小さな鎮守府の小さな物語 (湊音)
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朝潮

「駆逐艦、朝潮です。 勝負ならいつでも受けて立つ覚悟です!」

 

「お、おう……?」

 

 少女と初めて出会ったのは鎮守府正面近海の警備を行うために駆逐艦の子達に出動してもらっていた時だった。

 

「な、何かおかしな点がありましたか……?」

 

 挨拶のために執務室に来るようにと伝令を伝えて貰ったのは良いが、執務室に入って早々少女の放った言葉は可愛らしい容姿からは想像できない程勇ましい物だった。

 

「いや、何でも無いよ。 それと、そんなに緊張しなくても良いよ。 どうせうちはできたばかりの弱小鎮守府だからね」

 

「そ、そんな事は……無いと思います!」

 

「いやいや、そんな気を遣わなくても構わないよ。 どうにも羅針盤ってやつに嫌われて正面海域の攻略すらまだだからね」

 

 少しネガティブになってしまった僕を見て朝潮は何かかける言葉を探していたようだったが、少女の引き出しにはこの場に適した言葉は入っていなかったらしく慌てているようだった。

 

「指令か~ん! 朝潮お姉さんが見付かったって本当ですか~!?」

 

 僕と朝潮は大きな音を立てていきなり開いた執務室の扉に驚き咄嗟に身構えると、大潮が執務室に飛び込んできた。

 

「こら、ノックをするようにっていつも言ってるだろ?」

 

「次からはノックします! 朝潮お姉さんお久しぶりです!」

 

「お、大潮……? 司令官の前で騒ぐなんて……!」

 

 朝潮は大潮に落ち着くように言っているようだったが、大潮は朝潮の両手を掴むとブンブンと上下に振って満面の笑みを振りまいていた。

 

「そうそうその感じ! 朝潮お姉さんって感じで気分もアゲアゲです!」

 

「お、落ち着きなさい! 司令官に失礼ですよ……!」

 

「あぁ、気にしないで良いよ。 姉妹同士仲が良さそうで僕も安心したよ」

 

 朝潮も色々言っているようだがなんだかんだで妹に会えたことは嬉しいのか表情が柔らかくなっている。先ほどまでの少女らしくない強張った表情よりも今の表情の方が僕も見ていて苦にならない。

 

「うちの鎮守府は姉妹艦で部屋を割り振ってるから、大潮に案内してもらうと良い。 それと、今日は大潮と一緒に鎮守府探検なんかしながらのんびりしてくれ」

 

「あ、あの!」

 

 報告書の続きを書こうとダンボールで作った机に戻ろうとしたのだが、朝潮が唐突に大声をあげたせいで俺と大潮は驚いて固まってしまう。

 

「朝潮はいつでも出撃できます!」

 

「今日は資材も少ないし、出撃はまた明日にでもする予定だよ」

 

「分かりました。 それでは朝潮、大潮は明日の出撃に備えて待機します!」

 

「い、いや。 今日はのんびりしててもらっても構わないんだが……?」

 

 真面目な子。それが僕が朝潮に持った第一印象だったと思う、初期艦の叢雲どう接して良いか相談して思いっきり僕も朝潮の半分くらい真面目になった方が良いと流されてしまった事も良く覚えている。

 

 

 

 

 

「作戦を全うできてよかったです。 これが、朝潮型駆逐艦の力なんです!」

 

「いや、全うできてないからね? 相変わらず目的の海域からは逸れてるからね?」

 

 次の日には試しに出撃させてみたのだが、結果は相変わらずだった。それでも自信満々に僕に勝利の報告をしにきた朝潮を見てつい頬が緩んでしまう。

 

「正面海域の警備ですよね? 敵艦を発見して無事に勝利を収めたのですが……?」

 

「うん、朝潮の言っている事は間違いじゃないよ。 でもね、これを見てごらん」

 

 僕はダンボールの上に地図と作戦指令書を広げると地図に赤いマーカーで丸をつける。

 

「今日朝潮達が倒してくれたのは敵のはぐれ艦隊で、僕達が目指すべきはこっちの主力艦隊なんだ」

 

「そ、それでは朝潮達の努力は……」

 

「いや、はぐれ艦隊って言ってもいつかは倒さなければならないのは変わりないよ。 それに君達の練度が上がったって事を考えれば無駄じゃない」

 

 きっと真面目な朝潮の事だからそれこそ全力で作戦を行ってくれたのだろう。だからこそ無駄だったなんて言葉は口にしたくないし、先程も説明したように練度という観点で見れば間違いなく前進している。

 

「朝潮……?」

 

「も、もう1度出撃しましょう!」

 

「い、いや。 叢雲がまだ入渠中だし……。 って、顔が真っ赤だけど大丈夫か!?」

 

「な、なんでもありません!」

 

 そこで気付いた、恐らくは先程の自信満々な勝利の報告が実は自分の勘違いだったと気付いて恥ずかしくなってしまったのだろう。

 

「……ぷっ。 あははは、朝潮って意外と感情が表情に出るタイプなんだな」

 

「た、例え1人でも! 朝潮出ます!」

 

「いやいや!? ちょっと待てって!」

 

 仕方なく叢雲の代わりに由良を編成して出撃。朝潮の努力の末と言いたいところだが、今までの苦戦が嘘だったと思える程あっさり正面海域を突破してしまった。

 

 

 

 

 

「そうそう、火力を強化してね。 ねっ!」

 

「由良も練度が20か、なんだか無理ばかりさせてるようで悪いね」

 

「いえ、気にしないで良いんですよ。 由良も提督さんに頼られているようで嬉しいですし」

 

 若干の燃費の悪さに目を瞑れば、軽巡は駆逐艦と比べられない程強かった。正面海域で味を占めた僕はうちの鎮守府で最初に来た軽巡の由良に頼り切りになっていた。

 

「でも、もう少し周りの子達も見て上げた方が良いかもしれませんよ。 叢雲ちゃんは分かってるみたいだけど、そうじゃない子も居るみたいですし……?」

 

 由良が工廠の入口へと視線を向けたのを見て僕も顔を向けると黒く綺麗な長髪が咄嗟に走って行くのが見えた。

 

「ふむ、その助言はありがたく受け取るとするよ」

 

「はい! もう1つ由良からのアドバイスは、あの子も20で改造できるはずなので頑張ってくださいね?」

 

「了解、後で何か奢るよ」

 

 そう言って工廠から出て左右を確認してみると壁の角からこちらの様子を伺っている少女の姿が見えた。恐らく追いかければ逃げられてしまうだろうし、何か手は無いかと考えた末あえて少女とは反対の方向へ歩き角を曲がる。

 

 曲がり角で立ち止まると、来た方角に振り返り数秒数える。足跡が聞こえてきたので軽く両手を開くと勢いよく飛び込んできた少女を受け止める。

 

「で、朝潮はどうして覗き見なんてしてたんだ?」

 

「い、いえ!? 朝潮は覗き見なんてして……、ました」

 

「ふむ、正直なのは朝潮の良い所だ。 そんな朝潮に相談なんだが15時からの演習に旗艦で出てみるつもりは無いか?」

 

 朝潮の練度はもうすぐ19という所だろうし、演習相手によってはもしかしたら20になれるかもしれない。そうなれば由良の助言通り朝潮も改造してやれるだろうし、話を聞くのはそれからでも遅く無いと思う。

 

「良いんですか!? い、いえ……。 由良さんが居るのに私なんかが……」

 

「ふむ。 正直な朝潮がそういうならやっぱり由良を旗艦にした方が良いか、正直だから自分の気持ちに嘘なんてつかないだろうしなぁ?」

 

「……改造してもらえれば私も由良さんのように強くなれるでしょうか?」

 

「少なくとも今よりは強くなるだろうね。 搭載できる装備の数も2つから3つになるだろうし、間違いなく戦力としては期待できると思う」

 

 朝潮は少し遠慮しすぎな所がある気がする、正直叢雲くらい自分の意見を言ってくれた方が僕としては助かるのだがこの子にそれを求めるのは厳しいかもしれない。

 

「お、お願いします! この朝潮を旗艦にしてください!」

 

「分かった。 演習の任務を受けてくるから準備して待っておくように」

 

「はいっ!」

 

 それから日課である演習の旗艦を朝潮にしてこなす事になったが、事情を察してくれている由良の視線が妙にこそばゆかった。

 

「駆逐艦としては、かなり良い仕上がりです!」

 

 

 

 

 

 

「朝潮、出ます!」

 

「お土産は高速修復材でよろしく」

 

 この鎮守府も少しずつだが大きくなってきた。金剛や榛名のような戦艦も迎える事が出来たし、赤城やちょっと無理して建造した加賀なんかも迎えてそれなりに順調に海域を解放している。

 

「妹達にもしっかり伝えておきます!」

 

「あぁ、任せたよ」

 

 この頃には朝潮達のような駆逐艦は出撃というよりも遠征任務をこなしてもらう事が多くなっていた。実際先ほどの4人を運用していこうと思えば資材が驚くような速度で減ってしまうという悩みもあった。

 

 正直このペースで進めば他の鎮守府に追いつくのも時間の問題かなと思っていたのだが、そんな甘い考えを打ち砕くような作戦が転がり込んできた。

 

「軽巡を旗艦、水雷戦隊、または駆逐艦のみ……?」

 

「残念ですが、私達は次の海域ではお休みのようですね……」

 

