ガンゲイルオンライン オルタナティブ ミリオンダラーオンボード (単細胞)
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プロローグ

頼みたいことがある。今日の夜、ガンゲイルオンライン日本サーバーの酒場に来てくれ。

 

ある日、俺は友人のケビンからメールが届いた。

 

しかもご丁寧にゲームのプロダクトコードが同封されていた。

 

何事かとゲームをインストールし、初期装備のまま俺は酒場へとやってきた訳である。

 

「ゴウ!急に呼び出して悪かったな・・・」

 

ザ・軍人といった格好の大男、がやってきた。

 

「ほんとだよ全く、やっと向こうでイベントが終わってゆっくり出来ると思ったのにこんなゲームに呼びやがって・・・」

 

俺は普段「グランドツアラー」というVRレースシミュレーションゲームをプレイしている。公式大会で何度も優勝していて向こうではそこそこ有名なプレイヤーだと自負している。

 

それにリアルでもアマチュアラリーの大会に出ている。

 

「それで、なんで俺をこんな所に連れてきたんだ?」

 

ガンゲイルオンライン、通称GGOはVRMMOFPS、そういったジャンルのゲームの中ではダントツの知名度で俺も名前は知っているがレースゲーしかしない俺にとっては全くの別世界であった。

 

「これを見てくれないか?」

 

「なになに、ミリオンダラー・・・オン・・・ボード?」

 

ケビンから渡されたパンフレットの表紙にはMillion Dollar Onboadの文字。この大会の名前だろう。

 

「通称MoB。今までの対人戦とは違って賞金の入ったアタッシュケースを奪い合ってゴールへと運ぶミッション型のイベントだ。」

 

「俺は運転手ってワケか?」

 

「そういう事、GGO内でも一応車両はあるけど移動位にしか使わないからな。お前ならカーチェイスなんて朝飯前だろう?」

 

「いや、俺がいつもやってるのはレースなんだが・・・」

 

「同じようなもんだろ?」

 

「全然違うわ、内容から察するにアレだろ?ワイルドスピードとかミッションインポッシブルみたいなことをするんだろ?」

 

「そうだ」

 

「お門違いだ。悪いが俺は力になれないし、もう遅いから俺は落ちる。」

 

そういって俺は席を立って酒場を後にしようとした。

 

「待ってくれ!ガンゲイルオンラインはリアルマネートレーディングができるんだ!100クレジット1円で現金に変えられるんだぞ!」

 

その言葉に俺の足は止まる。

 

「なんだって?」

 

「もし優勝したら賞金は山分けする予定だ」

 

ミリオンダラー、つまりゲーム内通貨で100Mクレジット。賞金をすべて現金に換算すると100万円が手に入るという事。

 

「俺たちはお前を入れて4人で参加する予定だから分け前は25万だ」

 

「それ本当か?」

 

俺は席に戻って来て座った。

 

「あぁ、本当だ」

 

タイヤとホイールをセットでもう4本買うか、それともラリーサスキットを入れるか?いやエンジンクレーンとスタンドを買って家でもオーバーホールができるようにするか・・・

 

頭の中で賞金の使い道を計算する。なんたって勝ったら25万だ。

 

そんな俺を見たケビンはニヤニヤしながら訪ねた。

 

「やってくれるか?」

 

「やれるだけ、な・・・」

 

俺は首を縦に振った。やったことのないゲームだが参加するだけならタダだ。

 

「よし、じゃぁ決まりだな!詳しい話はメンバーが集った時にするから来週の土曜の夜、俺たちの拠点に案内するから10時にログインしておいてくれ。ちなみにチーム名はデルタ・フォーだ」

 

「なんだそりゃ、絶対発音の響きだけで決めただろ?」

 

「カッコよけりゃなんでもいいんだよ、じゃぁ来週の土曜、開けておいてくれよな!俺はもう寝るから」

 

そう言い残してケビンは空中に表示されたメニューを操作してログアウトした。

 

酒場に一人取り残された俺。

 

周囲を見回すとプレイヤーは皆ミリタリーテイストな服装に皆腰や背中にライフルやショットガンを装備している。

 

