転生したら天津飯だった件 (せまし)
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01.天津飯に、転生す

超での天津飯の扱いの悪さや、天津飯はホントは強いんやという気持ちから思わず書いてしまいました。
なんとか完結めざして頑張りたいと思います。


 

俺は、身体が弱く殆ど病院で寝たきりの少年だった。

そんな俺の娯楽は、漫画やアニメだけだった。

俺は身体を鍛え拳で戦う作品が好きだった。

自分で自分を鍛えられない俺は、作品の中で己の身体を鍛え強くなっていくキャラクター達に憧れていた。

中でも俺は、作品の主人公よりもそのライバルよりも、端の脇役達が好きだった。

 

それは、自分は決して主人公にはなれないという諦めもあったのかもしれない。

だがそれでも、どれだけ主人公の圧倒的な強さに置いていかれようと、それでも強くなろうとする脇役達はとてもかっこよくて………その姿に憧れた。

 

そして…俺は、ある日なんの前触れもなくポックリと死んだ。

 

最期の時…俺は病院のベッドの上で薄くなっていく意識の中、ふと思った。

 

「生まれ変われるのなら…脇役でも何でもいい。…強くなりたいなぁ」と。

 

 

 

キュオォーーーーン

瞼の向こうで赤い光が輝いた気がした。

 

 

 

 

 

そして…

 

「天!天!」

 

誰かが俺の身体を揺すっている。

 

「う…うん…?」

 

ここは一体…俺はどこかの道場の様なところで寝ていたらしい。

俺は病院で死んだんじゃなかったのか?なんでこんなところに…え?

 

「どうした?天」

 

小さな身体に大きな瞳、白すぎる肌に真っ赤な頬。

な、な、な、な…なんで目の前にチャオズが居るんだ!?

 

 

 

どういうわけだか、俺は死んだ後…転生したらしい。

それも、漫画の世界に。

作品名は『DRAGON BALL』…国民的大人気作品だ。

そして、俺が転生したキャラクターは…

作中の強さインフレに置いていかれながらも、黙々と修行を続けていたストイックキャラ…

多分、おそらく、もしかしたら、『地球人最強はクリリン』という事実を作る為に『実は宇宙人・三つ目人の末裔』という設定が追加された男…

天津飯になっていた。

 

確かに死の間際、「生まれ変われるのなら…脇役でも何でもいい。…強くなりたいなぁ」

なんてことを考えたが…まさか本当にこんな漫画とか小説みたいなことになるとは…

 

俺は、死ぬ前にそういった転生ものの小説をいくつか読んでいたので殆ど慌てることなく現状を受け入れていた。

まぁ実際は衝撃が大きすぎて逆に冷静になっているだけなのだが…

いや、もしかしたらこれは寝たきりになった俺のただの妄想という可能性の方が大きい。

だが…顔をつねるとちゃんと痛みがある。

 

あぁ、これが夢なら永遠に覚めないでくれ。

身体が好きなように動く。

少し歩いただけで息切れしない。

なんて素晴らしいんだろう。

 

そして、今の俺は天津飯…俺の願いが叶ったのだ。

 

「これから鍛えに鍛えて強くなる!目指すは地球人…じゃない、宇宙人最強だ!」

 

俺は超えてみせる!悟空を!ベジータを!

魔人すら倒せる男になってやるぞ!

 

「ハーッハッハッハッハッハ!!」

 

 

「チャオズ。天津飯のヤツ、どうしたんじゃ…?」

 

「あ、鶴仙人様…さ、さぁ…」

 

 

 

 

なんて意気込んだのは良いがひとつ問題があった。

 

この度俺はこのドラゴンボールの世界に天津飯として転生したのだが、丁度俺が死ぬ前に「転生したらヤムチャになった件」なんて公式二次創作みたいな漫画が話題になっていたのだ。

 

これはネタバレになるのだが、その漫画では主人公がヤムチャに転生したのは破壊神ビルス様達のお遊びに付き合わされたからだった。

もし、今回の俺の件もビルス様達のお遊びだったとしたら…ハッキリ言ってやってられない。

いつビルス様が飽きて元の世界に戻されるか、なんて事を永遠と恐怖し続けるなんて勘弁してほしいのだ。

 

というわけで俺は今、鶴仙流の道場から離れた岩場で片手に中華まんをいくつか包んだ袋を持ちながら一人空を見上げていた。

 

「ウイスさーーーん!!聞こえたのなら此方に来ていただきませんかーーーっ!!」

 

大声で空に向かって叫んだ。

もし周りに人が居たら俺はだいぶヤバいヤツと思われるだろう。

だが、俺の悩みを解決するにはこれしか方法がないのだ。

アニメでブルマが似たような方法でビルス様の付き人、ウイスさんを呼んでいたのでこの方法でいけないこともないと思うのだが…

 

「あら?私を呼んだ貴方はいったい誰ですか?」

 

やったぜ。

 

 



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02.天津飯、ウイスと話す

なんとかエタらないように頑張ります…



 

「ほほ~う。それは面白い話ですねぇ」

 

俺はウイスさんに自分の事情をあらかた説明していた。

別の世界で死んで、気が付いたらこの身体になっていたこと。

この世界は前に自分が居た世界では創作物だったこと。

だから自分が、ウイスさんを知っていたことなど…

 

「という訳で、今回俺がこの世界にやってきたのはビルス様が関係あるんでしょうか?」

 

「いいえぇ。ビルス様が殆どの黒幕だったとしても、今回の件には関係ありませんねぇ。そもそも、ビルス様は今はまだ寝ていますし」

 

ありがたいことに、俺の『ビルス様黒幕説』は違ったらしい。

だが…ならばなぜ俺は転生したんだろうか?

 

「貴方はこの世界とは別の宇宙でも別の時間でもない、別の次元から来たんでしょうねぇ。何がどうやってかはわかりませんが…」

 

「あの…それでは、この身体の…本物の天津飯の魂はどうなったんでしょうか?」

 

「ふ~む。私が見たところでは、貴方とその天津飯さんは、身体と精神、全てが1つに融合している状態ですねぇ。まるで最初からそうだったかの様に、それはもう完全に1つに」

 

それは…どういうことなんだろうか?

とりあえずまぁ本物の天津飯に身体を返す必要はないということなんだろうか。

 

「まぁまぁ、あまり深く考える必要もありませんよ。貴方は今、その身体で生きているんですから……それにしても、この『中華まん』という食べ物。美味しいですねぇ」

 

一通り話は終わったとばかりに、中華まんにかぶりつくウイスさん。

やはり食べ物を持ってきていて正解だった。

 

「ふ~美味しかった。それじゃあ私は帰らせて貰いますかねぇ」

 

「あ!ちょ、ちょっと待ってください!」

 

わざわざ地球までお越し下さった後に恐縮なのだが、一応聞いておきたいことがあった。

 

「あの、俺を鍛えては下さらないでしょうか…」

 

ウイスさんはあの破壊神ビルス様の師匠で、いずれ悟空とべジータの師匠にもなるお方だ。

今から彼に修行をつけて貰えれば、俺はだいぶ強く…いや、作中最強になれるかもしれない。

だが…

 

「いえ、それは出来ません。貴方は若く、まだ基礎も出来ていない程未熟です。それに、貴方の言った通りに歴史が進むのなら私達はあまり会わない方がいいでしょう。いずれまた会う時、その時ならば考えましょう」

 

「わかりました。ありがとうございます」

 

「おや?あまりショックではないんですね?」

 

「いえ、まぁ予想はしていたので…」

 

あぁ、やっぱりダメだったか…だが、ウイスさんの言うとおり俺はまだまだ未熟。

それどころかこの世界に来てまだ1日くらいしか経ってない、生まれたても同然なのだ。

先ずはこのドラゴンボールの世界を自力で生きてみなくては。

 

「それに…もしビルス様の寝ている間に私だけが地球に来て貴方に美味しいものを頂いていたなんて事がバレれば、ビルス様に貴方が破壊されちゃいますよ。」

 

「今日はありがとうございました!」

 

 

こうしてウイスさんは去っていった。

次に会うのは魔人ブウ編の後…だいぶ遠い未来になるだろう。

それまでに、ウイスさんのお眼鏡に適うくらい強くならなくては…

 

 

 

 

 

 

「なに?カリン塔に挑戦したいじゃと?」

 

「はい。鶴仙人様」

 

あれから…俺が天津飯になってから、だいたい三ヶ月程たった。

俺は今、鶴仙人のもとで鶴仙流の修行を行っている。

あの日ウイスさんが言った通り、 俺の精神は天津飯の身体とまるで最初から同じだったかの様に、思いのままに動かす事ができた。

そして、身体が覚えていたこともあってか今では鶴仙流の奥義「気功砲」までものにしていた。

と言っても使えるだけなのだが…

しかし、今後の俺の目標の為には鶴仙流の修行だけでは不十分なのだ。

まずは早いうちにカリン塔に登りカリン様から修行をつけて貰いたい。

 

「確かに天津飯、お前ならカリン塔に挑戦するのも悪く無いかもしれん… その昔あの亀仙人のボケじじいもカリン塔を登りきったと聞く。ならばこそ、お前なら必ずや登りきる事ができるだろう…」

 

「だが、つい先日に行われた天下一武道会でその亀仙人のハゲじじいの弟子共が出場していたらしくてな。 三年後の次の武道会に、ワシら鶴仙流が参加し亀仙人のクソじじいの弟子共を叩きのめすという事を考えておったんじゃ」

 

「…カリン塔への挑戦は一体何年かかるかわからん。亀仙人のアホじじいは何年もかかったと聞くが…お前は、三年後の武道会に間に合わせる事ができるだろうか?」

 

なんと。今はそんな時期だったのか。

この身体になってからの最大の問題が、昔の記憶、取り分けエピソード記憶という部分が曖昧になっていた事だ。

天津飯として武術の技術、知識は残っていてもどの様にその技を覚えたのか、どんな気持ちで修行をしていたのか等、過去の思い出が殆ど無かったのだ。

前の世界での自分の思い出も同様に無くなっており、あるのはその世界での知識とドラゴンボールという作品のある程度の内容、そしていまわの際の「強くなりたかった」という思いだけだ。

 

これは、俺と天津飯が融合して新しい1人の人間として生まれ変わったせいだと考えられるが…このせいで色々と困っていたんだ。

 

今年がエイジ何年と言われても作中の細かい年号なんて覚えていなかったので、原作がどの程度進んでいるのかわからなかったのだ。

しかし、これは好都合だ。

今なら悟空より先にカリン塔に登れるかもしれない!

 

「やってやりますよ鶴仙人様。三年後の武道会で、更に強くなった俺が亀仙流の弟子共を完膚なきまでに叩きのめしてみせましょう!」

 

「…くっくっく…よくぞ言った天津飯!良かろう!カリン塔に挑戦してくるがよい!」

 

「ありがとうございます!」

 

 

 

こうして俺は、カリン塔に向かうことになった。

すまんな鶴仙人。俺はもう鶴仙流には戻るつもりはない。

 

だが、ひとつだけ問題がある…

 

 

「天、もう行くのか?」

 

「あ、あぁ、チャオズ…」

 

 

そう、チャオズだ。

俺の中の天津飯の記憶が曖昧なせいで、正直チャオズとはあまり話をすることが出来なかった…

おそらくチャオズとは…ここ鶴仙人のもとで出会った仲で、今はまだ原作初登場である三年後の天下一武道会の時ほど仲が良くはないのだと思うのだが…

 

すまんチャオズ。

俺じゃお前がなにを考えているのか全然わからないんだ。

 

「ど、どうしたチャオズ?俺が居なくなって寂しいのか?」

 

「……そうかもしれない」

 

マジかよ。 なんか別れ話してる気分になってきたぞ。誰か助けてくれ。

 

「あ、安心しろチャオズ。たったの三年だ。三年後の天下一武道会で再びお前と会えるだろう。その時は俺とお前で決勝を戦えるようお互い稽古を頑張ろうじゃないか」

 

「……うん!」

 

ぬわぁぁぁぁ!すまんチャオズ!

