俺が、”ザ・ワールド”だあっ!!  (阿久間嬉嬉)
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な……なんじゃこりゃあ!

「突然ごめんね☆ 君は死んだんだよっ」

 

こんなこと言われればだれでもぽかんとなる。いくら二次創作を知っていてもだ。

というかこの神様明るすぎ、若すぎ。

 

「えっと……神様のミスですか?」

「ま~ね。といっても私じゃないよ。それにミスしてしまった人には強力な力を授けることになってるんだ。記憶そのままに第二の生も味わえる。すごくない?」

 

なんか腹立つなおい……

 

「というわけで君には”魔法先生ネギま!”の世界へと転生してもらうよっ!」

 

いきなりすぎる! それによりによって知らない世界かよ。悲しむ暇もないわ。

 

「前に来た転生者達がバカやりすぎたせいで君への転生特典は一個だけー……ごめ~んねっ」

 

死んだとか言われた事より腹立つ! 何やったんだ先輩たちは!?

 

「何でもいいよ~言ってみな」

 

何でもいいか……いろんな能力あるけれど、応用が利くかそれ一つで十分かの二たくになるな。お、そうだ!死ぬ前に読んでいたマンガにいい能力があったな。そのうち二つのどっちにするか……

 

「うんうん。悩めよ少年」

 

よ~し! 決めた!

 

「ジョジョの奇妙な冒険の、”ザ・ワールド”がいい! ”ザ・ワールド”にしてくれ!」

「え!?」

 

何で驚くんだ? やっぱり強力すぎたのか?

 

「いや……本当にいいの?」

 

あ~…心配してるのか、もう一つの方がいいんじゃないかって。確かに”キング・クリムゾン”もいいけど、スタンドの見た目がな……それに時止めの方が何か分かりやすいしな。

 

「ああ、いい!」

「……本当に?」

 

やたら念を押してくるな……まさかディアボロや”キング・クリムゾン”のファンなのか? この神様。

 

「いいって! 俺がそうきめたんだ、何が起こっても後悔はないぜ!」

「うぅ……分かったよ! 君の意思を尊重しよう!」

 

”キング・クリムゾン”派と”ザ・ワールド”派。どっちが強いかは、人によってわかれるからな。でも、折れてくれたか。

 

「それじゃあ……いってらっしゃい!」

 

いや、本当に何もかもいきなりだな―――――って、

 

「落とし穴でレッツゴー! がんばっ!」

「テンプレ的落とし穴かああぁぁぁ……」

 

 

 

 

 

side神様

 

 

それにしても変な転生者君だったなぁ……

 

”ザ・ワールド”がいいなんて……よっぽどの変わり者だったんだね~

 

いろいろおまけはしたけどね……よっし、興味がわいちゃった☆ 彼をこっそりテレパで見ちゃお!

 

 

 

 

 

side???

 

 

落とされた俺は、裏路地から表通りにつながる手前にいた。

 

さーて……落とされるという、とんでもない始まり方だったが……改めて転生完了だな。

まずは……あれをやってみるぜ!

 

 

 

時よ止まれっ!!

 

 

両手を広げ、ポーズをとり、力を発すると……ほんの少しの間だが、音がやみ、歩いていた人が不自然に止まった。

 

おお、ちょっとの間だけど時止まってたな。鍛えて行けば最強だぜ! 

 

 

あれ? ……そういえば、さっきから人が俺のことじろじろ見てるけど……なんなんだ?

 

「何あの……人? 変なポーズとったりしたし」

「見た目も変だよね~」

 

ぐああ!? そうだった! ここ、見え難いだけで表通りから見ようと思えば見えるじゃんか!? ハズかしぃ~!? 転生そうそう大失敗じゃん……トホホ

 

「何か黄色い鎧みたいな服に灰色の肌してるし……極めつけは肘膝顎の緑色のハート?」

「関わらないようにしよ」

 

おいコラ! いくら変なポーズとってたから……って、へ?

 

黄色い鎧みたいな服? 灰色の肌? 肘膝顎の緑色のハート? 

それって”ザ・ワールド”の見た目のことじゃん。俺の見た目じゃあ……。

 

そこで、神様との会話を何故か思い出した。

 

『ジョジョの奇妙な冒険の、”ザ・ワールド”がいい! ”ザ・ワールド”にしてくれ!』

『え!? いや……本当にいいの?』

『ああ、いい!』

『……本当に?』

『いいって! 俺がそうきめたんだ、何が起こっても後悔はないぜ!』

『うぅ……分かったよ! 君の意思を尊重しよう!』

 

……まさか?

 

『”ザ・ワールド”がいい! ”ザ・ワールド”にしてくれ!』

 

もしやぁっ!? 

 

”ザ・ワールド”にしてくれ!(・・・・・・・・・・・)

 

俺は予想が外れてくれと祈りながら、偶然そばにあった古くてでかい鏡を見る。そこにはっ――――

 

股間部分のハートが無い以外は”ザ・ワールド”そっくりな俺の姿が………

 

俺は声にならない(っていうか喋れない)悲鳴を上げた。

 

〔どんな間違いしてくれてんだぁ!?〕

 

こんな思いを抱きながら。



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間違えて……しまったのかっ?

何してくれてんだよ神様……俺はDIOの”ザ・ワールド”が欲しかったのに、”ザ・ワールド”そのものにするとかなんなんだよ……神って、人の思考とか読みとれるんじゃねぇの? そう人間が都合よく思っているだけかもしれねえけど……

 

『オハロー』

 

この声はっ!?

 

『おいコラ神! なんて間違いしてんだてめぇは!』

 

テレパシーでは普通にしゃべれんのかよ

 

『ご、ごめん……君の様子を見て間違いだってようやく気付いたよ。それに誰にだって勘違いとかあるでしょ?』

『これはそういう問題じゃねえだろ!? せめて”ザ・ワールド”がほしいの? それともなりたいの? って確認しろよ!』

『ごめん、勘違いしてた時あまりにショックが大きくて………それに実は私知らなかったんだよね、ジョジョの奇妙な冒険。だから簡易的に調べた情報と勘違いをしちゃった結果こうなっちゃったという……』

『それぐらい調べとけよ!』

『神だって生きてるんだよ! 万能じゃありません!』

 

後付けみてえな事言いやがって……もういいや、何言っても変わらねぇのは自明の理だし……

 

『あ、そうだ。お詫びと言ってはなんだけど、特殊能力ではないけどちょこっと追加したものがあるからよろぴく! じゃっ!』

 

勝手にかけてきて勝手にきりやがった!

 

どうすんだよ、俺……。時を止められる代わりに、スタンドの姿でさらに喋れなくて、これからどうすりゃええのよ……。

 

なにやっても〔無駄〕か…………ん?

 

〔無駄……無駄〕

 

ま・さ・か

 

〔無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁ!〕

 

 

”無駄”は喋れんのかよ!? それにDIOの台詞だしこれ!? 調べ方適当すぎるわ! 

なんかちょっとエコーっぽいのかかってるし……つーか追加したものってこれか!? 地味だぁ!

 

 

 

 

――転生してから数時間後――

 

 

俺は、姿を隠すため魔法使いみたいな、けど地味な黒いローブ着、長ズボンをはいて夜の道を歩いていた。

最初は大きめのパーカーにでもしようと思ったけれど、神の奴が背中のタンク部分も再現するからきれなかったのだ。まぁ、背の高さは原作通りで(高さとか公表されてなかった気がするが)外国人の店じゃないといいものがなかったため、変な外国人とみられるだけで終わったのは幸いだな。

追加したものの中にお金が入っていたのもな……

 

つーかローブ普通に売ってたよ……。

そしてこの数時間で分かった事と言えば―――

 

・時間を止められるのは現時点で最大1.7秒ほど

・運動能力は普通の人間より圧倒的に高い

・ちゃんと腹が減る。

・尿意などを催す事がない

・浮遊できる

 

これぐらいか……。つまり今の俺は、”人間要素が少し混ざったスタンド”ってとこなのか? ものすごく自力で動いて、本体が居ないスタンドってなんだよ……どっちか一つなら原作にも居たけど。

 

 

 

―――それにしてもここはどこなんだ? 駅名が途中で知らないものが続いて、少し怖くなったから降りたけれど………。

ネギまって俺、アニメの一話を見たっきりでそれ以外何も知らねぇんだけどなぁ。

 

 

……桜が多いところだな此処。”わびさび”だったか…こういう雰囲気が―――

 

「ぁぁぁっ」

 

!? 今悲鳴が……!?

 

俺は急いで悲鳴のした方へと走る。スタンドの脚力はやっぱりすごく、あっという間に現場へ着いた。

 

変なローブを着た奴が(俺もだけど)女の子を襲おうとしている!? させるかっ!

 

”時よ止まれっ!”

 

俺は力を発し、”ザ・ワールド”の力を発動。時を止めた。

 

一秒も止められれば十分だっ! 喰らえ! 

 

「な!? お前、いつの間―――」

〔無駄ぁ!!〕

「ぐぼえぇ!?」

 

目の前の、ローブ&帽子にアッパーを喰らわせた。

 

…神様、無駄しか言えないのを地味って言ってごめん。……これ決め台詞にちょうどいいわ。普段はものっそい不便だけど。

 

「きゅうう~……」

 

あ、襲われてた子気絶してら。まぁ理解不能な事がこんだけ続きゃ気絶もするか。

 

「待てぇーっ! 僕の生徒に手出しなんかさせません!」

 

と、その場に子供の声が乱入した。

 

何だあの子供!? 空飛んでんのかよ!?(俺も飛べるけど)

 

魔法の射手(サギタ・マギカ)戒めの風矢!(アエール・カプトゥーラエ)!」

 

子供の手から矢のようなものが複数放たれる。

 

〔無駄!〕

 

それを俺は一殴りで落とした。

 

スタンドすげえ!? 鍛える前からこれかよ! 

 

「な、何なんですかあなたは!? 何者なんですか!」

 

敵じゃねぇから大丈夫―――そう言おうとも無駄以外喋れないからどうしようもない。ええい、やっぱり不便!

これ以上ここにいても不利になるだけだな、三十六計逃げるにしかずだ!

 

「ああっ!? 待てぇ!」

 

追ってくんな、魔法少年!?

 

「あれ……? 私はほったらかし…か?」

 

淋しそうな声が聞こえた気がするが気のせいだろう。…気のせいに決まってる!

 

 

 

 

――鬼ごっこ開始から数分後――

 

あ~…何とか逃げ切れた……しつこいっての。あの子供。

確かにこんな時間に、女の子に近寄るローブの間は怪しいと思うけどさぁ……”ザ・ワールド”の方も怪しいけどな。

―――それにしても息切れしてないな。どこまで”人間要素”が入っている事やら…。

 

 

 

と、上から突如、炸裂音が聞こえてきた。少し離れて聞こえた場所をみると、人影が三つ見えた。

 

あの少年と金髪の少女と変な耳の女……あの子供が戦っているとってことは、あの二人は事件の真犯人か?

 

「誰か助けてぇ~~~っ!?」

 

しかも少年ピンチかよ!? ……元はと言えば、あの二人が事件なんか起こすから勘違いされて鬼ごっこする羽目になったんだ……逆恨みだろうとも知るか!!

 

”時よ止まれっ”

 

俺は、力を込めて大ジャンプをし、浮遊して飛ぶまでの高度を一気に稼ぐ。

 

つーか、ジャンプだけで高度を半分以上稼げるって……スタンドすごいな!

 

「うわ!? またお前へぶぱ!」

「!? マスター!」

「あ、あれ?」

 

良し、少年救出成功。このまま立ち去るっ!

 

「あ! 待っ―――――」

 

すまん、待たん。

 

飛び降りると同時に走り出し、俺はその場から去った。

 

今回は悪目立ちしすぎたな。あの少年が主人公じゃありませんように……無理か、多分。

 

 

 

 

side金髪少女

 

 

何だったんだあいつは!? 前触れなしに突然現れるわ、魔法障壁突き破って殴り飛ばすわ、気配感じさせずに近づくわ、挙句の果てには空まで飛ぶだと!?

 

結界を越えたものがいたと思ったら……だが越えたのはあいつではない筈だ、力の度合いが違う。

めんどくさいがもう少し調べてみるか……

 

あ~…殴られた個所が痛い……くそ。

 

 

sideout

 

 

 

side少年

 

あの人……僕を助けてくれた……? エヴァンジェリンさんと組んでいたんじゃないのかな?

 

だとしたら僕なんて勘違いを…ちゃんと謝らないとなぁ…いやでも、本当に悪人だったらどうしよう……う~ん…

 

 



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災難は続くぞ!

勘違い事件(事件と呼ぶほどのものでもない)から数日後。俺は未だにローブ姿で街中を闊歩していた。

 

いろいろ考えてみたが、この街から出て行けばもう巻き込まれないんじゃないか? 物語は一つの場所で終わるパターンとさまざまな場所を回るパターンがあるけど、どれも騒ぎの中にいなければいいだけの話。

なら、騒ぎの中心がいるかもしれない場所を去れば……よし、これで行くか。

 

本当はと言えば原作にかかわりたい気持ちの方が大きい。だが、このローブや”ザ・ワールド”の容姿じゃ、いくら格好良くとも犯罪者扱いもあり得るからなぁ……だって怪しすぎ。それにしても―――

 

「千九百二十円になります」

”コクッ”

 

いいなぁ日本。喋らなくても買い物が出来る。今まで当たり前のようにやってきたけれど、改めてサービス業、コンビニ、ス―パーのありがたみが分かったわ……。

やっぱりローブは目立つけどな。

 

―――そんな事よりも何かを買い忘れている気がするんだが……まぁいいか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

物を頬張るスタンドって能力やらイラストではあるけれど、改めてや見るとちょっと不自然だな、と俺はさっき買った牛丼弁当を食いながら思う。

 

排泄はしない癖にちゃんと腹が減るのは何故何だ? スタンドパワーでも補充してるのか? ……なんかあり得る気がしてきた……。といっても、これが二回目の食事なんだけどな。

…前回から数日も間が空いたな……

 

弁当を食い終わった充実感を感じながら、俺はこの街から出るプランを考えることにした。

 

昼間に出て行こうとして怪しまれたら元も子も無いが、それは夜も同じ。むしろ危険性でいえば夜の方が高いかもしれない。思い立った時が吉時ともいうしな(言うっけ?)……良し!

 

今すぐ出て行くぜ!

 

 

 

早速駅に着いた俺だったが……

 

『申し訳ありません。ただいま今点検をしております。そうですね……復興するのは夜あたりかと』

 

という看板を駅前で見つけた。

 

なんで、こんなときに点検してんだよ……そして何で会話みたいな言葉で書いてあるんだよ。後半部分いらねぇだろ。

しかし復興は夜かぁ……こうなったら、そこらの山から―――いやいや、余計に犯罪者扱いされそうだ。

待つしかねぇのか…はぁ~…。ま、変なことしなけりゃ大丈夫だろ。

 

 

俺は適当に街中を闊歩し、夜が来るのを待った

だが、その考えは甘いと今夜思い知らされることになるとは、俺も予想していなかった……―――

 

 

 

 

 

 

本屋で小説(ライトノベルではない方)を読んでいた俺は、ふと時間が気になり窓の外を見る。あたりはすでに暗くなっていた。

 

ん? もう夜か。本を読んでいると時間が経つのが早いな。時間は――――お、もうすぐ八時か。電車来るな。

 

「……客様。お客様!」

 

うぉ!? 店員さんいたのか! 夢中になりすぎて居るのに気付かなかった。

 

「もうすぐ八時です。全体停電によるメンテナンスが始まりますので―――」

 

全・体・停・電!? やばいじゃねぇか!

 

「うわっ!? 速い!?」

 

俺は猛烈な速度を出し、駅へと急ぐ。が、何故か迷って橋の方へと出てきてしまった。

 

この街、何でこんなに広い上に構造が迷路みたいなんだよ!? ……今から行っても間にあわねぇよな…停電してるしな。だから人少なかったのか。

…………ん? 待てよ。何も電車で出ることはない、この橋から街の外へと出ればいいだけの話じゃねぇか!

ようし、そうと決まったら―――

 

氷爆(ニウイス・カースス)!!」

「うわっ! あううっ」

 

……お約束か? この展開。とりあえず……隠れとくか。

 

「なるほど、ピンチになったら外に出ればいいか。ここは学園都市の端だからな」

 

ここ端っこなのか! よっしゃ、ラッキーだぜ!

 

「うぐ……くっ」

「これで決着(けり)……だな」

 

少年またピンチかよ!? ……いや、傷は意外と浅い…とするとあれはもしや?

 

俺がそう思ったまさにその瞬間、激しい音と共に魔法陣のようなものが浮かび上がり、二人の女に何かが巻き付いた。

 

「や、やったぁ!」

「捕縛結界か、これは!?」

 

おお、やったじゃねぇか少年!

……って何のんきに観戦してんだ俺は? 停電している今のうちに出ていかねえと…

 

「そんなぁ!?」

「ふふ……詰めが甘かったな、ぼーや」

 

目を離したすきに状況が一変しとる!? 捕縛結界っての破られたのかよ!

 

「ああっ!?」

 

あ、杖奪われて捨てられた。

 

「うあ~~ん! ずるいですぅ~~っ!? 一対一でしょうぶしてくださいよ~!?」

 

みっともな……あ、いやでも子供だからしょうがないのか?

 

「泣きわめくな!」

 

バチン! という音を立てて少年の頬がはたかれた。痛そうだな…オイ。

 

「男のくせに、これぐらいでもう負けを認める気か!? この程度の苦悩、お前の親父は簡単に乗り越えたぞ!」

 

親父の話を出したってことは、あの少年は親父を目標にして頑張ってるってことか。……そういう物語の場合って大抵死んでるよな……もしくは行方不明。

 

「今日はよくやった。まぁ、一人で来たのは無謀だったがな、ぼーや。………さて、ではそろそろ血を吸わせてもらおうか」

「ううっ……」

 

……くそ、見てられねぇ。…けど、ここで出て行けばもう確実に―――

 

「待ちなさいーっ! 変質者ーっ!」

 

うごっ!? しまった、見つかったか!?

 

「カモ、いくよ!」

「合点承知だ、姐さん!」

「来たか、神楽坂明日菜……茶々丸!」

「はっ」

 

……よかった。見つかった訳じゃないみたいだな。ふぅ~…。

 

「喰らえぇい! 『オコジョフラーッシュ』!」

「茶々丸さん、ごめんなさい!」

 

この閃光、マグネシウムを利用したのか! いや、マグネシウムってこんなに光るか?

 

「隠れるよネギ!」

「あ、はいアスナさん、カモ君」

「急ぐぜ」

 

って、こっちに来た!? くそっ!

 

”時よ止まれ!”

 

止まっている間に離れてと……。よっし、間に合った~…。…ん?―――

うお!? なんだ、いきなり少年達がいた所が光った!?

 

「契約更新完了だぜぃ!」

「よし、行くわよネギ!」

「はい、アスナさん!」

「む、そこにいたのか!」

「……!」

 

お、戦闘再開するみたいだな。

 

契約執行(シス・メア・パルス) 90秒間(ぺル・ノーナギンタ・セグンタース)!!

ネギの従者(ミニストラ・ネギィ)、『神楽坂明日菜』!」

「やあっ!」

 

少年が呪文のようなものを唱え終わると同時に、オレンジの少女が走り出した。相手の女もそれを迎え撃つようだ。

 

「失礼を―――はぁっ!」

「わととっ!」

 

ん、後ろの方でも始まるみたいだな。

 

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック!!」

「ラス・テル・マ・スキル・マギステエル!」

魔法の射手(サギタ・マギカ)氷の17矢(セリエス・グラキアーリス)!!」

「うっ…魔法の射手(サギタ・マギカ)連弾・雷の17矢(セリエス・フルグラーリス)!」

 

計34本の矢が乱れ舞い、ぶつかり合って相殺した。

 

これが魔法か! ネギまってすごいファンタジーな世界だな!

 

「まだだ、ぼーや! リク・ラク・ラ・ラック・ライラック…闇の精霊(ウンデトリーギンタ)29柱(スピリトゥス・オブスクーリー)!!」

「わわっ!? ラ ラス・テル・マ・スキル・マギステル、光の精霊(ウンデトリーギンタ)・ 29矢(スピリトゥス・ルーキス)!」

 

魔法の射手(サギタ・マギカ)連弾・闇の29矢(セリエス・オブスクーリー)!!」

魔法の射手(サギタ・マギカ)連弾・光の29矢(セリエス・ルーキス)!!」

 

今度は29本! しかも光と闇の魔法まであるのか! ……俺、魔法とか使えるか? 殆どスタンドだし無理か?

 

「あははっ! それでこそあの男のぼーやだ! リク・ラク・ラ・ラック・ライラック……強いのをぶつけてこい!」

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル……いきます! エヴァンジェリンさん!」

来れ氷精、(ウェニアント・スピーリトゥス)

闇の精(・グラキアーレス・オブスクーランテース)!!」

来れ雷精、(ウェニアント・スピーリトゥス)

風の精(・アエリアーレス・フルグリエンテース)!!」

闇を従え(クム・フルグラティオーニ・)吹雪け(フレット・テンペスタース・)

常世の氷雪(ニウアーリス)!」

雷を纏いて、(クム・フルグラティオーニ・)吹きすさべ(フレット・テンペスタース・)

南洋の嵐(アウトリーナ)!!」

 

闇の吹雪(ニウイス・テンペスタース・オブスクランス)!!!」

雷の暴風(ヨウイス・テンペスタース・フルグリエンス)!!!」

 

あいつ等の魔法が、ドゴオオォン! という音を立ててぶつかり合い、衝撃波を起こした!

 

いけっ! 頑張れ少年! ……こういうとき、ついうっかり声が出ないのはいいよな。

 

ドオオォン! 

 

ぬお!? すげえ風圧! どっちが勝ったんだ?

 

「フフ…フフフ……やりおったなぁ、小僧」

「あわわ!? ごごごめめ御免なさい!」

 

……少年が勝ったのは分かった。だけど何で金髪少女の方は脱げてんだ? お約束か?

つーか、あの少女まだ戦う気か。不屈の精神だな、ある意味。

 

「まだだぞ……まだ勝負は―――」

「これはっ……!? いけない! マスター戻って!」

 

なんだ? なにが―――”バシャッ!”―――うお、眩しっ!? ……いきなりかよ……。でも、電気が付いたってことは復旧作業は終わったのか。

 

「きゃん!?」

 

次から次へと何だ!? って、金髪が落ちてくぞ!? 空飛べんじゃ―――

 

「どうしたの!? いきなり!」

「この復旧でマスターへの封印が復活し、魔力がなくなってしまったのです! このままでは、今はただの子供であるマスターは湖へ!」

 

まじかよっ!?

 

「エヴァンジェリンさーん!!」

「馬鹿! ネギっ!?」

「兄貴、無茶だっ!?」

 

……ちっくしょうがっ……!

 

”時よ止まれ!”

 

間に合えってんだよおぉっ!!

 

 

伸ばした両手は見事に少女をキャッチし、そのあとで体制を安定させた。――飛べるって便利だな!

 

「ん…? ………うお!? 貴様、あの時の! またいつの間に!」

「うわぁっ!? いきなり出てきたぁっ!?」

 

抱えていた少女を目の前の少年に渡す。というかこいつ、いつの間に杖に乗ってたんだか。

そいじゃ、さっさと去るか。……余計怪しまれんうちに。

 

「あ、あの! あのときはすみませんでした! それと―――」

 

もういいっての! さっさと退散!

 

「あ、ちょっと!」

 

何も聞こえへん! 聞いてへん!

 

俺は更にスピードを上げ、その場から離れた。

 

 

 

 

 

ふぅ……追ってはこないみたいだな。にしてもこのまま、あてもなく放浪するのかぁ…それしか道がないとはいえ、なんか悲しい……くそ、この見た目じゃ無ければ! いや、十分過ぎるほど格好いいけど!

 

……そうだ、京都へいこう! 今回は西洋の魔法物語みたいだから、東洋の神秘いっぱいの所には原作も来ないだろう……ナイスアイデアだ!

 

思い立った日が吉日だぜ!

 

 

 

 

side神楽坂明日菜

 

何だったの? あのローブの奴。 怪しすぎるにもほどがあるわよ。いきなり現れるし、顔隠してるし空飛ぶし。

 

もうすぐ修学旅行なのに嫌なことや変なことが起こりすぎよ……。

そういえば、修学旅行ってうちは選択式だったわよね。ハワイとかもあるけれど―――――

 

 

ネギの奴は京都とか喜びそうかな。委員長もそれ選びそうだし。

 

 



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馬鹿なっ! 何処で間違った!?

いや~…京都っていいね。 寺院や仏閣が多くて神秘的な雰囲気を漂わせてると思えば、緑の多さと自然の優しさとほのぼの感もあり、いいところだなやっぱ。

……なにより八橋スーパーで買えるし。一週間チョイかけて来た甲斐あったな。

 

ただ住居を確保するため山まで行ってボロ小屋を見つけ、やったと思ってついフードを脱いだ瞬間、

 

『ひいいぃ!? 化けもんやあぁっ!?』

 

とか言って、偶然そばにいたおっさんが逃げてったのにはちょっと傷ついた。でも、住居は確保させてもらったけどな。

 

そして、京都に来てから更に数日。

 

今、俺は清水寺の”清水の舞台”にいる。相変わらず怪しいローブ(別のに変えた)は目立っているが、今のところ別に支障はない。特訓ばかりで京都の寺院・仏閣見てなかったし、ここらでちょいと息抜きでもな!

―――しっかし、聞くと見るとは大違いだな”清水の舞台”!! 確か此処、結構高い割には落ちても死ぬ奴少ないんだっけか? 今の俺なら飛び降りても大丈夫そうだし試してみるか? 

……いやいや、何考えてんだ。そんなことしたら、取材とかで顔見られちまうだろ。”清水の舞台飛び降りて無傷! トンデモ人間現る!”みてぇな……。

 

「これが噂の飛び降りるあれか!」

「よ~し……だれか飛び降りろっ! 命令だ!」

「本当に飛んでも大丈夫なのかなぁ」

「ならば拙者がお先に―――」

「あなた達、お止めなさい!」

 

うお~…隣の団体うるせぇー……! 修学旅行生か、賑やかなこって。

 

「わーすごい! 京都が一望できるじゃないですかー!」

「ハシャぎすぎで落ちないでよ、ネギ」

 

ぶほっ!? 

こ、この声は……あの時の少年とオレンジ!? もしこっちに気づかれたら色々とヤバい……退散しよう。

 

俺は気付かれないよう、その場をそそくさと立ち去った。―――普通に喋れてたら、さっきの所で気付かれてたかもしれねぇ……案外、喋れないのも役に立つな。

 

ところで、誰かこっちを見てる気がするんだが気のせいか? って皆が時々見てるから、気がするのも当然か。

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

俺は、清水の舞台から数十メートルほど離れた場所まで行き、一息つく。

 

ふぅ、まさかあいつ等が来てるとは……修学旅行に弟を連れてきてもいいのモノなのか、今時は?

まぁいいか。もう俺には関係な―――

 

「見つけたぞ、貴様」

 

―――い話になってくれれば、万々歳だったんだけどなぁ…………誰だよ、この刀を構えた半でこ女。敵意むき出しじゃねぇか、俺が何したよ。…見た目が怪しいからか?

 

「お前は何者だ? その姿、そしてネギ先生達を見かけた瞬間に逃げるように立ち去る所をみると……関西呪術協会の者か?」

 

関西呪術協会!? こっちにもそんな魔法みたいなものあるのかよ!? てかこのローブのマークってその呪術協会の者なのか?

 

「何者か、目的は何か答えろ。答えねば―――答えさせてやる」

 

答えられないんだけどな、俺。だって”無駄”以外喋れねぇもん。後は吠えるぐらいしか、声発せないし。

 

「飽くまで沈黙か……ならば」

 

どうにかして会話手段を得ないと……つっても何があるんだ、手話とかできないし、口の動きで読み取らせようにも顔出すわけにはいかないし………

 

「斬る!」

 

ってうお!? いきなり斬りかかって来んな! というか、あれマジの日本刀―――

 

「はあっ!」

 

ぐああぁっ! 斬られっ、斬られ……て無い? 刃が止まってる?