「銃と鋼鉄の世界か。スピードとスリルの世界とは大違いだな・・・」

 

 

 

 

 

こうして俺のGGO生活が始まった。

 



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デルタ・フォーのメンバー

土曜日、俺はケビンに案内された基地へとやってきた。

 

「皆揃ってるな。ゴウ、早速だがチームのメンバーを紹介するぞ」

 

薄汚いガレージの中にケビンの他に2人、男と女が居た。

 

「男の方がDDで彼女はライだ」

 

男の方は彫りが深めの欧米人のような顔立ちでスポーツ刈り、ケビンほどムキムキではないが鍛えてはいるんだろうなといった印象だった。何よりケビンみたいに暑苦しくない。

 

女性の方はモデル並のスタイルの良さがまず目に入った。ブロンドの長髪で顔立ちは少し外国の血が入った日本人みたいなカンジ、ひと言で言い表すならばクールビューティといったところだろうか。

 

「ゴウです。よろしくお願いします」

 

俺は二人に軽く会釈する。

 

「あんたがケビンの言ってた男か?まぁよろしく頼むわ。別に敬語じゃなくて構わねぇぜ」

 

「GGOへようこそ。よろしくね、運転手さん」

 

二人ともフレンドリーな人で安心した。

 

「さて、顔合わせも済んだところでゴウ、お前の装備を決めないといけねぇんだが。お前のアビリティーを見せてくれないか?」

 

俺はプロフィールを見せた。

 

「どれどれ?これは・・・参ったな・・・」

 

DDとライも俺のプロフィールを見たが同じような表情だった。

 

プレイヤースキルはほかのゲームへ引き継ぐことができるのだが俺はレースゲーしかやってないせいでGGOで使える能力はほとんど初期値のままだった。

 

というか俺自身、向こうでも筋力の強化くらいしかやっていなかったのだが・・・

 

「パワステやブレーキ補助のない車を運転する為に筋力を鍛えたくらいだからなぁ」

 

つまり俺はこのGGO内ではペーペーだった。

 

「運が高いのはどうしてなの?」

 

ライに言われて俺の初めて気が付いた。ほんと、なんでだろうか。

 

「まぁ運転するくらいだし問題ないだろ。ドンパチの方は俺達で何とかするさ」

 

頼もしいなDDは・・・

 

「運転するにしても自分の身は自分で守ってもらうからな。取り敢えずこいつを撃ってみろ?」

 

ケビンから1丁のハンドガンを渡される。

 

「シグザウエル・P226。日本でも自衛隊が使っている銃だ。グリップも小さめで9ミリ弾だからお前でも扱えると思うぞ」

 

「これで人を撃つのか・・・意外と重いな」

 

俺はP226を受け取って見てみる。

 

引き金は俺でも分かる。ここを引くと撃てるんだよな・・・

 

なんかよくわからんボタンが付いてるし、それに9ミリとか言ってたけど小さいな、これで本当に殺せるのか?

 

突然3人が血相を変えて俺の腕を抑えた。

 

「お前ッ!銃口は覗くんじゃねぇ!あぶねぇだろうが・・・」

 

銃口を覗くという行為はやってはいけないらしい。

 

俺達は射撃場へと移動した。

 

そこで3人が俺に使い方、銃口管理、銃の種類、弾薬の種類、それぞれの特徴等、イロハのイから丁寧に教えてくれた。

 

「とまぁ、基本的なことはそれ位だ。分かったか?」

 

「なんとなく・・・」

 

一度に沢山教えられて頭がこんがらがりそうだ。

 

「取り敢えずあそこにある植木鉢を撃ってみろよ」

 

ケビンは30メートル程先に置かれた植木鉢を指さした。

 

「あぁ、分かった」

 

マガジンを差してスライドを引いて初弾を装填、足を少し開いて若干前傾姿勢、両手でしっかりとグリップを握り腕を真っすぐ前に・・・

 

教えられたことを一つ一つ確認しながら行う俺。

 

「DDやケビンをああやって教えたのを思い出すわね・・・」

 

ライが呟いた。この3人で一番プレイ歴が長いのは意外にもライだそうな。

 

しっかりと照準を合わせ引き金を引いた。

 

ドンッ!

