉嘉たちのコラボ先のことも知っているのだろうか。

 

「奏はPika Pika Popのコラボのことは知っているか?」

 

「あなたからそんな言葉が出るなんてね。詳しくは知らないわ。346とはいえお姉さまとも関係がないし」

 

「そうか、莉嘉のことも知っているかと思ったが」

 

「莉嘉って、あの城ヶ崎美嘉の妹よね?そのコラボに加わってるユニットの。それがどうかしたの?」

 

「いや、この辺りにその店があるなら莉嘉たちもいるんじゃないかと思ってな」

 

「ちょっと、今は人探しが先でしょう?アイドルの追っかけは後で勝手にしなさいよ」

 

「だからその探す相手が莉嘉たち凸レーションなんだが」

 

「・・・・・・はぁ!?」

 

クレープ屋を離れ、しばらく歩いたところで急に奏が大声を上げた。

ようやく注目を浴びることがなくなったと思ったのだが、その声にまた周りの人たちが一斉にこちらを向いてしまう。

何故かわからないが、俺はどこにいても誰といても視線が向けられている気がする。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい紅葉」

 

「何だ?」

 

「少し状況を整理させてくれないかしら」

 

「ああ、一旦原点に戻るのは大事かもしれないな」

 

奏は冷静を装っているが、言葉はいつになく早口だ。

そういう時は決まって混乱し落ち着きがない時。

たまに姉さんと話をしたあともそうだ。

その時は顔は無表情で冷静に見えるが耳だけが真っ赤になっていることが多い。

 

「今日の目的はあなたの友達の妹たちを探すことよね」

 

「そうだな」

 

「その妹の名前が莉嘉なのね?」

 

「ああ」

 

「それで、あ・・・・・・あなたの友達の名前は?」

 

「ん?言ってなかったか。城ヶ崎美嘉だ」

 

「はぁぁぁ!?聞いてないわよそんなこと!」

 

確かに言い忘れていたがそんなに驚くことなのか?

姉さんだってアイドルだし、そもそも友達にアイドルとかそうじゃないとか何の関係があるのだろうか。

 

俺が疑問に思っているのがまた顔にでも出たのか、睨んでいた奏が何か言おうとする。

が、同時に少し前方がざわつき始め、周囲の人たちもそちらへと急いで向かっていった。

 

「何かあるのか?」

 

「この件は後回しよ。私たちも行ってみましょう」

 

この騒ぎは莉嘉たちが関係している可能性もあると言いたいのだろう。

俺の肯定の言葉を待たずに先へと行く奏の後ろから人が集まり始めている通りへと向かう。

するとそこには予想通り、いや予想通りでよかった。

莉嘉たち3人が歌いながら人を集め歩いていた。

 

 

 

「あ、高垣くん!」

 

「美嘉、それにプロデューサーさんも」

 

「お久しぶりです」

 

莉嘉たちが見つかってよかったと安心したところ、横から声をかけられた。

そこには帽子を被りメガネをかけ変装していると思われる美嘉と、警察に捕まったプロデューサーさんがいた。

 

「お久しぶりです。警察に捕まったと聞きましたが、大丈夫だったんですか?」

 

「い、いえ。それは・・・・・・」

 

「あ、あははは・・・・・・」

 

どうやらあまり聞かれたくない内容のようだ。

美嘉の方も作り笑いで目を逸らしている。

 

確かに3人が見つかってよかったが、結局何も出来なかったな。

 

「美嘉、すまない。結局俺たちは何の役にも立たなかったようだ」

 

「ちょっと紅葉。さりげなく役立たずに私も加えるのをやめてくれない?」

 

「そ、そんなことないって!高垣くんのお陰で少し落ち着けたんだ。アリガトね★」

 

「そうか、ならよかった」

 

「ところで・・・・・・そちらの方は?」

 

「ああ、こいつは・・・・・・」

 

「あら、こいつだなんて随分な言い草ね。一緒に同じ布団で寝た仲だっていうのに」

 

「な、なななな!」

 

「・・・・・・それは幼稚園に入る前の話だろう。そもそもその話は今関係あるのか?」

 

「ふふ、さあどうかしら?」

 

「た、たたたかがきゅん!こ、このこここ!」

 

この状態の美嘉を見るのは久しぶりな気がするが、なぜこうなったのか。

しかしこの場でそんな大声を上げるのはまずいんじゃないか?

莉嘉たちが目立っているとは言え、近くに美嘉がいることを周囲に知られたらこっちの方が注目されると思うんだが。

 

「あ、お姉ちゃん!Pくんに紅葉くんも!」

 

そんなことを考えていたら莉嘉に見つかってしまったようだ。

案の定こちらへと視線が集まる。

 

ちなみに莉嘉だが、前川さんたちとのストライキのあと何度か会う機会があった。

最初は俺を見るとお姉ちゃんごめんなさいと泣き出してしまっていたのだが、最近ようやくいつも通りに戻ったらしい。

 

とりあえずロボットのようになっている美嘉をどうするべきか。

プロデューサーさんはどうしていいのかわからないようだし、奏は状況を楽しんでいるようだ。

 

そうだ、奏の紹介がまだ途中だったな。

 

「こいつは速水奏。母方の従姉なんだ。莉嘉たちを探すのを協力してもらっていた」

 

「へ?い、いとこ?」

 

「速水奏よ。カリスマと呼ばれるあなたに会えて光栄だわ。よろしくね」

 

「よ、よろしく」

 

「あの、アイドルに興味は・・・・・・」

 

「ないわ」

 

唐突にプロデューサーさんが奏に話しかけるも、本人は見向きもせず一蹴する。

だがそのあとの小さな声で言った言葉を俺は聞き逃さなかった。

『今は・・・・・・ね』という、少し嬉しそうな奏の唇から発せられた言葉を。

 

 

 

 

目的を達成できたのでこのまま帰ろうと思ったんだが、プロデューサーさんがどうせならと莉嘉たち凸レーションのトークショーを見学することとなった。

 

その間奈緒たちに連絡を入れると、どうやら事務員の人の機転で先にトーク会場の舞台裏へ着いていたらしい。

 

会場へ着いた俺と奏は、美嘉たちと別れて正面からショーを見るつもりだったのだが、プロデューサーさんはそのつもりはなく同じく舞台裏へ案内するつもりだったようだ。

 

「あら、あなたが高垣くんね。初めまして、千川ちひろです」

 

千川さんという事務員の人は終始笑顔で俺たちを暖かく迎えてくれた。

しかし、346の事務員はずいぶんと目立つ格好をするんだな。

蛍光色の制服をじっと見ていると目が疲れてきそうだ。

 

お近づきの印にと奇妙なドリンクを手渡されたが、これは市販されているものなのか?初めて見るんだが。

 

千川さんと挨拶を済ませると、テントから知った面々が顔を出す。

奈緒に加蓮。そして凛と蘭子に・・・・・・新田さんもいた。

 

「2人とも今日は休みだったのに悪かったな。でもお陰で莉嘉たちは見つかったよ」

 

「あたしたち何もしてないけどな。でも今後も何かあったら遠慮せず言えよな」

 

「アタシも今日は収穫があったし来てよかった。ね、渋谷さん?」

 

「・・・・・・凛でいいよ。私も加蓮って呼ぶし」

 

「ん、わかった。凛♪」

 

「ならあたしも奈緒でいいぞ。改めてよろしくな凛」

 

「うん、よろしく奈緒」

 

「3人はずいぶんと仲が良いんだな。加蓮もちゃんと話せたのか?」

 

「紅葉先輩にはナイショ♪じゃないと奈緒が泣・・・・・・」

 

「おぉーいッ!その話はやめろっての!」

 

加蓮は凛に対して思うところがあったようだが、以前話していた時のような暗い表情は消えているようだ。

奈緒は元々誰に対しても分け隔てなく仲良くなれる性格だし、今後もうまくやっていけそうだ。

 

「紅葉」

 

「ん?」

 

奈緒と加蓮がいつも通り話していると、その様子を楽しそうに見ながら凛が近づいてきた。

 

「私、もっと前へ進むよ。あの2人に負けてられないし、もう立ち止まりたくないから」

 

「ああ、次のライブも楽しみにしてる」

 

「うん」

 

「あ、そうだ高垣くん」

 

「!?」

 

いつの間にか後ろにいた新田さんの声に緊張が走る。

振り返ると、どうやら奏と話をしていたようだ。

サンセットシティのライブ以降、新田さんと話したことは一度もない。

あの時のありがとうという言葉から、威圧感はなくなってはいるんだが・・・・・・

 

「ずっと言いそびれちゃって。改めてお礼を言いたかったの。私とアーニャちゃんのライブを観てくれてありがとうって」

 

「いえ、こちらこそ素晴らしいライブをありがとうございました。あの懐かしく感じる曲と2人のパフォーマンスは今も鮮明に思い出されます。機会があればまた聴いてみたいです」

 

「ええ是非。そ・れ・と!」

 

ぐっと近づき俺の鼻へ人差し指を突きつける新田さんに一瞬身構えてしまったが、次の言葉に今までの誤解が全て解けた気がした。

 

「私、あの時確かに少しお姉さんって言ったけど、まだ19歳ですから!お酒だって飲めないんですからね!」

 

「そ、それは大変申し訳ありませんでした・・・・・・」

 

どうやら年齢を勘違いしていたらしい。

あれ以降他の人にも年齢の話を振らなかったが、やはり聞くべきか、それとも本人ではなく周りに聞いてみるべきか・・・・・・

 

「それじゃ、私は帰るわね」

 

そんな中、奏が俺たちに背を向け歩き出した。

まだ莉嘉たちのトークショーは始まったばかりなのだし、最後まで聞いていかないのかと尋ねたが、十分楽しんだらしい。

 

「まさかあの紅葉がこんなにたくさんのアイドルと知り合いになるなんて。人って思ったより一瞬で変わるものなのね」

 

「今日は助かった。姉さんにはちゃんと伝えておく」

 

「ええ、それじゃあまた」

 

以前とは逆に今度は奏の方から『また』という言葉が出た。

俺もそうだったが、向こうからもその言葉が出るのは初めてではないだろうか。

 

そんな奏は何か思いついたように立ち止まり、全員に聞こえる声で次の言葉を告げて去っていった。

 

「一緒の食事、楽しみにしてるわね!」

 

「・・・・・・」

 

「ねえ先輩、そういえばあの人って誰なの?」

 

「紅葉、食事って何?アンタとどういう関係?」

 

「いや、俺じゃなくてだな」

 

「ずいぶんキレイな人だったけど、まさかお前の!」

 

「だから俺じゃなく姉さんの・・・・・・」

 

『言い訳無用!!』

 

「そっちが質問したんだろう・・・・・・」

 

どうやら奈緒と加蓮、そして凛は仲良くなっただけではなく、息もぴったり合うようだ。

今後この3人が一緒に同じ舞台に立つ日が来るのだろうか・・・・・・

 

舞台といえば、シンデレラプロジェクトでまだデビューしてないのは前川さんと李衣菜だ。

蘭子のようにそれぞれソロで出るのか、又はユニットとして出るのか。

今度それとなく学校でそれとなく前川さんに聞いてみよう。

 

 

続く!

 

 




トラプリがどんな会話をしていたのかは、以前出したので割愛します。
前話までは奏を出す予定なかったんですが、気がついたら紅葉くんが電話してました。

結局今回何の活躍もしていない主人公!

ユニット名:Average18
メンバー:高垣楓、城ヶ崎美嘉、渋谷凛、神谷奈緒、北条加蓮

平均年齢18歳
少女たちは少し大人に、楓さんは少し少女の気持ちになって歌う恋の歌が人気のユニット(予定)




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紅葉くんと*(Asterisk)の数日間(前編)

皆さん明けましておめでとうございます。
今年も紅葉くん共々、どうぞよろしくお願いします!

少し長くなりそうなので話を分けます。
アスタリスクの話は1日ごとに行われていましたし。

しかし、既に完成している話に介入するのは難しい。
よく今までやってこれたなと・・・・・・

追記
誤字報告ありがとうございます!



1日目

 

 

凸レーションのイベントから数日が経った。

いよいよ夏休みも近づいており、日に日に気温が上昇するのを数字だけでなく体でも感じていく。

 

今年は例年以上の暑さ……等というニュースのセリフはもう毎年恒例になっているな。

 

物凄くどうでもいいことだが、この時期になると家でも恒例行事になっていることが1つある。

実家でもマンションでもクーラーがあるというにも関わらず、姉さんが扇風機をリビングに持ってくるのだ。

 

そしてその前に姉さんが座り、俺の目の前で意味不明な言葉を連呼する。

 

「ねえ紅くん見てみて!ワレワレハ ウチュウジンダァァァ

 

「……はぁ」

 

「紅くんの溜息に年々感情がこもっていくわ!もう少しね」

 

何がもう少しなのか。

先月の誕生日で25歳になった姉のこんな姿を見せられる弟の身にもなってくれ。

 

 

そんなことを考えながら今季残り少ない学校へ。

最近小さいものではあるがシンデレラプロジェクトのポスターを目にするようになった。

 

主にそこに写っているのはnew generationsだ。ラジオで曲が流れる機会も増えているらしく、その度に凛に教えられて耳を傾けていた。

 

駅のデジタルサイネージにも表示されたアイドルの活躍を見ながら横を通り抜けようとしたが、制服姿の少女に足が止まる。

その後ろ姿にもしやと思ったが、案の定そこにいたのはプロジェクトの一員で学校の後輩にあたる前川さんだった。

 

「前川さん」

 

「え?あ、先輩。おはようございます」

 

「おはよう」

 

前川さんはメガネのあるなしでアイドルと一般のオンオフを切り替えているようだ。

学校にいる時、つまりメガネをかけている状態だと俺のことを先輩と呼び敬語で話すが、

メガネを外しねこみみを付けた状態だと敬語をやめ、最近は『紅葉チャン』と呼ぶようになっている。

 

この切り替えに感心した俺は、この前美嘉たちに相談したことが1つあった。

今後俺が事務所へ行った時や仕事中の姉さんに遭遇した場合、『姉さん』ではなくアイドル高垣楓として接したほうがいいのかと。

姉さんの周りへ体面もあるだろうし必要なのかと聞いたんだが、美嘉だけでなく奈緒や加蓮にまで同時に却下された。

 

『楓さんが泣いてしまうからやめなさい』と……

 

「プロジェクトは順調のようだな」

 

「そう……ですね」

 

「あ、いやすまない」

 

自分たちのプロジェクトの活躍が表に出ているのを見て喜んでいるのかと思ったが、前川さんはまだ正式にデビューしていないんだった。

紆余曲折を得て気持ちの整理がつき、将来に向けて頑張っているのは確かだろうが、この様子を見る限りやはりまだ思うところはあるようだ。

 

「ち、違うんです!デビューのことで悩んでるとかそうじゃなく……いえ、半分そうなんですけど」

 

「どういうことだ?」

 

俺が謝った理由を察したのだろう。

そうじゃないと否定したが他にまだ問題がありそうな様子だ。

 

原因を話そうかどうするか迷っているような前川さんだったが、仕事関係のことだろうし無理に話すこともないだろう。

だが、『じゃあ』と別れを告げて学校へ向けて再び歩き出そうとした俺のシャツの裾を、前川さんは掴んで急に怒り出した。

 

「ちょ、普通詳しく話を聞こうとするところじゃないですか!?」

 

「仕事の話だろう?一般人に話せないこともあるだろうし、無理に聞こうとは思わないぞ」

 

「そういうとこ相変わらずクールというかドライというか……ていうか、今更先輩がただの一般人だなんて346の誰も思ってないと思うんですけど」

 

「???」

 

「どうしてこの人は意味わからないって顔してるにゃ……」

 

勘違いしているようだが、俺は姉さんがいるからこそアイドルたちと普通に話せているようなものだ。

姉さんがアイドルじゃなかったら、ただの無表情な高校生が話しかけても不審に思われるだけだろう。

 

いや、今は俺のことはどうでもいいか。

どうやら前川さんは何かを話してくれるらしい。

時間はあるが余裕があるわけじゃない。遅刻するわけにもいかないので、話は歩きながら聞くことにした。

 

「デビューが決まった?」

 

「はい」

 

「そうか、よかったじゃないか。おめでとう」

 

「あ、ありがとうございます」

 

やっぱりプロデューサーさんは全員のことをちゃんと考えていたんだな。

そのデビュー時期に差があるとはいえ、前川さんなら凛たちに遅れを取ることなく今後も活躍していけるだろう。

 

となると、残りは李衣菜か?

また次のデビューまでは時間がかかるのだろうか。

 

「これで前川さんが目指す可愛いアイドルに近づいたな」

 

「う……」

 

「あとは李衣菜だが、何か聞いているか?」

 

「う、うぐぐぐ・・・・・・」

 

「どうした前川さん。体調が悪いのか?」

 

「うにゃぁぁぁ!!」

 

急にまた以前のように頭を抱えて叫びだした。

最近こんなことで注目を浴びることが多すぎる気がするんだが。

やはりこれも俺が何かしたのだろうが、全く心当たりがない。

 

 

ある程度落ち着いた前川さんは、何故か物凄く嫌そうな顔で理由を話してくれた。

その間、完全に敬語を忘れ語尾もアイドル前川みくになっているんだが・・・・・・言わないでおいたほうがいいか。

 

その理由を聞いても俺には全く叫ぶ理由がわからない。

どうやら李衣菜と一緒にユニットとしてアイドルデビューが決まったそうなのだ。

しかも曲も決まっており、これを拒否した場合は片方はすぐデビューできるが、もう片方はまた先になると。

 

 

「ん?何も問題ないじゃないか」

 

「問題だらけにゃ!よりによって李衣菜チャンと一緒だなんて!」

 

「とはいえ、これを逃すとまたデビューに時間がかかるんだろう?」

 

「だから困ってるにゃ!」

 

やはり全くわからない。

なぜ李衣菜と一緒が嫌なのだろうか。

俺の知る限り、2人は一緒に行動している場面がよく見受けられていた。

確かに言い合いになったりはしていたが、遠慮なく会話をできる関係なのだと思っていたんだが。

 

「2人なら相性は良いと思うんだが」

 

「紅葉チャンもPチャンと同じこと言うの!?」

 

「前川さんが李衣菜と話をしている時は素の部分が出ている感じがして、リラックス出来ている良い関係だと思うぞ」

 

「・・・・・・紅葉チャン、どうして人の名前覚えられないのにそういうとこはちゃんと見てるのにゃ」

 

薄目で若干睨みつけるようにして呟く前川さんだが、言葉に反して否定しないところを見ると当たっているのか?

 

 

 

2日目

 

 

学校帰りにバイトへ行き、すっかり日が長くなった商店街を出ようとすると、珍しい人物が逆に商店街へと向かってきた。

昨日前川さんとの話にも挙がった李衣菜だ。

ヘッドホンを首にかけ、青いシャツに短パンという涼しげな格好を見るに学校帰りではないらしい。

顎に手を置き何やら考えながら歩いていたようだが、前を見たときに俺の存在に気づいたようだ。

 

「あ、紅葉くんじゃん。やっほー♪」

 

「久しぶりだな李衣菜。美嘉たちのライブの時以来か?」

 

「そうだね。でも凛ちゃんやみくちゃんからたまに噂は聞いてるよ。だから私としては久しぶりって感じはないかも」

 

「そうか」

 

一体どんな噂をされているのか気になるところではあるが、それはまたの機会にして言うことが李衣菜にはあるな。

 

「デビューおめでとう。前川さんから聞いたぞ。もう曲もあるそうじゃないか」

 

「そういえばみくちゃんは同じ学校の後輩なんだっけ。うん、ありがとう。まだ歌詞は出来てないみたいだけどね」

 

「ここで会うのは初めてだがよく来ていたのか?」

 

「ううん、初めて来たんだ。私の家違う方向だし」

 

「何か探しているのか?」

 

「まあ、うん。別に紅葉くんには話してもいっか・・・・・・実はね」

 

李衣菜の話をまとめると、ユニットデビューは決まったが2人の関係に問題があり、しばらく一緒に暮らしてみては?という話になったらしい。

李衣菜が実家暮らしで前川さんが寮。必然的に李衣菜が前川さんの住む346の女子寮に泊まることになったようだ。

 

ユニットサポートオーディションを同時に受け、先に終わった李衣菜は惣菜ばかりの前川さんのことを思い、何か料理をと考えていたとのこと。

 

この話を聞く限りでは関係性は良好のように思えてくるのだが、一体何が問題なのか。

 

「李衣菜は料理をするのか?」

 

「たまにね。紅葉くんはケーキ作れるんだよね。もしかして普通の料理も?」

 

「あ、ああ。一通りはな」

 

ここでまた家で毎日作ってる等といえば変な疑問を持たれるだろうな。

姉さんのラジオの影響が未だ響いている気がするんだが・・・・・・

 

変に疑問を持たれても返答に困る。

話題を少しずらしたほうがいいだろう。

 

「確か前川さんとはカレイの煮付けとハンバーグの話をしたな。どっちも好きなのかもしれないぞ」

 

「へえそうなんだ!カレイの煮付けなら得意だからいけるかも。時間あるし、どうせならハンバーグも作っちゃおう♪」

 

「楽しい夕飯になりそうだな。なら魚の方はアテがあるし案内するぞ」

 

「ありがたいけどいいの?家に帰る途中だったんじゃ」

 

「問題ないさ。実はその魚屋でバイトをしているんだ。カレイならまだ残ってたはずだ」

 

「お、中々商売上手だね。じゃあお言葉に甘えようかな」

 

 

案内した魚屋の前では、師匠がいつものように声を上げ仕事をしていた。

俺は途中で時間になりバイトを終えたが、店自体が閉まるのはまだ先だ。

そこまで大きくない商店街に、よく通る師匠の声は響いていることだろう。

 

「どうした紅葉、忘れ物か?」

 

「いえ師匠。お客さんを連れてきました」

 

「バイト終えたってのにその心意気は感心するな。って、また女の子かよ。お前も相変わらず・・・・・・まあいいか。らっしゃい嬢ちゃん!」

 

「あ、どうも」

 

師匠の体格と声に圧倒されたのか、先ほどまでの元気が消えそうな李衣菜がとても小さくみえる。

いや、どう見てもこの2人の身長差は30センチはあるし仕方ないか。

 

このままだと買い物もしにくいだろうし師匠を紹介しておこう。

 

「李衣菜、ここが俺のバイト先だ。この人は店主のセタンタさん。魚の捌き方なんかも教えてもらってるから俺は師匠と呼んでる」

 

「へ、へぇそうなんだ。初めまして、多田李衣菜です」

 

「セタでいいぜ。よろしくな」

 

「師匠、李衣菜はアイドルなんです。今日はカレイ料理をするとのことで・・・・・・まだ残ってましたよね」

 

「ほう、嬢ちゃんも料理をするのか。そいつは感心だ。ウチはこの時間でも新鮮な魚が揃ってるからぜひ見てってくれ!」

 

「はい、ありがとうございます」

 

カレイ以外の魚も興味深そうに見る李衣菜。

それを見てふと思い出したことがある。

確か彼女はロックなアイドルを目指すと言っていたはずだが、俺はそこまでロックに詳しくない。

ちょうどいい機会だし教えてもらおうか。

 

「少しいいか李衣菜。聞きたいことがあるんだが」

 

「へぇ、このお魚初めて見たかも。ん、どうしたの?」

 

「李衣菜の言うロックって何だ?」

 

「へ?あ、ああ!ロックね!うんうん、ロックに興味を持つことは良いことだよ」

 

「そうか。それで、よかったら教えてくれないか?」

 

「そ、そそそうだね。え、えっとね、簡単に説明するのは難しんだけど・・・・・・」

 

「ああ、詳しく教えてくれ」

 

「ロックとは、ロックであってえっと・・・・・・そう、あれだよあれ!」

 

「どれだ?」

 

どうも的を得ないし目が泳いでいる気がするんだが。

あまり答えづらいことなのだろうか。

自分で調べればいいことかもしれないが、こういうのは得意な人間に聞いたほうが一番いいだろうからな。

李衣菜の考えがまとまるまでゆっくり待つとしよう。

 

「何だ紅葉、んなこともわからねぇのか?」

 

「師匠?」

 

腕を組んだ師匠が呆れた様子で話しかけてきた。

ということは、師匠もロックに詳しいということなのだろうか。

 

「ロックに難しいことは何一つねぇ。熱いハートを叩きつける!それがロックだ!」

 

「な、なるほど・・・・・・」

 

「そ、そう!それ!それですよ!私が言いたかったのと全く同じです!」

 

「李衣菜は今説明するのが難しいと言ったばかりだと思うんだが」

 

「あ、あははは・・・・・・あの私も師匠って呼んでもいいですか?」

 

「おう!好きに呼んでくれ。ロックを好きな人間に悪い奴はいないしな!」

 

「はい師匠!よーし、アイドル多田李衣菜。これからも熱くロックにいくぜー!」

 

「ボンバー!!」

 

「・・・・・・」

 

何故か2人は意気投合してしまったようだが、結局ロックについてはよくわからなかった。

 

 

 

3日目

 

 

翌朝の1時間目終了と同時に、ものすごい勢いで前川さんがやって来た。

加蓮も後ろにいたが、こちらが息を切らしているところを見るとよほど走ってきたのだろう。

 

美嘉にでも何か用事かと思ったんだが、前川さんは一直線に俺の方へ向かってくる。

・・・・・・怒ってるような気もするんだが、一体何があった?

 

「せ~ん~ぱ~い~!!よくもよくも!」

 

「おはよう前川さん。何か問題でも起こったか?」

 

「問題だらけですよ!昨日李衣菜チャンから聞きました。カレイの煮付けのことを!」

 

「ああ、ちゃんと完成したのか。よかったな」

 

「よくなーーーい!みくはお魚苦手なの!」

 

「は?」

 

確か猫には与えていい魚と悪い魚があると聞いたことがある。

なるほど、そこまで徹底してキャラ作りをしていたのか。

 

「さすがだな前川さんは」

 

「どうして感心してるんですか!?」

 

「ハンバーグの方はどうだった?」

 

「う・・・・・・それは美味しかったです。喧嘩しそうになったけどハンバーグのお陰で仲直りできたし」

 

「やっぱりよかったじゃないか。李衣菜に感謝しないとな」

 

「うぐぐぐぐ・・・・・・この先輩にはどうやっても口で勝てない気がするにゃ」

 

そんなやり取りをしていると、美嘉が『お疲れ~』と前川さんに挨拶をし、加蓮や奈緒もやって来る。

いつもの風景ではあるが、最近聞こえなくなった声が聞こえてきた。

 

「くそー。また高垣かよ。調子に乗りやがって・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

慣れていたせいもあり普段は気にしないことではあるが、その言葉が聞こえたみくや加蓮の表情が一瞬変わった気がした。

俺は自分のことをどう言われても別にどうでもいいが、それによって友人たちの気分が悪くなるのは良くないことだ。

何かしらの勘違いで男子生徒と加蓮たちが喧嘩しても困るし、今回はこの生徒に話を聞いてみることにしよう。

 

「ちょっといいか。調子に乗るというのはどういうことだ?」

 

「え?」

 

 

 

続く!

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ニコ動の方ではありますが、最新話にこの作品のエンディング的な動画も載せました。

終わりというわけじゃなく普通にアニメのエンディングのようなものです。
曲はまったくデレマスに関係ありませんけど!


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紅葉くんと*(Asterisk)の数日間(中編)

かなり短いですが、ここだけアスタリスクよりも紅葉くん関連の話になるので分けます。
次でアスタリスク回は最後。少し真面目な話になるかと。


個人的な話ですが、メモリアルガシャ天井でようやく温泉李衣菜をお迎えできました。
楓さんと奈緒。そして李衣菜が担当なので嬉しい限りです。

それと、あえて見てなかった温泉李衣菜のセリフを今回初めて見ました。

「紅葉って、ロックだ・・・・・・」
このセリフは運命!?


3日目その2

 

 

「ちょっといいか。調子に乗るというのはどういうことだ?」

 

「え?」

 

3人の男子が集まっていた席へと向かい、先ほどの言葉を発した生徒へ話しかける。

向こうは驚いたような表情をした後視線を俺から外し、こちらの質問の答えを考えているのかはわからないがしばらく黙ったままだ。

 

休み時間だというのにも関わらず、沈黙が教室全体を支配する。

それだけでなく、横目に周囲を見る限り視線も俺たちに集まっているようだ。

 

思えば高校に入って友人以外に自分から話しかけたのは初めてではないだろうか。

それ以前に周りの行動も会話も特に興味がなかったので、目の前の彼の名前すら覚えていな・・・・・・いや、クラスで覚えている名前は2人だけか。

 

相変わらず他の2人も含め黙ったままだ。

俺の声は特に大きいわけじゃないからな。もしかすると聞こえなかったのかもしれない。

それなら聞き返せばいいだけという気もするが、俺が逆の立場なら無視していた可能性もある。

改めて話しかけることで答えを促したほうがいいだろうな。

 

「もう一度聞くぞ。俺が調子に乗っているとはどういうことなんだ?詳しく説明してくれないか?」

 

「ひっ・・・・・・」

 

「うわぁ・・・・・・こっちから見えないけど絶対睨んでるよなぁ。声もいつもより低くて完全にお兄様だ」

 

後ろから奈緒の声が聞こえてきた。

別に睨んでいるつもりはないが、相手は座っているので俺が見下ろす形になっている。

そうなると目つきが悪い分普通にしていても良い印象は与えないかもしれないか。

 

しかし相変わらず奈緒からたまに出るお兄様の意味がわからない。

俺は兄ではないんだが・・・・・・

 

話す気がないなら仕方ないか。

これ以上教室内の空気を悪くしても余計クラス外の加蓮と前川さんの居心地が悪くなるだけだ。

もう一度何か言ってきた時に改めて聞くとしよう。

 

「た、高垣。いつも城ヶ崎さんに話しかけて貰えるからっていい気になるなよ。彼女は皆に優しいんだからな!」

 

「ん?」

 

「そ、そうだそうだ!」

 

謝って場を去ろうと思った矢先、残り2人が話しかけてきた。

なるほど、つまりクラスメイトでありアイドルであり人気もある美嘉と話をしたいが、俺と話すことが多いからその機会がないということか?

 

それでなぜ調子に乗るのかもいい気になるのかもわからないが、原因がわかったのならやることは簡単だ。

 

「美嘉、ちょっといいか?」

 

「え?な、何高垣くん」

 

「ちょ、おま・・・・・・」

 

話したくてもタイミングがないなら今作ればいいだけだ。

最初に調子に乗るなと言った男子が慌てているようだが、特に問題はないだろう。

 

こちらへとやって来た美嘉に状況を説明して、あとは彼女に任せればいいはずだ。

 

「この3人、どうやら美嘉に話があったらしい。俺たちが普段よく話をしていたから話しかけるタイミングが掴めなかったようだ」

 

「え、そうなの?そういえば3人と話すの久しぶりだよね★アタシに話って?」

 

「あ、いや、その・・・・・・」

 

「え、えっと・・・・・・良い天気ですね」

 

さっきより3人の表情がやわらかくなった気がするな。

全く話は出来ていないようだが、美嘉は久しぶりに話すと言っていた。

もしかするといつもこんな感じな会話なのかもしれない。

 

「うわ、さすが先輩・・・・・・」

 

「やっぱり紅葉チャンに口で勝つのは無理な気がするにゃ・・・・・・」

 

加蓮と前川さんが呆れた表情でこちらを見て何か言っている。

間違ったことはしていないと思うんだが、なぜあんな顔をしているのか。

 

ああ、さっきの話で唯一理解できることがあったな。

そこだけは同意しておいたほうがいいだろう。

 

「ちなみにさっきの話だが」

 

「な、なんだよ!」

 

「美嘉が優しいのは当然知ってる。1年の時からクラスに馴染んでいない俺に話しかけてきてくれたからな。

美嘉だけでなく奈緒もそうだ。俺は友人に恵まれていると実感しているよ」

 

「高垣くん・・・・・・ちょっと理由は違うんだけどありがとう」

 

「お、おい。あたしまで巻き込むなよ・・・・・・まあ、なんだその。あり、がとう?」

 

「高垣、借りだなんて思わないからな」

 

「ん?よくわからないが別に何も貸していないから安心しろ」

 

最初の男子が俺を睨みつけてそう言った。

クラスメイトと話すのに借りも貸しもないだろう。

今後は自分から話をすればいいだけなのだから。

 

だが今後もこういった状況になるとも限らないし、また彼と話す機会があるかもしれない。

その時話を円滑に進めるためにも名前は覚えたおいたほうがいいだろうか。

 

「そういえば、お前の名前は?」

 

「なっ!?お前!1年の時から同じクラスなのに本気で言ってるのか!?」

 

「・・・・・・そうなのか?」

 

「あ、あははは・・・・・・うん」

 

美嘉に確認すると、どうやら彼の言ったことは正しいらしい。

つまり去年から何かしら言い分があったのを俺は無視していたわけになる。

これはやはり俺に問題があったか?

 

「も、杜崎だ!一度しか言わないからな!」

 

「ああ、杜崎。今回は悪かった。今後もクラスメイトとしてよろしく頼む」

 

「あ、ああ」

 

あとはまだ沈黙している周囲に空気だが、原因が俺にあるのだしこのままにしておくのはまずいだろうな。

複数人へ話すのも師匠のバイトのお陰で少し慣れてきている。

あの商店街で買い物をする親がいる生徒もいるかもしれないし、あの魚屋のバイトは問題が・・・・・・等といった噂を立てられたら師匠にも迷惑がかかる。

全員に謝っておくべきだろう。

 

「皆、場の空気を悪くしてすまない。残り少ない1学期だがこんな俺をよろしく頼む。それと、何か問題があったら遠慮なく言ってくれ」

 

最近師匠から教わった営業スマイルというものを実践し、謝罪の気持ちを言葉で表して頭を下げる。

自分の席へと戻ると、そこにいた美嘉以外の3人の口が空いたままだ。

また何かまずいことでも言ったか?

そういえばまだ沈黙が続いている気がするんだが、やはり俺に笑顔は無理だったのだろうか。

 

キャー!!

 

突然周囲から高い声がいくつも上がった。

何だ?これは悲鳴か?

