戦えない艦娘の鎮守府 (夜間飛行)
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ある艦娘の死
とりあえず思いつきで書いてみた作品です。
このジャンルの作品ねーじゃん、じゃあ書いてみよ的な感じです。
投稿は気長に待ってください。
食料もない。弾薬も燃料もない。
万事休す……いや、その言葉も生ぬるいねこの状況は。
燦燦と照り付ける太陽が僕の喉の渇きをより一層悪化させる。
体は焼けるような熱さの砂浜に倒れ、ピクリとも動かせないよ。
『君』は誰?僕の敵?まぁいいか、敵じゃないんだったら僕の話し相手になってくれないかな?
何も言ってくれないか。まぁ、勝手に話すけどね。
僕のいた鎮守府は所謂『ブラック鎮守府』というやつだった。むろん最初からブラックだったわけではない。僕が着任したころの提督は優しかった。話も面白かったし、多少欠点もあったけど、それが人間らしいというかそんな感じだった。一緒に釣りやデートもしたっけ。手をつなぐとき多少頬が赤くなるのがとても愛らしかった。
ある日、大規模作戦が実行されることになった。その作戦が成功した暁には深海棲艦に形勢逆転できる一大作戦だった。
結果は見事な歴史的大敗北。ミッドウェーやマリアナもかわいく見えるぐらいのね。原因は明らかに上層部の連中、特に兵器派と呼ばれる、僕たち艦娘を出世のための道具にしかとらえていない犬どものせいだ。いや違う。犬なら番犬として役に立つ。だけどあいつらは寝て食うだけのただの豚だね。ほんと全員今の僕みたいにくたばればいいのに……。
話が少しそれたね。さっきも言った通り作戦失敗の原因は明らかに
そして事もあろうにアイツらは作戦が失敗したと知ると金の力に頼って失敗をもみ消し、責任を人間派の提督達に押し付けた。すぐに僕たちの提督は更迭、新しい提督がやってきた。
そこから暗黒の時代が始まった。
大破進撃は当たり前。補給は最低限、食事のない日もあった。その食事もただの残飯だったけどね。そういえば夕立が食料庫からパンを銀蠅してきたこともあったっけ。あの時は3日間何も食べていなかった。みんなで数個のパンを分け合って食べた。口中に広がる麦の味。あの味は今でも鮮明に覚えているよ。僕の人生最高の食事さ。
その後、銀蠅をしたことがあの
夕立が連れていかれたのは僕たちが住んでいた部屋の真上の提督室だった。ここの天井は薄く、上の音など簡単に聞こえる。何かがぶつかる音。割れる音。殴打する音。夕立の抵抗する声。提督の罵声。憲兵たちの下品な笑い声。すべてが僕たちの耳に聞こえるんだ。今でも頭から離れないんだ、耳をふさいでも聞こえる夕立の悲鳴が。声を聴くだけで吐き気がしてきて、そのあと何度もトイレに吐きに行ったよ。最後のほうは吐くものもなくなるぐらいだったよ。
トイレに行く以外はみんなで身を寄せ合ってただただ時間が経つのを待った。
夕立は妊娠した。誰の子かわからない赤ん坊さ。確かなのはあの日参加した連中の誰かだということ。『君』は知らないだろうけど、僕たち艦娘はどう言う理屈がわからないけど妊娠の可能性が限りなくゼロに近いんだ。ただ、『ゼロに近い』のであって『妊娠しない』わけじゃないんだ。夕立はそのごく僅かな確率に当たったんだよ。
僕は提督に報告するのはやめたほうがいいって言ったのに、夕立は行っちゃった。僕は責任感を感じて、「僕も一緒に行くよ」って言いたかった。だけど、言えなかった。今になってみると、言ったらどうなるかがわかってたのかもしれない。
その夜夕立はボロボロになって帰ってきた。身体中痣だらけで、お腹にはくっきりと靴の跡と蹴られた跡が何箇所もあった。提督は暴行したらしい。口からは酸っぱい匂いがした。嘔吐したんだ。ただろくにものも食べてないから胃酸を吐いたんだと思う。そして、部屋を汚したってことでまた殴られる。これを繰り返したんだ。お腹の子は言うまでもない。