 

銃声と共に衝撃が手首に伝わってきた。何が俺でも扱いやすい銃だ、1発撃つだけでも大変じゃねぇか・・・

 

植木鉢を見ると撃つ前と変わらぬ形で台の上に鎮座していた。どうやら外したらしい。

 

見かねたDDがやってくる。

 

「撃つ瞬間に目を瞑ったらだめだぜ、それに力みすぎだ。変に力を入れたら撃つ瞬間に銃口がブレて狙いが狂っちまう」

 

「なるほど・・・」

 

DDからのアドバイスを参考にしてもう1発、今度は命中したらしく植木鉢は破片を散らして台から落下した。

 

「その調子だ!」

 

「ナイスショット!意外とセンスあるんじゃないの?」

 

とライが拍手しながら言う。どうやら二人の教育方針は”褒めて伸ばす”のようだ。

 

それから俺はサブマシンガン、アサルトライフル、バトルライフル、スナイパーライフル、ショットガン、グレネードランチャーを一通り撃った。

 

休憩中、ふと思い出したかのようにライが訪ねた。

 

「そういえばゴウってレースゲームをやってるのよねぇ?」

 

「あぁ、中学の時からずっとな」

 

「どんな運転をするのか見てみたいんだけど?」

 

「確かに、運転手なんだから運転スキルは見ておかないとな。あのハンヴィーでこの辺を走り回ってみてくれよ」

 

とDDがさっき移動に使っていたハンヴィーを指さす。

 

こうして今度は俺の運転技術試験が始まった。俺がハンヴィーの運転席に座り、DDが助手席、ライが後部座席に収まる。

 

「ケビンは乗らないの?」

 

「いや、俺はいいや・・・」

 

冷や汗を流しながら断るケビンをみて二人が笑う。

 

「何怖がってるのよ?ジェットコースターじゃあるまいし」

 

「そうだぜ、たかが人員輸送用の4輪駆動車じゃねぇか」

 

「何を言われても俺は乗らねぇからな!」

 

頑なに拒否するケビン、前にリアルで横に乗けった時に峠を攻めてゲロったのがトラウマになってるらしいな・・・

 

「あんなチキン野郎はほっときましょう?ゴウ、出していいわよ」

 

ライはハンヴィーの扉を閉めた。

 

「じゃぁ行きますよ」

 

俺はアクセルを踏み込んだ。と同時に二人の顔色が急変した。

 

2トン超えの車重にしてはそこそこの加速だ、6リッターのディーゼルエンジンなだけあってトルクも悪くない。

 

軽く車体を左右に振ってみる。

 

「車重があるせいで姿勢を変えるときにラグがあるな・・・」

 

それに砂地であるが故タイヤがよく滑る。ブロックタイヤだからしっかりと前輪に加重を掛けてやらないと全然曲がってくれない。

 

「ゴウ・・・無理しなくてもいいんだぜ?」

 

DDが絞り出すように言った。

 

「いや、まだこの車の挙動を確認してるだけだ。今から少し飛ばすぞ・・・」

 

その言葉を聞いて二人は絶句した。と同時にケビンがあれだけ拒否していた理由も理解したようだ。

 

そんな二人には構わす、俺はさらにアクセルを踏む。

 

丁度岩がいい感じに点在している。ダートトライアルができそうだ。

 

一番近くの岩に向かって加速、岩の数メートル手前でフルブレーキ、ブレーキを小刻みに踏んで滑らないようにしながらターンイン、リヤタイヤを滑らせながらフロントバンパーと岩が触れるほどの距離で360度回ってほかの岩へ向かう。

 

「こんなのハンヴィーの動きじゃないわ・・・」

 

「クレイジーだ。頭のねじが吹っ飛んでやがる・・・」

 

唸るエンジン音のせいでで二人の声は届いていなかった。

 

走り回ること数分、満足した俺はケビンの元へと戻った。

 

中からDDとライがよろよろと出てくる。

 