 

「やっぱり高垣くんってかっこいいわよね!」

 

「あ、私三井って言います!よろしくね!」

 

「ちょっとずるいわよ!私は喜多山。覚えてね♪」

 

「一条だ」

 

女子を中心とした複数人が急に集まってきた。

もしかすると杜崎のように去年から同じクラスだった生徒もいるのかもしれないが、全く覚えていない。

が、こう直接言われては覚えないわけにはいかないだろう。

また俺が原因でアイドルであり、友人であるこの4人を嫌な気持ちにさせるわけにはいかないのだから。

 

『・・・・・・』

 

だがおかしい。

笑顔で話しかけてくクラスメイトたちと逆に、4人の表情どんどん険しくなっているように見えるのだが・・・・・・気のせいだろうか。

 

 

続く!

 

 




あえてお兄様混ぜましたが、漢字は別にしてあります。
一人だけおかしいのがいましたけど・・・・・・


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紅葉くんと*(Asterisk)の数日間(後編)

今回でアスタリスク編は終了です。
まあ、ご都合主義といえばそういえますが・・・・・・

次のイベントは李衣菜も参加なので楽しみです!

それと疑問に思ったことをここでも1つ。
もう1つの作品で運営から必須タグの指摘を受けたんですが、この作品にクロスオーバーって必要なんですかね?




4日目

 

放課後のバイト中ではあるが今日はあいにくの雨だ。

アーケード街でもない昔ながらの商店街といったこの場所では、普段以上に人通りが少なくなる。

何かのついでにふらっと訪れる客も当然いないため、店にやってくるのは常連がほとんどだ。

 

ちなみに学校では周囲に少し変化があった。

加蓮が休み時間にやって来るのはいつも通りだが、俺が朝教室に入ると挨拶をしてくる女子が増えたのだ。

元々挨拶をするのは美嘉と奈緒だけだったので少し驚いたが、名前を覚えるだけでこうも違うものなのだろうか。

 

最も、その女子たちや男子たちから妙な視線を感じるのはいつも通りなのだが・・・・・・

 

加蓮がクラスに来た時、念の為に前川さんの様子を聞いてみた。

だが前川さんはいつも通りだったという。

元々彼女は公私混同しない性格のようだし、学校ではあまりアイドル時の喜怒哀楽を出すことはないようだな。

 

その流れで前川さんのデビューのことを話したが、美嘉も含め全く知らなかったようだ。

そもそも奈緒と加蓮は李衣菜に会ったことすらないという。

同じ事務所でも、ライブや仕事で会わない限り部署が違えばそんなものだと美嘉が教えてくれた。

 

「紅葉くんこんにちは」

 

「いらっしゃ・・・・・・ああ、李衣菜か」

 

そんなことを考えながら商品整理をしていると不意に声をかけられた。

李衣菜がやって来たということは、今日も夕飯を作るということだろうか。

 

「前川さんは魚が苦手らしいし、ここに用はないんじゃないのか?」

 

「もう、ひどいなぁ。友達がいたら声かけるのは普通じゃん。そういえば師匠は?」

 

「それはすまなかった。師匠は配達に行ってる」

 

「へぇそうなんだ。ふーん、なるほど・・・・・・」

 

「?」

 

どうも李衣菜の様子がおかしい気がする。

目が泳いでおり、たまに俺の方を見てはすぐ目をそらしての会話。

今まではきちんと真っ直ぐこちらを見て話していたはずだ。

そして魚屋に来ても全く魚を見ようとせず、会話が終わっても去る気配はない。

何か問題でもあったのか?

 

「仕事で何かあったのか?」

 

「え?やっぱりわかっちゃう?バレたなら仕方ないなぁ」

 

「・・・・・・」

 

「うん、ごめん。実はデビューのことでちょっとあって。紅葉くんみくちゃんやみおちゃんのことも解決してるし・・・・・・」

 

「解決したかどうかも何か出来るかもわからないが、話なら聞くぞ」

 

 

李衣菜の話の内容は、音楽に詳しくない俺ですらその異例さに驚かされた。

 

話はつい先ほど、プロデューサーさんの元へイベント関係者が訪れたことから始まる。

2日後に吉祥寺で夏祭りイベントが開催されるが、参加アイドルが急遽出れなくなってしまったため、代わりのアイドルを探していたとのこと。

 

李衣菜は特に意識せず、別部屋で行われていた2人の会話を流していたらしいが、前川さんが食いついたらしい。

 

だがそこで問題が生じる。

イベントに必要なのはただのアイドルではなく、歌えるアイドルだ。

 

確かに2人には曲があるが歌詞がない。

 

 

「それでも引き受けたのか」

 

「うん。みくちゃんがね、言ったんだ。『一度もまとまれてない私たちのチャンスだ』って。フェスもあるし」

 

「フェス?」

 

「う、ううん何でもない!それにこれでダメだったら私にデビュー譲るなんて言うんだよ。そんなの全然ロックじゃないよ」

 

やはり2人の関係性は良好のようだ。

これなら力を合わせれば何とか本番まで間に合うのではないだろうか。

 

「なら歌詞作成の力をつけるために李衣菜が夕飯を。そのためにここに来たというわけか」

 

「少しだけ正解かな。さっき言った通り紅葉くんに話聞いてもらいたかったのと、ちょっとみくちゃんと言い合いになっちゃって・・・・・・」

 

「良い曲を作るために話をするのは当然だろう。それで何か問題が?」

 

「問題だらけだよ!だって、みくちゃんの書いた歌詞が全然ロックじゃないんだもん!にゃんにゃんにゃーにゃーなんて歌えないよ!」

 

「・・・・・・は?」

 

「それなのに私の書いた歌詞はバカして!何なのさもう!」

 

「ちなみにだが、李衣菜の歌詞は?」

 

「えっとね!」

 

自信満々に自分の書いた歌詞を話す李衣菜だが、意味がさっぱりわからない。

そもそも何故2人別々に全く違う物を作っているんだ?

いや、実際何が正しいのかは音楽に詳しくない俺に答えは出せないが、時間のない状況でこのやり方はどうなのか。

 

「前川さんの歌詞を参考にして自分の・・・・・・」

 

「はぁ!?みくちゃんの肩を持つの?そんなんじゃクールでカッコイイアイドルになれないよ!」

 

「・・・・・・」

 

話をする機会は少ないが、李衣菜のこんな様子を見るのは初めてだな。

しかし何かが違う気がする。

 

今回はユニットでのデビューだ。

そしてお互い片方しか無理だとはいえソロでのデビューを頑なに拒否している。

それなのにこの結果・・・・・・これは前川さんとも話す必要があるのではないだろうか。

 

だが前川さんに来てもらうのも時間がかかりすぎる。

俺は彼女の連絡先を知らないし仕方がない。李衣菜の携帯を通して同時に意見を聞いてみよう。

 

「李衣菜、前川さんに連絡を入れてくれ。両方の話が聞きたい」

 

「えー・・・・・・」

 

「何が出来るかわからないとは言ったが、わざわざ話をしに来てくれたんだ。だったら俺は俺が出来ることを全力でやる。今までもそうしてきたからな」

 

「わ、わかった」

 

『もしもし李衣菜チャン?一体何してるの!?』

 

「前川さん、紅葉だ」

 

『え!?』

 

理由を説明し2人の意見を聞いてみる。

が、何だこれは。

どちらも自分の意見を主張しているというか、相手の意見を完全に否定している。

なるほど、だから前川さんは『よりによって李衣菜と』、なんてことを言ったのか。

 

2人の意見も関係性もよくわかった。

これでは歌詞作成が進まないのも理解した。

そして第三者からの感想は・・・・・・

 

「はぁ・・・・・・くだらない」

 

「え?」

 

『にゃ?』

 

思わず溜息とともに思ったことが漏れてしまった。

李衣菜はかたまり、場に沈黙が流れる。

 

最近はあまり言われることがなくなったが、俺の言葉は冷たい、キツイ、辛辣だ・・・・・・等と言った意見が多い。

だが少し勘違いしないで欲しいのだが、さすがに言う相手は選ぶ。

 

その対象はほとんどが姉さんではあるが、それは身内であり一番近い存在故の甘えからだと思う。

それ以外に言う場合は基本的にどうでもいい相手だ。

友人にはこれでも多少は言葉に気を遣う様になっている。

 

今回は稀なケースになるだろう。

敢えて言いたいことを言わせてもらう。

それによって2人と疎遠になるのは本意ではないが、これで少しでも2人が俺への敵対心によって力を合わせてくれることを願うぞ。

 

「聞こえなかったのか?くだらないと言ったんだ。どんな悩みかと思って聞いてみた結果がこれだ。バカバカしい」

 

「ちょ、急に何?さすがに言い過ぎだよ!」

 

『みくたちの考えがくだらないって言いたいの!?』

 

「ああ。まずは前川さん、お前は言ったな。誰よりも一番輝く可愛いアイドルになると」

 

『そ、そうにゃ。それがみくの夢にゃ!』

 

「李衣菜はクールでカッコイイロックなアイドルを目指している」

 

「そうだよ。も、文句あるの!?」

 

「いや、全く文句はない。むしろ応援している」

 

「わけわかんないよ!じゃあさっきのは何なのさ!」

 

「それはお前たちそれぞれのアイドルとしての夢や目標だろう。そこにユニットの目標はあるのか?」

 

「『え?』」

 

「確かにそれぞれの方向性が一致するユニットは存在するだろう。LOVE LAIKAが良い例だ。だがnew generationsはどうだ?3人が同じ方向性のアイドルか?あの3人が揃ってバラバラになるか?」

 

「そ、それは・・・・・・」

 

『3人とも性格も趣味も違うにゃ』

 

「お前たち2人言いたいことを言い合えるのは素晴らしいことだ。だが結局それだけ。自分の意見ばかり主張して相手の意見を聞こうともせず、自分に取り込める部分を見ようともしない」

 

「だ、だって可愛い格好や歌なんてロックじゃないじゃん!」

 

『李衣菜チャンなんてロックロック言っても結局何がロックかわかってないにゃ!』

 

「なにを~!」

 

『なんにゃ!』

 

また始まったか。

そもそも李衣菜はロックが何か師匠とともに語ってたじゃないか。

俺はあの時理解できなかったが、この2人を見ていると何となくわかったような気がするな。

 

「李衣菜、お前は前川さんの言葉だけじゃなく自分自身まで否定するつもりか?」

 

「え?」

 

「熱いハートを叩きつける。それがロック。昨日お前はそう言ったな」

 

「う、そ、そうだけど」

 

「可愛いとかそんなものは関係ない。お前の話からすれば、前川さんの歌詞には前川さんのロックが込められてる」

 

「うえっ!?」

 

『そ、それはちょっと違うような・・・・・・』

 

「だいたい考えても見ろ。クールも可愛いも情熱あふれる曲も、種類関係なく何でも自由自在に歌いこなせるアイドル。その方がずっとロックじゃないか?」

 

「・・・・・・た、確かに!」

 

『李衣菜チャンのロックってやっぱりわからないにゃ』

 

「前川さんだってクールな一面は持っているだろう。日常の前川みくはまさにそれだ」

 

『そ、それはどうだけど。一体何の関係があるにゃ』

 

「いや、特にないな」

 

『やっぱり紅葉チャンはみくだけ雑にゃぁぁ!』

 

「別にユニットだからって何もかも同じにする必要なんてない。意見が食い違ったっていい。けどせっかくの2人だけのユニットなんだ。否定してばかりいないで良いところを取り入れたほうがいいだろう」

 

『そこは一理あるにゃ。みくは李衣菜チャンの作った歌詞をちゃんと考えないで否定してたかも』

 

「それは私も・・・・・・」

 

「さっき李衣菜の作った歌詞を聞かせてもらったが、確かにあれは李衣菜らしくない」

 

「ええ!?」

 

「言っただろう?熱いハートを叩きつける。ならそのまま自分の思ってることを難しく考えずに歌詞にすればいい。自分でもわからない言葉を並べても歌に感情が入らないだろうしな」

 

「遠まわしにバカにされてる気がするんだけど」

 

「ああ、お前たちは大バカ者だからな」

 

「またバカっていったなー!」

『またバカっていったにゃ!』

 

「何だ、やっぱり本当は仲が良いじゃないか」

 

別にユニットだからって何もかも同じにしなきゃいけないわけではない。

同じだから仲がいいわけでは必ずしもない。

 

俺と姉さんだって、考えてることは同じことはあるが性格は正反対だ。

それでも仲良くやっていけている。

ぶつかって言い合ってお互いを肯定して否定して、両方があるから絆が深まった。

 

この2人なら、俺と姉さんのような関係にもなれるはずだ。

そうなった時の前川みくと多田李衣菜のユニットは、間違いなく素晴らしいものになる。

 

「はぁ・・・・・・一気に疲れちゃった。でもありがとう。何かが掴めた気がするよ」

 

「そうか」

 

『紅葉チャンは淡々ととんでもないこと言う時があるけど、嘘偽りない言葉だもんね。まあそれが色んな意味で心に突き刺さるんだけど』

 

「嘘は苦手だからな」

 

『李衣菜チャン、もう一回ちゃんと考えよう?今度はその、2人で一緒に・・・・・・』

 

「うん!じゃあ好きな料理教えてよ。材料買って帰るからさ!」

 

『ほんまに!?えっとねぇ、みくはねぇ』

 

この調子なら間に合いそうだな。

もともと俺が何もしなくても2人ならギリギリなんとかしそうではあったが。

明日学校へ行けば次の日から祝日ということもあり夏休みだ。

2人の出番は昼頃だという話だし、何とか俺も行くことができそうだな。

 

 

5日目

 

明日から夏休みだ。

美嘉、奈緒、加蓮は変わらずレッスンの日々らしい。

休日は遊びに行く約束と、もう少しで発表したいことがあるらしい。

 

まさか新しいライブか?と聞いたのだが、それはその時のお楽しみと言われた。

ライブだったらチケットも用意する必要があるんじゃないか?

凛たちと同じようなライブなのだろうか。

 

そして帰る前の廊下で前川さんが待ち構えていた。

驚くことに、昨日徹夜で歌詞を完成させたらしい。

今日は残りの時間を使って歌の練習に入ると。

今回に限って歌メインになるらしく、振り付け等の心配はほとんどないようだった。

 

「先輩は明日、来てくれますよね?」

 

「ああ、もちろんだ」

 

昨日多少きついことを言ったとは思うんだが、それに関しては特に何も言われずむしろ感謝されていた。

 

 

6日目

 

 

吉祥寺駅前、ノースエントランス『サマーステージ』と書かれた舞台の前にはかなりの人だかりが出来ていた。

俺は後ろの方で2人の活躍を見ようと思っていたのだが、思わぬ同行者によって最前列を陣取ることになってしまった。

 

「まさか師匠が来るとは思いませんでした」

 

「何言ってんだ。弟子の初舞台に参加しない理由があるかよ!」

 

一体李衣菜は何の弟子なのだろうか?

ロックの弟子と言っても、師匠は魚屋なんだが・・・・・・

 

師匠は身長が高く、いつもとは違い派手なアロハシャツを着ているため、最前列ということもあってかなり目立っている。

少し現実逃避するように後ろを眺めると、集まっている人たちから少し離れたところに凛たちがいた。

 

凛、島村さん、未央、蘭子、アーニャの5人だ。

その中で最初に未央がこちらに気づいたようで、大きく手を振っていたため会釈をして返した。

 

「お、始まるみたいだぜ」

 

「そのようですね」

 

場の音楽が変わり、女性がステージの前に立つ。

その話を聞くと、どうやら今までは新人のお笑いコーナーをやっていたようで、ここから新人のアイドルの紹介へ、そしてその前のイベントとしてじゃんけん大会があるようだ。

 

ルールは簡単。

ステージの司会の女性、こちらも新人のアイドルらしいが、そのアイドルと全員でじゃんけんをして最後に残った1人が景品をもらえるという。

 

今年はイベントの記念すべき節目の年ですので、優勝者にはお菓子以外に豪華賞品が送られまーす!

 

その一言で会場が沸き立つ。

じゃんけんなんてするのはいつ以来か。

いや、姉さんのあと1杯飲む権利をかけての勝負ならほぼ毎日しているか。

いつも俺が勝っているが。

 

それでは1回目いきますよー!じゃーんけーんぽーん!

 

会場では喜びとがっかりの2つの声が同時にあがる。

人数もそれなりのため、今回はあいこも負けになるようだ。

 

「くっそう、やっぱり負けちまったか」

 

「師匠?」

 

「何故か昔からこういう勝負ごとに勝ったことがねぇんだ」

 

「そ、そうですか」

 

それはそれですごい気もするが、慣れていても残念なことに変わりはないようだ。

ちなみに俺は運良く勝つことができ、次、その次と順当に勝ちを進めていた。

 

 

 

おめでとうございます!お名前を伺っても?

 

「はい」

 

最後の2人まで残り、次のじゃんけんでは俺だけが勝利。

その結果、最終的な勝者となり舞台に上がることになった。

こういう勝負は初めてだが、勝つ度に少し緊張したな。

 

「高垣紅葉です」

 

紅葉・・・・・・くん?あれ?その名前どこかで聞いたような。それにあなたの顔誰かに・・・・・・

 

「は、はぁ・・・・・・?」

 

まさか、高垣楓さんの弟さん!?

 

「・・・・・・そうです」

 

うわ!本物だ!私楓さんのファンなんです!さ、サインもらっても?

 

「いや、俺は姉さんじゃないんですが・・・・・・」

 

「やるな紅葉!思いっきり目立ってるじゃねぇか!」

 

師匠、さすがにそれはやめて下さい。

 

「あいつ、何やってんの?」

 

そう言いたげな呆れた様子の凛が遠くに見える。

他のアイドルたちは拍手で祝福してくれているようだ。

 

その場でお菓子の詰め合わせと、大きなのし袋を渡された。

中身は福井の旅館の宿泊券。どうやら向こうでも同じような企画があるらしく、福井では東京の宿泊券が当たるそうだ。

 

そしていよいよ前川さんと李衣菜の出番だ。

 

はーい皆さん。じゃんけん大会参加お疲れ様でした!すこーしハプニングがありましたが・・・・・・さっそく次のアイドルを呼んでみましょう。どうぞー!

 

会場が静まり、2人が登場する。

この沈黙がライブ開始前だからなのか認知度から来るのかわからないが、2人なら大丈夫だ。

 

「「にゃーーーーー!」」

 

にゃー

 

何度かのやり取りが行われるが、観客の反応はイマイチだ。

俺も人のことは言えないか。この掛け声を一緒に言うのは少し抵抗がある。

 

「いいぞ李衣菜!にゃー!」

 

師匠だけは別のようだが・・・・・・

だが2人は負けずに何度も繰り返し、徐々に会場の声も上がっていく。

 

『みくの夢が叶う最初のステージだもん。1人でも見てくれる人がいるなら精一杯歌いたい』

 

あの時言った前川さんの言葉は嘘偽りのない気持ちだった。

それが今表に出ているようで、周りの反応を気にせず、李衣菜と一緒に精一杯頑張っている。

なら、俺も一緒にやらないと嘘をついたことにもなるな。

 

「「にゃーーーーーーーー!!」」

 

「にゃーーー!」

 

会場がついに1つになり、俺も全力で叫ぶ。

それと同時に音楽が流れ、2人のデビューライブが始まった。

 

結果は大成功だ。

キュートとクールが混じり合った2人の本音の歌。

自分の思いを歌にして歌えたのは、他のプロジェクトメンバーとはまた違った喜びがあるだろう。

 

「あの2人中々ロックじゃねぇか。そういや紅葉、この2人ユニット名はどうなってんだ?」

 

「そういえば聞いてませんね。さっきはみく&りーなと言っていましたが」

 

「まあどっちでもいいか。346のアイドルか・・・・・・気に入ったぜ!」

 

どうやらここにも新しいファンが生まれたようだ。

さすがに舞台裏へ挨拶に行くのはやめたが、後ろにも凛たちがいる。

同じ346のアイドルだし紹介することを師匠に話すと、喜んで付いてきてくれた。

 

「バイト先の店長で師匠のセタンタさんだ」

 

「おう、よろしくな嬢ちゃんたち!」

 

「「よろしくお願いします」」

 

挨拶を交わして思い出したことがある。

蘭子は同じアイルランド出身だったはず。

彼女の目も輝いているようだし、話が合うのではないか?

 

「おお!御身はアイルランドの光の御子か!」

 

「御子?なんだそりゃ?」

 

「師匠、蘭子は他にブリュンヒルデという名がありまして、アイルランド出身らしいんです」

 

「ほう、同郷だったのか」

 

「あああ!し、しーっ!しーっ!」

 

「シトー?蘭子、そうなのですか?」

 

「あ、あうあう・・・・・・」

 

「また紅葉が変なことやってる・・・・・・」

 

おかしいな。蘭子も師匠のことを知っているようだったし最初は喜んでいたんだが。

凛がまた呆れた様子でため息をつき、蘭子に至っては少し涙目で睨みつけられてしまった。

 

 

そういえば前川さんたちと話す中で1つ思ったことがある。

姉さんとユニットを組むことになったしゅがはさんだ。

 

俺は確かに姉さんと組めば面白いことになるのではと思い、姉さんも賛同していた。

だがそこにしゅがはさんの意思がどれだけ入っていたのかどうか・・・・・・

中々会う機会はないが、今度会ったら聞いてみようと思う。

 

 

 

続く!




というわけで福井といえば次の目的は・・・となりますね。
メンバーの関係上少しオリジナル要素が増えると思います。

最後に、最近ハーメルンで実装された読み上げ機能が中々面白いです。
しかしながら一部アイドルの名前の読みがまだ認識されていません。
もしこの機能を使う人がいたら、運営に報告をするのはどうでしょう。

ちなみに自分は美嘉、莉嘉、李衣菜、加蓮の読み違い報告はしました。


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真面目な紅葉くんと意外な決定

相変わらずの強引GOIN’な内容ですね!

ここからまた少しオリジナルが増えるかと思います。

コミュがあるために一番下の話が最新話だと間違う人がいるかもしれないので、今後は最新話に(新)をつけてみます。
必要ないかもですけど。

それと最後にまたちょっとしたアンケートを。

なんともうすぐUA20万に!
ありがとうございます!


紅葉くんの夏、開始!

 

 

7月31日。

夏休みが始まり数日が経過した。

 

その間師匠にはバイトの時間を午前に変更してもらっている。

休みだからといって起床時間をずらしてしまうと、2学期が始まった時に元の生活に戻るのが大変だと思ったからだ。

 

逆に今までバイトをしていた夕方を宿題の時間に。

この時間帯なら多少気温が下がるからクーラーの使用頻度も減るしな。

 

今年もなんとか7月中に夏休みの宿題は終わりそうだ。

 

 

「へ?紅葉、もう宿題終わるの!?」

 

「ああ」

 

隣で仕事中の奈緒が宿題の話を振ってきたために答えたんだが、そんなに驚くことか?

 

ちなみにその隣には加蓮もおり、いつも通りティッシュ配りの仕事をしている。

その2人の隣になぜ俺がいるのかというと、別に見学に来たわけではなく俺もバイト中だからだ。

 

そう、ここは師匠の魚屋だ。

以前の仕事が好評だったらしく、この商店街で2人がティッシュ配りをする時は店の脇ですることに決まったようだ。

 

「あーあ。アタシも同級生なら先輩に宿題見せてもらえたのに」

 

加蓮が本当か冗談かわからないがそんなことを口にする。

そんなことをして自分のためになるのか?

 

「わからないところは教えるぞ。どちらにせよ俺の宿題を写させはしないが」

 

「紅葉はそういうとこも真面目だからな。たまに美嘉が嘆いてたっけ」

 

「それは奈緒もじゃなかったか?」

 

「うっ……」

 

奈緒は最近だが、美嘉は特に仕事で忙しいためか宿題をする余裕がないことが極まれにあった。

基本的に学生とアイドルをきちんと両立させる彼女だが、どうしても時間が取れない時があるようだ。

 

そんな時他の美嘉の友人はノートを見せたりするが、それでもどうしようもない時俺を頼ることがある。

事情が事情だし、本当に時間がない時は答えを見せることは美嘉と奈緒にはある。

が、基本は宿題を一緒に解いていき、行き詰まったら教えるようにしていた。

テストで答えがわからず赤点の結果アイドル活動が・・・・・・なんてことになったら問題だしな。

 

お昼時になり一番気温が高い時間。食事も関係しているのか一瞬だけお客さんがほぼゼロになる時間だ。

一息つき商品の補充のため店の奥にあるやや大きい冷凍庫の扉を開けると、マイナス20度ほどの冷気がとても心地よかった。

 

「おーい紅葉。お客さんだぞー」

 

「ん?いらっしゃいませ」

 

奈緒に呼ばれ急いで店先へと向かう。

ちなみに師匠は30分ほど前から昼休憩を取っている。

そのため少しの間店を任されていた。

 

「こんにちは~」

 

「バイトは順調のようですね」

 

「ああ、お前たちか」

 

やって来たのはただのお客さんではなく、先日見事正式なデビューを果たした"*(Asterisk)"の前川さんと李衣菜だ。

あれからすぐユニット名が決まったようで、雑誌に載っていたのを姉さんから教えられた。

 

「今日は客としてか?それともまた何か問題でもあったか?」

 

「いえ違います。今日は改めて感謝の言葉をと思いまして」

 

「あはは。みくちゃんが敬語使ってるのって何か変な感じ!」

 

「うにゃ!?み、みくはこれが普通にゃ!」

 

「クラスメートのアタシから見れば猫語使ってる方が不自然かも」

 

「うぐぐぐ……みくの周りは敵だらけにゃ」

 

「俺は気にしないけどな。どっちも前川さんには変わりない」

 

「先輩は気にしなさすぎです!だから私に何度も初めましてとか言うんですよ!」

 

「あ、ああ」

 

「みくは器用だなぁ。アイドルってこんなスキルも必要なのか」

 

俺たちのやりとりに奈緒が感心するように呟く。

だがこれは前川さんだけだと思うんだが。

 

*(Asterisk)が表に出たのは数日前、夏休みが始まってからだ。

李衣菜もそうだろうが、前川さんのクラスメートもアイドルとして認識するようになるだろう。

その時彼女は一体どんな対応をするのだろうか。

 

「とにかく、紅葉くん。この前はありがとう。お陰で余裕を持って舞台に立つことができたよ」

 

「そういえば俺も感想を言ってなかったな。とても2人に合った良い曲だった。観客を巻き込んでのパフォーマンスは俺も楽しめたし、師匠も喜んでいたよ。俺も李衣菜のロックを感じた気がする」

 

「ほんと!?えへへ♪これからもロックなアイドルリーナに期待しててよ」

 

「ああ」

 

李衣菜が満面の笑みでそう告げた。

あの時は俺の発言で疎遠になるかとも思っていたが、杞憂に終わったようで安心した。

 

「私からも、本当にありがとうございました。先輩の『にゃー』の叫び声も聞けたし、忘れられないデビューになりました」

 

「……聞こえていたのか」

 

「それはもちろん、この耳とねこみみの両方でしっかりと!」

 

「……」

 

観客全員で叫んでいたし、師匠の声の方が大きいから問題ないと思っていたんだが。

最前列というせいもあって聞こえていたようだ。

 

この話にはどうやら奈緒と加蓮も興味を持ってしまったようだ。

加蓮は目を輝かせ『先輩がにゃー?ねえねえ、アタシにも聞かせて!』と話しかけてくる。

奈緒は特に何も言ってこないが、加蓮の言葉に何度も頷いていた。

 

「もう勘弁してくれ……」

 

「にゃふふ~♪ようやく紅葉チャンに勝った気がするにゃ!」

 

こんなことで勝ちも負けもないような気がするんだが。

 

「これからしばらくはユニットで活動するのか?」

 

話をそらすようになってしまうが、気になったことを聞いてみる。

すぐに答えが返ってくると思ったが、何やら2人でひそひそと相談しているようだ。

聞いてはいけないことだったのだろうか。

 

「ねえみくちゃん、あれって別に話してもいいんだよね?」

 

「参加メンバーの情報はとっくに出てるし、追加のみくたちのことも紹介されてるはずにゃ」

 

「前も言ったかもしれないが、言えないことなら無理に話さなくてもいいぞ」

 

「ううん違うんだ。このことも話そうと思ってたけどちょっと確認しただけ」

 

「ユニットでの活動はもちろんだけど。みくたちシンデレラプロジェクト全員、来月のサマーフェスに出演するにゃ!」

 

「サマーフェス?」

 

すっかり挨拶前の素の前川さんではなく、アイドル前川みくになっている彼女は、手を挙げ声を大に宣言した。

今気づいたが、学校でしているメガネも今日はしてなかったな。

 

フェスという言葉は李衣菜が呟いていた気がしたが、それがこのサマーフェスなのだろうか。

その辺に詳しい奈緒に聞こうとそちらに顔を向ける。

が、俺より先に出た奈緒の言葉に加蓮以外が驚いた。

 

「そっか、みくたちも出るんだ」

 

「みくたち"も"?ま、まさか奈緒先輩たちも!?」

 

「あ!い、いやぁ、その……」

 

「別にこのメンバーには話してもいいんじゃない?っていうか、紅葉先輩にはそろそろ話すつもりだったんだし」

 

「何のことだ?」

 

「実は、スカウトされて346プロに行ったその日にいきなりプロデューサーに言われたんだ。あたしと加蓮を美嘉のバックダンサーとしてサマーフェスに出すって」

 

『ええっ!?』

 

「ほう、確かにいきなりだな」

 

「紅葉チャンは反応もクール過ぎにゃ!」

 

「そもそも先輩はサマーフェスがどういうものか知らなそうだけどね」

 

「いや加蓮、お前もあたしに聞いてただろ」

 

前川さんと李衣菜が驚いた様子を見る限り、サマーフェスというのはかなり有名なイベントのようだ。

どんなイベントなのかと疑問に思い奈緒を見ると、ため息をつきながらも説明してくれた。

毎回奈緒に聞くのは申し訳ないとは思うし本人も最初は仕方がないといった風だが、話を始めると楽しそうに話してくれるな。

 

その話を聞き、そういえばと思い出したことがある。

近々姉さんもライブに参加すると言っていて、確かしゅがはさんも参加するんだったか。

美嘉が忙しそうにしていた理由もこれだろう。

 

「なら姉さんとしゅがはさんも参加するんだな」

 

「そりゃ楓さんは当然参加するよ。あたしと加蓮はバックダンサーで名前は公表されてないけどそれ以外は全員もう出てるぞ」

 

「みくたちのプロジェクトの発表は今日のはずにゃ」

 

「ちなみにしゅがはさんって誰?アタシたちみたいなバックダンサー?」

 

「いや、紅葉のことだしまだ名前ちゃんと覚えてないんじゃないか」

 

「……」

 

「あれ?その名前どこかで聞いたような」

 

確かにしゅがはさんの本名はきちんと覚えていなかった。

あの時はまだ特訓前だったこともあるが、そもそも彼女の自己紹介の情報量が多かった記憶がある。

 

李衣菜はよく覚えていたな。

俺がしゅがはさんの名前を楽屋で口にしたのは1度だけだった気がするんだが。

 

しかし2人がユニットを組んで歌うことはかなり前に姉さんから聞いていたぞ。

俺に話したということは既に公に公表されていたんじゃないのか?

 

「姉さんがユニットを組む相手だ。今の話を聞く限りだとそのサマーフェスで歌うと思うんだが」

 

「みくは参加するアイドル全員チェックしたけど、初めて見る名前はなかったはずにゃ」

 

「じゃあプロデューサーの言ってたのは本当だったんだ」

 

「みたいだな。今度あたしたちも含めて顔合わせがあるし、そこで発表するのかもな」

 

「私たちシンデレラプロジェクトも参加するやつだね。合宿終わってからすぐだったはず」

 

「合宿?」

 

「あ、そうそう。その話もしようと思ってたにゃ」

 

李衣菜の合宿という言葉に、今度は俺と奈緒、加蓮がそちらへと顔を向ける。

合宿は部活動等で行うイメージが強いが、アイドルにもそういったことはよくあるのだろうか。

 

話を聞くと、サマーフェスに向けて明日から数日間、福井にある民宿へ強化合宿へ行くらしい。

2、3日前に凛から来月初めは携帯が繋がりにくいかもと話していたが、レッスンで忙しいからということだろう。

凛とはたまに電話をするが、毎回数分で終わる。

今回の件も合宿が終わったあと話す予定だったのかもな。

 

しかし偶然にしては出来すぎているな。

ちょうど数日後、俺と姉さんも福井に行く予定がある。

久しぶり、東京に来てからは初めての旅行の目的地が福井だからだ。

 

*(Asterisk)のデビュー前のじゃんけん大会の景品は3人用の宿泊券。

初めは奏を誘うか、もしくは速水家にプレゼントする予定だったんだが、あっちはあっちで旅行の計画があり断られた。

奏がしばらく数々の恨めしい言葉のLINEを送ってきたが、しばらく放っておくと。

 

『楓お姉さまの旅先での写真を絶対送りなさい』

 

という言葉を最後に何も送ってこなくなった。

 

姉さんは旅行することを喜び準備は終えたようだが、ライブは大丈夫なんだろうか?