その日からだよ。夕立がおかしくなったのは。一日中部屋の隅っこでブツブツ呟いたり、笑いながら自傷行為を繰り返したり、突然叫び出して壁に何度も頭を打ち付けて血まみれになったり、笑顔で誰もいない空間に話し出したりするようになったのは。その時には僕と夕立以外の白露型は全員轟沈して、部屋には2人きりだった。部屋の隅っこに座って震えながら、ただただ夕立がおかしくなってるのを見ていた。そしていつしか、僕もその部屋には寄り付かなくなっていった。
『君』は僕が逃げた卑怯者だと思うの?ああ、そうだよ。僕は逃げたんだ。苦しんでいる仲間に寄り添うこともできないただの卑怯者だよ。だけど、じゃあ、どうすればよかった?あの現場にも、苦痛も味わってないような僕がどんな言葉をかけられる?かけたところで惨めになるだけさ。
それから1か月ぐらいたって。夕立の様子が気になって部屋を訪れた。
天井からぶら下がってたよ。
僕は一気に吐き気がするほどの嫌悪感に襲われた。
『なんで僕は離れていった?』
『なんでもっと寄り添ってあげれなかった?』
『なんで自殺を止められなかった?』
『なんであの時声をかけられなかった?』
無能な七光り提督のせいで、多くの仲間を失った。白露型ももう僕一人だ。
戦果を挙げられなければ暴力。精神が壊れれば艤装を解体。身体は生ゴミを捨てるかのように放り出される。
ある出撃で、僕は深海棲艦に遭遇した。6人いたけど、練度不足であっという間に僕一人になった。僕も大破状態になった。深海棲艦は僕のことは放っておいてもじきに沈むと考えたのかな?見逃してくれた。チャンスだと思った。あの鎮守府から逃げられる。そう思った。どうせあの生ゴミは僕たちのことを気にしてなんかない。気にしてたとしてもそれは自分のキャリアについてだろう。アイツのキャリアなんてクソくらえだ。
僕は運が良い方だ。でも途中で艤装が故障してね。運良く流れ着いたのがこの島だったわけさ。でも僕の運ももう尽きかけているみたい。いや、ここからが僕の運の本領発揮ってとこかな。運が良ければ向こうで夕立たちに会えるもんね……。
……ん?『君』は何をするつもりなんだい?そんな大きな爪を僕に向けて振り上げて。そうか。『君』も僕を殺そうとしてるんだね。だったら一思いに頼むよ。痛くて苦しいのは嫌だからさ……
グサリ
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「♪ひーろーいーうちゅーのーかーずーあーるーひーとーつー」
工作艦明石は気の抜けたような歌を歌いながらパラソルの下でビーチチェアに寝そべっていた。
「いい天気ですねぇ!こんな日はゲームをするのが一番です!」
明石はインドア派なのかアウトドア派なのかわからないような言葉を言うと、背もたれにもたれ、大きなあくびを一回した。
「お!やっぱ強いなスレイマニ大尉!!」
F-22《ラプター》を操縦してサンフランシスコで戦っている。明石は何としても逃すまいと、ボタン操作で必死に食らいつく。だがその瞬間、彼女の肩にかかっている無線機が通信が入る。
『明石さん!明石さん!』
聞きなれた声が聞こえてくる。今の状況ではあまり集中を崩されたくない明石はイラついたような声で無線に出た。
「何ですか秋津州さん!今忙しいんですから後にしてください!」
『あっ、ちょ(ブツン)』
明石はそういうと無線機の電源を完全にオフにした。
「あ、死んだ。よし!もう一回!」
ゲームに熱中している明石であった。
一方、無線室にいる先ほどの通信相手秋津洲は困ったような表情をしていた。
「明石さん酷いかも~!!二式大艇ちゃんから通信があったのに~!」
この鎮守府では定期的に秋津洲の二式大艇による哨戒活動が行われている。
《我、漂流艦娘発見セリ。鎮守府ヨリ方位240、距離350キロ》
先程、その二式大艇からそのような連絡があった。秋津洲は独断で救助を決めた。
《直チニ救助シ帰還セヨ》
二式大艇
「救助せよとのことだ。これより着水する。着水出来次第ボートを出し救助を開始する」
この二式大艇は救助艇も兼ねているのでゴムボートを搭載している。着水すると搭乗員たちは防衛のため何人か残し、ゴムボートを膨らまし乗り込んだ。
波間に漂っていたのは髪飾りをつけた少女。容姿からして駆逐艦と思われた。