 

「な、障壁か!」

 

そういや容姿だけが”ザ・ワールド”じゃなかったんだったな、俺。すっかり忘れてた。

体丈夫だな、近距離パワー型スタンド。

 

「ならばっ! 神鳴流奥義―――」

 

”時よ止まれっ!”

 

よっしゃ、この数日の特訓で2秒まで止められるようになった! 戦闘力も着実に上がってるんだよ! なめんな! ……って、こいつとは初対面じゃん…。

 

馬鹿なことを考えながらも、しっかり彼女の後ろへと回る。

 

「な!? 消え―――がふっ」

 

見失って慌てる彼女の頭にアームハンマーを喰らわせ、気絶させる。ゴズンと鈍い音がしたけど大丈夫だよな?

とりあえずベンチまで運んで―――

 

「せ、せっちゃん!?」

「刹那さん!」

「あんた、あの時の!? 桜咲さんに何したのよ!」

 

まさかの鉢合わせかよ!? ええい、くそ……ほれ! お前らの友達だ! 受け取れ!

 

驚きと焦りのあまり、俺は彼女を彼らへ放り投げてしまった。

 

「うわわっと!?」

 

何がほれだ……投げるのは結構まずい行動じゃねぇかっ!! ―――後悔は後だ! 逃げろ逃げろ!

 

俺は住居のボロ小屋まで、時々時間を止めながら走って逃げた。しっかし、”ザ・ワールド”が走って逃げるって中々にシュールな光景だよな……オイ。

 

 

 

 

 

・少し前から・

 

sideネギ

 

 

はぁ~~…僕幸せだ。こんなに木造建築を見られるなんて……これで刹那さんの事が無ければなぁ。

 

(なぁ兄貴)

 

僕が悩んでいると、カモ君が小声で話しかけてきた。

 

(どうしたの、カモ君)

(見てみろよ。さっきから俺たちの事見てた桜咲 刹那が消えたんだ)

 

あっ、本当だ。刹那さんがいない!? 何処に行ったんだろう?

 

(きっと仲間と通信を取るために離れたに違いないぜ。あいつは関西のスパイだからな!)

(だから、決めつけるのはまだ早いってば。それに刹那さんは僕の生徒だし、信じてあげないと)

(お人好しだな~…兄貴。まぁ、そういう所も尊敬してるけどな)

(有難う、カモ君)

 

「な―――え――”ゴズン!”――っ」

 

何だろ、今の声と音? 誰かに荷物でも落としたのかな? ま、まさか喧嘩―――

 

「せ、せっちゃん!?」

 

このかさんの驚く声に振り向くとそこには、見覚えの無いローブを着た見覚えのある体格の人が刹那さんを抱えていた。

 

「刹那さん!」

 

あなたは……あのローブの人!? まさかあの音は―――

 

「あんた、あの時の!? 桜咲さんに何したのよ!」

 

アスナさんも、やってきてローブの人に対して構えを取る。すると、ローブの人はいきなり刹那さんを僕に向かって放り投げ、そのままあっという間に去っていってしまった。

 

「せっちゃん大丈夫なん……?」

「ちょっと待ってください」

 

これは……気絶しているだけだ。傷も軽い打撲傷だけだな。音の割には軽かったみたいだ。

 

(あいつも関西呪術協会か? 桜咲 刹那があまりにもふがいねぇから、見捨てたのか?)

 

もう、またカモ君は……

 

(まだ決めつけるに早いよ。それに、本当に見捨てたのならこんな場所でやるわけないよ。音は聞こえにくくて、人は見え難いけど、それでもバレる。何より気絶で済ませて、運ぶなんてしないだろうし。ほら、そばにベンチがあるでしょ。そこに置こうとしたんじゃないかな?)

(だったら、なんで桜咲 刹那は気絶してたんだ?)

(それは分からないけど……でも、少なくとも悪人じゃないと思う)

(お人好しにもほどがあるぜ兄貴……警戒はしとけよ)

(ごめんね……警戒はもちろんするよ)

 

正直言うと、ローブの人は悪かもしれないって僕は思ってる。けれど、本当に悪なら僕やエヴァンジェリンさんを助けたりしない。

 

信じてますローブの人。

 

 

sideout

 

 

 

 

side”ザ・ワ-ルド”

 

 

 

………なんかとんでもない期待をかけられた気がするんだが……この嫌な予感が気のせいであることを祈るしかないな。―――無駄かもしれないが。

 

 

 



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上手くいくと……思うなよおぉっ!

ホテル嵐山を遠くに見やり、俺は思う。……風呂入りて~な~…と。

 

だって、俺の風呂代わりの場所って川なんだぜ? 排泄しなくていいくせに、頻度は少なくとも体を洗わなくちゃならないって何なんだよ……しかも背中のタンクとか、ハートや鎧部分も含めて俺の体だし。

つまり、転生初日は全裸で立ってたということになるけれども、見た目が見た目なだけに俺も向こうも恥ずかしいという気持ちは無いのが救いだな。

 

よっし、洗浄完了! 筋トレや戦トレ、時間停止延長の特訓再開するとしますか!

 

 

 

 

 

 

 

特訓を終えた俺は、誰もいない夜の駅にいた。無論ローブ姿で。

 

厄介な人物と再会してしまった以上、また別の場所に行こうと電車に乗りに、終電間近の駅に来たのだ………が、人っ子ひとりいない。

 

おいおい……いくら終電間近とはいえ、人影が全くないのはおかしくないか?

いや……あれか、ひょっとしなくても、巻き込まれたってわけか。―――ちくしょ~……関わりたくねえのに…。あの神が手引きしてんじゃねぇだろうな……?

……こうなったら、これ以上巻き込まれないうちに―――

 

「「待て~っ!」」

「お嬢様を返せ!」

 

―――離れたかった……。結局これかよ。

いや、待て。今からでも遅くない、隠れてしまえば!

 

「…おや、ちょうどいい―――――あんた来てくれたんやな! 後はたのんますえ!」

 

は?

 

「あんた、やっぱり敵だったのね!」

「欺くために、わざと助けたり加減してたってわけかよ!」

「外道が……!」

 

はあ!?

 

「そんな……全部、僕達を騙すために行った事だったなんて……っ」

 

はああぁぁ!?

 

……あの着ぐるみ、こいつらを俺に押し付けて逃げる気かよ! くそっ! 結局戦う羽目に……… 

……ん?

 

・相手を押し付けられる

     ↓

・相手をさせられて、その間にあいつは逃げる

     ↓

・だったら律儀に相手せず、時止め使って逃げればいい

     ↓

・あいつを追ってボコれば、一恨み晴らせて一石二鳥!

 

………

 

 

 

 

”時よ止まれ!”

 

俺は猛スピードで猿が逃げたほうへと走る。

 

〔オオオオォォォォォ!!〕

 

あのクソ猿がぁああぁぁあ~~~っ!!

 

 

 

 

 

side三人称

 

 

「ふふふ……ちょうどいい所に、あんな怪しいのがいて助かったわ」

 

猿の着ぐるみを着て居る女・天ヶ崎 千草は、近衛 木乃香を抱え逃走している。しつこく追ってくるネギ達を何とか捲けないかと思考を巡らせている最中に、都合よく怪しいローブの大男がいた。

その男に押し付けまんまと距離を稼ぐことに成功したのだ。

 

「西洋魔術師も大したことあらへんかったし、お嬢様も楽~に手に入れた。 さっきの大男はもう倒されたとしても別に問題は無い……ふ」

 

ほくそ笑む千草。しかし―――――

 

〔オオオオオォォォォォォ!!〕

 

世の中そう都合よくはいかない。……とんでもない音量の咆哮が、後ろから徐々に迫ってきたのだ。その方向の主は―――

 

「な!? あのローブの大男!?」

 

ネギ達を押しつけ、戦っているはずのローブだった。

しかも常人では考えられない速度で迫ってくるうえ、フードからわずかに見える目は、並みの者なら気絶してもおかしくないほどにギラついていた。

 

「ひっ!? ……え、猿鬼! 熊鬼!」

 

怯えながらも、千草は式神を呼び出し護衛に付ける。

 

「クマ~ッ」

「ウキッ」

 

着ぐるみのような間抜けな外見だが、彼らは呪符使いの善鬼護鬼。少なくとも弱くはないだろう。

 

「ウチの猿鬼、熊鬼はなかなかに強力……どうやって、あのガキどもを捲いたのかは知らへんけど、魔力も気も感じんあんたにかなう相手じゃありまへんえ!」

 

そういって再び逃げようと前を向いた千草は……有り得ないものを目にした。それは―――

 

「は?」

 

今、後ろから追ってきていたはずのローブの男が目の前で腕を引絞っている姿だった。

 

その余りに予想不可能な出来事に、千草は攻撃に反応すらできず思いっきり殴られた。その一撃は、持っていた守りの護符をまるで元から無いかのように貫き、千草を水平に吹っ飛ばして壁に叩きつけた。

 

「おぶほぉっ!?」

「クマッ!?」

「ウキャキャッ!?」

 

最初は守りの護符が効果を発していないのかと思っていた彼女だったが、確かに効いている事が壁への衝突で分かった。つまり、あの男は素のパワーがとんでもないのだ。

式神達も、いきなり目の前から敵が消えたことに驚く間も無く、主が吹っ飛ばされてようやく驚きが来た。

 

(何なんやこいつ、いきなり目の前に……!? こうなったら!)

「はあぁっ!」

 

符を次々と投げ、小さな式神から強力な式神まで、ありとあらゆる式神を出した。

 

「行け! あの男をいてまえ!」

 

その声に応え、式神たちは一斉にローブへと襲いかかった。

 

「ウキキー」

「ムキャー」

「ブモー」

「ワオン」

「クママーッ」

 

そして式神達によりローブの姿が見えなくなり、千草はほっとすると同時に笑い出す。

 

「あははははっ! どうや、一発当てたぐらいで浮かれとるからそうな―――」

 

しかし、その笑みは……

 

〔無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無無駄無駄無駄無駄無駄あーっ!!〕

 

ローブの猛烈なラッシュにより式神たちが宙を舞い、穴をあけられ、消し飛ばされる様を見て恐怖へと変わった。

 

「な……何なんや……お前…」

 

こちらへ向かってくる男に、千草はもう恐怖以外の感情を持っていなかった。戦うなんてもってのほかと、本能が告げているのだ。

 

(やばい……これは本当にヤバい……。…ん?)

 

と、視界の端……ローブの後ろ側に、先日あたり護衛に雇った神鳴流剣士・月読の姿が見えた。月読は気配を殺し、ローブの大男へと迫っている。どうやらローブは気付いていないようだ。

 

(はは……詰めを誤ったな。 最初の一撃でウチを気絶させとかんからこうなるんや)

 

「えーーい」

 

そして月読は大男に斬りかかり―――

 

「ぶはぉ!?」

「は……?」

 

天高く殴り飛ばされた。………それも後ろから背中を殴られて。

 

「に……逃げ」

 

もう打つ手が無い。千草は式神を出して逃走しようとした。……が、自分が背を向けたはずのローブの姿は……

 

「お…前……何なんやーーっ!?」

 

腕を振り上げ、目の前にいた。

 

〔無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄あっ!!!〕

 

駄目押しとばかりの止めのラッシュにより―――

 

「げおふ!」

「えばっ!」

 

千草と月読はボコボコに殴られ遠くに飛ばされた挙句、地に叩きつけられたのであった。

 

sideout

 

 

side”ザ・ワールド”

 

いや~すっきりした! 無駄無駄ラッシュってこんなに爽快な気分になれるとは思わなかった! さて、我が家に帰るか! ……念のため、

 

”時よ止まれ!”

 

まだ二秒しか止められないし、相手の変な壁みたいなのに威力を意外に緩和されちまうけど、もっと強くなってやるぜ! 俺の為!

 

………しっかし、何かを忘れている気がするんだが……まあいいか、京都の我が家へ!

 

sideout

 

 

 

 

side刹那

 

な、なんだったんだあのローブの大男は……? またいきなり消えた……?

 

ローブの大男を追いかけて居たら、いきなりこのかお嬢様が目の前から飛んできて、何事かと目を見てみれば……

 

猛烈な連撃と察知不能の謎の瞬間移動によって関西呪術協会の刺客を叩きのめすローブの姿が…。

 

あの男は敵ではなかったのか? それにあの後ろから来たもう一人による、回避不能の一撃をよけて見せた瞬間移動はいったいどうなっているんだ?

 

ネギ先生や神楽坂さんもぽかんとしてしまっている。

 

私も正直、ほとんどわけが分からないが、分かっている事は二つある。

 

一つはお嬢様を助けられたのはあの男のおかげだということ。そして二つ目は―――――

 

 

今の私では、切り札を出そうとも絶対に勝てないということだ……。

 

 



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そうだ……そうじゃねぇか

俺はバカだ……何故こんな簡単なことに、今の今まで気づかなかったんだ?

だからこんな事になってるんじゃねえか……後悔先に立たずってのはこういうときに使うんだろうな……こんな大事な事を二つも……くそっ

 

 

 

 

 

 

 

『レジ袋は要りません』

 

”ザ・ワールド”のスピードの精密動作性、そして”時止め”を使って、そう書いた紙を店員さんに見せる。

 

「そうですか、わかりました」

 

はっはっは~………

 

 

喋れないなら筆談すればいいんじゃねぇか! 何で今の今まで気づかなかった俺!? 

あれか!? この体になった事のショックが大きすぎて、思考が天然よりになってたってことか!?畜生! 

 

それに何で京都のボロ小屋まで戻ってきた!? 猿をぶっ飛ばしたその勢いで京都から出て行けばよかったじゃねぇか!? 

なんだか知らねぇけど、明らかに堅気の雰囲気じゃない奴らがうろうろしてんだぞ!? おまけに俺を見つけたら追ってきたし! おかげで電車じゃ京都から出れねぇ!

 

不審人物決定じゃねぇか……こんなろ~…!?

 

 

 

 

 

 

んで……結局また徒歩かよ。

そりゃ殆ど疲れはしないとはいえ、結構むなしいぞコレ。目立たないように林の中や裏通りばっかり選んで通るの。

…今までこんな怪しい姿の奴が、普通に通りを歩いている方がおかしかったんだけどな。

 

まぁ、今はそんなことは問題じゃない。問題は―――――

 

 

何処だここ!?

 

 

竹林に入り、山の方へ向かって歩いてもう三十分は経つのに景色が全く変わらねぇぞ!? くそっ、こうなったら……走る!

 

ある程度加減はするが、それでもかなりのスピードを出し俺は走った。しかし、さっきまでと全く状況は変わらない。

 

どうなってんだ!? こうなったら空だ! 

 

と、俺は空中から山頂を目指そうとする―――が、次の瞬間に俺がいたのは……先ほどの竹藪だった。

 

本当にどうなってんだこれは!? ………ん? あそこに道見たいのがあるな。もしや、あそこを歩けば出られるのか? もう手はねぇし、行くしかないか。

柵をまたいで―――

 

「あ! またあんた!」

「この人はっ……!?」

「ローブの人!」

 

またかよ!? コイツらとは何か縁でもあるのかよ!? 嫌な腐れ縁だなオイ!

 

「や、やいやいてめぇ! 何しやがったんだ、ここから出しやがれ!」

 

誤解だっつーの! えーと…紙とペンは……、

 

「何か出そうとしています!」

「させないわよ!」

「行けー姐さん!」

「え? ちょっとアスナさん、カモ君! まって―――」

 

”時よ止まれ!”

 

今のうちに歩きながら文字書いて、少年の傍に行ってと……

 

「ちょ、消えたぁ!?」

「ど、どこに」

「兄貴のとこだ!? いつの間に!」

「うわああぁっ!? ……あれ? 紙?」

 

文字読め文字読めと言わんばかりに、紙を突き出し揺する。

 

「えーっと…『誤解。閉じ込められたのは俺も同じ』…って、あなたもなんですか!?」

 

俺はそうだとうなずく。

 

「兄貴、騙されちゃだめだ! 隙を狙ってんのかもしれねぇぞ! ほら、姐さんからも!」

「う~ん……いや、勢い余って襲いかかっちゃったけど……思い出してみるとこのかを助けてくれたのよね? この人」

「はっ! そ、そうでした!」

 

オレンジと黒髪の妖精がネズミの言った事を否定してくれた。筆談一つでこんなに変わるのか……言葉ってすげえな。……いや、一昨日の事があってこそか。

 

「それにカモ君。刹那さんにも、怪しいって理由だけで疑ったよね? まぁ、刹那さんの時はしょうがないかもしれないけど、この人はもう三度も僕達に手を貸してくれてるんだよ? 疑う方がおかしくないかなぁ? ……見た目すっごく”悪”っぽいけど」

「たしかに……私の本体が襲いかかったのにも関わらず、気絶だけで済ましてくれましたしね……しかし、カモさんの言うとおり怪しいのも確かです。道中、警戒させてもらいますよ」

 

”悪っ”ぽいか。まぁ……それはしょうがな―――ちょっとまて、”道中、警戒はさせてもらう”? その言い方だと俺とお前らがこれかろ一緒に行動するみたいな………。

 

「とりあえず今は、お互いの目的は同じなんです……手を貸して下さい、ローブさん!」

 

お人好しすぎるだろ、この少年!? オレンジ髪とネズミほうはやれやれって顔してるし!

………今さらあがいても手遅れだな、コレ。しょーがねぇ……。

 

『DIO(ディオ)だ』

「え?」

『俺の名前、DIOだ』

「あ、はい! よろしくお願いします! ディオさん!」

 

あ~……何でこうなるかな~…―――――

 

「ほ~、千草の姉ちゃんが言っとった”強い奴”か……」

「!? 誰!」

 

オレンジが叫ぶと同時に巨大な蜘蛛が降りてくる。背に黒髪の少年を乗せて。

 

「おもろなってきたやんか!」

 

――――本当に、何でこうなるんだ?

 



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別にいいだろ……たまには傍観させろ!

「ほな戦ろか……ローブの大男!」

 

そう言うや否や黒髪の少年は走り出し、こちらに向かってくる。

 

時を止めてすぐに仕留めるのは簡単……だが、そんな戦闘ばっかりじゃあ、行く先々で普通以上に怪しまれちまうし、相手によっては苦戦するかもしれねぇな……ならここはっ!

 

〔無駄ぁ!〕

「ぬごっ!?」

 

向かってくる黒髪を、ハイキックを繰り出して弾き飛ばす。………この戦闘は、時止め無しだ!

 

「へへっ……やるな大男! ”気”の防御をこんなにあっさり抜いてくるなんてな!」

 

黒髪は構えなおし、再び向かってきた。

 

 

 

 

side三人称

 

 

「おらぁ!」

〔無駄ぁ!〕

 

黒髪少年の拳をいなし、大男はすぐさま二発ジャブを入れる。が、予測していたらしく、何やら符と黒いもので防がれる。それでも衝撃を殺し切れなかったらしく大きく吹き飛んでいった。

そして体勢を立て直そうとした少年の目の前に……

 

「うおっ!? マジかいな!?」

 

岩のようなものが飛んできた。おそらく大男が投げ飛ばしてきたのだろう。少年は間髪いれずに飛んできた事に多少驚いたものの、岩を拳で砕き、攻撃を無効化した。

 

「びびったが……こんなもんぶご!? (しまった!? さっきのは囮か!)」

 

そう、先ほどの一撃は囮であり、岩を砕いて隙が出来たのを逃さず、大男は強烈なストレートをお見舞いしてきた。

 

(型と戦法はめちゃくちゃやし、動きも素人じみとるけど……やっぱ強いなこの男!)

 

強敵との戦闘に、高揚する黒髪の少年。しかし、一方の大男、DIOこと”ザ・ワールド”はというと……

 

(メガネの少年たちに押し付けて、俺は傍観したいんですけど! 本音を言うと!)

 

実に情けない事を考えていた。ちなみに件のメガネの少年達・ネギと仲間たちが戦闘に参加しない理由はというと、目で追うのが精いっぱいでこの戦闘についていけず、おまけに魔法が当たったらまずいからと魔法を唱えるのもやめていたためである。他にも、大男の実力と技を見極めるため……敵にまわったときの為に対処しやすくする為(ネギは渋ったが)という理由も一応ある。

 

「これならどうや! ”狗神”!」

 

少年が叫ぶと同時に、足元の陰からぞろぞろと黒い犬・”狗神”が現れた。さらに―――

 

「そして、これが”影分身の術”や! いくで!」

 

四方八方からの、狗神と”気”を纏った拳が迫る。

 

「な!? ディオさん!」

「まずいぜ! あれはかわせねぇ!?」

「一昨日より数は少ないですが、質はケタ違いです! これでは……」

 

しかも、もし本体が別の場所にいたらと考えると……かなりまずい状況だ。

 

 

―――――その状況に置かれた者が……”ザ・ワールド”で無かったらの話だが。

 

〔無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄あぁっ!〕

「ぐおぉおっ!? (なんやてぇ!?)」

 

拳が幾重にも、数十以上にも見えるほど打ち出され、分身と”狗神”はあっさりと消される。

 

「うっそーん……」

 

それを見たネギ達、絶句。カモは思わずつぶやき、明日菜などは目を丸くしてしまっている。

 

「ぐがあっ!」

 

どうやら本体も混じっていたらしく、”ザ・ワールド”の拳を受け打っ飛ばされる。

 

(不味いな……こら本気で勝てん。 千草姉ちゃんの言っとった”謎の瞬間移動”も使っとらんし、………こうなったらホンマの奥の手や!)

 

「いくで……こっからが本番…これで終いにしたるわぁっ! おおおぉぉっ!!」

 

獣のように黒髪の少年は咆哮を上げる。それと同時に体がみるみると、本当の半人半獣へと変化していく。

 

「ええ~っ!? なにあれ!?」

「じゅ、獣化かよ!?」

「変身……した!?」

「あれが奥の手ということらしいですね!」

 

しかしその姿を見ても、”ザ・ワールド”は動じもしない。黒髪の少年はその姿を見やり、苦痛のある顔に、喜びの表情を浮かべる。

 

(凄いなこの男……。瞬間移動無しでもここまで力の差があるんや。……小細工なしに勝負を挑んできてくれるこいつは……本物や!)

「おい! 俺の名は犬上小太郎! お前の名、教えてくれや!」

 

それに答えるように、”ザ・ワールド”は一枚の紙を出した。

 

『事情があって俺はほとんど話せない。だからこの紙で伝える。俺の名は……DIO(ディオ)だ』

「……へへっ。――――――いくでぇ!」

”コクッ”

 

お互いに構え、足に体重をかけ、腕を引絞る。そして―――――

 

「うおおぉぉぉっ!!!」

〔オオオオォォォ!!!〕

 

 

お互いの咆哮と共に拳がぶつかり、途轍もない衝撃波を発する。竹林は強風に煽られたようにしなり、ネギ達は余りの勢いに踏ん張らざるを得ない。

 

「うわああぁっ!?」

「きゃああぁっ!」

「うぎゃあぁーっ!?」

「くうっ!?」

 

そして衝撃波による風も止み、えぐれた石畳の上に立っていたのは………

 

「ディオさん!」

「やった……やったぁ!」

「勝っちまった! すげぇ!」

「凄い余裕ですね」

 

DIO……”ザ・ワールド”であった。

 

 

sideout

 

 

side”ザ・ワールド”

 

なんか、熱血マンガみたいに相手の名乗りや攻撃に答えて、あまつさえ倒しちまったけど……良かったのかコレ? 

それにしても、スタンドすごいよな本当に。魔法とか”気”とか無しでも鍛えて行けばマジで十分やっていけるよ、オイ。

 

「すごいです! ディオさん!」

「いや、本当にあんた魔法や”気”も使えない一般人かよ……」

 

ああ。 正確には一般”人”じゃないけどな。

 

それにしても……ここからどうやって出るか―――つーかこいつら、

 

「無駄無駄無駄無駄無駄っ! いやーなんかハマっちまったよ兄貴。アレに!」

「よし、ぼくも………無駄無駄無dふがぺ! ひたかみまひた~!?」

「兄貴ー!?」

「何やってんのよあんたら……」

 

いや、本当にお気楽だな。お前ら。

 

 



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こりゃ逃げられねぇ……

え~……あのあと小太郎少年に脱出方法を聞いて、無事に脱出が出来ましたが……少し混沌とした状況になっております。

今の状況を簡潔に述べさせてもらうと―――

 

・少年の教え子の一人に魔法がばれ、小さい黒髪の妖精が消えた。そんで、俺に瞬間移動で助けに向かってくれと懇願・ ということである。

 

「ディオさん、お願いします! 僕も後で向かいますので!」

「ネギ、あんた親書はどうするのよ!」

「とりあえず後回しです! 今はこのかさんの様子を確かめないと!」

「でも、ここからじゃ距離がありすぎるわよ!?」

「ちび刹那さんの符を使います! これで小さい僕を飛ばすことは可能なはずです!」

「よし、分かった。俺っちも付いていくぜ」

「へ? ふえ?」

 

おい、会話についていけてない奴がいるぞ。俺もだけど。

瞬間移動で先に向かってくれか………。”瞬間移動”じゃないんだけどな……アレ。とりあえず全部は無理だけど教えておくか。

 

「ディオさん! あなたは先に……ん? 『俺の瞬間移動は遠くへはいけない』……そうなんですかぁ!?」

 

厳密にいえば”時を止めて”いるんだけどな。

 

「なら……ディオさん、ここでアスナさんとのどかさんを守っていてくれますか!?」

 

この状況じゃ逃げるに逃げられねぇし(逃げたら後々面倒なことになりそう)………しょうがねぇ…。

 

『……分かった』

「有難うございます! ……では、行ってきます」

 

いってきますって、いったいどうやって――――

 

「よし! 出来た!」

 

うぉ! 小っさい眼鏡の少年出てきた!?

 

「あらよっと。いいぜ兄貴!」

 

あんな小さいのに頭にオコジョ乗っけても大丈夫なのか? ……大丈夫みたいだな、コレ。 

 

「じゃあ、お願いしますねディオさーん!」

 

そう言うと眼鏡の少年はどうやってるのかは分からない(それを言うなら俺の飛行もだけど)が空に浮かび、目的地へと飛んでいった。

少年の”本体”は、眠っているかのように動かない。

 

いや、ほんとに寝てるみたいだな、これは。

 

……さてと、しょうがなかったとは言えども、頼まれごとはきっちりと……

 

「お茶がおいしいわね~…」

「はいー♡……あ、ディオさんもどうですか?」

 

緊張感がねぇ!? 敵一人を退けただけでもうリラックスモードかよ! たっく……

 

『そんなに落ち着いていて大丈夫か? 敵が襲ってきたらどうする?』

「大丈夫、ディオさんが守ってくれるでしょ?」

「あんな事が本当に出来るなんて……ディオさんすごいんですね~」

 

オレンジ! お前人頼みかよ!?  そして前髪! 何であの場にいなかったお前が知ってるんだ、戦闘の事!

 

「それにしても、本屋ちゃんのアーティファクトはすごいわね。相手の思考を読み取れちゃうなんて……絵がほのぼのしてるから緊迫感が出にくいけどね」

 

あーてぃふぁくと? ……まぁなんだかよく分からねぇけど、とにかくあの前髪は読心術が使えるってことで―――――いや、離れた奴の心をどうやって読むんだ!?

 

「はい。この絵日記、本当にすごいですよね」

 

あーてぃふぁくっとって絵日記の事なのか? 絵日記の名前か? 

 

「でも、アスナさんのアーティファクトもすごいと思いますよ」

「いや……いくら能力すごくてもハリセンだしなぁ…」

 

あ~……分かった。アーティファクトって道具の名前か。

 

つーか俺、本当にネギましらねぇから全部一からだよ……原作知らないってこんなに辛いのな……。まぁ、知ってるよりは驚きがあって人生楽しいだろうけど。

――――ん? 何か急に静かに、

 

「ぐかー…」

「すぴー…」

 

寝てんのかよ!? そんな素振り見せなかっただろお前ら! っていうか、こんなローブの男の前でよく眠れるな!? …………初対面の奴を信頼しすぎだ!