 

そしてこの場にいる4人に話すと全員が大声を上げた。

 

「いや、そういうことはもっと早く言えよ!」

 

「いいなぁ。ねえ奈緒、アタシたちも合宿出来ないか聞いてみない?」

 

「急すぎるしいくらあのプロデューサーでも無理だろ。第一、未成年のあたしたちだけで旅行はまずいんじゃ」

 

「へぇ、面白いねそれ」

 

「!?」

 

急に男性の声がしてそちらを見ると、奈緒たちのプロデューサーが興味深そうに立っていた。

が、それだけじゃない。師匠と、何故か姉さんまでその場にいる。

 

「姉さん?」

 

「師匠にか、楓さん!?お疲れ様です!」

 

『お疲れ様です!』

 

「お疲れ様です」

 

真っ先に李衣菜が反応し挨拶をすると、他の3人も頭を下げる。

それに対し姉さんも同じように頭を下げるが、身内や友人同士のこういった芸能界の対応は中々慣れないな。

 

「今日のお仕事は終わったから、紅くんと一緒に帰ろうとここに向かってたのよ」

 

「俺は2人を迎えに車で走ってたんだけど、ちょうど歩いてるセタさんを見つけてさ。その後楓さんも見つけて声をかけたんだ」

 

「はい。送っていただいてありがとうございました」

 

「俺の方もありがとよ。人数も人数だし、一旦奥で話をしないか?」

 

師匠の言う通り、この人数で話をしていたら通行人の邪魔にもなる。

奥に入ると、姉さんが真っ先に扇風機を見つけ駆け寄ろうしたので全力で止めた。

 

前川さんと李衣菜は鈴科プロデューサーとは初対面らしく、お互い自己紹介を。

そのあとサマーフェスの話になったのだが、どうやらしゅがはさんとユニットはシークレット扱いだったらしい。

ファンにはその時に初披露する予定らしく、歌もダンスもほぼ完成したようだ。

 

「ねえプロデューサー。さっき面白いって言ってたし、アタシたちも合宿に参加出来るの」

 

「お、おいおい加蓮。だからさすがにそれは無理だって」

 

「まあ出来ないことはないけどね」

 

「出来るのかよ!」

 

「合宿なら可能ではあるけど色々問題はあるよ。第一に、奈緒ちゃんがさっき言ったように保護者の問題。俺は仕事で一緒に行けないしね。第二に、宿泊場所。タケのとこと同じ施設で合同レッスンは可能だろうけど、隣の宿泊所はもう空いてないんだ。夏休みに急に泊まれる旅館やホテルを向こうで探すのも大変だし、やるとしたら結局近場で日帰りになるね」

 

「それは合宿なのか?」

 

「……いや、案外なんとかなるかもしれねぇぞ」

 

「師匠?」

 

ここまで黙って話を聞いていた師匠だったが、突然そう口にする。

そして立ち上がり、どこかへと電話をし始めた。

 

「おう、久しぶりだな。そう嫌そうな声を出すなよ。嬢ちゃんに良い話があるんだ」

 

「なんかあたしの意思に関係なくまた話が進んでる気が……」

 

「奈緒は合宿に反対なのか?」

 

「う……そ、そりゃあせっかくの夏休みだしどこかに旅行にって気持ちも、練習をしたいって気持ちもあるけど」

 

「じゃあ問題ないじゃないか」

 

「くぅぅぅ!他人事だからって!何もかも急すぎるんだよ!たまにはあたしに心の準備をさせろー!」

 

合宿に心の準備が必要なのだろうか?

そんなことを考えていると師匠の電話は終わったらしく、笑顔で戻ってきた。

 

「2人なら余裕あるってよ。よかったな!」

 

「師匠、一体誰に電話を?」

 

「おっと説明不足だったな。10年ほど前、実は俺が日本に来て最初に住んでたのが福井でな。1年ほど世話になった古風な屋敷があるんだが、そこに住んでた奴が結婚して屋敷を民宿に改造したんだ。料理の腕は確かだったからな」

 

「わあ!」

 

加蓮は喜んでいるようだが、未成年だけの宿泊という問題は解決していない。

別に大丈夫だという場所なのかもしれないが、加蓮たちは一般人ではなくアイドルだ。

完全にデビューもしていないというのに、周りから悪い印象を与える行動は避けるべきなのではないだろうか。

 

「紅葉、確かお前の宿泊先は李衣菜たちの民宿に近かったよな?」

 

「それはわかりません。福井は初めてなので他の住所までは」

 

「すみません。私も……」

 

どうやら姉さんも知らないようだ。

それは全員同じようで、住所を口にしても誰も師匠の言葉があってるかわからなかった。

 

「大丈夫だ、そこなら確実に近いしあいつの民宿もすぐそばだ。だから紅葉、お前たちはその民宿に泊まれ」

 

「は?」

 

「んで、お前たちの宿泊する場所にこっちの2人が泊まればいい」

 

「いえ、どちらにしろ保護者の問題が残っているんですが」

 

「保護者ならいるだろう?お前たちが旅行行って暇になるのが1人」

 

「……」

 

暇になる人?

そんな人がいただろうか。

プロデューサーさんは仕事と言っていたし、それ以外でこの件に関係する大人が思いつかないんだが。

 

「……まさか、心さんですか?」

 

「おう!」

 

「姉さん、その人は?」

 

「こ、紅くん。心さんよ。佐藤心さん。あなたが部長に推薦したアイドルよ」

 

なるほど、それが本名だったか。

年齢も姉さんの1つ上と聞いていたし問題ないだろうな。

 

「でもしゅがはさんに聞いてみないと」

 

「それは大丈夫だと思うわ。旅行のことを羨ましいって言ってたし」

 

「ならその民宿の宿泊費はこちらで負担します。楓さんと心さんの合宿なら大丈夫でしょう」

 

「……あれ?私も合宿する流れに?紅くんとの2人きりの旅行が!?」

 

姉さんも合宿ということなら俺が行かなくてもいいのではと一瞬考える。

が、姉さんも保護者にするのは危険すぎる。

今までのアイドルの様子を見る限り、姉さんの暴走を止められそうなのは川島さんだけ。

やはり俺が行くしかないようだ。

 

「やった!先輩もいるし楽しみだね奈緒!」

 

「まあそれは確かに……い、いやいや!あたしは騙されないぞ!」

 

「これは新たなライバル登場かな?みくちゃん、私たちも頑張らないとね!」

 

「うん!楓さんのパフォーマンスを間近で見れるチャンスでもあるし、色々参考にさせてもらうにゃ!」

 

それはやめたほうがいい気もするが、俺も姉さんの練習風景は見たことがない。

歌もまだ聞いていないし、そこは気にはなるな。

 

「お前たちが行く場所は『民宿・衛宮』ってんだ。白髪に褐色の肌で目立つのが主だが悪い奴じゃねぇ。お前も学ぶもんがあるかも知れねぇぞ」

 

「はぁ……」

 

特徴を聞く限りだと日本人とは思えないんだが、一体何を学ぶというのだろうか。

 

とにかく多少強引ではあるが、旅行での新たな目的が決まった。

期間は元々姉さんと行く予定だった日数だったため、奈緒と加蓮も前川さんたちと合流するのは彼女たちの合宿の後半になる。

 

しゅがはさんは快く承諾してくれたようで、急いで準備をしているらしい。

 

俺も家に帰ってから宿題を全て終わらせ、旅行のための準備を再確認することにした。

 

 

 

続く!

 

 

 

これからのお話(予定)

 

「だから、あたしはやるよ。だってこれは、あたしだけの物語なんだから!」

 

「わあ!きれい!この光1つ1つに命が宿ってるんだよね」

 

「ええ、確かに紅くんがいてくれたら心強いわ」

 

「俺は悪くない話だと思うよ。今じゃないともうすぐあの人が帰ってきちゃうし」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




物語は夏でも実際は冬。
でも今年は雪の日が少ないような気がします。


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旅先でも色々引き寄せる紅葉くん

少し短めですがその分多少早く投稿できました。

アンケートの結果も踏まえ、タグにクロスオーバーを入れました。

そして今までは基本アニメの地域に準じていましたが、合宿地はクロスオーバーとオリジナルを入れようと思います。
この場所変じゃない?と思う部分も出るかもしれませんので注意を。

大阪公演行きたかった!


紅葉くん合宿へ!

 

 

福井県夏木市

そこが俺たちの目的地であり、シンデレラプロジェクトのメンバーが既に合宿を始めている場所でもある。

 

海と山に囲まれた自然豊かな都市で、市の中央を分断する大きな川に架かった夏木大橋から東側が駅や港がある新都。

西側が俺たちの宿泊先がある昔ながらの住宅街だ。

 

一見どこにでもある普通の街のようだが、観光地としてもそれなりに有名らしい。

1つは海水浴や登山に訪れる人。そして2つ目は夏木大橋を見に来る人。3つ目は郊外にある古城見学だ。

 

夏木大橋はかなりの大きさで頑丈にできており、今までどんな災害が起こってもヒビ1つ入っていない。

なんでも20年ほど前に大火事があったらしいが、その被害も橋の前で止まったという。

 

そして3つ目の古城は歴史的建造物ではないがそれなりに有名で、写真を見たとき俺も確かに見覚えがあった。

"ブランツベルン城"という名の通り、いつ建てられたのかもわからない西洋の城というのも人気の秘密だろうか。

そしてここは5年ほど前から心霊スポットとしても密かに人気があり、最終入館時間を過ぎた夜にひっそりと明かりが……

 

「ひっ!?ちょ、や、やめろよ紅葉!急に怪談みたいにするなよな!」

 

「そんなつもりはなかったんだが」

 

「わ、わわわ私はこここ怖くないわよ?」

 

「……姉さん、それなら腕に思い切り抱きついてくるのをやめてくれないか?地味に痛いんだが」

 

「楓さんに抱きつかれて嫌そうな顔するのは先輩だけだよねー。送信っと」

 

「待て加蓮。今撮った写真を誰に送ったんだ」

 

「え?凛と奏だけど?」

 

「凛はともかく奏はやめてくれ。俺の命が危ない。そもそもいつの間に奏と仲良くなったんだ」

 

「うーん、ジャーマネは青春を満喫してるねぇ。んじゃはぁとも、いやーんこわーい☆」

 

「どうしてしゅがはさんまで抱きつく必要があるんですか」

 

あれから3日後の朝。

俺たち5人は一緒に合宿地へと向かうため新幹線に乗っていた。

 

奈緒たちの知名度はほとんどないためそのままだが、姉さんだけは多少変装をしている。

だが女性5人がこう騒いでしまうと、知る知らない関係なしに目立ってしまう気がするな。

 

夏木市の説明の発端は奈緒。

プロジェクトが泊まる民宿が高台にあり、かつて寺があった場所だという。

そこには風水でいう龍脈が走る場所と言われているらしく、精神集中や訓練にもってこいの場所なんだとか。

 

その後に加蓮から他に何か面白い場所はないか?という質問が出たため、念の為に行き先を調べていた俺が説明を始め今に至る。

 

 

紅葉くんとスウィーティー2

 

 

「とうちゃーく!はぁ……腰にくるわ~」

 

「ふふっ♪心さんは少し休んでいて下さい。紅くん、バスの時間見てくるわね」

 

「ああ」

 

「ねえねえ奈緒。売店見に行こうよ」

 

「着いたばかりでおみやげは早……って、行っちゃったよもう。悪い紅葉、加蓮の面倒見てくる」

 

「わかった」

 

 

何度か乗り継ぎを繰り返し、ようやく夏木市へ着いた頃にはすでに昼になっていた。

東京とさほど変わらない気温なため、この時間日差しのあるところではかなり暑い。

ハンカチで汗を拭くしゅがはさんとともに、近くの木陰のベンチに腰を下ろすことにした。

 

「お茶です、どうぞ」

 

「お?ジャーマネは気が利くねぇ。……ぷはぁ!生き返るわ」

 

美味しそうにお茶を飲んでいるしゅがはさんを見て、聞いてみたいことがあったのを思い出す。

姉さんはいないしちょうどいいかもしれないな。

 

「しゅがはさん、少し聞きたいことがあったんですが」

 

「なになに?まさかはぁとのスリーサイズとか?いやん、こんなところでだ・い・た・ん☆」

 

「いえ、そんなのはどうでもいいんですが」

 

「ひどっ!」

 

「姉さんとのユニットのことです。曲がどんなものかはわかりませんが、しゅがはさんの納得のいくものなのかと」

 

「うーん、真面目な話っぽいね。はぁとが納得いくかどうか、かぁ」

 

初めてしゅがはさんに会った時、しゅがはさんはエキストラであっても自分を輝かせることに一生懸命だった。

エキストラというものが自分が思っていた役と違うのではと錯覚するほどに。

 

そのしゅがはさんが急に他の、"アイドルとして"は正反対の姉さんとユニットをいきなり組むことになり、自分を出すことが出来るのかどうか。

 

「まあいきなりジャーマネにスカウトされて、ほとんどレッスンしないままユニットデビュー!相手は今話題の高垣楓で、しかもあの有名なサマーフェスに出場!

これで文句言ったらバチが当たるけど、確かにはぁとが目指すアイドルとはちょっと違うかなって思ったり思わなかったり?」

 

「そうですか……」

 

「でもね、それだけ。たったそれだけなのよ」

 

「え?」

 

しゅがはさんが俺を真正面からじっと見る。

その顔はいつもの何を考えているかよくわからない表情とは違い、真面目な、大人の女性といった表情だ。

 

「楓ちゃんがね、Plutoは私の気持ちにそっくりな曲だって言ってたんだけど、実ははぁとにも当てはまるんだ。だから、この曲を精一杯歌ってきっと次に繋げてみせる。

はぁとを知らない人がいるなら気づかせるだけ、声が聴こえないなら歌い続けるだけ。だから安心してジャーマネ。あなたがくれたこのチャンス、きっとはぁとのものにしてみせるから!」

 

「わかりました。俺に出来ることは何もないとは思いますが、何かあれば遠慮なく言ってください」

 

きっとしゅがはさんには思うところが色々とあったのだろう。

だが全て自分で克服して今度のフェスを目指し全力でレッスンを続けている。

子供の俺が心配するようなことは何もなかったようだ。

 

「おっと、らしくない真面目な話してお茶も飲みすぎたからちょっとまずい状況に。お花摘みに行ってきまーす☆」

 

「は、はぁ」

 

そう言って駆け出すしゅがはさんは、いつもの様子に戻っていた。

 

 

 

紅葉くんに幸運を

 

 

しゅがはさんもいなくなり、姉さん含め中々戻ってくる様子がない。

そもそも待ち合わせ場所も決めていないのでどこにいればいいかわからないが。

 

「ねえあなた、この辺の人?」

 

「ん?」

 

不思議な気配と同時に、誰でもなく自分が呼ばれた気がして振り返ると女性が立っていた。

 

日差しから守るためか真っ白な服の袖は腕まで隠しており、健康とはあまり思えない同じく白い顔はその金色の髪で余計目立つ。

どことなく気品に溢れ、その深紅の瞳はとても興味深そうに俺を見ていた。

 

「いえ、東京から来ました。宿泊のチケットが当たったので」

 

「ふぅん、そうなんだ。昼間はあまり得意じゃないんだけど、たまには下界へと足を運んでみるものね」

 

女性はゆっくりと近づき、下から上へと俺を観察する。

 

「綺麗な瞳をしてるね。それにあなた、とっても美味しそう」

 

「……あなたの瞳も綺麗だと思いますが」

 

「ふふっ、正直ね。ちょっと自慢なの。一昔前なら"魅了の魔眼"なんて呼ばれてたかも」

 

「……」

 

その瞳をじっと見ると、なぜだか吸い込まれそうになる。

身動きが出来ず瞳からも離せず、ゆっくりと彼女の手が俺の顔に近づいてくる。

だが一瞬我に返り瞬きをした後、一歩後ろに下がって視線を外した。

 

「あら、あなたには効かないみたい。本当に面白いね」

 

「お嬢さま。車の用意が出来ました」

 

「……残念、また会いましょう♪」

 

離れたところからまた1人女性が現れ、金髪の女性に声をかけた。

笑顔で手を振る女性とは違い、後から現れた黒髪の女性は俺を睨みつけているかのようだった。

 

 

続く!

 




一体どこのお嬢さまが現れたのか……
次はCPと合流するところまでは書きたいですが、合宿編は思いつきによっては長くなるかもしれません。


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紅葉くんの想うコト

ここまではある程度構想があったため早めに投稿できました。

けどまだ1日目が終わらないぃぃぃ!


加蓮の作戦

 

 

「もうすぐバスが来るわ。途中までは一緒みたいね」

 

不思議な女性が去った後、すぐに姉さんがバス停から戻ってきた。

同時に他の3人も集まり、全員でバス停へと向かう。

 

「楓さんたちも今日から練習を始めるんですか?」

 

バス停の列に並んでいる間、加蓮がそんなことを口にした。

元々はそのために来たわけだし当然の質問か。

鈴科プロデューサーから武内プロデューサーへ姉さんたち4人の合宿のことは伝わっているようで、プロジェクトのメンバーと同じ場所で合同練習ということには問題ないらしい。

 

「ええ、荷物を置いたらすぐに向かうわ。加蓮ちゃんたちは先に行っててね」

 

『わかりました』

 

「2人のことははぁとに任せろ☆」

 

どうやら、合宿所は元々俺たちが泊まる予定だった民宿の方が近いらしい。

姉さんが出ている間、俺は観光でもしてみるか。

 

「姉さん、俺は街を見て回ってくるよ。帰る頃に連絡を入れてくれ」

 

『は?』

 

「ん?」

 

全員が一斉に『何を言っているんだ?』といった声を出した。

何も変なことは言ってないと思うんだが。

どこか一緒に行くなら姉さんを見張るために一緒についていく必要はあるが、さすがにライブの練習中無茶はしないだろう。

 

「紅くん、一緒に来ないの?」

 

「行かないよ。そもそも俺は姉さんたちと違って一般人だぞ。勝手に入っていい場所じゃない」

 

「えー、そんなの関係ないじゃん」

 

「あたしも紅葉は来るとばっかり」

 

「関係あるだろう。仮に姉さんやお前たちがいいとしても、プロジェクトメンバーだっているんだ。フェスに向けての大事な時期に邪魔をするわけにもいかないしな」

 

楽屋ならまだしも練習中はさすがにな。

1度姉さんに連れられてレッスンルームにいる美嘉のところを訪れたが、練習を中断させてしまった。

真面目に練習している中、部外者にうろうろされては皆も気が散ってしょうがないだろう。

 

だが全く納得していない加蓮は、とんでもないことを実行しようとしていた。

 

「ふーん。じゃあ全員の許可があればいいわけね」

 

「何?」

 

「もしもし凛?今大丈夫?うん、もうすぐそっちに着くんだけどさ」

 

「一体何を……」

 

「紅葉先輩が行かないって言ってるのよ」

 

『は?何で?』

 

加蓮は携帯をスピーカーに切り替え、俺たちにも相手の声が聞こえるようにしている。

電話相手の凛もなぜ姉さんたちと同じ反応をするのか。

 

「プロジェクト全員の許可があれば行くってさ。だから皆に聞いてみてよ」

 

「は?」

 

『わかった』

 

本当に聞くつもりか?

許可なんて降りるわけ無いだろう。

 

『私たちのユニットとラブライカ、アスタリスクと凸レーションはもちろん賛成。蘭子がむくれてて智絵里がちょっと戸惑ってたけど大丈夫みたい。

あと杏はどっちでもいいって言ってるから全員問題ないよ』

 

「な……」

 

「だそうだよ先輩?」

 

「紅葉ー、もうあきらめろー」

 

「さすがは紅くんね!」

 

「アイドルに愛される男、その名はジャーマネ!」

 

随分とあっさり許可されてしまった。

つまり部外者1人そばにいたところで集中は乱れない。といったところか?

プロジェクト開始から約4ヶ月。アイドルの世界というのは精神面も短期間で鍛えられるんだな。

 

「ならただ見てるだけというのも申し訳ないし、雑用をやらせてもらう。皆は練習だけに集中してくれ」

 

明日も行くとなったら、何かしらの準備は必要かもしれないな。

 

 

民宿・衛宮

 

 

「ここね。思ってたより大きいわね」

 

「ああ」

 

奈緒たちと別れ、俺と姉さんは住宅街へと向かった。

地図を頼りに歩いて行くと、塀に囲まれた明らかに他よりも目立つ場所へと辿り着く。

屋敷にあるような門の表札には"衛宮"と書かれてあり、門の手前には大きな石看板で"民宿・衛宮"と表示されていた。

 

姉さんがインターホンを押す。

特に特徴のあるものではなくカメラや通話機能もついていないようで、門の内側からこちらへ向けてやや大きな声が聞こえてきた。

 

「は、はい!ただいま!」

 

「随分と可愛らしい声ね」

 

「そうだな」

 

慌てている様子の声の後、こちらへパタパタという足音が聞こえてくる。

門が開き、声の主が現れると、俺と姉さんは驚きで挨拶が遅れてしまった。

 

「い、いらっしゃいませ。ようこそ、民宿・衛宮へ!」

 

『……』

 

「あ、あの……?」

 

「ご、ごめんなさい。少し驚いてしまって。短い間ですがお世話になります」

 

「お世話になります」

 

仲居さんと思われる人物が深々とお辞儀をして挨拶をした。

が、想像していた世間一般の仲居さんと違い言葉が出なかったのだ。

 

見た目は俺と同じ年齢か少し下に見え、身長は加蓮に近いだろうか。

だが本当に驚いたのはそこではなく、赤い着物にエプロンを着た少女はフードを被っており、そこから見える銀色の髪が日本人離れしていたからだ。

ここの主人も白髪だと言っていたし、この辺りは珍しい日本人が住んでいるのだろうか。

 

気を取り直して挨拶を済ませ、少女に案内され敷地内へと入る。

中はやはり広く、平屋でありながらも奥行きはありそうだ。

 

俺たちは感心し、庭を見渡しながら歩いていたが、先頭を歩く少女は時折後ろの俺たちを気にしている様子だ。

 

「何か?」

 

「い、いえ!そ、その……」

 

俺に声をかけられると思っていなかったようで、少女は大きな声で反応した。

立ち止まり何かを考え込んだあと、意を決したように話しかけてきた。

 

「あの。せ、拙の日本語の挨拶。どこかおかしかったでしょうか?」

 

「というと、日本人では?」

 

「は、はい。4月にイギリスから留学で来まして」

 

「まあ、そうだったんですね。とても上手な日本語でしたよ」

 

「よかった……ありがとうございます!あ、自己紹介が遅れました。拙は"グレイ"と言います。15歳です。普通に働いている人とは少し事情が違うと思いますし、なにかとご迷惑をかけるかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします……!」

 

「高垣紅葉です。よろしくお願いします」

 

「姉の楓です。よろしくねグレイちゃん♪」

 

どうやら俺たちの行動がおかしかったのを、言葉が聞き取れないせいだと勘違いしているらしい。

もちろん、外国人が接客をしているのは驚くことではあるが、夏にも関わらず自分を隠すかのように深々と被るフードに比べたら微々たるものだ。

誰も疑問に思わないのだろうか?

 

 

通された部屋は10畳の和室。

2人で泊まるには十分な部屋で、障子を開けると手入れされた立派な庭が見える。

畳が落ち着くのはやはり日本人だからだろうな。

 

「失礼します」

 

「どうぞ」

 

合宿場所への準備を姉さんがしている間お茶を注いでいると、グレイさんとは違った女性の声が聞こえた。

姉さんの言葉を待ち襖が開けられると、今度は日本人だと思われる大人の女性が現れた。

 

「ようこそいらっしゃいました。女将の"衛宮凛"です」

 

凛……という名に友人の凛を連想してしまう。

かなり落ち着いた感じの女性で、和服が良く似合っていた。

 

グレイさんと同じような挨拶を済ませると、女将の雰囲気がガラリと変わる。

もしかしてこちらが素なのだろうか。

 

「まさかあのセタの知り合いだなんてね。あいつちゃんとしてる?迷惑かけてない?」

 

「いえ、師匠には大変お世話になっています」

 

「そ、ならいいんだけど。っと、ごめんなさい。知り合いの紹介なもんで気安くなってしまったわ」

 

「私としてはその方が楽でいいと思います。ね、紅くん?」

 

「ああ」

 

「じゃあこのままで。楓さんの人気は夏木市でもかなり高いわよ。よかったらあとでサインを……」

 

「ええ、喜んで♪」

 

「ありがとう。玄関に飾らせてもらうわ」

 

師匠の昔やグレイさんのフードのことなど聞きたいことはあったが時間がない。

この場の話はここで切り上げ、出かけるとだけ告げて民宿を後にした。

 

 

なおかれんのTOKIMEKI

 

 

長い階段を上りたどり着いた先では、小さくではあるが音楽が聴こえていた。

正面の方に"民宿わかさ"と書かれた建物があり、音楽はその斜め向かいから聴こえているようだ。

 

「……すごいな」

 

「ええ、皆一生懸命ね」

 

建物の中に入ると、複数の大きな扇風機を使いながらいくつかに分かれてプロジェクトメンバーが練習していた。

これを見る限りはユニットの練習だろうか。

あちらこちらでそれぞれの曲が流れている。

 

奈緒たちは……と探してみると、しゅがはさん含め隅に座って練習風景を眺めていた。

 

「失礼します」

 

「失礼します」

 

姉さんに続き俺も挨拶をして中に入る。

すると徐々にこちらにメンバーが気づき始め、曲を消して近づいてきた。

 

「皆さん、短い間ですが一緒に頑張りましょうね」

 

『はい!よろしくお願いします』

 

一緒に来た3人と凛を除き、未央や前川さんを含めたメンバーは緊張した様子だ。

部署が違うとあまり関わる機会がないというし、そうなると姉さんとはほぼ初対面ということになるか?

 

「プロデューサーさんは?」

 

「ああ、えっと」

 

ここにいると思っていたプロデューサーさんがいないため、凛に聞いてみる。

するとどうやら仕事でしばらく離れることになったらしく、まとめ役を新田さんに任せたようだ。

なら新田さんにもきちんと挨拶をしておくべきだろう。

 

「新田さん、見学の許可を頂きありがとうございます。邪魔にならないようにしますので、気にせず練習をして下さい」

 

「ええ、高垣くんも私たちの練習で気になることがあったら遠慮なく言ってね」

 

「わかりました」

 

「こ、紅くん。少しは遠慮したほうが……いえ、無理ね」

 

「???」

 

そしてもう1つ気になったことがあるので本人たちに聞いてみる。

 

「奈緒と加蓮は練習しないのか?挨拶は済ませたんだろう?」

 

「そ、そうだけどさ。なんか圧倒されちゃって。あはは……」

 

「アタシはいつでもいけるけど?」

 

「せっかく美嘉の曲の先輩であるnew generationsがいるんだ。意見を貰えるチャンスじゃないのか?」

 

「く……正しすぎて言い返せない」

 

「奈緒は心配しすぎなんだよ。アタシたちの方が凛よりこの曲は練習してるんだし、絶対上手くやれるってば」

 

「お、言うねえかれんは。じゃあさっそく未央ちゃんがアドバイスをしてあげよう!」

 

「そうだね。加蓮、奈緒、準備して。私たちがダンスを見てあげる」

 

「はい!2人のダンスを見るの楽しみです!」

 

「紅葉、後で覚えてろよ!」

 

全員で中央に集まり、その先頭に凛たち3人が座る。

奈緒はまだ緊張しているようだが、加蓮の表情には余裕が見えるな。

流れる曲は当然、美嘉のTOKIMEKIエスカレート。

俺としても慣れ親しんだ前奏が始まり、初めて見る奈緒と加蓮のダンスを期待して見つめた。

 

「お、終わったぁ!」

 

「はぁ……はぁ……ど、どうよ」

 

曲が終わり拍手の音が鳴り響く。

特にミスもなく、ダンスのクオリティは高い。

 

「……ふーん、思ったよりやるじゃん」

 

「うーむ、悪いところが見つかりませんな」

 

「2人ともすごいです!」

 

どうやら先輩3人も納得の結果だったようだ。

確かにダンスに問題はないんだが……いや、俺の考えはどうでもいいか。

あまり関係ないことかもしれないしな。

 

「でしょう?先輩はどうだった?」

 

「いや、俺は」

 

「終わったしもうヤケだ。いいぞ紅葉、正直に言ってくれ!」

 

なるほど、曲の前の"あとで覚えてろ"というのはこのことだったか。

なら言っても問題ないだろうか。

 

「ダンスは良かったと思う。あの時の凛たちに負けてないんじゃないか」

 

「……ふーん」

 

「し、しぶりん落ち着いて」

 

「でしょ?」

 

「ただ、関係ないかもしれないが気になるところはあったな」

 

『え?』

 

「もしかして人前で見せるのは初めてなんじゃないか?特に奈緒の表情が硬すぎだし視線が定まってない。むしろ誰もいないところを無理に見ようとする違和感があったな」

 

「う……」

 

「加蓮はやはり体力面がネックだな。後半少し奈緒の動きについていけなさそうな部分があった気がする」

 

「ぐ……バレてた」

 

「奈緒は慣れるとして、加蓮。夏休みの間早朝軽くランニングでもしないか?俺も付き合うぞ」

 

「……うん、やる」

 

「加蓮が素直だ……」

 

「俺には技術的な面での感想は上手く言えないから、こんなところだろうか」

 

『……』

 

話を終えると、驚いた様子で新田さんたちが俺を見ていた。

蘭子や緒方さんも同じようだな。奈緒たちの感想を言っただけなのだが、また知らず他の人を不快にさせてしまったのだろうか。

 

「あの、何か?」

 

「あ、ううん!何でもないの!」

 

念のために新田さんに確認を取るが、首を大きく左右に振り何もないと告げる。

ならいいんだが、今後も毎回沈黙されると感想を言いづらくなるぞ。

 

「姉さんたちはやらないのか?」

 

話題を切り替えるように隣にいる姉さんへと話を振る。

俺も姉さんたちの曲は聴いたことがないし、練習の様子を見るのは初めてだから気になっていたんだ。

 

「そうね。せっかくだし、歌とダンス両方やりましょうか。心さんもいいですか?」

 

「オッケー。はぁとの歌でメロメロにするぞ☆」

 

奈緒たちと入れ替わりで姉さんたちが前へと出る。

何故か聞く側のプロジェクトメンバーの方が緊張しているみたいなんだが、なぜだ?

 

 

Pluto

 

 

曲をセットすると、2人は空を見上げるようにして始まるのを待っている。

静まり返り、場の空気が変化したように感じた。

 

Ah──、Ah──、La──、La──……

 

あなーたに遠く暗い 小さなこの星でー

 

空……天井を見上げ手をかざす2人のハーモニーが響き渡る。

しゅがはさんも姉さんに負けていない綺麗な歌声だ。

 

目覚めた時 周りには誰もいなかった探しても見つからない 叫んでもこだまするのは私の声だけ

 

恐怖に怯え 寒い夜を一人で過ごす 何度朝を迎えても 目を開けても誰もいない

 

ある日私は空を見上げた

 

いつもと変わらない空のはずだった

 

でもその日は違ったの

 

見つけた……

 

あなたを

 

代わる代わる歌い、どちらか一方だけが目立つことなく、綺麗な歌声が続いていく。

聴く者全員息を呑み、曲に魅入っていた。

 

私のことが見えない? ならあなたが気がつくまで力の限り踊り続けるだけよ

 

私の声が聴こえない? なら声が続く限り叫び歌い続けるだけよ

 

ようやく見つけたあなたのために 私は輝いてみせるわあなたに遠く暗い 小さなこの星で

 

曲が終わっても誰1人動くことなく、プルート2人の微かな息遣いだけが場を支配する。

すごいなしゅがはさん。初めてでよくこれほどまでの曲を……

 

俺が拍手をすると我に帰ったのか、他の全員大きく拍手をしていた。

2人に近寄りそれぞれ感想を述べ、姉さんたちもほっとしたのか笑顔でそれに答える。

 

練習風景でここまで感動するとは思わなかった。

駅でしゅがはさんが言った通り、皆が注目することだろう。

姉さんも、家では全く見せないが相当練習したのだろうということがわかる……だが。

 

「姉さん、少しいいか?」

 

「紅くん?え、ええ」

 

特にしゅがはさんには聞かせられないため、姉さんに外に出るよう促す。

誰も追って来ていないことを確認してから、真っ直ぐ姉さんを見つめた。

 

「どうしたの紅くん。他の人に言えないこと」

 

「ああ」

 

小さい頃から姉さんの歌はよく聴いてきた。

それは子守唄であり、エア友達相手であり、テレビやライブ等様々だ。

だからこその感想。これは当たって欲しくないが、まず間違いないだろう。

 

「姉さん、なぜ本気で歌わないんだ?」

 

続く!




ということで続きは次回。

プリコネのデレステコラボは楽しみですね。
特に凛の技がアイオライト・ブルーになるか
ラズール・レオになるか
新しい蒼技になるか!


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楓さんの想うコト

時間がかかってこの短さ・・・・・・
合宿編は少し長くなるかもしれませんね。

前半は楓さん視点になります。

今更な話ですが、今回の楓さんのこともはぁとのこともこの世界においての勝手な解釈、考えです。


紅葉くんの噂と楓さんの本気

 

 

「姉さん、なぜ本気で歌わないんだ?」

 

最愛の弟の思いがけない言葉で、何故かはわからないけど心臓の鼓動が急に早くなっていく。

仮にこれが紅くん以外の人からの言葉だったら、『私は本気で歌った』と一蹴しているところよ。

 

だってそうだもの。

私が歌うことに関して手を抜くはずがないし、練習とはいえ紅くんが見ているのよ?

アイドルになったきっかけが何なのか、そしてその本人の前なら当然のこと。

 

一瞬、もしかすると紅くんの慣れない冗談?初めてで恥ずかしいから大好きなお姉ちゃんだけに聞かせたかった?

そんなことを思ったけど、抑揚の少ないいつもの淡々とした言葉とは裏腹に、その目はとても真剣だった。

 

ああっ!紅くんがこんな表情をするようになるなんて!

昔の紅くんはこちらを見ているようで見ていないというか、遠くを見ているというかそんな感じだった。

 

でも今の紅くんは違う。

まあ、それが普通当たり前なのよね……

奈緒ちゃんの言葉が影響しているのは重々理解している。けど少しでも今の紅くんの表情や行動に私が影響していると嬉しい。

 

影響といえば、本人は知らないだろうけど346の一部で紅くんが評価されているのよね。

きっかけは2つ。今西部長もいた楽屋と時と、みくちゃんたちのストライキの時。

 

前者はアイドルに、後者は職員に。

 

まず前者の方、瑞樹さんは出会った当初からよくしてくれている。

以前初めて紅くんとケンカしたあと、『川島さんにお礼を言ってくれ』と言われたの。

そのまま瑞樹さんに伝えたら、『よかったわね楓ちゃん』って笑顔で返されたけど私はよくわからなかったわ。

 

美穂ちゃんはレッスンが一緒の時珍しく向こうから話しかけてきてくれて、『弟さんすごいですね』と褒めていたわね。

もちろん当然だと紅くんのすごいところを1時間ほど語ろうとしたのだけど、残念なことにレッスンが始まってしまって5分しか話せなかったわ。

 

……はっ!まさか美穂ちゃん私の紅くんに気が……!?