 秘書艦にしていた赤城が残念そうにしていたが、そもそも次の海域で戦艦や空母に出撃してもらうにしても資源が無い。ある意味燃費の良い軽巡や駆逐艦メインの作戦というのはタイミングが良かったのかもしれない。

 

「こっちが水雷戦隊って事は、相手も水雷か……? 雷撃さえ避けられれば……、って戦艦に重巡!?」

 

「これは次は厳しい戦いになりそうですね……」

 

 他の鎮守府からの偵察情報を確認していると目を疑うような内容が書かれており、その日から軽巡と駆逐艦の練度上げを優先させる事になった。

 

「すぐに入渠してきてくれ、無理させてすまない」

 

「大丈夫……、次の作戦には間に合わせます!」

 

 練度を上げてキス島へ出撃、失敗して入渠を行い練度を上げてキス島へ出撃。どれくらい繰り返しただろうか、正直そろそろ駆逐艦の子達に砲撃されてしまうのでは無いかと思える程ハードなスケジュールになっていると思う。

 

 それでも朝潮は何度作戦が失敗しても大丈夫だと言ってくれた。駆逐艦の練度上位の中には時雨や夕立なんかの白露型や初期から居る叢雲なんかを選出したが、この中で文句を言っていたのは叢雲だけだったと思う。

 

「まったく、あいつも何を焦ってるんだか。 最近指示が雑になってると思わない?」

 

 気分転換に執務室から出て鎮守府の中を歩いていると作戦に対する文句が聞こえてきた。なんとなく自分の陰口でも叩かれているんじゃないかと思って咄嗟に身を隠したが声の主が叢雲と分かり、駆逐艦の子達のガス抜きでもしてくれているのだろうと思った。

 

「そんな事無いと思います! 司令官は精一杯頑張っていると思います!」

 

「まったく、あんたはいつだって真面目なのね。 たまには愚痴の1つでも言ってみたらどうなのかしら?」

 

「上官に対して愚痴なんて言えません! む、叢雲さんこそ上官に対して失礼だと思わないんですか!?」

 

「私は良いのよ、この鎮守府ができてからずっとあいつとやって来た仲だもの。 それに嫌な事があれば溜め込まずにどんどん口に出してくれって言ったのはあいつの方よ?」

 

 確かに初めて叢雲と会った時に僕からお願いした事だが、どうにも雲行きが怪しい。上下関係を大切にしていた朝潮は同じ艦種であっても自分よりも早く着任していたらそれ相応の態度を取っていたし、そんな朝潮が叢雲に噛みついていくと言うのは珍しかった。

 

「それでも司令官は雑に指示なんてしていません! いつだって真剣に考えて作戦に臨んでいます!」

 

「じゃあこの結果は何? 真剣に考えた結果キス島で何日足踏みをしているのかしら?」

 

「それは……、私の練度不足で……」

 

「そうね、『私達』の練度不足ね。 あんたはいつも自分1人で抱えすぎるの、そんなんじゃあそこは攻略できない。 だから『私達』全員が今よりもっと強くならなきゃダメなの」

 

 僕はその言葉を聞いて自分が情けなくなった。何度も繰り返していればいつか攻略できるだろうなんて甘い考えがあった事は否定できない。キス島の攻略に失敗しても経験値は入るし練度上げの一環になるなんて考えて少女達の気持ちなんて考えて居なかった。

 

 音を立てないように急いで執務室に戻ると練度上げの計画を真剣に考える、赤城達には申し訳ないがしばらく出撃は我慢してもらう事になるだろうがそれは俺がしっかり説明して納得してもらう。

 

「まずは他の鎮守府から情報を貰えるだけ貰おう。 俺が頭を下げるだけで少女達の頑張りが報われるのなら安いもんだ」

 

 少女達の練度を上げつつ情報を集め装備を整える。途中夕立や時雨が2度目の改造を行う事になったりして他の鎮守府の提督からビビリ過ぎだと笑われたりもしたが、次にキス島へ向かう時は絶対に失敗して欲しく無いと本気で準備してその日を迎えた。

 

「作戦を全うできてよかったです。 これが、朝潮型駆逐艦の力なんです!」

 

「お疲れ様、今日はみんなで祝勝会でも開こうか」

 

 

 

 

 

「少し身長伸びた?」

 

「……。」

 

「分かった、前髪少し切った?」

 

「……。」

 

 少女が何を言って欲しいのかは分かっているのだが、なんとなく照れてしまって言葉にする事ができない。真面目に僕が分かって無いと思っているのか本気で泣きそうな顔になってきたので諦めて言葉にする事にした。

 

「その服良く似合ってるよ。 改二おめでとう」

 

「はい! 今まで以上に艦隊のお役に立てるよう、頑張る覚悟です。 よろしくお願いします!」

 

 ぱっと花が咲いたような笑顔で朝潮は顔を上げてこちらに敬礼をしてくる。横に居る明石がニヤニヤとこちらを見ていたが、後でどうにかして懲らしめてやろうと思う。

 

「あっ、でも朝潮ちゃんって練度85で別兵装にコンバートできたはずだから頑張ってね」

 

「はいっ! 朝潮、精一杯頑張ります!」

 

「85!?」

 

 明石の言葉を聞いて驚く。練度85ともなればこの鎮守府の中でも上位10人に余裕で入れるほどの高練度となる、それをMVPの取りづらい駆逐艦で達成しようとなればどれほどの時間を必要とするのだろうか。

 

「噂だと大規模作戦の序盤は対潜性能の優れた艦が必要となると聞いていますし、終盤は対空性能の優れた艦が必要だとか。 朝潮ちゃんがコンバートできるようになればどちらも優れているって噂ですよ」

 

「ふむ。 うちも大きくなってきたしその辺の準備をしておいた方が良いか……?」

 

「必ずお役に立ちますので、これからもよろしくお願いします!」

 

 他の鎮守府の提督から運の高い駆逐艦を育成するようにと言われていたが、うちにはうちのやり方があるんじゃないかと思った。何よりも本人がやる気になって居るのであれば水を差すのも悪い気がする。

 

「分かった。 朝潮はこれからは空母の護衛として今まで以上に出撃してもらう事になるから覚悟しておくように」

 

「はい! 駆逐艦朝潮、出撃準備をします!」

 

「いやいや!? 今日は出撃の予定無いから! ちょっと落ち着いて!」

 

 艤装を装着しようとしている朝潮を止めようと必死になっていると、明石が大声で僕達を見て笑っていた。絶対にいつか懲らしめる、そう思ったが予想以上に力の強い朝潮を抑えるのに必死になっていた。

 

 

 

 

 

「もう良いか?」

 

「も、もう少しだけ待ってください!」

 

「ふむ、待つのは朝潮の台詞じゃ無かったっけ?」

 

 今日は朝潮の兵装をコンバートする日だったが、いつまで待っても交渉に少女の姿が見えないので仕方が無く駆逐寮へと迎えに来たのだがどうやら寝過ごしてしまったらしい。

 

「お、お待たせしました! 本当に申し訳ありません……」

 

「……謝罪の前に寝ぐせを直すか」

 

 僕の言葉を聞いて朝潮は顔を真っ赤にして必死で手で寝ぐせを直そうとしていたが、思っているより頑固な寝ぐせなのかなかなか思うように直ってくれないようだった。

 

「朝潮の部屋って櫛ある?」

 

「荒潮が持っていたと思います……」

 

「それじゃあちょっと借りるとしようか、今は遠征に行ってるから後でちゃんと借りたって話をするように」

 

「はい……」

 

 なんとなく駆逐艦の子の部屋に入ると言うのは抵抗があったが、中に入るとなんとなく持ち主が分かる多段ベッドや小物入れが几帳面に整頓されていた。その中に荒潮の物と思われる姿見を見つけて、椅子を移動させる。

 

「ほら、座って」

 

「そ、そんな! 司令官にやっていただくなんて申し訳が……」

 

「でも、荒潮の櫛だって言ってたし普段は荒潮にやってもらってるんでしょ?」

 

 僕の質問に朝潮は申し訳なさそうに頷いた。朝潮は出会った時から長い黒髪だったと思うが、改造をしてから少し伸びたような気がする。昔は時々寝ぐせがあるなと思った事もあったが、最近見なくなったのは荒潮が寝ぐせを直していたという事を知った。

 

「女の子の髪に触るのはちょっと気が引けるけど、我慢してね」

 

「我慢ですか? 特に不快だとは感じませんが……」

 

「ふむ。 まだ朝潮には少し早い話だったかもね」

 

 いまいち意味が理解できなかったのか不思議そうな表情をしている朝潮の髪に櫛を通していく。髪に触れたのは初めてだったが、見た目通り綺麗だなと思ったのが素直な感想だった。

 

「罰は必ず受けます……」

 

「別に怒って無いから良いよ。 それよりも昨日は眠れなかった?」

 

「はい……」

 

「そんなにコンバートが楽しみだった?」

 

 朝潮は顔を真っ赤にして俯いてしまう。なんとなく悪戯してみたくなってくる。

 

「寝ぐせ直せないから顔を下げないでくれるかな?」

 

「す、すみませんっ!」

 

 本当はそのままでも寝ぐせを直す事ができたのだが、鏡越しに見える朝潮の顔が見たくて嘘をついてしまった。

 

「もうすぐ、大規模作戦があるんですよね……?」

 

「あぁ、そうだね。 うちの鎮守府にとって初の大規模作戦だ」

 

「今日に備えていつもより早めに布団に入ったのですが、明石さんの言葉を思い出してしまって……」

 