 

……なんか考えすぎて頭痛てぇ。 何も考えずぼーっと待ってよ……。

 

 

 

■ 

 

 

 

……あれから何時間たったんだ? 目の前の少年少女は相変わらず寝ているし……俺としてはこの頼みごとを終えてさっさと山奥にこもりたいんだが……。

 

「おーい、アスナー」

 

誰か来たみたいだな……これでもういいだろ。それに誤解されるとまずいし……

 

”時よ止まれ!”

 

これで逃げてっと―――――って、この道広! 二秒じゃ近くの茂みまでじゃねぇか!? 隠れねぇと……。

 

「うわ~呑気に寝てるし。……おーい起きな! ネギ君、アスナ、本屋!」

「ん? ……あ、ハルナさん。それに班の皆さんも」

「ん……ふあ~…なんか寝過ぎたわね。体がだるい~…」

「そうですね……ふわぁ~…」

「あれ!? そう言えばディオさんは!?」

「本当だ! いない!」

「ディオ? 誰なのですか、その人は?」

「えっと……何と言いますか」

 

良し、もういいだろ。

 

”時よ止まれ!”

 

全力ダッシュだっ! うおおおぉぉ!! 説明しづらい状況になってるとか知らんもんね、俺!

 

 

 

 

 

さ~て……山奥にも来れた事だし、早速特訓を開始しますか! 

 

俺は気合を入れたのち、自分の中にある”感覚”を徐々になじませていく。やっとコツをつかんだ、”時止め”の練習方法の一つで、エンヤ婆の言っていた”時を止めるのが当たり前”ということを意識する練習でもある。

 

中々にきついんだよなこれ。まぁ、”時止めの代名詞”みたいな存在に転生したことで神経すり減ったりしないのがいいな。

 

長時間の精神トレーニングを終えた後、俺は筋トレに入った。

メニューは、腹筋・背筋・腕立て・スクワットに加え、相手がいると想定して戦うトレーニングも行う。

 

時間系の能力がこの世界に無いとも限らないし、こういう特訓は欠かさず行った方がいいよな……大抵のオリ主って努力しなくてもクソ強い(チート)か、努力しなかったから負ける(強者)の二つ。その”俺調べ”の中で俺を分類するなら(二つしかねぇけど)後者だろう……だからこそ特訓しねぇとな。

 

 

良し! 今日の特訓は終了―――――ん? もう暗くなってんのか、早いな。

にしても、山奥はいいよな! 人来ないし、原作だってテキトーな山の中にはやってこないだ―――――

 

――――なんか、向こうに祭壇みたいなもんが見えるんだが……!? まさか………

 

”ドオォォン”

 

嫌な予感と同時に、計ったように爆音が聞こえてきた

 

―――やっぱりな!? こうなると思った! ちくしょう!!

 



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これがぁ……切り札の一つだああぁっ!!

落ちつけ……落ち付け…そうだ、餅つけ俺……餅ついてどうすんだよ! ってあ~!! こんなくだらないこと考えてる場合じゃねえっての!

 

ここはあの祭壇みたいなもんの近くだし、運が悪くなくても色々巻き込まれちまう! 早く離れて―――

 

「……孫の……にして……赤玉の…」

 

うおぉ!? 光りだしたうえに水飛沫も舞ってやがる! 早いとこ逃げないと………

 

「…朝臣……近衛木乃香の……」

「んぐっ! んんーっ!!」

 

!? あそこの台に乗っけられてるの、一昨日猿にさらわれてた黒髪ロングの少女か!? …なんか苦しそうな、違うような………。いやいや!? 滅相なこと考えるなよ俺! あいつを助けようなんて―――

 

「茂しゃく……如く……る」

「んぐぐぅっ!」

 

そうだ、一時のお人好し感情から来る罪悪感なんざ無視すればいい……

 

「生く魂・足る魂・神魂なり!!」

「んーーんっ!!」

 

ぐっ……水飛沫と光の柱の眩しさが強くなってきた…! 出来るだけ遠くに離れるか。

……悪いな黒髪ロング、でもこれ以上厄介事にかかわりたくないんだ。俺は。あばよ…。

 

 

 

 

side三人称

 

天ヶ崎千草が行っている儀式は順調に進み、もう少しという所まで来た。

 

「まだですか?」

「もうすぐや、新入り!」

「そう………。!? なんだ、この気配……!?」

 

白髪の少年は頷き、再び光の柱の方を無効として………何かがこちらに来るのを察知し、少し驚く。ものすごいスピードで来ることも驚愕だが、そんなスピードを出しているにもかかわらず、その存在には魔力も気も感じなかったからだ。

 

「どないしたんや!」

「誰か来ます……あの少年ではない誰かが」

「何!? 誰かって誰や!?」

「魔力や気、それに準ずる力すら感じません」

「……!? なんやそれ! そんな―――」

 

千草はその無茶苦茶な答えにそんな事は無い、と応えようとしたまさにその瞬間。

 

〔オオオオオオオォォォォ!!〕

 

すぐ真横の水面が爆ぜ、聞き覚えのある咆哮と共に―――――

 

「お、お前……お前はあぁぁっ!?」

 

見覚えのあるローブの姿が現れた……以前以上に目をぎらつかせて。

 

 

 

side

 

 

 

side”ザ・ワールド”

 

俺はアホだ……あいつらにお人好しだのなんだの言っておいて、……自分もこんなにお人好しじゃねぇかよ……! 

でも、やっぱ見捨てられねぇんだ! 前世ではこの性分のせいでめっちゃ苦労したけど……この性分を恨んだりもしたけれど―――

 

―――やっぱり見捨てられないんだよ!! ちくしょう!

 

こうなった以上、儀式みてぇなのを止めてやる!

 

「ルビカンテ、あの男を―――」

 

お前ら何ぞに付き合ってる暇は……

 

〔無駄あぁっ!〕

『ブゴオ!?』

「…! 拳一発でルビカンテを……!」

 

無いんだよ、クソったれ!! 

ん? ……そういえば、さっきの奇襲に入る時……二秒以上、時止められてたような…。

 

少しだけ煩悶する俺の耳に、何かが飛んでくる音が聞こえる。振り向くと、そこには眼鏡の少年がいた。

 

「ディ、ディオさん!? ……まさか、助けに来てくれたんですか!」

「おお! あんたがいれば百人力だぜ!」

 

……てっきり誤解するものかと―――そうか、あいつらと向かい合っていればそうはみえないよな。

 

「ディオさん、あなたは儀式停止をお願いします!」

 

そう言うや否や、眼鏡の少年の拳と白髪の少年の”何か”ががぶつかった。

 

「行け行け兄貴! さっき小太郎の野郎も倒せたんだ、今の兄貴ならいける!」

 

よし、こっちは大丈夫そうだ……って、あの黒髪眼鏡がいねぇ!? 一体どこに―――

 

と、あたりを見回す俺の視界に、ドオオオオオオォォォォォ!!、という轟音を立て、巨大な光の柱が現れた。

 

で、でけえ! 何だあの光の柱……まさか!?

 

「儀式は今しがた終わりましたえ……一足遅かったようですなぁ……」

 

何だ、あのでかい鬼みたいな化けものは……。

 

「これぞ『リョウメンスクナノカミ』、千六百年に討ち倒された、二面四手の大鬼……大鬼神や」

 

くそっ……俺が保身ばかり考えなけりゃあ……!! 

 

来れ雷精、(ウェニアント・スピーリトゥス)

風の精(・アエリアーレス・フルグリエンテース)!!」

 

「あ、兄貴やめろ! もう兄貴の魔力は限界なんだ、下手したら!」

 

雷を纏いて、(クム・フルグラティオーニ・)吹きすさべ(フレット・テンペスタース・)

南洋の嵐(アウトリーナ)!!

 

雷の暴風(ヨウイス・テンペスタース・フルグリエンス)!!!」

 

うお!? あの時よりもでかい! これならあのデカブツにも少しは……

 

しかし、化け物は防御すらしていないのに、パチイイィィン、と情けない音を立てて、魔法弾かれてしまった。

 

効いてねぇ!?!

 

「それが精一杯か!? まるで効いてヘんなぁ、あははははっ!」

 

くそ……どうすりゃいい……どうすりゃ……!?

 

「残念だったね、ネギ君……善戦だったとは思うけど…」

「ぐぅっ……」

 

少年もピンチかよ!? 

 

「魔力だけでなく体力も限界か……それじゃ終わりにしよう―――」

召喚(エウオケム・ウオース)! ネギの従者(ミニストラ・ネギィ)

神楽坂 明日菜(カグラザカアスナ)! 桜咲 刹那(サクラザキセトゥナ)!」

 

と、眼鏡の少年が呪文らしきものを唱えると同時に地面が光り、オレンジ髪の少女と半デコの少女が現れた。

 

「あ、あんたはディオさん!」

「来てくれたのですね……しかし、儀式は成功してしまいましたか…」

 

くそ……めちゃくちゃ罪悪感が……。

 

「……ヴィシュ・タルリ・シュタル・ヴァンゲイト…小さき王(バーシリスケ・ガレオーテ)

八つ足の蜥蜴(メタ・コークト-・ポドーン・カイ)

邪眼の主よ(カコイン・オンマトイン)

「な! 呪文の始動キー!? しかもこの魔法……!? 早くあいつを止めろ!」

時を奪う(プノエーン・トゥー・イウー)

「無理です! 間に合わない!」

 

……いや、

 

”時よ止まれ!”

 

無理じゃねぇ!

 

「トン・クロガバッ!?」

〔無駄ぁ!〕

「ガアッ!?」

 

止まっている最中にアッパーを一発、動き出したと同時にストレートを一発お見舞いした。白髪は殴られた勢いで遠くへ飛ぶ。

どうだ!

 

「す、すげえ!? 止めちまったぜ! さすがディオの旦那!」

「相変わらずの”超”瞬間移動ね……」

「有難う…ございま……? 『悪い、止められなかった』……いえ、それは僕の責任でもありますから」

 

ちがう、保身ばっかり考えていた俺が情けなかったんだ。本当は原作にかかわりたいのに、自分に嘘ばかり付いていた自分が……。

 

うつむく俺と満身創痍な眼鏡の少年たちに、半デコ剣士が声をかけてきた。

 

「……お三方はすぐ逃げてください。 お嬢様は私が救いだします。 私なら……千草とお嬢様のいる上空まで行けますから」

「でも! あんな高いところまでどうやって!」

 

そうだ……ジャンプして届いたとしても、すぐ落ちちまうぞ?

 

「……実は…このかお嬢様にも秘密にしていた事があるのです……”コレ”を見られたならば、お別れをしなくてはなりません」

「「え……?」」

「ですが……今ならば…っ」

 

そう言って半デコが身をかがめ、広げた瞬間―――

――背中から白い大きな翼が、淡い光を纏い現れた。

 

「これが私の正体……醜い姿の…奴らと同じ化け物です」

 

醜い……だと…? これが…?

 

「ですが勘違いしないでください! この姿の事を秘密にしていたのは、お嬢様に嫌われるのが怖かっ……あいた!?」

 

俺は、出来るだけ加減して頭をはたいた。

 

「ディオさん!?」

「旦那!?」

「いたたっ……な、何を―――」

 

文句を言う前に、俺は一枚の紙を差し出した。

 

「……『何処が醜いだ……綺麗じゃねぇか、こんなに白くて綺麗な翼は見たこと無い』……え?」

「そうよ! こんな翼が生えてくるなんてカッコイイじゃん、刹那さん!」

「! 神楽坂さん……」

「それにさ、”このかに嫌われる”? あんたさ、幼馴染なうえ二年間も陰からこのかを見守ってきたのに、あいつの何を見てきたっていうの?

 

……この程度でこのかが嫌うはず無いじゃない!」

「あ……!」

 

はっ、とする少女剣士の前に、もう一枚の紙を差し出す。

 

「…『それに、俺だって飛べる。お前にばかり任せておいては、失敗した償いにならない』…………ディオさん……」

「それじゃ、言って刹那さん! ディオさんは空から、私たちは陸から援護するから!」

「勿論です! アスナさん!」

 

……なんかいい雰囲気じゃねぇか、これなら正体を明かしても……いや、まだ早いか。

 

「ネギ先生……このちゃんの為に頑張ってくれてありがとうございます」

「刹那さん……」

「行きますよ! ディオさん!」

 

少女剣士が飛び出すと同時に、俺も飛ぶ。鬼の見かけはかなりの巨体だが、黒髪眼鏡の所まではそう時間はかからなかった。

 

「な……お前、空も飛べるんかい!? 反則や!」

 

反則なんざ知らないな! それに、お前だって大鬼つれてんだから十分反則だ!

 

「スクナノカミ! 撃ち落としてしまえ!」

 

命令と同時に鬼が片腕を振り上げ、俺に叩きつけてくる。それを俺は真っ向から迎え撃つ!

 

〔無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無無駄ああぁぁっ!!〕

 

スタンドを……舐めるなああぁぁ!!

 

〔無駄あぁ!!〕

 

ドグオン! と、気合いをこめたラッシュと最後の一発により、鬼の腕が跳ね上がる。 腕を大分損傷したが……これぐらいはどうってことない!

 

「スクナの攻撃を止めて跳ねあげた!? んな、嘘やろ!?」

 

今だ! 少女剣士!

 

「天ヶ崎千草! お嬢様を返してもらう!」

「お前、神鳴流の―――――」

 

黒髪眼鏡が驚いている間に、少女剣士は目的を奪取した。

 

よっしゃ! 一つ目成功!後はあの大鬼だが……いったいどうすれば…… 

……そうだ! もし追加特典にアレが追加されているなら……もしかしたらイケるか!?

 

「鳥族とハーフやったとは……いや、スクナの力をもってすればすぐに!」

 

頼むぜ………いくぞ!

 

俺は、こちらから注意が逸れている間に鬼の頭上へと移動する。そして―――

 

”時よ止まれ!”

 

両腕を上に掲げ、”何か”を呼び出す。手に感触があったと同時にその”何か”の上に回り、鬼の頭上に落とす。

 

これこそがぁ―――――

 

世界最大の……タンクローリーだああぁぁぁ!! 

 

ってでかぁ!? 世界最大のタンクローリーでかすぎるだろ!? でもこれなら……

 

〔無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄あぁ!!〕

 

ラッシュラッシュラッシュ!!! 

 

「なぁ!? いつの間にこんなもんが―――」

 

”時止め”が終わったか!? だが……まだまだあぁ!!

 

〔無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄あぁ!!〕

 

世界最大のタンクローリーに乗られラッシュまでされている大鬼は、堪えているのか段々と屈み気味になっていく。

 

”時よ止まれ!”

 

これで最後だ!

 

〔無駄………無駄あぁぁっ!!〕

 

タンクローリーに一発、鬼の首に一発でかいのを入れる。 

 

これで…どうだぁ!

 

時が動き出すのと同時に、バグオオォォ!!! という爆発音が轟き、鬼は仰向けに倒れる。

相手も満身創痍らしく、寝転がったまま動かなくなった。

 

「そんな……そんなアホな……!?」

 

ボロボロな俺の耳には、女の驚く声と、

 

「やった……やったぁ!」

「すげぇぜ、旦那ぁ!」

「あのタンクローリー何処から出したの!?」

「なんかよう分からへんのやけど……」

「大丈夫ですお嬢様……勝ちましたから」

「……私の出番が減った……クソぅ……あのローブ……!」

 

少年たちの、驚きと喜びの声が聞こえてきた。

 

……恨みの様なものが聞こえた気がするが―――――まぁ、気のせいだろ。……気のせいに決まってる!

 

 



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覚悟ぐらい決めますかい

非常に情けない話だが、あの後本当にとどめを刺したのは金髪少女の氷の魔法だった。

 

鬼はまだ生きてたし、倒れたのも攻撃のショックのせいらしいしな。……その事をやたら繰り返し繰り返し金髪少女は言っていたが……そんなに最初から最後まで戦りたかったのか?

 

「いいかローブ! お前は弱らせただけ、とどめを刺したのは私だからな!」

「エヴァちゃん、そんなにムキにならなくても……」

「ムキになるわ! …久しぶりに全開でやれると思ったのに……」

「でも、とどめの美味しいところは持って行けて―――」

「途中のあのローブの方が目立っていた気がするがな! 私は!」

 

あ~…確かこいつ、あの街の中じゃ力を封印されてたんだっけ? …確かに全開でやれると思った矢先に一番最後のとどめだけ刺したら、そら消化不良だな。

 

「でも凄いですよエヴァンジェリンさん! 扱いの難しい極低温の魔法をあんなに簡単に、しかも高等な魔法まで使ってしまうなんて!」

「そ、そーか?」

「はい! 思わず見とれてしまいまうほど凄かったです!」

「そーかそーか! それは―――」

「でも俺的にはタンクローリーからの無駄無駄無駄! の方がすげえと思うけどな」

「……何か言ったか白ネズミ?」

「いいいえ、なな何も!!?」

 

たっく……さっきまでの乱戦が嘘みたいにドタバタしてんなこいつら………。

……ん……!?

 

ふいに金髪少女の後ろ何かを感じそこに視線を向けると、今まさに水たまりから飛び出ようとしている白髪の姿が見えた。

 

「危ない! エヴァンジェリンさん!」

「な!? ぼーや、お前何抱きついて……。……!」

障壁突破(ト・ティコス・ディエルクサストー)

「退けボーや!」

「うわっ!?」

”石の(ドリュ)

 

”時よ止まれ!”

 

俺は白髪の顔面に思いっきりストレートをぶち込んだ。

 

しつこいんだよ、白髪!

 

「ペト――――っ!」

 

白髪は吹っ飛びこそしなかったものの、大きく後ろにずれた。

 

「……やはり君は脅威だね。呼び動作すらない瞬間移動と攻撃。今は威力が落ちているみたいだけどそれでも、障壁越しでも確かに感じる攻撃の威力。そしてスピードと正確性……。

吸血鬼の真祖(ハイ・ディライトウォーカー)もいるんじゃ分が悪い……退かせてもらうよ」

 

やれやれ……ようやく本当に終わっ―――

 

「うぐっ……!」

「どっ、どどどうしたぼーや!?」

「ネギ!?」

「ひでぇ……石化がえらい所まで進んでやがる…」

「右側がほぼ石に……」

 

あの白髪最後の最後まで難題残しやがって!

 

「ネギ先生の魔法抵抗力が、石化の速度を遅くしているのですが……このままでは、首が石化した時点で息が止まり、窒息してしまいます」

 

マジかよ……! 如何したらいいんだ……!?

 

「……アスナ、ウチ…ネギ君にチューしてもええかな?」

「何言ってんの、このか!? 何でこんな時にチューなんか―――」

「ちゃうってアスナ……パクティオーとか言うや。それなら何とかなれへん?」

「あ……!」

仮契約(パクティオー)は、対象の潜在能力を引き出すらしいし……このか姉さんが見せたあの治癒力ならもしかすると……」

 

……駄目だ、話の内容が分からない…。

 

「ウチ……せっちゃんから今日の事聞きました。…ありがとうな。こんなにたくさんのクラスのみんなに助けてもろうて……。……ありがとう」 

 

そういって、黒髪少女は眼鏡の少年を抱きかかえ、唇にキスをした。とたんに眩い光を発し、鬼が現れたのとは違う温かな光が辺りを照らす。そして―――

 

「この…か……さん? …無事なんですね、よかった。本当に」

 

少年は目を覚まし、その場にいた少女たちは歓声を上げた。

 

さてと……。

 

”時よ止まれ”

 

俺は時を止め、猛スピードでこの場を去る。

 

普通じゃない体と力を持つ以上、無理やり”普通”であろうとするのは逃げでしかないし、何時かばれる時が来る。……転生前の性分もあって、簡単には見捨てられないしな……。

それに”スタンド使いは引かれあう”っていうし、その基準が厄介事にも通じるなら、逃げたとしてもまた厄介事に関わっちまうだろう。なら……その時の為に力付けとかなくちゃな。

 

今回勝てたのは精神が物凄く高揚していた……つまり一時的に“精神パワー”が高かったからだ。現に、二回目にあの少年に拳を入れたときは威力が落ちていたしな。魔法や“気”が使え無い体だからこそ、もっと強くならにゃあな。

 

 

sideout

 

 

 

 

side三人称

 

 

「本当によかった……心配させないでよネギ…」

「あはは…すみません…」

「でも、無事でよかったわー…ネギ君」

 

談笑する皆を見ていた刹那が、ふとある事に気付く。

 

「そう言えば……ディオさんの姿が見えないのですが……」

「マジだ! ディオの旦那の姿が無い!」

 

そう、ローブの男・ディオの姿が、いつの間にやら消えていたのだ。

 

「もう行っちゃんたんですか…ディオさん…」

「…ウチを助けるのに協力してくれた人やろ? 御礼言いそびれてしもうた…」

 

少々しんみりする皆に、龍宮と明日菜が声をかけた。

 

「その男……ディオの目的が何であれ、味方には違いないのだろ? まだ怪しい部分もあるが……とにかく、味方ならまた会えるんじゃないか?」

「そうよ! これが今生の別れじゃないんだし、今日お礼が言えなかったぐらいでへこまない!」

 

その言葉を聞いて、少々沈んでいた者たちは頷き立ち上がる。

 

「そうですね……!」

 

そしてネギは空を見やり、思う。

 

(ディオさん……また会いましょう!)

 

それはそう遠くない、再開への誓いだった。

 

 



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ずいぶん飛んだな……あれから何週間だ?

…京都の事件から数週間後……

 

俺は今、一度出たあの街の(確認したら麻帆良というらしい)山奥に、簡単な住居を構えていた。

好む好まざるに関わらず向こうから災難がやって来るならば、逃げていても仕方ないと思ったからだ。

 

それに元々、原作には関わるつもりだったしな。

 

あれから特訓のメニューも量も増やし、強くなっていると実感も出てきている。時を止めるのも3秒まで延長できるようになったのは、かなりの強みだ。

 

だが、やっぱりネックになっているのは”経験不足”だ。

今の俺は、力任せに殴りつける、蹴りつける事しかできず、連携なんてあったもんじゃない喧嘩殺法だ。ラッシュだってほぼ力任せにやっているだけだしな……。経験豊富な者や、”技”を使う者にあったらちょっと不味いかもしれない。

それに、追加特典の”DIOの使った道具のみなら呼び出せる”も、今は条件が整っていないらしく使えない。

タフネスや傷の治りの速さに頼りっきりなのもまずい。

 

誰か練習相手でもいればなぁ………。

 

そこで俺は、もう食料が少なく、買いに行かなければならない事を思い出す。腹がかなり減りにくいといっても減るもんは減る。金はあるので、そこは安心だ。

 

さーて、買い出しに行きますか…。……ちゃんとローブ来て。

 

 

 

 

 

”食いたいものだけ食ってたら体を壊す”……良く言われる事だが、俺の”ザ・ワールド”となった体にとっては、別にそうでもないらしい。多分、エネルギー補給の意味しかないんだと思う。

ま、好きなもんばかり食っていいってのは嬉しいな。……俺好き嫌い無いからあんまり意味無いが。

 

そういや、この街の人たちってローブ姿の怪しい奴(俺)を見ても、驚きはするが通報はしないんだよな……何故だ? ―――ってあ~……いつの間にか雨降ってやがる…。傘買ってくか。

 

 

ちくしょう、また迷った! この街やっぱり迷路かなんかだろ!? ……愚痴ってても仕方ないか。

ど・ち・ら・に・し・よ・う・か・な・て・ん・の・か、み・さ・ま・の・い・う・と・お・り……こっちだ!

 

指差した方向に歩いていくが、見えてきたのはボロ屋ではなく立派なスタジアムと巨大な樹の張り巡らされた根。……つまりはずれ。

 

あー! いらつくなオイ!?

 

”バガアッ!!”

 

そして何かの破砕音……災難やってくるの早すぎる!? 

よく見ると、何人か見知った顔が囚われているのが分かる。

 

ってーか、眼鏡の少年の隣で戦ってるあの黒髪は、京都で戦った小太郎少年じゃねぇか。 仲間になったのか?

 

俺はとりあえず、状況を把握するため傍観することにした。

 

 

 

sideout

 

 

 

 

side三人称

 

一見、ただの老人のように見える男が構えを取る。

 

「悪魔アッパー!!」

 

叫ぶと同時に放たれたアッパーカットは、まるで巨大な何かで抉ったよなあとを目の前の観客席に残した。

 

(なんやねんこいつ!? 呪文無しで西洋魔術みたいな攻撃打ちやがった!)

 

殆ど立て直す暇もなく次々と飛んでくる拳に、ネギも小太郎もどんどん押されていく。

 

「うあっ!」

「ぐはぁ!」

 

何とか防ごうとするものの、ガードの上から二人とも弾き飛ばされ、地に伏せてしまう。

 

「ふむ……先ほどの動きは良かったのだが…この程度かね。ネギ君……君は、私が手を下すほどでも無い者のようだね」

 

その告げる男の顔からは、落胆と呆れがありありと見て取れた。

 

「何言うとるんや、まだまだやで! なあネギ、まだ行けるやろ!」

「うん! 当たり前だよ!」

「いくでぇ!!」

 

杖と拳の連続攻撃をしかけるが、またも簡単に防ぎきられてしまう。ネギ達のコンビプレイは、初めてとは思えないほど息が合っているのにもかかわらず……だ。

そして男は、ネギにある一つの事柄を問いかけた。

 

「ネギ君……君は本気で戦っているのかね? 私が思うに、君は手を抜いているのではないのかね?」

「何を言っているんですか!? 僕は本気です、本気で戦っています!」

「やれやれ……サウザンドマスターとはまるで正反対、戦いに向かない性格の息子とは……」

「!?」

 

”サウザンドマスター”……その言葉に反応するネギだが、問いを投げかける前に男の方から問いが来た。

 

「もう一つ問おう……君は”何のため”に戦っているのかね?」

「な、何のため……に?」

「そう、何のためにだ……。小太郎少年を見たまえ、実に……とてもうれしそうに戦う。だが君は? 君が戦うのは仲間の為かね? ……くだらないそんな物では期待はずれもいいところだ」

 

そして一つ置き、また話し始める。

 

「戦う理由は自分だけのものだ、常にそうでなくてはいけない。特に「怒り」や「憎しみ」などはいい……「復讐」も最高だ。もう少し健全に言うならば「強くなる喜び」でもいい、そうでなくては戦いは面白くない」

「戦いが面白い……? 僕…僕が戦うのは―――」

「一般人を巻き込んでしまった責任感と、彼女達を助けなければならないという義務感かね? 義務感なんて、そんなつまらないモノを糧にしても本気になどなれないぞ……?」

 

男は不意ににやりと笑い、帽子に手を当てた。

 

「それとも、君が戦うのは――――

 

…あの雪の舞う、悲劇の夜の記憶から逃げるためかね?」

「な、何故それを…!? ……い、いや違う、違います僕は――」

 

男の口から出た言葉に再び驚愕し、否定しようとするネギ……だが、男はそれを許さない。

 

「それでは……これなどはいかがかね?」

 

そう言って帽子を外した男の顔は………ねじれた二本の角が付き、考えの読めない不気味な目があり、口はジャック・オ・ランタンの口のような形に裂けていた―――異姿の顔だった。

 

「あ、あいつは……!? ネギの村の…!」

 

縛られている状態のアスナ……彼女が驚くのも無理はない。あの顔は、かつてネギの村を壊滅させた悪魔のうちの一人の顔だったからだ。この話を映像媒体として知っていたからこそ、彼女の驚きはかなりのものだった。

 

「そう……君の仇だ、ネギ君。……私はね、あの日に召喚された悪魔たちの中でも、ごくわずかに召喚された爵位急悪魔の一人なんだよ」

「……」

「君のおじさんを、その仲間を石化し、村を壊滅させたのもこの私……ヘルマン伯爵なのだよ。

どうかね? 自分の為に戦いたく―――」

 

その先を言う前に、ネギは恐るべき速度でヘルマンの懐へと入った。その目は……憎しみ一色に染められていた。

 

「むぅ……!」

 

ネギの攻撃の激しさにヘルマンは防御に回るのみ、先ほどとは逆の展開になっていく。

 

「何なんやあの動き!?」

「魔力の暴走(オーバードライブ)か!?」

「お、オーバー……ドラ、え―――」

「それ以上は言うなッ! ………兄貴の最大魔力は膨大なんだ! 今はまだ使いこなせていねーが、何かのきっかけでそれが解放されれば……!」

 

だが、スピードとパワーは申し分ないものの攻め方が無茶苦茶で、このままではそれを利用されてしまう。

 

「ふはははは! すばらしい……すばらしいじゃないか! これが見たかったのだ! 