 

男の子の話を滅多にしないまゆちゃんも、紅くんのことを私に聞いてきたわ。

『同じ男性ですし、あの人のことを相談するのに良いかもしれません』なんて言葉を残して去ったのだけど、どういう意味かしら?

 

……はっ!まさかまゆちゃん私の紅くんに気が……!?(2回目)

 

茜ちゃんは……うん、いつも通りだったわね。

安心したわ。

 

 

そして後者の方。

あのストライキの時は私たちアイドルを始め、職員も大勢一部始終を見ていた。

そう、見ているだけだった。

 

そんな中颯爽と現れた紅くんがあっさりと事件を解決した姿はドラマになってもおかしくないわ。

 

そしてみくちゃんを説得した件、それ以前の私が出たラジオの内容、その他小さなことが少しずつ重なっていって紅くんのことがプロダクション内に知れ渡るようになったのよ。

 

特に紅くんを評価しているのは2人。

武内プロデューサーに鈴科プロデューサー。

 

聞いた話だとこの2人とまゆちゃんのプロデューサーは同期で、一部からはその年代"三巨頭"と呼ばれてるらしいわ。

 

以前と比較すると今は巌のように堅実に、無口なのが少し誤解を生むけれど確実にアイドルを導く……らしい武内プロデューサー。

 

突出した何かがないけどあらゆる能力が優れ、アイドルをマルチに活躍させる鈴科プロデューサー。

 

そしてまゆちゃんのプロデューサー……渡辺プロデューサーは、私が見る限り優しそうに見えるのだけど、仕事に関してはとても厳しいという噂ね。

なぜなら彼の担当するアイドルは、まゆちゃん以外皆ついていけなくなって他の部署に移ったらしいのだから。

 

武内プロデューサーは以前担当していた私の弟ということもあって、気にかけているというのもあると思うわ。

けど鈴科プロデューサーは違う。

あの人は別の意味で紅くんと似ているところがあるから。

 

鈴科プロデューサーは普通の人には興味がなく見向きもしないし名前も覚えない。

彼が担当するアイドルが皆成功していることを周りは知っているから、一部のアイドルや職員は担当になってもらうよう頼んだり、仕事を教えてもらおうと声をかけるの。

 

でも彼の目に留まらなかったらそれまで。

相手の才能を一瞬で見抜いて余計な手間はかけないらしいわね。

そんな暇があるなら担当アイドルのために時間をかけると言っているらしいわ。

 

そんな鈴科プロデューサーが紅くんに興味を持っている。

その理由は何となくわかるのよ。

最近の紅くんのこの目は全てを見透かされているようで……

 

 

 

「姉さん?」

 

「あ、え、えーっと。な、何だったかしら?」

 

俺の問いのあとしばらく沈黙が流れる。

さすがに聞いていないということはないと思うんだが、何やら姉さんは考えてたようだな。

 

普通ならこんなことをプロに素人が言ったら怒るかもしれないが、俺と姉さんの仲だ。

今更冗談だとは思わず、きちんと理由を話してくれるのを待っていたんだが。

もしかすると本人にも自覚がなかったのかもしれないな。

 

確かにさっきの2人の歌は素晴らしいものだった。

若干両方とも加蓮までとはいかないが、息を切らせすぎと思ったのはこの際忘れよう。

 

そしてしゅがはさんは始まる前の余裕とは裏腹に緊張している部分も見えた気がするが、奈緒よりも余裕に感じられた。

歌声も室内に響き渡り、普段の様子からは想像もつかない綺麗な声で姉さんに負けずに、同じように歌っていた。

 

……そう、同じだったのだ。

上手く表現できないが、歌のレベルというか表現の仕方というか、どちらが上というわけでなく一緒だった。

 

 

そんなわけないだろう。

 

 

しゅがはさんに失礼な考えなのは重々承知だ。

だが、いかにしゅがはさんが優れた歌い手だったとしても、レッスン2,3ヶ月で1年以上必死に歌い続けてきた姉さんと同じはずがない。

 

俺が最も信頼している姉でありアイドルである高垣楓の本気がこの程度のはずがない。

 

姉さんは昔から周りに合わせる節がある。

周囲に気を遣い、場の空気が壊れるのを恐れ、自分の本当の姿を偽る。

世間が見る高垣楓というアイドル像が出来上がったのもそれが関係するだろう。

まあ、アルコールが入ってる場合は別だが。

 

だから今回もしゅがはさんに少し合わせたのではないだろうか。

今まで一緒に歌ってきた仲間とは違い、しゅがはさんは新人だ。

姉さんなりに無意識に思うところがあったんだろう。

 

でもそうじゃないだろう。

姉さんがやらなきゃならないことは別のことだろう。

それは、その行為はしゅがはさんには……

 

「姉さんはしゅがはさんを侮辱している」

 

「なっ!?」

 

「しゅがはさんの本気に向き合ったのか?」

 

「も、もちろんよ!だからこそこの歌が出来てきたのだし、皆の評判もいいじゃない!」

 

「それで姉さんは満足しているのか?精一杯歌ったと今この場で誓えるか?」

 

「そ、それはも……あ、あれ……?私……」

 

やはり自覚がなかったのか。

そして俺の思っていたことは残念ながら当たっていたようだ。

今後もこの様子だとしたらソロで歌う分には問題ないが、ユニットで歌う場合ずっとファンだった人の中でも違和感を感じる人はいるはずだぞ。

 

 

姉さんは自分に何が起こったかまだ考えているようで、今にも泣き出しそうな表情をしている。

いつまでもこんな悲しい顔をさせたくはない。

俺の言葉で何かを掴んでくれるといいんだが。

 

「はっきり言うよ。俺が知ってる高垣楓はまだまだこんなもんじゃない。高垣楓は俺の知る限りで最高の歌手でアイドル。そして大好きな姉さんだ」

 

「こ、紅くん!」

 

「しゅがはさんは名前の通りの人だ。心が強く芯も強い。どんなに姉さんが全力で歌っても、負けないように努力する人だ」

 

「……(紅くんがダジャレを!?いえ睨まないで冗談ですごめんなさい)」

 

「だから姉さんのすべきことは、常に全力で歌いしゅがはさんの全力を引き上げること。そうすれば、プルートはもっと素晴らしいユニットになるし、いずれ姉さんとしゅがはさんは良いライバルになるんじゃないかと思うんだ」

 

「そうね。確かにその通りだわ。私が私の歌を偽るなんて絶対にあってはならないことよね。心さんには謝るわ。そしてこれからはもっと全力で歌うと」

 

「ああ、しゅがはさんならきっと応えてくれるはずだ」

 

「ええ、それにお姉ちゃん今とっても幸せだもの!何だって出来る気がするの!」

 

「ん?まあ元気が出たようで安心したが」

 

「だって紅くんが世界で一番私を愛していると言ってくれたんだもの!」

 

「……は?」

 

俺はいつそんなことを言ったんだ?物凄い曲解してるんじゃないか?

いや、わざとじゃないな。どうやら本気で姉さんにはそう聞こえたようだ。

 

「さあ戻りましょう紅くん!これから心さんと命燃やして全力で特訓よ!」

 

「……」

 

当然そんな気合が長く続くはずもなく、3度連続で歌い踊った2人は部屋の隅に倒れ込んでしまった。

そんな2人の熱が冷めるよう、俺は団扇で扇いでいる。

 

その3回全てがバラバラで滅茶苦茶のように見えたが、眠るように目を瞑り息を整えている2人の表情はとても満足している様子だった。

 

続く!

 

 

 

 




ちなみにこの作品ですが、アニメ最終話周辺までやって本編は終わりにさせようと思ってます。

一応最後の部分は決めてあるんですよね。

その後はコミュ関係やライブイベントのことを色々やりたいと思ってます。


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紅葉くんと夏の雪

相変わらず会話の間に地の文を入れるのが下手です。
冒頭だけどうしても多くなって後半少なくなりますね。


紅葉くんは皆のために!

 

 

姉さんとしゅがはさんのパフォーマンスに感化されるかのように、シンデレラプロジェクトの面々や奈緒と加蓮は一層真剣に練習に取り組んでいた。

 

どうやらプロジェクトではユニット曲とは別に全体曲も新しく追加されるらしいが、初めて全員で歌い踊るというのもあってか悪戦苦闘しているようだった。

 

何度やってもダンスが揃わないのが俺から見てもわかる。

が、その苛立ちは踊っている本人たちが一番理解しているだろう。

 

俺が少し気になった点は、なぜ揃わないかを1曲ごとに話し合う場面だ。

何人かで意見を出し合ったり、気になった場面の確認をするのは当然のことなのだろうが、必要以上にユニットで固まり過ぎているように感じた。

 

ユニットごとにはある程度動きが揃っているようには見えるし、普段一緒に踊らないメンバーと話をした方がいいと素人ながら感じたが、恐らくユニットで完璧に揃わなければ全体でも揃うわけがない……といった理由からだろうか。

 

 

新田さんがまとめ、疲れが見え始めた頃に双葉さんが休憩を提案する状況も多く見られた。

どうやら双葉さんは自分の将来のことをしっかり考えているだけではなく、全体もよく見て休むところはしっかり休ませているようだ。

あれで俺と同い年だというのだから尚の事感心させられる。

 

蘭子や緒方さんは最初男であり、場違いな俺のことを気にしていたようだったが、練習が進むにつれ全く気にしないようになっていた。

その点も踏まえ、ただ姉さんの面倒をみるだけでは申し訳ないと思い、ここと旅館を往復して冷たいタオルと飲み物を用意する。

一緒に配られた三村さんの持参したお菓子で、全体が和やかになる場面もあった。

 

気温も含め室内の熱気は扇風機だけではとても逃がすことが出来ない。

見ているだけの俺がこれだけ汗をかいているのだから、動き回っている皆の体力の消耗は相当なものだろうな。

 

本当は皆に持ってきた飲み物があるんだが、好き嫌いがあるというのを加蓮から聞いて知ったのと、それなら冷やしつつアクセントを加えようと思ったので今日はやめておいた。

 

 

そして新鮮だったのは姉さんだ。

しゅがはさんだけでなく、初舞台を経験することになる奈緒と加蓮にも色々とアドバイスをしていた。

歌に関する質問にも真面目に答えていたが、ダンスのことになると曖昧で他の話に変えようとしていたのは何故だろうか。

それに困ったからといって俺の方を見られても何もアドバイスなんて出来ないんだが……

 

「それじゃ、俺は買い物して帰るから」

 

「ええ。やっぱりお姉ちゃんも……」

 

「姉さんは疲れてるだろう。先に行っててくれ」

 

明日の差し入れのために果物を買おうと思った俺は、練習が終わってから宿へ帰る前に新都へと向かうことにした。

帰りのバスの時間だけ確認し、特にここという目的地を決めずに初めての土地を歩く。

スーパーや百貨店ならすぐに見つかるだろうしな。

 

しばらく歩くと、目線よりも少し高い位置に『夏木商店街』という文字と矢印が記されていた。

矢印通りに角を曲がるとアーチ状に大きく商店街という看板が見え、どこか馴染みの商店街を連想させる風景に自然と足が動き出す。

いつもの商店街と違うところは、活気に溢れ年齢関係なく人が行き来しているところだろうか。

 

そういえばもう夕方だ。

学生もちらほら見えるのは、夏休みの部活帰りだろう。

いつもの商店街に来る学生は基本アイドルばかりだが……まあ、そっちのほうが普通は驚くか。

 

どうやらここは以前奏と莉嘉たちを探していた場所にも似ているようだ。

クレープ屋やゲームセンターもあり、だからこそ学生がいるのだと納得する。

その中の1つに当初の目的であった青果店を見つけ中へと入る。

商店街を一周してみたい気持ちはあるが、旅行中とはいえ俺も未成年の学生だ。

あまり遅い時間まで外出しているのは問題だからな。

 

「いらっしゃいませー」

 

活気があるとは言っても、やはり店内はそこまで大差ないようで、商品の配置なども似通っている部分がある。

だが値段は多少安いか?

果物のコーナーへ行き、何がいいかを探すことにした。

 

ちなみに、俺が元々持ってきたものは梅ジュースとアイスだ。

アイスは準備だけしてこっちで冷やす予定ではあったが。

梅は紀州梅で、姉さんの誕生日と収穫時期が合うために6月に青梅が実家から送られてくる。

 

それを俺が3、姉さんが7の割合で分け、それぞれ好きなように使う。

姉さんはもちろんほとんどを梅酒用に使い、あとは梅干用にしている。

ここが不思議な点だが、梅酒と梅干に関しては昔から俺よりも姉さんが作る物の方が断然旨い。

まあ、梅酒は飲んだことはないが。

 

そして電車内でこの梅ジュースの話をしたところ、加蓮から梅は好き嫌いがはっきりしていると言われ、奈緒もそれに共感していたのだ。

俺としては物心ついたころから親しみのある食べ物だったため、どこでもそうだと思っていたが違うらしいな。

 

梅は夏バテ防止にもなるしこの状況に最適だ。

加えて地元和歌山の名物にもなっているし、どうせなら皆に食べてもらいたいという気持ちもある。

だから何か甘い果物と一緒なら大丈夫な人が増えると思いここへ来たわけだ。

 

「やっぱりこれが一番か」

 

色々と見たが、誰もが慣れ親しんだ果物がいいだろう。

りんごともう1つ梨を入れることに決め、まずはりんごを手に取ろうとした……

 

「あ、すみません」

 

「いえ、こちらこ……お前は!」

 

「ん?」

 

偶然にも同じりんごを手に取ろうとしたらしい他人の手がぶつかる。

怪我はないと思うが謝ると、その相手は制服を着た黒髪の少女で歳は俺と同じくらいだろうか。

向こうも一旦手を戻し、なにか言葉を発しようと俺を見た瞬間に、表情が変わり視線が鋭くなった。

 

「ここで一体何をしているのですか。お嬢さまからは観光だと聞いていましたが」

 

「何故それを?」

 

「……」

 

どうやら俺を知っているようだが……それにお嬢さま?

ああ、この敵意にも似た目は昨日の人か。

あの時もあの金髪の女性にそう言っていたな。

 

「昨日の人ですよね。駅前で会った」

 

「……ええ。言っておきますが、お嬢さまはお前のような人間が簡単に話しかけていい方ではないのです。

次にお嬢さまに馴れ馴れしくするようであれば、容赦はしません」

 

「俺から話しかけたのではないんですが」

 

「お前の意見はどうでもいいのです」

 

「今俺が何をしているか聞いてきたのも答えはどうでもいいと?」

 

「くっ……口の減らない!」

 

随分と嫌われているようだが、それだけあのお嬢さまという人が大事だということだろうか。

その呼び方や雰囲気からもかなりの身分の人のようだな。

なら返って今以上に怒らせるかもしれないが、俺の状況を正直に話してすぐここを去ったほうがいいだろう。

青果店なら他にもあるはずだしな。

 

「俺には大事な人がいます。それは姉であり友人であり……その人たちの力になりたくてこの地に来ました。

今俺が出来るのは差し入れくらいなので、ここに果物を買いに来たんです」

 

「……」

 

「では……」

 

「大事な人……ですか。よく恥ずかしげもなく言えますね」

 

「本当のことですから」

 

理由を説明して頭を下げ、彼女のいる方向とは逆へと歩き出そうとすると、そんな言葉が聞こえ振り返る。

すると何故か先程までの敵意のある表情が消えており、俺を見定めるかのように目を見て話しかけてきた。

 

「どうやら"あなた"は普通とは少し違うようですね。そこまではっきりと言える人は中々いませんので」

 

「今の俺があるのは姉さんや友人のお陰です。その人たちのために何かしたいと思うのは当たり前のことですよ」

 

「今の自分があるのは……ですか。……"白雪千夜"です」

 

「え?」

 

「聞こえませんでしたか?私の名前です。2度は言いませんよ」

 

「あ、高垣紅葉です。ちなみに姉は高垣楓といって346プロダクションのアイドルをやってます」

 

「アイドル……」

 

「宣伝というわけではありませんが、テレビや雑誌で見かけたら応援してくれると嬉しいです」

 

「そうですか。ところで、果物は買っていかないのですか?」

 

「白雪さんも同じでは?」

 

「質問に質問で返すのは感心しませんね。それにここにあるりんごは1つではないのです。私はこちらのりんごを買いますので」

 

「ありがとうございます」

 

「別にお礼を言われることでは……それでは高垣紅葉。一応良い旅を、と言っておきましょう」

 

「はい。白雪さんもお元気で」

 

よくはわからないが敵意は消えたようだ。

そのまま店を去った白雪さんを見送り、俺はもう1つの梨を買って民宿へと戻ることにした。

 

 

 

???

 

 

街の明かりも消え始めた夜。

ここ、ブランツベルン城も入館時間を過ぎ辺りは明かりが消えひっそりと静まり返っていた。

この城はルーマニアにあるブラン城を模して造られたと言われ、吸血鬼のモデルである"ヴラド三世"とも関わりがあると言われてはいるが定かではない。

そもそもヴラド三世はブラン城を居城としてはいなかったという話もある。

 

そんな観光地となっているこの城の最上階の角の部屋に急に明かりが付く。

扉を開け明かりを付けた本人は、中の様子を見て溜息は吐いた。

 

「ただいま戻りましたお嬢さま。また部屋を暗くしていたのですか」

 

「お帰り"千夜"ちゃん。だってこの方が落ち着くんだもの」

 

「はぁ……今夕食の準備をしますね」

 

「はーい。って、あれ?千夜ちゃん今日は声に元気があるね。何かいいことでもあった?」

 

「いえ、特には……ああ、そういえば昨日お嬢さまが話していた少年に会いましたよ」

 

「え?もしかして喧嘩しちゃった?」

 

「……高垣紅葉と言う名だそうです。姉がアイドルをしているらしいので、暇な時はテレビでも観るといいのではないでしょうか」

 

「おお!千夜ちゃんが他人に興味が出るだけじゃなく話もちゃんと聞くなんて!」

 

「そ、そういうわけでは。普通に話をしただけです」

 

「うんうん!やっぱりあの子は面白いね!東京かぁ、ちょっと興味が沸いてきたかも」

 

「ここを出られるのですか?」

 

「5年もいたから少し愛着はあるけど、借りてるようなものだしね。千夜ちゃんはここを離れると寂しい?」

 

「いいえ。私のいる場所はお嬢さまがいる場所ですので」

 

「まあでもすぐってわけじゃないよ。それにしても千夜ちゃんの表情、やっぱり何か変わったね」

 

「自分ではよくわかりませんが」

 

「紅葉くんのお陰かな?たった2日で私たちの環境を変化させるなんて、魔法使いみたい♪」

 

薄暗い城で2つの影がゆらゆらと動く。

それは遠くから見ると闇の住人が踊っているかのようにも見え、都市伝説はさらに信憑性を増していくのであった。

 

 

続く!

 

 

 

 

双葉杏

 

キュートS

 ゲームA

  頭脳A+

 やる気EX

   飴S

 対紅葉F

 

シンデレラプロジェクトのアイドル。

本人の意思と全く関係なく、プロジェクト内ではトップレベルに紅葉に評価されている。

冗談も全く通じない紅葉とは出来れば関わり会いになりたくないと思っている。

 

 

●● ●●●

 

 キュートA

  クールA

   吸血EX

    朝E

    夜S

千夜ちゃんS+

  対紅葉A

 

謎のお嬢さま。

金髪紅目ということ以外ほとんど情報がない。

今後本編に登場する機会は不明であり、エンディング後のとある2つのオリジナルプロジェクトに大きく関わってくるらしい。(仮)

 

 

白雪千夜(アイドル前)

 

キュートC

 クールA+

  料理S

お嬢さまEX

 対紅葉A

 

お嬢さまに使える謎の少女。

5年ほど前から一緒にいるらしいが、それ以前の経歴は不明。

紅葉をお嬢さまを害する危険人物と思っていたが、その真っ直ぐな信念に少し共感する。

お嬢さまと同様、エンディング後に関わってくる可能性大。

 

 

●●● ●●

 

 キュートA

  クールC

パッションB+

  やる気E~EX

 ケミカルEX

  対紅葉S

 

登場していないのに登場が決まっている可能性が高い人物。

だが今はどこにいるか全く不明であり、本人の性格上いつ現れるかわからないし現れないかもしれない。

本編よりもエンディング後に関わってくる可能性大。というか、Phantom Storyではいることになっている。

 

 

?? ??

 筋力D

 耐久C

 敏捷C

 幸運E

 心=硝子

 

次の話に出る可能性が高い男性。

この世界の彼は性格、声共に白髪の方であるが名前は漢字である。

セタ師匠とは知り合い。

 

 

 

 

 

 

 

 




久々にステータス表を作りましたが若干ふざけました!


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奈緒と加蓮の想うコト

総選挙始まりましたね。
今回は色々と条件が変わってきて一体どうなるのか。
とりあえず総選挙の間に1度投稿出来てほっとしてます。


そして今回あとがきに紅葉くんプロトタイプを載せました。
この作品が出来る前に書いたもので、今とは全く違いますしなぜここから今のようになったのか全く覚えてません!

が、書き直して今の状態になったのは良かったと思ってます。

ちなみに、『……』の表示だけ今と同じにしただけで他は編集してません。
すぐ終わる上にぶつりと話が切れます。


紅葉くんと民宿の主

 

 

民宿へと向かうバスの中は行きよりも乗客が多く、席が空いていなかったため結局立ち乗りとなった。

仕事帰りの時間かとも思ったが、周りの雰囲気はそうでもないようだ。

 

スーツを着たサラリーマン風の男性はほぼ乗っておらず、俺に近い年齢から姉さんくらいまでの男女が多い。

 

こんなことは普段全く気にならないのだが、初めて訪れた土地だからだろうかその土地で初めて話す人が増えたからだろうか、周りの景色だけではなくそこに住む人たちにも目がいくようになっている気がするな。

 

そのほとんどが新都と住宅街の間にある夏木大橋前で降りたため、車内が急に静かになった。

 

民宿近くのバス停で降り帰り道を歩いていると、またもや合宿所へ向かうときとは違い歩いている人が多く見られた。

浴衣を着ている人もいるということは、以前の*(Asterisk)のデビューのときのようなイベントでもやるのだろうか?

 

「おかえりなさいませ。お荷物お持ちしましょうか?」

 

「いえ、大丈夫です」

 

民宿のインターホンを押すと、また慌てたような足音が聞こえグレイさんが丁寧にお辞儀をして出迎えてくれた。

グレイさんなら何か知っているかもしれないな。

 

「夏木大橋周辺に人が集まっているようですが、何かあるんですか?」

 

「橋ですか?すみません、拙は何も……」

 

「そうですか」

 

そう言ったグレイさんだったが、玄関を開け廊下へと足を一歩踏み出した時、そう言えばと口を開けた。

 

「今日の日付、確かクラスメートに誘われた日と同じです。仕事があるからと断ったのですが、その時何かがあると言っていたような」

 

「もしかして俺たちが原因でしょうか」

 

「い、いえいえ!お客様が原因だなんてそんな!元々拙のことを嫌いなのでは?と思っていた人から急に誘われたので……いつも話しかけると慌てたり目を逸らしたり逃げ出してしまいますし」

 

普通嫌いな相手をどこかへ出かけるのに誘うだろうか?

だがその相手の行動は心当たりがあるな。

俺の場合、こちらから話しかけるのではなく向こうから話しかけてきて似た状況になっていたことが多いが。

 

グレイさんに改めて部屋に案内されながら、最後にお役に立てず申し訳ないと再び謝られてしまった。

最近海外から来たばかりだしわからないことが多くても仕方がない。

却って申し訳なくなってしまったな。

 

しかし彼女は屋内でも相変わらずフードを被ったままだ。

まさか学校でも同じなのだろうか?

そんなことを考えながら部屋の戸を開けようとすると、中から話し声が聞こえてきた。

 

姉さん、1人だからって昔みたいにエア友達と会話をしなくても……

 

「ただいま」

 

「あ、お帰りなさい紅くん」

 

「あらお帰り。お邪魔してるわよ」

 

なるほどそういうことか。安心したよ姉さん。

姉さんが話していたのは女将さんだったようだ。

しかし仕事の方は大丈夫なのだろうか。

 

「滅多にない機会だから、芸能界のこととか色々教えてもらってたの。ごめんなさい、長居しちゃったわね」

 

「いえ、私も凛さんの話は楽しかったので。ねえ紅くん。あの合宿所、765プロのメンバーも使っていたらしいわよ」

 

「765プロ?ああ、確か奏に聞いたことがあったな。有名って話だったけど」

 

「……やっぱり紅くんほとんど知らなかったのね」

 

「なるほど、これは確かに手強いわね」

 

何故か姉さんと女将さんが意気投合してため息を吐いているんだが、この様子だと奏の言った通りかなり有名なようだな。

 

「これならウチのグレイの方が詳しいんじゃないかしら。あの子、中でも高坂海美のファンらしいわ。シンパシーを感じるとか何とか」

 

「最近出来た劇場で人気が出ている子ですね。765プロのアイドルは皆トップレベルで、私も共演する度に勉強になります」

 

その後再び2人の話は続くが、横で聞いていると全く知らない名前ばかりが出てくる。

どうやら全員アイドルの名前らしいのだが、一体どれだけのアイドルが世に出て活躍しているのだろうか。

そしてこの中に一歩足を踏み込んだ奈緒と加蓮。さらに少し前にいる凛、姉さんと同じく活躍している美嘉。

彼女たちの立ち位置を確認するためには、身近なアイドルの名前を覚えるだけでは足りないのかもしれないな。

 

「まったく、姿が見えないと思ったらここにいたのか」

 

「うげっ、し、士郎……」

 

突然男性の声が背後から聞こえ一瞬の沈黙。

その声に反応した女将さんは、しまったというような顔でゆっくり振り返った。

 

そこにいたのは入口よりも高い身長、日本人離れした体格に白髪で褐色の肌、そしてエプロンという一度見たらさすがの俺でも忘れない男性だった。

 

「挨拶が遅れました。私は衛宮士郎。この民宿の主です。ウチの者が大変失礼をしまして申し訳ありません」

 

「べ、別に失礼なことなんてないわよ!それに2人ならセタの知り合いだし、普通に話しても大丈夫なんだから」

 

「はぁ……凛」

 

「うぅ……だってぇ」

 

額に手を置き呆れた様子でため息を吐く衛宮さんに、女将さんは返す言葉が見つからず戸惑っていた。

俺たちはここに来たときに言ったように、楽に話してもらったほうがいい。

姉さんに視線を送ると俺の言いたいことがわかったのか、女将さんの前に立ち衛宮さんへ話しかけた。

 

「初めまして、高垣楓です。こちらは弟の紅葉。凛さんにはとても良くしていただいています。私たちとしても普通に話しかけてくださった方がいいので気にしないで下さい」

 

「紅葉です。衛宮さんのことは少し師匠から聞いていました。短い間ですがよろしくお願いします」

 

「師匠?そういえばあいつがそんなことを言っていたな。昔から極端に運のない男だ。魚を捌くつもりがうっかり包丁で自分を……なんてこともあるんじゃないのか?」

 

「い、いえ。そういった場面は見ていません」

 

「そうか」

 

沈黙がしばし流れるが、衛宮さんの表情を見るに女将さんに対して怒っていはいないようだ。

なら2人が部屋を出ていく前に夏木大橋の件を聞いてみよう。

昔から住んでいるなら今日何があるかわかるはずだしな。

 

「1つ聞きたいことがあるんですが、新都からの帰りに夏木大橋前で人が集まっている姿が見えました。何かあるんですか?」

 

「ああ、今日は夏の花火大会だ。そこまで大きな物ではないが、多少の屋台もあって賑わっているよ」

 

「私の家でも寄付してるのよ。最近はここで眺めるだけだけど、最後に寄付者の名前は出てるんじゃないかしら」

 

「ちなみに、家と言ってもここではなく凛の実家だ。今は彼女の妹が家を継いでいる。遠坂……といえばわかるかな?」

 

遠坂?有名な偉人か何かの家系なのだろうか?

俺は全く心当たりはないので姉さんに聞こうと思ったが、それよりも早く驚きの声で姉さんは答えた。

 

「もしかして遠坂桜さんですか?遠坂CCC株式会社の」

 

「有名なの?」

 

「ええ、宝石関連の会社では日本トップよ。私、実は1度企画でお会いしたことがあるんです」

 

「そういえば桜、テレビに出るって言ってたわね。ジュエリーデザインの番組だったかしら」

 

「はい。桜さんとは同い年ということもあって意気投合して。"サクラファイブ"という新しいデザインの企画だったんです。

そのうちの1つの"メルトリリス"のデザインを任されまして……白鳥をイメージしたんですがみんなからペンギンと呼ばれてしまいました」

 

「……」

 

姉さんのデッサンは独特だからな。

人によって見方が変わる不思議な絵が多い。

俺は嫌いじゃないが、その絵がなにか当たる確率は高くはない。

 

半分冗談なのか本気なのか、暗い表情で俯く姉さんだったが、次の衛宮さんの言葉を聞き一瞬で目が輝いてしまった。

はぁ……相変わらずだな。

 

「サクラファイブの名前はここの地酒にも使われていてね。私が学生時代酒屋でバイトしていたこともあって、贔屓にさせてもらっているよ」

 

「お酒ですか!?」

 

「あ、ああ。と言っても扱っているのはその中の1つだが、その他にもここは変わった酒が造られているんだ。大吟醸・愉悦と約束された勝利。

それにサクラファイブを模して作られたワイン・メルトリリ酒は女性に一番人気だ」

 

「まあ!それは楽しみです!」

 

「どうせなら先に花火大会を見学してきたらどう?夜はこれからなんだし、その後に夕食でもいいんじゃないかしら。ね、士郎?」

 

「ふむ。せっかく遠くからお越し下さったお客様だ。ならばこの街を十分に楽しんでいってほしいのは道理。たまにはいいことを言うな凛」

 

「たまには余計よ!」

 

随分と仲の良い夫婦のようだな。

人柄も良いし、師匠に選んでもらって正解のようだ。

それに花火大会というのは直接見に行った経験がないし興味がある。

せっかくだし、他の3人も誘ってみるのはどうだろうか?

プロジェクトのメンバーはさすがに無理だろうが、あの3人なら問題ないだろう。

 

「姉さん、どうせなら一緒に来た3人も誘ってみないか?向こうは花火のことを知らないかもしれないし、聞いてみるだけでもいいんじゃないだろうか」

 

「そうね。滅多にない機会だもの、皆で楽しみましょう。ここで花火を見ながら一杯……も捨てがたいけど、楽しみを後に取っておくのもいいわよね」

 

姉さんはもう飲む気だったのか?

楽しみなのが花火なのか酒なのかよくわからなくなっているな。

 

そして俺が連絡しようとするよりも素早く姉さんがしゅがはさんに連絡を取ったようだ。

3人とも参加することになったようだが、一向に話が終わる気配がない。

酒の話は合流してからで良いと思うんだが。

 

「そうだ、紅葉くん。浴衣着てみない?」

 

「浴衣ですか?」

 

先に外に出て待っていうようかと思っていた矢先、女将さんが思いついたように両手を叩き提案してきた。

 

「ねえ士郎。あなたの学生時代の浴衣、せっかくだし着ていってもらったら?楓さんの方は身長の関係でサイズが合わないから1人だけになっちゃうけど」

 

「そうだな。今のは無理だが、昔のならサイズ的にちょうどいいか」

 

どうやら浴衣を着るのは決定のようだ。

姉さんを残して部屋を移し、衛宮さんに言われるがまま浴衣を着る。

無地一色のシンプルな物ではあるが、袖を通すと心地よく、冷房がない部屋でも何となく涼しくなった気になる。

 

下駄も勧められたがこちらは断った。

慣れない地に慣れない履物では何が起こるかわからない。

だが靴は一応念の為に持ってきておいたサンダルに履き替え、しばらくすると姉さんがやってきたため一緒にバス停へと向かった。

 

 

紅葉くんと夏の夜の花火

 

 

「わぁ!先輩浴衣!?どうしたのそれ、とっても似合ってる!」

 

「そうか?」

 

「う、うん。まあいいんじゃないの?あたしも持って来ればよかったなぁ……

 

姉さんとしゅがはさんにも似合っていると言われ、ありがとうと返す。

周りを見ると同じ格好の男女が多いため、特に目立つということはないようだ。

 

「ねえねえ先輩、奈緒。ちょっと屋台見てみない?アタシポテトが食べたいなぁ」

 

「だからお前は屋台やライブ会場に何を求めてるんだ?ここにそんなものあるわけ……」

 

「あるな。ポテト」

 

「はぁ!?どうなってんだここ!?」

 

俺が指を差した先に見えるのはポテトの文字。

と言っても、螺旋状の串に刺してあるフライドポテトのようだ。

 

普段とは違い旅行中だし、俺が健康面に気を使ってとやかく言う立場でもないだろう。

奈緒共に黙って加蓮について行き、3人でポテトを買うことにした。

 

「ん~~~!ポテトおいし~!生きてるって感じがするよね」

 

「ポテト1つで大げさだな。そんなお前に食べられるならポテトも本望だろうけどさ」

 

揚げたてではない微妙な温度のポテトは味はともかくとして思ったよりもボリュームがあった。

姉さんが夕食やお酒が飲めなくなると言ったのはあながち間違いじゃないようだ。

 

「ふぅ、お腹いっぱい。ねえ奈緒、お願いがあるんだけど」

 

「はやっ!?だから一番大きいのはやめておけって言ったんだ!あたしだって自分ので手一杯だぞ」

 

「うーん、捨てるのはもったいないし。じゃあ先輩、これ……」

 

「あっ!」

 

加蓮の言葉を遮るような奈緒の声と同時に、すっかり暗くなった夏木大橋の土手が大きな音とともに眩く光る。

 

空を見上げると次々花火が打ち上げられており、周りからも歓声が聞こえてきた。

 

「た~まや~♪」

 

「か~ぎや~☆」

 

後ろから姉さんとしゅがはさんの元気のいい声が聞こえてくると、それに習って奈緒と加蓮も同じように叫び始めた。

 

「ほら先輩も」

 

「俺も言うのか?」

 

「当たり前だろ。こういうのは皆で楽しまないとな」

 

両端から期待するかのような目で見られ、次の花火が上がる。

声を出しているのは周りも同じようだし、確かにライブのように見る側も盛り上げる必要があるか。

 

「た、たーまやー」

 

『た~まや~♪』

 

俺の言葉の後に2人が同時に叫ぶと自然と笑みが溢れる。

こうやって同じ場所に立てるのはあと何度だろう……そんな考えが一瞬よぎったが、今は気持ちを切り替え花火を楽しむことにした。

 

 

紅葉くんと君の知らない蛍火

 

「じゃあ紅くん、私たちは一足先に衛宮さんの民宿へ向かうわね」

 

「あんま寄り道すんなよ☆」

 

「ああ、わかった」

 

花火が終わり周囲から少しずつ人がいなくなった時、俺たちも同じように帰ることにしたんだが、加蓮の提案を受け二手に別れることとなった。

 

「せっかくだから少しこの辺りを歩いてみない?あっちの方とか、田んぼがあってちょっと楽しそう」

 

「あたしは別にいいけど」

 

「俺も構わないぞ」

 

「紅くん、私たち電話で話していたのだけど、民宿で心さんと一緒に飲もうと思って……その」

 

「衛宮さんたちの許可は取ったのか?」

 

「え、ええ。1人で飲むのもあれだし、地元のお酒を楽しんで欲しいって」

 

「なら問題ないよ」

 

「いいの!?」

 

何故か保護者の立場が逆転しているような気がするんだが。

姉さんが酒を好きなのはよく知っているし、俺じゃ相手出来ないからな。

ライブの練習を兼ねての旅行だ。姉さんにも良い思い出を作って欲しい。

 

3人で互いの宿泊先の話をしながら歩いていると、確かに加蓮の言う通り田んぼ道が目の前に現れた。

新都と違いこちら側は少し田舎のような雰囲気の場所が多いようだ。

周りには人がおらず、夏特有の虫の鳴き声がそこかしこで聴こえてくる。

 

都会では中々見られない風景に2人が少し感動しながら歩いていると、前を歩いている加蓮の髪の一部が急に光りだした。

そのことに加蓮も隣を一緒に歩いている奈緒も気づいてないようだが、これは言ったほうがいいか?