そんな嬉しそうな顔で俺を見ないでくれぇぇぇ!

 

 

こうして俺は、逃げるように一人カリン塔へと旅立ったのだった。

 

 




チャオズの扱いがわからない…
チャオズの所は後々直すかもしれないです。


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03.天津飯、カリン様に弟子入りす

書き貯めが無くなったので次からは更新がだいぶ遅くなるかと思います。
よろしくお願いいたします。


 

チャオズは置いてきた。

ハッキリ言って俺には荷が重い。

 

俺は今、聖地カリンに鶴仙流奥義『舞空術』で飛行して向かっている。

俺の舞空術はまだまだ未熟で、恐らく走った方が速いし疲れないだろう。

だがまぁ、これも修行のひとつだ。

 

そして…鶴仙人の元から旅だって数日…俺は目的の地にたどり着いた。

 

「ここが聖地カリンか…そしてこれがカリン塔…」

 

…静かな所だ。

その中で、目の前にそびえ立つ巨大な柱が神秘的なオーラを発している。

 

「何者だ」

 

後ろから声をかけられた。

見ると、そこには胸に傷のある何処かの部族のような格好をした大柄の男が、槍を持って立っている。

その男の後ろに隠れるようにして、小さな男の子もこちらを伺っていた。

 

「あー、俺の名は天津飯。武術の道を志す者だ。このカリン塔を登れば己の力が何倍にもなるという話を聞いてやって来た」

 

「…そうだったか。わたしの名はボラ。ここ聖地カリンと聖なる塔を先祖代々守ってきた番人だ」

 

おそらく、彼が原作で桃白白に殺された人物だろう。

そして後ろの少年が彼の息子、ウパだったはずだ。

しかし、カリン塔の番人だったのか。

原作のあまり細かい所は覚えていないな…

 

「…番人か。…ならば、お前を倒さなければ俺はこの塔に挑戦することは出来んということだろうか?」

 

「本来なら力試しでもしたい所ではあるが…最近、この地を荒らす者が多くてな。わたしはそちらに対応しなくてはならない。君は見たところ悪人でも無さそうだしな…好きに登るがいい」

 

原作進行度は丁度レッドリボン軍がドラゴンボールを狙ってここカリン塔周辺に来はじめたあたりだったか。

それなら孫悟空がここに来るまでもう少し時間があるな。

先にカリン様に会うことが出来そうだ。

 

え?レッドリボン軍潰しを手伝わないのかって?

その辺の一般構成員の様なザコ共ならボラ1人でも対応できるし、今の俺ではこれから来るであろう桃白白には勝てないだろうからな…

原作改変するにも、今のままでは力が足りなさすぎる。

どちらにせよ早いとこカリン様に修行をつけて貰わないとダメなのだ。

 

まぁこのままではボラは桃白白に殺されてしまうんだろうが…大丈夫だ。

ドラゴンボールがある。(暴論)

 

「その迷惑者退治を協力すべきなんだろうが…すまない。俺にも事情があってな…どうにも、早くこの塔に挑戦したいんだ」

 

「気にするな。ここ聖地カリンを守るのはわたしの部族の使命。君の手を借りるまでもない。君の健闘を祈るよ」

 

「ありがたい」

 

そんなこんなで俺は、いよいよカリン塔に挑戦する事になったのだ。

 

「やっぱ初挑戦で舞空術は使っちゃならんのだろうな…」

 

とりあえずジャンプで行けるとこまで行ってから登っていこう。

 

 

 

 

 

カリン塔に挑戦しはじめて約1日が経過した。

徹夜で登り続けたもののゴールはまだ見えない。

一応まだ体力に余裕はあるのだが、終わりが見えないというのは中々に堪える。

転生前の俺ならもうとっくに諦めていただろうな…

だが、今の俺は天津飯。

転生前の俺の「強くなりたい」という願いと天津飯の元々持っていたストイックさが混ぜ合わされ、今の俺はこんな辛さも耐え、そして乗り越える事ができるようになっていた。

よし、頑張るぞ!

 

 

 

 

「ひぃっ…ひぃっ…」

 

登りはじめてから3日たった。

何が辛さ耐えて乗り越える事ができるだ…バカじゃないか。

もう上を向いて頂上を見ようとする元気もない。

ただ柱の模様だけを見ながら登り続けている。

あぁ、腹が減った…眠い…

今にも気が遠くなりそうだ……

…ゴン…

…痛い…頭が何かにぶつかった…一体何が…

 

「頂上だ!!??!?」

 

なんとか縁を伝って頂上の神殿内に入り込む。

だが、落ちる心配が無くなった事で安心してしまい、俺はそのまま気を失ってしまった。

 

「ほっほっほ。久しぶりに根性のあるヤツが来おったな…とりあえず今は休ませてやろうかの。」

 

 

 

 

 

 

「あ…あなたが、このカリン塔に住むと言われる仙人、武術の神カリン様ですか?」

 

「いかにも、わしがカリンじゃ。まぁ仙人じゃなくて仙猫じゃがの」

 

俺の目の前には、糸目の猫が笑って立っていた。

気絶していた俺を介抱しくれたり、復活した俺に薬膳料理を提供してくれたり、正にカリン様々である。

 

「お、俺は天津飯という者です。貴方様の教えをいただきたく、この地にやってまいりました。どうか…俺に稽古をつけてはくださらないでしょうか?」

 

「ほう?飲めば力が何倍にもなると言われる『超聖水』を求めてはおらんのか?ほれ、あの中央の瓶の中身がその水じゃが」

 

「…いえ、その様な水よりも、俺は武術の神と詠われたカリン様ご自身に稽古をつけていただきたいのです」

 

「…」

 

カリン様は心を読む。

既にウイスさんに話したので、俺が別の次元から来たことやこの世界の未来の事などは知られても大丈夫だとは思うが…

うーん…いや、やはり知られない方がいいのか?

カリン様に知られるとそのまま神様にも知られるだろうし…

正直、神様と界王神様には知られない方が良さそうと思うんだよなぁ…

失礼なイメージなのだが、この二人が未来を知れば歴史改変に動き出してより悪い方向に持っていきそうな雰囲気がある。

 

まぁ歴史改変に関しては俺も人の事は言えないのだが…

俺の目的は強くなりこの宇宙で最強の戦士になること。

この世界の未来を知っているというのは俺にとって最大のアドバンテージだ。

これを1人で有効活用するのが最も目的に近付ける事だろう…

 

知られても大丈夫なのはウイスさんとナメック星の最長老様くらいだろうか?

 

 

「ほほっ、いっちょまえにわしから心を隠すか。流石は三つ目人というところかのう。」

 

「へ!?」

 

カリン様を前に延々と考え込んでいた俺に、驚きの単語が聞こえてきた。

 

「み、三つ目人を知っているのですか!?」

 

「なに、遠い昔に何人かに会った事があるだけじゃが…彼らは特殊な力を使い、取り分け精神的な力が強かったからのう。心に鍵をかける事も可能じゃろうて」

 

思いがけない所で三つ目人の末裔設定が役に立った。

意識はしていなかったのだが、俺は精神的な力が強いのか…

恐らく三つ目人の末裔という事を俺が知っていた事で、無意識に心を読まれないように力を使っていたのだろう。

本来の天津飯にはそんな意識は無かったはずだ…

 

…いや、もしかしてこれが噂の転生特典というヤツか?

それにしてはなんだか微妙だしなぁ…

 

三つ目人の特殊能力…精神的な強さか…その辺も含めて、カリン様に色々と教わりたいところだ。

 

「腹に何を含ませてるかわからんヤツだが…悪人という訳でもない。良かろう。わしが修行をつけてやろう」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 

 

 

 

「くっ!はっ!とりゃっ!」

 

「ほれほれ、こっちじゃぞ。」

 

あれから…俺がカリン塔の頂にたどり着いてから約1週間…今日も元気にカリン様と修行中だ。

 

「はっ!!」

 

高速で俺とカリン様が交差する。

 

「ほっほっほ、今のは惜しかったんじゃないかの?」

 

「……はぁ…はぁ…」

 

修行内容は、原作同様カリン様の持つ聖水の瓶を奪い取ると言うものだった。

先ずはこれが出来てから、だそうだ。

 

亀仙人はこの修業に三年かかったと聞く。

だが、原作で孫悟空は3日でクリアしていた。

俺は既に1週間が経過している…

1年以内にはクリアしたいなぁ…

 

 

「む?珍しい事もあるもんじゃ。この短期間に、まさか二人目とはのぉ」

 

 




次回、ついにあの人物と対面!(会うだけ)


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04.天津飯、孫悟空に会う

戦闘描写が全く無い。
でもまぁいいか!


 

「おっす!オラ孫悟空だ!」

 

その日、カリン塔にやって来たのは一人の少年だった。

ツンツンに跳び跳ねた真っ黒な髪、小さな身体に見合わぬ力強さ、そして腰のあたりから揺れる猿のような尻尾。

 

…俺はついに、「ドラゴンボール」の主人公、孫悟空と対面したのだ。

あの憧れのヒーローが目の前に居る。

感動で身体が震える…あれ?おかしいな。

目から汁が出で来たぞ…

 

「なぁ、なんでコイツ泣いてんだ?」

 

「わしもわからん…」

 

 

 

 

「ご、ごほんっ」

 

少々取り乱しすぎたようだ。

今の俺は天津飯。

孫悟空は憧れのヒーローではあるが、今の俺にとってはライバルでもあるのだ。

ここは対等に挨拶をしよう。

 

「お、おっしゅ!俺天津飯!」

 

「…何を言っとるんじゃお前は…」

 

「ははは!お前おもしれぇなぁ~」

 

盛大に自爆して物凄く恥ずかしい思いをしてしまった。

だがまぁ孫悟空はそんなに気にしていないみたいだし、俺も気にしないことにした。

気にしないったら気にしない!