――――そう、それでこそサウザンドマスターの息子だよ!!」

(ネギ……確かに今のお前はすげぇ……けどそれじゃアカン……そんな戦い方じゃアカン!)

 

嫌な予感がすると同時に、ヘルマンの口が光る。小太郎は駆け出すが、この距離では間に合わない。

 

(惜しい才能だ……将来も見てみたくなる………だが―――)

 

「くそ……ネギイィィーッ!」

「ネギッ!! 危ないっ!!」

 

(才能ある者が潰えるのを見るのも……一つの楽しみだよ!)

 

そしてヘルマンの口から―――

 

〔無駄ぁっ!〕

「ガバァ!?」

 

――石化の光線が放たれる事は無かった……一人の大男の拳によって。

 

 

sideout

 

 

 

side”ザ・ワールド”

 

 

危ねぇ、危ねぇ……少年が光線食らう所だった…。ちょっと呑気に傍観しすぎたな。

 

「むぅ、気配は感じていたが……こんなに近づかれ殴られるまで来ていたとはな」

 

そりゃ時止めて来たからな……今考えても反則だよな”時止め”。

 

「ふむ? 君からは魔力も呪力も感じないが……いったいそれは―――」

「アホがーーーっ!!」

「あだぁ!?」

 

なんだ!? いきなり殴られたような音がしたぞ!? ……小太郎が眼鏡の少年を殴ったのか!

 

「ここ、こた小太郎君!?」

「お前の底力が物凄いんはよう分かった……だけどなぁ! あんな闇雲で強引で最低な戦い方しとったら返り討ちくらうんは当たり前やで!? 結局決めても入れられてへんし、ディオの兄ちゃんが来とらんかったらお前やられてたんやぞ!?」

 

兄ちゃん? 俺の見た目だとおっちゃんが……ああ声か、声の高さか。

 

「ディ、ディオさんが……」

「頭よさそうな外見しとるくせに、仇かなんか知らんけど簡単に挑発に乗ってキレよってからに! このガキ、アホ!!」

「ふむぐ」

 

何だか知らないが……どうやら少し落ち着いたみたいだな。

 

「兄貴たちの方は大丈夫そうだ……ディオの旦那も来てくれたし、こっちはこっちで集中しようぜ」

 

ん? ……うお!? 捕らえられた少女達、素っ裸ばっかじゃねぇか! ……見なかった事にしとこ。

 

「それに、共同戦線っていうたやろ? あのおっちゃん協力して倒すで」

「うん……そうだね、小太郎君。―――――ディオさん、協力を頼めますか?」

 

紙に書いてと……

 

『わかった……だが、とどめはお前たちにまかせる』

 

いきなり乱入してとどめまで持っていくわけにはいかないしな。

 

「へへっ……まかしときぃ!」

「勿論です!」

 

俺たちの会話が終わったのを見計らったのか、数拍おいておっさんが話し始める。

 

「……私としては先ほどまでのネギ君の方がよかったのだが……まあいい。ディオ青年、君の実力に興味がわいたよ……行くぞ!」

 

はっ、来やがれ! 修行してパワーアップしたんだぜ、今までよりも!

 

「連発・悪魔パンチ(デーモニッシェア・シュラーク)ウゥッ!!」

〔無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄あっ!!〕

 

おっさんと俺のラッシュが、ドゴゴゴガガガガガガ!! とぶつかり合い、連続で衝撃波を発生させた。

 

「むうぅぅぅぅうううぅぅぅ…ああああああぁぁぁぁああぁっ!!!」

〔無駄あぁ…無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄あぁ!!〕

「む…ぐおおぉぉ!?」

 

初めこそ拮抗していたが、しだいに俺が押して行く。

 

「よし、ペンダントget! お待たせアスナ!」

「朝倉!」

 

向こうでも動きがあったか!

 

「のどか!」

「う、うん!」

「「封印の瓶(ラゲーネ・シグナートーリア)」」

『又瓶ノ中カヨ~~ッ!?』

『悪役デスシネ~……』

『イヤアァ~ンデスゥ~!?』

「む、なんと!?」

 

おっさん……劣勢の時によそ見は禁物だ!

 

〔無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄あぁぁ―――無駄ぁ!!〕

「ゴブオおぉぉぉっぐばあ!?」

 

隙を突いて跳ねあげる。

 

今だ、眼鏡の少年! 小太郎!

 

「ナイスや! ……おらぁ!」

 

小太郎がさらにアッパー掌ていを打ち込みそして、さらに

 

「”影分身”からの―――連打やあぁ!!」

「ぐおおっ! ―――ま、まだ――」

 

いや、終わりだ!

 

「どらぁ! ―――ネギ!」

〔無駄あっ!!〕

「ぬあっ!」

 

俺と小太郎二人で打撃を決め、そして出来た大きな隙に眼鏡の少年……ネギが入りこんだ。

 

魔法の射手(サギタ・マギカ) 雷の一矢(ウナ・フルグラーリス)……攉打頂肘!」

「ぬぅぅうっ」

「ラ・ステル・マ・スキル・マギステル! 来たれ虚空の雷(ケノテートス・アストラプサトー)薙ぎ払え(・デ・テメトー)――――

 

雷の斧(ディオス・テュコス)!!」

 

ドオォン 、という雷鳴がとどろく音と共に、雷の刃がおっさんの体に直撃した。起き上がってこないところをみると、気絶したようだ。

 

……勝ったか。 この戦い。

 

 

 

 

雨脚が弱くなってきたな……そろそろ止むか。

 

「あ、あのディオさん」

「あの~…ディオはん」

 

ん? ネギと……あの時のお嬢様?

 

「「あの時は、有難うございました!」」

 

すげえ、ハモッた! ……じゃなくて、

 

『いや、御礼は別にいい。御礼を言うのはこっちだからな』

 

そう書いた紙を見せると、二人とも目を丸くした。

そりゃそうだよな、これ個人的な事だもん……じゃ、何で書いたんだ俺? ノリ?

 

「え? いや、感謝されるようなことは何も――――」

『個人的な事だ、気にしなくていい』

「は、はぁ……」

 

何が気にしなくていいだ。俺のバカ野郎……この野郎……。

 

「君たちの勝ちなのだ……止めを刺さなくていいのかね?」

 

倒れているおっさんが、ネギ少年に向かって問いかけた。

 

「……止めは……刺しません」

「このまま放っておいても、私は元の……自分の国へ帰るだけだ。また復活してしまうかもしれんぞ?」

「あのとき……貴方は召喚されただけだし、今日だって人質にそんなにひどい事はしなかった。……それに、僕には貴方の方も本気で戦っているようには見えませんでした……。

ディオさんとの殴り合いの時でさえ、セーブしているようにも見えましたし、貴方はそこまでひどい人には……」

 

マジかよ!? おっさん、まだ本気出せるのか! もっと修行しないとな……。

 

「私は悪魔だよ? 根っからの、そして全くの悪人かも知れんぞ?」

「それでも……です」

 

ホントにお人よしだな、ネギ少年。俺もとどめ刺してたかわかんないけどな…。

 

「ふふふはははは! とんだお人よしだ! やっぱり戦いには向かんなぁ、君は!」

 

まぁ、おっさんみたいな人だったら笑っちまうよな。

 

「コノエコノカ嬢……彼女の極東屈指の魔力をもってすれば、今も治療の当てのないまま眠っている人たちを治す事も、もしかしたら可能やもしれん……ま、彼女が成長すればの話だから、何年先かは分からないがね」

「……!」

「いずれ成長した君をみるのを楽しみに待っている……私を失望させるなよ? ……そして、ディオ青年」

 

うお!? いきなり俺か。

 

「誠に勝手ながら、君の素顔を少しだけ見させてもらった……同族ともいうのかね、君は?」

 

なに!? 俺の素顔…”ザ・ワールド”の顔を見たのかよ!? いや、確かに見方によっちゃ悪魔みたいだけどさぁ……同族て……。

 

「そして君の強さにも感服した、次会うのを楽しみにしているぞ――――はははははははぁ!!」

 

おっさんは笑いながら、煙のように消えて行った。…振っていた雨は、もうすでに止んでいた。

さてと、さっさと帰りますか。じゃないと――

 

「ディ、ディオさん! 同族ってことは貴方もしや――――」

 

ほらな!? やっぱり来た! おっさんがあんなこと言うからだ! ちくしょう!

 

”時よ止まれ!”

 

質問なんて知るか! 逃げてやるぜ!

 

「悪……ってもういない!」

「早! 去るの早いな、あの兄ちゃん!?」

 

 

なーも聞こえへんぞ俺は!

 



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一難去って……でもないか

活動報告欄でアンケートを行います。

詳しくはそちらをご覧ください。


一つ……驚いた事を話します。

確かに忘れたんだ……ローブを忘れてしまったはずなんだ……”ザ・ワールド”の姿で出歩いてしまったはずなんだ……なのに―――――

 

 

 

「おぉ! あの仮装、すげえ筋肉じゃん!?」

「アメコミのヒーローかな?」

「ロボットじゃない? 肌が灰色だし」

「でも滑らか過ぎる動きだよ~…?」

「あの人の仮装、見たこと無いけどかっこいいな!!」

「そうか? まぁ、かっこ悪いわけではないけどさぁ…」

 

 

何で騒ぎにならない!? っていうか、この格好が仮装としてとらえられているし! ……化装じゃねぇンだよ……マジもんの体なんだよ、素っ裸なんだよ一応……格好のおかげで恥ずかしくないけど。

 

……いいか、別に。 よく見たら周りも仮装者だらけだし、転生してから久しぶりに(修行時を除き)ローブ無しで動けるんだからな。

…そういえば、ローブを脱いだだけでこんなに体が軽くなるものなのか? 確かにローブは意外と動きにくかったけど……ここまで動きを制限していたのか? ……駄目だ、頭痛くなった来た。

 

ん?何か旨そうな匂い……おお! 路面電車の中華料理屋台か! 別に腹減ってないけど、そういう時に食っても大丈夫ってことは前に試したし、食ってくかな。

 

「うおぉ……!? あの人でか……!」

「結構派手な仮装だね」

「どこの部だ? アメコミクラブってあったっけ?」

「ある。俺がアメコミクラブだぜ。……俺が知る限りあんなヒーローはいない筈だ」

 

他にも仮装してるやつはいっぱいいんだろ!? 何で俺ばっかり……体格か? 体格のせいか?

 

「ご注文をお伺いするアル」

 

お? ……それじゃ簡単に頼んどくか。

 

『点心セットの………A、B、Cセットを』

「(うひゃー結構食うアルね)……承りました!」

 

あ、ローラーブレード履いてんのか。じゃなけりゃスムーズには回れないよな。というかあんな無茶な注文も受けてくれるんだな。

 

さて……注文の品が来るまで待つか―――

 

「へぇ~、超さん達の舞台ですか……」

「そ。チャオ一味の点心はめちゃ美味しいから、毎年大人気なのよ」

「ウチらも毎年、学祭のこの時は早起きして食べに来るんよ」

 

ぐ!? 聞き覚えのある声が聞こえてきた……!? ―――――うぇ…やっぱりあいつ等かい。

まぁ大丈夫だろ、いつもあいつ等の前に現れる時はローブだし。

 

「わぁ、あの人の仮装すごいですね! 体もおっきいし!」

「どうせ、中に人が入ってるんでしょ」

「でも、ウチあんな仮装今まで見たこと無いけどな~?」

 

俺の事じゃない! 故に反応しない!

 

「お待たせしましたアル! A、B、Cセットあるよ!」

 

お、来た来た~…。さてと、いただきまーす!

 

「めっちゃ食うわねあいつ!? どんな胃袋してんのよ!?」

「アスナさん!? あの人ちゃんと口から食べてます、中に人が入ってるんじゃないんですか!?」

「そ、咀嚼までしていますね……」

「どうなっとんのやろか……。それともあれ、本物の体かなー?」

 

なにも聞こえん……! 点心がうますぎて幻聴が聞こえるだけだ!

 

 

 

 

 

あ~食った食った……。 つっても腹が膨れる感覚じゃなくて、なんかこう…満たされた感覚がするだけなんだがな。

 

「さあ! そこの君も、参加してみないか!? 『まほら武道会』に! 強い奴に興味があるならぜひ参加するべきだよ~!!」

 

まほら武道会? どらどら……

 

「おお、参加するのかい? アメコミ風のお兄さん!」

 

う~ん……一般の部でも優勝賞金は十万か……、腕試しになるのか?

 

「おっちゃん、おっちゃん! 参加の紙くれや!」

 

お! 小太郎少年か……彼が参加するなら俺も出てみるか。

 

「お、お兄さん参加してくれるのか! あとそこの少年、俺はおじさんじゃないぞー!」

 

そこ、大事なのか? まぁ、いいか。 

それに一般人でも弱いとは限らないし、いい経験も詰めるだろ……経験不足の解消だ!

 

そう思い俺は、エントリーシートに名前を書いた―――――

 

 

”ブランドー”と……やっぱ偽名じゃないと色々とまずいしね。

 

 



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やばい……色々分からん

この……学園都市だったか? やっぱり広いよな~……圧倒される。電気が通っているにしては建物の様式古いけどな。日本部分と外国部分が混ざってるみたいだな……この街は。

にしても昨日のエントリーは、やっぱ”ディエゴ”も入れとくべきだったか? ”ブランドー”だけじゃまずったかな……。”ディエゴ・ブランドー”にしとくべきだったかもなぁ。

 

 

 

さてと、冗談や現実逃避はここまでにしとくか。本題は―――――

 

 

 

「今日、皆に集まってもらったのは他でもない……ある問題が起きた為、力を貸してもらうためじゃ」

 

何か雰囲気的に、”普通じゃない”人たちが集まってるんだよ……。それに意外と近くにかくれてんだよな俺……ばれないよな?

テキトーに歩いていたら、突然人がどんどん居なくなって、何が不気味に感じてかくれたらこうなっちまったって寸法よ……また厄介事だなこれ。とりあえず息をひそめて―――

 

「マジで願いが叶っちまうんじゃよなー…これが。二十二年に一度じゃけれど」

 

うごっ!? 今とんでもない言葉が飛び出さなかったか!?

 

「迷信などではなかったのですか?」

「世界樹などと呼ばれとる気があるじゃろ? あの樹の本当の名は『神木・蟠桃』といってな、その内に途轍もない魔力を秘めておる。つまり…”魔法の樹”なのじゃ」

 

いや、確かにでかいなー…とは思っていたけど、よりによって魔法の樹かよ……!

 

「その魔力は二十二年の一度の周期で極大へと達し、世界樹の外へと流れ出す。そして、世界樹を中心とした計六か所の地点に、非常に強い魔力溜まりを形成するんじゃ。この広場もその一つじゃな」

 

そういや、さっき願いがかなうとか言ってたけど……それを利用すれば俺の体も―――

 

「この膨大な魔力は人の心に作用し、影響を与える。……まぁつまり、即物的な願いは叶わんということだ。……たとえば、大金持ちになりたい、世界征服したい、ギャルのパンティおくれとかな」

 

そうか……体を元には戻せ―――――ちょっと待て、変なの入ってなかったか今?

 

「しかしじゃ……先ほども言った通り、心には強力に作用する……つまり―――

 

告白する事に限っては、成就率なんと120%!! 呪いもビックリの威力なんじゃよ!」

 

うはー……とんでもないなそりゃ。下手すれば好きでもない奴と付き合わされる羽目になっちまうのか……うっひゃ~…。

 

「本当は来年のハズだったんじゃがな、異常気象のせいか否か…とにかく1年早まってしまった。だから、今回緊急招集したんじゃ。 噂はすでに結構、広まっておる」

「はい、麻帆良スポーツやネットの書き込みなどより噂の浸透率は、男子34、女子79%。本気で信じている者はかなり少ないとは思いますが…」

「占いや迷信好きな人たちは、実行したがる人も多いと思われますね」

「本当に脅威なのは学祭最終日なんじゃが……今の段階でもそれなりに影響は出始めとる。諸君にはこの6か所で告白を阻止してもらいたい」

 

とんでもない事聞いちまったよ……意味分からん単語も満載だったけれど……。

 

「…誰かに見られているようです」

「なぬ?」

 

くそっ、バレたか!?

 

俺が逃げようと構えたのと同時に、俺とは全くの別方向に風の刃が放たれた。

 

な~んだ、バレたんじゃねぇのか……ふぅ。

 

「魔力は感じなかった……つまり機械という事か」

「追います、学園長」

「深追いはせんでいいからの。こんな事が出来る生徒は限られとるじゃろうし」

 

…なんか空に人が浮かんでたように見えたんだが……気のせいか?

 

「さて、コトは生徒の生週に関わる問題じゃ、たかが告白と侮るなよ。まずは今言ったシフトでパトロールをよろしくの。では、解散じゃ!」

 

ん? 人が増えてきたな……やっぱあいつ等が何か仕掛けてたのか。……それに引っかからない俺って、いったい何……。

 

ま、いいか……帰ろ。

 

 

 

 

―――改めて考えると、別に聞いたところで俺に得なんてないよなこの情報。あの時の緊張感返せよこんにゃろー……。

 

 

 



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始まったか、祭りが!

急で申し訳ありませんが、アンケートを今日の夕方……遅くても夜あたりで締め切ろうと思います。

身勝手で申し訳ありません。 


パンパン、と昼花火が打ち上げられ、頭上を曲芸飛行の舞台が通り過ぎた。

 

『時刻は十時を回りました! 只今より、第78回麻帆良祭を開催します!!』

 

お~!! 始まったか、麻帆良祭!

学祭御馴染の屋台や出し物の他に、パレードやヒーローショーもあるし、鳥人間コンテストの様なテレビ番組みたいな企画もいっぱいあるな~。

こりゃ三日間じゃ回り切れないだろ、コレ。……武道会まではまだまだ時間があるし、いろいろ見て回りますか!

にしても並んでるな……、俺も一般人扱いだから並ばなきゃいけないんだよな~。幸い、列の移動はスムーズだけど。

 

「ママ~、あの人とってもおっきいよー」

「コラ! 指さしちゃいけません!」

 

にしてもやっぱり目立つのな、俺……。

 

 

 

 

・学園祭開始から数時間後・

 

ケバブなんてもんも売ってたよ、凄いな学園祭。……ん? ありゃネギ少年じゃねぇか。楽しそうにはしゃいでんな~…。

 

お、たこ焼きもあるのか上手そうだ。

 

『すいません、たこ焼き一つ』

「すみません! たこ焼きをひとつ下さい!」

 

おっと、かぶっちまった……ってなぁぁ!? ネギ少年!? 歩いていった方向逆だったろ!?

 

って、向こうの建物の中に寝ているネギ少年が!? 何がどうなってんだよ!?

 

「あのーお先にどうぞ」

 

ぐぅう、とりあえず今悩んでても仕方ない……謎解決は後回しだ。

 

俺はたこ焼きを買い、考えながらその場を立ち去った。

 

 

プラネタリウム、意外と面白かった……学生が作ったにしちゃ、えらく本格的だったけどな。

 

お、走り回ってるのは小太郎少年か。そういやパトロールがあるんだったな。小太郎少年、パトロ-ル頑張ってんな~。少々目がギラついていたけどな……。

 

 

つーかよく見たら、そこかしこにネギ少年居るじゃねぇか……何でだ? しかも、着ている服も違うし。

 

お、小太郎少年か。着ぐるみみたいなの着て、何かの宣伝かぁ? 

 

―――――いや、待て待て待て!? 

さっき小太郎少年学ラン着てたし、向こうに行ったろ!? 小太郎少年も影分身の術使ってんのかよ!?

 

あ~…嫌な予感がひしひしと伝わってきやがる……それと同時に頭も痛くなってきたし…。武道会までぼーっとしとくか?……もう初日の分で、見て回りたいものあんまりないし…。

 

ん? 『黒胡椒オレンジ”ミルクエキス配合”』……誰が飲むんだよ、こんなもん!? ゲロ不味なんて飲むまでもなく決定じゃねぇか! 冒険しすぎだ!

 

と、呆然とする俺の背中に、誰かがぶつかった。

 

「ああと、…すみませんです」

 

ちっちゃい人だな、でも中学生ぐらいには……何飲んでんだ? ええと―――――『黒胡椒オレンジ”ミルクエキス配合”』……飲む奴いたよ、ここに!

 

 

 

 

まだ時間早いけど、武道会の会場に行っとくか混まないうちに。それにすぐ近くだしな。…………

………確かここら辺――――――ん? あれぁ、張り紙か?

 

えっと…… ”まほら武道会 予選会場変更のお知らせ”だって? 何で急にまた……まぁ、とにかくこの龍宮神社って所に行けばいいんだな。時間早いし、歩きでも大丈夫だろ。

 

 

―――――――結構遠かった…。……普通だったら動けなくなってんよ、コレ。 にしても結構人集まってるな~、観客。いや、選手も結構いるか。

 

……お、賞金があそこに張り出されて―― ”優勝賞金急遽アップ! 何と、10,000,000!! 君も麻帆良学園最強を目指せ!” ――いるんだなって、はああぁぁぁあ!? 一千万だぁ!? 100,000からどんだけアップしてんだよ、オイ!?

 

「すげえな……賞金一千万か!」

「ああ。何でも、ある人物が複数の格闘大会を統合させたって話らしいし、当然だろ」

「腕が鳴るな、こりゃぁ!」

「伝説の格党大会復活だぜ!!」

 

こりゃ……しょぼい大会じゃなくなってきたな。

 

『え~…参加希望者と見学者は、入口よりお入りください!』

 

一千万か……賞金の楽しみも増えた! よし、行くか!

 

 

 

 

 

―――名前の再登録可能なら、ちゃんと”ディエゴ・ブランドー”にしとこ……。

 

 



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武道会開幕!

アンケートに答えていただき、有難うございました。

結果は本編でどうぞ。


『麻帆良生徒、学生及び一般の皆さま! ようこそ、復活したまほら武道会へ!! 突然の告知や会場変更にもかかわらず、これほどの大人数が集まった事に感謝いたします!』

 

確かにものすごい人数だよな~……

 

『優勝賞金は何と一千万円!! この伝統ある大会の、栄誉と賞金を勝ち取るのはいったい誰なのでしょうか!? ―――それでは今大会の主催者、屋台・超包子のオーナー”超 鈴音”に開会のあいさつを!』

 

 

お、あの旨い点心売ってた店のオーナーか。金持なのか?

 

『你好、皆さん。私がこの大会を買収し、復活させた理由……それはただ一つネ―――――

 

 

 

 表、裏の世界問わず、この学園最強を見てみたい…それだけネ!』

 

 

って、ことは裏の世界の奴もモリモリ参加してるって解釈していいのか、これ?

 

『今より二十数年前までこの大会は、裏の者たちが集い強さを競う大会だたガ、記録器材などの普及により希望は縮小の一途をたどてしまた………。だが私はここに宣言する、最盛期のまほら武道会を開催するとネ!』

 

最盛期の……か。いきなりハードル上がったな…。

 

『ルールは飛び道具及び刃物の使用禁止。そして呪文の詠唱禁止(・・・・・・・)! この二点を守りさえすれば何をやってもOKネ!!』

 

そりゃそうだろ。 でっかい魔法なんてぶっ放された日にゃ……。ん? 何か向こうで慌ててる声がするんだが……気のせいか? 

 

『なに……案ずる事は無いヨ。 今の時代は映像記録などがなければだれも信じないし、この大会中は完全な電子的措置により、一切の記録機器を使用できなくするネ

……裏の世界の者たちも全力を出し、己が力を存分に振るうがいいネ!!』

 

言われなくてもそのつもりだ!

 

『以上、”超 鈴音” による開会あいさつでした! それでは詳細の説明へと移らせていただきます! 今大会の予選は、二十人一組によるバトルロワイヤル形式で行われます! AからHまでの各組より二名づつ選出……合計十六人が、明日の本選へと出場できます!! くじにより二十名揃った組から試合開始、定員160名に達するまで参加者受付中! 年齢性別資格制限は一切ありません! 強者の皆さま、ふるってご参加ください!』

 

年齢制限なしとなると……小太郎少年とかも出てきそうだな。

 

『あ、一つ言い忘れていたヨ。 この大会が形骸化する前、つまり実質上最後の優勝者となったのは、二十五年前にこの学園にふらりと現れた、”ナギ・スプリングフィールド”と名乗る謎の十歳の少年だタ………。この名前に聞き覚えがあるものは、頑張るがヨロシ!』

 

……何となくネギ少年に名前が似てるな…。 ま、聞き覚えないからどうでもいいや。

 

さーて、いきますかぁ!!

 

 

 

 

よかった~…名前の再登録可能だったよ……。勿論、”ディエゴ・ブランドー”にしたぜ!

んで、俺の引いたクジは”G”か。 まだ集まっていないみたいだな、他んとこ観戦しとくか。

 

『強い! 流石は中武研部長・古 菲選手! いろんな所が小さいけれど、それを忘れるほどのゴリラのような圧倒的パワーだぁ!!』

 

それ、本人に失礼なんじゃねぇの? いくらなんでもゴリラ並みて……。

 

『おーっと! 辻選手の木刀による強烈な一撃が炸裂ーっ! ………ちなみに、禁止されているのは”刃物や重火器などの飛び道具”なので木刀はOKで―――――っと! 観客席が文句を言っている間に古 菲選手が木刀ごと、辻選手をKOだーっ!』

 

おお……確かにゴリラ並みだな、アレ。防具も砕いてら。

 

『B組とE組から生温かい微笑みが聞こえてきます! その対象はどう見ても小学4,5年の子供!これは流石に仕方ありません!』

 

ネギ少年と小太郎少年か。 あれなら勝てるか?

 

『な、なんとー!? 体重差十倍もあろうかという相手を、ネギ選手は吹き飛ばしたぁ! しかしそれもそのはず、なんとネギ選手は古 菲選手の一番弟子との情報が入っています!!』

 

知ってて驚いてたんかい……あの司会者。

 

『E組みでも異常事態が発生! 長瀬選手と村上選手が増えたぁ! これはかの有名な”分身の術”なのかぁ!? っていうか増えすぎ!』

 

うひゃ~…まさに忍者だなアレ。不忍とも言いそうだ。

 

『更にこちらでも、可憐なセーラー服の女子中学生が次々と屈強な猛者達を打倒していく! この大会、まさに予想外の連続だーっ!』

 

……これって、下手すると裏の人たちしか本選に出れないんじゃねぇの?

 

「ディエゴ・ブランドーさん! 舞台へ上がってください!」

 

おっ、出番か! よっし油断せず行くぜ!

 

 

 

 

 

 

 

 

『さぁ、G組がそろいました! 試合開始です!』

 

 

始まったな……。”時止め”や、無駄の掛け声は、この予選では封印だ!

 

「なんだ、あのアメコミヒーローみたいな奴?」

「でも、でかっ!」

「あいつ、この前チャオ一味の屋台で、有り得ない量食ってたやつじゃない!」

「僕もたこ焼き屋で出会いましたよ」

「は、妙な恰好だな」

 

なんか知ってる声が混じってやがる……。

 

「油断大敵だ―――ばぁ!?」

 

聞こえてきた声に反射的に反応し、俺は裏拳をぶちかます。喰らった相手はかなりの距離吹っ飛んでいった。途中で人を巻き込んだらしく、数人いっぺんにリングアウトしている。

 

「んなぶご!」

「が!」

「ぎえ~!?」

 

続いて右に殴る! 反対側へタックル! 正面へハイキックだ!

 

『おお~!! すごいぞ、ディエゴ・ブランドー選手! ものすごい勢いで次々と敵を吹き飛ばしてゆくーっ! あの滑らかな動きと言いもしや、あの奇妙な体は本物なのかーっ!?』

 

余計なこと言うんじゃねぇよ!? 