 

「加蓮、ちょっと前を向いたまま止まってくれないか?」

 

「え?急にどうしたの?」

 

疑問を投げかける加蓮だったが、俺の言葉に素直に従い動かず待っている。

ゆっくりと手を伸ばし光の正体を掴むと、逃げもせず俺の手に収まった。

 

「これだ。これが加蓮の髪についていて気になったんだ」

 

「ん?ああ、これ蛍か?実際に見るの初めてかも」

 

「アタシも。そっか、これが本物の蛍……」

 

加蓮には何か思う所があるのか、優しい眼差しで蛍をじっと見つめていた。

何かあるのかと奈緒を見ると、こちらは同じように蛍を見ながらも考え事をしているようだ。

 

「あっ」

 

加蓮の声で再び手に目を移すと、俺が目を離した隙に蛍は飛び立ったようだ。

それに呼応するかのように周囲が一斉に光り始め、蛍が空へと飛んでいった。

 

「わあ!きれい!この光1つ1つに命が宿ってるんだよね。これが蛍火……ううん、消えていく儚い光じゃなく、きらきら輝いてる」

 

「そうだな」

 

「あ、あのさ!ここだけの話なんだけど、聞いて欲しいことがあるんだ」

 

「ん?」

 

「いいよな?加蓮」

 

「もちろん。アタシはもっと早く言うつもりだったけど?」

 

「何の話だ?」

 

さっきの考えているような表情と関係があるのだろうか。

奈緒は1回、2回と深呼吸をして意を決したように話を始めた。

 

「実は、あたしと加蓮のソロデビューが決まったんだ」

 

「それは美嘉のバックダンサーとは別ということか?」

 

「うん。今度アニメの映画をやるんだけどさ。それぞれその主題歌ってことで、映画より先行してCDも出ることになってる」

 

「すごいじゃないか。おめでとう2人とも」

 

「ありがとう紅葉先輩♪」

 

「うん、ありがとう。正直まだ信じられないけどな。アイドルのことも半信半疑だし、実は夢なんじゃ……って思う時があるんだ。美嘉の友達としてアイドルの近くにはいたけど、まさか自分自身がなるなんて思わなかったし」

 

確かに、ここまで全てが上手く進んでいるからな。

もしかすると、今後の不安な気持ちも昼間のダンスに表れていたのかもしれない。

 

「あたしは紅葉と加蓮に出会えて良かったと思ってる。もちろん美嘉もだけど、2人がいなかったらアイドルになってなかったと思うし」

 

「奈緒……それはアタシだって同じだよ」

 

「うん。今まではアイドルを追う立場だったし、スカウトされてからも仕事にちょっと否定的でちゃんと向き合ってなかったかもしれないんだ。

でも、このままじゃダメなんだよな。皆真剣にアイドルやってる。自分のために、ファンのために必死に輝こうと努力してる。

だから、あたしはやるよ。あたしも真剣にアイドルと向き合うよ。だってこれは、あたしだけの物語なんだから!」

 

奈緒の表情はいつになく真剣で、加蓮も普段のような冗談を言わずしっかりと聞いていた。

その言葉は俺たちへ向けたと同時に、自分自身の決意表明なんだろう。

 

2人が今までに増して眩しく、遠くへ行ってしまうような感覚に再び襲われる。

が、今は俺のことはどうでもいい。

この2人のため、姉さんやしゅがはさん、美嘉や凛たち大事な友人のために俺が出来ることは何か。

ただただ迷っているだけでなく、そのことについて俺も真剣に考えてみようと思った。

 

続く!

 

 

 

 

 

 

 

 

 




俺の名前は高垣紅葉(こうよう)。高2。

中学まで和歌山の田舎で普通に暮らしていたが、都会に憧れて高校は東京の高校に進学した。まあ、理由は他にもあるが……

小さい頃は色白で女っぽい顔をしていたため、年の離れた姉に『紅葉(もみじ)ちゃん』なんて言われてスカートを履かせられままごとにつき合わされたり、それを見ていた友達に馬鹿にされたりと散々な毎日だったが、今は体を鍛え常に男らしくあろうと努力しているため馬鹿にするやつはいない……たぶん。

とはいえ、東京に来ても遠くで女子がヒソヒソと俺の悪口を言ってる気がしてならない。結局どんなに頑張っても日焼けしない白いこの肌と、右目が青、左目が緑のオッドアイが目立つのだろうか。毎日胃が痛い。

一人暮らし2年目ということもあり自炊も慣れてきた今日この頃、夕飯にパスタとスープを作りテレビをつける。
いただきますとパスタを口の中にいれテレビ画面を見た瞬間、思わず吹き出してしまった。

「ぶほっ!ゴホッゴホッ!」

は?なぜあの人がテレビに出ているんだ?しかも歌番組?おかしい、あの人はモデルの仕事をしていたはずだ。

「ね、姉さん……だよな?」

さすがに実の姉を見間違うはずがない。8つ離れたとは言え25歳とは感じさせない俺とよく似た容姿、俺とは逆の色のオッドアイ。

なぜあんなに人見知りで子供の頃の遊び相手がほとんど俺だった姉さんが人前であんなに堂々と歌っているのか。

咄嗟に携帯を取り出し本人に電話をしようとしたが、すぐ我に帰って無理だとわかった。俺が携帯を買ったのは高校に入学してから


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紅葉くんは話をややこしくする天才である

一気に合宿編を終わらせようと思ったのですが、予想以上に長くなったので今回を合わせてあと2回になります。

それと途中でのとある同盟ですが誤字ではありません。


楓さん、グラブル参戦がついに来ましたね。
グラブル未経験でも楓さんが欲しくて始めたい方は安心してください。

課金は必要ありませんし、イベントは初心者に優しい設定になっているはずです。


ちなみに自分は以前、蘭子プレイアブルのための短縮に金剛晶2個使いました。
このやり方はオススメしません……


疲労困憊の紅葉くん

 

 

何度か遠くで話し声が聞こえた気がして目が覚めた。

時刻を確認すると5時。いつもならもう少し眠っている時間だ。

 

夏ということもありこの時間でも部屋は明るく、俺の布団以外何もない空間を見ながらまだ完全に覚醒しきってない頭で昨日のことを整理する。

 

あの後すぐ、民宿へ行きしゅがはさんを呼んで奈緒と加蓮は宿泊所へ戻るという話になった。

が、俺は嫌な予感がしたのでそのまま2人を送っていくことにした。

 

 

 

 

2人と別れたあと急いで民宿へと戻ったが……案の定姉さんとしゅがはさんは完全に出来上がっていた。

 

姉さんの姿を見て、以前川島さんが言っていたことをようやく理解した。

今まで仕事帰りに飲んで帰って来ると、抱きついてきたり急に眠り出す姉さんだったが、あれはどうやら半分自分の意思でやってたんだろうな。

 

目の前にいる姉さんは、しゅがはさんと共に顔が真っ赤でこちらの話が全く通じず、空になった酒が複数転がっていた。

挙句の果てに"酔い乙女同盟結成記念"とかなんとか言い出し、アイドル仲間に次々電話をかけ迷惑をかける始末。

 

俺は携帯を取り上げ、念のため迷惑をかけた電話相手に謝っていったが……色々と疲れたな。

 

最初に電話をかけた安部菜々さんは俺のことも知っていたらしく、最初はスムーズに話が進んでいた。

ところが酒の話になった途端ぎこちなくなり、17歳と未成年という言葉がよく聞こえるようになっていた。

結局うやむやになったまま向こうから電話を切ってしまったが、あれは何だったんだ?

 

可能性としては川島さんの時と同じく、言い間違いで27歳と言おうとした……

もしくは、俺が今年17歳の未成年なのだから姉さんにつられて酒を飲んではいけないという注意だった……そんなところだろうか。

 

次に電話をかけた三船美優さんは、こちらの話に返事はするが本当に聞いているかどうか定かではなく、結局最後に寝息が聞こえたのでそれ以上はあきらめた。

 

そして最後の片桐早苗さん。この人が一番苦労した。

 

『もしもし、片桐さんですか?いえ、高垣楓の携帯で間違いはないのですが、自分は弟の紅葉と言いまして。

姉ですか?今しゅが……佐藤心さんと話を。今回は姉がご迷惑……は?誘拐?いえ、先程も言いましたが俺は……あの、こちらの話を聞いて欲しいのですが。

どこにいるか?今福井にある民宿へ旅行中でして。いえ、だから誘拐では。とにかくまず話を……え、ええ大丈夫です。姉は問題なく。

俺が誰か?ですから弟の……ああ、川島瑞樹さんに聞いて頂ければ俺のこともわかると思いますので……は?い、いえ。川島さんは誘拐なんてしていません。そ、そう言う意味ではなく、確かに川島さん"は"と言いましたが姉さんは……川島さんが隣にいる?何だったんだ今の会話は……いえ、なんでもありません。と、とりあえず川島さんに代わっていただけないでしょうか?くっ、ここまで話が通じないとは。すみません一旦切ります』

 

その後すぐ川島さんに電話をかけ何とか片桐さんを納得させることができた。

どうやら2人で飲んでいたらしく、片桐さんは相当酔っていたとのことだ。

しかし相変わらず川島さんは頼りになるな。

姉さんが持っていくと思うが、俺からもこの旅行でのお土産を買って改めてお礼を言いに行こう。

 

そしてこの電話の原因である姉さんは、俺が片桐さんと話をしている間、しゅがはさんと笑いながら話したり俺にもたれかかるなどして邪魔をしてくる。

電話を終えた後も変わらず酒の勢いも止まらない。

 

……もう限界だ。

レッスンの疲れ、ライブへの緊張。久々の旅行等も含め大目に見ようと思ったが、いくらなんでも限度というものがある。

さらにこの民宿に他の旅行客がいないとは言え、これだけ大騒ぎすれば衛宮さんたちにも迷惑だ。

 

やるしかないな。

 

『姉さん』

 

『ん~?なぁに紅くん?あ、このお刺身とっても美味しいわよ。はい、あーん』

 

正座

 

『!?は、はいっ!』

 

『なんだなんだ楓ちゃん。さっきの勢いはどうしたんだよ☆』

 

『し、ししし心さん。今の紅くんは、きききき危険なんです!』

 

『何が?』

 

『しゅがはさんも正座です』

 

『おいおいジャーマネ。目がこ・わ・い・ゾ☆』

 

『だ、ダメです!今の紅くんに逆らったら……』

 

『……佐藤さん。

 

 

 

 

 

 

 

 

俺 は 正 座 と 言 た ん で す が ?

 

『ひぃぃ!?ら、らじゃ!』

 

『(紅くんの本気お説教モードは久しぶりね。逆らったら何時間もこのままかも)』

 

 

はっきり言ってこれ以上はもう思い出したくもない。

とにかく言葉でわからせて反省してくれたが、寝るのはまだ早いと言うのでそれを無視し、布団を敷いて無理やり2人を寝かせることに成功した。

 

さすがに心身ともに疲労し、俺自身も眠気が襲ってきたので、女将さんに別室で寝る許可をもらい今に至る。

 

 

 

 

「はぁ……」

 

恐らく姉さんは昼まで起きては来ないだろう。

目が覚めたとしてもライブの練習を出来る状態にあるかどうか。

 

 

顔を洗いに部屋を出ると、気のせいだと思っていた声がはっきりと聞こえた。

衛宮さんの何かを指示する声と、それに応じる女将さんとグレイさんの声。

 

普段の朝もこんな忙しそうな状態なのだろうか?

少し気になるから何があったのか行って見てみるか。

 

衛宮さんちの今日のごはん?

 

 

「凛、手が止まってるぞ。もう少し真面目にやってくれないか」

 

「やってるわよ!ああもうっ!どうしてこんなことに」

 

「どうして?一体誰のせいでこうなったか本当にわからないのか?」

 

「だから悪かったって何度も謝ったじゃない!」

 

「あ、あの。これはどこに置けば」

 

「ああグレイ。それはここに置いてくれ。引き続き盛りつけを頼む」

 

 

声のする方へ近づくと、そこは厨房……というより一般的な台所だな。

衛宮さんと女将さんが忙しそうに料理をし、グレイさんが盛りつけをしている。

だがこの量は少し多くないか?

 

「あ、紅葉さん」

 

場の勢いに飲まれ立ち尽くしていると、声をかけられ我に返る。

どうやら完全に目が覚めたようだ。

 

「すみません。起こしてしまいましたか?」

 

声をかけてくれたグレイさんが申し訳なさそうに頭を下げた。

起きてしまったのは事実だが、そう丁寧に謝られてしまうと逆にこっちが悪い気がするな。

思えば彼女は会う度に謝っている気がする。

 

「元々もう少しで起きる時間だったので問題ないです。それより、いつもこんなに忙しいんですか?」

 

「いえ、実は……」

 

「グレイ~。ちょっとこっち来てくれる?」

 

「はい、ただいま!紅葉さん、朝食まではまだ時間があるのでゆっくりくつろいでいてください」

 

そう言ってグレイさんはこちらの返事を聞く間もなく、急ぎ女将さんの、下へと向かった。

どうやら衛宮さんたちは料理に集中しているようで、こちらを全く気にしていない。

 

さっきのグレイさんの慌てようから考えると、やはりトラブルか?

テーブルを見るとたくさんの容器が置いてあり、料理が入っている物、何もない物、途中の物と様々なものが大小50以上はある。

 

さすがにこれを見てそのまま部屋に戻るわけにも行かないな。

昨晩の姉さんたちへのもてなしや浴衣の礼もまだだし、手伝いたいと思う。

 

「衛宮さん、手伝います」

 

「うん?キミは……」

 

「紅葉くん、気持ちは嬉しいけどあなたはお客様。いいから部屋に戻っていなさい」

 

「昨日姉さんが迷惑をかけたお詫びもありますし、料理なら大体出来ます。急ぎのようですし、今は1人でも多い方がいいのではないでしょうか?」

 

「それはそうだけど」

 

「確かキミはセタの所でバイトをしているのだったな。あれは切れるか?」

 

料理の手を止めずに俺を見た衛宮さんは、しばらく俺を見た後にさらに後ろへ視線を移した。

振り返るとそこにあったのは、恐らく解凍してある鮭の半身が数枚。

あれなら師匠に教えてもらったことがある。

 

ここにある理由も同じだろう。

出来上がっている状態のものを仕入れるより、自分で加工したほうがコストが安く済むらしいからな。

 

「はい。店に出せる一般的なサイズの切り方なら」

 

「上出来だ。だが気持ち小さめで頼む。それと一応聞くが、利き手は?」

 

「右です」

 

「ならば問題ない。凛、彼に包丁と念の為に切創手袋を」

 

「ちょっと士郎!本当にいいの?」

 

「問題ないと言った」

 

「もう、わかったわよ!なら紅葉くんお願いね。あれを切るのって結構力がいるじゃない?士郎じゃなきゃ無理なんだけど、彼は彼で揚げ物から目が離せないし」

 

「わかりました。師匠から合格はもらっているので任せてください」

 

作業をしながら女将さんが状況を説明してくれた。

民宿衛宮はもちろん旅行客を泊める施設だが、場所が場所のせいもあってそこまでお客さんが多いわけではないのだそうだ。

 

特に長期休みの月以外はほとんどいない。

その間の収入を担うのが、駅内で販売している弁当や惣菜らしい。

地元では人気の商品らしく、午前中にはほとんど売り切れるほどのものだとか。

 

だが今日は少し問題が発生した。

納品時刻と個数が変更になったのを女将さんがすっかり忘れていたらしい。

思い出したのがさっきで、普段は手伝っていないグレイさんも盛りつけに加わったということのようだ。

 

切った鮭を女将さんに任せて盛りつけの手伝いをする。

その間何度か衛宮さんの方を見たが、やはりプロはレベルが違うな。

作業は物凄く丁寧なのにスピードが速く、次々料理が完成していく。

 

師匠が学ぶものがあるといったのはこれのことか?

確かに勉強になるが、まさかこのような緊急事態を予測していたのだろうか。

 

 

 

「よし、何とか間に合いそうね。じゃあ行ってくるわ」

 

「ああ、頼んだぞ凛」

 

「拙も行きます!」

 

約1時間後、完成した品を女将さんが車で駅へと届けに行くようだ。

衛宮さんはその間後片付けをするようで、グレイさんもいない為最後まで手伝うことにした。

 

「ありがとう。本当に助かった」

 

「いえ、役に立てたのならよかったです」

 

2人で洗い物をしている中、手を止めずに衛宮さんにお礼を言われる。

恐らく俺が普通の客だったら手伝いを断っていただろうな。

師匠との繋がりがあったからこそ、女将さんも含めこの民宿はとても落ち着く実家のような雰囲気がある。

だから俺も、姉さんの件があるのとは別に手伝わずにはいられなかった。

 

先ほどのお礼のあとしばらく何も話すことなく作業を進めていたが、再び衛宮さんが口を開いた。

 

「この礼はきちんとしなければならないな。もちろん出来ることは限られているが」

 

「言葉だけで十分ですが」

 

「それでは私の気が済まないし、凛も納得しないだろう」

 

この様子だといくら断っても無駄だろう。

逆に失礼になるかもしれないし、何か……ああ、そうか。

 

「でしたら1つだけお願いが」

 

「何かね?」

 

「さっきの鮭の余った部分と、図々しいのは承知ですがご飯も少し譲って頂けませんか?皆におにぎりでも差し入れしようかと思いまして」

 

「皆、というと例のアイドルか」

 

「はい」

 

「それは構わないが、キミへのお礼としては足りないな…・・・ふむ」

 

そう言われてもこちらも何も思い浮かばないんだが。

昨日出された料理はとても美味しい物だったし、檜の風呂というのは初めての経験で疲れが取れた。

まあ、その疲れは姉さんへの説教で大分増えてしまったが。

 

そして再び沈黙するが、凛たちの時とは違い今は作業中だ。

普段も家事をしている時は姉さんがいるとき以外口を開くことはほぼないし、居心地が悪いということはない。

 

「そうだ。昨夜凛から聞いたのだが」

 

そう思っていた矢先衛宮さんが話しかけてきた。

一瞬心を読まれたのかと思ったが、女将さんの名前も同じだったな。

 

「君は同性よりも異性の知り合いの方が多いらしいな」

 

「そうですね。確かに同性の友達は1人もいません」

 

「そ、そうか」

 

最近では男子クラスメートと挨拶をするようにはなったが、それ以外特に話すこともないし友達とは呼べないだろう。

 

「これは私の経験でもあるのだが、異性には中々話せない悩みや相談等あるのではないか?」

 

「……そうですね」

 

確かに悩んでることを何となく話したことはあるが、自分がどうすべきなのかを相談はしたことがないな。

それに将来のこととは別に、友人が遠くへ行ってしまう……等という感覚はさすがに奈緒や加蓮、姉さんにも話していない。

 

「セタに話すにしても、あいつは基本根性論だからな。ここであった縁もある。私に少し話してみないか?もちろん誰にも話すつもりはない」

 

「わかりました」

 

せっかくの申し出だったので自分のことを話すことにした。

俺が東京へ来た意味。将来のことやアイドルとして活動することになっていく友人のこと。

 

頭で考えるだけでなく、気持ちを整理して実際口に出してみると、何故かほんの少し心が軽くなっていくような感覚に陥る。

 

「なるほど。将来のことはキミくらいの時期には必ず悩むものだ。そこは大いに悩め」

 

「そういうものでしょうか?」

 

「ああ。悩んで悩んで、そして出した答えの先が最初に思っていたものと違っていたとしても、後悔せず自分で納得できるものだったらそれでいい」

 

「衛宮さんは、俺くらいの年齢から今の職業のことを考えていたんですか?」

 

「フッ……いいや。現実に目を向けずに理想だけを口にしていたよ。自分はこうありたいと願った。そして今別の道を歩むことになったが後悔はしていない。凛の為だけの味方で有り続けることが、私の生きる意味だ」

 

「……」

 

真っ直ぐ力強く迷いのない言葉。

俺にそこまで言える目標が出来るのだろうか。

いや、何もしないうちからあきらめるのはやめよう。

衛宮さんの言う通り、思いきり悩んで後悔のない道を目指す努力をすべきだな。

 

「時に、今キミがやりたいことは何なのだ?趣味でも興味があるものでもいい。1つくらいあるだろう」

 

趣味に興味、か。

中学まで、いや去年までの俺なら『ない』と即答していただろう。

 

だが今は目を閉じ考える。

というよりも、考えることもない簡単な答えだ。

 

 

「今は姉さんやアイドルになった友人たちの力に少しでもなりたいです。どんな小さなことでも、そして少しでも俺を必要としてくれるのなら、全力で応えたい」

 

「なるほど。良い目をしている。そして私にはもうキミは答えを全て得ている気がするのだがな」

 

「え?」

 

「いや、気がついていないのなら今はまだそれでいい。とにかく今はキミが出来ることを1つずつこなしていくといい。その先がキミの将来へ繋がっていると私は思うよ」

 

「はい、ありがとうございます」

 

「さて、私はこれから朝食を作るが」

 

「俺は皆への差し入れの準備をしたいと思いますが、さすがにここでは邪魔になりますね」

 

「いや別にここで調理をしても構わんよ。必要なものは揃えておこう」

 

その後衛宮さんのアドバイスを受けつつ、夏場傷まないように最新の注意を払って準備をした。

朝食は、姉さんたちが予想通り起きなかったので俺1人だけで摂ることに。

 

同様に全く起きない姉さんたちを置いてシンデレラプロジェクトのいる民宿へ向かうと、既に音楽が響いていた。

 

 

紅葉くんの差し入れ

 

 

「あ、おはよう紅葉」

 

「おはよう紅葉先輩」

 

「おはよう。皆早いんだな」

 

時刻は9時前。

ストレッチをしている奈緒と加蓮に挨拶をして練習場を見渡すと、昨日と同じように各ユニット毎に練習が始まっていた。

 

「だよなぁ。あたしたちも結構早く来たと思ったんだけどな」

 

「何かこっちまで気が引き締まる感じ?ところで先輩。楓さんたちは……」

 

「ああ、恐らく想像通りだ」

 

「心さん結局戻って来なかったもんな。お前に被害はなかったのか」

 

「……」

 

「うわ、先輩今まで見たことないくらい嫌そうな顔してるよ」

 

「姉さんが酔っていたるところに電話をかけてな。その謝罪が大変だった」

 

「ホント、楓さんって紅葉の話聞けば聞くほどテレビや想像と離れて行くよな。まあ、それが魅力でもあるんだけどさ」

 

「だね。もしアタシが楓さんに会うのがライブが初めてだったとしたら、緊張しちゃうだろうし絶対話しかけられなかったと思う」

 

「俺は差し入れを冷蔵庫に入れてからまた冷やしたタオルを持ってくる。2人は構わず練習をしていてくれ」

 

「随分多い荷物だな」

 

1時間ほどするとユニット曲の練習が終わり、昨日と同じように全体曲の練習へと移る。

 

だがたった1日では何かが変わるということはほとんどなく、何度繰り返しても最後のポーズまで上手く揃わない。

 

途中からは無理に周りに合わせようと横目で気にする者も増え、疲労だけが蓄積されている雰囲気だった。

 

「出来なかったら出来るまでやってみようよ!」

 

まだ体力に余裕のある未央が皆にそう言ったが、凛や普段アイドルに対して貪欲な前川さんまで消極的だ。

いや、消極的とは少し違うか。

 

皆わかっているんだ。

このまま続けても変わりのないことに。

 

 

「ダメ、電池切れた」

 

とにかくもう1度やって見ようと言う未央の意見を尊重し、また初めから全体曲を通してみたが、案の定結果は変わらずついには双葉さんが大の字で仰向けになる。

 

島村さんも足がおぼつかず、他の子も次々座り込む。

 

「皆立って。もう1回頭からいこう」

 

それでも皆を鼓舞する未央がもう1度と両手を広げ声を上げる。

恐らく未央もこのままではいけないとわかっているのだろう。

だからこそ出来るまでやりたいという気持ちはわかるのだが……

 

「でもさ、これって難しくない?」

 

「皆バラバラで全然合ってなかった」

 

「だからもっと練習しなきゃ。でなきゃフェスに間に合わないよ!?」

 

李衣菜と前川さんの意見に未央が焦りの様子を見せる。

そうか、それもあるのか。

 

フェスまでの期間と未央たちが美嘉のバックダンサーの為の練習をした期間はほぼ同じ。

あの時3人でも大変だった苦労がわかるからこそ、プロジェクトメンバー全員で合わせなけらばいけない大変さを一番感じているのかもしれない。

 

さすがに今回は中々未央の意見は通らず、しばし沈黙が生まれる。

奈緒と加蓮も練習できる状況ではないのだろう。

こちらも曲を止め、心配そうに見つめていた。

 

「紅葉、これ大丈夫なのか?」

 

「未央の意見も李衣菜たちの意見も正しいからな。だが合わせようと意識しすぎて動きが余計固くなっている。1度気持ちを切り替えたほうがいいと思うが」

 

「アタシたちも他人事じゃないんだよね。今は2人でも、同じ状況がいつ来るかわからないんだし」

 

「ま、まあ。あのプロデューサーだしなぁ。美嘉には慣れるしかないって言われてるけどさ」

 

だが状況はあっさり一変する。

今まで皆の意見を尊重していた新田さんが案を出したのだ。

 

「少し休憩しましょう?」

 

その意見に全員が賛成する。

思ったんだが、新田さんはまだまだ余裕がありそうだな。

この中で一番体力があるのは彼女なのだろうか?

 

皆思い思いの場所に座り込み休憩に入った。

やっぱりユニット毎に別れているな。

意識的なのか無意識なのかはわからないが、その状況に一瞬蘭子だけが置いて行かれた感じになり、結局一番近かった前川さんと李衣菜の近くに座り込む。

 

時間もちょうどいいし今の休憩中に差し入れを出したほうがいいか。

タオルや冷却スプレーを配りつつ、入口近くにいた新田さんに念の為に聞いてみる。

 

「新田さん、昼食は決まってましたか?」

 

「もう少し練習したら皆で作る予定だけど、それがどうかした?」

 

「軽食ですが用意してきた物があるんです。作る手間も省けますし、それを昼食にするのはどうでしょうか」

 

「それは助かるけど、いいの?」

 

「はい、そのために俺がいるようなものなので」

 

許可を得たので、借りていた向かいの民宿の冷蔵庫へと向かう。

状況を察したのか、奈緒と加蓮も運ぶのを手伝ってくれた。

 

「まさかとは思ったけど、朝の荷物全部食べ物だったのか」

 

「飲み物とデザートもあるぞ。プロジェクト全員分だから仕方ない」

 

「え、この量全部先輩が作ったの!?」

 

「いや、軽食の方は民宿の人が手伝ってくれたよ。やっぱり料理のプロは手際が違うな」

 

「アタシからすれば先輩もすごいと思うんだけど……」

 

再び練習場へ入ると、それに気づいた新田さんが全員を集める。

何となく状況を理解したのか、皆俺たちの持っている荷物が気になっているようだ。

 

「ねえ皆、今日高垣くんが差し入れを持ってきてくれたらしいの。後からお昼ご飯を作る予定だったけど、今ここで食べない?」

 

『さんせーい!』

 

反対意見がなくて安心した。

好き嫌いはあると思うが、衛宮さんの好意で副食の材料も手に入ったし、種類はあるから満足してもらえるだろう。

 

「じゃあご飯の前に高垣くん、一言どうぞ」

 

「皆さん練習お疲れ様です。簡単な物ですが昼食を作ってきました。おにぎりは夏場の食中毒対策や苦手な人もいる可能性を考えて素手では作っていないので安心してください」

 

「細かいところも真面目だよね紅葉って。私は別に気にしないけど」

 

「凛たちが真剣にレッスンに取り組んでいるんだ。なら俺が俺の出来ることをしっかりやるのは当然だ」

 

「う、うん」

 

「もーくんは料理出来るんだね。ちなみにそのクーラーボックスって何?」

 

「ああ、姉さんの情報で知ってる人もいるかもしれないが、俺たちは和歌山出身なんだ。特産品として梅があるんだが、それを使ってアイスとジュースを作ってみた」

 

「わあ!デザートまであるんですね!」

 

「はい。梅は夏バテ予防にもなるので状況に合ってると思います。一応これも苦手な人のために他のフルーツで作った物があるので、好きな方を選んで下さい」

 

 

『いただきまーす!』

 

全員に昼食が行き渡り、奈緒と加蓮も加わり輪になるようにして食べ始める。

どうやら苦手な物はほとんどないようだ。

 

みりあや莉嘉も笑顔で食べている。

それを見ているきらりさんも満足の表情で、三村さんは以前のケーキの話もあり感心している様子だった。

 

少し不安に思っていた緒方さんは、少食のようでそこまで食べることはないが、こちらも笑顔になってくれていた。

 

「男の子でここまで出来るなんてロックだよね。私も結構参考になるかも」

 

「相変わらず李衣菜チャンのロックの定義がよくわからないけど、やっぱり紅葉チャンの料理は美味しいにゃ!」

 

「民宿の人にも手伝ってもらっているけどな。だが以前と同じで栄養のことは考えているつもりだ」

 

だがここで急に一部の……というか隣の方から、何故か表情と声が消えたような気がした。

気になって確認してみると、奈緒と加蓮、そして凛がじっと前川さんを見ている。

 

「え、何?」

 

その空気を前川さんも感じ取ったのか、3人の方へ声をかける。

それに合わせるかのように全員が話すのも食べるのも止め、こちらへ意識を集中しているようだった。

 

一体何だ?

 

「ねえみく。みくって紅葉の料理を食べたことがあるの?」

 

凛の問いに奈緒と加蓮が同意するように頷く。

3人言いたいことが同じのようだ。

 

「えーっと。い、1度だけお弁当を……」

 

「何?先輩、アタシ以外にもお弁当を作ってるの?」

 

「い、いや……」

 

急に矛先が俺へと向けられたが、何だ?