「機長」
「何だ」
「髪が濡れた女の子って可愛いっすよねアイタぁ!?」
隊員の一人が頭を抱えてうずくまる。原因は機長の拳骨のせいだ。
「バカなこと言ってねぇで早く救助すんぞ!」
搭乗員たちは艦娘の脇を掴んで2人がかりで引き上げる
「よし、救助完了!誰か体を拭いてやれ」
「じゃあ私があべし!」
先程の隊員が再び頭にコブを作った。
「お前は危険だ。小鳥遊!お前が体を拭け」
「は、はい!」
小鳥遊上等兵は隊内唯一の女性搭乗員である。小鳥遊は渡されたタオルで体を拭いた。その間にボートは二式大艇へと向かっていった。
救助された駆逐艦娘は救助されたのがわかったのか安心したような顔をしていた。
「艤装番号はD-170-ST-392K。Dってことは駆逐艦か。おい!すぐに照合しろ!」
「了解!」
隊員はすぐに持っていたタブレット端末に番号を入力した。
「出ました。白露型駆逐艦2番艦時雨です。」
「そうか。直ちに帰還するぞ!」
ボートは二式大艇へ向けて動き出した。
この艦娘との出会いが日本の運命を大きく変えるとはこの時は誰も知る由もなかった。
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出会い
全ての鎮守府がブラック鎮守府となった。
瀕死の重傷を負った時雨は無人島で一人何者かと思い出話をする。
一方の明石たちの鎮守府はある駆逐艦娘を発見する。
鎮守府のとある一室。
真っ白なカーテンが舞い上がり、ほのかな潮の香りを運んでくる。微かに聞こえる潮騒で時雨は目を覚ました。
「知らない天井だ」なんてそんなことは思わなかった。それよりもありえないという言葉が頭の中にあふれていた。
だってそこは…『時雨がいた鎮守府』だったからだ。
ベッドの上から部屋中を見回したが間違いなく白露型の部屋だった。読みかけの雑誌。湯気の立つコーヒー。元気よく『いっちばーん!!』と書かれた掛け軸。辞書のような厚さの宿題とノートと鉛筆。そしてそこには平仮名で『ゆうだち』と書かれていた。そういえば夕立はよく教官である足柄に宿題忘れのペナルティーを課せられていた。窓の景色を見ても間違いなく見慣れた景色だった。沖合にはローソクのように見えることからローソク岩と呼ばれている岩がある。てっぺんにある監視小屋は常に明かりが灯され灯台の役割も果たし、この鎮守府のシンボルとなっている。
「あ!起きたっぽい?」
時雨が窓を眺めているともう聞くことができないと思っていた懐かしい声が聞こえた。時雨が振り向くとそこには笑顔の夕立が立っていた。
「夕立…」
時雨は止めどなく涙があふれた。
「夕立…夕立だ…夕立がいる…!…」
時雨は夕立に抱きついた。力一杯、その感触を、体温を思い出すかのように力強く抱きしめた。
「ちょっと!痛いっぽい!時雨、どうしたの?」
「夕立…もう会えないかと思ってた…幽霊じゃないよね?」
「ひどいっぽい!ほら、ちゃんと足もあるよ!夕立、幽霊なんかじゃないっぽい!」
夕立は戯けるように片足を上げて足があることを示した。時雨はもしかしたら今までのは全部悪い夢だったのではないかと考えた。現に夕立は目の前にいるし、他のみんなの私物も散乱している。
「ちょっと、疲れちゃったな。もう少し横になってるよ。」
「じゃあ夕立とお話ししよ!」
「うん」
それから30分ほど話をした。ほぼ毎日のように顔を合わせているはずなのによくもまあ、こんなに話題が出るもんだと時雨は思った。
「提督は今どうしてる?」
「絶賛説教中っぽい」
「え?」
時雨は嫌な光景がフラッシュバックしてきた。説教といえば提督が暴行を加えていた。嘔吐するまでだ。
「誰が叱られてるの?」
時雨は恐る恐る聞いて見た。
「提督。大淀さんのお説教を受けてるっぽい。」
時雨は安堵した。安心したら笑いがこみ上げてきた。大淀さんの顔が暗く眼鏡だけが光っているのと、提督が正座をして冷や汗をかいている姿が想像できるからだ。
いつも通りの光景だと思った。
窓の外を向くと漁船が大漁旗を掲げて走っていた。深海棲艦が支配しているとは思えないような平和な風景がそこにはあった。