 大規模作戦に備えて僕自身も色々と情報を集めた、序盤では対潜が優秀な艦を、後半では対空の優秀な艦を。それは明石から聞いていた事通りだったし何となくその事を考えれば朝潮の言いたいことも予想できる。

 

「やっと司令官の御恩に答えられると思うと胸が高鳴って眠れなくなってしまいました……」

 

「恩? そんな恩を感じさせるような事した覚えは無いけど?」

 

「演習の時に聞いたのですが、時雨さんや雪風ちゃんみたいな武勲艦の子の練度上げを行っている提督が多いと聞きました……」

 

「彼女達の夜戦カットインは大規模作戦では切り札になるって噂だね」

 

 寝ぐせは完全に直ってしまったが、それでも会話を続けるために優しく花でも愛でるように優しく櫛を通していく。

 

「きっとうちの時雨さんや雪風ちゃんも活躍できるんじゃないかって期待していたと思います。 でも司令官は私の練度上げを優先してくれました……」

 

「そんな事に恩を感じなくても良いよ、うちにはうちのやり方がある。 大規模作戦には朝潮の力が必ず必要になるって僕が思ったからそうしただけなんだからさ」

 

「例えそうだとしても私を優先的に目をかけてくれていたのは事実です」

 

「うーん。 なんて言えば良いかなぁ……」

 

 この子はどれだけ時間が経っても根っこの部分は変わらない。真面目なのは良いと思うのだが、その分周りに遠慮しすぎている所は若干のデメリットな気がする。

 

「朝潮はコンバートを行って対潜対空に優れた艦になると思う。 もし朝潮が僕に恩を感じてるって言うなら1つだけ僕と約束をしようじゃないか」

 

「約束ですか?」

 

「君達がまだ艦の姿だった頃、そのほとんどは潜水艦や空襲で幕を閉じている子が多いのは知ってるかな?」

 

「はい……」

 

 あまりこの手の話題は傷口に塩を塗るようで口にしたくは無いのだがこの子になら僕の本音を話しても良いだろう。

 

「だから、朝潮は手に入れた力でみんなを守って欲しい。 潜水艦や敵の艦載機から味方を守る、必ずみんなで鎮守府に戻ってきて欲しい。 これは命令じゃなく僕との約束だけど、どうかな?」

 

「命令じゃなく約束……」

 

 《こちら大淀です。 工廠にて明石が待っていますので提督と駆逐艦朝潮は速やかに工廠に向かってください》

 

 朝潮の返事を聞く前に鎮守府内の放送から大淀の声が聞こえてくる、そこで僕と朝潮は明石を待たせたままだった事を思い出して慌てて工廠へと向かった。

 

「うん、その服装も良く似合ってる。 次の作戦では期待してるよ」

 

「司令官……、はい! 約束は……、司令官との大切な約束も、必ず守り通す覚悟です!」

 

 

 

 

 

 後10分もしたら朝潮が執務室に到着するだろう、目の前の小さな箱を睨みつけながら僕は少女になんて説明しようか悩んでいる。この箱の中身を渡すなら誰かと考えたが真っ先に少女の顔が思い浮かんでしまった。

 

 本来であれば戦艦や空母に渡して燃費的な意味での運用が理想だとは思ったのだが、なんとなくそういう意味で軽々しく渡して良い物だなんて思えなかった。

 

「失礼します、駆逐艦朝潮到着しました!」

 

「うぉ!? ちょ、ちょっと待ってくれ!?」

 

 後10分あると思っていたのだが、少女が必ず時間より早めに行動するという事を忘れていた。忘れていたというよりはそんな事に気付けない程自分に余裕が無かったというのが正解だと思う。

 

「司令官が待てと言うなら。 この朝潮、ここでいつまででも待つ覚悟です!」

 

「いや、そんなに待たなくても……。 良いよ、入ってくれ」

 

 朝潮は執務室に入ると姿勢を正して僕の次の言葉を待っていた。

 

「その、練度99おめでとう」

 

「ありがとうございます! これからも艦隊のお役に立てるよう、頑張る覚悟です!」

 

「あぁ……、よろしく頼むよ」

 

 普段なら少しくらいの沈黙なら気にもしないのだが、今は数十秒の沈黙であっても何か話さなければと気が焦ってしまう。

 

「提督……、なんですか? こんなところに呼び出して、朝潮と二人っきりで。 あっ……、これは……! 作戦会議ですね!」

 

「いや、今日は作戦とかそういうのじゃなくてだな。 大事な話があるんだ」

 

 朝潮なら改造や強化の一環だと話せば恐らく嫌な顔一つせずに受け取ってくれるとは思う。しかしそれはなんだか僕の中で納得できない。

 

「その……、本当に作戦会議じゃ無いのですか……?」

 

「あぁ、作戦会議じゃない」

 

「提督は私の初出撃の時の事を覚えていますか……?」

 

「うん。 目的の海域から逸れてるのに自信満々に作戦を全うしたって報告してきたよね」

 

 そこまで言葉にする必要は無かったのか朝潮は顔を真っ赤にして僕を睨んできた。随分長い時間一緒に過ごして来たせいか、昔に比べれば随分と感情が豊かになったというか年相応の反応を見せてくれるようになったと思う。

 

「その時は本当に恥ずかしいと思い、2度と同じ過ちを繰り返さないように頑張ってきました」

 

「そ、そんなに恥ずかしかったのか……」

 

「はい。 そのっ……」

 

 朝潮は必死で言葉を探しているのか、執務室の中に視線を泳がしているようだったが。僕は僕でもしかしたら朝潮もこれから何が起きるのかある程度予想できているのじゃないかと緊張してきた。

 

「埒が明かないな。 覚悟を決めるしか無いか……」

 

「は、はいっ!」

 

「これから少しの間だけ僕の事を上官だと思わず1人の男だと思って欲しい。 だから命令とかでは無いし、嫌な事は嫌だと断っても良い」

 

「そ、そんな事できません!」

 

 真面目過ぎる事がここに来て再び大きな壁になってしまうとは思わなかった。それでも覚悟を決めた以上は僕の気持ちを朝潮に伝えるべきだろう。

 

「僕は朝潮の事が好きだ。 だからこの指輪を受け取って欲しい───。



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未定

「この子だな」

 

 そう言って火の点いてない煙草を咥えた男は写真の張り付けられた一枚の紙を少女に手渡す。

 

「えっ。 もう少し真面目に選んだ方が良くない?」

 

「俺はいつだって真面目さ、この子はきっと10年。 いや、5~6年もしたらきっと良い女になるだろうよ」

 

「提督さんって艦娘の選考はいつもそんな選び方なの……?」

 

 男と少女は崩れそうな程山積みになった書類を挟んで向かい合うようにして書類に目を通していたが、理解し辛い男の発言を聞いて少女は戸惑っているようだった。

 

「あぁ。 それ以外に何を考える必要がある? 家柄か? 賞の数か? そんなの無意味だって瑞鶴も分かってるだろ」

 

「それはまぁ、そうかもしれないけど……。 でも、もう少し何か共通点とかそういうのって無いの?」

 

「艦種によってある程度年齢で分ける事はできると思うが、それ以外はさっぱりだな。 この前拾ったコアは駆逐艦の物らしいし、年齢的にもこの子で問題無いだろ」

 

 2人が行っていたのは艦娘となる少女の選考だった。一見この男の発言はあまりにも適当な物に聞こえるかもしれないが、本来であれば数十人の候補の中から長い時間をかけて候補者を選別する事が一般的なのだが、不思議とこの男の選んだ少女の8割以上は適正有りと言う実績があり、瑞鶴と呼ばれた少女はそれ以上何も言う事ができなかった。

 

「もしかして私を選んだ時もその……、同じような感じだったの?」

 

「いや。 瑞鶴の時はクジ引きだったな」

 

「あったまきた! 爆撃されたいの!?」

 

「そうカッカするなよ。 冗談に決まってるだろ」

 

 机に立てかけていた弓を持って立ち上がった瑞鶴を男は笑いながら宥める。

 

「場所は……、思ったより近いな。 車を出すから着替えて来いよ、迎えに行くぞ」

 

「えっ、うん。 私もついて行って良いの?」

 

「この後用事でもあるのか?」

 

「無いかな? じゃあ着替えてくるから待っててね!」

 

 そう言って2人は目的の少女を迎えに行くために各自準備を行う。男は業務中という事もあり着崩した白い軍服を正すだけで良かったのだが、瑞鶴の方は久しぶりの外出という事もあり30分近く着ていく服に悩んでいた。

 

「この前買ったやつか、まだ冷えるだろうし風邪を引くなよ?」

 

「大丈夫! 海の上に比べれば陸の上なんて余裕余裕……、へくちっ!」

 

「全く説得力無いな」

 

 そう言って男は車の後部座席に積んであったマフラーを取り出すと瑞鶴の首に巻き付けた。久しぶりの外出と優しくされたという事が嬉しかったのか、瑞鶴は緩んだ口元を隠すようにマフラーを鼻のあたりまで上げたが、その瞬間眉に皺を寄せる。

 

「……提督さん? この匂いって女の人用の香水の匂いだよね?」

 

「今度飯に連れて行ってやるから黙っててくれ……」

 

 この男は提督という本来であれば人の上に立ち見本となるべき役職についていたが、数多くの女性問題で何度も上層部から指導を受けていた。本人曰くやるべきことをやっているのだからプライベートくらいは好きにさせて欲しいと言っていたが、つい1週間前にも問題を起こして鎮守府に所属する艦娘達から女遊び禁止令が出たばかりだった。

