デート•ア•ライブ 〜転生の赤龍帝〜 (勇者の挑戦)
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序章 転生せし赤龍帝
プロローグ 兵藤一誠死す


勇者の挑戦です。

本作品はイッセーが士道に転生したら?と言う物語です。「物語の初めからイッセーを死なすなよ!」と思う方もいると思いますが、温かい目で見守って下さい。

感想やアドバイス等をお待ちしております。


〜〜イッセー side〜〜

 

俺は左腕をキャノン砲に変更し、初代孫悟空から与えられた力で曹操たち『英雄派』メンバーを目掛けてドラゴンショットを放つ!狙いはリーダーの曹操だ!

―――無傷でてめぇを返すほど俺はお人好しじゃねえ!!

 

「曲がれええええええええ!!!!」

 

ドシュッ!!

 

英雄派のジャンヌとヘラクレスが、曹操の盾とならんとばかりに曹操の前に立つが、俺の言葉に応じるかのようにドラゴンショットが曲がり、曹操の左目に直撃した。

 

曹操は左目からドクドクと血を流し、地面に膝をつく。

………だが、自分の目を傷つけられたことに怒りを覚えたのか曹操はすぐに立ち上がり、傷を負っていない右目を鋭く開き咆哮のごとく声を荒げる。

 

「―――赤龍帝えええぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

赤龍帝―――この俺、兵藤一誠が宿している神器『赤龍帝の籠手(ブーステッド•ギア)』の主ドライグの異名の名で俺を呼んだ。

曹操は目を瞑り、自身の神器『黄昏の聖槍(トゥルー•ロンギヌス)』を掲げ呪文を口ずさむ。

 

『槍よ、神をも射抜く真なる聖槍よ―――。我が内に眠る覇王の理想を吸い上げ――――」

 

「曹操、ダメだ!『覇輝(トゥルース•イデア)』を見せるのはまだ―――ッ!!曹操!!」

 

曹操が呪文を詠唱を止めようと、白髪の少年―――英雄ジグルドの子孫、『魔帝』ジークことジークフリートが曹操の口を塞ぐが、ジークフリートは吹き飛ばされた。

 

………曹操がジークフリートを突き飛ばしたのだ。

曹操は俺に目を抉られた怒りで完全に頭に血が上り、冷静さを失っていたのだ。

 

「黙れッ!邪魔をするな!!祝福と滅びの狭間を抉れ―――。汝よ、遺志を語りて、輝きと化せ―――」

 

曹操の呪文と共に聖槍の先端が大きく開ききり、膨大な光が放出される!

こ、これが『覇輝』か!!この光のオーラの量は危険すぎる!!俺たち悪魔は必滅し、最悪この京都が消えて無くなる!!

 

膨大の光の中から、一つの姿が確認できた。

神々しいとも呼べる蒼い光を纏った曹操が現れた。……もうあれは人間ではない―――神と呼ぶに相応しい姿だった。

 

「ッ…………」

 

あまりの出来事に俺は息を呑んだ。

その次の瞬間、俺は体を嫌な感覚があった。

 

 

 

それは――――俺の腹を聖槍が貫いていたからだ。

 

 

 

「ゴフッ…………」

 

込み上げてくるままに俺は口から血の塊を吐き出した。

 

 

体に痛みは感じられない。その理由は至って簡単な事だ。

 

 

俺の身体が凄まじいスピードで消滅しているからだ。

身体から煙が上がっていた。聖槍の影響によるものだろう。

 

同時に悟ることが出来た。――――俺はもう助からないということを…………

 

「イッセーさん!!イッセーさん!!消えちゃダメです!!消えないで下さい!!」

 

アーシアが淡い光を俺にかける。しかし、もう手遅れだった。アーシアの神器の治癒力をもってしても、効果がない。

 

―――ああ、俺死んじゃうんだな。こんな所で―――

 

――――アーシア…………みんな…………

 

ゴメンな…………もう、俺は…………

 

『相棒!!逝くな!!まだ逝くな!!気をしっかり持て!!相棒!!』

 

「イッセーさん…………いやぁぁぁぁぁあああああ!!!!!」

 

 

ドライグとアーシアの叫びも虚しく、俺は完全に消滅した。

 

 

〜〜イッセー side out〜〜

 

 

 




イッセー、死す。

次回の投稿は早めに行う予定です。



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転生したみたいです。俺の名は…………

毎週一、二話程度の更新で進めていこうと考えています。

知識が甘いと思った箇所や設定がおかしいと思った部分があれば遠慮なく指摘して下さい。

※後書きと琴里の士道の呼び方を修正しました。


〜〜イッセー side〜〜

 

そこは暗黒に覆われていた。

俺は何も感じることは出来ない。魂だけの存在になってしまったということだけは感じ取れた。

 

京都での激闘の末に俺が辿り着いた世界がこの世界だった。

 

意識を失った中で、俺の中で強く思ったことがある。

 

 

 

―――まだやりたいことがあった。

 

―――叶えたい夢もあった。

 

 

 

けれど…………もう何もできないし、夢も叶えることも出来ない。

 

ここが、この世界が俺の―――兵藤一誠の終着点だった。

 

 

…………とうとうこの時が来てしまったんだな。

俺だってある程度は覚悟してたぜ?

俺は強者たちと幾度となく戦ってきた……もちろん死ぬことは覚悟して戦場に赴いた。

最強のドラゴンが相棒でも、元は俺自身は何の取り柄もないただの一般高校生の下級の悪魔。

 

何度も死線を潜り抜けてきたが、とうとう俺にも終わりがやって来た。

 

俺は完全な眠りに就こうとしていた時、俺の中にはとある存在が強く頭に思い浮かんだ。

 

 

―――美しい紅髪の髪を持ち、俺の主であり、俺の憧れだった女性。

 

 

―――美しい金髪が特徴で、俺のそばでずっと俺を癒し続けてくれた少女。

 

 

―――赤龍帝と称され、多くの者に畏怖された俺の相棒で、良き理解者の最強のドラゴン。

 

 

俺にとっては三人とも―――失礼、二人と一頭とも欠けてはならない大切な存在だった。

 

ふと思い浮かんだ存在はそれだけじゃない。また一人、そしてもう一人とどんどん大切な存在が思い浮かんでくる。

俺には沢山の友がいた。これからみんなと一緒にいられないことが俺にとって何よりも辛いことだ。

 

……だから、俺は強く願ったよ。

 

―――もし……もし、もう一度人生を歩むことのできるチャンスがあるのなら……必ずみんなの所へ戻る―――と。

 

 

俺が完全に意識を手放そうとした時、何か言葉のようなものが聞こえてくる。

 

『いいだろう。この「―――」がそれを叶えてしんぜよう。ただし、君がこの世界に戻って来られるかは保証できないけどね――――』

 

 

その言葉も虚しく、俺には最後まで聞き取ることができなかった。

 

 

 

 

―――◇◆………………

 

 

ピシッ!

 

 

眠りについていた俺の意識はガラスが割れるような音と、眠りを妨げようとする眩い光によって意識を取り戻した。

 

 

――――ちょっとまて!何で俺は意識が…………

 

 

目を開けると、天井のようなものが見えるし、消滅したはずの体もある。

しかし、体は以前とは比べものもならないほど小さくなったように感じる。

ま、まさかこれって…………

 

 

「おきゃあああ!おぎゃあああ!!」

 

 

お、俺泣いてるしいぃぃぃぃ!!

っておいおい!今の俺は…………赤ちゃんになってるじゃねえか!!

 

わ、わけがわからねえよ!なんで俺は赤ちゃんなんかになって―――まさか、転生したのか!?

 

 

わけのわからない出来事にパニックになりながらも、俺は現実を見るしかなかった。

 

 

「おぎゃあああああ!」

 

 

〜〜イッセー side out〜〜

 

 

――◇――

 

 

 

イッセーが転生してからある程度の時が経過した時だった。

 

イッセーは転生した世界で、イッセーを生んだ肉親に捨てられ、五河家で育てられることになっていた。今の彼の名は兵藤一誠ではない。

『士道』という名前を与えられ、彼は五河士道として生まれ変わったのだ!

 

―――この捨てられたということにも海より深い事情があるが、今は触れないでおこう。

 

彼は引き取られた五河家の長男として成長していった。これはとある休日の出来事だ。

 

ガチャリ…………

 

一人の女性が玄関のドアに手を触れる。その女性は外に出かけるらしく、靴を履いている。

その女性の他に、玄関には小学校低学年ほどの小さな男の子が一人と、まだ幼稚園児の小さな女の子がいた。

 

「士道、お母さん出かけるからお留守番お願いね」

 

女性が男の子の方に声を掛ける。男の子―――士道は大きな声で返事をする。

 

「うん。母さん!」

 

士道の返事に彼の母は士道に問う。

 

「士道、お留守番の時は――――」

 

母が最後まで言うまでに士道は元気に答える。

 

「戸締り用心、火の用心だね!」

 

士道の言葉に彼の母は士道の頭を撫でる。

 

「はい、よく出来ました。琴里のことをよろしくね」

 

彼の母は家を出た。士道はお留守番をすることになった。

 

「おにーちゃん、お母さんは?」

 

士道の袖を女の子が引っ張る。この子の名前は五河琴里だ。五河家に生まれた長女であり、士道とは血の繋がりのない妹だ。

 

 

琴里は母親が家を出た不安からか、泣き出しそうな表情になりながら士道の袖を引っ張る。

 

 

「お母さんは買い物に行っただけだよ。琴里の大好きなハンバーグを買いにいったんだよ。心配すんな琴里、お兄ちゃんが一緒だ!」

 

士道はしゃがんで琴里の頭を撫でる。琴里は泣き出しそうな表情から笑みを見せ士道に抱きつく。

 

「そうなんだ〜!おにーちゃん、遊ぼ!」

 

琴里が笑顔を見せてくれたことで士道は安堵をした表情を見せる。

 

「よし琴里、今日はお兄ちゃんがお父さんの代わりにたくさんおんぶしてやるぞ!」

 

琴里の頭を撫でていた士道はそのままの姿勢から琴里に背中を向ける。琴里は士道の首に手を回し、体を背中に着ける。

 

「さあ、俺の可愛い妹よ!思いっきり遊ぶぞ!」

 

士道は琴里を背中でおぶりながら歩き始める。琴里は士道につかまりながら、士道に一言言った。

 

「おにーちゃん大好き!」

 

「おう!俺も琴里が大好きだぜ!」

 

 

士道と琴里は母親が帰ってくるまで仲良く遊んだ。おままごとやゲームなどをして。途中で琴里が眠ってしまったが、士道が琴里をおんぶして部屋まで連れて行った。

 

その時の琴里の寝顔はとても幸せそうな表情だった。

 

イッセーとしての日常が終わり、五河士道としての物語がここから始まろうとしていた。

 

 




イッセーが士道に転生後は三人称視点で物語を進めています。

一人称で統一した方が良いですか?

メインのヒロインは十香とする予定です。

次話から本編に入っていこうと思っています。章の終わりに番外編なども書いていこうと思っています。

次回は士道やキャラたちの設定です。



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零章 本作のキャラ紹介及び設定
零話 キャラ設定 ※随時更新


最初に士道の設定を書けよ!という方が多かったと思います。

バランスブレイカーの使用可能や使用技がある程度埋まってからの方が私的には良いと思っていたのですが、やはり早めに書いておいた方が良さそうだと思いました。

この話は今後章が終わるたびに更新していく予定なので、これからもちまちまと見ていただけると幸いです!

※一章が終わってから書いているため、ネタバレを含みます。お読みになるときは一章を読み終えてからこの話を読むことを推奨します。

※8/31 タマちゃん先生のヤンキー設定を追加。

※9/10 ヘラクレスとアテナの戦闘スタイルの追加
及び一部修正

※9/17 誤字の修正

※9/21 士道の技を追加、ヒロインにくるみんを追加

※2019.3/18 琴里と折紙の設定を一部追加

※2021.9.8 ヒロインに六華、次元の守護者のヘルメスとアルテミス及び士道の能力一部追加

※2021.10.3 六華の設定を一部追加。園神凛袮、八舞ツインズ及び仁徳正義を追加。

※2021.10.9 士道の技―――洋服崩壊及び乳語翻訳を更新。ドライグの設定を一部追加。


〜〜赤龍帝陣営〜〜

 

◆五河士道

 

◆種族 人間

 

◆年齢 十六歳

 

◆身長 175cm(一章開始時)→176cm(七章開始時)

 

◆体重 78kg(一章開始時)→83kg(七章開始時)

 

顔は原作同様だが、体格は原作の五河士道とは異なり、大柄で筋肉質。

原作同様に精霊の霊力を封印する力を持ち、さらに神滅具『赤龍帝の籠手(ブーステッド•ギア)』を宿している。

 

性格は原作とは異なり、ドがつくほどの変態で、琴里は兄を真人間に直そうと毎日考え続けている。

 

この変態にも原因があり、彼はハイスクールdxdの主人公『兵藤一誠』が転生した姿がこの五河士道なのだ。

 

しかし、彼は変態なだけではない。幼い頃に肉親に捨てられ、五河家に引き取られてからというもの、他人の悲しみや絶望に非常に敏感で、理不尽な目に遭っている人を見ると、率先して手を差し伸べるお人好し。

 

また、『兵藤一誠』の頃からの熱血も引き継いでおり、ただがむしゃらに前だけを見て行動できる強さがあり、他者を惹きつける力も持ち合わせている。

 

転生してから士道は1日たりとも欠かすことなく修行を続けていたため、一般の人間と比べれば身体能力が桁外れに高く、超常の存在とも殴り合えるほどの強さがある。

 

しかし、それはあくまで『ハイスクールdxd』の世界であればの話であって、この世界の精霊とやり合うにはまだ力が足りない。

 

実はかなりのシスコンで琴里のことを妹という関係以上に可愛がっており、十二歳の時に火事が起きた時は、全身に火傷を負いながらも、琴里を救い出したほどの過去を持つ男。

それ以来、琴里から『ヒーロー』と思われているが、鈍感なため士道本人は気付いていない。

 

彼の夢は『兵藤一誠』の頃から変わらず、『ハーレム王になる』という夢があるが、それも実現間近である。

 

また、料理の腕はプロ並みで家族の夜ご飯はいつも士道が作っている。

 

六章〜七章開始前の夏休みに尋常では無い量の修行に励んだ。さらに一日六食という食トレも並行した結果、僅か一ヶ月半で体重を五kg増加させる事に成功し、その鍛え上げた肉体により磨きをかけた。

 

◇神器の能力

 

現時点でも、『赤龍帝の籠手』の代名詞である『倍加』の力と他人に力を受け渡す『譲渡』の力を使いこなせる。

―――また、意図的に神器の能力の制限を解除する『限界突破』の使用が『兵藤一誠』の時とは異なり使用が可能になっている。(これはドライグの発案なのだが、一戦闘に一度のみの使用制限があるのが最大の欠点)

更に未完成の禁手なら対価を用意すれば使用が可能なほどの強靭な肉体があるが、制限時間はわずか十秒。

 

※アスカロンも『兵藤一誠』の時に神器に同化させたので本作でも使用をする予定です。

 

禁手(バランス•ブレイカー)―――『赤龍帝の鎧(ブーステッドギア•スケイルメイル)

 

能力は原作と同様に『BoostBoostBoost…………』と十秒に一度の倍加が一瞬でできるようになる。

―――さらに、この禁手状態でも『限界突破』の使用が可能であり、使用時はドライグが『Over Limit Booster Set up!!!!!』という音声が響き渡る。

その時の倍加はまさに一瞬で『BBBBBBBoost!!!!!!!』と更に倍加のスピードはさらに早まる。

 

禁手第二段階(バランスブレイカー•セカンドフェーズ)

 

五章のリンドヴルムとの決戦で十香のおっぱいをつついて覚醒させた力。鎧を任意の形態に変化させる能力を持ち、一度の倍化『Boost!!!!!!』の音声のみで限界の倍化までもっていく『極倍化』を使用できるようになる。

 

スピード重視【閃光(シャイニング)

近接戦闘の攻撃力に特化した【剛撃(カイザー)

霊力操作に長け、遠距離攻撃に優れた【極砲(ブラスター)

防御に性能を極振りした【護盾(ガーディアン)

 

◇使用技

 

●ドラゴンショット

 

『兵藤一誠』の頃から愛用している技。漫画のドラグ•ソボールの空孫悟のドラゴン波をモチーフにしたもの。

 

洋服崩壊(ドレス•ブレイク)

 

『兵藤一誠』だった頃から愛用している技。しかし、本作ではとある事情で完全な使用は不可能となっていたが、六章の八舞テンペストで復活を遂げる。さらに、『颶風騎士』の風にこの技を付与する事で、触れずに相手の依頼を消し飛ばす技へと進化を可能にする。

イッセーの頃から念願だった触れずに相手の服を消し飛ばす事を可能にした、ロマンの中のロマン技だ。

 

乳語翻訳(パイリンガル)

 

上記の二つと同様に『兵藤一誠』の頃からの愛用の技。しかし、この技も現在は使用不可能になっていたが―――五章で別れたイッセーとの魂を融合させる事に成功し、十香のおっぱいに触れた事によって覚醒した。

 

●ドラゴンスマッシュ

 

士道が新たに編み出した技の一つ。地面から龍の爪を出して攻撃する技。また、防御にも使えるため、非常に勝手が良い技でもある。

 

●ドラゴニックゾーン

 

士道が新たに編み出した技の一つ。初登場はソロモンとの修行。

アスカロンの光を放出し、敵の攻撃から身を守る技。攻撃にも使えるため、ドラゴンスマッシュ同様に士道の要となる技。

 

●ドラゴニックバースト

 

十香の天使『塵殺公(サンダルフォン)』の霊力と、アスカロンの聖なる波動を合成させることで、対象を攻撃する技。

前世のドラゴンブラスターを上回る威力を誇るが、発動まで時間がかかることと、バランス•ブレイカー状態でなければ腕が傷付くほどの反動がある。

 

最後の龍聖剣(ドラゴニック•ハルヴァンヘレブ)

 

十香の天使『塵殺公』が持つ最強の武装―――【最後の剣(ハルヴァンヘレブ)】とアスカロンを融合させた一撃。

ドラゴニック•バーストの上位互換で、その威力は直撃すると龍王クラスでも致命傷になるほどの威力を誇る。

 

●ドラゴン•バーニング•ブラスター

 

第二段階の【極砲】の鎧で放つドラゴン•ブラスターと琴里の天使『灼爛殲鬼』の【砲】を合わせた状態で放つ一撃。

ドラゴンブラスターを大幅に上回る威力を誇り、天龍クラスの邪龍リンドヴルムの腕を消滅させたほどの渾身の一撃だ。

 

精霊王の守護霊装(ホープオブスピリッツ•パワードアーマー)

 

五章の最終話にて、グレートレッドのオーラを受け取り覚醒させた士道の霊装。防御力を上げるのみならず、霊力操作を極限まで引き上げる能力を有する。複数の天使の同時発動及び、融合が可能になる。

この形態になれば、洋服崩壊で精霊の霊装を粉々に消し飛ばす事すら可能にする、六章時では最も攻撃の幅が広がる武装となった。

 

●エレメント•バースト

 

『塵殺公』に『灼爛殲鬼』の業火と『氷結傀儡』の冷気を融合させて放つ極限の一撃。精霊王の守護霊装を装備時のみ発動が可能になる大技。

五章時点では、士道が放てる技の中では最強の威力を誇る。

 

 

◆ドライグ

 

◆種族 ドラゴン(皆さんご存知の通りの赤龍帝)

 

ウェールズの赤い龍として、多くの者に畏怖された伝説のドラゴンで天龍と称された地上最強のドラゴン。

 

最初に士道が『俺はイッセーだ』と告げた時は炎を吐くほど怒り散らし、『兵藤一誠は歴代最高の宿主だった男だ。笑えない冗談は控えろ』と自分をイッセーだと偽る士道に怒りを覚えていたが、士道が自身が出した質問を完璧に答え切った士道を見て、士道の言葉を信じた。

 

dxd原作とは異なり、宿主によく話しかけるようになっている。また、士道を過去に抱えていたトラウマから立ち直らせたりするなど、お互いに最高のパートナーと認め合うようにまでなったほどだ。

 

そんなドライグも、dxd原作同様に本作では恐らく一番の苦労人となるだろう。―――それは有能過ぎるからだ。

 

『フラクシナス』のAIを無能だと言ったり、クルーのことを役立たずだと厳しいジャッジをするが、士道のデートの時は『いいサポートをしてくれた』と素直に感謝を示したりするなど、士道の兄貴役を務めることが多いため、士道から非常に頼られるからだ。

 

十香のことが実は苦手で、あの迷シーンで『アルトリア』を拒否されたことをずっと根に持っていたが、常に士道を大切に思う様子にその認識を改めた。

十香に狂三から士道を守ってくれと頼んだり、覚醒ボタン役のお願いをするなど今では、十香に感謝を抱くようになった。

 

―――おまけではあるが、本作でもよく悲鳴を上げている。士道や十香にはこれからもよく泣かされることになるだろう。

 

 

 

〜〜ヒロインたち〜〜

 

 

◆夜刀神十香

 

◆種族 精霊

 

◆容姿 原作同様

 

◆原作と同様に本作でもメインヒロイン

 

精霊としての二つ名は『プリンセス』で、長い黒髪が特徴の少女。士道によって救われた最初の精霊であり、士道に好意を抱いている。

士道に助けられた恩をどうにかして返したいと思っており、士道の味方でありたいと常に思っている。

 

また、戦闘スタイルが剣を使用して戦うスタイルなので、士道に剣の稽古をつけたりもよくしている。

 

二章からは「士道の嫁になる」と大胆な発言をしたり、一緒にお風呂に入ったりと士道に積極的にアピールをするようになった。

 

―――五章の『六華クライシス』にてスイッチ姫へとついに覚醒する。士道の新たな力『禁手第二段階』の覚醒に大きく貢献した。

 

◆四糸乃

 

◆種族 精霊

 

◆容姿 原作同様

 

◆ヒロインの一人

 

士道が十香の次に出会った精霊。『ハーミット』と呼ばれる比較的におとなしい精霊で、精霊としての戦闘力は十香に比べるとかなり劣る。

傷だらけになってまで自分を救ってくれた士道に好意を抱き、士道のことをヒーローだと思っている。

傷つく士道を笑顔と優しさで癒す。士道の心の拠り所として、これから存在感を現していくだろう。

 

お友達のよしのんはドライグの良き相談相手として士道と四糸乃が一緒にいるときはよく語り合っている。

そして、お友達のよしのんに並の相手なら一撃で葬り去ることが可能な『頭突き』が備わっていることを新たに知り、厳重によしのんの扱いを注意することになった。

 

◆くるみん

 

◆種族 精霊

 

◆容姿 原作同様

 

◆ヒロインの一人

 

最悪の精霊『ナイトメア』時崎狂三の分身体。その中でも士道の情熱に絆された時崎狂三の一人格。

範囲内の人間の時間を奪う『時喰みの城』と意図的に空間震の発動が可能で、士道が最も攻略に手を焼いた精霊。

士道には布面積の狭い下着を渡されたり、『くるみんのためなら、火の中、水の中、くるみんのスカート中にだって飛び込んでやる!』などなど色々な辱めを受けている。

――――通報すれば、正義の味方である警察を呼ぶことができるが、士道に惚れているためそれはしないようだ。

本作品では士道のスケベ行為の犠牲者第一号となっている。

 

 

 

◆五河琴里

 

◆種族 人間→精霊

 

◆容姿 原作と同様

 

◆本作でもヒロインの一人

 

士道の可愛い可愛い妹。実は士道とは血縁がなく、結婚ができるため、士道の嫁になることを願っている。

 

白いリボンと黒いリボンの時で性格が変わる―――二重人格の持ち主で、白いリボンの時は『士道の可愛い妹』を演じ、黒いリボンの時は『司令官役』を務める。

 

―――それでも、彼女は白と黒のリボンの時に関わらず、士道のことを世界で誰よりも愛しており、自分も士道から愛されたいと思っている。

 

………令音の胸を「ユートピア!」と叫ぶ士道の姿を見て、自分も巨乳になりたいと毎日お風呂と寝る前に胸を揉んだり、ナイトブラをつけて寝たりするなど、自分の胸を大きくするための努力を最近始めている。

 

 

◆鳶一折紙

 

◆種族 人間

 

◆容姿 原作と同様

 

◆ヒロインの一人

 

十香曰く『メカメカ団』―――ASTに所属している小柄な少女。士道のことを既に知っており、原作開始時点でもう既に士道に好意を抱いている。

ASTの中では戦闘能力がずば抜けて高く、状況判断にも優れている。

 

士道を対精霊用のスナイパーライフル『C•C•C』で士道を射殺した時は放心状態になるほど公開と自責の念に包まれていたが、士道の『気にするな』の一言で救われた。

 

ヒロインの中で士道が唯一、スケベ行為をする時に躊躇するヒロインである………ちなみにいつでも折紙は士道に求められれば何でもする覚悟で、おっぱいだろうが、キスだろうが、たとえ人混みの中で性行為を求められようが、彼女は二つ返事で引き受けてくれるが、士道にお願いされないことを不満に思っている。

 

六章で破壊された人工神器からアルビオンを解き放ち、宿したアルビオンを覚醒させた。

 

 

◆アルビオン

 

◆種族 ドラゴン

 

◆イメージCV 早見沙織

 

士道が元いた世界とは別の、この世界のアルビオン。性別も異なっており、この世界ではメスのドラゴンである。

異世界から来たリンドヴルムに同族でもあるドライグ共々殺されて、神器へと封印されたが、士道と折紙の意思に惹かれてその体に宿る事に成功した。

 

折紙のことをパートナーとして認めており、これから支えていくことを誓った。

 

白龍皇の(ディバインディバイディング)輝銀鱗装(•シルバードラゴニックユニット)

 

折紙が炎の精霊『イフリート』を討滅するために使用した人工神器。『白い龍(バニシングドラゴン)』アルビオンの力を宿した神器で、アルビオンが生前に持っていた能力『半減』『吸収』『反射』の三つの能力を有している。

とある存在により、常にバースト状態に設定されているため、常に禁手状態を可能な限り維持することが可能。

………貧弱な魔術師が使用すれば瞬時に脳がオーバーヒートし、廃人と化してしまうためDEMインダストリー社では、真那のために用意されたものだったが、折紙も奇跡的に扱うことができた。

 

 

 

星照(ほしでら)六華(りっか)

 

◆種族 精霊

 

◆身長 162cm

 

◆体重 「内緒です!」

作者「49kgだよ」

※作者は足の小指を冷蔵庫にぶつけました。

 

◆スリーサイズ

B93(G) W60 H92

 

◆イメージCV 田村ゆかり

 

五章『六華クライシス』初登場の本作品のオリジナル精霊。

腰まで届いた長く美しい黄金の髪を持ち、瞳はアクアマリンを思わせる水色の瞳。透き通るような白い肌を持つ、絶世の美少女。

細身ながら出る所はしっかりと出ており、その容姿は士道が「人類の至宝」と称したほど。

 

士道が飛ばされた異世界の村を一人で守ってきた精霊で、摩耗しきっていた所を士道に救われた。

人間ではないことをコンプレックスに持っていたが、諦めずに手を差し伸べ続けてくれたこと、自分を心の底から愛してくれる士道に惹かれ、彼を生涯支える事を誓った。

 

既に十香やくるみん達との競争をすっ飛ばして『士道の妻です!』と宣言するほど士道のことを愛している。ただし、浮気は絶対に許さない。

ハーレム?私だけを見てください!

 

―――六章の八舞テンペストで士道を脱童貞させた。それからも隙を見つけては士道と愛を育んでおり、琴里と令音にとっては悩みの種となってしまった。

 

………ドライグのお気に入りの精霊で、何かと頼りにされている。それは心の底から士道を愛している事をドライグが分かっているからだ。

 

◆天使 護星天(ミカエル)

 

封剣(フォース) 

光の剣を降らせ、刺さった対象の動きを封じる

 

輝壁(シュテル)

自身を守る強力な結界を展開する。

 

天操(マクア)

対象を操るまたは、対象を封印する。

※造られた生物には、操る事は不可能。封印は可

 

天盾(シャハル)

物理攻撃を反射する。

※直接的な打撃にのみ有効。衝撃波等は反射不可

 

●星天札

天使を顕現させている時に、状態異常を無効化する。

※混乱、石化、麻痺、毒、精神操作、時間停止、即死、消滅などは無効化

 

◆魔王 『滅星魔神(ルシファー)

 

明けの明星(アウローラ)

相手の攻撃を反射する。

※相手の攻撃に自分の霊力を加えたものが反射されるため、威力は相手の攻撃+αとなる。

※神の権能以外なら、どんな攻撃でも反射可能。

 

極夜(ヘイム)

『滅星魔神』が顕現時、自動で発動する。自身に闇を纏わせる

 

暴鎖(カイル)

魔力や霊力を吸収する漆黒の鎖を放つ。拘束することも可能

 

天砲(エクリプス)

杖から闇を収束させた一撃を放つ。発動時、杖の魔法玉に翼が生える。

 

●神闇装

自身に状態異常の耐性を与える。

※星天札と同じ能力

 

 

◆園神凛袮

 

◆種族 人間

 

◆容姿 原作同様

 

◆ヒロインの一人

 

六華と同日に転校して来た幼なじみ。

小さい頃に、自分を何度も危機から救ってくれた士道に恋心を抱いており、それは再開した今でも変わらない様子。

 

ヒロイン達の中では琴里に次いで士道と長く一緒にいた存在であり、琴里から「凛袮おねーちゃん」と呼ばれるほど慕われている。

 

他人を非常に良く観察しており、困りごとや隠し事はすぐに見抜いてしまうタイプで、士道の身に危険が及ばないか毎日心配している。

 

 

 

◆八舞耶倶矢

 

◆種族 精霊

 

◆容姿 原作同様

 

◆ヒロインの一人

 

士道が六番目に出会った精霊の一人。三度の飯より勝負好きな性格で、勝負に飢えている。

士道の赤龍帝の鎧が大好きで、あの鎧を一度纏いたいと思っている。

 

………士道の蘇った必殺技の犠牲者第一号となったくるみんに次ぐ可哀想な精霊第二号である。

 

役割はボケ兼ツッコミ。本作品のシリアル要員。

 

五〇メートル走を五.八秒で駆け抜ける瞬足の持ち主。

 

 

◆八舞夕弦

 

◆種族 精霊

 

◆容姿 原作同様

 

◆ヒロインの一人

 

耶倶矢同様に、士道が六番目に出会った精霊の一人。耶倶矢同様に士道の蘇った必殺技の犠牲者第一号でもある。

 

同じキョニュウムを放つ六華をライバル視しており、隙を伺って六華から『三時のおっぱい』役を略奪する事を狙っている。

 

役割はツッコミ一筋。ボケをやらかす士道や十香、それから耶倶矢をシリアスに引き戻すドライグ同様の、貴重なシリアスリカバー要員だ。

 

 

 

〜〜『フラクシナス』〜〜

 

 

◆クルーたち

 

◆原作同様

 

士道の会話をサポートする『フラクシナス』の隊員。個性的なメンバーが多い。

 

川越、幹本、椎崎、中津川、箕輪、そして士道と同じく変態の神無月と愉快?なメンバーで構成されている。

 

神無月と士道は今後お互いのエロを語り合う描写があるだろう。

 

 

◆村雨令音

 

◆種族 人間

 

◆容姿 原作と同様

 

フラクシナスに士道が回収された時、一番初めにお世話になった人。士道が『極上のおっぱい』と称するほどの巨乳の持ち主。

 

クルーの中で士道が最も信頼を寄せている人で、ドライグも『こいつだけは頼りになる』と評している。

 

士道のことは『シン』と呼んでおり、本人曰く『シンタロウ』と聞き間違えたと言っているが、本心はどうかわからない。

 

現時点で士道に他のヒロインと同様に、士道に好意を寄せているが、今はじっと耐えている様子。

 

だが、士道が十香に『おっぱいを触らせてくれ!』と言った時は「犯しにいく」と断言するほどの大胆さを持っている。

 

今後の彼女の行動も目が離せない。どこかで士道を襲う時が来るかもしれない。

 

 

 

 

〜〜来禅高校関係〜〜

 

 

◆殿町宏人

 

士道の大親友で、高校一年生の時も同じクラスだった。士道と性格が似ており、他人を思いやる優しさを持ち合わせている。士道同様にスケベで、女好きである。

いつもギャルゲーである『マイ•リトル•シドー』をやっていて、キャラクターのことを彼女と呼ぶなど、彼が本当に生きている世界は画面の向こうのようだ。

 

ちなみに士道同様に運動神経も良く、中学時代は士道と同じ野球部に所属していた。士道たちがいた中学校と、県の代表をかけて関東大会を出場をかけて決勝戦を戦った。

 

◆桐生藍華

 

◆容姿 dxd原作と同じ

 

士道がまだ『兵藤一誠』だった頃の世界にいた変態エロメガネ女。十香のアドバイザーとして二章から活躍をする。

どういうわけかは知らないが、この世界にも同姓同名でなおかつ、顔と性格まで同じ人物がいたので、士道はうんざりしている。番外編①で初登場する。

―――性格もdxd原作と同じです!

 

◆岡峰珠恵

 

士道のクラスの担任を受け持つ美人教師。

生徒たちからは人気で『タマちゃん』という愛称で親しまれている。

しかし、肝心な場面では役立たずで、空間震警報が発令された時は誰よりも慌てるなど、教師としてはダメダメである。

また、中学そして高校時代は札付きの問題児で、ケンカや暴力で警察沙汰になったりすることなどもあったらしく、キレるとヤンキーだった学生時代の姿を彷彿とさせる隠れた本性が現れる。

―――ちなみに、タマちゃんの中での武勇伝の中では、拳一つで暴走族を壊滅させたというマル秘エピソードもあるとかないとかてん真実は本人のみぞ知るというところだ。

 

◆仁徳正義

 

◆種族 人間

 

◆年齢 一六歳

 

◆身長 198cm

 

◆体重 103kg

 

◆イメージCV 前野智昭

 

 

六華や凛袮と同時期に転校してきた転校生。カツアゲやら弱いものいじめを叩き潰す事を生きがいにしている問題児ではあるが、弱者や女子には非常に優しい漢。

士道がおっぱいを好むように、この男は幼女を心の底から愛するペドフィリアで、近所の小学校や幼稚園で戯れる幼女たちからエネルギーを貰っている。

 

しかし、幼女を襲うような真似はしない紳士(一応)だ。

 

◇宝具の能力

 

代々正義の家に受け継がれて来た宝具『鬼神の籠手』の所有者で、創造系の能力を持つ。

 

さまざまな属性を持つ武器を作り出す事ができ、さらにそれは神話に登場する武器とも肩を並べるほど。

 

この力で窮地に立たされた令音を二度助けている。

 

 

 

 

〜〜次元の守護者〜〜

 

◆ソロモン

 

◆種族 守護者(エ◯ヤさんが近いです)

 

◆年齢 ???

 

◆身長 180cm

 

◆体重 70kg

 

◆イメージCV 櫻井孝宏

 

本作のオリジナルキャラクターであり、全世界の均衡を保つ者。基本的には傍観者の立場であるが、何の関係もない士道に救いの手を差し伸べるなど、基本的にはお人好し。

 

しかし、真の目的は別にあり、士道はその目的を果たすための最重要人物として見ており、戦力として使おうと考えている。

 

本作では最強のキャラの一人とする予定で、dxd世界のアザゼルを倒せるほどの実力を持ち、全盛期のドライグを相手にしても、『敗れるだろうがドラゴンとしては再起不能にできる』と言うほどの実力者。

 

ドライグ自身も、『その身に纏う濃密な魔力は魔王サーゼクス•ルシファー以上』とかなりの強者として扱っている。

 

戦闘スタイルは基本的には後方支援型で、魔力を用いた遠距離攻撃を主としているが、杖および格闘術などの近接戦闘でも最上級クラスの実力を持っており、士道を容易くあしらうほどの実力を持っている。

 

◇使用技(これからも増やしていきます)

 

●ディアボリック•ストーム

 

自身の体に複数の魔力球を纏い、それを相手にぶつけることで攻撃するソロモン愛用の技。

一つ一つの魔力球の大きさは野球ボールほどだが、隕石クラスの巨大なものを作ることも可能。

―――また、隕石級の巨大な魔力球は意図的に弾けさせることで、バラバラに放出されるエネルギーで相手を攻撃することも可能。

 

●エクセリオン•ウォール

 

ソロモンが士道を試すときに使用した巨大津波を彷彿とさせる衝撃波。

―――実はこの技は基本的にはソロモンは防御の時に使用することが多く、攻撃に使うことはほとんどない。

この障壁の防御力は波の攻撃では突破することは出来ない。

それこそ二天龍クラスの全力の一撃や、無限の龍神オーフィスやグレートレッドクラスにならなければ、破壊することが不可能なほどの異常な強度を誇っている。

 

◆ヘラクレス

 

◆種族 守護者

 

◆性別 男(一応)

 

◆年齢 ???

 

◆身長 225cm

 

◆体重 150kg

 

◆性格 オカマ(オネエ)

 

◆イメージCV. 矢尾一樹

 

筋肉モリモリマッチョマンのオカマ。初登場は番外編①で、本作二人目のオリキャラ。実力は全盛期の二天龍に匹敵するクラスのバケモノで、本作の最強のキャラの一人。

 

戦闘スタイルは、その体格通り並外れたパワーを活かした近接戦闘を得意としており、拳一つで鉄よりも遥かに硬い龍の鱗を貫通するほど。

言うなればパワータイプの極みがこのヘラクレスだ。

 

その身に纏う闘気も、可視化するほどにまで研ぎ澄まされており、全力時には力の解放だけで小国が吹っ飛んでしまうほどのエネルギーを放出する。

近接戦闘だけで二天龍に匹敵するほどの力を持ち、ドライグは「タンニーンですら敵わない」と賞賛するほど。

―――実は真性のロリコンでもあり、四糸乃を初めて見たときには、歓喜の雄叫びを上げた。

士道の代わりに攻略を申し出ようとするなど、彼にとって幼女は士道で言うならば、巨乳のお姉さんと同じなのだ。

しかし、肝心の四糸乃は―――

 

 

◆アテナ

 

◆種族 守護者

 

◆性別 女

 

◆年齢 十九歳 

オリオン「自称やで〜」

 

◆身長 163cm

 

◆体重 「まだ生きていたいですよね?」

オリオン「52kg―――んぎゃあああああああああ!!」

※オリオンはアイギスで串刺しにされました。

 

◆スリーサイズ B100 W60 H98

 

◆イメージCV. 坂本真綾

 

長い金髪が特徴の絶世の美女。ヘラクレスとはよく喧嘩をする。

自分の容姿に絶対の自信を持っており、『おばさん』や『しわしわ』と言ってしまえば―――まあ、言うまでもないだろう。

 

戦闘力は魔力ではソロモンに劣り、ヘラクレスにはパワーで劣る――――だが、総合的には彼らと同等の力を持ち、ヘラクレスがパワータイプの究極と言うならば、このアテナはテクニックタイプの究極と言えるだろう。

明鏡止水の究極でもある神速を身につけており、明鏡止水だけなら彼女がナンバーワン。

彼女は神速のさらに先の領域に踏み込んでおり、その領域に至ったのはアテナただ一人である。

戦闘スタイルは『神槍•アイギス』を用いた近接戦闘のスタイルだが、『神槍•アイギス』に自身の魔力を込めることで魔力砲を放出する遠距離攻撃も可能。

 

士道には修行の時に自分の体をいやらしい目で見られることに困っている。(ヘラクレスはそれを見て自惚れるなと言っていつもケンカになっている)※三章の狂三キラーで書く予定です。

 

◇宝具

 

●神槍•アイギス

 

アテナが愛用しているありとあらゆるものを貫通する絶対の槍。槍の刃の部分にはスパークが飛び交っており、けら首には黄金の龍の翼の装飾があることが特徴。

アテナの力の解放に合わせて姿を変えていき、全力時には槍の刃が凄まじい雷光に包まれ、槍の中にいる存在が覚醒するほど。

その時のアイギスはまさに無敵の二文字で各神話体系の主神クラスすら一撃で貫通するほどの威力を誇る。

 

●イージスの盾

 

アテナが持つ神宝。盾をドーム状に展開することも可能な便利な宝具でこの宝具を有しているだけで、ありとあらゆる外部干渉―――精神操作や時間停止などを完全にシャットアウトをしてしまうほど。

さらに、最大の特徴は『消滅』の力を完全に無効化する効果を持っており、サーゼクス•ルシファーの滅びの魔力すらイージスの盾の前には意味をなさない。

貫通するには、圧倒的な力以外には方法は無い究極の盾である。

 

◆ヘルメス

 

◆種族 守護者

 

◆性別 男

 

◆年齢 ?

 

◆身長 170cm

 

◆体重 56kg

 

◆イメージCV 福山潤

 

五章で初登場した次元の守護者の一人。

 

ソロモン達同様に次元の守護者に所属する風来人で、イッセーの過去を作品にしたくるみんどハマりの『ハイスクールdxd』の著者。

 

戦闘力は皆無だが、サポート能力に優れリンドヴルムと戦う士道を幾度となくサポートした五章の影のMVP。

 

士道からはかなりコケにされており、助けに来たのに殺されそうになるなど、本作品ではいじられキャラとして今後も登場予定だ。

 

◆アルテミス

 

◆種族 守護者

 

◆性別 女

 

◆年齢 十九歳

オリオン「自称やで〜」

 

◆身長160cm

 

◆体重 「宝具の弓をうけてみる?」

オリオン「46kg―――ぎゃああああああああ!!」

※オリオンは背中に矢が刺さりウニになりました。

 

スリーサイズ B90 W58 H92

 

◆イメージCV 沢城みゆき

 

※某FGOのダーリン大好き女神とクマのぬいぐるみのセットがイメージキャラです

 

五章で初登場した次元の守護者の一人。

 

非常に表情が豊かで、フレンドリーに接する次元の守護者。恋人のオリオンは浮気性で、いつも誰かをナンパしておりその度にお仕置きされているが、治る気配がない。

 

ちなみにだが、六華に浮気ダメ絶対の精神を教えた人でもあり、ネタキャラとして今後も登場予定。

 

 




この話はちまちまと編集をかけていきます。

更新した時は、最新話で発表する予定なので、良ければお読み下さい。

オリキャラである次元の守護者のキャラクターイメージは皆さんのご想像にお任せします!

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一章 十香デッドエンド
一話 夢と始まり


ここから原作に入って行きます。

本編の文字数は前二話に比較すると大幅に増えると思います。

ここからは、イッセーではなく士道でいきたいと考えています。

完結を目指して頑張ります!



〜〜士道 side〜〜

 

おっす、俺は士道だ。

 

俺の朝は夢で始まる。

夢の中で可愛い美女たちとキャッキャウフフの夢を見て毎日が始まるのだ!

 

 

しかし、今日見た夢はそんな夢ではなかった。

 

 

俺は何もない空間にいた。だが辺り一面は炎に包まれたような灼熱地獄のような風景が広がっていた。

 

俺は辺りを見渡し、この風景を怪訝に思い声を出す。

 

「…………ここは?」

 

俺が後ろを見た時に、何処からか声が聞こえてきた。

 

 

『―――ほう?これが今代の宿主か…………』

 

 

―――ッ…………

俺は不意に何処からか聞こえてきた声に対して、身を強張らせた。

だが俺はこの声を知っている!…………いや、何度も聞いたことがあるような……俺はそんなふうに思えた。

だから俺は声の主に訊いた。

 

「ッ!誰だ!?お前は何処にいる!?」

 

『―――いるだろう、お前の目の前に』

 

ゴオオオオオオッ……

 

―――ッ!?

目の前の灼熱地獄の炎が払われ、声の主の姿を俺は確認した。

 

全身を真っ赤な赤い色に身を包み、その体には龍の鱗があり、大きな翼があった。俺の目の前にいたのは、赤いドラゴンだった。

俺は目の前の赤いドラゴンを見て言葉を失った。

 

……おいおい、嘘…………だろ!?どうしてお前まで―――

 

俺はこのドラゴンを知っていた。生まれてから五河士道になるまでの記憶は失われているが、生前の()()()()()()()()()()()()は俺の中で消えずに残っている。

 

そう、赤いドラゴンの正体は―――

 

「ど、ドライグ!?ドライグじゃねえか!!」

 

俺はそのドラゴンの名を口にした。

―――赤い龍(ウェルシュ•ドラゴン)の帝王『ア•ドライグ•ゴッホ』

赤龍帝と呼ばれ多くの存在に畏怖された伝説のドラゴンでもあり、地上最強とも称されたほどの存在だ。

白い龍―――バニシング•ドラゴンと共に『二天龍』と称されるようになり、俺が『兵藤一誠』だった世界ではとある二体の存在を除けば最強のドラゴンとして語られていた。

 

この赤い龍の帝王『ドライグ』はかつての俺のパートナーであり相棒だ。

 

『…………これは驚いた。俺のことを知っているとはな。小僧、お前は何処で俺の名を知った?お前は今日まで俺の存在に気付いていなかった筈だ』

 

俺はドライグの言葉に俺は理由を簡単に言った。

 

「俺だよドライグ!イッセーだよ!この姿になる前の俺の名前は『兵藤一誠』だ!いやー、お前とまた会えて――――ぎゃあああああああ!?』

 

ゴオオオオオオオオッッ!!

 

あちちちちちちちっ!!いや、夢の中だから熱くないんだけどね!ど、ドライグが俺に炎を吐いてきやがった!!

 

「―――お、おい!?何しやがんだドライグ!!俺になんか恨みでもあんのか!?」

 

いきなりの炎のブレスに俺が怒鳴ると、ドライグは鋭い眼光で俺を睨みつける。

 

『おい小僧、笑えない冗談は控えろ。お前は知らんだろうがお前が口にした「兵藤一誠」は俺が見てきた宿主の中で、誰よりも力が弱く、女の胸に異常な執着を持ち、常に煩悩にまみれていたが、仲間思いで俺のことを道具ではなく一つの存在として扱ってくれた歴代で最も楽しい宿主だった。気安く「兵藤一誠だった男だ」などと口にするな』

 

―――ドライグ…………

俺はドライグの言葉に思わず、感情が溢れ出そうになったが、グッと堪える。

俺はお前に負担ばかりかけていた。だが、ドライグは俺のことを『歴代で最も楽しい宿主だった』と言ってくれたんだ。

また出会えただけでなく、こんな言葉までかけてもらえたんだ。かつての相棒としてこれほど嬉しいことはない。

 

だが、俺が『兵藤一誠』だったことは信じてもらえていない………よし、俺がドライグに『兵藤一誠』である証とも言える言葉を伝える。

 

「おっぱーい!」

 

『―――ッ!?』

 

俺の言葉にドライグは目を丸くしていた。

…………ドライグがびっくりする姿は初めて見たぜ!

 

『…………なるほどな。そう来るのであれば俺からいくつか質問を出そう。お前が真に「兵藤一誠」であるならば答えられる筈だ。

…………「兵藤一誠」はどのようにして神器の禁じ手―――バランス•ブレイカーに至らせた?』

 

――――これでも信じてもらえてねえのかよ!!

おっぱいの一言で十分だと思ったのだが…………

だが、こんな問題楽勝過ぎるぜ!

 

「部長―――リアス•グレモリーさまの素敵なおっぱいをポチッとつついて至ったんだ!……まあそれから『乳龍帝おっぱいドラゴン』のくだりが始まったんだけどな。それに関しては俺も悪かったと思っている!」

 

あれは『天龍』と称されたドライグにとっては語り継がれてはいけない黒歴史だ。…………俺も少しくらいは悪かったと思っているぜ!!部長のお乳さまは最高だったけど!

 

『……なら、次で最後だ。「兵藤一誠」は京都で―――』

 

「……エルシャさんだろ?『三叉成駒(トリアイナ)』を目覚めさせるきっかけを与えてくれた先輩について訊くつもりだったんだろうが、もうこれ以上確認する必要ねえんじゃねえか?」

 

俺はドライグが全てを言う前に言い切った。俺の答えを聞いてドライグは大笑いをした。

 

『ガハハハハハ!!その通りだ()()。これは本当の本当に「兵藤一誠」だ。間違いなさそうだ。宿主が変わって次はどんな宿主かと思えば、また相棒になるとはな!これは愉快だ。これからもまたよろしくな、相棒」

 

―――ああ、これからもよろしくな相棒。こっちの世界に来てからは家族は出来たけど、本当に心細かった。前の世界とは完全な別の世界に来てからと言うもの、本音で話し合える人は数えるほどしかいなかったからな……

 

俺が思いにふけっていると、ドライグは俺に言う。

 

『ところで相棒』

 

 

 

「ん?なんだよドライグ?」

 

 

 

 

 

 

『前とは違って随分可愛らしい姿になったな!野生児から「男の娘」になるとはな!女装をすればもう女としても遜色ないじゃないか?』

 

 

う、うるせえよ!ドライグ!俺だって気にしてんだよ!

この前は琴里に女装をさせられてへんな野郎に拉致られそうになったんだぞ!?琴里は琴里で大はしゃぎだ!

『おねーちゃんができた!』なんて喜んでやがったからな!女装なんてゴメンだぜ!

 

『ハッハッハッ!何はともあれこれからもよろしくな、相棒』

 

―――ああ、これからも楽しくやっていこうぜドライグ。

俺は予期せぬ再開に、俺は少し救われたような気がした。

 

 

 

〜〜士道 side out〜〜

 

 

――◇――

 

 

「うーん、いいねえ」

 

四月十日、今日の五河士道の寝起きは最高だった。

五河士道は特殊な人間だ。朝から自分の妹が自分の体の上でダンスをしている姿を拝むことができたからだ。

 

…………ちなみに士道はこの時、妹のパンツをまじまじと鼻の下を伸ばしながら見ていた。

 

士道は朝から可愛い妹のパンツを見れて大満足なのであった。

 

「おにーちゃんおはよー。どうしたの?何かいいことあった?」

 

琴里には士道の変化が分かったらしい。

 

「……ああ、ちょっとな。かつての相棒と再開できたんだよ。それに朝から可愛い琴里が起こしに来てくれてお兄ちゃんご機嫌だ!」

 

……彼は転生しても遺憾無く『兵藤一誠』そのものだ。

 

「それよりも、琴里」

 

「ん?なにおにーちゃん?」

 

「そろそろ降りてくれないか?じゃないと……お兄ちゃんが可愛い琴里にいたずらするぞ〜♪」

 

士道は手をわしゃわしゃとしながら琴里に手を伸ばす。その時、琴里は何かボタンを押す。次の瞬間―――

 

「ぎゃあああああああ!?」

 

士道が悲鳴をあげる。ちなみに、士道の背中には電流パッドが貼られており、琴里が持っているボタンを押せば、パッドに電流が流れる仕組みになっている。

 

「安心しておにーちゃん、おにーちゃんが真人間に戻れるように私がお手伝いしてあげる!」

 

ポチッ――――ビリビリビリビリッ…………

 

「ぎゃあああああああ!!ちょっ、やめ―――ぎゃああああああああああああ!!!!」

 

士道が悲鳴をあげる様子を見て妹の琴里は心底楽しそうだ。

 

「わーい、『絶叫おにーちゃんマシーン』だ!」

 

―――十分後…………

 

朝から琴里のおもちゃにされた士道は体力がゼロになった体に鞭を打って言う。

 

「…………こ、琴里…………お、お兄ちゃん朝ご飯作るからそろそろそろ、起きさせてくれないか?」

 

「はーい!」

 

『絶叫おにーちゃんマシーン』に満足をしたのか、琴里はボタンを片付ける。電流が流れなくなり、士道はベッドから起き上がり、フラフラとしながらキッチンへと向かうのだが……

 

「ゴメンねおにーちゃん、アンコール!」

 

「ちょっ、おい―――ぎゃあああああああ!!」

 

解放したと油断をさせておいたところに間髪入れずにもう一発(アンコール)をする妹の琴里と、芸人並みのリアクションをする兄の士道。

 

士道に転生する前の『兵藤一誠』も悪魔だったが、悪魔と呼ぶべき本当の悪魔は、士道の近くにいたのかもしれない。

 

士道と琴里は朝食を済ませ、それぞれの学校へと向かったのであった。

 

 

 

 

 

―――………………

 

 

 

「そう言えば、琴里も今日から中学校の始業式だっけか?」

 

それぞれの学校に向かっている道中のことだ。士道は妹の琴里に訊いた。琴里は士道の言葉に元気よく返事をする。

 

「うん!そうだよー」

 

「んじゃあ、お昼の時間くらいには帰ってくるのか。琴里、昼飯について何か希望はあるか?」

 

「いつもの!」

 

琴里は笑顔満開で士道の言葉に答えた。ちなみに、いつものというのは近所のファミリーレストランだ。小さい頃からよく行っていた俺と琴里のお気に入りの店だ。

 

「よし、たまには思いっきり美味しいものを食べるってのも悪かねえよな!んじゃあ琴里、いつものファミレスでな!」

 

「はーい!」

 

琴里は嬉しそうにファミレスでの食事を楽しみにしていた。琴里は中学校に行き、士道は通っている高校―――来禅高校に行った。

 

士道のクラスは二年四組だ。学校が始まる時期であり、また一学期が始まる日ということもあって下駄箱の近くは人で溢れている。

 

『懐かしいな相棒、駒王学園を思い出すな。相棒が高校二年生になった時のことを…………』

 

ドライグの言葉に士道は(ああ、あれが全ての始まりだったな)と心の中でドライグに返す。

高校二年生の春、『兵藤一誠』は普通の高校生ではなくなったと言うのは、こことは違う世界の事なのでおいておこう。

 

士道が自分のクラスに着き、席に座ろうとしていた時だ。

 

「―――五河士道」

 

聞き覚えのない声が名前を呼んだことを確認し、士道は辺りをキョロキョロと見渡し、声の主を捜していると、クイッと士道の制服の袖を引っ張る少女の姿があった。

白い短髪の小柄な少女だ。

士道はその少女に覚えが無かったため、少女に訊く。

 

「あの…………キミは?」

 

「士道、覚えていないの?」

 

士道は彼女の言葉に「はい、残念ながら…………」と申し訳なさそうに返す。

 

「そう…………」

 

彼女は特に落胆する様子もなく、窓際の席に向かって行った。

士道は自分があの少女を知らないことを申し訳なく感じていた。

 

『あの口ぶりからすると、まるで相棒のことを知っている口振りだったな。相棒、本当にあの女を知らないのか?』

 

ドライグの言葉に士道は(ああ)と返す。

これは余談だが、士道の友達で『恋人にしたくないランキング』ダントツ最下位の殿町があの少女の名前は『鳶一折紙』と言う名前だと教えてくれた。

 

…………ちなみに、士道は三五八人中五二位となんとも言えない順位だが、『腐女子が選ぶ校内ベストカップル』では殿町とのペアで第二位というとんでもない順位を叩き出している。

 

士道はそれを知ったときは吐瀉物を吐くほどの拒絶反応をみせた。

 

かつて『兵藤一誠』も、親友の『木場祐斗』とのカップリングで、『プリンス&ビースト』というBL同人誌が十五巻ほど出来上がったほどだ。

士道に転生しても、腐女子からの人気は常人の気を逸している。

 

『こっちの世界でも男にはモテるな、相棒は』

 

ドライグの言葉に士道はひどく落胆していた。

 

ガラララッ……

 

士道が落ち込んでいる中、教室のドアが開き先生と思われる先生が入ってくる。

 

「はーい、皆さん席について下さい!ホームルームを始めます!」

 

『あ、タマちゃんだ!』

 

クラスの全員が担任が岡峰珠恵―――通称タマちゃんだったことに喜んでいた。

 

タマちゃんがホームルームが始まって少し経過した時、事件が起こった。それは―――

 

ウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ――――

 

教室内にサイレンの音が響き渡り、教室内がざわつく。だが、次にされた機械の放送によって教室内は一瞬で静かになった。

 

『―――これは、訓練ではありません。これは、訓練ではありません。前震が観測されました。空間震の発生が予想されます。近隣の皆さんは、最寄りのシェルターに避難してください。繰り返します―――』

 

…………空間震とはかつて、ユーラシア大陸のど真ん中で起き、死傷者は約一億五千万人というとんでも無い災害を起こした人類史上類を見ない最大最悪の災害だ。おまけに発生現象も発生時期も不明なため、現状としては打つ手がなく、シェルターに逃げ込む以外は対処法がないのが辛いところだ。

空間震の警報に士道たちはシェルターを目指して走った。

 

「み、みなさん!落ち着いて行動してください!おさない、かけない、しゃべって舌を噛まないです!ああほらほら、早く移動してください!空間震が!空間震があ!」

 

…………士道たちのクラスの担任のタマちゃんが一番落ち着いていない。でも、士道たちは自分たちより落ち着いていない人を見ている方が逆に落ち着いていられるそうだ。

 

シェルターに避難を終えた時、士道の頭の中では一つ心配事があった。

 

「琴里……」

 

―――そう、妹の琴里だ。

琴里はファミレスで士道を待っているかもしれないという不安が頭によぎる。

士道は居ても立っても居られなくなったのか、外を目指して走り出した。

 

「あ!五河くん!どうしたのですか!?」

 

岡本珠恵先生こと―――タマちゃんが士道を止めようとするが、士道は静止を無視して走り出す。

 

「急用を思い出しました!ちょっと行って来ます!」

 

「ああ!ダメですよ〜!戻って来てくださあああい!!」

 

タマちゃんの声は士道に届かなかった。

 

 

―――…………

 

 

「ったく、琴里のやつどうして…………どうしてなんだよ!!」

 

士道は空間震が発生するかもしれない中、妹の安全を確保するためひたすらに走る。彼のケータイのGPSは彼の妹が、いつものファミレスに妹がいることを示していたのだ。

――――絶対に琴里を助ける。士道の頭の中はそのことでいっぱいだった。

 

『こんな状態だから端末が壊れただけなのかもしれんが、考えるより行動することの方が大事だろう』

 

ドライグも士道の行動に賛成のようだ。だが、士道は突然に足を止める。

 

「…………あ、あれは!?」

 

士道は眉をひそめた。なぜなら、空中に人が浮いていたからだ。数は…………三人か四人ほどだ。

 

ピカッ―――ドオオオオオオオッッ!!

 

「うわあ!!」

 

進行方向からなんの前触れも無しに眩い光が放たれ、士道は慌てて腕で視界を塞ぐ。だが、それだけでは終わらず凄まじい豪風が吹き荒れた。突然の出来事に士道はなすすべなく吹き飛ばされる。

 

『おい相棒!無事か!?』

 

士道を心配してドライグが声をかける。士道は「大丈夫だ」と口に出して答える。

 

「…………ま、マジかよ」

 

士道は顔をヒクつかせていた。何故なら、先ほどまであった街並みが目を閉じてから、目を開けるまでの数秒の間で破壊されていたのだから。

 

「―――む?あれは…………」

 

士道がいることに気が付いたのか、士道の方へと足を進める一つの存在があった。

 

長い美しい黒髪と、奇妙な薄い紫色のドレスを見に纏い、手には幅広の刃が特徴の剣を持った戦姫と呼ぶに相応しい女性だった。

 

「おまえもか…………?」

 

その言葉が、士道とその女性のファーストコンタクトとなった。

 





よければ、お気に入り登録、感想、評価の方よろしくお願いします!

ドライグにとってはイッセーは歴代最高のパートナーです。だから士道の姿に転生したイッセーの名前を口に出したことでドライグが激怒しました。

歴代の赤龍帝の中でもドライグを道具のように扱わず、一つの存在としてドライグを見た唯一のパートナー。

ドライグにとって兵藤一誠という存在は苦楽を共にした最高の相棒だったのです!



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二話 出会いと想い

この話では、デート•ア•ライブの原作には出てこないオリキャラを出そうと考えています。

そのオリキャラは今後の物語で重要人物の一人になると思います。



 

「―――おまえも……」

 

士道の前に現れた少女は、どこか悲しげな表情で問う。いきなりの問いに士道は言葉が出なかったのか、沈黙した。

 

「―――おまえも、私を殺しに来たのか?」

 

次に放たれた少女の言葉に士道は目を鋭く開ける。士道は少女の言葉を否定する。

 

「ち、違う!俺はお前を殺しに来たわけじゃない!」

 

「―――嘘をつくなッ!私が見てきた人間はみな『お前は死ぬべきだ』と私を殺そうとしてきた。……お前も奴らと同じなのだろう!」

 

少女は士道に剣を突きつけて声を荒げながら訴えた。

 

…………少女の言葉は確かなものがあるだろう。人間という種族は自分を善人だと信じ込み、悪を淘汰することを良しとする種族だ。だが、その独善によって多くの理不尽が存在している。

―――五河士道が『兵藤一誠』の時に見てきた人間の理不尽は想像以上に醜悪なものがあった。

 

 

 

 

―――自分の研究のために子供達を集め、最終的には『失敗作』として子供達を皆殺しにした男。

 

―――自分の野望のために世界中から神器所有者を拉致し、洗脳してあたかも自分たちの道具のように使い、禁手に至れなかった者は問答無用で切り捨てた男。

 

 

 

 

今、士道の目の前にいる彼女はその理不尽を一身に受けた被害者だ。

 

士道は“殺されるかもしれない”という恐怖に顔に汗を流しながらも少女に想いを伝える。

 

「確かに人間は自分たちの欲望を満たすことしか考えられない畜生だ。―――だが!人間の中にも他人の幸せを願って行動できる者もいるんだ!!…………俺もそんな人間でありたいと思っている!」

 

「っ…………」

 

士道の言葉に面を食らったのか、少女は少しの間沈黙した。

 

士道は少女が沈黙したことを確認し、少女に歩み寄るが―――

 

「―――ッ!!来るなッ!!」

 

ズドオオオオオオッッ…………

 

「ぐっ…………ッ!!」

 

……少女は無慈悲にも手に持っている幅広の刃の剣で一閃をする。

再び豪風が発生し、士道は腕をクロスしながら地面を擦るように後退する。

 

「……私に近寄るな、そして今すぐ消えろ。次に不用意に近づくのであれば、おまえの命は無い」

 

彼女は士道を拒んだ。……だが、少女の瞳は悲しみに満ちていた。すぐに士道は彼女の絶望を感じとっていた。―――だから士道は心に決めた。

 

“―――何を犠牲にしてでも彼女を救うと”

 

「あ、あのさ。俺は士――――」

 

ドガガガガガガガガガ!!!

 

士道がもう一度少女に歩み寄ろうとした時、不意に頭上からミサイルの嵐が襲ってきた。見上げると、武装をした女性の集団が士道の目の前にいた少女を目掛けてミサイルを連発していた。

不安にもミサイルの一つが士道のすぐ近くに落下し…………

 

「うわあああああああ!!!」

 

ゴンッ!

 

鈍い音が響く。士道はミサイルの爆風によって吹き飛ばされ、頭を強く打ち気を失った。

 

 

 

――◇――

 

 

 

 

「…………こ、ここは?」

 

士道は意識が戻り、目を開ける。自分はよくわからない部屋のベットで眠っていたらしい。意識が戻って数秒が経過した時、士道の左手の甲が点滅する。

 

『…………よう、相棒。目覚めはどうだ?』

 

ドライグの声に士道は答える。

 

「良くはないかな。頭をぶつけて気を失ってからのことは全く覚えて―――ッ!!」

 

士道は何かを思い出したかの目を大きく開ける。

 

「ドライグ、あの黒髪の女の子は一体どうなったんだ!?」

 

そう、士道の頭の中には黒髪の少女―――気を失うまで自分が分かり合おうとしていた少女のことについてかなり気になっていた。

 

『自分のことよりも、あの少女を気にかけるとはな……•ゴホンッ、相棒の疑問についてなのだが、俺には分からん。爆風に吹き飛ばされた後、すぐに相棒は何者かに回収されてここに連れられたのだ』

 

「…………そうか」

 

士道はドライグの言葉に下を向き、表情を陰らせる。その後、士道はドライグに訊く。

 

「……なあドライグ。俺、あの女の子と分かり合えるかな?」

 

士道らしからぬ弱気な発言にドライグは叱咤する。

 

『随分とらしくないじゃないか相棒。後先考えずにまずはただひたすらに突っ走るのが俺の相棒じゃないか。自分の思いを貫けばいいさ。相棒なら必ず分かり合えるさ』

 

ドライグの激励に暗くなっていた士道の顔には、少し元気が戻っていた。士道はドライグに「ありがとな、相棒」と一言だけ告げた。

 

ウィーン……

 

士道がいる部屋のドアが開かれる。入ってきたのは、二十代くらいの女性だった。

 

「……目が覚めたみたいだね」

 

「―――ええ。おかげさまで……と言えばいいですか?」

 

士道はいきなり部屋に入ってきた女性に警戒を強めていた。……だが、女性はそんな士道をもろともせずに普通に近づき、自己紹介をする。

 

「……そんなに警戒をしないでほしい。ここで解析官をやっている村雨令音(むらさめれいね)だ。倒れていた君を介抱したんだ」

 

「ご丁寧にどうも……それで、ここはどこなんですか?」

 

士道は村雨令音に自分の現状を訊いた。彼女はそれに答える。

 

「……ここは『フラクシナス』の医務室だ。分からないことが多いだろうが、これだけは信じてほしい。私たちは君に危害を加えることはない。…………ついてきたまえ。君に紹介したい人間がいる……その人なら私よりも分かりやすく教えてくれるだろう」

 

士道はまだ怪しいと思っていたが、村雨令音の言う『危害を加えるつもりはない』という言葉は信じても良いと感じていた。

―――仮に危害を加えるのなら、気を失っている間に方法はいくらでもあったが、士道は無事だったのだ。

 

「…………分かりました」

 

士道は怪訝に思いながらも、村雨令音についていくことにした。

 

 

 

 

 

―――…………

 

 

 

 

今士道は突き当りの電子パネルがついた扉の前にいる。ここに士道の状況を説明してくれる人がいるらしいのだが……

士道は自分の肩に手を置いている令音に訊く。

 

「あの…………大丈夫ですか?」

 

士道は今、令音に肩を貸している。もともと彼女は三十年近く眠っていないらしく、フラフラになりながら士道を案内しようとしていたのだが、士道が肩を貸し令音が歩くことのサポートをしてあげたのだ。

 

「……すまないね。さあ、入りたまえ」

 

令音が電子パネルに触れると、ドアが開かれ一人の男性のお出迎えがあった。

 

「ご苦労様です、村雨解析官。それから、はじめまして五河士道くん。私は副司令を務める神無月恭平と申します。以後お見知り置きを」

 

「…………はあ」

 

とりあえずの自己紹介を終えた神無月は士道に言う。

 

「キミに話があるのは、私たちの司令だ。―――司令、村雨解析官がお戻りになられました」

 

神無月が声をかけると、艦長席の椅子がくるりと半回転し、士道たちと直面する形になった。

 

…………そして――――

 

「―――歓迎するわ。ようこそ『ラタトスク』へ」

 

司令と思しき人物が士道に告げる。士道はその人物を見て口が勝手に開いた。

 

『…………茶番にしては笑えんな。これは』

 

ドライグも士道と同じ心境だ。だって―――艦長席の椅子に座っていた人物は――――……

 

「…………琴里、なのか?」

 

そう、その人物とは、士道の可愛い妹の五河琴里だったのだから。

 

「あら、可愛い妹の顔を忘れちゃったの、()()?私、良い老人ホーム知ってるんだけど、紹介してあげようかしら?」

 

士道は可愛い妹にいきなり呼び捨てにされたことに驚いたのか、目を丸くする。

…………ここにいるのは、間違いなく自分の妹の琴里なのだが、態度が急変しているため、士道は自分の頬をギュウっとつねるが、痛かったため現実なのだと改めて理解する。

 

「……すまない琴里、バカなお兄ちゃんが理解できるように説明してくれないか?」

 

「……そのつもりよ、私の可愛い可愛いおバカなおにーちゃん」

 

 

琴里はここまでの出来事を分かりやすく話してくれた。

――――念の為に一言……士道くんはこれっぽっちも可愛くはない。

 

 

 

 

――――…………

 

 

 

 

 

フラクシナスに回収されてからというもの、士道は妹の琴里の説明である程度先ほどまでの自分の置かれていた状況のことを理解出来てきた。

 

 

まず、あの黒髪の少女は精霊と呼ばれる種族だ。精霊は地上に現界すると空間震を発生させるらしく、被害を大きくしないために、対精霊特殊部隊―――ASTと呼ばれる部隊が精霊と戦っているそうだ。

 

…………ASTとは士道の頭上からミサイルを投下してきた張本人だ。しかも、彼らは精霊を殺すことを目的に戦闘しているそうだ。

 

最後に琴里の居場所を士道のケータイのGPSがいつものファミレスを指していたのは、このフラクシナスがファミレスの上空一万五千メートルの位置にあるからだ。

 

現状を聞いた士道は自分の拳を強く握りしめ、心の中で抑えていた感情を爆発させる。

 

「……話は分かったよ。だが、なんで精霊を殺す必要があるんだ?―――空間震はあいつらの意思とは関係なしに起こるのに…………それを『お前らは空間震を引き起こし、人間の害悪になるから殺す』だと!?()()()()()()()()がそんなふざけた理由で攻撃するような……そんな理不尽がまかり通って良いはずがないだろ!!」

 

それは士道の心の叫びだった。恐らく、ASTの連中は空間震は精霊が()()()に起こしているわけではないことを知っているはずはない。

現界しただけで攻撃されるような理不尽が士道には許せなかったのだ。

 

「ごもっともな意見よ。けどね士道、あなた“その空間震のせいで家族を失った人”に同じ事が言えるの?少なからず精霊が起こした空間震のせいで犠牲になった人はいるのよ?

……もう少し考えてからものごとを口にしなさい」

 

「…………」

 

琴里の言葉に士道は下を向き沈黙をした。琴里の言うことは正しい。万が一空間震によって自分の家族が犠牲になった時に今と同じことを言えるのかと言えば、それは難しいだろう。

…………けれど、下を向いていた士道は覚悟を決めて顔を上げて琴里に言う。

 

「……でも、手を取り合うことは出来たはずだ。一人でも精霊に手を差し伸べた者がいたのか―――いなかった筈だ。

だから――――俺はあの子に手を差し伸べたい。例え全世界の人類に否定されたとしても、俺はあの子に手を差し伸べる!」

 

士道の目に迷いは無かった。士道は何も気にすることなくただ真っ直ぐ前だけを見て堂々と言った。

 

「―――あなたのその行動で人類が滅ぶとしても?」

 

「ああ、俺は止まるつもりはない。…………俺はあの子の悲しみに満ちた表情を見た。俺があの子に手を差し伸べる理由はそれだけで十分だ」

 

「…………じゃあ、どうやって助けるの?」

 

「まずは話を聞くことから始める。そして、少しずつ仲を深めていって最終的には友達になる。―――もうあの子にあんな顔はさせない」

 

士道の覚悟は揺るぎないものだった。それを聞いた琴里が次に口にしたのは、士道が考えていたこととは全く異なるものだった。

 

「そう。―――じゃあ、手伝ってあげる」

 

「…………へ?」

 

士道の気の抜けた返事に琴里はプンスカとしながら続ける。

 

「へ?じゃないわよ!私たちが手伝ってあげるって言ってんのよ!『ラタトスク機関』が総力を挙げてシドーをサポートしてあげるって言ってるのよ!」

 

「ッ!!」

 

予想外の言葉に士道は息を呑んだ。驚いた琴里は士道の反応を無視してそのまま続ける。

 

「―――ていうか、ラタトスクってシドーのために作られたようなものよ?」

 

「な、なんじゃそりゃあああああ!!」

 

士道が今日一番の叫びを上げた。叫びを上げた後、士道は琴里に頭を下げた。

 

「ありがとう琴里。迷惑をかけるがよろしく頼む」

 

「ふふふ、感謝しなさいよシドー。これからあなたに精霊を助ける具体的な方法を教えるわ。それは――――」

 

琴里は士道に精霊を助ける具体的な方法を教えた。その方法を聞いた士道は…………

 

 

 

 

 

「はいいいいいいいい!?」

 

 

 

 

 

 

また素っ頓狂な叫び声をあげた士道の姿にラタトスクのメンバーはため息を漏らしていた。

 

 

 

 

 

 

――◆――

 

 

 

 

 

 

「―――まったく、精霊とデートをして恋をさせろって……無茶にもほどがあるだろ……」

 

あの出来事から一日が経過し、四月十一日になった。学校の登校の最中に士道はボヤいていた。

 

『ハハハハハ、相棒の得意分野ではないか!相棒の数少ない特技「天性の女たらし」の見せ所ではないか!」

 

(うるせえやい!)と士道はドライグに突っ込む。オカルト研究部の全女子を攻略したイッセーだが、ひとつだけ超えなければならない峠があったのだ。

 

「―――やあ、大変なことになってるね。五河士道くん」

 

突然士道に声をかける者が現れた。その声は男のものだった。身長は士道よりも高く一八〇センチほどで、この世界では場違いな魔法使いが身に着けるようなローブを全身に纏っているため顔も隠れている。

いきなり士道は自分の名前を呼ばれて警戒心を強め、身構えた。

 

「……あなたは誰ですか?」

 

「おっと、これは私としたことが大変失礼をしました。自己紹介を忘れていましたね。私は通りすがりの魔法使いです。以後お見知り置きを―――ってちょっと!?」

 

士道は魔法使い?を無視して先を急いだが、魔法使い?が士道の前に立つ。

 

「あ、はいはいわかってますよ。「自分は魔法使い(童貞)です」って言いたいんですよね?わかりましたからもういいですよね?」

 

士道は魔法使いを避けて、学校を目指した。―――その時、ドライグが士道の言葉に間髪入れずにツッコミを入れる。

 

『相棒も童貞だろうに……同族嫌悪か?』

 

「ぐうっ……」

 

ドライグの攻撃『ツッコミ』!士道の残りHPは一になった。

―――ところに魔法使い?が士道にトドメを刺す!

 

「……キミも童貞だろう?」

 

「―――ゴハッ!!」

 

魔法使いのツッコミで士道は力尽きた……ついに士道くんの火山がファイアー!

 

「うるせえええええええ!!なんなんだよあんたは!人のことをバカにしてそんなに楽しいか!!――――ああ!!もうなんなんだよコンチクショーが!!」

 

士道が怒りのあまりドシドシと地面に音を立てながら歩く。―――また魔法使い?が士道の足を止める。

 

「―――ところで五河士道くん」

 

「あ!?なんだよッ!?」

 

士道の機嫌はすでに最悪だったが、魔法使い?の次の言葉は、これまでのものとは違い真剣なものだった。

 

「―――キミは()()()を救えるのかい?」

 

「……あの子?あの子って―――誰のことだよ」

 

士道はあの子とは()()()()()()()()()()()が、敢えて訊いた。士道が魔法使い?に訊いた理由は二つある。

―――理由の一つは、なぜ自分のことを知っていたのかということと、自分がこれから助けようとしている精霊について知っているかを割り出すため。

―――もう一つは、ラタトスク機関と協力関係を持つ人間か、そうでない組織の人間であるのかを割り出すためだ。

後者の場合、士道は邪魔をさせないために先手を打つために脅しをかけるつもりだった。

 

しかし、魔法使い?は士道の問いに対して答える。

 

「昨日現れたあの()()ちゃんだよ。キミは彼女を攻略しようと考えているそうだけど、僕には無理だと思うんだよなぁ」

 

魔法使い?の言葉に士道の耳につけている通信器から琴里のメッセージが入る。琴里の声は今までにないくらい焦っていた。

 

『し、士道!今すぐにその男を捕まえなさい!!この男は組織の者じゃないわ!!』

 

士道は魔法使い?に今まで以上に警戒を強める。それも当然だ。ラタトスクは秘密組織だ。しかも、この魔法使いは完全に部外者であるのに、組織の情報が盗み出しているからだ。

琴里が焦るのも無理はない。

 

「……魔法使い?のお兄さん、悪いがちょっとついてきてもらうぜ?今さっき命令が出たんだよ―――『あんたを捕まえろ』ってなあ!!」

 

士道は魔法使いに幾重にもフェイントをかけながら襲いかかる!―――士道は生まれてから一日たりとも欠かす事なくトレーニングを続けてきたことと、『兵藤一誠』としての戦闘経験があるため、並の人間とは違い身体能力が桁違いに高くなっている。士道は魔法使い?を捕まえられると思っていた。

 

士道が右手を伸ばし、魔法使い?に触れた――――瞬間に魔法使い?の姿が消える!!魔法使い?が視界から消えた瞬間は動揺したが、後ろに気配を感じ、地面を強く蹴って捕まえようと伸ばした右手で側転を行い、着地をして体勢を整え、すぐに魔法使い?と向き合う。

 

(あいつ本当に魔法使いだとでも言いたいのか?今のは瞬間移動か?気がついたら後ろに回り込まれていた……)

 

士道は疑問に思っていたが、ドライグが士道に何があったのかを答える。

 

『ああ、その通りだ相棒。アレは本物の魔法使い―――いや、魔術師と呼ぶべきだな。あの魔術師は魔法陣を展開していた……それも、相棒の目には映らないほどの速さでだ……このままでは勝負にならん―――俺の力を使え、相棒!』

 

士道は左腕を天に掲げ、自身の神器

赤龍帝の籠手(ブーステッド•ギア)』を出そうとしたが、魔法使い?ケラケラと笑う。

 

「ハッハッハッ!まさか、僕が魔法を使わないと攻撃を避けれないとはね……

キミは本当にすごいね、五河士道くん。だからキミに敬意を表すために一言だけ送ろう―――未だ過去を引きずるキミがあの子を救うことなんてできるのかな?」

 

「―――ッ!!」

 

士道はその言葉を聞いて呆然と立ちつくした。

魔法使い?のその言葉は士道の―――いや、『兵藤一誠』の時に克服できなかった忌まわしい記憶(トラウマ)を呼び覚ますものだった。

 

 




オリキャラの魔法使いのイメージCVは櫻井孝宏さんが適任だと考えています。

この作品の士道の設定については、この章が終わってからきちんと書く予定ですので、もうしばらくお待ち下さい!

どうやってバランスブレイカーに至らせましょうか••••••


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三話 覚悟の時

初めて評価をつけてもらいました。非常に高く評価して頂けて本当に嬉しい限りです!

これからも完結を目指して頑張っていきます!

あの魔法使い?はマーリンではありません!


士道が我に返ったときには、魔法使いの姿はなかった。

 

「―――あの魔法使いは一体どこの誰なんだ?まさか、元いた世界の誰か……なんてこともあるのか?」

 

士道の頭の中はあの魔法使いのことで一杯になっていた。

あの魔法使いの言ったことは士道がずっと目を背けていたことだった。

 

―――“未だ過去を引きずるキミがあの子を救うことなんてできるのかな?”

 

士道の―――いや、まだ『兵藤一誠』だった頃からトラウマになってしまったことがあった。

…………それは、女性を『信じる』と言うことだ。

『兵藤一誠』の時から彼には“ハーレム王になりたい”という野望があった。それは五河士道に転生してからもずっと思っていたことだ。

 

―――だが、その現実は女の子と仲良くなるのが怖く、あと一歩を……特別な関係になろうと一歩踏み込もうとすると、無意識にブレーキがかかるようになってしまっていたのだ。

 

士道はボサッと呟く。

 

「――――令音さんに頼めば、()()()()を消し去る薬をくれるのかな……」

 

士道本人も情けない限りだと言うことは分かっている―――けれど、士道は『もう二度とあんな思いはしたくない』と。いつまでも逃げ続けている自分がいることも確かだ。

 

『―――相棒、お前は何がしたい?』

 

ドライグが士道に訊く。

 

「……えっ?」

 

『どうしたいのか、と俺は訊いているんだ。相棒の心の中にはあの薄汚い鴉(レイナーレ)がいることは俺も分かっていた。人間にも悪魔にも、神にさえ過去を消し去るなんて出来ない……忘れることはできるがな。転生してからもう会えなくなった―――リアス•グレモリーやアーシア•アルジェントにしっかりと想いを伝えておけば良かったと………夜中に妹が眠ってからずっと泣いていたことは俺も知っていた。

…………相棒、俺も悔しいんだよ。相棒の心の傷を分かっていながらも、何も出来ないことに』

 

「―――いや、ドライグは何も悪くない!悪いのは……いつまでも目を背けていた俺自身だ。ドライグのせいじゃ―――」

 

『いいや、悪いのは俺も同じだ相棒。俺は相棒の心の闇を傍観していた。暇な時はいつでも相談相手になってやると言っておいて、何も出来なかった。いや、相棒が傷付くことを恐れて何もしなかった。お前は俺を道具ではなく、一つの存在として扱ってくれていたのに、俺は何もしなかった。―――だが、これからは俺も変わろうと思っている!例え相棒が傷付くことになっても、嫌われても全力でサポートしようと俺は思っている!相棒が妹の前で覚悟を決めたように、俺も覚悟を決めようと思う。―――前に進んでみたらどうだ相棒?お前はあの精霊をどうしてやりたいのだ?』

 

ドライグの言葉は士道にとって大きな力となるものだった。士道が閉じこもっていた心の闇の世界のガラスが割れ、暖かな光が差してきていた。

―――士道の心の中の闇は崩れ去ろうとしていた。

 

「俺は……俺はあの子を救いたい!絶対に……絶対に救いたい!!でも――――」

 

士道は自分の想いを声に出したが、士道は声を小さくして自分の弱みを口にする。

 

「やっぱり怖い……どうしようもなく怖いんだ……

部長や朱乃さん、アーシアもゼノヴィアもイリナ、それから小猫ちゃんもみんないい女性だ。俺のことが嫌いじゃないって事も知っていた。―――じゃあ、部長たちは“俺のことが好きなのか?”『好きです』って想いを伝えて、そうじゃなかった時のことを考えると、堪らなく怖かった……またバカにされるんじゃないかって…………。

―――もう二度とあんな想いをするのはいやなんだ。けど……もっと嫌なのは女性を知らない間に怖がるようになっていた俺なんだ……」

 

士道が言ったのは、転生前の『兵藤一誠』としての傷だった。士道は顔を両手で隠し、手の中でずっと涙を流し続けていた。

 

『―――怖くてもいいじゃないか』

 

「えっ?」

 

ドライグは泣いている士道に声をかけた。士道はその言葉を聞き、左腕を見つめる。

 

『怖いものが一つや二つあったっていいじゃないか。だがな相棒、傷つくことを恐れていたら何も成すことは出来ないぞ?

―――なあ相棒、 別に失敗して傷付くことは恥ずかしいことじゃないさ。本当に恥じるべきことは、その苦しみから逃げることだ!相棒はもう一人じゃない。例えデートが失敗し、つまらないと笑われたとしても、気の利いた言葉はかけてやれないかもしれないが、俺が励ましてやる!俺だけじゃない、例え失敗したとしてもお前には妹の琴里や村雨令音が必ず相棒を立ち直らせてくれるさ』

 

ドライグの言葉は士道の心の中に巣くった闇をどんどん消していくものとなっていた。

士道は抑え込んでいた心の汗を止めるすべを知らなかったのか、瞳から大洪水が起きていた。

 

「……情けねえっ!本当に情けなさすぎて自分が嫌になる!!なんで俺はこんなにも身近にいた相棒に頼ることをしなかったんだよッ!!」

 

士道は感情を抑えることはせず、泣き続けた。ドライグの最後の一言が士道の心の闇を完全に消し去る言葉となる。

―――闇は終わったのだ。

 

『情けなくても無様でもいいじゃないか。何度倒れても立ち上がること―――それが冥界のヒーローと呼ばれた「おっぱいドラゴン」―――相棒の二つ名じゃないか。

さあ、十七年間の出口なき長い闇のトンネルもこれで終わりだ相棒!前に進もう、歴代最高の赤龍帝『兵藤一誠』―――否、五河士道ッ!!』

 

なぜか、二つ名だけは声をかなり小さくしてドライグが言っていたのは、気にしてはいけない。

けれど、ドライグも士道も―――お互いが変わる事が出来たのは誰が見ても分かった。

 

「―――ッ、ああ!!これからたくさん迷惑をかけると思うが、俺の切り開く未来を一緒に見てくれ、相棒!」

 

……ドライグの激励の言葉によって五河士道は救われた。

十七年に渡って士道を苦しめ続けてきた過去にようやく終止符を打つことができたのは、『兵藤一誠』と共に苦楽を共にした相棒のドライグのおかげだ。

そして現在の赤龍帝である、五河士道は本当になれるかも知れない。

ライバルである、過去、現在そして未来永劫、歴代最強の白龍皇と称される『ヴァーリ•ルシファー』と同じように、

『歴代史上最高の赤龍帝』―――五河士道と。

 

 

ドライグが何かを思い出したように士道に声をかける。

 

『あ、そうだ。ところで相棒』

 

「ん?なんだドライグ?」

 

『学校の方は大丈夫なのか?もうそろそろホームルームのチャイムが鳴るころだと思うが?』

 

ドライグの言葉に士道は慌ててケータイの時計を見る。時間はAM8:25だった。ホームルームのチャイムが鳴るのは8:30だ。今ある地点から歩いていけば、二十分ほどかかることに士道は気付き……

 

「―――だあああああああああああッ!!遅刻確定じゃねえかああああああ!!」

 

士道は五十メートル走を二秒を切るぐらいのスピードで全力疾走をし、学校まで休憩する事なく走り続けた。

―――8:29に学校に着き、なんとか遅刻を免れた士道くんなのであった。

 

 

 

 

 

――◆――

 

 

 

 

 

「ぜぇ……はぁ……ぜぇ……はぁ……」

 

まるで体育の水泳の授業で休む間も無く泳ぎ続けた後のように椅子にへばり付く五河士道。―――様々なことがあり、まあ仕方ないというのが一般的だが、時間には余裕を持って行動するべきだろう。

 

「あの魔法使いの童貞野郎、今度見つけたら一発殴らねえと気が済まねえぞ……」

 

―――士道の怒りの矛先はあの魔法使いに向いている。

 

『ごもっともだが、あの魔術師に一発入れるのは厳しいだろうな…………。

相棒がまだ『兵藤一誠』だった頃の『三叉成駒(トリアイナ)―――龍星の騎士(ウェルシュ•ソニックブースト•ナイト)』に昇格(プロモーション)しても、かすり傷を負わせるのがやっとだろうな』

 

怒っているイッセーとは違い、ドライグはかなり冷静にあの魔法使いについて分析していた。あの魔法使いは瞬間移動の魔法を使えるだけでなく、術式の展開は士道の目には映らなかったほどだ。

おまけに士道は、赤龍帝の籠手(ブーステッド•ギア)の禁手にすら至れておらず、『悪魔の駒(イービル•ピース)』すら体の中には無い―――言うまでもなく、今の士道ではどう間違ってもあの魔法使いに触れることさえ不可能だ。

 

「―――五河士道」

 

へばりつく士道に目線を合わせる女性がいた。―――鳶一折紙だ。ちなみにお互いの鼻が触れ合う距離にまで鳶一は士道に近づいている。

 

「うわあッ!と、鳶一ッ!脅かすなよ…………」

 

士道はビックリして鳶一折紙と距離をとる。鳶一折紙は士道に昨日の出来事について訊ねる。

 

「……昨日どうしてあんな危険な場所にいたの?」

 

再び距離を縮めてくる鳶一折紙に士道は目を逸らして答える。

 

「あ、いや……その。―――妹を探していたんだ……」

 

「―――それで見つかったの?」

 

「あ、はい……俺も妹の琴里も怪我とかはしてなかったから―――って、ちょっと!?」

 

鳶一折紙は士道を抱き寄せ、士道の後頭部を触っていた。……鳶一折紙は士道が瓦礫に後頭部をぶつけて気絶するところを見ていたのだ。

 

「…………嘘。士道は昨日、後頭部をぶつけて気絶していた。―――もうあんな危険な場所にはもう二度と近づかないで」

 

「…………」

 

士道は何も答えることが出来なかった。―――沈黙は肯定を意味するが、士道が沈黙したのは肯定するためではなかった。士道は精霊と会話をすることを心に決めていたため、どう答えていいか分からなかったからだ。

…………士道は鳶一折紙から離れると、また彼女は士道に訊く。

 

「―――士道」

 

「ん。どうした?まだ何かあるのか?」

 

「…………もう一回ギュってしていい?」

 

再び鳶一折紙は士道に近づき、両腕を広げる。―――流石に変態の士道でも、クラスメイトが見ている前では流石に控えた。

 

「ダメに決まってんだろ―――って、おいいいいいいいい!?」

 

鳶一折紙は士道の言葉を無視して再び士道を抱きしめた。

 

「―――な、何をしているのですか!?五河くん、鳶一さん!学校でそんな破廉恥な行為は禁止です!!」

 

担任のタマちゃんが来るまで士道は鳶一折紙に抱きしめられていた。……そしてタマちゃんが生徒たちが席に着いたことを確認して口を開く。

 

「―――さて、今日はこのクラスに副担任の先生が付くことになったので紹介しまーす!」

 

ガラララッ…………

 

教室のドアが開かれ、教室に入ってきたのは――――

 

「…………村雨令音だ。今日からこのクラスの副担任を勤めることになった。担当する科目は物理だ。よろしく頼む……」

 

ドサッ……

 

自己紹介を終えると、令音は盛大に倒れた。

 

「む、村雨先生!しっかりしてください!」

 

『…………』

 

ドライグは目を点にして無言を貫いていた。令音がフラフラと立ち上がると、タマちゃんは士道を見て言う。

 

「―――あ、五河くんにもお客さんがいるんですよ!ちょっときてくださーい!」

 

「……お、俺に、ですか?」

 

士道はタマちゃんに呼ばれ、廊下に出ると、秒速三十メートルで走って来る小柄な赤い髪の少女が…………

 

「おにーちゃぁぁぁぁぁん!!」

 

ドタドタドタドタドタドタ――――ドゴオオッ!

 

「―――ゲオルギウスッ!」

 

走ってきた少女が士道のお腹に見事な膝蹴りを決めた。士道は堪らず宙に浮かび上がり、倒れこんだ。

 

「わあ、ゲオルギウスだってー!聖ジョージかな?それともアスカロンかな?……かな?」

 

「こ、琴里よ、可愛い、俺の妹よ。作品が、違うから……ど、どうして……琴里が……高校、に?」

 

士道は琴里の攻撃に大ダメージを受けたらしく、生き絶えた耐えで言葉を発していた。

 

「……さて、シン。早速だが、昼休みに物理準備室に来てくれ。話したいことがある」

 

おそらく、今日のことで色々と話があるのだろう。士道は倒れた体を起こし、令音に返事をする。

 

「わ、わかりました…………」

 

 

その後士道は午前の授業を終え、物理準備室に向かったが、その道中に、鳶一折紙ファンクラブ『VOC(ヴィーナス•オリガミ•クラブ)』のメンバーから襲撃を受けたが、全て迎撃してしまい、『VOC』のメンバーは五河士道の怖さをその身に刻み込んだ。

 

 

 

 

――…………

 

 

 

 

 

物理準備室に着いた士道はその扉を勢いよく開ける。

 

「たのもー!」

 

『いやいや相棒、道場破りに来たわけじゃないぞ!?』

 

…………ドライグのツッコミは冴え渡っている。一流の刀職人が作る日本刀のように。

…………それはさておき、物理準備室に入札した士道を待っていたのは、令音と琴里だった。

 

「…………やあシン、待っていたよ」

 

「シドー遅い!昼休みのチャイムが鳴る前に来なさいよ!五分遅刻よ」

 

令音とは違い、琴里の言うことは無茶苦茶だ。チャイムの鳴る前は授業中だ。琴里の言葉にがっくりとしながらも士道は要件を訊く。

 

「……それで、俺は何をすれば?」

 

士道の問いに琴里が言う。

 

「まずはあの魔法使いよ。シドー、貴方はあの魔法使いと知り合いなの?」

 

「いいや、全く知らない。……でも、あの魔法使いは俺のことを当事者のように知っていたんだ…………『フラクシナス』での会話のことも知っていた。―――ごめんな、琴里。お兄ちゃん、あの魔法使いを捕まえられなかった」

 

士道は琴里に頭を下げる。……遥かに格上の相手でも、任務の失敗には変わりはない。だから士道は素直に謝った。

 

「……シドーが知らないのに、シドーのことをあたかも自分ことのように知っていたの?―――不気味ね。あんた不運よね。あんな変なストーカーがついてるなんて」

 

「その通りだ!できるものなら美人なお姉さんのストーカーが良かったよ!!なんで俺にはあんないけすかない魔法使いの童貞野郎なんだよコンチクショーッ!!」

 

士道は物理準備室の床を蹴り上げる。士道の回答に二人は若干引き気味だ。令音は何も言わなかったが、琴里はそのまま意見する。

 

「…………キモいわ」

 

『―――上に同じく』

 

ドライグからも呆れられていた。そんな中、令音が再び質問を切り出す。

 

「…………シンはどうして泣いていたんだい?」

 

「あの魔法使いにどうにかして忘れようとしていた過去の傷を見せられまして……」

 

…………()()()()()というのは間違いだが、完全に否定できるかといえば、答えはNOだ。だが、士道はその壁を乗り越えることができたこともまた事実だ。

 

「……シン、これだけは覚えていてほしい。私も琴里も―――『フラクシナス』のクルーたちはキミをバカにすることなんてしないし、嫌いになることもない。私たちは出来る限りシンをサポートするつもりだ」

 

「…………令音さん」

 

令音もドライグが言った通りだった。琴里も「私もあんたを嫌いになんかならないわよ」と士道に伝えた。士道にはもう心の中に闇はなかった。

 

「…………シン、私が少しだけ慰めてやろう」

 

令音は士道を抱きしめ、士道の頭を胸に当てた。

 

(―――こ、こ、ここ、これはああああああああ!!)

 

士道のテンションはスーパーハイテンションになっていた。

いま士道の頭は令音の胸の中だ。士道はただひたすらにおっぱいの感触を楽しんでいた。

 

(柔らかく、大きな極上のおっぱい!ハリとツヤはまさに最強の二文字に他ならない!さらにもちっとした柔らかさの上に弾力もある超おっぱい!ボディソープの甘い匂いがさらに俺の興奮を掻き立てる!!ああ〜、もう一生このままでいたい!)

 

「…………シン。いいこ、いいこ」

 

令音は士道を我が子のように可愛がっていた。―――一分ほど経っても離れない士道と全く士道を離す気がない令音を見て、琴里は我慢の限界になったのか鍛えに鍛え上げた必殺の『超•回し蹴り』が士道の脇腹を捉え、士道を吹き飛ばす。

 

「いつまで抱きついているのよ!このおっぱいドラゴン!!」

 

「ぐふおぅ!?」

 

ドゴッ!!

 

琴里に吹き飛ばされた士道は物理準備室のドアを突き破って外まで吹き飛んだ。

士道は吹き飛ばされたことにイラっとしたが、二人にしっかりと頭を下げる。

 

「―――ありがとうございます。令音さん、琴里」

 

士道が二人に感謝を伝えた時だった…………

 

ウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ………………

 

空間震警報が天宮市内になりひびいた。




私がDDを読んでいて思ったことは、アーシアや朱乃たちではなく、ドライグがイッセーの心の傷を癒してあげることもできるのでは?と思い、私の作品ではドライグを選びました。

ドライグはイッセーのことを歴代最高の赤龍帝と称しているので、全く可能性がないわけではないと私は考えていました。

•••••もう少し後の十香や精霊たちが増えてきてからも良かったですかね?イッセーのトラウマ克服は。

感想もかなり書いて頂いているので、嬉しい限りです。



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四話 精霊との会話です!

お気に入り数も、感想数も予想を遥かに上回るほどの多さに感動しています!

大変お待たせ致しました!ついに十香との会話まで到達しました。この話ではドライグも地味に活躍します!



 

ウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ…………

 

空間震警報が響き渡る。

…………ついにこの時がやってきた。この空間震警報が示す意味というのは、精霊が現れるということだ。

 

精霊の出現予想地点が士道たちの学び舎である来禅高校だったため、既に士道は琴里と令音共に『フラクシナス』に移動を終え、作戦の最終確認を行っていた。

今、士道はフラクシナスにあるモニターで精霊を確認していた。

 

「――――精霊の出現場所は来禅高校の校舎内……『プリンセス』ね」

 

『プリンセス』と言うのは、士道が遭遇した黒髪の少女の精霊に付けられた名称のようなものだ。

 

『士道、あんた相当運が良いわよ?『プリンセス』が校舎内に侵入したことはASTは想定していなかったはずよ。彼女たちは近くの森で待機しているだけ、今のところ動く気配は見えないわ』

 

「…………なぜASTは強攻手段を取らないんだ?ミサイルで校舎ごと精霊を攻撃するなり、強引に突入したりと方法はいくらでもあるだろうに…………』

 

士道が声に出した疑問を琴里が、呆れながら答える。

 

『あなたねえ、正義の味方のASTがテロまがいの行為をするとでも思っているわけ?相変わらず、あなたの頭はオオゴキブリ並みの知能ね。それじゃあやっていることは精霊と変わらないでしょう?……まあ、場合によりけりなのだけど、あっちにも色々都合ってもんがあるのよ。

―――まあ、それ以外にもちゃんとした理由があるのよ、ASTの武装である「CRユニット」は屋内での戦闘には向いていない。だからASTのメンバーは突入せずに近くの森で待機しているだけよ』

 

士道にとってはこの上ない好状況だと言うことが理解できた。士道はこのチャンスを必ずものにしようと燃えていた。

 

『士道、いきなり実戦になるけど…………やれるわね?」

 

琴里が士道に最終確認として訊いた。―――士道はモニターを強く見つめ、首を縦に振った。

 

「―――ああ、今の俺なら大丈夫だ……琴里、行ってくるよ」

 

士道はそれだけ言うと、フラクシナスから精霊の出現地点である来禅高校に転移した。

 

 

 

―――………………

 

 

 

来禅高校に士道がついた時には、来禅高校は精霊出現前とは全く別の姿に変貌していた。……それを見た士道は思わず息を呑む。

 

「…………空間震は本当に恐ろしいな」

 

既に来禅高校の校舎は半壊しており、ど真ん中に隕石が落下したかのような大穴が開いていた。

―――だが、士道の心は決して迷うことも、怯えることも無かった。士道の頭の中には、あの精霊の悲しみに満ちた表情が浮かんでいたからだ。

 

「…………もう二度とあんな表情はさせない―――いや、させるわけにはいかないんだ」

 

士道の決心に琴里は後押しをする。

 

『よく言ったわ!それでこそ私のおにーちゃんよ!•••••肩の力を抜いてリラックなさい士道。あなたには「フラクシナス」が誇る精鋭メンバーがあなたをサポートするわ!』

 

「……精鋭メンバー?」

 

―――ちなみに、士道をサポートするメンバーはこの六名だ。

 

“結婚四回、離婚も四回『早過ぎた倦怠期(バッドマリッジ)』川越”

 

“夜のお店で絶対的な人気を誇る『社長(シャチョサン)』幹本”

 

“恋のライバルに次々と不幸が。午前二時の女『藁人形(ネイルノッカー)』椎崎”

 

“百人の嫁を持つ男『次元を超える者(ディメンションブレイカー)』中津川”

 

“愛の深さ故、愛人の半径五百メートル以内に近づけなくなった女『保護観察処分(ディープラブ)』箕輪”

 

“そして、お馴染みの村雨解析官”

 

『―――相棒、もう俺たち二人で考えあった方が良くないか?』

 

ドライグはもう諦めモードだ。士道も「なんでこんな奴らしかいないんだ?」とボヤいていた。

 

『……心配要らないさシン。クルーたちの実力は本物だ―――大船に乗ったつもりで構えているといい』

 

「……泥船の間違いでは?」

 

令音の言葉に士道はため息をつきながら返した。

士道の心の中での失敗と成功の比率は8:2だった。……それでも、士道は逃げようとせず、琴里の案内のもと精霊の居場所を目指して足を進めた。

―――全ては、あの少女ともう一度話すために。……そして―――彼女と友達になるために。

 

 

 

 

―――………

 

 

 

『士道、精霊の居場所は三階の手前から四番目の教室だから……その教室よ』

 

「っ…………いよいよか」

 

士道は階段を登りきり、精霊がいるであろう部屋の前までたどり着いた。その教室は、士道たちが生活を送る教室二年四組だった。士道は教室の扉を開ける前に深呼吸をする。

 

「―――ふぅ……ッ!!」

 

ガラララララッ…………

 

士道は教室の扉を開けると、校舎の壁が崩れ去り外から内部が丸見えの状態になっていた。そこに、外の夕陽を眺めながら佇むひとりの少女の姿があった。

 

「―――む?」

 

少女は教室内に入ってきた士道に気付き、振り返る。士道は彼女の元へと足を進める。

 

「…………やあ。俺のことを―――ッ!?」

 

ドガアアアアッ!!

 

歩み寄る士道に少女は無慈悲に腕を振り下ろす。―――その瞬間衝撃波のようなものが士道を目掛けて襲いかかる!

―――しかし、士道は自身の神器『赤龍帝の籠手』を出現させ、左腕で薙ぎ払うことで、衝撃波を消滅させた。

 

「―――ッ!!」

 

少女の牽制とも言える行為を士道が簡単に防いだことに少女は警戒を強めるが、士道は手を前に出して少女に言う。

 

「待ってくれ!俺はお前の敵じゃない!!とりあえず落ち着いてくれ!!」

 

士道は両手を頭の後ろに組み、彼女に近づこうとした。だが、

 

「―――止まれ」

 

今度は少女は士道に剣を突きつける。彼女は士道に一言だけ述べる。

 

「お前は何者だ」

 

「ッ…………そうだな、俺は―――」

 

『士道ストップ!選択肢が出たわ』

 

士道が答えようとしたときに、妹の琴里が待ったをかけた。現在『フラクシナス』では、精霊の脈拍や呼吸、精神状態から解析用装置のAIが導き出した三つの選択肢のうち、どれを士道が言うべきかを、選ばれようとしていた。

 

①「俺は五河士道。君を救いに来た!」

 

②「通りすがりの一般人ですやめて殺さないで」

 

③「人に名を訪ねる時は自分から名乗れ!」

 

琴里が『フラクシナス』のクルーに選択肢を選ばせようとしている中で、ドライグがすぐに士道に告げる。

 

『―――相棒、あのAIは無能だ。相棒の想いを素直に伝えればいい』

 

(とは言っても①は良いんじゃないか?単刀直入だし、説明もある程度は省けるだろう?)

 

士道の言葉にドライグは助言をくれる。

 

『たしかに相棒がやろうとしている目的は①だが、面識の少ない相手だと逆に怪しまれる。

②はその場凌ぎにしかならないだろうから論外だ。

③も捨てがたいが、明らかに格上の相手には言うべきセリフではない。格上の相手からすれば「いつでも殺せる虫ケラが何をぬかしてやがる」と相手をイラつかせるだけだ』

 

(遠回りをしてでも、『話をしに来た』がベストか……)

 

士道が声に出して目的を告げようとした時だった。

 

『士道、③よ―――』

 

『フラクシナス』のクルーが出した答えを無視して士道は精霊を見つめ、強く目的を述べる!

 

「俺は五河士道。俺はお前と話をするためにここに来た!」

 

『ちょっと士道!?命令違反よ―――』

 

琴里が士道に言おうとしたが、士道には聞こえていなかった。士道は琴里が全て言う前にインカムを外していた。

目の前の少女に完全に集中するためだ。―――少女は士道を見て思い出したようにして述べる。

 

「…………おまえ、前に一度会ったことがあるな?なにやら、おかしなことを言っていた奴だ」

 

少女は士道のことを覚えていたみたいだ。士道は表情を柔らかくして少女に言った―――だが…………

 

「…………覚えていてくれたのか?光栄だ!さっそく―――ガッ!?」

 

ドンッ!!

 

士道は少女に胸ぐらを掴まれ教室の壁に叩きつけられた。少女は士道に心中を明かす。

 

「…………敵ではないだと?―――ふざけたことをぬけぬけと…………何が狙いだ?油断させておいて背後から攻撃するつもりか?」

 

士道を壁に押し付けた少女の顔は、初めて会った時と同じで悲しみに満ちていた。

士道は恐怖を感じる前に、少女の孤独と絶望を理解していた。

現界しただけで過剰に攻撃され、人間とは少し違うだけなのに『バケモノ』などの暴言を浴びせられ、誰からも手を差し伸べられなかった孤独感を彼女は感じていた。

だから士道は彼女に手を差し伸べることを決心した。―――たとえ否定されたとしてもだ。

 

「どうしてだよ…………」

 

士道は少女にされた質問を質問で返した。少女は士道の胸ぐらをさらに強く握る。

 

「―――私が訊いているのだ!おまえは黙って―――」

 

「どうしてそんな顔するんだよ…………」

 

「っ…………」

 

士道の言葉に少女は士道の胸ぐらを握る力を弱めた。恐らく、士道の言葉に何か思うことがあってのことだろう。

 

「俺はおまえを攻撃するためにここに来たわけじゃない…………なにも狙ってなんかない。でも、これだけは分かって欲しい!!人間は―――人間はッ!おまえを殺そうとする奴らが全てじゃない!!」

 

士道は少女に胸ぐらを掴まれながらも、はっきりと言い切った。少女は士道の言葉を否定する。

 

「嘘をつくなッ!私が見てきた人間は皆『おまえは死なねばならない』と言ってきたぞ!」

 

「―――たしかに人間は自分たちよりも強い力を持つ者を恐怖し迫害する。同じ人間同士でも、分かり合えないような畜生だ……だが、数えられるほど少ないけれど、苦しむ人々を見て救おうと手を差し伸べる者もいるんだ。俺もその一人だ!!」

 

士道の言葉に少女は士道の胸ぐらから手を離し、少女は士道に訊く。

 

「……お前の言葉が正しいとした上で訊くが、私を殺すつもりがないのであれば、おまえは何をしにここに現れた?」

 

士道は少女の目を見て堂々と答えた。

 

「もちろんおまえに会うために……話をするために俺はここに来たッ!!」

 

「―――話、だと……」

 

「ああ、そうだ!!内容なんてなんでも良い、くだらないと思ったら無視してくれても構わない!でも、これだけは分かって欲しい―――俺はッ!!」

 

『士道、落ち着きなさい!』

 

外して制服の上着のポケットに入れたインカムから琴里の声が漏れて、聞こえるほどの声で士道に聞かせようとしていた。

だが、士道の目には迷いはなかった。

 

両親に捨てられたと知った時、士道は絶望をした。その時はドライグこそいなかったが、五河家に引き取られてからの父、母、琴里がいた………だが、少女には誰もいなかった。

だから士道は決意していた。

 

―――“自分が彼女に手を差し伸べると”

 

「俺は―――おまえを否定しない」

 

「……ッ!!」

 

士道の言葉に少女は目を大きく開け、少しの間黙った。そして少女は後ろを向いて小さな声を出した。

 

「……シドー。シドーと言ったな?」

 

「―――ああ」

 

「おまえは本当に私を否定しないのか?」

 

「ああ、本当だ!」

 

「本当の本当か?」

 

「本当の本当だ!」

 

「本当の本当の本当か?」

 

「本当の本当の本当だ!」

 

少女の言葉に士道は間髪入れずに答え切った。少女は前髪をくしゃくしゃとかき、腕を組み、少し恥ずかしそうにしながら士道に向き合う!

 

「―――ふん!誰がそんな言葉に惑わされるか、バーカバーカ!」

 

「……あれぇ?」

 

少女の反応に士道は反応に困っていた。士道は相棒(ドライグ)に訊く。

 

(お、おいドライグ!俺どこかでセリフを間違ったか!?)

 

しかし、肝心のドライグは――――………

 

『すぴー……すぴー……すぴー……』

 

―――眠っているううぅぅぅぅ!!肝心なところで役に立たないドライグなのであった。

 

「だがまああれだ。どんな腹があるかは知らんが、まともに会話をしようという人間は初めてだ。この世界を知るために少し利用してやろう。……うむ、大事。情報超大事」

 

少女は少しくらいは士道を信じてもいいと思えているみたいだ。士道は彼女に名前を訊く。

 

「ええっと―――名前は?」

 

「―――名か、そんなものは無い。だが、会話の相手がいるのであれば、必要だな。シドー、おまえは私をどのように呼びたい」

 

「……へ?」

 

「へ?ではない。私に名前をつけろと言っているのだ」

 

「はいいいいいいいいいいい!?」

 

士道は少女の言葉に素っ頓狂な声を上げた。

……それは無理もない。いきなり名付け親になれと言われたようなものだからだ。

士道はインカムを着け、小さな声で「助けて下さい」と言った。琴里たちもここまでは予想していなかったらしく、『フラクシナス』のクルーたちも頭を悩ませていた。

……そんな中、琴里が士道のインカムに名前を言う。その名前は―――

 

「『トメ』だ。キミの名前は『トメ』だ!」

 

士道が告げた名前に『フラクシナス』の隊員の一人が叫ぶ。

 

『精霊の精神状態はブルーです。かなり不機嫌になっています!』

 

士道の言葉に少女は……かなり不機嫌な表情を見せ―――ズドンッ!!と士道の足元の床をビームで撃ち抜く!

 

「ひいいいいぃぃぃぃぃぃ!!」

 

士道は尻餅をつき青ざめていた。恐怖に青ざめる士道とは違い、琴里は士道の様子を楽しむかのように知らん顔で言う。

 

『あんれぇ?おっかしいなぁ』

 

青ざめる士道に少女は額に血管を浮かばせていた。

 

「何故かは分からんが、無性にバカにされた気がした」

 

『……彼女の怒りは当然だ相棒。無能なクルーに助けを求めるからこうなるのだ。俺が助けてやるぞ、相棒!』

 

ドライグは自信満々に士道に言う。士道は藁にもすがる思いでドライグに訊くと、ドライグは答える。

 

『―――「アルトリア」だ!相棒!』

 

(よし、絶対に大丈夫だ!)

 

士道はドライグが自信満々に出した名前を信じ、堂々と口にする。

 

「じゃ、じゃあ『アルトリア』ならどうだ!?」

 

『士道、少しはマシになったわ!―――精神状態は、青緑色に変化したわ!』

 

……要するに、()()()()()()()が少女はまだ不機嫌というわけだ。―――つまり……

 

ズガアァァァン!!

 

「ぎゃあああああああああああああああ!!!!!!」

 

今度は少女は手に持った剣を振り下ろした。なんとか士道は避けたが、その斬撃は近くの森にまで届き、新たな道が作られていた。

 

「―――まあ『トメ』よりはマシだが、それも却下だ。今の名前はシドーが考えた名前ではないような気がした」

 

(ば、バレた!?)

 

『ば、バカな!?「アルトリア」でもダメなのか!?かの有名な騎士王『アーサー•ペンドラゴン』の幼名だぞ!?この小娘には過ぎたものだと思っていたのにそれを一蹴しただとぉ!?』

 

ドライグは自信満々でいたため、少女に否定されたため籠手のなかでプンスカと怒っていた。

進退極まったなかで、士道は思い付いた名前を口にする。

 

「―――なら、『十香』ってのはどうだ?」

 

『お、おい相棒、今度こそ殺されるぞ!?「アルトリア」でもダメだったのにそんな今さっき思い付いたような名前では―――』

 

ドライグは士道の身を心配するが、士道はこれでダメならどうしようもないと考えていた―――訂正しよう、諦めていた。

だが、少女の反応は予想外のものだった。

 

「―――『十香』か…………まあ、『トメ』や『アルトリア』よりはマシだ」

 

「……そうか、良かった」

 

士道が付けた名前を少女は気に入ってくれたようだ。今、少女は教室の黒板にビームで自分の名前を書いている。

 

『――――な、なんだとぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおお!?ありえん!こんなことがありえて良いはずがないだろおおおおおおおおおおおおお!!!!!!』

 

……ドライグだけはこの現実をどうにか否定しようとしていた。

少女―――十香は自分の名前を黒板に書き終えた後、士道を呼ぶ。

 

「シドー、『十香』私の名だ」

 

「―――ああ『十香』。素敵な名前だと俺は思うよ」

 

士道と十香は良い感じの雰囲気になって来ていた。

 

『認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない』

 

……ドライグは念仏のごとく『認めない』を連呼していた。そう、天龍は病んでいた。

その時だった。良い感じの雰囲気になって来たところに、士道のインカムに琴里からの通信が入る。その声は非常に焦っていた。

 

『―――士道、伏せなさい!!』

 

「ッ……そう言うことかよッ!!」

 

士道は何かを感じ、床に伏せる。―――次の瞬間

 

ドドドドドドドドドドドドドドドドッッ…………

 

上空から弾丸の雨が降り注いでいたからだ。―――ASTが精霊を外におびき寄せるために攻撃を仕掛けてきたのだ。

床に伏せる士道を見て十香は口を開く。

 

「シドー、早く逃げろ。私と一緒にいては同胞の手によって殺されることになるぞ」

 

十香は士道の身を案じた。だが、士道はその場から一歩たりとも動こうとはしなかった。

 

「シドー、何をしているのだ!?早く―――」

 

「そんなもん知らねえよ!!今は俺が十香と話をしているんだ!!あんな奴らは無視して構わねえ!!この世界のことを知りたいんだろう?だったら俺が教えてやる!俺のことは気にする必要はない!!」

 

「っ…………シドー、おまえはそこまで私のことを…………」

 

十香は士道と向かい合うように座り、十香と士道は語り合った。

 

 

 

 

 

 

――◆――

 

 

 

 

 

 

 

 

森に待機していたASTも現在は攻撃に転じていた。

…………恐らく、士道が口にした『アルトリア』という名前に十香が剣を振るったことがASTを攻撃に転じさせた最大の理由だろう。

―――ASTとしては、『攻撃を受けたからやり返した』という言い分で通すつもりなのだろう。

 

鳶一折紙たちはASTのメンバーと共に精霊をめがけてライフルを掃射していた。

 

ASTの本作戦のリーダーである日下部燎子(くさかべりょうこ)一尉がメンバーに訊く。

 

「―――精霊の様子は?」

 

燎子の言葉に折紙は「まだ確認できていない」と答える。ちなみに燎子は指揮をするだけで、ライフルは持っていなかった。

 

精霊をめがけてライフルを掃射していた時だった。弾丸が校舎壁を破壊し、その壁が剥がれ落ちた。精霊の姿ともう一つ人間の姿を確認した。

―――燎子は慌ててメンバーに指示を出す。

 

「あの子、精霊に囚われているの!?―――攻撃を中止しなさい!!」

 

ASTのメンバーはライフルの掃射を一斉にやめた。―――だが、精霊に囚われている人物を見て折紙の様子が急変する。

………目が変わっていたのだ。

 

「―――折紙?」

 

折紙は対精霊レイザー•ブレード『ノーペイン』を引き抜き、精霊の元へと突っ込んでいった。

 

「ちょっと待ちなさい折紙、折紙!!」

 

…………燎子もそうだが、ASTのメンバーに彼女を止められる者は誰一人としていなかったはずだ。あの精霊に囚われてい人物は、折紙のよく知る人物だった。その人物は、彼女が想いを寄せている存在―――五河士道だったのだから。

 

 

 

 

――◇◆――

 

 

 

銃弾の雨が降り注ぐ中、士道と十香は語り合っていた。

 

まず士道は十香がどういう存在であるかを訊いたが、それは当人である十香ですら詳しくは分かっていないらしく、いきなりこの世界に現界し、さらに記憶も曖昧だったために、自分がどのような存在かもわからなかったそうだ。

―――後は知っての通り、メカメカ団ことASTの連中とドンパチの繰り返しだったそうだ。

 

……今度は十香が士道に訊く。

 

「私も一つ訊いてもよいか?」

 

「……なんだい、十香?」

 

「―――シドーはどうして私と話がしたいと思ったのだ?人間であるおまえからすれば私は『バケモノ』と呼ばれるべき存在なのであろう―――おまえは私が怖くはないのか?」

 

…………十香は多くの人間から畏怖され、精霊として恐れられ『バケモノ』と罵られていた。

だが、士道は十香が見てきた人間から根本から異なる人間だった。

 

「……俺は別に十香が怖いと思ったことはないぜ?」

 

「―――え?」

 

「そりゃあ、最初の出会いではいきなり攻撃されたからちょっとビビったけど、十香が怖いと思ったことは一度もなかったよ」

 

十香は士道の言葉に完全に我を忘れて士道の話に夢中になっていた。さらに士道は続ける。

 

「そりゃあ一般の人間たちと比べれば、とんでもない力を持っているけど、それはただ『力が強いだけ』だろ?

俺は十香のことを普通の女の子として見ているぜ?ちょっと怒りっぽくて素直じゃないけど、空前絶後の超絶美少女なだけのどこにでもいる普通の女の子としか俺はおまえを見ていないぜ?」

 

「―――なっ!!ななななななななな、ちょ、超絶美少女!?」

 

士道の言葉に十香は恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にしていた。

 

『……相棒も女性の扱いがかなり上手くなったな。さすがは天性の女たらしだ―――童貞だがな』

 

ドライグの言葉に士道は「うるせえ!余計なお世話だ」と返した。

 

『それは良しとして、相棒。そろそろ頃合いじゃないのか?』

 

―――士道は十香との仲に一歩踏み込もうとしていた。士道は一度空を見上げ、目を瞑る。そして………

 

「―――なあ十香、俺とデートしないか?」

 

 

 

 

―――一方、その頃の『フラクシナス』

 

 

「―――まさかシドーが私たちのサポートなしで精霊の好感度を九十%以上まで上げるなんて……」

 

司令官の琴里は士道の実力に度肝を抜かれていた。

 

「……シンの会話のサポートは今後一切の必要ないね。これを見る限りだと、女性の扱いには相当慣れていると見て間違いない……私たちはシンのデートのサポートだけを考えることに集中するべきだ」

 

令音も琴里同様に士道を称えていた。

 

「司令、疲れていませんか?この神無月恭平が肩を揉んで差し上げましょう!」

 

神無月が琴里に近づくが、琴里は…………

 

「必要ないわよ、このおたんこなす!!」

 

「―――アベシッ!!」

 

琴里のアッパーが神無月を宙に浮かせた。

 

『―――なあ十香、俺とデートしないか?』

 

士道の言葉を聞いたフラクシナスのクルーたちは、全員大声を上げた。

 

「「「「「「「「ついにきたああああああああ!!!!!!」」」」」」」」

 

 

 

―――その頃の『フラクシナス』終了

 

 

 

「……デェト?デェトとは一体なんだ?」

 

十香は士道の誘いに、キョトンとした顔をする。

 

「特別に仲を深めたい相手と一緒に遊ぶことだよ。俺の場合は……十香にこの街を案内してやりたいと思ってね。それを通じて俺という人間を十香に知ってほしい。―――十香さえ良ければ、俺に街を案内させてくれないか?」

 

「それは本当かシドー!私に街を案内してくれるのか!?」

 

「―――ああ!男に二言はない!!………どうだ十香?」

 

士道が十香の返事を聞こうとしたその時だった。

 

『―――士道、ASTが動いたわ!』

 

「くっ!こんな時にッ!!」

 

士道は完全に油断していたため、周囲の気配を探ろうとはしなかった。士道が校舎の外へと視線を向けると、士道の視界内には折紙の姿が映っていた。

 

「―――無粋ッ!」

 

十香は折紙のレーザー•ブレードを素手で受け止め、折紙ごと吹き飛ばした。……折紙は受け身を取り、士道のすぐそばに着地する。

 

「―――また貴様かッ」

 

十香が折紙を見て吐き捨てるかのように言った。だが、折紙の目は殺意に満ちていた。

 

「よくも私の士道を人質にッ!」

 

折紙の殺気を感じ取った十香は地面に踵を叩きつけた。

 

「―――『塵殺公(サンダルフォン)』!」

 

その瞬間、十香の前の床から亜空間が現れ、そこから現れたのは、あの幅広の刃が特徴の剣だった。そして次の瞬間―――

 

ズドオオオオオオンンッッ!!

 

十香は無慈悲にも手に持つ剣を振り下ろした。凄まじい斬撃が折紙を襲うが、士道が鳶一を庇う。

 

「―――ッ!鳶一ッ!!」

 

士道は『赤龍帝の籠手(ブーステッド•ギア)』を出し、鳶一の前に立ち、どうにか鳶一を守ろうと腕をクロスして踏ん張るが、()()()()では十香の攻撃を受けきることができるわけもなく、後ろにいた折紙ごと吹き飛ばされた。

 

―――士道はその後、『フラクシナス』によって回収された。

 

 

 




ドライグ『ううっ•••••なぜ「アルトリア」がダメだったのだ!?俺は認めん!絶対に認めんぞおおおおおおおお!!』

士道「いや、仕方ないじゃん!章名に『十香』って入ってるだろ!もう諦めろよドライグ•••••」

ドライグ『うおおおおおおおおおおんっっ!!!!』

DDの原作でイッセーのヒーローアニメが『乳龍帝おっぱいドラゴン』に決まった時と同じくらいにドライグは大泣きしていた。

やはり、優先すべきは原作っしょ!ゴメンよドライグ!!


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五話 再び現れました!

一章もそろそろ終わりに入りました。今回は皆さんが気になっている『奴』が出てきます。

※本来なら十香とのデートをさせたいのですが、ストーリー上あの魔法使いは重要人物なため、ある程度ここで書くのが一番適切だと思い、登場させようかと思います。

十香とのデートは次話に回しますことにしました。
もうしばらくお待ちください!

※読んでいて意味のわからないところがあったのでそこを修正しました。



 

十香との会話を終え、途中でASTに乱入され最後はドンパチ騒ぎになり、最後は十香に吹き飛ばされた。

 

結局士道の意識が戻ったのは、『フラクシナス』に回収されてからだ。

 

そして、夜が明けた。

 

「…………」

 

AM7:00士道は目を覚まし、カーテンを開ける。

 

『……おはよう相棒、調子はどうだ?』

 

ドライグが今日の士道の目覚めを訊く。士道は「………そうだな、良くはないかな」とだけ伝える。

 

『……あまり眠れなかったようだな』

 

「そりゃな……自分から誘ったとは言え、そう簡単に『傷が癒えた』なんて堂々とは言えないよ……正直言ってまだ怖い―――だが、俺も今日は前だけを見ようと考えている」

 

『正直乗り気ではないと思っていたが、相棒も腹を決めたみたいだな。―――だが相棒、相手はお前の誘いを了承してはいないぞ?』

 

「……それでも俺は十香を待つよ。一時間や二時間―――いや、何日経ってもいい、俺は十香が来るまで待ち続けるよ」

 

士道は恐怖心を持ちながらも、十香とのデートを楽しみにしていた。

 

「おにーちゃーん!朝だぞお―――ってもう起きてる!?」

 

琴里は士道がまだ寝ていると思ったのか、士道の部屋に入ってきた。士道は琴里の頭を撫でる。

 

「やあ、俺の可愛い妹よ。今日はお兄ちゃんにとっては勝負の日になるからな……寝坊なんて出来ないよ。さあ、飯にするぞ、今日の朝ごはんは鮭のバター焼きと豆腐の味噌汁だ」

 

「わーい!」

 

士道は朝食の準備をしにキッチンへと向かった。―――琴里は相変わらず準備を手伝うことはせず、テレビの前でキャンディーを舐めていたというのは、触れないでおこう。

 

 

 

「「いただきまーす!!」」

 

 

 

―――………………

 

 

 

AM8:00士道は制服の姿で玄関にいた。歯を磨き、寝癖も直し、靴も履いた。後は目的の場所まで行くだけだ。

 

「―――待ちなさい、()()

 

士道が家を出ようとした時、呼び止めるものがいた。―――妹な琴里だ。もう既に黒いリボンを付け、『司令官モード』状態だ。

 

「琴里?一体どうしたんだ?」

 

「……『フラクシナス』の司令官としての五河琴里ではなく、士道の妹である五河琴里として一言だけ言っておくわ―――あなたなら必ず成功できるはずよ、自信を持ちなさい。あなたは私のヒーローよ。嫌いになるなんてことは絶対にないわ。私のヒーローはたった一度失敗したくらいで潰れたりはしないわ。あなたは私の―――自慢のおにーちゃんよ」

 

……士道が見せた弱みを琴里も聞いていたのだろう。琴里は兄のデートをサポートする司令官ではなく、妹ととして士道の背中を押してあげたいと思ってのエールを送ったのだ。

士道は少しの間硬直していたが、振り返らずにそのまま琴里に言う。

 

「……ありがとな、琴里。お兄ちゃん精一杯頑張って来るよ」

 

ガチャッ………

 

士道はドアを開け、目的地を目指して家を出た。―――目的地である来禅高校を目指していたその道中でのことだった。

ドライグが士道に話しかける。

 

『……転生前もそうだが、本当に家族に恵まれているな相棒。歴代の中でもここまでまともな生活ができているのは相棒だけだ』

 

「……ああ、本当にそう思うよ」

 

『感極まって泣いてしまったのか相棒?―――確かに兄想いのいい妹だよ。妹の言葉に涙するか……相棒も随分と涙もろくなったものだ』

 

ドライグの言葉の通り、士道の頰には雫が滴っていた。でも士道は「涙じゃねぇよ……これは汗だ」とドライグに伝えた。

 

 

 

―――その頃の琴里

 

 

 

「まったく、士道も素直じゃないわね。泣きたい時は思いっきり泣けば良いものを…………」

 

琴里は士道が家を出る時点で士道が泣いていることに気がついていた。……血縁こそないが、それでも幼い頃から同じ生活をしてきた兄弟だ。士道のことを一番理解しているのは妹の琴里しかいないだろう。

 

『……そういうわけにもいかないさ。シンも妹である琴里の前では頼れる兄でいようとしているからね。―――それは琴里も分かっているだろう?』

 

令音の言葉に琴里は「分かっているわよ」と伝えた。その時、クルーの何名かが、突如『フラクシナス』に起きた異変にざわついていた。

 

『―――こ、これは……』

 

『―――い、一体なんなの!?電波異常!?いや、通信妨害の類!?』

 

現在クルーたちはパニック状態になっている。

 

「ちょっとあなたたち、何か問題でも起こったの?」

 

家にいるため事態が分かっていない琴里に神無月が通信を入れる。

 

『―――司令、今すぐ「フラクシナス」にお戻り下さい!」

 

「……神無月?あなたがそこまで慌てるなんてめずらしいわね。一体何が―――」

 

『士道くんの動向を伺っていたのですが、モニター及び士道くんのインカムに異常が発生しています。―――これは恐らく、何者かが我々に何らかの妨害を行なっています。至急お戻り下さい司令!』

 

「な、なんですって!?わ、分かったわ!すぐに行くわ!」

 

 

琴里はすぐに『フラクシナス』へと移動した。

 

 

 

―――その頃の琴里終了。

 

 

 

ビリビリビリビリっっ…………

 

士道が耳につけていたインカムに突如変な音が流れる。士道は怪訝に思い通信を行う。

 

「琴里、令音さん。何か問題が発生したのですか?」

 

『……………………』

 

琴里と令音たち『フラクシナス』側からの通信はない。怪訝に思った士道は足を止める。その時ドライグが突然警告をする。

 

『―――前を見てみろ相棒、見覚えのあるやつがいるぞ』

 

「っ…………あいつが全ての元凶だろうな」

 

士道はドライグの言葉に、電信柱に視線を向ける。そして電信柱の影から現れたのは、あの男だった。

 

「―――やあ、五河士道くん。この前以来だね」

 

「……よお、魔法使いさん。とりあえず―――その顔面を一発殴らせろおおおおおおお!!!!」

 

ドガアアアアアッッ!!

 

士道は魔法使いにものすごいスピードで迫り、拳を振り上げるが―――見事に避けられ、士道の拳は電信柱を真っ二つに破壊した。

 

「―――いやいや相当なものだよ、五河士道くん」

 

魔法使いは電信柱を真っ二つにした士道に拍手を贈る。魔法使いは律儀なことに、自身の魔法で士道が破壊した電信柱を復元させた。

 

『相棒、気持ちは分かるがまずは落ち着け……籠手なしの相棒ではあいつに触れることすら叶わないぞ?』

 

ドライグの忠言に士道は「―――そうだな」と返した。再び魔法使いと士道が相対するようになった時、魔法使いは口を開いた。

 

「この前とは随分と雰囲気が変わっているね。……見違えたよ本当に―――どうやら己の過去を乗り越えたみたいだね」

 

「ああ、おかげさまでな」

 

士道は魔法使いに対して、普通に会話をしていたが、最大限に警戒をしていた。

 

「―――んで、何しにこんな所へ来たんだよ?俺はアンタの話し相手を務めるほど暇じゃないんだが……」

 

「いやいや、キミは僕に殴りかかったじゃないか?」

 

「―――それはまあ、俺がアンタを殴るのは必要条件だと思ったからだ」

 

「……酷いね。僕はキミに興味を持っただけなのに」

 

「男に興味なんざ持たれても嬉しくねえよ。―――何しにこんなところへ現れた?『フラクシナス』の通信機器の異常もアンタの仕業だろう?」

 

魔法使いと士道は会話を交わしていたが、士道はできるだけ学校に向かおうとしていたため、すぐにこの男との会話を片付けようと考えていた。

 

「―――さすがにいい読みをしてるね。―――ご名答、『フラクシナス』への妨害は僕の魔法によるものさ。では五河士道くん、僕が………計画の邪魔になりそうなキミを殺しに来た―――と言えばどうするつもりかな?」

 

「ッ!!」

 

士道はすぐに身構え、『赤龍帝の籠手(ブーステッド•ギア)』を出現させ魔法使いに構えた。

士道は魔法使いに一言だけ静かに告げた。

 

「―――別に俺は、家族や仲間のためならいつ死んだってかまわないと思っている…………だが、今は死ねない」

 

士道は行く手を塞ぐ魔法使いと戦うことを決意していた。―――圧倒的に実力の差がある相手でも逃げないことを決めていた。……俺を待っている人のもとへと向かうために。

 

「……俺には待たせている人がいる―――いや、俺との約束の返事を聞くことは叶わなかったが、きっと俺を待っていると思う。だからアンタが俺の前に立ち塞がるならば押し通る―――寿命の九十九%を消費するような()()()()()()()()を使ってもな!!」

 

士道の神器の中には、バランス•ブレイカー以外にも封印されたドライグの力を強引に引き出す『覇龍(ジャガーノート•ドライブ)』と呼ばれる語るも悍ましい力が宿っている。

 

だが、その力は暴走が必至で、多くの宿主がそれによって命を落としていった。かつて『兵藤一誠』も周囲のものをただひたすらに破壊する修羅になるほど暴走し、寿命が九十九%消耗したほどの反動を受けたほどだった。

 

士道は既に神器で倍加を始めており、士道の力はどんどん高まっていた。しかし、魔法使いは士道の覚悟を聞いて口の端をつりあげる。

 

「……その言葉が聞けただけで十分だよ五河士道くん」

 

「は?―――どういう、ことだよ……」

 

魔法使いの言葉に士道は反応に困っていた。士道の困惑する様子を見ながらも、魔法使いは続ける。

 

「僕はキミの覚悟を見たかったんだよ。キミが本当に精霊たちを救う覚悟があるのか―――キミが自分の意思で精霊たちを救おうという覚悟があるのかを僕は見たかった。……キミなら信頼できる。―――これをキミに渡しておこう」

 

魔法使いは紙袋を移動魔法で士道のところまで運んだ。士道が袋の中から出てきたのは、銀色でラインの細い腕輪だった。その腕輪は、士道の記憶の中に存在するアイテムだった。

 

『…………この腕輪は―――まさか()()なのではないか?』

 

ドライグも士道と同様にリングについて知っていた。そのリングとは―――かつて『兵藤一誠』が白龍皇の『ヴァーリ•ルシファー』と戦う時にバランス•ブレイカーになるための対価としてアザゼルから貰った腕輪だった。

 

「……キミのバランス•ブレイカーは特殊なものだ。おそらく、キミの相棒もキミの体に合わせて調整を行なっているのだろうが、まだ時間がかかるだろう。―――この腕輪の効力が持続する時間は十秒だけだ。キミの作戦で、万が一の事態が起こった時の保険だと思ってくれて構わない」

 

……この魔法使いは士道の現状をほとんど把握していた。バランス•ブレイカーもそうだが、ドライグのことまでこの魔法使いは知っていた。―――士道の頭の中には、とある存在がこの魔法使いに当てはまるのではないかと思い、士道は声に出す。

 

「おい、ちょっと待て!!アンタの正体は―――まさか!?」

 

士道が自分の思いついた人物の名前を出そうとすると、魔法使いは手を前に出して士道を制した。

 

「おいおい、僕のことをあんな未婚でサボりな堕天使のポンコツ総督だと思われるのはちょっと遺憾だねぇ。僕はあの総督と戦っても負ける気はしないし、キミの相棒と戦っても僕は負けるだろうけど、ドラゴンとしては再起不能に追い込むくらいはできると思うからねぇ」

 

(どんだけ強えんだよ、この男は!?)

 

『……確かに虚勢をはっているようには見えない。あの男はそれほどまでの実力を有している。その身に纏っている濃密な魔力は、魔王「サーゼクス•ルシファー」以上のものを感じる。

あの男は全盛期の俺でもかなり手こずる相手だ。―――人間でここまでの強者は見たことがない』

 

ドライグも目の前の魔法使いの実力を脅威的に感じていた。

 

「では五河士道くん、健闘を祈るよ。あ、『フラクシナス』の人たちには僕と会ったことは話さないでくれ。―――僕たちはあまり人に知られることを好んでいない。邪魔者はこれで失礼をするよ」

 

魔法使いが足元に展開した時だった。士道は魔法使いに最後に一つ訊く。

 

「……すみません、最後に一つだけいいですか?」

 

士道は魔法使いへの態度を改めていた。それは自分を認めてもらえたということと、自分にあの腕輪を何の対価もなしに手渡したことへの感謝を込めての行動だった。

 

「なんだい?五河士道くん」

 

「―――名前を教えて下さい。あなたは俺のことを知っていますが、俺はあなたの名前を知らないんで、聞いておこうと思いまして」

 

士道が聞きたかったのは、あの魔法使いの名前だった。士道に魔法使いは答える。

 

「―――僕の名前は『ソロモン』だ」

 

魔法使い―――ソロモンは自分の名前を言うと、何処かへ消えた。士道のインカムに琴里から通信が入る。―――その声は士道の安否にかなり心配になっている様子だった。

 

『―――ドー!士道!!聞こえるなら返事をしなさい!!』

 

「……聞こえているよ、琴里。って言うか、何があったかは俺が聞きたいくらいだよ」

 

士道のインカムが復活し、琴里からの通信が入ると言うことは、ソロモンが『フラクシナス』にかけた妨害の魔法を解除したみたいだ。

 

士道はあたかも自分には何もなく、『フラクシナス』で起こった異常事態について訊くことで、ソロモンと接触したことを隠した。―――どこまでいっても彼はお人好しのおっぱいドラゴンなのだ。

 

 

 

 

――◆――

 

 

 

「……そりゃまあ、普通に考えれば臨時休校になるのは当たり前だよな。学校は完璧に破壊されてるし…………でも、昨日の今日だというのに、まるで現実感が無い」

 

士道は目的地の来禅高校に到着した。瓦礫の山と化した学び舎を見てボサッと呟いた。

 

『………相棒の夢というわけでもなさそうだ。相棒、近くの瓦礫の中に昨日の出来事が夢ではないことを証明するものがあるぞ』

 

士道はドライグの言葉に士道は校舎内に入り、近くにあった瓦礫をあさった。その中から出てきたものは、『十香』と書かれた黒板のかけらだった。士道は見つけたものを手に取り、微笑んだ。

 

(夢じゃなかったんだな…………俺はそれだけで―――)

 

『……救われたか?』

 

「―――ああ、ドライグ」

 

士道は満足そうに黒板のかけらに書かれた『十香』という文字をなぞっていた時だった。士道の後ろから自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。

 

「―――おい、シドー」

 

(こ、この声は―――まさか!?)

 

士道が振り返ると、瓦礫の山の上から士道を見下ろす一人の少女の姿があった。……そう、彼女の名前は―――

 

「―――十香!来てくれたのか!」

 

「む?『来てくれたのか!』ではなかろう。おまえから誘ったのであろう、デェトとやらに」

 

十香は士道との約束を覚えていてくれていたみたいだ。―――返事を聞くことはできなかったが、十香が来てくれたことに士道はとてもいい満足していた。

 

「―――さあシドー、早く私とデェトだ!デェトデェトデェトデェトデェト!」

 

十香は『デェト』と連呼しながら士道との距離を徐々に縮めていく。士道は十香の反応に少々困っていた。

 

「わ、分かったから!と、とにかくその服だと、ASTの連中が確実に襲い掛かってくる。だから着替えてくれないか?」

 

士道が言うと、十香は少し頰を赤くしながら士道に訊く。

 

「……シドー、まさか私にここで脱げというのか?」

 

十香の言葉に士道は鼻の下を伸ばして十香に詰め寄る。―――士道は十香の言葉にいやらしい妄想を爆発させていた。

 

「ほ、本当か!?本当に十香はここで脱いで―――ガハッ!!」

 

ドゴッ!

 

瓦礫の山とかした来禅高校に小気味いい打撃音が響き渡る。十香が士道の腹に鉄拳をお見舞いし、士道はくの字に体を曲げて倒れ込んだ。

 

「こ、この不埒もの!私がこんなところで脱ぐはずがなかろう!!」

 

十香は顔を真っ赤にして倒れこむ士道に言った。

 

『―――誰かこの変態に裁きの鉄槌を!』

 

相棒のドライグですら士道の味方をしなかった。

 

 

 

―――その頃の『フラクシナス』②

 

 

「ふむふむ、士道くんもなかなか攻めるねぇ」

 

「……これで童貞というのが恐ろしい。私も彼のようにもっとエロを追求しなければ」

 

「ふむふむ、なるほど。これは私も度肝を抜かれたよ」

 

「……シンがここまで積極的だったとはね。人は見た目によらないということか。今度シンに近づく時は犯されないように注意する必要があるかもしれない」

 

早すぎた倦怠期(バットマリッジ)』川越を順番に『社長(シャチョサン)』若本『次元を超える者(ディメンション•ブレイカー)』中津川の男性陣が士道を褒めて?いた。―――令音以外の女性陣は士道にドン引いていた。

 

「士道くんの気持ちも僕には理解できます、僕も司令の全裸の姿があ―――げふううっ……」

 

神無月が全てを言い切る前に琴里が神無月の腹部に強烈な膝蹴りをお見舞いする。

 

「―――神無月、あんたアマゾンに行ってデンキウナギを捕まえて来なさい」

 

「はい!この神無月恭平、司令のためにデンキウナギを百匹ほど―――」

 

「千匹よ、このテナガザル。シドーの頭をかち割って脳を取り出してデンキウナギ千匹が泳ぐ水槽の中にぶち込んでやるわ……士道の変態っぷりも少しはマシになるはずよ」

 

士道の味方は男性陣プラス令音だけのようだ。……何はともあれ、『フラクシナス』は今日も平和だった。

 

 

 

―――その頃の『フラクシナス』②終了

 

 

「シドー、結局私はどんな服に着替えれば良いのだ?」

 

十香の言葉に士道は制服の上着の中のポケットから一枚の写真を取り出す。―――琴里の来禅高校の制服姿だ。……ちなみに士道が本当に十香にしてほしい服装は全裸というのは隠しておこう。

 

「………これなら問題ないはずだ。どこにでもいる仲のいい友達同士にしか見えないだろうから、ASTも攻撃はしてこないさ…………………………多分」

 

「何故そこまで間合いを開ける必要があるのだシドー!?それに多分だと!?」

 

「―――冗談だよ、冗談」

 

「むううぅぅぅぅぅぅ!!バカにされた!バカにされたあ!!」

 

十香は士道のジョークにはめられて頰を膨らませて怒っていた。でも、士道は十香の頭を撫でる。

 

「ゴメンな十香。十香の反応があまりにも面白いからつい…………」

 

「『つい……』ですますなこの馬鹿者!」

 

十香は魔法でドレスの姿から、来禅高校の制服姿へと自分の姿を変える。

 

(一瞬だけだが、十香の生乳が見えた!今日はこれで五発はいけるぞ!)

 

『僕は何も聞こえないもーん!』

 

士道は鼻の下を伸ばし、ドライグはついに現実逃避を始めた。

 

「さあ、シドー、デェトだ!」

 

「―――ああ。今日はとことん楽しもう、十香」

 

こうして士道は初めてのデートに挑んだ。―――彼らの戦争(デート)が今始まろうとしていた。

 

 

 




ソロモン「ポチッとポチッとずむすむいやーん」

ドライグ『うおおおおおおおんんんんん!!!!』

次話から本格的なデートが始まります!


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六話 デートを楽しみます!

デートの内容も原作とはある程度変更をしていこうと思っています。

とりあえずここでもシリアスだけでなく、所々ギャグを挟んでいきたいと思っています。
仲を深めるには、笑いが絶対に必須ですからね!




「シドー、このお店は一体なんだ!?―――なんだ!?なんだああああああ!!」

 

十香はとあるお店のガラスに顔をくっつけ、自分の吐息でガラスが曇るほど中の商品に夢中になっていた。

このお店は士道たち来禅高校に通う生徒たちの間では、知らない者はいないほど有名なパン屋さんなのだ。

 

「ここはパン屋だよ。十香、どのパンが食べたい?」

 

「―――あのきな粉パンとクリームパンとやらが食べたい!」

 

士道が十香に訊くと、十香は目を輝かせながら士道に答えた。士道はこのパン屋の中できな粉パンとクリームパンを買い、ついでに子供のいたずらとして()()()()()()も一緒に買ってから、十香のところに戻った。

 

「し、しし、し、シドー!………わ、罠ではなかろうな?」

 

十香はヨダレを滝のように流しながら士道が買ってきたパンを見つめていた。

 

「………違うよ。ほら、十香」

 

十香はきな粉パンにパクリと噛み付くと、トビウオが飛び上がるように叫ぶ。

 

「―――う、うまああああああいいいっ!」

 

「そうだろそうだろ!ここのパン屋さんは俺たちの学校に通う奴らの中では知らない者はいないと言われたほどの素晴らしいパン屋さんだ。ほら十香、まだクリームパンと()()()があるぞ」

 

「―――では、その『おまけ』とやらからいただこう」

 

十香は士道の予想とは反して『おまけ』の方から食べようとしたが、士道が十香を止める。

 

「ちょ、ちょ待てよ十香。こっちのクリームパンを食べてから『おまけ』の方が絶対いいって。この『おまけ』がここのパン屋の一押しなんだ。楽しみは最後まで取っておこうぜ」

 

「………うむ、そうだな。シドーがそう言うのならそうしよう」

 

十香はクリームパンを食べても先ほどと同じリアクションをしていた。

―――だが、最後の『おまけ』は他の二つのパンとは根本から異なるものだった。十香は士道が『おまけ』で買ったパンを口にしてしまい………涙目になっていた。

 

「ううっ―――」

 

(………そりゃ涙目になるだろうな!こいつはあのパン屋が有名になった躍進を支えた最強の激辛パン―――()()()()()()()()()()()だ!世界で一番辛いと言われる唐辛子をスパイスにして作られたカレーが中に入っている殺人パンだ!これを食べて叫び声を上げない奴は世界でも数えるほどしか―――)

 

「シドー、このパンは凄いぞ!辛さともちもちが絶妙に絡み合って別次元の旨味を引き出しているのだ!!このパンは最高だ!」

 

―――士道は十香があまりの辛さに泣き叫ぶことを想定していたが、十香はムシャムシャとまるでさっきの二つのパンと同じパンを食べるように食べる。これには士道くん、思わずビックリ!

 

「………ま、マジかよ!?」

 

『ハハハハハ、あてが外れたな相棒。人間と精霊では、辛さに対する耐久力が格段に違うのだろう。相棒、人間は脆弱だな』

 

ドライグは士道の失敗を笑っていた。だが、今度は士道に大きな試練が待ち構えていた………それは―――

 

「ほら、あーん」

 

「あーん!」

 

別のカップルがよくやるあのシーンを十香は興味深そうに見ていた。それを見て十香は士道に視線を向ける。

―――士道は恐怖で青ざめていた。その理由は至極簡単なことだ。それは十香が手に持っているパンにあった。

 

「シドー、あーん!」

 

十香は半分ほど食べたパンを半分にし、士道の口へと殺人パンを近づける。

 

「―――嫌だ!絶対に嫌だ!!」

 

………頑なに士道が否定をすると、十香は今にも泣きそうな顔で士道に訴える。

 

「………そんな!?シドー、私との『あーん』はそこまで嫌なのか!?」

 

『おい相棒、それは紳士として最低だ―――見てみろ、「()()()()()」が泣きそうになっているぞ!このままでいいのか女性を泣かせてしまってもよいのか、相棒!!』

 

ドライグは十香のことをアルトリアと読んで士道の行為に批判を入れる。

琴里もドライグと同じだ。

 

『―――ほらシドー、女の子からの「あーん」を断るなんて最低だわ。ほら、さっさと口にしなさいよ!』

 

―――ここには、どこを探しても士道の味方をしようとするものはいなかった。

士道は覚悟を決め、十香に言う。

 

「―――ああもう!分かったよ!」

 

「本当かシドー!はい、あーん」

 

「………あーん―――――んぎゃあああああああああああ!!」

 

………世の中には、自業自得という言葉があるが、今の士道にとってはこの言葉以外に適切な言葉はなかった。

 

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

 

日が当たらず、人気の少ない路地で士道と十香のデートを尾行する一人の少女がいた。―――鳶一折紙こと、折紙だ。

折紙は栄養価の高いウィダーインゼリーを飲みながら二人の観察を行っていた。折紙は手に持つ端末を確認し、現状を確認していた。

 

「………あの女は精霊の『プリンセス』に違いない。―――けど空間震警報が鳴っていないのはなぜ?」

 

………精霊が地上に現界すれば空間震が起こるのだが、今日は空間震が発生していないのだ。折紙が持っている端末にも、『環境状態、正常』と表示されていた。

―――折紙は上官である燎子一尉に通信を入れる。

 

「―――こちらAST、鳶一折紙一曹。A―0613」

 

折紙は簡潔に用件を述べる。

 

「観測機を一つ、こちらに回して」

 

 

 

 

――◆――

 

 

 

 

 

「………マジで死ぬかと思った。もう止めよう………他人の不幸を笑おうとするのは」

 

士道は自分の行為を心の底から反省していた。

 

「美味しかったなシドー。私はまたあの激辛ハバネロカレーパンを食べたいぞ!」

 

―――十香はいたずらをされたとは微塵もおもっていなかった。

 

「シドー、今度は私はアレが食べたいのだが!」

 

十香は売店のフランクフルトが売っている店に走っていった。士道もそれに合わせてフランクフルトを購入し、十香に手渡す。―――十香はフランクフルトを三本同時に食べていた。

ドライグは十香の食欲に感嘆の声を漏らす。

 

『………本当にいい食べっぷりだな。相棒よりも大食感なのではないかあの小娘?』

 

(………なるほど、だからあんな美乳になると?来禅高校の女子たちも十香の食べっぷりを見習ってどんどん美しい乳を持つ女性へと変貌して貰いたいよ)

 

『―――相棒、着眼点はそこではなかろう………』

 

ドライグは士道のおっぱい好きに困っている様子だった。

十香はフランクフルトを頬張りながら、とある親子のやり取りを目にしていた。

 

―――少年がフライドチキンを食べ終わり、ゴミをゴミ箱に捨てた。そして少年はお母さんと思われる人物のもとへと掛けて行く。

 

「お母さん!ぼくちゃんとゴミを捨てられたよ!」

 

「―――あら、えらいえらい」

 

少年はお母さんに頭を撫でてもらっていて、とても満足そうに笑っていた。―――十香は羨ましいと思ったのか、フランクフルト三本を一瞬で食べ終わり、そのゴミを『燃えるゴミ』と書かれたゴミ箱に捨て、士道に近づき、頭を出す。

 

「―――フン………フン!」

 

十香は鼻で声を出しながら士道に「早く頭を撫でろ」と言わないばかりに髪をくくっているリボンをフリフリと揺らす。士道は恥ずかしそうにしながらも十香の頭を優しく撫でた。

 

「♪」

 

十香はとてもご機嫌だ。だが、士道もどうにかしてデートを盛り上げようと、少ない経験値を生かしながら精一杯努力していた。

 

(―――や、ヤベェ!めっちゃドキってしたぞ―――今日の十香めちゃくちゃ可愛いよ………)

 

『………相棒も一人前になったなぁ。俺が隠居しても相棒は十分やっていけそうだな』

 

………ドライグも士道の頑張りを称えていた。しかし、ドライグもまだまだ頑張らなければならない。士道とドライグはセットで『乳龍帝おっぱいドラゴン』なのだから。

 

「………シドー、デートというものは良いものだな」

 

士道は十香の手を引っ張って宣言する。

 

「こんなものは、まだ序の口さ。さあ行くぞ十香、まだまだ知らない場所にお前を連れてってやるよ!」

 

「うむ!」

 

士道と十香は食べ歩きをしながら街をぶらぶらと歩いた。

 

 

 

―――………

 

 

 

 

『シドー、町の南を目指しなさい。あなたと十香ために面白いアトラクションを用意したわ』

 

士道のインカムに琴里からの通信が入る。士道は怪訝に思い、「町の南側は住宅街じゃなかったのか?」と琴里に返すが、琴里は『騙されたと思って行ってみなさい』と士道に告げた。

 

琴里に指示された通りに南に向かって数キロほど歩くと、なにやらおかしな入り口のような門が立っていた。その門には『ラタトスク』と書かれていた。

住宅街が、祭りの売店のような感じに変わっていたのだ。

 

(………おいおい、まさか俺たちのためにこんなものを用意してくれたのか?)

 

『まあ、「()()()()()」に暴れられて街を破壊されるよりは安くつくと思ってのことだろう。―――俺から言わせてもらえばお金の使い方を間違えているが、相棒たちにとっては有難い仕掛けだな。思いっきり楽しませてもらおうじゃないか』

 

ドライグは十香に『()()()()()』という名前が否定されたことをまだ根に持っているみたいだ。今も『アルトリア』と呼んでいるあたりから察すると、十香は絶対に頷くとドライグは思っていたのだろう。

 

士道が入り口の門を通ると、ファンファーレが鳴り、紙吹雪とクラッカーの音が鳴り響く。

士道と十香の前に祭り服を着た『早過ぎた倦怠期(バットマリッジ)』がベルを鳴らしながら近づいてくる。

 

「おめでとうございます!あなたたちは我が『ラタトスク商店街』の記念すべき十万人目のお客様でございます!本日は特別サービス!なにを食べても全て無料、タダでございます!」

 

(―――無茶苦茶だろ!?)

 

士道は早過ぎた倦怠期(バットマリッジ)』が言っていることに心の中で盛大にツッコむ。それに合わせて売店の店員たちが一斉に『いらっしゃいませ』と挨拶をする。

―――この人たちもラタトスク機関の人たちだ。

 

「シドー、ここは食べ物の宝庫だ!―――あ、アレはまだみたことがないぞ!!」

 

十香は売店に走っていった。士道は十香に一言だけ言う。

 

「いくらでも食べていいぞ十香。タダで食べさせてもらえるんだからさ!」

 

―――士道との食べ歩きでも相当な量の食べ物を食べたにも関わらず、十香はたこ焼きやお好み焼き、ハンバーガーやお寿司などをモリモリ食べていた。

 

『………これからあの小娘の名前は「アルトリア」ではなく、「胃袋ブラックホール」に変えた方が良さそうだな………そういえば、「アルトリア」も空腹王だったな………懐かしいものを思い出させてくれる』

 

ドライグはボサッと自分が語られている地域の昔の伝承を思い出しては耽っていた。

 

一通りの売店を回って次はどうしようかと考えていた時だった。

 

「―――ドー………シドー」

 

士道はなんとか次のプランを真剣に考えていたため、十香の声は聞こえていなかった。

 

「シドー!!」

 

「―――うわッ!?ご、ゴメン十香。ちょっと考え事をしてて………」

 

士道は自分のことで精一杯になっていた。いきなり十香に大声で自分の声を呼ばれたことにびっくりして、十香に謝る。

 

「―――その、シドー………楽しくないか?」

 

「―――ッ!!」

 

士道は十香にいきなり言われて士道は目を見開く。

 

「その………私ばかりが盛り上がってしまっている気がしてな………シドーは私とのデェトは楽しくないか?」

 

パンッ!

 

士道は自分の不甲斐なさに苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、自分の頰を自分の手でひっぱたいた。

 

「―――シドー!?一体どうしたのだ!?」

 

十香が士道を心配して声をかけるが、士道は十香に深く頭を下げる。

 

「………ゴメン!自分のことで精一杯になってた。俺が十香を引っ張ってあげないといけないって思い過ぎててな………。心配かけてゴメン。―――でも、もう大丈夫だ」

 

「シドー………」

 

「十香、今日のデート俺は本当に楽しいんだ。だからもっと楽しいものにしたいと本気で考えてたんだ。でも、それで精一杯になってたらダメだよな………本当にゴメン」

 

「うむ、気にするなシドー。シドーが楽しければそれで良いのだ!」

 

十香は再び笑顔を取り戻してくれた。そして、士道は大きく息を吐いた。少し、肩が軽くしたかったのだろう。

 

「―――なあ十香、あの福引に挑戦してみないか?」

 

「その―――ふくびき?とはなんだ、シドー?」

 

「あのガラガラだよ。アレを一回だけ回して中に入っている玉を出すんだ。―――これは別料金が発生しますか?」

 

士道が福引のお姉さんこと、『藁人形(ネイルノッカー)』椎崎に訊くと、椎崎は「一回だけならタダです」と言った。

士道が十香に福引を回させようとすると、十香が士道の手を握る。

 

「ん?どうした―――なるほど、分かったよ」

 

「うむ!さすが私のシドーだ!」

 

士道と十香は二人で福引を回した。そして―――

 

チリンチリン!チリンチリン!

 

「大当たり!特等です!特等はドリームランド全施設無料ペアチケットがプレゼントされます!」

 

「ま、マジかよ!?ていうかなんだよ!?その『ドリームランド』って!?」

 

『夢の島だな』

 

(そのまま訳してんじゃねえ!!)

 

まさか、士道と十香は福引一回で特賞を当ててしまったらしい。流石に無料で引かせてもらっていきなり特賞を当ててしまうのは、どこか悪いと士道は感じていた。

 

「シドー、早速言ってみようではないか!」

 

「―――ああ、そうだな!」

 

士道と十香は手を繋いでそのドリームランドまで歩いた。

 

 

 

―――………

 

 

 

「―――な、なん………だ、と!?」

 

「おおっ、見てみろシドー!こんなところに城が建っているぞ!」

 

『ドリームランド』と思われる建物に士道と十香は辿り着いた。士道は凍りつき、十香は大はしゃぎだ。

………これも作戦と思われるのだろうが、士道はここが何をする建物なのかは、すぐに理解できた。

『休憩四千円、宿泊八千円』と書かれた看板があり、その横に今さっき作りましたと言わないばかりの『ここにデートの真髄あり』と書かれた小さな木でできた看板もその横に建てられていた。こんなものがあれば、何も知らない無垢な十香を誘導するには充分すぎる代物だった。

―――そう、ここはR18の愛を育むホテルだったのだ。

 

『………相棒、気張れよ!念願の童貞を卒業するところは、俺もしっかりと見届けてやるからな!』

 

ドライグは士道が大人になる姿をしかと見届けるつもりらしい。

 

「………さあ、仲の良いお二方、心ゆくまでお楽しみ下さい!」

 

ラタトスク機関の職員の一人が普通に呟く。そこに『早過ぎた倦怠期(バットマリッジ)』こと川越が士道の耳に囁いた。

 

(………さあ、士道くん!男を見せる時だ!)

 

ところが囁いた川越とは違い、士道は川越の胸ぐらを掴んで宙に浮かす。

 

「ざけんな!アンタこの小説のタイトルを『セ◯クス•ア•ライブ』に変更する気か!?」

 

………もう川越は囁くことはせず、そのまま大胆に告げた。

 

「何を言っているのかね、士道くん!全国約四千万人のアダルティの皆様はこの展開を望んで―――」

 

「ねえよ!!」

 

士道は川越を真っ向から否定した。十香はこの建物を見て、目を輝かせていた。

 

「シドー、ここに入ろう!私にデェトの真髄を教えてくれ!」

 

―――十香は入る気満々だ。………だが、士道は十香の手を引っ張って別の場所に移動しようとする。

 

「………十香、また今度にしないか―――いや、俺も本当は入りたいんだけど、今日はやめておこう!」

 

「なぜだシドー?私とデェトの真髄だ!デェトの―――!!」

 

「―――また今度必ず行ってやるから、な?」

 

とにかくなかなかこの場を動こうとしなかった十香を士道は強引に引っ張って移動させた。

 

 

 

―――その頃の『フラクシナス』③

 

 

 

「さすがシドーね。相変わらず期待を裏切らないわねぇ………」

 

琴里は士道のチキンっぷりに頭を抱えていた。令音は琴里に言う。

 

「………きちんと段階を踏むあたりはシンらしいじゃないか。………まあ、シンもまんざらではなかったのだろうけどね。心拍数が大幅に跳ね上がっていたし、鼻の下も伸ばしていた」

 

―――令音は見るところはしっかりと見ていた。そこに神無月が熱い詩を歌う。

 

「………『童貞』それは男の子にとって重要なステータス。童貞であることは恥じることではない!本当に恥じるべきなのは、『本当に好きな人ができるまで童貞を守り通すことのできない野郎』なのだ!自分の童貞すら守り通せないものに何も守れはしない!!」

 

パチンッ

 

琴里が指を鳴らすと、黒服のSP二人が神無月の両腕を掴んで退出していく。

 

「司令、お慈悲を!お慈悲をおおおおおおおおおお!!!」

 

その時令音が小さくだが、何かをつぶやいた。

 

「………いずれシンの貞操は私が貰う」

 

 

 

 

 

―――その頃の『フラクシナス』③終了

 

 

 

 

 

「うわッ!雨が降るなんて聞いてねえぞ!今日は降水確率は『降矢零』%じゃなかったのかよ!?」

 

『いやいや相棒、だれがうまく言えと言った?』

 

十香をどうにかあの『ドリームランド』から引き離せた士道だったが、予想外の雨に打たれてくだらない親父ギャグを漏らす………そこに変わらずドライグの日本刀並みの鋭いツッコミが冴え渡る。

 

「―――十香、ゲーセンに寄って行こうぜ。雨宿りもできるし、ちょっとやりたいことがあるんだ」

 

「了解した。シドー、それはなんだ?」

 

シドーがやりたかったこと―――それはプリクラだ。二人のデートの記念でどうしても士道が残しておきたかったものなのだ。

―――士道が『兵藤一誠』の時にアーシアや朱乃とデートをした時に自分に残る想い出の保存として必ずやることがこのプリクラだった。

 

「おおっ、シドー見てくれ!文字が書けるぞ!」

 

「―――ああ。こんな感じでいいだろう」

 

士道は十香に機械から出てきたプリクラを渡した。写真の中の一つには、『ずっと一緒』と士道が書いたものもあった。―――士道の気持ちが現れた一枚だった。

 

「………私もシドーとずっと一緒にいられたらいいのだがな」

 

十香はボソリと呟いたが、士道には聞こえていなかった。

 

最後は、きな粉パンのクッションを士道がクレーンゲームで一発でとってあげ、十香にプレゼントした。十香はこの上なく喜んでいて、その時の笑顔は士道にとって最高のお礼として心の中に残った。

 

 

 

 

―――………

 

 

 

士道と十香がゲーセンを出た時には、すでに雨は上がり、空は夕日に染まっていた。

士道と十香は町が見渡せる高台へと移動をした。

 

「おお、絶景だな!」

 

十香は落下防止の柵から身を乗り出し、黄昏の天宮の街並みを眺めていた。

 

「………ここは俺のお気に入りの場所なんだ。何かあって悩んだりしたら、いつもここに来て夕日を眺めたりして心を落ち着かせていたんだ。―――いい場所だろ?」

 

士道は自信を持って十香に言った。士道はよく琴里を連れてここに遊びに来ていた。いずれは仲の良くなった女性とここに来たいと思っていたのだ。

 

「シドー!あれはどのように変形するのだ!?」

 

十香が遠くを走る電車に指をさして、目を輝かせながら士道に訊く。

 

「―――変形はしないかな?………まあ、連結はするかな」

 

「おお、合体タイプなのだな!」

 

十香は士道の言葉を興味深く聞いていた。………今度は士道が十香に話を切り出した。

 

「………十香、今日はどうだった?―――楽しかった………か?」

 

士道が訊くと、十香はこれ以上ない満面の笑みで答える。

 

「ああ、最高に楽しかったぞ、シドー!」

 

「―――ッ!!………そうか」

 

士道は溢れ出そうになった感情を強引に抑え込んだ。………十香の目の前で涙を流さないと決めていたのだ。

………だが、十香は少しだけ寂しそうな表情をしながら士道に言う。

 

「………あんなにも多くの人間が私に優しくしてくれた。世界がこんなにも優しく、綺麗だなんて………思いもしなかった。………だから―――」

 

十香は顔を上げ、笑顔を作って士道に告げる。

 

「シドー。私は………この世界には不要らしい」

 

「っ………!!」

 

シドーは十香の言葉に返す言葉が詰まった。十香の笑顔は、まるで生きている感じがまるでない死人のような作られた笑顔だったからだ。

………だから士道は拳を強く握り、ひときわ大きな声で十香を怒鳴った。

 

「―――そんな悲しいこと言うなよッ!!」

 

「………シドー?」

 

いきなり士道が声を荒げたことに十香は反応に困っていた。だが、士道は止まることなく自分の想いを伝えた。

 

「お前のことを不要だなんて思っている人間はいない!どうしてそんな悲しいことを平気で言うんだよッ………」

 

「シドーは何もわかっていない!私のせいで一体どれだけの美しいものが壊されてきたかシドーもわかっているはずだ!!だからこんな………誰の利益にもならない私のような存在は―――」

 

「―――ここにいるだろ!!お前と………『十香』と一緒にいたいと思っている人間がお前の目の前にいるじゃねえか!!」

 

「………っ!!」

 

士道の言葉に今度は十香が言葉を詰まらせた。士道は自分中の想いを十香に伝える。

 

「………今日は空間震が発生していないじゃないか。………それはつまり、『お前が向こうの世界に帰って、こちらの世界に戻って来なければ』空間震は起きないってことじゃねえか。―――だったらずっとこの世界に居ればいいだけのことじゃねえか」

 

「だが、それは私の意思ではどうにも………それにそんなことが可能になるはずが―――」

 

十香は信じられないと言わないばかりに表情を陰らせていたが、士道は間髪入れずに十香に言う。

 

「―――俺を頼ればいいじゃねえか、十香。俺と十香はもう友達だ。お互いに困っている時は頼り合う………それが『友達』だ。いくらでも迷惑をかけてもいい。俺が全て解決してやる!―――だから十香………『私は不要だ』なんてそんな悲しいことを言うなよ」

 

「………そんなことを言ってくれるのはシドーだけだぞ。メカメカ団や他の人間もこんな危険な存在が自分たちの生活空間にいれば、嫌に決まっている」

 

士道は思っていた。『こんなに他人想いの優しい少女に救いがないことは絶対に間違っている』………と。だから士道は十香を強く見つめて言う。

 

「………他の人間や、ASTの連中なんざ無視して構わねえ!関係のねえ部外者どもが十香のことを否定しても、俺がそいつら以上に十香のことを肯定してやる!!」

 

士道は十香に手を差し出した。十香の肩が小さく震えていた。

 

「俺の手を取れ十香。………お前はこの世界にいてもいい―――いや、いなければならないんだ。………俺と一緒にいてくれないか、十香?」

 

陰らせていた十香の表情はどんどん明るくなっていき、十香は士道が伸ばすてを取ろうと手を伸ばす。

 

「シドー………ッ!」

 

だが、十香が士道の手を取ろうとした時、士道は突然十香を庇うようにして突き飛ばす。

そして士道は―――大量の血を地面に広げながら地面に力なく倒れこんだ。

 

「な、何をするのだ!?」

 

十香は突き飛ばした士道を見て、何が起こったのかが理解できなかった。倒れた士道を見て十香は足を進めるが

 

「―――シドー?」

 

十香の呼び声に士道は答えることはなかった。

 

 




次回で一章は終わりです!

次回「友達、助けます!」

ドライグ『Welsh Dragon Over Booster!!!!!!!』







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七話 友達、救います!

一章もクライマックスです!

感想やアドバイス等をたくさん書いて頂き、本当に感謝しております!

これからもオリジナル展開や、ギャグにさらに磨きをかけていきたいと思っています。

※感想にフラクシナスの様子を書いてくれとあったので、内容を追加しました。
誤字を修正しました。



「―――――」

 

とある小柄な少女は持っていた対精霊用のスナイパーライフルを手放し、放心状態になっていた。

その少女は―――鳶一折紙こと、折紙だ。

 

「―――折紙ッ!」

 

………折紙の通信機に燎子からの通信が入るが、今の彼女には聞こえていなかった。

 

折紙はその手で殺人を行ってしまった。彼女の心は完全に崩壊していた。彼女は自分の両親を殺した、精霊たちと同じになってしまったのだ。

 

『―――返事をしなさい折紙………折紙ッ!!」

 

彼女はもう何も考えることができず、今はただ放心状態になっているだけだった。

………彼女に『黒い魔王』の魔の手が迫っていることは誰が見ても明らかだった。

 

 

――◆――

 

 

「………シドー」

 

十香は倒れこむ士道に自分が着ていた上着をかける。

十香は士道を目の前で失った苦しみから、今にも消え入りそうな声を出して言う。

 

「―――シドーが居てくれれば、もしかしたらと思った………どんなに難しくても大丈夫だって思った」

 

十香は肩を震わせ、拳を強く握る。―――自分の手から血が滲みでるほど強くだ。

 

「―――でもやはりダメだった。世界は………世界は私を否定したッ!!」

 

ズドオオオオオオオオオオオオオッ!!!!

 

十香の体から凄まじい力の波動が解き放たれ、天を貫く!

―――もう誰も十香を制御できる者はこの地上にはいない。………人類は破滅を選んだのだ。

 

「―――『神威霊装•十番(アドナイ•メレク)』………ッ!」

 

十香は自身の霊装の真名を謳う。その時、十香の姿は、来禅高校の女子生徒の制服姿から、精霊時の姿へとその身を変貌させる。―――ここに全てを破壊する精霊が降臨した。

 

ゴオオオオオオオオオッッ!!

 

空が割れ、オーロラのような景色がそこにはあった。雷鳴は轟き、十香から放たれる凄まじい力の放出は、剛風を生み出していた。

 

「―――『塵殺公(サンダルフォン)』!」

 

………十香はさらに踵を地面に突き立てると、大地がひび割れていき、ひび割れた地面からいきなり玉座が顔を出す。

十香は玉座の背もたれから剣を―――『塵殺公(サンダルフォン)』を引き抜き、その『塵殺公(サンダルフォン)』で玉座を一刀両断する。

砕かれた玉座の破片は『塵殺公(サンダルフォン)』と融合し、新たな剣を生み出していた。

 

「―――『最後の剣(ハルヴァンヘルヴ)』!!」

 

十香は『最後の剣(ハルヴァンヘルヴ)』を握ると、怒り狂い自我を失ったかのように吠える。

 

「よくも―――よくもよくもよくもよくもよくもよくもッッ!!」

 

ドオオオオオオオオオオオオッッ!!

 

十香は無慈悲にも、『最後の剣(ハルヴァンヘルヴ)』を振り下ろす。その斬撃は大地を切り裂き、高台の一部が丸ごと削げ落ちるほどの破壊力を発揮した。

 

………そして十香は友を殺したであろう人物の元へと移動していた。その友を殺した人物は両膝をつき、放心状態になっているだけだった。十香はその少女に『最後の剣(ハルヴァンヘルヴ)』を突きつけた。

 

「―――貴様だな………我が友を、我が親友を………シドーを殺したのは貴様だな」

 

十香の目は少女の目から、怒りと復讐に満ちた目へと変わっていた。―――シドーを射殺した少女をまるで両親の仇を見るような目で睨みつけていた。

最後の剣(ハルヴァンヘルヴ)』も十香の怒りに呼応するかのように、剣から凄まじいスパークを放出していた。

放心していた少女―――折紙の顔はさらに絶望した表情へと変わる。

 

(―――私が………五河士道を………)

 

十香は静かに『最後の剣(ハルヴァンヘルヴ)』を振り上げる。ここから『黒い魔王』による人類滅亡のシナリオの序曲である『血祭り(ブロリー)』が始まろうとしていた。

 

「殺して(ころ)して(ころ)しつくす。死んで()んで()につくせッッ!!」

 

ドガアアアアアアアアアッッ!!

 

 

 

―――◇………

 

 

 

「し、士道くん―――心肺停止、呼吸と脈拍はありません!」

 

『フラクシナス』では、士道が折紙に打たれ、クルーたちはパニック状態に陥っていた。

………唯一この状況を打破できる士道が死んでしまったからだ。

しかし、この状況を見ても表情一つ変えずに余裕の表情でキャンディーを舐める少女がいた。

 

「―――相変わらずの偽善者っぷりね。………自分の命よりも他人の命の方が大切って………でもまあ、騎士(ナイト)様としては上出来ね」

 

………この琴里の言葉を聞いて、クルーたちは開いた口が塞がらかった。琴里は実の兄が死んだというのに、まるで他人事のように無関心だからだ。

 

「―――司令、何を言っているのですか。士道くんは―――」

 

神無月が琴里に何かを伝えようとした時、琴里はクルーたちに伝える。

 

「あなたたち、落ち着きなさい。そして作業に戻りなさい。シドーは一回程度死んだくらいなら、やり直し(ニューゲーム)が効くのよ」

 

「は?それは一体どういう――――」

 

神無月は意味がわからないというような表情をしていたが、『フラクシナス』のモニターの様子を見て琴里は口の橋を釣り上げ、不敵な笑みを浮かべる。

 

「―――来たわね」

 

琴里の呟きにクルーたちは一斉にモニターを見る。モニターには異常とも言える光景が映っていた。

 

「こ、これは!?」

 

「―――こ、こんなことが………」

 

クルーたちが見たのは、士道の体が炎を上げて燃えている異様な光景だった。しかも、炎で燃えているのは士道が被弾した脇腹だ。

そして―――炎によって士道の傷がどんどん塞がっているのだ。………まるで不死鳥のように。

 

「ほら、ボサッとしない!早く士道を回収するのよ」

 

琴里の指示に一人だけ反対する者がいた。―――令音だ。

 

「………いや、回収する必要はない。シンなら一人で十香のところまで行けるはずだ。回収した方が逆に時間がかかる」

 

琴里は令音の言葉に反論するが、すぐに令音の言葉に異議を唱えられなくなった。

 

「何を言っているのよ!?早く回収を―――」

 

「………シンには先ほどの再生能力と()()()()()()()()()以外にも、強力な力が眠っている。―――私はその力の正体を知りたい。琴里はそれについては知りたくないのかい?」

 

「………………」

 

琴里は何も返すことができなかった。士道には、不可解な点が令音にはあった。

それは士道が十香と話し合いをした時に出現させた『赤龍帝の籠手(ブーステッド•ギア)』のことだ。令音たちはあの腕については全く知らないのだ。

 

「―――分かったわ。令音、シドーが目覚めたら指示をお願い」

 

「………了解した。神々の黄昏(ラグナロク)にはまだ早い。………シン、世界を救えるかどうかはキミ次第だ」

 

 

 

 

――◆――

 

 

 

 

「………………は?」

 

士道は全く理解できていなかった。何者かによって脇腹を撃ち抜かれたのだが、傷が完全に癒えており、穴が空いた脇腹もすっかり元どおりだ。

ただ、制服の脇のところには、穴が開いており、制服には、士道の血がしみ込んでいた。

 

『―――相棒?………相棒!!』

 

ドライグが士道のことを心配したのか、士道の左腕には『赤龍帝の籠手』が具現化しており、ドライグが声を発していた。

 

『うおおおおおおおおおんっっ!!相棒が生き返ったぞおおおおお!!―――相棒、俺は終わったと思ったぞ!!このバカが、少しは自分の命を心配したらどうなのだ!!』

 

ドライグは涙声になりながら士道を叱る。

士道が死ねばドライグはまた別の宿主を探して放流することになる。神の奇跡でふたたび歴代史上最高の宿主である『兵藤一誠』の転生体に巡り会えたというのに、士道が死んでしまえばそれも泡沫の夢として消えてしまうからだ。

 

「すまないドライグ、心配をかけた。―――さて、本格的にヤバくなって来たな………」

 

士道は体を起こし、辺りを見渡すと、高台から見える美しい風景が変わり果てていた。

士道の目に映ったのは、綺麗な緑に生い茂った山々ではなく、木々は薙ぎ倒された不毛の大地とかした山が多々見られ、そこには、何かを叩きつけた時に起こる爪跡のようなものが複数つけられていた。

 

士道が周りの風景を見て、危機感を感じた時のことだった。

 

ゴオオオオオオオオオッッ!!

 

近くの崖が崩れ、その土砂が衝撃波と共に士道をめがけて襲い掛かる!

 

「―――ドラゴン•スマッシュッッ!!」

 

士道は『赤龍帝の籠手(ブーステッド•ギア)』を纏った左腕を振り上げる。その時、地面からオーラで模倣した龍の爪を出現させ、衝撃波と土砂を切り刻む。

 

『―――相棒、今の技は………………』

 

「………俺もなドライグ、家族を守る強さを身につけるためにずっと修行は続けていたんだ。今のは俺が新たに身につけた技の一つだ」

 

そう、士道はずっと鍛錬を重ねて強くなってきた。―――もう何も失わないようにと。理不尽を受けている人たちに救いの手を差し伸べることができるようにと。

………勿論、士道はこれからも鍛錬を続けていくだろう。これまでは他人を護れる強さを士道は求めてきたが、これから士道が求めるのは、『救う強さ』だ。

 

士道が理想としているものはものはただ一つ―――

 

“―――精霊たちを救う”

 

士道はその想いを確認した後、ソロモンから預かった銀の腕輪を自身の左腕に着ける。

 

「―――行こうぜドライグ、これは『救う』為の戦いだ!」

 

『ああ!!見せてやろうぜ相棒―――俺たちが見出した可能性をッッ!!』

 

士道とドライグの想いに『赤龍帝の籠手(ブーステッド•ギア)』は凄まじい輝きを放つ!

その輝きはまるで空を覆った暗雲を吹き飛ばすような強くも優しい光となった。

 

『Welsh Dragon Over Booster!!!!!!!!!!』

 

カッ!ドオオオオオオオオオオオオッッ!!

 

ドライグの声が響き渡ると、士道の体を赤いオーラが全身鎧(プレートアーマー)として変わり、士道の体へと装着されていった。

未完成のため翼こそないが、その姿は人型の龍とも言える姿だった。

 

『―――相棒、腕輪の効力は十秒だ。………間に合いそうか?』

 

「違うだろドライグ、間に合うかじゃねえ―――間に合わせるんだ」

 

士道の発言にドライグは大笑いをする。

 

『ハハハハハ!その通りだ相棒。久しぶりの大博打だ。派手に楽しもうではないか!!』

 

士道は地面を蹴り、空へと飛び上がる!そして背中のブースターからオーラを放出し、空中を飛行する!!

 

『JET!』

 

士道は十香を救う為に全力で空を駆け抜けた。

 

 

 

―――………………

 

 

 

『………シン、聞こえるかい?』

 

士道が空を飛び始めた頃、令音から士道のインカムに通信が入る。令音は士道に一言だけ伝える。

 

『………訊きたいことはお互いにあるだろうが、まずは聞いてほしい。―――キミには精霊の力を封じ込める力がある。その方法を説明する』

 

「―――俺は一体何をすればいいのですか?十香を助けるためなら俺は何でもやります!!」

 

士道は空中を飛行しながら令音の通信に返答していた。士道はただひたすらに十香のもとへと急行していた。

 

『………彼女を救う方法、それは―――』

 

士道は令音からその方法を聞いた。―――あまりの恥ずかしさのあまり、士道は一瞬止まりそうになったが、士道は止まることはしなかった。

 

「………わ、わかりました!!」

 

―――令音から十香を救う方法を聞いて、士道は鼻血を流し、男の証が膨張していたというのは触れないであげて欲しい。

………彼はスケベであってこその『おっぱいドラゴン』なのだから

 

 

 

 

―――………………

 

 

 

 

「うわああああああああああああ!!!!」

 

ドガガガガガガガガガガガッッ!!

 

無慈悲に全てを破壊する黒い魔王に変貌した十香は、士道を失った悲しみのままに『最後の剣(ハルヴァンヘルヴ)』を振り回し続けた。

―――士道の仇を討つために。

 

十香が『最後の剣(ハルヴァンヘルヴ)』を振り回すたびに木々は薙ぎ倒され、電線は破壊され、美しい自然はことごとく崩壊の道を辿っていった。

 

放心状態の折紙はただひたすらに十香の暴虐をその身に受け続けた。折紙はASTのデバイスによる『絶対領域(テリトリー)』に護られているが、それも限界がないわけではない。

 

「ガ―――ハッ!!」

 

十香の大地を崩壊させるほどの凄まじい一撃がついに折紙の最後の守りであった『絶対領域(テリトリー)』も完全に砕け、折紙はその衝撃で地面に仰向けに倒れ込んだ。

………十香は折紙の目の前に『最後の剣(ハルヴァンヘルヴ)』を突きつける。

 

「―――終われ………」

 

十香は『最後の剣(ハルヴァンヘルヴ)』をゆっくり振り上げる。

………その時、折紙は諦めたのかゆっくりと目を閉じた。

 

(父さん、母さん………)

 

折紙の頭の中には、今は亡き父母の姿が浮かんでいた。

 

「シドー………仇は―――」

 

『―――あああああああああ!!!!』

 

何か叫び声が聞こえ、十香は振り上げた『最後の剣(ハルヴァンヘルヴ)』を静かに降ろし、声が聞こえた方を見た。

その声は―――十香がよく知る人物のものだった。

今度はしっかりと名前を呼んでくれた。

 

「―――十香あああああああああああ!!!!」

 

十香は涙を浮かべながら、声がする方角へと飛んで行く!そして、十香の目には、しっかりと映っていた。姿は変わっているが、しっかりとその人の顔は変わっていなかったからだ。

 

「―――シドー!!」

 

………そう、声の主は士道だった。士道と十香はお互いの距離をどんどんと縮めていき―――そして………

お互いの距離はゼロになり、抱きしめあった。

 

「………すまない十香、心配をかけたな」

 

士道は十香の頭を撫でる。十香からは我慢していたものがこぼれ落ちていた。

 

「―――シドー!シドーッ!!」

 

十香は士道の胸の中で泣き続けた。士道は十香の頭を撫で続けた。―――だが、十香の霊装が点滅をし始め、『最後の剣(ハルヴァンヘルヴ)』は凄まじいスパークを放出する!

 

「す、すまぬシドー!『最後の剣(ハルヴァンヘルヴ)』の制御を誤った。どこかに放出しなければならぬ!!」

 

最後の剣(ハルヴァンヘルヴ)』を放出すれば本当にこの世の終わり―――ロキの悲願である神々の黄昏(ラグナロク)が成就してしまうだろう。その時、ドライグが士道に語りかける。

 

『さあ行け相棒、今こそ男を見せる時だ!』

 

ドライグにも後押しされ、士道は恥ずかしそうにしながらも、十香に言う!

 

「―――なあ十香、俺とキスしよオオッ!」

 

『―――そこで声を裏返らせてどうする!?』

 

………大事なところでバナナの皮を踏んでしまう士道だったが、十香は士道に訊く。

 

「―――な、なに?キ、キスとはなんだ?」

 

「え、えっとその………唇と唇を合わせ―――」

 

士道が全てを言う前に士道と十香は完全なゼロ距離になっていた。そう、士道の記憶のなかでは大事な大事なファーストキスとなったのだ。

―――ほんのりと甘酸っぱい………それは青春の一ページとなった。

 

そして―――精霊の封印はここに成就した。

十香の霊装が光の粒子となって消滅し、握っていた剣もいつのまにか消えていた。

 

「………………」

 

士道と十香は互いの唇から人を引かせながら離れた。そして、士道は十香に謝った。

 

「そ、そのすまん十香!これしか方法がなくて―――だから!!」

 

「―――そ、そんなに見るな………」

 

十香は恥ずかしそうに士道に身体を預けていた。―――そう、今の十香は生まれた時の姿と全く変わらない状態だったのだ。

ちなみに士道はまじまじと鼻の下を伸ばして十香の体を見つめていたのは、言うまでもない。

 

(ああ、ここに天国ありだなぁ〜。一糸まとわぬ十香の体!柔らけぇえええええ!!お、おっぱいが!お、おおっぱいがああああああ!!)

 

『うおおおおおおんんんっっ!!誰かこの変態に正義の鉄拳をお願いしますぅぅぅぅぅ!!!』

 

ドライグは大泣きだ。―――まあ、この状況では泣く以外の選択肢はないだろう。

 

「そ、その………シドー」

 

十香は上目遣いで士道に訊く。士道は十香に答える。

 

「なんだい、十香?」

 

「―――またデェトに連れて行ってくれるか?」

 

「………ああ!いつだってな!」

 

十香は最高の笑顔を士道に見せた。―――士道の手によって人類は滅びを免れた。………まだまだ五河士道の戦いは続く。

 

 

 

 

 

 

そして、士道はいつもの五河士道へと戻り、十香へとお願いをする。

 

「―――十香、お願いがある!」

 

「なんだ、ジトー?」

 

「おっぱいを触らせてくれ!!」

 

「―――ば、バガものおおおおおおおおッッ!!」

 

ドゴンッ!

 

十香はわしゃわしゃと両手を広げてながら迫ってくる士道を蹴り飛ばした。

 

「ぎゃああああああああああ!!!」

 

こうして、またいつもの日常が続くのであった。

 

 

 

その頃の『フラクシナス』④

 

「ふう………何とか終わったわね」

 

琴里は士道が十香の霊力を封印したことにまずは安堵の表情を浮かべた。

 

「………シンの眠っていた力についてもある程度は分かった。後はシンから直接聞けばいいだけのことだ。―――だが、何故だろう………シンが誰かとキスをする場面を見て何故ここまでイライラするのは一体………」

 

令音からは凄まじい殺気が漏れていた。

その時、士道が十香にとんでもないことを平気で言った。

 

『おっぱいを触らせてくれ!!』

 

『―――ば、バガものおおおおおおおおッッ!!』

 

ドンッ!!パリンッ

 

士道の言葉に拳を機械に叩きつけ、機械を破壊した女性がいた―――令音だ。何故か令音はいまベリーベリー不機嫌だ。

 

「―――む、村雨解析官!?」

 

「ちょ、ちょっと令音!?一体どうしたって言うのよ!?」

 

椎崎と琴里が令音のことを心配するが、令音は凄まじい視線を琴里に送る。

 

「………琴里、私をシンのところに飛ばしてほしい」

 

「………一応聞いておくけど―――何をするつもりなの?」

 

「―――言うまでもない、シンを犯す。私以外の女性を考えられなくなるほど徹底的に犯す」

 

「ダメェェェェェェェ!!それは絶対にダメよ!!おにーちゃんの童貞だけは絶対に渡さないわ!!」

 

琴里が令音を止めようとするが、令音は士道のもとへ向かおうとすぐに観測室を飛び出した。クルーたちの尽力もあり、何とか令音の暴走は未然に防ぐ事ができ、士道の貞操は無事に守られたのであった。

 

 

 

―――その頃の『フラクシナス』④終了

 

 

 

――◆――

 

 

〜〜次元の守護者 side〜〜

 

 

「いやぁ〜、士道くんも中々やるねぇ、以前の彼だとここまでは出来なかった筈だよ。………僕たちも彼の頑張りに応えてあげないとね」

 

ソロモンは士道が十香の霊力を封印したことを自分のことのように喜んでいた。その時、ソロモンの後ろには二つの影があった。

 

一つは長い金髪の絶世の美女と、もう一人は身長が二メートルを超える筋肉質の巨漢がいた。

 

「―――ソロモン、()()が貴方のお気に入りですか?………貴方ほどの男がそこまで重要視するような人物には思えないのですが………」

 

金髪の美女は士道の映像を見て、非力な男だと感じていた。しかし、もう一人の方である巨漢は金髪の美女とは別の意見を言う。

 

「う〜ん!良いわねぇ、ああいう熱血漢ってアタシは好きよ〜ん!今はまだ非力だけどぉ、将来的にはアタシたちの計画で最強の駒になってくれるわぁ〜」

 

―――この巨漢はオカマである。筋肉モリモリマッチョマンのオカマである。

 

「―――キミなら僕と同じことを言ってくれると思っていたよ。僕は明日から彼を鍛えようと思っているんだけど………キミはどう思うかい?」

 

「あら、アタシは賛成よ〜ん!だって面白そうじゃな〜い、あんなに鍛えれば伸びそうな男の子なんて全世界を見てもそうはいないわぁ!―――アタシが彼を指導してあげればいいのね?」

 

「―――話が早くて助かるよ。とりあえずまた今度、彼と接触してみるつもりだ。その時にキミも同行してもらいたい」

 

「はぁ〜い!いいわよぉん!ソロモン、抜け駆けはダメだかんね?」

 

次元の守護者―――彼らは士道を使って何をしようとしているのか?

 

 

〜〜次元の守護者 side out〜〜

 

 

 

 

―――………………

 

 

 

 

「四月になってから劇的に運命が変わったよな………まあ、ここからが俺の続きでもあるんだけどな」

 

士道は今日も元気に来禅高校に登校する。十香と会ってからの十日間は士道にとっては()()()()()()という程度にして感じていなかった。

 

『………そうだな。俺もここからが始まりだと思っている』

 

ドライグも士道と同じ意見だった。そして、クラスに入り、ホームルームが始まる。

 

………なぜか、クラスに入ってきたのは、タマちゃんではなく、令音だった。

 

「………今日は『タマちゃん』が体調不良なので、私がホームルームを担当する。

………シン、エロ本を片付けるんだ」

 

「―――持ってきてないですよ!! 」

 

いきなりエロ本疑惑を令音に押し付けられた士道。しかも担任を『タマちゃん』呼ばわりをしている。

そんな時、士道の親友の殿町が令音に言う。

 

「村雨先生、一ついいですか?」

 

「………なんだね?殿町くん」

 

「―――先生が持ってきてるのは、出席簿じゃなくて超低反発まくらです」

 

「………………間違えてしまったらしい」

 

――――何をどうやれば枕と出席簿を間違えることができるのか?と訊きたいレベルだ………やる気の片鱗も感じられない令音先生なのであった。

そんな中、令音が突然話題を変える。

 

「今日は転校生がこのクラスに来た。仲良くしてやって欲しい」

 

令音の言葉に教室に入って来た人物は――――

 

「―――夜刀神(やとがみ)十香だ!みな、よろしく頼む!」

 

―――その転校生はなんと、十香だった。そして十香は士道の隣の席の生徒を蹴っ飛ばして士道の横の席に座る。

 

「これからもよろしくな、シドー!」

 

ここに、新たな士道の学生生活が始まろうとしていた。





良ければお気に入り登録、感想、評価の方よろしくお願いします!

次回は士道の設定及び、精霊であるヒロイン、それからオリキャラの『ソロモン』などの設定を書く予定です。

これからもデート•ア•ライブ〜転生の赤龍帝〜をよろしくお願いします!

長い金髪の絶世の美女のイメージCVは坂本真綾さん。

巨漢のオカマのイメージCVは矢尾一樹さん。

この二人です。


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番外編① 精霊少女がいる日常

番外編第一号です。

この番外編は十香との校内および日常の生活を描きました。

おまけでプラスαもあります。

プラスαの方は今後のストーリーに大きく関わってきます!

※お気に入り及び、非常に高い評価をしていただき、感謝しております。執筆意欲は上がる一方です!
完結を目指して頑張りますので、これからもお読みいただければ幸いです!


ピーンポーン

 

家のチャイムが鳴り、士道はそれに合わせて階段を降り、玄関に行く。

―――士道は扉を開ける。

 

「………おはよう、十香」

 

士道を迎えにきたのは、十香だった。十香は笑顔で士道に挨拶をする。

 

「うむ!おはようだシドー!」

 

士道は十香が来禅高校に転入してからというもの、毎日一緒に登校をしている。士道はカバンの中からお弁当箱を一つ取り出す。

 

「………はい、今日の十香のお弁当だ。今日は琴里がハンバーグが食べたいって言うからハンバーグ弁当だ」

 

「おお!今日はハンバーグか!シドー、今すぐ食べても良いか?」

 

「弁当だって言ったろ?………ほら、行こうか」

 

「………シドー、手を繋いでもいいか?」

 

「―――ああ、もちろんだよ」

 

士道と十香は来禅高校へと足を進めた。二人は手を繋いで早くもバカップルモードをフルスロットルで飛ばしていた。

 

「十香が転入してからもう十日も経つのか………月日が流れるのって結構早いよな。―――十香、学校には慣れたか?」

 

士道の言葉に十香は答える。

 

「うむ!シドーがいてくれるから毎日が本当に楽しいぞ」

 

「………そう言ってもらえるなら、俺も嬉しいよ」

 

士道と十香が話をしていると、天気に異変が起こる。空から大粒の水が大量に降ってくる。

 

ザーッ………………

 

「おいおい、また雨かよ………最近の天気予報マジであてにならねえな」

 

士道がいきなり降ってきた雨にボヤく。士道と十香は近くバス停に避難をする。そして、士道はカバンの中から折り畳み傘を取り出す。

 

「―――傘は一つだけしかねえな………十香この傘を使えよ。俺はともかく、十香が風邪でもひいたら大変だ」

 

士道は十香に傘を手渡す。走って高校まで行こうと士道は思っていたが、十香が士道の服の袖を掴む。

 

「そ、それではシドーが風邪をひくではないか!何か良い方法は―――おお!シドー、アレをしようではないか!」

 

十香が指をさした方を士道が見ると、二人の女子が一つの傘の中に入る相合い傘をやっていた。

 

「………この傘だと十香も濡れてしまうぞ?―――いいのか?」

 

「うむ!嬉しい時も辛い時も半分こだ!淑女たるもの常に夫を支えよと令音に教わったぞ!」

 

(なんつーこと教えてんだよ、令音さん!)

 

士道はここにいない令音に向かって思いっきり愚痴った。士道と十香はお互いの肩を雨に鳴らしながらも仲良く相合い傘で登校した。

 

 

 

―――•••••••

 

 

 

士道と十香は二人揃って自分たちの教室―――二年四組に入ろうと、士道が教室の扉を開ようと、扉に手を触れる。

士道が扉を開けた時、その数歩先には一人の少女が立っていた。

 

「………おはよう、鳶一。こんなところに立っていたら危ないぞ?」

 

その少女とは折紙だ。折紙はまるで士道が来るまで待っていたかのように教室の入り口で待っていた。その時折紙が士道に頭を下げる。

 

「………ごめんなさい。謝って済む問題ではないけれど」

 

「―――は、はあ!?おい、どうしたんだよ鳶一?」

 

士道はいきなり折紙が謝罪をしてきて士道は反応に困っていた。その時―――士道はふと()()()のことを思い出した。士道は折紙に言う。

 

「―――気にするなよ、俺なら大丈夫だ」

 

「………でも、でも私は士道を―――」

 

折紙は自分が士道にしたことを許せないらしく、ずっと後悔してきたのだろう。折紙が全てを言う前に士道は手を出して折紙を制する。

 

「『でも』じゃねえよ。俺もこの通り大丈夫だ。だから、鳶一も気にするなよ。………鳶一みたいな可愛い子がそんな暗い顔をされる方が俺は嫌だぜ?―――笑ってくれよ、鳶一」

 

士道は折紙に笑顔を見せた。………この男、五河士道は本当にどうかしている。自分を射殺しようとした人間を前にしても恨むどころか普通の友達として接している。

―――この男はどこまで言っても優しい正義の味方なのだろう………変態だけど。

 

「………ありがとう、士道」

 

「よし、それでこそいつもの鳶一だ。この件はこれで―――っておい!?何やってるんですか鳶一さん!!」

 

折紙は士道に「ありがとう」と言った後すぐに士道に抱きつく。士道はまた素っ頓狂な声をあげる。

 

「―――お、おい貴様!!シドーに一体何をしている!!」

 

十香も折紙の行為を見てプンスカと怒っている。しかし、折紙は士道を見上げて一言だけ言った。

 

「………でも、浮気はダメ」

 

「………………what?」

 

士道は折紙の言葉に目が点になっていた。それは他のクラスメイトも士道と同様に目を点にしてこの状況を眺めていた。

―――そこに担任のタマちゃんが現れる。

 

「ぐっどもーにんぐみなさぁん!今日もいい朝ですねぇ、雨が降っていますけど―――って五河くん、鳶一さん!構内でそんな破廉恥な行為は禁止ですって何度言えばわかるんですか!私だってイケメンな彼氏とイチャこらしたいのに!!」

 

朝から士道はタマちゃんに怒られていた。そう、タマちゃんは現在フリーだ。自分も彼氏がいないのに自分よりも年下の高校生にイチャこらされるのは鼻にきたのだろう。

―――ところがタマちゃんはいきなり泣き始める。

 

「わ、私だって五河くんみたいなイケメンで筋肉質で他人想いで料理もできるような理想の彼氏が欲しいですよ!!どうせ私は彼氏もいないですしこの歳で『処女』ですよ!!うわぁぁぁぁん!!」

 

(………『処女』なんだ。―――可憐だ)

 

士道は心の中でボサッとツッコミ、士道を含めたクラスメイトの全員はタマちゃんを見て唖然となっていた。

 

『………リアス•グレモリーの「戦車(ルーク)」ロスヴァイセを思い出すなぁ相棒。でも、良かったじゃないか。存外あの女は相棒に脈ありのようだぞ?』

 

士道はドライグの声に「そうなんだ………」と顔をヒクつかせていた。その時、背後から士道に声をかける者がいた。

 

「五河、アンタ結構プレイボーイね。―――童貞のくせに♪」

 

―――この女は桐生藍華だ。なんと、来禅高校にしかも士道と同じクラスにあの変態エロメガネ女がいたのだ。

 

「うるせえええええ!!余計なお世話だ!とっとと消やがれ、桐生藍華!!」

 

………士道にとって『童貞』というワードは禁句だ。

 

「そんなにカッカしないの。アンタ、そんなんじゃいつまでたっても童貞のままよ。―――まあ、アンタのことだから近いうちにアンタの近くにいる二人のうちのどちらかに奪われそうだけどね♪」

 

桐生は士道を見て笑みを浮かべてからかっていた。その時折紙がボサッと呟く。

 

「………士道の『童貞』は私が貰う」

 

「―――貴様にだけは絶対に渡さぬぞ鳶一折紙ッ!!シドーは私のものだ!!」

 

十香は士道に抱きつく折紙を強引に引き離した。二人とも士道に対しての好意を表すメーターがあるとすれば、マックスの針が振り切れているだろう。

 

『―――どうして五河ばかりがこんなにモテるんだよ!?ちくしょうめえぇぇぇぇ!!』

 

クラスメイト達は士道がモテる様子を見て思っきり毒を吐いていた。士道を求めるヒロイン達の争奪戦はすでに熾烈を極めることは明白だった。

 

 

 

 

 

―――•••••••

 

 

 

 

「―――今は昔、竹取の翁というものありけり………」

 

タマちゃんがホームルームでひと騒動あったあと、俺たちは古典の授業を受けている。

古典の授業は前年度の復習も兼ねての「竹取物語」から授業は始まった。

 

「………シドー、ここの『けり』とはどういう意味なのだ?」

 

十香が隣の机越しに士道に訊く。ちなみに古典の授業の時は士道と十香は机を引っ付けて授業を受けている。十香は『海外の高校にいたため、古典の授業を全く受けていない』というようになっているため、最初の数回の授業は士道と机を繋げて授業をさせるようにと令音の指示だ。

士道は十香に詳しく教える。

 

「―――『けり』とは『〜だそうだ』という過去の意味の『〜だったなあ』という詠嘆の意味の二つがある。

ここでの『けり』は過去の方の『〜だそうだ』の意味で使われているんだ」

 

「そうなのか!では、この次の―――」

 

こんな感じで十香は士道に色々教えられながら授業を送っている。

 

「………………………」

 

(鳶一がめちゃくちゃ怖い目で俺のことを睨んでやがる!!)

 

士道の左側から無言のプレッシャーを士道に与える少女がいる。このように古典の授業では、折紙が士道をただひたすらに睨みつける授業と化しているのだ。

 

(………はあ。鳶一には睨まれるし、十香を無視するなんて真似は出来ねえし、今年の俺はかなり大変だよ)

 

こんな感じで、古典の授業が終了し、さらに二つの授業が終了し、四限目の士道の唯一のお楽しみである体育の授業へとなった。

 

「ぐへへへへへへへへ………」

 

この時、士道はいやらしい笑みを浮かべていた。―――今日の体育の授業は士道にとっては最高の授業となる。

 

 

 

 

―――•••••

 

 

 

 

そして時はお昼前の最後の体育の授業となる。

士道は男子更衣室で体操服に着替えている。雨が降った時の体育の授業は女子と同じ体育館でのマット運動と、男子たちはなっている。

十香たち―――女子はバレーボールだ。

 

「今日の体育は『マット運動』かよ。ちぇ〜、つまんねぇなぁ。おまけに女子と同じ体育館かよ。クソだぜ!憎しッ、雨!」

 

士道と同じクラスの男子生徒がボサッと呟く。他のメンバーも「そうだそうだ!」と文句を言っている。

 

だが、士道は違った。

 

「むふふふふふふふふ!笑いが止まらねぇぜ!」

 

ただ一人士道だけはずっといやらしい笑みを浮かべていた。そこに士道の親友の殿町宏人が現れる。

 

「む?どうした、我が親友『おっぱい星人』こと五河。お前は他の連中と違って随分楽しそうにしてるじゃないか」

 

「だれが『おっぱい星人』だコラァ!!•••••まあ、それは置いておいてだ。あいつらはただのバカだ。あいつらは女子が着る『体操服』の良さが分かったねぇ。今日の体育の授業はいい目の保養になりそうだぜ!」

 

士道の言葉に殿町もいやらしい笑みを浮かべ始める。

 

「おおっ、その通りだぜ我が親友!これで俺のスカウターもかなり磨きがかかる、ゼッ!」

 

この二人は本当に似た者同士である。士道と殿町はすぐに体操服に着替え、体育館へと向かった。

 

 

 

 

 

「よし、出席を取る。青山、浅野――――」

 

体育の担当教員の向井太陽がクラスの出席を取り始めた。

その時既に女子達はウォーミングアップとしてランニングを始めており、士道は走る女子達を見ていた。

 

(うおおおおおおお!!揺れる!揺れてるよおおおおお!!いやぁ、女子が走るとおっぱいの揺れがいい具合に見える。これこそが体操着の良さ。―――十香ぱねぇぇぇぇぇぇぇ!!!)

 

士道は十香のおっぱいに視線を釘付けにされていた。十香も士道の視線に気がついたのか、士道に手を振る。

 

「―――か………おい五河!!」

 

「は、はい!!」

 

担当教員の向井に士道は名前を呼ばれて士道は返事をする。向井は士道にポケットティッシュを投げる。

 

「―――鼻血が出てるぞ五河………高校生二年生のクソガキが女子の胸をやらしい目で見てんじゃねえよ」

 

「あ、すみません………」

 

士道は貰ったティッシュを鼻に突っ込む。出席確認が終わると、士道達もウォーミングアップのランニングを行い、マット運動を始める―――と思われたが、士道と殿町の二人だけは体育館の舞台の上で女子がしているバレーボールをただひたすらに眺めていた。

 

「―――お前らよく見てられるな………」

 

数名の男子生徒が士道と殿町がいる舞台の上へと集まる。女子を眺めているの言葉を聞いて殿町が言う。

 

「我が来禅高校の女子の『美しさ』のレベルは全都道府県の高校の平均レベルよりも上だ。その中で女子たちが体のラインが綺麗にわかる『体操着』を着るんだ。張り切らないわけがないだろう!」

 

殿町の次に士道が語り始める。

 

「順番を待たなければならないマット運動だから見てられるんだよ。―――集中して見てみろ、いい揺れ具合だぜ?」

 

士道の言葉にその何名かが女子のバレーボールの練習を見つめる。今やっているのは、スパイクの練習だ。

 

「―――お前ら、集中するのはジャンプをした時だ。目を凝らしてよく見るんだ!絶対に見逃すなよ。飛び上がった瞬間に『ぶるんぶるん』と大きく揺れ、そのあとすぐに『たぷん』とおっぱいが弾むんだ!」

 

『―――おおっ!!スゲー!!』

 

士道の言葉に完全にマット運動を忘れて女子のバレーボールの練習を見つめるようになる人が徐々に増え始める。

さらに士道は続ける。

 

「………お前らがもっと楽しめる方法を教えてやる―――物理担当の村雨先生がやっているところを想像してみろ!あの張り裂けそうな大きなおっぱいが揺れるところをッ!!そして弾むところをッ!!そして素晴らしいお尻、そしてスパイクを打った後の服チラによって見える透き通った白い肌!!それだけで五発は十分いけるッ!!」

 

男子たちは令音の体操着姿を思い出し、今やっている練習を令音がやっている姿を想像して―――全員が鼻血を盛大に吐き出す!

 

『―――体操着さいこおおおおおおおお!!!』

 

男子たちは揃って口にしていた。

士道と殿町の言葉が男子たち全員を女子のバレーボールの練習をひたすら眺めさせる発言となり、男子たちは前かがみで視線を釘付けにしていた。

 

「―――お前らは中年のおっさんか!!」

 

向井が男子達に突っ込むが誰一人として女子たちから目を離すものはいなかった。

 

『うおおおおおおおおおおおおんんんっっ!!』

 

士道の変態さにドライグは泣いた。

 

 

 

――◆――

 

 

 

―――その頃の『フラクシナス』番外編

 

 

 

 

 

「村雨解析官の体操着姿………」

 

「―――いいですねぇ、実にいいですねぇ」

 

「士道くんもなかなか素晴らしい着眼点だ。彼には本当に頭が下がる」

 

川越、幹本、中津川の三人は士道のいう通りに体育の授業風景を眺めていた。

 

「………キモい」

 

「はぁ………」

 

椎崎と箕輪の二人は心底三人の様子を見て呆れていた。

 

「………私はマット運動の方がいいですねぇ。司令が一生懸命に前転や後転をするところが見てみたい―――いや、むしろ司令が前転や後転をされるマットになりたい!!そうすれば司令の柔らかなお身体を堪能し放題!―――ああ!なんて素晴らしい響きなんだ!!司令、お慈悲を、お慈悲をおおおおおおおおおお!!!」

 

琴里は中学校、令音は物理の授業があるため現在はいない。神無月は自身の妄想を大爆発させていた。

 

「「うるさい!!」」

 

椎崎と箕輪が神無月に藁人形とビリヤードの玉をそれぞれが投げつける。―――神無月の頭に見事にクリーンヒットし、神無月が怒る。

 

「アギャ!?―――何しやがるんだこのババアども!!」」

 

「「あ゛あ゛!?」」

 

その後神無月がどうなったかは―――いうまでもないだろう。

 

 

 

 

―――その頃の『フラクシナス』番外編 終了

 

 

 

 

そんなこんなで体育の授業は終わり、昼休みとなった。士道は廊下でボサッと呟く。

 

「ふぃ〜、マジでいい目の保養になったぜ!今日の夜のおかず決定だな。十発はいけるぜ!」

 

『ううっ………これもまた宿命か。相棒を制御してきた塔城小猫がいなければ自由奔放だ。ああ、あの小娘がいてくれたらなぁ』

 

ドライグはまだダメージから立ち直れていなかった。

士道はクラスに戻り、弁当を食べようとカバンの中から弁当箱を取り出す。

その時、十香の机に自分の机をひっつけた。

 

「おおっ!シドー、今日のお弁当は楽しみだったが、それ以上だ!」

 

十香は士道が作ったお弁当の中身を見て非常に満足そうにしていた。

 

「―――期待に添えることができて俺は満足だよ。さあ、食べようぜ」

 

士道と十香は手を合わせて、食事の前の礼儀を同時にする。

 

「「いただきます!!」」

 

士道と十香がお弁当を食べ始めた時だった。

 

「―――これはどういうこと?」

 

先程までいなかった折紙が士道の左隣に机をくっつけており、二人のお弁当の中身を見て物申す。

 

「………そんな目をしても私の弁当はやらないぞ」

 

十香は目を細めて折紙に言うが、折紙は士道の顔を見つめて詳しく訊く。

 

「―――どうして士道と夜十神十香のお弁当の中身が同じなの?」

 

「あ、いや………その………」

 

士道は折紙の言葉にどう返答しようか迷っていた。その時十香が爆弾を投下する。

 

「………そんなことは訊くまだもなかろう!―――それは私とシドーがただならぬ仲だからだ!」

 

「―――おい!?それは今言っていいセリフじゃねえ!!」

 

ギンッ!!

 

折紙はさらに鋭い視線を士道に送る。士道はあたふたと慌てふためいていた。

 

「………分かった。要は私が士道を寝取れば良い―――士道、今日は私の家に泊まって」

 

「―――バカかぁ!?」

 

「―――泊まるべき」

 

「そ、それは………」

 

「―――泊まるべき」

 

「だからダメだって………」

 

「―――私の恋人なら泊まるべき」

 

何を言っても士道を自分の家に泊まらせようとする折紙。しかも、折紙は「―――泊まるべき」と言いながら士道との距離を詰めていく。

しかし、そこに十香がまた爆弾を落とす。

 

「―――なっ!シドー、鳶一折紙と恋人だったのか!?私とは遊びだったのか!?」

 

「―――違えよ!!恋人とかそんなんじゃ………」

 

十香は士道の胸ぐらを掴みながら涙目になって訊く。そこに折紙が鼻をつまんで士道の真似をする。

 

『………十香、キミとは遊びだったんだ。俺の恋人は折紙だ』

 

「―――そ、そんな!?シドー、私は『初めて』だったのだぞ!?シドーになら捧げても良いと思った。それを………それをッ!!」

 

十香はさらに士道の胸ぐらを握る強さを強める。しかし、士道は目を細めて十香にいう。

 

「………いやいや、騙されるなよ十香」

 

「―――ハッ!?おのれ、私を謀ったな鳶一折紙ッ!!」

 

折紙は十香の言葉に「………なんのこと?」と返していた。そこに桐生が現れ、士道を弄る。

 

「………ふむふむなるほどなるほど。五河、アンタもしかして十香ちゃんと―――」

 

「お前は今すぐ消えろ桐生藍華ッ!!」

 

その後士道は何とか騒ぎを収束させたが、クラスの男子からは白い目で見られていた。

 

そして、今日はお昼までの授業だったので、士道と十香は下校の準備をした。

 

 

 

 

――◆――

 

 

 

 

「………はあ」

 

五河士道は疲れていながらも、家を目指して歩いていた。理由は、あの昼食が原因だ。十香と折紙に色々と詰められたからそれの対応に必要以上の体力を使ってしまったのだ。

 

「シドー、大丈夫か?」

 

十香は心配そうに士道を見ていた。―――原因はアンタと折紙だが、心配をするあたりは十香らしいだろう。

 

「………いや、体は疲れてないさ。ちょっと精神的にな」

 

十香のこの後の予定は士道の家に行くことだ。士道の家で少し勉強をした後、二人はまたデートをする予定だ。

だが―――二人の歩みを止めようと十香を目掛けてバスケットボールほどの闘気弾を放つ者がいた。

 

「―――十香、伏せろッ!!」

 

ドガンッ!

 

士道の言葉に十香はビックリしてしゃがみこむ。士道は『赤龍帝の籠手(ブーステッド•ギア)』を出し、ドラゴンショットを放つことで闘気弾を破壊した。

 

「―――お前、十香を狙ったな?」

 

士道は後ろから闘気弾を放ったであろう人物に凄まじい殺気を出して言った。その人物は身長が二メートルを超えており、ボディビルダーを思わせるような見事な筋肉質の肉体をしているほどの巨漢だった。

その男は目視ができるほどの凄まじく、研ぎ澄まされた闘気で自身の体を覆っていた。

この男の闘気はソロモンがその身に纏う魔力と同格のものだった。

 

(………これほどの力を持った奴なら攻撃する前にオーラを感知することが出来たはずだ。―――なぜ攻撃されるまでこの男の気配に気付くことができなかったんだ!?)

 

士道が疑問に思っていた時、巨漢の男が士道を見て声を出す。

 

「―――あ〜んもうやだ!カッコ良すぎるわ〜!女の子をこんなにもカッコよく庇うなんて最高だわ〜」

 

「―――オカマかよ!?」

 

………そう、この男は立派なオカマだった。筋肉モリモリマッチョマンのオカマだったのだ。

その巨漢のオカマの後ろから士道がよく知る人物が姿を現す。

 

「こんにちは士道くん、この前以来だね。………そっちの()()ちゃんは初めましてだね」

 

………よく知る人物はソロモンだ。ソロモンが簡単な挨拶を済ませた後、十香がソロモンに言う。

 

「―――精霊ちゃんではない。………私には『十香』と言う名前がある」

 

「じゃあ、初めまして十香ちゃん。残念ながら僕が用があるのは士道くんだ。―――キミは家で士道くんの帰りを待っていてくれ」

 

ソロモンは指を動かすと、十香の姿は消える。士道はソロモンに声を荒げて訊く。

 

「十香をどこへやった!?」

 

「―――キミの家だよ。彼女はこの場にはいない方が良いと僕は思ったからね。悪いけどキミの帰りを待ってもらうことにしたよ」

 

ソロモンは十香を士道の家へと飛ばしたらしい。ソロモンは話を続ける。

 

「―――さて、ここから本題に入ろう。………士道くん、明日からこの巨漢―――『ヘラクレス』を相手に修行をしてもらうよ」

 

「―――はあ!?一体なんで!?」

 

「キミにの神器『赤龍帝の籠手(ブーステッド•ギア)』を至らせるためさ。彼を相手に修行をすることが一番の近道だ。キミは前世で魔龍聖(ブレイズ•ミーティア•ドラゴン)タンニーンとの修行で体力を高めることで至るための足掛かりを作ったはずだよね?―――タンニーンよりも強い『ヘラクレス』と修行を続ければ自然とキミは至れるはずさ」

 

ちなみにこの『ヘラクレス』がタンニーンとは比べものにならないほどの強者だということは士道は見た瞬間に感じ取れていた。ドライグも士道に言う。

 

『………確かにタンニーンでもあの巨漢には負けるだろうな。あのソロモンという男とあの巨漢の実力はほぼ同じだ。………やれやれ、この世界には全盛期の俺に匹敵する人間が二人もいるとはな………どうやら俺たちはとんでもない世界に来てしまったみたいだな、相棒』

 

………本当にドライグの言う通りだろう。ただ、士道も強くならなければならないと考えていた。十香を守るには力が足りないことを誰よりも自覚していたからだ。

 

「………分かりました。明日からよろしくお願いします」

 

「うん、良い返事だ。では、明日の夜―――九時から十一時に修行をしようか。集合場所は来禅公園だ」

 

ソロモンはそれだけを言うと、巨漢―――ヘラクレスと共に何処かへと消えた。

 

「………死なない程度に頑張るか」

 

士道の目には少しの迷いも無かった。強くなるために士道はソロモンな修行を受けることを決めた。




次回から二章『四糸乃パペット』に入っていきます。

これからもお読みいただければ幸いです!


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二章 四糸乃パペット
一話 修行します!


いきなりオリジナル展開から始まります。
この話から原作二巻の『四糸乃パペット』へと入っていきます。

———みなさん、オカマの『ヘラクレス』はお好きですか?

※意味がわからない文があったのでそれを修正ました。


現在はPM9:00。

五河士道は来禅高校から徒歩五分の場所にある来禅公園へと訪れていた。

士道が到着した頃には、すでにソロモンが士道を待っており、ヘラクレスもソロモンと共にいた。

 

「やあ、士道くん。結構早かったね」

 

「………はい。俺には強くならなければならない理由があります。実戦での修行はできませんでしたから、本当にありがたいです」

 

実戦ができないと言うのは、士道が強過ぎるからだ。並の人間相手では士道の修行にならないからだ。

―――とは言っても目の前の二人は天龍に限りなく近い実力を有している。手加減をされても修行になるかは十分に怪しい。

 

「………さあ、始めようか。時間の延長はできないからね。士道くんがお寝坊されたら十香ちゃんにも琴里ちゃんにも迷惑がかかるからね」

 

「………分かりました」

 

士道が返事をすると、ソロモンが指をパチンッ!と弾く。次の瞬間、来禅公園が瞬時に真っ白な何もない空間へと変わった。

 

「―――こ、これは!?」

 

「空間魔法さ。―――まあ、ただの空間魔法じゃないけどね。この真っ白な空間は外界と完全に遮断されている。キミがわかるように言えばこの空間だけ『次元の狭間』の中に入ったと言えば分かりやすいかな」

 

ソロモンの説明に士道は目が飛び出すほど驚いていた。

驚いている士道を見てソロモンが手をパンと叩き、士道に言う。

 

「………さあ士道くん、修行の時間だ。今日は現時点でのキミの力が知りたいから、キミの神器『赤龍帝の籠手(ブーステッド•ギア)』無しでヘラクレスを相手にしてみるんだ」

 

「………………………俺に死ねと?」

 

「大丈夫さ。キミが受けた傷は瞬時に回復する機能をこの空間にはつけてある。当然ヘラクレスも全力でキミを殺しにかかるなんて真似はしないさ―――――――――た、多分だけどね」

 

「―――なぜそんなに間合いを開ける必要がある!!それに多分だと!?」

 

士道はソロモンが大きく間合いを開けたことと多分と言う言葉に心底不安になっていた。ヘラクレスは自分の胸の前で両拳を合わせていた。―――ヘラクレスは士道を鍛える(拷問する)気満々だ。

 

「さあ、士道ちゃん!いっくわよぉ!私がたくさん可愛がって(撲殺して)あげるからね!」

 

「―――もうこの時点でおかしいだろ!!」

 

士道はソロモンとヘラクレスの言葉に盛大にツッコミながらもヘラクレスに対していた。

 

ドンッ!!

 

士道は地面を強く蹴って、立ちはだかる巨大要塞(ヘラクレス)へと立ち向かった。

 

 

 

 

――――………•••

 

 

 

 

「うおおおおおおおおおおおッ!!」

 

ドガガガガガガガガガ!!!

 

士道はパンチとケリの嵐をヘラクレスに真正面から打ち込んでいく!

ヘラクレスは士道の攻撃を左腕のみで簡単に捌いていく!ヘラクレスは士道の攻撃を捌きながら士道を褒める。

 

「いいじゃない、いいじゃない!真っ直ぐで迷いのない拳と、鍛えられた下半身から繰り出されるケリ。どれを取っても強者の部類に士道ちゃんは入っているわ!アタシも張り切っちゃうぞぉ〜!」

 

ヘラクレスは士道がパンチを出した時を狙って地面を蹴って士道と距離を取る。怪訝に思った士道は攻撃を止め静かに構える。

ヘラクレスは腰を僅かに落とし、半身で構える。―――正拳突きの構えだ。

 

「―――えい、やあ!!」

 

ゴオオオオオオオオオッッ!!

 

ヘラクレスは士道との間合いを凄まじいスピードで詰めて正拳突きを繰り出す!

風を切り、凄まじい轟音を鳴り響かせながらヘラクレスの剛拳が士道に迫る!

………その拳、『えい、やあ!!』の声で出せるような代物ではない!!

 

(………このスピードならギリギリで避けられる!懐に潜り込んでカウンターを食らわせてやる!!)

 

士道はヘラクレスの拳を身体スレスレで避け、ヘラクレスの懐に入り込もうとしたが―――

 

ゴオオオオオオオオオッッ!!

 

「―――う……………ッ!?」

 

ヘラクレスが拳を振り抜いた瞬間に凄まじい衝撃波が生まれ、その衝撃波で士道は堪らず吹き飛び、地面をゴロゴロと転がる。………しかし、士道は立ち上がる。

 

「うっ………ゲホッ!ゲホッ!―――今のはまさか闘気によるもの………なのか?」

 

士道は口の中から込み上げてくる血を吐き出し、ヘラクレスに訊く。

 

「そうよぉ〜ん!今のは士道ちゃんが潜り込んでくることを計算して拳に竜巻状の闘気を纏わせて放ったの♪拳を振り抜けばその竜巻状の闘気が四散するように解放されて士道ちゃんを吹き飛ばしたわけよぉん♪」

 

ヘラクレスは軽く言っているが、士道にとっては凄まじく恐ろしいことだった。闘気を自在に操り、自身の注文通りに闘気の解放まで操ることができる―――ここまでの強者に士道は出会ったことがないからだ。

 

「―――ざけんな!めちゃくちゃだろ!?しかも、拳を完璧に避けたのに頰と脇腹から出血かよ………」

 

そう、士道はヘラクレスの闘気と拳圧によって頰と脇腹から出血を余儀なくされた。―――しかし、空間の力で士道の傷は一瞬で塞がる。

 

士道は次はどうしようかと悩んでいた。真正面から突っ込めばやられ、かと言っても守りを固めても紙切れのように粉々に粉砕される。―――士道には打つべき手が無かったのだ。

 

「………でも、諦めるわけにはいかねえ!!俺にはやらなければならないことがあるんだ!!」

 

『………それでこそ相棒だ!この状況でも闘志が全く衰えていない!―――ここからは俺も手を貸そう。奴に俺たちの意地を見せるんだ!』

 

それでも士道は前を向いて拳を握り、ヘラクレスを強く睨みつける。―――士道はどんなに不利な状況でも決して諦めることはない。それが―――五河士道という男の生き様だからだ。

士道の左腕から勝手に『赤龍帝の籠手』が具現化する。

それを見て、ソロモンがヘラクレスの所へと足を進める。

 

「………よく立ち上がった、さすがは士道くんだ。―――ヘラクレス、今度はキミから士道くんに仕掛けるんだ」

 

「………あら?ソロモン、アタシまだ士道ちゃんを可愛がれていないんだけど?」

 

「―――キミの攻撃を受けて立ち上がれるかを見てみたいんだ………今日は彼の―――最終試験なんだよ」

 

それを聞いたヘラクレスは闘気を高め、肉眼でも捉えらるほどの凄まじいものへと変化させる。

 

『―――来るぞ相棒ッ!!構えろッ!!」

 

「ああ!同じ手は食わねえ。ここからは俺も全力だ!」

 

『Boost!!!!!』

 

ドライグの音声が響き渡り倍加が始まる。ヘラクレスはただひたすらに士道を待っている。

 

『Boost!!!!!』

 

「………………………」

 

ヘラクレスはまだ動かない。士道が完全に倍加を終えた後に士道の実力を図ろうと考えていたからだ。

 

『Boost!!!!!――――EXPLOSION!!!!!!!!!!!』

 

カッ!!ドオオオオオオオオオオッッ!!

 

倍加が完了し、士道から凄まじい力が溢れ出す!!

それを見たヘラクレスはついに動きだす!

 

「いくわよ士道ちゃん!」

 

「―――絶対に一矢報いてやる!!来い、ヘラクレスッ!!」

 

―――ヘラクレスは再び凄まじいスピードで士道との間合いを詰めていく!

 

「てえええぇぇぇぇぇいッ!!」

 

ドオオオオオオオオオオッッ!!

 

ヘラクレスは渾身の左ストレートを放ち、凄まじい衝撃波を放ちながら士道に迫って来るッ!!

―――今度は士道も闘気の流れしっかりと読み、完全に避けきる方法を見抜く。

 

(闘気は左側に集中している。―――右に良ければッ!!)

 

士道の読み通り、闘気は左側に大きく解放された。

士道は向かって来る拳を右に避けるが―――今回も避けきることはできなかった。

 

………………いや、ヘラクレスは士道なら右に避けると読んでいたのだろう。

 

 

 

「―――ごはぁッ!?」

 

 

 

ヘラクレスは拳を放つと同時に士道が避ける地点を予測し、先回りをしていた。そして飛び膝蹴りを士道の腹部に命中させ、士道は吐瀉物を吐きながら上空へと吹き飛ぶ。

そして、士道は再び地面に倒れこむ。

 

『おい………おい、しっかりしろ、相棒――――相棒ッ!!』

 

ドライグが士道に呼びかけるが、士道に反応はない。士道は意識を闇の中へと手放そうとしていた――――だが………

士道の頭の中に、一人の少女の声が響き渡る。

 

『―――シドー!』

 

士道には一人の女性の笑顔が浮かんでいた。それは―――十香の笑顔だ。士道は浮かんだ十香の笑顔を見ると、歯を食いしばって拳を強く握る。

――――これから自分が守ると決めた笑顔が浮かんだのだ………それで起き上がれない士道ではない。

 

「………こんな所で寝てられねえよな。―――そうさ、俺はお前の側にいるって約束したもんな………だったら立ち上がらねえとなああああああああああ!!」

 

士道は震える足に力を入れ、再び立ち上がる。それを見たソロモンとヘラクレスは笑みを浮かべて士道を見ていた。

 

「―――負けない………俺は絶対に負けないッ!!」

 

士道が立ち上がったことにソロモンとヘラクレスの二人は笑みを浮かべる。

 

「………さすがは士道くんだ。―――まだやれるかい?」

 

「―――ええ、俺の意識が途切れるまで何度でも!!」

 

士道の言葉を聞いてヘラクレスは再び拳を構える。

 

「うふふ、それでこそ士道ちゃんよ!いっくわよぉぉぉぉぉぉぉぉん!」

 

 

 

再び士道は地獄の猛特訓へと励んだ。――― 何度倒れても士道は立ち上がり、ただひたすらに向かって行った。

 

 

 

――◆――

 

 

 

それからPM11:00になるまで士道はひたすらヘラクレスとの修行に打ち込んだ。人がいいことにソロモンが士道を家の前まで送ってくれたのだ。

 

「―――今日は良く頑張ったね。もう夜も遅いし、お風呂に入って眠ること。………体を休めることもトレーニングの一環だ」

 

ソロモンが言うと、士道はソロモンとヘラクレスに言う。

 

「………ありがとうございました。明日もよろしくお願いします」

 

「いいわよぉん♪でも、明日はソロモンの修行になると思うわ。士道ちゃんもお空を飛べるようにならないといけないしね♪」

 

………そう、士道は空を飛ぶことが出来ないのだ。十香を救った時も、ドライグが背中のブースターの制御を行っていたため、十香のところへと飛ぶことが出来ていたのだ。

 

「そうだね。明日は僕との修行にしようか。空を飛ぶこと以外にもテクニック関連のことを徹底的に教えるよ。今の士道くんだとパワー勝負は厳しいところがあるからね」

 

………士道にとってテクニックは必ず学ばなければならないことだった。『兵藤一誠』の時も木場祐斗のテクニックを駆使したハメ技を喰らって負けることが多かったからだ。

 

「―――はい。俺は何でもやります!十香たちを守るためならッ!!」

 

「うん、いい返事だ。じゃあまた明日。明日は夜の7:00から徹底的にやろうか」

 

「分かりました!」

 

ソロモンは士道の返事を聞くとヘラクレスと共に何処かへ消えた。

 

「―――明日も頑張らないとな」

 

士道は空を見つめてボサッと呟いた。

 

ガチャッ………………

 

士道が鍵を開け、家に入った時だった。

 

「っ………」

 

士道は苦しそうに脇腹を抑えて床に膝をつく。―――ヘラクレスとの修行で士道は大きなダメージを受けた。そのダメージが士道の体の中で完全に癒えていなかったのだ。

 

『………相棒、あまり無理をするな。修行のダメージがまだ体に残っているのだろう?』

 

「………さすがはドライグ、何でもお見通しってわけか。でも、俺なら大丈夫だ。この程度で休んでなんかいられないよ」

 

『強がりはよせ。お前はもう―――」

 

「………まだやれるさ。いや、もっと頑張らないといけないんだ。俺は―――俺は今度こそッ!!」

 

士道は拳を握りしめ、天井を見上げた。士道は自分がどれだけ苦しくても立ち止まることはないだろう。

 

「―――俺がみんなを守るッ!!」

 

『………………………』

 

士道の想いを聞いてドライグは何も言わなずにただ沈黙をすることしか出来なかった。

 

士道は寝る前に少しだけ今日の復習として鍛錬をつづけた。

 

 

 

―――◆………

 

 

 

 

〜〜次元の守護者 side〜〜

 

 

「ソロモン、あなたの見立ては正しかった見たいですね。あのヘラクレスの攻撃を受けても立ち上がる人間は初めて見ました。………私も彼に少しだけ期待をしてみようと思います」

 

金髪の絶世の美女がソロモンに話しかける。その女性はソロモンの魔法使いのローブとは違い、神々が纏う神々しい衣に身を包んでいた。

………胸元は見えているため、士道がこの絶世の美女を見れば絶対に興奮するだろう。

 

「―――『アテナ』、キミが太鼓判を押してくれるなら僕の勘は正しいと思えるよ。キミは彼のことをどう思った?」

 

「………そうですね、本当に面白いと思いました。何度倒れても諦めずに向かっていく姿は今でも私の目に焼き付いています。恐怖を覚えながらもただひたすらに前だけを見つめて行動できる者はそう多くはありません。ましてや、あの『ヘラクレス』を相手にしてですからね」

 

絶世の美女―――アテナも士道のことを認めたようだ。ソロモンとアテナが話していた時、ヘラクレスが現れる。

 

「はぁ〜いソロモン、言ってたものが出来上がった―――ってアテナ!?い、今すぐアタシの目の前から消えなさい!アタシは巨乳はお呼びじゃないの!」

 

ヘラクレスはアテナがいることが心底不快らしい。

 

「………私がここにいてもいいでしょう?なぜあなたは私をそこまで毛嫌いするのです!」

 

「―――ハッ!アンタみたいなボインな巨乳ほど目につくものはないわッ!アタシの理想の女の子は可愛い幼女なの!ババアはお呼びじゃないわよッ!!」

 

―――そう、ヘラクレスはロリコンだ。真性のロリコンだ。ヘラクレスはアテナを見て全力で毒を吐く。

 

「―――バ、ババアですって!?私の魅力があなたには分からないのですか!?五河士道も私の魅力ならすぐに堕とす事ができるというのに!」

 

「アンタみたいなババアに士道ちゃんが魅了されるはずなんてないわよッ!!―――その自信はどこから来るのやら………それに、アンタなんかに士道ちゃんはあげないわよッ!―――あらやだ、シワが目立っているわよ()()十九歳のクソババアのアテナさんッ!」

 

ズオオオオオオオオオォォォォォォッッ………………

 

アテナはヘラクレスの言葉に凄まじい神気を漏らす。

 

「―――殺しますよ、ヘラクレス?」

 

「来なさいよ、あたしのろりこんパワーを見せてあげるわッ!」

 

ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッ!!

 

ヘラクレスとアテナは喧嘩を始めた。

 

「―――仲間同士でも分かり合えないって辛いよね」

 

ソロモンはガックリと肩を落としながら、ヘラクレスとアテナの喧嘩を仲裁した。

 

 

 

 




キャラ設定を更新しておきました。良ければお読み下さい(7/8)

今回は短めです。次回から『四糸乃パペット』の本編へと入っていきます。

良ければお気に入り登録、感想、評価の方よろしくお願いします!


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二話 雨を呼ぶ少女

オリジナル展開はたくさん浮かびますが、ギャグが全く浮かびませんッ!!

ヘルプミー!!

※誤字を修正しました。


 

今日の一限目は文系の大学に進む者と、理系の大学に進む者とで授業が違う。

 

士道は高校卒業後は理系の大学に進もうと考えているので、十香たちとは授業が違い、数学Bの授業を痛む身体に鞭を打って受けていた。

十香は士道と異なり、一限目の授業は家庭科の授業だったので、家庭科の授業を受けていた。そして、十香が何か箱を持って士道の近くへと来る。

 

「シドー、『くっきぃ』というものを作ってみたのだ!生地を作ってみんなに教えてもらいながら私がこねたのだ。―――是非食べてみてくれ!」

 

十香の持っている箱の中には、手作りのクッキーが作られていたのだ。

………家庭科の授業が調理実習で、その時に作ったものだろう。士道は嬉しさのあまり涙を流す。

 

「十香ぁぁぁぁぁぁっ!!俺なんかの為にクッキーを焼いてくれてありがとうっ!俺本当に嬉しいよ!よし、いただきますッ!」

 

士道は十香の作ったクッキーを口にする。十香のクッキーの味は―――

 

「………うん、美味しいよ!十香のことだからクッキーの焼き加減が適当で完全に焼けてないか、焦げたりしてると思ったのに、焼き加減は完璧で味もしっかりしてる!ここまで美味しいなんて思わなかったよ!」

 

「―――シドー!それは褒めているのか!?途中私が雑な女のように言っているように感じたぞ!」

 

十香は複雑な気持ちで士道に返答した。………精霊で知らないことも多い十香だから、士道は(生地が半熟だったり、焦げたりして失敗してるだろう。美味しくなくてもおいしいと言おう)と思っていたのだが、クッキーは半熟でも焦げていなく、士道にとっては百点満点のおいしさだったのだ。

 

「―――もちろん、褒めてるよ!ありがとな、十香」

 

士道は十香の頭を撫でると、十香は嬉しそうに微笑む。

 

「シドー、もっと!」

 

「はいはい………」

 

―――もうこの空間は二人のリア充感に満ち溢れていた。………もちろん、この教室には非リア充もいるわけだ。その非リア充たちの不満がついに爆発する!

 

『くそおおおおおおおおおおッ!!』

 

非リア充たちの心の雄叫びだった。しかし、それだけでは終わらない。十香のクッキーを士道が手に取り、口にしようとしたその時、士道の目の前を高速の何かが通り過ぎ、十香のクッキーを粉々に破壊する。

 

「―――な、なんだぁ!?」

 

士道がびっくりして窓際の壁を見ると、ダーツが三本突き刺さっていた。

そして、士道が食べようとしていた十香のクッキーの破片が、粉々になって散乱していた。

 

「………士道の命を救った」

 

―――士道が食べようとしていたクッキーを破壊したのは、折紙だった。

折紙は得意げにダーツを指に挟んでいるが、士道は全力で折紙に突っ込む。

 

「――――し、死んでしまうわ!!『士道の命を救った』じゃねえよ!!あと数センチ投げたダーツがそれてたら俺の身体に刺さってるわ!!」

 

「貴様、またしても士道の命を奪うつもりかッ!?また私の目の前で士道を奪うつもりなのか!!」

 

十香は凄まじい眼力で折紙を睨みつける。―――つい先日士道は折紙に『C•C•C』で打たれ、命を落としかけている。しかも、それは今でも十香の記憶の中に根強く残っている。

それは、折紙についても同じだ。折紙も士道に弾丸が命中してしまった時は放心状態になり、死んでしまいたいと思ったほど後悔した。

………だから士道は十香を止める。―――折紙の傷を再び抉らせないように。

 

「―――十香、それ以上言うな!!………俺なら大丈夫だ」

 

士道は十香の肩を掴んで笑みを見せる。絶望したのは十香だけではない。折紙もだからだ。

―――しかし、折紙は十香に引き下がることはなかった。

 

「………士道に『毒物』を食べさせるあなたにだけは言われたくない。士道は私のクッキーを食べるべき」

 

なんと、折紙も士道のためにクッキーを作っていたのか、お弁当箱のような箱の中にはクッキーがたくさん入っていた。

 

「―――なっ!貴様までも!?それから、私のくっきぃは毒物などではない!」

 

「………焼いた時刻は私の方が早い。それに、あなたのクッキーは疑いようのない毒物。士道が即死しなかったのは奇跡という他ない」

 

「………う、うるさい!!毒物は貴様のくっきぃだ!―――士道に危険物を食べさせるわけにはいかん、私が安全かどうかを確かめてやる」

 

十香は折紙のクッキーを食べる。そして十香は―――

 

「はわぅ………っ」

 

恍惚とした表情を十香は作り、幸せそうだったが『認めない』と言わないばかりに十香は首を横に振る。

 

「―――た、大したことはないな!これなら私のくっきぃの方が上だ………」

 

「毒物には致死量がある。これ以上士道に食べさせるわけにはいかない。―――士道、私のクッキーを食べるべき」

 

折紙は自分の箱を士道の目の前に置き、食べて下さい―――失礼『食べろ』と言わないばかりに士道にクッキーの箱を押し付ける。

 

「貴様、士道にさりげなく食べさせようとするなッ!!………シドー、あーん」

 

………十香は我慢が効かなくなったのか、奥の手を使った。もちろん士道は十香のクッキーを食べる。

 

「あーん………うん、美味しいよ」

 

「そうか!うむ、士道が喜んでくれて私は幸せだ!」

 

『くっそおおおおおおおおおおおおお!!!!!リア充爆発しろおおおおおおおおおおおお!!!』

 

非リア充たちはとうとう血の涙を流して敗北宣言をする。だが、折紙は十香の『あーん』を見ても全く動じなかった。そして、彼女も手札を明らかにする!

それを見た士道は―――

 

「―――じょ、冗談じゃねえええええ!!」

 

「………士道、わたしは本気」

 

折紙は自分の唇でクッキーを挟み、士道に近づけたのだ。―――バカップルの連中の中でも恥ずかしくて躊躇する指折りの必殺技『口移し』だ。折紙はクラスメイトの視線を全く恐れることなく折紙はやってのけた。………もちろん、十香は黙って見ているだけではない。

 

「貴様ふざけるなッ!!なんて破廉恥なことを士道にするのだ!!」

 

「………邪魔しないで士道が私を欲している」

 

「そ、そんなわけがあるかッ!」

 

さらにヒートアップする十香と折紙。そこで士道は二人の隙を見て折紙のクッキーを口にした。

 

「―――す、すげええええええええ!!ほんのりとした甘さとサクサクの焼き加減!そして、噛むごとに口内を包み込むフレーバーッ!こんなに美味いクッキーは初めて食べた。これはお菓子屋さんで売っているクッキーと比べても負けてないッ!!」

 

士道は折紙のクッキーに雷に打たれるような衝撃を受けていた。………十香のクッキーが百点満点だとすれば、折紙のクッキーは百点満点オーバーの点数を士道はつけざるを得なかったのだ。

折紙は勝ち誇った顔をして、十香に言う。

 

「………私の圧勝。これで士道は私のもの」

 

「ふざけるなッ!シドーは私のシドーだ!誰にもやらん!」

 

士道はガックリとしながら二人のクッキーを食べていた。そして非リア充たちは―――

 

『―――ゴフッ!!』

 

盛大に吐血した。それを見て桐生藍華は手で鼻をつまみ、非リア充たちを悪臭のように扱いながら吐き捨てるように言う。

 

「―――負け犬臭いわねぇ………」

 

………この女、桐生藍華は魔女と呼ぶべきだろう。他人の不幸を我関せずで呆れている。高校生でカップルがいるかいないかは、二次元男子と腐女子以外にとっては重要なステータスなのだが、それを知った上で桐生はバカにしているのだ。

士道は桐生に呆れながら言う。

 

「―――お前も彼氏いないだろうが………」

 

「―――ゴハッ!!」

 

士道の言葉に桐生も盛大に吐血をした。ちなみに桐生藍華も現在はフリーだ。容姿は良いものの性格がコレだからだ。

 

「―――よう五河、見知らぬ少女からクッキーをもらったのだが、俺の彼女は食べられないのだ。………どうすればいい?」

 

殿町がスマホの画面を『恋して!リトル•マイ•シドー』の画面にし、キャラクターを表示させて士道に訊く。ちなみにキャラクターは『ゴメンね!』と謝っていた。

 

―――殿町の言葉で空気が元に戻り、その後は非リア充たちも立ち直ったのであった。

 

『くっそおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

 

 

――◆――

 

 

 

 

「―――チッ!どうなってんだよ天気予報!全く外れてばっかじゃねえか!『降水確率一〇%』――――やかましわ!ただいま絶賛ゲリラ豪雨なうだ!こんなもん詐欺だよ、詐欺!」

 

予想外の雨に打たれ、士道は全力でボヤいた。しかし、ドライグは士道とは違い、この現象について思うことがあったのか、士道に語りかける。

 

『―――いや、この雨は自然のものではないな。意図的に雨を降らせたような………俺にはそんな感じに見える』

 

「―――それは何か力を感じるってことなのか?この雨を見てドライグはそう感じたのか?」

 

『いや、俺も確証を持っているわけでは無いから、いい加減なことは言えない。だが、一つの可能性として考えてもらえればと思ってな。先ほどまでこの辺りには雨雲は無かった。それなのに雨雲が現れた雨が降り始めたのだ。―――どう見てもおかしいだろう?』

 

ドライグの言うことはもっともだ。先程まで完全に晴れていて、雲はほとんど無かったにも関わらず、この大雨だ。ドライグが怪訝に思うのも頷ける。

 

「………修行があるってのに、風邪で休んでなんかいられるか!とにかく雨宿りだ!」

 

士道は近くの神社の大きな木の下へと逃げ込む。そこにドライグが言う。

 

『………相棒、落雷があれば死ぬぞ?』

 

「雷は鳴ってねえから雷は落ちねえよ。それに、俺には何か特殊な力があるんだろう?死んでも生き返るような―――だから雷程度じゃ死なないだろう」

 

『………………あ、忘れてた』

 

「―――ドライグは認知症だな。アルビオンが知ったらどうなるだろうな?『もしかしてアルビオンとの喧嘩の原因を忘れたのも認知症のせいなんじゃないのか?』………ドライグ、おっぱいドラゴンの歌は覚えてるか?」

 

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおんんんんっっ!!!!その歌だけはやめてくれぇぇぇぇぇ!!!』

 

ドライグは士道に不名誉なレッテルを貼られ、トラウマを抉られて盛大に泣いた。―――泣龍帝いじられドラゴンが今のドラゴンにはぴったりだろう。

 

士道がそんなことを思っていた時だった。

 

バシャッ!

 

「あれは………」

 

水しぶきが飛び散る音が聞こえ、士道はそちらの方に視線を送る。

士道の視界内に写っていたのは、可愛いらしい意匠に身を包んだ小柄な少女だった。意匠の頭にはウサギの耳のような可愛らしいものもついていた。

フードを深くかぶっていて頭を覆っていたため顔を伺うことは叶わなかった。

 

………そして、もう一つの大きな特徴は左手のパペットだ。ウサギの耳に海賊がつける眼帯のようなものをつけたかわいいとは言えないヘンテコなパペットを彼女は手につけていた。

 

「………なにを、やってるんだ?」

 

少女は誰もいない神社で楽しそうにぴょこぴょこと跳ねていた。この雨の中なのに傘をささずに遊んでいることに―――また、何故自分はあの少女に目を奪われているのか士道は疑問に思っていた。

 

ドシャッ!

 

少女が水たまりを踏んだ時に泥に足を取られたのか盛大に転んだ。士道は慌てて少女に駆け寄る。

 

「お、おい!大丈夫か!?」

 

士道が駆け寄った時、少女が顔を上げる。そこで少女の貌を始めて視ることができた。

 

ふわふわな海のような青い髪に桜色の唇、透き通った蒼玉を思わせるような瞳をしていた。

 

「………………!」

 

少女は士道に目を合わす。特に怪我をしている様子もなく、一応は大丈夫だと思ったのだが―――

 

「………ふう、大丈夫みたいだな。―――ほら、立てるか?」

 

士道が優しく手を差し伸べたのだが、少女は士道を怖がるようにかなりの速さで後ろにあった木まで後ずさる。

 

「………あ、あれぇ?」

 

士道はいきなり怖がられたことに少しショックに感じていたが、士道は少女に歩み寄ると、さらに心を抉られた。

 

「………こ、来ないで、下さい………!」

 

少女は怯えた様子で士道を見て言った。完全に拒否された士道は脇腹を抑えて地面に膝をつく。

 

「―――ぐふぅッ………」

 

士道は大きなダメージを心に負った。トラウマを克服し、回復してきた精神に大きな被害が出て、士道は少しの間呆然としていた。

 

そして、数秒したのち精神がある程度回復し、士道が顔を上げ、少女を見ると怯えた様子で士道に言う。

 

「………いたく、しないでください………」

 

どうやら少女は士道が危害を加えると思ったらしく、怯えていたのだ。そして、士道はふと転がっているパペットを拾い、少女のもとへと向かう。

 

「―――はい、これはキミのものだろう?」

 

「………!」

 

少女は士道の様子を警戒しているが、士道はパペットをその場に置いて少女と距離をとる。―――士道のライフはすでにゼロだった。

少女はパペットを素早く拾い、士道から離れ、左手に装着した。

 

『………いやあ!酷い目にあったよ。ゴメンねお兄さん、助かったよ』

 

「―――しゃっ、喋ったぁ!?」

 

士道は芸人ばりのリアクションをする事でパペットに返事をする。―――そう、パペットが喋ったのだ。その音声は青い髪の少女のものではないことは士道はすでに気付いていた。

 

『………恐らく、俺と似たようなものだろう。あの「ブサイクな手袋」も一つの意思―――もしくは存在かもしれん。俺も永いこと生きてきたが、意思を持って言葉を話す手袋は初めて見た』

 

―――ドライグは失礼千万なことをあのパペットに向かって言っていた。

 

(―――ある意味俺にも出来るよな?俺が左手にパペットつけてその声をドライグが発すれば)

 

『………やってやっても良いが、その時は必ずウェールズの赤い龍の手袋を用意しろよ?間違って白い龍を用意した時は相棒の赤裸々の過去を妹にバラすぞ?』

 

………ドライグは難しい時期に入っていた。最近のドライグは色々とこだわるのだ。

 

(おっぱいドラゴンの手袋じゃダメか?)

 

『―――ダメに決まっているだろうがああああああああああ!!!!』

 

相変わらずツッコミだけは凄まじい鋭さを発揮していた。そして、少女ではなくパペットが一言だけ士道に告げる。

 

『んじゃあお兄さん、バイバーイ!』

 

「おう、ばいばい―――ってちょっと待てやあああああ!!」

 

士道が一人漫才をしているうちに少女とパペットはどこかへと消えた。

 

「………もしかしてあの子は―――」

 

士道はあの少女に少し思うことがあったのか、その場でブツブツと考え続けた。

 

 

 

 

―――◆―――

 

 

 

 

「………ただいま。すまん、琴里。先にシャワー使うぞ」

 

士道は制服が予想外の雨に打たれたお陰でびしょ濡れになっていたので、風呂場へと向かった。

―――琴里がいると思ったのは、士道の他にもう一つ靴があったのだ。それを見た士道は琴里が家に帰っていると思ったのだ。

 

士道は制服を脱ぎながら少女のことについて考えていた。

 

(あの子………もしかして精霊―――なんて事もあるのかな?)

 

士道が考えている時、ドライグが答える。

 

『―――そう考えるのは焦燥かもしれんぞ相棒。あの小娘から確認された力は「()()()()()」に比べるとかなり小さいものだった。―――あのブサイクな手袋もな。恐らく精霊ではなく、何か特殊な力を持った小娘と考えるべきだろう。………相棒、今日は空間震が起こっていたか?』

 

ドライグは懲りることなく十香のことを『アルトリア』と呼んでいる。

 

「………そういえば、発生は無かったよな?警報すら鳴って無かったし」

 

―――そう、今日は空間震警報が鳴ってなく、主だった霊波の乱れも観測されなかったそうだ。………ちなみに、今の士道なら精霊がこの街に現れた時点で気を感知する事が可能だ。

 

『………とにかくあの小娘についてはまた今度だ。それから相棒、一つ残念なお知らせがある』

 

「―――残念なお知らせ?」

 

士道はドライグの言葉を怪訝に思い聞き返す。ドライグから帰ってきた言葉は士道にとっては辛い現実となる。

 

『相棒が『兵藤一誠』だった頃に至ったバランス•ブレイカーの調整を相棒の体に合わせて調整をしているのだが、全く上手くいかないのだ。―――『何か大切なもの』が欠けているのだ。………恐らく、そのパーツが見つからなければまた神器を至らせるしか方法がない』

 

「―――ま、マジかよ!?どうすんだよ!ソロモンさんやヘラクレスが知ったらどうなるか!!」

 

『―――いや、ソロモンの方は完全に勘付いていた筈だ。あの男の知識量は正直言って異常だ。あの男には『相手の記憶を視る力』でもあるのだろう。………これは俺の推測なのだが―――相棒、お前の中で足りないパーツといえば………』

 

士道もそれについては今までの話である程度は分かっていた。それは『兵藤一誠』にあってこの『五河士道』にないものだった。

 

「―――『悪魔の駒(イービル•ピース)』………だろうな」

 

『………ああ、俺もそう思う。相棒の『三叉成駒(トリアイナ)』はアレのシステムが生み出したバグのようなものだからだ。―――ソロモンに相棒の「悪魔の駒」を取ってきてもらうか?』

 

―――たしかにドライグの言う通り、ソロモンならそれは可能な筈だ。だが、士道はドライグの言葉に首を横に振る。

 

「―――要らねえよ。他人の力を利用してまでバランス•ブレイカーに至るつもりは無い。そんな力は本当の力じゃない。俺は俺なりに新たな力を模索していくよ」

 

『………その通りだ相棒、俺がバカだったよ』

 

「気にすんな!心配してくれてありがとなドライグ。―――さて、風呂に入るか!」

 

ドライグとの会話が終わり、士道が浴室のドアを開けると………浴室の中でシャワーを浴びる一人の少女がいた。

 

「―――十香!」

 

「シ………………シドー!?」

 

そう、その少女は十香だった。背中を隠す美しい黒い髪、士道が大好きなツヤとハリがあり、豊かに育った美しい乳、くびれた腰にスレンダーな太もも。

士道は鼻血を出しながら十香の全身を舐め回すかのように眺めていた。

―――そして………士道はスマホを出し、カメラを起動させる。

 

「十香!今日の夜の()()()に写真を撮っても―――」

 

士道がスマホの撮影ボタンを押そうとした時、十香が強烈な掌底を士道に放つ!

 

「―――で、出て行けええええええええええ!!!」

 

ドゴオッ!

 

「どおあっ!?」

 

士道は堪らず吹き飛び、後方に一回転して洗濯機とぶつかり床へと倒れ込んだ。

 

「と、十香の………お、おっ………ぱい………」ガクッ

 

士道は浴室の扉へと手を伸ばして、完全に倒れた。

 

『―――自業自得だ………』

 

ドライグは士道に完全に呆れていた。

 




★おまけ ソロモンと愉快な仲間たち

ヘラクレス「ソロモン、ソロモン!新しく現れたあの精霊ちゃんアタシのタイプど真ん中なんだけど!」

ソロモン「———よし、是非とも士道くんに攻略してもらおう。彼ならきっと上手くやるさ」

ヘラクレス「ねぇソロモン!アタシがあの子を攻略したいんだけど!ねぇどう思う?アタシならできそうでしょ?」

ソロモン「ヘラクレス、悪いことは言わない。やめておいた方がいいだろう•••••。ここは士道くんを信じよう!」

ソロモンはせめてもの優しさだったが、アテナは正直に包み隠すことなく伝える。

アテナ「あなたのような『巨大な怪物』が目の前に現れれば、あの精霊はあまりの怖さに大泣きするでしょう。•••••五河士道に任せたらどうですか?」

ヘラクレス「———おいアテナ、殺すぞ?」

ヘラクレスは怒った時はオカマではなくなるらしく、凄まじい殺気をアテナに向ける。

アテナ「———私はソロモンとは違い、本当のことを言っただけです。現実を突きつける事も一つの優しさです!」

ヘラクレス「———本当のことを言うなあああああああああ!!!」

ヘラクレスとアテナは再びドンパチを始めた。

ソロモン「いい加減にしないかお前たち!!」

ソロモンの苦労は続くのであった。
四糸乃とヘラクレスの絡みはいずれ出す予定です!


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三話 家族が増えます!

デート•ア•ライブの三期が決定したみたいですね!

最近知りましたが、本当に楽しみです!



それでは続きをどうぞ!

※ヘラクレスのキャラが酷いという評価を頂いたので、もう少しマシなキャラに描けるように頑張ります!


士道は濡れた体だけを拭いて、リビングへと向かう。そこには、琴里がキャンディーを舐めながらソファーに座ってテレビを眺めていた。

 

「おう、おにーちゃんお帰り〜!」

 

琴里は士道の方を向いて笑顔で兄の帰りを待っていたようだ。

 

「おう!ただいま―――じゃなくて!なんで十香が家に来てしかもシャワー浴びてんだよ!理性が残っていたから良いものの、もう少しで危うくビーストモード解禁をするところだったんだぞ!?………まあ、色々見れて眼福だからいいんだけど!」

 

士道は鼻の下を伸ばし、下品な笑みを浮かべていた。彼にとって十香のような美しい体をしている少女は大好物なのだ。

琴里は士道の言葉にテンションを高くして答える。

 

「聞いておにーちゃん!なんと、今日から十香は我が五河家に住むことになったのだあ!」

 

「だだだだだだだだにぃ!?そりゃまたどうして!?」

 

士道は突然の知らせに飛び上がるほど驚いた。

 

「………とりあえず落ち着いたらどうだ、シン」

 

令音まで士道の家に上がっている。彼女もシャワーを浴びたらしく、髪が水で濡れていた。

―――令音は勝手に士道の家のコーヒーメーカーでコーヒを沸かし、砂糖を大量に投入していた。

 

「………令音さんまでいるとは―――それで、なぜ十香が俺の家にいるんですか?………砂糖使い過ぎですよ!」

 

士道はとりあえず令音と向かい合うようにテーブルの席に座り、まずは令音の手元から砂糖の入った瓶を取り上げる。

 

「………すまないね。―――それから、十香がシンの家にいる理由は一つだ」

 

令音は相変わらず気怠そうに左肘をテーブルにつき、半分眠りながら士道に理由を話す。

 

「………十香のアフターケアのためさ」

 

「―――アフターケア?………ですか?」

 

「………シン、キミは十香との口づけによって彼女の霊力を封印した。それは覚えているよね?」

 

「はい!スベスベでもちもちでしたッ!最高のお体でした!」

 

―――士道はその時のことを思い出して、下品な笑みを浮かべ、ドクドクと鼻血を流す。

士道が思い出していたのは、キスをしたことではなく、その後の霊装がなくなって生まれた時の姿になった一糸纏わぬ十香の姿だった。

………この男は欲望に正直なのだ。

 

「―――死ねぇ!この変態!」

 

「どおうあっ!?」

 

琴里は士道が何を思い浮かべていたのかを瞬時に理解し、士道にテニスボールを投げつけた。それは士道のおでこに命中し、テニスボールは天井にぶつかりコロコロと何処かへ転がった。

 

「………話を戻そうか。十香の力を封印したのはいいが、今のシンと十香の二人には見えない経路のようなものが繋がっている。―――某人気アニメのマスターがサーヴァントに供給するアレに必要なものと思って貰えればいい」

 

「―――この小説には、他作品ネタのタグはありませんよ?」

 

「………リアルの話は今はいい。近い将来、作者が展開に困って付け足すだろうさ。―――この経路には問題があって、十香の機嫌が悪くなると、封印した力が逆流する恐れがあるということさ」

 

「………ッ!」

 

士道は令音の言葉に戦慄していた。万が一そうなった場合、天を裂き、大地を砕くあの破壊の力が再び現世で引き起こってしまう可能性があるからだ。

―――士道はこの時どうあってもそれだけは避けなければならないと心の中に刻み込んでいた。

 

「………キミも知っての通り、十香は『フラクシナス』の隔離部屋で生活をしてもらっているのだが、そこでの十香の精神状態は正直言ってかなり悪い。―――だが、学校にいるときは安定している」

 

「もしかしてですが、十香の精神状態が安定しているときは十香のそばに俺がいる時だと―――そう言いたいんですか?」

 

「………理解が早くて助かる。シン、十香はキミの近くにいるときが一番精神状態が安定しているんだ。―――精霊用の特殊住居が完成するまではこの家に住むことが十香にとっては一番落ち着くと思ってね」

 

―――士道は令音の説明を聞いて顔をしかめる。

たしかに士道は十香に全幅の信頼を寄せられている―――いや、十香は士道にそれ以上の感情を抱いていることに気付き始めていた。

………もちろん、士道も十香に信頼されて嫌な気はしていないし、むしろ士道自身も十香と一緒にいたいと思っている。

しかし、同居するとなると問題も必ずおこるし、士道は自身がスケベだということを理解しているため、令音の言葉に易々と「分かりました」と言えないのだ。

 

『―――俺は反対だ』

 

顔をしかめ、迷う士道とは反対に士道の相棒のドライグは真っ向から言い切った。

 

「………あなたが反対するとは思わなかったよ―――『赤い龍』ア•ドライグ•ゴッホ」

 

令音はドライグが会話に入ってきた途端に二人称を『キミ』から『あなた』へと変更する。―――超常の存在であるドライグへのせめてもの敬意の示し方であった。

………士道は琴里と令音にドライグの存在については少しだけだが話している。『赤龍帝の籠手(ブーステッド•ギア)』のことを聞かれた時に、力と能力、そしてドライグがどのような存在かということを話した。

 

『俺は相棒―――五河士道という人間を長年に渡って見てきた。「アルトリア」―――失礼「夜刀神十香」だったか?あの小娘と同居するようになると何かしらの間違いが起きてしまうぞ?』

 

ドライグの言葉に士道はテーブルを強く叩き、大きな声を上げて反論する。

 

「おいドライグ!お前が見ても俺はそんなに信用がねえか!!」

 

『―――今更か………まず相棒はこの一週間以内に必ずあの小娘に何かしら手を出す。―――下着を盗んだり、夜這いを仕掛けるぐらいのことはやってのけるだろう』

 

ドライグの言葉に琴里がドライグに訊く。―――彼女はもう白リボンの『可愛い妹モード』は封印し、黒リボンの『司令官モード』へと移行している。

 

「ドリームランドから逃げたようなこのヘッポコチキンなシドーが十香に手を出すなんて真似が出来るわけないと私は思っているけど?」

 

『―――確かにあの時は相棒も自重したさ。………あの小娘との好感度を下げるわけにはいかなかったからな。

―――俺が言いたいのは、あの小娘なら相棒に何をされても許してしまいそうだということだ。………あの小娘は相棒に押し倒されても平気で受け入れるだろう』

 

「―――今度試してみようかな………」

 

士道がドライグの言葉にボソリと呟く。―――この五河士道は過去を乗り越えてこんな感じだ。今の士道は快楽主義真っ只中だ。―――いずれは………と士道は考えていた。

 

「試すなこのバカ!!」

 

ドゴッ!

 

「―――アベシッ!!」

 

琴里は座っていた椅子から士道に飛び蹴りを食らわせ、士道を吹き飛ばす。

 

「………シン、キミの相棒はこんなことを言っているがキミ自身は十香と一緒に住むことをどう思っているのかい?」

 

士道は迷いながらも令音の目を見て真剣な表情で想いを伝える。

 

「………俺も男ですので、ドライグが懸念するようなことがこれから全く無いとは言えません―――でも、俺は十香に『俺と一緒にいてくれ』と伝えました。最初に知った時は戸惑いましたが、俺は十香がこの家に住むことを拒んだりはしません」

 

士道の本心だった。彼は本当に十香のことを大切に思っているからこそ自分の気持ちを包み隠すことなく伝えた。

その時リビングの扉を開けて、中を伺う一人の少女の姿を士道は見つけた。その少女に士道は手招きをする。

 

「十香、そんなところで聞いてないでこっちに来いよ。そんな暗いところにいたら性格まで暗くなってしまうぞ?」

 

士道の言葉に誘われ、十香は士道の席の前に足を進める。

 

「………いいのかシドー?私がこの家にいたら、お前や琴里にたくさん迷惑をかけてしまうかも―――」

 

「ダメなわけないだろ?俺は言ったぜ『迷惑をかけてもいい』ってな。俺も琴里もお前のことを邪険に思ったりはしねえよ。それに、十香が俺の家にくるなら、この家はもっと賑やかになるから俺は嬉しいぜ。部屋なら空きもあるし、食べ物のことも気にするな!俺がお前の飯もしっかり作ってやるから!」

 

―――このように寛大で他人想いな男が全世界にどれだけいるだろうか。いや、恐らく片手の指で数えるほどしか存在しないだろう。

琴里も士道の言葉を誇らしげに聞いていた。

 

「………本当にありがとう、シドー!何か私に返せるものがあれば良いのだが………」

 

「―――だったら笑ってくれよ十香。俺にはそれだけで十分だ」

 

「―――シドー………っ!!」

 

十香は士道の言葉に目を潤わせていたが、一言だけ「ありがとう」と言って開いている士道の横に座った。

………そして十香は琴里と令音を真っ直ぐに見つめて宣言をする。

 

「よし、私は今決めたぞ!私はシドーの嫁になる!」

 

「「はあああああああああ!?」」

 

「………………………」ピキピキピキピキッピシッ!

 

―――十香のこの言葉は士道にあっても驚きであったが、何より士道に強い想いを寄せる琴里にとっては、宣戦布告に近かった。

そして令音は表情一つ変えることがなかったが、先ほどまで口にしていたコーヒーの入ったコップを強く握りしめており、コップに亀裂が入り始めていた!

 

「へ、へえぇぇぇ!ど、どうしてシドーの嫁になりたいのかしら!?シドーの他にも男はいるじゃない?他の男の人でも―――」

 

琴里は眉をピクピクとヒクつかせ、額に血管を浮かばせながら十香に訊いた。•………すでに拳を握りしめており、ガタガタと拳を震わせながら、どうにかして平静を装おうと努力をしていた。

 

「いや、私はシドー以外の男は眼中にない。私の隣を歩く者はシドーでなければならないのだ!琴里、令音!これから私がシドーを夫にするために色々とアドバイスをしてくれ!」

 

………十香は琴里の言葉を殆ど聞いていなかった。目を輝かせながら二人に自分をシドーの妻になるための方法を聞き出そうとしていた。

―――だが、士道と結婚を理想に考えている琴里は十香の言葉に首を横に振る。

 

「………し、シドーはダメよ!絶対にダメなの!シドーには昔からの許嫁がいるわ!シドーのお嫁さんはその人って決まっているの!」

 

※これは―――それが自分だという琴里の願望です。

 

「なっ!?シドーに許嫁がいるなど聞いてはおらぬぞ!―――シドー、それは一体誰なのだ!私はその女を屠りに行くぞ!」

 

「………物騒な手段を取りますね十香さん!!って言うか俺に許嫁なんていねえよ!一体どこのお偉いさんなんだよ俺は!」

 

士道は二人の言葉に声を荒げながら反論していた。―――ここに五河士道ハーレム王のフラグは確立しつつある。

 

「琴里の記憶違いであったか………驚かせおって。シドー、お前の嫁はこの私だ!私を幸せにするが良い!」

 

「―――随分急な展開だな!?………まあ、いずれはそうなるかな?」

 

士道は十香のことを好きか嫌いかで言えば、限りなく好きという感情に近い。士道は戸惑いながらも十香に答えを述べた。

 

「おおっ!本当かシドー!?私を嫁にしてくれるのか!」

 

「―――ぐへぇ!?」

 

ドゴオオオオオオッッ!!

 

琴里がライダーキックを士道の胸部へと決め、十香への返事を聞かせはしなかった。

琴里は目を泳がせ、声を裏返して十香と令音に言う。

 

「―――この件はまた今度ってことにしましょう!士道の相棒がまだ話があるみたいだし!?」

 

「私はシドーの返事が―――」

 

「………また今度でいいじゃないか十香」

 

十香は士道の返事が聞きたかったようだが、二人が強引に話をそらさせた。―――万が一士道がOKを出せば二人は士道を諦めることにならざるを得ないからだ。

 

「………な、なぜ俺を蹴った!?」

 

「―――なんとなくよ、なんとなく!」

 

「なんとなくで済ませるなあああああああああ!!!!!」

 

士道は蹴っ飛ばされたことに怒りを露わにしていたが、士道の左腕に『赤龍帝の籠手(ブーステッド•ギア)』が現れ、宝玉が点滅を始める。

 

()()()()()―――ゴホンッ!夜刀神十香のことは一旦伏せるとしよう。俺には相棒についてまだ聞きたいことがあるというのもまた事実だ。………相棒、話を始めても良いか?』

 

「―――ああ、俺は構わないぜ」

 

士道も既に立ち上がっており、再び十香の隣の席に座る。士道が座り終わると、神器の中にいるドライグが『赤龍帝の籠手(ブーステッド•ギア)』の宝玉を点滅させながら、琴里と令音に話し始める。

 

『―――俺が訊きたいことは二つだ。まず一つは貴様らが加入している「ラタトスク機関」について教えてもらおうか』

 

ドライグの疑問は士道についても同じだった。―――なぜ自分の妹が秘密結社の司令を務めているのかが気になっていたのだ。

ドライグの問いに琴里は舐めていたチュッパチャプスを噛み砕いて棒を捨ててから話し始める。

 

「………シドーも疑問に思っているみたいだし、今が話し時かも知れないわね。―――『ラタトスク機関』は簡単に言えば一種の保護団体みたいなものです。………秘密結社なので世間に公表はされていませんが」

 

琴里は完全に司令官モードでドライグに敬語で話していた。

 

「………保護団体?それならなんで秘密結社なんだよ?」

 

士道は琴里の言葉に訝しげに思い、再び訊きなおす。しかし士道の問いに答えたのはドライグだった。

 

『そこの「夜刀神十香」のような精霊という存在自体が極秘事項なのだろう。それ故にそれを保護し、監視するということが存在理由なら尚のこと世間に知れた企業ではまずかろう。………俄かに信じがたいが、それを信じた上で俺は訊かせてもらう―――お前は一体いつから司令官へとなった?そして、どのようにしてその秘密結社を知り加入したのか?