「ねぇ、夕立。」
「ん?なぁに?」
「ほかのみんなはどこにいるの?」
時雨は何の気なしに聞いてみた。ほんの頭の中に浮かんだ疑問を時雨ではない誰かが時雨の口を使って聞くような感じである。夕立は答えた。
「………忘れちゃったの?」
「ん?」
時雨は夕立の声のトーンが変わったのに気付いたがそれでも窓を向いて風にあたっていた。夕立は冷たく凍るような口調で答えた。
「みんな……死んじゃったよ?」
「え」
あえて文字で表現したが、時雨の声は消え入るような様々な感情が入り混じった表現しがたい声だった。時雨はゆっくりと目を見開く
「…冗談だよね?みんな死んだって」
「冗談でそんなこと言わないっぽい」
「大淀さんは提督室にいるって言ったよね?」
「大淀さんはもういないっぽい」
「…だって、今までのは全部」
「夢じゃないっぽい」
「…だって…こんなに部屋も海もきれいじゃないか!あの頃のとは全然違うじゃないか!」
「全部時雨が作り上げた幻想っぽい」
「嘘だ…嘘だ…嘘だ…嘘だ…」
「現実を見たほうがいいっぽい」
「嘘だ!!僕が今見ているのが現実だ!今僕がいる場所が世界だ!!」
「嘘じゃないっぽい」
時雨はすべての感覚を拒絶するかのように頭を抱え込んだ。あの悪夢が現実だったなんて思いたくない。考えたくもない。時雨はひときわ声を荒らげた。
「だって!!夕立がここにいるじゃん!!!」
「夕立も、死ンじゃッタっポい」
それはもう時雨の知る夕立の声ではなかった。例えるならば、ホラー映画のゾンビが話すような気味の悪い声である。
時雨は冷や汗が止まらなくなった。そして何かの匂いが臭ってきた。
(この匂い…まさか…あの時の…)
時雨は最初は何の匂いかがわからなかった。だが、記憶を遡っていきその正体に気付いた時、時雨は震えが止まらなくなった。
時雨は恐る恐る振り向いていく。脳内では「見てはいけない」「振り向いてはいけない」と危険信号が流れる。だが、体が言うことを聞かないのだ。
振り向くとそこに『夕立』はいた。
だがそこにいたのはさっきまでいた夕立ではなかった。時雨の顔が一気に青ざめていった。そこにいたのは『あの日の夕立』だったのだから。
首に残る縄の跡。うっ血した頭。顔に残る涙の跡。全身に残る青あざ。手首に残る無数の切り傷。
部屋の様子も一変した。白いカーテンは破れ、純白のシーツは切り刻まれていた。壁には恨み辛みの言葉が一面にびっしりと夕立の血で書かれていた。その文字は時間経過のため黒く変色していた。
「ドうしテ、助けテクレなかッたノ?」
「あ…あ…」
「ネぇ、どウしテ?」
夕立はゆっくりと近づいて来る。時雨は後ずさりしようとするが時雨がいるのは壁際のベッドの上なのですぐ後ずさり出来なくなる。だが、時雨はそんなことも御構い無しに足を動かし続ける。
「来るな…来るな…」
時雨の目の前にまで夕立の傷だらけの顔が迫る。
「ユルさナい…!…」
その瞬間、夕立の姿は黒い蝶の群れに変わり、部屋は気づけばどこまでも黒い部屋になっていた。
「ここは…?」
時雨は立ち上がると、足元に嫌な感触を覚えた。足元を見ると底なし沼のような場所に沈んでいっているのに気がついた。
時雨が抜け出そうともがいていると、汚れた手が沼の中から飛び出してきて時雨の体や服を掴み、引きずり込もうとする。
時雨はその手がこの鎮守府で死んだ艦娘達であることに気がついた。
タ級に胴体に風穴を開けられて即死した霧島。
リ級に首をもがれて死んだ天龍。
ヨ級に雷撃され半身を失い痙攣を起こしながら死んだ利根。
駆逐棲姫に爆雷を口に捻じ込まれ頭部を爆破された伊58。
作戦が失敗すると憲兵隊に敵に情報を流したというあらぬ疑いをかけられ『懲罰』によって死亡した五月雨。
隼鷹を含む艦隊が自分を除いて全滅し、提督に暴言を吐かれ、入渠場で手首を切り自殺した飛鷹。
加賀の処刑を強要され屋上から飛び降り自殺をした赤城。
「みんな…うわっ!…やめて!お願いだから許して!…」
手を振りほどこうとするが握力がかなり強く全くと行っていいほどできない。
『ユルさない…ゆルサなイ…ユるさナイ…』