 

「と、ともかくよろしくたのむ。悟空」

 

「あぁ、よろしくな天津飯!」

 

悟空は、やはり打倒桃白白の為にこのカリン塔に登ってきたようだった。

カリン様と何やら話をしたあと、早速超聖水の入った瓶を取るための修行を行っている。

 

本来なら悟空はこの3日後にカリン様から超聖水を奪い取り、その後すぐに桃白白との戦いがあるはずだ。

イレギュラーな俺がいるせいでそれが遅れる事になるわけにもいかんだろう。

たしか悟空が桃白白と再戦するのはウパが殺される寸前だったはずだ。

ちょっとのズレでウパが死にかねない。

 

という訳で、俺は基本的に悟空とカリン様の動きを見ているだけだ。

だが、これがまた修行になる。

 

悟空の素早い動きは勉強になる。

なんとかこの天津飯特有の三つの目で動きを追うことは出来るのだが、見えるだけで身体は反応できていない。

多重残像拳なんかは今の俺ではとても真似できそうになく、むしろ感動すら覚えた。

…これが、孫悟空か。

 

まぁ今後試合用の本気と戦闘用の本気で力配分を分けるようなヤツだ。

やはり、今の時点では俺は悟空に数歩劣っているのだろう。

悟空に着いて行ってレッドリボン軍と戦うのも良いかもと思っていたのだが…まだまだ俺は、ここでカリン様と修行をする方が良さそうだな…

 

修業の途中で悟空に

 

「オラと手合わせしねぇか?」

 

と誘われたが、今は止めておいた。

今の俺では手の内を晒すだけになりそうだったし…正直言って戦いになる自信が無かった。

 

「…悟空、俺は次の天下一武道会に出場するつもりだ。勝負はその時にしよう。」

 

「そうか?わかった」

 

 

その後悟空は、本当に3日でカリン様から超聖水を奪い取り、カリン塔を飛び出して行った。

それから数日後、空が突然夜になったので恐らくドラゴンボールが使われたのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「これまでよぉやった、天津飯。」

 

悟空が去ってから2日後、俺はカリン様から超聖水を奪い取ることに成功し、それからは色々な修行に励んだ。

 

そして月日は流れ…俺がカリン様の元にやって来てから、二年半が過ぎていた。

 

「わしがお前に教えることはもう当分ないじゃろう。だが、武道とはまだまだ先は長く奥は深い。己の限界を決める事なく更に上を目指し自ら鍛練を行うことじゃ」

 

「ありがとうございますカリン様」

 

カリン様からは本当に様々な事を教えていただいた。

今の俺なら楽に当時の桃白白を倒せるだろう…と思う。

ここに来てからの二年半、カリン塔周辺でしか生活していなかったので俺は対人経験が極端に少ないのだ。

あるのはカリン様との組手かカリン塔の下、聖地カリンに住むドラゴンボールで生き返っていたボラとの組手ぐらいか。

 

「次の天下一武道会まであと半年…これからどうするつもりじゃ?」

 

「…一応、古巣の鶴仙流道場の方に顔を出しに行こうかと思います」

 

そう…天下一武道会まであと半年。

俺は二度と戻るつもりの無かった鶴仙人やチャオズ達のもと、鶴仙流道場に帰ろうかと思っている。

チャオズに会うのは正直気まずいが、鶴仙人相手に俺の実力を試してみたいという事もある。

それに鶴仙流道場には他にも弟子が居たし、稀に道場破りの様な奴も来ていた。

対人経験が少ない俺にはちょうど良い修行になるだろう。

 

まぁ鶴仙流と決別するにしても、天下一武道会会場でするよりその前にキチンと話をつけておきたいというのもあるが。

 

「そこで何をするつもりなのかは敢えて聞かんが…天津飯よ、お前の人生はお前の物だ。誰かに遠慮なぞすることなく、思うままに生きるのじゃぞ」

 

「…はい、カリン様。今までお世話になりました」

 

俺は手土産として今はまだ沢山あった仙豆を巾着袋いっぱいに貰い、約二年の付き合いになるボラとその息子ウパにも挨拶をし聖地カリンから飛び立った。

向かうは鶴仙流道場だ。

 

 

 

 

 

 

舞空術で既に見えなくなった三つ目の弟子の背中を思い、塔の上で仙猫が呟いた。

 

「行ったか…天津飯、お前の弱点は何かに遠慮した自信の無さじゃ。過ぎた謙遜は毒とも同じ。お前がその殻を破った時こそ、お前の本当の意味での戦いが始まるのじゃ」

 

 




意味深なカリン様(特に意味はない)。
主人公は原作の天津飯に比べてだいぶ自信が無いです。
まぁ自分より強いヤツがゴロゴロ居ることを自覚してるので仕方ないんですが。
早くサイヤ人編に入りたいなぁ。


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05.天津飯、鶴仙人と話す

難産でした。
はやく話を進めたくて投稿。
独自解釈が多いです。


 

俺が二年半ぶりに鶴仙流道場に帰って来てから三ヶ月ほどたった。

俺は今、鶴仙人と互いに向き合っている。

 

「て…天津飯…貴様、自分が何を言っておるのかわかっておるのか?」

 

「…鶴仙人様…俺は、鶴仙流から抜けさせてもらいます」

 

ここに来てから、俺は多くの武道家との実戦訓練を行うことができた。

その事には感謝している。

だが、やはり鶴仙流ではこの先のレベルに太刀打ち出来るほど強くなることは出来ないのだ。

鶴仙流は、奇襲や急襲を狙った特殊な技や、敵を殺す事を目的とした武術が多い。

相手の目を眩ませる太陽拳や、どんな場所に相手が居ようとも襲う事が出来る舞空術、指1本で放てるどどん波等がそうだろう。

だが、それらの技は一定のレベルの戦士にとっては簡単に覚えられる技だ。

わざわざここで修行する必要もない。

 

そもそも鶴仙流は、人間、地球人を殺す事を目的に作られている節がある。

現に、鶴仙流出身の暗殺者は多い。

桃白白がその筆頭だろう。

 

恐らくこれは、ピッコロ大魔王に敗れた鶴仙人の過去の経験から来ているものなのだろうが…それでは駄目なのだ。

 

将来的に俺が競い合う者達は、みな人間のレベルを超えた戦士達。

そして、戦う敵は宇宙人や人外の化け物共だ。

腕が無くなっても再生するヤツや細胞1つで復活するヤツまでいる。

地球人を殺す為の武術では、どうしても限界が来る。

必要なのは、殺す為ではなく、倒す為の武術。

敵に負けない為の武術だ。

それは…ここ鶴仙流では学ぶことは出来ない。

 

別に殺人拳を否定している訳ではない。

俺だって既に、何人か悪質な道場破りを殺している。

ただ…このドラゴンボールの世界では、それだけでは強くなれないのだ。

 

「という訳で、俺は鶴仙流を抜けます」

 

「ふ…ふざけるな!今までの恩を仇で返しおって…!」

 

…やはり受け入れてくれないか。

これでも一応筋は通すためにここに戻って来たと言うのに。

俺は、この世界で強くなりたいのだ。

往年の天津飯なら、鶴仙人を倒し鶴仙流道場を乗っ取って新たな道場でも開くだろうが、今の俺にそんな事をする気は一切ない。

自分の事だけで精一杯だからな。

ならば、残る選択肢は俺がここから去るだけだ。

 

「申し訳ありませんが、俺は鶴仙流を去ります。ですが、鶴仙人様には感謝しているのです。…ですから、次の天下一武道会では、俺は鶴仙流の弟子として亀仙流の弟子と戦いましょう。そして…必ずや奴らを叩きのめします」

 

これが、俺の出来る鶴仙流への義理立てだ。

鶴仙人に武道家としての心が残っているのなら…これでなんとかなるかと思うのだが…

 

「~~っ!!……もし負けでもしてみろ…その時は、このわし自ら貴様を殺してやる!!」

 

「…っ…ありがとうございます!」

 

 

こうして俺は、チャオズや俺の事を「三つ目ハゲ」と呼ぶ少女、ユーリンとも修行をしながら、3ヶ月後の天下一武道会を目指した。

 

 

 

 

 

……そして、その日がやって来た。

 

 

 

 

 

 




ユーリンは、ドラゴンボール超に登場した天津飯やチャオズと共に鶴仙流で学んだ同門の女の子です。


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06.天津飯、亀仙流に会う

ついに天下一武道会開幕!
だが戦闘描写はまだ。
いつになったら戦うんだろうか。


 

南の島…パパイヤ島。

ここで、第22回天下一武道会が行われる。

 

俺は鶴仙人とチャオズに連れられこの島にやって来た。他の弟子達は置いてきた。

ユーリンなど血気盛んな奴らはごねたのだが、あまり大人数で行っても他の観客に迷惑だろうしな。

だが、この大会の記録を撮って貰う為に何人かに録画用のカメラを持って来てもらっている。

折角の天下一武道会だ。

映像を残さない方がどうかしてる。

 

俺達は受付終了1時間前には武道会場に着いたので、早速受付を済ませたのだが…

 

「遅い…亀仙人のヤツはまだ来んのか!?」

 

「予選会場にもそれらしい人は居ませんでしたからね…」

 

「天。しめきり、あと10分切った」

 

鶴仙人は予選開始前に亀仙人にイヤミを言おうと思っていたみたいなのだが、当の亀仙人が姿を見せずイラついていた。

 

そんなこんなで待っていると、参加者受付の前に老若男女、しまいには人種までバラバラの一団がやって来た。

 

「おおっ!やっと来おったか!」

 

言葉とは裏腹に偉そうな足取りでその一団にゆっくりと向かう鶴仙人の後ろを、俺はチャオズと二人して着いていく。

 

「よう!誰かと思えば亀仙人ではないか」

 

「え?」

 

黒い帽子にスーツ姿でサングラスをかけた髭の長い爺さんに、頭の上に鶴を象った帽子をかぶったグラサンちょび髭の爺さんが絡んでいった。

 

うちの爺さんと同じレベルで言い争っているこの爺さんが…孫悟空の師であり、武術の神と言われる亀仙人…いや、武天老師か。

…そして、その後ろに控えている黒髪で長身の男がヤムチャで、小さくて鼻の無いのがクリリンか。

その他の面子は…髪が青いショートヘアの女がブルマで、金髪で赤いリボンをした女がランチ、豚の獣人がウーロンで浮いてる猫みたいなヤツがプーアル…それとウミガメか。

悟空はまだ来てないみたいだな。

…受付に間に合うのか?

 

 

プーアルってどうやって飛んでるんだ?とか、ブルマもランチもやっぱ美人なんだな…とか、クリリンってホントに鼻が無いのか…いやまぁチャオズも無いんだけどな!とか色々思うところはあったが、老人同士の言い争いが一段落ついたようで鶴仙人が捨て台詞を残して去っていく。

俺とチャオズもそれに着いていった。

 

 

 

 

「なんですか、あのイヤなクソジジイは…」

 

「ふんっ!!鶴仙人っちゅうかつてのライバルじゃよ!」

 

「ちょっとランチさん。後ろにいた三つ目の人、なんかあたし達の事見てなかった?」

 

「そ、そうか?」

 

「ボクはなんか鼻の辺りを三度見くらいされたような…」

 

 

 

 

俺達が去った後、無事に悟空がやって来て参加受付を済ませたようだ。

そしていよいよ…第22回天下一武道会が始まろうとしていた。

先ずは予選だが。

鶴仙人は既に表の武舞台の観客席に場所取りに行ってしまい、残ったのは俺とチャオズだけだ。

 

「…チャオズ、取り敢えず俺達とさっきの亀仙流の弟子達は予選で当たらない様にしておけよ。奴等が勝ち上がれるレベルでなければ戦う必要は無いし、戦うのなら本選で叩きのめすんだからな」

 

「天、突然悪役ぶってどうした?」

 

「……ちょっと雰囲気に流されただけだ…」

 

悟空は俺の事に気付いていないみたいだ。

下手したら覚えていないかもしれないが。

予選の途中で顔を見せに行こうかと思っていたのだが、さっきみたいに変に悪役ぶった応答をしそうだったので止めておいた。

それにしてもなんだったんださっきの変なテンションは?