 

「中々やるね、あの人」

「でも、まだまだやで。そこらの奴より強いレベルやろ」

「うん、タカミチの方が凄いよ」

「油断大敵ですよ、皆さん」

 

……そうやって認識されるのが目的で加減してるのに、いざそう認識されたらなんか複雑……。

 

『大豪院選手の強烈な一撃がヒーーット!! この瞬間をもって、G組の本戦出場選手は、”大豪院ポチ”選手と”ディエゴ・ブランド―”選手に決定ーっ!』

 

お、よっしゃぁ!!

 

 

 

『これにより、本戦出場者十六名が決定しました! 皆様お疲れ様です! 本戦の開会は明朝八時、龍宮神社に置いて!』

 

朝八時か。 遅れないようにしないとな。

 

『………今、大会委員会の厳正なる抽選の結果が出ました! では、明日の本戦トーナメントを発表します―――――こちらです!!』

 

 

 

 

第一試合 佐倉 愛衣 対 村上 小太郎

 

第二試合 大豪院ポチ 対 クウネル・サンダ-ス

 

第三試合 長瀬 楓 対 中村 達也

 

第四試合 龍宮 真名 対 古 菲

 

第五試合 田中 対 高音・D・グッドマン

 

第六試合 ネギ・スプリングフィールド 対 タカミチ・T・高畑

 

第七試合 神楽坂明日菜 対 桜咲 刹那

 

第八試合 エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル 対 ディエゴ・ブランドー

 

 

 

…俺は一番最後か……。エヴァンジェリンて女性名だよな? 嫌な予感するな、コレ……。

 

 

  



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それじゃ……本戦開幕だぁ! ―――あと俺の出番無し

”ザ・ワールド”の出番は、もうちょっと待ってください


トレーニングと最終調整はばっちりだな……さーて、いよいよだ。

遅れないよう早めに本戦会場へ行っとくか。というか、早めに来いって放送があったからな……

 

そいじゃ行きますか!

 

 

 

 

 

と、ここが選手控室みたいだな。……ネギ少年たちはまだいないか。

 

やることも無いので、俺は突っ立ったまま、集まった人たちを見渡した。

 

俺並みにでかい奴から、戦の低い奴、魔法使いみたいなローブ来てる奴もいるのか。……女と男の比率は同じくらいか? 目元しか出してない二人組は分からんが。

 

「え~っと……し、失礼しま~す」

 

お、ネギ少年達来たみたいだな。何か先生っぽいおっちゃんと話してるけど……ま、何話してるか聞こうとするのは野暮か。

お? あのオレンジ髪の頬の染めよう……あのおっちゃんにコイでもしてんのか? 好みは人それぞれというけれど、あの人親父好きか~。あ、京都で気絶させた羽のある剣士もいるんだな。

 

「えー…選手のみなさん、ようこそお集まり頂きました! 第一試合は今より三十分後に行います……が、その前に本選のルールをご説明いたします!」

 

そりゃそうか。本選と予選じゃ違うもんな。

 

「本選は十五メートル四方の能舞台で行われる、制限時間十五分の一本勝負です! 負けとなる条件は、『ダウン十秒』、『リングアウト十秒』、『気絶』、『ギブアップ』の四つ、もし時間内に決着がつかなかった場合は、観客の皆さまによるメール投票となります! なお、反則である『重火器、刃物の使用』等は予選と同様となります!」

 

今思ったけど刃物はだめってことは、裏を返せば刃物じゃなかったら何でもいいってことになるぞ、コレ。大丈夫か?

 

「質問がありますがいいでしょうか!」

「はいどうぞ」

「呪文どうこうとかよく分からないんですが、技名は叫んでいいのですか?」

「技名はOKネ」

「よっしゃあ!」

 

そんなに大事か、それ? まぁ俺の場合、技名が無いだけなんだけどな。

 

 

 

 

折角だし、選手席で試合見てくか。二日目の学園祭の出し物巡りは終わってからでもいいしな。

 

『ご来場の皆さま! そして選手の皆さま、お待たせいたしました! 只今より、まほら武道会第一試合へと移らせていただきます! ―――――それでは、村上小太郎選手、佐倉愛依選手の入場です!』

 

お、小太郎少年が一番最初か。……あの目元しか出してない奴の小柄なほう、女だったのか。

 

「あ、あの子は!?」

 

ネギ少年、何を驚いてるんだ? ひょっとして女の子の方知りあいだったりするのか?

 

「ネギ先生、お早うございます」

「あんた、昨日の魔法生徒!? なんで!?」

「ふふ……何でですか。そんなの決まっているでしょう? ―――ネギ先生、あなたをこらしめるためです!」

「え……えぇっ!?」

 

何か聞いてもつまんなそうな会話だな……。試合が始まるまでぼーっと――――

 

「こんなくだらない大会などさっさと優勝し、一千万円は寄付させていただきます!」

 

へぇ、寄付の為もあるのか。以外と筋通った理由も含まれてんだな。……でも、さっさと優勝するのは無理じゃないか?

 

『それでは第一試合――――ready Fight!!』

 

試合開始と同時に、女の子の手にまるで手品のごとく箒が現れた。

 

魔法って、無詠唱の呪文もあるのかよ!?

 

「おらぁ!」

「わ、わあぁぁ!?」

 

『こ、小太郎選手、信じられないスピードで距離を詰め……佐倉選手の体を十メートルほど打ち上げたーっ! 今のは掌底でのアッパーでしょうか!? 』 

 

 

凄いな小太郎少年! 一気に距離詰めて、アッパーで吹っ飛ばしたのか!

 

『あーっと、佐倉選手溺れている! ―――ここで十カウント、小太郎選手の勝利ーっ! 

おっと小太郎選手、カウントが終わると同時に飛びこんで手を差し伸べています』

 

やさしいんだな、小太郎少年。

 

 

結論から言うと第二、第三試合はすぐ終わってしまった。

 

第二試合は押されぎみに見えたクウネル・サンダースとかいう、変てこな名前の奴が右手の掌底一発を、大豪院の急所にたたき込んでの勝利。

第三試合は中村という男が予選でも話題だったらしい『遠当て』を見せるが、これまた手刀一発で沈められた。

 

次は第四試合か。

 

『お聞きください、この待ちわびていたと言わんばかりの歓声を! その歓声を向けられている人物こそ、前年度”ウルティマホラ”チャンピオン………本日の大本命、古 菲選手だーっ!!』

 

「「「「ワアアァァァーーーッ!!!」」」」

 

すげえ歓声だな、オイ。 そんなに人気なのか、あのクーフェイって少女。

 

『対するはこの神社、龍宮神社の一人娘……、実力は未知数、龍宮真名選手ーっ!!』

 

そういや、苗字に”龍宮”って入ってるな。

 

「第四試合のトトカルチョ、締め切るよーっ!」

「まってくれ! 古 菲部長に五十枚だ!」

 

トトカルチョなんてモノもやってるのかよ……。

 

『それでは……大四試合ready Fight!』

 

ん? 龍宮って奴、なんか手に握ってるな。

 

『情報によると、龍宮選手はライフルの名手! しかし、重火器の使用が禁止されているこの大会で、果たしてどう戦――――』

 

!! 今握ってたものを指ではじいて飛ばしたのか!? クーフェイ少女が打っ飛んだぞ!?

 

『な、何が起こったんだーっ!? 開始早々古 菲選手が、後ろに吹き飛んだ―っ!』

 

ありゃ………コインか?

 

『今のはどうやら”羅漢銭”のようですね』

『羅漢銭……とはどういうモノなのでしょうか? 解説の豪徳寺さん』

 

解説付きか! 

 

『至極簡単に言うなら、何処にでもあるコインを飛ばすだけの技です。……しかし、達人は一息に五打撃つと聞きます。それに、今古 菲選手が吹っ飛んだように、威力も侮れません』

『なるほど……。―――以上解説席からでした』

 

そして、やたら本格的!

 

『優勝候補であり、トトカルチョの人気も№1の古 菲選手からあっさりダウンを奪い取った、無名の”羅漢銭”使い龍宮選手強いです!』

 

と、実況が言い終わると同時にクーフェイ少女が、ブレイクダンスのような動きで起き上がった。頭に喰らったのにタフだな~。……衝撃を受け流したのか?

 

俺がそう考察した、まさにその瞬間――――

 

バチュッ! という音と共に、まるでマシンガンの如くコインが連発された。解説でもあったように威力はバカにならないらしく、能舞台の木材をガリガリ削り、跳ね飛ばしていく。

クーフェイ少女も、掠ってはいるものの段々と慣れてきたらしく、次第に避けられるコインの数が増えてゆく。

 

凄すぎるだろ、アレ!? 人間業とは思えないぜ、どっちも!

 

そして僅かなコインの装填の隙を突き、クーフェイ少女が攻撃の間合いまで踏み込み攻撃態勢を取った。

 

いけるかっ!? ―――――って龍宮選手、上向きにコインを飛ばして迎撃した!? 苦手な距離とか無いのかよ!?

 

そして龍宮選手はクーフェイ少女が立つ時間を与えず、次々とコインを飛ばしダメージを積み重ねて行く。

 

むごいな~……。勝負だから仕方ないけどよ……。でもこれで勝負は決まっ――――

 

『く、古 菲選手、布でコインを弾きながら立ち上がったーっ!!』

『あれは”布槍術”!! 古 菲選手のあの尻尾の様なものは、”布槍術”の為のものだったようです!』

 

ふそう……布の槍か、珍しいもん使うんだなあいつ! …そしてよく知ってるな、解説。

 

『捕らえた、捕らえました古 菲選手! 強者である龍宮選手を捕らえましたーっ!!』

 

良しこのまま……って、いとも簡単にコインで外されたし!?

 

『これは凄い、お互いに猛烈な連打に次ぐ連打!! ”羅漢銭”VS”布槍術”のぶつかり合いだーっ!! ――――っと! 左腕を犠牲にし、古 菲選手再び龍宮選手を捕らえた! このままいけるかーっ!』

 

そして、クーフェイ少女は龍宮選手を引き寄せ、ズシン、という音と共に一撃を打ち込んだ。……が、その直後、膝を突いてしまう。しかし――――

 

突如、龍宮選手の服の背中側がはじけ飛び、そのまま倒れた。

 

『ダ、ダウーン! 龍宮選手ダウンだーっ!! カウントを取ります。 1、2、3、4、5、6、7、8、9、―――10!! 古 菲の勝利だーっ!!』

 

「「「「ワアアアァァァーーッ!!」」」」

 

おぉ……! 勝っちまったよ。……にしても凄い戦いだったな~今の。

―――なんか座りすぎて体が固まった気がするな……。俺の試合は一番後だし、ちょっと外に行ってくるか。

 

 

 

 

 

 

会場の傍でもフランクフルト売ってたよ……。とりあえず十七本買ってと。……ん? 何か会場の盛り上がり方が妙だな。何があったんだ?

 

「お、あんた惜しかったな~! もう少し早く戻って来てたらいいものが見れたのにな~!」

 

何ニヤケてんだ、この兄ちゃん。 何があったかは聞かない様にしとくか。

 

「って、あんたフランクフルト買いすぎだ!? 体でかいからって何本食うんだよ!?」

 

後ろから突っ込みなんて、聞こえてへんもんね~。

そんな事より、次はネギ少年の試合か。どうなるんだろうな、コレ。

 



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俺の出番っす

第六試合に間に合うか?

 

『それでは第六試合―――――ready……Fight!!』

 

今始まったとこか! ラッキーだな。

 

ほっとしてステージに目を向けると、今まさに後ろからインファイトに持ち込もうとしている、ネギ少年の姿が映った

 

うお!? もう後ろとったのかよ、速い!

 

ネギ少年は、高畑教諭の拳をかわすと同時に、掌底、拳、フェイントを加えての肘と休む暇なく次々打ち込んでいく。

 

『こ、これは凄い……凄すぎる! 目にも止まらぬ凄まじく、そして素晴らしい攻防! しかも子供先生が……ネギ選手が押している!?』

 

そして、ネギ少年の手が光ったと思った直後、繰り出された拳により高畑教諭が、まるでトラックに追突されたかのように大きく吹き飛んだ。

 

うひょー! 魔法ってやっぱり凄いな!! ……俺は使えないけど。

 

『これも中国拳法なのか!? 吹き飛ばされた高畑選手、水煙で姿が見えませんが湖中に沈んだか、いやそもそも命は無事かーっ!?』

 

段々水煙がはれてきたな……。 お、人影が見えた。

 

『おっと高畑選手、無事の上なんと無傷です! あれだけの攻撃を喰らったのにこれだけとは……やはり”デスメガネ高畑”の名は伊達ではない―っ!』

 

デスメガネって呼ばれてんのか、高畑教諭。

 

高畑教諭は水面に立った状態(どうやってんのアレ?)から飛びあがりネギ少年もそれに応戦した。

 

『ちょ、ちょっとお二人さん、そこ場外だって! カウントとるぞ!?』

 

戦ってたのは場外だけど―――――うわ、ネギ少年蹴っ飛ばされた!

 

と、ネギ少年がガードの構えを取った瞬間、パパン! という炸裂音と共にガードをすり抜けて弾き飛ばされた。

 

『やはり……アレは、そうなのか』

『豪徳寺さん、何かお気づきになりましたか?』

『はい。高畑選手が先ほどから使っている、見えない遠距離攻撃の正体。あれは恐らく拳の居合い抜き…、”居合い拳”だと思われます』

『居合い拳……ですか?』

『おそらく、ズボンのポケットを鞘に、拳を刀に見立て、目にも止まらぬスピードでパンチを繰り出しているのでしょう』

『可能なのですか?』

『文献でならば私も見た事はあるのですが、実際にやっている者を見るのは初めてです』

 

なるほどな。見えないほど速いパンチで”圧”を飛ばして攻撃してるってわけか……しかも、まだ何かありそうだし。

 

そこからの攻防は序盤とは一転し、見えない打撃”居合い拳”からネギ少年が逃げ回ると言ったものになった。

突貫しようとも、高速移動は一直線しか使えないらしく足をひっかけられる。そのあと間髪いれずに”居合い拳”を連発して体勢を元から崩す。逃げようにも、回りこまれてガードの上から弾き飛ばされる。

誰が見ても、劣勢なのはネギ少年の方だった。

 

ん? お互いに止まったな。 ……高畑教諭の手が光ってる? そんで光ってる手を合わせたけど、何やる気なんだ? ―――――って、うお!? すげぇ風!

 

『な、この風圧はーっ!?』

 

そして、ネギ少年が咄嗟に後ろに下がった瞬間―――――

 

大きく鈍い音が響き渡り、高畑教諭の”居合い拳”がステージに大砲の着弾跡の様なものを残した。

 

『何だこれはーっ!? パンチなのか!? まるで大砲の着弾のようだーっ!』

 

……魔法って本当に何でもありなのな、オイ。

 

一発目はどうやらサービスだったらしく、続けて放たれた”居合い拳”は、確実にネギ少年を吹き飛ばそうと狙っていた。

 

『凄まじい連撃、砲撃の嵐! ”超・居合い拳”の連打に次ぐ連打だーっ!!』

 

空爆でも起きてるのかよこのステージ!? 凄いな”超・居合い拳”! でも、ネギ少年がこんなの喰らったら、骨折じゃ済まなくないか!?

つーか、不味いな……経験差ってやつが出てきてる……。 段々と追い詰められてきちまってるぞ……。

 

ネギ少年が思わず膝をついた隙を逃さず、高畑教諭はネギ少年の上をとった。

 

やば……直撃すん――――何かにはじかれた!? っ! けど、あれじゃヤバい!! 

うげ、直撃しちまった!?

 

『決まってしまったー!? ネ、ネギ選手大丈夫か!? ――――あっ……ネギ選手虫の息―――ってネ、ネギ君ほんとに大丈夫!?』

 

少なくとも大丈夫では無いよな、アレ……。

 

『も、もう高畑先生の勝ちでいいよ! ほら、高畑選手の勝利!!』

 

確かにこの状況なら妥当かもしれないが……多分、立つぞネギ少年。

 

「コラァ! 立ちなさいよ、このバカネギーっ!!」

「が、頑張ってください! ネギ先生!」

「立てぇー! ネギくーん!」

「立ってくださいです! ネギ先生!」

 

オレンジ髪の少女も観客席の少女達も必死にコールしてるし、周りからの応援もある。そしてネギ少年の(戦いに置いての)性格を考えると、これなら……。

 

「「「「ワアアアァァーッ!!」」」」

 

立った! やっぱり、立ち上がった!!

 

ネギ少年は立ち上がると同時に、自身の周りに渦を巻く球を出現させる。その数は7、いや8……いや9本。そして9本出したところで何かをしたらしく、渦が不自然に消えた。

しかしそれは、高畑教諭の蹴りとほぼ同時だったため、蹴りのせいでキャンセルされたようにも見えた。

そのままネギ少年は”超・居合い拳”を受け、周りの堀へと真っ逆さまに落ちて行く。

 

『ああっ、ネギ選手リングアウトーッ!! ……ってうわ!? ふ、復活! ネギ選手復活、不屈の闘士だーっ!』

 

いつの間にか渦も復活してるな。

 

「最後の勝負だよ! タカミチ!!」

「……分かった、いいだろう! その勝負を受けて立とう!」

『両者フィニッシュ宣言だ! 確かに時間も近づいています! これが最後の勝負となるか!?』

『ネギく―――子供先生の後ろの観客が、巻き添えを恐れて左右に分かれて行くとは……いやはやとんでもない試合ですね』

 

一瞬の硬直の後、先に仕掛けたのはネギ少年の方だった。

 

渦がまるでネギ少年を包み込むように激しく回り撃ちだされ、それを纏うかのように突っ込んでいく。

高畑教諭の方も、今までよりも助走をつけ、こちらにまで届くほどの風圧で”超・居合い拳”を打ち出した。

そしてお互いがぶつかり合い、轟音と共に煙と木材の破片が上がり、何も見えなくなった。

 

『両者激突!! ネギ選手の行った今の攻撃は、体当たりでしょうか!?』

 

徐々に煙がはれ、二人の姿が見えてくる。そこには――――

 

 

後ろをとり、今まさに光る手を振りかぶったネギ少年の姿が―――っ。

 

『これはあっ!?』

 

実況とほぼ同時、会場がざわめくと同時にネギ少年は拳を、ステージごと砕かんばかりの勢いと、煙が真上に撃ちあがるほどの威力で叩きつけた。

 

『ネ、ネギ選手の必殺技と思わしき一撃がクリーンヒットーっ! 物凄い大逆転劇です! ……あーっと! ここで十五分経過し、タイムアップとなりました! 高畑選手、そして勝敗は!?

 

 おっと、先ほどとは真逆! 高畑選手生きているのでしょうか!? まずはカウントを!』

『素晴らしいですネギ選手! あれほどの攻撃に正面から立ち向かい、後ろをとるとは!』

 

どうだ……!?

 

『4! 5! 6―――あっ!?』

 

起き上がった! タフだな、高畑教諭!

 

『あれほどの攻撃を喰らって立ち上がった!?』

『ここで高畑選手が十カウント前に立ちあがってしまうと、観客のメール投票により、勝敗が決まってしまいます』

『7! 8! 9!』

 

立ち上がるかのように見えた高畑教諭は、ネギ少年と何か言葉を交わした後、

 

『――――10!!』

 

力尽きたように倒れた。

 

『ネギ選手の勝利です! 齢十歳の子供先生が、デスメガネ高畑を打ち破り、二回戦進出です!!』

 

「「「「ワアアアアアァァァァッ!!!」」」」

 

勝ったか、ネギ少年……。辛くも勝利ってとこだな。

 

『素晴らしい試合を有難うございました! さて次の試合に………入りたい所ですが、ステージがボロボロとなってしまったので、修復を行いたいと思います! 皆さま、しばらくお待ちください!』

 

まぁ、あんなステージじゃ戦いにくいどころか、途中で崩れそうだしな。

 

 

ステージ修復は終わったのに、第七試合の選手はやけに遅いな? 着替えでもしてんのか………なーんてそんな事があるはず無いか! いくら次の試合が女の子同士の戦いだからって、いくらなんでも――――

 

『皆さまお待たせしました! 神楽坂選手に桜咲選手、今大会の華がメイド姿というキュートな格好での登場で、会場も色々な意味で大盛り上がりでーす!!』

 

ぶはっ!? マジで着替えてたのかよ!? 戦う格好じゃないでしょ、それ!?

というかまだステージに上がらないのか? 何やってんだ―――お、やっと上がった。

 

『両選手のステージへの入場を確認しました! それでは、第七試合―――ready Fight!!』

 

お! 見た目がイロモノだからどうなるかと思ったけど、結構凄い得物がっせんだ!

 

『只今、神楽坂選手と桜咲選手の試合をお楽しみいただいていますが……。これは……!?』

 

両者、得物を振り回し打ちあったと思うと、神楽坂少女が速度を上げて回避先を攻撃。かと思うと桜咲少女が、受け流し、避け、両足で打ち上げる。

そして、宙に飛びあがりなおも打ち合いを続け、お互いに強烈な一撃を放ち一端距離をとった。

 

『これは凄い! メイド中学生両者、先ほどの試合にも引けを取らない動きです! ………そして予想道理の物が見れた男性陣からも称賛の声と拍手が♡』

 

クソ……凄い試合だからじーっと見てたら、目に入った……。 目に入るなら、あの時はゴミがよかったのに……!! ふつーに試合見させてくれよ、コンニャロ……。

 

「そうですね……あなたにはコレを着て、次の試合に出ていただきましょうか」

「ス、スクール水着だと……!?」

「待て! なんだそれは!? 何処から出した!」

 

何か横で変態集団が騒いでんだけど……つーか次の試合って俺じゃん。 戦うのはさっき待てって言ってた―――――女の子かよ!? 強者決定じゃねぇか、このパターン!? その上、スクール水着で出られたら俺も恥ずかしいって!?

 

「と、とにかく見てなさいネギ! あたしがちゃんと、パートナーとしてあんたを守って行けるってことを見せて――――あらら?」

 

なんだ? 何かプシュウって感じに萎れたぞ? ……そんで誰と話してんだってうお!? スカートがいきなり捲れ上がった!? ……見てない見てない!! 

 

「「「オオッ!?」」」

 

そして盛り上がるな変態共!!

 

「何をやってるんだ刹那ぁ!! 神楽坂ごときなんぞ五秒で倒せぇ! いや殺れぇ!!」

 

不吉な単語をぽんぽん使うな! たくよ~…。俺は試合に集中しよ……。

おお、またも攻防入り混じった、いい展開に―――

 

「ではでは、ネコミミ眼鏡にセーラー服も追加ということで♡」

「うぎゃあ!? ふ、ふざけるなー!!」

 

あーもう!! 俺いったん外に出る!!

 

 

 

 

そういや俺、最終調整とかあるから呑気に試合見てる暇なかったじゃねぇか。 何事も準備やウォーミングアップを怠るなと……よく言うしな。

 

……もうあの変てこ会話終わったよな?

 

『桜咲選手勝利ーっ!!』

 

ああ!? ちくしょう、見逃しちまった! もう少し早く調整終えるべきだった! ……終わっちまったもんは仕方ないか。

 

さてと、次はいよいよ俺の試合か……何か緊張してきた。

 

『それでは続きまして第八試合! アメコミヒーローの様な外見の男、”ディエゴ・ブランドー”選手対……麻帆良学園囲碁部所属、”エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル”選手!』

 

よーし、行きますか!

 

 

 

 

side三人称

 

 

『格闘家でもなかなかいないであろう程の筋肉と身長を誇るディエゴ選手に対し、マクダウェル選手はまるでお人形のよう! しかし、この大会はどんなどんでん返しがあるか分かりません!』

 

「エヴァちゃんなんか雰囲気違うわね」

「でも大丈夫でしょうか? 一般人レベルの身体能力があるとはいえ……相手のディエゴという男も、一般人よりは強いはずですよ?」

「大丈夫ダ。幾百年生キテイルッテノハ伊達ジャネーヨ」

「確かに予選でも、自分より大きな男を易々と抑え込んでいたでござるからなぁ」

「こりゃ、相手がかわいそうアルネ」

「ただえさえ咬ませ犬っぽい体型なのにな~…かっこいいと思うけどな。あの仮装はな」

「頑張ってください師匠!」

 

『それでは第八試合―――』

 

誰もがどんな戦いが繰り広げられるかを楽しみにしていた。

そして、エヴァンジェリンの強さを知る者たちは、応援しながらも談笑に持ち込んでいた。

 

『ready―――Fight!』

 

そんな彼らが次の瞬間見たものは、爆音と共に上がった木材の破片と―――――

 

 

「え?」

「は?」

「へ?」

 

 

拳を振り下ろした、”ディエゴ・ブランドー”の姿であった。

 

 



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俺の出番その2

side三人称

 

(ぐが……何が、起こった?)

 

長年の勘のおかげか、エヴァンジェリンは直撃をもらってはいなかった。しかし先ほど放たれた拳は、そんな事が関係無いと思えるほどの威力だったのだ。そのせいで、観客席にまで飛んでいく所だった。

 

それを言うなら最初の瞬動もどきもおかしかった。

瞬動ならば、跳躍地点と着地地点が猛烈な音を立てて爆ぜたりはしない。つまり、このディエゴという男は、”力技で”瞬動を再現したのだ。

 

(強烈な脚力を持って、圧倒的な精密性とスピードで脚を叩きつける……口で言うのは簡単だ。だがそんなもの、”魔力や気”でも無ければ再現不可能なはずだぞ!?)

 

 

一方の選手席でも、驚愕の声が漏れ始めていた。観客席は、体格差から言ってこれが当たり前だと思っているようで、威力には驚いているが展開には驚いていない。

 

「うそやろ!? 魔力も気もなしで……そんなバカげた芸当ができるわけ―――」

「いや、現実にあのディエゴという吾人はやったでござる」

「抜きや入りなんてものが無い力技の芸当だからこそ、より脅威です」

「なんで? 察知しやすくて有利なんじゃない?」

 

神楽坂が首をかしげるが、長瀬はそれを否定した。

 

「確かに普通はそうでござる。しかし、あの吾人が行っているのは瞬動という移動技ではなく、力、速さ、技をすべて使って、前方にすっ飛ぶという攻撃とも取れる技。あんなものに対処しようするなら、自動車にはねられるような衝撃ぐらいは覚悟した方がいいでござるな」

「それに、ディエゴ選手だって馬鹿ではありません。方向だって変えてくるでしょうし、移動ではなく本当に攻撃してきたら? そう考えると、むやみに動くのは危険です。相手は力、速さ、技がそろった強敵なのですから」

 

観客席に目をもどしながら、カモがかなり沈んだ様子では話しだした。

 

「そんなむちゃくちゃで小難しい芸当が出来るってことは……あいつ、めちゃくちゃ強いんだよな。ってことは―――」

「ソウダナ。ハッキリ言ッテ、御主人ガ対処出来ルレベルジャネェ。………コリャ負ケルカモナ、御主人ハヨ」

「マ、師匠が負ける!?」

「マァ、マダ決マッタワケジャネェ。今ハジックリ見テヨウヤ」

 

 

 

 

その”負ける”という予感は、エヴァンジェリンも感じていた。

 

(あのチンチクリンなオッサンにならった体術なら何とかなるかもしれないが……私ではなく地面に叩きつけられたり、風圧で攻撃されればアウトだな。……ならばここは人形使いの技能でっ)

 

「ふっ!」

 

魔力があれば周囲3㎞の人形をかなりの数操れ、人間にも作用させる事が出来る”糸”を張り巡らせ、エヴァンジェリンはディエゴを捕らえる作戦に出た。

そしてディエゴが一歩踏み出した瞬間、脚に張り巡らせていた”糸”を絡みつけ転ばせた。

 

 

 

――――はずだった。

 

「がは……なあぁ!?」

 

又も猛烈な轟音と共に、転ばされているのは自分の方だった。

 

(何が起こった!? くそっ!)