顔の半分ぐらいまで沈んだ。必死に顔を上げてなんとか呼吸を確保している状態である。その時目の前に再び夕立が現れた。時雨は藁にもすがる思いで話しかける。
「夕立!お願いだ…から!…助け…っ!……」
口と鼻が埋もれ、話すことができなくなる。必死に上げている右手で助けを求めた。
「さヨなラっぽイ」
時雨の顔が完全に埋もれる寸前夕立は静かに呟いた。時雨は完全に埋もれた瞬間意識が途切れた。
「んっ…うん…うぁ…んん!…うわぁ!はぁ…はぁ…」
時雨は一気に飛び起きた。荒い呼吸が整うと自分が知らない部屋にいるのに気がついた。
「ここは…医務室?…どこの?」
ここは全て眩しいぐらいに真っ白で清潔にされていた。時雨は間違いなく元いた鎮守府ではないと確信していた。あの鎮守府では艦娘に治療は必要ないと倉庫にされているからだ。
コンコンッ
時雨はノックの音に気づくと、そばにあった掃除用のホウキを手に取った。さっきの悪夢のせいで異常なまでに警戒していた。
すり足でドアにゆっくりと息を殺しながら近づいていく。
「入りますよー」
ドアノブが回り、開け放たれていく。
時雨は1秒1秒がはるかに長く感じられた。
「具合はどうですか?」
「うわぁぁぁぁぁ!」
バキッ!!
「あだぁぁぁぁぁ!?」
ドアが開け放たれた瞬間、時雨は目の前の人物に一気にホウキを振り下ろした。
ホウキは相手の頭にクリーンヒットし、音を立てて折れた。
時雨は力強く閉じていた目をゆっくりと開いた。そこにはピンク色の髪でセーラー服を着た女性がタブレット端末を手に、頭にたんこぶを作り、目を回して倒れていた。
数分前
明石は廊下を歩きながら、タブレット端末を見ていた。それもかなり険しい表情で。
「どうかされたんですか?」
紫髪の女性大鯨は明石と偶然出くわし、声をかけた。
「あっ大鯨さん。実はついさっき保護された子なんですけど…」
「ああ!たしか時雨ちゃんでしたっけ?」
「はい。それでどこの子なのか調べるために艤装に内蔵されているICチップを調べたんですよ。」
「そうなんですか。それで所属はどこだったんです?」
「大湊警備府。青森ですよ。」
「かなり遠い鎮守府から来たんですね」
「ええ。遠すぎるんです。」
「え?どういうことですか?」
「おかしいんですよね。補給履歴なんかも調べたんですが、ここに来るまで一度も燃料補給をした記録がないんですよ。大湊からここまで来るのに最低必ず1回は燃料補給が必要なのに…」
大鯨は首をひねった。そしてある答えにたどり着く。
「…う〜ん…!てことは!まさか!」
「ええ、『同族』の可能性が高いです。」
「で、でも!まだ確定したわけじゃないんですよね!?」
明石は一呼吸置いて話す。
「それをこれから確認しに行くんです。あ、ここだここだ。」
コンコン
「アレ?返事がありませんね」
「まだ寝てるんじゃないですか?」
「入りますよー」
このドアを開けた瞬間、ホウキで殴られることをこの時の明石は知る由もなかったのである。
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決意
「これでよしと!」
大鯨は明石の額にバッテンに絆創膏を貼った。その姿は手塚治虫の『三つ目がとおる』の主人公写楽保介を彷彿とさせる姿だった。
「さてと…」
そういうと、明石はベッドの方に向いた。そこには顔を赤くした時雨が少し俯いた状態で座っていた。
「ご、ごめんなさい…」
「いえ、別に気にしないでください!こんな傷すぐに直せますんで!あ!私明石と言います!敬語とか気にしなくていいですから!」
「そ、そうそう!明石さん工廠勤めだからこの程度の傷日常茶飯事で!だから気にすることないんですよ?私は大鯨です。私に対しても気さくに話しかけてください。」
謝罪をした時雨に対し、明石と大鯨は慌てた様子で慰めた。
「えーと、これからあなたにいくつか質問をします。いいですか?」
「う…うん。わかった」
「あなたの名前は、白露型駆逐艦2番艦時雨で合ってますか?」
「合ってるよ。僕は時雨だよ。」
「所属する鎮守府は?」
「…大湊警備府」