歴史の修正力か!?(違う)

 

 

その後…予選は悟空とチャパ王の戦い以外特に見処は無く、何の問題もなく終わった。

勝ち残ったのは原作と変わらぬメンバーだ。

 

 

 

 

 

「あ!天津飯じゃねーか!」

 

予選が終わり勝ち残った8名が武舞台裏に集まった時、悟空に声をかけられた。

覚えていてくれたようだ。

正直忘れられていたら恥ずかしかったので、声がかけづらかったんだ…

 

「よ、よお悟空。約束通りまた会えたな」

 

「ああ!」

 

俺と悟空の会話に周りが反応する。

 

「な、なんだよ悟空。お前この人と知り合いだったのか?」

 

「まぁなぁ~」

 

「あんたは鶴仙人のとこの弟子じゃなかったか?」

 

「ああ。俺は鶴仙流の天津飯だ。もう1人の方が…」

 

「チャオズ」

 

弟子同士の会話に、1人の老人が参加してきた。

 

「ほぉ。あの鶴仙人の弟子だというのに、礼儀正しい者じゃな。奴の弟子とは思えんぞ」

 

「貴方は?」

 

「知らないのか?前回の天下一武道会で優勝した、ジャッキー・チュン殿だ」

 

俺の質問にヤムチャが答える。

やはりこの人がジャッキー・チュン…亀仙人が変装した姿か。

カツラとサングラスで、こうも印象が変わるとは。

 

「オラは孫悟空だ」

 

「か、亀仙流のクリリンです」

 

「同じく、亀仙流のヤムチャだ。正直、さっきの鶴仙人の態度からその弟子もまたイヤミな奴等かと思っていたよ」

 

「なに、師は師、弟子は弟子だ。わざわざ喧嘩腰になる必要もないだろう。だがまぁ、優勝するのは俺達鶴仙流だがな」

 

「ふっ。そいつはどうかな」

 

「おめぇも鼻が無ぇんだな」

 

「鼻は無いけど毛はある」

 

「1本くらいなら無い方がいいんじゃないか…?」

 

師匠達とは違い和気あいあいとした弟子達の交流に、ジャッキー・チュンは頬を緩ませた。

 

 




次こそは戦闘描写を…

主人公は約2年半はカリン様とウパ親子、その後の半年は鶴仙流の同門以外とは殆ど会話をしていなかったので、元々の自信の無さも相まって身内以外と話すのは苦手です。
あと、脳内と会話文とで呼び方や喋り方が違うのは、天津飯らしさを出すために若干キャラ付けしているからです。


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07.天津飯、第一試合を戦う

いよいよ戦闘描写が!
まぁ殆ど原作なぞってるだけですが…
あと、今回主人公によるかめはめ波の考察と気合い返しの説明がありますが独自解釈ですのでご注意ください。


「はーい!出場者の皆さん、集合してくださーい!」

 

天下一武道アナウンサーの声で選手達が対戦表の前に集まった。

さて、これからクジ引きだが…

 

「天、対戦の組み合わせはどうする?」

 

「そうだな…」

 

俺とチャオズは小声で話し合う。

悟空、ジャッキー・チュン、ヤムチャ、クリリン。

戦いたい相手は4人いるが、最後まで勝ち抜いても3人としか戦えない。

うーん…どうしたものか。

今ならばパンプットとかいう確実に勝利できる優良物件が残っているので、ヤムチャかチャオズに天下一武道会初戦突破というプレゼントを贈ることが出来るのだが…

…男狼はジャッキー・チュンとだ。

人間にしてあげないと可哀想だろ。

 

正直今のチャオズなら相性で悟空に勝つことも可能だからな…超能力で金縛りにした後場外に蹴り出せばいい。チャオズに算数の問題を出して超能力を封じるなんて、原作のクリリンのような機転は悟空にはなさそうだしな…

…悟空とは決勝で戦いたいので、残念ながらチャオズにはクリリンと戦って貰おうか。

…いや、負けろと思ってる訳じゃないんだ。

ただチャオズとは鶴仙流道場で何度も戦ってるからさ…

 

…色々考えたが結局原作と同じ組み合わせになった。

第一試合は俺対ヤムチャだ。

 

 

 

ぐわわ~~んっ

銅鑼の音が響き、アナウンサーの言葉と共についに第22回天下一武道会が開幕した。

 

 

「それではいきなり第一試合をはじめます!ヤムチャ選手対天津飯選手です!どうぞーーっ!!」

 

「さっそく戦う事になるとはな(すっとぼけ)」

 

「おい。逃げ出すなら今のうちだぜ?」

 

「ふん。せいぜい吠えるがいいさ。すぐに黙らせてやる」

 

こーいうのは雰囲気だ。

互いに罵りあって戦意を高めていく。

 

「では第一試合!ヤムチャ選手対天津飯選手!はじめてくださいっ!!」

 

 

 

「はっ!!」

 

飛び蹴りを仕掛けて来たヤムチャを受け止め、反撃をお見舞いする。

そのまま追撃しようとしたところを宙に逃げられた。

二人とも一旦手を止め、相手を観察する。

流石はヤムチャ。

主要キャラはその辺の武道家とは訳が違う。

…だが、勝てない相手ではないはずだ。

 

 

「行くぞ!新狼牙風風拳!!」

 

「…来い!!」

 

狼の獲物を噛み殺す牙に見立てた拳が高速で繰り出される。

中々のスピードだが、今の俺に見切れないものではない。

 

「ずあっ!!」

 

突きが顔面と上半身に集中している事に気付き、隙をついてヤムチャのみぞおちに拳を叩き込んだ。

 

「くっ…」

 

吹き飛ばされたヤムチャだったが、腹を押さえて立ち上がる。

今の新狼牙風風拳はヤムチャの必殺技だったはずだ。

それを破られ多少の動揺はあるかと思ったのだが…彼は不敵な笑みを浮かべ腰を低くし構えた。

何をするつもりだ?

 

「とっておきを見せてやらぁ」

 

そう言って両の掌を揃えて前に突き出した。

この構えは…

 

「か…」「め…」

 

「!!」

 

そうだ!原作のヤムチャはここでかめはめ波を使うんだった!!

やはり、原作の細かいシーンはうろ覚えだ。

そうこう考えているうちに、ヤムチャが手を腰に引いて溜めを作る。

 

「は…」「め…」

 

「波っ!!」

 

ボッと気の塊がヤムチャの突き出した両の掌からロケットのように飛び出した。

これが『かめはめ波』か!

だが、この技なら…

 

俺が見たところかめはめ波は、体内の気を腰付近で溜め両の掌から打ち出す技だ。

そして打ち出された気の塊は着弾し爆発する。

恐らく体内の気の集め方に亀仙流独自の修行法による技法やコツがあるのだろうが、技の構造事態は簡単な気功波だ。

この構造の技ならば…

俺は体内の気を集め迫り来るかめはめ波に備える。

今だ!!

 

「はーーーーーっ!!!」

 

身体の正面に気を集めかめはめ波の着弾するタイミングを見計らい気合いでそれを跳ね返した。

これはかめはめ波の様な突貫力の少ない気功波だから出来る技だ。

 

跳ね返ったかめはめ波はヤムチャに向かって進むが、彼はそれを空中に飛んで避けた。

とっておきの技を跳ね返されたからだろう。

隙だらけだ。

 

「ヤムチャあぶねぇーっ!」

 

悟空が叫ぶがもう遅い。

俺は空中で隙だらけになったヤムチャに蹴りをお見舞いし、武舞台と観客席の間にある地面に叩き落とす。

武舞台の方だと固すぎるからな。

ヤムチャはそのままダンッと地面に叩き付けられた。

 

「じょ、場外!天津飯選手の勝ちです!!」

 

 

 

わーーーっと会場がわいた。

ヤムチャはすぐに気がついたようで、武舞台の上に立つ俺に声をかけた。

 

「まさか…かめはめ波を跳ね返したうえに、狙ってオレを地面に叩き落とすとは…完敗だな」

 

その言葉に俺はフッと笑みで答える。

まぁこの距離だと鶴仙人に会話が聞こえるし、勝者が敗者にかける言葉はないしな。

…正直なんて答えるのが良いのかわからんかったってのもあるが…

とりあえず試合の終わった俺達は武舞台裏に引っ込んだ。

 

 

「やっぱ強ぇな天津飯」

 

「ピース」

 

悟空とチャオズが俺を称賛する。

俺はそれに笑みで答えた。

…おいおいヤムチャが直ぐそこに居るんだ。

なんて答えればいいんだよ!

 

 

 

「お疲れ様ですヤムチャさん…残念でしたね…」

 

「いや…オレと天津飯ではだいぶレベルの差があった。あいつは終始余裕を持って戦っていたからな。…クリリン、鶴仙流って奴らは侮れないぞ」

 

「…ごくり」

 

 




チャオズは特にパワーアップしてないけどな!

勝利した天津飯選手でしたが、ヤムチャになんて言えば良いかわからずだんまり。
まだ精神的に勝ちなれてないんや。
堪忍したってや。


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08.天津飯、第三試合を見る

独自解釈があります。
あと、ほんのちょっとだけヤムチャの株を上げました。
ほんのちょっとだけ。


天下一武道会は進む。

男狼は無事に催眠術とクリリンの満月頭のおかげで人間の姿になり、第二試合は終了した。

次は第三試合、チャオズ対クリリンだ。

 

「チャオズ。亀仙流は今まで戦ったどの流派より強い。油断するなよ。それと、鶴仙人様が試合中に殺せと言うかも知れんが、ホントに殺すなよ。この大会では殺人は失格だからな」

 

「わかった」

 

俺はチャオズにアドバイスをおくる。

その様子を窺う亀仙流の3人。

 

「おいおい…アイツら物騒な会話してるな…」

 

「がんばれよクリリン!」

 

「おう…!」

 

こうして第三試合が始まった。

はじめはチャオズの舞空術の応用によるトリッキーな動きに翻弄されていたクリリンだったが、基本的なスピードやパワーはチャオズに勝るようで段々と押し返してきた。

だが、接近戦を嫌って空中に逃げたチャオズが鶴仙流のとっておきの技、『どどん波』を放った事で戦況は逆転する。

 

「どどん波だって…?桃白白ってヤツとおんなじ技だ!」

 

「桃白白だって!?」

 

悟空の言葉にヤムチャとジャッキー・チュンが反応した。

 

「ご、悟空!お前、あの世界一の殺し屋と言われる桃白白を知ってるのか!?」

 

「ああ。前にドラゴンボールを探してた時に戦ってやっつけたんだ。すっげぇ強ぇヤツで苦労したけどさ」

 

「あの時って…3年前じゃないか!」

 

ヤムチャが驚愕の声をあげる。

ジャッキー・チュンも同様に驚いていたが、ふと此方に視線を向けた。

 

「天津飯とやら…あまり驚いていないようじゃが…桃白白は鶴仙人の弟。おぬし達はこの事を知っておったのか?」

 

「え!?弟って兄弟って事だろ…」

 

「桃白白は鶴仙流だったのか!」

 

ジャッキー・チュンの言葉に驚く二人。

二人を無視して俺は質問に答える。

 

「…いや、知っているのは俺だけだ。鶴仙人様にはその事を話していない」

 

「な、なに?どーいう事じゃ?」

 

「3年前、俺と悟空は悟空が打倒桃白白の為に修行に来た時に知り合ったからな。そして、今ここに悟空が居るということは桃白白に勝ったという事だろうと思っていた。あの桃白白が殺しに失敗したということは、敗れた以外に考えられないからな」

 

いやまぁホントは、悟空が勝ったことを原作で知っていただけなんだが。

 

「3年前じゃと?お前達、一体どこで知り合ったんじゃ?」

 

「オラが最初に桃白白ってヤツに負けちまったあと、カリン様のところで修行させてもらってよ。天津飯とはそこで会ったんだ」

 

「か、カリン様のところじゃと!?天津飯!おぬしもカリン塔を登ったのか!?」

 

