今日もフライアはへいわです(仮) (あいうえオラクル)
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ぷろろーぐ

 夢を見ていた。

 

 幸せな夢だった。

 

 世界は平和で、たまに戦争があるけれど、今よりはずっとずっと幸せだった頃の夢。

 

 夢を見ていた。

 

 不思議な夢だった。

 

 自分がそんな平和な世界でのんびりと過ごしている夢。

 

 夢を見ていた。

 

 可笑しな夢だった。

 

 夢の中の自分は、神と名乗るものにあっていた。そして、力をもらった、そういう夢。

 

 あれ? オカシイな。自分にはそんな記憶はない。

 あれ? オカシイな。俺にはこんな力なんてない。

 あれ? オカシイな。私にはそんな知識はない。

 あれ? あれ? あれ?

 

 目が覚めればまた地獄の世界。

 絶えず絶えず殺し合い。化け物と人間の殺し合い。人間と人間の探りあい、恨み妬み合い。

 平和なんて何処にもない。生まれてからそんなもの見たこともない。

 

 あれ? じゃあなぜ、自分はこんな夢を見てるのだろう?

 あれ? じゃあなぜ、俺にこんな夢をみてるのだろう?

 あれ? じゃあなぜ、私にこんな夢が見れるのだろう?

 分からない、解らない、理解らない。

 

 目が覚めれば不思議な世界。

 絶えず絶えずの殺し合い。化け物と人間の殺し合い。人間と人間の探りあい、恨み妬み合い。

 あれ? 違う、これは私の夢じゃない。

 あれ? 違う、これは俺の夢じゃない。

 

 そうだ、これは俺の夢だ。

 そうだ、これは私の夢だ。

 

 あれ? また違う。理解らない、なんだこれは。

 夢? 違う、これは夢じゃない。

 夢? 違う、これは私が見たものだ。

 夢? 違う、これは俺が見たものだ。

 

 あぁ、そうか。これは――――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 水の中から浮かんでくるように意識が浮上してくる。私はその感覚に逆らうこと無く目を開けた。

 目に映るのは見慣れない綺麗な天井。

 ……あぁそうだった、忘れてたけど、昨日ゴットイーターになったんだった。

 それにしても、久しぶりに見たな、あの夢。最近は全然見なかったのに。内容は全く覚えていないけれど、あの夢を見たということだけは感覚的にわかる。だってあの夢を見ると、決まって最高に気分が悪くなるからだ。そして、頭も痛い。

 ……はぁ……体がダルイ。動かない。いや、動くには動くのだけど、メンドウなのだ。億劫なのだ。

 それでも、動かなければいけないみたいで。

 ドアからノックの音がした。それと同時に男の声。落ち着くような綺麗な声だ。自分のと比べるとあまりにも自分が劣りすぎて嫉妬してしまいそうな程。しないけれど。

 

「ジュリウス・ヴィスコンティだ。入るぞ?」

 

 あぁもうメンドウだ。起き上がりたくない。このままベッドに寝転んでいたい。でも、相手は隊長なのだ。最低限起きて挨拶しなければ……。

 

「そのままでいい。取り敢えず聞くだけ聞いてくれ」

 

 ……隊長にそう言われたのなら、しょうがないよね? だって私が何かを言う前に隊長がそう言ってきたのだ。だから大丈夫、全然平気。

 うん、理論武装完璧。これでぐーたらしてられる。

 

「ラケル博士がお呼びだ。ブラッド隊員全員集まれと」

 

 ……なんでさ。ラケルぅー……。ぐーたらさせてよぉー……ねみゅい………。

 うー、でもしょうがないか。ラケルには恩があるし、何より私は下っ端。頑張らなきゃいけないらしいし。

 

 そう自分にいい聞かせてベッドから身体を起こす。私の身長より明らかに大きいワイシャツは起き上がった時少しだけ肌蹴てしまったようで、肩が出ていた。

 ジュリウスがそっと視線をそらす。初なのだろう、そういう反応が可愛いと思う。

 猫のように座りながら伸びをした後、立ち上がる。次いで、枕の脇に置いてあったコートとズボンを着始めた。

 

「……キョウ、もう少し、こう、まともな服は着ないのか?」

 

 着てる着てる。今絶賛着替え中。肌だってそんなに出てないし。スイーパー系ってホント楽だよね。ほら、まともな服だよ?

 

「いや、そうじゃなくてだな……」

 

 渾身のドヤ顔をしながら着替え終わった姿でジュリウスを見ると、それだけで私が何を考えているのかを読んだのか私を見て溜息をつきつつ目頭を揉む。その耳が少し赤くなっているのは脳内保存しておこう。

 呆れたような、というかあからさまに呆れているジュリウスの姿を見つつ、私はニヨニヨと嫌な笑みを浮かべる。それでジュリウスは(からか)われてることに気付いたのか、少しむっとしたような顔になった。もう一度ドヤ顔で返しておく。

 

 昔から、ジュリウスは毎朝私を起こしに来る。私の寝起きが悪いのと、多分、昔からの知り合いだからだと思う。

 そのたびにこうやって誂われるのだから、来なければいいのにとか思うのだけど、必ずと言っていいほど来るのだ。本当に、物好きだなと思う。

 

「あはは、分かってるよ。寝てる時の服でしょー?」

「……わかってるのなら――――」

きゃっか(却下)ぁー。だって、あの服ってジュリウスに貰ったものだからね」

「……はぁ……」

 

 ころころと私が笑いながら言うと、ジュリウスは溜息を吐きながら顔を逸らした。

 私はこういう時間が大好きだ。地獄とか平和とか、そういうのを少しでも忘れられるこのやりとりが。

 でも、そんなのは長く続かないわけで。

 そろそろ時間だから速く行くぞと言ってジュリウスは先に部屋から出て行ってしまった。

 そんなジュリウスを見送ってから、私は小さく息を吐く。

 

 ――――さぁ、今日も地獄の始まりだ。

 

 

 

 

 

 

「ね、ジュリウス。新しいお仲間ってどんな人?」

「それは会ってからのお楽しみだ。と言うか、俺もまだ挨拶もしていないんだ。お前を起こしていたせいで」

「えぇー。べっつに、私が起こしてって頼んだわけじゃないよー? というか、隊長としてどうなのさ、それ」

「それは誰かが起こさなければお前がずっと寝たまま起きないからだろう。あと、そう思うのなら自力で起きるよう努力してくれ」

「フライア職員を顎で使えばいいじゃん。それなりに権限はあるんでしょー? ちなみにそれは却下の方針で」

「……。それは、そうだな。……いや、お前の寝起きの姿はフライア職員の目の毒だ。それといい加減年を考えろ。お前の半分の年齢の子供でも自分で寝起きするぞ」

「なら女性職員を使えば良いじゃーん。ほら、フランちゃんとか」

「……分が悪いと分かって無視と決め込んだか……はぁ……。物理的な意味で、目の毒だと言っているんだ。」

「あっ、酷いっ! これでも私スタイルは良いんだぞっ!」

「お前がそう思うのなら、そうなんだろうな。お前の中では」

「そういう言葉は私の寝起きの姿を見て頬を赤らめないようにしてから言おうねー?」

「……ぐっ……」

 

 ……まあでも、その地獄の前の束の間の平和を楽しむとしよう。




続かない


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