 

「まっ、別に良いけどねー」

 

「出発するからさっさと乗れ、できれば夕方までには帰りたい」

 

「何か用事があるの?」

 

「民生企業のお偉いさんと会食する事になってる、上手く行けば技術提供なんかをしてもらえるって所だな」

 

 この男にとっては技術提供よりも企業の受付を行っている女性が目的だったのだが、それを知らない瑞鶴は真面目にやっているんだなと少しだけ男を見直したようだった。

 

「今回見つけたコアって駆逐艦ってのは聞いてるけど、艦名なんかは分からないの?」

 

「まだ確実って訳じゃないが、明石や夕張の話だと秋月型かもしれないって話は聞いたな」

 

 全く車通りの無い道路を法定速度ギリギリの速度で進む。瑞鶴は初めのうちは窓を開けて風を楽しんでいるようだったが、すぐに寒くなったのか窓を閉めて暖房のスイッチを入れた。

 

「……そっか、秋月型なんだ」

 

「知り合いでも居るのか?」

 

「んー、ちょっとだけ一緒に行動した子が居るくらいかな」

 

「会いたくないのか?」

 

「……あの頃の私は少しだけ嫌な感じだったかもだし、向こうが嫌がるかも」

 

 男はこれ以上踏み込むべきでは無いと察したのか、ラジオの周波数を変えるとなんとなく万人受けしそうな曲を見つけてボリュームを上げた。

 

「思ったより山の中なんだね」

 

「そりゃあ、今のご時世海岸沿いに住もうなんて自殺願望者以外居ないだろ」

 

 深海棲艦との闘いが続くにつれ、人は海から離れ内陸部を好むようになった。以前までは田舎と馬鹿にされて売れ残っていた土地が今じゃ数十倍の価値があるのだから一部の人間は深海棲艦のおかげで富裕層になったという話もある。

 

「……あの子だよね?」

 

「あぁ、そうだな」

 

 車を砂利が敷いてある広場に停めると、有刺鉄線の張られた柵から中の様子を伺う。柵の中ではまだ小学校に通っていても良い程小さな子供から、中学校に通う程度の子供が4~5人のグループで遊んでいた。

 

「何してるのかな?」

 

「何もしていないんじゃないかな」

 

 そんな中目的の少女は何をしている訳でも無く、古びたベンチに座って視線を落としていた。

 

「俺は話をつけてくるから、瑞鶴は適当にあの子と話でもしてくると良い」

 

「はーい。 でも、何を話せば良いのかな?」

 

「そんなの自分で考えろ」

 

 それだけ言って男は歩いて行く。仕方が無く瑞鶴も男の後に続き、施設の中に入ると古びたベンチに腰掛ける事にした。

 

「こんにちは」

 

 瑞鶴はなるべく自然な笑顔を心がけて少女に挨拶をしたが、少女は1度瑞鶴の顔を見ただけで返事はせず再び視線を落とす。

 

「な、何してるのかな? お友達と遊ばないの?」

 

「……誰ですか?」

 

「えっ、えーと。 怪しい人じゃないから安心して?」

 

 誰かと聞かれて瑞鶴は戸惑ってしまった、自分は正規空母瑞鶴だと言ってしまえば意味が分からないだろうし、基本的に艦娘だという事は極秘と言う訳では無いが自分から言いふらすものでもない。外出に慣れた子なんかは適当に誤魔化すための名前を持っていたが、生憎瑞鶴にはそういった準備はしていなかった。

 

「……海の匂いがする」

 

「お、お姉さんは海の近くに住んでるからじゃないかな? あなたは海は好きなの?」

 

「嫌い」

 

「どうして? お魚もいっぱいいるし、太陽の光を反射してキラキラ綺麗だよ?」

 

「アイツ等が居るから……。 お父さんもお母さんもみんなアイツ等のせいで……」

 

 瑞鶴はその言葉を聞いて奥歯を噛み締める。ここが孤児院であるという事は知っていたし、もしかしたらそういう可能性もあるという事は頭の片隅にはあったが、こうして目の前に深海棲艦の被害を受けた人が居るという現実に瑞鶴は苛立ちを感じた。

 

「そっか、あなたもお姉ちゃんと同じだね」

 

「お姉ちゃんも……?」

 

「うん、私の住んでた家もアイツ等に燃やされちゃったって聞いた。 私は気が付いたら1人だけ病院だったから詳しい事は分かんないけどね」

 

「そうなんだ……」

 

 別に同じ境遇だから仲間意識を持たせたいなんて考えていた訳では無いが、瑞鶴にとっては自分1人だけがこの世界で1番の不幸なんだという表情をした少女の姿がいつかの自分と重なって嫌だと思ったからこその発言だった。

 

『駆逐艦!? 戦艦や空母になれそうな子は居ないんですか!?』

 

 瑞鶴が次に何を話そうかと悩んでいると、建物の中から騒がしい声が聞こえてきた。何やら男と施設の人間でもめているようだったが、この手のいざこざは多いと鎮守府の先輩達から聞いたことがあった。

 

「戦艦や空母は男の子達が持ってた本で読んだけど、駆逐艦って何でしょうか? お姉さんは知ってる?」

 

「うーん。 戦艦や空母と比べればすごく小さな艦かな、大きな鉄砲も積めないし、飛行機を飛ばす事もできないかな」

 

 今の日本には孤児院が数多く存在する。深海棲艦により孤児が増えたというのもあるが、1番の理由は『金』になるからだった。艦娘に選ばれた少女が居れば軍からそれなりの謝礼を支払われる事になっていたし、それが戦艦や空母のような第一線での活躍を期待されるような艦種であればそれ相応の金額になる。

 

「そっか、弱い船なんだね」

 

「それは違うかな。 お姉さんは世界で1番頼れるかっこいい艦だって思ってる、自分より大きな敵が居ても立ち向かって行くし、仲間のためならどんな逆境でも頑張れる。 それがお姉さんの知ってる駆逐艦って艦かな」

 

「……すごい。 私と正反対、男の子にはいじめられるし大人の人は怖くて仕方が無いもの」

 

 あなたにはその艦娘になる素質がある、瑞鶴はそう言いかけたが100%なれるという確証は無い為ぐっと堪える。軽々しく言ってしまえばその時は救いになるかもしれないが、そうじゃなかった場合の落差が大きくなってしまう。

 

「おい、瑞鶴。 帰るぞ」

 

「もう話は良いの?」

 

「あぁ、話はつけた。 ぎゃーぎゃー騒ぎやがるから通常の倍の金額を払うって言ってやった」

 

「……提督さんも相変わらず馬鹿だね」

 

 軍から支払われる謝礼はどんな事情があっても一定だった。それは不平不満や差別が起きないようにするための決まりなのだが、それを超える金額を支払うという事はこの男は自腹を切るという事だった。

 

「おじさん……、誰?」

 

「おじさんじゃなく、お兄さんな? お兄さんは君を迎えに来たんだ」

 

「いや、提督さんってもう30近く無かったっけ……?」

 

「あぁ、今年で30になる。 だからってお兄さんじゃなくなる訳じゃないだろ?」

 

 呆れたような表情で男の事を鼻で笑った瑞鶴が面白かったのか、少女はそれに釣られるようにして少しだけ口元を緩ませる。

 

「じゃあ行こうか、荷物はあまり多くは持ち込めないが何か持っていきたい物とかあるかな?」

 

「無い……、です」

 

「そうか。 着る物なんかは帰りに買ってくとして、細かい事はそこのお姉さんに相談すると良い」

 

「えっ? 私? 同じ艦種の子が面倒見るんじゃないの?」

 

 基本的に瑞鶴の所属している鎮守府では同型の艦種が部屋先輩として同じ部屋で寝食を共にして細かいルールなんかを教えるという仕組みがあった、この子が秋月型かもしれないとなれば同じ駆逐艦の子が面倒を見ると思っていたようだったが、男の言葉を聞く限り瑞鶴がその担当になるようだった。

 

「仲良さそうだったじゃないか、不満なのか?」

 

「この子が嫌じゃ無ければ別に良いけど……?」

 

「嫌じゃ、無いです。 もっとお姉さんとお話してみたいです……」

 

「決まりだな」

 

 この男がどこまで考えて少女の面倒を見る相手を瑞鶴にしたのかは本人にしか分からない。もしかしたら何も考えて居なかったのかも知れないし、この男にしか分からない何か深い理由があったのかもしれない。それが分かるのは少女が正式に『駆逐艦 秋月』として生まれ変わってからだった───。




まさかの1話打ち切りなのじゃよ。


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雨の日のお楽しみ会

「瑞鳳。 そろそろ起きて、ご飯できてるわよ?」

「……もうちょっとだけぇ」

 

お姉ちゃんの声で少しだけ眠りから覚めると、水滴が窓を打つ音が聞こえてきて今日の出撃はお休みなのだと察する事ができた。

 

「いつもこうなんですよ?」

「意外だな、秘書官の時は結構しっかりしているなと思っていたのだが」

 

雨の音が聞こえる部屋の中でお姉ちゃんと誰かが話をしているようだったが、誰か来ているのだろうか。

 

「やはり急に朝食をご馳走になるなんて迷惑だったんじゃないか? 出撃の無い日くらい姉妹でゆっくりしたいだろう」

「いえ。 私もお寝坊さんも提督にはいつもお世話になっていますし、些細な事でもお礼がしたいんです。 ね、瑞鳳?」

「ふぇ……? てい……とく……?」

 