「そ…そういえば以前、武天老師様もおっしゃっていたが…その『カリン様』とは一体?」

 

話についてこれず、ヤムチャが質問する。

 

「カリン様とは、カリン塔の頂上におられる武術の神と呼ばれる仙人じゃ。いや、正確には仙猫じゃが……その昔、武天老師も彼に師事したと聞く」

 

「む、武天老師様も!?…悟空も天津飯も、そんな方のところで修行していたのか…そりゃ勝てん訳だぜ…」

 

「オラは3日で出てっちゃったけどな。そーいや、天津飯はどんだけ居たんだ?」

 

「俺は2年半くらいお世話になったぞ」

 

ちょっとホッとするジャッキー・チュン。

いや、この場合は亀仙人か。

自分が3年かかった修行を悟空は3日で終らせたからなぁ…俺が2年半と聞いて安心したんだろうか。

だが残念かな、超聖水の修行自体は俺も9日でクリアしたんだよなぁ。(ゲス顔)

 

「とまぁその話は置いといてだ。俺が鶴仙人様に桃白白の事を教えていないのは、その事を知れば鶴仙人様が暴走するのは確実だからだ。あの人は頭に血がのぼると面倒だからな」

 

「あ…あいつ、弟子に嫌われとるんかの…」

 

ちょっぴり同情する亀仙人であった。

 

「…だがまぁ、その判断は正解じゃろう。特に亀仙流の悟空がやったとわかれば、最悪両流派の殺し合いにすら発展しかねん」

 

「そ、そこまでですか…」

 

「その通りだ。俺は鶴仙流の武術には敬意を払うが、別に殺し合いがしたい訳ではないからな」

 

 

 

俺達がそんな会話をしている間にも試合は進む。

武舞台では空中からのどどん波に手も足も出ないクリリンがだいぶ不利になっていた。

 

「クリリン!さっき教えただろう!かめはめ波を使うんだ!」

 

ヤムチャが叫んだ。

いつの間にそんな事を…だが、さっき教えたばかりのかめはめ波でチャオズのどどん波に対抗出来るとは思えないが…

…結論から言って、クリリンは俺の予想を上回った。

チャオズが試合を決めに威力を高め放ったどどん波を、ギリギリで空中に飛び上がって避け、そのまま無防備のチャオズにかめはめ波を直撃させたのだ。

そーいえば原作にこんなシーンあった気もするなぁ。

 

チャオズは場外に落下しそうになるもなんとか持ち直し舞空術で武舞台に戻る。

その後の戦いはチャオズが超能力を使いクリリンを追い詰めたのだが…算数の問題の前に敗れた。

…これからの鶴仙流は基本的な勉学も教えるようになっていくことだろう…

 

 

 

「残念だったな、チャオズ…」

 

試合が終わり武舞台裏でチャオズに声をかける。

 

「天さん…」

 

「!? ど、どうしたんだチャオズ!?急に『さん』付けだなんて!?」

 

「? ボク、どうかした?」

 

あ…あの主語の無い無機質な受け答えをしていたチャオズが…

…あ、頭を強く打ったのかな?

クリリンに観客席の壁に蹴り飛ばされてたからな…

 

「チャ、チャオズ。一応医務室に行ってから、武舞台裏で試合を見ておくんだぞ」

 

「うん?わかった」

 

 

 

その後行われた第四試合は、パンプットが可哀想なくらい悟空に圧倒的な実力差を見せつけられ終了した。

 

…次はいよいよ準決勝第一試合、俺対ジャッキー・チュン…いや、武天老師の戦いだ。

胸を借りるつもりで挑ませて貰おう。

 

 




必殺「話さない」発動!!
鶴仙人は桃白白がサイボーグ化して戻ってくるまで、彼と悟空の戦いを知ることはありません。
知らない方が良いって事は世の中沢山あるんだ…

そしてチャオズ…急にキャラが変わったのは悟空と同じく頭を強くぶつけたからなのか…?


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09.天津飯、武天老師と話す

壮絶なバトルを期待した人はすみません。
ジャッキー・チュンとの戦いは殆ど喋ってるだけです。


「では、はじめてください!!」

 

アナウンサーの宣言で、第22回天下一武道会準決勝の第五試合が始まる。

俺とジャッキー・チュンは互いに構え、向かい合った。

 

 

「ちゃっ!!」

 

ヤムチャ戦とは違い今回は俺から仕掛けた。

だが、俺の右拳はガードされ蹴りが返される。

それを受け止め俺も蹴りを返すが、その脚を取られ投げ飛ばされた。

空中で反転し地を蹴り反撃するも、それは避けられる。

 

「とおっ!!」

 

声と共に飛び出したジャッキー・チュンの姿が8人程に分身した。

 

「多重残像拳か!!」

 

俺は三つの目を総動員して動きを見極める。

 

「そこだ!!」

 

俺の回し蹴りが本体を捉え、ジャッキー・チュンは武舞台の壁に蹴り飛ばされた。

 

「なかなかのスピードだが…俺の三つの目に捉えきれない程ではない!」

 

「成る程たいしたもんじゃわい…このわしもマジに成らざるをえんようじゃのう…」

 

そう言ってジャッキー・チュンは上着を脱ぎ捨てる。

 

「こい!!」

 

「老人だとて遠慮はせんぞ!」

 

その後も俺とジャッキー・チュンの一進一退の攻防は続いた。

片方が殴れば片方が蹴り返し、逆もまたしかり。

…強い!!

残念だがヤムチャとは比べものにならん程の強さだ。

 

 

 

「…おぬし、それほどの強さを持ちながら…一体なにをそこまで焦っておるんじゃ?」

 

「な、なに?」

 

ジャッキー・チュンが小声で話しかけてくる。

その内容は、俺に少なくはない動揺を与えた。

 

「鶴仙人の弟子ながら、おぬしには自分の意志がハッキリと見える。おぬしは他の鶴仙流の武道家のような殺し屋にはならんじゃろう。…じゃが、試合中になると行動ひとつひとつに迷いを感じる。この技は効くだろうか?この技は上手く使えるだろうか?という風な迷いがな」

 

「……」

 

「戦いの最中に思考する事は悪いことではない。謙虚な心も良いことじゃ。じゃが、焦り自分の技に自信を持つことが出来なければ…おぬしは悟空には勝てまい」

 

「っ!!」

 

俺達は武舞台裏で試合を見る悟空に目を向ける。

 

 

 

「なぁ、じいちゃんも天津飯もなんの話してんだ?」

 

「声が小さくてこちらからでは聞こえんな…」

 

「なぁ悟空、二人ともこっちを見てないか?」

 

 

 

 

武舞台の上で二人はまだ小声で会話を続ける。

 

「…なぜ、対戦相手の俺にその事を教える?そもそも悟空はお前の弟子だろう?」

 

「なに?何を言って…」

 

「あんたが亀仙人だという事は気付いている…動きも亀仙流の弟子達に似ているし、最初に会った時と気の質が同じだ」

 

嘘である。これは原作知識で知っていただけだ。

 

だが…俺が焦っているだと?自信がないだと?

当然だ…俺はこの世界がどれほど理不尽なのかを知っている。

その一生を武道に捧げてもなお、届かぬ頂があることを…置いていく存在がいることを知っている。

 

だが…俺は、本物の天津飯の強さを知らない。

彼がどんな努力をして、どのような気持ちで、どれほど強くなったのかわからない。

俺は原作の天津飯よりもはやくカリン塔で修行をしたが、それで原作の天津飯より強くなったのかと聞かれると「はい」とは頷けない…

 

 

「なんと…!そこまでわかってしまうとは…!それで、なぜわしがおぬしに助言するかじゃが…わしも見てみたいのじゃよ」

 

ジャッキー・チュンの言葉で現実に引き戻される。

 

「見てみたいだと?」

 

「その通りじゃ。悟空の強さは天井知らずに上がっておる。既に師であるこのわしの遥か上にな。だが、おぬしならばそんな悟空とも互角に戦える…それほどの才能を感じさせるのじゃ。そんな若い芽が、むざむざ泥にハマって腐りそうになっておる。手助けしたくなるのもわかるじゃろう?」

 

「……それは…」

 

「わしは嬉しいぞよ。ぞくぞくするわい。これからは、おぬし達のような若い世代の、新しい時代がやって来るのじゃ」

 

 

そう言って、ジャッキー・チュンは武舞台の上からぴょんと飛び降りた。

 

 

「なっ!!?」

 

「じょ…場外!天津飯選手の勝ちです…!」

 

突然の事に会場全体が呆気にとられる。

 

 

「な…なぜだ!?なぜわざと負けるんだ!あんたの言った通りなら、それこそ戦いを続けるべきだっただろう!!」

 

「いや、今のおぬしに必要なのは技術的な研鑽ではない。思い切りの良さじゃ。何も難しい事を考えず、のびのびと戦う。今のわしのように…思いきって飛んでみることじゃ」

 

「……っ!!」

 

そう言って彼は俺に背を向け武舞台裏へと去っていく。

……俺は…亀仙人…いや、武天老師さまに頭を下げた。

 

 

 

こうして、第22回天下一武道会準決勝の第五試合は終了した。

 

 




主人公は、原作の天津飯のようなどれだけ差を付けられても武術の研鑽を止めない鉄メンタルを持っていません。
だからか自信の無さや焦りからころころと考えを変えてしまいます。
しかし今だけは、武天老師のおかげで少し迷いが晴れた…かもしれません。


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10.天津飯、決勝に挑む

思ったよりも時間がかかりそうなので悟空戦は前半後半で別けました。
今回正直自分でもよくわかってないので後から直すかもしれません。


鶴仙人はイラだっていた。

今回の天下一武道会に参加した自分の弟子、チャオズが亀仙人の弟子であるクリリンに負けたからである。

第一試合では天津飯が勝ったのだが、あいつはこの大会の後に鶴仙流を出て行くと宣った大馬鹿者だ。

亀仙人の弟子にその実力差を見せつけ勝利しようとも、嬉しさは半減であった。

 

…三つの目をギラつかせ世界一の殺し屋になると野心に満ちていた少年が、いつからか生意気にも一端の武道家として古巣から飛び出そうとしている。

師匠としては祝福してやるべきなのだろうが…残念ながら、鶴仙人にそこまでの器の大きさはなかった。

 

それだけに、準決勝の第五試合は鶴仙人に衝撃を与えた。

おそらく…もしかすると、自分と亀仙人を超えるであろう実力の老人が(これ程の実力者が近年まで無名だったとは!)、勝利を捨ててまで若い世代に未来を託したのだ。

それも、相手はあの大馬鹿者。

これには鶴仙人も武道家としてほんの少しではあるが、心を動かされた。

…その老人の正体が因縁の亀仙人であることを見破っていれば、絶対にあり得ない事ではあったのだが…

 

 

 

 

準決勝の第六試合…悟空対クリリンの戦いは、クリリンの善戦もむなしく結果的には悟空の底知れない実力に手も足も出ず終わってしまった。

 

「お疲れクリリン…ここまできたら、悟空は本当に人間なのか自信がなくなってくるな…」

 

「ははは…ヤムチャさん。それ冗談になってませんよ…」

 

試合が終わり武舞台裏に戻ってきたクリリンにヤムチャが声をかける。

勝った悟空は、そのまま決勝に望むみたいだ。

 

「天さん。大丈夫?」

 

「あ、あぁ…」

 

俺はチャオズの声に一応答える。

決勝戦前だというのに、俺の頭は今だにさっきの武天老師様との試合の事を考えていた。

 