「気持ち悪い・・・VRでも車酔いってするのね・・・」

 

「走馬灯が見えたんだが・・・」

 

地面に倒れこむ二人を見て今度はケビンが笑う。

 

「だから言ったろう?こいつの運転する車に乗るならジェットコースターに乗った方がマシなんだよ。それでゴウ、ハンヴィーはどうだったよ?」

 

「レーシングカーじゃないから仕方ないがサスペンションが柔らかすぎだ。それにディーゼルエンジンだから上まで回らんしロールは酷いし何より遅すぎる」

 

という俺の言葉に二人は魂を抜かれたような姿になっていた。



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選んだ車は・・・

基地内の簡易射撃場に響く9ミリ弾の連射音、俺が新しく買った銃を撃っているところだった。

 

買った銃はドイツのH&K MP5Kurz、ショップで見つけて衝動買いしてしまった。

 

これなら短い銃身のお陰で車内でも楽に取り回すことができる。

 

「お、ゴウか。新しい装備を買ったんだな」

 

しばらく撃っているといつの間にかDDがログインしていた。

 

「成程、MP5Kか。なかなかいいチョイスだな」

 

「どうも、これだと車から撃つのも楽だと思ったんだ」

 

「確かに、それにサブマシンガンは低い命中率を数で補っているからな。30連発のマガジンにしておいて正解だと思うぜ?あ、そうだ、MoBの詳細が発表されたぞ」

 

俺とDDはガレージへと戻る。丁度ケビンとライも合流し、作戦会議が始まった。

 

テーブルの中央にケビンが公式サイトの画面を表示させる。

 

「ルールはスクワッドジャムとほぼ同じね、サテライトスキャンもあるし死体は10分間破壊不能オブジェクトになる」

 

「車両は事前に1台選んでおくらしいな、普通のSUVから装甲車まで、結構種類があるみたいだぜ?」

 

「スタートしたら10分後に賞金の場所が端末に送られるわけか、位置はリアルタイムで端末に表示されるんだな」

 

「車両が破壊された場合はフィールド内の車両を使って続行可能、最悪徒歩でも行けない事は無いのか・・・」

 

各々がルールを読み上げる。大会まであと3日、あまり猶予はないな・・・

 

「それで、車両はどうするんだ?」

 

DDがケビンに尋ねた。

 

「そうだな、主に運転するのはゴウだからゴウが決めていいぞ」

 

「マジで・・・」

 

俺は車両リストを開く、DDの言った通り多種多様な車両が使える様だ。

 

「まぁゆっくり吟味してくれ、俺たちは車の事に関してはさっぱりだからな。今のうちに装備を買いに行ってくるわ」

 

3人は近くのショップまで買い出しに出かけた。

 

基地内に一人残った俺。

 

「どれどれ・・・」

 

キャデラック・エスカレード、ハマーH1 、トヨタ・ハイラックス・・・この辺は市販のSUVらしいな。

 

ページの最後の方には陸上自衛隊の軽装甲機動車、アメリカ軍のアップアーマードハンヴィー、ドイツ軍のATFディンゴなど、ゴリゴリの歩兵機動車までラインナップされていた。

 

「ロクなの無いなぁ・・・」

 

この前ハンヴィーを運転して分かった。こういう類の車の速度はせいぜい100キロそこそこ、装甲がある分速度が遅く設定されているのだ。

 

代わりに市販のSUV等は防御力は低いが速度が出るということか。

 

チーム内の人数によっても左右されるだろうがウチは4人、どの車でも乗れるだろう。

 

「やっぱり速いのがいいよなぁ・・・」

 

なかなかピンとくる車両が見つからない。

 

そんな中・・・

 

見つけてしまった。1台だけ、異色な存在感を放つそのクルマを・・・

 

「帰ったぞー。ゴウ、車両は決まったか?」

 

丁度ケビン達も戻ってきた。

 

「あぁ、俺はこれに決めた」

 

3人が俺の選択した車両を見る。すると3人の顔が見る見るうちに青ざめていく。

 

「・・・冗談だよな?」

 

ケビンがか細い声で言った。

 