これが夢である事を願いながらゆっくり目を開けてみると、目の前には笑顔の姉と少し困ったような表情をしている提督の姿があった。

 

「おはよう。 祥鳳から朝食の招待を受けたんだが、まだ眠いなら先に頂いておくことにするが」

「ふふっ、瑞鳳凄い寝ぐせよ? それに……」

 

このまま眠っていても良いという提督と、自分の口元を指差す姉を見て自分が今どんな状況なのかはっきり理解する事ができた。

 

「いやぁぁぁぁ!? すぐに準備して来るから見ないでぇ~!」

 

私はこれ以上自分の情けない姿を見られないために提督に枕元に置いてあるぬいぐるみを投げつけると、急いで洗面台へと向かった。

 

鏡に映った自分の姿は寝ぐせこそ酷いものの、口元に涎の後はついておらず姉の意地悪だったと理解して半分だけ安心した───。

 

「これは美味いな、毎日でも食べたいくらいだ」

「お世辞でも嬉しいです。 瑞鳳もいつまでも拗ねずに、機嫌を直したらどう?」

「別に拗ねてなんて無いですよぉ~……」

 

どちらかと言えば寝起きの姿を提督に見られたという恥ずかしさの方が大きいのだが、

提督を朝食に誘うと言うのであれば自分にも事前に話をしてくれても良いのでは無かったかとも思う。

 

「次来た時には瑞鳳の卵焼きを食べたいと思っていたんだが、この様子じゃ次は無さそうだな」

「うぅ……」

「それは残念ですね、私も久しぶりに妹とご飯が食べれると楽しみにしていたのだけど……」

「う~……」

 

確かにこれ以上拗ねて居ても折角の美味しい朝食を作ってくれた姉に失礼だし、来てくれた提督にも嫌な思いをさせてしまうかもしれない。

それに、姉も提督も普段は忙しいだろうし出撃の無い雨くらいしかこうしてのんびりする事もできないのだろう。

 

「分かりました! 次の朝食は私が作るんだから! とびっきりの卵焼きを作っていっぱい焼くんだから!」

 

それから雨の降った日は私達3人で朝食を一緒に食べるというルールができた、艦載機の痛む雨は嫌いだったけど今日から少しだけ好きになれるかもしれない。

そんな風に感じる事ができるようになった一日だった。




ツイッターで頂いたタイトルから書かせてもらいましたー!

ありがとうございました('ω')


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赤い城と柘榴の樹

 正直に言ってしまえば私は提督の事が苦手だった。

 間違いなく優秀だとは思うのだが利己的であり、時として見せる傲慢な態度は多くの子達からの反感を買っていたと思う。

 

「何の用だ? 俺は今忙しいんだが」

「加賀さんから聞きました」

「何の問題がある、貴様達は俺の艦だ。 黙って命令に従っていれば良い」

 

 細い枝が多く枝分かれをした木に水を与えていた提督はそれだけ言うと私から視線を外してしまった。

 

「理由を聞かせて貰っても良いでしょうか?」

「……金だよ。 他の鎮守府の連中がお前達を言い値で

 引き取ってくれると提案してきた」

 

 他の鎮守府への移籍についての理由を尋ねたのだが、帰って来た答えは最低な物だった。

 

「そうですか、短いとは言えない時間でしたがお世話になりました」

 私はそれだけ言い残してその場を去る事にした。艦である私達は提督を選べない、例えどれほど卑劣で愚鈍な相手であっても命を賭けて任務を遂行し、提督や鎮守府を護るため努力を続ける。

 

「赤城」

 

 ポツリと呟くような声が耳に入り、聞こえなかったと無視しても良かったのだが最後の言葉になるかもしれないと考えればその行為はあまりにも冷酷過ぎると考え、振り向く事にした。

 

「何でしょうか?」

「いや、何でもない。 貴様に話しても無駄な事だった」

「そうですか」

 

 相変わらず提督は木に水を与えたり葉に付いた虫を取り除いたりしていたが、1つ1つの動作は丁寧で何処か優しさを感じさせるような気がする。

 私はその動作にどうしようもない苛立ちを感じた。

 どうしてその優しさを私達艦娘に向ける事ができないのだろうか、私達は彼にとって植物以下の存在なのだろうか。

 

「お節介かもしれませんが、私から最後の言葉を送らせていただきます」

「……何だ?」

「これまで私達は貴方のために戦い、傷つきながらも戦果をあげて来ました。 今までのように鎮守府に篭り君主の如く踏ん反り返ってばかりではそれも望めない事を覚えておいてください」

「あぁ、そうだな」

 

 自分で言って自分の言葉に納得できた、この人は命令を出すだけで自分の身体には傷1つ付く事は無い。他者が血を流して得た戦果を自分の物にしていた暴君以外の何でもない。

 

「さようなら」

「……──でな」

 

 最後に彼が何を言ったのかは分からなかったが、どうせ碌でも無い言葉なのだろう───。

 

 他の鎮守府に移れると聞いた子達は皆喜んでいたと思う、ようやくこの地獄のような日々が終わり活躍できるのだと明日以降の事を考え笑みを浮かべていた。

 しかしそんな考えは半月もしないうちに砕かれる事になった。

 

『役に立たない艦ばかりだな、前の鎮守府じゃどれほど甘やかされていたんだ?』

「……それは」

 

 離れ離れになった仲間から送られてくる手紙は日に日に数を減らして行った。

 

『使えないな。本当に自分が空母だと言うのであれば敵の旗艦くらい落として貰わないと困るのだがね』

「……申し訳ありません」

 

 加賀さんは元気にしているのだろうか、不甲斐ない自分の戦果にかつての仲間の事を思い出して心の支えにするしかできなかった。

 

『無駄飯食らいは私の鎮守府には必要無いのだがね』

「……はい」

 

 何が悪いのだろうか、私のやっている事は間違っていないと思う。傷付いた仲間を庇い中破した事は悪いと思ったが、庇わなければ随伴艦の子が轟沈してしまう危険だってあった。

 

『もう良い。 貴様は使わない』

「……」

 

 それから私は出撃する事が無くなった、深海棲艦との情勢が悪化していくにつれて戦果ををあげるためであれば轟沈すら許される風潮ができてきたと送られて来た

 手紙には書かれていた。

 

「帰りたい……」

 

 1人になると別れを告げた提督の事を思い出す時間が増えて行った。訓練は厳しく作戦のミスに関しても罰を与えられた、

 しかしあの人は1度も轟沈に関わるような命令を出した事は無い。

 

「加賀さんからの手紙は……、来てないですね」

 

 もしかしたら加賀さんもそうなってしまったのかもしれない。出撃をさせてもらえない以上彼女の元に行く事すらできないだろう。

 それから私は沈んでしまった気持ちを切り替えるために提督の育てていた木が何だったのか調べる事にした。

 

「柘榴の木……、みたいですね」

 

 記憶の中の特徴は朧げで時間はかかってしまったが、赤い実の形は特徴的で鎮守府の中にあった図鑑で簡単に調べる事ができた。

 

「不器用な人。 どうして、そんな回りくどい事をしようと思ったのですか……」

 

 柘榴の花言葉は『優美』『愚かしさ』と書かれていた。同じように木や実にもついても意味が書かれており、その言葉の意味を知って私は彼を理解できて居なかったのだと奥歯を噛み締める。

 彼に真意を聞いて謝ろうと思った時には既に遅かった、彼の鎮守府は深海棲艦の大規模な奇襲により既に地図から抹消され、賄賂や戦果の水増しと言った事が発覚して彼自身も処罰を受けこの世界から居なくなってしまっていた。私達は本当に彼のために戦い彼を守っていたのだろうか、その身を削り、命を賭けてまで守ってもらっていたのは私達の方だったんじゃないだろうか───。




これもツイッターでタイトルを頂いたので書かせてもらいましたー!

感謝です。


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大井と北上

「こんにちはー。 軽巡洋艦、大井です。 どうぞ、よろしくお願い致しますね」

 

「……っ!」

 

 目の前に居る白い軍服に身を包んだ男の表情が何処か暗い。何か気に障る事でも言ってしまったのかと思ったが、作り笑いも上手くできているはずだし私の挨拶におかしな点は無かったはず。

 

「どうかしましたか? 何か私に至らぬ点でも?」

 

「い、いや。 何でもないよ、これからよろしく頼むよ」

 

 私と違ってこの人は作り笑いが下手だなと思った。視線は私では無く床に向いているし若干口角がわざとらしく曲げられているのだと一目見ただけで分かる。

 

「あの……? 北上さんは着任しているのかしら?」

 

「あ、あぁ。 着任してるよ」

 

「会わせて貰っても良いですか?」

 

 私は心の中でガッツポーズをする。正直に言ってしまえば目の前の男にはあまり興味は無いし、そんな事よりも今は北上さんに会いたいと思った。

 

「それは……」

 

 何やら渋っている男の後ろにあったドアがゆっくり開く。外の光によって映し出されたシルエットを見て私の身体は自然と歩き出していた。

 

「新しい艦が進水したって聞いたけ……ど。 まじ……?」

 

「北上、これは───」

 

「北上さーん! 会いたかったです! また一緒に海に出る事ができるなんて感激です!」

 

 男は北上さんに何かを伝えるつもりだったようだが、私はそれを無視して北上さんの手を握ると上下に振って再会の喜びを精一杯表現する。北上さんもきっと私に会いたかったはずだし、これからの事を考えるだけで頬が緩んでしまいそうになる。