試合直後は思わず頭を下げてしまったが…正直俺は、まだ武天老師さまの言いたかった事を理解しているとは言えないだろう。

『思いきって飛んでみることじゃ』

彼の言葉が思い起こされる。だが…

 

「天津飯選手!武舞台までお願いします!」

 

アナウンサーの声で現実に引き戻された。

これから行われるのは悟空との決勝戦だ。

集中しなくては。

 

 

武舞台の中央で、悟空が笑みを浮かべ俺を待ち構えていた。

 

「いよいよおめえと戦えるな、天津飯!」

 

悟空は俺と戦うことにわくわくしているようだ。

悟空にここまで認めて貰えていると思うと、光栄なのだが…

 

「以前会った時は…てんで勝てるとは思えなかったが…」

 

この第22回天下一武道会決勝戦は原作の天津飯が唯一悟空に勝った試合。

この試合に勝てねば、俺は本物の天津飯を超える事は出来ないだろう……絶対に勝たねばならない。

 

 

「それではただいまより!第22回天下一武道会決勝試合を始めたいと思います!よろしいですね!!」

 

しんとした空気の中、俺と悟空は互いに構える。

 

「始めッ!!」

 

アナウンサーの声と共に悟空が跳び出した。

真っ直ぐに突っ込んできた悟空の拳を受け止め蹴りを返す。

悟空は俺の脚に尻尾を絡め1回転し、俺の顎にパンチを入れてきた。

急かさず後ろに飛んで威力を流す。

そのままの勢いで俺は宙に飛び上がった。

それを追って悟空が飛び蹴りを仕掛ける。

空中で直線的な動きしか出来ない悟空に、俺は1枚目の手札を切った。

 

「どどん波!!」

 

俺のどどん波は悟空に直撃し、悟空は武舞台に叩きつけられた。

だが、大したダメージは与えられなかったようで次は悟空が攻撃に出る。

超高速で左右にフットワークをして、まるで消えたかのように移動する悟空。

 

「そこだっ!!」

 

だが俺の三つの目は悟空の姿を捉える事が出来た。

悟空を武舞台の壁に殴り飛ばし追撃にラッシュを加える。

今度は効いたのか、少しぐったりした悟空。

俺は二つ目の手札を切ることにした。

 

「とっておきの技をおみまいしてやろう」

 

「な、なにをする気だ!?」

 

「あ、あの技をするつもりだ!」

 

周りが様々な反応をするなか、俺は悟空を高く放り投げた。

この技に必要なのはスピードとパワー、そして…恥を捨てる心だ。

 

「排球拳!いくわよーーーっ!!」

 

「はあーーーーい♥」

 

自分で自分に返事をし、俺は落下する悟空をバレーボールのように追撃し更に打ち上げる。

 

「ワン!!」

 

「ツー!!」

 

「アターーーーック!!!」

 

受け身をとる間もなく悟空が背中からバンッと武舞台に叩きつけられた。

並の武道家なら死んでしまうだろう威力だったと自負している。

だが……悟空は普通に飛び起きた。

 

「ばっ馬鹿なッ!!」

 

武舞台の上からでも鶴仙人の驚く声が聞こえる。

 

「おめえホントにつええな。オラたまげちゃった」

 

「…それはこっちのセリフだ。ケロッとした顔しやがって」

 

「おめえなら力を満々に出しても死なねえから、オラ思いっきりやれそうだ!」

 

「恐ろしいことを言いやがる…」

 

そう…悟空は今まで試合用のパワーと言って力をセーブして戦っていたのである。

俺の天下一武道会決勝はここからが本番だ。

 

「こっからは戦闘用のパワーでやる!だからおめえも本気でこいよな!」

 

「な、なに?」

 

「いくぞ!戦闘開始!」

 

もう待てないといった勢いで悟空が仕掛けてくる。

顔面を狙う1発はなんとか防いだが、その後のラッシュをもろにくらい飛び蹴りで蹴り飛ばされた。

その直後、悟空は吹き飛んだ俺の真下に回り込み俺を空中へと蹴り上げる。

空中に吹き飛ばされながら俺は、先程の悟空の言葉を思い出していた。

 

『おめえも本気でこいよな!』と悟空は言っていた。

確かに手札や切り札的な技はまだ残しているが、俺は肉弾戦は本気で戦っていた筈だ。

 

「か…め…は…め…」

 

下から悟空の声が聞こえてきた。

俺は思考を中断し来るであろうかめはめ波に備え体内の気を集める。

 

「……やめた!」

 

それに気付いたのか、悟空はかめはめ波を中断し…俺は武舞台に降り立った。

 

「うく…」

 

「へっへ~今のは効いただろ?」

 

「あぁ…だが…」

 

俺は自分では先程の疑問の答えを見つけることが出来ず、思いきって悟空に聞いてみることにした。

 

「悟空…お前はさっき、俺に本気でこいと言ったが…あれはどういう意味だ?もし俺を高く評価しているのなら申し訳ないが…俺は格闘戦に関してはずっと本気だった」

 

その質問に、悟空はきょとんと答えた。

 

「なに言ってんだ?天津飯もオラみたいに試合用と戦闘用でパワーを別けてたんじゃねえのか?だっておめえ、全然余裕そうじゃねえか」

 

「な…なんだと…?」

 

悟空の言葉に驚愕する。

俺が余裕そうだと?何を言ってるんだ?

俺はヤムチャとの試合ですら慎重に戦っていたんだ。

 

「オラ、おめえと初めてカリン塔で会った時に、こいつは強ええ奴だって思ったんだ。だから天津飯と戦うのがすっげー楽しみでさ。全力で戦えるってわくわくするだろ?」

 

 

「おめえは強ええ奴と全力で戦うのは楽しみじゃねえんか?天津飯は、なんで戦ってんだ?」

 

 

その言葉に、俺は声を失った。

俺が戦う理由は…天津飯の強さを証明する為…これから現れるだろう強敵達に勝つ為…ドラゴンボールという作品の中で一番強くなる為…

だが…その中に、俺の個人的な感情は入っているのだろうか?

 

天津飯としてこの世界に来たあの日、俺は確かにわくわくしていた筈だ。

だが、いつの間にかそんな気持ちは消えてしまっていた。

今の俺に戦いを楽しむ余裕はない。

あるのはどれだけ上手く戦えるか。

どれだけ本物の天津飯を超えられるか。

どれだけ強くなれるかだ。

戦う相手に対し尊敬の念はあっても…わくわくはしない。

 

 

「天津飯」

 

いつの間に着替えたのか、試合を武舞台の壁側で見ていた武天老師さまが俺に声をかけた。

 

「天津飯。わしにもわかったぞい。おぬしが力をセーブしていたのが。試合中、おぬしは上手く戦うようにしておった。相手を殺さず、圧倒的な実力差を見せ付けず…相手に合わせて手加減しておったんじゃ。だが…」

 

「オレにだって、自分が手加減されていた事くらいわかったぞ。情けない話だがな」

 

そう言ってヤムチャが鼻をすする。

 

「おそらくおぬしは悟空と同じように、全力を出して相手を殺さんようにする為に手加減しておった。じゃが、自覚していた悟空と違いおぬしはそれを自覚していなかった」

 

 

以前、カリン様にも似たような事を言われた気がする。

 

だが…その時の俺は、悟空に会ってその実力を目の当たりし、強くなる事に必死でその事を気にしていなかった。

焦っていたのだ。

天津飯となってから過去の記憶がなかった俺は、自分がどのように成長し強くなってきたのかわからなかった。

自分の自信や実力の起源となる経験や思い出が無かったのだ。

 

突然ドラゴンボールの世界に来て、自分は強いに決まってる!なんて自信満々で思える一般人がいるだろうか?

いや、いない。

 

それでも…確実に強敵がこの先現れる事を知っていた。

だから…手加減してても勝てるような、自分より弱い相手に対して気にしていられなかった。

 

 

「自信の無さから己の実力を正確に計りかね、相手を殺さぬように無意識に手加減して戦い続けた結果、おぬしは自分の実力を見誤った」

 

「だが、今おぬしと戦っておる悟空は、おぬしの全力の攻撃でも耐えるじゃろう。何の遠慮もせず、思いっきり戦えるのじゃ」

 

「戦いを楽しむだけのバトルジャンキーになれと言ってる訳ではないぞ。じゃが、少しも戦いを楽しめんようでは武道家としては二流じゃ」

 

武天老師さまは静かに、心に響くような声で語る。

 

「楽しめ天津飯!今はなにも気にせず、なににも遠慮せず、思いきって飛んでみよ。せっかく全力で戦える相手がおるんじゃ。互いを高め合える、ライバルと呼べる相手が。そんな相手はそうそう見つからん。わしのなんか中途半端禿げのちょび髭ジジイじゃった!」

 

「ふんっ」

 

武天老師さまの言葉に鶴仙人が反応するが、それを無視して話を続ける。

 

「悟空もクリリンもヤムチャもよく聞けよ。おぬし達の世界の中心はおぬし達じゃ。自分を型にはめるな。自由な発想を持て。なにものにも縛られるな。これからはおぬし達若い世代が未来を切り開くんじゃ!」

 

 

 

なにものにも縛られず…全力で楽しめ…か。

流石、武天老師さまだ。

俺の中でがんじがらめになっていた何かが、スッとほどけた気がする。

 

本物の天津飯を超えられるかとか…これから現れるだろう強敵達に勝つ為とか…原作の天津飯が唯一悟空に勝った試合とか…ドラゴンボールという作品の中で一番強くなる為とか…

そういうのは、今は置いておこう。

 

 

今考えるのは、出しきれていなかった俺の全力で、孫悟空と戦う。

勝ち負けなんか二の次だ。

 

 

「へへっ。楽しそうだな、天津飯」

 

「…ああ。俺は今…わくわくしている。全力を出すことに…悟空、お前と全力で戦うことにな!」

 

「オラもだ!」

 

俺達は互いに跳び出し激突した。

 

 




自分で思っていたより強くなっていた主人公。
カリン塔で2年半も修行したのは伊達じゃない!
でも始めて全力を出すうえに経験値に勝る悟空に勝ち目はあるのか!?

ドラゴンボール超は教えてくれた。
作中最強になる為に、独走トップ状態で走り続ける必要はないんだ。


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11.天津飯、孫悟空と戦う

いつの間にやら日間ランキングに入ってるわ
お気に入りも増えているわと驚いております。
皆さま、ありがとうございます!