と同時に俺の選んだ車がガレージの中に出現した。

 

そのボディはほかの車両と比べてとても小さい。

 

装甲はほぼ皆無

 

パワーは300馬力、重量は1500キロ少々

 

目の前に現れた車は装甲車でもトラックでもジープでもましてやSUVでもなかった。

 

「俺が選んだのはスバルのWRX STIだ」

 

スポーツカーである。しかも今から10年ほど前の・・・

 

「嘘でしょ・・・」

 

3人は絶句した。いくらレースゲー出身の俺だからと言ってまさかスポーツカーを選ぶなんて夢にも思っていなかったのである。

 

「こんなのあったのかよ・・・」

 

「SNSで少し話題になってたんだよ。ネタ枠で1台変なクルマがあるって・・・」

 

ケビンは椅子に座って頭を抱えた。

 

「変だとは失礼な、このWRXSTIはスバル最後のEJ20ターボエンジン搭載車で今は手に入らないんだぞ!それに当時はラリーにも出場していてシンメトリカルAWDとマルチモードDCCDのお陰で悪路のでの安定性も最高だし――――――――」

 

ゴウの熱弁は彼らには届いていなかった。

 

 

 

 

 

 

一度決めた車は変更できない、ケビン達はこのスバルWRXをどう運用するかという方向にシフトしていった。

 

気休め程度の簡単な防弾化、一応ゲーム内の設定で7.62ミリ弾までは耐えられるようになった。

 

「はぁ・・・あいつに任せたのが間違いだった・・・」

 

さっきからケビンはため息ばかり吐いている。

 

そんな彼を気にせずに俺はターボ強化やECU書き換え、足回りの総交換など、速く走る為の出来る限りの改造を行っていた。

 

当たり前の話だが自分たちで武器を車体に装備するなんてことはできない。

 

憔悴しきったケビンがDDに尋ねる。

 

「なぁ、どうやったら勝てると思う?」

 

「そうだな・・・この車がほかの車より優れている点は速度だよな。作戦としては開始直後マップの中心へ出来る限り移動、賞金の位置が表示されたら全力で向かう、強奪したら一目散にゴールまで逃げる・・・これくらいしか思いつかん」

 

マップとにらめっこする二人、ライは私用でさっきログアウトした。

 

「うわ、VABのWRXってトランクスルーついてんじゃんか、これで荷物が沢山積めるな!マルチモードDCCDも使えるのか、戦争ゲームのクセに意外と作りこんであるじゃん・・・」

 

一人はしゃぎ回る俺、前々から欲しかったのだ。まさかこんなところで乗れるとは。

 

「アイツ、本当に大会の事を分かってるのかねぇ・・・」

 

ケビンはすでに呆れ果てていた。

 

 

 

 

 

 

あらかたの改造が終わった後、俺たちは荒野フィールドに繰り出した。

 

残り2日、出来る限りのことはやっておかないと・・・

 

訓練も兼ねてモンスターを討伐してスキルポイントを稼ぐ

 

揺れる車から射撃を行うため、たまったスキルポイントは命中率に振っておく。

 

「目標は頭部だ!全員撃て!」

 

俺は3人が効率的に攻撃できる位置へと移動することが主な役目だ。さらに余裕があるならMP5Kで攻撃する。

 

討伐クエストをこなしていくうちに俺は運転しながらの射撃のコツを掴んだ。車体に銃を突起部を当ててるのだ。これでバレットサークルが少しは安定するようになった。

 

「火炎放射が来るぞ!」

 

「分かってるって!」

 

俺はとっさにハンドルを切ってモンスターが放つブレスを躱す。

 

軽量なボディに足回りを固めたこのWRXは自分の思った通りの動きをしてくれる、たとえ地面が砂地でも自分のイメージした動きから大きく外れることは無いのだ。

 

寝る間も惜しんで行ったこの訓練は、果たして結果として表れてくれるのだろうか・・・

 

かくしてミリオンダラーオンボードの大会当日がやってきた。



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ミリオンダラーオンボード開催!