―――悪いが「私の才能を買ってくれた」などというくだらない冗談を言おうものなら、今後俺は一切貴様らの問いには答えない』

 

………ドライグさんはジョークがお嫌いなようだ。ドライグの言葉に琴里は難しそうな表情をして答える。

 

「………『ラタトスク機関』に加入したのは、五年前です。そこからの五年間は研修みたいなものだったので司令官になったのは最近です。―――五年前のことは私もあまり詳しくは話すことはできませんが、その時に私は『ラタトスク機関』を知り、機関に加わりました」

 

―――詳しく話せないと言うのは、五年前のことを琴里自身も詳しく覚えていないのだ。士道もそのことをドライグに告げているため『何故話せないのだ?』と追求することはしなかった。

 

『………分かった。次に二つ目だ―――相棒はいつ精霊を封印する力を身につけたのだ?それから相棒の自然治癒能力についても教えてもらおうか』

 

「………シドーには接吻によって精霊を封印する力がある少年だということが士道を保護した時に観測機で検査をして分かりました。―――ですが、何故シドーにそんな力があるのかは私たちも分かっておりません。それから二つ目の質問に関しましては………」

 

琴里はシドーのもう一つに力―――異常なまでの自然治癒能力については口を割ろうとしなかった。思い出したくないようなものを思い出してしまったような………そんな顔をするぐらいに表情を陰らせた琴里を見て、士道は「………これ以上はいいんじゃないか?」とドライグに言い聞かせた。

―――しかし、尋問があったのはドライグだけではない。次は令音がドライグに質問をする。

 

「………私も質問がある。シンではなく、あなたにだ―――『赤い龍』ア•ドライグ•ゴッホ」

 

『………俺に何を訊きたいのだ?』

 

「………あなたは一体いつからシンに宿っていた?」

 

ドライグは少し考えたのち、宝玉を点滅させながら語りだす。

 

『―――俺が相棒の中にいたのは最初からだ。………だが、俺はとある戦いでやられ意識を失っていた。………俺の意識が戻ったのは五年前だ。そして相棒と話ができるようになったのは相棒と夜刀神十香が出会った日―――今年の四月十日だ』

 

ドライグが意識を失った原因というのは前世での最後の戦闘に原因がある。ドライグはそれについては()()()語ろうとはしなかった。

 

「………そうか。私からはもう何もない。―――琴里は何かあるかい?」

 

令音の言葉に琴里は首を横に振ったので、これでこの話も終了した。

そこで士道が何かを思い出したように席を立ち上がる。

 

「話も終わったところだし、俺ちょっとトイレの電球変えてくるわ。そろそろチカチカと消えたりついたりを繰り返してたから寿命だろうと思ってさ」

 

「―――ええ、お願いするわ」

 

琴里が士道に頼むと士道はクローゼットの中から電球を取り出して、トイレへと向かう。

その時に士道がドライグに話しかける。

 

「………なあドライグ、お前が意識を無くした原因って―――」

 

『それに関してはこの家では話すわけにはいかん。ここでの会話は全て録音されてお前の妹とあの村雨令音が聞いている。詳しくはソロモンのジムでも良かろう』

 

ドライグは情報の漏れに細心の注意を払っていた。―――この家では十香が暮らすことになったので数値をモニタリングするために会話などは全て『フラクシナス』で録音されている。

ドライグはそれを分かっていたのだ。

 

「………分かった、今はもう聞かないよ。―――さて、仕事だ仕事!」

 

士道はトイレの電気がついていたが、ノックをすることなく入ってしまう。

そして、士道の目に映ったのは―――

 

「………と、十香!?」

 

………十香だった。ただ今絶賛使用中だったにも関わらず、士道は再びラッキースケベを発動させてしまう。

 

「し、シドー!?な、何をしているのだ!は、早く閉めんか!」

 

十香はパンツを膝の下までずらした状態で座っていた。ちなみに電気はじりじりと変な音を立てていた。

 

十香がトイレットペーパーを手につかんだ時に士道が左手を前に出して男の理論を語り出す。

 

「―――ああ待て十香、俺はこういう展開に物申したいことがある。女性の恥ずかしいシーンを見ることと俺がぶっ飛ばされることは決してイコールでない。いや、イコールであってはならない!

―――だから俺はこの光景をこの目にしっかりと焼き付けるッ!!」

 

「し、閉めんかあああああああああ!!」

 

「―――ジェロニモおおおおおおおおお!!」

 

十香は持っていたトイレットペーパーを士道の顔面に投げつけ士道を吹き飛ばした。

その現場に琴里が手を額に当てながらやれやれと呟いていた。

 

『………五河琴里、これから相棒がこの家にいる時は監視を一人つけてくれないか?』

 

「―――そうした方が良さそうですね」

 

士道のことをよく知る二人は、全く同じことを考えていた。




感想に士道の訓練はするの?とありましたが、士道の訓練は中身がイッセーなので何一つ必要ないと思っています。

ラッキースケベの描写は描く予定です。

フラクシナスのメンバーは士道のサポートをしますが、基本的にはドライグの方が有能ですので、ドライグがほとんど士道のアドバイザーになると言った感じですね!


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四話 強さと弱さ!

傷ついても、ボロボロになろうともなお力を求める士道、それを支えるのは家族たちの想い。

士道はその想いにどう答えるのか?

更新が遅れてしまい、申し訳ありませんでした!


時刻はPM6:30。そろそろソロモンとの約束の時間だ。士道は十香と琴里の二人と夕食を済ませ、食器を洗い終えたところだった。

 

「おにーちゃん、おっ風呂沸いたぞお!」

 

琴里が士道に伝えるが、士道はポケットの中から何かを取り出す。

 

「―――先に行けよ琴里。今日は運がいいことに福引を引いたら『こいつ』が当たったのよ。………これ使っていいから先に行けよ」

 

士道がポケットから取り出したのは、最高クラスの入浴剤―――バスソルトだった。

 

「え!?どこの福引よ!!そんな高級入浴剤が置いてある福引なんて滅多にないわよ!?―――先に入っていいの、おにーちゃん?」

 

「ああ、俺はこれからジムで体を鍛えてくる。―――いいジムを見つけたんだ、最近ちょっとお腹が出てきたからまた鍛え直そうと思ってな」

 

「わーい!ありがとう、おにーちゃん!」

 

琴里はバスソルトを受け取ると急いで浴室へと向かった。食器を片付けると、士道は家を出るために玄関へと向かう。

 

「………さて、今日はソロモンさんが相手か。ある意味、全力で殴り掛かってくるヘラクレスのおっさんよりも怖いぜ」

 

士道は今日の修行に少しだけ怖く感じていた。ソロモンを相手にすることは、士道にとって一番苦手なタイプの相手と戦うことに等しいからだ。

 

『………相棒、明日の修行は休むべきだと俺は思う。昨日今日で相棒の体はまだヘラクレスとの修行で受けたダメージが抜けきっていない。あまり無理をし過ぎたら潰れてしまうぞ?』

 

ドライグは士道の体を心配していた。二時間とは言え、休憩なしで天龍クラスの相手との死闘を繰り広げたのだ。おまけに今の士道はただの人間だ。肉体が悲鳴を上げていてもおかしくはない。

 

「―――ありがとなドライグ。だが、それじゃあダメなんだ。できる時にやっておかないと万が一の時に辛い思いをするのは俺だ」

 

『………………………』

 

士道の言葉にドライグは黙り込んだ。―――今の士道には何を言っても聞く耳を持たないとドライグは勘付いていた。士道は『仲間を守る強さを身につけなければ』と強迫観念に突き動かされていた。

『兵藤一誠』としての力が完全にコピーされているのであれば、士道もここまで焦ることはないのだが、彼はまだ禁手(バランス•ブレイカー)にすら至れていない。

 

「………俺がやらなきゃいけない―――俺がみんなを守るんだ」

 

士道は怖いくらいに眼光を鋭くして、前を見つめていた。

士道が靴を履いて家の扉に手を触れる。その時、士道の足を止める者がすぐ後ろにいた。

 

「シドー?こんな夜中に何処へ行くのだ?」

 

十香が家を出ようとしているシドーに声をかける。士道は十香に答える。

 

「………ちょっとしたトレーニングさ。最近お腹が出てきてダサいなと思ってさ、少し外を走ってくるつもりだ」

 

それだけを伝えると士道は扉を開けようとしたが、十香も士道に合わせて靴を履く。靴を履いている十香に士道は目を点にして反応する。

 

「………あの、十香さん?あなた一体何をするおつもりで?」

 

「む?『何をするおつもりで?』ではなかろう!私もシドーとトレーニングをするのだ!夫と常に共にあるのが嫁というものだと桐生藍華に教わったのだ!」

 

(―――あのエロメガネ女か!?十香に余計なことを吹き込みやがったのは!!)

 

士道は空から“してやったり”といやらしい笑みを浮かべて手を振っている桐生の顔が思い浮かび、歯ぎしりをしていた。

―――だが、これからの修行に十香を連れて行くわけにはいかない。士道はどうやって十香を家に置いて出ようかを考えていた。

 

「………シドー、どうしたのだ?早く私とトレーニングだ!」

 

士道は首を横に振り、十香の肩を掴んで想いを伝える。

 

「十香、お前は家に残ってくれ。トレーニングをするのは俺だけでいいんだ」

 

「―――何故なのだシドー!私とトレーニングをするのは嫌なのか!?」

 

十香はいきなり拒否されたことに動揺し、先ほどまでの笑顔の表情が困惑の表情へと一変する。士道は理由を説明する。

 

「………十香、今から俺が話す事は誰にも言わないで欲しい―――ドライグ、アレを頼む」

 

士道が『赤龍帝の籠手(ブーステッド•ギア)』を出し、ドライグに準備をするように告げる。

 

『任せろ―――ConnectMind』

 

赤龍帝の籠手(ブーステッド•ギア)』が二度と点滅をした後、士道に力が無い赤いオーラを包み込む。士道を包み込んだ後、十香にも赤いオーラが包み込んだ。

そして、二人を包み込んだ赤いオーラは、しばらくして弾けて消え去った。

 

「い、今のはなんだったのだシドー?」

 

シドーは目を瞑り、口を開けずに心の中で十香に自分が言いたいことを思う。

 

(―――十香、聞こえるか?)

 

士道が念じるとそれは十香に聞こえたのか、十香がびっくりして慌てふためく。

 

「な、何なのだ!?い、今シドーの声が私の心の中で聞こえたぞ!?」

 

いきなりのことでパニックになり、十香は目をぐるぐると回し、あたふたとしている十香に士道は笑みを浮かべながら再び想いを念じる。

 

(………最近俺が使えるようになった新たな手品みたいなものだ。十香、言いたいことを心の中で念じてみろ。そうすれば俺にもお前の声が届く)

 

十香は言われた通りに目を瞑り念じる。すると――――

 

(………シドー?聞こえるか?)

 

(ああ!聞こえているよ)

 

十香も思念で士道に語りかけると、それは見事に成功し、十香は嬉しそうに舞い上がっていた。しかし、士道は少しした後、真剣な表情で十香を見つめる。

 

(―――十香、聞いてくれ。………俺が行なっているトレーニングはただのトレーニングじゃないんだ。十香たち以上に強い相手に俺はトレーニングをしている。………下手をすれば死ぬかもしれないほど危険なトレーニングをしている。だから十香を連れて行くわけにはいかないんだ)

 

「―――なっ!?」

 

十香はいきなり士道に突きつけられた現実に言葉を失う。士道は続ける

 

(………こんなことを琴里や令音さんに言えば必ず止められる。もちろん、十香も俺を止めようとするだろう。でも、俺は強くならなければならないんだ。お前たちを助ける為には俺自身が今よりも強くなる必要がある。だから―――琴里や令音さんには黙っていてほしい)

 

「―――嫌だ………」

 

十香は表情を陰らせ、ふるふると肩を震わせながらかすれるような声を出した。それは小さな声だったが、十香の心の叫びだった。―――大切な人に死ぬかもしれないほど危険なことをしてほしくないと士道を思ってのことだった。

 

「嫌に決まっておろう!士道が死ぬかもしれないほど危険なことをしているというのに黙って帰りを待つなど出来るわけがなかろう!!―――何故そこまで一人で抱え込むのだシドー!!」

 

十香は士道をいかせないといわないばかりに扉の前に立って両手を広げる。

士道は拳を握り、十香と目線を逸らして心の声を念じる。

 

(―――俺には守れなかった人がいた)

 

「………守れなかった?」

 

(―――ああ。俺がもっと強ければ確実に救うことのできていた人がいた。………けど、俺はその人を救えなかった。あの時ほど自分の弱さを憎んだことはない。だから俺は()()()()では家族をそして仲間を必ず守らなければならないんだ………)

 

これは『兵藤一誠』としての記憶だった。友達であった少女―――アーシアを救えなかった自分が今でも彼は許せていない。だからこの五河士道になってからはそうならないようにと毎日鍛錬を怠ることなく続けてきたのだ。

 

(―――今言ったことは琴里や令音さんには話さないでほしい。………できれば忘れてほしい。―――退いてくれ十香)

 

「ッ!シドー!!」

 

立ちはだかる十香の肩を掴んで士道は無理矢理にその場から動かし、ドアを開けて闇に染まった夜の街を駆けて行った。

 

「―――シドー………何故なのだ」

 

残された十香はただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。

 

 

 

 

 

――◇――

 

 

 

 

『………相棒、あれは酷いのではないか?』

 

士道が来禅公園を目指して夜道を駆けていた時、ドライグが士道に語りかける。

 

『―――夜刀神十香が相棒を心配するのは相棒が傷付く姿を見たくないからだ。………鈍感が過ぎるぞ相棒』

 

ドライグは生前から士道が鈍いことを気付いていた。しかし、士道はドライグの言葉を質問で返す。

 

「………ドライグ、誰も傷つかない世界なんてあるか?」

 

『―――それはないな。だが、俺が言いたいのはそういうことじゃない。少しはあの女の気持ちになって考えてみろ、自分のヒーローがボロボロになってまで強さを求めるところを見たいと思うか?あの女の精神はかなりすり減っていたはずだ。………何故理解してやらないのだ』

 

「―――俺が死にそうになって十香が暴走したことだって俺は忘れたわけじゃない。確かに十香には不安な気持ちにさせたことは本当に悪いと俺も思っている………。

でもなドライグ―――()()()()()()()()()が現れた時、俺以外の誰が十香を守ることができる?………『それなら黙って滅びよう』なんて言葉をお前は言えるのか?」

 

『………………………』

 

ドライグは黙り込んだ。当然そんな言葉は口が裂けても言うことは出来ないだろう。士道は夜空の月を見上げながら、誓うように告げる。

「………俺だけなんだよ。―――いや『赤龍帝』である俺だけじゃないか。十香を守ることも、精霊たちを救うことができるただ一人の人間が俺だ。………誰かを助けることに―――守ることに理由なんて要らないだろ?俺はあいつらに笑顔になって欲しいんだよ………」

 

『………今の相棒に夜刀神十香を笑顔にできるとは思えんがな』

 

「―――ああ、今の俺には出来ないだろうさ。十香を泣かせてしまったんだ。でも、俺は諦めはしない」

 

士道は強い決心を抱き、目的地を目指した。―――全ては家族を守る力を手に入れるために。

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

 

「―――やあ士道くん、今日はいつもより遅かったね。………十香ちゃんと喧嘩でもしたのかな?」

 

目的地の来禅公園に着くと、すでにソロモンが待っていた。士道はソロモンに「………いえ、特には」と返した。

 

「………若いうちは色々とあるからねぇ。僕は士道くんのような青春を送ることなくこんな姿になってしまったけどね。―――ああ、リア充なんて爆発してしまえばいいのになあ。………今度『全世界リア充爆発術式』でも組んでみようかな?」

 

―――この童貞魔法使いもリア充は気に入らないみたいだ。彼からは凄まじい魔力が溢れていた。………このソロモンには青春のことを問うのは禁句に近いだろう。

 

「………あの、なんかすみませんでしたぁ!」

 

「謝らないで士道くん!!なんか本当に惨めな気持ちになってくるから!!よし、リア充撲滅大作戦を決行する!!」

 

「―――あんたそれでも守護者かあああああああああ!!」

 

修行前に無駄な体力を使った士道だった。ソロモンの暴走を止めた後、しばらくして修行が始まった。

 

 

 

「………士道くん、飛行魔術は制御が多いんだ。キミの場合は殆どが悪魔の翼かドラゴンの翼で制御していたからかなり難しいと思う。まずは制御の種類から一つずつやっていこう」

 

「………はい!」

 

「うん、いい返事だ!」

 

ソロモン大先生の飛行魔術の説明が始まった。

 

「―――僕の場合は魔力で空を飛ぶが、キミの場合は霊力を使って空を飛ぶことになる。だが、魔力も霊力もそこまで大した違いはない。

魔力でも霊力でも空を飛ぶために必要な制御は同じだ。………士道くん、飛行するために必要な制御は何が必要になるかわかるかな?」

 

士道はバカな頭をひねりながら一生懸命考えていた。しばらくしたのち、士道は答える。

 

「………飛行するために必要な制御は『上昇』、それから『下降』の二つが主体だと考えます。今の二つだと上下にしか行けないので、前後左右の『移動』の制御と、飛行速度を調整する『加速』それから『減速』の制御が全てだと俺は思っています」

 

士道が導き出した答えにソロモンは笑みを浮かべる。

 

「―――うーん、五十点かな。そこまでの制御は必要じゃないんだ。………まあ、言葉で言うよりは士道くん自身が試すことが一番早いね。士道くん、一度その制御を行ってごらん」

 

「………五十点!?―――まあ、論より証拠ですね。分かりました!」

 

士道はソロモンに言われた通りに空を飛ぶ。確かに士道の考えていた通り、士道は宙に浮き、まるで鳥を思わせるかのように空中を飛行していた。―――しかし………長くは続かなかった。

 

「………あれぇ?」

 

士道は三十分ぐらいで士道は倦怠感に襲われ、地面へと着地する。

 

「―――なんで空を飛ぶことがこんなにも疲れるんだ!?」

 

その様子を見てソロモンが士道に解答を言う。

 

「士道くん、それじゃあ空を飛ぶことはできないね。―――あまり空を飛ぶことに時間を費やすのは無駄にしかならないから答えを教えてあげよう。―――霊力を全身に纏わせるようにコントロールしてごらん。あとは自分の中で思い浮かべるだけで簡単に空を飛べるさ」

 

士道はソロモンに言われた通りに霊力を纏い、空を飛ぶように念じると―――見事に空を飛べていた。

 

「―――ま、マジか………。俺がドラゴンの翼で飛べるようになるまでかなりかかったのに………」

 

「キミの相棒も驚いていたんじゃないかな?空を飛ぶことより禁手(バランス•ブレイカー)に至る方が早い宿主なんて初めて巡り合ったんじゃないかな?」

 

ソロモンの問いにドライグは呆れながら答えていた。

 

『………ああ。この男は歴代の中でも最も変わった宿主だからな。こいつぐらいさ、飛ぶようになるまで時間がかかったのは』

 

「………ゴメンね!才能がなくて!!」

 

士道は恥ずかしそうにドライグに謝っていた。そして、今から修行の本番が始まろうとしていた。

 

「―――さて、士道くん。今からが修行の本番だと思ってくれて構わない。………やれるよね?」

 

ソロモンは魔力を放出して士道を見つめていた。士道はあまりの魔力に後退りをしそうになったが、拳を握りしめ前を見つめていた。

 

「―――お願いしますッ!!」

 

士道は全次元最強の魔術師に勇気を持って立ち向かった。

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

 

 

ドガガガガガガガガガガガガガカッッ!!

 

ソロモンはひたすらに魔力弾の嵐を士道に向けて放っていた。ソフトボールほどの大きさの魔力弾をソロモンは無数に放ち、それを雨のように降らせたり、前後左右や地面の下からも士道をめがけて攻撃をしていた。

 

士道も目に頼るだけではなく、力の動きを探ることで次の攻撃方法を予測し、直撃だけは避けることができていた。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおっっ!!」

 

ズバアッ!

 

士道は目の前に突っ込んできた魔力弾をアスカロンで粉砕し、ただひたすらにソロモンを目指して猛進する。

 

「なかなかやるね!ヘラクレスと撃ち合った自信が今のキミからは感じられる―――ならば、これはどう凌ぐ!?」

 

ソロモンは伝説の賢者が持っていそうな杖の先に魔力の玉が付いている杖で横薙ぎのように一閃する。

―――次の瞬間、士道の目の前にとんでもないものが現れるッ

!!

 

ドオオオオオオオオオオッッ!!

 

「―――な、なんだこりゃあああああああ!?」

 

突如津波のような魔力で作られた衝撃波が現れ、士道に襲いかかる!衝撃波の高さはこの空間を突き破るかのような高さで、前に進むたび、衝撃波は横にも広がるように大きくなっていた。

 

(………あの衝撃波はおそらく避けることは不可能だ。だが、普通に防御しても、あの衝撃波を全て防ぎきるのは無理難題だ。―――あれを防ぐには、同質のものを垂直に放出するしかない!!未完成だが試すか!)

 

士道はアスカロンを籠手から引き抜き、『赤龍帝の籠手』の力を高めていく。

 

「………ドライグ、アスカロンに力の譲渡だ!―――試したいことがある!」

 

『………承知した!―――Transfer!!!!!!!!!!!』

 

ドクンッ!とアスカロンが脈打ち、力が高まったことを確認した士道はアスカロンを掲げて強く願う!

 

「―――アスカロン!俺の想いに応えやがれェェェェェェェッ!!」

 

パアアアアアアアァァァァッ………………

 

アスカロンが凄まじい光を放ち、士道は地面にアスカロンを突き刺し、技の名前を謳う!

 

「―――ドラゴニック•ゾーンッッ!!」

 

『Shining Sword Of Zone!!!!!!!!!!』

 

ドオオオオオオオオオオッッ!!

 

ドライグの音声が響き渡ると、士道を中心に莫大は光の柱が建ち、ソロモンが生み出した超巨大な衝撃波と正面衝突をする!!

光の柱と衝撃波がぶつかり合ったことであたりに凄まじい剛風が生まれ、あたりを煙が包む。

 

そして―――煙が収まった時には、全く無傷な士道の姿が確認できた。

 

「―――正直なところこれは僕も驚かざるを得ない。今の技は同じ威力の衝撃波をぶつけるしか相殺方法は無かったと思っていたんだけどね。………まさか()()()()()()()()()()()()という発想を僕は持っていなかったよ。まさにキミの名付けた通り、ドラゴニック•ゾーン―――赤龍帝の守護領域と言ったところだね」

 

ソロモンは士道に賞賛の声を上げて士道を称えた。士道はアスカロンを引き抜き、ソロモンに対する。

 

「………まだ未完成なんですけどね。でも、ソロモンさんの太鼓判なら胸を張れますよ!―――行きますッ!!」

 

士道はアスカロンを籠手に収納し、再びソロモンをめがけて突進した。

 

「―――ハハハ、本当にキミは面白いよ」

 

士道はソロモンを相手に徹底的にテクニック関連の修行に打ち込んだ。士道は何度ソロモンに吹き飛ばされても立ち上がり、倒れ伏すことは無かった。

 

「―――まだまだまだまだああああああああ!!!」

 

「………その意気だ!さあ、続けよう士道くん!」

 

士道は、修行の終了時間が来るまでなんとか耐えきった。そして、ソロモンにいつもと同じように家まで魔法で送ってもらったのであった。

 

 

 

 

 

――◆――

 

 

 

 

 

「今日もよく頑張ったね士道くん。お疲れ様」

 

ソロモンが家の前で士道に言った。士道は「まだまだです。俺はもっと頑張らなければならないんです」と悔しそうな表情でソロモンに伝えた。―――今日も士道は至ることが出来なかった。

 

「………士道くん、これだけは覚えていてほしい。体を休める事もトレーニングの一環だと」

 

「―――分かりました。今日は早めに寝ます。明日もよろしくお願いします」

 

それだけを伝えると、士道はソロモンに頭を下げて扉を開けて家の中へと入った。

 

「………限界は明日かな。―――誰かを守ろうと思っている人間は強い。けど、そういう人たちはみんな決まって心が弱い。士道くん、キミが傷付くことで誰かが悲しむと言うことだけは忘れないでほしい」

 

ソロモンは士道の体が限界にきていることを悟っていた。多くの者を救ってきたソロモンだが、救えない命も確かにあった。だからソロモンは今の士道を見ていて思うところがあったのだろう。

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

士道が家に入ると、パジャマ姿の一人の少女の姿が見えた。その少女を見て、士道は限界が近づき、閉じそうだった目を開く。

 

「………十香」

 

―――そう、十香だった。十香は泣き出しそうな表情で士道を抱きしめた。

 

「―――心配させおってこのバカ者ッ!!私がどれほど胸の張り裂ける想いで待っていたかわからぬか!………もう帰ってこないかと思ったぞっ………」

 

「ゴメンな十香。俺、風呂に入って―――」

 

ドサッ………

 

溜まっていた疲労が限界になり、士道はとうとう倒れ込んだ。

 

「―――シドー!シドー!!」

 

倒れた士道の体を揺する十香だが、士道が意識を取り戻すことは無かった。




士道の体にはじわじわと限界が近づいてきています。
———それは当然ですよね、士道は精霊の霊力を封印できる力があり、小さい頃から体を鍛えてきたとは言っても所詮は人間です。天龍クラスの相手に修行を休む事なく続ければ限界は必ず来ます。

次回は誰が士道を立ち直らせるのか!?


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五話 大切な仲間たち!

この四糸乃パペットが終わる話数は十二話近くまで行きそうです。

士道くんを支えるのは決まってあのヒロイン

※シリアス続きで大変申し訳ございませんでした。


十香は部屋でくつろいでいた琴里を呼び寄せ、倒れた士道を『フラクシナス』の医務室へと運んだ。

今は令音が士道の体の状態を検査しており、彼女の顔は非常に深刻なものへと変わっていた。

 

「………シンの体の状態は決して良くはないね。表面上は目立った傷はないが、肉体―――特に筋肉が悲鳴を上げている。このまま十香のいう修行を続ければシンの体は明日か運が良くても明後日には確実に潰れてしまうだろう………」

 

令音は士道の汗をタオルで拭きながらおでこを撫でていた。十香は心配そうに士道が眠っているベットのそばに座っていた。

 

「………十香、キミはもう帰って寝るべきだ。もう一日が過ぎる時間だ。明日も学校があるんだろう?それに、夜更かしは美容にとっても大敵だ」

 

令音は十香に家に帰るように言うが、十香は士道のそばから離れようとはしなかった。

 

「………令音、シドーは明日学校に来れるのか?」

 

「―――とてもじゃないけど無理だろうね。歩くぐらいのことはできるだろうが、明日は体育の授業がある。シンはこんな状態でも絶対に体育の授業を見学するなんて真似はしないだろう。………だから学校に行かせるわけにはいかない。きっとみんなに頼られて無理をするのが目に見えている―――出席をさせるにしても昼休みが終わってからの授業限定になるだろうね」

 

令音のいう通り、士道の体はもう限界が来ていた。―――死期が迫っているというわけではないが、度重なる無茶をしたおかげで筋肉が悲鳴を上げていたのだ。

 

「………ならば私も明日は学校を休む。琴里が家にいないときは私がシドーの面倒を見なければならんからな。―――目を離せばシドーはまた修行に行くかも知れんしな」

 

十香も明日は学校を休んで士道の監視を行うようだ。それに関しては令音も首を縦に振った。

 

「………お願いしよう。シンは誰かが見てないと必ず行動をするだろうからね。………さて――――」

 

令音は十香から視線を外すと、次は士道を見つめる。令音は士道の左腕を見つめて語り出す。

 

「………私は聞きたいことがある。―――シンではない、あなたにだ『赤い龍』ア•ドライグ•ゴッホ」

 

令音の声を聞くと士道の左手の甲が緑色に光り、点滅を始める。―――ドライグが話そうとしている合図のようなものだ。

 

『………俺に何が訊きたい、村雨令音?』

 

「………私が聞きたいことは二つある。一つ目は―――シンは一体、()()()()を引き継いでいる………シンは何かの生まれ変わりなのか?』

 

『………………何が言いたい?』

 

令音の質問は士道にとっては話してはならない秘密のようなものだ。―――だからドライグは敢えてトボけたのだ。

 

「………シンが行なっていた十香との会話はこちらでも全て録音している。当然だが、今日の十香との会話の記録もしかりだ。シンに関しては私も分からないことが多過ぎる。でも、一つだけはっきりとしていることがある―――シンが十香に言ったことは、()()()()()()起こっていない事象だ。そこで私はある仮説を立てた―――もし、シンが()()姿()()()()()()()()の記憶を引き継いでいたとしたら?と。そう考えればシンが十香に言ったことも、女性を信じることが出来なくなっていたことも全てが線で繋がる」

 

令音の言っていることは核心をついていた。だが、一つだけドライグには逃げ道を―――矛盾をみつけていた。その矛盾を見つけたドライグはそこをついて何とか『兵藤一誠』としての記憶を守ろうとする。

―――ドライグが恐れていたのは、士道が転生した姿だと知られて何かの実験台にされることだ。………ドライグは令音たち―――『ラタトスク機関』の者たちを完全には信用していない。だからどうにかして秘密を守ろうとしているのだ。

 

『―――なるほど、他のクルーとは違って貴様は有能だな。………だが、なぜこの世界では無いと言い切れる?相棒が五河士道になる前の記憶―――そう、両親に捨てられる前の記憶ということも考えられるが?………残念ながら俺はその時は意識がなかったからその時のことは俺も視ることは叶わなかったから何も言えないが』

 

ドライグが言った逃げ道を令音は間髪入れずにセリフを返すことであっさりと塞ぐ。

 

「………それは無い」

 

『―――なんだと?なぜそう言い切れる?』

 

「………それはシンがその時のことを覚えていないからだ」

 

『………そう来たか―――だが、残念ながら世の中はそう上手くは出来ていない。相棒はある程度思い出し始めてきている。相棒は「母親がいたことだけは覚えている―――顔と名前は思い出せない」と言っていたがな。―――貴様、まさかとは思うが『五河士道』になる前の相棒と接点があったのか?』

 

………ここからドライグの反撃が始まろうとしたいた。ドライグの言葉に令音が眉を吊り上げた。ドライグはその変化を見過ごさなかった。

 

「………話を晒さないで欲しい、それは関係のないことだ」

 

『―――何かを知るには、それ相応の対価が必要だと思うが?相棒について知りたければ、貴様も自分について話すべきではないのか?』

 

ドライグは一歩たりとも令音に退くことをしなかった。………ドライグの言葉に令音は目を瞑り首を横に振り、士道の記憶のことについては諦めた。

………だが、令音が聞きたいことはもう一つあったため、令音は目を瞑り、ドライグに訊く。

 

「………シンが誰かの生まれ変わりだということは一度置いておく。それから私が聞きたいのはもう一つある―――シンがそんな危険なトレーニングをするということになぜ反対しなかった?こんな無茶を続ければいずれシンが潰れることはあなたなら考える必要もなく理解していたはずだ」

 

『―――もちろん止めたさ。だが、相棒は一度も自分の体の心配をすることは無かった。………「夜刀神十香」の時も「五河琴里」の時も相棒の心は一つだった。―――あとは俺から言う必要はあるまい?』

 

士道は“誰かを絶望から救えるのであれば、自分が傷つこうが構わない”と両親に捨てられた時の絶望を自分以外の人に味あわせることのないようにとずっと思って行動して来たのだ。

―――ドライグは士道のそばから離れようとしない十香に今度は言った。

 

『………夜刀神十香、何が起きても相棒のことを信じて支えてやって欲しい。これからもこのバカは己の体を顧みることをせず、貴様らに危機が迫れば迷うことなく犠牲になることを選ぶだろう。―――それだけ相棒にとって貴様はそれだけ大切な存在なんだ。………これから先、相棒が絶望して立ち直れなくなることがあるかもしれない―――その時は相棒のことを支えてやって欲しい………頼む」

 

ドライグの声は真剣そのものだった。十香はドライグの言葉に力強く頷いた。

 

「―――無論だ。私はシドーの味方でありたいと思っている、何があってもシドーを信じるぞ!シドーは誰の利益にもならないような私にも『生きていてもいい』と言ってくれた。シドーが居てくれたから今の私があるのだ!………•ドライグ、任せてほしい。何があっても私はシドーを支える!」

 

『―――ありがとう………本当にいい仲間に相棒は巡り会えたよ』

 

十香の言葉にドライグは涙をしながら感謝していた。その後は令音と琴里は士道の家に戻り、十香はこのフラクシナスの医務室で夜を過ごした。

 

 

 

 

 

 

―――◆―――

 

 

 

 

 

「………体が重いっ………」

 

士道は目が覚めたらしく、体を起こそうとしたが起き上がることが出来なかった。

 

『―――よう相棒、目覚めはどうだ?』

 

ドライグも士道が目を覚ましたことに気づいたらしく、声をかける。ドライグの声はいつも通りだった。

 

「………無茶をし過ぎたみたいだな。体が本当に重たい」

 

『………今日は学校も休むように村雨令音が連絡をしていた。今日一日は大人しくしておけ』

 

ドライグの言葉に士道はベットのシーツを強く握りしめた。下を向き、悔しそうに歯ぎしりをしていた。

 

「………情けねえ!俺はこの程度なのか!?こんなんじゃ俺は―――俺はッ!!」

 

士道は拳を握りしめ、眉間にしわをよせて悔しがっていた。自分の弱さが嫌で仕方ないのだ。

 

「―――シドー?」

 

何か声が聞こえ、士道はその声が聞こえた方へと視線をむける。もごもごと布団が動いていることに士道はようやく気付いた。士道が慌てて布団をめくると―――黒髪の少女がパジャマ姿で眠そうにしながら目を擦っていた。

 

「十香さん!あなた一体いつから眠っていたのですかぁ!?」

 

士道と同じベットで気持ちよさそうに眠っていたのは十香だった。十香は目に涙を浮かべながら士道に抱きつく。

 

「シドー!?シドーが目覚めた!!このバカが………いつもいつも私を心配させおって!」

 

「―――ゴメンな十香、俺心配かけてばっかりでさ。………本当にゴメン。もう大丈夫だ」

 

士道は胸の中で泣きじゃくる十香の頭を優しく撫でていた。その時、医務室が煩いと思ったのか、令音と琴里が医務室の中へと入って来た。

 

「………おはようシン、目が覚めたみたいだね」

 

「………ようやく目覚めたのねシドー。全く無理をし過ぎよ」

 

医務室へと入って来た二人に士道は視線を向けて頭を下げる。

 

「琴里、令音さん。心配をおかけしました」

 

琴里も十香同様に感情が溢れ出そうになっていたが、後ろを向いて誤魔化していた。士道もその様子に気がついて苦笑いをしていた。―――その時、令音が士道を見て言う。

 

「………取り敢えずシン、入浴して来たらどうだい?昨日からお風呂に入っていないのだろう?―――シンが一人で体を洗えないのなら、特別に私が背中を流してあげても良いが?」

 

「―――おおおおおおおお!!ま、マジですか!?」

 

令音の言葉に士道は光の速さで飛び上がった。―――この男の原動力はエロと熱血の二つなのだろう。

 

「………私は構わない。シンが望むならいつでもしてあげよう」

 

令音の大胆な言葉に士道は鼻血と涙を同時に流して雄叫びを上げる。

 

「―――うおっしゃああああああああああ!!!!まさか令音さんに背中を流してもらえるなんて!俺、今日死んでしまっても後悔無いっす!」

 

「………シンは大げさだね。じゃあ行こうか」

 

「はいッ!よ、よろしくお願いしますッ!令音さんッ!」

 

士道は鼻を伸ばしていやらしいことを想像しながら、令音と二人でお風呂に向かおうとしたが………もちろん、相棒のドライグはそんな不純異性交遊を見逃すことはない!

 

『―――夜刀神十香、五河琴里!』

 

ドライグの声に十香と琴里が一瞬で士道の前に現れる。士道を愛する二人は士道の発言が許せなかったみたいだ。

 

「―――おいざけんな!この俺の初めての女性とお風呂なんだぞ!?お前が邪魔してんじゃねえよドライグッ!!」

 

士道がプンスカと怒るが琴里と十香の二人は鬼を思わせる形相で士道の服の首袖を掴んでいた。

 

「―――ねぇシドー、あなたそんなに令音と一緒にお風呂に入りたいのかしら?」

 

「―――嫁を差し置いて令音とお風呂とは………嫁として夫の浮気を見過ごすわけにはいかないな!」

 

「やめろおおおおおおおおおおおお!!俺は令音さんと一緒に洗いっこするんだああああああああ!!」

 

二人は士道の首袖を掴んで令音から距離を離す。その様子を見た令音は士道に言う。

 

「―――シン、また今度にしようか………」

 

「うわあああああああああんんっっ!!」

 

「「泣くなこのバカッ!!」」

 

ドゴッ!!

 

琴里と十香は士道の頭にゲンコツを入れて士道を浴室へと連れて行った。士道はまだ令音と触れ合うことができないことを一日中引きずっていた。

 

「令音さんのおっぱいぃぃぃぃぃ!!」

 

『―――これで俺の精神は救われた。相棒の犠牲によって一つの救済があった―――相棒の想いは決して無駄にはならなかった』

 

士道とは対照的にドライグは輝やかしい笑顔を神器の中で浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やられたらやり返す―――百倍返しだ!!」

 

―――ドライグへの報復として士道は隠しコレクションである『十香のエッチな写真集』をいつもドライグが読んでる漫画の代わりに籠手に入れた。

………このコレクションは士道が十香の恥ずかしい姿の写真を十香が学校に行くようになってから隠し撮りを続け、自分の夜のお供にしていた士道の秘蔵コレクションだ。

―――もちろん、こんなものが贈呈されればドライグがどうなるかは、想像するに容易いだろう。

 

『うおおおおおおおおおおおおおおんんんっっ!!相棒なんて嫌いだぁぁぁぁぁぁ!!死んでしまえぇぇぇぇぇえええ!!』

 

この時の士道の顔は非常に充実した達成感に満ち溢れていた。

 

 

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

 

 

『おに〜ちゃ〜ん、お腹空いたぁ〜!』

 

筋肉が悲鳴をあげて学校を休んでいるからといって士道はゴロゴロしていられる―――なんて事は無い。

時刻はPM一時三十分。琴里がお腹が空いたと一階のリビングで怪獣の如く叫んでいるのだ。

 

「―――はいはい分かった分かった!今行くからちょっと待ってろ」

 

『おに〜ちゃん、「はい」は一回!』

 

「………あんの野郎!神さま仏さま可愛い妹さまのつもりかッ!!俺が怪我人だってことわかってねえだろッ!」

 

士道はボヤきながら階段を降りる。今日は琴里と令音が買い物へと行き、食材をスーパーマーケットで買い、料理は士道が作らなければならない。

―――これは余談だが、琴里と令音が外出中は士道の監視として十香が士道を見張っている。

 

一階に降りてキッチンに置いてあるレジ袋にはジャガイモ、玉ねぎ、ニンジン、牛肉、ジャ◯カレーの箱があり、他には牛乳とチュッパチャプス十本があった。

まず士道はチュッパチャプスに目がいく。

 

「―――おい琴里、こんなに買い貯めする必要ねえだろ!」

 

「気にしなーい気にしなーい!そんなことより早くご飯作って、おに〜ちゃん!」

 

………今の琴里は白リボンの『妹モード』だ。士道はレジ袋から食材を取り出し、調理を始める。

 

「………この食材だとカレーだな。―――令音さん大丈夫かな?あの人辛いものがダメだったはずだけど………」

 

ブツブツと言っているうちに士道の横で調理をしていた十香はジャガイモとニンジンを洗い終えて、調理を始めていた。

 

「………十香、手を切るなよ?分からないことがあったら俺に任せろ」

 

「心配いらぬぞシドー!この前桐生藍華にカレーの作り方なら教わっている」

 

―――ちなみに十香が女子の中で一番仲が良いのは桐生藍華だ。士道の次に桐生藍華に十香はお世話になっている。

 

「………とりあえず玉ねぎを切らないとな、その次は牛肉だな」

 

トントントントンッ………

 

士道は黙々と玉ねぎをくし切り、そしてみじん切りに切っていく。ふと横を見ると、十香は既に切り終えていた。玉ねぎを切り終えると、士道は豚肉の調理に取り掛かる。

既に十香はジャガイモ、ニンジン、士道が切った玉ねぎを鍋に入れ、炒めていた。

 

「シドー、これはどのくらいに炒めれば良いのだ?」

 

「………にんじんがツヤが出るぐらいだ。それは俺が見るよ―――十香、牛肉を炒めてくれ。取り出す具合は色がつき始めたらでOKだ」

 

「うむ!任せろ!」

 

士道と十香は二人でカレーを作っていた。………本当に愛の共同作業と呼ぶに相応しい。

 

「おに〜ちゃん、まだ〜?」

 

琴里はリビングのソファーでお笑い番組を見ながらくつろいでいる。士道は琴里に大声で言う。

 

「―――だったらなんか手伝えや!!」

 

「えぇ〜!私買い物行ったじゃない!」

 

「―――そうでしたね!!ゴメンな!もう少しだけ待っててくれ!」

 

………何も言えない士道くんなのであった。そして、士道は大、小の鍋を二つ用意して、炒め終えた牛肉、玉ねぎ、ジャガイモ、ニンジンを分けて入れる。もう片方の小の方にはリンゴを入れていた。

 

「―――シドー、なぜ小さい方の鍋にはリンゴが入っているのだ?」

 

「令音さんが辛いのがダメなんだ。………そのためのリンゴさ。リンゴを入れると辛さが少し緩和されるんだ」

 

「―――おお!そうなのか、知らなかったぞ」

 

―――リンゴを入れるカレーは確かにあるが、メジャーかマイナーかと言えばマイナーに近いだろう。

しばらくするとカレーが完成し、琴里と令音が席に着く。十香は相変わらずヨダレをダラダラと滝のように流していた。

 

「「「「いただきます!」」」」

 

四人は出来上がったカレーを食べる。令音はリンゴが入っていることに戸惑っていたが、食べて見ると目を見開いて「おいしい」と言っていた。

 

「―――十香も随分と料理ができるようになってきたね。シンの手伝いも熟せていたし、十香の一人暮らしも存外難しいことじゃないかも知れないね」

 

士道もうんうんと首を縦に振っていたが、十香は自身は首を横に振って「私はこの家に住むぞ!誰もが認めるシドーの嫁だからな!」と堂々と胸を張って宣言していた。

 

「「認めません!!」」

 

琴里と令音は真っ向から否定をするが、十香は全く無視して士道にベッタリとしていた。

 

「シドー、あ〜ん」

 

「あ〜ん!」

 

十香が自分のカレーをスプーンですくい、士道の口へと運ぶ。士道は幸せそうな顔をして頬張る。―――今度はその逆が行われていた。

 

「―――はい、十香。あーん!」

 

「あ〜ん!うむ!美味いぞシドー!」

 

―――二人のバカップルっぷりはこの家でも遺憾無く発揮されており、五河家のテーブルは愛の巣へと変わり果てていた。琴里と令音は目を細め、鋭い視線を二人へと送る。

 

「………高校生でこの光景を見るのは辛そうよね―――私も自分を制御するのが大変だし」

 

「―――物理の実験でもこの光景を私は見ているよ。………生徒たちは吐血をしたり涙を流したりのオンパレードさ。特に非リア充の生徒たちは今日は天国だろうね」

 

士道は「随分嫌われたものだな」と苦笑いをしていた。楽しい食事の時間も終了し、士道は再び家の雑用係を琴里にやらされ、終了した頃にはサンタの親父の時間になろうとしていた。

 

 

 

 

―――その頃の来禅高校。

 

 

「うおっしゃああああああああああ!!五河士道死すッ!!いいざまだハッハッハッ!」

 

「鳶一さんと夜刀神さんをいつも独占していたバチが当たったんだ!―――もう一生来なければいいのに!」

 

「この幸せが一生続きますように!」

 

男子生徒たちは士道が怪我をして学校に来られないことを万歳参照で大喜びをしていた。

 

「―――みっともないわねぇアンタたち。………そんなじゃあいつまでたっても彼女なんて出来ないわよ」

 

「「「うるせー桐生藍華ッ!!お前も彼氏いねえだろうがぁぁぁぁぁぁ!!」」」

 

男子たちは桐生藍華の言葉が図星となり、お前が言うなと言わないばかりに言い返した。―――惨めなことこの上ないとはよく言ったものだ。

 

ガタッ………

 

窓際の一番後ろの席の少女が荷物をまとめて席を立った。その少女とは―――折紙だ。

折紙は鞄を肩にかけ、教室を後にしようとしていた。

 

「―――がみがみ、どこに行くの?」

 

桐生藍華は折紙のことを『がみがみ』と呼んでいる。折紙は桐生藍華に振り返って表情を変えることなく話す。

 

「………士道がいない学校なんて行く意味がないと思って―――私は今から士道を看病しに行く」

 

それだけを言い残して折紙は教室を後にした。それを見た男子たちは――――

 

『ええええええええええええええ!!!!!―――俺たちの鳶一さんが!!』

 

全員が声を出して驚いていた。それはそうだろう。学校の授業よりも自分の想い人を選んだからだ。

折紙が教室からいなくなったことで男子たちはガックリと肩を落とし、両膝を地面についていた。

 

「―――♪ちょっと見なさいよアンタたち、五河と十香ちゃん二人でカレーを作って食べあいっこしてるらしいわよ♪………ほら、こんな写真が送られてきてる!」

 

桐生藍華が自分のケータイのメッセージに送られてきた写真をクラスの男子たちに見せると………まあ、あとは予想通りだろう。

 

―――非リア充の男子たちは全員が幸せそうな士道と十香を見て大泣きをして、晴れ渡った青空に叫んでいた。

 

『くっそおおおおおおおおおおおおお!!!!』

 

士道の家を目指して折紙は学校を出たが、彼女にはひとつだけ分からないことがあった。

………それは――――

 

 

 

 

 

 

 

「………士道のお家ってどこ?」

 

 

 

天然丸出しのメカメカ団所属、鳶一折紙一曹なのであった。

 

 

 

 

 

―――その頃の来禅高校 終了。

 

 

 

 

 

 

PM六時三十分となった。太陽が沈み夜の帳が降りた頃の出来事だ。

士道は玄関へと向かう。靴を履き替え、外出の準備を整える。

それに合わせて十香も靴を履き、士道と同じで玄関にいる。

―――二人はこれからとある場所へとお出かけをする予定だ。

 

「………十香、準備は出来たか?」

 

「ああ、私はいつでも大丈夫だ。―――シドー、早くデェトだ!」

 

士道と十香は手を繋いで、夕陽が落ちて薄暗くなった外の世界へと足を踏み出す。

―――今日のこのバカップルの目的地は、二人の想い出の場所でもあるあの高台だ。

 

「―――夜の街というのも悪くないものだな、ここからでも十分綺麗な街並みが見渡せるぞ!」

 

十香は士道と手を繋ぎなら、高台に行くまでに見える天宮の夜景を楽しんでいた。

 

「こら十香、高台に行くまでそれは言うなよ。―――さあ、行こうか」

 

士道は十香の手を引いて目的地を目指して歩いた。そして、歩くこと数分ほどが経過し、士道と十香は目的地へと着き、士道のお気に入りの場所でもある高台から見える天宮の夜景を士道と十香は楽しんでいた。

 

「おおっ!見てみろシドー!キラキラがたくさん見えるぞ!あれは全部建物なのか?」

 

十香は柵から身を乗り出して天宮の夜景を眺めていた。純粋に楽しんでいる十香の様子を見て士道は満足そうに微笑んでいた。

………一つ大きな深呼吸をした後、士道は十香を見て口を開く。

 

「―――十香、お前に話しておきたいことがあるんだ」

 

「………ん?なんだシドー?」

 

十香は夜景を眺めることを止め、士道の方を向く。

面と付き合う形で士道は話し始める。

 

「………昨日はその、悪かった。―――どうしても強くならなければいけないと焦っていて周りが見えていなかった。お前の気持ちも考えずにあんなことを………気分を悪くさせて本当に悪かった」

 

士道は顎を首に付ける形で十香に謝罪の気持ちを示した。しかし、十香は目を瞑り、首を横に振って士道の手を握る。

 

「………シドー、私はお前の味方だ」

 

十香は迷うことなくその言葉を士道に伝えた。十香の目はただ純粋に士道を捉えていた。

 

「シドーが修行を行ってきたのは私たちを守るためなのだろう。確かに私はシドーに力を封印してもらい、通常の人間としての生活ができるようになった。しかし、その結果精霊の力は失われた………だがなシドー、私はな―――お前に感謝しているのだ」

 

「お、俺はお前に感謝をされるようなことは何もしていない!俺はただ―――」

 

「そう、お前は私と真っ向から向き合った。シドーのただ真っ直ぐな想いに私は救われた。だからシドー、お前が私にしてくれたように―――私もシドーの味方でいるつもりだ」

 

「十香………」

 

こんなことを言えば、士道はさらに自分の身を削って修行を行うようになるだろうが、十香はそれを分かっていた。―――だから士道に想いを告げた。

 

「だからシドー、一人で全てを抱え込むな。精霊の力を封印された私は足手纏いにしかならないだろう―――だが、私にもお前を信じて支える事くらいは出来る。いや、それが出来るように努力をする!だからシドー………もうあのような無茶をしないでくれ………。お前がもし死ぬようなことがあれば私は―――私はッ!!」

 

「十香ッ!!」

 

士道は十香の言葉を聞いて涙を流していた。そして士道は気付いた時には十香を自分の胸の中へと抱き寄せていた。

 

「………ゴメンな。それから、本当にありがとう」

 

「シドー!―――私はずっとシドーと一緒にいたいのだ!これからもずっとずううっとだ!だからシドー、もっと私を頼ってくれ………」

 

―――新しく加わった家族はこれからも傷つきながらも前に進んで行く士道にとって大きな心の支えとなるだろう。

だが、彼女を大切にしたいと言う想いだけは決して変わることがない。

 

「―――ありがとな十香。………さあ、デートの続きをしようか!」

 

「うむ!夜の天宮ぶらり旅だ!」

 

士道と十香は夜の天宮町のデートを満喫していた。




☆おまけ

イッセー「なんだよあの五河士道ってやつ!俺より充実した日常を送ってんじゃねえか!」

ドライグ『相棒、それを言ったら負け組に入ってしまうぞ?あの五河士道からしたら相棒の前世での生活の方がよっぽど羨ましいものだと俺は思うが?』

イッセー「やっぱり俺以外の奴がハーレムしてるのを見るとイラッと来るぜ!」

ドライグ『———ああ、負け組だ』

イッセー「うるせええええええええええええええ!!!」

※これは本作とは関係なく、イッセーとドライグの視点で士道を見た時の二人の様子です!



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六話 第二の精霊です!

ソロモンとヘラクレスはこの話での登場です。
前話では文字数の関係上二人を登場させる余裕はありませんでしたが、この話では登場します!

大変お待たせしました!遅くなってしまい大変申し訳ございませんでした!

※1そろそろストーリーを進めないとこの章だけで12話くらいになりそうなのでこの話である程度進める予定です。

※2 誤字を修正しました。


〜〜次元の守護者 side〜〜

 

 

あの高台にいたのは士道と十香の二人だけではなかった。―――次元最強の魔術師ソロモン、そして巨漢ヘラクレスの二人が士道と十香を見守っていた。

 

「ねぇソロモン、どうして出て行かなかったの?」

 

自らの体から闘気を消し、透明状態になったヘラクレスがソロモンに問う。ヘラクレスとソロモンは高台の階段の上から二人の様子を伺っていた。

 

「………僕が一番言いたかったことは十香ちゃんが言ってくれたからね。お邪魔虫の出番はないと判断したんだよ。―――まあ、十香ちゃんが言いそびれたことは僕が手紙で士道くんに伝えるよ」

 

「ソロモン、士道ちゃんは大丈夫かな?」

 

ヘラクレスはソロモンとは違い、士道のことをかなり心配に思っていた。士道は特別な人間だ。

“他人のためならどのような無茶でもやってのける”

 

自分を犠牲にすることを全く気にしない男だからヘラクレスは士道の体と心の両方を心配していたのだ。

 

「十香ちゃんの言葉で士道くんもこれまでみたいな無茶をするようなことはもうしないようになっていくだろう。―――けど、士道くんが力不足を嘆くことはやめないのも確かだ。………そのあたりも含めて手紙に書いて士道くんに送るよ」

 

「………士道ちゃんは理解していないのかも知れないね―――自分のその体がどれだけ多くの命を背負っているかを………」

 

ヘラクレスの言ったことを士道は理解していないだろう。精霊を救うことによってどれだけ多くの命を守ることになるという事を………

 

「―――それにしても、若いっていいよねぇ………」

 

ソロモンは星が輝く夜空を見上げて呟いた。

 

 

 

〜〜次元の守護者 side out〜〜

 

 

 

昨日しっかりと休んだおかげで士道の体は日常生活なら問題なくこなせるようになるまで回復をした。今日も十香と一緒に元気に来禅高校へと登校する。

 

「十香ちゃんおはよう」

 

「十香ちゃん、おはよう」

 

「おっは〜十香ちゃん」

 

みんな士道を無視して十香に挨拶をしている。十香は女子のみならず男子からも人気がある。

―――十香は知らないことが多いため、十香を見ていると何かしら助けてあげたいと思わせるからだ。

 

「………俺もいるんだけどな」

 

士道は十香の近くに集まる連中にボソリと呟いた。………しかし、士道に声をかけるものは誰もいなかった――― と思われたが、士道にものすごいスピードで迫ってくる者がいた。

 

『―――どわっ!?』

 

『きゃあああああああああ!!』

 

ゴオオオオオオオオオッッ!!

 

士道と十香の周りを囲んでいたクラスメイトたちを吹き荒れる暴風を纏うように走ることで吹き飛ばして、士道の前に来た短髪の少女がいた。

………某サッカーアニメの必殺技『ダッシュストーム』を想わせる走りだった。

 

「………士道、無事でよかった」

 

―――クラスメイトを暴風が如く吹き飛ばした少女とは折紙だ。折紙は士道のことが心配で気が気でなかったようだ。

 

「ゴメンな鳶一、心配をかけた。もう大丈夫だから」

 

「………恋人を心配させた罪は重い。士道、頭を撫でて」

 

「はいはい………」

 

ナデナデと折紙の頭を撫でる士道。その様子を見て凄まじい力を放出する者がいた。―――精神状態はななめの領域に入りかけていた魔王さまだ。

 

「―――おい貴様、私の夫になんということをさせている?」

 

「………いつからあなたのシドー(笑)になったの?私から士道を奪おうとする泥棒猫は引っ込んでおいて」

 

「あ゛あ゛!?」

 

険悪ムードを士道が強引に二人の間に割って入って止める。二人の額に士道は手のひらを置いて強引に距離を取らせた。

 

「―――はいはい、終わり終わり。ほら、授業受けるぞ十香、鳶一。その辺にしておけ」

 

十香と折紙はまだ目から火花を飛び散らせていたが、士道がうまく仲裁した。その様子を見て桐生藍華が言う。

 

「これがモテる男の見本よ。アンタたちも五河を見習いなさい、彼女が欲しいなら五河の真似をすれば良いのよ―――五河士道マニュアルその① まずは犯すべし」

 

『―――まずは犯すべし!!』

 

桐生藍華の声に合わせて復唱する男子たち。それを見た士道は桐生藍華をもちろんのことだが、大声で怒鳴る。

 

「お、おい!!お前は俺にどんなイメージ持ってんだ!?俺は初対面の女性を襲ったりなんかしねえよ!!」

 

「………はぁ。よく言うわよ、十香ちゃんにいきなり『服を脱げ』なんて大胆な発言をしてるくせに♪―――五河士道マニュアルその② 鬼畜こそ正義!」

 

『―――鬼畜こそ正義!!』

 

クラスメイトからの士道のイメージは鬼畜のケダモノ野郎というなんとも不名誉な姿だそうだ。士道がついに壊れた。

 

「―――いいから黙ってろてめぇらああああああああああ!!!」

 

復帰早々、桐生藍華にいいように弄られ、オモチャにされた五河士道くんなのであった。

 

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

 

キーンコーンカーンコーン!

 

「今日の授業はここまでです。みなさん、復習だけでなく予習もしっかりとするように!」

 

『はい!』

 

チャイムの音が鳴り、先生が授業を終える。時刻はお昼休み―――お食事タイムになり、十香が満面の笑みで士道に声をかける。

 

「―――シドー!昼餉だ!」

 

「………………………」

 

ガコンッ!

 

十香が大きな音を立てて士道の机と自分の机をドッキングする。―――また、それは折紙も同じだ。士道の右が十香で左が折紙だ。

 

「ぬ?なんだ貴様!シドーから離れんか!」

 

「………それはこちらのセリフ」

 

朝同様に火花を散らす十香と折紙。その間で小さくなっている士道だったが、両手を広げて士道がうまくコントロールする。

 

「三人で食べればいいだろ?」

 

朝同様になんとか拳での語り合いになる前に仲裁できた士道だったが、ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべて士道と十香のところに来る少女がいた。

 

「ねぇ五河、アタシも―――」

 

「お前はお呼びじゃないんだが、桐生藍華」

 

士道は桐生藍華にシッシッと手を払うが、桐生は自分の机を士道の前の席にくっつけて弁当箱を出す。

 

「釣れないわねぇ。いいでしょ、アンタの十香ちゃんを横取りしようってわけじゃないんだからさ。―――あ、もしかして自分以外の人と十香ちゃんが仲良くしてるところを見て妬いちゃってるわけ♪」

 

「―――妬いてねえよ!!友達と仲良くしてるだけで嫉妬するほど俺は女々しい野郎じゃねえ!!」

 

桐生は笑みを浮かべながら士道の鼻の先をツンッとつつく。士道はむすっと少し不機嫌になりながらも桐生藍華の相手をしていた。

 

「「「「いただきます」」」」

 

士道、十香、折紙、桐生藍華の四人がお弁当箱を開ける。その時、事件が起こった。それは――――

 

「じーーーーーーっ」

 

「―――うっ!?」

 

折紙に目を細め、『じーっ』と見つめるだけではなく、声まで出し、強い眼力で見つめられて士道は心臓を鷲掴みにされたような声を出す。

折紙が面白くなかったこと――――それはお弁当箱の中身だった。桐生藍華と折紙のお弁当の中身はもちろん異なるものだったのだが、士道と十香の二人は―――奇妙なことに全く同じだったのだ

 

「………今日も同じ」

 

「た、たまたまさ―――ほ、ほら、ことわざであるじゃん『二度あることは三度ある』って!」

 

嫌な汗を大量に流しながらなんとか秘密を守ろうとする士道。―――“十香と同居している”と明かしてしまうとどうなるか分からないからだ。

 

「愛妻弁当だなんて羨ましいわねぇ五河!アンタ、毎朝十香ちゃんにお弁当作ってもらってるわけぇ♪このバカップルぅ〜♪」

 

「―――お前はとりあえず黙れ」

 

取り敢えず桐生藍華だけは喋らせないように仕向ける士道。………士道はこの桐生藍華のことが苦手だ。

しかし、桐生藍華の言葉を折紙は自分の椅子を士道の椅子に近づけ顔が触れ合いそうな距離にまで縮めて否定する。

 

「………それは無い。夜十神十香はまともな料理は出来ない。おそらく、このお弁当は士道が作っている筈―――うん、士道の味がする」

 

「―――お、おい!人の弁当を勝手に食べるな!」

 

士道の弁当をつまみ食いをする折紙。折紙は士道のことならなんでも知っているようだ。

 

「むむむ!私を出し抜いてシドーに触れるな鳶一折紙!」

 

「邪魔をしないで、私と士道が愛を育んでいるの」

 

士道は全く仲が良くならない十香と折紙の間でため息をついていた。昼食が食べ終わったその時―――事件が起きた。

 

ウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥッ………………

 

空間震警報が町内に鳴り響いた。

 

 

 

 

 

――◆――

 

 

 

 

空間震警報が鳴り響き、クラスメイトたちは地下のシェルターを目指すために整列をしていた。

すでに折紙はASTとして出動するため別行動をしていた。十香は一人わけがわからず背伸びをして状況を確認しようとしていた。

ふと、士道の後ろに白衣の眼鏡の教師―――令音が声をかける。

 

「………シン、キミはこっちだ」

 

士道は令音の言葉に何も言わずに首を縦に振る。―――『フラクシナス』へと行くためだ。令音と士道の二人だけ別行動を取ろうとしている姿を見て十香が二人の足止めをする。

 

「シドー、一体どこへ行くのだ?」

 

「ちょっくら仕事を片付けに行って来る―――十香、地下のシェルターでみんなと仲良くしてろよ?………俺もすぐに片付けてそっちへ行くから!」

 

「あ!こ、こら!またんか、シドーッ!」

 

十香は士道と令音の二人が自分が進む方向とは別の方向に向かったことを見て心配そうな声を出すが、士道にも令音にも十香の声は届かなかった。

 

 

 

 

―――◇―――

 

 

 

 

 

「―――琴里、状況を教えてくれ」

 

士道と令音が『フラクシナス』へと着くと琴里が観測室の司令官の椅子から立ち上がり、モニターを見ていた。

士道は琴里を見上げ、状況の説明を要求した。

 

「………空間震が発生し、精霊が出現したのよ。―――とは言っても今回のは小規模。十香の時に比べればかなり小さいわ」

 

空間震が発生したらしく、道路が途中で崩壊し、その崩壊した地点には半球状の大穴が開いていた。その穴の場所を琴里は拡大して指を指す。

 

「………士道アレを見なさい。アレが空間震を発生させた精霊―――『ハーミット』よ」

 

今回の精霊は『ハーミット』と呼ばれる比較的に大人しい精霊のようだ。………空間震を発生させた精霊を見て士道は目を見開き、喉を震わせながら声を出す。

―――その精霊を士道には見覚えがあったのだ。

 

「―――ッ!あの子は!」

 

うさぎの耳のような着ぐるみを被った海のような青い髪を持つ小柄な少女。コミカルな意匠にドライグが大嫌いな可愛いとは言えないブサイクなパペット。

あの少女は―――三日前に士道が学校帰りに会った少女だった。

 

「―――士道、あなたあの精霊を知ってるの?」

 

「ああ!三日前に神社で雨宿りをしていた時に会ったんだ。―――間違いない、あの時の子だ」

 

士道が言った日時を調べると、特に主だった数値の乱れは無いらしく、デートをした時の十香の場合と同じケースらしい。

士道がどうしたことかと考えていた時、画面が突如煙に覆われる。煙に覆われたことでシドーがパニックになって艦内を走り回る!

 

「―――な、なんだ!?爆発か!?テロか!?おい琴里、早くなんとかしろ!百十番、百十九番!いや、一七七番ッ!!」

 

「お、落ち着きなさいシドー!ASTよ!」

 

走り回る士道に琴里がどこから取り出したか分からないがテニスボールを投げつけて士道に落ち着きを取り戻させる。士道は大きく息を吐き、深呼吸をして落ち着きを取り戻す。

 

「―――なんだASTか………」

 

しかし、落ち着いたのもつかの間、陸上の対精霊部隊―――通称ASTが『ハーミット』を目掛けて攻撃を開始する。

マシンガンやライフルで『ハーミット』を目掛けて攻撃をするが、大人しいとは言えども相手は精霊だ。『ハーミット』は地面から飛び上がり、空中へと移動し、攻撃を躱すように逃げ回っていた。

―――そう、『ハーミット』はただ逃げ回っているだけで反撃を全くしなかったのだ。

 

「………なんで―――なんで反撃をしようとしないんだ?」

 

士道は『ハーミット』が反撃をしないことに違和感を覚えていた。―――しかし、ASTの連中は御構い無しで追撃を行う。………•まるで強者が弱者を蹂躙するかのように。

その様子を見た士道は拳を握りしめ、奥歯をギリギリと鳴らしていた。

 

「あいつら………ッ!あんな小さい子に―――ただ逃げ回っているだけの優しい子にッ………無慈悲にもほどがあるだろうがッ!!」

 

琴里は士道の言葉を聞いて呆れたように首を横に振る。

 

「正義の味方のASTには姿なんて関係ないわ。―――それが精霊であれば殲滅するのがASTの存在理由よ」

 

「―――ふざけんなッ!そんなもんただの人殺しと変わらねえじゃねえか!」

 

ドオオオオオオオオオオッッ!!

 

士道が拳を握りしめ、状況を見ていた時、対精霊用のライフルが『ハーミット』に直撃し、ハーミットは吹き飛び、建物に激突し、壁を突き破って建物内に入り込んだ。―――それを見た士道は迷うことなく琴里を見上げて覚悟を語る。

 

「―――琴里、今すぐ俺をあの子の元へと飛ばしてくれ!俺があの子を守るッ!」

 

士道の言葉に琴里は口の端を釣り上げ、笑みを浮かべる。

 

「よく言ったわ、それでこそ私のおにーちゃんよ!―――総員、第一級攻略準備!」

 

『イエッサーッ!』

 

クルーたちは一斉にコンソールを操作し始める。士道は既に転移装置へと移動していた。

 

『相棒、準備はいいか?』

 

ドライグが士道に訊く。士道は拳を握り前を見つめていた。

 

「ああ!―――これは、救うための戦いだッ!」

 

 

 

 

―――◆―――

 

 

 

 

「………ここで間違いなさそうだな。―――近くに強い力を感じる」

 

士道が転移した場所は―――天宮市のとあるデパートだ。店員たちも避難しているため、電気が付いてなく、真っ暗な空間に士道はいた。

―――ふと見上げると、不気味な何かが視界に入り、士道は思わず身構える。

それはマネキンだったが、白い髪で子供のいたずらか分からないが目が赤色になられていて鼻が異様に長いオバケのようなマネキンだった。

 

「―――マネキンか………。ったく、もっと可愛いやつにしろよな。こんなブサイクなマネキン作ったやつの顔が見たいぜ」

 

士道がボヤいていたその時、強い力の正体が士道の背後で囁いた。

 

『………キミも「よしのん」をいじめに来たのかい?』

 

「―――うわッ!?」

 

いきなり背後を取られ、士道はすぐに振り返りる。そこには重力に逆らい、壁に足をつけ逆さの向きで立っていた精霊―――『ハーミット』が現れたからだ。

―――『ハーミット』は体制を元に戻し、手に持つパペットをパクパクとさせ、声を出させる。

 

『うわおッ!誰かと思えばラッキースケベのお兄さんじゃない―――奇遇だね、こんな所で』

 

どうやらは『ハーミット』は士道のことを覚えていたらしい。士道が挨拶をしようとした時、琴里が『待ちなさい』と待ったをかける。―――例の選択肢を選ばなければならないというスーパー茶番タイム到来と言うわけだ。

 

①「ラッキースケベ?笑わせるな!俺の名は五河士道、全てのエロを極めた生きる伝説(レジェンド)だ!」―――と堂々と胸を張る。

 

②「覚えていてくれたのか、光栄だ。―――取り敢えずパンツ見せて!」感嘆していると思わせた後に土下座をする

 

③「ハッ、知らないね!私は通りすがりの風来坊さ」―――ハードボイルドに決める。

 

選択肢を聞いたドライグは呆れていた。………それもそうだろう、まともと言える選択肢が何一つないからだ。

 

『―――あの無能AI、日に日にポンコツ度が増してないか?………一度修理に出した方が良さそうだ』

 

ちなみにフラクシナスでは、『川越、幹本、中津川』が①を選び、『神無月』が②を選び、『令音、椎崎、箕輪』の三人が③を選んだ。

 

(―――神無月さんの言う通り、あの子のパンツは是非とも見たい!幼女のパンツは国宝にも劣らぬ至宝として知られている!だが、それをすれば今度こそ嫌われてしまうッ!!何かパンツを見れるいい方法は無いのかッ!?)

 

士道は真剣な表情で馬鹿げたことを考えていた。その様子を見てドライグは呆れる。

 

『―――シドー、③よ』

 

琴里は③を選んだが、勿論のことだが士道の相棒は真っ向から否定する。

 

『―――あれは無視して構わない。もちろん、パンツも無しだ。この前は怖がられたからな………何とか、あのパペットだけにでも怖がられないようにするべきだ』

 

士道はこの姿になる前にやっていた()()()()()()を思い出し、自分がそのヒーローだと言うことを語ることにした。

 

士道が口にするその、ヒーローの名前とは―――

 

 

 

「―――俺は世界の平和とおっぱいを守るために戦う正義のヒーロー!『乳龍帝おっぱいドラゴン』だぁぁぁぁぁぁぁああ!!」

 

チュドオオオオオンッ!

 

士道は拳を握りしめ、決めポーズを取った後に、ミニドラゴンショットを放つことで小さな爆発を起こす。

―――だが………

 

 

ひゅぅぅぅぅぅ………………

 

 

士道の言葉に『ハーミット』は黙りこみ、『フラクシナス』からの通信も途絶えた後に、枯れ葉と砂塵が通り過ぎた―――かのように思われたが、『ハーミット』の持つパペットが手を叩きながらパクパクと口を動かしていた。

 

『………………うひゃひゃひゃひゃひゃ!!お兄さんユニークだね!「乳龍帝おっぱいドラゴン」ってどんなドラゴンなの!お兄さん「よしのん」が見て来た人間の中で一番面白いよ!』

 

―――なんとか好印象を持たせることができたみたいだ。しかし、黒歴史を掘り出されたドライグは………

 

『お、俺のことではないし!お、俺は「赤龍帝」だし!「乳龍帝」は兵藤一誠の二つ名だ!………断じて俺のことでは無い!そうだ!俺のことでは無い!』

 

泣きはしなかったが、現実逃避をしまくりなドライグなのであった。ちなみに琴里からは『命令違反だけど好感度は上がった』と報告が入った。―――まずは第一関門突破といったところだろう。

 

「―――気に入ってもらえたのなら、それで良い。取り敢えずキミの名前を教えてくれないか?」

 

士道は良い流れに乗ろうと名前を訊く。『ハーミット』はパペットをの口をパクパクとさせながら声を出す。

 

『おうっとと、みすていくっ!「よしのん」としたことが自己紹介を忘れるなんてっ!よしのんは「よしのん」!可愛いっしょ?可愛いっしょ?』

 

「―――おう!良い名前だ!………俺も訊いたからには名乗っておかないとね。―――俺は五河士道。俺のことは士道と呼んでくれて構わない」

 

『士道くんかぁ〜良い名前だねぇ、もっとも「よしのん」には敵わないけどねぇ』

 

―――陽気な性格をしている()()()()だ。ちなみに士道はこのパペット―――よしのんと『ハーミット』は全く別の存在であることは出会った時点で気付いていた。

………その理由は『ハーミット』とは別によしのんにも小さな力が感じられたからだ。

………士道はよしのんから視線を外し、『ハーミット』を見る。

 

「―――よろしくな、よしのん!………さて、そちらのお嬢さんのお名前はなんて言うんだい?」

 

士道が『ハーミット』に訊くと、またまたパペットをパクパクとさせてよしのんが答える。

 

「だから言ってるじゃない!よしのんだって―――」

 

よしのんが話し終える前に士道の左腕に神器―――『赤龍帝の籠手(ブーステッド•ギア)』が現れ、宝玉が点滅を始める。

 

『―――おい控えろ、そこの「ブサイクなパペット」。相棒はお前にではなく、そこの青い髪の「精霊」に訊いているのだ』

 

「―――おいドライグ!今のはダメだ!!マジでヤバくなるやつだ!」

 

士道の懸念は見事に的中し―――ズオォォォォォォォッッ………とよしのんが凄まじいプレッシャーを放つ。

 

『―――へぇぇ。今のは士道くんじゃなくてその左腕の人の声だよねぇ?………ブサイク?パペット?―――何を言っているかよしのん分からないなぁ〜』

 

よしのんから放たれるプレッシャーは凄まじいものだった。―――十香には劣るが、強者の部類に入るものだと言うことは士道はすぐに察知していた。

琴里からインカムに通信が入り、『好感度が急激に低下しているわ!今すぐにドライグを謝らせなさい!』と慌てている様子が士道は考えられた。

しかし、ドライグは火に油を注ぐようによしのんを煽る。

 

『―――お前以外に誰がいる?………まさかとは思うが、自分がブサイクだと思っていなかったのか?―――だとしたらそれは失礼なことをした………謝ろう、すまなかった』

 

(………もうダメだ、お終いだぁ………)

 

士道は完全に詰んだと思い、両手両足を地面についてガクッと落胆した。

 

 

―――しかし………終わりではなかった。

 

 

 

『―――んもう!士道くんの左腕の人もなかなか良いジョークセンスあるじゃん!もう、士道くんも左腕さんもおちゃめさんなんだからぁ!』

 

―――よしのんの言葉に士道とドライグは目を点にして驚いていた。そして―――二人のツッコミがシンクロする!

 

(『この子、皮肉で言われたって思ってねえええええええ!!!』)

 

―――万が一相手が十香だったら士道もドライグも塵殺公(サンダルフォン)であの世行きの片道電車に強制乗車させられるところだったが、そうなることは無かった。

 

よしのんの気まぐれで士道とドライグは一命を取り留め、そこから何気ない会話が始まり、作戦は本格的にしどうしようとしていた。

 

 

 

 




本作では、デート•ア•ライブのシンボルである、『私たちのデートを始めましょう』が、『これは救うための戦いだッ!』へと変更になりそうです。

★おまけ

士道「おいドライグ!もう少しで俺死ぬところだったんだぞ!?ちょっとは考えてものを言えよ!」

ドライグ『すまん相棒、俺はどうにもジョークというものが苦手でな。———それに相手は精霊の中でも特に大人しいハーミットだ。攻撃をしてくることはないと踏んでいたさ』

いつにも増して自信満々なドライグに士道は問う。

士道「万が一攻撃されたらどうするつもりだったんだ?」

ドライグ『———まあ、それはハードボイルドさ』

士道「意味がわかんねえええええええ!!」





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七話 またまたデートです!?

前話のアレがド滑りしたような気がします。
———大変申し訳ございませんでした!

※誤字を修正しました。



「タマちゃん先生、外はそんなにも危険なのか?」

 

高校の地下シェルターで十香は担任の先生である―――タマちゃんこと岡峰珠恵に外の状況を聞いていた。

タマちゃんは十香に顔を近づけ、真剣に説明をする。

 

「―――危険とかそういうレベルの話ではありません!なんたって空間震ですよ!?空間震!かつてユーラシア大陸で発生した人類史上最悪の災害―――その死傷者は一億五千万人にも上ったほどなんですから!」

 

全力で力説するタマちゃんの言葉を聞いて十香は眉根を寄せ、さらに表情を陰らさる。

 

「………シドーはそんな時に一体どのような仕事を―――」

 

悲しみに囚われる十香にタマちゃんは笑みを作って十香に言う。

 

「だ、大丈夫ですよ!村雨先生も付いていますし、大惨事になるようなことはないでしょうし!―――夜刀神さんが悲しそうな顔をしていたら五河くんも仕事に集中出来ませんよ?」

 

「―――シドー………」

 

タマちゃんはどうにかして十香の不安を解消させてあげたかったのだが、十香にとってはむしろ逆効果だった。

―――十香は胸が張り裂けそうになり、居ても立っても居られなかなったのだろう。

 

「………あれ、夜刀神さん?」

 

―――そう、十香はもうタマちゃんの視界から姿を消していた。

 

 

 

 

 

―――◆―――

 

 

 

 

 

『いんや〜、士道くんとお話しするのはとても楽しいねぇ〜。よしのん、こんなに楽しいお話をしてくれる人と出会ったのは初めてだよ』

 

―――士道の方はかなり順調に作戦は進んでいた。今はデパート内の近くのベンチで『ハーミット』と一緒に座ってお話をしている。

パペットである『よしのん』からはかなり好印象を持ってもらえており、青い髪の少女の『ハーミット』も少しずつだが、士道のことを恐怖する姿が見えなくなり始めてきた。

 

「―――楽しんでもらえているのなら、俺は嬉しいよ。さて、俺の相棒も紹介しようかな………ほらドライグ、よしのんに挨拶だワン!」

 

士道は自分の神器『赤龍帝の籠手』の宝玉部分を軽くポンッと叩き、ドライグに挨拶をさせようとするが―――

 

『………………………』

 

ドライグは無視した。―――地上最強と呼ばれた赤龍帝にこれはいくらなんでも失礼だろう。ドライグは機嫌が悪そうだった。

 

『士道くん、ドラゴンに「ワン」はダメなんじゃないの〜?せめて「ガオ!」とかの方がいいんじゃない?』

 

よしのんから思わぬ助け舟だ。士道は「なるほど」とポンっと手を叩き、再び籠手の宝玉を叩く。

 

「―――ドライグ、挨拶だガオッ!」

 

『―――相棒、そろそろ殴ってもいいか?』

 

ドライグは声を震わせながら士道に感情を伝える。―――ドライグは不機嫌だ。ちなみにだが、ドライグが士道を殴ることは無理だ。―――ドライグは魂だけの状態なので、夢の中なら士道を殴る可能だが、現実世界では不可能だ。

士道はベンチから立ち上がり、一気によしのんの気分を上げようと一発芸を披露する。

 

「………ここで今日の天気予報をお送りいたします。五河氏の天気はゲリラ豪雨級の血の雨!ドライグに殴られ、所によりアザとなるでしょう!」

 

―――士道は自信満々だったが、ドライグは『滑ったな………』と呆れていた。だが、よしのんは手を叩いて大笑いをしていた。

 

『プププププ………ハハハハハハ!士道くんって本当に面白いねぇ!士道くんとよしのんはいいお友達になれそうだよぉ〜』

 

よしのんはこれまた上機嫌だった。今でも手を叩いて大笑いをしている。そんな時に宝玉が点滅を始め、ドライグが声を出す。

 

『………この精霊は案外チョロいのかも知れないな。―――さて、あまり待たせるのも癪だな。相棒の言う通り自己紹介でもしておくか。………()()に付いてはもう一度謝っておいた方が良さそうだしな………』

 

ちなみにドライグはよしのんのことを『ブサイクなパペット』と言ったことを謝ろうとしていた。

 

(―――今度は間違っても『ブサイク』なんて言うなよ?それから『パペット』も禁句だからな)

 

ドライグは士道が頼んだ通りに自己紹介をする。

 

『………「よしのん」と言ったな?先ほどは大変失礼なことを言って悪かった。―――俺の名はドライグだ。相棒のドラゴンと言うのは俺のことを指しているのだ。―――だが!先ほどの「乳龍帝おっぱいドラゴン」という不名誉な二つ名は俺の相棒「五河士道」の二つ名だ。………そこは勘違いしないで欲しい』

 

ドライグが簡単な謝罪を込めた自己紹介をするとよしのんは『ハーミット』と共に近づいてきて小さな腕を出す。

士道も『赤龍帝の籠手』を纏った左手でよしのんの手を握ることでドライグの握手とした。

 

『うんうん!よしのんは寛大だからね!許してやっても良いよぉ!よろしくね「おっぱいドラゴン」さん!―――ところで、おっぱいドラゴンさんは女の子のおっぱい好きなの?』

 

よしのんの言葉にドライグは大泣きをする。

 

『うおおおおおおおおんんんっっ!!だからそれは俺の相棒のことだと言っているだろうがあああああああああ!!なぜ毎度毎度ながら俺はこんな目に合う必要がある!?』

 

(………落ち着けドライグ、これはきっと聖書の神『ヤハウェ』のせいだ!戦争中に大暴れをした二天龍を嫌ったんだ。その報復として二天龍に『乳龍帝』だの『ケツ龍皇』だの不名誉な名前を作るようにアザゼル先生に命令しやがったんだ!)

 

―――あくまで士道は「おっぱい!おっぱい!」と言ってきた自分に責任はなく、あろうことか()()無関係の聖書の神に責任をなすりつけた。

………この五河士道という男は神すら恐れない怖いもの知らずだ。

ちなみに、この不名誉なドライグの二つ名を名付けた張本人は堕天使総督のアザゼルなのだが、アザゼルも元々は天使で、堕天をしたために堕天使になったのだ。―――もともと、天使を生み出したのは聖書の神『ヤハウェ』だ。………つまり、『ヤハウェ』はミカエルやアザゼルの父となるため、全く無関係と言うわけではない。

―――これは余談だが、歴代最強の白龍皇『ヴァーリ•ルシファー』を『ケツ龍皇』と名付けた存在は北欧の主神であるオーディンのクソジジイだが、そんなことはどうでも良いだろう。

 

『おのれええええええええええ!!あの『ヤハウェ』め!俺たちが元の世界に戻った時、人間界でユー〇〇ーブを使って貴様の死んだという情報を全世界同時配信をしてやるぅぅぅぅぅぅ!!』

 

―――そんなことをすれば天界と教会が本当に終わってしまいそうだ。人間たちは神も教会も信じなくなるし、お偉いさん方の教会への寄付も無くなる。

その結果、天界の命とも言える『システム』に甚大な悪影響を与えてしまい、最悪の場合は崩壊もあり得るだろう。

 

『メンゴメンゴ!ドライグくん!―――士道くんはよしのんのおっぱい見たい?』

 

士道は躊躇うことなくよしのんの言葉に拳を握って賛同する!

 

「―――当たり前だろ!こんな可愛い少女のおっぱいを見ずして立ち去ることなんて出来ないッ!それを神が拒むのであれば俺はその神をもぶっ倒すッ!」

 

ピカッ!ゴロゴロゴロゴロッ………

 

士道が決めポーズを取りセリフを言った瞬間雷鳴が轟き、士道をより際立たせる!―――しかし、ドライグだけは士道の姿を冷静に捉えていた。

 

『………相棒、カッコつけてるところ悪いのだが―――鼻血が出てるぞ?』

 

―――なんとも情けない事に士道は『ハーミット』のおっぱいを妄想して鼻血を流していた。………カッコつけて盛大に転んでしまうことがこの五河士道なのかもしれない。

 

『うわぉッ!士道くん大胆だねえ!まあ、士道くんには楽しい思いをさせて貰ってるし、よしのんも応えてあげないとねッ!』

 

なんということでしょう!こんな誘いによしのんは乗ったのだ。士道は『ハーミット』に手を差し出して、作戦の実行を完全に開始する!

 

「―――恩を恩で返すとは、さすがは俺の友達の『よしのん』だ!さあ行こうぜ、今いる四階の下の階である三階には服が売っているコーナーなんだ。………俺がよしのんにとびきり可愛い服をチョイスしてやる!」

 

士道はよしのんのことを友達認定していた。しかし………

 

「あ、あの………」

 

ここに来て初めて『ハーミット』が声を出した。彼女は消え入りそうな声で士道に言う。それを見たよしのんは何かを納得したかのように『ハーミット』に声をかける。

 

『ん―――ああ、なるほどね。「()()()」が決めたことならよしのんは何も言わないよ』

 

よしのんはジッと士道を見つめる『ハーミット』の背中を後押しするかのように声をかけた。彼女は一度、目を瞑った後に決心して桜色の唇を開く。

 

「わ、私は………よしのんじゃ、なくて………『四糸乃』。よしのんは、私の………友達、です」

 

『ハーミット』がついに自分の名前を明かした。彼女の名前は『四糸乃』と言うらしい。士道とドライグが考えていた通り、二人は別の生命体のようだ。士道は四糸乃の言葉に頷いた。

 

「四糸乃か―――うん、良い名前だ!よし行こうか四糸乃!目指すは衣服売り場の三階だ!俺に付いて来い!」

 

「………は、はい」

 

『うんうん!四糸乃とよしのんの魅力をたっぷり見せつけてあげるよ!』

 

―――今ここに士道と四糸乃の『戦争(デート)』が始まった。

 

 

 

―――その頃のフラクシナス二章①

 

 

 

「士道くん、本当に頼もしくなりましたね。………ちょっとエッチなところが残念ですけど」

 

藁人形(ネイルノッカー)』椎崎が精霊の好感度を上げようと果敢に向かっていく士道の姿を称えていた。

 

「そうですね!このまま押せ押せで行って最終的には―――最後の一線を越える!そんなこともあるかもしれませんね!」

 

早すぎた倦怠期(バッドマリッジ)』川越が妄想を爆発させながら士道同様に煩悩まみれになっていた。

副司令の神無月、司令の琴里、解析官の令音以外のクルー達も「早く録画の準備を!」と言ったり、「それが実現するのであれば、ティッシュ持って来なければ」などの発言が出たり、「男子高校生の裸体が拝めるわよおおおおおおおッ!」などと言って大盛り上がりだ。

 

琴里は自分の手を抓ってひたすら「耐えるのよ私!」と言い聞かせていた。

令音も琴里と同様に平静を装ってはいたが、“早くシンの所へ行って貞操を強引に奪うべきだ”と考えていたが、自分の心に従わないようにと足が震えていた。

 

そして―――この副司令の神無月はと言うと………この男も全くブレることなく妄想を膨らませていた。

 

「―――次に士道くんの選ぶ服が勝負を決めるでしょうね。………可愛い幼女に着せる服といえば、幅が広く、悩みに悩むでしょう。並みのロリコンなら『スク水』の一択のはず………しかし!私はそんな一般常識は認めません!

士道くんなら私の予想を二歩もしくは三歩先を行って貰わなければならない!そして私は士道くんが選んだ服を司令に着させて虐めて貰うんだ!!」

 

パチンッ!

 

身の危険を感じた琴里が指を弾き、黒スーツのSPを呼んだ。SP達は神無月の両腕を掴んで退出して行く!

 

「司令、お慈悲を!お慈悲おおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

神無月は最後の抵抗と言わないばかりに声を出した。

 

「士道くん、キミのエロを私に見せてくれ!」

 

『―――あなたに見せるものは何もありませんッ!!』

 

クルー達の心の叫び声を訴えた後、神無月は黒スーツのSPと共に何処かへ消えた。

 

 

 

 

 

―――その頃のフラクシナス二章①終了

 

 

 

 

 

「………シドー、無事でいてくれ!」

 

十香は士道の安否を心配し、シェルターを飛び出し外の世界を走っていた。走ること数分が経過した時のことだった。

十香の目の前にある人物が姿を現した。

 

「―――っ!き、貴様はあの時の………•!」

 

「おや?僕のことを覚えていてくれたのかい?………それは光栄だ。―――お久しぶりだね、十香ちゃん」

 

その人物は士道を鍛えている人物―――次元の守護者のソロモンだった。ソロモンを見た十香は警戒を強め、ソロモンを睨みつける。

 

「………そこを退け!私はシドーのもとへと向かわなければならないのだ!」

 

ソロモンはやれやれと首を横に振る。精霊の力を封印された十香ならたとえ天地が裂けてもソロモンを討つことは敵わないだろう。―――もっとも、精霊の力をフルに使えても勝負にすらならないが。

 

「………へぇ、面白いことを言うね十香ちゃんは―――じゃあ訊くけど、僕が『退かない』と言えばどうするつもりかな?」

 

「知れたことをッ!押し通るまでだ!」

 

十香のセリフを聞いたソロモンはため息をついて呆れていた。

 

「―――まったく、士道くんも十香ちゃんにしてもそうだけど、もっと相手を見て物事を語るべきだ。………最近の若者たちは短気になったものだよ」

 

「む!貴様、私をバカにしているのか!?」

 

「してないよ。―――まあ、僕のような不審者がいきなり目の前に現れたら警戒するよね?………僕は十香ちゃんにお願いがあってここに来たんだよ」

 

十香はソロモンの発言に拍子抜けし、口をポカーンと開ける。………先程まで逆流しそうだった十香の力は完全に消え失せていた。

 

「やっと落ち着いてくれたみたいだね。―――僕が十香ちゃんにお願いしたいのは、士道くんにこの手紙を渡して欲しいんだ。………まあ、これにも少し条件があるんだ」

 

「―――そのようなことで良いのか?………しかし、それならば貴様から士道に渡すのが一番早くないか?」

 

………十香は疑問に思ったことをそのままソロモンに伝えた。ソロモンは眉根を寄せ、目を閉じて十香に告げる。

 

「―――僕が士道くんに渡すとなると、彼はすぐに『修行だ!』と言うからね………十香ちゃん、条件と言うのは士道くんと二人っきりの時にこの手紙を渡して欲しいんだよ」

 

「………構わないが、なぜ二人きりの時に渡さなければならないのだ?」

 

「その理由は僕が『フラクシナス』の連中とあまり関わりたくないからさ。………二人っきりの時なら十香ちゃんが士道くんにラブレターを渡しただけだと向こうも判断するだろうからね。―――まあ、あの()()ちゃんだけは案外勘付いて来そうで怖いんだけどね」

 

「む?―――その零番とやらが気になるが、とにかく了承したぞ。貴様と会ったことも皆には伏せるようにする」

 

十香はソロモンの言葉に首を縦に振って頷いた。十香はソロモンから手紙を受け取り、自分のポケットの中へとしまい込んだ。

ソロモンは十香がお願いを聞いてくれたことに感謝として魔法陣を展開し、笑顔を見せて十香に言う。

 

パァァァァァァァッ………

 

魔法陣は光を放ち、完成をみた。その魔法陣はソロモンの左手に展開されていた。

 

「ありがとう十香ちゃん。………これはささやかな僕の気持ちさ―――僕が士道くんのところまでワープさせてあげるよ。………士道くんのことが心配で仕方ないのだろう?」

 

「―――それは本当か!?………すまない。恩にきるぞ!」

 

十香はソロモンの展開した魔法陣へと乗った―――そして………

 

シュゥゥゥゥゥンッ………

 

魔法陣は光を放出しながら十香の体を包み込んで消え去った。

 

「―――さて、今日の僕の役目はこれで終わりといったところかな………あ、そう言えば士道くんは作戦実行中だったりするのかな?―――まあ士道くんなら『誠〇ね』みたいなことにはならないだろう」

 

―――この時ソロモンは自分が士道に原子力爆弾級の強力な爆弾を、導火線に火を付けた状態でプレゼントしたとは夢にも思っていなかった。

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

 

『―――どう、士道くん?四糸乃とよしのん可愛い?』

 

士道と四糸乃はデパートでの衣服コーナーで絶賛デート中だ。―――デートとはいっても余計な存在が二つ(ドライグとよしのん)あると言うことは放っておこう。

 

「おう!中々様になってるぜ!―――次はナース服!その次はゴスロリで、その次はメイド服だ!」

 

『―――んもう!士道くんったらほんとうに大胆!」

 

まず最初に士道が四糸乃に選んだ服は幼女の定番とも言える白いワンピースだった。その姿でも十分可愛いが、士道はさらに上を目指した。

―――四糸乃は十香がやっていたように士道が持って来た服を自分の霊力を使ってその服を模倣し、士道の前に立つ。

ピンクのナース服姿となった四糸乃を見て士道は大喜びをする。

 

「―――て、天使だ!ここに天使が降臨したぞおおおおおおおお!!」

 

鼻の穴を大きく開けて興奮し、両手を握って迫ってくる士道の様子を見て四糸乃は「………は、恥ずかしい、です………」とモジモジとしていた。よしのんも四糸乃に『四糸乃、似合ってるよ!自信持って!』と励ましていた。

―――どうでも良いが神無月が館内へと戻ってきて実況を始める。

 

『なんとすっばらしいことだあああああああああああ!!まだ未成熟というあどけなさが残っているからこその未来を予想する楽しみがあるナース服を選ぶとは!!しかもピンクをお選びになられるとは!さすがは士道くんだ!』

 

「―――いずれ琴里にも着させるつもりですよ。琴里には白色のナース服を着させる予定です!」

 

『―――エクセレンッ!!』

 

士道はインカムで神無月に言うと、神無月は鼻血を吹き出して倒れた。―――この男は変態だが、純情なのだ。

琴里は『絶対に着ないわよ!!』とまさかの反論が返ってきた。琴里の反論に士道くんは地味に落ち込んでいたのは、触れないで置こう。

 

「いやあ!最高だぜ!このままASTの連中引き上げてくれないかなぁ!俺と四糸乃の二人っきりのデートを続けるために!」

 

「………わ、私も士道さんと………同じ、です………」

 

なんと、四糸乃も士道と同じ気持ちのようだ。士道はそれを見て心底嬉しそうに微笑んでいた。

 

『士道くん、よしのんもいるからねぇ!』

 

『………相棒、俺もいるが?』

 

―――二人は忘れるなと言わないばかりに声をかけてくる。

………だが、そんな楽しい雰囲気にも亀裂が入ろうとしていた。

 

ズォォォォォォォォォッッ………

 

圧倒的な威圧感を感じ、士道は力を感じた方角へと視線を向ける。士道の視界内には―――黒髪の少女が映っていたのだ。

 

「―――ゲエッ、十香!?」

 

そう、士道のすぐそばには十香がいたのだ。クラスメイトと高校の地下シェルターへと避難したはずの十香が、どういうわけか自分の視界内に入っていたため、士道はパニックになっていた。

 

「………………………シドー、貴様一体何をしている?」

 

精霊の力が完全に逆流し、十香から凄まじい力が放出されている!士道は琴里に慌てて確認を取るが、琴里は『そっちは見てなかったゴメンね♡』とふざけたセリフが帰ってきた。

 

「―――ああいや、これは、その………」

 

―――ついに修羅場へと発展してしまった。十香は鋭い眼光で士道を睨みつけ、溢れる力に任せて地団駄を踏む。

 

「………嫁である私をこれだけ心配させておいて貴様の言っていた仕事とは―――女とイチャコラすることだったとはなあ!!」

 

ドガアアアアアッッ!!

 

「うっ!?」

 

「………きゃあ!」

 

十香が起こした地団駄で地面が大きく揺れ、士道と四糸乃が揃って尻を地面につける。―――ドシドシと大きな音を鳴らしながら十香が士道のところへ足を進める。

 

「ま、待て十香!とりあえず落ち着くんだ!そうだ、落ち着こう!まずは深呼吸だ!大きく吸って小さく吐く!大きく吸って―――ゴハァッ!」

 

………•落ち着くのはお前なのだよ士道くん。

深呼吸をする士道に十香は膝蹴りを食らわせ、士道をノックアウトした。

 

「し、シドー!貴様のいう仕事とはこの小娘と会うことだったのか!?」

 

「―――蹴ってから確認してんじゃねえよおおおおおおおお!!!」

 

十香は四糸乃に指をさして大慌てをするように士道に答えを訊いた。士道は理不尽な膝蹴りを食らいながらも十香にツッコミを入れていた。

 

『………お取り込みのところ申し訳無いのだけれど、お姉さんええっと―――』

 

よしのんが十香の顔を覗き込むようにして訊いた。十香はよしのんを睨みつけて「私は十香だ」と低い声でよしのんに言った。

 

『………十香ちゃん、いきなりでメチャ悪いんだけど―――もう帰ってくれないかな?よしのんと士道くんは今デート中なんだよねぇ〜。十香ちゃんだってデートを邪魔されたら嫌でしょ?―――だからお邪魔虫は帰った帰った!』

 

「だ、黙れ!!私はお邪魔虫などではない!私はシドーの嫁だ!―――勝手に私のシドーをたぶらかすでない!」

 

完全に修羅場へと発展し、殺伐とした空気がデパート内を包み込んでいた。よしのんは憤る十香の様子を見て面白がるように十香を煽る。

 

『―――お嫁さんなんだったらしっかりと士道くんのこと管理しておかなきゃダメじゃないの〜?………まあ、士道くんも男の子なんだし、浮気の一つや二つくらいは許容する寛大さを持ってあげなきゃ。………ほらほら、『要らない子』はもう帰らなきゃ』

 

プツンッ………

 

十香の中で切れてはいけない何かが切れたように士道は感じとったのだろう。十香はよしのんの首を掴み上げ、四糸乃から引き離す!そして大声で怒り散らす!

 

「私は―――私は『要らない子』などではない!シドーは私に『一緒にいろ!』と言ってくれた!これ以上の愚弄は許さぬぞ!―――おい!何とか言ってみたらどうだ!?」

 

………言えるはずもないだろう。よしのんは四糸乃なしでは喋ることは出来ない。目に涙を溜め、よしのんを掴み上げる十香をみて四糸乃はよしのんを取り返そうと必死で手を伸ばしてジャンプしていた。

 

「………かえして、くだ………さい………」

 

消え入りそうな声で四糸乃は言うが、十香はよしのんを掴み上げたまま四糸乃を見る。

 

「―――なんだ貴様は?わたしは今こいつと話をしているのだ!」

 

全く返す気がない十香に士道は肩を掴み、目を閉じて首を横に振る。

 

「………十香、もう返してやれ。―――やり過ぎだ」

 

「―――っ!!シドー………•お前まで私を否定するのか?」

 

十香にとって最も大きなダメージとなったのは、士道の今の言葉だったのかもしれない。十香は目に溜めていた涙を流し、肩を震わせていた。

そしてついに―――四糸乃が力を解放した。

 

「―――『氷結傀儡(ザドキエル)』ッ!!」

 

オオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!

 

デパート内に凄まじい雄叫びが響き渡った。

四糸乃が右手を地面に叩きつけた瞬間、地面から五メートルはあるだろう白い巨大なウサギのような怪物が姿を現した。

危険を感じ、士道はすぐに十香の前に立ち、『赤龍帝の籠手』で力を高めていた。

 

「―――天使か!?………でも、これって………」

 

天使の名前だと言うのは士道もすぐに理解していた。だが、士道が予想していた天使と、四糸乃が発現させた天使は全く異なるものだった

 

『恐らく発動させる天使の姿は精霊ごとに異なるのだろう。夜刀神十香の場合は剣となって具現化したが、四糸乃の場合はこの姿が真の姿となっているはずだ』

 

ドライグが見解を述べると同時に―――

 

パリンッ!ズドオオオオオオッッ!!

 

凄まじい冷気が吹き荒れ、デパートの窓ガラスが全て割れていき、同時に冷たい突風が発生した。

その突風は台風の暴風域の時の風力の数十倍の威力を誇っていた。―――そして………

 

「ッ!うわあッ!」

 

その突風に耐えることができず、十香が吹き飛ばされた。十香を庇うために士道はすぐに地面を蹴って十香に手を伸ばす!

 

「―――ッ!十香ッ!!」

 

全力で飛行し、十香の手を掴むことに成功したが―――その時にはすでにデパートの壁がすぐ目の前に迫っていた。今吹いている風は士道を押す状態だったので士道は満足に減速が出来なかった。

 

そして―――どうにか十香を無傷の状態で救うことはできそうな士道だったが………自分の体の無事は保証できそうになかった。

 

ドゴオオッ!

 

士道はとっさに十香を抱き寄せ、向きを変えて背中から壁に激突した。

突風を巻き起こした四糸乃はデパートの割れた窓から天使に何かを咥えさせて脱出を図った。

 

「―――シドー?………お、おいシドー!しっかりするのだ、シドー!!」

 

十香は自分を抱えて微動打にしない士道を心配して体を揺するが、士道が返事をすることも、起き上がることも無かった。

凄まじいスピードで壁に激突した衝撃で、士道は気を失っていのだ。

 

『―――作戦は中止よ!すぐに『フラクシナス』へ回収するわ!そこを動かないで!』

 

士道と十香は廃墟と化したデパートから回収された。

 




———フラクシナスのクルーって大事なところが抜けてますよね•••••

ソロモンの手紙の内容は次回に回します!


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八話 大切だからこそ!

更新が遅れてしまい、申し訳ございません!

この話でもドライグが躍動します!

頼りになるのは長年苦楽を共にしてきた最高のパートナー。




四糸乃の救出作戦を実行していた士道は、順調に作戦を遂行していたが、いきなりの十香の乱入で修羅場へと突入し、四糸乃の守護天使『氷結傀儡(ザドキエル)』に吹き飛ばされ、壁へと激突し、意識を失い『フラクシナス』の医務室へと強制送還された。

 

「―――シドー………」

 

十香は意識を失った士道の看病をしていた。―――あんなことがあっても士道のことが彼女は大切に思っているからこそ、士道に付き添っているのだ。

ベットから出ている士道の左手の甲が点滅し、ドライグが話し始める。

 

『………夜刀神十香、貴様に一つ訊聞きたいことがある』

 

「―――なんだドライグ?」

 

『一体どうやって相棒の所まで来ることが出来たのだ?………あの時の相棒は周囲をかなり警戒して気配を探っていたのだが、俺も相棒もお前の気配を察知することが出来なかった』

 

………士道は現時点でも周囲の気配を探る力―――明鏡止水を会得しているため、周囲の気配を探ることが可能だ。

しかも、十香は人間ではなく、精霊であるため並の人間に比べれば力は比べ物にならないほど強大だ。

―――しかし、士道は十香の気配だけは全く掴むことが出来なかったのだ。

 

『―――もちろん、相棒の気配察知能力は完璧ではないのは俺も承知している。………しかし、貴様の気配を察知できないほど相棒は未熟ではない。………一体どうやって相棒に気配を察知されることなくあのデパートまで辿り着いたのだ?』

 

「………それは―――()()言えない………」

 

ドライグの言葉に十香は近くにいる令音と琴里の方を一瞬チラリと見て表情を曇らせて述べた。

………ドライグは何かを悟り、再び士道の左手の甲を点滅させる。

 

『―――村雨令音、五河琴里………少し席を外してくれないか?………俺は夜刀神十香と二人で話しがしたい』

 

ドライグの言葉に令音と琴里は怪訝に思い目を細める。

 

「………なぜ二人だけで話す必要がある?―――私たちが知るべきではない事を話すつもりなのか?」

 

『―――ああ、俺の勘が正しければ夜刀神十香が相棒の目の前にいきなり現れたのは、恐らくあのふざけた魔法使いが関与しているのだろう………あの魔法使いは貴様らのような()()()()()()を毛嫌いしているからな』

 

「―――ッ!!」

 

ドライグの言葉に十香は核心を突かれたかのように息を詰まらせ、令音と琴里はドライグの言葉に険しい表情へと変わる。―――特に琴里にいたっては拳を握りしめ、今にも暴れだしそうだ。

 

「―――好き放題言ってくれますね………今回の失敗は私たちの不注意が原因です―――しかし、私を侮辱するならともかく、クルーの全員まで侮辱をする必要なんてないじゃない!!」

 

「………十香のことを見ていなかったのは確かにこちらの責任だ。しかし、言うべき言葉くらいは選ぶべきだ!」

 

令音も珍しく声を荒げて言ったが、二人の言葉にドライグは全く臆することなく物申す。

 

『―――全く、お前らは文句だけしか取り柄がない連中か………お前ら「フラクシナス」の連中は相棒の枷以外の何になるというのだ。あと少しで四糸乃を攻略できる所までにきていたかと思えば、「夜刀神十香は見ていなかったゴメンね♡」ときた―――これを無能と評さず何とすればいい?お前らは一つの事象しか考えることが出来ていない。………お前らには「もし〜だったら、〜な状況に陥るだろう」という最悪の事象を全く考えていないからこのような失敗へと繋がるんだ』

 

「「………………………」」

 

ドライグの言葉に令音と琴里は何も言うことが出来なかった。ドライグの言葉に二人はただ黙認せざるを得なかったのだ。

 

『―――良いからお前らはここから消えろ。お前らがいては夜刀神十香が話したくても話せない』

 

ドライグの言葉に琴里は憤りを露わにしてるが、令音が琴里の手を掴み、「………ドライグの言う通りにしよう」と言い聞かせて医務室を後にした。

―――琴里は悔しかったのだ。ドライグに無能の烙印を押され、言いたい放題言われたからだ。

………『フラクシナス』の司令官を務めていても、まだ弱冠十四歳の少女だ。

全てを我慢しろというほうが酷というものだろう。

 

『いきなりすまんな夜刀神十香………さて、本題に入ろうか―――あの魔法使いと何をしていたのだ?』

 

ドライグの問いに十香はソロモンから預かった手紙を取り出してドライグへと見せた。

 

「―――これを預かったのだ。あの魔法使いはシドーと二人きりの時に渡せと言ってきてな………」

 

『手紙か………これまた珍しいものを。―――それで、どのようなことが書かれてある?』

 

「う、うむ―――だが………」

 

十香はソロモンが書いた手紙の封を開け用としたが、戸惑っていた。―――“シドーへの手紙を私が読んでも良いのか”と。その様子を見たドライグは十香に言う。

 

『―――構わん、俺もある程度は内容が分かっている。………恐らく、修行のことに関することと、相棒がこれから道を踏み外さないようにする為の牽制のような内容の筈だ。相棒もお前のことは信用している。………構わず読め』

 

「わ、分かった―――」

 

十香はソロモンが書いた手紙を読み始めた。

 

 

 

 

―――“やあ、こんにちは士道くん。体の方は大丈夫ですか?あまり無理をしないようにした下さい。………キミの背中には世界の多くの人類の命を背負っているということを忘れないで下さい。力不足を嘆くのは構いませんが、力が強いことだけが強者ではありません。………歴代の赤龍帝の宿主たちは、その殆どが力に呑まれ、その最後は悲惨なものが多かったはずです。………今の士道くんを見ていると、僕は士道くんが今のその道を全速前進しているようにしか見えません。

ぼくの修行はこの一週間は休みにします。僕の修行が休みの期間は十香ちゃんと剣術及び精神の修行をメインに行って下さい。

―――体を休めることも修行の一環だと言うことも忘れないで下さい。そして、全て一人で片付けようとは思わず、十香ちゃんや琴里ちゃんにも頼ることをして下さい。士道くんのことを自分以上に大切だと思っている人もいます、その人たちの想いを無下にしないようにして下さい。

………次元の守護者―――ソロモンより”

 

 

 

 

十香はソロモンの手紙を読み終えた。―――内容はドライグが考えていたとおり、修行関連についてのことが書かれてあった。

十香が読み上げたソロモンの手紙の内容を聞いたドライグは興味深そうに呟く。

 

『―――あの魔法使いめ、歴代の赤龍帝のことまで知っていたとはな………本当にあの魔法使いには頭が下がる。………その上、修行に関してもそうだ。相棒に剣の修行と明鏡止水の修行を同時並行させるつもりか………確かに相手の気を探るほかにも、相手を観察する洞察力も同時に身につけるには持ってこいの修行だ。―――有能さなら堕天使の総督を遥かに上回っている………さて、夜刀神十香、今のお前はどのくらい剣を使い熟せる?』

 

ドライグの言葉に十香は自信満々に答える。

 

「精霊の力を封印されたとは言っても、技術までは封印されていない。………剣だけならシドーに負けるような事はない」

 

『―――その答えが聞けただけで十分だ。今の相棒はアスカロンをただ振り回しているだけだからな………剣の方はお前が見てやってくれ』

 

「うむ、それは良いのだが………シドーはもう私のことが―――ッ!!」

 

十香は了承したかと思えば急に表情を陰らせ、スカートを握りしめていた。眉根を潜め、目を強く握るように閉じ、悲しそうな表情を浮かべていた。ドライグは十香の悩みを悟り、訊き返す。

 

『―――先程のことを気にしているのか?』

 

「っ………………シドーが誰とデートしようが私には何も言う資格はない―――だが、あのウサギが言っていたように私はシドーにとって『要らない子』だと思うとどうしようもなく辛い気持ちになったのだ………もしも、シドーにそのように言われる時が来ると考えると―――」

 

十香はそれ以上を言おうとしなかった。―――それ以上考えることが十香にとってはこの上なく怖いことだったからだ。

………ドライグは十香に優しく告げる。

 

『………夜刀神十香、こんなことがあったのに、相棒の中にいる俺が言うのは筋違いだと思うが、はっきりとさせておこう―――相棒はお前を「要らない子」だと言うことなんてしないさ』

 

「………だ、だが!シドーは―――私よりもあの小娘を選んだ!私はもう………シドーにとって邪魔な存在でしか―――」

 

『―――相棒にとって本当に貴様が邪魔な存在でしかないのであれば、相棒は自分の身を犠牲にしてまで貴様を庇うか?』

 

「――――ッ!!」

 

ドライグの言葉に十香は声を詰まらせ、何も言えなかった。―――本当に士道が十香のことが嫌いであるならば、それができるかといえば答えは否だろう。

ドライグは士道に見捨てられる恐怖に怯える十香に理由を告げる。

 

『………夜刀神十香、相棒がお前よりもあの小娘を大切に思っている事実など無い。相棒にとってお前は自分の命よりも大切な存在だからこそ、相棒はお前を何度も庇ってきた。―――その結果自分が命を落とすことになっても相棒は微塵も躊躇する事はなかった………それはお前が相棒にとって大切な存在だからだ』

 

ドライグの言葉は十香の心に響くものだった。

―――実際、士道は三度も十香を危機から守ってきた。

対精霊用のスナイパーライフルに撃たれそうになった時を最初に、ヘラクレスの闘気弾、そして今回の件も含めての三度もだ。

十香の表情は徐々に落ち着いていき、頭をくしゃくしゃと搔きまわす。

 

「―――私はどれだけ愚かだったのか………ドライグに言われるまで気付かなかった自分が恥ずかしい」

 

十香の言葉を聞いてドライグは大きなため息を吐き、十香にあるお願いをした。

 

『ああ、全くもってその通りだ。相棒にしても貴様にしてもそうだが、どうしてこう俺の言葉が必要なのか………だが、分かってくれれば俺は何も言うことはない。―――夜刀神十香、もし相棒の心が砕けそうになった時は支えてやって欲しい。………悔しいが、俺一人ではどうにもならない時がこれから先必ず来るだろう―――その時は俺と一緒に相棒のことを支えてやってくれるか?』

 

「―――うむ。シドーが私にしてくれたように、私もシドーを支える!」

 

十香はドライグの言葉に力強く頷き、優しく士道の左手を両手で握った。―――このドライグは『乳龍帝』から『父龍帝』へと変更すべきだろう。

十香が士道の左手を両手で握った時、士道の目がピクピクと振動し―――ついに目を覚ました。

 

「………あれ?俺は―――あ、おはよう十香」

 

士道はキョロキョロと辺りを見渡し、最初に視界内に入った十香に笑顔を見せた。―――十香は我慢していたものを溢れ出させ、士道に飛び付いた。

 

「―――シドーッ!!」

 

バキッ!ズドォォォオオオオン!!(ベットが潰れました)

 

士道が目覚めたことが十香は何よりも嬉しかったのか、強く指導を抱きしめて、士道の胸の中で安堵の表情を浮かべていた。

 

(な、何故だか分からないが十香に抱きつかれた!強く抱きしめられているからおっぱいが押し付けられてるよおおおおお!!乳首がコリコリしてて―――十香ああああああああ!!)

 

士道は意識が戻ってすぐに十香の体を堪能していた。鼻の下を地面に着きそうなくらいまで伸ばし、鼻血をダラダラと流していた。―――これには相棒のドライグも盛大に嘆息していた。

 

『―――はぁ………こればかりはどうにもならんか』

 

………ちなみに十香が士道に抱きついたことで『フラクシナス』医務室のベットが潰れたということは内緒にして貰いたい。

 

 

 

 

 

――◆――

 

 

 

 

 

「くっそおおおお!十香の野郎、容赦なさ過ぎ!―――全身アザだらけだ!」

 

士道は『フラクシナス』での精密検査を終えた後、十香と共に精霊の隔離部屋の地下室でソロモンに言われた通り、剣術のトレーニングをしていた。

………ちなみに思いのほか修行は上手くいき、十香が士道を技術で圧倒をし、士道はその技術を学ぶ為に剣の握り方から振り方まで徹底的に十香に教わることができたのだ。

………一時間ほどで修行は終了し、士道は浴室でシャワーを浴びながらボヤいていた。

ボヤく士道だったが、ドライグは十香を称賛している。

 

『―――まさか、剣術で相棒を終始圧倒するほどとは思っていなかった。………良い修行相手が近くにいたな、相棒。この分なら当分は夜刀神十香との修行が一番合っているのではないのか?』

 

ドライグの言葉に士道は悔しそうに拳を握りしめ、奥歯を強く噛み締める。

 

「………いや、俺が守るべき十香に圧倒されてるようじゃあダメだ。………俺が十香を―――」

 

士道が全てを言う前にドライグが士道に釘を刺す。

 

『―――共に戦えば良いではないか。なんでも一人で抱え込むなと、さっきソロモンの手紙で注意を喰らったばかりではないのか?』

 

「………そうだな、すまんドライグ。俺また一人で突っ走るところだったよ」

 

この二人は本当に親子のような関係だろう。焦る息子に優しく寄り添う父親のようにドライグは士道に接していた。

士道とドライグが話し合っていて少しした後、外の脱衣所に十香が現れ、士道に訊ねる。

 

『―――シドー、一緒にお風呂に入っても良いか?』

 

十香のお願いに士道は笑顔で浴室から外にいる十香へと言う。

 

(―――な、なにぃぃぃぃぃぃぃぃ!?と、十香が俺と一緒にお風呂に入りたい、だとぉ!?こんなもの断る理由があろうか、いや無い!)

 

急な十香のお願いを士道は大喜びでしょうだくする。

 

「おう!十香、俺の背中を流してくれ!」

 

『―――いやいやいやいや!断れよ相棒!!というか夜刀神十香も何を考えているんだ!?』

 

ドライグは普通に一緒に入ろうと言う士道に冷静にツッコミをいれるが、士道はいやらしい笑みを浮かべ、鼻の下を伸ばしていた。

十香はバスタオルを体に巻いて浴室へと入る。―――十香は恥ずかしそうに顔を赤くして鼻の下を伸ばしてマジマジと体を見つめる士道に言う。

 

「―――そ、そんなにマジマジと見るな………私だって恥ずかしいのだから………」

 

「いや、十香が恥ずかしがることなんてない!―――最高に綺麗だぜ、十香!早く俺の背中を流してくれ!」

 

………一ヶ月ほど前まで女性を怖がっていたチキン野郎の士道くんだったが、今はグイグイと押しまくりなドスケベ士道くんへとグレードアップする。(士道は全裸)

 

「わ、分かったからその………隠せ」

 

「―――あ、ゴメン………」

 

士道は恥ずかしそうに息子を隠し、近くにあった洗面台に座る。すぐに十香が士道の後ろにしゃがみ込み、シャワーで士道の髪を濡らし、シャンプーを手につけ士道の頭を指で擦り始めた。

 

「………シドー、痛くはないか?」

 

「―――いや、むしろ『最高』の二文字だ!気持ちいいぜ十香」

 

士道は十香に親指を立ててニッと笑う。十香も嬉しそうに「そうか、それは良かった」と安心し、さらに士道の頭を洗うことを続けた。

………ついにシリアスリカバーのドライグが十香に問う。

 

『………夜刀神十香、これはどういう風の吹きまわしだ?相棒と一緒にお風呂に入るなんぞ自殺行為に近いぞ?―――何がお前をそうさせたのだ?』

 

ドライグの問いはもっともだ。士道はこの歳にもなっても、子供のように女性の体―――特におっぱいが大好き過ぎる変態の中の変態『おっぱいドラゴン』だ。

ドライグの問いに十香は最高潮に顔を茹でタコのように真っ赤に染め、声を掠らせるようにして述べる。

 

「………クラスメイトの桐生藍華に教わったのだ―――こ、この国には『裸のお付き合い』というものがあるのだと………仲を深めたい存在とお風呂で交流をする事で一気に互いの距離が縮まるのだと私は教わったのだ………」

 

―――確かに十香の言うようなお付き合いと言うものは存在する。しかし、それは同性同士の場合に言えることだ。

“ここが勝負どころだ”と踏んだ士道は立ち上がって攻勢に転じる!

 

「そうだぜ十香!男と女がお風呂に入ってはいけないなんてルールはない!―――いやむしろ『混浴こそが正義』なんだ!俺は十香ともっと仲を深めあいたい!そうだ!深めあうべきだ!」

 

拳を握り、鼻血を垂れ流しながらグイグイと十香との距離を詰める全裸の士道くん。―――もう言っていることがめちゃくちゃなのは気にしてはいけない。

 

「―――だから隠せと言っているであろう!」

 

「ファラデェッ!!」

 

ドボーンッ!

 

迫り来る士道の顎にアッパーを食らわせる十香。―――いやむしろここから追い出すべきなのだが、十香はそれをしようとはしなかった。十香のアッパーを受けた士道は宙に浮いて浴槽へと沈み込む。

水しぶきを上げから再び士道は立ち上がり、おねだりをする。

 

「―――いやあゴメンゴメン!十香、今度はお背中を頼む!」

 

「………まったく。私も恥ずかしいのだからな………」

 

再び洗面台に士道は座り、次のシチュエーションに期待を爆発させていた。

 

「―――ど、どうだシドー?」

 

十香は士道の体を泡だてネットで優しく擦る。士道は涙を流しながら「最高ですッ!」と答えていた。―――士道にとってはこの風呂場は天国という言葉以外は見つからないのだろう。

 

「本当に上手だよ十香!―――よし、これから毎日一緒にお風呂に入ろう!それが一番良い!」

 

………今日の士道くんはドン引きするほど押せ押せモードだった。その士道の姿に籠手の中でドライグは泡を吹いて気絶していた。十香は士道の言葉にビックリして声を上げて訊き直す。

 

「ま、ままま、毎日だと!?」

 

「―――おう、毎日だ!俺はもう十香と触れ合っていないと死んでしまうかもしれない症候群―――略して『T症候群』にかかってしまった!これを治すには十香と一緒にお風呂に入ること以外の治療がない!十香、俺を救ってくれ!」

 

浴室の中で土下座をする全裸の士道くん。十香は士道の突然の告白に困っていたが、了承する。

 

「う、うむ!それしか士道の病を治癒する方法がないのであれば仕方ないな!これから毎日一緒にお風呂に入るぞシドー!」

 

「うおっしゃああああああああああ!!ありがとうございます神さま、仏さま、十香さま!」

 

大粒の涙の雨を降らせて大喜びする士道だったが………すでに幸せの時間はタイムオーバーとなるようだった。

その理由は―――

 

「―――死ねぇ、このおっぱいドラゴン!!」

 

ゴンッ!!

 

いきなり浴室の扉を開け、金属バットで士道の後頭部を強打する者が現れた―――士道の可愛い妹で『フラクシナス』の司令官でもある五河琴里だ。

 

「―――ぐへぇ!?な、なにしやがんだ!せっかく十香とのお風呂だったのに邪魔してんじゃねえよ!!」

 

「なにしやがんだ―――じゃないでしょうが!!シドーがやってることは紛れもない犯罪行為よ!?十香が訴えればあなた捕まるわよ!?」

 

「―――美少女との混浴で死ねるのであればなんの後悔もないッ!!満足な人生だったと胸を張れるんだ!」

 

決めポーズを取り盛大に開き直る全裸の士道くん。士道のこの発言に琴里は目元をヒクつかせドン引きしていた。

 

「………とにかく早く上がりなさい。今日の晩御飯は私も食べるのだから買い物に行って来なさいよ―――冷蔵庫の中は空っぽよ?」

 

「―――わ、忘れてたああああああああ!!」

 

………そう、琴里の言う通り、冷蔵庫の中の食材が切れていたのだ。士道はようやく天国から現実の世界へと舞い戻ることに成功した。

 

「………はぁ、我が兄ながら飛んだおおマヌケ野郎よ。―――私は仕事がまだ残ってるからもう向こうに戻るわ」

 

琴里はそれだけを言い残すと、『フラクシナス』へと戻った。十香は浴槽の中から士道に言う。

 

「………シドー、買い物には私も付いていくぞ!デェトだ!デェト!」

 

「分かったよ。じゃあ先に上がれよ十香、俺はもう少し湯に浸かるわ」

 

士道は十香を先に上がらせた。士道は十香が出た後、いやらしい笑みを浮かべ、先ほどの十香の姿を脳内保存し直していた。

 

「今日のおかずちゃんなら、二十発は余裕で行けそうだぜ!」

 

『うおおおおおおおおおおおおんんんっっ!!』

 

士道の発言にドライグは泣いた。

―――頑張れ、ドライグ!




後二話くらいでこの章も終わりです!

★おまけ

琴里「シドー、あなた何をやってるのよ!十香とだけお風呂に入るだなんてズルいじゃない!」

士道「は、はぁ!?ズルいってなんだよ!もしかして俺が言ったら琴里もお風呂に入ってくれるって言うのか!?」

琴里「そうよ!私だって昔みたいに士道と一緒にお風呂に入りだわよ!」

士道「よく言った我が可愛い妹よ!」

※この描写もいずれ書いてみたいです!


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九話 ヒーロー

士道「今日から俺が、ヒーローだ!」

おっぱいドラゴンはいつも小さい子供の味方です!

※誤字を修正しました。


四糸乃とのデートから一日が経過し、太陽が一生懸命にさらに上がろうとしていた時だった。

―――士道の部屋に機械音が響き渡る。

 

ピリリリリリリリッ………

 

「お………おっ、ぱい!」

 

AM6:30、枕の隣に置いてある目覚ましの音と共に意識を覚醒させるおっぱいドラゴンこと五河士道。

一日の始まりが「おっぱい」から始まる辺り色々と末期状態だろう。

 

『………早朝の一発目から女性の胸を求めるとはな―――そろそろ相棒の寿命も近そうだな………』

 

ドライグもかなり士道の精神状態を心配している様子だ。

 

「うるせぇ!余計なお世話だ!令音さんの素晴らしいおっぱいに顔を突っ込んで幸せを満喫している夢を見ていただけだっつの!―――お!?」

 

士道は見ていた夢を豪快に語るが、ドライグはドン引きをするだけだったのは、ひとまずおいておこう。

士道は体を起こそうとした時、自分の膝の上に何かがあることに気付く。

 

もごもごっ………

 

士道が動いていないにも関わらず、シドーのベットの掛け布団が蠢いている。士道は予期せぬ幸運に胸を高鳴らせていた。

 

「―――おいおい!これはもしかして嬉しい展開の可能性ありなのか!?」

 

ガバッ!

 

士道が勢いよく布団をめくると―――イモムシのように丸くなり、スヤスヤと気持ちよさそうに眠っている黒髪の少女の姿があった。

士道は十香の寝顔を見つめ、両手を上に伸ばす!

 

「………やっぱり十香だ。うーん!今日は良い朝だ」

 

『………昨日のお風呂での事といいこの小娘は相棒のことを信頼し過ぎている。もう少し自分の体を大切にしてもらいたい所だ』

 

ドライグは十香の行為に本気で心配していた。もちろん士道は思いがけない幸運を無視して起きようとは思っていなかった。

 

(―――まだ十香は眠っている………ここは俺も寝ているふりをして十香のおっぱいを楽しむということもできるかも知れない!!いや、それくらいしてもバチは当たらない!これはいつも頑張っている俺へのプレゼントなんだ!)

 

士道は鼻息を荒くし、両手をわしゃわしゃとしながら下品な笑みを浮かべて眠っている十香に毒牙を向ける。

 

『お、落ち着け相棒!眠っている夜刀神十香に手を出して何になる!!お前は相手の気持ちを考えずに犯るほど下劣な男へと成り下がったのか!?―――正気に戻れ相棒ッ!!』

 

ドライグが正論を謳い士道に一時停止を呼びかけるが、極上の食材を前にした士道には歯止めがかかることは無かった。

 

「うるせードライグ!こんなチャンス今後二度とないかもしれないんだ!!俺は今日この瞬間を以って『楽園(エデン)』へと駆け上がる!!」

 

士道はまるで食事前の挨拶をするように手を合わせ、目を瞑る。―――そして………

 

「この世の全ての()()()()に感謝を込めて―――いっただきまあああああすッ!!」

 

士道が十香の無垢な体に手を伸ばそうとした時―――正義の味方が現れる!!正義の味方は悪を成敗せんと士道の部屋の扉をこじ開け、そして―――

 

ガコーンッ!!

 

突如鈍い金属音が士道の部屋に響き渡り、士道はベットに倒れ伏した。………赤い髪を揺らした可愛い少女がフライパンで士道の後頭部を強打したからだ。

 

「『いっただきまあああああすッ!!』の前にご飯作りなさいよ!………この人類の恥さらし!!」

 

その正義の味方とは、士道の可愛い妹の琴里だった。目覚ましが鳴ったにも関わらず部屋から全く出てこない士道を怪訝に思い、部屋を見に来たら士道が後一歩で犯罪者へと成り下がろうとしていた場面が目に移り、行動を起こした。

―――え、フライパン?それは琴里がお腹を空かせていたからカンカン音を鳴らして二度寝をしている士道を起こそうと考えていたからだ。………決して士道を殴ろうと思って持ってきたわけではない………………………はずだ。

 

「いってえなおい!飯作る前に、目の前のオカズで励もうと思っただけじゃねえか!………てか、誰が人類の恥さらしだ!この世界の男どもはこんな美少女が無防備で眠ってるなんてシチュエーションに出くわしたら俺と同じで内の中にある野獣を解き放つに決まってるだろうが!!」

 

士道は琴里に力説をするが、琴里も負けじと正論を士道にぶつける。

 

「―――もう開き直ってる!!ていうかそれ立派な犯罪だからね!?」

 

「犯罪がなんだってんだ!!そんなものを恐れていては『楽園(エデン)』には行けない!俺は―――『楽園(エデン)』へと行くんだ、邪魔すんなし!」

 

言い合いになっている士道と琴里だった。あまりに騒がしいために十香も体を起こし、目をパチパチと開けたり閉じたりを繰り返していた。十香は眠そうにしながら士道を見た。

 

「………シドー、お腹空いたぞ………」

 

十香が言うと、士道は琴里の方から視線を外し、十香の方へと視線を向ける。大きく息を吐いて士道は精神にリセットをかけた。

 

「………おはよう十香、飯にしようか」

 

「ちょ、ちょっと何よ!なんで十香が優遇される状況が出来てしまっているのよ!!」

 

琴里が怪獣のごとく叫んでいるが気にせず士道は三人分の弁当と朝食を用意し、十香と二人で来禅高校へと向かったのであった。

 

 

 

 

 

 

――◆――

 

 

 

 

 

「おっはー、十香ちゃん」

 

来禅高校へと士道が到着すると、十香に手を挙げて挨拶をする桐生藍華の姿があった。十香も嬉しそうに笑顔で挨拶をする。

 

「おはようだ、桐生!」

 

相変わらず桐生と十香は仲が良い。十香に人間の友達ができたことに士道はとても満足していた。

桐生藍華が士道の方にも視線を向け、声をかける。

 

「ねえ五河、昨日は―――お楽しみだった?」

 

そう、今朝の出来事と昨日のお風呂での出来事はこの変態エロメガネ女、桐生藍華の差し金だ。

士道はがっくりと肩を落として答える。

 

「いやそれがよ………妹の琴里に邪魔されて未遂に終わったよ」

 

士道からズーンッという効果音が聞こえるほど士道は落胆していた。黒い影が士道の頭にかかっているように桐生藍華は感じ取り、士道の肩をポンポンと二回叩く。

 

「―――ああ………アンタの家には妹がいるってことを計算に入れてなかったわ。………まあ、頑張りなさいな」

 

士道は「………ああ、ありがとな桐生」と桐生に頭を下げて感謝したのだった。桐生が席に戻った時に、もう一人士道に話しかける影があった。

―――士道の親友でもある殿町だ。

 

「五河、聞いてくれぇぇぇぇ!!彼女にコーディネートを頼まれたのだが―――っておい!無視すんな!」

 

士道は話しかけにきた殿町を無視してスマホにイヤホンを繋ぎ、耳につけて音楽を聴いていた。

プンスカと両腕を振ってアピールする殿町を見て士道はイヤホンを耳から外す。

 

「………わりぃ、今の俺は天使の歌を聴くことに忙しいんだが?」

 

「そう釣れないことを言うなよ我が親友よ、聴いてる歌は『宵待月乃』の曲かい?―――お前本当に好きだよな」

 

「ああ、俺はこの子の歌に救われたからな………早くアイドルとして復帰してもらいたいところだぜ」

 

五河家に養子で迎え入れられた時の士道は心が死んでいた。何を見ようが闇と自分の心に錠前が外れることは無かった。

………そんな士道の心の闇を吹き飛ばし、心の錠前を壊したのは、『宵待月乃』の歌だった。

彼女の魂がこもった歌を聴いた時に、涙と共に感情が徐々に戻り始めるきっかけとなったのだ。

その後は五河家に引き取られてからの両親と琴里が、一生懸命に士道の心のケアをしたために今の五河士道が出来上がったのだ。

――――ちなみにこの『宵待月乃』は人気絶頂のアイドルだったのだが、ある日忽然と姿を消したのだ。………ずっと士道は応援していたからこそ早く復帰して欲しいと彼は願っている。

 

「歌ってスゲェよな。人々に感動をもたらし、人々を変える。―――まあ、音痴な俺にはとても出来る代物じゃあねえけどな………それで、どうしたんだ?」

 

士道の過去の説明はこのくらいにしておこう。士道が歌についての想いを語った後、殿町の要件を訊いた。殿町はスマホを取り出し、『リトル•マイ•シドー』の彼女を出す。

 

「おっと!忘れるところだったぜ!彼女のコーディネートについてさ!ナースか巫女服かメイド服かどれにしようか迷っててな………」

 

士道は顎に拳をつけ暫し黙り込んだ。殿町の彼女は―――中学生くらいの女の子だった………そして頭に豆電球が点灯し、士道にスイッチが入る。

 

「この子ならナース服だな。巫女服は巨乳かロリの二択だし、メイド服はエッチなお姉さんが来てこそ真の破壊力を発揮するからな………この子にはメイド服はまだ早いし、巫女服も違うだろう」

 

「さすがは金星の赤い悪魔と共にやってきた『おっぱい星人』!こんな親友が身近にいるとネタに困らないぜ!」

 

殿町は士道のことを高く評価し、舞い上がっていた。

もちろんのことだが、士道は「誰がおっぱい星人だああ!!」と怒りを露わにしていた―――もちろん、士道はおっぱい星人であることに間違いはないが。

 

「………ナース服?」

 

折紙が士道の顔を覗くようにして確認するように訊く。

いきなり折紙に自分の言った言葉を訊かれ、士道はアタフタと慌てた反応を見せる。

 

「ち、違う!今のは殿町のリクエストに答えてあげただけで―――」

 

士道の返答に折紙は表情一つ変えることなく、普段通りの表情で一言だけ告げる。

 

「………そう」

 

折紙はその言葉だけを残して風のように自分の席へと戻った。こうして楽しい楽しい授業が始まり、士道たちは懸命に授業を受け、放課後を迎えた。

 

 

 

 

 

 

――◆◆――

 

 

 

 

「―――さて、鶏肉とキャベツにブロッコリー………後は家にバターがまだあったから鮭でも買うか………セールもやってるし」

 

放課後になり授業が終わった士道は夜ご飯のための食材を購入するために街で買い物をしていた。

外は相変わらずの雨が降っており、家までの近道をしようと士道はこの前訪れたデパートの路地裏からいこうと暗く細い道の中へと入る。そこには――――

 

「………ううっ………」

 

可愛い意匠に身を包んだ小柄な少女、この前士道が攻略しようとした精霊『ハーミット』こと四糸乃の姿があった。

士道は見間違いと思い、目を擦るが四糸乃の姿は確かにあった。

四糸乃は今にも泣き出しそうに、目に涙を溜めながら地面に両膝をつき、瓦礫が散乱しているデパートの路地裏で何かを探している様子だった。

 

「―――ほら、風邪引くぞ?」

 

士道はすぐに四糸乃の後ろへと行き、四糸乃の頭が濡れないように傘を持った腕を伸ばす。士道に気づいた四糸乃は―――慌ててその場を離れようと立ち上がって士道に背中を向ける。

士道は四糸乃に手を伸ばし、制止を呼びかける。そして―――四糸乃がいつも持っている物が無いことに士道は気付いた。

 

「ま、待て四糸乃!俺だ、士道だ!お前を驚かせに来たわけじゃない!―――――って四糸乃、お前『よしのん』はどうしたんだ?」

 

「―――ッ!!」

 

四糸乃は美しい蒼玉を思わせる瞳を大きく見開く。よしのんが左手に無いことを突かれて度肝を抜かれたのだろう。

四糸乃は士道のところまで走り、士道の制服を掴む。

 

「………まさか四糸乃、お前は無くした『よしのん』を探していたのか?」

 

士道の言葉に四糸乃はコクコクと二度首を縦に振る。今にも泣き出しそうな四糸乃を見て士道は言う。

 

「なるほどな………よし、分かった。ちょっと待ってろ」

 

士道はスマホを取り出し、琴里に連絡を入れる。

数秒が経過した時、琴里が士道からの電話に出た。

 

「―――すまん琴里。俺だ―――士道だ。………ちょっと調べてもらいたいことがあって連絡したんだ」

 

『あら、どうかしたのシドー、何かあったの?』

 

「ああ、実は―――――」

 

士道は琴里に事情を説明し、よしのんを探す協力を要請した。琴里たちは了承し、『フラクシナス』から士道のサポートをするために映像を解析してくれるようだ。

 

「ゴメン四糸乃、待たせたな―――さあ、よしのんを探すぞ!」

 

「―――は、はい………ありがとう………ございます」

 

四糸乃と士道はデパートの路地裏で四糸乃の相棒である『よしのん』を探すことになった。

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

「だああああああああ!!めんどくせぇったらありゃしねえ!四糸乃、ちょっと下がってろ………」

 

よしのんを探し始めてから約二十分。手作業で瓦礫を退かしていた士道と四糸乃だったが、ちまちまと作業に士道の忍耐力が限界になり、『赤龍帝の籠手(ブーステッド•ギア)』からアスカロンを取り出し、構える。

 

「よしのんがあるとすれば恐らく、瓦礫の下敷きになってるはずだ―――だから俺が瓦礫を吹っ飛ばす!!」

 

士道が剣に力を込め、莫大な光のオーラを纏わせて準備を整えていた。この時、四糸乃は士道がアスカロンを振り下ろした後のことを考えていた。

 

士道がアスカロンを振り下ろす→光の斬撃が瓦礫を吹き飛ばす→よしのんもその斬撃で一緒に吹き飛び、さらに斬撃によってよしのんの頭と体が綺麗に真っ二つになる。

 

四糸乃はよしのんが真っ二つになることに顔を真っ青にし、慌てて士道の腕を掴んで首を横に振った。

 

「………ダメ、です………ッ!………よしのんが!」

 

涙を流して士道の腕を掴む四糸乃に士道は慌ててアスカロンに溜めた力を抑え込み、籠手にアスカロンを収納した。

 

「わ、悪い四糸乃!よしのんのことを過大評価し過ぎた―――今度は拳でやるから下がってろ、これならよしのんも大丈夫な筈だ!」

 

士道は足を引き、半身で構えるように拳を引き、大きく息を吐く。士道が拳を振り抜こうとした時、またしても四糸乃が士道の腕にしがみ付く。

――――士道くんよ、それでは一つ問題が解決していないんだよ………

 

「それも、ダメ………ですッ!よしのんが、吹き飛び………ますッ!」

 

―――どうやら瓦礫を吹き飛ばすことはダメのようだ。士道は四糸乃の言葉に諦め、四糸乃の肩を両手で掴む。

 

「………そうだよな、よしのんを助けるのに、余計に傷つけてるようじゃあダメだよな………。長作業になるが、一個ずつ処理していくか」

 

「………はい」

 

再び士道と四糸乃は瓦礫を手作業で動かし、瓦礫の山を取り除いていった。

それからしばらくした時、変な音が路地裏に響き渡る。

 

ぐぎゅるるるるるるるるっっ………………

 

この音は腹の虫がご機嫌斜めな時に出す音だ。士道はふと隣を見ると、顔をトマトのように真っ赤にする四糸乃の姿が目に移る。

 

「――――お?四糸乃、腹が減ってるのか?」

 

四糸乃は何度も首を横に降るが――――

 

ぐぎゅるるるるるるるるっっ………………

 

「――――はうぅぅぅ………」

 

四糸乃の腹の虫は誰よりも正直ものだった。四糸乃は恥ずかしそうにフードを被りこみ、顔を完全に隠す。

士道は立ち上がり、四糸乃に手を差し出す。四糸乃は首を傾げる。

 

「一旦休憩にしよう。腹が減ってる状態じゃあ力は出せないからな―――四糸乃、俺ん家でご飯食って行けよ」

 

「………あの、でも――――」

 

「『でも』じゃありません!飯だ、飯!さあ行こうか」

 

士道は四糸乃の手を引っ張って自分の家へと帰った。

 

 

 

 

――――………

 

 

 

 

 

士道は親子丼と鮭のバター焼きとサラダという夜ご飯に作るメニューを四糸乃に出した。

四糸乃は物凄い勢いでムシャムシャと出された料理を食べていた。その様子を見た士道は「あんまり食べ急ぐと喉につまるぞ?」と四糸乃に言い聞かせて、早食いをさせないようにさせたが、時すでに遅く、四糸乃は喉に食べ物をつまらせ、士道が四糸乃を助けたというのは置いておこう。

 

「―――なあ四糸乃、お前にとって『よしのん』ってどんな存在なんだ?」

 

四糸乃が料理を食べ終わり、ソファーに座ってくつろいでいた時、士道が疑問に思っていたことを訊く。

四糸乃はソファーから顔だけを士道に見えるようにして答える。

 

「………よしのんは、私の………ヒーロー………です」

 

「―――ひ、ヒーロー!?」

 

士道は洗っていた茶碗を落とすほど驚いた。四糸乃は驚いた士道を見つめてうなずいた。

――――そんな時、ドライグが士道に話しかける。

 

『………何をヒーローに思うかは人によって異なる。相棒のことをただの変態と思う奴もいれば、夜刀神十香のように相棒のことをヒーローだと思う奴もいる――――それがこの四糸乃の場合なら、自分のヒーローはあのパペットだったということだろう』

 

ドライグの説明を聞いた士道は、納得したように首を縦に振っていた。

………四糸乃は『よしのん』について話し始める。

 

「よしのんは………私の、理想………憧れの自分、です………。私、みたいに………弱くないし、私みたいに………うじうじしない、強くて………格好いい」

 

士道はふむふむと四糸乃の話を興味深く聞いていたが、士道は心を明かした。

 

「………そういうもんなのか?俺から言わせてもらえば、四糸乃の方が好きだけどな」

 

「―――ッ!!」

 

士道が述べた言葉に四糸乃は顔から熱を放出させていた。そして、四糸乃は恥ずかしくなったのか、完全にソファーの背に隠れるように丸まり、士道の視界から姿を消す。

 

「………あれ?四糸乃、俺なんかおかしいこと言ったか?」

 

士道が問うと、四糸乃は再びソファーの背からひょっこりと顔を出す。

 

「そんなこと………言われたの………初めて………ったから………」

 

「………マジかよ、そいつは意外だったよ―――さて四糸乃、俺はもう一つ聞きたかったことがあったんだ………どうしてASTの連中に攻撃されてやり返さないんだ?―――それが俺ずっと引っかかっててさ………」

 

士道が問うと、四糸乃は意匠のスカートの部分を強く握りしめ、消え入りそうな声を出す。

 

「………私は、痛いのが、嫌いです………怖いのも………嫌いです。きっと、あの人たちも………痛いのや、怖いのは………嫌だと思います………だから、私は………」

 

「なっ――――」

 

士道は四糸乃の言葉を聞いて言葉をつまらせるほどに衝撃を受けた。

“―――相手も殴られるのが嫌だろうから、殴られても、殴り返さない”

四糸乃が言っていることを直訳すれば限りなくこれに近いだろう。―――四糸乃は涙を啜るようにして続ける。

 

「でも………私は、弱くて………泣き虫、だから………一人だと、ダメです………怖くて、どうしようもなくなって………頭の中がぐちゃぐちゃになって………きっと、みんなに………ひどいことを………」

 

士道は四糸乃の言葉を奥歯を強く噛み締め、拳に爪跡が出来るほど拳に力を入れて四糸乃の話を訊いていた。―――そうでもしなければ、とても我慢することが出来なかったからだ………

四糸乃は誰よりも優しく、誰よりも強い心の持ち主だ。

大抵のものはその理不尽に耐えられず歪んでしまうが、この四糸乃は違った。

そして、よしのんは怯える四糸乃に『大丈夫だ』といつも四糸乃を支えていたのだろう。

士道は四糸乃のいるところまで行って―――四糸乃の頭を撫でた。

 

「―――よく頑張ったな、四糸乃」

 

「………ふぇ?あ、あの――――」

 

「今日から俺が四糸乃のヒーローになってやる!」

 

士道は四糸乃の頭を優しく撫でつつ、胸を張って堂々と宣言した。士道はポカンと拍子抜けした四糸乃を見て続ける。

 

「俺が責任を持って必ずよしのんを探し出す!そして四糸乃に必ず渡してやる―――信じて任せろ、四糸乃が怖いって思う奴らは全部俺がぶっ飛ばしてやる!これからはよしのんに守ってもらう必要もない―――これからは俺が四糸乃を絶対に守ってみせる!」

 

士道はこの時、自分が大切にしていた金髪の少女の姿を四糸乃に重ねていた。

他人を想いやることのできる慈悲はあるが、自分には一切見返りがないということだ。

だから士道は思っていた―――“俺が必ず救うと”

 

「あの………ありがとう………ございます」

 

四糸乃は目をパチクリさせ、驚いていたが、士道に頭を下げた。士道は笑顔を四糸乃に見せた。

 

「礼なんて要らねえよ、俺が決めたことだからな………にしても、本当に四糸乃は可愛いよなぁ―――そうだ、これから俺の家に住まないか?」

 

「―――士道さんの、お家に………ですか?」

 

「おうとも!家族が増えるってのは良いことだぜ!なんせ、賑やかになるからな………それに――――ムフフフフフフッ!」

 

最後にいつもの士道くんが出ていたことは気にしてはいけない。

だが、士道の下品な笑みを見逃さない者が一名いた。それは―――

 

「シドー………何やら嬉しそうな笑みを浮かべいるが、どんないやらしことを考えていたのだ?」

 

そう、士道の嫁(希望)の十香ちゃんです。笑顔を見せているのだが、目が全く笑っていない―――失礼、両目に『殺』と言う文字が見え、額に青筋をぴくぴくと立てていた。

―――ちなみに、四糸乃は危険を察知し、すでに士道の家から退避していた。

 

「あ、あの………こ、これはですね―――」

 

「………何か言うことはあるか、シドー?」

 

士道が何か逃げ道を作ろうとしたが、十香は士道に慈悲を与えようとはしなかった。―――しかし、おっぱいドラゴンはここでもブレなかった。

 

「―――十香のおっぱいが見たい!」

 

士道は十香の問いに土下座をしておねだりをした。

―――嫁に浮気の現場を見られ、修羅場へとなりかけているこの場面でも欲望にこの男は正直なのだ。………というか、色々と末期だ。

 

「ば、バカモノおおおおおおおっっ!!」

 

ドガッ!!

 

「ゲフゥラック!!」

 

十香は士道を蹴り上げ、宙に浮かせた後、すぐに部屋へと向かったのであった。

 

『―――あんた全くブレないわねぇ………』

 

琴里はこの様子を見て完全にドン引いていたということは言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

―――◆―――

 

 

 

 

 

「………正義の味方のおっぱいドラゴンが取り立て役に堕ちるとはな」

 

某円卓の騎士(この剣は太陽の映し身………かつ負債を回収するもの――――)

 

士道は肩をガクッと落としていた。――――彼の頭の中には、円卓の騎士の中で忠義の騎士と謳われ、太陽の聖剣『ガラティーン』を携えたイケメンだが、ロリコン借金取りの騎士の姿が浮かんでいた………。

 

『――――そこは黙って目を瞑ってくれ………あの男は忠義に厚い漢だったのだ………性格に難ありな漢だったが、俺は騎士の中の騎士だと思っている』

 

――――ドライグが必死で庇うが、士道はまともに信じてはいなかった………

――――さて、話を戻そう………

士道はとあるマンションに来ていた。『フラクシナス』のクルーたちが映像解析をした結果、よしのんは折紙が持って帰ったことになっている。

そう―――ここは折紙が住んでいるマンションなのだ。

 

『………もともと「乳龍帝おっぱいドラゴン」は悪魔の子供たちの将来を案じて作られた番組だ。―――悪魔の時点で正義の味方とは言えないだろう』

 

ドライグの正論に士道は真っ向から反対する。

 

「うるせードライグ!心の腐り具合なら人間の方が悪魔よりも数段上だ!」

 

………これは士道が見てきた人間が醜悪な者が多かったからだ。聖剣計画の首謀者のパルパーガリレイやはぐれ悪魔払いのフリードセルゼンたちを見れば人間も十分醜悪だろう。

 

『………確かにそうだが、ここは人間界だ。人間界でそれを言っても仕方なかろう』

 

「―――ですよね!」

 

急に謙虚になる士道くんだった。

―――さて、本題へと移ろう。士道はマンションのインターホンに折紙の部屋番号を入力する。

 

『………………………』

 

ウィーン

 

折紙は何も言わず、マンションの扉のロックを解除した。

 

「―――なんか言えよな………怖いだろうが」

 

士道はいきなり開いた扉を通り過ぎ、エレベーターに乗ったときにボヤいた。そして―――士道は折紙の部屋へとたどり着き、一呼吸入れた後にインターホンを鳴らす。

 

ピーン―――ガチャッ!

 

インターホンが鳴り終わる前に―――いや、インターホンが鳴ると同時に折紙がドアを開ける。士道はびっくりして尻餅をつく。

 

「うわあッ!?―――っておい!?なんつー格好してんだよ!!」

 

扉を開けた折紙の姿は―――ピンクのナース服を着ており、ナースの帽子をもかぶっていたのだ。ナースの帽子には赤い十字架があった。

………しかし、士道が目に余ったのは、ナース服のスカートの部分の短さだった。

―――かろうじて下着だけが隠れるほどの短さのものだったので、折紙の美脚がきれいに見えるのだ。

 

「………士道、ビーストモードになる?」

 

折紙は尻街をついた士道にのし掛かり、首を傾げて問う。

 

「なりません!―――ていうかですねぇ!こんな場面誰かに見られたら俺捕まるわ!」

 

「………そう」

 

折紙は少し残念そうにしていたが、士道の手を引っ張り、部屋の中へと入れ玄関の鍵を閉めた。

 

「―――なら、家の中なら問題ない」

 

再び士道を押し倒す折紙。士道の体の上で腰を動かしていた。

 

「それなら問題ない―――ってんなわけあるかああああああ!!………こういうことはだな、本当に愛し合っている人と―――」

 

士道は必死に自分を押し殺した。いや、理性が勝利したと言った方が良さそうだ。

しかし、折紙は士道の理性にとどめを刺そうとする。

 

「私は士道になら何をされても構わない。―――シドー、私じゃダメ?」

 

「さようなら理性、こんにちはビーストモード―――ッ!!」

 

………士道がビーストモードになろうとした時、士道の頭の中で自分の名前を呼んで微笑む一人の少女の姿があった。―――それは、自分が守ると決めた十香の姿だった。

折紙の肩を掴んでいた自分の手を士道は下ろした。

 

「………ダメ、だと思う。やっぱり今の俺だとダメかな………」

 

士道が寸前で理性を取り戻したことを折紙は残念そうにため息を吐いた。

 

「残念。でも、ここから退く代わりに私の条件を無条件に呑んで欲しい―――私のことを鳶一じゃなく『折紙』と呼んで欲しい」

 

「………分かった」

 

士道が頷くと、折紙は士道から退いた。士道は立ち上がり、ここに来た要件を告げる。

 

「―――すまん折紙、俺がここを訪れたことには理由があるんだ。………この前無くしたパペットを探してるんだ―――このパペットなんだが、知らないか?」

 

士道はスマホの写真を見せると、折紙は部屋からそのパペットを持って来た。

 

「―――これ?」

 

「おおっ!?これは―――って自分の下着を男性に見せてはいけません!!」

 

士道は折紙に下着を見せられ、勢いよく鼻血を吹き出したが、すぐにティッシュを鼻につめて血を止める。

 

「―――これ?」

 

今度は折紙はパペットを出した。それは――― 四糸乃の相棒のよしのんだった。

 

「そう、それだ。この前デパートの近くで無くしたんだ。―――返してもらうことは出来ませんか?」

 

士道は敬語で訊いて折紙にお願いをする。折紙はよしのんを士道に渡そうと手を伸ばす。

 

「ありがとう折紙――――ってちょっ!?」

 

士道がよしのんをつかみ取ろうとすると、折紙は意地悪にも腕を上げ、士道を空振りさせる。

 

「………交換条件。―――――士道の今穿いているパンツが欲しい」

 

よしのんを持つ反対の手を出して、折紙は『ちょーだい』とアピールする。士道は怪訝に思い訊き直す………

男の今穿いているパンツなどに、お金を出す者など世界中を探しても、見つからないだろう………。

 

「………………えーと、俺のパンツなんかビタ一文の価値もないぞ?」

 

「―――構わない。………私は士道の穿いているパンツを所望する」

 

―――折紙は本気のようだ。それを確認した士道は折紙にあることをお願いする。

 

「わ、分かった!―――ちょ、ちょっとトイレ貸してくれないか?さ、さすがにここで脱げってのは………」

 

「私は構わない。ここで脱いで」

 

―――大胆すぎるこの発言に士道は困り果てていた。相棒のドライグに助けを求めるが………

 

『ZZZZZZZZZZZZZ………………』

 

眠っているぅぅぅぅぅ!!いや、この展開にドライグは逃げたのだろう。

 

「―――あ、マジで漏れそうだから………」

 

「………分かった」

 

折紙はトイレを士道に案内した。士道はそそくさと用を済ませ、トイレから出る。

 

「―――こんな()()で良ければくれてやる!」

 

「………交渉成立」

 

士道のパンツを受け取ると、折紙は士道によしのんを手渡した。―――男の穿いていたパンツなどゴミ以下のものだが、なぜか折紙は欲しがったのだ。

 

そして、タイミングが良いのか悪いのか………士道が折紙の家で用を終えた時に………

 

ウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥ………………

 

空間震警報が鳴り響いた。




次回で長かったこの章もフィナーレとなります!

次回「約束、守ります!」

おっぱいドラゴン今日も飛ぶ!

★おまけ

ファーブニル「アーシアたんのおパンツくんかくんか」

このパンツ龍王はDxD世界の設定で登場させる予定です。
———ただし!犠牲になるのはアーシアではございません!


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十話 約束、守ります!

長かった四糸乃編もついにフィナーレです。

士道はヒーローの務めを果たすことができるのか!?

更新が遅くなってしまい、大変申し訳ございません。
今回はかなり長めです!

※誤字を修正しました。


ウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥ………

 

空間震警報が天宮市に響き渡り、士道は折紙の家を出て、急いで外の様子を見るために空へと飛び上がる。

 

「―――四糸乃………っ」

 

ドガアアアアッ!

 

遠くの空からは爆音が響き渡り、謎の光が点滅を繰り返していた。―――ASTが精霊『ハーミット』を………四糸乃への攻撃を開始したのだ。

士道のインカムに琴里からの通信が入る。

 

『―――士道、士道!聞こえているのなら返事をしなさい!』

 

琴里は慌てる様子で士道に着信を入れる。

―――琴里が慌てているのは、折紙のマンションに入った時から士道との通信が出来なくなり、通信の回復に『フラクシナス』のクルーたちは尽力していた。

士道はインカムを叩き、琴里の通信に応答する。

 

「聞こえているよ………琴里、俺は四糸乃を助けに行く」

 

『―――そう言うと思っていたわ………今からフラクシナスで回収をするから近くの建物の屋上に降りなさい』

 

琴里の指示に士道は思わず声を荒げる。

………四糸乃に危機が迫っているため、士道は気が気ではなかったのだ。

 

「な、何言ってんだ!ここから飛んで行った方が断然速い!『フラクシナス』に戻っていたら―――」

 

『まずは状況を確認しなさい!あの子は力は弱いけれど、紛れもない精霊よ。すぐに倒されるなんてことはないわ』

 

琴里の言葉に士道は黙って考え込む。何も考えずに死地に飛び込むのは得策と言えばそうではない。琴里の放った言葉には確かな利があった。

士道は舌打ちをし、しぶしぶながらも首を縦に振る。

 

「………了解した」

 

士道は近くのマンションの屋上へと着地し、そのまま『フラクシナス』へと回収された。

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

「ううっ………」

 

ドガガガガガガガガガ!!!

 

精霊『ハーミット』こと四糸乃は一方的にASTの暴虐をその身に受けていた。

対精霊用のライフルを一斉掃射され、さらに対精霊用のミサイルでの集中砲火をただひたすらに耐えていた。

 

「―――きゃあッ!!」

 

ズドオオオオオオオオンンッッ!!

 

対精霊用に作られたロケットランチャーが四糸乃に命中し、四糸乃は地面へと叩きつけられ、道路に大きな穴ができる。

現場を指揮するASTの燎子一尉が隊員に指示を出す。

 

「一気に押しつぶすわよ!」

 

ズドドドドドドドドドドドッッ!!

 

ASTの猛攻撃に四糸乃は堪らず守護天使の名前を告げる!

 

「―――『氷結傀儡(ザドキエル)』ッ!!」

 

四糸乃が手のひらを地面に叩きつけたその時、地面から白い巨大なウサギが現界した。―――これが四糸乃の守護天使『氷結傀儡』だ。

 

ズビィィィィィィィィッッ!!

 

氷結傀儡は口から水色のビームを周囲に発射する。ASTの隊員は『絶対領域(テリトリー)』の出力を上げることで防御するが、空中に大きな雪玉を作り―――地面へと墜落して行った。

 

「―――くっ!」

 

折紙はこの光景に目を細め、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、他の隊員たちも「『絶対領域(テリトリー)』ごと凍結させられるなんて………」と浮き足立っていた。

 

「怯むな!撃って撃って撃ちまくれェェェェェ!!」

 

燎子一尉の言葉にASTの隊員たちはライフルを一心不乱に掃射し続けた。

一度ビームを放った後は四糸乃は『氷結傀儡(ザドキエル)』の背中に乗ってただひたすらに逃げ回っているだけだったが、執拗にASTのメンバーは攻撃を続けた。

 

ライフルを掃射していた隊員の一人が異変に気付き、呟く。

 

「………寒い?」

 

隊員の言葉通り、戦闘フィールドは急激な気温の変化に建物が凍りつき、四糸乃の周りには冷気が舞っていた。四糸乃を中心に吹雪が広がり、それが氷の粒へと変化し、雨のように降り注いでいるのだ。

 

「―――みんな散って………」

 

これ以上戦闘を長引かさるのを危険と感じた折紙は巨大な砲門を持った対精霊用のバズーカを四糸乃をめがけて撃ち込む!

そしてそれは――――

 

ドゴオオオオオオオオオンンッッ!!

 

「きゃあああああ!!」

 

見事に四糸乃に命中し、四糸乃も『氷結傀儡(ザドキエル)』にもダメージが通っていた。

怯んだ四糸乃と氷結傀儡にASTの魔の手が襲いかかる!

 

「今よ!一気に拘束するわ!みんな遅れないで!」

 

『了解ッ!!』

 

ASTたちは武器をライフルから特殊なランチャーのような武器へと変え、引き金を引く―――次の瞬間、光の網が放出され、動きを止めた四糸乃と『氷結傀儡(ザドキエル)』に降り注いだ。

 

ぐおおおおおおおおおおおおおおっっ!!

 

氷結傀儡(ザドキエル)』は雄叫びを上げ、光の網を喰い千切るが、ASTの隊員たちも負けじと光の網を四糸乃と『氷結傀儡(ザドキエル)』に何度も飛ばし続けた。

 

そしてついに―――光の網が『氷結傀儡(ザドキエル)』を完璧に捉えたことを確認し、折紙は対精霊レーザーブレード『ノーペイン』から光の刃を出し、『氷結傀儡(ザドキエル)』の背中にしがみつく四糸乃を目掛けて猛進する!

 

「………これで終わり!」

 

折紙の『ノーペイン』が四糸乃に迫ったその時―――『氷結傀儡(ザドキエル)』が最後の手段へと移行する!

 

ぐおおおおおおおおおおおおおおっっ!!

 

「………くっ!?」

 

突如猛吹雪の嵐が吹き荒れ、その吹雪が折紙を空へと吹き飛ばした。折紙のデバイスの左肩は雪で覆われていたが、折紙は左腕を払うことで雪を落とした。

 

その時、ASTの隊員たちは目の前の光景に衝撃を受ける。

 

「………うそ、なによ………これ?」

 

「吹雪の―――ドーム?」

 

「こ、こんなことが………」

 

ASTの隊員の目の前には、半径十数メートルほどの猛吹雪で形成されたドームが出来上がっていた。

しかも、氷の弾丸が無数に飛び交っており、まさに難攻不落の巨大な要塞が自分たちの目の前に立ちはだかっていた。

 

ASTのメンバーたちはこの状況にどうしようかと足踏みをしていた。

 

 

 

――――

 

 

 

 

 

「あいつら………ッ!あんな優しい子になんてことをッ!―――ふざけんなよッ!!」

 

琴里に回収され、『フラクシナス』へと強制送還された士道は艦内のモニターから四糸乃とASTの戦闘の様子を伺っていた。

士道は拳を強く握りしめ、歯を食いしばり、ただひたすらに耐えていた。

 

「―――あ、あれは………」

 

四糸乃が猛吹雪を操って生み出した巨大なドームを見て士道は開いた口が塞がらなくなっていた。

吹雪のドームを琴里がわかりやすく解説する。

 

「―――あれは一種の結界よ。全てを拒絶する絶対障壁………こうなった以上は諦めざるを得ないわね………シドー、四糸乃の攻略はまた今度―――ま、待ちなさいシドーッ!!」

 

士道は琴里が全てを話しきる前に艦内を飛び出そうとしていた士道を呼び止め、足を止める。

 

「………どこへ行くつもりなの?」

 

士道は振り返らずに一言だけ述べる。―――その一言だけで士道がどこへ行くかは簡単に理解できた。

 

「―――約束を果たしに行くだけだ………俺は四糸乃の――――ヒーローだからな」

 

その一言だけを告げると士道は走って艦内を飛び出したが、琴里は先回りして転移室の扉の前で両手を広げて士道の前に立ちはだかる。

 

「残念だけど行かせるわけにはいかないわ………自分から死にに行くような真似は妹として絶対にさせられない!」

 

両手を広げて立ちはだかる琴里に士道は不敵な笑みを浮かべて言う。

 

「………お前、俺がスナイパーライフルで脇腹をぶち抜かれた時は表情一つ変えることは無かったらしいじゃねえか。………まるで()()()()()()()()()()()()ようにな―――心配すんな、俺は死なねえ!必ず四糸乃を連れてここに来る!」

 

「あの時とは状況が違うわ!四糸乃を助けるとなれば氷の刃が無数に降り注ぐあの結界の中に入らなければならないのよ!?しかも、霊力を感知されたら凍らされるわ!そうなれば回復もできないわ!」

 

士道は何かに勘付いたように顔を上げる。そして、琴里の肩に優しく触れる。

 

「―――なるほど、霊力ってことは、アレは精霊の力なんだな。………それを聞いて俺の迷いは吹っ飛んだぜ―――例え凍らされようが、氷の刃に全身を貫かれて死んでしまったとしても、俺は四糸乃を諦めることなんざ出来ねえ!」

 

全く足を止めようとしない士道に琴里は歯止めが効かなくなり、感情的になる!

 

「―――いい加減にしなさいッ!!」

 

琴里は士道に張り手を食らわせようとするが―――士道は琴里の手首を握ることで張り手を回避した。

………琴里は声を荒げて士道に言い聞かせるように叫ぶ。

 

「………どうして―――どうして自分の命を勘定に入れないのよ!?死んでしまったら………もうどうすることも出来ないじゃない………ッ!」

 

士道は琴里の手首から手を離し、心中を明かす。

 

「―――琴里、お前は耐えられるのか?」

 

士道の言葉に琴里は一本取られたのか、先ほどまで怒りで力が入っていた肩がスッと降りた。

 

「………え?」

 

「―――耐えられるのか?と聞いてるんだ………自分が絶対に守ると決めた女の子が泣いてるんだ。誰よりも優しい子が一方的に理不尽な目に遭っているんだ。その理不尽を受けても決してやり返そうとはせず、ただじっと耐えているんだぞ!?

………俺は四糸乃と約束したんだ―――『俺がお前のヒーローになってやる』ってな!!だから―――俺には結果が無惨な死であったとしても、四糸乃を救う義務があるんだ………」

 

士道の覚悟は揺るぎないものだった。士道は立ちはだかる琴里を強引にその場から退かし、転移室の扉を開ける。

 

「………どうしてそこまで他人が大切なのよッ!?―――私にはシドーがどうして自分の命を賭してまで四糸乃を救おうとするのかわからないッ!!」

 

琴里は眉根を寄せ、目を強く握りしめるように閉じて肩を震わせていたが、士道は足を進めた。

 

「―――そもそも、自分の命を勘定に入れているようじゃあ、何も守れやしない。―――俺は十香や四糸乃に出会った時から決めてたんだよ………何を犠牲にしてでも『精霊たちを救ってみせる』てな―――だから俺は逃げない!必ず俺は四糸乃と一緒に帰ってくる!!」

 

士道はその言葉だけを残して転移室へと入った。

 

「どうして………どうしてなのよ―――おにーちゃん………っ」

 

琴里はただ呆然と涙を流していたが、令音が優しく琴里に寄り添う。

 

「………琴里、シンなら大丈夫さ。シンにはドライグがいる。赤き龍の帝王と呼ばれた最強のドラゴンがシンには宿っている―――それに、妹が兄の無事を祈らないのは間違っていると私は思うが?」

 

令音の言葉に琴里は我に帰り、涙をぬぐっていつもの司令官モードの琴里へと戻る。

 

「―――そうよね………ごめんなさい。士道、必ず無事に帰って来て………」

 

琴里と令音は士道が無事に帰ってくることを願っていた。彼女たちにとって五河士道という存在は言葉では言い表せないほど大切な存在だから。

 

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

 

転移装置の部屋の中へ入った時、士道の視界内には黒髪の少女の姿があり、その少女は、転移装置の前で立っていたのだ。

………その少女を見て士道は苦笑いをしていた。

 

「―――用意周到だな………琴里のやつ、まさか十香まで待機させているなんてな」

 

「………………………」

 

転移装置の前に立っていた少女は十香だった。

十香は何も言おうとはせず、沈黙を貫いていた。士道は十香を無視して通り過ぎようとした時、足を止められた。

 

「―――腕を離せ十香………俺は四糸乃を―――この前のデパートで会った少女を助けに行く義務があるんだ」

 

「………………………」

 

無言で腕を掴む十香に士道はただ前だけを見つめて言った。しかし、十香は離すどころか士道の腕を掴む力を強めた。

 

「………琴里に俺を止める最終手段としてここにいろと言われたと思うけど、こんなところで俺は止まってられないんだ―――離す気がないなら、俺はアスカロンで自分の腕を斬り落としてでも四糸乃を救出しに行くぞ?」

 

「―――あの女が精霊だからか?」

 

十香の問いに士道は、一瞬だけ目を大きく開いたが、すぐに元に戻って理由を告げる。

 

「………それもあるけど、別に誰かを助けることに()()()()()()()()()だろ?―――泣いている女の子の涙を笑顔に変えることに理由なんていらない!その女の子がいつもでも研磨された宝石が如く輝いてほしいからこそ、俺は行くんだ!」

 

士道の言葉を聞いた十香は顔を上げていた。―――その表情はまるで、晴れ渡った青空を思わせるような笑顔だった。

 

「―――シドーはいつでもシドーだ………例え今日死ぬかも知れなくとも、いつも誰かのことを思っている………私に手を差し伸べてくれたのは、そんなお前だったな」

 

「………十香?」

 

十香はスーッと息を吐くと―――光に包まれ、姿が少し変わっていた。

………その姿は士道が封印したはずの精霊の力だ。今の十香は、完璧ではないが霊装を纏っていた。

 

「―――お、おい!?どうなってんだ!?どうして霊装を………」

 

士道はこの光景に目を疑い、勝手に口が開くほど驚いていた。十香は士道に手を差し出す。

 

「―――シドーがあの娘を救いに行くなら、私がお前に協力をしない理由はない!………私も手を貸すぞ、シドー」

 

協力を申し出る十香に士道は待ったをかける。

 

「―――ダメだ、危険だ!たとえ霊装を纏ったとしてもそれは―――」

 

士道が最後まで言う前に左手の甲に緑色の円状の光が現れ、点滅を始める。

 

『相棒、残念ながら諦めた方が良いぞ?この夜刀神十香は言っても聞かないぞ?この小娘の顔を見てみろ、さっきまでの相棒と同じ顔をしているぞ?―――それに、今の夜刀神十香は十分に戦力になる。………ASTの連中の足止めくらいなら容易くできるだろう』

 

ドライグの言葉に士道はぐぅの一言も返すことが出来なかった。―――ドライグの言う通り、今の十香には何を言ってもここに留めることは不可能だと士道も踏んだからだ。

 

「ドライグもこう言ってることだし私もシドーに協力するぞ。………私は言ったぞシドー『私はいつでもお前の味方だ』と」

 

十香はえっへんと胸を張っている。ついに士道も諦め、十香と手を繋いで転移装置へと乗る。

 

「分かった―――だが、絶対に無理はしないこと!まずいと思ったら絶対に逃げること………これだけは絶対に守ってくれ」

 

士道は十香に最終確認を取るが、その前にドライグから鋭いツッコミが返ってきた。

 

『―――相棒、お前が言うなよ………』

 

ドライグの言葉を聞いて十香も士道に言う。

 

「ドライグの言う通りだ!私もシドーにそれを一番理解してもらいたいと思っている」

 

十香とドライグの言葉に士道は「………善処します」と恥ずかしそうに答えていた。

そして―――作戦はここに開幕の火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

―――◆―――

 

 

 

 

 

「―――全く、面倒なことをしてくれたわね………」

 

現場のASTの隊員たちの指揮を執っている燎子は吹雪で形成された巨大なドームを目の前にして額に手を当てていた。

 

「………テリトリーを高めて強行突入しようものならその魔力を感知し霊力を強化して防御してるでしょうし、かと言ってテリトリーを解除して突っ込めば氷の弾丸を全身に喰らう………このCRユニットのワイヤリングスーツの防弾性だと氷の弾丸を防ぎきる事は不可能………」

 

燎子の言う通りASTの隊員たちは氷の要塞を前に攻めることができずただ時間だけが刻々と過ぎて行く。―――だが、いつまでもASTが黙っているわけではない。

 

ドガアアアッ!!

 

折紙が何かを思いつき、テリトリーを強化して建物の一角を破壊し、その破壊した部分をテリトリーで持ち上げる。

 

「ちょ、ちょっと折紙!?あなた一体何をするつもりなの!!」

 

「………物量で押し潰せばいいまでのこと。まずはこれで小手調べ」

 

折紙は飛び上がり、破壊した建物の一部を上空から吹雪のドームへと投げつけたが―――

 

 

 

 

ヒュン――――ズザザザザザッ!!

 

 

 

 

折紙が投げつけた建物の一部は何者かの斬撃によって全て切り刻まれ、地面へと落ちた。

折紙は自分の攻撃が塞がれたことを怪訝に思い、辺りを見渡す。

折紙の視界内には、ある人物が映っていた。その人物はホッと胸をなでおろしていた。

 

「―――間一髪であったが、塞がせてもらったぞ」

 

「………っ!―――夜刀神十香っ」

 

折紙はレーザーブレード『ノーペイン』を引き抜き、いきなり現れた十香へと斬りかかる!

十香と折紙は空中で剣の舞のように凄まじい剣戟の応酬を繰り広げていた。

十香と折紙は鍔迫り合いになった時に十香が口を開く。

 

「………貴様らに士道の邪魔はさせんぞ!」

 

「………どうしてあなたが?」

 

折紙は士道の名前が出てきたことに一瞬戸惑ったが、戦闘中だと割り切り、再び十香との戦闘に集中する。

十香が現れた時に燎子が隊員たちに指示を出す。

 

「―――総員、目標を『ハーミット』から『プリンセス』に変更!先に『プリンセス』から始末にかかるわ!」

 

『了解ッ!!』

 

ASTの隊員たちは飛び上がり、十香を討滅するために折紙に加勢しようと戦闘に加わる。それを見た十香は折紙たちから逃げるように空を飛んだ。

折紙はすぐに十香を追いかけ、燎子はそれを見て隊員たちに指示を出した。

 

「総員、追撃をしなさい!ASTの誇りにかけてこの戦闘でプリンセスを完全に討滅するわよ!」

 

折紙を含むASTの隊員たちは十香の追撃を開始した。

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

「………十香も頑張ってるんだ。俺も自分の務めを果たさねえとな!」

 

十香がASTたちの気を引いてくれたおかげで四糸乃が囚われている吹雪のドームの周りには完全に気配は無かった。

 

『………相棒、ソロモンとヘラクレスとの二日間の修行は肉体を激しく痛めた挙句、禁手に至ることは出来なかった―――しかし、全くもって収穫がなかったわけではない。

―――あの対価となる腕輪なしで、未完成の禁手が発動可能になった』

 

ドライグの言葉に士道は不適な笑みを浮かべていたが、すぐに笑みを終えて詳しく訊く。

 

「………そうか――――それで、鎧を纏っていられる時間は?」

 

………現実を教えることも優しさだと思ったドライグは険しい声で士道に伝える。

 

『………()()相棒だと夜刀神十香を救った時と同じで十秒だけだ』

 

「―――なるほど、まあ十秒だけでもあの鎧があれば安心できる。………十秒経つ前に四糸乃の所まで行くだけだからな」

 

本来の士道なら一分ほど鎧を纏っていられるほどには成長したが、修行で倒れてから二日が経過してもまだ士道の体からダメージは抜けきっていない。そのことを案じてドライグは十秒だけだと伝えたのだ。

 

「―――さあ行こうぜドライグ!これは『救う』ための戦いだッ!!」

 

『ああッ!赤龍帝の真価を示す時が来たッ!俺も全力でお前を支えてやる!だからただひたすらに突っ走れ!』

 

士道は左腕を天を貫くように突き上げる!それと同時に『赤龍帝の籠手(ブーステッドギア)』が現れ、凄まじい輝きを放つ!

 

「―――輝け!赤龍帝の籠手(ブーステッドギア)ッッ!!」

 

『Welsh Dragon Over Booster!!!!!!!!!!!』

 

カッ―――ドオオオオオオオオオオッッ!!

 

士道の強い想いに応えるように強く激しくはあるが、同時に優しい赤いオーラが天を貫く!そしてオーラが払われた時には、士道は赤い龍を模した鎧を纏っていた。

 

「――――行くぞドライグ!!」

 

『おう!!征くは絶対零度の決死行、飛び越える踏み台として不足は無い!』

 

士道とドライグはお姫様を捉える難攻不落の巨大要塞へと果敢に挑んだ。

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

「四糸乃おおおおおおおおおおッッ!!」

 

ドガガガガガガガガガガガガ!!

 

士道はただ四糸乃だけを目指して絶対零度の地獄の嵐の中を爆走していた。

吹雪のドームの中は琴里が懸念した通り、氷の刃が嵐のように吹き荒れていた。士道はアスカロンで迫り来る氷の刃を斬り裂き一歩また一歩と前進していく!

 

「――――強靭ッ!!無敵ッ!!最強ッ!!」

 

『――――おい!?』

 

氷の弾丸をアスカロンで斬り裂き、小さな霰ようなものを受けながら進む士道。しかし、士道の赤い鎧には霰のような粒では一切傷が付いていない!!

――――まさにセリフ通りと言ったところだ!!

 

「………ぐっ!!―――おおおおおおおおおおッッ!!粉砕ッ!玉砕ッ!大喝采だあああああッッ!!」

 

『―――確かにそうなっている状況だが、それは他作品ネタだぞ相棒!?』

 

ドガッ!ピシッ!ドシュ!

 

………しかし、全てを斬り裂くことは叶わず、斬り裂き損ねた氷の刃が士道に襲いかかる!

鎧を破壊し、肉体をえぐるように刃が貫き、今まで感じたことのないような激痛が士道の全身を支配する!

―――だが、士道は一度も膝をつくことは無かった。無我夢中にアスカロンを振り回してゴールを目指した。

………ドライグのツッコミはいつも通り冴え渡っており、士道に『黄昏の聖槍(トゥルーロンギヌス)』を思い出させるほどの鋭さだった。

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」

 

龍が咆哮を上げるように士道も雄叫びを上げて嵐の中を文字通りの命懸けで駆け抜けた。

―――全ては四糸乃を救うために………

 

自分を犠牲にしてまでヒロインを助けようとただがむしゃらに突き進む士道の姿は―――誇り高き龍の姿そのものだった。

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

「………う、ふぇ………ぇ………っ」

 

結界のど真ん中で守護天使『氷結傀儡』の背にうずくまりながら泣いている四糸乃の姿があった。

 

「よしのん………よし、のん………っ」

 

………四糸乃は涙に濡れた声で、自分の支えだった存在の名前を呼んだ。

しかし、四糸乃は分かっていた………絶対に答えてくれないと。

………………だが――――

 

『―――なんだぁ?』

 

「………………?」

 

よしのんとは思えないようなヘンテコな声が響き渡る。

―――しかし、この声を四糸乃は聞いたことがあったため、顔を上げて辺りをキョロキョロと見渡す。

………声の主はドライグだったと言うのは突っ込まないでいただきたい。

 

「――――!!………よしのん………っ!?」

 

四糸乃の視界内には彼女がいつも大切にしていた存在が捉えることができていた。

そして、よしのんを左腕につけて一緒に現れた人物を見て四糸乃は恐怖しそうになったが、すぐに止めたのだ。

 

「………し、士道………さんっ!」

 

「………四糸乃、約束守りに来たぜっ………」

 

鎧の兜は完全に破壊され、赤い龍を模した全身鎧もほぼ全ての部位にヒビが入り、血だらけになっているが、よしのんを手につけて現れた人物は四糸乃のヒーローの士道だった。

 

ドサッ………

 

「―――!士道………さんッ!」

 

鎧が赤い粒子となって消え去り、いきなり倒れ込んだ士道を見た四糸乃は、

氷結傀儡(ザドキエル)』の背から飛び降り、心配してすぐに士道のもとに駆け寄るが―――士道の体の傷を焔が消し去っていく………

 

「ヒーローは遅れてやってくる―――と言いたいところだが、すまない四糸乃………遅くなり過ぎた。―――でも、この通りよしのんはちゃんと見つけ出して来たぞ?」

 

士道は仰向けになってよしのんを口をパクパクとさせたり、よしのんの手を動かしたりして、四糸乃によしのんを見せていた。

その様子を見た四糸乃は、目を丸くして大泣きを始めた。

 

「う、うえぇぇぇ………」

 

「―――ご、ゴハァッ!!」

 

いきなり四糸乃に泣かれた士道は―――四糸乃を泣かせてしまった罪悪感から、精神に五十万ポイントのダメージを受けた。士道は血を吐いて失神した。

 

 

 

―――三十分後………

 

 

 

「あ、あの………ゴメン、なさい………」

 

四糸乃は士道が血を吐いて失神させたことに頭を下げて謝っていた。

士道は女の子に泣かれると凄まじいダメージを受ける。―――これは子供の味方であるおっぱいドラゴンゆえの士道の苦悩だ。

 

「………だ、大丈夫だ!―――ほら、よしのんだ」

 

まだ士道の精神は完全には回復しておらず、今でも口から血を吹き出している………何をもって大丈夫だと言えるのかわからない士道くんだったが、よしのんを四糸乃に返すことに成功した。

 

「………あり、がとう………ございます………よしのんを、助けて………くれて」

 

四糸乃は涙を流しながらも笑顔で士道に感謝の言葉を述べた。この時の四糸乃の笑顔は士道にとっては忘れられないものだった。

 

「―――四糸乃、お礼なら俺にキスをしてくれ!」

 

「………キス、ですか………?」

 

士道は膝をついて四糸乃にキスを求めた。四糸乃はどうすれば良いのかわからず、首を横に傾げていた。

………言うまでもなく、士道の言葉に相棒のドライグはドン引きだった。

 

『………うわあっ、某アニメのエロ男爵なみにキモい。最低最悪なヒーローへと成り下がったな………』

 

(―――うるせー!俺だって見返りを求めるなんて真似はしたかねえよ!でもよ、キスしねえと精霊の力を封印できないんだからよ!)

 

『………おげえええええええええ』

 

ドライグは拒絶反応を見せていたが、これは士道は無視をした。四糸乃は士道に訊く。

 

「………士道、さん………キス、って………なん、ですか?」

 

「あ、ああ!ええっと………唇と唇を合わせ―――」

 

四糸乃は士道が伝えた言葉通りに実行した。四糸乃がいきなり口づけをしたことに士道はびっくりして尻餅をつく。

 

「………よ、四糸乃さん!?」

 

「ち、違い………ましたか?」

 

四糸乃は可愛く首を傾げていた。士道も「………違わないけど―――」と反応に困っていたが、四糸乃は涙を拭いて士道に近くに座り込む。

 

「―――士道、さんの………言葉なら、信じます………」

 

四糸乃は恥ずかしそうにモジモジとしながら両手を合わせていたが、士道は笑っていた。笑っていた。………そして―――

 

「―――どうやら、始まったみたいだな………」

 

四糸乃の体は光に包まれ、纏っている礼装と近くに座り込んでいだ『氷結傀儡(ザドキエル)』が徐々に光を放ち始めていたからだ。

 

「………こ、これは―――」

 

四糸乃は一糸纏わぬ姿になり、『氷結傀儡(ザドキエル)』は完全に消滅した。士道は自分の上着を四糸乃に渡し、着るように言った。そして―――雲の割れ目から暖かい日差しが二人を優しく照らす。

―――空を覆っていた暗雲は払われ、凍り付いていた天宮の街もすっかりと元どおりになっていた。

 

「―――暖かい、です………」

 

四糸乃は刺してくる日差しに声を漏らしていた。士道は四糸乃の頭を優しく撫でる。

 

「………ああ、この世界は誰にとっても暖かいんだよ。これからも俺が四糸乃のヒーローでいてやる。この暖かい世界で四糸乃がいつまでも笑っていられるようにな―――さあ、帰ろうか」

 

士道は四糸乃に優しく手を差し出した。―――四糸乃は笑顔を見せて士道の手を握った。

 

「………はい、ありがとう、ございます」

 

四糸乃の笑顔はこれから傷つきながらも、理想を成し遂げようと前に進む士道にとって大きな癒しとなるだろう。

 

士道は四糸乃の手を取り、途中で十香と合流して『フラクシナス』へと帰投したのであった。

 

 

 

 

 

士道が四糸乃を救出してから一週間ほど経った頃だった。

五河家の隣には、誰がどのようにして建築したかはわからないが、巨大なマンションが建設されており士道は目が飛び出させ、大声で叫ぶ。

 

「―――な、なんじゃこりゃああああああああ!!!!」

 

『………あの時に似ているな、三大勢力の会談が終了した後の、冥界に修行に行く前の時によく似ている―――相棒が眠っている間に家が大豪邸へと変貌を遂げていたあの時にな』

 

ドライグは士道が兵藤一誠の記憶を懐かしそうに思い返していた。

士道は背伸びをしてマンションを見上げていたが、琴里は士道に言う。

 

「………これがこの前に言った精霊専用の特殊住居よ。他のマンションとは違って強度は数千倍を誇り、ドラゴンのブレスにも耐えられるほどのラタトスク印の最高級マンションよ」

 

琴里は胸を張っているが、士道は「………今度耐久度を試してみようかな」と物騒なことを呟いていた。

 

『………四糸乃が泣くぞ相棒?』

 

「―――うん、やめるべきだな」

 

士道はすぐに首を横に振って物騒な考えを忘れ去った。そしてもう一つの疑問を琴里に問う。

 

「………ていうか、こんなマンションいつ建てたんだよ?全く気付かなかったぞ?」

 

「そりゃあ企業秘密よ。―――でも、精霊被害の対策としての復興部隊の仕事の速さもこんなものよ?………まあ、凡人の士道が分からないのも無理もないけどね」

 

「―――便利な世の中になったよなぁ………」

 

士道がため息を吐きながら出来上がったマンションを見上げていた。その時―――青いワンピースを着て、頭には白いキャスケットをかぶり、パペットを手に持った少女が士道の近くへと歩いてきた。

 

「………おっ、四糸乃とよしのんじゃないか!―――今日からここに住むのか?」

 

四糸乃は士道の言葉に首を縦に振る。

四糸乃は少し緊張気味だが、よしのんは相変わらず軽いノリで士道に話す。

 

「………は、はい。よろしく………お願いします」

 

『いんやぁ、この前はありがとね士道くん。お陰で四糸乃と再開できたし、お礼を言おうと思ってね………』

 

よしのんの言葉に四糸乃も「ありがとう、ございました………」と頭を下げる。よしのんは『よく出来ました』と四糸乃の頭を撫でていた。

 

「お礼なんて必要ないさ。俺は自分が決めたことを成し遂げただけだよ。―――暇な時は俺の家に来いよ。話し相手にもなるし、ご馳走も用意してやるよ」

 

「………はい!」

 

『ありがとね士道くん』

 

四糸乃とよしのんはマンションへ向かって歩いて行った。

それを確認した士道も一旦部屋へと戻ろうと家に入る。

 

「―――ムフフフフフフフフ!俺も今日から向こうのマンションに住もうっと!十香や四糸乃とキャッキャウフフの生活が俺を待っているんだ!!」

 

士道は光の速さで部屋へと入り、荷物をまとめて再びマンションに向かおうと部屋の扉を開けるが―――

 

「………盛り上がっているところゴメンなんだけど、士道はもちろんこの家に住むのよ?あのマンションは十香と四糸乃たち精霊専用なの。―――ああ、これでもう我慢するこもないわ!これから毎日こき使ってあげるからね士道♪」

 

扉を開けると、琴里が絶対に行かせないと立ち塞がっており、琴里はチュパチャップスを食べながら士道にウインクをする。

 

「―――えーと………俺も隣の家に住みたいんだけど………」

 

「うんダメよ。今日からまた兄妹水入らずの生活に戻るのよ。―――嬉しいでしょ、おにーちゃん!」

 

琴里は満面の笑みを士道に見せるが………

士道は血の涙を流して雄叫びを上げる。

 

「―――ふっざけんなあああああああああああああ!!!!!!」

 

十香と四糸乃は隣の家だが、士道が家を出ることは叶わなかった。

しかし、会えないわけではない。だが、エッチなイベントが少なくなることに士道は精神的に大きな傷を負ったのだ。

 

しかし、これからはより賑やかになるに違いない。十香も四糸乃もご飯は一緒に食べると士道は約束していたからだ。

 

こうして新たな日常が始まろうとしていた。

 




まだ士道はバランスブレイカーには至れていません。

現時点では赤龍帝の鎧を纏った原作九章のイッセーには士道は勝てません。

次回から狂三キラーに入る———前に番外編を考えています。

万由里をヒロインに加えてハーレム強化を図りたいですが、ネタが思いつきません!

予定のほか文字数が多くなってしまったため、イッセー消滅後のDxD世界の様子は美九編の最後に書くことにしました。

美九編終了後にDxD世界で激闘を繰り広げるオリ章へと入るのでそちらの方がいいかなと思ったからです。


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番外編② 四糸乃ちゃんと一緒!

更新が遅れてしまい、大変申し訳ございません!

番外編第二号です。前回は十香でしたが、今回は題名通り四糸乃が主役となります!

少しだけ四糸乃パペットの原作が入りますが、後はオリジナルです。


とある土曜日の午前十一時。士道は特に何もする事がなく、暇を持て余していた。今はソファーに寝転がり、ポテトチップスを食べている。

 

「………あ〜暇だ」

 

『………ああ、暇だな』

 

ドライグも特にこれと言ってやることがなく、士道同様にだらけていた。

 

「琴里は相変わらずの事後報告でラタトスク機関を訪れているし、今日に限って十香は桐生の数学Bの補習に付き合ってるし……おっぱい成分不足で死んでしまいそうだ……」

 

士道は目に涙を溜めながら、十香の一糸纏わぬ姿を想像して手を伸ばしていた。

 

『―――この煩悩に俺はあと何年付き合うことになるのか……前世同様に薬漬けの毎日を送りそうだ』

 

ドライグはアザゼルの命名した『乳龍帝おっぱいドラゴン』の類の弄りでカウンセラーに通ったり、薬を飲んだりして何となか精神を繋ぎとめていた。

 

士道とドライグが暇を持て余していた時に、ある出来事が起こった。

 

それは―――

 

 

 

ピーンポーン………

 

 

 

士道の家のインターホンが鳴る。士道はドアを開けると―――緑色のワンピースに緑色のキャスケットを頭にかぶった青い髪の可愛い少女が立っていた。

 

「―――四糸乃じゃないか!珍しいな、一人で俺の家に来るなんて………どうしたんだ、何かあったのか?」

 

士道の家のインターホンを鳴らしたのは四糸乃だった。

四糸乃は何かを言おうと口を開く。

 

「………あ、あの!」

 

四糸乃はモジモジとしながら何かを言いたそうにしていた。―――それを見た士道はドアを開けて、玄関への道を開けるようにして四糸乃を招く。

 

「……とりあえず中に入れよ四糸乃。一緒に遊ぼうぜ」

 

士道が笑顔を見せて言うと、四糸乃はパアッと微笑んだ。

 

「……はい!おじゃま……します」

 

『ありがとね士道くん。四糸乃の気持ちを察してくれて。―――そんなわけでよしのんもお邪魔させてもらうよ』

 

四糸乃は靴を脱いで五河家へと入った。四糸乃は靴を揃えて端へと置いた。

 

「おお!四糸乃はすごいなぁ。靴を揃えて家に入るのは良いことだよ!―――相棒のドライグにも見習わせたいぐらいだよ」

 

『……ドラゴンに靴など必要ない。脆弱な人間とは違ってドラゴンの足は強靭だからな』

 

士道は四糸乃が行った行為を褒めて優しく頭を撫でていた。四糸乃は嬉しそうに頰を赤らめていた。

―――ドライグは相変わらず安定してリアル至上主義だ。

 

「………ありがとう、ございます………」

 

四糸乃の頭を撫でていると、四糸乃が手に持っているパペットが口をパクパクとして、両手を振り始める。

 

『士道くん、よしのんも!ほら、早く早く!』

 

「………はいはい」

 

何もしていないのにご褒美をねだるよしのんに士道は苦笑いをしながら頭を撫でていた。

 

『士道くん、今「よしのんは何もしてないのに」とか思ったでしょ?―――違うんだよ士道くん。四糸乃が良いことをしたら、よしのんも褒められるべきなんだよ―――とはいってもまあ、四糸乃が悪いことをしてもよしのんに責任はないんだけどね』

 

よしのんは特に悪びれた様子もなくいつものテンションで口にした。―――四糸乃は思うことが無かったのか、平然としていたが、赤龍帝のコンビは違った。

 

「よしのん、俺が言うのもなんだが―――お前もなかなかの外道精神の持ち主だな!?四糸乃はお前のことをヒーローだって言ってたけど、やっぱり俺が四糸乃のヒーローでなきゃいけねえと本気で思ったわ!!」

 

『―――こいつ性根が腐りきってやがる………ここまで来れば、逆に尊敬の域に達しているぞ……•』

 

赤龍帝コンビは心底落胆していた。

―――かつて士道が『兵藤一誠』だった頃は、女性が相手の場合は洋服崩壊と乳語翻訳のコンボで女性相手ならほぼ処刑&目の保養を悪びれることもなくやっていたが、その士道ですらよしのんの発言にはドン引きをしていたのだ。

 

『―――んもう!二人とも本気にしすぎだよ!とある金ピカの人類最古の王様がよくやるシベリアのブリザード級に極寒なジョークだよ』

 

「たしかにあのジョークもまったく笑えねえけど、それとこれとは意味が違うわ!」

 

『………確かにそうだな。金ピカのジョークはド滑りするだけだが、よしのん―――貴様がやったジョークは人によっては火山が爆発するタイプのものだぞ?』

 

―――いつのまにか士道、ドライグ、よしのんの三人でとある王様を全力で罵倒していた。

これ以上はこの世の全てを崩壊させる対界宝具が飛んでくると思った士道は手をポンと叩き、思考をリセットする。

 

「………さて、四糸乃は何かやりたいこととかあるか?」

 

士道はソファーに座り、ドラマを見ている四糸乃とよしのんに訊くと、二人から返事が返ってくる。

 

「………えーと、ごはんが……•食べたいです」

 

『あ、よしのんもそれに一票!』

 

朝が早かったため、四糸乃とよしのんはお腹が空いているようだ。士道は冷蔵庫を開け、中に入っている食材を確認をする。……•しかし、冷蔵庫の中にはまともな食材が無かった。唯一あったのは、卵だけだったのだ。

 

「………そういえば昨日はクルーの皆さんと打ち上げしたから中身がないことを忘れてた………」

 

―――実は昨日、琴里が令音を含めたフラクシナスのクルーたちを家に呼び、盛大に打ち上げをしたのだ。

士道が四糸乃の霊力を封印に成功したことを祝ってだ。

そのせいで冷蔵庫の食料を使い切ったことを完全に忘れていた士道は、がっくりと肩を落とした。四糸乃は冷蔵庫の前でうなだれる士道の後ろへと行き、しゃがみ込んだ。

 

「……士道さん、一緒に……お買い物に行きませんか?」

 

四糸乃のかけた言葉に士道は顔を上げ、訊く。

 

「―――四糸乃、お前も付いてきてくれるのか?」

 

「はい、士道さんが……嫌じゃない……のでしたら」

 

士道にとって四糸乃の言葉は、ぐっと心にきていた。四糸乃と一緒にお出かけをすることは、デパートでのデート以来だったからだ。

 

「嫌なんもんか!大歓迎だぜ四糸乃!……よし、行こうか」

 

「………はい!」

 

『うん!行こう行こう!』

 

士道と四糸乃は靴を履いて、日差しが眩しい外の世界へと足を踏み出した。

 

 

 

 

―――◆―――

 

 

 

 

士道と四糸乃が家を出て、太陽が中天へと登ろうとしていた時の事だった。二人は仲良く手を繋いで天宮の街を歩いていた。

 

「―――四糸乃は何か食べたいものとかあるか?」

 

士道が隣にいる四糸乃に笑顔で問うと、四糸乃はキョロキョロと辺りを見渡して、目をキラキラと輝かせる。

 

「……えーと、あの『カツ丼』が、食べたい……です」

 

『―――あ、よしのんもカツ丼で』

 

四糸乃とよしのんが見ていたのは、琴里とよく行くファミレスを見ていた。―――店の前に並んでいる模型を見て、四糸乃とよしのんはカツ丼を目を輝かせて見ていた。

 

『よしのん、お前も食うのか?……色々と大変なことになると俺は思うが?』

 

ドライグがよしのんに痛烈なツッコミを入れるが、よしのんはドライグの言葉に異を唱える。

 

『―――んもう、ドライグくんったら考えが甘い!よしのんも食べられるよ、()()()()()()ね』

 

―――この『大きくなれば』という言葉の意味は、守護天使としての真の姿となればという意味だ。

その言葉を聞いたドライグは堪らず返す。

 

『―――実際にそれをすれば、カツ丼も凍りつくし、天宮市一帯が氷河期になってしまうぞ!?』

 

『ドライグくん、そんなことは気にしてはいけないよ?よしのんの食事と天宮市の街の大切さはもちろんイコールだよ!』

 

『―――それはどうかと思うぞ………』

 

おっぱいドラゴンのドライグとパペットのよしのんは仲良く会話をしていた。

 

「……よしのんにも、お友達ができて……良かった、です」

 

四糸乃はドライグとよしのんの会話を聞いて、微笑んでいた。

 

「―――友達なのか?」

 

四糸乃の言葉に士道は首を傾げていたのは、また別の話だ。

 

ドライグとよしのんが色々と話しているうちに、ファミレスから歩くこと数分が経過した頃だった。

士道と四糸乃は目的地のスーパーへと到着した。

 

「……大きい、ですね」

 

四糸乃は士道がいつも買い物に来るスーパーを見上げて、声を漏らしていた。

 

「ここは天宮市のスーパーの中で一番大きいスーパーだからな……•大抵のものは大体ここで買えるんだぜ?―――さて、買い物だ!」

 

「……はい!」

 

『よーし!行ってみよーかどー』

 

四糸乃はスーパーの大きさに圧倒されたのか、肩がピクピクと震えていたが、士道は四糸乃の頭を撫でて、苦笑いをしていた。

 

「……四糸乃、そんなに緊張しなくてもいいぜ?デカイっていっても普通のスーパーと変わらないさ」

 

「……お買い物は、初めて……ですから……」

 

―――そう、四糸乃にとってはスーパーでお買い物をするのはこれが最初だったのだ。期待があったからこそ、士道にお買い物に行こうと声をかけたのだ。

 

「……そういや、そうだったな。―――中は結構広いから迷子にならないように俺の手を離すなよ?」

 

「……はい!」

 

『さっすが士道くん!おっとこまえ〜ッ!』

 

士道と四糸乃は、まるで本当の兄弟を思わせるかのようにスーパーで買い物をしていた。

二人で話しながら店を回っていると、買い物をしている人たちが士道たちを見て呟く。

 

「―――まあ、あの子かわいいわぁッ!」

 

「―――ドラマに出演している子役の女の子かしら?ほんとうにかわいい子ねぇ!」

 

「お持ち帰りしたい!」

 

女性の人たちは四糸乃の可愛さに目を奪われていた。小さい女の子が好きな女性なら、四糸乃を見て何も思わない方がおかしいだろう。

 

「―――四糸乃、可愛いってさ」

 

「………は、はずか、しい……です」

 

 

……しかし、野郎どもは危険なオーラを隠すことなく放っている。

 

「はぁはぁ………あの子やべぇっ!―――隣にいるあの男を気絶させて誘拐しようかな………」

 

「未成熟の体をペロペロしたいぜぇ……幼女最高おおおおおおお!!」

 

「小さな手足の指に、締まりのなくぽっかりと出たお腹……そして全てのロリコンたちを癒してくれる童顔―――ブホーッ!!

 

―――そう、彼らはロリコンのガチ勢だった。……•ここまで来れば立派にポリスメンが出動するレベルだ。

 

「―――士道さん………こ、怖いです」

 

四糸乃はガチロリコンの野郎どもに怯えていたが、士道が優しく頭を撫でることで四糸乃をリラックスさせようとした。

 

「心配すんな四糸乃、お前のヒーローはただの人間相手に遅れをとるようなエセヒーローじゃないぜ?……心配すんな、たとえ龍が現れようが、神が現れたとしても、絶対に俺が四糸乃を守ってやるから―――俺の言葉は信じられないか?」

 

「―――!………そんなことはないです!士道さんの言葉なら安心できます!」

 

ガチロリコン勢の野郎どもに怯える四糸乃にとって士道の言葉はとても頼もしいものだった。四糸乃は十香と同じで士道のことを本当にヒーローだと思っているからこそ、たとえ多くの人間で溢れている場所にいても、士道がいるから安心していられるのだ。

 

「……そう言ってもらえるなら、俺も嬉しいよ―――さて、これでカツ丼も作れるだろうし、帰って飯にするか。―――俺もだいぶ腹減ったよ」

 

「……そうですね」

 

『いぇーい!』

 

買い物は一通り終了し、レジでお金を払った後は、士道と四糸乃は家で食事を済ませるために、寄り道をすることなく帰路についていた。

荷物は士道が片手で持ち、荷物を持っていないもう片方の手を四糸乃と繋いでいる。

――― 周りから見れば、仲のいい兄弟のように見えるだろう。

 

「……士道?」

 

帰り道の途中に士道がよく知る人物が士道の名前を呼んでいた。士道はその人物のことはよく知っている。

 

「……鳶一じゃ―――うっ!?」

 

「―――鳶一?」

 

ギンッ!と目の前の少女から凄まじいプレッシャーが放たれ、士道は何も言えなくなった。士道の目の前にいた少女は苗字で呼ばれたことに不満を覚えたのか、ものすごく不機嫌なオーラを纏っていた。士道は慌てて呼び方を訂正する。

 

「―――うっ、折紙………」

 

そう、士道は折紙に自分のことを十香と同様に名前で呼ぶように約束していたのだ。―――ちなみにだが、士道がよしのんと交換したアレは今も折紙は捨てることなく大切にしている。

 

「………士道、どうして『ハーミット』と一緒にいるの?」

 

「―――ひっ!?」

 

折紙は表情を変えることなく、四糸乃を見つめる。四糸乃はびっくりして士道の背中に隠れる。

 

「……今日は四糸乃と一緒に遊ぶ約束をしてたんだよ。―――今から一緒にお昼ご飯だ」

 

士道は折紙の問いに、これといって特に何も考えることなく普通に答えた―――だが………

 

 

ガタガタガタガタ―――グシャァッ!

 

 

「―――ッ!?ど、どうしたんですか、折紙さん!?」

 

「ひぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 

折紙は自分の想い人の何気ない答えに無表情で手に持っていた缶ジュースを握りつぶした。―――ちなみに折紙が握りつぶしたのは、スチール缶の缶ジュースだ。

 

……弾けたジュースによって服が汚れているが、折紙は無表情で士道に詰め寄る。

 

「………士道は私と一緒に遊ぶべき」

 

「―――いや、だから今日は四糸乃と……」

 

グイグイと押してくる折紙に士道はタジタジになっていた。しかし、折紙は全く手を緩めない。

 

「士道は恋人の私と一緒に遊ぶべき。今すぐ私のマンションに来て」

 

「―――ま、マンションだと!?………一応聞いておくけど、何をするつもりだ?」

 

「―――私がママになって、士道がパパになるために必要なこと」

 

―――要約すれば、折紙が士道を押し倒してパパにしてしまおうという算段だ。ちなみに勿論だが、折紙もママになるということだ。

……士道はその描写を想像して鼻血を流していたが、首を横に振る。

 

「―――アホかあああああ!!いや、実に素晴らしい日本語だと言いたいけど、まだその俺たち………」

 

「士道、何事もゼロから始めるもの。―――さあ、私と赤ちゃん作ろう」

 

「―――もう一ミリも隠す気ありませんよねぇ!?」

 

押して押して押しまくってくる折紙に士道は首を横に振って伝える。

 

「折紙、今日はダメだ。今日は四糸乃との先約がある。―――だからどうしてもダメだ。……約束を平気で破る最低な男にはなりたくないからな」

 

士道の曲がらない意思に敵わないとみたのか、折紙もなんとか折れてくれた。

 

「……分かった。―――でも、最後に一つだけ教えてほしい」

 

「……ん?何をだ?」

 

「―――士道、あなたは一体何者?」

 

折紙が疑問に思っていたのは、士道がなぜ生存しているかということだ。―――十香の時は折紙自身が対精霊用のスナイパーライフルで士道を撃ち抜き、四糸乃の時も氷の弾丸を全身に喰らいながらも、助け出したことだ。

―――ASTの隊員たちはカメラで映像を見れるため、士道が四糸乃を救うために吹雪のドームに突っ込んだことは知っていたのだ。

 

「……ただの人間―――なんて言っても信じてもらえないだろうし……そうだな」

 

「………………」

 

士道の答えを折紙は何も言わずに待っていた。そして、士道が出した答えは―――

 

 

 

 

 

 

「―――俺は、おっぱいドラゴンだ」

 

「…………?おっぱい………ドラゴン?」

 

「そうだ。困っている人を助ける正義の味方。女性の胸を糧に力を発揮する最新のヒーローだ―――さて、今日はこの辺にしておいてくれ。……•詳しいことはまた学校で話すよ」

 

―――—たしかにその通りだが、折紙の内心は『えっ?こいつ何言ってんの?』という状態だった。

じっと考え込んでいた折紙に一言告げた後、士道と四糸乃は家へと向かったのであった。

 

 

 

 

 

「―――おっぱいドラゴンって………なに?」

 

折紙はASTの施設のネットワークで士道の言った『おっぱいドラゴン』という単語を調べていたが、自分の欲しかった答えは見つからなかった。

 

 

 

 

―――◆◇―――

 

 

 

 

「……四糸乃、この場所を覚えているか?」

 

士道が四糸乃と手を繋いで向かった先はとある神社だった。士道の問いに四糸乃は首を縦に振る。

 

「―――はい、私と士道さんが初めて会った場所です……」

 

そう、この神社は士道と四糸乃のファーストコンタクトとなった思い出の場所だった。士道はここを四糸乃とのデートに選んだのだ。

 

「四糸乃とデートするには、ここが良いかなって思っててさ。―――嫌だったりするか?」

 

「……いえ、私もここで士道さんと一緒に遊びたいと思っていました……」

 

『うんうん!ここはよしのんにとっても思い出の場所だからね………士道くんに恥ずかしいところをたくさん触られちゃったし!』

 

「―――お、おい!!人聞きが悪いこと言うなよ、よしのん」

 

四糸乃とよしのんも一緒に遊ぶならこの神社と決めていたようだ。二人は神社で思いっきり遊んだ。

 

「「じゃんけんぽん!」」「―――チ•ヨ•コ•レ•イ•ト」

 

士道と四糸乃が最初にしたのは、グリコだった。

じゃんけんで買った方が階段を上っていく遊びで、先に上りきった方が勝者となるものだ。

……•ちなみに今のは四糸乃が勝った。

 

「「じゃんけんぽん!」」「―――グ•リ•コ」

 

またまた四糸乃が士道にじゃんけんで勝って階段を上っていく。―――グリコでは四糸乃が士道に一度も負けることなく完勝した。

……幸運というステータスでは士道と四糸乃では全く違うところがあるのだろう。

 

「―――やられたよ四糸乃。……次は隠れんぼでもやるか」

 

「はい!」

 

『よーし、行きまっしょ!』

 

次は隠れんぼをすることになり、四糸乃が鬼を務めることになり、士道は隠れる場所を探して駆けていく。

 

(………さて、グリコでは良いようにボコられたからな。さて、本気出すか!)

 

士道は木に登り、木の中へと隠れた。ちなみにこの木はそこまで高い木ではないため、四糸乃でも見上げれば十分見つけられるほどの木を士道は選んだのだ。

 

「……士道さん、なかなか手強いです」

 

四糸乃はグリコとは違い、隠れんぼでは一筋縄ではいかない士道に神社の敷地内を走り回っていた。

しかし、士道は鬼は()()()()()()()()ことを完全に忘れていた。

 

士道が隠れる木の近くに四糸乃が来たが、葉が士道を隠しているため、四糸乃は士道を見つけることが敵わなかった。

―――しかし、よしのんは士道の姿が見えていたようだ。

 

『―――四糸乃、この木に士道くんがいるよ?……•ほら、あそこ』

 

「……あ、士道さん見つけました」

 

グリコに続き隠れんぼでも四糸乃にしてやられた士道くんだった。―――しかし、二人で隠れんぼをやる場合において、鬼が二人もいる状態を作られては士道も打つ手がないだろう。

 

『……やられたな相棒。思わぬ伏兵がいたものだ』

 

「―――ああ、よしのんをノーマークだったのが痛かったな……負けたよ、四糸乃、よしのん」

 

士道は木から飛び降り、四糸乃とよしのんの頭を撫でていた。

よしのんは『思い知ったか士道くん!』と誇らしげにしていた。

 

「―――四糸乃、よしのん。おみくじやってみないか?」

 

士道が指をさした場所には、巫女服姿のお姉さんが中でおみくじや御朱印などを販売していた。

士道は三人分のおみくじを買って結果を確かめ合った。

―――ドライグは『俺は結構だ』と言ってやろうとはしなかった。

結果は―――—四糸乃とよしのんが大吉で、士道が吉だった。

 

「……こりゃあグリコでは勝てんわ」

 

『んもう、士道くん、ここは三人揃って大吉を出す場面だよ!?』

 

よしのんから厳しい物申しを受けた士道だった。最後は賽銭箱にお金を入れて三人でお祈りをした。

 

(―――エッチなイベントがたくさん起こりますように!ハーレム王になれますように!美人な精霊がたくさん現れますように!………そして、みんなが仲良く平和に暮らせますように!)

 

『……•欲望ダダ漏れではないか。まるでこの国が誇る最強の狐の妖怪を思い出させるな』

 

ドライグは士道の願いを聞いて心底呆れていた。時は既に17:00を回っていた。

 

「―――さて、今日はいっぱい遊んだな四糸乃……•さて、帰ろうか」

 

「はい!士道さん、楽しかったです!」

 

『うん、よしのんもとっても楽しかったよ。ありがとね士道くん』

 

こうして四糸乃とよしのんとのデートはこれにて終了した。士道は家に入り、四糸乃は精霊用の特殊住居へと戻った。

 

 

 

―――◆◇◆―――

 

 

 

「―――ただいま〜」

 

「やっと帰って来たか、シドー」

 

士道は家の鍵を開けて家の中へと入ると、既に十香が家に上がっていた。

そろそろ夜ご飯のお時間だったので、士道は夜ご飯の準備を始める。

 

「―――さて、飯にしようか」

 

「うむ!今日は私はカレーが食べたいのだ!令音の魔法のカードで買い物は既に済ませてある!」

 

十香がジャーンッ!と手に持っているカードはブラックカードだった。

 

「……まさかのブラックか。すげーもん持たせたな令音さん」

 

『―――精霊に小判と言いたいところだが、夜十神十香も随分この世界での生活に慣れてきたものだ。………俺も適応できるか不安だったが、意外と成るように成るものだな』

 

ドライグも十香の適応能力の高さに驚愕していた。十香はドライグに笑顔で言う。

 

「私一人では恐らくどうにもならなかったが、私にはシドーやクラスメイトが私を支えてくれた。―――だからシドーと共に生活できるまでにはなった」

 

『―――そうか………これからも相棒のことを頼む』

 

「うむ!」

 

いつの間にか十香とドライグには奇妙な友情関係が出来ていた。士道と十香がカレーを作っている時、二人の人物がリビングに入って来た。

 

「おにーちゃん、可愛い妹さまが帰って来たぞぉ〜!」

 

「……おじゃま、します」

 

『しま〜す!』

 

士道の可愛い妹の白リボンの琴里と四糸乃だ。その時にカレーもついに完成した。

士道、琴里、十香、四糸乃の四人はリビングのテーブルに座り、手を合わせる。

 

「「「「いただきます!」」」」

 

四人で和気藹々とした食事はかけがえのない時間へとなっていくだろう。

士道はこの幸せを守ろうと更なる高みへ至ることを決心していた。

 




※三話の設定を更新しておきました。
気になる方は読んで頂ければ幸いです。

次回から狂三キラーへと入っていきます。


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三章 狂三キラー
一話 転校生は精霊です!?


ここから原作三巻の狂三キラーへと入っていきます。

開幕はASTサイドから始まります。

章の始まりということで、今回は少し短めです。

※ついにお気に入り数が200を超えました!
モチベーションは上がる一方です、これからも完結を目指して頑張ります!


〜〜AST side〜〜

 

ASTたちは現在、模擬戦を行なっていた。

廃墟と化した都市を模擬戦のフィールドとして、ASTたちは来たるべく精霊との戦いに備えての模擬戦だった。

………しかし―――

 

「うわああああああああッ!!」

 

「きゃああああああああッッ!!」

 

ドサドサドサドサッ………

 

ASTの隊員たちが次々と空中から地面へと落下していく………一人の少女が十人のASTの隊員たちを相手に無双をしていた。

陸と空から急襲してきた部隊を、これといった武装を使うことなく、剣だけで迎撃し、片っ端から斬り伏せていった。

力、技、そして精神力の三つの要素で向かってくるASTを顔色一つ変えることなく撃墜していたのだ。

 

「………くっ、強い!」

 

模擬戦には、士道の恋人(希望)の折紙も参加していた。しかし、戦力差は歴然で勝負になっていなかった。

ASTの部隊はこれで折紙だけが唯一、両足で地面に立つことができていた。

………圧倒的に不利な状況に陥っても、折紙の目からは闘志が消えてはいなかった。

折紙は対精霊用のレイザー•ブレード『ノーペイン』を引き抜き、構える。

 

折紙の様子を見ていた、士道と同じ青い長い髪を一本にくくった少女が折紙を称える。

 

「これだけの力の差を見せつけられて微塵も諦めようとしない姿はさすがでやがりますね。―――さあ、かかって来やがれです!」

 

―――この少女の名前は崇宮真那。とある企業からASTに派遣されてきた陸自のトップエースで、『精霊を殺した少女』という物騒な二つ名を持つ新たな戦力だ。

 

ちなみに何故、このよう一人対十人のような理不尽な模擬戦が行われているのかというと、真那が「この中に、私を倒せる人がいるのか?」と疑問を声に出したために、ASTの隊員たちがその力を確かめようとした結果だ。

―――ASTの隊員たちも戦いの素人ではない。………しかし、真那の陸自のトップエースという肩書きはダテではなく、既に隊員の九人はズタボロになって気を失っていた。

 

「………勝負ッ!」

 

折紙は背中のブースターを起動させ、真那へと突進する!

真那は折紙の突進に対応するために、CR―ユニットのモードチェンジを行う。

 

「『ムラクモ』―――双刃形態(ソード•スタイル)

 

真那の言葉と同時に盾の役割をしていた武装から光の刃が姿を現した。―――折紙は真正面からの撃ち合いでは勝負にならないことは、ASTの隊員たちがやられたところを見て悟っていた。

………故に、折紙は奥の手を使う。

 

「―――今」

 

折紙は真那の攻撃範囲内入る少しだけ前に、左右の二つのスラスターをユニットから切り離し、『ノーペイン』で真那を一閃した。

真那は盾の一つで折紙を薙ぎ払うが、折紙はその斬撃に合わせて『ノーペイン』の一閃をコントロールし、真那の攻撃を回避して後ろに回り込む。

 

「な―――このっ!」

 

ギィン!ガギィィン!

 

折紙の『ノーペイン』での一閃を防ぐと、真那の目の前には折紙が切り離した二つのスラスターが、自分を目掛けて飛んで来ていたのだ。

真那は咄嗟に二つの盾を使ってスラスターを弾き飛ばす。

 

「―――これで終わり」

 

真那は二つのスラスターを弾き飛ばすことに意識を向けていたため、背中はガラ空きになっていた。

―――これこそが折紙が狙っていた瞬間だった。折紙は『ノーペイン』の刃で、真那のガラ空きに背中を突き刺す!

………しかし―――

 

「………なっ」

 

折紙の『ノーペイン』の刃は真那の背中の前で静止しており、同時に折紙も身動きが取れなくなっていたのだ。

―――真那の随意領域(テリトリー)を知り尽くした戦術に折紙の読みの甘さが招いた失態だった。

 

「―――相手との実力差を考えて攻め方を変える………実に見事な手際ですが、私も過小評価をされたものです」

 

折紙の攻撃を真那は読み切っていたのだ。………とはいっても、虚を突いて攻撃する程度で陸自のトップエースをどうにかできると考えた折紙も浅知恵だったと言えるが、今はそれに完璧に対応した真名を賞賛するべきだろう。

 

「………残念でやがりますが、これで詰み(チェック)です」

 

「………………」

 

真那は身動きが取れない折紙の首に光の刃を突き付けて、鮮やかに勝利を飾った。―――その時、終了のブザーと共に上空のヘッドセットからの音声が鳴り響く。

 

演習終了(セット)。崇宮真那三尉の勝利です』

 

―――ASTの隊員たちにとって、この敗北は屈辱的な敗北だった。………続いてお約束の日下部燎子さんタイムへと移行した。

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

演習終了後はASTの視聴覚室にて、新たにASTに加わる真那の簡単な自己紹介タイムと士道が攻略した精霊『ハーミット』との戦闘映像を見て、今後の対策を立てるための時間となった。

 

「―――崇宮真那、三尉であります。以後お見知り置きを………」

 

真那が簡単な自己紹介を終えると、燎子が額に青筋を浮かべて真那と折紙の頭をゲンコツする。

 

「はい、よく出来ました!」

 

ゴツ、ゴツ!

 

「イデッ!」 「………………」

 

いきなりゲンコツを食らった真那と折紙は頭に疑問符を浮かべていたが、燎子の頭から立派な角が二本出現した。

 

「あ•ん•た•ら、ねぇ!模擬戦で貴重な装備を潰してくれんじゃないわよ!修理にどれだけの費用がかかると思っているのよ!家は買えないけど、最高級のバーを貸し切りにできるぐらいの額が普通に吹っ飛ぶのよ!?」

 

燎子の言葉に真那も折紙も特に悪びれた様子はなく平気で述べる。

 

「模擬戦とはいえ、貴重な実践の場じゃねえですか。全力でやらねーとデータ取れねえと判断しました」

 

「………生半可な攻撃では崇宮三尉に隙を作ることは出来なかった」

 

全く反省の色を見せない折紙と真名を見て、再び視聴覚室に雷鳴が轟く。

 

「――――このあほんだらあああああああ!!!!」

 

げんこつ!

 

再び怒りの鉄槌が真那と折紙に襲い掛かった。

 

「顕現装置を搭載したユニットのお値段分かってんのかあんたらあああああああ!!!」

 

その後も鬼の燎子さまの長い長い演説は続き、三十分ほどが過ぎた後に、『ハーミット』こと四糸乃との戦闘映像を見ることになった。

 

「………ぜぇ、はぁ………ぜぇ、はぁ………空いている、席に………座りなさい………こ、これから『ハーミット』戦の映像を流すわ………•」

 

長い長い全力の演説のおかげで燎子は疲れ果てていた。真那は空いていた折紙の隣の席に座り、燎子の演説は興味なさそうな聞いており、不機嫌なオーラを出しまくっていた。

 

「―――まったく、ここの隊長どのときたら………みみっちいにも限度があります。そんなだから精霊に良いようにされやがるんです」

 

「同感」

 

折紙がうんうんと首を縦に降ると、真那は目を大きく開く。

 

「おお、あなたとは気が合いそうです」

 

「貴方は精霊を殺したと私は聞いている。その時の詳しい話を聞かせて欲しい」

 

折紙が訊いたこの事は、是が非でも知りたかったことだった。―――折紙には特殊な事情があるために、どうしても真那の意見は参考にしようと思っていたからだ。

 

「―――精霊を殺したですか………」

 

折紙が訊いた言葉に真那は一瞬だけ下を向いた。

 

「………あれは、他の精霊と同列に扱うことはやめておいた方が良いというか―――まあ、詳しく話さなくても、その内になりますが、直接その目で見る機会が来やがりますよ」

 

真那はそこまで言うと、目の前で流されている映像に視線を向けていた。今流れているのは映像は、四糸乃が吹雪のドームを作り、ASTの隊員たちが手をこまねいている時の映像だ。

 

「―――えっ?」

 

ガタッ

 

映像を見ていた真那が突然立ち上がる。―――吹雪のドームの中に向かって歩いていく人を見て、真那は強く心を揺さぶられた。

 

「―――兄さま!?」

 

「………ッ!!」

 

吹雪のドームに果敢に立ち向かって行ったのは、折紙の想い人の士道だった。真那が発した『兄さま』という言葉に折紙は空いた口が塞がらなかった。

 

 

 

―――………

 

 

 

 

 

「今日のブリーディングは拷問だったわ………」

 

「―――これから毎日これを熟すって考えると、死んでしまうわ………」

 

ASTの隊員たちは、模擬戦の後の訓練でヘロヘロ状態だった。真那は特に疲れている様子もなく、自然体で廊下を歩いているときに、ばったりと折紙と鉢合わせる。

 

「―――どういうこと?………士道にこんな妹がいるなんて聞いてない」

 

折紙は開口一番に真那に言い放った言葉は、確認のためのものだった。

真那も折紙に士道との関係を簡単にだが、伺う。

 

「兄さまのことをご存知のようですね―――仲のいい友達か何かでやがりますか?」

 

「………友達?」

 

真那の確認に折紙は首を横に降る。………そして、折紙が真那に出した答えは―――

 

「私は士道の恋人」

 

「――――――えっ!?恋人でやがりますか!?………詳しく話を聞かせてもらっても構わねえですか?」

 

驚愕している真那に首を縦に降る折紙とそれに食いつく真那。―――まるで仲のいい姉妹のようだ。

 

「………構わない。私と士道は―――」

 

こうして、鳶一折紙一曹によるパーフェクト洗脳教室が開始され、真那には自分の兄が折紙の恋人であるという考えが植え付けられた。

 

 

 

〜〜AST side out〜〜

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

 

「おっはー、五河に十香ちゃん」

 

士道は相変わらず仲良く十香と学校に登校し、クラスに入ると桐生藍華が出迎えてくれるというテンプレが待っていた。

 

「おはようだ、桐生!」

 

いぇーい!とタッチをする十香と桐生藍華。この光景も今では当たり前となりつつあった。

 

「―――ねえ五河知ってる?また転校生が来るみたいよ?………それもまた超絶美少女らしいわよ」

 

桐生藍華の情報網は信頼性がかなり高い。一部の人間は桐生藍華のことを『預言者』と称したりするほどだ。

士道はこの桐生藍華のことは『変態エロメガネ女』としか見ていないというのは置いておこう。

 

「………クラスの男子どもが、叶わぬ夢を見て現実から逃げてるのかと思っていたけど、お前が言うとマジで現実味が増すんだよな―――よし、楽しみにしておくか」

 

士道も桐生の情報を信じて、ホームルームを待つことにした。しばらくすると、学校の始まりを告げる物が鳴り響く。

 

キーンコーンカーンコーン………

 

チャイムが鳴ると同時にタマちゃんが入ってきて、教卓の上でかるい挨拶をする。

 

「おはようございます、みなさん。―――みなさんも知っているかもしれませんが、今日はですねぇ転校生を紹介します!」

 

―――桐生藍華が言っていた転校生の件については、タマちゃんが直々に紹介することだから間違いということでは無いだろう。

クラスメイトの一人が手を挙げる。

 

「………先生、転校生は女性と聞いていますが」

 

クラスメイトの質問にタマちゃんは笑顔で首肯する。

 

「―――はい。とっても可愛い女の子ですよ〜………それでは、ごたいめ〜ん!」

 

ガラララララッ………

 

タマちゃんの言葉と同時に教室の扉が開かれ、黒い制服を身に纏った少女が入室して来た。

長く美しい黒い髪を二つくくりにし、前髪によって右目は伺う

ことは出来ないが、目が醒めるような絶世の美少女だった。

―――しかし、士道だけはあの少女が()()()()()()()()()ことに気付き、相棒に語りかける。

 

(―――おいドライグ、あの女の子)

 

『………ああ、間違い無いだろう。あの小娘からは何かは分からないが強力な力を感じる。………夜刀神十香や四糸乃のようにな』

 

ドライグの忠言を士道は心に深く刻み込んだ。

あの少女は十分に警戒をしなければならない存在であることを認識するためにだ。

少女は黒板にチョークで自分の名前を書き、再びクラスメイトが座っている方へと顔を向ける。

 

「………時崎狂三と申しますわ」

 

少女―――狂三が自分の名前を明かした後に表情を和らげ笑みを浮かべた。それに合わせて、教室内の男子どもは歓喜の雄叫びを上げる!

 

『―――おおおおおおおおおおおおおお!!!!』

 

女子たちはライバルが増えるということであまり歓迎はしていないらしく、男子たちとは正反対で特に行動を起こす事はなかった。

しかし、次に狂三が述べる言葉にクラスの雰囲気が一変する。

 

「わたくし、精霊ですのよ」

 

狂三が発した言葉に男子たちも雄叫びを止め、女子たちも『えっ?』と自分の中の時間が止まっていた。

 

「………えーと、はい!とっても個性的な自己紹介でしたね!」

 

タマちゃんも眉をピクピクとさせながら頰に汗を滴らせていた。―――普通の高校生から見れば、『あいつはバカか?』という偏見を持たれるだろう。

 

「………何アレ、重度の薬物中毒者?」

 

―――最たる例がこの桐生藍華だ。

桐生藍華は狂三のことを薬で頭がイカれた女の子と捉えていたようだが、士道が桐生の認識に待ったをかける。

 

「―――おい!幾ら何でもそれはダメだろ………」

 

転校生を薬物中毒者扱いをするのは、言語道断であり許されるべきことでは無い。だから士道は桐生藍華にやめとけと言ったのだ。

 

「それにしても、精霊ときたか………」

 

士道が周りに聞こえないような声で呟くと、ドライグもそれに応えるように士道に語りかける。

 

『精霊ならこれだけ強い力を纏っていても何ら不思議ではない。―――しかし、精霊が高校に転入してくるとはな………俺たちが引き寄せてしまったのかも知れないな』

 

ドラゴンは強い力を惹きつけると士道の前世では語られていた。

実際に兵藤一誠も超常の存在が周りにうじゃうじゃと一匹いたら百匹いるあのGのように気づけば沸いてきていたからだ。

 

隣の小娘(折紙)を通じて空飛ぶメカメカ団にも伝わるだろう。―――攻略するなら今日中が狙い目だな』

 

ドライグは折紙を介してASTに伝わるのは時間の問題だろうから、早めに狂三を攻略すべきだと士道に進言した。

………ドライグも十香が言っていた『メカメカ団』という言葉を気に入っているのは、触れないでおこう。

 

「それじゃあ時崎さん、空いた席に座ってください」

 

「………その前に一つお願いがありますの」

 

「え?それはなんですか?」

 

いきなりお願いがある狂三にタマちゃんは首をかしげる。狂三は指を一本立てアゴに当てる。

 

「わたくし、実は学校は不慣れでして………放課後でも構いませんから、誰かにこの学校を案内して貰いたいのですが………」

 

狂三が言い放った言葉は、士道にとっては願ってもいないチャンスだった。―――ASTの邪魔が入れば、狂三の攻略は難易度が桁違いに跳ね上がるが、校内ならASTも目立った行動は出来ないからだ。

士道は席から立ち上がり、狂三がいる黒板の前まで行き、手を出して跪く。

 

「―――俺で良ければご案内致しますが、どうでしょうか?」

 

執事のような礼儀作法で、初対面の狂三に接する士道………もちろんのことだが、外野からヤジが飛んでくる。

 

「テメェふざけんな五河!!転校したての時崎さんまでその毒牙にかける気か!!」

 

「―――もっと十香ちゃんのことを大事にしろおおおおおお!!!」

 

「死ね!シネでも氏ねでもなく、いますぐに腹を斬って死んでしまえ!!」

 

基本的にヤジを飛ばしてくるのは、負け犬どもだ。―――まさに『負け犬バンザイ!』となっている来禅高校の二年四組だ。

 

―――さて、狂三は士道が差し出した手を笑顔で取る。

 

「………まあ、()()()()がご案内して下さるのであれば、願ったりかなったりですわ。―――よろしくお願いしますね、士道さん」

 

「………ッ!?あ、ああ!任せてくれ」

 

士道は時崎狂三という少女とは初対面だった―――しかし、狂三はまるで()()()()()()()()かのように士道と会話をこなすことに士道は面を食らった。

 

『………相棒、この小娘はこれまでの夜刀神十香や四糸乃とは違って一筋縄ではいかない相手だ―――放課後は気張っていけ。気休めにしかならんだろうが、俺も最大限にサポートをしてやる』

 

(―――気休めなんかじゃないぜドライグ、お前は俺の自慢の相棒だ。………万が一の時は頼りにしてるぜ?)

 

士道もドライグも未知の強敵を前にして警戒を強めていた。

 

―――放課後には、彼らの戦争(デート)が始まろうとしていた。

 




★おまけ

士道「おい作者!十香のブラジャーのシーンはどこに置いてきやがった!」

———この質問に対しての私の回答としましては、原作の士道くんなら間違いは100%起こりませんが、本作品の士道くんは『うっかり』を装って必ず触りに行ってしまうと思い、カットさせてもらいました。

DxD原作を読んでおられる方ならお分かりだと思いますが、触れてしまうとアレが起きてしまうため、カットせざるを得ませんでした。

その代わりと言ってはなんですが、べつのシーンを用意することに決めました。


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二話 押されまくりです!

執筆していて思ったのですが、DD原作のイッセーならここでゲームオーバーになる気しかしないんですよね••••••

狂三のような積極的にアプローチをかけて来る精霊が相手だとすぐにタジタジになりますからね•••••


「―――で、間違いないのか?」

 

士道はタマちゃんが教室から退出した後に、スマホで琴里に連絡し、あることを確認してもらっていた。

 

『ええ、間違い無いわ。「フラクシナス」の観測データから見ても完全に精霊の数値を叩き出しているわ―――狂三は正真正銘の精霊よ』

 

「………夢か幻なら嬉しかったんだがな―――ASTの連中が手を出して来る前に攻略が本当にオススメだな」

 

士道の発言を聞いた琴里は、口の端を吊り上げて笑みを浮かべる。

 

『やけに今回は乗り気じゃない―――精霊に心を奪われちゃったの?このスーパードスケベ野郎』

 

「うるせえよ!!なんか俺のことを気に入ってくれてるみたいだから早めにことが済んじゃうのかな〜って思っただけだよ………」

 

『ええ〜、怪しいなぁ〜。もしかして「案内をしてくれたらご褒美をあげる♪」―――なんて口車に乗せられた訳じゃあないでしょうねえ?』

 

「―――おい!?俺はどんだけは信用ねえんだよ!!」

 

琴里の懸念も無理もないだろう。―――兄の士道は三秒に一回はスケベな妄想を膨らませる変態だ………心配するなというほうが逆に無理があるだろう。

 

『―――とにかく、私を含めた「フラクシナス」のクルーたちも、士道が言ったようにASTがちょっかいを出して来る前にケリをつけることに賛成しているわ。………士道のクラスの鳶一折紙からASTには伝わっているはずでしょうし、あまり時間は残されていないわ―――やれるわね、士道?』

 

琴里たちも士道が考え出した意見については、背中を後押ししてくれるようだ。―――士道は空を強い眼力で見つめる。

 

「―――ああ、任せろ。精霊を助けることがこの俺の使命だからな………絶対やり遂げてみせる!」

 

士道はそれだけを伝えると、琴里との通話を終えた。その通話を終えた時には、既にチャイムが鳴り響き、一限目の授業を行う先生が入室していた。

 

 

 

 

 

――◆――

 

 

 

 

「………まさかまさかの本当に精霊でしたか」

 

天宮市の某所にあるASTの基地で男性職員が観測室で計測された霊波を見て眉間にしわを寄せ、顎に手を置いていた。

 

「なにかの間違い―――なんて事はないの?」

 

日下部燎子一尉も観測室のモニターを強い視線で見つめているが、男性職員は首肯するだけだった。

 

「………ここの観測機の精度は国内では群を抜いています。

しかも、観測された霊波はここ最近では最高クラスのもので、『プリンセス』が出現した時と同等―――もしくは、それ以上に化けるかも知れないレベルです」

 

プリンセス―――十香は精霊の中ではAAAランクに危険な精霊という情報があり、その力は絶対で天宮の街に甚大な被害をもたらした天災と呼ぶのが相応しい力を見せた。

新たに現れた精霊の狂三はその十香を上回るかも知れないほど未知数の力を隠し持っている可能性があると観測機は告げているのだ。

 

「………それにしても、精霊が高校に転入してくるなんて飛んだ冗談もあったものよね」

 

ちなみに燎子は折紙からの通信を受けて、その真偽を確かめていたのだが、観測機が叩き出したデータを見て時、それは真であることが立証された。

 

「―――こいつは空間震とは別に、その手で一万人以上の人間を手にかけた最悪の精霊『ナイトメア』です」

 

ひょっこりと観測室に顔を出した真那がモニターの映像を見て殺気を漏らしていた。真那が伝えた情報に観測室内に緊張が走る!

 

「な、なんですって………一万人以上も!?」

 

燎子が慌てて訊き直すが、真那は首を縦に降るだけだった。

真那は観測室を出ようと扉の前に立つ。

 

「―――さて、仕事の時間でやがりますね」

 

扉が開き、退出しようとする真那を燎子が手を掴んで足を止めさせる。

 

「ま、待ちなさい―――何をするつもり?………勝手な事はさせないわよ?」

 

「―――精霊が現れたのですからぶっ殺す以外にねえじゃねえですか………それともなんですか『犠牲が出るまで指をくわえて見てろ』なんて事は言わねえですよね?」

 

「ここの隊長は私よ!指示に従いなさい!」

 

燎子が強く言うと、真那はしぶしぶながらも「………了解です」と頷いた。しかし、真那はとある企業から派遣されてきた社員のため、いざとなれば勝手に行動をすることも可能だ。

―――燎子はそのことを分かっていたため、非常に不愉快な表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

――◇――

 

 

 

 

太陽が中天から少しずれて、気温が最も高くなる時間を迎えようとしていた。―――士道たちは今日の最後の授業である体育の授業を受講していた。

現在、士道たちが行なっている種目は―――ソフトボールだ。

 

「―――四番、キャッチャー『五河』」

 

体操服を忘れて見学をしている殿町がコールをして、士道が打席に入る。

その時、守っているナインから全力のヤジが飛んでくる。

 

「殺せェェェェェェェ!!五河を殺せェェェェェェェ!!俺たちの明るい未来のために!」

 

「デッドボールいったれやオラァ!!ハーレム野郎を殺して明日を掴むんだ!」

 

「ピッチャー、ぶつけていいぞ―――いや、ぶつけろ!」

 

完全に守っている野手たちには全力で嫌われている士道くんだ。しかも、全員がデッドボールだけを願って声を出している。

 

『………随分と嫌われたものだな相棒』

 

(―――もう慣れたよ………ここまで嫌われたら逆に清々しい気分だ)

 

ドライグも士道の境遇を哀れんでいたが、士道は特に気にしてはいなかった。

 

「―――喰らえッ!これが俺の必殺魔球『ソニックライジング』だああああああ!!」

 

ピッチャーが投げたのは、ソフトボールでほとんどのピッチャーが投げる『ライズボール』だ。相手のピッチャーは右投手で、士道も右打席に入っていた。

しかし、不安なことにその投げたライズボールがシュート回転し―――

 

ドガッ!!

 

「………………•」

 

『うおっしゃああああああああああ!!』

 

―――見事にデッドボールとなった。士道は反応していたが、避けようとはせず、ヘルメットに直撃した。………しかし、士道は倒れる事はなかった。

………それも当然だ。士道がここ最近はソロモンやヘラクレスといった、全盛期のドライグやアルビオン―――二天龍に匹敵する猛者を相手に修行を続けて来たのだ。

士道がその身で受けたヘラクレスの拳に比べれば、高校生が投げるボールの衝撃など鉄球と丸めた紙くずといったところだろう。

士道は全く気にするそぶりを見せず、一塁に歩いた。

野手たちはデッドボールで大喜びをしており、ぶつけたピッチャーでさえ、ガッツポーズをしているほどだ。

 

「………士道、仇は私が討つ」

 

折紙が鬼の形相で打席へと向かっていく―――しかし、その様子とは違って別のシーンが士道の視界は捉えていた。

 

「………おい、どうかしたのか?」

 

士道が気になった光景は、桐生藍華と他複数人がグラウンドの隅で固まっているものだった。―――その真ん中には十香が足を伸ばして座っていた。

 

「五河、いいところに来てくれたわ―――十香ちゃんが前の打席でベースを踏んだ時に足を捻ったらしいのよ………」

 

桐生藍華の言葉に士道は強い衝撃を受け、顔を強張らせる。十香が痛めたのは左足らしく、左足を伸ばし座っていた。すぐにしゃがみこんで十香の足の状態を確認する。

 

「な、なんだと!?―――十香、足を見せてみろ」

 

「だ、大丈夫だシドー。少し捻っただけだ………」

 

士道を心配させまいとすぐに立ち上がろうとする十香だったが、士道は強がりかどうかを確かめるために左足首を軽く握った。

 

「―――っ………」

 

歯を食いしばって痛みを堪える十香に、士道はため息を吐く。

 

「………確かに酷い怪我ではなさそうだけど、痛みがある事は事実だ―――そんな状態で球技をさせるわけにはいかねえよ………保健室に行くぞ十香」

 

「………………………………」

 

士道の言葉に十香はジト目で士道をにらみつけ、いかにも『い•や•だ!!』と頭の上に文字が浮かばせている雰囲気を醸し出していた。

 

「………気持ちは分かるが、十香に怪我をして欲しくはないんだ―――ほら、俺がおんぶしてやるから」

 

背中を見せてしゃがみ込む士道を見て、十香もついに折れた―――いや失礼、おんぶをしてくれることが嬉しかったの方が良かったのかも知れない。

十香は一秒にも満たない時間だったが、思いがけない幸福に恍惚としていたが、すぐに首を横に振る。

 

「………し、シドーがそこまで言うなら仕方がない、な………今日はシドーの言うことを聞いてやるか―――きょ、今日だけだからな!」

 

十香は恥ずかしそうにしながら、士道の背中に体を預けた。十香は今、士道におんぶをされているのだ。

―――その様子を見ていた桐生藍華がニヤニヤとしながら近くに来ていた殿町を弄る。

 

「………こういうところが五河のいいところよね―――殿町、アンタも五河を目指してみたら?」

 

「―――俺は五河みたいな『おっぱい星人』にはなりたくねえゼッ!」

 

桐生藍華の弄りに殿町はプイッと顔をそらした。

士道は十香をおんぶしながら、一歩また一歩と歩き始める。

 

「―――桐生、それから殿町、向井先生に伝えておいてくれ」

 

一度振り返り、士道は桐生藍華と殿町宏人に伝言をお願いすると、殿町は快諾してくれた。

 

「はいよー」

 

殿町は返事を残してその場から立ち去った。―――士道と十香は保健室を目指して歩き始めた。

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

 

 

十香をおんぶして、ゴールである保健室を目指している時のことだった。―――その人物のシンボルである、ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべて、メガネをキラキラと光らせている人物が士道に同行していた。

 

「―――んで、なんでお前まで一緒に来てるんだ?桐生藍華………」

 

その人物とは、変態エロメガネ女の桐生藍華だ。桐生藍華は十香をおんぶしている士道の様子を見て、楽しそうな笑みを浮かべている。

………これから起こるであろう()()()を心待ちにしているのだ。

 

「あれあれぇ、アタシがいたら何か困ることでもあるのかなぁ♪」

 

十香に変な知識を与えさせない為に、士道は視界に桐生を捉えて物申す。

 

「―――んなことねえよ!!とりあえず、その嫌らしい笑みを止めろ!」

 

「だったらアタシがいても問題ないでしょ?―――十香ちゃん、五河が大喜びすることを教えてあげるわ」

 

桐生藍華は士道ではなく、十香に今度は話しかける。―――桐生藍華の言葉に、十香は腹を空かせた野獣の如く食いついた。

 

「………シドーが大喜びすること?それは一体なんなのだ!?」

 

桐生は十香が食い付いたことを確認すると、今までとは比べものにならないほど、嫌らしい笑みを浮かべて十香にその方法を告げる。

 

「―――それはねぇ、五河の背中にギューって強く抱きついてあげることよ♪」

 

「………•こ、こうか?」

 

ぎゅうううううううっっ………

 

十香は桐生に言われた通りに、自分の体を強く押し付けるように士道の背中を圧迫していた。

士道は十香の不意打ちに素っ頓狂な声を出す。

 

「あうっ!?ちょっ、何してんだよ十香!」

 

「………どうだシドー、嬉しいか?」

 

十香が密着しているせいか、言葉を口にするだけで首筋に吐息がかかる。―――士道の精神の中では、理性と獣が壮絶な死闘を繰り広げていた。

―――これはもっともだが、士道くんの一番の喜びは、押し付けられる十香のおっぱいだった。

 

「―――っておい!?どこ見てやがるんだ桐生藍華ッ!!」

 

士道の下半身を確認するかのように凝視している桐生藍華を見た士道は、すぐに桐生の視界内に入らないように背中を向ける。

―――士道の分身体は大喜びをだったのは、言うまでもないだろう。

 

「あら?別にいいじゃない♪減るもんじゃないんだし」

 

「そういう問題じゃねええええええええ!!」

 

この桐生藍華という女は、飛んだ魔女だろう。―――桐生藍華の士道を弄るノルマは達成された。

 

「―――それで、どうなのだシドー?………嬉しいか?」

 

未だに士道の背中に強く体を押し付けている十香が、士道に訊く。士道は頬を赤くし、恥ずかしそうに呟く。

 

「あ、はい………最高です」

 

「おおっ!それは良かったぞ!ではもう少し続けてやるぞ」

 

ぎゅうううううううっっ

 

再び十香は士道の背中を自分の体を押し付けていた。

―――思いがけないイベントに士道の分身体は大喜びだったが、隣にいる魔女に盛大に歓迎される事だけは唯一の災いだった。

 

「………夜刀神十香、絶対に殺す」

 

メキメキメキメキッ………•

 

空飛ぶメカメカ団鳶一折紙一曹が、士道におんぶをされている十香を見て、嫉妬の炎を燃やしていた。

―――あまりの苛立ちに、折紙はソフトボールのバットをくの字に折り曲げていたが、士道は敢えて見ないことにしていた。

 

 

 

 

 

―――………•

 

 

 

 

 

 

キーンコーンカーンコーン………

 

ついに授業が全終了し、士道たちはホームルームの時間を迎えていた。タマちゃんが教室内に入室し、教卓に上がる。

 

「最近、この天宮市では失踪事件が多発しています。みなさん、下校する時は必ず複数人でお家に帰るようにして下さい。―――今日から完全下校を17:30としましたので、必ず守るようにして下さいね!約束ですよ、約束!」

 

タマちゃんの言う通り、今朝のニュースでもそのことは取り上げられていた。タマちゃんは生徒を心配してのことだったのだろう。

伝言を伝えると、タマちゃんは教室から出て行き、ホームルームも終了し、下校時間へとなった。

 

「―――さて、勝負はここからだな………」

 

士道は大きく息を吐いて、こちらに足を進める()()『精霊ですわ』の少女に視線を向ける。

 

「………士道さん、よろしくお願いしますわ」

 

精霊だと謳う少女―――狂三が士道の席まで来て直々にお願いをする。士道もそれに笑顔で答える。

 

「ああ、俺から申し出たことだからな―――()()、行こうぜ」

 

「―――あらあら、『狂三』で構いませんわよ、士道さん」

 

士道が苗字で呼んだことが気に食わなかったのか、狂三は名前で呼ぶように勧める。士道もそれに頷く。

 

「………じゃあ狂三、行こうか」

 

「ええ、よろしくお願いしますわ」

 

士道の後を追って行くように狂三が歩き始める。『フラクシナス』のクルーたちも既に攻略体制に入っており、琴里も令音も館内に戻り、各々が全霊を尽くしていた。

 

「むう………っ!何なのだアイツはッ!?」

 

教室の扉を開けて、体勢を低くして士道と狂三の動向を伺う十香と、もう一人十香とは違い、立ち上がって士道と狂三の二人を見つめる少女がいた。

 

「………士道にこれ以上悪い虫がつくのは勘弁」

 

士道に強い感情を抱く十香と折紙は、尾行をすることを決意し、気配を殺して慎重に足を進めた。

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

天宮市の上空一万五千メートルには、空飛ぶ巨大な艦隊がある―――それはラタトスク機関が誇る『フラクシナス』だ。

現在クルーたちは総力を尽くして士道をサポートしていた。

 

「―――好感度は現在、四五•五。変化していません」

 

「精神状態オールグリーン、安定しています」

 

解析用顕現装置(リアライザ)が弾き出した数値を見る限りでは、現時点では普通ということを表している。それを見た琴里は、ホッと胸をなで下ろす。

 

「………いきなり嫌われている状況じゃないって事だけは安心できるわ」

 

確かに見た瞬間に好感度がゼロ付近で、精神状態がブルーになると攻略どころではないからだ。―――琴里が懸念していることは、士道がいきなりビーストモードを解放して精霊の好感度がいきなりゼロ付近になることだった。

 

モニターに琴里と神無月が集中していた時、ついに動きがあった。

 

『………士道さん、どこから案内して下さるのですか?』

 

『―――そうだな………』

 

士道の後をつける狂三が士道に訊ねる。その時、解析用顕現装置のAIが四つの選択肢を叩き出す。

 

①屋上

②保健室

③食堂•購買

 

「各自選択、五秒以内」

 

クルーたちは現れた選択肢の中からそれぞれの番号を選ぶ。

一番多いのが屋上で三票、次が保健室二票、もっとも少ないのが、食堂•購買の一票だった。

 

「大方の予想通り、屋上が人気ね………この③は誰が入れたの?」

 

「―――私だ」

 

琴里の確認に令音が答える。食堂•購買に票を入れたのは、令音だった。

琴里は令音を見てその真意を訊ねる。

 

「理由を聞いても良いかしら?」

 

「………単なる消去法さ。現在保健室には、風紀委員長の『古手川唯』と養護教諭がいる。―――特に古手川唯は来禅高校の歴史に名を残すほどの実力者だ。彼女がいなくなるまでは保健室は避けた方が良い。―――次に屋上だが、これも似たような理由さ••••夕日が差してからの方がいい雰囲気になり、目標達成までの近道へとなるだろう」

 

令音の意見を聞いた琴里は、納得をして首を縦に降り、士道への支持を伝える。

 

「さすがは令音、なかなかロマンチストじゃない―――士道、聞こえる?」

 

琴里からの指示を聞き、士道が狂三を見て伝える。

 

『―――まずは食堂と購買を見ておこうぜ。ここには、これから世話になることがあると思うからさ』

 

『分かりましたわ』

 

士道の言葉に狂三は笑顔で了承し、士道の後を追った。

果たして、士道たちは戦いに勝利することができるのか!?

 

 

 

 

 

―――………••

 

 

 

 

現在は16:20。まだ完全下校の時間までは猶予がある。

士道と狂三は誰もいなくなった食堂と購買を訪れていた。

―――士道が購買に売っている品物の宣伝を始める。

 

「―――ここでの人気は焼きそばパンだな。カレーパンとか、コロッケパンとかも美味いけど、焼きそばパンは安いから人気なんだ―――次に食堂のメニューについてなんだが、ここでの人気は唐揚げ丼だな」

 

「………そうなんですの」

 

士道が品物の説明をするが、狂三は特に興味が無かったのか士道の横顔だけをじっくりと見つめていた。

 

「………ところで狂三さん、そんなにお顔を近づけていますが―――どうなされましたか?」

 

気付いたのか、士道は自分の頰に顔を近づけている狂三に慌てて確認するが、狂三は頰を赤らめて理由を述べる。

 

「………申し訳ありませんわ、わたくし士道さんの横顔に見惚れていましたわ」

 

「―――わ、What!?」

 

狂三の言葉に士道は声が上ずらせ、狂三と慌てて距離を取った。―――いきなり『見惚れていた』と女性に言われたら当然の反応だろう。

 

『………相棒、お前が攻略されているようでは先が思いやられるぞ?』

 

ドライグは完全に心を盗まれそうになっていた士道に釘を刺した。―――もう少し士道くんにはしっかりとしてもらいたいところだろう。

士道は深呼吸をして兜の緒を締め直した。

 

『………相棒、このままではあの狂三という女の手の上で踊らされることになるぞ?―――お前の方から何か話題を切り出してみたらどうだ?』

 

士道はドライグの言葉を肯定していた。

―――士道と狂三、どちらに主導権があるかは一目瞭然だった。

 

「―――さ、さて!購買と食堂はこんなもんでいいだろう。次は保健室を案内するよ。………ここもこれからお世話になることがあるかも知れないし」

 

「………ええ、了解しましたわ」

 

次に士道たちが目指すのは、保健室となった。

 

 

 

 

 

――◆――

 

 

 

 

 

食堂•購買の案内が終わって、保健室を目指して校内の廊下を歩いている赤龍帝と黒の精霊の異色のコンビ。

ずっと視線を感じていた士道が隣を見る。

 

「―――なあ狂三、前を見て歩かないと危ないぞ?」

 

士道は前ではなく、士道の顔を見て歩いている狂三に注意を促すが、狂三は相変わらず笑っている。

 

「………あらあら、士道さんったら優しいですわね。わたくしのことを気遣っていただきありがとうございますわ」

 

「お、おう………」

 

完全にペースを握られている赤龍帝コンビ。これまでにはないタイプの精霊だったため、いつもなら頼りになる相棒のドライグも、今回は慎重を極めているためか後手を踏んでいる。

 

『………迂闊にグイグイと押せば、泥沼にはまってさあ大変になるだろう―――乳語翻訳(パイリンガル)が使えないのは痛いな』

 

―――え?使っても良いのか?と訊き返す士道くんだったが、ドライグは『………聞かなかったことにしてくれ』と若干ヒキぎみで考えをリセットしていた。

 

そんな中、フラクシナスからの助け舟がやって来て士道の補助活動が開始される。

 

―――選択肢

 

①朝言ってた『精霊』ってどう言うことだ?

②学校には不慣れって言ってたけど、前の学校で何かあったのか?

③俺、実は君の穿いているパンツに興味があるんだ―――見せてくれることは出来ませんかね………

 

『ちょ、ちょっと神無月!?』

 

選択肢が出た瞬間に神無月が琴里を無視して士道に指示を出す。

 

『士道くん、③―――』

 

しかし、神無月が全てを述べる前に士道は迷うことなく見事なムーンサルトジャンピング土下座を披露する!

 

「―――狂三、俺にパンツを見せてくれ!!」

 

『………お、おい!?血迷ったか相棒!?この場面でそれは色々とマズイだろう!?―――それ以前にあのAIはなぜ一つや二つ馬鹿げた選択肢が出るようになっているんだ!?』

 

ドライグは完全に終わったと思っていたが、狂三はポカーンと一瞬魂が抜けていたが、しゃがんで士道に視線を合わせる。

 

「………士道さんは、その………わたくしのぱんつに興味がおありですの?」

 

士道は立ち上がって拳を握りしめて強く答える。

 

「ああ!!俺は狂三のパンツが見たい!」

 

―――煩悩マックスの士道くん、君は立派なセクハラ野郎だ。

全力で自分の願いを口にする士道を前にして狂三は近くにあった階段を数段登り、スカートの端を握る。

 

「………いい、ですわよ―――士道さんなら」

 

「うおっしゃああああああああああ!!ありがとうございますッッ!!」

 

『―――いやいやいや、そこは相棒が殴られる場面ではないのか!?相棒と一緒に風呂に入る夜刀神十香や、相棒の着せ替えに付き合う四糸乃と言い―――精霊は自己犠牲の精神の塊なのか!?』

 

ドライグは全力で正論を述べるが、士道も狂三も完全に二人の世界へと突入していた。

 

「―――い、いきますわよ、士道さん………」

 

士道は狂三が少しずつスカートの端を捲り上げて行く姿に生唾を飲み込み、その先の光景に胸を膨らませていた。

鼻の下が地面につく勢いで伸び、流れ出る鼻血も滝を思わせるほどの勢いだった。

 

(―――狂三のパンツ………否ッ!黒タイツから見えるパンツは女神様のおパンツなんだ!!俺の脳内メモリーに保存してやるぜッ!!今日はこれでブレイクするまで励むんだ!!)

 

『うおおおおおおおおおおおんんんんっっ!!』

 

ドライグもこの状況では大泣きする以外に選択肢はないだろう。

 

―――しかし………•

 

 

 

ガタンッ!ドスンッ!!

 

 

 

いきなり階段の近くにあった用具入れが盛大に倒れる。―――まるで、中に人がいるかのようだった。

 

「―――ッ!?一体なんだってんだ!?」

 

「………あらあら、ご苦労様ですわね」

 

倒れた用具入れからは、ほうきやデッキブラシと一緒に人が二人の人物が一緒に飛び出してきた―――その二人の人物は、どちらも士道に強い想いを寄せている者たちだった。

 

「―――貴様ら、学校内で何をしているのだ!?それにシドー、私と一緒にお風呂に入ったことをもう忘れたか!!」

 

―――まず最初に一人目の人物である、十香が顔を真っ赤にして士道と狂三に人差し指を前に出す。

………十香が爆弾発言をしたということは触れないでいただきたい。

次に二人目の人物である、折紙も十香同様に不快な想いを顔に出している。

 

「………士道にパンツを見てもらうのは、恋人である私だけの専売特許」

 

いきなりお化けのように出てきた十香と折紙に士道はため息を吐く。

 

「………おい二人とも、屁理屈言ってないでとっとと帰れ。俺はこれから狂三と保健室に―――」

 

士道が全てを言い切る前に十香と折紙は士道に詰め寄る。―――十香と折紙には何か思うことがあったのだろう。

 

「「ほ、保健室っ!?」」

 

「な、なんだよ!?」

 

いきなり近づかれたことに戸惑いを隠せなかった士道だったが、十香がいきなり左足に違和感があるように振る舞い、士道と腕を組む。

 

「そ、それなら私も同行しよう。どうにも足の調子が優れんのだ………ちょっと見てもらう必要があるからな」

 

折紙も十香とは逆の腕にしがみ付き、離れようとしなかった。

 

「私も同行する。………バットを折り曲げた時に筋肉を痛めた」

 

「………お前らなぁ」

 

腕をいくら降っても離そうとしない十香と折紙に頭を悩ませていたが、狂三はその様子を見て微笑んだ。

 

「あらあら………わたくしは構いませんわよ士道さん、友達は大切にするものですわ」

 

狂三はどうやら十香と折紙がいても問題ないようだ。士道は狂三の寛大さに頭を下げる。

 

「すまない狂三、恩にきる―――お前ら、付いてくることは認めるけど狂三優先だからな?」

 

「「ぶー!!」」

 

十香と折紙は二人揃って士道の言葉にブーイングをした。

―――はてさてこの先どうなりますことやら………

 




フィナーレまでの道のりは出来ましたが、フィナーレが本当に難しいです。

この章は四糸乃パペットほど長くはならないと思います。


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三話 ギリギリセーフでした!

狂三に押されまくりの士道くん。

士道くんはどう狂三を攻略するのか!?


 

十香と折紙が参戦してからというもの、狂三は完全に除け者扱いを強いられていた。

―――理由は至ってシンプルだった。

 

「………おい鳶一折紙、いつまでシドーの腕にくっついているつもりだ?」

 

士道の左腕を占領している十香が士道の右腕にしがみ付く折紙を睨みつける。………しかし、折紙も負けてはいない。

 

「………あなたこそ士道から離れるべき。士道は私のもの」

 

「うがああああああああ!!私はシドーの嫁なのだ!!今すぐ離れんか!!」

 

離れる気が微塵もない折紙に十香がプンスカと暴れる。―――左に十香、右に折紙、そして後ろには狂三と美少女三人を侍らせているキングオブ女たらしの士道くん。

周りから見れば嫉妬の的になるだろう………

 

「―――士道さん、わたくしのことを忘れないでくださいましね」

 

「………大丈夫だ、忘れていないよ―――狂三、ここが保健室だ」

 

それから数分歩いた後、士道たちは保健室に到着する。

ガラララララッ………と扉を開けると、白衣を着た眠たそうにしている女性と保健室の養護教諭を担当している浜崎先生がいた。

 

「浜崎先生はともかく―――どうして令音さんが?」

 

士道が訊ねると、令音は士道に手招きをする。士道はそれに合わせて令音に耳を寄せる。

 

(………十香と鳶一折紙がシンのことを尾行していることに気付いて足止め役をしようと思ってね―――ここまでは比較的、順調にことは進んでいる。自分を信じて突き進むといい)

 

令音はどうやら十香と折紙の足止め役として『フラクシナス』から派遣されたようだ。

士道は令音の後押しの言葉に感謝の意を示す。

 

「いつもすみません令音さん………狂三、保健室は体調が優れない時や、怪我をした時のためにある―――って言うのは必要ないか」

 

「士道さん、わたくし小学一年生の子供ではありませんのよ?」

 

狂三もそこまでは必要なかったらしく、場所だけわかれば良かったらしく、ここにはもう用が無さそうにしていた。

 

「………狂三、最後は屋上に行こうか。この時間だと、夕日が綺麗に見えるぜ?」

 

士道は狂三に手を差し出し、一緒に行こうとアピールをする。狂三はその手を微笑みながら取る。

 

「士道さんは中々ロマンチストな方なのですね―――分かりましたわ」

 

士道と狂三が手を繋いだ瞬間に、士道に飢えた獣が二匹―――失礼、二人が鬼の形相で士道と狂三の手を引き離そうとするが、令音と浜崎先生が十香と折紙を押さえ込む。

 

「………十香は足を怪我しているようだね―――どれ、私が見てあげよう」

 

「鳶一さんは筋肉を痛めたとか………肉離れの可能性もありますし、念のため私が見ておきますね」

 

いきなり行動を妨害されたことに十香と折紙は押し通ろうともがく。

 

「―――必要ない、もう治ったぞ!」

 

「………私も手当の心配はない」

 

士道も二人を止めるかのように振り返って言う。

 

「十香、折紙。―――しっかりと見てもらえよ?俺は狂三と屋上に行ってくるから」

 

「………それでは十香さん、折紙さん。わたくし、失礼させていただきますわ」

 

士道は手を振り、狂三は礼儀正しく頭を下げた。

―――もちろん、妨害をもろに食らった二人は………•

 

「「しょぼーん………」」

 

十香と折紙は十分ほど保健室で足止めを食らっていた。

 

 

 

 

 

 

――◆――

 

 

 

 

 

士道と狂三は、令音と養護教諭の浜崎先生が十香と折紙の足止めをしている間にそそくさと屋上へと向かった。

―――令音の言っていたように、茜色の夕日が差した屋上の風景は絶景の一言だった。

 

「はぁ………すまんな狂三、十香と折紙が乱入してから全く話せなくて」

 

士道は申し訳なさそうに狂三に頭を下げる。狂三は手を横に振って考えを伝える。

 

「士道さん、わたくし気にしておりませんわ。―――そんなに畏まらないで下さいまし」

 

「―――そう言ってもらえると助かるよ………」

 

士道はホッと胸を撫で下ろした。―――深呼吸をした後、狂三に疑問に思っていたことを問う。

 

「………狂三、今日の自己紹介で言っていた『精霊』って一体なんのことだったんだ?」

 

士道の問いに狂三は口の端を吊り上げ、不敵な笑みを見せる。

 

「―――あらあら、士道さんったら意外と食えない人なのですね………士道さんは精霊のことを知っているのでしょう?」

 

「――――ッ!!」

 

狂三の言葉に士道は息を詰まらせる。………士道は雷に撃たれるような衝撃を受けていた。

 

『………この女は少なからず相棒のことを知っている。この女は一体どこで相棒のことを―――もし、相棒が生まれ変わったことまで知っているとなると、事は厄介なことになるかも知れん………』

 

ドライグの言葉を士道は肝に銘じていた。士道は狂三に訊く。

 

「―――なぜ俺が精霊のことを知っていると思うんだ?それに、何処で俺のことを知ったんだ?」

 

「………わたくし、士道さんのことなら()()()()知ってますわよ?………でも、何処で士道さんのことを知ったかは秘密ですわ」

 

狂三は士道のことを何処で知ったかまでは口を割ろうとはしなかった。

狂三は一歩ずつ士道に近づこうと足を進める。

 

「わたくし、士道さんのことを知ってからずっと………ずううっっと恋い焦がれていましたのよ?―――それはもう、()()()()()()()()()()()()()()くらいに………」

 

ペロリと舌を出し、舌なめずりをする狂三。狂三と士道の距離がゼロになり、狂三は士道に体を預ける―――そして………

 

ドスンッ!

 

何かが倒れたような音が屋上に響き渡る。その音の正体は、士道と狂三が倒れた時に発生した音だった。

―――今、仰向けになって倒れる士道の視界内には、胸を掴んで一緒に倒れ込んだ狂三の姿が映っていた。

 

「お、おおおい!?く、狂三!お前一体何を!?」

 

いきなり押し倒された士道が、四つん這いになって上から見下ろしている狂三を見上げる。士道は狂三の行動にタジタジになっていた。

 

「………士道さん、このままわたくしに身を委ねて下さいまし」

 

「―――は、はあ!?」

 

狂三の言葉を聞いた士道は素っ頓狂な声をあげる。狂三は士道の手を自分の胸に当て、士道との距離をさらに縮める。

 

「お、おっぱい―――じゃなくて!!狂三、お前今なにをしてるか分かってんのか!?」

 

鼻血をドバッと勢いよく吹き出し、あたふたと慌てふためく士道を見て、狂三は士道の耳元で小さく囁く。

 

「―――士道さん、こう見えてわたくしも緊張しておりますのよ?あまり士道さんばかりがドキドキしないでくださいまし………」

 

トロンと恍惚とした表情を浮かべ、士道に迫る狂三。狂三が緊張をしているという事は、狂三の胸に手を当てさせられている士道は、狂三の胸の鼓動が手を通して確かに伝わっていた。

 

「く、狂三さん!俺も、その―――男だから………」

 

「士道さん、このままわたくしと―――と言いたいところですが、今日はこの辺にしておきましょうか………士道さん、アレをご覧になって下さいまし」

 

狂三が不意に士道から退き、ドアの方に指を指す―――そこには、霊力を放出させた大剣を片手に、霊装をフル装備した魔王が降臨していた。

―――降臨した魔王様が不機嫌だったことは、言うまでもなかった。

 

「………おい貴様ら!一体何をしているのだ!!」

 

魔王様こと、十香が自分を差し置いて士道にくっついていた狂三を見てプンスカと怒っている。

狂三がうまく十香を誤魔化そうと口を開く。

 

「………わたくしが転びそうになったところを士道さんが支えようとした結果ですわ―――士道さんの優しさに免じて怒りを鎮めて頂きたいのですが………」

 

狂三がなんとかこの場を収めようと十香に士道は悪くない為伝えるが、十香は聞く耳持たずだ。

 

「そ、そんな言葉が信じられるか!!とにかくシドーから離れんか!!」

 

―――狂三が何を言おうが十香は信じようとはしなかった。

結果としては、修羅場へと変化してしまったが、十香が士道を救ったことは間違いないだろう。

 

こうして、狂三の学校案内は終わり、来禅高校の正門に狂三と十香の二人で帰路につこうとしていた。

屋上で狂三と士道がくっついていたことが気に食わなかったのか、十香はずっと士道の腕にしがみついていた。

 

「がるるるるるるるるるっっ………」

 

十香はまるで両親の仇を見るように強烈な視線を狂三に向けていた。

狂三はその様子を見て、狂三は苦笑いをしていた。

 

「―――士道さん、今日は学校を案内していただき、ありがとうございましたわ」

 

狂三はぺこりと頭を下げて感謝を示す。士道は笑顔を見せる。

 

「ああ、また何か分からないことがあったら是非聞いてくれ。いつでも助け舟を出させてもらうぜ」

 

「士道さんは本当に優しいですわね。その時は頼りにさせてもらいますわ………それでは、ごきげんよう」

 

狂三は士道に手を振って帰って行った。

その時、十香と一緒にいたもう一人の少女がいないことに気付き、十香に問う。

 

「おい十香、そう言えば折紙はどこに行ったんだ、一緒じゃなかったのか?」

 

十香は完全に忘れていたらしく、あっ!と目と口を開ける。

 

「そう言えば―――いつのまにか消えていたぞ?シドーのことが気になり過ぎて鳶一折紙のことは気付かなかった」

 

想い人が心配で仕方なかったためか、保健室に一緒にいた折紙がその後どこへ行ったかは、一緒にいた十香ですら分からないようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

――◆――

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれですわ………まさか順調に進んでいたと思っていれば最悪のタイミングで十香さんが乱入して来ますし………まあ、士道さんが押しに弱いということが分かっただけでも十分な収穫ですわ」

 

狂三は十香に良いところで邪魔されたことにため息を漏らしていた。

 

「―――ですが、これから毎日十香さんが士道さんとべったりされると………事は難しくなりますし、何か対策を考えなければなりませんわね―――っとと………」

 

狂三がブツブツと独り言を呟きながら歩いていた時、隣の路地から人が出て来てぶつかった。―――出て来た人はガラの悪い男だった。狂三は頭を下げて謝る。

 

「申し訳ありませんわ―――前を見ていなかったもので」

 

しかし、ぶつかられた男は狂三の行く手を塞ごうと立ちはだかる。

 

「おいオメェ、ぶつかったおいてそいつはねえじゃねえんか?」

 

男がそう述べると、路地から仲間が出てきて狂三を囲うように立つ。

 

「ふっふっふっ、ついてるゼェ。こいつは上玉じゃないか!」

 

「ハイッ!上玉ですね!」

 

男たちは狂三の体を舐め回すかのように見つめていた。そして狂三は何かを悟り、口を開く。

 

「………お兄さん方はもしかして―――わたくしと交わりたいのですの?」

 

妖しい笑みを浮かべて述べる狂三だったが………男の一人が露骨に嫌な顔を見せる。

 

「かあっ!気持ち悪りぃ!やだオメェ………」

 

他の二人も同じように狂三を見て気持ち悪がる。

 

「わかるゼェ………こういう自分が可愛い思って、上から物を言ってくるやつほど気持ち悪いものはないものだぜ………とっとと消えろ、俺たちの気が変わらないうちにな………」

 

「―――僕もそう思います。やっぱり二次元ですね!わかります!」

 

「「「二次元サイコーッ!二次元こそ至高!二次元こそ正義ッ!!」」」

 

「―――うわぁ………」

 

勝手に盛り上がる男どもを見て狂三がドン引きをする。―――柄が悪いがこいつらはキモオタの部類の男だったのだ。

男の一人が声を上げる。

 

「さっそく中断していた『グレイフィア•ルキフグスの全裸鑑賞会』を始める!後に続け者ども!」

 

「おう!」「ハイッ!」

 

男たちは路地に戻り、スマホのアプリを起動させていた。彼らは知りもしなかった―――自分たちが精霊を怒らせていたという事を。

 

「―――ん、なんだオメェまだいたのか?とっととけえれ!」

 

「消えろ!この俺に殺されないうちにな………」

 

「消え失せろッ!二度とそのツラ見せるなクソアマァ!」

 

―――プツンッ………

 

男どもは三者三様で狂三にシッシッと手を払う。―――その時、狂三の中で切れてはいけないものが切れていた。

男どもは全く力の正体に気付いていなかったが、狂三が解き放とうとしていた力は、この男どもを始末するには十分過ぎるほどのものだった。

 

「あなたたち良い度胸をしてますわねぇ!!ただの人間の分際でわたくしをここまで侮辱をしたのはあなた方が初めてですわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

狂三は額に青筋を浮かべ、キヒヒヒッ!と薄ら寒く、全てを凍てつかせるような笑みを浮かべる!