「すっすごい!まったくものすごい攻防戦!あ、あまりにも凄まじいスピードに我々の眼ではその動きにはとてもついてはいけません!!」

 

アナウンサーの言葉通り、悟空と天津飯の動きに完全についていける観客は、武舞台裏で見ている数人の達人を持ってしても1人も居なかった。

 

「残像拳か!!」

 

突然悟空が分身し、天津飯の手が止まる。

 

「俺は残像拳を見破る事に関しては自信があるぞ!そこだ!!」

 

そう言って天津飯は己の上にいる残像に蹴りを放つ。

だが、それは空振りに終わった。

 

「なに!?」

 

「残念でしたーっ!」

 

残像に攻撃し隙を見せた天津飯に悟空が跳びかかる。

しかし、それも空振りに終わる。

 

「え!?」

 

「引っ掛かったな!裏の裏だ!」

 

無防備になった悟空に天津飯の手刀が迫る。

…が、それもまた空振った。

 

「!!!」

 

「裏の裏のそのまた裏だ!!」

 

悟空が天津飯の頭を上から蹴りつける。

だが!またしても空振りに終わる。

 

「!!?」

 

「裏の裏のそのまた裏の…裏だ!!」

 

天津飯の拳が今度こそ悟空をとらえる。

だが、咄嗟に悟空も蹴りを放ち両者は互いに吹き飛ばされた。

 

「「「!!!」」」

 

凄まじいまでの残像拳の応酬に、達人たちは声を失った。

吹き飛び倒れていた両者が、同時に立ち上がる。

 

「やるなぁ!まさか裏の裏のそのまた裏まで読まれるなんてよ」

 

「お前もだ…あの状況で反撃してくるとはな」

 

互いに相手から目を離さず、笑みを浮かべる二人。

そして…二人は同時に観客の前から姿をした。

 

 

二人が地を蹴る音と、時おり聞こえる打撃音だけが天下一武道会会場に響きわたる。

誰も彼もが息を呑んでこの戦いの行方を見守った。

 

「…く、クリリン。二人の動きが…見えるか?」

 

「…た…たまに…どっちかの攻撃が当たった時に…一瞬だけ…」

 

「…オレも似たようなもんだな…」

 

ヤムチャとクリリンがそんな事を言っている中、辛うじて二人の動きを捉えることが出来ていたのは亀仙人と鶴仙人の二人だけだった。

 

「ふふ…二人とも、楽しそうな顔をしおって…」

 

「チッ…鼻につく顔で戦いおる…」

 

 

延々と二人の高速で繰り出し合わされる攻防戦が続き、そろそろ日も暮れようというところで、戦況に変化が起こる。

打撃音と共に吹き飛ばされた天津飯が武舞台の壁に激突し、そのまま倒れたのだ。

 

「おーーっと!?天津飯選手!ダウン!ダウンですーーっ!!」

 

「天さん!!」

 

アナウンサーとチャオズが叫んだ。

アナウンサーがカウントに入り、それをファイブまで数えたところで天津飯が起き上がった。

だが、明らかに息があがっており体力が無くなっている。

いつの間にか武舞台中央に現れていた悟空も同じ様に息があがっていたが、天津飯に比べると軽い方だ。

 

「悟空に比べ天津飯の方はだいぶ息があがってますね…」

 

「おそらく…天津飯は今回初めて全力を出したので、常にパワーを全開で戦っておったんじゃ。それに比べて悟空の奴は力を抜く時は抜き、入れる時は入れるといった風にペース配分が上手かった。経験値の差がもろに出たのう…」

 

 

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ…やるな、悟空…」

 

「天津飯もな…オラ、こんな長いこと打ち合ったのは初めてだぞ…」

 

「俺だってそうだ…しかし…このまま戦っては俺の負けは確定的だ」

 

こうして戦ってみてわかったのは、全力の俺の攻撃は体格差もあってか悟空のそれよりも威力はあるようなのだが、スピードは悟空の方が1枚上手ということだ。

それに、長いこと打ち合ってみて俺が悟空よりも体力の配分が下手なこともわかった。

まぁ…そこは俺が今回初めて全力を出したので、俺が自身の限界をわからなかった事も関係あるのだが…

なんにせよ俺が負けそうだということだ。

 

実は…先ほどの攻防戦の最中、俺の手札の中でも特に強力な太陽拳を使えば場外を狙えるシーンはいくつかあった。

だが…あまりにも戦いが楽しすぎて使えなかったのだ。

悟空との戦いは俺に様々なモノを与えてくれた。

戦いが楽しいという感情、相手の動きを読み切った時の達成感、相手の力量に感服し、次はどんな攻撃が来るんだというわくわく感…その他戦闘経験値や動きのコツ等、自分が戦っている中で成長していたのがよくわかった。

そんな戦いを太陽拳からの場外で終わらせるのはもったいなさすぎる。

勝ち負けなど気にせず、どうせならおのれの全力のパワーを出し切って戦いたい。

 

あ、でも気功砲は無しだ。

天津飯の代名詞とも言うべき気功砲なのだが、実はカリン塔での修行中にカリン様に

 

「この技はわしが良いと言うまで使ってはならん」

 

と言われているのだ。

まぁ気功砲は威力が高過ぎるし生命力を使う技だしと、正直自信の無かった頃の俺には扱いきれなかった技だ。

使い方を知っているだけで、修練もそれほど行っていない。

いくら自分の強さを自覚したとは言え、流石にそんな練習不足で不安定な状態の技をここで使うのは俺も悟空も危険だ。

 

気功砲ではなく、今の俺が『悟空』と全力でぶつかり合える技…見よう見まねの技だが、これほど相応しい技は他にないだろう。

 

「悟空。俺は次の技に、俺の全ての力を出しきるつもりだ」

 

天津飯の言葉に武舞台裏にいるヤムチャ、クリリン、亀仙人にチャオズの四人も各々の反応を見せる。

 

「天津飯の奴…どんな技を使うつもりだ…?」

 

「鶴仙流の極秘奥義とかですかね?」

 

「………」

 

「天さん…まさか…」

 

天津飯が武舞台の左側に陣取り腰を落とし構えた。

 

「お前も乗ってきてくれることを願うぜ…」

 

そう言って両の掌を揃え前に突き出す。

 

「「え!?」」

 

「まさか!!」

 

「良かった!気功砲じゃない!」

 

「なんでその技なんじゃ!!」

 

会場のざわめきに武舞台裏の四人と鶴仙人の声が混じる。

そして…天津飯の意思を汲み取った悟空も、武舞台の右側に陣取り同じ様に構えた。

互いにニヤリと笑い、気を高める。

 

 

「「か…」」

 

「「め…」」

 

「「は…」」

 

「「め…」」

 

 

「「波ーーーーーーーッ!!!」」

 

 

互いの手からかめはめ波が射ち出され、武舞台中央で激突する。

だが、かめはめ波は爆発することなく武舞台中央に気の塊を作り拮抗した。

 

「か、かめはめ波で押し合いしてる…」

 

「それほどまでに高エネルギーが圧縮されたかめはめ波同士だったというわけじゃ…」

 

クリリンの呟きに亀仙人が答える。

 

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「ぐっ…うぎぎ…」

 

最初は拮抗して中央に留まっていたかめはめ波の激突部分だったが、少しずつ悟空のいる方へ押されていく。

 

「ど…どうやらパワーは俺の方に分があるようだな!」

 

「ま…負けるもん…か…」

 

悟空も押し返そうと力を込めるが、単純なパワーなら体力が落ちていても俺の方が上。

このまま場外まで押し出す!

 

 

「ぐぎ…ぎぎぎ…」

 

かめはめ波に押し出され武舞台を削りながら後ろに後退する悟空。

だが、かめはめ波が自分の手元まで届いた瞬間、悟空が動いた。

 

「だあっ!!」

 

「「「「!!!!」」」」

 

バチッと爆音を響かせ悟空がかめはめ波を上空へ流したのだ。

遮るものが無くなったかめはめ波はそのまま空高く昇っていく。

そしてその光景に会場全員の目が奪われた時、悟空が地を蹴り跳び出した。

 

「だあぁぁぁっ!!」

 

悟空が迫って来るのがわかる。

だが、今の俺はかめはめ波を撃った後で無防備だ。

このまま激突されれば俺の負けは必至。

 

「どどん波!!」

 

なんとか動いた右腕でどどん波を放つ。

残りカスみたいな気では威力なんぞたかが知れてるが、一瞬でも悟空を止められたなら御の字だ。

俺はその間に体勢を立て直し、迫る悟空を向かい打つ。

 

「だりゃあああ!!」

 

「うおおおおお!!」

 

悟空の跳び蹴りが俺の腹にめり込み、俺の突き出した拳が悟空の頬にぶち込まれた。

互いに後ろへたたらを踏み、 同時に倒れる。

 

「りょ、両者ノックアウト!なんと!2大会連続のダブルノックダウーーーン!!」

 

アナウンサーの声に会場がわく。

 

「カウントを取ります!ワン!」

 

「立て!悟空ーーっ!!」

 

「ツー!」

 

「孫くーーーんっ!!」

 

「スリー!」

 

「どっちも立てーーっ!」

 

「フォー!」

 

「負けるな悟空ーー!」

 

「ファイブ!」

 

「天さん頑張れーーっ!!」

 

「シックス!」

 

「今度こそ勝つんだ!悟空!!」

 

「セブン!」

 

「起きんか悟空!!」

 

「エイト!」

 

「立て!天津飯!!」

 

「ナイン!」

 

 

 

朦朧とした意識の中で、カウントと声援が聞こえる。

その中に、いくつか聞いたことのある声が混ざっていた。

立たなくては。

だが、俺の身体は言うことを聞かない。

薄れゆく意識の中、俺の前で何かが動いた。

そいつは…小さな…それでいて大きな背中で俺を見下ろした。

…ははっ。それでこそ…

 

 

「ゆ…優勝したもんねーっ!」

 

フラフラの悟空が立ち上がり、笑いながらピースサインをする。

本来必要のないポーズだったのだが、前回大会を知る者にとっては違う意味を持っていた。

 

「…テン!!天津飯選手立ち上がれません!!立ったのは孫悟空選手!…前回大会の雪辱を晴らし…ついに!孫悟空選手!!天下一武道会!優勝ーーーーーっ!!!」

 

こうして…大歓声と拍手の中、第22回天下一武道会は無事終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…天津飯に会って行かんのか?」

 

「…ふん。奴は元々この大会が終われば鶴仙流から抜けるつもりだったんじゃ。本来なら負けた時点でわしが殺してやるところなんじゃが…どうせこのままくたばるだろうしの。金の出ん殺しは面倒なだけじゃ」

 

「…なんじゃお前。気持ち悪いのぉ…」

 

鶴仙人と亀仙人の怒鳴り声が人の少なくなった天下一武道会会場に響く。

戦いは終わり殆どの観客は帰り、残ったのは大会運営陣と鶴・亀両仙人の関係者達だ。

そして…先の決勝で初めて己の全力を出し、体力を使い果たした天津飯は…今だ倒れたまま武道会場内の医務室の中だ。

今日中に起きることはないだろう。

 

「行くぞ、チャオズ」

 

「…はい」

 

その後、鶴仙人は大会に来ていた数人の弟子とチャオズを連れ、天下一武道会をあとにした。

 

「さよなら天さん…」

 

 

 

 

 

亀仙人御一行も武道会場から出て帰路につく。

そんな中でウーロンにプーアル、ブルマとクリリンに囲まれる悟空。

 

「やったじゃねえか悟空!」

 

「おめでとうございます!」

 

「やっと孫くんが優勝したって感じだったけどねぇ」

 

「ははは。けどやっぱ天津飯は強え奴だったなぁ」

 

「それに勝ったお前はどんだけ強いんだか…あれ?悟空、お前荷物は?」

 

クリリンの指摘で、自分の荷物を忘れてきたことに気付いた悟空。

 

「あ、いけねぇ!じいちゃんのドラゴンボールと如意棒!」

 

「お前くたくただろ?いいや、オレが取ってきてやるよ」

 

「すまねえ、サンキュー」

 

そう言って武道会場に戻るクリリン。

そんな会話をしている後ろで、ウミガメにヤムチャ、それにランチと亀仙人が寝ている天津飯の今後を考えていた。

 

「…鶴仙人さん達、行ってしまいましたね…」

 

「天津飯の奴はどうしますか?このまま1人置いていくというのも…」

 

「お、オレは一緒にカメハウスに連れていくべきだと思うぜ!!」

 

「そうじゃな。これから行く宛があるかもわからんし…一応今晩は近くのホテルに泊まって、明日1日天津飯が起きるのを待ってからそのあとのことを考えようかの…」

 

話も一段落ついたその時

 

「ぎゃあ~~~っ!!」

 

「「「!!?」」」

 

「な、なんじゃ!?」

 

「クリリンの声だ!」

 

突然の叫び声に、武道会場に戻る一行。

目に飛び込んできたのは倒れたアナウンサーとクリリンの姿だった。

倒れていたアナウンサーが声を絞り出す。

 

「ば…化け物だ…そいつが…そこにあった袋から変な球と…武道会の名簿を奪って…逃げた…」

 

「ど…ドラゴンボールと名簿…?」

 

アナウンサーの言葉に理解が追い付かない亀仙人達。

そんな中、クリリンに駆け寄っていた悟空がポツリと呟いた。

 

「し…死んでる…」

 

「ななっ、なに!?」

 

「く…クリリンが……殺された…!!」

 




第22回天下一武道会決着!
原作より強くなった故に、原作のような決着を望まなかった主人公。
結果負けてしまいましたが。

そして…さらばチャオズ…ピッコロ大魔王編にお前の出番は無い!