加蓮の雰囲気がいつもと違うような気がする。

 

が、前川さんや俺が答える前に凛が加蓮に話しかけるために、さらに状況が悪化した雰囲気になった。

 

「ちょっと待って加蓮。今の話だと紅葉にお弁当作って貰ってるような感じだけど」

 

「うんそうだよ?学校じゃ毎日先輩のお弁当食べてるもん」

 

「へぇ……そうなんだ」

 

「お、おい2人とも。ここで喧嘩なんかするなよ!?紅葉、どうすんだよこれ!」

 

「どうすると言われてもな。前川さんに弁当を渡したのは事実だが、加蓮が休んだ時だぞ?」

 

「え?アタシが?」

 

「そ、そうにゃ!紅葉チャンがどうしてもって言うから食べたんだもん!」

 

「おい、みく。言い方!あー、あれだろ紅葉。ニュージェネのデビューライブ後のやつだろ?」

 

「あ、ああ」

 

「そっか。初めてのレッスンで倒れた時か」

 

加蓮の雰囲気がいつもとほぼ変わらないようになったが、凛はまだ納得していない様子だ。

凛の隣にいる未央と島村さんも、どうしていいかわからない様子。

 

一応出来ないこともないが、さすがに難しいし断っておくか。

 

「凛、さすがに他の学校へ弁当を届けるというのも無理があってな。悪いが……」

 

「へ?……ふふふっ。ごめん皆、ちょっと暑さで気持ちが変だったみたい」

 

「ねえねえかみやん。もーくんのあれって冗談だよね?」

 

「いや、本気……って言うかいつもの天然だよ。何もわかってないんじゃないか?」

 

「うわー……」

 

「で、でも。凛ちゃん笑顔になってよかったです」

 

場の雰囲気が良くなった気がするが、急に会話は弾まないようだ。

どうやら俺の作った弁当が原因での状況のようだし、何か全員がわかる話題を作れないだろうか。

 

そう思い辺りを見回して思い出したことがある。

アイドルならこの話題で大丈夫だろう。

 

「そういえば、ここは765プロのアイドルたちも練習場として使ってたらしいな」

 

「それホント?すごいじゃん☆」

 

対面にいた莉嘉が大きな声で喜びを表すと、それに合わせるかのようにアイドルに関しての話を周りが始めだした。

 

「さすがに765プロのことは紅葉も知ってたか」

 

「いや、奏から聞いただけで顔と名前が全くわからないが。この反応を見るとやっぱり有名なんだな……ああ、確かグレイさんも765プロのアイドルのファンだと言っていたな」

 

『……』

 

「ん?」

 

奈緒の言葉に俺が答えると、両隣がまた不思議な雰囲気に包まれる。

その雰囲気に飲まれたのか、またもや沈黙が生まれてしまった。

 

「紅葉、そのグレイって人はやっぱり女の人なの?」

 

「そ、そうだが」

 

久しぶりで忘れていたが、凛は以前加蓮の名前を出した時も同じ状態だったな。

だがやっぱりとは一体どういうことなのか。

 

「先輩、その人ってアイドル?」

 

「いや、民宿で仲居のようなことをしている留学生だが」

 

「だからそのいつも出さない低い声やめろってば!紅葉がこうなのはいつものことだろ!」

 

「紅葉チャンは相変わらずにゃ」

 

話題を提供するというのは俺が思ってる以上に難しいようだ。

前川さんは呆れたような表情でため息をつき、李衣菜や未央には小声で『がんばれ』と励まされる。

 

とりあえず何とか凛たちが落ち着き、デザートを食べ一息ついたところ、いつの間にか場を離れていたらしい新田さんが入口から全員に声をかけた。

 

「はい、休憩終わります。今日は予定を変更して、今から全体練習のスペシャルプログラムを行います」

 

周りの反応を見る限り、言葉通り誰も知らないようだ。

発案者の新田さんの表情が晴れやかなところを見ると、今の状況に適した何かなのだろう。

 

「皆外に出てちょうだい。それと高垣くん、奈緒ちゃん、加蓮ちゃん。あなたたちにも協力してもらうわ」

 

「俺もですか?」

 

「ええ、3人で1つのチームを作ってね。それじゃあ、内容を説明します」

 

チーム?

さすがにダンスをするわけではないだろうし、一体何が始まるのか。

 

そして新田さんが説明した内容は、誰もが全く予想していないことだった。

 

続く!

 




スペシャルプログラムに関しては特に変化ないです。

余談ですが、もうすぐ終わる総選挙。
自分がイラストを描けたならダイマでやりたいアニメーションがありました。

最近ナルトをまた見始めていたのですが、後半OPのLINEの映像のサビからの部分が気に入ったからです。

サビの部分で結晶を男性キャラが次々入れ替わりで掴もうとするシーンを各属性アイドルにし、女性キャラの部分を歴代シンデレラガールに。
そして結晶をガラスの靴にして、最後の掴んで終わる部分をダイマする属性アイドルへといった感じですね。
掴んだ瞬間に普段着からドレスに変わります。

映像見たことない方にはさっぱりだと思いますが、まあ完全に妄想ですね!




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紅葉くんの転機

お待たせして大変申し訳ございません!

動画の方は楓さんの誕生日に誕生日回を投稿することができて満足です。


そして長かった合宿編もようやく終了です。
ちょっとダイジェスト感がありますが……


新田美波のスペシャルプログラム

 

 

新田さんの後に続き外へ出る。

時刻は午後1時過ぎ。夏の日差しが強く永遠とセミが鳴いており、何もしていなくても自然と汗が出てくる。

 

「はい、どうぞ」

 

新田さんが笑顔で缶ジュースを差し出す。

受け取った缶は思ったほど冷たくはないし、新田さんの後ろには見たこともないジュースが並べられているが、明らかに人数分にしては少なすぎる。

 

「あ、それは飲まないでね。バトンの代わりだから」

 

「バトンですか?」

 

「うん。皆外に出たわね。じゃあ今からリレーをします」

 

「リレー?」

 

新田さんの発言に、俺と同じく缶を受け取った凛がそれを見ながら不思議そうにたずねた。

 

「ユニット対抗で競争するの。バトンはこれね」

 

体力作りの一環だろうか?

それにしてはなぜこのタイミングなのか疑問が残るし、わざわざ俺まで参加する意味がない。

もちろん、奈緒と加蓮の為と言われれば話は別だが。

 

どうやら状況が理解出来ないのは全員同じようで、代表するかのように先ほども練習続行に意欲的だった未央が待ったをかける。

 

「今日は私がまとめ役だから、私の指示に従ってちょうだい」

 

優しい声で諭すように新田さんがはっきりとそう告げた。

全く迷いのない表情、やはりこの"スペシャルプログラム"には大きな意味があるようだ。

 

3人1組でチームを組んでの対抗戦ということで、前川さんと李衣菜が司会をやることになった。

同じ理由で2人ユニットのLOVE LAIKAには蘭子が加わることに。

 

「高垣くん、私はアンカーになる予定だから」

 

「え?」

 

チームでの走る順番を決めるためにユニット毎に集まっているところ、新田さんがそう言って俺の横を通り過ぎた。

振り返った先の新田さんは、以前のライブの時のように口の動きだけで『負けないわよ』と言ったように思えた。

 

つまり俺にも本気でやれということだろうか。

ライブに参加しない俺が本気でやる意味。それを少し考えてみる。

 

まず重要なのは、このプログラムが全体曲に関係あるということ。

そして今は全体曲が全く揃っておらず、若干焦りが見えている子もいるということ。

全員の息を合わせる必要があるわけで、そこに存在するイレギュラーなチーム……

 

そうか、何となくわかってきた気がするな。

アイドルには新人といえど、多かれ少なかれ目標があり、それを目指して日々頑張っている。

誰にも負けたくない気持ちもあるだろう。

特に加蓮と凛、そして未央からはその思いは良く伝わってくる。

その気持ちが1つになって、全力で向かっていけば……

 

「2人とも、このリレー勝負は俺たちが優勝するぞ」

 

「お、おう。珍しくやる気だな。確かにお前はスポーツも得意みたいだけどさ」

 

「アタシは最初からそのつもりだよ?それで、順番はどうするの?」

 

「俺がアンカーで出る。新田さんも出るだろうし、恐らく……」

 

前方やや離れたところで相談している凛と目が合う。

まだ少し疑問が残っているようだったが、気にせず俺は頷いてみせた。

 

「!?」

 

凛に俺の意思は伝わっただろうか。

 

「悪いな加蓮。凛との勝負は一旦俺に預けてくれ」

 

「え?あ、うん」

 

 

 

「位置について」

 

「よーい!」

 

にゃー!」「ロックンロール!

 

*(Asterisk)の掛け声と同時に第一走者が走り出す。

コースは練習場を一周するため後半の状況をここで確認することはできないが、そこは司会の2人が上手く伝えてくれるだろう。

 

第一走者は加蓮、島村さん、アーニャ、みりあ、三村さん5人。

第二走者はこちらのチームが奈緒。そして未央、蘭子、きらりさん、緒方さん。

そしてアンカーが俺、凛、新田さん、莉嘉、双葉さんだ。

 

第一走者はスタート開始からすぐに差が付き始める。

アーニャが1位を独走し、その後を意外にも最年少のみりあが追いかけていた。

 

そのさらに後ろを島村さんと加蓮がほぼ同時で走っているが、島村さんの方が若干余裕が感じられるな。

そして三村さんが最後を走り、そこまで加蓮たちと離されているわけではないが苦しい状況か。

 

前川さんの司会で、第二走者が中盤で順位が入れ替わったことがわかった。

未央が蘭子を追い抜き、さらにほぼ同時にスタートした奈緒も、未央には離されてしまったが2位になったようだ。

 

次の順番のためスタートラインに立つと、新田さんが声をかけてきた。

 

「高垣くんありがとう。でも負けないからね」

 

「新田さんの意図が少しわかりました。このスペシャルプログラムはまだ続くんですよね?」

 

「うん。色々考えてみたんだ」

 

「なら俺は、プロジェクト全員が共通の敵と認識出来るよう頑張ります」

 

「ちょ、ちょっと!考えは間違ってないけど言い方は少し考えてよ!」

 

どうやら予想は当たったらしい。

俺たちのチーム……主に俺が上手く立ち回ってヘイトを集めればいいわけだ。

新田さんも協力してくれるだろうし、そうすれば負けたくない気持ちがプロジェクトメンバーの心を1つにすることが出来るかもしれない。

 

とりあえず、隣で未だ納得していない様子の凛のモチベーションを上げるべきか。

 

「どうした凛。もうすぐ俺たちの出番なのにあまりやる気が感じられないが」

 

「なっ!?べ、別にやる気がないわけじゃないよ」

 

「そうか?まあどちらにせよ俺は1位を狙っていくが」

 

「何か意外。紅葉ってあまり勝負事に拘らないのかと思ってた」

 

「そうだな……」

 

普段の俺なら凛の言葉が正しい。

学校の授業でも手を抜くわけではないが、勝っても負けても特に何か思うことはほとんどない。

 

けど今は違う。

確かに目的はあるが、せっかく新田さんが作ってくれた状況を楽しみたいと思う自分がいるんだ。

 

「俺と凛たちは友達とはいえ立場が変わってきている。だがそれを抜きにしても、こうやってお前たちと一緒に何かをするということ。

この今後いつまた起こるかわからない状況を楽しみたいと思ってる」

 

「紅葉……わかった。なら私も全力でやってみる」

 

「ああ」

 

「(何か凄く良い雰囲気だけど、考えた私の方が段々置いていかれてるような……)」

 

先程とは違い、真剣な様子でじっと未央を待つ凛。

順位は前川さんの言葉通りに未央、奈緒、蘭子、きらりさん、緒方さんの順だ。

 

……今考えてみたが、ユニット対抗とはいえCANDY ISLANDが少し不利じゃないか?

こう言っては何だが、三村さんも緒方さんも大人しい性格だし、陸上競技が得意そうには見えないんだが。

 

「しぶりん!」

 

「うん、任せて!」

 

「紅葉あとは頼んだ!」

 

「ああ」

 

しっかりと缶を受け取り走り出す凛を見送ったあと、すぐに奈緒が俺に缶を手渡した。

新田さんもほぼ同時で、2人で徐々に凛との差を縮める。

 

新田さんは何かスポーツをやっているのだろうか?

正直第二走者が僅差でゴールしたのなら、俺が勝てると思っていた。

だがどうやらその考えは甘かったようだ。

 

凛を抜き、最後は新田さんとの勝負になる。

あそこまで大きなことを言った以上負けるわけにはいかない。

 

ゴーーーール!1着は紅葉選手!

 

「はぁ、はぁ……よし」

 

体ひとつ分の差だっただろうか。

何とか勝つことが出来た。

 

「やったな紅葉!」

 

「おめでとう先輩!」

 

「ありがとう。だがこれは俺たち3人の勝利だ」

 

凛の方を確認してみると、膝に手を置き息を整えながらも、こちらを悔しそうにしてみている。

本人の言葉通りに全力でやったんだろう。

そして未央と島村さんが近づき、ねぎらいの言葉をかけているようだった。

 

「お、お疲れ」

 

「お疲れ様です」

 

「ごめん2人とも。紅葉と美波に勝てなかった」

 

「しぶりん、何か急にやる気出たね」

 

「うん。次は負けないよ」

 

「私も凛ちゃんみたいに頑張りますね!」

 

どうやら他の2人も凛に影響されてきたみたいだな。

そのことに安心していると、不意に悪寒が走った。

 

この久々の感覚にゆっくりと後ろを振り返ると、案の定新田さんが凛以上に悔しそうな顔でこちらを見ていた……

 

 

 

それからいくつかの競技をこなしていき、プロジェクトメンバーも徐々に楽しみながら1つにまとまっていているようだった。

応援の声も大きくなり、全員が全員を応援している。

 

3人4脚ではnew generationsが抜群のチームワークを見せ1着でゴール。

俺たちも慣れないながら3位になることが出来たが、奈緒の動きがぎこちないように感じた。

 

「うぅ……こ、こんなの恥ずかしいに決まってるだろ!」

 

「もう奈緒ったら。終わったんだからもういいじゃない」

 

「お前たち2人だけなら凛たちといい勝負になったかもしれないな。確かに奈緒の動きがいつもと違っていたが、原因は俺にある」

 

「先輩はやっぱりいつも通りだよね……」

 

 

 

そしてどこから見つけてきたのか、水鉄砲での勝負ではチーム対抗戦のはずが、いつの間にかプロジェクトメンバー対俺たち3人という結果に。

 

「おいおい。どうすんだよこれ、勝てるわけないぞ!」

 

「先輩、作戦はあるの?」

 

「い、いや。とにかくやるだけやってみよう」

 

早々に奈緒と加蓮がリタイアとなったが、俺はなんとか敵の数を半分にまで減らすことはできた。

水は基本直線で襲って来るからな。相手が引き金を引く瞬間を見極めれば躱すのはそう難しいことじゃない。

 

奈緒が途中俺が引き金を引く度に『ミストディス……』とか言っていたが、あれは一体何だったのだろうか?

 

 

最後の長縄跳びは俺たち3人が見守る中、声を掛け合い楽しそうに目標の回数までこなすことが出来た。

 

「なんかいいよな。あんな風に1つにまとまるのってさ」

 

「そうだね」

 

「お前たちも他人事じゃないだろう。いずれは通る道なんじゃないのか?美嘉だって、ライブでは合同で歌って踊る場面も多いしな」

 

「そ、そっか。バックダンサーとソロデビューのことばかり考えてたけど、その先がまだまだあったんだ」

 

「アタシたちはアイドルとして始まったばかりだもんね。同じ部署のメンバーでライブすることもあるかもしれないし」

 

「鈴科プロデューサーなら色々考えてくれるだろうな」

 

『……』

 

「ん?どうして黙るんだ?」

 

そして休憩を挟んだあと、誰からともなくもう1度全体曲をやってみようという話になった。

全員の表情はとても自身に満ち溢れており、結果は見事に成功。

奈緒と加蓮も自分のことのように喜んでいた。

 

今回のスペシャルプログラムの案は全て新田さんが考えたのだろうか?

もしくはプロデューサーさんがこうなることをある程度予想し、もしもの時のために新田さんにアドバイスをしたのか?

 

「え?ああ、うん。私が考えたの。だって私は皆のまとめ役だから」

 

「そうでしたか」

 

「高垣くんも本当にありがとう。リレーで負けたのはまだちょっと悔しいけど、お陰で皆の気持ちが1つになれたもの」

 

ちょっと?

俺にはかなり悔しそうに見えたんだが。

 

しかしそうか。

新田さんも状況は皆と同じはずなのに、誰にも相談せず考えたということか。

 

その責任感の強さは尊敬すべきなのだろうが、これが今後も続いたら精神的に大変じゃないか?

 

それと奈緒と加蓮のことも心配だ。

美嘉がついているし信じていないわけじゃない。

だが、プロジェクトメンバーほどではないかもしれないが、この合宿で2人とは今まで以上に連帯感が生まれているように感じる。

 

ここで俺だけあとはライブを観に行くのを待つだけというのは、なんというか……

 

「あ、Pくんだ!」

 

莉嘉が民宿へと続く階段を見下ろし叫ぶと、皆揃って階段へと集まる。

俺もつられて行ってみると、武内プロデューサーだけでなく、鈴科プロデューサーが。

そして若干顔色の悪い姉さんと、頭を押さえているしゅがはさんまでがこちらへと向かっていた。

 

「皆さん、お疲れ様です」

 

『お疲れ様です!』

 

「加蓮ちゃんと奈緒ちゃんもお疲れ様」

 

「プロデューサーさん!?なんでここに」

 

「俺もタケも仕事が早く終わってね。せっかくだし1日早く様子を見に来たってわけ」

 

「こ、紅くん。どうして起こしてくれなかったの?」

 

「姉さん、まさか今まで寝ていたのか?もう夕方だぞ」

 

「イテテ……ねえジャーマネ。昨日何かあったっけ?正座したのは覚えてるんだけど」

 

「そこは忘れないで欲しかったのですが」

 

その後全員練習場へ戻り、先にプロジェクトメンバーのミーティングが始まった。

どうやらフェスでのまとめ役も引き続き新田さんに決まったようだ。

 

プロデューサー含め誰もが賛成し、新田さん本人もやる気のようだが、やはり少し不安が残る。

 

せっかくの大舞台、皆出来るだけ自分たちのこと以外を気にすることなく、歌やダンスに専念して欲しい。

ここから先、俺に出来ることはないのか?

 

「紅くん、どうかした?」

 

色々と考えていたらいつの間にか話は終わっていたようだ。

周りを見るとそれぞれが自由に行動している。

 

心配そうに見ている姉さんを見る。

姉さんに関して言えば、全く不安はない。

アイドル高垣楓としてならば何も気にするところはないし、しゅがはさんを安心して任せられる。

 

とはいえ他のメンバーも姉さんに頼むのは違うな。

 

……そうか、ダメ元で聞いてみるのもありか。

 

「すみません。少しいいですか?」

 

「どうしたんだい?」

 

話の邪魔をして悪いとは思ったが、2人のプロデューサーが一緒に居る機会に遭遇するのは滅多にない。

俺は自分が思っていることを話すことにした。

 

「今度のフェスですが、裏方のボランティアとかの空きはありませんか?どんな雑用でもいいんです。少しでも皆の役に立てるならそれで」

 

「こ、紅くん?」

 

「高垣さん、それは……」

 

「うん、いいんじゃない?」

 

「す、鈴科!」

 

「今回のフェスはお前より俺の方が決定権があるからな。ある程度融通は利く」

 

「いいんですか?」

 

まさかこんなにあっさり結論が出るとは思わなかったな。

姉さんは驚いてはいたが、すぐに納得して笑顔で賛成してくれた。

 

「ええ、確かに紅くんがいてくれたら心強いわ」

 

「俺は別に姉さんの心配はしてないぞ?」

 

「ええっ!?あ、ツンデレ!ツンデレなのね!」

 

なぜ姉さんが喜んでいるのか全くわからないんだが……

 

「キミには色々助けてもらってるしね。タケだってそうだろ?」

 

「それは、まあ……」

 

「今後の高垣くんのことやタイミングを考えても、俺は悪くない話だと思うよ。今じゃないともうすぐあの人が帰ってきちゃうし。そうなったら自由が利かなくなる」

 

「あの人?」

 

俺のその質問に鈴科プロデューサーは答えることはなかった。

姉さんもわからないようだったが、武内プロデューサーは理解したようで、首に手を置き困ったような表情を見せていた。

 

雑用が決まったとはいえまだ何をするかはわからない。

が、何をするにしても全力でやるだけだ。

 

続く!




というわけで次からは夏のフェス、1期最終話です。

アニメと違う部分は、今わかってるところで2つ。

・観客だった奈緒と加蓮がバックダンサーとして参加。
・しゅがは参戦で楓さんも新ユニットで登場。

あとはまたいくつか変更する部分があるかもしれません。


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It's about time to become Cinderella girls!(前編)

すいませんかなり遅れてしまいました。
理由(言い訳)は後書きで。

加蓮のシンデレラガールSRの特訓後が、以前話したアニメーション作れたら~の時の想像通りになって少し感動しました。


憂いを断つ紅葉くん

 

 

346プロのサマーアイドルフェスもいよいよ間近に迫ってきた。

 

合宿の日に思ったよりあっさりと自分の願いが通った俺は、あれから何度か346プロダクションへ足を運び、ミーティング等にも参加している。

 

突然見知らぬ高校生が加わることに多少戸惑いを見せる同年代のバイトスタッフだったが、俺の名前を聞いた途端皆納得したような表情を見せた。

ここでもやはり、姉さんの名前が大きいということだろう。

 

だが他のスタッフと違い鈴科プロデューサーの下につき、主に雑用をやることになったので、シンデレラプロジェクトの方を気にする余裕はあまりなさそうな印象を受けた。

だがやはり気になっていた部分があったので、休憩時間に武内プロデューサーを見つけ話をしてみた。

 

「気になる部分って?」

 

現在は早朝。

まだ人がいない公園で、奈緒と一緒に入念なストレッチをしている加蓮が疑問を投げかける。

約束通り東京に戻ってきてから一緒にランニングをしている加蓮は、最初こそ息が切れるのが早かったが、このところは大分余裕が感じられる。

 

たまに今日のように奈緒や話を聞いた美嘉、それといいと言っているのに一緒に来る姉さんも同じように走ることがあった。

が、朝とはいえさすがに人気アイドル2人を含めた数人で街中を走るのは目立ちすぎだ。

 

美嘉の方には申し訳ない気持ちはあったが、3度目で合同の早朝ランニングをするのを断った。

 

「新田さんのことだ。責任感が強すぎるのではと思ってな。

プロジェクトで一番年齢が上だという理由もあるだろうが、合宿でまとめ役を任されてからそれが顕著に現れているように感じたんだ」

 

「……確かに。今思えば、合宿中必要以上に皆の様子を気にしてたかな。凛から聞いたんだけど、合宿が終わってからもよく皆と話すようになったって」

 

「奈緒も聞いていたか。俺も凛から同じことを聞いた。プロジェクト全体のことを考えれば良いことなのかもしれないが、そうなると新田さんのフォローには誰が回る?」

 

「えっとそれは……あ、だからプロデューサーに?」

 

「ああ」

 

俺の2人への問いに加蓮が真っ先に答える。

その言葉に奈緒も遅れて、俺が何を言いたいのか理解したようだった。

 

「新田さんだって皆と同じ新人なんだ。そして今回のライブはデビューの時とは人数も規模もかなり違う。いくら年齢が上とは言え、緊張も不安もないわけがない」

 

この件に関しては同じプロジェクトの凛の言葉もあるため、俺の勘違いというわけではないだろう。

そして本人に無理をするなといっても、恐らく『大丈夫』という答えしか返ってこないはずだ。

その点を踏まえて、プロデューサーさんに特に新田さんのことを気にして見て欲しいということと、出来れば負担を減らして欲しいということを伝えた。

 

俺の話を聞いたプロデューサーさんは、どうやらそこまで考えが回っていなかったようだった。

ライブを間近に控えほとんどメンバーと会う機会もなかったらしく、状況を把握できていなかったことに対し謝られてしまった。

 

新田さんに関しては、プロデューサーさんはもちろんのこと、以前莉嘉を探していた時に挨拶した事務員の千川さんも協力してくれるということで話が決まった。

同性の大人の女性がフォローしたほうが、新田さんも無理をし過ぎず自分のことにも時間を使えるようになることだろう。

 

 

 

『ねえ、あれって』

 

『やっぱり……』

 

『声かけて……』

 

 

「ん?」

 

俺たちと近い年齢だろうか。公園から家へ戻る途中、たまにこちらを見て話をしている人たちがいくつか見受けられた。

それはどこか姉さんや美嘉が一緒にいた時に近い雰囲気で、俺に何か問題があるようには感じられない。

となると、この視線は2人に向けられたものか?

 

「もしかすると2人のファンじゃないのか?今までの活動が成功しているみたいだな」

 

「いやいや、あれは違うだろ」

 

「アタシもちょっとだけ悔しいけど、先輩なら仕方ないか」

 

「どういうことだ?」

 

「お前、本当に何も知らないの?みくたちの特集してた雑誌に載ってたじゃん」

 

「……誰が?」

 

「紅葉がだよ!」

 

「は?」

 

「え、先輩本当に何も知らないの?インタビューも受けてたじゃない」

 

「インタビュー……ああ、あれがそうだったのか」

 

確かに*(Asterisk)のデビューライブの後、関係者と思われる人からいくつか質問をされた記憶がある。

特に変わったことを聞かれたわけではなかったはずなので、完全に忘れていたんだが。

 

「じゃんけん大会の優勝者が話を聞かれる。そういうことじゃなかったのか」

 

「どこの世界に、地域のじゃんけん大会の話を大きく取り上げるアイドル雑誌があるんだよ……」

 

「たぶん、事務所内の休憩所とかにまだあの雑誌あるんじゃない?先輩、今日は事務所に用はないの?」

 

「いや、ミーティング等の用はないんだが、姉さんに昼食を一緒にと言われてな。あとから行くことになった」

 

とりあえずライブが終わるまでは関係者ということになっているらしい。

社内の一部を自由に行き来出来る許可証も貰っており、それを聞いた姉さんに、自分に外での仕事がない場合昼食を一緒に食べるようにお願いされた。

 

特に断る理由もなかったので承諾し、食べる場所はいつも前川さんたちが立て篭ったカフェでと決まっている。

 

「雑誌の件はどうでもいいとして、そういえばもう1つ気になることがあったんだ。お前たちは知っているか?」

 

「どうでもよくはないだろ……まあいいや。で、もう1つって?」

 

「フェスのセットリストの件だ」

 

「何か気になるところあった?アタシたちもリハーサルはしてるけど、特に何も気付かなかったよ」

 

曲自体には何の問題もない。というか、俺が口を挟める問題ではない。

姉さんや美嘉たちが歌う『お願い!シンデレラ』から始まり、何人か入れ替わりで次の『ゴキゲンParty Night』という曲を。

そこから日野さんがソロ曲を歌って、続くようにそれぞれのアイドルがソロ曲を歌う。

 

奈緒と加蓮が登場するのは中盤で、その何曲かあとにシンデレラプロジェクトの曲が蘭子からスタートする。

姉さんの『こいかぜ』は終盤で、続けてしゅがはさんとのユニット曲である『Pluto』が披露される。

 

曲の合間にいくつかMC部分があり、奈緒たちの後や姉さんたちの後にも入っているんだが……

 

「美嘉とお前たちのMCの内容は、以前の凛たちが美嘉のバックダンサーをした時みたいなものか?」

 

「うん、多分そうだと思う。アタシたちが新人アイドルだってことの紹介だね」

 

「うぅ……考えたらまた緊張してきた」

 

「もう奈緒ったら。またそんなこと言って」

 

急に腹を押さえ弱気な声を出す奈緒に、加蓮が苦笑いで応じる。

話を聞く限りでは、何度も同じことがあったのだろう。

 

「話の内容は決まっているんだろう?」

 

「そ、そうだけどさ。それだけじゃないっていうか」

 

「どういうことだ?」

 

「実はね。アタシたちのデビュー曲のことにも触れることになったの。スクリーンに大きく名前と曲名が出るみたい」

 

「すごいじゃないか」

 

「そうだよ!すごいことなんだよ!だから余計に緊張してるんだよ!」

 

「そ、そうか」

 

当事者ではない俺には緊張の理由がよくわからないが、本人には一大事なんだろう。

2人なら何があっても大丈夫だとは思うんだが。

 

「何度かリハーサルやダンスを見てきたが、以前のような問題は見られなかった。

奈緒は周りをよく見て活き活きと動けるようになっていたし、加蓮は体力がついたお陰か、かなり余裕が感じられたからな」

 

「でしょ?先輩的にももう合格点なんじゃない?」

 

「ああ。体力に関してなら加蓮はもう姉さんを超えているな」

 

「それって素直に喜んでいいの?アタシ、楓さんの体力に関しては全くわからないんだけど」

 

「で、紅葉が気になってるのはあたしたちのMCのことだったのか?」

 

「いや、MCのことには違いないんだが」

 

それぞれの曲の合間のMC欄には、誰がその場で話をするのか名前が書いてあった。

基本的にはその曲を歌ったアイドルや、次に歌うアイドルがMCになっていて、例外があるとすればシンデレラプロジェクトだろうか。

ユニット曲を最後に歌う*(Asterisk)が蘭子の曲の次にMCを行い、*(Asterisk)の曲の次を莉嘉が務めることになっている。

 

そして問題はPlutoの曲の後のMCだ。

名前の欄には、高垣楓 佐藤心  そして???となっている。

 

「姉さんたちのところの???っていうのは何なんだ?ライブ用語か何かか?」

 

『……』

 

「ん?」

 

並んで歩いていた2人が急に立ち止まったために振り返る。

お互いにしか聞き取れない小さな声で、何か話しているようにも見えるが、俺の視線に気づくと慌てて目をそらした。

 

「さ、さあ?あ、あたしたちも新人だし?業界のことは詳しくないっていうか?」

 

「本番になったらわかると思うよ。先輩は気にせずに、今まで通りでいれば大丈夫だよ」

 

「そうか」

 

その後沈黙が続き、それぞれ別れて家へと帰る。

昼間になって姉さんにも聞いてみたが、2人以上に目が泳ぎ声が上ずっていて全く話にならなかった。

 

「だ、だだだだ大丈夫よ。お姉ちゃんに任せなしゃい!」

 

「不安しかないんだが……」

 

 

 

 

 

 

紅葉くんと*(Asterisk)の後日談

 

 

場所は変わり、シンデレラプロジェクトルーム。

それぞれのアイドルが自由にくつろいでる中、ソファーに座っているみくの手はわなわなと震えていた。

 

「うにゃぁぁぁ!やっぱり納得いかないにゃ!」

 

「また?一体今日で何度目なの?」

 

対面に座っている李衣菜は、みくの叫びを聞いて呆れ顔でため息を吐く。

他のアイドルたちも一瞬みくの方を見たが、事情を聞く者が1人もいないことから、慣れていることが分かる。

 

「やっぱりみくたちより紅葉チャン目立ってるにゃ!」

 

何度読み返したかわからないほど、皺だらけの雑誌を勢いよくテーブルへと叩きつける。

*(Asterisk)のデビューライブのあとに初めて載った雑誌ではあるが、みくが問題にしているのはそこではなく、そのページでもなく、その次のページだ。

 

「それは確かに否定はしないけど。別にいいんじゃない?」

 

「全然よくないにゃ!」

 

みくが叩きつけたそのままの状態の雑誌を、李衣菜が手に取った。

当然彼女も自分たちのページとこのページを何度も見ているが、みくと同じような感情は全く出てこない。

 

「噂の弟現る。人気アイドル高垣楓の弟は実在した!か」

 

改めて確認するように李衣菜が声に出して記事を読み上げると、目の前から悔しそうな声が聞こえた。

 

そのページに写っていたのは紅葉であり、じゃんけん大会で司会から賞品を受け取った場面と、夏祭りの取材をしていた記者からインタビューを受けている場面が大きく掲載されていた。

 

以前の楓と瑞樹のラジオの内容にも触れており、オッドアイや容姿のこと、突然のインタビューにも冷静に対応する部分の評価や、楓の料理を毎日食べられて幸せだという、記者の個人的な感想など1ページに渡って紹介されている。

 

「あれ?そういえば、紅葉くんって料理出来たんじゃ。合宿の時だって……」

 

「みく、今度こそ絶対負けないからね!」

 

「一体何の勝負してるのさ」

 

こんなことが日常的に行われていることなど紅葉は知らず、たまにみくに会った時の敵対するかのような視線にも全く気に止めないまま、いよいよサマーフェス本番が始まろうとしていた。

 

 

続く!

 

 

 




先月の月末から休みの日の日課は、観てなかった異世界転生アニメを観ることでした。

このすば、オーバーロード、幼女戦記は視聴済みだったのですが、慎重勇者や盾の勇者はまだだったので……

で、今更初めて観たリゼロにはまりました!
Web小説も読み始め、7月中ずっと読んでました。
でもまだまだ終わらない……


ちなみにリゼロで一番好きなキャラはエミリアでもレムでもなく、ユリウスです!
そして2番目がヴィルヘルムとなっております。


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It's about time to become Cinderella girls!(中編)(新)

大変申し訳ございませんでしたぁぁぁ!!

いや違うんですよ。夏暑すぎて何も考えられずにズルズルとこんな季節になってしまっただけなんですよ。

書きたいことは決まっているのに、こんな時間かかってしまった……


紅葉くん現地へ

 

 

いよいよサマーアイドルフェス当日。

いつもより少し早く起きた姉さんは、全く緊張している様子も見せず準備をしていた。

 

通常のスタッフと多少異なるが、今までのライブと違い俺も裏方に徹することになる。

姉さんよりも早く現地へ向かう為、朝は俺が見送られる形になった。

 

「それじゃあ行ってくるよ姉さん。また後で」

 

「ええ、行ってらっしゃい紅くん。本番は楽しみにしていてね」

 

手を振った姉さんの笑顔に若干違和感を感じたのは気のせいだろうか。

何かを隠しているような……いずれわかるということか?

 

鈴科プロデューサーの車に乗せられ現地へ向かう時、会場最寄りの駅を通ったが、若干人が多いように感じた。

 

「多分、ここにいる人たちのほとんどはフェスへ向かうんだと思うよ」

 

「そうなんですか」

 

奈緒たちと一緒にライブへ行くようになってから開始時間より早めに現地に着くようにしていた。

それでも十分早いと思っていたのだが、まさかこんなに朝早くから向かう人がいるとは思わなかった。

仮に俺1人で観客としてここに来るとしたら、始まる1時間ほど前に着くように準備していただろう。

 

もしかして、これが普通なのか?