狂三が右手を突き上げると、男どもの体が石化したように動かなくなる。

 

「ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」

 

「ふおおおおおおおおおッ!?」

 

「アアアアアアアアアッッ!?」

 

男どもは懸命にもがくが、無駄な努力だった。………とはいえ、これは自業自得だろう。自分たちが行ってきた事を考えれば当然の報いだろう。

 

「―――死んでくださいましッ!!」

 

狂三を侮辱した男どもが現世で聞くことができるのは、この言葉までだった。

 

 

―――そして………

 

 

 

バキッ!ボキッ!ベキッ!ドゴッ!グシャァッ!!

 

 

 

路地裏に肉がはじけるような音が響き渡ると―――そこには男どもの姿は無くなっていた。

その代わりに、路地の地面や壁には血が飛び散り、辺り一面が真っ赤に血塗られた空間が完成していた。

 

「―――チッ………警戒していたのに間に合いませんでしたか」

 

路地裏に武装をした小柄な青い髪を後ろで一本にくくった小柄な少女が足を運ぶ。狂三はその少女に親しい仲を想像させるように話しかける。

 

「―――まったく、これだから低俗な人間は困りますわよね………そうは思いませんか、()()()()さん?」

 

そう、その少女はとある企業からASTに派遣された士道の実妹と名乗る『崇宮真那』だった。

真那は無表情で吐き捨てるように狂三に言い放つ。

 

「気安く名前を呼ばねえでくれやがりますか『ナイトメア』、吐気しかしねえです」

 

「―――あらあら、そんなつれないことを………知らない仲ではないではありませんか」

 

「とりあえず黙れ」

 

真那が狂三を捉える目は殺すものの目をしていた。

―――そして………この人気のない路地裏は、狂三が屍を晒す場所へと変貌した。

 

 

 

 

 

――◆――

 

 

 

 

「………………•••」

 

狂三に学校を案内した後、士道は難しい表情をして考え事にふけっていた。―――相棒のドライグが士道に声をかける。

 

『―――そこの夜刀神十香には感謝をしとけよ相棒。あの小娘が来ていなければ、お前は捕食されていたかも知れんからな………』

 

ドライグは完全に心を奪われた士道とは違い、士道が危機に晒されていた事を感じ取っていた。

士道は油断をしていた自分に不甲斐なさを感じていた。

 

「………シドー、私に邪魔をされたことに腹を立てているのか?」

 

茜色に輝く夕日に照らされる帰り道、十香が申し訳なさそうに表情を陰らせて士道に訊く。

その様子を見た士道は、首を横に振って否定する。

 

「―――違えよ。むしろ十香には感謝してるぐらいだ。ありがとな十香、俺を助けに来てくれて………あと少しで狂三の魔眼にやられるところだったよ」

 

「そ、そうか………ならば良いのだが」

 

士道の言葉を聞いても、十香の表情が明るくなる事はなかった。―――ドライグに言われた事を十香は信じることができず、士道のいる屋上へと向かって行ったからだ。

士道は申し訳なさそうにしている十香に苦笑いをしながら、優しく頭に触れる。

 

「―――さて、助けてられたお礼に今日の晩飯は十香の大好きなハンバーグだ!たくさん作ってやるから好きなだけ食え!」

 

自分が好きなメニューを作ってくれるという報告に曇っていた十香の表情は一気に晴れた。

 

「おおっ!!それは本当かシドー!!」

 

バンザイをして喜ぶ十香と、士道のインカムを通して琴里も賛成のようだった。

 

『へぇ、いいじゃない!私もそれに賛成よ』

 

これで五河家の晩御飯はハンバーグに決定した。

士道たちは帰路についていた時、前方に青い髪のポニーテールに泣きぼくろが特徴の琴里と同じくらいの年頃の少女と目が合う。

少女は士道へと視線を向ける。

 

「―――鳶一………じゃなかった、()()()()に言われていた通りです」

 

士道を見つめる少女の姿を見た士道は隣にいる十香に訊ねる。

 

「………十香、知り合いか?」

 

しかし、十香は首を横に振って否定をする。その少女は士道に歩み寄り、まるで親しい仲を想像させるように表情を明るくする。

 

「………に!」

 

少女は震える唇から言葉を出した。その言葉を聞いて士道、琴里、琴里の三人は復唱する。

 

「に?」

 

「に?」

 

『………•に?』

 

少女は次に発する言葉と同時に士道の首に両腕を回し、士道の胸へと飛び込む!

 

「―――にいさまああああああああっ!!」

 

少女は確かに士道のことを『兄様』と呼んだのだ。少女が放った言葉に士道たちは完全に思考が停止し………•

 

 

 

そして――――

 

 

 

 

 

『は………はあっ!?』

 

 

 

 

士道、十香、琴里の素っ頓狂な声が辺りに響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




★次回予告とおまけ

真那「兄様は義妹と実妹のどちら派でやがりますか!!」

士道「えっとその•••••俺は————」

次回「実妹来襲!」琴里VS真那を予定しています!

★おまけ

イッセー「ダダダダダダダダニィ!?義妹と実妹の妹々丼だと!?俺もいただきたいんだが!!」

ピポパ

ドライグ『———あ、もしもし警察か?中学生の少女二人を見て鼻血とヨダレを流している変態がいる———場所は駒王町の駒王学園、二年A組の兵藤一誠という男だ』

イッセー「国家に守られた武装集団に通報してんじゃねえええええええええ!!」


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四話 実妹来襲!

私は狂三キラーの中ではこの真那と琴里の妹対決が好きですね。

———さてさて、みなさんは義妹か実妹のどちら派ですか?

※三者連続四球なら満塁にしかなりませんよね•••••四者連続の間違いでした。
※一部間違いがあったので、そこを修正そこを修正しました。


士道の実妹と名乗った少女は、士道と十香の後に続いて五河家へと到着した。少女は五河家を見上げ、声を漏らす。

 

「おおっ!ここが兄様がお世話になっておられるお家でごぜえますか!」

 

少女は目を輝かせながら五河家を眺めていた。

彼女の名前は崇宮真那と言うらしい。士道のことを『兄様』と呼ぶのだが、士道には『兵藤一誠』としての記憶は存在するが、この五河士道になる前の記憶は綺麗さっぱり消えているため確認のしようがなかったのだ。

 

『………相棒、ここはこの小娘から色々と聞き出して見てはどうだ?俺も相棒の()()()()()()には興味がある』

 

ドライグの言う通りにして、士道は真那を家に上がらせることを許し、真那を家へと上がらせる。

………ドライグの言う『謎の空白時代』と言うのは、士道が五河士道になる前―――産まれてから親に捨てられ、五河家に引き取られる前に士道がどんな生き方をしていたのかが、知りたかったのだ。………士道自身もその時の記憶は見事に消え去っているため、思い出すことはできないからだ。

 

「お邪魔しやがります!」

 

―――よくわからない敬語を使う真那に士道は思わず問いかける。

 

「………えーと、『真那』で良かったっけ?」

 

士道が靴を揃えて家に上がる真那への問いかけに真那は笑顔で答える。

 

「はい!なんでいやがりますか、兄様?」

 

真那は士道と話せることが嬉しいらしく、彼女の笑顔の輝きは研磨されたダイヤモンドを思わせるものだった。

 

「えーと、何処でそんな日本語を学んだんだ?色々とおかしいと言うか何というか…………」

 

「変でやがりますか?………兄様がそう仰られるのであれば―――」

 

真那はスマホを取り出し、『正しい話し方』と検索をしていたが、その様子を見た士道は何か罪悪感を感じ、真那を止める。

 

「ああいや、無理に直せって言ってるわけじゃないんだ。―――なんかゴメンな、嫌な思いをさせて………」

 

士道が瞑目して謝ると、真那は「気になさらないでくださぇ」と言った。家の廊下を進み、士道たちはリビングへと到着する。そこには――――

 

「おかえりなさい、()()()()()()

 

やたらと『おにーちゃん』と言う部分を強調して士道の帰りを待っていた黒リボンの琴里がリビングに座っていた。

真那は琴里の側まで歩いて行き、手を差し出す。

差し出された手を琴里も取り、お互いに握手をする。

 

「おおっ!お家の方でいやがりましたか!うちの兄様がお世話になっています!」

 

真那はフレンドリーに琴里に接していた。琴里も特に変わった様子もなく普通に真那と接していた。

リビングのソファーからは十香と四糸乃が士道たちの様子を興味深そうに見守っている。

 

「………驚いたぞ、士道にもう一人妹がいたとはな」

 

「………本当に、士道さんとそっくりです」

 

『うんうん!隠し子ならぬ隠し妹!やるねぇ士道くん!』

 

十香と四糸乃、それからおまけの二人と一匹?の言葉を聞いた真那は「当然です!実の妹でやがりますから!」と胸を張って答えていた。十香と四糸乃を見た真那は士道に物申したいことがあったのか、士道に言う。

 

「………兄様、真那は兄様に物申したいことがあります―――なんですかこの美少女二人は!」

 

真那は十香と四糸乃を指差す。それに気付いた真那を士道は口の端を吊り上げて言う。

 

「おっ!真那は分かってるじゃないか、お兄ちゃんなかなか女性を見るセンスがあんだろ―――ってちょっとお!?」

 

ドンッ!!

 

士道の言葉に真那は机を握り拳を叩き付ける。………どうやら士道が思っていたことと、真那が思っていることは違っていたらしい。

 

「そう言うことじゃねえのです!―――折紙()()()()がいらっしゃられるというのにこんな美少女と二人と関係を持つとはッ!今は一夫多妻が許される時代じゃねえのですよ!?」

 

真那の言葉に士道は思うことがあったのか、大声を張り上げ、自分の意見を主張する。

―――ここから士道の夢が語られようとしていた。

 

「甘いッ!!甘すぎるッ!!真那、今の発言は角砂糖の数千倍の甘さだぞ!?」

 

「ど、どうしたんでやがりますか!?」

 

士道はリビングのデーブルの上に飛び乗った。―――士道は自分の夢をダイナミックに語ろうという覚悟を見せたのだ!

 

「―――いいか真那?一夫一妻などという実にくだらない制度があるから、浮気だなんだのといった不幸なことが起こるんだよ。それに、一人の男性に一人の女性なんていうのは絶対に間違っている!!優れた漢なら、たくさんの女性と関係を持ち、子孫を残すべきなんだ!!

真那、『光源氏』に一体何人の妻がいたと思う?」

 

士道の説明に真那はポカンと間が抜けた表情を浮かべていた。…………士道が述べたことなど、一般人から見れば末期にしかみえないだろう。

 

「…………ええっと兄様、『光源氏』は物語であって現実の話では無かったような気が………」

 

「―――そう、確かに現実じゃない。…………だが!!俺は現実の壁をぶち破りハーレム王になる!!俺だけの美女たちと幸せな家庭を築くんだ!!俺はそれを神様が邪魔をしようものならその神様をもぶちのめすッ!!」

 

ドガアアアアアアアンンッッ!!

 

「―――うわぁ…………」

 

『………マジ引くわ〜』

 

士道が握りこぶしを天井に掲げた時、何かが爆発したような音が聞こえた。十香と四糸乃は首を傾げ、頭に疑問符を浮かべていたが、琴里とドライグは汚物を見るような目を士道に向けてドン引きしていた。相棒のドライグは士道と同じクラスのとある女子の真似をするほど、士道の夢を痛々しく思っていたらしい、

 

―――しかし……………

 

「―――さすがです兄様ッ!!真那は兄様の夢を応援したくなりました!!」

 

「そうだろ!俺が歩むのはいばらの道ではなく、修羅の道となるだろう―――だが!まだ見ぬ美少女たちがこの俺を待っている!!俺はその美少女たちを迎えに行かなければならないんだ!!」

 

「さすがは私の兄様ですッ!!頑張ってくだせぇ!!」

 

『…………おい!?この兄妹は一体どうなっているんだ!?色々とネジがぶっ飛んでいるぞ!!』

 

真那は士道の夢を聞いて目をキラキラと輝かせていた。自分の夢を盛大に語る兄の姿に感動したのだろう。

…………だが、こんな間違った夢に目を輝かせるあたりはこの兄妹は優秀な精神科を全力で勧めるべきだろう。

ドライグだけは正論を言っているのは明白だった。

 

「………真那。俺もいくつか質問があるんだけど良いか?」

 

今度は士道が真那に訊る。真那は笑顔で快諾する。

 

「はい!何でしょうか兄様?」

 

「………実は俺、ここに来る前までの記憶は綺麗さっぱり抜けているんだ。―――だから俺には産んでくれた母親のことも真那のことも記憶には無いんだ。………だから真那が覚えていることを教えて欲しい」

 

「―――そ、そのことでやがりますか…………」

 

士道の問いを聞いて真那は表情を陰らせ、下を向く。真那は申し訳なさそうに口を開く。

 

「実のところ私もその頃の記憶はねえのです…………ここ三年くらいの記憶は存在しやがるのですが、兄様と同じくその時の記憶はわたしにも………」

 

今まで黙り込んでいた琴里が真那の言葉を聞いて、珍しく声を荒げる。

 

「はあっ!?それならなんで士道が自分の兄だって分かるのよ!?」

 

琴里の言葉に真那は自分の胸からペンダントを取り出す。そこには、幼い頃の士道と真那を思わせる二人の人物の古ぼけた写真があった。

 

「これは―――俺、なのか?」

 

「はい!間違いなく兄様でいやがります!」

 

士道は真那のペンダントを見て、一桁後半の年代柄の幼い自分を彷彿とさせる人物を見て口を開く。真那はこの人物を士道だと言うが、琴里は真那の言葉を信じてはおらず、異を唱える。

 

「他人の空似じゃないの?士道がこれぐらいの時にはすでに五河家に養子に来ていたわ」

 

………そうなのだ。士道が五河家に養子に来たのは、五歳の頃だった。故にこの写真の人物は士道ではないと琴里は思っていたのだ。

しかし、真那は目に涙を溜めて、心の中の嬉しさを言葉にして士道と琴里に伝える。

 

「………ぼんやりとした記憶ではありますが、兄様が何処かへ行ってしまったことだけは覚えています。兄様のことが心配でしたが、こうして兄様と出会うことができて、真那は幸せなんです!」

 

真那は立ち上がって士道に飛び付く。士道は飛んで来た真那を優しく受け止めた。

 

「にいさまああああああああっ!」

 

「っととと………真那、いきなり抱きつくなんて危ないぞ?」

 

士道は優しく真那の頭を撫でていた。士道にとっては消えてしまっている記憶なので真那が自分の妹だということは記憶にはない。けれど、士道は真那の言葉を信じようと決めていたのだ。

 

 

 

―――しかし……………

 

 

 

 

「離れなさいよ!」

 

「―――ぐふぇ!?」

 

ドガッ!!

 

()()である琴里が士道の脇腹に足刀を入れ、()()を名乗る真那から強引に士道を引き離す。

義妹の琴里が気にしていたことは、自分の妹というポジションが危機的状況に晒されていることだった。

 

「なっ、真那の兄様に何をしやがるんですか!!」

 

「そうだそうだ!!なぜ俺を蹴っ飛ばす必要がある!?」

 

実妹である真那と士道が揃って口を開くが、琴里は士道を蹴っ飛ばしたことは特に何も感じてはいなく、士道は連れては行かせないと物申す。

 

「士道はうちの大切な家族!五河家の一員で私のおにーちゃんなの!!それをそんな薄情な理由で連れて行こうだなんてそんなことは許さないわ!!」

 

「―――そんなつもりはねえですよ」

 

「え?」

 

真那が返した言葉に琴里はあっけにとられていた。

 

「兄様がこの家での生活を語られている時の表情はとても幸せそうでした。それを壊そうだなんてそんなことは真那にはできねえです。兄様は妹でおられる、あなたのことをとても大切にしておられ、自慢の可愛い妹だとも仰ってやがりましたよ?」

 

「わ、分かってるじゃない………」

 

士道がこの家での生活が幸せと思っていると真那から伝えられたことにちょっと嬉しく思っていた―――だが…………

 

「でもまあ、妹レベルとしては実妹である真那には負けていやがりますけどね!」

 

ギンッ!!ガリィッ!!

 

「―――うっ!?」

 

和やかとしていた五河家のリビングに緊張が走る!!

真那が発した言葉に琴里が反応した。視線を槍のごとく鋭くし、なめていたチュッパチャプスを噛み潰したのだ。

士道はこの二人の光景を見て、心臓が鷲掴みにされる感覚を味わっていた。

 

「へぇ、面白いことを言うじゃない…………私から言わせてもらえば、血縁者が離れ離れ時点で紙切れのような脆くて弱い関係にしか見えないけど?

私は士道の妹を十年以上もやっているわ、妹レベルは私の方が断然上だと思うのは気のせいかしら?」

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ……………

 

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃ!!ぼく、おうち、帰る―――ってここぼくの家だったあああああああ!!」

 

琴里の言葉に真那のこねかみがピクリと動き、何かオーラのようなものが可視化するほど具現化していた。

―――この二人は煽りの天才のようだ。そして、情けないことにこれから繰り広げられる死闘を恐れ、彼らの兄は震え上がっている!

………この兄はこういう場面では一切役に立たないのだ!!

 

「―――ハッ、片腹痛えです!それは机上の空論でやがります!義妹は所詮他人です。その点、実妹は血を分けていますからね!これだけで妹レベルは雲泥の差があります!たかだか十年程度なんざアドバンテージにすらならねえです!」

 

「血縁血縁って血縁がそんなに大事なの!?他にも――――」

 

「笑止千万でやがります!だいたい義妹は―――」

 

二人の言い争いはヒートアップし、十香と四糸乃は身の危険を感じてか、ソファーから離れて部屋の隅で様子を伺っていた。

士道は二人の言い争いを止めるべく、堪らず相棒に藁にもすがる思いで助けを求める!

 

「おいドライグ!なんとかしてくれええええええ!!!」

 

『なんだ相棒!俺は選抜優勝校と同じ地区の強豪校との試合を見ることに忙しいんだ!悪いが後にしてくれ―――クソッ!!最終回一点差、ノーアウト一塁の場面で送りバント失敗からのゲッツーで、ツーアウトランナー無しの場面から四者連続四球で押し出しだと!?これで同点になってしまったでは―――うわあっ!三遊間を破る逆転二点タイムリーヒットで試合ひっくり返された!?クソッ!選抜優勝校が盛大に転ぶところを期待していたのに!!」

 

「―――この役ただずッ!!」

 

―――ドライグは士道のスマホでユーチューブで高校野球の予選を見ているらしく、士道の声は届いていなかった。

士道はスマホを使わない時は、赤龍帝の籠手の中に入れてドライグに貸してあげているのだ。

いつもなら聞こえるはずなのだが、よほど緊迫した場面だったのか、ドライグはスマホで観戦している高校野球に釘付けになっていた。

士道は赤龍帝の籠手の宝玉部分にチョップをかました!

…………頑張れ士道くん!

 

「ハッ!言ってなさいよこのおたんこなす!実妹じゃ結婚だってできないじゃない!!」

 

『え!?』

 

「―――ハッ!?」

 

琴里の放った言葉に一同の視線が琴里へと集中する。琴里は自分が何を言ったか分かると顔を真っ赤に染め、机を強く叩きつける!

 

「と、とにかく!今は私が士道の妹よッ!分かった!?」

 

「うるせーです!実妹最強伝説を知らねえでやがりますか!!」

 

「お、お前らいい加減にしないか!!と、十香と四糸乃が、へ、部屋の隅っこで………………ふ、震えてるじゃないか!!」ガタガタブルブルッ…………

 

士道が正論を述べるが、足が震えている状態で言ったので説得力は全くない―――いや、士道ですら震えているため周りのことも考える必要があると二人も考えたらしく、琴里と真那は言い争いの勝負を士道に託した。

 

「士道!あなたは―――」

 

「義妹、実妹、どっち派でいやがるのですか!?」

 

予想外なことを聞かれた士道だったが、堂々と胸を張って意見を述べる!

 

「俺は妹との近親相姦ものはマジで好きだ!実妹義妹なんて関係ねえ!俺は妹萌えは許容する!ていうか、いずれは義妹と実妹を丼にして食ってしまいたい!」

 

「ど……………丼でやがりますか?」

 

「―――なっ、何を言ってるのよ!?このバカああああああッ!!」

 

士道の発言に真那は首を傾げ、琴里は顔を最高潮に紅潮してこのリビングから消えた。―――十香は「シドー、私もその丼を食べてみたいぞ!」と言っていたが、十香もどうやら言葉の意味を理解していないようだ。

※良い子及び、良い大人は絶対に士道くんのような発言は絶対にしないようにして下さい。

 

「琴里のやつどうしたんだろうな?顔真っ赤にしてどっかに行っちまったよ……………そういや真那、お前今は何処でお世話になってるんだ?お世話になっている人に俺も挨拶しとこうと思ってさ」

 

士道が言うと、真那は返答に苦しむかのように言葉を濁した。

 

「えーっと、その………全寮制の職場で働いていて、そこでお世話に………」

 

「―――は、働いてんのか!?真那は琴里と同じ年くらいだろ!?学校とかはどうしてんだよ?」

 

士道の問いに真那は先ほどまでとは様子が明らかに変わっていた。先ほどまで琴里と言い争っていた時や、最初に士道と話していた時とは違い、今の真那は挙動不審だった。

 

「と、とにかくお邪魔しました!に、兄様、ハーレム王を目指して頑張って下さい!真那も応援していますから!!」

 

ガチャっ…………

 

真那は一目散に五河家を飛び出した。そんな真那を見て士道は怪訝に思っていた。

 

『はぁ…………結果は選抜優勝校の勝利で終わった。地方大会では、番狂わせは起きないか…………』

 

スマホでの試合が終わり、ドライグが試合結果にため息を吐いていた。―――最近ドライグはスランプなのか肝心なところでは全く役に立っていない。

 

「まだ言うか!!このポンコツドラゴン!!」

 

 

 

 

――◆――

 

 

 

 

キーンコーンカーンこーん…………

 

「みなさん、おっはよーございまーす!今日も足下が悪い中、元気に登校してくれて先生は嬉しいです!」

 

タマちゃんがチャイムと同時に室し、ホームルームが始まる。―――ちなみに外は雲ひとつない快晴だったが、タマちゃんは寝ぼけていたのか場違いなセリフを述べていた。

 

「狂三のやつ登校二日目で欠席か」

 

十香が隣の席を見て狂三が来ていないことに声を漏らす。士道がそれに気付いて十香の隣の席に目を配ると、確かに狂三が来ていなかったのだ。

 

「………彼女はもう来ない」

 

士道が怪訝に思っていた時、折紙が隣からボソッとタマちゃんには聞こえない声で呟いた。士道はその言葉の真意を知ろうと折紙に訊ねる。

 

「―――来ないってお前………どこぞのリリカル☆マジカルな白い衣装に身を包んだ魔王様のように、狂三にO☆HA☆NA☆SHIをしたわけじゃねえよな…………もしそうなら、マジで不登校になるレベルだぞ?」

 

「………そんなことはしていない。けど、()()はした」

 

「―――うん、今度狂三に謝ろうな?」

 

昨日のことがよっぽど気に入らなかったのか、折紙は突っ走ったと士道は考えていた。

 

 

 

―――だが…………

 

 

 

「もう!時崎さん、遅刻ですよ!?」

 

タマちゃんが狂三の名前を呼んだ時に士道たちは一斉に狂三の方を見た。士道は折紙が『処理をした』という言葉に狂三を心配していたが、狂三には目立った傷はなく、普通に登校して来たのだ。

 

「………すみません、登校中に少し気分が悪くなったもので」

 

「だ、大丈夫ですか!?すぐに保健室に―――」

 

狂三の言葉にタマちゃんが心配をするが、狂三は「心配いりませんわ」と言ってタマちゃんを安心させた。

安心したタマちゃんとは正反対に折紙は鳩が豆鉄砲を食ったように席から立ち上がり、動かなくなっていた。

 

「…………折紙?一体どうしたんだ?」

 

「どうして―――彼女が…………」

 

「お前一体何をやったんだ!?」

 

――♪♪♪ と〜あるく〜にの隅っこに〜おっぱい大好きドラゴン住んでいる――

 

『―――ゴハッ!?おい相棒!!着信音をなぜその歌にした!?』

 

士道が折紙に聞き出そうとした時、士道のスマホに電話が入る。

………相手は琴里だった。士道は風の如く教室を出て電話に出る。

―――その着信音を聞いたドライグは盛大に吐血した。

…………なぜこの歌が着信音になっているかというと、ソロモンが士道のスマホにイタズラをしたからだ。そのイタズラのおかげで士道のスマホは他の機種に比べてもスーパーなスマホへとグレードアップしたというのは、また別の話だ。

 

「ん?琴里か、一体どうしたんだ?」

 

『士道、昼休みに物理準備室に来なさい、見せたいものがあるわ』

 

「………分かった。十香と飯食ったらすぐに行く―――っておい!?狂三さん、あなた一体何を!?」

 

士道が琴里と電話をしていた時、狂三が士道の耳に息を吹きかける。士道はびっくりして狂三と距離を取る。

 

「士道さん、ホームルーム中に電話はダメですわよ?」

 

「………そ、そうだよな。すぐに戻るよ」

 

それだけを伝えると狂三は教室に戻っていった。そしてすぐに電話の方へと意識を向けた。

 

「―――すまん琴里、言いたかったのはそれだけか?」

 

『………士道、今話していたのは狂三なの?』

 

深刻そうに訊いてくる琴里に士道は琴里が口にした人物を肯定する。

 

「そ、そうだけど………何かあったのか?」

 

『―――兎に角、昼休みに物理準備室に来て。その時に昨日何が起こっていたかを話すわ』

 

ぷ、ツー、ツー…………

 

琴里との電話はこれにて終了した。士道は昼休みになるまで授業に集中することにした。

 

昼休みに物理準備室で士道が見ることになる光景が、想像を絶する地獄絵図だということは、士道は想像することなど、出来なかった。

 

 

 




★おまけ

琴里は士道の言った『丼にして食べたい」と言った言葉に妄想を膨らませていた。
※これは琴里の妄想である。

士道「さあ真那、琴里。———服を脱ぐんだ」

真那「はい!兄様」

豪快に服を脱ぎ捨てる真那だったが、琴里は恥ずかしそうに戸惑っていた。

琴里「ちょ、ちょっと待ちなさいよ士道!いきなり服を脱ぐの!?」

士道「当たり前じゃないか、服を脱がないと、お前の綺麗な体が見れないじゃないか。———琴里が着たままがご所望なら俺はそれに答えるぜ••••••あ、それとも俺が脱がせてあげようか?」

琴里「そ、そうじゃなくて•••••私たちその、兄妹だし••••」

士道「琴里、返事は『はい』or『YES』の二択だ。俺がたっぷり愛してやるから覚悟しろよ?」

琴里「ちょっと待ってぇぇぇぇぇぇ!!」

士道はまず琴里から美味しくいただいた。

琴里「ぐへ、ぐへへへへへへ!大好き、おにーちゃん!」

琴里は重度のブラコンを発症した。


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五話 するべきことはいつも一つ!

※お詫び

次元の守護者との修行内容を書こうと思ったのですが、この話では書けませんでした。

ですので、修行は次回に回そうと思います!

期待に添えることが出来ず、本当に申し訳ございませんでした。

※内容を一部追加しました。


キーンコーンコーンコーン………

 

授業が終わり、お昼休みとなった。十香が笑顔で机をドッキングする。

 

「シドー、昼餉だ!」

 

「そうだな、飯にするか」

 

士道と十香の二人は仲良くお弁当箱を出し、昼食を摂る。士道と十香のお弁当は昨日のハンバーグの残りが主役のハンバーグ弁当だった。

 

「………しっかし、二人きりで弁当なんて久々だよな。桐生は部活で三時間目の休み時間に飯食ってたし、折紙は所用だと言って出て行ったし………なんか休日みたいだな」

 

十香が来禅高校に転入をした最初の数日は、士道と二人で昼食を済ませていた。殿町を始めに、それから折紙が強引に机をドッキングしたり、桐生藍華が「アタシも一緒に食べる」などと言って、メンバーに加わったりと、士道の昼食の時間は今では十分と賑やかになった。

…………しかし、十香は折紙と桐生藍華の名前が出たことになぜか不機嫌になっていた。

 

「―――シドー、嫁である私がいるというのに、他の女の話をするとは何事か?今はだな、私のことだけを考えていればよかろう」

 

プイッと顔をそらした十香ちゃん。………十香の気持ちも分からなくはない。二人っきりの時は自分だけを見て欲しいというのが乙女心というものだろう。

 

「ゴメンな十香。俺が十香の気持ちを察してあげられなかったよ。―――ほら、あ〜ん」

 

「あ〜ん!」

 

例え周りから視線を感じていようがこのバカップルは御構いなしのようだ。―――しかし、士道のクラスである二年四組では、士道と十香のカップルを見習って堂々と『あ〜ん』と食べさせあいをするカップルが続出している。

まさにバカップル効果と言ったところだろう。

 

「「ごちそうさまでした!!」」

 

士道と十香はご飯を食べ終わり、手を合わせて食後の礼をした。そして、士道は教室の扉に触れて外へと向かう。

 

「………シドー、何処へ行くのだ?」

 

十香が士道に訊ねる。―――十香はもう少し士道と話がしたかったのか、その表情はどこか儚げだった。

 

「琴里と令音さんのところだよ。―――ちょっと呼び出しを食らってな………午後の授業までには戻ってくるよ」

 

「そ、そうか…………」

 

士道は教室を出て、令音と琴里の待つ物理準備室へと足を進めた。

―――果たして、士道は何を見ることになるのか?

 

 

 

 

 

 

―――…………………

 

 

 

 

 

ガラララララッ………

 

物理準備室の扉を開けて、中へと入る。

 

「随分と遅かったじゃない士道」

 

物理準備室のモニターの前で椅子に座ってチュッパチャプスをなめている司令官の琴里が、入室してきた士道を一瞥する。

 

「…………そう言うべきではないさ。シンは十香の不安を少しでも減らしたかったのだろう…………だから十香と昼食を済ませてからここに来た―――違うかい?」

 

「令音さんには敵いませんね………恐れ入ります」

 

令音は士道の心を完全に読み取っていた。令音のことは士道の相棒であるドライグも頼りになると認めている。

令音は空中艦『フラクシナス』の中でも優秀な人材だ。

 

「…………それでは、本題に入ろう。これを見て欲しい」

 

カチカチッ………

 

令音が物理準備室のパソコンのマウスをクリックして、とある映像をモニターに映し出す。その映像は、住宅街の路地裏で青髪ポニーテールの少女真那と、とある少女が向かい合っていたからだ。

 

「あれは真那………と狂三か―――いや、それだけじゃない!折紙に―――ASTまでいやがる!!一体どうして!?」

 

「どうしても何も、精霊が現れたら駆除をするのがASTの仕事じゃない」

 

士道は喉から声を絞り出した。陸自の対精霊部隊が上空で待機し、全員が遠距離攻撃用のスナイパーライフルを構えていた。

 

「―――昨日って避難警報出てないだろ!?あの連中は、目的を達成するためなら、なりふり構わずって事かよ!万が一近隣住民に被害でも出たらどうするつもりなんだ?」

 

「ASTはあの精霊を始末できる自信があったんじゃない?いや、確信と言った方が良さそうね。―――見て見なさい、戦闘態勢に入ったわ」

 

真那が対精霊用の武装『CR―ユニット』に身を包むと、狂三もそれに合わせるように腕を天に掲げ、黒い何かが狂三の体を包み込む―――頭部を覆うヘッドドレス、胴部を締め上げるコルセットに、装飾が多いフリルとレースで飾られたスカート、そして髪は二つくくりにされていた。

その姿は―――まさに、霊装を纏った精霊そのものだった。

 

「ッ!!―――嘘、だろ…………」

 

ズビィィィィィィィッ!と言う音が響き渡ると同時に狂三の胸部に風穴が開き、狂三は地面に倒れた。

―――音の正体は真那が放ったあらゆるものを貫通するプラズマビームだった。

狂三はもう一度立ち上がるが、真那は無慈悲にも同じ箇所にプラズマビームを掃射し狂三を完全に倒した。

その時間は両手で数えられるほどの秒数だった。

士道はこの光景に自分の目を疑うことしか出来なかった。

 

「―――ッ!!真那の野郎、なんてことをッ!!」

 

ザシュッ!グシャアッ!ビシィッ!バリッ!

 

肉が切り刻まれる音が物理準備室に響き渡る。

―――真那が狂三の体を光の刃でズタズタに斬り裂いたからだ。首、腕、足、そして胴とまるで紙を切るように、無表情で淡々と行ったからだ。真那は最後に狂三の体を()()()()()()()()()で肉体を燃やし、消滅させた。士道はこれを見てただ拳を握りしめていた。士道の手からは血が流れ出るほど強く握られていた。

令音は士道の様子を見て優しく声をかける。

 

「………シン、落ち着くんだ。キミが何に対して感情を抑制しているのかは私にも痛いほど分かる。―――誰よりも優しいキミだ。こんな光景を見せられて黙っていられるほど、薄情な人間じゃないことは理解しているつもりだ」

 

「令音さん………驚かせてしまい、申し訳ありません」

 

令音の言葉に、士道はその身に纏っていた赤いオーラを消した。士道から放たれるオーラが消えたことを確認すると、令音と琴里はホッと胸をなでおろす。

 

『………しかし、これが現実だとするのであれば、今朝しれっと他人事のように登校してきた時崎狂三は一体何者なのだ?

―――あの小娘は精霊だ。()()()()()()()()()の力でも持っているとしたら説明が効くがな』

 

―――ドライグが士道の左手の甲から光を点滅させて琴里と令音に訊ねる。確かに、ドライグの言う通りだ。彼女は士道の実妹である崇宮真那に殺害された。

しかし、その狂三が今朝遅刻はしたものの、真那にやられた外傷も綺麗さっぱり消えており、特に変わった様子はなく登校してきたからだ。

 

「…………私たちもなぜ狂三が生存しているかは分かっていません。………精霊という種族は天災とも呼ぶべき理不尽な存在です。ドライグさんが仰られるように、狂三が何か特殊な力を持っているとしか私たちも理解していません」

 

「………一ついいかな?『赤い龍』ア•ドライ•ゴッホ」

 

琴里は複雑な表情でモニターを見つめていたが、令音は手を挙げて令音に問う。

 

『―――何が聞きたい?村雨令音』

 

「………あなたは先程、『不死ではなく不死身の力』と言った。不死と不死身は一緒ではないのかい?」

 

『確かに「不死と不死身」は意味としては“死なない”と言う意味だ。しかし、『不死と不死身』がそれぞれに意味することは()()()()()()()()()()()

 

ドライグの解答に令音だけでなく、琴里も頭を混乱させていた。その様子を見たドライグは分かりやすい簡単な例を挙げる。

 

『―――お前らの頭でも分かるように言うなら、相棒が「不死」で時崎狂三が「不死身」だ。

―――相棒の場合は、スナイパーライフルに脇腹をぶち抜かれた時や、氷の刃に全身を貫かれた四糸乃救出の時も、相棒はまだ()()()()()()()()()。理由は簡単だ()()()()あの焔が相棒の体を修復したからだ―――いつからかは知らんが、あの焔を宿した時から相棒の体は、死ぬことのない体になっている』

 

今ドライグが話した内容は『不死と不死身』の前者である『不死』を意味する士道のことだった。

次にドライグは後者の例、『不死身』を意味する時崎狂三について話し始める。

 

『次は時崎狂三だ。あの小娘は昨日の夕方に一度完全な死を迎えている。肉体をバラバラにされ、最後に体を消滅させたからな―――しかし、今朝何も変わらない様子でしれっと登校してきたのだ…………そう、あの小娘は()()()()()()のだ。つまり、あの小娘は()()()()()()()()()()()()と言うことだ―――俺から言わせて貰えば、相手にするなら「不死」よりも「不死身」の敵の方がずっとやりづらいだろう。相棒のように優しい心の持ち主だと殺すたびに心が摩耗し、そのうち心が崩壊するだろうからな…………』

 

琴里と令音もドライグの言葉を聞いてようやく『不死と不死身』の違いを理解したようだ。

しかし、ドライグの説明を聞いた士道は今までと変わらず、前だけを見つめていた。

 

「………とは言っても俺がやることは変わらないさ。俺が狂三を救えば良いだけだろ?狂三が生きている以上は俺のやるべきことは変わらない。俺が狂三を攻略すれば真那にも、AST達も狂三に手を出せなくなるからな」

 

『確かにその通りだが、相棒はあの女に狙われている。昨日、食われそうになったことをもう忘れたのか?』

 

「………俺は二天龍の赤龍帝だ。例え狙われているとしても、救うべき存在を目の前にして逃げるなんて真似はできねえよ。そうなりゃ、歴代の先輩達にいいように笑い話のネタにされるだけだからな………狙われていることを利用して、逆に狂三をデレさせてやる!」

 

士道の覚悟は揺るぎないものだった。士道の心の中は狂三を絶対に救いたい。そして、真那にこれ以上狂三を殺すような真似を絶対にさせないという強い想いで満ちていた。

その覚悟を聞いた琴里は、待ってましたと言わないばかりに士道の背中を押す。

 

「よく言ったわ!それでこそ私のおにーちゃんよ!明日は開校記念日で休みだから、デートをするにはもってこいだわ」

 

琴里の言う通り、明日は開校記念日で学校は休みとなっている。狂三とデートをするにはこの上ないチャンスだった。

 

「―――よし、そうとなれば作戦タイムだ!待ってろよ狂三!俺が絶対に、お前のその綺麗な体を拝んでやるぜ!!ぐへへへへへへへへへへへへへへへへッ!や、ヤベェ!妄想が………妄想が止まらねえぞおおおおおおおおおッ!!」

 

『うおおおおおおおおんん!!うわあああああ!!うおおおおおおおおんん!!』

 

完全にラスボスを彷彿とさせる醜悪な笑みを見せる主人公の士道くん。―――女性からしたら彼は倒すべくラスボスのような存在だろう。

相棒がこんなドスケベならば、ドライグも大泣きする以外に、自分の感情を表現する方法はないだろう。―――狂三の恥ずかしい姿を妄想している士道をさらに乗せるように令音が提案をする。

 

「………シン、もしキミが狂三の霊力封印に成功した暁には、私がキミの背中を流してあげよう。シンは女性の裸が大好きなのだろう?」

 

「―――この五河士道、全身全霊を以って時崎狂三の霊力の封印することを誓います」

 

『ゴボボボボボボボボボボボボボボ………………』

 

令音の言葉に、士道は間髪入れずに跪いて宣言をした。ドライグはついに精神が限界になり、泡を吹いて気絶をしてしまった。

 

「結局はそれがお目当てか!このおっぱいドラゴンッ!!」

 

「―――アジ•ダハーカッッ!!」

 

ドガッ!!

 

結局はスケベなことしか考えていなかった士道に琴里は顎に膝蹴りを食らわせ、士道を宙に浮かせた。

―――士道は琴里と令音の二人と明日のプランを念入りに話し合い、作戦を立てていた。

 

一通りのデートプランが決まった士道は物理準備室の扉を開け、教室へと向かった。

 

「―――あ、もう15:30か…………やべぇ、午後の授業全部サボっちまったな。…………まあ、良いってことよ」

 

すでに放課後になる時間だった。士道は全力疾走で教室まで戻った。タマちゃんが来る三秒前に、なんとか教室に戻ることができた五河士道くんなのであった。

 

 

 

 

 

 

――◆――

 

 

 

 

「………あらあら、こんな所にわたくしを呼び出して一体どうしたんですの?わたくし、まだお昼を食べてないのですが………」

 

士道が物理準備室に向かった頃に、もう一つのやりとりが行われていた。

太陽が中天に登る頃だが、電気が付いてなくカーテンが閉められた部屋だと、外とは真逆で暗闇に覆われている。

そんな音楽室に精霊を名乗る狂三ともう一人の少女がいた。もう一人の少女が狂三に問いただす。

 

「―――あなたは昨日死んだはず………どうして生きている?」

 

もう一人の少女はASTに所属する鳶一折紙こと折紙だ。折紙は今朝からずっと噛み合わない矛盾を狂三に問いつけた。

すると、狂三の眉がピクリと動き、折紙の言葉の意味を理解して口を開く。

 

「―――ああ、ああ。…………あなたはもしかして昨日真那さんと一緒にいた方ですの?」

 

「―――っ!!」

 

折紙は狂三が答えた言葉を聞いた時だった。

折紙の全身に悪寒が走り、折紙は慌ててその場から飛び退く!

折紙の体は危険信号を送ったのだ。

 

 

 

しかし―――……………

 

 

 

「はっ―――これは…………っ」

 

飛び退いた折紙だったが、足元から飛び出した無数の腕が折紙の足首を掴み、折紙を動けなくする。

飛び出した腕は、さらに折紙の腕や首を掴んでそのまま後方の壁へと貼り付けにした。

折紙は懸命にもがくが、それは無駄な努力となった、

 

「きひ、きひひひひひっ!なんとも無様ですわねぇ―――わたくしとの接触を図るために、人目につかない真っ暗な場所を選び、自ら危険な罠に飛び込むなんて……………素晴らしい自己犠牲の精神ですわねぇ」

 

「……………………」

 

折紙は悔しさの余り、歯をギリギリと鳴らしていた。

狂三が精霊だと分かっていたにも関わらず、これと言った対策をせずにまんまと罠にハマってしまったからだ………

折紙は締められている首から声を絞り出す。

 

「あ、あなたは……………一体何が目的なの…………うっ!」

 

首を絞める力が強くなり、折紙は苦悶の声を漏らす。折紙の言葉を聞いた狂三は口の端を釣り上げ、身の毛もよだつ笑みを見せる。

 

「………一度学校に行ってみたかったというのも嘘ではありませんが、わたくしの一番の目的は―――貴方が想いを寄せる士道さんの力を手に入れることですわ」

 

「―――ッ!!」

 

狂三の狙いが士道だと聞いた折紙は呆然とした。―――士道を助けなくては…………士道を守らなければ………と。

今までは明らかに違う反応を見せた折紙に狂三の笑みはさらに醜悪さを増し、折紙にとってはこれ以上は見るに耐えないものだった。

 

「わたくし、知っていますわよ?十香さんと同じく折紙さんが士道さんに劣情を抱いていることを…………ですので、十香さんと折紙さんをこうして身動きが取れなくしてから目の前で滅茶苦茶に犯すというシチュエーションも良いですわねぇ!―――だあぁい好きな人が目の前でわたくしのものになる所を何もできずただ見ている事しかできないという無力さと絶望を噛みしめるなんて………どれほど魅力的な体験なんでしょう?

―――ああ、ああ!!想像しただけでゾクゾクしますわぁ!」

 

「―――!!―――!!」

 

狂三の言葉に折紙が押さえつけていた感情が解放された。

彼女は怒り狂って大暴れをするが、口を塞がれて無数の腕は腰と脇にも絡みつき、再び壁に貼り付けにされる。

口を塞がれているため、折紙は塞がれている手の中で音を立てて怒りを露わにする事しかできなかった。

 

「きひ、きひひひ、きひひひひひひひっ!折紙さんの今の顔はたまりませんわぁ〜!深い絶望の中を這いつくばるようですわぁ。―――今の折紙さんの顔を士道さんが見たらどう思うのでしょうか?」

 

「ッ!?―――ゲホッ、ゲホッ…………」

 

狂三は折紙を玩具のように弄んでいた。折紙は悔しさのあまり、目が潤っていた。

折紙を弄ぶことに満足した狂三は縛っていた折紙の体を解放した。折紙は床に両膝をつき、苦しそうに咳き込んだ。

 

「さて、わたくしはこれで失礼させていただきますわ。折紙さん、せいぜい足掻いて下さいましね?―――まあ、無駄な努力でしょうけど…………」

 

狂三は暗闇がかかった音楽室の扉を開け、光がある校内の廊下へと出て行った。

 

「―――士道…………っ」

 

折紙は拳を握りしめ、歯を噛み締めていた。狂三によって折紙の心は深刻なダメージを負った。

しかし、折紙は狂三から士道を守ると決めて、立ち上がった。

それが例えどれだけの地獄を見ることになっても、折紙は逃げないことを決めていた。

 

 

 

 

――◆――

 

 

 

 

士道が物理準備室のドアを開けて教室に向かった時間から少し戻り、時刻は14:40。

一日の最後の授業が始まる時間だ。今日はたまたま先生が体調不良で早退し、この時間はたまたま自習となった。

隣の席を心配そうに眺めている美少女がいた。

 

「―――シドー…………」

 

精霊『プリンセス』こと十香だ。

十香は『午後の授業には戻る』と言った士道が全く帰ってこないことが心配で心配で仕方なかったのだ。

 

「どうしたの十香ちゃん、五河とケンカでもしちゃった?」

 

士道の前の席に座っている桐生藍華が十香の顔を覗き込んだ。十香は首を横に振り、話し始める。

 

「………そうではないのだ。シドーが令音の所に行ってから帰って来ないのだ。シドーに何かあったのかと思うとなぜかこう―――胸が潰れそうになるのだ………」

 

十香にとって五河士道という人物は心の拠り所となっている。十香が士道に好意を抱いているという事実もあるが、それ以上に人間の世界に来て右も左も分からなかった自分に、笑顔で手を差し伸べて幸せな生活を送らせてくれた恩人でもあり大切なパートナーだからだ。

心配の余り十香は瞳が潤っていたが、桐生が優しく十香の頭に触れる。

 

「―――五河のことなら心配無いわよ。アイツは十香ちゃんとの約束破ったりしない。それでも帰って来れなかったってことは何か外せない用事があっただけよ。自分の大切な家族にこんな顔をさせて帰って来ないはずなんてないわよ。

………それに、十香ちゃんが信じてあげなきゃ、一体誰が五河を信じてあげるのよ」

 

「桐生…………すまない、本当にその通りだ。―――私はどうしてこう心配性なのか…………この前ドライグに釘を刺されたばかりなのにな。また何か言われるかもしれん………」

 

十香は目をこすり、溜まっていた雫を拭った。

確かに十香は士道のことが気になって仕方がない。だが、桐生藍華が言ったように、士道が戻って来ることを待つことにした。

 

しかし―――事態はこれで収束するかと思われたが、水面下でとんでもないことが始まろうとしていた。

 

「………けどまあ、こんな美少女に涙ぐませるなんて言語道断ね―――みんなもそう思うでしょ?」

 

桐生藍華の言葉にクラスメイト達も聞いていたのか、静寂が訪れていた二年四組が、祭りの騒ぎを彷彿とさせるように盛り上がりをみせる。

 

「そうだそうだ!五河の野郎、十香ちゃんを泣かせるなんて最低な野郎だ!」

 

「何かキッツイお仕置きが必要ね!」

 

「―――ここは、お詫びのキス以外ないでしょう!」

 

「マジ引くわ〜」

 

ガヤガヤガヤガヤと騒ぎ立つ二年四組。本来なら教員が「お前ら授業中じゃ!静かにせんかいこのボケがッ!!」などのお灸を据えにやって来る筈なのだが、一組と二組は体育の授業でいない。また、三組は美術の時間のため移動教室のため三組は誰一人としていない。

そのため彼らはやりたい放題できるということだ。

 

「―――決まりね。アンタたち、放課後『ごめんなさいのキス大作戦』を決行するわよ!」

 

『おーっ!!!!!!』

 

クラスに戻ればとんでもない罠が待ち構えていることも知らずに、令音と琴里の二人で狂三とのデート大作戦を考えていた士道くんなのであった。

 

 

 

 

 

―――……………

 

 

 

 

 

ジーーーーーーーーーーッ……………

 

「―――うっ!?」

 

クラスメイトたち全員の視線が自分に集まっていることに、士道は思わず込み上がってきたものを吐き出すような声を出した。

それも当然だ。教室に入るなり全員にじっと見つめられれば誰だってこうなるだろう。

 

「ッ!!」

 

教室入り、自分の席に戻ろうとした士道だったが自分の胸を目掛けて走ってくる少女がいた―――十香だ。

すぐに士道は十香の心中を察し、優しく十香を抱きしめた。

 

「―――ゴメンな十香。午後の授業には戻るって言ったのに戻ることが出来なかった…………本当にゴメン」

 

「シドー………」

 

士道の胸から顔を上げた十香は本当に寂しく思っていたのか、目に涙を溜めていた。

その時いやらしい笑みを浮かべながら二人だけの空間に近づく怪しい影があった。

 

「―――さあ五河、男を見せる時が来たわよ♪」

 

怪しい影こと桐生藍華が士道の肩をポンと叩く。士道はジト目で桐生藍華を見る。

 

「…………俺に何をしろっていうんだよ?」

 

「―――え、そりゃ十香ちゃんにゴメンなさいのチューでしょ?逆にそれ以外に何かすることってあるの?」

 

いやらしい笑みを消して真顔で士道に伝える桐生藍華。この女は、自分のスマホを取り出し動画を撮る準備をしているのだ。

 

しかし!士道の味方は誰もいない。外野もみんな『キース!キース!キース!キース!』と手を叩いてお祭り気分になっているからだ。

どのようにしてこの状況が作られたかを悟った士道は桐生藍華に詰め寄る!

 

「―――こ、この野郎!仕組みやがったな!!」

 

士道の言葉をもろともせずに桐生藍華は士道が慌てふためく様子を見て楽しむようにケラケラと笑っている!

―――この女まさに悪魔だ!

 

「十香ちゃんを心配させるアンタが悪いのよ。―――ほら、さっさとぶちゅうううってしちゃいなさいよ♪ホームルームの時間になってタマちゃんが来たらややこしくなるじゃない」

 

「とりあえずお前はそのスマホを片付けろ!ていうかお前らもムービー撮ってんじゃねえええええええ!!」

 

クラスメイトたちは全員がスマホを出し、士道と十香の熱いラブシーンを心待ちにしている!!

十香が恥ずかしそうに目をそらして消え入りそうな声を出す。

 

「は、早くせんかバカモノ………」

 

『………相棒、覚悟を決めろ。ここで逃げたら末代の恥になるぞ?』

 

周りに味方はいなかった。相棒のドライグですらこれだった。士道は覚悟を決め、十香の両肩を掴む!

 

「―――ああもう!!わかったよ!じゃあ行くぞ十香ッ!」

 

士道が決心をして十香とキスをしようとした時―――二人の唇は何者かの手で覆われた。

 

「―――こんな公衆の場で一体何をしようとしているの?」

 

「お、折紙!?」

 

そう、折紙だ。そして、それだけではない。担任のタマちゃんが既に教室内に入って来ており、怒号が響き渡る。

 

「何をさせようとしとるんじゃおんどれがッ!!神聖な教室をなんだと思っとるんじゃあ!!桐生さん!!それから五河くんと夜刀神さんにこんな恥ずかしい事をやらせようとした奴らは全員居残りじゃボケェッ!!全員生徒指導室行きじゃゴラァッ!!」

 

タマちゃんはキレるとヤンキーになるのだ。タマちゃんは元不良で、高校時代は手のつけられない札付きの問題児だったとか言う噂がある。

…………噂が現実となったが、桐生は慌てて事情を説明する。

 

「タマちゃん先生、これには訳があります―――五河が十香ちゃんとの約束を―――」

 

ドガアアアアッ!!

 

桐生の言葉を遮るかのようにタマちゃんは教卓に強烈なカカト落とし!

命中した場所は物の見事に粉砕されており、辺りに破片が飛び散っていた。

 

「やかましいわこのボケがッ!!それで謝罪としとの公開キスを求めるなんざ神が許してもアタイが許さんわああああああっ!!彼氏がいないアタイの前で、他人にイチャコラを強要する野郎は制裁じゃゴラアッ!!お前らの根性をアタイが叩き直したらあッ!!」

 

―――こうして、主犯の桐生藍華を含めた士道と十香、して狂三と折紙以外のクラスメイトは、生徒指導室行きが決定した。

 

『そ、そんなぁ〜』

 

悪いことをすれば、必ず報復があると昔から言い伝えられているが、桐生藍華とクラスメイトたちにも、このことはいい薬となったことだろう。

 




五河士道はどこまでいってもおっぱいドラゴンです。

タマちゃんのヤンキーモードはこれからもちょこちょこと出てくると思います。


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六話 デートの前日です!

前話のタマちゃんのヤンキーについては誰も触れないと思っていたのですが、それについて感想を書いていただけたことにびっくりしています。

いつも感想を書いていただき、ありがとうございます!


「あ、狂三。ちょっといいか?」

 

放課後になり、廊下を歩いている狂三に士道は声をかける。狂三は士道の方を振り向く。

 

「あら、わたくしに何かご用ですの?士道さん」

 

「………明日は開校記念日で休みだ。狂三はその―――明日は暇だったりするか?狂三さえ良ければ俺が街を案内しようと思ってさ………」

 

士道が言った言葉に狂三は一旦足を止め、頭の中を整理していた。そして――――士道の言葉の真の目的を理解した狂三は頬を赤くし、人差し指をアゴにつける。

 

「えーと、それはつまり―――デート………のお誘いですか?」

 

狂三の確認に士道は恥ずかしそうに咳き込み、視線を狂三から逸らした。直球的な表現を避けていた士道だっだが、狂三はそんな士道を物ともせず、ド直球に述べたからだ。

 

「まあ、平たく言えばそうだな………その、どうかな?」

 

未だに恥ずかしそうにしている士道だったが、狂三の顔は光り輝く虹のように明るくなった。

 

「もちろん!光栄ですわ!」

 

狂三は士道のデートの誘いを快諾してくれた。士道は嬉しそうに微笑んでいる狂三をみてホッと胸をなでおろした。

 

「良かった………じゃあ、明日の十時半に天宮駅の改札前の広場を待ち合わせ場所にしようと思うけど、どうかな?」

 

「ええ、わたくしは構いませんわ。士道さん、楽しみにしてますわ!」

 

狂三は士道にぺこりと一礼すると、ルンルン気分で廊下を歩いて行った。

 

『………今のやり取りを見る限りでは、夜刀神十香と同様にチョロそうだが、あの小娘は何を考えているか全く理解できん。相棒、明日のデートはそれなりに覚悟を決めておけよ?夜刀神十香の時のような命のやりとりがあるかも知れん………』

 

ドライグの忠告に士道は息を飲んだ。先日の屋上での出来事がそれを物語っているからだ。

それでも、士道はそうならないように狂三も自分も楽しく思えるデートにしようと考えていた。

―――全ては狂三をデレさせるために………そして、霊力を封印し真那やASTの魔の手から狂三を救うために………

 

「狂三、今度こそ俺が救ってみせる………」

 

自分の想いを現実にしようと士道は拳を握り、天に掲げた。その時、士道は背後から何者かに両肩を掴まれる。

 

「―――時崎狂三と何を話していたの?」

 

「うわあ―――って折紙か………」

 

折紙が怜悧な瞳で士道を見つめる。今士道は折紙に両肩を掴まれている状態だ。

 

「………いや、大したことじゃない」

 

「答えて。これは非常に重要なこと―――」

 

折紙は口を割ろうとしない士道に、廊下の壁に士道を押し付け、さらに逃げられないように士道の顔を挟み込むように両手を廊下の壁につける。

―――今士道は折紙に壁ドンをされているのだ………

 

「本当に大したことじゃ―――ウッヒョおおおおっ!!」

 

逃げようとする士道を見た折紙は、士道の手を自分の胸へと押し付けて触らせた。

―――士道くんの現状は片腕を折紙に握られ、自分の胸へと押し付けられてる状態だ。

士道は鼻の奥から溢れそうになっている熱いモノを空いてる手で塞いだ。

 

「………何を話していたかを教えてくれたら、この場で()()()()のことをしても構わない。

―――士道、全てを話して楽になって。その後は、私のお腹に愛の結晶が出来るまで何度も励もう。これは士道にとっても私にとっても有益な取引。士道も私も気持ち良くなれる」

 

―――完全な犯罪チックなことを述べている折紙。士道もそうだが、折紙もこの手のことには自分に正直なのか大胆すぎるのか、自分がしていることが校則違反だとは全く思っていないのだろう。

 

『―――ゴホンッ!楽しんでいるところに邪魔をして悪いのだが………相棒、そろそろ現実を見た方がいいぞ?怖い怖い魔王の霊力が完全に逆流する三秒前と言ったところだぞ?』

 

ハッ………と慌てて周りを見渡すと、ドライグが懸念した通りのことが起きていた。

全身から不機嫌なオーラを放出させ、霊装を具現化させようとしている十香の姿が………四糸乃とのデパートでの出来事を再現しているかのようだった。

士道は折紙の胸から手を離し、両肩を掴んで強引に拘束を振り切る。

 

「―――鳶一折紙………今すぐ私のシドーを返せ」

 

「す、すまん折紙!十香を待たせて―――おおっ!?」

 

ドサッ!!

 

走って逃げようとする士道に折紙は足をかけて転ばせる。そして士道の背中に座る。

 

「―――ダメ、行かせない。士道は今日から私の家に住んでもらう」

 

士道の背中から全く離れようとしない折紙を見た十香は、顔を茹でたこのように真っ赤にしてどえらいことを叫ぶ!

 

「―――ええい!こんな破廉恥なことは言いたくはなかったがやむ終えん!し、シドー!き、きき、今日は私が一緒にお風呂に入ってやる!私の体を好きにさせてやるぞ!!さあ、帰ってお風呂だ!」

 

十香の言葉で士道が抑えていたリミッターが解除された。そして―――………

 

「おっぱいジャンプッ!!」

 

「―――っ」

 

士道は両手で地面を強く押して、背中に座っていた折紙の拘束を振り払った。そして目にも留まらぬ速さで十香をお姫様抱っこにする!!

この男の頭の中は十香とのお風呂のことでいっぱいだった。

 

「よおし十香、今日はいっぱい洗いっこしようぜ!!じゃあな、折紙」

 

「待っ―――」

 

バビューンッ!!

 

士道は光の速さで階段を降り、下駄箱で靴を履き替えて家へと向かった。士道は『ぐへへへへへへへへへ』といやらしい笑みを浮かべながら音速に等しいスピードで、十香をお姫様抱っこをしながら天宮を駆け抜けた。

 

『………相棒、忘れているなら教えてやるが、今日はソロモンとの修行があるぞ?残念ながら夜刀神十香とのお風呂はお預けだな』

 

「―――そ、そうだったあああああああああああ!!!!!!」

 

ドライグの言う通り、今日の夜はソロモンたちとの修行があることを士道は完全に忘れていた。

ドライグの忠告で現実に戻った士道は『クソッタレェェェェェェェ!!』と雄叫びを上げてお預けになった十香とのお風呂を嘆いていた。

 

「………夜刀神十香、時崎狂三――――士道に群がるお邪魔虫は皆殺しにしてやる!!」

 

士道を十香に横取りされ、折紙が殺意に満ちていたのは、また別の話だ。

 

 

 

 

 

 

―――◆―――

 

 

 

 

「ふぃぃぃぃ―――折紙か………」

 

士道は家に着き、十香たちの夕食の調理を終えて修行に行く準備をしていた時、ふと部屋に置いていたスマホを見ると折紙からの電話の通知が何件も来ていたことに気付く。

 

そして――――………•

 

ピリリリリリリリリリリリリッ………

 

またまた士道のスマホに電話がかかってくる―――これもまた折紙からの電話だった。士道は通話のボタンを押して電話に出る。

 

「………折紙、そんなに何回も電話をして何かあったのか?」

 

『―――良かった、やっと繋がった………士道、あなたは一人になってはいけない』

 

「ほぇ!?」

 

士道が電話に出たことで、折紙は安堵の声を上げた後、突然に色々と理解に苦しむ言葉を残す。折紙からのメッセージに士道は眉間にシワを寄せ、頭の中で議論を繰り返していた。

 

『明日の午前十一時天宮駅の広場で待っている』

 

「すまん折紙、明日はどうしても外せない用事があるんだ。だから折紙の要求には答えられない」ガチャ………

 

士道は間髪入れずに返事を返すと、すぐに電話を切られた。

―――士道はそのことに罪悪感を感じていた。

 

「………あ、切られた。まあ、狂三との約束があるからシカタナイヨネ………」

 

………士道は折紙からの誘いを断らざるを得なかった。それは狂三との約束があったからだ。士道が避けたかったことは狂三の好感度を下げてしまうことだったのだ。

士道が選んだ行動をドライグも賛同のようだった。

 

(相棒、こればかりは仕方が無い………気にするなよ?一人で二人の女とのダブルデートをしようものなら必ず裏目に出て修羅場になるのが目に見えている。

それに、相棒がいま優先すべきことは時崎狂三の霊力の封印だ。鳶一折紙も話せばきっとわかってくれるさ)

 

「………そ、そうだよな!次に学校に行った時に土下座をして謝ればきっとわかってくれるよな!」

 

士道が折紙の誘いを断ったことは人としては正しいだろう。しかし、折紙がこれで引き下がらず、士道の行動の監視に出ようとしていたことは士道もドライグも読めてはいなかった。

 

 

 

 

 

 

―――◆―――

 

 

 

 

 

PM6:00となり、夕焼けが強く茜色に輝く頃の出来事だ。

士道はいつも通りジャージに着替え、来禅公園へと到着していた。今日はソロモンとヘラクレスだけでなく、もう一人の人物の姿があったことに目が向かった。

 

「………やあ士道くん、三日ほど空いたけど体を休めることは出来たかな?」

 

ソロモンが士道に問う。ソロモンたちとの修行は四糸乃救出後も行われており、三日前に士道はヘラクレスを相手に修行をしていたのだ。

 

「はい、無茶ばかりすると十香が全力で止めに来ますからね………ところでソロモンさん――――そちらの美女様は一体?」

 

士道はソロモンの言葉に軽い返事をすると、身長は士道よりも低く、神話で描かれている神様が纏うような衣を身を包み、長い金髪を後ろで一つくくりにし、翡翠の瞳を両目に持った絶世の美女に士道の視線は釘付けになっていた。

そして―――士道はその美女の胸部に視線を凝視していた。衣の中に山があるように思わせるほどの巨乳の持ち主だった。

 

「………士道くんは彼女と直接会うのこれが最初だったね。彼女の名前は『アテナ』だ」

 

「――――――――ハッ!?す、すみません。ちょっと眺めていただけというか何というか………五河士道です、よろしくお願いします」

 

士道くんの大好物はおっぱいだ――――基本的には小さいのも好きだが、やはり彼の大好物は大きなおっぱい『巨乳』だ。アテナの豊かなおっぱいは、リアス•グレモリーや姫島朱乃にも匹敵するほどの巨乳だったのだ。

 

「………あ、アテナです。よ、よろしく………」

 

アテナは鼻の下を伸ばし、鼻血を出しながら胸ばかりを見つめる士道に目元をヒクつかせていた。

いきなりマイナスの印象を持たれた士道くんだった。

 

「―――さて、お互いに自己紹介をしたことだし、早速始めようか………士道くん、今日はアテナがキミの修行相手を務める。キミとって彼女は、僕やヘラクレスよりもやりづらい相手になるだろうね」

 

「………分かりました、全力で挑みます」

 

士道が片足を引き半身で構えた時、来禅公園は真っ白な空間に包まれた。

 

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

 

お馴染みの真っ白な空間が来禅公園を包み込んだ後は、修行の定番であるスパーリングの時間となった。

士道は自然体で構えるアテナを見て、違和感を感じていた。

 

(………この人からは気が全く感じ取ることができない?でも、それとは逆に圧倒的なプレッシャーはビシビシと伝わって来やがる………)

 

士道はアテナの気を掴むことが出来ていなかった。それはつまり気の流れが全く見えないということだった。

士道はこれまでソロモンやヘラクレス。そして十香との剣術の修行の時は魔力や闘気―――力の本流を読み取って攻撃を読んでいたのだが、アテナから放たれる力は()()()()だった。

しかし、士道の体は全身の毛が立つほどのプレッシャーを受けていた。

 

「――――『神槍•アイギス』」

 

バチッ!バチチチチチチチッ!!

 

アテナは亜空間に手を入れ、けら首に光り輝く龍の翼を思わせる装飾が左右にあり、穂先はスパークを飛びかわせているまさに神槍と呼ぶべき槍を取り出した。

槍を見たドライグは赤龍帝の籠手の宝玉を点滅させる。

 

『―――この槍を見ていると、聖書の神「ヤハウェ」が生み出した最強の神滅具(ロンギヌス)黄昏の聖槍(トゥルー•ロンギヌス)」がおもちゃの槍にしか見えないな………』

 

アテナが持つ槍からは異様な力を放たれていた。ドライグの言う通り、士道は嫌な汗で体を濡らしていた。

圧倒的なプレッシャーを放つアテナと、スパークを纏わせているアテナの槍『神槍•アイギス』がその汗の原因だ。

士道は自分から仕掛けようとはせず、ただじっとアテナの様子を観察していた。

………一向に仕掛けて来ない士道を見て、静かに構える。

 

「―――来ないのでしたら、私からいきましょうか………」

 

タンッ!タンッ!

 

「―――ッ!!」

 

次の瞬間、アテナの姿が一瞬にして士道の視界から消え、一気に地面を蹴って間合いを詰めてくる。

士道は籠手からアスカロンを引き抜き、アテナの攻撃に備える。

 

『Boost!!!!』

 

赤龍帝の籠手(ブーステッド•ギア)での倍加も同時に始めており、いつでも攻勢に転じられる準備を進めていた。

 

「―――はあっ!!」

 

「チッ!!」

 

スドオオオオオオオオオオッッ!!

 

アテナは真正面から士道を目掛けて槍を突き出した。突き出されたアテナの槍は竜巻を放出するかのように地面を抉りながら迫ってくる!!

士道はアテナの槍が頰を掠めるようなギリギリで士道はアテナの槍を間一髪で交わし、距離をとって倍加の時間を稼ごうと思っていた――――だが………••

 

「―――ゴハアッ!?」

 

士道は腹部に衝撃を受け、血の塊を吐きながら堪らず後方へとゴロゴロ転がりながら吹き飛んだ。

何が起きたか分からなかったため、士道の頭の中は混乱状態だった。

 

「ごほ、ごほっ!!くそっ、一体何が起こったんだ!?」

 

士道はアスカロンを杖代わりにして立ち上がる。

士道は目ではアテナの動きを捉えることが出来なかった。士道が見えていたことは、アテナが槍を突き出したところまでだった。

ソロモンがアテナの攻撃を見て苦笑いをしていた。

 

「………えげつない攻撃だねアテナ。キミがいきなり『神速』を発動するとは思ってもみなかったよ―――士道くんも頭の中で色々と仮説を立てているみたいだけど、ここで解答を教えようか」

 

ソロモンは立ち上がった士道に解説をする。

 

「アテナが攻撃に用いたのは、明鏡止水を極めた者だけが発動することができる『神速』を発動したんだ。

―――神速とはその名の通り、限界を超えた加速をすることを可能にする明鏡止水の奥義さ………ちなみに、士道くんが槍を躱わした時にアテナは神速を発動し、加速をする。そして槍が外れた後は、槍の石突きの部分で士道くんの鳩尾を攻撃してから蹴りで士道くんを吹き飛ばしたんだよ―――つまりアテナはキミが距離を取ろうと考えていた時にはすでにその二発をキミの体に喰らわせていたんだよ」

 

ソロモンの解説に士道は目が飛び出すほど仰天していた。

 

「―――はあっ!?つまりアテナさんは一瞬で三つの動作を行ってことですか!?」

 

最初の槍での突きをはじめに、ソロモンが語った二つの動作をアテナは一瞬のうちにやってのけたのだ。これは超常の存在の中でも出来るものはごく僅かだろう。

 

「正確には一瞬で行ったのは二つだけだよ。でも、アテナが全力で神速を使えば、一瞬の内に五つの動作を行うこともできるんだよ?」

 

「―――なにそれズルくないですか?」

 

「いやいや、神をも滅ぼす神滅具(ロンギヌス)赤龍帝の籠手(ブーステッド•ギア)』を宿したキミが言えることではないよ?キミの存在はこの世界では十分な脅威だ」

 

「いやいや、全盛期のドライグやアルビオンに匹敵するソロモンさんたちにバケモノって言われても、俺なんかはただの人畜無害な小動物のようにしか見えないですよ!?」

 

いつの間にかアットホームな雰囲気を醸し出している修行空間だったが、アテナがため息をつきながら槍を構える。

 

「――――はあ………ソロモン、それから士道くん、お話は終わりましたか?」

 

「ああこれでお話は終わったよ―――士道くん、神速は教えて身につくものじゃないんだ。明鏡止水をキミ自身が極める以外にない。アテナの動きに集中するんだ。それでもアテナの動きが見えない時は、さらにその上の領域に手を伸ばすんだ」

 

ソロモンのアドバイスを聞いた士道は更に困惑した。彼の頭ではソロモンのアドバイスを理解するには苦しむようだ。

 

『―――恐らく極限まで集中してそれでもダメなら、その上へと自分を強引に持っていけという事だろう………要は死ぬ気で頑張ればなんとかなるかも知れんという例えをあの魔法使いは述べていると俺は推測している』

 

「なるほど、そういう事か………そいつは分かりやすいな」

 

士道はアスカロンを構えて、静かに全身の感覚を研ぎ澄ました。士道はソロモンとドライグの言葉を信じてただ目の前のアテナに集中することだけを考えた。

 

「………いきますッ!」

 

こうして第二ラウンドが開始となり、士道の修行はさらに熾烈を極めた。

 

 

 

 

 

―――………•

 

 

 

 

修行を始めてから約三時間ほどが経過した頃のことだ。

一時間ごとに休憩をとり、休憩が終わればまたスパーリングを行うという今日もこれまでとは変わらない修行を士道は続けていた。

 

「はあああああああああっっ!!」

 

ドガガガガガガガガガ!!!

 

「―――くっ!!このっ!!」

 

アテナの目にも止まらない嵐のような連続攻撃に士道は押されていたが、修行を始めた頃とは見違えるほどの成長を遂げていた。最初の頃はアテナの攻撃に反応すら出来ていなかったが、神速を発動させたアテナの攻撃を徐々に士道は見切り始めていた。

 

「―――はあっ!!」

 

ヒュン―――ドガアッ!!

 

アテナの槍での上段狩りを士道は躱し、すぐに第二撃である回し蹴りが士道に飛んでくるが、それを士道は腕で防ぐ。

―――そして士道はここから反撃に移る!!

 

「喰らえッ!!」

 

ガギィイィィン!!

 

士道はアテナの足を払い、アスカロンの袈裟斬りでアテナに出来た僅かな隙を突く!!しかし、神速を発動しているアテナには簡単に防がれてしまうが、攻撃をされながらも反撃が出来るようになっていた。

 

「………さすがにやりますね―――ならばこちらもギアを上げていきましょう!」

 

「―――ッ!?」

 

スガアアアアアアンッッ!!

 

アテナの攻撃はさらに鋭さを増した。間一髪で初撃の切り上げを避けた物の、スピードと威力はこれまでとは全く違い、士道は再び窮地へと追い込まれていた。

それに対応するために士道は、今まで以上に精神を研ぎ澄ませた―――その時、士道の体が異変を起こす。

 

「チッ!!さすがに苦しくなってきやがったぜ………」

 

士道の鼻から赤い液体が滴っていた………その正体は鼻血だった。彼がエロ以外で鼻血を流す経験は無かったためか、ここまででも士道がどれだけ頑張ってきたかを物語るには十分だった。

 

「はあっ!!やあっ!!」

 

ギィン!ガギィイィィン!!

 

「くっ、しまっ――――」

 

アテナは士道の懐に入り込み、渾身の突きを士道にお見舞いした!士道はその突きはなんとか反応して、アスカロンの刃を盾にしてガードしたが、第二撃の切り上げで、アスカロンを弾かれ、士道は丸腰になってしまった。

 

「―――これで終わりです!」

 

バチチチチチチチチチチチッ!!

 

アテナはトドメと言わんばかりに槍に力を溜め始める!スパークが飛び交い、青白い光が穂先に集まっていた。

アテナは槍を強く握り、トドメの一撃を放とうとしていた。

 

(このままいいようにやられて、倒れるなんて無様なことは出来ねえッ!!最悪でもアテナさんに一太刀だけでも浴びせなければ俺の気が収まらねえッ!!)

 

士道はここまで徹底的にやられた悔しさを噛み締めていた。その時、士道の右腕が光を放つ!!

士道の悔しさに呼応するかのように、不思議な力が士道の体に集まりつつあった。

しかし、士道はそのことに気が付いていなかったため、最後の足掻きとしてがむしゃらに腕を振り抜く!!

 

「クソッタレェェェェェェェ!!」

 

ズガアアアアアアアアアアアアッッ!!

 

士道が腕を振り抜いた瞬間、放たれていた光が奇跡を起こし、一本の大剣として具現化した!!

その大剣は凄まじい衝撃波を生み出しながらアテナに迫る!

 

「―――ッ!!」

 

ドガアアアアアアアンンッッ!!

 

アテナは槍に溜めていた力で士道が放った衝撃波を一閃する!凄まじい轟音共にアテナは煙に包まれたが、今度は士道が攻めに転じる!

 

「ドライグ、今だ!!」

 

『―――承知した、EXPLOSION!!!!!!!!!!!』

 

倍加をしていた赤龍帝の籠手(ブーステッド•ギア)の力を解放した士道が、煙の中にいるアテナを目掛けて突進する!!

 

「―――ッ!?」

 

槍の力で煙を吹き飛ばしたアテナだったが、目の前の光景に喉を詰まらせた。―――煙を放った瞬間に自分の目の前には、大剣を携えた士道が斬りかかって来ているからだ。

 

「うおおおおおおおおおおおおおっっ!!」

 

「くっ!!」

 

ドオオオオオオオオオオッッ!!

 

アテナは士道が振るった斬撃を槍でガードする以外に対処する方法を知らなかった。

しかし、士道の放った斬撃の威力は凄まじく、アテナは地面を擦る形で後退した。

士道は最後の最後でアテナに一矢を報いたのだ。

 

『―――相棒、右手をよく見てみろ』

 

ドライグが籠手の宝玉を点滅させながら士道に語りかける。士道は自分右手を確認すると―――見覚えのある大剣を握っていることに気付き、叫び声を上げる!

 

「な、ないぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?ど、どうして俺が十香の『塵殺公(サンダルフォン)』を!?」

 

そう、士道の手には十香が愛用している剣『塵殺公(サンダルフォン)』が握られていた。

―――士道は天使を顕現させたのだ。

士道のその姿を見てソロモンは拍手を送っていた。

 

「ハハハハハ!士道くん、キミの成長速度は本当に恐ろしいよ。まさかここまで早く守護天使を顕現させるとはね………とりあえず、おめでとう士道くん」

 

拍手をするソロモンと同じくヘラクレスも目を丸くして驚き、先程まで撃ち合っていたアテナも士道を賞賛する。

 

「すごいじゃない士道ちゃん!これでまた強くなったんじゃない!本当におめでとう!」

 

「………驚きました。私も先程の一撃には度肝を抜かれました―――さすがはソロモンとヘラクレスが目を付けるだけのことはありますね!」

 

次元の守護者達は士道の成長を自分のことのように喜んでいた。士道は照れ臭そうにしていた。

少しして、ソロモンがパンっと手を叩く。

 

「―――さて、今日の修行はこの辺にしておこうか。士道くんは明日は狂三ちゃんとデートなんだろう?疲れを残してデートを失敗なんてさせられないからね」

 

ソロモンの言葉にヘラクレスとアテナも首を縦に振った。こうして今日の修行はこれで終了になった。

 

「ありがとうございました。またよろしくお願いします!」

 

天使を顕現させ、そして神速の足がかりを掴めた士道は満足そうに修行を終えることが出来た。

士道は風呂に入って即ベットに向かったのであった。

 

 

 

 

 

―――◆―――

 

 

 

 

「ぐごおおおおおおおっ………•ぐごおおおおおおおっ………」

 

疲れていたのか、大きないびきを立てて眠っている士道くん。その寝顔はとても幸せそうだったが、士道の部屋に入ろうとする一人の少女がいた。

 

ガチャッ………

 

「………シドー?―――もう眠っておるのか」

 

その少女は十香だ。眠れなかったのか、枕を持って士道の部屋に入った。そして、十香は士道と同じベットの中に入って眠りにつこうとしていた時、士道の左腕から声が聞こえる。

 

『―――夜刀神十香、そのままでいいから聞いてくれ』

 

声の正体は赤龍帝のドライグだった。十香は士道の方を向いて声を聞こうとする。

 

「ドライグ、起きていたのか?」

 

『………ああ、明日のことについてちょっと気になることがあってな………』

 

ドライグがそう述べると、十香はそのことについて訊く。

 

「―――狂三とのデェトのことか?」

 

『っ!?貴様一体誰からそのことを………』

 

ドライグは声を詰まらせたが、十香は「桐生から聞いたのだ」と簡潔にドライグに返す。ドライグは士道に変わってあるお願いをする。

 

『夜刀神十香、貴様も知っている通りだが相棒は明日の十時半から時崎狂三とデートをする。―――だが、時崎狂三が相棒に何をするかが全く分からん。もしかしたら相棒に危害が及ぶかも知れん………こんなことを俺が頼むことは間違っていると思うが、万が一の時は貴様が相棒を守ってやってくれないか?』

 

ドライグは狂三が士道を狙っていることを勘付いてのことだった。せめてもの安全策として十香にお願いをした。

十香はドライグの願いを首肯する。

 

「………もちろんだ。シドーに降りかかる災いは私が払う。私はシドーの力になりたい。シドーは誰にも渡しはしない!」

 

十香の迷いのない言葉にドライグは感謝を示す。

 

『………毎度のことながら貴様には本当に世話をかける。―――もしもの時は頼むぞ、夜刀神十香』

 

「ああ、任せてくれ!」

 

ドライグの最後の不安も解消され、勝負の日を迎えようとしていた。明日はいよいよ最悪の精霊を攻略し、その精霊を救うために士道たちは作戦を遂行するのであった。

 

 

 




原作とは異なり、トリプルデートにはならない予定です。

塵殺公を顕現させたことには一応理由があります。
どこで使うかは秘密ですが、この章でもう一度使う時がくると思います!



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七話 大一番です!!

気が付けばお気に入り登録数が250件を超えていました。

嬉モチベーションは上がりますし、本当に嬉しい限りです!

これからも完結を目指して執筆していく次第でございますので、よろしくお願いします。

————更新が遅くなり大変申し訳ございませんでした!!


―――♪♪♪と〜あるく〜にの隅っこに〜おっぱい大好きドラゴン住んでいる♪♪♪―――

 

『ぐ、グハッ!?』

 

AM7:00、おっぱいドラゴンの歌が意識の覚醒のトリガーとなって士道が現実世界へと舞い戻る。

それに合わせてドライグは吐血をする。

 

「―――おっ、おっぱい!!」

 

士道は目覚めて最初に述べた言葉が『おっぱい』だった。―――言うなれば、末期だ。

そして、キョロキョロと辺りを見渡すと、自分の思いもよらない幸運が目の前にあることに気付く。

 

「おおっ!?こ、これはぁッ!?」

 

自分の両手が十香のおっぱいを鷲掴みにしていることに気が付く。

………運が良いことに、十香はまだスヤスヤと眠っている。

 

ふにゅっ………

 

「―――んんっ………」

 

士道は鷲掴みにしている十香のおっぱいに力を入れると、十香が喘ぎ声を漏らした。士道はその様子を見て早朝一発目からだらだらと鼻血を吐き出す!!

 

「………あ〜、朝から天国だなぁ!もうこのまま一生このままでいたい!揉んでいるだけで十香のおっぱいはご利益がありそうだぜ!!

―――どうだドライグ、俺と一緒に揉まないか?」

 

鷲掴みにしているの十香のおっぱいを離そうとはせず、ひたすらに感触を楽しんでいる士道くん。

左手だけを十香のおっぱいから離し、神器『赤龍帝の籠手(ブーステッド•ギア)』を具現化させようとした時、ドライグが悲鳴を上げる!

 

『うおおおおおおおおおおんん!!うわあああああああああああ!!うおおおおおおおおおおんん!!』

 

ドライグの悲鳴とともに、眠っていた美少女の眉がピクピクと動く。―――彼女にはドライグの悲鳴が目覚ましとなったようだ。

 

そして―――………

 

「………む?もう朝か」

 

十香が体を起こし、眠そうに目を擦り始めた。それに合わせて士道は慌てて自分の手を引っ込めた。

 

「お、おはよう十香!きょ、今日はいい朝だな!」

 

―――まるで犯罪を起こし、警察に事情聴取をされて必死に偽装工作をする犯人を思わせるように士道は振舞っている。

………それもそうだろう、バレたら塵殺公であの世行きかもしれないからだ。

 

「………おはようだシドー。ところでどうしたのだ、鼻血が出ているぞ?」

 

「―――ん、ああ、気にすんな!そ、それより十香、今日の朝ごはんは何か希望はあるか!?」

 

「―――ごはんと目玉焼き、そして豆腐の味噌汁が希望だ!」

 

朝から部屋の中に輝く癒しの光となる十香の笑顔。

それとは正反対に、墨汁を彷彿とさせるほどの真っ黒な腹を隠しながら下品な笑みを浮かて、ティッシュを鼻に突っ込み、自分がやっていた行為をうまく誤魔化す士道くんだった。しかし―――………正直者のドライグは十香に真実を話す。

 

『―――相棒の鼻血の原因は貴様の胸だ。相棒はつい先ほどまで貴様の胸を揉んでいた』

 

「―――フゥベラアッ!?」

 

ドライグに何をしていたかを暴露され、ベットの上から転がり落ちる士道くん。

これで士道くんのあの世行きは決定する―――かのように思われたが、十香は恥ずかしそうに胸を隠すだけだった。

 

「………し、シドーは特別だ!シドーになら私は何をされても―――」

 

十香の言葉に士道はベット上に光の速さで上がって十香の前で正座をする!

そして、士道は鼻の下を伸ばして十香に迫る!

 

「じゃ、じゃあ―――もう一回触ってもいいか!?」

 

完全にイケルと思った士道くんを止められる者はこの空間には居なかった。十香は顔を茹でタコのようにし、眉根を強張らせ、目を強く瞑る。

 

「………」コクッ

 

十香は無言で首を縦に振った。士道の理性のパーセンテージは一桁になっており、四捨五入をするなら切り捨てられる側の数値を示すほど、彼は限界に達していた。

 

「ぐへ、ぐへへへへへへへへ!!大丈夫だ、優しくするからな?ぐへへへへへへへへへ!!」

 

―――口からヨダレ、鼻から鼻血を垂れ流し、鼻の下はベットに着くかつかないかというぐらいにまで伸びきっている!

士道は両手ををわしゃわしゃとしながら十香の胸へと手を伸ばす!!その姿、完全に人間のクズと罵倒されしキングオブヘンタイ!!

 

「―――飯作れェェェェェェェ!!」

 

ガコーンッ!!

 

「ぎゅう………」

 

両手に持ったフライパンで変態の帝王(士道)の両側頭部を強打する正義の美少女が現れ、十香のおっぱいはこうして守られた。

叩かれた変態の帝王こと五河士道は、ベットから再び床へと倒れこむ。

 

『………グッジョブだ五河琴里。これで平和は守られた』

 

「守られてねえよ!!許可貰ったんだからそこは触らせてくれても良いじゃねえか!!」

 

ガコーンッ!!

 

安堵するドライグとは反対に激昂する士道。正義の美少女こと、士道の妹の琴里はフライパンで再び士道の頭を強打!

―――今度は脳天をフライパンは直撃した!

 

「ご飯を作りなさいよこのおっぱいドラゴン!!作戦があるっているのに、他の女の子にうつつを抜かしてんじゃないわよ!!」

 

琴里はフライパンで頭を強打され床に倒れこむ士道の首袖を引っ張ってキッチンへと士道を運ぶ。

士道は涙を流しながら右手を伸ばし、十香に助けを求める。

 

「十香ああああああ、十香あああああああああ!!」

 

「………シドー、まずは朝ごはんだ!」

 

十香の晴れ渡った笑顔を見た士道は、味方がいないことにようやく気付いた。

―――あとは、琴里にご所望だった朝ごはんを作らされたのは、言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

――――………

 

 

 

 

 

AM9:30。狂三との待ち合わせ時間が一時間前になった時だった。

士道はデートの準備を済ませ、最後の確認をしていた。

 

「よし、寝癖も直したし、歯も磨いたし、スマホも財布もある―――よし、完璧だ!」

 

『………初デートをする少年ではあるまいし、もう少し自信を持ったらどうだ相棒?精霊をデレさせる女たらしというのが、今では相棒の立派な二つ名ではないか。堂々と構えるべきだと俺は思うが?』

 

たしかにこの五河士道という男は、相当なプレイボーイだろう。しかし、デートというものは緊張するものだ。数をこなしているとは言え、今日に限っては大勝負になる。

………慣れろという方が酷というものだろう。

 

「―――人聞き悪いなあおい!!なんかもっとカッコいい二つ名をつけてくれよ」

 

士道の思いをドライグは真っ向から否定し、再び左手の甲を点滅させる。

 

『………歩く性犯罪者、最も女性を辱めた男、卑猥なことしか考えられない人間のクズ―――この辺りの二つ名しか思い浮かばん

………後は、「赤い()()」もなかなか悪くはないな』

 

………この時、ドライグは地雷を踏んでしまったことに気付いていなかった。

士道にとって口にしてはならない禁句をドライグは述べてしまっていた。

―――その言葉を聞いた士道はスイッチが入り、グヘヘへへ!と下品な笑みを再び浮かべる!

 

「―――よし、今日は狂三のおっぱいを『赤龍帝の籠手(ブーステッド•ギア)』で触りまくってやる!!」

 

『………謝るからそれだけは勘弁して下さい、相棒―――いや、五河士道さま!!』

 

誇り高いドラゴンが脆弱な人間に態度を改めて頼み込むほど、ドライグにとって女性の胸はトラウマそのものだった。

それはかつて兵藤一誠が命名された天龍にとっては侮辱以外の何でもないあの二つ名『乳龍帝おっぱいドラゴン』未だにドライグにとっては不愉快だった。

 

「―――さあ行こうか………これは『救う』ための戦争だ!!」

 

『………微妙に文字を変えたな』

 

こうして、狂三を救うためのデートが開始されようとしていた。相手は最悪の精霊『ナイトメア』。

士道は目的地の天宮駅の改札口を目指し、歩き始めた。

 

 

 

 

 

――◆――

 

 

 

 

 

AM10:00を天宮駅の電光掲示板の横にある時計が、その時刻を示していた。士道は目的地に到着し、目的の少女が到着を待った。

 

「やっぱり、紳士の基本は三十分前行動だよな。さすがは俺、紳士の中の紳士だぜ!」

 

『―――自分で言うのはどうかと思うぞ?』

 

ここでも、赤龍帝の不死身のコンビはいかんなく発揮されている。まさに苦楽を共にした最高のパートナーといったところだろう。

―――それはさておき、しばらくすると待ち合わせの場所に全ての衣装を黒一色で整え、高級そうなブラウスにロングスカートを纏った少女が歩いて来た。

 

「士道さん、お待たせ致しましたわ」

 

待ち合わせ時刻の十分前に来た狂三。狂三の姿に士道は一瞬、言葉が出ないほど見惚れていた。

 

「―――ッ!!」

 

『………おい相棒、おめかしをしてきた娘に何も言わないのはどうかと思うが?』

 

(分かってるって!!ちょっと言葉が出なかっただけだい!)

 

じーっと見つめられる狂三は抵抗があったのか、士道に上目遣いで訊ねる。

 

「士道さん、その………そんなに見つめられるとわたくしもその恥ずかしいというか―――今日のわたくしは………士道さんから見ると変、ですの?」

 

狂三が述べた言葉に、士道は首を大きく横に振り、グイッと狂三に近づいて力強く想いを伝える。

 

「いやいや!最っ高に可愛いぜ狂三!でもまさか、黒一色で整えてくるとは思っていなかったよ、膨らませてたイメージとは違ったけど、服も本当によく似合ってるぜ!

こんな美少女とデートなんて本当に鼻が高いぜ!」

 

拳をグッと握りしめて力説をする士道くん。狂三は士道が言ってくれた言葉に顔パアッと明るくさせる!

狂三は嬉しかったようで、顔の周りに虹が見えるような笑顔を見せていた。

 

「うふふ、ありがとうございますわ士道さん。………今日はどちらに行かれるつもりですの?」

 

ここから狂三との本格的なデートが開始されようとしていた。士道は広場へと出て、周りの盾もに比べると頭一つ大きい建物を指差す。

 

「―――あのショッピングモールで買い物でもしよう。あそこは品揃えが豊富で、衣服や書籍だけでなく、フードコートやアクセサリーショップなどもあるんだ。

俺も一度行ってみようと思ってたんだけど、どうかな?」

 

天宮駅の近くにあるショッピングモールは県内では最大とも言われるほどの規模のため、みんながよく知る場所だった。

狂三は笑顔で士道の誘いを快諾する。

 

「まあ、それは素敵ですわね。早速参りましょう士道さん!」

 

「よし、行こうか」

 

士道と狂三の二人は天宮駅の近くのショッピングモールを目指して歩き出した。

 

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

 

目的のショッピングモールに着いた二人が早速向かった先は、書店だった。

書店の方も大した品揃えで、子供用の絵本や漫画、小説、勉強用の参考書や保育などについて書かれてある本などほとんどのジャンルの物が置いてあり、書店内では時々話し声や、店内の放送が聞こえるくらいで、静寂に包まれた書店だった。

 

とある本を読んでいる狂三に士道は声をかける。

 

「―――狂三、その本はどんな本なんだ?」

 

「これはライトノベル『ハイスクールDxD』ですわ。最近わたくしはこの小説にハマっていますの………ちなみに、わたくしは『兵藤一誠』推しですわ」

 

「………………ひょ、兵藤一誠!?」

 

士道は慌ててその小説の一巻に目を通すと、前世の自分が歩んできた過去が書かれてあり、名前だけでなくそのキャラは顔まで前世の自分と瓜二つだったのだ。

それを見た士道は冷や汗を流していた。

 

「………士道さん、何かおありですの?」

 

心配そうに顔を覗き込む狂三に、士道は手を振って大丈夫だと伝える。

………しかし、自分の歩んできた過去について書かれてある小説が存在するなど滅多にないことだろう。

士道は著者の名前を見ると、『次元の守護者•ヘルメス』と書かれてあった。まるで同人誌の感覚で書かれてある感じだった。

 

「―――あ、士道さん。実はこの作品、アニメ化が決定しているのですよ?」

 

「………」

 

狂三の言葉に士道の思考は完全に停止していた。士道は狂三の言葉から混沌が次々と頭の中に現れるため、頭の中がショートしてしまったようだ。

 

『―――今度ソロモンからその「ヘルメス」という男を紹介してもらうか………著作料をぶんどらなければ気が済まんぞ』

 

ドライグさんも、随分とご立腹のようだった。士道は停止した思考を首を振ってリセットし、狂三に話しかける。

 

「………狂三、何か欲しい本があれば言ってくれ。プレゼントするよ」

 

「―――よろしいんですの?」

 

「ああ、勿論だとも」

 

「ありがとうございます。士道さんのご厚意に甘えさせてもらいますわ」

 

士道は狂三から本を受け取り、お会計へと向かった。

ちなみに狂三が欲しいと言った本は、これまた『ハイスクールDxD』の原作最新刊だったのは、触れないでおこう。

 

「•••••さて、そろそろお昼にしようと思うけど、狂三はどうかな?」

 

ふと時計を見ると、時刻は12:00となっており、太陽が中天へと登る時間となっていた。

普通ならこんな時間にご飯って混んでない?―――と思うだろうが、今日の開校記念日は平日だ。休日ならこんなショッピングモールは大混雑で、フードコートもまた然りだが、平日であったことが幸いし、今日はそこまで混雑がひどいわけではないのだ。

 

「士道さん、わたくし案内に書かれてあった六階にある『カレーの此処一番』に行きたいですわ」

 

「―――決まりだな、じゃあ行こうか」

 

士道と狂三は目的のフードコートを目指して歩き始めた。

 

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

「………むぅ、今のところは士道に手を出す気配はなさそうだな―――だが!これは屈辱だ!目の前でシドーとイチャつきおって!!」

 

「………こちらに気付いていないとはいえ、これは非常に不愉快」

 

デートをする士道と狂三を背後から尾行する()()の少女がいた。一人は十香でもう一人は折紙だ。二人とも士道と手を繋いで歩いている狂三を見て不機嫌極まっている様子だった。

特に十香は悔しそうに涙目になっており、拳を握りしめて今にも狂三に背後から襲い掛かりそうな雰囲気を醸し出していた。

 

折紙は士道に誘いを断られてその真意を探るために尾行をしているのだが、その理由が他の女とデートをするためだった―――しかも相手が相手だけに折紙のご機嫌の度合いを表すメーターがあるなら不機嫌の青色を通り越して真っ黒を示すレベルのものだった。

 

「空いているものだと思ったけどやっぱりこの時間だと結構人がいるな………」

 

「―――仕方ありませんわ士道さん。なんといってもお昼ですもの、考えることはみんな変わりませんわ」

 

士道と狂三はカレーの此処一番に入ったが、かろうじてテーブルを確保出来たものの、中はそれなりに混んでいた。

二人を尾行していた十香と折紙もすぐに席を確保し、二人の動向を探っていた。

 

―――十香と折紙に特殊な術式を掛けたのは、ソロモンだ。

ソロモンは朝から士道のことを付け回していた十香と折紙に()()()()でだが、協力をすることにしたのだ。

 

―――“士道くんの身に危険が迫るまで、時崎狂三に手を出さないこと”―――

 

ソロモンが十香と折紙に出した条件はこれだった。最初に内容を聞いた時に折紙は大暴れをしそうになったが、十香がなんとか説得して力を借りたのだ。

ソロモンが十香と折紙に掛けた術式は『認識阻害と気配遮断の効果』を持つ術式だ。

術式の能力はその名の通り、他人から見える姿を変え、さらに気配を察知できないようにする術式だった。

―――しかし、十香と折紙もいつまでも我慢が出来るほどできた人間ではない。

 

「士道さん、あ〜ん」

 

「―――え、えーと………狂三さん?」

 

デートの時に飲食店に入るとこれをやっているカップルをたまに見ることがあるだろう。

狂三が店員が先に持ってきたカレーを士道に食べさせようとスプーンですくって士道の口へと近づける。

士道は周りから感じる視線に顔から嫌な汗を噴き出していたが、それ以上に怖いオーラを纏っている連中の姿が目に入る!!

 

「「―――ッ!!」」

 

ドゴンッ!!

 

士道の近くの席に座っている十香と折紙が同時に机を拳で殴り付けている!!

士道の目にはもちろん、十香と折紙のいつもの姿ではなく、冴えない二人の男の姿が目に移っているだけのため、士道にバレる心配は無かったが、二人ともそろそろ我慢の限界が近づいていた。

しかし、狂三が尾行ブラザーズ(十香と折紙)の忍耐力にトドメを刺す!!

 

「―――やっぱり士道さんは十香さん以外の女性との『あ〜ん』は嫌ですの………士道さんは今、わたくしとデートしているのですよ?」

 

『………』

 

乙女モード全開でおねだりをしてくる狂三と、周りからの視線の怖さに士道は観念して狂三が差し出すスプーンを受け入れる。

ブラザーズの目には両方とも『殺』の一文字が両目に刻み込まれていた。

 

「………お、美味しいよ狂三」

 

受け入れた士道を見た狂三のおねだりはさらにエスカレートする。―――ブラザーズが暴れ出すのはもう時間の問題だったのは言うまでもないだろう。

 

「そうですの………。では、今度は士道さんがわたくしにしてくださいまし」

 

満面の笑顔でおねだりをする狂三に士道は白旗を揚げ、覚悟を決めた。士道はスプーンで自分のカレーを救って狂三の口に近づけた。

 

「………美味しいですわ、士道さん!」

 

「あ、アハハハハハハハ………」

 

『………………………』

 

書店に続き、フードコートまで混沌が満ち溢れる場所へとしてしまった士道くん。狂三との昼餉までで、士道くんの精神力のライフは残り半分を切っていた。

カレーを食べ終えると、満面の笑みを浮かべて満足感に浸っている狂三の手を引っ張って全速力で店を出た。

 

―――しかし………ここから狂三攻略とも言える士道くんの逆襲が始まろうとしていた。




この話から•を小さくして見ました。
こっちの方が読みやすいと意見があったので、参考にして見ました。

———やはりこの五河士道はどうしようもないスケベ野郎ですね••••••••

ヘルメスはオリジナル章の五章『六花クライシス』が初登場になります。
次回はある程度は察しがついているとは思いますが、あの名シーンで士道くんが大暴れをする予定です!


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八話 美少女の下着には神が宿ります!!

書いてて思いました————士道くんを警察に突き出すべきでは?と!

この章から本格的に原作と乖離していきそうです。

※後書きの誤字を修正しました。


―――随分と久々にお送りする『その頃のフラクシナス』

 

狂三の霊力封印大作戦は順調に進んでおり、艦隊の司令官の琴里を始めとする『フラクシナス』のクルーたちは着々と作戦を遂行する士道の様子を安心して見守っていた。

 

「―――今日の士道くんは、一段と気合が入っていますね」

 

「ご褒美が村雨解析官に背中を流してもらうことですからね―――士道くんも男としては燃えていることでしょう」

 

「いやー、若いっていいですねぇ、実にいいですねぇ」

 

安心して眺めているクルーたちとは別に士道の様子に気付き、黄色信号を出す謎の生命体があった。

 

『―――うわあ、またこの顔してるよ士道くん』

 

四糸乃の左手のパペットのよしのんが映像に映し出されている士道の顔を見て不安な言葉を放つ。

………映像から見える士道の顔は、鼻の下が伸びてグヘヘへへ!と犯罪者真っしぐらな笑みを浮かべているからだ。

―――今日は四糸乃とよしのんは暇だったため、万が一のことが起きた時のための保険として琴里が艦内に呼んだのだ。二人は喜んで琴里の誘いを受け、現在に至るということだ。

その言葉に令音が食いつく。

 

「………どういうことかな?」

 

『そのまんまだよ。四糸乃とのデートの時も、士道くんはこの顔をしていたんだぁ〜。―――琴里ちゃん、次に士道くんが向かうのはどこになってるの?』

 

よしのんが琴里に尋ねると、琴里は士道との作戦を立てた紙を出し、今日の作戦内容を確認する。

 

「―――次に士道が向かう場所は四階の衣服コーナーの筈よ?狂三に似合いそうな服を片っ端から着せていくとか言ってたわね………でも、よしのんと同じで私も何か胸騒ぎがするわ。

………まるで何か起きる前触れのような―――上手く言えないけど、あのバカが美少女を前にして欲望を抑え込むなんて真似をする筈もないし………」

 

琴里も士道のスケベっぷりには頭を悩ませていた。それは今日の朝も普通にそれは行われていたからだ。

何も悪びれることもなく、十香の胸へと手を伸ばす性慾の権化へと成り下がった見るに耐えない兄の姿を琴里は見てしまったからだ。

―――そんな時、士道の動向を伺っていた『フラクシナス』のクルーの一人、椎崎が声を漏らす。

 

「―――し、司令!士道くんと時崎狂三の二人が乗っているエレベーターは四階を通過して五階へと到着しました!」

 

椎崎の言葉を聞いた琴里は眉間にしわを寄せ、顎に手をついて士道の行動の真意を思考する。

 

「………五階ですって?エレベーターのボタンを押し間違えただけじゃないの?」

 

琴里が出した言葉に令音は異を唱える。令音は士道の心拍数とショッピングモールの各階の案内図を見直していた。

 

「………シンの心拍数は昼食を済ませた辺りから急激に上昇ししている。………シンの顔からすれば緊張をしているとは考えられない。ボタンの押し間違いではなく、意図的に五階に行こうとシンは考えた筈だ。………だが、五階には―――っ」

 

令音は自分の意見の途中で頭の中に稲妻が走り、言葉を止める。

令音は、毒薬を飲まされて高校生から小学生の姿にされた、あの人気大爆発の名探偵のような仕草に『フラクシナス』内の総員の注目は令音に注がれる。

 

「―――何か思い当たる節があるの、令音?」

 

総員を代表して司令官の琴里が令音に訊ねると、令音は自分が推察したことを端的に述べる。

 

「………恐らくシンはこの階にある『ランジェリーショップ』に向かうつもりなのだろう。

………シンが四階ではなく五階に行ったこと―――そして、心拍数の上昇とこのスケベな顔がそれを決定付けると私は推察したのだが………」

 

「―――な、なんですって!?本当にあのバカは、男性にとっての禁足地に足を踏み入れるつもりなの!?」

 

『琴里ちゃん、こうなった士道くんはもう止まらないし、誰に止められないよ。それにしても………士道くんはほんっとうにブレないよねぇ―――四糸乃の恥ずかしいコスプレ姿を余すことなくスマホに納めていたしね………でも、これはチャンスかも知れないよ琴里ちゃん。キスの抵抗を少なくする足掛かりになってくれる筈だよ?』

 

「………士道さん、ランジェリーショップは、さすがにダメ、だと思います………」

 

令音の推察通り、士道と狂三が歩いている先にあるのは、確かにランジェリーショップだった。

琴里はチュッパチャプスを噛み砕いて、前のめりになって目の前のモニターに鋭い視線を向けていた。

よしのんは霊力封印の足掛かりになると思っていたが、琴里の考えはそうではない。

―――琴里が最も恐れていたことは、士道が狂三の魅力に当てられてビーストモードを解放することのその一つだけ!

―――だが、この危機的状況に令音の言葉を聞いた男クルーたちは、テンションを滝登りのごとく上昇させていく!!

 

「―――工作員、ランジェリーショップ内に隠しカメラを大量に仕掛けてこい!」

 

「―――今日の夜はねむれなさそうだ………」

 

「はぁはぁ………女子高生最高っ!!」

 

川越、幹本、中津川の三人はこの通りだが、神無月も全くブレることを知らない!

 

「………女子高生のようなBBA予備軍の下着姿よりも、私は司令の透き通った肌が見られる下着姿の方が何倍も良いですねぇ―――成長途中の体に付ける下着には神が宿る!嗚呼、なんて素晴らしい響きなんだ―――って司令ぇぇぇぇぇぇええええええええ!!!」

 

パチンッ!

 

身の危険を感じた琴里は指を弾いて神無月をSPにつまみ出させ、ついでに男のクルーたちを椎崎と箕輪の二人が作戦室から蹴り飛ばす!!

こうしてフラクシナスの中に満ち溢れようとしていた混沌は治まりつつあった。

―――工作員は既に隠しカメラを仕掛けに行ったことは琴里も気付いていなかった。

 

『ぐへへへへへへへへへへ!!』

 

『―――あ、あの士道さん………どうかなさいましたの?』

 

いやらしい笑みを止めない士道に狂三のご機嫌メーターに変化が起きる。―――狂三はスケベな笑みを浮かべる士道に恐怖を感じ始めているようだった。

 

「と、とにかくランジェリーショップから士道を離さないと!!」

 

琴里は士道が胸元に入れているインカムから狂三にも聞こえるような声で指示を出そうとしていたが、令音がそれに水を差す。

 

「………琴里、我々が慌てても意味はない。時崎狂三に声が聞こえたら怪しまれる可能性がある―――比較的にこれまでは順調に進んでいるんだ。

………ここはシンを信じるしかない」

 

令音の言葉を琴里は首肯せざるを得なかった。琴里と令音は士道の最後の貞操の無事をただ懸命に祈っていた。

 

『ぐへ、ぐへへ、グヘヘヘヘヘヘヘヘヘ!』

 

………既に士道くんの最後の貞操も風前の灯だったのは言うまでもなさそうなのは誰が見ても分かるだろう。

 

 

 

 

―――久々にお送りする『その頃のフラクシナス』終

 

 

 

 

士道に案内されるがままに狂三は目的地に到着した途端に凍りついてしまった。

 

「―――あ、ああ、あああああの士道さん!?ほ、ほほ本当に次はここなんですの!?」

 

「おう!高校生デートの鉄板中の鉄板!ランジェリーショップっ!いやー、俺も一度は行ってみたかったんだよねぇ〜。狂三、俺がコーディネートさせてやるよ!」

 

―――天使を思わせる綺麗な笑みを見せている反面、心の中は真っ暗な士道くん。狂三はそのギャップにどう反応して良いか分からなかった。

目もとをヒクつかせ、怪しい者を見るような視線を士道に向けていた。

 

「―――て、天国だ!!天国にきたぞおおおおおおおおおお!!」

 

「あううぅぅぅ………」

 

女性にとっての聖地であり、男性にとっては禁足地にもなるランジェリーショップに足を踏み入れる高校生カップル。

ドスケベの士道は両手と両足を広げ、Xの文字を思い浮かばせるようにバンザイをしている!

―――この男、女性の敵とも言える変態という以外にどう表せば良い!?

スーパーハイテンションの士道とは正反対に、狂三は周りからの視線に目を配っていた。

―――無理もない。士道に手を引っ張られてランジェリーショップに入ったのだ。当然周りからの視線があって当然だろう。

 

『………歴代の赤龍帝の宿主でもここまで常識はずれなことをしでかしたのは相棒だけだ。―――法に守られた武装集団がやって来る前に撤収しろよ?』

 

ドライグは呆れてため息をついていた。歴代の赤龍帝たちは、そのドライグが持つ圧倒的な力を極めようとしていた者たちばかりだったが、その力をエロに注ぎ込むのはこの五河士道が初めてだったのだろう。

―――ドライグが忠告をした時、身長が士道よりも大きい全身に魔法使いのローブを纏った者が歩み寄って来た。

 

「―――いらっしゃいませ。お客様、ちょっとこちらに………」

 

「ソロモンさん!?一体こんなところで何を?」

 

―――それはお前が言えるセリフじゃないんだよ士道くん。

ソロモンは士道に手招きをしている。狂三は士道以外の男がいることに顔を真っ青にしていた。

 

「―――そういうわけで彼女さん、ちょっと彼氏を借りるよ?」

 

「狂三、ちょっくら行って来るわ。試着する時には呼んでくれよ?絶対だからな!!」

 

ソロモンは士道を連れてバックヤードへと向かった。狂三の思考はもう完全に停止していたため、ただ一人ポツンとその場に佇んでいた。

 

「は、はい………」

 

狂三はポカーンとした様子でただ一人返事をした。

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

ポツンと残された狂三は士道が帰って来るまでの間、ランジェリーショップ内をぶらぶらと歩いていた。

 

「………士道さんあの変な人に警察に突き出された―――なんてことになってはいませんわよね………」

 

―――どうしようもないスケベな主人公を心配する黒い女神こと時崎狂三。

『ランジェリーショップに行こう!』と腕を引っ張られた時は面を食らったが、狂三も士道とのデートが楽しいと思っているのか、手に下着をとって色々と試していた。

 

「士道さんはこれがお望みでしょうか?―――いや、これも悪くはありませんわね………」

 

その時だった。十分ほど経った後に士道が戻って来た―――両手にいくつかの下着を持ちながら………

 

「狂三、ごめん待たせたな………」

 

士道は走って狂三の近くへと行った。その時狂三はたまたま士道が両手に持っているいくつかの下着に視線が向かってしまう。

 

「―――え、ええっと………その士道さん?ま、まさかそれらの下着をわたくしに!?」

 

士道が持って来た下着はどれも肌の露出が目立つ危険なデザインのものばかりだった。

しかも、この男はスリーサイズスカウターを前世とは違って習得しており、それで読み取った数値よりも小さいものを用意したのだ。

―――まさに悪魔と言ったところだろう。

 

「おう!ぜっったいに狂三に似合うと思う!俺はあの人に頼み込んだ『狂三が女神様に見える下着を下さい』と!!そして俺はこの下着に魂が込められていることを知った!!既に会計も済ませてある!さあ狂三、レッツ試着タイム!」

 

―――もう何を言ってるか分かりませんと言うのが適切だろう。狂三はボンッ!と顔を真っ赤にさせながらも士道が持って来た下着を受け取った。

 

「あ、狂三、抵抗があるなら俺が―――」

 

「だ、大丈夫ですわ!!」

 

鼻の下を伸ばし、わしゃわしゃと卑猥な指の動きをさせながら狂三に迫るキングオブ変態の士道くん!

狂三は慌てて試着室のカーテンを閉め、士道の魔の手から逃亡した。

………早く来てください正義の味方の方々!!

 

「―――ああ、狂三のお身体を堪能したかったなぁ………」

 

『もうだめだこの男。ソロモンが幻術をこの店一帯に掛けていることすら忘れてやがる………

全世界の女性のためにも俺が通報をするべきなのか?』

 

ドライグがボサッと正論を述べていたが、狂三の下着姿に妄想を膨らませていた士道には聞こえていなかった。

 

 

 

 

―――再び『その頃のフラクシナス』

 

 

 

 

 

 

「あ、あのバカ!!なんて下着を狂三に渡してんのよ!!大人の痴女が着るような下着ばっかりじゃない!!」

 

「………まさか時崎狂三が狼狽するとは思っていなかった」

 

琴里は士道が狂三に渡した下着を見て椅子に握り拳をぶつけており、令音はモニターを眺めながら狂三の精神の数値を確認していた。琴里と四糸乃、そしてよしのんは士道にドン引きをしていた。

 

『―――琴里ちゃん、士道くんはいつからこうなっちゃったの?』

 

「心が戻った時からよ………あのどうしようもないバカは精神のケアが終わった頃から、ずっと『おっぱいおっぱい』と呪詛なように呟くようになっていたわ」

 

「………でも、士道さん楽しそうです―――ちょっと、エッチ………ですけど」

 

艦内の三人はこんな感じだったが、椎崎と箕輪は士道の醜悪さに耐えかねてトイレに向かって全力疾走なうだ。

 

一方―――艦内の特別室では放り出された男クルーたちが狂三が入った試着室のカーテンが開かれることを心待ちにしていた。神無月はただひたすらに『琴里シミュレーション』で琴里の着せ替えをパソコンで楽しんでいたのは、放っておこう。

 

「さあ開け!次元の扉よ!」

 

「いや、ここは女神を隠す幕よ、開け!じゃね?」

 

「どっちでもいいわ!とにかく女神様の降臨まであと何分ですかねぇ」

 

この男クルーたちも士道と同族のようだった。

 

その時、琴里と令音たちが士道のある行動を見て目が飛び出しそうになっていた。

 

「―――ってあのバカ!!試着室のカーテンを握ってるじゃない!!」

 

「………まずい、シンの理性はもう一桁まで下がっている。

………辛うじて四捨五入すれば切り上げになる数値だが、下がり始めている」

 

士道は狂三の下着姿が楽しみすぎて、最後の砦であるカーテンをひん剥こうとしている!!

もうだめだこの男!警察出動五秒前のカウントダウンが始まっている!!

 

『も〜い〜か〜い』

 

隠れんぼの鬼のように試着室のカーテンを握りながら士道は狂三に尋ねる。

もう完全に警官が出動するレベルである………

いきなりゆらゆらと動き始めるカーテンを見た狂三は慌てて外にいる士道に言う!

 

『―――ひっ!?も、もう少しですわ!』

 

士道は早く狂三の姿が見たくて見たくて堪らない!今もカーテンの前で飢えた獣の如くヨダレをダラダと垂れ流している!!

ドライグが制止の声を士道にかけるがそれも効果が無い!

 

『落ち着け相棒!深呼吸だ、深呼吸!!スー、ハー………スー、ハー………』

 

ドライグを無視して士道は狂三との『ごたいめ〜ん』を心待ちにしている。

その時――――………

 

グシャァッ!!

 

ランジェリーショップ内のカートの一つが、謎の力で木っ端微塵になる。

―――二人組みの少女へと今度は化けた十香と折紙のコンビが、士道に無表情かつ無言の圧力を掛けている!!

 

『………さすがに堪忍袋の尾が切れたか。相棒、今日の晩は夜刀神十香に気をつけろよ?殺されるかもしれんからな』

 

『―――って言うかあの二人の片方は絶対に十香が化けてるよな!?なに、俺死んじゃうの!?』

 

遂に十香の変身を見破った士道くん。これ以上この行為を続けるとまずいと思った士道は慌ててカーテンから手を離す。

―――その時、カーテンが開き、下着姿となった狂三の姿が現れる!!

 

『―――Excellenッッ!!』

 

「「「エクセレンッッ!!!」」」

 

士道、川越、幹本、中津川の四人が鼻血をダラダラと垂れ流しながら万歳三唱拍手喝采をしている!!

狂三の姿は半透明の全体が透けているだけでなく、布面積が異常なほど小さいため肌が綺麗に見えている!!

士道たちからすれば、今の狂三は女神という以外にどう表せばいいかわからなかった。

 

『………あ、あうぅぅぅ―――に、似合って………ます?』

 

『―――おおうっ………す、素晴らしい!!め、女神だ!女神様が現界なされたぞ!!』

 

士道の理性はもう限りなくゼロに近い数値だった。目の前には異様なほどの露出度の下着を身に付けた美少女!

士道の精神状態にアラートがフラクシナスでは鳴り響いている!

しかし、士道はとどまるところを一切知らない!!

 

『狂三、次はコレで、その次はコレだ!―――そんでもって最後はコレだ!!』

 

士道は徐々に布面積が少ない下着を渡して行き、最後の下着に至っては殆ど全裸と変わらないものを狂三に着けさせようとしていた。

 

『―――は、はい!!しょ、少々おまちになってくだはいまひぃ!!』

 

狂三はぐるぐると目を回しながらも士道に渡された下着を全て試着したのであった。

最後の方のセリフは完全に聞き取ることが出来なかったのは、まあ置いておこう。

 

「………あのおっぱいドラゴン、そろそろ駆除した方が良さそうね―――万が一が起きては遅いものね。新たな精霊との対話役を出来る人間を探さなきゃ………」

 

琴里は士道が警察にご厄介になる前に手を打とうかとしていたが、令音が止める。

 

「………琴里それならキミはシンとキスをすることが出来なくなってしまうが?

―――それでも良いのか?」

 

「―――ぜ、前言撤回!!」

 

どうやら琴里もキスをするなら士道が良いというのが嘘偽りのない本心だった。

 

 

―――再び『その頃のフラクシナス』終

 

 




このシーンだけで一話使うのはちょっともったいないなと感じましたが、キリがいいのでここで終わりにします。

★おまけ

イッセー「あの士道って野郎なんて大胆なんだ!!俺も部長や朱乃さんと一緒にランジェリーショップ行きたかったぜぇぇぇぇぇぇええええええええ!!!」

血の涙を全力で流している兵藤一誠。彼からしても士道のランジェリーショップは相当羨ましいものだったのだろう。

ドライグ『お前も駒王学園で平気で覗きをやっていたではないか。それだけでは不満なのか?』

イッセー「いや、駒王学園の女子生徒の下着はどれもこれもヘボばかり!俺も士道って野郎みたいに『俺が選んだ下着を着けろ!』ってシチュを体験したいんだよおおおおおおおお!!」

ドライグ『童貞には無理難題だな』

イッセー「うるせえええええええええ!!」



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九話 奇策で乗り切ります!!

感想についてなのですが、まさかのショッピングモールの売り場に売っていたDxD原作の方を突っ込んでくるとは思っていませんでした。
それにしても全くブレない士道くん。

それは今回もです。


 

 

士道と狂三がランジェリーショップを出た後は、士道が素晴らしいものを見せてもらったお礼に狂三と一緒にコーヒーを飲んだ。

そして、士道と狂三がショッピングモールを出た頃には、空が茜色に染まり、太陽もそろそろお眠の時間が近づいていた。

 

「ふぃ〜!いや〜ランジェリーショップは本当に良いもんだよなぁ。狂三、また行こうな!今度はもっと良い奴があるはずさ!」

 

狂三の下着姿を十分に堪能できた士道は、ランジェリーショップから退避して近くの公園のベンチに座っていた。

―――また行こうな!じゃ無いんだよ士道くん。キミはもう出禁だ!

 

「ひっ!?ま、またですの!?――――わ、わかりましたわ!」

 

狂三はまだ恥ずかしそうに顔を真っ赤にしていた。色々と自分の体を見られたのだ。普通の女性なら間違いなくトラウマものだろう………哀れな狂三ちゃんだ。

 

「―――なあ狂三、今日は楽しかったか?」

 

ベンチに座りながら目の前にある噴水を見たまま狂三に訊く。士道の言葉を狂三は軽く微笑んで首肯する。

 

「ええ、楽しかったですわ士道さん」

 

狂三も士道に辱めを受けたが、デート自体は楽しかったらしく満足げにしていた。

 

その時、士道の目にとある光景が映る。

 

「………………………」

 

士道の目に映ったのは、男の四人組が手足を縛った女の子を近くの林の中に連れ込んでいる姿が目に移る。

士道は静かにベンチから立ち上がる。

 

「――――あら?士道さん、どうかなさいまして?」

 

いきなり立ち上がった士道に狂三は怪訝に思い、士道を見上げる。

 

「………悪い狂三、ちょっと席外すわ」

 

「は、はい………」

 

士道は狂三を公園のベンチに残して、仕事を片付けに林の中へと駆けて行った。

 

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

夕暮れになり、人気の少ない林の中ではリア充の中学生や高校生が野外でも、若さ故にハメを外してしまうバカップルも存在する。

しかし、この林の中では完全な犯罪が行われようとしていた。

 

「――――!!――――!!」

 

制服を着た少女が手足を縄で縛られ、口はナフキンで縛られ言葉を発することが出来ないようにされ、犯される十秒前といった具合だった。

そして、その少女に四人の男どもが群がっている。

 

「無駄無駄無駄ムダアアアアアアアアッッ!こんな時間に助けはきましぇ〜〜ん!!」

 

「いやあ〜、良いケツしてますなぁ〜」

 

「はあぁぁぁぁ、この太ももたまらねぇぇぇぇぇええええ!!女子高生最高おおおおおおおおおおお!!」

 

「いや、制服の上から揉んでも確かな重さとこの揉み応え!!すんげ〜おっぱいだ!!」

 

―――少女が縛られて抵抗が出来ないことにつけこんで最低な行為をしている人間のクズども。

しかし、少女の前に一人のヒーローが見参する。

 

「―――おいテメェら、警察だ。全員頭の後ろに手を組んで跪け」

 

筋肉質だが、どう見ても威厳のある警察には見えない一人の若い少年主人公が悲劇の少女の前に現れる。

そのヒーローの名は――――『乳龍帝おっぱいドラゴン』こと五河士道だ。

 

『男の風上にもおけないクズどもが………同じ男――――いやオスとして恥ずかしい限りだ』

 

ドライグは全力で男どもの醜悪さを嘆いていた。ドライグもオスのドラゴンだ。誇り高いドラゴン―――そして同じ性別としてこんな連中と一緒にされるのは屈辱以外の何でもないだろう。

 

「ああ!?警察ダァ!?――――なめてんじゃねえぞクソガキィィィィィィ!!」

 

男の一人が士道に殴りかかるが――――

 

ドゴッ!!

 

「ぐわああああああ!!痛いっ!いだいよおおおおおおおッ!!」

 

士道は向かってくる拳を体を横にして躱し、男の腹部に膝蹴りをお見舞いする。士道に殴りかかった男は情けないことに激痛に耐えきれず地面に泣き叫びながら右往左往していた。

 

だが、仲間がやられて黙っているほど連中もバカではない―――いや、勝てない相手だと理解できないバカしかいない無能な連中だった。

 

「この野郎おおおお!!」

 

「ふざけやがってええええええッッ!!」

 

「―――野郎ぶっ殺してやるッ!!」

 

三人の男たちは正面、側面、そして背後から士道に襲いかかるが――――士道はため息をつきながら三人を軽くあしらう。

 

バギッ!ドゴッ!ズガッ!

 

「「「ぷぎゃあああああああ!!!」」」

 

士道は正面から向かってきた男に足刀を男の急所に喰らわせ、側面と背後から襲いかかってきた男には空中で回転蹴りを顔面にお見舞いし、撃沈した。

士道は連中には見向きもせず、縛られている少女の縄を引き千切り、口に巻かれたナフキンを外して解放する。

 

「―――怖かっただろう?ほら、もう大丈夫だ」

 

「はい!ありがとうございました!!」

 

少女は士道にぺこりと士道に一礼をすると、一目散に公園の方に走って行った。

―――自分たちが捕らえた極上の獲物を逃がされた野郎どもは激昂する!

 

「クソガキがッ!!俺たちの性処理奴隷を逃してんじゃねええええええええ!!」

 

連中の一人が拳を振り上げ士道に向かっていく―――その時だった!!

 

パァンパァンパァンパァン!!―――ドサドサドサッッ………

 

「――――ッ!?」

 

いきなり謎の赤い液体が宙を舞ったことに士道は目を見開いた。そして四人いた男たちの内、三人が体に風穴が開いたまま地面に倒れ伏した。

 

「う、うわあああ―――――ああああああああああああああああああああ!!!」

 

四人いた内の三人が何かで体に風穴を開けられたことに最後の一人はパニック状態に陥っていた。

ザッ、ザッ、と草木を踏みながらこちらに近づいてくる者がいた。

 

「――――あらあら、わたくしとしたことが………一人殺しそびれてしまいましたわ」

 

頭部を覆うヘッドドレスに、赤と黒が際立つコルセットとスカートを見に纏い、左手には古式の短銃を握った最悪の精霊『ナイトメア』こと時崎狂三だった。

狂三が纏っていたのは、精霊であることを象徴する装飾『霊装』であり、その姿はまさに災厄の降臨とも言えるものだ。

――――この光景を目の当たりにした士道は拳を握りしめ、頭の中にうずまく感情を声に出す!

 

「狂三――――お前何やってんだよ………自分が何をしでかしたか分かっているのか?」

 

士道は鋭い視線を狂三に向け、静かな声で彼女に問う。

士道は自分の中で燃え上がりそうになった感情を抑えながら静かに言い放ったが、狂三は自然体で先生に当てられて答えるように簡潔に述べる。

 

「―――何って、殺しただけですわ。こんな出来損ないの欠陥品に生きている価値がありまして?」

 

狂三の答えを聞いた士道は、抑え込んでいる感情が溢れ完全に溢れた。士道は両手を広げて狂三に言い聞かせる!

 

「狂三、たしかにお前の言う通りだ。お前が手にかけた三人はどうしようもないクズ野郎だ………でも!だからといって殺してもいい理由にはならねえ!!」

 

士道の全力の訴えに狂三は手を口に当ててクスッと笑むだけだった。

 

「あらあら、士道さんは本当にお優しい方なのですね………。ですが、この手の連中は生かしておいても、また同じことを平気で繰り返しますわ――――ですのでこの方達を殺すことが間違っていると言えまして?」

 

狂三は殺し損ねた残りの一人に無慈悲にも短銃を向ける。

 

「あ、ああ!!た、助けてくれ!うわあああああああ!!」

 

男は立ち上がって走ろうとしたが、恐怖のあまり腰が抜けてしまい、尻を地面につけたまま後退ることしかできなかった。狂三は慈悲を掛けようとはせず、汚物でも見るような蔑んだ視線で男に銃口を向けていた。

―――士道はこの時、弓の弦が弾かれるように“あの男を助けなければ”と体が反応していたが、ドライグは制止を呼びかける。

 

『――――捨て置け相棒。こればかりは、俺もあの精霊に賛成だ。あんなゴミを助けるために相棒が犠牲を払う価値は無い。あいつらはこれから死ぬべくして死ぬ………因果応報だ』

 

………ドライグの言う通り、こんな連中を見殺しにしても誰も咎めはしないだろう。

それでも、士道は見捨てようとはしなかった。

 

パァンッ!!

 

「――――ぎょええええええええええええ!!」

 

狂三が銃弾を発射する少し前に、士道は尻餅をついた男を大空へと蹴り上げた!!

男は遥か彼方へと吹っ飛び、光となって何処かへと消えた。

狂三が放った銃弾は士道の足を掠め、地面へと突き刺さった。

銃弾が掠った士道の足からは、鮮血が滴っていた。

 

「………ほんっとうに士道さんはお優しいですわねぇ―――あのような男を助けるために自分の体を犠牲にするなんて………理解に苦しみますわ」

 

「―――俺は目の前で狂三が人を殺すところを見たくなかっただけだ………未然に防ぐことは叶わなかったけどな」

 

士道が憎しげに唇を噛み締めて言った言葉に、狂三は一瞬だが眉がピクリとも動く。だが―――すぐに何かを思い出し、突然笑い出す!

 

「………あらあら、それはざァン念でしたわね士道さん。キヒ、キィヒヒヒヒヒヒッ!士道さん知ってますぅ?

あなたは今、わたくしとこおんな()()()()()()()()()()()()()()になってしまっているということを!!」

 

それは狂三にとって理想的な状況が完成したことを意味していた。狂三の目的は士道を吸収してその力を得ることだ。

………実際に、この林の中は人の気配が無くいるのは士道と狂三の()()()()

――――ここまで言えば多くを語る必要はないだろう………そう、この空間は狂三が目的を果たすにはこれ以上ない巡り合わせだった。

 

「………………………」

 

不気味な笑みを浮かべる狂三とは対照的に士道は冷静だった。士道もこの状況になることは覚悟していた。狂三を攻略する上では、この状況は避けては通れない決死行だ。

捕食者の笑みを浮かべて迫ってくる狂三に、士道は額と体から嫌な汗が流れるが、一歩も動こうともせずに平静を装う。

 

「キヒ!キヒヒ!キヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!さあ士道さん、わたくしが食べて差し上げますわぁぁぁぁぁぁ!!」

 

綺麗な桜色の唇から舌をペロッと出し、舌舐めずりをしながら士道の顔へと手を伸ばす。狂三は両手が士道に触れた時、ついに士道が動く!!

 

「――――ッ!?」

 

ドサッ――――ジュウウウウウウッッ!!

 

狂三とは別の危険信号を感じ取った士道は、自分の顔へと手を伸ばす狂三を抱え、狂三が怪我をしないように狂三の後頭部に両手で守りながら地面に倒れこんだ。

狂三はいきなり士道に抱きかかえられ、言葉も出ないほど戸惑っていた。

士道が倒れこんだことで何かが士道たちの上を通り過ぎ、近くにあった大木に真っ赤な円状の印が浮かび上がり、大木を燃やした。

 

「うっわ、危っぶねッ!あと少しでも反応が遅れていたらあの世行きだったぞ………ったく、おいたが過ぎるんじゃないのか?()()()()()()

 

士道は素早く起き上がり、何かを士道たちに向けて掃射してきた人物がいる方角に視線を向け、キザな言葉を発した。

士道が視線を向けた場所からは、青髪ポニーテールで対精霊用の武装『CRユニット』を装備した小柄な少女が姿を現した。

 

「―――なんの真似でやがりますか兄様?

………あなたは精霊を――――人類の仇敵を庇いやがったのですよ?」

 

士道と狂三に死角から攻撃をしてきたのは、士道の実妹を名乗る少女『崇宮真那』だった。

真那は士道が()()()()()()ことに不快感を感じていた。

――――だが!この変態の兄は真那をさらに煽る!!

 

「精霊が人類の仇敵?………寝言は寝てから言うものだよ、マイシスター。

精霊たちはそんな人間どもの間違った考えで一体どれだけの理不尽をその身に浴びて来たかことか………。

どこのバカに騙されているかは知らないが、そんな思い違いをしてしまうなんて悪い妹だ、帰ったら一緒に入浴の刑に処す!」

 

――――まったく似合わないキザな言葉を投げかけ、実の妹に指をさして決めポーズを取り、堂々とセクハラ宣言をする変態兄!

真那のいきなりの発言に真那は顔を真っ赤に染め、胸元を隠す!

 

「な、なな!なにを言ってやがるんですか!!十香さんや四糸乃さんだけでは飽き足らず、実妹である真那にまで手を出そうと!?」

 

「――――当たり前だろ!?俺の夢はな『俺だけのハーレムを築くこと』なんだよ!!それにな、妹は()()()もんなんだから仕方ねえだろ!!可愛い実妹を躾けることになんか問題でもあんのかあ!?」

 

『もうダメだぁ、おしまいだ!!』

 

ピカッ!ゴロゴロゴロッ!!

 

拳を握り、力説する士道くん。士道の全力の訴えに雷鳴が轟くような音が鳴ったが、空は雲ひとつない綺麗な空だったため、それは気のせいだった。

―――ちなみに、士道は前世とは違い新たに『シスコン』という称号も得ている。琴里の成長アルバムを作成しており、十年間にわたる琴里との生活を記録した、士道が秘蔵するエロ本をも凌ぐ士道の至宝で、それは一見の価値ありだ!

士道の変態さに相棒のドライグの精神は疲弊を極めていたためか、いつものツッコミは鳴りを潜め、ただ泣き言を口ずさむだけだった。

 

「―――そ、それは虐待でやがります!!訴えますよ!?」

 

「………………っ!!」

 

真那に全力で拒否された士道はがっくりと肩を落とし、あろうことか自分を捕食しようとしている狂三に泣きついた!!

会社で辛いことがあった夫が、最愛の理解者である妻に泣きつくかのように!!

 

「ふ、ふぇぇ、ふぇぇぇぇぇぇぇぇんん!!狂三ぃぃぃぃぃ、聞いてくれェェェェェェェ!俺、真那に拒絶された!実の妹に拒絶されちゃったよおおおおおお!!」

 

「え、えーと………これは――――どうすれば正解ですの?」

 

いきなりの士道の攻撃にあたふたとパニックになる狂三ちゃん。―――答えは簡単だ、士道くんを吸収してしまえばいいのだ。

狂三はマジ泣きしている士道に同情をしたのか、優しく頭を撫で始めた。

 

「………かわいそうな士道さん。わたくしは士道さんの味方ですわよ〜?ほぉらよしよし、よしよしですわ………」ナデナデ

 

――――狂三は捕食者から完全に母親モードへと移行して、士道を優しく慰めていた――――が!!目元をヒクつかせて幼児プレイをかます変態にドン引きしているのは誰が見ても明らか!!

こんなに気持ちがこもっていない奉仕があって良いものか―――いやあって良いわけがない!!

これを見た真那は完全に頭に血が上り、再びスイッチが入り、装備しているCRユニットの砲門を狂三に向ける!

 

「こ、これは屈辱でやがります!!真那の目前で兄様のナデナデを奪われるとは!!

こうなったら御構い無しでやがります!!兄様の湯だった頭ごとナイトメアを貫いて差し上げます!!兄様をまっとうな人間に戻すことも実妹である真那の仕事でやがります!!」

 

ズビィィィィィィィィ!!

 

真那は再びプラズマビームを狂三を目掛けて掃射する!!

全ては目の前の変態と最悪の精霊といった、最悪の人害コンビを打ち滅ぼす為に!!

しかし―――真那が放ったプラズマビームは士道が神速を発動し、目にも止まらぬスピードで狂三を抱えて、その場から退避することで完全に回避する!!

 

「なっ――――なぜ当たらねえのですか!?」

 

「士道さん――――なぜわたくしを………」

 

真那のプラズマビームから二度も自分を守ってくれたことに狂三は目を丸くして驚いていた。

 

「なぜって………美少女を守ることに理由なんていらないだろ?―――狂三、俺はお前を救うためなら、火の中だろうが水の中だろうが関係ねえ――――例えお前のスカートの中にだって喜んで飛び込んでやる!!」

 

「――――なっ!?」

 

士道は真那の行動を警戒しながら、自分が抱きかかえている狂三へと言い聞かせた。狂三はボンッ!と顔を真っ赤にし、ドライグはドン引きをし、真那は悔しそうに地団駄を踏む!

 

『へ、変態だああああああああ!!』

 

「―――兄様、真那は悲しいでやがります!!きっと兄様は、終わることの無い地獄と絶望の日々を過ごした結果こんなどうしようもない変態になってしまった………そんな兄様に手を差し伸べることの出来なかった真那は自分に腹が立ちます!!」

 

真那はいきなり武装を解除し、地面に拳を叩きつけうなだれ始めた。―――なぜか雑木林の中まで混沌が満ち溢れる空間へと変えてしまった士道くん。

真那から殺気が消えたことを確認した士道はそのまま来た道を逆走する。

 

「狂三、しっかり掴まれ!全力で走るから!!」

 

士道はアテナとの修行で身につけた神速を発動し、戦意喪失した真那から全力で逃げる。

士道の胸の中で突風を感じた狂三は慌てて士道の服を強く握る!

 

「へ――――きゃあッ!?」

 

真那が作った隙を見事に着くことで士道と狂三は難を逃れた。しかし――――士道は大切なものを一つ無くしたことに気付く事ができなかった。

 

 

 

 

 

―――………

 

 

 

士道が公園へと逃げ戻った時には、士道に抱えられていや狂三は霊装を解除し、デート時の服装に戻っていた。

そんな時、士道と狂三に迫ってくる二つの反応があった。

 

「シドー!!」「士道!!」

 

士道は雑木林の中から全力で公園へと戻ると、血相を変えて自分の元に駆けてくる二人の少女に視線が向かう。

 

「十香、それに折紙!?一体どうしたんだよ、こんなところで?」

 

士道は十香と折紙がこの公園にいることを怪訝に思っていたが、十香と折紙は士道に指差す!

 

「シドー!嫁というものがありながら狂三を抱っことは何事か!!早く降ろさんか!!」

 

「………こんな公衆の面前で、私以外の女性をお姫様抱っこなんて許さない」

 

―――二人とも士道の安否が心配して士道を尾行したにも関わらず、二人の不満は士道にお姫様抱っこをされている狂三にあった。

公園を歩いている人たちの視線を士道と狂三は一心に浴びており、士道は慌てて狂三を地面に降ろす。

 

「………狂三、立てるか?」

 

「わ、わたくしは大丈夫ですわ!!」

 

狂三は先程からずっと士道と視線を合わせようとせず、すぐに士道から顔を逸らす。

狂三の顔は熱を放出させており、士道を直視することができなかった。

――――そう、つい先ほどの出来事で狂三の心は完全に士道に屈服しようとしていたからだ。

 

「―――そ、それでは士道さん、わたくしはこれで失礼をしますわ!!ごきげんよう!!」

 

神速を発動しなければ追いつけないほどのスピードで、狂三は帰って行った。

士道は頭に疑問符を浮かべていたが、ドライグが溜息を吐いていた。

 

『………あの精霊、間違いなく堕ちたな』

 

「――――堕ちた?」

 

ドライグがボソッと呟いた言葉に士道は浮かべていた疑問符をもう一つ増やす。その様子を見てドライグは心底呆れていた。

 

『転生してもその鈍感さとスケベだけはどうにもならんか………』

 

「お前だけ納得してんじゃねえよドライグ!俺にも理解できるように説明しやがれ!!」

 

『――――少しはそのバカな頭をフル回転させることも覚えろ。難しい事は全て俺頼みにしているようでは全精霊攻略なんぞ夢のまた夢だぞ?』

 

ドライグから返された言葉にぐうの音も出なかった士道くん。生前からの鈍感さは相変わらずのようだった。

そして――――その鈍感さのあまり、自分に危機が迫っていることも理解できなかった。

 

「シドー、今から私とデェトだ!邪魔者はいなくなったところで今からは私の時間だ!」

 

狂三がいなくなったことで空いた士道の腕に抱きつく十香。そしてそれはもう一人いる少女も同じだった。

 

「………士道は私とデートをする約束がある。夜刀神十香、貴方は家でお風呂にでも入ってて」

 

士道を挟んでお互いに目から火花を散らす十香と折紙。そう、狂三のことを意識し過ぎて目の前の危険を完全に察知できてはいなかった。

 

「――――そんな約束は聞いてはおらぬ!!貴様の約束は無効だ、鳶一折紙!!」

 

「………証拠ならある。私は昨日、士道をデートに誘った―――電話の履歴も言質もとってある」

 

自己中心的に話を進める十香と折紙に士道は訊ねる。

 

「………えーと、ここは二人揃って家に帰る――――という一番利口な選択肢があると俺は思うんだけど………今日一日頑張った俺へのご褒美として、今日くらい見逃してくれたらな〜、なんて………」

 

頭から嫌な汗をダラダラと流しながら十香と折紙に尋ねるが、二人とも笑顔で返事をするだけだった。

 

「―――そんなものはないぞ、シドー♡」

 

「………うん、ない。あるのは私の家で子作りだけ。男の子なら『貴士』、女の子なら『千代紙』」

 

―――狂三に想い人をいいように弄ばれた二人の傷は想像以上に深かった。

士道は空を見上げ、大声で叫ぶ!

 

「――――でぇぇぇぇすぅぅぅよねぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

結局、士道は十香と折紙に連れられながら、深夜近くまで振り回されることになった。

最終的には琴里が『フラクシナス』で士道と十香を回収し、士道はヘロヘロになりながら自室のベッドで休息を取った。




あと二話くらいでフィナーレかなと思います。

※三話の設定を更新しました。ソロモン、ヘラクレス、アテナの三人です。



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十話 緊急事態です!!

前話は流石にやり過ぎたかな〜と少し反省しています。

シリアス限定にしようかなと思いましたが、重苦しい展開はどうも苦手でして•••••••••今回も一波乱あります。

後書きを修正しました。

※誤字を修正しました。


狂三とのデートを終え、士道は限界まで我慢していた十香と折紙に振り回されていた頃だった。

天宮市の上空一万五千メートルに位置する空中艦『フラクシナス』の解析部屋で難しい顔をしている白衣のポケットに何度も刺繍をした紫の熊人形を入れた女性がいる。

 

「………シン、今日は本当によくやってくれた。

………私たちは厄介ごとをいつもキミに託してばかりだ―――負担をかけて本当にすまない」

 

―――空中艦『フラクシナス』で解析官担当の村雨令音だ。令音は狂三とのデートで体力を使ったあげく、十香と折紙のデートにまで付き合わされることになった士道を見て、申し訳なさそうにしていた。

 

『―――令音、失礼するわよ』

 

解析部屋の扉を開けて、中へと入る赤い髪の小柄な少女―――士道の妹の琴里が解析部屋へと入る。

令音は座っている椅子を琴里の方に向け、視線を合わす。

 

「………琴里、これを見てほしい」

 

目にクマをつくり、眠たそうにしている『フラクシナス』一の美女でもある村雨令音が解析部屋のモニターを指差す。

令音は士道と真那のDNA鑑定をしていたらしく、その結果が出たようだ。その結果を見た琴里は胸がざわついていた。

 

「―――そう、真那が言っていたことは本当だったのね………でも、そんな子がどうしてASTに入隊をしているのかしら?」

 

「………そのことなのだが、少し訂正する必要がある」

 

「―――訂正ですって?」

 

「………彼女はもともとASTの隊員ではなく、DEMインダストリーから派遣された社員だ」

 

「―――DEM(デウス•エクス•マキナ)社ですって!?」

 

DEMインダストリー社とは、イギリスに本部がある世界屈指の大企業で、この国の人物でも知らない人はいないと言われるほどの有名企業だ。

電子機器、半導体、情報通信機器、医療機器などの製作が表の顔だが、裏の顔は世界中の軍や警察に顕現装置(リアライザ)を供給している色々と訳ありの企業だ。

おまけに魔術師(ウィザード)という特殊武装隊までをも有し、精霊を狩ることすら掲げているため、琴里たちが所属する『ラタトスク』とは面白くない関係にあたる。

 

「ますますわからないことだらけね………なぜ真那はDEMで魔術師(ウィザード)なんかやってるわけ?」

 

「………それについては私も詳しい理由はわかっていない。だが―――」

 

令音は珍しく、奥歯を噛み締めて拳を強く握り、憤りを露わにしていた。琴里はこんな令音を見ることは滅多になかった。

 

「何があったの?」

 

「………これを見てくれ」

 

令音はコンソールを動かし、画面に真那の身体の映像といくつかピックアップされた場所には、細かな数値が表示されている。それを見た琴里は絶句する。

 

「ちょ―――ッ!!これって!?」

 

「………キミの驚きは最もだ。真那の全身には、限界を超えた魔力処理が施されている―――異常な強さを得られる反面、これではあと十年ほどの寿命しか真那には残されていない」

 

―――よく、無償の奇跡は存在しないと言われることがある。兵藤一誠で例えるなら『白龍皇の籠手(ディバイディング•ギア)』や『覇龍(ジャガーノート•ドライブ)』がいい例だ。

歴代最強の白龍皇と謳われたヴァーリ•ルシファーに一泡吹かせるために手に入れたこの力は、発動するたびに寿命が縮まるという最悪なおまけが付いていたために、兵藤一誠の頃はその力を滅多なこと以外では使おうとはしなかった。『覇龍(ジャガーノート•ドライブ)』は言わずもがなだ。

………さらに、DEM社の顕現装置(リアライザ)は性能が未熟なため、それを補うために人間の脳に依存せざるを得ないのだ。

 

特に、脳波を強化する必要があり、天才とも謳われた折紙も例外ではなく、脳波を強化するために頭の中に小さな部品を埋め込んでいるのだ。

しかし、真那の場合は明らかにそのレベルを逸脱したほどのものだった。

彼女は人間の姿をした精霊と言っても過言ではない。

 

「もしこれを士道が知ってしまったら………」

 

琴里は胸が張り裂けそうな思いで、画面の数値を見ていた。令音も士道の性格を理解してか、琴里の肩にそっと手を置いた。

 

「………いくら優しいシンといっても、これを知ったら黙っていないだろうね―――恐らく、一人でDEMを壊滅させに向かうだろう………」

 

琴里と令音は既に終わりが近づき始めている真那をどうにか救うことは出来ないかということを必死に考え抜いた。

そして―――………真那と直接交渉をする日がやって来ようとは夢にも思ってもみなかった琴里と令音だった。

 

 

 

 

―――◆―――

 

 

 

 

次の日の朝、士道はフラフラになりながらも学校を目指して登校する。

狂三とのデートだけでなく、その後に十香と折紙に振り回されて残りの体力もあるだけ搾り取られたが、十香に腕を引っ張られて、今日も登校させられている士道くんだった。

 

「―――やあ士道くん、随分と酷い顔をしているね………昨日はあまり眠れなかったのかい?」

 

来禅高校への通学途中、魔法使いの全身ローブを纏うことで顔を隠し、いかにも変な人を演出している守護者ソロモンが士道に声を掛ける。

 

「ソロモンさん、俺もう疲れました………土に帰りたいッス!!」

 

「―――冗談の気がまったくしないことは、その顔が証明しているね………とりあえずご苦労様とだけ言っておこう」

 

『赤龍帝』をやっている士道と言えど、一日に二度のデートを熟せる精神力は無い。ソロモンは士道の苦労を分かっているからこそ労いの言葉を掛けたのだ。

 

「―――むぅ、これでは私が除け者扱いされているような感じがして、いい気分がせんぞ………」

 

十香はムッとした表情を浮かべている。ご機嫌斜めといったところだ。

ソロモンは十香の方を見て、あたかも今気づきましたよというアピールをする。

 

「―――あ、十香ちゃんもいたんだね」

 

「『いたんだね』では無い!!私が士道の腕を引っ張っていたところを貴様も見ていただろう!!」

 

完全に自分が眼中にないことに十香は地団駄を踏んだ。ソロモンが現れたことに何か意味があると踏んだ士道は、十香を見る。

 

「―――十香、先に学校へと向かっててくれ。俺もすぐに後を追うからさ………」

 

士道は十香を先に学校へと向かわせようとしたが、『嫌だ!』と頭の上に文字を出すばかりに腕にしがみつかれる。

士道は困っていたが、ソロモンはその様子を見て微笑む。

 

「ハハハハハ、いやあ士道くんはよくモテるね。十香ちゃんがいても別に僕は構わないよ………むしろ今日に限っては、十香ちゃんも()()()()()()()()()()

 

ソロモンの意味深な発言に士道と十香は目を合わせる。いつもなら用があるのは基本的に士道だけなのだが、ソロモンは十香がいても構わず話し始めた。

 

「―――そろそろ『くるみん』が何か仕掛けて来そうな気がしてね………本来なら、僕もキミたちに協力したいところなのだが、今日の僕たちはとある存在の討滅があるんだ………その代わりと言ってはなんだけど、これを渡しておこう」

 

―――狂三のことを『くるみん』と可愛いあだ名をつけた物好きなソロモンのことは置いておこうか。

ソロモンは事情を説明すると、士道にあるものを手渡す。それは印鑑の入れ物のようなもので、手の平にすっぽり収まるような小物だった。

 

「―――これは?」

 

「それの使いどころは、キミが最も困った時が最善だろうと僕は思う―――簡単に言えば『切り札』って奴だよ。

その困った時が来るまでその入れ物の中身を見てはいけないよ?『切り札』は最後まで取っておくべきだからね」

 

―――してはいけないと言われたものほどその逆をしたくなるのが人間という生き物だ。それは士道とて例外ではない。

士道は中身が気になって仕方なかったが、制服のポケットへとしまい込んだ。

 

「―――分かりました。ソロモンさんも討伐を頑張って下さい」

 

「うん。いい返事だ。最後にこんなアドバイスをしておこう―――士道くん、何をやっても分かり合えない相手は確かに存在する。でも、幾度となく立ちはだかる困難を超えてきたキミに乗り越えられない壁なんてない………キミがこれまで口説き落としてきた少女たちと精霊ちゃんがその証さ。

………キミが理想と描くハッピーエンドだけを目指して突き進めばいい。キミの相棒が太鼓判を押すように、僕が見てきた歴代の赤龍帝の中でも、キミは最高の存在だ」

 

「………な、なんか後味が悪い褒め方をしますね!?―――別に良いですよ、そんなに無理して褒めなくたって!俺はどうせその辺に溢れる女たらしですよ!」

 

ソロモンのアドバイスを聞いた士道は口を尖らせていた。心にグッと響くものもあれば、完全に貶されているものもあったからだ。

 

「―――じゃあ僕はこれにて失礼しようかな。士道くん、今日は気を緩めないことだ………あ、十香ちゃんも士道くんのことをよろしく頼むよ〜?」

 

「私はついでかッ!?」

 

ソロモンには十香は完全に士道の従者扱いをされていた。

士道はソロモンの忠告をしっかりと胸に刻み込み、目的地へと足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

―――………………

 

 

 

 

 

「ちぃ〜っす狂三。今日もマイ女神さまと言ったところだな!」

 

校内の下駄箱で上履きに履き替えている狂三を見つけていきなりペテン師にメタもる士道くん。当然外野は、白い目で士道くんを見ながら手で口を隠しヒソヒソと陰口を言うが、彼はそんな小さなことはアウトオブ眼中だ。

 

「………士道さん、少しはTPOを考えることをオススメしますわよ?」

 

「いやいや、俺の気持ちにTPOなんざ関係ねえ!俺のマイ女神さま信仰は、すでにオーバーキャパシティだぜ?」

 

色々と意味のわからないことを平気で話す士道くん。彼は本気で時崎狂三と向き合っているのだが、これは考えものだろう。

 

「………士道さん、『マイ女神さま』はやめて下さいまし!!わたくし女神などではありませんわ!」

 

狂三はマイ女神さまと呼ばれるのが恥ずかしいのか、顔を真っ赤にしてモジモジとしていた。

しかし狂三はコホンッと咳き込んだは後、士道を見つめる。

 

「その、士道さん………わたくし、士道さんに確認したいことがありますの」

 

「―――なんだい『くるみん』?くるみんのためなら俺は全裸にだってなってやるぞ☆」

 

――――お巡りさん、こちらです!ここに変態がいます!!

マイ女神さまがダメならソロモンが出した『くるみん』と呼ぶ士道くん。またまた顔からボンッ!と熱を放出させる狂三ちゃんだった。

………ちなみに混沌が満ち溢れそうになっているこの下駄箱にいた生徒は、士道、狂三、十香の三人だけだった。他の生徒はこの空間に耐えることができず、口を両手で塞ぎながら全力で逃亡していた。

 

「ああ、もう!!調子が狂いますわ………」

 

「ごめんごめん、それで確認したいことってなんだよ?」

 

「―――昨日の真那さんと出くわした時に、わたくしに言ったことは()()………なんですの?」

 

「―――ああ。俺が言ったことは全て本心だ」

 

狂三の問いに士道は間髪入れずに肯定した。士道の答えに嘘偽りが全くないことを感じ取った狂三は士道に背中を向ける。

 

「そうですの………でも、それがどこまで貫けるかを試して差し上げますわ」

 

狂三はそれだけを言い残すと、教室へと向かった。ソロモンの言った通り、狂三は何か事を起こそうとしていることを士道も悟っていた。

―――ここに人類を超越せし変態と最悪の精霊のガチンコバトルのシナリオは完成しつつあった。

 

キーンコーンカーンコーン………

 

教室に入り、ホームルームの時間となった。

ホームルームの時間となって入ってくるのは、担任のタマちゃん先生なのだが、今日は副担任の令音だった。

 

「………おはようみんな。シンはとりあえず国語辞典に見せかけた秘蔵アルバムを片付けるんだ」

 

教室に入るなり士道の行動を看破する令音。―――実際に士道は鼻にティッシュを突っ込み、鼻の下を伸ばしながら国語辞典を見つめていたのだ。

誰が見ても、士道が見ているのは国語辞典ではないということは明らかだった。

 

―――しかし、令音にもそれは言えることだった。士道のクラスメイトの山吹亜衣が手を挙げて令音に問う。

 

「村雨先生、それは出席簿じゃなくて、眠る時に聞くサウンドトラックのCDですよね?」

 

「………おや?私としたことが、こんなミスをするとは」

 

―――やる気の片鱗すら感じられない令音なのはいつも通りだった。今度は殿町が令音に訊ねる。

 

「村雨先生、どうしてタマちゃん先生ではなく村雨先生が今日のホームルームの先生なんですか?」

 

殿町が思っていたことは、クラスメイト全員が思っていることだった。令音は眠そうにあくびをしながら答える。

 

「………岡峰先生は一昨日、教卓に踵落としを決めた時に、踵の骨を骨折してしまってね。

………今日は整骨院に行ってから学校に来ると連絡があった」

 

令音の説明に、頭に角を生やしてヤンキーモード全開で暴れているタマちゃん先生の姿が思い浮かんだ二年四組の生徒たちだった。

―――こうして午前の授業が始まり、特に何も起きることなく放課後を迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――◆―――

 

 

 

 

 

 

 

 

士道が授業を受けていた頃、『KEEP OUT!!!!!』幾重にもテープを貼られた工事現場に、琴里はある人物から呼び出しを受けて、そこへと足を運んでいた。

 

「………確かここのはずよね」

 

琴里が階段を降りていくと、士道と同じ青い髪を持ち、ポニーテールの小柄な少女が、瓦礫の上に座っていた。

 

「はぁはぁ………兄様の裸………もはや芸術でやがります!!早く真那を兄様の虜にしてくださいぃぃ………」

 

その少女はスマホの画面に夢中になっていた。

―――いや、夢中になっていたどころではない!鼻の下を伸ばし、鼻血を垂れ流しながらスマホの画面に魅入っている!

その姿はまさに、士道の女性バージョンと言うにふさわしい姿に他ならない!!

怪訝に思った琴里は気配を消して背後から近寄り、少女が座る瓦礫の上から、スマホの画面を見る。

スマホの画面を見た琴里は激昂する!!

 

「―――はあ!?なんであなたが士道の上半身裸の写真を持ってんのよ!?ていうか何、変態は血縁を超えるとでも言うの!?」

 

「うわっ、何奴!?」

 

いきなり背後から現れた琴里に、その少女は瓦礫から飛び降り、半身で構える!

その少女は士道の実妹の真那だった。―――士道のスケベは真那にまで受け継がれてしまっていたのだ。

 

「まさか―――どうして()()()()()まで立派に引き継がれているのよ!?―――まさか、こいつらの両親が変態だったために士道もこいつも変態ってわけなの!?」

 

「失礼でやがりますね!!真那は変態ではありませんよ!?」

 

「―――実の兄の上半身裸の写真を見て鼻血を流すわ、下品な妄想を浮かべるわで劣情丸出しじゃない!!これを変態と称さずになんとすればいいのよ!?」

 

「失礼千万でやがります!!真那は兄様のような真性のドスケベ野郎ではなく、ムッツリスケベでやがります!!」

 

「一緒じゃあああああああああああ!!」

 

全力で真那にツッコミを入れる琴里。『フラクシナス』でも数少ないツッコミ役だ。

兄がダメダメなら基本的にその下は完璧な部類が多いのだが、士道と真那の兄妹は例外のようだ。

 

「―――いや、別に如何わしい気持ちはねえのですよ!?この写真に残された兄様の手掛かりを見つめていた時、ふと思いました―――兄様がこれからどのように成長していくのかと………そして、十年近く時が経ち、再開したら兄様が真那好みのガッチリとした体格のイケメンになっていやがりましたのですよ!?

これで劣情を抱かない妹は妹を名乗る資格はねえのでごぜえます!!」

 

「やかましいわ!!私は十年も前からずっと士道のことを愛しているのよ!?アンタの劣情なんか、私の思いの足下にも及ばないわ!!」

 

琴里が珍しく人前で士道への想いを口にしていた。あとで司令室で顔を真っ赤にして体育座りをする様子が伺えるが、今はどうでもいいだろう。

 

「―――あなたが兄様をそこまで思っているなら、なぜ兄様を『ラタトスク』機関のような精霊の懐柔を目論むゴミクズ組織に加入させてやがるのですか?

まともな武器も顕現装置(リアライザ)すら持たさせずに………あなたは兄様を都合の良い実験体だとでも言いたいのでやがりますか?」

 

真那は先程までの変態モードをOFFにし、琴里に何かを投げる。真那が琴里に投げたものは、士道がこの前無くしたインカムだった。

真那は鋭い視線を琴里に向け、拳を握りしめ怒りを露わにしていた。

そんな真那を琴里は鼻で笑う。

 

「―――ハッ、アンタが所属するDEMインダストリーのような悪徳企業にゴミクズ組織呼ばわりされるなんて『ラタトスク』も落ちたものね………」

 

「なっ―――何処でそれをッ!?」

 

琴里が憎しげに言い放った言葉に真那は心臓を鷲掴みにされていた。真那がDEMインダストリーからASTへと派遣された社員だと言うことを看破されたことに真那は動揺を隠せなかった。

 

「舐めないでもらえるかしら?それに、士道には顕現装置(リアライザ)なんざとは比べるにも値しない強力な『切り札』を持っているわ。それこそ、全世界を崩壊させるほどのものをね」

 

「………………………」

 

琴里の言葉に真那は何も言えなくなった。しかし、真那にはどうしても否定しなければいけないことがあった。

それは――――

 

「兄様のことは置いておきますが、DEMインダストリーを悪徳企業呼ばわりをするのは、ちょっと聞き捨てならねえですね。

あそこは記憶を無くした真那に生きる意味を与えてくれやがりました………あなたが悪徳企業呼ばわりする権利はねえのでやがりますよ?」

 

真那の言葉に琴里の眉がピクリと動く。その時、琴里は真那について分からないことが、今の一言で全てが一本の線で繋がり始めていた。

 

「―――アンタまさか、()()記憶は消去されて………」

 

「………?言いたいことがあるならはっきりと言いやがったらどうなのですか?」

 

真那は核心的なことを述べて戦慄を始めた琴里を見て、怪訝に思っていた。琴里はツカツカと足を進めて真那の両肩を掴む。

 

「………あなたさえ良ければ『ラタトスク』に来ない?朝昼晩の三食の飯と寝床を用意するわよ?」

 

「―――はあ!?何を言ってやがるのですか!?」

 

琴里のいきなりの勧誘攻撃に、真那はキョトンとしていた。琴里は真那に指をさし、自分にとっては嫌で仕方がない条件だろうが平気で口にする。

 

「………あなたのような強力な人材は『ラタトスク』は大歓迎よ。今なら追加で、士道とのお風呂と添い寝も漏れなく付いてくるわ」

 

「―――真那はDEMを辞めて、今日から『ラタトスク』にお世話になろうと思います!!」

 

•••••••••••••••••••••

 

琴里の提示した条件に、一秒の時間にも満たない一瞬のうちに真那は琴里の条件を喜んで呑んだ。真那は士道と一緒の生活がよっぽど嬉しかったのか、ルンルン気分ではしゃいでいる!!

―――先ほどの『DEMは生きる意味を与えてくれた』と言うセリフはなんだったのかと、琴里は考えていた。

呆気ないほど簡単に勧誘できた琴里は完全に呆気にとられていたが、その空気を元の緊張が張り詰めた空気に戻すように二人に着信が入る!

 

「―――神無月じゃない、一体どうかしたって言うの?」

 

『司令、来禅高校の上空に凄まじい霊波反応が検出されました!』

 

「………なんですって!?」

 

どうやら真那にも似たような着信が入ったらしく、二人は目を見合わせていた。

 

「―――私は来禅高校に向かいます。兄様に危険が迫ってやがります!兄様の救出は私にお任せ下さい!」

 

「ええ、お願いするわ!」

 

真那は来禅高校に向かうことになり、琴里は真那によろしく頼むとお願いした。

事態は思わぬ展開を迎えようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――◆―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キーコーンカーンこーんッッ………

 

全ての授業が終わったと伝える終了の鐘が鳴り響く。士道は窓を見つめてボソッと呟く。

 

「今のところは狂三に動きは無しか………」

 

士道は午前、午後と狂三の様子を観察していたが、特に怪しい行動を起こそうとはせず、いつもの自然体だった。

その時、士道のインカムに『フラクシナス』から令音の通信が入る。

 

『時崎狂三の下校はまだ確認されていない。まだ校内にいるはずだ』

 

その言葉に士道も目を瞑り、周囲の気配を探ると、屋上に狂三の気配があることを察知することが出来た。

士道は神速を発動を出来るようになってからというもの、明鏡止水を極める一歩手前まで来ていたのだ。

それ故に気配察知も数ヶ月ほど前に比べると、別人の域に達していた。

 

「………シドー、また狂三のことを考えておるのか?」

 

想い人をジト目で見つめる十香ちゃん。

狂三が転校して来てからというもの、嫁(希望)の十香ちゃんはずっとこの調子だ。

デートをした昨日だけでなく、今日までも士道は狂三、狂三、そして狂三だからだ。十香が面白くないと感じるのも理解できる。

 

「そんな顔すんなよ十香。焼きそばパン買って来てやるからさ」

 

「―――おお!!それはありがたい!私は小腹が空いていたのだ!」

 

エサ一つでご機嫌になる十香ちゃん。士道は十香の頭を撫でると、教室を出て購買を目指して走り出した。

士道が階段を降りようとした―――その時だった!!

 

「―――ッ!?こ、これは!?」

 

急に体が重くなり、士道は慌てて足を止める。士道が辺りを見渡すと、空気が淀んでおり高校内が不気味な空間へと変貌していた。

 

『………これは固有結界の類だな。「他者封印•鮮血神殿(ブラッドフォート•アンドロメダ)」が一番この状況を説明するに相応しいだろう』

 

ドライグが述べた通り、生徒たちの殆どが廊下に倒れていたのだ。士道は特に影響は無いが、これは危険な状況に変わりないことを示していた。

 

『―――相棒、籠手を出して力を高めておけ。この結界は出来る限りすぐに破壊すべきだ。いつ犠牲者が出てもおかしくない』

 

「わ、分かった!!」

 

士道は赤龍帝の籠手を左腕に纏い、力の倍加を始める。士道は屋上を目指して走り始めると、十香が苦しそうに地面に座り込んでいる姿が目に入る。

 

「―――十香、大丈夫か!?」

 

「シドー!!良かったお前が無事なのは何よりも嬉しいぞ………」

 

こんな状況だが、十香は自分の身の安全よりも士道のことが気になって仕方がなかったのだろう。士道の無事に十香はホッと胸を撫で下ろしていた。

 

「十香、俺はこの元凶を止めなきゃならない―――だからここで待っていてくれるか?」

 

「ダメだ!またシドーは一人でそんな危険なことをしようと言うのか!?」

 

「―――俺しかこの状況を打破出来ねえんだよ。十香、お前が待っていてくれるなら、俺はいつもの百倍………いや千倍の力を出せる!だから十香、俺を待っていてくれないか?」

 

十香は士道の服の袖を掴んだまま離そうとはしなかったが、士道に一言だけ伝える。

 

「………シドー、絶対に死ぬな!もしシドーが死んでしまったら―――泣いて泣いて泣きじゃくってやるからな!」

 

士道は十香の言葉を聞くと、ニカッと笑い優しく頭に触れた。

 

「―――ああ、俺は絶対に死なねえ!この元凶を止めて、四糸乃と琴里と一緒に今日も晩飯を食べような?」

 

「ああ、絶対の絶対の絶対だからな!!」

 

十香の言葉を聞くと、士道は屋上を目指して全力で駆けた。そして―――屋上の扉を蹴破ると、そこにいたのは霊装を纏った最悪の精霊『ナイトメア』だった。

 

「………お待ちしておりましたわ、士道さん」

 

目の前の最悪の精霊を前に士道は視線を鋭くし、一言だけ告げる。

 

「―――狂三、俺がお前を救ってやる!!」




次回と次次回でこの章もフィナーレを迎えます。

次回「最高の赤龍帝VS最悪の精霊!!前編」

ソロモン「次回は僕の渡した『切り札』に注目!?」

————いいえ、なんでもありません


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十一話 最高の赤龍帝VS最悪の精霊!!前編

この章は四糸乃パペットと違って七話か八話ほどで終わると思っていましたが、予想より多くなってしまいました。

とても一話では書ききれないので、前編と後編に分けようと思います。

※誤字を修正しました。


 

「狂三、俺がお前を救ってやる!!」

 

屋上のドアを蹴破り、ダイナミックな登場をする主人公の士道くん。

屋上へと着くと、黒と赤の二色が目立つ霊装を纏った狂三が口に手を当てて微笑む。

 

「あらあら、お早い登場ですわね士道さん………あまり学校の私物を壊すことは感心しませんわよ?」

 

狂三は士道が蹴破った屋上のドアの残骸を眺めていたが、士道は狂三に鋭い眼光を向ける!

 

「狂三、お前の狙いは俺だろ?俺だけを狙って攻撃するならまだしも、なぜ校内にいる十香たちにまで手を出す必要がある!?」

 

士道の心の叫びを聞いた狂三は、愉快に微笑むだけだった。

 

「わたくしの天使は、非常に強力な反面、力を使う度に膨大な時間を消費します欠点がありますの………ですので、こうして外から補充する必要があったということが一つの理由ですわ。

―――そしてもうひとつは………」

 

もう一つの理由を述べる前に狂三は、冷酷な視線を士道に向ける。その視線の冷たさは、まるで凍てつく闇を思わせるほどだった。

 

「昨日、そして今朝方、そして今も………士道さんはわたくしを『救う』などと言う世迷言を掲げていることが、わたくしにとっては気分を害するものでしかありませんもの―――今すぐその世迷言を撤回してくださいませんこと?そうすれば、この結界はすぐに解除しますわ」

 

―――狂三が言っていることは全て本心だと士道も理解していた。だが、士道は狂三に食い下がる。

 

「………それは俺に『狂三を諦めろ』と言うことか?」

 

「ええ、そうですわ。こんな自分勝手に弱者を傷つけるような存在を士道さんは許すことはできませんわよね?

わたくしみたいな人殺しに、士道さんが慈悲をかける必要がありまして?」

 

士道はもう一度だけ狂三に確認をする。―――これは士道にとっては最後通告だった。

 

「―――俺が狂三のことを諦めること以外では、()()()()()この結界を解いてはくれないのか?」

 

「聡明な士道さんなら分かっていますわよね―――わたくしは嘘はついていないということが………」

 

狂三の揺るがない決心に士道は天を仰ぎ瞑目する―――そして………

 

「………分かった―――仕方ない、それなら()()()()を取るまでだ」

 

『Boost!!』

 

士道が鋭い視線を狂三に向け、赤龍帝の籠手を纏った左拳を強く握る。それは行われていた倍加が完了したことの合図だ。

赤龍帝の籠手(ブーステッド•ギア)の宝玉が輝き始め、ドライグが士道に語りかける。

 

『―――相棒、これで完了した倍加は七回だ。この程度の固有結界ならば、これだけの力があれば確実に破壊できるはずだ』

 

ドライグの言葉に士道は不敵な笑みを浮かべ、左手に野球ボールほどの球体を具現化させ、掌を上空へと向ける!

 

「―――ッ!?士道さん、まさか!?」

 

狂三は士道の様子を見て、戦慄していた。士道がこれから行うことは、狂三が展開した固有結界『時喰(ときは)みの城』の破壊だったからだ!

戦慄する狂三を無視して、士道は赤龍帝の籠手(ブーステッド•ギア)で具現化させた球を殴りつけ、上空へと飛ばす!

 

「―――赤龍帝からの贈り物(ブーステッドギア•ギフト)ッッ!!」

 

『Transfer!!!!!!!!!』

 

カッ!!ドオオオオオオオオオオッッ!!

 

士道が放った球体は結界に染み込むように広がり、その結果、狂三の『時喰(ときは)みの城』は急に大きく振動し始め、徐々に結界にヒビが入り始め、入ったヒビからは光が入り始めていた。

 

「―――こ、こんなことが………くっ、もう制御が効きませんわ!?」

 

ピシビシピシピシビシピシッ………

 

狂三の固有結界『時喰みの城』のヒビはさらに広がっていき、狂三が『時喰みの城』の修復を急ぐが、すでに焼け石に水でもう崩壊を止める手立ては無かった

 

そして―――………

 

バリンッ!!サーーーーーーッッ………

 

『時喰みの城』はついに粉々に砕け散り、砕け散った結界は光の粒子となって消え去った。

士道は邪魔な結界が消え、晴れ渡る空を満足げに見上げていた。

 

「心に黒い雲が掛かっていたら、振り払ってやるのが一番だ。雲が晴れたら、待っているのはこんなに綺麗な風景だ―――美少女の心はこうじゃなきゃいけないよな!」

 

士道は意味深な発言をし、取り敢えずは校内の生徒の一息の休息を勝ち取った。

晴れ渡った太陽が士道の頑張りを祝福するかのように照らしていた。

 

『………上手く言っている場合ではないぞ?―――見てみろ、最悪の精霊さまは随分と頭に血が上っているようだぞ?』

 

ドライグの言葉に、士道は目の前の狂三へと目をやると、手札の一枚を失ったことに狂三は動揺を隠せず、士道をまるで化け物を見つめるかのような目で見ていた。

 

「士道さん………あなた一体何をしたんですの!?」

 

先ほどまでの笑みが完全に消え去り、狂三には完全に余裕が無かった。そんな狂三に士道は至極わかりやすく説明する。

 

「何って、狂三の結界に力を譲渡しただけだよ」

 

「―――なっ、しかし!それだけでわたくしの『時喰みの城』が砕けるわけ………」

 

「それを知りたいなら、俺に降参をするんだ。そんでもって俺と同じ屋根の下で、お風呂も寝るのも一緒の生活をするって約束してくれるなら教えてやっても良いぜ?」

 

士道は狂三に降伏を勧めたが、最後が酷すぎるのはいつものことだから放っておこう。

士道は屋上に行くまでの間、ドライグの助言でずっと赤龍帝の籠手(ブーステッド•ギア)を纏い、倍加を行なっていたのだ。

七度も倍加をしようとなると、十秒に一度の倍加だと七十秒も要してしまうため、狂三との会話との後に七十秒も稼ぐことは不可能だった。

故に、()()()()()()()()()()()倍加をはじめ、狂三がセコセコと結界を張った原因を話している間も士道は倍加を続けていたのだ。

―――つまり、狂三が結界を解除をしないことを読み、自分で結界を破壊しなければならないことまで計算していたからこそ、移動中と狂三と話している時に七度の倍加を完了させる時間を士道は稼いでいたのだ!

 

そして、『時喰みの城』を崩壊させるに至った決定打は、七回も溜められた倍加―――士道の力が128倍にも膨れ上がり、その力がいきなり結界を強化したことで発生する力の負荷だ。

 

度が過ぎた力が加わると、力が加わった物を崩壊させる。

それは結界と言えど例外ではない。強化された力の増幅に結界の耐久力が悲鳴をあげ、粉々になって砕け散ったいうわけだ。

 

………しかし、『時喰みの城』の攻略は、狂三を本気にさせることまでは計算していなかった―――いや………

 

「キヒヒヒヒヒヒヒヒヒ、士道さんと同じ屋根の下でお風呂と寝るのも一緒というのは、さぞ魅力的なお誘いですわ―――だって士道さんを滅茶苦茶に犯すことはとおっても楽しそうですもの!考えただけでゾクゾクしますわぁ!!

―――でぇもォ!今度はそう簡単にはいきませんわよぉぉぉぉぉぉ!!」

 

狂三が右腕を強く天へと突き上げると、周囲の空気が歪みはじめ、狂三の上空を中心に非常に強力な力が収束を始める!!

 

ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ………

 

精霊が出現するときに発生すると言われる空間震警報が鳴り響く!!その空間震の発生源は狂三の頭上の力の渦だ!!

士道はこの時、今の状況で空間震が発生した時の被害のことを考えると、顔が真っ青になった。

―――『時喰みの城』で弱った生徒たちは逃げる術はない。ここで空間震が発生してしまえば、来禅高校の教師と生徒の大半が犠牲になってしまうからだ!!

 

「―――や、やめろ!!やめるんだ狂三!!衰弱した生徒や教師たちがいるこんな上空で空間震なんか発生させたら、どれだけの犠牲が出るか!!」

 

士道が全力の叫びを上げるが、狂三は士道が罠にかかった所を大爆笑するかのように、士道の心を抉る!!

 

「キヒ、キヒヒヒヒヒ、キヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!さあどうしますの士道さぁん!わたくしを救うと言ったのは嘘だと言ってくださいましぃ〜?さもなければ、空間震が発生してみぃ〜んな死んでしまいますわよぉ〜?」

 

苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる士道を見て、狂三は楽しむかのように薄ら笑いを続ける!!

赤龍帝の籠手の宝玉が点滅を繰り返し、ドライグの音声が響き渡る。

 

『―――こうなってしまった以上はこの小娘は諦めざるを得まい………相棒、辛いのは百も承知だが、この小娘を始末するんだ。それで空間震は止まり、夜十神十香たちの安全も確保できる。今更迷う必要がどこにある、これは致し方ない―――』

 

「ふざけるなッ!!」

 

ドライグの言葉を遮って士道は大声で叫んだ!士道は胸の内にあるものを全て吐き出す!!

 

「『致し方ない犠牲だ………』とでも言うつもりかドライグ!?

―――ならハッキリと言ってやる!!狂三の犠牲で得られるものなんてなにもねえ!!それでこの状況を切り抜けたとしても、俺に残るのは『狂三を殺した』という虚しい結果だけだ!!

―――この戦いの勝利条件はなぁ、ここにいる()()を救うことなんだよ!!俺はここにいる誰一人として見捨てることなんてできねぇ!!」

 

『相棒………』

 

士道の言葉を聞いたドライグは押し黙った。しかし、狂三は士道の叫びを聞いて憤りを露わにするだけだった。

 

「―――あなたバカなんじゃありませんの!?それはただの偽善ですわ!!確実に救える命を疎かにし、わたくしのような悪人にまで手を差し伸べることが大事だとでも言うつもりですの!?」

 

士道は狂三の言った言葉を強く肯定する。士道は右手に塵殺公(サンダルフォン)、籠手からアスカロンを引き抜き、左手で握る。

 

「ああそうだよ!!俺は絶対にお前を見捨てない!!俺が望む結末は―――未来は!!この手で掴み取ってみせる!!まだ手札が残っているにも関わらず、自分が理想とする結末を迎える努力をせず、一番楽で確実な道を選ぶのが善人だと言うのなら、俺は偽善者で結構だ!!」

 

士道の覚悟に呼応するかのように、塵殺公(サンダルフォン)とアスカロンが凄まじい力を放出する!!

塵殺公は霊力を、アスカロンは今までとは比較にならないほどの強い光を放っている!!

押し黙っていたドライグも士道の背中を押す!!

 

『―――そこまで言うのであれば、最後までその偽善を貫け!!相棒がそれを望むのであれば、俺もそれに全力を以って応えよう!!ここにいる全員を救うぞ五河士道ッッ!!」

 

「おう!!」

 

ドライグの言葉に士道は目を開けて驚いていたが、すぐに笑みを浮かべ、狂三から距離を取り最後の切り札を使う!!

 

『Welsh Dragon Limit Break!!!!!!!!!!』

 

赤龍帝の籠手(ブーステッド•ギア)の宝玉が凄まじい輝きを放ち、赤いオーラを士道の体から噴出させる!!

そして―――………ついに神器の枷が外れる!!

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!!!!!!!!』

 

士道は全身にかかる倍加による負荷に吐きそうになるが、士道は全身に力を入れ、全力で耐える!!

そして―――塵殺公(サンダルフォン)とアスカロンを両手で握り、一本の剣として力の波動を合わせる。その結果、放出される霊力と聖なる波動が融合し莫大な力を生み出す!!

そして、狂三が発生させようとした空間震の発生が始まろうとしている!!

 

「―――ドライグ、今だ!!」

 

『Transfer!!!!!!!!!!』

 

ドオオオオオォォォォォォォォォォッッ!!

 

二つの剣の合成によることで生まれた莫大な力に、さらに赤龍帝の籠手(ブーステッド•ギア)で倍加した力を込める。

その結果、剣から放出される力は天宮市の街を震わすほどのものだった。

そして―――狂三が発生させた空間震がついに発動し、生じた歪みから収束した力が溢れ出そうとしてしていた。

 

「これで終わりですわ!!学校もろとも吹き飛びなさい!!」

 

狂三が拳を振り下ろすことで、その力は一気に放出される!!まるで歪みから巨大な津波が発生するかのように!!

 

「―――吹っ飛べぇぇぇぇぇえええ!!」

 

ズガアアアアアアアアアアアアンンッッ!!

 

士道も負けじと発生した空間震を相殺しようと、剣を振るう!!士道は剣を斬りあげるように振るい、上空の空間震だけを狙って剣に溜まった力を放出させた

 

 

 

そして―――………

 

 

 

 

力の衝突が終わり、辺りに立ち込めた煙が吹き飛ぶと、屋上の落下防止の鉄柵やアンテナは全て地面に落下したが、それ以外で来禅高校に目立った被害は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

―――◆―――

 

 

 

 

 

 

「へ、へへ………聞いていた通りだぜ、空間震は発生と同時に同等かそれ以上のエネルギーをぶつければ相殺できるってな。本当にやってみりゃ見事に成功したぜ………」

 

士道は全力の一撃を放ち、息が上がりながらも笑みを作り出した。これで狂三の手札の全てを士道は潰したのだ。

―――だが………その代償はあまりにも大きかった。

 

「ぐうううああああああああっっ!!」

 

「―――っ!?」

 

ブチブチッ!と切れてはいけない何かが、士道の体の中で切れたような音がし、左手で右腕を抑え倒れこむ士道。士道の右腕は血で真っ赤に染まり、骨が砕けたのか士道の右腕は本来ならありえない曲がり方をしていたのだ。

―――その原因は士道が先ほど振るった塵殺公(サンダルフォン)が原因だ。身に余る力はその身を滅ぼす。

いくら神滅具を所持し、封印した精霊の霊力に護られているとは言え、士道自身は脆弱な人間だ。

精霊が顕現させる天使を使えば、こうなることは士道も覚悟していた。

 

狂三はそんな士道の痛々しい姿を見て、狼狽していた。

 

「あ、ああ………あああああ!」

 

いつもの狂三なら『無様ですわねぇ士道さん』などと士道をあざ笑うだろうが、狂三は口の前に手を置き、一歩また一歩と後退りを始めた。

 

「そんなに泣きそうな顔をしないでくれよ、マイ女神さま。俺はこの程度じゃ死なねえよ………まあ、腕が無くならなかっただけ奇跡だけどな。十香やクラスメイト達の命を腕一本も犠牲になることなく救えたんだ………今回の大博打は大勝利だな」

 

苦笑いをしながらボロボロになった右腕を抑えて立ち上がる士道。そんな士道の姿を見た狂三は感情を爆発させる!

 

「―――あなた本当に何を考えていますの!?あなたがやった行為は一歩間違えば死んでいたかもしれないんですのよ!?あなたは命をなんだと思っているんですの!?」

 

―――それは狂三が言えるセリフではないのは言うまでもないが、士道は自分のことを狂三に語る。

 

「………少し話をしようか―――もう何年も前の話になるけど、俺は大切なものを全て失った。一緒にバカなことをやって来た親友も、大切な仲間も、己を高めていくためのライバルも、そして好きだった人も全て失った………

そして俺は産んでくれた両親にも捨てられたんだよ」

 

それは士道の前世の記憶とこの世界に来てからの記憶だった。―――士道は何かも失い、失意のどん底に落ちることを経験した。立ち直るまでに多くの時間がかかった。

だからこそ、士道は行動する―――自分と同じ絶望を味わう人々を作らせないために!

士道の右腕から焔が迸り、傷を癒していく―――士道は腕が元どおりに戻った後、狂三を見つめた。

 

「―――もし、狂三が発生させた空間震が学校を吹き飛ばしていたら多くの人が家族を失った苦しみに絶望するだろう………俺はそんな人達の絶望した顔を見たくない!何かを犠牲にするのは俺だけでいい―――狂三、俺はお前も例外にするつもりはない!」

 

「なっ――――何を言っていますの………」

 

士道が強く言い放ったことで、狂三は呆然と立ち尽くしていた。士道は続ける。

 

「狂三、俺は―――お前が誰かを殺し、誰かに殺される………そんな生活をして欲しくないだけだなんだ!

狂三がみんなと笑って、楽しく過ごせる生活をしたって誰も文句を言わねえよ!!もしそんな奴がいたら俺がぶっ飛ばしてやる!だから狂三―――黙って俺を信じてくれないか?俺たちと一緒に、笑って過ごせる生活をしようぜ」

 

「ふん、大きなお世話ですわ!第一、そんなこと許されるわけがありませんわ!わたくしの手がどれだけ汚れているかは士道さんもよく知っているはずでしょう!?

そんなわたくしがそのような生活をする権利なんて、あっていいはずがありませんわ!!」

 

士道は狂三に手を差し出すが、狂三はその手を取ろうとはせず、士道を拒絶するように強く叫んだ―――まるで士道に怯えるように………

だが、士道は拒絶されても一歩、また一歩と狂三に向かって足を進める。

 

「狂三、確かにお前がやってきたことは決して許されることじゃねえ、それは一生背中に背負わなければならない十字架だ―――でもな!狂三の手がどれだけ汚れていようが、俺が狂三に手を差し伸べてはいけない理由にはならねえ!!」

 

「―――っ………そんなこと、できるわけが………」

 

狂三の頭の中は混乱していた。何度拒絶されてもこの五河士道という男は諦めることなく自分に手を差し伸べてくる。

―――こんな男は見たことがないからだ。

 

「―――お前の自慢のだった『時喰みの城』を破壊し、空間震を消滅させた俺の言葉では不満か?

狂三が俺の言った生活がくだらないと思ったそん時は、絶対に責任を取る!黙って俺は喰われてやるし、奴隷にだってなってやる―――だから狂三、俺の手を取ってくれ………今はそれだけでいい、また一緒に遊ぼうぜ狂三」

 

狂三は考えていた『もしそのような生活が出来るなら………』と。実際に狂三は士道とのデートは色々な辱めを受けたが、楽しんでいた。

 

そして、自分を殺そうと向かってくる真那から二度も自分のことを命懸けで守ってくれた―――そしてそれは今日もだ。

自分を救うために自ら罠に飛び込む士道なら()()()()()と………

 

「士道さん、わたくしは――――」

 

狂三が士道の手を取ろうとしたその時―――――

 

ビチャッ………

 

「――――え?」

 

士道は顔に温かい液体が掛かったことに怪訝に思っていた。その液体の正体は―――()()()()だった。

そして―――狂三の体には異変が起こっていた。

士道は目の前で起こった光景がまだ理解できていなかった。

 

「………あ、ああ」

 

狂三は目が飛び出るほどに目を開き、全身に広がる苦痛に耐えていた。狂三の胸を何者かの腕が貫いていたからだ。

狂三の胸から腕が引き抜かれると、狂三は口からも吐瀉物を吐き出し、地面に倒れこんだ。

―――その時、ようやく士道は状況を理解し、すぐに狂三に駆け寄る。

 

「――――ッ!狂三ッ、狂三ッッ!!」

 

倒れた狂三を士道は抱える。そして、狂三の胸を貫いた人物に鋭い視線を向けた士道だったが―――その光景を見た士道は言葉を失った。

その理由は―――()()()()()()()()()からだ。

狂三―――()()()()の胸を貫いた狂三は怒りに打ち震える士道を見て微笑む。

 

「あらあら、士道さんったら、そんな怖〜い顔をして………何か怒るようなことがありまして?」

 

士道はくるみんを腕に抱えながら狂三に殺気を込めて怒鳴る!

 

「お前―――なんでこんなことが出来るんだよ………お前は―――お前はッ、自分の手で自分自身を殺したんだぞ!?」

 

「それはわたくしの分身体ですもの。本体が分身体を始末することに理由がいりまして?士道さんに絆されたわたくしに存在理由はありませんので、回収致しますわ」

 

「―――()()()()は渡しはしないッ!!」

 

影の中から無数の腕が現れ、士道が抱えているくるみんに迫る!しかし、士道は神速を発動し、その場から飛び退くことで腕を避ける!

その時―――頼もしい援軍が現れる!!

 

「シドー、すまぬ遅くなった!!」

 

「現れやがりましたね『ナイトメア』ッ!真那の兄様に手を出そうとは言語道断でやがります!」

 

「士道、良かった………」

 

十香、真那、折紙だ。十香は限定的な霊装を纏い、真那と折紙はCRユニットを纏っていた。

そんな援軍を見た狂三は、キヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!といきなり笑い出し、腕を天に掲げる!

 

「―――あらあら、私みたいなか弱い乙女に四対一ですか………でぇもォ!今日は私も本気ですわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

援軍の三人は、最悪の精霊『ナイトメア』に挑んだ。

士道はくるみんをどうにかして救おうと思っていた時、くるみんが士道の胸を弱々しく掴む。

 

「―――し、どう、さん………」

 

くるみんがまだ生きていることに士道は、ホッと胸を撫で下ろしたが、あまり好ましい状況ではないため、すぐに緊張状態に戻る。

こうしている間にも、くるみんの命の猶予は刻一刻も迫っているからだ!

 

「くるみん、後少しの辛抱だからな!」

 

士道が『切り札』を取り出そうとした時、士道の手をくるみんが握る。

 

「………わたくしは、もう助かりません………わ。

しどう、さん―――少しの間だけ、でも希望が持てましたわ………デート、ほんとうに………楽しかった、ですわ」

 

「ああ、俺も楽しかった!!でもな、これが最後だなんて言わさねえぞ!絶対に俺が助けてやる!!」

 

息が絶え絶えになりながらも言葉を発するくるみんを見て、士道は涙が止まらなかったが、ソロモンから貰った『切り札』の箱を握りしめる!

ドライグも士道の行為に賛成する。

 

『………俺も相棒の心意気を汲もうと思う。それを使うならここ以外にはあるまい』

 

「―――頼むッ!!」

 

士道は箱の中身に『フェニックスの涙』のような傷を癒すアイテムが欲しいと願い、箱を握りつぶす!

 

 

その時―――奇跡が起こった。

 

 

 

 

握りつぶした箱から士道の手に握られていたものは―――『フェニックスの涙』だったのだ。

士道は涙を振り払い、くるみんにフェニックスの涙を使う!

 

「―――くるみん、俺はお前を絶対に救ってみせる!!」

 

フェニックスの涙の雫がくるみんの体に落ちると―――狂三に貫かれた胸の傷は瞬時に消え去った。

 

「士道さん、わたくしは――――」

 

くるみんは口を開け士道何かを伝えようとしたが、目が霞み始めたため、最後まで言うことが出来なかった。

そんなくるみんに士道は優しく訊いた。

 

「―――くるみん、俺はお前を救えたか?」

 

「………」

 

くるみんは、士道の問いに笑顔を見せることで応えた。そしてくるみんは意識を手放した。

 

そして―――くるみんを抱きかかえる士道を見下ろすように狂三が士道に銃口を向ける。

 

「キヒ、キヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!士道さんは本当にバァカなのですわねぇ………そのような欠陥品を助けるために、神のようなアイテムを使うとは………理解に苦しみますわ」

 

―――狂三のこの言葉で、士道の胸の中は煉獄のように燃えていた。

胸の中に渦巻く煉獄の怒りは、士道を縛り付ける最後のリミッターを解除するには十分だった。

 

「――――今、なんて言った………」

 

「ッ!?」

 

普段の士道からは考えられないような低く、怒りと殺気が篭ったドス黒い声に狂三は恐怖していた。

士道がくるみんを抱え、ゆっくりと立ち上がった次の瞬間――――

 

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオツッ!!

 

 

赤いオーラが竜巻のように士道を中心に展開され、その竜巻状の赤いオーラは天を貫く!!

 

それは―――真の赤龍帝の降臨を意味していた。

士道の仲間を傷つけられたことで感じた純粋な怒りは―――ついに士道を次のステージへと導く!!

 

「―――禁手化(バランス•ブレイク)ッッ!!」

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!!!』

 

士道を中心に展開した激しいオーラは払われ、赤い粒子となって、龍を模した全身鎧を纏った士道を祝福しているかのように辺りを照らした。

士道はくるみんを寝かせ、狂三を睨み付ける!

 

「――――狂三、俺はお前を許さないッ!!」

 

士道は神速を発動し、地面を強く蹴る!目の前の巨悪を討滅するために、神速を発動し握りしめた拳を解き放つ!!

 

ドガアアアアアッッ!!

 

士道が放った怒りの一撃は狂三を捉え、狂三が吹き飛ぶ!吹き飛んだ狂三が屋上への入り口を崩壊させた。




次回「最高の赤龍帝VS最悪の精霊!!後編」

フィナーレは次回にせざるを得ませんでした!

なるべく早めに投稿できるように頑張ります!


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十二話 最高の赤龍帝VS最悪の精霊!!後編

今度こそ正真正銘のフィナーレです。

次話から四章『琴里クラッシュ』へと入って行きます。



※一部修正しました。


 

天宮市の上空、一万五千メートルに滞在する空中艦『フラクシナス』の内部では、クルー達が解析装置に釘付けになっていた。

 

「―――来禅高校の屋上に謎の超巨大エネルギー反応!観測されたエネルギー値は、今もなお上昇しています!」

 

藁人形(ネイルノッカー)』椎崎が艦内のモニターに表示されている突如現れた謎のエネルギー反応を見て舌を巻く。

 

「屋上のカメラをモニターに映します―――なっ、なんだこれはっ!?」

 

神無月が屋上を捉えている監視カメラにアクセスし、その映像をモニターに移す。そこには赤い謎のオーラが竜巻を形成し、それは天を貫くほど激しいオーラだった。

そんな中、ただ一人だけエネルギーの正体に気が付いた人物がいた。

 

「………このエネルギーの源は間違いなくシンの筈だ。

………シンは限界を超えたみたいだね」

 

令音は神無月や他のクルー達とは違い、モニターを誇らしげに見つめていた。そして―――赤いオーラは、赤い粒子となって消滅していく。艦内のモニターが映したのは、両足で立っている赤い全身鎧だった。

 

「―――まさか、これが士道くんなのか………」

 

神無月が士道が秘めていた真の力に、言葉を失っていた。令音はモニターの前まで行き、モニター越しにだが士道にエールを送る。

 

「………シン、おめでとう。今のキミに倒せない悪など存在しない。―――今こそキミの理想を成し遂げる時だ」

 

令音はモニターを見ながら、珍しく微笑んでいた。それは―――何かを成しとげた子を誇らしげに見守る母親のようだった。

 

そして神無月が今は席を外している琴里の代わりに、艦の指揮をとる。

 

「―――総員、来禅高校から発せられる力を遮断する結界の展開に急いでください!AST達に士道くんの存在が知られたら面倒になる。同時にASTへの妨害工作の準備に取り掛かってください!」

 

『―――了解!!』

 

神無月の指示に、クルー達は慌ただしく仕事に戻った。

それぞれの思惑を胸に、最終決戦が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

―――◆―――

 

 

 

 

 

 

 

来禅高校の屋上では士道と狂三のやりとり以外にも、もう一つの戦いがあった。

狂三が()()()()を貫いた後、十香達は狂三の本体と、狂三本体が召喚した無数の分身体を相手にしていた。

 

―――しかし、狂三の強さは想像を絶するもので、既に真那は狂三の天使

刻々帝(ザフキエル)』の【七の弾(ザイン)】によって動きを止められ、止められた時に全身に銃弾を被弾し、真那は倒れる。

そして共に戦っていた折紙も、分身体の狂三に首を絞められ意識を失ってしまった。

そして十香も似たような状況だった。狂三の分身体に、歩兵銃で後頭部を殴られ、地面にうつ伏せで倒れ込んでいた。

 

―――“私も意識を刈り取られる”と思っていた矢先、狂三の分身体の動きが一斉に止まる。

その原因は、狂三の本体が吹き飛び、屋上の入り口を瓦礫の山へと変えてしまったからだ。

狂三の本体を吹き飛ばしたであろう、赤い全身鎧を纏った人物を、十香は体を起こし見つめていた。

 

「―――シドー………」

 

十香はその人物の名前を呼んだ。その時、狂三の分身体達が一斉に赤い全身鎧を纏った士道に向けて、銃口を向ける!

 

 

―――だが………

 

 

 

•••••••••••••••••••••

 

無言で士道は腕を振るった―――次の瞬間、凄まじい衝撃波が巻き起こり、狂三の分身体を全て吹き飛ばす!

士道は、集めた紙くずを一息で吹き飛ばすかのように、狂三の分身体をいとも簡単に吹き飛ばしてみせたのだ。

士道は兜を消し、十香の前にくるみんを抱えてやって来た。

 

「―――シドー………そうか、遂にその姿になることができたのだな」

 

十香は士道を見上げる。十香はこの赤い全身鎧を纏った士道の姿を知っている。

―――それは、目醒めることの無い闇の中にいた自分を再び目醒めさせてくれた、荒々しく激しいオーラの中に、全てを包み込む優しさが感じられる―――五河士道という人物そのものを示すものだった。

士道は十香に頷き、十香の横に意識を失ったくるみんを寝かせる。

 

「………ああ、随分と遠回りをしちまったけどな―――十香、みんなのことを頼んでもいいか?」

 

士道の言葉に、十香は塵殺公を杖代わりに立ち上がり笑みを見せる。

 

「ああ、こいつらは私に任せろ!」

 

十香は真那や折紙とは違い意識を刈り取られたわけでは無いため、軽い戦闘なら可能だ。―――しかし、これから始まるのは軽い戦闘ではもちろん無いため、士道は十香に倒れた仲間達の保護を任せるつもりだった。

十香は意識を失った真那と折紙を回収し、くるみんを合わせた三人を自分の後ろに並んで寝かせた。

 

その時、瓦礫の山へと化した屋上の入り口にから、口から血を流した狂三の本体が現れる。

 

「―――士道さん、よくもやってくれましたわねッ!!」

 

狂三はもう余裕がなかったのか、先程までの上品さが全く感じられなかった。霊装は胸の部分に亀裂が入っており、真珠を思わせる赤い瞳は怪しい光を放ち、左目の時計の針は恐ろしい速さで回っている!

 

「今の一撃はお前に胸を貫かれたくるみんの分………そして次は、十香達が受けた痛みの分だ!!」

 

士道が拳を構えると、狂三は短銃を自分の顳顬に構える。

 

「『刻々帝(ザフキエル)』―――【四の弾(ダレット)】ッ!!」

 

狂三が自分の背中に巨大な時計を出現させる。それは精霊が持つ絶対の武装『天使』だ。

“形を持った奇跡”とも謳われる物で、十人の精霊がいれば、十通りの形がある。

―――顕現した巨大な時計の『IV』の文字から狂三の短銃に力が流れ込んでいき、狂三はその銃を自分の顳顬に撃ち抜く!

 

口から流れた血は消え去り、士道が破壊した霊装は元どおりに復元されていた。

それを見たドライグは宝玉を点滅させる。

 

『―――あの小娘は時間を戻しやがったな………アレなら死んでさえいなければどんな傷も無効にできる、おまけに先程の分身体のおかげであの小娘の不死身の理由も理解できた………本当にあの小娘は文字通り「最悪の精霊」だ』

 

ドライグが言ったことはほとんど死刑宣告に近かった。

いくら致命傷を与えようが、時間を巻き戻されては意味がないからだ。

そして、狂三の不死身の理由はあの分身体だ。本体は影の中に隠れ、分身体に行動をさせれば良いだけだからだ。

いくら分身体を殺そうが、源を絶たねば()()()()()()()()()だからだ。

 

「―――関係ねえよ、要は狂三が降参するまでの間、徹底的に精神を虐めてやれば良いだけだろ?あいつがいくら不死身でも()()までは不死身じゃねえはすだ………女性を絶望させるなんて真似はしたくねえが、そうでもしねえとこの状況は変わらなねえ!!」

 

士道は不死身の敵の倒し方を知っていた―――それは前世でのリアスの婚約破棄のために戦った『ライザー•フェニックス』との戦闘でそれを学んでいたからだ。

士道の言葉を聞いた狂三は憤りを露わにする!!

 

「―――調子に乗らないで下さいます?貴方にそのような力はありませんわ!!………わたくしたち、出番ですわ!!」

 

狂三が掌を挙げると、狂三の背後に亀裂が入り、その亀裂の中から無数の分身体が飛び出してくる!

そして狂三とその分身体達は士道を取り囲むように陣取り、銃を構える!

 

「では士道さん、ごきげんよう!良い夢をみて下さいましね?」

 

ズドドドドドドドドドドドドドドッ!!

 

狂三とその分身体達が一斉に士道に銃を乱射する!!

士道は自分の右手に冷たい冷気を纏い、その真名を謳う!!

 

「―――『氷結傀儡(ザドキエル)』ッ!!」

 

士道は自分と十香達を周りを囲うように、『天使』の力で分厚い氷の要塞を結成する!!

狂三の銃弾はその要塞に阻まれ、突破することが出来なかった。

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!!!!!!』

 

「―――凍てつきやがれェェェェェェェッッ!!」

 

士道は『氷結傀儡(ザドキエル)』の力を体内に回し、籠手で倍加した力を合わせて口から吹雪を吐く!!

 

「なっ―――!?」

 

吐かれた吹雪は、士道の前方の要塞を吹き飛ばし、狂三の分身体達を全て吹き飛ばす!!

狂三の本体は危険を察知して飛び上がって回避したが、足に凍傷を負っていた。

 

「狂三、お前は精霊だ………だから殺しはしない―――けどな、十香や真那達をこんな目に合わせておいて、無傷で帰れるなんて思うなよ?」

 

「本っっ当に不愉快な方ですね貴方はッ!!まずはその生意気な口が聞けないように蜂の巣にしてあげますわ!!

刻々帝(ザフキエル)』―――【七の弾(ザイン)】ッッ!!」

 

再び狂三の背後に巨大な時計が現れ、『VII』の文字から左手に持つ短銃に力が注ぎ込まれる!

そして―――

 

パァンッ!!パァン!!パァン!!

 

力が注ぎ込まれた短銃を狂三は士道に放つ!士道は銃弾を切り刻もうと、アスカロンを構える!

その時、真那が出血多量で意識が朦朧とする中、起き上がって士道に叫ぶ!

 

「兄様、避けて下さいッ!!その弾は―――」

 

真那は最後まで伝えることが出来ず、再び地面に倒れそうになるが、十香が真那を支える。

 

「シドーの妹二号、その体で無理をするな!」

 

「―――伝えなければならねえのです!あの弾は触れた時点で効果を発動しやがります!!このままでは兄様が!!」

 

真那の叫びを士道は聞くわけにはいかなかった。もし士道が避けてしまえば、十香達に銃弾が命中する可能性があるからだ。

士道は避けようとはせず、アスカロンで放たれた銃弾を斬り刻む!!

 

「―――フンッ!!」

 

ギィン!!ガギィ!!ゴギィッ!!

 

真那の恐れていたことが現実になってしまった。士道が狂三の銃弾を斬り刻んだ瞬間、士道がまったく動かなくなってしまったからだ。

狂三は再び分身体を影の中から呼び出し、止まった士道に銃口を向ける!

 

「―――いかに強力な力を持っている士道さんでも、止めてしまえば意味はありませんわぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!」

 

キヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!と止まった士道を見て汚い笑みを浮かべる狂三。真那と十香は士道の身を案じ、強く叫ぶ!!

 

「兄様あああああああッッ!!」

 

「シドおおおおおおおおおッッ!!」

 

二人は涙ながらに叫んだが、士道が動くことはない。それに合わせて狂三とその分身体達はニィッと笑み、銃の引き金を引こうとしていた。

 

 

 

 

―――しかし………

 

 

 

 

 

『Welsh Dragon Limit Break―――Over Limit Booster set up!!!!!!!!!!!!!!!!!』

 

 

 

 

 

靄がかかっているかのように、時間を止められたはずの士道だったが、鎧の宝玉が凄まじい輝きを放ち、時間停止を破ろうとしている!!

狂三はこの光景に狼狽する!!

 

「―――なっ!?こ、こんなことが!?

………ですが、もう手遅れですわ!!」

 

ズドドドドドドドドドドドッッ!!

 

士道を囲むように再び陣取った狂三とその分身体達は四方八方から引き金を引き、士道に銃弾の嵐を浴びせる!!

しかし―――ここでも士道は奇跡を起こす!!

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!!!!!!!!!!』

 

限界を超えた力の倍加が可能になる禁手(バランス•ブレイカー)の限界をさらに超えた一瞬の倍加で【七の弾(ザイン)】の時間停止を士道は破り、士道の周りを囲っていた靄を全て吹き飛ばす!!

そして真正面にいる狂三の本体に倍加された力を受けた、必殺の右ストレートを放つ!!

 

「――――――」

 

ズドオオオオオォォォォォォォォォォッッ!!

 

振り抜かれた士道の拳は、狂三の顔の真横で静止していた。士道が放った拳は、衝撃波を纏いながら凄まじいスピードで山の方向へと消えていき、衝撃波は山にぶつかり、地形を変えるほどの衝撃をもたらした………

これが赤龍帝―――天使、悪魔、堕天使と言った『三大勢力』の親玉に喧嘩をふっかけた二天龍の片割れの底力といったところだ。

狂三は、自分の顔の真横で静止している拳に視線を送り、言葉を失っていた。

 

「―――俺ん家の家族を、泣かしてんじゃねえ!!」

 

狂三はすぐに士道から距離を取り、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、激昂する!!

―――狂三は悟っていたのだ………士道が()()()拳を外したことを。先程の限界を超えた力の倍加を受けた拳が狂三に命中していたら、間違いなく狂三の体は原型を留めていなかっただろうから………

 

「これほどの屈辱を味わったのは生まれて初めてですわッ!!―――【一の弾(アレフ)】………ッ!」

 

再び巨大な時計こと『刻々帝(ザフキエル)』が顕現し、『I』の文字から短銃に力が注ぎ込まれる!

狂三は自分の分身体に次々と銃弾を打ち込んでいく!士道は狂三の動きに注意し、アスカロンを構える。

そして―――狂三は次に自分の顎に銃弾を打ち込み、士道の背後から、歩兵用の銃で後頭部を狙って殴りつけるが、士道が振り返ってアスカロンで狂三の攻撃を防ぐ!

 

その時だった――――

 

「――――――ッ!?」

 

士道が振り返って時に、狂三の他に視界内に移った光景は、狂三の分身体達が十香達に迫っている光景だ!

士道は神速を発動し、十香の前に移動する!!

 

「―――なっ、シドー!?いつの間に私の前に!?」

 

「十香、真那と一緒に伏せろッ!!」

 

いきなり目の前に現れた士道に、十香は自分の目を疑ったが、士道の言葉と、迫り来る危険を感じ、十香は動けなくなった真那と一緒に地面に伏せる!!

 

「キヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッッ!」

 

一斉に群がってくる狂三の分身体に、士道はアスカロンを左手に持ち替え、右手に霊力を纏い『塵殺公(サンダルフォン)』を顕現させる!

 

「はあああああああああっっ!!」

 

士道は『塵殺公』とアスカロンで周囲を薙ぎ払う。狂三の分身体の攻撃を受ける前に、全て吹き飛ばした―――しかし………士道の兜からは、血の塊が溢れ出ており、膝を片膝をついて脇腹を抑えていた。

脇腹からも血が流れ出ており、鎧の脇腹の部分は何かに貫かれた跡があった。

 

「―――ゴハアッ………」

 

士道が苦痛に苦しむ様子を見て、狂三は満足そうに両手を挙げてバカ笑いをする!

 

「きひひひひひひひ、ヒヒヒャヒャヒャヒャヒャ!これでダメなら、わたくしの負けを認めざるを得ませんでしたが―――流石は『魔弾•撃龍葬』ですわ!!士道さんの鎧すら貫通してしまう―――『限りある最強』の名は伊達ではありませんでしてよ、士道さぁぁぁぁぁぁんッ!」

 

『魔弾•撃龍葬』―――文字通り、鉄より硬い龍の鱗すら貫通する弾丸でアスカロンのような龍殺しの特性を持つ。

ちなみにこの魔弾の『限りある最強』という忌み名は、この魔弾を製作するための素材は非常に希少なため、百発も作れないと言われているからこその忌み名だ。

 

狂三の分身体による十香達への攻撃は、【五の弾(へー)】で未来を先読みし、士道が十香達を庇い、分身体を全て吹き飛ばすことを知っていたのだ。

それを布石とし、士道が分身体を吹き飛ばした後に、【一の弾(アレフ)】を使用し、高速で士道の後ろに回り込み、背後から『魔弾•撃龍葬』をズドンッ!と言うわけだ。

 

「これで形勢逆転ですわ!!士道さぁぁぁん、今度こそ正真正銘の貴方の最期ですわ―――カハッ!?」

 

狂三も士道同様に口から吐瀉物を吐き出す。狂三は激痛を感じた脇腹を見ると―――脇腹に風穴が開けられていたのだ。

 

―――明鏡止水で相手の気を探れる士道が、()()で狂三の一撃を受けるようなことはしない。

攻撃を放った後は隙が生じる―――狂三はそれを狙い撃ちしたが、士道もまた同じだった。

背後に回り込んだ狂三の気を探れはしたが、『魔弾•撃龍葬』を防ぐことは出来なかった。士道は攻撃を受けた時に、()()()に狂三に反撃をしてしまい、回し蹴りが狂三の脇腹を捉え、脇に風穴を開けてしまったのだ。

 

「―――舐めた真似をッッ!!『刻々帝(ザァァァァァフキエエエエエル)』ッッ!!」

 

当然、次に狂三が行うことはたった一つ―――【四の弾(ダレット)】で傷の修復だ。

狂三の真珠を思わせる右目は赤い光を放ち、左目の時計も異常な速さで回っている!

狂三は完全に我を忘れ激昂している!全ての手札を切ったにも関わらず、士道を吸収することが出来ないからだ………

士道の籠手の宝玉が点滅し、ドライグが語りかける。

 

『………相棒、俺はもうこれ以上この小娘の醜悪な笑い声は聞くに耐えん―――もう終わりにしよう………』

 

「―――ああ、そうしよう」

 

ドライグの声を聞いた士道は、瞑目して倍加を始める―――士道もこの戦いに決着をつけようとしていた。

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!!!!!!!!!!』

 

士道はバスケットボールほどの大きさの霊力を結集した球体を作り出し、天使を顕現させた狂三に構える!

狂三は士道が作り出したきゅうたいから放たれる全てを崩壊させるほどの力を感じ取り、後退りを始める。

 

「―――わ、“わたくしたちッ”!!」

 

狂三は分身体を自分の盾にするように配置し、『魔弾•撃龍葬』を歩兵銃に入れ、士道に対する!

 

「うわあああぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!」

 

「―――これで終わりだッ!ドラゴンショットッ!!」

 

狂三とその分身体達は、最後の技を放とうとする士道に『魔弾•撃龍葬』と無数の銃弾を撃ち込む!

士道はそれを防ぎ、この戦いに終止符を打つために倍加した力を込めた渾身のドラゴン•ショットを放つ!!

 

一瞬の拮抗があったが、士道が放ったドラゴンショットが狂三達の弾丸を上回り、『刻々帝(ザフキエル)』の『I』、『II』、『III』の文字が消えるほどの大穴を開け――――さらに、遠くにあった山までドラゴン•ショットは飛んで行き、凄まじい轟音とともにその山は空間震発生後のような大穴が開いていた。

 

「――――ひっ!?」

 

狂三は完全に戦意を喪失した。自慢の天使は士道の前には意味をなさず、分身体は役に立たない、そして―――切り札を持ってしても倒すに至らない士道を見た狂三は、自分の目の前まで来た士道を見て、悲鳴をあげる。

 

「次に俺の仲間に手を出した時は、お前が精霊だろうが関係ねえ、跡形もなく消しとばす!!」

 

「――――――――」

 

―――士道はトドメを刺そうとはしなかった。狂三とガチでやり合う事になった以上は攻略は不可能だ。

士道も、自分が甘いということは理解していた。ドライグはそれについて一言物申した。

 

『………甘過ぎるのではないのか相棒?この精霊だけはここで始末しておいた方が、後顧の憂いを断つはずだ。

こいつはこれからも悪びれることなく人間を殺し続ける、地上の人間どもの為にも、ここで始末をつけておくべきだ』

 

ドライグの物申しに士道は首を横に振る。

 

「俺は『ラタトスク』の人間だ。精霊を救うのが『ラタトスク』の意向なら、それに背くことは出来んさ―――それに、そうなった時は俺が責任を持って絶対に止める。俺に狂三を殺すことは出来ない………くるみんもいい思いはしないだろうしな」

 

士道との生活を考え始めた絆された狂三こと『くるみん』もまた()()()()()。過去の虚像といっても自分自身が殺されたとなると良い思いは絶対にしないと士道は考えていた。

 

『―――正直に言えば、反吐が出そうだ………だが、そんな男が一人くらいはいてもいいだろう』

 

「ありがとな、ドライグ」

 

そんなやりとりをしている間に狂三は何処かへと消えていた。―――恐らく、士道とドライグが話し込んでいる内に逃走を図ったのだろう。

 

ぐらっ―――――

 

士道の赤い龍を模した全身鎧がいきなり解除され、士道はフラフラと地面に倒れこむ。

 

「―――シドーッ!!」

 

くるみん達のお守りをしていた十香が、慌てて士道に駆け寄る。士道の右腕を担ぐと、士道の籠手からドライグの声が聞こえてくる。

 

『――――久しぶりの禁手による力の解放だけでなく、あの魔弾を受けたのだ。無理はせずゆっくりと休め、相棒』

 

士道はドライグの言葉に、「ああ………」と答えると、十香に担がれながら、意識を失った。

その時―――――上空から凄まじい霊波反応が現れる。

 

濃密な焔を纏い、白い着物のような和装に、天女の羽衣と言わんばかりに絡みついた炎の帯。そして、側頭部にある二つの角―――そして、黒いリボンに赤い髪!!

それは、レベルの高いコスプレだった………

 

「………士道、少しの間返してもらう――――ってアレ!?ちょっと、私の出番は!?」

 

精霊化した琴里が、狂三が居なくなっている事に気付き遅れて来すぎた事にパニックになっていた。

士道の籠手からドライグが言う。

 

『―――取り敢えず、村雨令音に回収を頼んでくれないか?相棒も、夜刀神十香も、そして攻略した「くるみん」も怪我を負っている。崇宮真那は重症で、鳶一折紙も意識を失っている。

―――()()()をして来た、お前にしかできない仕事だ、行ってこい』

 

「わ、分かりました!!」

 

琴里はドライグのパシリとして『フラクシナス』を目指して飛んで行った。―――精霊化してもドライグには敬語を使っている精霊『イフリート』となった琴里だった。

 

そして―――士道達は数分後に、『フラクシナス』に回収され、『顕現装置』で怪我人の手当てを行い、一日が過ぎようとしていた。

 




狂三も一緒に攻略————しようと最初は書いていましたが、どうやっても私の力ではその描写は書かなかったので、攻略は分身体の『くるみん』のみという形になりました。

次章の『琴里クラッシュ』では、とある存在が出陣します————とは言っても『神器』としてですが•••••••

次話投稿時に、設定を更新しようと考えています。
くるみんをヒロインに追加する予定です。


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四章 琴里クラッシュ
一話 煉獄の夢とくるみんです!


ついに四章の琴里編へと入っていきたいと思います。
————あれ、恒例の番外編は?と感想にありましたが、三章と四章は続いているため、三章では番外編を書かず、この四章でくるみんと琴里の番外編を書こうと思っています。

※あれ?UAが多いなぁと思っていたら、まさかのランキング入りしていました。
そして、ついにお気に入り数が300件を突破しました!
読者の方々、本当にありがとうございます!これからも頑張って行きます!




それは、煉獄とも呼べる光景だった。辺り一面に広がる灼熱の業火。それは全てを焼き尽くし、全てを黒一色に変えてしまい生命の根源を無に帰す。

しかし、五河少年は目的を果たすために煉獄と化した家の中を駆け抜ける!

 

『琴里、琴里ッ!!』

 

燃えた家具や、燃え上がっている床を避け、ただひたすらに家の中に取り残された琴里だけを目指して、走り抜ける五河少年。

リビングへと到着した五河少年は、リビングに琴里がいないことを確認した後、和室の襖を蹴破って和室の中へと入る。

…………その時、燃え上がる和室の中で顔を覆い床に座って泣いている少女―――目的であった琴里がいた。

 

『―――おにーちゃん、来ちゃダメッッ!!』

 

琴里がいるところまで行くには、炎の壁の先へ行く必要があり、琴里が手を伸ばして士道を止めようとするが、五河少年は一歩二歩と下がり、助走を付けて炎の中に突っ込む!

 

『うおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!』

 

『―――ダメェェェェェェ!!』

 

琴里は涙に濡れた声で、喉が潰れんとばかりに叫ぶが、炎に包まれた妹を五河少年は見殺しには出来なかった。

五河少年は果敢にも炎の壁にタックルをし、服に火が移りながらも琴里のところまで行くことが出来た。

五河少年は琴里を抱き上げ、和室の窓から外に出ようと考えていた。

 

『琴里、もう大丈夫だ!おにーちゃんが絶対にお前を助け出してやるからな!』

 

『おにーちゃん、おにーちゃん…………』

 

五河少年は和室の窓ガラスは、すでに爆風で吹き飛んでおり、琴里を抱えて、灼熱地獄と化した五河家から庭へと脱出がかなった――――しかし…………

 

『――――ッ!!!!!』

 

『いやああああああああああああッッ!!』

 

二階から瓦礫が地面へと落下する!

―――それは運の悪いことに、五河少年と琴里の頭上から降って来るのだ!!避けることは不可能と悟った士道は“せめて琴里だけでも”と、抱えた琴里を投げ飛ばす!!

 

『きゃっ――――あ、あああああ、ああああああああ、ああああああああああああああ!!!!!!!!!!』

 

五河少年の予想は的中し、琴里は無事だったが自分は―――瓦礫の下敷きになり、助かる見込みは無かった。

琴里は、兄が下敷きになったことに頭が真っ白になりただひたすらに叫び声をあげるが状況が変わることはない……

五河少年は今までに感じたことのない痛みに、悲鳴をあげることも出来ず、視界内に霧が掛かるように意識が朦朧としながらも、琴里に手を伸ばしていた。

 

『いやだ…………いやだよ―――こんなのいやだあああああああああああああ!!!!おにーちゃん!!おにーちゃん!!』

 

琴里は五河少年の伸ばした手を取ったが、自分にはどうする事も出来なかった。

だが…………五河少年の身に異変が起こる。自分の体に凄まじい力の奔流を纏っていき、獣のように鋭く目を開き、雄叫びを上げる!!

 

『アガアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!』

 

ズドオオオオオオオオオオオオオオンンッッ!!

 

五河少年は、その覚醒した力で瓦礫を吹き飛ばし、五河家を火災ごと、一瞬で木っ端微塵に吹き飛ばすほどの凄まじい力を解放して見せた。

五河少年の身体には変化が起きていた。髪の毛が漆黒に染まり、目は先ほどの煉獄を思わせる紅蓮の瞳に変化しており、顔や腕には、特殊な術式の紋様のようなものが刻み込まれいる。

―――そして、何より琴里が恐怖したのは、士道が解き放った圧倒的な力。

…………五河少年の体には黒い雷がスパークしており、全身から禍々しい暗黒のオーラが放たれていた。

 

『…………おにー、ちゃん?』

 

五河少年は何も言わずただ不気味に佇んでいた五河少年を怪訝に思った琴里は、歩み寄るが―――隠していた力を解放した事で、五河少年は今度こそ深い闇の中へと落ちて行った…………

 

 

 

 

 

 

―――◆―――

 

 

 

 

 

 

 

「―――ッ!?」

 

五河少年が、高校二年生になった姿の士道は、先ほどの琴里を助け出した時の夢を見たことが、意識を覚醒させるトリガーとなった。

士道は勢いよく身体を起こし、辺りを見渡す。

…………ここが来禅高校の屋上ではなく、どこかの医務室へと運ばれたと士道は分析していた。

 

『…………目覚めたようだな、相棒』

 

左手の甲から、パートナーの声が聞こえてくる。士道は一人ボサっと呟く。

 

「―――俺は、一体…………っ!」

 

脇腹に痛みが走り、脇腹に手を置く。狂三の『魔弾•撃龍葬』で射抜かれた箇所だった。しかし、傷は塞がっているため、あの時ほどの苦痛はしなかった。

 

『―――あまり勢いよく身体を動かすような真似はするなよ?傷口が開くからな。

…………さて、相棒が懸念している事だが、「ナイトメア」を退けた後は、相棒たちは「フラクシナス」の医務室へと村雨令音が回収した。崇宮真那と鳶一折紙は、天宮市の自衛隊の病院へと運ばれた…………全員無事だが、崇宮真那の方は意識が戻ってないらしい』

 

―――ちなみに十香は士道のベットの近くに置いてあるパイプ椅子に座り、壁に寄っかかって爆睡している。

彼女も怪我をしていたが、『シドーから離れたくない』と自分の傷の痛みに耐えてまで、士道を看病していたのだ。

 

「とりあえず真那が心配だが、とりあえずは全員無事か…………」

 

ドライグの説明に全員が命に別状がない事に士道はホッと胸を撫で下ろしていた。そして、医務室の扉が開き、洗面器と濡れたタオルを持って、黒一色に衣服を整えた黒髪の美少女が入室して来た。

士道はその美少女を見て、目を開いて立ち上がった。

 

「―――くるみんっ!?」

 

そう―――その美少女とは、最悪の精霊『ナイトメア』時崎狂三の分身体の一人格である『くるみん』だった。

名前を呼ばれた事に、くるみんはビックリして声が聞こえた方を見る。くるみんは洗面器と濡れたタオルを地面に落とした。

 

「―――っ!士道さんっ!!」

 

くるみんは士道を見るなり、目に涙を溜めながら士道の胸に飛び込んだ。士道もくるみんに答えるように優しく抱きしめた。

くるみんは士道の胸の中で安堵の声を漏らす。

 

「よかった…………本当によかった―――士道さん、傷の治療が終わっても一日中眠ったままで…………」

 

くるみんの言う通り、士道は狂三との激闘の後に意識を失い丸一日ベットから起き上がることはなかった。

くるみんは胸を貫かれたが、士道が使ったフェニックスの涙によって完璧に傷は塞がっている。

意識が戻った後は、士道のベットから離れることなくずっと十香と士道の看病をしていたのだ。

 

「ありがとな、くるみん。それから―――本当にゴメンな…………」

 

いきなり顎を引いて、目を強く閉じて謝罪をする士道を見たくるみんは怪訝に思い、真意を訊ねる。

 

「あ、あの士道さん―――どうして謝るんですの?」

 

「俺がもっと気を張っていれば、くるみんがあんな事にならなかった…………俺が不甲斐ないばっかりにくるみんは死にかけた!だから―――っ!」

 

士道は、くるみんの胸を貫いた狂三のことを許さなかった―――だがそれ以上に許せなかったのは、それを未然に防ぐことのできなかった自分自身だ。

自己嫌悪でどうにかなってしまいそうだった士道に、くるみんは優しく抱きしめる。

 

「士道さん、そんなに自分を責めないで下さいまし…………わたくしは士道さんに謝って欲しいわけではありませんのよ?…………むしろ、わたくしは士道さんに感謝していますの」

 

「―――感謝………………?」

 

狂三に言われた言葉に面を食らった士道は、目と口が大きく開くほどの衝撃を受けていた。

 

「ええ、わたくしは士道さんに救われましたわ…………真那さんが襲いかかってきた時を最初に、わたくしを救う為に自ら危険な罠に飛び込んだ時も、わたくしが胸を貫かれた時も…………士道さんは、わたくしを救う為なら命すら投げ捨てる覚悟で―――その嘘偽りのない士道さんの想いに、わたくしは救われました」

 

「くるみん……っ!」

 

くるみんが発した言葉に、士道は目に溜まり始めていた感情を強引に押し留めた。

―――士道は男としてどうしても、抑えなければならなかったのだ。救うと決めた人に弱さを見せたくはなかったから……胸の中で震えている士道を優しく撫でながらくるみんは優しく言う。

 

「士道さん、ありがとうございました。わたくしは士道さんの言葉を信じますわ―――士道さんの言う『笑って過ごせる生活』と言うものを」

 

…………くるみんが言ったこの言葉で、士道は限界になり抑えていた感情が爆発した。

士道の目からは雫が滴っていた。それは頑なに自分を拒絶した一人の精霊がようやく自分を認めてくれたからだ。

 

「―――ああ、絶対に失望させない!俺たちが―――いや俺が、くるみんを笑顔にしてやる!くるみんを奪いにくる奴は全部俺がぶっ飛ばしてやる!だから………これからはずっと一緒だ」

 

これで士道は本当にくるみんを救ったのだろう。くるみんは士道の言葉に、最高の笑顔を見せることで応えてみせた。

 

そして…………

 

「士道さん………少し目を閉じて下さいませんこと?」

 

突然のくるみんからの申し出に士道は頭を傾げる。

くるみんは、頰を真っ赤に染めて士道から目を逸らしている。

 

「ん?いいけど………何をするつもりなんだ?」

 

応じてくれない士道に、狂三は叫ぶ!

 

「―――は、早くして下さいまし!!」

 

「は、はいっ!!」

 

士道はくるみんに言われたままに目を閉じた。

何をするつもりなのかと士道は頭の中で考えていた。

 

そして―――………

 

「―――――っ!!!!!!」

 

士道は唇に温かいものが触れ合っている感触があり、目を開けると………くるみんが自分の唇を士道の唇へと押し当てていたのだ。

そして―――士道の中に何かが流れ込んでいた。それは言うまでもなく、精霊としてのくるみんの霊力だった。

 

「く、くるみん!?い、いい、今のは!?」

 

くるみんからキスをされた士道は慌てふためいていた。しかも、霊力の封印に成功したらしく、くるみんは全裸になっていた。

 

「ふふふ、士道さんったら霊力の封印は、これが初めてではありませんのでは?キスをされたくらいで慌てふためくなんて、本当に可愛いですわよ、士道さん」

 

「か、からかってんじゃねえ!!俺だってその………キスをされるなんて思ってなかったから」

 

士道はからかわれた事にムッとしていたが、すぐにそれもリセットされた。

―――その理由は、封印を施した精霊、十香も四糸乃も同じ末路を辿っていたからだ。

そしてくるみんも例外なくその末路を辿る!!

もうここまで言えば多くは必要あるまい!士道くんは全裸になったくるみんをマジマジと眺めている!

その飢えた魔獣の如く視線に、先程まで士道を笑っていたくるみんも、身の危険を感じる!

 

「ええと………その、士道さん………?」

 

生まれた時の姿に戻ったくるみんは胸元を隠し、身の危険を感じ取り慌てて士道から離れる。しかし!変態は加速するばかりだ!

 

「グヘ、グヘヘ、グヘヘヘヘヘヘヘヘヘ!!おっぱいだあ!おっぱいだ!!」

 

「―――ひっ!?」

 

鼻の下を伸ばし、鼻血とヨダレを垂れ流した士道は、ビーストモードを解禁する!!

 

「くるみん―――おっぱいを!!おおおおっぱいをッ!!」

 

『うわああああああああああああああ!!!!!誰かこの変態を止めてくれぇぇぇえええええええええ!!!!』

 

士道はわしゃわしゃと卑猥に手を動かし、くるみんに迫る!

ドライグは悲鳴を上げて士道に一時停止役を務められるものを探すがここにはいない!

くるみんが次に上目遣いで述べる一言に、ついに士道の理性がゼロになる!

 

「―――優しく………してください」

 

「おっぱいいいいいいいいいいいい!!!!」

 

くるみんのおっぱいは美乳の部類に入るだろう。士道くんにとっては女神の果実だ。そんなものがあればこの変態はもう止まらなかった。

何一つ抵抗をしないくるみん目掛けて士道くんは欲望を解放する!!

―――しかし………

 

「―――ボフゥッ!?」

 

士道くんが苦しまぎれに声をあげる。車が何かにぶつかった時に飛び出すエアバックに顔を突っ込むように………いま士道くんがなっている状況はそれに限りなく近い。

―――眠りから目覚めた十香の胸に士道くんは抱きしめられているのだ。

 

「シドおおおおおおおおおおっ!!良かった、本当に良かったぞ!………まったく、お前という男はどれだけ私を心配させれば気が済むのだ!!」

 

「―――グヘ、グヘヘヘヘヘヘヘヘヘ!!おっぱいだあああああああああああ!!」

 

士道が目覚めた事に安堵して喜ぶ十香と、十香の胸の感触を楽しむ変態の士道くん。これこそまさにWinWinの関係だろう。

―――しかし、獲物を横取りされたくるみんは十香に物申す。

 

「ちょっと十香さん、わたくしと士道さんの二人の時間を横取りするなんてどういう事ですの?」

 

「むむ!狂三、それはこっちのセリフだ!私が寝ている隙をついて士道とイチャコラしようとは何事かッ!」

 

士道とキスをしたくるみんは、霊力を封印されたため全裸になっている。くるみんの一言でこの医務室が一瞬で修羅場へと変わる。

 

「―――これからわたくし、士道さんに胸を触ってもらうところでしたのよ?」

 

「ヘェボラック!?」

 

くるみんの曝露によって、士道は十香の胸の中で悲鳴をあげる。殺されると思った士道は慌てて十香の胸から離れる!

―――もうこうなれば、塵殺公(サンダルフォン)であの世行きが確定するだろう。

 

『………さて、次の宿主はどんな奴か―――スケベで変態じゃない奴がいいなぁ!』

 

ドライグは士道が死ぬことを前提で、次の宿主のことを考えていた。士道は逃げようとするドライグの尻尾を捕まえる。

 

「おいドライグ!今度はその宿主に俺は転生するぜ、ていうか逃がさねえよ!俺とお前は二人で『乳龍帝おっぱいドラゴン』だ!!」

 

『うおおおおおおおおおおおおおおおんんっっ!!うわああああああああああああああ!!俺は赤龍帝だ、乳龍帝などではない!!』

 

またドライグは泣いてしまった………もう泣龍帝で良いのでは?と思う今日この頃だ。

―――さて、現実世界ではくるみんの暴露に十香は、塵殺公(サンダルフォン)を具現化させる―――のではなく、なんと服を脱ぎ捨てた!

 

「―――おお、そう言えば………シドーが私の胸を触る時間になっておるなシドー、好きなだけ触ると良い!狂三の胸なんぞよりも、私の方は触るだけでご利益があるぞ!」

 

士道はくるみんのおっぱいではなく、十香のおっぱいへと矛先を変える!

 

「『好きなだけ触ると良い!』そんな素晴らしい日本語があったのかあッ!!―――じゃあ、いただきますっ!!」

 

士道はわしゃわしゃと十香の胸へと手を伸ばす!!ドライグは慌てて十香に訊ねる。

 

『お、おい!?どうしたのだ夜刀神十香、いつもの貴様なら相棒を叩き斬っているはずだろう!?』

 

ドライグの役割はいつもシリアスリカバーだ。ドライグの問いに十香は顔を赤くし、モジモジとしながら答える。

 

「桐生藍華に教わったのだ………男を逃がさない方法は、既成事実を作ることだと………だから私は士道に胸を毎日触らせるという既成事実を作る事にしたのだ!」

 

『―――あ、左様でございますか………』

 

―――ある意味既成事実だが、やはり十香は意味がわかっていない。十香の答えを聞いたドライグは目を点にしていた。

 

「十香さん、邪魔になっていることが分かっていませんの?」

 

「私は邪魔ではない!むしろ邪魔なのはお前だ、狂三!」

 

修羅場へと変わってしまったが、言い合いになっているくるみんと十香の胸の動きを鼻の下を伸ばし、鼻血とヨダレを垂れ流しながら眺めていた。

そんな時、ドライグが何かを思い出し、士道たちに述べる。

 

『………お前ら、盛り上がっているところ悪いが、精霊はもう一人いるぞ?しかも、相当込み入った事情の精霊が………』

 

ドライグの言葉に一同は視線を合わせる。それに合わせて士道の医務室に令音が入ってくる。

 

「………赤龍帝ドライグの言う通りだ。

………狂三の霊力封印完了で第一部は完結したが、まだ()()()()()()は迎えていない。…………精霊はもう一人いる」

 

………その精霊は、士道が狂三を退けた時に新たに現れた炎の精霊だ。

士道は気絶していたため、姿を確認していないが、ドライグと十香はその姿を見ているのだ。

 

「………とりあえず狂三は後で検査があるから後で来て欲しい。十香はここで待っていてくれ。

………シン、キミはこっちだ」

 

令音の言葉を各々首肯し、それぞれの目的を果たしに足を進めた。

士道が令音と向かったのは、『フラクシナス』の精霊隔離施設だった。

そこで隔離施設内にいた少女を見た士道は、驚愕していた。

 

「琴里、なのか?」

 

士道はその事実を知った時、雷に打たれたような衝撃を受け、少しの間何も考えることが出来なかった。




今回は少々短めにしました。

次回はシリアスな展開になるかなと思います。そして、夢の内容についても少しだけですが触れるつもりです。

※9/21に設定を更新しました。
士道のサンダルフォンとアスカロンの合成技とヒロインにくるみんを追加しました。



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二話 五年前の真実………

活動報告にも書きましたが、……が•••••••となっているのを修正しなければならないので、これまでとは少しペースが落ちると思いますが、週に一話は投稿できるように頑張っていきます!

あの禍々しい力につきましては、もう少し先の展開に先延ばしする形にしました。

※トカレフさん、煉獄騎士さん、クォーレっとさん、誤字報告をありがとうございました。



空中艦『フラクシナス』には、精霊の隔離施設が存在する。十香や四糸乃も精密検査が終わるまでその部屋で生活を強いられていたが、今その各施設の内部にいたのは、赤い髪に黒いリボン、ルビーを思わせる瞳を持った凛とした小柄な少女―――士道の妹の五河琴里だ。

 

琴里は私服姿で施設内のテーブルに座り、チュッパチャップスに紅茶の入ったティーカップを手にしており、特にいつもの生活と変わらない様子で生活している。

 

「…………こちらの声は向こうには届いていない。―――シン、ここからはキミ一人だ」

 

士道は首を縦に振り、令音が機械をいじって隔離施設の扉のロックを解除する。そのあと士道は扉を開け、中へと足を進める。

 

「……ん?士道じゃない。目が覚めたのね」

 

施設に入るなり、琴里が士道を一瞥して声を掛けてくる。士道は普段通りに返事をする。

 

「ああ、随分眠りこけてたらしいけどな……」

 

士道は琴里の向かい側に座り、いきなり本題に入る。

 

「……琴里。こんなことを訊くのは兄としては考えものだが、聞かせてくれ―――お前は一体、何者だ?」

 

「士道の可愛い妹よ」

 

琴里はこれといって変わった様子はない。琴里の返答を聞いた士道は、向かい側に座る琴里にニッと笑う。

 

「………それが聞けただけで充分だ。琴里は俺の妹、それはこれからも変わりはない事実だ―――いや、変なことを聞いて悪かった………忘れてくれ」

 

「………………」

 

琴里は、士道の様子を見て怪訝に思っていた。

―――琴里は最初は『士道の可愛い妹だ』と述べたが、精霊化した事を訊かれるものだと思っていたが、士道はそれを問いただすことはしなかったからだ。

 

それどころか――――士道は立ち上がり、キッチンへと行く。この隔離施設にきた目的を忘れているかのように………

 

「………琴里、お腹空いてないか?俺がなんか作ってやるぞ?」

 

士道はナフキンを頭に巻き、本当に料理を振る舞おうとしている。………そこで琴里は一つの考えに至り、苦笑いを浮かべながら士道にお願いをする。

 

「………じゃあ、目玉焼きが上に乗ったハンバーグ定食をお願いしようかしら」

 

「―――へいよっ!」

 

士道は、黙々と琴里がリクエストしたメニューの作成に取り掛かった。そして、待つ事三十分ほどが経過すると、テーブルの上には、琴里がリクエストした目玉焼きが上に乗ったハンバーグの定食が出来上がっていた。

 

「悪いわね、士道………頂くわ」

 

琴里が箸を手に持った時、士道が大声で一時停止をかける。

 

「ストーップ!!琴里―――俺が食わせてやるよ」

 

「―――は、はあ!?」

 

士道はフォークとナイフを持ち、ハンバーグをナイフで切って琴里の口に近づける。いきなりの士道の行動に琴里は戸惑いを隠せなかった。

 

「幼稚園児のお子様じゃあるまいし、それくらい自分で―――」

 

『五河琴里っ!!』

 

琴里が全てを言う前に、士道の左手の甲からドライグが琴里の名前を強く叫ぶ。琴里はドライグの声を聞いてビクッとなり、言葉を止める。

 

『―――相棒は貴様の体の状態を分かっているからこそ、こんな行動をしようとしているのだ………相棒にはお前の体から制御が出来ていない異常な力を察知しているからこそ、お前に手を差し伸べている―――なぜそれを悟り、快諾することができんのだ………』

 

「―――お、おい!?空気読めよドライグ!!」

 

ドライグは琴里を叱咤するが、士道は完全に呆れていた………士道は明鏡止水で相手の気を探ることが可能だ。

琴里の体からは異常なまでの気が放たれており、それは力を制御できていないことを証明するには十分だった………

士道は敢えてそれを言わなかったが、ドライグは琴里にそれを突き付けたのだ。

 

―――琴里はドライグに言われた言葉に、ハッと士道の顔を見つめてスカートをギュッと握った。

 

「―――ごめんなさい士道、あなたの気持ちを察してあげられなくて………」

 

「気にすんな、ほら―――」

 

琴里は士道が差し出したフォークを口に運ぶ。その姿は、幼い妹を世話する兄のようだったが、『フラクシナス』の隔離施設内で行われているそれは、高校生二年生の兄と中学二年生の妹だから違和感はある。

―――しかし、琴里のことを思っての士道の行動だった。

………うん、お兄ちゃんを頑張っている士道くんだ。

 

琴里に料理を食べさせると、茶碗を洗って隔離施設の外に出ようと扉に手を触れるが、琴里が士道を止める。

 

「―――ま、待ちなさい士道!何処へ行くのよ………」

 

琴里が訊くと、士道は振り返って琴里に言う。

 

「何処って―――ここを出るんだよ。とりあえず俺のやることは全てやったからな………」

 

『おい相棒………』

 

士道が出て行こうとすると、ドライグは何か言いたそうにしていたが、士道はドライグに言い聞かせる。

 

「ドライグ、俺はお前の気持ちもよく分かっている―――けどな、無理に知る必要のないことだってある………今の琴里が無理をしているのは俺が一番分かっているんだ―――だから無理矢理訊き出すような真似は俺には出来ない」

 

『………………』

 

士道は琴里の体と精神の状態を気遣ってのことだった。今の琴里は不安定な状態だ。そんな時さらに精神を揺さぶってしまうことがあれば、それこそ大惨事になってしまうのではないか?と思っていたからだ。

 

しかし、琴里は士道に苦笑しながら伝える。

 

「まったく、士道がそんな気遣いが出来るようになるなんてね………いつも『おっぱい、おっぱい』しか言わないから将来、あんたが牢屋にぶち込まれている姿しか想像できなかったのだけれど………本当に頼もしくなったわね」

 

「―――悪いがこれは俺の勲章だ!エロこそ正義!スケベこそ世界の真理だ!」

 

―――これはいつものことだから目を瞑っていただきたい。士道くんは全く自分を曲げるつもりはないらしいが、琴里は士道に話し始める。

 

「心配いらないわよ士道、ちゃんと話すつもりだったから………士道、五年前の日本の関東地方を襲った同時多発空間震のことを覚えている?」

 

「―――ああ、確かそれって『関東大空災』の再来とか呼ばれてたやつだよな?そのせいで、天宮市の住宅火災の対応に人材が集まらず、多くの死傷者を出したって謳われてたな………ってちょっと待て!まさか―――」

 

士道が住んでいる天宮市には、五年前から空間震が発生するようになり、ここ二ヶ月ほどで二度とも空間震が発生している………士道はその時()()()()()に至り、慌てて琴里に訊ねる。

 

「琴里、お前………その時に精霊になったのか?」

 

「………ええ、その時に私は精霊になった―――まあ、()()()()()()()()()()になったと言うのが一番正確かしら………」

 

士道の出した答えに、琴里は苦笑しながらため息を吐いた。

 

「琴里、その時のことを詳しく話してくれないか?」

 

士道が訊くと、琴里は首を横に振る。

 

「ごめんさない、その時ことは詳しくは覚えていないの………私の記憶にあるのは、士道が泣きながら、パパとママの前で私を抱きしめてくれたところまでしか覚えていないの………」

 

「―――ッ、そうか………」

 

琴里の言葉を聞いた士道は瞑目し、視線を床に向けた。

士道が今すぐに答えが欲しかったことは、琴里が精霊になったことその原因と、あの禍々しい力のことだった。両方とも答えを知ることが出来なかった士道が落胆するのも無理はないだろう………

 

「それともう一つ訊きたいことがある―――五年前に精霊になったとして、誰が琴里に霊力の封印を施したんだ?琴里はその後はもう普通の生活をしていたよな?」

 

士道が訊ねた質問に、琴里は何を分かりきったことを訊いているのか………と言う顔で士道に言う。

 

「………あなた以外に誰がいるって言うのよ?」

 

「―――お、俺ッ!?」

 

士道は素っ頓狂な声を上げた。それもそうだろう、士道にはその記憶は見事に無かったからだ―――おそらく、士道があの禍々しい力を解放した後に、琴里が士道に唇を重ねることで士道に霊力を託したのだろう。

 

「………今も琴里から霊力を感じ取ることが出来ているってことは―――俺にその力は戻っていないってことになるな………一体どうすれば元に戻るんだ?」

 

「四糸乃との隠れデートの時や狂三に屋上で捕食されそうになった時に、十香の精神が不安定になって霊力を逆流してしまった時とは違うわ………十香の場合はまだセーフなレベルだったけど、私の場合は霊力の全てを解放したから、自然に戻ることは無いの………………十香や四糸乃の時と同じようにすれば、私の霊力は士道に戻るわ」

 

「お、おい―――それって………」

 

―――そう、琴里をデレさせる必要があるのだ………士道がしなければならないことは、琴里に兄としてではなく一人の男として士道のことを好きになってもらうことだった。

 

「ええ、そうよ。十香や四糸乃、そして狂三の時と同じよ―――私とデートをしてデレさせて。私の好感度を上げてそして――――っ!!」

 

ドサッ………

 

琴里が士道にするべきことを伝えようとしていたが、その途中で突然頭に手を当てて、椅子から倒れる!

それを見た士道は慌てて琴里に駆け寄る!

 

「精霊の力が戻ってからたまにこうなるのよ………気を抜くと大暴れしそうになって―――私の精霊としての力が私をそうさせる………」

 

琴里は制御できていない力によってその身を翻弄されているようだ………まるで『覇龍(ジャガーノート•ドライブ)』を発動した時、使用者を命が尽きるまで暴走させる歴代赤龍帝の怨念のように―――ゆえに兵藤一誠は別の力を模索し『赤龍帝の三叉成駒(イリガルムーブ•トリアイナ)』へと至ったというわけだ。

琴里は全身を震わせながら、自分を暴れさせようとする精霊の力に必死で抗っている!

 

「琴里、大丈夫だ!絶対に俺が助ける!!だから―――」

 

「………そこまでだ!」

 

士道が琴里の体を支えていた時、令音が隔離施設の扉を開けて中へと入って来た。そして琴里の首筋に注射器で何か薬物を注入した。

そして―――全身を震わせていた琴里の症状が緩和していき、琴里は落ち着きを取り戻した。

 

「令音さん、今のは―――」

 

「………精霊の力を抑え込む薬さ。琴里は昨日からこの薬をずっと投与しているんだ―――シン、今日はここまでだ。ここは私に任せてほしい………」

 

真剣に頭を下げて頼み込む令音を見た士道は首を縦に振って、落ち着いたが、苦しそうにしている琴里を一瞥し、部屋から立ち去った。

 

隔離施設の外で士道は椅子に座り、令音が隔離施設から出て来るのを待った。五分ほど経過した後、令音は隔離施設から戻り、士道の横に座った。

 

「令音さん、琴里の様子は………」

 

士道は制御できない力に苦しむ琴里の姿が脳裏から離れず、気が気でなかった。そんな士道に令音は現実を突きつける。

 

「………今のところは問題はない、だがそれも長くは続かない―――琴里が今の状態でいられるのは三日が良いところだろう………それを過ぎると、シンが知っている琴里ではなくなってしまう可能性がある」

 

「―――たったの三日!?それだけの猶予しかないのですか!?」

 

突きつけられた現実に士道は声を荒げた。………当然だ、自分の妹の限界までの時間は三日のみ―――士道はこの宣告に、頭が真っ白になった………

 

「………シンには三日後、琴里とデートをしてもらう。薬と鎮静剤が効力を発揮し、安定するまでに三日待たなければならないんだ………それが琴里の霊力を封印する最後のチャンスだ」

 

「………三日後に!?冗談じゃないですよ!!俺は今からだって―――」

 

士道がもう一度隔離施設に入り、もう一度琴里と話そうとするが、令音が扉の前で両手を広げて仁王立ちをする。

 

「………シン、キミの言いたいことは痛いほど分かる。琴里が苦しむ姿を見たくない―――そして、琴里にそんな想いをして欲しくない………キミを見ているとその想いが全身に伝わって来る―――でも、今は言う通りにしてくれないか?」

 

令音は扉の前から退こうとはしなこったが、士道も退くつもりは微塵もなかった。

 

「令音さん―――あなたの言う通りに行動するとして、三日後に何もないと断言できますか?新たな精霊が現れたり、ASTの連中が琴里を攻撃して来たりするなどのアクシデントはない―――と断言できますか………」

 

「………それは―――」

 

令音は士道の言葉に反論できなかった。令音は士道から視線を逸らし、言葉を詰まらせた。だが、士道は止まらず自分が思ったことをそのまま令音に伝える!

―――これ以上大切なものを失わないために!!

 

「………できないですよね?未来のことなんか誰にも予想できません―――だから!今できることは全て試しておかなきゃいけないんですよ!!

………琴里の霊力を封印できる可能性が最も高いのは、令音さんが言う三日後かも知れません―――ですが、それは今日や明日行うにしてもあっても可能性が()()()()わけではないはずです!!」

 

「………………………」

 

士道の魂を込めた叫びに令音は完全に沈黙した。士道は令音の肩に触れ、その場から無理やり退かす。

そして、隔離施設の扉に手を触れる。

 

「………シン、少しは琴里のことを考えてあげるべきだ………琴里はキミとの―――」

 

令音が全てを士道に伝えようとする前に、士道の左手の甲に円状の光が現れる。―――相棒のドライグだ。

 

『―――村雨令音、相棒が懸念しているのは五河琴里の安全だ。………ヒーローにはな、救うと決めた人が望まない行為でもしなければならない時がある―――貴様は相棒と五河琴里をデートさせるつもりだろうが、そんな悠長な事をするだけの猶予はない―――それにな、五河琴里は相棒に()()()()()でデートをして欲しいとは思っていないと俺は考えているのだがな………』

 

「………………………」

 

熱く想いを語る士道と、士道の心を誰よりも理解しているドライグの言葉に令音は何も言い返せなかった。

令音が琴里のためだと思っていたことを、士道にとドライグに完全に論破されてしまったからだ………

 

「―――これで失敗したなら今度こそ令音さんの指示に従います………やっぱり俺には苦しむ妹を傍観できません」

 

それだけを言い残すと、士道は隔離施設のドアを開けて施設内に入った。

施設内に入っていく士道の背中を見た令音はボソッと呟く。

 

「………できることは全て試しておくか―――全く、キミが言うと妙に説得力があるよ………シン、キミがどんな過去を歩んで来たか是が非でも知りたくなったよ」

 

令音は士道が施設内に入り、施設内の様子を見守る空間に一人になり黄昏ていた。

 

「―――よう、琴里」

 

先程施設内から外に出た士道が再び入って来たことに、琴里は目を疑う。

 

「し、士道!?一体どうしたのよ………令音と一緒に出て行ったんじゃ―――」

 

某RPGの呪文『アストロン』を掛けられたように固まる琴里。士道は大きく深呼吸をし、拳を握りしめる。

 

『―――さあ相棒、見せてやれ!お前の勇気をッ!!』

 

緊張している士道を見たドライグは、士道の背中を押した。

士道は大声で自分の胸に秘めた想いを叫ぶ!!

腹の底から全力で声を出して!!

 

「琴里、俺はお前が好きだ!大好きだ!超好きだ!可愛い俺の妹の琴里も、司令官モードの凛とした琴里も、俺は大好きだ!!俺は琴里を見ているだけで胸が張り裂けそうになる!!俺は三秒に一回は琴里のことを考えている!!」

 

バキュンッッ!!

 

鉄砲に打たれたような音が響き渡るように、士道の告白を聞いた琴里が茹で蛸のように顔を真っ赤にする!!

琴里は士道から視線を外し、目を泳がせている!!

 

「ちょっ、何言ってんのよ!?何か変な薬でも飲んだの!?」

 

「琴里、俺はお前がこの世界………いや、この宇宙で一番愛している!!」

 

「ちょっ―――キャッ!?」

 

士道は堪らず椅子に座っている琴里を押し倒す!!そして―――琴里に封印を施そうと押し倒した琴里を見つめている!!

 

「士道、落ち―――んむむむむ!!!!!?」

 

士道は押し倒した琴里に、封印を施した。

その時―――士道の体の中に霊力の他に、映像なようなものも一緒に入り込んで来た。

そう………士道は琴里の霊力を見事に封印することが出来たのだ。

いや――――これは当然の結果といったほうが正しいだろう………

 

「せ、成功したぞおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

 

士道は勝利のガッツポーズをする!!だが―――精霊『イフリート』の琴里は士道とは正反対だ!

 

「―――私のデート権を返しなさいよおおおおおおおおおおッ!!」

 

ドゴオオオオオオッッ!!

 

霊力の封印が成功したことに、士道は大喜びで飛び跳ねている!!琴里はそんな士道にドロップキック!!

琴里のドロップキックを喰らった士道は食器入れに顔面から突き刺さった………

琴里は士道とのデートを異常なほど楽しみにしており、士道とデートができることを心の底から待ち望んでいた。

―――しかし、霊力の封印が成功すればデートをする必要が無くなってしまい、琴里の願いは泡となって消えてしまう………

 

そして、それは現実になってしまったのだ!!

故に琴里は、士道とのデート権が無効になることに怒りをぶつけた。

 

………突き刺さった食器入れから顔面を引き抜き、士道は琴里に訊ねる。

 

「お!?琴里、お前は俺とデートしたかったのか!?おにーちゃん嬉しさのあまり涙が滝のように流れだそうだ!!

―――うわああああああああああんんん!!!」

 

歓喜の涙を流す士道を見た琴里は、首を横に振って否定する!

 

「い、行きたくなんかないわよ!!さっきのはその―――た、単なる気の迷いよ!!」

 

プライドが高いあまり、琴里は本心を士道に伝えることが出来なかった―――が、しかし!!次の出来事が琴里の高いプライドをズタズタにへし折る!!

 

その出来事は――――

 

「士道さぁ〜ん!お仕事は終わりましたの〜?」

 

琴里の霊力封印が完了した時を見計らって、くるみんが隔離施設内に入って来たのだ。

先ほどの全裸ではなく、来禅高校の制服姿で入室してきた。

 

「―――う、嘘ッ!?どうして狂三が艦内にいるのよ!?ていうか、どうやって侵入したの!?」

 

琴里はくるみんがいることに慌てふためく。士道は目をパチパチと閉じたり開けたりをしながら琴里に言う。

 

「令音さんから聞いてなかったのか―――狂三の本体の攻略は失敗したけど、分身体の『くるみん』の攻略は成功したって………」

 

琴里は士道の説明を聞いて「もう何がなんだかわからないわよ!!」と頭を抱えていた。

そして―――ここからくるみんによる琴里のプライド粉砕大作戦が決行される!!

 

「士道さん、()()()わたくしとデートしませんこと?琴里さんとのデートが無くなって()()()はお時間がありますわよね?―――わたくし、士道さんとプールに行きたいんですの」

 

「なっ――――!?」

 

くるみんは士道と腕を組み、美乳を士道に押し当てながら士道に頼み込む!

琴里の心は動揺している!!もう士道は琴里ではなく、くるみんへと心変わりしているからだ!!

士道はくるみんをお姫様抱っこし、施設外に出ようと足を進める!

 

「………三日後―――いや、今日行こう!ていうか今すぐ行こう!!くるみんとプールだなんて天国に行くようなもんじゃねえか!!くるみん、すぐに準備するから待っててくれ!!」

 

「あらあら、士道さんったらそんなに急かすほどのことではありませんのよ?()()()()()()()()()、わたくしは士道さんから逃げたりしませんわよ?―――今日は真那さんのお見舞いに行く用事があるではありませんの」

 

士道はくるみんとのプールに行きたくてたまらないのだろうか、その他の用事はすっぽかす勢いだ!

そしてくるみんは、心が揺らぎまくっている琴里を見てクスッと微笑む!!くるみんに目の前で大好きなおにーちゃんを汚されることが頭によぎった琴里は、高いプライドが徐々に崩れ始める!

 

「ま、待って!待ちなさい士道!!

―――士道がどうしてもって言うなら、特別にデートに付き合ってあげても良いわよ?」

 

………相変わらず上から物を言う琴里!!だが、くるみんはさらに琴里を煽る!

 

「―――実はわたくし、水着を新調しようも思っていますの………男性の意見は参考になりますので、是非とも士道さんのご意見を伺いたいのですが」

 

「グヘ、グヘへ、グヘヘヘヘヘヘヘヘヘ!!くるみんの水着姿――――」

 

―――くるみんは士道の誘惑の仕方を誰よりも知っている。士道は鼻の下を伸ばし、鼻血とヨダレを垂れ流し、くるみんの水着姿を妄想し始めている!!

 

「士道さんもわたくしとデートをしたいみたいですし、士道さんはお借りしてもよろしいですわよね、琴里さん?

―――さ、参りましょう士道さん?」

 

士道の腕の中でクスクスと笑いながら琴里を見ているくるみん!!

琴里は大好きなおにーちゃんが、何処か遠くへと旅立って行く姿が浮かんだ―――琴里のエッフェル塔のように高いプライドはもう、ズタズタに崩れ去ろうとしていた………

 

「ダメ、行かないでおにーちゃん!!私とデートしてよ!!ううん、デートしてください、おにーちゃん!!」

 

―――くるみんの誘惑攻撃が琴里の精神に回復不能の大ダメージを与え、琴里のプライドは粉々に砕け散った………

琴里の想いを聞いた士道は、笑顔でそれに答える。

 

「―――おう!プランは俺が考えておく!楽しみに待っててくれ、最高のデートにしような!!」

 

「うん!!」

 

士道の返事を聞いた琴里は、嬉しそうに微笑んだ。

………士道の腕の中にいるくるみんが、最後まで気に食わなかった琴里ちゃんだったのは触れないでいただきたい。

 

隔離施設を出た士道とくるみんは、明日の打ち合わせをしている。

 

「―――それでは士道さん、明日わたくしの水着を選んでいただけませんこと?」

 

「おう!任せとけ!!可愛いやつと、布面積が狭いやつと、濡れたら透けるやつと、濡れたら溶ける水着を買おうな?」

 

綺麗な笑顔で、真っ黒な欲望を見せる士道くん!キラキラと光が迸るような笑顔を浮かべているが、真っ黒な言動がそれを台無しにしている!!

くるみんは士道の腕の中で、小さく悲鳴をあげる。

 

「―――ひっ!?し、士道さん!最後の二つはさすがに」

 

「ハハハ!くるみん、明日は楽しみだなぁ〜」

 

………この前のデート同様に、大人の余裕を持つくるみんの顔が恥辱に染まるのは、誰もが予想できるだろう。

だが、士道くんはブレることを全く知らない!!




★おまけ(Q&A)

Qがイッセー、Aがドライグです。

イッセー「おいドライグ、琴里ちゃんとのデートってどうなるんだよ?まさか、琴里ちゃんと二人っきりなんてことになるんじゃねえだろうな!?」

ドライグ『必然的にそうなるだろうな。「オーシャンパーク」でのデートは五河琴里との完全なデートになるだろう』

イッセー「なら十香ちゃんたちはどうすんのよ!?まさか十香ちゃんたちの水着姿が見れないなんてことになったら、俺は作者をミンチになるまで殴り殺してやる!!」

ドライグ『落ち着け!その辺もその作者は考えている。夜十神十香、四糸乃、くるみんの三人がどのデートをするかは、あの対決で決まる予定だ。その対決と言うのは、言うまでもあるまい」

イッセー「良かった•••••••とりあえず全員の水着は見れそうだな!」

ドライグ『結局は水着目当てか、このエロめ!』


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三話 病院内ではお静かに!

今回は天宮市自衛隊病院での描写が入って来ます。
折紙の様子は、原作とは少し異なります。


 

「―――確か、ここのはずだよな………」

 

士道は病院と思しき建物を見上げながら、スマホの地図を確認する。士道が行き着いた病院は『自衛隊天宮病院』だ。

 

この病院に真那が入院していると令音から聞き、士道はくるみんと琴里の霊力を封印した後、すぐにこの病院へと足を運ぶことにしたのだ。

 

「真那………」

 

士道が心配していたのは、真那の容態だ。真那と兄弟だったことは士道の記憶には残っていない………だが、それは士道が心配をしない理由にはならない。

真那の言葉を信じると決めた士道が真那の容態を心配するのは当然のことだ。

 

ウィーンっ………………

 

病院の自動ドアが開き、士道が病院内に入る。

士道は受付まで歩いて行き、受付の女性に訪ねる。

 

「すみません、崇宮真那の面会をしたいのですが、彼女の病室を教えてもらえませんか?」

 

「崇宮真那さんですね?………ご家族の方ですか」

 

「―――はい、真那の兄です」

 

「左様でございますか………少々お待ちください」

 

受付の女性はパソコンへと向かい、そのパソコンで情報を打ち込んでいた。

………数十秒ほど経過すると、女性が受付へと戻ってくる。

 

「大変申し訳ございませんが、真那さんは現在特別処置室で処置中の為、面会はご家族の方でもお断りさせていただいております」

 

受付の女性の言葉を聞いた士道は、頭を鈍器で殴られるような衝撃を受けた。士道はその衝撃のまま受付の女性に訊ねる。

 

「―――そ、そこまで真那の状態は良くないのですか!?」

 

「………すみません、容態の説明もできない規則になっておりますので………」

 

「俺は真那の兄ですよ………家族に容態の説明すらできないなんて、そんなもん納得できませんよ!!」

 

士道はドンッ!と受付のカウンターに拳を叩きつける!真那の容態が心配だったために、士道くんは冷静さを失っていたのだ。

 

「その―――規則は規則なので………」

 

「規則もへったくれもあるか!!お前ら真那をどうするつもりだ!!真那は俺の妹だ、お前らなんかに真那を任せておけるか!!容態の説明ぐらいしやがれ、家族にはそれを説明する義務があんだろうがッ!!」

 

鬼のような形相で怒鳴り声をあげる士道に恐怖を感じた女性は、SPのような人を士道にけしかける―――だが………

 

「―――ええい、邪魔だ!!」

 

「ジェロニモおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

ドガアアアアッ!!

 

SPが士道の肩を掴んだ瞬間に士道は裏拳でSPを吹き飛ばし、失神させる………もう彼は止まらない、否が応でも真那の特別処置室へと突入する覚悟だ!!

だが………一人の少女が士道に怯えるように、士道の服の端を掴む。

 

「士道………………」

 

「あ゛!?―――って折紙………」

 

折紙の怯える様子に、士道はハッと我にかえった。

………士道は拳を握りしめ、奥歯をギリギリと鳴らしながらも、受付の女性の言葉に従うことを決めた。

 

士道と折紙は少し歩き、近くの椅子へと座る。折紙は腕に点滴をしているため、点滴が外れることを恐れた士道は、ゆっくりと折紙を座らせた。

 

「見苦しい姿を見せちまったな………ゴメン折紙、怖がらせちまったな」

 

「………気にしてない、私は士道が怒鳴るのも理解できる。―――でも、崇宮真那には機密性の極めて高い機材が使用される………詳しくは言えないけど、一般大衆に晒せるようなものではない」

 

折紙は申し訳なさそうに士道に受付の女性が言っていた事の理由を伝える。士道は未だに納得できていないが、折紙に迷惑をかけるわけにも行かないので、今日は立ち去ることに決めた。

 

「そうか、じゃあ俺はもう帰るわ………真那との面会が出来ないならこれ以上ここに留まる理由もない―――それに、元気そうな折紙の顔も見れたし、ひとまずは安心したよ」

 

士道がゆっくりと立ち上がると、折紙は士道の顔を覗き見るように訊ねる。

 

「―――そう………夜刀神十香も無事なの?」

 

「ああ、十香も無事だぜ。心配してたけど、いつもと変わらないから安心したよ」

 

「ちっ、既にくたばってると思ったのに………」

 

折紙は十香の無事がよっぽど気に食わなかったのか、吐き捨てるように言った。折紙は悔しそうに表情を強張らせていた。

………士道は敢えてそれは見なかったことにした。

 

「―――じゃあな折紙、早く退院しろよ?」

 

「………………」

 

士道がゆっくりと病院の外へと足を進めていたその時―――

 

ドサッ………

 

何かが倒れるような音が聞こえた士道が振り返ると―――折紙が椅子から転げ落ちていた………

それを見た士道は慌てて駆け寄る!

 

「お、おい折紙!大丈夫か!?」

 

士道に肩を貸して立ち上がらせる。折紙は体がダルそうにしており、とても一人では歩けそうにない――――ように()()をしている!

そして、士道くんの鈍感はここでも遺憾無く発揮される!

 

折紙が()()()()()を披露していることに気付いていない!!

 

「………士道、一人で歩けそうにない、病室まで連れて行って欲しい」

 

「分かった!すぐに車椅子を―――」

 

士道が車椅子を取りに行こうとしたその時、折紙は士道の服を掴んで動きを止める。―――車椅子は折紙ちゃんは嫌いなようだ。

 

「車椅子は好ましくない。乗り物酔いが激しい」

 

「………………デハ、ドウシロト?」

 

目をパチパチとさせながら士道が問うと、折紙は士道を見つめて答える。

 

「―――抱っこ」

 

「………パードゥン?」

 

―――まさかの折紙が所望したのは抱っこだった。士道は冗談だろうと思って訊き直すが、折紙の要望が変わることはなかった。

 

「抱っこ―――お姫様抱っこ」

 

「………わ、分かりました」

 

士道は折紙を抱えて歩き始めた。折紙は士道のビーストモードを煽るように体を密着させてくる!

士道は自分に「自制心、自制心………」と呟くが、折紙は止まらない!

 

「―――士道、私のお尻や胸を触っても構わない。………ううん、士道が望むならここで子作りをしてもいい」

 

「………………!!!!!」

 

必死で自分の理性と欲望と懸命に戦っていた。折紙の悪魔の声に必死で堪える。折紙の悪魔の声に乗るのは簡単だ!

しかし、彼には守らなければならない笑顔がある!!

万が一、折紙に心変わりするようなことがあれば、それこそ魔王降臨となってしまう可能性があるからだ!!

士道は折紙の誘惑を必死で振り払った。

 

「―――に、西棟の三○五号室で良かったよな!?い、急ごう!」

 

何とかこの状況を抜け出そうと、近くにあるエレベーターに乗ろうとするが、折紙はそれすら妨害する!

………この女も士道とまた同族なのだ。

 

「士道、向こうにもエレベーターはある。それに乗ろう」

 

折紙がさすのは、受付を超えた先にあるエレベーターだ。あのエレベーターに乗るためには、受付を横切る必要があるのだ………そう、これが折紙の狙い―――“この男は私の所有物”というアピールを人前でするためだ!!

………ちなみにこのエレベーターに乗れば、折紙の病室までエレベーターを降りたら数秒で到着するのだが、少しでも長くお姫様抱っこを味わっていたい折紙の気持ちの表れでもある!

 

士道は首を横に振って、近くのエレベータのボタンを押そうとするが、折紙が士道の腕を抑える。

 

「あの―――オリガミ、さん?」

 

「………私は向こうのエレベーターを所望する。このエレベーターはよく修理が来る。わざわざ危ない冒険をする必要はない」

 

―――ダウト!!なのだが、士道はこの病院に来るのは初めてだったので、折紙を疑うことはしなかった。

 

「………りょ、了解しました」

 

士道は折紙の言う通りに受付を横切った地点にあるエレベーターに乗ろうと受付を横切ろうとすると………………案の定、外野から声が飛んで来る。

 

「―――えっ、何あれ!?患者を一般の人が抱っこしてる!?」

 

「………最近のバカップルは場所すら選ばんのか!?」

 

「リア充なんて死ねば良いのに!」

 

「ゴボボボボボボボボボボボボボ………………」

 

自衛隊天宮病院に来ている一般の人たちからの声に顔を真っ赤にしながらも、士道はエレベーターに到着した。

………ちなみに、士道が裏拳で吹き飛ばした黒服のSPはまだ泡を吹いて気絶していた。

 

―――エレベーターを降りて、折紙の病室へと辿り着くと、折紙をベットに座らせて、士道は外へと出ようとする。

 

「じゃ、じゃあな折紙。今度こそ俺は帰―――うおっ!?」

 

帰ろうとした士道に折紙は果物ナイフを眉間に突きつける。

 

「………士道、リンゴを剥いて欲しい」

 

「ナースコ―――「剥いて」………はい」

 

ナースコールを勧めようとしたが、再び折紙はぐいっと果物ナイフを士道に突きつける。観念して士道はバスケットの中にあったリンゴを八等分にし、リンゴの皮でうさぎの耳を作ったり、するなど豪勢なものを折紙に調理してあげた。

 

―――しかし、折紙の要求は止まることを知らない!!

 

折紙はあーんと口を開けている。怪訝に思った士道は折紙に訊ねる。

 

「えーと………その、折紙さん?」

 

「食べさせて」

 

「あ、はい………」

 

士道はがっくりとしながら、切ったリンゴを折紙の口へと運ぶ。しかし―――折紙は受け入れようとはせず、さらに注文をつける。

 

「恋人同士なら口移しが―――」

 

「問答無用っ!!」

 

折紙が口を開けた瞬間を狙って士道はリンゴを折紙の口にイン!!