 

『おーっと! マクダウェル選手、ディエゴ選手に遊ばれているようだが大丈夫か!?』

 

そして、エヴァンジェリンは立ち上がると同時に、ディエゴが殴りかかってくるのが見えた。

 

(ふん、馬鹿正直に突っ込んできたか。詰めを誤ったな)

 

それに合わせて鉄扇を円をかく様に絡ませ、僅かな動きで安全圏へと入り”合気”による技で、投げ飛ばした。

 

 

 

『な、何が起こったんだーっ!?

 

 

 

 

―――――いつの間にか、マクダウェル選手(・・・・・・・・)が投げ上げられているーっ!』

 

「ぐがっ!?」

 

 

しかし技を喰らったのは、又も自分の方だった。何時の間にか反転した空が映り、ステージに叩きつけられている。

 

『予想外の展開が続いた今大会ですが、流石にこの戦いは見た目通りか!?』

 

何時もなら、すぐさま五月蠅いと言い返し、まだこれからだと不敵に笑えるだろう。

しかし、今のエヴァンジェリンにそんな余裕はなかった。

 

勿論、彼女は恐怖などしていない。目の前で起こった理解不能な出来事のせいで、少々こんがらがっているのだ。

 

(私は何をされたんだ? ……あいつはいったい何をした(・・・・・・・・・・)!? ―――! ちっ)

 

考える暇すら与えず、ディエゴは再び突っ込んでくる。

エヴァンジェリンはそれを少し引き付け、”糸”を大量に用意した。

 

(もう、へまはせん! 油断も無い!)

 

射程内に入ったと同時に大量の”糸”を絡ませ、自身も追い打ちをかけるように更に投げ技をかける。そして勢い余って数回転もし、ステージ外の湖へと放り投げられた。

 

 

 

 

―――エヴァンジェリンが、である。

 

湖中の彼女は、有り得ない事の連続に、驚愕していた。

 

(い、何時の間に”糸”を………千切ったのかあいつは!? 違う、あいつはいつ私を投げた!? 何時”糸”を抜けた!?  …………ぐ、くそ息がっ)

 

そこでエヴァンジェリンの意識は途絶えた。

 

 

 

side”ザ・ワールド”

 

あら? 意外と早く終わった? 

 

なんだろか、俺はもっとこう―――”俺の攻撃を片腕で易々と受け止める”みたいなの想像してたんだけど……。

実際は”合気道となんか変な糸みたいなの”使ってたな。……ちょっと予想とずれが。

にしても糸の罠って反則だろ。いや、時を止めてる俺が言える事でもないか。

 

手加減もちょっとしすぎた……おかげで投げられかけたよ。……空中で体勢は立て直せるけどさぁ。

 

 

『えー……見た目通りの結果となりました、ディエゴ選手の勝利ーっ!!』

 

ま、勝ったからいいか。

 

『おっと、沈んでいたマクダウェル選手を、子供先生が助けている!』

 

あ、しまった忘れてた!? すまん、そして有難うネギ少年。

 

 

 

 

sideネギ

 

 

よかった……怪我は大したことないし、気絶してるだけか。本当によかった……師匠。

 

「なんやったんや……あいつ」

「一瞬の間に投げる方と投げられる方が逆転していたでござるしな」

「へ? エヴァちゃん、あんな大きな奴を投げれてたの?」

「すぐさま投げられる方に変わってしまっていましたがね……」

 

あの人は……”ディエゴ・ブランドー”さんはいったい何者なんだろう? 

 

そう思考する僕の耳に師匠の声が聞こえた。

 

「……じゃない」

「ま、師匠! よかった、目が覚め―――」

「あいつは……ディエゴとか言う奴は」

 

ディエゴさんがどうしたんだろうか?

 

「奴は―――まだ本気を出していなかった。 だからこそ今の私でも投げられたんだ」

「え……ええ!?」

 

弱まっていたとはいえ師匠を簡単に倒したのに、まだ本気じゃない!?

 

「いや、実際言うと、少しは本気は出したかもしれん。私への攻撃には使っていないがな」

 

それを聞いて、皆は黙りこくってしまった。やがてカモ君が声を上げた。

 

「……”ディエゴ・ブランドー”か、タカミチ倒せば後は何とかなると思っていたのに……とんでもないダークホースの登場だな、こりゃ」

 

……僕が、彼に勝てるのだろうか? 弱まっていたとはいえ幾百年生きてきた、”闇の福音”を簡単にあしらった人に。

 



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すぐさま二回戦

今回はかなり短いです。


二十分間休憩があったが、休憩後もまだ時間があったため、食いもの屋の屋台を回ったり特訓をしたりしていた。

……が、すぐに試合時間が来てしまった。

 

早いな、次の試合はもうすぐか……。

四つしか試合無いし、一つは不戦勝だし早く回ってくるのは当たり前か。

 

俺の次の相手は、桜咲刹那……あのメイド姿のデッキブラシ使いの少女か。俺、途中から試合見てないからどんな戦い方するか分かんねえんだよな……。

ま、いいや。当たって砕けろだ!

 

 

 

side超

 

「ハカセ、調子はどうネ?」

「はい、カメラ妨害用ナノマシンの散布も良好ですし、ネットにまいた種もうまく芽吹いています」

 

……ふむ、今の所予定どうりネ

 

「ただ、二つほど気になる事があるんです。……一つは、エヴァさん達と素性不明の人が接触しているという事です」

「何者アル?

「図書館司書のクウネル・サンダースという人物で、今大会の出場者でもあります。所属は図書館島の図書館司書とありますが―――」

「ふむ……計画に不確定要素はつきものネ。調べておくとしよう」

「そして二つ目なんですが……この映像を見てください」

 

お、これは確か”ディエゴ・ブランドー”とかいう出場者の一人カ。あの”闇の福音”を弱い状態とはいえ軽く倒した男、ダタカ。

 

「……一旦ストップします。問題はここから―――エヴァさんが投げられた時の映像です」

 

ほお、エヴァンジェリンの投げ技が見事に……。……!? 

―――今、映像が飛んダ……!? いきなり投げられタ!?

 

「この不可思議な現象は、コンマ0.01秒以下の”超”スーパースローカメラで撮影していたものでも、投げる瞬間は捕らえられませんでした。まるで―――」

「うむ、時間を操ったかのようネ……」

 

カシオペアも無しにこんな芸当が出来るとは……まだ決まった訳ではないが、十分に警戒しておく必要もありそうネ。

 

「出来るなら仲間に引き込みたいところだガ」

「クウネル氏以上に素性が不明な人物ですからね……」

 

ま、どんな事があろうとも、私の計画は狂わせないヨ。

 

 

sideout

 

 

 

 

side第三者

 

 

『それでは皆さん、お待ちかねの第二回戦最終試合です! 桜咲刹那選手 対 ディエゴ・ブランドー選手! この試合の勝者がベスト4へと進めます!』

 

ステージ中央へと進みながら、刹那はエヴァンジェリンから教えられた事を思い返していた。

 

(最近の私は幸福な状況に流され、たるんでしまっていた……。そんな私の為に、エヴァンジェリンさんは時間を割いてまで諭すとは。……おかげで、自分の意思を示し、その意思をより強く持つ事が出来るようになった。『剣の道も幸福の道も、どちらもあきらめず進む』という意思を)

 

刹那は一度目を閉じ、深呼吸してから目を開け、目の前の男を見据えた。

 

(最弱状態だったとはいえ……エヴァンジェリンさんを軽くあしらった男。

いや、あの合気柔術を使いこなす、最弱とは呼べないほどのエヴァンジェリンさんの技を簡単に返してしまえるなど……、並みの者に出来る事ではない。

不可思議な技も持っているようだし、しっかり見据え油断しないようにしないと……!)

 

刹那は明日菜の試合の時と同等以上に”気”を込め、構える。

 

『それでは最終試合……ready Fight』

 

試合の火ぶたが切られた。

 

「がはっ!?」

 

と同時に、腹部に拳が決まっていた。

 

(予備動作すら無しにっ!? これは……一体!?)

 

「く……”斬岩剣”!」

 

刹那は”気”を込めた一撃を繰り出した。その一撃は本当に岩をも切り裂くほどの威力を誇る、凄まじい一撃――――のはずだった。

 

しかし、目の前の男はそれを片手で受け止めてしまったのだ。それと同時に蹴りが飛んでくる。型は滅茶苦茶だったが、そんなことが関係無いほどに速く、正確な一撃だった。

 

(防御して……流せば!)

 

達人と素人の違いからか、若干ずれたものの刹那の予測通りの場所に蹴りが飛んでくる。そして、流そうとしたまさにその瞬間、

 

「がっ!?」

 

蹴りが見事に入った。受け止め流したはずの蹴りがだ。

 

(エヴァンジェリンさんの時と同じだ……、やはりこの男は不可思議な術を使う…! この術の正体を見極めねば!!)

 

しかし、刹那は薄々だが感づいていた。 ”気”の防御を易々と抜いてくるパワー、巨体に似合わないスピードとテクニック。そして戦ってみて確かに感じた、まだ恐らく本気ではないだろうという所から―――

 

 

この男には勝てない(・・・・・・・・・)……と。

 

(せめて……せめてネギ先生の為に、ヒントだけでもつかんでおかなくては!)

 

 



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ばれぬよう、ばれぬよう

今回も短いです。 ※活動報告欄にお知らせがあります


「ぐ……はぁっ!!」

 

刹那は手に”気”を集め、”斬空掌・散”を放つ。切り裂くような勢いで、ディエゴへと気の弾が向かっていくが、それはすべて叩き落されてしまった。

 

(ならば!)

 

次に刹那は、スピードで撹乱するように動き回る。だが少し前、これを利用して攻撃したのだが見切られ、ヘッドバッドをお見舞いされてしまったのに、いったいなぜまたこれを行ったのだろうか。

 

「……ふっ!」

 

なんと刹那は、動き回ったにもかかわらず前から攻撃を仕掛けた。当然ディエゴは反応し、破壊力とスピード、正確さを合わせ持った拳が刹那へと襲いかかる。

 

(一か八か……喰らえ!)

 

刹那はその拳を掠りながらも交わし、相手の左腕と右足にそれぞれ腕と足をかけ、投げ技を決めようとする。しかし、刹那とディエゴの体型にかなりの差があったからか、完璧にかける事は出来ていなかった。

 

(ぐっ……”神明流 浮雲・旋一閃”!)

 

それでも流石神鳴流といったところか、投げ技自体は決まった。

 

 

「ガハァっ!!」

 

が、その直後エヴァンジェリンに起きた入れ替えが、刹那にも起った。空中を三回転し、刹那は地に叩きつけられる。

 

(わからないっ……この入れ替え(・・・・・・)のタネはいったい何なんだ!?)

 

考える刹那だが、元々彼女は根っからの戦士タイプ。性格も冷静沈着というよりは、どちらかというと猪突猛進。おまけに頭脳も良い方では無い。

今まで見たことも聞いたことも無い術を見破るのは、彼女には骨だった。

 

やがて刹那は思考を止め、再びディエゴへと向かっていく。

 

モップを右から振り、弾かれたら左から振る……と見せかけて細かい一撃を重ねる連続攻撃を刹那は繰り出す。そして出来た一瞬の隙を見逃さず両足での蹴りを打ち込むが、ディエゴに片手でつかまれ投げあげられた。

 

(アレは誘いだったのか……だが、私とておとなしく喰らう―――な!?)

 

一瞬の出来事だった。瞬きをしたほんの一瞬の間に、ディエゴは目の前に現れた。反応すらできず、刹那は再び地に叩きつけられた。

 

(なん……なんだっ!? あの男は本当に何者なんだ!)

 

考える間も与えないとばかりに、ディエゴは拳を振り下ろしてくる。刹那はそれを転がって避け、跳ね起きる。

 

と同時にまた、一撃を喰らわされた。

 

(た、体勢が崩れていたはずなのに!?)

 

刹那の言うとおり、拳を振り下ろしたディエゴの体勢は崩れており、次の攻撃まではまだ間があったはずなのに、跳ね起きると同時に拳を打ち込まれたのだ。

 

(まずい……ダメージが積み重なってきた……長引かせることは出来ない…!)

 

ならば! と、刹那は自身の限界のスピードでディエゴに突っ込み神鳴流奥義を繰り出す。

それは、花が舞うがごとくの連続、そして高速の打撃―――!

 

(”百烈桜花斬”!!)

 

たとえ全て当たらずとも数発入れば、そう考えた刹那だったが、

 

「…!?」

 

自身の手には、者を殴った感触など伝わってこない。嫌な予感がし、後ろを振り向くとそこには―――

 

 

拳を振りかぶったディエゴ・ブランドーのあった。

 

が、その姿を見て刹那は笑みを浮かべた。実はこの攻撃は、当たればそれでよし、当たらなければ囮として使うと決めていた技なのだ。流石に気配無しに後ろに回ることは予想していなかったが。

攻撃態勢に入り、もう軌道を変えられないディエゴへ、その攻撃軌道から外れながら刹那は”神鳴流奥義”を放った。

 

「はあああぁあっ!!」

 

直後、刹那が繰り出した”百花繚乱”と、ディエゴの拳がぶつか―――

 

「な……ぁっ…!?」

 

 

らなかった。だが、当たらないだけなら刹那も驚く事は無かっただろう。刹那が驚愕した理由は、攻撃の最中だったのにもかかわらず、

 

それがまるで無かったかのように(・・・・・・・・・・・・・・)腕を再び振りかぶり、自身の目の前にいる事だった。

 

(この男……本当に――――)

 

刹那は殴られる痛みを感じながら、

 

(わけが分からないっ……!?)

 

駄目押しと放たれた、止めの一撃で吹き飛びながら、

 

(すいません、ネギ先生。ヒントすら……掴めませんでした)

 

ネギへ謝罪をしていた。

 

(勝てませんでした……お嬢様)

 

このかへ謝罪をしていた。

 

『10! ディエゴ・ブランドー選手、圧倒的な実力差と、奇怪な術での勝利ーーっ!!』

 



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考察……になってるのかコレ

やっと友達から原作帰ってきました。ネタ帳の再編集も終わりました(今までと余り変わらず、内容が薄いですが)

久しぶりの更新になります。お待たせしました。


「いったい何者でござるか……あのディエゴという男は」

 

 

 ディエゴVS刹那の試合が終結を見た後、楓は去っていくディエゴの背中を見やりながら呟く。しかし、その問いともとれる言葉に答えを出せる者はだれもいない。

 型はめちゃくちゃだったが、スピードとパワーがケタ違いであり、刹那を上回る速度と、気の防御を貫く程の力を見せつけた。アメコミヒーローの様な外観からは想像もつかない……否、ヒーローだからこそあの力が出ていそうな気もしてくる。

 

 

「どうすんだよアニキ……次戦うのはあいつだぜ? 対策も何も無いんじゃ、刹那のねーさんよりも長時間粘れるってだけで――――」

「無理だな、長時間も粘れまい」

 

 

 どうするのかと考えながら言っていたカモの台詞を、エヴァンジェリンが途中で遮った。それにステージ修復中は暇な為か、戻って来ていた茶々丸がエヴァンジェリンに問う。

 

 

「如何言う事ですか? マスター」

「前にも言った筈だ――――あいつは、ディエゴはまだ本気を出していない」

 

 

 為も無くさらりと言われたその言葉に、一同皆開いた口が塞がらない。

 

 

「入れ替えを起こす奇妙な術は、恐らく此方に手加減をする為の物だろう。アイツが本気を出せば、この中で対抗できるのはタカミチとアルビレオ―――」

「クウネルです」

「……クウネルぐらいだろう」

「そんな……」

「で、でもネギは高畑先生に勝ったのよ!? だったら―――」

「何度も言うがあれは御情けで勝たせてもらったようなもんだ。それに、魔法が流出しては困るから、そして客がいるから大技を出せなかったというのもあるしな」

「その点、あの御仁……ディエゴ殿は基本殴る蹴る投げる。入れ替えの術もあそこまで奇妙では無いものの実際にあるでござるし、本気を出されたら非常に不味いでござる」

 

 

 楓の止めの一言に、一同再び黙ってしまう。

 

 

「僕の考えた技も効かないでしょうし……効くまで溜めたら隙が出来ますし……」

「おまけに向こうはタカミチの様に試したり、影人形遣いの様に周りが見えていなかったりする相手では無いから、先の試合の様な展開も期待できん―――と」

 

 

 更に、ネギにはコノ戦いの前にクウネルに言われたある一言がとても気になっており、まだ数え十歳の彼には重荷がのしかかりすぎていた。

 その一言とは、彼の父に関する事であり、父を探している彼にとっては見過ごせない、聞き逃せない情報……頭から離れる筈もなかった。

 

 

(勝てるんだろうか……? ディエゴさんに……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方ディエゴ……もといDIOはというと、

 

 

 

(あー……ばれてねぇよな? 大丈夫だよな……?)

 

 

 試合結果と試合のの録画映像を見ながら、自分を知っている者たちにバレていないかと心配でいっぱいだった。

 本当は心配で震えているのだが、傍から見ればまるで怒りをこらえているかのように震えている。そんな彼を見た者達は、そそくさとその場から去って行った。

 

 

(大丈夫だろ。時止めをタイミングよく使っているし、ネギまの事しらねぇけど時を止めるなんて技術は無い筈だ。大丈夫だろ)

 

 

 根拠のない自信を胸にガッツポーズをし、彼は立ち上がる。次の試合相手は『ネギ・スプリングフィールド』。……つまり、この物語の主人公だ。

 

 

(……主人公補正とかで逆転勝利とかしないよな? そうならんように本気出すか)

 

 

 彼は肩を回しながら試合会場から遠ざかって行く。『主人公』に勝つための……入念なウォーミングアップの為に。

 

 

 




久しぶりなのに短くてすみません。


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ダークホース VS 天才少年、開幕ッ!!

お待たせしました!

いよいよ、オリジナル主人公 “世界(ザ・ワールド)” VS 原作主人公 “ネギ・スプリングフィールド” の対決、開幕です!




side三人称

 

 

 

『さあ、準決勝第二回戦! “死の眼鏡”(デス・メガネ)高畑選手を打ち破り、謎の人形遣いを打倒し、その実力を示してきた子供先生……ネギ・スプリングフィールド選手!! そして、女子供だろうとも戦場ならば容赦はしない、奇術と合わせて実力は未知数……ディエゴ・ブランドー選手!

さあ、この試合を制し、決勝へと駒を進めるのはどちらなのか!!』

 

 

 実況に合わせて大歓声の響く会場を、ネギはディエゴを見据えたまま歩く。

 

 

(何としても勝たなきゃいけないんだ……父さんに近づけるかも知れないんだから!!)

 

 

 一方のディエゴ―――DIOも、確固たる意志を持つ瞳のまま歩いていく。

 

 

(ここまで来たんだ……主人公補正ぶち破って、ぜってぇ決勝に行ってやる!!)

 

 

 

 選手席からも、ネギへの応援の声が上がった。

 

 

「ネギ、いい!? 絶対に食らいつきなさいよ!」

「気負わぬようにするでござる」

「入れ替えなど気にするな! ボーヤはボーヤの持ち味を活かせ!」

「頑張ってください、ネギ先生!」

「いけぇ! 勝てアニキぃ!!」

「……フフ」

 

 

 両者が位置に付き、会場のボルテージが最高潮に達した時――――

 

 

 

『それでは……準決勝第二試合―――ready…fight!!!』

 

 

 

 試合は、始まった。

 

 

 

 

 開始と同時にネギは瞬動でディエゴの懐に入り込む。ディエゴは、どうやらその背の高さゆえにネギを見失ってしまっているようだ。

 

 

 

「瞬動の “入り” はもう完璧ですね!」

「いっけぇ! やっちまえ!」

 

 

 ネギは少々力と魔力を込めた足払いで、ディエゴの両足を打つ。しかし―――

 

 

(う、動かない!? なんて体重なんだ! それに硬い!)

 

 

 まるで鉄塊を蹴りつけたかのようにビクともせず、おまけに今のでディエゴに気づかれたらしく、その場から跳び退る前に蹴っ飛ばされた。保険として張っていた、風盾(デフレクシオー)を貫通して、である。

 

 

「ぐあっ……!」

 

 

 苦悶の声を漏らしながらも、すぐにネギは立ち上がる。が、ディエゴはタカミチのように待ってはくれず、間髪入れずにもう一度吹っ飛ばされた。

 

 負けじと、八卦掌独特の “円”の動きを駆使してディエゴの攻撃を受け流しながら、近接特化の八極拳での肘打ちを入れるが、又もや鉄塊を殴ったかのような感触が走るのみ。殴った攻め手がダメージを受けるなど、魔法障壁や気の強化でもありえない芸当である。

 

 

(実力が違いすぎる……! 師匠や刹那さんは、こんな人相手に堂々と向かっていったのか……!) 

「なんであんなに強いんだよあいつ!? 魔力も気もねぇのに!」

 

 

 カモが言った事は選手席の誰もが思っている事なのだが、だからといって答えを出せるわけでも無

い。

 

 

 考えるまもなくディエゴは接近し、エヴァンジェリンにも行った地を殴って衝撃波を起こす攻撃で、ネギを場外へと吹き飛ばそうとしてきた。

 しかし、ネギは吹き飛ぶのを逆に利用し、タカミチの時と同じように水中に落ちると同時に魔法の射手を無詠唱で溜め始める。……しかし、現実はそう上手くいかなかった。

 

 なんとディエゴがネギを追って自身も水中に潜ってきたのだ。魚類に匹敵する程のスピードで泳ぎネギを掴むと、水上へと思いっきり放り投げる。

 

 

「うわあああっ!?」

 

『ね、ネギ選手が飛び出して―――いや、続いて出てきたディエゴ選手の様子を見るに、投げ上げられたようだ! 水中でもなおこの威力……ディエゴ選手、恐るべきパワーだーっ!』

 

(マズイっ……なんとか体勢を―――って、ええ!?)

 

 

 体勢を立て直そうと体を捻ったその矢先、いつのまに出てきたのか目の前にディエゴがおり、ネギは彼の拳でステージに叩きつけられた。その威力で、ステージから木片が舞い上がる。

 

 

「アニキィ!!」

「なんなのよあいつ!? 高畑先生よりも強いの!?」

「……言ったはずだぞ神楽坂、タカミチはボーヤの成長が気になって、何かをしてくるのを今か今かと待っていたから、ボーヤに負けたんだ。あの大男には待つ理由など無いし、加えて一般人だからボーヤの事情など知らんし、今までの試合を見ているから油断もない。だから、これまでの相手よりも強いのは当然のことだ」

「しかし、ネギ坊主がここまで押されるとは……やはりディエゴ殿、只者ではないでござるな」

 

 

 少々よろめきながらもネギは立ち上がり、拳を腰だめに構える。見ると、周りに魔法の射手が待機させてあり、どうやら殴られる前に遅延呪文(ディレイスペル)を行ったようである。

 

 そんなネギへと、ディエゴは空中を一度蹴るようにして、勢いをつけて一直線に向かっていく。

 

 

「虚空瞬動でござるか!」

「本当に一般人なんですか!? あの男は!?」

 

 

 驚く彼らをよそに、ネギも飛び出してディエゴを真っ向から迎え撃った。

 

 

「桜華……崩拳!!」

 

 

 魔法の射手を纏った拳と最上級の力を持った拳がぶつかり合い、周りに衝撃波が発せられてまるで間欠泉のように水しぶきが舞い上がる。が、拮抗したのもほぼ一瞬、結果押し負けたのはネギだった。

 

 

「うああっ!!」

 

「ネギ坊主の技を真正面から破ったアル!」

「……とんでもない人ですね。力技で魔法や気を破るとは」

 

 

 圧倒的不利な状況だが、ネギはそれでも勝つために知恵を絞る。魔法を駆使し、拳法を使い、ディエゴに勝つための方法を考える。

 

 

(今の所、師匠達に使った入換えの奇術は行っていない……けどっ、そんな事関係ない! それほどにこの人は……純粋に強い(・・・・・)っ!)

 

 

 

 試合はまだ、始まったばかりだ。

 

 



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俺は人間をやめてるぞ(泣)! ジョ○ョーーッ!!

side三人称

 

 

 ネギの攻撃は尽く躱され、当たっても全くと言っていい程ダメージがなく、そして攻撃はどれもかなりの威力を持ったものばかり。 幸いにして瞬動術はまだ未熟らしいが、となると先程の虚空瞬動は一体何だったのかと、首をひねる事になってしまう。

 

 体格差、実力差、経験差、ネギにとってはどれもこれも自分以上の相手を前に、逃げ回ってヒットアンドウェイを繰り返す他なかった。

 

 

『これはまた一方的な展開! ネギ選手の攻撃はほとんど効いていないにも関わらず、ディエゴ選手の攻撃は、前半はともかく先程から全て一撃必殺級! これを試合と呼べるのか!?』

 

「ふ……確かにこれは試合ではないな。まあ、タカミチの様な遠距離技を持っていない分、まだ逃げ回っていられるようだがな」

 

 

 応援の言葉止まない選手席でぽつり呟いたエヴァンジェリンは、同じく神楽坂達の後方にいて、表情を変えずに見ているクウネルに声を掛けた。

 

 

「クウネル、決勝でぼーやに用があるんだろう? 手を貸さなくてもいいのか?」

「ええ、良いのです。……元々、私も賞金目的というのもありますし、それに予定が早まっただけだといったはずですよ? ですからこの試合でネギ君が負けても……予定通りということになりますね」

「ぼーやが負けることも視野に入れていたか……タカミチがいた時点で妥当だとは思うがな」

 

 

 彼らの会話は歓声に吸い込まれるようにして消えていく。そこで二人は会話を切ると、ステージの方へ目を向けた。

 

 

 

 

 先刻と変わらぬ戦法で未だに逃げ回っているネギだったが、彼も黙って何もせずに逃げ回っていたわけではない。小利口な判断よりもわかりやすい攻撃が聞くかも知れないと算段を練っていたネギは、ディエゴにバレないよう、魔法の射手を順々に溜めている。

 

 タカミチのように待ちも無ければ隙もない相手を前に、しかしネギは持ち前の器用さを発揮していた。

 水中に逃げるふりをしたり瞬動を使ったり、相手の型がメチャクチャなのを利用して死角に回りこんだりして、ネギは幸運といってもいい程に逃げることができ、そのお陰か―――策は形をなそうとしていた。

 

 

(オクトー)! (ノーエム)! 術式封印(ディラティオー・エフェクトゥス)!)

 

「封印を施したようです!」

「なんかやる気か、アニキ!!」

 

 そのままディエゴの方を向くと、なんと今度はディエゴにもわかるように魔法の射手を溜め始めたのだ。

 

 

「ちょ、ネギあんた何やってんの!? さっきみたいにしないと―――」

「いえ、それは無理でござるよアスナ」

「無理?」

「先ほどの術式封印でディエゴ殿は下手を打ったことを自覚したはずでござる。それに、時間ももう5分を切っているでござるし、ディエゴ殿も決める気で来るでござろう。寧ろ、今まで攻撃を衝撃越しで受けられたり、逃げ回れたのが幸運なぐらいなんでござるよ」

「ディエゴ選手の型がめちゃくちゃだったからという事もありますしね……」

 

 

 そして長瀬の言葉を体現するかのように、ディエゴは今まで以上のスピードを持ってネギへと突貫してくる。

 対してネギは微動だにせず、瞬動を使う様子も見られない。しかし、何が目的かは、ディエゴの拳が迫ってきた時に明かされた。

 

 

風花(フランス)風障壁(バリエース・アエリアーリス)!!)