 

「ねぇ大井っち?」

 

「何でしょう北上さん!」

 

 どんな言葉をかけて貰えるのか頭の中でシュミレートする。北上さんの事だから何気なく言ったつもりでも私の心を貫くような素敵な言葉を言ってくれるかもしれない、私は一字一句聞き逃さないように北上さんの言葉に集中する。

 

「手、離してくれないかな? あんまりベタベタされるの好きじゃないし、はっきり言ってウザイんだよね」

 

「えっ…?」

 

「お、おい! 北上っ!」

 

「それじゃ私は執務室に帰るから。 提督、後はよろしく~」

 

 そう言って北上さんは私の手を振りほどくと、ドアが壊れるのでは無いかと思える程の音を立てながら出て行ってしまった。私はさっきの言葉が聞き間違いであって欲しいと願ったが、もしそうであれば私の手を振りほどく必要は無いし、敵意を伝えるような立ち去り方をするはずがないと自分を誤魔化すことができなかった。

 

「……どうして?」

 

「君の部屋に案内するよ……」

 

 それからの事はあまり覚えていない。途中で何人か私を見て驚いたような表情をしていたと思うけど、そんな事は北上さんに嫌われているかもしれないという事に比べれば些細な事だった───。




これはちょこちょこ続きを書くかもしれません_( _´ω`)_


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大井と北上2

「いい加減機嫌を直して飯を食うクマ」

 

「……要らない」

 

 一人部屋なのだと思っていたのだが、案内された部屋には球磨姉ぇと多摩姉ぇ、木曾が居た。鎮守府に慣れるまでは姉妹と同じ部屋で生活をすると言うのがこの鎮守府の決まりみたいだけど、北上さんと一緒に暮らすことができたかもしれないという未来があったのでは?と自分で考え再び大きな溜息をついた。

 

「多摩のを少し分けてあげるにゃー」

 

「多摩はちゃんと肉も食えクマ」

 

「俺のも分けてやるよ」

 

「木曾も大井に野菜を押し付けるなクマ」

 

「3人は気楽そうで良いですねぇ……。 って、少し味が濃すぎじゃないです?」

 

 このままだと多摩姉ぇと木曾の分まで食べさせられる事になりそうだと諦めて料理に口を付けるが、塩辛いと言うか醤油と言うか取り合えず味が濃い事に驚いた。

 

「……ん? そうクマ? じゃあ姉ちゃんのと交換するクマ」

 

「く、球磨姉ぇが料理失敗するなんて珍しいな」

 

「クマも木から落ちるってやつにゃ?」

 

 交換しても一緒に作ったのなら同じでは?と思ったが、球磨姉ぇのお皿に盛られた料理を食べてみると先ほどのような味の濃さは無く至って普通の味付けだった。てっきり一緒に作っているのだと思ったけど、几帳面にも一人分ずつ作ったのだろうか。

 

「大井は午後から演習の予定が入ってるから少し塩を多めにしたクマ」

 

「そうですか。 それでもこんなのばかり食べてたら味覚がおかしくなってしまいますよ?」

 

「多摩もそう思うにゃ」

 

「さ、最近は暑いし汗もかくからな! 水分補給も大事だってよく言われてたよな!」

 

 姉妹の団欒も悪くは無いと思う。だからこそここに居ない私の姉であり親友である北上さんの姿が無い事実が胸を締め付ける。きっと北上さんなら表情には出さないけど、騒いでる私達を見て心の中では誰よりも楽しんでいるのだと思う。

 

「それじゃあ後は片付けて置くから、木曾は大井を演習場に案内してやってくれクマ」

 

「あぁ。 大井姉ぇ行こうぜ」

 

「多摩は遠征に行ってくるにゃ~」

 

 取り留めのない話をしながらの昼食は終わり、私は木曾の後ろを歩いて演習場へと向かう。色々と考えてみたのだけど今は北上さんの事よりも自分自身をどうにかしようという結論に至った。あの時見た北上さんの艤装は重雷装巡洋艦の物だったし、今のただの軽巡である私に失望したという可能性もあると思う。

 

「よし! 決めた!」

 

「な、何だよ。 急にでかい声出して」

 

「頑張って北上さんの練度に追いつきます!」

 

「……確か北上姉ぇの練度って99だったはずだけど」

 

「例え時間がかかってもやるのよ!」

 

 予想よりも北上さんの練度が高い事に驚いたけど、だからと言って諦める理由にはならない。今はきっと相手にして貰えないかもしれないけど、北上さんの横に並んでも恥ずかしくない私を目指して頑張っていこうと思う。

 

「へぇ、なんだか面白い事言ってるねぇ。 練度上げたいなら私も付き合ってあげようか?」

 

「き、北上姉ぇ……」

 

「北上さんっ……!」

 

 艤装を装着した北上さんが笑顔で私の肩に手を乗せてくれた。やっぱりこの前の出来事は何かの間違いで、北上さんも私の事を必要としてくれているんだと思い目頭が熱くなってしまう。

 

「木曾さぁ。 今日は出撃も遠征も予定入って無いよね?」

 

「あぁ。 提督には大井姉ぇの面倒を見てやれって言われてる」

 

「じゃあさ、少しの間を誰も通さないで居てもらえるかな?」

 

「き、北上さん……? 痛っ!」

 

 私の肩に置いている北上さんの手に力が入っているのが分かる。徐々にその力は増して行き、私が痛みに顔を顰めて振りほどくまで続けられた。それはこれからの私に期待しているというよりも、敵意に近い感覚だと思った。

 

「練度上げたいなら相手の練度も高い方が良いでしょ? 相手側の子には話つけておいたから、私と2人で演習しよっか。 良いよね? 大井っち?」

 

「え、えぇ……。 北上さんがそう言ってくださるのなら……」

 

「提督はその事を知ってるのか……?」

 

「まさか、あの人がそんなの許す訳無いでしょ。 気に入らないなら木曾も大井っち側に入って一緒にやる?」

 

 北上さんは笑顔が一瞬だけ崩れるのが見えた。ほんの一瞬だったけれど、背筋が凍ったかのような嫌な感覚に襲われる。この感情が何かを知っているのだけれど、私は北上さんにこんな感情を抱く事は無い、誤魔化す心とは別に身体は目の前の彼女の事を『怖い』と認識してしまっていた。

 

「お、俺だって今は北上姉ぇと同じ雷巡なんだ! いつまでも俺を舐めるなよっ……!」

 

「そういうのは震えてる膝を隠して言ってくれるかなぁ? 折角カッコいいマントがあるんだからさぁ~」

 

「き、木曾は関係無いですよね!? わ、私に話があるのならお付き合いしますし、練度上げに付き合って頂けるのであれば私は大丈夫です!」

 

 北上さんが何を考えて居るのかは分からないけれど、この場で木曾にまで何かあってしまうのはまずい気がした。それに2人きりで話せば何か解決の糸口を見つける事ができるのかもしれないと思った───。



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大井と北上3

「ねぇ大井っち?」

 

私は口の中に入った海水を吐き出すと痛む身体に鞭を打って視線を上げる。

 

「これは大井っちのための助言なんだけどさぁ、艦娘辞めたほうがいいんじゃない?」

 

 始めから錬度に差がある事は分かっていたが、ここまで一方的な結果になるとは思っていなかった。私にだって北上さんが雷巡ということを考えて魚雷にさえ気をつけていればと考えていたのがそもそもの間違いだった。

 

「大井っちなら分かるよね? 私まだこれを使ってないんだけど?」

 

北上さんは魚雷発射管を撫でると私に視線を落としてきた。

 

「どうする? 辞めるなら私からも提督に伝えておいてあげるけど?」

 

「辞めません……」

 

「そっか、じゃあ続きやるからさっさと立ってくれるかな?」

 

 辞めないというのは私自身の意地もあったけれど、北上さんが何を考えているのかを理解するためにも1秒でも長く彼女と向かい合う必要があると感じたからだった。

 

「どうしてですか……?」

 

「何が?」

 

「言いたい事があるのならはっきりと言ってください。 こんな陰湿なやり方は北上さんらしくありません……!」

 

「私らしく? 大井っちも面白いこと言うねぇ、私らしくって一体何?」

 

 私はゆっくりと立ち上がって北上さんの言葉の意味を考える。私にとって北上さんは強くて美しくて可憐で可愛くて、言葉で言い表すことのできない存在ではあるのだけれど、彼女が求めているのはそう言った意味の回答では無いのだろう。

 

「あぁ、ごめん。 やっぱりどうでも良いや、それより大井っちこそどうなのさ」

 

「私ですか……?」

 

北上さんが単装砲を構えるのを見て私も同じように構える。

 

「大井っちは少し前に建造されたばかりだよね? 私とはこの前会ったばかり、なのにどうして私に固執するの?」

 

「それは……。 私が大井だからです……」

 

「分かってるじゃん、その気持ちはあんたの物じゃないの」

 

 北上さんの単装砲から放たれた弾が顔の横を通り過ぎて行く。私は之字運動を繰り返しながら距離を取って回避に徹するが、少し距離を取った北上さんが膝を落とすのが見えてあわてて距離を詰める。

 魚雷の基本は何処かの死にたがり軽巡を除いては狙いを定めると言うよりは放射状にバラまくと言った運用方法を取ることが多い。それが並みの駆逐艦や軽巡ならこのまま距離を取って通過するのを祈るといった手を取るのもありだと思ったが、40門の酸素魚雷を搭載している彼女にその常識は当てはまらない。