得意げな表情を浮かべている士道くん。しかし、士道に異変が起こる………なぜか士道の手を折紙が離そうとしないのだ。

 

そして―――折紙は士道の指を舌で舐め始める!

 

「ああ、おい!?こ、こらやめっ、オリガミサンっ!!」

 

男を虜にする舌使いで、士道を魅了しようとする折紙。士道は意表を突かれ声を裏返しすほど揺さぶられていた。

 

「―――ごちそうさま………」

 

満足げに折紙は士道の手を離し、解放した。今度こそ士道は帰ろうとしたが、折紙は電子体温計を士道に渡す。

 

「………いやいやいや!これは流石に―――」

 

「過度な運動は控えるように言われている―――「了解しました………」」

 

………完全にこき使われている士道くんだったが、折紙の言い分に従うことにした。

 

「………それで、俺はどうすればいいんだ?」

 

「―――ここに座って」

 

折紙は自分のすぐ横を手で叩く。士道はそこに座ると、折紙がなんと、士道の膝の上に座って来たのだ!!

服の紐を解くと、真っ白なおっぱいが露わになり、士道は鼻血を吹き出す!

 

「お、おっぱい!!」

 

………狂三とのデートを尾行していた折紙も、士道の誘惑のノウハウを知ってしまった。

士道におっぱいを見せれば乗ってくれることをわかっていたからこその行動だ。

もう、暴走列車は止まらない!折紙は電子体温計をわざと落下させる!

 

「あ、手が滑った」

 

「あ、俺が拾―――んむむむむむ!!!!!」

 

落下した電子体温計を拾おうとした士道くん。この時を折紙は待っていたのだ。

折紙は士道が電子体温計に手を伸ばした瞬間、素早く自分の胸に士道の頭を抱えて押し付ける!!

折紙は目的のためなら手段を選ばない!士道くんの貞操がピンチだ!!

 

「―――これこそ士道体温計」

 

折紙は電子体温計ではなく、士道を体温計にしているようだ………ちなみに、士道くんは立派にその役をこなす。

 

「お、おっぱ―――じゃなくて、三六•二度………平熱だ」

 

士道は首を横に振って折紙の体温を言ってみせた。

―――この男は、おっぱいに触れれば即体温を読み取ることができる………おっぱいのことになれば、彼の右に出るものはいないだろう。

 

役目を果たした士道は、逃げるように折紙の病室から出ようとする。

 

「―――じゃあ今度こそ帰るぞ?………またな、折紙」

 

「………………………」

 

士道が帰ってしまうことを非常に残念に思っていた折紙ちゃん。何も言うことはなく、手を振って士道を見送ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

―――◆―――

 

 

 

 

 

 

カーッ!カーッ!

 

士道が自衛隊天宮病院から出た時には、すでに空は茜色に染まっており、カラスが鳴く時間となった。

自衛隊天宮病院から自宅へと帰る途中、士道はドライグと会話をしていた。

 

「………ドライグ、お前は()()()をどう思う?」

 

士道は琴里を助け出した時のことの夢についてドライグに訊いた。ドライグは難しそうに声を濁らせる。

 

『どうも何もな………言えることはただ一つ―――あれはとても並の人間がなせる技ではない………夢だからこそ力を感じることは出来なかったが、あの力の解放は少なく見積もっても魔王クラス以上のものだった………相棒の体の中はまだ何か秘密があるのかもしれん………それが何かは分からんがな』

 

ドライグの見立てに士道は身震いをした。自分の体の中には、魔王クラス以上の力が眠っているかも知れないからだ………士道はその力が暴走することを恐れた。

―――万が一魔王クラスの力が暴走すれば天宮市そのものが地図からごっそり消えて無くなってしまう可能性があるからだ。

 

『―――人間を精霊に変える存在に、相棒の中に眠る漆黒の闇か………この世界では分からないことが多過ぎる。しかし、この二つを考えるよりも、今後のことを考えた方が良いだろう。

―――相棒、再び神器の中に潜ってみたらどうだ?』

 

琴里の霊力を封印した時に、士道にはうっすらと琴里が精霊になった時の映像が記憶として流れ込んできた。存在がノイズの塊だったために、真の姿を拝むことは叶わなかったが、琴里のそばにその存在は確かに()()()のだ。

 

そして、夢で見た禍々しい力の解放については今以て謎のまま。

人間を精霊に変える存在と士道の中のうちに眠る悍ましい力の答えは、是が非でも欲しいところだが世の中はそんなに上手くはできていない………

故にドライグは士道の成長を優先しようと考えていたのだ。

 

「………そう言えば、一度も潜ったこと無かったよな―――よし、帰ったらやってみるよ」

 

ドライグの提案に士道は首を縦に振った。

それは兵藤一誠が『覇龍(ジャガーノート•ドライブ)』以外の進化の可能性を見出すために、堕天使総督の『アザゼル』の考案したものだ。

士道はそれを思い出し、実行することを決めた。士道が足を進めるスピードを上げた時、目の前によく知る人物が姿を見せる。

 

「やあ、士道くん。狂三ちゃんの攻略お疲れさま、まさか本当に攻略してしまうなんて思ってなかったよ………それから、おめでとう。ついに至ったみたいだね」

 

魔法使いのローブを纏い全身を隠しており、いかにも『私は不審者で〜す!』と言うアピールをしている守護者ソロモンが士道の前に現れる。

ソロモンは士道がバランス•ブレイカーに至ったことを即座に見抜いてみせた。士道はソロモンに頭を下げる。

 

「―――ソロモンさん、『フェニックスの涙』本当にありがとうございました。お陰で『くるみん』を死なせずに救えました!―――でも、狂三は………」

 

士道は最後まで伝えようとはせず、表情を陰らせ言葉を濁した。くるみんこそ救えたが、狂三の攻略は出来なかったからだ。

 

「そうか………でも、くるみんを救えたことは胸を張るべきだと僕は思うよ?………自分を卑下しちゃダメだ、キミはまだ高校生だ。まだ全てが上手くいかなくて当然だ―――だから次に出会った時は攻略すれば良いじゃないか」

 

「―――分かりました………」

 

ソロモンは士道を見守る教師のように、士道に道を示した。士道は唇を噛み締めながらも、ソロモンの言葉に従うことに決めた。

しばらく話し込んだ後、ソロモンがポケットの中から豪勢な箱を取り出す。

 

「―――さて、ここに来た目的を話さないといけないね………今日は士道くんにプレゼントがあるんだよ」

 

「………プレゼント?」

 

『フェニックスの涙』だけでも十分過ぎる贈り物だったが、ソロモンは豪勢な箱の中身を開けて中身を士道に見せる。

―――箱の中身は、研磨されたダイヤモンドを思わせる手のひらサイズの宝石だった。

宝石は虹色の光を放っており、まるでなにかを覚醒させるような力を士道は感じ取っていた。

………ソロモンは宝石について士道に話す。

 

「これは『龍醒石(りゅうせいせき)』と言ってね、ドラゴンの隠れた潜在能力を引き出す力を持つ宝石なんだ。

士道くんの更なる進化の手助けになってくれるだろうと思ってね」

 

ソロモンの話を聞いた士道は、ソロモンに訊く。

 

「―――これを、俺に?」

 

「うん、そうだよ。………ちなみにこの

龍醒石(りゅうせいせき)』の元ネタは十香ちゃんや四糸乃ちゃんたち―――精霊ちゃんたちの力の源の『霊結晶(セフィラ)』だよ。

上手くやれば士道くんのがその身に封印する精霊の霊力と赤龍帝の力と融合することが出来る筈だ」

 

ソロモンは士道に『龍醒石(りゅうせいせき)』を差し出すが、士道は受け取ろうとはしなかった。

士道は首を横に振ってソロモンに言う。

 

「―――受け取れません………確かに強くはなりたいですけど、これ以上ソロモンさんに迷惑をかけるわけには………」

 

士道の言葉にソロモンは士道の方を掴み、士道にもう一つの理由を述べる。

 

「………さっき『霊結晶(セフィラ)』の話をしたけど、キミの体には精霊の核となっている

霊結晶(セフィラ)』が存在しない………だから、非常に力が不安定なんだ………このままいけば、近いうちにキミが封印した精霊の霊力が暴走する危険性があるんだよ………

龍醒石(りゅうせいせき)』には、力の覚醒以外にも、力を安定させる術式を組み込んでいる。

キミが暴走してしまえば、僕たちはキミを倒さなければならなくなる………僕はそんなことはしたくないんだ」

 

「………………………」

 

士道はソロモンに何も言い返す事が出来なかった。確かにソロモンの言っていることが事実ならば、士道の封印する霊力が暴走したら、本当にこの天宮の街並みくらいなら簡単に吹き飛ぶだろう。

 

………しかも、士道は現在は四体の精霊の霊力を封印している―――これから更に精霊を封印していくとなると、それに比例して士道の体に封印される霊力は大きくなる………万が一暴走してしまえば、それこそ三十年前のユーラシア大陸を襲った空間震を大幅に上回るものになる可能性があるからだ。

 

『………相棒、ソロモンの言葉に従うべきだ。俺も他人の力を使って強くはなりたくはないが、相棒の身の安全が最優先だ。万が一相棒が暴走して死ぬことになれば、夜十神十香がまた魔王になって街を破壊しまくるぞ?』

 

―――ドライグの『十香が魔王になる』と言う言葉を聞いた瞬間、士道は身体中から嫌な汗が大量に吹き出した。

そうなれば本当にこの世の終わりになるだろうから………

………ドライグの賛成もあり、士道はソロモンの言葉を信じることにし、プレゼントを受け取ることを決意した。

 

「………分かりました、ありがたく頂戴します」

 

ソロモンは承諾してくれた士道に優しく微笑む。

 

「分かってくれたなら、僕も言うことはないよ。

………じゃあ士道くん、『赤龍帝の籠手(ブーステッド•ギア)』を出してくれないかな?」

 

ソロモンの言葉通り、士道は左腕に赤龍帝の籠手(ブーステッド•ギア)を具現化させる。

ソロモンは士道に龍醒石(りゅうせいせき)を手渡すと、士道に指示する。

 

「―――士道くん、籠手の宝玉に龍醒石(りゅうせいせき)をはめ込むんだ」

 

「わ、分かりました!」

 

士道は言われた通りに、赤龍帝の籠手(ブーステッド•ギア)の宝玉に龍醒石(りゅうせいせき)をはめ込んだ―――その時だった………

 

パァァァァァァァッッ………

 

龍醒石が溶けて赤龍帝の籠手に染み込むように、宝玉の中へと沈んでいった。

宝玉が士道とドライグに、確かな変化をもたらした。

 

赤いオーラが士道の体に絡みつくように解放され、そのオーラの解放は徐々に士道の体に浸透している!

 

「これは――――」

 

『………あの時と同じだ―――相棒が

三叉成駒(トリアイナ)』を覚醒させた、あの時に………これは俺の本来のオーラだ―――「覇」の力に身を任せたものじゃない、ただ純粋に白いのに勝ちたかった頃の………目覚めてからだったの数ヶ月で、この領域にたどり着けるとはな!!」

 

ドライグは楽しそうな声音で、封印の枷が外れたことを喜んでいた。

しかし―――ドライグは本来のオーラが覚醒したが、士道に新たな力が流れ込んでくる様子はなかった。

 

「………………あれ!?ここは俺も一緒に覚醒するシーンだよな!?なんで俺には何にも起きないんだ!?」

 

慌てふためく士道にソロモンは何かヒントになりそうなことを告げる。

―――士道が何が足りていないのかを、示すかのように………

 

「―――おそらく、それは神器の中に原因があるんじゃないかな?それが解決すれば士道くんはもう一つ上のレベルに到達出来るはずだ………」

 

「神器の中に―――ですか?」

 

士道はソロモンに言われた通り、神器にはこれまで一回も潜ったことはない。故に、帰ったら試さなければならないと思っていた矢先、ソロモンにも同じことを突き付けられたのだ。

 

「………とにかく、やってみます!」

 

士道は坐禅を組んで試そうとしていたが、ソロモンは士道を止める。

 

「―――帰ってからでいいんじゃないかな?十香ちゃん達がお腹を空かせて待っていると思うよ?

………不機嫌になって霊力が逆流することの方がマイナスだと僕は思う―――とりあえず帰ってからでもできることだし、まずは十香ちゃん達の夜ご飯の準備が先じゃないかな?」

 

「―――わ、忘れてたぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!」

 

ガビーンッ!と忘れていたことを突き付けられた士道は、あたふたと慌てながらもソロモンに頭を下げる。

 

「す、すみません!俺帰ります!十香が叫んでいる様子が頭に浮かびました!」

 

士道は足に力を込めて走り出そうとしたが、ドライグは待ったをかける。ドライグの真剣な声音を聞いた士道は思わず足を止める。

 

『待て相棒、俺は一つこの男に確認したいことがある………』

 

「………珍しいね、赤龍帝のア•ドライグ•ゴッホが僕に何を訊きたいのかな?」

 

『―――禍々しい闇を纏い、紅蓮の瞳、そして手足に謎の術式を思わせる紋章がある存在について訊きたい』

 

「――――ッ!?」

 

ドライグが訊ねたのは、士道の五年前の時の記憶だった。ドライグの問いにソロモンは驚きを隠せず、表情が激変した。

 

「………どうしてそんなことを僕に訊くのかな?」

 

いつもはヘラヘラとしているソロモンだが、ソロモンの表情は真剣なものに変わり、ドライグにその原因を訊ねた。

 

『―――詳しくは話せないが、相棒が五年前の天宮市の大火災の時に纏った力が先ほど話した力だ。………貴様なら何か知っていると思ってな』

 

ソロモンの頭の中には、最悪の存在が一瞬頭によぎったが、首を横に振ってドライグに伝える。

 

「………なるほど、それは士道くんの中にあった精霊の力だったんじゃないかな?そんな漠然とした情報じゃあ、さすがに僕も分からないよ………」

 

『―――そうか………すまんなソロモン。貴様なら力になると思ったのだがな………やはり情報が少な過ぎるのが問題だ』

 

士道も知りたかった答えを知ることはできず、残念にしながらソロモンに一礼して去って行った。

ソロモンは拳を握りしめ、視線を鋭くして記憶を探る。

 

「………まさか、()()が士道くんの体の中にいるとしたら―――いや、考え過ぎだろう………あれは三十年前の出来事だ。士道くんは今年で十七歳だ。どう間違っても十三年の誤差は埋まることない………けど、備えておくに越したことはないか」

 

ソロモンはブツブツと呟きながら、来るべき災厄に備えることにした。

―――万が一その存在がこの世界に再臨するようなことがあれば、確実に人類は滅亡の一途を辿ることになるだろうから………

 




士道のパワーアップはこの章でも行う予定です。

あれ?霊力が暴走しないなら、『五河ディザスター』はどうなるの?と思う方もいるかも知れません………が、飛ばす予定はありません。
『五河ディザスター』ではなく、『士道エンディングワールド』という章名で投稿すると思います。

————恐らく、かなり先になると思いますが………


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四話 意外すぎる再開です!!

この話ではあの男が出てきます。

本当に意外だと思います。―――なんでお前が出てきてんの?となると思いますが、温かい目で見守って下さい。




 

真那との面会は出来なかったが、その埋め合わせと言わんばかりに折紙の欲求を満たす働きをさせられ、精神をかなり削って士道くんは家へと帰宅した。

家のドアを開けると、懸念していた通りにリビングで怪獣が叫んでいる………

 

「シドー!お腹が空いたぞ!」

 

………これはもうお約束になりかけているが、お腹を空かせた十香ちゃんは安定してこれだ。

ガオオオオオオッッ!!と十香の叫び声が聞こえた士道はリビングに行き、手を洗ってご飯を作り始める。

 

「………悪い十香、ちょっと待っててくれ」

 

士道は今日の夕飯のメニュ―を冷蔵庫の中にあるもので作る。士道が調理をしていた時、家の扉を開けて五河家のリビングに入ってくる影があった………

 

「………士道さん、お夕飯を頂きに来ました………」

 

『ヤッホー士道くん、みんなのアイドル「よしのん」だよ〜ん!』

 

まず一人は四糸乃がやって来た。今日はそれだけじゃない―――白いワンピ―スに、黒い長い髪によって左目は隠れていて伺えないが、右目の真珠を思わせる赤い瞳を持った絶世の美少女も夕飯にご一緒するようだ。

 

「士道さぁん、わたくしも今日から隣に住むことになりましたの―――ですので、お夕飯はわたくしもご一緒させていただきますわ」

 

「ああ、構わないぜくるみん、飯はみんなで食った方が美味しいからな」

 

狂三の分身体のくるみんだ。くるみんも今日から隣の精霊用の特殊住居に住むようになったのだ。

―――狂三が住む家だと、くるみんは狂三に消されてしまうことを恐れた令音がくるみんを精霊用の特殊住居に住まわせる事に決めたのだ。

 

「そうか、くるみんも隣の家に住むのか―――グヘヘヘヘヘヘヘヘヘッ!!………ヤベッ、笑いが止まらねぇ!!」

 

「―――ひっ!?」

 

まな板でキャベツを凄まじいスピ―ドでみじん切りにしながら、下品な笑みを浮かべて鼻の下を伸ばす士道くん。それを見たくるみんは小さく悲鳴をあげる。―――くるみんは身の危険を感じ取ったのだろう………その時、ドライグが言う。

 

『夜刀神十香、今日は相棒の周辺を警戒しておけ―――相棒は「くるみん」が入浴している時を狙って自分も一緒に入浴する腹だ!夜刀神十香、お前が相棒の手綱を握るのだ!』

 

「な、なんだと!?シドー、ドライグが今言ったことは本当か!?」

 

ドライグに心の中を暴露されたことで、士道は慌てふためく!

嫁(希望)の十香はドスンッ!と大きな音を立てて自分の席から立ち上がる!!

必死にドライグの言ったことをカモフラ―ジュする!!

 

「―――グハッ!?………………お、おいドライグ!そ、そんな冗談を十香が聞くとでも思ってんのか!?だ、第一、俺がくるみんの入浴中を狙うわけなんて―――グヘ、グヘヘヘヘヘヘヘへへ!」

 

―――失礼、全くカモフラージュ出来ていない!!この男は欲望に正直過ぎるため、嘘がつけないのだ!!

ドライグの暴露を聞いたくるみんは――――――

 

「………士道さんがわたくしに言った降伏条件は、『お風呂も寝るのも一緒』と言う条件ですわ―――士道さん、その………わたくしで良ければ、喜んでご一緒しますわ!」

 

顔をトマトのように真っ赤にしてくるみんは士道に上目遣いで誘いを承諾した。

―――これでこの変態はもう止まらない!!

 

「うおっしゃああああああああああ!!合意の上なら問題ねえッ!!ついに俺はエデンに辿り着くことが出来るぞ!!これこそまさにKMG―――『くるみん•マジ•ゴッデス』!!」

 

「―――あうぅぅぅ………」

 

くるみんは未だに、士道が恥ずかしがることなく自分のことを女神だゴッデスだと呼ぶことに抵抗があるのか、恥ずかしそうにモジモジとしている!

くるみんが誘いを承諾したことで、五河士道という変態はさらに加速する!!目にも留まらぬ速さで調理を終え、料理を完成させる!

今日の夕飯のメニューはトンカツだ!!

 

士道がルンルン気分で皿に盛り付けをし、十香たちのテ―ブルに夕飯を置いていく!

 

「さ、出来たぞ〜!」

 

出来た夕食に、目を丸くしてヨダレを滝のように流す怪獣が一頭、ニパッと可愛い笑顔を見せる男を癒す幼女と、その幼女の左手にある変なおまけ、そして黒い女神(いろんな意味で)さまも、士道の料理を楽しみにしていると言ったところだ。

―――五河家の夕食は非常に愉快なメンツが揃っており、ここ数ヶ月で五河家の食事は笑顔が絶えなくなった。

士道を含めたメンバ―は手を合わせて、挨拶をする!

 

「「「「いただきま〜す!!!!」」」」

 

十香、四糸乃、くるみん、今日は検査でいないが妹の琴里………彼女たちとの生活は、赤龍帝をやっていく士道にとって数少ない憩いの場となるだろう。

料理を嬉しそうに食べる精霊たちの笑顔を見て、士道は『この笑顔を必ず守る』と笑顔を見ながら士道は決意を胸にした。

 

―――夕飯を食べ終わると、四糸乃とくるみんは先に隣の精霊用の特殊住居へと帰ったが、十香はまだ用があったのか、ソファ―に座っていた。

 

「―――十香、帰らないのか?」

 

士道が茶碗を洗いながら、ソファーに座っている十香に訊いた。

………十香はゆっくりと士道に歩み寄り、迫力のある笑顔を見せる。

 

「シドー、浮気をしたら―――金的だぞ☆」

 

ヒゥゥゥゥォォォォォッッ………

 

ニッコリと笑っているが、額に青筋を浮かべ中身は全く笑っていない十香ちゃんだった………士道の頭の中には、一夫多妻去勢拳を使う巫女狐の姿が浮かんでいた。

 

「お、おう………」

 

十香の言葉に、士道の背中には強烈な悪寒が走っていた。全身の毛が逆立つように、士道は恐怖を感じていた。

士道の目元をヒクつかせて言った言葉に、十香は満足げに微笑んでいる!

 

「うむ!それでこそ私の夫だ!―――狂三にシドーを触らせてなるものか、シドーは私だけの夫だ!」

 

「………………………」

 

改めて確認し満足した十香は、ルンルン気分で精霊用の特殊住居へと帰っていった………

十香ちゃんは本当に単純だ。

 

『………ふぅ、今日は気分良く眠れそうだな!』

 

ドライグは十香な脅しが十分に効いていると思っている。ドライグはホッと一息つけることに、安堵の表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

――◆――

 

 

 

 

 

士道は、茶碗を洗い終えた後は自分の部屋に戻り、ベットの上で座禅を組む―――神器に潜るためだ。

 

『―――相棒、やり方は覚えているか?』

 

士道の左手の甲からドライグの声を発した。士道は首を縦に振る。

 

「―――忘れちゃいねえよ。前世でも一度やってることだから………けど、もうベルザードさんもエルシャさんも―――」

 

士道は、会えなくなった二人を思い出し、表情を陰らせたがドライグは士道に言う。

 

『………ああ、ベルザードとエルシャの二人はもう安らぎを得たのだ。ずっと神器の奥底に思念として閉じ込められていたものから解放され、やっと自由を得た………確かに寂しさはあるし、話せるなら俺も話したいさ―――けどな相棒、あいつらのことを想うことよりも、あいつらの想像を超えられるようになることこそが、俺はベルザードとエルシャの二人に応える最高の恩返しだと思う………』

 

ドライグの言葉は、士道の胸に深く響き渡るものだった。士道は拳を握りしめ、顔を上げた。

 

「―――その通りだな。あの二人は新たな進化を遂げた俺の背中を押してくれたんだ………なら、二人が見れなかった分を俺が見せてやることこそが、最高の恩返しだよな!」

 

前に進む覚悟を決めた士道を見たドライグは盛大に笑う!

士道とドライグの想いがシンクロした証拠だろう………まさに、お互いが最高のパートナーと認め合った形がこれなのだ。

 

『―――ガハハハハハハ!さあ、やることも分かったことだし、やってみようではないか!』

 

士道はベットの上で座禅を組んだ。

 

 

 

そして―――――………………

 

 

 

士道の意識は、『赤龍帝の籠手(ブーステッド•ギア)』の精神世界へと旅立った………

 

 

 

 

 

———•••••••••

 

 

 

 

 

 

士道の意識は、暗闇を泳ぎ続けた。しばらく泳ぎ続けると、真っ白な空間へと出る―――この場所が、歴代の赤龍帝たちの思念が形となって存在する場所だ。

 

形となった歴代赤龍帝の思念は、テーブル席にうつろな表情でうなだれているのだ。

 

『………龍醒石を神器の中に入れても、この人達はこのまんまかよ―――おーい、兵藤一誠の転生体ですよ〜?みなさんのヒーロー、おっぱいドラゴン様の降臨ですよ〜?』

 

空間について、士道は一番近くにいた歴代の赤龍帝の思念の顔の前に手を上下させるが、思念体に反応は無い。

魂の抜けた人形という言葉以外に、この歴代赤龍帝の思念体を的確に表現する言葉はないだろう………

 

(―――あの龍醒石とやらのおかげで何かが変わった筈なのだがな………というかだな、おっぱいドラゴンやめろ!!)

 

頭上からドライグの声が響き渡る。士道は他の思念体を見て回るが、どの思念体も同じだった。

 

何をやっても、思念体の反応がないことを良しとし、ここでも士道のスキル『ブレない変態S』が発動する!!

 

『―――上から、86―53―82か………うん、悪くない!!』

 

士道は女性と思われる思念体のスリーサイズを測定し始めたのだ!!やることがわからない―――となれば、エロに走るこの男!!

 

(………おい!?こんなところに来てまですることか!?)

 

ドライグの叫び声が頭上から響き渡るが、士道くんは御構いなし!!たとえ思念体といえども女性は女性!

士道くんの暴走列車は止まらない!!

 

『―――あ、前から思っていたけど………体の一部に触れたら先輩たちの意識が覚醒する!?みたいなことないかな?

―――そうだ、試しにこの人のおっぱいを揉んでみよう!』

 

士道くんのスリーサイズスカウターの犠牲者となった、女性の歴代赤龍帝の思念体に士道の両手が迫る!!

―――もちろんドライグは黙っていない。

 

(あるわけがないだろおおおおおおおお!!ていうか止めろ!断じて止めろおおおおおおおおお!!神器の中という精神世界に来てまでスケベ第一に考えるなああああああああ!!)

 

頭上から制止の叫び声―――失礼、悲鳴を上げるドライグ!!しかし、士道くんは聞く耳を持たない!

 

『うるせー!!俺がピンチになったら毎度毎度「―――覇龍(ジャガーノート•ドライブ)だ………」とか「えーっと、覇龍(ジャガーノート•ドライブ)がいいと思います………」みたいなことをこいつらは俺の頭ん中で呪詛のように呟くんだぞ!?

いつも頭ん中で呪詛を喰らうことしかできない俺に、仕返しする機会くらいくれてやっても良いじゃねえか!!』

 

(―――もうダメだ!おしまいだ!!

うおおおおおおおおおおおおおおんんん!!!!)

 

ドライグはただ泣くばかりだが、士道くんは止まらない!

『グヘヘヘヘヘヘヘヘヘ!仕返し始めまぁぁぁすッ!』と思念体のおっぱいに手を伸ばす士道くん―――――しかし、彼を止める勇者が現れる!!

 

 

 

それは―――――

 

 

 

「―――俺のコレクションに触れてんじゃねェェェェェェェ!!!!」

 

『―――ぐふぅ!?』

 

ドガッ!!

 

突然現れた謎の存在が士道くんをドロップキック!士道くんは地面をゴロゴロと転がりながら吹き飛んでいった。

いきなり現れて、士道くんの悪虐を阻止した男を見たドライグは驚愕の声を上げる。

 

(―――なっ!?どうしてお前が………なぜお前がこんなところにいるのだ!?)

 

その男の容姿は、冴えない茶髪に見るからにスケベな顔、そして鋭い視線を持ち、体格は身長は士道よりも高いが、体つきは士道に比べれば見劣りしている………

ドライグと同様に、起き上がった士道も驚きを隠せずにいた。

 

『―――なっ!?こりゃ一体どういうことだ!?どうして前世の()がこんな場所にいるんだ!?』

 

その男は、士道の前世の姿―――前赤龍帝の『兵藤一誠』だったのだ………

兵藤一誠は蹴っ飛ばした士道のもとへと足を進め、右手を差し出した。

 

「………こうして会うのは初めてだな()―――いや、五河士道。とりあえず、これからよろしくな!」

 

『―――いやいやいや、「よろしくな!」じゃねえよ!!なんで前世の俺がここにいるんだよ―――ていうか、お前のそれって()()()()()()()()だよな!?………俺は記憶を引き継いで転生したっていうのに、どうして魂だけが神器の中にあるんだよ?―――ていうか、どうしてエルシャさんやベルザードさんみたいに普通に形を持って行動できるんだ?』

 

士道の疑問はもっともなことだった。士道は、兵藤一誠の全てを引き継いで転生したはずだった………しかし、自分の目の前には、兵藤一誠の思念ではなく魂がこうして形として具現化しているのだ。

………士道の疑問に兵藤一誠―――イッセーは話し始める。

 

「詳しいことは俺にだってわかんねえよ………俺は曹操との戦いで死んだ―――それは間違いない………けど、気が付けばこうなっていたんだ。

次に二つ目の質問だが、俺も思念体として神器の中に組み込まれていたのだが、今日の夕方に士道が受け取ったあの石ころ―――『龍醒石(りゅうせいせき)』だっけか?あれで意識が戻ったんだよ………」

 

(なるほどな………だかなイッセー、俺は思念となったお前を見つけることは叶わなかった―――お前は一体どこにいたのだ?)

 

イッセーの言葉を聞いたドライグもまたイッセーに疑問をぶつける。

 

「エルシャさんや、ベルザードさんと一緒だ。神器の奥深くで俺もこの人たちとおんなじ状態になってたよ………まあ、俺の場合はあの石ころで元気百倍になって舞い戻ったんだけどな!」

 

(………なるほどな。どうりで俺ですら見つけることが出来ないわけだ。神器の奥底までは探すことはしなかった―――俺がこの五河士道の言葉を信じたということが一番大きいがな)

 

ドライグはイッセーの説明を聞いて、納得をして頷いていた。

 

―――エルシャやベルザードは例外の中の例外だ。

ベルザードは男性の歴代の赤龍帝の中で最強の存在で、白龍皇を二代に渡って葬り去ったほどの剛の者。

エルシャは女性の赤龍帝の中での最強の存在でもあり『女帝』と呼ぶべきほどの存在―――エルシャとベルザードは、士道にとっては偉大な先輩方だ。

イッセーが意識が戻ったのは、龍醒石(りゅうせいせき)のお陰らしい。

………その時、士道は一つ思いついたことをそのまま述べる。

 

『―――話は分かったけど、イッセーの魂を俺の魂と融合させることは出来ないのか?パワーアップはそれで完了すると思うんだけど………』

 

(―――なるほど、確かにソロモンが言っていた神器の中に問題があると言ったことも頷ける………だが、相棒は記憶は引き継いだが、魂を引き継ぐことは叶わなかった。

何かきっかけがあれば、離れた魂を融合できると俺は思う。………だが、そのきっかけと言うのが―――ううっ、考えれば考えるほど嫌な予感しかしないんだが………)

 

ドライグは、トラウマが頭の中で蘇ってきた時のような、今にも吐きそうな表情を浮かべていた。

そんな時、イッセーが士道の方に触れて一言だけアドバイスをする。

 

「難しく考えるこたぁねえよ。俺とお前は二人で一つの存在だ。―――けど、お前が俺になる必要はない。お前は五河士道だ、お前が信じる道を進んで行けばいいさ―――それがお前が覚醒する要因になる筈だ!」

 

『―――俺が信じる道、か………』

 

士道はイッセーが述べた『お前が信じる道』と言う言葉を真剣に考えていた。

その時、イッセーがフラフラと揺れ始め、地面に倒れた。

 

『―――お、おい!?大丈夫か!?』

 

倒れたイッセーを士道が支える。イッセーは士道の肩を借りて、再び立ち上がるが、辛そうにしているは見るからに明らかだった。

 

「目覚めたばかりで本調子じゃねえみてえだわ………俺はこの辺で失礼させてもらうわ。

―――士道、またおっぱいについて語り合おうぜ!」

 

『ああ!』

 

士道が元気よく答えると、イッセーは白い空間の地下へと沈み込んで行った。その時、士道の真っ白い空間が崩れ去り、眩い光が士道を包み込んだ―――――

 

 

 

 

 

 

―――◆―――

 

 

 

 

 

「―――ッ!!」

 

士道が目が覚めた時、ふと辺りを見渡すと部屋の時計が目に入り、時刻はPM9:00を示していた。

そろそろ、お風呂に入って良い子は寝る時間になった時、士道の部屋がノックされる。

 

『………シン、私だ。ちょっといいかい?』

 

部屋の外でノックをしているのは、令音のようだ。

士道はドアを開けて令音に訊ねる。

―――令音は寝巻きに着替えており、両腕には枕を抱えている………令音は『三十年間ずっと眠っていない』と出会った時には言っていたが、この姿を見る限りではそれも怪しいだろう。

 

「令音さん、何か用ですか?―――も、もしかして夜這いに!?」

 

―――士道くんの頭の中はお花畑のようだ………確かに、令音のような美女が枕を持って部屋に来たというシチュエーションに出くわした場合、健全な男子なら『えっ、令音さん俺と一緒の布団で寝たいの!?』と疑ってしまうだろう!

ましてや、士道くんのような変態なら尚更だ。

 

「………シンが望むなら私は構わないよ?シンはいつも頑張ってくれている。………私で良ければしてあげよう」

 

「うおっしゃああああああああああ!!!ありがとうございます、令音さん!!俺、今日死んでも後悔ないッス!!」

 

「………ふふふ、シンは大げさだね」

 

ぴょんぴょんと元気よくベットで飛び跳ねるおっぱいドラゴン。そんな士道を見て、令音は小さく微笑む。

―――だが、士道の様子にドライグは溜息を吐く。

 

『………村雨令音、少しは身の危険を感じろ。あまりこのバカが本気になるようなことは言わない方がいい―――気づいた頃には、貴様の貞操が悲惨なことになっているかもしれないぞ?』

 

「お、おい!?俺は無理やり令音さんを犯すなんて真似はしねえよ!!どこぞの強姦魔だよ!?」

 

ドライグの言葉に全力でツッコム士道。完全に『フラクシナス』の艦内での様子が再現されている。

プンスカと怒っている士道を横目にドライグが令音に訊ねる。

 

『………それで、優秀な貴様は相棒をその気にさせるようなことを言いに来ただけではあるまい―――貴様がここに来た本当の用事とは何だ?』

 

ドライグの言葉に、令音は完全に忘れていたかのようにハッと思い出して、士道を見る。

 

「………シンの明日のスケジュールについて打ち合わせをしておこうと思ってね」

 

「明日は俺、くるみんと水着を買いに行く予定がありますよ?」

 

「………その件について一つ追加要項があるんだよ―――狂三の他に十香と四糸乃を同行させようと思う。

………この前の狂三とのデートで十香のシンへの不満度は高まっている。さらにシンが狂三を優先するなんてことになったら、十香の不満はピークに達し、最悪霊力が完全に逆流してしまい、再封印の必要があるかもしれない………」

 

「………………っ」

 

令音の言葉に士道は息を詰まらせた。十香の力が逆流して仕舞えば、空間震が発生してしまい、街並みがドカンと破壊されてしまうからだ。

―――今の士道なら、ドラゴニック•バーストで空間震を吹き飛ばすことが可能だが、技を放った時の衝撃で、半径数メートルは簡単に吹き飛んでしまうため、空間震の発生は避ける必要があるからだ。

 

「………それに、四糸乃もシンと一緒に遊びたいと思っている。………四糸乃にはよしのんがいる分、十香ほどではないが、四糸乃もシンと触れ合えないことにストレスを感じているようでね」

 

令音の言葉を聞いた士道は、首を縦に振る。

―――しかし、そうなると一つ問題がある。

 

「くるみんはどう言ってるんですか?自分が言い出したことなのに、十香と四糸乃まで参加するってなるといい気分がしないのでは?」

 

「………渋々だが、狂三は承諾してくれたよ。まあ、デートに邪魔が入るということでムッとした表情を浮かべていたけどね………シン、頼まれてくれるかい?」

 

令音の申し出を士道は快諾する。

 

「………分かりました。明日は精霊たちと水着を買いに行きます。―――エンジェルちゃんたち!お兄さんが可愛い水着と、布面積が狭い水着と、濡れたら透ける水着と、濡れたら溶ける水着をチョイスしてあげちゃうぞ!!―――グヘ、グヘヘ、グヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘ!!」

 

鼻血とヨダレを垂れ流して、五河士道は手をわしゃわしゃと卑猥に動かし、下品な笑みを浮かべ、自分の世界へと入り込んだ。そんな士道を見たドライグは令音に伝える。

 

『………村雨令音、その店に警官が来ないように手を回してくれないか?―――この男は明日、十回ほど警官に世話になるかもしれんからな』

 

ドライグの言葉に、令音は「………了解した」と首を縦に振り、『フラクシナス』へと戻りドライグの言葉通り、準備を進めていた。

 

「よし、お風呂に入って『フラクシナス』にレッツゴーだ!令音さんとの念願の同じベットだ!いや〜感無量だぜ!!」

 

『………はあ、この煩悩に後何年付き合うことになるのやら』

 

ドライグの精神は徐々にすり減っているようだった。

苦労が絶えないドライグ。キミは立派な苦労人―――いや、苦労龍だ!




今回はツッコミどころ満載だったと思います。
この章あたりからDxD要素が少しずつですが、増えていく予定です。

次回はあの仁義なき乙女の戦いの様子を書きたいと思います。

★おまけ

士道「おいイッセー、次回は俺たちの目の保養になる美少女たちの水着回だぜ!!」

イッセー「おお!待ってました!!士道は誰の水着を推してんの?」

士道「俺の推しはくるみんかな―――俺が選ぶエッチな水着にくるみんの顔が真っ赤に染まる様子は、マジで一見の価値アリだぜ?」

イッセー「くぅぅぅぅ!ゴッデスくるみんの水着か〜………うっ、考えただけで鼻血が………
でも、俺は十香ちゃんに濡れたら溶ける水着を着させたいな!」

士道「―――十香に溶ける水着はマジでアリ!『シド〜水着が無くなった!』とか言って、俺に裸で抱き着いてくる様子が―――ブハッ!!」

イッセー「ああ、俺も部長や朱乃さんに溶ける水着を着させたい!ていうかむしろ世の中の全ての水着が水に溶けるものになってしまえばいいのに!!」

士道&イッセー「水着さいこおおおおおおおおおおお!!!」

ドライグ『うおおおおおおおおおおおおおおんんん!!!変態二人のお守りはいやだあああああああああああ!!!』

ドライグの心労はまだまだ続く!


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五話 仁義なき乙女の戦いです!!

いよいよやってまいりました、水着回!

みなさん、ヒロインたちの水着姿を想像して、士道くんみたいに鼻血を出さないようにしましょう!

※前話から———を―――に変更しました。


 

 

「グヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘ!!」

 

くるみんと琴里の霊力を封印してから一日が経過した。

士道くんは朝からずっとこの調子だ。

頭の中で水着姿になった精霊たちを浮かべて、醜悪な笑みと鼻血とヨダレを垂れ流している!

―――キモいの一言が今の士道くんにはよく似合う。

 

『―――少しは欲望を隠したらどうだ?………見てみろ、夜刀神十香や四糸乃が変なものを見るような視線を相棒に向けているぞ?』

 

ドライグに言われた通り、ふとソファーに座る十香と四糸乃に視線を向けると………

 

「「………………」」

 

ドライグの言葉通り、十香と四糸乃は怪しいものを見るような視線を士道に向けている。

―――なんの前触れも無くいきなり下品な笑みを浮かべる不審者を見れば、十香も四糸乃も不気味に思うのは当然だ。

 

ピーンポーン………

 

士道くんが下品な笑みを浮かべて数秒ほど経った時、五河家のインターホンが鳴る。

士道は玄関のドアを開けると、ゴスロリを着た美少女がドアの向こうに佇んでいた。

 

「………おはようございますわ、士道さん」

 

その少女はくるみんだった。くるみんは士道とのお出かけということもあって、オシャレをしている。

士道はくるみんに笑顔を見せる。

 

「おっ!今日のくるみんはゴスロリか………うん、似合ってる!!」

 

拳をグッと握って真っ直ぐに気持ちを伝える士道に、くるみんは嬉しそうに微笑む。

 

「ふふふ、士道さんがそう仰ってくださるなら良かったですわ」

 

くるみんの喜びに満ちた表情に士道くんも大満足のようだった。

………完全に二人きりの世界になっているが、魔王様は士道のほっぺを引っ張って強引に元の世界に連れ戻す。

 

「―――いひゃい!?いひゃいよ、ほふか(十香)………」

 

ぐに〜っと力強くほっぺを引っ張られる士道くんは苦悶の声を漏らす。十香ちゃんは士道のほっぺたをつまみながら士道に言い聞かす!

 

「………シドー、狂三とばかり話すな!オシャレをしてきたのは狂三だけではないぞ!!」

 

十香の服装は、ブラウスとタイトスカートというコーディネート。夜色の綺麗な髪も今日はリボンで括られることなく、自然体だ。

 

「―――わ、悪くない!この前のデートの時のコーディネートも良かったけど、この組み合わせはグッドだよ、グッド!!可愛いよ、十香」

 

士道がにっこりと笑って十香を褒めると、十香はくるみんと同じで嬉しそうににっこりと笑う。

 

「そうか!次に桐生に会ったらお礼を言わねば!」

 

―――十香のコーディネートを考えたのは、桐生藍華らしい。この瞬間だけは、いつも十香がらみで余計なチャチャを入れてくる桐生藍華の顔を空に浮かべ、親指を上げて拳を突き出した。

 

そして、ふわふわな青い髪をした小柄な少女も、士道の服の袖を掴んで何か言って欲しそうな瞳をしている。

 

「―――四糸乃!?なんてことだ………四糸乃に白いワンピースに麦わら帽子だとぉ!?いったい誰だ、誰が四糸乃にこんな愛くるしい衣服を着させたのは!?」

 

士道がキョロキョロと四糸乃にこの服装をチョイスした人物を見渡すが、辺りには四糸乃を省くと怪獣と黒い女神の一頭と一神の二つの存在だけ。

そんな中、蒼玉を思わせる四糸乃の瞳は士道の姿を捉えている。

 

「………えっと、あの………似合って、ますか?」

 

もじもじとしている四糸乃ちゃん。士道は豪快に笑いながら四糸乃の両肩に優しく触れ、笑顔を見せる。

 

「―――ああ、最高に可愛いぞ四糸乃!まさに俺の心のオアシスここにありって感じで、お兄さん気分上々だ!!」

 

「あの、えっと………ありがとうございます………っ!」

 

ニカッと笑い飛ばす士道に、四糸乃の顔はヤカンが沸くように真っ赤になりながらも、嬉しそうに微笑んでいた。

―――全員が揃ったところで、士道は空へと指を掲げて堂々と宣言する!!

 

「………みんな、俺たちの目標は

神の楽園(水着コーナー)』だ!さあ準備はいいか!?」

 

「おー!」「は………はい!」

 

士道の言葉に元気よく手を挙げる天真爛漫な夜色の髪の美少女と、十香に釣られて手を挙げるふわふわな海のような青い髪をした幼女。

 

「………士道さん、そこは特殊な表現ではなく普通で良いのではありませんの?」

 

………士道くんの餌食役を務めるゴスロリの黒い女神様がツッコミを入れるが、士道くんのような変態にとっては女性の水着コーナーは『神の楽園』と言っても過言ではないのだ。

 

 

 

 

 

 

―――◆―――

 

 

 

 

 

 

「す、すっげぇぇぇぇぇぇええええええええ!!!ここは楽園だ―――楽園に来たぞおおおおおおおおおお!!!」

 

くるみんとのデートで訪れた、ショッピングモールのランジェリーショップの近くに士道くんたちの目的地は存在する。

―――水着コーナーに着いた変態はテンションがうなぎのぼりに上昇していき、留まるところを知らない!!

 

「………士道さん、もう少し静かにした方がよろしいですわよ?怖〜い警備員の方々が士道さんを抑えに来る五秒前ですわ」

 

手足を広げ、X字を表現するガッポーズをする士道くん!―――完全にお巡りさんが出動するレベルだ!!

既に十香と四糸乃は、水着を手に取って生地を引っ張ったり、においを嗅いだりと興味津々のようだ。

………唯一くるみんだけは士道が警察の世話になることを恐れていた。

 

「―――いらっしゃいませお客さま、この度はどのような水着をお探しですか?」

 

目を輝かせて鼻の下を伸ばし、ヨダレまで垂らしながら店内に飾られてある水着を見渡す士道くんに、魔法使いのローブを纏った不審者が声をかける。

その不審者は士道くんがよくお世話になっている人物だ。

 

「あ、ソロモンさん―――今日はバイトですか?」

 

………渾身のボケをかます士道くんにソロモンは笑いながら答える。

 

「ハハハ、守護者はアルバイトなんてしないよ………今日は士道くんがご所望の水着を持ってきたんだよ―――もちろんだけど、水に濡れたら透ける水着と溶ける水着も用意したよ」

 

「ま、マジッスか!?その水着買います!!お金は沢山持ってきてますのでZE☆N☆BU☆買います!」

 

士道は財布から札束を取り出す!………この札束は士道くんの今月のラタトスクから支給された給料だ!

彼はどれだけ高い額を提示されようが手を引くことはないだろう。そんな時、士道とソロモンの会話に横槍を入れるものが現れる。

 

「―――その水着、私も欲しい」

 

お人形を思わせる無表情な少女が、ソロモンに頭を下げて頼み込んでいる!!その少女を見た士道は飛び上がるほどの衝撃を受けていた。

 

「お、折紙!?」

 

どういうわけか、精霊の水着を買いに来ているという最悪なタイミングで、折紙と遭遇してしまった士道くん。

―――これは修羅場になりそうだ!!それを証拠に士道くんは折紙に詰め寄られている!!

 

「………士道、その水着を一着だけ私に譲って欲しい。

水着と裸―――両方のプレイが一度に楽しめる最高の品」

 

「………………………えーと、折紙?濡れたら―――溶けちゃう水着だぞ?」

 

「構わない。私は士道のためならどんな水着でも着用したい」

 

「いや、その………これは―――」

 

―――士道は口が裂けても言えなかった………『十香とくるみんに着させる水着だぜぇぇぇぇぇえええ!!』なんて言える筈がない!!

もし心中が明らかになれば、折紙は自分以外の女性の記憶を確実に消去しに掛かる!!

それが分かっているから言えないのだ!!

 

「―――士道から離れろ鳶一折紙!士道は私たちの水着を選ぶのに忙しいのだ!貴様は一人で選んでいろ!」

 

士道が折紙にグイグイと壁際に押し込まれているところを十香が折紙の肩を掴んで士道から引き離す。

だが、この程度でおとなしく引き下がる折紙ではない!

 

「………どうして士道があなたの水着を選ぶ必要がある?士道の貴重な時間を無駄使いさせないで―――行こう士道、そこの試着室で私に水着を着させてほしい」

 

「―――無駄なのは貴様だ!!いいからシドーを離せ!!」

 

折紙は士道の腕を引っ張りながら、強引に試着室へと引っ張り込もうとしている!!それを見た十香も負けじと士道の腕を引っ張る!

 

「ぎゃあああああああああ!!!!ちょっ、腕がもげ―――たぁ〜す〜け〜てぇぇぇぇぇえええ!!」

 

………女は欲望の化身と呼ばれるが、この二人を見ていると、まさにそれが証明されるものだ。

そんな時、この場を収めようと士道の取り合いをしている十香と折紙の後ろから、水着を何着か持ってきたくるみんが口を開く。

 

「………あらあら、お二方とも少しは士道さんのお身体を気遣ってあげたらどうですの?このままでは、士道さんの体から両腕がなくなってしまいますわよ?

それに、士道さんは逃げたりしませんわよ―――ここはひとつ勝負をしませんこと?」

 

「………勝負?」

 

くるみんが発した提案に反応したのは、十香でも折紙でもなく士道だった。くるみんは笑顔でその内容を話す。

 

「………誰が士道さんを最も興奮させられるか―――という勝負内容はいかがでしょうか?

わたくしたちの水着に士道さんがどのような反応を見せるか………最も士道さんを興奮させることができた人は士道さんとのデート権を得るというのが、報酬ですわ」

 

くるみんが述べた勝負内容を聞いた十香と折紙は、一瞬の迷いもなく快諾する。

 

「―――良いだろう、受けて立つ!シドーとデェトをするのは私だ!」

 

「………こんな勝負、始まる前から結果が出ている。―――士道とのデート権は貴方達に渡すはずがない」

 

「―――決まりですわ………士道さん、わたくし達の水着を楽しみにしてくださいね?」

 

士道を求める乙女たちは各々が水着を選びに行った………全ては士道とデートをするために!

そして―――士道の心を誰よりも惹きつけるため………

 

「グヘ、グヘヘ、グヘヘヘヘヘヘヘヘヘ!!もう間も無く天使様の降臨のお時間だ!!さあ、余すことなく脳内とこの超特殊カメラ内に納めてやる!!

―――これで一ヶ月はオカズに困るこたぁ無さそうだぜ!!」

 

………完全に士道が得しかしない勝負内容だった。

士道くんはカバンの中から機材を取り出し、完全に撮影する準備に取り組み始める!!

乙女たちは店内を駆ける―――士道くんの餌食になることも知らずに………

 

『………ソロモン、俺たち何もしなくてもいいのか?

―――警察が来ないように手を回してもらったが、通報した方が良さそうな気が………』

 

ドライグが遠い空を眺めるような声でソロモンに訊ねる。―――まだおっぱいネタに士道くんが走っていないにも関わらず、ドライグの精神は疲れきっていた。

 

「まあまあ、そんなことを言わずに日頃頑張ってる士道くんへのご褒美と思ってあげれば良いんじゃない?たまには思いっきりガス抜きをすることも大切さ」

 

『―――何処を探しても俺の味方はいないのか!!』

 

 

 

 

 

 

―――◆◆―――

 

 

 

 

 

―――その頃のドライグ

 

 

ドライグは士道が『水着だ!水着だ!!』とはしゃいでいる最中、前赤龍帝のイッセーの元を訪れていた。

エルシャやベルザードがいた神器の最深部へと向かうと、椅子に頬ずりをしているイッセーの姿をドライグは発見した。

 

「―――スーっハーっ、スーっハーっ………むふふふふふふふふふふっっ!!大人の女性の匂いっていい匂いだあああああああああ!!」

 

『………………イッセー、何をやっているんだ?』

 

ドライグがゴミでも見るような蔑んだ視線をイッセーに向ける。イッセーは椅子に頬ずりをしながら、鼻の穴を広げて何か匂いを嗅いでいる―――言うまでもなくただの変態だ!!

 

「ん?ドライグか―――いや、この椅子ってエルシャさんが座ってた椅子だろ?………だからエルシャさんの残り香がするんじゃないかと思ってよ。そしたら―――本当にエルシャさんの残り香がするんだよ!!

―――しかも、この匂いは最近ついたものだと俺は推測する。………つまり、エルシャさんは神器の中に居るはずだ!!」

 

『―――堂々と胸を張って言うことか!?もうエルシャがその椅子に座ることが出来なくなったではないか!!』

 

ドライグが怒鳴り声を上げるが、イッセーは御構い無しでエルシャが座っていたであろう椅子に付いているエルシャの残り香を楽しんでいる!!

しかし………イッセーの頭の中には一人の女性の姿が浮かび上がり、エルシャの椅子から顔を離した。

 

「くっ、ダメだ!!こんなところを()()()に見られたら―――」

 

リアスのことが頭によぎったイッセーは頭の中でこの場面を見られた時のことを考え―――失礼、妄想していた。

………イッセーの頭の中の様子はこんな感じだ。

 

————“もう、イッセーったらしょうがないわね―――そんなに女性の匂いを嗅ぎたいなら、私の匂いで我慢なさい!私がイッセーを満たしてあげるわ!さあ、いらっしゃいイッセー………”————

 

「―――よし、問題ない!何も問題はない!!リアスが頭の中で俺を甘やかしてくれる様子が浮かびました!

―――と言うわけでエルシャさん、失礼します!スーっハーっ、スーハーっ………スンスン、スンスン」

 

エルシャの残り香を楽しんでいる様子をリアスに見られる→憐れんだリアスが匂いを嗅がせてくれる。

 

という完全な御都合主義な妄想がイッセーの頭の中で完成してしまったため、イッセーは御構い無しで行為を続行する!!

イッセーの今の顔は醜悪の二文字以外に他ならない!!

 

『待て待て待て待て!!問題しか無いぞおおおおおおおおおおおおおお!!』

 

ドライグの制止の叫び声も虚しく、ただの大音量として虚空へと消え去った。

―――変態の相手は大変だろうが、頑張れドライグ!!

 

 

―――その頃のドライグ 終

 

 

 

 

イッセーとドライグのやり取りが激化する頃、士道とのデート権を競う乙女たちの戦いの火蓋は切って落とされようとしていた。

まず先陣を切ったのは、嫁(希望)の十香ちゃんだ。

 

「シドー、待たせたな………」

 

試着室のカーテンが開かれ、水着姿の十香が現れる。

シドーは堪らず鼻息を荒げて十香に物凄いスピードで迫る!!

 

「―――GREAT!!!!よし、十香お会計に行こう!その水着で決まりだ!」

 

「………ま、マジマジと見るな!私も恥ずかしいのだ………」

 

―――十香の選んだ水着は、自分の髪と近い色のビキニなのだが士道の理性を外しにかかっているものだった。

布面積が狭く、士道の好物のおっぱいは大事な部分と下乳しか隠れていない!!

そして、それは下も同じだった―――もうほとんど紐だけといっても過言では無かった………そう、健康的なプロポーションを誇る十香だからこそ、このビキニを着こなせている!

そして、今の自分の姿を恥じらう所がさらに士道の興奮を加速させる!!

 

「………これはもう勝負あったかもしれないね」

 

ソロモンが鼻の両穴にティッシュを突っ込みながら腕を組んで十香の姿を眺めていた。

ドライグがソロモンにもツッコミを入れる。

 

『―――守護者である貴様まで何をやってんだか………』

 

「いいじゃ無いか、減るもんじゃあるまいし」

 

ソロモンも守護者だが、中身は立派な男だった。

そして―――次に登場したのは折紙だ。

折紙は水着ではなく、私服姿で試着室から出てきたのだ。

 

(―――折紙ちゃんは勝負を破棄したのか?)

 

『おいイッセー!ひょっこりとこちら側に参加するな!!』

 

先程までエルシャの残り香を楽しんでいたイッセーまでもが実況を始める。

それを見たドライグは堪らずツッコミを入れる。

………何かと多くの存在がこの勝負を固唾を飲んで見守っている。

―――それはさておき、折紙は私服姿のまま士道に近づく。

 

そして―――………

 

 

 

「………めくって」

 

折紙が開口一番に述べた事は、その四文字だった。そして、折紙のスカートの下には確かに水着が存在したのだ!

士道がスカートをめくると―――折紙の水着は露出こそ少ないが白いワンピースの水着を着ていたのだ!!

………これには士道とイッセーの二人の興奮度はうなぎのぼりで上昇していく!!

 

「こ、これは―――ッ!!」

 

(ああ!!十香ちゃんに体躯でハンデがあることを考えて辿り着いた結果だろう―――体躯で届かないのであれば水着の破壊力をプラスする………………恐るべし鳶一折紙!!見せるのではなく、あえて隠すことで興奮を誘う―――まさに策士だ!!)

 

士道の反応を見て、折紙はうっすらと勝利を確信して笑みを浮かべる!

だが―――今日の十香ちゃんはこれでは引き下がらない!!

 

「ふふふ、残念だったな鳶一折紙!士道をドキドキさせるには、まだ手はある―――これならどうだ!?」

 

フニュッ………

 

十香は士道に近づき、自分の胸を士道の腕を押し付ける!!―――こんなことをすればおっぱいドラゴンがどうなるかは言うまでも無い!!

士道くんは自分の腕が十香ちゃんのおっぱいに埋もれている様子を鼻の下を伸ばして眺めている!!

 

「お、おっぱいィィィィィィィィ!!!」

 

(クソオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!変われ、俺と今すぐ変われ士道!!)

 

『………や、止めろ夜刀神十香!!それだけはやめてくれぇぇぇぇぇえええ!!俺は断じて乳龍帝などでは無いのだああああああ!!!!』

 

トラウマが蘇り、ドライグは悲鳴をあげる!十香はさらに士道の腕に胸を当てる!!もう士道くんは鼻血を垂れ流している!!

そして、イッセーは血の涙を流して士道くんの状況を羨んでいる!!

―――そう、これが折紙の水着の弱点だ。士道くんの好物が『おっぱい』だということを完全に把握しての攻撃だ。

ちなみにもちろんだがルール違反ではない。折紙と同じことを十香ちゃんはしただけだ。

自分の武器(おっぱい)を使って水着の威力を倍増させたのだ!!

 

「………ッ!!」

 

詰めを誤った折紙は先程うっすらと浮かべた笑みは完全に消え去り、ギリリッと鋭い視線で奥歯を噛み締めていた。

 

「………こりゃあもう完全に十香ちゃんかな〜」

 

―――もう一人の審判役のソロモンも十香の勝利を確信していた。

その時、十香の隣の試着室から涙に濡れた声が聞こえてくる。

 

「………し、士道さん………」

 

―――声の主は四糸乃だった。士道は鼻血を吹き、慌てて四糸乃の試着室の前まで行く!!

 

「ど、どうしたんだ四糸乃!?」

 

四糸乃の身に危険が迫っているのかと思い、士道は気が立っていた。士道は四糸乃の試着したのカーテンを握り、腕をスライドさせる!

 

「開けるぞ四糸乃―――ってうお!?」

 

(おおっ!!これはレアだ!!)

 

そこには、半裸の状態でビキニタイプの水着に片腕を通した状態で涙目になっている四糸乃の姿が………士道は原因をすぐに悟り、四糸乃をまずは立たせる。

 

「―――なるほど、片手だと上手く着れないよな………よし、俺が着させてやるよ」

 

「うぅぅぅぅ………ありがとう、ございます………」

 

―――変態な士道くんでも、四糸乃のヒーローであると決めたのだ。士道は込み上げてくる欲望を押し殺し、四糸乃に着替えのお手伝いをしてあげた………ちなみに、彼の手は、欲望に負けそうになり、震えまくっていたことはここだけの秘密にしてもらいたい。

 

「………うん、可愛いぞ四糸乃。お兄さんご機嫌だ!」

 

ニカッと笑みを浮かべて水着を着た四糸乃を『よく出来ました』と頭を優しく撫でてあげる。その時、よしのんも士道に感謝を示す。

 

『いんやぁ、ありがとう士道くん。うちの四糸乃が迷惑をかけてごめんね』

 

「………しゃあねえよ。あんまり四糸乃を困らせることは言わないの」

 

問題が解決したことに、士道くんはホッと胸を撫で下ろした。そして―――最後の一人のくるみんがようやく準備が整ったらしく、試着室のカーテンの向こうからくるみんの声が聞こえてくる。

 

『士道さぁん、お待たせいたしましたわ』

 

くるみんの声に、士道くんが待ってました!と言わんばかりに反応する。

 

「おっ、そうか!くるみんはどんな水着を選んだんだ?」

 

『ふふふ、士道さん―――カーテンを開けてくださいませんこと?』

 

くるみんは士道にカーテンを開けさせることを望んだのだ。―――これまでのメンバーとは明らかに異なるやり方だ。

四糸乃もくるみんと同じやり方だが、四糸乃の場合はアクシデントによるものだ。

この時点で士道のくるみんへの期待感に心臓がバクバクなっており、士道くんは生唾を飲み込んだ。

 

「―――ああ、いくぜ………」

 

士道くんがカーテンを開けると――――――そこにいたのは、女神と呼ぶのが相応しいくるみんの姿だった!!

 

「―――EXCELLENT!!やっぱりくるみんはマジ•ゴッデスだああああああああああ!!!!!」

 

(す、すげぇぇぇぇぇぇえええ!!やっぱりくるみんだけは別格だ!!これはもうくるみんの勝利だ!!)

 

「あうぅぅぅ………」

 

くるみんが選んだ水着は折紙に近いワンピース水着だ。

―――しかし、生地が非常に薄いもので、所々透けているのだ!!そして、くるみんの透き通った白い肌と全くと言っていいほど色が酷似しているため、考えようによっては『くるみん水着を着ていないんじゃ………』と錯覚してしまうだろう………

 

「―――ぐ………GOODっ!!」

 

ドサッ………

 

士道くんは鼻血を垂れ流して、大の字で倒れ込んでしまった。

審判役の士道くんが倒れたので、もう一人の審判役のソロモンが代わりに士道くんの役を務める。

 

「―――勝負ありぃぃぃぃ!!勝者、くるみん!!」

 

ソロモンがどこぞのバトルロードの主催者であるおっさんの真似をするように決めた。

十香も折紙も、そして四糸乃も―――誰一人として文句を言う者はいなかった。

………くるみんの発想はそれだけ群を抜いていた。

 

 




大方の予想通り、くるみんです。

そして、次回はプール回です!

十香、四糸乃、くるみんの三人です。


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六話 プールIN精霊ちゃんです!!

予告通りプール回ですが、前半少しだけ折紙ストーリーが入ります。

このプール回では十香、四糸乃、くるみんの三人が士道くんを弄びます。
………果たして、士道くんは『童貞』を守り通すことが出来るのか!?


 

 

「………………………」

 

ドシドシドシドシッッ!!

 

拳を握りしめ、歯をギリギリと鳴らしながら折紙はASTの武装であるCR-ユニットを格納する倉庫へと向かっていた。

折紙の服装は、ASTの隊員たちと同じ服装に着替えており、軍服姿で格納庫の中へと入る。

 

………そこで折紙が見た光景は、隊員たちが何やら格納スペースを増やす準備をしているようだった。

 

「折紙、退院をしたのね―――って何かあったの!?鬼や悪魔ですら逃げ出すような凄い顔をしてるわよ!?」

 

………日下部燎子一尉が折紙に声を掛けるが、折紙の顔は味わった屈辱に顔が歪んでいたのだ。

折紙は燎子に何があったのかを意味深に述べる。

 

「今日、非常に重要な案件があった。―――私の大切な人が、万金に値するものを買ってくれた………けれど、私は屈辱的な敗北を喫した………」

 

「―――はい?」

 

折紙が述べた内容を燎子は理解することができず、首をかしげる。折紙は地面を見つめ、拳を強く握り締める。

 

「………『プリンセス』に『ナイトメア』―――私は今日、精霊は是が非でも倒さなければならない人類悪だということを再認識した………」

 

「ど、どうして『プリンセス』と『ナイトメア』が出てくるわけ!?

―――ッ!あんたまさかドンパチしてきたってわけじゃあないでしょうね!?」

 

―――ある意味ドンパチだが、死人が出るようなことは折紙もしていない。………ただ、折紙が屈辱的な敗北を喫したという事実だけは確かなものだ。

 

「………それで、みんなは何をしているの?」

 

折紙は格納庫の中で隊員たちが目まぐるしく、血相を変えて働いている様子を怪訝に思って燎子に訊ねる。

燎子はその理由を折紙に話す。

 

「―――この基地には、明日の夕方にDEMインダストリー社から特殊なCR-ユニットが送られてくるのよ………隊員たちはその準備をしているわ。

―――そのCR-ユニットは、地上最強と呼ばれた伝説のドラゴンの力を宿した究極の武装と聞いているわ」

 

「――――――ッ!!」

 

燎子の説明を聞いた折紙は驚愕して目を開く!

折紙の心の中に抑え込んでいた、深い闇が彼女の心を取り巻こうとしていた。―――折紙はそのCR-ユニットについて燎子に訊ねる。

 

「―――その武装を使えば『イフリート』を滅ぼすことは可能?」

 

………いきなり折紙の口から炎の精霊『イフリート』の名前が出てきたことに、燎子は怪訝思い眉をピクリと動かした。

燎子はアゴに手を置き、話し始める。

 

「―――その一歩は大地を揺らし、翼で羽ばたけば軍隊すらも紙くず同然に吹き飛ばす………神の使いとも呼ばれ地上最強の存在として多くの者から畏怖されたドラゴンの力なんだったら精霊なんて目じゃないでしょうね………けどまあ、あんたには扱えないわよ?」

 

「………どうして私には扱えないの?」

 

「―――そのCR-ユニットは、現在入院中の崇宮真那三尉のためにと、DEMインダストリー社から贈られてくるものなのよ。それに、あんたじゃあ権利的にも技術的にも使い熟すことは出来ないわ………なんたって、DEMインダストリー社の専属

魔術師(ウィザード)』がこのCR-ユニットを使用した時、瞬時に脳がオーバーヒートを起こして数週間の入院を強いられたそうよ?」

 

「………………………」

 

折紙は燎子の説明を聞いた時に全身にゾッと悪寒が走った。確かに神の使いとも語られるドラゴンの中でも最強の存在の力を誇る者の力なら、同然使用者を選ぶだらう―――未熟者が使っても真の力は発揮されないからだ。

………良い鉄砲は打ち手を選ぶとも世間では言われるほどだ。

 

―――しかし、折紙は一切恐れてはいなかった………折紙は燎子の述べた“そのCR-ユニットなら、精霊なんて目じゃない”という言葉に、折紙の心の闇は完全に解放されていたからだ………

 

「―――それにしても、『イフリート』か………まさか『ナイトメア』が消えた後に、来禅高校の屋上に現れたアレが―――」

 

「ッ!?どういうこと!?『イフリート』の映像があるの!?」

 

燎子がボソッと呟いた独り言に折紙がものすごい勢いで食い付いた。

燎子は折紙のいつもと違って落ち着きがない様子を見て嫌な予感が燎子の胸の中を支配した。

………燎子は折紙の言葉を首肯する。

 

「―――あるわよ?『ナイトメア』が退散してからの映像限定だけど………それでも良いの?」

 

「構わない。今すぐに見せて!」

 

―――この出来事で折紙の心の中に封じていた強い想いは一気に溢れ出した………それは両親を目の前で焼き殺した存在への『復讐』だった。

これから、また騒動起こることは言うまでもなかった。

 

 

 

 

 

 

―――◆―――

 

 

 

 

 

士道と水着を買いに行った精霊たちは、水着を買い終わると五河家へと集合していた。

今五河家にいるメンバーは士道、十香、くるみん、四糸乃、琴里、令音の五人だ。

まず最初に士道が令音にとある物の進行具合を確認する。

 

「―――令音さん、()()()()は間に合いそうですか?」

 

士道の問いに令音はコクっと首を縦に振る。

 

「………ああ、今日の夜中には完成する予定だ。―――明日にはもう楽しむことはできるだろう」

 

令音の答えを聞いた士道は口の端を釣り上げ、笑みをこぼす。

………彼はここでも安定して下品な笑みを浮かべる変態である!

 

「………そうですか――――――ぐっへへへへへへへへへへ!!!想像するだけで鼻血が出てくるぜ!!」

 

………宣言通りに鼻血を垂れ流している士道くん。他のメンバーは全員が顔を引きつらせてドン引いていることは言うまでもないだろう。

―――士道は鼻血を拭いて、明日の予定をメンバーに話す。

 

「―――ゴホンッ!!みんなも聞いていると思うけど、明日にはど偉いものが完成する。明日はその完成したもので思いっきり遊ぼうと俺は思うんだ。

………とりあえず明日は十香、四糸乃、くるみんの三人と俺は遊ぶ予定だ」

 

「シドー、その完成するものとは一体なんなのだ?」

 

誰よりも早く十香が士道に手を挙げて興味津々に訊く。士道は訊いてきた十香に言う。

 

「―――それは明日になってからのお楽しみだ。………絶対に驚くと思うぜ!」

 

「………そうか!シドーが言うなら間違いないだろう―――よし、楽しみにして待つとしよう!」

 

十香は目を丸くして期待を膨らませている。―――周りを見れば四糸乃とくるみんも同じだった。

 

「えっと………楽しみ、です」

 

『で〜す!』

 

「うふふふふ、たぁ〜のしみですわ」

 

くるみんだけが答えを知っているかのように、面妖な笑みを浮かべていた―――格好の獲物になることも知らずに………けれど仕方ない、これも美少女ゆえの宿命というものだ!

 

「―――それから明後日なんだが、俺は琴里とオーシャンパークに行く予定だ。………兄弟水入らずのデートをする予定になっている!」

 

「――――――ッ!!」

 

士道の放った言葉に、全員の視線が琴里に集中する。琴里の顔は熟したトマトのようにボンッ!と顔が真っ赤になっている。

これを聞いた精霊たちはそれぞれの想いを口にしていく。

 

「むぅ………私は最近シドーとあまり触れ合えていないぞ………」

 

―――十香は不満を口に漏らす。………それも仕方ないだろう。くるみん、そして琴里と立て続けに精霊が現れたのだ。必然的に士道はそちらに手を焼くことになる―――その分、十香に割ける時間は少なくなる………十香が不満に思うのも当然だ。

 

「………頑張って下さい」

 

『―――見境なしに手を出すビースト………士道くんも男の子だねぇ!』

 

四糸乃は、士道と琴里を応援するらしく特に不満を言うことは無かった。―――ヘンテコなおまけが何かを言っているがこれは無視でもいいだろう。

 

「ええ、そういうお約束ですし、わたくしもそれで構いませんわ―――明日は楽しい一日にしましょうね?士道さん」

 

くるみんも四糸乃と同様に来るべき明日を楽しみにしているようだった。

………最後に令音がこの場を締めようと前に出る。

 

「………皆それぞれに思うことはあるだろう。―――けど、シンはこれがベストだと思ってこの予定を組んだ………十香、精霊たちは皆、シンとデートをしたというのに、琴里だけ無しと言うのは残酷なものだろう?」

 

………令音の言葉を聞いた十香は首を縦に振る。自分も四糸乃も、そしてくるみんも士道とデートをした。

それなのに、封印が成功したからといって琴里だけ無しというのは確かに言語道断だ。

 

「………うむ。分かった―――私もシドーと触れ合えることに変わりはないのだ。―――シドー、明日はたくさん遊ぼうな!」

 

最後は十香もいつも通りの天真爛漫な笑顔を見せて納得してくれた。それぞれの思惑を胸に、明日が来ようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――◆◆―――

 

 

 

 

 

 

「イッツ、ショーターイムッッ!!中々良い出来だぜ、『ラタトスク』さいこおおおおおおおおおおっっ!!」

 

士道と琴里を除いた精霊たちは、精霊用の特殊住居の地下へと集合していた。

士道たちが、巨大な扉を開けてその中へと入ると………なんと、そこは温水プールとなっていたのだ。

そして、プールのすぐ近くには、湯気が立っている温泉のようなものもあり、その辺の温水プールよりも遥かに高性能なものだった。

そのプールを見た士道くんは両手でバンザイをして大はしゃぎだ!

 

「おおっ!これがシドーが昨日言っていたものだったのか!………シドー、これが『ぷーる』というやつなのだな!」

 

「えっと………すごい、です」

 

『わお、本当にプールだねぇ!地下にプールを作るなんてすんごい発想だよ!』

 

「―――この住居、もはやなんでもありですわね………」

 

精霊たちはそれぞれの想いを口から漏らしていた。

―――ちなみに、士道が「水着に着替えて地下に集合」と精霊たちに言っていたので、彼女たちは士道に言われた通り、水着で地下へと集まっていた。

―――ちなみに全員が昨日士道に買ってもらった水着を着用しており、十香は自分の髪と同じ色のビキニを着ており、四糸乃はピンクのワンピース水着と浮き輪を………後おまけによしのんを。

そしてくるみんも十香と似たような黒色のフレアトップビキニを身に付けており、士道の興奮を誘うにはぴったりだった。

士道は鼻の下を伸ばして精霊たちを見つめていた。

 

「シドー、泳いでも良いか!?」

 

十香が目をキラキラとさせながらプールを眺めている。そんな十香に士道は笑顔で肯定する。

 

「もちろんだよ十香。温泉とかもあるから、プールから出るときには入っていくと良いぜ!」

 

「うむ!ではシドー、一緒に泳ごう!」

 

「あ―――ちょおい!?」

 

バシャーンッ!!

 

十香は士道の腕を引っ張ってプールの中へとジャーンプッ!大量の水しぶきを上げてプールの中へとダイブした。

そんな十香に士道は優しくチョップ!

 

「―――あたっ!?」

 

十香は飛んできた士道のチョップを受け、頭を両手で抑えている。そんな十香に士道は優しく言う。

 

「十香、プール内は飛び込んじゃダメなんだ。今は俺たち以外に人はいないけど、他のプールじゃあこうはいかないからな?」

 

「う、うむ………すまん」

 

十香は申し訳なさそうに表情を陰らせたが、士道は笑って十香を許す。………分かってくれれば、士道は何も言うことはないのだ。

その時、四糸乃の腕のパペットのよしのんが士道の腕をピトッと掴む。

士道はよしのんの方を向くと、口をパクパクとさせながらよしのんが喋る。

 

『士道くん、四糸乃に泳ぎ方を教えてくれないかな?………四糸乃はまだあんまり泳げないんだよねぇ〜』

 

「………よっしゃ、任せとけ!」

 

浮き輪をつけてプカプカと浮いている四糸乃の両手を取って士道は歩き出した。

四糸乃は浮き輪をつけながらも懸命にバタ足をしていた。

 

「いち、に、いち、に………………」

 

「―――ぷはぁ」

 

士道の手に手を引っ張られながらも、四糸乃は頑張って泳いでいた。四糸乃の泳ぎを見ている時、よしのんが喋る。

 

『―――士道くん、四糸乃のおっぱいも日々成長してるんだよ?………ほら、ちゃんと四糸乃のおっぱいは揺れてるでしょ?』

 

「―――よしのんっ!!」

 

よしのんが何気なく述べたことに、四糸乃はゆでたこのように顔を真っ赤にする。―――確かに、四糸乃のおっぱいも四糸乃が泳ぐと、かすかにだがゆれている!!

士道は鼻の下を伸ばしたが、よしのんにもチョップ!

 

『―――あいたぁ!?士道くん、暴力はいけないよ!?』

 

「うるせー!俺の心のオアシスに変な知識与えてんじゃねえ!」

 

『………んもう、士道くんったらさっきまで四糸乃のおっぱいに釘付けだったのにぃ〜!照れ屋さんなんだからぁ〜!』

 

「―――くそっ、バレてたのか!?」

 

………否定をしないあたりはおっぱいドラゴンだ。彼は全てのおっぱいを愛するおっぱいドラゴン―――大きさ関係なくそれがおっぱいなら全てを受け入れる変態だ!!

 

「………はうぅぅぅ。士道さん………なら、大丈夫です!」

 

『はい!よく言えました!』

 

―――完全に四糸乃までが危ない方向に進んでしまいそうになっている!!

四糸乃が顔を真っ赤にしながら絞り出した言葉に、よしのんは讃えている!!

士道くんは握ってる手を離し、四糸乃の水着に手が伸びそうになっているが、自分に「俺は四糸乃のヒーローだ………」と何度も言い聞かせて、必死にうちに眠る獣を抑え込む!!

 

「………………………あ、あと五メートルだ!四糸乃、最後は自分で行ってみよう!」

 

「………は、はい!」

 

『―――う〜ん、士道くんの理性が勝っちゃったか………』

 

最後は四糸乃を五メートルだけだが一人で泳がせてみた士道くん。―――こうでもしなければ、本当に四糸乃が餌食になっていたからだ………

ちなみに、四糸乃は何の苦労もなく最後の五メートルを泳ぎきった。

………ちなみに、よしのんは士道が四糸乃に手を出さないことを非常に残念に思っていたのか、やれやれと手を横に振っていた。

 

ドボンッ!!

 

「―――おおっ!!これはっ!?」

 

四糸乃に泳ぎを教え終わり、士道は辺りを見渡すと―――水しぶきが飛び交う音が聞こえ出来た………。

その水しぶきの正体は、十香とくるみんがクロールで競争をしており、飛び込み台から飛び込んだからだった。

………当然士道くんがやることはたった一つ!勢いよく水の中に潜り込む!!

士道が何をするかを理解したドライグは当然のことだが悲鳴をあげる!!

 

『―――や、止めろおおおおおおおおおおおお!!!』

 

「………悪いがこれだけはドライグの頼みとあっても譲れないぜッ!!

―――いっくぜぇぇぇぇぇぇええええ!!!ブーステッド•ギアァァァァァァァァッッ!!」

 

士道は赤龍帝の籠手を出し、籠手の力を目に譲渡する!!

 

『Transfer!!!!!!!!!』

 

力の譲渡が完了すると、士道の両目に映っているのは泳いでいることで揺れている十香とくるみんのおっぱいだ!!

士道くんは下品な笑みを浮かべて泳ぐことで揺れている二人のおっぱいを観察している!!

 

(―――うっひょおっ!揺れる!!おっぱいが縦横無尽に揺れてるよおおおおおおおおおおおっ!!ぶるんぶるん、そしてたぷたぷと激しく揺れている!!

俺はこれが見たかった!!このおっぱいの揺れを楽しむために今日まで頑張ってきたんだ!!)

 

『うわああああああああああ!!!プールなんて消えて無くなってしまぇぇぇぇぇえええ!!』

 

ドライグは悲鳴を上げるが、士道くんを止めるものはいない――――――と思われたが、十香とくるみんよりも素晴らしい体型をした絶世の美女が水の中に潜り込んだ士道を引っ張り上げる。

―――その美女も十香たちと同様に水着姿でこのプールにやって来ており、士道くん好みの水色のビキニを着ており、布面積がこれまた狭い!!

 

「………シン、先程から『フラクシネス』でキミの心拍数をモニターしているアラームが鳴りっぱなしでね―――何があったのかと飛んで来て見れば………何をしていたのかい?」

 

………令音が『フラクシナス』からこのプールへと一瞬でワープしてきたらしい。士道はまだ鼻の下を伸ばして、水着姿の令音のおっぱいまで眺め始めた!!

―――もう完全に末期だ!!

 

「お、おっぱい女神の降臨―――って令音さん!?」

 

令音に腕を掴まれている状態でも、彼はブレることを知らない!!十秒ほど経過してようやく我に帰った士道くんだったが、令音は原因を探る。

 

「………『赤龍帝』ドライグ、シンは一体何をしていたのかな?」

 

『―――ううっ………ぐすん、相棒は夜刀神十香と時崎狂三の胸を眺めていた―――ゴハッ!?思い出しただがで吐き気が………………ううっ、うおおおおおおおおおんんんっっ!!』

 

―――ドライグは大きなダメージを心に負った。未だ立ち直れず、涙を流している………………こうなるとドライグは立ち直るまで時間がかかるのだ。

 

「………まったく、キミは本当にブレないね―――色々と盛んな時期で分からくはないが、もう少し抑えてほしい」

 

「は、はい………」

 

令音は士道に釘を刺した。士道はハイテンションになっていたが、今だけは令音の言葉に従うことをきめ、静かになった。

―――その時、くるみんと競争を繰り広げていた十香が士道のもとにやって来る。

 

「―――シドー、『せおよぎ』というものを教えてほしい!」

 

………先程静まった士道くんのテンションがうなぎのぼりに上がっていく!!

士道くんは下品な笑みを浮かべて、十香の背泳ぎをしている姿を妄想する!!

 

十香が背泳ぎ→士道くんは十香が沈まないように背中に手を当てて十香をサポート→うっかりを装いボディタッチ―――そして、十香が浮いていることで、ビキニから見えているおっぱいを堪能!!

 

………こんな妄想をこの男は膨らませているのだ―――ダメだ!!この男にプールは危険過ぎる!!

 

「グヘヘヘヘヘヘヘヘヘへへへへ!!十香、この士道くんがたっぷりと教えてあげるからな!」

 

「―――うむ!よろしく頼むぞ!」

 

士道くんが妄想を現実に変えようと考えているにも関わらず、十香ちゃんは天真爛漫な笑みで答える!!

………もう少しこの男を観察した方がいいだろう。

 

「―――士道さぁ〜ん、わたくしにも教えてくださいましぃ!」

 

「なっ――――――っ!!」

 

士道くんの背中に抱きつく様にくるみんが胸を当てている!!―――それを見た十香も負けじと士道に抱きつく!!

士道くんは十香とくるみんにサンドイッチにされている状態だ!!―――彼が長年から夢見て来た、念願の『おっぱいサンド』状態だ!!

 

「狂三、今すぐシドーから離れろ!!貴様は私に負けただろう!シドーに教えてもらうのは私だ!!」

 

「―――やーですわ。ふふふ、十香さんも昨日わたくしに負けたことを覚えていますわよね?わたくしも混ぜてもらいますわ〜」

 

「ふざけるな!!そんなもの認めんぞ!!」

 

士道くんをおっぱいで挟みながら言い争う十香とくるみん!!士道くんは大喜びだった!!

 

「―――グヘヘヘヘヘヘヘヘヘ!!そんなに焦らなくとも俺は逃げないぜ!?二人ともたっぷり触って―――いやいや、教えてやるからな!!」

 

………完全に理性が外れている士道くん。これでは、本当に十香とくるみんが最初の犠牲者になってしまうのは誰が見ても明らかだった。

 

『………僕、もう知ーらなーい!』

 

………ついにドライグの精神が限界になり、神器の奥底へと潜って行った―――これで士道くんを止めるものはもういない!!

 

「プール最高だぜぇぇぇぇぇえええ!!」

 

その後は、十香とくるみんの二人を相手に士道くんの背泳ぎの指導が始まった―――もちろん、士道くんはうっかりを狙って十香やくるみんの体を触りまくることを考えていたが、令音に全て阻止されたのは、また別のお話だ。

 

 

 

 

 

 

 

―――◆◆◆―――

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………ッ!!」

 

折紙はプロジェクターのスクリーンで流された映像を鬼や悪魔ですら恐怖して退散するような凄まじい形相で見つめていた。

士道が狂三を撃退した後に、精霊『イフリート』が上空に現れる映像が残っていたのだ。

 

そして――――――『イフリート』の正体は、折紙が()()()()()存在だったのだその正体は――――――

 

「………五河、琴里………っ!!」

 

そう、折紙の父親と母親を目の前で焼き殺した存在が―――士道の妹の五河琴里だったのだ………

 

折紙は、拳から血が流れ出るほど強く握りしめ、『イフリート』を討滅することを決意した―――DEMインダストリー社から贈られて来た究極のCR-ユニットを駆使して………

 

その結果、己の身が朽ち果てることになろうとも、折紙の目に一心の迷いは無かった。

 

 

 

 

 




折紙の纏うCR-ユニットの正体は次回に明らかになると思います。

次回『激闘!?オーシャンパークです!!』

後二、三話ほどでこの章もフィナーレかと思います。


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七話 激闘!?オーシャンパークです!

やっとここまで漕ぎ着けました―――琴里とのデート回です!

士道くんの暴走列車はここでも止まりません!!



「………………っ」

 

フラクシナスの精霊用の隔離施設内に、小柄な長い赤い髪を持つ美少女が、落ち着きのない様子で過ごしていた。

 

「………今日は士道とデート………っ!!ううん、大丈夫!落ち着くのよ私………これはそう、訓練!訓練なんだから――――――」

 

………この美少女は、士道の妹の琴里ちゃんだ。

琴里ちゃんは、自分の気持ちを落ち着かせようと深呼吸をしたり、手に『人』を書いているが………琴里ちゃんの頬はどうしても緩んでしまっている!!

―――士道とのデートが楽しみで仕方ないみたいだ。

 

「―――うへへへへへへへへへ!」

 

「………………………」

 

約束の時間が迫っていることを令音が知らせようと隔離施設内に入ったが―――この上なく幸せそうにしている琴里を見て、何も言うことはしなかった。

 

「―――はっ!?ち、違うのよ令音!これは、その………」

 

ようやく令音の視線に気が付いた琴里は、恥ずかしいところを見られたことに、慌てふためいていた。

―――うーん、かわいい琴里ちゃんだ。

 

「………ん?私は何も言っていないが―――そうか、そう言うことにしておこう」

 

令音は琴里の心情を察し、一言だけ残して部屋から出て行こうと扉に手を当てる。

………恥ずかしいシーンを見られた琴里は顔を真っ赤にして大声で叫ぶ。

 

「―――ちょっ!何よ、その全てを見透かしたような顔はッ!?」

 

「………大丈夫だよ琴里、二人だけの秘密さ―――“デートが楽しみすぎてキミがにやけていた”なんてことを、私はシンに伝えたりなんてしないさ」

 

………完全に令音は琴里の心を見透かしている!!琴里は胸にグサリと矢が刺さったように感じ、ガクガクと震えている!!

しかし、琴里も『フラクシナス』の司令官だ、もちろん手を打つ!

 

「―――士道に頼み込んで今日のお夕飯は激辛ハバネロカレーにしてもらおうかしら………」

 

「………………ッ!!」

 

イソイソと施設外に出ようと扉に手を触れようとしていた令音の手が止まる。………令音は今日の夕食は士道の家で済ませる予定なのだ―――そのため夕食が激辛ハバネロカレーになるということになれば、辛いものが苦手な令音にとっては死活問題なのだ!!

 

「………私は何も知らない、何も見ていない―――そうさ、私が見たのは幻影だったみたいだ………」

 

令音は背中に嫌な汗を大量にかきながら、ブツブツと独り言を呟いていた。その様子を見た琴里は「結構、結構」と先程と同様に上機嫌に戻った。

………もう少し自分に素直になってもいいのでは?と思う村雨令音解析官であった。

 

 

 

 

 

 

―――◆―――

 

 

 

 

 

時刻はAM10:20となった。琴里とのデートの待ち合わせの時間が刻一刻と迫っている―――士道はベンチに座りながらドライグと話し込んでいた。

 

「―――最近の俺たちの身の回りでは驚くことの連続だよな………琴里が精霊になったり、人間を精霊の力を与える謎の存在に、変な球体が天宮市の上空に展開されたりと………そのおかげで妙な視線を最近感じるんだよな〜しかも!嬉しいことに俺に視線を送っているのは金髪ロングの美少女!!今度ナンパしてやるぜ!!」

 

………デートの前になんてことを言ってんだこの男―――というのはツッコム必要はないだろう、いつものことだ。

士道の周りでは怪奇現象が次々と起こっていた。

―――一つは精霊化した妹の琴里だ。五年前に突如精霊の力を得た琴里だが、それはとある存在が関与しているものだった。

実際に、琴里が精霊の力を得た時に琴里のそばにはノイズに塗れた()()が確かにそこにいた。

士道は今日の朝、神無月に頼み込んで琴里が精霊化した時の天宮市の火災の映像を見させてもらい、そこで()()()()()()()。“なぜノイズを誰だと思ったのか?”と疑問に思っていたらしいが、ドライグには()()()()()()()()()()らしいのだ。

―――ちなみに、人間に精霊の力を与える存在の識別名は『ファントム』というものを付けた………その識別名の通りノイズ塗れのため不可視だから士道がそう名付けることにしたのだ。

 

そして二つ目の球体も謎のままだ。くるみんを攻略した時から士道はその球体を視認していたのだが、いかんせんことに情報が少なすぎる。

そして、その球体が現れた頃から士道のことを見定めるかのように視線を向ける謎の金髪美少女の姿が………士道はその子も毒牙にかけようと作戦を練っているところなのだ。

―――その美少女が犠牲にならないことを祈っておこう………

 

『………今はノイズの「ファントム」や相棒に見える謎の球体よりも五河琴里とのデートに集中すべきだ。

その二つの調査はソロモンたちに任せるのも悪くはないだろう―――基本的にあいつらは暇人だ』

 

「そうは言うけどよ、この前もソロモンさんたちだって均衡を見出す存在の討滅とかもあるし、俺たちだけでどうにかするべきだろう………」

 

士道たちはソロモンたち次元の守護者によくお世話になっている。できることは自分で解決したいと士道の心が如実に表れていた。

 

そして、待ち合わせの時間であるAM10:30になった時、可愛らしいフリルに飾られた半袖ブラウスに、裾の短いオーバーオール。長い赤い髪を二つに括っているのは長年使用してきた黒いリボンが目立つ少女が水着が入ったカバンを手に持って駆けてきた。

 

「―――琴里、可愛いじゃないか!お兄ちゃんご機嫌だぜ!」

 

座っているベンチから立ち上がって士道は手を振る。士道が何気なく言った言葉に琴里は顔を朱に染めた。

十香や折紙のように―――いや、彼女たち以上に士道への恋心を抱く琴里にとって先ほど士道が掛けた言葉は堪らなく嬉しく思ったのだろう………

 

「さ、さささささささあ―――わ、私たちのデートを始めまひょうかひら!」

 

ロボットのようにカクカクとぎこちない動きで歩き出した琴里ちゃん………声が裏返っており明らかに様子がおかしい。

士道は琴里の腕を握って琴里の足を止める。

 

「―――ひゃっ!?」

 

いきなり腕を握られたことで奇妙な叫び声をあげる琴里ちゃん。士道は琴里を見て声を荒げる!!

 

「おい琴里、顔が真っ赤じゃねえか!!………熱でもあるんじゃないのか!?」

 

「な、無いわよ!!これは………ってちょっと何して―――」

 

「―――良いからじっとしてろ!!」

 

「ひゃ、ひゃい!!」

 

ジタバタする琴里を士道が両肩を握って強く言葉を発し、強く言われた琴里はピタリと静止する。

士道は膝を少し曲げて琴里と同じ頭の高さ高さになるように調整する―――そして………………

 

「――――――ッ!!」

 

琴里の顔がどんどんと真っ赤に染まっていき、顔から湯気が出ている!!

琴里の両目は点になっており、その点となった両目もぐるぐると回っている!!

士道くんは琴里ちゃんのおでこに自分のおでこをひっつけて体温を確認しているのだ………こんなことをされれば、琴里が顔を真っ赤にするのは必然だ。

 

「うわっちちちちち!!!琴里、お前絶対重度の病にかかったんぞ!?その証拠に琴里の体温が五十度超えてやがる!!見てみろ、俺のおでこ火傷しちゃってるよ」

 

おでこを両手で抑える士道くん。しかし―――そんな士道くんを琴里ちゃんは蹴り飛ばす!!

 

「―――誰のせいでこうなったと思ってんのよぉぉぉぉぉおおおお!!」

 

「ぐえっ!?」

 

琴里ちゃんの蹴り上げは見事に士道くんの顎に決まり、士道くんは宙に浮いた後ぐったりと倒れた。

………蹴り上げの時にスカートの中から可愛い妹のパンツを見れた士道くんは蹴られてもご機嫌のようだ。

 

「………ぐへ、グヘヘへ!黒パンツだったぜ、グヘヘへ!」

 

『―――五河琴里、もう何発か食らわせておいた方が良いぞ?このバカはこの程度で手を引くような変態では無い………顔面を踏み潰すのはどうだ?』

 

ドライグが士道の左手の甲から琴里に言った。しかし、琴里は首を横に振った。

 

「………これ以上こいつが喜ぶような真似をすれば、後々取り返しのつかない事になるかと………」

 

『………それもそうだな』

 

―――お二人とも士道くんのことをよくわかっているみたいだ。………変態とはまともに関わろうとしないのが最善の手だということは言うまでもない。

 

「ぐへ、グヘヘ、グヘヘヘヘヘヘヘヘヘ!プールだ、水着だあああああああああああ!!」

 

オーシャンパークでの妹の水着姿を妄想して士道くんただただ目的地であるオーシャンパークを目指した。

………琴里は顔を真っ赤にしながら、士道の後を歩いていた。

 

 

 

 

 

―――………………

 

 

 

 

 

 

「GORGEOUS!!!いやあ、さすがは県内最高の人気を誇る施設として呼び声の高いオーシャンパーク!!プールエリアはまさに楽園という二文字以外で表現できないぜ―――うっひょおっ!水着の美人だらけじゃねえか!!」

 

水着に着替えてオーシャンパークのプールを背伸びをして見渡す士道くん。

………彼の視界内には水着姿の美女たちがバッチリと映っており、それらは全て彼の脳内メモリーに保存されていった。

その時、ドライグが士道に忠告として左手から話しかける。

 

『………おい、やるべきことを間違えるなよ?相棒の目が他の奴らに行くことで五河琴里が不機嫌になれば、このプールくらいは簡単にあの世行きになってしまうぞ?』

 

「ああ、分かってるよ………でもな、そうなった時に悪くなるのは俺だけじゃねえ!俺の目を引きつけるような姿をしている水着のお姉さんにだって罪はある!!」

 

『―――随分とうまいすり替えだな………』

 

………この不死身のコンビは今日も冴え渡っているようだ。そして、しばらくすると士道のデート相手の琴里が姿を現わす。

 

「―――琴里、なんてエクセレントな水着を着てるんだ!!お兄ちゃんは琴里をそんなエッチな妹に育てた覚えはありません!!可愛いを通り越してまさにエンジェルちゃんじゃねえかっ!!」

 

鼻の下を伸ばして水着姿の琴里にいやらしい視線を向ける士道くん。琴里の水着は白のセパレートタイプの水着で、発育途上のロリおっぱいがそれをさらに際立たせている!!

こんな妹の姿を見て興奮しない奴は兄じゃねえ!!

………士道の渾身のアピールに反応し、琴里は声を荒げる!

 

「あ、あんたみたいな変態と一緒にするんじゃないわよ!!フン、どうせ褒めるようにインカムから指示でも出たんでしょ?」

 

「いや、本心なんだが………ていうか、今日はインカム持ってきてねえよ。―――妹とのデートにインカム通じて指示をもらうなんて真似は必要ねえからな………。

さて、せっかくこんな豪華なプールに来たんだ、ド派手に楽しんでやろうぜ!」

 

「っ………」

 

士道は琴里の手を引っ張って歩き始めた。士道が本心だと述べたことに琴里は少しの間無言になり、自分の手を引っ張ってくれる兄の姿を眺めていた。

………その兄の背中は自分を救ってくれたあの時から変わらず、とても逞しく大きいものだった。

 

「―――おい琴里、ここの名物のウォータースライダーなんてどうだ?俺はこれに一度乗ってみたかったんだよなぁ〜!」

 

士道が無邪気な子供のような笑顔でウォータースライダーを指差す。琴里は溜息を吐きながら士道に言う。

 

「士道、あなたねぇ子供じゃあるまいし………」

 

「うるへー!高校生はまだ子供だ!………ほら琴里、一緒に滑ろうぜ!」

 

ウォータースライダーは珍しく空いており、階段を登ればすぐに滑れるみたいだ。ぐいぐいと手を引っ張る士道に琴里は観念して頷いた。

 

「分かったわ………付き合ってあげるわ」

 

「そうか!良かったぜ!グへへへへへへ!」

 

琴里が了承するなり、下品な笑みを浮かべる士道くん。彼は妹相手でも下品な妄想をするのだ!!

琴里はそんな士道の様子を見て、背筋に悪寒が走ったが、気のせいだろう………とウォータースライダーの階段を登った。

 

しかし――――――琴里が感じた悪寒は気のせいでは無かった!!

 

「一人ずつでよろしいでしょうか?」

 

ウォータースライダーの係の人が滑りに来た士道と琴里に話しかける―――その時、士道くんが仕掛ける!

 

「―――きゃっ!?ちょっと士道、何すんのよ!?」

 

士道はいきなり琴里をお姫様抱っこをするように抱きかかえたのだ!!琴里は士道の突然の行為に頭が真っ白になり素っ頓狂な声を上げた。………自分が想いを寄せる人にこんなことをなんの前触れもなくされればこうなるのも必定だろう。

士道ほ係の人にキザに告げる。

 

「………いえ、同時でお願いします―――俺たち()()()()なんで」

 

「なっ――――――!!!!!!!」

 

士道が周りを一切気にかけることなくまっすぐと述べた言葉に、士道の腕の中の琴里は、顔をゆでたこのように真っ赤にして口をパクパクとさせていた。

士道は腕の中の琴里に言う。

 

「―――琴里、これは俺とお前とのデートなんだ………良いだろ?」

 

「………………」

 

琴里はコクンっと首を縦に振り、士道を受け入れた。

―――もうこうなれば士道くんは止まらない!!

士道くんは琴里を膝の上に乗せて―――その身に豪風を纏いながらゴールを目指した!

 

「うおおおおおおおおおおおお!!琴里ィィィィィィィィッッ!!」

 

「きゃあああああああああああ――――――ってちょっと!?どこ触ってんのよこのおっぱいドラゴン!!」

 

士道はウォータースライダーの物凄いスピードを怖がるふりをして、膝の上に座っている琴里のおっぱいにタッチ―――いや揉んでいるのだ!!

―――そう、これが士道くんの真の目的!!うっかりを装って琴里のおっぱいに触れること!!

そのためだけに彼はウォータースライダーを滑ることを決定したのだ。

 

「ふむふむ………ッ!?琴里、おっぱいが成長してるぞ!?0.5cmほど大きくなってる!!発育する妹なおっぱいに触ることができてお兄ちゃんご機嫌だああああああ!!」

 

「―――いい加減やめ―――アッ!!」

 

『うおおおおおおおおおおおお!!うわあああああああああ!!うおおおおおおおおおおおおんんっっ!!』

 

ウォータースライダーを急降下しながら妹のおっぱいの成長度合いに涙する士道くん―――完全にウォータースライダーではなく愛しの妹のおっぱいを楽しんでいる!!

さすがはおっぱいドラゴン!!―――ブレることを知らない!!

 

バッシャアアアアアアンンっっ!!

 

最後は下にある大きなプールに巨大な打ち上げ花火を打ち上げて堂々のゴールを決めた。

………しかし、琴里ちゃんはご立腹のようだ。

 

「―――士道、私に何か言うことがあるんじゃないかしら?」

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ………

 

『イフリート』の姿を彷彿とさせるように、今の琴里からは怒りの炎が迸り、頭には角が生えているように士道は感じたようだ。

………言い逃れは出来ないと思った士道は、手を合わせて頭を下げる―――次に言う言葉が彼の遺言となるだろう。

 

「素晴らしいおっぱいをありがとうございました!!」

 

「―――砕けっ!!『灼爛殲鬼(カマエル)』ッ!!」

 

「へぶしっ!?」

 

炎を纏った琴里の拳が士道の顎を捉え、天井に届くぐらいのところまで士道くんは浮いた後――――――再びプール内に水しぶきを上げて墜落した。

 

「―――痛え!?すんげえ痛え!!琴里、お前さっき精霊の力で俺をぶん殴っただろ!?―――見てみろ、顎が火傷してるわ!!」

 

「うるさい!!レディーの胸に触って肉体が五体満足でいられるのだから、幸運なことだと思いなさい!」

 

『ううっ………グスンっ………俺は辛いよ』

 

ハイレベルなジャレ合いをする士道と琴里にドライグはただ泣き言を言うしか出来なかった………頑張れドライグ!

 

ピーンポーンパーンポーン

 

オーシャンパーク内にチャイムが鳴る。オーシャンパーク内に遊びに来ている人たちは一斉に放送を待つ。

 

『本日はご来場いただき、誠にありがとうございます。―――まもなく、オーシャンパーク名物の水中カップル騎馬戦を開始致します!皆さんのご参加を楽しみにお待ちしています。

繰り返します――――――』

 

このオーシャンパークでは、あの超巨大ウォータースライダーともう一つ誰もが知っている『水中カップル騎馬戦』で有名になっている。

水中カップル騎馬戦とは、その名の通り、プール内でカップルが騎馬を組んで行う騎馬戦だ。

月に一回ほど開催されるこの名物だが、それがたまたま今日だったのだ。

 

「―――グヘ、グヘヘ、グヘヘヘヘヘヘヘヘヘ!!仁義なき戦争の時間だぜェェェェェェェ!!」

 

鼻の下を伸ばして下品な笑みを浮かべる士道くん。………それを見た琴里はゴミでも見るようにドン引いていた。

 

『相棒、盛り上がっているところ悪いが―――お前は五河琴里を支える騎馬役に決まっているだろう………五河琴里では相棒の体重を支えることは出来んからな』

 

「―――え、嘘!?俺が上じゃないの!?俺が上で向かってくるお姉さんのおっぱい触りまくり―――なんていう素晴らしいシチュエーションの為の戦争じゃねえのか!?」

 

『そんな夢物語はどこの世界にもあるわけがなかろう!!』

 

ドライグが呆れながらの叫び声だった。

―――本当にこの男はブレることを知らない………そんな士道に琴里は鉄拳を腹にお見舞いする!!

 

「結局はそれが本心か!!」

 

ドガッ!!

 

「―――暴力反対!!」

 

この五河兄妹のジャレ合いもまだまだ続くようだ。そして―――舞台は水中カップル騎馬戦へと映ろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

―――………………

 

 

 

 

 

 

「つ、強過ぎんだろ!?」

 

「な、なんなんだよあの二人組!!―――コマンドー部隊か何かか!?」

 

「ちょっ、おい!?こっち来ん―――ぎゃああああああああああ!!」

 

―――水中カップル騎馬戦を無双している騎馬が一つあった。それはまだ両方とも十八歳にも満たない子供の騎馬だ。

………あ、また一つ無双をしている騎馬の犠牲になった騎馬が出てしまった。

―――残っている騎馬はあと四騎!!

 

「―――おいテメェら、鉢巻だけ置いていけええええ!!」

 

「来ないでぇぇぇぇぇぇええ!!」

 

「―――あっちに私たちよりも弱いペアが!!」

 

言うまでもなく士道と琴里のペアだ。水中カップル騎馬戦はチームを組んで戦う騎馬戦ではなく、仁義なきバトルロワイヤルだ。弱者から死んでいく―――それがバトルロワイヤルの掟のようなものだ。

士道&琴里の騎馬は最初、八ペアからの集中攻撃を受けた―――しかし、人間を超越する士道と『フラクシナス』の司令官を務める琴里の超人コンビには、束になっても叶うはずもなく枯れ葉のごとく彼らは敗れ去った。

士道&琴里の騎馬は既に鉢巻を十六も集めており、堂々の一位だ。

しかし―――士道くんは全滅させる勢いで残っている騎馬に向かっていく!!

 

「―――鉢巻を寄越せェェェェェェェ!!」

 

「くそッ、なんでこっちに来るんだよ!?俺たちよりも弱い奴を狙ってくれよ!!」

 

―――水の中を超人的な速さで駆け抜ける士道くんの足に叶うわけもなく、難なく士道くんは追いついて琴里が上の女性から鉢巻を奪う。

………赤龍帝と精霊の力を宿した秘密結社の司令官が弱者を蹂躙するだけの簡単な作業と化している水中カップル騎馬戦だ。

 

「―――これ、弱いものいじめに該当しないかしら………」

 

残っている騎馬が浮き足立ち、怯えている様子に見かねた琴里が申し訳なさそうに呟いた。

士道は首をあげて琴里に力説する。

 

「違うぜ琴里。これは仁義なきバトルロワイヤル、弱肉強食の世界なんだ!琴里との一泊二日の旅行券を手にする為にお兄ちゃんは悪魔だろうが龍にだってなっちゃうぞ―――って背後から攻撃を仕掛けてんじゃねえ!!」

 

「―――おぉぉぅ………」

 

「きゃあ!?」

 

ドボーン!!

 

背後から忍び寄ってきた騎馬に士道くんが騎馬を務める男の急所に踵で蹴り上げる!!それに合わせて騎馬が崩れ上の女性は顔面からプールにダイブした。―――鉢巻は琴里が申し訳なさそうに回収する。

 

「残りは三騎………完全勝利まであと三つだぜ!!」

 

士道が残りの騎馬を見つめると―――彼らはプールの際に避難した!!

しかし、士道くんの魔の手は留まるところを知らない!!

 

「グヘヘヘヘヘヘヘヘヘ!!その鉢巻貰ったああああああ!!」

 

士道くんと琴里の歩みを止められる騎馬は存在しなかった。

 

 

そして――――――………

 

 

「―――優勝商品の『贅沢、京都ぶらり旅一泊二日ペアチケット』は参加者全ての鉢巻を奪い取った五河様チームに決定しました!!」

 

………士道たちにやられた騎馬は全てがズタボロになっていた。男女両方とも精根尽き果てて見るも無残な姿に変わっていた。

 

「琴里、俺たちやったぞ!二人で旅行に行こうな?」

 

「………わ、分かったわよ―――せっかく貰ったんだし行かなきゃ損、よね………」

 

こんなことを言ってはいるが、琴里ちゃんは士道と二人っきりで旅行が出来る喜びのあまり、頰が緩んでいた。

 

「………うへへへへへへへ!お兄ちゃんと二人っきりで旅行―――」

 

 

 

 

 

―――◆◆―――

 

 

 

 

 

ASTのCR-ユニットを格納する倉庫に、一人の少女がDEMインダストリー社から真那の為に送られてきた究極の装備を眺めていた。

その装備はCR-ユニットに似ており、外装は白銀のように輝いており、肩と胸部そして膝の二つの部分にダークブルーのような宝玉がはめ込まれた女性用の全身鎧と言うのが一番適切なものだった。

 

「………これが地上最強のドラゴンの力を宿した最強の武装―――『白龍皇の(ディバインディバイディング•)輝銀鱗装(シルバードラゴニックユニット)』」

 

―――折紙だ。彼女はその装備に手を伸ばし、その装備を纏う。

次の瞬間―――装備の宝玉が強く輝き格納庫内を凄まじい光の本流が包み込んだ。

 

そして――――――………………

 

折紙は究極の装備を纏って歩き出した。―――自分の過去にケリをつける為に………そして、仇を討つ為に。

 

「炎の精霊『イフリート』―――いや、五河琴里………ッ!!両親の仇ッ、今日こそ討つッ!!」

 

折紙は装備の翼を広げて、天空へと羽ばたいた。

その姿は―――狩猟を始めるドラゴンそのものを彷彿とさせる姿に他ならなかった。

 

 




恐らく色々と突っ込まれると思うので、折紙のデバイス―――『白龍皇の輝銀鱗装』についてある程度ここで明かしておこうと思います。

まず始めにあれはCR-ユニットではなく、セイクリッド•ギアです。
あれを送ったDEM側にセイクリッド•ギアを作成できる能力を持った存在がいるということだけここで明かしておきます。

………『白龍皇の輝銀鱗装』はその名の通り『白い龍』ことバニシングドラゴンの力を宿したものです。
―――堕天使総督のアザゼルが開発した『堕天龍の閃光槍』の完成版で常にバランス•ブレイカー状態になっているため、並の人間では使い熟す事が出来ない設定になっています。


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八話 白銀の怒り!

大変お待たせいたしました。

デートもいよいよ後半戦へと突入!!おっぱいドラゴンの暴走はまだまだ続く!!

そして――――――白い復讐者がベールを脱ぐ!!




プールエリアでのデートを満喫した士道と琴里は、私服に着替えてアミューズメントエリアでも大暴れをしていた―――大暴れをしているのは、主に士道くんなのだが………

 

「うわああああああああああああ!!!!!―――って士道、どさくさに紛れて何をしようとしているのかしら………」

 

「―――チッ!バレたかッ!?」

 

………士道と琴里の二人は巨大フォークリフトを堪能していた。座ったままどんどん高度が上がっていき、高くなるにつれて地面をめがけて急降下する時のことを想像すると―――まあ言うまでもなく心臓に悪いだろう。

しかし!!士道くんの本当のお楽しみは、そんなフォークリフトではなく妹の成長途中のロリおっぱいだったのだ!!

 

誤って椅子から落ちないようにするための安全性バーを握らず、士道くんは妹のロリおっぱいへと手を伸ばしたが―――途中で手を掴まれ見事に阻止された。

 

そして――――――それは、次に彼らが向かったアトラクション、ジェットコースターでも彼の暴走は止まらなかった。

 

「こ、琴里ィィィィィィィィ!すんげぇ怖ぇぇぇええええ―――ウッホォッ!!ジェットコースターの風圧で揺れる琴里のおっぱい!絶景だぜ、グヘヘヘヘヘヘヘヘヘ!!」

 

「―――少しはアトラクションを楽しみなさいよ!!このおっぱいドラゴン!!私の胸ばっかり見てんじゃないわよ!!」

 

―――ここでも彼はジェットコースターから見える恐怖の絶景を見ていたが………チラッと隣の琴里を見た時に視界内に入ってしまった揺れるロリおっぱいに視線が釘付けになってしまった。風を切り裂いて進むジェットコースターの風圧でも、成長途中のロリおっぱいは輝きを放っている!!

………これが十香やくるみんが士道くんの隣に座っていた場合は途中で彼は、安全バーを外して襲い掛かるのが目に見えている!!

 

さらに――――――おっぱいドラゴンの暴走はさらにエスカレート!!

 

「ううっ―――なんでまたこんなところに………」

 

士道がジェットコースターの後に選んだアトラクションはこれまた絶叫のお化け屋敷だった。

さすがの士道くんもお化け屋敷ではセクハラはしないだろう――――――と思っているそこのあなた、考えが甘い!!

逆にお化け屋敷だからこそ、彼は実行するのだ!!

 

『ぬがあああああああああ!!!!』

 

磯◯波平を思わせる頭のてっぺんに髪の毛が一本で、目の片方が眼球丸出しで飛び出しているお化けが二人の前に突如現れた!!

 

「―――ぎゃああああああああああああ!!!」

 

ボフンッ!

 

突然のお化けの出現に琴里ちゃんは飛び上がって、後方へと逃げようとする―――が、士道くんがそんな琴里ちゃんをキャッチ!!そして、琴里ちゃんのロリおっぱいを顔面で満喫するおっぱいドラゴンがここにあり!!

 

「―――プハッ!?ハハハ!いや、本当に可愛いよ?我が愛しのスイートシスター」

 

突然のお化けの登場にも彼は何一つ動じずに、琴里ちゃんが絶叫するのを待っていたかのように琴里ちゃんを抱っこ。

―――このお化け屋敷での士道くんの楽しみはただ一つ!!

“わざとお化けが出てくるポイントに琴里を誘導し、琴里の驚く様子を観察すること”だ。

士道くんは腕の中でガクガクと震え、「お化け怖い………」と目を潤わせる琴里ちゃんのほっぺを人差し指でムニュ!

 

「―――ッ!離しなさいよ、このおっぱいドラゴン!!」

 

目をギリッ!と突然鋭くした琴里ちゃん………ようやく士道の意図に気付いたようだ。

琴里は士道の腕の中から飛び降りて、士道の胸をポカポカと叩く!!

 

「ハハハハハハ!琴里―――先はまだまだ長いぜ?」

 

「―――途中で壁に穴を開けて強制終了できないかしら………………」

 

琴里は一秒でも早くこのお化け屋敷から解放されたいようだ。だが………………琴里のそんな小さな願いも叶うことは無かった。

 

「―――ぎゃあああああああああああ!!!」

 

「お、おっぱいィィィィィィィィ!!」

 

―――お化け役の気配を察知して怖がったふりをして琴里のおっぱい目掛けて飛び込む士道くん………頑張れ琴里ちゃん!

 

『―――――――――――――――』ゴボゴボゴボゴボゴボッッ………………

 

ドライグは白目になって泡を吹いて気絶していた。今日だけでドライグは魂だけとなった精神的忍耐力は既に零を通り過ぎてマイナスの値を示していた………………

 

「―――いんやあ、お化け屋敷最高だな!琴里、もっかいやろうぜ!!」

 

「もう二度とゴメンよ!!あんた、お化けが出るところを知ってて私の手を引っ張ってたでしょ!?」

 

光がキラキラと輝く笑顔でお化け屋敷の感想を述べる士道くんとは対照的に、琴里は顔を真っ赤にしてプンスカと怒っていた。

―――やはり途中で完全に気付いていたみたいだ。

伏兵の気配を察知し、逆にその伏兵に引っかかりにいくように士道は琴里を誘導していた。

 

「―――よっしゃ、次は観覧車でも乗るか!彼女と遊園地に行くと絶対にしたみたいシチュエーション二人っきり観覧車!大好きな女の子と密室で二人っきりで燃え燃えだぜ!」

 

「――――――ッ!!!!!」

 

お化け屋敷が終了すると、琴里は士道に手を引っ張られるまま観覧車に乗ることが決定した。

琴里は士道が述べた『彼女、大好きな女の子』のこの二つの言葉にこれまで以上に顔を真っ赤にしていたのは、放っておこう。

彼女は、十香やくるみん以上に士道くんのことが大好きなのだから!

 

 

「いい景色だな―――『フラクシナス』から見る景色も悪くないけど、観覧車から見える景色も捨てたもんじゃねえな!」

 

士道は観覧車の窓から見える景色に言葉を漏らしていた。天宮市の上空一万五千メートルに位置する空中艦『フラクシナス』の天宮市全体を真上から見る景色も心を奪われるが、観覧車から見える小さく見える遊園地や、山や住宅などの景色も決して劣るものではないだろう。

子供が砂場ではしゃぐように、ワキワキとしている士道に琴里が一言述べる。

 

「………少しは落ち着いたらどうなのよ?本当に士道はいつまでたっても子供よね」

 

「うるへー!遊園地に来てはしゃがねえ奴は漢じゃねえ!!」

 

士道の様子にため息を吐きながらも、琴里も観覧車から見える景色を楽しんでいた。

琴里が観覧車の窓の景色を眺めていた時、士道が琴里の顔を見つめて呟く。

 

「………琴里、言っておきたいことがあるんだ―――聞いてくれるか?」

 

士道に名前を呼ばれて琴里は士道の顔を見る。

―――士道の顔は先程までのスケベ顔と違い、真剣な表情だった。琴里は士道の雰囲気が変わったことに気付き、声を詰まらせる。

 

「な、何よ………そんなに改まって」

 

士道は話し始める。―――これまで自分が乗り越えてきた修羅場に苦笑いをしながら。

 

「―――今年の四月からの二ヶ月間は驚きの連続だった。

精霊なんて空想上の生物に遭遇するし、それを保護する秘密結社で妹が司令官を務めていたり、俺に精霊を封印する力が備わっているなんて分かってから、精霊の攻略をすることになるなんて思ってもみなかったよ」

 

「………まあ、そりゃ驚くわよね。二ヶ月ほど前までは何も知らない一般人だった士道が、いきなり世界で起こっている怪奇現象の真実に触れればそうなるわよね」

 

琴里も苦笑いをしていた。士道に精霊の霊力を封印することがわかってから、精霊との対話役を成り行きで務めるようになった士道。

………最初は戸惑いももちろんあったし、自分に出来るだろうか?と自問自答したこともあった。

だが――――――それでも、士道は真っ直ぐに琴里を見つめて言う。

 

「―――でも、俺は本当に精霊との対話役をやって来て良かったと思っているし、俺は琴里に感謝している」

 

「………………え?」

 

士道が述べた言葉に琴里はキョトンとした表情を浮かべた。琴里は不満の一つや二つでも言われると思っていたのだが、士道が琴里に言いたかったことは不満ではなく感謝だったからだ。

 

「―――確かに怖い思いもしたし、何度も死にかけた………でも、俺はそれ以上に価値のあるものを手に入れることが出来た―――それは、今の精霊たちを含めたみんなで楽しい生活だ。

それが出来ているのは、琴里や『ラタトスク』のサポートがあってこそだ………今までずっと言えなかったけど、言わせてくれ――――――本当にありがとう琴里、これからもたくさん迷惑をかけるだろうけど、俺たちのサポートをしてくれないか?」

 

「ッ………………」

 

士道が述べた感謝の言葉に琴里は目を大きく開け、表情を歪めた。

………琴里や『ラタトスク』の連中は、士道に大した見返りを与えることもなく、地上最悪の災害の抑圧を押し付けたのだ。

普通なら不平不満が爆発するものだが、彼は感謝をしたのだ。

 

「………もちろんよ士道。精霊を救うあなたのサポートをすることこそが私たちの存在理由よ。これからも大船に乗ったつもりでドシッと構えてなさい」

 

「ああ。頼りにしているからな、五河司令」

 

士道と琴里が手を取り合うと、観覧車は空中での一周を終えてゴールへと辿り着いた。士道と琴里は仲良く手を繋いで観覧車のドアから出てきた。

そして―――辺りが灼熱色に染まり、時刻は夕方になろうとしていた。

 

「………あれまぁ、よく遊んだもんだぜ。そろそろ帰らないと十香の内に眠る怪獣がお目覚めになる時間だな―――帰ろうか琴里、また来ような?」

 

士道が茜色に輝く夕陽を見つめて、十香が口から炎を吐いている姿を思い浮かべる。士道の言葉に琴里も苦笑いをしていた。

 

「ええ。帰りましょうか―――士道、今日はありがとう楽しかったわ………これが最後だと思っていたけど、またお兄ちゃんとデート――――――うへへへへへへ!」

 

琴里は士道の『また来ような』の一言で嬉しさのあまり笑みがこぼれ落ちていた。そんな琴里を見た士道は怪訝に思い訊ねる。

 

「ん?琴里、急に笑ったりしてなんか嬉しいことでもあったのか?」

 

顔を覗き込もうとする士道に、琴里は慌てて距離をとって走り出した。

 

「な、なんでもないわよ!!このアホ兄っ!!」

 

「あっ、おい―――ったく、しょうがない妹だな………」

 

走り出した琴里を士道はやれやれと両手を肩の位置に上げて琴里を追いかけた。

 

その時――――――士道の前を走っていた琴里に事件が起こった。

夕暮れの空に何か眩い光が現れた、次の瞬間―――光の速さを思わせるように何か鋭いものが琴里の周囲に落下した!!

 

 

 

 

 

そして――――――………………

 

 

 

 

ドガアアアアアアアアアアアンンッッ!!

 

 

 

 

 

「――――――ッ!!」

 

目の前を走っていた琴里がいきなり謎の爆炎に包まれた。琴里の姿は爆炎に包まれて確認できていないが、遊園地の一角が綺麗さっぱり吹き飛んでしまうほど先ほどの爆発は凄まじいものだった。

士道は突然の出来事に反応することができず、目の前の光景に息を詰まらせた。

そして―――………ようやく脳が目の前の状況を理解した時、士道は―――

 

「―――琴里!?琴里ィィィィィィィィィィィィ!!!」

 

自分の最愛の妹の名前を呼んだが、その妹の返事が聞こえてくることは無かった。

………突然の大爆発に遊園地を訪れていた人たちは大混乱状態で、誰も彼も冷静でいられるものはおらず、大声で叫びながら散り散りになって駆け抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

―――◆―――

 

 

 

 

 

 

 

士道が空を見上げた時には………………空中で静止しており、白銀に輝く太陽を思わせる武装を整えた少女が佇んでいた。

士道の禁手『赤龍帝の鎧(ブーステッドギア•スケイルメイル)』のような全身鎧だが、ASTが纏うCR-ユニットのような軽装備なため、士道のように全身が鎧で埋まるような姿ではない。

そして―――その武装には一対の翼があり、それは龍の翼を機械化したようなものだった。

 

「おい………なんでこんなことをするんだよ………なあ―――折紙っ!!」

 

士道は腹の底から湧き上がるドス黒い感情を押さえ込んで、上空にいる存在に訊ねた。

その存在は士道のクラスメイトであり、陸自の対精霊部隊『AST』に所属する鳶一折紙だった。

折紙は上空から士道を見下ろして言う。

 

「………五河琴里を―――『イフリート』を殺した。あの化け物は、私の両親を私の目の前で焼き払った存在―――つまり、両親の仇!」

 

「――――――ッ!!」

 

折紙が言い放った言葉に士道は鈍器で頭を殴られるような衝撃を受けていた。

折紙の両親が精霊に殺されていたことは折紙から一度聞いていた。―――しかし、その犯人が琴里だと折紙は言ったからだ。

士道は折紙の言葉を否定する。

 

「―――ち、違う!!琴里は誰も殺してなんかいない!!琴里は――――――があっ!?」

 

士道が最後まで言おうとしたが、巨大な何かに押しつぶされるように、士道は地面に倒れこんだ。

―――折紙が発生させた『絶対領域(テリトリー)』だ。

士道を押しつぶした『絶対領域(テリトリー)』は、士道を押しつぶしたまま小さなドーム状に展開された。動けなくなった士道のすぐ目の前に折紙は着地し、翼の武装を変更する。

 

「………じっとしてて士道―――すぐ終わるから」

 

折紙は未だ立ち込める煙を目掛けて、翼の武装を左右に合計八つの砲門を持つバズーカ砲のような武装に変形する!!

それに弾かれるように士道は神器を発動する!!

 

「―――禁手化(バランス•ブレイク)ッッ!!」

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!!!』

 

身体にかかる負荷に吐きそうになりながらも、士道は赤い龍を模した全身鎧を纏い、籠手からアスカロンの刃を出す!

 

「悪いが妹の危機を黙って見過ごせるほど、俺はできた人間じゃないんだよ!!―――ドライグ、限界突破だ!!」

 

『Welsh Dragon Limit Break―――Over Limit Booster set up!!!!!!!!!!!!!!!』

 

士道の鎧の宝玉が凄まじい輝きを放ち、鎧の全宝玉にBの文字が浮かび上がる!!

そして――――――

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!!!!!!!!!』

 

ビシビシビシビシビシビシビシビシッッ!!

 

まさに一瞬と呼ぶべき速さで士道の力が倍増していく!!その力の倍加によって発生する余波によって折紙が展開した『絶対領域(テリトリー)』に徐々に亀裂が入っていく!!

力の倍加が十分だと思い、士道が拳を引いて入った亀裂にアスカロンの刃で

絶対領域(テリトリー)』を貫こうとした――――――だが………………

 

『―――Vanishment Additional Effect!!!!!!!!!』

 

折紙の鎧から美しい女性の音声が響き渡ると同時に、士道が倍加した力が粒子となって士道の鎧から抜けていく!!

それと同時に士道の鎧の宝玉のBの文字も消え去り、輝きも消え去った。

 

「なっ!?一体何がどうなってやがる!?倍加した力が一瞬で消えただと!?」

 

『―――あの小娘の武装はまさか!?いや、そんな筈は――――――』

 

士道はいきなり力が霧散したことに冷静さを失い、ドライグは折紙の使用している力に検討がついたのか、何か答えを導き出そうとしていた。

折紙はその力の答えを書いた紙を、士道とドライグの顔面に叩きつけるかのように力を発動させる。

 

『Divide!!!!!!!!!』

 

ギュウウウウウウウウウンンンッッ………

 

折紙の全身鎧の宝玉が蒼白い光を放つと、『絶対領域(テリトリー)』内の空間が振動を始める!

それと同時に士道は体から力がごっそりと抜け落ちる感覚に襲われ、再び地面に膝をつく!

 

「ぐうぅぅぅぅっ!!こ、この力はまさか!?」

 

『間違いなくアルビオンの力を封印した神器(セイクリッド•ギア)―――『白龍皇の光翼(ディバイン•ディバイディング)』に他ならない!!一体何故だ、何故この世界にこんなものが存在する!?しかも、あれは俺の知るアルビオンのものではない!!』

 

士道にとっても、ドライグにとっても折紙が発動させている力は忘れることの出来ないものだった。

だが、それ以上に彼らの頭の中を支配していたことがあった。

それは、“なぜ折紙が『白龍皇の光翼(ディバイン•ディバイディング)』を宿しているか”ということだった。

これほど強大な力を持っていれば士道が見逃す筈はなく、ましてや二天龍の片割れのドライグなら確実に気付くだろう。

だが、現実は違う。目の前には士道とドライグが所有している力の察知能力を嘲笑うかのように、折紙は白龍皇の力を使っているからだ。

 

『あの小娘が先天的な『白龍皇の光翼(ディバイン•ディバイディング)』の所有者ではないことは事実だ………もしそうであるならば、両親を殺された時に確実に発動するであろうし、これまでの精霊との戦いで必ず使用するはずだ―――つまり、あの小娘は何者かからあの力を授かったと考えるのが妥当なところ………だが―――』

 

神器は所有者の強い想いによって顕現する。仮に折紙に『白龍皇の光翼(ディバイン•ディバイディング)』を先天的に所有していたなら、顕現するなら両親を精霊に殺された時以外にはあり得ない………故に辿り着く結論はただ一つ、誰が折紙に『白龍皇の光翼(ディバイン•ディバイディング)』を与えたかということだ。

神器を作れる存在は限られている。しかも、『白龍皇の光翼(ディバイン•ディバイディング)』のような神滅具となると、神器の生みの親である聖書の神『ヤハウェ』くらいのものだろう。

 

「………まったく、派手にやってくれたものよね―――鳶一折紙、あなたが遊園地のような人混みの中で大爆発を起こすような頭のネジがぶっ飛んだ人間だったとはね………」

 

立ち込めていた煙が、謎の力によって掻き消される。煙をかき消して現れたのは、背中に鋭利な刃が数本突き刺さった妹の琴里だった。

琴里は背中から精霊の力を噴出させ、背中に突き刺さった刃を紙を燃やすかのように一瞬で焼失させる!!

 

「―――『神威霊装•五番(エロヒム•ギボール)』ッ!』

 

琴里は宙に浮いていき、炎を自在に操る不死鳥を思わせるように精霊のみが操る絶対の武装『霊装』を纏う。

精霊化した琴里を見た折紙は、琴里を目掛けて飛び立つ!!

 

「殺すッ!!殺す殺す殺すッ!!殺すッ!!死ねッ、『イフリート』ッ!!」

 

ズドドドドドドドドドドドッッ!!

 

折紙は翼と両肩の合計八つの砲門に加え、背中の部分の装甲からミサイルを精霊化した琴里を目掛けてぶっ放した!!

そのミサイルを琴里も天使を顕現させて迎撃する!!

 

「嫌な呼び名を知っているわね………斬り裂けッ!『灼爛殲鬼(カマエル)』ッ!!」

 

ドガアアアアアアアアアッッ!!

 

琴里は煉獄の炎を纏った巨大な戦斧を顕現させ、向かってくるミサイルを一閃!!凄まじい爆音をと煙が辺りを舞う!!

煙によって琴里の視界が遮られたこの時を待って折紙は再び武装を変更する。

 

「―――今ッ!!討滅せよ、ドラゴン•パニッシャーッ!!」

 

折紙は両肩の二つの砲門に魔力を凝縮させて特大の魔力砲を放つ!!

そしてその魔力砲は立ち込める煙を一瞬で貫通してて、琴里に迫る!!

 

「―――――――――!!!!」

 

いきなり特大の魔力砲に琴里は顕現させた灼爛殲鬼を前に出し、ドーム状の霊力で発生させた結界を纏うが………凄まじい勢いで向かってくる折紙の必殺の一撃を防ぎきることは出来ず―――

 

ズドオオオオオオオオオオオオンンッッ!!

 

折紙の魔力砲は琴里の防御を突破し、大爆発を発生させて琴里は地面に叩きつけられた。

琴里が叩きつけられた地面には、巨大なクレーターが作られていた。

 

「くっそおおおおおおおおおおおおお!!!!琴里、俺が助ける!!」

 

『DivideDivideDivide!!!!!!!!!』

 

士道が折紙が発生させた『絶対領域(テリトリー)』の中でもがくが、それを見た折紙は神器の能力で士道の力を減少させ再び地面にへばりつかせる。

 

「………士道、もう少しで終わる。だからそのままでいて―――あなたまで殺したくはない」

 

「くそッ!!俺は―――」

 

士道が諦めずに拳を握りしめて倍加を開始しようとした時だった。

 

ズビィィィィィィィィッ!!

 

大出力の凄まじい熱量の砲撃が自分の目の前を通り過ぎた。その巨大な熱線は折紙に向かって一直線で向かっている!!

折紙は腕をクロスし、翼を輝かせる!!

 

『DivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivide!!!!!!!!!!』

 

折紙の翼は空気を歪ませ、飛んできた巨大な熱戦をどんどんと小さくしていき、やがてライターの炎のように小さくなっていき、折紙に命中する前に霧散した。

士道が熱戦が飛んできた方向に視線を向けると、霊装の大部分を破壊されたが、体自体には大したダメージを負っていない琴里の姿を確認した。

 

「へぇ………なかなかやるじゃない―――それなら今度は全力で撃ってあげる!!『灼爛殲鬼(カマエル)』―――『(メギド)』ッ!!」

 

琴里は灼爛殲鬼の巨大な戦斧を刃を収納し、照準補助のついたバズーカーのような巨大な砲門を持った形に変形させる!!

そして―――異常なほどの霊力が砲門に集約していく!!

 

「………………」

 

それを見た折紙は特に防御することもなく、自然体で構えていた。そして―――琴里はバズーカ砲に変形させた灼爛殲鬼の引き金を引く!!

 

ズビィィィィィィィィィィィィッッ!!

 

引き金が引かれると同時に先程は比べ物にならないほど、巨大な霊力砲が折紙に襲い掛かる!!

 

 

 

だが――――――

 

 

 

『Reflect!!!!!!!!!』

 

 

 

 

折紙は右手を前に出し、自分の体の前に光の壁を展開した。折紙が展開した光の壁は、琴里の砲撃を受け止める!!

そして、翼から音声が響き渡ると同時に琴里が放った砲撃は、琴里に跳ね返って行く!!

今の光景を見たドライグは焦りの声を漏らす!

 

『バカな、あり得ない!!………アレは生前のアルビオンの能力『反射』まで使用できるのか!?なぜあの小娘がここまでアルビオンの能力を引き出すことが出来ている!?』

 

「―――琴里ッ、避けろおおおおおおおおおお!!!」

 

折紙の発生させた『絶対領域(テリトリー)』に全身を支配されながらも、士道は喉が潰れんばかりの声で叫ぶが――――――その叫びも虚しく、折紙がアルビオンの生前の能力『反射の特性』を発動し、琴里の全力の一撃は放った琴里へと直撃した。

 

「………………」

 

灼爛殲鬼の全力の一撃が直撃した琴里は、意識を失いふらふらと力なく地面へと倒れ込んだ。

この時を逃すまいと、折紙は腰に付けてある二本のレイザーブレードを引き抜き、意識を失った琴里に迫る!!

 

「今ッ!!今度こそ終わらせる!!死ねぇぇぇぇぇぇぇイフリートォォォォォォォォ!!」

 

折紙は二本のレイザーブレードの刃を合わせ、それを振り下ろすことで衝撃波を放つ!!

地面を割りながら衝撃波は琴里にどんどん迫って行く!!

 

「―――がああああああああああああああッッ!!」

 

ズドオオオオオオオオオオオオンンッッ!!

 

士道は自身に封印した精霊の霊力を一瞬で体内に凝縮し、爆発させる!!

その結果、折紙が発生させた『絶対領域(テリトリー)』を吹き飛ばすことに成功し、神速を発動し折紙の衝撃波を追い抜き琴里の前でアスカロンを構える!!

 

「唸れッ!アスカロンッ!!」

 

士道の琴里を守るという強い覚悟に応えるかのように、アスカロンがドクンッ!と脈打ち、光り輝くオーラを発生させる!

士道はアスカロンを強く握りしめ、アスカロンを地面に突き刺す!!

 

「ドラゴニック•ゾーンッ!!」

 

士道と気絶した琴里を包み込むように、光り輝くオーラの壁が展開される!!折紙が放った衝撃波と士道が展開したドラゴニック•ゾーンが衝突し、辺りに砂塵が立ち込める!!

 

………立ち込めた砂塵が消え去ると、現れたのは全く無傷でアスカロンを握りしめる士道の姿がそこにあった。

それを見た折紙は歯をギリギリと鳴らし、再び士道を封じようと右手を前に出す!

 

「………ッ!テリトリー展―――」

 

「遅いッ!!『氷結傀儡(ザドキエル)』ッ!!」

 

士道は右手に小型ナイフほどの氷の弾丸を手に取り、折紙の腹部の宝玉を目掛けて投げつけた!

氷の弾丸は折紙の腹部の宝玉に命中し、宝玉はヒビが入り、凍りついた。

 

「―――ッ!!『絶対領域(テリトリー)』が使えない!?士道、あなた一体何をしたの!?」

 

折紙は自身の手札が一枚無くなったことに、動揺を隠せずにいた。士道はアスカロンを収納し、拳を構える。

 

「そいつを使う時には、その宝玉が光を放っていたからな………だから凍らせてしまえば使えなくなると思ってよ―――そしたら見事に使えなくなったみたいだな。これでさっきのように俺を封じ込めるこたぁ出来ないぜ!!」

 

折紙は士道の説明を聞いて拳を握りしめ、歯をギリギリと鳴らしていた。

士道の読みは見事に当たっていた。折紙の腹部の宝玉は白龍皇の宝玉ではなく、『絶対領域(テリトリー)』を使うための顕現装置(リアライザ)だ。

それを破壊され、なおかつ凍結させられてしまえば当然のことだが機能を失う。

折紙が先程まで士道の動きを封じ込めていたのは、『イフリート』を殺す時に巻き込ませないためだ。

そして、士道は妹を守るためなら自分の命を投げ捨てることすら厭わない。これで折紙は『イフリート』を殺すには士道を倒さざるを得なくなってしまったのだ。

 

「悪いな折紙………お前の復讐したいという気持ちは痛いほどわかる―――でもな!!俺は可愛い妹が無残に殺されるところを傍観なんざできねえ!!

………だから―――俺はお前の夢を打ち砕く!!」

 

「………それなら士道を倒してでも、『イフリート』を殺す!!私の命は『イフリート』を殺すためだけにあった!私は『イフリート』を殺すことだけを考えて生きてきた!!あと一歩のところでそれが成就するのにこんな所で立ち止まってなんかいられない!!」

 

それぞれが自分の想いを叫んだ後、一瞬の静寂が訪れ――――――二天龍は再び拳を交えた。

 




『白龍皇の輝銀鱗装』の能力について少しだけ紹介しようと思います。

『Vanishment Additional Effect』

対象の状態を元に戻す―――消滅させるという感じです。ドラクエの凍てつく波動や上条当麻の『幻想殺し』をイメージしていただければ幸いです。

『ドラゴン•パニッシャー』

ドラゴン•ブラスターの折紙バージョン。威力は士道のドラゴンショットを数倍の威力を誇り、必殺の一撃。
ホワイトリコリスのブラスタークという砲撃技があったので取り入れてみました。

折紙の『白龍皇の輝銀鱗装』の中にいるアルビオンは
CV早見沙織さんを私は想像しています。

次回『二天龍激突!!』

この章もそろそろフィナーレを迎えます!


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九話 二天龍激突!!

それぞれの想いを胸に激しく衝突する士道と折紙。

妹を守るために拳を握る士道と、復讐を果たさんと力の続く限り災厄を振りまく折紙………彼らは激闘の末に何を手にするのか?

※大変お待たせ致しました。資格勉強やらなんやらでここまで遅くなってしまい申し訳ございません!


「うおおおおおおおおおおおっっ!!」

 

「はあああああああああっっ!!」

 

オーシャンパークのアミューズメントエリアの上空で、二天龍は激しくぶつかり合っていた。

上空には赤と白の二つの光がジグザグにスパークし、その二つの光がぶつかった時には、アミューズメントエリアの遊園地のアトラクションが、ぶつかり合う時に発生するエネルギーによって見るも無残な姿へと変えていく―――まさに近寄る者全てを死へと追いやる地獄と化していた。

 

『相棒、慎重に攻めていけ。『絶対領域(テリトリー)』を凍結させはしたが、あの小娘の神器(セイクリッド•ギア)は死んではいない―――触れられれば『半減』、遠距離からのドラゴンショットは『反射』をしてくる筈だ………忘れるなよ相棒』

 

ドライグからの忠言を士道は頭の中に刻み込んだ。

………そして、士道がアスカロンを握りしめ、折紙へと突進する!!

折紙も士道に怯むことなく真っ正面から向かってくる!!

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!!!!!!!』

 

瞬時に士道の力が倍加され、オーラが爆発的に上昇する!!

 

オーシャンパークの上空で士道のアスカロンと折紙のレイザーブレードによる激しい剣戟の応酬が繰り広げられる!!

 

「チッ!剣でなら圧倒できると思ってたんだけどな!!」

 

「………舐めないで。士道と私では潜ってきた修羅場の数が違う―――士道がどれだけ強大な力を持っていたとしても、精霊を殺すためだけに鍛えてきた私の執念は決して劣るものじゃない!」

 

士道が全力で放つ剣に、折紙は執念でそれを受け流す。折紙は士道の剣が自分にとって最悪の相性だと言うことを感じ取っていた。

 

………士道と折紙の間には大きな力の差がある―――だが、折紙の執念がその差が埋めるごとく彼女の力を押し上げている!!

何かを成そうと命を賭けるものは強い―――その象徴がこの鳶一折紙その人だ。自分の両親を焼き殺した仇を討つためだけに生き抜いてきた五年間は、今この時のためにある!!

 

士道と折紙が激突し、鍔迫り合いにもつれ込んだ時に折紙が仕掛けた。翼が点滅し、力の波動が周囲の空間を振動させる!

 

『Divide!!』

 

『Boost!!』

 

美しい女性の声が響き渡ると同時に士道の力が弱まる。だが、士道も対応するように倍加をすることで、力を上げる。

―――しかし、折紙には半減した士道の力まで上乗せされるため、折紙に分があるのは誰が見ても明らかだった。

 

「ッ………」

 

「―――やあああああああああああああっ!!」

 

士道が一瞬だけ表情を歪めた瞬間を見た折紙は、レイザーブレードを一閃し、士道を吹き飛ばす。

士道が吹き飛んだ所に、折紙は背中のユニットから無数のミサイルを士道を目掛けて乱射する。

 

「―――こんなおもちゃで俺を止められるとでも思ってんじゃねえぞおおおおお!!」

 

士道がアスカロンで向かってくるミサイルを全て破壊した―――ところで士道の体に異変が起こる!!

破壊されたミサイルが士道の力をごっそりと削ぎ落として行く………そう、これが折紙の狙いだ。

士道がアスカロンでミサイルを破壊することを逆手に取り、破壊されるミサイルに神器の能力を付与したのだ。

 

そしてそれは士道がミサイルを破壊することで効果が発動するように仕込まれていた、最悪のギフトボックスだったのだ。

 

「ぐっ!?こ、これは―――」

 

「―――今ッ!!はああああああああッ!!」

 

士道の動きが完全に止まったところを折紙は全力でレイザーブレードを士道に叩きつける!!

士道はアスカロンで受け止めるが、倍加が間に合わず地面に叩きつけられる。

 

「………ゴハッ!!」

 

地面に叩きつけられた衝撃が全身に伝わり、士道は口から吐瀉物を吐き出した。

………だが、拳を握りしめて立ち上がる。

その時、士道の左腕の宝玉が点滅する。

 

『………先程のミサイル―――「ディバイディング•ミサイル」と言い、あの小娘はここまで神器を使い熟すのか………あの小娘は力こそ歴代の白龍皇に劣るが、テクニックではあの小娘以上の白龍皇を見たことはない。

………相棒、殺すつもりでやらなければ倒されるのは俺たちだ』

 

ドライグがお墨付きを与えるように、士道も折紙のことを強者と認めざるを得なかった。

 

「………ああ、ここからは手加減無しだ―――行くぜ、ドラゴンショットッ!!」

 

士道は翼を広げて飛び上がり、バスケットボールほどの霊力砲を折紙に向かって放つ。

それを見た折紙は避けようとはせず、腕をクロスし光の壁を展開し、鎧の宝玉を輝かせる!

 

「―――こんなものは私に通用しない」

 

『Reflect!!!!!!』

 

折紙の展開した光の壁が士道のドラゴンショットを跳ね返す!だが、士道はこれを待っていたのだ。

 

「………ここまでは読み通り―――なら、これならどうだ!?」

 

ドガアアアアアアアッッ!!

 

士道はドラゴンショットをもう一発放ち、跳ね返ってくるドラゴンショットを相殺する!!

ドラゴンショットがぶつかり合った事によって発生した爆煙が折紙を包み込み、視界を遮る!

そして―――次の瞬間、折紙の目の前に爆煙を貫いて拳を引いた士道の姿が現れる!!

 

「っ!!『絶対領域(テリトリー)』―――」

 

「させねえよ!!喰らっておけッ!!」

 

ガッシャアアアンンッ!!

 

機械が崩壊するような音が響き渡ると同時に、士道の渾身の拳が折紙の腹部を捉え、鎧を木っ端微塵に吹き飛ばし折紙ごと瓦礫と化した遊園地のアトラクションの中へと叩き飛ばした。

 

士道は地面に着地し、折紙が墜落した瓦礫の近くへと足を進める。

 

『………ドラゴンショットが跳ね返ってくることを読みきっての至近距離爆破か―――成長したな相棒、相手が目で相棒の動きを探っていることを理解して、視界内を爆煙で遮る。

あの小娘の目には相棒がいきなり現れたように見えたから対応が遅れたのだろう―――相棒の完全勝利だ』

 

ドライグは珍しく士道の成長を褒めていた。前世とは違い、テクニック方面にも士道は磨きを掛けていた。その成果が見事に現れたのだ。

 

………しかし、士道はこれで勝ったとは思っていなかった。

 

「………この程度で勝てるほど折紙の執念はヤワなもんじゃねえよ―――ほら、見てみろ」

 

士道が瓦礫の山を指差した次の瞬間――――――瓦礫が吹き飛び、鎧を復元した折紙の姿が現れる。

 

「………俺の拳が鎧に命中する瞬間に、折紙は魔力壁を展開して俺の拳の威力を削ってダメージを抑えた。

だから戦闘不能になることはなかったんだよ―――まったく、ドラゴンの決闘は単純明快で分かりやすい」

 

―――そう、二天龍の決闘は所有者を戦闘不能にするまで終了とはならない。

士道は憎しげに苦笑いを浮かべて拳を握りしめた。

 

「………さて、ここからは第二ラウンドってわけか―――折紙、手加減はしないぞ………琴里をお前に殺させはしない!!」

 

「負けないッ!私は士道を倒して『イフリート』を殺す!!邪魔はさせない!!」

 

ここから二天龍の第二ラウンドが開始されようとしていた。

果たして―――己の肉体を激しく痛めつけた先にはなにが待つのか!?

 

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

 

「喰らえッ!ドラゴンショットッ!!」

 

士道は折紙を目掛けて体内に封印した精霊の霊力を使用してソフトボールほどの霊力砲を作り出し、それを殴りつける。

殴りつけられた霊力砲は折紙に向かって一直線に向かっていく!!

 

「―――この程度の攻撃で私の目を誤魔化せると思わないで!!」

 

折紙は光り輝く翼を使用し、士道の放ったドラゴンショットをさらに高く飛び上がる回避した………しかし、彼のドラゴンショットは一度避ければそれで終わるような一発芸ではない!

 

「―――上がれッ!!」

 

士道が放ったドラゴンショットに念じるように左腕を天へと掲げると、ドラゴンショットは方向を変え、回避した折紙を追いかけるように向かっていく!!

 

「が………はっ!」

 

突然方向転換をしたドラゴンショットに、折紙の反応は僅かに遅れ、士道の放ったドラゴンショットは見事に命中する!!

折紙の体勢が崩れたことで、士道は更に追撃する!!

 

「もらったッ!!おおおおおおおおおおおおおッッ!!」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!!!!!!!』

 

倍加を行うことで籠手の宝玉は輝きを放ち、背中のブースターからは勢いよくエネルギーが放出され、大気を切り裂く勢いで士道は拳を引き、体勢を崩した折紙を目掛けて猛進する!!

 

しかし――――――折紙も戦闘に関しては天才と称されるほどだ。この程度で倒れるほど、彼女の執念は生易しいものではない!!

 

「ッ!!『二重速攻(デュアル•アタック)モード』Set Up

!!―――『グリーヴリーフ』、展開ッ!!『ドラゴン•パニッシャー』高速収束開始ッ!!」

 

次の瞬間、折紙の持つ二刀のレイザーブレードの刃が帯状の光となり、士道を捕らえようと向かってくる。士道は籠手からアスカロンを引き抜き、更に十香の『塵殺公(サンダルフォン)』を顕現させ、折紙の攻撃を迎撃する!

 

「―――舐めてんじゃねえぞおおおおおおおおおッ!!」

 

迫ってくる二本の光を士道はアスカロンと『塵殺公(サンダルフォン)』で粉微塵に切り裂く―――が、しかし!!

目の前には、両肩の武装である二つの砲門に魔力を収束する折紙の姿が!!

折紙は兜の中にあるスコープで士道に照準を合わせ、砲撃を発射する!!

 

「撃墜せよ―――『ドラゴン•パニッシャー』ッ!!」

 

ズビィィィィィィィィッッ!!

 

士道の目には、帯状の光を撃墜した瞬間にいきなり巨大な魔力砲が現れたように見えた。

士道はアスカロンと『塵殺公』をクロスし、倍加した力を全て防御に回して放たれた魔力砲を迎え撃つ!!

 

「ぐうううぅぅぅぅ!!琴里のやつ、よくこれを喰らって肉体無傷だったな………」

 

『―――いや、全く無傷では無かった筈だ。おそらく、あの小娘は相棒の命を何度も繋ぎ止めたあの焔によって傷を修復したのだろう………この砲撃が直撃すれば並大抵の存在ではチリ一つ残らん―――この小娘は本当に何者なのだ!?』

 

折紙のドラゴン•パニッシャーは、士道の全力で放つドラゴンショットにも匹敵する威力を誇っているため、士道は徐々に後方に下がりながらドラゴン•パニッシャーの威力を殺していた。

―――だが、折紙はこの一瞬を逃さない!

 

「―――これで決める!!やあああああああっ!!」

 

背中のユニットから大量のミサイルを放出させ、さらにレイザーブレードから刃を出現させ、士道に斬りかかる!

 

「――――――っ」

 

先程まで士道はドラゴン•パニッシャーの対応をしていたが、いきなり砲撃が止み自ら斬りかかに来た折紙への反応が遅れた。

士道はレイザーブレードをアスカロンで受け止めるが、後方から迫ってくる無数のミサイルの直撃は防ぐことが出来なかった。

 

「―――ぐああああああああああっっ!!」

 

折紙が放ったミサイルは士道の禁手(バランス•ブレイカー)の鎧を破壊し、士道の体勢を崩させた。

折紙は両肩の砲門に魔力を凝縮させ、至近距離からトドメの一撃を放とうと砲門を士道に向ける!!

 

「今度こそ………今度こそ終わらせる!!」

 

折紙の魔力砲のチャージが完了し、折紙は兜の顕現装置で砲撃の照準を士道に合わせた!!

体勢が大きく崩れた今の士道にドラゴンパニッシャーを命中させることは折紙には造作も無いことだった。

 

 

 

 

………だが――――――

 

 

 

 

ゴオオオオオオオオオオオオッッ!!

 

折紙の頭上から氷の刃とともに、大気をも凍てつかせる吹雪のブレスが吹き荒れる!!

その吹雪のブレスは折紙の背中に直撃し、折紙は近くの川へと叩きつけられ、水中へと沈んでいった。

 

「―――っ!?今のは―――」

 

士道は詰んだと思っていた矢先、何者かの攻撃で危機的状況を免れた。士道は地面に追突しないように、空中で体勢を整え辺りを見渡していた。

………士道は何が起こったか理解することが出来ていなかったが、ドライグは違った。

 

『………上だ相棒。見てみろ―――最高のタイミングで援軍が駆けつけてくれたみたいだぞ?』

 

士道はドライグが述べた通り、空を見上げると―――限定的な霊装を装備した三人の勇姿が目に焼き付いた。

 

「シドー!!」「「士道さん!」」『士道くん、やっほ〜』

 

「―――十香、四糸乃、くるみん!?なんでこんなところに………」

 

三人とおまけの一匹?は士道の近くへと飛んで来た。士道の質問に十香が答える。

 

「令音から頼まれたのだ―――シドーと琴里を助けてやってほしいと………シドーも琴里も私にとっては大切な恩人だ。

助けないわけにはいかないからな」

 

十香が士道の肩に触れ、微笑みながら言った。四糸乃とくるみんも十香に続くように士道に寄り添う。

 

「えっと、あの………士道さんには、いつもお世話になっています―――私もお役に立ちたいです!」

 

「わたくしがこうして生きていられるのは士道さんのおかげですわ………士道さんが苦しんでいる時こそ、わたくしも全力で士道さんを支えますわ!」

 

三人とも士道によって救われてきた精霊たちだ。士道がいなければ彼女たちの今は無い。

彼女たちの心の支えとなっている士道を失いたくないという強い意志が危険な戦場へと彼女たちを運ばせたのだ。

士道は駆けつけてくれた三人を見つめ、こうべを垂れる。

 

「………すまん、お前たちに助けられた―――でも、これ以上は危険だ。琴里を連れて早く―――」

 

「嫌だ………嫌だ!!」

 

十香は士道の言葉を最後まで聞こうとせず、拒絶の意を示した。十香は強く怒鳴る。

 

「シドーはなぜ一人で解決しようとするのだ!?………私たちはお前にとってただ守られるだけの存在なのか!?」

 

「そ、それは………」

 

十香に強く言われ士道は言葉に困った。その時、籠手の宝玉が点滅しドライグが喋る。

 

『………夜刀神十香、ただの精霊なら相棒もお前たちの力を借りることを選ぶだろうさ―――だが、今回は相手が相手だ。完全な状態ならいざ知らず、今のお前たちでは例え束になったとしても、あの鎧を纏った鳶一折紙の相手は務まらん。―――五河琴里も鳶一折紙の前に無残に敗れあの様だ。

………あの女の力は既に精霊を遥かに超越している――――――綺麗事は言わん、お前たちでは確実に殺される』

 

「………っ」

 

ドライグが放った言葉に十香は士道を見た。士道は目を逸らし、表情を影らせていた。

………ドライグが述べたことは事実だ。現に琴里も折紙に手も足も出ずに倒された。それも、琴里の場合は十香たちとは違い完全な霊装を纏い、精霊の力を駆使したにも関わらず地に倒れ伏した。

その現実を目の当たりにされても、十香は自身の天使『塵殺公(サンダルフォン)』の柄を強く握り、ドライグに吠える!!

 

「覚悟の上だ―――私たちの力が及ばないのであればシドーが琴里を救出までの間、私はシドーの盾となる!!士道に襲いかかる攻撃は私が全て食い止める!!」

 

十香に一心の迷いも無かった。十香の言葉に四糸乃とくるみんまでもが首を縦に振った。………元より彼女たちはそのつもりでこの戦場に来た。自分たちが全ての攻撃を受け朽ち果ててもそれで良いと………ただひたすらに時を稼ぐために。

それに………と十香は言葉を続ける。

 

「………ひとつだけ鳶一折紙を無力化する策がある。それにはシドーと狂三が力を合わせればそれは成就するだろう―――私と四糸乃でそれまでの時間を稼ぐ―――シドー、ドライグ、私たちを信じてくれないか?」

 

士道は「冗談じゃねえ、そんなもの俺は認めないぞ!!」と大声で否定をするが、十香たちの迷いのない覚悟にドライグは言った。

 

『………ならば鳶一折紙はお前たちに任せよう。―――相棒が五河琴里の霊力を封印するまでの間、なんとか持ち堪えてくれ………最後に一つだけ追加しておこう―――死ぬことは許さん、全員生きてあの家に帰る。それ以外を俺は認めん!』

 

「おう!」「………は、はい!」「ええ、承りましたわ」

 

精霊たちが勢いよく返事をしたその時―――

 

ドオオオオオオオオオオッッ!!

 

十香が最後まで言おうとした―――その時、付近の川の水が渦巻き、渦の中心から巨大な銀色に輝く柱が現れる!!

………少しすると銀色の柱が消え去り現れたのは、予想外の不意打ちを受け憤怒の表情で顔を歪めた折紙が空中で鎧を纏った状態で空中に浮いていた。

 

「邪魔をするなら貴方達も一緒に屠る。………精霊という人類悪は今日この時を持ってこの世から消し去る!!」

 

カアアアアアアアアアッッ!!

 

折紙の言葉に、彼女の神器『白龍皇の(ディバインディバイディング•)輝銀鱗装(シルバードラゴニックユニット)』が神々しい光を発生させ、折紙の力を限界まで引き上げる!

………それは、燃え尽きる瞬間に凄まじい輝きを放つ流星のごとく、土壇場で折紙は恐ろしいまでの力の解放を見せた。

折紙は翼を広げ、レイザーブレードから刃を引き抜き、士道たちを目掛けて斬りかかる!!

 

「チッ、何処にこんな力が………お前ら、早く逃げ―――」

 

ガギィイィィンッ!!

 

士道が早く逃げろと言う前に十香が『塵殺公』で折紙のレイザーブレードを受け止める!

折紙から放たれる圧倒的な魔力と力に十香は吹き飛びそうになるも、今あるだけの霊力を駆使して懸命に攻撃を受け止めた。

 

「―――ここは私と四糸乃に任せろ!狂三、シドーを頼むぞ!!」

 

「ダメだ十香、四糸乃――――――」

 

士道が全てを言う前に狂三が士道を連れて折紙から離れる。

それを見た折紙は士道を追うが、四糸乃が『氷結傀儡』のブレスで折紙の進路を妨害!!

腕の中で暴れる士道にくるみんは優しく言った。

 

「………士道さん、少しは十香さんたちを信じてあげてはどうですの?十香さんも四糸乃さんもそう簡単にやられはしませんわ―――それに、士道さんが今すぐにすべきことは琴里さんの霊力の封印ですわ。………あまり時間をかけてしまうと十香さんも四糸乃さんも危ないですわよ?」

 

「………………」

 

くるみんの言葉に士道は沈黙した。確かに優先すべきは琴里の保護だ。今の琴里は意識がない。折紙や士道の流れ弾が当たってしまえば死に直結することも考えられる。

士道は一度深呼吸をし、冷静さを取り戻した。

そして、くるみんに尋ねる。―――例の作戦とやらについて。

 

「………くるみん、教えてくれ―――折紙を()()()()()()する方法を。

俺は折紙を倒したくはない―――できればあの鎧だけを引き剥がしたい!折紙は俺の友達だ、何を犠牲にしてでも俺は折紙を殺したくはない!!」

 

それは士道の心の叫びだった。―――例え妹を狙われようが士道にとって折紙が友達だいたいと願っている。そしてその友達を自分の手で葬ることは絶対に避けたい………

だからこそくるみんの言った言葉に士道は賭けるしかなかった。

それを聞いたくるみんは話し始める。

 

「折紙さんを無力化する方法………それは―――」

 

くるみんは「きひひひひひひひひひ」と笑いながらその方法を士道に告げた。

 

 

 

 

 

 

―――◇◆―――

 

 

 

 

 

 

 

士道が琴里の救出に向かっていた頃、白龍皇の力を纏ったASTの鳶一折紙と精霊たちの激闘はさらに激しさを増していた。

士道に霊力を封印されまともな力を払うことのできない十香と四糸乃が相手でも折紙は手を一切緩めなかった。

背中のユニットを展開させ、翼が光り輝く!!

 

「―――くたばれッ!!」

 

背中のユニットからミサイルを放ち、十香たちを攻撃する!!迫り来るミサイルに、十香と四糸乃は迎撃に追われる!!

 

「このっ!!」「………怖くは、ありません!」

 

十香は『塵殺公(サンダルフォン)』を振るい、ミサイルを破壊し、四糸乃は向かってくるミサイルを巧みに避け、ミサイル同士で衝突させて凌いでいた。

―――だが!!士道を一時的に無力化した『ディバイディング•ミサイル』だ。破壊した十香の力は弱まり、背中にミサイルが着弾する!!

 

「ぐうあっ!―――ッ、まだだ!!」

 

背中にミサイルを受けた十香だったが、『塵殺公(サンダルフォン)』を力強く握りしめ、斬撃を飛ばす!!

墜落しなかったどころか、予想外の反撃に折紙は体を逸らして攻撃を躱す!

 

「―――ッ!!死に損ないの分際でッ!!」

 

折紙は砲門に魔力を溜め、十香にドラゴン•パニッシャーを放とうと照準を合わせる!

―――だが、敵は一人だけではない!!

 

「士道さんの………邪魔は、させませんっ!」

 

ゴオオオオオオオオオッッ!!

 

四糸乃の『氷結傀儡(ザドキエル)』が吹雪のブレスが折紙に直撃し、砲撃を妨害する!!

………十香も四糸乃にただ支えられる存在ではない、彼女たちは自分たちを救ってくれた士道を守る為に果敢に目の前の強敵へと立ち向かう!!

 

「―――あなた達に構っていられる余裕はない!!死ねェェェェェェェッッ!!」

 

折紙は肩、翼、背中の全砲門を開き、ミサイル、ドラゴンパニッシャーのフルバーストを解放した。

折紙のフルバーストが十香と四糸乃に襲いかかる!!

 

「あああああああああっ!!」「きゃあああああああっっ!!」

 

折紙の攻撃は十香と四糸乃に命中し、おびただしい爆炎が辺りを包む!!折紙は全力の攻撃を放ち、肩で息をしていた。

これで自分の悲願が一つ成就したと折紙は考えていた。

―――“自分は精霊を殺すことができたのだ”と………

 

 

だが――――――

 

 

「―――っ!?」

 

背後から爆炎を真っ二つに切り裂く一刃の斬撃が折紙に迫る!!折紙はレイザーブレードでその斬撃を後方に受け流した。

斬撃が飛んで来た方向を向くと、予想とは違いほぼ無傷に近い状態で二人の精霊の姿を確認した。

 

「………そんなバカな―――ドラゴンパニッシャーが直撃したはず………なぜ!?」

 

折紙はこの現実を受け入れることが出来なかった。

()()な精霊である五河琴里を撃退した必殺の一撃が、二人とはいえどもなぜ()()な精霊を打ち滅ぼす事が出来なかった”のかと………

 

これの答えは至って簡単だ。十香と四糸乃は協力して折紙の攻撃の威力を殺した結果、二人ともほぼ無傷ということだ。

命中する前のほんの一瞬の間に、四糸乃は自分と十香を守る為に周囲に球状の豪雪を発生させた。かつて士道が攻略した絶対零度の要塞を再現させて。

しかし、士道に霊力を封印された四糸乃ではあの時ほどの強度は発揮できない―――それゆえに、十香が体内にある霊力をを四糸乃に供給しそれを完成させたのだ。

 

ちなみにもう一つ要因があり、それは折紙の力が既に限界に来ているということも大きい。あれほどの大技を何度も連発されば消耗する。消耗の大きいドラゴンパニッシャーなら尚更だ。

何度も同じ威力で放出することは不可能だ。それも全力ともなれば、なら尚更だ。

 

動揺している折紙に十香は『塵殺公』を突きつけ、一言述べた。

 

「………貴様には教えてやる道理はない。貴様をシドーの元へ行かせはしない!」

 

「絶対に、行かせません!士道さんと、琴里さんの、ため………にも!」

 

十香も四糸乃も限界が近づいていたが、それでも退くことを選ばなかった。折紙は歯をギリギリと鳴らし、憤怒の表情を浮かべ、獣のごとく雄叫びを上げる!!

 

「あああああああああああああああ!!!!」

 

折紙は怒りのままに精霊へと猛進した。彼女は止まらない―――例え全てを失うことになっても止まりはしないだろう。それだけ彼女はこの一瞬を夢見てきたのだから。

精霊を殺すというこの一瞬のために………

 

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

「琴里、琴里っ!!」

 

士道は赤龍帝の鎧の中にある翼を広げ、くるみんと共に琴里のところへと急行した。体に外傷はないが、霊装は殆どが焼け焦げ悲惨な姿になっていた。

 

「………お、おにー、ちゃん………」

 

士道の声が聞こえ、動かない体を無理やり起こそうとする琴里。それを見た士道は優しく琴里に触れ、「そのままでいい」と琴里を抱きしめた。

 

「悪かった、こんなに遅くなっちまって………生きててくれて本当に良かった。

………琴里、好きだ!大好きだ!!これからもずっと俺と一緒にいてくれ!俺が絶対に守るから!!」

 

「うん………うん!私も大好きだよおにーちゃん!世界で一番愛してる!」

 

士道が言った言葉に、琴里は涙していた。そして、琴里は士道にずっと胸の内に秘めていた想いを伝えた。

 

 

そして………二人の距離は完全にゼロになった。

 

 

「ありがと………おにー、ちゃん」

 

士道が琴里から唇を離すと、琴里の身を包んでいた霊装は光の粒子となって消え、士道の体内に記憶と共に何かが入り込んできた。一つは琴里の精霊としての力。もう一つは五年前の忘れていたあの記憶だ。

琴里は霊力を士道に託すと再び意識を手放した。

再び意識を失った琴里をくるみんがおぶった。

 

「い、今の記憶―――もしかして!?」

 

士道が入りこんで記憶を推理していた時、巨大な力を放った何かが近づいて来るのを察知した。

それと同時にくるみんが叫ぶ!

 

「士道さん!!」

 

くるみんが叫ぶと同時に士道も迫り来る強敵に準備を整える。兜を復元し、迎撃に備える!

 

「―――ああ、任せろ!!」

 

士道は迫って来る巨大な力に意識を集中させる。迫って来るのは『白龍皇の(ディバインディバイディング)輝銀鱗装(•シルバードラゴニックユニット)』を纏った折紙だった。

折紙はレイザーブレードを突き刺すように持ち、狙いは琴里とくるみんを目掛けて猛突進!!

くるみんと琴里を守らんとその前に士道が立ちはだかる!!

 

「―――死ねええええええええええええ!!!ナイトメア、そしてイフリートおおおおおおおおおおおお!!!」

 

折紙が突き出したレイザーブレードが琴里とくるみんに迫る!!

 

しかし――――――

 

ザシュッ!!

 

「―――ゴハッ!!」

 

折紙のレイザーブレードが貫いたのは、琴里でもくるみんでもなく士道だった。彼女たちの前で仁王立ちをしていた士道の腹部を貫いたのだ。

貫かれた士道の腹部からは夥しい量の血が溢れ出る。

 

「――――――そんな………どう、して………」

 

折紙は貫かれた士道を見て自然と訪ねていた。―――彼女には理解できなかったのだ………なぜ士道がそこまでするのかということを。

士道は口から血の塊を吐き出しながらも、答える。

 

「………どうしても、こうしてもないぜ―――ガハッ!?妹を助けることに、論理的な理由なんて要らねえだろうが、よ………っ!!」

 

………彼にとっては誰かを守るのは当たり前のことだ。その結果自分が命を落とすことになったとしても、彼は後悔はしない。

それが彼の―――五河士道という人物が歩んできたストーリーはこれまでもその連続だったから!!

 

「―――ッ!!」

 

折紙は動揺しているところに士道に左手で両腕を掴まれ、身動きが取れなくなる。士道は折紙を見て強く言った。

 

「………待ってたんだよこの時を―――お前が身動きができなくなる、この時をなッ!!」

 

士道の言葉と共に、士道の左目に変化が現れる!!士道の左目が十二個の小さな文字と大小の針が現れた。

そう、士道の左目は最悪の精霊―――『ナイトメア』、時崎狂三のように………そして、背後に巨大な時計が文字盤が現れた―――そう、封印した()()()()の天使『刻々帝(ザフキエル)』だ。

士道は右手に短銃を握りしめ、その天使の名を謳う!!

 

「『刻々帝(ザフキエル)』―――【三の弾(ギメル)】ッ!!」

 

文字盤の『III』の文字から士道の持つ短銃へと力が注ぎ込まれる!!

 

「―――離せ、離せええええええええええええ!!!」

 

折紙はすぐに両腕の拘束を解こうと腕を振るうが士道の拘束を振り払うことが出来ない!!

彼は全身全霊をもって折紙の両手を拘束している!それは決して簡単に振りほどけるものではない!!

 

「………これで終わりだ!!お前に、誰も、殺させはしない!!」

 

パァン!!

 

士道が放った弾丸は折紙に命中し、折紙の武装は地面へと崩れ落ちた。

 

 

 




まさかの来年の一月からデートアライブの三期が開始するみたいですね。

ようやくアニメ版の七罪ちゃんが見れるようになりますね♪嬉しい限りです。

七罪編はまだまだ先になりますが、描けるように頑張ります!

次回でフィナーレです。今月中に投稿できるように頑張ります!!


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十話 絶対に譲りません!!

この話で『琴里クラッシュ』はフィナーレです。

番外編を二話挟んで五章は活動報告にも書いた通り、オリ章『六華クライシス』へと突入したいと思います。

※気がつけばこの小説のお気に入りも400件に到達しました。
読者のみなさま、ご愛読ありがとうございます!


 

 

「………終わったか」

 

折紙に『刻々帝(ザフキエル)』の三番目の弾丸【三の弾(ギメル)】を使用し、彼女の神器『白龍皇の(ディバインディバイディング•)輝銀鱗装(シルバードラゴニックユニット)』を粉砕した士道は、一息ついた後に腹部を貫いたレイザーブレードを引き抜き、地面に突き刺す。

 

「ぐっ………ガハッ!?」

 

「―――士道さん!!しっかりしてくださいまし!!」

 

士道は引き抜いた時の激痛で血を吐き、地面に膝をついた。それを見たくるみんはすぐに士道の側に駆け寄ろうとするか、士道が手を出してくるみんを制した。

 

「………大丈夫だよ、くるみん。すぐに治る」

 

士道が述べると同時に、腹部から焔が這い傷を癒していく………士道の腹部に空いた穴は瞬時に消えた。

その瞬間を見た折紙は驚愕のあまり口が塞がらなくなる。

 

「………っ。士道、何故あなたがその力を―――」

 

折紙は限界を迎え、地に這いつくばる形で士道を見ていた。

士道は折紙を見て話し始めた。

 

「折紙、聞いてくれ―――お前の両親を殺したのは琴里でもなければイフリートでもない。………五年前、お前の両親を殺したのは()()()()だ」

 

「―――ッ!」

 

いきなり士道がいきなり述べた言葉に折紙は動揺のあまりカタカタと体を震わせていた。が、しかし!次の瞬間折紙は震えながらも叫んだ。

 

「―――信じられない………五年前の火災は『イフリート』のせいで起きたもの!その時に私の、両親を………!」

 

「ああ、五年前の天宮市の火災は琴里が霊力を暴走させちまったせいで発生した。それは事実だ―――でも!!琴里は自分の意思でそんなことはしていない!!

それに、あの辺りには俺と琴里の他にその『別の何か』しか居なかった!琴里をそんな目に合わせたのはその別の何かに精霊にされた―――もしかしたらそいつがお前の両親を………」

 

「………………」

 

士道の言葉を聞いた折紙は少しの間黙り込んだ。―――彼女の頭の中では、“士道が嘘をつくはずはない”という思いと、“けれどその話は信じられない”という二つの思いが彼女の心中を支配していた。

 

「俺が琴里を守るために偽装した作り話だとお前が思っていることも理解している。今言ったことを証明できる確かな証拠を俺はお前に提示してやることも出来ない―――だから俺がそいつを必ず見つけ出す!!

その場凌ぎにしかならない空想のお伽話かも知れない―――でも頼む!俺を信じてくれ!!」

 

「………ッ!!こんな、ところで―――私は止まっては、いられない!!」

 

士道は両膝をついて折紙に頭を下げた。………しかし、折紙はホルスターから対精霊用の拳銃を取り出し、琴里をおぶっているくるみんへと―――いや、正確にはくるみんがおぶっている琴里へと銃口を向ける!!

限定的な霊装を纏っているくるみんでも、対精霊用である拳銃なら致命傷を負わせることは可能だ。

―――ましてや、霊力を失い、意識を失っている琴里に命中すれば琴里の首から上が吹っ飛ぶことは必定!!

それを見た士道は慌ててくるみんの前で仁王立ちをする!

 

「お願いだ折紙、俺から琴里を奪わないでくれ!!琴里はもう普通の人間なんだ!!………琴里がいなければ、俺はもうこの世にはいなかった。あいつがいたから今の俺があるんだ!」

 

「………………」

 

士道が全力で叫んだ思い虚しく、折紙は目を鋭くして対精霊用の拳銃を握る手に力を込める!!

―――折紙は拳銃の引き金を引くつもりなのは誰が見ても明らかだった………

 

「………分かった。それなら仕方ない」

 

士道は瞑目し、天を仰いだ。折紙の様子を見た士道は、彼女を信じさせる言葉を………彼女の信頼を勝ち取ることは出来ないと悟ったのだ。

赤龍帝の鎧を解除し、再びくるみんと琴里の前で両腕を広げた。

 

『何の真似だ相棒、本当に死ぬぞ!?』

 

「―――士道さん、いけませんわ!!」

 

ドライグとくるみんが叫ぶが士道は再び鎧を纏おうとはしなかった。

 

「………どうしても俺が信じられないなら、その拳銃で俺を撃ってくれ―――今は、俺が炎の精霊『イフリート』だ。俺を殺す事で折紙の心の傷が少しでも癒されるのであれば―――それでいい………」

 

「私は―――私は………っ!!うわあああああああああああああ!!!」

 

折紙は士道に怯えるように叫び声をあげ………そして―――

 

 

 

 

 

 

 

ズドンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

―――銃口の中の弾丸を解放し、その弾丸は風を切り裂きながら士道へと迫った。

 

(―――俺の命もここまで、か………)

 

銃弾が放たれる音が聴こえると同時に、士道は覚悟を決め、目を閉じた。士道はこれでいいと満足そうに。

くるみんと琴里さえ助かるのであれば、これ以上望むことはない………自分を屍を両親の仇として踏み越え、折紙が笑顔になってくれるのであれば、それは願ってもいないことだ………と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが――――――………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ッ!!」

 

痛みを感じたが、自分の中で感覚が生きていることを感じ取った士道は加減に思い、目を開けた。

体に穴も開いていなければ、頭も吹き飛んではいなかった。

ふと振り返れば、くるみんも琴里も無事だった。

 

………そう―――折紙が放った弾丸は、士道の頬を掠れて遥か彼方へと消え去った。

―――折紙には出来なかったのだ………士道の命を奪うことなど、最初から………例え()()()()ということが分かっていたとしても。

………四月に十香を狙撃したあの時、士道を撃ち抜いてしまった時、彼女は身を切り裂くような後悔に囚われた。

―――“私はこの手で士道を殺してしまったのだと………”

その後に十香が自分に向けた目を見て、彼女は『両親を奪われたあの時の自分と同じ目をしていた』と思った。

―――自分も精霊と同じところまで堕ちてしまった………

しかし、士道は心臓を貫かれたが、何事もなく生き返った。けれども、数ヶ月の時が経過した今でも、士道を傷つけてしまった事実は消えることなく折紙の心の中にトラウマとして残っている。

故に出来なかったのだ。二度も同じ形で自分の想い人を葬ることなど………

 

「………………」

 

「折紙―――おい、折紙!!」

 

折紙はその後、肩で息を数回した後―――力なく地面に倒れ伏した。士道は折紙を救護した後、フラクシナスの迎えが到着し、士道たちは回収された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――◇◆―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、あら………わたくしの出番はございませんでしたわね………」

 

天宮市の商店街の路地裏で、赤と黒がメインのドレスのような衣装に身を包んだ一人の少女がいた―――最悪の精霊『ナイトメア』と名高い、狂三だ。

人間から時間を吸い上げる狂三の天使『刻々帝(ザフキエル)』ともう一つの代名詞―――『時喰(ときは)みの(しろ)』を広げ、彼女の力の源である【時間】を人間から吸い上げていた。

 

狂三はこの前の士道との激闘で多くの力を使ったにも関わらず激闘に敗れ、命からがら戦場から逃げ出したのだ。

今行なっているのは、士道との戦いで失った【時間】の補充だ。

 

「まさか士道さんがわたくしの『刻々帝(ザフキエル)』を使用するとは夢にも思いもしませんでしたわ………まあ、あの出来損ない(くるみん)の差し金なのは間違いありませんでしょうけど」

 

―――これを聞いたら士道が激昂するのは間違いないだろう。士道の眼前でくるみんを出来損ない呼ばわりしようものなら、彼は一切の慈悲をかけることなく本気で殺しにかかることは、必定だ。

狂三は士道と折紙の激闘の結末を見て下品な笑みを浮かべ、笑い始めた。

 

「きひ、きひひひひひひひひひ!士道さぁ〜ん、これで終わったなぁんて思わない方がよろしいですわよぉ?

折紙さんを破った方法が自分の首を絞める結果につながるなぁ〜んて夢にも思っていませんわよねぇぇぇぇ!

きひひひひひひひひひひひひ!!」

 

………狂三は十香、四糸乃、琴里の三人の精霊の中ではとりわけ知識が高い。

狂三は士道と折紙の激闘の中で、士道の攻略法を見出していた。―――【三の弾(ギメル)】は士道相手にも効力を示すと!!

 

「きひ、きひひひ、きひひひひひひひひひひひひひ!!次こそあなたが体内に封印したその霊力―――ちょぉだいしに参りますわよォ〜!!」

 

追い込んだ獲物を見て馬鹿笑いをするように、狂三は下品な笑みが止まらなかった。

………そんな時に、事件は起こった。

 

「―――まったく、見た目はいいのにこれがあるからねぇ………」

 

狂三しかいないはずの路地裏に男性のものと思われる声が響き渡る。狂三は警戒し、短銃と歩兵用の銃を両手に構える。

 

「―――誰、ですの………!?」

 

狂三が路地裏の影の部分に歩兵銃の銃口を向ける。そこから現れたのは、水泳帽を頭に被り、目をゴーグルで隠して服装は海パンとサンダル!そして、男なら誰でも憧れる細マッチョボディの男が現れた!!

水着で街中を歩いていたと思われるその男は―――言うまでもなく変態だ!!

その変態の名は―――次元の守護者ソロモン!!

 

「………やあ、はじめまして―――時崎狂三ちゃんで良かったかな?

この僕こそは、通りすがりの魔法使いというものです、ハイ」

 

「………………」

 

ズドンッ!!ズドドドドドドドドドドドッッ!!

 

いきなり現れた水着姿の変態(ソロモン)に無言で銃弾を乱射!!

ソロモンは見事なダンスを踊り、銃弾を避けて避けて避けまくる!!

 

「あー、手厚い歓迎ありがとうございます♪―――ホワーチョーッ、タタタタタタタタタタタタタッ!!」

 

狂三は、これ以上この変態に関わりたくないと、背後に文字盤を出現させ、文字盤の『VII』から狂三の短銃に霊力が注ぎこまれる!!

ソロモンはまるで百裂拳―――失礼百烈脚を刻むように凄まじい速さの高速ダンスを披露している!!

 

「―――タタタタタタタタタタタタタタタタタタタッッ!!」

 

ソロモンはいまだにダンスを止めようとはしない!!

これが女性―――それも巨乳の持ち主が水着姿でダンスをしているのであれば、士道くんのような変態は大喜びだ!!それはもう眼福の一言だろう、いい目の保養となるからだ!!

―――が、しかし!!それをソロモンのような男性が水着姿でやるもんだから、誰得なのよこの企画となるだろう―――今のソロモンはもうとにかくキモい!キモすぎる!!

 

「………『刻々帝(ザフキエル)』―――【七の弾(ザイン)】」

 

これ以上は見るに堪えないと感じた狂三は、被弾した相手の時間を止める『刻々帝(ザフキエル)』の秘奥【七の弾(ザイン)】を放つ!!

―――【七の弾(ザイン)】は他の弾と比べ使用時の霊力が多いのだ。『時喰(ときは)みの(しろ)』で外から補充した【時間】を切り崩すことになったとしても、目の前の変態の排除を選んだのだ!!

狂三は文字盤の『VII』の文字から霊力が注ぎ込まれた短銃の引き金を引く―――全ては目の前の変態を排除するために!!

 

ズドンッ!ズドンッ!!

 

狂三が引き金を引き、弾丸がソロモンを目掛けて迫る!!狂三が放った弾丸は二発ともソロモンに命中し、ソロモンの周りを靄が包む!!

 

だが――――――!!狂三は自分の目が捉えていた光景を疑うことしかできなかった………狂三の視界内には、【七の弾(ザイン)】が命中したにも関わらず、未だにダンスをしているソロモンの姿が!!もういい加減やめて下さい!!

 

「―――タタタタタタタタタタタタタッ!!」

 

狂三は、眼前のカオスな光景にやられたのか、ようやく正気に戻り、ソロモンに訊ねる!!

 

「こ、こんなことが………………信じられませんわ!!あなた一体何者なんですの!?」

 

「―――いやいやいや!それを最初に聞こうね!?僕に『バレットサンバ』を踊らせる前に!!」

 

―――ソロモン殿、ごもっともな意見であります。狂三は歩兵銃と短銃を下ろし、ようやくソロモンの話を聞くことを決めた。

狂三の様子が変わったことを確認したソロモンは、大きく息を吸い―――盛大にくしゃみをする!!

 

「ふぇぇぇぇっくしょぉぉぉいい!!」

 

「なっ――――――」

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオッッ!!

 

ソロモンは一度のくしゃみだけで狂三の【七の弾(ザイン)】の効力を吹き飛ばして見せた。

くしゃみだけで凄まじい突風が巻き起こり、路地裏のコンクリートにヒビが入った。

狂三はソロモンを見て瞬時に悟った―――“まともに戦っても勝てる相手ではない”と。

 

………狂三の記憶では自身の天使、『刻々帝(ザフキエル)』がまともに通用しなかったのは、士道の他にもう一人の存在しかいない。

それも【七の弾(ザイン)】を完全に無力化したのは、このソロモンが最初だ―――故に眼前のソロモンはこれまでに自分が対峙してきた相手とは次元が違うと………瞬時に悟ったのだ。

 

「ふぃぃぃぃ………あれ、もうおしまいかな?それとも、ようやく話を聞いてくれる気になったのかな?」

 

「―――手短に済ませて下さいまし。わたくし、こう見えても余計なことに費やす時間はありませんのよ?」

 

狂三は一秒でも早くこの変態から解放されたいようだ。ソロモンはそんな狂三の様子を見て説明を始めた。

 

「いやいや、僕もそんなにお時間をとらせる予定はないよ。狂三ちゃんも忙しいようだし、手短に済ませようか。

僕がキミのところに来たのは警告しに来たんだよ―――もう士道くんには関わらない方が良い。例えキミじゃあ士道くんには逆立ちをしたって勝てやしないんだから………力はもちろん、心でもね」

 

「―――ッ!!」

 

ソロモンの言葉を聞いた狂三の表情が激変する!!先ほどまで狂三は面倒くさそうな表情を浮かべていたが、今では苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、完全に我を失っている!!

それでも、狂三は冷静さを保ちながらソロモンに答える。

 

「あら、あら………よりにもよってそんな戯言を述べるためにこんな場所までやってきたんですの?

………ご苦労さまなことですわね。残念ながら士道さんを叩き潰す方法なら既に―――」

 

狂三が全てを言う前に、ソロモンは話し始める。………何を言っても信じようとしなかった狂三を見てソロモンは哀れに思ったのか、御構い無しでソロモンは強行する。

 

「―――自信満々のところ悪いんだけどね、時間を操ることしか能の無い天使では彼を殺すことは不可能だ。

残念ながらキミが今考えている『彼が鎧を纏った瞬間に【三の弾】を撃ち込み彼を数時間先の時間へ()()()()()()()()()()()()()』―――確かに、制限時間付きの相手への対処法としては、悪くないやり方だ。

………しかし、士道君ほどの相手ともなるとそう上手くはいかない………いや、そのやり方ではむしろ―――彼を()()にしかねない」

 

ソロモンは路地裏のコンクリートにもたれながら狂三に言った。今のソロモンの言葉は狂三に思うことがあったのか、目を細めソロモンに真意を問う。

 

「それは―――どう言う、ことですの?」

 

「言葉の通りさ。彼は仲間を守るためならどんなことでもやる―――それこそ、世界を滅ぼす覇の理にさえ手を伸ばすかも知れないしね………そんなことになれば天宮市はもちろん、運が悪ければこの国自体が終焉を迎えることになるかもしれない。

―――この世界で彼ほど世界を動かす可能性を秘めた人物は存在しない………そんな彼を覇王にするようなことをキミがしようものなら、その時は――――――キミを完全にこの世から消滅させるから、そのつもりで」

 

「………っ!!」

 

ソロモンの最後の言葉を聞いたとき、狂三は返す言葉を失い身体中から嫌な汗が噴き出た。………それは純粋な恐怖によるものだ。

このソロモンには最強の弾【七の弾(ザイン)】ですら碌な効力を発揮しなかった。故に現時点で勝てない相手だということがわからないほど、狂三もバカではない。

 

「………それじゃあ僕はこの辺で失礼しようかな。バカなことはしないで、残りの人生をエンジョイしたまえ若人よ。

あ、そうだ最後にこれを言っておかないとね―――失った命は何をしても帰っては来ない、例え歴史は改変したとしてもね。改変の結果発生する矛盾を無くすための修正が施されるものなんだ………くれぐれも覚えておいてくれたまえ、ハッハッハッ!」

 

最後に意味深な発言を残してソロモンは狂三に背中を向け、手を振りながら光が照らす表の世界へと消えて行った。

狂三は手の中にある銃を強く握りしめ、一言だけ漏らした。

 

「………わたくしは、絶対に諦めませんわ。諦めることなんてできませんわ!

わたくしはどれだけの屍を積み重ねても士道さんの力を手に入れる………そして―――」

 

光の当たらない路地裏で狂三はボソッと言った。彼女が血で手を汚し、屍を増やしてでも望むことそれは一体………

 

 

 

 

 

 

―――◆◇―――

 

 

 

 

 

 

フラクシナスで回収された士道は、が向かったのは医務室だ。

………琴里の霊力を封印する間、十香と四糸乃の二人は、自分の実力を大幅に上回る折紙の足止めをしてくれた。

折紙は精霊を強く憎んでいるため、二人に手加減をせずに全力で殺しにかかるだろうと考えていた士道は、十香と四糸乃の二人の容態が気が気でなかったが、二人とも奇跡的に軽傷で済んでいた。

令音が言うには「………明日になれば傷は完治する」とのことだ。士道はホッと胸を撫で下ろし、十香と四糸乃の二人に感謝をしたのだ。

 

ちなみに琴里はまだ眠っていた。傷は完全に塞がっているため、しばらくすれば眼を覚ますそうだ。

気持ちよさそうに眠っている妹を起こすのも悪いと思ったのか、士道はそっとしておくことに決めた。

 

『………まったく、運のいい奴らだ―――アルビオンの力を纏った鳶一折紙を相手にしてよくこの程度で済んだものだ。

例え無事でも手足の一、二本は消されると思っていたのだがな………』

 

ドライグも十香たちの容態を見て言葉を漏らした。本当にその通りだ、十香は医務室で神無月が買ってきた、きな粉パンをムシャムシャと頬張り、四糸乃はよしのんとお喋り中だ。

 

「んぐんぐ………きな粉パン、きな粉パン!」

 

『ああ〜、十香ちゃん。そんなにがっつくと喉に詰まらせちゃうよ?

んまあ、そうなった時はよしのんが頭突きをしてあげちゃうよ〜♪」

 

「………よしのん、それはダメ!」

 

―――この通り、フラクシナスの医務室は見事に平和だ。ちなみに、よしのんの頭突きは士道の鎧を破壊するほどの威力を誇る。

 

………事の発端は士道が四糸乃から、Bサイズ80cm以下の女性から放たれる乳気(にゅうき)『ロリニュウム』の吸収をしようと四糸乃を抱きしめて深呼吸をしていた時だった。

よしのんが悪ふざけで士道のお腹に頭突きをした時、士道が四糸乃の部屋の壁をぶち破って遥か彼方へと吹き飛んでいった。

四糸乃の部屋は精霊専用の特殊住居なため、他の建築物の数千倍の強度を誇るにも関わらず、壁が崩壊したのだ………

その時、士道は肋骨の十数本を複雑骨折し、ドライグも『よしのんの頭突きは禁手(バランス•ブレイカー)の鎧ですら破壊する威力だぞ………』と若干ヒキ気味で解説したほどだ。

当然ながら並の人間にそれを行えば、当たりどころが悪ければ即死なため、四糸乃はよしのんの扱いを厳重に注意するようになった。

 

………まさに、殺戮パペットよしのん、ここにあり!である。

 

「………でも、大変なのはむしろここからだよな」

 

―――話が脱線してしまい、申し訳ない。

士道は十香たちから目を離し、天井を見つめて言った。ドライグもそれに頷くように左手の甲から言葉を発する。

 

『―――ああ、不安要素が完全に消えたわけではない。いつまた鳶一折紙が奇襲を仕掛けて来るやもしれんし、謎のノイズ『ファントム』に、最悪の精霊『ナイトメア』。そして、これからまた新たに現れる精霊か………俺たちの日常とはイベントが事欠かないものだ』

 

ドライグは皮肉げに毒を吐いた。士道も「仕方ねえよ、それが俺たち赤龍帝の本質みてぇなもんじゃねえか」と諦め気味に返していた。

医務室から退出して、艦橋を目指して歩いていた時、一人の女性が士道に声をかける。

 

「………シン、今日は本当に良くやってくれた―――心から感謝を」

 

その女性とは令音だ。いきなり令音が頭を下げたことに士道は慌てて令音を止める。

 

「そんな、頭を上げてください!俺は当然のことをしたまでです!折紙が乱入するアクシデントこそありましたが、令音さんの判断で十香たちが来てくれなければ、俺は折紙を殺していたかもしれません―――感謝をしなければならないのは俺の方です」

 

士道が令音の方に触れ、強引に元の姿勢へと戻させた。

―――確かに令音の判断で十香たちが来ていなければどうなっていたかは分からない。あのまま勝負がつくまで決闘が続いていた可能性もある。

十香たちも軽傷を負ったが、奇跡的に死傷者はゼロ―――結果的には十香たちを寄越した令音の判断が最善だった筈だ。

 

「………そう言えば、何で琴里の霊力の封印はうまく言ったんでしょうかね?

最初のアレは勢いに任せてやったら結果は成功でしたけど、理由がわからなくて………」

 

士道がボソッと疑問に思っていたことをそのまま話すと、令音がフラクシナスのモニターで琴里の好感度を示したデータを表示した。

琴里の好感度は常に最高値が維持されてあり、ところどころ線が消えている部分があった。

 

『………やはりか』

 

ドライグは答えに辿り着いたようだが、士道は違った。

 

「『………やはりか』じゃねえよ!!線が消えてるって事はこの辺は好感度がガタ落ちしたって事じゃねえか!!これじゃあ何で成功したか不思議で不思議で仕方ねえよ!!」

 

士道の疑問に令音が簡潔に答える。

 

「………ああ、その辺りはMAXの値を超えていたんだ。だから表示されないんだ―――カンストと言う言葉が一番正しい。

………琴里のキミへの好感度は常にMAXを維持し、下がるどころか時々上昇していたんだよ」

 

「………ん?って事はつまり―――」

 

………好感度がMAXをキープする時点で滅多にないことだろうが、全世界最高とも言えるスペックを誇る『ラタトスク』の機械ですらカンストするほどの数値を叩き出す琴里も大したものだろう。

そして―――士道もやっとこのデータを見てある真相に辿り着いた。そう、それは――――――

 

「………ああ、言っていたじゃないか―――琴里はお兄ちゃんが大好きだと」

 

令音が言った言葉で士道の考えた事は正解であったことが証明された―――しかし!!

 

「―――どおおおおおおっせぇぇぇぇぇいいい!!」

 

ドガッ!!

 

背中に何か衝撃を感じて士道は令音の胸元へとダイブする!!

倒れ込んだ士道と令音に顔から熱を放出した一人の少女がビシッと指を指す。

 

「そ、そんなこと有り得ないわ!!これはただの数値ミスよ!!」

 

―――琴里ちゃんである。士道の可愛い妹の琴里ちゃんである。琴里は士道を蹴っ飛ばし、令音の胸元へとダイブさせた。

―――色々と思いと正反対のことをしてしまうお年頃なのだ。

………俗に言う反抗期である。

 

そして、ここで問題が発生する!!令音の胸元へとダイブした士道は幸せそうな表情を浮かべ顔をさらに深く令音の胸元へ沈ませる!!

 

「―――ユートピア!!ここが俺のユートピア!!」

 

士道は琴里に蹴っ飛ばされて令音の胸元へとダイブしてしまった!!

琴里はハッ!と状況を冷静に捉える。変態兄は令音のおっぱいを堪能し始めている!!琴里は士道の服の襟を掴んで強く引っ張る!!

 

「―――っていつまでくっついてんのよ!?さっさと離れなさいよ!!」

 

「嫌だ!!嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!ここが俺のユートピア!!離れてたまるもんか!!―――お、おっぱいいいいいいいい!!令音さんのおっぱいぃぃぃぃ!!」

 

士道は絶対に離れまいと令音のおっぱいに顔を突っ込み、さらに顔を動かし、手でも触り始めた!!

 

「うっ、ううんっ………し、シン。いい子、いい子………」

 

『うおおおおおおお、うわあああああ!!うおおおおおおおんんんっっ!!』

 

離れまいと令音のおっぱいへしがみつく士道と、紅潮させながら子を可愛がるように士道の頭を撫でる令音。

………そして大泣きを始めるドライグ。

おっぱいにしがみつく士道の頭を撫でながら、令音は琴里の質問に答える。

 

「………琴里、装置に異常はなかった。これでどうやって間違いの証明を―――」

 

令音は琴里の指摘を一蹴する。琴里は令音の様子を見て不敵に笑みを浮かべ、令音に言う。

 

「今日の夕飯のメニューは激辛ハバネロカレーに決定しようかしら………」

 

「………すまないシン、きっと機械の故障だ」

 

「うへへへへへへへへ!!ユートピア、ユートピア!!」

 

琴里が夕飯の脅しをかけると、令音の言葉が一八◯度変わった。

令音さんは辛いものが大の苦手だ。まあ、それは置いておこう。真に問題なのはこの変態、五河士道だ!!

令音の胸に顔を突っ込み、幸せを全力で満喫している!!

堪忍袋の尾が切れた琴里は士道の脇腹を渾身の力で蹴り上げる!!

 

「離れろって、言ってんでしょうがああああああああああ!!!」

 

「―――ユートピアァァァァァァァ!!」

 

ドガッ!!ドオオオオオンンン!!

 

琴里の蹴り上げは、令音のおっぱいを満喫する士道を見事に蹴り飛ばし、艦橋の天井まで士道は到達した。そして、また床へと落下した。

 

「………ちっくしょう!俺は諦めないぜ!!もう一度チャレンジしてやる!!」

 

「いや、素直に諦めなさいよ!?」

 

起き上がり、もう一度令音のおっぱい目掛けて突進しようとする士道を琴里が押さえ込む!

士道は琴里に抑え込まれながらも、琴里に訊ねる。

 

「―――イデデデデデデ!!っていうか、お前寝てなくて良いのかよ?折紙に相当手酷くやられてただろ?」

 

琴里に卍固めされながらも、士道は訊いた。

琴里は士道の拘束を解除し、USBを取り出して話し始める。

 

「そうも言ってられないわ。やっと思い出すことができたのよ―――私たちを精霊にし、その記憶を操作した存在について………また記憶が消される可能性がある以上、アンタと私の頭の中だけに留めておくのは愚の骨頂、バックアップを取っておいた方が賢明でしょ?」

 

「確かに!―――でもな、今日くらいゆっくり休んでもいいんじゃないのか?無理は良くない、明日にでも―――」

 

「こういうことは出来るだけ早いうちに済ませておく方が賢明だわ………ていうか、アンタにだけは『無理するな』なんて言われたくないわよ。いつもいつも自分の命を顧みず他人を救おうとするアンタにだけはね―――まあ、善処するわよ」

 

―――ごもっともな意見である。士道も「ハハハ、手厳しいなこりゃ………」と恥ずかしそうに頭をポリポリとかいていた。

艦橋から出ようとした時、琴里が振り返らずに士道に訊く。

 

「ねえ、士道―――私の霊力を封印するときに言ったことって………………本当?」

 

士道は琴里の表情を伺うことは叶わなかったが、士道は間髪入れずに答える。

 

「ああ、大好きだぞ琴里、妹としても――――――」

 

「そっちかああああああああいいい!!」

 

琴里はくるりと向きを変え、士道の顔面を目掛けてドロップキック!!

しかし、士道は華麗に躱して琴里を空中で受け止める。

―――空中お姫様抱っこである。

 

「きゃっ!!ちょ、ちょっとなにすんのよ!?」

 

「―――ったく、最後まで聞けよ琴里………一人の()()()としても大好きだぞ!」

 

「………ッ!!!!!!」

 

士道が述べた言葉に、琴里は士道の腕の中で顔をカアアッと熱を発しながらユデダコの如く顔が真っ赤になった。

琴里は恥ずかしさと嬉しさのあまり、顎を引いて顔を隠した。

………その様子を見た士道は琴里をからかう!!

 

「お、その様子じゃあ信用されてないな―――よし!!ここは俺の気持ちが真実だと証明するために琴里のおっぱいを揉んでやるぜ!!」

 

「は、はあ!?」

 

士道の突然の言葉に琴里は慌てて顔を上げる。視界内に映ったのは、鼻の下を伸ばしスケベ面をし、下品な笑みを浮かべた士道の姿が!!

そして―――士道の右手が怪しい動きをしている!!

すぐさま琴里を立たせて背中から腕を回してパイタッチ!!

 

「ぐへ、ぐへへ、ぐへへへへへへへへへ!!うん、いいおっぱいです!!

琴里、デートん時は水着の上からだったが、今回は服の中から揉んでやるぜェェェェェェェ!!」

 

「ちょっ、やめ―――やめなさい、このド変態があああああああ!!!!」

 

今度は服の中に手を入れ始めた士道に、琴里は士道の腕の中から強引に抜け出し、空中で士道の顔面を狙って回し蹴り!!

―――しかし、士道は神速を発動し躱す!!

そして物凄いスピードで自分を目掛けてダイブしてくる変態兄の姿が!!

 

「恥ずかしがるなよ琴里ぃ〜!お兄ちゃん琴里のおっぱいは大好きだぞぉぉぉおおおおおお!!ぐへへへへへへへへへ!!」

 

「どうしてこの変態は、いつもいつもこうなのよぉぉぉおおおおおお!!!」

 

こうして天宮市の上空一五◯◯◯メートルに位置する空中艦『フラクシナス』の艦内でレベルの高い兄妹のジャレ合いは始まった。(士道がしているのは完全な犯罪である。」

両手を挙げて、下品な笑みを浮かべて全力疾走をする変態から全力で逃げ回る中学生司令官。

こうして、いつもの日常が戻ってきたのであった。

 




次元の守護者のキャラが酷い!?→次元の守護者でまともな子は一人もいません。

乳気について少し解説しようと思います。
―――乳気とは、士道くんの戦闘力に大きく影響するもので、乳気に満たされれば満たされるほど士道くんはパワーアップします。
女性から放たれる乳気は以下の通りで区分され、全てが滞りなく満たされれば士道くんは大幅にパワーアップをすることが可能です!!
乳気が枯渇してしまえば、士道くんは戦闘力が激減してしまいます。
※この乳気はこれからちょくちょく出てきます。

Bサイズ80以下―――ロリニュウム
※四糸乃、琴里

Bサイズ80〜90まで―――ビニュウム
※十香、くるみん

Bサイズ90以上―――キョニュウム
※令音

現時点ではこの五人ですね。椎崎と箕輪は入れてません。

ヒンニュウムではありません、ロリニュウムです。
士道くんはこだわりのないおっぱいドラゴンです。大きいおっぱいも、小さいおっぱいも大好物です!!
彼は貧乳とは言いません!!

番外編の二話が書き終われば設定を変更しようと思います。

次回は番外編 『くるみんスターフェスティバル』です!


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番外編③ くるみんスターフェスティバル

今回は予告通り番外編です。

今回はくるみんです。原作では大人の魅力で士道を誘惑しタジタジにさせる狂三―――しかし!!
本作品では士道の欲望の餌食役となっている、くるみん!!

果たして今回はどんな辱めをうけるのか!?

※更新が遅れ大変申し訳ございません。


 

七月七日―――それは引き離された二つの星、牽牛星と織姫星が一年で最も見やすくなる一日だ。

これは、彦星と織姫が天の川を超え年に一度の会合を果たすことがこの現象を証明していると、伝説では語られている。

しかし、七月七日に雨が降ると天の川に現れる橋が消え、彦星と織姫は年に一度の会合を失うことになるとも伝えられている。

 

しかし………………そんなことは我関せずで、いつもの日常を過ごすものがいる。

それは――――――

 

「………おっぱい―――おっぱい、おっぱい!おっぱい!!」

 

真っ暗な暗闇に亀裂が入り暗闇は砕け散る。そして、辺りを眩い光が照らす早朝一発めから女性の胸を求める変態がいた―――乳龍帝おっぱいドラゴンこと、五河士道である。

 

士道はベットから抜け出し、カーテンを開け部屋に光を入れ、大きく伸びをする。

そして一呼吸入れた後、野望を胸にキッチンへと向かう。

 

「今日も一日、おっぱいの加護がありますように!!」

 

グヘヘヘヘヘ!と下品な笑みを浮かべて階段を降りる士道。完全に末期である。

 

『おっぱいの加護か………俺の心は砕け散りそうだ、グスン………』

 

士道の左手から力弱い声が聞こえてくる。―――彼の相棒のドライグである。

………ドライグは士道の乳ネタに随分と心労が絶えず、ここ最近では自慢のツッコミをなりを潜めている。

―――辛いだろうが頑張れドライグ!!

キッチンへと着いた士道は、フライパンを乗せて火を付ける。卵を割り、卵とベーコンを炒めていた。

その時、ふと冷蔵庫のカレンダーが目に入り、ボソッと呟く。

 

「そういや、今日は七夕だったな………ていうか、よく晴れたよなぁ〜。

五年前から去年までは連続して、どういうわけか七夕の日だけ日本全国大雨。去年なんかは七夕の日に日本史上最強の台風が観測されたぐらいだしな………」

 

―――この世界では五年前から七夕の日はずっと雨が降っていたのだが、今年は関東市は見事に晴れているのだ。

………毎年この日になると織姫と彦星が年に一度の会合をする。

彼氏がいない自分を横目に、イチャコラしているのが気に食わなかった『帝釈天タマちゃん』が意図的に雨を降らせていたのか、そうでないのか。

いずれにせよ、真実はわからない!

 

『………せっかくの七夕で今日は休日だ。精霊どものストレス解消に付き合ってやるのが賢明だろう――――――相棒、そろそろ目玉焼きが完成しそうだぞ?』

 

「あ、ほんとだ」

 

士道の左手からドライグが話しかけ、士道はフライパンの中の目玉焼きとベーコンを皿な盛りつける。最後にレタスとご飯をついで今日の朝食が完成した。

士道が完成した朝食を運んでいる時、ドライグは話を続ける。

 

『それで、今日の予定はどうするつもりだ?―――精霊たち全員を連れて街を歩くのか、誰か一人を選ぶのか………最近はデートが続いたから全員のストレスを一度に解消にかかるべきではないのか?』

 

ドライグのアドバイスに士道は首を縦に振り、下品な笑みを浮かべ、鼻の下を伸ばし始める!

………この男にシリアスが続くのは、ほんの数秒である。

 

「そうだな!うちの可愛い織姫ちゃんたちと七夕ごっこをするのも悪くないな!!紳士な彦星こと―――この俺様が純粋無垢な織姫ちゃんたちのおっぱい揉み放題………………や、ヤベェ!!想像しただけで興奮してきたぜ!!ぐへへへへへへへへへ!!」

 

『………………インドラ、この腐った変態に天の裁きを〜』

 

―――士道くんはブレない。両手が怪しい動きをしており、下品な笑みを浮かべ犯罪者道をまっしぐらである。

ドライグは疲れ果てたのか、棒読みでセリフを述べていた。

 

そんな時だった………

 

朝食を求めて一人の美少女が五河家へと入って来た。

 

「士道さん、おはようございますわ」

 

白いブラウスに白いスカート―――黒ではなく今日は白一色でコーディネートしてきた士道のゴッデス、くるみんだ。

靴を脱ぎ部屋へと入ってきたくるみんに、士道は朝食を取り付けた皿をテーブルへと持って行く。

くるみんも士道のお手伝いとして残りのお皿を持っていき、士道の隣に座る。

 

「おはようくるみん、今日はまた一段と輝いているな〜!」

 

白一色でコーディネートをしたこともあり、窓から入ってくる太陽の光がくるみんを際立たせている。

………その姿はまさに、光を放つ美少女―――いや、士道くんには女神と見えているのだろう。

士道の言葉にくるみんは手を口に置いて微笑む。

 

「あらあら、ありがとうございますわ。―――ところで士道さん、今日のわたくしはどのあたりが輝いていますの?」

 

くるみんが訊ねるなり、士道くんは鼻の下を伸ばして下品な笑みを浮かべながら答える!!

 

「おっぱい!!おっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱい!!!!今日のくるみんのおっぱいは光を放っている!!くるみん、その輝くおっぱいを揉ませて!!」

 

「―――ひっ!?け、結局は胸なんですの!?………あ、ああああああの士道さん!?」

 

「おう!!発光する女神の美乳―――そう、今日のくるみんのおっぱいは『神乳(しんにゅう)』!!神の乳に触れた時、新たな乳の歴史が開かれる!!くるみん、その神乳揉ませてもらうぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

『………おっぱい、おっぱい―――しんにゅう………』ガクッ………

 

―――壊れた暴走列車は止まらない!!悲鳴をあげるくるみんに士道はゾンビのように両手を卑猥に動かしなが迫っていく!!終いには士道はくるみんの意思関係なく神乳めがけて全力前進!!

………ドライグは精神が限界に達し、士道が呟いた言葉を口ずさみ泡を吹いて気絶した。

 

「―――し、士道さん!ご飯にしませんこと!?冷めてしまわないうちに………」

 

迫り来る士道にくるみんはテーブルの上に運んだ朝食を指差す。士道は涎を垂れ流しながらも、テーブルへと視線を向けた。

 

「………そうだな、まずは飯にすっか」

 

士道がテーブルに着き、ホッと胸を撫で下ろしたくるみん。取り敢えずひと時の安全を得た犠牲者である。

士道とくるみんが朝食を食べ始めていた時、士道が話し出した。

 

「そういや、今日は七夕だよな――――――くるみん、何か予定とかはあるか?」

 

「………わたくしはこれと言った用事はございませんわ」

 

くるみんの答えを聞いた士道は、自分の心をありのままに伝える。

 

「それなら、俺と街にでも出かけないか?今日は五年ぶりに天宮七夕祭もやってるだろうし、イベントには事欠かないと思うぜ?」

 

「………っ!そ、それはデートのお誘いなんですの!?」

 

士道のお誘いに、くるみんは士道に顔を近づけて訊ねる。………くるみんの顔はパァっと明るい笑顔で士道に距離を詰めていた。

 

「まあ、そうとも言うかな―――それで、くるみんはどうだ?」

 

「もちろんですわ!わたくしも士道さんと行きたいところがございましたし、大歓迎ですわ!」

 

士道のお誘いをくるみんは満面の笑みで承諾した。くるみんは非常に嬉しそうに微笑んでいる。

………十香や四糸乃もいるなか、自分をデートに誘ってくれたのだ。嬉しく無いわけがないだろう。

 

「それじゃあくるみん、飯食ったら早速出かけるか」

 

「ええ、ええ!ご一緒しますわ士道さん!」

 

「―――楽しいデートになりそうだぜ、グヘヘヘヘヘヘヘヘヘ!!」

 

こうして士道とくるみんの七夕デートが始まろうとしていた。くるみんが承諾してくれたことに士道は下品な笑みを浮かべていたが、くるみんは敢えてそれを見ないようにしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

 

 

 

 

「五年ぶりに快晴の七夕だからな………どこも張り切ってやがる」

 

士道はくるみんと腕を組みながら天宮市の商店街をぶらぶらと歩いた。商店街には七夕の時にしか見られないものがあたり一面に出回っていた。提灯やら豪華な飾りなどがどの店にも飾られていた。

 

「士道さん、見てくださいまし。変わったものばかりありますわ―――ほら『笹の葉カステラ』に『織姫わたあめ』!あれは『牽牛ビーフジャーキー』もありますわ!」

 

『………最後の「牽牛ビーフジャーキー」はマズイのではないか?彦星が牛を食うのは色々と異議がある』

 

士道と腕を組んでいるくるみんが目をキラキラとさせながら商店街の商品を指差していた。

そして、ドライグのツッコミは今日も冴えている。ツッコミ要素は見逃さない!!

 

「どれも美味しそうだよなぁ。そして俺の目の前の女神の果実もこれまた………グッヘヘヘヘヘヘヘ!!」

 

………そして、一切ブレる事を知らない士道くんである。士道はくるみんの胸部に実った女神の果実に大喜びである!

腕を組んでいない反対側の手をわしゃわしゃと卑猥に動かし始めた士道くんに、くるみんは距離を取り小さく悲鳴をあげる。

 

「―――ひっ!?あ、あああああああの士道さん!?それはわたくしの胸ですわ!!」

 

「グヘヘへへへへヘヘヘ!!」

 

七夕だろうが、神々の黄昏だろうがそんなことは関係ない。士道くんの目の前におっぱいがそれは餌となる!!

………くるみんの苦労はまだまだ続くのである。

 

『………その辺にしておけ相棒。今は他にやるべきことがあるだろう?』

 

ドライグの言葉で士道はハッと我にかえる。………士道くんをシリアスに戻すこともドライグの仕事である。

 

「悪りぃくるみん、おっぱいに夢中になり過ぎた………それじゃあ、くるみんの目的地に行こうか」

 

「ええ、こちらですわ士道さん」

 

いつもの士道くんに戻った事を確認したくるみんは、士道と再び腕を組んで歩き出した。

十五分ほど歩くと、建物が見えてきた。その建物はプラネタリウムだった。

 

「おっ!プラネタリウムか………さすがはくるみん、こいつは一本取られた!全く予想してなかったよ」

 

「わたくし、一度ここに入ってみたかったんですの」

 

くるみんの目的地はここのようだ。それを聞いた士道は、自動販売機で二人分の入場券を買い、空いている席へと腰を下ろした。

しばらくすると会場が暗くなり、アナウンスが聞こえてきた。

 

『―――本日はプラネタリウムにご来場いただき、誠にありがとうございます。本日のプログラムは―――』

 

挨拶が終わると同時に半休系の天井に数多の星々が映し出される。

士道とくるみんは天井を見上げてそれを眺めていた。そして、その天井に星々によって形成された天の川が流れ、映し出されている星の中でひときわ大きな輝きを放つ星が二つ現れる。

 

『―――天の川のほとりに住んでいた天帝の娘•織姫は、美しい布を織る天女でした。しかし、牛飼いの彦星と結婚してからは、仕事を忘れ遊んでばかり。二人の様子を見かねた織姫の父・天帝は二人に仕事をさせるために、二人を引き離してしまいました―――』

 

今日のプラネタリウムのプログラムは七月七日らしい七夕の由来についてのプログラムのようだ。

そのプラグラムを聞いていた時、くるみんが士道の手を強く握ってきた。怪訝に思った士道はくるみんの方に顔を向ける。

くるみんは士道の顔を見ていたのだ。

 

「ん、どうかしたかくるみん………?」

 

「織姫と彦星は、天の川に遮られ、一年に一度しか会うことが許されないのですわよね?」

 

「そのように伝えられているな………他には、七月七日に雨が降れば天の川の橋が消えてその年は会えなくなるとかも聞いたことがあるぜ」

 

士道がくるみんの問いに答えると、くるみんは再び天井へと視線を戻した。くるみんはすぅっと息を吸った後、再び士道に訊ねる。

 

「もし………もしもですわ。何年も、何年も………七月七日に雨が降り続いて二人がずっと会えなくなるとしたら―――二人は、互いを想いあっていられるのでしょうか」

 

「う〜ん………これはまた難しい質問だな。でも、どうしてそんなことを?」

 

くるみんの質問に士道は返答に困り、眉根を寄せた。くるみんは話を続ける。

 

「時間はなによりも優しく、そして残酷ですわ。年に一度の逢瀬の機会を失った悲しみを癒し、そして永遠を誓い合った二人の愛でさえやがて風化させてしまう………お互いを確かめ合う時を失い続けた二人の心には、一体いつまでお互いが存在するのでしょう」

 

くるみんは再び視線を天井から士道の方へと戻した。くるみんは答えが欲しそうに士道を見つめていた。

それを見た士道は、手を額に当ててなんとか考えたのち、一つの答えに辿り着いた。

 

「―――織姫と彦星の二人なら、例えどれだけその時を失おうとも、お互いの心に愛はあるんじゃないかな?」

 

「………なぜそう思うんですの?」

 

士道が出した答えにくるみんは首を傾げていた。その理由を士道は簡潔に述べる。

 

「―――どれだけ時が流れようとも忘れる事のできないものも俺はあると思うんだ。

―――俺で言うなら家族、そして十香や四糸乃、くるみんたちとの日常さ。今の俺にとっては毎日が宝物なんだぜ?初めは琴里と二人での生活だったけど、今では三人も家族が増えたんだ………そんでもってどんどん笑顔が増えて、賑やかになっていく―――そんな生活が堪らなく嬉しいんだ。

天の川の例じゃないけど、例えお前たちに会えなくなったとしても、俺の心の中で一生消えることはない。万人に誇ることのできる俺だけの宝物さ」

 

「士道さん………………」

 

くるみんは士道の答えを目を丸くして聞いていた。士道は「それに………」と話を続ける。

 

「―――もう一個理由がある。世の中には忘れちゃいけねえこともある………年に一度しか逢うことのできない織姫と彦星なら尚更だろう」

 

士道はプラネタリウムの天井の数多の星々を見上げながらくるみんに言った。士道が挙げた二人の場合なら、二人で過ごした数々の思い出がいい例だろう。

その時、くるみんは士道にまた訊ずねる。

 

「………士道さんにも、それはありますの?」

 

「ああ、当然だ。俺の場合はもう会えなくなっちまった仲間やダチだな………………俺さえ忘れなければ、俺の心の中で生き続けることができる―――俺はそう信じてる」

 

士道の顔はどこか儚げな表情でプラネタリウムの天井を見上げていた。懐かしそうに、そしてどこか悲しそうな表情を浮かべて………士道の中で忘れてはならないもの―――それは前世の記憶だ。もう彼は兵藤一誠ではなく、五河士道だ。

しかし、前世での生活を忘れることをどうしても許せなかった。かつての大切な友を………そして仲間たちを自ら消してしまう行為だと彼は思っていたのだ。

 

「―――なんか随分と脱線しちまったけど………俺は絶対に忘れないぜ?お前たちとの出会いと日常を。どんだけ時が流れようが絶対に忘れやしない!………転生しようが関係ねえ、絶対に思い出してやるぜ!!」

 

士道は席から立ち上がって堂々とくるみんに宣言をした。その結果、静かなプラネタリウム内に大きな声が響き渡る!

注目を一身に集めることさえ、彼は厭わなかった。

………ちなみに、士道の宣言を聞いたくるみんはクスクスと笑っていた。

 

『………相棒、時と場所を考えろよな?見てみろ、会場の視線が全て注がれているぞ?―――もう子供で誤魔化せる年齢ではないだろうに………そろそろ成長したらどうなのだ?』

 

―――ドライグさん、ごもっともでございます!!しかし、士道も負けじと猛反発をする!!

 

「うるへー!俺はまだ子供だよ!高校生は立派な子供だ!」

 

言い合いを続ける士道とドライグにくるみんは士道の腕を引っ張る。………これ以上ここに留まるのはまずいと思っての行動だった。

 

「士道さん、そろそろ出ませんこと?わたくし、もう十分ですわ」

 

「………ん?いいのかくるみん、最後まで見なくて」

 

「ええ、満足しましたわ」

 

くるみんの一言で士道たちはプラネタリウムから出て行った。士道は腕時計をみると、時刻はすでに正午を回っていた。

 

「………取り敢えずどっかで飯でも食うか。くるみん、次は短冊でも書きに商店街に戻るか?それとも、天宮クインテットで買い物にでも行くか?」

 

「短冊を書いてみたいですわ」

 

「よし、決まりだな。んじゃあ行こうか、近くに美味いレストランがあるんだ。そこで飯を済ませて書きに行こうか」

 

「ええ!」

 

士道とくるみんは再び腕を組んで歩き始めた。二人とも心の底からデートを楽しんでおり、いい笑顔をしていた。

―――ところが………

 

「――――――ねぇ、あれ腕組んでない?」

 

士道とくるみんがプラネタリウムを出た頃、電信柱の陰から二人を伺う一人の少女とまぶたにクマを作った眠そうな女性がいた。

………少女の方は嫉妬で目から光が消えており、電信柱にヒビを入れながら二人の様子を眺めていた。

 

「………ああ、見せつけているかのようにね」

 

眠そうな女性があくびをしながら答えた。少女はさらに電信柱に入ったヒビを加速させる!

光の失った瞳で迫力のある笑みを浮かべ、何処からか炎を纏った斧を取り出し、二人に構えた。

 

「フフフフフフフフ、見間違いじゃないんだ―――よし、殺すわ。令音、後始末は任せたわよ………」

 

「………落ち着きたまえ琴里。キミが苛立っても仕方がないだろう」

 

そう、この二人は琴里と令音だ。琴里は朝起きたら士道がいない事を怪訝に思い、探していたら―――くるみんとデートを楽しんでいたのだ!

………ちなみに、士道からは事前の報告も無かったため、何をしているのかと思えば―――この通りである。

大事なおにーちゃんを泥棒猫に掻っ攫われてしまったのだ!!

これを黙って見過ごせるほど琴里のおにーちゃんに対する劣情は生易しいものではない!!

 

「『灼爛殲鬼(カマエル)』―――『(メ•ギ•ド)』♡」

 

………どうやら琴里ちゃんの忍耐力は限界値に達したらしい。それを見た令音は慌てて琴里を止める。

 

「………琴里、シンが一番愛している女性はキミさ。シンも言ってたじゃないか『琴里のことを宇宙で一番愛している』と」

 

「―――おにーちゃん大好き!」

 

「………………」

 

―――ちょろいもんである。士道の言葉を思い出した琴里はすぐに武装を解除し、二人を見守ることに決めた。

その様子を見た令音はやれやれとした表情を浮かべ黙り込んだ。

………士道くんのデートにはお邪魔虫が着くのはいつものことである。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――◇―――

 

 

 

 

 

 

 

士道とくるみんの二人が商店街を目指した歩いている時だった。

一緒に歩いていたくるみんの足が止まる。士道はくるみんに視線を向けた。

 

「………ん、くるみん、一体どうしたんだ?急に足を止めて………」

 

「士道さん、あれを」

 

士道の言葉にくるみんは指を差した。くるみんの指が差していたいたのは小さな結婚式場と『ウエディングドレス試着無料!』と書かれた看板だった。

士道はくるみんに訊く。

 

「―――えーとだなくるみん、まさかウエディングドレスを着たい………だなんて言わないよな?」

 

士道が言うと、くるみんは手を口に当て寂しげに目を潤わせた。

 

「え!?駄目、ですの………」

 

「―――ああ、もうわかったよ!!」

 

悲しげに瞳を潤わせているくるみんに士道はすっかり折れてしまった。

乙女の涙は男の意思を挫くことにおいては最強の武器である!

―――特にこのおっぱいドラゴンには効果抜群だ!!士道はくるみんの思いを酌むことにした。

 

「くるみんが着たいって言うなら、どんな手を尽くしてでも着させてやる!!受付のお姉さんがダメって言おうが心配すんな。拒否すれば受付のお姉さんを全裸にしてやればいいし、それでもだめなら式場を爆破するぞって脅しをかければ一発でOK出してくれるさ………それに、くるみんのウエディングドレス姿――――――グへへへへへへへへ!!!これで一ヶ月はオカズに困らないぜ!!」

 

「―――ひっ!?」

 

いつもの表情でとんでもないことを言っている士道くん。彼の頭の中には精霊の願いが成就することを最優先にしているのだ!!

ちなみにくるみんが悲鳴を上げたのは、士道の最後のセリフである。

くるみんは分かっていなかったのだ―――自分がおっぱいドラゴンに極上の()()()を与えてしまうことを………

 

「んじゃあ待ってろなくるみん!許可もらってくるからよ!グへへへへへへへ!!!!」

 

士道はくるみんに手を振りながら式場の受付へと向かって行った。

 

「―――わたくし、選択を間違えてません………わよね?」

 

くるみんはどうやら後悔していたのか、心配で気が気で無かった。

………そして、式場の受付の方に視線を向けると――――――受付のお姉さんが一人、服が木っ端微塵に吹き飛び全裸になっていた。

士道くんが『灼爛殲鬼(カマエル)』の炎でお姉さんの服を燃やしたのである………

 

『うおおおおおおおおおおおおおんんっっ!!!』

 

「………ま、まさか本当にやるとは思いませんでしたわよ、士道さん!?」

 

くるみんは士道の行為にドン引いていたのは言うまでもない。そして、式場内から聞こえてくるとドライグの悲鳴!!

そして、鼻から鼻血を垂れ流し、満足そうな笑みを浮かべて式場から出てくる士道くんの姿が!!

 

「くるみ〜ん、OK貰えたぞおおおお!」

 

「………………」

 

ウェディングドレスを着たかったくるみんなのだが、どうにもすっきりしなかった最悪の精霊『ナイトメア』の分身体、くるみんなのであった。

 

 

 

 

 

 

―――………………

 

 

 

 

 

 

 

「すっげ〜楽しみだなドライグ!ウェディングくるみん!!」

 

『ううっ、ぐすん………相棒、もう少し俺の心を労ってくれ。神器の奥深くに引きこもってやるぞ!?』

 

ドライグの心は疲弊していたようだ。今日だけでも相当の乳ネタを受けたのだ。ドライグは本当によく頑張っているだろう。

………さて、現状はこんな感じだ。

受付に行った士道くんだったが、案の定『学生では無理です』と丁重に断られてしまったのだ。しかし、彼はこの程度で諦めるほど出来た人間ではない!

二人いた受付の女性の片方が着ていた服を下着ごと『灼爛殲鬼(カマエル)』燃やして全裸にし、さらに『この式場爆破しちゃうぜ☆♪』と脅しをかけると、受付のお姉さんの態度は一八〇度変わったのである。

そして、彼は今控え室で花嫁のくるみんの準備が整うのを心待ちにしている状態である。

 

『………このまま相棒が牢屋に直行のシナリオが完成しつつあるのは俺の勘違いか?』

 

「そう心配することないぜドライグ、余計なことすりゃドカンだからなぁ。バカな真似はしねぇだろ」

 

………暇な時はよく話し合っているこの二人である。そして、数分が経過したのち、受付のお姉さん(全裸にされてない方)がやって来た―――なぜかやたらとやる気満々で………

 

「ささ、新婦の準備ができましたよ!新郎さん、こちらへ!」

 

「は、はあ………」

 

受付のお姉さんの態度を怪訝に思いながらも士道は扉に手をかけ、開ける。

失礼な事+脅しをかけるような真似をしたのに、このやる気………一体どうしたことなのやら。

眩い光とともに現れたのは―――女神と呼ぶべき神秘的な美少女の姿があった。

 

「――――――」

 

士道はその女神の美しさに魅入られ、硬直してしまった。

日頃とは対照的な今日の白一色でコーディネートされたくるみんも綺麗だったが、今のくるみんはそれすら凌駕していた。

自ら光を放っているかのような純白のドレスがくるみんの華奢な肢体を包んでいる。

さらに、身体のラインに沿うように縫製された上半身部分に、手触りの良さそうな長手袋。腰元からのびた長いスカートには、隙間なく精緻な衣装が施されていた。

くるみんの特徴とも言える長い黒髪は綺麗に結い上げられ、これまた真っ白なベールに飾られている。

貌にはうっすらと化粧が施されており、そのあまりの美しさに士道は魅了されてしまったのであった。

 

「あ、あの………そ、そんなに見つめられると、照れてしまいますわ」

 

「!………最高に綺麗だ」

 

「――――――ッ!!」

 

士道がさりげなく言った一言に、くるみんはボンッ!と真っ赤に顔を染めてしまった。

くるみんは恥ずかしそうに「あぅぅ………」と下を向いていた。

 

「ささ、もしよろしければチャペルの方まで。写真もサービスしちゃいます!」

 

「え!?よろしいのですか!?流石にそれは別料金になるのでは―――」

 

「何を言ってるんですか!!これが………これが最後になるかも知れないのですよッ!」

 

女性の神対応に士道は疑問を隠せなかった。取り敢えず女性に従うことにし、写真を撮ることを決めたのだが士道の表情は気難しいものだった。その時、くるみんが耳打ちしてきた。

 

(………わたくしがフォローを入れておきましたわ。『彼の先ほどの行動はわたくしのためを思っての行動ですの。わたくしは難病に冒されており、余命幾ばくもございません。彼はそんなわたくしに、せめて花嫁衣装だけでも着させてあげたい』と)

 

(………すまないくるみん、ありがとな)

 

くるみんは士道の行為にフォローをしてくれていたからの、この対応を呼び込んだのだ。

受付のお姉さんはくるみんに気を遣ってくれたのだ。もちろんくるみんのフォローは士道の行為を正当化するための誤魔化しなのは言うまでもないが………………

そして、祭壇に上がった士道とくるみんに、受付のお姉さんがデジタル一眼レフを手に取り、シャッターに指を合わせた。

 

「ささっ!撮りますよお!」

 

パシャッ!

 

シャッターが切られると、本当の新婚夫婦を思わせる二人の写真が撮れていた。

その写真に士道もくるみんも満足そうに見つめていた。そして、傷が付かないように包装してカバンに入れた。

………この写真が現実の光景になる日が来ることは、そう遠くではないのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

―――◆―――

 

 

 

 

 

 

士道とくるみんが着替えて、結婚式場を後にした時にはすでに夕焼けが強い輝きを放つ時間となっていた。

そんな中、二人は商店街を再び訪れていた。その理由はくるみんの「短冊を書きたい」という最後のやりたいことを完遂するためである。

士道はどの笹に短冊をくくりつけるかを見ていた時、他の人が書いた願い事を見ていた。

 

『可愛い彼女が欲しいです!―――殿町宏人』

 

『十香ちゃんが幸せになれますように。―――桐生愛華』

 

『リア充モンスター五河士道に天罰が降りますように!―――浅井』

 

『シドー、カツカレーが食べたいぞ。―――夜刀神十香』

 

『人の目を見て話せるようになりたいです。―――四糸乃』

 

『四糸乃が幸せになれますように。―――よしのん』

 

『またいつか彼との日常を過ごせますように。―――村雨令音』

 

『おにーちゃんの変態が少しはマシになりますように。―――五河琴里』

 

などなどたくさんの願いが飾られていた。その中で士道が最も注目したのは、この短冊だ。

 

「―――なあドライグ、『村雨令音 彼氏』ってフラクシナスの捜索エンジンに引っ掛けたら、その人物特定できるかな?」

 

『………その短冊ではなかろう。相棒が最も気にするべきは――――――それで、仮に特定できたとしてどうするつもりだ?』

 

ドライグが士道の左手の甲に光を点滅させながら士道に訊いた。士道は間髪入れずに返答する。

 

「消すに決まってんだろ!?―――俺からあの極上おっぱいを奪う輩は全員死刑だ!あのおっぱいは俺だけのもんだ!!」

 

………ちなみにだが、士道の身近なメンバーの中で最も士道が狙っているおっぱいは令音のそれである。

それを何処の馬の骨に取られることになると分かれば、消しにかかることは必定だ!!

―――地味に彼は令音が精霊になることを願ってたり、願っていなかったりしているのだ!!

ちなみにこれの理由は至ってシンプルだ“理由さえあれば琴里から暴力を振るわれる心配は無い”これである!!

 

学校では昼休みに物理準備室で、休日はフラクシナスの休憩ルームで令音の、膝枕やらおっぱいやらを堪能している時、琴里にバレれば鉄拳やら殺人キックやら殺戮パペット(よしのん)が飛んでくる!!

しかし、万が一令音が精霊なれば理由ができる。その結果攻略のために好き放題やってもお咎めなしなのだ!!

………やり過ぎれば鉄拳やら殺人キックが飛んでくるかもしれないが。

 

『―――存外、相棒の願いは叶うかもしれんな………………相棒、お前がくだらん事を考えているうちに、時崎狂三は短冊を書き終えたみたいだぞ?』

 

ドライグが言った通り、士道の方へと足を進めるくるみんの姿があった。くるみんは小走りをしながら士道にたずねる。

 

「士道さん、短冊はくくりましたの?」

 

「………ああ、俺はもうここにくくりつけたぜ?」

 

士道が自分がくくりつけた短冊を指差した。彼の短冊には、『みんなが笑顔で幸せに暮らせますように。―――五河士道』といかにも彼らしい願いが書かれていた。

 

「くるみんもこれからどっかに短冊をくくりつけるだろ?書かれてることが見られたくないなら俺は向こうに行くけど………」

 

士道が気を利かせて、離れようとするがくるみんは首輪横に振った。

 

「いえ、構いませんわよ士道さん」

 

そう言ったのち、くるみんは士道に背中を向けて自分の願いを書いた短冊を士道の短冊の横にくくりつけた。

 

『士道さんと一緒に笑っていられますように。―――時崎狂三』

 

短冊をくくり終えたくるみんに士道は手を差し出す。

 

「そろそろ暗くなってくるし、帰ろうかくるみん」

 

「ええ、今日はありがとうございましたわ。士道さん」

 

こうして士道とくるみんの七夕デートは終了した。くるみんが例えた天の川の例のように、何年も雨が降り続け、二人が会えなくなったとしても、今日のこの日を決して忘れることのない素敵な一日になったことだろう。

 




原作では最後に『ナイトメア』本体の狂三が現れ、分身体の狂三が回収されるシーンがあり、そのシーンで士道がくるみんを守るためにジャガーノートドライブを発動させることも考えましたが、必要無いと思いカットしました。

次回も番外編で『働く琴里さま』です。

この章のメインヒロインの琴里ちゃんです。


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番外編④ 働く琴里さま

分身体の狂三ことくるみんの番外編の後は、四章のメインヒロインの琴里ちゃんです。

この番外編では、フラクシナスでお仕事をしている琴里ちゃんの様子を書きました。

これからも、琴里回も増やしていければ増やしていきたいと思います!


 

これはとある少女の日常である。

イチゴミルク味のチュッパチャプスを舐めながら、立派な艦隊内の艦長席に弱冠十四歳の少女ながらも、気品溢れる風格を放っている司令官がいた。

………士道の義妹、五河琴里である。

今日も琴里は司令官として天宮市の上空一五◯◯◯メートルに位置する空中艦『フラクシナス』で司令官としての務めを果たしている。

 

「………司令、本部からこの一ヶ月内の活動記録を報告せよとの通達がありました。しかも、今回はただの報告書だけでなく士道くんが封印した各精霊たちの日常も詳しく報告せよとのご命令です」

 

琴里が座っている艦長席に近づいてくる女性の姿があった。その女性は相手に呪いを掛ける藁人形を常時携帯しているアブノーマル―――午前二時の女『藁人形(ネイルノッカー)』椎崎雛子が、USBメモリーと分厚い国語辞典くらいの枚数ほどの報告書を琴里に手渡す。

普段ラタトスクの本部に提出する書類はこれの四番の一に満たないものだが、今回は最悪の精霊『ナイトメア』時崎狂三を取り逃がし、そして士道を救出する為に全霊力を解放して精霊に逆戻りしてしまった、自分のことも報告する必要があるため、ここまで報告書等が多くなってしまったのだ。

 

「嫌がらせ―――とは言えないわよね………この一ヶ月はかなり濃いものだったし。狂三だけじゃなく、私まで精霊に戻ってしまったのだから仕方ないわね」

 

ちなみに精霊を保護する事を掲げているラタトスクは精霊がどのような日常を送っているのかは、非常に興味を持っている。

―――彼女たちの生活に不便がないかなど、琴里がそれを報告すれば一日で課題を解決してくれるグレイトな組織である。

………しかし、ラタトスクの中にも精霊を『洗脳を施し、兵器として利用しようぜ♪』などと発言する者も少なからずいることも、また事実である。

 

「………司令、私たちに手伝えることがあれば言ってください。この一週間、司令は霊力封印後の検査や本部を訪れたりで、十分な休息ができていないのですからご無理をなさらないように」

 

椎崎は琴里の事を心配していた。琴里も兄の士道と同様に苦しみを他人に晒すような真似はしない。それを分かっているからこその椎崎の気遣いだった。

 

「ありがとう椎崎、善処するわ………」

 

琴里は椎崎に感謝の意を述べた。琴里も自分が仲間そして部下に恵まれていることは理解している。

椎崎を始め、他のクルーたちも琴里を慕っている。

そんな事を琴里は再認識した時だった………

 

ビー!ビー!ビー!!

 

「………ッ!何事!?」

 

突然のアラートに艦内に緊張が走る!

琴里は目の前のコンピュータのアラート内容をすぐさま確認する。

………アラートの原因は、精霊用の特殊住居にあることがわかり、琴里はカメラの映像を艦内のモニターに映し出す。

 

 

………そこには―――

 

 

『うがあああああああああああ!!三角関数と言うのは一体なんなのだあああああああ!!sin、cos、tanと言うのは食べ物では無かったのか!?』

 

 

怪獣のごとく叫び声を上げている十香の姿が!!

どうやら数学IIの期末テスト範囲内にある三角関数に、十香ちゃんは手こずっているようだった。

その様子を見た解析間の令音が述べる。

 

「………これならシン一人で問題ないだろう。彼は数学なら得意分野だ。十香にもわかるように教えることができるからね」

 

とりあえず琴里は士道に連絡を入れる。

士道が電話に出ると同時に単刀直入に要件を言う。

 

「士道、今すぐ十香の部屋に行って勉強を教えなさい」

 

『はいよ、ちょっくら行ってくる』

 

琴里から連絡をもらうと士道は、すぐに隣の精霊用の特殊住居に足を進めた。

琴里は取り敢えずため息を吐いた。

 

「………ていうかなんであのバカは休日くらい十香と一緒にいてあげないのよ―――いや、誘惑に負けて十香を押し倒すようなことになられても困るし………」

 

とにかく、十香の方は問題が解決したと思って良さそうだ。しかし、大好きなおにーちゃんの貞操の安否は心配な琴里ちゃんであった。

 

 

 

 

 

 

―――◆―――

 

 

 

 

 

 

士道が十香の部屋に勉強を教えに行ってからというもの、警報が鳴り響くほど不安定な状態に陥っていた十香の精神状態は、すぐに元の状態へと戻った。さらに士道と一緒にいられることで、十香の精神状態はさらに良好になっていた。

その様子を見た琴里はホッとひと安心。

 

「………これを見る限り十香の方は問題なさそうね」

 

自分のデスクに表示してある十香の部屋の映像を消し、自分の仕事に手をつけ始めた琴里。

………山積みの報告書の完成、精霊たちの要望の解決、精霊たちの生活費の見積もり、精霊専用の特殊住居の設備増大、そして部下たちの仕事の管理等、やることは山ほどある。

―――そして近々ラタトスクの重役が集まる会議もあるため、そのための資料作りにも琴里は追われている事も現状だ。

 

「―――椎崎、狂三の報告に一部ミスがある………それから、誤字まであるわ。赤字に変えてあるから訂正してもう一度提出して」

 

「―――了解しました」

 

琴里が椎崎からメールで受信したワードのファイルの活動報告書のミスを、来月の予算を細かく計算しながら椎崎に指摘した。

琴里は次に箕輪の報告書をチェックする。

 

「………箕輪、十香たちの要望の件なのだけど、狂三の要望『ハイスクールDxDの最新刊』が見事に抜けてるわ―――それから、十香と狂三に来禅高校のカーデガンを発注しておいて」

 

「了解です、司令」

 

椎崎同様、箕輪のチェックも琴里は終わらせた。次は川越に空き部屋の準備の進捗状況を確認する。

 

「………川越、特殊住居の空き部屋の設備のことだけど―――明日中には手を回せそう?」

 

「はい司令、明日の朝までには完成する予定です」

 

川越の方も問題はないようだ。次は中津川と幹本の方を見た。

 

「中津川、幹本………士道たちの学年の行事予定に変更とかって無かった?」

 

琴里からの問いに二人がそれぞれの調査報告を行う。

 

「そう言えば………修学旅行の行き先が沖縄から或美島に変わったそうですよ?」

 

「それから、天央祭の日程がずれるという報告がありました。一週間ほど予定を早めるそうですよ?」

 

二人の報告を受けた琴里は眉根にシワを寄せた。

 

「………天央祭はともかく、修学旅行の行き先が変わるのは何か変よね―――令音、学校側はどのように言っているの?」

 

「………ああ。とある旅行会社が或美島の観光PRのため費用を全て持つという破格の条件を学校側に提示したようでね。………学校側は万々歳の様子だったよ―――ただ………」

 

「―――やっぱり何かあるの?」

 

「………その旅行会社について調べてみたのだが、DEMインダストリーの系列会社だということが判明した。

………思い過ごしだと思うが、一応注意はしておいた方がいいと思ってね」

 

琴里はその話を聞いて表情が少し険しくなった。もともとラタトスクとDEMは良好な関係ではない。顕現装置(リアライザ)を提供するライバル企業という事もあるが、そもそも精霊の対処法が根本から異なるというおまけ付きだからだ。

 

「………そっちの方は任せるわよ令音」

 

「………ああ、心得た」

 

部下たちの仕事の確認を終わり、自分の仕事に全神経を集中させようとしていた時だった………

 

ブヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴッッ!!!

 

再び艦内に警報音が響き渡る。艦内のメンバーは一斉に手が止まる!

 

「―――今度は誰!?」

 

琴里がバンッ!と手を叩きつけると、艦内のモニターに、お風呂場の様子が映し出された。

―――そこには、通常ではありえない現象が発生していた。

 

………壁と天井が凍り付き、辺りに氷柱が飛び出していた。そして、先ほどまで湯気を出していたであろう浴槽の水も見事に凍りつき、浴室が極寒の空間へと変わり果てていた。

そして、極寒の空間となった浴室の端っこで涙を啜っているタオルを巻いた少女の姿が………

 

『うぇぇぇぇぇ………よしのん、よしのん………!』

 

―――今回の警報の原因は四糸乃ちゃんである。令音が浴槽内部の映像を拡大すると、浴槽の栓が外れており、代わりに四糸乃のパペット―――よしのんがお風呂の栓の役割を果たしていた。

………四糸乃が泣いている原因はよしのんが水没してしまったためである。

 

「………うん、なるほど―――シュールな状況に陥っているね」

 

まるで他人事のように平然と状況を見つめている令音に琴里が全力でツッコミを入れる!

 

「―――冷静に分析してる場合じゃないでしょ!?このままじゃ十香たちがお風呂に入れなくなるじゃない!」

 

「………心配無いさ、今この建物内にはシンがいる―――ほら、噂をすればなんとやらだ」

 

異変を感じ取ったのか、四糸乃が泣いている声が聞こえたのか四糸乃のヒーロー役を務める士道くんがここに見参!!

お風呂の扉を蹴り壊し、ダイナミックなご登場である。

 

『四糸乃、大丈夫か―――ってなんだこりゃあああああああああ!!』

 

士道もこの状況を見てたまげていた。浴槽の中に沈んだよしのんを見つけた。

 

『そうか………よしのんが沈んじゃったのか―――よっしゃ俺に任せろ!!』

 

『うぇぇぇぇぇぇ………ありがとう、ございます………!』

 

四糸乃は涙に濡れた声で士道に述べた。

………よしのんの他に四糸乃が頼れる存在―――それはヒーローの士道だけだった。

―――しかし、現状は好ましくはない。よしのんが沈んでいるのは、凍った浴槽の最下層に位置していた。

士道はまず自分の部屋からトングを持ってくる。………これはよしのんを引っ張り上げるためである。

そして次に、自分に宿った神器―――『赤龍帝の籠手(ブーステッド•ギア)』で力を高める!

 

『Boost!!!―――EXPLOSION!!!!!!!』

 

『―――来やがれ!「灼爛殲鬼(カマエル)」ッッ!!』

 

士道は倍加した力を解放し、琴里の天使『灼爛殲鬼(カマエル)』の炎を籠手の宝玉にセット!

次の瞬間、『赤龍帝の籠手(ブーステッド•ギア)』の宝玉から倍加された力で強化された『灼爛殲鬼(カマエル)』の業火が迸り、士道の左腕は炎に包まれた。

 

『どおおおっせええええええいッッ!!』

 

バリンッ!!

 

士道は籠手で浴槽の氷を殴りつけ、炎の熱量で浴槽の氷を溶かした。後はトングでよしのんを救出するだけである。

 

………しかし―――ここからが問題だった。

 

(相棒、気を付けろよ?トングがよしのんの頭に当たれば、そのトングはお陀仏するぞ?)

 

『―――分かってる。なんせこの住居の壁をぶち抜き、時速100キロで突っ込んでくるトラックすら軽々と吹き飛ばして、おまけに全壊させるほどの威力を誇るダイヤモンド頭だからな………』

 

お風呂の浴槽でトングを片手に悪戦苦闘している士道の姿に、事情を知らないクルーたちは首を傾げていた。

 

「………司令、なぜ士道くんはそのまま浴槽に手を突っ込まないのですか?」

 

椎崎の疑問に琴里は簡単に答える。

 

「………よしのんは四糸乃以外が投げても()()として使える―――というのは知っているわよね?」

 

「はい。士道くんを村雨解析官から引き離す時に司令が四糸乃ちゃんから拝借しているところをよく見ていますし………あんなコミカルなパペットのどこにあんな力が、あるのか不思議で仕方がないですけどね」

 

椎崎もよしのんの破壊力は知っている。………先日令音の胸から乳気を吸収していた士道に、琴里はよしのんを全力投球した………その結果、士道はきりもみ回転しながらフラクシナスの壁をぶち破って吹き飛んでいった場面を椎崎は見ていたのだ。

―――よしのんの頭突きの破壊力は対精霊用の特殊住居の壁をぶち抜き、ミサイルすら木っ端微塵に破壊し、なおかつ当の本人は全く無傷という伝説を作ったほどである。

当初は四糸乃の付属品という評価だったが、現在では『フラクシナス』の最終兵器にまで成り上がったというのはまた別の話だ。

 

「―――今、凍っていた浴槽は士道が炎の熱量で溶かした………その結果氷が水に変わったからよしのんが動いているのよね―――特によしのん体の中で最も危険な部分である頭がふわふわと」

 

「―――ああ………」

 

椎崎もようやく理解したようだ。素手でよしのんを掴む時、不幸にもよしのんの頭に触れれば即骨折が確定する。“え!?それなら耳を掴めば?”という意見も出てくるだろうが、それも危険だ。

よしのんの耳はこれといって危険な力は何もないが、浴槽の中で沈んでいるよしのんの耳は、危険な頭にぴったりとひっついている。

そのため、士道はトングを使って慎重に作業をしているのだ。

しかし………モニターから士道の悲鳴が聞こえてくる。

 

『―――クッソォォォオオオオオオオ!!!!やっちまった!!よしのんの頭にトングの先が当たって、トングが曲がっちまったあああああああああああああ!!!』

 

(バカタレ!!アレほど慎重にやれと言ったではないか!!そのトングはもう使い物にならん!!)

 

………士道はうっかりとトングの先でよしのんの頭をつついてしまったのであった。その結果、トングの先がぐにゃりと曲がってしまい、トングがハートの形に変形してしまった。

―――作戦は見事に失敗してしまった………

 

『………うぇぇぇぇぇぇえええええ!!』

 

よしのんの救出失敗に、四糸乃は再び泣き始めた!!その結果、どんどん浴室の気温が下がっていき、浴槽内部の水が再び凍り始める!!

泣きじゃくる四糸乃の頭を士道が『大丈夫、大丈夫………』と撫でるが、四糸乃が泣き止む気配はない!!

 

「………さすがにこれはまずいかな?琴里、補充要員を送ろうか?」

 

『フラクシナス』で士道の様子を見守っていた令音がボソッと呟いた。

しかし、琴里は令音の増援要請とは真逆で、静観を令音に求めた。

 

「大丈夫よ、令音。………私のおにーちゃんはこの程度で根をあげるほどヤワじゃないわよ」

 

琴里は士道が四糸乃の笑顔を取り戻す未来が見えているかのように、令音に言った。

………ハードルが上がってしまった士道くん!

しかし、彼は琴里の要求に応えるごとく漢気を見せる!

 

『―――分かった!分かったからもう泣くな四糸乃。これ以上ここの温度が下がったら本当によしのんを救出できなくなるから………………よし、覚悟を決まった。

俺も男だ、たとえ腕がぐしゃぐしゃに折れようが曲がろうが関係ねえ!!絶対によしのんを引っ張りだしてやる!!

―――行くぜドライグ!赤龍帝の意地を見せてやろうぜ!』

 

(―――承知ッ!!Welsh Dragon Balance Breaker !!!!!!!!!!)

 

泣いている四糸乃の姿が耐えられなかったのか、士道は『赤龍帝の籠手(ブーステッド•ギア)』の禁手(バランス•ブレイカー)赤龍帝の鎧(ブーステッドギア•スケイルメイル)』を纏い、殺戮兵器(よしのん)が沈んだ水中に左腕を突っ込んだ!!

―――士道の漢気は泣いている少女を救うことができるのか!?

 

『………ぐッッ!!―――おっぱいドラゴン舐めんなよ、このクソヤロオオオオオオオオオッッ!!』

 

ガッシャアアアンッ!!という音が聞こえ、士道が苦悶の表情を浮かべた。しかし、士道は歯を食いしばり、左腕を水中から引き揚げた!!

―――士道の左腕に装着されていた籠手は、木っ端微塵に砕け散っていた。

しかし、士道の左手には四糸乃の大切な友達、よしのんが握られていた。

 

『………ほら四糸乃、よしのんだぞ?』

 

士道は鎧を解除し、よしのんを四糸乃に返した。四糸乃はよしのんを受け取ると左手に装着し、士道に頭を下げた。

 

『………ありがとう、ございました士道さん。よしのんを、助けてくれて………!』

 

『おう、気にすんな!大事にしろよ?………大切なお友達なんだろ』

 

士道はニカッと笑い飛ばして、四糸乃の頭を優しく撫でていた。そんな時に、よしのんが士道の左腕を小さな手で掴んでおまじないをする。

 

『いんやぁ助かったよ士道くん。あれまぁ、左腕怪我してるじゃん!空前絶後の天才、よしのんが直してあげるよ―――ザラキ、ザラキ………』

 

『―――そこはホイミだろ!?俺の左腕に即死魔法を掛けてんじゃねえ!!』

 

………士道に追い打ちをかけるよしのんに、士道はよしのんの首にチョップ!

ちなみに、蹴り壊したお風呂のドアはくるみんの天使―――『刻々帝(ザフキエル)』の『四の球(ダレット)』で元どおりに戻していた。

四糸乃が泣き止んだことと、士道が『灼爛殲鬼』の炎でお湯を沸かし直したところで―――士道は服を脱ぎ始めた!

………一体どうしたというのか!?

 

『………!!あ、あの………士道、さん!?』

 

いきなり服を脱ぎ始めた士道に、四糸乃は両手で自分の目を隠していた。士道は親指を立てて、四糸乃に決めポーズ!

 

『………ん、決まってんだろ!?お風呂が元どおりになったんだから、俺も四糸乃と一緒にお風呂だよ、お風呂!さぁて四糸乃ちゃ〜ん、お兄さんがいっぱいお身体を触って―――じゃなかった、洗ってあげますからね〜♪グヘヘヘヘヘヘヘヘヘ!!』

 

『いやぁ〜ん!士道くんのエッチぃ!』

 

―――悪びれることなく四糸乃と一緒の湯船に浸かる士道くん。彼が思っていることは、幼い娘と一緒にお風呂に入る父親だが、琴里と令音には無垢な幼女に手を出すロリコンにしか見えなかった。

モニターでその様子を見ていた琴里は、艦長席から勢いよく立ち上がった。

 

「―――令音、ちょっとあのバカに灸を据えてくるわ」

 

「………ほどほどにね」

 

琴里は転移装置で精霊用の特殊住居にワープした。

限定的な霊装を纏い、天使を顕現させておっぱいドラゴンが欲望を満たしている楽園に襲撃を仕掛ける!!

 

『………お☆に☆い☆ちゃぁぁぁぁぁぁぁ☆ん♪可愛い幼女さんにこれからナニをするつもりだったのかしら〜?

琴里、聞きたいなぁ♪』

 

『―――ゲェッ!?』

 

浴室の扉が開かれ、精霊率八〇%のレッドゾーンスレスレを走る妹の登場に、士道くんは青ざめた。

―――精霊率とは、士道に封印された精霊たちの力の逆流度である。五〇%以上がイエローゾーンで、八〇%以上がレッドゾーンである。レッドゾーンを超えてしまうと再封印の必要があり、今の琴里ちゃんはそのスレスレを走っているのだ!!

 

『「灼爛殲鬼(カマエル)」―――「(メギド)」♡』

 

顕現させた天使を、斧形態から、砲撃形態の武装に変形させ、自分の腕に同化させる妹の琴里ちゃん!!

―――今の琴里ちゃんは鬼である。神をも容易く滅ぼす鬼神となっている!!

 

『………ま、待て琴里!餅つけ―――じゃなくて落ち着け!まずは深呼吸だ、深呼吸!話せば分か―――んぎゃあああああああああああああああ!!!!』

 

………士道は平和的解決を申し出たが、琴里は士道に一切の慈悲をかけることなく、砲門にチャージした煉獄の業火を士道に放った。『フラクシナス』の艦内に士道の断末魔の叫びが響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

―――◆―――

 

 

 

 

 

 

 

「―――やっとたどり着いたお昼休憩………なんでこんな忙しい時に警報がポンポンなるのよ………」

 

時刻は13:30。ある程度の仕事が片付いたところで琴里は昼食をとることにした。

………特殊住居に住んでいる精霊たちの精神状態の安定と、山積みの仕事を片付けに追われ、琴里の疲労は限界に近づきつつあった。

休憩室で士道が作ってくれた弁当を食べていた時、医務室の方からよく知る声が聞こえてきた。

 

『―――令音さあああああああああんんっっ!!琴里が俺に暴力を振るうよおおおおおおおお!!俺、すっごく頑張ってるのに!!今日も十香と四糸乃を助けて、一緒にお風呂に入ろうとしただけで燃やされたよおおおおおおおおお!!』

 

―――声の主は兄の士道であった。琴里が医務室を覗くと、医務室の長椅子に座っている令音に泣きつく士道の姿が………泣きつく士道くんを令音は優しく頭を撫でていた。

 

「………ああ、シンはよく頑張っている。私はいつでもキミの味方さ―――シン、いい子いい子」

 

令音は士道を抱き寄せ、自分の胸に士道の顔を当てるように優しく抱きしめた。

―――この行為で士道くんはいつものおっぱいドラゴンに戻る!!

 

「―――ユートピア!!ここが俺のユートピア!!極上のキョニュウムが俺を癒してくれるぜ、令音さんのおっぱいマジ、ユートピアッス!!」

 

『………ロリニュウム、ビニュウム、キョニュウム―――はぁ、はぁ………俺は乳龍帝ではない、俺は断じて乳龍帝などではないのだ!うおおおおおおおおおおおおんんんんっっ!!』

 

先程まで泣いていた士道くんだったが、令音のおっぱいの感触と令音の乳から発せられる乳気―――キョニュウムを吸収することで元気一〇〇倍だ。

………士道くんとは正反対に、ドライグの方は涙の大洪水が起きていた。

前世と同様に、度重なる乳ネタでドライグの意識が飛びそうになっていた。

十香やくるみんの時はなんともないのだが、令音の胸だけはその禁断症状が出るようになり始めたドライグ―――割と真面目にピンチである。

 

「―――ほんんっとうに懲りないわねアンタは………」

 

くるみんの霊力を封印してからというもの、ほぼ毎日見るこの光景に琴里は心底呆れていた。

―――鉄拳や殺人キックをお見舞し、殺戮パペット(よしのん)を投げつけられようが、令音のおっぱい求めてやってくる士道くん。

………最近の士道くんは令音のおっぱいあってこそである。

 

「………琴里、私たちがシンの頑張りに答えてあげられることはこれくらいだ。私の胸くらいは大目に見てやっても良いのではないのかい?」

 

「―――良いわけないでしょ!?令音、あなたは嫌じゃないの?」

 

「………不思議とシンならあまり悪い気分がしない。こう見えてもシンは母性本能をくすぐるようなところがあるからね。甘えてくるシンを見ていると、どうしてもそれに答えたくなる私がいるのも事実だ」

 

「うへへへへ!おっぱい、おっぱい………」

 

………令音も満更ではないようだ。令音のおっぱいは現在の士道にとっては生命線となりつつある。

士道くんは令音のおっぱいを存分に堪能し、その顔は心底幸せそうだ!!

しかし!令音のおっぱいに安らぎを求める士道くんを許さない琴里ちゃんが今、ここにいる!琴里はおっぱいを楽しむ士道の首を手で掴む。

 

「いつまでくっついてるわけ!?さっさと離れなさいよ!!」

 

琴里が腕に力を込め、士道の首を引っ張ると――――――あっさりと離れる士道くんの姿があった。

 

「………………………」

 

いつもなら抵抗をする士道くんだが、抵抗することなく今日はすんなりと離れてくれた。ちなみに、いつもの士道なら離れまいと令音の胸にしがみつき、さらにそれを堪能する真似をするのだが、今日はとてもおとなしい士道くんだ。

怪訝に思い士道の顔を覗くと―――士道は眠っていたのである。

 

「………まさか令音の胸が枕がわりになってたわけ?―――どうなっているのかしら、このおっぱいドラゴンの頭の中は………」

 

大好物のおっぱいでも眠ることのできる士道くん―――キミは立派なおっぱいドラゴンだ。

とりあえず眠っている士道を琴里は令音の座る長椅子に寝かせる。

 

「………眠っているのであれば寝かせてやるべきだ。これは私の推測だが、彼は深夜を過ぎてもテスト勉強をしていたのだろう。午前三時を回ってもシンの部屋には灯がついていたからね―――琴里、キミは休憩してくるといい。ここは私に任せてもらおう」

 

「………ええ、分かったわ」

 

琴里はその後医務室を出て行った。そして、残された令音は―――

 

「………そう言えばシンは、私に膝枕をしてほしいと言っていたね―――いつも頑張ってくれているし、叶えてあげようか」

 

令音は士道の頭を自分の膝の上に乗せて、士道の念願だった膝枕を叶えてあげた。膝枕を叶えてあげた時に、士道の寝顔がとても幸せそうな表情に変わっていた。

 

「………シン、キミの寝顔はいつまでたっても変わらないね」

 

令音は幸せそうに眠る士道の寝顔を見て静かに微笑み、呟いた。

士道の寝顔を見た令音はどこか懐かしく、そして愛おしそうに髪を撫でたりと何処か癒されていた。

 

 

 

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

 

 

「ふぅ………だいぶ片付いたわね―――さっ、残りも手っ取り早く終わらせましょうか」

 

自分の机の上に書き終えた報告書と、整理したデータをまとめた資料の山を見て一息吐いた琴里ちゃん。

―――琴里が本部からの膨大な報告書の大多数を処理した頃には、すでに22:00を回っていた。

―――良い子は寝る時間であるが、琴里は残りの仕事を処理にかかろうとしていた時、長身で長い金髪が特徴の男性が艦橋に入室してきた。

 

「―――司令、あまりご無理をなさらない方が………残りの仕事は私にお任せになられて、今日はもう休養されては?」

 

―――副司令の神無月である。神無月も椎崎や他のクルー同様に司令の琴里の無理を懸念していた。

 

「そうも言ってられないわよ………他のクルーたちも自分の仕事がある上で私の仕事を手伝ってくれているからね―――私だけ楽をするような真似はできないわ」

 

ちなみにラタトスク本部から与えられた報告書の提出期限は、今週末となっており猶予はあと二日ある。しかし、精霊の出現や今日のように霊力を封印された精霊たちの精神状態が不安定になるようなことがあれば、その対策に追われて期限を過ぎても終わらないという事態になりかねないため、琴里は意識が持つうちは仕事の完成を急ぐ決意だった。

 

しかし――――――神無月は強く否定する。

 

「何を言っているのですか!もしもの時に司令が倒れるようなことがあれば大変です!ぜひ休養を!お風呂にでも入っていただければ、へへへへへへへへ!」

 

神無月は琴里に休息を取るように強く言った―――が!!最後のセリフの時、神無月の表情が士道の乳ネタが如く危険な表情を浮かべていた!!

それを見た琴里は神無月に真意を追求する。

 

「………………神無月、あなた何が目的なの?」

 

「―――ハッ!?い、いえ………未成熟のカチカチな果実のような司令の妖精ボディを拝もうなどという、如何わしいことなど、この神無月これっぽっちも――――――アギャッ!?」

 

………これである。士道同様にこの男もまた欲望に正直だった。自身の欲望を包み隠さず白昼にさらした神無月の顔面に藁人形と地球儀の洗礼が!!

鼻血を垂れ流しながらも、神無月はこの理不尽に立ち向かう!

 

「―――何です!?妖精ボディの何が悪いんですか!!今この時代は盗撮の時代なんですよ!?隠しカメラでお風呂の中を盗撮することの一体どこがいけないって言うのよ!士道くんだって十香ちゃんや四糸乃ちゃん達の裸の写真を何枚も収めているというのに、なぜ私だけいけないんですか!!」

 

………この男もまた一切ブレない!!例え藁人形や地球儀では怯むことはない!この男も変態道を極める勇者であった。

ちなみに、士道も精霊たちの住む特殊住居に隠しカメラを仕込んで十香たちの着替えやらお風呂やらの写真を隠し撮りしている。

その写真は彼の秘蔵アルバムにそれはそれは大切に保管されているのは、また別のお話。

 

「―――これだからあなたという人は………またアマゾンにデンキウナギを捕まえに行かせますよ!?」

 

「いやいや、ここはマリアナ海溝の深淵旅行の方がよろしいかと」

 

椎崎と箕輪が唸るが、勇者神無月は「かかって来やがれババアども!」と一切退く様子を見せない!

―――そんな神無月に琴里がパチンッ!と指を弾くと筋肉モリモリマッチョマンの二人組みの男が神無月を持ち上げた!!

………お約束の懲罰タイムである。

 

「―――ああああああああああ!司令、お慈悲を!ラーゲリだけは、ラーゲリだけは勘弁して下さいぃぃぃぃぃぃ!!」

 

神無月は、さらなる変態道を極めるために新たな星に挑む!SPの二人に持ち運ばれながら神無月が「しれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」と手を伸ばすが、琴里は止めはしなかった。

 

「………まったく、あの変態は―――ん、これって………」

 

神無月のいつもの様子に呆れていた時だった。琴里のデスクから一枚の紙が落ちた。

それは、神無月に任せていた精霊たちの環境調査の回答書だった。

 

『シドーとの生活がとても楽しいぞ!その士道との生活が実現しているのは琴里のおかげだ!琴里、ありがとうなのだ!―――夜刀神十香』

 

『士道さんのご飯がとても美味しいです。それから、いつも士道さんにご迷惑をかけていますが、いつも士道さんは笑って許してくれます。琴里さんも、色々なことを教えてくれるので、毎日が本当に楽しいです。本当にありがとうございます―――四糸乃』

 

『士道さんとの日常がとても楽しいです。忘れていた大切なことを思い出させていただきましたわ。その日常も琴里さんたちのサポートがあってこそということも存じ上げております。本当に心から感謝致します―――時崎狂三』

 

精霊たちは今の生活にとても満足していることはこの紙に書かれてあることが証明していた。

これまでどれだけ傷だらけになろうが、前だけを見て自分の想いを貫き通した士道が最高の結果を掴みとった。

しかし、十香たちはその後の日常がラタトスクのサポートがあってこそ成り立っている事を忘れてはいなかった。十香たちは琴里にも感謝の心を忘れていなかったのである。

 

「………どうしようもないド変態のスケベ野郎だけど、バカ正直に想いを貫いた士道が彼女たちを、そして私も救ってくれたのよね」

 

琴里は十香たちの想いが込められたその紙を見て、艦内の天井を見上げた。見上げた天井に、士道の顔が浮かんでいるように琴里は感じた。………琴里は表情を緩くし、そして微笑んだ。

 

「………ありがとう、おにーちゃん」

 

琴里はそう呟いた後、残りの仕事を片付けるために自分との戦いに戻ったのであった。

これからも彼女たちの戦争(デート)はまだまだ続く!

 

 




デートアライブの三期が絶賛放送中ですが、本当に七罪ちゃんが可愛かったです!
声優さんの声もしっかりマッチしてるなと思いました。

さてさて、次回からオリ章『六華クライシス』に入っていきます。
これからもデート•ア•ライブ 〜転生の赤龍帝〜をよろしくお願いします。


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五章 六華クライシス
一話 成果を発揮します!!


この話からオリ章『六華クライシス』に入っていきます。

果たしてこの章ではどんな結末が待ち受けているのか………




 

 

琴里に霊力の封印を施してから数日が経過したある日の出来事だ。

士道は近所の高台に足を運んだ―――今日も次元の守護者たちとの修行をつけてもらうためである。

 

「やあ士道くん、琴里ちゃんの霊力の封印も成功したようだね」

 

士道が目的地に着くなり、魔法使いのローブに身を包んだ男―――次元の守護者『ソロモン』が士道に声をかけた。

この場にはソロモンだけではなく、もう一人の守護者である怪力無双のオカマ『ヘラクレス』の姿もあった。

 

「あらやだ、士道ちゃんじゃない!士道ちゃんまた一段とパワーアップしたわね………以前よりも感じられるオーラの強さが格段に増しているわ」

 

久方ぶりに士道の姿を見たヘラクレスも、彼のその成長を感じ取っていた。

士道が一皮向けたことを瞬時に見抜くあたりは、さすが一流の強者がだけが持っている優れた洞察力と言うべきだ。

 

「………いえ、まだまだこれからです。ドライグと二人で何処までも駆け上がっていきます」

 

『その通りだ相棒。俺たちがまだ見ぬ世界を共に見に行くためにも、まだまだ相棒には強くなってもらわねば困る―――もっとも、俺も相棒に応えられるよう精一杯サポートするがな』

 

士道もドライグも現場には満足していない。士道はヘラクレスの言葉を『赤龍帝の籠手(ブーステッド•ギア)』を見つめながらさらなる高みを目指すと誓った………相棒のドライグもその覚悟だ。

 

「ハハハハハ!それは楽しみだ。さて、世間話はこの程度で十分だろう―――それじゃあ、始めようか………」

 

ソロモンがパチンッと指を弾くと、士道の家の近所にある高台の風景が変わる――――――美しい夜景が見える景色から、世界そのものから色を消したような、真っ白な空間へと変わった。………これから士道の修行が始まろうとしていた。

 

「………それはそうと―――アテナさんの姿が見えないのですが、何かありました?」

 

「ああ………アテナは今日どうしても外せない用事があってね、士道くんには残念なことだろうけど今日は来ないよ―――ごめんね士道くん、アテナのおっぱいがご所望だったはずなのに、こんなお兄さん二人が修行相手だなんて」

 

………どうやらアテナは来ないようだ。士道はソロモンの言葉に首を横に振る。

 

「―――いえ、そんなつもりはありませんよ。修行相手を務めてくれるだけでも本当にありがたいです。………十香やくるみんたちに修行を手伝わせるわけにはいきませんしね」

 

地上最強とも呼ばれた二天龍の片割れ―――赤龍帝の力を使う修行ともなると、相当の強者が相手でなければ修行にならない。

………完全な霊装を再現できない十香やくるみんでは通常状態の士道ならともかく、禁手(バランスブレイカー)状態の士道を相手にするともなると力不足だ。

 

「………さて、士道くん。今日はヘラクレスがキミの相手だ。彼を相手に何処まで食らいついていけるか、見させてもらおうか」

 

ソロモンの言葉とともに、ヘラクレスが前に出る。ヘラクレスの体からは、可視化するほど研ぎ澄まされた闘気が放出されており、圧倒的なプレッシャーを士道は感じていた。

………だが、それに気圧されることなく士道も『赤龍帝の籠手(ブーステッド•ギア)』を左腕に出現させ、宝玉を輝かせる!

 

「―――そういうわけで士道ちゃん、アタシが相手よ〜ん!見違える成長を遂げた士道ちゃんなら、アタシも十分楽しめそうだわぁ!」

 

ヘラクレスはニパァっと笑っている。士道がヘラクレスと戦った時、士道の攻撃はダメージを与えられず、ヘラクレスの通常の拳が直撃しただけで、意識をもっていかれる瀬戸際まで追い込まれた。

………マイナスのイメージしかなかった士道だったが、強く目の前に立ちはだかる強敵に視線を鋭くする!

 

「………ッ!いくぜッ―――禁手化(バランス•ブレイク)ッッ!!」

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!!!!』

 

士道が強く言葉を発すると同時に、赤い龍を模した全身鎧が士道の全身を包み込む!!

それを見たヘラクレスは拳を握りしめ、腰を落とし半身で構える。

 

『相棒、分かっているとは思うが玉砕覚悟で真正面から突っ込む真似はするなよ?こちらはカウンターを受ければ一撃で戦闘不能に追い込まれる』

 

「―――分かってる。俺とあのおっさんの間には天と地以上の実力差があることくらいは理解してるさ―――だから………!!」

 

士道は籠手を輝かせ、ヘラクレスの周囲を回り込むように陣取り、ヘラクレスの視線を拡散させるように立ち回る!

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!!!!!!!!』

 

士道が目まぐるしいスピードで動き回りながら、倍加を加速させていく!そして、霊力を両腕に集中させ自分の体を超えるエネルギー弾を作り出す!