 

 

 10tトラックの衝突をも防ぎきる、風障壁を発動させ、ディエゴの強烈な拳を見事に防ぎ切ったのだ。

 

 その間にも、魔法の射手は溜められていく。

 

 

 

「行きますよ! ディエゴさん!!」

 

 

 その言葉と共に瞬動を行い懐へと再び入り、ディエゴが足を振り上げる前に、ネギは拳を構えて魔法を解き放つ。

 

 

風精の王(ドミヌス・アエリアーリス)……(解放(エミッターム)!!)」

 

「いっけーっ!! ネギ-ッ!!」

「やってやれ! 我が弟子ヨ!!」

「ぶっ飛ばせぇ! アニキィ!!」

「決まるでござるか……!?」

「ネギ先生!!」

 

「最大――――真・桜華崩拳!!!」

 

 

 計十八本の矢をまとったネギの拳が、ディエゴの腹へと完璧に突き刺さり、轟音と共に大量の煙と木片を上げて、ステージは全く見えなくなった。

 

 

「これならいくらなんでも立ち上がれねえだろ! ぶっ飛ばされた時の桜花崩拳は、5本矢だったしな!」

「あの場で十八本を完成させるとは!」

「エヴァちゃんも、これは認めるでしょ!」

「……やるでござるな」

「……確かにな」

 

 

 長瀬とエヴァンジェリンが呟いた言葉に、神楽坂はすごいわよね! と振り向いて言おうとして、

 

「ぼーやが、じゃない。あの男だ」

「……何者なんでしょうかね」

「え……!?」

「は、だってアイツはアニキが……!?」

 

 

 その言葉はまだ早かったことに気づく。エヴァンジェリンが、よく見ろと言わんばかりに顎をしゃくり、そこを見た神楽坂達は、そして確かな手応えを感じていたネギでさえも――――絶句した。

 

 

 

 

 

 

 

『ディエゴ選手が……ディエゴ選手は立っているーーーッ!? あの強烈な拳を受けてもまだ立っている! 定位置からほぼずれていないっ!! てかアンタ何者!?』

 

「うそだろ!? なんだよあいつ!?」

「あの威力の攻撃を受けて……ほとんど位置がずれていないなんて!?」

「ホントにバケモンじゃないのよあいつ!! 一般人には程遠すぎるわよ!?」

 

 

 ディエゴはしっかりと両足で地を踏みしめ、さきほどと変わらぬ表情のままたっていたからだ。ネギ達の驚愕など素知らぬ顔で、ディエゴはアッパーを放つべく拳を振りかぶり……その右腕から筋肉の盛り上がる音がはっきりと聞こえ、ディエゴの威圧感が増していくのがわかる。

 

 

(ま、不味いのが来るっ……! フ、 “風花・風障壁” !!)

 

 

 最後の策すら破られたネギは、爆音を放ち迫り来る拳を見て、これを防いで何とかしなければと考えようとして、再び絶句することとなる。

 

 

 強烈な破裂音がしたかと思うと―――なんディエゴの拳が風障壁(・・・・・)を貫いて、ネギの顔に思いっきり入ったのだ。

 

「があっ!?」

 

「ふ、風障壁を破りやがっただと!?」

「風障壁って、高畑先生の超居合拳を防いだあの!?」

「ああ、10tトラックの衝突すら受けきっちまう、優れた対物理防御壁だ」

「ちょっと待ってください……!? じゃあ、あの人の拳は―――」

「10tトラック以上の威力ってことなんだよ!!」

「ふ、ふざけんじゃないわよ!? なんなのよそれぇ!?」

 

 

 その勢いで打ち上げられたネギは、考える間ももう一度驚愕する間もなく、次の拳で観客通路の屋根に叩きつけられ、破壊した屋根に埋まった。

 

 決められた二撃目の拳は、前半に喰らったモノの威力をかなり上回っていた。

 

 

「うぐっ……(ありえない……っ!? 風障壁を、単なる馬鹿力で破るなんて……!)…あ…」

 

 

 考えられたのは其処までであり、ネギは余りにもあっけなく意識を失った。

 

 

 

『あっ!……ぎゃ、逆転に次ぐ逆転……ディエゴ選手の勝利!!』

 

 

 審判ですらほうけてしまう程あっけない結末を迎えたこの勝負に、観客もただ呆然とするのみであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(やべぇ……ちょこまか動き回られたり攻撃を防がれたせいで、ついむきになっちまった……ネギ少年大丈夫かな……?)

 

 

 

 会場の雰囲気とは裏腹に、何とも情けないことを考えるディエゴ……もといDIOなのであった。

 

 




やっと、やっとクウネルさんまでたどり付けそうです……。


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分身体なんて卑怯クセェっ! ・・・時を止める奴の言うセリフじゃないが!

活動報告欄にてアンケートをとります。

詳しくはそちらをご覧下さい。


・・・あと、本話にてメタ発言が出ますが、どうかご容赦を。

それでは本編をどうぞ。


 試合の録画映像を見て、ディエゴ・・・もとい『ザ・ワールド』は驚いていた。

 

 

(オイオイ、いま攻撃がすり抜けたぞ!? って事はあのクウネルは分身てことか!? ・・・あっちは攻撃可能でこっちは攻撃完全無効って・・・魔人じゃんかよ!)

 

 

 試合が始まってからザ・ワールドもクウネルも目立った負傷など無いのだが、まさかその理由が自身のようなタフネスではなく(彼が言えたことではないが)ズルによるものだったと知れば、大なり小なり驚くだろう。

 

 

 だが、彼にとっての問題はそこではなかった。一番の問題、それは『どうやって攻撃を当てるか』・・・これ一つに尽きる。

 

 ザ・ワールドの攻撃は、殴る蹴るにしろ道路標識やロードローラーを使うにしろ、どれも純粋な “物理攻撃” のみ。

 

 つまり、彼を完全に屈服させるにたる強力な特殊攻撃を、一切合切持っていないのだ。可能性があるとすれば時を止めることだが、今の彼では止められて三秒・・・足らないにも程がある。

 

 

 

(賭けとしては攻撃した瞬間に時止めてぶっ飛ばす事だけど・・・もし攻撃時にも完全無敵だったらどうするか・・・つーか攻撃時に完全無敵って、何処発売のクソ格ゲーだよ・・・)

 

 

 

 もう一つの対策として用意してあるものも彼にはあるが、それが必ず発動するわけではないし、時間が足りなければ即アウトという代物なので、使うに使えない。

 

 当然ナイフも使えないし、完全にではないが八方手詰まりである。唯一優っているのは、純粋な身体能力のみだ。

 

 

 

(あ~・・・[飛](トバシ)の力でもあれば、分身体なんざ一発で空の彼方まで・・・・ん? 何言ってんだ俺は?)

 

 

 

 何やらメタ発言が飛び出したようだがそれは置いておき、彼の苦悩に反して時間は過ぎていく。刻一刻と、試合時間が迫っているのだ。

 

 

 

(・・・悩んだってしゃーねぇ!! やれること全部やってやらァ!!)

 

 

 膝をバンと叩いて、彼は控え室から能舞台の方向へと歩いていく。

 

 

 歓声と陽光が、出口から漏れ出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『お聞きください! この歓声を!! しかしそれも頷ける・・・・・何故ならば! この決勝までの名勝負の数々に、目を疑うような技の乱舞! 大歓声が上がらない方がおかしいほど、どれもこれもが珠玉の名勝負! その中でも、大豪院選手、村上選手、長瀬選手を破ってきた “クウネル・サンダース” 選手と、女子供だろうが本気でぶっ飛ばすその容赦の無さで逆に人気が出てきている “ディエゴ・ブランドー” 選手! その両名の実力は特に破格と言えます!!』

 

 

 

 朝倉の実況に合わせ、観客の熱も徐々にヒートアップしていく。もし仮に、何も知らない人がこの神社を訪れたのなら、爆発が続いていると錯覚することだろう。

 

 

『学園最強の名を手にするのは・・・・・クウネル選手か!? それともディエゴ選手か! では、頂点を競うふたりに入場していただきましょう! まずは、クウネ――――』

 

「フフ、もう来ていますよ」

 

 

 クウネル選手、と朝倉が叫ぼうとした時には、すでにクウネル本人が後ろに居り、朝倉は飛び退いて驚く。

 

 

『でっ、出ましたクウネル・サンダース選手!! フードが脱げたこともなく、傷らしい傷もおっていない! 正体不明、目的不明! まさに無敵な魔人だーっ!』

 

 

 クウネルの紹介を終え、続いて朝倉は控え室出口から歩いてくる人影に手を向けた。

 

 

『さあ、対するは!! エヴァンジェリン選手を手玉に取り、桜咲選手を圧倒し、あの子供先生ですらなすすべなく敗れた、これまで一度も声を発さず表情すら変えない、こちらも正体目的一切謎のアメコミヒーロー・・・・・・ディエゴ・ブランドー選手だぁっ!!』

 

 

 

 両選手の登場で、会場は失神者が出てもおかしくないほどの盛り上がりを見せる。

 

 

 

「フフフ・・・何者かは知りませんが、ここまで来たからには勝ちたいですね」

「・・・(ゼッテー勝つ! 俺が勝つ!!)」

 

 

 

 両者は能舞台の中央でにらみ合い、周りの者たちはまるで彼らの目線の先で火花が散っているかの様な錯覚を受ける。

 

 

 そして――――――

 

 

 

『決勝戦・・・・FIGHT!!!』

 

 

 

 

 最後の舞台が、幕を開けた。

 

 

 





次回、本当にぶつかり合います。


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決着ゥ決着ゥ!!

皆さん・・・本当にお待たせいたしました。


今回より、ザ・ワールドの投稿を再開いたします。



それではどうぞ。


「ではまずこちらから行きますよ」

 

 

 穏やかな声とは裏腹に、猛烈な勢いで掌底が叩きつけられる。だが、追撃を行おうとクウネルが腕を振り上げた時、咄嗟にその場から飛び退る。

 

 直後、何かが破裂したような轟音と共に、ディエゴの拳が振り抜かれた。風圧で舞台が捲れ上がっていく。

 

 

 

「・・・貴方は・・・本当に何者ですか? 攻撃したこちらがダメージを受けそうなほど硬いのに、魔力や気の類は一切感じられないとは・・・どんな力をお持ちで?」

「・・・(答えられるわけ無いだろ、スタンドパワーとかって)」

 

 

 

 傍目から見れば重々しい表情で睨んでいるように見えるが、ディエゴの内心では曖昧な気持ちが渦巻いているようだ。

 

 

 

「ま、答えるわけ無いですよね」

 

 

 

 そう言うと手をかざし、唐突に能舞台が破壊音を上げて凹んだ。これは、小太郎や楓との戦いでも使った、クウネル得意の『重力魔法』というもので、手を上から下へ振るようにして発動させているので、掌による強烈な一撃にも見える。

 

 喰らえばひとたまりもない攻撃なのだが・・・肝心の相手はそこにはいなかった。一瞬の間もない内に消えていた。

 

 

 

「おや・・・どこに―――」

 

 

 

 その答えの代わりに返ってきたのは、舞台を砕くとばかりに踏みしめ、顔面を貫かんばかりに放たれたストレートパンチ。

 かなり力を込めて打ったのか、衝撃波により木片と水煙が舞い上がって、舞台を数瞬覆ってしまう。

 

 

 いつの間に回り込んだか、ディエゴはクウネルの後ろに居たのだ。

 

 

 

(やっぱ時間停止は3秒弱が限界・・・これじゃ、ほぼ何にもできねぇぞ)

 

 

 

 瞬間移動や入れ替えのたね・・・それは、彼が持っている『ザ・ワールド』の能力“時間停止”のおかげであり、まず見抜けないうえ見抜いた所で意味がない、反則を超えた技である。それを使って隙を作らせ、強烈な拳を防御も取れなかったクウネルへと叩きつけたにも関わらず、ディエゴはこの先のことを考えている。

 

 

 何故か・・・?

 

 

 

「やれやれ、途轍もない威力の拳に、目視出来ない程のスピードとは・・・型が滅茶苦茶なのもデメリットとなりえない、厄介ですね貴方」

 

 

 

 何と、クウネルはローブすら汚さず、文字通り綺麗なまま普通に立っているからだ。どうやら、ディエゴが見抜いた “分身体であろう” という目測は当たっていたらしい。

 

 

 

「まだ “入れ替え” の種は分かっていませんし・・・長引くと面倒です」

 

 

 

 言いながらクウネルは一枚のカードを取り出し、ついで宙に浮かぶ。そしてカードを構えて何かを唱え始めた。

 

 

 

「アデア―――なんと!」

 

 

 

 だが唱えきる前に、一瞬で目の前に現れたディエゴに邪魔される。いつの間にやらカードを取られ、手裏剣の要領で遥か遠くに投げ飛ばされてしまった。

 

 それを見たクウネルは、肩をすくめて苦笑いする。

 

 

 

「やれやれ・・・どうやらあなたの反則技に、私は現時点の反則技で対抗するしかなさそうですね」

 

 

 

 本当はカードを呼び戻す事もできるのだが、やったところで無駄であろう事をクウネルは直感したらしい。カードを使った反則は早々に諦める。

 

 

 次にディエゴとクウネルは、まるで何処ぞの異星人達の戦いのように、お互い宙に浮きながら戦い始めた。

 

 

 

 ディエゴがマシンガンのようなジャブからバズーカの如きストレートを放ち、クウネルは熟練の動きで流しながら、硬すぎるでもまだ足りない男へ掌底を放つ。

 

 片方は行き過ぎたタフネス、片方は分身によるすり抜け。かなり奇妙な、しかし見ごたえのある一進一退の攻防が、能舞台上の空中で繰り広げられていく。

 

 

 

『こ、ここ、これは本物の舞○術かぁ!? 魔人・クウネル選手と鬼人・ディエゴ選手が、何処ぞの野菜人の様な空中戦を繰り広げているーっ!!』

『ほ、本当に・・・舞○術が存在するとはっ・・・!!』

 

「おやおや、魔人とはね」

「・・・(誰だよ!? そんな物騒なあだ名つけたやつ!?)」

 

 

 

 1人は心の中なれど、四者四様の反応を見せる。そこで一旦お互いに強烈な拳と掌底で、距離をとって区切ったあと、再び空中で我流体術と流派不明がぶつかり合う。

 

 

 

「中々ですね・・・しかし、これはいかがでしょうか?」

 

 

 

 戦いの最中、幾つもの巨大な重力球を発生させたクウネルが、両手を使ってディエゴへと叩きつける。

 

 

 

「・・・!」

 

 

 

 一瞬表情を険しくしたディエゴだが、彼が少し体を動かした途端、スプ○ッシュ○ウンテンの様に大量に水しぶきが上がり、又もや何も見えなくなった。

 

 ・・・が、水煙が切り裂かれたかと思うと、重い衝撃音が響く。完璧に晴れた舞台の上には、何が起こったかクウネルが転がっており、ディエゴはハイキックの為上げた足を勢いよく戻す。

 

 

 そして飛び上がり・・・ジェット噴射でも使っているかのような速度で、急降下キックをクウネルへと放った。

 

 

 

「おっと!」

「・・・」

 

 

 

 三度目の大爆発で、又もや水煙が立ち込める。飛び散る大量の水を見るに、もはや濡れていない観客など居ないのではないだろうか。

 

 悲鳴を上げる観客と、余裕の表情で立ち上がるクウネル・・・が、ディエゴの様子は、今までと違った。

 

 

 

(今・・・今確かに当たった・・・!? すり抜けずに当たったぞ!?)

 

 

 

 若干震えながら、己の手を見ている。それは、今までの攻防とは違った感触を受けたという、驚愕によるものであった。

 

 

 水煙の向こうにいるであろうクウネルの方へ顔を向け、ディエゴは拳を握り締める。

 

 

 

(・・・いけるかもしれねぇ・・・その前に、カムフラージュも混ぜて下拵えだ!)

 

 

 

 飛び上がって数回転し、先程のように水煙を強烈な蹴りで裂く。と同時に向かってきたクウネルを、今度は踵落としで打ち下ろす。

 

 紙一重でよけて繰り出された掌底を、受け止めて払い、またもやハイキックを打ち出した。

 

 

 クウネルも、練度の高い体術に重力魔法を組み合わせ、時に意味不明の高速移動や瞬間移動で不意を突かれるものの、負けず劣らずの一撃を打ち込んでいく。

 

 

 

(このまま、投票に持ち込まれてしまいそうですね)

(油断しろ・・・感づいてくれるなよ・・・!!)

 

 

 

 お互いに考え、それぞれの思いを頭に留めて、ぶん殴り、素早く蹴り、高威力を放ち、上空で打ち、吹き飛ばす。

 長いようで短く、短いようでいて長い、未熟さの中に熟練を感じ、熟練の中に遊びを感じる、攻防入れ替わり、一進一退の闘争が、重く響く音と切り裂くような音を上げて続いていく。

 

 

 そして・・・・・

 

 

 

「はあっ!!」

「!!」

 

 

 

 クウネルの重力魔法が遂にディエゴを捉えた。小太郎や楓ほど影響は受けていないようだが、それでも動きは鈍い。

 

 

 

「ダメ押しです」

 

 

 

 そのまま重力を利用した一撃を放った・・・・・・刹那、

 

 

 

(今だ・・・・決まってくれっ!!)

 

 

 

 ディエゴは当たる直前に腕を振り上げ――――

 

 

 

『時よ止まれ!』

 

 

 

 時間を、完璧に停止させた。飛んでゆく鳥も、まだ起こっている波も、盛り上がる観客も、離れて実況している朝倉も・・・攻撃直後のクウネルですら、全てが等しく止まる。

 

 ずっとこの時を待っていたかのように、ディエゴは0.1秒も惜しいと、舞台が砕け散るのも厭わず、クウネルへ急接近する。

 

 

 そのまま腕を引き絞り・・・これまでの全てを吐き出すかのごとく、方向と共に拳を突き出す。

 

 

〔無駄!〕

 

 

 突き出す。

 

 

〔無駄無駄!〕

 

 

 

 突き出して突き出す。

 

 

〔無駄無駄無駄!!〕

 

 

 

 より重く、そしてより速く、ディエゴ・・・ザ・ワールドはただ其れだけを考え―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〔無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!! 無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!!!〕

 

 

 

 突きラッシュのパワーとスピードを、上げていく。

 

 

 

〔無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァァッ!!!〕

 

 

 

 ただ獣のように、吼え、力を上げていく。

 

 

 

〔無駄! 無駄! 無駄! 無駄! 無駄! 無駄! 無駄! 無駄!! 無駄!! 無駄!! 無駄!! 無駄!! 無駄!! 無駄!!! 無駄!!! 無駄!!! 無駄!!! 無駄!!! 無駄ァッ!!!!〕

 

 

 

 もっと上へ、より高みへ、

 

 

 

〔WRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!!!〕

 

 

 

 止められるものなど存在しない、まさしく『彼だけの時間』の中、

 

 

 

〔無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァァアアァ!!!〕

 

 

 

 彼はただ、破壊し続ける。

 

 

 最後と思わしきラッシュの、フィナーレのセリフの後唐突に腕を後ろにやり、いつの間にやら手にしていた、そのままずばりの『道路標識』を、バットのごとく振りかぶった。

 

 後はもう、誰にでも予測できる。

 

 

 

〔最後の“とどめ”だあぁ!!!〕

 

 

 

 そのまま思いっきりフルスイングした。

 

 

 

 

 

 ・・・彼は気づいていない。いつもよりも長く、より長く時を止めることができていたのを。・・・その結果が今、文字通り一点に凝縮されて現れる。

 

 

 

〔そして時は動き出す〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もうはやそれは形容できない。大爆発、大瀑布、大崩壊、大兵器、大隕石、そのどれにも匹敵すぶ爆音が、龍宮神社を超えて轟くほどの音量で、能舞台どころか辺りを木っ端微塵にしながら響き渡る。

 

 

 

『!!?? ちょ、ちょちょちょ、ちょちょちょっと、コレエエェェッ!!??』

 

 

 

 マイクで増量された朝倉の声だけが、音に混じって確かに聞こえる。すべての崩壊と音が収まりきった頃、舞台の上に立っていたのは―――――ディエゴだけだった。

 

 

 

『ク、クウネル選手がいない!? 一体どこに・・・・・・・・あ! いた!?』

 

 

 

 確かに、立体的に投影されたスクリーンに、クウネルは映っている。だが・・・遥か彼方まで飛ばされており、もはや戻るのは不可能。

 

 大会規定だからと、朝倉はカウントを始めた。結果は・・・

 

 

 

『7! 8! 9! ・・・10! クウネル選手敗退! よってこの麻帆良武道会、栄えある優勝者は―――――』

 

 

 

言わずもがなだろう。

 

 

 

『ここに来て圧倒的に実力を見せつけた、ディエゴ・ブランドー選手だあぁっ!!!』

 

「「「・・・・・」」」

 

 

 

 一瞬、ほんの一瞬だけ静寂が走る。

 

 

 

「「「「「ワアアアアアアアアアーーーーーッ!!!!!」」」」」

 

 

 

 静寂が嘘のように歓声が上がった。

 

 

 

「・・・・・」

 

 

 余りの離れ業を見せつけたディエゴ・・・否、ザ・ワールドは、

 

 

 

(俺が・・・勝った? 優勝、できた・・・?)

 

 

 

 能舞台の中央で軽く猫背になりながら、己の両手を見つめ、

 

 

 

(掛けが成功したんだ・・・優勝できたんだ! 優勝したんだ!!)

 

 

 

 歓喜に打ち震え――――――

 

 

 

〔WRYYYYYYYYYYYYYYYY!!〕

 

 

 

 

 

 

「い、今の声って!?」

「ま、まさかアイツは・・・」

「間違いねぇ!」

 

 

「「「「「ディオさん!?」」」」」

 

(あ)

 

 

 



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裏方ってのは、大抵シリアスになる

連続投稿になります。

運良くアイデアが湧いてきただけなので、これからにはあまり期待せぬよう・・・おねがいします・・・すいません。


 それでは本編をどうぞ。


 武道会は無名の我流拳法使い、ディエゴ・ブランドー(偽名)の優勝で終わり、いつの間にやら戻ってきていたクウネルと、準決勝で敗退したネギと楓が、それぞれ能舞台上の表彰台へ上がっていた。

 

 表情の読めない笑みを浮かべるクウネルはともかく、ネギは何やら考えている様子。楓は特に何も思うところはないのか普通に立っており・・・表彰式の主役であるディエゴ(偽名)は、優勝者にふさわしいくらいにドッシリと構えていた。

 

 

 

(やべぇ・・・やべぇよ・・・さっきからこっちチラチラ見ながら、ネギ少年何か考えてるよ・・・最後のWRYYYでバレちまったしなぁ・・・どうしたらいい・・・!?)

 

 

 

 内心は、大物ともドッシリとも違う情けないものだったのだが。そんな彼らに一旦背を向け、観客達へ向けて超が大会主催者としての挨拶を口にしている。

 

 

 

「即効で終わった試合、逆転劇が起きた試合、圧倒的実力で沈めた試合、実力が拮抗した試合・・・どの試合も最高のものだたネ!! この麻帆良武道会での優勝者は、学園一どころか世界一と言ても過言ではないのかもしれナイ・・・いや、もしかしたら世界にはこれ以上のツワモノがいるかも知れない! それを感じさせる、私としても満足のいく良い武道会となたヨ!!」

 

 

 

 彼女の言葉に呼応するように、観客達は声を上げる。未だ冷めぬ熱が、この会場を満たしているようだ。

 

 

 

「なお、ディエゴ選手の奇術に圧倒的パワーや高畑選手の砲撃パンチ、クウネル選手の謎の攻撃に子供先生の並外れた強さなど、余りにも現実離れしすぎてヤラセではないかとの声もあるようだが・・・それの判断は、観客の皆様にお任せするネ♫」

 

 

 

 どこか意味深な笑みを浮かべて、超は本当に嬉しそうな声で告げる。そして息を吸い込み、最後の一言をマイクいらずの大音量で口にした。

 

 

 

「選手の皆様!! 及び観客の皆様!! 本当に有難う! そして、またの機会に会おう!!!」

 

 

 

 拍手と歓声が同時に巻き起こる。

 

 挨拶を終えた超は優勝者たちに向き直り、側に置いてあった『10000000円』と書かれたボードを手に取った。

 

 

 

『さあ! 優勝者であるディエゴ選手に、大会主催者・超 鈴音から賞金一千万円が手渡されます!』

 

「優勝おめでとう!」

「・・・」コクリ

 

 

 

 喋れないので頷くしかない―――しかも表情もそこまで変えられない―――ディエゴ(偽名)は、それでも礼儀のつもりかお辞儀をしてから受け取る。

 

 それと同時に、物凄い勢いでカメラやマイクを持った人達が押し寄せてきた。インタビューの対象は、優勝者である彼に違いないだろう。

 

 

 

「麻帆良スポーツです! ディエゴ・ブランドー選手! 優勝おめでとうございます!!」

「カメラへ向けて一言、優勝のご感想を!」

「そのアメコミヒーローのような格好に、なにか秘密があるんですか!?」

「一千万の使い道は!?」

 

 

 

 一斉に詰め寄ってくる報道陣に、しかしディエゴ(偽名)は何も答えない・・・ではなく何も答えられない。喋れないのだから。

 

 さてこの状況をどうやって切り抜けるかと、周りで見ていた人達がちょっと不安になった矢先・・・何と一体どうやったのか、フラッシュがたかれた瞬間、彼の姿が忽然と消えたのだ。

 

 

 

「き、消えた!?」

「どうなっているんだ!?」

 

 

 

 俄かに慌てる記者達。彼らがこちらを標的とする前に、クウネルがネギへと近づいた。

 

 

 

「ネギ君、ちょっといいですか?」

「あ、はい。何ですか、クウネルさん」

「後でエヴァンジェリンの屋敷に来て欲しいのですが、よろしいですか?」

「・・・・」

 

 

 

 学園祭では、自分のクラスの生徒達のお願いに出来るだけ答えると決めていたネギ。どうしようかと悩んだ折、時間移動装置である『カシオペア』を使うしかないかと、ちょっとため息をついた。

 

 

 

「分かりました」

「ふふ、ではお待ちしております」

 

 

 

 言うが早いか、クウネルの姿も煙のごとく消えていってしまう。

 

 

 

「しょうがない、こうなったらクウネル選手・・・も居ない!?」

「子供先生と忍者少女だ! 彼らがまだ残ってる!」

 

「うげっ・・・ほら、早く行きなネギ君、長瀬! 巻き込まれるよ!!」

「そのようでござるな、ではゴメン!!」

「あ、有難うございます!!」

 

 

 

 ネギと楓も大きく跳躍して通路を飛び越し、記者達から逃げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フフ、この大会を開いて良かたネ。おかげで面白いものが見れたヨ」

 

 

 

 軽く笑みながら通路を歩く超。

 

 そんな彼女の四方に・・・いつの間にやら教員と思わしき人達が立っていた。タカミチもいるようだ。

 

 

 

「コレハコレハ、皆さん。高畑先生までお揃いのようネ」

「職員室まで来てくれるかな? 超さん」

「ふむ? 何か罪でも犯したカ?」

「いや、罪なんてものじゃないさ、ただ話を聞きたいだけだよ」

 

 

 

 まだ余裕ある態度で接しているタカミチだが、周りの魔法先生達は、そこまで余裕はないようだ。

 

 

 

「高畑先生、甘いことを言わないでください。彼女は危険すぎます・・・魔法使いの存在を公表するなんて!」

「魔法使いの存在の秘匿・・・現実は言わずもがな、創作物でも厳重に隠しているものは多いネ。・・・が、だからこそ逆に聞こう、何故そこまで秘匿する? この大会の出場者達のように、強力な力を持つ個人の存在を隠す事こそ危険ではないカ?」

「逆だ! 無用な誤解と混乱を避けるために我々は秘密を守っているんだ! 現代兵器でも争いがやまないのに、それに魔法という力を加えたらさらに悪化する! それに、強大な力を持つものなどほんの一部で―――」

「現に一人、『ディエゴ・ブランドー』という、闇の福音をあしらい、神鳴流やサウザンドマスターの息子おも完封する実力と、妙な奇術をもっているにも関わらず、今大会に出場するまで貴方達も名前すら知らなかった正体不明の人物が居たヨ。彼のような者がまだ存在すると、そう見るほうが自然じゃあないかナ?」

「ぐっ・・・」

 

 

 

 ディエゴ・ブランドー。

 

 彼の事は教師達の間でも話題になっていた。魔力反応も気の流れもなく、強大な力と凄まじいスピード、無茶苦茶な型をカバーできる精密動作性に入れ替えや瞬間移動の奇術。容姿や力はおろか、名前すら知らなかったのだから、話題になって当然だろう。

 

 

 

「とにかく・・・君は、多少強引な手を使ってでも連れて行くぞ」

「やってみるがいいネ」

 

 

 

 挑発的な態度をとる超に対し、しかし教師達は安易に挑発には乗らずに呼吸と準備を整える。

 

 

 

「いくぞっ!」

「何をしてくるかわかりません、気を付けて!」

 

 

 

 四方から一斉に飛びかかり、魔法も使って逃げ場を無くした教師たち。しかし、超は不敵に笑うと・・・・

 

 

 

「ではまた会おウ。魔法使いの諸君」

 

 

 

 一瞬にして、気配ごと消えてしまった。

 

 

 

「き、消えた・・・!」

「ぬ、トレースもできない・・・」

「すごいなー・・・どうやったんだ?」

「感心している場合じゃないでしょうに」

「・・・」

 

 

 

 超 鈴音の計画、ディエゴという男の存在。謎が積み重なっていく事に教師達は眉をしかめ、タカミチは静かに考えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〔ブアックシ!!(うぐっ・・・誰か噂してんのか?)〕

 

 

「いたぞ! ディエゴ選手だ!!」

「お話聞かせてくださーい!!」

 

 

(ぬあああ!? また来たァ!!)