時雨は思い出すだけで吐き気がするような自らの所属する鎮守府(正確には鎮守府ではないが)の名前を言った。思い出すとあの男の顔と暴行を受ける艦娘の様子が浮かび上がるからだ。
「………」
「どうかしたの?」
明石は少し黙ってしまったので時雨は声をかけた。
「そういえばここはどこの鎮守府なんだい?かなり海が綺麗みたいだけど」
「沖縄です。」
「…へぇー。いい場所だね」
「驚かないんですね。」
「うん。もう何があっても驚かないや。」
「それはあなたが『死なない艦娘』だから?」
「!!どうして知ってるの!?」
「アレ。形はプレーンってところですかね」
明石は医務室をのそのそと動き回る真っ黒な異形を指さした。その異形はブツブツと何かをつぶやきながら部屋中を動き回った。
《いイ…アme…daね…見tu…ケ…たよ…》
「明石さんにもこれが見えるの?」
「はい。『私もそう』ですから」
明石はそういうとおもむろに自ら所持している9mm拳銃、海外ではミネベアP9と呼ばれている拳銃を抜くと、何の躊躇いもなく自分のこめかみを撃ち抜いた。時雨には血しぶきがかからないように撃ったので、脳漿やら何やらが反対側の床に飛び散った。
明石の体から黒い粒子のようなものが溢れ出した。こめかみに開いた風穴は黒い粒子に覆われ晴れると見事に塞がっていた。死んだはずの彼女はゆっくりと立ち上がり、椅子に座り直した。
「ね?信じてくれました?」
「うん。君もなんだね」
明石は隣にいた大鯨にも拳銃を向け射殺した。至近距離からのヘッドショット。普通に考えれば即死である。
「ちょっと!なんてことを!」
「大丈夫!彼女もそうですから」
「もう!いきなり殺さないでもらえます?」
大鯨は立ち上がった。そしてハンカチで頭についた血をふき取った。
「ごめん!ごめん!時雨ちゃんにも信じてもらいたくて」
「血って洗濯とか掃除するの大変なんですからやめてください」
殺された後とは思えないほど日常的な会話をする明石と大鯨。
「もしかして、明石さんたちも出せるの?この黒いやつ。」
「ええ、私と明石さんは出せますが、ここにはいませんが秋津洲さんも同じく『死なない艦娘』ですが、彼女は出せません。」
「そうなんだ…。」
「ところでここからが本題です。軍の艦娘名簿にアクセスしましたが、あなたはすでに轟沈したことになってます。」
「やっぱりそうだよね。あのクソ野郎の事だからそういうことにはなるだろうって思ってたよ。まぁ、だから逃げることにしたんだけどね。」
「恐らく鎮守府に戻ってもいいことはないでしょう。それどころか、死なないということがバレれば今までよりも過酷な扱いを受けるかもしれません。というわけでどうでしょう。うちの鎮守府に来ませんか?」
「え?」
「ここだったらあなたをひどく扱う提督もいないし、何よりあなたと同じ境遇である私達がいますから。それがあなたにとって最良の選択ではないでしょうか?」
明石の言葉に対し、時雨は疑問の声を上げた。まさかここで勧誘を受けるとは思ってもみなかったからだ。そこへ大鯨の声がさらに畳みかけた。時雨は涙が溢れた。気を許せる仲間に会えたから。安全な場所を手に入れることができたから。時雨のだした答えはただ一つだけである。
「…うん。ここにいるよ。」
時雨 鎮守府着任。
「じゃあ提督に着任のあいさつしに行かないと。執務室に案内してくれないかな?」
「何がおかしいの?」
「その必要はありませんよ。ですよね明石さん」
「ええ。さっきも言ったじゃないですか。ここには
「え?それってもしかして」
「ええ、ここには提督はいません!」
「えええええええええええ!?」
「そもそも、ここ鎮守府じゃありませんし!」
「えええええええええええええええええええええええ!!??」
着任早々轟沈クラスのクリティカルヒットを食らった時雨であった。
筆が進まない…。
多分初めてのあとがきコメントがこんな感じになるとは…。
次の投稿も今年中にできるかどうかが怪しいですね。何とか頑張ります。
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