『いよいよ始まりましたミリオンダラーオンボード!無事にゴールまでたどり着いて賞金100メガクレジットを手にするのは誰だ!?』

 

メイン会場に流れる女性司会者のアナウンス。会場内は熱気に包まれていた。

 

「最近は公式が色んな大会を催してくれて面白いよなぁ・・・」

 

酒場のモニターを見ながら男が呟いた。

 

「あぁ、BoBもSJも今回のMoBもそれぞれ要素が異なってきちんと層分けされているからなぁ・・・まさか車両をメインで使うイベントとは思わなかったが」

 

もう一人の男が答えた。ここは酒場、同じ趣味を持つ者同士、若干のお酒パワーもあり、さっきまで赤の他人だったプレイヤーでもたまたま隣に居合わせただけで話に花が咲くのだ。

 

「今回もチーム戦だからSJに出ていたチームもいくつか参加しているらしいぜ?」

 

「そいつらが優勝候補の筆頭だな。今回初出場のチームがどれだけ残れるかたのしみだ。特に噂のあのチームとかな・・・」

 

『それでは、今回の出場者たちの登場です!』

 

2人はモニターに向き直る。観客席の中央に道が作られており、後ろから車両が列をなして入り始めた。

 

 

 

 

 

 

「ゴウ、前が動いたぞ。発進だ」

 

「はいよ」

 

俺はギヤを1速に入れてゆっくりとクラッチを繋いだ。独特な低音を轟かせWRXがゆっくりと進み始める。

 

「やっぱりほかのチームはゴツい車ばかりね・・・」

 

ライが会場の大型モニターを見ながら呟く。

 

「まぁ俺らみたいなのは絶対いないだろうな」

 

モニターで見ていても俺達だけ明らかに浮いていた。装甲車、迷彩柄のトラック、ジープ、マッドブラックのSUV、その中に1台、真っ白なスポーツカーが居るのだ。

 

ステージに向き直る時、皆大きくUターンするのに対して俺はアクセルターンをして向きを変え、一度吹かしてからエンジンを切った。

 

会場が一気に盛り上がる。意外とノリがいいんだな・・・

 

荒野で走り回ったお陰でネタ枠であるこのスバルWRXを使うモノ好きが居るという噂はすでに広まっていた。

 

なんでも俺たちのチームがどこまで生き残れるかという賭けの内容まであるそうだ。

 

出場者全員がステージに上がると司会者が中央に立つ。

 

『さて、ここでルールの確認です。試合が始まると皆さんはフィールド内にランダムに配置されます。スタートして10分後に賞金の位置と詳細な情報が端末へ送られます。その賞金を持ってゴールへと運んだチームが優勝、晴れて賞金100メガクレジットが送られます!』

 

実物のアタッシュケースが登場すると会場が大きく騒めく。それを司会者が放り投げるとケースは光の粒子となって消えた。

 

『それでは皆さん頑張ってください!ドライバー!スタート!ユア!エンジン!』

 

出場者が一斉に消えた。試合開始前の待機スペースへとワープさせられたのだ。

 

真っ暗な空間の中に目の前が急に明るくなる。そして30からカウントダウンが始まった。

 

「いよいよか・・・」

 

俺はハンドルを強く握りしめる。

 

「そんなに緊張しなくてもいいぞ?」

 

DDが俺の肩にそっと手を置く。

 

カウントが10を切った。

 

「出来るだけのことをやりましょう?」

 

「勝ったら祝賀会、負けたら反省会だ!」

 

車内が笑い声で包まれた。

 

と同時にカウントが0になった。俺たちの周りに3Dのオブジェクトが生成され始める。

 

見回すと住宅街のようだ。

 

俺たちは端末を使って現在位置を確認する。

 

「あちゃー、結構端に飛ばされちまったな・・・」

 

Delta-4と書かれたアイコンが示されていたのはマップの北西の角付近、中央に付近まで移動するのにはかなりの時間が掛かるだろう。

 

「ケビン、どうするよ?」

 

「そうだな、とりあえず現在地E1エリアからD2エリアに移動しよう。車を出してくれ」

 

俺はWRXを発進させた。

 