 

現地へ着くと既に殆どのスタッフが集まっていた。

会場の設置は前日まででほぼ完璧であり、あとは機材のチェックと簡単なリハーサルのみ。

たった1日のライブの為にこれだけ多くの人が全力で取り組んでいる。

俺も自分に出来ることを本気でやらないとな。

 

 

 

周りの手伝いをしながらたまに控え室の前を通ると、アイドルたちの話し声が聞こえてくる。

時計を確認すると、彼女たちの集合時間が迫っていることがわかった。

 

鈴科プロデューサーは俺をここへ運んでくれたあと、そのまま引き返し奈緒と加蓮を迎えに行った。

申し訳ないから自分で来ると言ったんだが、気にするなということなので厚意に甘えることにしたんだ。

 

ちなみに鈴科プロデューサーが担当する美嘉たち正規のアイドルは、姉さんを含め同じバスでここへ来るらしい。

凛たちが所属するシンデレラプロジェクトも、それとはまた別に一緒に送られてくるようだ。

 

「あ、やっほー★高垣くん」

 

「ああ、美嘉か。いや、おはようございます。もしくはお疲れ様です……の方がいいのか?」

 

「やだ、やめてよそんなの。いつも通りでいいってば」

 

自分の持ち場のチェックが終わり報告に戻る途中、通路から美嘉が現れた。

その後ろには日野さんと小日向さんもおり、それぞれに挨拶をする。

 

「そうか。おはよう美嘉。今日は観客ではなく雑用としてだが、ライブを楽しみにしてる。それと……」

 

「わかってるって。奈緒と加蓮のことは心配いらないよ。アタシが一緒なんだから★」

 

「ああ、そうだな」

 

どうやら美嘉には俺の考えていることがお見通しだったようだ。

片目を瞑り自信満々に答える姿はとても頼もしい。

 

最近気づいたことだが、やはりプロということだろうか。

普段学校で話しかけると戸惑いを見せることの多い美嘉だが、今のような状況だとはっきりとこちらを見て話すことがほとんどだ。

公私をきちんと分けているところは俺も見習うべきだな。

今回のことで仕事の内容の他に学ぶことがかなり多いのは幸運だった。

 

 

リハーサルもほぼ終わり、あとは本番を待つのみ。

鈴科プロデューサーに、多少時間に余裕があるから皆に声をかけたらどうかと言われた。

確かに気になっていたところではある。

特に加蓮は問題ないのだが、奈緒はここに来てからまだ緊張が解けていないようで挨拶程度の言葉しか交わしていない。

本番中は美嘉がいるから大丈夫だが、その前に何か俺に出来ることがあればフォローはしたい。

 

それと気になるのはシンデレラプロジェクトだ。

新田さんのことだから上手くまとめてくれていると思うが……

 

ああ、姉さんの方は問題ないだろう。

今も控え室で川島さんと笑っている声が聞こえてくる。

今日初めて見るアイドル含め、常にライブに出ている人たちは余裕の表情でそれぞれ時間を過ごしているようだしな。

 

姉さん達の控え室から少し離れた部屋に、奈緒と加蓮の名前が貼ってあった。

以前聞いた話だが、どうやら凛たちが美嘉のバックダンサーをやった時も、同じように別々に部屋が割り当てられていたらしい。

 

「はい」

 

「加蓮、俺だ。今入っても大丈夫か?」

 

「あ、先輩。うん、どうぞ」

 

2人の控え室は他のメンバーより小さな部屋だが、今回は他にバックダンサーもいないため特に窮屈なようには感じられない。

既に準備を終えたらしい加蓮は、中央にあるテーブルでいつも通りの様子を見せているが……

 

「ん?奈緒、どうしてそんな部屋の隅で小さくなっているんだ?」

 

「あ、あはは……」

 

奈緒に言葉をかけるも返事は帰って来ず、というよりも俺がいることにも気づいてないようだな。

壁に向かって何やらブツブツと言葉を発しており、加蓮に状況説明を求めようと顔を向けるも、苦笑いとため息しか返ってこなかった。

 

「ムリムリムリムリムリムリムリ、絶対ムリ!……はっ!もしかして今日はまだ本番じゃなくて練習なんじゃ!?

って、そんなわけないだろ!どうすんだよもう本番だよ!練習はしてきたけど自信ないよー!きっとボロが出て、終わりだ……!」

 

「……」

 

奈緒が何を言っているか確かめるために近づくと、急に立ち上がり、以前商店街でやっていたように頭を抱えて大声を上げ始めた。

 

ああ、加蓮がため息を吐くのもわかる気がする。

今更と言うかなんというか。あれだけ練習をして自信がないはないだろう。

俺が思っていた状態とは随分と違っているようだな。

 

「奈緒」

 

「……へ?って、うわあああ!も、紅葉!いつの間に後ろにいたんだ!?」

 

「そんなことよりも、少し……どころか必要以上に緊張し過ぎてないか?加蓮にだって影響が出るかも知れないぞ」

 

「あ、それは大丈夫。ここまで大げさに1人コントしてたら逆にリラックス出来ちゃうから」

 

「コントじゃない!こっちは大真面目なんだ!フェスだぞ?お客さんがたくさん来るんだぞ。ティッシュ配りの比じゃないんだからな!」

 

「それは当たり前だろう」

 

もしや場馴れの為のティッシュ配りが逆効果だったのだろうか。

いや、加蓮の方は落ち着いているし、プロデューサーさんが考えて2人に持ってきた仕事だ。

普段も仕事が始まる前は多少緊張しつつも、お客さんに配っている時は他のアイドルに負けない笑顔で対応する奈緒のこと、今日も本番になればいつも通り練習の成果を発揮してくれるはずだ。

 

とは言え、少しでも緊張がほぐれるような言葉をかけたほうがいいだろう。

加蓮と両方に、今までやってきたことを出せば問題ないということを伝えておこう。

 

「奈緒、それに加蓮。お前たちは……」

 

「先輩、アタシだって奈緒たちに比べれば短い間だけど、先輩とはそれなりに付き合いが長いもん。言いたいことはわかるよ」

 

「そうか。なら問題……」

 

「先輩のことだから『お客さんはお前たちを見に来たんじゃない。美嘉を見に来たんだ。お前たち2人は勘違いせず、バックダンサーとしてしっかりやれ』そう言いたいんでしょう?」

 

「ん?」

 

何だ?確かに思うところはあるが、そこまでひどいことをこの状況で言うつもりはないんだが……

 

「くっそう。紅葉のことをわかってるとは言え、直接言われるとさすがに少し腹が立つよな……よし!決めた!見てろよ紅葉。今言ったことを後悔するくらい目立って目立って、一歩でも美嘉たちに近づいてみせるからな!」

 

「い、いや。俺は何も言っていないんだが」

 

2人が俺のことを普段どう思っているのか疑問が残るが、どうやら奈緒もいつも通りに戻ったようだ。

このまま本番に臨んだ方がいいと判断し、余計なことを言わずに控え室を後にした。

 

 

次に気になるシンデレラプロジェクトの方だったが、こちらは全く問題がなさそうだった。

気になる新田さんだったが、以前協力を申し出てくれた事務員の千川さんが変わらずサポートに回ってくれている。

 

何かメンバー内で困ったことがあった場合は、率先して問題を解決してくれているみたいだ。

 

千川さんは会う度に不思議なドリンクをくれるのだが、常に持ち歩いているのだろうか?

 

「紅葉、私たち今度は失敗しないよ。絶対成功させるから」

 

「ああ、楽しみにしてる。今の凛なら問題ないだろうからな」

 

「うん」

 

凛や未央、島村さんの表情は自身に満ち溢れていた。

前川さんや李衣菜たちもそれぞれ曲や移動を含めた最終チェックを済ませており、千川さんやプロデューサーに問題ないと報告をしている。

 

「いいなぁ……」

 

その様子を見ていると横からそんな声が聞こえた。

そちらに視線を向けると、少し羨ましそうな表情の蘭子が皆を見ていた。

 

「!?」

 

俺のことに気づいた蘭子は、慌ててプロデューサーの元に駆け寄った。

そうか、そういえばプロジェクトの中で蘭子だけがソロデビューだったか。

ユニットとして参加している他のメンバーに思う事があるのかもしれない。

 

蘭子の曲を聴いたことはあるが、普段の行動と同じ独特のものであり、良い意味で蘭子らしい曲だ。

それはそれで素晴らしいものなのだが、確かに今後蘭子と似たような感性を持つアイドルと一緒に何かが出来れば……

 

 

 

 

「みんなー揃ってるー?」

 

『はーい!!』

 

いよいよ本番直前。

川島さんの声にアイドルたちが集まる。

俺を含めたスタッフも全員集まっており、中央にいるアイドルたちを少し遠くから見ている状態だ。

奈緒と加蓮はどうすればいいのか戸惑っていたが、川島さんが手招きをして一緒に輪になった。

 

「お客さんはもちろん、スタッフさんも私たちも全員安全に、楽しく今日のフェスをこの夏一番盛り上げていくわよー!」

 

『はい!』

 

「じゃ、円陣組むわよ。楓ちゃん、掛け声よろしく」

 

「はい」

 

このまま川島さんがまとめると思っていた矢先、姉さんにバトンが渡される。

姉さんがやるのか?大丈夫だろうか……

 

「それじゃあ円陣組んで、エンジンかけましょう♪」

 

「はぁ……」

 

やっぱりこうなったか。

全員どう答えていいか分からず戸惑っている様子だ。

本番直前だというのに、一体何を考えているのか。

 

だが、それぞれが姉さんの言葉の感想を口にする度場の空気が変わってきている気がした。

真面目で硬くなった表情は柔らかくなり、自然と笑みがこぼれている。

姉さんに慣れてきている奈緒たちも、いつも通りの姉さんを見て肩の力が抜けているようだ。

 

「では改めて!346プロサマーアイドルフェス、皆で頑張りましょう!」

 

おーーー!!

 

なるほど、そういうことか。

どうやら俺は勘違いしていたようだ。

大きな舞台で緊張しているアイドルもいる。

姉さんは先輩としての役割をしっかり果たしたということか。

 

「姉さん」

 

「紅くん。さ、さっきの……どうだった?」

 

「ああ、素晴らしかったよ。良い掛け声だった。やっぱり姉さんはプロだな」

 

「っ!そ、そう?今回のはちょっと自信あったの。よかった、ようやく紅くんに認めてもらえたのね!」

 

「何言ってるんだ。そんなのとっくに認めてるよ」

 

「まあ!それでその……」

 

「ん?」

 

「今回は何点だった?」

 

「え?」

 

「え?」

 

 

そしてついに、サマーフェスが始まろうとしていた。

 

 

 

続く!




皆さんも総選挙曲を聴いたことかと思います。
自分は今まで一緒に歌ったことのない、楓さんと奈緒、加蓮が一緒に歌ってくれるのが夢でした。

そのためにこの小説を書いたというのも理由の1つにあります。

それがようやく実現した!CDで3人が続けて歌っているのを聴いて涙が出そうになりました。


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コミュ
イベントコミュ『Phantom Story』


ここから先の章は本編とは別枠になっています。
ですので続きを期待していた方には申し訳ありません!

新たにデレステのイベントコミュ的な物にも挑戦したいと思ってました。
新しいライブや舞台、テレビ番組等の話ですね。

ここは本編と違う部分がいくつかあります。

1、更新は不定期(状況によってない場合もある)

2、時系列はアニデレ終了後。なのでまだ未登場のアイドル出演の可能性。

3、初期と同じ台本形式。

4、かなりゆるい感じ。

5、本編の内容や設定によって変わる場合もある。

アイドルの関係性は本編と同じです。
なので5のように本編で変わったらこちらも変わることがあります。
以上の内容を踏まえて、納得した方のみ読んだほうがいいかもしれません。


みんな、こんにちは!神谷奈緒だ!

今度あたしたち346のアイドル皆で舞台劇をすることになったんだ。

 

シンデレラプロジェクトやクローネ。

色々あったけど、今は……ううん。今も同じプロダクションの大事な仲間だ。

ファンタジーものだっていうし、どんな話になるのかすっごく楽しみ!

 

って、おい!なんでお前もここにいるんだよ!

と、とにかく、あたしたちの舞台『Phantom Story』をよろしくな!

 

 

 

───会議室

10人以上のアイドルが一斉に集められており、全員その理由を聞かせられずに予定の時間がくるのを待っていた。

 

 

武内P「皆さん、お疲れ様です」

 

鈴科P「お、全員揃ってるね」

 

 

正面のホワイトボードの前に立つ2人のプロデューサー。

ほとんどが2人の担当アイドルだったため、緊張が少し解け和やかな雰囲気になっていた。

 

 

鈴科P「さて、君たちには舞台に出てもらう」

 

美嘉「あ、相変わらずいきなりだよねうちのプロデューサー」

 

奈緒「まあ、あたしもようやく慣れてきたけどな」

 

加蓮「諦めって言ったほうがいいんじゃない?」

 

鈴科P「ちょっとちょっと3人とも。今回は俺だけじゃなくタケや他の人も関わってるんだからね!」

 

武内P「……まずは、以前、"シン選組ガールズ"の映画に出られた皆さん。改めて、お疲れ様です」

 

未央「何々?もしかしてまた映画のオファー?」

 

美波「そういえばここにいるほとんどのメンバーは出演していますね」

 

武内P「いえ、今回は、映画ではありません。舞台に出演することになります」

 

凛「舞台……もしかしてミュージカルとか?」

 

鈴科P「残念だけど普通の舞台劇だよ。前回の映画が好評でね。歌以外に役者としての君たちの実力が評価されてきてるんだ」

 

乃々「うぅ……どうして森久保まで呼ばれたんですか?いぢめですか?たくさんの人が見ている前で演技するなんて、むーりぃー……」

 

凛「の、乃々。机の下に隠れようとしないで。ていうか、会議室の折りたたみ式の机じゃ隠れても見えるから!」

 

武内P「ま、まずは台本と資料を配ります」

 

鈴科P「全員に行き渡ったら内容を説明するね」

 

 

台本には『Phantom Story』と書かれており、次のページには登場人物と大まかなストーリーが記されていた。

 

蘭子「おお!悠久の幻想譚か!(おとぎ話みたいで面白そうです!)」

 

 

Phantom Story……かつて、この世界は1つの大陸だった。

人々は争うことなく1つの国として平和に暮らしていた。

 

だが4人の魔王が現れ、大陸を東西南北4つに分断し、それぞれを自分の国として支配するようになった。

 

魔王が率いる魔物の軍勢に日々怯える人々だったが、それを見かねた神々が素質あるものに力を与えた。

 

火、水、風、地、光…それぞれ1つの力を与えられた5人の勇者が、仲間を連れ苦難の末に見事4人の魔王を封印することに成功した。

 

数百年後、平和になり魔王の存在も忘れかけた東の大陸で、再び何かが起ころうとしていた。

 

奈緒「へぇ、ファンタジーものかぁ。ありきたりな内容だけど面白そうだな」

 

楓「ファンタジー……ファンタジー……」

 

瑞樹「か、楓ちゃん?」

 

武内P「いずれ、演出の先生も別に紹介します。今日は主に、キャストの発表になります」

 

鈴科P「状況によってはキャストも増えるかもね。じゃあまずは主人公……奈緒ちゃん!」

 

奈緒「え!?あ、あたし!?」

 

加蓮「へぇ、やったね奈緒」

 

凛「奈緒ならやれるよ」

 

鈴科P「主人公は東の大陸最高の軍事力を持つアティラ王国。その国の騎士団長の息子で光の末裔だ」

 

奈緒「お、おう。ちょっと肩書き詰め込みすぎなような気がす……ん、息子?」

 

鈴科P「そ、息子」

 

未央「そっか、前の新選組の話みたいって考えればいいのかな?」

 

武内P「はい。ですので、セリフなどは原作とは違い皆さんに合わせてあります」

 

奈緒「な、なるほど。にしても主役かぁ。今から緊張してきた……」

 

鈴科P「はいはい、メンバー多いからじゃんじゃんいくよ。同じくアティラ王国の大臣の孫は……奏ちゃん!」

 

奏「あら、じゃあ奈緒とは最初から知り合いになるのかしら」

 

鈴科P「うん。奈緒ちゃんと奏ちゃん、そして次の2人の4人が旅立つところから始まるんだ」

 

奏「そういうことみたいだから、よろしくね主人公さん?」

 

奈緒「よ、よろしく」

 

鈴科P「次は2人同時に発表するね。アティラ騎士団1番隊、2番隊隊長の息子……卯月ちゃんと美嘉ちゃん!」

 

卯月「わ、私ですか?が、頑張ります!」

 

美嘉「騎士の息子ってよくわかんないけど、この3人が一緒ならとりあえず安心かな」

 

鈴科P「……まあすぐ1人と3人に別れるけどね」

 

奈緒「え?」

 

鈴科P「さあ次は今作のヒロインだ。碧い風を自在に操る風の末裔の少女は……凛ちゃん!」

 

凛「蒼い風……うん、私ならやれそう」

 

武内P「(何故か少し違うような気がしますが)」

 

奈緒「よろしくな凛!」

 

凛「うん、負けないよ奈緒」

 

鈴科P「凛ちゃんが最初に会う奈緒ちゃんはオルタ化してるけどね……」

 

凛「え?」

 

奈緒「おいプロデューサー!さっきから不吉なことばかりつぶやいてないか!?」

 

鈴科P「何のこと?俺にはさっぱりわからないよ」

 

奈緒「このプロデューサーは……」

 

加蓮「ほら落ち着いて奈緒。ところでプロデューサー。そろそろアタシの名前が出てきてもいいんじゃない?」

 

鈴科P「お、さすが加蓮ちゃん。次は加蓮ちゃんの役だよ」

 

加蓮「どんな役?」

 

鈴科P「魔王に一族を滅ぼされて復讐に燃える女冒険者」

 

加蓮「そ、そう……復讐かぁ。結構熱い役になりそう」

 

鈴科P「ちなみにこの役は主に奏ちゃんの役と行動するんだ。相方ってことになるかな」

 

加蓮「へぇ、奏とか。なら面白くなりそうかも」

 

奏「ふふ、お手柔らかにお願いするわ」

 

武内P「鈴科、渋谷さんの役の次に言うことが」

 

鈴科P「そうだった。凛ちゃんの役には妹がいるんだ。その役は乃々ちゃんよろしく!」

 

乃々「そ、そのまま忘れてくれていたほうがよかったんですけど……」

 

凛「乃々、私の妹じゃ嫌?」

 

乃々「べ、別にそんな意味では……」

 

凛「じゃあ一緒にがんばろう?」

 

乃々「うぅ……逃げられない……」

 

鈴科P「次は火の末裔で槍使いと妹の火の魔術師は美波ちゃんとアーニャちゃん!」

 

美波「槍使いですか。なぜか上手くできる気がします。よろしくね、アーニャちゃん!」

 

アーニャ「ダー。一緒にがんばりましょう、美波」

 

鈴科P「地の末裔の少女は未央ちゃん!」

 

未央「お、ついに未央ちゃんの登場ですな!ねえねえ、私の役ってどんな子?」

 

武内P「本田さんの役は、レジスタンスのリーダーで、銃の名手になります」

 

未央「ほほう、私もみなみんみたいに上手くやれそう。ばきゅーん!なんてね」

 

鈴科P「次の水の末裔は西大陸の王女。これは……ありすちゃん!」

 

ありす「名前で呼ばないでください!……でも王女様ですか。少し楽しみです」

 

鈴科P「あり……橘ちゃんの国の神官長。常に王女と一緒にいて彼女を守る役は……文香ちゃん!」

 

文香「……私、ですか?」

 

ありす「わぁ!文香さん、よろしくお願いします!」

 

文香「……ふふ。はい、よろしくお願いしますありすちゃん」

 

鈴科P「ここで一旦主人公側は終了。次は敵側だね」

 

李衣菜「う、呼ばれてないってことはそういうことかぁ」

 

みく「李衣菜チャンはともかく、みくも魔物役なんて……」

 

李衣菜「私ならともかくって何さ!」

 

鈴科P「ほら2人とも落ち着いて。敵って言ってもチョイ役みたいなのはいないんだから」

 

武内P「残りの皆さんには、それぞれ魔王役をやってもらいます」

 

蘭子「魔王!!」

 

鈴科P「ら、蘭子ちゃんの食い付きがすごいね。蘭子ちゃんは西の魔王。みくちゃんと李衣菜ちゃんはそれぞれ南と北の魔王。

瑞樹さんには東の魔王をやってもらいます」

 

みく「じゃあじゃあ、みくの役は可愛い猫の魔王だったり?」

 

鈴科P「ううん、普通の魔王」

 

みく「ぐぬぬぬぬ……」

 

李衣菜「魔王に普通ってあるのかな。でも魔王って結構ロックかも!」

 

瑞樹「つまり私は一番先に奈緒ちゃんたちに会うかもしれないわけね」

 

鈴科P「最初……まあ、そうですね」

 

瑞樹「魔王瑞樹じゅ…28歳!まだまだ若い子には負けないから覚悟してね!」

 

奈緒「よ、よろしくお願いします」

 

奏「魔王の方が明るいわね…あら、プロデューサー」

 

鈴科P「どうしたの?」

 

奏「楓さんの役がまだよ」

 

楓「ふぁんた……ふぁんとむ……ふぁんしー?」

 

瑞樹「楓ちゃんまだ考えてたのね……」

 

鈴科P「うん、楓さんには瑞樹さんの側近2人のうちの1人、堕天使の役をやってもらいます」

 

蘭子「世紀末堕天使!」

 

楓「あ、はい。じゃあ瑞樹さんと一緒に行動することになりそうですね。普段から瑞樹様って呼んだ方がいいかしら♪」

 

瑞樹「……それは何か誤解されそうだからやめてちょうだい」

 

美嘉「2人のうちの1人って、もう1人はまだ決まってないの?」

 

鈴科P「ううん、もう決まってるよ」

 

加蓮「これで全員呼ばれたよね?今日休みの子?」

 

鈴科P「いや、休みじゃないよ。というか実はアイドルでもないんだ」

 

卯月「アイドルじゃない?」

 

鈴科P「と言っても皆が知ってる子だから安心して。しかも美城専務のお墨付きだ。俺もタケも賛成してる」

 

武内P「はい。本人の了承を得るのには、苦労しましたが」

 

奈緒「あの専務が納得するアイドル以外の子?」

 

??「失礼します」

 

全員『!!!!!』

 

鈴科P「一応紹介するよ。堕天使で瑞樹さんの側近である楓さんの役の弟。同じく側近の……紅葉くんだ!」

 

紅葉「高垣紅葉です。まだよくわかっていない状況ですが、よろしくお願いします」

 

楓「こ、紅くん!?私聞いてないわよ!?」

 

紅葉「秘密にしろって言われてたからね」

 

楓「と、とにかく姉弟役なら安心よね。わからないことがあったら何でもお姉ちゃんに聞くのよ」

 

紅葉「ああ」

 

鈴科P「楓さんの役は冷静沈着で失敗をしない優秀な側近です」

 

紅葉「……姉さん、わからないことがあったら協力するよ」

 

楓「なっ!?」

 

鈴科P「そして紅葉くんの役は主人公の奈緒ちゃんのライバル役だよ」

 

奈緒「へ?あたし!?」

 

紅葉「よろしくな奈緒」

 

奈緒「よ、よろしく紅葉……」

 

奏「なら私は奈緒に協力して、楓おね……楓さんのために紅葉を倒せばいいわけね」

 

紅葉「お前は姉さんとも敵だろう」

 

加蓮「ふぅん、面白くなってきた!じゃあ凛と紅葉先輩は奈緒を賭けて戦うんだ」

 

奈緒「なっ!?」

 

凛「それはそれとして、役は完璧にこなしてみせるから。奈緒は渡さないよ紅葉」

 

紅葉「どうしてそうなるんだ?」

 

奈緒「お、落ち着け2人とも!いや、紅葉は落ち着いてるか。ああ、もう!どうなるんだよこれ!」

 

未央「違う違う。かみやん、こういう時は『私のために争わないで!』だよ」

 

奈緒「そ、そうか!あ、あたしのため……って言えるかーーー!」

 

武内P「(話の内容が変わってきましたね)」

 

鈴科P「うんうん!楽しくなってきたね。じゃあ舞台を成功させるために皆で頑張ろう!」

 

美嘉「楽しんでるのはプロデューサーだけだよね……」

 

続く?

 




いかがだったでしょうか?

需要があれば今後もやっていきたいですが、あくまでサブ的なものなので、その場合本編に影響ないように進めていきます。


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イベントコミュ『Phantom Story』2

不定期で優先度下げると言ったのに次の日投稿するやつは誰だ!←

そのせいでデレステのイベント全くやってないのは誰だ!←


前回の話で少し説明不足な部分があったので、補足の意味で投稿しました。
コミュイベントはデレステのように主に舞台や曲を出すまでの過程の話を書いていこうと思ってます。
まあ、今のところの予定ですが・・・・・・

なのでせっかく作ったオリジナル作品の内容がもったいないと思い、ちょっと変わった形で少し載せます。

それと一応346のアイドルだけじゃなく、王様~とか村人~なんかもいると仮定して名も無き演者もいることにしました。

これなら紅葉がいてもまあ多少納得できるかなと。


このCDだけでも出ないかな・・・・・・


この度、我が346プロダクションのアイドルを始め多くの俳優の方々が出演する舞台劇、

『Phantom Story』の公演が決定しました!

 

当サイトではこの舞台の様々な情報をお届けいたします。

 

 

公演期間:20○○年○月○日(火)~○月○日(火)

     美城セントラルホール

 

チケット:先行予約受付 20○○年○月○日(火)10:00

            一般発売日 20○○年○月○日(火)10:00

   料金 :○○○○円(前売 ・当日共/全席指定/税込)

(その他の情報は随時更新します)

 

 

出演(346プロ):神谷奈緒 渋谷凛 本田未央

          新田美波 アナスタシア 橘ありす

          速水奏  島村卯月 城ヶ崎美嘉

          川島瑞樹 前川みく 多田李衣菜

          神崎蘭子 鷺沢文香 高垣楓

          森久保乃々 他……

 

 

グッズ: パンフレット A4判/オールカラー(お一人様2点まで)

 

          クリアファイル 全5種

 

          ランダム缶バッジ 全15種類

 

          舞台オリジナルCD 2枚組/ライブ最速先行抽選シリアルナンバー封入

 

          オリジナルランダムプロマイドセット コメント付き/鋭意製作中

 

その他も情報が入り次第お知らせいたします。

 

 

 

舞台オリジナルCDについて

 

当舞台をイメージした曲を多数、アイドルや俳優の方々に歌っていただけることになりました。

1枚目に弊社のアイドルが歌う曲を。2枚目はアイドルや俳優の方々、ゲストの皆さんがキャラクターになりきって歌う事になっております。

 

又、ライブ最速先行抽選シリアルナンバーが封入されており、

近々行われる346プロダクションアニバーサリー『シンデレラガールズライブ』の抽選券になっております。

こちらのライブに関しては別サイトにて順次お知らせいたします。

 

DISC-1 (曲名は仮となっています)

 

01.Phantom Story

  歌:神谷奈緒、渋谷凛、本田未央、新田美波、アナスタシア、橘ありす

 

02.友情

  歌:神谷奈緒、速水奏、島村卯月、城ヶ崎美嘉

 

03.遭逢

  歌:神谷奈緒、渋谷凛

 

04.相棒

  歌:速水奏、北条加蓮

 

05.信頼

  歌:橘ありす、鷺沢文香

 

06.連携

  歌:本田未央、島村卯月

 

07.魔王

  歌、川島瑞樹、前川みく、多田李衣菜、神崎蘭子

  

他……

 

DISC-2

 

01.親子

  歌:神谷奈緒、騎士団長、奈緒ママン

 

02.騎士

  歌:騎士団長、1番隊隊長、2番隊隊長

 

03.姉弟

  歌:高垣楓、高垣紅葉

 

04.宿敵1

  歌:川島瑞樹、騎士団長

 

05、宿敵2

  歌:北条加蓮、多田李衣菜

 

他……

 

オリジナルランダムプロマイドセットについて 

 

こちらはアイドルや出演者が衣装を着たプロマイドがランダムで数種類入っています。

全てがR、SR、SR+、SSR+とランク付けされており、高ランクの物には舞台各名場面のセリフ、サインなどが一緒に記されています。

 

ここでは写真を除いた名前や一部セリフを紹介します。

 

R【冒険者見習い】奈緒 R【軍師見習い】奏 R【双剣士】卯月 R【鞭使い】美嘉

 

R【風使い】凛 R【銃使い】未央 R【槍使い】美波 R【魔術師】アナスタシア

 

R【王女】ありす R【冒険者】加蓮 R【神官】文香 【妖魔王】瑞樹

 

R【魔獣王】みく R【死霊王】李衣菜 R【妖精王】蘭子 R【堕天使】楓

 

R【風の末裔】乃々 R【堕天使】紅葉 R【大陸一】騎士団長

 

R【禁忌】奈緒ママン R【妖魔】ソルビット領主 R【謎の通達者】村長

 

R【迷いの森の占い師】志希 R【妖魔族】 R【獣人】 R【ダークエルフ】

 

R【不死者】

 

 

SR【旅立ちの乙女】奈緒

「お父さん、あたし冒険者になりたいんだ。この国だけじゃなく、世界中を見て回って困ってる人を救いたい・・・・・・ダメ、かな?」

 

SR+【運命の分岐点】奈緒

「許さないぞ魔王瑞樹!奏を、卯月を、美嘉を返せぇぇぇぇ!!」

 

SR【反転する極光】ナオ(奈緒)

「あれ、ここは・・・・・・どこ?思い出せない・・・・・・()()は・・・・・・誰だ?」

 

SR+【反転する極光+】ナオ(奈緒)

「凛、キミがいるから()()()()でいられる。あんな化物になっても変わらず一緒にいてくれて・・・・・・ありがとう」

 

SSR【光の乙女】奈緒

「あたしも、()()も、奈緒であることに変わりはないんだ。それを気づかせてくれたのは凛、お前だよ」

 

SSR+【極光の乙女】奈緒

「お父さんの想い、お母さんの想い。ちゃんと伝わってるよ。2人から貰ったこの力で絶対に勝ってみせる!さあ、行こう皆!」

 

SR【風操りし少女】凛

「記憶喪失なんて初めて見たよ。私は凛。こっちは妹の乃々。とりあえず落ち着くまでここにいたら?」

 

SR+【信じる心】凛

「ナオ!しっかりして!大丈夫、どんな姿になっても私は怖くなんてないから。ほら、この手を取って?」

 

SSR【蒼碧の魔術師】凛

「みく、アンタだけは絶対に許さない!蒼碧の風よ!我が手に宿りて敵を滅ぼせ!」

 

SSR+【蒼碧の魔術師+】

「言ったでしょ?私は奈緒の傍にずっといるって。どんなことがあっても離れないからね」

 

SR【紅き復讐者】加蓮

「ふーん、奏って言ったっけ?見るからに頼りなさそう。アタシを雇ってみる気はない?」

 

SR+【紅き復讐者+】加蓮

「・・・・・・やっと見つけた。アタシはあなたを倒すためだけに生きてきた。覚悟しなさい魔王李衣菜!」

 

SR【最凶の魔王】瑞樹

「さて、前から考えてた妖術を試すいい機会ね。受けなさい!An-ti-a-ging!!」

   

SR【世紀末堕天使】楓

「愚かな。人間ごときが瑞樹様に叶うはずがないでしょう。そのお姿を見れるだけでも感謝して・・・・・・死になさい」

 

SR+【世紀末堕天使+】楓

「待ちなさい紅葉!今の彼女は危険よ、下がりなさい!」

 

SSR【真実の堕天使】楓

「・・・・・・さすがは大陸最強と謳われた騎士ね。我が軍がここまで圧されるなんて」

 

SSR+【真実の堕天使+】楓

「この身がどうなろうと構わない。信じてもらえるというなら喜んで命を差し出すわ。だから弟を・・・・・・紅葉を助けて!」

 

SR【魔剣士】紅葉

「楓、ここは俺に任せてくれ。たまには遊んでおかないと退屈でしょうがない」

 

SR+【魔剣士+】紅葉

「くっ・・・・・・奈緒と言ったな。覚えていろ!お前は必ず俺の手で!」

 

SR【緋炎槍術】美波

「ねえ奈緒ちゃん。このテスト期間だけ私たちと組まない?一緒に冒険者になろう!」

 

SR【気弱な妹】乃々

「砂浜に人が落ちてるんですけど・・・・・・持って帰ったら凛お姉ちゃんに怒られるかな・・・・・・」

 

SR【最速を求める剣士】卯月

「凛ちゃん、私も協力します!一緒にこの船を襲ってる魔物をやっつけちゃいましょう!」

 

SR【巻き込まれる軍師見習い】奏

「冒険者テスト?はぁ・・・・・・仕方ないわね。奈緒は決めたら絶対きかないし、私たちが付いて行くしかないでしょう」

 

SR【巻き込まれる鞭使い】美嘉

「ちがーう!絶対右の道が正しいってば!・・・・・・あ、そう。奏がそんなに言うならいいわよ。アタシたちだけでこっち行くから!行くよ卯月!」

 

状況によりこちらも随時更新していきます。

 




相変わらず設定作るの大好きっ子なのでかなり痛い感じになってますね!
自覚してるけど後悔はしていない!

恐らく誰も見てなくてもプロマイドの種類はこっそり増やしてるかもしれないです。

これ実際にやったら奈緒の負担だけものすごい。


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イベントコミュ『Phantom Story』3

今回のコミュ、実はこの前の本編を投稿する前から考えていたんですが、先にそっちを書いたほうがいいと思い封印してました。

でもデレステニュージェネイベントの1話の凛を見てやっぱりやろうと思い一気に書きました。

コミュに関する注意事項はPhantom Story1と同じです。

一部台本形式が問題ないという方だけお願いします。

そして最新話から珍しく投稿が早かったため、本編だと思った方は申し訳ありません!

それと奈緒が演じるもう1人のナオですが、公式イラストの髪色変更したは載せられないし絵心もないので一応ドット絵を最後に載せておきます。
ヴァルキュリア化っぽい何かです。


Two roles played by one idol

 

都内某スタジオ

 

舞台出演者全員の顔合わせが終わり、台本の読み合わせが始まった。

長編ということもあり、いくつかに区切って日を変え開始することになる。

 

今回は序章から2章前半。

346からの参加者も多く、それぞれ別々にスタジオへと入る。

序章で登場する紅葉も撮影後現地へ向かう姉とは別に1人で来ることになった。

 

紅葉「(いよいよ開始か。さすがに少し緊張してきたな)」

 

紅葉「(346プロダクションのアイドルはほとんど話したことのある人たちだが、他の俳優の方は初めてだ。失礼のないようにしないと)」

 

紅葉「(一応顔合わせの時に覚えたから間違えることはないと思うが……)」

 

スタジオに入り案内を元に目的地へと向かう紅葉。

"Phantom Story"と書いてある張り紙の部屋へと辿り着く。

深呼吸しノック後、まったく緊張してないかのような声で挨拶をした。

 

紅葉「失礼します」

 

???「あ、もみ……」

 

紅葉「失礼しました」

 

???「ちょ!?」

 

ドアを開けた瞬間目の前に現れたのは、青白い髪の少女だった。

見覚えのない人物に思わず扉を閉め廊下へと戻る紅葉。

 

紅葉「(おかしい、部屋を間違えたか?いや、張り紙もあるしここでいいはずだが)」

 

???「おい、なんでまた出て行くんだよ!」

 

紅葉「すみません。部屋を間違えまして」

 

???「合ってるよ!見りゃわかるだろ」

 

紅葉「え?」

 

ということはこの人は同じ舞台の出演者だろうか?