激闘の火蓋が切って落とされた時、士道の動き方を見ていたソロモンが呟く。

 

「………正面からは来ないか―――これまでの戦闘経験が存分に生きている。『禁手(バランス•ブレイカー)』に至って舞い上がっていると思っていたけど………冷静に相手を分析しているね」

 

「まあ、ドライグちゃんがいることも大きいわね。ドライグちゃんが士道くんに忠告してるだろうし、それに油断してると痛い目みるってことは十分士道ちゃんも理解しているでしょ………さあ、かかってらっしゃい士道ちゃん!」

 

自分の周囲を飛び回るように立ち回る士道をヘラクレスはしっかりと目で追いながら、士道に言った。

ヘラクレスの視界内、それも真正面に士道が入った瞬間に士道が攻撃を仕掛ける!!

 

「―――喰らえッ!!」

 

自分の身体以上に大きいエネルギー弾を士道は真正面のヘラクレスに放った。士道の放ったエネルギー弾は、三大勢力の上級クラスでも一撃で致命傷を負わせることのできる威力を誇る。

………しかし、天龍と肩を並べるほどの実力をもつヘラクレスともなると―――

 

「てえぇぇぇぇいッ☆」

 

士道が放ったエネルギー弾に、ヘラクレスは渾身の回し蹴り!その結果、士道が放ったエネルギー弾が士道へと跳ね返る!!

………そう、ヘラクレスは士道の渾身の一撃を蹴り返したのだ。

 

「――――――ッ!!」

 

ドオオオオオオオオオオオンンンッッ!!

 

士道が放ったエネルギー弾はそのまま士道に直撃し、空中で大爆発を起こす!!

………ちなみに直撃はしていない。士道は直撃したかのように思わせるために、すぐに跳ね返ってくるエネルギー弾と同等のドラゴンショットでそれを相殺したのだ。

―――しかし、ヘラクレスは爆発が起こった自分の視界内ではなく、すぐに背後に意識を集中させる!!

 

「―――読めてるわよ、士道ちゃん!」

 

ガギィィィンンンッ!!

 

金属が何かとぶつかった時に生じるような音が発生すると同時に、ヘラクレスの背後で巨大な大剣が砕け散った。

―――士道が背後から十香の天使『塵殺公(サンダルフォン)』で斬りかかってきたのだ。しかし、ヘラクレスは右腕の闘気を強め『塵殺公(サンダルフォン)』を迎撃!!

その結果、ヘラクレスの闘気を纏った豪腕が士道の『塵殺公(サンダルフォン)』を粉砕したのである。

 

「―――まだだッ!『氷結傀儡(ザドキエル)』ッッ!!」

 

十香の天使『塵殺公(サンダルフォン)』を砕かれた士道は瞬時に受け身を取り、籠手を青く輝かせ地面を殴り付けた。

次の瞬間、地面から無数の氷の刃が飛び出し、ヘラクレスを襲う!!

 

「面白いじゃない♪―――そぉぉぉれぇぇぇぇぇ☆」

 

ズガアアアアアアアアアアアアンンッッ!!

 

迫り来る無数の氷の刃に、ヘラクレスは闘気を纏った右腕を振り抜き渾身の正拳突きを放つ!!

ヘラクレスが放った正拳突きは凄まじい闘気の解放による嵐を纏い、地面から襲いかかる氷の刃を全て破壊していく!!

 

「―――まだだッ!!『氷結傀儡(ザドキエル)』―――【氷刃(サイオン)】ッッ!!」

 

士道はヘラクレスの闘気弾を飛び退くように避け、上空に幾重にも氷の刃を出現させて流星の如くヘラクレスに降り注がせる!!

 

「―――いい攻撃だけど、この程度じゃアタシは止められないわよ〜ん♪」

 

ヘラクレスは身体に纏う闘気を爆発させるように放出させ、士道が放った氷の刃を全て破壊する!!

士道が放った技をヘラクレスは力の差を見せつけるが如く、いとも簡単に士道の攻撃を防ぎきってみせたのだ………

 

「………さあて、今度はアタシの番ね☆悪い子にはお仕置きよ♪」

 

「チッ!―――『氷結傀儡(ザドキエル)』ッ!!」

 

ヘラクレスは地面から砂嵐を巻き上げながら眼前の士道に拳を引いて迫る!!

士道は地面を殴りつけ、巨大な氷の絶壁を出現させてヘラクレスに備える―――しかし………

 

「えい、やあッ!!」

 

ビシッ………ズドオオオオオオッッ!!

 

ヘラクレスの渾身の拳は士道の展開した『氷結傀儡(ザドキエル)』の氷の絶壁をいとも簡単に破壊した―――しかし、士道の姿はヘラクレスの視界内から見事に消えている!!

そして………ヘラクレスが気配を探ると―――巨大な力を放っている存在がすぐ目の前にいることに気付く!!

 

「………なるほど、これが士道ちゃんの狙いってわけね―――今までの一撃はこのための布石っ!!」

 

「―――正解だぜおっさん、これが俺の全力だッッ!!」

 

ドガッッ!!

 

士道は赤龍帝の力、琴里の天使『灼爛殲鬼(カマエル)』の灼熱の業火、そしてアスカロンの聖なる波動の全てをミックスした渾身の正拳突きを、ヘラクレスの胸に叩き込む!!

士道の渾身の一撃はヘラクレスの胸を捉え、地面を滑りながら後退していった。

士道も一度ヘラクレスから距離を取り、大きな間合いを開けた。

 

「―――やるじゃない士道ちゃん、いい一撃だったわ」

 

「………ったく、よく言うぜ。大したダメージは与えられなくとも、流血はさせたと思ったんだけどなぁ―――完全に無傷か………それに、こっちは完全に躱したつもりだったけど、鎧が破壊されてやがる」

 

士道が纏っている鎧の胸部から破片が地面に落ちた。ヘラクレスは士道の拳が胸に直撃したが、瞬時に回し蹴りで士道に反撃を行った。

士道は瞬時に反応し、完全に躱した筈だったのだがヘラクレスの闘気が士道の鎧を破壊したのだ。

そして、ヘラクレスの胸を捉えた左側の籠手にも亀裂が入っていた。ヘラクレスの凄まじい闘気に籠手を破壊されたのだ。

 

『………今の一撃なら龍王クラスでも致命傷になる一撃だった。だが、この男は闘気を直撃する箇所にのみ集中して防御した―――その結果威力を殺されたな』

 

ドライグがヘラクレスが行なった行動を全て士道に伝えた。士道は苦笑いをしながら「―――本当にシャレになってねえよな、このおっさん………」と改めてヘラクレスの強さを再認識していた。

 

「―――自信を持っていいよ士道くん。キミはヘラクレスの虚をついて一発入れてみせた。この前はカウンターを入れようとしたが、見事に吹き飛ばされて終わりだった―――けれど今は違う。キミは本当に強くなっている、この一ヶ月間でのキミの成長はっきり言って異常だ」

 

士道の成長をずっと見てきたソロモンはこの一ヶ月で士道がどれだけパワーアップをしたかをすぐに理解した。

赤龍帝の力は勿論、天使を扱う力がこの一ヶ月で劇的に変化した。十香の『塵殺公(サンダルフォン)』、四糸乃の『氷結傀儡(ザドキエル)』、琴里の『灼爛殲鬼(カマエル)』そして今回は使用していないが、くるみんの『刻々帝(ザフキエル)』も当人同様に使い熟すまでに成長した。

 

「―――俺一人じゃここまでは来られませんでした………だから、本当にありがとうございました」

 

士道はソロモンに感謝を述べた。士道がここまで強くなることができたのは、ソロモンたちが士道の修行相手を務め、そして的確なアドバイスを送ったことこそが士道をここまで強くしたのだ。

 

「ハハハ、お安い御用さ。キミは歴代の中で最も可能性に満ち溢れた赤龍帝だ。これからキミがどのような赤龍帝になっていくのかをね」

 

ソロモンは豪快に笑い飛ばした。そして士道もソロモンたちに堂々と宣言する!!

 

「………俺の夢は前世から一つも変わってませんよ―――ハーレム王に俺はなる!そんでもって全精霊をデレさせて毎日おっぱい三昧だ!!」

 

『―――あ、あー。僕は何も聞こえませーん、何も聞こえませーん。僕は誇り高き二天龍の赤龍帝だもーん!』

 

士道の夢をドライグはスルーした。いちいち相手にしていたらキリがないからだ。………地味に精神が幼児化しているが、これは乳ネタの影響である。

士道の夢を聞いていたソロモンも首を縦に振って頷いていた。

 

「………………ッ!?」

 

ソロモンと話していた士道だったが、突然凄まじいプレッシャーを感じ、呼吸を忘れるほどの強い力の波動を感じた。

そのプレッシャーを放っていたのは――――――先程まで自分が手合わせしていた存在とは思えないほど、気が膨れ上がったヘラクレスの姿が………

 

『―――あの巨漢、明らかに纏うオーラが変わったな………気を付けろ相棒、どうやら遊びは終わったらしい』

 

「………そうらしいな。とは言ってもアレでもまだ全力じゃあなさそうだ」

 

士道もヘラクレスが劇的なパワーアップを遂げたことを見て、鎧を復元させる。

ヘラクレスの様子を見ていたソロモンが士道に忠告する。

 

「士道くん、彼は自分に掛けられてある枷を一つ外したんだ―――闘気の色が濃くなっているから、まあ言うまでもないかな?」

 

ソロモンの忠告に士道は「ええ………」と頷いた。先程とは比較にならないプレッシャーのあまり、士道は大量の汗をかいていた。

 

「………さあ、士道ちゃん―――第二ラウンドいってみよ〜♪」

 

『「―――強さは変わっても、性格は変わらないのね!?」』

 

―――枷を外したことにより、大幅にパワーアップを遂げたヘラクレスだったが、その性格は見事に変わっていなかった………その時、士道とドライグが心の中で思っていたことは全く同じだった。そんな様子を見ていたソロモンはケラケラと楽しそうに笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

―――◆―――

 

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

第二ラウンドが開始となったが、士道は慎重に出方を伺っていた。相手はヘラクレスだが、枷を外したことでその力は格段に上昇している―――それは士道もドライグも感じ取っていた。

それを証拠に、ヘラクレスが纏う闘気がさらに濃密になり、力強さを増しているのだ。

ヘラクレスが静かに右手を前に出した時、ドライグが強く叫ぶ!

 

『―――来るぞ相棒!!』

 

「………っ!ああ、分かってる!!」

 

ヘラクレスが静かに寝かせていた右手を立てた――――――次の瞬間………

 

「ぐっ………がああああああっっ!?」

 

士道を強烈な突風が遅い、地面をゴロゴロと転がりながら吹き飛ばされた。しかし、士道はすぐに背中のブースターを起動して体勢を整える。

士道が再び構え直した時、士道の籠手にある宝玉が光を点滅させる。

 

『………まさか、今のは掌圧か!?しかし、これは――――――』

 

「マジかよ………シャレになってねえだろ――――――掌圧だけで俺の鎧に罅を入れんのかよ………!」

 

ドライグは先程の突風が掌圧だと言うことを見切っていた。そして士道の鎧には、いくつもの罅が入っており何か軽い衝撃を加えれば完全に崩壊するレベルにまで鎧を破壊されたのだ―――それも、掌圧だけというおまけ付きで………

士道の鎧は精霊の攻撃でも耐えることができ、十香の『塵殺公(サンダルフォン)』でも一撃で士道の鎧を破壊することは不可能だ。

しかし、ヘラクレスは掌圧だけで士道の鎧をいとも容易く破壊してみせたのだ………仮に拳が直撃していたら士道の体は原型をとどめていなかっただろう。

 

「………どうしたのかな士道くん、まさか今になって怖気付いたのかい?」

 

ソロモンの言葉は士道にとって図星だった。圧倒的な力の前に士道は気圧されそうになっていた―――しかし、士道は拳を強く握りしめ、瞳から闘志をたぎらせる!

 

「ええ、確かに怖いです――――――でも、俺には成し遂げなければならないことがあります………それを阻止しようと俺の前に立ちはだかる敵は、全てねじ伏せるだけの覚悟はあるつもりです!」

 

『………ソロモンよ、俺の相棒•五河士道はこれまで幾重にも困難を乗り越えてきた。確かに目の前の巨漢は、相棒が戦ってきた相手の中では間違いなく最強だ――――――しかし、この男はやると決めたことは必ずやり遂げてきた、誰が相手であろうと相棒が怯むことはない』

 

ドライグの強い言葉に、士道もそれに頷いてみせた。二人の覚悟を聞いたヘラクレスは嬉しそうに両拳を衝突させ、再び体から闘気を可視化させる!

 

「………よく言ったわ士道ちゃん!さあ、あなたの全力をアタシに見せてみなさい!」

 

「ああ、言われなくてもやってやる!!」

 

士道は鎧の傷を復元し、籠手からアスカロンを引き抜く!それだけではない、もう片方の手に十香の天使『塵殺公(サンダルフォン)』を顕現させ、聖なる波動と霊力をそれぞれ高めていく!!

 

「―――くるみんの空間震を消滅させたあの一撃か………なるほど、アレなら可能性がありそうだね」

 

ソロモンは士道が放つ攻撃を予想をしていた。ソロモンが予想していたのは、二つの剣のエネルギーを合成させた一撃―――『ドラゴニック•バースト』。

くるみんの空間震を真っ二つにした士道の切り札だ。

 

 

しかし―――………

 

 

ソロモンは自分が建てた予想が誤りだったことに、気付いた。

 

「………っ、違う。アレは――――――」

 

士道が顕現させた『塵殺公(サンダルフォン)』に変化が現れる!アスカロンが光の宝玉に変化し、『塵殺公(サンダルフォン)』の宝玉と同化する!!

そして、それだけではない!!士道が地面を鋭く踏みつけると、地面から玉座が現れ、その玉座が破片となって剣に融合していく!!

 

 

………そう、この剣は―――

 

 

「………これが俺だけの武装―――『最後の龍聖剣(ドラゴニック•ハルヴァンヘレブ)』ッ!!」

 

………これが士道が持つ最強の切り札―――『最後の龍聖剣(ドラゴニック•ハルヴァンヘレブ)』。

十香の『最後の剣(ハルヴァンヘレブ)』にアスカロンを融合した究極の大剣だ。

最後の龍聖剣(ドラゴニック•ハルヴァンヘレブ)からは、最後の剣(ハルヴァンヘレブ)の特徴でもある黒い雷だけでなく、アスカロンの聖なる波動も溢れている!!

 

「―――ドライグ、今だ!!」

 

『Welsh Dragon Limit Breake―――Over Limit Booster Set Up!!!!!!!!!!』

 

ドライグの音声と共に、士道の鎧の宝玉全てに『B』の文字が現れ、文字通り限界を超えた一瞬の倍加が始まる!!

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!!!!!!!!!』

 

士道の力が桁違いに跳ね上がり、それに伴うようにソロモンが作った擬似空間が悲鳴を上げている!!

 

「………………うーん、これはちょっとまずいかもねぇ―――この空間は絶対壊れないように設定したつもりだったんだけど………ちょっと士道くんを過小評価し過ぎたかな?」

 

ソロモンは士道が次に放つ一撃の威力に、目を点にして佇んでいた。ソロモンもここまで士道が力を上げていることは分からなかったのだ………さすが二天龍の赤龍帝と言ったところだろう。

 

「さあ、打ってみなさい士道ちゃん!」

 

「―――ああ、行くぜッッ!!」

 

士道は最後の龍聖剣(ドラゴニック•ハルヴァンヘレブ)を握りしめ、天に掲げる!

それに合わせてドライグが倍加した力を譲渡する!!

 

『Transfer!!!!!!!!!!!!!!!』

 

カッ―――ドオオオオオオオオオオッッ!!

 

ドライグが倍加した力を最後の龍聖剣(ドラゴニック•ハルヴァンヘレブ)に譲渡することで、聖なるオーラと黒い雷が爆発的に強化される!!そして、その力の余波によってソロモンが用意した擬似空間に亀裂が入り始めている!!

 

「―――これ、現実世界に影響出ないかな………」

 

そして、ソロモンはただ何もせずに見上げているだけ!!―――いやいや、なんとかしろよ次元の守護者の魔術師さんよ!!

 

「行くぜ、最後の龍聖剣(ドラゴニック•ハルヴァンヘレブ)ッッ!!」

 

士道は自分が持つ最強の切り札を、ヘラクレスに振り下ろした―――惑星一つくらいは容易く真っ二つにできるほどの強烈な一撃がヘラクレスを捉え、あたり一面を根こそぎ破壊した。士道の一撃は超新星爆発に迫るほどの威力だった。

 

 

 

 

 

 

 

―――◆◆―――

 

 

 

 

 

 

 

「はっ………はっ………はっ………」

 

士道は息を荒くして肩を上下させていた。鎧を纏っている士道だったが、凄まじい疲労感に襲われ、鎧の宝玉が点滅している―――限界の合図だ。士道が鎧を纏っていられる時間は残り数分が良いところだ。

………さて、己の成長を示すために自身の奥義を発動した士道だったが、その奥義が発揮したあまりの威力に士道は青ざめる。

 

「これ………現実世界でやったら天宮市くらいは軽くあの世行きだよな………」

 

『―――当たり前だ。全盛期の俺たちでも全力で防御しなければ即死が確定するレベルだろう………夜刀神十香があの大剣を振り下ろす前に止めれていて良かったな相棒』

 

ドライグの言葉に士道は全身の毛穴が開くような悪寒を感じていた。現に、ソロモンが用意した擬似空間は崩壊こそしていないが、所々空間が裂けており、その外には万華鏡のような光景が見えていた。空いた亀裂をバチバチと音を立てながらソロモンの擬似空間が独自に空間が修復しているが、士道の奥義がどれほど凄まじいものかを物語るには、十分だった。

 

………十香の場合はドライグの力がないため士道の一撃には遠く及ばないが、それでも十香が全力で最後の剣(ハルヴァンヘレブ)を振り下ろせば、天宮市ぐらいの小都市なら軽く地獄に変えることが可能だ。

 

ちなみに、奥義が直撃したヘラクレスの姿はなく、静観していたソロモンの姿も奥義の余波に巻き込まれたのか何処かへと消えていた。

 

「………………ん?なんだこれ?」

 

士道は最も近くにあった修復が追いついていなく、空間の亀裂が目立つ箇所を凝視した。

………そこには小さな渦のようなものが発生していた。

 

士道が渦に触れようとしていた時、ソロモンが地面の中から顔を出し、士道に叫ぶ!!

 

「士道くん!今すぐそこから離れるんだ!!」

 

「え――――――な、なんだ!?」

 

ソロモンが士道に叫び声を上げた時には、もう既に時が遅かった………

ソロモンの叫び声が聞こえた時には、士道は既に渦に飲み込まれそうになっていた。

 

「………士道くん、これに捕まるんだ!!」

 

ソロモンは懐から宝具―――『魔法の鎖•グレイプニル』を士道に飛ばすが、士道には届かない!!

 

「―――あああああああああああああああ!!!!!」

 

士道は空間に発生した渦に飲み込まれ、何処かへと消えてしまった。

 

「士道くん!?――――――士道くんッッ!!」

 

ソロモンが喉が潰れんばかりに叫んだが、士道の声が聞こえることはなかった。

士道を飲み込んだ次元の渦に、ソロモンが魔法の鎖•グレイプニルを投げ込もうとするが―――渦はすぐに消え去り、ソロモンたちにも打つ手はなかった。

 




六華クライシスではバトルシーンか多くなると思います。
この章で本作品のラスボスの一角が登場する予定です。

★おまけ

天宮市の住宅街に、ソロモンたちが拠点としている住宅がある。太陽が中天に上がる日中でもほとんど光が入ってこない路地裏にそれはあった。

アテナ「………フフフ、怖がらなくてもいいのよボク?」

女神が纏うローブのような衣を纏い、長い金髪をなびかせている絶世の美女が小学生か中学生のどちらか見分けがつかない少年に魔の手を伸ばしている―――その人物は次元の守護者の一人アテナである。
アテナは自分が拉致してきた少年を見て、目をグルグルと回し、ヨダレを垂れ流している!!
―――ソロモンやヘラクレスと士道の修行に行かなかった理由は、溜まった欲求を処理するためである!!

アテナに拉致された少年「―――ひぃぃぃぃ!ママ、助けて!!怖いお姉さんがボクに悪いことをするよおおおおお!!」

手足を鎖で縛られた少年が悲鳴をあげるが、助けは来ない………アテナの大好物は無垢な少年だ。特に十二歳〜十三歳の成長期前の無垢な少年を好んで襲うのである!!
―――そう、彼女はショタコンなのだ!!

アテナ「………大丈夫よボク。初めは怖いけどすぐに快感に変わるわ―――お姉さんにま•か•せ•て♪」

少年「いや………や、やめてください!」

アテナは目を血走らせて少年の服を全て脱がせる!!少年はバタバタと足をバタつかせるが、どうにもならない!

アテナ「はぁい準備完了♪お姉さんがたっぷり可愛がってあげるからねぇ?フフフフフッ♡」

少年「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」


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二話 どうやら異世界みたいです!

この話から本格的にこの章が始動します。

本章のメインヒロインの六華ちゃんをはじめ、新たな次元の守護者に、本作品のラスボスの一角など、この章は本作品の中でも特に重要な役割を果たすと思います。

それでは、本編です! どうぞ!


 

 

それはいつの記憶だろうか………一人の小さな少年が車から降り、地に足をつけた。

その少年の目の前に映った光景は、一戸建ての住宅とその玄関の前で微笑んでいる夫婦と、夫婦の陰からひょっこりと顔を出して少年を見つめる小さな赤毛の女の子の姿だった。

 

(………………)

 

少年は何も言わず、大人の男性に連れられるがままにその夫妻に預けられることになった。

………この少年のことを気に入った夫妻は引き取りたいと少年が預けられていた施設に申し出てくれたのだ。

どのようなプロセスを経てそうなったのかは、少年は知らなかった―――しかし、ここから少年の止まっていた時が動き出した。

 

(………こんにちは、私たちは今日から家族よ)

 

(………今日からキミは【五河士道】だ。私たちの息子―――五河士道だ!)

 

これから少年の父と母になる夫婦の言葉を聞いた少年からは、涙が溢れ出していた。真っ暗なトンネルを抜け、光が溢れる外に出た時のように―――彼の第二の人生はここから始まった。

 

(―――おとうさん、おかあさん………)

 

………全てを失い、壊れそうになっていた心に希望の光が見えた。自分を守ってくれる人。そして、自分が愛してもいい人。

その少年は、立ち上がることを決めた―――過去を忘れず、そして自分がこの愛すべき家族を守っていこうと。

 

この記憶は―――五河士道の始まりとも言える大切な記憶だった。

 

 

 

 

 

 

 

―――◇―――

 

 

 

 

 

 

「………………………」

 

五河少年が成長した姿である士道は、体を起こした。ぼんやりとする意識の中、少年は目の中の雫を拭い飛ばした。

次元の渦に巻き込まれ意識を失っていたが、誰かがベットの上まで運んでくれたらしく、士道はそのベットで眠っていたのだ。

自分が今いる部屋にはベットしかなく、他には特に目立つものはなかった。

 

『………目が覚めたか相棒―――とても良い家族に巡り会えたな』

 

左手の甲に円状の光が現れ、点滅を繰り返していた。相棒のドライグと士道は繋がっているため、夢を互いに共有することができる。―――前世ではイッセーの如何わしい夢を呆れながら溜息をついていたが、士道が先ほどまで見ていた夢は、ドライグも感慨深い様子で感想を述べていた。

 

「………ああ、万人に誇れる自慢の家族だからな」

 

士道も自分がどれだけ幸せであるかは理解している。彼が立派に成長できたことは、五河家に引き取られていなければ叶っていなかったかも知れない―――だからこそ、いずれ自分が守っていこうと誓ったのだ。

 

『そうか………それは結構なことだ――――――さて相棒………お客様が来たようだぞ?』

 

「………どうやら、そのようだな」

 

ガチャ………

 

士道がいる部屋のドアが開き、誰かが入ってきた。部屋に入ってきたのは、金色に輝く美しい髪が腰まで伸びている、アクアマリンを思わせる水色の瞳。身に纏っている衣装は袖と緋袴が長い巫女装束。年は士道と同じくらいの美少女だった。そして、士道が最も注目したのは、非常に成長している胸だった。令音に匹敵するほど豊かなものをその少女は持っていたのだ!!

 

「………お目覚めになられたみたいですね」

 

少女が士道を見て口を開いた。士道は左腕に宿るドライグに語りかける―――胸の中に宿る熱き思いを!!

 

(おい見てみろドライグ、アレは人類が産んだ至宝だ!!俺は今すぐあの素晴らしいお乳にむしゃぶりつきたい!!どうだドライグ、俺と一緒に揉まないか?)

 

部屋に入ってきた少女を見つめて(特に胸を)士道は卑猥に両手をわしゃわしゃと動かす!!

グヘヘヘヘヘ!!と犯罪者真っしぐらな笑みを浮かべて息を荒くしている!!

しかし、少女はそんな士道を見て頭の上に?マークを浮かべて首を傾げている!自分が危険な状況に置かれていることを彼女は理解できていない!!

 

『………………相棒、あの小娘に今すぐ伝えてもいいか?お前が思っていることを今すぐあの小娘に伝えてもいいか!?目の前にいるこの男は―――女性の胸を触ることが趣味の変態クズ野郎だと!!』

 

(好きにしやがれ!どうせ俺があのおっぱいにむしゃぶりつく事実に変わりはねぇっ!!)

 

『あああああんまりだああああああああ!!!!巨乳、キョニュウム………はぁ、はぁ………俺は、俺は乳龍帝などではないのだあああああああ!!』

 

―――おっぱいあるところに乳ネタ有り!士道くんはブレない、本当にブレない!いつも通りの平常運転だった。

ドライグの一時停止を減速ではなく、加速をする事でブッチギリで無視をして、己の欲望を満たすためには危険を防止するための赤信号すら見向きもしない!!

 

「あ、あの………私の胸に何かついていますか?」

 

少女が胸を見つめる士道に危険を感じる様子もなく、平然とした様子で訊ねた。士道は次第に少女との距離を詰めていく!

 

「つきそうです、巫女装束の胸のところにすっげーハエがつきそうです!ここは全世界紳士グランプリ•ワールドチャンピオンに輝いた俺様がハエを落としてあげなければ、グッヘヘヘヘヘヘヘ!!―――素晴らしいお乳に感謝を込めて、いっただっきまああああああすっ!!」

 

『―――意味不明なグランプリだな!?ていうか、相棒は紳士ではなく変態だろ!?それも全世界最悪最低のな!!おいそこの小娘、相棒に胸を犯される前に逃げて、超逃げて!!』

 

ゾンビのように迫る士道に、正義感の強いドライグは全力で少女に警告をする!!

………ちなみに、子バエが一匹飛んでいることは事実もある―――しかし、それはただの口実に過ぎないことは言うまでもないだろう。

そして肝心の少女は士道に一切恐怖を感じていないのか、普通に立っているだけだった。

 

 

そんな時だった。少女の他にもう一人の人物が部屋の中に入ってきた。

今度の人物は顔にシワが寄っており、年齢は七十歳を超えているような老父だった。老父は部屋の中を見つめてため息を吐く。

 

「………やけに騒がしいと思えば―――倒れておった所を娘に介抱してもらった恩を仇で返そうとするはな………見下げ果てた精神をしとるのぉ少年」

 

老父は卑猥に手を動かしながら少女に迫る士道を見て心底軽蔑していた。

………それもそのはずだ。自分を助けてくれた恩人に、感謝するどころか更に胸を触ろうとするなどもってのほかだ。

 

(………おい、言われてんぞドライグ。いくらあの乳が素晴らしいからって暴走しちゃダメだろ?)

 

『お前だ相棒。あのご老体が言っているのは、俺ではなく相棒のことだ』

 

………士道くんのバカにも困ったものである。

士道は「あ、やっぱり………?」と恥ずかしそうに苦笑いを浮かべ、ドライグは『アホか………』と心底呆れていた。

………さて、この赤龍帝コンビはとりあえず置いておこう。老父が次に言い放つ言葉でザワザワとした空気が一瞬で変化する。

 

「………少年、目覚めたばかりで悪いのだが―――今すぐこの村から出て行ってくれ。お主のようなよそ者を村へ置いておくことはできんのじゃ」

 

老父は今すぐにでも士道をこの家から―――そして、この家がある村から追い出したいらしい。

士道は理由を聞こうとしたが、老父の目は一切自分と話し合いに応じるつもりはないことを悟った。

 

しかし、この中には一人だけ老父の意思とは反対の意思を持つものがいた………先ほどの少女である。

少女は丁寧な口調だが、強い声を出して老父に言う。

 

「お待ちください()()()()、よそ者だからといって、先程まで意識を失い倒れていた人をいきなり村から追い出すというやり方は間違っています!それにこの方は優しい心の持ち主です。この方を迎え入れたとしても、()()()()()()()()()は起こりません!」

 

少女の言葉を聞いた士道は目を丸くした。自分を庇ってくれたことがまず一つ。

しかし、それ以上に驚いたのは、彼女が言った「優しい心の持ち主」という言葉だ。士道は変態だが、困っている人に手を差し伸べる正義の味方のような一面もある。

まだ出会ったばかりだというのに、少女は士道を分かっているかのように述べたのだ。

 

「………六華(りっか)、お主がそう述べるのであれば、この少年は悪い人間ではないじゃろう―――じゃが、わしはこの村の村長じゃ。わしにはこの村を守る義務があるのじゃ………村の長たる者、あらゆる可能性を考慮し村を守らねばならんのじゃ。わしが作った掟を自ら破るわけにはゆかぬ―――わかってくれ………」

 

………少女の名前は六華という名前だそうだ。そして、六華とあの老父は親子関係らしいが、士道は疑念を抱いていた。

士道の疑念に関しては、相棒のドライグも感じていたことでもあり、ドライグ曰く『父と娘ではなく、祖父と孫娘にしか俺には見えん』だそうだ。

………士道は迷う間も無く出て行くか、村に留まることのできるように説得するかを決めた。士道は六華の肩に触れ首を横に振った。

 

「………六華さん、でしたか?倒れていた俺を助けてくれてありがとうございました。俺は貴女のお父さんの言うことに従います―――部外者の俺には黙って従う以外の選択はありませんからね」

 

士道の言葉に六華は目を丸くし、村長の老父も息を飲んで士道の態度に関心を示している様子だった。しかし、掟は掟だ。老父は士道に瞑目して頭を下げる。

 

「………すまんのぉ少年、六華の言う通りお主は本当に優しい心の持ち主のようじゃな―――せめてもの気持ちじゃ………六華よ、この少年を村の外まで案内してやりなさい」

 

「分かりました」

 

老父の言葉に六華は首を縦に振って頷いた。村の外までは六華が案内してくれるそうだ。

士道は六華と共に老父の家を後にし、六華の案内に従って村に出た。

 

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

 

 

村に出てからというもの、士道は六華の隣を歩きながら村の様子を見渡しながらゴールを目指して歩いていた。

キャーキャーと元気よく走り回っている子供や、田畑を耕している大人、そしてこの村のシンボルとも言える村の奥には巨大な神殿が立っており、この村を守護する守護神を祀るためのものだと六華が教えてくれた。

 

そして、士道は自分の境遇を六華に伝えた。自分がいた世界のことを話しても六華は知らないと答え、ここがすぐに自分のいた世界とは異なる世界―――異世界だということを士道は悟った。

 

六華と歩いてしばらくした時のことだった。駆け足で六華に近づいてくる小さな女の子の姿を士道は見た。

その女の子は花で作った冠を手に持ち、両手で六華に差し出した。

 

「六華おねぇちゃん、はい!」

 

少女は天真爛漫な笑顔で六華に手を伸ばしている。六華は少女からのプレゼントを受け取り、頭にかぶった。

 

「あら、ありがとう―――似合ってるかな?」

 

「うん!とっても似合ってる―――おにいさんもそう思うよね?」

 

女の子は六華の隣にいた士道にも笑顔で訊ねた。士道も女の子の言葉を首肯する。

 

「………ああ、よく似合ってる!六華おねぇちゃんも喜んでるぜ!」

 

士道が女の子に合わせるようにしゃがんで言うと、女の子は嬉しそうに微笑んだ。そして、女の子は手を振って駆けて行く。

 

「またね、六華おねぇちゃん!それからおにいさんも!」

 

「うん!またね」「おう、またな!」

 

士道と六華は手を振りながら少女を見送った。しかし、和やかな雰囲気も終わりを迎えようとしていた。村人たちが一斉に警戒を始めたのか、先ほどの女の子は母親らしき人物が家の中へと連れ込み、村の男たちが一斉に集まってきた。村の空気が変わったことを士道も感じとったのか、ボソッと呟いた。

 

「………ちょっと急いだ方が良さそうだな」

 

『ああ、先程のことで村の中に部外者がいることに連中が気付いたな………村人全員が相棒に視線を送っている』

 

ドライグも士道同様に村全体が緊張の空気に包まれたことを悟ったようだ。男たちはほぼ全員が武装しており、鍬や石を手に持って士道を威嚇している!!

 

―――その時だった!士道と同じくらいの歳の少年が、死角から士道をめがけて先が尖った大きな石を投げつけてきた!!

しかし、少し手先が狂ったのか少年が投げた石は士道ではなく、六華の顔面へと軌道が変わる!

 

「―――っ!?」

 

六華は自分に当たると思って目を閉じたが、自分の顔に石は当たらなかった………恐る恐る目を開けると―――自分の目の前で飛んできた石を素手で受け止めている士道の姿が目に映った。

 

「………ったく、これじゃあ俺は厄病神じゃねえかッ!?早いこと村を出た方が良さそうだ―――さて………」

 

「………………」

 

士道は石を投げつけてきた少年を睨み付けると―――少年は絶望した表情で崩れ落ちた。

………士道が庇わなければ、自分の手で六華を傷つけていたとことを理解したのだろう。

士道はその少年に報復はしようとせず、受け止めた石ころを地面に転がした。

 

「だ、大丈夫ですか!?お怪我は―――」

 

六華が慌てて士道の手を確認しようとするが、士道は石を止めた手を腰の後ろに隠す。

 

「心配ないですよ、これくらいならツバつけときゃ治りますから―――急ぎましょう、いつ第二撃が飛んでくるやもしれませんからね………」

 

士道は苦笑いをしながら六華に答えた。ちなみに人間が投げる石程度では士道が怪我をすることはない………士道の手のひらは出血しているが、十秒もあれば『灼爛殲鬼(カマエル)』の炎で完治するからだ。

 

「………っ!!」

 

六華はこんなことは間違っていると歯をくいしばり手を強く握りしめ、大きな声で訴えようとしたが、士道が六華の肩を掴んで首を横に振る。

 

「―――六華さん、村人たちの気持ちは俺にも分かります。大丈夫です、俺は気にしてませんから」

 

「で、ですが………」

 

六華は士道の言葉に面を食らったのか、言葉が詰まった。士道は「それに………」と話を続ける。

 

「俺が向こうの立場だとしたら、家族や仲間を守る為に同じ事をしたと思います。だから文句を言うつもりはありません」

 

士道の言葉を聞いた村人たち全員が武装を解除した。士道の言葉が効いたのだろう。

………どんな理由があれ、何の罪もない人をいきなり攻撃することは許される事ではない。だが、攻撃を受けた士道はやり返すどころかむしろ『気にしていない』と言い切ったのだ。

士道の広い心が彼らの心に響いた結果だった。

 

「………貴方は本当にお優しい方なのですね。―――度重なるご無礼を本当に申し訳ございませんでした」

 

六華は深々と頭を下げた。彼女にも譲れないところがあったのか、士道がどう言おうとも謝罪だけはするつもりだったのだ。

 

「………いいです、気にしてませんから。それじゃあ六華さん、案内よろしくお願いします」

 

「分かりました、参りましょう」

 

六華の案内に任せて、士道は村の外を目指して歩き続けた。村人たちも、先ほどの蛮行を悔いたのか追い討ちを仕掛けてくることは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございました六華さん。色々お世話になりました」

 

村の外れまで来たところで士道は六華に頭を下げた。まず倒れていた自分を助けてもらったことがまず一つ、そして二つ目にこの村から西に進めば町がある事を、士道は六華に教えてもらったのだ。

 

「………いえ、私はお礼を言われるべき立場ではございません。本来なら貴方を村に迎え入れるべき立場なのですが………」

 

申し訳なさそうに表情を陰らせる六華を見た士道は「掟じゃ仕方ありませんよ」と割り切り、気にしていないと首を横に振った。

 

「あ、最後に一つだけ聞いてもいいですか?」

 

士道は心に引っかかっていたことを一つ思い出した。士道の言葉に六華は頷く。

 

「ええ、どうぞ」

 

「………六華さんはさっき『俺を招いても惨劇は起きない』と言っていましたが………もしかしてあの村に何か悲しい出来事でもあったのですか?」

 

士道が訊ねたのは、六華とのファーストコンタクトの時に六華が父に言っていた言葉だ。

士道の問いを聞いた六華は、辛そうな表情を浮かべて心苦しいような様子が伺えた。

苦しげな表情を浮かべる六華を見た士道は、慌てて手を横に振る。

 

「―――す、すみません!俺、なんか悪いこと聞いたみたいで………六華さんが話したくない内容だというのであれば、俺は詮索しません」

 

「大丈夫です。むしろ、貴方には話しておく必要があると私も思っていましたから―――その出来事は、まだこの村を誰もが自由に出入りできていた一年ほど前に起こりました」

 

六華は話し始めた。士道は六華の目を見て真剣に六華の話に耳を傾けた。

 

「………父が村の近くに倒れていた男を発見し、その男を私と父で介抱しました。そこからその男はこの村で生活をするようになり、数ヶ月は平凡な日々が続きましたが………………」

 

六華は最後まで言わず下を向いた。ぎゅっと手を強く握りしめ悲しそうな表情を露わにして黙り込んだ。

士道は一つの考えが頭に浮かび六華に問う。

 

「………その介抱した男が村で何か騒ぎを起こしたのですか?」

 

士道の問いを六華は首肯する。

 

「………はい。年に一度のお祭りで、酒が入ったその男が酔った勢いで私の姉に迫りました。姉はこの村を管理する領主の家に嫁ぐことが決まっていたので、父や村の男性たちがその男を止めて村から追い出しました。

しかし、男は数日のうちに村へと舞い戻り、報復として村に魔獣の群れを放ちました………」

 

「なっ―――」

 

六華の話を聞いた士道は頭を鈍器で殴られるほどの衝撃を受けた。六華は涙を啜りながら話を続ける。

 

「その男が放った魔獣は、私の姉を始めとする多くの者の命を奪いました。多くの者が目の前で魔獣に食い殺され、私の姉も父の目の前で犠牲になりました。

―――すぐに騒ぎを聞きつけた領主が、援軍の部隊を送ってくれたこともあり、なんとか魔獣を迎撃することができましたが………私たちだけでは皆殺しになっていたかも知れません。

―――その時からです『よそ者は惨劇を起こすから、村へ入れてはならない』という掟を父が作ったのは………」

 

「………………っ」

 

六華の話を聞いた士道はどうにもやりきれない気持ちになった。………助けてもらったにも関わらず男は恩を仇で返すという最悪の報復を行なってしまった。

士道は感じた憤りに歯を食いしばり、拳を強く握りしめながら聞いていた。―――そうでなければ我慢ができなかったからだ。

 

「………本当に申し訳ございません。本来なら貴方のお力になってあげたいのですが―――」

 

申し訳なさそうに表情を曇らせる六華に士道は首輪横に振った。

 

「いえ、六華さんは悪くないですよ!真に悪いのは、貴女の姉と村人たちを虐殺しやがったそのクズ野郎だ………」

 

士道は六華の姉と村人たちを虐殺した男に憎悪を最大限に込めた低い声で怨みを吐いた。

………一通り聞きたかったことを聞けた士道は六華に背中を向ける。

 

「本当にありがとうございました六華さん、これから俺は貴女に教えてもらった町に行って情報を集めて来ようと思います。………今度またお礼をさせてください」

 

「―――!ま、待ってください………!」

 

そう言い残して士道はこの場から去ろうとしたが、六華に足を止められる。

 

「―――なんでしょうか?」

 

「………貴方の名前を教えて下さい」

 

六華が士道の足を止めた理由は名前を聞くためだった。士道は振り返り、六華に言う。

 

「俺は士道―――五河士道です」

 

「………そうですか、素敵なお名前ですね。―――またいつか会えますか、士道さん?」

 

「ええ―――また何処かで会いましょう六華さん」

 

士道は今度こそ六華に別れを告げて、西にあると言う町を目指して歩いた。

六華は士道の姿が完全に見えなくなるまでずっと見守っていた。

 

 

 

 

 

 

―――◆◆―――

 

 

 

 

 

 

 

町を目指して歩いていたときのことだった。士道とドライグは足を進めながら会話をしていた。

 

「………変な渦に飲み込まれて、目が覚めたら全く別の異世界―――まるでマンガやラノベの世界にある光景そのものじゃねえか、まあこれが()()ってわけでもねえけど」

 

『確かにな。俺たちの場合はこれが二度目―――とは言っても最初の一度は転生だから数に入れて良いのかは知らんなな………』

 

「―――とは言ってもどうにかして元の世界に戻らねえと………十香がお腹すかせて『塵殺公(サンダルフォン)』を振り回されたらどえりゃあ事になっちまう」

 

十香が「うがああああああ!!お腹が空いたのだあああああああ!!」と大暴れしている姿がふと頭に浮かんだ士道は、どうにかして元の世界に戻ろうとバカな頭をフル回転させていた。

………先程歩いている女性に士道は話しかけたのだが、その女性は士道の言葉が分かっていなかったのか、眉を八の字にして困り果てた表情を浮かべていた。ちなみに女性が言った言葉を士道も何を言っているのか分からない状態だった。

 

『………六華と先程の女の対応を見る限りここが俺たちがいた世界と異なることは明白だ。

―――だが、どうにも俺には引っかかることがある』

 

「引っかかること?それは一体なんだよドライグ………」

 

『―――あの胡散臭い次元の守護者(笑)の魔術師「ソロモン」のことだ』

 

「(笑)って………まあ、初めて聞いた時は俺もそう思ったけど―――でも、ソロモンさんの何処に引っかかるところがあったんだよ?」

 

ソロモンのことを完全に小馬鹿にしているドライグ。そして、それに便乗する士道―――まあ、これは無視でいいだろう。

ドライグは怪訝に思ったことを順番に述べていく。

 

『推測した俺の結論から言おう―――ソロモンたちは相棒を何処か別世界に飛ばしたかったのではないのだろうか?

………仮に相棒が死んだ時は、精霊たちの霊力が暴走して国の壊滅の恐れがある。それを阻止するための方法は一つ―――最悪の結末を迎える前に全精霊を始末する………これだけだ。

相棒が別の世界に飛ばされた今は、ソロモンたちにとっては願っても無い絶好の機会だろう』

 

「今回ソロモンさんが用意した修行空間―――アレは手抜きで用意したものを俺の修行に使った………それがドライグの見解か?」

 

『ああ、恐らくな。そして空間が壊れた時にはあの渦が発生するようにプログラムを組んでいた―――こう考えれば今回の一連の現象が全て線で繋がる』

 

ドライグは思っていたことを正直に言ってみせた。………確かにドライグの話は理に適っている。

ソロモンたち『次元の守護者』は世界の均衡を保つ―――これが彼らの存在意義である。現に士道が攻略している特殊災害指定生命体の精霊は、まさしく世界を滅ぼす力を持つ稀代の怪物そのものだ。

例え霊力を封印したところでそれは一時的な処置に過ぎず、感情が不安定になると霊力が逆流して暴走を起こす危険がある。

それなら、いっそのこと消してしまえば万事終了となり、危険に晒されることはないからだ。

 

しかし、士道の考えはドライグの物とは完全に違った。士道はドライグに疑問をぶつける。

 

「………仮にそうだとしても、あまりに手際が悪過ぎる。―――そもそもあの人たちなら、俺を殺そうと思えばいつでも殺すことが出来る。わざわざ別世界に飛ばす意味は無いだろ?

それに、俺はまだ全精霊を攻略出来ていない。仮に精霊の始末が目的なら、俺が全ての精霊を攻略した後に、まとめて一網打尽にする方が遥かに効率的じゃないのか?」

 

『言われてみればその通りだ………だが、どうにもスッキリせんのだ―――ソロモンほどの強者が相棒の実力を見誤るとも俺は思えん。あの男は意図的に俺たちをこの世界に送り込んだとしか考えられん。連絡が取れん今、確認のしようがないが』

 

ドライグはまだ納得していないようだ。士道もドライグの言葉を聞いて深々と思考を張り巡らせていた。

………確認する術がない今、真実はソロモンのみぞ知ると言ったところだが。

 

「………とにかく、ソロモンさんの件は取り敢えず置いておこう。俺たちが第一に考えなければならないことは、『どうやって元の世界に戻るか』だ。こうしている間にも十香たちは不安がってるかも知れないから――――――ん?なんか変な人が………」

 

『―――こいつもまさか………』

 

士道は目の前に突如現れた謎の人物が視界に入り、思考が止まる。頭に三度笠を被り、戦国時代の武士の甲冑をその身に纏い、腰には立派な日本刀を三本携え、口には木の枝を挟んでいる風来人の姿が。

………士道とドライグはこの風来人を見て思った―――“こいつもソロモンたちの仲間なのではないか”………と。

士道とドライグがそんなことを考えていると、風来人が声をかけてきた。

 

「………おやおや、大した武器も持っていないのにこんな町外れを歩くのは危ないよ?この辺りは物騒だ、せいぜい刀一本くらい――――――ああ、ちょっと!?待って、無視しないで!!」

 

風来人を横目に士道は先を急ごうとしたが、目の前で両手を広げて風来人が通せんぼしてきた。

 

「………何なんですか?俺は急いでいるので―――」

 

「ああ、私は通りすがりの行商人でね。本を作って売ることが本業なんだ」

 

「………そうですか、それじゃあ」

 

目の前にいる風来人は、自分が作った本を売っている行商人のようだ。本が欲しいわけでもなかった士道は風来人を避けて先を目指したが、またまた通せんぼされる。

 

「待つんだ、待つんだ少年よ!私の本を買わないと一生後悔するよ!?私の本は全世界共通でアニメ化が決定した実績があるんだ!………今なら六四八〇〇〇〇円で原作一巻から七巻までプレゼントしよう!サービス特価だ、持ってけ泥棒!」

 

「―――高過ぎるわ!!普通の原作小説って新品でも六四八円だろ!?七巻纏め買いしても普通は五〇〇〇円超えねえよ!!」

 

悪徳業者を一刀両断する士道くん。彼は家の生計は一人で管理している。この程度の悪徳業者では彼を騙すことはできない!!

 

「ちょっと待て、少年はこの私を知らないのかい!?」

 

「知らねえよ!何なんだよアンタはッ!?」

 

「よくぞ聞いてくれた、私は『ハイスクールDxD』の著者―――『次元の守護者•ヘルメス』というものです、ハイ!

この『ハイスクールDxD』という本は、平凡な高校生活を送っていた兵藤一誠という少年が上級悪魔•リアス•グレモリーと出会い、悪魔に転生して新たな物語を切り開いていくという物語を書いているものなんですよ!

アニメ化決定してますし、稀代の名作とも称される伝説の一品ですよ!」

 

………くるみんが絶賛どハマりしているイッセーの壮絶な過去を作品化したのは、この男ようだ。

左手からドライグではなく、イッセーの声が聞こえてくる!!

 

(………士道、やっちまおうぜ!)

 

聞こえてきたイッセーの言葉に士道は頷く!!『赤龍帝の籠手(ブーステッド•ギア)』を左手に纏い、ヘルメスに突進!!

 

「勝手に人の過去を作品にしてんじゃねえよッッ!!」

 

「―――ぐふぉうッ!?」

 

士道の渾身の拳がヘルメスの顔面に突き刺さり、ヘルメスは地面を何度もバウンドしながら吹き飛んでいった。

 

『おいお前ら、ツッコミどころはそこではなかろう!?まずはこの男から色々と聞き出すべきではないのか!!』

 

ドライグが士道にツッコミを入れるが、勝手に人の過去を作品化したヘルメスをぶん殴れて満足そうな笑顔を浮かべていた。その頃、ヘルメスは近くの田んぼに頭から突き刺さり、下半身だけ田んぼから飛び出していた。

 

 





六華のイメージ声優は田村ゆかりさん、次元の守護者•ヘルメスのイメージCVは諏訪部順一さんです。

士道の理性が吹き飛びかけた六華ちゃんのスリーサイズはこんな感じです。

六華のスリーサイズ 92―56―88

三話の設定を一部更新しておきました。良ければお読み下さい!


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三話 次元の守護者•ヘルメスです!!

新たに現れた次元の守護者―――その名はヘルメス。

彼らは異世界だろうが神出鬼没に現れ、その役目を果たしている。
ヘルメスは士道に何を伝えるのか!?



先程出くわした新たな次元の守護者『ヘルメス』は、士道の鉄拳を食らって顔面から田んぼにダイブしたが、ドライグの『こいつから情報聞き出すべきでは?』という言葉を思い出し、ヘルメスを田んぼから引き抜いた。

 

「―――ブエッフッ、エフッ………年寄りは丁重に扱わなきゃダメだと学校で教わらなかったかい?カッなってもいきなりぶん殴っちゃダメさ。よく言うじゃないか、短気は損気と!」

 

ヘルメスが指を弾くと、泥だらけだった上半身はすぐにまた通りになる。一切反省の態度を見せないヘルメスに左手の『赤龍帝の籠手』の宝玉が光る。

 

(もう二、三発殴っておいた方がいいんじゃないか士道)

 

『イッセーそして相棒、気持ちは分からんでもないがまあ落ち着け。あの本に関しては俺も物申したいことがある。だが、まずはこの世界のことをしっかりと聞き出してからだ』

 

ドライグは乳ネタが入らない限りは基本的には冷静だ。士道も込み上げてきた衝動を深呼吸で押さえ込み、目の前のヘルメスを見た。

ヘルメスは顎に手を置き、何かを思いついた様子だった。

 

「………なるほど、ゲテモノ好きの()()()()が楽しげに語っていたのはキミのことだったのか―――確かに転生という特異な現象が起こした存在が、いきなり自分の目の前に現れたとなれば、彼は絶対に興味を持つだろうね。

さらに神器(セイクリッド•ギア)まで引き継ぎ、精霊の霊力を封印する能力まで持っているともなるとね………」

 

士道もこのヘルメスという男が次元の守護者の一人だということは先程の言葉から理解することができた。

ヘルメスは再び士道に訊ねる。

 

「………今のキミから察するに、この世界に飛ばされて元の世界に帰ろうとしているが、帰り方が分からなくて迷いに迷っている―――そう言った感じかな?」

 

「ええ………恥ずかしながら、返す言葉がございません。ソロモンさん達と修行をしている最中に変な渦に飲み込まれて、目が覚めたらこの世界の余所者を毛嫌う村だったというわけです」

 

士道はヘルメスに自分の現状を伝えた。士道の話を聞いたヘルメスはその内容について詳しく訊ねる。

 

「変な渦に飲み込まれた………か。それは恐らく次元の狭間に定期的に発生する次元の渦だろうね。しかも、ソロモンとの修行中に発生したともなると―――()()()()()()()()()()()()()………一杯食わされたな少年、ソロモンは十中八九、意図的にキミをこの世界に飛ばしたと見て間違いない」

 

『やはりか………』

 

ソロモンと同じ次元の守護者であるヘルメスが言う以上、間違いを述べている可能性は限りなくゼロに近い。

ヘルメスが述べたのは、ドライグが推測した結論とほぼ合致する内容だった。

ドライグは籠手から勝手に感想が漏れていた。

 

「あ、ちなみにだけど()()()()()()()()()()()よ?色々あってこの地上にいる精霊は一人にまで減ってしまったけどね」

 

「―――どう言うことですか?詳しく教えて下さい」

 

ヘルメスがボソッと述べた言葉に士道が食いついた。ヘルメスは順を追って士道に話し始めた。

 

「この世界での精霊の認識は、キミ達の世界でのそれとは大きく異なる。………この世界での精霊は『神の使い』と呼ばれていて、地上の守護者としてこの世界を守護してきた―――実力は六大龍王に匹敵するほどの強者だった。

そしてこの世界には十一人の精霊がいて、各精霊は自分達の土地の守護神として人々から認知されていた。

しかし、一ヶ月ほど前にこの世界に現れたとある存在によって、この世界にいた十一人の精霊は二人を残して皆殺しにされた―――その地に住んでいた人間達と共にね………」

 

「………っ!誰がなんのために精霊と人間を皆殺しにしやがったんだよ!!」

 

ヘルメスの言葉を聞いた士道は、全身に電圧がかかったように衝撃を受けた。士道は込み上げてきた怒りから、頭に血が上り、思わず声を荒げた。

 

「その存在の目的は、精霊が持つ力を手に入れる事だった。精霊達のコアとなる霊結晶(セフィラ)を身体に取り込むことで、精霊の力を得た。その存在は三日もしないうちにこの世界の二人を残した全精霊を皆殺しにして、精霊の力を体内に取り込んだ………精霊が守護していた地の人間達が皆殺しにされた理由は、得た精霊の力の実験体にされてしまったんだよ」

 

「―――なんてことを………ッ!!」

 

ヘルメスから告げられた残酷な真実を知ってしまった士道は、拳から血が滲み出るほど強く拳を握りしめ、奥歯をギリギリと鳴らしながら、ぶつけようのない怒りを堪えていた。

 

『ヘルメスと言ったか、そいつは一体何者だ?』

 

「―――『終絶なる超理龍(ラグナロク•エンド•ドラゴン)•リンドヴルム』………数ある邪龍の中でも最強の存在だ」

 

『ッ!!よりにもよってリンドヴルムか………あの最強最悪の邪龍が暴れ回っているとはな―――精霊達が皆殺しにされる理由もこれではっきりしたが、どうしたものか………』

 

ヘルメスが精霊達を殺し回ったその存在を明かすと、ドライグは黙り込んでしまった。

士道は籠手のドライグに語りかける。

 

「………そのリンドヴルムって邪龍は、全盛期のドライグやアルビオンよりも強いのか?」

 

『………全盛期の俺たちでも倒すことは叶わなかった。アルビオンと喧嘩をおっ始める前に一度戦ったが、勝負はつかず引き分けという形で戦いは終わった。そして九人の精霊の力を得た今では、実力は全盛期の俺たちを上回るだろう―――相棒、俺は逃げることを勧める。今のお前ではどう背伸びしても戦える相手ではない』

 

「―――ッ、ドライグにそこまで言わせるとはな………でも、まだ精霊が残っているなら、俺が逃げ出すわけにはいかねえ!俺は精霊を守ることが仕事だ!どこの世界だろうが、相手が誰だろうかなんてことは関係ねえ!俺はやるべきことをやるだけだ!!」

 

ドライグからの返答を聞いた士道は、恐怖のあまり足が震えた。しかし、逃げ出すことを選びはしなかった。

士道の覚悟を聞いたヘルメスは興味深い視線で士道を見ていた。

 

「―――あのソロモンがキミを気に入った理由が分かったよ。………こんな純粋な心を持つ逸材なら鍛えてみたくなるのも当然だ。

………さて、リンドヴルムと一戦交えるのに何の安全策も無しに戦わせるわけにはいかないな―――これをキミに渡しておこう」

 

ヘルメスは日本刀と共に腰に巻きつけてある巾着から何かを取り出し、士道に手渡した。それは、紫色の液体が入った入れ物だった。

 

「―――エリクサーと言って、この世界に伝わる最上位の秘薬さ。『フェニックスの涙』と同じようなアイテムと思って貰って構わない。僕はソロモン達とは違って戦う者じゃないから、戦闘では役に立たない………僕がキミにできることはこれくらいさ―――赤龍帝•五河士道くん、健闘を祈る」

 

「………分かりました。貴重なアイテムを感謝致します」

 

士道は感謝の意を込めて深々と頭を下げた。そして、士道が頭を上げた時には―――ヘルメスの姿は綺麗さっぱり消えていた。

 

『………相棒、本当にリンドヴルムと戦うのか?正直に言おう、相棒がこの世界の命運をかけて戦う理由はない。それ以前に例え戦ったとしても勝負にすらならん―――それでもお前は戦うのか?』

 

ドライグが士道に訊いた。ドライグの言うことは確かに正しい。士道が仮にリンドヴルムを倒したとしても、士道が得られる物は何も無い。それ以前に士道がこの世界を守る為に戦う理由すら存在しないからだ………

それでも、士道は拳を握りしめて前を向いた。

 

「くどいぜドライグ、例え一人でも精霊が生きているなら、俺はそれを守るために戦う。どこの世界だろうが俺は成すべきことを成すだけだ―――それに、俺はまだこの世界に飛ばされた時に助けてくれた、六華さんに恩を返せていない………彼女の生活が危険に晒さられる可能性がある以上、俺が元の世界に逃げてもいい理由はないッ!」

 

―――絶対に譲れないことが男にはある………士道の場合は精霊の救出だ。

彼は精霊たちの生活を守るためには、自分の命が散ることになろうとも構うことなく突き進む。

士道はもう心に決めている―――何を犠牲にしてでも精霊たちを救ってみせると!

 

『………それが相棒の答えだというのであれば、俺は何も言わん。好きにしろ相棒、俺も全力でサポートしてやる』

 

迷いのない瞳で前だけを見つめる士道をドライグは否定しなかった。士道はドライグに「すまない、ありがとな」と感謝を込めて籠手を優しく撫でていた、その時だった!!

 

ズドオオオオオオンンッッ!!

 

突然の爆発音に士道は目を見開く!音がした方向からは、煙がモクモクと立ち上っていた。

しかも―――煙が上がっている方角は六華が住んでいた村の方角だったのだ!

 

「―――六華さん!!」

 

士道は六華の安否が気になって仕方がなかった。士道は誰に言われるまでもなく、地面を鋭く蹴って空中を駆ける!

 

「―――禁手化(バランス•ブレイク)ッッ!!」

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!!!!!!!』

 

赤いオーラが士道を包み込み、龍を模した全身鎧が士道に装着される。士道は風を切り裂きながら背中のブースターをフルパワーで放出させて、全速力で村を目指した。

 

「………待ってて下さい六華さん、俺が必ず救います!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――◇―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

士道がこの村を出て一時間ほどが経過した時、この村を突如悲劇が襲った。

―――謎の生命体が群れを成して現れ、村を蹂躙し始めたのだ!

 

全身が青色で筋肉の部分だけ赤色に染まっている宇宙人のような生命体が、ハサミのようになっている両腕から光線を放ち、民家を破壊していく!!

それだけではない、空中には翼以外の全身が機械でできたようなドラゴンが空から尻尾を叩きつけて村の大地を抉る!!

さらに、翼が生えた巨大な蜘蛛の怪物が炎を撒き散らして民家を片っ端から燃やしていく!!

 

青色で両腕がハサミの生命体が一〇〇に迫る数で光線を放ち、機械のドラゴンと翼が生えた蜘蛛がそれぞれ一体ずつ存在し、村を無慈悲に破壊していく!!

それを防ぐべく、たった一人で謎の生命体が成した群れを相手に勇猛果敢に立ち向かう!!

その少女は―――士道を救った六華だ。

六華の衣装は先ほどの巫女装束とは大きく異なっている。頭の上には天使が纏うような光輪が金色に輝き、右手には大きな宝玉がはめ込まれた自分の身長と同じ長さの杖が握られ、白銀に輝くドレスのような白いローブが体を包んでいる、さらに背中には五対十枚の黄金に輝く天使の翼が顕現している!!

―――六華の姿は霊装を纏い、村を守護する精霊そのものだった………

 

「………『護星天(ミカエル)』―――【封剣(フォース)】ッッ!!」

 

天空から無数の光の刃が降り注ぎ、大量の両腕がハサミの生命体に命中する!!

光の刃が突き刺さった両腕がハサミの生命体は身動きが取れなくなり、その場に貼り付けられたが如く動かなくなった!

しかし、翼の蜘蛛も機械のドラゴンは上級の生命体なのか攻撃が当たっても一切怯む様子がなく、六華を目掛けて攻撃をする!

 

―――GGYAAAAAAAAAAAAAA!!!!

 

―――キシャアアアアッッ!!

 

翼が生えた蜘蛛が広範囲に炎のブレスを吐き散らし、機械のドラゴンは強靭な尻尾を六華を目掛けて叩きつける!!

六華は杖を地面に突き刺し、自分の周囲にドーム状の結界を展開する!!

 

「―――【輝壁(シュテル)】ッッ!!」

 

展開された結界は謎の生命体たちの攻撃を全てかき消し、六華が展開した結界には傷の一つも付いていない!

六華の戦い振りを見ていたこの襲撃の首謀者の男は、手を叩いて六華に拍手を送っている。

 

「一瞬のうちに数千、数万の人間を殺戮できるこの化け物共の攻撃が一切通用せんとはな………本当に大したもんだよ、お前」

 

憎しげに拍手を送るその男に六華は視線を鋭くし、喉が潰れんばかりに叫ぶ!

 

「………どうしてこのようなことを!?なぜ貴方はこうも無慈悲に人を殺そうとすることができるのですか!?」

 

六華の悲痛な叫びを聞いた男は地団駄を踏み、六華に指をさして怨嗟を吐く!!

 

「どうしてだと!?お前らが生きていることが憎いからに決まってんだろうがッ!!

俺のものにする予定だった女を、この俺の許可なくにゴミクズのような野郎のところに嫁がせやがって………そしてお前はこの俺の報復を防いだだけでは飽き足らず、この俺が放った魔獣を操り、残虐非道にも俺を魔獣の餌ににしやがった!!

―――あの痛みと屈辱をお前ら全員に体験させてやる!!ただ年老いて死んで行くお前らにとっては、この上なく贅沢な死を体験できるだろう………さあ、この俺に泣いて感謝しろおおおおおおお!!」

 

………そう、この男は一年前に村に魔獣を解き放った男だ。士道には『領主の部隊が助けてくれた』と告げていたが、領主の部隊が行った仕事は、残党の始末のみだったのだ。

この男を始末し、魔獣の大半を撃退したのは全て六華が一人で行っていたのだ。

 

「………心を失いし凶暴なる魔獣よ、我に従い、我が力と化せ―――【天操(マクア)】ッ!」

 

六華が杖の宝玉を天にかざし、謎の生命体の群れへ杖を振り下ろした。

―――六華が行ったのは、洗脳攻撃だ。魔獣や自然を自分の意のままに操る六華の天使が持つ能力の一つ。

一年前はこの能力でこの男が放った手下の魔獣を操り、この男を倒したのだ。

村を白い光輪が展開され、その光輪から幾重にも輝く粉末が降ってくる!!粉末は村を襲撃する謎の生命体たちに付着する!!

 

「―――汝らの主を攻撃せよ!!」

 

六華の杖から光の波動が迸り、謎の生命体に命令を下した………………しかし、謎の生命体たちは六華の命令に逆らい、六華を攻撃する!!

 

「………ッ!?【輝壁(シュテル)】ッ!!」

 

村を襲撃する謎の生命体たちの攻撃から身を守るために、六華は杖を再び地に叩きつけ、巨大な結界を展開した。

六華は「………どうして効果が無かったのか?」と結界の中で頭の中であらゆる可能性を考慮していた。

男は六華の様子を見て腹を抱えて大爆笑する!!

 

「………一年前と違い、上手く行かなかったようで残念だったなあ!!お前のその能力は脅威そのもの―――しかし、それは()()()()()()に限るようだな!!あのお方が仰られていた通り、この化け物共は最高だなあおい!!」

 

六華は男の言葉を聞いて、すぐにこの生命体たちがどのような存在なのかを悟ることができた。

 

「―――ッ!?では、その生命体たちは………」

 

「ご推察の通り、こいつらは造られた生命体だ!それも一年前に俺が放った魔獣共とは次元が違う強さを誇っている!!

これが俺の新たに授かった力―――神滅具(ロンギヌス)魔獣創造(アナイアレイション•メーカー)』、世界そのものを滅すことすら可能な、俺のためにあるような力だ!!」

 

………元々この男は特殊な道具を作ることに長けていた。一年前は、魔獣を閉じ込める箱をこの男は作り出し、強力な魔獣を数十体ほど集めて村に解き放ったが、六華の天使の前には強力な魔獣も簡単に操られ、この男もまた魔獣に食い殺された。

―――しかし、この男が作り出した生命体に【天操(マクア)】は通用しない。

………幸いにも【輝壁(シュテル)】で作り出した結界はまだ傷一つ入っていないが、いつまでも持ち堪えられるわけではない。

しかし、次の瞬間さらなる悲劇が六華を襲う!!逃げ遅れ、瓦礫の下敷きになっている女の子の姿を男は捉える!!

 

「フフハハハハハハハッッ!!こいつは実にいい、まだ逃げ遅れがいたか………よし―――召喚(サモン)っ!」

 

男の目の前に魔法陣が展開され、新たな生命体が現れる。

全身が深緑の殻で包まれ、手足には数メートルはあろうかという鋭い爪、長さが五メートルに達しそうな尻尾を有した、全長十数メートルを誇る怪獣が召喚された。

 

「殺せ、あの小娘をズタズタに引き裂けぇぇぇぇぇ!!」

 

―――グギャアッ!!

 

男が怪獣に命令すると、怪獣は巨体にも関わらず風を切り裂きながら女の子に迫る!

六華はすぐに結界を解除し、女の子の救助に向かう!!

 

「―――させないっ!!」

 

無防備になる六華を機械のドラゴンと、翼が生えた蜘蛛が攻撃を仕掛ける!六華はドラゴンの爪を間一髪のところで避け、蜘蛛が立ち塞がり、六華を拘束しようと糸を吐くが、杖を天に掲げ蜘蛛の糸を反射し、蜘蛛の動きを封じる!!

 

「いやあああああああああああ!!!」

 

女の子は泣き叫ぶが、怪獣の爪が襲い掛かる!!間に合わないと思った六華は杖を女の子の前に投げ捨て女の子の半径数メートルに結界が展開される!!

怪獣の爪は、六華の結界に阻まれ女の子を傷つけることが出来ず、爪が弾き返された怪獣は地面に倒れ伏した。

 

―――だが………………

 

「―――カ、ハッ!?」

 

動きが止まった六華の背中ドラゴンの尻尾が捉え、六華は近くの高台に叩きつけられた。

ドラゴンの尻尾の威力は絶大で六華の霊装を容易く破壊し、六華の背中からはドクドクと血が溢れている!!

 

「くっ………まだ、私は………」

 

六華の体は激痛に支配されながらも、立ち上がった。しかし、受けたダメージは大きく、手足が震え立っているのがやっとという状態だった。

………立ち上がった六華を見た男は、ニンマリと笑みを浮かべ口の端を吊り上げる。

 

「さすがは精霊と称される化け物女。アレが直撃して真っ二つにならないことが不思議で仕方がない―――でも良かった、お前にはこの世の全ての絶望を味わってから死んでもらう予定だったからなぁ………自分の目の前で父や仲間が殺され、お前自身はこの俺に指を一本ずつ斬り落とされていき、四肢を斬り落とされ、体をグサグサと抉られ、最後はその首も綺麗さっぱり地面に落として殺してやるよ!!どうだ!?涙が出るほど嬉しいだろう!?」

 

「―――そんなことは、させません………!」

 

………どれだけ残酷な宣言をされようが絶望しない六華を見た男は、唾を吐き捨てた。

 

「チッ、くっだらねえ………何をやろうが絶望しやがらねぇ………この女が泣き叫ぶ様子を見たかったが、仕方がない―――お前はもう死ね」

 

男は確実に六華を仕留める為に、先程の怪獣に手で合図を送る!!その合図に怪獣は飛び上がり、踏み潰さんばかりに六華を目掛けて急降下!!

六華は躱そうとしたが―――足に力を入れた時に妨害を受ける!!

 

「―――っ!!」

 

翼を持った蜘蛛が六華の足に糸の塊を吐く!その糸が六華の足に絡まり、六華は身動きが取れなくなった。

―――そして、先程飛び上がった怪獣はもうすぐ目の前まで迫っている!!

 

「フフハハハハハハハ!!逃げられんぞ、ここで死ねぇぇぇぇぇ!!」

 

男は六華が怪獣に踏み潰される事を確信し、歓喜の笑みを浮かべた。

………六華にはもう自分を守る術は無かった。自分の天使は逃げ遅れた女の子を守る為に使っており、自分の手元に戻せばあの女の子の命は無い―――だから六華は自らを守る為に、天使を使おうとしなかった。

 

「―――誰か………ねえ誰か!!六華おねえちゃんを助けて!!」

 

「助けなんて来ねえよバァカッッ!!こいつは今日、この場で、死ぬんだよおおおおお!!」

 

女の子が六華の天使に守られながら悲痛な叫びを上げたが、男はその願いを一蹴した。

男は確信していた。自分が召喚した怪獣が自分を殺した六華を確実に踏み潰し、その命の灯火を消し去ってくれる事を………

 

 

 

ドオオオオオオオオンンッッ!!

 

 

 

怪獣が落下し、村に凄まじい砂煙が立ち込める!!男は六華の死体を回収しようと、自分のすぐ近くに呼び寄せた機械のドラゴンに翼で風を起こさせ、砂煙を吹き飛ばす!!

 

男が期待していた光景は、怪獣が高台を崩壊させ、地面に隕石が落下したような大きな穴が作られ、その穴の中央部に六華の死体が転がっている光景だったが――――――その光景は物の見事に裏切られた………

 

「バ―――バカな!?なぜアイツは死んでいない―――いやそれ以前に………何者なんだ、テメェはよお!?」

 

―――死体は転がっている………しかし、それは男が望んでいた六華の死体ではなく、頭と体が分かれて真っ二つになっている怪獣の死体だった。

そして、赤い全身鎧を纏った存在が二本の剣を握りしめて、六華の目の前で立っていたのだ。

 

「え………これは夢なの?それとも―――私、死んだのかな………」

 

六華は目の前に突如現れたヒーローを見て、涙が自然と溢れ出ていた。

―――怪獣に踏み潰されそうになった時、六華は頭の中でとある光景が思い浮かんだ………それは、ほんの少し前に見送った少年が自分を守ってくれた姿だった。

その少年は知らない自分の事すら守ってくれた。だから六華は期待してしまった―――“彼がまた私を守ってくれるのではないか?”と………そして、その少年は叶えてみせた―――六華の願いを!!

 

「貴女が見ている光景は夢でもありませんし、貴女はまだ死んでいませんよ―――本当に間に合って良かった………!」

 

六華は目の前に現れたヒーローを見上げた。そのヒーローは自分が待ち望んでいた存在だった―――そのヒーローの名前を六華は呼ぶ!

 

「―――士道さま!!」

 

そのヒーローは精霊を守護する赤龍帝―――五河士道だ。

士道は間一髪のところで怪獣を斬り伏せ、六華を救出することができた。

士道は村を破壊した男と謎の生命体たちを睨みつける!!

 

「………村を破壊し、六華さんをこんな目に遭わせやがったのはお前らだな?」

 

「ああ、こいつは今日この場でこいつに殺される事になっている。邪魔をするならお前も―――ぐぎゃああああああ!?」

 

男に最後まで言わせる事なく、士道は男の顔面に右ストレートを振り抜いた。男は何度もバウンドしながら瓦礫の中へと吹き飛んだ。

 

「………それ以上言わなくていいぞ?聞いた俺が馬鹿だったからな―――覚悟しろよ三下ども、落とし前つけさせてもらうぜ!!」

 

男とその配下の生命体たちは、赤龍帝の逆鱗に触れた。

 

 




今回はほぼシリアスのみの展開になってしまいましたが、次回はギャク等も挟む予定です!
乳ネタやエロを期待されている読者の皆様、本当に申し訳ございません!!

リンドヴルムは十一人いた精霊のうち、九人を殺した―――でも、残っている精霊はなぜ残り一人?
この疑問に関する答えとしましては、前話にヒントがあります。
この章の最後の方ではっきりと明かす予定ですので、それまでお待ち下さい。


次回予告

多くの者にその存在を畏怖され、地上最強とも呼ばれた二天龍の片割れ•赤龍帝ドライグ!しかし、本作品では士道の乳ネタに精神を削られ、その威厳は地の底まで落ちている!!―――しかし、そんなドライグも次回は天龍の威厳を取り戻す!?

ドライグ「………俺からしてみれば、お前らもあのクズと共犯にしか思えんのだがな」

―――ある出来事をきっかけにドライグの雷が落ちた!何が起こったと言うのか!?

★おまけ

くるみん「―――ハイスクールDxDの原作七巻もこれで完全制覇ですわ。今回もとても楽しませていただきましたわ」

くるみんは精霊専用の特殊住居の自室でベットに寝転がりながら、次元の守護者•ヘルメスの作品―――ハイスクールD×Dの原作を読み終えた。
彼女の本棚には教科書や参考書の上にハイスクールD×Dの原作が一巻〜七巻まで左から番号順に並んでいた。

ピーンポーン

インターホンの音が鳴り響き、くるみんは扉を開けた。扉の向こうには―――ダンボールを持った魔法使いの姿が………

ソロモン「あ、宅配便でーす。サインをお願いします」

次元の守護者のソロモンである。くるみんはペンでソロモンが出した紙にサインをしてダンボールを受け取った。
くるみんはダンボールを見渡したが、何が入っているかが書いていなかった。しかし、送り主の名前を見ると、五河士道と書かれてあった。

くるみん「………士道さんが、わたくしにプレゼント?」

ソロモン「ああゴメンね、僕としたことが中身を書き忘れたよ。そのダンボールの中身は―――水着なんだよね〜。
士道くんに頼まれていたものが完成してね………今回の水着は―――なんと熱で透ける水着!!修学旅行が沖縄から或美島に変更になったんだよね?灼熱の太陽が輝く或美島なら、十秒もしないうちに役目を果たす代物さ!」

くるみん「―――ひっ!?絶対に着ませんわ!こんな水着絶対に着ませんわ!」

キラーンッ!と親指を立てて光が輝くような決めポーズを取るソロモン!
どんな水着か知らされたくるみんは悲鳴をあげる!!

ソロモン「まあそんな硬いことは言わずに、士道くんのオカズの役目を果たせるなら上出来とは思わないかい?
―――例えキミが着なくとも、十香ちゃんや折紙ちゃんは士道くんのためなら喜んで着用すると思うんだけどなぁ〜」

くるみん「……………わ、わたくしも着ますわ!わたくしも士道さんが大好きなんですもの!十香さんや折紙さんに負けはしませんわ!」

ソロモン「うん、それでこそだ!」

くるみんは顔を真っ赤にしながらも、その水着を自分の修学旅行のスーツケースにしまい込んだ。
熟したトマトのように真っ赤になり、顔から湯気を放出させているくるみんの姿を見たソロモンは、ニコニコと満足そうに微笑んだ。


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四話 ぶちのめします!!

間一髪のところで六華を救った士道。
おっぱいドラゴンの逆襲が今、始まる!

更新が遅れてしまい、大変申し訳ございません!




「覚悟しろよ三下ども、落とし前つけさせてもらうぜ!!」

 

士道は視線を鋭くして、村を半壊させた男とその男が放った謎の生命体に鋭い視線を向ける。

男は瓦礫の中から這い上がり、浮かべていた汚い笑みが憤怒に変わる!

 

「痛い!?痛い痛い痛い!!痛いよコンチクショオオオオオオオオッッ!!ふざけやがって………楽に死ねると思うなよ!?このクズがああああああ!!」

 

男は士道を指差し、両腕がハサミのような宇宙人のような生命体をけしかける!!

先程このハサミの生命体は六華の天使で動きが封じられていたが、六華がダメージを受けたことで能力が解除され、動けるようになっていたのだ。

命令を受けた生命体たちは、雄叫びを上げて士道を目掛けて襲い掛かる!!

 

「―――舐めてんじゃねえぞおおおおおおお!!」

 

士道は十香の天使『塵殺公(サンダルフォン)』を顕現させ、霊力を纏った斬撃を放つ!!

士道が放った斬撃が遥か彼方に消えると―――士道に襲いかかった生命体は、全て消滅させた。

 

「有りえん………こんなことがあって良いものか!?俺は………俺は世界を滅ぼすことができる最強の力を得た!!それが………それがこんなクソガキ相手に負けるなんぞ、許されるものかあああああああ!!」

 

男は自分の配下の怪物どもの半分を一撃で消滅された、現実を受け入れることができず、奥歯を噛み締めギリギリと鳴らしていた。

だが、男は六華の杖に守られている女の子に視線を送り、再び汚い笑みを浮かべる!

 

「おいクソガキ、今すぐ武装を解除しろ!さもなければ――――――あいつの体をバラバラになるところを拝ませてやるぞ!?」

 

男は卑劣にも人質を取る作戦に出た。男が手で合図を出すと―――残っている怪物たちは、六華の杖に守られている女の子に迫る!!

 

「………いけないっ!!」

 

六華は怪物全ての攻撃を受ければ、強力な結界も保たないと考え、傷ついた体を起こして女の子の救助に向かおうとするが、体が思うように言うことを聞かない!

 

「そのバラバラにする方法とやらに興味がある―――どうやってやるんだ?」

 

女の子を助けるどころか、余裕の笑みを浮かべて男を見る士道。男は焦りもしない士道の様子を見るやいなや、目を鋭く開いて口の橋を釣り上げる!

 

「人質として利用するために、あの小娘を殺さないと思っているのであれば、残念だったな――――――こうやるんだよッ!!」

 

「………どうしたい、()()()()()()()()?」

 

男は怪訝に思い女の子の方に視線を向けると――――――女の子を殺そうと向かった怪物たちの姿が消えているのだ!!

………男の頭はこの状況を理解に苦しんだ。目の前の士道は男の目の前から一歩も動いておらず、六華も立ち上がりはしたが士道の背中に守られている。

誰がどうやって自分が創り出した生命体を消したのかが理解できなかった。

 

「―――っ!?まさか、こんなことが………だが、まだだ!この程度で終わると思うなっ!!」

 

男は魔法陣から再びモンスターを召喚する!新たに召喚されたモンスターは先ほどの怪物に比べれば強さは劣るが、数は先ほどの三倍以上の数を揃えてきた。

 

「………これで形成逆転だ。先ほどのようにはいかんぞクソガキっ!!」

 

男は息を荒げながら声を上げた。強さは劣るとはいえ、モンスターの数は先ほどの三倍を超える。

これだけの大群を目の当たりにした士道だったが、余裕の表情は崩れない。

 

「大した手品だ―――だが、戦いにおいて大切なのは数よりも質。いくらガラクタを揃えたところで、俺が斬り伏せたあの怪獣に一匹すら程遠い………恐れるに足らねえな」

 

「………ほざくなクソガキッ!!先程のように行くとは思うなよっ!!」

 

男は根拠のない余裕を浮かべる士道に憤り、声を荒げた。士道は呆れながら手を天に掲げる。

 

「………ったく、面倒くさいったらありゃしねえ………」

 

士道は天に掲げた手の指をパチンッ!と弾く!

次の瞬間――――――突如大地を切り裂く凄まじい光の本流が天に届かんばかりの勢いでモンスターの大群を飲み込んでいく!!

そしてその本流が消え去った時には………また男は手下の怪物を失い一人になっていた。

男は「なぜだ………なぜだなぜだなぜだ、なぜだあああああああああああ!!」と喚き散らしながら、尻餅をついて後ずさる

士道は男の様子を鼻で笑い、吐き捨てるように真実を告げる。

 

「………お前の『魔獣創造(アナイアレイション•メーカー)』は、使い手によっては世界の終焉を招いてしまう、危険極まりない上位神滅具(ロンギヌス)だ。だが――――――使用者がヘボ過ぎるせいか、お前では世界を壊すどころか、人間一人すら満足に殺せないようだな」

 

皮肉を最大限に込めて士道が放った言葉に、男の顔は屈辱に歪んでいた。悔しそうに唇を噛み締め、目の血管が破裂しそうな勢いで目が振動していた。

―――男は召喚したモンスターを消しているのは、士道であることは分かっていた。

だが、士道は六華を助けた時と、自分に向かってくるモンスターを消した………この二回以外は使っておらず、一歩もその場から動いていないのだ………この事実がこの男の頭を狂わせていた―――どうやって自分のモンスターを消滅させたのかと………

 

「………くそっ!撤退だ!だが覚えていろ!この屈辱、倍にして――――――お、おおおちるぅぅぅぅぅ!?」

 

男は巨大な怪鳥を思わせるモンスターを召喚し、背中に飛び乗り逃亡を図ったが………今度は光の斬撃が怪鳥の頭を切り落とし、怪鳥は粒子になって消滅した。その結果、男は頭から地面と正面衝突した。

 

「逃げられるとでも思っていたのか………全くお笑いだ」

 

『同感だな。この男の頭の中には脳の代わりにうどんでも入っているのか?

………見逃しても良いが、この男を見逃す理由は無い―――この場で始末しても問題なかろう』

 

………男を嘲笑する士道とドライグの赤龍帝コンビ。『赤龍帝の籠手(ブーステッド•ギア)』と『魔獣創造(アナイアレイション•メーカー)』を比較すれば、上位神滅具(ロンギヌス)である後者の方が確かに強い。

しかし、それは使い手によって大きく異なる。『魔獣創造(アナイアレイション•メーカー)』も禁手(バランス•ブレイカー)に至れば龍王クラスの怪物や、神殺しの能力を有した魔獣を何体も召喚できるが、それは至ってこそだ。現にこの男が禁手(バランス•ブレイカー)に至っていないことは明白である。

―――そして今代の赤龍帝である士道は、既に禁手(バランス•ブレイカー)に至っており、更に精霊の武装でもある天使すら顕現させる事が可能だ。

この男と士道のどちらが強いかは、火を見るよりも明らかだろう………

 

「………おのれ!おのれおのれおのれッ!おのれッ!!こうなったら最後の―――うっ!?どういう事だ………なぜお前は()()もいるッ!?」

 

男は立ち上がり、新たなモンスターを召喚しようとしたが、眉間に剣を突きつけられ、動きが止まった。

男に剣を突きつけていたのは………()()()()()()()()()()()()士道だった。

男は理不尽な現実に頭が混乱していた。目の前に同じ顔をした男が二人いれば困惑することは必然だろう。

 

そう………この能力は――――――くるみんの天使『刻々帝(ザフキエル)』の【八の弾(ヘット)】による過去の自分を再現した分身体だ。その分身体にアスカロンを握らせて、男のモンスターたちを殲滅させたのだ。

 

「俺はこのように分身体も作ることができてね………俺に比べれば力も落ちるし、まだ一人しか制御することができないが………お前が相手なら分身体だけでも既に死に体だな」

 

「んだよそれ、強過ぎんだろっ………」

 

男は圧倒的な戦力差に絶望し、立ち上がることができなかった。

………神器の使用ができない分身体の士道とすら満足に戦うことができない上に、その分身体の後ろには大幅に上回る力を持つ士道本体がいる。

さらに、先程墜落した時に全身を痛め動く事すらままならない状態にまで男は追い込まれた………この男に戦う力はもう残っていない。

 

「………どうやらここまでのようだな。トドメを刺す前に一つだけ聞かせてほしい―――お前はどうやって『魔獣創造(アナイアレイション•メーカー)』を得た?先天的に宿していたのか、それとも何者かがお前に与えたのか?」

 

士道が訊ねると男は顔を上げ、低い声で「後者だ………」と答えた。男の顔は屈辱に歪み、歯を噛み締めていた。

 

「―――そうか。これが最後の質問だ………お前にその神滅具(ロンギヌス)を与えた存在は何者だ?」

 

「さあ、知らねえな。俺にこの力を授けたお方は、『自分はこの世界を滅ぼす者だ』と仰っていた。俺は役目を果たすことができなかったが、あのお方は俺と同じ轍を踏みはしなきだろう………くっ、限界か―――この俺の手で汚物(村の連中)を消毒したかったが、あのお方がそれを代行して下さるだろう」

 

「………っ!お前、まさか―――」

 

男の体に異変が起きていた。男の両足が既に灰となって地面に崩れ堕ちおり、上半身にもそれは侵食していた。

士道はこの男が何を行ったかはすぐに気付いたが、男は手を前に出して士道を制した。

 

「………そうだよ、俺がやったのは悪魔の取引だ。あのお方のおかげで再びこの世に蘇ることができたが、無論()()ではない。

………村を滅ぼした上で、この化け物女の死体を持ち帰ることができれば『魔獣創造(アナイアレイション•メーカー)』を得て、再び生を送ることができる。

しかし、失敗すれば俺に登る太陽は無い―――だが、俺も分かっていたさ………仮に()()()()()()()()()()()()()()ことくらいはな」

 

「………………」

 

―――運命というものは非常に残酷なのかもしれない。

この男は六華の姉に好意を抱いていた………しかし、不幸なことに六華の姉はこの村を統べる領主の元に嫁ぐことが決まっていた。

………六華の姉が領主に嫁ぐことが無かったとしたら、この男は六華の姉と幸せになれた未来があったのかもしれない。もしその未来があるならば、一年前の惨劇と今の襲撃は起こらなかった事象だ。

士道は想像した未来と目の前の現実に言葉が出なかった。

 

「………俺もお前に一つだけ訊きたい。お前に好きな人がいだとしよう。そのお前の好きな人には、結婚相手がいると決まっていたとしたら―――お前ならどうする?」

 

男の上半身の大半が灰になり消滅しようとしていた時、士道を見て男は訊ねた―――それは一年前に男が置かれた境遇だったのだ。

士道は男の質問に間髪入れずに堂々と答える。

 

「俺は諦めやしない―――例え二度と近づくなと言われたとしてもな。どれだけ時間が掛かったとしても、必ず振り向かせてみせる………俺は一度や二度拒絶されたくらいで諦めが効くほど、理解のある人間じゃないからな」

 

「そうか………俺もそうするべきだったのかも知れんな」

 

士道が出した答えを聞いた男は、満足そうに頷いていた。男が頷いたその時には―――男は完全に消滅して灰の山へと変化し、一陣の風に吹かれ天空へと舞っていった。

 

『………実に相棒らしい答えだった。全世界の男どもは自分の彼女を相棒にパクられないか気が気でないだろうな。今頃パンツで大洪水が発生してるのではないか?』

 

「………だろうな、なんせこの世の全ての女は(オレ)の物。幼女であれ美女であれ熟女であれ、(オレ)の許可なしに雑種どもがコバエの如く集るなど万死に値する―――ってどこの英雄王だよ!?でもまあ、俺の十香達に手を出す輩は皆殺しだが………って違う!!今はそれどころじゃねえだろ!?」

 

………ドライグのボケに珍しく士道がツッコミに回った。一難去ったことで赤龍帝コンビは平常運転されていた。

しかし、重要なことはそのことではない。この世界に飛ばされてきた自分を助けてくれた恩人―――六華の体が限界に近づいている………傷口から溢れ出た大量の出血で顔が白くなり、意識が朦朧としている!!

先程まで六華の天使に守られていた女の子が士道にしがみついた。

 

「おにいさん………六華おねえちゃんを―――助けて!!」

 

涙を流しながらの女の子の懇願だった。その女の子の懇願を見た士道は力強く頷く。

 

「………ああ、任せろ!六華お姉ちゃんは俺が絶対に助けてやる―――来やがれ『刻々帝(ザフキエル)ッ』!!」

 

士道は自分の背後に巨大な時計を出現させる―――くるみんの天使『刻々帝(ザフキエル)』だ。時計の『Ⅳ』の文字から手に待つ短銃の銃口に霊力が凝縮されていく。

 

「『刻々帝(ザフキエル)』―――【四の弾(ダレット)】っ」

 

パァン!

 

士道は銃口を六華に向け、短銃の引き金を引いた。放った霊力弾は、六華に命中し彼女の背中の傷を瞬時に消し去った。

傷が治り、立ち上がった六華を見た女の子は六華に飛びついた。

 

「―――六華おねえちゃああああああん!」

 

六華は飛びついてきた女の子を優しく受け止め、母親のように女の子の頭を優しく撫でていた。女の子と六華は手を繋ぎ士道に感謝の意を述べる。

 

「ありがとうおにいさん、六華お姉ちゃんを助けてくれて!」

 

「………士道さま、本当にありがとうございました。私とこの子を守ってくれて―――本当に、ありがとう………っ」

 

………この女の子の天真爛漫な笑顔と感情を抑えられず、目から雫が滴りながらも見せてくれる六華の最高の笑顔―――これだけで士道は満足だった。

 

「おう!困った時はまた駆け付けてやるからな!」

 

士道もまた二人に笑顔を見せることで答えた。だが、村を見渡すとその笑顔もすぐに消えてしまった。

先程の戦闘で村が廃墟と化してしまったからだ。ほぼ全ての民家が先程のモンスターに襲撃され、あの美しい村は見るも無残な姿に変わり果てていたからだ。「来るのが遅かった………っ」と自分を憎んだが、左手からドライグが士道に言う。

 

『いや、そうでもなかろう。あの「ナイトメア」時崎狂三の「刻々帝(ザフキエル)」は対象を選ばん。俺が力を倍加し、それなりの霊力を込めた弾丸を数発村へと打ち込めばこの村はすぐに元通りに戻るだろう』

 

「………そうか、その手があった!よしドライグ、早速準備に―――えっ?」

 

士道が『赤龍帝の籠手(ブーステッド•ギア)』を左腕に纏い、再び鎧を具現化させようとした時だった………既に村は完全に修復されていたのだ。

そして、自分のすぐ後ろから強大な力を感じ取った士道が振り返ると―――六華が砂時計を宙に浮かせ、砂時計の中の砂が凄まじい輝きを放っている!

 

「―――六華さん、今のは………」

 

「我が村に伝わる宝具―――『時の砂』です。その名の通り時間に干渉できる砂時計です。時の砂は、周囲の空間の時間を戻すことが可能な宝具で、最大二十四時間前まで時間を遡ることができます………時を進めることや、失った命を取り戻すことは出来ないという欠点はありますが………」

 

六華から時の砂の説明を聞いた士道は、その効力に舌を巻いた。

 

「すっげぇな………くるみんの天使『刻々帝(ザフキエル)』にも負けてないぞ」

 

『「刻々帝(ザフキエル)」の効果対象は一つの対象もしくは対人だ。しかし、この宝具は周囲を巻き込む事ができる。どちらも本当に驚異的な能力だ』

 

ドライグの分析に士道は相槌を打ち、その考えに賛同した。時間に干渉できる能力を持つものは非常に少ない。

くるみんの『刻々帝(ザフキエル)』や六華の持つ『時の砂』は、喉から手が出るほど欲しい財宝だろう。

………さて、話を戻そう。騒ぎが収まったと感じたのか、この村の神殿の方角に多くの人の気配を感じ取った―――この村に住む人間の気だ。

厄介ごとになる前に去ろうと村の外へと足を進めた士道だったが、六華に腕を掴まれ思わず立ち止まる。

 

「………士道さま、もしよろしければ、今日は私の家に泊まって貰えませんか?細やかながらお礼をさせて頂きたいのですが」

 

「そんな、気持ちだけで充分です。この世界に来て右も左も分からなかった俺を助けてくれたのは六華さんです。だから俺はその恩に応えたかっただけですから………」

 

「―――士道さまは私だけでなく、麗奈(レナ)とこの村を護ってくれました………私はまだ何も返せていません、せめて士道さまが元の世界に戻るお手伝いを、私にも手伝わせて下さい!」

 

士道は当たり前の事を当たり前にしただけだと伝え、去ろうとしたが………六華は士道の腕を離すことは無かった。

六華の芯の強さは、恐らく士道にも負けないほど強いものだろう。彼女の中では、自分を命懸けで救ってくれた英雄に何かお礼がしなければ気が済まないようだ。

………ちなみに麗奈というのは先程の女の子だ。先程まで六華と手を繋いでいたが、両親が自分の娘が生きていることを喜び、抱きしめられている様子だった。

そんな時だった、杖をついた老父が士道と六華に歩み寄ってきた―――その老父は六華の父でこの村の村長を務めるものだ。

 

「少年―――いや、士道殿。娘を………そしてこの村を助けていただきありがとうございました。もしそなたが駆け付けてくれなければ、六華は死んでおったじゃろう………これまで我々のひれいを心から詫びよう―――申し訳ございませんですじゃ」

 

「いえ、そんな………俺は助けられた恩を返しただけです。六華さんやあなたたちが無事なら、それに越した事はありませんから」

 

「六華が仰られていた通り士道殿はお優しい方ですじゃ………士道殿、そなたのお人柄とその力に見込んで頼みが―――『断る。自分たちで解決すれば良かろう』」

 

六華の父が士道に頼みごとをしようとしたその時だった。士道の左腕に解除した筈の籠手が突如現れ、その頼みごとを一刀両断!!

 

『………すまんな相棒、今回だけは俺も譲るわけにはいかん―――驚かせて悪かったなジジイ。俺のことはこの男―――五河士道の第二人格とでも思ってくれれば良い………さて、ジジイとこの村の人間どもよ言葉の通りだ―――貴様らの問題なんぞに構っていられるほど俺たちは暇ではない』

 

―――乳ネタ以外で士道の行動を制限しなかったドライグが、珍しく士道の意思を聞く前に真っ向から否定をした。

………ドライグが述べた言葉に六華は当然だと思い、何も言う事は無かったが、そうではない者がまだここにいた。

―――六華の父でもあるこの村を治める村長は、藁にもすがる思いで士道の右手を両手で掴み頭を深く下げて頼み込む!

 

「お願いですじゃ士道殿!六華と我らを助けて下され!お主だけが頼みなのじゃ!士道殿がいてくれればこの村は安泰なのですじゃ!」

 

六華の父親は士道の腕を離そうとしなかった。そしてそれだけではない!!

もう村に危機がないことを悟り、出てきた村人たちが一斉に士道に頭を下げ始めた。

 

「士道殿、村長のお願いを聞き入れてくださぇ!」

 

「士道さま、我らをお助け下さい!」

 

「士道どの!どうか我らが英雄になってください!!」

 

………村人たちのこの行為をどう捉えるかは人によって変わるだろう。村人たちは必死で村を守るために全員が必死になっているとそう捉えることもできる。

当然ながら別の捉え方もまたあるだろう―――それが今から述べるドライグの言葉がその解答だ。

 

『ガハハハハハハハハハハ!!これは愉快だ、実に愉快だ!一度は村から追い出した者を役に立つから迎え入れるか………ご都合主義もここまでくれば怒りを通り越して笑いが出る。ショートしたコンデンサが頭に入っている貴様らだからできることだな―――見苦しいにも限度がある。そもそも自分たちで守ることのできない村は滅んだ方が世のためだ』

 

『………ッ!!』

 

ドライグが言った言葉に六華を除いた村人たち全員が込み上げてくる怒りを堪えるように歯を食いしばっている!!

これ以上は乱闘騒ぎになり兼ねないと感じ取った士道はドライグを止める!!

 

「お、おい!?いくらなんでも言い過ぎだぞドライグ!!その辺にしておけ、俺は気にしてないから。取り合えず拠点がある事は有り難いし、許可してくれるならこの村に留まらせてもらって損はないだろ?」

 

『良かったな貴様ら、相棒は偽善者だからそこの六華のように村を守る為に戦ってくれるらしい。実に愉快な話だな、貴様らは()()()()()()()()神殿の最深部でガタガタ「怖い怖い………」と震えているだけで全てが終わるだろう………厄介ごとを六華一人に押し付ける事がなくなって心が軽くなったか?』

 

ドライグが突き付けた現実が効いたのか、全員が足元に視線を伏せるだけだった。

………村人の姿が綺麗さっぱりいないことに気付いた時、士道は既に殺されたと勘違いした。しかし、後から気配を探れば神殿内に村人たちが避難したことを知ることができた。

………士道の場合なら六華に押し付けたことを悪い事だとは思わない―――十香たちに危険が迫ることを察知すれば彼は必ず安全な場所に十香たちを避難させ自分一人で解決しようとするからだ。

六華の父である村長が視線を突っ伏しながらも言う。

 

「………だが、六華以外の者に超常の力と戦う術はない。儂らは非力なのじゃ………」

 

『それで先ほどのような事が起これば自分の娘一人を戦場に送り、自分たちは安全な場所で怯えているだけだと!?そして今度はその役を六華から相棒に押し付けるつもりか!?現実が見えていないのであれば俺が教えてやる―――あの男の蛮行は理解し難いが、貴様らもあの男に負けず劣らずの悪党だ。お前ら全員が我が身惜しさから六華に責任を押し付けた卑怯者だ!!』

 

ドライグが放った言葉に反論する者は誰一人としていなかった。そして、誰もがこれまでの自分の行動に罪悪感を感じている様子だった。

 

「………もう止めろドライグ、この人達だって好きで六華さんに押し付けたわけじゃないはずだ。みんな歯痒い思いをしているのに、それを抉るような真似をしても何も始まらないだろ?お前が何と言おうが俺はここに残る、やるべき事はまだあるからな」

 

ドライグが村人たちをこれ以上貶めることに士道は我慢がならなかった。そして、士道は始めから六華を守る事を決意していた………これからも一人で村を守るために戦う六華の負担を少しでも減らす事の出来るようにと。

そして―――この世界で最後の一人の精霊となった六華を守るために………士道はここに留まることを決意した。

 

「ドライグ、お前が俺を大切にしてくれる事は本当に嬉しい。けどな、俺は強迫観念に突き動かされているわけもなければ、同情や憐憫と言った感情でもない―――これは俺自身がやりたい事なんだ。ドライグ、俺に六華さんを守らせてくれないか?」

 

士道の揺るぎない決意を耳にしたドライグはもう否定の言葉を吐く事はしなかった。士道の意思をドライグは首肯する。

 

『―――相棒が望む事であるのであれば、俺は何も言わん………好きにしろ』

 

「ありがとよ、ドライグ………また何かあった時は頼むぜ」

 

士道が言うと、ドライグは『任せろ』と籠手の宝玉を数回点滅させたのち、神器の中へと意識を戻した。

士道の覚悟を聞いていた六華が声を発した。

 

「………士道さま、私たちは先程ドライグさまが仰られていた通り、結果的には貴方を利用するかたちになってしまうでしょう―――本当にそれでもこの村に留まっていただけるのですか?」

 

「ええ、構いません。村から火の手が上がった時、貴方の顔が浮かびました………貴方に万が一のことがあったのかと思うと気が気ではありませんでしたから。

………元の世界に戻るまでですが協力させていただきます」

 

「―――っ!」

 

士道の返答に六華は頰を朱に染めた。嬉しかったこと以上に六華の心には何か新たな感情がタネの状態から芽を出した。

その感情が六華をどのように動かすのかは誰も知らないだろう。

 

「―――グヘヘヘヘヘヘヘヘヘ!!」

 

いい感じの雰囲気になっていたところだった―――が、しかし!!六華の体のある部分に目が行ってしまった士道は異世界だろうが止まることを知らない!

 

「六華さん、俺には『乳に触れればその人の元に瞬間移動できる力』があります!!予期せぬ危機から貴女を守れるようにおっぱいを触らせて下さい!!貴女のおっぱいに触れる事ができれば俺は神だろうが魔神だろうが関係なくぶちのめす事ができると思います―――いや、できます!!」

 

『………おい!?血迷ったか相棒!!そんな事できるわけがなかろう―――って何をしているのだ六華よ!?』

 

士道の言葉に堪らずドライグは吠えた。ここでも士道くんは

乳ネタに走る!!そして、その乳ネタを加速させるが如く六華は巫女服をはだけさせようと胸元に手を置いている!!

 

「士道さまがそう仰るのであれば、私は構いません………ど、どうぞ!」

 

―――なんということだ!!六華は一切抵抗をせず、胸元を露出した!!

おっぱいドラゴンはもう止まらない!!限界を突破してフル稼働しているエンジンを更に加速させるが如く士道くんはもう止まらない!!

―――さらに、六華が胸元を露出させた事で村の男たちもまた士道と同様に鼻血を吐き出したりするなど、興奮度の針は軽く最大値を振り切っている!!しかし、何人かは目を指で潰されたり、隠されたりして一瞬しか六華のおっぱいを目に焼き付けることはできなかった。

それでも十分だろう。六華以上に豊かな乳はこの村には存在しないのだから!!十分過ぎる目の保養になっただろう!!

 

「グヘヘヘヘヘヘヘヘヘ!!いっただっきまあああああす!!」

 

下品な笑みを浮かべ、六華のおっぱい目掛けて飛び立ったおっぱいドラゴン!!幸福を享受しあわよくばその先の世界を知ることができる―――――――――はずだったのだが………………

 

 

 

 

ビリビリビリビリビリビリっ………

 

 

 

 

「んぎゃああああああああああああ!!!!」

 

 

 

六華のおっぱいに触れようとしたその次の瞬間、全身に電流が流れ士道くんは地面に倒れ伏した。

―――まるで体の一部から雷が発生しそれに感電するかのように………

ドライグがその現象を説明する。

 

『………ああ、そう言えば―――二週間ほど前に、五河琴里に小型の雷発生させる顕現装置(リアライザ)を籠手の中に押し込まれてな――――――相棒の心拍数がある数値を超えた時にその顕現装置から雷が発生する仕組みになっている………通常の雷の数十倍の威力を誇る代物らしいぞ?五河琴里が相棒の貞操を守る為に一週間ほど徹夜し、身を削りながらも相棒のためにと完成させたそうだ。

………まだまだ「赤い童貞」でいなければならないようだな相棒!』

 

「お、お前か琴里ィィィィィィィィ!!ていうか誰が赤い童貞だよ!?こんなチャチなオモチャでおっぱいドラゴンを止めれると思ってんじゃ―――んぎゃああああああああああ!!!」

 

―――六華のおっぱいを揉むために鎧をまとった士道くんだったが………琴里が士道の童貞を守るために作った顕現装置が一歩上を行った。

 

「士道さま、大丈夫ですか!?」

 

―――村を守った士道くんだったが、琴里の顕現装置(リアライザ)に完敗し再び六華に介抱されることになった。

元の世界に戻るための赤龍帝コンビの戦いはまだまだ続く!!

 




次回から投稿のペースが格段に落ちると思います………どんなに早くても月一回のペースになると思いますが、それでも完結を目指して頑張ります。
これからもデート•ア•ライブ 〜転生の赤龍帝〜をよろしくお願いします。

次回もまたこの村での話がメインになると思います。六華の存在について少しずつ明かしていく予定をしております。

★おまけ

よしのん『四糸乃、何を買うかちゃんと覚えてる?』

四糸乃「えっと………うん」

士道とドライグの赤龍帝コンビと同様に、四糸乃とよしのんのコンビも今日もまた冴え渡っている。
琴里と令音に「街を歩きたい………」と伝えた四糸乃とよしのんは、空中艦『フラクシナス』に監視されながらお買い物だ。
………とは言っても四糸乃とよしのんがするのはお使いだ。琴里に頼まれたものを買いに四糸乃とよしのんは天宮市のスーパーを目指して歩いていた。
そんな時、電信柱から四糸乃に熱い視線を送る男の姿が………

ヘラクレス「四糸乃ちゃん、はぁはぁ………」

電信柱に隠れるように四糸乃の様子を息を荒げて眺めている巨漢が現れた―――次元の守護者•ヘラクレスだ。
可愛い幼女あるところにこのヘラクレス有り!このヘラクレスは仕事がない時は、近所の小学校や幼稚園で体育風景を遊ぶ姿を観察する事を日課にしている!!

四糸乃「………きゃあ!」

突如強い突風が吹き荒れ、四糸乃が被っていた帽子が飛ばされた!!
帽子は風に乗って流されていく!!

ヘラクレス「とおぅ☆!」

バギッ!!

ヘラクレスは四糸乃の帽子が飛ばされた瞬間に地面を蹴って飛び上がり、四糸乃の帽子を掴み取ってみせた。
………ヘラクレスが飛び上がった時に道路の一部が陥没し、小さな空間震が発生したような穴が作られた事は触れてはいけない。
ヘラクレスは四糸乃の目の前に宙返りをしながら着地をする!!

ヘラクレス「はぁい☆そこの可愛いお嬢さん、最近は強い風が吹くから気をつけなきゃダメよ?」

四糸乃「えっと、はい………ありがとう、ございます………」

ヘラクレスは四糸乃に帽子を手渡し、四糸乃はそれを受け取った。

ヘラクレス「それじゃあお嬢さん、またね♪」

四糸乃「はい!ありがとう、ございました………」

ヘラクレスは手を振って去って行った―――失礼、近くの曲がり角に姿を隠し、四糸乃の動向を見守っていた。

ヘラクレス「やったわ!ついに四糸乃ちゃんと話せたわ!今度は手を繋いで、街を一緒に歩いてみせるわ!」

この男、正にロリコン!


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五話 異世界での生活です!

気が付けば平成が終わって新たな令和時代が始まってました。
令和最初の投稿です!
遅くなってしまい申し訳ございません!


「フンッ!」

 

パキッ!

 

一人の少年が手刀を振り下ろすと切株の上にある薪が真っ二つになる。その少年は斧を使わず手刀で薪割りをしていた。少年は休むことなく切株の上に薪を置いては手刀で割っていく。

瞬き厳禁の速さで暖炉に投入する薪が完成していたが、そんな時に事件が起こる。

 

「フンッ―――あ、切株ごとやっちまった」

 

勢い余って薪を置く切株ごと少年は薪を割った。薪割りをしている少年は赤龍帝の士道くんだ。

彼が異世界に来てからの生活は、帰るための方法を探すこと以外では六華の手伝いをしている。

森に入って薪割り、薬草集めや村周囲に設置されている結界の修復などが彼の生活だ。

 

『………異世界ライフは充実しているか相棒?この世界でも働き者だな』

 

「まずまずだ。村を救った英雄扱いだが、その実は異世界から来て行き場のないホームレス。この村に留めて貰える限りは俺もできることをやるつもりだ」

 

話しかけてきたドライグに士道は割った薪を集めながら答えた。この世界でも同様に士道は掃除や料理などを彼は進んで引き受けている。

………昨晩は自慢の手料理を披露し、六華を感動させたりするなどこの村に欠かせない存在になっているのだ。

 

「薪割りはこんなもんで良いだろう。さて、次は壊れた民家の修復作業でその次は街に出て買物と………さて行くか」

 

メモ帳に書いてあることを確認して、村へと足を進めた士道。

薪を家の中に置いて、街を目指す。

その道中、風来人のヘルメスが懲りずに商売をしている姿が視界内に入った。

 

「やあ、士道くん。『ハイスクールDxD』の新巻が今日発売なんだ。良かったら買って行かないかい?キミには特別価格で販売しよう―――六六◯万円だ!」

 

「………ドライグ、今日の修行のメニューは何だっけ?」

 

『禁手の出力向上だな。リンドヴルムと戦うには単純に力が不足している。まずは力を付けることだ」

 

声をかけてくるヘルメスだったが―――士道くん、まさかのスルー!!ヘルメスは慌てて士道の前まで走り仁王立ち!

 

「ああちょっと!?待って無視しないで!!」

 

「ったく、この人は………それで、何でまたこんなところで商売なんかやってるんですか?俺は街まで買い物に行かないと行けないのですが………」

 

士道が溜息を吐くと、ヘルメスは腰につけた巾着から一枚の肖像画を取り出し士道に手渡す。その一枚の肖像画には二十代ほどの男性が描かれていた。

 

「同業者から探し物の依頼を受けてね………()()を見ていないかい?」

 

左の頬には十字の傷があるものの、端正な顔立ちで、美しい水色の髪を黄金の髪留めでまとめている。武士の袴を纏い、筋骨隆々の肉体は風格があり、並みの人物ではない事を士道は悟った。

しかし、こんな人物をコレ扱いするヘルメス―――やはり次元の守護者はすごいメンツ(意味深)の集まりだ。

 

「なんだこのイケメンは………ムカつく!」

 

ビシィィィィッ!!

 

ヘルメスから手渡された肖像画を士道くんは両手で引き裂さいた。その様子を見たヘルメスは慌てて落ちた肖像画を回収する。

 

「な、なんて事をしてくれたんだキミは!!この少年はキミがこれから行く街を納める領主様だぞ!?その肖像画を描いてくれと依頼を受け、やっとの思いで描き終えたのに―――って違ああああああうっ!!失礼間違えた、探し物はこっちだ」

 

………どうやら間違いだったらしい。次にヘルメスが渡した紙には真っ赤な両目と頭にかぶった麦藁帽子が特徴の小さな熊のぬいぐるみが描かれていた。そのぬいぐるみを見てドライグが一言物申す。

 

『このブサイク加減………よしのんといい勝負だ』

 

「―――それ間違っても本人の前で言うなよ!?殺されるから!!」

 

ドライグが言った言葉に全身全霊のツッコミで答えた士道くん。聞いたらよしのんは怒りそうなのは言うまでもない。

 

「同業者が言うには『間違えて遠くに投げてしまった』らしく中々見つからないようでね。街に着いたら売り物として売られていないか見てきて欲しい」

 

ヘルメスから士道くんは仕事を頼まれた。士道はその仕事を首を縦に振り承諾した。

 

「分かりました。そう言う事なら手伝います」

 

「ありがとう士道くん。またお礼はさせて貰うよ」

 

こうして士道はヘルメスに背を向け、街へと向かった。士道の背中を見送ったヘルメスはある事に気付いた。

 

 

 

 

それは―――

 

 

 

 

 

「あ―――肖像画を元に戻して貰うの忘れてたぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

気付いた時には士道の姿はヘルメスの視界内から完全に消えており、肖像画を直す手立てが無かったのは、また別のお話。

 

 

 

 

 

 

―――◇―――

 

 

 

 

 

 

士道は果物や魚など、夕飯で使用する食材を求めて街へとやって来た。

………ここでは良く喧嘩になる事が多い。その原因は―――

 

「おいおっさん!これもちっとだけ値下げできねえか?」

 

「おい無茶言うんじゃないよ少年、これでも他の店より三割ほど下げてんだ。いつも来てくれてるとは言えこれ以上は………」

 

士道くんが値切りを行うからだ。彼は家計のやりくりも長年やってきたため、節約には余念がない。

そのため減らせる出費はとことんまで切り詰めるのが、彼のやり方だ。

………切り詰めて浮いた分のお金を、高性能隠しカメラやら秘密コレクションの充実に使用しているのは秘密事項だが。

 

「おっさん、俺にはここら一帯を爆破するだけの力がある。さらに、この俺の武勇伝は―――」

 

………武勇伝を語り出すとこの男はとにかく長話になる。敵わないと思った店主は両手を上げて降参した。

 

「よし分かった!全品半額にしてやるから好きなだけ買って行け!!」

 

「サンキューおっさん!いい商売してるよ」

 

士道はクーラーボックスに魚や肉などを詰め込み、代金を払ってその店を後にした。

目的を果たし帰ろうとした時、士道の目にあるものが映る。それは町の中央にある万屋に並んでいた。

 

「………あれ、だよな?」

 

『多分そうだろう。次元の守護者•ヘルメスの探し物は』

 

士道はヘルメスから貰った紙を取り出し、紙に描かれたぬいぐるみと姿を確認する。真っ赤な両眼に頭には麦藁帽子………見事に一致している。

士道はぬいぐるみが飾られているその万屋に足を運んだ。万屋の店主は目が覚めるほどの美人でこの町ではナンバーワンとも呼び声が高い。売っている品物やその店主のサービスなども良いためこの町では一番繁盛している店だ。

 

「………店主さん、俺と今晩どうですか?」

 

「え!?その………私、結婚していますので」

 

士道くんのいきなりのナンパに戸惑うお姉さん店主。手を握り離そうとしない士道くん。その様子にドライグが吠える。

 

『―――おい!ナンパが目的ではないぞ!?さっさと仕事を済ませるぞ』

 

「そうだった仕事仕事―――お姉さん今度俺とデートしませんか?いい宿屋を予約しておきますよ?」

 

………断られても諦めない士道くん。キミは人間だろうが精霊だろうが構わず狙った獲物は最後まで逃さない。しかし、今やるべきはそれではない。

 

『いい加減にしろ相棒!ぬいぐるみだ!!」

 

「なんだそっちか………」

 

やっと店に置いてあるヘルメスの探し物らしきぬいぐるみに目がいく士道くん。ぬいぐるみを手に取ると店主が口を開く。

 

「………そのぬいぐるみ、良ければ持っていって下さい。お金は頂きませんので………」

 

店主が言うにはタダでも良いから処分したいようだ。士道はその訳を訊ねる。

 

「よろしいのですか?」

 

「………このぬいぐるみ、実は喋るんです。それが恐ろしく感じて―――」

 

「へぇ、そんな事が………じゃあ―――」

 

士道は店主の言葉が真実かどうかを確かめるために、霊力を中指に集結させ―――ぬいぐるみに渾身のデコピン!

その時―――ぬいぐるみがなんと声を発した。

 

〈あだぁッ!?〉

 

「『あ、喋った』」

 

士道たちの注目が一斉にこのぬいぐるみに集まった。ぬいぐるみは士道の手から脱出し、宙に浮かぶ。

 

〈おいにーちゃん、人の睡眠邪魔したあかんで―――オタクあれか、KYってやつですか?〉

 

「関西弁!?て言うかお前人じゃねえだろ!?」

 

〈おー、そうやったわ―――ってじゃあかましい!!ワイにデコピンしたこと謝らんかいボケ!〉

 

士道とぬいぐるみのボケとツッコミが交錯し、店内に変な空気が流れ込んだ。

この変な空気を変えたのは、士道の左手を住処にするドラゴンだった。

 

『………相棒、その辺にしておけ。このブサイクな可燃ゴミには色々聞きたいことがあるが、まずはヘルメスに渡してからでも良かろう』

 

〈ああ!?誰がブサイクな可燃ゴミや!!舐めとったらイテこますぞ!おい、聞いてんのか!?〉

 

ぬいぐるみ、キレ散らかすも誰にも相手にされない。ぬいぐるみを無視して士道は再び美人なお姉さん店主の手を握りしめ、ナンパを再開している。

 

「ああ!お姉さん、最後に裸の写真を撮っても―――」

 

『アホか!さっさと行くぞ』

 

〈あ、その写真ワイも欲しい〉

 

ワーワーうるさいぬいぐるみを片手にその店を後にした。最後の最後まで士道は店主を口説き落とそうと頑張っていたが、実らず失敗に終わった。

―――そして、このぬいぐるみは士道に引けを取らない変態であることが判明した。

 

 

 

 

 

 

 

―――◇◆―――

 

 

 

 

 

 

 

士道は食材を入れたクーラーボックスを肩にかけ、変態末期のぬいぐるみを頭に乗せ空を飛び帰路に着いている。………ちなみにこのぬいぐるみはヘルメスと同様に次元の守護者の一人でその名はオリオンだ。

オリオンは士道たちがこの世界に来て、何を成そうとするのかを知り、士道たちに助言をしている。

 

〈………そーか、にーちゃん達はリンドヴルムと戦うんか。ヘルメスの言うてた通り、奴は精霊の力を操る上に神器(セイクリッド•ギア)を複製する能力を得とる。前に村を襲撃した男が使ってたって言う『魔獣創造(アナイアレイション•メーカー)』。ありゃあリンドヴルムが力を授けたと見て間違いないやろな〉

 

「敵はそこまでの化物ってことか………っ!」

 

オリオンが告げた言葉に士道は完全に黙り込んでしまった。

無理もない、オリオンが述べたのはほとんど死刑宣告と言っても良い。実力は天龍に匹敵する力を持ち、精霊の力を操りさらに神器まで複製できるとなるとどうやっても勝てるイメージが浮かばなかったのだ。

 

オリオンの見解を聞いたドライグがリンドヴルムについて解説を始める。

 

『リンドヴルムの能力は三つあり「事象改変」•「分解」•「複製」だ。事象改変はその名の通り起きた出来事などを自由に変更する事が可能だ。

分解はその名の通りだ。主に攻撃をかき消す時や、事象を詳しく知るときのためにある能力だ。

そして最後の複製は自分が見た事があるもの全てを創り出す事ができる。生物と神器がの二つが例外だったが、まさか神器を複製できるようになるとはな………』

 

ドライグの説明を聞いてオリオンが続ける。

 

〈リンドヴルムはこの世界で精霊を狩った後に、次元の狭間を移動して前の世界に戻りおってな。んで奴さん天界の『システム』覗いて分解使うて神器を複製できるようになりよったんよ。んで元からあった野望をこの世界で実現しようとしとる〉

 

オリオンの説明を聞いたドライグが異を唱える。

 

『オリオンよ天界の「システム」の件もそうだが、奴の能力では次元の狭間を渡って世界を超える術は無いはずだ。仮に次元を斬り裂き強引に侵入したとしても―――次元の本流に飲まれ「無」に当てられて消滅するのが目に見えていると思うが………』

 

〈ドライグさんよぉ、アンタ肝心な事を忘れとるで。ヘルメスから聞いた思うけど、奴さん精霊殺してその力を吸収しとる。奴さんが殺した精霊が使う天使ん中に空間支配する『制空天(メタトロン)』とプライバシー筒抜けにできる『超識天(ラジエル)』が含まれとるんや………アレはもう次元の狭間を自由に泳げて、天界に入りさえすれば自由に『システム』覗ける事ができるんやわ〉

 

『………流石に俺も返す言葉が無い。リンドヴルムはそこまでの領域に到達したのか―――今の奴には全盛期の俺たち二天龍は勿論、各神話を支配する神仏クラスですら消滅させる程にまで達している。だが―――』

 

オリオンの説明を聞いてドライグも納得し、恐怖を抱いている様子だった。

しかし、ここで逃げ出す赤龍帝コンビでは無い。

 

「逃げ出すなんて選択肢は最初から無い。俺たちが逃げたらこの世界最後の精霊が殺されてしまう………異世界だからと言って見殺しにできない!必ず俺が助ける!」

 

空を見上げて士道は強く誓った。

彼らはすでに戦う覚悟をしてこの世界に居るのだから!

 

 

〈にーちゃん達の決意は変わらんか。けどなぁにーちゃん………無茶した絶対あかん。にーちゃんの事を待っとる人おるやろ?その待っとる人のとこに笑顔で帰んのもまたにーちゃんの仕事や〉

 

『オリオンの言う通りだ。今の言葉しっかりと心に刻め相棒』

 

二人の言葉に士道はため息を吐きながら頷いた。そうこう話しているうちに、ヘルメスが商売をしている場所まで辿り着いた。そこには―――ヘルメスの隣にもう一人女性が座っていた。

女性は士道を見て―――正確には士道の頭の上にいるぬいぐるみを見て土煙を上げながら迫ってきた。

 

「ダーリン!会いたかったあああああ!!」

 

土煙を上げながら迫ってくる女性は、露出の多い深紅のドレスに身を包み、神話の世界の射手が身に付ける手袋とブーツ、腰まである美しい銀髪が特徴の絶世の美女だった。

士道くんはその女性の凶暴なバストに大興奮!!

 

「うぉぉぉぉぉおおおお!!やっべぇ!ドライグ、銀髪の巨乳がブルンブルン揺れながらこっちに来る!!」

 

『言い方!!もっとまともな説明ができんのか!!」

 

〈うげ!?アルテミス!!にーちゃん逃げよう、捕まったらワイ死んじまう!〉

 

両手を広げてハグをしようと向かってくる女性を受け止める構えで、ドライグは士道の説明に全力でツッコミを入れ、オリオンの顔は恐怖で真っ青に染まる。

女性は士道(正確には頭の上のオリオン)を目掛けて飛び込んで来た!!士道はその女性を真正面で受け止める!!

 

ズドーンっ!!

 

女性を受け止めた士道は地面に倒れ込んだ。そして、突進してきた女性は逃げようとしたオリオンを右手でガッツリと掴んで逃走を阻止!

士道の上に倒れ込んだ女性は起き上がって士道に跨がりオリオンに涙を流して頬ずりをする。

 

「ダーリン………ダーリン、ダーリン!ダーリン!!無事で良かったよおぉぉぉ!」

 

〈ワイの前にお前が突き飛ばしてしもたにーちゃんが先やろ!!あのにーちゃん様子からして大丈夫ちゃうで!?〉

 

オリオンの言葉で銀髪の巨乳―――アルテミスは押し倒した士道の方に目を向ける。士道は鼻血を出しており、全くの無傷ではなかった。

しかし、士道はアルテミスに親指だけ上にあげた拳を突き出す。

 

「―――お構いなく。心ゆくまでお楽しみ下さい」

 

士道くん渾身のキメ顔でアルテミスに大丈夫アピール。それを見て安心したアルテミスは頬擦りを再開。

 

「ダーリン!あのヒト大丈夫みたい!」

 

〈………せめてにーちゃんから退いてあげ―――〉「お構いなく」

 

士道くんはアルテミスの柔らかい体に大満足のようでオリオンが言い切る前に再びキメ顔で大丈夫アピール。

 

「あ、士道くん!一つ頼み事が―――さっき破いた肖像画キミの『刻々帝(ザフキエル)』で元に戻して!」

 

ヘルメスは士道に先程引き裂いた肖像画を見せるが士道くんはアルテミスのおっぱいに夢中でヘルメスの声も肖像画も完全に視界に入らない。

 

『………何だ、このカオスな状況は?』

 

この場で唯一まともな存在であるドライグも疲れ果てて思考停止してしまっていた。

この始末、果てさてこの先どうなりますことやら………

 

 

 




次回は出来るだけ早く投稿できるよう努力します!
読者の皆さま、今後ともよろしくお願いします!

ドライグ先生の次回予告

ドライグ『突如告げられた六華の真実。その真実に相棒はどう答えるのか?
次回「六華の過去です!」
赤き童貞よ、賢者となれ!!』

士道「おい最後!どっかの作品で聞いたことのある次回予告だな―――って誰が赤き童貞だ!!」

★おまけ

十香「〜♪〜♪♪〜♪」

鼻歌を歌いながらお風呂に入っている十香ちゃん。学校に行く前の朝風呂だ。

十香「やっぱりあさぶろは良いものだ。桐生や亜衣には感謝をせねばならんな!」

桐生愛華や藤袴亜衣の勧めもあって十香ちゃんは朝風呂に入るようになった。今では日課となっているほどお風呂好きになった十香ちゃんだ。

士道「いや〜分かるぜ十香、お風呂って最高だよな!」

十香「し、シドー!?いつからそこにいたのだ!?」

十香が振り向くと、後ろには士道が王様気分で一緒に入浴していたのだ。彼は心底満足そうに笑みを浮かべていた。

士道「十香が入ってくる五分前くらいからスタンバイしてたぜ!?さあ十香、レッツおっぱ―――ぐぶおぅ!?」

無垢な十香に襲いかかろうとした士道を何かが吹き飛ばし、士道を壁の中にめりこませた。士道を吹き飛ばしたそれは、浴槽の中でぷかぷかと浮かんでいた。

よしのん『いんや〜本気出しちゃったよ』

四糸乃を守護するパペットのよしのんだ。コミカルな用紙の中に強大な力が内包された殺戮パペットであり、士道の変態行為を防止する最後の抑止力だ。お湯にぷかぷかと浮かびながら得意げに話していた。

琴里「ごめんなさいね十香。うちの変態が迷惑かけて―――ほら、行くわよ!」

壁にめり込んだ士道を引き抜き琴里は外へと引っ張っていく!しかし士道も諦めない!!

士道「は、離せぇぇぇぇ!!十香には、十香には俺が居てやらないと!!俺は揉むんだ!十香のおっぱいを!!」

琴里「うっさい!ほら行くわよ!」

士道の乳気補充作戦、琴里に捕まり見事失敗!















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六話 六華の過去です!!

今回はガッチガチのシリアスです。

※一時期離れていましたが、何とか戻って来れました。
仕事の都合上、不定期更新になりますが、まだまだ続けていきます。


「ダーリン!愛してる!」

 

〈………ああ、コレとおるんが一番疲れる。にーちゃん、マジで変わってくれんか?〉

 

「アレは相当なおっぱいだ。六華より少し小さいけど、十分に巨乳と呼ぶに相応しく、何より形が美しい。触らなくても分かる―――S+ランク以上の評価を与えよう!」

 

「士道くん、肖像画直して!」

 

士道のお腹に跨がりブサイクな熊のぬいぐるみに頬擦りするアルテミスと、グロッキーな表情をしたオリオン。

アルテミスの胸を鼻血を出しながらアルテミスの胸を格付けする士道くん。

そして、先程士道が引き裂いた肖像画を手に気を引こうと話しかけてくるヘルメス。

………このままではストーリーが一切進まないため、その無限ループするカオスな状況に終止符を打つのは当然この人。

 

『………お前ら、いい加減元に戻れ。相棒、ヘルメスの肖像画を直してやれ。それからアルテミスとやら、お前の「ダーリン」を持ってきたのは俺の相棒―――五河士道だ』

 

「はいよ―――『四の弾(ダレット)』、『四の弾(ダレット)』、『四の弾(ダレット)』『四の弾(ダレット)』、『四の弾(ダレット)』、『四の弾(ダレット)』、『四の弾(ダレット)』、『四の弾(ダレット)』」

 

士道はヘルメスの持つ肖像画に弾丸を撃ち込む―――が!!霊力を一切こめて無い弾丸なため、ヘルメスの肖像画を弾丸は貫通し蜂の巣のように穴だらけになっていく!!

 

「ちょっと士道くん!?本当にシャレになってないから!!」

 

肖像画がさらに悲惨な状態になっていくことに耐えられずヘルメスが悲鳴を上げた。その様子を見たドライグはため息をつきながら『さっさと元に戻してやれ………』と、ドライグの言葉を聞いてヘルメスの肖像画を元に戻した。

―――さて、話を進めよう。オリオンに頬擦りしていたアルテミスは士道の手を取り感謝の意を述べる。

 

「ありがとね………えーと、士道くんで良かったかしら?お姉さんのダーリンを見つけてきてくれて」

 

「いえいえ、俺は当然の事をしただけなんで。困っている女性を助けることは当たり前です。義務教育で習いましたから」

 

士道はキラキラと輝く笑顔でアルテミスに微笑む。士道くんの渾身のキメ顔は眩い光を放っていた。

その眩い笑顔で士道くんはわしゃわしゃと卑猥に手を動かしながらアルテミスに言う。

 

「―――お礼はお姉さんのおっぱいで手を打ちましょう。大丈夫です、優しくしますから」

 

「え!?えーと………」

 

………台無しである。輝く笑顔を浮かべながら手を卑猥に動かし、息を荒げ鼻血を出しながらじわじわと迫り来る変態にアルテミスは困惑していた。

そんな時アルテミスの頭の上で仰向けになっているオリオンが会話に入り込んできた。

 

〈にーちゃんにーちゃん。そーいや説明忘れてたけど、このアルテミスは次元の守護者のひとりでなぁ。蹴りで空間歪めたりオリハルコンのような超金属握りつぶしたりは平気でやるさかい。他には宝具の弓使うと世界の3分の1は死の大地になりよるから気ぃ付けた方が―――んんんぎゃあああああああああああ!!!!〉

 

「あれあれぇ?ダーリンなんか言ったぁ♪」〈スミマセン、コレイジョウハホントシヌカラカンニンシテクダサイ………〉

 

オリオンがアルテミスの紹介中に彼女の実力を話す途中で彼?のぬいぐるみボディからミシミシと、引き裂かれるような音が聞こえてきた。

………アルテミスがこれ以上は言わせまいとオリオンの体を雑巾絞りで悲鳴を上げさせ強制終了させた。

 

「恐ろしいなこの姉ちゃん。怒らせないようにしようか………」

 

オリオンが述べた真実に、先程までアルテミスの胸を触ろうとじわじわとにじり寄っていた士道の足が完全に止まった。完全に油断して相手の力を察知する事をやめていたが、ソロモンやアテナ同様にアルテミスからも隠している濃密な力を士道は察知した。

………その時、士道の頭の中で一つ疑問が浮かぶ。士道はそれについて目の前の麗しい守護者を訊ねた。

 

「………アルテミスさんはそこの詐欺師紛い(ヘルメス)や頭の上にある茶色の汚物(オリオン)と違って闘える守護者で間違い無いですよね?」

 

「さ、詐欺師紛い………」〈おいにーちゃん、ちょっとこっちこいや!〉

 

士道の問いに対してアルテミスは首を縦に振る。何処からか変な声が聞こえたがこれは無視をする。

ヘルメスやオリオンからは闘気や魔力の類の力が無いことを士道は感じ取っていた。しかし、アルテミスは隠してはいるがオリオンを黙らせる際に僅かだが闘気に類似した力を出した事を士道は見抜いた。ほんの僅かだが、先程のオリオンの言葉も嘘ではない事を確信したからだ。

 

「次元の守護者は、世界の均衡を乱す存在を討滅するための組織だとソロモンさんからは聞いています。そんなあなたたちが何故リンドヴルムを野放しにするのですか?」

 

ソロモンやヘラクレス級の強大な力を誇る次元の守護者がこの世界に存在するのであれば、リンドヴルムの暴虐は十分に防げた筈だ。

アルテミスは空を見上げる。

 

「………士道くんが言うようにお姉さんもリンドヴルムと戦ったわ。でも()()お姉さんたちではリンドヴルムを倒す事はできなかったの」

 

次元の守護者であるアルテミスをもってしてもリンドヴルムを止める事は叶わなかったようだ。士道の左手の甲から円状の光が現れ点滅を繰り返す。

 

『リンドヴルムの実力は封じられる前の俺たち―――ニ天龍に準ずるもの。貴様一人では敵わずとも次元の守護者が総出で掛かれば討滅は叶っただろう?』

 

「………」

 

アルテミスはこの問いに関しては、視線を伏せて首を左右に動かした。ただ彼女は拳を握りしめて、悔しさに震えていた。

士道の左手の甲が再び点滅を繰り返す。

 

『………次元の守護者がここまで手を焼く程の相手と闘わせるためにソロモンは相棒を送り込んだのか?あの男はリンドヴルムに相棒が勝てない事は目に見えていたはずだ。ならば、その狙いは―――相棒がいない時を狙って夜刀神十香たち精霊を全て根絶やすこと。異世界に相棒を送ってしまえば戻る術がない事を見越して―――』

 

「結論を焦るなよドライグ。前にも言ったがそれじゃあ手際が悪過ぎる。よく考えてみろ、本当に十香たち精霊が狙いなら現界した時点で殺す事は容易かった筈だ。それから、あの人は何故俺を鍛えた?それにくるみんを助ける為にフェニックスの涙まで渡した。そこのポンコツクソ野郎(ヘルメス)は見ず知らずの俺にエリクサーを用意してくれた?あの人たち次元の守護者は確かに読めない人たちだが無益な行動をする集まりじゃない。

………俺にしかできない事があるそれを成し遂げさせる為にあの人は俺をこの世界に送り込んだ。そんな気がする」

 

『このお人好しが………ここまで来ると尊敬に値する』

 

「どうして僕とソロモンでこんなに扱いが違うの!?同じ守護者なのに!!」

 

ドライグが全て述べる前に士道が考えを伝えた。士道の答えにドライグはため息を吐いて呆れていた。

ヘルメスが何か言っている―――それは気にしないでおこう。

 

「フフフッ。士道くんって結構おもしろい子ね。お姉さん少し興味湧いてきたかも」

 

守護者アルテミスも士道の印象がほんの少し良くなったようだった。しばらく考えを述べている間に士道が何かを捕まえたようだ。

 

「それはそうとアルテミスさん―――今こいつ浮気しようとしてました」

 

アルテミスは士道の右手に視線を向けると士道の右手の中にある恋人オリオンの姿があった。士道は、オリオンが巫女服の女性を目掛けて飛びこもうとしたところをキャッチした。

 

〈―――グギギギギ!何しとん兄ちゃん!?こんなパツ金巨乳美少女みっけたらそのおっぱいに突っ込みたくなるやろ!?なんで邪魔すんねん!?〉

 

「他のおっぱいなら優しい俺は見逃したさ。けどこのおっぱいはなぁ―――()()()()()()なんだよ!!」

 

………士道がオリオンを止めた理由は至ってシンプルだ。何故なら―――オリオンが飛び込もうとしたのは女性とは六華だったのだ。

士道の帰りが告げられていた時刻よりも遅くなっていたため、六華は士道のもとまで急いで飛んできたら―――自分の胸は既に俺のものだと宣言されたのだ。六華は士道の言葉に顔を真っ赤にして胸元を隠しながら後退る。

 

「し、士道さま!?その、私は構いませんと言いましたが、まだ心の準備が―――」

 

「大丈夫です、そんなものは後でいくらでもできますから!ぐへへへへへへ!!」

 

六華は顔から湯気が出るほど顔を真っ赤にして視線を泳がせていた。………いきなり俺のもの宣言されて動揺が隠せなかったようだ。

そんな動揺を隠せない六華など気にせず士道くんはお構いなしで距離を詰めていく!!

そして、ドス黒いオーラを纏った美しい守護者が士道の右手からオリオンを引き抜く。

 

「フフッ、フフフフフフフフフフッ!ダーリン♪覚悟はいい?」

 

〈チョッ、アルテミスサマオマチニ―――ぎょええええええええええ!!!?〉

 

鬼や悪魔でも泣いて逃げ出す程の怖い笑顔で、アルテミスはオリオンの頭を握り潰した。悲鳴をあげるオリオンに向けて士道くん親指を上げてgoodのポーズ………六華の巫女服の胸部に顔を突っ込みながら。

 

「これで平和はまふぉらぁれぇたもごもご………(守られた)」

 

「し、士道さま………そ、そのくすぐっ、たい、です」

 

〈こんのケチ龍帝が!!絶対その子寝取ったるからな―――んごおおおおお!!?〉

 

アルテミスはオリオンを握り潰しながら何処かへと飛んでいった。オリオンの言葉を聞いたアルテミスは「浮気は許しません!」とさらに力を込めていた。

 

「あの乳は士道くんのものなのか、メモしておこう」

 

『メモなどせんでいい!!』

 

持っている画用紙にメモしようとしたヘルメスに間髪いれずにドライグがツッコミを入れた。こうしてそれぞれが目的地を目指して足を進めた。

士道が六華の胸から満足して離れたのは、一時間ほど後のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――◇―――

 

 

 

 

 

 

 

 

村について買ってきた食材で料理をしている時だった、一人の少女が士道の後ろに立っていた。

 

「士道さま、次からはその………私の胸を使用する際は、事前に一言お願いしてもよろしいでしょうか?その、まだ慣れていないもので―――」

 

その少女は六華だ。六華は恥ずかしそうに両手の人差し指を合わせて視線を外しながらも告げた。その言葉を聞いた士道は鋭く振り向く。既にアクセルは完全に全快、フルパワーおっぱいドラゴンと化してしまった士道くん、もう止まらない!

 

「一言いえばOKなんですか!?よし、じゃあ六華おっぱいを頼む―――今すぐに!!」

 

「い、今すぐですか!?先程も十分使用されていましたよね!?」

 

「さっきはさっき!今は今だ!!俺のいた世界で偉い人がこんな名言を残した―――『時間は無限、おっぱいは有限』だと!!」

 

純粋無垢な六華に自分の都合の良いように誘う士道くん―――ここまでくれば詐欺師にも引けを取らない外道っぷりである。そして先程同様にじわじわと六華に詰め寄る士道くん。しかし、六華はその場に留まりながら士道に述べる。

 

「そ、そうなのですか。しかし、士道さまそれはどの世界に置きましても時間の方が有限のような気が………いえ、士道さまがそう仰るのであれば私は―――」

 

『………六華よ、名言の話は相棒の作りあげた嘘だ。信じるなよ?』

 

「嘘だったのですか!?」「おい黙ってろよドライグ!!」

 

「信じます」と言おうとした六華にドライグが堪らず真実を告げる。真実に驚いたのか、声を裏返した。

そして………悪魔の手が無垢な少女へと迫ろうとした時、助け舟が現れる。一人の老人が家の中へと入り少女に言う。

 

「六華よ、五季(いつき)の墓に差し入れを頼む。ワシではもうあの山を登る事ができんのじゃ」

 

「あ、お父様わかりました。それでは士道さま、おっぱいはまた後で………」

 

六華は父からお墓への差し入れを受け取ると、全速力でお使いをこなしに向かった(士道から逃げた)これにはさすがの士道くんも………

 

「………………」

 

バタッ

 

言葉を失い目を点にして床に倒れ込んだ。目の前で大好物がお預けになった事で心にダメージを負ってしまった。

その様子を見た六華の父は士道へと駆け寄る。

 

「士道殿!?しっかりしてくだされ!士道殿!!」

 

『ジジイ放っておけ。三分もすれば元に戻る―――いや、三分も必要なさそうだ』

 

ドライグが発した言葉に六華の父は首を傾げた。だが、その理由もすぐに分かった。トテトテと幼い少女が訪ねてきたのである。

 

「………えっと、おじさん。士道お兄ちゃんいる?」

 

その少女は士道が以前救った少女の麗奈だ。麗奈の声が聞こえ先程まで倒れていた士道もすぐに幼女の元へと駆けた。

 

「ようレナ。お兄ちゃんと一緒にお風呂に入ろうか!」

 

『おまわりさんこの人です』

 

麗奈を肩に担いでお風呂に向かう士道くん。しかし、麗奈がここにきたのは別の目的があったらしく麗奈が士道の腕の中で暴れる。

ちなみにドライグのツッコミは今日は冴えに冴えまくりで、ツッコミどころは見落とさない!

 

「今日はお風呂のことで来たんじゃないよ、士道お兄ちゃん!実は六華お姉ちゃんのことで相談があって………六華お姉ちゃんは今いないよね?」

 

「ああ、六華お姉ちゃんは『五季』?さんの墓に差し入れに行くって出て行ったよ。………それでレナ、相談ってのはなんだい?」

 

麗奈を肩から下ろして麗奈の身長に合わせるように膝を落とす。すると麗奈は真剣な表情で話し始めた。

 

「聞いて士道お兄ちゃん―――六華お姉ちゃんは誰かに悪いことされてるかもしれないの!!だから、お願い六華お姉ちゃんを助けてあげて!!」

 

「―――ッ!?どういう事だ、詳しく教えてくれ」

 

麗奈の言葉に士道の目が鋭くなった。麗奈は続ける。

 

「六華お姉ちゃんが帰ってくるとね、時々泣いている事があるの。私がくるとすぐに笑顔を見せてくれるけど―――でも、六華お姉ちゃんが泣いてるところを麗奈は見たくない!六華お姉ちゃんはいつも笑顔でいてほしいから………だから士道お兄ちゃん、お願い麗奈と一緒に来て!」

 

「分かった。お兄ちゃんに任せろ!麗奈も六華お姉ちゃんも俺が助ける!―――ドライグ!」

 

『承知!Welsh Dragon Balance Breaker!!!!!!!!』

 

「よし、行くぞ麗奈、急ぐからお兄ちゃんにしっかり捕まってろよ!」

 

「はーい!」

 

赤い龍を模した全身鎧を展開し、麗奈を抱えて六華の下へと向かった。

麗奈の案内で五季の墓がある山へと向かった。空を飛んで向かっていく道中で士道はずっと疑問に思っていた事を麗奈に訊く。

 

「麗奈、一つ訊いていいか?」

 

「何?士道お兄ちゃん」

 

「六華の親父さん―――村長の言っていた『五季(いつき)』さんって誰だか分かるか?」

 

「六華お姉ちゃんのお姉ちゃんだよ。すっごく優しくてみんなから凄く愛されていたんだ。でも―――」

 

「そこから先は言わなくていい。俺も六華お姉ちゃんから聞かされているから」

 

六華の父が言った五季とは、一年前に亡くなった六華の姉だったのだ。村を襲ったあの悲劇によって………士道は視線を進行方向へと戻した。

その時、麗奈が「あそこだよ」と指を刺したので、周囲の気配を探ると六華の気配があり、麗奈を抱きかかえた状態で少し離れた大樹へと降りた。

 

「麗奈、音を立てるなよ?六華お姉ちゃんに気付かれるかも知れないから」

 

「分かった。静かにするね」

 

麗奈に静かにするよう釘を刺した後、静かに六華の様子を伺った。

六華は墓の周囲の落ち葉を掃除し、お供物を置いた。

………そして、六華は御前で手を合わせ一礼する。

 

「………お姉さま、遅れてしまい申し訳ございません。六華が参りました」

 

麗奈が言うには、週一回のペースで六華はここに足を運んでいるらしく村にいつも帰ってくる時には必ず涙を流していることだ。

士道は木の上から六華を見守る。

 

「お姉さま………私はお姉さまから村を託されました―――けれど、私はお姉さまのようにはなれていません。どうすればお姉さまのように皆から信頼を得られるのでしょうか」

 

(信頼を得られていないだと?どう言う―――)

 

士道が眉根を寄せると麗奈が耳打ちしてきた。

 

(士道お兄ちゃんは見たことある?六華お姉ちゃんの周りに麗奈とおじさん(村長)以外の人と一緒にいるところを見たことある?)

 

麗奈の問いに士道は首を左右に振った。この世界にきて約一週間が経ったが、村長と麗奈と士道以外は進んで六華に歩み寄る者はいなかった。

村長は六華の父親であるから当然として、麗奈は六華を姉のように慕っているからだ。

ここで士道は麗奈に疑問をぶつける。

 

(六華の姉ちゃん―――五季さんはどうだったんだ?あの人は六華と違って村の人とは良好だったのか?)

 

(うん、六華お姉ちゃんと違って五季お姉ちゃんは誰かしら村の人と一緒にいたんだ。というのも、六華お姉ちゃんが今やってる薬の調合はもともと五季お姉ちゃんがしてたの。昔は村によく魔獣が出ることがあって、六華お姉ちゃんや村の男の人が迎撃に当たっていて怪我した人たちに薬を作っていたの。薬を届ける関係で五季お姉ちゃんは村のほとんどの人と交流してたから。でも、五季お姉ちゃんは六華お姉ちゃんみたいな戦う力は持ってないって言ってたから。六華お姉ちゃんが薬の調合に使っている釜は五季お姉ちゃんの相棒だって私は聞いてるよ)

 

『―――まさかとは思うが、六華同様その五季という娘も精霊だったということか?ならば、あの釜は五季の天使だったというわけだな………恐らく姉が死ぬ間際に霊結晶(セフィラ)を受け取ったのであれば、六華が二つの天使を操ることにも説明がつく』

 

ドライグが述べた見解に士道も首を縦に振った。ちなみに村に出ていた魔獣は現在は士道が修行で山籠りをする際に危険なものは退治しているため、最近は村を襲う事は無くなったのだ。

麗奈は話を六華の方に戻して続ける。

 

(一年前の事件で、みんな六華お姉ちゃんの恐ろしい力を見て怖がるようになっちゃったんだ。その時に村の人の中に『お前は化け物だ』って石を投げされた事もあって―――六華お姉ちゃん凄く傷ついて。それでもいつも麗奈たちには嫌な顔ひとつ見せずに村の為にいつも頑張ってくれて………この前も村の為に一人で戦って麗奈を庇って大怪我までして、それで………それでもっ!)

 

途中から麗奈の声は涙で濡れていた。涙を啜る麗奈の頭に士道は手を置き優しく撫でる。優しく撫でる手とは逆に腹の底では理不尽に対する怒りで腹が煮える思いで奥歯を噛み締めた。

―――姉を不幸な事件で失ってから士道が来るまでの一年もの間、六華は一人で村を守ってきた。村を守護する結界の維持から薬の調合や士道が手伝っている村の困り事の解決などを。人智を超越する力を恐れられ『化け物』と罵られながらも、亡くなった際に姉から託された『村を護って』という願いに応えるために、六華は一度も妥協をしなかったのだ。

 

「いつの日か私も受け入れて頂ける日が来るでしょうか?お姉さま同様の()()である私も村のために尽くしていれば………お姉さまのように皆と一緒にお話をしたり、街にお出掛けしたり、温泉に入ったり、それから、それから―――」

 

六華は姉の墓前で涙を流して内に秘めた願いを声に出した。六華の願いはそれは姉同様に村の一員として認められ、彼らと友達のように毎日を過ごすことだったのだ。

六華の願いを聞いた士道は麗奈を抱えて大樹から飛び降りる。いきなり士道が木から飛び降りたことに麗奈はびっくりして士道の鎧を掴んだ。

 

(えっ?士道お兄ちゃん?)

 

ザッ!と草を踏み潰す音が聞こえ、墓前で涙を流していた六華も音がした方向に注意を向ける。そして、音を発した正体が士道と麗奈であることを六華は確認した。

 

「士道さま、それに麗奈まで!?どうしてここに―――えっ!?」

 

士道は抱きかかえた麗奈を下ろして、鎧を解除した。そして、何も言わずに六華を抱きしめた。いきなり抱きしめられた事に六華は戸惑いを隠せずにいた。

 

「………本当によく頑張ったな六華。一人で村を護って、傷ついて、涙を流して。頼れるものが他に誰もいないなか、小さな願いも叶えられず理不尽に耐えて―――でも、一人で頑張るのは今日までだ」

 

胸の中にいる六華の頭を撫でながら士道は続ける。

 

「キミはもう一人じゃない、これからは俺がいる。俺がキミを受け入れるさ。いつだって話に付き合ってやるし、街にだって温泉にだって好きなだけ連れてってやる!だからもっと俺を頼ってくれ六華、俺たちはもう友達だ、仲間だ!」

 

「士道さまは………私と友達になってくれるんですか?」

 

「なるんじゃない、もう友達だ」

 

「う、あ、ああ………士道さまっ!」

 

士道の言葉に感情が六華の感情が決壊した。その様子を見た麗奈は士道をポカポカと叩く。

 

「ああ!士道お兄ちゃんが六華お姉ちゃんを泣かせてどうするの!六華お姉ちゃんを笑顔にする約束でしょ!約束間違えちゃダメ!!」

 

「違うのよ麗奈。これはありがとうの涙だから………っ!」

 

涙でくしゃくしゃになりながらも六華は笑顔を作ってくれた。そして士道と麗奈も六華の姉、五季の墓前で手を合わした。

これで用事が済んだことで士道たちは帰路についた。途中ウトウトとし始めた麗奈を士道がおぶって村へと足を進めた。

………そんな中、六華の後ろを歩いていた士道は六華の体のある部分に視線を取られた。

 

(うーん、おっぱいもそうだけどやっぱりあのむっちりとしたあのお尻も悪くない―――いや、むしろ最高だ!あのお尻に踏んでもらいたいぜ!よし、今度頼んでみよう!)

 

………台無しである。これには流石の士道の相棒も盛大にため息を吐く。

 

『………相棒よ、さっきの感動を返してくれ』

 

ドライグのため息を士道くんはいつも通り「俺はエロ第一じゃあ!」と一蹴した。元の世界に戻るための旅はまだまだ続く。

 

 

 




ガッチガチのシリアスといったな、アレは嘘だ。

さて、色々と変更点があります。

まずは六華の士道の呼び名を「士道さま」に変更しました。
それから次元の守護者ヘルメスのイメージ声優を諏訪部順一さんから福山潤さん(某○せんせー風)にしようと思います。

★おまけ

琴里「士道、入るわよ―――ってアレ?」

中天に輝く太陽から、闇夜に輝く月に変わる時間の頃ノックをせずに士道の部屋に入る琴里ちゃん。しかし、部屋に士道の姿は無い。おにーちゃんが心配な今日この頃な琴里ちゃん、可愛い。

琴里「………十香たちの所かしら?いや、令音に胸枕させていることもありえるわ―――ん?珍しいわね」

琴里はベットの上にある士道の制服に目がいく。………いつもならすぐに洗濯機に洗い物をぶち込む士道にしては珍しく部屋に脱ぎ捨てられていたのだ。
琴里はキョロキョロと辺りを確認して士道の制服を手を伸ばした。

琴里「………おにいちゃん―――ああ、おにいちゃん。おにいちゃん!」

なんと言うことでしょう!琴里ちゃんは士道のシャツを抱きしめて深呼吸を始めた。無我夢中で愛する人を想い浮かべ劣情を爆発させていた!
だが、そんな琴里ちゃんを不幸が襲ったそれは………

ピロリン

音のした方へと視線を向けると―――スマホで今の自分の姿を盗撮しているものの姿が目に入った。その者もまた士道の妹である。

真那「おお、これは中々良いものが撮れやがりました」

琴里「真那、あなたまさか―――ッ!!」

真那「琴里さん、これを兄さまに送信しても―――」

琴里「良いわけないないでしょ!?」

真那「では―――例のブツを」

琴里「………っ」

琴里はフラクシナスへと走り、艦橋のデスクからあるものを持ってきて真那に手渡した。
それはある人物の写真(お風呂場での)のデータが入ったメモリーカードだ。
真那はパソコンにUSBとメモリーカードを差し込み中身を確認した―――そして………一つ目のデータを見た瞬間に真那は鼻血を噴き出した。

真那「ブフッ!兄さまの裸―――しかも、これはノーモザイクじゃねえですか!?」

琴里「………」

琴里は一瞬の誘惑に負けた事を心底後悔した。令音や他のスタッフに内緒で集めたものを真那に掻っ攫われるハメになったのだ。

真那「それでは琴里さん、ありがとうございました!」

琴里「ま、待ちなさい真那―――後でそれ返しなさいよ………私もまだ見てないんだから」

真那「では一緒にみましょう!同じ妹として兄さまについて語り合おうではありませんか!」

琴里「受けて立つわよ!赤っ恥かかされたままで黙ってなんかられないわ!」

この後二人は仲良く士道の全裸の写真で大きく盛り上がった。
………後で令音にこの事がバレて、データを没収されたのはまた別のお話。



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七話 邪龍の襲来です!!

勇者の挑戦です。
この話のタイトル通り、シリアル少なめバトルシーン多めです!


六華の願いを聞いてから何日か経過したある日の事だった。

士道はいつも通り、村での手伝いをこなした後は山に籠って修行をしていた。

禁手(バランス•ブレイカー)の鎧を纏っての修行を士道はしているのだ。

 

「いくぜッ!『氷結傀儡(サドキエル)』っ!!」

 

士道は氷の弓を作り出し、天へと照準をあわせる。巨大な氷の矢を天空へと射出する―――次の瞬間、天が轟き天空から無数の氷刃が雨のように降り注ぐ!!

 

『………こんな無茶ができるのも自由に使える山があってこそだな。元の世界でやると軍隊が出でくるぞ』

 

「ああ、確かにそうだな。ここを貸してくれた六華に感謝だ―――うおおおらっ!」

 

士道は地面を強く蹴り上げ、空中で拳を突き出す。突き出した拳が降り注ぐ氷の刃を砕く!士道はさらに神速を発動して他の降り注ぐ氷の刃を片っ端から粉々に砕いていた。

 

………今日の修行のメニューは精霊の力を使い熟す事を目的にしている。霊力の使い方の見直しから、封印した精霊の天使の練度を上げる事がコンセプトだ。

刃の雨が激しさを増した時、士道は大きく息を吸って身体に力を込める!

 

「『|灼爛殲鬼(カマエル)《カマエル》』―――【真焔(アグニ)】ッ!!」

 

士道を中心に業火を放出する球体が展開される!その球体は周囲の大気を吸収しながらさらに大きくなっていく!!それはまさに小さな太陽と呼ぶに相応しいものだった。球体が消えた時には氷の刃の雨は止み、士道がいた地面は炎で燃えていた。

 

士道は天使の中でも特に『塵殺公(サンダルフォン)』と『灼爛殲鬼(カマエル)』を重点的に伸ばしていこうと決めていた。

 

士道は基本的には『塵殺公(サンダルフォン)』と籠手に収納されたアスカロンの二刀で戦う事が多いのだが、強敵と戦うに連れて一撃の破壊力が大きい『灼爛殲鬼(カマエル)』も使用していく事を選んだ。

 

今の技【真焔(アグニ)】は、異世界での修行を通じて新たに士道が覚醒させた技の一つで、天使を強制的に暴走状態にして戦闘力を上げるもので、最初の火炎の球体は合図のようなもので、ここからがこの技の真骨頂だ。

 

『大分安定してきたようだな。暴走状態の中でもコントロールができている―――最初は自らの炎で火傷をしていた頃が懐かしいな』

 

「うるせー!嫌なこと思い出さすなよ、ドライグ。それに、まだまだ改良しなければならない点が山ほどあるからな―――こんくらいはできねえと赤龍帝はやっていけねえっての!」

 

この技を使用した時点で士道の姿が一部変わる。身に纏う炎が格段に強くなり特に右目からも炎が溢れ出るようになること。また回復速度が以前よりも倍以上になること。そして、この形態で放つあの必殺技は凄まじい威力を誇る。

 

「『灼爛殲鬼(カマエル)』―――【(メギド)】ッ!!」

 

天が再び轟き、最後に落ちてくる長さ50m幅5mはある巨大な氷の柱に向けて照準を合わせて天使の形を変形させる―――士道の右腕が巨大な砲門と化し、凄まじいエネルギーが溜まっていく!

 

「灰燼と化せ―――『灼爛殲鬼(カマエル)』ッ!!」

 

ズドオオオオオオオオオオオッッ!!

 

砲門から放たれた一撃は氷の柱に直撃し―――あたり一面で大爆発を発生させた。半径数百メートル付近の自然は全て吹き飛ばされ更地と化した。士道は一息吐いて【真焔(アグニ)】の状態を解除した。更地となった地面に腰を落としてひと休憩を入れる。

 

『………この分なら【真焔(アグニ)】も実戦で問題なく使えるだろう。後はこれを維持したまま他の天使に炎を上乗せできるようになれば理想系だが―――』

 

「いや、それよりも先に明鏡止水系の応用技が全て使用できなくなる欠点の解決が最優先だ。【真焔(アグニ)】の状態じゃあ気配を探れなくなるから不意打ちに対応できないからな………千里眼と神速が使えなくなるのは死活問題だ。折紙にあの武装で襲ってこられると神速無しだとかなり厳しい」

 

ドライグが示した次の目標に対して士道は異を唱えた。現時点では士道は【真焔(アグニ)】を維持した状態での明鏡止水の応用技は使えない。【真焔(アグニ)】を発動すると精神状態が『水』の状態から『火』の状態に変わってしまうからなのだ。

 

―――ここでの『火』の精神状態というのは軽い興奮状態になる事だ。もちろん、琴里のように力を使い過ぎると自らを制御できなくなる訳ではないのだが、完全に精神を無に統一することは士道はできていないという事だ。

 

そして、ドライグが言ったように【真焔(アグニ)】の状態で『塵殺公(サンダルフォン)』を使用して炎の斬撃を繰り出せるようになるという伸ばし方もあるのが、明鏡止水の応用技の方が最優先と考えていた。

 

「それより見ろよドライグ、これでまた新しい村ができるかもな!いやぁ、また六華に貢献したぜ俺!」

 

『なるほど、これは六華に感謝されるかもしれんな。あの村がダメになった時のためを考えて周囲一帯を吹き飛ばすとは、相棒は村の連中のことをよく思っている―――と言うでも思ったか!?あの砂があるとは言え、相棒が修行で平らげた大地を元に戻しているのは六華なのだぞ相棒!?今頃は空が光ったところを見て麗奈と共に青ざめているところだぞ!!』

 

ドライグの説教を聞いて士道くんは「ワオ、マジ?」ととぼけた表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

―――その頃の六華ちゃん。

 

 

 

 

 

「♪〜♪♪〜〜〜♪♪♪〜♪」

 

鼻歌を歌いながらキッチンで三時のおやつを作る六華ちゃん。修行で疲れて帰ってくる士道のことを考えて少し早いが準備をしていたのだ。

そんな時に、トテトテと幼い少女が六華を訪ねてきた。

 

「ねえねえ六華お姉ちゃん、お外で花火が上がってるよ」

 

「花火?」

 

隣に住む六華のことを本当の姉のように慕う女の子麗奈ちゃんである。麗奈に手を引っ張られ、家の外へ出ると―――遠く離れた空がチカチカと点滅している様を六華は見た。

 

さらに時間差で凄まじい衝撃波が村を突き抜ける!村は結界に守られているため、被害はないが村の外ともなるとそうはいかない。

例えば―――

 

「きゃあああ!?ダーリィィィィィィンッ!」

 

(あーーーーれーーーーとぉばぁさぁれぇるぅぅぅぅぅぅ!!なんてなぁ、これでワイは自由や!今日こそあの六華っちゅう姉ちゃんのおっぱいに絶対埋まったる―――むぎゃあ!?)

 

と、こんな感じで大切なものが吹き飛ばされたりするなどの被害が出るのだ。とは言っても村の外で吹き飛ばされるものと言えばオリオンのような小さな小物だけ。

民家が吹き飛ぶようなことはない………筈だ。

ちなみにオリオンは浮気がバレて遥か彼方へ飛ばされる前にアルテミスに捕まったが。

 

「やっぱり士道お兄ちゃんって凄いね―――ってあれ?六華お姉ちゃんどうしたの?もしかして暑いの?」

 

(これ時の砂で復元するのにどのくらい時間がかかるのでしょうか………)

 

ドライグが懸念は見事に的中した。六華は身体中から冷や汗を吹き出して士道の修行場所を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

―――その頃の六華ちゃん終

 

 

 

 

 

 

士道の修行が終了した後、六華と士道は更地に変えた山の復元を共に行った。士道が高めた力を六華の宝具『時の砂』に力を譲渡すると―――ほんのわずか数秒で更地だった山は美しい緑を宿した山へと復活を遂げたのだ。

山の復元を終えてご飯とお風呂を済ました頃には夜の帳が下りていた。

六華は士道の部屋を訪れ、布団の上でくつろぐ士道にお礼を述べる。

 

「………まさか、山の修復がたったの数秒で終わるとは思いませんでした―――申し訳ございません士道さま、疲れている中お手を煩わせてしまって」

 

「いいって、もともと山を更地に変えたのは俺だ。今までありがとな六華、後始末を色々やってくれて―――ほら、薬の材料とってきたぜ」

 

士道は六華のお礼に手を横に振った。さらに、六華がお風呂に入っている間に薬の調合に必要な薬草を士道が代わりに摘んできていたのだ。士道はそれを六華に渡した。

 

「ありがとうございます士道さま。私なんかに気を―――」

 

「おっとそれ以上は無しだ。言っただろ、もっと俺を頼れって」

 

士道は六華が言葉の途中でその唇に人差し指を当てて無理やり口を閉ざさせた。

 

「また何かあったら言ってくれ。んじゃ俺は疲れたから寝る」

 

「おやすみなさい士道さ―――あ、あの………士道さま、何故私の膝で!?」

 

士道に挨拶だけをしてその場を離れようとした六華だったが、自分の膝に士道が頭を乗せたのだ。士道は六華の太ももの感触を楽しみながら下品な笑みを浮かべる。

 

「そんなもん決まってんだろ、六華のふとももは最高の寝心地だからだよ!柔らかくて弾力があって………むふふふふふふふっ!」

 

『六華よ、お前の天使でこの変態を殴れ―――俺が許す』

 

「いえ、ドライグさま。今日は士道さまには本当に助けてもらいましたから。士道さま良い夢を」

 

「ぐへへへへへへへへへへへへ!」

 

いきなり士道が自分の太ももを枕代わりにしたことに面食らった六華だったが、士道を振り落とすことも『護星天(ミカエル)』で叩く事もなく感謝を込めて士道の頭を優しく撫でていた。

………士道くんは相変わらず六華の太ももの感触を醜悪な笑みで満喫しているのは触れないでおこう。

 

それから、一時間ほど経過ころだった。部屋に六華がいない事を怪訝に思った六華の父は士道の部屋の襖を開ける。

 

「士道どの、六華が部屋に―――ほほう。そういうことじゃったか」

 

六華の父の目には愛しの娘が村を救った英雄と同じ布団で寝息を立てている姿が映った。

六華の父はその様子を見てただ何も言わず襖を閉めた。

 

(孫はすぐすこかもしれんのぉ!六華よ、初孫は女の子じゃぞ!)

 

まだ見ぬ孫の顔を思い浮かべながら、士道と六華の明るい未来に期待を膨らせている六華の父親であった。

 

 

 

 

 

 

―――◇―――

 

 

 

 

 

 

「ううっ………あれ、私あのまま眠ってしまったの?」

 

瞼を眩しい光に照らされた事で意識を覚醒させた六華。目を開けて一番最初に映ったものは未だに起きる気配をみせずスヤスヤと寝息を立てる少年の姿があった。

 

「士道さまったら………いつも威風堂々とされているのに寝顔はこんなにも」

 

六華はしばらく体を起こす事なく、士道の寝顔を観察していた。優しく髪を撫で微笑んだ。未だにスヤスヤと寝息を立てる士道以外に部屋に誰もいない事を確認して―――六華は思い切って胸の中の衝動に身を任せる!

 

(………士道さま)

 

六華は顔を近づけ―――士道の額に口付けをした。しかし、六華は大きな誤りを起こしていた。そして、六華もそれにすぐに気付いて顔から凄まじい熱を放出した。士道の左手の甲は既に円状の光が浮かんでいた事に六華は気付いたのだ!

 

『気にする必要はないぞ六華………俺は何も見ていない。だから相棒にはもちろん伝えない―――お前が相棒の額にキスをした事など―――』

 

「ド、ドド、ド―――ドライグさま!?」

 

ドライグはしっかりと見ていた。慌てて身体を起こすがもう遅い!いや、ドライグだけではない!六華のキスシーン(士道の額に)を見ていたものは他にも存在していたのだから!!

 

「ああ、チューだ!六華お姉ちゃん士道お兄ちゃんにチューしてた!」

 

「六華何をしておるのじゃ―――そこは士道どのの唇にぶちゅーっといくんじゃ、ぶちゅーっと!!そんなのでは士道どのを他のおなごに取られてしまうぞ!?今からでも遅くないぶちゅーっといくんじゃ!」

 

「麗奈、それにお父様まで!?こ、これは―――」

 

部屋の襖が勢いよく開かれ、二人の覗き犯を六華は確認した。一人は麗奈でもう一人は父だ。二人は少し前から襖を少し開けて部屋の中にいる士道と六華の様子を伺っていたのだ!!

 

六華は恥ずかしいシーンを見られた事に大混乱状態に陥ってしまっている!

 

―――さらに、騒がしくなったタイミングでついに………おっぱいドラゴンが起き上がって身体を伸ばす

 

「おお、もう朝か………さて、飯でも作るか―――って何かありました?」

 

士道くんが目覚めると、顔を真っ赤にした六華と何やら興奮している麗奈と六華の父の姿が目に映る。

士道が起きた事を見た麗奈はバタバタと走りながら士道に近づく!

 

「士道お兄ちゃん、聞いて!さっき六華お姉ちゃんが―――」

 

「い、いやああああああああ!!」

 

六華は麗奈が全てを言う前に担ぎ込んで家を出て行った。六華の父も「若いというのはいいもんじゃのう」とそれだけ残して外に出た。頭に?マークを浮かべた士道はドライグに訊く。

 

「ドライグ、朝っぱらから騒がしかったけど何かあったのか?」

 

『知らん。それより飯を作ればどうだ?』

 

ドライグも空気を読んで何があったのかを伏せた。しばらくすると六華も戻って来て共に朝食を済ませた。食事の最中に顔を合わせると―――

 

「………っ!」プイッ

 

「?」

 

六華がそっぽを向いて顔を真っ赤にする様子を見せることに終始疑問に思っていた士道くんだった。

 

 

 

 

 

 

 

―――◇◆―――

 

 

 

 

 

 

 

士道は朝食を済ませた後、いつもの日課である薪割りと薬草集めを六華と一緒に行っていた。

 

今朝のことがあって未だに顔から熱を放出する六華を見た士道は、不安に思っていた。

 

「六華、ちょっと休んでろよ。後は俺が―――」

 

だ•い•じょ•う•ぶ•です!!

 

「お、おう………」

 

六華の返事を聞いた士道はこれ以上は聞いてはいけないと思い仕事に戻った。一時間ほどで目的を達成し、六華と共に村へと戻った。

すると―――

 

ざわ…ざわ…ざわ…ざわ…

 

村へ戻るといつもの雰囲気とは程遠い事を士道と六華は感じ取った。最初に士道がこの村へと入って来た時と同じような空気が今流れていることを士道は察知する。

 

村人たちが集まり、何やら空を見上げているのだ。

トテトテと歩み寄る麗奈に士道は何が起こっているのかを訊く。

 

「麗奈、何があった?」

 

「士道お兄ちゃん、アレを見て」

 

麗奈は空を指さした。指をさした周囲に視線を向けると―――空に大きな異質な光を放つ魔法陣が展開されていた。その魔法陣は士道たちがよく知るものだった。

 

「あれは龍門(ドラゴン•ゲート)―――しかも色は緑か。玉龍と初代孫悟空のジジイが出てくるなんてオチじゃねえよな」

 

「士道さま、その『龍門(ドラゴン•ゲート)』とは?」

 

「俺たちのようなドラゴンを招く門の事だ。呼び出すドラゴンによって魔法陣が放つ光が変わる―――仮に赤龍帝のドライグなら魔法陣の色は『赤』になる」

 

六華に説明を催促され、士道は答えた。しかし、士道に宿るドラゴンは最初に述べたものに異を唱える。

 

『いや、あの色は玉龍のものではない。奴の魔法陣はこんなに深い緑色では無かった。となると―――いや、しかし奴は………』

 

どうやらドライグには心当たりがあるようだ。

そして、龍門(ドラゴン•ゲート)の魔法陣が更に深い輝きを放ちついに弾けた!

 

グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!

 

村の周囲を揺らすほどの声量に士道と六華以外の村人たちは耳を塞いで地面に伏せた。

龍門(ドラゴン•ゲート)から浅黒い鱗を持った巨大な怪物が生まれ、宙に佇んでいた。

太い手足、鋭い牙と爪と角、巨大な両翼を広げ、長く大きな尾を持つ巨大なドラゴン。

そのドラゴンは―――

 

『………やはりグレンデルか!?バカな、どうやって現世に舞い戻った!?』

 

大罪の暴龍(クライム•フォース•ドラゴン)』グレンデル―――古の英雄ベオウルフによって討滅されたと語り継がれる伝説のドラゴン。

 

邪龍の中でも特に堅固な鱗を持ち、凶暴性が非常に高く戦闘に対して異常なまでの執着があったと士道は認識している。

現れたグレンデルを見た士道は鎧を纏って六華に言う!

 

「六華、大神殿に村人たちを避難させてくれ。こいつは俺が―――ッ!!」

 

ドゴオオオオオオオオオオッ!!

 

空中に佇んでいたグレンデルの視線が士道を捉えると―――ライダーキックの如く踏み潰さんと凄まじい勢いで迫る!!士道は瞬時に『灼爛殲鬼(カマエル)』を展開し受け止める!!

既に士道の姿は六華の視界から消えており、グレンデルも身体の半分は地面に隠れる形になっていた。

 

「士道さま―――っ、みんな逃げて!!」

 

六華の叫びに村人たちは散り散りになりながらも大神殿を目指して逃げ出した。

グレンデルは逃げる村人たちには目を当てず、その瞳は士道だけを映していた。

 

〈おうおうおうおう!!この村にいる精霊とやらを殺しに来たらよぉドライグがいんじゃねえかあっ!!こいつぁ面白ぇ!!〉

 

「ぐっ………このっ!なんつーパワーしてやがるッ!?だが―――ッ!!」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!!!』

 

士道は倍化した力でグレンデルを再び宙へと押し返す!!宙へと浮いたグレンデルに追撃をかける!!

 

「今度はこっちの番だ!喰らえッ!!」

 

〈―――甘いぜッ、フンッ!!〉

 

ギイィィィィンッ!!

 

士道は武器をアスカロンに持ち替えグレンデルに斬りかかった―――しかし、グレンデルは左腕を突き出し士道のアスカロンを受け止めた!!

 

「こ、こいつ!強化された『龍殺し(ドラゴン•スレイヤー)』の力をいとも簡単に!?」

 

『相棒こいつの鱗の硬さはドラゴンの中でも最硬だ―――生半可な攻撃では突破できんぞ!!』

 

ドライグの忠告を受け苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。そして、グレンデルは腕を振るい、士道を弾き飛ばした。僅かな静寂が訪れた時、ドライグは訊く。

 

『グレンデル………貴様どうやって現世に蘇った?』

 

〈あぁん?んな細けぇこたぁどうでも良いだろうがよぉドライグ。お前見ない間に随分と小さく―――そういや封印されたんだっけかぁ!?あのイカれたように強かったお前が見る影もねぇなぁおい!!〉

 

グレンデルの言葉に士道もドライグも「『イカれてるのは貴様だろうが』」と内心突っ込んだ。どうやら現世に舞い戻った方法をグレンデルは語るつもりはないようだ。さらにグレンデルは士道に追撃を行う!!

 

〈おぉらどおしたぁ!?天龍さまの一撃はこんなもんじゃねぇよなぁ!?ほらいくぞお!〉

 

「は、疾―――」

 

グレンデルの拳が士道に拳を放つ!!巨大のわりに凄まじいスピードを誇るグレンデル、目測を誤った士道をグレンデルの剛拳が襲う!!

しかし、その剛拳は士道の体をすり抜けた!!

 

〈んな何ぃ!?どうなってやが―――ぐぼぉ!?〉

 

「どこ見てやがる―――こっちだ!!」

 

士道は神速を発動し、グレンデルの拳を避け、『塵殺公(サンダルフォン)』にアスカロンを融合させ―――ドラゴニック•バーストを放つ!!直撃したグレンデルは地面へと叩きつけられ、周囲を陥没させた。しかし、これでもグレンデルには大したダメージを与えられず、僅かに傷が出来ただけだった。グレンデルは嬉々として飛び上がる!

 

〈痛ぇ、痛ぇ痛ぇぞ!!俺ぁなあ、こういう喧嘩がやりたかったんだよ!!一対一での殴り合いをよぉ!おぉらぁもっと俺を楽しませろおおおお!!〉

 

「チッ!傷付いて喜んでやがるのかよ―――だが、次は痛いでは済まないぞ」

 

『Welsh Dragon Limit Break―――Over Limit Booster Set Up!!』

 

グレンデルが飛び上がる前に士道は次の技に移行していた。次に放つ技はドライグがお墨付きを与える士道の全力の一撃だ!!

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!!!!!!!!!!』

 

〈面白ぇ!!さぁ撃ってこいやドライグ!!〉

 

士道がこれから放つ全力の一撃を見てもグレンデルは嬉々として迫りくるだけだ。その姿はまさに狂っているとしか言えないだろう。

士道は慈悲をかける事なく、全力でその技の真名を謳う!!

 

「消えろグレンデル―――『最後の龍聖剣(ドラゴニック•ハルヴァンヘレブ)』ッ!!」

 

士道の全力の一撃が凄まじい勢いでグレンデルを呑み込み、上空で凄まじい大爆発を起こした。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――◇◆◇―――

 

 

 

 

 

 

 

 

「………はっ………はっ………はっ………」

 

全力の一撃を放った後、士道は疲労に襲われて肩で息をしていた。煙が消えると―――血しぶきをあげて地面に叩きつけられたグレンデルの姿があった。

 

『どういう理屈か分からんが、グレンデルは以前より強化されていた。そして「龍殺し(ドラゴン•スレイヤー)」に対しても非常に高い耐性も得ていた。アスカロンが簡単に弾かれた事とドラゴニック•バーストを受けても笑っていられたのはその為だ。しかし、相棒の奥義ともなるとそうはいかなかったようだが』

 

「ああ、これでダメなら正直お手上げ―――っ、嘘だろ!?」

 

士道の目に信じられない光景が映った。身体に深い傷をつけられたグレンデルが立ち上がったのだ。目の片方は潰れ、左腕を失ったにも関わらずそれでもグレンデルは立ち上がったのだ!!

 

〈ハハハハハハ!ハハハハハハハハハハハハ!!いいじゃねぇかぁ!最高じゃねえかぁドライグ!!さあ、第二ラウンドと行く前に―――あの神殿を破壊してやらぁ!!〉

 

「―――っ!?テメェざけんじゃねえぞッ!!一対一って言ったじゃねえかっ!?」

 

〈おいドライグ戦いってのはなぁ、適度に殺しを入れなきゃ盛り上がらねぇんだよぉおぉおぉ!!ゴミクズのような人間を殴って踏み潰して噛み砕いて、いたぶり殺すのは気持ちがいいじゃねえかッ!ドラゴンの戦闘ってやつにはなぁ、必要不可欠な要素だろうがよおおおおおお!!〉

 

グレンデルは起き上がると猛スピードで神殿を目指して飛んでいった。大きなダメージを負ったにも関わらず、スピードは全く落ちていないのだ。

 

(………くっここで止めないと六華たちが危ない―――ここは迎撃するっきゃねえ!!)

 

士道はすぐに神速を発動させてグレンデルの前に立ちはだかり、再び『最後の龍聖剣(ドラゴニック•ハルヴァンヘレブ)』の体勢に入る!!

だが―――

 

〈ハハハ!遅いわぁ!!〉

 

「ぐッ―――があああっ!!」

 

士道が技を放つ前にグレンデルの剛拳が士道を捉え吹き飛ばす!!士道は神殿の前の高台へと叩きつけられた!!しかし、グレンデルは止まらず追撃をかけてくる!!

 

〈おぉらぁっ!!避けねぇと危ないぜ!?〉

 

「ぐっあああああああ!!」

 

〈まだまだいくぜッ!!〉

 

叩きつけられた士道にグレンデルは容赦なく蹴りを放ち、再び士道を瓦礫の中へ沈める。グレンデルは士道が埋もれた瓦礫の山に回し蹴りを放ち再び士道を吹き飛ばす!!

吹き飛ばされた士道は上半身の鎧を失い、既に虫の息のところまで追い詰められた。

 

「ぐっ………はあ………はあ………」

 

〈ドライグ!お前はいつからそんな甘ちゃんになったんだ………昔のお前は情け容赦なく力を振るうドラゴンだったのによ―――そんなお前がヒーローの真似事たぁ笑わせるよなぁ!!〉

 

『―――避けろ相棒ッ!!』

 

「んもん分かって―――がああああああああああああ!!」

 

グレンデルは容赦なくその巨大な足で士道を踏み潰す、回避が間に合わず士道は左足をグレンデルによって踏み潰されてしまった。

悲鳴をあげる士道を見てもグレンデルは攻撃を止めない!

 

〈ほらほらどおしたぁ!?避けないと死ぬぞぉ!!〉

 

「ぐっ………あっ!!」

 

グレンデルは倒れた士道を容赦なく蹴り飛ばした。既に士道は完全に鎧を失った。傷は『灼爛殲鬼(カマエル)』で治るが、これ以上攻撃を受けると致命傷になりかねない!!しかし、グレンデルは止まらない!!

 

〈さあ、ドライグ!そろそろ殺してやるよ―――無様なヒーローらしく踏み潰してやるからよおおおおおお!!〉

 

士道は『塵殺公(サンダルフォン)』を杖に立ち上がるが、既にグレンデルの足は既に士道の目の前まで迫っている!!

しかし、グレンデルの足は何者かによって止められる。何故なら―――士道を前に結界が展開されていたからだ。

 

「『護星天(ミカエル)』―――【天盾(シャハル)】」

 

〈ぬ―――っごおおおおお!?〉

 

結界がグレンデルの攻撃をそのままはね返した―――これには堪らずグレンデルが倒れ込んだ。

グレンデルの攻撃を防いだのは他ならない―――精霊の六華だ。間一髪のタイミングで六華は天使を顕現させて士道を救ったのだ。

 

「すまない六華、助かった………」

 

「士道さま、どうしてこんな無茶を!?もっと自分の体を大切にして下さい!!」

 

「ハハハ、悪い心配かけてよ―――でも、もう大丈夫だ」

 

士道のいう通り、既に体の傷は『灼爛殲鬼(カマエル)』の治癒能力で完全に塞がっている。鎧を復元し、立ち上がった巨悪に意識を向ける。

 

〈おうおう!お前が精霊ってやつかっ!?さっきのは効いたぜ、まさか俺の攻撃をそのままはね返すとわよぉ!!決めた、お前もドライグと一緒に殺してやるよお!まずはドライグ!第三ラウンドとシャレこもうじゃないかッ!!〉

 

再び嬉々として向かってくる巨悪グレンデル。士道は炎を纏った巨大な斧の天使―――『灼爛殲鬼(カマエル)』を顕現させ、隣に立つ六華に言う。

 

「六華下がってくれ。後は俺一人でどうにかなる」

 

「士道さまはまだそんな事を―――」

 

「心配いらないさ必ず勝ってやるそれに………ここにいると六華を巻き込む。六華の顔に傷なんてつけたくない」

 

必ず勝てると確信を持って不敵な笑みを浮かべる士道を見て六華は籠手の方に視線を向ける。するとドライグも『相棒は勝つさ………だから安心して下がれ六華』と告げた。

六華は士道の方に視線を向け、指示通りに後退する。

 

「―――必ず勝って下さい士道さま」

 

六華の言葉に士道は力強く頷いた。そしてグレンデルはすぐ目の前まで迫っていた。

 

〈おうドライグ!俺に勝つ作戦は決まったかぁ!?〉

 

「ああ、決まったさ―――【真焔(アグニ)】ッッ!!」

 

士道を中心に凄まじい業火を纏った球体が展開される!!その球体にグレンデルは飲み込まれ、苦悶の声を漏らす!!

 

〈ぐっがああああああああ!!熱い熱い熱い熱い熱い!!なんなんだこの凄まじい炎はよぉ!?〉

 

士道が放った業火な球体はのちに爆発を起こし、グレンデルを吹き飛ばした。吹き飛ばされたグレンデルは全身からがその炎で燃えていた。

 

「こいつだけは使いたくなかったが―――お前を完全に消滅させてやるグレンデルッ!!」

 

〈たかだか炎を出したくらいで、この俺を倒せると思うなぁ!!〉

 

グレンデルは士道を目指して突進―――士道も負けじと力を強化してグレンデルに挑む!!

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』

 

〈くたばれドライグ!!〉

 

「―――くたばるのはテメェだ!!」

 

グレンデルの剛拳と士道の『灼爛殲鬼(カマエル)』が上空で激突する―――次の瞬間グレンデルの剛拳が燃え、その炎はやがて右腕を包み込む!!

 

〈がああああああああああッ!!ば、バカな!?俺の腕が燃えるだと!?どうなってぐぼぉ!?〉

 

「喋ってる暇は無いぞ?この状態は加減が効かねえんだ、この程度じゃ終わらねえぞっ!!」

 

士道はグレンデルの顔面に『灼爛殲鬼(カマエル)』を叩き込む!顔面だけでは無い!腕、腹、脚と目にも止まらぬ速さで何度も全力の一撃を叩きつけた。

―――この【真焔(アグニ)】の状態で敵を攻撃すると攻撃した部位を燃やす効果を発揮する。もちろん実力があまりにもかけ離れた相手には効果は発揮しないが、それでも瞬間的な火力は通常時の何倍にもなる。

しかし、グレンデルも伝説の邪龍だ。無抵抗で殴られ続けているわけではない!!

 

〈がああああああああ!!〉

 

「ぐっ―――はああああああっ!!」

 

全身が炎で燃えているグレンデルが反撃に出る!剛拳を振り抜き士道の顔面を捉える。しかし、士道は背中のブースターを起動し、その場で踏みとどまり『灼爛殲鬼(カマエル)』を顔面に叩き込む!!

今の二人の戦いは完全にノーガードで打ち合うボクサーそのものだった。するグレンデルは拳、脚、尻尾で士道を攻撃し士道はただひたすらに『灼爛殲鬼(カマエル)』で攻撃する!お互いに防御を捨て攻撃に全力を込めている!

 

〈蘇った最初の殺し合いがこんなに心躍るものになるたぁなあ!!最高だぜドライグ!!もっともっとやり合おうや!!お互いが粉微塵になるまでよぉ!!〉

 

「そんな火だるまになってまで戦闘を求めんのかよ、このイカれ野郎が!!だが、それもここまでだ―――来やがれ『刻々帝(ザフキエル)』ッ!!」

 

士道は灼爛殲鬼(カマエル)でグレンデルを殴り付けながら巨大な時計『刻々帝(ザフキエル)』を呼び出す。時計の『VII』の文字から銃口に霊力が流れ込みそれをグレンデルに放つ!!

 

「【七の弾(ザイン)】ッ!!」

 

パァン!!パァン!!パァン!!

 

七の弾(ザイン)】が命中したところでグレンデルの動きが完全に静止した。士道は静止したグレンデルに『灼爛殲鬼(カマエル)」の最大火力を誇る奥義を発動する!!

 

「『灼爛殲鬼(カマエル)』―――【(メギド)】ッ!!」

 

士道の右腕が巨大な砲門へと変わり膨大なエネルギーがチャージされていく!!更に赤龍帝の力も上乗せする!!

 

『Welsh Dragon Limit Break―――Over Limit Booster Set Up!!』

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!!!!!!!!!!』

 

士道が持つ全能力を込めた全力の一撃が今―――目の前の巨悪に放たれようとしていた。

 

「終わりにしようぜグレンデル―――灰燼と化せ、『灼爛殲鬼(カマエル)』ッ!!」

 

ズドオオオオオオオオオオオッッ!!

 

士道が放った全力の一撃は静止したグレンデルに直撃し、その体の大部分を消滅させ、彼方へと消えた。残ったグレンデルの体の一部もいずれ『灼爛殲鬼(カマエル)』の炎によって完全に消滅するだろう。

 

グレンデルの体が最後の頭だけになったところで【七の弾(ザイン)】が効力を終えた。グレンデルは満足そうに消滅する事を受け入れた。

 

〈ドライグ………目覚めて間もなく消えることになったけどよぉ―――最高のケンカだったぜ………またやろうやドライグ!俺ぁまた必ず復活するからよぉ数百年後あるいは数千年後かもしんねえけどよ。俺が復活するまでまあ待っててくれやぁ〉

 

「………ざけんな、こっちは二度とごめんだっつの」

 

『ああ、俺も相棒に同意だ』

 

復活後の果たし状を見事に断られたグレンデルは〈んなつれねぇ事言うなよぉ〉と最後の言葉を残して完全に消滅した。

 

「―――っ、士道さま!」

 

最後の力を使い果たした士道も同様に、鎧が解除され地面へと落ちていく―――しかし、地面へと落ちる士道を六華が空中で受け止めた。

 

「………んな、泣きそうな顔すんなよ六華。言っただろ、必ず勝つって」

 

士道は六華に抱きかかえられながら、言った。最後はヒロインに抱っこされるという少しカッコ悪いが士道はまた村の危機を救ってみせたのだ。

伝説の邪龍を倒し再び村に平和が訪れる―――とは、いかないようだ。士道は六華に一言謝る。

 

「六華―――ごめん!!」

 

「えっ―――きゃあッ!?」

 

士道は六華から飛び降り、腕を掴んで遠心力を使って投げ飛ばす。投げ飛ばされた六華は、きりもみ回転しながら飛んでいった。

 

「痛っ、士道さま何を――――――」

 

六華が士道の方に視線を向けると士道がいた場所に、巨大な十字の閃光が降り注いだ。

 




恐らくほとんどの方が次回の展開は予測がついていると思いますが、はいそうです。リンドヴルムが次回で登場します。

士道の『灼爛殲鬼』の新形態【真焔】状態についてですが、現在のところ神速や千里眼と言った技の使用は不可能にしています。
もちろん天使の方では【真焔】状態での『塵殺公』の炎攻撃及び四糸乃の天使『氷結傀儡』は使用ができません。
※明鏡止水及び天使の方は今後の章で解決予定。

【真焔】状態での『刻々帝』は特に変化させずにいこうと考えています。

これからもデート•ア•ライブ 転生の赤龍帝をよろしくお願い致します。

おまけ

イッセー「スー…スー…スー…スー…スー…」

士道の転生前の存在であるイッセーは今日も変わらず、変態行為に勤しんでいた。今日は趣向を変えてエルシャの椅子ではなく、残留思念の歴代の女性赤龍帝のおっぱいに顔面を突っ込んでいた。これにはドライグもさすがに怒る!

ドライグ『イッセー、何をしている!!』

イッセー「おうドライグ―――今日は士道みたく乳気の吸収をしてるんだ。今吸ってるこの人はロリニュウム。んで次に吸う人がビニュウムで―――っておい、キョニュウムがどこにもねえじゃねえかッ!?」

ドライグ『そんなこと知るか!!今すぐやめろ!!』

イッセー「やめられるわけねえだろ!?どうしてもやめてほしいならキョニュウムを持ってきやがれ!!」

ドライグ『ああああんまりだああああ!!うおおおおおおん!エルシャ助けてくれ―――歴代の赤龍帝でキョニュウムを出せるのはお前だけなのだ』

ドライグはエルシャに助けを求める―――しかし、当の本人は理解していた。エルシャはもういない事を。
しかし―――………いない事なんて無かったらしく

エルシャ『やっほードライグ。呼んだかしら?』

イッセー&ドライグ「『―――えっ?』」

エルシャ「『えっ?』じゃないでしょ?貴方が呼んだのにどうしてそんなに驚いているのよ?」

ドライグ『いや、そのお前は―――満足して成仏したのでは無かったのか?』

エルシャ「やーねぇドライグ。帰ってきたのよ、今代の彼はこの子以上に面白いことやりそうだから」

イッセー「とりあえずエルシャさんおっぱいをスースーさせて下さい!」

エルシャ「良いわよ、あたしに勝てたら好きなだけさせてあげるわ」

そう言ってイッセーとエルシャのスパーリングが始まった―――とは言ってもどちらが勝つかは火を見るよりも明らかだが。

エルシャ「そう言うわけで私もこの章で出演予定だから、よろしくねー。あと二、三話?で登場するから良い子のみんな待っててね」

イッセー「ぎゃあああああああああ!!」

ちなみにイッセーは開始わずか数秒でエルシャに肩固めを決められ見事に撃沈した。


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八話 最凶の邪龍リンドヴルムです!

どもども、勇者の挑戦です。

本格的に後書きに書くおまけのネタが無くなってきました。

さて、前話の予告通り本話でラスボス(表)のリンドヴルムが登場します。

その実力は果たして………


グレンデルの討滅後、士道と六華はお互いに武装を解除し破壊された村の修復に取り掛かろうとしていた。

 

しかし、謎の巨大な紫炎の光が士道を飲み込みんだ。光が止むと背中を焼かれ、膝を折り『塵殺公(サンダルフォン)』の柄にしがみ付く士道の姿があった。

 

「士道さま!!」

 

六華は慌てて士道に駆け寄る。しかし、士道は手を出して六華を制す。そして、上空から紫炎の光を放った存在へと意識を向ける。

 

「………加減をしたゆえ意識を刈り取るまではいかんか。なるほど赤龍帝が混ざっておったのであれば、あのゴミが負けた理由も納得ぞ。しかし、聖杯で強化して甦らせたグレンデルまで消されたのは想定外であったが。なんとも滑稽なものぞ―――天龍と呼ばれ多くの存在から忌み嫌われたドラゴンがヒーローの真似事とは」

 

漆黒の派手なドレスに身を包み年齢は二十代中頃の美しい女性が空中で佇んでいた。その女性は背中まで届いた艶のある黒髪とエルフのような尖った耳を持ち、首から下げた十字架を手に取り地上の様子を眺めていた。

士道はこの存在を見た瞬間に何者かを察知した。そうこの人物は―――

 

「この圧倒的なまでに禍々しいオーラ………こいつが」

 

『ああ、人の姿をしているが間違いない―――「終絶なる超理龍(ラグナロク・エンドドラゴン)•リンドヴルム」邪龍の中でも最強最悪の存在だ』

 

この世界で六華以外の精霊を全滅させた邪龍リンドヴルム。その実力は封印される前のニ天龍と同等で、その上新たに神器を複製する能力まで会得したとんでもない怪物。士道がこれまで対峙した存在の中では間違いなく最強だ。

士道は『刻々帝(ザフキエル)』の「四の弾(ダレット)」を自身に打ち込み、背中の傷を修復させた。

 

『………そうか、あのゴミとグレンデルを村にけしかけたのは貴様であったか。一つ聞きたいことがある―――なぜこの世界の精霊を皆殺しにした?』

 

「決まっておるではないか。我の理想―――邪龍が全てを支配する世界を作るためぞ。故にこの世界の精霊は我の理想の生贄として使用させてもらった。統治する村を守護するという実にくだらない事に消耗させるくらいなら………いっそ我の力として使われた方が精霊たちも幸せであろう?我は元の世界に戻り理想を実現させる―――当然そこの小娘の力も頂いてな」

 

リンドヴルムが手を広げて語った理想を聞いた士道は、瞬時に鎧を纏った。放たれるオーラはかつてないほど荒々しく激しいものだった。

 

「―――殺すぞこの野郎………なんでテメェの理想に合わせて六華たちが殺されなきゃならねぇんだよお!!」

 

士道は飛び上がり上空にいるリンドヴルムとの距離を詰める!!籠手からアスカロンを引き抜き聖なるオーラを込めた一撃を放つ!!

 

「はあああああああああああっっ!!」

 

ガギィィィィィィンッ!!

 

衝突音が鳴り響くと同時に衝撃の光景が士道に映る―――リンドヴルムが人差し指を立てて士道のアスカロンを受け止めていたのだ。

 

先程の衝突音の正体はリンドヴルムの指と士道のアスカロンが衝突したものだった。

 

リンドヴルムは口の端を釣り上げ士道に笑みを送る。

 

「嘘だろっ!?こんな事―――っ!?」

 

リンドヴルムはもう片方の手で再び十字架に触れ、紫炎の閃光を放つ!!それに気付いた士道は神速を発動し、その閃光を避けた。

 

驚愕の出来事に士道は戸惑いを隠さなかった。いかにグレンデル同様に龍殺しの耐性を得ているとは言え、アスカロンを指一本で止められしかも流血させないリンドヴルムの圧倒的実力に。

 

圧倒的な力の差の前に動揺する士道にリンドヴルムから挑発的な手招きが送られる。

 

「どうした赤龍帝?我を殺すのではなかったのか?」

 

「―――舐めんじゃねえッ!!」

 

士道は『塵殺公(サンダルフォン)』にアスカロンを融合させ、ドラゴニック•バーストの準備をする。

―――グレンデルとの闘いで消耗した士道には『最後の龍聖剣(ドラゴニック•ハルヴァンヘレブ)』を放つ霊力はもう残っていなかった。それでも士道は倍化を始め、足りない威力を補う!

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!!!!!!!』

 

神速を発動させ、士道はリンドヴルムと再び距離を縮める。士道は残像による分身を作りながらリンドヴルムにフェイントを仕掛ける!!しかし、リンドヴルムは首にかけた十字架を宙に浮かして遊んでいるだけで、士道には目も当てない。

 

「喰らえ―――ドラゴニック・バーストッ!!」

 

ズガアアアアアアアアンッ!!

 

士道は背後からリンドヴルムの首を斬り落とさんばかりにドラゴニックバーストを放つ!!放たれたドラゴニック・バーストはリンドヴルムの首に直撃した。

 

 

 

しかし―――………

 

 

 

ピシッ―――パリンッ!!

 

「馬鹿な―――剣の方が砕けただと!?」

 

『グレンデルを消滅させた相棒なら、もしかしたらと思ったが―――やはり他の邪龍とは次元が違う』

 

ドラゴニック・バーストが直撃した瞬間―――『塵殺公(サンダルフォン)』の刃に亀裂が入り、音を立てて崩れ去った。融合させたアスカロンも同様に刃を失った状態だった。

リンドヴルムは背後にいる士道に身体を回す。

 

「やはり、グレンデルを消滅させるのに相当力を使ったようだな。どうやら貴様に我は殺せないらしい」

 

「―――っ、来やがれ『灼爛殲鬼(カマエル)』ッ!!」

 

消耗しきった中で最高の威力を誇る一撃でも、リンドヴルムに傷をつける事は叶わなかった。しかし、士道は諦めずに攻撃を続ける―――武器を破壊された『塵殺公(サンダルフォン)』から豪華を纏う斧『灼爛殲鬼(カマエル)』へと変化させ、リンドヴルムの脳天へと振り下ろす!!

 

「おおおおおおおおおおおっっ!!」

 

バリンッ!!

 

気合を込めた『灼爛殲鬼(カマエル)』がリンドヴルムの脳天へと直撃するが、音を立て粉々に砕け散った。しかし、まだ士道は諦めない!

 

「くそっ、これなら―――チッ、どうしようもねぇっ!!」

 

「士道さまの攻撃すら………意味を成さないというのですか!?」

 

士道は『氷結傀儡(ザドキエル)』で自身の体の数倍はある氷の刃を作り出し、リンドヴルムに投げつけたが―――しかし、巨大な氷の刃はリンドヴルムの胸に当たった瞬間粉々に砕け散った。

 

六華も心の何処かで士道が倒してくれると思っていた………が、しかしその思いも泡となって消えた。リンドヴルムは特に力を使う事なく全ての攻撃を無傷で防ぎきったのだ。

 

 

 

そして―――………ここから絶望が始まる!!

 

 

 

 

「炎よ」

 

「―――っ、がああああああああ!!」

 

リンドヴルムは水晶を取り出し、力を込めた―――次の瞬間士道の全身が炎に包まれ、その身を焦がした。だが、これでリンドの攻撃が終わる事は無かった。

 

「切り裂け―――風よ」

 

さらに水晶が怪しい翡翠の光を放つと巨大な竜巻が士道を飲み込み風の刃が士道を襲う!!その竜巻は士道を渦のように回しながら最終的に地面へと叩き付けた。

地面へと叩き付けられた士道は鎧を完全に失い、全身から血を噴き出すほどのダメージを負った。

 

「士道さま―――くっ、これは!?」

 

叩き付けられた士道に慌てて六華が駆け寄るが、六華の行手を阻むように霧が覆う!そして、霧が六華の体に纏わりつくように不気味な装置を形成し、装置が一般の触手のような物を伸ばし、枝分かれして四肢に絡みつき動きを封じる!!

 

「そこで大人しく見ていろ精霊。赤龍帝が惨めに我に殺されるさまをな。貴様にその神滅具(ロンギヌス)は破れまい」

 

「護星―――うっ………くぁッ!れ、霊力が………吸い、取られ、て………」

 

士道との戦闘を邪魔されないよう、リンドヴルムは神滅具を発動した。六華は抵抗を試みるが、装置からさらに触手が伸び、首にも絡みつき六華を締め上げた。

 

さらに装置が怪しく光ると六華の霊力が吸い取られる!!霊力を吸われた事で『護星天(ミカエル)』を維持出来なくなり、消滅させた。

 

先程からリンドヴルムは全ての攻撃に神滅具を使用している。

十字架からの紫炎の閃光は『紫炎祭主による磔台(インシネート・アンセム)

水晶玉は『煌天雷獄(ゼニス・テンペスト)

六華を捉えた装置は『絶霧(ディメンション・ロスト)』の禁手(バランス•ブレイカー)霧の中の理想郷(ディメンション•クリエイト)

 

―――今この戦場ではまさに神滅具のバーゲンセールが開催されていた。

 

「こりゃあひでぇ………ここまで力の差があるってのかよ」

 

士道は吐瀉物を吐き出しながらも、足に力を入れ立ち上がり鎧を復元する。士道に視線を戻したリンドヴルムはさらに士道を追い詰める。

 

「我は神滅具の中でも特に『煌天雷獄(ゼニス•テンペスト)』が気に入っておる。あらゆる属性及び天候を操る能力はまさにドラゴンとピッタリであろう―――我になると禁手(バランス•ブレイカー)に至らずともこんな芸当ができる」

 

カッ―――バチッ!バチチチチチチチッ!

 

水晶玉が光り、天が轟きリンドヴルムに落雷が落ちる―――次の瞬間リンドヴルムの体をスパークが飛び交う!スパークが全身にを覆ったその時―――士道の視界が捉えていたリンドヴルムの姿が消える!!

 

「ッ―――がああああああああああああっ!!」

 

士道が反応できないスピードでリンドヴルムは背後へと立ち、背中に手刀を放った。

放たれた手刀は士道の鎧を砕き、肉体を傷付ける。さらに纏ったスパークがその傷をさらに抉る!!膝をつく士道を更なる追撃が襲う!!

 

『リンドヴルムは稲妻を纏い、身体能力を上げている―――正規の使い手でもこんな芸当ができるとは思えん………恐らくこの地上の精霊を殺す際に色々試したか』

 

「分析してる場合じゃ―――!!」

 

ドライグがリンドヴルムについて分析をしていたが、今はそんな事を悠長にしている余裕はなかった。

何故なら、リンドヴルムは既に士道のすぐ目の前にいるのだ。

 

「休んでいる暇はないぞ赤龍帝」

 

リンドヴルムは膝をついた士道に回し蹴り―――しかし、士道も神速を発動してそれを躱し、リンドヴルムと距離を取る!!しかし、士道はまた背後をリンドヴルムに取られてしまう!!

 

「こ、こいつ俺の神速以上に―――ぐあっ!!」

 

士道の背後をとってリンドヴルムは顔面を目掛けて踵落とを放つ!!咄嗟に顔面前で腕をクロスし直撃を避けた士道だったが、地面へと叩き付けられた。叩き付けられた士道の顔面をリンドヴルムは踏みつける。

 

「さあ、赤龍帝。ショーの始まりぞ、貴様はどこまで耐えられるかッ!?」

 

「ぐっ―――がああああああああああ!!」

 

リンドヴルムは踏みつけた足から纏ったスパークを士道に流し込む!!士道の全身を凄まじい電圧が士道を襲う!!士道の苦痛の叫びに六華の涙ながらの悲鳴が聞こえてくる!!

 

「いや、お願いもうやめてええええええええ!!」

 

六華の悲鳴を聞いたリンドヴルムは口の端を釣り上げ狂気の笑みを見せる。

 

「ハハハハハハハハハハハハ!!良い、良いぞ!!我は他人の絶望をする様を見るのは大好きなのだよ!!ほぉらもっと泣き叫べ精霊!!赤龍帝の死はもう目の前ぞ!!」

 

「ぐああああああああああああああ!!」

 

リンドヴルムは邪龍の中でも特に残忍なドラゴンだ。精霊を殺す際にはどの精霊も絶望の底へ落としてから『霊結晶(セフィラ)』を奪っていた。

 

結界装置に囚われた何もできない六華の悲鳴にリンドヴルムは踏みつけた士道にさらに電撃を送り込む!!だが、精霊の苦痛の悲鳴を聞いて無抵抗でいる士道ではない。電撃を全身に浴びながらも反撃に出る!!

 

「ぐっ―――焦がせ『灼爛殲鬼(カマエル)』ッ!!」

 

顔面を踏みつけるリンドヴルムの足を掴み、業火をリンドヴルムに浴びせた。業火は足からやがて全身を覆い、容赦なくリンドヴルムの身を焦がしていく!!

 

 

 

 

だが―――………

 

 

 

 

 

「グレンデルならともかく―――そんなもの我に通用せんわ」

 

「ぐああっ!!」

 

リンドヴルムは見に纏うスパークを爆発させ、『灼爛殲鬼(カマエル)』の業火をかき消し、士道の顔面を蹴飛ばした。

 

「くっ―――クソ、がっ………」

 

士道は立ち上がろうとするが、体から力が抜け立ち上がることができなかった。その様子を見てリンドヴルムはその身を目的へと向ける。

 

「貴様は良くやったぞ赤龍帝。我の攻撃をここまで耐え忍んだ英雄は誰もおらなんだ。トドメは刺さぬ、ゆっくりと苦しんで死ぬがよい」

 

「士道さま、士道さまっ!!いや………いやああああああああああああ!!」

 

鎧は完全に破壊され、全身から夥しい量の血を流した士道はもう立つ事は無い。六華は士道が傷付き、そして死ぬことに耐えられずただ悲鳴をあげることしかできなかった。

 

結界装置を破壊すること叶わずただ士道が死ぬ様を黙って見ているだけの自分への怒りで涙を流していた。

 

『立て―――立ち上がれ相棒ッ!!』

 

これだけの絶望の中でもまだ諦めない者がいた。士道の相棒ドライグだ。倒れ伏す士道にドライグは檄を飛ばしたのだ。ドライグが飛ばした檄で士道の指がピクッと動く。ドライグは続ける。

 

『お前は何のためにこの世界に残った!?戦う前から勝敗が決している勝負からなぜ逃げなかった!?それはこの地上最後の精霊を守るためだろう!!その精霊がこれから殺されようとしている時に、お前は傍観するというのか!?』

 

「ドライグ貴様は鬼、いや畜生であるな。まだ宿主を戦わせるつもりなのか?もうその男が立つ事はあるまい。仮に立てたとしてどうなる?我に傷を付けることはできないというに………その男では例え天地が裂けても我を討つなど不可能である」

 

まだ士道を戦わせようとするドライグにリンドヴルムはため息を吐いた。

………確かに士道が持つ攻撃はすべて通用しない事を、リンドヴルムに証明された。その上、アスカロンを失った今『龍殺し(ドラゴン•スレイヤー)』は使えない。それでもドライグは、士道を信じて檄を飛ばし続ける。

 

『お前はあの日誓ったのではないのか!?夜刀神十香と出会ったあの日「精霊を救う赤龍帝」になる事を!!ならば、救ってみせろ―――結界に囚われ涙を流す地上最後の精霊を!!』

 

「ふんくだらんな、実にくだらん。ドライグ、我の知らぬ間に随分と芸達者になったものぞ。ヒーローに続いて熱血教師の真似事とはな………精神や魂など目に見えないもので――――――」

 

リンドヴルムの言葉が途中で止まった。それはとても理解できる事ではなかったからだ。

 

 

 

 

 

 

何故なら―――………

 

 

 

 

 

 

 

「―――………だ」

 

既に神滅具の攻撃によって体をボロボロにされ、呼吸すら整っていない。いつ死んでもおかしくない士道が立ち上がろうとしているからだ。

既に腕も足も震えている、それでも士道は歯を食いしばり倒れた体を起こしていく。

 

「だ………まだ、だッ!」

 

起き上がる士道の視線はリンドヴルムを一点に捉え、瞳には今まで以上の闘志が宿っている!これにはリンドヴルムも士道に視線を向け強く叩かれたように目を見開く。

 

「バカな、ありえん!?その体の何処に立ち上がる力がある!?」

 

その光景はリンドヴルムにとって理解し難いものだった。第一にここまでダメージを与えても士道は死ぬどころか気絶すらしないことを。

リンドヴルムが葬ってきた多くの英雄たちでさえこの状態で立ち上がった者はいなかった。

 

そして第二に圧倒的な力の差を見せたにも関わらずまだ戦いをやめようとしないことを。この力の差であれば普通の者は確実に戦意喪失するだろう。しかし士道の目から闘志は一切消えていない。

そして士道は『塵殺公(サンダルフォン)』を杖にし、完全に立ち上がったのだ。

 

「俺はっ!まだまだ終わってないぞ、リンドヴルムッ!!」

 

立ち上がった士道に吠え、鋭い眼圧を飛ばした。すると―――リンドヴルムの足が下がったのだ。

 

「な、なんだ………なぜ我の足が下がった!?まさか―――我が怯えているとでもいうのか………最強の邪龍であるこの我が!?」

 

いや、足が下がっただけではない、気が付けば手も足も震えているのだ。目の前の不死身とも呼べる存在に恐怖を覚えたのか、痙攣を起こしたように震えているのだ。

 

士道を中心に赤いオーラが展開され、そのオーラは鎧を形成する。その鎧を纏った士道は籠手を天に掲げる!!

 

「目の前の巨悪を打ち倒すため、そして六華を助けるために―――俺に力を貸してくれ『赤龍帝の籠手(ブーステッド•ギア)』ッッ!!」

 

キィィィィィィィィィィンッッ!!

 

士道の鎧にある全身の宝玉が今までにない輝きを放つ!!まるで復活した士道の闘志に応えるかのように………そして―――籠手からドライグが語りかけてくる。

 

『相棒、良く立ち上がった―――そして朗報だ。イッセーがエルシャとベルザードの力を借りて相棒の潜在能力を覚醒させるための魔法陣を完成させた』

 

「潜在能力………ソロモンさんから貰った龍醒石のやつか!?てか、エルシャさんとベルザードさんって言ったよな!?あの人たちいたの!?」

 

『ああ、なんでも相棒といると面白いものが見られるからという理由であの世から帰ってきたらしい。そのおかげでイッセーと急ピッチでなんとか仕上げることに成功した―――その魔法陣を今転送する』

 

パアアアアアアアッッ!!

 

士道の目の前に魔法陣が展開される。魔法陣が放つ色は黒色だ。魔法陣にリンドヴルムも目を奪われる。

 

「な、なんだあの魔法陣は………一体何が出てくる?」

 

リンドヴルムでもこの魔法陣は知らないようだ。ここからはドライグに変わりイッセーが説明を代行する。

 

(士道、この魔法陣からはお前の覚醒ボタン役のおっぱいが現れる。呪文はもちろん京都でのアレだ!)

 

覚醒ボタン。この言葉を聞いて士道は美しい紅髪を持つ上級悪魔を想像した。そしてそのおっぱいを妄想して盛大に鼻血を噴き出す!!

 

「覚醒ボタン―――まさか、リアスか!?あの乳をまたつつけるように―――」

 

(ばっきゃろう!!アレは俺のおっぱいだ。お前のはまた別のやつだ。思い出せ士道―――お前が一番触ってきたおっぱいをッ!!)

 

「俺が、一番触ったおっぱい―――………あッ!!」

 

イッセーの言葉に士道はバカな頭をフル回転させる。そして、稲妻が走り抜けると同時に士道は頭の中で確信を得た。

展開された召喚魔法陣に士道は大きく息を吸い込み、そして呪文を口にする!!

 

「―――召喚(サモン)、おっぱああああああいッ!!」

 

士道の呪文に魔法陣が強い輝きを放つ!!その魔法陣の輝きが終わると夜色の美しい髪を持つ美少女が召喚される!!

 

「………む、ここは何処だ!?私はさっきまでシャワーを浴びて―――シドー、どうしたのだ傷だらけではないか!」

 

「やっぱり十香か―――よしっ!!」

 

魔法陣から召喚されたのは十香だった。シャワーを浴びて新しく全裸の状態で召喚されてしまったのだ。士道はアタフタとパニックになる十香の肩を掴んで頭を下げる。

 

「十香、色々言いたい事はあるだろうがお願いがある―――おっぱいをつつかせてくれッ!!」

 

「な―――!!」

 

士道からの突然のお願いに十香は顔を真っ赤に染め、胸の前で両腕をクロスする。しかし、相棒のドライグもフォロー入れる。

 

『夜刀神十香、今回の相棒は自分の欲求を満たすためにやっているわけではない。事情は後で説明する、だから頼むこの通りだ』

 

士道の下品な笑みを浮かべていない表情とドライグの言葉を聞いて十香は確信した事がある。この二人には何か事情があってお願いをしていることを。

十香は意を決して、胸の前の腕をどける。

 

「よ、よくわからんが、分かったぞ士道!好きなだけつつくとよい!」

 

この時士道とドライグの考えがシンクロした「『これで通じるんだ』」と。ここからはもういつもの展開である。

 

「『す、すきなだけつつくとよい!』そんな素晴らしい日本語はどこから産まれたんだぁ!?よっしゃいくぜドライグ覚悟はいいかっ!?」

 

『う、うおおおおおおおおおおおんんっ!!』

 

………いざおっぱいをつつくとなるとやはり鼻息を荒げ下品な笑みを浮かべる士道と涙の大洪水を起こすドライグだった。

 

「うおっ、やっべぇ!十香のおっぱいが―――乳首が光ってやがる!!こりゃあつつくだけでご利益がありそうだぜ、ぐへへへへへへへへ!!」

 

光輝くおっぱいをマジマジと眺める士道に十香が叫ぶ!!

 

「い、いいから早くつつけ!!私も恥ずかしいのだ!!」

 

「わ、悪ぃ!んじゃぐへへへへへへ!!」

 

士道は十香の乳首へと指を伸ばし―――その指が乳首に触れた。その時十香が吐息を漏らす。

 

「うッ………ふぅっ」

 

士道はゆっくりと指を進める。自分の指がおっぱいに埋没していく様子を見て、堪らず鼻血を噴出させる!!

十香のおっぱいは学校やらお風呂やらでうっかりを装って触っていたが―――今日の十香のおっぱいは格別であった。

十香のおっぱいは美しい形で、ハリ、柔らかさ、そして弾力のハーモニーが絶妙で、その快感は想像を絶するものだった。士道はさらに十香のおっぱいを味わいながら指を進めた。そして、最後の一押しをした時に十香が艶声を漏らす。

 

「………ぁふん………っ」

 

カッ!

 

十香のおっぱいがさらに輝きを増し、眩い閃光が二人を包み込む!!それと同時に士道から紅蓮のオーラが溢れ出した。儀式?が終わる頃には魔法陣が輝いていた。

 

「こ、これで良かったのか士道?」

 

「ああ、ありがとう―――ん、どうした十香?」

 

もうすぐ元の場所へ戻される十香が士道の胸へと手を置いた。そして士道を見上げる。

 

()()()()

 

「―――っ、ああ!!」

 

十香の言葉に士道は力強く頷いた。そして、その言葉だけを残して、十香は魔法陣共に虚空へ消えた。

 

 

 

 

 

 

 

―――◇―――

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、士道の意識は精神世界へと飛ばされていた。神器の奥深く―――歴代の赤龍帝の残留思念が集まる場所のさらに奥。三人の存在があった。

 

「お久しぶりです。エルシャさん、ベルザードさん」

 

士道はドライグが語った歴代最強と称される二人の赤龍帝の手を取った。女性の方はエルシャ。男性の方はベルザード。

 

〈お久しぶりというよりかは初めましてじゃないかしら。ああ、この子をとうして一度あってるものね〉

 

〈ポチッとポチッとズムズムいやーん―――と言うのは冗談だ。久しいな五河士道、京都以来だな〉

 

そして、もう一人の存在に士道は意識を向ける。もう一人の存在は既に体が光で包まれていた。

 

「イッセー、魔法陣をありがとな。お前のおかげで何とかあの邪龍に対して突破口を開いていけそうだ………でも、これでお前は―――」

 

士道の転生前の存在であるイッセーだ。イッセーは士道の胸を拳で突き、途中で言葉を詰まらせた。

 

(気にすんな、元々の状態がおかしかっただけだ。それに、俺は消えるわけじゃないぜ士道、お前の魂と融合するんだ。例え俺が神器から居なくなったって、俺たちは常に―――)

 

―――共にある。士道とイッセーは二人でその事を認識していた。消えゆくイッセーが最後の願いを残す。

 

(士道、最後に頼みがある―――リアス達の世界に行く事になった時はリアス達の助力を頼む。異世界に行く手段なんざそうそう限られていると思うが、アザゼル先生なんかは『赤龍帝の籠手(ブーステッド•ギア)』があの世界に無いことに気付くとお前のいる世界に来るかもしれない。そん時はやってくれるか?)

 

士道はイッセーが突き出した拳に己の拳を合わせる。

 

「その願い確かに聞き入れた。もしもの時は俺が精霊達全員引き連れてその危機からリアス達を守りにいく」

 

そして、後ほんの少しでイッセーが完全に同化しようとした時、ドライグがやってきた。神器の世界の中ではドライグは肉体を持っていた時の姿を保てるのだ。消えゆくイッセーにドライグは複雑な表情を浮かべる。

 

『イッセー、お前はこれで完全に―――』

 

(何だよ、士道に続いてドライグまでそんな難しい顔をするなんてな。困ったもんだぜ全く………ドライグ、短い間だったけどお前と一緒に戦えて楽しかったぜ。これからは士道を俺と思ってサポートしてやってくれ―――ってそういや、士道が目覚めた時からお前は俺が転生したことに気付いていたっけか)

 

『ああ、俺はすぐに気付いたさ。お前が五河士道に転生した事にはな。しかし宿主が二代続けて女の乳に執着する同じ魂の変態だと分かった時は、泣いたぞ本当に』

 

「(変態で悪かったな!!)」と士道とイッセーは口を揃えてドライグに言った。

 

『イッセー、俺もお前とコンビを組めて楽しかった。そしてこれからはこの五河士道を俺がサポートしていく。だから安心しろ』

 

(ああ、じゃあ士道―――絶対に勝つぞ。目の前の極上特大おっぱいを敵に汚されるのはごめんだ)

 

「無論だ。あの極上特大おっぱいは俺専用だ。絶対勝って揉んでやる―――いや、それだけじゃねえ、吸って挟んでもらう!!」

 

(いいじゃねえか、最高じゃねえかッ!!今から楽しみになって来たぜ、ぐへへへへへへへへ!!)

 

『お前ら………まずはリンドヴルムを退けなければそれは叶わんぞ?』

 

極上特大おっぱい(六華の胸)で変態コンビは心底盛り上がっていた。その光景にドライグは盛大にため息を吐いた。そして、エルシャとベルザードが士道の背中に優しく触れる。

 

〈さあ、行きましょうか〉

 

〈お前達の可能性を見せつけてやれ。大丈夫、今のお前ならきっとやれるはずだ〉

 

「お二方もありがとうございました。また遊びに来ます!!」

 

(よし、それじゃあ見せてやろうぜ士道―――赤龍帝の意地ってやつをッ!!)

 

士道はエルシャとベルザードに頭を下げると、イッセーの魂を完全に融合させる事に成功した。こうして極上特大おっぱい(六華の胸)を守る為現実世界へと舞い降りた。

 

 

 

 

 

 

 

―――◇◆―――

 

 

 

 

 

 

 

 

現実の世界へと意識を戻した士道は、『赤龍帝の籠手』を天に掲げた。この世界を覆う絶望を断ち切るために、今覚醒した力が振われる!!

 

「行くぜドライグッ!!禁手(バランス•ブレイカー)―――第二段階解放(セカンド•フェーズ•リリース)ッ!!」

 

『Balance Breaker Second Phase Release―――Second Phase Set Up Ready!!』

 

機械音声と共に、士道の鎧の宝玉が凄まじい光を放ち、莫大な紅蓮のオーラを放出させる!!

………このオーラはドライグが持つ本来のオーラだ。『覇龍(ジャガーノート•ドライブ)』のような呪いでも負の感情でも無く、ただただ『白い龍(バニシング•ドラゴン)』アルビオンに勝つ為に俺の全てを賭けて研鑽された本来の力!

紅蓮のオーラが爆発すると―――鎧を変形させた士道の姿があった。

 

「これが俺だけの禁手第二段階(バランスブレイカー•セカンドフェーズ)―――【閃光(シャイニング)】。俺の可能性全てを込めた強化形態その身に刻み込んでやる!!」

 

おっぱいドラゴンの逆襲が今、始まる!!

 




突っ込まれそうなので書いておきますが、リンドヴルムはメスの邪龍です―――イメージCVは真堂圭さん。

そして、次回から待ちに待った士道くんの猛反撃が始まります。お楽しみに。

☆おまけ

十香「シドーは勝ってくれるだろうか………」

先程、士道におっぱいをつつかれるためだけに異世界に飛ばされた十香ちゃんは心配で仕方ないようだ。十香は傷だらけの士道を見て確信した―――士道は誰かと戦っている事を。髪を乾かし、服を着て風呂から出ると―――変な魔法使いが部屋のソファーを我が物顔で占領していた。

ソロモン「お疲れ様十香ちゃん。良くやってくれた」

十香「き、貴様はソロモン!?どうやって私の部屋に―――」

ソロモン「僕の魔法を使えば鍵の掛かった部屋に侵入するなんてチョチョイのパーさ。士道くんがちょっと困ってたから助け舟を出す必要があってね。ちょっと前からお部屋を貸してもらっていたんだ」

十香「何だと!?貴様一体いつから私の部屋に!?」

ソロモン「2日前からだよ。いつでもキミを士道くんの元に送れるように準備が必要だったんでね。ほら、おかげでこんな写真もたくさん撮れた」

ソロモンがポケットから写真を取り出し、十香に手渡す。その写真にはこのマンションでの十香の私生活がバッチリ収められていた。
その写真の中には士道が好きそうなトイレの写真やお風呂での写真(いずれもノーモザイク)も入っていたのだ!!
その写真を見た十香ちゃんは霊力を込めビリビリに引きちぎる!!

ソロモン「ああなんて事を!?それを捨てるなんてとんでもない―――あ、あれ………ちょ、ちょちょちょ、十香、ちゃん?」

部屋に無断で侵入され、恥ずかしい写真を撮られたのだ。これで平然としていられる女性はいるだろうか―――いやいない!!
十香は『最後の剣』を顕現させ、ソロモンに斬りかかる!!

十香「し、死ねええええええええええええ!!」

ソロモン「ぎゃああああああああああ!?\(^o^)/」

ソロモンは見事に断罪された。


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九話 反撃開始です!!

こんにちわっす、勇者の挑戦です。

はい、今回は反撃回です。

※本章終了まで後四話ほどです。八舞編はもう暫くお待ちください。


「これが俺だけの禁手第二段階(バランスブレイカー•セカンドフェーズ)―――【閃光(シャイニング)】。俺だけの強化形態その身に刻み込んでやる!!」

 

これがイッセーとの魂の融合を果たした事で龍醒石を通して覚醒させた士道の新たな力。

鎧の色は鮮やかな紅蓮に変わり、背中のブースターが増設され、鎧の装甲も通常時のものと比較すると少なくなり、さらに薄くなっている。

 

「フハハ!ハハハハハハ!何が強化形態ぞ、これでは先程の鎧より防御力が落ちているでは無いか。その状態では我の攻撃が掠っただけで致命傷となるぞ、赤龍帝!」

 

「確かにこの形態は通常の鎧と比較しても防御力は下がる。でも、致命傷になるのは()()()()の話だけどな」

 

リンドヴルムは士道が纏う鎧を見てコケにした。指を刺して笑い完全に油断しきっている。士道が腰を落とし、リンドヴルムに突撃しようとした時、左手の籠手から声が響く。

 

『相棒、まずは六華からだ。恐らくリンドヴルムがあの結界装置を制御するもの持っているはずだ。それさえ破壊できれば装置に囚われている六華を救出できる』

 

士道は結界に拘束されている六華を見た。既に結界装置に霊力をかなり吸収されたのか、六華から放たれるオーラはかなり小さくなっていた。立ち上がり新たな力を覚醒させた士道を見て、六華は声を出す。

 

「士道さま、もういいのです………私は本当に幸せでした。士道さまと出会ってからの毎日は心から生きていると実感できました。短い時間でしたが幸せをありがとうございました。だから、もう私に構わず―――」

 

「『逃げて下さい』―――とでも言うつもりか六華?」

 

士道の言葉に六華が驚いたように首がビクッと動き、俯いた。

六華はこれ以上自分のせいで士道が傷付くことに耐えられなかった。そして、新たな力が覚醒した今なら、簡単に逃げる事ができるだろうと―――そう、六華は士道と過ごした毎日だけで十分だったのだ。

手を取ろうとしない六華を見ても、士道は手を伸ばす!

 

「言ったよな六華『もっと俺を頼れ』って。まさかと思うけど、それが俺に迷惑をかけるとか思ってないよな―――………だとしたら怒るぞ!?六華を守るために傷付くことなんざ、俺にとってはどうってことない!俺を頼ることなんざ全然迷惑なんかじゃねえッ!!」

 

士道の言葉が六華の心に深く突き刺さった。六華は感情を全て曝け出す!

 

「士道、さま………っ、どうして私に優しい言葉をかけてくれるのですか!?私は精霊―――『化け物』ですよ!?」

 

「『化け物』なんかじゃない―――お前は六華だ!!俺はお前を『化け物』なんて思わない。お前がそう思っているとしても、俺は気にしない!!もうお前は一人じゃないんだ、六華!!」

 

肩で息をしながら感情を曝け出す六華に応えるよう、士道も全力で想いを伝えた。それでも六華は伸ばされた手を取ろうとしない。

 

「………して―――………どうしてそこまで私にこだわるのですか!?私が生きていたらみんな傷付くんです!お姉様を狙ったあの男も、グレンデルも、そしてリンドヴルムも村を襲ってきました。私が生きているせいでみんな傷付くんです!!だから私に構わずこのまま―――」

 

「ここでお前が死んだら傷付く奴が、泣く奴がいるだろ!?だから六華『このまま死なせてください』なんて間違っても思わないでくれ!俺には六華の代わりなんていないんだ!」

 

「なぜ―――………どう、して………」

 

六華は救いの手を伸ばし続ける士道を理解できなかった。自分を救う事にメリットなど無い、あるのは異世界からきた勇敢な英雄が傷を負うことただそれだけ。

全く手を取ろうとしない六華に士道は頭を描きながら、息を大きく吸い込んだ―――そして、全力の雄叫びを上げる!!

 

「ああ、もう!!六華が好きだから―――大好きだからに決まってんだろ!!好きな女の子を助けるのに理由なんていんのかよッ!!俺は六華のいない世界に未練なんて無い!!こんな恥ずかしい事言わせんじゃねえ!!」

 

「――――――ッ!!」

 

士道の雄叫びは、一世一代の想いを詰め込んだ告白だった。その告白で俯いていた六華の顔が上がり瞳も中に温かいものが溜まっていた。

そして、士道は再び六華へと手を伸ばす!

 

「六華もう一度言う―――俺はお前が大好きだ。これからも俺はずっとお前の隣に立ちたい。お前の居場所になってやりたい!だから―――本当の願いを聞かせてくれ」

 

『六華よ、これが俺の相棒だ。この通りクソが付くほどのバカなのだ。だから―――お前の嘘偽らざる本心をこのバカに伝えてくれ。大丈夫だ、俺も相棒もお前の想いに全力で応えるから』

 

士道の心の叫びが、ドライグの言葉が、六華の本心を隠す巨大な壁をぶち破った。六華はボロボロと大粒の涙を流して本心を打ち明ける。

 

「たい―――………私も士道さまと一緒に生きたいです!!もっとお話ししたいです!もっと士道さまのことを知りたいです!私も士道さまが大好きです!愛しています!!だから―――………だから―――」

 

涙でぐしゃぐしゃになりながらも六華は士道に強い視線を向ける。そして、腹に力を込めて願いを伝える!

 

「私を―――………助けて下さい、士道さま!!」

 

「ああ、任せろ!!もう少しだけ辛抱してくれ、六華」

 

六華の願いに赤龍帝は力強く頷いた。その様子を見ていたリンドヴルムは白けたような冷めた拍手を送る。

 

「実に下らない茶番であったな。あまりに寒すぎてカイロを張ろうと思ったぞ。赤龍帝、叶えられない約束はするものでは無いぞ?確かに制御装置を破壊すれば精霊を捕らえている結界装置も破壊できるが―――この通り我がここに持っている。これをどうやって破壊するつもりだ?」

 

リンドヴルムは右手にチェスの『女王』の駒のようなものを士道に見せた。先端に赤いボタンがあり、それを押すことで結界装置が作動するようになっているのだ。

しかし、この行為がリンドヴルムにとって悪手となった。

 

「へぇこいつが―――六華を拘束している制御装置か」

 

士道は既にリンドヴルムの背後に回って、リンドヴルムがドヤ顔で見せびらかしていた制御装置を奪取していた。

 

「貴様っ、いつの間に!?―――このッ!!」

 

リンドヴルムは制御装置を取り返そうと士道に掴みかかるが、士道の鎧を掴んだ―――瞬間、距離を取られた。

………既に士道の体はボロボロでいつ死んでもおかしくない状態だ。しかし、グレンデルを倒した時以上の速度で動けるのはとても死に損ないができる芸当ではない。

そこでリンドヴルムは一つの答えに辿り着き、士道に訊ねる。

 

「貴様―――瞬間移動の能力に目覚めたのか!?」

 

「んな大層なもんじゃねえ。てめぇが反応できない速さで動いてるだけだ。そしてこれだけじゃないぜ、鎧変化(アームド•チェンジ)―――【剛撃(カイザー)】ッ!!」

 

『Change Kaiser Booster !!!!!!』

 

バキッ!!

 

士道が叫ぶと、再び纏った鎧が変形する!!今度の形態は鎧が鋭角になり、鎧の両腕両足の部分が数倍の大きさに変化した。そして、リンドヴルムから奪った結界装置を握りしめると、音を立てて砂時計の砂が落ちるように崩れ去った。

すると、六華を拘束していた結界装置が怪しい光を放ち、装置が白い砂となって崩れ去った。

………士道が覚醒させた新たな力『第二段階(セカンド•フェーズ)』はそれぞれ『スピード』『パワー』『技』『防御』に特化した四形態があり、鎧を任意のものへと変化させる能力がある。先程の【閃光(シャイニング)】は『スピード』で、今の【剛撃(カイザー)】は『パワー』特化のものだ。

そして、結界装置が破壊された今、六華を支えるものは無い。六華は装置が無くなったことで空中に放たれ、地面へと身体が落下していく!身体が地面と衝突する―――前に士道が神速を発動し、衝突前に六華を両腕で受け止めた。腕の中にいる六華に士道は兜を消して笑みを送る。

 

「遅くなってすまない。でも、約束はちゃんと果たしたぜ」

 

「士道さま、士道さまっ………ッ!!」

 

腕の中で泣き続ける六華の涙を士道は拭ってあげた。そして、六華を地面に下ろしたところで六華が鎧を掴んだ。

 

「士道さま、私も最後まで闘いを見届けさせて下さい。自分の身を守る霊力は残っています。どうかお傍に置いて頂けますか?」

 

士道は六華の言葉に面を食らった。六華は大神殿まで避難して貰うつもりだったが、意を決して眼を射抜かれるような視線を送る六華を見て、否定は不可能なことを悟った。

 

「―――分かった。六華が見ていてくれるならいつも以上の力を出せる。ドライグ、行けるな?」

 

『誰にものを言っている。乙女の祈りを受けて負けたとなると末代までの恥だ。さっさとぶっ倒して宴会と洒落込むぞ相棒。

それから六華―――見守る事は許すが、死ぬ事は絶対に許さん。俺と相棒との約束守れるか?』

 

士道とドライグの言葉を聞いて六華は頷き、士道の鎧から手を離し後方へと下がった。

士道は足を進め、リンドヴルムと正対する。士道は紅蓮のオーラを研ぎ澄まし、拳を握りしめた。

 

「さてリンドヴルム―――よくも六華を泣かせてくれたな。そのツケキッチリ払って貰うぞ?」

 

「その程度のパワーアップで我に届くと思うか?今度こそ貴様を確実にあの世へ送ってくれる―――死ね、赤龍帝ッ!」

 

リンドヴルムは地面を蹴って、スパークを纏った手刀を士道に放つ!スパークを纏ったリンドヴルムは士道の最高速度である神速以上の速さを誇る。放たれた手刀は士道の顔面に直撃―――するかに思われたが、リンドヴルムの手刀は士道の直前で静止していた。

何故なら、リンドヴルムの攻撃が当たる前に、士道の左ストレートがカウンターとしてリンドヴルムの顔面を直撃していたからだ。

 

「吹っ飛ばねえか………さすがは最強の邪龍さまだ」

 

「バ、バカな!?オーラはブレてはいなかった!?何故その状態で反撃ができた!?」

 

リンドヴルムは士道のオーラを見て攻撃を予測していた。今までの士道の攻撃は全て攻撃の瞬間にオーラが増大していたため、直撃のタイミングを図るのは容易だった。直撃のタイミングにだけ力を込めるだけで士道の攻撃を簡単にいなしていたリンドヴルムであったが、今の士道が放ったカウンターは全くオーラがブレていなかったのだ。

左ストレートが直撃した事で、リンドヴルムの鼻からは青い血が流れ出ており、安堵の息を士道は漏らした。

 

「良かった。【剛撃(カイザー)】の一撃ならダメージがまともに入る」

 

「調子に乗る―――ぬあっ!?」

 

ドオオオオオオッ!

 

リンドヴルムは右手をを突き出し、身体に纏ったスパークを士道に放出した―――しかし、これも士道は僅かな動きで交わし、強烈な右フックをリンドヴルムの顔面に直撃させ、地面へと叩きつける。

周囲の地面を陥没させるほどの勢いで叩き付けられたリンドヴルムに士道は追撃を仕掛ける!!

 

「おおらっ!!」

 

「ぬあああ!!」

 

士道は周囲の地面を抉りながら、倒れたリンドヴルムの脇腹を蹴り飛ばした。これにはリンドヴルムも堪らずきりもみ回転で吹き飛んでいく!!

 

「まだまだ行くぜッ!!」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!!!!!!!』

 

吹き飛んだリンドヴルムを見て、さらに士道は追撃を仕掛ける。両腕両足に増設されたブースターを活用し、力を増大させながらリンドヴルムに迫る!しかし、リンドヴルムが素早く起き上がりパチンッ!と指を弾く!!

 

「―――っ!?」

 

リンドヴルムが指を弾いた瞬間、士道の前方に視界を遮るほどの大量の魔法陣が現れる!これを見た士道は瞬時にブースターを止め、足を地面に擦らせながらブレーキをかけた。

魔法陣からは炎、雷、水、氷、風などの属性弾が鋭い槍のような形状でその姿を覗かせていた。そして、リンドヴルムが腕を薙ぎ払い、その声と同時に士道を目掛けて襲い掛かる!!

 

「くたばれ、赤龍帝ッ!!」

 

ズドオオオオオオオオオオオッッ!!

 

大量の魔法陣から放たれた属性攻撃は士道が立っていた場所を中心にそれぞれが交わり大爆発を起こした。凄まじい一撃が炸裂し、その衝撃波は周囲のあらゆるものを吹き飛ばすほどだった。

最後の切り札を持っていたのはリンドヴルムの方だったのだ。

 

「はあ………はあ………我が持つ魔法と神滅具(ロンギヌス)煌天雷獄(ゼニス•テンペスト)』を合わせた渾身の一撃ぞ。ここまで我に力を使わせたのは、この世界では貴様が初めてぞ―――誇って良いぞ赤龍帝。ただし、それはあの世での話だがな」

 

リンドヴルムは肩で息をしながらも、確かな手応えがリンドヴルムにはあった。今の一撃は先程の【閃光(シャイニング)】状態での士道の最高速度を想定して放った技だ。【剛撃(カイザー)】状態では前形態よりも移動速度と攻撃速度は格段に遅くなっていたため、避けようが無かったことをリンドヴルムは確信していた。

 

「そ、そんな………士道さま。嘘、ですよね?士道さまが死ぬ、なんて―――………」

 

先程まで『護星天(ミカエル)』の【輝壁(シュテル)】の結界で身を守っていた六華が、放心状態で杖を手放し、両膝をついた。

リンドヴルムは放心状態の六華に真実を突きつける。

 

「おい精霊、貴様の希望は潰えた。赤龍帝はつい先程、我の攻撃で完全に消えて無くなった。全盛期のドライグならともかく、あんな人間の小僧に我は倒せぬわ!!しかし、泣く事はない!すぐに貴様も赤龍帝の元へ――――――」

 

リンドヴルムはセリフを最後まで言う事ができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何故なら―――………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先程の【剛撃(カイザー)】の鎧を纏った士道が煙の中から飛び出し、リンドヴルムの顔面を殴り吹き飛ばしたからだ。

 

「悪いなリンドヴルム、お前に六華を殺させるわけにはいかないんだ。六華は絶対に守るって約束したんだからな!!」

 

リンドヴルムを吹き飛ばした後、士道は六華に視線を向けた。士道の無事を確認した六華は暖かいものが滴っていたのだ。その六華を優しく抱きしめた。

 

「心配をかけてすまない六華、また泣かせちまった―――………でも、この通り大丈夫だ」

 

「士道さま、本当に―――………本当に、無事で良かったです」

 

優しく抱きしめられた事で、今度は安堵の涙を六華は流していた。そして、凄まじい形相で立ち上がったリンドヴルムを見ると、士道は前に出た。

先程の爆炎に包まれた士道は無事だった。その理由は―――

 

「貴様、本当に人間なのか!?いかに赤龍帝とは言え、我の渾身の一撃を受けて無傷など今までおらなんだぞ………何者だ貴様は?」

 

「俺はただの人間、赤龍帝の力を持ったちっぽけな人間だ。それに流石に無傷じゃねえ。()()()に倍化した力と残りの全霊力を全て防御に回して防いだんだよ―――………防御に性能を極振りした鎧、【護盾(ガーディアン)】でな。それでも鎧は完全に破壊され、肉体にもダメージは受けたけどな」

 

「バカな、あの魔法陣の属性弾はたった一つで各神話体系の最上級クラスの英雄を即死にできるほどの威力であるぞ!?それを貴様程度が受けて死なないはずなかろう!?」

 

「ああ、だから属性弾は全部【閃光(シャイニング)】と神速の発動で全部避けさせてもらった。まあ、最後の大爆発は範囲が広すぎて避けようが無かったから、最強の防御力を誇る鎧で倍化した力と全霊力を注ぎ込んで防御するしかなかったけどな」

 

「まさか、あの弾幕を全て避けきったと言うのか!?ありえぬ―――………こんな事があってなるものか!!」

 

リンドヴルムは士道の懇切丁寧な説明を聞いて開いたくちが塞がらないほどの衝撃を受けた。いくら士道のスピードに特化した鎧が凄まじい速さを誇るとは言え、千に迫る数を誇る属性弾を全て避けるなど人間が為せる所業ではないからだ。

 

「実際に俺がこうやって生きてるのがいい証拠だろ?それにあの時―――確か弾幕がスローモーションに見えて、周囲の色も消えていた。だから何とか避ける事ができたんだ」

 

「貴様、明鏡止水の秘奥義―――『聖域(せいいき)』へと到達したと言うのか!?我さえ到達しえなかった、明鏡止水を完全に極めたものがさらにそれを極限まで研ぎ澄ますことで踏み込める世界へ―――………ならば、貴様の攻撃に我が対応できなかった理由も説明がつく!」

 

さらに追加の説明を聞いてさらにリンドヴルムは士道に恐怖を覚えた。士道はリンドヴルムを指差し、心を破壊するような鋭い声で士道は言う!

 

「舐めるなよ邪龍―――これが死を覚悟した人間の力だ!!」

 

この時リンドヴルムは決意した―――今日この場を持ってこの男を完全に消滅させることを。この男を生かしておいてはいけないと、リンドヴルムの全身の血がそう騒いだからだ。

 

「良かろう。ならば我が持つ最大最強の攻撃で、貴様をこの世から完全に消し去ってやる!!」

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!

 

リンドヴルムは両腕を天に掲げると―――天空を全て上塗りにするほど膨大な魔法陣が展開され、リンドヴルムの両手の上に巨大なドス黒い球体が顕現した。球体の体積はリンドヴルムの数十倍はあり、存在するだけでこの世界全体を震わせるほどの衝撃波を放っている!!

 

『リンドヴルムめ、とんでもない事をしてくれたな。あの球体は触れるもの全てを消滅させるだろう。例え相棒が「覇龍(ジャガーノート•ドライブ)」になったとしても防ぎようが無い』

 

「避けるなんて選択肢は無い、避けたらこの世界そのものが吹き飛ぶ。それに『覇龍』も無しだ、霊力が空になったら暴走を止める手段がない。それなら今ある力で足掻くしかないだろ―――こっちも最後の切り札だ!!」

 

士道はポケットからヘルメスから渡されたエリクサーを取り出し、一気に飲み干した。すると、立ち所に傷が塞がり体力と霊力も全快した。さらに、今の士道が持つ最強の威力を誇る技を出すため、再び鎧を変化させる!!

 

鎧変化(アームド•チェンジ)―――【極砲(ブラスター)】ッ!!」

 

『Change Blast Booster!!!!!!』

 

士道の鎧の体格は通常状態に戻ったが、翼に二つの巨大な砲門を隠し持った鎧に変化した。そして、それだけでは無い!業火を纏った斧の天使を顕現させる!!

 

「来やがれ『灼爛殲鬼(カマエル)』―――【(メギド)】ッ!!」

 

灼爛殲鬼(カマエル)』を顕現させ最大火力を誇る【(メギド)】の発動準備に取り掛かる。

もちろんこれだけではない!!士道はドライグに限界突破の指示を出す!!

 

『Welsh Dragon Limit Break―――Over Limit Booster Set Up!!!!!!!!!!!!!!!』

 

士道の鎧の全身の宝玉に『B』の文字が浮かび、限界を超えた倍化が始まる!!

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!!!!!!!!!!』

 

最強の邪龍と精霊を守護する赤龍帝の直接対決はいよいよ終局へと向かおうとしていた。お互いが持てる最強の一撃でこの闘いに終止符を打とうとしていた。

 

「今度こそ最後だ!消えて無くなれ、赤龍帝ッ!!」

 

「消えんのはお前だ!!喰らえッ、ドラゴン•バーニング•ブラスタァァァァァァァァァァッ!!」

 

『Spiritual Burning Full Burst!!!!!!』

 

ズビィィィィィィィィィィッッ!!

 

先に士道が己の全てを込めた極限の一撃を上空にいるリンドヴルムに叩き込んだ!!翼の二つの砲門、そして右手の砲門の計三箇所の砲門から極大の熱エネルギーのビームが放たれた。

放たれた三つの極大ビームは空中で一つに融合され、螺旋を描きながらリンドヴルムに迫る!!

 

そして、士道に向けて極限の一撃を放とうとしていたリンドヴルムに異変が起こる!!この異変には最強の邪龍も目が飛び出るほどの驚愕を見せる。

 

「な―――な、に!?」

 

顕現させたドス黒い球体がどんどん小さくなり、同時にリンドヴルムの魔力と神滅具の効力が消失してしまったのだ。そして、ドス黒い球体が維持できなくなり消滅したところに、士道の極大の一撃がリンドヴルムを飲み込む!!

 

 

 

ズドオオオオオオオオオオオッッ!!

 

 

 

士道の極大の一撃はリンドヴルムに直撃し、空中で大爆発を起こした。士道が放った一撃が消えた周辺は、次元が歪み所々万華鏡のような風景があった。

そして、しばらくして爆炎が止むと―――左腕と左足を失ったリンドヴルムが空中で佇んでいた。

 

「な、何故………我の力だけが、霧散した―――………こんな芸当ができる奴は―――………()()か。そうか、そうまでして我を―――」

 

リンドヴルムはまたセリフを途中までしか言えなかった。いや、地上いる赤龍帝を見て恐怖の余り言葉を失ったのだ。その理由は至って簡単だ―――………赤龍帝が先程と全く同じ一撃を連続で放とうとしているからだ!!

 

「こいつで終わりだ、消滅しろ―――ドラゴン•バーニング•ブラスタァァァァァァァァァァッ!!」

 

『Spiritual Burning Full Burst!!!!!!』

 

ズビィィィィィィィィィィッ!!

 

今日二度目の極大の一撃をリンドヴルムに士道は叩き込んだ。しかし、士道はこの一撃には先程のような手応えを感じなかった。

 

『………リンドヴルムめ。奴は頭に血が登った時でも冷静だ―――直撃の寸前に戦場から離脱していた。故に相棒の一撃は空を切った』

 

そう―――リンドヴルムは士道のドラゴン•バーニング•ブラスターが直撃する寸前に戦場から逃走したのだ。

士道は悔しさのあまり、拳を叩きつけた。

 

「クソッ!!リンドヴルムを完全に消滅させる千載一遇のチャンスだったのに―――………何やってんだ、俺はッ!?奴が生きている限りまた六華が狙われる、結局俺は―――」

 

『自分を責めるな相棒。正直、奴を相手に生き残れた事の方が奇跡に近い。それにこの闘いでは相棒は見事に六華を守り切った。それにしても最後の最後で奴の一撃だけが無に帰した事は俺も全く理解できん。何か特殊な力が働いたとしか考えられん。奴の中には確信があったようだが………』

 

自己嫌悪に苛まれる士道をドライグは制した。そして今度は士道の体にも反動が来る。

 

「が―――ハ、ッ!?」

 

鎧は強制的に解除され、大量の吐瀉物を士道は吐き出し地面に倒れ込んだ。この様子を後ろで見守っていた六華は慌てて士道に駆け寄る。

 

「―――士道さま!?しっかりして下さい、士道さま!!」

 

六華が体を揺するが、士道が目を覚ます事はなかった。士道に変わってドライグが六華に告げる。

 

『安心しろ六華、気を失っているだけだ。この程度で相棒は死にはしない。全く悲劇のヒロインを救ったヒーローなら勝利のスタンディングポーズをやってほしいところだが―――………新しい力にまだ相棒の体は対応できていない。カッコ悪いが今回はこれで勘弁してやってくれ』

 

「いいんです、ドライグさま………士道さまが無事なら、私はそれで。―――ドライグさま、私を救っていただきありがとうございました」

 

六華はドライグから士道の無事を聞いてホッと胸を撫で下ろし、涙を滴らせながら救ってくれたことを感謝した。

 

『俺は相棒の想いに応えただけだ。俺に礼などいらん、お前を救ったのは他ならぬ相棒だ。だから、相棒が目が覚めたその時に、今と同じ言葉を相棒にも言ってやってくれ』

 

「分かりました、ドライグさま。必ず士道さまに伝えます。そして―――帰りましょう、私たちの村へ」

 

気を失った士道を背負って六華は村へと帰っていった。この時ドライグは『感謝されるのも存外悪くはないな』と少し照れていたのは内緒にしておこう。

 

 

 




士道の新たな力―――『禁手第二段階』について。

能力は基本的にDxD原作の『赤龍帝の三叉成駒』と大体同じで、『素早さ』『攻撃力』『遠距離攻撃』『防御』とそれぞれに特化した形態移行に鎧を変化させる能力です。
そして、倍化の途中で鎧を変えた時に倍化した力を保存する能力も持ち合わせています。

素早さに特化した【閃光】
攻撃力に優れ近接戦闘に特化した【剛撃】
霊力操作に長け、遠距離攻撃を得意とする【極砲】
そして防御力極振りの【護盾】

悪魔の駒が士道には無いため、攻撃と防御を分ける必要があり、四つの変化とさせる事にしました(龍剛の戦車を攻撃と防御の二つに分けたイメージです)

※【護盾】意外の全形態は、通常状態に比較すると防御力は下がります。ですので、全形態全ての能力を有した真の最終強化形態をどこかで登場させる予定です。

最後の極大の一撃を同威力で連発できた謎は、次回に発表します。まあ多分皆さんお分かりかとは思いますが、その能力も第二段階限定です。

士道の明鏡止水の極地【聖域】は本章では今回限りの登場となります。

今後ともデート•ア•ライブ〜転生の赤龍帝〜をよろしくお願いします。

久々にお送りするドライグ先生の次回予告。

ドライグ「リンドヴルムを一時的に退けた相棒は、六華とデートをする事を決意する。次回 デート•ア•ライブ 〜転生の赤龍帝〜 『息抜きします!』精霊を守りし王よ、おっぱいを求めろ!!」

ドライグ『うおおおおおおおん!!俺はおっぱいなんぞ求めたくないのだああああああああああ!!』



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十話 息抜きします!!

こんにちは、勇者の挑戦です。

前話でリンドヴルムを一時的に退けた士道。今回はバトルシーンは無く、シリアス構成でやっていきたいと思います。

※二話分ほどの文字数になってしまいました、申し訳ございません!


士道がリンドヴルムを迎撃した裏で、次元の守護者のヘルメスとアルテミスが戦場から少し離れた山から激闘の様子を見守っていた。

 

「だぁぁぁぁぁ!疲れたー。こんな離れたとこから明鏡止水の強化魔法をかけ続けんのはキツすぎるわ。しかも、相手がリンドヴルムだから余計に悟られないようにするのが、ね………本当、一〇〇年くらい寿命が縮まったよ全く」

 

自身に纏っていた力を解除し、ヘルメスが地面に大の字で倒れ込んだ。そこにアルテミスがドリンクを手渡す。

 

「ヘルメスお疲れー」〈ホンマ、よー頑張ったわ〉

 

アルテミスからドリンクを受け取り、倒れながらそれを口に運ぶ。大仕事の後のドリンクは格別であったのは言うまでもないだろう。

………地味にオリオンもアルテミスの頭の上からヘルメスに労いの言葉を送っていた。

 

「それにしても、士道くんも末恐ろしい。いかに()()()()()()があったとはいえ、伝説の天龍クラスの邪龍を相手に一矢報いるなんてね。まさかリンドヴルムの腕と脚を吹き飛ばすなんて想像できなかったよ」

 

ヘルメスは身体を起こし、新たな力を覚醒させた士道に驚かされた。

………ちなみに、遠く離れた山からヘルメスは士道のサポートを行っていた。

士道は現時点では明鏡止水の秘奥義『聖域』を使用できるところまで到達していない。

そのため、いかに強力な力に目覚めたところでヘルメスの魔法によるサポートが無ければ、状況は好転せず士道はリンドヴルムにダメージを与える事は叶わなかったのだ。

 

結局、士道がリンドヴルムを撃退することができたのは、このヘルメスの明鏡止水の強化魔法が掛かっていたからこそだ。

この戦いに敢闘賞があるなら、それはこのヘルメスが一番相応しいだろう。

 

「ねぇヘルメス、どうして最初から士道くんにそれを掛けてあげなかったの?最初から掛けて上げていればもっと楽に戦えた筈なのに」

 

「………リンドヴルムは、グレンデルと士道くんの闘いを見ていたからね。いきなり士道くんのオーラのブレを確認できなくなると僕らの事を確実に疑う。それに、最後のリンドヴルムの攻撃をかき消した僕の切札『特攻無力化(オール•ディスパージョン)』で僕らが援護していたことに気付かれたしね」

 

ヘルメスはサポートに特化した次元の守護者だ。彼は戦闘力を有さないポンコツだが、気配を完全に消して遠く離れた場所から味方をサポートする事に関しては、次元の守護者でNo1なのだ。

 

「しかし、次にリンドヴルムが攻め込んで来るとなると、正直かなりマズいね。士道くんはこの戦いで新しい力に目覚めたけど、アスカロンを失った。それにこの魔法には厄介な制限があって、一月経過しないと連続して同じ対象には掛けられない。

それに、今度のリンドヴルムは本気で来る。今回は士道くんを舐めきっていたから神滅具だけだったけど、今度は通常の神器だけでなく固有の特殊能力を使ってくるだろう―――………まあ、僕の読みが外れてくれる事を心から祈るけど」

 

「苦戦は避けられない―――………と?」

 

「苦戦で済めば良いけどね。後は奴がこの世界を覆った厄介な結界―――………こればかりは僕たちじゃあどうしようもない。アルテミスやオリオンが真の力を解放したその時は、結界が発動して強制的に別の世界に飛ばされるからね」

 

そう、次元の守護者がリンドヴルムを討滅し損ねた理由は、この世界を覆う非常に強力な効果を持つ結界が原因だ。

この結界は神滅具『絶霧(ディメンション•ロスト)』の禁手『霧の中の理想郷(ディメンション•クリエイト)』による結界装置から張られたものだ。

結界装置の能力はリンドヴルムと同等の力を発揮した存在を別世界に強制転移させる非常に厄介なものだ。

当然だが、結界の外部からリンドヴルムと同等の力を持つ者が入り込もうとすると、別世界に強制転移されてしまう。

 

以前、ドライグに『次元の守護者が総出でリンドヴルムを叩けば、倒せたであろう?』と聞かれた時にアルテミスが言葉を詰まらせたのは、この結界が原因なのだ。

ヘルメスはさらに説明を続ける。

 

「この結界の能力はソロモンたち魔力に優れる守護者たちでも、抗えないほど強力なものだ。結界を解除の方法は六華ちゃんの時と同様に、制御装置を破壊する事だけ。僕はこの世界の全てを探したが、該当するものを発見することはできなかった。恐らく制御装置はリンドヴルムが直接持っている―――………それも戦闘で破壊される可能性が、限りなくゼロに近い方法で」

 

難しい顔で額に手をおくヘルメス。アルテミスはヘルメスの顔を覗き込み、訊ねる。

 

「ヘルメス、もしリンドヴルムが次に攻め込んで来るとしたら、いつ頃になりそう?」

 

「僕の推測が正しければ、一週間以内に消された腕と脚を復元させて襲い掛かる筈だ。リンドヴルムもこの闘いでかなり消耗したはずだから必ず回復を図る。そして禁術と神滅具『幽世の聖杯(セフィロト•グラール)』を使用して腕と脚を復元する。回復して戦闘ができるようになるまで五〜六日、士道くんが力をつける前に一気に殺すつもりだね」

 

ヘルメスは自分の推測の中で確信を持っていた。リンドヴルムは次元の守護者がいる事を、士道の覚醒させた力を完全に掌握した。

次に士道が戦う時は相当な苦戦を強いられるだろう。

 

「―――多分だけどソロモンも外から結界を破る事はしている筈だけど、リンドヴルムが持っていると思われる制御装置を破壊しないと、中に入れない事は分かっている筈だ―――それ故に士道くんを送り込んで、制御装置を破壊させるつもりだったんだろうね。彼なら結界装置の能力にギリギリ引っ掛からないからね」

 

「ソロモンもとんでもない事をしますね。士道くんには、帰るべき場所があり家族もいるというのに」

 

ヘルメスの言葉を聞いてアルテミスは儚げに空を見上げた。ソロモンに利用された士道に同情していた。

 

「―――さて、僕はそろそろ行くよ。次元の守護者の()()()で討滅し損ねたものを、部外者に駆除させるわけにはいかないからね。リンドヴルムは本来なら確実に倒す事ができていた―――………()()があの女神を復活させなければ」

 

ヘルメスが憎しげに拳を握りしめ奥歯を噛み締めた。リンドヴルムは、次元の守護者が一度戦い討滅の寸前まで追い込んだのだ。

しかし、討滅の最中に最悪の女神が復活し、その女神を滅ぼす事に次元の守護者は注力せざるを得なくなり、リンドヴルムは見逃すしかなかったのだ。

見逃さざるを得なくなったリンドヴルムにこの世界に逃げ込まれ、結界を張られ自分を討滅する可能性のあるもの全てを世界から追い出し、野望の為に六華以外の精霊が犠牲になった。

アルテミスは結界を張られる前に、この世界に潜り込んだが運悪く入った直後に結界を張られ、本来の力を出せずにリンドヴルムに敗れたのだ。

 

「ヘルメスやめましょう、それはもう過ぎた事です。私たちの今やるべき事は、どうやって士道くんを死なせずにリンドヴルムを倒すかです。彼が死ねば向こうの世界に災厄が訪れます。それだけは避けなければなりません」

 

アルテミスは自責の念に苛まれるヘルメスの頭に触れ、我に帰らせた。ヘルメスは「すまないね、取り乱した」とアルテミスに謝罪した。

 

迫り来る災難を前に士道はどう立ち向かうのか!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――◇―――

 

 

 

 

 

 

 

 

リンドヴルムを撃退した後は、六華が倒れた士道を布団に寝かせ村の修理を行なっていた。『時の砂』で壊された村の修復が済んだ後は、士道の看病にあたっていた。

 

士道は新しい力を自分の体を顧みず酷使した結果、四〇度を超える高熱を出し、呼吸が乱れていた。さらに、霊力を全て失ったため反動で負った傷は治らず、六華は傷に効く薬を調合し、士道に包帯と共に使用したが効力を発揮する事はなかった。

 

六華はひと時も士道と離れる事なく、汗を描く士道の身体を拭いたり、包帯と薬を変えたりで一睡もする事なく二日間看病にあたった。

三日目の早朝にヘルメスとアルテミスが村を訪れ、以前士道に渡した秘薬―――エリクサーを士道に飲ませると、傷が塞がり霊力が全快して立ち所に熱が下がった。

そして、三日目の深夜に士道が意識を覚醒させようとしていた。

 

「………っ、ようドライグ何日寝てた?」

 

『三日だ相棒。思った以上に「第二段階(セカンド•フェーズ)」の反動が大きくてな。三日目にヘルメスが、エリクサーを持ってきて相棒に飲ませた。それで体が一気に回復したという事だ。ヘルメスが来る前の二日間の間は六華がずっと相棒の看病をしていた。それも一睡もする事なく相棒の傍から離れる事は無かった』

 

士道は隣で眠っている六華を見た。士道の右手を握りながら正対する形で寝息を立てていて、その目もとには、くっきりと黒い模様が付いているのだ。

士道は体を起こして左手を六華の頬に伸ばし、優しく触れた。

 

「こんなになるまで………全く、デカい借りができちまった」

 

『まだ寝かせておいてやれ相棒。ヘルメスがエリクサーを飲ませた後も、六華は看病をすると言って聞かなくてな。見かねたアルテミスが「トンッ」で強制的に眠らせたのだ―――………っと起こしてしまったか』

 

士道とドライグの話し声が聞こえたのか、六華が両目を擦り体を重そうに起こした。重い瞼を開け、その眼に現実世界の光景を視界に映る。

視界に入った存在を認識すると―――………瞳に熱いものを浮かべてその胸に飛び込んだ。

 

「―――士道さま!!本当に、良かったです………目をお覚まし下さって―――………っ!!」

 

「すまない六華、随分と世話をかけた」

 

胸に飛び込んで来た六華を受け止め、その美しい黄金の髪を士道は優しく撫でた。しばらくして六華の感情が治まると、士道の胸から離れて顔を見上げた。士道の燃える闘志を宿した瞳を射抜くよう、六華は心を伝える。

 

「士道さま………私を救っていただき、ありがとうございました。士道さま、これからもずっと私と一緒にいてくれますか?」

 

「当たり前だ。約束しただろ、俺が六華の居場所になるって―――………そうだ六華、明日は時間あるか?」

 

士道は六華の想いに力強く頷いた。そして、次は士道が六華に訊ねると、六華は顎に手を当て口を開く。

 

「明日は何もありません。お父様からは士道さまに付き添うよう言われているので」

 

六華の予定がない事を知った士道は、その手を握って告げる。

 

「そうか。じゃあ六華、明日は俺に付き合ってくれ。連れて行きたいところがある」

 

「分かりました。それではもう寝ましょう士道さま、明日に備えて」

 

「ああ、楽しみにしておいてくれ―――ぐへへへへへへへ!!」

 

明日の約束を取り付けた後、二人は同じ布団で意識を精神世界へと送り込んだ。最後に士道が下品な笑みを浮かべていた事に六華は疑問符を頭に浮かべた。

そして士道はあることをするために明日は早起きをする事を決めた。そのやる事とは果たして………

 

 

 

 

―――そして次の日………

 

 

 

 

前日に六華とのデートの約束をした士道は、待ち合わせ場所で立っていた。時刻はもう正午を過ぎている―――………六華を休ませるためにあえて早朝ではなく、この時間を選んだのだ。

そして、士道は色々と準備する事があったのか、デート前に息が上がっていた。

 

「ゼェ………はぁ………ゼェ………はぁ。何とか六華との待ち合わせの時間に間に合ったぜ。急ピッチだったけど間に合って良かったぜ、ぐへへへへへへへへ!!」

 

『はぁ………しかし、よく間に合わせたな。待ち合わせには確実に間に合わんと思っていたが、相棒も日々成長していると言うことか―――………スケベは治らんが』

 

ドライグよ、それは諦めてくれ。彼のドスケベが治ってしまうとこの小説は破綻するのだ―――………っと、作品の裏話を入れてしまい申し訳ない。

士道とドライグが話し込んでいると、巫女服に身を包んだ精霊が待ち合わせ場所に駆けてきた。

 

「お、お待たせしました士道さま。では、よろしくお願いします!」

 

「よう六華。んじゃ行くか」

 

待ち合わせ場所に駆けてきた六華ちゃんは、今日はいつにも増して表情が豊かだった。そう、六華にとっては初めてのデートなのであり楽しみで仕方なかったのだ。

そして周囲に人の気配がない事を士道は確認する。

 

「………あの、士道さま何をして―――キャッ!?」

 

キョロキョロと周囲を気にする士道を見て怪訝に思った六華だったが、その理由もすぐにわかった。六華を抱き抱え天へと飛び上がったからだ。

 

「悪い六華、ちょっと遠出になるんだ。だから目的地までは空を飛んでいこうと思ってな。んじゃしっかり掴まってろよ」

 

「そうですか………じゃあ、えい♪」

 

空を飛ぶ士道に、六華は掴まる事を名目に抱きついたのだ。六華の大胆な行動に士道くん思わずニッコリ!

 

「おおっ!?これがかの有名な『TAWAWA ON MONDAY』と言うやつですか!?おっぱいが、当たって―――役得だぜ、ぐへへへへへへへ!!」

 

六華のおっぱいは士道の身体に密着していた。俗に言う『当ててるのよ』状態だ。そして、鼻血を流す事が分かっていた六華は士道の鼻にティッシュを突っ込む。

………本当にいいお嫁さんをしている六華ちゃんだ。

 

士道が空中を飛行して一○分程経つと目的地に到着していた。ここは近くの街では最も栄えているところで、士道が夕飯の買い出しやらで訪れていた場所だった。

 

「………ここですか士道さま。ここなら来たことが―――」

 

「ああ、確かに三回くらい買い物で来たっけか。でも今日は特別でな、祭りがやってるらしくてな。ほらいこうぜ」

 

士道は近くの丘へ着地すると、六華を降ろした。そして、次は士道くんが仕掛ける!降ろした六華の肩を掴み、寄せたのだ………もちろんおっぱい目当てで。

 

「あ、あの士道さま!?そ、その………これはさすがに、恥ずかしいです」

 

「気にしなくていいぞ六華、俺たちの世界では仲の良い男女はこうやって歩くんだ。だから何の問題も無い」

 

えっへんと胸を張る士道に顔が真っ赤になる六華。この街の男どもに「どうだ、俺の超絶美人な彼女はよぉ?」と自慢する気満々である。

そして、抱き寄せた六華のおっぱいが士道の胸に当たっている―――士道の狙いはこれだ、この状態なら歩く時に揺れる六華のおっぱいの感触を十二分に楽しむことができるからだ!!

しかし、士道の相棒は嘘を許さない!

 

『六華よ心配しなくても相棒の話は嘘だ。相棒の世界でも、こんなバカ丸出しな事をやるカップルはいない。せいぜい手を繋ぐなり、腕を組むくらいだ』

 

「やっぱり嘘だったのですか!?」「ドライグお前ちょっと黙ってろ!!」

 

乳ネタで毎度毎度神経をすり減らされるドライグ。嘘がバレた事で士道は六華を解放した。しかし、ズーンッ………という効果音が聞こえるほど気を落とす士道を見かねたのか、士道の腕に六華が抱き付く。

 

「士道さま、これなら私も我慢できます………これで良いでしょうか?」

 

「六華―――お前は天才か!?これなら揺れるおっぱいの感触を楽しめる!!」

 

先程の肩を抱き寄せられる状態と異なり、これならまだ六華も歩きやすい。

そして、村でも恋仲になった男女が腕を組んで歩いている所を見て、六華も意中の相手と腕を組んで歩くことに憧れがあったのだ。

 

「んじゃ、いこうぜ六華。祭りを楽しもうか」

 

「はい!」

 

暫く歩くと、士道と六華がよく買い物をする広場に着いた。しかし、今日の広場はいつもの広場と異なり、沢山の出店や提灯などの飾り物で賑わっていた。

 

「六華、あそこに六華の好きな饅頭が売ってる―――食べるか?」

 

「はい!食べたいです!」

 

士道は饅頭を売ってる出店に行き、饅頭を二つ購入した。そして近くのベンチに座り、買ったものを口に運ぶ。

 

「士道さま、今日祭りがある事をなぜ知っていたのですか?」

 

「この間買い物行った時に、ここの魚屋のおっちゃんから祭りをやる事を教えてもらってな。六華と行けたらいいなと思ってさ、いやー叶って良かったぜ」

 

「―――っ」

 

士道の言葉に耳まで真っ赤に染まる六華。好物の饅頭を味わう事なく一口で食べてしまう程だ。気恥ずかしさ半分嬉しさ半分といったところだ。

それから饅頭を食べ終わるとまた、腕を組んで祭りを楽しむべく歩き始めた。

 

「士道さま、アレを」

 

今度は六華が射的の出店を指さした。出店の景品を見ると、ぬいぐるみやら駄菓子やらが規則的に置かれており、六華がご所望の品はドライグそっくりな2Lのペットボトルほどの大きさのぬいぐるみだった。

 

「任せろ六華―――おっさん、これでやれるだけ頼む」

 

「はい、毎度あり」

 

パンッ!パンッ!