 

「やらせませんっ……!」

 

 この場面で私が取れる対策は2つだった。距離を詰め側面に回りこむことでそもそも放射線状の範囲から抜け出すこと、当たっても致命傷になるかは分からないけど少しでも発射までの時間を稼ぐための威嚇射撃。

 

「えっ?」

 

胸に鋭い痛みを感じて私の視界には空が映る。

 

「魚雷を警戒するのも良いけどさ、雷巡だからって砲撃を甘く見るのもどうかねぇ」

 

「北上さんの魚雷に当たるよりはマシですよね……?」

 

 魚雷を発射する仕草を取ったのは私を釣るためのブラフだった。慌てて距離を詰めるために之字運動をやめた私を狙う、シンプルだけどそのまま回避行動を繰り返すのであれば魚雷を発射してしまうだけという半ば私にとっては詰みとも言える作戦だったと思う。

 

「流石は北上さんで……すっ!?」

 

 仰向けになった私の腹部を北上さんが踏みつける。艤装をつけている限りは浮力を与えられているが、こうして他から力を加えられてしまえば私の身体は僅かにだが海に沈んでしまう。

 

「同じ顔、同じ声、同じ仕草。 いい加減うざいよ。 艦娘を辞めろって言ったけど、正直に言うと私の前から消えてくれないかな?」

 

 上からの押さえつける力が緩み私は再び浮上すると、海水を飲み込んだせいか咽てしまう。

 

「同じ……?」

 

「そのままじゃ『また』沈むだけだよ……」

 

 同じとはどういう意味なのか、またとはどういう事なのか。それを聞きたいのだけれど、私の身体は再び北上さんによって海へと沈む。呼吸ができなくて苦しい、喉は海水にやられ焼かれているのでは無いかと思えるほど痛む。

 

「大井っちが艦娘を辞めるって約束してくれれば辞めてあげるよ?」

 

返事を聞くためなのか北上さんは私を浮上させると顔を覗いてくる。その表情は何処か頼りなくて、泣きそうで、寂しそうで。

 

「辞めません……」

 

その言葉を告げると私は再び海の中へと戻ることになる。酸欠で意識が朦朧としてきたせいか手足には力が入らず、このまま本当に沈んでしまうのでは無いかという恐怖が脳裏に浮かんでくる。

 

「もう1度聞くけど、どうする?」

 

「辞めませんよ……」

 

 私が艦娘を辞めれば北上さんが1人になってしまう、何故だか分からないけどそんな気がした。何度沈められても私は北上さんの顔から視線を外さない。どうしてそんな泣きそうな顔をしているの?何がそんなに悲しいの?薄れ行く意識の中でそんな事を考えていた。

 

「いい加減にするクマ」

 

「……まったく、木曾は相変わらずいう事を聞かないなぁ」

 

 何度目かの浮上をした私の目に映ったのは球磨姉ぇの姿だった。少し離れた場所には多摩姉ぇや木曾の姿が見えるし、大方何か問題が起こる前にと木曾が呼びにいったのだろう。

 

「球磨姉ぇたちも演習に参加する?」

 

「これのどこが演習クマ。 球磨には陰湿ないじめにしか見えないクマ」

 

「球磨姉ぇには珍しく逃げるの?」

 

「確かに売られた喧嘩は絶対買えって教えたのは球磨だクマ。 だけど、これは喧嘩じゃなくただの八つ当たりだクマ、それは北上が1番分かってると思うクマ」

 

 球磨姉ぇは単装砲を構えた北上さんを無視して私に近づくと、乱暴に掴み上げて私を肩に担いでくれた。

呼吸ができるという安心と、沈むことが無いという2つの安心から気が緩んだのか私の記憶はそこで途切れてしまった───。



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大井と北上4

最近は本業の方でランカーを始めてしまいこちらが放置状態になって申し訳ない…

という事でリハビリついでに…


「これで傷の手当は終わりクマ。 それじゃあちょっと行ってくるから、木曽は大井を見ててやるクマ」

 

「行くって何処に行くんだよ……」

 

 目の前は真っ暗だが誰かの話し声が聞こえる。何か顔の上に冷たいものが置かれているようだが、球磨姉ぇが濡らしたタオルでも乗せてくれているのだろう。

 

「球磨はお前たちのお姉ちゃんだクマ、妹が道を踏み外そうとしたら訂正してやるのもお姉ちゃんの仕事クマ」

 

 諭すようにして流していたが北上さんの『逃げる』と表現した言葉に内心は頭にきていたのだろうか、球磨姉ぇはいつもの何処か抜けた話し方ではなく棘のある話し方だった。

 

「お、おい! 待てって!」

 

 乱暴に扉が閉められる音が聞こえてきて私の傍で誰かが立ち上がる音がしたが、様子を伺おうと上半身を起こしたくても気だるさで身体がいう事を聞かない。

 

「止めなくても良いにゃ。 誰かがやらなければならない事にゃ」

 

「それでも提督に事情を説明するとか他に方法があるだろ!」

 

「……確かに提督にも責任はあるにゃ。 でも今はまだ球磨型の問題にゃ、お互い本気で沈めるつもりなんて無いだろうし提督に伝えるのはもう少し様子を見てからでも良いにゃ」

 

「……ぁ」

 

 声を出してみようと思ったが海水を飲みすぎていたのか喉が痛み上手く声が出せない。

 

「大井姉ぇ目が覚めたのか!」

 

「先に水を飲ませるにゃ。 『いつも』辛いものばかり食べてた大井でも海の水は流石に身体に悪いにゃ」

 

 木曾の右手が私の背中を支えてくれた事でようやく上半身を起こすことができる。多摩姉ぇが用意してくれたグラスからゆっくりと水を飲むと何度か声を出してみて喉の様子を確かめる。

 

「多摩姉ぇと木曾に聞きたいことがあるの」

 

「なんだ?」

 

「……嫌にゃ」

 

 多摩姉ぇは私が何を聞きたいのか察したようだが、木曾はそれに気付いていないようだった。相変わらず見た目ばかり大きくなって内面では何処か抜けているなと思った。

 

「単刀直入に聞くわね。 私の前にこの鎮守府には『大井』が居たのよね?」

 

「……な、何のことだか分からないな」

 

「嘘を付くのは相変わらず下手ね、そうやって嘘をつくときに口元を隠すのは悪い癖だって前の私に言われなかった?」

 

 木曾は慌てて口元を隠していた左手を下ろすとわざとらしく自分の腰に移動させる。

 

「やっぱりそうなのね。 やっと北上さんの言ってた言葉の意味が分かった気がする」

 

「大井がここでの生活に慣れてきたら話すつもりだったにゃ」

 

「あ、あぁ。 北上姉ぇ以外はみんなそれで納得してたんだけどな……」

 

 別にそんな事私たちが艦娘である以上珍しい話では無いと思う。頭ではそう割り切れているのだが、実際に私が姉さん達や木曾の立場だったら同じように割り切れたのだろうか。

 

「北上さんが『また沈む』って言ってたって事は、前の私は沈んだのよね」

 

「そうにゃ」

 

「そう、私は『また』北上さんを残して行ってしまったのね」

 

 1度目はシンガポールに向かう途中だった、敵の潜水艦の放った魚雷を2発受けて機関室が破損。敷波に曳航してもらっては居たのだが私は艦尾から沈んで行ってしまった。

 

「……大井姉ぇが庇わなければ轟沈してたのは北上姉ぇだった。 なのに北上姉ぇのあの態度は無いだろ!!」

 

「木曾、余計なことは言わなくて良いにゃ」

 

「私は北上さんを庇って沈んだの?」

 

 多摩姉ぇに木曾の言葉は遮られたが、どうやら2度目の私は北上さんを守ることができたらしい。それだけは前の私に賞賛を送りたい。

 

「少し眠るわ。 午後の演習には参加したいから、時間になったら起こして頂戴」

 

「そ、その身体じゃ無理だって……」

 

「分かったにゃ、提督には多摩が言っておくから5連戦を楽しみにしながら寝ると良いにゃ」

 

 私は支えてくれていた木曽の手を払ってベッドに身体を預ける、北上さんの錬度を考えれば前の私もそれなりに錬度が高かったのだと思う。きっと北上さんは今の私が何を言ったっていう事を聞いてくれない。

 

「私だって球磨型なのよ。 このまま黙って終われる訳無いじゃない……」

 

 売られた喧嘩は絶対買えって考え方は私も嫌いじゃない、私が嫌いじゃないという事は前の私だってその考えには納得しているのだと思う。それなら海の底に居る私に私は喧嘩を売ってやろうと思う。

 

 私は私、北上さんの傍に居たいって思う気持ちは私の物。 例え北上さんでも海の底に居る私でもその気持ちの邪魔をさせない───。

 

 

 

 

 

「あら、久しぶりに演習に駆り出されたと思えばそういう事ですか♪」

 

「……よろしく頼むわね」

 

 多摩姉ぇが上手く取り計らってくれたのか、私は午後の演習には旗艦として演習に参加できる事になっていた。僚艦にこの子が居るという事は私の錬度上げを提督も了承してくれたという事なのだが、なんだか気まずい。

 

「うふふ♪ 練習巡洋艦鹿島、精一杯サポートしますのでよろしくお願いしますね♪」

 

「アンタのその態度って前の私にうざがられて無かった?」

 

「えぇ、それは勿論! いつももっとシャキっとしろって怒られてました♪ って、あれ? 前の大井先輩については機密にすると聞いていましたが?」

 

「もう良いのよ。 事情は分かったし私もそんな事で取り乱す程軟じゃ無いわよ」

 

 正直に言ってしまえばこの子は苦手なのだが、私の錬度上げにつき合わせている以上は無下にする訳には行かない。

 

「それじゃ行きましょうか♪」

 

「なんだか楽しそうね」

 

「私が着任した時には大井先輩はもう演習に出る必要が無いくらい高錬度でしたから! あれ? この場合は大井先輩だけど私の後輩とか教え子になるのでしょうか?」

 

「何でも良いわよ」

 

 私もこの子と同じように練習巡洋艦として活動していた時期もあるけど、私が現場に出るようになってから規則だとか風紀だとか変わってしまったのだろうか?