紅葉は以前の顔合わせの時を思い出そうとするが、どうしてもこの目の前の人物を思い出せない。

いくら顔を覚えるのに絶対の自信がないとはいえ、さすがにこの特徴のある髪を1度見たら忘れないはず。

そう考えてもやはり思い出せない。

 

 

凛「ねえ"奈緒"。もしかして、紅葉が奈緒だって気づいてないんじゃない?」

 

紅葉「ああ凛か。ということはやはりここで合って……ん?奈緒?」

 

奈緒(オルタ)「本当にわからなかったのかよ!?あ、このウィッグが原因か。って、それにしてもあんまりだろ!」

 

青白い髪をした少女は奈緒だった。

普段と全く同じボリュームのある髪に合わせたウィッグをつけていたのだ。

それを外すと、ようやく紅葉は状況を理解する。

 

紅葉「そうか。奈緒じゃなく、あとから出てくる"ナオ"のやつか」

 

奈緒「うん。衣装のスタッフさんがさっそく作ってくれたんだ。やっぱり衣装やこういうの被るとさ、ライブ前とは違った緊張感があるよな。よし、頑張るぞ!って改めて思うよ」

 

凛「そうだね。特に奈緒は衣装も2種類あるし、気持ちの切り替えも大変なんじゃない?」

 

奈緒「まあな。でもまだまだ始まったばかりだし、少しずつ慣れていくよ」

 

紅葉「なるほどな。少し驚いたが似合っていたぞ。まったくの別人だと錯覚したほどだ」

 

奈緒「あ、うん。あ、ありがと……って、それ喜んでいいのか?」

 

紗枝「仲がええどすなぁ。いつもこうなん?」

 

凛「まあ、いつも通りなのは認めるよ」

 

奈緒「そ、そうだな。いつも通りだな」

 

紅葉「小早川さんでしたよね?お疲れ様です」

 

紗枝「こうして話すんは初めてやなぁ。噂は聞いてますえ」

 

周子「やっほー。シューコちゃんもいるよー」

 

紅葉「お久しぶりです塩見さん。Project:Kroneが初めて参加したライブ以来ですか」

 

奈緒「紗枝はんと周子とはあたしたち舞台上で一緒にはならないんだっけ」

 

凛「うん。紅葉のせいで奈緒は卯月たちと別れちゃうからね」

 

紅葉「俺じゃなく俺の役だろう」

 

周子「大丈夫大丈夫、奏ちゃんも美嘉ちゃんもあたしに任せてよ。屋形船に乗った気でいてくれていいよー」

 

奈緒「いや、ツッコミづらい例えするなよ」

 

物語序盤、冒険者になった王国騎士団長の娘、奈緒。

彼女が受けた初めての依頼は、洞窟に住む魔物を討伐してくれという近隣の村からの依頼だった。

 

快く引き受けた奈緒は幼馴染である奏、卯月、美嘉を無理やり連れ洞窟へと向かう。

だがそこで待っていたのは新米でも簡単に討伐できる魔物ではなく、大昔に人々から恐れられた4人の魔王の1人、瑞樹。

 

瑞樹の腹心の部下である楓と紅葉にすら全く歯が立たない奈緒たち4人。

戦いの中奈緒以外の3人は遠い地域へと飛ばされてしまう。

そこで封鎖中の街に入れず困っていた奏たちを助けてくれたのが周子であり、何やらその周子もワケありの様子。

 

そして周子に裏切られたと思っていた彼女の親友紗枝との戦いもあり、物語は凛と乃々が登場する次の章へと移っていく……

 

そんな舞台の内容をお互い確認していたところでほとんどの役者が揃い、それぞれ指定された席へと座ることとなった。

 

演出家「それでは皆さん揃いましたので、さっそく台本の読み合わせに入りたいところですが……実は今回の舞台を制作するにあたってようやく協力することを引き受けてくれた先生をお呼びしています。では、お願いします」

 

楓「あ……」

 

瑞樹「あの人ってまさか!?」

 

美嘉「アタシ実際に初めて会うかも」

 

紅葉「(ずいぶんざわついているな。有名な人なんだろうか)」

 

扉がゆっくりと開き現れたのは、全身黒の服につつまれた老年の女性。

長く黒い髪は顔半分も覆っており、その異様な雰囲気に部屋は緊張に包まれる。

 

演出家「ほとんど皆さん知っているでしょうが紹介します。先の大女優で今は主に役者の講師をしている月陰千種先生です」

 

先生「皆さんよろしくお願いします。今回はこの舞台の演技指導を担当することになりました」

 

楓「先生、お久しぶりです」

 

先生「あら楓さん。あなたの活躍は耳にしますよ。この舞台でも楽しみにしています」

 

楓「先生にそう言って頂けるなんて光栄です」

 

紅葉「姉さんはあの人に会ったことがあるのか?」

 

楓「ええ。以前お芝居をする時に指導してもらったことがあるの。厳しい人ではあるけど、先生の言う通りにすれば間違いはないわ」

 

凛「なんかすごい人みたいだね」

 

卯月「うぅ、緊張してきました」

 

奈緒「あたしだって知ってるぞ。まさかここで会えるなんて」

 

奏「そんなすごい人に認められるなんて、さすがは楓お……楓さんね」

 

周子「奏ちゃん、もう皆にバレてるって♪」

 

奈緒「知らないのは楓さん本人だけだよな」

 

 

張り詰めた空気のまま台本の読み上げが始まる。

月陰先生は特に何もいうことはなく、話は紅葉が登場するページまで進んでいった。

 

紅葉『さて、たかが人間がどこまで出来るのか。少し力を見てやろう』

 

先生「……」

 

奈緒『はぁ、はぁ……な、何だこいつら。攻撃が全然通じない』

 

紅葉『もういい、底がわかった。消えろ……』

 

先生「楓さんの弟の……紅葉くんだったわね。あなた、お芝居は初めて?」

 

紅葉「はい」

 

楓「先生、弟の演技で何か気になるところが?」

 

先生「ごめんなさい、続けてちょうだい」

 

楓「紅くん……」

 

 

紗枝『なんで?なんでうちを一緒に連れて行ってくれへんかったの!?』

 

周子『ごめんね紗枝はん。あたし、どんなことをしてでも父さんを止めるって決めたから!』

 

読み合わせは特に問題のないまま進んでいき、今日のラストへと近づいていく。

 

奈緒(オルタ)『あれ、ここは……どこ?思い出せない……ボクは……誰だ?』

 

凛『もしかして記憶喪失ってやつ?はぁ……乃々ったら、厄介なのを連れてきたね』

 

先生「……」

 

奈緒(オルタ)『うんわかったよ。妹さんはボクが見てるから、改めてお願いしていいかな?』

 

凛『じゃあ行って……』

 

先生「奈緒さん。今のセリフをもう一度」

 

奈緒「は、はい!」

 

奈緒(オルタ)『うんわかったよ。妹……』

 

先生「もう一度」

 

奈緒(オルタ)『うんわかった……』

 

先生「もう一度」

 

奈緒「う……は、はい」

 

いつの間にか消えていた張り詰めた空気が再び生まれる。

ある者は同情するような視線を、またある者は来たか……という不安を。

そして友人である凛たちは心配した様子で奈緒を見ていた。

 

先生「奈緒さん、ここはどういったシーンですか?」

 

奈緒「え、えっと。ナオの記憶の手がかりを探すために凛が森の占い師である志希の元へ向かうシーンです」

 

先生「それであなたの心境は?」

 

奈緒「自分も手伝いたいけど今は凛に頑張ってくれ、と」

 

先生「奈緒ならそうでしょうね。でも今の奈緒は奈緒じゃない。反転した極光"ナオ"です」

 

奈緒「は、はい」

 

先生「今のナオは自分のことも何もわからない不安な状態なんです。それなのにそんな明るく振る舞えますか?」

 

奈緒「あ……も、もう一度お願いします!」

 

先生「じゃああなたのセリフから」

 

奈緒(オルタ)『う、うん。わかった……』

 

先生「だめね。それはただ言い方を変えただけ」

 

奈緒「う……」

 

先生「あなたの言葉には気持ちが全く感じられません。ナオの1%も理解できていない。これなら他の人がナオを演じたほうがよっぽどマシです」

 

演出家「せ、先生。さすがにそれは……」

 

先生「紅葉くんをごらんなさい。舞台上の紅葉は冷徹で残酷で、人を生物とも思っていない悪魔です。その役を見事に掴んで最初の段階でここまで仕上げています。とても素晴らしいわ」

 

紅葉「……」

 

凛「(あれっていつもの紅葉だよね)」

 

美嘉「(う、うん。確かにいつもより声を張ってるけど、口調も雰囲気も変わってないよ)」

 

楓「せ、先生……」

 

瑞樹「楓ちゃん、気持ちはわかるけど今は落ち着いて」

 

先生「今日はここまでにしましょう。奈緒さん、次までにもう少しナオの気持ちを理解してきなさい」

 

奈緒「……はい」

 

ここで解散となり、役者たちはそれぞれ部屋を後にする。

が、座ったまま俯く奈緒を心配する面々はその場に残り、どう声をかけていいか迷っていた。

 

凛「奈緒、その……」

 

奈緒「ああっ!くそー!くやしい!」

 

凛「え?」

 

急に立ち上がり叫ぶ奈緒に一同驚く。

その目には涙が溜められていたが、隠す様子も見せず自分に言い聞かせるように再び口を開けた。

 

奈緒「何も言い返せなかった!そうだよその通りだよ。あたしはまだ全然ナオの気持ちを、役を演じるってことがどういうことなのか理解してなかった!」

 

美嘉「な、奈緒。少し落ち着いて」

 

奈緒「見てろよ紅葉!絶対この役を完璧に掴んで、お前も!先生も!皆も見返してやるからな!」

 

紅葉「あ、ああ」

 

まるで宣戦布告をするように紅葉へ指をさし、涙を拭きながら普段以上に赤くなった目でそう告げた奈緒は、紅葉の言葉に納得したのか大きくうなづいて部屋を出た。

 

その決意した表情は普段の奈緒でもアイドルの神谷奈緒でもなく、役者としての奈緒の何かが変わった表情の様でもあった。

 

紅葉「姉さん。奈緒はすごいな」

 

楓「そうね。私も負けてられないわね」

 

凛「私も奈緒のパートナーとしてもっと演技の練習をするよ」

 

美嘉「アタシも負けてらんないなー」

 

卯月「わ、私も頑張ります!」

 

紅葉「ところで、よくわからなかったことがあるんだが」

 

楓「どうしたの紅くん?」

 

紅葉「さっき俺は先生に褒められたのか?」

 

楓「……」

 

全員「……」

 

紅葉「ん?どうして皆目を逸らすんだ?」

 

続く?

 

【挿絵表示】

 




紗枝はんの口調はお許しを!

この舞台劇の内容、実は10年ほど前に考えていたRPGを元にしてます。
オリジナルとは言え色々なところから話をパク……リスペクトしているので、どこかで聞いた話になってる部分があるかと。

ちなみに元の奈緒と川島さんの役の名前は"アルセス"と"妖魔王ヴァルヴァレス"
サガフロンティアのアセルスとオルロワージュが元になってたりします。
サガフロで一番アセルスが好きなんですよ……



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アイドルコミュ『"あたし"と"アタシ"の6月14日』

次の話の最後に入れようと思ったのを先に書いてコミュ扱いにしました。
この話はこの方がいいかなと。

コミュなので文章形態は前のコミュと同じになります。

真面目に書き始めれば投稿間隔早いのにサボってできない作者です。


───会議室

 

広い空間の中いるのはたったの3人である。

前に立ち、他の2人を真面目な顔で見ている鈴科プロデューサー。

 

そして、そんな普段とは違うプロデューサーにただならぬ雰囲気を感じた奈緒と加蓮は、黙ってプロデューサーの言葉を待っていた。

 

鈴科P「今日ここに来てもらったのは、まだ他には知らせることの出来ない内容だからだ。

2人も話すとしても親兄弟までに留めてくれ」

 

奈緒「な、なんだよ急に真面目な顔して。何かやばい話なのか?」

 

加蓮「アタシたちそんな失敗してないよね。怒られるとかじゃないと思うんだけど」

 

鈴科P「ちなみに最初に聞くけど、2人とも漫画やアニメってよく見る方?」

 

奈緒「いきなり何の話だよ。ま、まあ……ひ、人並みには?そこそこ?」

 

加蓮「アタシも全国的に有名なやつとか、漫画はたまに買ったりするよ。アニメは今はあまり見ないかな」

 

鈴科P「そっかぁ残念。じゃあライトノベルは読まないかな」

 

加蓮「ライトノベル?小説なの?」

 

鈴科P「そうだね。若者向けに作られてる挿絵なんかが多い小説ってところかな」

 

奈緒「ふ、ふーん。ラノベね。あたしも詳しくないかなぁ、あ、あはは……」

 

鈴科P「(知らない人はいきなりラノベって略さないけどね)」

 

加蓮「ねえプロデューサー。それで、その小説とこの話し合いと何の関係があるの?」

 

鈴科P「ふっふっふー!喜んでくれ2人とも!それぞれソロデビューが決まったぞ!」

 

奈緒・加蓮『え?』

 

鈴科P「と言ってもまだ何時になるかは未定なんだけどね。何しろ映画化が決まったばかりだしさ」

 

奈緒「ちょ、ちょっと待って!一体何の話?映画ってなんなの!?」

 

加蓮「アタシもさっそく話についていけないんだけど。きちんと説明してくれる?」

 

鈴科P「うん。今月初めのキミたちの初仕事は覚えてるかな?」

 

加蓮「もちろん。奈緒がナンパされたティッシュ配りだよね」

 

奈緒「おい加蓮!」

 

加蓮「あ、ごめん間違えた。本当のこと言われただけだった」

 

奈緒「お・ま・え・なぁ!」

 

鈴科P「その奈緒ちゃんがナン……はいいとして、あの時の2人の仕事を見てから、知り合いの監督に連絡したんだ。

確か今後製作予定の映画がほとんどまだ何も決まってないって聞いてたからね」

 

奈緒「も、もしかして。その映画の主題歌・・・・・・とか?」

 

鈴科P「奈緒ちゃん正解!」

 

加蓮「すごいすごい!どんな映画なの?」

 

鈴科P「そこでさっきのライトノベルだよ。あるライトノベルがアニメ映画化するんだ。タイトルは『絆物語』」

 

奈緒「!!!!!!

 

加蓮「ふーん。結構わかりやすい名前だね。奈緒は知ってる?」

 

奈緒「…………ぁぁ

 

加蓮「だ、大丈夫?何か震えてるけど、もしかして嫌いな小説だったり?」

 

奈緒「……おい、加蓮。今何て言った?

 

加蓮「き、嫌いな小説なのって聞いたんだけど。本当に大丈夫?目が虚ろというか何というか」

 

 

 

 

 

 

奈緒「嫌い?絆物語を?誰が?あたしが?冗談っじゃない!あの小説を読んでラノベの世界を知ったんだ!楽しかった!世界が変わった気がした!そのお陰で他のラノベを読みまくって紅葉と話すきっかけにもなったんだ!いいか加蓮、一度しか言わないからよく聞けよ?あたしは絆物語が超・大・好き・だぁ――――っ! 愛していると言ってもいいね!もしそれでもあたしが絆物語を嫌いだって思うようなら、まずはそのふざけた幻想をぶち壊す!!」

 

加蓮「あ、はい。すみませんでした奈緒先輩」

 

鈴科P「と、とんでもないものを目覚めさせてしまった気がする」

 

奈緒「はぁ……はぁ……はっ!?あたしは一体何を?」

 

加蓮「安心してください。何もなかったですよ奈緒先輩」

 

奈緒「おい、どうして目をそらすんだ」

 

鈴科P「と、とにかく。絆物語の映画は2本同時上映でね。要するに2人にはそれぞれの主題歌を歌ってもらうことになる」

 

奈緒「ふ、ふーん。まあいいんじゃないの?」

 

加蓮「(今更すぎるよ奈緒……)」

 

鈴科P「前に録ったサンプルの歌声が監督と原作作家さんのイメージぴったりだったみたいでね。まずは奈緒ちゃんが第一部『始まりの遺跡船篇』を』

 

奈緒「う、うん。いきなりで実際ソロデビューって言われていまいちピンときてないけどな(やった!映画化は知ってたけどまさかあたしが!くぅぅぅぅ!)」

 

鈴科P「曲名だけは決まってるんだ。曲の名前は『君の知らない物語』」

 

加蓮「じゃあアタシが第二部?」

 

鈴科P「うん。加蓮ちゃんは第二部の『吸血鬼誕生篇』を」

 

奈緒「へぇ、第二部でもうそこ持ってくるのか。……いや、最初にインパクトを与えるのはありか?」

 

鈴科P「ご、ごめん。俺も内容は詳しく知らないんだ。加蓮ちゃんの曲の名前は『蛍火』」

 

奈緒「確かに加蓮の歌声って惹きつけられるからなぁ。誕生篇……過去の話で主人公の恋人が死んでしまう悲しい話のあとに加蓮の歌声はインパクトあるぞ」

 

加蓮「あ、ありがとう?奈緒の歌声だって惹きつけられるじゃない。物語の始まりにぴったりだと思う。皆注目するよ」

 

奈緒「そ、そう?えへへ」

 

鈴科P「ちなみにキャストのオファーも来てるんだよね。誰をやるか決ま「プロデューサー」って……ん?」

 

奈緒「それはダメだ」

 

鈴科P「え?」

 

奈緒「声優はやらない」

 

加蓮「どうして?せっかく好きな映画に出られるのに」

 

奈緒「好きだからこそ、だ!あたしたちは演技の訓練はしてないし、付け焼刃でどうにかなるもんじゃない。アニメの声優は素人が簡単に手を出していい領域じゃないんだ。棒演技で映画をぶち壊してしまったらファンに申し訳ないし、あたしはあたしを一生許せない」

 

加蓮「そ、そうですか。重ね重ねすみません、生意気な事を言って」

 

奈緒「だからどうして敬語になるんだよ!」

 

鈴科P「ま、まあこれは無理強いしないよ。ちゃんとした理由があるならこの話はなかったということで。加蓮ちゃんは?」

 

加蓮「アタシもいいかな。今はダンスとそして歌に集中したいし。中途半端になるのは嫌だもんね」

 

鈴科P「よし、じゃあこの話はこれでお仕舞い。くれぐれも内密にね。それじゃ、お疲れ様」

 

奈緒・加蓮『お疲れ様でした』

 

 

───帰宅途中

聞いてもいないのに加蓮へ絆物語の好きなシーンを語る奈緒。

最初は話半分で聞いていたが、楽しそうに話す奈緒見て考えが変わる加蓮。

 

奈緒「でさ、主人公の仲間の話も良いんだよ」

 

加蓮「……ねえ奈緒」

 

奈緒「特に……ん?どうした?」

 

加蓮「そのライトノベル持ってるんだよね」

 

奈緒「へ?あ、ああ。たまたまだけどな!」

 

加蓮「アタシに貸してくれない?」

 

奈緒「え?」

 

加蓮「どんな曲になるにしても、話の内容を知ってたほうが感情が入りやすいと思うの。アタシのデビュー曲、後悔のないように精一杯がんばって歌いたい」

 

奈緒「そっか。うん、いいよ。全部貸してやるよ」

 

加蓮「ありがとう。それじゃあ早速奈緒の家に行きますか♪」

 

奈緒「おいおい、まさか泊まるとか言い出すんじゃないだろうな」

 

加蓮「それもいいかもね。別に初めてってわけじゃなし」

 

奈緒「ま、まあいいけどさ。人の部屋漁るのはやめろよな!」

 

加蓮「えー、いいじゃん別に。アタシ、今度こそ奈緒の部屋でしか着ないってTシャツを見つけるんだ!」

 

奈緒「んなことに全力を尽くすんじゃない!まったくもう」

 

加蓮「で、このこと紅葉先輩に話す?」

 

奈緒「うーん、今日はやめとこう。邪魔しちゃ悪いだろ。楓さんの誕生日なんだしさ」

 

加蓮「……そうだね。(紅葉は身内じゃないだろ!とか言うと思ったんだけどな。それに今すぐなんて一言も言ってないんだけど)」

 

 

アイドルコミュ『"あたし"と"アタシ"の6月14日』終了!

 

 

 




ということで2人のソロ曲はこの2つに。
通常の方を想像していた方には申し訳ありませんが。

絆物語は化物語とテイルズオブレジェンディアが一緒になったようなものだと思ってくれれば。

どちらも『物語』なので2人一緒にデビューさせるにはぴったりだと思ったのです。

それとアンケート協力ありがとうございます。
皆さんわかっているようで、つまりこの作品のヒロインは紅葉くんに……


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エクストラコミュ『自己紹介と帰ってきた我らが楓さん』

ナゴヤドームライブ参加したPの皆さんお疲れ様でした。
いずれ自分も参加したいですね!

今回は前話の通り前半は自己紹介回になります。
そしてデレステ風の選択肢を地の文につけました。
下が紅葉くんならではの選択肢、上はごく普通の主人公だった場合の選択肢になります。

こうやってみると、紅葉くんは人付き合いが苦手なだけで言いたいことははっきり言うし、知識も偏ってるけどあるし優秀ですね。
人の話を信じすぎていますが。

それと後半はナゴドに合わせて、いずれやる話のライブのセトリと楓さんの感想です。
どのライブかはわかる人にはわかるかな……
ネタバレになるかどうかは微妙。

最近真面目な楓さんばかりだったので、今回はいつものこの小説の楓さんに戻しました!


凛・未央・卯月の3人がバックダンサーを務めたライブ終了後、楽屋へと向かうプロジェクトメンバーと紅葉。

そんな中、李衣菜が突然紅葉に対して自己紹介を始めようと皆に声をかけた。

 

李衣菜「じゃあ私から改めて。多田李衣菜。

ロックでクールなカッコイイアイドル目指してます。

学年一緒だし私のことは李衣菜でいいよ」

 

 ロックなアイドルって?

 

楽しみにしてる

 

紅葉「よろしく李衣菜。俺のことも紅葉で構わないぞ。

ロックでカッコイイ曲をテレビやライブで歌う李衣菜を楽しみにしてる」

 

李衣菜「うん♪期待しててよ」

 

きらり「にゃっほーい!きらりだよ☆よろしくにぃ~☆

かわいいものやハピハピなもの、だーい好き!

アイドルになってきらりのぱわーで皆を元気にさせるんだ♪」

 

 ハピ……げ、元気ですね

 

よろしくお願いします

 

紅葉「よろしくお願いします。

確かにきらりさんと一緒だと元気をもらえそうですね」

 

きらり「うきゃ!みんなそうなったら嬉しいにぃ!

こちらこそよろしくおにゃーしゃー☆」

 

莉嘉「はいはーい!アタシも莉嘉でいいよカレシさん☆」

 

 え、俺が美嘉の彼氏?

 

美嘉は友達だ

 

紅葉「さっきも言ったが俺は美嘉の彼氏じゃない。普通の友達だ」

 

莉嘉「えーつまんない。

お姉ちゃん男の人とか全然そんな話ないんだもん。

あ、見た目があやしくて普段はあまり近づきたくないっていう

自分のプロデューサーさんの話は聞くけどね」

 

紅葉「そうか、美嘉にもプロデューサーさんがいるんだな。

そっちも莉嘉たちみたいに大人数なのか?」

 

莉嘉「ううん。3人だけみたいだよ。

お姉ちゃんと、この先の控え室にいる茜ちゃんと、美穂ちゃん!」

 

みりあ「みりあも自己紹介するー!

みりあのことも、名前で呼んでね♪」

 

 よろしくね、みりあちゃん。

 

よろしくみりあ

 

みりあ「赤城みりあです。

アイドルになってカワイイダンス踊ったり、カワイイ服を着たり♪

これからいろんなことやって楽しいことたくさんみつけたいです!」

 

紅葉「よろしくみりあ」

 

みりあ「えへへ!そうだ、お兄ちゃんはお姉ちゃんがいるんだよね?」

 

紅葉「ああ、みりあと同じく346プロダクションでアイドルをやってるよ」

 

みりあ「みりあもお姉ちゃんなんだよ!一緒だね!」

 

紅葉「そうだな。

同じ姉同士、一緒に仕事するときはうちの姉をよろしく頼む」

 

みりあ「うん!」

 

アーニャ「オーチニ プリヤートナ。

ミーニャ ザヴート アナスタシア」

 

 外国人?な、何語だろう

 

困ったな。ロシア語は少ししか出来ないぞ

 

紅葉「ラズリシーチェ プリツターヴィッツァ、アナスタシア。

えっと……ミニャ ザヴート 紅葉」

 

アーニャ「ハラショー!モミジはロシア語、上手ですね」

 

紅葉「簡単な挨拶しか出来ませんが……ん?

アナスタシアさん、日本語を話せるんですか?」

 

アーニャ「アーニャと呼んでください。ニックネームです。

私は北海道で生まれて、ロシアで育ったハーフですね」

 

紅葉「なるほど。なら改めてよろしく、アーニャ」

 

アーニャ「ダー。よろしく、モミジ」

 

かな子「ロシア語が話せるなんてすごいですね。

あ、三村かな子です。皆にと思ってクッキー焼いてきたんですけど、

よかったら高垣くんもどうぞ」

 

紅葉「いただきます」

 

 美味しい!

 

俺はケーキしか作れませんが……

 

紅葉「このバタークッキー美味しいですね。かすかに感じるアーモンドの風味も絶妙です。

俺はケーキしか作ったことありませんが、三村さんはお菓子全般得意そうですね」

 

かな子「喜んでもらえて良かった。お菓子作りは趣味なんです。

でも男の子で同年代なのに、ケーキ作れる高垣くんはすごいね。

本当なんでもできそう」

 

紅葉「それは……いえ、何でもありません」

 

かな子「?」

 

紅葉「(何もできない姉さんがいるから俺がやらなきゃいけない状況になった。

なんてことはさすがにここでは言えないだろう)」

 

智絵里「あの、えっと……」

 

紅葉「(名乗るタイミングを伺っているのだろうか。

無理に名乗らなくてもいいが、本人がその気なら逆に俺から話しかけてみるか)」

 

 会話が続かない……

 

会話が続かない……

 

紅葉「あの……」

 

智絵里「ひゃっ!?あ、ごめんなさい。急に大きな声を出したりして」

 

紅葉「いえ、こちらこそすみません。

高垣紅葉です。よろしくお願いします」

 

智絵里「は、はい。えっと、緒方智絵里……です」

 

紅葉「……」

 

智絵里「……」

 

紅葉「(一瞬で会話が終わってしまった。

緒方さんもどうしていいかわからない様子でちらちらとこちらを見ている。

凛の時以上にどうすればいいか俺もわからないな。

このまま、まだ話をしていない子に俺から挨拶すべきか)」

 

???「ハーッハッハッハ!」

 

紅葉「!?」

 

蘭子「我が名はブリュンヒルデ!

堕天使たちの世界に舞い降りし漆黒の翼!

(アイドルになってこれから精一杯頑張ります!)」

 

 何て言ったんだろう……

 

なるほど、この人も外国から来たのか

 

紅葉「ブリュンヒルデさんは名前から言って北欧の方ですか?

知り合いの魚屋の人もそうですが、日本語が上手ですね」

 

蘭子「え!?あう……ええと」

 

紅葉「その人はアイルランド出身なんですが、今度会ってみませんか?

同じ北欧出身同士、会話が弾むかもしれませんよ」

 

蘭子「うぅ……ら、蘭子!蘭子でいい……です」

 

紅葉「(蘭子でいい?どういうことだ?どっちが本当の名前なんだ?)」

 

きらり「ほら杏ちゃん!

次は杏ちゃんがおにゃーしゃーって!」

 

杏「えー、杏は別にいいよ」

 

きらり「ダーメ!皆で仲良くなってハピハピになるにぃ☆」

 

杏「はぁ……わかったよ。

双葉杏。今年17歳。好きな言葉は"不労所得"と"印税生活"。

嫌いなのは働くこと。

とりあえずアイドルになって印税生活で一生楽するのが夢。以上」

 

きらり「もう、杏ちゃん!」

 

 ど、どこまでが本気なんだ?

 

尊敬します

 

紅葉「なるほど、同い年ですでにそこまで先の未来の目標があるなんて尊敬しますね」

 

杏「……へ?何冗談言ってるの?」

 

紅葉「いえ、すみませんが冗談は苦手で……

双葉さんが将来印税で生活できることを俺も応援します」

 

杏「……うへぇ。杏この人苦手かも」

 

紅葉「(これでライブ前に何故か俺を先輩と呼んだ少女以外との

自己紹介が終了した。ふぅ……大変だったが何とかなったか。

そしてこちらも相変わらずの新田さん。ずっと笑顔なんだが俺は恐怖を感じている)」

 

 

 

────────────────────────

 

数ヵ月後のとある日。

楓はマンションの自室で次に行われる大規模なライブのセットリストを眺めていた。

 

346プロダクションライブセットリスト一部抜粋

 

とどけ!アイドル

歌:全員

 

アップルパイ・プリンセス

歌:十時愛梨

 

エヴリデイドリーム

歌:佐久間まゆ

 

To my darling…

歌:輿水幸子

 

花簪HANAKANZASHI

歌:小早川紗枝

 

NUDIE

歌:城ヶ崎美嘉

 

Hotel Moonside

歌:速水奏

 

Nebula Sky

歌:アナスタシア

 

ヴィーナスシンドローム

歌:新田美波

 

Wonder goes on!!

歌:前川みく、多田李衣菜、安部菜々、木村夏樹

 

私色ギフト

歌:城ヶ崎莉嘉、諸星きらり、赤城みりあ

 

Heart Voice

歌:双葉杏、三村かな子、緒方智絵里

 

Trancing Pulse

歌:渋谷凛、神谷奈緒、北条加蓮

 

ラブレター

歌:島村卯月、小日向美穂、五十嵐響子

 

情熱ファンファンファーレ

歌:本田未央、日野茜、高森藍子

 

Queens Territory

歌:速水奏、塩見周子、宮本フレデリカ

  鷺沢文香、大槻唯、橘ありす

  アナスタシア、渋谷凛、神谷奈緒、北条加蓮

 

光輝の幻想譚

歌:鷺沢文香、橘ありす

 

君の知らない物語

歌:神谷奈緒

 

蛍火

歌:北条加蓮

 

Never say never

歌:渋谷凛

 

こいかぜ

歌:高垣楓

 

Installation

歌:高垣楓

 

Nocturne

歌:高垣楓、川島瑞樹

 

Pluto

歌:高垣楓、佐藤心

 

お願い!シンデレラ

歌:全員

 

アンコール

 

 

 

楓「…………………え?」

 

楓「ちょ、ちょっと待って。え?何?どういうこと?私何も聞いてないわよ!?

常務の威光のある今回の定例ライブでトリを飾ることが出来るのは光栄なことよ?

あの時ちょっと言い過ぎたなぁって少しだけ反省してるし。若干常務が涙目になってた気がしたし……」

 

楓「でもさすがにこれはないんじゃないかしら。5曲よ!?私だけ5曲連続で歌い続けるの!?

しかもこいかぜの後に知らない曲まであるんだけど!

……ああ、なるほどわかりました。お願い!シンデレラの全員に私だけ入れないつもりね。

休ませるとみせかけて1人だけ除け者にする常務のささやかな嫌がらせなのねこれ……ってそんなはずないじゃない!」

 

楓「はぁ……はぁ……うん。少し落ち着きましょう。深呼吸してお酒を飲んで……よし。

きっと見間違……えてないわよね。あら?落ち着いたら見てはいけないものが見えてしまった気がするわ。

アンコール……また増えたじゃない!ほんと何なのよ!私の体力をバカにしてるの!?」

 

紅葉「姉さん、珍しく部屋からの声がもれてるけど大丈夫?」

 

楓「あ、こ、紅くん。え、ええ大丈夫よ。次のライブのことでちょっと気持ちが高揚したみたい。紅くんの名前が紅葉(こうよう)って読めるだけに、ふふふ……ふふ」

 

紅葉「とりあえず2点」

 

楓「ぐふっ!日に日に厳しくなっていく紅くんの採点が若干嬉しくもある私が怖いわ」

 

紅葉「そうだ姉さん」

 

楓「どうしたの紅くん?ちなみに別にドア越しじゃなく中に入ってもいいのよ?」

 

紅葉「ライブ、姉さんは特に大変だろうけど頑張ってね。俺も裏方のバイトで出来ることは協力するから」

 

楓「ありが……え?裏方?紅くん、一体何を知ってるの?もしかしてこのリストに紅くんも関わってるの!?」

 

紅葉「……ごめん、常務さんに口止めされてるから詳しくは。じゃあ、夕飯の買い物に行ってくる」

 

楓「待って、ねえ待って紅くん!せめて新曲の話だけは詳しく!お姉ちゃん何も知らないのよ!

うぅ……あの常務、私と紅くんの夢(思い込み)であるデビューライブ会場での再ライブをなしにしようとしただけじゃなく、私の大事な紅くんまで誑かすなんて!こうなったら久々に絶対に許さないリストの封印を解く時が来たようね。覚えてなさい!」

 

続……くのだろうかこれ

 




自己紹介回をやったので、今後きらりは『諸星さん』ではなく『きらりさん』呼びになります。

それと後半の話、なぜこんなハードになったか理由は当然ありますが、それを更に書くとかなり後の話になるのでこれもネタバレになるかと思い省略しました。

なので一応アンケートを取るので、過程も先に書いたほうがいいかどうか案を聞かせてください。

ちなみに過程ですが、現状でこうなるかな?って感じなので、書いていくうちに変更するかもしれません。
そして、アンケートで必要ないという意見が多かった場合、亀更新なのでこのライブの話はだいぶ後になると思います。


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