 

 

 

 

 真剣な空気とは裏腹に、ザ・ワールド(偽名・DIO,ディエゴ)は、情けなく逃げ回っていたが。



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予想外からの予想外・・・って日本語になってねぇよコレ

仁が主人公のネギま二次創作更新を優先しているので、中々上げられませんでした。


・・・が、お待たせしました皆さん! へたr・・・いやいや、ザ・ワールド更新です。


 少しばかりの急展開な、今回の本編をどうぞ


(あ~よかった。逃げ切った。こういう時こそ、時間停止って役に立つよなぁ)

 

 

 

 記者達から無事に逃げ切ったザ・ワールドは、現在建物の屋根の上にいた。いつの間に戻したか、ローブを着た姿である。

 

 しかし、この格好だとネギ達にバレやすくなり、脱いでもネギ達は勿論マスコミにも追われると言う、めちゃくちゃ面倒くさい状況に、彼は置かれていた。

 

 

 取り敢えず後の事は後で考えようと一息つき、手元にある賞金を見て・・・渋い顔(傍目からはあまり変わらない)になる。

 

 

 

(そういや・・・この賞金どう使おう? 金は神様(笑)に貰った分はまだ十分にあるし、特に使いたいこともないし・・・元々、自分を鍛えるために大会に出たしなぁ・・・)

 

 

 

 大金というのは魅力的だが、いざ使うとなると今までと使い方が変わらなかったり、特に使いたいことがなかったりと、得たら得たで面倒なのだ。

 

 

 

(・・・ま、後々考えればいいか。今は学園祭を満喫することが先だ)

 

 

 

 ザ・ワールドはとりあえず方針を固めると、時を止めて屋根から飛び降り、裏路地から何食わぬ顔で人ごみへと混じった。

 

 

 

・・・すると、よく周りを確認していなかったのか、足もとに居た子供にぶつかってしまう。

 

 

 

「うわっ!?」

〔・・・!〕

 

 

 ザ・ワールドは咄嗟に、大丈夫か? と声を掛けようとするもののディオやDIOにディエゴの台詞じゃない為に、当然の事ながら喉から声は上がってこない。

 

 

 

(なんか・・・なんか良い台詞無いか!? こういう時にも使える台詞!)

 

 

 

 必死に考えるも全くと言っていい程浮かんでこないので、仕方無しにザ・ワールドはしゃがんでとりあえずその子供へ向けて手を差し出す。

 何も言わずに突っ立っているよりは、確かに良いだろう。

 

 

 ぶつかった相手がかなりの大男で有った為か、怯えて泣きかけながら恐る恐る手を動かす子供・・・・・が、子供がちょっと顔を上げ、ザ・ワールドが少し体勢を変えた瞬間、子供の顔に先程とは違う驚愕の色が現れた。

 

 

 

「あ、ああぁぁっ!!」

〔・・・?〕

 

 

 

 叫び出す子供に、周りの人達は勿論ザ・ワールドでさえも止まってしまう。・・・その硬直が、命取りだった。

 

 

 

「ディエゴ・ブランドーだ! すっごく強いヒーローみたいな人だ!」

(なぬっ!?)

 

 

 

 どうやら彼は、試合会場でザ・ワールドの試合を見ていたらしい。泣き顔から一転、テレビ特撮のヒーローにでも出会った様な顔で、子供はザ・ワールドを見つめている。

 

 しかし、騒ぎはそれだけにとどまらない。

 

 

 

「何!? あのディエゴ・ブランドー!?」

「余りの容赦の無さが逆に人気を呼んでいるあの!?」

「いや、あの大会は女の子でもマジ強かったんだ! 容赦無いとは言えないぜ!」

「優勝者が此処に居るの!?」

「スゲー本物か!? 本物なのか!?」

 

(やばい・・・ヤバいぞコレは!)

 

 

 

 子供の一言が着火剤であったかのように、周りにどんどんザ・ワールドの偽名であり、麻帆良武道会優勝者であるディエゴ・ブランドーの名が浸透していく。

 

 

 

「サイン下さい! 一目見てファンになりました!!」

「アメコミクラブに来てくれ! ディエゴ!!」

「握手させてくれ・・・いや、弟子にしてくれー!!」

 

(うおおおおっ!? 来るなアアア!)

 

 

 

 ドデカイ図体して弱気なのは何とも納得しがたいが、当の本人は旅の恥はかき捨てとばかりに逃げ回るのみ。時に時間停止も使って、右に左に外に中に屋根に逃げ回る。

 

 

 

「どうか! 如何か一言マイクに向けて!!」

「その格好はもしや自前なのですか!? それとも意思のあるロボットなのですか!」

「待ってくれ! せめて記念写真だけでも!」

「決勝最後の決め台詞を叫んでくれぇ!!」

 

 

(俺の・・・・俺の傍に近寄るなぁああっ!!!???)

 

 

 部違いのラストボスの断末魔・・・に近い台詞を心の中で叫びながら、ディエゴ・・・じゃなくて、ザ・ワールドはみっともなく逃げ回るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何とか無事に逃げ切った―――時間停止にスタンドパワーをフル活用なのだから当たり前―――ザ・ワールドは、ローブの意匠と色を変えてチョコレートシェイクとバナナクレープを買うと、人の数と人通りの少ない路地近くに座り込んでいた。

 

 滅茶苦茶でも足りない程の特注サイズのシェイクを啜りながら、かなり買い込んだらしいクレープを次から次へと口へ放り込んでいる。

 

 

 

(あ~良かった、逃げれた・・・疲れた後には甘いものだよなぁ!)

 

 

 

 大量の甘い物、ブラックホールの如くそれを平らげて行く光景、そして超がつくぐらいがっちりと筋肉の付いたが大き過ぎる男・・・ローブがあろうが無かろうが、えらくミスマッチな状況である。

 

 

 取りあえず買い込んだクレープを半分ほど平らげてから、ザ・ワールドハこれからの事に付いて考えた。

 

 

 大勢の観客の前であれほどの技を披露したのだから、もしかしたらどこぞの組織にでも追われるかもしれないし、喜びの余り最後に叫んだ所為でネギ達に思いっきり正体がばれたのだから、彼等も追ってくる事、請け合いである。

 

 

 あの時最後で叫ばなければと後悔しても、この状況を引き起こし終えてしまった今では、やっぱり所詮後の祭り。せめて学園祭が終わるまで出会いませんようにと願うのが、ザ・ワールドがこの状況でも取れる精一杯の抵抗だろう。

 

 

 

(取りあえず、人通りの少ない場所を・・・・・・・やべっ!?)

 

 

 と、何故だかいきなり姿を陰に隠したザ・ワールド。・・・でか過ぎる所為で隠れきれているか微妙だが、彼がそうした理由は彼に気付かず、目の前を通り過ぎていく。

 

 

 

「ちょ、ちょっと先生! 私は関係ないでしょう!? 降ろしてください! というか降ろせ!!」

「何で小太郎君まで逃げ回ってるの!?」

「ぬかせ! ディオの兄ちゃんやお前らが逃げ回るからやろ!!」

「向い側にも居るようです、迂回しましょう」

 

 

 

 ネギに似ている青年と、彼に抱っこされた眼鏡を掛けた少女。そして、少し遅れて来た小太郎と茶々丸だった。どうやら彼等から隠れたらしい。

 少し後ろをのぞくと、マスコミが何とか追いすがろうと必死に走って橋を渡ろうとしている光景も目に入った。

 

 

 

 マスコミが通り過ぎるのを待ってから、ザ・ワールドは隠れるのを(隠れきれてはいなかったが)止め、石畳に再び座る。

 

 

 

(何か悪いことしちまったなぁ・・・俺が逃げている所為で小太郎少年まで取材が来て、逃げ回らなけりゃいけないんだもんなぁ・・・でも捕まるのは嫌だな、これは試練だと思ってくれ、少年)

 

 

 

 今の彼の心の中での言葉は、仕方が無いとは言え酷いの一言に尽きる。おまけでヘタレも付けておこう。やっぱりこいつは、ヘタレ・ザ・ワールドである。

 

 

 

(なんか、めっちゃ嫌なこと言われた気もするが・・・気の所為だろ、ほっとけほっとけ)

 

 

 

 否定するように頭を数回横へ振ってから、半分ほど残っているクレープとシェイクに手を付ける。

 

 

 

 呑気に座り込んだまま、ザ・ワールドは欠伸を一発かますのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見つけました、ローブを被ってますが・・・ディエゴさんですね」

『リョーカイ、そのままポイントを残しておくヨ。予定していた物と『対ディエゴ・ブランドー』用の物・・・どちらも、もうすぐで調整が終わるネ』

「しかし・・・失敗作が役に立つ時が来るとは」

『ウム、世の中分からない物ヨ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学際二日目も、武道会があった影響もあってか、感覚的にも時間的にも、あっという間に時が過ぎ去り夜となった。

 

 一日目に勝るとも劣らない花火が上がり、一日目こそ何も無かった場所もライトアップされている。

 

 

 暗いからこそローブもあまり目立たないが、過信しないようにとヘタr・・・・いやザ・ワールドは、なるべく人気のない場所へ人気のない場所へと移動していた。

 

 

 

(・・・さてと、今夜は何処で眠るか・・・一日目はそこら辺に寝っ転がってたけどよ・・・流石に今は駄目だろうしなぁ)

 

 

 

 噴水広場を通り抜け、やがて石畳と壊れかけの街頭以外何も無い場所へと出たザ・ワールドは、ふと足元に石ころが転がっているのを見て、そう言えばスタンドのパワーで石ころ蹴ったらどこまで飛ぶんだ? というちょっと単純な疑問が頭に浮かんだ。

 

 

 人も居ないし、今なら試せるだろうと、ザ・ワールドは足を思いっきり振り上げ――――

 

 

 

(おわっち!?)

 

 

 

 滑って決めていた方向とは見当違いの方向に蹴っ飛ばした。しくったなぁ・・・と思っていた、その時。

 

 

 

「のわ!? あ、危なかたネ~・・・」

(は?)

 

 

 

 何も無い空間からいきなり、バチバチと軽く帯電した超が、イリュージョンの如く現れたのだ。

 

 

 

 

「いや、流石優勝者と言った所カ・・・僅かに気配、漏れてたカナ?」

「び、ビックリしましたよ・・・魔法先生だって看破に時間がかかったステルス迷彩を、此処に来て数秒で見破るなんて・・・!」

 

(うっそーん・・・人が居ったんかいぃ・・・)

 

 

 

 侮れない、そういった雰囲気で呟く超とハカセ・・・・彼女等は関心しているようだが、残念ながらコレ、怪我の巧妙である。ザ・ワールドは完璧に気がついていなかったのだから。

 

 

 

「小細工は抜きにして正面から対峙するとしようカ・・・またあったネ、まほら武道会優勝者、ディエゴ・ブランドー・・・いや」

 

 

 

 そこでにやりと笑い、超は言いなおした。

 

 

 

「ディオ、と呼んだ方がいいかナ?」

〔・・・・!〕

 

 

 

 その名前も偽名とはいえ、何故それを知っているのか・・・ザ・ワールドは、駄目元で聞く事にした。無論、喋れないから筆談で、だが。

 

 

 

『何故その名前を知っている?』

「なに、私の協力者に茶々丸が居てネ・・・知ってはいるはずだ、緑色の髪を持った少女をネ」

『あの・・・ロボットか』

「その通り」

 

 

 

 そこでいったん会話を切り、超は指を立てて告げてきた、

 

 

 

 

「単刀直入に言う・・・我々の仲間になる気は無いカ?」

『仲間?』

「私の目的は、魔法使いの存在を世界にバラす事。言ってしまえば革命に近い物ヨ」

〔・・・!〕

 

 

 

 それを聞いたザ・ワールドは、魔法使いの存在をバラすと言う事を一瞬理解しかね・・・すぐにそれが、危険なものである事が分かった。

 

 彼がザ・ワールドとして転生したこの世界にも、未だ戦争は続き傷跡は残っている。現代の兵器を持ってすらそれなのだから、魔法の力を使ったらどうなるか、戦争以外でも混乱の続く世界に、さらなる混乱をもたらせばどうなるか・・・魔法使いの理念などは知らない彼でも、それは理解出来たのだ。

 

 

 勿論、彼女の『革命』にも悪い事ばかりじゃあ無いだろう。治癒魔法を覚えれば治療の難しい病気も治せるし、魔法の技術を転用すれば文明はより発展する。もしかしたら、見た目にも楽しい世界が出来るのかもしれない。

 

 

 それを踏まえてザ・ワールドは・・・

 

 

 

『断る』

 

 

 

 否定の意を返した。

 

 予感と言うのだろうか・・・革命を成功させてはいけないという予感が、彼の心中に、脳裏に走ったのだ。

 

 

 

「ふむ、ならば仕方が無いネ・・・ハカセ!」

「はい!」

 

 

 

 ハカセが下がり、何かを準備し始める。

 

 させるかとザ・ワールドが博士の方へ猛ダッシュを掛けるが、此方とて邪魔はさせないと、超が立ちはだかった。

 

 

 

「正直不安だガ・・・ちと乱暴に行く! 力付くで抑えてみせるヨ!」

〔・・・!〕

 

 

 

 体の体捌きと跳躍力を活かした、長拳の中国拳法で超は攻め立ててくる。防御の為にかざした腕に、超の拳が当たった瞬間、激しく電撃が爆ぜるものの、ダメージにもならず逆にザ・ワールドの掌底で超は吹き飛ばされた。

 

 

 

「ぬおっ!や、やぱり効かないみたいネ」

「無茶苦茶だ・・・どんな人間だってあの電撃をじかで喰らったら、体が動かなくなるのに・・・!」

「でも、対抗策はあるヨ!」

 

 

 

 再び飛び込んでくる超に対し、ザ・ワールドは連続攻撃で追い詰めてから、体勢が崩れた所に容赦無く拳を降りおろして、拘束を兼ねた一撃を繰り出した。

 

 

〔オオオオオッ!!〕

 

「うぐっ!」

「超さん!?」

 

〔・・・〕

 

「やー・・・軍用強化服が使い物にならなくなるかと思たヨ。攻撃と拘束を一度に兼ねるとは、流石の腕前―――」

 

 

 

 言葉が途切れたと思った途端、ザ・ワールドの拳の下から超が一瞬で消えうせる。

 

 

 

「ネ♪」

 

〔!〕

 

 

 

 そして、兆候皆無のまま背後に移った。彼女が打ちだした拳の衝撃で石畳に罅が入るが、打ちこまれた当の本人はピンピンしており、カウンターで蹴りを放ってくる。

 

 しかしこれも、瞬間移動で避けられた。

 

 

 

「う~む、幾ら背後を取れても、効かなければ意味は無しネ」

 

〔・・・〕

 

「なら、少々暑苦しい考えだが・・・効くまで打ちこんでやるヨ!」

 

 

 

 超は体勢を整えながらトントンとつま先で石畳を叩き、再び瞬間移動した。

 

 

 

「ん? ディオサンが消え―――でっ!?」

 

 

 

 背後に回った筈の超だったが、何時の間にやら目の前からザ・ワールドが消えた事に驚き、動きを止める。その隙を狙ったか、意趣返しだとばかりに背後から思いっきり殴り飛ばされた。

 

 

「カ、カシオペアの移動に、完璧に反応した!?」

 

「むぅ・・・これは・・・!」

 

〔・・・〕

 

 

 

 カシオペア。 そう呼ぶらしい技か道具を使い、超は瞬間移動を繰り返すものの、何度やろうと結果は同じ。仮に瞬間移動に対応しきれておらずとも、攻撃は全く通らない為実質的に意味が無い。

 

 

 

(有り得ない・・・! カシオペアは時間移動装置・・・それこそ時間でも止められない限り対応する事なんて・・・・・まって、時間を止める・・・?)

 

 

 

 戦いを見ているハカセは、ザ・ワールドの対応とまほら武道会での奇術を思い出し、ある結論に至った。

 

 

 

(待って、待ってよ!? そんな無茶苦茶な・・・幾らなんでも有り得ないわよ―――――

 

 

 

 

 

 本当に時間を止めているなんて!?)

 

 

 

 時間移動の先を行く、時間停止という結論に。

 

 

 実はカシオペアにも何度も同じ時間に移動することで疑似的に時を止めたかのような効果を得られる使い方もあるにはあるが、完璧に時間を止める能力では無い。

 

 超が立ち止まってザ・ワールドを睨み、しかしザ・ワールドは背後に回り込んで、拳が超の背部に入る。・・・恐らく疑似時間停止を行おうとしたが、疑似的では無い本物の時間停止によって、物理的に無効化されてしまったのだろう。

 

 

 この事からも、ザ・ワールドの奇術の正体が時を止める力である線は濃くなってくる。

 

 

 

「(本物の時間停止能力だなんて・・・そんな馬鹿げた力が)・・・キャッ!?」

 

「ぬ!? また消え―――ハカセ!?」

 

 

 

 

 今まで戦っていたのは油断を誘う罠であったらしく、ザ・ワールドは超の一瞬の隙を突いてハカセの前に瞬間移動・・・否、停止させた時間の中を移動してきた。

 

 時間を完璧に停止させるという特性上、一瞬でも隙が出来ればいいのだ。

 

 

 単なる脳筋では無く、先を見通す頭脳も持った、時間停止を操る強敵・・・超とハカセはそう認識し、そしてザ・ワールドの心中も正にそれに相応しい物である。

 

 

 

(やべ~・・・ウッカリ眼鏡少女忘れる所だった・・・)

 

 

 

 ・・・前言撤回。どうやら本気で忘れていたらしい。

 

 

 ともかく結果オーライだとばかりに、力技で魔法陣と機械を破壊して、強制的に準備を中断させた。

 

 

 

(何をやろうとしていたか知らないが・・・これで二人をノせば、後は万事解決だな!)

 

 

 

 そして振り向いたザ・ワールドは――――――視界の先に、あるものを目にした。

 

 

 それは・・・超の・・・・

 

 

 

「フフフ、引っかかったネ?」

 

 

 

 ・・・・・してやったりの、『笑み』だった。

 

 

 

 その瞬間に、ザ・ワールドは光に包まれ――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〔オオオオオオッ!?〕

 

 

 

 

 はるか上空に、投げ出された。

 

 




 ザ・ワールドは、一体どうなっちゃったのでしょうか?


 それはまた次回で。


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我に返ったら恥ずかしいと思う時ってあるよね。そんな時は・・・酒っ! 飲まずにはいられないっ!

 説明が多くて内容が薄く、短いですがどうぞ。


暗い夜の噴水公園から一転、明るい真昼間の森林地帯上空に放り出されれば、誰だろうと驚くだろう。ましてや、相手の計画を不意に出来たと思った矢先、暗闇の地上から一気に陽の照らすはるか上空へ投げ出されるなんて経験をされた日には、思考が知っちゃかめっちゃかになってもおかしくは無い。

 

 

 

(こ、ここっ・・・此処から先は男の世界だ―――っ! 葉っぱが掘れるかってんだよ――っ!!)

 

 

 

 当然の事ながらヘタレな彼では、言っている当人も聞いている此方もわけが分からない言葉を言うのは、当たり前の事と言える。

 

 しかし、貫禄のある姿をしているのだから、そして原作に関わっていく!(キリッ と決意したからには、もうちょいドッシリ構えてほしい。ローブが脱げて元の姿をさらしているのなら尚更に。

 

 

 

(死ぬ―――っ! 地面にぶつかって死ぬ―っ!?)

 

 

 

 お前はスタンドだろうが、空も飛べるしぶつかっても死なねぇよ・・・その事実さえ頭から吹っ飛ぶほど、ザ・ワールドは混乱しているらしい。

 

 傍目から見れば―――未だスカイダイビング中なこの高度で傍目があるかは分からないがともかく―――表情はおろか両手両足を広げた格好も変わっておらず、大物らしく実に堂々としているのがこれまたシュールだ。

 

 内心はビビりまくっているというのに。

 

 

 

 そんな彼の恐怖心はとうとう限界を迎えたらしく、もう目の前の光景を直視できないと目をつぶった。

 

 恐らく心の中では、俺の人生・・・此処で終わった・・・などと考えているのだろうが、絶対にこんな事じゃ終わらないのは明白である。

 

 

 

(次も転生できますように・・・次はちゃんとザ・ワールドを従えていれますように・・・出来れば筆談じゃ無く口で話が出来ますように!!)

 

 

 

 最後の文をしっかり言ったあたり、やっぱり超スピードと高精密性を活かしての筆談も、何かと辛いと想像できよう。障害者の皆さまの辛さが、良く分かるザ・ワールドの願いだ。

 

 

 

(・・・・何か女の子の声が聞こえるなぁ・・・ひょっとして、死に際だから天使が迎えに来てくれたのかなぁ・・・)

 

 

 

 極限を迎え酷く穏やかな気持ちとなっている――――くどいようだが傍目からは何も変わらない――――ザ・ワールドは、手足を広げた姿勢のまま着地しようとして、此処で思わぬアクシデントに見舞われる。

 

 

 それは単純なもので、強風にあおられたのだ。

 

 

 

(どわっ!? た、体勢が崩れっ―――!?)

 

 

 

 ジタバタとみっともなくもがきながら、何時の間にやら上むきになっていた体を何とかひねり、ちょうど拳を振りかぶって体ごとひねり、叩きつけるような動作でやっとこさ元の向きに戻った。

 

 

 

 正にその瞬間、ザ・ワールドは地面に激突し―――――

 

 

 

 

 

 

「この高音・D・グッドマああああっ!?」

「きゃあああっ!?」

「ふええぇぇえええっ!?」

 

 

 

「ぬほおっ!? な、何か降ってきた!」

「なぬ! 新手かっ!?」

「なんなのよっ! これでも手一杯なのに!」

 

(・・・あら?)

 

 

 

 

 

 衝突の勢いで地面を破壊し隆起させ、聞いた事の無い声と聞き覚えのある声を耳に入れながら、ごく普通に生還した。

 

 

 

(そういや俺飛べるじゃん!? しかも最近特訓のお陰かパワーもタフネスも上がってるってのに、何で忘れてた俺!? やっぱり馬鹿!?)

 

 

 

 馬鹿かそうでないかで言えば馬鹿だろう。それもともかく、聞き覚えのある声の正体は・・・と、ザ・ワールドが立ち上がってみると、見覚えのある・・・と言うかばっちり覚えている少女達が目の前にいたのだ。

 

 

 

「って・・・あ、ああああっ!? ディ、ディオの旦那ぁ!!」

「来た! ディオさんアル!」

「くうっ、毎度毎度ちょうどいい所で登場してくれるわね!」

 

 

 

(あ、アスナ少女とカンフー少女! しかもオコジョも居るし!)

 

 

 

 

 何故だか喜んでいる彼女達を、ザ・ワールドは外っ面は無表情で、内心は放心状態で見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、何故先程まで夜だったのに真昼間となっているのか? 何故アスナ達がディオの登場を喜んでいるのか?

 

 

 ざっと数時間ほどさかのぼり、場面はエヴァンジェリオン・・・じゃなかった・・・エヴァンジェリンの用意した、中での二十四時間が外での一時間となる魔法球の中。

 

 超の魔法をばらすと言う目的を阻止する為に、ネギとアスナ達は集まっていた。

 

 そして十分に休息を取り、作戦を練り、いざVS超 鈴音へ! と行こうとした所で・・・彼女等は異変に気が付く。

 

 

 魔法球の外は未だ学園祭の筈なのに、出店もバルーンも飛行機も何もかも無くなっていたのだ。しかも、一般学生や朝早く特訓する部活動が横を通り過ぎるというおまけ付き。

 これはおかしいという事で皆で情報を集めて回った所、なんと彼等が居るのは学園祭から一週間ほどたった麻帆良学園だったと言う事が判明したのだ。

 

 すぐに、ネギも持っていた『カシオペア』と言う名のタイムマシンを、逆に利用されて未来へ飛ばされ、戦わずして敗北した事を悟ったアスナ達は、ダメもとでエヴァンジェリンの屋敷(というよりログハウスに近いが)を訪問。

 

 

 誰も居ない屋敷の中、超の計画は成功してしまい魔法を世界全土が自明の物として受け入れるのは時間の問題だと知った少女達は、その状況でも最悪なのに次なる悲報を受けた。

 

 

 

 それは、ネギが捕まったという事。

 

 

 

 幾ら担任だとはいえ、勿論今回の件はネギ一人の責任ではないし、魔法先生達も罰を負うのだから攻めてもしょうがないが、この状況では最悪に最悪を重ねられる結果となっているのは言うまでもない。

 

 悩んだ末、ネギを救出してカシオペアを起動させ、現代へ戻ろうとアスナ達は決意。途中、魔法先生二人による妨害で、刹那と楓が抜けたものの、合流する術はあるという事で先に進んだ。

 

 

 

 しかし・・・妨害はそれだけでは終わらない。

 

 

 

 アスナ達は今現在、とある情報を得る為に千雨が林道にあった電話ボックスを使い、ネットに繋ごうとしていた。

 

 

 

 

「しっかし・・・なんで世界樹をこよなく愛する会何て、弱小にも程があるサークルのサイトなんざ・・・」

「いいから繋いでくれよ!」

「ちょっとまってろって、時間かかるんだよ」

 

 

 

 カタカタとキーボードで文字を打ち込む音がし、エンターキーを押して後は繋がるのを待つだけ・・・と思った矢先、古菲が何かに感づいて振り返った。

 

 

 

「む・・・この気配ハ・・・!」

 

「お待ちなさい!!!」

 

 

 

 古菲の言葉とほぼ同時、林道の先から幾人もの影人形と、三人の少女が現れる。

 

 

 

「何処の魔界軍団だってんだよアレ!?」

「つーか! あんたウルスラの脱げ女!?」

 

「ぬ、脱げっ・・・!?」

 

 

 

 

 実は立ちはだかった内の一人、一番年上らしき金髪の少女は、まほら武道会にてロボットのビームやらちょっとした事故で、二度も観客の前で全裸を晒す結果となり、少しばかりトラウマを持っているのだ。

 

 が、今回は事が事だからか少し泣くぐらいで済んだ様で、しかし確実に怒っている口調で頭を押さえながら口を開く。

 

 

 

「ま、まあいいです・・・・・・皆さん、大人しく同行してください。しかし抵抗するのならば――――」

 

 

 

 そこで思いっきり息を吸い、ビシッと指差そうとした所で―――――

 

 

 

 

「この高音・D・グッドマああああっ!?」

「きゃあああっ!?」

「ふええぇぇえええっ!?」

 

〔・・・〕

 

「ぬほおっ!? な、何か降ってきた!」

「なぬ! 新手かっ!?」

「なんなのよっ! これでも手一杯なのに!」

 

 

〔・・・〕

 

 

「って・・・あ、ああああっ!? ディ、ディオの旦那ぁ!!」

「来た! ディオさんアル!」

「くうっ、毎度毎度ちょうどいい所で登場してくれるわね!」

 

 

 

 ザ・ワールドが落下してきた状況に至る・・・と言う訳だ。

 




 しっかし・・・ザ・ワールドさえも未来移動へとはめてしまうとは、超鈴音恐るべし。


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