 

士道がプラスチック銃を二発打ち込むと、ぬいぐるみはグラグラと揺れて地面へと落下した。ドライグそっくりなぬいぐるみは無事六華へと渡った。

………ちなみに、余ったお釣り分は景品として駄菓子に変えてもらった士道くんだった。

 

「ありがとうございます、士道さま」

 

「おう―――って六華!?何処にしまい込んでんだ!?」

 

六華ちゃんは満面の笑みで士道からぬいぐるみを受け取ると―――お胸の谷間に突っ込んだ。これを見た士道くんはぬいぐるみを睨み付けていた。

 

「おいドライグもどき、いやドライグ―――テメェ今すぐ俺と変わりやがれ!聞こえてんのか!?テメェ一人だけ六華のおっぱいを味わってんじゃねえ!!」

 

『うおおおおおおおおおおおおんんっっ!!』

 

六華の谷間でサンドイッチされているぬいぐるみに、士道くんは羨望の涙を流して変わる事を要求した。そして、そのぬいぐるみをドライグ呼ばわりされた事で、相棒のドライグは涙の大洪水だ。

士道が羨望の眼差しで血の涙を流す様子を見て、六華はモジモジと体を揺らしながら小声で呟く。

 

「士道さま、その………そんなにして欲しいのなら、村に帰ったら、………その寝る前にしてあげます………」

 

「―――おい六華ちゃんと聞いたぞ!!絶対だぞ!?今の言葉録音したからな!!寝る前に絶対ドライグとおんなじ事してもらうからな!!」

 

六華の極上特大おっぱいでサンドイッチをしてもらえる事を知った士道くんは、ルンルン気分ではしゃいでいた。ちなみにスマホの録音は六華が小声で言ったことも完璧に録音されていた。

録音されていた事を知った六華は、士道のスマホへと手を伸ばす。

 

「録音してたんですか!?―――け、消してください!!」

 

「断る、断あああああああるッ!!あ、でも―――六華が今ここでしてくれるなら、消してやっても良いぜ!さあどうする六華!?」

 

「わ、分かりました!でも、村に帰ってからですからね!?もう、士道さまったらエッチです………」

 

「ハハハハハハ!なんとでも言え、俺とドライグはエロエロだぁ!」

 

『それは相棒だけだ!!うおおおおおおおおおおおおんんっっ!!』

 

士道は顔を真っ赤にしてモジモジする六華に少し悪戯心が働いてしまった。そして………六華は気付いていないようだが、街に着いた時から士道は尾行されている事に気付いていた。

尾行しているものは、隙を伺っているのか中々行動に移そうとしなかった。

 

「さて六華、次はどこに行きたい?」

 

「花火を観たいです。あ、でもこの時間では上がらないでしょうか?」

 

今度の六華ちゃんは花火を御所望のようだ。ちなみにまだ太陽が燦々と輝いている。夜でもない限り花火は難しいだろう―――と思ったものは多いのではないだろうか?しかし、この男は精霊の力を操る赤龍帝だ。昼間でも汚い花火をあげる事は簡単である。

 

「任せろ六華、俺が特大の打ち上げ花火を上げてやる!!来やがれ『灼爛殲鬼(カマエル)』、『氷結傀儡(ザドキエル)』ッッ!!」

 

バチッ、バチッ、バチチチチチチチッ!!

 

士道は右手に炎を左手に氷を顕現させ、両腕を合わせた。そして、合わせた両腕から弓のようなものが現れ、士道は腕の片方を引きグレンデルでもダメージを受けそうな威力を誇る弓矢を顕現させ、大空へと狙いを定める。

 

『相棒、本気か?ここでその汚い花火を打ち上がると―――街の大半が衝撃波で吹き飛ぶぞ………まあ、精霊がご機嫌斜めで発生させる空間震に比べればかわいいものだが―――』

 

ドライグの助言を聞いた六華は慌てて士道の前に立ち塞がる!!そして士道に花火を打たせないよう説得に入る!!

 

「士道さま、やめて下さい!!今すぐに!!」

 

「なんだいいのか六華、これで花火は上がるけど―――」

 

「街を吹き飛ばしてまで観たくはありません!!」

 

六華の全力の説得で、士道は両手に纏った力を消失させた。それからは、士道と六華は片っ端から出店を制覇していった。

 

◆まずはくじ引き

 

「クソッ全部ハズレかよ!?」

 

士道くんは五回試して全部ハズレ。景品は駄菓子だった。

しかし六華は―――

 

「あ、一等が当たりました!」 「「だ、だにぃ!?」」

 

店主と士道の驚愕の声が重なった。景品は全自動の掃除機だった。

 

◆続いてスーパーボールすくい

 

「溜めて解放―――ホイホイホイッ!ホイホイホイホイホイホイッ!!」

 

「見てみてお母さん、あのにーちゃんパネェ!」

 

「………っ、まさか!?」

 

目にも映らない凄まじい速さで、士道の洗面器にスーパーボールの山ができていく!!しかし、士道のスーパーボールを救うアミはまだ全く破れていない!!

六華は精神を統一し、士道の手の動きをじっくりと観察した―――………そして士道のトリックがわかった六華は悲鳴を上げる!!

 

「士道さま、アミの部分全く使ってませんよね!?」

 

「スーパーボールすくいで『アミの持つ方で球をすくっちゃいけない』なんてルールは無いからな。ルールがない以上気にしたら負けだ。ホイホイホイホイッ!!」

 

「………」

 

店員も言葉を失い、打つ手がなかった。結局士道くんは涼しい顔をしてスーパーボールを全てすくいきった。そして、次の客から『アミですくってください』という看板が建てられていた。

 

◆また続いてパンチングマシーン

 

士道は心を無にして精神を統一していたそして―――………

 

「スーッ………ハーッ―――………退いてろ―――でええやッ!!」

 

ドオオオオオオオオオオオオオオッッ!!

 

『………………』『オオッ、スッゲー!!パンチングマシーン壊したぞあのにーちゃん!!』

 

振り抜いた拳がパンチングマシーンを置いた台ごと吹き飛ばし、木っ端微塵にした。

その光景を見ていた周りの人は目が飛び出し、何人かは顎まで外れるほど驚愕していた。大人と違い子供たちは大はしゃぎだった。

 

「………………」

 

衝撃のあまり六華ちゃんも思わず言葉を失う。ちなみにパンチングマシーンは士道が『刻々帝(ザフキエル)』の【四の弾(ダレット)】できちんと修復してから、お店の人に返した。

 

◆またまた続いて腕相撲No 1決定戦

 

「おっぱいドラゴン舐めんなよ―――おおらっ!!」

 

「ぎゃあああああああ!?」

 

(………………士道さまが負けることの方が、無理があるのでは?)

 

士道くんどの試合も秒殺のノックアウト勝利。これは六華も予想通りだった

お立ち台ではドヤ顔で勝利のスタンディングポーズ(勝って当たり前だが)

―――しかし、優勝者への景品はとても六華が納得できるものでは無かったのだ。

 

 

 

 

それは―――………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「優勝者には、この街一番の美女からのキスが進呈されます!!」

 

「やったぜ!」「はああああああ!?」

 

頬を染めて士道が好きそうな大人のお姉さんが上がって来た。街で一番と言われるだけあってかなりの美人だった。これには六華ちゃん激おこだ!!

 

「おおっと!?これは修羅場になりそうな予感です!!派手な衣装を纏った少女が優勝した少年の首を絞めた!!」

 

お、オイぃ、クソレフェリー助けろやぁ………六華っ、どうして………」

 

霊装を纏ってお立ち台に登った六華に首を絞められる士道くん。六華ちゃんは夫を汚される事が許せなかったようだ。

 

「浮気は許しません!!」「んごおおおおおおお!!」

 

『ハハハハハハハハハハハハ!!』

 

浮気ダメ絶対。士道の首を締めながら、六華はお立ち台から姿を消した。ちなみにこの光景は街の人たちは微笑ましい光景で笑いと拍手を送っていた。

ちなみに、優勝者へのキスは士道の決勝戦の相手へと進呈されたのはまた別の話だ。

 

一通り街の出店を制覇した頃には、お月さまが登り始める時間となっていた。士道と六華は近くのベンチに腰を下ろした。

 

「し、死ぬかと思ったぜ………」

 

首を絞められた士道くんは、ゼェハァと息が上がっていた。しかし、これは自業自得だ。大切な彼女を放っぽりだして、美女のキスを受けようとしていたのだ………当たり前である。

 

「し、士道さま―――………その、今は私だけをみてほしいのです。士道様はもう私の恋人、なんですから………」

 

「―――………っ!!ごめんな六華、嫌な思いをさせた」

 

頬を膨らませてプイッと顔を背けた六華を士道は優しく抱き寄せ、美しい黄金の髪を撫でた。しかし、六華ちゃんはまだご機嫌斜めだ。

 

「もう………抱き寄せれば良いってわけじゃありませんよ士道さま」

 

「悪かったって………ごめんな」

 

約五分ほど六華を肩に抱き寄せると、少しずつ六華の気分も紛れてきた。そして、士道たちの後を尾行していた少女が行動を起こす!!

刃を突き立て、死角から休憩する士道を目掛けてもう突進をかます!!

 

「―――お嬢ちゃん。そんなに殺気が漏れてちゃ、殺せる奴さえ殺さなくなるぜ」

 

「っ!?キャッ!!」

 

刃を突き立ててきたのは、六華と同じ巫女服に身を包んだ琴里と同じ年齢くらいの女の子だった。士道は刃を持つ方の腕を掴み、足払いをかけて地面へと組み伏せる!!

その女の子は士道に組み伏せられても諦めない!!

 

「離せこの変態!!六華さんの胸をヤラシイ目で見つめて!!お前のような変態は六華さんに釣り合わないッ!!」

 

「おっ、この嬢ちゃん中々元気が良いじゃねえか!」

 

朱奈(しゅな)!?あなた士道さまに何を!?」

 

士道に組み伏せられた少女の名前は朱奈と言うらしい。栗色の髪と瞳、細っそりとスレンダーな体躯、胸も発育途中で六華と同じ巫女服を纏った元気一杯の女の子だ。

六華は組み伏せられた朱奈の前まで駆け、腰を下ろした。

 

「朱奈、士道さまに謝りなさい。いくらお父様の()()でも罪のない人を傷付ける事を私は許しませんよ。それからこの士道さまは私の恋人です」

 

「こ、こんな変態が六華さんの恋人!?う、嘘ですよね!?」

 

「嘘ではありません。それに士道さまは伝説のドラゴン『乳龍帝』と契約した英雄で、私と村を何度も救っていただきました。朱奈、士道さまに謝罪を」

 

『ぐっはあっ!?』

 

襲いかかって来たのは、六華の父親の孫娘だったようだ。ちなみにだが、五季と六華は精霊であるため血は繋がっていない。

六華の父にも血の繋がった娘がいて、この街の男と結婚して現在はこの街に住んでいるのだ。ちなみに血縁がある娘もかつての村の守り巫女だったため、この朱奈も巫女服を着ているのだ。

 

〈V!IV!III―――これはダメね、ベルザード〉

 

〈ああ。ドライグの野郎、白目になって泡吹いてやがる〉

 

ちなみにドライグは六華に乳龍帝呼ばわりされ、盛大に吐血!!痛恨の一撃がドライグを襲いダウンさせた。

 

神器の奥底ではエルシャとベルザードがカウントダウンをしていてが、ドライグが起き上がる事はなかったらしい。

 

「ご、ごめんなさい………」

 

「気にしてねえよ。六華、久しぶりに家族と会ったんだ、積もる話もあるだろうから………この辺りで休憩するか、お菓子もあるし」

 

士道は射的のお店でもらった景品のお菓子をカバンから取り出した。三人で食べるには多過ぎるくらいにはある。

 

「そうしましょうか。朱奈も食べて良いですよ」

 

「やった、ありがとう六華さん!」

 

むしゃむしゃとお菓子を頬張る朱奈。景品の中に好きなお菓子があったらしく、満面の笑みで食べていた。

 

「そう言えば六華さん今日はどうしてこの街へ?いつもは村で結界の維持やら薬の調合やらで、最近全然来れなかったのに」

 

「今日はたまたま時間をいただけました。そこで士道さまから一緒にお出かけしないかと言われ、街まで足を運びました」

 

六華の言葉に朱奈は士道を見た。朱奈は士道のことを見定めていた時、士道も朱奈の方に顔を向け目線があった。そこで士道が口を開けた。

 

「朱奈は、六華のことが好きか?」

 

「ええ、好きですよ。多分変態さ―――士道さんが思ってる以上にはね」

 

朱奈はまだ士道のことを変態さんと言おうとしていた。士道は一瞬「怒るぞ?」と言いかけたが我慢した。そして今度は朱奈が士道に訊ねる。

 

「………士道さんは六華さんのどこが好きになった―――「おっぱい」って即答!?やっぱりただの変態じゃない!?」

 

「そりゃあ、俺だって男だ。おっぱいを好きじゃない男なんざいないからな。それからむっちりとお尻に、引き締まった腰、艶々と輝きを放つもちもちとした太腿!そして、何よりもたわわに実った柔らかさと弾力がぶっちぎりのおっぱい―――ぐへへへへへ!!」

 

士道くんの回答を聞いた朱奈は六華を掴んで大きく揺らす!!

 

「六華さん、この変態とすぐに別れて下さい!!街の良い男紹介しますから―――ってなんで六華さん嬉しそうに顔真っ赤にしてるんですか!?」

 

「ち、違うのよ朱奈!こ、これは恥ずかしいからであって―――その、別にそう言われたのが初めてで嬉しいからってわけじゃなくて………いやもちろんそれもあるんだけど―――」

 

「重症じゃないですか!?この変態に何されたんですか!?」

 

六華ちゃんも重度の域まで士道くんに侵蝕されているようだ。モジモジと恥ずかしそうにする六華の様子を見て驚愕する朱奈。ドタバタとしていた時、グヘグヘと下品な笑みを浮かべていた士道も、でもと続ける。

 

「俺が六華を好きになった理由は、誰にでも優しくて、一生懸命になれるところさ。朱奈、俺はあの村よりももっと遠いところから来てさ、村の近くで倒れていたところを六華に助けられたんだ。村での生活は俺がいたところとは、全く違うから分からないことだらけでさ。俺が助けられた時は、村に『外部から来た人間を入れちゃいけない』なんてルールもあったくらいだったのに」

 

「当然です六華さんの優しさは、宇宙一ですから!」

 

「ロリおっぱいが弾―――いでででででで!!悪かった六華!!」

 

士道の言葉を聞いて朱奈はえっへんと胸を張った。その時、発育途中のロリおっぱいが微かに弾んだ事に目を奪われだ事が六華にバレ、頬をつねられたがそれでも話を続ける。

 

「いつもよそ者だった俺が退屈しないように、話を作ってくれたり、村での仕事とかを手伝ってくれたり、うまい飯を作ってくれてさ。俺は村での生活を通して六華は俺にとって代りの効かないものになっていった。この前も村を悪いドラゴンが襲って来て、なんとか撃退はできたんだけど傷が深くて死にそうになった俺を、必死で看病してくれてさ。ほんと感謝しかないんだ」

 

朱奈は一つ疑問に思っていた事があった。それを士道に訊ねる。

 

「今の話で士道さんがとんでもない力を持ってる事はわかった。でもそれなら()()()()()()を助ければ、死にそうにならなくても済んだんじゃないの?撃退しなくても六華さんだけを連れて逃げれば、もっと楽だったんじゃないの?」

 

「確かに六華だけを守れば良かったなら俺も凄い楽だわ、それは否定しない。でも朱奈―――仮にとんでもない敵が村を襲って来たとして、俺が六華を気絶させて逃げたとする………それで六華が納得すると思うか?」

 

「―――っ!!」「………っ」

 

士道の言葉に朱奈は目を見開き、六華はその言葉に微笑みを浮かべた。士道はさらに続ける。

 

「朱奈、助けるとはそういう事だ。その身を守ってやる事と心の拠り所を守ってやることだと俺は思っている。あの村は六華にとって無くてはならないものだ、それを見捨てて逃げたとなると六華は心に深い傷を負う。それを助けたとは言わない、心の底から『ありがとう』って言われて初めて助けた事になる―――そう思わないか朱奈?」

 

「朱奈、少しは士道さまを理解してくれましたか?」

 

朱奈も士道の言葉で完全に理解をした。なぜ六華ほどの女性がここまで心を開くのかと言う事を。そして士道の言葉を聞いて誇らしげに笑みを送る六華の姿をみて少し羨ましく感じた。

朱奈はベンチの上に立ち上がり、士道に人差し指を向ける。

 

「そこまで言うなら、絶対に泣かすんじゃないわよ。もし六華さんを泣かせたら即刻、恋人の座から降りてもらうから!」

 

「手厳しいなこりゃ………でも、それは必ず約束するよ」

 

朱奈との話が終わる頃には夜の帳が下りていた―――そして、六華が願っていたものが青空で展開される!

 

ドオンッ!ドンドンドンッ!!

 

「おっ、花火が上がってんじゃねえか!良かったな六華、願いが叶ってよ」

 

「ええ」

 

夜空に上がる花火を士道と六華は手を繋いで眺めていた。二人が花火に夢中になる頃には、既に朱奈の姿が消えていた。

 

(全く、あんな幸せそうにしている六華さん初めて見たわよ。アイツが恋人なら問題なさそうね―――………幸せになってね六華さん、五季さんの分までね)

 

朱奈は離れたところから二人の様子を見守っていた。二人の時間を六華へと返して自分は家へと帰っていった。

花火が完全に終わった事を確認すると、士道と六華は村へと帰って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――◇◆―――

 

 

 

 

 

 

 

「………うっ、ぐっ………」

 

光の入らない地下の洞窟で、自分の体に幾重にも魔法陣を展開する漆黒の龍がいた。その漆黒の龍はリンドヴルムだ。

先日の士道との戦闘で手傷を負わされ、傷の修復を行なっていたのだ。

 

「『超識天(ラジエル)』っ」

 

リンドヴルムが殺した精霊の天使を呼び出すと、タロットが現れ空中に顕現する!!タロットは縦横それぞれ三つずつで正方形を取ると、そこにある人物の映像が転写される。

 

「なんだこの男は?我は五河士道の情報を知ろうと―――む、そう言うことか!!こんな事があろうとは、我もこんな現象を見るのは初めてぞ!!ふむふむ―――………やはり、次元の守護者が送り込んだ刺客であったか」

 

リンドヴルムがタロットの天使に映し出させたのは、士道だったのだ。次の戦闘にあたり、何か士道の弱みを付けないか探っていたのだ。

 

「この分ならこの男は簡単に籠絡できよう。これであの精霊の力は我のものぞ―――クククククク、ハハハハハハハハハハハハ!!」

 

悪意はまだまだ健在であった。リンドヴルムはどんな手で士道を籠絡にかかるのか!?

 

 




シリアスなんて―――………無かった。

次回予告

士道「チッ!リンドヴルムがまた性懲りもなく来やがった―――今度は、巨大な金獅子まで引き連れてかよ!?」

リンドヴルム「赤龍帝、我と取引をせんか?」

士道「ドライグ、やはりリンドヴルムは手強い―――アレで確実に仕留めよう。これ以上長引かせるのは危険だ」

ドライグ『次回 デート•ア•ライブ 〜転生の赤龍帝〜「我目覚めるは―――」
 精霊を守りし王よ、勝者となれ!!お楽しみに〜』

☆おまけ(本編後のハイライトです)

六華「士道さま、お出掛けの前に少々疲れているように見えましたが………何がありましたか?」

士道「いやー、街の近くの山に温泉掘ってたんだよ。そろそろ俺たちお互いの事をもっと深く知る必要があるじゃん?ほらそう言う時はさ、やっぱ温泉だろ?」

グヘグヘ!と下品な笑みを浮かべ、卑猥な手つきで六華の体をなめ回すような視線で見つめる。約二週間と士道と過ごした六華も流石にわかるようになってきた………危険が迫っている事を!

六華「し、士道さま………さ、さすがに男女別―――」

士道「何言ってんだ六華、混浴に決まってるだろ?山の温泉は一つしかねえんだ。だから一緒に入るしかねえよなぁ!?仲の良い男女は一緒の温泉に入る、当たり前だよなぁ?」

六華「あ、当たり前じゃありません!!あ、あの士道さま―――………わ、私に温泉に入らないと言う選択は―――」

士道「何言ってんだ六華、返事は『はい』か『YES』のどちらかだ。さあ、俺と一緒に入ろうじゃないか六華!!その体、隅々まで手入れしてやるからよおおおおおおおおお!!おっぱいやら尻やら触らせろおおおおおおおお!!」

六華「結局それが目的ですか!?も、もう!!士道さまのドスケベ!!」

士道「俺たちはもう『恋人』なんだろ六華。恋人なら楽勝だ!」

六華「そ、そう言う問題ではありません!!ドライグさま、士道さまの世界でも恋人は同じお風呂に入るのですか!?」

ドライグ『六華もう俺に話を振らないでくれ、俺のライフはもうゼロだ………うおおおおおおおおおおんんっっ!!』

六華「ドライグさまああああああ!!」

士道「ぐへへ、ぐへへ、ぐへへへへへへへ!!さて邪魔者は消えた、温泉だあああああああ!!」

士道は神速を発動して、六華を抱きかかえ温泉を目指して空を駆けた。道中、六華の激しい抵抗があったが、結局二人は花火を見ながら温泉を楽しんだ。


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十一話 「我、目覚めるは―――」

こんにちは、勇者の挑戦です。

はい、みなさんお気づきの通り、復活のリンドヴルムです。

ヘルメスのサポートなしで士道は勝つ事ができるのか!?

※すみません、また二話分ほどの文字数になりました。


六華とのデート後、士道は村の近くで明鏡止水の修行を行っていた。

村を守護する結界の制御魔法陣を内包する大神殿の手前には、大きな滝があり士道はそこで、明鏡止水の極地を目指して修行をしていた。

 

「―――ハッ!!」

 

ドオオッ!!

 

士道は手首を立て、滝に気合を放つ!その瞬間、流れ落ちる水に大穴が空き、水飛沫が発生する!!

発生した水飛沫を見て、士道は神速を発動させ拳を振り抜く!!

 

「―――ハアッ!」

 

ズドドドドドドドドッ!

 

士道は迫り来る水飛沫を片っ端から吹き飛ばしていく!!拳だけでなく、蹴も使って粉微塵に吹き飛ばした。

ここまではいつもの修行だ。士道は拳と蹴を連続で放ちながら、さらにその先の世界を見ようとさらに視線を鋭くさせる!!

 

「――――――」

 

士道が視線を鋭くさせると、視界内の色が消えて飛んでくる水飛沫のスピードがさらに落ちた。そこから士道は再び水飛沫を破壊しようとした―――その時だった。

 

「う、ぐっ―――ッ!!」

 

士道が拳を突き出そうとした瞬間、脳内を激痛が突き抜けた。士道は頭を押さえ膝を折った。士道が膝を折ったその時、士道の視界に色が戻り、スローモーションになった水飛沫も通常の速さに戻り、水の中へと落ちていった。

士道は肩で息をしながらも、腕と脚に力を込め立ち上がる。

 

『相棒―――大丈夫か!?病み上がりで身体も本調子ではない。これ以上は―――」

 

「大丈夫だ。あと少し、あと少しなんだ。後はさっきの状態で攻撃を放てるようになれなきゃリンドヴルムは倒せない!!休んでいる暇はない………もう一度だ」

 

士道はドライグの静止を聞く耳を持たず、息を吸って腰を落とす。視線を鋭くしようとしたその時、背後から迫り来る気配を察知し、旋回しながら拳を振り抜く!!

 

ズドオオオオオオオオオオオッッ!!

 

振り抜かれた拳は士道の背後にある人物の前で静止していた。さらに、士道が振り抜いた拳は凄まじい衝撃波を纏って周囲の森を揺らし、川を割るほどのものだった。

 

「し、死ぬぅぅぅぅぅ!!ねぇ士道くん、僕を殺す気かい!?キミを助けに来たこの僕を!?」

 

士道の背後に迫ったのは次元の守護者ヘルメスだった。ヘルメスは顔面の前で静止する拳を見てひっくり返った。それもそうだ、いきなり周囲の森を揺らし、川を割るほどの衝撃波を放つ拳が顔面に現れればこうなる。特に大した戦闘力を持たない守護者ともなるとこうなるのが必定だ。

 

「ああ、ヘルメスさんでしたか………見た事もない気配だったので、一応牽制のつもりで放っておきました」

 

「ねぇ士道くん、僕だってわかってたよね!?僕の気配だってわかってたよねぇ!?お兄さん気配を誤魔化す魔法かけてないから!!」

 

「それは日頃の行いですよ、勝手に人の転生前の日常を面白おかしく作品にするような奴には―――お仕置きが必要だとは思いませんか?」

 

「―――あああああんまりだああああああ!!確かに僕はキミの過去を作品にした。でも、僕が面白おかしくしたのはキミの相棒だけのに!!」

 

ヘルメスはついに自らが出した著書『ハイスクールDxD』について認めた。ちなみにだが、その作品ではドライグがマジもんの『乳龍帝』として描かれている。主人公であるイッセーの夢の中に夜な夜な出てきては、リアスやアーシアのおっぱいについて毎晩語り合うほどの変態ドラゴンとして読者から認識されているのだ!!

おまけに狂三の分身体である『くるみん』もこの本の愛読者で、以前「ドライグさんもおっぱいはお好きなんですの?」と聞かれ、ドライグは血の涙を流してブチギレたこともあった。

ヘルメスが認めた事を確認した士道は、最強の攻撃力を誇る【剛撃(カイザー)】の鎧を纏い、拳を引き上げる!!

 

「ちょっ、士道くん!?その鎧は―――その形態だけは本当にシャレになってないから!?一発殴られただけでもミンチになるから!!」

 

「―――悪い守護者にはお仕置きが必要だべぇ」

 

一切の慈悲を与える事なく、引き上げた拳をヘルメスに向けて振り下ろす!!

 

「おお、お助け下さいいいいいいいい!!」

 

ドオオオオンンッッ!!

 

振り下ろされる拳を見て、腰が抜けて動けなかったがその拳はヘルメスに当たる事はなかった。何故なら、士道の拳はヘルメスの顔面ではなく、彼が腰を下ろした一メートル右をぶち抜いたからだ。

 

「………それで、何しにきたんですか?ただ俺の様子を見にきただけじゃないですよね?」

 

「最初にそれを聞いてよ士道くん!!僕本当に殺されると思ったんだから!!」

 

色々と忙しいヘルメスである。士道が鎧を解除した事を確認して、ヘルメスはポケットから何かを取り出す。それは士道がよく知るアイテムだった。

 

「キミも知っての通り、リンドヴルムはまだ生きている。そして、近いうちに必ず六華ちゃんの『霊結晶(セフィラ)』を求めて襲いかかる。今度のリンドヴルムは神滅具(ロンギヌス)だけじゃなく、精霊の天使も使ってキミを攻撃してくるだろう。だから、せめてもの安全策だ」

 

ヘルメスは再びエリクサーを士道に手渡した。士道はそれを受け取ると、頭を下げる。

 

「わざわざありがとうございます。それから―――心配しなくても、俺は必ずリンドヴルムを倒します。そして、六華の幸せを守ってみせる」

 

「………良い答えだ。キミならそう言ってくれると信じていた。それじゃあ僕はこれで失礼するよ。士道くん、この世界の命運はキミ次第だ。僕が力になれるのはこのくらいだ」

 

ヘルメスはそれだけを言い残して、何処かへと消えた。そして、士道は再び明鏡止水の修行に励むのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――◇―――

 

 

 

 

 

 

「―――ッ!!遂に来やがったか………もう一日あれば『聖域』とやらに入れたと思うんだけどな………」

 

『この辺りは本当に抜かりがない。相棒が力を付ける前に殺す事を選択したか………しかし、リンドヴルムのオーラが以前より弱い事が気になる。もしや、傷が完治せぬまま襲ってきたのか?

いや、「聖域」に至っていない相棒ならこの状態でも倒せると踏んだか』

 

六華とのデートから二日経った日の朝だった。士道は目を覚ますと、瞬時に鎧を纏って村の上空へと飛び上がる。

既に六華は士道が鎧を纏って飛び出した事を見た瞬間に、村の人を大神殿へと避難させた。

 

「士道さま、この禍々しいオーラは………」

 

「ああ―――リンドヴルムさまのお出ましだ」

 

空中で佇む士道と六華の目の前に、漆黒の魔法陣が召喚されると―――リンドヴルムが姿を表した。

今度は強力なボディーガードに黄金の獅子を引き連れて………

それを見た士道と六華は身構え、戦闘態勢へと移行する。しかし、リンドヴルムはオーラを抑え士道を指差した。

 

「赤龍帝、我と交渉をせんか?」

 

「何―――俺と、交渉だと?」『相棒、警戒を解くな!』

 

リンドヴルムから意外な言葉が飛び出し、思わず士道は油断しそうになった所をドライグに諌められる。

士道は巨大な黄金の獅子を見ながらリンドヴルムの真意を訊ねる。

 

「交渉するって言う割には、また随分物騒な手下を連れて来たじゃねえか。まるで交渉を承諾しなければお前を殺す―――そんなんで交渉ができるとでも思ってんのか?」

 

「ハハハハハハ!これは貴様への見上げぞ。我の交渉を承諾するなら貴様にくれてやる。そうまで気にするなら、消してやるわ」

 

リンドヴルムがパチンッ!と指を弾くと、黄金の獅子が魔法陣と共に姿を消した。それを見た士道は鎧を【剛撃(カイザー)】へと変化させ、拳を握りしめる!

 

「交渉は決裂、以上だ―――ハアッ!!」

 

パシッ!

 

士道は渾身の一撃をリンドヴルムに叩き込むが、その拳はリンドヴルムの手で受け止められてしまう!

 

「もういっちょだ―――オラッ!!」

 

パシッ!

 

これももう片方の手で受け止められる。ここから士道が倍化を始めようとした時、リンドヴルムがため息を漏らす。

 

「落ち着け赤龍帝、我もバカではない。貴様が納得するカードがあるからこそ我は言っている―――とりあえず離れてもらうぞ」

 

「ぐっ!?」「士道さま!?」

 

リンドヴルムは士道の胸部に蹴りを叩き込み、士道を元の場所へと戻した。六華が心配そうに歩み寄ったが、士道はそれを手で制す。

 

「よく見ておれ赤龍帝―――ハッ!」

 

ズオオオオオオオオオオオオオッッ!

 

士道が離れた事を確認すると、リンドヴルムは素手で次元を切り裂いた。リンドヴルムの隣には、人が入れるほどの穴が空いており、穴の先には万華鏡のような空間―――通称『次元の狭間』があった。

リンドヴルムが指輪を光らせると、士道をオレンジの箱が包み込んだ。

 

「これは我が殺した精霊が持っていた天使『制空天(メタトロン)』ぞ。空間を固定化し、次元の狭間の『無』にも対抗できる手段を持つ天使ぞ。赤龍帝、我が貴様を元いた世界に返してやる。そして、貴様の世界に金輪際関わらない事を誓おう」

 

「………」「………っ!!」

 

リンドヴルムの提案に士道は何も言わず、ただ様子を伺っていたが、六華は違った。六華は全身から嫌な汗が噴き出していた。

汗を噴き出す六華の姿を見たリンドヴルムは口の端を釣り上げ、続ける。

ここからはリンドヴルムが受けるものを士道に伝える。

 

「ただし、そこの精霊は我に殺させてくれ。我はそこの小娘の『霊結晶(セフィラ)』に用がある。いかに貴様が精霊を救う赤龍帝とはいえ、元いた世界で待つ貴様の家族と、こんなお荷物では釣り合うまいて」

 

「………」「―――ッ!!」

 

リンドヴルムの狙いは六華の『霊結晶(セフィラ)』。五季と六華の合計二つの『霊結晶(セフィラ)』が御所望のようだ。士道は聞く前から知っていたようなそぶりをしている。

しかし、六華は心臓を鷲掴みにされたような状態だった。

 

「我は貴様の事を全て調べ上げた。我が貴様の現状を教えてやろう―――貴様は次元の守護者に我を討滅させるため、この世界に送られた。貴様は利用されたのだ。だから、貴様がそこの精霊を諦めてくれるのであれば、我が元の世界に戻してやっても良い」

 

「………なるほど。やっぱりリンドヴルム、お前は馬鹿じゃないらしい」

 

「………っ」

 

リンドヴルムの言葉を聞いて、六華の胸に激痛が走った。このまま士道が元の世界に戻った時のことを考えると震えが止まらなかった。五河士道という存在はもう、六華にとっては無くてはならない存在―――全ての生きる者には太陽が必要なように………

六華自身もいずれ士道が元の世界に帰ることは分かっていた。その時には自分も一緒に着いていくことを決心したが、それは叶わないことを悟ってしまったのだ。何故なら―――リンドヴルムの狙いは六華の『霊結晶』だからだ。

士道は隣にいる六華に視線を向けると―――その両頬には一筋の流れ星が零れ落ちていた。それを見た士道は苦笑いを浮かべため息を吐く。

 

「―――六華、俺の言葉ってそんなに信用ねえか?いや、まあ………そうだよな。六華のおっぱい触るために嘘をつきまくった、俺の言葉を信じろって方が無理あるか。ていうか、よくよく考えてみりゃそりゃそうか!」

 

「ち、違――――――」

 

ドゴッ!!

 

上空に打撃音が響き渡ると―――六華の視線の中に士道の姿は無かった。そして、最悪の邪龍が悲鳴を上げていたのだ。

 

「な―――ぬあッ!?赤龍帝、貴様ッ!!」

 

六華が士道の言葉を否定しようとしたその時、既に士道の拳はリンドヴルムの顔面を捉え、後退させた。

今度はリンドヴルムの手に捕まることなく、その顔面を捉えた。

 

「リンドヴルム確かにお前は馬鹿じゃない―――大馬鹿だ!!」

 

士道はリンドヴルムを指差し、大声で吠える!その闘志を宿した瞳は、リンドヴルムを射抜く!

 

「お前は俺を勘違いしている―――俺は六華を見捨てるぐらいなら、この場で死ぬ覚悟がある!!愛する人を平気で差し出す腑抜けが、赤龍帝にいるわけ無いだろ!!舐めるなよ邪龍、俺はお前を倒して六華を救う。お前が六華を殺す事を明かした時点で、交渉は決裂してんだよ!!」

 

士道に殴られたことに、リンドヴルムは視線を鋭くし凄まじい殺気を放出する。しかし怯むことなくドライグも言葉を紡ぐ。

 

『相棒の言う通りだリンドヴルム。俺たちは例え貴様を滅ぼすことはあっても、手を組むことは無いと思え。精霊を殺すことを断言した時点で、貴様は俺たちを敵にしたのだ』

 

「士道さま、ドライグさま………本当にあなた方は―――ッ!」

 

士道の渾身の雄叫びに、ドライグの言葉に、六華は涙を止める術を知らなかった―――これほどまでに二人は自分の事を愛してくれていることに。

そして、これ以上の言葉が不要と分かったリンドヴルムは、再び黄金の獅子を魔法陣から呼び出す!!リンドヴルムも禍々しいオーラを全開にし、戦闘体制に入る!!

 

「馳せよ―――ネメアの獅子レグルスよ!!赤龍帝、貴様は我の交渉を蹴った。故に我は貴様とそこの精霊を含めた、この世界の全人類を一人残らず皆殺しにする!!己の選択を呪うがいい!!」

 

「―――んな事させるわけねえだろうがッ!!」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!!!!!!!』

 

士道は【剛撃(カイザー)】の鎧を維持したままリンドヴルムに突進する!!倍化した力を纏った拳がリンドヴルムに襲いかかる!!

 

「くたばれッ!!」

 

「甘いわッ!!」

 

突進して来た士道を見て、リンドヴルムはレグルスを士道に向けて放つ!!レグルスは爪を振り上げ、士道の鎧を引き裂こうと迫ってくる!!

しかし、この戦いは二対一ではなく、二対二の戦いだ。

向かってくるレグルスを見た六華は、守護天使を顕現させその真名を謳う!

 

「『護星天(ミカエル)』―――「天盾(シャハル)』ッッ!!」

 

ドオオオオオオオオオオオオオオッ!!

 

守護天使を顕現させ、六華はレグルスに体当たり!!レグルスの凶悪な爪が反射され、レグルスは地面に叩き付けられた。

そして、士道の倍化した拳が再びリンドヴルムへと迫る!!

 

「神速程度で我を捉えようとは笑わせるぞ、赤龍帝ッ!!」

 

「がああああああああああ!!」

 

リンドヴルムは士道の拳を避け、懐に入り込み、手刀で士道の鎧を肩を切り裂く!!カウンター気味に入ったため、士道は骨まで砕かれてしまう!!

士道の絶叫が聞こえた六華は慌てて士道に駆け寄ろうとする!!

 

「士道さま!!」

 

「来るな六華、お前はレグルスを頼む!!リンドヴルムは俺に任せろ。大丈夫だ、このまま俺は無抵抗でやられはしない」

 

士道の言葉を聞いた六華は頷き、レグルスの方へと視線を戻した。傷が思った以上に深かった士道は『刻々帝』を呼び出す!!

 

「来やがれ!『刻々帝(ザフキエル)』―――【四の弾(ダレット)】ッ!?なんだ、効果が発動しないだと!?」

 

士道が手を挙げると、巨大な時計が顕現した。そして士道が時計の『IV』の文字から単銃に力を込めようとした時、異様な光が時計全体を包み込んだのだ。

目の前の巨悪に視線を戻すと、右腕に何か籠手のような異物を纏ったリンドヴルムの姿を確認した。

 

「これは異能を封じる神器『異能の棺(トリック•パニッシュ)』ぞ。貴様の天使の中でそれさえ封じれば急激な回復手段は無い。そして、『灼爛殲鬼(カマエル)』の治癒能力は戦闘中でも発動するが、その傷では完治するまでに時間がかかるであろう?しかし、あの暴走状態にすれば神速は使えなくなる。どうだ、我は貴様のことをよく知っているであろう?」

 

「この野郎………気持ち悪くて吐き気がするぜ」

 

得意げに士道の手の内を語るリンドヴルムに吐き気に襲われる士道くん。折紙でもここまで調べ上げるには、相当苦労しそうだがこのリンドヴルムには全知全能の天使『超識天(ラジエル)』がある。

超識天は知りたい情報をなんでも知ることの出来る検索エンジンだ。これさえあれば、もはや調べ物にインターネットも必要ないのだ。

 

「これだけでは終わらんぞ赤龍帝。我が貴様と同じく持ち主の力を倍増させる能力を使えば――――――そこから先言う必要あるまい?」

 

「ま、まさか!?」

 

リンドヴルムが不敵な笑みを浮かべると―――左手に士道と同じものが纏われていた。これはまさしく士道が宿す神滅具『赤龍帝の籠手(ブーステッド•ギア)』だ。

これを見たドライグは怒り浸透のご様子だ。

 

『リンドヴルム、貴様!!俺の前でその力を振るうかッ!!』

 

「ハハハハハハ!そう怒るでないドライグ。同じ物が二つあるだけぞ―――さて、これで我と貴様の条件は全く同じだ。こうなると物を言うのは本体の力ぞ、故に―――我に敗北はない。限界突破!」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!!!!!!!』

 

「チッ、限界突破まで使用できんのかよ!?

鎧変化(アームド•チェンジ)―――【護盾(ガーディアン)】ッ!!」

 

『Change Guardian Booster!!!!!!』

 

士道は防御極振りの鎧【護盾】へと変更させて防御を固める!!しかし、既にリンドヴルムは突撃の体制に入っている!!

 

「粉微塵にしてくれる!」

 

「ドライグ、もう限界突破でも間に合わない―――極倍化だ!!」

 

『やむ終えんか―――Absolution Booster Set Up―――Boost!!!!!!!!!』

 

士道の最後の奥の手『極倍化』それは一度の倍化『Boost』の音声のみで士道が耐えれる最高の倍化状態まで持っていく秘奥義だ。

この力に目覚めたからこそ、リンドヴルムを退けた時のドラゴン•バーニング•ブラスターを同威力で連発できたのだ。

 

「死ねッ!!」

 

「ドラゴンシールドオオオオオオッッ!!」

 

『Spiritual Dragonic Guardian!!!!!!!!』

 

士道は四枚の翼と巨大な両腕を合わして、鉄壁の盾を顕現させる!!リンドヴルムは倍化した力を士道の盾にぶつけるべく、手刀を振り下ろす!!

 

ピシッ―――ザシュッ!!

 

「ガ、ハッ!?」

 

士道の盾とリンドヴルムの手刀がぶつかり、一瞬火花が散るとリンドヴルムの手刀は士道の盾を容易く切り裂き、さらには士道が纏う鎧ごと一刀両断した。士道は吹き飛ばされゴロゴロと転がり、止まったところで吐瀉物を吐きだす。

 

「ぐっ、ごっぼおっ!?強すぎだろ、この野郎ッ………」

 

「クククッ、戦意喪失か赤龍帝?」

 

士道はこれ以上やり合ってもジリ貧なことを完全に理解した。今のままでは、力の倍化をできるリンドヴルムへの対抗手段がないことを理解していた。しかし、この程度で諦めるほどこの男の精神は腐っていない。

立ち上がった士道は、ドライグに言う。

 

「………ドライグ、歴代の思念を抑え込んでくれ。リンドヴルムを倒すにはあの力しかない。ここで奴を止めないとこの世界は終わりだ」

 

『………分かった、思念は相棒の霊力で押さえ込む事ができるだろう。エルシャとベルザードにも協力を頼もう―――ただし、『X』カウントだ。それ以上は相棒の身が持たない』

 

「それで良い。そんだけありゃ十分だ」

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!

 

士道のオーラが紅蓮から血のような赤いオーラへと変化し、士道を中心に莫大なオーラが渦巻く!!

 

「ほう、封印されているドライグの力を呼び起こそうと言うのか。中々に興味深い」

 

リンドヴルムは追撃をかけることなく、士道の様子を見ているだけだった。士道は禁断の呪文を唱える。

 

「我、目覚めるは――――――」

 

〈始まったよ〉〈始まってしまうね〉

 

「覇の理を神より奪いし二天龍なり――――――」

 

〈いつだって、そうでした〉

〈そうじゃな、いつだってそうだった〉

 

「無限を嗤い、夢幻を憂う――――――」

 

〈世界が求めるのは―――〉

〈世界が否定するのは―――〉

 

「我、赤き龍の覇王となりて――――――」

 

〈いつだって、力でした〉

〈いつだって、愛だった〉

〈〈何度でも貴様らは、滅びを選択するのだなッ!!〉〉

 

「汝を紅蓮の煉獄に沈めよう――――――!」

 

『juggernaut Drive!!!!!!!!!』

 

最後の一節を唱えると士道の鎧が変化した。

鎧の色は紅蓮から血のような赤色に、形状はさらに鋭角なものへとなった。

背中にはドラゴンの翼、両手と両足には鋭利な爪が生えた。

その姿はまさに小型のドラゴンそのものだった。

 

「くハハハハハハ!ハハハハハハハハハハハハ!!それが忌わしい『覇龍(ジャガーノート•ドライブ)』というものか!!しかし、今の貴様は手負の状態、そんもの爆弾を抱えて飛ぶ飛行機同然ぞ―――撃ち落としてくれる!!」

 

『X!!』

 

リンドヴルムは士道の奥の手に狂気の笑みを浮かべ、士道に迫る!!それを見た士道は口から冷気を放つ!!

 

「喰らえ―――氷結傀儡(ザドキエル)ッ!!」

 

「ぬっ!我の体を凍らせるほどかッ!?」

 

大気をも凍てつかせる吹雪のブレスがリンドヴルムを襲う!!『覇龍』状態で放つ一撃はリンドヴルムにも、確かにダメージが入り脚を凍らせることに成功した。

 

『IX!!』

 

それを見た士道は天空へと飛び上がり、倍化を始める!!

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!!!!!!!!!!』

 

倍化を完了させると、士道の翼から二つのキャノン砲が現れ、力が溜まっていく!

 

『VIII!!』

 

「ドラゴンブラスタァァァァァァァァァァッ!!」

 

『Spiritual Full Burst!!!!!!!』

 

ズビィィィィィィィィィィ!!

 

「この程度で、我を取れると思うなッ!!煌天雷獄(ゼニス•テンペスト)ッ!!」

 

両翼の砲門から放たれた極大ビームを見たリンドヴルムは、神滅具『煌天雷獄』で周囲に炎を呼び出して圧倒的熱量で氷を溶かす!

そして、神速を発動させ降り注ぐ極大ビームを間一髪で回避することに成功した。

 

「読めてたぜリンドヴルム、オラッ!!」

 

「ぬぅあっ!!」

 

士道は回避したリンドヴルムを見るなり、瞬時に距離を詰めて顔面を蹴り上げる!!リンドヴルムは青い血を噴き出しながらさらに上空へと吹き飛ばされる!!

 

『V!!』

 

リンドヴルムは空中で宙返りをして、士道に正対すると身体に力を込めその場にとどまる!!

既に士道の残りのカウントは四つしか残っていない!!このまま押し切る事ができるのか!?

 

「化け物がッ!死ねっ!!」

 

「死ぬのはテメェだ!!」

 

リンドヴルムが放った回し蹴りを身体を倒して、士道は避ける!さらに、回し蹴りで放った脚を引き、足刀をリンドヴルムは放つがこれにも反応して、躱した士道はリンドヴルムの懐に入り、リンドヴルムの右腕に拳を放つ!!

 

『III!!』

 

「オラッ!!」

 

「ぐっ!?し、しまっ―――」

 

リンドヴルムは顔面を狙われたことで反射的に右腕で受け止めたが、これが悪手となった。士道の『刻々帝(ザフキエル)』を封じていた『異物の棺(トリック•パニッシュ)』が破壊され、封印されていたものが解禁される!!もう既に、士道は刻々帝を顕現させ、右手の人差し指に霊力が流れていく!!

 

『II!!』

 

「天使よ―――」

 

「遅いッ!!『刻々帝(ザフキエル)』―――【七の弾(ザイン)】ッ!!」

 

パァン!パァン!パァン!パァン!

 

士道の右手の人差し指から、短銃が現れ霊力が籠った弾丸が打ち込まれ、リンドヴルムに命中したその瞬間、時間が停止する!!

 

『Starting Absolution Booster――――――Boost!!!!!!!!』

 

士道の鎧の胸部と腹部に内包されたもう一つの砲門に凄まじいエネルギーが集約される!!『覇龍』状態でしか放てない究極奥義が今、解放される!!

 

『I!!』

 

「これで終わりだ―――ロンギヌススマッシャアアアアアアアアアアアッ!!」

 

『Longinus Smasher!!!!!!!!!!!』

 

ズドオオオオオオオオオオオッッ!!

 

停止したリンドヴルムに極限の一撃が叩き込まれ、辺り一面に大爆発を発生させた。士道が放った一撃はこの世界全体を震わせるほどの威力を誇り、周囲のありとあらゆる物を吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――◇◆―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

士道がリンドヴルムにロンギヌススマッシャーを直撃させた頃、六華とレグルスの闘いも最終局面を迎えていた。

六華は守護天使を天に掲げると、光の剣が天空に幾つも展開される!!

 

「『護星天(ミカエル)』―――【封剣(フォース)】ッ!!」

 

ズドドドドドドドドッ!!

 

天空から光の剣が雨のようにレグルスを目掛けて襲い掛かる!レグルスはその場から飛び退くように下がり、六華は翼を広げて追撃に出る!!

 

「ハッ!!」

 

Guuoo!!!!!

 

六華は地面に刺さった光の剣を取り、飛び退いたレグルスに投げ付ける!しかし、レグルスは放たれた剣に拳を放って粉微塵に砕く!

その一瞬の隙を見て、六華はレグルスの懐に入り込む!!

既にお互いにボロボロで、六華は霊装の大半が破壊され、破壊された脚や胸部からは美しい肉体が露わになり、そこから鮮血が滴り落ちている。

レグルスも同じ状況だ。片目と脚の二本が潰れた状態で、全身に傷を負っていた。

 

そして今、最後の時が訪れようとしていた。

 

Gyaaaa!!!!!!

 

懐に入り込んだ六華を見て、レグルスは鋭い爪で六華を貫こうと腕を振り上げる!!その攻撃に合わせて六華は奥義を発動させる!!

 

「『護星天(ミカエル)』―――【天盾(シャハル)】ッ!!」

 

Gyaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!!!!!

 

物理攻撃をそのまま相手に反射させる六華の『護星天』最強の奥義が、レグルスの腕をはね返し、はね返されたレグルスの爪が顔面に突き刺さった。

レグルスは断末魔の雄叫びを上げ―――力なく地面に倒れ伏した。

 

「はぁ………はぁ………はぁ………はぁ………」

 

レグルスが倒れ伏すと同時に、六華もその場に崩れた。レグルスを倒すことに相当力を使った六華は、肩で息をしながらも立ち上がり、倒れたレグルスに杖を向ける。

 

「汝のあるべき姿へと戻れ―――【天操(マクア)】ッ!!」

 

パアアアアアアアッッ!!

 

六華が言葉を紡ぐと、杖についた球が黄金の光を放ち、レグルスの体を光が包む―――………光が止むとそこにレグルスの姿はなく、一本の黄金の斧が地面に突き刺さっていた。

 

「まさか………あの獅子も士道さまが宿されている神滅具?と呼ばれるものなのでしょうか―――い、いえ今は士道さまの救援が最優先です!」

 

六華はレグルスを封印した黄金の斧を異空間へ仕舞い込むと、士道の元へ急行した。

既に士道のオーラは格段に小さくなっており、窮地に立たされている事を六華はわかった。既に大半の力を失い、空を駆けることも苦しい六華だったが、ただただ愛する夫を目掛けて天を駆けた。

六華は士道なら必ず勝つと信じていた。どれだけ追い込まれても、それ以上の力を発揮して―――………六華は信じて疑わなかったのだ、士道の勝利を。

 

 

 

 

そう―――………この光景を目にする前までは

 

 

 

 

「やっと来たのか精霊。この通り赤龍帝はもう虫の息でな―――ほら泣き叫べっ」

 

「ぐっがあっ………こ、こいつ………ロンギヌス•スマッシャー直撃の瞬間に、【七の弾(ザイン)】の時間停止を破りやがった………」

 

『アレさえ無ければ、確実に消滅させられていたものをッ!』

 

全身から血しぶきをあげ、夥しい量の血を流しながらも空中に佇み、士道の首を掴むリンドヴルムの姿があった。

既に士道は鎧を完全に破壊されており、霊力を全て使い果たしたのか炎で傷が塞がっていなかったのだ。

リンドヴルムは掴む士道の首に力を込めると、士道が力なく苦悶の声をあげ、ドライグも憎しげに言葉を吐いた。

………リンドヴルムは、直撃の少し前に【七の弾】の時間停止を自らの魔力を凝縮し爆発させる事で、時間停止を完全に攻略した。ロンギヌス・スマッシャー直撃の瞬間に全力で防御したのだ。

―――それは以前、狂三の時間停止を士道が強引に破った時のように………

 

「我を誰だと思っておる?我は最強の邪龍ぞ―――貴様程度の攻撃で死ぬはずが無かろう」

 

「士道さま!?この―――っ!!」

 

士道を助けようと六華は守護天使の杖でリンドヴルムを殴ろうとするが、リンドヴルムは首を掴んだ士道を盾にすると、六華は慌てて杖を止めた。

六華には、自らの手で士道を傷付ける事ができなかったから………

 

「そうか………貴様はそうであったな精霊。喜べ、今から我がこの赤龍帝に凄惨な死を与えてくれよう―――雷よ、我に力を」

 

「ぐっがあああああああああああああ!!」

 

「士道さま!!うっ!?」

 

リンドヴルムは神滅具『煌天雷獄』を発動し、士道の胸を掴んで凄まじい電撃を体に直接送り込む!!既に鎧を失った士道がこれを受ければ完全に致命傷になる!!そう思った六華は、突っ込むが士道に流れ込む電流に感電し、弾き飛ばされる!!

これを受けた士道は、先程まで掴んでいたリンドヴルムの手を離し、ぐったりと全身の力が抜けた。それを見たリンドヴルムは掴んだ手を離し、士道を解放する!!六華は地面に落ちる士道を見だ瞬間に、受け止めようと両手を伸ばすが―――

 

「士道さま!!いや、やめてええええええええええええ!!」

 

「フィナーレぞ赤龍帝!!我を楽しませたせめてもの褒美ぞ―――苦しまずに地獄へ送ってくれる!!」

 

ザシュッ!!ドオオオオオンン!!

 

伸ばした六華の手が届く前に、リンドヴルムが士道を地面へと叩きつけ、その心臓に魔帝剣グラムを突き刺した。リンドヴルムがグラムで大地ごと士道の心臓を貫くと、大地震が起きたように地面が鳴動した。

士道の体から血が噴水のように放出されたが、それでも剣を抜こうと士道は手を伸ばすが―――………

 

「ふんぬッ!!」

 

「が、ハアッ!?」

 

リンドヴルムがさらにグラムに力を込め、さらに深く士道に捻り込むように差し込むと、剣を抜こうとしていた士道の手が力無く地面へと落ちた。

 

「あ………ああ………ああ………………ああああああああああああああああああああ!!」

 

「ハハハハハハハハハハハハ!!どうだ精霊!?貴様のせいで赤龍帝は死んだのだ!!愛するものが自分のせいで死ぬのはどんな気持ちだ!?最高か、それは最高だろうな!!ハハハハハハハハハ、クハハハハハハハハハハハ!!」

 

六華はまた士道を救う事ができなかった事で絶望し、その場に崩れ落ちた。それを見たリンドヴルムは崩れ落ちた六華を指差し、狂ったかのように笑った。その時だった―――………

 

「ううっ………く、あッ………」

 

崩れ落ちた六華がいきなり胸を抑えた。そして流した涙が血の涙へと変わり、その瞳から光が消えた。六華の体はドクンッ!ドクンッ!と何度も脈打ち始めた。これを見たリンドヴルムは口の端を釣り上げる。

 

「始まったか―――………ここまでしてようやくか」

 

体の脈打ちがどんどん早くなる六華。まるで全力疾走した後に息が上がり脈が早くなるように………

早くなる体の脈打ちに耐えながら、六華がリンドヴルムを見上げた。しかしそれはもう、皆が知る六華ではなかった―――美しいアクアマリンの瞳が、殺意に満ちた血のような赤い瞳へと変わり、ただ愛するものを手にかけた巨悪を捉えていた。

 

そして―――………

 

「―――『滅星魔神(ルシファァァァァァァァァァァ)ッ!!』

 

ドオオオオオオオオオオオオオオッッ!!

 

拳から血が滲むほど、強く握りしめた六華が天に叫ぶと―――六華の体から闇のオーラが溢れ出し、天を貫く!!

その時―――………世界が闇で覆われた。

 

 




レグルスこと、黄金の獅子は神滅具『獅子王の戦斧』です。
六華の護星天は結界のみならず封印の能力も持っています。【天操】は生物を操るのみならず封印する力もあり、本話でそれを明かしました。

ドライグ先生の次回予告

ドライグ『リンドヴルムに相棒は勝つ事ができず、殺される一歩手前まで追い込まれたその時、六華から凄まじい力が放たれた。
その力で六華は相棒の無念を晴らすことができるのか!?
次回 デート•ア•ライブ 〜転生の赤龍帝〜
十二話『滅ぼす星の魔神』
精霊王に愛されし精霊よ、鬼神となれ!!』


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十二話 滅ぼす星の魔神

こんにちは、勇者の挑戦です。

最近知ったのですが、デート•ア•ライブの四期が今年の10月に放送予定らしいですね。
二亜と六喰のストーリーを観れるのは激アツですね。できればその後が一番楽しみですが、多分尺の都合上厳しいでしょうね………
四期は果たして私は何周する事やら笑
アニメ三期のOPとEDは本当に神曲だったので、四期にも期待したいです!

さてさて無駄話が多くなりましたが、本話は反転六華の回です。
その実力はいかに………



リンドヴルムが士道の心臓を貫き、さらに傷つけた時―――六華が隠し持つ真の力が解放された。

天を貫いた闇のオーラが収まると―――………そこに立っていたのは、()()()()()()()()()()()()()()

 

「『滅星魔神(ルシファー)』―――【極夜(ヘイム)】」

 

まずはトレードマークでもあった美しい黄金の髪が異様な艶を放つ白銀の髪へと変化し、頬には顎の近くまで伸びた赤い模様が入っている。

さらに、霊装にも大きな変化があった。まず頭上で黄金に輝いていた光輪が漆黒に染まり、背中の五対十枚の黄金の羽が、六対一二枚に変わり羽すらも漆黒に染まっている。

そして白銀に輝いていたローブも黒一色に染まり、その上赤い輝きを放つ異様なものへと変貌を遂げた。

さらにこの世界全体の環境状態が大きく変わっていた。闇のオーラが天を貫いたせいか、周囲に怪しい雲が突如として現れ光を遮った。

その影響か、辺りに紫の稲妻が轟く異常気象が発生していた。これらは全て六華が放った闇の力によって引き起こされた現象だ。

 

「ようやく反転してくれたな―――………それも我が知っていたものとは大きく異なる。もしや『護星天(ミカエル)』でも『錬金釜(カマエル)』でもない………となると、貴様本来が持つ天使が反転したのか!?これは思わぬ収穫ぞ、先の二つの天使は反転したところで無用の長物………しかし、今の貴様の魔王は最高ぞ!」

 

「来よ―――『滅星魔神(ルシファー)』」

 

リンドヴルムが六華を興味深く観察していると、六華は異空間から白銀の装飾に真紅の魔法玉を内包した漆黒の杖を呼び出す。

さらに視線を士道へと移し、漆黒の杖を向けた。それを見たリンドヴルムは魔帝剣グラムを再び引き上げる。

 

「………この赤龍帝は本当に不死身なのか?心臓を貫き抉ろうが息があるとは―――良かろう、では首と胴体を切り離すことでこの男が死ぬか確認してみるとしよう」

 

リンドヴルムは引き上げた魔帝剣グラムの剣先で、士道の首をギロチンのように切り落とそうと力を込めて、腕を落とす!

しかし、六華はその様子を見て魔法弾を放つなどの行動は特にせず、目を閉じるだけだった。

リンドヴルムは今度こそ士道を仕留めたと思い、口の端を釣り上げ再び狂気の笑みを上げようとした。

 

しかし―――………

 

 

ピシッ―――バリンッ!

 

 

「ほう………因果を逆転させたか。我の『事象改変』だけができる専売特許であると思ったが。しかし、この杖の強度は凄まじいな。まさかグラムが木っ端微塵になるなど想像すらせなんだぞ」

 

リンドヴルムは、魔帝剣の感触に違和感を持ち足元に目を向けると―――………先程まで目の前にあった士道が、六華の手に持つ杖へと変わっていた。そして、六華の腕の中には、意識をなくした士道の姿があった。

その上、魔剣最強と名高いグラムが六華の杖と衝突し、粉々になったからだ。

これには最強の邪龍も目を細めた。

 

「しかし、赤龍帝を抱えていては我の攻撃を防ぎようがあるまい。判断を誤ったな―――………霧よ、捕縛せよ」

 

ズオオオオオオオオオオオオッ………

 

気絶した士道を抱える六華を中心に、膨大な量の霧がその周囲に渦巻きドーム状に展開された。

霧は両腕、両脚に纏わりつき六華の動きを封じる。そこにリンドヴルムの渾身の一撃が叩き込まれようとしていた。

これは神滅具『絶霧(ディメンション•ロスト)』で呼び出した霧だ。極めれば国ごと異空間に転移させる事も可能な、世界を滅ぼす要因として危険視される上位神滅具だ。

 

「力を解放したが随分と早い幕引きだったな。心配するな、完全に消滅はさせぬ。その『反霊結晶(クリファ)』だけは有用性があるのでな―――では、死ね」

 

ズドオオオオオオオオオオオッッ!

 

リンドヴルムは神滅具『煌天雷獄(ゼニス•テンペスト)』の属性弾と魔力を融合させた一撃を霧に捕縛された六華を目掛けて放つ!

その一撃はかつて、士道が『第二段階(セカンド•フェーズ)』に目覚めた士道を消滅させようとした渾身の一撃。いかに六華がパワーアップしても、士道を抱えたままでは防ぎようがない!

 

ドオオオオオンッ!!

 

リンドヴルムが睨んだ通り、霧に捕縛された六華に放たれた一撃が着弾し周囲を爆煙が包み込んだ。しかし、爆煙が止むと六華を捉えていた霧は霧散しそこに士道と六華は完全に消滅していた。

しかし、リンドヴルムは口から血を吐き捨て憎しげに吐き捨てる。

 

「まさか瞬間移動すら可能とは。霧も加減した故、簡単に破られた。力の底はまだ見させてはくれぬか………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――◇―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

六華が瞬間移動をした先は、村人たちが避難した大神殿だった。

非常に深い傷を負った士道を床に寝かせた時、士道の左手から音声が聞こえてくる。

 

『六華―――………でよいのか?』

 

ドライグが怪訝に訊ねると、六華は無言で首を縦に振った。ドライグは魂だけになった今でも士道を通して気配を察知できる。六華のオーラは光から闇へと変わり、より強大なものへと変化したため、ドライグは別人になったのかと思ったからだ。

ドライグは続ける。

 

『六華、相棒の服のポケットにエリクサーが入っている。まだ息があるが、この状態ではいつ死んでもおかしくない。相棒にエリクサーを飲ませてやってはくれんか?』

 

「………これであるな。心得た」

 

六華はドライグに言われた通り、士道の上着のポケットを探すとエリクサーを見つけた。士道の状態を見て、このままエリクサーを士道に流し込んでも効果がない事を察した六華は、自らの口に含み顔を近づけ士道の唇を奪った。そして口に含んだエリクサーを少しずつ士道へと流し込んだ。

六華が士道にエリクサーを流し込み、士道の唇を開放すると効果がすぐに現れた。貫かれた胸の傷は癒え、少しすると停止していた心肺が動き出した。

 

『六華、感謝する』

 

「良い、この男―――士道は私を何度も救った。()()()()()()を通してその光景を何度も観てきた。『赤い龍(ウェルシュ•ドラゴン)』ドライグよ、士道が目覚めた時に伝えてくれ―――『幸せをありがとう』と」

 

六華はドライグに遺言を残した。そして、再び漆黒の杖を取り出すとゆっくりと立ち上がった。ドライグは六華を諫める。

 

『まさか、六華―――いくらお前でもそれは許せん!お前が死ねば相棒は―――』

 

「心配するでないドライグ、私は簡単に死にはせん。士道が目を覚ますまでの時間は稼ぐつもりだ。私はもう一人の私―――六華ほど我慢の効く女ではない。いずれはあの身体を乗っ取ってでも、私は士道との幸せを掴む。まずは士道の世界で結ばれ、幸せな家庭を築き、士道の子を宿す事が私の夢。それが実現するまで私は、生き延びて見せる」

 

士道を傷つけられ憎悪に満ちながらも六華は笑みを作り出し、夢を語った。それを聞いたドライグは、止めても無駄なことを悟り六華に告げる。

 

『その言葉、絶対に違えるなよ?六華よ相棒が目を覚ますまでの間、何とか持ち堪えてくれ』

 

「持ち堪える、か―――別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?」

 

『六華、それは死亡フラグだぞ!?』

 

「フフッ、ドライグはいつも面白い。では行ってきます」

 

ドライグに笑みを残すと再び六華の姿が消えた。そしてドライグは意識を失っている士道に言う。

 

『………相棒、悠長に眠っている暇は無いぞ。黒六華が相棒のために時間を稼ぎに向かった。このままでは精霊を守護する赤龍帝から、精霊に守護された赤龍帝になってしまうぞ?』

 

ドライグが残した言葉に士道の指がピクリと動いた。果たして士道は一人戦う六華を救う事はできるのか!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――◇◆―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、戻ってきたか。もう少し遅ければ先にこの世界の人間共を血祭りにあげようと思うたが………のこのこ殺されに来るとは―――赤龍帝のためか?」

 

再び目の前に六華が現れたことを確認したリンドヴルムは、呆れながらにため息を吐いた。リンドヴルムの両手の中指の指輪が、淡い光を放ち体全体を覆っていた。行っているのは士道との戦闘で負った傷の修復だ。

傷の修復は神器『聖母の微笑(トワイライト•ヒーリング)』で行っており、それはアーシアが宿していた回復系の神器だ。

既にリンドヴルムの傷はある程度消えており、六華が現れた事を確認すると両手の指輪を消した。

 

「汝を屠るぞリンドヴルム」

 

六華が手に持つ杖をグルグルと回し、杖の先をリンドヴルムに突きつけた。六華はその身に濃密な霊力を纏い、目の前の巨悪を討滅すべく精神を研ぎ澄ませていた。

 

「最強の邪龍である我を屠るか―――大きく出たな精霊」

 

六華から向けられた殺意にリンドヴルムもそれに応えるように濃密な魔力と十字架の神滅具『紫炎祭主による磔台』を呼び出した。

六華は臆することなくリンドヴルムを目掛けて距離を詰めていく。

 

「フン、バカめ。玉砕覚悟で真正面から来るとは―――死ね」

 

リンドヴルムは十字架に祈りを込め、さらにその先に三重の魔法陣を展開した。十字架から紫炎の光が放たれた瞬間、光が三重の魔法陣を通ってその光がさらに増大され六華に襲い掛かった。

六華は至近距離に迫る極大の紫炎の閃光に、漆黒の杖を体の前で回し奥義を放つ!!

 

「『滅星魔神(ルシファー)』―――【明けの明星(アウローラ)】ッ!!」

 

ズドオオオオオオオオオオオッッ!!

 

六華が持つ杖の魔法玉が強い光を放つと、リンドヴルムの放った紫炎の閃光が反射され直撃した。

爆煙が収まると、全身から煙を上げ膝を折るリンドヴルムの姿があった。

 

「ま、まさか………我の攻撃を反射しただと!?こ、こんな事が―――」

 

「『滅星魔神(ルシファー)』―――【暴鎖(カイル)】ッ!!」

 

膝を折るリンドヴルムに六華は容赦なく追撃をかける。六華の周囲に四つの穴が空き、その穴から大量の漆黒の鎖がリンドヴルムを目掛けて襲い掛かる!!

リンドヴルムは向かってくる鎖を神速を発動させ迫りくる鎖を上空へと逃れることで回避し、神滅具(ロンギヌス)煌天雷獄(ゼニス•テンペスト)』を呼び出す!

 

「今―――鎖よ!」パチンッ!

 

「おのれ、煌天―――なんだと!?」

 

リンドヴルムの動きが止まった瞬間に六華が指を弾くと―――今度はリンドヴルムの周囲に穴が移動し、鎖が現れリンドヴルムの両腕と両脚を縛り動きを封じる!

リンドヴルムは魔力を凝縮し、爆発させて鎖を破壊しようとするが異変が起こる!

 

「おのれ小癪な―――ま、魔力が練れん!!」

 

「それは魔力を喰う鎖。万全の状態の汝なら抗えたであろうが、士道との戦いで相当の魔力を消失した汝に逃れる術はない。

滅星魔神(ルシファー)』―――【天砲(エクリプス)】ッ!!」

 

漆黒の鎖が怪しく光ると、リンドヴルムの魔力を吸収していった。

リンドヴルムの複製は魔力で行っているものだ。当然魔力が喰われれば複製は維持できずに消滅する。

複製しようとした神滅具(ロンギヌス)が消滅した事を確認した六華は、杖を天に掲げた。掲げた杖に、漆黒の光を放つ翼が生え、魔法玉に霊力が収束されていく!!

 

「闇へと沈め―――エクリプス•ブレイカーッ!!」

 

ズビィィィィィィィィィィ!!

 

六華が両腕で杖を振り下ろすと、漆黒の闇を纏った極限の一撃がリンドヴルムへ襲い掛かる!!放たれた一撃は鎖に縛られたリンドヴルムを飲み込み、上空で大爆発を起こす!!

 

ズドオオオオオオオオオオオッッ!!

 

「ぬああああああ!!」

 

悲鳴を上げたリンドヴルムが、地面へと放り出された。六華の全力の一撃を防御できずに受けたため、リンドヴルムに大きなダメージを与える事に成功した。先程の一撃でリンドヴルムを縛っていた鎖も消滅したため、リンドヴルムを絞るものは残っていない。

 

「こんな事があってたまるか!?いかに赤龍帝との戦闘で消耗したとは言え、あんな精霊一匹に我が負けるはずがない―――煌天雷獄(ゼニス•テンペスト)ッ!!」

 

リンドヴルムは、神滅具『煌天雷獄』を呼び出し、さまざまな属性をミックスした球体を六華に放った。しかし、これでは先程同様に、あの奥義の餌食なのは誰が見ても明らかだった。

 

「『滅星魔神(ルシファー)』―――【明けの明星(アウローラ)】ッ!!」

 

「ぬああああああ!!」

 

六華が体の前で杖を回転させると、この球体もリンドヴルムに反射され、直撃した。渾身の一撃が反射されたリンドヴルムは、吹き飛ばされ地面に倒れ伏したが、狂気の笑みを浮かべて立ち上がった。

 

「クククッ、クハハハハハハハハ!貴様の奥義を見切ったぞ精霊!!今の攻撃で我は完全に貴様の奥義を見切った。この勝負我の勝ちぞ」

 

「寝言は枕でほざけ。いかに秘策があろうが、汝の攻撃では【明けの明星】の突破は不可能だ」

 

「ならば突破して見せよう―――煌天雷獄(ゼニス•テンペスト)ッ!!」

 

バチチチチチチチッ!!

 

リンドヴルムは先程の球体を作り出し、六華に放つ。当然六華も杖を回し、奥義の体勢に移行する!

 

「何度でもはね返そう『滅星魔神(ルシファー)』―――【明けの明星(アウローラ)】ッ!!」

 

六華が奥義を発動すると、やはりリンドヴルムの球体ははね返した―――その瞬間、リンドヴルムの目が怪しく光る!

 

「攻撃よ向きを変えよ」

 

「――――――」

 

ズドオオオオオオオオオンンッッ!!

 

リンドヴルムは、はね返された球体に暗示をかけると再び六華へと球体が迫った。リンドヴルムが事象改変にてはね返されたものが、リンドヴルムではなく、六華を襲い爆発が起きた。

 

………今のがリンドヴルム固有の能力『事象改変』だ。膨大な魔力を使用して結果を意のままに操る最凶最悪の力。それはもはや神が持つ『権能』に等しい能力だ。

しかし、この神のような能力にも欠点があり、膨大な魔力を有するリンドヴルムでも連続して発動する事は不可能である事。またさらに神器には効力を発揮しないことの二つだ。

………例えば士道の『赤龍帝の籠手(ブーステッド•ギア)』の倍化や禁手化(バランス•ブレイク)を止めたり、倍化を半減に変えるというような事は不可能だ。

 

爆煙が収まると、地面に倒れ伏した六華の姿があった。リンドヴルムは膝を突きながら六華に言う。

 

「はぁ………はぁ………以前の貴様は物理攻撃しか反射できなかったようだが、今の貴様は物理、魔法、神滅具などの特殊攻撃を全て反射させられる。それはとてつもなく恐ろしいが、貴様には奥義を放った瞬間に一瞬だが硬直する。故に我はそこを狙ったと言うわけぞ」

 

「こ、こんな………こと、が………」

 

リンドヴルムはまだ立ち上がる事ができるが、六華の方はそうもいきそうでは無かった。リンドヴルムの渾身の一撃をまともに受けたため、致命傷となってしまった。六華は足が震え、杖で体を起こす事がやっとだった。

 

「終わりだ精霊―――だが泣く事はない、すぐに赤龍帝も見つけ出し貴様の元へと送ってくれる!!」

 

「ぐっ!!」

 

リンドヴルムは、膝をついた六華の顔面を蹴り飛ばした。六華は防御が間に合わず、地面を擦るように転がった。

しかし、絶望はまだ終わらない!!

リンドヴルムは六華の首を掴み、その体を持ち上げる!!

 

「く、あッ………」

 

「フンッ!!」

 

ザシュッ!!

 

リンドヴルムは手刀で六華の腹部を横凪に切り裂いた。六華が纏う漆黒のローブを破壊し、露わになった肉体から鮮血が流れる!!

しかし、六華も無抵抗ではない!

 

「ッ!」

 

バコッ!

 

六華は捕まれながらも、漆黒の杖でリンドヴルムの顔面を叩く!しかし、流血はさせたものの大したダメージではなかった。

 

「この状態ではろくに魔王も使えまい。フンッ!」

 

「ああああああああああ!!」

 

リンドヴルムが手刀を振り下ろすと、今度は縦に六華の霊装が破壊される。その時、霊装が破壊され肉体が露わになった箇所も手刀が入り、六華の体を深く傷つけ、六華は悲鳴をあげると同時に、大量の鮮血が溢れ出た。

霊装を破壊したところでリンドヴルムはトドメを刺そうと腕を引いた。

 

「これで貴様の『反霊結晶(クリファ)』は我のものぞ。さあ、死ぬがいい精霊!!」

 

「し、ど、う………」

 

リンドヴルムがようやく望んだ力が手に入る事に興奮し、六華の首を握る手に自然と力が入り、六華が苦しげに愛する者の名前を出した。

そして、今!六華の体から『反霊結晶』を取り出そうとリンドヴルムが、六華の心臓を目掛けて腕を伸ばす!!迫りくる腕を見た六華は、嘆願するように目を瞑った。

 

「ハハハハハハ!死ねぇぇぇぇぇぇッ!!」

 

(士道………助、けて………っ!!)

 

リンドヴルムが声を上げると、六華は瞑った目にさらに力を込めた。ただすぐ目の前にある死の恐怖に怯えて………そして、願うしかできなかった………最愛のヒーローが助けに来てくれることを。

リンドヴルムが伸ばした指が六華の体まであとほんの数センチになった時だった。

 

ズビィィィィィィィィィィ!!

 

突如、凄まじい威力を持ったビームがリンドヴルムを飲み込み、六華が空中へと放り出された。

放り出された六華はビームが飛んできた方向に目を向けると―――………鎧が【極砲(ブラスター)】状態で翼の砲門からビームを放つ士道の姿があった。しかし、今の一撃ではリンドヴルムの体勢を僅かに崩す事しかできず、すぐさま反撃が飛んでくる!!

 

「―――ッ、死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

「士道!!」

 

ズドオオオオオオオオオオオッッ!!

 

リンドヴルムは極大の魔力球を、ビームを放った士道を目掛けて放った。その魔力砲は凄まじい速度で士道へと命中し大爆発が起こった。リンドヴルムはその場で士道を完全に消滅させたと思い、笑みを浮かべたが―――………背後に巨大なオーラが突如として現れた事に、リンドヴルムは反応する!!

 

「――――――な」

 

背後に現れたのは、先程完全に消滅させた筈の士道だった。しかも―――………先程と異なり、右手にもキャノン砲を顕現させた状態で。

士道を消滅させたと完全に油断していたこともあり、防御が間に合わないところへ、極限の一撃が叩き込まれる!!

 

「喰らえッ!!ドラゴンバーニングブラスタァァァァァァァァァァッ!!」

 

『Spiritual Burning Full Burst!!!!!!!!!』

 

ズドオオオオオオオオオオオッッ!!

 

至近距離からの士道が放てる技の中で最強の威力を誇るドラゴンバーニングブラスターが炸裂し、大爆発と共にリンドヴルムを吹き飛ばした。

士道は鎧を通常なものへと戻すと、血を流して倒れる六華の元へと駆けた。

 

「士道………どう、して………」

 

六華は先程消滅したはずの士道が、もう一人いる事に理解ができなかった。しかし士道は、そんな六華に何も言わずに時間を戻す弾を打ち込む。

 

「来やがれ『刻々帝(ザフキエル)』―――【四の弾(ダレット)】ッ!!」

 

パァン!

 

士道が【四の弾(ダレット)】を打ち込むと、六華の傷は塞がった。士道は六華に手を伸ばすと―――六華が怯えるように立ち上がり、背中を見せ距離を取った。

 

「………っ!」「六華?」

 

六華の体は小さく震えていた。士道の顔を見ると―――………突如として村人たちが六華に向けた言葉が頭の中をよぎったからだ。

―――あの魔獣と同じ、お前は化け物だ!

―――来るな化け物!出て行け!

―――消えろ化け物!

一年前、姉を失った事に絶望した六華はこの力を使い、村を襲った魔獣を殲滅した。

魔獣の殲滅後に皆の元へ向かうと、温かい言葉をかけてくれたのではなく、村人たちが恐怖の視線を向けて石を投げつけられたのだ。

中でも六華の心を深く傷つけたのは、この言葉だった。

―――五季じゃなくてお前が代わりに死ねば良かったのに!五季を………五季を返せ化け物!お前がトロトロやってたせいで五季が死んだんだ!!

 

「六華!?どうした六華!?おいしっかりしろ、六華!!」

 

自分の中にある忌まわしいトラウマが甦り、六華は苦しげに胸を押さえて膝をついた。膝をついた六華を士道が体を揺するが、今にも吐きそうな表情で士道を見上げた。

六華は悪い方向にものを考えてしまっていた。

 

―――士道もいずれ私の力を恐れ、迫害するのではないか?

―――いくら自分のことを愛してくれている士道でも、この代わり果てた姿を見たら、否定されてしまうのではないか?

―――そして士道も、私を拒絶し目の前から消えてしまうのでは………

 

自分の中に眠る醜悪な姿を見られた事が六華の思考をさらに悪い方向へと導き、さらに精神を深く傷付けた。

現実で起こったトラウマが六華が押し潰されそうになった時だった。更なる絶望が六華を襲った。

 

「赤龍てええええええいッ!!貴様よくもッ!!」

 

リンドヴルムが爆炎を吹き飛ばして、現れた。全身から血しぶきを上げ大ダメージを受けたにも関わらずまだ凄まじい殺気を撒き散らして戦場に復帰したからだ。

リンドヴルムの禍々しいオーラは最初に比べると格段に弱くなってはいるが、力自体はまだまだ落ちていないのだ。

心臓を貫かれても死なない士道もそうだが、このリンドヴルムも十分不死身と呼ぶに相応しいだろう。

 

「ど、どんだけタフなんだよ!?さっさとくたばれよこのイカれドラゴンが!!」

 

『いかに最強の邪龍とは言え、ここまで倒せんものなのか!?いくら全盛期の俺やアルビオンでも、ここまで痛めつけられて立っていられる自信はないぞ!?』

 

ロンギヌススマッシャー、六華の奥義、そしてドラゴン•ブラスターとそのバリエーションたるドラゴン•バーニング•ブラスター。

士道と六華が持つ極大の一撃を何度も受けようが倒れないリンドヴルムに、ドライグでさえ驚愕を隠せない様子だ。

 

「殺す!!殺してやる!!よくも我をここまで怒らせてくれたものだ。楽に死ねると思うなッ!!まずは貴様だ精霊ッ!!」

 

リンドヴルムは手のひらに魔法陣を呼び出し、照準を膝の付いた六華へと合わせ―――属性弾をマシンガンのように放った。

動けない六華を見た士道は鎧を変更して六華の前に立つ!!

 

鎧変化(アームド•チェンジ)、【護盾(ガーディアン)】―――がああああああああああ!!!」

 

士道は背中に内包した四枚の翼を呼び出し、背中の前で翼を合わせて盾にして六華を守る!!しかし、リンドヴルムの属性弾が士道の翼と分厚い鎧を貫き肉体を激しく傷つけ、士道は堪らず悲鳴を上げた。

 

「し、士道………なぜ、私を―――私のような化け物を」

 

「ハハハハハハ!やはり貴様は馬鹿のようだな赤龍帝。そうまでその化け物が大事か!守ってみせろ、フハハハハハハハハハ!」

 

リンドヴルムは休む事なく士道の鎧を傷つけた。それでも退こうとせず、ただひたすらに自分を守り続ける士道が、言葉を発する。

 

「また、化け物って言ったな―――がああああああ!!

ぐっ、言っただろ六華、お前は化け物なんかじゃない―――ガフッ

姿が少し変わったくらいで、俺がお前を否定するとでも思ってんのか―――ぐあああああああ!!

例えその姿がお前の抱える闇だとしても、俺はお前を離さない、抱きしめてやる!愛してやる!

だから――――――たがら!!これ以上自分で自分を傷つけないでくれ!!お前がそんな風に傷つく事は、俺も耐えられないんだよ………」

 

「―――士道………っ!!」

 

言葉の途中で、リンドヴルムの攻撃で激しく悲鳴を上げ、血を吐き出しながらも、士道は精神を消耗させる六華を諫めた。士道の言葉を聞いた六華の頬には、大粒の雨が降り注いだ。

―――ああ、私はどこまで愚かなのだろうか………

自分が愛した男さえ信じる事さえできなくなってしまっていた事を、六華は強く恨んだ。それと同時に今の士道が述べた言葉には、六華を立ち上がらせる力を与えた。

 

「はああああああ!!今度こそ貴様の最後だ!!くたばれッ、赤龍帝ィィィィィィッ!!」

 

リンドヴルムは両腕を単に天に伸ばすと、巨大な属性弾をミックスした球体を作り出し、その両腕を振り下ろした。

巨大な属性弾の球体は、士道に降り注いだ。

今の士道は背中の鎧を完全に破壊され、アレが直撃すると士道が完全に消滅する確信がリンドヴルムの中にはあった。

その時、士道に守られていた精霊が漆黒の翼を広げて士道の前に立ち、手に持つ杖を体の前で回転させる!

 

「『滅星魔神(ルシファー)』―――【明けの明星(アウローラ)】ッ!!」

 

「チッ!」

 

ズバアッ!

 

士道に降り注いだ属性弾を六華の奥義が反射した。反射された球体にリンドヴルムは舌打ちをして、手刀で放たれた球体を真っ二つにしてやり過ごした。

 

「………防いだか。しかし、赤龍帝は既に死に体。そこの精霊も残りの霊力での奥義の発動は不可能。この戦、我の一人勝ちぞ」

 

リンドヴルムが勝利を確信して腕を広げると、士道と六華は憎しげに空中に佇むリンドヴルムを見上げた。未だ力の底を見せないリンドヴルムに対し、士道と六華は完全に満身創痍。戦う術はもう残っていなかった。

リンドヴルムは右手に魔法陣を展開し、トドメの一撃を放とうとしていた。魔法陣が光り輝くとリンドヴルムの右手に魔力でできたドラゴンが顕現していた。

 

「さあ、最後の時ぞ!!死ねええええええええッ!!」

 

リンドヴルムが魔力でできたドラゴンを放とうとした時、六華が士道の前へと立った。漆黒の杖を持って………

 

「六華―――………なんの真似だ!?」

 

士道が訊くと、六華は空へと視線を向けたまま言う。

 

「どうせ死ぬなら汝を庇って死にたい。例え一秒でも一瞬でも………この命は汝に貰ったものだから」

 

「ふざけんな!!」

 

ガシッ!!

 

士道は視界が朦朧とする中、立ち上がって六華の手を掴んだ。そして強く願う。

 

「俺より先に死ぬなんて絶対に許さない―――だから、最後の一瞬まで俺の隣にいてくれ」

 

「全く、強情な男だ―――………そう言うところも含めて私は汝のことを好きになった。愛している、士道」

 

「遺言は以上か、では――――――」

 

ビシッ!!ビシビシビシビシビシッ―――ズドオオオオオオオオオオオッッ!!

 

突如トドメの一撃を放とうとしたリンドヴルムを突然の業火が飲み込み、彼方へと吹き飛ばした。

士道が目線を上空へと視線を向けると、空間が裂け次元の狭間から何か赤い超巨大生物がこの世界へと入り込もうとしていた。

その超巨大生物を見た六華は、呆然として口を開けた。

 

「あ、アレはドラゴン―――………?」

 

次元の狭間から現れた謎の超巨大生物は、真紅の鱗を持ち、巨大な翼、鼻の上には、如何なる物でも容易く貫きそうな鋭角な角を持ったドラゴンだった。

そのドラゴンは士道とドライグが知っている存在だった。

 

「お、おいドライグ………あのドラゴンって」

 

『ああ、間違いない―――黙示録に記された伝説のドラゴン「真なる赤龍神帝(アポカリュプス•ドラゴン)」グレートレッド』

 

次元の狭間からこの世界に入り込み、リンドヴルムを吹き飛ばしたドラゴンは―――………グレートレッドだった。

 

 




良ければお気に入り登録、感想、評価の方よろしくお願い致します。

士道の分身隊が『第二段階』の鎧を纏っていた件ですが、これは本当に迷いました。最初はアスカロンで光の壁を出して、その光の壁が消えた瞬間に本体の士道が現れるようにしようと考えてましたが、アスカロンを失い『これ無理じゃん』と思ったのでこの形になりました。

反転体の六華の魔王についてですが、これは本文でも書いたように正規の天使が反転したためです。六華の本来の天使は今後の章で出す予定ですが、恐らく『DxD』の世界へ行く時になると思います。
反転体の六華は、通常時の六華と少し口調を変えました。
名前と力の一部だけは美九編終了後の『万由里ジャッジメント』で出す予定をしています。


今後ともデート•ア•ライブ 〜転生の赤龍帝〜 をよろしくお願い致します。

ドライグ先生の次回予告

ドライグ『な、なな、なななな何という事でしょう!?次元を切り裂いて現れたのは、『DxD』と称される真なる赤龍神帝グレートレッドだ!!
戦場はもはや大乱闘スマブラ状態!過去最強の乱入者を前に相棒はどうするのか!?
次回、デート•ア•ライブ 〜転生の赤龍帝〜
十三話 『またな!』
精霊を守護せし帝王よ、夢の舞台(脱童貞)へ駆け上がれ!』

士道「何!?俺は次回で脱童貞すんの!?え、マジで!!」

※大丈夫です、もうしばらく士道くんは童貞のままです。


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十三話 またな

おはようございます、勇者の挑戦です。

まだまだ残暑が続きますが、体調管理の方は大丈夫でしょうか?

それからデート•ア•ライブの新刊マテリアル2が出るそうですね。早く購入して読みたい物です。

さてさて、本話でオリ章『六華クライシス』は終了です。



ビシビシビシビシビシ―――ズドオオオオオオオオオオオッッ!!

 

突如次元の狭間から『真なる赤龍神帝(アポカリュプス•ドラゴン)』グレートレッドがこの世界の空間を切り裂いて侵入してきた。

グレートレッドは侵入した瞬間にリンドヴルムを目掛けて極大の業火を吐き出し、彼方へと吹き飛ばした。

突如姿を現した最強の存在に士道は絶句し呆然と立ち尽くした。

 

「な、なんでグレートレッドが………」

 

『これは俺にも分からん。此奴は基本的に次元の狭間を飛び回るだけの存在だ。此奴が世界に侵入する事などそうそう無いが―――………!相棒、来るぞ!!」

 

グレートレッドの瞳がギロリと動き、その視界に士道と六華を捉えていた。そして、グレートレッドが士道と六華に正対するようゆっくりと旋回した。

―――殺される。士道はそれを察知し、体の前身から嫌な汗が噴き出し六華の握る手をさらに強く握りしめた。

 

「六華―――………さっきの約束、覚えてくれているか?」

 

「無論、例え死んでもこの手は放さない。最期に汝が隣にいてくれて良かった」

 

リンドヴルムすら倒せず、死に体だった二人にグレートレッドを相手にする力はもう無かった。二人は覚悟を決めてお互いの手を握りしめた。

その時―――グレートレッドが信じられない事を起こした。

 

『―――おい、いつまで茶番をしているつもりか?俺はお前たちを助けにきたのだが………なぜそのように怯えて固まるのだ?』

 

そう―――何とあのグレートレッドが言葉を発したのだ。しかも、グレートレッドは『助けに来た』と伝えたのだ。これには士道もキョトンとした表情を浮かべた。

 

しかし、士道もすぐにグレートレッドが真実を告げている事に気付いた。グレートレッドの頭から士道のよく知る三人の守護者が頭から飛び降りたからだ。

 

「士道くん、本当に良くやってくれた。後は僕たちに任せてくれ」

 

全身を賢者が纏うようなローブに身を包んだ次元の守護者で、士道をここまで鍛え上げた師とも呼べるソロモンが士道の肩に触れた。

ソロモンの後ろから、筋肉モリモリマッチョマンのオネエことヘラクレスと、パツキンの神乳ことアテナが士道に駆け寄ってきた。

 

「士道ちゃん、ありがとう。士道ちゃんのおかげでリンドヴルムの結界を破壊する事に成功したのよ〜ん♪」

 

「あの、私の紹介が酷すぎる気がするのですが………」

 

それぞれが胸の内をあけ、ソロモンが膝をつく士道へと手を伸ばし立たせる。いきなり現れた存在について六華が訊ねる。

 

「士道、この人達は?」

 

「味方だ。俺なんかよりも数十倍頼もしい、な」

 

士道が次元の守護者のことを六華に敵では無い事を伝えたその時、リンドヴルムが再び士道たちの目の前に立ちはだかる。

 

「ば、バカな!?次元の守護者どころかグレートレッドまで―――ッ!まさかッ!?」

 

リンドヴルムは何かを確認しようと慌てて異空間へと手を突っ込む。そして、取り出したものを見て一瞬言葉を失ったが、すぐに我に返った。

 

「この世界を覆う結界の制御装置が破壊されるなど―――先程のドラゴン•バーニング•ブラスターとやらか!?」

 

そう―――………この世界はリンドヴルムが神滅具『絶霧(ディメンション•ロスト)』で作った結界に守られており、リンドヴルムと同等またはそれ以上の力を持つ存在は、問答無用で別世界に転移させる能力を有するため、いかにソロモンやグレートレッドでも例外なく結界の餌食として、別世界に転移させられる。

 

しかし、結界の制御装置を破壊された今、その結果も効力を無くしたため、ソロモンやグレートレッドがこの世界に入る事ができたのだ。

………結界装置を破壊する決め手になったのは、士道がリンドヴルムの背後から放ったドラゴン•バーニング•ブラスターだ。

 

リンドヴルムは精霊や次元の守護者が送り込んだ刺客との戦闘で、この世界に張った結界が破壊されないよう、その制御装置を自分が持つ異空間の中へと隠したのだ。

 

しかし、先程の士道の極限の一撃は完全に油断していた事と、体力と魔力が大きく消耗していた事もあり、異空間の防御にまで注力する事ができず、士道の一撃が異空間を貫き制御装置を破壊したというカラクリだ。

 

ソロモンが現れてから大人しくしていたグレートレッドが士道を興味深く見つめて言う。

 

『なるほど。この小僧、面白いものに目覚めようとしている。俺のオーラを与えてその潜在能力を解放できるが―――………おい小僧、名を教えろ』

 

「士道―――………五河士道だ」

 

『五河士道、か―――………おいソロモン、この小僧に俺のオーラを譲渡しようと思う』

 

グレートレッドは、士道の中に眠る更なる力を察知しそれを目覚めさせようと言うのだ。それを聞いたソロモンは首を縦に振り、士道に言う。

 

「分かった、認めよう―――士道くん、籠手をグレートレッドに向けるんだ。それを受け取ることで、龍醒石がキミに眠る更なる力を呼び起こしてくれるはずだ」

 

「わ、分かりました。で、でも―――」

 

士道はグレートレッドのオーラを受け取ろうとした時、一つの思いが頭をよぎった。そう、左手に宿る誇り高いドラゴンの事だ。

そのドラゴンは躊躇った士道を見て、盛大にため息を吐いた。

 

『はあ………相棒ここに来て俺の心配とは人が良すぎる。確かに俺は、他人の力を得てまで強くなる事には感心せんが、リンドヴルムが生きている今、躊躇う理由がどこにある?グレートレッドは遠回しに「目覚めさせた力を使い、お前がその手でケリをつけろ」と言っているんだ。ここまで来たら相棒がリンドヴルムを倒せ。その為なら俺は何も言わん』

 

「ドライグ………分かった!」

 

士道がオーラを受け取ることを決め、籠手をグレートレッドに突き上げた時だった。しかし、この空間にはまだ敵がいる。最強の邪龍は士道のパワーアップを阻止しようと、鬼や悪魔でも逃げ出すような形相で迫りくる!

 

「させると思うか!?そんなことを―――」

「てええええい☆」

 

ドゴオッ、ボギィッ!!

 

士道に迫ろうとしたリンドヴルムをヘラクレスが地面を蹴り、リンドヴルムの顔面に渾身の足刀をかました。その足刀はリンドヴルムの体の何かを砕くような音を響かせた。

 

「い、今リンドヴルムの骨が砕けるような音が―――」

 

「気のせい☆」

「気のせいじゃないかな?」

「気のせいですね」

『骨折音とか都市伝説だろ?』

 

次元の守護者の三人とドライグはそんな音はしなかったと言う表情だが、正直者が一人いた。

 

「士道、私も確かに聞こえた」

 

六華ちゃんはたとえ反転しても、士道の味方でいてくれるらしい。リンドヴルムが吹き飛んだ事を確認した士道は再び籠手をグレートレッドに突き出した。

その時『真龍』が雄叫びをあげる!!

 

グオオオオオオオオオオオオオオッッ!!

 

グレートレッドが雄叫びを上げると、全身が真紅の光を放ちソフトボールほどの光の球体が現れた。その球体が籠手を通して士道へと譲渡される!!

 

カッ―――ドオオオオオオオオオオオオオオッ!!

 

その瞬間、士道の体から極大の霊力の本流が溢れ出し、螺旋に渦巻き凄まじい衝撃波を辺りに撒き散らす!!

 

「まさか、あのグレートレッドが力を譲渡するなんてね………これは僕たちの出番はどうやら無さそうだ」

 

「士道………」

 

ソロモンはグレートレッドが力を譲渡した事を見たその時、士道が勝つ事を瞬時に悟った。しかし、それとは対称的に六華はいきなり士道がとてつもない衝撃波を放った事をとても心配に思っていた。

 

「心配いらない、士道くんは必ず勝つ。キミが信じないで誰が彼を信じる?それから、まずはキミを元に戻そう」

 

ソロモンは心配する六華に優しく声をかけ、杖をかざした。すると、六華を黄金の光が包み込むと―――………闇のオーラが消え去り、闇のオーラを放つ前の、皆が知る六華の姿へと戻った。

 

「分かりました。士道さま、どうか勝利を………」

 

六華は真紅のオーラに包まれる士道を信じて見守ることを決めた。そして、真紅のオーラが光の粒子へと変わった時には―――真紅の輝きを放つ透明の鎧を纏った士道がいた。

 

今の士道が纏っている鎧は、体格は通常時とほぼ同じだがさらに鋭角になり、膝と肩と腕の装甲は厚みが増した。さらに兜にも額から一本の角が生えている。

そして最大の変化は背中にある翼が、白龍皇の光翼のような光り輝くエナジーウイングに変化し、それは十二枚あり自在に操る事が可能になった。

 

新たな鎧を纏った士道を見て、ソロモンが笑みを浮かべた。

 

「まさか、精霊が持つ絶対的な防御要塞―――『霊装』を顕現させるとはね。これは僕も想定していなかった………士道くんに霊装を顕現させる潜在能力を秘めていたとは。これも精霊達の希望であろうとする士道くんの想いが呼び起こした奇跡―――『精霊王の守護霊装(ホープオブスピリッツ•パワードアーマー)』と言ったところかな?』

 

グレートレッドが目覚めさせた士道の中に眠っていた力の正体は、精霊達の魂が籠められた鎧『霊装』だった。

 

士道も複数の精霊を封印していたが、天使を発動させることはできても霊装を顕現させる事はしなかった―――いや、する必要がなかったのだ。

なぜなら、士道にはくるみんを封印する頃には、イッセーの頃から使ってきた相棒『赤龍帝の鎧(ブーステッドギア•スケイルメイル)』があったからだ。

 

目覚めさせた力を見たグレートレッドは、満足して次元の狭間へ向かおうとしていた。

 

『俺にできるのはここまでだ。後はそこの小僧次第………ソロモン、そこの小僧を元いた世界に返す時にまた呼んでくれ。俺は疲れたから寝る』

 

「すまないね、グレートレッド。さあ士道くん、後は僕達に任せても良いけど―――その力がどれほどのものか試してみたくはないかい?あのズタボロ邪龍を相手に」

 

ソロモンがニッコリと微笑むと、傷を修復させたリンドヴルムが戦場に復帰していた。リンドヴルムを見た士道は『塵殺公(サンダルフォン)』を顕現させ、前に出た。

 

「ここまでしてもらったんです。最後は俺の手で」

 

「うん、良い覚悟だ。一つアドバイスを与えよう―――この世界を壊さない程度に力を試して来なさい。どうしても世界を壊す力を使う時は、()()()()()()で使うんだ。大丈夫、今度は必ずキミを救って見せる―――よしみんな、集まってお茶会でもしようか」

 

ソロモンが意味深なアドバイスを残すと、士道は首を傾げたが―――すぐに意図を理解し首を縦に振った。

 

ソロモンはヘラクレスとアテナ、六華を一箇所に集め強力な防御結界を展開させた。

そして木の丸テーブルを出し、本当にお茶と和菓子を楽しんでいる!!次元の守護者の三人はアットホームにくつろぎ始めたが、六華はキョロキョロと士道とソロモン達の間で視線を行き来させていた。

 

「ほら、六華ちゃんもカステラあるよ?」

 

「し、しかし今は―――」

 

「心配ないさ。今の士道くんに敗北はない」

 

「さあ六華もくつろいで下さい。女性との交流は私も久々で楽しみでしたので」

 

次元の守護者に急かされ、一人戦う士道に申し訳なさそうに輪の中へと入った。

 

これを見たリンドヴルムは激昂した。

 

「貴様ら、どこまで我を怒らせれば気が済む!!そこの赤龍帝を血祭りにあげた後は、貴様らだ!!『赤龍帝の籠手(ブーステッド•ギア)』限界突破!!」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!!!!!!!』

 

『奴め、また俺の力をッ!!』

 

リンドヴルムが今度は『赤龍帝の籠手(ブーステッド•ギア)』を呼び出し、限界突破を使用して能力を極限まで引き上げる!!

しかし、士道は動じる事なく心を無にして精神を統一していた。

そして、リンドヴルムが倍化が終わった瞬間に、爆発的なオーラを撒き散らした瞬間―――鋭く剣を振り抜く!!

 

「―――」

 

ピシッ!!

 

「な―――」

 

士道が無言で剣を振り抜こうとした時、突進しようとしていた。しかし、士道の手が剣に触れた瞬間、全身から『殺される』と警告が出され、慌てて体を倒した。

 

その結果、士道の斬撃を躱す事に成功したが、士道の放った斬撃は空間を容易く斬り裂き、次元の狭間を覗かせた。しばらくすると自然と空間は元に戻ったが、その威力を見た士道は驚愕する。

 

「う、嘘だろ………今ろくに霊力すら込めなかったぞ!?それが―――空間を割る威力かよ!?」

 

『さすがはグレートレッドのオーラと言ったところか………リンドヴルムも真っ青だ』

 

精霊王の守護霊装(ホープオブスピリッツ•パワードアーマー)』を纏った時の士道は、防御力が上がるだけではなく、霊力操作を上昇させる能力もある。言うなれば、士道は先程霊力を込めたつもりは無かったが、鎧の力で『塵殺公(サンダルフォン)』の霊力が収束され破壊力のある一撃へと変わったのだ。

 

空間を斬り裂く威力までとなったのは、グレートレッドの譲渡させたオーラによるものが大きいが、それを自分の血肉へとしっかりと変えた事で、士道はここまでの事をやってのけた。

 

これで士道が勢いに乗り始める!!

 

「これならいけるッ!!はあッ!!」

 

「舐めるなよ、人間ッ!!」

 

ドガガガガガガガガガガガガッ!!

 

士道は『塵殺公(サンダルフォン)』で、リンドヴルムは魔帝剣グラムを操り、上空で凄まじい剣撃の応酬が繰り広げられる。

 

「うおおおおおおおおおおおお!!」

 

「はああああああああああああ!!」

 

お互い神速状態で剣を撃ち合い、剣がぶつかる度に衝撃波が突き抜け、周囲のものを吹き飛ばしていく!!

 

さらに、二人の衝突によってこの世界全体が震え、アットホームにくつろぐ次元の守護者達にも悲劇が襲い掛かる!!

 

「あ、熱い!!お茶こぼれた!!」

 

「ソロモンさま、大丈夫ですか!?」

 

発生した世界の震えによって、ソロモンが張った強力な結界内部まで二人の激突の余波が来ていた。ソロモンは股間にお茶がこぼれて飛び上がった。それを心配そうに見つめる六華ちゃん。

 

六華も既にアットホームな雰囲気に流されつつあり、こぼれたお茶を布巾で拭き取っていた。

 

「しっかりしてくださいソロモン―――アレ、地震ですか?」モグモグ

 

「う〜ん、地震ね☆」モグモグ

 

アテナとヘラクレスは特に何もする様子はなく、ソロモンが用意したカステラを頬張るだけだった。

この二人はもう色々と末期である。

 

お互いの一撃は決定打を与えることはできず、膠着状態が続いた。最後に剣を合わせた後、一度お互いに距離を取った。

 

先程まで死に体であったが、大幅なパワーアップを果たした士道を見て、リンドヴルムは遂に全力を出そうとしていた。

 

「こ、こんな事が!ただの人間相手に我が負けるなどあってはならぬ!!―――禁手化(バランス•ブレイク)ッ!!」

 

カアアアアアアアアアッ!!

 

リンドヴルムが大空に叫ぶと―――赤いオーラがリンドヴルムを包み込んだ次の瞬間―――リンドヴルムの全身を赤い龍を模した全身鎧が覆っていた。

 

それを見た士道は目を細める。

 

「オーラが安定していない………魔力で強制的に禁手(バランス•ブレイカー)へともっていったか?なんて無茶しやがる」

 

「正解ぞ、いかに貴様でも我がこの力を振るえば一撃で粉砕できるだろう―――………己の選択を呪うがいい!!限界突破ッ!!」

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!!!!!!!!!!』

 

再び限界突破したリンドヴルムが迫って来る。今度は剣を持つ士道に対抗してリンドヴルムは魔帝剣グラムを複製して斬りかかってくる!!

 

士道も、倍化したリンドヴルムを見て籠手を出す。当然士道も限界突破を発動する!

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!!!!!!!』

 

「はあああああああああッ!!」

 

「オラッ!!」

 

ギィィィィィィンッ!

 

空中で士道の『塵殺公(サンダルフォン)』とリンドヴルムの魔帝剣グラムが衝突し、火花を散らす!!

 

二人は鍔迫り合いの状態になり、互いに剣の持つ手を振るわせていた。

 

「ば、バカな!?我と互角であると言うのか!?」

 

「互角―――んなわけねぇだろうがッ!!」

 

バキイィィィンッ!!ザシュッ!!

 

士道が力を込めると、リンドヴルムの持つ剣が音を立てて崩れ去った。そして、振り抜かれた『塵殺公(サンダルフォン)』がリンドヴルムの鎧を斬り裂き、体に深い傷を負わせ、地面へと叩きつけた。

 

「ぬわああああああああああああッ!!」

 

「追撃だ、受け取れ―――『氷結傀儡(サドキエル)』ッ!!」

 

士道は翼のエナジーウィングを輝かせ、そこから天を遮るほどの氷の刃が暴風雨の如く降り注ぐ!!

降り注いだ氷の刃が止むと―――周囲一面を氷世界へと変えた。

 

その時、氷世界の一部が光を放つと―――鎧を完全に失ったリンドヴルムが姿を表した。

 

「ぬっ………ば、バカな―――いかに連戦とは言え、グレートレッドと次元の守護者から受けたダメージが大きいとは言え、我がこんな人間相手に負けるなど、あってたまるかッ!!」

 

「チッ、まだ生きてやがんのか―――………敵ながらその執念には恐れ入るよ―――………こっちも最強の技で消し去るしかなさそうだな」

 

士道もリンドヴルムの執念を見て、油断ができない相手である事を悟った。そして、最強の武装を発動させようとしていた。

その時だった。ドライグが籠手を点滅させ合図を伝える。

 

『相棒、グレートレッドのオーラの効果は後ほんの僅か………次で決めなければ―――」

 

「ああ、必ずこの一撃でリンドヴルムをあの世へ送ってやる!!『塵殺公(サンダルフォン)』―――【最後の剣(ハルヴァンヘレブ)】ッ!!」

 

ドライグからの忠告を受けた士道は、地面に巨大な玉座を出現させ、ドラゴンショットで破壊すると―――破壊された破片が剣にまとわりつかせて最強の武装を顕現させた。

 

灼爛殲鬼(カマエル)』を【真焔(アグニ)】の暴走状態にしても良いが、リンドヴルムには神速がある。万が一の逃亡を阻止するためにも、神速を使えなくなるのはまずい。

 

そして、士道が持つ最強の切り札は、最後の一手にするためにあえてこの武装を選んだのだ。

 

「―――はああああああああああああああッ!!」

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!

 

リンドヴルムは空へと飛び上がると―――残りの全ての魔力を込め、天を遮るほどの魔法陣を展開してドス黒い球体を呼び出した。

それは以前士道との最後の勝負で見せたあの大技だ。

 

「ドライグ、限界突破だ!!」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!!!!!!!』

 

士道も完全に準備を整え、お互いに最後の技を放とうとしていた。果たして―――勝つのは『真龍』のオーラを得た精霊を守護する赤龍帝か、最強の邪龍か!?

 

「くたばれええええええええええええッ!!」

 

「くたばるのはテメェだ!!最後の剣(ハルヴァンヘレブ)ッ!!」

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!

 

リンドヴルムの神滅具と魔力を込めた渾身の一撃と士道の全力の『最後の剣(ハルヴァンヘレブ)』が正面衝突し、その衝撃波が世界全体を震わせる!!

 

既に空は二人の激突で真っ赤に染まり、至る所で雷が発生し、地震まで発生するという―――この世の終わりのような景色へと変わり果てていた。

 

そして、二人の極限の一撃は一瞬の拮抗こそあったが、消耗が激しいリンドヴルムに勝てる道理は無かった。

 

「バカな!?」

 

「これで終わりだッ!!」

 

士道の最後の剣が自分の放った球体を真っ二つにされた所に、士道の一撃が襲い掛かる!!

 

「―――」

 

間一髪でリンドヴルムは士道の極限の一撃を避け、今の状態では勝てない事を悟り、世界から逃走しようとリンドヴルムは考えた。手刀で近くの空間を斬り裂き、次元の狭間へと逃げ込もうとしている!!

 

『奴め、やはり逃げるつもりか!?相棒、追撃だ!奴だけはここで消しておかねば不安で眠れまい!』

 

「その通りだ!ここまで好き放題やらせて、逃げさせるわけねえだろうがッ!!」

 

次元の狭間にさえ入ってしまえば、士道に追撃される術はない。既にリンドヴルムは、あの球体を放つ直前には『制空天(メタトロン)』で自分の空間を固定化していた。

このように最悪の状況を予測して手を打つ事ができるからこそ、これまでも幾度となく討滅の危機を乗り越えてきたのだ。

 

神速を発動して士道も追いかけるが―――ギリギリ間に合わず、リンドヴルムに逃げられてしまった。

 

「はぁ………はぁ………何とか逃げ切ることに成功した。次だ………次こそは必ずあの精霊を殺してやる!!」

 

リンドヴルムは確信していた。次にこの世界に来るときは確実に六華を殺して、その力を奪おうと別の世界に逃げ込み、作戦を立てようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、そうだな。ただし、()()()()()の話だけどな」

 

リンドヴルムが体を進行方向に戻すと、『塵殺公(サンダルフォン)』から、炎と冷気の両方を纏わせた状態で佇む士道の姿があった。

これを見たリンドヴルムは堪らず目を飛び出させた。

 

「バカな―――貴様死ぬ気か!?空間を固定化せずに次元の狭間に入る事など――――――」

「普通に考えりゃあ死ぬわな。でも、確かお前はグレンデルを何かで呼び出したよな―――あれって何だっけ?」

 

「『龍門(ドラゴン•ゲート)』―――ま、まさか!?」

 

士道が口の端を釣り上げた時にリンドヴルムは察した。龍門(ドラゴン•ゲート)の存在に、手に持つ複数の天使を融合させた『塵殺公(サンダルフォン)』を見て、瞬時に理解することになった。

 

―――士道に上手く誘導されたということに………

 

次元の狭間に逃げ込む前に、固定した空間を破壊する事は士道にとって容易かった。エナジーウイングから『氷結傀儡(サドキエル)』の氷の刃を放てば済む話だ。しかし、士道はそれをしなかった―――これは霊力を温存するためである。

 

さらに、ドライグと士道が一度慌てた素振りを見せたのは、渾身の演技だった。特に慌てた様子が無ければリンドヴルムは確実に疑う。そのため大慌てで追撃はせずとも追いかけることだけはしたのだ。

 

ソロモンのアドバイスに世界の外という言葉があり、ソロモンは既に士道がこの世界を破壊する威力を誇る技を習得したことを見抜いていた―――いや、可能にできる技を見抜いたと言った方が正しいのかもしれない。

 

それは『精霊王の守護霊装(ホープオブスピリッツ•パワードアーマー)』を纏っている時だけの話だからだ。

 

さらにソロモンほどの魔術師ならば、龍門(ドラゴン•ゲート)で士道を次元の狭間から引っ張り出すことは容易だ。

 

全ての行動が一つの線で繋がったリンドヴルムに、この戦いに終止符を打つ一撃が放たれようとしていた。

 

「リンドヴルム、お前はやり過ぎた―――………お前に殺されたこの世界の精霊達の無念、そして六華が受けた痛みを、お前にもくれてやる!!」

 

「うわああああああああああああ!!」

 

リンドヴルムは狂ったように、魔力弾を打ち込むが士道の霊装には傷一つ付ける事は叶わななかった。

 

そして―――………

 

「消えて無くなれ―――エレメント•バーストォォォォォォォッ!!」 

 

『Spiritual Element Blade!!!!!!!!!!!!』

 

「ぬわああああああああああああああああああ!!」

 

塵殺公(サンダルフォン)』に琴里の天使『灼爛殲鬼(カマエル)』四糸乃の天使『氷結傀儡(サドキエル)』を融合させた極限の一撃が叩き込まれ、リンドヴルムを捉えた。

断末魔の叫びと共に、リンドヴルムは次元の狭間で完全に消滅を果たした。

 

「はっ………はっ………はっ………」

 

士道は極限の一撃を放った疲労感で、肩で息をしていた。そして、いつしか霊装が光の粒子となって消滅し、体が引っ張られていく!!

 

「チッ、このままじゃ―――」

 

『相棒、慌てるな。どうやらソロモンは本当に味方のようだ』

 

士道がどうにかして外に出ようとした時、士道の足元に赤い魔法陣が現れる。その魔法陣が士道を包み込み、再び六華の待つ世界へと戻ってきた。そして、ずっと望んでいた声がすぐに聞こえてきた。

 

「士道さま、士道さま!!」

 

「六華………俺、やったぜ」

 

士道が再び世界に戻ると、そこは六華の膝の上だった。六華は涙を流して士道を抱きしめた。

 

「はい………はい!ありがとうございました、士道さま!」

 

その後は、いつもの酷い光景が待っていた。

 

「士道くん、感謝してくれたまえよ?龍門(ドラゴン•ゲート)でキミを召喚したのはこの僕なんだから。それと『世界に戻って来たら、愛人に膝枕されていた件について』という小説を書こうと思うんだけど、どうだい?もちろん主人公はキミで、愛人は六華ちゃんだ!」モグモグ

 

「士道ちゃんおっかえり〜」モグモグ

 

「士道くん、おかえなさい」モグモグ

 

「士道くんおっかえり〜」モグモグ

 

〈六華ちゃん、おっぱい揉ませて―――んぎああああああああああ!!〉

 

「おおっこれで僕の『ハイスクールDxD』の新刊のネタが思い付いたぞ!!早速執筆しなければ」モグモグ

 

「『お前ら/(貴様ら)人が命がけの戦いしてる最中にモグモグしてんじゃねええええええええええ!!』」

 

通常運転の約一匹を除いた、次元の守護者が総出でカステラをモグモグと頬張る様子を見て、士道ドライグのツッコミがシンクロした。こうしてこの世界の危機は、異世界より現れた精霊を守護する赤龍帝によって救われたのであった。

 

※ソロモンの小説は数秒で無しになりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――◇―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

士道がリンドヴルムを消滅させて一夜が明けた。村の修復が終わり、平和が訪れた事を士道は伝えて、元の世界に帰ろうとしていた。

 

村の真ん中で、別れの挨拶を済ませようとしていた。

 

「六華の親父さん、今までお世話になりました」

 

「それはこちらのセリフですじゃ士道殿。村の英雄にどうか光があらん事を―――それから六華、士道殿と幸せに暮らすのじゃぞ?」

 

「はい、お父様。士道さまの妻として一生、士道さまを支えていきます」

 

士道と六華は、六華の父の手を取った。六華もソロモン達と共に士道の世界に行く事を決めた―――いや、強制的について来たという方が正しい。この通り、もう『妻です』と宣言しているのだ。

 

それを聞いた士道くんは思わず苦笑いをしている。

 

「守護者のアルテミスとオリオンとヘルメスは村に残していくよ。それから街からも姫巫女の応募があってね。これで六華ちゃんが士道くんの世界に行っても、リンドヴルムでも攻めて来ない限りは安全さ―――………()()()()()()()()()()()、もう死んだけどね」

 

ちなみに街からの姫巫女の応募は、ソロモンとヘルメスが一仕事をしたからだ。村の文明を近くの街より一世代先進させた。

すると、その暮らしを見て移民の応募が殺到したのだ。

………これは六華を安心させて士道の世界に行かせるためだ。もし何もしないで六華が士道の世界に行くと、この村が危険に晒されるからだ。

 

特に欲しかったのは、姫巫女だ。この村の近辺には、魔獣が生息するため、結界を維持する必要がある。

そこで最も優れた能力を持つ姫巫女五人を村で面倒をみることにしたのだ。

その中には、あの少女もいる。

 

「六華さん、絶対に幸せになってね?()()()()も六華さん泣かせたら許さないから」

 

朱奈だ。朱奈のところは、家族で六華の父の愛娘とその夫も引き連れてここに越して来たのだ。もちろん住まいは実家だ。

この村を救った英雄であることを認めた朱奈が、士道さんから士道さまへと呼び名を変えているのも可愛いものだろう。

 

「士道お兄ちゃん、六華お姉ちゃん!五季お姉ちゃんの分まで絶対に幸せになってね!」

 

「朱奈、麗奈。ありがとうございます」

 

二人の頭を六華は優しく撫でた。それから村の人たちが旅立とうとする六華にいう。

 

「六華、今まで村のために結界の維持や、薬の調合を本当にありがとう。それから傷付けたことを謝りたい。本当にすまなかった」

 

この人の言葉で村人達が一斉に六華に頭を下げた。六華は目を大きく開けて驚いたが、すぐに言う。

 

「………頭を上げて下さい皆さま。確かに私は傷付きましたが、今はそのおかげでこのような英雄の妻になる事ができました。

私が村へ帰って来た時は、お話や温泉に付き合っていただけますか?」

 

「勿論だ。その時は混浴――――――ひっ!?なんでもありません士道どの!!」

 

………最愛の姉を失い、投げられた言葉と石によって六華の心と体は大きく傷付いた。しかし、今はそれを知った夫が居場所になることを公言し、新たな世界を見せてくれることを約束してくれた。

 

ちなみに、温泉は混浴と言おうとした男は、英雄の殺気が混じった笑顔を見て全力でその口を止めた。

なぜなら、士道くんは何気にケチ龍帝であるからだ。

 

一通りの挨拶を済ませたところで、グレートレッドが次元を切り裂き現れる。

―――別れの時間だ。ソロモン達は、グレートレッドの背中に飛び乗る。六華は士道に抱えられて一緒に乗った。

 

『ドライグの小僧―――五河士道、そろそろ時間だ』

 

「分かった―――それじゃあ、またな!」

 

士道が手を振ると、村の人たちは手を振って見送った。こうして士道は六華を連れて元の世界へと帰ることができた。これから、新たに六華が加わりどのような毎日が待ち受けているのか。

 

士道はこれからの生活に期待を膨らませて、次元の狭間へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――◇◆―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく次元の狭間を泳ぎ続けると、士道が待ち望んだ景色が写って来た。それは士道がずっと待ち望んでいた世界―――天宮市に帰る事ができたからだ。

 

場所は家の近くにある高台、六華の世界に行く直前に士道が訪れた場所だった。それも、時間は士道が次元の渦に飲まれてから僅か一分しか経っていないという奇跡―――いや、これはソロモンによる調整が施された結果だ。

 

「帰って来れたな」

 

「ここが、士道さまの世界―――………綺麗」

 

六華は高台から見える夜景を眺めていた。赤、白、青と様々な色が混ざり、一つ一つが輝く星に見える。

士道のオススメのスポットで、よく精霊達と訪れる事もあるほどだ。

 

「さて、邪魔者はこの辺で失礼しようかな。士道くん、本当にありがとう。それからキミを利用する形になって本当に申し訳ない。この埋め合わせは必ずするよ」

 

ソロモンは士道に深々と頭を下げ、感謝の意を述べた。すると士道は一本の剣を取り出し、ソロモンに渡した。

 

「なら一つだけ頼みを聞いて下さい。アスカロンの修復を頼みたいんです。リンドヴルムとの戦闘で刃の部分を失ってしまい、四の弾(ダレット)でも治らなくて………」

 

「分かった、近いうちに修復して届けよう。それから士道くん、最後の大仕事があるだろう?男をみせるんだ」

 

ソロモンは士道のお尻を軽く叩くと、ヘラクレスとアテナを連れて帰って行った。

 

 

………今から行うのは、六華の霊力の封印だ。士道は大きく息を吸い込んだ後、夜景を眺める六華を背後から優しく抱きしめた。

 

「六華、最後はグダグダになったけど――――――っ!?」

 

抱きしめていた六華が、振り返り士道の唇を塞いだ………それも自分の唇で。

唇を合わせてしばらく経った後、六華は唇を離して士道の胸に顔を当てた。

 

「………士道さまの世界に行くことになり、私は分からないことだらけです。でも―――これだけは確かな事があります。

士道さま、私はあなたを愛しています。これからもずっと一緒にいてくれますか?」

 

「ああ、勿論だ―――ってアレ、なんで裸にならないの!?これは精霊たちがみんな通って来た道なのに!?俺めちゃくちゃ楽しみにしてたんですけど!!」

 

士道はキスをする事で精霊の霊力を封印することができ、封印を施した精霊は全て全裸になるのだが―――六華の巫女服はそのまま消えずに残ったのだ。

………裸になった六華の姿を納めようと、スマホの用意していた士道くん、これには思わず肩を落とした。

 

『もしや―――………あの時か?黒六華が相棒に口移しでエリクサーを飲ませたアレで―――相棒、天使は使えるか』

 

ドライグが見解を述べると、それを証明するために士道は天使を顕現させる!

 

「来やがれ『護星天(ミカエル)』、『錬金釜(カマエル)』―――普通に使えるわ。え!?六華、俺にエリクサーを口移しで飲ませてくれたの!?」

 

「〜ッ!!」

 

ドライグが言った通り、既に六華の封印は終了していたらしい。口移しでエリクサーを飲ませたことを思い出した六華はその場で顔を真っ赤にして蹲った。

………六華ちゃんは反転時の記憶は消えずに残るようで、声にならない小さな悲鳴を上げていた。

 

それでも何かを思い出したように、真っ赤に染まった顔を上げ士道に訊ねる。

 

「あ、あの士道さま―――先程精霊がみんな通ったと仰いましたが………そのスマホで精霊の裸の写真を撮ったりは―――してませんよね?」

 

「―――ギックゥ!?な、何言ったんだよ六華!この全宇宙ジュニア紳士チャンピオンである、この俺様がそんなことするわけ―――『六華、この変態がそんなことを()()()()とでも思っていたのか?ちなみにそのスマホを見てみろ、封印した全精霊たちの裸の写真が出てくるぞ』おいドライグゥゥゥゥゥゥ!?」

 

ドライグの言葉を聞いた六華は神速に目覚めたかのような速さで、士道からスマホを盗んだ。そして写真ホルダーを確認した六華は、霊装を顕現させた。

 

………お約束の再封印のお時間です、ハイ。

 

「浮気は許しません!!」「ぎゃああああああ!!」

 

異世界から来た精霊とその精霊を連れて来た赤龍帝の地獄の鬼ごっこが始まった。

ちなみに最終的には士道くんは六華に捕まり、スマホのエッチな写真は全て消されてしまいましたとさ、でめたしでめたし。

 

「―――めでたくなんかねえよおおおおおおおおおお!!」

 

夜の帳が下りた天宮市に赤龍帝の悲鳴が響き渡った。こうして新たな家族が増え、士道の生活はさらに賑やかになるのであった。

 

 




如何でしたでしょうか?

良ければお気に入り登録、感想、評価のほどよろしくお願い致します。

ここからは解説です。

◆『精霊王の守護霊装』
文字通り、士道版の霊装です。霊装発動時は、士道は複数の天使を同時使用できるようになり、さらに天使の威力が通常時に比べ大幅に増加します。

※赤龍帝の鎧との同時使用はできません。

『精霊王の守護霊装』のイメージは、コードギアス『復活のルルーシュ』で登場した『ランスロットsiN』のフレームコートのパージ後です。
色が全部位透明になり、パイロットの搭乗部が無くなったイメージです。

この章で士道の強化はしばらく抑えるつもりです。

◆グレートレッドと次元の守護者

次元の狭間を統治するグレートレッドは、ソロモン達、次元の守護者のボスとも呼べる存在です。ソロモン達が各世界を移動し、その均衡を乱すものを討滅できるのは、グレートレッドの次元の狭間を移動する能力があってこそです。 

◆アンケート

アンケートですが、思った以上に番外編を
書いて欲しい派と、八舞編はよ書け派がほぼ半々で割れていて正直びっくりしました。
私的には、ぶっちぎりで八舞編の方に票が入ると思っていましたが、番外編を楽しみにしていただけている方がいる事に感激しています!
※現在は同時進行しています。恐らくこのままいけば先に番外編を出す予定になりそうですが。

八舞編でも番外編のアンケートを取るので、是非ともご協力下さい。
八舞編はもうネタがある程度決まっているので、そのネタから選んで頂くと言う形になりそうです。

これからもデート•ア•ライブ 〜転生の赤龍帝〜をよろしくお願い致します!



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番外編⑤ ゼロから始める異世界生活

こんにちは、勇者の挑戦です。

アンケート結果より、六華の番外編を先に投稿します。

一章の十香の時と同様にこの章での番外編は今後のストーリーに関わって来ます。

それでは、どうぞ!



ピピピピピピピピッッ!!バンッ!!

 

現在の時刻はAM6:30。

士道の部屋の目覚まし時計が、けたたましい音を部屋中に響かせた。士道は手を伸ばして音を止める金属部分を叩いた。

 

まだ身体が眠いと全力で叫んでいるが、重い瞼を擦り目を開け首だけを起こしたその時―――ふわふわとした白いメロンが二つ目の前にあった。

 

もう一度言おう。ふわふわとした白いメロンが二つあった―――要約すると、目が覚めたら眼前にたわわに実ったおっぱいがあったと言うことだ。

朝から思いがけない幸運が訪れた事に、士道くん思わずニッコリ。

 

「うおおおおおおおおお………この世界に帰って来てから毎日見てるけど―――全ッ然飽きねえ!よし、揉むか」

 

士道は目の前にあるおっぱいへと手を伸ばした。

はだけた巫女服の隙間に慎重に手を忍びこませて、両腕が入るスペースを確保するため、巫女服の胸部を慎重に露出させていた。

………一気に仕掛けると、眠っている女性が起きてしまう可能性があるため慎重に作業をしていた。

そして、もう一人いるお邪魔虫―――失礼、お邪魔ドラゴンにもしっかりと釘を刺す。

 

「………おいドライグ、起きてんだろ?それから、もちろん分かってるよな?大声出したら籠手でやるぞ?」

 

『ううっ………ぐすん………酷い、酷いよ相棒………』

 

これで相棒のドライグが大声で邪魔してくる事も消えた今、士道の隣で寝息を立てている少女―――六華のおっぱいへの進路が完全にクリアされた。

 

士道は目の前におっぱいがあるという事実に、感謝の意を込めて―――いざ揉もうとしていた。

 

「この世の全てのおっぱいに感謝を込めて、いただきます」

 

眠っている六華を間違っても起こさないよう小さな声で述べた。

そして両手が今、六華のおっぱいに届いた。

 

「………あっ………んっ………」

 

「うおっ手に吸い付いて来やがる、なんて柔らかさだッ!そのくせ手で押し込むとこれでもかって言うくらいに押し返してくる………ッ!やばい、想像以上だこりゃッ!」

 

士道に欲望の限りおっぱいを蹂躙され、六華の瞼と眉がピクピクと震え艶声を漏らした。

六華のおっぱいをこんなふうに触った事は一度もなかった士道くん。

顔を突っ込んだことはあったが、生乳を欲望の限り蹂躙するのは初めてだった。

 

「ぐへへへへへへへへ。まだ後十分は触れ―――むぐぅ!?」

 

まだまだ六華のおっぱいを好き放題できると油断をしていた所に、反撃が飛んできた。

士道の頭を何かが掴み、おっぱいの中へと押し込んだ………眠っている六華が無意識で士道の頭をガッチリとホールドしたのだ。

 

「むぐぐぐ………スン、スン………六華、六華―――うおおおおおおッッ!」

 

六華は力強く士道をおっぱいに押し込んでいるため、士道は窒息しそうになっていた。

しかし、顔を振ってなんとか呼吸できるようにして、そこからはもうただひたすらに六華のおっぱいの感触を顔面で楽しんでいた。

 

今の士道は幸せの絶頂にいた。柔らかいながらも、両頬を強く押し返してくる感触に、そしてそこから感じ取れる六華の匂いと温もりに………

 

それと同時に、理性がそろそろ限界を迎えようとしていた士道くん。

ホールドされた腕から抜け出し、六華のおっぱいの中心にあるものを凝視していた。

その瞬間、理性と言う名の堤防に亀裂が入りそれは崩壊寸前まであとほんの僅かな所まで進んだ。

 

「こ、ここまで来たら――――――いい、よな?これを吸っ、ても―――」

 

「い、良いですよ………士道さまのお好きなようにして下さい」

 

声が聞こえて、慌てて士道が首を起こした。さっきのホールドをされて士道が感触を楽しんでいたときに、六華が目を覚ましたのだ。

六華は顔を真っ赤に染め、気恥ずかしさのせいか少し息が荒くなっていた。

先程まで好き放題おっぱいを蹂躙していた士道に、報復をかますどころか受け入れたのだ。

 

ここで士道の理性が完全に崩壊した。そして、六華のおっぱいの前で手を合わせた。

 

「『お好きなようにして下さい』そんな素晴らしい日本語があったのかあ!!六華さま、それじゃあいただきます!!」

 

「………士道さまっ………あんっ………」

 

士道くんのおっぱい史に新たな一ページが刻まれる。今日ここで士道はおっぱいを初めて吸おうとしていた。

六華の二つのおっぱいを中央に寄せ、薄いピンク色の乳房を目掛けて口を近づけたその時、六華が士道の鼻息が敏感な所に当たり、艶声を漏らした。

 

しかし―――………世の中そんなにうまくはできていません。これがあと僅か数秒早くできていれば、おっぱい史の新たなページが刻まれていたのだろう。

 

ガコーンッ!!

 

「ぎゃあああああああああああああ!!」

 

六華の乳房を口に含もうとしたその瞬間に、何者かがフライパンで士道の側頭部を強打した。それと同時に目覚まし時計の数倍は、けたたましい音が士道の部屋を響かせた。

 

「朝っぱらから何やっとんじゃあああああああ!!」

 

黒いリボンで髪を結わえた元気いっぱいの少女―――妹の琴里ちゃんが悪を成敗した。

士道くんは痛みに耐えられずベットから転がり落ちて悶絶していた。

 

「うおおおおお!!痛い、頭が割れるように痛い!!」

「士道さま、大丈夫ですか!?」

 

六華がベットから飛び降り、心配そうに体を揺する。

―――完全に自業自得だ。琴里は悶絶する士道にため息を吐くと、心配そうな表情を浮かべる六華に言う。

 

「この変態は言うことないにしても、あなたもよ六華。この変態を起こしに行って帰ってこないって思ったら………どうしてベットの中に潜り込んだのよ?」

 

「士道さまの寝顔を見ていると、その………我慢が出来ませんでした!」

 

正直者な六華ちゃんである。寝顔が可愛すぎて額にキスをするほど士道の寝顔が大好きな六華ちゃん。

ちなみに今日もベットに入り込んで一番最初に士道の額にキスをした………ノルマクリアである。

 

………ちなみに、六華は精霊マンションではなく五河家に住む事になった。

その部屋は、かつて精霊マンションが完成する前に十香が使用していたものだ。

 

リンドヴルムとの戦い以降、常に士道が近くにいた事に安心感を覚えていた六華だったが、一人で生活するとなった途端に精神が不安定になり、部屋でマイクロ空間震を発生させて壁やら扉やらを破壊した。

 

それを見た琴里は、この世界での生活に慣れるまでは士道と一緒に生活させるため、空いていた部屋の一室を六華に与えた。

 

そこから六華の精神状態は見違えるほどに安定した………しかし、今日のように士道の布団に潜り込んでいる事が多々あるのだが。

 

「全く………ほら来なさい、もうご飯の準備は出来てるから。今日は六華が全部やってくれたわ」

 

家事はほぼ士道が一人でやっていたが、六華が来てからは掃除や洗濯、料理まで六華が担当することもある。

住まわせてもらう以上は、六華もお手伝いをしてくれるのだ………これには士道や琴里も大きく助かっている。

 

………ご飯を作る必要がなくなった士道くんは、わしゃわしゃと手を動かして六華に迫る!

 

「マジで!?ありがとう六華!!まだ七時前だからさっきの続きを――――――ぎゃああああああああああああ!!」

 

再び六華のおっぱいを吸おうとした士道を見て、琴里ちゃんが容赦なくフライパンを振り抜いた。

このあと、ご飯を済ませた士道たちは元気よく高校へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――◇―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ご飯を食べた後は、士道は精霊たちを引き連れて学校へと足を運んだ。くるみんの霊力封印後は、全校生徒が急に衰弱した原因を調査するために二週間ほど休校になったため、久しぶりの登校だった。

 

………ちなみに生徒が衰弱した原因は、くるみんの張った結界『時喰みの城』だ。

士道を試すとはいえ、クラスメートを傷付けた事をくるみんの心で複雑な感情が渦巻いている様子だった。

 

責任を感じて重苦しく息を吐いたくるみんを見た士道は、優しくその肩に触れる。

 

「くるみん、顔を上げろ。そんなに辛そうな顔をされると俺も辛い………あの事を忘れろとは言わない、けどそんなに自分を責めるな」

 

「士道さん………ですが―――」

 

「ですがもへったくれもない。最終的にはお前は誰も傷付けなかった―――………そうだろ?くるみん、お前はもう立派にこのクラスの一員なんだ。だから堂々と胸を張ればいい、降り注ぐ災難は全部俺が吹っ飛ばしてやっからよ」

 

「あなたと言う人は………本当にバカですわ」

「バカで結構」

 

それだけを言い残して士道は自分の席へと戻っていった。くるみんの心に渦巻いた複雑な感情が弱まった。

そしてくるみんは改めて理解した。

 

―――この人を信じた自分に間違いはなかったということに。

 

「おいゴラァ!席につけぇ!転校生を紹介する―――コホンッ!紹介しまぁす!今回はなんとですねえ、()()もいるんです!」

 

いきなりヤンキーモード全開でたまちゃん先生(ニ九歳独身)が扉を開けて入ってきた。

………ここにいる全員がヤンキーモードになっている原因はすぐに分かった。

 

―――また合コンで失敗したということに。

 

全員が同情の視線を送った瞬間に、たまちゃんは咳を出していつものモードへと戻った………これでも公私は分けるたまちゃん先生だ。

 

「………寝不足だ、辛い。それと岡峰先生。鳶一折紙は、家の都合で一日お休みです」

 

『大丈夫かあの女………』

 

ちなみに少し遅れて令音があくびをしながら、フラフラと目を擦ってたまちゃん先生の横に立った。

あまりにフラフラとしているため、ドライグも心配そうに声を出した。

 

「そうですか、鳶一さんはお休みっと―――入ってきて下さい!」

 

たまちゃんの合図で二人の少女がクラス内に足を入れた。一人は士道や十香、くるみんがよく知る精霊―――六華。

 

もう一人は、ウェーブのかかった薄い桃色のセミロングの髪を持ち、柔らかな表情、スラっとした細身の身体。

言うなれば、ゆるふわ癒し系の美少女がクラスに加わることになった。

 

ガタッ!

 

皆が転校生を一心に注目していたその時、突如勢いよく立ち上がった少年へと注目が変わる―――立ち上がった少年は、士道だ。

士道は六華ではない方の転校生を見ていきなり、曲げてた足を伸ばして立ち上がったからだ。

 

「――――――り………凛、袮?」

 

もう一人の転校生―――ゆるふわ癒し系美少女を見つめる士道をみて、その少女は懐かしそうに微笑み、士道に応えるよう手を振った。

………その少女は士道がよく知ると同時に、琴里が実の姉のように慕う幼なじみだ。

幼稚園から小学校三年生の時までずっと、士道と琴里の隣にいた掛け替えの無い存在だったから―――

 

「い、五河………くん?」

「あ、す、すみま―――ヒッ!?」

 

たまちゃん先生がいきなり立ち上がった士道を見て怪訝な声を上げると、士道は謝って座った。

………もう片方の転校生………凛袮とやらに熱い視線を送っていた事に気付いた六華に、凄まじい迫力の笑顔を向けられ声を裏返していたが。

 

士道が席に座ったタイミングで、二人は黒板のチョークを手に取り名前を刻み込んだ。

 

「みなさん、はじめまして。園神凛袮(そのがみりんね)です。これから、よろしくお願いします」

 

「はじめまして、星照六華(ほしでらりっか)です。これからよろしくお願いします」

 

―――お、おおおおおおっふうぅぅぅ!!

 

二人の自己紹介が終わると、男子たちが美少女がクラスに来た事に幸せそうな声を漏らした。

その様子に女子たちはじとっとした視線を送った。

男子は近くの席の男子に「二人ともめっちゃ綺麗じゃね!?」「俺、星照さん狙うわ、邪魔すんなよ?」「俺、園神さんめっちゃタイプ………放課後行くわ」などなど大盛り上がりだ。

 

………ちなみに『星照』という苗字をつけたのは、士道くんだ。最初の頃の六華は「五河六華」と名乗ると言って聞かなかった。

 

―――俺、初めて六華を見た時、星すら照らすほど美しいって思ったんだ。だから『星照』っていう苗字を考えたんだけど、どうかな?

 

これを言った瞬間に、六華は顔を真っ赤に染めて首を縦に振ってくれた。

琴里ちゃん同様に、六華ちゃんも案外チョロインなのだ。

 

「うっせえぞ、このボケナス共ガッ!!静かにしろってんだよ―――コホンッ、では園神さんはさっき立った五河くんの前の席。星照さんは五河くんの隣の席でお願いします」

 

シーン………

 

「「わ………分かりました」」

 

たまちゃん先生がヤンキーモードを覚醒させると、大盛り上がりの男子が、ピタッと自分の席で背筋を伸ばした状態で静止した。

凛袮と六華はたまちゃん先生の痔を見て、ドン引いていたのは言うまでもないだろう。

 

凛袮は士道の前の席に座ろうと足を進めてが、六華がたまちゃん先生を見て手を挙げた。

 

「岡峰先生、最後にひとつだけよろしいでしょうか?」

 

「おや?どうしましたか、星照さん?」

 

六華は窓際の席でポカンとした間抜けな表情を浮かべる士道を指さした。

 

そして―――………天使のような光り輝く笑顔で爆弾を投下した。

 

「私には、生涯を約束した人がいます。あちらにおられます五河士道さまです。私は五河士道さまと、結婚を前提にお付き合いさせていただいています」

 

ズオオオオオオオオオオオオオッッ………

 

それを聞いた瞬間に、空気が非常に重くなった。先程立ち上がった時と同様に、クラスメート全員の視線が士道に注がれた。

男子たちからは「許すまじ………」「地獄に落ちろ!」など嫉妬の炎を向けられ、女子からは「十香ちゃんとは遊びだったの!?」「夜刀神さんが本命じゃなかったの!?」など十香を心配する声が多数あがった。

 

「六華、お前なんてこと―――ッ、おい!!」

 

そんな声などお構い無しで六華は席まで足を進めて自分の席に座ろうとしたその時―――六華が士道の腕を引っ張り頬に口付けをした。

 

士道は顔を真っ赤にして恥ずかしげに立ち上がり、視線を泳がせていた。

 

「むぅぅぅぅぅ!!六華、学校でそういうことをしてはいけないと言われたであろう!!」

「………六華さん、少々調子に乗りすぎではありませんこと?」

「………」ピキッ!!

「士道………」

 

いきなり転校初日に、士道は私のものだと宣言し、授業前にほっぺにキスをした六華を見た十香とくるみんはご立腹のようだ。

………おまけに令音までもが、持っていた下敷きを真っ二つに割るほど拳を握りしめていた。

凛袮もこの三人同様、胸の中を焼かれるような痛みが走り表情を曇らせた。

 

「これからもよろしくお願いしますね、士道さま」

 

満面の笑みを送る六華を見て士道は決心した。

―――家に帰ったら必ずお仕置きをする事を!

 

ホームルームが一旦終了し、たまちゃん先生と令音が教室から出た瞬間の出来事だった。

 

『五河くたばれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!』

 

「はあ………やれやれ―――死にたい奴だけ前に出ろ!!」

 

ドガガガガガガガガガガガガッ!!

 

嫉妬の炎を燃やした男子どもが一斉に士道を目掛けて襲いかかった―――………しかし、相手は所詮ただの人間だ。ほんの数秒で全員が返り討ちにあったのは、言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――◇◆―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男子のクラスメートを全員血祭りにあげた後は、普通に授業を受けていた。現在の授業は数学、十香ちゃんが大嫌いな三角関数だ。

心配そうに隣に座る六華へと目を向けると、真面目に先生から渡されたプリントの問題を解いていた。

 

………六華は物覚えが良く、一度聞いたことは絶対に忘れる事ない。

まるでスキャナーで取り込むごとく、学んだ事を吸収していくのだ。

故に、この世界に来てから僅か一週間で高校二年までの勉強をマスターし、今では十香やくるみんに勉強を教えることもあるほどだ。

 

………と、早速十香が悲鳴を上げた。口元に手を当て、小声で六華に視線を向ける。

 

(り、六華………すまぬ助けてくれ)

 

殿町を間に挟んで聞こえてきた声に六華は反応して、十香の席へと歩いていった。

現在はテスト対策期間ということもあって、分かる人が分からない人を教えても良いのだ。

………現に、数学担当の田村先生は―――

 

「グゴゴゴゴゴゴゴッッ………」

 

対策プリントを配るなり、即職務放棄をかました(ただいま教卓の上で絶賛爆睡中)

 

「この分なら十香と六華は問題なさそうだな―――………っと」

 

転がってきた消しゴムを士道は拾って前の席にすわる美少女―――凛袮の机に置いた。

 

「落ちたぞ凛袮」クイッ

 

「あ、ありがとう士道」コクッ

 

士道は笑顔で自分の襟首を掴むと、それを見た凛袮は首を縦に振った。これが幼なじみ同士の仕草で行う、テレパシーにも近い無言の会話だ。

 

(な、なんでしょうか今のは?)

「む?六華、どうかしたのか?」

 

士道と凛袮の謎のやり取りを見逃す事はなかった。それを見た十香は、怪訝に声を掛けた。

六華は「なんでもないです」と言うと、十香に再び勉強を教えていた。

 

 

キーンコーンカーンコーンッ!!

 

 

お昼休みが始まると、士道は屋上でスマホをいじっていた。先程合図をしたあの転校生が来る事を信じて………

士道がスマホを触って約一分ほど経った時、バタバタとウェーブの入った髪を揺らしながら屋上の扉を開けてその転校生がやって来た。

 

「ご、ごめん士道………質問攻めにあって外に出られなくて」

 

「気にすんな、俺も今さっき来たところだから」

 

お互いに言葉を話すと、二人は見つめ合いそれぞれの胸の内を言葉にして伝える。

 

「言いたい事は色々あると思うけど―――………おかえり、凛袮」

 

「うん!ただいま、士道っ」

 

凛袮は目に温かいものを浮かべて、士道の胸へと飛び込んだ。

その凛袮を士道は優しく受け止め、抱きしめた。

 

「夢じゃ、ないよな?お前とまたこうして一緒にいられる事が」

 

「夢じゃないよ士道。私はもうどこにも行かないから」

 

屋上は完全に二人の世界を作り込んでいた………まるで、離れ離れになりながらも、お互いを忘れる事ができなかった二人が再会したように。

凛袮は、儚げに士道の制服を掴む。

 

「でも、星照さんみたいな綺麗な人と、結婚を前提にお付き合いしてるなんて………私知らなかったな………それから夜刀神さんと時崎さんも士道のことが好きだよね………」

 

「ま、まあその―――………色々あって、な」

 

士道は、ばつの悪い顔を浮かべて視線を逸らした。

………凛袮は父親の仕事の都合で引っ越すことになり、士道と離れ離れになったのだ。それでも凛袮は、ひと時も士道のことを忘れた事は無かったのだ。

それは、再開した今でもずっと―――………凛袮は再び想いを伝える。

 

「士道………私、諦めないから。今は夜刀神さんや時崎さん、星照さんが近くにいても絶対に………士道を振り向かせてみせるから」

 

「り、凛袮………」

 

再開していきなりの告白に士道は戸惑っていた。その時、屋上の扉がバーンっと勢いよく開かれた………士道に想いを寄せる精霊トリオがドタバタとかけてきた。

 

「………良いだろう、その勝負受けて立つぞ凛袮!」

 

「と、十香!?それにくるみんに六華まで!!」

 

えっへんと胸を張る十香ちゃん。それだけではない。

 

「ここに来て幼なじみの登場とは。ですが、わたくしも負けませんわよ凛袮さん」

 

くるみんも真っ向から凛袮の挑戦を受け止めることを決めたようだ。

そしてそれは六華も同じだ。

 

「受けて立ちます凛袮さま」

 

四人はこれから幾度となく士道をめぐって、激しく争うだろう。精霊とだだの人間種族は違えど想い人は変わらない。叶いつつあるハーレム王への道のりに確かな手応えを士道は感じていた。

 

「士道、待ってて………絶対に負けないから」

 

凛袮も清々しいほどの笑みを浮かべて、三人を見つめ共に士道を取り合う事を決めた。そして、その後の授業を終えた士道たちは家へと帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――◇◆―――

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ………」

 

天宮市の上空一五〇〇〇メートルに位置する空中艦フラクシナスで解析官を務める令音は、休憩室にて最大にため息を吐いた。

 

「どうしたの令音、ため息なんか吐いて」

 

司令官の琴里が休憩室に入り、ため息を吐く令音に声を掛けた。令音は休憩室の明かりを見ながら黄昏ていた。

 

「六華の霊力を封印してから、シンが私のところに一切来なくなってね………少し寂しく感じるんだ。あれだけ狂おしく私の胸を求めて来た彼はどこへ行ったのか………」

 

………そう、六華の霊力を封印してから約一週間、士道が令音のおっぱいを求めてやってくることがなくなったのだ。

これには琴里ちゃんも思わずニッコリ笑ってガッツポーズ!

 

「ようやく………ようやく私のコツコツ積み重ねた努力が身を結んだのね!士道に諦めずによしのんを投げ続けた甲斐があったわ」

 

士道が令音の胸をユートピアと言いながら顔面を突っ込む事は、令音にとっては癒しで、琴里にとっては悩みの種だった。

ようやく勝ち取った勝利に、琴里ちゃんはうっすらと涙を浮かべていた。

すると、令音はカタカタとパソコンのキーボードを叩いて映像を出す。

 

「………それでシンが来なくなって原因を調査していたら―――こんな事が分かってね」

 

「こんなことって―――はあああああああああ!?」

 

令音が出したパソコンの映像には衝撃の映像が映っていた。これは六華の部屋に仕掛けたカメラだ。そのカメラには、六華の豊満なおっぱいに顔面を突っ込む士道の姿が!

 

『にゅうううううううう♪』スー、ハー、スー、ハー

 

『士道さま、元気になりましたか?』

 

巫女服をはだけさせた六華が士道の頭をホールドして、自分の胸へと押し込んでいた。

士道はとても幸せそうな表情を浮かべて深呼吸をしていた………そう、士道が行っているのは乳気の吸収だ。

 

ロリニュウムやビニュウムは十香やくるみん、凛袮を含めたクラスの女子から無限に供給されるが、キョニュウムともなるとそうはいかない。

少し前までは、令音に土下座で頼み込むしか無かったが、今では同じ家に住む六華に、「三時のおっぱい」と言えばキョニュウムを吸収できるようになったからだ。

 

………ちなみに乳気が不足すると、士道は動けなくなるのだ。

活動すると三つの乳気を消費するため、現在はその乳気の補充を全力で行っているのだ。

 

「………シンが言うには、活動する度にロリニュウム、ビニュウム、キョニュウムを補充しないと精神が病むと言うくらいだからね。最初は私を頼ってくれていたが、六華が『浮気は許しません!』と言ってからはずっとこうだ。お陰で私の癒しの時間が無くなってしまってね………これでは、私が精神を病む」

 

令音の深刻な悩みを聞くなり、琴里は何処かへと消えた。そしてパソコンの中から、琴里の声が聞こえてくる!

 

『お☆に☆い☆ちゃああああああん!六華にナニさせてるの?琴里、詳しく聞きたいなぁ!』

『ゲェッ!?てかお前、灼爛殲鬼(カマエル)は無しだろ!?俺普ッ通に死ぬわ!!』

 

今の琴里ちゃんは白リボンで髪を結わえた『可愛い妹モード』だ。その琴里ちゃんが巨大な斧を持ち上げ、無慈悲にそれを振り下ろす!!

………黒リボンの司令官モードでも十分怖いが、今の琴里は可愛い妹モードだ。びっくりするほど澄んだ笑顔で斧を振り下ろしてくるのだ。

こんなものサイコパス以外のなんでもない!!

 

『えいッ♪』『ぎゃあああああああああああ!?』

 

『【輝壁(シュテル)】ッ!!』

 

バキィィィィィィィィィィンッ!!

 

六華が手を伸ばすと―――士道と六華を覆うように結界が展開され、巨大な斧を木っ端微塵に砕いた。

………六華は他の精霊以上に、士道が傷付くことには敏感に反応してしまうため、霊力の逆流の頻度が高い。

この通り、琴里がスケべ行為を止めようとしただけで、天使が扱えるようになるほどだ。

 

『士道さま、怖かったですよね?ですが、もう大丈夫です。安心して乳気を吸収してください』

 

『ううっ、ぐすん。六華ぁ怖かったよぉぉぉぉ!にゅううううううう!』

 

『六華、今すぐこれを解除なさい!って聞きなさいよ!?』

 

六華は、赤ん坊に母乳を与えるように士道に乳気を吸収させていた。ちなみに、琴里は何度も巨大な斧で結界を破壊しようと叩きつけたが、結局破壊する事が出来ず、プンスカとフラクシナスへと帰っていった。

 

『いやあ、助かったぜ六華ありがとう。よし、これで買い物にも行けるぜ!』

 

『では、参りましょうか士道さま』

 

満足して六華のおっぱいから士道が離れたのは、一時間後だった。買い物からの帰宅後に琴里から大目玉を食らったのは、言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――◇◆―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

太陽が仕事を終え、月へと仕事を交代した時間に、士道は六華をしたがえて近くのスーパーを目指していた。

 

本日二度目のお買い物だ。

 

「ったくなんで、この俺様がアイスなんざ買いに行かなきゃならねえんだよ。ハーゲンダッツの最後の一個を食った奴は琴里なのに!!」

 

アイスを切らしていた事に気付いた琴里に、士道くんはお使いを命令され全力でボヤいていた。

買ってこいと言われたのは、ハーゲンダッツやらその他のアイスだ。

 

テストの一週間前というのもあり、精霊たちが士道や六華に勉強を教わる名目で五河家には、ほぼ毎日精霊たちが訪れ、冷蔵庫の中の食材に大打撃を与えた。

 

………今から買いに行くのはその補充だ。

 

「士道さま、ボヤかないで下さい。私は士道さまとこうして一緒にいられて幸せですよ?」

 

六華ちゃんはこの通り、士道と一緒にいられるだけで幸せなのだ。そして、五分ほど歩くとスーパーに到着したのだが、六華がスーパーに入るためのドア前で固まった。

 

「………ほら、六華掴まれよ。ぐへへへへへへへへ!!」

 

「は、はい………」

 

このスーパーのドアは回転ドアなのだ。初めてこのスーパーを訪れた時、六華がドアに激突して尻餅をついたのだ。

………その時に、ワンピースの中から見えたパンツを士道がマジマジと見つめていたのは、内緒である(当然スマホにはその写真もある)

 

六華は、士道の腕に掴まってゆっくりと足を進めた。回転ドアをくぐり抜けてスーパーに入ると店員が慌てて駆けてきた。

 

「お、お客様!鼻血が出ていますよ!」

 

「あ、すみません。ぐへへへへへへ!」

 

店員からティッシュをもらうと鼻に突っ込む士道くん。六華が動く時に腕にむにゅうっと当たるおっぱいの感謝を楽しんでいたのだ。

 

「し、士道さま!楽しんでませんか!?」

 

「何言ってんだ六華、おっぱいの感触を楽しまない奴なんざ漢じゃねえ!!」

 

「そ、そういうわけではありません!私は悩んでいるのに、なぜ士道さまはそんなに嬉しそうなんですか!」

 

「そりゃあ六華のおっぱいを堪能できるからに決まったんだろ?」

 

「真顔で言わないで下さい………こっちが恥ずかしくなりますから」

 

真剣に回転ドアへの対応に悩む六華だが、その六華が腕に掴まることで、士道くんはおっぱいの感触を楽しんでいる。

さて、夫婦のやりとりはこの辺にしよう。スーパーで二人は買い物を始めた。予算はニ〇〇〇円だ。

 

士道が適当にハーゲンダッツやら、ガリガリ君やらを適当にカゴへと詰め込んでいった時、六華が言う。

 

「士道さま、予算オーバーです。モナ王は諦めてください」

 

「チクショウ!頼む六華!!」

 

「ダメなものはダメです!」

 

こっそり自分用に買おうとしたモナ王を六華ちゃんは見逃してくれなかった。わずか数十円のオーバーでも六華ちゃんは許さないのだ。

しかし士道くんも諦めない!

 

「頼む六華!またおっぱい揉んでやる―――いや、一緒にお風呂に入っておっぱい流してやるから!学校で黒板の文字を消してる時に、スカートの中のパンツを見てやるからさ!!ぐへへへへへへへへ!!」

 

「―――完全に自分へのご褒美じゃないですか!?ダメです!!」

 

「ぬおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

六華に何かを与えるではなく、自分へのご褒美でモナ王をねだる士道くん。その作戦は見事に失敗し、頭を抱えて足元から崩れた。

さてさて冗談はこの辺にして、二人はレジでお会計を済ませようとしていた。

 

―――その結果は………

 

「お会計は一九五三円になります」

 

モナ王を買っていれば本当に予算オーバーになっていたところだった。さすがは六華ちゃんだ。

お会計を済ました後、士道は両手にアイスが入った袋を持って外へと出た。すると、六華がチラチラと士道の手に視線を向けていた。

 

「ん?六華、どうかしたか?」

 

「い、いえ―――………」

 

六華は急に士道に声をかけられて、びっくりして声を裏返した。何でもないと言ったが、未だに六華はチラチラと士道の手を見つめて頬を赤らめている。

黙っていたドライグが盛大にため息を吐いた。

 

『はああ………相棒、お前は本当に鈍感が過ぎる。袋の片方を六華に持ってもらえ』

 

「袋の片方―――あ!!六華、頼んでもいいか?」

 

士道が軽い方の袋を手に出すと、六華の顔が光を放つほど明るくなった。

 

「もちろんです!」

 

六華は袋を受け取ると、空いた士道の手をもう片方の手を士道の手のひらに合わせて握った。

しかし、これでは士道くんが満足しなかったのか、手を滑らせて六華の手の指の間に、自分の指を忍ばせてから再び握り直した。

それを見た六華は頬を赤らめた。

 

「し、士道さま………この手の繋ぎ方は―――」

 

「………嫌だったか?」

 

士道が目を見つめて訊ねると、六華は何度も首を左右に動かした。

恋人同士で行う手の繋ぎ方を選んでくれた士道に、完全に心を動揺させられていた。

………足を進め、家まで帰ってきた時に家に入ろうとした、六華の肩を掴んで止める。

 

「あ、あの………士道、さま?早くしないと、アイスが―――」

 

「六華、絶対に後悔させない。お前が俺を選んでくれたことをさ………どんな奴が来ても六華を守ってやる」

 

その言葉を聞いた六華は―――………

 

「後悔なんてありませんよ、士道さま」

 

六華が見せてくれた笑顔は、地上で輝く月のような光を放っていた。

 

新たな精霊が加わり、より賑やかになる士道の日常。精霊を救うための戦いはまだまだ続く!

 




これにて『六華クライシス』は完全に終了です。

零章のキャラ設定に六華、アルテミス、ヘルメスを追加しました。

この章だけで約三年ほどかけてしまい、本当に申し訳ございませんでした。

◆凛袮について

八舞編の一話で登場させても良かったのですが、この話で登場させる事にしました。
現在は、凛袮は人間で士道とは幼なじみの設定です。

今後の章で凛袮の章を作る予定です。
※凛袮イリュージョンという章名で出そうと考えています。

◆ここからは八舞編の予告です

八舞編の予告(一部シーンを抜粋)

令音「ベルセルクは非常に高速で動き回る精霊だ、今回を逃すともう―――」
士道「神速と【閃光】の鎧なら追いつけますよ?たとえ逃げられても、あの二人のおっぱいを求めて地の果てまでだろうが追いかけます!」

一緒に温泉編

耶倶矢と夕弦は暖簾を逆にして、士道を女湯に突っ込もうとしていた―――しかし………

士道「ばっきゃろう!!俺が女湯に入るチャンスを棒に振るとでも思ったか、舐めんじゃねえ!!耶倶矢、夕弦。俺は女湯に入るぞ!」

日焼け止め編

士道「お前ら今度は前だ。おっぱいにも日焼け止め塗らなきゃだろ?そんなんじゃあ俺は攻略できないぜ!?ぐへへへへへへへへ!!」

ビーチバレー編

士道「お前らよく聞け―――MVPはこの俺だあああああああ!!」

フィナーレ

士道「お前ら、本当に強かったぜ………でもなあ、ここにある二つのおっぱいの片方たりとも、失うのは死んでもごめんだ!ここからは俺も本気だ、例えお前らに嫌われてでも勝たせてもらう!!ここから先は―――乳龍帝の戦争だ!!」

八舞編、始動!おたのしみに〜




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六章 八舞テンペスト
一話 頼み事をします!


どもども、勇者の挑戦です。

お待たせしました、八舞ツインズ降臨です。

開幕は折紙サイドからです。

※六華の体重を公開したその日に、足の小指を冷蔵庫にぶつけました。みなさん、女性の体重を公開するのはやめましょう。


 

 

「それでは処分を言い渡す―――鳶一折紙一曹を、懲戒処分とする。今後顕現装置(リアライザ)に触れることは二度とないと思え」

 

自衛隊天宮駐屯地の一室で、折紙の不祥事に対する審査が行われていた。

それは以前、折紙が琴里を殺す名目で、オーシャンパークに襲撃を仕掛けたあの事件だ。

 

折紙もこうなる事を覚悟して、あの行動を起こした。しかし、折り紙の中でどうしても諦めきれないものがあった。

 

―――士道が命を賭して折紙に伝えた言葉だ。

 

仮に士道の言った事が真実である場合、折紙は真犯人を討滅する機会を失ってしまうのだ。これが唯一心の中に残った諦められない思いだった。

 

しかし折紙自身も分かっていた。この処分が簡単に覆る事がないことくらいは………しかし、意外な助け船が現れた。

 

「おや、お邪魔キングだったかな?」

 

漆黒のスーツに身を包んだ男が、秘書と思しき少女を従えて扉を開けて様子を伺っていた。

 

………開けるなら、事前にノックくらいするのが礼儀だが、この男にはそんな物はないらしい。

 

「―――ミスター•ウェストコット?」

 

サー•アイザック•レイ•ペラム•ウェストコット。

世界で唯一顕現装置を製造する事ができる会社(メーカー)『DEM社』の業務執行取締役―――つまりトップだ。

 

「なぜあなたのような人物が………」

 

「いえね、せっかく天龍の力を封じ込めた人工神器(セイクリッド•ギア)をプレゼントしたのだが、使用予定のマナがダウンしていると聞いてね。ちょうど日本による予定がありましたので、マナのお見舞いと並行して噂の真実を確かめようと思ってね………」

 

動揺する審査官に一言述べたウェストコットが部屋を見渡す。

 

「噂………と言いますと?」

 

「『白龍皇の(ディバインディバイディング•)輝銀鱗装(シルバードラゴニックユニット)』を使用して精霊に挑んだ隊員がいるとか、なんとか………一度この目で見ておきたかったのですよ」

 

「………っ」

 

ウェストコットの言葉により一層、部屋の空気が重くなった。

………折紙が使用した人工神器は、DEMの実験機だ。それも真那にしか使用許可が出ていない装備だった。

 

「おやおや、私は責めるつもりはないよ。ただ―――使いこなしたのが、キミのような可愛らしいお嬢さんとは思わなかったけどね」

 

「………」

 

ウェストコットは折紙へと視線を送った。視線を送られた折紙は、得体の知れない気味悪さを感じて唾液を飲み下した。

ウェストコットは警戒された事に苦笑いを浮かべると、審査官がわざとらしく咳払いした。

 

「今回の件に関しては手前どもの失態です。一曹にも記憶処理を施しての懲戒免職の処分を下す予定です」

 

審査官の言葉を聞いたウェストコットが静止画のようにほんの数秒固まった。

その後は天を仰ぎ盛大なため息を吐く。

 

「なんということだ―――………アレを身に纏って戦う事のできる魔術師は、この世にたったの五人といません。その魔術師を処分しようとは………」

 

「そういう問題ではないのだよ、ミスター。これは隊の規律の問題だ」

 

全く退く気配のない審査官を見たウェストコットは、バン!とその机を叩いて顔を寄せて口を開く。

 

()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

『………』

 

ウェストコットの言葉に、並んだ武官たちが一斉に黙り込んだ。これはウェストコットからの命令だ。

 

―――自分の言うことを聞かないと貴国への顕現装置の供給を止める。

 

陸上自衛隊には、DEM社に大きな借りがある。ここでこの剽軽者への対応を誤れば、大きな災を招く未来が見えていた。

 

DEM社は顕現装置を世界中に供給している唯一の会社だ。それが供給されないとなると、著しい国力の衰退が目に見えている。

 

それでも審査官は決定を覆そうとはしなかった。自衛隊の幹部が外国企業の要求に屈したという前例を作らないために。

 

「………舐めるなよ、民間企業」

 

審査官はウェストコットを睨み付け、ドンと拳を叩き付けた。

 

「良い覚悟だ」

 

ウェストコットは決定が覆らないことを確認すると、スマホで何処かへと通信を飛ばした。

 

「―――ああ、どもお世話になってます。本日はご相談がありまして………」

 

ウェストコットは幾度か言葉を交わしたのち、スマホを差し出した。

 

「………?何の真似だ?」

 

「出ていただければすぐに分かるでしょう」

 

ウェストコットからスマホを受け取った、僅か数秒後の出来事だった。

視線を鋭くする審査官に、不敵な笑みを浮かべるウェストコット。

 

「ぐっ………鳶一折紙一曹を二ヶ月の謹慎処分と、する………!査問は以上だ、さっさと失せろ!」

 

「し………失礼、します」

 

審査官が弁護役の日下部一尉に視線を送った瞬間、弾かれるように折紙の手を引っ張って部屋を出て行った。

 

「………まさか、DEMのトップがあんたに助け舟を出すとはね」

 

「納得いかない。間接的とはいえ、自衛隊が外国企業の要求に―――」

 

言いかけたところで燎子がスパンッと折紙の頭を叩く

 

「何をするの」

 

「こっちの台詞よ。下手なこと言って懲戒食らったらどうすんのよ、親御さんの仇は?」

 

「必ず取る………」

 

燎子の言葉にぎゅっと拳を握りしめて頷いた。査問が終わり、報告書の作成に向かおうとした時だった。先程助け舟を出してくれたウェストコットが折紙に気付き、その肩にポンッと手を置いた。

 

「期待しているよ、若き魔術師。キミなら必ず精霊を討滅できる」

 

「………っ」

 

肩に手を置かれた瞬間に、ドクンッと何かが折紙の中で脈打った。先程視線を向けられた時と同様に、身体全身に悪寒が走ったのだ。

 

「アレを」

 

ウェストコットが秘書に言葉を投げかけると、懐から小さな紙を取り出し、折紙に手渡す。

 

「どうぞ」

 

無言でそれを受け取る折紙。その紙には名前と電話番号と思しき数字の羅列、そしてメールアドレスが記されてあった。

 

「何か困った事があったならいつでも言ってくれたまえ。DEM社はキミへの協力を惜しまない」

 

「感謝します」

 

名刺を受け取り、小声で折紙は返した。しばらくすると、ウェストコットは秘書と共に何処かへと消えた。

 

 

 

ウェストコットは廊下にカツカツと靴音を響かせながら、笑みを作り出した。

 

「ククッ、まさか『白い龍(バニシング•ドラゴン)』がそのまま宿るとはね。人工神器がバラバラになって修復が困難になったと聞いた時は、どうなるものかと思ったが………」

 

「では、やはり―――」

 

「そうさ。リンドヴルムの細胞で作った極薄の手袋で触れた時に、反応があってね。あの様子では近いうちに必ず目醒めるだろう。

………あのトビイチオリガミに宿った『白い龍』は、()()()()()()()()()()()んだからね。もしやと思って触れてみたら、案の定さ。

今は連中が折れなかったから諦めるが、いずれは我が社に迎え入れるつもりさ―――………どんな汚い手を使ってもね」

 

ウェストコットは折紙に随分とご執着の様子だ。秘書は訊ねる。

 

「DEMに、引き入れると?」

 

「ああ。適切に処理を施せば、マナやアルテミシアは勿論だが―――世界最強の魔術師、エレン•メイザース―――キミすら超える可能性のある逸材だ。リンドヴルムはそれを分かって、あの装備を送ったのかな?」

 

「………」

 

ウェストコットが従えていた秘書は世界最強の魔術師―――エレン•メイザースだ。エレンはウェストコットの言葉は冗談だと分かってはいたが、少し不機嫌になり黙り込んでしまった。

 

「リンドヴルムに報告をしたいんだけど………スマホが繋がらないんだ。エレン、何か聞いていないかい?」

 

「しっかりして下さいアイク。異世界に送り込んだ分身体が消滅させられたと、今朝嘆いていたのを忘れましたか?今頃は神器の調整で大忙しなのでしょう」

 

「ああ、そんな事もあったね………っと、すまない電話だ」

 

言われた事がトボトボとこぼれ落ちるウェストコットに、エレンは盛大なため息を吐いた。

 

「ああ、もしもしユイちゃん、私だよ―――うんうん、川北西ホテルだね?分かったすぐに向かうよ」

 

「アイク………また、ですか?」

 

電話を切るとウェストコットはクルクルと上機嫌でその場で踊り始めた。彼の唯一のお楽しみがこれから始まろうとしていた。

エレンはその様子を見て目を細めていた。

 

「やはりエンコウとは、素晴らしい。ピチピチな女子高生を金の力でやりたい放題なんだから。私のような人格破綻者には、最高の趣味だよ」

 

………ウェストコットは女子高生が大好きなのだ。

ちなみに秘書であるエレンを、女子高生くらいの見た目にしているのは、ウェストコットの趣味だ。

ホテルで待つ女子高生に期待を膨らませて、ウェストコットは次の目的地を目指して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――◇◆―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

AM7:50 学校のホームルームが始まるまでまだ四〇分ほど余裕がある時間に、士道はカバンを置こうと教室に入る。

すると、ウェーブのかかった薄い桃色のセミロングの髪の少女が士道に視線を向ける。

 

「おはよう、士道」

 

「よう凛袮、早いな」

 

………先週来禅高校に転校してきた幼なじみの凛袮だ。凛袮は士道がカバンを置くと、席から立って士道と共に職員室を目指した。

 

「日直って日誌と朝学のプリントを取りにいくんだっけ?」

 

「ああ。他には教室の鍵を開けなきゃいけないんだけど、昨日の日直のやつが閉めんの忘れてたからそれは要らなくなったけどな。

後は、黒板を消したりしないといけない事もあるから俺は大体この時間には来てるよ」

 

日誌と朝学のプリントを持ちながら凛袮を見て話す士道くん。ちなみに凛袮はテストの復習のために、朝早くから勉強をしていた。

 

「そう言えば昨日、琴里ちゃんに会ったよ。久しぶりに『凛袮おねーちゃん!』って言われてさ………本当に大きくなったよね」

 

「生意気なところと体の一部分だけはロクに成長しないけどな―――いでででででで!!何しやがる凛袮!?」

「士道、いくら妹でも女の子にそんな事言ったらダメだよ。気をつけなきゃ」

 

琴里の胸の成長が遅い事を話題に出した途端に、凛袮にほっぺをつねられる士道くん。

琴里が気にしているであろう事を分かっていた凛袮だからこその行動だった。

 

教室に着く頃には、既に精霊トリオ―――十香、くるみん、六華が自分の席に座っていた。

士道と凛袮が教室に入ると声をかける。

 

「おはようだ、シドー、凛袮」

「ごきげんよう、士道さん、凛袮さん」

「おはようございます、士道さま、凛袮さま」

 

「おはよう、十香ちゃん、時崎さん、星照さん」

 

三人とも士道の家でご飯を食べているが、学校に来たらきちんと挨拶はしてくれる。

………ちなみにこの四人は基本的にいつも休み時間も昼食も一緒に取る。当然士道もだ。

転校したての六華や凛袮もクラスの女子とは比較的に仲良くやっていけている。

桐生愛華という問題児に十香と六華がよく絡まれる事は多いが、桐生愛華がエロい話をする前に士道が撃退しているので、士道の生活が脅かされることはないのだ。

 

「………………」

 

肩口をくすぐる髪をピンで止めた色白の少女がクラスに入ってきた―――少女の名は鳶一折紙。

教室内に最悪の精霊がいる事に気付き、全神経を研ぎ澄ませていた。

………折紙は登校が再開してからの最初の三日間は、登校が出来なかったため、六華や凛袮が転校してきた事も、くるみんがノコノコと登校してきた事も知らない。

 

くるみんに警戒心を剥き出しにする様子を見た士道は、二人の間に割って入り、折紙の肩に触れた。

 

「おはよう折紙―――話がある、ちょっと付き合ってくれないか?」

 

士道が言うと折紙は眉を動かした。

 

「………分かった」

 

士道に連れられ、折紙は屋上へと向かった。

屋上に着くと近くの柵に士道は身を預けた。

 

「まずは折紙………その、大丈夫だったのか?いくら精霊相手とは言え、その他大勢の民間人を巻き込んだろ?処分は相当重かったんじゃないのか?」

 

士道が心配そうに訊ねると、折紙は無表情で口を動かす。

 

「―――査問の結果、謹慎二ヶ月が言い渡された」

 

「そうか………」

 

アレだけの事をやらかしてよく謹慎二ヶ月で済んだなと思った士道だったが、口には出さなかった。

今度は折紙が士道に言う。

 

「私はまだ納得していない。炎の精霊〈イフリート〉の件もそうだけど、アレだけの事をしでかした〈ナイトメア〉がしれっとした顔で登校している事も」

 

「………っ」

 

士道は折紙の言葉を聞いて息を詰まらせた。頭をクシャクシャと掻きむしった後、士道は話し始める。

 

「琴里の方は、確かに俺は証拠を出してやれなかった。それはこれから俺が必ず見つけ出して見せる。

………けど〈ナイトメア〉―――くるみんの事は見逃してくれ!あいつはもう力を失った、だからもう人間と同じなんだ」

 

「なぜあの精霊を士道が庇うの?皆をあんな目に合わせて、士道まで傷付けて………それからあなたの実妹である真那を手に掛けたあの精霊を―――」

 

「くるみんは〈ナイトメア〉の本体じゃないんだ。あいつはあの後、現れた本体に胸を貫かれた時に力を失ったんだ。

力を失った以上、くるみんに命のやりとりをする生活をさせたくない!俺はあいつに笑っていられる生活をさせてやりたいんだ!!」

 

士道が嘆願するように放った言葉に、さらに折紙が表情を険しくさせる。拳を握りしめて声を荒げる!

 

「力を失った以上は精霊じゃない―――………冗談にしても笑えない!あの精霊は空間震を除いても多くの人間を手にかけた。何かの弾みでまた人間を殺すようになった時は―――」

 

「―――くるみんが人間を殺した時は、俺がこの命を差し出そう。くるみんが人間を手に掛けたその時は―――俺はこいつで首を斬り落とす………これならどうだ?」

 

「………ッ!」

 

士道は折紙が全て言う前に、塵殺公(サンダルフォン)を首に当てた。この狂気じみた士道の行動に折紙は息を詰まらせて後退る。

 

「どうして………どうして!?私は士道がそこまでする意味が分からない!!」

 

「俺はくるみんに約束したからだ。約束をした以上は責任がある!俺はあいつに命が脅かされず、笑っていられる生活をして欲しいだけなんだ!あいつはもう絶対に人を殺さない―――もしあいつが人を殺した時は俺の命をくれてやる!!

だから―――………俺に免じて、上にくるみんの報告をしないでくれ!!頼む、この通りだッ!!」

 

バコッ!!

 

士道は脛を地面につけて膝を曲げ、手をついた後、屋上のコンクリートにヒビを入れるほど強く額を叩き付けた。

………土下座だ。自分の命を対価にしてでも、くるみんが人を殺さない事を信じて。

目と奥歯に力を入れてガタガタと震える士道を見て、折紙は土下座をする士道に歩み寄る。

 

「………誤解しないで、私は士道のことを信じていないわけではない」

 

「………折、紙」

 

折紙の言葉を聞いて士道が顔を上げた。顔を上げた士道を見た折紙は続ける。

 

「私も、できることなら士道の妹も殺したくはないし、士道がそこまで言うならあの〈ナイトメア〉の件は上に報告しない」

 

「………っ、ありがとう折紙」

 

「それは、こちらの台詞」

 

折紙が差し出した手を握って立ち上がる。

 

「感謝している………私に変わらず話しかけてくれて」

 

「感謝って―――………俺は感謝されることなんて何もしてねえよ」

 

士道が苦笑いを浮かべると、少し躊躇いながら口を動かした。

 

「私はあなたの妹を―――いえ、それ以前に三ヶ月前、私はあなたを殺してしまうところだった」

 

「三ヶ月前の事は、もう済んだ事だ。気にするな………とは言えないか―――………でもな折紙、俺はこれからもお前と今まで通りに話をしたい―――駄目か?」

 

士道が問うと、折紙は逡巡のようなものを一瞬見せたが、ふるふると首を横に振った。

 

「………よし、それじゃあホームルームがもう始まる。戻ろうぜ折紙」

 

「―――待って、ひとつ確認したいことがある」

 

「ん、なんだ?」

 

屋上の入口にある扉に触れようとしていた士道が、くるっと体を回して折紙を見た。折紙は士道の顔をじっと見つめる。

 

「士道。あなたは人間?」

 

「………っ」

 

士道は思わず息を詰まらせた。これ以上誤魔化す事は無理だと判断したからだ。

………今の折紙には琴里の件と、くるみんの件も含めた二つの大きな借りがある。

これ以上嘘を重ねようものなら、折紙が心変わりして、くるみんのことを上に報告されたら全てパーになってしまう。

返答に困る士道に折紙が言う。

 

「士道が赤い鎧を纏って私と戦った事も、私が撃ってしまった時に傷一つ無い状態で学校に来た事も、上には報告していない。

でも万が一、士道が精霊であると判断された場合、あなたの討伐命令が出る可能性がある」

 

折紙の言葉は的を得ていた。今の士道は精霊の天使を操り、一度鎧を纏えばASTと互角以上に渡り合う超常の存在だ。

精霊と断じられてもなんら不思議はない。スーッと大きく深呼吸した後、口を開けた。

 

「………俺は人間だ。でも、ただの人間じゃない―――伝説のドラゴンが宿った人間なんだ。

あの装備を纏った折紙と戦えたのは、そのおかげだ―――来やがれ赤龍帝の籠手(ブーステッド•ギア)ッ!!」

 

士道が左腕を突き出すと左腕に赤い籠手が装着された。折紙は士道の左腕に視線を集中させていた。

 

「これが俺に宿った神器『赤龍帝の籠手』。二天龍の片割れ―――赤き龍の帝王ドライグの魂が封印されたものだ。俺にはこいつが宿っている。

………それともう一つ、俺は精霊の霊力を封印する力を持っている。折紙に撃たれた時や、オーシャンパークでの死闘の時に負った傷が瞬時に治ったのはそのためだ」

 

折紙は士道の説明を聞いて全ての現象が彼女の中で繋がった。それと同時に、士道が以前言っていた事にも納得がいった。

 

―――今は琴里は人間であり〈イフリート〉の力は、自分が有していると。

―――狙うなら、自分を狙え、と。

 

「………士道、とても話し難いことを話してくれてありがとう。もちろん上には報告をしないから安心して」

 

「すまない折紙、恩に着る―――じゃあ、教室に戻るか」

 

話が終わったところで、士道と折紙は教室へと戻って行った。

士道と折紙が教室に戻ってきた時には、時刻はホームルーム開始まで後三分になっていたのだった。

 

 

 




良ければお気に入り登録、感想、評価の程お願いします。

今回は少し短めにしました。

仕事の変則勤務が終了したため、ここからは頻度がかなり落ちます。
良くても週に一話投稿するのがやっとになると思います。

ですが、まだまだ続けていくので、よろしくお願いいたします。

☆おまけ

士道が教室に帰って来ると、くるみんの席に何やら人が集まっていた。士道はクラスメートをかき分けて様子を伺うと――――――くるみんが涙を流しているのだ。

士道「くるみん!?どうした、誰にやられた!?」

士道が心配そうに身体を揺すると、くるみんが慌てて涙を払った。

くるみん「士道さん、なんでもありませんわ!大丈夫ですから」

士道「大丈夫で涙が流れるわけあるか!!おい、くるみん泣かしたやつ出てこい!!」

士道が怒鳴り声を上げるが、誰も名乗りを上げない。士道が怒る様子を見たくるみんは慌てて諌める。

くるみん「士道さん、本当に大丈夫ですわ。それから、ありがとうございますわ―――わたくしのためにあそこまで言ってくれて。本当に嬉しく思いましたわ」

士道「何の話してんだよ、くるみん。これ、六華のスマホ―――あ!!」

くるみんの机の上にあるスマホは、よく見るとくるみんのものではなかった。士道同様に、次元の守護者によってハイパースペックに改良されたものだった。このスマホの持ち主は六華だ。

そして、士道が自分のスマホを見た時に確信した。
くるみんの机にあるスマホと、士道が持つスマホの画面には、音声を共有するモードがONになっているのだ。
モードがONになったスマホ同士では、常時音声の共有が可能になる―――要は電話をしている状態だ。
つまり、折紙との会話は全てくるみんに全部聞かれていたのだ!

―――くるみんの為に命を賭けるなどなど恥ずかしい台詞を連打していた事に気付いた士道くん。思わず赤面!

赤面した士道にくるみんは悪戯な笑みを浮かべて士道に耳打ち!

くるみん「大好きですわよ、士道さん♪」

士道「やめてくれええええええ!!」

恥ずかしい台詞を聞かれた士道の断末魔の叫びが教室内に響き渡った。


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二話 いろいろ準備をします!

どもども、勇者の挑戦です。
前章六華クライシスにて、自分でネタを考えるのに慣れてしまい、小説片手に内容確認しながら、書き込む内容を取捨選択するのがクソ大変です。

さてさて、八舞姉妹の登場は―――多分次回になりそうです


「はーい注目!」

 

教室にて、タマちゃん先生(二九歳独身)が教卓側の黒板に手を向ける。

黒板には、何やらいくつも枠線が書かれてあり、何かグループを決める様子だ。

 

時間は既に放課後のチャイムがキンコンカンコンと鳴動した後、タマちゃん先生が急ぎのホームルームを始めた。

 

「修学旅行の自由行動の時の班及び、部屋割りを決めちゃいましょぉ!好きな人同士で四、五人の班を作ってくださぁい!」

 

タマちゃん先生が指示を出すと、クラスの学級委員長が手を挙げた。

 

「岡峰先生、男子及び女子ともに班はもう決まっています。後は自由行動を共にする、男女の班の組合せをくじ引きで決めたいのですが。

くじの方はこの通り、既に作ってあります」

 

学級委員長が、班のメンバーを書いた紙を入れた箱を用意して提案をした。

………ちなみに、箱の中身は男子の班のくじだ。それを女子の班長が引いて、引いた籤の班とペアを組むと言う事だ。

 

「くじ引きは良いですけどぉ………でも、せっかくの修学旅行ですし、お互いが気を許せる仲のいい友達と―――」

 

()()()()()()()()()()ですから!!これはクラス全員の意見です!!」

 

タマちゃんの言葉を遮るように、男子の学級委員長が言い切った。

―――そう、このような籤引きをする様になったのには、原因がある。

 

 

 

 

―――遡る事三日前………

 

クラスの学級委員長が、修学旅行がある事を見越して修学旅行の班決めを行っていた。

 

「高橋―――俺の班は俺を除いて、殿町、小川、竹林の四人だ。これで出す」

 

「分かった。これで全員決まったな」

 

士道はクラスの男子の学級委員長―――高橋に班を決め、紙を提出する。

これで男女共に全ての班が揃い、残りは自由行動での男女を組み合わせた班を決めるだけだった。

………しかし此処で大きな問題が起こった。

 

―――それは………

 

「シドー、一緒の班になろう!」

 

「おい十香、抱きつくなって―――………六華はオーラをしまえ!!」

 

十香が、士道に抱きつくと、浮気と捉えた六華ちゃんが、凄まじいオーラを放出させる。

 

………失礼、これは大した問題ではない。本当の問題はこれだった。

 

「園神さん、俺たちと班を組まない!?」

「いや、園神さんの班は俺たちと組むんだよ!!」

「園神さん、俺らと自由行動の班を組んで下さい、お願いします!!」

 

「えーと………」

 

などなど、男子がクラス内で、ぶっちぎりの美少女偏差値を誇るメンバーを揃えた凛袮の班『精霊トリオ+凛袮』と、ペアを組もうと怒涛の勢いで押しかけてきた。

 

凛袮は困ったように、視線を泳がせていた。それを見た士道が、詰め寄る男子たちを跳ね除けて、凛袮の肩に手を置く。

 

「お前ら邪魔だ。凛袮の班と組むのは俺たちの班だ………分かったら向こうに行け」

 

「………そ、そう言う事だから―――みんな、ゴメンね?」

 

士道がシッシッと手を払うと、凛袮が申し訳なさそうに手を合わせた。

―――これで素直に諦めてくれると思った人は、挙手して下さい。

 

………もちろん、男子たちは納得するわけが無かった!!

 

「ふざけんな五河!!お前はどんだけ、俺らの恋を邪魔したら気が済むんだ!!」

「クラス一の美少女たちと、毎日にゃんにゃんしやがって!!一人くらい俺たちにも寄越せ!!」

「そうだそうだ、もっと十香ちゃんを大事にしろ!!それから星照さんと別れろ!!」

 

「おい最後!?本音出しやがったな!!」

 

教室内はスマブラ状態になり、収集が付かないほど大荒れになった。結局、女子の学級委員長である桐生愛華が『それならくじ引きで決めない?』と言うことになり、こう言う結果になったのだ。

 

 

―――そして今、ようやく男子たちの運命をかけた籤引きが始まろうとしていた。

 

「それじゃあまずは、園神さん」

 

高橋に名前を呼ばれて、凛袮が前に出て教卓の上のクジが入った箱に、手を入れようとしていた。

その時、高橋が凛袮に言う。

 

「園神さん、俺らの班のクジを引いてくれ!」

 

「ははははは………」

 

凛袮の前で手を合わせる高橋―――いや、士道を除いたクラスの男子全員が祈るように両手を合わさて目を瞑っていた。

これには凛袮ちゃん、思わず乾いた笑みを浮かべた。

 

しかし、凛袮の班は三人が精霊―――人外の存在だ。そんなものと班を組ませる事を許さないものがいた。

その人物が教室の扉を開けて入ってきた。令音は、箱に手を入れる凛袮を見るなり状況を察した。

 

「良かったギリギリセーフのようだね。高橋くん、桐生さん………ちょっといいかい?それから凛袮、籤を引くのは少し待ってくれ」

 

令音は教室に入るなり、高橋と桐生を押しのけて黒板の前に立った。令音が来たことにタマちゃん先生が訊ねる。

………しかし、凛袮は令音が言う前に紙をその手中に収めていた。

 

「あの………村雨先生、職員会議の方はもう?」

 

「ああ。その職員会議で決まった事を話そうと思ってね―――………凛袮がクジを引く前で―――よくやってくれた」

 

令音が黒板の前に立って職員会議での決定事項を話そうとした時、凛袮が手中に収めていたものを令音に見せた。

それをみた令音は優しく微笑んだ………そう、凛袮が引いた籤は―――士道たちの名前が書いてあったものだったからだ。

 

「ああああああんまりだあああああああああ!!」

「これが運命、だと!?認められるかああああ!!」

「許すまじ………おのれ五河、許すまじ!!」

 

士道の班以外の男子たちが怨嗟の声を撒き散らしていた。その様子に女子たちは冷たい視線を向けていた。

 

「それで………村雨先生、職員会議の方はなんと?」

 

「ああ、すまない。この通りシンの班と凛袮の班が一緒になったわけだが―――職員会議の方で、問題児は一箇所に固めるようにという方針が決まってね。

鳶一折紙………キミは凛袮の班に入ってもらう。そしてその問題児を固めた班には、副担任も常時随行という形になった」

 

「………ええと、つまりどう言うことだってばよ?」

※↑タマちゃん先生です

 

「問題児を集めた班を監視しろと言うことです。

………このクラスで言うなら―――籤を引くまでもなく、シンの班は凛袮の班と組ませるよう命令が出ました。

日本―――いや、世界屈指の女たらし『五河士道』と、ほぼ毎日喧嘩をする十香と鳶一折紙。それから右も左も分からない転校生二人………このクラスでは、この五人を同じ班で固めるようにと………当然、副担任である私もこの班に随行となります。

これに反したクラスは、修学旅行に行かせないと先程の職員会議で決定しました」

 

シーンッ………

 

完全にクラスが静まりかえった。この結果にこれ以上文句を言おうものなら、二年四組の修学旅行は完全に夢物語で終わってしまうからだ。

 

………問題児を固めるようにと言う命令が出たのは、二年三組の転校生が、初日にクラスの不良を病院送りにした背景があった。

その為、クラスごとに問題児を集めて監視する形になったのだ。

 

しかし、これは令音にとってはこの上なくありがたい状況だ。

不安要素のある精霊トリオ及び、AST所属の折紙の様子を同時に監視できるからだ。

 

「………えーと、籤引きでも学校からの強制命令でも、五河の班と園神さんの班がペアになる事が決定したけど、残りは――――――」

 

高橋は残りの班を続けて籤引きで決めようとした時、言葉を失った。その理由は至ってシンプルだ。

………男子の希望が潰えてしまったからだ。クラスの最高の美少女たちだけでなく、麗しき副担任の令音まで士道に取られたからだ。

 

「残りはもう好きにしてくれ………」

「勝手にしろよ………俺たちの修学旅行はここが終点だ」

「どうでもいいわ………運命って残酷だ」

 

ズーンッ………と言う効果音が教室中に響き渡った。このあまりの落ち込みぶりに席についた凛袮が士道に耳打ちをする。

 

(ねぇ士道、さすがにこれは見てられないよ………)

(やめろ凛袮、これ以上文句を言ったら修学旅行がお釈迦様だ。まあ、でもそうだな………)

 

ジェットコースターが頂上から凄まじいスピードで落ちていくように、クラスのテンションが急降下した。

その時、タマちゃん先生が痔を出した。

 

「お前らゴラァ!!女子は園神さんの班だけちゃうやろがッ!!他の女子は目くそ鼻糞なんか!?高校生にもなって、なんじゃこの体たらくはッ!!」

 

『………ッ!!』

 

タマちゃん先生の言葉に俯いていた男子たちの顔が上がった。タマちゃんの言う通りだ。

 

―――俺たちは他の女子にどれだけ失礼な事をしてしまったのか………

 

男子たちも「そうだよな、まだ希望はある!」「良し、くじ引き続けようぜ!」などなど徐々に雰囲気が上向きに動いてきた。

 

『………アレで感情が上向くのも、どうかとは思うがな』

 

ドライグさま、ご最もであります。タマちゃんがクラスに喝を入れた後は、ほんの数分で自由行動の班が決まり、ここからは修学旅行の部屋割りに移ろうとしていた。

 

ここからは、司会がヤンキータマちゃんから令音へと変わる。

 

「ここからは部屋割りだが………一つ皆に謝りたい事がある。部屋割りについてだが、男子は一人だけ狭い和室を使用してもらう事になる事になってね。このクラスだけ男子が奇数だ。

故に余った約一名は、そこを使って欲しいとホテル側から申し出があってね。そこで――――――」

 

令音がある人物をビシッと指を刺した。指を刺されたのは士道だった。

 

「シン、これを頼めるのはキミしかいない。頼まれてくれるかい?」

 

令音が士道に狭い和室を使わせるのには、理由がある。

精霊たちや折紙などの件で打ち合わせをするためだ。旅行先にて精霊が出現した場合などの突然のアクシデントに備えて、令音はその部屋を士道に使わせたかったのだ。

 

「分かりました村雨先生。俺がその部屋に行きます」

 

士道も令音の意図を理解して、そのお願いを承諾した。その時、勢いよくピーンと手を挙げる生徒がいた。

 

「令音、私はシドーと一緒の部屋になりたいのだが―――」

 

「………他に意見のあるものは、いないかな?」

 

十香の挙手を令音、まさかのスルー。十香ちゃんは「無視するでない!」と言うが答える気はない。

すると、今度は六華が手を挙げて立ち上がった。

 

「あの、村雨先生。部屋割りの件でお願いが「却下だ」―――即答ですか!?私、まだ何も言ってません!!」

 

令音が盛大にため息を吐くと、タマちゃん先生が十香の質問に答える。

 

「夜刀神さん、部屋割りは男女は別部屋です。これは決まりですから」

 

「六華、キミの言いたいことは―――『私と岡峰先生の部屋をシンとキミに変えて欲しい』ということだろう?岡峰先生の言った通り男女は別部屋だ」 

 

「むぅぅぅぅ!」「はぁぁ………」

 

十香は頬を膨らませ、六華はため息を吐くなど不満な様子を隠そうとはしなかった。

それに合わせて士道が言う。

 

「お前ら、あんま先生を困らせんなよ。部屋は別でも、遊びにくりゃいいじゃねえか。それに、部屋以外でも飛行機の隣の席は自由なんだ。それで俺の隣にくりゃ良いだろ?先生、飛行機の席はそれでも良いですよね?」

 

士道が訊くと、タマちゃん先生と令音は首を縦に振った。こうして、本日の決め事は全部終了したため、ホームルールは終了した。

最後に各班で集まり、自由時間にどこを見て回るか、何をするかを決めた後、士道たちはそれぞれの帰路についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――◇―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

士道は家に帰った後、修学旅行に備えての準備をしていた。お家に遊びにきたふわふわとした海のような髪と、蒼玉のような瞳を持つ少女と一緒に。

 

「四糸乃、こいつに入れるか?」

 

高さは自分の腰、幅は八〇センチはありそうな大きなスーツケースを、部屋のクローゼットから取り出して、チャックを開けた。

四糸乃は士道が開けたスーツケースの中へと身をかがめて入り込む。

 

「えっと、士道さん………入れます」

『わあ、誘拐だねぇ。士道くんは愉快な誘拐犯―――なんちって、ケハハハハハハハ!』

『………よしのん、どスベりしているぞ?』

 

この通り久しぶりの四糸乃、よしのん、ドライグのコンビが復活していた。さて、それでは本題に入ろう。

四糸乃がスーツケースの中に入り切った事を確認した士道は、ファースナーを閉めて、スーツケースを立たせる。

 

「四糸乃、大丈夫か?」

『大丈夫、です(でーす)』

 

立たせたスーツケースをコンコンと叩くと、四糸乃とよしのんから肯定の返答を受けて士道くんは確信した。

 

「よし、条件は全てクリアされた。四糸乃、よしのん!明後日から俺と一緒に修学旅行だ!」

 

『はい!』『おー!』

 

士道が拳を突き上げると、スーツケースがカタカタと揺れる。ルンルン気分ではしゃいでいた所に、妹様が降臨した(義妹の方である)。

 

「いや、何してるのよあなた………普通に空港の荷物検査で引っかかるわよ。心配しなくても、四糸乃はお留守番よ」

 

部屋に入るなり、カタカタと不気味に動くスーツケースを見て、士道くんの行動を看破する琴里ちゃん。

これを見られた士道くんは、スーツケースを抱きしめる!!

 

「断る!!三日間も四糸乃の癒しを受けられないなんて、そんなもん俺に死ねって言ってるようなもんじゃねえかッ!?俺は空港の職員を血祭りに上げてでも、俺は四糸乃を持っていく!!」

 

「じゃあ士道………あなたを先に血祭りに上げてやるわ」

「ぎゃああああああああああ!!」

 

業火を放つ巨大な斧を片手に、士道に襲い掛かる琴里ちゃん。斧で頭を強打された士道くんは、力なく床へと倒れ伏した。

………その後は、琴里が四糸乃とよしのんをスーツケースから解放して、フラクシナスへと戻って行った。

 

「ううっ………ぐすん。あんまりだ………こんなの、あんまりだああああああ………」

 

「士道さん、元気出してください」

『ああ………こりゃあ重症だねぇ。異世界で六華ちゃんのために戦って相当消耗したんだね。まぁ、元気出してよ士道くん』

 

床で四糸乃を修学旅行に持って―――失礼、連れて行けなくなった事に涙を流す士道くんを、四糸乃とよしのんが心配そうにその頭を撫でる。

士道くんは深刻な癒し成分欠乏症を患っているのだ。

 

ピーンポーン!ソロモン宅急便でーす!士道くーん、お届けものだよー

 

士道のスマホから、ソロモンからの贈り物が来た合図を出した。

四糸乃に少し待ってもらうように言うと、ドタドタと階段を降りて荷物を受け取るために、ドアを開けた。

 

「あ、ソロモンさん―――あれ、六華も?」

 

ドアを開けると、次元の守護者のソロモンと六華が扉の向こうで立っていたからだ。

士道が来た事を確認したソロモンは、幾重にも布を被せた白い棒状のものを士道に差し出した。

 

「解放してごらん士道くん。キミに頼まれていたものが完成してね」

 

士道はソロモンから、それを受け取ると籠手を出して力を込めた。

すると、布が一気に弾け飛び中に入ったものを解放させる………そこから現れたのは、かつてないほど神々しい輝きを放つ、ずっと愛用していた聖剣だった。

 

「………アスカロン。もしかして、強化してくれました?」

 

………そう、ソロモンから受け取ったアスカロンは、今までと異なり、強度とオーラが明らかに変化した事を士道は察知したのだ。

 

「正解だ。まず剣の材質を伝説の金属―――オリハルコンに変更した。さらに施された特殊儀礼を、僕の方で少し弄らせてもらってね。完全に士道くん用へと変更したんだ。

リンドヴルムを倒してくれた英雄の頼みだから、これくらいのサービスはさせて貰ったよ」

 

「………ソロモンさん、ありがとうございます」

 

士道はオーラを聖剣に集中させ、波動を合わせると―――ジャキィィィィンッ!と言う音が響くと同時に、籠手に同化させる事に成功した。

その様子を見たソロモンは、六華へと視線を移す。

 

「それから六華ちゃんにも、贈り物だ」

 

「私にも………ですか?」

 

ソロモンは、異空間に手を入れると神々しい光を放つ槍を取り出した。それは、アテナが愛用している『神槍•アイギス』だった。

ソロモンがその槍を手に差し出すと、六華の両手に送られた。

 

「この前のお茶会で、アテナが随分とキミのことを気に入ってね。アテナとキミは顔以外はほぼ全て丸被りだからね。

キミを実の妹のようにアテナは思っているんだ。これからも、アテナのことをよろしく頼むよ。ちなみにそれはレプリカだけど、本物と大差ない威力を誇るよ」

 

「分かりましたソロモンさま。後でアテナさまにお礼のメールをお送ります」

 

「うん、アテナもきっと喜ぶよ。それじゃあ修学旅行楽しんできてね」

 

ソロモンはそれだけ残すと、手を振って帰って行った。そして、それから二日はあっという間に経過し、士道たちは修学旅行の日を迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――◇◆―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤龍帝と精霊トリオを搭載した飛行機は、太平洋の上空を飛行していた。左右の席からの騒音と、襲い掛かる壮絶な眠気を相手に士道くんは戦っていた。

 

「士道、見て。景色が綺麗」

 

「シドー!こっちだって綺麗―――って窓が遠いではないか!!」

 

士道は先日に激闘があった為、あまり眠れなかったのだ。故に、飛行機の中ではその分の睡眠を取ろうと思っていたが、左右の席がこのザマだ。

 

「お前ら、マジで寝かせてくれ。俺は昨日あんま寝てないんだ」

 

左目に手を当てながら、ウトウトとする士道くん。しかし、左右の席からは腕を引っ張られるわ、景色だ床だのと大はしゃぎで、睡眠どころでは無かったのだ。

 

「五河、あんま寝てないって………もしかして昨日、星照さんと―――」

「桐生、それ以上言うとこの頭握り潰すぞ?」ミシミシミシミシッ………

「ちょっと五河!?ゴメン、謝るからもうやめて!!本当にミシミシ言ってるから!!これ以上、力入れられると血が出るから!!」

 

一つ前の席で六華と凛袮の間に挟まれている、桐生愛華の頭を鷲掴みにする士道くん。

余計な争いを作らせない為に全力で黙らせに行ったのだ。口を閉じた桐生愛華を見た士道は頭から手を退けた。

 

「でも、飛行機が飛んでよかったわよね。もし今日の夜中に台風が消えなかったら、飛行機飛ばないから修学旅行中止になるところだったんでしょ?」

 

「はい。村雨先生から私もそれを聞かされました。無事に修学旅行に行けて良かったです」

 

「でも、今朝はそのニュースで持ちきりだったよ?何しろ、台風が突然消えたから異常気象だとか何とかって、大々的な報道されてた」

 

前の席でもこんな風に、仲良くお話タイムだ。しかし、士道の眠気は限界に来つつあり、座席に脱力して体を預けていた。

ふわぁぁぁと連続であくびをする士道を見た十香と折紙は、ようやく落ち着きを取り戻した。

 

「士道、どうしたの、平気?」

「シドー………大丈夫か?」

「すまんちょっとだけ寝かせてくれ」

 

折紙と十香は、だるそうな表情を浮かべる士道を見て、静かにする事を決意した。

 

………何故士道がここまで疲れているかと言うと、昨日の夕食を精霊クインテット(十香、四糸乃、くるみん、琴里、六華)+令音と食べている時に、テレビに台風情報の番組が映った。

 

発生した台風が目的地の或美島の付近を通るため、飛行機が飛ばなくなるため、修学旅行を中止せざるを得ないと、学校から令音に電話が入ったのだ。

 

令音からその事を聞かされた精霊トリオのテンションの下がり方は、籤引きの時の男子のそれと全く同じで、士道は見ている事ができなかった。

 

就寝前にもう一度、台風情報を見ても一向に台風の進路が変わる事がなく、修学旅行は絶望的な状況だった。

 

―――それなら、俺が台風を吹き飛ばすしかない。

 

士道はそう決意して、令音や神奈月に頭を下げて作戦決行を願い出た。士道の心からの願いに、フラクシナスのクルーたちは二つ返事で了承してくれた。

 

―――時刻はAM 0:55 作戦決行まで残り五分。

 

令音たちフラクシナスのクルー協力のもとグレートレッドのオーラで覚醒させた新たな武装―――霊装を顕現させて出現した台風に挑もうとしていた。

万が一にも、フラクシナスを巻き込まないよう、かなり離れた位置から士道は台風を目掛けて突っ込もうとしていた。

………台風の位置は、フラクシナスの方から令音が教えてくれる。インカムから令音の声が聞こえて来た。

 

『シン―――台風の中心はそこから十二時方向に約二〇〇〇キロ程だ………準備はいいかい?」

「ええ、いつでも行けます!!」

 

士道は、大きく息を吸い込み立ちはだかる災厄を見つめた。風が目に見えるほど凄まじく、その中心には雲の狭間にポッカリと大きな穴が空いているのを確認した。

その地点を目指して―――精霊たちの希望を護るために、作戦が決行された。

 

「台風さんよ―――うちの精霊ちゃんたちは、テメェを歓迎してないんだ………悪いが消えてもらう!!」

 

士道はエナジーウイングを広げると、台風の中心を目掛けて突っ込んでいった。

 

「おっぱいドラゴン舐めんなよ!?おおおおおおおおおおおおお!!」

 

吹き荒れる暴風雨の中、衝撃波を周囲に飛ばしながら風を切り裂いて一直線に空をかける。十数分ほど天をかけると、風が一気に弱くなった。

その時、令音から指令が入った。

 

『シン、そこが台風の中心だ―――思いっきりやるんだ』

 

「了解です!!来やがれ―――『灼爛殲鬼(カマエル)』、『氷結傀儡(ザドキエル)』ッ!!」

 

台風を吹き飛ばしたのは、六華との祭りの際に放とうとした、あの汚い花火―――灼爛殲鬼の業火と氷結傀儡の冷気を合わせたあの技だ。

今回は弓状にして放つのではなく、士道は身体の前で融合させたものをそのまま爆発させる事を選んだ。

 

「吹き飛びやがれぇぇぇぇぇぇッ!!」

 

ズドオオオオオオオオオオオッッ!!

 

融合させた相反する二つのエネルギーが、上空で大爆発を起こすと―――台風が完全に消え去った。

 

『ミッションコンプリートだ。すぐにフラクシナスで回収する』

 

フラクシナスでも台風の消滅を確認した後、急いで士道の回収へと向かった。

こうして修学旅行中止の危機を、士道は未然に防ぐ事に成功したのであった。

 

「………睡眠三時間はキツすぎるわ」

 

士道は誰にも聞こえないような声で囁くと、左手から声が聞こえて来る。

 

『こいつらの為に、よくもまあここまでやった………さすがは精霊を守護する赤龍帝だ。ゆっくりと休め相棒、着く頃には俺も起こしてやる』

 

「ああ、頼むぜドライグ………」

 

それだけを言い残して、士道は意識を手放した。修学旅行が始まったばかりで士道くんはダウンした。はてさてこの先どうなりますことやら………

 




次回で八舞姉妹を出すので、もうしばらくお待ち下さい!

前話でも触れましたが、この話以降は週一投稿になると思います。



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三話 双子の精霊です!

こんにちは、勇者の挑戦です。

今週中に八舞姉妹を出したいなと思い、急ピッチで仕上げていたのですが、何とか書けました。

いやー、オリジナル展開ばかり続いてますね。今回は原作展開が多めです。

それでは、どうぞ。

※気付けばお気に入り登録数が500件になってました。本当にありがとうございます。これからもご愛読よろしくお願い致します!




飛行機で揺られること約三時間、士道たちは目的地『或美島』へと到着した。

タマちゃん先生先導の元、空港から出ようとしていた。

 

「シドー、誰かに見られている」

 

十香が背後から制服を掴んで、周囲からの視線を感じる事を報告する。

それを聞いた士道も、周囲の気配を探ると―――こちらに近づいて来る一つの気配を察知し、左腕を伸ばした。

 

「なっ―――………」

 

フニッ………

 

士道が左腕を伸ばすと―――手の中に柔らかい感触があった。それはおっぱいだった。

ノルディックブランドのような淡い金髪をなびかせた、士道と同じ年くらいの少女のおっぱいを、士道は左手で鷲掴みにしていた。

 

首には高級なカメラをかけており、この少女は旅行会社『クロス•トラベル』から派遣されたカメラマンだ。

 

そのカメラマンのおっぱいを鷲掴みにした手を動かしながら、士道は口を開く。

 

「あんただな、俺たちに視線を送っていたのは………フムフム、なかなかいいおっぱいだ」モミモミ………

 

「なっ、なななななななな―――」

 

士道に胸を弄られたカメラマンの少女は、顔を真っ赤に染めた。その時、夫の浮気に気づいた少女が、背後から迫り右腕を掴んで背負い投げ!!

 

「あれ、世界が一回転―――いっでええええええええ!?」

 

その少女は士道を叩き付けた直後、すぐにその腕に足を絡ませて全力で引っ張る!!

 

「―――浮気は許しません!!」

「ぎゃあああああああああ!!悪かった六華ああああああああああ!!」

 

六華ちゃんに、腕挫十字固をかけられる士道くん。カメラマンのおっぱいに夢中で避けようが無く、完璧な状態で決まっていた。

技をかけながら、胸元を隠すカメラマンに六華が謝罪の言葉を送る。

 

「も、申し訳ございません………夫の失礼をお許し下さい」

「は、はあ………」

 

六華の言葉にカメラマンは困惑していた。この子達はまだ高校二年―――いかに誕生日が早くても、年齢は一七歳のはずだ。

―――この国では一八歳になるまで結婚はできないはずでは?

 

と頭の中で浮かんだ事象と、少女の言葉との境で右往左往していた。

カメラマンはコホンと咳を入れた後、この風景にフラッシュを放った。

 

「………申し遅れました。クロストラベルより派遣されました、随行カメラマンのエレン•メイザースと申します。視線を送っていた事に気分を害されたなら、謝罪させていただきます」

 

ペコリと頭を下げるとカメラマン―――エレンは他の生徒を撮る為に、トコトコと走っていった。

 

「いやあ、にしても中々いいおっぱいだったな。歳も俺らとそんなに変わらな―――いっでででででで!!許して下さい六華さまああああ!!」

「士道さま、まだ反省が足りないようですから、あと一時間は続けます」

「―――んなもん関節外れ―――むがあああああああ!!十香、くるみん、凛袮、助けてくれえええええええ!!」

 

もう片方の腕で十香たちに助けを求める士道くんだったが、三人はスタスタと歩いて行った。

 

「シドー、少し反省しろ」

「自業自得ですわ」

「士道、ゴメンね?」

 

「うわあああああ!!見捨てないでくれええええええええ!!」

 

三人ともそっぽを向いて、クラスメートの方へと向かっていった。

………当然である。想い人が初対面である女性のおっぱいを悪びれる事なく触ったのだ。

この士道を助けようとするものは、当然いなかった。

………あまりにも士道が来ない事を不思議に思った令音が迎えに来たのは、それからニ〇分ほど経った後だった。

 

「ぎゃああああああああああ!!」

 

それまで、浮気に怒った六華が士道を解放することは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――◇◆―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

令音に案内され、クラスに合流すると二年四組は或美島の資料館に訪れていた。

クラスメートたちは、早く自由行動になってくれと言わんばかりに、ソワソワしている状態だった。

ここに行くと、タマちゃん先生が言った時には、全員が『えー!?』と言う声をあげた事が容易に想像できる士道くんだった。

 

「五河、星照さんと何してた!?エッチか!?エッチなことをしてたのか!?」

「村雨先生も一緒に3(ぴー)とは羨ましい。さすがは来禅高校一のモテ男。俺たちとは住む世界が違うわ」

「さすが五河くん。尊敬するよ」

 

「ついさっきまで関節技かけられてたんだよ!?あと少しで脱臼するところだったわ!!つーか、誰が3(ぴー)だよ………いやまあやってみたい気持ちはあるけど」

『相棒、また六華が後ろに迫っているぞ?』

 

クラスに合流するなり、班の男子に詰め寄られる士道くん。上から殿町、小川、竹林だ。

………同班の三人は、いずれも士道が中学の時に入っていた野球部―――軟式野球大会を通じてお互いに面識があったのだ。

士道と竹林は同じ中学出身で、士道は捕手で竹林は内外野両方守れるプレイヤー。共に関東大会のベスト4まで行った実績がある。

 

小川は、近隣の中学校出身で練習試合や、地区大会で何度もしのぎを削った存在だ。小川は左投げ左打ちの投手で、コントロールと変化球のキレが良い技巧派のサウスポー。

打者としては、バントやエンドランなどの小技を得意とする、一世代前の二番打者という表現がよく似合う。

 

殿町は、士道が中学三年時に関東大会に出場にする県の代表をかけて戦った中学の出身だ。

その中学ではエースで四番を張っていた選手。

ちなみにその試合は、最終回に士道のソロホームランで勝敗が決したのだ。今でも士道と殿町は、その試合について話すことがあるほどだ。

 

士道と殿町は、中学の軟式野球において県内では、その名を知らないものはいないほどの選手だったのだ。

 

「………つーか小川、資料館でグローブなんざ出すなよ」

 

「悪い、早く終われと思ってさ。また球を受けてくれよ五河」

 

今日の自由時間に、女子の班と或美島の観光を済ませた後にキャッチボールをする約束をしていた小川が、グローブとボールを出していた。

………久々のキャッチボールがしたくて小川はウズウズして仕方ないようだ。

 

ちなみに、班の三人は来禅高校の野球部には入っていない。来禅高校の公式野球部は公立校の中では力があり、スローガン『チーム一丸』を掲げている。

………そのため、髪型は全員丸刈りで統一されるからだ。

それが嫌で班の三人は野球部には、所属していないのだ。

 

「はーい、皆さん!今日の資料館で学んだ事は、レポートで提出してもらいまぁす!しっかり勉強しておいて下さいねぇ」

 

タマちゃん先生が、笑顔で手を振りながら言ったセリフに全員がこう思った。

 

―――ぶち殺すぞクソババア!

 

ただでさえ、修学旅行で資料館などという激寒なところに連れられ、テンションが下がっているところに、宿題を課せられたのだ。

………これでキレるなと言う方が無理だろう。

 

それから一時間ほどだった後、自由行動について打ち合わせ用と男子と女子を集めた士道だったが、班員が一人足りない事に士道は気付いた。

 

「………凛袮、十香はどこに行った?」

「それがさっき―――『誰かに見られてる』って、出て行ったきり帰って来てなくて」

「外に出たのか!?あのバカタレ………凛袮、六華、みんなを頼むぞ」

「ええ!?ちょっと士道!」

「分かりました。士道さま、お気を付けて」

 

十香ちゃんは、視線を感じて資料館の外へと出たそうだ。士道は班員を凛袮に任せて急いで資料館の外へと出たその時だった。

 

「………こりゃまずいな」

 

いきなり快晴だった或美島を、漆黒の雲が突如として現れ空を覆った。それと同時に今日の午前に吹き飛ばした、台風と同等の風が吹き荒れ始めた。

 

『………自然の現象ではあるまい。まさか精霊でも現れたか?』

「とにかく、今は十香が最優先だ」

 

士道は心を無にして千里眼を発動させ、周囲の気配を探った。すると、少し離れたところに十香のオーラがある事を把握した。

 

士道は神速を発動させて、十香のところへ向かう。三十秒ほど飛ばすと、そこには突風に飛ばされないよう、姿勢を低くする十香の姿が!!

 

「十香!!何やってんだ!?」

「シドー!すまぬ、どうにも視線を感じるのだ………」

 

視線の主を捕まえようと十香は外に出たようだ。その時、十香が指を刺して叫ぶ!

 

「シドー、危ない!!」

「んなもん全然危なかねえよ―――アスカロン!!」

『Blade!!!!!!』

 

突風が強まったせいか、ゴミ箱やら洗濯機やらが士道と十香に迫り来る!!

士道はアスカロンを籠手から出し、粉微塵に飛んできたものを斬り刻む!!

 

「いっちょ上がりだ。ほら十香、帰るぞ」

「う、うむ………」

 

士道は籠手をしまって十香の手を引っ張って、資料館へと向かおうとしたその時だった。

 

カッ―――ドオオオオオオオオオ!!

 

上空で何かが衝突し、凄まじい衝撃波が士道たちを襲う!!

士道は吹き飛ばされないよう、六華の天使『護星天』を顕現させ周囲を結界で包み込んだ。

衝突し、衝撃波を発生させたであろう二つの存在が、士道を間に挟んで地面へと足を付けた。

 

「く、くくくくく」

 

と、右手から、長い髪を結い上げた少女が、不敵な笑みを浮かべながら歩み出て来た。

年は士道と大して変わらない。橙色の髪に、水銀色の瞳。しかし今、嘲笑めいた笑みを浮かべいる。

そして何よりも特徴的なのはその装いだ。暗色の外套を纏い、身体の各所をベルトのようなもので締め付けている。

おまけに右手と右足には錠が施され、そこから先の引きちぎれた鎖が伸びているときたものだ。

 

「ドライグ、めちゃくちゃエッロイ格好してないあの子?今すぐペロペロしたいんだけど―――いででででで、なにしやがる十香!?」

『夜刀神十香がいる前で言うことか!?しかも冗談ではなく本気で言っていることが、何より恐ろしいわ!!』

 

士道とドライグの会話はあの少女には聞こえていないようだ。ちなみに士道くんは、十香から首を絞められている状況だ。

 

「―――やるではないか夕弦、さすがは我が半身よ。我と我と 二五勝二五敗四九分けで戦績を分けているのだけの事はある。だが―――それも今日で終いだ」

 

「―――反論。この一〇〇戦目を制するのは、耶倶矢ではなく夕弦です」

 

今度はもう片方からも声が聞こえてきた。

こちらは、長い髪を三つ編みに括った少女である。耶倶矢と呼ばれた少女とは異なり気だるそうな半眼に彩られていた。

こちらの夕弦と呼ばれた少女も少しデザインが異なるが、耶倶矢と似たような拘束具を身につけていた。違うのは、錠が掛けられた位置が、左右逆である事くらいであろう。

 

「ふ………ほざきよるわ。我が未来視(さきよみ)の魔眼にはとうに見えておるのだ。次の一撃で、我が颶風を司りし漆黒の魔槍(シュトゥルム•ランツェ)に刺し貫かれし貴様の姿がな!」

 

「指摘。耶倶矢の魔眼は当たった例しがありません」

 

夕弦が述べると、耶倶矢の余裕がズタボロに崩れ去り地団駄を踏む!

 

「うっせぇし、当たったことあるし!バカにすんなし!」

 

「嘲笑。未来視(さきよみ)の魔眼、シュトゥルム•ランツェ………プッ」

 

「笑うなぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

夕弦にこけにされた事で、耶倶矢から放たれる風が一気に解放され、周囲に嵐を撒き散らしていく!

それを見た夕弦も、見に纏う風を一気に解放する!

二人が再び激突する事を察した士道は鎧を纏い、杖を結界の中心に刺した。

 

「十香、ここにいろ!」

「シドー!?行くな、シドー!!」

 

十香を張り巡らせた結界の中へ残すと、すぐに突っ込む準備を整える。

 

―――そして、二つの嵐が再び激突しようとしていた。

 

「漆黒に沈め!はぁぁッ!」

 

「突進。えいやー」

 

裂帛の気合と、気の抜けた声と共に、二人が同時に地を蹴った。お互い拳を握りしめ、それはお互い倒すために振るおうとしたものだ。

それを見た士道は、神速を発動して二人の間に入り込む!!

 

ガィィィィィィィィィンンッッ!!

 

「なっ―――」

 

「驚、愕………」

 

お互いに、放とうとした耶倶矢と夕弦の拳を、士道が両手で受け止めた。

激しい金属音を鳴らして、士道の鎧に罅を入れるほどの威力を誇った。

 

「いっでええなぁ全く………こんな所でケンカしてんじゃねえよ。ひとさまの迷惑だろうが―――………それで、ケンカの原因はなんだ?デザートのプリンでも喰われたのか?」

 

士道が鎧越しに首を左右に動かすと、耶倶矢と夕弦は声を出した。

 

「貴様、我らの決闘に横槍を入れようとは―――何者だ?」

 

「驚嘆、驚きを禁じ得ません」

 

二人の拳を受け止めたてを握りしめて、士道が言う。

 

「俺は五河士道―――人間だ。それから、こっちの質問にも答えてもらう―――お前たちは精霊か?」

 

士道から発せられた精霊と言う言葉に、耶倶矢と夕弦はビクッと目を見開いた。今の反応は、士道の問いを肯定したも同然だった。

 

「そうか、精霊なんだな………さて、最初の質問だ。お前たちが争う原因はなんだ?俺に解決できる事なら手伝ってやるけど」

 

―――さて、どう出るか?

士道は慎重に二人の様子を伺っていた時の事だった。耶倶矢は、拳を収めて士道の鎧をチラチラと眺めていた。

 

「人間の分際で偉そうに………しかし貴様が纏うその鎧を、我に触れされてくれるなら教えてやらんでもないが「いいよ」え、本当に!?ありがとう!!」

 

耶倶矢は士道の鎧に興味があるらしく、士道が即答で触れることに了承すると、大喜びでペタペタと触り始めた。

鎧の各部位や、宝玉を珍しいものを見るように触っていった。士道は、さらに耶倶矢にサービスをする。

 

「耶倶矢………だっけか?こんな武装もあるんだぜ―――アスカロン!!」

 

『Blade!!!!!!』

 

ドライグの音声が響き渡ると、士道の籠手に収納されたアスカロンが刃を出す。

これを見た耶倶矢ちゃんは、目を輝かせてスーパーハイテンションだ!!

 

「え!?今の何!?ねえ、今のなんなの!!なんか音声と共に剣が出てきたんだけど!!カッコ良すぎるんですけど!!」

 

「こいつは伝説のドラゴン二天龍の片割れ『赤い龍(ウェルシュ•ドラゴン)』が宿った神器(セイクリッド•ギア)―――『赤龍帝の籠手(ブーステッド•ギア)』。俺は伝説のドラゴンが宿った人間なんだ。それからこの剣は、聖剣アスカロンだ」

 

「おおぉ………」

 

完全に士道に攻略されそうになっている耶倶矢を見て、もう片方精霊がじとっとした視線を向けてくる。

 

「確認。あなたは耶倶矢を口説きに来たのですか?」

 

夕弦の問いに士道は首を左右に振る。

 

「いや、そうじゃない―――いや待てよ、そうなるのか………兎に角、お前らの争いを止める目的で、俺は突っ込んで来た。これ以上ガンガン衝突されると、その衝撃波で俺たちの仲間が傷つくからよ。争いを止められないにしても、なんかもっと穏便にすませられる対決方法にしてくれないかと思ってさ?」

 

「納得。分かりました」

 

一応は二人とも理解してくれたようだ。その時耶倶矢は士道と夕弦との間で視線を行き来させ、ポンと手を叩いた。

 

「ククク、いい勝負台が目の前にあるではないか………夕弦、我は最後の勝負内容を思い付いたぞ!」

 

「質問。その内容とはなんでしょうか?」

 

夕弦が首を傾げると、耶倶矢は士道をビシッと指さした。

 

「我と夕弦―――どちらが先にこの男を落とせるかの勝負というのは、どうだろうか?その勝者が相手を取り込み真の八舞とするのは!?」

 

「承諾。その勝負受けて立ちます」

 

二人はお互いの同意を得た事を確認すると―――士道の両腕に抱きついてきた。

―――思い掛けない幸運に士道くん、思わずニッコリ。

 

「面白いじゃねえか!この俺様はそう簡単に落とすことは―――ぐへへへへへへへ!!」

『―――既に攻略されているでは無いか!!』

 

俺は強敵だとアピールしようとした士道くんだが、二人の霊装から見えるおっぱいが見えた瞬間に、鼻の下を伸ばして下品な笑みを浮かべ始めた。

それを見たドライグは怒号を飛ばした。

 

「こらシドー!嫁である私が居ながら―――ッ、くっ!」

「十香ッ!?」

 

立ち上がろうとした十香が、苦悶の表情でその場に崩れ落ちた。よく見ると、足を捻ってしまったのか、少し腫れていた。

それを見た士道は十香をおんぶする。

 

「ああ、ズルい!!」

「指摘。士道、それは反則です」

「悪い悪い。十香を送ったらすぐに戻ってくるから―――でもまあ、俺を信じられないなら、着いて来てもいい。ただし、服装だけは十香と同じやつにしてくれ」

 

耶倶矢と夕弦は士道の言葉に目を合わせると―――霊装を来禅高校の夏服に合わせて士道の後ろを付けて行った。

新たな精霊から逆攻略の勝負を申し込まれた士道くん。妻と嫁がいるなか、どうやって攻略をするのか―――続く!

 

 




六華クライシスにて、平均文字数が倍近くになりましたが、ここから元の七、八千文字程度に抑えていこうと思います。

良ければ、お気に入り登録、感想、評価の方、お待ちしています!


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四話 パラダイスです!

どもども、勇者の挑戦です。

はい、続きを書いていこうと思います。




士道は八舞姉妹と足を捻った十香を連れて、資料館へと戻ると令音に引っ張られるように、空いた部屋へとぶち込まれた。 

 

足を捻った十香の処理をした後、令音がタマちゃん先生に事情をただいま絶賛説明中だ。

 

「さあ士道。貴様はただ選べばよい。この八舞耶具矢に忠誠を誓い、その身、その心までも捧げると言えばそれでよいのだ」

 

「否定。耶具矢を選んでも何も良いことはありません。是非夕弦に清き一票を」

 

ベタベタと自分の腕に密着してくる耶倶矢と夕弦に、士道くんは王様気分だ。

 

「いやあ、感無量だぜ―――ぐへへへへへへへへ!!」

 

制服越しに感じる耶倶矢と夕弦の体温、吐息、感触そして匂い。鼻の下と鼻血をビヨーンと伸ばしながら、密着する美少女を味わっていた。

 

「………随分と幸せそうだね、シン。十香と六華は、霊力を放出した天使を片手に、この部屋に突撃を掛けようとしているのに」

 

「―――怖いこと言わないでくださいよ!?」

 

幸せの絶頂にいる士道に、現実を突き付ける令音。気配を探ると………外からは凄まじい霊力の波動を感じ、その言葉が嘘では無い事を察した士道くんなのであった。

 

「くく………むしろ役得であろう? 僅かな間とはいえこの我の寵愛を受けられるのだ。幸運に噎せび泣きこそすれ、嘆く必要などあるまい」

 

「懐疑。夕弦ならまだしも、耶具矢に言い寄られて喜ぶ男性がいるのでしょうか」

 

「ふ、ふん………いくら斯様な挑発をしようと無駄だぞ。全ての決闘の決着を見れば明らかになる。さあ士道よ、言うが良い。私と夕弦、どちらが女として魅力的だ?」

 

「質問。夕弦とへちょ耶具矢。どちらが可愛いですか」

 

「待て、なんだその微妙に貶した感じは!」

 

「無視。べちょ耶具矢より夕弦の方が」

 

「何悪化させてんの!?」

 

一向に収まることの無い士道くんの取り合いバトル。そして再びグヘグヘと笑みを浮かべて鼻血を流す士道に令音はコホンッと咳き込み、士道を現実に引き戻す。

 

「―――ハッ!?て言うか、耶倶矢と夕弦は何で争ってんだよ?」

 

士道が疑問を口にすると、耶倶矢と夕弦の誘惑攻撃が止まった。

 

「………ん?ああ―――言っておらなんだか」

 

「失念。忘れていました………裁定役の士道にはそれを知る権利があります―――夕弦と耶倶矢はもともと一人の精霊でした………その名を八舞と言います」

 

耶倶矢と夕弦は自身の境遇を語り始めた。

………纏めると、こんな感じだ。

 

―――別れてしまった耶倶矢と夕弦はいずれ一つの精霊に戻る。その時、耶倶矢と夕弦の両方の人格を維持することは不可能であること。

そして、本来の八舞の人格は既に消滅しており、真の八舞としてこの世に顕現できるのは、耶倶矢か夕弦のどちらか片方だけ。

故に、どちらが真の八舞に相応しいかを先程そして、今のように競い合っているのだ。

 

………勝負の内容は多岐に渡り、殴り合いや徒競走のような、凄まじいスピードで動く際に発生する衝撃波によって、周囲を無作為に破壊するものから、けん玉や大食いと言った平和的なものまである。

そして、記念すべき一〇〇戦目の結果で、真の八舞を決めようと耶倶矢と夕弦はしているのだ。

 

その時士道が心の中に引っかかった嫌な思いについて二人に訊く。

 

「………それで、負けた方の人格はどうなる?」

 

耶倶矢は一切表情を変えることなく士道を見つめて真実を告げる。

 

「当然、消え失せる」

 

「な―――ッ!?」

 

慌てて夕弦の方に士道は視線を向けるが、夕弦も無言で首を縦に振るだけだった。

グヘグヘと幸せそうな表情を浮かべていた士道の顔が急に険しくなった。

そして………再び耶倶矢と夕弦の誘惑攻撃が始まる。

 

「感謝しておるぞ、士道。お主のおかげでこれまでにない戦いができる」

 

「肯定。最後の決着がこの勝負であれば、依存はありません」

 

二人の言葉を聞いてより一層表情に力が入る士道。

この二人の覚悟は相当なものだ。この勝負で例え自分が負けたとしても、後悔はないと………

 

「………おかしい。何度やってもフラクシナスと通信ができない」

 

令音がタブレットに手を触れながら、上空一五〇〇〇メートルに位置するフラクシナスと通信が途絶えている事を明かす。

そして、耶倶矢と夕弦の前に立ち静かに唇を動かした。

 

「………耶倶矢と夕弦、このシンという男は非常に難物だ。攻略法を教えるから少し来てくれないか?」

 

令音がそう言うと、耶倶矢と夕弦は初めて令音に目を向けた。

 

「はっ、誰にものを言っておるのだ人間、貴様の言葉なぞ必要あるか」

「不要。夕弦たちはあなたの助けなど必要ありません」

 

耶倶矢も夕弦も人間である令音の助言を、邪魔だと言わんばかりに一蹴。

それを見た令音は、静かに息を吐いた。

 

「………やれやれ。仕方ないか―――」

 

―――バサッ!

 

令音が来ていた上着のボタンを外して、その下に着込むシャツをまさかの、キャストオフ!!

上半身のみ下着姿になった令音を焼きつけた士道くんは――――――それはもうこの通りだ………

 

「―――お、おっぱいいいいいいいいいい!!」

 

それは、まるで閃光を思わせるほどの勢いで、令音の豊満な二つの双丘へと顔面を突っ込む士道くん。

―――その顔は、まるで幸福の絶頂にいるかのように………

 

「なっ―――嘘でしょ!?」

 

「驚愕。こんな事が………」

 

士道はたしかに耶倶矢と夕弦は見惚れてはいた。しかし、特に手を出す気配はなかった。

………それが、令音がひとたび上着を脱ぎ捨てた途端に、餓えた獣の如く令音のおっぱいを目掛けて突進したからだ。

そして、突っ込んできた士道を優しく受け止め、母親のように令音はその頭を優しく撫で始めた。

 

「………シン、いい子、いい子」

 

「にゅううううううううう♪」

 

令音の豊満なおっぱいに顔面を突っ込み顔を左右に揺らしながら、幸せそうにスー、ハーと深呼吸をしているのだ。

これを見た耶倶矢と夕弦は屈辱に打ち震えていた。

 

「たかが人間如きにこの我が………」

「屈辱、くっ………」

 

―――自分達と令音との間に、ここまで圧倒的な差が存在するのかと………

 

「この通り、シンは大人の女性が大好きで、重度の巨乳好きだ。私が見てもキミたちは非常に可愛いらしく、魅力的な美少女だ。

………しかし、結果はこれだ。私とキミたちでこれだけ反応に違いがある。

残酷なようだが、はっきり言わせてもらう―――キミたちに私の助言なしで、シンを攻略する事は不可能だ」

 

「「………」」

 

耶倶矢と夕弦は完全に黙り込んでしまった。そして、幸せそうに自分のおっぱいへと顔面を突っ込んでいる士道を撫で続けながら令音は言う。

 

「………それで、私の助言を聞く気になってくれたかな?」

 

「良かろう………」

「懇願。ご指導よろしくお願いします」

 

耶倶矢と夕弦の瞳は屈辱の炎に燃えながらも、令音の言葉に従う事に決めた。

しかし、令音が動く事は無かった。何故なら、約二週間ほどお預けになっていた癒しの時間が返ってきたからだ。

 

「………随分と長かったよ。この二週間ずっと六華に取られていたからね。耶倶矢、夕弦。すまないがあと一分ほど―――」

「―――むぎゃあああああああああああああ!!」

 

あと一分ほど癒し成分を吸収しようとしていた令音を悲劇が襲う………失礼、悲劇は士道くんでした。

何者かが、扉を物凄い勢いで開けて、槍の石突きの部分で士道の脇腹を強襲したからだ。

 

………それと同時に、士道の体を凄まじい電撃が襲い、部屋内にけたたましい叫び声が轟き、黒焦げになった士道が床へと倒れ込んだ。

 

「―――士道さま、私と言う妻がありながら………これはどう言うことでしょうか?」

「な、なななななななにをしているのだ令音!?服を着んか!!」

「………幼なじみの次は、ラスボスの登場ですか。やってくれますわね」

 

精霊トリオが入って来て、令音から強引に士道を引き剥がした。ちなみに士道くんを黒焦げにしたのは、六華ちゃんだ。

アテナが持つ『神槍•アイギス』には、攻撃時に神雷を纏う能力があり、レプリカの槍にもその能力は付与されている。

 

十香とくるみんも、上半身のみ下着姿の令音を見て何をやっていたかを悟った。

 

精霊トリオが現れた事に令音は憎しげな表情を浮かべ、上着を着直すと耶倶矢と夕弦に視線を戻す。

 

「………耶倶矢、夕弦。待たせたね、シンの攻略法を伝授するから来てくれ」チッ

 

令音は最後に誰にも聞こえないような音で舌打ちすると、耶倶矢と夕弦を連れて何処かへと消えた。

 

「………まさか、村雨先生まで参戦という事には、ならないかと思いますが………」

「いいえ六華さん。もはや、確定でしょうね………あれはラスボスですわ」

 

六華とくるみんは、凛袮に続けて令音まで士道の争奪戦に参加する事が分かり、戦慄していた。

 

「あが、あがががががが………」

 

黒焦げになった士道くんは、十香ちゃんが担いで宿舎まで連れて行った。

それぞれの思惑を残して、時刻は間もなく一七時になろうとしていた………それは、温泉が使用可能になるまで残り二時間という時間になろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――◇◆―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は現在一七時三〇分。

日が落ち始め、気温が下がり始めたところだ。士道は温泉に入ろうと宿舎の外へと出て向かっていた。その途中で令音に出会った。

 

「あ、令音さん。お疲れ様です」

 

「やあシン………すまないね。私のせいで六華に黒焦げにされてしまって」

 

令音が頭を下げると、士道は「気にしていません」と首を横に振る。そして、令音が遠くを見つめる。

 

「八舞姉妹―――精霊〈ベルセルク〉は非常に素早く動き回るため、ラタトスクの方でも調査が困難な精霊だった。今回のように、一つの場所に長く滞在するケースは非常にレアだ。プレッシャーをかけるようで申し訳ないが、この機会を逃してしまうと、二度と封印するチャンスは来ないだろうね」

 

令音が儚げに空を見つめていた。相手は風を司る精霊で、音速にも迫る速さで動き回る為に調査隊はまともな成果を上げられなかった。

 

………しかし、士道はそこまで落胆する様子は無かった。

 

「そんな心配そうな顔しないで下さいよ、令音さん。今の俺なら楽勝で追いつけます―――ていうか、逃しませんよ!あのおっぱいはもう、俺のものですから!!」

 

令音の前でVサインをする士道くん。確かに耶倶矢と夕弦のスピードは凄まじいが、士道は最初の激突のタイミングで、神速を使って割り込んだ士道に反応できていなかったからだ。

それ故に士道は、逃すことはないと令音に胸を張って言ったのだ。

 

「シン、キミがそう言ってくれるなら私は何も言わない。自分を信じて全力でやりなさい………キミは私たちの希望だ」

 

令音はそれだけを言うと、宿舎の方へと歩いて行った。そして、士道も温泉の方へ歩いて行くと、ガサガサと近くの茂みが揺れた。

 

「―――耶倶矢、夕弦。出てこいよ」

 

士道が茂みに視線を向けると―――耶倶矢と夕弦がズーンッという効果音を出して茂みの中から顔を出した。

 

「なんで分かったの!?」

「溜め息。それは耶倶矢の隠れ方がへたっぴだからです」

「なんですってえ!?」

 

「ちげぇよ。お前らは姿は隠せていても、気配を隠すことはできていない。それだけのことさ。それより―――何やってんだ?」

 

士道が耶倶矢と夕弦に懇切丁寧に回答したところで、何故こんなところにいるのかを訊ねた。

すると耶倶矢と夕弦は、お互いに視線を合わせて士道に言う。

 

「くく………貴様の身体は現世の汚れによって常闇の穢れを蓄積し過ぎた。その身を浄化することを許す」

 

「翻訳。お風呂に入って下さい」

 

夕弦の通訳を聞いて士道は「なるほど」と手を叩くと、特に気にする事なく赤い暖簾が垂れた方へと入ろうとした。

―――その時、耶倶矢と夕弦が慌てて士道の前に立つ。

 

「ちょっと待って士道!そっち女湯だよ!?」

「動揺。士道どう言うつもりですか?」

 

「ああ、だからお前らと一緒に女湯に入ろうと思っただけだよ―――お前らは『俺を攻略する為に、一緒に入ってる』って言えるし、俺も合法的に後から入ってくる女子どもの裸を見れるんだ………こんな好条件を前に、俺が女湯に入らないとでも思っていたのか!?ていうか―――お前ら暖簾逆にした?」

 

「ギクッ!?そ、そそそそそそそんなことしてないし!」

「吐息。はあ………耶倶矢、今ので士道にバレました」

 

修学旅行のしおりで見たものと、今の温泉の入り口とを比較すると、暖簾の配置が逆になっている事に気付いた士道くん。

これには、拳を握りしめた。

 

「お前ら、俺を舐めんなよ!!お前らの裸を見るためなら、社会的に死ぬ事くらい痛くも痒くもねえ!!俺が入った後暖簾を元に戻そうとか、そんな気遣い要らねえよ!!俺は堂々と女湯に入る、社会的な死なんざ怖くもなんともねえ!!ほら、暖簾を元に戻しとけよ?俺は堂々と女湯に入ってやるからよお!!」

 

チュドオオオオンン!!

 

何かが爆発したような音が響き渡ると、えっへんと胸を張る士道くん。

―――教師や警察が怖くてエロはできない。

これはイッセーの頃も、そして今もなお大切にしているポリシーだ。

 

耶倶矢と夕弦にそれだけを言い残すと、暖簾を戻す前の方の女湯(正規の方)へと入って行った。

その後、二人で暖簾を戻した後、耶倶矢と夕弦もそれに続いた。

 

「――――――」

 

士道は身体を洗い、湯船に浸かっていた。そこに耶倶矢と夕弦が入って来て、思わず言葉を失った。

 

「そ、そんなに見つめんなし!」

「羞恥。恥ずかしい、です………」

 

―――なんという事でしょう!?耶倶矢と夕弦は、一糸纏わぬ姿で同じステージへと上がってきたのだ。

士道をデレさせる為に、敢えてタオルを身に着けていない事を選択し、生まれた時の神々しい姿をしているのだ。

 

………そして、一心に見つめる士道の視線に頬を染めて恥じらう様子が、士道の興奮をさらに加速させた。

 

耶倶矢は、女性の象徴たる部分は夕弦よりも控えめだが、細っそりとした華奢な体は保護欲を掻き立てられる。

―――後ろから抱きしめると、どんな反応をするのだろうか………などなどさまざまな欲望が士道の中で掻き立てられていた。

 

反して夕弦は、耶倶矢とは対照的に豊満な肉付きで『人類の至宝』と名付けた、六華にも引けを取らないほどのスタイルだ。

おまけに、士道くんの大好物は「おっぱいだ」非常に発育した、たわわに実ったマシュマロメロンに視線が釘付けになっていた。

 

―――士道は、タオルの一つでも纏っていようものなら、強引に脱がせて辱めてやろうと思っていたが………この通り、二人は何も纏っていないのだ。

出鼻を大きく挫かれた士道は、思わず二人から視線を外した。

 

「ご、ごめん!そ、その―――二人とも、スゲー綺麗だ………」

 

「と、ととたとと当然だし!」

「か、感謝。ありがとう、ございます」

 

その世界は三人の世界となっていた。耶倶矢と夕弦は、湯船に浸かる前に身を清めてあり、士道は後ろで身を清める二人にチラチラと視線を送っていた。

それと同時に、心の底から湧き出す欲望と戦っていた。

今士道の頭の中では天使と悪魔が壮絶なバトルを繰り広げていた。

 

(ぐへへへへへへ!!今すぐ二人とも押し倒しちまえよ、夢の舞台(脱童貞)は目の前だぜ!?)

 

(堪えろ!!押し倒したらお前の負けだ―――でも、それで夢の舞台(脱童貞)なら安くねぇか?よし、押し倒そう)

 

(いや、ここは冷静になるべきだ。押し倒したらそれ即ちあの二人の魅力に堕ちたも同然、ここで溜まった欲望は、別の女にぶつければ―――いや待てよ、夜中は教師が見回りで巡回するから―――うん、無理だわ。さっさとこの二人を押し倒して、夢の舞台(脱童貞)へ駆けあがれ)

 

(これ逆に、押し倒さないというヘタレな選択肢あるの?)

 

―――天使なんて存在しなかった………

そして、士道が理性と欲望との狭間で摩耗している時、ついにその理性を崩壊させる事が起こった。

 

「し、ししししし士道!我が貴様の隣に座ってやろう、ありがたく思え!」

「失礼。お、お邪魔、します………」

 

耶倶矢は声を裏返らせ、夕弦は目をぐるぐると回しながら、士道を挟み込むように座った。

 

「これで、しまい………ぞ」

「突撃。とうッ………」

 

「――――――ッ!!」

 

そして、二人はお尻を動かして肩を士道に付けた。上目使いで、その目潤わせながら挟み込むように、士道の腕を自分の胸へと押し込んだ。

 

―――これが、士道の理性の壁を完全に崩壊させた。

 

………ドライグ、俺夢の舞台(脱童貞)へ駆け上がるわ

『知らないぞ?村雨令音や六華に怒られても………まあ、これも若さ故か」

 

「耶倶矢、夕弦………ごめん、先に謝っとく!!」

 

「へ?」

「確認。何を―――」

 

士道はこれ以上、自分の欲望を我慢することを辞めた。そして立ち上がって耶倶矢と夕弦の肩に触れて―――今、欲望のアクセルを全開にしようとしていた。

 

後は、肘に力を入れて二人の背中を床へと倒すだけ―――緊張で震えていた手がピタッと止まった事を確認して、今―――おっぱいドラゴンは夢の舞台(脱童貞)へ駆け上がる!!

 

「………おお、こいつは思っていた以上だ――――――おい五河、随分といい身分だな」

「じ、仁徳(じんとく)!?いや、お前こそ―――ここ女湯だぞ!?」

 

士道の記念すべき夢の舞台(脱童貞)を阻止したのは、二年三組の問題児―――仁徳正義(じんとくまさよし)だった。

士道よりも頭ひとつ大きく、さらに体格も一回り大きい。一七歳にして、既にプロレスラーなような体格を持つ大男だ。

 

………この男が、調子に乗って弱者を虐げる不良たちの姿に腹を立て、転校初日に全員血祭りにあげた結果、問題児を一箇所に固めるよう学校から命令が出たのだ。

そして士道同様に、次元の守護者と関わりを持つ数少ない人間で、その実力は士道と互角に殴り合うほど強靭な肉体を持っている。

 

―――修学旅行の前日に、手合わせ目的で士道の家を訊ね、出てくるなり顔面パンチをかまして来るほどの戦闘狂。

神速を発動する士道と、互角に殴り合うさまを見た六華が、霊装を纏ってアイギスを振るわせたほどの人間だ。

 

………そんな彼の趣味は幼女観察で、昼休みに屋上から見える近所の小学校で、戯れる幼女たちを双眼鏡で観察しながら、癒される事だ。

戯れる幼女たちを微笑みながら(鼻血を出して)見守る紳士オブ紳士(ただの変態)だ。

 

「―――ッ!!」

「狼狽、キャア!!」

 

耶倶矢と夕弦は入って来た仁徳を見て、慌てて士道の背中へ隠れる。

士道はその二人の前に立ち塞がり、神々しい裸体を仁徳の視線から遮った。

 

「お前は、幼女にしか興味のないロリコンだろ!?そのお前がなんで平気で女湯なんざ入って―――」

「ああ、お前だったのか―――()()()()()()()()()()暖簾が逆の状態で入った大バカは」

「嘘つけ!?俺が入った後に耶倶矢と夕弦は暖簾を元に――――――し、しまったああああああああああ!!!!」

 

………確かに、耶倶矢と夕弦は士道が女湯に入った事を確認したら、大慌てで暖簾を元に戻していた。

そして、叫び声を上げると同時にハメられたことに気付いた士道くん。

―――令音は始めから、士道を女湯に突っ込ませないために、()()()()()()()()()()()()暖簾を逆にしていたのだ。

そして、耶倶矢と夕弦のため―――失礼、女性の裸を見るため士道が女湯に入る事を計算に入れた令音の行動だ。

そして、ものの見事に士道くんが女湯に入った事を確認して、暖簾を元に戻したのだ。

 

―――令音の策に気が付いた頃には、包囲網は完成していたのだ………

 

バアアアアアアアアアアアアアンンッッ!!

 

女湯と男湯の仕切りとなっている簾が、勢いよく吹き飛んだ。

簾を吹き飛ばしたのは、神雷を放出した槍を片手に霊装を纏った士道の妻だった。

いや、それだけじゃない!嫁を自称する少女と、ドMな『ですのお嬢様』も霊力を放出する天使を両手に、霊装を顕現させていた。

 

「士道さま、随分と幸せそうなお顔をしていますね♪なにか、いいことでも、ありました?」

「シドー、私という嫁がありながら………!」

「これはキツいお仕置きが必要ですわね」

 

………精霊トリオは、再封印が必要なレベルまで精神状態が不安定になっていた。

そして、扉の前に複数の男子の影が見えた耶倶矢と夕弦は悲鳴をあげる!!

 

「キャアアアアアアアアア!!」

「逃走、キャアアアアアア!!」

 

耶倶矢と夕弦は、隣の女湯へと避難した。

これで、士道を守る取り巻きは全て無くなった。仕切の簾がなくなった今、女湯は覗きたい放題になっている―――かに思われたが、既に六華が時の砂で簾を元に戻していた。

 

―――殺されると思った士道くんの次の行動は当然これだ!!

 

「じゃ、じゃあお前ら―――達者で、な?」

 

「「「逃がすとでも思いましたか(思ったか)!?」」」

 

いそいそと入口の扉へと向かおうとした士道を見て、精霊トリオは退路を塞いだ。十香とくるみんは入口の前に立ち、六華は背後へと杖を構えて立った。

それを見た士道くんはキザな笑みを浮かべる!!

 

「お前ら、俺だってやられっぱなしじゃないぜ。おっぱいドラゴンの意地ってやつを見せてやらぁ!!」

 

彼は、こういうピンチには場慣れしている。彼は迫り来る危機を幾度も踏み台にして来たのだ!!

おっぱいドラゴンは、今日もピンチを踏み台にして遥か彼方へと舞い上がる!!

 

―――何か仕掛けてくる………

 

精霊トリオたちは、全員が息を飲み込み士道の行動に注意をしていた。

そして、何かを見つけたように空へと指さす!!

 

「あ、あそこにUFO!!」

『―――おい!?あれだけ伏線を巻いておいて、最後にそれか!?』

 

士道くんの言葉にチーン………ッと言う効果音が鳴り響いた。

士道くんは「そりゃ止まりませんよね………」とピタッと止まって目線を左右に動かすと同時に、ドライグは盛大にため息。

 

完全に詰んだ。誰もがそう思った次の瞬間―――

 

「む?UFOなんてどこにもないぞシドー」

「士道さん、UFOはどこにあるんですの?」

「士道さま、UFOというのはどんなものですか?」

 

精霊トリオの動きが、全体止まれの如くピタッと静止した。

 

―――こんな事があるのだろうか………

 

士道とドライグのツッコミがシンクロした瞬間だった。

………これには士道くん、思わずダッシュ!!

 

「よし、必殺―――三十六計さっさと逃げる!!」

 

「な―――嘘だったのかシドー!!」

「や、やられましたわ!!」

「十香さま、狂三さま………UFOというのは、どういうものですか?」

 

完全にしまったと言う表情を浮かべる十香とくるみんに、士道の出した言葉であるUFOについて教えを請う六華。

とんだ奇策で、士道はボケーっと佇む六華を躱して、海へと飛び込み難を逃れたのであった。

 

脱童貞及び、耶倶矢と夕弦の攻略するための戦いは、まだまだ続く!!

 

 

 

 

 




解説です。

仁徳正義

六華や凛袮と同じ時期に、来禅高校へと転校して来た次元の守護者アテナが見出した少年。守護者の任務に付き合うほど、人助けにやりがいを持っている変わり者。
ロリコンで、幼女が放つオーラ―――ロリウムを愛する紳士の中の紳士だ。

その他には、弱者をいたぶるものを叩き潰すことに生き甲斐を感じており、カツアゲやらを見ると悪即斬してしまう問題児へと変貌する。

フィナーレで再登場する予定です。


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五話 目醒めの龍皇と日焼け止めです!

どもども、勇者の挑戦です。

まだまだ続きますよー!

開幕は折紙サイドからです。

※ 今回は少し多めです。


ピカッ―――ドオオオオオオオオオオオオオオッ!!

 

それは、地獄と呼ぶにふさわしい光景だった。

空は赤黒く染まり、紫の輝きを放つ稲光が無数に轟いていた。世界は荒れ果て、見渡す限り不毛の大地。

大地は干からび、国を分ける国境のような底の見えない大きな裂目があった。その上、隕石が落ちたような無数のクレーターが地面にはできていた。

 

………そのような地獄に一人の少女が佇んでいた。

 

(………こ、これは――――――)

 

細身ながらも、とんでもないパワーを持ち、スチール缶を握り潰した色白な少女―――鳶一折紙は、現在の置かれた状況を理解しきれなかった。

先程まで、自分は宿舎で枕投げをした後に、泥のように眠っていた筈だったが―――意識が戻り、目を覚ますと全くの別世界が広がっているからだ。

 

(みんな………士道―――)

 

突如消えたクラスメート、そして何より自分が想いを寄せる士道の安否を確認すべく、動き出そうとしたその時――――――

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!

 

頭上から直径五〇〇メートルはあろう炎を纏った隕石が、折紙を下敷きにせんとばかりに迫って来た。

隕石の速度は、ジェット機の最高速度を軽々凌駕するスピードで迫って来るため、折紙は避けるすべが無かった。

―――殺される。その恐怖から目を閉じる………それしか折紙には許されなかった。

 

(お父さん………お母さん………士道………)

 

ズドオオオオオオオオオオオッッ!!

 

隕石が落ち、その場で大爆発を起こした。折紙は愛してくれた両親―――そして、想い人である士道のことを最後に頭の中で願った。

 

―――しかし………

 

 

(し、死んでいない?私は、今確かに―――)

 

隕石が直撃したにも関わらず、全く無傷な自分に理解ができなかった。

しかし―――さらなる追撃が折紙に迫る!!

 

ヒュン―――ザザザザザザザザザザザザ!

 

(っ―――ここは、やはり………)

 

そして、今度は暴雨のような光線の雨が折紙を襲いかかる!

これも自分の体を全て貫く―――失礼、すり抜けるだけで折紙の体には傷一つ付く事はなかった。

 

これを見て、折紙はここが現実世界ではない事に気づいた。試しに自分の体を触ろうとしても感触はないことを確認した。

頭の中の整理が終わったその時だった!!

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!

 

そして、何かが衝突したようなけたたましい轟音が響き渡ると同時に、折紙はそれを見た。

 

(アレは―――ドラゴン?それが………三体。これは、夢―――それとも………)

 

………空を見上げると、三体のドラゴンが空中で激しい戦闘をしていた。

空中には、血のような真っ赤な赤い鱗を持つ翠色の瞳をもつドラゴンと、雪のように真っ白な鱗に包まれた蒼玉の瞳を持つドラゴンが、共闘してもう一体のドラゴンを葬り去ろうとしていた。

 

もう一頭のドラゴンは、漆黒の鱗に覆われ、深紅の瞳を持ち、頭には天を貫くような鋭角な角と三体六本のヒゲが特徴で、首や腕にも無数の棘がある。

そして、手と足には深紅の鋭角な爪が生えており、それは如何なる鎧であっても容易く貫くほどに凶悪なものだった。

 

(ハハハハハハ!地上最強と謳われた二天龍。それを思うがままに蹂躙する日が訪れようとはな………やはり、我は強くなりすぎたか?)

 

(私とドライグが組んでも、なおこれほどまでに力の差を見せられようとは………)

(異世界から来た邪龍リンドヴルム………妾とアルビオンすら遥かに凌ぐというのですか!?)

 

既に共闘している赤と白のドラゴンは、肉体を大きく傷つけられ、満身創痍の状態まで追い詰められていた。

………しかし、漆黒のドラゴン―――リンドヴルムは鱗に傷はあるものの肉体へのダメージは殆どなく、不敵に笑みを浮かべるだけだった。

 

(さて―――そろそろこの戦いにも飽きた。我が直々に貴様らを肉体という枷から解き放ってやろう………感謝するがいい)

 

カッ―――ドオオオオオオオオオオオオオオ!!

 

リンドヴルムが最後の言葉を言うと同時に、赤黒い空がピカピカと光を放ち―――赤い龍に極大の雷が包まれる!!

 

(ドライグ!!おのれ―――)

(相方の心配をしている場合ではないぞ、アルビオン)

 

ズドドドドドドドドドドドドドド!!

 

赤い龍―――ドライグを極大の雷が襲ったほんの数瞬後に、天から無数の隕石の集まりが白い龍―――アルビオンへと降り注ぐ!!

無数の隕石の嵐が収まった頃には―――二体のドラゴンはもはや、限界をとどめていない程、徹底的に破壊されていた。

 

―――強過ぎる。

折紙は漆黒のドラゴンを見て、金縛りにあったかのように体が動かなくなってしまった。

それは、圧倒的な力を誇るリンドヴルムへの純粋な恐怖だった。

 

そして、次の瞬間―――再び世界が切り替わる。今ある地獄のような景色を白い炎が吹き飛ばし、真っ白な雪のような白一面で包まれた空間が広がる。

 

『………情けない姿を見られてしまいましたね』

 

白一面で覆われた世界から、声が聞こえた。

誰もいなかった世界から、先程の白いドラゴンの声が………折紙は、声がした方へと振り返ると、先程の白いドラゴンが雄々しく翼を広げて立っていた。

 

「………あなたは」

 

折紙が訊ねると―――白いドラゴンは、蒼玉の瞳を折紙へと向けた。

 

『私は「白い龍(バニシング•ドラゴン)」―――アルビオン。マスターの背中に宿るドラゴンです。先程の景色は、私の最後の戦いです』

「あなたが………私に?」

 

アルビオンが首を縦に振ると―――折紙の背中から水色の翼幕を持つ白い翼が生えた。

背中の翼を見た折紙は、アルビオンの話が嘘ではないことを悟った。

 

『私はリンドヴルムに殺され、人工神器に封印されました。しかし、マスターの両親の強い仇を討ちたいという思念が………ドライグを宿した人間が、私を呪縛から解放してくれました。私の運命はマスターがあの鎧を纏った時に、共にある事を決めたのかもしれません』

 

神器は宿主の夢や心象風景を共有することができる………ドライグの場合は、士道が見た夢を共有している。

 

―――その大半が精霊トリオに、マイクロビキニを着用させてサンバを踊らせたり、裸エプロンでご奉仕させたりするなど、卑猥な夢ばかりで精神が病みそうになっているドライグだが………

 

そしてもう一つ特徴としてあるのが、神器は宿主の強い想いに呼応することだ。アルビオンは、折紙の強い願いに惹かれて人工神器から抜け出すことができたのだ。

 

「私が、あなたを………でも、どうして私を選んでくれたの?」

 

折紙が無表情で首を傾げると、アルビオンは言う。

 

『並の人間では、私を宿す事は叶いませんでした。そのため、私は自分の力に耐えうる人間を選別していました。並の人間では、私の力に耐えられず死に絶えてしまいます。

………その中でもマスターは、私の力に耐えうる存在だけでなく、その胸に強い想いを宿していました。マスターが初めて私を身に纏って戦ったあの時に、私もマスターのことを知りました』

 

―――日下部燎子一尉が、DEMの魔術師が何人も廃人になったと言っていたのは、このためだ。アルビオンは自分が宿る人間を慎重に選別していた。

自分の力を耐えうる存在であること、そして自分の力を託すに値する人間であるかと言う事を………

 

そして、あの戦いで士道が刻々帝(ザフキエル)の『三の弾(ギメル)』を折紙に撃った瞬間に、あの人工神器が役目を終えたのだ。

神器は、宿主の強い想いに応えて力を発揮すると言われている。折紙の〈イフリート〉を殺すと言う強い意志が、アルビオンを解き放つことに成功し引き込んだのだ。

 

『………マスター、これが汝への最終試練です―――汝は何の為に戦いますか?』

 

折紙は、アルビオンの最後の試練に迷う事なく答えを戦う叩き付けた。

 

「私はお父さんとお母さんを殺した精霊を倒すため―――そして、士道を守るため戦う………それを邪魔する者は、全て倒す」

 

折紙の純粋な願いと、その決意が宿った瞳を見たアルビオンは力強く頷いた。

 

『………良い答えです。やはり、汝を選んだ事に謝りはなかったようです。マスターには、私やドライグの二の舞は踏ませぬよう努めます。参りましょうマスター、汝の願いを叶えるために』

 

折紙が差し出した手に、アルビオンは前足をその手に合わせた。

………これは、お手では?と折紙は思ったその時、白い空間が粉々になって砕け散り、折紙は現実世界へと引き戻されたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

―――◇―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………なんてこった。結局何も出来なかったのか!?琴里という最強のガードマンがいない絶好の場所で!!」

 

おっぱいドラゴンこと、士道くんが布団をどけると時刻は既に六時ぴったりになっていた。

修学旅行の夜と言えば、色々なイベントがある。例えば、仲の良い友達たちとの会話や、就寝前のレクリエーションへの参加や班員を集めて自由行動に何処へ行くかの打ち合わせ。

 

………そして、意中の男女は、家族という最大の妨害が入らないことから、一夜でお互いの関係を大幅に進める者もいる。

士道くんも精霊トリオや凛袮、折紙たちと夢の舞台へと駆け上がろうと温泉から出た後もう一度お風呂に入り直し、部屋で妄想を膨らませていたのだ。

 

しかし、前日の深夜に台風を吹き飛ばした事と、前日の睡眠時間がたったの三時間のみしか取れなかったために、体が眠らせろと声を上げたのだ。

無力感に苛まれ、布団の上で頭を抱える士道くんに、何処からか音声が聞こえてくる。

 

『相棒、多感な時期で分からないでもないが切り替えろ。今は、精霊ベルセルク攻略に全神経を注ぎ込め。逃がしはしないと思うが、好感度を下げないよう慎重に立ち回れ』

 

ドライグが忠言を述べると、士道も立ち上がって洗面所の水を顔へとかけた。そして、頬をパンパンと叩いた後、気持ちを入れ直した。

そして再び士道の気持ちは、耶倶矢と夕弦の攻略の方へとべくとるが大きく傾いた。

そして、朝食を取る為に一階のバイキングコーナーへと足を進めるのであった。

 

『言い忘れていたが―――精霊達と鳶一折紙は、あの手この手を尽くしてこの部屋に侵入しようとしていたぞ?

………まあ、村雨令音と二重人格バージン(タマちゃん先生)を含めた教師達に阻止されていたが。精霊達と鳶一折紙のおかげで、今日の見回りの教師数を倍増すると、先程村雨令音から報告を受けたぞ?』

 

「―――くそったれえええええええええ!!」

 

ドライグ先生の毎度毎度の余計なお世話に、士道くんは思わず階段の途中で雄叫びを上げた。

………士道くんが大人の階段を登る難易度が、また跳ね上がったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――◇◆―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午前の集団行動が終了したのち、再び自由時間が訪れた。

真夏の蒸し暑い日差しが、母に降り注がれながらも、士道はとあるプライベートビーチへと足を運んでいた。

………その時、インカムがピピッと音を出し、士道はインカムを叩く。

 

『シン、まもなく耶倶矢と夕弦の着替えが終わる。準備は良いかい?』

 

令音からの合図だ。士道はそれに応じる。

 

「分かりました………ところで令音さん、耶倶矢と夕弦を攻略した時のギャラについての相談ですけど―――攻略の結果次第では、耶倶矢と夕弦の着替えを写した、監視カメラの映像データをもらえませんか?』

 

鼻の下を伸ばして、耶倶矢と夕弦の裸を想像していた。昨日の温泉で二人の生まれた時の姿を見て、欲望のままに押し倒そうとした時、幼女大好き仁徳正義に妨害され、不完全燃焼に終わっていたのだ。

それを聞いた令音から、ため息混じりの声が聞こえてくる。

 

『………私と話しているというのに、随分とさみしいことを言うじゃないかシン。私も今は水着に着替えていてね―――私の着替えを写した映像データではダメかい?』

「れ、令音さんの着替えのデータだと!?い、いや確かにこれはこの上なく魅力的だが、耶倶矢と夕弦のお着替えシーンも色んな意味で使える―――」

 

精霊攻略後のギャラを耶倶矢と夕弦のヌード映像か、令音のヌード映像どちらを取るか士道は頭を抱えていた。

 

………確かに耶倶矢と夕弦の裸は昨日の温泉で見た。それは素晴らしいもので今も脳内メモリーに余す事なく保存されている。

―――しかし、記録として完全に残る映像データで自家発電やら、それをネタに色々してもらおうと士道くんは最初は思っていた。

 

しかし、令音のヌード映像も非常に捨てがたかった。ロッカーに隠れたり、更衣室にカメラを仕掛けたりで、発育しきった熟成ボディを拝もうとしたが、全て妹の琴里に潰され、全裸は拝むことはできていなかったのだ。

 

悩みに悩んで頭を抱える士道くんに、令音は悪魔の囁きを送る。

 

『………シン、私を選んでくれたら、私を好きな格好に着替えさせても構わない―――それも、シンが脱がせてくれてもね?』

「―――令音さん、貴方に決めた!!」

 

令音の悪魔の―――いや、天使の囁きに士道くんは、一瞬の迷いなく令音を選んだ。

………耶倶矢と夕弦の攻略中だというのにこれである。ただ、それだけ令音が魅力的な女性である事には変わらないが、もう少し耶倶矢と夕弦に集中してもらいたいものである。

 

『決まりだね。さあ、作戦開始だ―――回線の混雑を避ける為に、シンへの通信は切らせてもらう』

 

ギャラの相談が決まって、ほんの少しした時に耶倶矢と夕弦が水着に着替えてスタスタと駆けてきた。

 

―――そして、ついにミッションスタート!

 

「くく、こんなところにいたのか」

「発見。見つけました、士道」

 

士道はゆっくりと二人の方へと体を向けた。今、士道の前に立っている二人は太陽にも負けない輝きを放っていた。

 

耶具矢は白のレースに飾られた黒のビキニ、夕弦は逆に白地に黒いレースのついたビキニを身に纏っていた。

二人とも、嫌味なほどに似合っており、ファッションモデルと言われても納得するような姿だった。

 

二人の輝かしい姿に、たまらず士道くん拍手!

 

「へい、ブラボー!!実にエクセレンッ、俺様ご機嫌だ!!よーし、二人とも―――楽しい野球拳の始まりー始まりー!

………もろちん、じゃんけんなんてありません!俺様がお前らを脱がすだけだけどなぁ、ぐへへへへへへへへ!!」

『おいふざけるな相棒!!俺の忠告をもう忘れたか!?』

 

士道くんの提案に堪らずドライグ先生が吠える。

わしゃわしゃと卑猥に手を動かしながら、じわじわと詰め寄る士道くんに―――当然ながら耶倶矢と夕弦は怯え出した。

 

「はあ!?それ野球拳じゃなくて、もうただの強姦なんですけど!?」

 

「恐怖。お巡りさんこの人です」

 

グヘグヘとゾンビのように迫る士道くんに耶倶矢と夕弦は両手を合わせて後退る。スーパーハイテンション状態の時、耶倶矢と夕弦に令音から司令が入る。

 

「………はあ、マジで言ってんの!?」

「不安。夕弦たちに裸でライオンと戯れろと言っているも同然です!」

 

令音から出された指示に、耶倶矢と夕弦は信じられないと言わんばかりに顔を真っ青にした。

………しかし、令音の指令を無視する事は、敗北を意味するに等しかった。

―――この士道を落とすなら令音はこのように攻略すると、言っているからだ。

 

二人は震える足を止め、令音からもらったものを士道に突きつける。それを見た士道はふるふると首を三度横に振り、冷静さを取り戻した。

 

「士道………あ、あのね。日焼け止めと、マッサージを………お願いしたいんだけど」

「請、願。お願い………します」

「お安い御用だ、俺様に任せろ!!」

 

………士道に好き放題蹂躙されるのではないのか?という恐怖にビクビクと震えながらも、耶倶矢と夕弦は願いを伝えた。

士道は「悪い、調子に乗りすぎた」と一言入れてから、願いを快諾した。

 

………そして、令音が用意したビーチパラソルとビニールシートを、準備して耶倶矢と夕弦をうつ伏せに寝かせた。

 

士道の興奮状態が消えたことで、耶倶矢と夕弦は安心して士道に背中を預けた。

 

「士道、頼んだぞ?我の体はお主に預ける」

「依頼。お願いしますね、士道」

 

士道は日焼け止めを垂らし、自分の手で少しこねてからお互いの身体に手を触れた。いきなり士道の手が背中に触れた事で、耶倶矢と夕弦はピクッと頭が動いたが、特に気にする事なく手を進めていった。

 

「ぅ………あ………あぅ………」

 

「吐息………お、お上手………です』

 

耶倶矢と夕弦は、士道のゴツゴツとした手が首筋や背中、腰やふとももと言った部位を突き抜けるたびに、甘い吐息が上がっていく。ビクビクと震えながら、声を我慢する耶倶矢と夕弦を見て、士道の体からも異変が起こる。

 

『………鼻血が出ているぞ?』

「おっといけない………ていうか、これは俺も―――」

 

日焼け止めを塗る士道も、耶倶矢と夕弦の若くてもちっとした柔らかい肌の感触が、手を通じて脳へと行き渡り、最終的には心臓まで巻き込んで興奮という感情へと変わった。

今は、耶倶矢と夕弦の肌をマッサージと日焼け止めを塗るという、目的のも好き放題触れていたのだ。

 

「士道………もっとお………もっとして」

「懇願………夕弦にもお願いします、士道」

 

………今度は、マッサージだ。ずっと競い合ってきたせいか、耶倶矢と夕弦の身体はかなり凝っていた。

耶倶矢は肩と首筋が特に酷く、夕弦は背中から腰にかけて疲れが溜まっていた。

士道はマッサージは、琴里や六華を相手にする事が多く、手慣れた手付きで指を動かした。

ゆっくりと優しく押すこともあれば、強く指を差し込むように押したり、揉んだりとリズミカルに強弱をつけていた。

 

―――ほんの十数分もすると………耶倶矢と夕弦は完全に出来上がっていた。

 

「こ………これ、ヤバすぎ………」

「陥落………クセに、なりそうです………」

 

ビクビクと痙攣を起こしながら、吐息を漏らす耶倶矢と夕弦だった。しかし、耶倶矢と夕弦が落とそうとするのは、超ド級変態おっぱいドラゴンだ。

………彼はこんなものでは、終わらなかった。

 

「いつまで惚けてんだ………耶倶矢、夕弦―――今度は前だ」

 

「………へぇ?」

「確、認………前、とは?」

 

マッサージと日焼け止めの波状攻撃で、撃沈された二人だったが、士道は再び日焼け止めの液を手に落としてコネ始めた。

 

「だから、前だよ。戦場に出た兵士の中に、前だけ裸のやつなんていないだろ?だからおっぱ―――じゃなかった、おっぱいにも俺様が日焼け止めを塗ってやるぜ、ぐへへへへへへへへ!!」

『―――言い直せてないではないか!?」

 

士道が欲望を隠す事なく伝えると、耶倶矢と夕弦はヒッと悲鳴をあげる。

 

「今『おっぱい』って言った!!言ったよね!?」

「卑猥。今度は夕弦たちの胸を好き放題するつもりですか!?」

「―――失敬な、俺は私利私欲でこんなことを言ってはいない。この俺様は全世界ジュニア紳士チャンピオンだぞ!?

お前たちがおっぱいだけ日焼けさせないために、言っているんだ。どうだ、分かってくれたか?」

 

グヘグヘと下品な笑みを浮かべ、鼻血を両方の鼻から話を流して、わしゃわしゃとただおっぱいだけに熱い視線を送る士道くん。

 

―――これを見た耶倶矢と夕弦はすぐに分かった………この男、私利私欲で自分たちの胸を触ろうとしている事を!!

 

「し、士道………そ、そのありがとね?前は自分でするから――――――あれ?」

「遠慮。士道、日焼け止めとマッサージをありがとうございました。後は夕弦が――――――これは」

 

耶倶矢と夕弦は、先程の士道のマッサージで腰が抜けていたのだ。そして、士道くんはもう欲望を隠さなかった!!