 

「江田島ってアンタの時代ってどうだったの?」

 

「安心してください! 大井先輩の期待に精一杯応えられるように頑張りますので♪」

 

 その後の演習自体は無事に終わったと思う。私の錬度が低いのが原因と言うのもあるとは思うけど、予想以上に彼女の指導は厳しかったというのが素直な感想だった。

 

「おかえりにゃ。 鹿島も忙しいところ悪かったにゃ」

 

「いえいえ! 私も久しぶりに演習に参加できて嬉しかったですし、オロオロする大井先輩を見られたのはとても新鮮でした♪」

 

「……もう支えなくて良いわよ。 床でも良いからさっさと降ろして」

 

 なんというかとても恥ずかしい。足は生まれたての小鹿のように震えるしニコニコしながら私の肩を支えてくれている鹿島の手を払う体力すら残ってない自分が情けない。それに結局私は多摩姉ぇと鹿島の2人に支えられながらベッドに腰掛ける所まで面倒を見られてしまった。

 

「それじゃあ明日は0700から午前の演習を行いますので、その時に迎えに来ますね♪」

 

「迎えに来なくても1人で行けるわよ……」

 

 私の言葉が聞こえたのか聞こえていなかったのか分からないけど、鹿島はスキップでも始めるのではないかと思えるほどのテンションで歩いて行ってしまった。

 

「そういえば球磨姉ぇと木曾は?」

 

「木曾は出撃してるにゃ。 球磨姉ぇは入渠中にゃ」

 

「入渠……」

 

 やはりあの後球磨姉ぇと北上さんとでいざこざがあったのだろうか。演習という名目上実弾は使用していないとは思うのだけど、あの2人ならもしかしてという事が考えられる。

 

「ちなみに北上も入渠中にゃ」

 

「何があったのか聞いても良いかしら……?」

 

「北上の方が錬度も高いし序盤は割りと北上優勢だったにゃ、でもお互いに弾も魚雷も切れてからは球磨の優勢だったにゃ」

 

 これが正式な演習なら北上さんの勝ちって事で終わったのだとは思うけど、多摩姉ぇのどこか意地の悪さを感じさせる笑い方を見る限り一筋縄では終わらなかったのだろう。

 

「やっぱり球磨は素手だと球磨型で1番強いにゃ。 実は前の大井も1度球磨に殴られて入渠した事があるにゃ」

 

「呆れて言葉が出ないわよ……」

 

「それと大井も北上にだらしない姿を見せたくなければさっさと着替えてくるにゃ。 引き摺ってでも北上を連れて来るって言ってたから今日の晩御飯は久しぶりに全員で食べれるにゃ───。



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MMMK

 目の前で不知火の体がゆっくりと床に吸い込まれるように崩れて行く。考えるよりも先に手を伸ばした私の背中を引いたのは黒潮だった。

 

「あかんって! 陽炎はうちらのリーダーなんやから我慢して!」

 

「でも不知火がっ!!」

 

 振り向いた時に見えた黒潮の表情を見て私は黙ってしまう。

 

「……ごめん。 取り乱してた」

 

「気にせんでええよ、ウチだって陽炎が行かんかったら飛び出してたと思う」

 

 悔しいのは黒潮だって同じだった。私たち駆逐艦は決して仲間を見捨てることはできない、それが姉妹艦となればなお更だろう。

 

「ここに留まるのはまずいかな、場所を変えよっか」

 

「あんまり気にしちゃあかんで、怒りは標準を狂わせるって神通さんにも言われたやろ?」

 

「うん、大丈夫」

 

 私は振り向かない。もし振り向いて横たわった不知火を見てしまえば自分の感情を抑えることをできないと理解していた。

 

「他の子たちは無事なのかな」

 

「どうやろうね、ここにやってくる敵の数を考えれば頑張ってくれてるとは思うけど」

 

「私たちも頑張らないと散っていった子たちに顔向けができないよね……!」

 

「その意気や、気持ちを切り替えたら次は索敵!」

 

 私が知っている限り不知火を入れて既に4隻はやられてしまっている。敵の数は13隻、こちらは戦闘開始時点では17隻居たはずだからこちらは数の有利を失ってしまった事になる。

 

「でも不知火が落ちたのは痛いなぁ……」

 

「数の有利を活かしきれなかった私の落ち度だと思う」

 

 私たちが考えた作戦は戦闘開始と同時に相手を方位、一斉攻撃で数を減らし即時撤退。その後は常に数の有利を活かして複数対一の構図を繰り返すという作戦だった。

 

「でもおかしいのよね。 どう考えても私たちの作戦が向こうにバレてたとしか思えない」

 

「……スパイが居るって事?」

 

「そうとしか考えられないかな」

 

 戦闘開始と共に突撃したがそこに目標は発見できず、それどころか唖然としている私たちを逆に方位するようにして敵は襲い掛かってきた。まるで私たちの作戦を知っていてその逆を突かれたと考えても良いくらい上手くやられてしまった。

 

「───こー見えて、この谷風はすばしっこいんだよ? 当たる気がしないね!」

 

 谷風の声が聞こえて私と黒潮はとっさに身を隠す。

 

「どう思う?」

 

「谷風じゃちょっと厳しいかもしれんなぁ……」

 

「援護は?」

 

「たぶん読まれてる気がする、向こう見てみぃ」

 

 少しだけ顔を出して谷風の様子を確認すると、進行方向に敵影が見える。谷風の先行方向を考えればこのままでは待ち伏せされる形になってしまう。

 

「このままじゃ谷風が!」

 

「我慢や、我慢せなあかんで……」

 

 黒潮は私の肩を強く掴むとゆっくりと首を振る。

 

「───かぁーっ、華麗に避けたと思ったけど、仕方ねぇ!」

 

 私は奥歯を噛み締めて堪える。

 

「旗艦さえ落とせばウチらの勝ちやから……、その時までじっと堪えてや……」

 

「分かってる、妹たちの帰る場所をだよね……」

 

 本音を言ってしまえば私だってみんなと一緒に突撃して一緒に散ってしまいたい。1人だけ生き残るなんて自分の考えに反しているし、長女として恥ずべき行為だと思っている。

 

「……向こうってそんな悪いんかなぁ?」

 

「ちょっと黒潮!?」

 

「ごめん、ちぃーとばかし弱気になっとった」

 

 黒潮も私と同じ気持ちなのだろうか。私たちは互いの目をじっと見ると視線をゆっくり動かして頷く。

 

「攻撃よ、攻撃!」

 

「当たってえなー!」

 

 壁の向こうに隠れている相手に向かって握り締めた『豆』を放り投げる。

 

「はん! こんなの被弾の内に入らないけど!」

 

「やっぱり!! 誰かに見られてると思ったら秋雲じゃない!!」

 

「あかんでー? ルールは『豆が身体に当たったら被弾』なんやから、兆弾だとしても被弾は被弾やでー?」

 

「えっ、まじ……?」

 

 私と黒潮は秋雲をロープで縛ると親指で豆を弾く。

 

「で、何で買収されたのかしら?」

 

「……な、何のことでしょう?」

 

「乱暴な事はしたくないんやけどなぁ」

 

「……来年も売り子してもらえる~みたいな?」

 

 私は思いっきり秋雲の頭頂部に手刀を振り下ろす。

 

「い゛っだぁぁぁ!!」

 

「さて、スパイも処罰したしここから本番ね」

 

「いやぁ、夕雲の事やから何かしてくるとは思ってたけど買収してくるとわ……」

 

 これはこの鎮守府で1年に1度行われる『豆まき』大会。

 

まずは駆逐艦同士での『寮』をかけた戦いが行われ、勝ったチームから順に住む寮を選んで行くのだが今年は人数の拡張に伴い新しい寮ができた事もあり例年よりも盛り上がっている。

 

「でも勝ったチームってこの後いつものあれよね……?」

 

「今年も神通さんが立候補したって聞いたけど……」

 

 勝ったチームは例年と同じく『軽巡』の方達に豆をぶつける事になる、当てても自分たちにメリットは無いのだけど当てることができなかった場合『特別訓練』があるというのだから全くのデメリットしか無かった。

 

「……私実は今の寮結構気に入ってるのよね」

 

「奇遇やね、ウチもそう思ってた所なんよ」

 

 旗艦がやられたら負けというルールである以上私は隠れておくべきだったのだが、正直どっちでも良いのではないかと思えてきた。

 

「よしっ! 行くわよ黒潮!!」

 

「任せときっ! 突撃や突撃ー!!」

 

 負けるのは正直気に入らない、でも勝っても辛い思いをするのであれば『より楽しんだ』方が勝者になるのではないだろうか。私は黒潮と共に窓から飛び出すと思いっきり握り締めた豆を放り投げた───。



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