狭い住宅街の間に響くボクサーサウンド、少しでもマップの中央へ近づいておきたいところだ。

 

「ゴウ、スモークグレネードとスタングレネードだ。アタッシュケースを奪うときに使うからいつでも出せるところに置いておいてくれ」

 

ケビンから空き缶くらいの大きさのグレネードを受け取る、いつでも出せるところか・・・

 

俺はセンターコンソールのドリンクホルダーにその二つを入れた。

 

「ジュースじゃねぇんだから・・・」

 

ドリンクホルダーにピッタリと収まるグレネードを見てケビンが思わず突っ込んだ。

 

「いい場所だろ?ほかの車だとこうはいかないと思うぜ?」

 

住宅街を抜けた頃、ライが胸のポケットから端末を取り出す。それをケーブルと接続するとインパネのディスプレイにも同じ画面が表示された。

 

「そろそろ10分よ?スキャンの時間だわ、それに賞金も」

 

電子音と共にスキャンが開始された。

 

ラインがマップを通過するとマップ上に白い点が現れる、敵の位置だ。

 

スキャンが終わる、幸い俺たちの周りには敵は居ないらしい。

 

そして黄色い点が、賞金の在処である。

 

賞金の場所はリアルタイムで表示される、その画面上の黄色い点は・・・

 

「賞金、なんか動いてねーか?」

 

「時速60キロくらいか、道路に沿って動いてるからおそらく車だろうな・・・」

 

「まさか、もう誰かが奪っちゃったの!?」

 

「いや、それなら敵の白い点も一緒にあるはずだ」

 

端末に通知が入った。その内容は

 

『賞金の入ったアタッシュケースはこの車両が運んでいる、アタッシュケースは破壊不能オブジェクトだ。存分にブチ込んでやれ!』

 

一緒に黒いセダンの写真が同封されていた。賞金を運んでいる車両だろう。

 

「テスラ・モデルSか・・・」

 

アメリカのテスラモーターズが販売している電気自動車だ。

 

「なんだ普通車じゃねーか、これなら余裕で奪えそうだな」

 

DDが写真を見て呟く。

 

「いや、なかなか難しいと思うぞ」

 

皆が疑問の表情を浮かべた。

 

「どうして?」

 

「あのクルマ、あんな見た目で滅茶苦茶速いんだぞ。特にモーターのお陰で尋常じゃない加速をするんだ。世界中のスーパーカーをぶっちぎる動画を見たことがある」

 

「ウソだろ・・・」

 

信じられないという表情のケビン。

 

その時、突如俺達の間に赤いラインが伸びてきた。

 

「うおっ!?」

 

咄嗟にハンドルを切ってラインを躱す。サイドウィンドウ越しに曳光弾の軌跡が横切った。

 

「6時の方向!4台後ろの黒い4輪駆動車だ!」

 

NPC車両が一斉に路肩へと掃けた。そんな中道路の中央で走っていたのは・・・

 

「ランドローバー、ディスカバリーか・・・」

 

イギリスの軍用車両をベースにしたオフロードカーだ。

 

「M60か・・・」

 

7.62ミリのマシンガン、乗員が撃たれる可能性は無いが他の部位に当たれば性能は落ちてしまう。

 

ケビンは後席から身を乗り出して言った。

 

「賞金は後回しだ、追手を振り切ってくれ!」

 

「あいよ!」

 

俺はセンターコンソールのダイヤルを回す。メーターの画面にSPORTS+に設定した。

 

「トラックモードにして少し滑らせるぞ」

 

一般車の間を縫って交差点へと飛び出した。赤信号を突っ切る俺たちに一般車がクラクションを鳴らす。

 

相手のランドローバーはタフなボディを使って一般車に体当たりしながら無理矢理突き進んでくる。この交通量だと振り切るのは難しいかもしれない。

 

それを見た3人が一斉にアサルトライフルを取り出してマガジンを差し込む。

 

「ゴウ、運転は任せた。後ろは任せてくれ!」

 

「おう、存分にぶち込んでくれ!」

 

俺はさらにアクセルを踏み込んだ。



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