 

「―――おいざげんな!!ここまで来たんだ、おっぱいも触らせろ!!」

『この変態、とうとう本性出しやがった!?正気に戻れ相棒、それは敗北を意味するぞ!?』

 

士道くんの全力の雄叫びに堪らず突っ込むドライグ。しかし、彼はそんな事を気にしない!!

―――ただ目の前におっぱいがあれば全力で求める、これだけでなのだ!!

 

「ヒッ!?ちょっ―――士道、本気!?」

「恐怖。夕弦たちは、どうなってしまうのでしょう………」

 

腰が抜け、満足に動けない所に日焼け止めを手にこねながら迫り来るド変態を前に、耶倶矢と夕弦は体を合わせて両手を握り合っていた。

 

士道が、理性を捨てアクセルを全開にする―――その時だった。

 

カチャッ!!

 

「ッ―――六華!?おおおおおっ、ぱい!?」

 

後頭部に何かを突き付けられる音が聞こえて、ド変態の動きが静止した。

その犯人は―――夫の浮気を嗅ぎつけた妻、六華ちゃんである。

 

六華も水着姿でこのビーチへとやってきた………ピンク色のふわふわとしたフリルタイプのホルダーネックのビキニで、たわわな双丘を覗かせるのものだった。

いつも以上の輝きを放つ六華のおっぱいへと視線が釘付けになった士道くん。

 

………しかし、危機は去っていなかった。

 

「………士道さま、随分とお楽しみのようで―――何をされていたのですか?六華はとても興味があります♪」

 

バチッ、バチバチッ、バチチチチチチチッ!!

 

槍からスパークを放出させてニッコリと微笑む六華に、士道くん慌てて尻餅!!

 

「あ、あの―――コレハデスネ、耶倶矢と夕弦に日焼け止めを塗っていたんです!!ほ、ほら!こんな白い肌が焼けたら困るじゃん―――って何言ってんだ俺!?」

 

「………そうですか、日焼け止めですか―――でしたら」

 

パサッ

 

「ブハッ!?り、六華!?」

『六華、お前………』

 

六華ちゃん、ビキニの上側をなんとキャストオフ!!これには士道くん、鼻血を滝のように噴き出す!!ドライグも堪らず口が勝手に広がった。

………いきなり妻が、夫の目の前でおっぱいを曝け出すと誰もがこうなるだろう。ここで、六華が八舞姉妹から一気に士道を引き剥がす!

 

「私の胸にも日焼け止めを塗ってください。ちょうど胸だけ塗り忘れてしまいまして………」

「『胸にも日焼け止め』そんな美しい日本語があったのかぁ!?それじゃあ遠慮なく〜♪」

 

士道は、ついた砂を水とタオルで除去した後、日焼け止めを手に垂らして数秒ほど両手でこねる。

ある程度、日焼け止めが暖かくなった頃合いを見て、六華に近づくと――――――六華は胸を隠していた両腕を天へと伸ばして、たわわなおっぱいを解放した。

 

そして、砂浜に立った状態で悩殺ポーズに近い状態を取る六華に、今―――士道は、日焼け止めを塗ろうとしていた。

 

フニッ

 

「あっ………!」

 

士道の両手が六華のおっぱいを鷲掴みにした時、六華が甘い吐息を漏らした。それを見た士道は訊ねる。

 

「六華、痛かったか!?」

「大丈夫です、士道さま―――続けてください………」

 

六華が首を左右に振ると、士道は日焼け止めをおっぱい全体を包み込むように伸ばしていった。

………士道くん、堪らず六華のおっぱいの感触実況を始める!!

 

「うおおおおお!!ドライグ、俺は今、最高の瞬間に生きてるよおおお!!分かるか、手に吸いつきながらも一生懸命跳ね返してくる感触が――――――」(長くなるので省略)

『実況などするな!!おっぱい、乳気、キョニュウム―――はぁ、はぁ………俺は乳龍帝なのではないのだああああああああ!!』

 

ドライグは、士道のおっぱい実況に堪らず泣いた。このコンビはまあ良いだろう。

 

士道の日焼け止め塗りは加速していく………円を描くように、手になった日焼け止めを六華のおっぱいに広げていき、たわわな境界部の溝や、ビキニで隠れる下乳まで手を滑らせて入念に手入れしていく。

 

手を動かしている最中には、当然ながらおっぱいは弾む。たぷんだぷんと自分の手が動くことによって弾む六華のおっぱいを見て、士道の興奮が加速していく!!

 

おっぱいを押しながら日焼け止めを伸ばす時には、柔らかさと弾力がその手を包み込み、下乳への手入れではずしっと重く手に吸い付くような感触を受け、士道くんはスーパーハイテンションだ。

 

そして、それは六華も同じだった。ゴツゴツとした大きく逞しい士道の手が、おっぱいを縦横無尽に這い回っていく………その感触に我慢していた六華が甘い吐息を漏らす。

 

「あっ………んっ………ふぁぁ………ひぃん!」

「ぐへへへへへへへへへ!!」

 

士道におっぱいを触られ、六華はピクピクと体が震えながらも受け続ける六華ちゃん。

………こうなってしまえば、士道が理性を抑える必要は無かった。

 

その結果、士道の手付きはさらにいやらしさを増し、今度は塗った部分のおっぱいを鷲掴みにして揉み始めた。

おっぱい掴んだ手に強弱をつけて握ったり、上下に揺らしたり、おっぱいを中央に寄せたりと、欲望のままに蹂躙していた。

 

「やっ………あっ!はああんッ!!ああああああんッ!!」

 

体をビクビクと振るわせながら、何度も嬌声をあげる六華を見て、耶倶矢と夕弦は顔を真っ赤に染めて息を飲んだ。

 

「ね、ねえ夕弦………あのまま士道に日焼け止めを塗られていたら―――」

「確信。夕弦たちがああなっていましたね………士道はオオカミ―――いいえ、ケダモノです」

 

………間違っているぞ耶倶矢と夕弦よ、士道くんはケダモノではない―――おっぱいドラゴンだ。

耶倶矢と夕弦は、自分たちが犠牲にならずに済んで良かったと言う気持ちが強かったが、胸の内に取れない気持ちが芽生え始めていた。

 

あまり変わっていない気もするが、気にしないでいただきたい。そして今、六華の日焼け止め塗り―――失礼、おっぱい蹂躙もフィナーレを迎えようとしていた。

 

「はああああああああああんんッッ!!」

 

士道が最後に、おっぱいの中央にあるビキニと同じ色の突起を親指と人差し指で、コリコリとスライドさせると―――六華が絶頂を迎えた。

六華はその場に崩れ落ち、息を荒げてペタリと両手両膝をついた。それを見た士道は、ようやく我に返って六華を抱きかかえる。

 

「す、すまん六華!!お、俺―――」

「はあ………はあ………」

 

抱き抱えられた六華は、高熱を出したように顔から熱を放出していた。とにかく一度六華を休ませようと、ビーチパラソルの下へと移動させようとした時、六華が士道の胸を掴む。

 

「士道さま、これで終わりなのですか………私では、満足していただけませんか?私では、士道さまを受け取るには値しませんか?」

「り、六華!?それって――――――」

 

胸を掴んだ六華は、寂しげな表情を浮かべて目を潤せていた。

………六華が本当に期待をしていたのは、これから先のことだった。今より関係をより進めるために、覚悟を決めてここに来たのだ。

 

約数秒―――ほんの数秒間二人は見つめ合った。これ以上に言葉は不要だった。

士道と六華の空間は、完全に二人の世界へと変わった。六華は両手を伸ばすと、士道もそれに応えようと六華に顔を近づける。

 

お互いの距離がゼロになろうとしたその時、突如として妨害が入った。

 

「シドー、六華!!貴様らこんな所で何をしようとしているのだ!!」

 

十香が、士道と六華の口を手で塞ぎ、強引に距離を元に戻した。そして、邪魔者はそれだけではない。

 

「本ッ当に油断も隙もありませんわね、六華さん。少し目を離すとすぐにこれとは」

「星照六華、あなたに士道は渡さない。すぐに離れて」

「士道、星照さん!?二人はもうそこまで――――――」

 

くるみん、折紙、凛袮もゾロゾロと集まって来た。そしてこの四人を集めたであろう諸悪の根源がバレーボールを持って来た。

 

「………シン、十香たちも集まったからビーチバレーボールでもと思ってね。それからシンと六華、後で話がある………キミたちは少し説教だ」

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴ!と令音が嫉妬の視線を六華に向ける。いや、他の四人も同じで六華へと強い嫉妬を向けていた。

 

「す、すんませんでした!!」

「はあ………あと少し、だったのに………」

 

士道は六華を下ろすと、令音と十香たちに土下座を披露した。六華は口惜しげに肩をガクッとおろした。

ようやくまともに動けるようになった耶倶矢と夕弦は、令音と六華へと視線を向けていた。

 

「ねぇ夕弦。この中では、令音と六華がダントツで厄介ね」

「同意。あの二人を超えなければ、夕弦たちに士道は落とせません………もっと積極的にアピールをする必要がありそうです」

 

さらに士道への過剰攻撃を心に誓った耶倶矢と夕弦。それぞれの思惑をかけた新たな戦いが、開幕しようとしていた―――続く!!

 

 




………これなら、ギリギリR18には引っかかりませんよね?(そうだと信じたい)

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ドライグ先生の次回予告

ドライグ「相棒が大声で宣言した言葉は、精霊トリオと園神凛音、鳶一折紙を怒らせた。
一体何があったと言うのか―――
次回 デート•ア•ライブ 〜転生の赤龍帝〜
『MVPはこの俺だああああああ!!』
欲望にまみれし童貞よ―――掴み取れ、勝利を!!』

士道「やっかましいわ!!欲望まみれで何が悪い―――ていうか、誰が童貞だ!!」


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六話 MVPはこの俺だああああああ!!

続きです!

八舞編も後四話ほどで終了になりすかね?

それでは、どうぞ!


令音がビーチバレーをしようと言うと、士道たちは近くの砂浜に設営されたコートへと移動した。

チーム分けだが、令音が手作りのクジで割り箸の先に人物の顔を書いたものでチームを分ける事になった。

 

ちなみに士道チームは―――士道、耶倶矢、夕弦、令音の四人。

一方で相手チームは、十香、折紙、くるみん、六華、凛袮の五人。

 

………士道は男子ということもあり向こうのチームが一人多いと言う形になってはいるが、そこは士道もせめてものハンデという事で割り切っていた。

 

しかし、ビーチバレーをするにあたって一つ懸念があった。向こうのチームには心配要素がある――――――それは折紙だ。

………力を失ったとはいえ、折紙は十香とくるみんが精霊であることを理解している。

チームで行うビーチバレーとは言え、折紙が素直に十香やくるみんと協力するとは思えない。

 

(どうするんですか令音さん。このチームに異論はないですけど、折紙が十香たちと連携できるとは、とても思えません)

 

士道が令音に耳打ちをすると、令音は心配ないと言わんばかりに小さく笑った。そして―――令音の口からとんでもない発言が飛び出す。

 

「みんな、聞いてくれ。この勝負で最も活躍したMVPには、何でも一つシンに言うことを聞かせる権利を与える」

 

『本当か!?(本当ですか!?)』

「はあああああ!?」

 

耶倶矢と夕弦はポカンとした表情を浮かべ、向こうのチームは全員がモチベーションをブーストさせた。

士道くんは、令音の発言にびっくりして大声を上げる。

 

………当然、これでは士道だけ何一つ旨味がないからだ。士道は令音に訊く。

 

「俺が命令なんでも聞くんですから―――俺がMVP取ったら、どんな特典が付きます?まさかとは思いますけど、俺だけ何も無しなんて事は―――」

 

「キミがMVPを取った暁には、私の体を好き放題にできる―――と言うのはどうかな?これならキミが背負う条件と釣り合うと思うのだが………」

 

『っ!?』

「ま、マジっスか!?じゃあ、おっぱい揉んだりとか吸ったりしても―――」

 

令音が士道に与える特典を聞くと、一気に空気が変わった。

………特に、士道たちとネットを挟んだ向こう側のコート―――十香たちのチームとの間では………まるで大きな喧嘩をした後のような別世界が広がっていた。

 

興奮気味に士道がやる事を具体的に伝えると、令音ははっきりと告げる。

 

「そんな事でよかったのかい、シン?私は―――()()()()()()()()()()()()()と言う意味で言ったのだが………これで理解してくれたかな?」

 

令音の言葉を聞いた士道は、大きく息を吸い込み天を指差す!!

 

「お前らよく聞け、MVPはこの俺だあああああああ!!」

 

―――キミがMVPを取れば大人の階段を登らせる。

 

令音が言おうとしたことはこう言う事だ。それは男子高校生にとって非常に重要なステータスになるもので、この修学旅行で必ず成し遂げると士道が決めていたものだった。

それを前にした士道が燃えない理由は無かった。それを掴み取ると堂々と胸を張って言い切るほど士道の魂は輝きを増す!

 

「フフッ、やる気になってくれたみたいだね。嬉しいよ、シン」

 

士道が体全身に闘志をたぎらせた事に、微笑む令音。それを見たドライグは盛大にため息。

 

『今のは最悪手になったな相棒―――見てみろ、向こうは本気でくるぞ?』

 

ドライグに言われた通り、向こうのコートを視界に入れると―――なんということでしょう!?十香ちゃん達は円陣を組んでいる!!

 

「皆さま、分かっていますか?」

 

六華が円陣の中でボソッと呟く。六華の言葉に、全員が首を縦に振る………約一名は、六華の真意を理解できていない者がいるのだが。

 

「士道さまがMVPを取られた暁には、目の前で士道さまが襲われます。私たちはそれを絶対に阻止しなければなりません」

「なに!?それはタイヘンではないか!!」

※↑十香ちゃんです、意味わかってません。

 

他の三人は視線を鋭くして首を縦に振る。くるみん、折紙、凛袮は全力で阻止するつもりだ。

向こうのチームのボルテージがさらに上がっていく!!

 

「絶対に阻止してみせますわ!!」

「士道の貞操は、私が予約している」

「………こんなの絶対に認めちゃいけない!例えお互い合意しても!」

 

相手チームは想いが完全に一致。最後に六華が大きく喝を入れる!!

 

「全力で士道さまのMVPを阻止しましょう―――ファイッ!!」

『おー!!』

 

六華の掛け声で相手チームが戦闘態勢に入った。それに対して士道くんも、燃えていた。

 

「よっしゃ行くぞ耶倶矢、夕弦―――俺さまがMVPを取るために!!」

 

「………えーと」

「嘆息。はあ………」

 

こちらのチームの士気は、普通以下なのは言うまでも無かった。あまりやる気になっていない耶倶矢と夕弦に、士道くん迷わずDO☆GE☆ZA!

 

「………耶倶矢、夕弦。俺が負けたら万に一つもお前らを選べなくなる可能性がある!頼む、俺にお前らの力を貸してくれ―――この勝負でより活躍した方を、真の八舞に押すからさ!」

「カカッ!そうと決まれば斯様な有象無象なぞ、我が蹴散らして見せようぞ!」

「同調。夕弦の辞書に敗北はありません!」

『それは………どこのボナパルトだ、八舞夕弦よ?』

 

………ちょろいもんである。ちなみに士道が心に思った事をドライグは突っ込んでくれたが、見事にスルーされてしまった。

 

―――こうして、それぞれがうちに秘めた野心のもとビーチバレーが開催されようとしていた。

 

人数が一人少ない関係上、士道チームのサーブでゲームが開始されようとしていた。

 

「行くぜッ!!」

 

士道は天高くボールを上げ、大地を強く蹴って体を空中へと浮かせる!!そして、落ちてくるボールにタイミングを合わせて―――腕を振り抜く!!

 

「おおおらっ!!」

 

バンッ!!

 

側から見れば士道くんの酒池肉林状態のビーチに、輝く雫が散らばった。

 

 

 

 

―――その頃のもやしっこー部長

 

 

 

「こちらアデプタス1。ターゲットの位置まで後どのくらいですか?」

 

人類最強の魔術師ことエレンは、今回の捕獲ターゲットである十香の追跡にあたっていた。

昨日も何度も十香の捕獲にチャレンジしたが、いずれも失敗に終わっていた。

 

その時、通信相手からインカムに音声が届く。

 

『はて………アデプタス1とは―――』

『そんな奴に覚えは―――』

 

任務中にボケてるのか?と言いたくなるほど、上空でこの島を監視するDEM社の空中艦―――『アルバテル』は平和のようだ。

エレンは拳を握りしめて、怒鳴り声をあげる!!

 

「執行部長のエレン•メイザースです!!」

 

『これは失礼を!!もやしっこー部長殿でしたか!?』

『これはもやしっこー執行部長殿、大変失礼しました………ターゲットまで後四〇〇メートルほどです………現在の移動速度ですと―――後一時間ほどで到着の見込みです』

 

「貴方がた!?私のことを何と呼びましたか!!ンンッ、それから〈プリンセス〉の位置まであと一時間もかかるのですか―――もう一時間も泳ぎ続けていますよ!?」

 

ビート板に捕まりながら、バタバタと両足で水飛沫を上げながら泳ぐエレン………ビート板無しでは、泳げないのだ。

それでも、任務遂行のためにバタ足で泳ぎ続けるエレンは、まさに社畜の鏡である。

 

「くっ………『ペンドラゴン』さえ起動出来れば」

 

エレンは水着の下に隠すデバイスを使えればと、エレンは奥歯を噛み締める。しかし、それは不可能な話だ。

顕現装置(リアライザ)を搭載した装備は、一般大衆に晒せるものではない。しかも、十香たちが移動したプライベートビーチは、陸からの道はなく水路か空路かのどちらかを選択するしかない。

 

しかし、空路の移動となると『ペンドラゴン』を起動せざるを得ないため、生徒に見られれば面倒事になりかねない。

故に水路を地道に泳いで行くしかないのだ。しかし、エレンの泳ぐ速度は小学校低学年レベルだ………当然ながら邪魔が入る。

 

「あっれーエレンさん、こんなとこで何してるの?」

「あ、エレンさんだ」

「エレンさん、こんな所で泳ぎの練習?マジ引くわ〜」

 

エレンの悩みの種―――亜衣麻依美依トリオが水中から顔を出す。エレンは慌ててビート板を隠す。

………エレンは〈プリンセス〉捕獲の任務を悉くこの三人に妨害されていた。

 

十香が視線を感じて出て行った時は、追いかけたところを亜衣麻依美依トリオに出くわして連れ去られ、寝ている時に捕獲しようと試みたが、これも運悪くこの三人に出くわし、枕投げをやらされたのだ。

 

「また貴女方ですか!?先程写真ならたくさん―――」

 

「いやいや、もう一個付き合って欲しい遊びがあるんですよ」

「そう言うわけで、エレンさんお借りしますね!」

「マジ引くわ〜」

 

「あ、ちょちょちょちょちょ、ちょっ!?」

 

エレンが全てを言う前に、亜衣麻依美依トリオはエレンを掴んで元いたビーチへと強引に連れ戻した。

ちなみにエレンが愛用するビート板は海の彼方へと消えていたった。

 

こうしてエレンは殿町と仲良く砂浜に埋められましたとさ、でめたしでめてし!

 

「あ、エレンさん!俺、あなたに惚れました、連絡先交換しませんか―――痛い」

 

殿町が憎たらしい肌輝いた笑顔を見たエレンは、堪らずカメラを殿町の顔面へと投げつけた。

亜衣麻依美依トリオによって、十香は無事救われたのであった。

 

一方空中艦『アルバテル』では―――

 

「執行部長殿が一般生徒に拉致されました。バンダースナッチ隊を送りましょうか?」

 

隊員の一人が、タバコを吸っている隊長へ指示を仰ぐ。隊長はタバコを吐き捨て、椅子の背もたれに寄りかかった。

 

「放っておけ。精霊かどうかも判別できておらんのだ、バンダースナッチを送る必要はない………………クソもやしがッ!!」

 

―――世界に名高い最強の魔術師が、なんという体たらくかと………

 

エレンのミッションに随行する事になった『アルバテル』の隊長は、憎しげに拳を叩きつけた。

 

 

 

 

―――その頃のもやしっこー部長 終。

 

 

 

 

 

 

「おおらっ!」

 

バンッ!

 

士道に振り抜かれた腕から、爆音が響き渡ると同時に竜巻をコーティングしたかのような弾丸サーブが放たれた。

そのサーブを受け止めようと、十香が前に出る!!

 

「私に任せ―――んあっ!?」

 

ドオオンッ!

 

前に出た十香が、急にバランスを崩して地面と正面衝突。放たれたサーブが十香の美しい夜色の髪を掠めて砂浜に突き刺さった。

 

「………チッ、ボールがあと一つ低ければ顔面に直撃したのに」

 

憎しげに舌打ちをしたのは、折紙だ。折紙は十香が前に出ようとした瞬間に、十香の足を払ったのだ。その結果、見事に十香はレシーブをできずに転倒したわけだ。

十香は砂浜から顔を上げると、首を左右に振った砂を弾き飛ばすと犯人へと迫る!!

 

「鳶一折紙!貴様、わざとだな!?」

「………なんのこと?」

「とぼけるな!!貴様、私の足を蹴ったであろう!!」

「ドジなあなたが、自分の足に引っかかっただけ」

「こんのおおおおおお!!」

 

「十香さん、いけませんわ!!」

「十香さま落ち着いて下さい!!」

「十香ちゃん、落ち着いて!」

 

あくまでシラを切る折紙に、地団駄を踏んだ後に掴みかかる十香を、他の三人で慌てて止める………士道の懸念は的中した。見かねたくるみんと六華は堪らず声をかける。

 

「折紙さん、少しは協力してくださいまし。このままでは本末転倒ですわ」

「折紙さま、このままでは士道さまのサーブを返せません。その時点で士道さまが村雨先生に襲われます」

「………問題ない。貴方達を一人ずつ片付けた後に、私が一人で逆転する―――あなたたちと馴れ合うつもりは無い。それにこれなら、万に一つもMVPを貴方たちに渡す心配はない」

 

非常にご都合主義な折紙ちゃんである。確かにチームメンバーが全て退場した後、大逆転勝利を掴み取れば文句なしのMVPだろう。

しかし、それはあまりに非道だ。例え折紙がMVPを取ったところで、誰も納得しない事は目に見えていた。

 

それでも、六華は諦めなかった―――かつて、自分に手を伸ばし続けてくれたヒーローのように。

 

「………折紙さま、このままチーム内で牽制をし合っているようでは、士道さまには勝てません。それどころか、連携されるとこちらは手も足も出ないでしょう………そうなれば村雨先生の一人勝ちです」

 

「………………」

 

六華の言葉を受けて、もう一度考えてみた。士道一人が相手であれば勝機は十分見込めるが、士道が連携して来られるととても一人で勝てると言い切る自信は無かった。

折紙は肩の力を下ろすと無表情のまま腰を落とした。

 

「………分かった、邪魔はしない―――けど、私の足を引っ張る事は許さない」

 

士道が次に放つサーブに全神経を研ぎ澄ます折紙を見た。六華にとってはそれだけで十分だった。

 

「ありがとうございます、折紙さま―――さあ皆さま、構えてください!試合はまだ始まったばかりです!」

 

「おう!」「ええ!」「うん!」

 

重苦しい雰囲気を六華は言葉だけで吹き飛ばして見せた。士道が相手にするチームは完全に目的が共有された、最強と呼ぶに相応しいそれだ。

 

(ありがとな六華。お前がいてくれて本当によかった)

 

士道は笑みを浮かべると―――今度はサーブに一工夫入れたものを放つ!!

 

「オラッ!!」

 

士道が放ったサーブは、一直線にくるみんへと迫る。くるみんは、腰を落として飛んでくるボールを受け止める体制に入る!!

 

「任せてくださ―――ッ!?」

 

一直線に来るはずだったサーブが、突如軌道を変えてくるみんを避けるようにコートの端へと突き刺さった。

 

「さすが士道」「祝辞。お見事です」

「ありがとよ!」

 

耶倶矢と夕弦とハイタッチする士道くん。再び士道にボールが渡ったタイミングで六華が手をあげて、両腕でTの字を作る。

 

「村雨先生、タイムをお願いします」

「………認める」

 

令音が認めると、六華はメンバーを集めて士道たちには聞こえない声で作戦を話し合っていた。

 

『………恐らくバレたな』

「バレてても良いさ。あいつらが返せないところを狙い撃つだけだ」

 

ドライグも士道もトリックが看破された事に気付いたが、やる事は変わらない。そして、タイムが切れると同時に相手チームのフォーメーションが変わった。

 

前衛に十香と凛袮を置き、後衛を折紙、六華、くるみんで固めた。こうして、試合が再開した。

 

「オラッ!!」

 

再び竜巻をコーティングしたサーブが十香たちのコートに迫る!!ネットの上をボールが通過する瞬間に十香が声を上げる!!

 

「―――左回転!!」

 

十香の言葉を聞いた六華が、真正面から飛んでくるボールに対して二歩左に移動した。

 

「っ!」

 

トンッ………

 

真正面から飛んできたボールが移動した六華の正面へと軌道を変え、両手を合わせてボールの勢いを殺す!!

勢いを殺したボールが、コート内で天高く舞い上がる!!

 

………六華は二回目のサーブを見たタイミングで、士道の途中で軌道が変わるサーブは、強烈なスピンをボールにかける事によって生まれる軌道変化である事を見破った。

そこで動体視力の優れる十香を前衛に置き、ボールの回転方向を読ませたのだ。回転方向さえ分かればボールがどのように変化するかを見切ったにも等しい。

 

………ボールはスピンに合わさせて空気抵抗を受け、徐々に曲がっていくからだ。

 

「チッ!?三回目はねえか………ッ」

「嘘、あのサーブを!?」

「驚、嘆。アレを完全に見切るとは」

 

士道は苦笑いを浮かべ、耶倶矢と夕弦は完璧なレシーブをした六華を見て、呆然としていた。

しかし、試合は止まっていない!跳ね上がったボールに十香が合わせている!!

 

「耶倶矢、夕弦!ブロックだ!!」

 

「おう―――キャッ!?」「阻止―――あっ?」

 

耶倶矢と夕弦がネット前で飛び上がるが―――二人は見事にぶつかり、十香のスパイクを遮る壁は消え去った。

 

「もらったああああああ!!」

「こら十香!!ボールは殴るものじゃありません!!」

『ツッコんでる場合か!?』

 

十香ちゃんボールに拳をぶつける!!ボールが一瞬凹んだ後、矢が放たれたように一直線で飛んでいく!!

 

ラインの中に入る事が分かった士道は、砂浜を蹴り力強く体と右手を伸ばす!

 

「ぐっ――――――しまった、強い!!」

 

士道が右拳で弾いたボールは相手陣地まで、届く。士道が着地する頃には―――飛び上がった凛袮がボールに触れる、ほんのワンフレームだった。

 

「やあっ!!」

 

バチーンッ!!

 

凛袮の放ったスパイクは令音の股をすり抜け―――見事に地面へと突き刺さった。

 

「ナイスだ凛袮!」

「ありがとう十香ちゃん」

 

ハイタッチをする十香と凛袮。これで点差は十香チームが一点で士道チームが二点。くるみんや六華もハイタッチをするなど一気にまとまりを見せ始めていたのだが………

 

「ちょっと夕弦!邪魔しないでよ!!」

「反論。うすのろな耶倶矢なら反応すらできないと」

「んだとコラッ!?」

 

「おい落ち着け、ケンカしてる場合じゃねえだろ!?」

 

今度は士道のチームの雰囲気が一気に悪くなる。お互いが邪魔をしたと思い込んでいるため、耶倶矢と夕弦はギシギシと歯を噛み締めながらいがみ合っている。

 

『………これは詰んだか?』

「詰んでねえよ!!幾ら何でも諦めんの早すぎだろ!!」

 

目を点にして言うドライグに対して士道くんもツッコむ。しかし、ドライグの思った事は現実になる―――ここから、十香チームの勢いが爆発的に上昇した。

 

「せいやーッ!」

「甘いッ!!」

 

凛袮が放ったサーブを士道くんは軽々といなす。今度は耶倶矢に撃たせるために、耶倶矢の真上にレシーブ位置を調整したのだが………

 

「漆黒に沈め、はああああ!!」

「強打。えいやー」

 

耶倶矢と夕弦がお互いに飛び上がった数フレーム後………

 

「「むぎゃあ!」」

 

ドカッ!

 

「てええいッ!!」

 

またしても我こそはと、八舞姉妹は激突してボールが相手チームに渡る。そしてこぼれ球を十香が押し込む!!

………耶倶矢と夕弦はロクに機能していない。それならばと、十香のスパイクを両手で受け止め、令音の頭上に上げる!!

 

「令音さん、俺にあげて―――えええええええええええ!?」

 

上げたはずのボールがまさかの地面へと落ちた。令音はその場から一歩も動く事なく、立ちながら寝息を立て鼻でシャボン玉を作っていた。

 

『………………詰んだな相棒』

「まだだ、まだ終わっていない!!最後の最後まで諦めてたまるかッ!!」

 

お互いに全力で邪魔をし合う耶倶矢と夕弦、コート内で眠る令音。士道くんはそれでも一人孤軍奮闘!!

 

 

―――そこからのビーチバレーは………一方的な展開となった。

 

 

「てえええいッ!!」

「せいやーッ!!」

「ですわッ!!」

「やあっ!!」

「―――ッ!!」

 

十香チームのスパイクの嵐が巻き起こっていた。バーサーカーソウルの如く士道が返したボールに、全員がスパイクを放っていく!!

 

「うおおおおおおおおおおおお!!」

 

士道は一人で、スパイクを相手コートへと返していく!!士道の両拳と両足は何度もスパイクを受け止め、真っ赤に腫れ上がっている。

しかし、それでも士道は逆転の可能性を信じて、スパイクを全て相手コートへ返し続ける。

 

「はあああああ!!」

「やあっ!!」

「エイッ!!」

「はッ!!」

「ドロー、モンスターカードですわッ!!」

 

「おいこら、やめなさいくるみん!!」

 

激しいスパイクを一人で返しながら、どさくさに紛れてパロるくるみんに冷静にツッコむ士道くん。

これだけ撃ち込まれてもなお、士道くんは諦めなかった。

 

………味方のコートに入れても、耶倶矢と夕弦が足を引っ張り合い、令音は眠っている。故に、どうやっても自力で点を入れる事は不可能だった。

故に、点を取るには相手のミスを待つしかないのだ。しかし、これまで相手がミスをしたのは、十香のはなったスパイクのラインオーバーが、一つのみ。

 

現在の得点は3-7。そして、今この瞬間に十香チームにもう一点入ろうとしていた。

 

「―――しまった!!」

 

耶倶矢と夕弦がブロックに行って再びぶつかったそのすぐ後ろに、折紙が指先だけでボールを触れる。

士道が大慌てで飛び込むが、後一歩及ばず、ボールは砂浜にバウンドしてしまった。

 

これで得点は3-8。点差は追随を許さず開いていくばかり。

 

「鳶一さん、ナイスフェイント!」

「見事ですわ折紙さん」

「折紙さま、ナイスです」

「ナイスまぐれ、鳶一折紙」

 

味方の賛辞に折紙は何も言う事なく、黙って腰を落とすだけだった。しかし………士道チームはこの通りだ。

 

「何やってんのよ夕弦!足引っ張りまくりじゃない!!」

「反論。夕弦のテリトリーに入ってくるのは、耶倶矢も同じじゃないですか」

「………」

 

未だに歪み合う耶倶矢と夕弦。スピー………と寝息を立てる令音。それを見た士道くんはその場に大の字で倒れ込む。

 

「こりゃあ、ダメだ。手の打ちようがねえ」

『しかし、これだけ点差がついてもなお、向こうのチームは集中が切れない………この流れを作ったのは、間違いなく六華だ。アッパレとしか言いようがない』

 

ぜぇはぁと息を荒げる士道に、称賛の声を送るドライグ。ちなみにこれは十一点先取のマッチなため、後三点入れられた時点で敗北が決まるのだ。

 

このまま三点入れられてゲームセットか………と士道が思っていたその時だった。

 

「士道はすごいが、耶倶矢と夕弦は全然大した事ないな。二人合わせて『へっぽこぴー』だ!」

「「この○○○。―――を―――していればいい。敗者にはそればお似合いサノバビッチ」 

「耶倶矢さん夕弦さん、ママのお乳でも飲んできたらどうですの?」

 

ピキッ………

 

十香、折紙、くるみんがコケにした言葉を送ると、耶倶矢と夕弦の頭に青筋が浮かぶ。

 

―――乱闘騒ぎになると思った士道は、血相を変えて二人の元に走ろうとしたが………その心配は杞憂に終わりそうだった。

 

「………ねえ夕弦」 

「返答。何でしょう」 

「………やっちゃう?」

「同調。やっちゃいます」

 

耶倶矢と夕弦のエンジンが、ようやく協力という名のエンジンがかかり始めた。次の相手のサーブは六華だ。

 

「やあっ!!」

 

六華は、ジャンピングサーブを令音が立っている付近のコースの角を狙って放つ!!しかも、それは、士道から最も離れた場所であり、士道は大慌てで地面を蹴る!!

 

「―――よりによってコースも高さもばっちりかよ!?クソッガッ!!」

 

腕では間に合わないと瞬時に判断した士道は、ボールを足で上空へと蹴り上げる。しかし、サーブの勢いに負けて相手のコートに返しきれなかった。

 

―――しかし………

 

「よく止めたぞ士道よ!!」

「設営。耶倶矢」

「おうとも―――はあああああッ!!」

 

夕弦が両手を合わせると、それを見た耶倶矢はビーチの砂を蹴散らして夕弦の手に片足を乗せると―――夕弦は耶倶矢を軽々と上空へと放り投げた。

 

上空で耶倶矢は、宙返りの応用でオーバーヘッドシュートを放ち、十香チームのコートへと叩きこんだ。

その威力は、コートの半分を吹き飛ばすほどの威力だった。

 

「ゴオオオオオオオル!!」

「歓喜。いやっほー」

 

『相棒、凄いな。ベルセルクはバレーで、超次元サッカーができるんだねー』

「イ○○レ!?ていうか、頭悪くなってんじゃねえよドライグ!!でも、この一点は大きいぞ―――耶倶矢、夕弦。よくやってくれた、ここから一気に逆転するぞ!!」

「おうとも!!」

「同調。やりましょう士道」

 

サーブが士道から耶倶矢へと変わり、試合は続けられた。

 

「オラッ!!」

「ていやあああああッ!!」

「強打。とうッ!」

 

耶倶矢と夕弦が連携するようになってから、徐々に巻き返しが始まった。

しかし、十香チームも一歩も引かない!!

 

「任せて―――」

 

耶倶矢のサーブを折紙がレシーブ!!ボールはコート内に収まり、ボールを見た六華が指示を出す!!

 

「狂三様、上げてください!!」

「分かりましたわ」

 

くるみんがあげたボールに凛袮が合わせる!!凛袮は腰を捻り、腕をしならせて一気に振り抜く!!

 

「せいやーッ!」

「甘いわッ!!」

「まだまだ!!」

 

凛袮のスパイクを耶倶矢がブロック!!真下に落ちるボールを十香が間一髪ですくう!!

 

何とか上空へとボールが跳ね上がると、今度は後衛の六華がバックアタック!!

 

「やあっ!!」

「舐めんなッ!!」

 

負けじと士道が拳で受け止める。太陽が中天で輝く中、士道たちも白銀に輝く雫を飛ばしながら、ひとときの青春を満喫していた。

 

もうMVPも関係ない。ただひたすら全員がビーチバレーを全力で味わい尽くして。

士道たちは、最後の一瞬まで全力でボールを追いかけ続けた。そのひと時は、士道にとっては、掛け替えの無い大切な時間だった。

―――ラタトスクも精霊も赤龍帝であることも忘れて、スポーツに没頭できたのは、ほんの数年ぶりのできごと。

 

―――ちなみに、勝負は10-11で、十香チームが勝利を収めた。MVPは、決勝点を叩き出し、崩れそうになったチームを救い上げた、六華が選ばれたのは、また別のお話。

 

 

 

 

 




※ビーチバレーでは、フェイントは反則ですが見逃してあげて下さい。

キャラ紹介に書き忘れていたので、六華のステータスを書いておきます。

星照六華

識別名〈ガーディアン〉

総合危険度 F(村を守護する精霊のため)
空間震規模 S
霊装    S
天使    S
STR (力) 100(65)
CON (耐久)420(350)
SPI (霊力)406(206)
AGI (敏捷)140(60)
INT (知力)500(250)

数字は、五季と六華の霊結晶の合計数値。
※()内は六華単体のステータス。


◆反転時

識別名〈???〉

総合危険度 F(反転時も敵味方の意識はあるため)
空間震規模 SS
霊装    SS
天使    SS
STR (力) 500
CON (耐久)420
SPI (霊力)500
AGI (敏捷)450
INT (知力)500


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七話 二つの願い

どもども、勇者の挑戦です。

いやー、休日は頑張れば一日一話いけますね(かなりキツイですけど)

無駄話はその辺にして、続きをどうぞ!




ビーチバレーが終わった後、士道は凛袮を担いで日陰までまで足を進めた。

………凛袮は、ビーチバレーの最中に熱中症を引き起こしたが、試合が終わるまではと、根性だけでプレーしていたのだ。

 

士道は氷結傀儡で用意した氷を袋に入れて、凛袮の頭と首へと当て団扇で風を送っている。

 

「………たく、こんなになるまで無茶しやがって」

「あ、ハハハ………私、体力には相当自信あったんだけどな………」

 

凛袮は元々運動は得意で、中学からはラクロス部に所属していた。そして、そのラクロスは転校してきてからも続けているのだ。

 

………どこかのお騒がせドラゴンが台風を吹き飛ばしたせいで、気温も上がり日差しも強い。

おまけに、この炎天下で全力のスポーツをやれば、人間の凛袮が耐えられないのも無理はなかった。

凛袮は乾いた笑みを浮かべると、ビニールシートに体を預けた。

 

「………ちょっと待ってろ、今追加のアクエリアスを取ってくるから」

「ごめんね士道。付き合わさちゃって」

「………気にするな、病人は大人しくしてろ」

 

士道はクーラーボックスからアクエリアスを取り出すと、紙コップに注いだものを手に、もう片方の腕で凛袮の身体を起こした。

 

「ちょっと士道!?これって………」

「うるせー、ほんの一瞬だから我慢しろ」

 

凛袮を片腕で抱き抱えながら、紙コップを凛袮の口へと当ててアクエリアスを流し込んだ。

何年も想いを寄せる幼なじみに、抱かれていることに顔を朱に染めた凛音ちゃん。

それを見た士道もまた、恥ずかしそうに顔を晒した。

アクエリアスを飲ませ終わって、凛袮を再びシートに寝かせようとした時、凛袮が士道の手を掴む。

 

「ねえ士道………おかわり、いいかな?」

「もちのろんだ」

 

凛袮が頬を染めて言った願いを士道は間髪いれずに許諾した。

今度は凛袮を抱えたまま、紙コップにアクエリアスを入れ、それを凛袮の口へと当てた。

 

「………まだ欲しいか?」

「ううん、もう大丈夫………ありがとう士道。でも、もう少しだけこのままでいさせてくれる?」

「このままじゃあ凛袮がきついだろう―――そうだ、ちょっと待ってろ」

 

攻めどころと判断した凛袮はグイグイと押しこむ。しかし、この体勢は凛袮も辛いと感じた士道は、正座をして自分の膝の上に凛袮の頭を置いて寝かせた。

 

―――膝枕である。

 

「………これなら凛袮も楽だろう?お前が回復するまでは俺がいてやるからさ」

「ありがとう士道」

 

士道は、氷が入った袋を再び凛袮の頭に当てなおし、団扇で風を送り続けた。

凛袮は希望を叶えてくれた士道に、完全に体を預けた。

遠く離れ離れになった幼なじみの二人だけの世界は、砂浜のさざなみの音や近くの木で無くセミの音すら置き去りにした。

 

「ねえ士道。聞きたいことがあるんだけど」

「どうした凛袮?そんなに改まって」

 

唐突な凛袮の声に、士道は凛袮の顔を見下ろすと凛袮は話し始める。

 

「―――何か私に隠し事してない?」

「………ッ!」

 

凛袮は、他人の感情には敏感なところがある。それに合わせた気遣いが出来る事から、クラスメートから人気がある。

バツの悪い顔を浮かべて黙り込んだ士道を見て、凛袮は続ける。

 

「昨日の暴風の中、資料館に出て行った十香ちゃんを探しに行った時は、本当に心配したんだよ?怪我とか行方不明にならないかとか、悪い思考がたくさん浮かんだ………それから村雨先生が十香ちゃん達に、話していたのを聞いちゃったんだけど―――修学旅行の前日に、太平洋を横断した台風を吹き飛ばしてくれたのも、士道だって………士道、話してくれないかな?何か危ない事に関わったり………してないよね?」

「な、何言ってんだよ凛袮―――俺に台風を吹き飛ばす力なんて、そんなのあるわけないだろ………」

 

士道は本当の事を、告げるわけにはいかなかった。大切な幼なじみを精霊という非日常がありふれた、危険な世界へ踏み込ませる事―――それだけは絶対に。

 

『村雨令音め、余計な事を―――恐らくだが昨晩、相棒の部屋に入り込もうとした精霊トリオに話したのだろう………その時、一緒に訪れていた園神凛袮に聞かれたと言ったところであろうな』

 

ドライグが述べた見解に、士道もそれしかないことを確信していた。

真実を伝えられないもどかしさから、歯を噛み締める様子を見た凛袮は、起き上がって士道をじっと見つめた。

 

「そっか………言えないんだ。士道には何か事情があるんだよね………でも、これだけは約束して―――私の見ていないところで無理はしないって。私、耐えられないよ………また士道を失うなんて絶対に」

「っ、凛袮………」

 

凛袮は最後の言葉を述べると、瞳から温かいものが漏れ出した。凛袮はハッと我に返りそれを払うが、たまらず溢れて止める術がない。

………凛袮にとっても、十香や六華同様に士道は掛け替えの無い存在だ。琴里と同様に家族と思うほど士道のことを思っているのだから。

士道は凛袮の肩に手を置き、言った。

 

「分かった………俺は凛袮の前からいなくなったりしない。絶対にお前のところに戻ってくるから………大丈夫だ、俺はここにいる」

 

ニカッと士道が笑い飛ばすと凛袮は、再び顔を覗き込む。

 

「本当に?絶対私の前からいなくなったりしない?」

「ああ、本当だ………俺の大丈夫は信用ねえか?」

 

凛袮は何度も首を左右に動かす。士道は小さい頃からずっと凛袮のヒーローを務めてきたのだから。

しばらくすると、凛袮の涙と熱中症の症状がだいぶ治まってきた所に、令音が六華と共に担架を持ってきた。

 

「凛袮、待たせたね………さあ」

 

令音が担架を指さすと、凛袮は首を傾げる。

 

「………あの村雨先生、これは?」

「キミは熱中症だろう?だから宿舎まで運ぼうと思ってね」

「凛袮さま、宿舎でお休み下さい。熱中症は休んでいれば治りますから」

 

「い、いえもう大丈夫です。士道の看病のおかげでだいぶ良くなりましたから………」

 

凛袮ちゃんまさかの拒否。何故なら、令音と六華が凄まじい嫉妬の視線を向けているからだ。

 

―――今すぐ士道から離れろ、と言わんばかりに。

 

ここで宿舎送りになれば、この修学旅行で士道と一緒にいられる時間は無くなる。

 

………自由時間は残り二時間も無い!!ここでリタイアする事は、ライバル達に大きく先を越される可能性があるからだ!!

 

「何を言う。熱中症は放っておくと命に関わる。教師として生徒に無理はさせられない。と言うか、今すぐシンから離れてくれると嬉しい」

「その通りです凛袮さま。早くお休みになって下さい。士道さまは、凛袮さまの分まで、たっぷりと可愛がらせていただきますから。と言うか、さっさと士道さまから離れてくれたら、六華は嬉しいのですが♪」

 

「村雨先生、星照さん!?本音ダダ漏れなのですがそれは!?」

 

否が応でも凛袮を宿舎に運ぼうとする令音と六華。肩にふるふるとしがみ付く凛袮に士道も言う。

 

「凛袮、担架が嫌なら―――俺のおんぶだ」

「―――村雨先生、星照さん。士道におんぶしてもらいます」

 

士道がしゃがみ込むと、凛袮は嬉しそうに士道の背中に体を預けた。

 

「決まりだな。じゃあ村雨先生、六華。凛袮を宿舎まで連れて行きますね」

 

「………」バキッ!

※↑担架の金属部分(六華ちゃん)

「………」ボキッ!!

※↑スイカ割り用のバット(くるみん)

「………」ビッシィッ!

※↑担架の布部分(令音)

「………」グッシャアッ!!

※↑スチール缶の缶コーヒー(折紙)

 

『わー、相棒すっごいねー。女の嫉妬って金属物を簡単に破壊するんだねー』

 

士道のおんぶを選んだ凛袮ちゃん。そして、凛袮に麦わら帽子を被せておんぶする士道を見た、六華、くるみん、令音、折紙はそれぞれ手に持っていたものを破壊した。

士道は凄まじい視線を感じるとスタスタと逃げるように宿舎へと向かった。

ドライグは、未だに頭ワルインジャー状態になっており、戻るまでもう少しかかるようだ。

 

「ねぇ夕弦、あの凛袮も?」

「確信。強力なライバルですね」

 

耶倶矢と夕弦も凛袮を強力なライバルとして認めた。そして、耶倶矢と夕弦の作戦も次のフェーズへと移行しようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――◆◇―――

 

 

 

 

 

 

 

 

凛袮を部屋で寝かせた後は、士道は再び耶倶矢と夕弦の攻略に向けて神経を研ぎ澄ませていた。

………リミットは、残り一日。つまり、士道は明日までに真の八舞にふさわしい精霊を選ばなければいけないのだ。

 

『………片方を選ぶともう片方が必ず暴れるであろうな。なると―――』

「ドライグ、俺は最初からそのつもりだ。何とかして両方とも力を封印して、耶倶矢と夕弦の二人を生き残らせる………この選択肢以外を取るつもりはねえ」

 

士道は結末をしっかりと決めていた。何がなんでも耶倶矢と夕弦の両方を救って見せると。

近くの自販機でコーヒーを買ったのち、ビーチに戻ろうとした時だった。

 

「―――耶倶矢、そこにいるのバレてるぞ」

 

………近くの曲がり角に、人間とは異なるオーラを持つ存在に気付くと、士道が声を出して指を刺した。士道はそのオーラの正体が耶倶矢と分かっていた。

 

シーン………

 

しかし、曲がり角から耶倶矢は出てくる事はなく、声すら返ってくる事は無かった………これには士道くん、盛大に息を吐き出す。

 

「やれやれ………耶倶矢、三秒以内に出てこい。じゃないとその場でお前のおっぱいを揉む―――はい、いーち!にー!さ―――」

 

「ほんの僅かギリギリというところで、我参じょ―――ちょっ、何すんだし!?」

 

士道がカウントダウンを始めると、最後の数字をいいから少し前に、耶倶矢が現れた。先程のビキニ姿から一点、浴衣へと着替えていた。

そして、耶倶矢が出てくるなり、士道は神速を発動して耶倶矢の背後に回り込み、パイタッチ!

 

「デデーン!耶倶矢、OUT!」

「なんで!?私、士道が『さん』って言う前に出たし!」

「………俺の体内時計で0.01秒遅かったからです」

「なにそれ、理不尽過ぎるんですけど!?」

「理不尽もクソもあるか。ルールはルールだ―――と言うわけで、レッツおっぱい☆」

「や、やめ―――やんッ!ふぁぁっ!」

 

ぐへへへへへ!と士道くんが笑みを浮かべると、士道は耶倶矢の胸を弄り始めた。

スレンダーで小ぶりなおっぱいを、浴衣の上から鷲掴みにして上下に手を動かしながら、おっぱいを中央に寄せたりと欲望の限りをつくしていく!

 

………耶倶矢のおっぱいは、小ぶりだが柔らかさは十香や六華にも劣らない。もちもちと少し硬めの水風船のように手に吸い付く感触に、士道くん大興奮!!

 

一方の耶倶矢は、士道の拘束をほどくため抵抗するが、背中が密着し力を入れて押しつけてくる腕を簡単に振りほどく事ができず、おっぱい全体を大きな舌で舐め回されるような士道の手つきに、堪らず矯正を漏らした。

 

………幸い、まだ自由時間は後一時間ほど残っているため、宿舎のひと気は少ないことに助けられ、士道くんやりたい放題!

 

「わ、我を舐めるなッ!」

「ガハッ!?」

 

振り解けないとなれば、体が密着しているのを良いことに、腕を振り上げて肘を思いっきり士道の腹部にぶつけた。

士道は堪らず、腹部を押さえて地面に膝をつき、耶倶矢は士道の魔の手から逃れる事に成功した。

 

「い、いっでえ!?某大晦日の笑ったらケツ叩かれるやつでも、お仕置き役に反撃する奴いねえだろ!?」

「う、うっさい!!許可なく我に触れた報いぞ!」

 

顔を真っ赤にして胸を両腕を抑える耶倶矢ちゃんと、腹部を襲う激痛に耐える士道くん。

痛みと共に込み上げてくる吐き気を我慢しながら、耶倶矢に訊ねる。

 

「………それでなんでまた、こんなところに来たんだよ?凛袮のお見舞いってわけでも無いだろ?」

「ああ。ちょっと士道に話があってね」

「話―――まさか、さっきの続きか!?俺に好き放題おっぱいを触らせてくれるって言うのか!?よっしゃ、やってやるぜ!!」

「ち、違うから!最後まで聞けし!!」

 

『相棒、その辺にしておけ。この小娘の話を聞いてみよう』

 

わしゃわしゃと卑猥に手を動かし、じわじわと距離を詰めてくる士道くんに、恐怖する耶倶矢ちゃん。

しかし、耶倶矢の願いは士道が妄想で出したものとは違った。ドライグが割り込んで来たのもあり、再び耶倶矢に問う。

 

「なんだよ改まって………」

 

士道が訊ねると耶倶矢は口を開け話し始める。

 

「今私さ、夕弦とあんたをかけて競ってるわけじゃん?明日には、それも決着がつく」

「ああ………忘れていない」

 

耶倶矢が言ったことを士道は目を細めて首を縦に振った。自分に根回しをするのだろうなと思ったその時だった―――

 

「士道。あんた明日―――()()()()()()()

「―――っ!?す、すまん耶倶矢もう一回言ってくれないか………」

「はあ、聞こえなかったの?だから、夕弦を選べって言ってんのよ」

 

聞き間違いでは無かったようだ。士道は慌てて耶倶矢の真意を問いただす。

 

「ちょ、ちょっと待て!!真の八舞に戻った時には、両方の人格は維持できないだろ!?俺が夕弦を選べばお前は―――」

「そりゃもちろん消えるでしょうね………でも、夕弦にはこの世界で知らないことを知って欲しいし、楽しんでもらいたいの。

それに夕弦は、あんた好みの巨乳のグラマーだし、断る理由なんてないでしょ………本当は私も消えたくは、無いんだけどね」

「―――耶倶矢………」

 

耶倶矢が語ったのは、心の底からの願いだった。そして最後の言葉には目にうっすらと雫を浮かべて………

しかし、耶倶矢は士道に人差し指を突き立て力強く言葉を発した。

 

「とにかく、明日は夕弦を選んでよね………でないとあんたの仲間ごとこの島を吹き飛ばしてやるんだから!話は終わりよ、短い間だったけど楽しかったわ士道」

「お、おい―――待て耶倶矢!!」

 

耶倶矢は士道の静止を聞くことなく、そそくさと足を進めて行った。その時、籠手から音声が聞こえてくる。

 

『あの小娘がそんな事を………いや、待て―――あの小娘共の勝敗成績は確か勝敗が付いたものより、引き分けた物の方が多かった。まさかそれは―――』

「―――ああ、そう言う事だろうよッ!!」

 

士道は拳を握りしめた………それも、血が出るほど強く。しばらく佇んでいると、夕弦が背後から迫ってきた。

そして、夕弦も開口一番に明日、士道が選ぶ真の八舞をかけた勝負の事を述べた。

 

「請願。士道、この勝負、是非()()()()()()()()()()()

「………それは、耶倶矢が自分よりも大切だからか?」

「肯定。はい」

 

士道の問いに夕弦は間髪いれずに答えた。夕弦は続ける。

 

「説明。耶倶矢は夕弦よりも遥かに優れています。悩む余地は有りません。士道も一度は思ったはずです―――あの折れそうな華奢な体を抱きしめてみたいと………」

「ま、まあ………それは………」

 

士道が肯定すると、夕弦の表情はニパァッと明るいものへと変わった。

 

「安堵。よかったです。士道がそう言ってくれるのであれば、未練はありません。

請願。士道、明日は是非、耶倶矢を選んであげて下さい―――さもなければ、士道の友人たちに不幸が訪れますよ?」

 

耶倶矢とほとんど変わらない脅し文句を残して、夕弦もスタスタと視界から消えていった。

 

『随分と厄介な事になったね。シン、大丈夫かい?』

 

士道のインカムから令音が状況を聞くなり、通信を飛ばしてきた。

あのような話を聞いて、士道が大人しくしていられない事を分かって、令音は先手を打ったのだ。

 

「大丈夫ですよ令音さん………俺のやる事は変わりませんから」

『心配するな村雨令音、この男はこう見えても冷静だ。相棒は必ず〈ベルセルク〉を説得する………貴様は不安要素の方を頼む』

 

士道とドライグの言葉に令音は『心得た』と言うと、通信を切った。

………士道は大きく息を吸い込むと、宿舎から見える青空を見つめ、誓う。

 

「………待ってろ耶倶矢、夕弦。俺がお前らを必ず助ける。これは救うための戦いだ」

 

士道は困難に挑む事を決意した。お互いを愛し、お互いを生かす事を望む精霊を前に、士道は強く拳を握りしめ作戦を立てるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――◇◆◇―――

 

 

 

 

 

 

 

「ここ………は………」

 

短く息を吐いて、ゆっくりと目を開けると―――崇宮真那は意識を取り戻した。

朦朧とする意識が徐々にクリアになると、最初に白い天井と灯りがはっきりと見えた。

体の至る所に包帯が巻かれ、左腕には点滴、口元には酸素マスクが取り付けられ、真那の鼓動に合わせて心電図が規則的に音を鳴らしていた。

 

「なんで私は………っ、七月………一八日!?」

 

真那は首を横に倒すと、視界内に時計が入ってきた。

………その時計には、14:00 7/18 TUE と書かれていた。この時計が確かなら、最悪の精霊〈ナイトメア〉との死闘から、ひと月以上経過している事を示している。

あの空間には、真那と狂三を除くと、士道、十香、折紙、それから士道が抱えていたもう一人の〈ナイトメア〉くるみんの四人。

 

………そして、あの時士道が凄まじい力を解き放った事を真那は知った。

その力は、自分が手も足も出なかった〈ナイトメア〉を圧倒するほどの………もし、DEMやASTに知られれば、兄の士道に災いが降りかかる事は、避けられないこと故に!

 

「に、兄様………ッ!兄様は―――」

 

ひと月もの間、横になっていたせいで、鉛のように重い体を起こし、身体に付けられた医療器具を強引に取り外す。

そして、床へと足をつけて部屋から出ようとしたその時―――

 

「………お前が、崇宮真那だな?」

 

ガラララッと言う音と共に扉が開かれ、黒服の男たちが部屋へと入り込んで来た。

真那は目線をチラチラと動かし、周囲の気配を慎重に探っていた。

 

(部屋の外に二人………階段付近に二人………下の階と地上にそれぞれ五人ずつ………おまけに病院周辺にはニ〇人近くも―――これは、ガチでやがりますね)

 

部屋に入ってきた黒服の数は五人。そして、部屋の外に待機している黒服が四人。そして、一階と真下の地上で待機している、黒服の一味と思われる人間が合計十人、さらに建物の外には四方に人員を張り巡らせた、万全な包囲態勢が敷かれていた。

 

真那はこの黒服たちを見た瞬間に、相当の実力者である事を察知した。それも最前線で戦う戦闘のプロ集団であることを………

………何者かが自分を捕獲しにきたと思った真那は、黒服たちの動きを一挙手一投足、注意深く観察する。

 

「―――誰でやがりますか?」

 

真那が目を細めて訊くと、リーダーと思われる黒服が一歩前に出た。

―――そして次の瞬間、予想外のことが起こった。

 

「我々は『ラタトスク』の者です。五河琴里司令のご指示のもと、お迎えに上がりました」

 

黒服のリーダー格の男が片膝を地面につけると、後ろの四人も同様に片膝をつく。これには、真那も自然と声が漏れた。

………自分を強引に捕獲しようと、先頭になると思った矢先に黒服たちが一斉に膝跨いだのだ。これで驚かない方が無理だろう。

 

「………琴里さんが、私を?」

 

真那がポカンとした表情を浮かべると、黒服のリーダーが黒いケースを真那へと差し出す。

 

「ええ。以前あなたは、五河司令に『ラタトスクでお世話になる』と仰られてたと聞き、我々はあなたがお目覚めになられるのを、お待ちしておりました………こちらが契約書及び、この一ヶ月間で起きた事象をまとめた、報告書にございます」

 

真那はケースを開けて、契約書を見る前に報告書の方へと目を通した。

真那は、その報告書を見ると―――ガタガタと手が震え始めた。

 

「兄様があの〈ナイトメア〉を撃退した!?それから、精霊を超越する兵装を纏って琴里さんを襲撃した鳶一一曹を撃破し、さらに新たな精霊〈ガーディアン〉星照六華を封印―――これは、全て本当の事象でやがりますか!?」

 

真那が一通り報告書に目を通した後、黒服を見ると首を縦に振った。

 

「あなた様の兄君―――五河士道殿と精霊〈ナイトメア〉の戦闘及び、鳶一折紙を撃破した時の戦闘映像は、こちらに有ります。しかし、精霊〈ガーディアン〉のデータは、我々には知らされておりません。

………この二つで良ければ、契約が成立次第、真那さまに提供するようにと、五河司令から伺っております。

ご懸念されている兄君―――五河士道殿はご無事ですよ」

 

とりあえず実の兄である士道の無事を聞いた真那は、ホッと大きく息を吐き出した。

………次に真那は、ここにいない二人の人物についても問いただす。

 

「では、兄様。それから琴里さんは今どちらへ?」

「兄君の士道殿は、現在は修学旅行で或美島を訪れております。五河司令は本日、ラタトスクの会議へとご出席されております」

 

黒服の言葉を聞いた真那は、今度は契約書の方へと目を通した。目を上下左右に動かしながら、数分ほど経過したのち、真那は立ち上がる。

 

「………契約書の方は、琴里さんとのご相談の後、サインをするということにしていただけねえでしょうか。こちらも幾つか質問事項がありやがりますので」

「―――承知しました。五河司令もそのように仰ると言われておりましたので、異論はございません………ああ、お体が優れないのであれば、日程の方を調整させて頂きますが―――」

「もう大丈夫でやがります。傷も癒えていますし、これ以上ここに留まる理由がねえですから」

「結構。では、真那さまの宿泊先へとご案内させて戴きます。さあ、どうぞこちらへ」

 

黒服と真那は、そそくさと陸自の病院を後にした。そして、真那の宿泊先は―――十香たちが利用する精霊マンションの空き部屋となったのであった。

 

こうして、琴里はDEM社が誇る最強の魔術師の一角―――()()()()()3()『崇宮真那』の引き抜きに成功しようとしていた。

 

この崇宮真那の加入がラタトスクの戦力向上そして、士道を求めた義妹実妹によるガチンコ対決の幕開けはすぐそこまで迫っているのであった。

 




お気づきかも知れませんが、DEM側は相当な強化を施します。
近いうちに―――と言うか、もう何がDEMのバックにいるかは想像が付いていると思いますが、そのうち公開させて戴きます。

ドライグの頭ワルインジャー状態。

ツッコミが一定回数を超える―――または、士道がおっぱいに触れすぎると、精神消耗の結果陥る突発性の病。
………完治まで約一時間程かかる。

☆おまけ

真那「フッフーン!復活の真那でやがります!今日から兄様をガンガン攻略していきやがりますのでよろしくお願いしやがります!」

六華「あなたが士道さまの実妹の真那様ですか。私は士道さまと結婚を前提にお付き合いさせていただいております六華です」

真那「なんですと〜!?あのハーレム王を目指す兄様が結婚を申し出やがりましたのか!?」

六華「はい。プロポーズは士道さまからされました。『お前の居場所になってやる、抱きしめてやる、愛している』と。私は、士道さまと何度も一緒の布団で眠らせていただいておられます」

真那「な、なななななな!?たった一ヶ月でここまで差が開くとは………それで六華さんは、もう兄様とその………アレはしやがったのですか!?」

六華「アレは、まだです………最近村雨先生と琴里さまが士道さまの部屋の前を監視されております故、私も簡単に手は出せず………ですが、修学旅行の最後の夜には、士道さまの貞操をいただくおつもりです」

真那「作者さんすみません、今すぐ私を或美島まで運びやがってくだせえ!!このままでは兄様が―――」

ごめんよ、真那ちゃん。作者である私もそれはできません。




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八話 忍び寄る影

どもども、勇者の挑戦です。

八舞編も残すところ後わずかです。フィナーレは恐らく後四話です。

それでは、続きをどうぞ。



修学旅行二日目も、中天で輝く太陽が次へと主役を交代すると同時に世界は夜の帳が降りる。

 

夕食を済ませた士道は、宿舎の部屋で灯りを消して月の光を一身に受けていた。

………耶倶矢と夕弦のことを考えていたのだ。耶倶矢は夕弦、そして夕弦は耶倶矢を―――もう一人の自分を生かすために、自身の消滅を選ぶ。

それは、お互いに愛し合っているからこそ、自分の代わりにまだ見ぬ世界を見て欲しい。

 

………耶倶矢と夕弦は、お互いにそれを願い決闘を続けていたのだ。

 

「………絶対に、片方たりとも失わせはしないッ!あいつらは、二人揃って八舞なんだからッ!」

 

二人の真の願いを聞いた時には、ある程度賛同できる部分は士道にもあった。

仮に士道でも、自分が命を差し出さなければ、精霊たちが死んでしまうとなった時は、一瞬の躊躇いもなく自分の命を差し出すだろうから。

 

しかし、耶倶矢が最後に行った「消えたくない」と言うあの言葉と共に浮かべた涙………あの涙を見た瞬間に、士道は心に強く誓った。

 

―――必ず二人の笑顔を守ると………

 

ピーンポーン

 

部屋の呼び出しベルが鳴り、扉を開けると―――浴衣服姿の十香が、部屋の前で立っていたのだ。

扉が開かれ、士道の姿を見た十香は、口を開けた。

 

「シドー。ちょっといいか?」

「十香じゃないか………どうしたんだ?」

 

士道が部屋の扉を閉めて外へと出ると、十香はぎゅっと士道の手を握った。

 

「シドー、夜の海を見てみたいのだが………付き合ってくれないだろうか?」

 

十香が視線を逸らして言った言葉に、士道は首を傾けようとしたがすぐにそれをやめて笑顔を見せた。

 

「いいに決まってるじゃないか。ただし、あんま長い時間はダメだぞ?」

「ありがとうなのだ、シドー」

 

十香は士道の許可をもらうと、満面の笑みで士道の手を引っ張って宿舎の外へ出た。

………しかし、この行為が十香のことを、初日から虎視眈々と狙う敵組織にとって願ってもない機会を与える事になってしまった。

 

 

 

 

―――その頃のもやしっこー部長。

 

 

「〈アルバテル〉、見えていますか?ターゲットが旅館の外へと出ました。これより作戦を開始します」

 

エレンはインカムを叩いて、上空の空中艦〈アルバテル〉へと通信を入れた。すると、上空から応答の言葉が返ってくる。

 

『―――了解しました。至急〈バンダースナッチ〉を手配させます」

 

そこで通信が切れようとした時、エレンは再びインカムを叩く。

 

「まだ終わっていませんよ―――それから旅館周辺にも〈バンダースナッチ)を数体の配置及び、艦内で待機するアデプタス4も共に待機させておいて下さい」

『〈バンダースナッチ〉はともかく、アデプタス4まで………なぜでしょうか?』

「今端末で旅館の様子を伺っておりますが、ASTの魔術師―――鳶一一曹が不審な動きを見せています。杞憂になるかも知れませんが、万が一の時は対応を願います」

『イエス、マイロード』

 

オペレーターの声を聞くと、エレンは夜闇の世界へと足を踏み入れていった。

 

 

 

―――その頃のもやしっこー部長 終。

 

 

 

十香に連れられて、夜の海へとやって来た士道は手を繋いで壮大に広がる、夜空に輝く月に照らされた、無限に広がる広大な青の世界を眺めていた。

その美しい風景を見た士道くんは、スマホのカメラをフラッシュさせた。

 

「悪くないな………高台の夜景にもこりゃ負けてないぜ―――ん?十香、どうかしたか?」

 

海に連れられ、最初はテンションの高かった十香が、突然ダンマリした事を怪訝に思った士道が顔を覗き込んだ。

 

「………すまん、シドー。少し嘘をついた」

「嘘?」

 

十香が申し訳なさそうに表情を影らせた。十香はそのまま続ける。

 

「修学旅行になってから、あまり士道と話せてなくてな。だから、どうしても二人だけで話がしたかったのだ………ダメだろうか?」

 

嘘をついてまで士道を引っ張っていったことに責任を感じて、瞳を潤わせる十香。

しかし、そんな小さなことをする士道ではない。

 

「ダメなもんかよ。寧ろ構ってやらなくてゴメンな」

 

士道が、十香の頭を親が子供を許すよう優しく撫でると、再び表情を満面の笑みへと戻す十香。

そして、本当の目的を十香は果たす為、士道をジッと見つめた。

 

「………それで士道、何か悩み事でもあるのか?今日の夕飯の時の士道は、少し目が怖かったと言うか………夕飯どころではない様子に見えたのだ………私に話せることなら話して欲しいのだ」

「………っ、まさかその為に、俺を連れ出してくれたのか?」

「勿論、士道と話がしたかったのは事実だぞ」

 

士道は目を見開くと、心の重りを十香に話すことを決意し、口を開けた。

 

「………十香、聞いてくれるか?」

「うむ!士道の話ならどんな事でも聞きたいぞ!」

 

十香がうなずくと、士道は話し始めた。

 

「耶倶矢と夕弦がいるだろ?嘘みたいな話なんだがな、実はあいつらが―――」

 

魅力勝負云々のことは上手くぼかしながら、あの二人が精霊であり、争いあっていること、そして………負けた方は命を失ってしまうことを説明する。

最初は頷いていた十香だったが、すぐに驚いたような顔になっていた。

 

「………なるほど、そんな事が」

 

「ああ。それで―――本題はここからなんだけどな。実は昨日の昼、耶倶矢に、『夕弦を選べ』って言われたんだ。

それから少しした後に、夕弦にも同じ事を言われたんだ………『耶倶矢を選んでくれ』って、な」

 

士道の話を聞いていた十香は目を丸くした。

 

「なんと……それでは耶倶矢と夕弦は」

「ああ………お互い、相手を生かしたがっているんだ。たとえ自分が自分でなくなったとしても、耶倶矢は夕弦に、夕弦は耶倶矢に、生き残って欲しいと思っていてな」

 

士道が言うと、むう………と十香が黙り込んだ。

 

「しかし、何となくあの二人の想いは分かる気がするぞ。私も、私が死なねば士道が死んでしまうと言われたら………そうするかも知れない」

 

「十香………心配いらねえよ、俺はそんなヘマはしない。それに耶倶矢と夕弦の件だって――――――」

 

何とかしてやる!士道がそう言おうと声をあげようとしたが………言い切る事が出来なかった。

なぜなら、強烈なつむじ風が吹き抜けだ事で後ろを振り返ったからである。

 

―――そこには………

 

「士道、今……何ていったの?夕弦が………私を?

は?意味わかんない。何言ってんの?」

 

静かな―――しかし激しい怒りに彩られた声音を発して凄まじい霊力を放出させる耶倶矢が立っていた。

 

………いや、耶倶矢だけではない!もう片方の八舞も、耶倶矢と同じように霊力の本流を隠すどころか、それを放出して歩み寄ってきた。

 

「復唱―――要求。耶倶矢が………夕弦を選べと?そう言ったのですか!?」

 

夕弦だ。夕弦もまた士道が述べた言葉に静かだが、激しい怒りを隠すことをしなかった。

そして―――或美島で再びふたつの嵐が激突する!!

 

「「―――ふざけるなッ!!」」

 

ズオオオオオオオオオオオオオ!!

 

「キャアアアアアアアアア!!」

「十香ッ!?」

 

耶倶矢と夕弦が天使を顕現させようと、力を解放すると、その余波で凄まじい暴風が吹き荒れ、十香の身体が空中へと持ち上げられ、風に飲まれた。

士道は、神速を発動して飛び上がり十香をキャッチすると、急いで近くの森へと身を隠した。

 

「十香、大丈夫か!?」

「す、すまないシドー………」

 

十香に傷がない事を確認した士道は、嵐に向かって声を上げた。

 

「あいつら、つまらねえ意地張りやがって………ッ!お互いのことが大好きなんじゃねえのかッ!!」

 

士道が拳を叩きつけたその時、左手から警告が飛んでくる!!

 

『相棒!!落ち着け、周りを見ろ』

「―――ッ、なんだこいつらッ!?」

 

ドライグに言われるがままに周囲を見渡すと―――約三〇体に迫るほどの人影が立っていた。

………いや、正確に士道たちを取り囲んでいるのは、ヒトではない。

フルフェイスヘルメットのように滑らかな頭部に細身のボディが連なり、人間とは逆向きの関節をした脚部が地面を踏みしめている。

それらを構成するのは全てが、鏡面のように滑らかに磨き上げられた金属の装甲である。

 

「DD‐007〈バンダースナッチ〉…といってもわからないでしょう」

 

すると、その声に呼応するように人形の陰から一人の少女が歩み出てきた。

―――随行カメラマンの、エレン・メイザースだ。

 

「………あの二人が精霊―――それも〈ベルセルク〉とは、夢にも思いませんでした。討伐優先目標を前に、貧乏くじを引かされるとは………これも因果というものですか」

 

エレンが憎しげに言うと、士道は思い出して人差し指をエレンに向ける。

 

「あんたは確か―――パツ金のいいおっぱいのねーちゃん!?こんな人気のないところで………………ハッ、まさか!?俺におっぱいを揉まれに来たのか!?そう言う事なら遠慮なく♪ぐへへへへへへ!」

 

「んなっ―――ち、違います!!私は〈プリンセス〉を捕獲に―――ヒッ!?」

「恥ずかしがらないで下さいよぉ、めちゃくちゃ激しくやりますから―――いっでえええええええてえ!?」

 

げん

こつ

 

じわじわと卑猥に手を動かして迫り寄る士道くんに、エレンは恐怖を覚えて後退る!

冗談ではなく本気でやっていると確信した十香ちゃん、迷わず鉄拳制裁!!

士道は顔面から地面に叩きつけられた。

 

『夜刀神十香、よくやった』

「シドー、こんな非常時に何をしておるかッ!!真面目にやれ!!」

 

十香の士道を殴った拳からは、ジューと煙が上がったかのように腫れていた。ドライグは十香を称賛したが、相棒の士道は正反対のご様子だ!

これには士道くんも立ち上がって文句を言う!

 

「殴る事ねえだろ!?これからドンパチする前に体力を減らすような真似すんじゃねえ!!」

「シドーは、言っても聞かないであろう!?」

「十香、お前って子は………帰ったらそのおっぱい、絶対つついてやるからな!!」

「ここでそんな不埒な事を言うな!!」

「アベシッ!?」

 

「―――あの、何の茶番なのでしょうかこれは」

『………そこは放っておいてくれ』

 

痴話喧嘩を始めるおっぱいドラゴンと精霊〈プリンセス〉。中々見られない珍百景に、エレンも目をやられたのか同情の視線を送っていた。

最後は、十香ちゃんに再び鉄拳制裁をくらった士道くんは、またダウン。

しかし、エレンは士道には見向きもせず、十香に手招きを送る。

 

「十香さん、私と共に来てくれませんか?最高の待遇をお約束しますよ?」

「断る!!」

 

エレンの誘いを一瞬の躊躇いもなく、十香は一蹴しエレンに迫ろうと地面を蹴ろうとした………しかし、ほんの数フレーム前に士道がその手を掴んで止めさせた。

そして、立ち上がってエレンに少し脅しをかける。

 

「俺を差し置いて随分な物言いだな。このガラクタを用意したのは、お前か?」

 

ズォォォッ………

 

士道が十香の前に立つと、エレンに凄まじい殺気を送った。それを見たエレンは、ようやく士道を視界に入れた。

 

「………ただの人間―――ではなさそうですね。貴方は何者ですか?」

「五河士道………一応人間のつもりさ」

 

エレンは手を縦に振ると―――バンダースナッチと呼ばれるガラクタの一つを士道にけしかけた。

バンダースナッチは、距離を詰めながら眼の部分を輝かせてビームを放つ!!放たれたビームは風を切り裂きながら、士道に迫る!!

 

「シドー!!」

「心配すんな―――ハッ!オラッ!!」

 

バシュ、バキィンッ!!ドガアアッ!!

 

士道は飛んできたビームを上空へと弾き返し、けしかけて来たバンダースナッチの顔面に右ストレートを叩き込み、顔面の装甲をぶち抜き、内部のパーツを周囲に散乱させた。

 

そして、拳を弾いて胴体に回し蹴りを放つ!!放たれた回し蹴りは、バンダースナッチを軽々吹き飛ばし、エレンに向かって迫ってくる!!

 

「………ほう」

 

エレンは、バンダースナッチを飛び上がって躱すここでやり過ごした。

士道が蹴飛ばしたバンダースナッチは、森の木々を何本も倒しながら吹き飛んでいった。

 

………地面へと着地したエレンは、次の行動に移ろうとしていた。

 

「まさか、人間程度がバンダースナッチを素手で破壊するとは………でしたら、これはどうします!?」

 

エレンは士道たちを囲うバンダースナッチの半数を士道にけしかけた。

バンダースナッチは、目を光らせると一斉に士道をめがけて襲い掛かる!!

それを見た十香は、士道を助けなければと『塵殺公(サンダルフォン)』を出そうとするが、士道が浴衣の襟首を引っ張り、十香を地面に伏せさせる。

 

「シドー!?私も―――くあっ!?」

「良いから伏せてろ!!アスカロンッ!!」

 

『Blade!!!!!!!』

 

士道は籠手を出し、アスカロンの刃を出して―――四方八方から迫り来るバンダースナッチを引きつけ、その場で一回転!!

すると、迫り来たバンダースナッチは、一匹残らず上体と下半身が分かれた状態に切断され、その場で活動を停止した。

 

士道の左腕を見たエレンは思わず驚愕の声を漏らす。

 

「その左腕の籠手はまさか―――神滅具(ロンギヌス)赤龍帝の籠手(ブーステッド•ギア)』!?なぜ貴方がそれを―――それはまだこちらが所有していたはず!?」

「どうやら神器(セイクリッド•ギア)の事を知っているようだな………お前らのバックには何がいる?」

 

驚愕の表情を浮かべるエレンに、士道は質問を投げかけるが、当然答えは返ってこない。

 

「………まさか、この男が―――いいえ、今はどうでも良いですね。予定を変更します………貴方も共に来ていただきましょうか、五河士道」

 

エレンがそう言うと―――カッ!と黄色の光が放たれ、ワイヤリングスーツとCRユニットを装備した姿をエレンは見せた。

ASTのものとは形状が違うスーツに、各所を覆う機械の甲冑のようなパーツ。そして、背中には巨大な剣型の装備が一際目を引いた。

 

これがエレンが愛用するCRユニット―――『ペンドラゴン』だ。DEM社がエレン専用で作り出したこの世にたった一つのものだ。

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!

 

『………これはそろそろマズいな。相棒、早めに茶番を終わらせた方が良さそうだぞ?』

「ああ、そうだな」

 

耶倶矢と夕弦の衝突で周囲の木々が大きく揺れる姿を見たドライグと士道は、これ以上時間をかけていると、周囲の建物まで被害を受ける―――そこで、士道はエレンに提案を持ち出した。

 

「さっさと道を開けてくれないか?お前と遊んでる暇はない。俺はベルセルク―――耶倶矢と夕弦の喧嘩を止めなきゃならねえんだ。お前のようなザコ相手に躓いている暇は一秒たりともない」

「―――何ですって?」

 

士道にザコ呼ばわりされた事で、エレンは声音を低くし激しい怒りに支配された。

これはエレンにとっては屈辱以外の何でもなかった―――全世界最強と謳われている自分をザコ呼ばわりされた事に………

それも、神滅具を宿しているとは言え、ただの人間相手に………

 

「生憎ですが、私は貴方と十香さんの両方を連れ帰るまで、あなた方を解放するつもりは有りません―――ここを通りたくば私を越える事ですね」

 

エレンがレイザーブレードを構えた姿を見て、士道は視線を伏せた。

 

………そして―――今ここに赤き龍の帝王が君臨する!!

 

「そうか―――後悔するなよ………ッ!!」

 

『Welsh Dragon Brance Breaker!!!!!!!!』

 

ゴオオオオオオオッッ!!

 

激しい赤いオーラが激しくなり、士道の全身を赤い龍を模した全身鎧がその身を包む。

 

「シドー………」

「大丈夫、俺は絶対に負けない―――だから十香、少し下がっていろ」

 

心配そうに士道の姿を見つめる十香に、下がるように言う士道。十香は「絶対だぞ!」と言うと、数歩ほど後ろへと下がった。

これを見たエレンは高らかに笑う。

 

「まさか、禁手(バランス•ブレイカー)にも至っていましたか―――これは、私も全力を出せそうです!」

 

ギュイイイイイインンッッ!!

 

「ッ、これは!?」

 

エレンの髪がふわふわと宙に浮かび上がると―――士道が片膝を強制的に地面へと叩きつけられた。

この攻撃は魔術師お得意の随意領域(テリトリー)による攻撃だ。エレンのそれによって士道は数十倍の重力がかかったように、その場で身動きを封じられる!!

 

「私の『随意領域』は全魔術師中、最大最強です。さあ、これで終わりです」

「シドー!!」

 

エレンはレイザーブレードに魔力を注ぎ込むと、士道に振り下ろさんと迫る!!

しかし、士道にはリンドヴルムとの戦いで目覚めた奥の手がある!!

 

鎧変化(アームド•チェンジ)―――『剛撃(カイザー)』ッ!!」

 

『Change Kaiser Booster !!!!!!!!』

 

士道は、鎧を攻撃力に特化した鎧『剛撃』へと変化させると、もう一つの奥の手、極倍化を発動させる!!

 

『Starting Absolution Booster―――Boost!!!!!!!』

 

一気に極限状態まで自分の戦闘能力を引き上げると、士道はドライグに指示を出す!!

 

「ドライグ、アスカロンに力の譲渡だッ!!」

『承知―――Transfer!!!!!!!』

 

士道は籠手からアスカロンの刃を再び出し、エレンの随意領域内でアスカロンの聖なる波動を爆発させる!!

 

カッ―――ドオオオオオオオオオオオ!!

 

「んなっ!?こんなバカな―――」

 

エレンは随意領域をいとも容易く攻略された事に、思わず動きが止まってしまう―――この一瞬の硬直が勝負の行方を決定づけた。

 

………士道は、既に次の手を打っていたのだから!!

 

「鎧変化―――『閃光(シャイニング)』」

 

『Change Shining Booster!!!!!!!!』

 

「これで終わりだ!!」

 

スピードに特化した『閃光』へと鎧を変更した士道は、硬直したエレンに神速を発動して、すれ違い様にエレンを一閃!!

 

「―――こ、こんな………こと、がッ」

 

士道がアスカロンを振り下ろすと―――エレンは血飛沫を上げて地面へと倒れ込んだ。

 

「あとはお前らだけだな―――消えろッ!!」

 

ピシッ―――バシィィンッ!

 

残ったバンダースナッチたちを目掛けて、アスカロンを横薙ぎに払うと―――残りのバンダースナッチも、先程の個体同様に上体と下半身が綺麗に切断された状態で、活動を停止した。

倒れたエレンに視線を向けた十香は、士道に訊ねる。

 

「シドー、あの女は?」

「急所は外したから、死にはしないだろう………まあ、戦闘はできない状態まで追い込ませてもらった」

「………本当に強くなったなシドーは。私はもう、守られる側になってしまうのだな………」

 

鎧を変化させた士道を見て、十香は誇らしげに微笑むと同時に、士道に守られる事への歯痒さを感じていた。

その十香を抱えて、士道は耶倶矢と夕弦の元へと急行する!

 

「バカ言え、俺はまだまだお前に教わる事はあるし、十香は俺を助けてくれているぜ?

………だから俺からもお前に頼みたい―――耶倶矢と夕弦を止めるために、力を貸してくれるか?」

「うむ!当然であろう!」

 

士道は、翼を広げると耶倶矢と夕弦の決闘を止めるため、天を駆けた。

後は、周囲に嵐を巻き起こす姉妹精霊を攻略するのみ。最後の大勝負を前に、士道はどう立ち向かうのか―――続く!

 




本章にて、エレンを圧倒した士道ですが、次章では大幅に強化します。

次回は、折紙と新キャラのアデプタス4及び仁徳正義、フラクシナスVSアルバテルになると思います。

フラクシナスVSアルバテルは原作の再現になるので割愛させていただくかも知れませんが………

感想等お待ちしています!


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九話 折紙の意地!

どもども、勇者の挑戦です。

書いてて思ったことが一点―――この章のメインヒロインって八舞姉妹だよね?と。
なぜかやたらと折紙が出ている気がするのは、気のせいでしょうか(確実に気のせいでは無い)

それでは、続きです!


士道がエレンと激突する少し前の出来事だった。

十香が、士道を旅館の外へと引っ張って行く姿を、窓から確認した折紙は、裏口から靴を持って出て行った。

 

―――私の士道を取られてなるものか………

 

折紙はその一心で、闇が降りた世界へと駆けていった。数分ほど足を進めると、折紙は視界内に入ったオブジェクトを見て足を止めた。

 

「………随意領域を展開している?」

 

そのオブジェクトは、DD‐007〈バンダースナッチ〉。十香の捕獲作戦の際に、折紙への牽制として旅館の周囲に配置させていたもの。

折紙は魔術師以外で、随意領域を操る存在は知らなかった―――故に、燎子から預かった保険のネックレスへと触れ、全神経を研ぎ澄ませていた。

 

その時ある者がザッと周囲の傘を踏み潰す音と共に、歩み寄ってきた。

 

「………鳶一折紙?こんな所で何をしている。外はこの通り強風だ、早く宿舎に―――」

「―――あ、危ないっ」

 

折紙の力が感じられた瞬間に、バンダースナッチの頭部が光を放ち―――地面を蹴って上空へと飛び上がる!!

なんと、バンダースナッチは令音を目掛けて急降下して来た―――まるで先に邪魔者を始末さんとばかりに………

 

「間にッ、会えっ!」

「く―――ッ」

 

折紙は令音に体当たりをして、バンダースナッチが急降下してくる起動から、外す事に成功した。

令音は地面に擦れながら吹き飛び、足に裂傷を負っただけだった。

 

―――しかし、令音を庇った折紙は………

 

「か―――はっ………」

 

バンダースナッチの頭突きが胸部へと直撃し、近くの大木へと叩きつけられた。

衝撃のあまり吐瀉物を吐き出したのち、折紙は地に倒れ伏した。

胸だけでなく、肺にもダメージを受けたせいで呼吸が困難になり、意識が朦朧とし、目が霞む。

 

ザッザッ………

 

「………くっ、今度は私か」

 

バンダースナッチは、倒れた折紙を見て戦闘続行は困難と判断したのか、再び令音に向けて足を進めた。

 

―――令音を守らなければ。その思いから折紙は悲鳴をあげる身体に力を入れて、身体を起こすが………やはり、受けたダメージが大きく、再び倒れ伏した。

 

「私は………また、何もできずに―――ッ!!」

 

折紙は朦朧とする意識の中、強く拳を叩き付けた。

目の前で精霊に父と母を殺され、そして〈プリンセス〉や〈ナイトメア〉という精霊相手に歯が立たなかったという無力さが、頭の中で思い浮かぶ。

 

『―――邪魔だ、消え失せろッ!!』

 

『きひひひひひっ、その程度でわたくしを殺そうなんて………思い上がりましたわねぇ!』

 

大地を鳴動させ、空間を斬り裂く大剣を持つ精霊。空間振とは別に一〇〇〇〇人以上の人間を手にかけた、最凶最悪とも名高い精霊。

両親を殺した憎き仇を討つため、人類を脅かす未知の脅威から人々を守るため、折紙は身を粉にして超常に立ち向かった。

 

………しかし、超常の壁は非常に堅固で高かった。何度も挑み立ち向かったが、いつも跳ね返され虫のようにひっくり返った。

隊員たちは折紙のことを「才能がある」「天才だ」などと言うが、精霊の一人すら満足に倒せない自分に、日々悔しさが積るばかり。

 

「………っ!」

 

ギュゥィィィン!

 

バンダースナッチは、頭部にエネルギーを集約させ翡翠の球体を作り出し、それを令音に向け放とうとしている。

そして、今も令音が殺されようとしている時に何もできない、自分の非力さに………また私は目の前で失うのか、と。

 

悔しさに打ち震えたその時、ある人物が刹那によぎった。その人物は全てを失った折紙の最後の砦ともある人物だ。

 

「………し、ど、う………っ!」

 

………折紙は知っている。どれほど打ちのめされても立ち上がった男を………命を賭してまで、自分の前に現れたその男を。

自分が仇と捉えた妹を守るため、差し違えてでも護り切ると、何かに取り憑かれたような執念で向かって来た。

その男なら………この状況でも迷わず立ち上がり、剣を取るであろうことを!!

 

「………っ、諦めてなる、もの………かっ!」

 

バンッ!と近くの地面から砂埃を上げるよう手をつき、全身に力を込めた。既に大きなダメージを受け、体は震える。

しかし、折紙は三度倒れる事はなかった………目の前の令音を守るためにレイザーブレードを杖に、立ち上がった。

 

自分から妹を守り切った士道のように―――この場は、必ず令音を守り切ってみせると!!

 

そして、朦朧とした視線がクリアになり、レイザーブレードを握りしめてバンダースナッチの前に立ち塞がる!

その時、背中から音声が響き渡る。

 

『………マスター、よく立ち上がりました』

「アルビオン………」

 

相棒の名前を呼ぶ折紙。その折紙の強い思いに、今度は神器は応えようとしていた。

 

『マスター、確かに今までの汝は一人でした。ですが、汝はもう一人ではありません。私はマスターが望む限りいつでも力を分け与えます―――行きましょうマスター、私の力を存分に振るうのです!』

 

「―――アルビオン………私に力をっ!」

 

カアアアアアアアアアッ!!

 

アルビオンの声を聞いた折紙は、歯を食いしばり、手と足に力を入れてゆっくりと立ち上がると、白い閃光が放たれる!!

その時―――白に縁取られた水色のエナジーウイングが顕現した。

それと同時に、手に持っていたネックレスが凄まじい輝きを放ち、一本のレーザーブレードが姿を表した。

 

………ネックレス型のレイザーブレードは燎子が保険として渡していた。謹慎を受けた折紙には、CRユニット関連の装備は使えない。現地で精霊等が現れた際の防衛手段として、渡していたものだったのだ。

 

『Vanishing Dragon Awaken―――Divide!!!!!!!』

 

ギュゥゥゥンッ!!

 

折紙の翼から、周囲の空気を歪ませる波動が放たれると―――バンダースナッチのエネルギーが急激に減少した。それと同時に、折紙の力が爆発的に膨れ上がり、レイザーブレードから溢れんばかりの力を放出させる!!

その時、翼が点滅を繰り返してアルビオンが声を出す!!

 

『マスター、今です!!』

 

「はぁぁぁぁっ!」

 

ズドオオオオオオオオオオオッッ!!

 

折紙がレイザーブレードを振り下ろすと、地面を斬り裂きながら衝撃波がバンダースナッチへと襲いかかる!!

折紙が放った特大の一撃は、バンダースナッチの体を真っ二つに裂き、装甲および内部の部品ごと、木っ端微塵に吹き飛ばした。

 

「はっ………はっ………」

 

特大の一撃を放った折紙は、肩で息を数回したのち地面へと倒れ伏した。地面へと体が接触する前に、令音が優しく折紙を優しく受け止めた。

 

「………ありがとう鳶一折紙。キミに命を救われたよ」

 

「せ………先、生。よかった」

 

レイザーブレードをネックレスの状態に戻し、背中の翼が光の粒子となって消滅すると、折紙は令音の方に右腕をかけてゆっくりと歩き始めた。

このまま、何もなく終わる―――そう思ったその時だった。

 

パチパチパチパチパチパチ………

 

『マスター。残念ながら………このままでは終わらないようです』

 

素晴らしいものを観させてもらった時に送られる観劇の拍手が、この空間へと響き渡る。

令音は、折紙に肩を貸したまま拍手が聞こえてきた方向へ、首を動かす。

 

「………それは、何に対しての拍手かい?」

 

令音が言うと、拍手を送ったであろう者が夜闇に包まれる森から姿を表した。

 

それは整った栗色の髪に、それと同じ色の瞳。バトルスーツのようなものを纏った青年だった。

士道よりも体は少し小さいが、死線を幾度となく潜り抜けた強者のようなオーラを放つ異常に思える少年だった。

 

「そちらのお嬢さんの健闘を称えての拍手だよ………こんなに早く『白い龍(バニシング•ドラゴン)』が目醒めるとは。最初は貧乏籤引いたと思ったけど、来て良かった」

 

ザッザッ………

 

その少年がパチンッ!と指を弾くと、背後からゾロゾロとバンダースナッチが現れた。

夜闇から姿を表したバンダースナッチ―――その数は、少年の背後からそれぞれ二体ずつの計四体。

 

先程の機体の攻撃をまともに受け、体に順応しきっていないアルビオンの力を使った結果、折紙は大きく消耗している。

この状況は、折紙にとっては絶体絶命の大ピンチだ。

 

「さっきの、人形………っ」

 

「くっ………逃げ道を塞がれたか」

 

折紙が後ろを見たその時―――少年の右翼に展開されていたバンダースナッチが、行手を塞がんばかりに突如として現れた。

そして、左翼に展開されていたものが、前に出てきて再び両翼に展開した。

 

「残念だけど、このまま逃すと隊長に怒られるんでね。大人しく僕に着いてきて欲しいのだけど………どうやらそれは無理そうだね。まあ、消耗しきった今のキミなら、わざわざ僕が手を下す必要はなさそうだ」

 

少年が手招きをするが、折紙と令音がそれに従わない事を少年は分かっていた。

その上で、少年はバンダースナッチを折紙と令音へとけしかける!

 

「くっ………アルビオン!」

『はっ!』

 

少年が手を倒すと―――四体のバンダースナッチがジワジワと押し寄せてくる!

迫り来るバンダースナッチを見た瞬間に、折紙は令音から離れて背中にエナジーウイングを、そして両腕にレイザーブレードを顕現させる!

 

………しかし、折紙は既に立っているのがやっとの状態。令音は堪らず声を上げる。

 

「………鳶一折紙、私に構わず逃げるんだ。キミ一人ならまだ―――」

 

ギィィィィィィン!!

 

令音が全てを言う前に、折紙は最も近くまで迫ったバンダースナッチをレイザーブレードで、横薙ぎの斬撃を放つ!

その一撃は、二体を巻き込み一体の上体を斬り落とし、もう一体を吹き飛ばした。

 

ドシュ!ドシュ!

 

背後の機体二つが、頭部からビームを放った。折紙はレイザーブレードの腹を体に前に構える!

 

「はあああああっ!」

 

ドオオオオオンン!!

 

放たれた二つのビームは、折紙のレーザーブレードに直撃し折紙と令音を避けるよう、V字に広がり背後で爆発を起こした。

しかし、完全に防ぎ切ることは出来ず折紙の両肩からは煙が上がっていた。

 

「………鳶一折紙。なぜキミはそこまで」

 

「村雨先生、私は―――私のような人間を作らせないために、この力を振るいます。私が戦う理由はそれだけです………貴方が傷付けば、士道が悲しみます」

 

令音を捨て置けば、確かに折紙は逃げる事はできたのかも知れない。だが、一人のASTの隊員として―――精霊という未曾有の災害から、人々を守ると誓ったあの日から、戦う覚悟を決めていた。

 

その上、折紙の両親を殺した存在はおそらく精霊だ。それを倒そうというのに―――危険に晒される女の一人救えないで、それが倒せるものかと!

 

「………さすがは、伝説の龍に選ばれた少女と言った所だね。じゃあ、こちらも一気に決めさせてもらおうか」

 

ブウウンッ!!

 

少年が指を弾くと、残りの三体のバンダースナッチ、頭部の眼光を光らせ随意領域を展開した。

そして、折紙を倒さんとばかりに一気に迫ってくる。

 

「………一撃で、終わらせるっ」

 

クリアになった視線が再び霞み始め、ヒィィィィン!と身体の中で甲高い音が鳴り響くと同時に、激しい頭痛に襲われた。

もう折紙が剣を触れるのは、恐らくこれが最後………故に、内に宿る伝説のドラゴンに折紙は、強く願った。

 

―――この絶体絶命のピンチを乗り切るだけの力が欲しいと!!

 

「アルビオン………私に、最後の力をッ!!」

『はっ―――Vanishment Additional Effect!!!!!!!!』

 

カアアアアアアアアアッ!!

 

エナジーウイングが、水色の強い輝きを放つと―――バンダースナッチの随意領域が消滅し、さらに全身に供給されるエネルギーが尽きたかのように機能停止し、その場で微動だにしなくなった。

………こうなってしまえば、ただの鉄屑同然だ。折紙にそれを砕けない道理はなかった。

 

「先生、伏せて―――はああああっ!!」

「………っ」

 

ズドオオオオオオオオオオオッッ!!

 

折紙の言葉と共に、令音はその場にうつ伏せで頭を抱えた。その後、折紙は全パワーを込めた一撃をバンダースナッチ及び、その後ろで待機する少年へと放った。

 

折紙が放った渾身の一撃は、周囲の木々を何本も切り倒して、令音以外の全てを吹き飛ばした。

 

「はっ………はっ………―――」

 

ドサッ………

 

力を完全に使い果たした折紙は、今度こそ意識を失いその場で力なく倒れ伏した。

その倒れた折紙を令音は、抱きかかえた。

 

「………私のためにここまで。本当にありがとう、鳶一折紙」

 

バンダースナッチとそれを従えた少年が消えた事を確認した令音は、宿舎を目指して足を進めた。

このまま何もなく、折紙を寝かせたのち士道とベルセルク攻略の作戦を再び練る。令音はそんな事を考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――これが地上最強と謳われた二天龍の一角。生身で受ければ間違いなく即死だったよ。いやー、ウェストコットのおっさんが、あの子に肩入れするのもわからぁ」

 

「………っ!その姿は」

 

少年が、漆黒に彩られたCRユニットを装着し、煙を吹き飛ばして戦場へと復帰した。

少年のCRユニットは、頭には布のターバンを有し、そのほかの部位は騎士の甲冑のような金属装甲に覆われ、腰には黒い布がひらひらの舞っていた。

そして、両手には巨大な死神が持つような鎌が握られ、クルクルと鎌を回しながら、それを令音に突き付けた。

 

「そのお嬢さんは、僕が貰っていくよ。ウェストコットのおっさんには、丁度いい見上げになるだろうからさ………あのおっさん女子高校生に手を出すの大好きだな変態だからね。おまけにそれが『白い龍』を宿してると知ったら―――嬉しすぎて発狂するんじゃないかな?

ちなみに、お姉さんも少し痛い目に遭ってもらうよ?CRユニット、バンダースナッチ………これらは、一般人の知っていいものじゃないからね」

 

「………っ」

 

まるで死神になったかのようなCRユニットに身を包んだ少年が、二人を捕獲しようと迫り来る。

令音は、折紙を抱えて走るが少年はすぐに令音を追い抜き、行手を阻むように仁王立ち。

それを見た令音は、すぐに足を止めてその少年を睨みつける。

 

「………そんな怖い顔しないでよ、お姉さんはここ数分の記憶の処理をするだけだから。そんな顔してたら、せっかくの美人が台無しだよ?」

 

「………キミはDEM社の魔術師か。ならば覚えておくといい―――例え私は、記憶を消されようともDEMへの怒りを、恨みを忘れることはない」

 

「ウェストコットのおっさん、このお姉さんに何やったんだろ?親戚でも犯したのかな?んまあ、そんな事はどうでもいいけど」

 

少年は、それだけを言うと釜を振り上げた。逃げても無駄だと悟った令音は少年に背中を向けた。

 

―――折紙だけは守ってみせると………

 

そして―――………少年は振り上げた釜を振り下ろす!!

 

 

「それじゃあ、おつかれ―――ッ!?」

 

少年はその鎌で令音を気絶させた後、この数分間の記憶を消去し、折紙を連れ去る予定だった。

しかし、その予定が大きく狂ってしまった。何故なら――――――

 

ゴオオオオオオオッッ!!

 

一陣の凄まじい風の刃が竜巻を形成して、令音を守るように展開された。

少年は竜巻に飲まれないよう、慌ててその場から飛び退いた。

 

竜巻が止むと一人の大男が、両腕にオレンジ色の光を放つ籠手を纏い、前後両方に刃がある刀を手に、令音の前に突如として現れたからだ。

 

その大男の名は仁徳正義。

 

「………村雨先生、お怪我はありませんか?」

 

仁徳が背中越しに言うと、令音は首を縦に振ってその背中を見上げた。

 

「ああ。なんとかね………それにしても仁徳正義―――今のは、キミが?」

 

仁徳には、令音の言葉が聞こえていなかった………なぜなら、彼は既にCRユニットを纏った少年へと意識を集中していたからだ。

 

「村雨先生、折紙さま!ご無事ですか!?」

「六華………キミまできてくれるとは。これで、何とかなりそうだ」

 

神雷を纏う槍を片手に、霊装を纏った六華が駆け寄ってきてくれた。これには令音もホッと息を撫で下ろした。

 

「やれやれ、今日は驚きの連続だ。捕獲対象の〈プリンセス〉に、突如現れた〈ベルセルク〉。さらに新種の精霊に、謎の力を持つ大男ときたか。命令を受けてやって来て本当によかったよ」

 

少年が歓喜の笑みを浮かべたところで、仁徳が背中越しに六華へと言う。

 

「星照さん、行ってくれ………ここは俺一人で十分だ」

「………わかりました。正義さま、ご武運を―――村雨先生、行きましょう」

 

六華は令音を先に行かせると、その背中を守るように宿舎の方へと足を進めた。

しかし、少年はこれを許す事はなかった。

―――バンダースナッチを見られた者は、誰であろうと記憶を消す義務がある!少年は更なる力を解放する!

 

「逃がすか―――『リュカオン』ッ!」

 

オオオオオオンッ!!

 

少年が指を弾くと、何か黒い物体が、令音と六華を目掛けて飛びかかった。それは、頭部に刃を持った狼のような四足歩行の漆黒の獣が、風を切り裂きながら迫ってくる!

 

「………ッ!」

 

六華は迎撃しようとアイギスを構えるが―――獣が六華まで迫ることはなかった。

 

何故なら―――………

 

「フンッ!!」

 

仁徳が神速を発動して、漆黒の獣の行手に先回りをして顔面を掴む!

 

そして―――

 

ドゴオオオンッ!!

 

仁徳はそのまま情け容赦なく、腕を振り上げる。そのまま上げた腕を地面へと振り下ろし、漆黒の獣を地面へ叩きつけた。

仁徳の剛腕は、轟音とともに周囲の地面を陥没させた。叩きつけられた獣はキュウッ………という鳴き音を上げ、動かなくなった。

 

「………この通り、俺のことは心配いらない。安心して行ってくれ」

 

六華は首を縦に振ると、令音から折紙を受け取りそのまま走っていった。六華と令音が消えたことを確認した仁徳は、叩きつけた獣を拾って本人へと返した。

 

「これはお前のものだよな?返してやる」

 

「………それは複製されたとはいえ、紛れもなく神滅具。こんな男がノーマークだったとは、捜索班は飛んだ手抜き仕事をしてくれたもんだ」

 

少年が言うと、仁徳が剣を構えて手招きをする。

 

「………来いよ小僧。仲間を傷つけたツケはキッチリ払ってもらう」

「良い覚悟してんじゃん―――『リュカオン』この男に手加減は要らない、全力で殺せ!!」

 

オオオオオオンン!!

 

漆黒の獣が雄叫びを上げると―――その姿が大きく変わった。

 

頭部に角のような刃を持った狼のような顔面はそのままだが、両腕に二つの刃が上下に二つ、背中と尻尾には針山のように無数の刃が生えた、四足歩行のものへと変貌を遂げた。

 

―――それはまさに人狼とも呼べる姿へと変貌した。

 

「ゆけ―――『リュカオン』」

 

オオオオオオンン!!

 

漆黒の獣―――リュカオンが雄叫びを上げると、背中および尾から刃が伸びて、四方八方から刃の嵐が仁徳を襲う!!

 

「面白いッ!!」

 

ドガガガガガガガガガガガガ!!

 

仁徳は迫り来る攻撃に笑みを浮かべると、刀を振るい迫り来る刃を片っ端から弾き返して行く。しかし、リュカオンの放つ刃は数千、数万に迫るほどだ。弾き返さないものは、飛び跳ね、ムーンサルト、宙返りなどの体術で掠ることすら赦さない!

その身のこなし及び、刀の使い方は風と戯れる妖精の如き舞だった。

仁徳の刀は、前後両方に刃を持つため、一振りで二度相手を斬ることが可能だ。

さらに、前後両方の刃には風の力を持つ魔法玉が埋め込まれているため、それを解放する事で周囲に竜巻を呼び起こす事も可能だ。

 

「こ、この男―――人間なのか!?」

 

リュカオンの刃は、地上だけでなく頭上や側面、背後や足場―――至る所から無尽蔵に迫る剣戟の極地に等しい。

その怒涛の攻撃ですら、仁徳には未だに傷一つ付けられないことを見た少年は、驚きを隠せなかった。

 

「風よ―――天へと舞えッ!」

 

仁徳は刀を回転させ周囲に竜巻を呼びよせると、リュカオンの刃を消滅させると同時に、天へと舞い上がる!!

 

「今度はこちらの番だな」

 

仁徳は刀を体の前で回転させ、リュカオンの刃を竜巻で全て切り刻んだ。そして、神速を発動させ懐へと入り込む!!

 

そして、渾身の一撃が放たれる!!

 

「―――疾風連斬•五連」

 

ヒュン―――ジジジジジ………ズドオオオオオオオオオオオッッ!!

 

すれ違い様に斬りあげるよう一閃!

すると僅かコンマ何秒かの時間差で、リュカオンの胸部に幾重にも縦横、それから斜めと幾重に斬撃が入り―――爆発と共にリュカオンの姿が消えた。

 

「………こんな小物で俺の相手が務まるものか。俺を殺したければ貴様自身で挑んで来い―――全力でな!!」

 

「気に入った!!キミは僕が直接殺してあげるよ!」

 

仁徳の挑発じみた言葉に、少年は地面を蹴り鎌を回しながら仁徳へと迫る。

 

「はあっ!」

 

少年は小手調に鎌を縦に振り下ろすが、仁徳は鎌の刃を籠手で容易く受け止める。

 

「まだ分かっていないようだな………この程度で俺を取れると思っているのか?」

 

仁徳が鎌を握りしめ、力を込めるとビシビシと鎌に罅が入り始めた。しかし、少年の狙いはこれだった。

 

「いいや、取れるさ―――アクセラレーターッ!!」

『Starting Acceleration!!!!!!!!』

 

少年が強く叫ぶと、CRユニットが音声を放つと共に、漆黒の輝きが周囲を照らす!!

それと同時に、少年の力が爆発的に跳ね上がる!!

 

「―――ッ!?」

 

悪寒を感じた仁徳は、すぐさま鎌から手を離して距離を取った。しかし、漆黒の光と共に神速に迫る速度で動く少年は、先程までとは別人だった。

 

「………ちぃッ!装備の能力か!?」

 

距離をとった瞬間、背後にいきなり少年が現れ、鎌で首を落とさんばかりに刃が迫る!!仁徳は間一髪で体を倒して避ける事に成功したが、少年の攻撃は止まらない!!

 

「そらそらそらそらッ!!」

「機械仕掛けがッ!!」

 

攻撃は鋭さを増し、神速で対応せざるを得なくなった仁徳は、苦虫を噛み潰したように顔を歪めた。

二人の戦いは目にも映らぬスピードで行われており、仁徳の持つ刀と少年の鎌が何度もぶつかり、その度に衝撃波が突き抜け周囲の森を揺らした。

 

激しい剣戟の応酬で既に周囲の森の半分が、切り株だらけになるという大きな自然破壊が行われた。

 

「………本当にキミは人間なのか?アクセラレーターを使った僕とここまでやり合った人間はいない。下手すれば僕らの隊長とも良い勝負するんじゃないかな?」

「俺を舐めているようだな。お前はもちろん、お前らの隊長とやらにも、俺は勝つぞ」

 

仁徳の言葉に少年は冷や汗をかいた。今のアクセラレーターは、少年の切り札だった。しかし、それを使用してでさえ、攻撃が掠りもしないこの男を見て事実である事を悟ったのだ。

それを見た少年は鎌を背中へと仕舞った。それを見た仁徳は声を上げる。

 

「おい、まだ勝負は付いていないぞ?途中で勝負を投げる事は、戦士同士の戦いでは最大の侮辱行為だぞ」

「よく言うよ、力の一欠片しかろくに見せない男が―――『お前には全力に見せるに値しない』と全力を隠す事もまた、侮辱行為だと思うけど?

………まあ、お互いに此処じゃあ全力を出せないと言うのが、正しいか」

「………………」

 

少年の言葉に仁徳も黙り込んだ。仁徳は少年が先程のリュカオンを使わない事を疑問に思っていた。身に纏うなり、攻撃回避後に合わせて攻撃をされたら、仁徳は全く無傷とはいかなかったからだ。

 

また、少年も仁徳が籠手の力を一切使わない事を見切っていた。仁徳の場合は、全力を出そうとなると、力の余波で周囲が吹き飛ぶため、近くに宿舎があるこの場所では、とてもできなかったのだ。

 

「………此処らで痛み分けと行こうかな。僕のところの隊長がやられちゃったみたいだから、僕はソレの回収に向かうよ。今回はこの辺で切り上げさせて欲しい―――次は本気で殺し合える事を願おう!

そうだ、自己紹介が遅れていたね―――僕はDEMインダストリーの魔術師『グレン•レオ•カザード』だ」

 

「俺は来禅高校二年三組、仁徳正義。鬼神の力を宿すものだ」

 

お互いに名乗り終わると、グレンは空へと飛び上がる。そして仁徳へと拳を突き出した。

 

「またやり合おうジントクマサヨシ。次に戦うときは、お互い全力で」

「そうある事を俺も願おう!さらばだグレン!」

 

グレンが天へと羽ばたいたタイミングで仁徳も刀を消滅させた。あの刀は仁徳が持つ籠手の力の一部だ。

 

「………五河、俺は務めを果たしたぞ?お前も負けるなよ」

 

仁徳は、漆黒の嵐に覆われた天を見上げて言葉を送った。その言葉は、士道にしっかりと届いていた。

 

 

 

 




感想だ、感想をよこせ!

折紙と仁徳だけで一話を使い切る事になりましたが、アルバテルとフラクシナスの空中艦バトルは、割愛させていただきます!

グレンの神器はお分かりかも知れませんが『黒刃の狗神』です。
グレンは『ジン』ではなくそのまま『リュカオン』と名前をつけています。

これである程度お分かりになったかと思いますが、DEMのバックには奴がいます。一話でもちょこっと出しましたっけ?

仁徳の力は宝具と言う形にしようと考えています。


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十話 頂上決戦!赤龍帝VS八舞 前編!!

この話と次話で八舞編も終了です。

さあ、続きと参りましょう!




「うおおおおおお!!」

 

「応戦。はああっ!」

 

ギィィィィィィンッ!!

 

耶倶矢と夕弦はお互いに裂帛の気合と共に、或美島の上空で激しくぶつかり合った。

ぶつかり合うたび周囲に烈風が放たれ、周囲のものがミキサーに巻き込まれたかのように、混ざり合いながら空中へと浮かび上がっていく!!

 

「―――前ッから思っていたのよ!あんたは何でも自分一人で抱え込んで処理しようとして!」

 

叫びながら耶倶矢が巨大な槍を突き出すと、槍の先端がドリルのように高速回転し、竜巻を生み出す。

その竜巻で撫で切り出すように、夕弦に向かって槍を薙ぐ。

 

「反論。その言葉、熨斗とリボンで過剰包装して耶倶矢に突き返します………!」

 

しかし夕弦は、破壊的な暴風が迫ってきているにも関わらず、至極冷静に言葉を返すと左手を複雑に動かした。

すると夕弦のてにあるペンデュラムが意志をもつように蠢き、夕弦の前に方陣を組む。

それは耶倶矢の起こした竜巻の一撃を難なく防ぎ、再び元の紐状に戻り夕弦の周囲に螺旋状に渦巻いた。

 

「今までの勝負で私がいろんなものを極めるのに、どんだけ時間費やしたと思ってんのよ!?大人しく真なる八舞の座を受け取りなさいよッ!」

 

「拒否。それは夕弦とて同じです。耶倶矢が勝負を引き延ばしたことは、一度や二度ではありません。そのとき夕弦も、どうすれば耶倶矢に納得して勝たせるかを、ずっと考えに考え抜いてきました。

―――真の八舞に相応しいのは、耶倶矢です!」

 

お互いに自分の願いを決して曲げない、意地と意地のぶつかり合い!

その勝負はさらに激しさを増し、二人から放たれる烈風が強さを増す!!

 

「私より飛ぶの早いくせに!」

 

「夕弦より耶倶矢の方が力が強いです」

 

「耶倶矢の方が肌が綺麗です」

 

「わたしより可愛いいくせに!」

 

「反論。それは譲れません。夕弦よりも耶倶矢の方が可愛いに決まっています」

 

口喧嘩しなががら高速回転する耶倶矢の槍と、剣のように複雑に編まれた夕弦の紐が打ち合わされる。

威力は全くの互角、お互いの意思を貫くために嵐は何度も激突する!

 

「喰らえッ、『神を穿ちし漆黒の魔槍(ゴッドブレイク•シュトゥルムランツェ)』ッ!!」

 

「迎撃。『ブラッディースクライドー』」

 

耶倶矢が竜巻をコーティングした槍を放つと、夕弦はペンデュラムを螺旋状に回転させ、投擲された槍へと叩き込む!!

 

二つの一撃がぶつかろうとしたその時―――この嵐の中心に赤い龍が咆哮を上げ、強引に割り込む!!

 

「いい加減に―――しやがれええええええ!!」

 

バギィィィィィィンッ!!

 

耶倶矢が投擲した槍と、夕弦の放ったペンデュラムを、士道は鎧を【護盾(ガーディアン)】へと変更し、籠手を盾状に変化させ受け止める!!

 

「なっ………」

「驚嘆………これは―――」

 

「悪いな耶倶矢に夕弦。これ以上お前たちで争わせるわけにはいかねえんだ」

 

士道は受け止めた耶倶矢の槍と夕弦のペンデュラムを握りしめ、お互いの動きを封じた。

二度の決闘に横槍を入れられた耶倶矢と夕弦は、お互い拳を握りしめて激昂する。

 

「いい加減にするのはあんたよ士道!もうあんたの役目は終わったのよ!!」

「迷惑。これ以上夕弦たちに関わらないで下さい。さもなくば―――例え士道と言えども、命の保証はできません」

 

耶倶矢と夕弦は今すぐに失せろと言わんばかりに、士道に告げた。しかし、此処で士道が退くわけにはいかない!

島を訪れた生徒たちを守るため―――そして、目の前で大切な存在が消えようとしている場面に立ち会っているこの瞬間から、逃げられる事ができようか!いや、ない!!

 

「役目は終わった………迷惑だ―――ふざけんじゃねえ!!勝手に人をゴミみたく捨てんじゃねえよ―――俺は、お前ら二人の裁定役から降りたつもりはねえ!!俺が決める―――お前ら二人、どっちが真の八舞に相応わしいかをなッ!!」

 

「「………っ」」

 

士道の言葉に、耶倶矢と夕弦はピクッと震え目を大きく開かせた。

………二人とも士道の答えを聞くまでは大人しく待機をするつもりだった。相手を選ぶなら良し、だがもし自分を選ぼうものなら言い終わる前に、その首を吹き飛ばしてやろうと。

 

「よく聞け、オレが選ぶのは―――お前ら二人、両方だ!!」

 

士道の決定を聞くと共に、耶倶矢と夕弦はお互いに視線を鋭くした。

 

「………何それ。ふざけてんの?」

「軽蔑。小学生以下の回答です」

 

ゴオオオオオオオッッ!!

 

二人が士道の答えに落胆したその時、島を覆う嵐がさらに激しさを増す!!しかし、士道はふざけていなければ茶化しているつもりもない!

士道は大きく息を吸い込むと、二人に命令を出す。

 

「悪いが、俺は自分の決定を捻じ曲げるつもりは無い。当然お前らが納得しない事は百も承知だ。だから――――――俺と戦え」

 

士道は鎧越しに首を左右に動かし、耶倶矢と夕弦に視線を送った。耶倶矢と夕弦はその真意を訊ねる。

 

「………は?なんであんたと戦う必要があるわけ?バカじゃないの、人間であるあんたが、私と戦って本気で勝てると思ってんの?」

「嘆息。何を言うかと思えば………士道には米粒ほどの勝算はありませんよ?それでも夕弦たちと戦うと言うのですか?」

 

「―――まさか颶風の王たる精霊が『人間である俺が怖いです!』なんて事を言わねえよな?」

 

「「………ッ!!」」

 

士道が挑発気味に言うと、耶倶矢と夕弦の視線がさらに鋭くなる!二人とも士道の挑発に身体が震え、怒りが頂点に達したようだ。

 

―――その勝負、受けて立とう。

 

耶倶矢と夕弦の反応を見て士道はそう確信した。その上で勝利条件及び、それぞれが得るものを伝える。

 

「勝負条件は、俺がお前たちを両方捕まえたら俺の勝利。

お前らが俺を倒すなり殺すなりできれば、お前らの勝利だ。

お前たちが俺に勝てたら、最後まで真の八舞に相応しい精霊がどちらか、お互いが納得するまで決め合えばいい。

ただし、俺がお前たちに勝利したその時は―――お前たち二人の霊力を俺に封印せてくれ。そして耶倶矢と夕弦、お前たち二人が生き残る」

 

士道の決定事項を聞いた耶倶矢が質問を投げかける。

 

「霊力の封印って………そんな事本当にできるの?」

「不審。怪しさぷんぷん丸です」

 

「ああ可能だ。今すぐにでもお前らの霊力を封印したいところだが………何処の馬の骨か分からん男に、霊力を託すなんて真似はしないだろ?

―――だからお前たちに俺の力を見せてやる。お前たちの霊力を受け取るに相応しい男である事を証明してやる―――どうだ、これなら文句はないだろ?」

 

士道が言うと、耶倶矢と夕弦は肯定した。

 

「良かろう、受けて立つ。颶風の御子たる我が力、とくと見せてやる!」

「了承。良いでしょう、遠慮はしませんよ?」

 

「決まりだな………さて、始める前にもう一つお願いがある。いいな?」

 

これで決闘の準備が全て整った―――かに思えたが、士道が地面を指さした。

その先には―――先程まで士道と共にいた少女の姿が。

耶倶矢と夕弦はそれに対して首を縦に振る。

 

「良かろう。ただし、長くは待たんぞ?」

「許可。早めにお願いします」

 

士道は「ありがとう」と言うと、地上で待つ十香の元へと急行した。十香はすぐに『塵殺公(サンダルフォン)』を顕現させると、それを片手に空を見上げた。

 

「シドー、私も戦うぞ。二人でなら必ず耶倶矢と夕弦を倒せよう」

「十香………ダメだ。今回は俺の力を認めさせる戦いだ―――悪いが、此処で待っていてくれないか?来やがれ―――『護星天(ミカエル)』ッ!!」

 

六華の杖の形をした天使『護星天(ミカエル)』を顕現させると、士道はドーム状の結界を周囲に展開させる。

 

―――これは十香を守る為のもの。これから激しい戦闘になることを見越して、十香が巻き添えを食わないように………完全な霊装を纏えない十香では、余波だけでも致命傷になりかねないからだ。

 

「なぜだシドー!?私を頼ってくれるのではなかったのか!どうしていつも、いつも一人で………っ!」

「すまない十香。でも、必ず勝ってあの二人を従わせる―――だから、大丈夫だ」

「―――大丈夫じゃない!!」

 

十香は怖かった。六華を従えて異世界から帰って来て、何があったかを士道から聞かされた。

………グレンデルやリンドヴルムという伝説の邪龍と死闘を繰り広げたことを。

リンドヴルムとの戦いに関しては、十香の助けがなければ確実に士道は殺されていた。

再び目の前で士道を失う事は、十香にとって胸を抉るほどの激痛だ。

故に十香は士道の鎧を掴んだまま手に力を込めた―――戦わせない為に。

 

「また目の前でシドーが傷つく姿を見ていろと言うのか!?血を流してボロボロにされて………私は、そんなシドーを見たくない!!」

「十香………」

 

鎧を掴んで震える十香の手に士道は優しく触れた。そして………優しく頭を撫でた。

その時、見上げる十香の瞳は充血し、水晶のような相貌は潤んでいた。

 

「………毎度のことながら本当に辛い思いをさせてすまない。でも、絶対に俺は負けない。狂三もアルビオンの力を纏った折紙も何とかなった。だから、待ってろ―――必ず笑顔で十香のもとへ帰るからさ」

「………本当の本当か?絶対に私の前に帰ってきてくれるのだな?」

「ああ、約束だ」

 

士道の言葉を聞いた十香は、鎧を離して祈るように言う。

 

「必ず勝つのだぞ、シドー!」

「ああ―――【輝壁(シュテル)】ッ!!」

 

士道が杖を振りかざすと、結界が強い輝きを放ち結界の強度を上げた。そして、それを地面に刺すと同時に、空へと視線を向けた。

 

「………行ってくる」

 

十香にその言葉を残して士道は青空へと飛び立った。

舞い戻った士道を見て、二人は嵐を纏いその手に武器を顕現させる。

 

「士道、お主の力を我に示せ!颶風の御子たる我を見事屈服させて見せよ!」

「警告。士道、夕弦も一才の手加減をしません。死んでも恨まないで下さい」

 

「………それでいい。俺も手加減はしない!!

鎧変化(アームド•チェンジ)』―――【閃光(シャイニング)】ッ!!」

 

『Change Shining Booster!!!!!!!!!!』

 

八舞は風を操る精霊だ。通常形態や、他の三形態ではその素早さに翻弄され太刀打ちができない。故に機動力に長けたこの鎧を士道は選んだのだ。

 

「ドライグ、行くぞ!!」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!!!!!!!』

 

倍化した力を纏った士道は、嵐を撒き散らす災厄へと突っ込んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――◇◆―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

士道と八舞姉妹の激突が始まり、或美島を烈風と衝撃波が吹き抜けた。

 

 

「貫け!『颶風騎士(ラファエル)』―――【穿つ者(エル•レエム)】ッ!!」

「援護。『颶風騎士(ラファエル)』―――【縛める者(エル•ナハシュ)】ッ!!」

 

耶倶矢と夕弦は連携で士道に迫る。今は、耶倶矢が竜巻をコーティングして槍を投擲したものに、夕弦がそれに追い風をつけるよう、ペンデュラムを投擲した槍を目掛けて伸ばす!!

二つの天使が交わった一撃が、周囲の全ての風を巻き込みながら士道に迫る!!

 

「―――アスカロンッ!!」『Blade!!!!!!』

 

ギィィィィィィン!!

 

士道はその一撃をアスカロンで受け止め、後方へと受け流した。

一つの攻撃をやり過ごした時には、元いた場所に二人の姿は無かった。

 

「―――夕弦、合わせて!!」

「了解。とりゃー」

 

耶倶矢が腕を振るい、士道の周囲に乱気流を発生させると―――夕弦が乱気流を目掛けてペンデュラムを伸ばす!!

ペンデュラムは、発生させた乱気流を目まぐるしく移動し、流れに乗って士道を襲う!!

 

「フンッ!」

 

突如、二時方向から飛んできたペンデュラムを士道はアスカロンで真っ二つに斬り裂く!!

しかし、今度は乱気流に乗って耶倶矢と夕弦が直接叩きに乗り出してくる。

 

「はああああっ!!」

「闘舞。あたたたたたたた」

 

耶倶矢の槍を士道はアスカロンでいなし、夕弦の乱気流に乗りながら放たれるペンデュラムと格闘技には、士道も腕や足で弾き返す。

………気流に乗って襲いくる八舞の連携技を対応こそできるが、士道は反撃の糸口を見出せなかった。

 

「くっ―――ちぃっ!?なんつー連携だよ!?さっきまで喧嘩してた奴らのそれじゃねえ!?」

『ここまで息のあった連携は、俺ですら見た事がない。これほどのものか〈ベルセルク〉は』

 

気流の流れを読み、それに乗って八舞姉妹は連携してくる。風を司る精霊にはできて当然の技術らしいが、士道はその気流に乗ることはできない。

幸い八舞姉妹は、攻撃時に霊力が集約される事を士道は感じ取れるため、直撃のタイミングを測るのは容易だ。

………しかし、気流に乗った八舞姉妹のスピードは、神速を発動した時の士道とほぼ変わらないほど攻撃が素早くそして鋭い。

 

そのため士道は後手に回らざるを得なかった。

 

『まずはこの乱気流を突破しなければ、あの姉妹を捉えることは難しいぞ』

 

ドライグからのアドバイスに、士道は両手の左右に相反するエネルギーを持つ天使を顕現させる!!

 

「ああ、分かっている。来やがれ―――『灼爛殲鬼(カマエル)』、『氷結傀儡(ザドキエル)』ッ!!」

 

士道は左手に炎を、右手に氷のエネルギーを纏い両手を合わせて霊力を集約させる!!

それは、修学旅行の前日に台風を吹き飛ばした時に使用したあの技だ。

 

「注意。耶倶矢、何か来ます」

「分かってるって!」

 

凄まじいエネルギーを感じ取った耶倶矢と夕弦は乱気流から離れた。そこに士道の技が放たれる!!

 

「吹き飛びやがれぇぇぇぇぇ!!」

 

ズドオオオオオオオオオオオッッ!!

 

士道の周囲で大爆発が発生すると、周囲の雲ごと士道を取り囲んだ乱気流を吹き飛ばした。

 

「嘘でしょ!?私たちの自慢の風をこんなに容易く!?」

「驚嘆。これが士道の実力ですか!?」

 

自慢の風を攻略された事で耶倶矢と夕弦の動きがピタリと止まった。この一瞬を士道は逃さない!!

 

「ドライグ、一気に決めるぞ!!」

『承知!!Welsh Dragon Limit Break―――Over Limit Booster Set Up!!!!!!!!!』

 

士道の鎧の宝玉から光が放たれ、限界を超えた倍化が始まる!!

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!!!!!!!!!!』

 

士道は倍化した力を全て、ブースターの推進力に注ぎ込み、速度を加速させた。

そして、上空で佇む耶倶矢と夕弦を捕まえる為、両腕を伸ばす!

 

「疾―――」

「驚―――」

 

耶倶矢と夕弦の体が反応した頃には、既に士道はほんの一mにも満たない距離まで迫られていた。

そして、今―――勝利が確定しようとしていた。士道は既に二人の間に入り込み、後は両腕を閉めるだけ!!

 

「―――取った!!」

 

士道は、刹那に両腕を閉めてその胸の中に耶倶矢と夕弦を掴み、地面へと足をついた。

両腕の中にいる二人に士道は言う。

 

「耶倶矢、夕弦。俺の勝ちだ―――な、なにっ!?」

 

確かに捕まえたはずだった耶倶矢と夕弦がいつの間にか腕の中から消えているのだ。

これにはドライグもわけもわからずパニック状態だ。

 

『バカな!?相棒は確かにベルセルクを捕まえたはず………それが―――何故だ!?』

 

―――その時だった。何かが士道の鎧を斬り裂き、夥しい量の血を噴き出させる!!

 

「がああああああああああ!!!」

「シドー!!」

 

士道が苦悶の声を上げて膝を付くと、堪らず十香もまた悲鳴をあげた。

士道は理解できなかった。何故自分の鎧が斬り刻まれたのかを………そして肝心の八舞姉妹は、上空で佇んでいた。

 

「油断したわ………まさか人間相手に【斬列なる鎧(エル•ガイア)】を使う羽目になるとは」

「迂闊。これがなければ夕弦たちの負けでした」

 

上空に佇む八舞姉妹の霊装からは、周囲に風の刃が乱れるように舞っていた。

 

―――【斬列なる鎧(エル•ガイア)】精霊〈ベルセルク〉が持つ防御における奥義。霊装に霊力を凝縮させ、一気に解放する事で風の刃を呼び出し、近づいた物を斬り裂く技。

耶倶矢と夕弦の両方に備わっており、懐に入られた時に発動させる事でカウンターにもなる。先ほどやったのはまさしくそれだ。

それを受けてしまった事で、突進の軌道がズレてしまった。そのため、士道は二人を捕まえ損ねたのだ。

 

「ぐっ………まだだ、まだ終わってねえッ!!」

 

アスカロンを杖に士道はフラフラと立ち上がる。鎧は【閃光(シャイニング)】状態のため、通常形態よりも防御力が下がっており、致命の一撃となってしまった。

視界が朦朧としながらも立ち上がった時には―――八舞が誇る最強の一撃が放たれようとしていた。

 

「士道よ、貴様は本当に良くやった。故にこの一撃を貴様に送ろう」

「祝辞。士道、あなたと戦えた事に心から感謝を」

 

耶倶矢の右肩に生えていた羽と、夕弦の左肩に生えていた羽が合わさって、弓のような形状を作っていた。

次いで夕弦のペンデュラムが弦となって羽と羽とを結び、耶倶矢の槍が、矢となってそれに番えられる。

今度は、耶倶矢が右手で、夕弦が左手で。

霊装の鎧に包まれた手で以って、左右から同時にその弦を引いていた。

 

「ドライグ、鎧の修復を頼む。それから修復した鎧を【護盾(ガーディアン)】にしてくれ」

『分かった。避けるわけにもいかんしな』

 

士道の言葉で鎧が【護盾(ガーディアン)】状態に復元され、士道は耶倶矢と夕弦の攻撃を迎え撃とうとしていた。

………先程までの槍やらペンデュラムとは、桁違いな霊力を放っておりこれを避ければ、島全体が吹き飛ぶ可能性があったからだ。

 

「「『颶風騎士(ラファエル)』―――【天を駆ける者(エル•カナフ)】ッ!!」」

 

ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!

 

二人が同時に手を離すと、巨大な矢が天から士道を目掛けて降り注いだ。先程までとは比べ物にならない風圧を纏い、島の全てを揺らすほどだ。

風の加護を持った極限の一撃を前にしても、士道は避けようとはしなかった。

 

「シドおおおおおおおおおお!!」

 

十香が放たれた一撃を見て、士道を案じるように悲鳴をあげる。乙女の悲鳴を聞いて、逃げるほどおっぱいドラゴンは腑抜けではない!!

 

「俺を信じろ十香!!必ずお前と、この島を守ってやる!!極倍化発動!!」

 

『Starting Absolution Booster―――Boost!!!!!!!!!』

 

放たれた一撃を見たドライグが、極倍化を発動させ士道の力を限界まで引き上げる!!

そして、士道も全力の防御を展開する!!

 

「ニブルヘイム•ドラゴンシールドッ!!」

 

『Spiritual Niburuheimu Drogonic guardian!!!!!!!!!!』

 

士道は四糸乃の天使『氷結傀儡(ザドキエル)』の力を盾に集約し、氷の盾を展開して迎撃体制を整える!!

そして二つの技が今―――激突する!!

 

ビシビシビシビシビシッ!!

 

耶倶矢と夕弦の極限の一撃が、士道の盾を徐々にヒビが入り、さらに士道がいる地面が徐々に陥没していく!!

士道は極限まで力を高め、なおかつ最強の防御を誇る盾ですら、破壊せんばかりの勢いで士道が押し込まれていた。

 

「ぐっ………うっ!!なんつー威力だ………十香の『最後の剣(ハルヴァンヘレブ)』と同等かよ」

『二つに分かれてなおこの威力………一つになれば黒六華にも迫るやも知れんな』

 

あり得ないほどの重量に身体が軋み、大量の汗が流れ出る。身体が悲鳴をあげているが、士道はそれでも耐え続けた。

 

「シドおおおおおお!!」

 

………十香だ。ここでこの一撃を堪えることが出来なければ、結界に守られている十香にも危険が及ぶ。

それが分かっているからこそ、士道は全力で耐え続けた。己が持てる全ての力を振り絞って。

 

「………そうか、まだある!!来やがれ―――『護星天(ミカエル)』、アスカロン!!」

 

士道は左側の籠手に眠るアスカロンの聖なる波動を、さらに右腕からは護星天(ミカエル)の防御力を展開する盾へと送り込む!!

すると、盾が黄金の輝きを放ち!爆発的にその強度が増す!!

 

「いっけえええええええ!!」

 

ズドオオオオオオオオオオオンンッッ!!

 

それぞれの想いを込めた一撃が最後の輝きを放ち、大爆発を起こした。

近くの全てを吹き飛ばすと―――そこには赤い龍の鎧が地面に立っていた。

 

「なんで………なんで、アレを耐えられるのよ!?」

「恐怖。士道は………人間なのでしょうか?」

 

耶倶矢と夕弦の二人は、最強の一撃【天を駆ける者(エル•カナフ)】すら耐えた士道を見て、理解ができなかった。

………いかに特殊な力を持っているとは言え、人間が耐える事など普通はあり得る事ではないと。

 

「へっ、へへ………何とか、なったぜ」

 

ぐらっ………

 

「シドー!?シドー!!」

 

その場で膝をついた士道を見て、十香が慌てて駆け寄る。士道が再び立ち上がろうとした時、十香は止めさせるために士道を抱きしめた。

十香は士道の顔面を胸に押しつけたその時―――声が聞こえてきた。

 

(これ以上士道に、傷ついて欲しくない。だが、士道は止まらないであろう………こう言う時には、なんと言えば良いのだろうか?)

 

抱きしめられた十香の言葉を聞いた士道は、十香に言う。

 

「なら十香、俺が言っても聞かない時は―――頑張れって言ってくれないか?そしたら、俺はきっと今以上の力を出せるだろうからさ」

 

「な、何故私が思っている事が分かったのだシドー!?」

 

突如胸の内を完全に曝け出された事に、十香は慌てて声を裏返した。その様子を見て士道は首を傾げる。

 

「何ってお前が言ったんだろ?俺にどう言う言葉をかければいいか分からないって………」

「た、確かに思いはしたが、私は口にはしていないぞ!?」

「何言ってんだ、俺は確かに――――――」

『ああ、俺にも確かにその声が聞こえた。口に出していないとなると――――――ア、ソウイウコトデスカ』

 

口に出していない事が聞こえる―――つまり相手の心の声を士道は聞けるようになった。

 

………それはつまりあの必殺技の復活を意味していた。士道がずっと試していたが、使えなかったあの技が。

 

「ま………まさか―――」

 

それが事実か確認するために、今度は十香の胸へと手を当てた。

 

「な、なななななななにをするのだ!?」

(突然シドーはどうしたのだ!?何やら確認しているようだが………)

 

十香が心の中で言うように、士道は真剣な眼差しで十香の胸を弄っていた。

 

………しかし、数秒もすると―――

 

「ぐへへへへへへ!!」

(―――む!?この顔は悪い事を考えている顔だ!取り敢えず殴らなければ!!)

 

十香のおっぱいの感触に途中から下品な笑みを浮かべていた士道くん。

それを見た十香ちゃん迷わず拳を振り抜く!!

振り抜かれた拳が脳天に迫る………しかし、殴られる事が分かっていた士道くん、間一髪でその手を掴んで直撃を避ける!!

 

「あっぶね!?取り敢えずで殴るな!」

「むっ!?何故私の考えている事が手にとるようにわかるのだ!?」

 

この出来事が士道を確信へと変わった―――間違いない、今の俺なら必ずできると!

 

「十香、ありがとう!おかげで何とかなりそうだ!」

『そして俺の心はどうにかなりそうだ………グスン』

 

士道とドライグで真逆のテンションだった。ロケットで飛び上がるようにテンションを上げる士道とは正反対に、ドライグは涙の大洪水が起こっていた。

そして、何はともあれいつもの士道に戻った事、そして………先程士道に言われた通りに、十香は言う。

 

「シドー………頑張れ!頑張れシドー!」

「―――ッ、ああ!!」

 

十香のエールを受けた士道は、再び鎧を【閃光(シャイニング)】の状態にして飛び上がった。乙女の祈りを受けたドラゴンを止められる者は存在しない。

………今の士道にできない事などないほど、自信に満ち溢れていた。

 

最強の一撃を受けてもなお、立ち上がった士道に動揺を隠せなかった耶倶矢と夕弦。

その二人に士道は告げた。

 

「………耶倶矢、夕弦―――お前たちは本当に強かったぜ。俺は今までお前たちの好感度を維持したまま封印する事しか考えてなかった。

全力で戦ってくれていたお前たちに、本当に失礼な事をした―――だが、それもここまでだ。

ここからは俺も全力を出させてもらう。例えお前らに嫌われたとしても、俺は俺の意思を貫き通す!!」

 

耶倶矢と夕弦は、先程とは比較にならないプレッシャーを放つ士道を見た。

 

「………なんなの!?この立っているだけで心臓が潰れそうになる感じは」 

「畏怖。これが本来の士道なのですか!?」

 

二人とも、士道から放たられる圧倒的な覚悟とプレッシャーに、呼吸が困難になるほど気圧されていた。

士道は人差し指を二人に突きつけ、強く叫んだ。

 

「ここから先は―――乳龍帝の戦争(俺のデート)だ!!」

『うおおおおおおおおおおおんんっっ!!』

 

これから始まる聖戦―――失礼、欲望を全開にして戦う士道の姿が浮かんだドライグは………泣いた。

 

 




ドライグ先生の次回予告

『やばい、ヤバすぎるよ!!
相棒が取り戻そうとした技は、八舞姉妹にとっては相性は最悪だ!!
かつて女性を相手に無双をしたあの凶悪コンボが今目覚める!!
次回 デート•ア•ライブ 〜転生の赤龍帝〜
「頂上決戦!赤龍帝VS八舞 後編!!」
欲望に塗れし変態よ、自重せよ、本当に頼むから!!』

士道「煩悩解放、イメージマックス!!広がれ、俺の快適夢空間ッ!!」

次回は、恐らく………シリアスなんてありません、ハイ


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十一話 頂上決戦!赤龍帝VS八舞 後編!!

どもども、勇者の挑戦です。

八舞編の完全終了は次話になります。

………恐らくツッコミどころ満載だと思うので、感想等お待ちしております!


「ここから先は、乳龍帝の戦争(俺のデート)だ!!」

 

士道が耶倶矢と夕弦に鋭い視線を送ると共に、鎧の宝玉と同じ色の―――翡翠のオーラを全身に纏わせる!!

そして―――………士道は両手を広げ、そのオーラを解放する!!

 

「煩悩解放、イメージマックス!!広がれ、俺の快適夢空間ッ!!」

 

ヒィィィィィン!!

 

士道のオーラが広がり、或美島一帯を薄いピンク色の輝きを放つ世界へと変貌させる!!

月が輝き、闇一色の夜の世界がいきなり変化を遂げた事に、耶倶矢と夕弦は戸惑いの声をあげる。

 

「な………なに、これ!?」

「動揺。何がどうなっているのですか?」

 

士道から放たれたオーラが完全に止んだところで、士道が挑発めいた手招きを送る。

 

「さあどうした、かかって来いよ―――俺が怖いのか?」

 

「………っ、舐めるなああああ!!」

「静止。耶倶矢―――」

 

その手招きを見た瞬間に耶倶矢が気炎を吐き、槍を手に猛突進!!夕弦の声を聞かず、単独で士道に挑む。

 

「煉獄へ落ちろ!はあああああっ!!」

 

槍から竜巻を放ち、その竜巻を士道が竜巻の中に囚われる!!その竜巻の流れに乗って耶倶矢が槍を持って迫る!!

 

「『塵殺公(サンダルフォン)』ッ!!」

 

ズドオオオッッ!!

 

士道が周囲を薙ぎ払うと、竜巻を斬り刻まれ周囲の風が突如消える!!

 

「なっ―――」

 

いきなり風を失った耶倶矢は慌てて止まる。しかし、既に霊力を迸らせた大剣を片手に持った士道は目と鼻の先の距離だ!

 

「くっ!『颶風騎士(ラファエル)』―――【斬列なる鎧(エル•ガイア)】ッ!!」

 

耶倶矢は目の前の士道を再び切り裂くために、霊装に風を集約させ一気に解放する!

耶倶矢から無数の風の刃が放たれた瞬間、士道が手に持つ大剣に力を込める!!

 

「フンッ!」

 

バシュッ!!

 

士道が斬り上げを放つと、放たれようとした風が斬り刻まれ不発に終わった。

 

「う、そ………」

「まずは一人っ!!」

 

耶倶矢は、奥義を攻略されたショックのあまり言葉を失った。士道が得意げに口の端を釣り上げ、耶倶矢を捕まえようと手を伸ばす!!

しかし、間一髪のところでペンデュラムが耶倶矢の腰に巻き付き、引っ張り上げられ、士道の手は空を摘んだ。

 

「チッ、夕弦め。やってくれる」

 

ペンデュラムに巻き付かれた耶倶矢を夕弦は引き上げ、冷静さを取り戻させようと耶倶矢に囁く。

 

「鎮静。耶倶矢落ち着いてください。認めたくはありませんが、今の士道相手では、連携しなければとても勝てません。

彼は本気で耶倶矢と夕弦を捕まえるつもりです………耶倶矢、分かってくれますか?」

「分かったわよ………夕弦、そのありがとね。あんたが引っ張ってくれたなかったら、捕まってたわ」

「微笑。らしくありませんね耶倶矢。素直な耶倶矢も嫌いではありませんよ」

「うっさい、笑うな!!」

 

夕弦は耶倶矢に巻きつけたペンデュラムを解放すると、再び士道へと向き直した。今度は連携技で勝負を掛けるつもりだ!

士道はそれを察知すると、瞑目して頭の中で訊ねた。

 

(さあ、耶倶矢と夕弦のおっぱいさんたち、これから何をするか教えておくれ!)

 

士道がおっぱいに語りかけると、耶倶矢の小ぶりなおっぱいと夕弦の豊満なおっぱいがたぷんたぷんと弾みながら言葉を発した。

 

(まずは乱気流を呼んで、士道を囲むでござる!)

 

(そ、その後は耶倶矢と夕弦のコンビネーションで、追い詰めてあげないんだからね!?)

 

耶倶矢と夕弦のおっぱいの声を聞いた士道くん、空中でずっこけるようにバランスを崩す。

 

「………耶倶矢のおっぱいは侍口調で、夕弦のおっぱいはツンデレ属性かよ!?

まあ、それなら面倒な乱気流から片付けさせてもらいましょうか!!」

 

バチチチチチチチチッ!!

 

乱気流に囲まれると、耶倶矢と夕弦は風に乗ってさらにスピードが上がるため、厄介極まりなくなる。

そのため、士道は初手でそれを潰そうと左手に炎を、右手に氷を呼び出す!!

初手から出鼻を挫こうとする士道を見た耶倶矢と夕弦は、慌てて士道から距離を取る。

 

「………読まれたっ!?」

「懐疑。これは―――」

 

しかし、今度は動きを止めなかった。動きを止めると士道は一気に距離を詰められ、捕まりかねないからだ。

なぜ手札を見破られたのかをお互いに考えていたが、二人は次のプランへと移行する!!

 

『なるほど、今度はスピードで勝負か。お互い球状に展開し、相棒の隙を作ろうというわけだな。しかし、甘いな』

 

周囲に風の流れを展開しながら、耶倶矢と夕弦は閃光の如く目まぐるしく動き回り、士道を取り囲むように風の球体が展開される。

しかし、ドライグの言うように今の士道相手には意味を成さない。

 

(某が突っ込んで士道に隙を作る!)

(夕弦が耶倶矢のフォローをしてあげるんだから、感謝しなさいよね!?)

 

………この通り心の内を見透かされては、連携しようが簡単に裏をかくのは容易だ。

 

「はあああっ!!」

「そらよっと!」

 

裂帛の気合と共に突進してくる耶倶矢を見た瞬間に、士道は耶倶矢をサポートするよう動く夕弦を目指す!

耶倶矢をフォローするように動く夕弦をいきなり狙えば、意表を突かれて連携が崩れる………これが士道の狙いだ。

迫り来る槍をギリギリまで引きつけ、神速を発動して槍を避けると、士道の姿が突如として消える!!

 

「―――消えた!?」

「注意。耶倶矢、気をつけて下さい。まだ近くにいるはずです」

 

そして夕弦が言葉を発したその瞬間、夕弦の背後に士道が回り込み、塵殺公(サンダルフォン)を天に掲げる!!

 

「俺はここだ」

「油―――断」

 

夕弦が振り返ったその時には、士道は剣を既に剣を振り下ろそうとしており、斬られると思った夕弦は目を閉じる。

………私はここで死ぬ。これで耶倶矢が真の八舞になってくれれば、それはそれで良いと。

目を閉じたが、鋭い痛みを感じることは無かった。その代わり………胸の辺りを這い回る感触が夕弦を襲っていた。

 

「うおおおおおお、すっげえ!!ドライグ、分かるか!?このおっぱい中々だぞ―――柔らかさS、ハリA-、ツヤAAA、形AA。総合評価はAAAクラス。うん、素晴らしいぜ、ぐへへへへへへ!!」

『戦いの真っ最中に何をやっている!?それよか、籠手で揉むなああああああああ!!』

 

剣を振り下ろすフリをして、夕弦が目を閉じた瞬間に再び背後に回り込んだ瞬間―――夕弦のおっぱいの格付けを始めた士道くん。

それを見たドライグは盛大にツッコむ。揉みしだくように握ったり、上下にやらしたりとやりたい放題おっぱいを弄る士道に、夕弦は顔を真っ赤にしてエルボーアタック!!

 

「淫猥。やめて下さい!!」

「―――おおっと危ない、危ない」

 

夕弦の肘打ちが来ると分かった瞬間、士道は夕弦を解放し、肘を受け止める。そこへ激昂した耶倶矢が竜巻をコーティングした槍を片手に猛然と迫る!!

 

「夕弦に、なにしてくれとんじゃああああああ!!」

「………耶倶矢。そうまで殺気が漏れてちゃ、当たる攻撃も当たらなくなるぜ?」

 

ガィィィィィィィィィンンッッ!!

 

耶倶矢が突き出した槍を塵殺公(サンダルフォン)で空中へと弾くと、耶倶矢は止まらず拳に風を纏わせると、それを振り抜く!

 

「喰らえっ!ゴットブロオオオオオオ!!」

 

―――ゴットブロー。女神の怒りと悲しみを込めた必殺の拳だ。直撃すると相手は死ぬ………そう、直撃すれば。

しかし、これもギリギリまで引き寄せると、士道は神速を発動して背後に回り込み、お尻をポンポンと優しく叩きながら、撫でる。

 

「そうカリカリすんなよ耶倶矢。こんなにいい尻してんだから」

「さ、触るなああああ!!」

 

耶倶矢は、後ろ回し蹴りを士道の顔面を目掛けて放つが、これも体を倒して避けられ距離を取る。

士道を相手に、突然連携攻撃が効果を発揮しなくなった事に、耶倶矢と夕弦はパニック状態に陥った。

 

「なんで………なんで当たらないわけ!?」

「混乱。何がどうなっているのですか?」

 

あたふたと慌てふためく耶倶矢と夕弦に威厳ある声が、回答を告げる。

 

『………この変態は、貴様らの胸の声を聞いているのだ。突如攻撃が当たらなくなったのはそのせいだ。このふざけたピンク色の心象風景は、それを可能にするためのものだ………ほとんど固有結界に近い、この変態が追い求めた心象世界が具現化したものだ』

 

ドライグが解説付きで耶倶矢と夕弦にマジックの種を明かすと、二人は震え上がった。

 

「嘘………それってつまり―――」

「驚嘆。夕弦たちの考えが全てお見通しという事ですか?」

 

「………フッ、俺は聞いてるだけさ。お前らの胸の内を―――否、おっぱいの声を!!」

 

士道がビシッと二人のおっぱいを指さすと、耶倶矢と夕弦は顔を朱に染め、腕をクロスしておっぱいを隠した。

そして士道は籠手から光を輝かせ、高らかに宣言する!!

 

「これが俺の必殺技―――『乳語翻訳(パイリンガル)』ッ!!」

 

この技は、イッセーが煩悩に煩悩を重ねて編み出した究極奥義。魂が別れてしまって以来ずっと使用不可能だった。

………技を使用するのに必要なのは魂だと言われている。イッセーの魂が融合した今だからこそ、この必殺技が使えるようになったのだ。

 

「おっぱいの声を聞くって………あんた何者なの!?」

「畏怖。士道は、何者なのでしょうか?」

 

「そんなに知りたいなら教えてやる俺は―――」

 

士道がカッコよく決めようとしたところに、威厳ある声が再び乱入する―――ドライグ先生だ。

 

『相棒、ここは俺に言わせてくれ。この男は五河士道―――息子未使用のチェリーボーイだ』

 

………なんという事でしょう!?ドライグ先生まさかの爆弾発言!それは士道が、精霊たちにひた隠しにしてきた事実(四糸乃以外全員周知)。

このカミングアウトに、士道くんは籠手に唾を飛ばしながら怒鳴る!!

 

「おいいいい!?ドライグ、テメェ何やってくれてんだよ!?」

 

士道の怒鳴り声を無視してドライグは続ける!

それはまさにドライグの報復だった―――夕弦の胸を籠手で触った事へのだ。

酷くプライドが傷付いたドライグ先生止まらない!

 

『この男はクソがつく程の鈍感で、ドン引くほどのヘタレ野郎だ。同じ屋根の下に住む、義妹と六華という女がいるのだが、手を出すか出さないかを迷うようなヘタレなのだ。六華は貴様らも知っていよう?相棒と六華のことで面白い話があるのだ、それを聞かせてやろう』

 

「お、おい………まさか!?」

 

ドライグがこれから話そうとしている内容に見当がついたその瞬間に、籠手の宝玉が点滅を始め話始めた。

 

『………いつだったか、六華に夜這いを掛けようとしたのだが、緊張のあまり足が止まり、部屋の前をうろうろしていたのだが、結局眠気に負けてその場で眠ってしまったこともあってな。

………まだあったわ。お前らが相棒と一緒に温泉に入った時と同様に、六華とも温泉に入った事があってな!その時は、六華に押し倒されたのだが、鼻血を出してその場で気絶してしまったのだ―――ハッハッハッハッハ!!思い出したら、また笑けてきてしまったぞ………ブハハハハハハハハハハハハ!!』

 

「うおおおおおお!?俺のトップシークレットおおおおおお!!」

 

ドライグに秘密を全て暴露された士道くん。特にドライグが述べた今の二つは士道の中で最も恥ずかしい記憶だ。

それを思い出したドライグは、笑い転げるかのように大爆笑だ!それが士道のライフポイントをさらに削る!

過去を蒸し返され、士道は空中で頭を抱えながらくねくねと体を回している!!

 

―――そして、次のドライグの攻撃が、士道のライフポイントをゼロにする!!

 

『これが、俺の相棒「五河士道」だ。おっぱいおっぱいとは抜かしているものの、調子に乗って攻めはするが、攻め返されるとその場でタジタジになる。

その上、挙げ句の果てに押し倒されれば、鼻血を出して気絶するヘタレ!!どうだ、恐れ入ったか!?』

 

「ぐっはああああああああああ!!!!」

 

ライフポイントが残り一〇〇のところに、滅びの爆裂疾風弾(バーストストリーム)が飛んでくるようなオーバーキル。

士道は空中で膝をついて項垂れた。そこに、その話を聞いていた耶倶矢と夕弦から追加攻撃が飛んでくる!

 

「えーと、士道もその………苦労してるんだね」

「同情。哀れです」

 

「止めろ、やめてくれええええええ!俺をそんな目で見ないでくれ!!」

 

耶倶矢と夕弦のダイレクトアタック『哀れな視線』!是非ともその辺で勘弁していただけないであろうか、士道くんのライフはもう〇なのだ。

 

「はぁ………はぁ………俺のプライドはもうズタズタだ。せめて、お前らだけには絶対に勝たせてもらうぞ耶倶矢、そして夕弦!!これで負けたら俺は、ただのデクの棒だよコンチクショウ!」

 

「………っ!こっちだって負けるわけにはいかないし!」

「同調。夕弦たちとて負けるわけには行きません!」

 

プライドを木っ端微塵に砕かれた士道くんは、せめてこの二人だけとの勝負には勝とうと凄まじいオーラを放出する!!

そして耶倶矢と夕弦も風を纏い、士道の一挙手一投足に注目していた。

 

「いや、実はもう勝負はついているんだ。耶倶矢、夕弦―――自分たちの体を良く見てみろよ―――どっかから、暇みたいなんが出てんだろ?」

 

耶倶矢と夕弦は士道の動きに注意をしながら、自分たちの体を確認すると―――耶倶矢は尻から、夕弦は胸から糸のようなものが出ていた。

 

「………え?何これ?」

「奇異。これは………」

 

その糸は、士道の左手に終着していた。それを視認した瞬間に、士道の体を白い眩い光が包み込む!!

 

「霊装顕現ッ!!」

 

カアアアアアアアアアッ!!

 

士道の体から放たれた光が、士道の体に浸透すると―――霊装を纏った士道が姿を表した。

鎧を霊装へと変化させた士道を見た耶倶矢と夕弦は、驚きを隠せず口を大きく開ける。

 

「これって………もしかして!」

「驚愕。霊装です!」

 

霊装を纏った士道の左手にも、その糸は変わらず握られている!!そして、『乳語翻訳』と同様に蘇ったもう一つの必殺技を士道は発動する!!

 

「霊装を壊すには、霊装だよな!!バラバラになれ―――『洋服崩壊(ドレス•ブレイク)霊装型(れいそうバージョン)』ッ!!」

 

ビリビリ―――ビシィッ!!

 

士道の左手から霊力が送り込まれると、耶倶矢と夕弦の霊装が―――亀裂が入り、木っ端微塵に吹き飛んだ。

空中で生まれた時の姿に戻った二人はその場で体をかがめ、士道の視線から恥ずかしいところを隠す!!

 

「キャアアアアアアアア!!」

「狼狽。エッチです!!」

 

霊装を失った今、耶倶矢と夕弦の奥義―――【斬列なる者(エル•ガイア)】は発動しない。そう確信した士道は、空中で蹲る二人に神速を発動してそれを抱きしめ、地上へと帰投した。

今度は―――両腕の中に耶倶矢と夕弦をきっちり納めて。

 

「………耶倶矢、夕弦―――この勝負、俺の勝利だ」

 

「あっ!?しまっ―――」

「屈辱。やられました」

 

二人はがっちりと士道に抱きしめられ、その場でもがくも焼け石に水。

この勝負―――勝ったのは士道だ。

 

「………その。なんだ、霊装を吹き飛ばして悪かったけど―――服着ろよな?」

 

「あんたが言うなし!!」

「憤怒。夕弦たちを脱がせたのはどこの誰ですか!」

 

勝負がついた事で二人は潔く負けを認め、勝負の前まで纏っていた浴衣姿へと服装を戻した。

………ちなみに士道くんが、二人の裸を見事に撮影済みなのは内緒である。

 

「………耶倶矢。それから夕弦。勝者は俺だ、俺の言った条件忘れてないな?」

 

「………うん」

「応答。はい」

 

士道の言葉に二人とも、首を縦に振る。勝った士道が得られるもの―――それは、耶倶矢と夕弦の霊力―――そして、耶倶矢と夕弦を真の八舞として生き残らせると言う権限だ。

 

「霊力を封印する前に一つだけ教えてほしい………もしお前たちが俺に勝った時の話だけど―――お前たちは、どっちか片方だけになって生きることはできるか?

部外者の俺ですら、お前たちのどっちか片方を失うってなると、身が引き裂れる辛さだぞ………どうなんだ?」

 

「………ッ!」「困惑。それは………」

 

士道の言葉に二人は何も答えられなかった。士道は続ける。

 

「お前たちはお互いの事が大好きだろ。耶倶矢は夕弦を、夕弦は耶倶矢を。俺はお前たち二人が、もっと笑ってるところを見たい。俺たちともっと一緒にいて欲しい!だから―――俺に嘘偽りのない、本心を話してくれないか?」

 

士道が手を伸ばすと………耶倶矢と夕弦はぼろぼろと大粒の涙がこぼれ落ちた。

 

「士道、夕弦………私、嘘ついてた。死にたくない………私、死にたくない!もっと夕弦と一緒にいたい!生きていたい!」

「応―――答。夕弦も………です。消えたく、ありません。耶倶矢と、生きていたいです」

 

お互いにぼろぼろと涙を流す二人を士道は優しく包み込んだ。さらに、信じて打ち明けてくれたことに感謝の意を伝える。

 

「耶倶矢、夕弦。本心を聞かさせてくれてありがとう………それから、絶対に助けてやる。今日この時をもって耶倶矢と夕弦―――お前たち二人が、真の八舞だ」

 

「………うううっあああああああんん」

「落涙。ううっ………」

 

士道の胸を借りて涙をこぼし続ける耶倶矢と夕弦。この涙を二人が流す最後のものにしよう………士道は心の中で強く決意した。

その時、近くまで駆け寄ってきた十香が、天を指さした。

 

「シドー、アレを!!」

「チッ!?こんな時に!!」

 

十香が指さした天を見上げると―――某エヴァに出てきそうな、巨大な真紅の物体がバンダースナッチを撒き散らしながら、迫ってくる!!

―――空中艦アルバテル。島全体の通信を遮断し、さらにバンダースナッチなどの戦闘兵器をいくつも搭載した、最新鋭の空中艦だ。

 

既に〈アルバテル〉は、コントロールルームと思われる箇所から煙が上がっており、何かと交戦したような痕跡が残されていた。

 

そして、それと同時にインカムに着信が入る。

 

『こちら神奈月。士道くん、応答願います』

「神奈月さん、どうしたんですか―――まさか、四糸乃が暴れでもしましたか?」

 

着信は琴里ではなく神奈月からだった。士道はインカムを付け、神奈月に応じる。繋がったことを確認した神奈月は要件を伝える。

 

『良かったやっと繋がった………いいえ、四糸乃ちゃんは良い子にしています。今回はそれではありません―――今そちらに空中艦が向かっています。我々と上空でドンパチしていたものなのですが、逃げられてしまって―――処理をお任せしてもよろしいでしょうか?』

 

「フラクシナスとドンパチって事は―――撃墜しても問題ないと?」

 

『ええ。あの空中艦はDEMインダストリー社のもの―――精霊を殺すことを掲げる組織のものです。ちゃちゃっと撃ち落としちゃって下さい』

 

「了解っ!任せて下さい」

 

そこでインカムからの通信が切れると、士道は胸の中で泣き続ける耶倶矢と夕弦を後退させる。

 

「耶倶矢、夕弦―――下がってろ、一瞬で片付けるから」

 

「分かった」「祈願。お願いします士道」

 

二人が後退したことを確認した士道は、『灼爛殲鬼(カマエル)』の業火と『氷結傀儡(ザドキエル)』の冷気を融合させた『塵殺公(サンダルフォン)』を顕現させる!!

 

「吹っ飛べ―――エレメントバーストッ!!」

『Spiritual Element Blade!!!!!!!!!』

 

ズビィィィィィィィィィィ!!

 

三つの天使を融合させた極限の一撃が、バンダースナッチ及びアルバテルを飲み込むと、その先の雲ごと綺麗さっぱり消しとばした。

暗雲が晴れた夜空は―――新たに誕生した真の八舞を祝福するかのように、月の光が眩しくそれを照らしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――◇◆―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し前まで仁徳正義と死闘を繰り広げたDEM社の魔術師グレン。

グレンは夜闇に覆われた闇の中を掻き分け、隊長であるエレンを探していた。

 

描き分け探す事約、数分程でグレンは血塗れの状態で気絶するエレンを発見した。

 

「………いやあ、手ひどくやられましたね隊長」

 

「グレン………ですか。なんとも、みっともない姿、を………」

 

エレンはグレンに気付き、身体を起こそうとするがそれを止めて顕現装置で応急処置をエレンに施す。

 

「みっともないのは、こちらも同じっす。目醒めた『白い龍(バニシング•ドラゴン)』を捕獲にいったんすけど邪魔が入ったっす。

邪魔に入ってきたそいつは、『リュカオン』を粉微塵に破壊するは、アクセラレーター状態で戦っても、かすり傷も一つ負わない化け物でした」

 

「なっ………アクセラレーターを使用したあなたが傷一つ付けられない者が!?」

 

エレンはその報告を聞いて驚嘆した。世界は広いとはいえこんな事があるのかと。

そして………傷を負ったエレンの処置の途中にインカムから通信が入る。

 

『………やあエレン。ミッションの方はどうだい?』

「アイク………」

 

通信の相手はアイザック•ウェストコットだ。エレンはそのまま報告する。

 

「申し訳ありません。ミッションは失敗に終わりました。全て私の責任です」

 

『キミにしては非常に珍しいねエレン………それで、何かイレギュラーでもあったのかい?』

 

ウェストコットは、すぐに何かイレギュラーが起こったことを瞬時に見抜いていた。エレンはその事象もまた報告する。

 

「………はい。『赤い龍(ウェルシュ•ドラゴン)』を宿した少年が私の前に立ち塞がりました。その少年に私は挑みましたが、手も足も出ませんでした………」

 

『まさか―――「赤い龍」を宿した神器―――「赤龍帝の籠手」はまだこちらにある。その上、世界最強の魔術師であるキミを圧倒するとは………それは実に興味深いものだ。近いうちにリンドヴルムに調べてもらうとしよう。エレン、その少年の名は?』

 

「五河士道と名乗りました。写真もありますので、そちらも後ほど送ります」

 

『ありがとうエレン。さて、次はグレンの方に聞こうかな』

 

エレンの方の報告をあらかた聞いたウェストコットは、次にグレンへと通信を繋ぐ。

 

「おっさん、すんません。こっちも失敗っす―――ただ、一つだけ『白い龍』が目醒めたっすよ」

 

『それは素晴らしい!謎の『赤い龍』に『白い龍』。心躍るじゃないか!それが分かっただけでも大きな収穫だ―――二人ともご苦労だった帰投してくれ』

 

「「イエス•マイロード」」

 

グレンは血塗れのエレンを抱き抱えて空へと飛び立った。しかし、エレンは雪辱に燃えていた………自分のことをザコ呼ばわりした士道への報復の機会が巡ってくることを。

 

「隊長、傷口開くっすからもう少しだけ大人しくしといてください。それに………悔しいのは、隊長だけじゃないっすから」

 

「グレン………」

 

エレンのワイヤリングスーツに、ポタッと鮮血が零れ落ちた。エレンが見上げると―――唇の端を噛み締め、血を滴らせるグレンが映った。

自慢の切り札が一切通用しなかった事がよっぽど悔しかったのだろう。

エレン同様にグレンもまた雪辱に燃えていたのは、言うまでもない。

 

屈辱に打ち震えながらも、二人はウェストコットの元へ全力で帰投したのであった。

 




八舞編は十話も行かないと始めは思いましたが、気付けばもう十一話です。
美九編は二十ないし、三十話ほどかかりそうです。

それでも、納得のいくように描いていく所存であります!

これからもよろしくお願いいたします!


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十二話 修学旅行の終わり

どもっす、勇者の挑戦です。

今度こそ正真正銘の八舞編のフィナーレです。

ここまで話数を使うとは、思いませんでした。何気に狂三編と同じ話数まで行きました(笑)

それでは、最後までお楽しみ下さい!



八舞との戦いにも勝利し、降り注ぐ災難も見事に跳ね除けた士道は、十香に手を引っ張られて宿舎へと足を進めていた………当然、耶倶矢と夕弦も従えて。

 

「いででででで!!十香、あの十香さま!?なぜそんなに全力で、俺の手を握られているのです!?」

 

十香は何かに腹を立てるように、顔を真っ赤にして士道の手を全力で握っていた。十香は分かっていた。耶倶矢と夕弦の霊力を封印するために必要なことを………その行為を士道が自分以外の女とする事が、たまらなく嫌だったのだ。

 

「うるさい!バーカ!バーカ!」

「なんでそうまで怒るんだよ………いっでえええええ!!」

 

グギリッ!という音と共に、さらに力を込める十香ちゃん。それに合わせて士道が飛び上がり、悲鳴が漏れた。

その様子を見守っていた耶倶矢と夕弦が士道に言う。

 

「ほれ士道、さっさと我と夕弦の霊力を封印してみせよ」

「同意。善は急げです」

 

二人がそう言うと、士道は難しい顔を浮かべて頬をポリポリとかく。

 

「封印には色々と準備がいるんだわ………明日の朝にするから、それまで待ってくれ」

 

「その言葉、嘘ではなかろうな?我らに嘘など吐こうものなら、骨すら残らぬと思え」

「私刑。ぼこぼこです」

 

士道は内心「また裸にされたいのか?」とツッコミそうになったが、喉まで上がったところでそれを止めた。

そして、今度は耶倶矢と夕弦は十香に訊ねる。

 

「ところで十香よ。少しの間、我らに士道を貸してはくれぬか?」

「要請。お願いします」

 

「か、構わぬが………何をするつもりだ?」

 

十香の許可を取るなり、耶倶矢と夕弦は士道の両手を取ってそそくさと森の脇へと駆け込んだ。

 

「手を全力で握られる次は、こんな所に連れ込まれるとは………それで、十香がいて言いにくい事でもあったのか?」

 

右手を潰されそうになるわ、こんな森の中へと連れ込まれるわで、次から次へとたらい回しにされる士道は、ため息を吐いた。

 

「………士道、ありがとね。色々と助けられた」

「多謝。士道のおかげで耶倶矢と最後まで争わずにすみました」

 

二人はペコリと最敬礼のように頭を下げると、士道は鼻で笑った。

 

「そんな事かよ。俺は自分の意思に従ったまでさ。それだけなら、俺は戻るぞ?」

 

「ま、待って!」

「静止。お待ちください士道」

 

手を振って森の外へと向かおうとした士道の手を耶倶矢が掴む。そして、気づけば夕弦ももう片方の手を掴んでいた。

 

「最後に一つ教えて―――どうして私たちに攻撃をしなかったの?アレだけの力があれば、私たちに簡単に勝てたんじゃない?」

「同調。士道は夕弦たちの攻撃を受け流しましたが、それ以外で素手や武器で夕弦たちを襲う事はありませんでした………それはなぜですか?」

 

真剣な眼差しで回答を待つ耶倶矢と夕弦に、士道は頭を掻きむしりながら答える。

 

「―――仮に俺が、お前たちのどっちか片方を一方的に追い詰めて、お互いを思う心を利用した人質作戦で勝ったとしよう。そんな卑怯なことをする俺を認めてくれるか?」

 

「「………」」

 

士道がそう言うと、二人ともだんまりした。確かにそれができれば、士道も傷を負う事なく耶倶矢と夕弦を完封できたはずだ。しかし、それでは二人を心の底から納得させる事は不可能だ。

故に、こんな回りくどい手を選んだのだ………その分大きな収穫があったのだが。

 

「こっちにも事情があってな。精霊の霊力を封印するには、その精霊に認めてもらう必要があるんだわ。絶対に勝たなければならない勝負でも、お前たちに痛い思いをしてほしくなかった………これは俺の自己満足だけどな」

 

 

………それと同時に、なぜ十香やくるみん、六華に令音といった魅力的な女性が、士道を求めるのかを二人は理解できた。

このように誰かのためにここまで馬鹿正直に優しくなれる男など、世界がいくら広かろうとこの男だけだろうから。

そして、自分たちもその士道の信念によって救われたのだから。

 

 

「まあでも『乳語翻訳(パイリンガル)』と『洋服崩壊(ドレス•ブレイク)』は本当にすまなかった。アレ無しじゃあ俺は負けていた………それだけは、許してくれ」

 

「なっ―――」「卑猥。エッチです!」

 

裸にされたことを思い出した耶倶矢と夕弦は、顔を真っ赤にして士道から離れた。

………普通の女の子なら一生残るトラウマものだからだ。士道はポリポリと後頭部を描きながら二人に言う。

 

「………だから悪かったって………代わりに一個だけ言うこと聞いてやるから、さ?」

 

手を擦り合わせて頼む士道に、耶倶矢と夕弦は目を合わせて頷いた。心なしか、頬を赤らめて………

 

「んじゃあさ………目を閉じてよ」

「請願。夕弦たちにお礼をさせてください」

 

「お、おう………」

 

士道は二人の言葉に従い、目を閉じた。

すると―――唇の右と左に、同時に柔らかい感触が生まれ、士道は目をパチパチと瞬きする!

 

「お、おおおおおおい!?お前ら、今!?」

 

「何よ、その反応………超絶美少女のファーストキスよ、もっと喜び舞うものと思ったけど」

「謝罪。ご迷惑でしたか?」

 

いきなり口付けされた事に士道くん、声を裏返す。何回たってもこれはなれないのだ。

そんな様子を見た耶倶矢と夕弦は困惑の表情を隠さなかった。

 

―――その時………二人の服が光の粒子となって消えていってしまった。

 

「え、うっきゃあああああ!」

「驚愕。本日二度目!?」

 

二人が揃って胸元を隠し、その場で蹲った。そして慌ててフォローに入る。

 

「お、落ち着け二人とも今のは、霊力封印に必要な行為で―――」

 

しかし、もう遅かった………二人は両頬に一筋の涙を垂らしていた。

 

「ううっ………また士道にいきなり服を剥ぎ取られた」

「落涙。もうお嫁にいけません」

 

「―――やれやれ。俺がいるっていうのに、他の男の嫁に行こうってか………随分とまあ、ひっでえこと言うじゃねえか」

 

士道はその場で蹲る二人を優しく抱きしめる。

 

「心配すんな。俺が責任持って二人とも嫁にもらってやるからさ。お前たちの嫁ぎ先は此処だ」

 

ニカッと笑っていったセリフに耶倶矢と夕弦がハッ!と顔を上げて訊ねる。

 

「それ、嘘じゃないでしょうね?」

「確認。本当ですか?」

 

「当たり前だ。最後まで責任はとる―――絶対に後悔させない」

 

士道がニカッと笑うと、涙を払って意を告げる。

 

「後でやっぱなし―――なんて言ったら許さないんだから!」

「決定。今の言葉、確かに聞き取りました。士道には責任をとって、夕弦たちを幸せにしてもらいます」

 

「おう!任せとけって!」

 

士道は、いつも通り封印した精霊を安心させるために言った言葉だったが、耶倶矢と夕弦はその言葉を本気と捉え、士道に責任を果たさせようと考えていた。

この食い違いが、後でとんでもないことを呼ぶのは、また別のお話―――ではなかった。

 

ピロリン

 

士道の胸のポケットのスマホが動画撮影を終了させる合図を出した。士道は大慌てでスマホを確認する。

 

「あ、やっべえ!無音にすんの忘れてた。よしよし、ちゃんと撮れてるな。いやぁ危ない危ない。バレるところだったぜ………」

 

しっかりと封印した精霊の裸体をそのスマホに収めた事を見て、すぐにズボンへとスマホを仕舞い込んだ。

………これには、耶倶矢と夕弦は笑顔で手を差し出した(目は全く笑っていない)

 

「士道、そのスマホ、出して?」

「請願。確認させて下さい。夕弦たちは寛大ですから、それを壊すだけで許してあげます」

 

「ま、待て夕弦!それは許した時の処分じゃねえ!!」

 

裸を撮られた耶倶矢と夕弦が、霊力を放出させながら迫る!!しかし、このスマホは士道にとっての元気の源、そのスマホの中にあるエロ画像に誰だけエネルギーを充電させてもらっているか………

 

―――このスマホは士道にとって、精霊攻略のモチベーションを最高まで引き上げる今では必須アイテムだから!

 

「まずはそのスマホを渡しなさい!話はそこからよ!」

「警告。今ならまだ許してあげます。これ以上は女神のように優しい夕弦も許しませんよ?」

 

………もはや言い逃れはできないと判断した士道くんは、最後の手段に出る!!

 

「よし、逃げる!!」

 

「待てコラーッ!!」

「追跡。逃しませんよ」

 

夜闇が覆う森の中、おっぱいドラゴンと半裸の双子の追いかけっこが始まった。

周囲を吹き飛ばしながら、迫るサイクロンツインズ相手に撮影した動画を見ながら、大喜びで逃げ回る士道くん。

夜空に輝く満月は、その様子を微笑むように照らしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――◇◆―――

 

 

 

 

 

 

 

 

「………く、ぁ………」

 

うめきのような声とともに、折紙はうっすらと目を開けた。

視界に映るのは、四角い照明に照らされた旅館の一室の天井である。脇腹に鈍い痛みで先ほどの出来事が夢でない事を物語っていた。

 

顔をしかめながら胸元に触れてみると、湿布と包帯で手当が施されている事が分かった。

 

「一体、何が………」

 

「………ああ、目覚めたかい」

 

と、枕元から、眠たげな声が聞こえてきた。副担任の村雨令音だ。

 

「先生………ここは」

 

「………私の部屋だ。悪いが運ばせてもらったよ。他の生徒に見つかっては騒ぎになってしまうだろうからね」

 

「あの男は―――」

 

「………あの少年は、仁徳正義が追い返してくれた。彼は疲れてもう休んでいる」

 

「―――そう」

 

折紙は短く言うと、軋む体をどうにか起こした。

 

「………無理をしない方がいい。今日は大人しくしていたまえ」

 

「この治療は、先生が?」

 

「………ああ、私と六華でね。あの後すぐに六華が駆けつけてくれて手当てを手伝ってくれた」

 

「いえ………感謝します」

 

「………礼を言うのはこちらの方さ。私を救ってくれてありがとう」

 

言って、令音が頭を下げ、折紙はコクンと唾液を飲み下してから声を続けた。

 

「先生………私の力とあの人形のことは―――」

 

「………誰にも言っていないさ。その方が都合が良いだろう?」

 

折紙は無言で令音を見返した。それと同時に、令音に対して警戒感のようなものを感じた。

………この女は、何か異質だと。士道や、あの少年を迎撃した仁徳正義とは別の何かを折紙は抱いた。

 

………そして、もう一つ気になった事を令音に訊ねる。

 

「―――士道は、どこですか?」

 

「………自室で休んでいるよ。キミが目覚める少し前に戻って来てね。彼はキミ同様に疲れている。キミもそうだが、今日は大人しくしているさ」

 

「………士道!」

「鳶一折紙、無理は禁物だ。大人しく―――」

 

この目で士道を一目見るまで信じられない、と言わんばかりに折紙が立ち上がろうとする。

令音が慌てて止めるが折紙は聞かない。そこに相棒となったドラゴンも諫める。

 

『………マスター、その女が言うように、ドライグの波動をこの建物内に感じます。嘘では有りません―――今はどうか休んで下さい』

 

アルビオンの言葉を聞いて冷静さを取り戻した折紙は、再び体を布団に預けた。そして、令音に一言詫びる。

 

「………すみません、取り乱しました」

「………良いんだ。さて、何か飲み物でも買ってこよう。キミはそこで休んでいてくれ」

 

令音はそれだけ言い残すと、部屋から出て行った。部屋に完全に一人になったところで、折紙はアルビオンへと語りかける。

 

「アルビオン………私、強くなりたい。士道を守れるくらいに」

 

『なれますよ、マスターなら。自信を持って下さい―――私と共に力を高めていきましょう、汝ならきっと何処までも強くなれます』

 

涙に濡れた声で折紙が言った言葉を、アルビオンは肯定した。逆境に立たされようが、奇跡を信じて諦めず戦い抜いた折紙を見てアルビオンは確信した。

 

―――この少女を宿主に選んだ自分に間違いはなかったと………

 

士道を守れる強さを目指す事を、誓った折紙は心に大きな焔を燃やしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――◇◆―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻はニ一時になろうとしていた。この時間は四糸乃が瞼を擦って布団の中へと入る時間だ。

しかし、この時間ならまだ、士道にとってはまだまだ元気に活動できる。

例えそれが、灼熱の太陽が輝く日中に全力でビーチバレー、約一時間ほど前まで八舞ツインズとドンパチをしていてもだ。

 

「ドライグの野郎、言いたい放題言いやがって!!見てろ、絶対に今日こそは大人の階段を走破してやるからな!!」

 

布団を敷いた部屋の中で士道は「うおおおおおおお!!」と気炎を吐き、戦場に行くかのように士気を高めていた。しかしそれとは裏腹に相棒は至って冷静だった。

 

『相棒にはまだ早いな。同じ屋根の下に住む六華にすら手を出せんようではな………痺れを切らして今日の深夜にでも、六華が押し倒しに来るのではないか?良かったな相棒、それで童貞卒業だ』

 

酒のつまみのネタにするかのように、士道に言うドライグ先生。これには士道もちゃぶ台へ拳を叩きつけた後、立ち上がる!

 

「やっかましい、大きなお世話だ!!上等だ、六華だろうがくるみんにだろうが俺の必殺技―――『ムーンサルトジャンピング土下座』を使ってでも頼み込んでやるよ!!」

 

『相棒、以前リンドヴルムも言っていたではないか―――できない約束はするものではないと』

 

相棒のドライグにここまでにコケにされ、完全に頭に血が上りきった士道くん。ンフー!!と鼻息を荒げ、夢の舞台を目指して部屋を出ようとしたその時だった。

 

………部屋の外からペタペタとスリッパの音が聞こえてきて、その音は扉を開けようとした士道の目の前で止まった。

 

ピーンポーン

 

士道は呼び出し音を鳴らした人物を見ようと扉を開けると―――黄金の髪を靡かせ、巫女服に身を包んだ少女の姿を確認した。

その少女は、呼び出し音が鳴り終わったすぐ部屋の扉が開かれたことに、目を大きく開けた。

 

「あっ………士道さま。そのすぐに扉が空いたもので、少々ビックリしました」

 

部屋を訪れたのは、六華だった。六華を見るなり士道は突然出るしゃっくりのような声を出す。

 

「り、六華!?ど、どうしたんだよ?こんな時間に!」

 

………先程までドライグに貶され、覚悟を決めて部屋を出ようとしたのだが、その覚悟が固まりきる前に、六華が訪ねてきたのだ。

士道同様に、六華もまた少し様子がおかしかった。

 

「………し、士道さま。そ、その、お話があるのです―――とても、大切な………」

 

士道との大切な話の時は、いつも視線を射抜くように目を見つめてくる六華だが、今の六華は心なしか頬を赤らめ、視線を士道と別の場所とを行き来していた。

 

とにかく、こんな場所で大切な話があると言った六華を、そのままにするわけにもいかない。

士道は今までの邪念を忘れるよう大きく息を吸い込み思考をリセットする。そして、部屋の中へ六華を入れる。

 

「そういう事なら入れよ六華。俺は飲み物の用意をしておくからさ」

 

「………お邪魔します」

 

士道の許可を出すと、六華は士道の部屋へと入りスリッパを脱いだ。

部屋の中にある冷蔵庫から飲み物を出しながら、考えていた。

 

(大切な話………か。アレから浮気はして―――………やべえ!?耶倶矢と夕弦の全裸の映像がスマホにある!!あんなもん見られたら、その場で即消し炭確定じゃねえかッ!?いやでも、アレを消すなんてとんでも無い!!あのオカズには、消し炭になるだけの価値がある代物だ!!)

 

妻(自称)が部屋の中にいるのに、なに考えてんだこの男―――とメタいことを言うのはやめよう、いつものことだ。

とりあえず、近くのスーパーで買った六華が好む十六茶を、ちゃぶ台へと士道は運んだ。

 

「………遅いな六華、部屋の外で誰かと話してんのかな?いや、部屋には入って来てたよな?」

 

………士道は怪訝に思っていた事があった。それは、六華が部屋に入ってから役二分ほど経過したが未だに、襖を開けて和室に入って来ない事だ。

 

「………トイレかな?ドライグ、お前はどうも思うよ?」

 

『………………』

「無視かよ!?」

 

相棒のドライグへと訊ねたが、しかばねに話しかけるが如く返事が返って来なかった。

ドライグは、気を遣ったのだ―――覚悟を決めて、ここに来た六華に………

 

そして、士道もまた先程まで忘れ去ろうとした欲望が心の中で不気味に渦巻いた。

 

「同じ部屋で男女が二人きり………やる事は、一つだよな―――まさか六華も―――」

 

士道は六華の話そうとした大切な話について、浮かんできたものがあった。そして、最後まで言おうとした時に襖が開かれ、六華が部屋へと入って来た。

六華は、士道に正対するようちゃぶ台に腰を落とした。

 

「………お待たせしました士道さま。少々準備に手間取ってしまいました」

 

「お、おう!気にするな。それで大切な話ってなんだ?」

 

その場でペコリと頭を下げる六華。心臓が喉から飛び出そうなほど緊張していた士道は、それを誤魔化すようにお茶を流し込んだ。

訊ねられた六華は、頬を染めぐるぐると目を回して何か呪詛のように呟いていた。

 

士道さまなら大丈夫士道さまなら大丈夫士道さまなら大丈夫士道さまなら大丈夫士道さまなら――――――

 

「六華?おーい、六華」

「ひ、ひゃい!?」

 

士道が顔の前で空間を仕切るよう、手を何度も上下させると六華は声を裏返した。

………やはり、いつもの六華ではなかった。しかし、六華はその瞳に士道を映して胸の内を明かした

 

「聞いてください、士道さま。私、その―――………子供が欲しいです!」

 

「ブフッ!?ゲホ、ゲホッ!!」

 

六華が明かした願いを聞くなり、飲んでいたお茶を気管に詰まらせた士道。その士道を見た六華は、慌てて士道の背中をさする。

 

「士道さま!!大丈夫ですか!?」

「ううっ、ゲホゲホッ………だ、大丈夫だ。そ、それより六華―――お前今、子供って言ったよな!?」

 

「………はい」

 

咳き込みながらも、士道は六華の顔を覗き込む。六華は自分の言った言葉を思い出し、一瞬ビクッと震えたが士道を射抜いて首を縦に振った。

 

「―――いきなり子供が欲しいって言われてもだな………どうしてそんな唐突に?」

 

士道が手を大袈裟にバタバタと動かしながら、六華に訊ねた。六華は天井を見上げ、記憶を回想するように言う。

 

「………前の世界から私はずっと夢見てきました。愛する人と結ばれ、幸せな家庭を築くことを………村の皆さまも子供が出来てからの生活は、さらなる幸せに満ち溢れていました。私も士道さまと暮らして行く中で、子供を授かりたいと強く思うようになりました。

士道さまに命を救われ、護られている私が………これ以上の幸せを望むことは、間違っていますか?」

 

「んなわけねえだろ!!誰だって今以上に幸せになることを願っているんだ。六華にだって当然その権利がある」

 

六華は天井を見上げていた視線を士道に戻すと、そのアクアマリンのような瞳が潤んでいた。

その瞳を見た士道は、その両肩を握り間違いを正した………六華の幸せは士道にとっても願うことだから。

 

「………ありがとうございます士道さま。士道さまなら、そう言っていただけると信じておりました………士道さま、私は貴方を愛しています。貴方との間に子供が欲しいです………この願い、叶えてくれますか?」

 

最後まで六華は言うと、巫女服をはだけさせた。

スルスル………と巫女服がその場に崩れ落ちると、その美しい裸体が隠されることなく晒された。

 

………部屋の灯りに照らされその透き通るような真っ白な肌が光を反射し、士道の恋い焦がれるたわわに実った美しい胸、キュッと引き締まった腰に、腰から孤を描くように発育した桃のような尻に、肉付きの良い太もも。

 

普段は隠れている部分が一気に露出された事で、士道のテンションは限界突破を迎えた。

士道はこのまま欲望のままに六華を押し倒そうとしたときに、ほんの僅かなところで踏みとどまった。

 

「六華、そこまで俺のことを………ありがとう。でも、まだ俺たちに子供は早すぎる。子供は大学を出て結婚してから………でもいいか?」

 

………士道は既にラタトスクから精霊の霊力を封印する対価としてラタトスクから給与を得ている。それも、女の一人や二人は簡単に養えるほどの………しかし、士道はまだ学生だ。

司令官である琴里の推薦で、ラタトスク機関への加入がほぼ確約されている状態でもだ。

 

それに六華の体のことも士道は考えていた。もしこの歳で子を宿す事になると、来年の今頃は学校に行けなくなっているかもしれないからだ。

 

いずれは子供が欲しいと思っていた士道だったが、それは今ではない事を彼は分かっていた。

 

「士道さまがそう仰るなら、私はそれに従います。ですが―――」

 

「―――んっ!!」

 

六華は士道の元まで歩くと両手を伸ばし、士道の顔を強引に引き寄せその唇を奪った。

今まで交わしてきたキスとは異なり、六華は士道の口内に舌を入れて絡ませるような熱烈なキスだった。

 

―――それはまるで自分の愛を伝えるかのように………

 

「………んっ、ちゅ………はぁ………ちゅうっ」

 

最初は六華だけが士道を蹂躙していたが、六華に応えるように士道も六華の後頭部を抱えるように手を伸ばし、這い回る六華の舌へと自分のものを絡ませる。

時には口を窄めて六華の舌を吸ったり、唇を離し舌先だけを合わせたりするなど、士道は不器用なりに六華の行動に応えてみせた。

お互いに激しく唇を貪り合うことで、二人の唇からは、お互いの唾液が漏れ出ていた。

 

「ん………じゅるっ、ちゅっ………六華………」

 

しばらくしてお互いに銀の糸を引きながら唇を離すと………六華は自分の裸体を士道に押し付けた。

熱烈なキスから解放された士道は、頬を染めて六華を見つめた。

 

この一週間ほど士道は、修学旅行の準備などで精霊たちに付き合いっぱなしで、溜まった欲望を処理する事ができず、完全な戦闘態勢が整っていた。

 

………その昂る士道を見た六華は、今からこれ以上の事が待っている事に、期待と不安が入り混じり唇が震えていた。六華はその震える唇で告げる。

 

「………士道さま、私に―――士道さまを刻み込んで下さい」

 

「っ!!」

 

ドクンッ!!

 

その言葉で、士道を縛っていた理性という名の鎖が、パチンっと音を立てて千切れた。士道は六華の肩に優しく触れ、包み隠す事なく本心を伝える。

 

「六華、俺もお前が大好きだ―――だから、六華の全てが欲しい。俺はもう我慢できない………」

 

子供は諦めた士道だったが、二人きりの部屋で、美しい裸体を晒して誘う絶世の美少女を前に、これ以上自分を押さえ込めなかった………六華は士道を優しく受け止める。

 

「………はい。私の全てを貴方に捧げます―――愛しています士道さま」

 

士道はそのまま布団に六華を押し倒した。お互いの愛を確かめ合うように、何度も激しく交わりながら………

二人の関係は大きく進む事となった。六華は、守護する世界を捨ててまで自分を選んでくれた精霊だ。その幸せを必ず守ることを、士道は再び誓ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――◇◆―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コケーッ!コケーッコケコケーッ!!コオオオケゴッゴオオオオオオオ!!

 

修学旅行最後の夜が明け、ニワトリが元気よく鳴く時間。聞こえてきたニワトリの鳴き声は、まるで出荷されて鶏肉にされることへの最後の抵抗を連想させた。

 

そして、一人の女性教師もまた、士道の部屋の前で悪戦苦闘していた。

 

「………くっ、スペアキーでも開かないか。これで確信に変わった―――六華、よくもやってくれたものだ」

 

スペアキーを鍵穴に差し込み、鍵穴を回して部屋の扉を開こうとドアノブを引くが、扉が開かない事を見た女性教師―――令音は何があったかを瞬時に理解した。

 

「村雨先生………何かありました?」

 

廊下をペタペタと歩いてきたのは、幼女好き好き侍の仁徳正義だ。一回の自販機で買ったであろうペットボトルを両手に部屋へと戻って来たのだ。

 

「………ちょうどいいところに来てくれた。仁徳正義、この扉を叩き斬ってくれないかい?私は教師として、この部屋で起きてしまった間違いを正す必要がある」

 

正義はすぐに状況を察した。スペアキーを持っていても中に入れないとなると、何か超常の力が働いている事を。

正義は、ドアノブに触ったその時―――バチッ!と手にスパークが襲ってきた。正義は顎に手を置き感じたものを令音に告げる。

 

「………これは結界か。触れてようやく分かるレベルのものを何重にも展開している。これは少しばかり骨が折れそうだ。

村雨先生、下の階へ避難して下さい。こいつを叩き斬るには、俺も力を使う必要がありそうですから」

 

「………すまない、礼を言う」

 

扉を見つめて言う正義に、令音は頷き一つ下の階へと避難した。

正義は、周囲に人払いの護符を貼り付けると―――黄金に輝く籠手の宝玉を光らせ、一本の太刀を取り出した。

 

それは緑をベースとしたドラゴンの鱗のような柄を持ち、鍔には鋭い牙のような突起が広がり、その少し先に水色の宝玉を持った太刀だ。

 

それだけでは無い!正義の籠手と太刀の宝玉が白い光を放つと、その太刀の刃が白い輝きに包まれる!!

正義はその太刀を振り上げると、扉に向かって斬撃を放つ!!

 

「空牙一閃•三連」

 

ズバババ―――ズドオオオオオオオオオオオッッ!!

 

正義はアルファベットのXを描くよう、十字の斬り上げを放った後、クロスした部分に横凪の一閃を目にも映らぬ速さで放つ!!

 

するとその三発の斬撃を放った数瞬後の時間差で、その斬撃部を辿るように光の斬撃が発生し、結界もろとも扉を粉々に破壊した。

 

「いっちょあがりです。後はお任せします」

 

「………ありがとう。これで中に入れる」

 

正義が籠手と剣を消滅させると、すぐ隣の自分の部屋へと入っていった。

そして令音は、士道の部屋に侵入して、襖を開けた。

 

するとそこには………生まれた時の姿で抱き合う士道と六華の姿を確認した。

 

「―――ゲッ!?れ、令音さん!!」

「村雨先生、どうやって中へ!?扉は私の結界で守られていたはず―――」

 

「それは仁徳正義に頼んで破壊してもらった。さて二人とも………随分と面白いことになっているね。昨日の夜から今日にかけて―――何をしていたか話してもらおうか」

 

令音は全身から嫉妬のオーラを放出していた。布団に着いた血、畳の上には避妊具が入っていたであろう箱が空っぽの状態で落ちており、ゴミ箱には破られた怪しい袋の山ができていた。

 

………これだけの状況証拠が揃っていれば、誰であろうと言い逃れはできない事は明らかだった。

 

「………六華、私が目を離した途端にこれか。シンの貞操は私が奪う予定だった。私の楽しみを奪った代償は高く―――」

 

「それは士道さまの妻である私の役目です。村雨先生―――何でも他人のものを取ろうとするのは、どうかと思います。どうか士道さまは諦めて下さい」

 

………脅しをかける令音に六華は一歩も退かなかった。しかし、これが二人に更なる災難を呼んだ。

 

「―――いい度胸だ。その勇気に免じて、岡峰先生を交えた説教一時間コースだ。心配しなくていい、間もなくこの部屋へと着くはずだ」

 

「なんつー爆弾を用意してるんですか!!」

「村雨先生、それはあまりに卑怯です!!」

 

「卑怯者はどっちだ。それは、私たちに断りを入れずシンを襲った―――キミではないのかい?」

 

令音の言葉に六華は何も返す事ができなかった。そして―――ドタバタというと音共に、タマちゃん先生(ニ九歳独身&処女)降臨!!

 

「おいゴラァ!!朝っぱら―――コホンッ!昨日の夜に何しとったんじゃあ!!学生の分際でセ○クスか!?セッ○スしとったんかぁ!?修学旅行でハメ外すたぁええ根性しとるなぁ!!」

 

「………岡峰先生、隠せていません。もう少し冷静になって下さい」

 

タマちゃん先生はどうやら本当に壊れてしまったようだ。その様子を見た士道と六華はその場で足を丸め、頭を畳に叩きつけた。

 

「「す、すんませんでしたあああああああ!!」」

 

士道はもちろんだが、タマちゃん先生が来るなり、先程まで戦闘姿勢を見せていた六華も見事にDO☆GE☆ZAを披露した。

朝食が始まるまでの約一時間半の間、みっちりと説教を受けた士道と六華。

しかし、お互いに後悔は無かった。誰にも邪魔の入らない二人の時間はそれだけ、至福の時間となったのだから………だが、この出来事がこれまで大人しくなりを潜めていた令音を本気にさせることは、六華も知るよしもなかった。

 

士道に想いを寄せるヒロインたちの壮絶なる戦いはまだまだ続く!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――◇◆―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

心臓の音が嫌に大きく感じる。

琴里は広い廊下に靴音を響かせながら、苦笑いを浮かべた。今までも何度も訪れているが、どうにもここは慣れないようだ。

 

琴里は真紅の軍服をキチンと着用し、口にキャンディも咥えていない姿で、広い廊下を歩き、今までも何度も訪れたと言うのに、どうも慣れていないのか少し緊張し、廊下の先にある扉をノックする。

 

「五河琴里、参りました」

 

『入ってくれ』

 

「はい」

 

短く答えると、扉を開けて部屋の中に入ると、書斎のような部屋の最奥に、その男はいた。

 

「久しぶりだね、五河司令」

 

半ば白くなった髪と髭に、優しげな目元。五〇前後の年齢といったところの老人と言うには幾分か歳が足りないかもしれないが、好々爺と言った感じだ。

 

―――円卓会議(ラウンズ)議長、エリオット・ウッドマン

 

〈ラタトスク機関〉の創始者であり、琴里の恩人でもある人物だ。

 

「ご無沙汰しております、()()()()()()卿」

 

ズコッ!!

 

琴里が素で名前を間違えた事に、議長のウルトラマン卿―――失礼、ウッドマンは席から転がり落ちた。

秘書と思しき女性の肩を借り、先へと戻ると一咳入れたのち議題へと入る。

 

「五河司令!?ちょっとずつ間違えないでくれたまえ………ゴッホン、随分と活躍しているようじゃないか。円卓の連中も驚いていたよ」

 

「彼らは大仰に驚くのが仕事ですから」

 

琴里の辛口に、ウッドマンは愉快そうにくつくつと笑った。

 

「はっはっはっ。そうは言わないで欲しい。彼らは彼らで〈ラタトスク〉には必要な連中だ。時に五河司令、伝説のドラゴンの力を纏ったASTの隊員に襲われたと聞いて心配していたのだが………ご無事で何よりだ」

 

「………ありがとうございます。封印した精霊たちと―――そして何より、兄である士道に救われました。私がこうして生きているのは、士道のおかげです」

 

琴里がお礼を言うと共に、ウッドマンは机に両肘を突き手に顎を乗せた。

 

「そうだ―――君の兄上の件についてだが………天使を顕現させ、霊装すらも自在に操るそうだね?もしもの時は、封印した精霊たちにまた災難が降りかかるだろう。最悪の状況に陥ったその時は―――」

 

ウッドマンが全てを言う前に、琴里は泣きそうな表情を抑え込み、無表情を作り出した。

 

「………承知しています。万が一の時は―――()()()()()()()()()

 

「―――………そうならない事を心から祈る。五河司令、嫌な役を任せてしまい本当に申し訳ない」

 

ウッドマンは、琴里にその役を押し付ける以外に、方法の無い事を強く恨んだ。そして、琴里が手を下す日が来ない事を心から願うのであった。

 

「………すまないカレン。五河司令に飲み物を」

 

ウッドマンは秘書と思しき女性に命令を出した。その女性はウッドマンを見つめて首を縦に振る。

 

「了解しました()()()()()()

 

琴里に続いて秘書の女性―――カレンにもまた微妙に名前を間違えられたウッドマン。これには堪らず声を裏返した。

 

「五河司令に続いてキミもかね!?何故だろう、今この時をもって私の威厳は、地の底まで落ちているような―――」

「気のせいですよ、()()()()()()

 

「―――のおおおおおおおおお!!!!」

 

悪ふざけをやめないカレンに対してウッドマンは再び椅子から転がり落ちた。

精霊を守護する機関〈ラダトスク機関〉は、いつも平和で満ち溢れているのは、また別のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――◇◆―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

色々な思い出ができた修学旅行が終わり、また新たな日常が始まった。封印した新たな精霊たちも踏まえて、士道は元気に学校へと向かおうとしていた。

 

「ククッ、輝かしい陽光が我を照らす!我が忠実なる下僕よ、我を崇めよ!」

「会釈。おはようございます士道」

 

「おう。じゃあ行こうか」

 

朝っぱらから厨二病フルスロットルの耶倶矢と、それに反するように大人しい夕弦に挨拶を交わすと、士道は歩き始めた。

 

「遂に始まる我が栄光の青に塗れた世界!我はそれを味わい尽くしてやろうぞ!」

「翻訳。耶倶矢は学校という名の青春が楽しみだと言っています。昨日も夜遅くまで狂三や六華たちに勉強を教わっていました」

「ちょっ―――何バラしてんの!?」

 

勝手に士道に行動をバラされ、慌てて声音を変える耶倶矢。それを見た士道は口の端を釣り上げ脇へと手を伸ばす。

 

「うりゃ!こちょこちょこちょ〜」

「うっきゃああああああ!?なにすんだし!!」

 

士道にいきなり脇をくすぐられ、耶倶矢はその場で飛び跳ねた。士道は耶倶矢に入った肩の力を抜きたかったのだ。

 

「気負いすぎるなよ耶倶矢。そんなに慌てなくても青春は逃げたりしねえよ―――て言うか、今日は三組と四組は体育の授業があるぞ………ちゃんと体操服持ってきたか?」

「わ、忘れたああああああ!!」

 

耶倶矢は大慌てで精霊マンションの自室に体操服を取りに駆け込んだ。

………耶倶矢と夕弦は運動が大好きで、今日の体育の授業は楽しみで仕方なかったのだ。

 

「放置。耶倶矢は放っておいていきましょう士道。ここからは夕弦とのデートのお時間です」

 

満面の笑みで手を伸ばす夕弦ちゃん。しかし、士道はその手を取ろうとはしなかった。

 

「………うーん、確かにそれはこの上なく魅力的だが、今日は初めての登校なんだから耶倶矢を待ってやろうぜ。一人にすると途中で泣いて空間震でも起こされたら厄介だからよ」

「不満。夕弦は耶倶矢に劣ると言うのですか?」

「よく言うぜ、このまま手を取って歩いていたら『憤慨。なぜ士道は耶倶矢を待ってあげないのですか』とか言うだろ?」

「賞賛。まさか夕弦の考えをお見通しとは―――ぱいりんがる?を使用しましたか?」

「―――してねえ!!こんな人前で誰が使うか!!」

 

夕弦の顔には、しっかりと耶倶矢を待ってあげて下さいと書かれていた事を士道は知っていた。

だから魅力的な誘いだったが、士道はそれに乗らなかったのだ。そして数分程経つと、耶倶矢が息を荒げて戻ってきた。今度はしっかりと体操が入っているであろう手提げ袋を持って。

 

「ご、ゴメン。お待たせ………」

 

「待ってねえよ。ほら行こうぜ」

「同調。行きましょう耶倶矢、士道」

 

士道は耶倶矢を、夕弦は士道の手を引っ張って仲良く登校を始めた。新たな精霊が加わり、士道の日常はさらに賑やかになるだろう。

 

「耶倶矢、夕弦。今日の体育はバスケだ。俺とお前らのどちらが多く点を取れるか勝負しないか?」

 

「カカッ!先の戦いでの雪辱のチャンスがこんなに早く来るとはな」

「応戦。受けて立ちます。夕弦たちが勝った時は、夕弦たちとデートをしてください」

 

「分かった。じゃあ俺が勝ったら―――二人ともメイド服を着て俺様にご奉仕だ!!」

 

平常運転の耶倶矢と夕弦を見て、士道もまた通常運転。耶倶矢と夕弦は体育の時間の決戦に備えて闘志を燃やす!

 

「よ、良かろう!今度こそ真の八舞の力を見せてくれる!」

「同調。夕弦たちのスーパーパワーを見せてあげます」

 

………耶倶矢に夕弦―――真の八舞を決めるために競い合っていた二人を見事に和解させ、それと同時にデレさせる事に成功した士道。今日の一日を満喫するため、三人は学校を目指して駆けて行くのであった。

精霊たちを攻略し、ハーレム王を目指す士道の挑戦はまだ始まったばかりだった。

 

 

 

 




前話の解説に書かなければならない事でしたが、この話で書きます。

◆洋服崩壊と乳語翻訳

イッセーの場合は魔力を使用していましたが、士道の場合は霊力を消費します。精霊の霊装を吹き飛ばす時のみ『精霊王の守護霊装』を使用とするという設定にしています。

◆仁徳正義が六華の結界を破壊した『空牙一閃•三連』のイメージは、
モンスターハンターフロンティアの極ノ型太刀の奥義『解放連撃』です。

この話で八舞編も終了です。番外編を一話挟んで美九編へと入ります。

約二年半ほどかけた六華クライシスから一変、八舞編は僅か一月たらずで書き上げる事ができました。

ここまでご愛読いただき、本当にありがとうございました。まだまだ続けていきますので、よろしくお願い致します!


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番外編⑥ Newスーパー八舞ツインズ

どもども、勇者の挑戦です。予告通りの番外編です。

先日、ネタ探しで健全ロボダイミダラーを見ていたのですが………この作品の士道くんって、真玉橋孝一そのものじゃね?と思いました。

それともう一つ、ロクなサブタイトルが浮かびませんでした!





七月二一日。一学期終了まで残り数日となり、学校の拘束時間も一日七時間から、四時間ちょっとのシフトへと変わっていた。

現在の時刻は午前一〇時五分。現在受けているのは英語のライティング。文法などを学び英訳などを主に行う授業。

………この授業は習熟度に合わせて三組と四組のメンバー三クラスに分け、それぞれ基礎を徹底的に行うクラス、普通のクラス、応用問題を解くクラスがあり、士道たちは応用問題を解くクラスだ。

 

士道くんは机に突っ伏して涎を垂れ流し、鼻からシャボン玉を作る事に勤しんでいた。

それが教師の目に写り、教師は次の英訳の問題を解かせる人物を決めた。

 

「―――五河くん。次の文を英訳してください………………五河くん!起きてください!」

 

「………………」

 

教師が士道くんを指名するが………

 

スピー………スピー………と寝息を立てるのみ!!士道くんは死ぬほど疲れていた。昨日も深夜まで有り余った若いエネルギーを六華に発散させて貰っていた。

その結果として今はエネルギー不足に陥り、絶賛爆睡中なのだ。

 

いつまでたっても起きようとしない士道くんを見た教師は、黒板に平手打ちをかます!!

 

バンッ!!

 

「―――五河くん!!起きてください!!」

「は、はい!!」

 

けたたましい音が教室内に響き渡ると、士道はびっくりして飛び上がった。

完全に意識を失っていたため、あたふたと辺りを見渡していると、後ろから助け舟が出された。

 

「士道よ、随分と気持ちよさそうに眠っておったな。お主が解くのはこの問題ぞ」

 

(悪りぃ耶倶矢。助かる)

 

後ろから耶倶矢がどの問題を解くのかを書いた紙を渡してくれた。その問題を士道は瞬時に答えた。

 

「sin^2xの微分か………えーと、sinxsinxにして考えると―――………答えは、sin2xです!!」

 

英語の時間に、全く見当違いのことを言う士道くん。これには教師も戸惑っていた。

 

「………えーと、五河くん?今は英語の時間ですよ。多分ですが、数学では今の答えは正解だと思います」

 

教師の答えを聞いて顔を真っ赤にする士道くん。ギロリと後ろを振り返ると―――………耶倶矢ちゃんは腹を抱えて大爆笑。

 

「ハハハハハハ!!士道が引っかかった!今は英語の時間なのに、チョー必死に解いてたし!」

「爆笑。プクククッ………お、お腹が………」

 

「………お、お前らっ!!」

 

士道の横に座る夕弦も腹を押さえて笑っていた。見事にしてやられた士道くんは、恥ずかしそうにその場で座り込んだ。

この時士道は誓った―――………必ず報復してやろうと!!

 

「よお五河。今は数学の時間やあらへんで〜」

「五河、夜ちゃんと寝てるか〜?夜更かしすんなよ〜」

「夜な夜な羨ましいことしてんなよ〜」

「授業中に寝る………まさかアレか!?昨日は夜遅くまで、星照さんとにゃんにゃんしてやがったな!?」

 

「そうだよ!!なんか文句あるか――――――あ………」

 

ガヤガヤとうるさくなるクラスメートたち。そして、士道が最後の質問を肯定した瞬間に、自分に刺さる視線が鋭くなった。

それに気付いた瞬間に、士道はしまったと言う表情をうかべた。

………特に、士道を取り囲むように席についている精霊たち―――耶倶矢、夕弦、十香、くるみんの四人と、想いを寄せる折紙と凛袮もしかりだ。

 

………ちなみに、修学旅行の夜に士道と六華が一線を越えたことは、すぐ全精霊たちにバレて士道は問い詰められた。その上、修学旅行に帰るなり令音が琴里にそれを報告して、フラクシナスの隔離部屋に押し込まれての緊急会議。

修学旅行の最終日の夜中に起きた事を、精霊たちを踏まえて洗いざらい喋らされた士道くんなのであった。

 

「士道、お主は既に我らのものぞ!」

「同調。士道はもう夕弦と耶倶矢の共有財産です。もっと自覚を持って下さい」

「シドー!私というものがありながら、なぜ六華なのだ―――乳か、やはりあの乳なのか!?」

「士道さん、しばらくわたくしの部屋で生活しませんこと?」

「………士道。その話を後で詳しく聞かせて欲しい」

「………士道」

 

『チクショウ!!なんで五河ばかりが!?」

 

授業中だというのに十香たちに机を取り囲まれ、顔を近くに寄せて迫られる士道くん。

ちなみに英語の担当の先生が何を言っても、十香たちは引き下がらなかったため残りの授業は自習となった。

 

チャイムがなるまで残り五分となったところで、動物園と化した二年三組にドヤンキータマちゃん先生が「うるさいんじゃボケナス共!!静かにしやがれええ!!」と怒鳴りに来たのは、また別のお話。

 

耶倶矢と夕弦は次の授業が始まる前に黒板を消していた。耶倶矢が左側を夕弦が右側を協力して消していた。

 

「♪♪♪♪〜とーあるくーにの隅っこに〜おっぱい大好きドラゴン住んでいる♪」

『ゴハッ!?』

「歌唱。ポチットポチットずむずむいやーん♪」

『ぐっはあっ!?』

 

耶倶矢と夕弦の二人がおっぱいドラゴンの歌を口ずさみながら、黒板の文字を消していた。その歌詞が聞こえてくるたびにドライグ先生が喀血。

………堕天使総督アザゼルが作詞したこの歌は、ドライグにとっては苦情案件そのものだ。

耶倶矢と夕弦がこの歌を知っているのは、くるみんに『ハイスクールdxd』を勧められたからだ。

その本にもこの歌はしっかりと記されており、歌詞を見た瞬間に二人とも大爆笑した。

今では、本なしでも歌えるレベルまでになっているのだ。

 

そして士道もまた教卓の下からその様子を微笑ましく見上げていた。

 

「絶景かな、絶景かな。スカートの中の景色は値千金万万両………耶倶矢の下着はピンク色なれど、夕弦の下着は――――――っておい、スパッツはないだろ!?なんで双子で下着を統一してないんだよ!!」

 

黒板を消している耶倶矢と夕弦のスカートの中を教壇から、膝を曲げて姿勢を低くした状態で眺めていた士道くん。

耶倶矢のスカートの中からは、ピンク色の布地がお尻に食い込む様子に、士道くんは思わず笑みが溢れた。

 

しかし夕弦のそれは大きな問題だった。体育がある事を見越して夕弦はスポーツ用のスパッツを履いていたのだ。彼の楽しみは肉付きの良い豊満な太ももと秘所を隠すように食い込む布地がご所望だったのだが、今の夕弦にはそれがなかった。

………夕弦のスパッツを見た士道くんは、あまりのショックでひっくり返って教壇から転がり落ちた。

 

「な、何見てんだし!?」

「同調。なぜ平然と夕弦たちのスカートを覗いているのですか!?」

 

耶倶矢と夕弦は顔を真っ赤にしてスカートを握って引っ張った。これを見た士道くんは、拳を教卓に叩き付けた。

 

「スパッツは滅びるべき悪い文明だ!いやスパッツだけじゃねえ、女子の体操着をブルマからクォーターパンツやらハーフパンツに変えやがったこともだ!こんな悪い文明、俺が破壊してやる!」

 

紅蓮のオーラが可視化するほど、夕弦のスパッツに衝撃を受けた士道くん。

………隠された見えない箇所を妄想するとき、直接裸体を晒されるよりも人の興奮は増すものだ。

それは脳内でイメージしたものと実際のものがどうかという―――『期待』と言う名のスパイスが、興奮をさらに加速させるからだ。

 

耶倶矢の下着には鼻血を出して見入っていた士道くんだったが、夕弦のスパッツには、大きく期待を削がれてしまった故に。

 

「―――いや、そもそもがおかしいでしょ!?」

「要求。まず夕弦たちのスカートを覗いた件について説明をお願いします」

 

平然とスカートを覗くという、大人がやれば逮捕間違いなしの行為に耶倶矢は意を唱え、夕弦は説明を要求する。

しかし、士道くん答えるつもりは一切ない!

 

「具体的には………スパッツを唱えた野郎とブルマを廃止した野郎を特定して消去するっきゃねえ。そしたら体育の授業はおっぱいのラインだけじゃなく、合法的に太ももという隠された領域を合法的に拝めるようになる―――最高じゃねえかッ、これで歴史を変えないという選択肢が消えた!」

 

―――まるで世界は俺様の手の中にある。そう言わんばかりに悪党ヅラを浮かべて胸の内を明かした士道くん。

封印した天使の中に時を操る天使『刻々帝』がある。士道は知っていた―――この天使の中に過去に戻る能力を有することに。

その天使を託した少女が士道の下劣な妄想を聞いて、声を荒げる。

 

「士道さん!そんな下らない事のために、『刻々帝(ザフキエル)』を使わないで下さいまし!!」

 

くるみんだ。歴史を変えるという大それた事をスカートの中に着用するものと、体操着のパンツのために時間遡行をしようというのだ………こんな下らないことのために、霊力を注ぎ込むバカは士道くんだけである。

 

そして、再び夕弦に視線を戻してわしゃわしゃと両手を動かし始める!!暴走列車が煙を上げて発進しようとしていた。

 

「とりあえず近くにある悪い文明は破壊しておかなければ………さあ、夕弦。そのスパッツを脱ぐんだ―――大丈夫だ。下着の方は俺がとびきり可愛くてエッロいやつを用意しておくからよ………ぐへへへへへ!」

 

「恐、怖。ち、近寄らないで下さい!」

 

じわじわと迫り来る士道に、夕弦は怯える様子で距離を取り始める。暴走列車は、止まらない!モクモクと黒い煙を撒き散らしてもう突進!!

 

「ぐへへへへへ。嫌なら俺さまが脱がせて――――――ぎゃあああああああ!?」

 

夕弦を目掛けてルパンジャンプをした士道くんだったが、刹那に黒い影が通り過ぎると………両目を押さえて床へと叩き付けられた。

教室の床で悶絶する士道のすぐ隣には、妻を自称する少女が右手をチョキにして立っていた。

 

「あああがががががが!!目があああ!目があ痛いおおおおおお!!」

「浮気は許しません!」

 

六華が浮気と判断して、右手の人差し指と中指を士道の両目に突き刺した。その結果、士道は教壇の下でゴロゴロと転がりながら悶絶していた。

 

世界からスパッツの消滅と学生体操着のブルマ化計画は六華によって潰され、士道は六華に首根っこを掴まれ二年四組へと引っ張られていった。

夕弦は下着を剥ぎ取られなかった事に、ホッと一息ついた。

 

………こうして、チャイムがなり終わると次の授業が始まったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――◇◆―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カッキーン!

 

運動場に乾いた金属音が響き渡った。空へと高くまった白球が風を切り裂き飛んで行く………その白球は、追いかけるセンターを守る選手の遥先に弾んだ。

その打球を放った選手は風を纏うが如くに全力疾走。一塁ベースを強く踏み込むと、二塁そして三塁ベースを蹴ってホームベースを目指して突っ込んでくる!

 

ホームベースを目指して突っ込んでくるバッターランナーは耶倶矢ちゃんだ。現在は体育の授業でソフトボールを楽しんでいる。

プレイボール後の初球を、迷うことなく手に握るバットに力を込め鋭く腰を回転させた。その結果は………中超え(センター•オーバー)走本(ランニングホームラン)となった。

 

「かかッ!先制点!」

 

耶倶矢がホームベースを強く踏むと、相手チームが盛り上がる。

 

「賞賛。ナイスバッティングです耶倶矢」

「お見事ですわ、耶倶矢さん」

「耶倶矢さま、お見事です」

「おおっ!やるではないか耶倶矢」

「耶倶矢ちゃんナイバッチ!」

 

上から順に夕弦、くるみん、六華、十香、桐生愛華が耶倶矢とハイタッチ。これにはマスクを被っている士道も思わず苦笑い。

 

「………球の体感速度は時速一五〇キロを超えてるはずなんだけどな。それを初見で捉えてホームランかよ」

『精霊であれば当然の結果だ。八舞百番勝負のどれかにバッティング対決があったのだろう』

 

驚きのあまり声が出た士道に対し、ドライグは正反対に冷静だった。

現在のソフトボールは男子VS女子を行なっている。これは十香たち―――精霊クインテットが『男子と試合をしたい』と願い出て実現したのだ。

男子と女子それぞれを二チームに分け、試合を行っているのだ。

 

投手を務める竹林へとボールが帰ってきたところで、夕弦が左打席に入る。

 

「会釈。よろしくお願いします士道」

「………お手柔らかにな」

 

投手の竹林が士道が構えたミットを見て、ボールを投げ込む。しかし、そのボールは士道の構えたコースとは逆のコースへと迫って行く!!

ボールを見た夕弦は、左足を落としその反動で下半身と腰を連動するように回転させ、バットを振り抜く!!

 

(―――逆球っ!?)

 

「強振。えいやー」

 

カッキーン!

 

インコースの膝下付近の難しいボールを、夕弦は肘を抜くようにバットを出した。すると甲高い金属音と共にライナー性の鋭い打球が、一塁ベース方向の白線付近にバウンドする。主審を務める体育教師が「フェア!」と声を上げると………右翼(ライト)を守る小川が打球の処理へと向かい、カットマンにボールを返す。

 

しかし、カットマンに入った一塁手の仁徳正義がボールを握った時には………夕弦はホームベースまで後三歩程にまで迫っており、正義はボールを捕手を務める士道に投げる事を諦めた。

………夕弦の走本で女子チームに追加点が入る。

 

「歓喜。これで二点目です」

 

「ナイスバッティング、夕弦!」

「夕弦ちゃんナイバッチ!」

「夕弦ちゃんホームランおめおめ〜」

 

またまた女子チームがわいわいと盛り上がる。外野からは「簡単に打たれすぎだろ!」とヤジが飛んでくるが、これは気にしない。

………士道が対戦しているチームは、恐らく全国の高校女子ソフトボールのチームの中では恐らく最強のチームだからだ。

 

そこからも女子チームの勢いはまだまだ止まらない。

 

「―――それっ!」

「やああああっ!」

 

カンっ!カッキーン!

 

桐生愛華が三球目の球をセンター前に運ぶ。そしてその後を打つ六華が真ん中外よりのボールを左中間フェンス直撃の適時打(タイムリー•ヒット)を放つと、そのまま三塁まで進んだ。

………打者四人でなんと男子チームは三点を失った。しかも、まだアウト一つも取れないというオマケ付きで。

 

「っ!」

 

カーンッ!

 

六華の次の打者である折紙がバットを振り抜くと、放たれた打球は三遊間を切り裂いて左翼前へとヒットを放つ………これで六華が生還して四点差。

男子たちは未だアウトひとつも取れていない………しかし、野球やソフトボールにはアンラッキーは付き物だ。

………それが次の打者である十香の時に発揮された。

 

「はああああっ!!」

 

カッキーン―――パシッ!

 

十香が裂帛の気合と共に振り抜いたバットは、一塁線に強烈なライナー性の打球を飛ばす!しかし、無情にも飛び付いた正義のグラブに入る!!

そして、正義はそのままベースへと着地すると、一塁から離れた折紙は戻れずダブルプレー。

 

そしてそれは次の打者のくるみんも同じだった。

 

「せいっ!」

 

カーン―――パシッ!

 

くるみんが放った打球もまた鋭いライナー性の打球が飛ぶが、左翼手(レフト)の真っ正面に飛んでしまい捕球されてスリーアウト。

しかし、いずれのバッターも体感速度一五〇キロクラスのストレートに振りまける事なく、完璧に捉えてくる恐ろしい打線である事を男子チーム全員が認知していた。

 

………しかも、男子にはハンデとして非常に重たいものが課せられていた。それは―――………

 

ゴキィーン!

 

鈍い金属音を響かせながら、男子チームの一番バッターが初球を振り抜くと、大飛球になると思われた打球が途中で失速して、中堅手(センター)に難なくキャッチされる。

二番の小川も似たような感じだった。

 

「―――ぐっ、重っ!?」

 

ギィン!

 

小川がアウトコースのストレートを流し打ち!しかし、バットが押し返されるようなずしっと重い打感に、思わず声を漏らした。

しかし、これは天へと打ち上がり左翼前に落ちそうな打球だ。しかし………

 

「とうっ!」

 

遊撃手(ショート)を務める耶倶矢が後方に懸命に走ってジャンピングキャッチを披露………ファインプレーだ。

 

続く三番殿町も………

 

「おらっ―――いっでええ!!」

 

ギィン!

 

「送球。とうっ」

 

続く殿町も球威に押された力無いゴロが、二塁手を務める夕弦の真正面に転がり、夕弦が軽快に捌いてアウトに………これでスリーアウトチェンジ。

………男子が抱えるハンデは、打ってもろくに飛ばない低反発のバットを使用しなければならない事だ。

これは士道や正義の打球が他の生徒とは桁違いに速いため、通常のバットで投手にライナー性の打球が飛び、それが頭にでも当たると殺しかねないからだ。

 

「………こりゃあ思った以上にボコられそうだな」

『相棒や仁徳のガキならともかく、並の人間には重苦しいだろうな』

 

そして再び女子チームの攻撃。八番と九番は竹林は難なく三振に切って取ると、次の打者は―――前打席で中超え(センター•オーバー)走本(ランニング•ホームラン)を放った耶倶矢だ。

ここからは士道も本気の配球を披露しようとしていた。

 

(………大量得点差で負けたら、桐生や()()()()を初めとした連中に何を言われるか分かったもんじゃない。ここは全員が知らない球を使う)

 

士道の出したサインに頷き、竹林がボールを投げ込む。初球のストレートのタイミングでバットを出そうとした耶倶矢だったが、慌ててバットを止める。

 

「な―――ッ!」

 

パーンッ!と乾いた音と共に、竹林の投げたボールが士道のミットへと吸い込まれる。

耶倶矢はストレートが途中で止まった事に気付いて、振り出そうとしたバットを戻した―――………士道が投げさせた球種は打者のタイミングを外す『チェンジアップ』だ。

主審の手が上がりストライクの判定となった………これを見た桐生愛華はすかさずヤジを飛ばす。

 

「へいへーい!女子相手に初球変化球ってキ○タマついてんの?」

 

飛んで来たヤジを無視して士道は竹林にサインを出し、続くボールが投げ込まれる!

 

今度はアウトコース低めのフレームを球の端が掠れる絶妙なコースに投げ込まれ、これには耶倶矢もバットが出なかった。

 

しかし。

 

「ボール」

 

球審の判定はボール。これには堪らずマスクを取って士道は理由を訊ねる。

 

「………田中先生、コースですか、それとも高さですか?」

「コースだ」

 

士道は納得できない気持ちを表情に出す事なく、竹林へとボールを返した。審判によってストライクゾーンは大きく変わると言われている。全体的に広い審判もいればその逆も然り。

この球審の田中はコースが狭い事で非常に有名なのだ。しかし、球審もまた生き物だ。先程と全く同じコースに士道は構え、竹林は先程と寸分違わぬ場所へと投げ込んでみせた………耶倶矢は全くバットを出そうとする素振りを見せる事なく見逃した。

 

判定の結果は………

 

「ボール」

 

変わらなかった。これで士道はこのコースはどうやってもボールにしかならない事を理解して、球種を変える事を選んだ。

今度はアウトコースのフレームの枠内にミットを構えて初球と同じ球種を要求した。

竹林は士道のサインに頷き、チェンジアップを投げ込むが―――

 

「せいやーっ!」

 

カッキーン!

 

金属音を轟かせると共に、耶倶矢の打球は左翼線に大飛球を打ち上げる!それは、見事に白線の真上へとバウンドした。

耶倶矢は五〇メートル走 五.八秒(霊力無し)の俊足を飛ばして、一塁ベースを力強く蹴り上げると、二塁ベースも蹴り三塁を狙う!!

 

「ボール三つ!」

 

しかし、これを予測していた左翼手は耶倶矢が二塁ベースに到着した時点で三塁に投げ込む―――しかし、結果は楽々のセーフ。それだけ耶倶矢の足が速い事を証明していた。

 

(サンキュー、耶倶矢の走本を防げただけで上出来だ)

 

士道が心の中で左翼を守る選手に感謝を送ると、次は夕弦が左打席に入ってくる。

 

「感心。変化球があったとは………士道は本気で夕弦たちに勝つつもりですね」

「ああ。お前たちは俺が手を抜いたら怒るだろ?」

「微笑。夕弦たちのことをよくわかっていますね」

 

それだけ言葉を交わすと、夕弦は足場をならしてボックス内で腰を落とした。

夕弦への初球は、耶倶矢が二球目と三球目に見逃したコースと全く同じところを要求し、竹林はそこに寸分違わず投げ込む。

夕弦はバットを全く動かす事なく見送る。

 

「ボール」

 

当然主審の手は上がらない。もう一球全く同じところへ要求するがこれも夕弦は手を出さない。

これを見た士道の顔は一気に険しくなった。

 

(………こいつら、どんな選球眼してんだよ)

『八舞耶倶矢にしてもそうだが、この二人は風を操る精霊だ。自身がとんでもないスピードで動く故に、他の精霊たちと比較しても動体視力が群を抜いて優れているのであろうな。

それに相棒、いくら甘く入れば打たれるとはいえ、〇ストライクからこんな―――ストライクかボールかの区別の付かん球に手を出す間抜けはいないぞ?それも得点圏ならなおさだ』

 

ドライグに言われた通り、士道はぐうの音一つ言えなかった。しかし、これが原因で竹林の制球力が大きく崩れる。

三球目は力みが生まれ地面に突き刺さると、四球目はとんでもない大暴投となる。

 

「―――ッ!!」

「ボールフォア!」

 

「溜息。打ちたかったです」

 

枠を大きく外れる球に、士道は堪らず飛び上がって後逸しないよう捕球した。夕弦は残念そうにバットを置くと一塁へと歩いた。

 

続く桐生も歩かせ、四番の六華を迎えた所で事件が起こった。

 

「―――あっ!?」

 

「きゃっ!?」

 

竹林はボールを離した瞬間に、嫌な予感がして声が漏れた。放たれたボールは六華の顔面―――それも鼻先を通過する危険な球が放り込まれた。

六華は腰を倒してボールを避けたが、これには敵味方問わず暴言の嵐が飛んで来る。

 

「竹林テメェ!どこ投げたんだ、星照さんだぞ!!」

「顔は女の命なのよ!?それを顔面スレスレに投げ込むなんて!!」

「下がれこのノーコンピッチャー!!」

「ぶつけるにしても他の奴にしろ!!」

 

このままではまずいと思った士道は、球審の田中先生にマスクを外して言う。

 

「すみません、タイムをお願いします」

 

「タイム!」

 

球審の田中が両手を広げると、士道はマウンドの竹林へと駆けて行った。士道はマスクで口を隠して二分ほど投手の竹林と話し込んだ。士道は竹林の胸をミットで叩くとすぐに元の位置に足をつけ、腰を落とした。

 

「プレイ!」

 

士道が取ったタイムによって………投手の竹林が息を吹き返した。竹林は大きくステップを踏み込んで鋭く腕を振り抜く!!

 

「っ!」

 

そのボールは六華の膝下へと投げ込まれ、六華が慌てて腰を引く!

 

ズドンッ!!

 

「ストライク!」

 

アウトコースを投げてくるであろうと読んでいた六華は、思い切り踏み込んでいたため、慌てて腰を引いたのだ。しかし結果はストライク。ここで六華に迷いが生まれた。

 

そして―――………

 

かぁん!

 

勝負を分けたのは四球目だった。二球目のドンピシャで決まったインコースのストレートの残像が残っており、六華は満足に踏み込む事が出来なかった。アウトコースギリギリの球にバットを出したが………結果は一塁へのファールフライでスリーアウトチェンジ。

 

二回の裏、男子チームの攻撃は四番の士道から始まる。ここで士道くんがまさかのパフォーマンス!

バッターボックスに入るなり、青空を指さした。

 

「………何やってんのアンタ?」

 

怪訝な行動をする士道を見て、キャッチャーズボックスに座る桐生愛華は訊ねた。

すると士道はドヤ顔で告げる。

 

「ホームラン予告だ。いや十香がよ、ホームラン打ったらおっぱいを好きに触らせてくれるって言ってくれたんだ。そりゃあ狙うしかないよな?」

「し、シドー!?なぜ桐生にそれを伝えるのだ!」

 

士道に暴露された事で、十香は顔から熱を放出して耳まで真っ赤になった。

………遡る事授業が始まる役二分ほど前。いきなり十香ちゃんが駆け寄ってきて耳打ちしてきた。

 

―――ホームランを打ったら私の胸を好きに触らせてやると………

 

これで燃えない漢がいるだろうか―――いやいない!!

十香の大胆な発言は、一線を超えた六華に対しての対抗心の現れだ。これから先、精霊が増えようとも、きっと自分が士道の中で最も特別だと………心の中でその想いが十香にあった。

しかし、その思い込みが六華に先を越されてしまうことに繋がってしまった。

 

故に心の中で誓った。これ以上差を付けられてなるものかと………

さらに、チームメートは全員が応援してくれた。

 

「五河、絶対打てよ!!」

「十香ちゃんが女を見せたんだ、これで打てなかったら四番下すからな!!」

「死んでも打て五河!!それで保健室やら、家やらでゴールインしてこい!」

 

などなど男子はこんな感じだ。しかし、十香を除いた精霊カルテット及び折紙は違った。

 

―――死んでも士道を打ち取ってくれ。

 

こんな感じで二つの思惑が交錯していた。そしてその勝負は一球で決まった。

 

ガッキィィィィンンッッ!!バンッ!!

 

投手の手先が狂ったのか、投げられた球がアウトコースの高めへと浮いてしまう―――そのコースは、バットの遠心力をフルで使えるコースだった。

士道は腰を回転させ、さらにインパクトの瞬間にボールに回転をかけるように手首を使って振り抜いた。

 

―――士道が放った打球は、フェンスを軽々と超え場外へと消えていった。

 

士道はその場にバットを置くと、拳を突き上げながらゆっくりとベースを回った。

そしてベースを踏むと………ネクストバッターズサークルに立っていた正義以外のチームメートに激しく出迎えられた。

 

『ナイスバッチだこの野郎!!』

 

激しくもみくちゃにされながらも、士道は十香へと視線を送った。

 

「―――っ!」

 

十香はホームランを打ってくれた士道への憧れ及び感謝と、おっぱいを欲望のままに好き放題されることへの期待と不安が入り混じり、顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。

 

男子チームの攻撃はさらに続く。

 

「―――ブンッ!!」

 

ガッキィィィィンンッッ!!

 

続くロリコン及び負けず嫌い世界代表の正義も、初球のストレートを迷わず振り抜き、裏山に突き刺さる場外アーチ。

………正義は、体育の授業では激しく士道を意識している。士道がホームランを打てば、この男もまた負けずとホームランを打ち返す。

今度はホームランを打った正義を士道が出迎えた。

 

「ナイスまぐれ仁徳」

「まぐれじゃねえ」

 

パチンッ!

 

士道が出した手を仁徳はビンタをするように振り抜いた。この二発のホームランが男子チームを一気に勢いに乗せる。

 

ギィン!ギィン!ガギィン!

 

怒濤の三連打で満塁のチャンスを作ると、九番及び一番バッターの二者連続で押し出しのフォアボールで同点に追いつく。

 

「おっらああああ!!」

 

ギィン!

 

さらに二番の小川右翼(ライト)線への適時打(タイムリー•ヒット)で二点を追加し、ついに試合をひっくり返す!!

このまま一気に男子チームに流れがいくかに思われたが、ここで歴史的スーパープレーが生まれる。

 

「この押せ押せムード―――俺も乗っかるぜ!」

 

ギィン!パシッ!

 

三番の殿町が放った打球が、投手の足元を抜けヒットになるかと思われたが―――耶倶矢が飛び込み、その打球を素手で止めたのだ。

 

「夕弦!」

 

耶倶矢は体が地面につく前に、ベースの真上にトスをして、二遊間のコンビを組む相棒の名前を呼び、ベースカバーに走らせる。

 

「了承―――送球。とりゃー」

 

夕弦はそれを素手で受け取ると、ベースを踏んでジャンピングスロー!夕弦の送球は一塁を守る十香のミットに綺麗に収まりダブルプレー。

 

「桐生!!」

 

さらに、二塁ランナーが三塁を蹴ってホームに突っ込んできた事を確認した十香は、すぐにボールをキャッチャーの桐生愛華へと送球する!!

 

十香の送球は見事にベースの上にコントロールされ、桐生愛華は突っ込んできたランナーに無駄なくタッチができた。

 

そして―――………

 

「アウト―――スリーアウトチェンジ!!」

 

………まさかの全てのランナーをアウトにするという離れ技が、体育の授業で起こってしまった。

球審を務める田中はこの時、なぜ自分は冷静にコールできたのかを後になって考え始めた。

 

………最終的に試合は8-10でギリギリ男子チームが勝利を収めたものの、非常に内容の良い試合となった。

勝った男子チームも負けた女子チームも、一学期最後の体育の授業で非常に良い試合ができたことに、満足していたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――◇◆◇―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわああああ悔しい!」

「屈辱。くっ、最後に夕弦が打てていれば………」

 

士道は耶倶矢と夕弦を従えて帰路についていた。ちなみに先程の試合で最後のバッターになったのは夕弦だ。

最終回に二死満塁のピンチで投手が竹林から正義へと変わり、正義の全力投球に押し切られ、中飛(センターフライ)に倒れてゲームセットになったのだ。

 

「男子相手にそれだけ悔しがれているなら上出来さ。俺も最初は負けると思ったからな………それに二人とも攻守で大活躍だったじゃないか」

 

ポンポンと二人の頭を叩くと、余計に悔しがっていた。

 

「次は絶対に私たちが勝つからね!!」

「雪辱。次は夕弦と耶倶矢でバッテリーを組んで士道に立ち向かいます。その時は、必ず士道を三振に切って取ります」

 

「そいつは楽しみだ」

 

士道はその機会がある事を楽しみに待つことに決めた。そして、向かっているのは家ではなく、琴里が通う中学校だ。

………とある事情があり、琴里を迎えに行く必要があったのだ。正門へと向かうと、琴里がドタバタと駆けてきた。

 

「もうおにーちゃん!おっそいぞ!」

「悪りぃ。思った以上に試合が盛り上がっちまってよ………」

 

駆けてきた琴里の近くにたつ先生へと言う。

 

「それじゃあ先生。失礼します」

「せんせー、まったねー」

 

「はいさようなら」

 

琴里は担任の教師に手を振りながら、帰路へとついた。ここで八舞ツインズが疑問をぶつける。

 

「………でもなんで士道が琴里を迎えに行ってるの?」

「同調。琴里はいつも一人で帰っていましたよね?」

 

「ああ………最近この辺りに不審者が出るんだわ。しかも狙われているのは、小学六年生〜中学二年生くらいの男子がな。目撃情報では、金髪と黒髪の怪しいお姉さんの二人組らしくてな。

なんでも、そのまま何処かに連れて行かれた後に、裸にされ襲われるんだと………それを阻止するために、帰る時は保護者同伴に学校側はしたんだよ」

 

士道の説明を聞いて二人はなるほどと相槌を打った。この七月あたりから、金髪と黒髪の女性不審者は現れるようになり、目撃者の証言では連れ込まれた少年は裸にされて襲われていたらしいのだ。

………その目撃情報がたった十日ほどで十件以上あったことから、学校側は緊急で措置を取ったのだ。

 

「………この話はまだ続きがある。そのお姉さんに襲われた少年は、どいつもこいつも自慢げに話すんだよ。

『俺は大人になった』だとか、『男して一皮剥けた』とか。全く持って羨ま―――ゲフンゲフン、羨ましい」

 

「おにーちゃん今羨ましいって言った?」

「結局言い直せて無いし!?」

「嘆息。士道は少しばかり自重して下さい」

 

士道が全くエロを妥協しない事に、琴里と八舞ツインズは大きくため息を吐いていた。

そこから約十分ほど歩くと―――………精霊マンションと五河家が見えてきた。

 

「んじゃ私たちはこれで」

「会釈。それではまた夕飯を食べにきます」

 

「おう、またな」

「んじゃね〜」

 

そして士道と琴里は五河家に入ろうとしたそのとき、怪しげな魔法使いと話し込む六華の姿があった。それを見た士道は琴里に言う。

 

「琴里、おにーちゃんちょっと用事があるから先に入ってろ」

「はーい!」

 

それだけ言うと、六華の元まで士道は駆けて行った。そしてその魔法使いは士道を見て言う。

 

「やあ士道くん、童貞卒業おめでとう!初めての相手が六華ちゃんなんて羨ましいものだよ………ちなみに、六華ちゃんとの熱い夜の件がバレて、他の精霊たちに相当詰められたんじゃないかな?」

 

「開口一番がそれですか!!まあ、酷い目に遭いましたよ。隔離部屋で精霊六人に詰められましたから………それが三時間もですよ!?三時間も!!」

 

「それは大変だったね………ああ、僕はアテナを通して聞かされてね。ちなみに、六華ちゃんに押し倒すまでの流れを教授したのはアテナとアルテミスなんだ。六華ちゃんは、それはそれは真剣な表情で教わった事をメモメモしてたから」

 

「ソロモンさま!?」

 

士道がソロモンに愚痴ると、あの夜のことの詳細を話してくれた。それを聞くなり、六華は顔を真っ赤に染めた。

そして、なぜソロモンと六華が話し込んでいるのかを士道は訊ねた。

 

「………それでソロモンさんはどうして六華と話していたんですか?」

 

「ああ、六華ちゃんのお願いでこれを預かる事になってね」

 

ソロモンは異空間から、一本の黄金の斧を取り出した。それは六華が死闘を繰り広げたレグルスを封印したものだった。

 

『それはリンドヴルムが召喚したネメアの獅子を封印したものだな。しかし何故それをソロモンに預けるのだ?』

 

ドライグが六華に訊ねると、六華は言う。

 

「何度かこの斧を使用したのですが、どうにも力が安定しないのです。一応ではありますが、この斧は獅子の姿に変化はできます。

しかし私を主人として認めていないのか暴走状態になる事が多く、今のままでは使い物にならないのです。故に士道さまが頂いた『龍醒石』のようなもので安定させることは、可能かと相談していたのです」

 

『………その斧は神滅具に分類されるものだ。未だにリンドヴルムを主人として認めているのやもしれんな。それでソロモンよ、力を安定させる事は可能なのか?』

 

ドライグの問いにソロモンは首を縦に振る。

 

「勿論可能さ。ネメアの獅子には『龍醒石』の獣バージョン『獣醒石』なら可能だ。埋め込んでみて調整を施せば力が安定するはずだ………キミたちには本当に迷惑をかけたからね。それに、六華ちゃんの頼みを断ると、アテナに何を言われるか分かったもんじゃないからね」

 

ソロモンが冷や汗を垂らしながら、アテナの事を思い浮かべていた。それに、ソロモンの中にも、士道と六華にはリンドヴルムの件という大きな借りがある故に力を貸してくれるのだ。

 

そしてソロモンが斧を異空間にしまった時だった。耶倶矢と夕弦がドタバタと士道を目指して駆けてきたのだ。

 

「おーい、士道」

「呼掛。士道」

 

私服に着替えた耶倶矢と夕弦が手を振りながら駆けてくる。士道はソロモンに一礼すると、二人の方へと足を進めた。

 

「二人ともどうしたんだ?晩飯まで時間はあるけど――――――」

 

二人は士道の両手を取ると、自分たちの方へと引き寄せる。

 

「私たちってさ、まだアレしてないじゃん?だからさ、ちょっと付き合ってよ」

「請願。先日十香と狂三から聞きました。精霊たちは士道とデートをしていたと。故に今からデートしましょう」

 

「そんなことか………お安い御用さ――――――っ!?」

 

カチャッ………

 

八舞ツインズとデートをしようとした士道にアイギスが突き付けられる。犯人は六華ちゃんだ。

六華は二人の手を士道から強引に引き剥がして言う。

 

「士道さま、浮気は許しませんよ?士道さまには、昼食を済ませた後には『三時のおっぱい』が控えています。耶倶矢さま、夕弦さまどうかご理解ください。このお方は私の夫です」

 

「―――控えろ下郎が!これは我と夕弦の共有財産であるぞ」

「同調。六華は常に士道から半径一メートル以上の距離を取ってください。それから『三時のおっぱい』は、これから夕弦が請け負わせていただきます」

 

六華の命令に対して八舞ツインズ一歩も退かない!そして耶倶矢と夕弦はお互いに頷き合うと、再び士道の手を取って風の如く走り出した。

 

「あ―――おい!?」

 

「そうまで欲しければ、我らから士道を奪ってみせよ!」

「逃走。士道はいただいていきます」

 

「この………っ!逃しませんよ、耶倶矢さま夕弦さま!」

 

逃走した八舞ツインズを、神雷を放出する槍を片手に六華は追いかけた。先程は同じチームで協力しあった仲だが、士道絡みになるとそうは行かない。

 

「ぎゃあああああ!!あの槍から雷が飛んでくるんですけど!?」

「恐怖。六華は本気です、しかし士道を渡すわけにはいきません」

 

「アイギス、汝の力を我に与えよ―――神雷強化ッ!!」

 

六華はアイギスの神雷を体に纏い、身体能力を大幅に向上させて耶倶矢と夕弦へと迫る!!

 

「おいお前ら、後で琴里からとばっちり受けるのは俺なんだからな―――んぎゃあああああああ!?」

 

耶倶矢と夕弦に腕を引っ張られる士道に、神雷が襲いかかる!!士道はこれをジャンプして避ける!

この繰り返しが永遠に続くのであった。結局騒ぎを聞きつけた琴里がフラクシナスで四人を回収して、言葉通り士道が大目玉を受けたのであった。

 

「―――不幸だァァァァァァァァァァ!!」

 

理不尽に巻き込まれた士道の悲痛な叫び声が艦内に響き渡ったのであった。

 

 




本話で八舞編は完全終了です。次話から美九編が始まります。

正直な話、次章はまだネタが固まりきってないので、投稿ペースが落ちると思います。

それでも週に一話は出せるよう頑張っていきます。

※設定に八舞ツインズ及び園神凛袮、仁徳正義を追加しました。良ければご覧下さい!


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七章 美九トータルウォー
一話 文化祭の季節です。


どもども、勇者の挑戦です。

いよいよ美九編が始まります。ここが序盤の山場となると思います。この章は前編と後編で分ける予定です。

前編を「美九トータルウォー」
後編を「美九ホープ」

この章名です(後編は変更が入るかもしれないです)

前編ハイライト

『相棒………泣いて、いるのか?』
赤い龍 ドライグ

「この歌は………この歌だけは、最後まで聞かせてくれ」
赤龍帝 五河士道

「困った時はこの僕に任せてくれたまえ―――てれれれってってってーん………『性転換銃』!!」
次元の守護者 ソロモン

「輝け―――『 白龍皇の光翼(ディバイン•ディバイディング)』ッ!!」
『Vanishing Dragon Sinking Divider !!!!!!!』
AST隊員 鳶一折紙&白い龍 アルビオン

「ぐへへへへへ!!おっぱいの力を抜けよお前たち、そんなにおっぱいに力が入ってると、勝てるもんも勝てなくなるぜ?」

「も、揉むな!!」「あ、こらやめんか!」「淫猥。やめて下さい!」「もう士道、怒るよ!?」
精霊トリオ 十香、耶倶矢、夕弦。幼なじみ 園神凛袮

「これから私はラタトスクの為………兄様のために私は戦います―――『禁手化』ッ!!」
士道の実妹―――崇宮真那

序盤の山場だけあって、六華クライシス以上にDxD要素がてんこ盛りです!



夏休みが開けて九月八日。未だ真夏と言っても良いほど蒸し暑さが残る昼下がり。

講堂の舞台上で、非常な宣告が下されようとしていた。

 

「我が身可愛さの推薦合戦の結果―――二年の天央祭の実行委員長は、我らがリア充モンスター『五河士道』くんに決定しました!!」

 

ドンドンパフパフ〜

 

亜衣麻依美依トリオの亜衣が、手に持つスイッチをポチると―――士道がスポットライトに照らされた。

いきなり天央祭の実行委員に任命された士道は間が抜けた顔を浮かべた。そして、約数名を除いた他の者は安堵の息を漏らしていた。

 

「っざけんな―――なんで俺なんだよ!?去年同様に『奇跡の小川』でOKだろ!!」

 

スポットライトに照らされた士道は、堪らず舞台まで駆け上がって文句を吐き散らした。

………天央祭の実行委員は、朝八時半時出勤で二〇時退社のサイクルが週六で続く。

 

その上殆どが書類仕事と実行委員の仕事は、準ブラック企業並に過酷なのだ。

これに任命された者は、拒否権は無く強制で行わなければならないのだ。これから逃げると学校での立場は完全に失い、強制的にスクールカーストの最下層へと転落させられるのだ。

 

「………残念ながら、小川くんは僅差で敗れました(本当は小川くんの方が投票数多かったけど、彼が委員長だと私たちバンドできないから………)キミは二年の代表として選ばれた。当然だがキミにこれを他人に譲渡すること、拒否することは許されない!」

 

「安心して、ちゃんと骨は拾ってあげるから(これで私たちがステージに立てる!)」

 

「マジ引くわ〜(これで少しは星照さんとイチャコラする時間が減るかしら?)」

 

天央祭とは天宮市内の十校合同で行われる文化祭だ。毎年『展示』『模擬店』『ステージ』の三部門で各校それぞれ出し物を行い、投票によって順位が決まる。

天宮市内では最も大きなイベントであり、多くの者がそれを楽しもうと都内はもちろん、他県からも人が訪れるほどだ。

 

去年の天央祭―――士道達が一年時に来禅高校の一年生の実行委員長を務めたのが、同じクラスの小川だ。

先程に士道が述べた『奇跡の小川』と言ったのは、天央祭が始まってから約十年の間、常に最下位だった来禅高校を総合三位まで跳ね上げた功労者だからだ。

 

天央祭の評価基準は投票制のため、小川は来禅高校の最大の欠陥が音楽を知らない素人が、毎年ステージに上がっていた事にあると分析した。

………去年の天央祭でステージ部門には、亜衣たちがバンドを披露する予定だった。

だが委員長の小川はそれを許すことなくステージから蹴っ飛ばして、吹奏楽部の顧問と部員に『ステージ部門で演奏を披露して欲しい』と土下座で頼み込んだ。

 

小川の読みは見事に的中し、去年来禅高校は最下位から第三位の栄冠を収め『奇跡の小川』と言う呼び名が付いたというお話だ。

 

「頑張れよ五河!」

「俺たちの今年の目標は『最優秀賞』だ『奇跡の小川』を超えてくれ!!」

「俺たちの恋路を悉く邪魔した報いだ!せいぜいこき使われて病院送りになりやがれ!」

 

「この野郎!本音出しやがったな!?」

 

士道が最後のセリフに反応して舞台の上にある演台に蹴りをぶちかますと、プツンとマイクが切れる音がした。

そして、最後に亜衣がこの学年集会を閉幕すべく手を叩く。

 

「さあ、最後に新たな文化祭実行委員長の就任を祝して―――」

 

『五河士道、万歳!』『五河士道、万歳!』『五河士道、万歳!』

 

二年の男子が全員で士道が実行委員長に選ばれたこと(過労で倒れること)を心から祝して両手を空へと振り上げた。

これを見た士道は、演台に八つ当たりの回し蹴り!!

 

「これが民主主義か!?人の不幸を祝うとは―――お前ら人間じゃねえ!!」

『相棒、それはドラゴンと言う人外代表が言っても、説得力が皆無だぞ?』

 

バゴオオオンッ!!

 

士道から放たれた回し蹴りは、演台に命中すると共に爆発を起こしたように木っ端微塵に吹き飛んだ。

ドライグ先生は、士道の言葉に冷静にツッコミを入れる………赤龍帝コンビは今日も平常運転だ。

 

これで二年の実行委員が選出されて一旦は、休憩時間となりそこで解散となった。

 

………理不尽というのは畳み掛けるように迫り来るもの。士道は改めてそれを痛感する事になった。

 

「これはちょっとやってられねえ。こういう時は―――お前に限る」

 

士道は強制的に実行委員長を任された事への、やり場のない怒りを忘れるために一人屋上に上がっていた。

背中をフェンスに預けてスマホの中にある極上のオカズに慰めてもらっている。

 

「うおっ、ヤッベェ!!令音さんのネグリジェ姿マジパネェ!!おっぱいが、おっぱいが透けてるよおおおお!!ドライグ分かるか!?薄い青紫色の生地のワンピースから、白い肌を覗かせておっぱいが―――いや、乳首まで透けてるんだよ!!

こういうネグリジェをノー下着で着るって発想が大人だ!これは裸を見る以上に滾って来やがる!うおおおおおおおおおおお!!」

 

『………ううっ、ぐすん。怖い、おっぱいが怖いぃぃぃ!!うっぐっ、はぁはぁ………ど、動悸が!心臓が止まりそうだ!!』

 

スマホの中にある令音の映像に士道くんのテンションは天元突破をする勢いでブーストされていった。

令音は六華に先を越されて以来、士道に毎日のように着替えの写真を送っている。令音は貞操こそ六華に譲ったが、妻の座まで譲ったつもりはない………隙があれば一気に仕掛けようと、日々その機会を伺っている。

 

それとは対照的に………ドライグ先生は、毎日のように送られてくる令音の着替えの写真で、止まらない乳ネタ地獄に精神が消耗。

戦いに影響が出るのではないかと心配な今日この頃………しかし!そんな小さなことを気にするな士道くんではない!

 

「………よう五河、随分といい顔してるな」

 

士道がスマホを眺めていると、ペンタハウスの上から仁徳正義が飛び降りてきた。

その時、鼻血を止めるために突っ込んでいたティッシュが着地した衝撃でポロッと落下。

仁徳は落ちたティッシュを上着のポケットに仕舞い込むと、新しいものを鼻へと突っ込んだ。

 

「悪いな仁徳。副委員長なんかやってくれて………」

 

「気にするな。この天央祭は俺も楽しみにしていたものだ。今年はどんな可愛い幼女が現れるか今からワクワクしている………俺のオススメは仙城大付属だな。あそこはエスカレーター式たがら、初等部と中等部の子達もくる―――お嬢様系幼女は見ていて本当に癒されるからな」

 

………この男もまた平常運転である。正義は副委員長を決める時に、誰よりも早く手をあげて「俺に任せろ」と宣言した。

 

当然ながら誰も文句を言うものはいなかった。進んでブラック企業のような仕事をやってくれるという点もあるが、何よりも―――文句の一つでも言おうものなら、血祭りに上げられると全員思ったからだ。

 

「俺が言うのもなんだが………本当にブレないな。それで、仙城大付属にはロリ巨乳の幼女はいるか?」

 

士道の言葉に、正義は亜空間からバインダーを取り出して挟んである紙をペラペラとめくると………首を左右に振る。

 

「悪い五河、俺はロリ貧乳が至高なんだわ。ロリ巨乳の幼女はこの通りリストアップされていない」

「そうか………いい子がいればお持ち帰りしようと思ったんだけどな………」

 

正義のリストにロリ巨乳の幼女がリストアップされていない事を知ると、士道はため息を吐いて肩を落とした。

 

ちなみに正義はロリ貧乳派だ。彼の中での幼女と聞いて思い上がるのは成熟しきっていない、つるぺたボディ。

琴里や四糸乃はストライクゾーンの真ん中高め。イッセーの世界では小猫もストライクゾーンに入っている。

 

裏京都のドンである九尾の狐『八坂』の娘―――九重はストライクゾーンのド真ん中。恐らく正義は九重を見ると、鼻血を大量に吹き出して悶絶死するかもしれない。

 

その時、左の甲から音声が聞こえてくる。

 

『六華に殺されるぞ相棒?見てみろ、六華はすぐ後ろだ』

「何言ってやがる、六華が屋上にいるわけ――――――六華さまぁ!?」

 

ドライグの声に士道はそんなことがあるはずがないとたかを括っていたのだが、ゆっくりとスマホが宙に浮きあがる様子を見て慌てて振り向くと―――神雷を纏った槍を片手に笑みを見せる六華の姿が。

 

「士道さま。少し………頭を、冷やしましょうか」

「ご、ごめんなさああああああい!!」

 

スマホを六華に取り上げられると、士道くんは迷わずDO☆GE☆ZAを披露した。

六華はため息を吐くと、令音から送られてきた写真を消去してスマホを士道に返した。

お気に入り登録していた写真が消えた事に、士道は膝をついた。

 

「け………消された。ネグリジェ令音さんの写真が!!」

『六華、良くやった。ほめて使わす』

 

ドライグ先生が六華を褒めると、六華は「ありがとうございます」と微笑みを返した。

 

「なんかお前たちを見ていて癒された………五河、天央祭の総合優勝をもぎ取ろう」

「ああ、やるからには勝つ!それだけさ」

 

正義と士道は互いに拳を合わせると、三人はそれぞれの教室へと帰っていった。

しかし、ブラック企業社員も真っ青と言われる実行委員の仕事に士道と正義が初日で狂わされたのは、また別のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――◇◆―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐへ、ぐへぐへ、ぐへへへへへ!おっぱいが一つ………おっぱいが二つ………」

『これは深刻な事態やもしれんな』

 

短縮授業で他の生徒たちが一二時過ぎに帰る中、士道と正義は一九時三〇分まで拘束される羽目になった。

山ほどある書類仕事に襲われて、士道くんはおっぱいゾンビになりながら帰宅を余儀なくされていた。

体力仕事なら士道や正義には何ら問題はない。しかし、実行委員の仕事は情報をもとに頭を使う仕事が大半なのだ。初日で精神の大半を削られた士道と正義は、これからやっていけるのかと不安しかなかった。

 

「ぐへへへ、ぐへへへへへ。ドライグ、あそこに幼女が見える。左手にパペットをつけた幼女が――――――あれは、うおおおおおおおおおおお四糸乃おおおおおおおお!!」

 

「のわああああ!?」「ぬわああああああ!?」「やまだあああああ!?」

 

大切な癒し成分を放つ幼女―――四糸乃を見つけた士道くんは、街行く人々を片っ端から吹き飛ばして全力疾走。そして………そのまま四糸乃を抱き上げ、成長途中のロリおっぱいに頬ずり!

 

「ひぐぅ!?し、士道さん!?何を、やって………」

『んああ。こりゃあよっぽど四糸乃の癒し成分が必要なくらい追い込まれたんだねぇ。四糸乃、士道くんにナデナデしてあげて』

 

「うおおおおおお四糸乃おおおおおお!!疲れた、俺はもう疲れたよおおおおおおお!!四糸乃おお、俺を慰めてくれえええええ!!」

 

「………お疲れ、様でした」

 

突如体が持ち上げられた事に四糸乃は声が漏れ出たが、その犯人が士道である事に気付きさらに戸惑っていた。

ただ、相棒のよしのんが士道の状態を見抜くと、四糸乃は士道の頭に手を置きナデナデと手を動かし始めた。

ロリニュウムも同時に吸収できて元気百倍のおっぱいドラゴンへと復活を遂げた士道くんだった。

 

「………サンキュー四糸乃、助かった。でもこんな時間に二人で出歩くなんてお兄さん感心しないな。四糸乃みたいな可愛い女の子がこんな時間に出歩いてたら―――路地裏に連れ込まれて、それはそれはイケナイ事をされるんだぞ。

いいか四糸乃、世の中には俺様のような聖人君子のような人間ばかりじゃ無い………分かってくれたか?」

 

「は、はい?」

『あらまぁ、よしのんたち路地裏に連れ込まれちゃってるよ』

 

そんな事を言いながら、四糸乃を担いで路地裏へと連れ込みンフー!と鼻息を荒げる士道くん。

………言ってる事とやってる事が完全に真逆。しかし、これは必要な行為だった。四糸乃に手を出そうものなら琴里や六華がどんな暴挙(粛清)に出るか分かったものじゃ無い!

合法的に四糸乃の癒し成分を吸収するにはこれしかないのだ!!

 

『………相棒、それ犯罪だからな?』

「知るか!逮捕が怖くてスケベができるかッ!!」

 

無駄にいい笑顔で決め台詞を残して、抱えた四糸乃のロリおっぱいに頬擦りを再開する。

何度も顔を上下させて、四糸乃の成長途中の体を満喫していた。令音や六華のようにおっぱいが強く押し返してくる感触はないものの、やはり女性ならではの柔らかい感触に士道は癒しを超えて滾りが始まる!!

 

「ぐへへへへ!みなぎってきたああああああ!!」

 

「士道、さん。くすぐっ、たいです」

『ビーストモードだねぇ。四糸乃、いつでも押し倒される覚悟をしておくんだよ?』

『おい!そこは四糸乃を助けんかよしのん!』

 

頬擦りをしながら、戦闘態勢を整える士道を見たよしのんは四糸乃に心構えをさせると、四糸乃はボンッ!という音を立てて顔を真っ赤に染めた。

ドライグ先生は、特に四糸乃を助けようとしないよしのんに物申すが、よしのんがまさかのスルー!

………しかしながら、路地裏に駆け込んでくる黒い影があった。

 

「士道さん、四糸乃さんをこんなところへと連れ込んで―――って!何を、しているんですの!!」

 

四糸乃へ欲望のままに頬擦りをする士道にドン引いた様子で声を裏返したくるみん。路地裏に無垢な幼女を連れ込んで何をしていたかと思えば………堂々とスケベ行為に走っていたからだ!

くるみんが現れた事に気付いた士道は、四糸乃を下ろして視線を変える。

 

「なんだ………くるみんも一緒だったのか。四糸乃一人でこんな所に来たと思っていたけど、くるみんがいたなら安心だ………さてさて今日のくるみんの下着は――――――おっ、良いですねぇ!これは、この前のデートで買ってあげたやつではありませんか!!」

 

「ひっ!?み、見ないで下さいまし!!」

 

台詞の途中で神速を発動し、後ろに回り込んで地べたに這いつくばってスカートをひらりと捲し上げると………目の前に姿を表したのは、デートの時にくるみんにプレゼントした下着のお出迎え。これには士道くん、思わずニッコリ!

 

「いいもん見れたわ。それで、何でまたこんな時間に四糸乃と出歩いていたんだよ?」

 

「士道さんの帰りがあまりに遅いから、四糸乃さんと琴里さんが心配だと言ったんですの。六華さんとわたくしが『実行委員の仕事がある』と伝えましたが、お二方とも一八時を回っても士道さんが帰って来ない事に、何かあったのかと言い出しまして………」

 

四糸乃は昼過ぎに五河家へと遊びに来たのだが、士道が留守のため六華と琴里とでテレビを見たりトランプをしたりしていた。後に十香やくるみんが来て、みんなでワイワイ楽しく過ごしていたのだが、時間が経つにつれて士道が帰って来ない事を不安に思い始めた。

 

一九時になっても士道が帰って来なかった時には、四糸乃はサンダルを履いて外の世界へと飛び出していた。それを見たくるみんが慌てて四糸乃を追いかけ、くるみんと一緒に士道を探していたのだ。

 

「四糸乃、心配かけて悪かった。でも大丈夫だ、俺は四糸乃の前からいなくなったりはしない。でもまあ、今回みたいに暗くなってから外に出るのはこれっきりだぞ?」

 

「はい。すみませんでした」

『士道くんも、あんまり四糸乃を困らせないであげてよね?』

 

四糸乃が頭をペコリと下げると、士道はその頭を撫でた。よしのんが士道にも同じ事を言うと、士道は後頭部を描きながら言う。

 

「おう、俺も気を付ける。四糸乃、くるみん―――二人とも飯はもう済ませたか?」

 

「はい。十香さんのお腹が鳴ったタイミングで六華さんがご飯を作ってくれました」

「わたくしも十香さんたちと一緒に済ませましたわ」

 

………四糸乃たちは既にご飯を済ませたようだ。済んでいないものなら、近くのレストランでもご馳走しようかと思っていたが、それはどうやら無しになりそうだった。

 

「んじゃあ帰るか。これ以上遅くなると琴里の鉄拳が――――――」

 

ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ………

 

帰路につき始めようとしたその時、空間震警報が鳴り響く。士道はブレザーの中に仕込んだインカムを手に取り、耳に付ける。

 

『―――士道、分かっているわね?』

 

インカムを耳に付けると、フラクシナスから琴里から通信が入っていた。そして、士道はそれを聞くなりすぐに首を縦に振った。

 

………新たな精霊が現れた事に。

 

「琴里、くるみんと四糸乃を回収してくれ………精霊は近くにいる。この距離なら自分で飛んだほうが早い」

 

『分かったわ。すぐに四糸乃と狂三を回収するわ―――さあ、私たちの戦争(デート)を始めましょう』

 

「ああ………やってやる!」

 

琴里が四糸乃とくるみんをフラクシナスで回収すると―――士道は霊装を纏って星が輝く空へと羽ばたいた。

新たな精霊を攻略するための戦争が今ここに幕を開けようとしていた。

 

 




如何でしたでしょうか?良ければ感想等お待ちしております。

前書きでほぼネタバレしていますが………筋肉モリモリマッチョマンの士道くんに女装は不可能です。

ドライグ先生の次回予告。

ドライグ「新たに現れた精霊は………巨乳だ。もうビックリするほどの巨乳だ!!もうこれだけで相棒が暴走する三秒前だ!!
目の前にある巨乳を前に相棒は理性を保つことができるのか!?
次回デート•ア•ライブ 〜転生の赤龍帝〜
二話『接触 〈ディーヴァ〉!』
精霊を守りし帝王よ、賢者に――――――ん?相棒、ないているのか?』



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二話 接触 〈ディーヴァ〉!

どもども、勇者の挑戦です。

続きをドカンと投稿ですよ!



周囲の気配を察知しながら空を駆けること約数分―――士道は、精霊が入り込んだ建物の前へと到着した。

すぐ真上から感じられる膨大な霊力の塊。それだけで精霊がいる事への証明へとなった。

 

「………何ともまあ面白いところに入り込んだな」

 

精霊が空間震発生後に入り込んだ建物は―――天央祭の会場でもある天宮アリーナだ。

多くの人が楽しみにしているこの場所での天央祭………もし、精霊の機嫌を損ねてドンパチにでもなろうものなら、天宮アリーナを吹き飛ばして復興やら何やらで中止にする事だけは絶対に避けなければならない事だ。

 

『恐らくASTを恐れたのであろう。奴らの装備は屋内での戦闘には不向き―――奴らが攻撃してくる前にケリをつけるぞ』

 

「ああ―――行こう!」

 

扉をこじ開け、強引に天宮アリーナへと入り込むと………何やら声が聞こえてきた。

 

―――幼い頃に ずっと憧れていた キラキラ光るステージ

 

リズムと抑揚をつけてまるで………まるで歌でも歌っているかのような声が上から聞こえてくる。

 

『これは………歌なのか?』

 

「そうだ、歌だ………この歌は―――」

 

ドライグが訊ねると、士道は頷き走る速度を上げた。何か今すぐに確認したいものがあるかのように、気付けば神速すら発動させて。

ただ声がする方向へと全力疾走していた。

 

『お、落ち着きなさい士道―――士道!聞きなさい、士道!!』

 

琴里が落ち着きを取り戻そうと、大声を出すがそれは士道にとっては雑音に過ぎなかった。

そして、階段を駆け上がるごとに耳へと聞こえる歌の音量が大きくなってくる。

 

―――反響する音がなんだか 特別みたいで嬉しかった。今もあの頃の気持ち ちゃんと思い出せる―――

 

ガチャ………

 

士道は扉を開けてアリーナの中へと入ると………歌を歌っている正体を突き止めた。

 

アリーナの中は、恐らく出演者やスタッフが舞台装置を放置したまま避難してしまっのだろうか暗い会場の中、櫓のようにせり上がった舞台だけが、下方から幾つものスポットライトに照らされ光に溢れている。

 

―――その中央には、光の糸子で縫製されたかと見まごうような煌びやかな衣を纏った少女が、アリーナ内に非常に美しい声音を響かせていた。

 

「………………」

『相棒?どうしたのだ、相棒!早くしなければASTの連中が仕掛けてくるぞ!』

 

士道はアリーナ内の近くの椅子へと腰を下ろし、その歌を歌う少女を眺めて聞こえてくるその声音に魅了されるが如く聞き浸っていた。

 

――― Let me sing you a song&let's sing along 幾千万に広がる星を 一粒一粒 名付けるみたいに

 

………時間を掛けるとASTが攻撃を仕掛けてくる。そんなことは百も承知だ………しかし、士道は黙ってその歌を聞き続けていた。

 

『相棒………泣いて、いるのか?』

 

ドライグが士道の異変に気付いて左手から音声を出した。

士道の頬からは一筋の流れ星が滴り落ちていた………聞こえてくるこの声音に。そしてこの歌に感動を覚えて………士道はそれを止める術を知らなかった。

 

「ドライグ、琴里すまない。この歌は………この歌だけは、最後まで聞かせてくれ」

 

士道が大粒の涙を流してその歌を聞く姿を見て、琴里もドライグも何も言わなかった。

そして、聞こえてくる歌が今―――最後の一節に入ろうとしていた。

 

―――Let me sing you a song&let's sing along 神様が私にくれたのは 最高の贈り物

 

最後の歌詞を歌い終えると………少女は満足げにスーッと息を吐いた。それに合わせて士道は立ち上がって拍手を送った。

 

パチパチパチパチ!!

 

「………拍手ですかぁ!まぁ、ありがとうございますぅー。お客さんがいたんですかぁ。誰もいないと思ってましたよー」

 

聞こえてきた拍手に、歌を歌っていた少女が当たりをキョロキョロと視線を配り始めた。優しくのんびりとした声を響かせながら、整列された客席を見渡しその拍手の主を探しているようだ。

 

「どこにいるんですかー?私も一人で少し退屈をしていたところなんですよお………もしよければ少しお話をしませんか?」

 

士道は無言で身体を宙へ浮かして、ステージへと向かおうとした時に琴里から通信が入る。

 

『士道………あれは〈ディーヴァ〉よ。半年前に一度だけ顕現が確認された精霊よ。天使の能力は未知数―――注意しながら接触を心掛けて』

 

「分かった」

 

士道は涙を払うとステージの影へと着地し―――スポットライトが当たる光の世界へと足を踏み入れた。

カツカツと靴音が響き渡った事を確認すると、少女がくるりと一回転。士道に正対するように前身を晒す。

スカートの端を掴んで精霊と思しき少女がペコリと一礼。

 

「ああ、わざわざ上がってきてくれたんですかぁ?こんばんは、私は―――」

 

(歌声だけじゃあ確信を持てなかったけど、近くで見て分かった。この子は間違いない………三年前に姿をくらましたアイドル―――『宵待月乃』ちゃんだ)

 

士道はこの少女のファンだった。精神が荒みかけていた頃にこの子の歌によって彼は救われた。

士道は今でも彼女の歌を聞いている。一度歌えば全ての人々を虜にするほどの美声が売りで、その上ルックスも良くその当時のトップアイドルとして名を馳せたが、その輝きは長くは続かなかった。

デビューして僅か一年にも満たない間に、突如として表舞台から姿を眩ませたアイドルだ。

 

(しかもそれが精霊になっていたとは………にしても――――――ぐっへっへっへ!こいつはとんでもないおっぱいだ!!六華や令音さんクラスの巨乳じゃねえかッ!?しかも、このハリは二人のおっぱいを上回り、その上形もこれまた美しい!!揉みたい!今すぐあの素晴らしいおっぱいを手入れしたい!!)

 

『な、何やってんのよあんた!!私の話聞いてたの!?』

 

しかし、美少女を前にしてシリアスを保ち続ける事ができるほど、士道くんは大人ではない。

三秒ほど経つと………ぐへぐへと鼻の下を伸ばしておっぱいを舐め回すように見つめる士道くん。士道の精神を監視しているモニターが、ATTENTIONの文字を出してアラートを出している。それを確認するなり、大声を出す琴里ちゃん。

 

………そして、少女が下げていた頭を上げると―――そのいやらしい視線に気づいたのか、その場で金縛りにでもあったかのように固まってしまう!!

 

「え………………」

 

士道を見るなり、少女は何か信じられないものを見たと言わんばかりに黙り込んでしまった。それと同時にインカムから『ビービー!!』と警告が鳴り響く!!

 

『相棒を見るなり警報が鳴るか………これは内に秘めた下心を読み取られたか?』

 

士道はマズイと思ったのか、首を何度も左右に動かして頭に上った血を沈めこむと―――先程まで歌唱していた歌に称賛の声を送る。

 

「今の曲は宵待月乃の『My Treasure』だよね?さっきの歌、俺は感動した。まさか宵待月乃が直接歌うものを聴くのは始めだったからさ………」

 

「ッ!?どうして、それを………」

 

警報が鳴ると同時に、ゴキブリ以下に下がろうとしていた好感度の下落が止まった。少女は士道の口から『宵待月乃』という名前が出るなり、自然とその名前を知っているのかを訊ねた。

それを聞いた士道は、さも当然かのように理由を話す。

 

「俺はキミのファンだからだ。キミの歌声を聞ける日を俺は楽しみにしていた………だから言わせてくれ―――お帰り、月乃ちゃん!」

 

士道が微笑んで言うと―――再び耳に付けるインカムからアラートが聞こえてくる!!

それを知ったドライグ先生が盛大にため息を吐く。

 

『相棒………どうやら詰んだようだぞ?』

 

「え!?月乃ちゃん、俺なんかマズイ事を――――――」

 

少女は士道が少しずつ距離を縮めようと歩み寄る士道を見るなり―――大きく息を吸い込むとそれを一気に解放する!!

 

わっ!!

 

「ぐっ―――ドラゴンスマッシュ!!」

 

ズドオオオオオオオオオオオッッ!!

 

大声が発生すると共に吹き抜ける台風に巻き込まれるような風圧に押され、士道は地面を擦るように、後方に下がって行く!!

後一歩でステージから地面に叩き落とされる所で追い込まれたその時、右腕に霊力を集中させ、放たれた風圧を切り裂いた。

その時、ステージに仕掛けられた監視カメラが破壊され、その様子をモニター出来なくなだだ琴里が身を案じる声を出す。

 

『士道!?士道!!』

 

「俺様はちゃんと無事だぜ、我が麗しのマイシスター」

 

士道は後一歩の所に踏み止まる事に成功した。しかし、これが対面する少女をさらに不快にさせた。

 

「なんで落ちてないんですかぁ?何あと一歩の所で踏みとどまったいるんですかぁ?可及的速やかにこのステージから、この世界からこの確率時空から消え去ってくださいよぉ」

 

「ぐっ………そ、それが復帰を待っていたファンに対する――――――ッ!!」

 

いきなり攻撃を受けた事に対して意を放とうとしたが、途中でそれを止めた。

………士道を見つめる少女の瞳からは、異様なまでの悲しみそして怒りを感じ途中で言葉が止まってしまった。

この少女を見るなり強烈な違和感が士道を襲った………この少女は、これまでの精霊とは全く異質であると。

 

「宵待月乃のファン?それはどうもぉ………言いたい事はそれだけですかぁ?じゃあ、さっさとそこから飛び降りて死んでくださいよ〜。貴方が生きているだけで周囲の環境が汚染されている事がわからないんですかぁ?」

 

「ど、どうしてそんな事を………ッ」

 

「聞き分けのない人ですねぇ。一刻も早く消えてくれませんかぁ?私は貴方の存在が不快なんですぅ」

 

初見で暴言を吐いて傷つけたものでなければ、洋服崩壊を喰らわせて衣服を消しとばしたわけでもない。

なぜここまで言われるのか、士道は理解できなかった。

 

『………この場は退きなさい士道、作戦を考えましょう。〈ディーヴァ〉のあなたへの好感度はゴキブリ以下。しかも精神状態も異常と言っていいほど悪いわ』

 

士道は視線を鋭くして苦虫を噛み潰したように、今にも吐きそうな苦悶の表情を浮かべたその時だった。

 

ズドオオオンッッ!

 

アリーナの天井が突如爆発して、瓦礫の雨がステージに降り注ぐ。士道は瞬時に霊装を顕現させると、霊力の波動を球状に展開した。

そして、爆発した砂塵が収まると―――CRユニットで武装したASTの隊員たちが空中で舞っていた。

 

「AST!!」

 

『こいつら、もはやなりふり構わずになってきたな。とりあえず隙を見て逃げるぞ相棒』

 

ドライグに言われた通り、士道は闇へとアリーナの闇の中へと姿を消そうとしたが………すぐに対峙した精霊に視線を戻すと―――

 

「あらぁ?まぁ―――まぁっ!!いいじゃありませんか!そうですよぉ、お客様と言ったらこうじゃないとぉ!特に――――――」

 

士道を見ていた時とは、打って変わり目をキラキラと輝かせて手を組む〈ディーヴァ〉の姿が。

そして………ASTの隊員である―――折紙を見るなり瞬間移動をするかのようにその背後へと移動した。

 

「ああ………いい、いいですー。ねぇあなた、私の歌を聴きたくないですかー?」

 

「………近寄るなッ!!」

 

馴れ馴れしく折紙の肩へと触れて恋人のように耳打ちされた事に、折紙はすかさずレイザーブレードで〈ディーヴァ〉を一閃!

そして、屋外へと出てきた〈ディーヴァ〉を目掛けてミサイルやら弾丸やらの嵐が降り注ぐ!!

 

「ああん、いけずぅ♪」

 

ミサイルやら弾丸やらは、霊力で展開した壁によって全て無効化されてしまう。それを見ていた赤毛の女性が盛大に溜息を吐く。

 

「さすがはオママゴトチーム。埒が空きませン、退きなさいザコ共―――」

 

赤毛の女性が、手に持つレールガンのような光線銃にエネルギーを収束させ、それを精霊に放とうとしたその時―――夜闇に溶け込む士道を見つけた。

 

「は、ハハハ!ターゲットロックオン―――ファイアッ!!」

 

ズビィィィィィィィィィィ!!

 

赤毛の女性は、光線銃のエネルギー弾を放つ対象を精霊から士道へと変え―――引き金を引いた。

完全な霊装を纏えない十香やくるみん達なら、致命傷になりかねないほどの威力を誇る光線が士道に迫る!!

 

「チィッ―――おい、俺は民間人だぞ!?」

『伝説のドラゴンを宿して、その上に精霊の力を扱うというオマケが付いたな』

 

余計な事を言うドライグに士道くんは内心「やかましい」と呟いて、地面を強く蹴ってそれを回避した。

―――しかし、攻撃はまだまだ終わらなかった。

 

「あっ、ハハ!お当たりね!コレでも喰らいなサイ!」

 

それを避けられた瞬間に今度はスラスターを投げつけて来た。しかし、今度ばかりは士道も無抵抗ではいなかった。

塵殺公を顕現させ、スラスターを斬り刻もうと剣を構える!!

 

しかし………

 

「………ッ!士道―――はああああああああっっ!!」

 

ギィン!ガギィン!!ズドオオオンッッ!!

 

先程まで〈ディーヴァ〉の絶対的な防御を突破しようと、一心不乱にレイザーブレードを払っていた折紙が、士道の姿を確認するとスラスターの軌道に先回りして、裂帛の気合と共にスラスターを一閃!!

折紙が放った一閃によってスラスターは軌道を変えて先程まで士道たちがいたステージ付近へと落下した。

………そして、その一瞬の隙を見て士道は琴里たちによって回収され戦場から離脱をした。

赤毛の女性は、突然の折紙の行動に苛立ちを募らせる。

 

「あらラ?何の真似?」

 

「それはこちらの台詞………あなたは、今一般人を殺そうと―――」

 

「ハッ、ハハハ!!アレが一般人ですっテ!?笑わせるじゃナイ!」

 

「あなたは………何を言って――――――ッ!!」

 

わっ!!

 

折紙が赤毛の女性を問いただそうとしたその時、〈ディーヴァ〉がけたたましい雄叫びを上げた。

その雄叫びを聞いた瞬間、その場にいた全員が耳を塞いでその雄叫びをやり過ごす事に全力を注いだが――――――これが〈ディーヴァ〉を逃がしてしまう要因へとなってしまった。ASTたちの攻撃が止まったその瞬間に〈ディーヴァ〉は戦場から離脱し、霊力も感じ取れなくなってしまった。

 

「あらラ………役立たズは、どこまで言っても役立たズネ。あ〜ア、コレは一からテコ入れが必要ネ、無能な隊長さん?」

 

「………ッ!!」「士道………」

 

赤毛の女性が皮肉全開で言った台詞に、燎子は憎しげに唇を噛み締めた。そして、折紙はただひたすらに、士道の無事を祈ってその場から離脱した。

ASTの中で大きな亀裂が入り始めようとしていたのは、誰が見ても明らかであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――◇◆―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

土曜日―――それは部活動に入っていない高校生にとっては最も息抜きができる日。英気を養う者もいれば、受験を見据えて勉強をする者、はたまた気分転換で遠出をする者もいる。

しかし、おっぱいドラゴンの休日は違った。

 

「………はぁ。土曜日まで委員の仕事に追われるか。本来なら六華とあんな事やこんな事を―――いっでええええ!?悪かった十香!!」

 

儚げに雲一つない青空に、何も身に付けていない全裸の状態で悩殺ポーズを取る六華を想像して手を伸ばした士道くんだったが、それを見るなり十香ちゃんがすかさずほっぺをぐに〜っと強襲!

………十香はお供として士道に同伴している。亜衣麻依美依トリオに書類作業の処理を任せて自分は合同会議へと向かおうとしていた。

 

「シドー!今は私といるのだ!そ、そういうことはだな………私が、してやる………」

 

口を尖らせて、モジモジと指を合わせて士道と別の場所とで視線を行き来させる十香ちゃん。コレには士道くんもハイテンションだ!!

 

「デジマ!?んじゃあ十香―――おっぱいをつつかせてくれ!」

 

「なぜつつくのだ!?おっぱいは触るものではないのか!?」

 

「甘い、甘過ぎるぞ十香!!おっぱいはなぁ、揉んで挟んで吸ってつつくものなんだ。つつくのが嫌なら吸わせてくれるともっと嬉しいんだけど――――――」

 

「す、好きなだけつつけ!シドー!」

 

顔を真っ赤にして胸を差し出した十香ちゃん。そしてそれを見た士道は鼻血を噴き出しながら握り拳から人差し指だけを解放して、十香のおっぱいへと狙いを定める!

………おっぱいを吸うとなると、おっぱいを完全に晒す事になるため十香にはそれはできなかった。しかし、六華にこれ以上離されないためにも献身的に士道にアピール!

 

「ぐへへへへへ!いっただっきまーす!」

 

「………ッ!」

 

士道は下品な笑みを浮かべて人差し指を十香のおっぱい―――それも、乳房を目掛けてコネクティング!士道の人差し指はおっぱいをつついた。

しかし………士道は指から感じられる感触に違和感を覚えて、何度もつつき直す。

 

「―――ん?これは十香のおっぱいじゃないぞ………な、なんだ?跳ね返されるような弾力が感じられないぞ………でも、うん!柔らかさは相当なもの………これはいいおっぱいだ!」

 

「あっ………ふぁ………し、士道………今日はいつにも増して、積極的」

 

何度も士道におっぱいをつつかれ、吐息を吐いた少女の姿が。士道が続いたのは、十香のおっぱいではなくこの少女のものだった。

 

そう、この少女は――――――

 

「お、折紙!?」

「と、鳶一折紙!貴様何をやって」

 

折紙だ。おっぱいをつつかれようとしていた十香の間へと強引に割り込み、十香からつつかれ役を強奪した。

折紙は無表情で、しかし顔を赤らめながら答える。

 

「士道におっぱいをつついてもらうのは、恋人である私だけの専売特許。夜刀神十香、貴方には不要なもの」

 

「き、貴様!!なぜこんなところに!?」

 

「私は士道の付き添い。亜衣麻依美依に言われて士道の護衛(他の女に手を出さないように)を頼まれた。あなたはもう帰っていい」

 

「なっ、貴様まで!?士道の付き添いは私だ!貴様が帰れ!!」

 

「断る。貴方が帰るべき」

 

「むがああああああ!!私はシドーの嫁だ、それから貴様はシドーの恋人などではない!」

 

ガヤガヤガヤガヤと怪獣たちが喚き出し、収集が付かなくなった。その様子を見た士道は盛大に溜息を吐いた。

 

「分かった。わかったから落ち着けって………パッパ行こう、遅れると面倒だ」

 

士道がそれだけを言い残して足を進めると、十香は士道の右腕に折紙は左腕に自分の胸を押し当てるように抱きついた。

その間も「鳶一折紙、貴様は離れろ」「貴方こそ離れるべき、士道が迷惑している」などなど二人の争いは止まる事を知らなかった。

そこから歩く事数分、士道たちは合同会議の会場へと到着して、来禅高校用に用意された机へと向かうと………仁徳正義が先に来て座っていた。

 

「………今日は夜刀神さんと鳶一さんか。モテる男とは羨ましいものだ」

 

冗談半分で正義が言うと士道は「勘弁してくれ」と溜息を吐きながら腰を落とした。

すると、近くの席からヒソヒソと声が聞こえてくる。

 

「アレが来禅高校のリア充モンスターね」

「思ったより可愛い顔してるね。けど身体はとっても逞しい!私タイプだわ〜」

「何かスポーツやってるのかな?野球かな?それともレスリング?」

「あんな美少女二人を弄ぶなんて罪作りな男だな」

「滅ぶべし………リア充も勿論だが、ハーレム野郎は地獄に落ちるべし………独り身の辛さを味合わせてやろうか!!」

 

………ヒソヒソ話の中に物騒なものが入っているが、そんな小さな事を気にする士道くんではない。

それから、他校の生徒は正義にも視線を送っている人もいた。

 

「アレが来禅の人修羅………」

「不良を見つけ次第、片っ端から血祭りに上げてる人修羅」

「俺も見た―――この前カツアゲやってたヤンキーをシメてたぜ!三対一だったけどヤンキーがフルボッコにされてたな」

「私が見た時は、暴走族を血祭りに上げてたわ『お前ら近所迷惑じゃ!』とかなんとか言いながら。でも助かったわ、あいつらマジで迷惑だったし」

「私、この前の祭りで変な男に絡まれた時に助けてくれたんだ。人修羅なんて呼ばれているけど、とっても優しくていい人よ」

 

正義にとってもヒソヒソ話は眼中にないようで、気だるそうにスマホの中にいる幼女に癒しを求めている最中だった。

 

「仁徳お前………随分と物騒なあだ名がついてんな」  

 

「俺はそんなもん知らん。迷惑をかける連中をシメてたら勝手についた………にしても、この会場に幼女はいないのか?」

 

「………いるわけないだろ、天央祭はまだ合同会議の段階だ。展示の出し物のテーマやステージ部門の説明とかも今日されるってのに」

 

「なんだつまらん………」

 

幼女以外眼中にないようで、それが分かった瞬間に即スマホの幼女が待つ世界へと正義はダイブしていった。

そして………絶対王者として名高い竜胆寺女学院の実行委員長と思しき少女が現れると―――黄色の声援が上がる。

 

―――キャアアアアアアアアア!!

 

静々と入ってきたのは、濃紺のセーラ服に身を包んだ少女たちの一団だった。

そして、まるで大名行列を出迎える民衆のように、二列に並んで頭を垂れていく。

士道が呆気に取られていると、その少女たちが作った道の真ん中を、一人の生徒が女帝のごとく悠然と歩いてきた。

紫紺に輝く髪を纏め、銀色の瞳を持った少女である。少女達と同じセーラー服を着ていたが、その身から放つ圧倒的な存在感が、彼女の輪郭をくっきりと浮かび上がらせていた。

 

「おいおい、冗談だろッ………」

「―――ッ!?」

 

士道はヒクヒクと顔を引き攣らせ、折紙は息を詰まらせる。隠してはいるものの、この少女からは人間と異なり圧倒的なまでの力の本流が感じ取れるからだ。

 

「こんにちわー。よく来てくれましたねー、皆さん」

 

ペコリと一礼すると、少女は口を開けて自己紹介を始める。

 

「竜胆寺女学院、天央祭実行委員長、誘宵(いざよい)美九(みく)ですぅ」

 

その誘宵美九と名乗った少女は、士道が昨夜対峙した精霊―――〈ディーヴァ〉だった。

 

 




二章の四糸乃パペットで触れた部分のフラグの回収です。さて、ここからどうやって攻略して行くかですが―――………はい、途中まではほぼ原作と同じです。

アンコールでネタ探しをしていて3に美九オンステージというものがあり、章名を急遽変更する事になりました(完全に忘れてました)

アンケートですが、思った以上にドライグ先生の次回予告が推されている事に驚いています。

ドライグ先生の次回予告

ドライグ「女体化した相棒は、歴代の女性赤龍帝でもトップクラスの美少女だ!気が付けば、何故か女体化した相棒を見ていると………俺も何やら胸が苦しい!?
―――ゴッホん!相棒はその美貌で新たな精霊〈ディーヴァ〉を堕とす事ができるのか!?
次回、デート•ア•ライブ 〜転生の赤龍帝〜
三話「実装!?性転換銃!」
生まれ変わりし乙女よ、百合百合であれ!そして、この俺の胸の疼きは一体―――」

士織「ドライグ!俺の女体に興味を持つようなら、籠手で乳を揉んでやろうか!?」

ドライグ「それは、それだけは勘弁して下さい相棒―――いや、士織ちゃん!!士織ちゃん可愛い、はぁはぁ………」

士織「よし判決を言い渡す。被告人ドライグ―――籠手で無限乳揉みの刑に処す!」

ドライグ「やめてくれえええええええ!!うおおおおおおおおおんん!!」


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三話 実装!?性転換銃!

士道「いやおかしいだろ!?なんで精霊がフッツーに学校通ってんだよ!?狂三に関してもそうだが、体育の時間とかどうすんだよ!?用具が木っ端微塵になってクソ大変だろ!?」

正義「知らん。俺は幼女にしか興味はない」

ドライグ『そう言えば相棒が鳶一折紙の胸をつついた際に神器に反応があってな………もしや、あの小娘にアルビオンが宿ったのか?』

士道「何でそれをすぐに言わなかったんだよ!?」

ドライグ「すまん………相棒が乳をつつくなんて真似をするから気絶をしていた。ごめーんちょ☆」

士道「お前………帰ったら『三時のおっぱい』籠手ありだからな」

ドライグ『うおおおおおおおおおん!!あんまりだああああああ!!」


竜胆寺女学院で行われた天央祭の合同会議が終わると、士道は〈ディーヴァ〉―――誘宵美九と名乗った少女を攻略するための作戦会議のため、フラクシナスを訪れていた。

 

『さー、いきますよぉー。皆さん、ついてきてくださーい』

 

『フラクシナス』艦橋のスピーカーからそんな間延びした声が聞こえてくると同時、軽快な伴奏と甲高い歓声が鳴り響いた。

艦橋正面のメインモニタには今、フリルに飾られた衣装を纏ってステージで歌い踊る少女の姿と、その前方に広がった紫色のサイリウムの絨毯が映し出されている。

 

映像は粗く、どう見ても公式販売されているライブDVDなどではなかった。

それもそのはず、中津川が様々なツテを駆使して手に入れた盗撮映像であるらしい。

 

「月乃ちゃん―――いや、誘宵美九そのものだな」

 

士道が映像を見ながらポツリと呟くと琴里がフォローをくれた。

 

「デビューはおよそ半年ほど前。『聞く麻薬』とさえ称される美声と圧倒的な歌唱力でヒット曲を連発するも、表舞台には姿を見せない謎のアイドル。こう言うものを偶像って言うのかしら?」

 

「存在自体が謎に包まれたアイドルか………分かっているのは、スリーサイズくらいか―――………あ、上からB94 W63 H88だ。非常に重要事項だからスリーサイズスカウターでパパッと測っておいた。好感度さえ下がっていなければ、今頃はあの素晴らしいおっぱいをこの手で――――――」

 

「あんたの精神状態のATTENTIONはそれが原因かっ!?このド変態がッ!!」

 

「ふぅべらぁ!?」

 

グヘグヘと下品な笑みを浮かべて鼻息を荒げる士道を見るなり、司令席から士道の胸部にドロップキックを叩き込む琴里ちゃん。

士道はフラクシナスの壁に激突すると、ぎゅうっ………と言う音声を出して倒れ込んだ。

 

「えーと………美九たんのスリーサイズはB94 W63 H88―――メモメモ」

 

中津川は士道の聞いた情報をそれはそれは大切にメモメモしていた―――彼は美九の大ファンなのである。

そして、数秒して士道が起き上がると―――令音はモニターにあるデータを映し出した。

 

「………これを見て欲しい。これは先日の〈ディーヴァ〉の好感度を数値化していたものなのだが、真ん中くらいまでがキミと会話をしていた時のものだ」

 

言われた箇所を見ると―――ジェットコースターの急降下を思わせる下落っぷりだ。これには士道もがっくりと肩を落とす。

 

「………こりゃあ想像以上に嫌われたな」

『相棒、そろそろそのスケベを直したらどうだ?相棒のスケベ心に気付いて降下したとしか思えんのだが………』

「断る!!エロこそ正義!!おっぱいは命!!俺が信じる神―――エロスの言葉だ!!」

 

「そんなふざけた言葉を残す神がいるかッ!!」

 

「―――ぶべっ!?」

 

再び琴里ちゃんが司令席からドロップキック!再び士道はフラクシナスの壁へと叩きつけられた。

 

「………残念ながら赤龍帝ドライグ、その考えは外れだ。それはこの続きを見れば分かるだろう」

 

令音がボタンを押すと、グラフの数値が変動を始める―――一度極地まで下がった機嫌が、急上昇を始めたのだ。

 

『村雨令音、これは―――もしやASTの連中が現れたあたりか?」

 

「………理解が早くて助かる。そうだ、ASTが現れた途端に機嫌が急上昇し、鳶一折紙に触れた時には最高値を突破した」

 

令音が言うと、中津川が手を上げてさらに説明を加速させる。

 

「ネット界隈の情報によると美九たんは凄まじい男嫌いで、このライブも女性限定で開催されたものなんです。さらに………これはガセネタの可能性が高いのですが、美九たんはファンの気に入った女の子をお持ち帰りしたこともあるとかないとか………」

 

この説明で士道は理解した―――誘宵美九は女の子大好きな百合っ子間違いなしである事を。

そして、士道にとっては死刑宣告だった。

 

「………つまり、男の俺がどんだけ頑張っても意味ないって事だけは分かった。はぁ、クエストリタイアか………」

 

美九の豊満なおっぱいを諦めなければならない事に、両膝をついて項垂れる士道くん。しかし、全ての精霊を平等に救うのが〈ラタトスク機関〉だ。

士道は諦めても司令官である琴里はまだ諦めるつもりはさらさらなかった。

 

「クエストリタイアって………あなたバカでしょ?〈ラタトスク〉が精霊を見つけて放っておくなんて選択肢があるとでも思ったの?当然対策は考えてあるわよ」

 

パチンッ!

 

琴里が指を弾くと―――メイクを持った椎崎、女性を思わせる長髪のカツラを持った箕輪、そして極め付けは………来禅高校の女子の制服一式を持って迫り来る副司令の神奈月恭平!

そして、士道を逃さないようがっしりと両肩及び両腕を拘束する川越と幹本!これだけの道具を用意したクルーたちを見て士道は察した!!

 

「ま、まさか琴里―――」

 

顔を真っ青にする士道に、琴里は親指を立てて死刑宣告!!

 

「グッドラック―――()()()()()()!」

 

「ざああけんなあああああああああ!!」

 

鼻息を荒げながら士道を女装させようと迫り来るクルーと、この作戦を立案した琴里に、猛抗議の雄叫びを轟かせたがそれはただの騒音として処理された。

霊力を放出させて暴れるとなると、クルーを殺しかねないため士道は無抵抗で作戦を受け入れることしかできなかった。

 

………しかし、問題が起こった。

 

「司令!顔は完璧なのですが、どう見ても違和感しかありません!」

「どう見ても顔だけ女装をした大男にしか見えない件について!」

「うーん………このガタイだとシリコーンのパッドでは怪しまれますねぇ」

「そこは女性ボディビルダーだと言えば問題ありません!(本当は違和感しかありませんが、ここは士道くんに納得してもらうのが一番だから黙っておこう)」

「ここまで顔と身体が一致しない女性を私は初めて見ました!」

 

「―――だから俺は男だっつの!!」

 

背をくすぐる程度に髪が伸ばされ、可愛らしい髪飾りなぞ付けている。顔にはうっすらとファンデーションが施され、マスカラとビューラーでボリュームアップされた目は、桜色の唇と相まって、もはや男のものと思えない。

手足は産毛に至るまで完全に脱毛されており、ツルツル美肌にされていた。

 

ここまでは何ら問題ない。しかし、問題なのは夏休みで極限まで鍛え上げた肉体だ。制服は女子用で上半身はパッツパツだ。

まず筋骨隆々の肩やら腕やら背中やらの発達した筋肉によって動き辛さがあり、動くと制服がキシキシと悲鳴のような音を立てる。

これで胸に詰め物を入れてブラジャーをすると………制服のボタンが弾け飛ぶ。

 

さらに下半身にも当然問題はある。スカートのウエストは問題ないのだが、尻より下が大問題だ。筋骨隆々の太ももはまだ長いスカートで誤魔化しが効くが、脹脛の筋肉はプロのアスリートと比較しても、遜色ないほどモリモリの隆起があるため女子としては異常に見えるのだ。

 

夏休みの授業で大きなパワーアップを遂げた士道だったが、逆に今はその肉体のせいで満足な女装ができなくなってしまったのだ!!

 

「いくら私たちを守るためとは言え―――まさか一ヶ月半でここまで身体が大きくなるとは思わなかったわ………一日六食の食事と圧倒的な修行量には完敗よ」

 

琴里も士道の体の成長には司令官の琴里も脱帽だ。しかし、このままでは誘宵美九の攻略が不可能になってしまう。

ここで諦める琴里ではなかった。軍服の胸ポケットからスマホを取り出すと、ピポパと番号を打ち込むと―――モニター下に魔法使いが現れた。

 

「どうも、魔法使いのソロモンです。この度はどのようなお困り事でお呼びしましたか?」

 

現れるなり琴里に膝を付く次元の守護者ソロモン………琴里がお電話をしたのはこの男だ。

ソロモンは視線を横に向けると………手塩に掛けて育てた弟子の変わり果てた姿が目に入ってきた。

 

あまりにもアンバランスなその光景に一瞬言葉を失ったが――――――すぐに腹を抱えて大爆笑!

 

「ぷハハハハハハハハハハハハ!!これは傑作じゃないか―――顔は乙女、身体はゴリラ―――とある言語で絶望のあだ名がついたアレの二世版そのものだ!!士道くん………ブフッ、似合っているよ。あ、そうだ写真を一枚」

 

ブチッ―――

 

ソロモンに笑われスマホで写真を撮られたその時、士道の中で何かが切れた。理性という名の鳥が、理不尽な怒りという熱戦に打ち消され、その熱が頭の中を支配するように!!

 

禁手(バランス•ブレイカー)第三段階(サード•フェーズ)』―――解放ッ!!」

 

『Welsh Dragon Third Phase Release―――Starting Absolution Armed!!!!!!!!!』

 

ズドオオオオオオオオオオオッッ!!

 

フラクシナス内で、士道が紅蓮のオーラを全身から放出させると―――ソロモンの顔が真っ青になり、士道の前まで移動してムーンサルトジャンピング土下座を披露!!

 

「―――調子に乗ってすみませんでしたああああああ!!」

 

次元の守護者のソロモンすらひれ伏せさせた、士道が纏おうとした鎧は―――第二段階の全形態の能力を有した最強の鎧。

この鎧は最近目覚めたばかりなので力の制御が効かず、解放の余波だけでフラクシナスくらいなら簡単に吹き飛ばしてしまう。そのため『これ以上調子に乗ると―――どうなるか分かっていますよね?』と脅しをかけたのだ。

 

「………たく、なんでソロモンさんがこんな所へ来てるんです?」

 

土下座を見た士道は、オーラを抑え込んだ。圧倒的なまでのオーラを見たフラクシナスのクルーたちは完全に言葉を失った。

 

「その男は私が呼んだのよ………コホンッ!貴方を呼んだのは、このゴリ―――士道を何とかして女に見せたいんだけど、何か手はない?」

「お前今、俺のことゴリラって言おうとしたよな?」

 

琴里をギロリと睨みつけると、琴里は視線を逸らしてヒューヒューと口笛を吹いた。

そして琴里の言葉を聞くなりソロモンは亜空間から、マシンガンのような小さな銃口を有した、黄金に輝く銃を取り出す。

 

「困った時はこの僕に任せてくれたまえ―――てれれれってってってーん………『性転換銃』!!説明しよう、この『性転換銃』は撃った対象の性別を入れ替えるアイテムだ。見た目はある程度は自由が効くけど―――何か写真とかあるかい?」

 

ソロモンがドヤ顔で説明すると、琴里を含めたクルーたちも『なるほど〜』と相槌を打ちながら説明を聞いていた。

そして、肝心の見た目だが琴里は、士道の見た目を極力変えたくはなかったため―――従兄弟の写真を出してソロモンに見せた。

 

その少女の名は―――『崇宮士織(たかみやしおり)』。琴里の父親の姉の娘で、歳は士道と同じ。高校入学前に交通事故に遭い、海外で手術を受けることになって現在は琴里たちの両親とともに海外で生活している。

近い内に日本に帰国する予定の元気いっぱいな天真爛漫美少女だ。

 

そして、ソロモンがその性転換銃の銃口を士道に向け―――無情にもその引き金に指を添える。

 

「まあ、実際に士道くんを女の子に変えてみたほうが早いね。それじゃあ―――レッツ性転換♪」

 

「あ、ちょ―――お前ら!?」

 

逃げようとした士道をフラクシナスのクルーたち全員が逃さないように手足を拘束し、性転換の準備は整った!そしてニヤリとソロモンが不敵な笑みを浮かべると―――引き金を引く!!

 

ズドン―――

 

「え………えええええええええええ!!」

 

銃弾が士道に命中して黄金の光が周囲を包み込むと―――そこには全裸の状態で女体化した士道くんが現れた。

顔や髪型は先程とほとんど変わっていない。しかし、問題だった筋肉モリモリな体格は萎んだかのように縮小し、さらに身長も一ニセンチほど小さくなった―――スレンダーな美少女へと大変身を遂げた。

 

しかし、この性転換銃にも課題はあったようで………

 

「あらまぁ………ムスコはそのまんまだ。どうやらまだバグは修正されて無かったようだ」

 

「―――いやいや、一番やばい問題じゃないですか!?よくこんなバグ放置してましたね!?ていうか、見ないで下さい!!」

 

見事にムスコだけは何故か変化しないバグがあったようで、慌てて士道は股間を隠した。しかし、おっぱいやら尻やらは今の士道くんは女のそれだ。男性クルーの川越、幹本、中津川の三人は女体化した士道の体を鼻息を荒げてマジマジと眺めていた。(後に椎崎がこの三人に目潰しを喰らわせました)

その様子を見ていた令音に異変があった。普段は冷静沈着でポーカーフェイスの彼女だったが………

 

「………じゅるり。シン、その体制では色々辛いだろう。どれ、私が手解きをしてあげよう」

「れ、令音さん!?今『じゅるり』って言いませんでした!?」

「気のせいさ………じゅるり」

「気のせいじゃなああああああい!!」

 

何という事でしょう!?今は士道に熱い視線を向け、その股間に熱い視線を送って涎を垂れ流している。これを見た琴里はたまらず命令を下す!

 

「神奈月、椎崎、箕輪―――今すぐここから令音を摘み出して!!」

 

「「「御意ッ!!」」」

 

「………くっ、離せッ!私はシンを………ッ!」

 

これ以上は士道の身に危険が迫ると感じた琴里は、部下に命じて大慌てで令音を強制退場させた。令音がもがくが、そこは男の神奈月が両腕を拘束して椎崎と箕輪は、バタつく足を片方ずつ持って医務室へと運んだ。

そして、役目が終わったソロモンは満足して帰ろうとしていた。

 

「それじゃあ僕はこの辺りで失礼するよ。士道くん、今のキミは立派な男の娘―――いや、女の子だ」

「こんな状態で女を名乗れるかあああああああ!!」

 

「士道、口調を気をつけなさい。これからあなたは誘宵美九と話すのよ?その口調じゃ男ってバレるわ―――ソロモン、その性転換銃をレンタルしたいんだけど、お値段はおいくら万円?」

 

琴里がソロモンに性転換銃のレンタル料金を訊ねると、ソロモンは性転換銃を琴里の下へと送った。

 

「お代は士道くんがその精霊を封印することで構わない。今回の精霊は特に厄介な力を持っている。攻略にはくるみん以上に手を焼くことだろう………それでも封印をやってくれるかい?」

 

「分かったわ。この変態なら必ずやり遂げる―――私が保証するわ」

 

「良い答えだ。それじゃあ士道くん―――結果を楽しみにしているよ」

 

ソロモンはそれだけを残してフラクシナスから姿を消した。そして、倒れる三人のクルーを横目に琴里は、士道のある部分に目が行った。そこで自分の胸部をさすりながらため息を漏らした。

 

「はぁ………やっぱり私が一番小さいのね」

 

女体化した士道はB80 W54 H82とまずまずなスリーサイズを叩き出している。放たれる乳気もビニュウムだ。琴里は女体化した士道の裸体を見つめて………おっぱいは遺伝するという信じたくない現実に直面したのであった。

 

「大丈夫だ琴里、おにーちゃんは大きいおっぱいも小ちゃいおっぱいも平等に愛する―――んぎゃあああああああああ!?」

「―――小さい言うなああああああああ!!」

 

涙混じりのドロップキックに再び士道はフラクシナスの壁へと叩きつけられた。こうして女体化士道―――士織ちゃんの百合百合攻略作戦が始まろうとしていた。

 

『女体化した相棒は可愛いなぁ。いっその事ことこの体をベースに神器を調整し直そうかな?』

 

ドライグ先生まさかの女体化した士道をベースに神器の調整を施そうとしていた。これには士道も堪らず釘を刺す。

 

「おいドライグ、そんな事やってみろ―――俺は毎日籠手で自分のおっぱいを揉みまくってやるぞ?」

 

士道が軽く脅しをかけると………ドライグ先生は『聞かなかった事にしてくれ』とこれ以上の乳ネタはゴメンだと言わんばかりに考えを改めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――◇◆―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わってASTの自衛隊天宮基地。折紙は先日より派遣されたDEM社から派遣された魔術師部隊のリーダー『ジェシカ•ベイリー』の元を訪れていた。

先日の〈ディーヴァ〉の襲来時にこの女はあろうことか、民間人に攻撃を放ったのだ。

その真意を問い正すために折紙はジェシカの行手を塞いだ。

 

「あラ?何か用かしラ?」

 

「先日貴方は士道を殺そうとした―――どういうつもり?」

 

折紙が無表情で訊ねると、ジェシカは大仰に肩をすくめた。

 

「どう言うつもりも何も、伝説のドラゴンが居たから捕縛しようとしただケヨ。何か問題デモ?」

 

「………ッ!あなたたちは一体何を知っているの?」

 

修学旅行前に士道が打ち明けてくれた真実。士道が恐らく誰にも伝えていないであろうトップシークレット。

 

―――俺は伝説のドラゴンを宿している。

 

………当然だがこの事は折紙は誰にも報告していない。

しかし、この女は平然と士道が伝説のドラゴンを宿している事を見抜いて、攻撃を仕掛けたのだ。

 

「さア………どうかしラ?」

 

士道を攻撃した証拠は確かにある。折紙はその証拠を上官である燎子や、その上にそれを提示し処罰を求めた。

しかし、碌な対応はされなかった。折紙の時とは異なり一切のお咎めなしというオマケ付きで。

………何かこの件に関しては、何か圧力が掛かったように白紙にされている事を折紙は悟った。

 

そして今、当の本人をダイレクトアタックをかけたのだが、この通りシラを切り通す様子だ。

 

「話は終わりヨ。回レ右しテ隊長のもとへ帰りなさイ………私たちは忙しイ」

 

邪魔者を追い払うようにシッシッと手を払うジェシカ。それを見た折紙は退くどころか言葉を変える。

 

「………あなたたちが帯びている特殊な任務と関係があるの?」

 

「………」

 

ドンッ!

 

鬱陶しげに放った舌打ちと同時に折紙の前髪をジェシカは掴んで近くの壁へと叩き付けた。

 

「小娘ガ、小賢しイ知恵を回スト―――グゥッ!?」

 

ジェシカは台詞を最後まで言うことが出来なかった。何故なら………折紙が掴んだ腕を掴み、握る手に力を込めた。すると………ジェシカが苦悶の表情を浮かべて折紙の前髪を握れなくなったからだ。

 

「………その任務の内容を話すまでは、この手を離さない。そしてその内容が士道に危害を加えるものなら―――それ相応の対処をさせてもらう」

 

「こ、このオーラはまさか―――こんな小娘にッ!?」

 

今の折紙からは白いオーラが展開されていた。そしてジェシカはそのオーラを見るなり、その正体を瞬時に悟った………自分たちが利用しようとしていた『白い龍』アルビオンのものだという事に………

 

『我がマスターを舐めてくれるなよ人間。さっさとその胸の内を吐き出しなさい―――さもなくばドラゴンの力をその身で味わう事になりますよ?』

 

「このクソガキガッ!!」

 

ジェシカは折紙を引き離そうと回し蹴りを顔面に放つが、もう片方の腕で簡単に受け止められる。

騒ぎを聞き付けた他の隊員たち及びジェシカの部下が大慌てで駆けつけて来た。

 

「あんたら、何やってんの!?」

「折紙さん、落ち着いて下さい!」

「折紙シンコキューです!シンコキュー!」

 

「マム!?Are you OK!?」

 

ゾロゾロと観客が集まってくるにつれて、折紙はジェシカの腕を押し込むように解放すると………ヨロヨロと後方にジェシカが下がった。

ジェシカは屈辱で顔を歪ませ、憎し気に唾を吐き捨てると部下と共に消えていった。

 

「折紙………あんたまた懲戒受けるわよ!?」

「折紙さん大丈夫でしたか?」

「折紙、ベイリーを追い詰めるなんてベリーパワフォー」

 

「………士道を守るためなら、そんなもの痛くも痒くも無い」

 

心配気に駆け寄って来た隊員たち及び、DEMから派遣された整備主任を前に折紙は問題ないと言わんばかりの表情だ。

士道を守るためなら、そんな物は気にする折紙ではない。万が一の時は自分が士道を守り抜く………小さくなっていく憎らしい事この上ないあの背中を睨みつけながら、その覚悟を胸に宿した。

 

 




二期の美九が士織の正体に気づくシーンは本当に笑いました。本作品でもアレはやる予定です。

ドライグ先生の次回予告

ドライグ『なんだ………なんなのだこの状況は!?女体化した相棒と〈ディーヴァ〉こと―――誘宵美九がいい感じで話しているでは無いかッ!?何故だろう、この雰囲気を見ていると癒される………ハッ!?俺は病気なのか!?
次回 デート•ア•ライブ 〜転生の赤龍帝〜
四話 「征けッ、士織ちゃん!」
乙女に生まれ変わりし女帝よ―――モエモエー!士織ちゃんモエモエー!!』
※ドライグはぶっ壊れました。

☆おまけ

士織「俺が中途半端に女体化しただけでぶっ壊れてんじゃねえッ!?ここは強引に元に戻さねえとッ!!」

士織ちゃんは赤龍帝の籠手を顕現させると………三階にある六華の部屋へと駆け込んだ。そこには………部屋で勉強机に座って予習に励む六華ちゃんの姿が!!

士織「おいドライグ!お前の大好きな六華のおっぱいだ―――そら味わえッ!!」

モミモミモミモミ………
※↑籠手でやってます。

六華「士道さま―――あっ………んっ!!」

ドライグ『うおおおおおおおおおおおおおんん!!』

しかし、おっぱいに触れると泣いてしまうドライグ先生なのであった。
………ちなみにこれがドライグ先生の心の崩壊をさらに進めてしまう事は、誰も予想できなかった。

夕弦「驚嘆。これは誰もが予測出来たはずです!士道、六華。ドライグを虐めないで下さい!」

ドライグ「八舞夕弦………ありがとう、お前は俺の味方だ」

十香「六華また勉強を―――って何をしているのだ!!」

くるみん「士道さん、また六華さんのお乳をもんで!!」

耶倶矢「あ、ズルい!私も!!」

ドタバタと来禅高校が有する精霊たちが怒涛の勢いで六華の部屋を訪れ、士織の両腕の争奪戦が始まった。

士織「お前ら、俺にもっとおっぱいを分けてくれ―――ぐへへへへ!!」

夕弦「限界。これ以上は夕弦も我慢できません。士道、夕弦もお願いします」

全員が士道の両腕におっぱいを当て始めたのを見て、夕弦もその争奪戦に参加―――これでドライグの味方は居なくなった。

ドライグ「結局こうなるのか!?うおおおおおおおんん!!」

この後、騒ぎを聞き付けた琴里の雷が落ちたのは、また別のお話。


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四話 征けッ、士織ちゃん!

六華「鍛え上げた肉体のせいで女装に失敗した士道さまは、ソロモンさまのお力を借りてついに女性へと大変身を遂げました。しかし、ソロモンさま―――このままでは士道さまとの子作りができなくなってしまいます!」

ソロモン「性転換銃の効果は二四時間。さらに禁手の鎧や霊装を纏うと効果は切れるから、子作りには何ら影響はないよ?」

六華「良かったです。これで今晩の子作りに今日はなさそうですね」

令音「………子作りのことなら心配いらない六華。今日からは私も五河家で生活をする事になった。子作りは問答無用で阻止するから、そのつもりでいることだ」

六華「―――そんな!?琴里さまはどう仰っているのですか!?」

琴里「これ以上士道が誤ちを犯させないための苦肉の策よ(士道の妻には私がなる。それから、士道との赤ちゃんだって………ッ!)六華、今日から令音も一緒だからよろしくね」

六華「そんな!?このままでは士道さまが村雨先生に犯されてしまいます!!私はこれから士道さまのお部屋で着替えと睡眠をしなければ!」

士道「デジマ!?ありがとう六華!これでオカズに困る事はないぜ、ぐへへへへへ!!」

琴里&令音「「そんな事を許すと思う?(思うのかい?)」」

ドライグ『すまないな。これ以上の茶番は読者がキレるため、ここらで打ち切る。それでは続きだ―――待たせたな』




幾度と無く聞いた終業のチャイムの音が、士道の鼓膜を震わせる。

九月一一日、月曜日。

ここから先は天央祭実行委員の仕事が幕を開ける。チャイムの音と同時にフラクシナスへ駆け込み、性転換銃を自身に撃ち込むと―――ミッションスタート!

 

「あ、あの………二年三組の仁徳正義くん、だよね?」

 

会場に一緒に向かう予定だった来禅高校が誇る世界屈指のペドフィリア―――仁徳正義に後ろから声を掛ける。

正義は振り返って声を掛けられた少女へと視線を合わせる。正義は一瞬怪訝な表情を浮かべたが、すぐに正体を見破った。

 

「その女体は性転換銃だな………何故その姿になった、五河」

 

「よく分かったな………どうして俺だと思ったんだ?」

 

変装を見破られた士道はすかさず正義に理由を訊ねた。正義は鼻でため息を吐きながら呆れた様子で首を左右に振る。

 

「お前………俺がアテナさまの依頼を熟している事を忘れちゃいないか?それに、明鏡止水は俺も相当自信がある………お前のオーラを見ればすぐに分かる。逆に俺を騙せるとでも思ったか?」

 

正義の説明に士道は「確かに………」と苦笑いを浮かべていた。正義もまた神速を発動できる領域まで明鏡止水を極めている。彼にもなれば気で騙す事は不可能である事を士道は失念してしていたのだ。

 

「事情がある事は分かった。天央祭関連の仕事は俺に任せろ………お前は自分の仕事に全力でリードしろ」

 

「すまない、恩にきる」

 

正義に頭を下げると、二人は天央祭の会場を目指して足を進めた。途中までは二人とも空を掛けてショートカットし、正義は来禅高校のブースで十香や折紙、亜衣麻依美依トリオに指示を出して準備を整える。

 

士道は会場の天宮スクエアの竜胆寺女学院のブースを目指して歩き始めた。

一号館に到着すると、奥の方でセーラー服に身を包み同校の生徒たちと笑顔で話し込む美九の姿が。

 

「………さすがは天宮市最高の美少女偏差値を誇る竜胆寺。殿町がオススメする理由も分からぁ。これに勝たなきゃいけないって………無理だろ」

 

『言っては悪いが―――この美少女たちと模擬店で競うとなると………精霊クインテットと他数名以外は戦力にならんな』

 

士道とドライグは竜胆寺の戦力を分析していた。竜胆寺女学院最大の強みは圧倒的な美少女を揃えた模擬店部門。

これを超えなければ来禅に優勝はない………おまけに今年はステージ部門では今回のターゲット精霊でもある、誘宵美九がステージに立つという情報も入っている。

去年以上に竜胆寺女学院に付け入る隙は無くなったのだ。

 

『士道、取り巻きがいなくなるまで接触は控えてちょうだい』

 

士道が琴里からの指示に首を縦に振って、慎重に機会を窺っていた。約五分ほど待つと―――美九が他の生徒から離れてブースの外へと出ていった。

 

『………士道、追ってちょうだい』

 

「あいよ、相手が精霊だから人間のオーラとは違う。だから追跡は楽勝だ」

 

士道は闇に紛れて単独行動をした美九を追跡(やってる事はただのストーキング)する。美九に気付かれないよう、距離を空けて物陰に隠れて様子を伺いながら。

 

「………しっかし、やたらと下がスースーする。おまけに走るとおっぱいが擦れて痛いし。

………これで家の中ではノーブラでいる六華は本当にすげ〜よ。帰ったらソッコーで『三時のおっぱい』と洒落込もう」

 

『士道あなた、よしのんの必殺マジシリーズ―――「マジ頭突き」を喰らいたいの?』

 

士道は今の感覚を隠す事なく呟いた。走るとパンツは見えそうになるわ、下からの風で下半身は寒いわ、おっぱいが擦れるわで踏んだり蹴ったり。

そんな状態にも関わらず、家の中では巫女服の中にブラを着けない六華を、士道は心の底から尊敬していた。

 

………ちなみに、士道の『三時のおっぱい』という台詞を聞いた琴里は、フラクシナス最強の殺戮兵器よしのんの必殺技をチラつかせて士道に牽制。

非常に堅固な六華の結界すら容易く破壊するよしのんの究極奥義『マジ頭突き』。

よしのんがこれを解放してくれたおかげで、最近の琴里と令音はノーストレスで六華の子作りを妨害できるようになったのだ。

 

話が脱線して申し訳ない。その後に美九は『関係者以外立ち入り禁止』と書かれたロープを潜ってセントラルステージの中へと入り込んだ。

 

当然士道も、少ししてから中へと入り込むと………ステージの中央に立って会場を一望する美九の姿がそこにあった。

自分の歌うステージの確認そして、ファンからの視線を考えているのか………真剣な表情で感触を確かめるように周囲を歩いて。

 

「………オーラは正にトップアイドルのそれだな」

 

美九のトップアイドルとしての貫禄を目の当たりにして、気圧されそうになったが、そうも言っていられる状況じゃない。

 

―――自分の役割はこの子をデレさせその霊力を封印すること。

 

ステージの階段を降りてステージを一望する美九の後ろに立った。歩み寄る少女を見た美九がくるりと振り返る。

 

「あら〜?」

 

少し驚いた様子で目を見開いた美九。士道はバレるかも知れないと緊張で高まる鼓動をなんとか抑え込もうと息を吸い込んだ。

 

「あなたは………?」

 

「え!?お、俺は―――」

 

この時士道は、緊張のあまりいつもの口調が出てしまった事に慌てて口を隠した。インカムからは『何やってんのよアリジゴク!』とけたたましい罵詈雑言が響き渡った。

 

「俺………?」

 

(………やらかした。とにかく何か別の話題を――――――)

 

美九も士道から出てきた『俺』という言葉に、キョトンと首を傾げる。なんとか誤魔化せないかを頭の中で考えていたその時、美九が優しく笑ってみせた。

 

「変わった言葉使いをしますねー。うふふー………でも、個性的で素敵ですよぉ」

 

「へっ………?」

『命拾いしたな相棒。どうやら相手に男だと悟られてはなさそうだ………口調はそのままでも問題無いだろう』

 

なんとか俺と言った事を誤魔化そうとしたが、美九は士道の口調を受け入れた事に、士道は素っ頓狂な声を上げた。

そしてドライグが言った通り、上空で待機する『フラクシナス』からも機嫌は悪くなっていないと報告が入ってきた。

 

「………確かここって立ち入り禁止だよな?」

 

「ふふ、そうですねー。でも、それを言うならあなたもじゃないですかぁ」

 

………完全にブーメランである。しかし、弁解してもしょうがないため、士道は美九に手を合わせた。

 

「うっ………じゃ、じゃあさ二人だけの秘密ってのはどう、かな………ダメ?」

 

ここで士道くん、日曜日を丸一日使って覚えた乙女の必殺技、上目遣いでのO☆NE☆GA☆Iを発動!!こんなもの女が女にしても気味悪がられるだけだ………しかし、今回の相手はただの女の子ではない。

百合っ子の美九には―――効果バツグンだ!!

 

「あーん!かわいい、可愛いですぅ!!あなたお名前は!?」

 

ンフーッ!と美九が鼻息を荒げて迫って来て、士道の両手をその透き通った乙女の手で包み込んだ。士道は今度はしっかりとキメた。

 

「士織………五河士織です」

 

「名前までちょぉキュートですぅ!士織さん、この後お茶しませんかぁ?なんなら、その後には私のおうちでいけない遊びを―――」

 

「い、いや………そ、それは困ります!」

 

グイグイ迫り来る美九に、慌てて距離を取ろうとする士道―――失礼、士織ちゃん。しかし、美九はがっしりと士織の両手をホールドして離してくれない!

………今の美九がしている顔は、士道が精霊達のおっぱいを触る時と同じ顔をしている!!下品な笑みとやらしい手付きこそないが、美九にとっては士織ちゃんが可愛くてしょうがない状態なのだ!

 

『―――困るな!!日焼け止め塗りで胸を触られそうになった耶倶矢や夕弦、それから狂三や六華だって今のあなたと同じ気持ちだったのよ?それを平気でやってきた当の本人が拒んでいいわけないでしょ!?』

 

『五河琴里に異議なし。相棒、今の時代は同性愛もOKになっている………木場祐斗との「プリンス&ビースト」が懐かしいではないか。

今度はまた別の薄い本を作る時がきたのだ―――誘宵美九を受け入れるんだ、士織ちゃん!SMT―――士織ちゃん•マジ•天使!むおおおおおおおお!!』

 

………この通り、味方はいない。インカムからは琴里の声以外に『美九×士織キターッ!!』とか『いいや、ここは士織×美九でしょうが!?』などなど大盛り上がり。

そして、相棒のドライグ先生も百合を受け入れたのか、援護は無かった。それどころか、百合百合なこの状況にテンション爆上がりで猛っている!!

そして、少し時間が経つと―――美九が士道化した………

 

「士織さん大丈夫ですぅ怖くはありません!何事も初めては不安です―――が、しかし!この誘宵美九は男は無理ですが、女の子は大好きなのですぅ!さあ、私と一緒に新しい世界を見に行こうではありませんか!この私がガンガン士織さんを開拓(意味深)してあげますよぉ―――ふひひひひひっ」

 

「―――ひぃっ!?」

 

くるみんが士道にエロいことを迫られた時にあげるような悲鳴を士織が上げた。だが、彼女は止まらない!純粋無垢な士織ちゃんを開拓しようと、下品な笑みを浮かべてゾンビのように迫って来たのだ!!

 

このまま士織ちゃんが美九に襲われる誰もがそう思った―――その時だった!!

 

ガタガタガタ………ッ!!

 

何か小さな物体が火花を散らすと―――同時にステージの真上の吊り金具を破壊された。

そして………重さ数トンはあろう金属フレームが美九に降り注ぐ!!

 

「―――危ないッ!!」

 

ズドオオオッッ!!

 

それを見た士織は、神速を発動して美九を抱き抱えると―――間一髪でフレームを掻い潜り、舞台下へと逃れた。

砂塵が収まると、天宮スクエアのセントラルステージは瓦礫の山が散乱する、見るも無惨な姿へと変貌を遂げた。

 

「………美九、怪我はないか?」

 

抱き抱える美九を地面に下ろすと、士織は最初に美九の安否を訊ねた。美九は助けてくれた士織に感謝の意を述べる。

 

「は、はい………助かりましたよぉ、士織さん」

 

「とにかく、ここを出よう。騒ぎを聞いて人が集まってくるだろうからさ」

 

「はいですぅ!」

 

天宮アリーナのセントラルステージのすぐ外からは、先程聞こえてきた大きな音の詳細を知るため、ドタバタとここを目指して来る人の足音が聞こえてくる。

士織は美九の手を引っ張ってそのままステージから逃げるように出て行った。近くにある竜胆寺のブースを目指して駆けていたその時………美九が士織の服を掴む。

 

「うわっ!ど、どうしたんだよ美九?」

 

「士織さん、じっとしてて下さいぃ」

 

美九はポケットからハンカチを取り出すと―――士織の腕にそれを巻いた。先程の金属フレームが落下した際、フレームに固定されていた証明が落下の衝撃で弾け飛んだ。

その破片が士織の腕を掠めて服と皮膚を裂いて、そこからぽたぽたと鮮血が溢れていたのを見た美九の行動だ。

 

「悪いな美九、ありがとう。でも、こんなもん唾でも付けときゃ―――」

 

「そうですかぁ?じゃあ私が舐めてあげますぅ―――ふひひひひひっ」

 

士道同様に下品な笑みを浮かべて、腕に巻いたハンカチを取り除いて傷口をペロペロ舐めようと涎を垂れ流す美九。

それを見た士織ちゃんは、慌てて腕を隠す。これを見た美九ちゃん思わず頬をプクーッと膨らませる。

 

「そ、それはご勘弁を!」

 

「んもぉ!士織さんのいけずぅ〜」

 

『ああ〜癒されるなぁこのコンビ』

 

百合百合な士織と美九のコンビに何か安らぎを得たドライグ先生。しかし、そんな空気を斬り裂くように、何かが美九と士織の間に割り込んだ。

 

「一体これはどう言うつもり?」

 

その何かとは―――士道を心の底から愛する鳶一折紙だ。折紙はまるで親の仇でも見るよう射殺すような視線を美九へと向けた。

 

「あらぁ?あなたは―――ああ、あの時の………大丈夫ですよぉ、危害を加えるつもりはありませんからぁ」

 

「そんな事を私が信じるとでも?」

 

折紙も先日に戦場に訪れていたため、美九が精霊である事は知っている。それ故に最大限の警戒をしているのだ。

これだけの威圧感を前にしても美九はカラカラとした様子で士織を見て、人差し指を口へと当てる。

 

「士織さん―――今日の事は、内緒ですよぉ?」

 

美九はそれだけを言い残して、スキップしながら竜胆寺のブースを目指して歩いて行った。

一応は士織ちゃんモエモエ作戦は成功したと言うところだろう。しかし、まだ難は完全に消え去ってはいなかった。

 

「説明を求める士織―――いや、()()

 

………どうやら折紙は姿が完全に変わっても、この少女が士道であることが分かっているようだ。

士織が「士道………?誰の事かな?」とシラを切ろうとしたが………

 

「私の中にいるドラゴンがあなたの相棒のオーラを感知している。それから、あなたの相棒と話をしたい………と」

 

「………ッ!」

 

折紙の言葉に士織の眉がピクリと動いた。周囲に折紙以外の気配がない事を確認すると―――インカムを外して霊力を放出させて強引に元の姿へと戻る。

 

 

「………分かった。委員会の仕事に戻るがてら少し話そうか」

 

「ありがとう士道」

 

士道と折紙は来禅高校のブースを目指しながら歩き始めた。そして、士道の左手から音声が聞こえてくる。

 

『………貴様の中にいるドラゴンとやらが俺に話があると言ったな小娘。それで、俺に一体何の用だ?』

 

「………」

 

ドライグが訊ねると、周囲に人影がない事を確認して折紙が瞑目した―――すると、青白い光が折紙から放たれ―――白い翼が姿を表した。これには士道とドライグは飛び上がるほどの衝撃を受けた。

 

「―――『白龍皇の光翼(ディバイン•ディバイディング)』ッ!?」

 

『相棒が貴様の乳を突いたときに反応があった。まさかとは思ったが………本当に宿っていたとは』

 

折紙が宿す『白龍皇の光翼』と士道が宿す『赤龍帝の籠手』とは因縁深い神滅具。

神器に封印されたドライグとアルビオンは人間を媒体にして何世代に渡ってケンカを続けている。

そしてそれは士道と折紙も、二天龍の因縁という名の濁流に飲まれたわけではないが、激しく衝突した過去がある。

 

………折紙の翼を見たと同時に、士道の左腕に引き出されるよう籠手が姿を表した。それを見た時、折紙の翼が点滅を繰り返して音声を放つ。

 

『………ドライグ、私の事が分かりますか?』

 

『無論だアルビオン。しかしながら、俺は貴様の知るア•ドライグ•ゴッホではない。それでも、何か聞きたい事があるのか?』

 

士道に転生したイッセー、そして彼に宿っていたドライグはこの世界の存在ではない。しかし、アルビオンはそれを知っていてなお、話を続けた。

 

『勿論ですドライグ―――あなたの事を私は知りたいのです。ドライグを宿した少年、確か名は―――五河士道でしたね?ドライグの意識をこちらに送って頂く事はできますか?』

 

アルビオンは一対一での会話がご所望のようだ。それを聞いた士道はドライグに訊く。

 

「………だ、そうだ。ドライグお前はどうだ?」

『良いだろう。こちらも幾つか聞きたい事がある。俺の質問にも答えてくれるのであれば、受けてやるが………どうだ?』

 

『分かりました。私の答えられる範囲でよろしければになりますが………』

 

『ならばオレがそちらに出向こう………相棒、すぐに戻る故に変な事をするなよ?特に乳は自重―――「断る!!全力でお断りだ!!」即答か!!そろそろ本気で泣くぞ!?』

 

士道とドライグの赤龍帝コンビは今日も平常運転だ。士道の左腕の宝玉が光を放つと、その光は折紙の翼へと吸い込まれていった。

ドライグが何かいい情報を持ち出してくれる事を願って、士道は歩き始めたのだが………気がつくと折紙が士道の腕に手錠をはめて―――さらに自分の腕にも手錠をはめた。

 

「あ、あの………オリガミ、サン?」

 

いきなり手錠で腕を拘束された事に、士道は冷や汗を垂らしながら折紙に訊ねた。すると折紙は無表情だが嬉しそうに言う。

 

「私はアルビオンから『ドライグとはずっと一緒だった』と聞いている。あの二匹は私と士道のように深い愛で結ばれていた―――ちょうどこのように」

 

「折紙、それは俺が逃げられないように拘束しているだけですよね!?てか、折紙の赤白の天龍の認識はラブラブカップルなの!?」

 

「純愛ではなくてアルビオンからはドライグもメスのドラゴンと聞いていたから、百合やレズに相当する。でも、士道が宿していたドライグの一人称は『俺』だった………この食い違いは何?」

 

「知らねえよ!?てか、百合百合でレズレズな話を俺が一番聞きたいわ!!」

 

「だから士道の腕と私の腕を手錠で繋いだ。これで士道と常に一緒の生活ができる………食事にトイレ………それからお風呂と寝るのも一緒―――士道、子供は何人欲しい?ちなみに男の子なら『貴士』、女の子なら『千代紙』。他にも『慎士』や『伊折』などもある」

 

「真の狙いはそれか!?ていうかもう名前まで決めてるの!?」

 

悲鳴じみた声を士道が上げると、折紙はカバンから薬品が染み込んだような独特な匂いを放つ布と、怪しいカプセルが入った瓶を取り出して、士道に見せつける!!

 

「………さあ士道、私の家で愛の結晶を作ろう。この布は嗅ぐと眠ってしまうアレを染み込ませてある―――普通の行為に飽きたら昏睡◯◯◯(ピー)(自主規制)を楽しめる。さらにこのお薬は、飲むと何度でも発射できるようになる魔法の薬。さあ士道、今日の委員会の仕事は終わった。私の家でレッツ子作り」

 

「―――クロロホルムと精力剤じゃねえかッ!?無駄に用意がいいですねぇ折紙さん!?てか、俺に拒否権は―――」

 

「士道………返事は「はい」か「イエス」のどちらかだけ」

 

「強制かよ!?」

 

精霊たちにはグイグイと迫る士道くんだが、士織ちゃん状態での美九とこの折紙だけは、スケベ行為に自重がかかるようだ。

こうして士道は手錠を破壊しようと霊力を込めたが、折紙がクロロホルムを染み込ませた布を士道に嗅がせて、強制的に眠らせて家へと運び込もうとそそくさと天宮アリーナを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――◇◆―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………あんたら、マジで言ってんの?」

 

低く響くような声を発して、燎子が目の前に居並んだ一団を睨め付ける。

陸自天宮駐屯地のブリーフィングルームには今、ニ〇名ほどの人間がいた。

燎子の側に座っているのは既存のAST隊員たち。そして対面に並んでいるのは、DEMインダストリーの出向社員たちである。

社員達の真ん中に立ったジェシカが、ニィと唇の端を上げてくる。

 

「もちろン。信じられないのなら、署名付きの書類をご用意しましょうカ?」

 

無礼とも取れる燎子の問いに、しかしジェシカは心底愉快そうに笑みを濃くした。

燎子は憮然とした様子で顔を歪めると、手元に置かれた命令書に視線を落とす

そこに書かれていたのは、にわかには信じられない作戦内容だった。

 

「百歩譲って精霊〈プリンセス〉の疑いを持つ少女は良いとしましょう。でも、なんで捕獲対象にただの人間も入っているのよ」

 

燎子はジェシカの出した資料の捕獲対象に精霊の疑いのある〈プリンセス〉の他に、詳細―――秘匿と書かれた五河士道について説明を求めた。

 

確かにAST側も精霊が学校に通っているという状況を見過ごすわけにはいかない。しかし、ただの人間を理由も無しに捕まえるわけにはいかなかった。

 

―――ただの人間を捕獲するために自衛隊が顕現装置を使用した。

 

この事実が世間にバレでもしたら、自衛隊は『ただの人間にすら武器を向ける』と、信用は失墜して支持を得られなくなる危険が出る故に。

 

「貴方にそれを知ル権利ハナイ」

 

「ならこれはなんなのよ!作戦ポイントが天宮スクエア―――それも天央祭の会場って………こんな人が集まる場所で精霊と戦争をおっ始めようって言うの!?」

 

顕現装置を使用した武装は、全世界共通で民間人には秘匿事項。その力を大衆の目の前で払い、夜刀神十香と五河士道を捕獲せよとの事だ。

普通に考えても頭がおかしいとしか思えないこの作戦には、まだ続きがある。

しかも、作戦を遂行する部隊は全てDEM社から派遣された社員のみで編成された部隊で、燎子たちは現場に近づくことは許されないのだ。

 

「これはセレモニーなのヨ。親愛なる………怨敵への挨拶ナノ」

 

「は………?敵?挨拶………?何を言って―――」

 

ジェシカはヒートアップする燎子には目もくれず、部屋の外を目指して歩き始めた。

 

「ちょっと、待ちなさい!」

 

燎子が止めると、何かを思い出したようにジェシカが足を止めた。そして振り返ってボソッと告げる。

 

「―――そうそう、言い忘れていたワ。今回の作戦は鳶一折紙一曹には知らせないように」

 

「は?そんな重要な作戦に折紙抜きって―――」

 

「これは上からの命令ナノ。依存がアレば上にまとめてドウゾ?もし撤回命令が下されれバ、大人しく従うワ」

 

ジェシカはそれだけを言い残すと、他の社員を引き連れて会議室から姿を消した。

 

「………な、なんなのよアイツら………」

 

悔しさのあまり拳を打ちつけた燎子。その時、ジェシカから渡された紙がヒラヒラと宙に舞い上がり、鬱陶しいコバエを掴むようにその紙を掴みもう一度目を通した。

 

「ん?『五河士道』………どこかで―――あ」

 

そこで燎子は折紙に作戦を知らせない事と、今回のターゲットの五河士道を掛け合わせて、要約事象が線でつながり始めていた。

 

そう………この五河士道とは、折紙の言っていた恋人の名前だったから。

 




………眠らされた士道くんは、精霊クインテットが強引に回収しました。

いつも平気でエロい事ばかりやってる士道くんだ―――パンツ売ってくださいのくだりはいらねえよな?

このまま行くと本当に美九編の前半後半合わせると三十話近くなりそうです。

ドライグ先生の次回予告

ドライグ『ついに天央祭が始まろうとしていた。相棒は誘宵美九と勝負をする事に―――来禅高校の総合優勝で誘宵美九の霊力の封印を約束させた。しかし反対に竜胆寺女学院が総合優勝をとった暁には、相棒と霊力を封印した七人の精霊たちが誘宵美九のものとなってしまう!!
相棒は、勝利し精霊たちを守る事ができるのか!?

次回 デート•ア•ライブ 〜転生の赤龍帝〜
五話「祭りへのカウントダウン!」

精霊に愛されし女帝よ、準備に励め!!お楽しみに〜』


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五話 祭りへのカウントダウン!

琴里「えーと、女体化した士道こと士織ちゃんは、誘宵美九といい感じになったんだけど………相変わらず攻められるとボロが出て、たじたじになってしまいましたとさ」

士織「仕方ないでしょ!?美九は俺と同じ顔をしてたんだぞ!?アレは服をひん剥かれて裸にされて―――パクリと行かれたはずだ!て言うか、性転換銃にムスコがそのまんまのバグがある以上、裸にされたらアウトよ!!」

琴里「だいぶ女の子らしい口調ができるようになってきたじゃない。その調子で頑張りなさい―――おねーちゃん!」

士道「お前………美九の攻略が終わったら『洋服崩壊』喰らわせてや―――ぬおおおおおおおよしのん!?」

ドゴオオオオオオオオオオ!!

琴里「………何か言ったかしら?」

四糸乃「士道さんは、よしのんの頭突きで眠ってしまわれたので、これにて終了です」

よしのん『いんやー本気出しちゃったよ。それじゃあ続きーッ!』



「で?何か申し開きはあるかしら?」

 

とある昼下がり、士道くんはフラクシナスの艦橋で正座をさせられていた。

そして目の前には腕を組んで仁王立ちをする妹司令官の琴里ちゃんの姿が。

 

「天宮スクエアで命を救った美九の好感度は、鰻登りで上昇。後一歩で封印できると思った矢先に………まさかの美九を全否定した挙げ句、霊力を封印してきた精霊たちを掛け物にして、勝ち目の薄い勝負を引き受けてきた。ここまで来ると怒りを通り越して憐れみの感情が湧くわよ」

 

「………………」

 

士道くんは、ぐうの音一つ言えなかった。この心底不機嫌な状態になった妹司令官様には原因があった。

 

美九を救った際に腕に傷を負った士道は、傷が悪化しないように美九が巻いてくれたハンカチを返そうと、竜胆寺女学院へと単身で乗り込んだ。(性転換銃で士織ちゃんに変装して)

 

案の定、士織ちゃんを見た美九は「士織さんタマリワセンワー!」と鼻息を荒げて大興奮!プライベートでお茶会をしていた取り巻きの少女たちを、自身の能力で追い払うと、美九の居城で楽しくお茶会が始まった。

 

ここまでは問題無く、事は順調に進んだ。いい感じの雰囲気になった所で美九が理性にさよならをした結果、アクシデントが発生した。

美九に―――明日から竜胆寺に転入して欲しい………と頼まれて当然士道は断った。

しかし、美九が言う事を聞かせるために霊力を使用したが、士道はそれを軽々と跳ね除けた事で、美九にただの人間ではない事がバレてしまった。

 

士道とドライグ、そして琴里も誤魔化しは効かない事を悟った。

性別は隠したままで、士道が精霊の霊力を封印する能力を有している事を伝えて交渉に臨んだ。

まずは封印した精霊に合わせる事、そして霊力が封印されればASTに狙われる心配が無くなる事を。

 

しかし………美九は他の精霊には会いたいが、霊力の封印は必要ないと言った。

 

―――自分は今のままで充分満足している。あえて力を差し出す必要はないない、と。

 

美九が精霊としての力を手放すつもりが無かったのは、明白だったが士道に後退と言う選択肢は無かった。

自分の力が制御出来ずに空間震を起こした事、そして霊力を封印するとASTに狙われる心配がない事など………その他の条件を伝えても美九が首を縦に振ることは無かった。

 

それどころか………

 

『あの空間震は私が()()()()()で引き起こしたものなんですぅ。私、天宮アリーナでは歌った事がなかったんですよー。私が歌いたかったから「えいやー」と。まあ、でもそのせいで私好みのおもちゃ(女の子)がなくなってしまうのは困りますねぇ。また新しいものを探すのに時間がかかってしまいますからぁ。でも、きっと彼女たちも本望ですよー………大好きな私のために死ねるんですからぁ』

 

………美九が呼吸をするように自然と言い放った言葉が士道の逆鱗に触れた。そしてそれを聞いていたドライグすら思わずドン引くほどに。

その様子をモニターしていた琴里が『落ち着きなさい』と声をかけるが、怒りが頂点に達した士道にブレーキは掛からなかった。

 

『俺はお前、嫌いだけどな………傲岸で、不遜、鼻持ちならない!世界の誰もがお前を肯定しようが俺は、俺だけはその何倍も()()()()()()()()()()()()()!!』

 

この言葉は、かつて自分の目の前から消え去ろうとした十香に言ったものとは真逆。

これを聞いた美九は、余計に士道を自分のものにしようと意気込み勝負をふっかけてきた。

天央祭一日目に来禅高校が総合優勝を取れば、士道が美九の霊力を封印できる。

反対に竜胆寺が総合優勝をもぎ取れば、士織と封印してきた七人の精霊が美九の物になると言う勝負内容。

 

その上―――美九同様に士道もステージに立たなければならない………と言う条件付きで。

 

………しかもタチの悪いことに、天央祭の一日目は音楽関係の催しがメインとなるため、士道にとって条件はこの上なく悪い。

しかし、美九の霊力を封印する以上は避けては通れない道―――士道はその勝負に迷わず乗ったのだ。

 

「………どうするのよ?もしこれで負けたら、私たちは美九のものに―――って何よ、そのムッカツク顔は!?」

 

正座をしながら正座をしながら鼻の下を伸ばして見上げる士道に、琴里は堪らず怒鳴り声を上げる。

士道はトカゲが壁を這い上がるように、四足歩行をしながらじわじわと琴里に距離を詰める。

 

「パ、パンツ!パンツ見えそう。あと少し、あと少―――グエっ!?」

 

「覗くなッ!!」

 

パンツを見ようとする変態兄の頭を靴底で踏み潰してその顔面を地面に叩き付ける琴里ちゃん。しかし、士道くん止まらない!!

 

カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャ………!

 

顔面を踏まれた士道くんだったが、彼の辞書に『諦める』と言う言葉はない。踏まれる少し前に、スマホを取り出して琴里のスカートの中にフラッシュの嵐を巻き起こす!

美九攻略のためとはいえ、女装と女体化させられた恨みをぶつけるかのように琴里のスカートの中をまさかの連写!!

この一般人ドン引きの行為に、琴里ちゃん叩きつけた顔面をシュート!!

 

「と、撮るなあああああああ!!」

 

「―――ギャンッ!?」

 

某サッカーアニメの角間とか言う実況者がいれば、「ゴオオオオオオオルッッ!!」と叫んでいるに違いない。士道はフラクシナスの壁へと叩き付けられると、バウンドして再び地面に這いつくばった。

 

「………シン、それから琴里。兄妹愛の強いじゃれあいをしている場合ではない。今私たちが考えるべきは、どうやってシンを勝たせるか―――この一点に限ると思うが?」

 

既に賽は投げられている。令音の指摘は核心をついているのだが………

 

「にゅうううううううう♪」 

 

壁に激突した士道を慰めるように、令音は自分のおっぱいに士道を押し込んでいた。

士道くん、ここでもブレずにキョニュウムを吸収!乳気の吸収チャンスは絶対に逃さない!

 

「その通りよ令音―――でも、とりあえず胸に押し込んでいる士道を、今すぐに解放してくれないかしら………【(メギド)】の餌食にはなりたくないでしょ?」

 

「………分かった」チッ

 

それを見た琴里ちゃんは、嫉妬で『灼爛殲鬼(カマエル)』を顕現させて砲門を令音に向けると………怯えながらも小さく舌打ちをして士道を解放した。

 

「とにかくあなたがステージに立たない事には、勝負は始まらないわ。何とかステージに立てるよう交渉して来なさい」

 

「あいよ。それから、今回はフラクシナスの力を借りたい。正々堂々を謳う仁徳には悪いけど、まともにやり合っても勝てる相手じゃない。俺に力を貸してくれるか?」

 

士道が深々と頭を下げると、琴里を始めとしたクルーたちは首を縦に振った。

 

「素直に私たちを頼ってくれるなんて、嬉しいじゃない。言われなくても最大限のサポートを行うわ」

 

「すまないありがとう」

 

………こうして美九の霊力を封印する作戦が決行されようとしていた。果たして士道は、絶対王者の牙城を崩し、美九の霊力を封印する事ができるのか!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――◇◆―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして次の日。

士道は、フラクシナスで性転換銃を撃ち込むと音楽室を目指して歩き始めた。既にホームルーム終了のお知らせは学校全体に鳴り響いている。ステージ部門に参加させて貰うため、亜衣麻依美依トリオに頭を下げに来たのだが………

 

「もう付き合いきれない!」

 

「あなたたちで勝手にやりなさいよ!!」

 

プンスカと憤怒の表情を浮かべながらドシドシと靴音を響かせながら、音楽室から役五人ほど女子達が出て来た。

室内を伺うと、目の下を人差し指で引っ張り舌を出す亜衣の姿が。

 

「バーロー、やる気のねえ奴はこっちから願い下げだぃ!」

 

メンバーの大半が去っていく中、必死に強がる亜衣。しかし残ったもう二人のメンバーは、亜衣ほど心臓は強くはなかった。

 

「ってどうするのよ、もう私たち三人しかメンバーは残ってないじゃない!?」

 

「マジ引くわ〜」

 

この通り、麻依が状況を分析してどうにかできないかを真剣に考え、美依が平常運転。

しかし、これは士道―――士織ちゃんにとっては願ってもないチャンスだった。士織は音楽室に入って亜衣に声をかける。

 

「あの………山吹さん。お願いがあるんですけど」

 

「おおっ、五河くんの従兄弟の士織ちゃんじゃあないですか。それで、お願いとは?」

 

「私をステージ部門のバンドメンバーに加えていただけ―――ちょっ!?何を………」

 

ガシッ!

 

士織ちゃんがペコリと頭を下げると―――亜衣麻依美依トリオが逃がさないように両腕を拘束して来た。

バンドメンバーが大量離別した今、亜衣麻依美依トリオにとって士織ちゃんは得難い人材―――もっと言えば、ネギを背負って飛んで来たカモ。

 

………亜衣麻依美依トリオは死んでも士織ちゃんを逃すわけにはいなかったのだ!

 

「ああ、神は私たちを見捨てなかった」

「歓迎するよ、士織ちゃん」

「マジ引くわ、マジ引くわ」

 

「あ、ありがとう………ござい、ます」

 

キラキラと目を輝かせる亜衣麻依美依トリオに、士織は引き攣らせた笑みを浮かべていた。

しかし、ステージ部門の参加希望者はまだ居たようで………

 

「おおっ、この前見たドンドコがあるではないか、是非とも私も参加させてくれ!」

 

「士織が参加するなら、私も参加する」

 

「なんだか面白そう………私も参加していいかな?」

 

同じクラスを代表する三人の美少女―――十香、折紙、凛袮の三人もステージ部門への出馬を表明。これには亜衣麻依美依トリオ、思わず感涙!

………ちなみにドンドコはドラムだ。十香は前日に見た、誘宵美九のミュージックステージでのドラムを叩いたみたいと思っていた。

そしてドラムを見るなり、歯止めが効かなくなってしまったのだ。

 

「うおおおおおおお!神様ありがとう!」

「奇跡って何度も起きるのね!?」

「マジ引くわマジ引くわマジ引くわ―――マジ、引くわ〜」

 

メンバーがほぼ元通りになった所で、早速楽器の内訳を決めようとしていた。

 

「んじゃあ、みんな使える楽器はある?」

 

「ギターなら、少々」

『少々どころか、此奴らの倍以上の経験があるではないか?中学の野球部の部活動紹介で弾いて見せたり、小遣い稼ぎで路上での投げ銭―――「おい止めろドライグ!!」』

 

ちなみに亜衣はベース。麻依はドラム。美依はキーボード。ドライグ先生に黒歴史をバラされそうになり、慌てて思念を送ってその口を塞がせた。

 

………ちなみにドラムが予約済みなのを見て十香は「おおおおおおおおおおお………」と嘆きの声を上げてペタリと頭を抱えて地面に膝を突いた。

 

それを見た亜衣が音楽室の奥から小さな箱を引っ張り出して、中身を取り出して十香にそれを差し出した。

 

「十香ちゃん………あなたには、これを託すわ」

「常人には到底扱いきれない、伝説の楽器よ」

「マジ引くわ〜」

 

「おお………これが伝説の楽器、とやらか!?」

 

亜衣から十日に手渡されたのは―――シャンシャンと言う綺麗な音が鳴る楽器、タンバリンだ。

十香ちゃん、渡されたタンバリンを手に楽しげな表情を浮かべてシャンシャンシャンシャン鳴らしていた。

 

『………滑稽だな。しかし、夜刀神十香はそれでいい』

「あ、ははははは………」

 

微笑ましく見つめるドライグ先生と乾いた笑みを送る凛袮。これで士道と十香の楽器は決まった。今度は亜衣が凛袮と折紙に迫り寄る。

 

「後は鳶一さんと園神さんね―――ねぇお二人さん、是非ともボーカルをやって欲しいの。実は私たち三人の中でまともなボーカルが居なくて………」

 

「………………」

「ボーカルか………私、トランペットやフルートならできるんだけど」

 

折紙は何かを考えて黙り込み、凛袮は自分の弾ける楽器をアピールした………ちなみに凛袮は母が吹奏楽のエリートでもあったため、楽器は親にそれなりに叩き込まれたのだ(現在はラクロス一本で全速前進中)

亜衣がキラキラとした目でお願いをすると、士織ちゃんは何かを思い出したかのように手をポンと叩く。

 

「………確か、凛袮―――ンンッ!園神さんは歌が凄く上手だって士道から聞いてるんだけど、歌ってくれませんか?」

 

「ええっ!?」

 

いきなり士織ちゃんから歌を振られてひっくり返ったような声を上げる凛袮。そして、士織ちゃんは凛袮が大好きなアーティストの曲をスマホから流す!

 

「それじゃあ園神さん―――ミュージック、スタート!」

 

「ちょっ―――」

 

いきなり曲が再生され、伴奏が始まった。それに合わせて―――凛袮が歌い始める。楽しげな表情を浮かべて歌う凛袮の姿は―――聞いていた士織ちゃん達を魅了させた。

 

『――――――』

 

『………大したものだ。綺麗な声という天から与えられた才能が大きいのだろうが、この少女の歌は聴いていると、何処か元気が湧いてくる。それはこの少女は歌う事が好きなのだろうな』

 

ドライグ先生もお墨付きを与えるほど、凛袮の歌は素晴らしかった。そしてこの歌なら―――今を輝くミステリアスアイドル、誘宵美九とも十分に渡り合えると。

 

そして曲が終わると、拍手と歓声が上がった。

 

「ヤバい!ヤバすぎる!これカラオケバトルに呼ばれるレベルでしょ!?」

「園神さん凄い!凄いよ!!これなら竜胆寺とも互角に渡り合えるよ!!」

「マッッッッッッッッッッッジ、引くわあああああああ!!」

「凄いです園神さん!」

「よく分からんが、凄いではないか凛袮!」

 

「みんな、大袈裟だよ………」

 

拍手と歓声に凛袮は照れ臭そうに笑みを浮かべていた。これで凛袮のボーカルが決定しようとしたその時――――――もう一人のボーカル候補がスマホから音楽を流して、それを歌い始めた。

 

「………え?」

 

士織ちゃん思わず折紙の歌を聴き入っていた。いや、士織ちゃんだけではなく、亜衣麻依美依トリオに十香、そして先程大歓声を上げさせた凛袮までもが、折紙の歌に心を奪われていた。

 

折紙の心は一つ―――士道を取り合うライバルとして負けるわけにはいかない!これだけだ!!

 

「鳶一さんの歌………凄く力がある」

 

凛袮が歌の邪魔をしないようにボソッと小声で言うと、士織も首を縦に振った。そして最後の一節を歌い上げると………再び拍手と歓声が上がる!

 

「うっわ、なに、すっご!?」

「鳶一さんそんなに上手かったの!?」

「マジマジマジマジマジ引くわ〜」

「これは、園神さんと折紙さんのデュエットで決まりだな」

「おのれ鳶一折紙!こんな特技があったか!」

 

『………この小娘に出来ない事はないのか?勉強できるわ、スポーツも完璧でおまけに家事に戦闘力まで兼ね備える。ここまで来ると、一般人ドン引きのレベルだぞ』

 

そして、士織ちゃんは凛袮と折紙に深々と頭を下げる。

 

「園神さん、折紙さん―――二人ともボーカルをやってくれませんか?」

 

士織だけでは無い。亜衣麻依美依トリオも士織に続いて「お願い」と頼み込む。

 

「士織の勝利のためならば」

「そこまでされたら、断れないよ………私、ボーカルやります!」

 

二人とも快く引き受けてくれた。この七人が初日のステージ部門への出場申請への書類を作成して、士織ちゃんは教員に提出したのであった。

 

「Ready Perfectly―――準備は完全に整った。このメンツなら天央祭のステージ部門制覇だけでなく、バンド界に革命も起こせるんじゃないか?」

 

『相棒―――それ、言いすぎ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――◇◆―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美九を擁する竜胆寺女学院との決戦に備えて、バンドの練習が熱を帯び始めてから数日。午後からの時間を天央祭の準備にフルで当てられていた、短縮授業が終わりを迎え再び通常授業が始まった。

そして時刻は一五時三〇分。ホームルームが終わって靴を履き替えるお時間だ。

 

「今日は亜衣麻依美依トリオと仁徳が、模擬店部門の交渉に行ってくれたおかげで俺はフリー。さあ、楽しいことやってやるぜ――――――って時に雨なんざ降ってんじゃねえ!!」

 

実行委員長に任命されてから約二週間、日曜日以外は八時帰宅が続いていた士道くんだったが、今日は実行委員の仕事とバンド練習から解放された。しかし、天気は悪く大粒の雨が横殴りで降っているのだ。

 

「くっそー、十香たちの誰かを誘って楽しくお出かけと思ったんだがなぁ………しゃあねえ、神奈月さんから借りたエロゲーでもやるか」

 

自分のロッカーに上履きを入れて、カバンから折り畳み傘を出して帰ろうとしていた時、昇降口で何かソワソワした様子で佇む、黒髪を二つに結わえた少女の姿が。

 

「くるみん?どうしたんだ―――まさか、傘忘れたのか?」

 

その少女は、最悪の精霊〈ナイトメア〉の分身体の一人―――くるみんだ。士道の言葉にくるみんは首を縦に振る。

 

「そうなんですの………今朝は少し寝坊をしてしまって、荷物の確認ができなかったもので」

 

「そうか―――じゃあ、一緒に帰ろうぜくるみん。女神に風邪なんざ引かさられないからな」

 

士道は傘を指すと、笑顔で手を差し出してくれた。くるみんはその手を笑顔で取った。

 

「ええ!」

 

傘を忘れた事で訪れた久しぶりの士道との時間。くるみんは士道の腕に身を寄せて、抱きつくように体を押し当てた。

髪から感じられる甘い匂いと、腕に押し付けられた柔らかな感触に士道くん、思わずニッコリ。

 

「くるみんは天才かッ!?おひさまのような匂いに、おっぱいが当たって―――ぐへへへへへへ!」

「喜んでもらえて嬉しいですわ!それでは………士道さんにサービスですの」

 

『………今日はいつにも増して強気だな。相棒の下品な笑みを見て、いつもなら悲鳴を上げているのだが』

 

グヘグヘと下品な笑みを浮かべる士道に、くるみんはさらに強く自分の体を押し当てる。六華に八舞ツインズといった新たな精霊たちが加わり、士道へのアピール合戦はさらに激しさを増した。

傘を忘れた事で訪れたこのチャンスを必ず物にしようと、くるみんは燃えていたのだ。

 

「くるみんはゴッデスだ!俺様の欲望を叶えてくれるエロゴッデスさまだ!さぁて、今日はどんな下着を穿いているのでしょうかねぇ………ぐへへへへへ!」

「士道さん、わたくしエロくなんかありま―――ひっ!?」

 

『………ああなんだ。いつも通りか』

 

珍しく攻めに出たくるみんだったが、おっぱいを押し当てた事によって士道くんが欲情!そして下着を見ようとスカートへと手を伸ばす姿を見て、小さく悲鳴をあげて距離を取った。

これを見たドライグ先生は、平常運転である事に気付き微笑ましい様子で見守っていた。

 

その時だった――――――

 

ビイイイイイイ―――バシャアッ!

 

くるみんが恐怖を感じて士道から距離を取ったその時、運悪くトラックがクラクションを鳴り響かせた。

それを聞き取った士道がくるみんを抱きしめ、近くのブロック塀に押し付けた。

士道のすぐ横を通り抜けたトラックは、水飛沫を士道に掛けると―――そのまま止まる事なく走り去った。

 

「くるみん、大丈夫か?」

 

「はい………ありがとうございますわ、士道さん」

 

士道がくるみんを抱きしめた事で、くるみんはトラックと接触することも、体に水飛沫が掛かることもなかったのだ。

だが、相棒の一言が士道くんの理性にガソリンとライターを同時に投げ込む!

 

『相棒、時崎狂三を抱きしめるのではなく、そのまま引き寄せていれば―――二人ともずぶ濡れになって一緒にシャワーを楽しめたのに………残念だったな』

 

ドライグ先生がケラケラと笑いながら言った言葉に、士道くん巨大な時計と右手に銃を顕現!

このセットは、くるみんが士道に託した天使―――『刻々帝(ザフキエル)』だ。この中には、過去に行くものや意識だけを過去に送る物も存在する。

士道くんは、その能力を使って二人ともずぶ濡れになる事象を選択するため、タイムループをしようと考えたのだ!

 

「来やがれ『刻々帝(ザフキエル)』―――俺は今の場面、やり直しを要求する!!」

「ひっ―――あ、ああああああの士道さん!?ほ、本気なんですの!?」

 

最高に下品な笑みと鼻血を垂れ流しながら、顳顬に霊力を込めた弾丸を撃ち込もうとしている士道くんに、くるみんが悲鳴じみた声で確認をとる。

しかし、くるみんはすぐに士道が本気だという事に気付いた。

 

―――この男は、エロが絡むと冗談という行為が無くなることを分かっていたから。

 

ここままでは、トラックにびしょ濡れにされる未来が見えたくるみん―――慌てて士道の凶行を阻止!

 

「ああもう!そんなにわたくしとシャワーがご所望なら、叶えて差し上げますわよ!わたくしが士道さんのお背中、流してあげますわ!」

 

「マジで!?くるみん、今の言葉録音したからな!」

 

「ひっ、いつの間に!?士道さん、もう少し欲望を抑えて下さいまし………」

 

「断る!断あああああある!!くるみんのような美少女の誘いを断るなんざ、漢の風上にも置けない非情な行為だ」

 

「はあ………本当に、士道さんは、いつでもどこでも士道さんですわね」

 

この男が自分の欲望に嘘をつく事はない。全くブレることを知らない士道くんを見て吐いた、盛大な溜息と共に改めてそれをくるみんは理解したのであった。

 

そして、そこから約五分ほど歩いて五河家に到着すると、士道くんは濡れた服を洗濯機に叩き込み、浴室でシャワーを浴びていた………現在はバスチェアに腰を落とし、髪をシャンプーで洗っている最中だ。

 

「くるみんとシャワーか。やっべえ!めちゃくちゃ滾ってきた!!」

『はぁ………本当に来ると思うのか相棒。あの小娘は今日来るとは言っては―――………まさか、本当に来るとはな』

 

ガチャ………

 

士道がシャワーで髪を洗浄したシャンプーを流したタイミングで、くるみんが扉を開けて士道がシャワーを浴びる浴室へと侵入。バスタオルを体に巻いた状態で入って来たため、女性の象徴たる部分は隠れているが、自分が約束した事をこの通り果たしに来た。

律儀に約束を守りに来たくるみんを見て、ドライグ先生は目を点にするように驚いていた。

 

「士道さん………お背中、流しますわ」

 

「おおっくるみん!俺は来てくれると信じてたぜ、ぐへへへへへ!」

 

くるみんは、膝を曲げてバスチェアに腰を落とす士道に高さを合わせて、ボディーソープをスポンジに付けて、優しく士道の背中を擦った。

………布巾で水を拭き取るようゴツゴツとした鍛え上げられた背中に、泡を纏わせていく。

 

「士道さん、痒くはありませんか?」

 

「ちょうど良い感じだ………続けてくれ」

 

士道の言葉を聞いたくるみんは、今までと同じ加減で士道の体をスポンジで擦る。腕や肩………そして足へと泡を纏わせていく。

逞しい士道の体を見ながらくるみんは、頬を染めて欲望と理性の狭間をうろうろしながらも、順調に作業を進めた。

 

くるみんは何とか理性が欲望を押し殺す事に成功したが………士道は欲望を抑え込む事は敵わなかった。

それはこの後の二人の会話が証明している。

 

「んしょ………んふっ………士道さん、気持ちいいですの?」

「ああ。控えめに言っても最高だ」

 

現在くるみんは士道の前側………胸やらお腹を優しく擦っているのだが、背中腰に自分の体を押し当てながら、それを行なっている。

くるみんは、擦り加減を聞いていたのだが、士道くんは押し当てられるおっぱいの感触について返しているのだ!

くるみんはバスタオルを纏ってはいるものの、大好物がフニフニと押し付けてくる―――しかも、くるみんが動くたびにその感触が変化する。

 

一生懸命に士道の体を洗おうとする度に訪れる、柔らかな重みに士道くんは猛りに猛っていく!!

 

しかし………そこから時間を数えるほど約数分程で、幸せな感触は突如として去っていった。

くるみんは、士道の体に洗い残しが無いことを確認すると―――バルブを回してシャワーをかけて士道の体の泡を落としていく。

 

全ての泡を士道の体から落とすと、くるみんは立ち上がって浴室のドアノブへと手を触れた………これで果たすべき約束は果たした故に。

 

「それでは士道さん………ごきげんよう」

 

くるみんがドアノブを倒し、外に出ようとしたその時だった。士道は立ち上がってくるみんを抱きしめた………くるみんをこのまま行かせないために。

 

「あ、あの………士道さん?どうしたんですの、わたくしはもう―――」

 

「―――今度は俺がくるみんの背中を流したい」

 

「………ッ!」

 

士道が耳元で囁くように言った言葉に、くるみんは顔に熱を持った。それも士道の背中を擦っていた時とは、比較にならないほど熱く。

士道は腕に込める力をさらに強め、狂おしい程にくるみんを抱きしめる。

 

「ここまでして貰って俺だけってのは嫌だ………俺にもさせてくれないか?」

 

「士道さん、ズルいですわよ。そんな言い方されたら………誰だって断れませんわ」

 

士道が耳元で囁いた願いを聞いて、くるみんは振り返って体に巻くバスタオルを床へと解放した………その結果、真珠のような透き通った白い肌が隠される事なく士道に晒された。

 

「くるみん………綺麗だ」

 

「―――ッ!ほ、ほら士道さん、早くして下さいまし!琴里さんや六華さんが帰って来られると面倒ですわ!」

 

士道から放たれた「綺麗だ」という言葉に、くるみんは顔を真っ赤にしてそっぽを向いてバスチェアへと腰を落とした。

………これはテレ隠しだ。想いを寄せる男にこのような言葉をかけられた今の顔を見られたくなかったのだ。

 

今の自分の顔は―――これまでで一度もした事がないものに相違ないから。

 

「ああ。分かった………優しくするよ、くるみん」

 

士道はボディーソープを手につけると………そのままくるみんの肩へと触れた。スポンジのような柔らかい感触ではなく、ゴツゴツとした硬い感触が撫でるように、広がっていくことにくるみんは嬌声が漏れる!

 

「ふあっ!?し、士道さん。どうしてスポンジではなく直接触れているんですの!?」

 

「肌は髪同様に女の命。肌を傷付けないためには、直接手で洗うのが一番良い」

 

「そ、それは分かりましたわ………で、ですが―――ああっ!ひぃっ!一言言って―――ああああっ!!」

 

くるみんの言葉を聞きながら、士道はくるみんの体に手を滑らせていく。浴室からはくるみんの甘い吐息が何度も漏れ出て、這い回る逞しい漢の手の感触に嬌声を我慢する事ができなかった。

 

「し、士道さん―――あっ!ぃやっ!す、少しペースを―――んんっ!んああああああああっ!!」

 

士道くんによる愛と欲望に塗れた体洗いによって、くるみんは何度も嬌声を漏らしたのであった。

 




最後の方は完全にくるみんだけの流れになりましたが、前章ではあまり出番が無かったので、この話で見せ場を作りました。

極力全ヒロインが当分で活躍できるよう、描いて参ります!

………最後のシーンに関しては、その後の展開は各自のご想像にお任せします!

ドライグ先生の次回予告

ドライグ「さあさあ始まりました天央祭。来禅高校の相棒たち二年の模擬店は男子が執事喫茶、女子はメイド喫茶だ。それぞれ学年を代表するイケメンと美少女で布陣を固め、死角は何処にもない!
相棒たちは、総合優勝を勝ち取る事ができるのか!?

次回 デート•ア•ライブ 〜転生の赤龍帝〜

六話 「決戦、天央祭 前編!」

精霊に愛されし女帝よ、冷静沈着であれ!楽しみにしておけよ?』

※次回以降はシリアス展開が続きます。


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六話 決戦 天央祭 前編

前回のあらすじ

くるみん「前回は士道さん―――士織さんがステージ部門で亜衣さん達とバンド演奏をする事になりましたの。それから十香さん、凛袮さん、折紙さんの三人も加わり、美九さんとの勝負に大きな自信を持ちましたんですの。それから、私は士道さんに乙女の純潔を―――」

士道「言い直すな!そのままで良かったから!それから、それ以上は言わないで、六華に殺されるから!!」

くるみん「何を言っているんですの。士織さん、とおっても可愛いですわよ?それから、わたくし六華さんにきちんと言いましたわよ―――『これでわたくしも追いついた』と」

士道「なあくるみん―――この前の続きを模擬店のスペシャルイベントでやっても良いんだぜ?俺がくるみんを裸にして、客の目の前でその体を触りまくって――――――」

くるみん「ひっ!?あ、ああああああの士道さん!とっても悪い顔になられてますわよ!?」

士道「ぐっへっへっへっ!喰らえ洋服崩―――んぎゃあああああああああ!?」

六華「浮気は許しません!」

士道「ああああががががが!?目がああ!目が痛いよおおおおおお!!」

ドライグ『全く毎度毎度世話が焼けるな相棒は………それでは、続きだ。待たせたな』


士道が精霊攻略の際に頭を悩ませる要因の一つでもある、陸自の武装集団―――ASTの巣窟、自衛隊天宮基地。

その中には、士道の友でもあり恋人(自称)の折紙もそこで汗を流している。謹慎が解かれ、前線に復帰する事になった折紙は装備のメンテナンスに当たっていたのだが………

 

「………?」

 

ここ数日、隊員たちの自分への態度が急によそよそしく思えてならない。いつもなら、目を合わせると学校生活のことなどを話していたのだが………今では、目を合わせた隊員たちが露骨に目を逸らし、さらに近づかないようにされるなど、完全に腫れ物扱いされている。

 

その時、DEM社から出向して来た整備主任のミルドレッド―――通称ミリィが、歌を口ずさみながらすぐ後ろを通り抜ける。

 

「♪♪♪―――青空ー駆け抜け〜雲の谷間を飛んでゆくー♪」

 

何ともナイスなタイミングで現れたミリィ。折紙は通り抜けたミリィの襟首に手を伸ばす!

 

「♪見ろ!アレは我ーら―――ふぎゃっ!?」

 

ルンルン気分で歌唱中だった所に、突如与えられた衝撃にミリィは猫のような悲鳴を上げる。

折紙はそのままミリィの襟首を掴んだまま、基地の人気の無い場所へと引きずりこんだ。

何の前触れもなく日の当たらない場所へと連れ込まれたミリィは、当然声を裏返す!

 

「何するかぁ!ミリィの頚椎に何かあったらどう責任を取るんですかぁ!」

 

「問題ない。あなたの頚椎に損傷が見られたその時は、責任を持って私が治す―――具体的には麻酔薬と針、それからメスがあれば問題ない」

 

「まさかの手術!?オリガミ、免許は―――」

 

「………そんなものは無い」

 

「無免許!?いやぁ解体されるぅぅぅぅ!!」

 

無表情で医者の真似をする様に手を動かす折紙を見て、ミリィは化け物を見た様子で後退り後方の壁へとぶつかった。

アットホームな雰囲気に流されそうになった折紙は、表情を変えずにミリィに要件を訊ねる。

 

「それでミルドレッド………一体何を隠しているの?」

 

「ふぇ!?そ、そそそそそんな!?お、オリガミに隠し事なんて………するわけ―――な、ななななな、ないじゃないですか!?」

 

折紙が訊ねると、ミリィは視線を泳がせて両手を広げて体の前を左右させた。この反応を見て折紙は確信した。

………ミリィは隊員たちの態度が急によそよそしくなった事について、何か心当たりがある事を。

しかし、あくまでシラを切る様子のミリィを見た折紙ちゃん、肉体言語に出る!

 

「ミルドレッド………」 バゴ―――ビシィッ!

※折紙ちゃん近くの壁をキック!壁にはくっきりと靴跡が入り込み、さらにそこからいくつもの罅が生まれました。

 

「ひぃぃぃぃぃ!?は、話す!話しますから!!」

 

―――話さないなら、貴女はこうなる………

 

折紙が名前だけを呼ぶ脅迫を残すと………ミリィは再び猫のような悲鳴を上げて、溜息を吐いた後に口を開いた。

 

「実は明日大きな作戦があるのです………」

 

「作戦?」

 

ミリィから『作戦』という言葉が出て折紙は堪らず訊き直した。それも大きな作戦ともなると、遅くとも一週間前には全員が周知していて然るべきもの。

しかし、折紙はその作戦の内容は知らされていなかったのだ。

 

「………教えて、何があるの?」

 

「明日の作戦は―――」

 

ミリィが作戦内容を折紙に伝えようとした時、DEM社からの出向社員の中での女帝と呼ぶべきボスが靴音をカツカツ鳴らしながら現れた。

 

「お喋りはそこまでヨ、整備主任サン。仕事に戻りなΨ」

 

「ふにゃああああああああ!」

 

ジェシカに言われると、ミリィは猫が逃げるような泣き声を上げてその場から立ち去った。

そしてその様子を見たジェシカは、満足そうな笑みを浮かべて言葉を残して立ち去った。

 

「ここから先は秘匿事項デス。文句がアレバ上へドウゾ」

 

「………」

 

小さくなっていくジェシカの背中を見ながら、自分の仕事へと戻った。相変わらず職員からは、腫れ物扱いされて非常に居心地が悪かった。

折紙は格納庫での作業を手早く終わらせると、自分のロッカーへと足を進めた。

 

ウィーン………

 

折紙が作業服を脱ごうとロッカールームの扉を開けると………上官である燎子が何やら元気が無く俯いていた。

扉が開かれ燎子は視線だけを動かして入って来た折紙を認知すると………突然声が聞こえて来た。

 

「あーあ、今日も一日、嫌な外国人の相手疲れたわねー。愚痴らないとやってられないわー………丁度誰もいないみたいだし」

 

「………!」

 

壁に向かいながら独り言を言う燎子を見て、折紙は着替えを途中で止めて燎子を見た。

壁に向かったまま燎子の独り言は続く。

 

 

「―――明日九月二三日、一五〇〇時、天宮スクエアに第三戦闘分隊が突入するわ。目的は精霊〈プリンセス〉の疑いのある少女・夜刀神十香………及び、存在を秘匿された来禅高校二年生・五河士道の捕獲」

 

「………な」

 

折紙は小さく声を発する。第三戦闘分隊とは、DEM社出向社員達のみ構成された部隊。それが明日、天央祭の真っ只中で行われる。

それを聞いた折紙に宿ったドラゴンが見解を述べる。

 

『なるほど―――他の隊員共の態度に合点がいきました。マスターの想い人の五河士道の捕獲となれば、マスターは賛同せず逆に妨害を考えるでしょう。しかし、この女は隊を指揮する者のはず………その作戦内容をマスターに?』

 

アルビオンが述べた見解に折紙は呆然と立ち尽くしていた。やはり士道の存在はDEM社には完全に把握されている。どこから情報が漏れたのか、と………

燎子はロッカーからタオルを取り出すと、入り口の方へと歩き始める。

 

「クソダルすぎるわね明日の作戦。面倒だから第二格納庫の裏口に鍵掛けるのヤーメタ。トラブルなんて起きないでしょうし、何も問題ないわねー」

 

それだけを言うと、すれ違い様に折紙の肩に優しく手を落とした。

 

そして―――

 

「頼んだわよ、折紙」

 

そんな台詞を残して完全に燎子はロッカールームから去って行った。

 

「―――っ………」

 

燎子が消えた扉を見つめた折紙は、拳から血が滲み出るほど強く握りしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――◇◆―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天央祭が始まる二時間前………士道は会場で着替えを行なっていた。士織ちゃんに変身するためである。

いつもはフラクシナスで着替えを済ますのだが、現在フラクシナスでは精霊たちの定期の健康診断が行われているため、今日は会場で着替えなければならないのだ。

………ちなみに約一名は、士道の性転換銃での女体化の件を知らない精霊がいる。その子に知られない為にも、会場で着替えをする事を選んだのだ。

 

「ぐへへへへへへへ!これで俺のコレクションはさらに増えるぜ!さてさて、お兄さんがみんなのお体の成長度合い、しっかり確認しますからねぇ!」

 

健康診断が行われる事を見越して、士道はフラクシナスに大量の隠しカメラを仕掛けた。ぬいぐるみの目の中やら、棚の隙間、照明付近の死角部分や、トイレなどなど。

バレれば四糸乃のパペット―――よしのんの頭突き待った無し。しかし、オカズの補充は士道くんにとっては急務!自家発電も同じものを何度も観ていると、飽きてしまうからだ。

 

『心配いらんぞ相棒。昨日の夜中に五河琴里が、館内の職員を総動員して隠しカメラを探していたぞ?故にその作戦は破綻だな』

 

「琴里ィィィィィィ!?毎度毎度邪魔しやがって………」

 

ちなみにスマホで隠しカメラの映像を確認すると………いずれも画面に『error』の文字が。士道くんが仕掛けたものはいずれも琴里によって破壊されてしまったのだ。

 

「………しゃあない!こうなりゃ最後の手段だ―――精霊たちに土下座で頼み込もう『エッチな写真撮影会をさせて下さい』ってなあ!!」

 

『六華に頼むのが一番手っ取り早いだろう。頼めば勿論だが、相棒に寝込みを襲われようが奉仕をしてくれるは六華だけだ。六華に頼めば写真撮影の後に、+αでご奉仕もしてくれるのではないか?』

 

「―――良し決まりだ!六華にLINE入れとこう!」

 

士道くんのアドバイザーのドライグ先生からの助言に、スマホを開いて六華にメッセージを送ろうとLINEを開くと………既に一件、六華からのメッセージが。

 

―――士道さま、フラクシナスに仕掛けた隠しカメラの件でお話があります。私たち、七人の精霊の裸を盗撮する事が目的だったのでしょう………私という妻がありながら、何故このような事を?

隠しカメラなど仕掛けなくとも、私に言えばいつでも裸の写真の一枚や二枚は撮らせて差し上げます。最後に一言………浮気は許しません!今日の夜はお仕置きです!私が満足するまで寝かせませんから、そのつもりで。

 

メッセージを見た士道くん、顔を真っ青にした。六華を満足させるのは非常に大変なのだ………若いエネルギーに満ち溢れている士道くんでさえも、精力剤の力を借りるほどに。おまけに先日は行為の途中で、士道くんの腰が抜けてしまうハプニングもあったと言う恥ずかしい話もある。

これにはドライグ先生も思わず苦笑い。

 

『相棒、気張れよ。心配しなくても腰が抜けたら、勝手に六華が相棒の腰の上でダンスを踊るさ。それよりも、さっさと士織ちゃん化した方が良いぞ?その内、そろそろ早出組の連中が顔を出す時間だ』

 

「ああ………分かっている」

 

それだけを言い残すと、ドライグ先生は眠りについた。今はこれを考えても仕方が無いため、士道くん一旦考えるのを辞めた。そして、スーツケースに仕舞い込んだ戦闘服を取り出して床へと置き、さらに性転換銃を自分に構えて打ち込む!

 

ビイイイイイイイッ!

 

何も無い部屋に突如光源が現れたように、黄金の光が部屋全体を照らす!光が止むと………士道は士織ちゃんへと大変身を遂げたのだが………事件が起こった。

 

「え………?」

 

カンカラカラン………

 

突如、部屋の外から何か金属物が落ちた音が聞こえて、士織ちゃんは慌てて部屋の入り口の方へ視線を送ると………ウェーブのかかったセミロングの髪を持った少女が両手で口を覆っていた。

 

どうやらその少女は、士織ちゃんの変身シーンの一部始終を見てしまい、目を大きく開いて一歩後退りった。

 

「そ―――園神さん!?」

 

その少女とは―――凛袮だ。当然だが、士道は幼なじみの凛袮にも士織ちゃんの正体は隠していた。いくら長い時を歩んだ存在でもある凛袮と言えども、この事を話すわけにはいかなかった。

百合っ子の精霊を攻略する為に、正体を偽って天央祭に参加しようとしている事を。

 

「―――これは、一体どう言うことかな?今、士道が………士織さんに」

 

「いや、俺は士道じゃ無くて―――」

 

何とか誤魔化そうとする士織ちゃんだったが、相手は他人の洞察においては右に出る者はいない凛袮。真実を見た凛袮は当然ながら士道に詰め寄る。

 

「説明してくれるよね士織さん………いや、士道」

 

「だから俺は士道じゃ―――あ、あの園神さん!?一体何を………」

 

「いいから、じっとしてて………」

 

凛袮は士織の両肩を掴んで拘束すると………スンスンと士織ちゃんの服の匂いを嗅ぐ。それだけではない、士織化してダボダボになった制服のズボンのポケットから、士道の財布を取り出し確認する。その財布からは、言い逃れができない決定的な証拠が出てきてしまった。

 

「やっぱり士道の匂いがする。それから士道、これは何かな?」

 

「うっ………それは」

 

………ちなみに十香同様に凛袮は、士道の匂いを嗅ぎ分ける事が可能だ。これは十香同様に士道への愛がなせる技である。

 

次に財布から出てきたものは………修学旅行で訪れた或美島で購入したキーホルダーだ。

それは、修学旅行で或美島の宿舎のお土産コーナーで、凛袮と揃えて買った物だったのだ。おまけに残り二つしかなかった物を二人で買ったと言う事実がある。

その事を凛袮も知っているため、言い逃れはまず不可能だった。

 

そして………凛袮の捜査は財布の中身にまで及んだ。

 

「それから、財布の中にあるお守り―――これは星照さんが士道に作ったものだよね?委員会の仕事で疲れ切った士道を思って―――」

 

この通りである。名探偵•園神凛袮の前に士織ちゃんは、たまらず膝を折り曲げて地にひれ伏し、降参の意を示す!

これも士道くん同様に士織ちゃんになっても変わらず引き継がれている!

 

「ま、参りました!」

 

ペタリと額と両手を地につけてDO☆GE☆ZA を披露した。それを見た凛袮は溜息を吐いた。士道との付き合いが長い凛袮は、土下座を見て瞬時に悟った。

台風の件と同様に理由を話せないのだと。聞き出せないとあれば凛袮はやり方を変える。

 

「じゃあ士道………私にできる事ってないかな?私も士道に協力させて欲しい」

 

「………っ」

 

修学旅行の一件以降、凛袮は自分と士道との間に見えない壁のような物を感じていた。

士道は十香やくるみん、六華の三人には自分の全てを曝け出しているように見えていたが、自分には何か隠し事をしながら接しているように感じて………今回の士織ちゃんへの変身の件が、隠されていた事についてもだ。

 

自分と十香たちとの間で、何故こうも士道の接し方に違いが生じているのか………凛袮はずっと胸に引っかかっていた。

 

そして今も、士道は目を逸らして唇を噛み締めて黙り込んでいる。それは恐らく―――お前は関わってほしくないと言わんばかりに………それを見た凛袮の瞳から銀色の雫が垂れていた。

 

「士道………私は嫌だよ?こんな風に隠し事をされるの。十香ちゃん達と私で何が違うの?」

 

「そ、それは………」

 

「士道が女の子になっている理由は言えないにしても、何か協力はさせてよ。私だけ同じステージにすら立てないのは、嫌だよ………」

 

「凛袮………」

 

凛袮は溢れ出す雫を止める術を知らなかった。このまま士道を想う精霊クインテットに折紙と言った少女達と、競う事さえ許されずに一方的にステージ外へと切り離される事………凛袮にとってそれを思うと胸が裂かれるような痛みが走った。

 

―――これ以上凛袮を拒むと何が起こるか分からない………そう思った士織ちゃん、凛袮の手に両手を重ねて言う。

 

「じゃあ凛袮………天央祭の一日目は俺と離れずにいてくれないか?模擬店の店番から、ステージ部門の演奏が終了するまでの間だけでいいからさ」

 

………凛袮に一緒にいるように頼み込んだのは、今回のターゲットである美九の声による洗脳攻撃から身を守る為だ。今回のステージ部門の勝負でボーカル役の凛袮が洗脳されてしまうと、勝負にならないからだ。もう片方のボーカル役の折紙には、アルビオンが付いているが、凛袮は力を持たない人間―――それ故に士道の近くに置いておく事が最も安全だと考えたのだ。

 

「分かった。私、絶対に士道の傍から離れない―――………で、でも!トイレに着いてきたら怒るからね?」

 

凛袮は涙を振り払うと、冗談半分本気半分で士道にしっかりと牽制を入れた。凛袮は知っていたのだ―――………先日女体化した士道が、六華を女子トイレに連れ込んだ事を。

 

「はいよ………」

 

そこまで言うと、早出組が到着して接客やら役回りの確認、そしておさらいが始まった。それぞれがお互いの役回りを認識して、リハーサルを終えた頃には………天央祭開始の合図が鳴る五分前になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――◇◆◇―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――これより、第二五回、天宮市高等学校合同文化祭、天央祭を開催いたします!』

 

天井付近に設えられたスピーカーから実行委員長の宣言が響くと同時、各展示場が拍手と歓声に包まれた。

九月二三日の土曜日。天宮市内の高校生が待ちに待った、天央祭の始まりである。

今士織ちゃんがいるのは、主に飲食関係の模擬店が立ち並ぶ二号館。来禅高校の勝敗をも握る最重要拠点だ。

だが、そんな最重要拠点に居るはずの士織ちゃんは今、地面に手をついて全身から暗い空気を発していた。

 

「おっ、おぉぉ………」

 

理由は至極単純なものである。

士織ちゃんはゆらりと顔を上げ、辺りを見回した。周囲には様々な模擬店が展開されている。たこ焼きやクレープなどの定番系に始まり、その種類は多岐にわたる。

だが、士織ちゃん率いる達来禅高校の必勝策はそんな生易しい物では無かったのだ。

士織ちゃんは頭をぐりんと回し、自分の背後に聳えている看板に目を向けた。

 

『メイド&執事カフェ☆RAIZEN』

 

その無慈悲な名称を頭の中で反芻してから、視線を下にやる。そこには………

 

「おお! ひらひらだな!」

 

フリルのいっぱい付いたエプロンの裾をつまんでヒラヒラさせながら笑う十香ちゃんの姿が。

 

その他には………

 

「ぷ、くく………し、士道、御主おなごの格好もなかなか似合うではないか」

「同意。お持ち帰りしたいです」

 

「お前ら―――また『洋服崩壊(ドレス•ブレイク)』の餌食になりたいのか?」

 

「な―――また、私たちを裸にする気!?」

「恐怖。また夕弦達の服を消しとばすつもりですか!?」

 

士織ちゃんとなった士道の姿を見て含み笑いを漏らす、十香と同じ装いの耶倶矢、夕弦の姿が見受けられた。

ちなみに八舞ツインズも、士道が士織ちゃん化している事は琴里から聞いている。もちろん、美九の霊力を封印するためということもだ。

 

自分の女体化した姿に微笑ましい視線を送る八舞ツインズを見た士織ちゃん、霊装を木っ端微塵に吹き飛ばした必殺技を放つと牽制を送ると、八舞ツインズは両手を合わせて後退った。

 

―――その、十香や八舞ツインズたちと、士織ちゃんは全く同じ服装でいる。

濃紺と黒の中間色の色合いを持ったロングドレスの上に、やったらめったらフリルのついた純白のエプロン。ついでに頭部には、これまた可愛いフリルで飾られたヘッドドレスが着せられていた。

それを一言で言い表すなら、これ以上ないメイドさんスタイルだった。

 

「はあ………俺がお出迎えされたいよ、とほほ」

 

『モエモエー!士織ちゃんモエモエー!!いよっ、士織ちゃん日本いちぃぃぃ!日本いちぃぃぃ!日本いちぃぃぃ!日本―――「やかましい!籠手で乳揉むぞ!?」うおおおおおおおおおん!!それだけはやめて下さい相棒さま!!』

 

女子の制服だけでも士道のヒットポイントは大きく削られたが、まさかのメイド服を着る事になるとは夢にも思わなかった士道くん。

その胸の内は、自分が客として十香やくるみん達に迎えられたいという強い思いだけだ。

そしてドライグ先生はメイド服の士織ちゃんを見て早々にブッ壊れた。今のドライグ先生は、マジで•ダメな•オッサン―――通称『マダオ』と化している!

籠手で乳を揉むと言うと、いつも通りに戻ったが………士道同様に、度重なる乳ネタで随分と精神がすり減っている様子だ。

 

「………それにしても、よくこれが通ったよね」

 

士道達と同様にメイド服に着替えた凛袮が、思わず声を漏らした。そこに同じくメイド服の亜衣が話し始める。

 

「竜胆寺に勝つにはこれくらいはしないとね。苦労したわよ………初めは女子はキャバクラ、男子はホストクラブで提出したんだから」

 

「ええっ!?」

 

亜衣の話を聞いてその場で飛び上がる凛袮ちゃん。亜衣たちがやったのは、印象操作だ。一番最初にかなり派手な物を見せると、二度目に出す物のインパクトが薄まるという錯覚を利用して、これを実現させたのだ。

 

「でも、仁徳くんが居なかったなら、これもかなり危なかったけどね。彼が委員会に脅迫―――ゲフンゲフン!O☆HA☆NA☆SHIを通してくれたお陰だからね〜。まあ本当はスカートをもっと短くしたかったんだけど、それは許可が出なかったから」

 

「い、今………脅迫って―――」

「気のせい☆」

「マジ引くわ〜」

 

亜衣から出た脅迫という言葉に、青ざめた表情を見せる凛袮ちゃん。正義の『人修羅』と言う渾名は天宮市では非常に有名だ。

それで脅迫をかけてまでこれを通した亜衣達の竜胆寺に勝ちたいと言う想いは、はっきり言って狂気の域だろう。

 

そして麻依が当店の美少女ラインナップを改めて紹介する。

 

「天真爛漫絶世美少女(十香)、黒と白の女神コンビ(くるみんと六華)、ゆるふわ癒し系美少女(凛袮)、タイプ別双子(八舞ツインズ)、そして当店の看板娘、長身気弱系(士織ちゃん)ときた日にゃあ、もう釣れない男は熟女好きか、同性愛者ぐらいのもんでしょ」

「マジ引くわ〜」

 

『仁徳正義のような、ロリコンも釣れんがな』

 

麻依の釣れない男の捕捉に、ドライグ先生がたまらずロリコンというカテゴリーを追加した。そして、一年と三年も学年内のイケメン及び美少女偏差値から、最高の精鋭を客間に揃えており、来禅高校の模擬店部門に死角は存在しない!

 

そして士織ちゃんは、二階の部屋のカーテンを一部開けて外の様子を伺うと―――メイドカフェ、そして隣の執事カフェにも長蛇の列ができていた。その士織の背後から外の様子を窺っていた八舞ツインズが、士織の肩に触れる。

 

「気を張るが良い看板娘!共に客人を迎え入れようではないか!」

 

「待機。私たちは士織の指示に従います」

 

「え………!?」

 

八舞ツインズの言葉に士織ちゃん大慌てで振り返ると―――戦闘モードを整えた少女達が「どうかご指示を………」と、士織の指示を待っているようだ。

士道は困り顔で汗を流しながらも、戦闘開始の合図を送る!

 

「多くの方が初めてで戸惑っている部分もあると思います………ですが、今日まで頑張ってきた事を全て出しましょう!来禅高校―――ファイッ!」

 

『おー!』

 

士織ちゃんの掛け声で、決戦の火蓋が切って落とされた。ちなみに男子の方はこんな感じだ。

執事カフェの方は、髪型をホールで接客をする男子達は全員がオールバックで髪型を整えており、服装もタキシードと全員が統一されている。それはまさに野球部のスローガンである『チーム一丸』を掲げているかのように。

 

そして今、男子達は円陣を組んで最後の仕上げに入ろうとしていた。

 

「お前ら、わかっているな?」

 

円陣の中心には、来禅高校が誇る『人修羅』仁徳正義が立っており、小声でボソッと呟いた。

正義の言葉に男子達が全員静かに首を縦に振る。

 

「来禅高校の総合優勝は、この模擬店部門にかかっている―――妥協は無しだ!俺たちの奉仕力、見せつけてやろうぜ!!取るぞ、総合優勝!!」

 

『おおおおおおおおおおおおおお!!』

 

正義が人差し指を突き上げると、男子達が一斉に雄叫びを上げて人差し指を突き出し天にかざした。それは、一位を取ると言う強い信念を抱いて………

こうして来禅高校の戦いが始まり、パンフレットを受け取った客が次々と入り込んでくる!

 

客層は様々で、仕事の無い他校の生徒は勿論の事、近隣の大学生(ナンパ目当て)や、これからの進路を決めようとしている中学生の姿も見受けられる。

 

『お帰りなさいませ、ご主人様』

『お帰りなさいませ、お嬢様』

 

入り込んで来た客を席に案内すると、メニューを提示してオーダーを取る。これから厨房は大忙しになりそうだった。

ちなみに、メイドカフェの最大の目玉は、女神の絵画とそのモデルになった美少女達だ。士道くんが夜も寝ないで昼寝をして書き上げた作品―――『漆黒の女神』と『純白の女神』が店内に飾られており、店内の中央に飾られたその絵を見て、男性客はスーパーハイテンションだ!

 

「ご注文はお決まりでしょうか?」

 

ニコニコとした笑顔で『純白の女神』のモデルの少女―――六華ちゃんがオーダーを取りにテーブルへと伺うと、そのテーブルの客達はそれはもう大変だった。

 

「うっわ、めっちゃ可愛い!!」

「ねぇ、趣味はなに!?休日とかって何してる!?」

「彼氏はいるの?」

「ねぇねぇ、LINE交換しない!?」

「お前ら、セクハラやめい!あ、注文良いですか?」

 

「ありがとうございます!少々お待ちくださいませ」

 

などなど、テーブルから六華を離さないように完全に拘束しにかかっている。ちなみに六華のメイド服は、士織ちゃん達のそれとは少し異なる。

基本的には外装は同じなのだが、背中にはふわふわとした綿を材料にした蝶のような羽根が生えており、頭のフリルは白い輪っかに変わっているのだ。

 

そして、もう片方の『漆黒の女神』のモデル役のくるみんも似たような衣装だ。くるみんの場合は白と黒のみで構成されている。くるみんの方は、背中の羽根と頭の輪っかは黒いデザイン。

 

「キミも可愛いね!」

「今年の来禅のレベルやばくね!?」

「女神に奉仕してもらえるとか、マジでこのカフェ神だわ!」

 

そして二人ともスカートが異常に短く、太ももを覗かせる危険なデザイン。訪れた客の大半は、事前に来禅高校が発信していたこの情報を目当てで訪れているのだ。

ちなみにメイドに手を出そうとする客はいなかった。なぜなら、隣の執事カフェには、人修羅が客引きをしている事を知っているからだ。

 

「あうぅぅぅ………士道さん、この落とし前は絶対に付けさせていただきますわよ!」

 

恥ずかしがり屋さんなくるみんには、この衣装はキツかったようだ。ちなみに六華とくるみんにこの衣装を着せて接客をさせる条件は、二人が望むデートをすると言う条件で着てもらっている。

………天央祭が終わった後に、何が待っているかは容易に想像できるだろう。しかし今は、目の前の仕事に全力で取り組む必要があり、士道くんはそれを考えてはいなかった。

 

「………どんだけ行列できてんだよ!?これなら、こっちの方は問題ないな。さて―――」

 

相変わらずメイドカフェには、長蛇の列は変わらない。しかも、先ほどよりも客が増えていると言うおまけが付くほどに。

客引きのパンフレットを凛袮に任せた士道は、建物裏でフラクシナスへと通信を入れる。

 

「神奈月さん―――首尾はどうですか?」

 

通信相手は神奈月。今回の美九との勝負は総合優勝を取った方の勝利だ。それを踏まえて作戦の進行状況を尋ねた。

 

『上々ですよ。既に工作員を竜胆寺に潜り込ませています………彼女達は任務遂行中です。士道くんは引き続き客引きをお願いします」

 

「分かりました。それから美九はどうなっています?」

 

どうやら神奈月は士道の作戦に必要な部隊を揃えて、それに従事してくれたらしい。そして作戦の中での不安要素でもある美九について訊ねた。

 

『今回のターゲットである誘宵美九は―――来禅高校のメイドカフェへと向かっています。士道くん、すぐに戻って下さい』

 

「了解………」

 

士道が神奈月からの通信を受けて再び客引きに戻ると―――………笑顔で手を振りながら近づいて来る〈ディーヴァ〉こと誘宵美九の姿があった。

 

「士織さん、デートをしませんかぁ?」

 

 




ドライグ先生の次回予告

ドライグ『ひょんな事から〈ディーヴァ〉こと誘宵美九とデートをすることになった相棒!ああ、この二人を見ていると本当に癒されるなぁ。ずっと二人の時間が続けば――――――おい落ち着け相棒、キレてはいかん!!深呼吸をしろ、深呼吸を!!

次回 デート•ア•ライブ 〜転生の赤龍帝〜

七話『決戦 天央祭 中編』

精霊を守りし女帝よ、癒しの幼女に気を付けろ!?お楽しみに〜』

空飛ぶベイベーの歌詞コードが無い!何も無い!


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七話 決戦 天央祭 中編

前回のあらすじ

四糸乃「えーと………ハッ!士道さんは、凛袮さんに………変身を、見られましたが、何とか秘密にして、もらえる事ができました」

よしのん『いいよ四糸乃!その調子!」

四糸乃「そこからは、天央祭が始まって………美九さんとデートを、することになりました」

よしのん『四糸乃グッジョブ!良くできました』

士道「四糸乃、あらすじの紹介をありがとな。それじゃあ続きをどうぞ!」

※この話で美九が暴走する一歩手前まで行けると思いましたが、無理でした。天央祭のバトルはもう一話続きます。大変申し訳ございませんが、ご了承ください。


「士織さん、デートをしませんかぁ?」

 

士織ちゃんの目の前に現れたのは、今回のターゲット誘宵美九。精霊としての識別名は〈ディーヴァ〉。

取り巻きの可愛い美少女を連れながら、周囲から沸き立つ黄色い視線と歓声と共にメイドカフェ前に足を運んで来たのだ。

 

「デート、ねぇ………そんなに可愛い子たちを連れながら言う台詞じゃ無いと思うけど?」

 

士織ちゃんが半目を作りながら言うと、取り巻きの少女達は「え、お姉さま?」と悲しげな表情を浮かべた………恐らく彼女達は美九と一緒に文化祭を楽しむ予定だったのだろう。

 

取り巻きの少女達はこのまま美九から離れるつもりはない。それを見た美九は鬱陶しげに首を回すと―――自分の体に濃密な霊力の波動を纏わせる!

それを見た士織ちゃんは、大慌てですぐ隣にいる凛袮の耳の穴に自分の指を突っ込み、聴覚を遮る!

 

「え!?士道―――」

 

「はぁ………邪魔です。【()()()()()()()()()()()】」

 

美九の霊力を込めた声があたりに響き渡ると―――取り巻きの少女達は虚な表情を浮かべて散って行った。そして、いきなり耳に指を突っ込まれた凛袮は、士織ちゃんの胸ぐらを掴む!

 

「ちょ、ちょっと士道!いきなり何するの!」

 

「悪い凛袮、ちょっと魔が刺した(声さえ聞こえなければ、操られはしないか………とりあえず凛袮をここから動かす事が最重要だな)」

 

心の中で美九の天使の能力を分析する士織ちゃん。そして、このままでは隣にいる凛袮まで餌食になる事を思った士織ちゃんは、凛袮を見ながら耳たぶに触れた後に服の胸部を掴む。

 

………幼なじみでの無言の会話だ。士織ちゃんからの合図を受けた凛袮は、士道からパンフレットを受け取ると、そのままカフェの中へと入って行った。

美九は駆けていく凛袮の背中に熱い視線を送る。

 

「さっきの子も私好みの可愛い子でしたねぇ………あの子もリストアップしておきましょー。さあ士織さん、邪魔者はいなくなりました。デートと参りましょぉ」

 

「………分かった。そのデート付き合ってやるよ」

 

「フフッ、ありがとうございますぅ士織さん」

 

美九の方から誘ってきたデートに士織ちゃんはそれを受けた。そして二人は天央祭の各校の模擬店を回り始めた。

美九もアイドルであると言う事を除けば、普通の同年代の女の子。女の子大好きな百合っ子と言うとんでもない個性があるのだが………

 

「士織さん、クレープですよ!クレープ!」

 

「分かった。分かったから落ち着け―――すみません、二つ下さい」

 

「ありがとうございます。お会計は―――」

 

美九がたまたま通りかかった模擬店の屋台にクレープを出し物にしている店に目を付け、子供のようにはしゃぐ。

それを見た士織ちゃんは、自分のと美九のものを購入して、片方を美九に手渡した。

 

「ん〜!美味しいですぅ!」

 

手渡されたクレープを見て美味しそうに頬張る美九の姿が。それを見た士織ちゃんも一口食べると………生クリームとバナナやイチゴといったフルーツの甘い風味に思わず声を漏らした。

 

「これは美味いな!」

 

士織ちゃんがクレープを一口かじった場面を見て………美九ちゃん大興奮!ンフー!と鼻息を上げて士織ちゃんのクレープ(特に士織がかじった部分)に熱い視線を送る!!

 

「そうですよねー美味しいですよねー。ハッこれは―――ほんのりと士織さんの味がしますぅ!」

 

「お、おいいいいいいいい!?何やってんだ!?」

 

―――なんという事でしょう!?士織ちゃんがかじったクレープを美九がパクリとかぶりついた!!美九は光を放つような笑顔でほっぺをさすっていた。

この百合百合な展開にドライグ先生もご満悦だ!

 

『おっ、良いですねぇ!!このまま士織ちゃんも、〈ディーヴァ〉のクレープにガブっといって欲しいものだな!』

(―――いかねえよ!!)

 

ドライグ先生は、癒されている様子だ。士織ちゃんはそんなドライグ先生の願いを一蹴!

 

しかし―――………美九が自分の持つクレープを差し出してきた。

 

「はい、士織さんもどうぞですぅ」

 

「え、ええと………」

 

『何躊躇してんのよ。がぶっといきなさいがぶっと!』

『きたあああああああああ!!ここで逃げれば〈ディーヴァ〉の封印は不可能だ。ファイトだ相棒―――なるべく顔を赤くして、震えながらかぶりついてくれると嬉しい』

 

………この通り士織ちゃんの味方はいない。着けているインカムからも『「美九×士織」きたあああああああ!!』や『いいや「士織×美九」でしょうが!!』などなどフラクシナスも大盛り上がり!

士織ちゃんは、促されるままにクレープを一口いただいた………あまりの気恥ずかしさに、味が感じなかったのはまた別のお話。

 

「ブフッ!」

 

「ふふ、間接キスですねー」

 

このような良い感じの雰囲気でデートは続いて行ったのだが………精霊とのデートに問題はつきものだ。

美九が輪投げの屋台を見つけて、士織ちゃんのために景品を取ろうと意気込んだ。

 

お金を払ってスナック製の輪を三本受け取ると、「ほいやっ!」と可愛い声と共に輪を投げたのだが………

 

「痛いっ!」

 

バコン!

 

極度のプレッシャーで手先の微妙な感覚が一切効かなくなった投手の如く、美九ちゃんの投げた輪は、店員に命中するわ、壁にぶつかるわの大暴投!

 

そして………大暴投した輪を取りに行った士織ちゃんにも悲劇が襲う!

 

「いっでえ!」「あぁん!ごめんなさいー士織さん」

 

そして最後の一投は、士織ちゃんの鼻にクリーンヒット!

士織ちゃんはそのまま鼻を押さえて蹲るなどのハプニングが満載だった。

 

失礼これは大した問題では無い、本当の問題はこの後だった。

景品を取れなかった美九は――――――店員を務める少女に言葉を投げかけたのだ。

 

―――【()()()()()()()()()()()()】………と。

 

霊力を込めた声に、ただの人間が争う術はなく店員は美九へとぬいぐるみを手渡す。そのぬいぐるみを美九は士織ちゃんに差し出したのだ。

悪気や良心の呵責を一切感じない表情の美九を見て、士織ちゃんは堪らず言葉を漏らした。

 

「………お前、何やってんだよ」

 

「何って、士織さんが望むものを取って―――」

 

「そうじゃない!景品は輪を投げて取らなきゃいけないだんだよ。こんな事が罷り通れば、あの子達に悪いだろうが………」

 

士織ちゃんの言葉を聞いて、美九は驚いたようにキョトンと目を丸くする。

 

「悪い?士織さんってば、おかしな事を言いますねぇ………私にもらってもらえるだなんて、きっとあの子達も喜んでいますよ」

 

「お前な………!」

 

美九の言葉に可愛い表情が徐々に険しいものへと変わっていく士織ちゃん。そして………次に美九から放たれた言葉で、士織ちゃんの堪忍袋の尾が切れた。

 

「大丈夫ですよー。人間なんて私の駒兼おもちゃ何ですから。私が気に入った士織さんは、そんな事を気にする必要はないんです。そこらの有象無象の人間なんて好きにすればいいんです」

 

美九は『声』によって、人を自由に操れるため人間は自分の道具に過ぎないという価値観がある。

………それはかつて、自分を殺そうと向かってくるAST以外の人間としか対峙していなかった十香が、人間を見ると攻撃をしてきたように。

その十香も今では、士道や琴里のサポートもあって手探りながらも皆と上手くやっていけている。

そして、美九にも十香同様に皆と共存できる可能性は十分にある。時間と労力は掛かるであろうが、士道や琴里達がサポートをすれば………

 

人間を道具としてしか見れない………自分の都合の良いように動くただ隷属の関係しかないという事―――信頼や友情と言った心が欠落した虚しい関係………士織ちゃんは、これをとても哀しく思ったのだ。

 

「俺はお前に勝つ………お前に『人間』と話をさせるために」

 

「おかしな事を言いますねぇ」

 

「今は分からなくて良い。でも、人間を舐めるなよ………ただ従順で都合の良い奴らじゃない。油断していると足元を救われるぞ」

 

「へぇ………」

 

士織ちゃんが言った言葉に興味深そうに目を細めた。

 

「じゃあ試してあげますぅ。今日のデートはここまでにしましょう………ステージで待ってますよ士織さん。でもそれは、()()()()()()()()()()()()()()の話ですけど」

 

「………」

 

意味深な言葉を残して美九は、踵を返して去っていった。士織ちゃんは無言のまま小さくなっていく美九の背中を見て、少し哀愁が湧いた。

そして、凛袮に客引きを任せっきりにしていた事を思い出して、メイドカフェの様子を見ようと士織ちゃんは駆け抜けたのだが………ここでもアクシデントが発生した。

 

「………やあシン。大盛況過ぎて二時間ほど待たされたよ」

 

「あ、令音さん来てくれた―――よ、四糸乃!?」

 

副担任の令音がメイドカフェの順番を待っており、ようやくカフェの中へと入れたのだ。

士織ちゃんは令音の方に視線を向けて、先に案内しようとしたその時、連れて来ていた―――麦わら帽子を被った幼女の姿を見て言葉を失った。

 

「あ、あの………」

『んああ、これが十香ちゃん達の間で最近噂になってる士織ちゃん?ふむふむなるほどなるほど………ってあれ?その士織ちゃんから士道くんの相棒―――ドライグくんの気配がするのは何でかな?ああ、そう言うことか。士道くんが女の子になっちゃったんだねー』

 

四糸乃は全く気づいていない様子だったが、令音の士道を呼ぶ時の名前と、よしのんがドライグの気配を察知して、四糸乃は女体化した士道を見て、何か見てはいけないものを見たようにガクガクと震えていた。

 

「え………士道、さん………なんですか!?」

 

『四糸乃、それによしのん正解だ。ちなみにこの女体化は、相棒が趣味でやっていることなのだ………気持ち悪いと思うだろうが、何も言わないでやってくれ』

「ドライグテメェ!?四糸乃、よしのん、違うからな!?これには事情があって―――」

 

ドライグ先生のカミングアウトに四糸乃は、さらに気まずそうな表情を浮かべると………よしのんはケラケラと大爆笑!

 

『ヤッハハハ!士道くんそんな趣味があったんだ。大丈夫だよ士道くん、そっちの姿の方が色々と需要あるよー?その格好で「エッチなご奉仕、一〇〇〇〇円です!」って書いた看板持ち歩けば、入れ食いだよきっと!今日だけで社会人の平均月収は軽いんじゃない?』

「よしのん!えっと………私は、士道さんが気持ち悪いだなんて、思いません………士道さんに、だって………いろんな趣味があって、良いと思うんです」

 

「うわあああああああ!やめてくれええええええええ!!」

 

四糸乃のフォローが、士織ちゃんの心を大きくすり減らした。今では、令音と四糸乃にメニュー表で頭を隠すように背を向けているのだ。

もう士織ちゃんモードを使い熟せないほど、士道の精神は追い込まれてしまった!

 

「………『赤い龍(ウェルシュ•ドラゴン)』ドライグ、笑えない冗談でシンを傷付けないでくれ。四糸乃、それによしのん。シンには事情があってこの姿をしているんだ。決して趣味でやっている訳ではない」

 

このままでは、士織ちゃんが士道に戻ってしまう―――そう感じた令音が慌ててフォローを入れると、よしのんの笑いが止まった。そして四糸乃も士道のそばまで歩いて、声を出す。

 

『なんだあ。ずっとこっちの姿でいてもらおうと思ってたのに………つまんないの』

「あの………ステージも、楽しみにして、ます」

 

「ううっ………頑張るよ」

 

令音のフォローで誤解が解けると、エールをくれた四糸乃の頭を優しく撫でた。思わぬところから、エールを貰った士織ちゃん!何が何でも美九に勝つ事を心に決めたのであった。

 

『はぁ………村雨令音め余計な事を。アレがなければ面白い事になっていたに違いないと言うのに』

 

ドライグ先生は、士道が女体化を趣味でやっている事を四糸乃に信じさせようと画策したが、それは失敗に終わった。

 

―――これには士織ちゃん、もちろん激おこだ!

 

「お前マジで覚悟しとけよ!?バンド演奏が終わったら『赤龍帝の籠手(ブーステッド•ギア)による乳揉みツアー』を開催してやる―――内容は至ってシンプル、精霊達のおっぱいを籠手で揉みまくる………ただそれだけ!お前が泣き叫ぼうが永遠に終わらない―――楽しい楽しいおっぱいツアーだ!ぐっへっへっへっへ!」

 

『調子に乗って申し訳ございませんでしたああああああああ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――◇◆―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピンポンパンポーン―――天央祭のステージ部門の参加者はステージ裏の控室に集まって下さい―――ピンポンパンポーン………

 

天宮スクエアの場内アナウンスが鳴り響いてから、役三〇分ほど経過した。士織ちゃんは十香と凛袮を引き連れて集合場所で、待機していたのだが………残りのメンバー、折紙と亜衣麻依美依トリオがまだ来ていないのだ。

 

士織ちゃんはまず初めに折紙へと電話を入れたのだが………

 

「繋がらない………か」

 

折紙は、今日メイドカフェの方にも顔を出していない。それを怪訝に思った士道は、朝にも電話をかけたのだが、折紙がその電話に出る事は無かった。

 

「心配するな士道。鳶一折紙はきっとこのタンバリンに臆したのだ!それに、アイツがいようがいまいが大して変わらん。気にするだけ無駄だ」

 

「もう十香ちゃん!そう言う事言わないの………」

 

折紙をいつも通りに邪魔者扱いする十香ちゃんと、それを諌める凛袮。この二人は士道と違ってソワソワしている様子はない。

そして、今度は亜衣へと電話をかけると………数コール後に亜衣が『はいはーい!士織ちゃん、ドカシタノ?』とスッとぼけた声が聞こえて来た。

ガヤガヤとした声の中に、麻依と美依とすぐ近くにいる事も分かった。

 

「皆さん何をしているんですか、早く来て下さい!ステージ始まりますよ!?」

 

『ああその事なんだけどさ―――うちらステージに出るのやめとくわ』

 

「な―――ッ!?一体どう言う事ですか!?」

 

まさかの亜衣は、ステージに立つのをやめると言うのだ。全く予測をしていなかった言葉を聞いて、士織ちゃんは思わず言葉を詰まらせた。

そして、亜衣の携帯から麻依と美依もそれに便乗するように言葉を発する。

 

『だって美九お姉様がステージに出るの止めろって言うんだもーん!』

『マジ引くわ〜』

 

「美九のやつ………まさか、こんな小汚い事をするとは。いやまあ、俺も人の事は言えないけど」

 

亜衣麻依美依トリオは美九によって『お願い』されたのだ。ただの人間に超常の力に抗う術は無い。

そして、十香と凛袮が無事な理由をドライグ先生が述べる。

 

『見事にやられたな相棒………〈ディーヴァ〉は来禅高校の生徒から、ステージ部門の参加者を聞き出して、後はお得意のアレだ。

………夜刀神十香と園神凛袮が無事なのは、常に相棒の傍にいたからであろうな。故に手が出そうにも出せなかったといったところか。

―――しかし残念だ。奴の土俵で戦おうというのに、こんな真似をするとは………』

 

「それには同意だ。この勝負―――何が何でも負けられなくなった」

 

士織ちゃんは、再び携帯電話である人物へと連絡を入れた。僅かワンコールでその人物は応答してくれた。

 

『おお士道―――士織であったか。我と斯様な玩具を介して会話しようとは、見上げた根性をしておるではないか』

 

電話の相手は八舞ツインズのペチャパイ―――失礼、スレンダー代表、耶倶矢ちゃんだ。

※↑この時、作者の頭に電子辞書が落ちました。

 

「よう()()()()。ステージ部門に欠員が出たんだ、ちょっと手を貸して欲しいんだけど―――」

 

『ちょっ―――アンタまた私のこと「バ耶倶矢」って言ったわね!?今度という今度は………って夕弦返しなさ――――――』

『―――交代。お電話変わりました夕弦です………士織、耶倶矢の声だけを聞こうとは………夕弦は悲しいです』

 

耶倶矢の声が途中で小さくなると………耶倶矢の携帯から夕弦の声が聞こえてきた。

―――これはラッキー、士織ちゃんは夕弦にもお願いをしようと考えていたのだ………余計な手間が省けて思わず笑みが溢れる。

 

「夕弦もいたんだな。丁度いい―――ステージ部門に欠員が出た。お前たち八舞の力を借りたい………やってくれるか?」

 

『首肯。士織の危機とあれば、八舞が出陣を拒む理由はありません………その願い確かに聞き入れました。

………質問。この勝負では夕弦たちは全力を出しても問題は無いのでしょうか?』

 

「勿論だ。全力でやってくれて構わない―――なにせ相手は、今をときめくミステリアス•アイドル『誘宵美九』。お前たちが全力を出す価値のある相手だと思うぜ………お前たちの嵐を呼ぶ楽器操作が有れば必ず勝てる――――――ちなみにだけど、本当の意味での嵐を呼ぶのは、無しだからな?」

 

美九のステージでのパフォーマンスは、中津川のライブを盗撮した映像で知っている。それを見て士道は瞬時に悟った………出し惜しみをして勝てる相手ではないことを………

ちなみに、八舞ツインズは勝負に夢中になり過ぎて、周囲に竜巻やら台風やらを呼び寄せる事が時々ある。この前もソフトボールの授業で、正義とのホームラン対決で、力を込め過ぎた結果―――振ったバットから、衝撃波を呼び出してバットやグローブ、さらにはベースなどを吹き飛ばした事もあるほどだ。

 

………耶倶矢、夕弦のどちらがそれをやらかしたかは、言わなくてもいいね?

 

『期待。それは楽しみです………士道は夕弦と耶倶矢を助けてくれました。今度は夕弦たちに士道を助けさせて下さい』

 

「ああ、すまないありがとう。耶倶矢にもそう伝えといてくれ」

 

『首肯。ではすぐに耶倶矢を持ってそちらへ向かいます………総合優勝を必ず取りましょう』

 

そこで夕弦との電話は切れた。彼ら少し前に夕弦に首根っこを掴まれたのか、耶倶矢の『ふぎゃっ!?』という可愛い悲鳴が聞こえたのは、また別のお話だ。

 

士織の電話が終わると………クスクスとしてやったりという笑顔でこちらを見る美九の姿が。彼女はもう勝利を確信しているのだろう………

そして、その様子を監視カメラをハッキングしてフラクシナスから伺っていた琴里も、心底ご立腹の様子だ。

 

『舐めた真似してくれるじゃない誘宵美九。そっちがそのつもりなら………こちらにも考えがあるわよ』

 

琴里は美九がステージに立った際に妨害工作を実行しようと息巻いていたが、士織がそんなものは要らないとばかりに待ったをかける。

 

「止めろ琴里、余計な真似はするな。ここは力でねじ伏せなきゃいけない場面だ………何よりステージ部門は三位以内にさえ入ればいいと思っていた………それで十分に総合優勝は狙えると俺は踏んだ。でも、こんな汚いやり方をする美九を見て考えが変わった。

―――アイドルとして、自分のステージに自信を持っていないような()()()を相手に、わざわざ勝ちを譲る理由なんてないだろ」

 

士織ちゃんの言葉が聞こえたのか、美九の眉がピクリと動いた。それもその筈………士織ちゃんはあえて聞こえる声で言ったのだ。

しかし、琴里は完全に納得した様子では無かった。インカムから琴里の声が聞こえてくる。

 

『………あなた、負けたら私たちが美九のものに―――』

 

「負けないさ。補充要員も用意したし、十香に凛袮もいる………必ず勝つ」

 

士織ちゃんの自信に満ち溢れた言葉を聞くと、琴里から『勝手にしなさい』とため息混じりの声が聞こえて来た。

士織ちゃんがインカムをポケットへのしまうと、美九がステージ衣装へと着替えて、ステージに向か途中ですれ違いさまにボソッと一声かけてきた。

 

「―――士織さんたちじゃあ、どんなに頑張っても私に勝てませんよ。それを理解する為にも、よぉく私のステージを見てて下さいね?私のステージを見たら、今のような態度を取れなくなってる筈ですからぁ」

 

美九は士織の言葉を聞く前に、ステージへと向かって行った。自分の歌でその手に勝利を掴むために。

そして、美九のステージが始まる時間に合わせて、士織は十香と凛袮に声を掛ける。

 

「十香、凛袮。今から『誘宵美九』のステージが始まるらしいんだ。ちょっと見に行かないか―――絶対王者の圧倒的パフォーマンスとやらを」

 

「おおっ、それは面白そうだな」

「分かった。私も行くよ………美九さんのステージは、天央祭で一番興味があったから」

 

十香と凛袮が首を縦に振ると、士織は二人と共に他の出演者達がいる場所へと向かった。ずっと呼吸を合わせるように練習した四名の仲間を失った士織ちゃんに、果たして勝機はあるのか!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――◇◆◇―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

陸上自衛隊天央駐屯地第二格納庫では、不自然な沈黙に満ちていた。

深夜でもないのに、AST隊員も整備士の姿もなく、まるで、誰かの意図によって人払いされたかのようだ。

そして、鍵がかかっていない裏口から庫内に侵入した折紙は、目的の場所に目を向け歩を進める。

 

「………」 

 

乾いた足音が辺りに反響すると同時に、折紙の動悸が高まり、深呼吸で静める。

その服装は来禅の制服でも、今日の天央祭のステージで着る予定だった衣装でもない。ASTの基本装備で、折紙の意識を最大に研ぎ澄ませる戦闘装束、黒の着用型接続装置(ワイヤリングスーツ)だ。

空間震が起こった訳でも、訓練でもないのに折紙がそれを身に纏っているのは、別の理由からだ。

 

「………」

 

無言のまま、格納庫のとある区画に向かうと、セキュリティが全て切られていた。これでは何者かが格納庫に侵入し、CR―ユニットを持ち出しても、誰も気付かない。何ともおあつらえ向きな状況である。

 

「………アルビオン、聞こえている?」

 

自身に宿った相棒へと折紙が語りかける。すると、背中から白い翼が姿を表す!

 

『この通り、聞こえていますよマスター。行くのですね?』

 

アルビオンの言葉に折紙は無言で頷く。燎子の『独り言』を聞いて後、折紙はジェシカ達の行動を探ろうとすると、他の隊員達がみんな、燎子と同じように『独り言』を呟き、あの時言葉を濁したミリィも、後で電話をかけたら愚痴交じりにペラペラと事情を話してくれた。どうやら燎子達も今回のジェシカ達のやり方に不平不満を持っていたようだ。

 

「アルビオン、今回はあなたの力を借りたい。白龍皇と呼ばれた伝説のドラゴンの力を」

 

士道が神滅具『赤龍帝の籠手』を宿し、さらに精霊の力を操る事をDEMが知っているのであれば、捕獲対象に入っても不思議ではない。

そして、士道が捕獲されればどんな扱いを受けるかは、想像するに容易だった。

 

『私は汝と共に有ります。マスターが望むのであれば、私はいつでもその力を分け与えましょう!』

 

ジェシカ達の装備は、ASTが所有する装備とは桁外れの性能を誇り、さらにアルビオンの話では、神器に適応したものも含まれているという情報を得た。

 

………その連中とやり合うには、通常の装備ではまず勝負にならない。故にアルビオンの力で対抗しようと考えたのだ。

 

夏休みに地獄の修行に励んだのは士道だけではない、この折紙もだ。謹慎期間で顕現装置(リアライザ)に触れない間も、自分の体を信じて鍛え続けた。

そして今では、着用型接続装置を纏えば、士道と同じ鎧も纏えるレベルまで成長を遂げた………修学旅行の時とは違う。

今の折紙には、士道を守れるだけの強さは確かにある!

 

「今度こそ………私は士道を救う!輝け―――『白龍皇の光翼(ディバイン•ディバイディング)』ッ!」

 

『Vanishing Dragon Sinking Divider!!!!!!!!』

 

カアアアアアアアアアッ!!

 

格納庫内に真っ白な閃光が轟くと―――白い鎧を龍を模した全身鎧を纏った折紙が姿を表した。

例えこの行為によって隊を追われる事になっても、折紙に躊躇の二文字は無かった。

士道は、全てを失った折紙の最後の心の拠り所。それを奪おうとする者は、誰であろうと倒す。

 

白い龍へと変貌した折紙は、天空へと飛び上がった。

 




最後に出て来た折紙の鎧は、DXD原作のヴァーリと同じ鎧『白龍皇の鎧』です。
一章及び二章で士道が纏った未完成の禁手です。

前回同様に『白龍皇の輝銀鱗装』でも良かったのですが、アレは人工神器で最後に壊れており、アルビオンも既に折紙に宿っているため、『白龍皇の鎧』を選びました。

折紙の『白龍皇の光翼』も今後の章で禁手化させますが、もう少し先になる予定です。

ドライグ先生の次回予告

ドライグ『誘宵美九によって亜衣麻依美依トリオを洗脳され、三人の代役には〈ベルセルク〉―――八舞ツインズが選ばれた。
相手はステージでのパフォーマンス経験が豊富なトップアイドル。おまけに超常の力を持つ精霊だ………それを相手に急造のチームで挑む相棒たちに勝機はあるのか!?

次回 デート•ア•ライブ 〜転生の赤龍帝〜

八話「決戦 天央祭 後編!」

精霊を守りし帝王よ!いざ開け―――『パンドラの箱(黒歴史)」をッ!!


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八話 決戦 天央祭 後編

前回のあらすじ

夕弦「音読。士織は美九とデートをする中で彼女が価値観に疑問を覚えました。人間をオモチャにしか思わない美九―――士織は勝利し、美九を正しく人間と話させることはできるのでしょうか?」

耶倶矢「カカッ!ここから先はレクイエムぞ!我が魔性の声で貴様らの魂を永久の眠りに導こうぞ!」

夕弦「溜息。耶倶矢はボーカルでは有りませんよ?マスター折紙がいない今、ボーカルは凛袮のソロです。それに、耶倶矢の音程がズレまくりな歌(笑)では、凛袮の足を引っ張ります。耶倶矢はドラムの方に全集中して下さい」

耶倶矢「んだとコラッ!?我が音痴だとでも言いたいのか!?」

夕弦「驚愕。まさか知らなかったとは………さすがはバ耶倶矢」

耶倶矢「ちょっ、士道に続いてアンタまで!?良かろう、我が歌唱力ドラムを叩きながら響かせてやろうではないか!」

夕弦「静止。耶倶矢、考え直して下さい!このままでは夕弦達に敗北の二文字が―――」

士道「止めろ耶倶矢、凛袮の歌をぶち壊すつもりか!?」

耶倶矢「し、士道まで!?ううっ………うあああああああ!!皆が私をいじめるよおおおおお!!」

凛袮「ちょっと―――士道に夕弦ちゃん、耶倶矢ちゃんにそんな酷いこと言っちゃダメだよ!確かに耶倶矢ちゃんの歌は、音程がズレまくりだけどリズムは―――」

耶倶矢「やっぱり私って音痴なの!?音痴なのね!!」

凛袮「いや、そう言うわけで言ったんじゃ―――」

ドライグ『天然というのは恐ろしいな。さてさて茶番はこの辺りにして―――続きだ。待たせたな』

※JASRACで楽曲コード検索しようと思ったのですが、まさかのメンテ中で投稿が微妙に遅れました。 申し訳ございません!


「いよいよ始まるな」

 

照明の落とされたステージの中央に、五人の人影が闇の中を歩いて行く。美九と思しき少女がステージの中央に立つと………黄色の歓声が照明の落とされた客席からサイリウムの光が左右に振られる。

 

わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

 

歓声と激しく揺れるサイリウムが止んだタイミングで―――曲の伴奏と共に、ステージがスポットライトで照らされる!

歌詞が始まるまでの伴奏の間に、美九の振り付けに合わせてバックダンサーも、踊りを披露する。

 

それに合わせて観客が合いの手を始め、サイリウムを激しく振る!それはまさにアイドルが行うライブそのもの。

そして、美九が歌詞を口ずさむと同時に会場のボルテージとサイリウムの振りがどんどん加速していく!!

 

そして曲がサビに入ると―――美九の歌声が大きく、そして強くなり会場全体に響き渡り、演出もより一層激しさを増す!

この会場は美九の声に会場は一つになり、異様な熱気に包まれていた。見渡す限りの人達が美九の歌に合わせてサイリウムを振るい、合いの手を行う。

 

「おおっ!なんだか楽しくなって来たぞ!」

 

「………す、凄い」

 

十香も美九の歌を聴いて購入したサイリウムを振り始め、凛袮はゴクリと喉を鳴らし、ただ美九の圧倒的な歌唱力とパフォーマンスに圧倒されていた。

そして美九が一曲目が終わりに合わせて、ウィンクを送ると―――再び割れんばかりの拍手と歓声が上がる!!

 

『美九お姉様ああああああ!!』

 

『美九たん最高おおおおおおおお!!』

 

『美九!愛してるぞおおおおおおおおおお!!』

 

次の曲が始まる前の僅かな間。その間にも観客の熱は冷めることを知らない!そして、そこから一〇秒ほど経つと―――次の曲の伴奏が始まり、美九がダンスを始めたその時、急に照明が落ちて真っ暗になってしまう。

否、それだけではない!大型のスピーカーから流れていた曲も、照明が落ちると共にプッツンという音を鳴らして途絶えた。

 

「む!?停電か!?」

「え、それちょっとマズくない!?」

 

急にステージのスポットライトやらが一斉に停止したことを見て、十香や凛袮を筆頭に観客席にどよめきが広がって行く。

皆が混乱を始めると同時に、一つの可能性というか確信にたどり着いた士織ちゃんは、額に手を当てて盛大にため息を吐く。

 

「………琴里、余計な事はするなって言ったろ?」

 

『はて?なんの事かしら?ステージの方で何か起こったの―――ああ、なんかステージのスポットライトとスピーカーが壊れただけでしょ?まぁ、程よく白けたらまた再開させてあげるわよ。勿論、また盛り上がったタイミングでブッチンするケド』

 

「知ってるじゃねえかッ!?ったく、どうなっても知らねえからな」

 

士織ちゃんは、やれやれと両手をあげて手を振るとステージの方へと再び視線を戻す。

時間が経つにつれて、盛り上がっていたステージのテンションは下降を始めていた。

確かに如何に素晴らしいステージであろうと、見えなくすれば意味はなくなる。その素晴らしい美声も聞こえなくしてしまえば、会場のボルテージは維持できない。

 

しかし………美九はかつてトップアイドル―――『宵待月乃』として世間にその名を轟かせたプロ中のプロ。この程度のアクシデントで引き下がるような経験値ではない!

スポットライトを殺され、ステージを暗闇が包まれてから少し経過したその時、小さな光が現れる………濃密な霊力の波動によるものだ。

 

「………言わんこっちゃねえ」

『獣の巣を突いた結果だな。相変わらず役に立たないな「フラクシナス」は………』

 

士織ちゃんは、美九が何をするかを瞬時に見抜いた。そしてドライグ先生が墓穴を掘った琴里に溜息と共に罵声を浴びせた。

 

―――琴里がやったのはステージの妨害だが、これが美九を本気にさせてしまったのだ。美九から放たれる濃密な霊力の波動は美九の体を包み込んで行く!

 

「―――『神威霊装•九番(シャダイ•エル•カイ)』!」

 

美九が会場のどよめきを押さえつけるように、小さく霊装の真名を謳うと放たれた光が光のドレスを形成する!

身体のラインに張り付いたトップス。ボリュームのある袖。それらを包み込むように展開したボレロ状の光の帯。そして―――光のフリルが幾重にも折り重なった煌びやかなスカート。

 

『まさか、こんな人目につく場所で霊装を顕現させるなんて―――』

 

「だから言っただろ、余計なことをするなって………人間に危害を加えるつもりは無さそうだし、万が一何かあった時は、責任を持って処理するから心配いらない」

 

士織ちゃんはそこまで言うと、美九から放たれる力を明鏡止水で探った。その力は誰にも矛先を向けられておらず、危害を加えるつもりで霊装を纏ったわけではない。

そして観客達は、突如美九が光を放って衣装を変えたことを特殊な演出だと思ったのか、会場を包み込む歓声がより一層大きくなる!

 

「―――上げていきますよぉ!ここからが本番です!!」

 

わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

 

美九が小さくステップを踏み、顔の前に両手が上下するように腕を上げると死んだはずのスポットライトが光を放ち、さらにはスピーカーが曲を流し始める!

 

『そ、そんな―――まさかこれも美九の能力だって言うの!?』

 

殺した筈のスポットライトが、美九の歌に呼応するかのように光を放ち、スピーカーが曲を会場の隅から隅まで響かせる!

琴里は再び会場の設備を落としに掛かるが―――効果は無かった………

曲が始まると美九が踊りと自慢の歌声を披露し、会場のボルテージは一曲目とは比較にならないほどの高まって行く!!

これを見た士織ちゃんは、引き攣らせた笑みを浮かべた。

 

「………中津川のおっさんに一杯食わされたな。美九の力はあの時のビデオで計算していたけど―――今の美九はあのビデオよりも数段凄みが増している。歌にしても響きが良くなってるし、ダンスにもキレが出ている。プロは日々進化していくって言われるけど………美九を見てると改めて納得した」

 

『ああ………しかし、いい歌だな。聞いていて癒される「聞く麻薬」の二つ名は、伊達ではないというわけだな』

 

思わず士織ちゃんも、近くのフェンスから体を乗り出すように歌に夢中になっており、士織ちゃんを通して聴こえてくる歌声にドライグ先生も思わずニッコリ。

観客の誰もが先程の一件をアクシデントだとは思っていない。全ては―――美九の輝きを増すための演出。美九のパフォーマンスをより際立たせるための小道具として処理された。

再び合いの手が聞こえ、振られるサイリウムは激しさを増した。美九の存在感は会場の全てを自分の世界へと染め上げて行く!

 

―――今の美九を表現する言葉は、トップアイドル以外に見つからないほどそのパフォーマンスは圧倒的だった。

 

そして両手を挙げると同時に、曲が終わる。

今までよりも一層凄まじい拍手と大歓声が、会場を包み込んだ。

 

会場の誰もが美九の名前を口にして、そのパフォーマンスに感激して祝福するように。

そして気付けば十香も最高にボルテージが高まった状態で拍手を送っていた。

 

「………たく、こんなパフォーマンスが出来るなら、汚い真似なんざするなよな。楽に勝てる相手だと思っていた自分が馬鹿らしくなるってんだ」

『まさか、これほどまでとはな。ここまで闘志に火をつけてもらった〈ディーヴァ〉に、次は相棒達が応える番だ………と言いたい所だが、肝心のボーカル担当はプレッシャーで大きく震えている様子だぞ?』

 

「………………」

 

ドライグ先生に言われて、ボーカルを担当する凛袮に視線を向けると―――呼吸が整っていない凛袮の姿があった。

学年で誓った総合優勝を背負って戦うプレッシャー。さらには、ラクロスで慣れ親しんだコートではなく、ステージで大勢の観客を前に歌を披露するという経験したことのない重圧が、凛袮にプレッシャーとして乗っているようだ。

 

そして………バンドメンバーが抜けた穴を埋めるべく士織ちゃんが呼んだ助っ人が、凛袮の肩に両手を落とした。

 

「どうした凛袮………固まっておるではないか。もしや、あの歌に呑まれたか?我らに『士道は渡さん!』と向かって来たお主は何処へ行った?」

「脱力。凛袮、肩の力を抜いて下さい。それではいつもの美声は出ませんよ?」

 

「耶倶矢ちゃん、夕弦ちゃん!?ちょっと―――痛い、かな?でもありがとう………少し楽になったよ」

 

助っ人に呼んだ八舞ツインズがここに降臨した。耶倶矢が肩に入った力を剥がすように揉み、夕弦は首筋を親指で押していた。不意に変な感触が現れて、

これでバンドのメンバーは揃った。これを見た士織ちゃんは、下品な笑みを浮かべて手をわしゃわしゃと動かす!

 

「よし、景気付けだ!お前らのおっぱいに入った力を俺様が特別に抜いてやるぜ、ぐへへへへへへ!」

 

―――士道くんの姿でやれば、逮捕待った無しの犯罪臭全開の笑みで、メンバーのおっぱいを揉みしだく士織ちゃん!

 

「も、揉むな!」

「あ、コラやめんか!」

「淫猥。やめて下さい!」

「もう士道、怒るよ!?」

 

背後からこっそりと忍び寄り、そして大胆にメイド服の上からおっぱいを鷲掴みにして欲望の限りに蹂躙していく士織ちゃん!

十香、耶倶矢、夕弦、凛袮の順番で緊張をほぐす(自分の)名目で息を荒げながら、大好物を揉みしだくその姿は………やはり士道くんそのものだ。

 

さらに!!この乳揉みには、先程四糸乃にドン引き待ったなしの嘘を吹き込もうとした、ドライグ先生への報復も兼ねていた。

 

『おい相棒―――何故、籠手で乳を揉んでいるのだああああああああ!?』

 

「お前が四糸乃に嘘を信じ込ませようとした報いだ!遠慮せずにたっぷり味わえ、ステージが始まるまで、永遠と続く乳揉みツアーだ!」

 

『うおおおおおんん!!うわああああ!!うおおおおんん!!悪かった、反省します、もう二度としませんから許して下さい相棒さまああああああ!!』

 

「Too Little Too Late(もう手遅れだ)!!うんうん!みんな日々成長してるな〜!お兄さんご機嫌だ!!」

 

ドライグ先生の悲鳴に聞く耳を持たず、メンバーの乳をやりたい放題に犯す士織ちゃん。

しかし、十香たちも当然無抵抗ではない!肘打ちやら、ビンタやら、スネに踵をぶつけられたり、鼻に後頭部をぶつけて来たりと、乳を揉むたびに猛反撃が飛んで来た。

 

バギ!パンッ!ズガッ!ゴンッ!

 

………一〇分ほどすると、士織ちゃんの顔面はハチに刺されたごとくボコボコ状態になっていた。

 

「よ、よし!お前ら大分緊張がほぐれたみたいだな」

 

瞼の片方は腫れ上がり、右側の頬にはくっきりと平手打ちされた痕が残り、さらに鼻血まで垂れ流した、可愛さが残っていない顔面で士織ちゃんが言うと、四人は胸元を隠して、顔を赤く染めながら鋭い視線を向ける!

 

「ああ、お陰様でな!!」

「ううっ………私、お尻まで触られたんだけど!?」

「同調。夕弦もです。夕弦は服の中にまで手を入れられました」

「士道、やっていい事と悪い事があるんだよ?少しは反省して!」

 

士織ちゃんがやりたい放題やったおかげで、凛袮の緊張もかなり和らいだ様子だ。そして最後に士織ちゃんがメンバーに言う。

 

「正直言って美九のステージは圧倒的だった。歌、衣装、パフォーマンス………どれをとっても俺たちよりも上だと思う。でも、俺たちもその美九に勝つ為に今日までやって来たんだ。縮こまる必要は無い―――俺たちの演奏で、会場に嵐を巻き起こしてやろうぜ!」

 

「うむ!私は精一杯ステージを楽しむぞ!」

「カカッ!我が一年をかけて極めた音色の極地!余さず披露してくれようぞ!」

「出陣。夕弦の泣く子も黙るベースを会場の隅から隅まで届けます!」

「士道らしいな………私もやるよ!」

 

メンバーの想いはこれで一つになった。仙城大付属の吹奏楽部の演奏が終わると、来禅高校のバンド演奏―――士織ちゃん達の晴れ舞台が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――◇◆―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天宮スクエアの上空一五〇〇〇メートル上空では、空中艦フラクシナスは士織ちゃんのステージを見守っていた。

艦橋の中央にある司令席に座る士道の妹であり、司令官でもある琴里は艦橋のモニターを眺めていた。

 

「………後は士道が竜胆寺に勝ってくれれば良いんだけど、それは期待できそうにないわね」

 

琴里は士道達の演奏を見ていた………士道達の演奏は、プロのバンドと比較しても遜色ないレベルにまで到達している。

しかし、先程の美九のアクシデントで動じないどころか、パフォーマンスを際立たせる要因にしてしまう圧倒的な力を見て、相手が悪過ぎることを思い知った。

 

―――その全力を出させる要因を作ってしまった事に琴里は責任を感じていた。

 

「………結果で取り戻してやるわよ!このまま士道の足を引っ張ったままで終われるもんですか!」

 

自分の失態は、自分で取り返す………琴里はそう言わんばかりに燃えていた。そして、士道達のステージが始まる五分前―――時刻は一四時五五分になったその時に艦内にアラームが鳴り響く!!

 

「し、司令!天宮スクエア上空にASTと思しき反応が!!その数三〇!!」

 

「何ですって!?至急モニターに写して!」

 

「了解―――これは、DEMのウィザードに士道くんから報告のあったバンダースナッチです!」

 

箕輪がモニターを天宮スクエア上空の映像に切り替えると、ワイヤリングスーツを纏って宙に佇む魔術師と、バンダースナッチが展開されていた。

………琴里は事象をいくつも展開しながら、頭を回転させ一つの答えにたどり着いた。

 

「………エレン•メイザースでしょうね。恐らく、あの女は士道の宿った力を見抜いて上に報告したんでしょう。士道が宿す『赤龍帝の籠手(ブーステッド•ギア)』を知っていて、さらに十香に八舞姉妹と言った精霊の事も―――まさか、奴らの狙いは士道と精霊ッ!?」

 

こんな人が集まる場所で戦闘を行えば、屍の山ができる事など子供でも理解するに容易いだろう。しかし、DEMや日本の陸上自衛隊も『軍事目的のための致し方ない犠牲だ』とでも言えば、お咎めなしになる事実もある。

 

―――地上最強のドラゴンに、天災を呼ぶ精霊。これらは、民間人の生活を脅かす脅威だ………積み重なった屍は、それを討滅するための小さな犠牲として、世論は処理されてしまう事を琴里は理解していたから。

 

「―――司令、良ければ私が出ましょうか?」

 

「それしか無いわね。頼ん―――」

 

琴里が最後まで言おうとしたその時、再びアラームが館内に鳴り響いた。

 

「―――今度は何!?」

 

「天宮スクエア上空にもう一つ巨大な反応が現れました!これは―――」

 

クルーの狼狽と共に、現れたもう一つの方の反応へとモニターを切り替えると………凄まじい斬撃が雲を斬り裂いた。

そして、雲が払われたことで新たな反応の主が姿を現した。

 

「まさか、アレが士道の言っていた『白い龍(バニシング•ドラゴン)』だというの………」

 

現れた白い太陽を見て、琴里はごくりと唾液を飲み下した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――◇◆―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっちゃー………どうやら、向こうが当たりのようだな」

 

天宮スクエアから、少し離れた雑木林の中で、DEM社が誇る魔術師グレンは、天宮スクエア上空に現れた巨大な反応を見て声を漏らした。

上空ではジェシカが率いる第三戦闘分隊が天宮スクエアに突入をかけようとしていたのだが、どうやら邪魔が入ったらしい。

 

そして、グレンの部隊は地上から天宮スクエアを抑える部隊だ。グレンはジェシカのフォローで此処で待機を命じられているのだ。

 

「グレン様、如何なさいますか?」

 

部隊の女性魔術師がグレンに訊ねると、グレンは言う。

 

「そうだね………感じ取れるオーラから察するに、現れたのは『白い龍』を宿したトビイチオリガミだろう。これは、僕たちが突撃した方が良いかも知れないね」

 

グレンは状況を上官に報告すると―――突撃命令が降りた。グレンはその命令を確認すると、レイザーブレードとビームウェポンを装備すると、高らかに命令を下した。

 

「エレン隊長の命令だ―――突撃だ、行くぞッ!!」

 

『イエス、マイロード!』

 

雑木林の中から、グレンが指揮する地上部隊が飛び出そうとしたその時―――

 

ゴオオオオオオオオオオオッッ!!

 

「きゃあああああああああああ!?」

「な、なんだこれはッ!?」

「身動きが取れません!」

 

先行しようとした魔術師三人と、バンダースナッチ七機を突如発生した竜巻に飲み込まれた。

竜巻に飲まれた魔術師達とバンダースナッチ防御随意領域を発動するが、竜巻の風刃の方が一歩上を行き、CRユニットを切り裂かれ、地面へと落下した。魔術師達はワイヤリングスーツにも、亀裂が入ってしまい戦闘続行は不可能。

そしてバンダースナッチも体の大半を粉々に切り刻まれ、地面に叩きつけられると、衝撃によって爆発して全て戦闘不能に追い込まれた。

 

「………すまんなグレン。いつぞや預けた、勝負の続きといこうじゃないか」

 

竜巻が止むと………或美島で勝負を預けた正義が現れた。彼は前回と同じ武装―――オレンジ色の籠手と妖しい緑色のオーラを放つ前後両方に刃を持った刀を手に現れた。

グレンはそれを見て嬉々とした笑みを浮かべる!

 

「そう言えばキミも来禅高校の生徒だったっけ?まさか、あの時の借りをここまで早く返せるとは………来い『リュカオン』ッ!!」

 

グレンは正義を見るなり、自分の影から漆黒の刃を持つ人狼―――リュカオンを召喚した。

それを見た正義は、刀を振り回して切先をグレンに突きつける!

 

「この先には俺の仲間が、敬愛する幼女がいる………元気一杯の天真爛漫幼女に、歪んで育ったひねくれ幼女、そしてお嬢様系幼女!俺は今この時をもって幼女たちの盾となる!!ここから先に進みたくば、俺を超えていけッ!!」

 

「キミの属性は幼女なんだね………しかし、そんな事は今はどうだって良い!!上等だ!心行くまで殺し合おうじゃないかッ、ジントクマサヨシッ!!」

 

正義は来禅高校の生徒を守る為に、DEM社の魔術師の行く手を阻んだ。ちなみにだが、来禅高校の生徒はついで。

彼が真に守るべき本命は幼女だ。勇気五%、元気五%、欲望九〇%を満たしてくれている未成熟なつるぺたボディを守る為に!

正義は、鬼神となって刀を振るった。その姿はまさにマジキチと呼ばれた最強の存在―――人修羅の名に恥じない戦舞だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――◇◆◇―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は一五時〇〇分。天央祭のパンフレットでは、士織ちゃん達のバンド演奏が始まる時間だ。士織ちゃんたちはステージの近くの幕の中で待機をしていた。

 

(………おいおい、外で何が起こったんだ?上空で戦ってるのは折紙とAST―――いや、このオーラはDEMの魔術師か。それに、地上では仁徳と、これもDEMか?俺も加勢に向かった方が良いか?)

 

士道はステージが始まる前に大きく息を吸い込み、精神を統一していた。その時、周囲のオーラを探ると上空と地上で巨大なオーラを放出する存在が二つ確認できた。

一つは士道が宿す『赤龍帝の籠手』と相反する神器―――『白龍皇の光翼(ディバイン•ディバイディング)』を宿した折紙。そしてもう一つは、来禅高校が誇るマスコット『ペド修羅』こと正義だ。

 

『相棒。その気持ちは分からないでもないが、今は〈ディーヴァ〉との勝負がある。それを片付けてから救援に向かっても十分に間に合う筈だ。仁徳正義と鳶一折紙の強さは、その身で体感した相棒が誰よりも知っている………凡百の魔術師程度に敗れはしないさ』

 

『士道、ドライグの言う通りよ。あなたはまず美九とのステージ対決がある。そっちに集中なさい。仁徳正義と鳶一折紙に万が一の事があった時は―――()()()()()を切るわ』

 

「分かった。もしもの時は頼むぞ。それから琴里、一つだけ準備して貰いたいものがある――――――」

 

『………なるほどね。了解よ、言われた通りにするわ』

 

相棒と愛する妹の言葉を聞いて地上と上空で行われている戦闘の事は、二人に任せた。そして、琴里に備えをしてもらった所でレディーパーフェクトリー、準備は完全に整った。

そして、士織ちゃん達の演奏が始まるアナウンスが流れ始める。

 

『次は、来禅高校によるバンド演奏です!』

 

「さあ、俺たちの番だ、行くぞお前たち」

 

士織ちゃんの言葉に十香たちは首を縦に振り、その後ろに続いて歩き始めた。

 

パチパチパチパチ!!ピー!ピーピーピーピー!!

 

アナウンスが流れると、拍手と指笛の音が聞こえてくる!恐らく指笛は来禅高校の生徒によるものだろうが………

 

士織ちゃん達は、薄暗いステージの中を進んで行く。そしてそれぞれが各持ち場に着いた所で、スポットライトがステージを照らす。

 

ステージからは、幾人もの観客が来禅高校の演奏を心待ちにしている様子だった。そして客席の中段からは、四糸乃がサイリウムとよしのんを振っている姿も確認できた。

 

………不思議な事に士織ちゃんに緊張は無かった。それもそのはず―――精霊たちとの極限状態でのデート。自分の実力を大幅に上回る存在との戦闘が、彼の心を大きく鍛えたからだ。

 

ステージもよく見え、メンバーたちの顔もしっかりと認識できている!視界に曇りも無ければ狭まってもいない!

そしてドラムを叩く耶倶矢がスティックを叩きながら合図を出す!

 

「クク………奏でようでは無いか、此奴ら(観客)全員を冥府に誘う死の旋律をッ!」

 

どこでも厨二病全開な耶倶矢ちゃんを見て、耶倶矢をよく知る人物たちはハハハ!と笑い声が聞こえてきた。それにしても相変わらず物騒な事を平気で言うなと士織ちゃんは思ったが、口に出す事は無かった。

 

耶倶矢がスティックをカチカチカチッ!と三回叩くと伴奏が始まり、それに合わせて士織がギターを響かせ、夕弦のベースが会場に轟く!そして十香が楽しそうにタンバリンをシャンシャンと鳴らすと、来禅高校の生徒たちがリズム良くサイリウムを振り、合いの手を始める!

 

そして、伴奏が進むと来禅高校が誇る歌姫――――――凛袮の美しい歌声が会場全体にこだまする!

 

『―――交わり合う線と 遠く呼びかける空 十字の下で舞う戦慄の声』

 

凛袮の美しい歌声が響き渡ると、美九の時同様に会場が熱気に包まれて行く!そして次の歌詞からは、楽しそうにタンバリンを鳴らしていた十香までもが、リズミカルに歌詞を口ずさむ!

 

『―――弱さなど君に見せたくないから』

 

十香が歌い始めると、凛袮は驚いた表情で十香を見た―――そして、十香はステージの中央で歌う凛袮の所まで走ると―――背中を合わせる!

 

『『風を受けて 振り切って進め―――』』

 

ステージで歌う十香と凛袮は、美九同様にリズミカルにポーズを取りながら歌を会場全体に響かせる!

………きっと十香は、凛袮と折紙が歌っていたものを朧げながらに覚えてしまったのだ。

 

「あいつらッ………上げてくれる!」

 

気が付けば十香と凛袮のデュエットになってしまっているものの、十香の歌は凛袮にも劣らないほどのレベルで仕上がっていた。

朧げで覚えたものに自分のアレンジを加えて歌う十香の歌は、聴こえてくる士織ちゃんと八舞ツインズのテンションをブーストして行く!!

 

『『―――衝動を解き放て! 駆け巡り積もる意志その眼を忘れはしない

記憶を揺らす Draw×Delete 明日に代える今を また輪廻する灯 そっと頬を伝う紅』』

 

そしてサビに入ると、会場全体が一つになった。来禅高校の生徒だけでなく観客全員を巻き込んでヒートアップ!

今まさに彼女達は『音』を『楽』しんでいるのだから!来禅高校の総合優勝をとると言う重荷も、美九に勝たなければならないという責任も、頭の外へとほっぽり出して!!

 

そして曲はさらに進んで行く!しかし、彼らの演奏は衰える事なく会場のボルテージを維持したまま最後のメロディーへと突入する!

 

『『―――不確かな永遠と希望重ねたら めぐる想い胸にそっと触れた―――』』

 

観客のサイリウムは激しく振られ、合いの手もどんどん激しくなっていく!五人とも光る雫を飛ばしながら、最後の瞬間まで各々の役割を果たし続ける!

 

『『―――衝動を解き放て!駆け巡り積もる意志 その眼を忘れはしない

記憶を揺らす Draw×Delete 光に立ち向かおう さぁ 戦いの幕開け そっと胸に伝う紅』』

 

彼女達の頭の中は、一つの感情が支配していた。

 

―――楽しい!

――――――楽しい!

―――――――――楽しいッ!!

 

そして曲は最後の一節へと入る!

 

『『―――そう 絶対負けられない』』

 

そして最後の伴奏を奏でると―――曲は終了した。曲が終わり、士織ちゃんがギターを肩にかけて、マイクで声を届ける!

 

「ありがとうございました!!」

 

わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 

士織ちゃんが感謝の意を示すように手を振ると、インカム関係なしに拍手と大歓声が巻き起こり、それはステージを震わせるほどに凄まじく、それを聞いたステージにいた全員が笑顔になった。

 

「シドー!」「士道ッ!」

「おうッ!」

 

眩い笑顔で十香と凛袮が駆け寄ってきて、士織ちゃんが両手を挙げると、二人ともパチン!と叩きつけてきた。

士織ちゃん達の演奏は、会場を一つにした。

 




どもども、勇者の挑戦です。

最後のバンド演奏なのですが、美九編二話でやった『My Treasure』同様に、何かしたいなと思っておりましてアニメDxD(一期)のOP『Trip -innocent of D-』を選曲しましたが、これは本当に悩みました。

美九に人間の団結を証明するためにアイマスの『The world is all one』や、凛袮の声優(花澤香菜さん)の持ち歌、アニメデアラの一期、二期のOPなどなど色々考えましたが―――どうでしょうか?

正直これに関しては正解が分かっておりませんが、私はバンド演奏とした以上選曲に誤りはなかったと思っています。

感想及び意見等あれば是非、お聞かせ願いたいです!

ドライグ先生の次回予告

ドライグ『ステージ部門での対決も終わり、いよいよ一日目の各部門での成績発表が始まった。果たして、相棒達は〈ディーヴァ〉こと誘宵美九擁する竜胆寺女学院に勝利する事はできるのか!?

次回 デート•ア•ライブ 〜転生の赤龍帝〜
九話「波乱の表彰式!!」

精霊に愛されし女帝よ、勝者となれ―――絶対読んでくれよなッ!』

士織「カカロットやめぃ!」


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九話 波乱の表彰式

前回のあらすじ

令音「………前回は仁徳正義が、DEMの魔術師グレンと一騎討ちをして、ワンパンマンした」

士道「令音さん、間違ってますよ!?」

令音「………そこから鳶一折紙がDEMの魔術師、ジェシカ•ベイリーを含む魔術師集団とドンパチを始めた。果たして鳶一折紙は―――」

士道「令音さん、もういいです!もうネタバレしてますから!!」

令音「………おや?間違っていたのかい?それは悪かった。ではシン、この前の続きをしてあげよう。先日は私の胸だけで終わってしまったが、今日は私の全てを―――」

士道「ストオオオオオップ!!それは今度出す外伝で書くネタですから!!」

令音「………すまないシン。最近不眠症で眠れないから、台本が頭に入って来ないんだ」

士道「それは元々ですよね!?令音さん三〇年近く不眠症で困ってる(設定では)のは元からじゃないですか!!」

真那「相変わらず兄様は忙しいでやがりますねぇ………それでは、そろそろ続きと参りましょう!またせやがりましたね!」




天宮スクエアの上空では、上空に現れたジェシカ率いる第三分隊と折紙が激しく火花を散らしていた。

 

「―――ッ!」

 

折紙が迫り来る二体のバンダースナッチをすら違いさまにレイザーブレードで一閃!今しがた撃墜した、バンダースナッチの残骸が地面に落ちていくのを視界の端に捉え、息を吐く。そしてすぐさまギリと奥歯を噛み締め、天へと吠える!

 

「………士道には、指一本、触れさせない………!」

 

―――士道を奪おうと向かってくるものは全て私が破壊する。その信念を強く掲げ、両手に力を込める!!

 

「―――はああああっ!!」

 

ビシイッ、ジジジジジッ………ズドオオオオオオッッ!!

 

折紙が裂帛の気合と共にレイザーブレードを一閃すると、斬撃が放たれバンダースナッチ三体を貫く!!

そこからコンマ何秒かの時間差で、胴体にスパークが迸ると―――胴体に亀裂が入った。その数瞬後には、上体が削げ落ち爆発を起こした。

 

バンダースナッチを一撃で破壊する折紙を見た、DEMの魔術師部隊はその力を恐れて近接戦闘は避け、遠距離での攻撃に出る。

 

「化け物がッ!!」

「撃て!撃ちまくれッ!!」

 

ズドドドドドドドドドドドドッッ!!

 

DEMの魔術師たちは、ビームウェポンを折紙に一斉掃射するが、これも今の折紙には通用しない!

折紙の翼―――エナジーウィングが光を放つと周囲の空間に微弱な波動が迸る!!

 

『Reflect!!!!!』

 

放たれたビームは、折紙の翼が発行すると同時に跳ね返り、ジェシカたちを襲った。

 

………これは生前にアルビオンが有していた能力の一つ『反射』。未完成の禁手でもこの能力を発動する事は可能なのだ。

 

魔術師たちは、放たれたビームを旋回しながら避け回る!しかし、折紙の狙いはこれだった。

 

「今―――ッ!!」

 

折紙はレイザーブレードを帯剣すると、鎧から新たに武器を取り出す―――今度は巨大な砲門を有したバズーカのような遠距離攻撃用の武器だ。

折紙が引き金を引くと、バスケットボールほどの弾丸が放たれると―――その弾丸が空中で弾け、そこから無数の小さな弾丸が拡散して魔術師一団に襲いかかる!!

 

「くっ―――」

「ちぃッ!!」

 

魔術師たちは拡散した弾丸を防げないと見るなり、防御随意領域(プロテクトテリトリー)を展開した。これでジェシカたちは、弾丸を処理するために動きが完全に静止する!

こうなってしまったジェシカたちは、格好の的となってしまう!

 

「………ッ!!」

 

再びレイザーブレードを構えた折紙が防御随意領域を展開した魔術師たちに斬撃を放つ!!

 

「きゃあああああああ!!」

「グワッ!?」

「ぐおおおおおおおっっ!!」

 

折紙の放った斬撃は魔術師たちの防御を斬り裂き、CRユニットを吹き飛ばした。そしてCRユニットを吹き飛ばされた魔術師たちは、浮遊する術を失い地面へと落ちていく!

 

「こちらアデプタス5―――アダプタス4、至急増援をお願いシマス!」

 

魔術師たちを迎撃した折紙はバンダースナッチを一機、さらにもう一機と撃墜していく!既に三〇ほどの舞台の半数以上を撃墜されたジェシカは、アデプタス4―――グレンに増援を要請するが………

 

『ジェシカの姉御、こっちも交戦中ッス!こっちのは「白い龍(バニシング•ドラゴン)」が可愛く思える化物、ペド修羅―――既にこっちの部隊は壊滅させられてるッスよ!そっちに遅れる応援はもう―――ぐうっ!?』

 

「まさか地上部隊まで!?しかも修羅って事は―――グレンが手も足も出なかった『ジントクマサヨシ』とやらカ!?一体、何がどうなっているって言うのヨッ!!」

 

既にジェシカはウェストコットに増援を要請しているが、まだそれは到着していない。故にすぐにこちらに駆けつけられるグレンに増援を求めたが、交戦中で先程苦悶の声が聞こえてきた………部隊を失ったという報告プラス先程の苦悶の声を聞いて、彼も相当追い詰められている事をジェシカは悟った。

 

「ぢぐじょオオオオオオオオオオ!!」

 

「―――アルビオン」

『Reflect!!!!!!』

 

バンダースナッチ達を軽々撃墜する折紙にジェシカはビームウェポンを掃射するが、再び神器の能力で反射され、撃ったものがジェシカに襲いかかるだけ。

………自分がザコと評価したASTの隊員一人に手も足も出ない。この事実はジェシカにとっては屈辱でしかなかった。

 

そして、折紙はバンダースナッチ達を消滅させると、ジェシカに迫る!

 

「あなたで最後」

 

「調子に乗るナッ!小娘ガッ!」

 

ジェシカはレイザーエッジで折紙に斬りかかる!既に六人いた魔術師達は全て落とされ、バンダースナッチ引き連れたバンダースナッチ部隊も壊滅させられた。

残りの大将首を落とせば士道に向かられた悪意を挫ける。

 

折紙は迫り来るジェシカのレイザーエッジに自身の武器をそのままぶつけようと、腕を振り抜いた。

ガギィィィィィン!という音と共に折紙のレイザーブレードがジェシカのそれを押し返し、大きく体勢が崩れた。

 

「ぐっ―――」

 

ここが勝負と踏んだ折紙は、翼を広げて一気にジェシカの懐に入り込む!この一撃で勝負が決まる!折紙は両手に力を込め、最後の一撃を放とうと腕を振り抜く!!

 

「はあッ!」

 

―折紙はレイザーブレードを懐に入り込んだジェシカを目掛けて振り抜いた―――勝負は決した。体勢を崩されたジェシカに折紙の攻撃を防ぐ術はなかった。

 

しかし。

 

ズビィィィィィィィッ!!

 

ジェシカのベルトが眩い光を放つと、そのバックルから光線が放たれる!!

 

「が―――ハッ!?」

 

突如ジェシカのベルトから光の光線が放たれた光線は、折紙の鎧を貫き肉体を傷付けた。

折紙はその場で血を吐き出し、動きが止まる。それを見たジェシカは、ビームウェポンのビームを変え、折紙に照射!

今度のビームを見た折紙は、体中から危険という信号が出され、反射しようとはせず上空へと逃れた。

 

「ぐっ………そ、れはッ」

 

「はっ!ハハハハハハ!イイザマネ!こっちは赤龍帝を捕まえる装備で来ているのヨ?その装備をアナタ程度に使う予定は無かったケド」

 

今の折紙の武装の防御力は、CRユニットの防御随意領域とは比較にならないほど高い。それにも関わらず、ジェシカのベルトから放たれた光線は、それすら容易く貫くほどの威力を誇ったのだ。それを見たアルビオンは折紙に告げる。

 

『………恐らく「龍殺し(ドラゴンスレイヤー)」の能力を持った宝具―――もしくは神器でしょう。恐らくリンドヴルムが複製で創り出したものを与えたのでしょう。これでは迂闊にあの女の懐に入るのは危険です』

 

そう………ジェシカのベルトは創造系の神器『重殺創造(スレイヤー•ビルド)』によって作られたものだ。

その能力は、各種族に特化した威力を誇る武装を自在に創り出す能力を有している。

あのベルトは龍殺しの力を有した光線銃を、ベルト内に内装した装備というわけだ。

 

「………くっ、ここに来て増援」

 

背後に無数の気配が現れ、折紙が振り返ると―――ウェストコットが寄越した舞台が折紙の背後に展開されていた。バンダースナッチと三人の魔術師―――いずれもウェストコットを守護する精鋭だ。

 

「ハッ、ハハッ!形勢逆転ネ―――………私にハジを欠かせタ代償は高くツクワ。タダで済むと思うなヨ」

 

ジェシカは、口の端を釣り上げ不気味な笑みを浮かべると―――ビームウェポンから放つビームを『龍殺し』の能力を有するものへと変更し、折紙に突き付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――◇◆◇―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天宮スクエアセントラルステージには、一日日の出演者たちが勢揃いしていた。

皆緊張した面持ちで息を呑みながら、司会者の声を待っている。

それもそのはず。今は全てのステージ、および投票が終了し、上位校の発表が行われている最中なのである。

 

ステージ部門の第三位は、正義オススメの『仙城大附属高校』だ。士織ちゃんたちの一つ前に演奏を行った学校だ。

そして、次は第二位が発表される。ここにいる皆が気になっているのはここから先の発表だった。

先程まで拍手と歓声に包まれていた会場がふっと静かになる。

 

皆の脳裏には二つの高校の名前が浮かんでいたことだろう。

 

絶対王者として名高い竜胆寺女学院が誇る、トップアイドル•誘宵美九の圧巻のステージか。

はたまた、歌姫•園神凛袮を擁し、士織ちゃんが率いた来禅高校のステージか。

 

司会者がすうっと息を吸い込むと、司会者が声を上げた。

 

『第二位!僅かに及ばず―――来禅高校!』

 

「………ッ!」

 

―――昨年の来禅高校のステージ部門は四位。大躍進を果たした来禅高校の健闘を讃えて、会場からは割れんばかりの大歓声と拍手が巻き起こるが、士織ちゃんは思わず唇を噛み締め、天を仰いだ。

士織ちゃん同様に、十香と凛袮、さらには八舞ツインズもこの結果を受けて笑顔が消えていた。

 

「そ、そんな………」

「………悔しいな。分かってはいたけど、やっぱり―――」

 

特に十香は呆然と立ちつくし、凛袮は涙を堪えていた。二人とも全力を出し切った………それも、極度の緊張の中で練習以上のパフォーマンスを出したにも関わらず、負けてしまった事がなによりも悔しかったのだ。

 

そして―――興奮が冷め止まぬ中、ステージ部門の栄冠に輝いた高校が発表される!

 

「そして栄冠の第一位!やはり今年もその牙城は崩れない!!ステージ部門、一〇年連続制覇―――絶対王者•竜胆寺女学院!」

 

おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!

 

竜胆寺女学院は今年もステージ部門の制覇―――これで一〇年連続制覇という、素晴らしい偉業を成し遂げてしまうほどに。

その結果を受けて美九がニィッと口の端を釣り上げて、スキップしながら士織ちゃんに近づいてくる。

 

「ふふ、ふふふふー………」

 

美九ちゃんは非常に上機嫌である。それもそのはず―――自分の霊力を失わないどころか、士織ちゃんと彼女が霊力を封印した精霊たちというオマケまで、手中に収められるのだから。

 

「ほうら、だから言ったじゃないですかー。いくら群れたところで、人間は人間なんですよー」

 

美九は馴れ馴れしく士織ちゃんのあごをクイッと持ち上げる。それを見た士織ちゃんは悔しげに、キッ!と目を鋭くした。

 

「もう、怒らないでくださいよー。せっかくの綺麗なお顔が台無しですぅ。でぇもぉ、約束はやくそくですよぉ?今日から士織さんと士織さんが霊力を封印した精霊さん七人、みーんな私のものです」

 

「………」

 

「おやおや、だんまりですかぁ?んもー、士織さんのそんな姿を見たら、いじめたくなるじゃないですかぁ………でも心配ありません、みーんな私が可愛がって――――――」

 

士織ちゃんは美九の言葉を最後まで聞く事は叶わなかった。その理由は―――

 

「この結果、天央祭一日目の総合優勝は………初の栄冠おめでとう、来禅高校だああああああああ!!」

 

『うおおおおおおおっしゃああああああああ!!』

 

司会者がここまでで一番大きな声を張り上げて、総合優勝の高校を発表したからだ。これを聞いた来禅高校の生徒たちは、ある者はその場で飛び上がり、また別のものは周囲の人と抱き合い、涙を流して喜びを分かち合っていた。

 

「………へ?」

「―――良くやってくれた」

 

美九はこの結果を見て、信じられないと言わんばかりにキョトンと目を丸くした。

そんな美九とは対照的に、士織ちゃんは期待通りの仕事をやってくれた来禅高校の生徒及び、神奈月に深く感謝をした。

ここからは司会者による解説が始まる。

 

『いやぁ、今年は大波乱でしたね。しかし、今年の来禅高校は頭ひとつ抜けていましたね。模擬店部門、そして展示部門でも他を寄せ付けない圧倒的な票数を獲得し、二部門を制覇。特にメイド&執事カフェの接客と、モデルとなった少女を用意した展示作品「純白の女神」と「漆黒の女神」は、歴代の天央祭の中でもダントツの投票数でした。これを超える票数を獲得する出し物は、もはや未来永劫ないでしょうね』

 

「え………?え!?」

 

訳の分からないと言わんばかりに首を振る美九。解説はさらに続く。

 

『竜胆寺女学院は、ステージ部門こそ一位を取りましたが、今年は模擬店部門と展示部門が振るいませんでしたね。特に模擬店部門の方では、去年は完璧だった接客が今年は影を潜めていましたね。特に三年の模擬店部門からは、焦げた料理が出てきたり、客の顔面に料理を叩きつけたりと、それはもう散々だったと………苦情が来たとも報告を受けています』

 

この結果を聞いた士織ちゃんの顔は………ものすごく悪い顔をしていた。いつもの下品な笑みではなく、ドス黒い邪悪な笑みを浮かべて………それは、精霊たちのおっぱいを揉みしだく時以上に汚い絵だった。

 

「士道、お主まさか―――」

「確信。何か悪いことをしましたね?」

 

この汚い絵を見た八舞ツインズがいち早く士織ちゃんに噛み付いた。彼女たちはよく分かるのだ………自分達に必殺技のコンボを喰らわせる前と同じ顔を士織ちゃんがしていたから。

 

「失敬な!俺は何もしていないさ―――()()()()()()

 

士織ちゃん、八舞ツインズの噛みつきを一蹴!証拠不明な文句を付けるなと言わんばかりに堂々と胸を張る………ちなみにだが、士織ちゃんは思いっ切りズルをしている。

 

実は天央祭が始まる前から―――もっと言うなら、美九と勝負を受けたその時から、士道は仕掛けていた。

最初の一手は、神奈月に頼んで竜胆寺女学院に、ラタトスクの機関員をスパイとして潜り込ませた。

 

そして潜り込ませたスパイから情報を得ると、相手の戦力を削ぎ落とす作戦を考え、それを実行したのだ。

 

士道が狙ったのは、竜胆寺女学院の真骨頂でもある模擬店部門だ。圧倒的な美少女偏差値を誇り、接客も神レベル。去年は士道もその接客を受けるために、五往復するほど竜胆寺の模擬店に訪れていた。

この模擬店部門をどうにかしない限り、来禅高校に勝ちが転がり込んでくる事はないと………

 

しかし、店員の美少女の顔に傷をつける事も、出される料理に毒を盛ることは許されない。この二つをやると天央祭が中止になりかねないからだ。そこで士道は神レベルの接客を潰しにかかった。

ここでも士道は神奈月に頼んで、ラタトスクの機関員を工作員として潜り込ませ、竜胆寺女学院の模擬店部門で力を振るってもらった。

 

後は司会の解説の通りだ。工作員たちは士道と神奈月が協力して用意した、最低最悪の接客を余さず披露した結果、見事に竜胆寺の模擬店部門に悪評を立たせたというわけだ。

 

………飲食店での悪評を広めるのは容易い。それも天央祭のような人がたくさん集まる場所なら尚更だ。その悪評一つで、飲食店は致命傷になることを士道は良く分かっていた。

 

「神奈月さん大丈夫かな?あの人だろ、料理を顔面に叩きつけられたの』

『………あのド変態、相棒がそれを立案した時に「私にその役をやらせて下さい!」と即行で手を挙げたからな。その後に五河琴里に顔面キックを喰らっていたが』

 

ちなみにインカムからは、「あ、それは私です!いやぁ、あの叩きつけられたオムライスは、最高でしたね♪」とインカムから聴こえたのは、また別のお話だ。

 

………さて、解説はこの程度にしておこう。そしてこれから各校の代表者が前に出て行くのだが、美九はふらふらした足取りで歩いて行った。

 

「………ふざけないでください。何です、これ―――」

 

背後から、震えた美九の声が聞こえてきた。

 

「おかしいでしょう………?私が負ける訳ないじゃないですかー」

 

美九はフラフラとした足取りで、前方へと歩いて行った。背後から、震えた美九の声が聞こえてきた。

 

「私は―――誘宵美九なんですよ?私は………私は………ッ」

 

美九はこの現実が受け止められないようだ………自分はステージ部門で士織たちを圧倒した。ところが、総合優勝は何故か来禅高校のものになっていた。

 

「わ、私は勝ったもん………ちゃんとかったもん!そうです、あの子達が………あの子達がちゃんとしてないから―――」

 

「止めろ美九!お前は竜胆寺の天央祭の実行委員長だろ。その委員長が、敗因を生徒たちに押し付けるなんて、見苦しいだろ。美九、勝ったのは俺たちだ。だから、ちゃんと約束は守って――――――」

 

士織ちゃんが美九の間違いを正そうとした時だった。圧倒的に有利な条件で敗北を喫した事、そして士織ちゃんのお説教が―――美九のプライドを激しく傷付けた。美九から莫大な霊力の奔流が現れ、会場を吹き飛ばす勢いで解放される!!

 

「―――『破軍歌姫(ガブリエル)』!」

 

「ちぃッ!」

 

美九が霊力を周囲に迸らせると、美九の足元の空間に放射状の波紋が広がっていった。

さらに美九の声に呼応するように黄金色をベースにした巨大な金属塊のような物が姿を表した。

 

鈍重な本体から銀色の細長い円筒が何本も連なって生えた奇妙なフォルム―――聖堂に設えられている巨大なパイプオルガンを彷彿とさせた。

そのパイプオルガンが、顕現した際に、会場を揺らすほどの衝撃波が突き抜ける!

近くにいた司会者たちを守るために、士織ちゃんはその場で司会者たちを地面にしゃがませて、衝撃波をやり過ごした。

 

さらに、これだけでは終わらない!美九が右手を横にスライドさせると、輝くキーボードが現れた。そして―――人間たちを操る悪魔の旋律が響き渡る!!

 

「歌え、詠え、謳え―――『破軍歌姫(ガブリエエエエエエル)』ッ!!」

 

「『護星天(ミカエル)』―――【輝壁(シュテル)】ッ!!」

『まさか、ここまでやるとは………最悪の状況になってしまうぞ!』

 

美九がキーボードに触れると、背後のパイプオルガンからけたたましい音が会場にこだました。

あまりの音響に士織ちゃんは、『護星天』を顕現させて司会者とすぐ隣にいた十香を結界で覆う!

凛袮と八舞ツインズは、先程の衝撃波で吹き飛ばされてしまい、結界で覆う事は叶わなかった。

 

「ぐっ………クソッ!」

『流石の「護星天」でも音だけは防ぎようがないらしいな。いや、この小娘は、自分の声と天使の能力をミックスしているため、威力が桁違いに上がっているのやも知れん!』

 

………物理攻撃や、魔法攻撃には部類の強さを発揮する【輝壁】の結界も、音だけは例外なのか完全に勢いを殺す事はできず、士織ちゃん以外は全てその場で倒れ込んでしまった。

 

そして音が止むと―――会場中の人間が一斉に美九に忠誠を誓い下僕となってしまった。

会場中の人間が虚な表情で直立し、ゾンビのように静止していたからだ。

 

「美九、お前は―――」

 

「ふ………ふふ、ふふふふふふ!人間は壊れやすくていいですよねぇ。私の指先一つでどうにでもなっちゃうんです―――こんなふうに」

 

「なっ―――放せ」

 

美九が再び鍵盤を叩くと、結界の外にいた出演者の少女たちが士織ちゃんを拘束して来た。

拘束を振り解くのは容易い。だが士織ちゃんを拘束しているのは高校生、しかも女の子だ。

 

性転換銃での変身には一つ弱点があり、自身の肉体を維持する事ができない。よって、士道の身体の時とは違い緻密な霊力操作はできない………

うっかりで力加減を謝るとただの人間なら殺しかねない。それ故にもがく事しか許されないのだ。

 

「………もう約束なんて関係ないです。この世に私の思い通りにならない事なんて、あっちゃいけないんですからぁ」

 

「うっ………くッ!」

 

美九はカツカツと靴音を靡かせながら、士織ちゃんの服に人差し指でそのスレンダーな体を撫でるように指を這わせる。

 

「ふふっ、士織さんも、精霊さんも、みんな私のもので―――」

 

美九が熱っぽく語りながら、這わせていた指が士織ちゃんの下腹部に触れたところでピタリと止まった。

 

「………ん?………んん?」

 

ピンポン!ピポピポピポピポピポン!

 

美九は感触を確かめるように、士織ちゃんの下腹部を人差し指で連打!それは幼い子供が友達の家に来て、それを呼び出すために呼び出しベルを連打するように!

 

―――美九は人差し指の感触を疑った。女性なら、その感触は絶対にしない。しかし、士織ちゃんには確かにあるのだ、下腹部に不自然な突起が!!

 

「この感触はまさか………い、や、そんなはずは―――確認して下さい!」

 

「お、おい止めろ!それだけは―――ぎゃあああああああああ!!」

 

今度は竜胆寺女学院の生徒達が素早く士織ちゃんに駆け寄った。そして――――――士織ちゃんの穿いているショートパンツごとズリ下ろした!

その結果露わになるのは、士織ちゃんになり切れなかった士道くんの姿が!!

 

『うおおおおおおおん!!こんなの俺の癒し系アイドル、しおりんではない!』

「ドライグテメェッ!?いや、今はそんな事はどうでもいい!!美九―――美九さん、あの美九、さま………?」

 

士織ちゃんから士道くんが出てきたという、醜い絵を目の当たりにした相棒のドライグ先生に涙の大洪水が!!

この衝撃的な光景を目の当たりにした美九ちゃん、この世の終わりを見たように震え始めた。

 

「し、士織さん………あ、あなた………お、オオオオオオオト、コ………ッ!」

 

「み、美九!?落ち着け、落ち着くんだ!これには訳が――――――」

 

想像以上にショッキングな絵を見た美九ちゃん、顔の血が引けていく術を止めるよしはなかった。

 

―――士織ちゃんが弁明をしようとするが、時すでに遅し。

 

「うっきゃああああああああああああッ!!」

 

美九が悲鳴を上げると共に、鍵盤に触れると―――再び音の嵐が会場に吹き荒れる!!

そして、その演奏の途中で音の嵐を防御する士織ちゃんを目掛けて、会場の人間達が、ゆっくりと立ち上がる!

 

「くっ―――止む終えないかッ!」

『ううっ、ぐすん!Welsh Dragon Balance Breaker!!!!!!』

 

これ以上は、隠し通さない事を悟った士織ちゃんは、赤いオーラを全身に纏わせ、女体化を解く!

さらに、禁手の鎧を纏って拳を握りしめる!そして、ドライグ先生は、士織ちゃんから、士道くんが出てきた事をまだ引きずっている!!

 

………大丈夫なのか、赤龍帝コンビ!?

 

「よくも………よくも、私を騙してくれましたね!!」

 

士道一人だけ逃げるなら容易い。しかし、会場には十香に八舞ツインズ。それから凛袮と掛け替えの無い仲間達がいる。

 

………それを残して自分だけ逃げるなど、士道にはできなかった。

 

故に残された道はただ一つ―――このまま美九を気絶させて、この場を乗り切ること………ただそれしか方法はなかった。

 

「美九………少し痛いが、我慢しろよッ!」

 

士道が神速を発動して、美九への距離を詰めようとしたその時だった。

 

ゴオオオオオオオッッ!!

 

「ぐっ………オオオオラッ!!」

 

突如死角から大気をも凍てつかせる氷のブレスが士道を目掛けて襲いかかる!

それを見た士道は、そのブレスを左手に霊力を集中させて受け止めると―――そのまま一気に霊力を高めて消失させたのだが………

 

「四糸乃―――どうして………」

 

声の方向に目を向けると………巨大なウサギ―――『氷結傀儡(氷結傀儡)』を顕現させ、霊装を限定解除した四糸乃の姿があった。

 

「お姉さまは、私が守ります!」

 




ドライグ先生の次回予告

ドライグ「何ということだ!相棒をずっと癒してきた精霊〈ハーミット〉こと、四糸乃が操られてしまった。いや、ハーミットだけでは無い!〈ベルセルク〉まで操られ、彼女たちは相棒を排除しようと天使を振るう!相棒は、操られた精霊達を前に、どう戦うのか!?

次回 デート•ア•ライブ 〜転生の赤龍帝〜
十話「絶望への反抗!」

精霊を守りし帝王よ、冷静沈着であれ!英雄王にオラはなるってばよ!』

士織「ドライグ、せめてパクるにしても何か一作品にしてくれる!?それから、貴方は英雄王になりたいの!?」

ドライグ『おう!』

士織「ええええええええええええ!?」

☆おまけ

神奈月の竜胆寺女学院でのお仕事シーンです。

神奈月「何よここ!幼女が居ないじゃない!」

神奈月は竜胆寺女学院の三年生の模擬店部門に足を運んでいた。神奈月は、幼女を求めて来たのだ。しかし、店内に幼女の姿はない。
………高校三年生にもなって幼女を求めるこの男の頭の中は、果たしてどうなっているのやら。

店員「い、いらっしゃいませ………ご、ご注文は」(ドン引き)

神奈月「幼女の三人前をお願いします!」

店員「それは、当店ではご用意できません………」(うわ、キモ………○ねばいいのに)

神奈月「ちょっと!あんたら、幼女舐めてんの!?いい、幼女ってのは――――――」

店員「も、申し訳ございません!」(何なのよ、この人。見た目は外国の王子様みたいなのに、幼女幼女って………まさかロリコン!?)

ラタトスクの工作員「おまたせしました。クレーマーのあなたには、当店一押しの顔面オムライスです!」

店員がパイを顔面に叩きつけるように、神奈月の顔面にオムライスを叩き付けた!!
店員ドン引きの行為に、神奈月は親指を突き上げる!

神奈月「アッツウイ!イェーイ!最高のオムライスをありがとう!」

神奈月は大満足で店から出て行った。顔面についたオムライスは、一仕事終えた男への勲章のように顔面で輝いていた。


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十話 絶望への反抗

ちわっす!勇者の挑戦です。

本話は前回のあらすじは割愛させていただきます。

士道「おい作者!テメェ堂々とネタギレ宣言してんじゃねえ!」


「………お姉さまは、私が守ります!」

 

体長一〇メートルはあろう巨大な雪兎に乗り、霊装を限定解除した四糸乃が士道に牙を向いた。

 

「四糸乃………すまない」

 

士道を映す四糸乃の瞳には、明確な敵意が宿っていた………美九のためにこの男を排除しようと。

四糸乃を守る事ができなかった事に、士道は拳を強く握りしめた。

 

そして、操られたのは四糸乃だけではなかった………突如士道の周囲を風の刃が吹き荒れる!!

 

「チッ―――」

 

突如吹き荒れた風の刃によって士道が纏う鎧の宝玉に傷が入る。それをやった正体は、先程まで気絶していた八舞ツインズだ。

八舞ツインズは、空を軽やかに舞いながら美九の前まで移動し、立ち塞がった。

 

「よもや、我らが姉上様を攻撃しようとは………」

「死守。夕弦と耶倶矢がいる限り、お姉様には指一本たりとも触れさせません」

 

四糸乃同様に八舞ツインズも霊装を限定解除している。どうやら美九の『声』には、力の大半を封印された彼女達では抗う事は不可能なようだ。

 

「ねぇ………これはなんなの?私、まだ夢の中………じゃない!」

 

先程まで気絶していた凛袮が頭を押さえながら起き上がって、瞳に現在の状況を視界にインプットした。

巨大なパイプオルガンを従える美九、濃密な風を纏う八舞ツインズ。そして………赤い龍を模した全身鎧を纏う士道といった、超常の力がオンパレードと化したステージに絶句した。

 

………一応自分の頬をつねるが痛みがある事で、夢ではない事を凛袮は分かってしまった。ひた隠しにしていた特殊災害生命体、精霊のことを知られてしまったのだ。

 

『これは最悪の状況になってしまったな。相棒、こうなった以上は止む終えまい―――「()()()」を使うべきではないのか?』

 

「いや、まだその時じゃない―――完全な霊装を纏っているならともかく、限定解除の段階ならどうにかなりそうだ………とりあえずは―――十香と凛袮の安全を確保する事が最優先だ」

 

士道は美九が暴走する事を考えて事前に二つの手を打っていた。一つ目の手を打とうとしたその時だった。美九がキーボードに手を触れる!

 

「士織さんは本当に人が悪いですねぇ………会場に私好みの精霊さんを連れて来てくれていたなんて!最高ですぅ!これであなたは用済みです―――さあ、やっちゃってください!」

 

美九が指示を出すと、四糸乃の天使氷結傀儡が氷のブレスを吐き散らし、八舞ツインズが風の矢を士道に放つ!

それを見た士道は、すかさず杖を呼び出しその真名を謳う!

 

「来やがれ―――『護星天(ミカエル)』ッ!!」

 

ドオオオオオオオンンッッ!!

 

士道が六華の天使、『護星天(ミカエル)』を呼び出すとそのまま地面に突き刺した。するとドーム状に光の防御膜―――結界が形成され、四糸乃と八舞ツインズが放った攻撃と正面衝突!!三つの天使が激突して煙が包まれる!!

その時に、十香と一緒に結界内部に押し込めた凛袮が、震える声で士道に訊ねる。

 

「………ねえ士道。一体何がどうなっているの!?それに、士道のその鎧は―――」

「今は説明している余裕は無い。ここを脱出できたら、ちゃんと説明するから」

 

士道がそう言うと、凛袮は渋々だが首を縦に振ってくれた。そして結界が維持されているうちに、士道はフラクシナスへと通信を入れる。

 

「琴里、今から天宮スクエアの天井にドデカイ風穴を開ける!十香と凛袮をフラクシナスで回収してくれ」

 

琴里なら、十香と凛袮が傷付く事を恐れてすぐに動いてくれる。士道は確信していた。

 

―――だが………

 

『はあ?なに言ってんのよ。お姉様に逆らった愚か者は、そこでミンチにされてなさいよ』

 

帰って来たのは、まさかの拒絶の返事だった。全く予想していなかった返事に士道は、頭の中に強い衝撃が走った。

 

「お前、俺はともかく十香や凛袮を放っておけって――――――」

 

『………聞こえなかったのかしら?ミンチがイヤなら蒸発させてあげるわ』

 

―――基礎顕現装置並列駆動。収束魔力砲『ミストルティン』魔力充填開始。目標『天宮スクエアセントラルステージ』

 

琴里は本気で美九に叛逆した士道たちを殺すつもりだ。精霊の霊装をも容易く傷付ける、フラクシナスの最強火力を誇る一撃が士道達に放たれようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――◇◆―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………くっ、みんな正気に戻るんだ」

「皆さん!何故私たちを拘束するんですか!?」

 

ラタトスクの解析官、村雨令音。それからクルーの椎崎雛子は他のクルー達によってフラクシナスの床へと羽交締めにされ、拘束されていた。

………皆が美九の『声』によって操られてしまったのである。

 

「司令!やっちゃって下さい!」

「美九様の世界に男は要らん!死んで然るべきなのだ!」

「美九様に逆らった者には、死の鉄槌を!」

「裁きの時です!美九様の無念を晴らしましょう!」

 

上から中津川、幹本、川越、箕輪の四人だ。司令の琴里を始めとした令音と椎崎以外のメンバーは、全員美九の『声』によって隷従させられている。

既にミストルティンの充填は完了している。後はコンソールの画面に表示されている『FIRE』と書かれたボタンを押せば………ミストルティンは天宮スクエアに放たれてきまう!!

 

「ぐっ………副司令!何をやっているのですか、司令を止めて下さい!」

 

他のクルー達は明らかに目の焦点が合ってはいない。しかし神奈月は四つん這いになりながら琴里を背中に乗せ、心底幸せそうな笑顔を浮かべている。

椎崎は、神奈月が操られていない事に賭けて声を上げた。

 

―――しかし………

 

「邪魔しないでいただきたい!ようやく見つけたここが私のユートピア」

 

「ふざけんじゃねーぞ、ドMロリコン!!正気なら死人を出そうとする司令を止めろや!」

 

「何を言っているのです、幼女以外は逝ってよし!」

 

「この外道が!!あんたを先に逝かせてやろうかコノヤロウ!」

 

帰って来た答えはまさかの拒絶の言葉だった。DEMの魔術師連中が出そうとしている死者を、琴里が肩代わりしようとしている状況をみても、この男は自らの理想郷に浸る事を選んだのだ。

 

………ちなみに、神奈月は美九ではなく幼女を最優先にしないあたり、正気でいるようだ。どうやら美九の『声』は、特殊な性癖を拗らせる者には効果がないらしい。

 

そして神奈月は、四つん這いの姿勢で琴里をコンソールまで運ぶと………琴里は悪魔のボタンへと手を伸ばす!

 

「ドォン!」

 

このボタンが押されれば、天宮スクエアは崩壊の危機に直面する!それが現実になれば死傷者の数は有に三桁を超えてしまう可能性がある!

 

「司令!やめて下さい!このままでは―――」

「………琴里、止めるんだ!」

 

羽交締めにされながらも、椎崎と令音が声を出す。しかし琴里は止まらない!無邪気な表情を崩す事なく、悪魔のボタンに指が届く――――――

 

ゴンッ!!

 

「あ………ぅっ」

 

フラクシナス内に鈍い打撃音が響き渡り、それと同時に昏倒する琴里の姿が。琴里の指が悪魔のボタンに触れるほんの数瞬前に、環境の扉が開かれそこから影が飛び出して来た。

 

飛び出して影の正体は少女だった。髪を二つに結わえ頭部にはヘッドドレスがあり、胸部はメイド服のままだが、スカートの部分は装飾の多いものへと変化している。さらには琴里を昏倒させたであろう右手に持つ歩兵銃には、血痕が有り、打撃音を轟かせた犯人としての証拠は十分だった。

 

「全く、これは一体どういうことなんですの?琴里さんが士道さんを殺そうとするなんて………とりあえずは気絶させましたが、よろしかったでしょうか?」

 

艦内に現れたのは、最悪の精霊『ナイトメア』の分身体のくるみんだ。先程までメイド喫茶で接客をしていた筈の彼女が、琴里の暴挙を未然に防いでくれたのだ。令音はくるみんに笑顔を見せながら首を縦に振った。

しかし、洗脳されたクルーの一人………川越が上着のポケットから銃を取り出しそれをくるみんに構える!

 

「おのれ、とうとう本性を見せたか〈ナイトメア〉ッ!」

 

「きひひひひひひひっ!ダァメ、ですわよ?」

 

川越が銃を構える本の少し前にくるみんは、狂ったような笑みを見せながら、短銃を顎に当てた。既に短銃の中には、ある能力が込められた弾丸がスタンバイしている。

川越が銃の引き金を引こうとしたその時だった。

 

パァン!

 

「うっ………ぐっ」

 

くるみんが短銃に仕込んだ弾丸を自身に打ち込むと―――川越の視界からくるみんが消えた。

そして視界から消えたくるみんが、川越の背後に回り込み手刀を首に直撃させて意識を奪った。そして、令音と椎崎を拘束していたクルー達も、くるみんは瞬く間に意識を奪い二人を解放してみせた。

 

「………すまない狂三、スーパープレーだよ。でも、どうして『フラクシナス』へ来てくれたんだい?」

 

令音が訊ねると、くるみんはすうっと息を吐き出しながら、霊装を完全に解除した。くるみんが元に戻った姿は、士道作の黒い女神の衣装だった。

 

「六華さんから、フラクシナスの様子を見て来て欲しいと頼まれたんですの。表彰式をメイドカフェのテレビから見ていた時に、セントラルステージの生徒達と同様に皆さんの様子がおかしくなったんですの。そして六華さんの言いつけ通りに来てみれば………大当たりでしたわ」

 

「………さすがは六華。シンに危機が迫るとなると、本当に抜け目がない。それでどうして狂三は正気を保てていたのかい?四糸乃に八舞姉妹は操られてしまっているのだが」

 

「美九さんが天使を発動したタイミングで、六華さんが私にコレを預けてくれたんですの。これが無ければ、今頃わたくしも操られていたかもしれませんわ………」

 

令音が質問をすると、くるみんは胸元から杖を取り出した。

………この杖は六華の天使『護星天(ミカエル)』だ。天使を顕現させている間は、六華は襲い来る状態異常を無効化できる。そしてその効果は、その天使を持つものにもその効果は付与される。

 

………その結果、くるみんは正気を保つ事ができたのだ。

 

「………それで狂三、肝心の六華の姿が見当たらないのだが………何処に行ったか分かるかい?」

 

「六華さんなら、士道さんの救出に向かいましたわ。フラクシナスの方をわたくしに任せて………わたくしと異なり、六華さんは完全な霊装を纏えますわ。六華さんと士道さんのコンビなら、四糸乃さんと八舞姉妹を同時に相手にしても、負ける事は無いと思いますの」

 

「………六華が向かっているなら、事は丸く収まるだろう。後はどうやって美九の好感度を上げるかだね」

 

くるみんの言葉を聞いた令音は、瞑目して首を縦に振った。六華の力は令音も良く知っている。士道が傷付く事に異常なほど敏感に反応する六華は、霊力の逆流頻度が極めて高い。

………最近では琴里や令音が、士道との夜の営みを妨害しようとするだけで、六華は完全な霊装を纏う程に。

 

そして………先程の琴里が鳴らしたけたたましいアラームで、怪獣が目を覚ました。

 

「ったくうっせーぞ!誰でやがりますか、人が気持良く眠っているところに、バカでかい警報鳴らした大馬鹿野郎は!!こちとら、兄様が仕掛けた隠しカメラの捜索で八時間しか眠ってねえんですよ!?真那は一四時間眠らねえと一〇〇%の力を発揮できなくなりやがります!!」

 

何処となく士道の―――失礼、士織ちゃんの面影を持つ少女がドシドシと不機嫌な様子で艦橋内へと足を踏み入れた。

この少女は士道の実妹を名乗る崇宮真那である。修学旅行中に琴里がDEM社から引き抜いた優秀な人材だ。

真那の睡眠事情を聞いたくるみんと、真那の後ろをついて歩く黄金の獅子は、盛大なため息を漏らす。

 

「真那さん、一四時間は寝過ぎですわよ?」

『我が君、一〇時間以上の睡眠はお体に障るという研究結果が出ております。この件に関しては私も〈ナイトメア〉に賛成せざるを得ないかと………』

 

この黄金の獅子は、六華がソロモンに預けた『獅子王の戦斧(レグルス•ネメア)』が黄金の獅子に化けたものだ。今では獣醒石の効力で力が安定し、獅子に化ける事も言葉を話す事も可能になったのだ。

 

「………真那、目覚めた所で悪いのだが、キミには一つ任務を与えたい」

 

令音が環境のモニターを天宮スクエアのステージの映像から、その上空の映像へと切り替える。それを見た真那は目を細めて、画面の映像から戦力の分析を始める。

 

「………あれはアデプタス5のジェシカとバンダースナッチ。それからアデプタス6、7、8。なるほど、とうとうDEMが本腰を入れて来やがりましたか。しかし、真那の兄様を拉致ろうとは………随分と舐めた真似をしてくれやがりますね。しかし、ジェシカと戦っている白い鎧、アレは一体?」

 

「あの白い鎧は、ASTの鳶一折紙だ。彼女が一人でDEMの戦力を食い止めてくれている。しかし、それも長くは持たないだろう………キミには鳶一折紙の救出をお願いしたい。それが済んだ後には六華と共にシンの救出に向かってくれないだろうか?」

 

「令音さんの頼みとあれば、断るわけにはいかねえですね。良いでしょう、手早く終わらせてやがります!」

『我が君、私もお供致します!』

 

「―――わたくしも行きますわ」

「狂三、待ってくれ」

 

真那はポケットから、CRユニットを内包したデバイスを取り出すとレグルスを連れて、そのまま環境を飛び出していった。

そしてその後をくるみんも追いかけようと艦橋の外へと向かおうとするが、くるみんの腕を令音が掴んで止める。

 

「村雨先生、なにをするんですの!?わたくしも士道さんを―――」

「………狂三、申し訳ないがキミは残ってくれ。クルー達に意識が戻っても美九の声による影響が残っている可能性がある。万が一そうなれば、私と椎崎だけでは彼らを抑えられない」

 

くるみんは令音の言葉を聞いて、思考を巡らせた。もし令音の言う通り、美九の『声』が意識が戻った後も続くとなると、またミストルティンをぶっ放すとなると、大勢の死者が出る事になる。正気を保てるのが、令音と椎崎だけでは恐らく、それを阻止する事は不可能であるからだ。

狂三は足を止めて、その場で脱力をする。

 

「分かり、ましたわ」

 

「………すまないね。四糸乃や八舞ツインズがいない以上は、頼れるのはキミだけだ。それから真那、睡眠時間が足りていないようなら、決して無理は―――」

 

「でぇじょうぶでやがります!ジェシカやそこの〈ナイトメア〉なら二割程度の力で処理できますので。なんなら、今からそこの〈ナイトメア〉の首を綺麗に落としてご覧に入れやがりましょうか?」

 

「ま、真那さん!あなた随分と物騒なことを言いますわね!?」

「………真那、笑えない冗談はやめてくれ。そんな事をすればシンが悲しむ。それに、真那がそのつもりなら()()()()の方も無しにするが?」

 

物騒なことを言う真那に、くるみんはその場で飛び上がった。くるみんと令音は、真那が新たに手にした力を知っている。それもくるみんの本体〈ナイトメア〉が手も足も出なかった、鎧を纏った士道と互角に戦えるレベルの強さに到達していることを。

くるみんの首を落とせば特別報酬が無しになる………それを聞いた真那は、嫌な汗を大量に噴き出しながら、乾いた笑みを浮かべる。

 

「じょ、冗談でやがりますよ。じゃあ、さっさと鳶一一曹の救援に向かいます!!」

 

真那は黄金の獅子を引き連れて天宮スクエアの上空を目指して飛んで行った。

 

「………村雨先生、真那さんへの特別報酬というのは、一体なんなんですの?」

「ん………ああ、シンの裸の写真さ。琴里が五河家のお風呂に隠しカメラを仕掛けていてね。真那と琴里はシンの裸の写真でよく語り合っているんだよ。ちなみにだが、その写真には私もお世話になっているよ」

 

「え………琴里さん、そんな事をしていたんですの?」

 

特別報酬の内容を聞いたくるみんは、思わず言葉を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――◇◆―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐっ………ああああっ!」

 

ズビィィィィィィィィィィッ!

 

DEMの魔術師の一人が放ったビームが折紙が展開した防御随意領域を貫通して、鎧に傷を入れる!さらに随意領域が貫通された部分から龍殺しのビームが入り込み、折紙の肉体を傷付けていく!!

 

………援軍で現れたDEMの魔術師達の武装は、随意領域を貫通する能力を持ったレールガン。これで折紙の随意領域を強引に貫通し、穴が空いたところにジェシカが龍殺しの能力を持つビームを撃ち込み、折紙にダメージを与える。

 

折紙がアルビオンの有する能力『反射』を使用したとしても、二〇体いるバンダースナッチが、ビームを一斉掃射して反射されたものを打ち消すという、完全な布陣が引かれ、折紙は防戦一方の状態へと追い込まれてしまった。

 

しかし、それでも折紙は諦めずになんとか突破口を見つけようと懸命にもがいている!!

 

『………マスター、鎧を纏っていられる時間は、もう五分とありません!このままでは―――』

 

「ここで私が逃げる事は、士道をDEMに渡す事と同じ。引き下がるという選択肢は無い!」

 

既に折紙の脳と肉体は限界を迎えていた。顕現装置を酷使すると脳にダメージが行く。さらに随意領域を貫通するレールガンと龍殺しのビームを何度も受け、満身創痍の状態だ。

そして相棒のアルビオンが、鎧を維持できるタイムリミットが迫っている事を告げる。この鎧を失ったら最後、折紙には逆転の可能性が完全に消失してしまうのだ。

 

「散々暴れてくれたけど、もうお終いヨ。私達の仕事も押しちゃってるし、このまま一気に落としてくれル!」

 

「くっ………士道」

 

ここに来て、さらにバンダースナッチの増援が来る………その数三〇。タイムリミットがある今、アルビオンの有する『反射』を使えば、鎧を維持する事は敵わない。

結局地上最強と呼ばれた二天龍の一角『白い龍』の力を使ったとしても、士道を守る事は叶わなずに終わってしまう!

 

「もっと私に………力が有れば………」

 

「ハ、はははははハ!とうとう念仏を唱え始めたカ!?さあ、死ねエエエエエエエエエッ!!」

 

ジェシカが指示を出し、最後の一斉掃射が始まろうとした数瞬前の事だった。

 

ドオオオオオオオオオッッ!!

 

一陣の衝撃波が風を切り裂いてバンダースナッチへと襲いかかったのだ。その衝撃波に飲まれたバンダースナッチは、爆発する間も無く粉微塵に切り裂かれて消滅してしまったのだ。

 

「何事ヤ―――」

「わ、分かりません!轟音と共にバンダースナッチが消失しました!」

 

「今、のは………」

 

バンダースナッチを除く誰もが、衝撃波が飛んで来た方向へと目を向けていた。その衝撃波を放ったであろう人物は、その数瞬後に折紙の目の前へと移動して、振り返った。

 

「………真那、なの?」

 

振り返ったその少女は、見た事もない蒼いCRユニットを纏った少女だった。その少女は崇宮真那。かつて時崎狂三との戦闘で重傷を負って以来、行方不明になっていた筈の少女が突如として現れたのだ。

 

「ええ………そうでやがりますよ。お久しぶりですね、鳶一一曹」

 

「なぜ………こんな所に?それに………その装備とその黄金の斧は?」

 

「細けーことは後です。まずは兄様の救出が最優先でしょう?」

 

折紙は真那の装備と両腕に持つ黄金の斧について尋ねたが、誤魔化されてしまった。

だが真那の言う通り、この場は士道の救出が最優先だ。真那は限界に達した折紙を見て言う。

 

「鳶一一曹。真那が来るまでよく耐えてくれやがりました。貴方がいなければ兄様達の天央祭の総合優勝は無かったかもしれねーです。此処からは私に任せてもらえねーでしょうか」

 

「………分かった。後は任せる―――アルビオン」

『はっ………』

 

折紙はアルビオンに命令して鎧を解除させた。そして真那は斧をジェシカに突き付けた。

 

「アデプタス3、なぜ私達に攻撃スル!?」

 

「ハッ、よく言いやがりましたねジェシカ………真那の兄様を拉致ろうとは、貴方もウェストコットのクズ野郎も随分と思い上がりましたね。既に私はDEMを辞めて今は、ラタトスクに鞍替えしたんですよ」

 

「怨敵へと寝返るとは血迷ったカ!?それも最強の魔術師•メイザース執行部長、雷極のアシュクラフトに続く貴方ガ―――」

 

「ハッ、私の身体を魔改造しやがった組織になんざ、居られるかってんですよ!あのクズ野郎に伝えてくだせー『退職金は貴様の首で勘弁してやる』と」

 

真那はラタトスク機関に加入した際、琴里から全てを聞かされた。自身に施された尋常ではない魔力処理のことを。兄の士道のことを、そして精霊のことを………それら全てを踏まえた上で、真那は戦おうとしているのだ。

 

「これから私はラタトスクの為………兄様のために戦います!」

 

真那は黄金の斧を振り回すと、身体の前へと持ってきた。

 

そして………『獅子王の戦斧』が今―――姿を変える!!

 

「『―――禁手化(バランス•ブレイク)ッッ!!』」

 

カッ―――ゴオオオオオオオッッ!!

 

真那が強く言葉を発すると、彼女を中心に凄まじい黄金の光の本流が迸り、その光は真那の身体に浸透して行く!!

………しばらくして光が収まると、真那の装備が大きく変化した。

 

まずは頭部を守るサークレットには、獣の角のような装飾が一際目立っており、さらに耳元は翼のような装飾でガッシリと守られている。

さらに首から下は黄金のプレートアーマーがその身体を包み込んでいた。その鎧の輝きは、第二の太陽が現れたように凄まじい光を放っていた。

そして背中には、この全身鎧の特徴とも言える、ペガサスのような一対二枚の翼が一際存在感を放っているのだ。

 

これが真那が手に入れた新たな力。真那は拳を突き出し、その真名を告げる。

 

「これが『獅子王の戦斧(レグルス•ネメア)』の禁手(バランス•ブレイカー)―――『獅子王の皇殻•天翼式(シャルベーシャ•レグルス•カイザーシェル)』。兄様との修行で顕現させたこの力、その身に刻み込んでやります!」

 

 

 




解説です。

『獅子王の皇殻•天翼式』
真那が士道との修行で顕現させた『獅子王の戦斧』の亜種の禁手。能力は飛び道具に対する耐性を与える事。そして、鎧の中に爪や斧、弓などの武装を内包しており、その武具の威力は大地を崩壊させる威力を誇る。

真那が更なる力を求めて、レグルスがそれに呼応して顕現した。獅子で有りながら翼を持った神『シャルベーシャ』を模倣したもの。獅子王の戦斧が持つ最強形態時『覇獣』時には、擬似神格を引き出す事も可能。

鎧のイメージは、聖闘士星矢のアイオロスの神聖衣がイメージです。

ドライグ先生の次回予告

ドライグ『相棒の妹崇宮真那が、全力の戦いを見せようとしていた。果たして崇宮真那は、かつての戦友達を相手にどのような血祭り………ではない、虐殺―――これでもない!戦いを見せるのか!?

次回デート•ア•ライブ 〜転生の赤龍帝〜

十一話 「最強の襲撃!」

精霊を守りし帝王よ、絶望を照らす光であれ!』

士道「お、今日はえらく真面目だな」

ドライグ『士織ちゃんがいないとボケる気にならないんだ。はぁ………士織ちゃん今度の出番はいつかな?』

士道「さぁて、真那の乳でも揉みに行くか―――もちろん籠手で!」

ドライグ『うおおおおおおおん!あんまりだああああああ!!』


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十一話 最強の襲撃

※投稿が送れてしまい、大変申し訳ございませんでしたぁ!!

前回のあらすじ

士道「真那は間一髪で折紙を救い、俺との修行で新たに目覚めさせた力が今解き放たれる!」

真那「血祭りに上げてやります!」

士道「真那………殺すなよ?」

真那「分かってますよ兄様。さあ、行くでやがりますよケロちゃん!」

士道&ドライグ「『ケロちゃん!?』」

レグルス『こにゃにゃちはー、ではありません!!兄上殿………お恥ずかしながら、私の呼び名でございます………私の背中に翼が生えてからと言うもの、我が君はずっと私を「ケロちゃん」と呼ぶのです!私は以前のように「レグルス」と呼んでもらいたいのですが―――』

※レグルスは、神器が禁手に至ったことで翼を手に入れた。それは獅子へ変身した時にも現れている。
真那は最近見た、小学生の女の子が怪物的な魔力を有したカードを封印するアニメに出てきた、空飛ぶ関西弁の甘党獣と同じ名前をレグルスに付けたのだ。

士道「ええ!?ケロちゃんは色々とマズくないか!?」

真那「でぇじょうぶでやがりますよ!シャルベーシャだろうが、ケルベロスだろうがネメアの獅子だろうが、小せえことは関係ねーです!」

ドライグ『崇宮真那よ、それは小さな事ではないと思うのだが………」

真那「二天龍の片割れ『赤き乳龍の帝王』ウェルシュ•おっぱいドラゴンの貴方がそんな事を気にしてはいけません!」

ドライグ『赤き乳龍、ウェルシュ•おっぱいドラゴン―――うおおおおおおおおおおん!!』

真那「さてさて、それでは続きと参りましょう!さあ、ケロちゃん!火炎放射でやがります!」

レグルス『我が君ィィィィィィ!?』

※本作品でのケロちゃんことレグルスの声優は宮野真守さんです。


「それは………」

 

真那が纏った黄金のプレートアーマーを見た折紙は、圧倒された。

先程までの真那とは異なり、圧倒的なまでに力が跳ね上がり、感じられるプレッシャーは先程の比ではない。

 

―――今の真那は、アルビオンの力を具現化した鎧を纏った折紙を遥かに凌駕している。

 

それを証拠に、真那が現れた事でDEMの魔術師の一人が恐怖のあまり体が震えて、武器が手から滑り落とすほどに。

 

「なぜ貴方ガ神器を、それも神滅具『獅子王の戦斧(レグルス•ネメア)』ヲ!?」

 

ジェシカは真那が持つ『獅子王の戦斧』を見て自然と口が裂ける勢いで広がった。

………彼女の記憶の中では、その神滅具はまだDEMサイドが有している。使用予定者は未定で、適性を持つ者を魔術師部隊から捜索している最中のはず。

 

ところが自身の記憶とは異なり、眼前に立ち塞がった真那が操っており、さらに禁手にまで至っているというオマケがついて………

 

「―――敵のお前に喋るとでも思いやがりましたか?」

 

真那が視線を槍の如く鋭くして眼圧を飛ばすと―――ジェシカ達は真那から放たれる圧倒的な威圧間に、自然と体が後ろに下がった。

………だが、彼女もまたDEM社が誇る精鋭の魔術師だ。ウェストコットに忠義を見せる為に、ジェシカはビームウェポンを構える!

 

「怯むな!数ではこちらが圧倒的に有利ヤ………後ろにいる鳶一一曹ごとアイツを波状攻撃で落とすのヨ!」

 

『イエス•マイロード!』

 

ズドドドドドドドド―――ズドオオオオオオッッ!!

 

魔術師部隊がビームウェポンを一斉掃射し、バンダースナッチ達がビームとマイクロミサイルの雨を真那へと降らし、真那がいた場所が爆煙に包まれる!

 

「撃ち方、ヤメ!」

 

爆煙に包まれてから一〇秒ほど経ったところで、集中砲火をジェシカが止めた。いかに神滅具の防御力でも、これだけの集中砲火を受ければ蜂の巣になっている筈だと………

 

しかし―――

 

立ち込める爆煙を横薙ぎの光が一閃されると………煙は上っているものの、鎧には目立った傷が一つもない状態の真那が現れた。

 

「………どうやら私は過小評価されてるみてーですね」

 

「バカな!?アレだけの攻撃を受けて無傷ですっテ!?」

 

これが『獅子王の戦斧』の能力の一つ、飛び道具への耐性。通常時からそれは発揮されており、禁手になった今ではその能力も飛躍的に上昇している。

 

「鳶一一曹も限界ですし、この後には兄様の救出も控えているので―――このまま一思いに決めてやりましょう」

 

バギィッ!

 

真那の姿が陽炎のように消えると―――ジェシカのビームウェポンを掴み、そのまま指に力を込めると―――そのまま音を立てて砕け散った。

ジェシカはビームウェポンを砕かれた事によって、武器を失い丸腰になった。それなのにジェシカは、狂気の笑みを浮かべた………彼女の武器はビームウェポンだけではなかった。

 

そう、本命は―――

 

「ハッ!ハハハハハハ!喰らエッ!」

 

ズビィィィィィィィィィィ!!

 

ジェシカのバックルから、折紙の鎧を貫通した光線が放たれる!今放たれたビームは獣殺しの能力を有しているものだ。

それを集約したものが真那を襲ったのだが………予想だにしなかった光景に、思わず声が裏返る。

 

「う、嘘ヨ!?確かに獣殺しの能力を付与したハズナノニ!」

 

「まあ、そんなもんでしょうね………」

 

神器『重殺創造(スレイヤー•ビルド)』で作られた武装の一撃が、真那の鎧を傷付けたのだが………ほんの数ミリ程度の微小の欠片を散らしただけ。

隠し持った切り札でもダメージを与えられなかったジェシカに、真那を退ける術はもう無い。

 

そして今の真那はジェシカの懐に入り込んでいる。真那は拳を握りしめてそれを引き上げる!

 

「チッ―――」

 

ジェシカは迫り来る真那の拳を防ぐべく、随意領域(テリトリー)を防性の物に変化して最大出力で展開するが………真那は真正面からジェシカの防御を打ち破るべく拳を振り抜く!

 

「はあッ!!」

 

「グ、ハッ………」

 

真那が裂帛の気合と共に振り抜いた拳が、随意領域を容易く突破し大地を砕くほどの拳が、ジェシカの溝に突き刺さった。

ジェシカはあまりの衝撃に悶絶するも無く気を失った。真那は落ちゆくジェシカの頭を掴んで、魔術師の一人にそれを投げつけた。

 

「………今回は見逃してやります。そいつを連れてとっとと消えやがりなさい」

 

自分たちの相場では、真那に傷一つつけられない事。そしてジェシカすら圧倒した事を見て、勝てる相手でない事がわからない連中ではない。

DEMの魔術師達は、気絶したジェシカを大事に抱えながら、彼方へと消え去った。

 

魔術師達が撤退した事を確認すると、折紙は最後の力を振り絞って真那に感謝の意を述べる。

 

「真那………あり、がとう。士道をおね、がい………」

 

それだけを言い残すと、折紙は意識を失った。真那は折紙を優しく受け止める。

 

「こんなになるまで………ナイスファイトでしたよ、鳶一一曹」

 

『………真那、先に鳶一折紙をASTの隊員に預けてくれ。近くに一人ASTの隊員がいる。その子に鳶一折紙を渡してあげてくれ』

 

「了解でやがります」

 

真那は令音の指示で、ASTの隊員がいる場所を目指した。真那の働きによって上空から士道を付け狙う集団の脅威は去った。

後は天宮スクエアの〈ディーヴァ〉と操られた精霊達の処理を残すのみ。果たして、うまく事は運ぶのだろうか!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――◇◆―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

士道は護星天で十香と凛袮を守りながら、四糸乃と八舞ツインズの攻撃を凌いでいた。

彼女たちは霊装を限定解除した状態のため、霊力封印前ほどの火力は出ていないため、護星天の結界には傷一つ入っていない。

 

「………フラクシナスから感じられた圧倒的な魔力が消え失せた?まさか、琴里が正気に戻ったのか?」

 

士道はインカムを叩いてフラクシナスに通信を入れるが、通信が返ってくる事は無かった。それを怪訝に思っていたその時―――氷結傀儡が白いウサギの姿を解除し、左手を守護する殺戮パペットの姿へと戻り、士道たちに迫って来る!!

 

『よしのん必殺マジシリーズ―――マジ頭突き!!』

 

令音の乳気を吸収するとき、そして六華との夜の営みを何度も妨害してきた『フラクシナス』の最終兵器、よしのん。

マジ頭突きはよしのんの最強火力を誇り、六華の結界すら容易くぶち抜く程の威力。一点集中の破壊力なら『塵殺公(サンダルフォン)』や『灼爛殲鬼(カマエル)』を遥かに凌ぐ程の高火力を持つ。

 

これを見た士道は、結界を解除して迎撃体制を取った。よしのんを懐まで引き寄せると、護星天の奥義をよしのんにぶつける!!

 

「跳ね返れ!『護星天(ミカエル)』―――【天盾(シャハル)】ッ!!」

 

バギィィィィィィッ!!

 

『いっだあああああああああい!?』

「―――よしのん!」

 

衝突音と共に、凄まじい閃光が辺りを包む!

光が止むとよしのんは吹き飛び、四糸乃が宙へと舞い上がって再び左腕へと装着した。

 

………【天盾】は物理攻撃を反射する能力がある。よしのんはその威力をそのまま跳ね返され、吹き飛ばされたのだ。

しかし、士道の『護星天』も音を立ててその場で崩れ去ってしまう。

 

「よしのん、お主の仇は我らが取る!」

「感謝。これで士道の防御は無くなりました。後は夕弦たちにお任せを」

 

ゴオオオオオオオッッ!!

 

耶倶矢と夕弦がお互いの天使を合わせた弓矢を顕現させると、お互いに全く同じタイミングで離し、凄まじい風を纏った風の矢が士道を襲う!!

 

「―――アスカロン!」『Blade!!!!!!』

 

ズバァッ!

 

士道はアスカロンを振り上げると、風の矢を消滅させた。しかし、士道は懐にまで入り込んだ耶倶矢と夕弦の姿を見て、驚嘆の声を漏らした。

 

「しまっ―――」

 

風の矢は囮だ。士道は迎撃に意識を集中させた事を見た耶倶矢と夕弦は、それを見て気配を殺して迫ったのだ。

………或美島での手痛い敗戦の後、八舞ツインズは士道への雪辱に燃えていた。夏休みに士道から明鏡止水を学び、それを今ここで実践して見せたのだ。

 

「―――貰ったぞ!」

「陥穽。引っ掛かりましたね」

 

八舞ツインズの攻撃が士道を捉える―――かに思われたが、士道に守られていた精霊が天使を手に持ち、窮地を救うべくそれを振るう!

 

「―――させるかああああああッ!!」

 

「ぬおっ!?」

「油断。くっ!」

 

その精霊は―――十香だ。十香が放った斬撃が八舞ツインズに迫り、咄嗟に天使で防御したが勢いを殺しきれず、地面を転がりながら吹き飛んだ。

十香はそのまま士道に駆け寄ると、視線を美九へと向けたまま訊ねた。

 

「シドー、無事か?」

「すまない十香、助かった」

 

十香のサポートのおかげで一難去った。それでも八舞ツインズは防御に成功したため、戦闘不能に陥ってはいない。よしのんを吹き飛ばしたとはいえ、四糸乃自身にはダメージがない故に戦える。

 

しかも、彼女達を洗脳している美九は完全な精霊だ。十香は自身の天使『塵殺公』を構えながら、四糸乃達に声を上げた。

 

「どうしたのだお前たち、正気に戻るのだ!」

 

十香の声を聞いても、四糸乃達は美九への道を明け渡す様子はない。自身の王を守る兵士の如く眼前に立ちはだかるだけだった。

 

「何を………言ってるんです?士道さんや………十香さんこそ、どうしてお姉様に酷いことをするんですか?」

『………よくもやってくれたね士道くん!よしのんマジおこ、ブチおこ、激おこプンプン丸だよ!』

 

「何やら士道が酔狂なことを述べておるぞ、夕弦よ」

「失望。士道たちには良心というものがないのでしょうか?」

 

美九の声によって、最優先事項を美九へと書き換えられた三人の精霊たち。こうなってしまった以上やる事は一つだ。

 

「………十香、さっきはありがとう。でも、今度は凛袮を守ってやってくれ。俺なら大丈夫だから」

 

「嫌だ………私もシドーと一緒に―――」

 

十香は最後まで言おうとしたが、士道に鋭い視線で射抜かれ言葉が途切れた。―――十香は視線を射抜かれるや否やすぐに察した。これは士道の嘆願である事を。

 

誰かが凛袮を守っていなければ彼の性格上、戦闘に集中できない事を。決して十香の力を疑っているわけではない。むしろ信頼しているからこそ、凛袮を任せられる事を。

 

十香は士道の言葉に首を縦に振り、再び凛袮の所まで下がっていった。それをみた士道は、右手を振り上げ後方に杖を飛ばした。

杖はステージに突き刺さると、十香と凛袮を覆うように結界を展開した。

 

「………分かった。シドー、必ず四糸乃達の目を覚まさせてくれ………」

 

「ああ。絶対だ」

 

それだけを言い残して美九へと意識を戻そうとした時、凛袮が駆けてきて結界を強く叩いた。

 

「士道!士道!!どうして士道がこんな事をしないといけないの!?私嫌だよ………このままじゃあ、士道が本当に―――」

 

「凛袮、大丈夫だ………俺はここにいる。お前を置いて何処かへ行ったりはしないさ。もう少しだけ待っててくれ、ちゃんと全部話すから」

 

凛袮はこれ以上士道に戦ってほしくなかった。いくら自分を守るためといえども………傷付いて痛い思いをするのは士道だから。

幼馴染であり、愛しい人でもある士道が傷を負う事は自分の胸が裂けるように痛い故に。

 

そんな凛袮が恋い焦がれたその人物は、危機に直面する人物を見たら引き下がるという真似はしない事をよか分かっている………その姿に凛袮は何度も救われてきたのだから

 

「士道約束したからね?破ったら、許さないから………」

 

凛袮が涙ながらに言った言葉に首を縦に振り、今度こそ精霊たちを支配する根源へと意識を集中させた。

 

………そう、ここから先は―――乳龍帝の戦争だ。

 

「美九、悪いが四糸乃たちは返してもらうぞ!それから、約束は守って貰う!!」

 

士道がアスカロンの剣先を美九に向けると、美九はキーボードに手を触れ精霊としての力を振るう!

 

「………本当に不愉快な声ですね。その汚い声で私や私の精霊さんたちの鼓膜を汚さないでくれますかぁ?オトコは目障りなんで即消えて下さいよ!『破軍歌姫(ガブリエル)』―――【行進曲(マーチ)】ッ!!」

 

身が立ち奮い力が漲るような音が響き渡ると―――士道が『颶風騎士(ラファエル)』の真空波で気絶させたはずの、観客たちが再びゾンビのように立ち上がった。

いや、それだけではない!四糸乃と八舞ツインズから放たれるオーラが大きくなった。

 

『相手を意のままに操るのみならず、味方の力まで引き上げる事ができるのか………』

 

「なるほどなるほど、O☆NE☆GA☆Iで振り込め詐欺やら女の子を好き放題する以外にも、イッた女の子をマグロにしないで無限に楽しめると―――こりゃあ、思った以上に最高だな!」

 

『はあ………相棒は本当にブレないな。何故そのように力を悪い方面やらエロい方面に考える事ができるのやら』

 

封印した後に美九の天使をどのように使うかシミュレーションしている士道くん(悪い方面で)。

彼はこういう事には一切妥協はないのだ!自分のピンチにも関わらず、エロが有れば彼はお構い無しでぶっちぎる!これがおっぱいドラゴンだ!

 

「………しっかし観客共に乱入されるのは、ちとこまるな!」

 

士道が右腕を直角に上げると―――ステージを観客席から切り離すように巨大な氷山が現れる!これで美九の天使でパワーアップして観客たちをステージから切り離す事に成功した。

 

「んな、これは!?」

 

美九は士道が四糸乃の力を彼女以上に操る様を見て、狼狽した。美九の狼狽に口の端をつり上げた士道を見て、四糸乃達の顔付きが変わった。

 

『あれまぁ………士道くんは本気だね。四糸乃、手加減してると士道くんに大事なお姉様とられちゃうよ?』

「………うん、分かってる!」

 

「奴め、本気で姉上様を屈服させようというのか?」

「警戒。耶倶矢、お姉様、注意を。あの下品な笑みを浮かべた士道は、精霊を軽く凌駕するほど厄介です。決して油断なきよう」

 

下品な笑みを浮かべているが、士道をよく知る四糸乃達だからこそ分かるものがある。

………彼が心に決めた信念を折ることはない事を。例えそのせいで命を落とす事になったとしても。

 

士道から放たれる圧倒的なまでのプレッシャーを感じて、最初に動いたのは………四糸乃だった。

 

「お姉様に、勝利を!『氷結傀儡(ザドキエル)』―――【凍鎧(シリヨン)】ッ!」

 

四糸乃が巨大な雪兎から手を引き抜くと、眩い閃光と共に四糸乃の霊装が変化を遂げた。

頭には、先程の雪兎の頭部を模倣した兜が現れ、体全体を覆う雪のような真っ白な鎧のような衣装。

そして両腕には、如何なる外敵をも貫く氷柱でできた鋭い爪が顕現する。

 

その武装を顕現させた四糸乃から放たれる霊力の波動は、霊装を限定解除した時を超えていた。

 

『修行の成果だな。奥手で物静かな四糸乃が………見違えた』

 

士道の左腕からドライグの音声が漏れ出た。夏休みに士道が修行をしているのを見て、精霊たちも各々修行に取り組んでいた。

士道の手助けを少しでもするために。自分が士道の足枷にならないため………今の四糸乃は美九のために士道を倒そうとしているが、大きな成長を遂げた四糸乃を見たドライグは、思わず舌を巻くほどの驚愕を覚えた。

 

「やあっ!!」

 

ズドオオオッッ!!

 

四糸乃が爪を振り抜くと、士道に冷気を纏った衝撃波が襲いかかる!!

 

「―――はっ!」

 

その冷気を士道はアスカロンで迎撃!聖なるオーラを纏った刃がその衝撃波とぶつかる!

勝ったのは、士道のアスカロンだ。ところが、士道の相手は四糸乃だけではない!

 

「『颶風騎士』―――【穿つ者(エル•レエム)】ッ!!」

「援護。『颶風騎士』―――【縛める者(エル•ナハシュ)】ッ!!」

 

八舞ツインズがそれぞれの天使から風を放つ!!迫り来る風を見た士道は、籠手からアスカロンを引き抜き、地面に刺す!

 

「ドラゴニック•ゾーンッ!!」

『Shining Sword Of Zone!!!!!!』

 

士道は、迫り来る八舞の嵐を聖なる波動を噴出させて防御!!そして―――ドラゴニック•ゾーンが発動したことによる副産物が四糸乃達を襲う!!

 

「な、なななんですかぁ!?この光は―――」

「きゃあッ!」

 

「バルスッ!?」

「発行。眩しい、です」

 

美九を含めた全員がアスカロンの眩しい輝きによって、四糸乃達は光を防ぐべく目を腕や手で覆い、美九達の動きが完全に止まった。

 

………ここから士道の逆襲が始まる!

 

「まずは―――お前だ!」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!!!!!!!』

 

士道は倍化をしながら、目を両手で塞ぐ四糸乃を目掛けて一直線!!

 

「―――来ないで、下さい!」

 

四糸乃は、巨大なオーラが近くに迫った事を察知し、氷の爪を振り抜いたが―――四糸乃の爪は士道を切り裂くこと叶わず、虚しく空を切った。

 

士道は神速を発動して四糸乃の爪を避け、背後へと回り込んだのだ。その後、用意していたある薬品を染み込ませた布を取り出し、それを四糸乃の口へと当てる!

 

「う―――むぅぅぅぅ!」

 

四糸乃は士道の腕を引き剥がそうと懸命にもがくが―――もう遅かった………

 

「―――赤龍帝からの贈り物(ブーステッドギア•ギフト)ッ!!」

 

『Transfer!!!!!!!』

 

士道が倍化した力を薬品を染み込ませた布へと力を譲渡すると―――四糸乃の抵抗が突然弱くなった。そして瞼がどんどんと降りて来て………完全に意識を失いぐったりと士道に体を預けるように倒れた。

 

「いやぁ、折紙からクロロホルム強奪しといて良かった。て言うか、このシチュエーション興奮パネェ!」

『相棒、それ犯罪だからな?』

 

………先日に折紙に拉致られそうになった時に強奪したクロロホルムが、こんな形で役立つとは夢にも思わなかった士道くん。

コレは本来美九が約束を破った時に使う予定だったのだが、四糸乃が急遽『氷結傀儡』を纏ったために、急遽対象を四糸乃へと変更したのだ。

 

………先程の衣装も四糸乃が気絶すると、光の粒子となって消滅し変身前の服装と、左手には殺戮パペットよしのんを装着した状態に戻った。

 

『おのれ士道くん、よしのんはまだ―――ぐえっ!?』

 

「お前も寝てろ」

 

頭突きをかまそうするよしのん。そのほっぺたを親指と人差し指、それから中指の三本で掴かむと―――もう片方の手で首に手刀を叩き込み、よしのんもまた気絶させた。

 

四糸乃の敗因は一つ、雪兎状態の『氷結傀儡』を鎧に変えた事。雪兎状態の『氷結傀儡』では、ビームやら地面から氷柱を生やしての妨害を受ける以外に地上や空中を目まぐるしく動き回られると、神速を発動できる士道といえども手を焼く。

しかし、四糸乃がそれを身に纏ったために、士道に付け入る隙を与えてしまったのだ。

 

「これで四糸乃は終わった。さて、次は―――っとと………危ない危ない」

 

アスカロンの光が止んだ事で、耶倶矢が槍を投げ、夕弦のペンデュラムが士道を捕縛しようと足に巻きつく!

しかし、士道は迫り来る耶倶矢の槍ごと夕弦のペンデュラムを『塵殺公』で斬り裂き、難を逃れた。

 

「チッ、流石に士道よな。一度我と夕弦を屈服させた唯一の男。なれど―――」

「必滅。今度は先程のようにはいきませんよ?」

 

八舞ツインズは士道が凛袮を守る結界の前まで行った事を見て―――士道に斬り刻まれた天使を復元し、最強の一撃を放とうとしていた。

二人の翼が弓となり、夕弦のペンデュラムが弦を、耶倶矢の槍が矢として二人の手に握られていた。

 

美九の天使で戦闘力が引き上げられているため、彼女達の力は、封印前と大差ない程にまで霊力に満ち溢れている!

 

………夕弦の言った通り、士道は絶体絶命と言ってもいい。この一撃を避けると後ろにいる十香と凛袮が傷を負う。

仮に受け止めるにしても、四糸乃を庇いながらになる。それでも士道は静かに四糸乃を地面に下ろして剣を構えた。

 

「我ら八舞の究極奥義で沈めてくれる!」

「お姉様に、祝福を!」

 

それだけを言うと―――耶倶矢と夕弦は全く同時にお互いの手を離した。

 

「「『颶風騎士』―――【天を駆ける者(エル•カナフ)】ッ!!」」

 

「―――ドライグ!!」

 

『Starting Absolution Booster―――Boost!!!!!!』

 

士道の奥義極倍化だ。そして八舞の風に対応するには、風で対抗するのがベストと判断した士道。士道は大きく息を吸い込むと、八舞が誇る防御の奥義を発動する!!

 

「『颶風騎士』―――【斬烈なる鎧(エル•ガイア)】ッ!!」

 

ズドオオオオオオオオオオオッッ!!

 

士道は、鎧に霊力の波動を全集中させると―――そのまま一気に士道の鎧から風の刃が解放される!!

風の刃と八舞ツインズの風の矢が真正面から激突し、周囲に凄まじい突風が吹き荒れる!!

 

美九は声を響かせて、それを盾がわりにしてやり過ごす。士道がステージを覆った氷山にも、ビシビシと亀裂が入る程に威力は凄まじかった。

 

そして―――

 

「なっ―――」

「狼狽。そんな………」

 

風が収まると、八舞ツインズは目を疑った。先程まで真正面にいた士道の姿が消えている事に。

風の矢に当たって消滅したかと思ったが、十香と凛袮を守る結界が無傷な事と気絶した四糸乃に傷が一つもついていない事に説明がつかないからだ。

士道に風の矢が直撃したのであれば、結界ごと吹き飛ばしていた筈に違いない故に。

 

「―――お前ら、戦闘中は動きを止めるなって言わなかったか?」

 

「ッ―――」

「驚―――」

 

士道の声が聞こえたからの八舞ツインズは、全ての事象がスローモーションに感じていた。棒で叩かれたように振り返ると―――士道が背後で仁王立ちしていた。

 

そして振り返って身構えようとしたその時には、既に士道は目の鼻の先にいたのだから。

そこから、二人の意識を奪うまでは時間にしてほんの一瞬だったが、彼女達にはその時間が長く感じた。

 

士道は八舞ツインズにすれ違い様、手刀を首に軽く当てると―――二人はそのまま地面に倒れ伏した。

 

「………これで取り巻きはいなくなった。さて残りは美九、お前だけだ」

 

三人の精霊を従えた美九は、最初は圧倒的に優位な状態だったが、士道が鎧を纏ってからは格の違いを見せつけられるが如く、一瞬で戦局をひっくり返された。

 

「なんなんですか―――あなたは一体、なんなんですか!!」

 

美九は恐怖のあまり、震えながら士道を見ていた。霊力を封印されたとはいえども、四糸乃達は紛れもない精霊だ。

しかし、三人の精霊をこうも容易くねじ伏せる士道を見て、自分が勝負できる相手ではない事を悟ってしまった。

 

「こうなった以上は真実を言う。俺は五河士織じゃない―――俺の名は五河士道。お前の大嫌いな男で、女の姿はとあるアイテムで偽装していたんだ。今まで嘘をついて本当にすまなかった。これ以上意味のない戦いはやめよう、文句は後でいくらでも聞いてやる、だから俺の言う事を―――」

 

「うるさああああああい!!黙れ黙れ黙れ!!私はオトコなんかに死んでも従いません!!下劣で汚くて醜くいオトコなんざ、死んじゃえばいいんです!!」

 

士道が伸ばそうとした手を美九は取ろうとするどころか、明らかな拒絶の意を見せ聞く耳すら持たない有様だ。

………この美九の価値観は明らかに異常と感じた士道はたまらず美九に訊ねる。

 

「美九、お前はどうしてそうまで男を嫌うんだ?お前に一体何があったって言うんだよ………」

 

「はぁ?なんであなたなんかに―――」

 

美九が再び士道に拒絶の言葉を吐こうとしたその時だった!!

 

ズドオオオオオオオオオオオッッ!!

 

「チッ!!」

 

突如天宮スクエアのステージの天板が大きく切断され、瓦礫の山が落ちる!!それを見た士道は神速で八舞ツインズと四糸乃を回収して、落下する瓦礫をアスカロンで切り刻む!!美九は自身の霊力で瓦礫を弾いてやり過ごす。

 

そして天板を切り落としたであろう犯人には、美九以外の者には見覚えがあった。

 

「ベイリーはともかく、グレンまで失敗するとは思いませんでした。やはり私を後詰めに回すアイクの判断は正しかったようですね」

 

その犯人の名は、エレン•メイザース。七月の修学旅行で十香と士道を狙って来たDEM社が誇る最強の魔術師だ。

 

「ステージ上空での折紙や地上で正義とドンパチしてたのは、お前らDEMの仕業だったんだな………狙いは俺と精霊たちだな?」

 

「ええ、そうです。物分かりが早くて助かりますよ五河士道。夜刀神十香だけでなく、気を失った〈ハーミット〉に〈ベルセルク〉もいるとは………これだけの精霊をプレゼントすれば、きっとアイクも喜ぶでしょう」

 

エレンの狙いは士道と精霊たちのようだ。それを聞いた士道は赤いオーラを噴出させた。

 

「俺を前にしてその態度とは、随分と余裕だな………或美島で手も足も出ずに負けた事を覚えてないのか?」

『妹の真那も言っていたが………確か、この女はもやしだと。こう言うところがもやしたる所以なのか?』

 

「―――もやし言うな!!」

 

士道は余裕綽々の状態でいるエレンの行動の一挙手一投足を慎重に観察した。

約二ヶ月前の或美島でのエレンとの戦闘は、士道が彼女を完封してみせた。それでも、まるで何か切り札を隠し持っているかのように余裕の表情をエレンは崩さなかった。

 

………ちなみに、ドライグの言った『もやし』と言う言葉には、びっくりするほどいい反応をしていたが。

 

しかし、次の言葉で士道はすぐに理解する事になった。エレンの余裕綽々な態度の理由を!!

 

「忘れてませんよ五河士道。貴方は確かに人間とは思えない程の強者です。ですが、既に死の罠に掛かってしまった貴方は、恐るに足りません」

 

「死の罠だと?そんなもの―――ガハッ!?」

 

エレンの言葉に士道は意味がわからず、彼女の言葉をなぞったその時―――突如何も無いはずの背後から、一本の魔剣が飛び出して来たのだ!!

 

その魔剣を士道は避けることができず―――飛び出して来た魔剣に貫かれてしまった。

 




ちわっす勇者の挑戦です。

活動報告にも書きましたが、本作品の本編で書けなかった空白部分を書いた外伝を只今作成しています。
※本編で言うと、デート•ア•ライブ アンコールのような感じです。

夏休みの士道の修行や、真那が禁手に至るまでの経緯などを書いていければと思います。
また、外伝の方には毎話アンケートを出すので、書いて欲しいものがあればどんどん投票して下さい。
※期待に応えられるかは、分かりませんが極力努力はするつもりです!

ドライグ先生の次回予告

ドライグ『〈ディーヴァ〉に操られた〈ハーミット〉と〈ベルセルク〉をねじ伏せた今、残りは大将首のみ―――かと思われたが、かつて倒したDEMの魔術師•エレンが相棒を強襲!
相棒は何者かによって、致命の一撃を受けてしまい絶体絶命のピンチに叩き込まれてしまう!果たして相棒に勝機はあるのか!?

次回デート•ア•ライブ 〜転生の赤龍帝〜

十二話 「赤龍帝の意地」

精霊を守りし帝王よ、切り札を使え!お楽しみに〜』


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