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12.天津飯、寝過ごす

各話簡単にタイトル付けたりしました。

皆さま、評価や感想、
そして日間ランキング25位。
ありがとうございます!



どれだけ寝ていたのだろうか?

 

「知らない天井だ……」

 

1度は使ってみたい台詞ランキング上位の言葉をもらしながら、俺は目覚めたての頭で状況を分析する。

知らない天井だと言ったが、内装から見てここは天下一武道会会場の医務室だろうか。

 

「あ!起きたのか天津飯!!」

 

目を覚ました俺に気が付いたのだろう。

金髪で赤いリボンを付けた女性がこちらに近寄ってくる。

彼女は…武天老師さま達と共にカメハウスに住んでいて、くしゃみする度に性格が180度変わり、サイヤ人編から急に出てこなくなった人物…ランチさんか。

なんでかさん付けで呼んでしまうな。

だが、俺に原作知識があるだけで実際は以前ちらっと顔を会わせた程度の間柄なので…ここは無難に…

 

「あんたは亀仙流の集まりにいた…」

 

「ら、ランチだ!」

 

そう言って彼女は俺に握手を求めてきた。

なんでそんなに緊張しているんだ?

……あ!

そーいやランチさんって原作で天津飯に惚れてたな!

俺の場合はどうなるかわからなかったが…これはもしかすると惚れられているのではなかろうか…

しかし…女性に好意を向けられるのは初めてなので、よくわからないな…

…前世や天津飯の過去の記憶が無いので定かではないが、今までの俺に彼女なんて居なかったと思う。

とりあえず、差し出された握手に返そう。

 

「天津飯だ。それで、なぜあんたがここに?天下一武道会はどうなったんだ?」

 

「あっ!そうだよ!大変な事になったんだ!!」

 

 

 

ランチさんの話を聞いて、俺は頭を抱えたくなった。

 

天下一武道会で悟空に敗れたのは良い。

敗れる瞬間も何となく覚えてるし、あれは勝ち負けなんか関係なく素晴らしい戦いだった。

ランチさんも感動してくれたらしく、最後のかめはめ波の押し合いの時やダブルノックダウンでカウントを取っていた時等は、俺と悟空両方を応援していたらしい。

 

だが、その後が問題だ…

 

正直…悟空との戦いに意識を全て持っていかれて、天下一武道会直後にやって来るピッコロ大魔王達の事を完全に忘れていた。

既にクリリンは殺され…試合直後のボロボロの身体で敵を追った悟空も帰って来ず、おそらく殺された…らしい。

武天老師さまやヤムチャ達は1度カメハウスに態勢を立て直しに戻ったそうだ。

そして…1人残された俺が目覚めた時に状況説明や今後の話をするため、ランチさんが残って付いていてくれたらしい。

 

「ありがとうランチさん。とりあえず、俺達もカメハウスに向かった方が良いだろうか」

 

「お、おう!そうだな…一応ブルマに渡されたジェットフライヤーがあるけど…ここからカメハウスまでは結構かかるな…」

 

俺は鶴仙流から持ってきていた自分の全財産である荷物を纏めながら、今後の動きを考える。

天下一武道会で俺が悟空に負けたように、この世界が原作通りに進んでいくという保証はどこにもない。

だが…おそらく悟空は生きているだろう。

ヤジロベーと行動を共にしているはずだ。

 

問題は武天老師さま…1度カメハウスに戻ったということは、たぶん魔封波用の電子ジャーを取りに戻ったということだ。

これからいつピッコロ大魔王と戦うことになるかわからない。

武天老師さまには大きな恩がある。

このままむざむざと死んでしまうのを見過ごすわけにはいかない。

 

「ランチさん。1度カメハウスに連絡出来ますか?」

 

「さっきからしてるんだけどよ…あ!繋がった!」

 

『ランチさん!?天津飯は目が覚めたの!?』

 

無線の向こうからブルマの焦ったような声が聞こえてきた。

 

「ああ!それで今からカメハウスに戻ろうかと…」

 

『待って!亀仙人とヤムチャがドラゴンボールを集めに行ったんだけど、途中で連絡が途絶えちゃったのよ!』

 

「なに!?」

 

思わず声が出てしまった。

だが、それが意味する事は…

 

「ブルマさん!武天老師さま達がどこに向かっていたかわかりますか!?」

 

『あんた天津飯?えーっと飛行機に付いてる発信器によると…』

 

 

その時、明るかった空が突然夜になった。

遅かったか!!

 

「こ、これは…」

 

『ドラゴンボールよ!神龍が呼び出されたんだわ!』

 

ブルマとランチさんが慌てる中、俺は自分を落ち着けるように深呼吸を繰り返す。

神龍が呼び出されたということは、おそらくピッコロ大魔王が願いを叶え若返ったということだ。

そして…残念ながら、武天老師さまはもうこの世にはいないだろう…

一緒に向かったヤムチャの安否がとわれるが、おそらく彼は原作の天津飯のように無事な筈だ…多分…

とにかく、次の行動を決めねば。

原作通り悟空がピッコロ大魔王を倒してくれるにしても、あの戦いで俺は必要になるはずだ。

主に舞空術要員だが…

…大丈夫だとは思うが、1度悟空の無事を確認しなくてはならない。

 

 

「俺は、1度カリン塔に向かおうと思う」

 

『え!?』

 

「なに!?」

 

俺の言葉に驚きの声をあげる女性陣。

 

「カリン塔…どこだ?」

 

『一緒にカメハウスに来ないの!?』

 

「カリン塔には、鶴仙人とは別の俺のもう1人の師匠であるカリン様がいらっしゃる。あの方なら、ピッコロ大魔王について何か知っているはずだ…」

 

そう言って俺は空を見上げる。

既に明るくなった空の向こうで、とてつもなく邪悪なパワーが解放されたのを感じた。

 

「…お、オレも行くぜ!」

 

『え!?』

 

ランチさんの提案にブルマが驚く。

当然オレも驚いた。

 

「いや、何を言ってるんだ!?」

 

「そのナントカって所にオレも付いて行くって言ってんだよ!お前、移動はどうするつもりなんだ?それに連絡手段は必要だろ?」

 

「移動は舞空術でなんとかする!連絡手段は無線機だけ渡して貰えれば大丈夫だ!」

 

「天津飯。お前、自分がさっきまでぶっ倒れてたの忘れてんのか?それに無線機の使い方わかんのかよ?さっきもオレに聞いてたしよ」

 

「ぐっ…」

 

確かに、俺はこのドラゴンボール世界の機械については無知にも等しい。

前世の知識も天津飯の知識も機械について全然詳しくなかったし、三年間僻地で修行していたので詳しくなる機会もなかった。

無線機もケータイみたいなワンタッチで出来るものなら使えるかもしれないが、周波数を合わせるとかは理解不能だ。

ジェットフライヤーの操縦なんて不可能すぎる。

…体力については荷物の中にある仙豆を使えば問題ないが…長距離長時間の飛行はまだ舞空術よりジェットフライヤー等の飛行機の方が早い。

くそ、言い負かせない…おのれランチ。

 

「ぬぐぐ…」

 

「よし!話はついたな!」

 

『え?え?』

 

困惑するブルマを他所に、ランチはホイポイカプセルからジェットフライヤーを出現させる。

ホントどういう技術なんだコレ。

 

「ほらさっさと行くぞ!どこに向かえばいい?」

 

 

こうして俺は、ランチと共にカリン塔に向かった。

 

 




本作のヒロイン候補、ランチさん本格始動。
まぁ天津飯と言えば切り離せない人だからね。
原作ではチャオズより扱い悪いのでこの作品の中ではヒロインとして扱ってやりたいけど…どうかなぁ。

悟空が優勝したのは、この作品を書くにあたり最初から決めていた事でした。
まぁたった三年の修行で原作主人公を超えれたら苦労はないということで。


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13.天津飯、ヤジロベーを追い抜く

タイトルとネタが予想されてしまった。
けどまぁ仕方ないよね!
ちょっと長いかと思ったけど区切るような話でもなかったのでひとつに。



陽も落ちて辺りが暗くなった頃、俺とランチは聖地カリンに到着した。

突然ジェットフライヤーが停まった事で、聖地カリンの番人ボラとその息子ウパが顔を出す。

 

「一体何者だ…?」

 

「あ!天津飯さん!」

 

ジェットフライヤーから降りた俺に、二人が駆け寄った。

 

「久しぶりだな」

 

「おお天津飯!元気だったか!」

 

ジェットフライヤーをカプセルに戻したランチも会話に加わる。

 

「天津飯、ここがそのカリン塔ってやつか?カリン様ってのは誰だ?」

 

「そうだ。カリン様はこの塔の上だ」

 

「この塔の!?ジェットフライヤーで行ける高さじゃねぇぞ…」

 

呆然とカリン塔を見上げるランチ。

だが、ボラの言葉で我に返った。

 

「天津飯も、ピッコロ大魔王とかいう奴と戦ったのか?」

 

「!!ピッコロ大魔王を知ってんのか!?」

 

「い、いや。ただ、暗くなる前に孫悟空が来てな。ピッコロ大魔王と戦ったと…」

 

その言葉を聞いてランチが叫んだ。

 

「悟空のヤツ生きてたのか!!」

 

「無事だったか…」

 

俺も思わず声がもれた。

万が一ということも考えられたからな…

 

「悟空は上に行ったのか?」

 

「ああ。ボロボロだったが、ヤジロベーという男に背負われて登っていったよ」

 

やはりヤジロベーも一緒か。

俺もさっさと頂上に行きたいが、ここで問題がある。

 

「ここを登んのかよ…」

 

それは、ランチがついて来る気満々ということだ。

 

「あんたはここに残れ」

 

「はぁ!?なに言ってんだ!ここまで来たら最後までついて行くぞ!」

 

「悟空が無事だった事をブルマさん達に連絡しなくていいのか?」

 

「それこそ直接悟空の顔を見てからだ!それに下に居たんじゃお前らが連絡出来ねえじゃねえか」

 

やはりこの女は口じゃ止められんようだな…

無視して1人飛んでいく事も出来るが…それだと正直後がこわい。

それに、ブルマ達の動きも知りたいからな…

……仕方ない。

 

「…時間が惜しいからな。しっかり捕まってろよ」

 

「え?なに言って…」

 

俺はランチの言葉を無視して彼女を横抱きし、舞空術で飛び立った。

 

「な、な、なぁーーっ!?」

 

ランチの叫び声が空に溶け消えていく。

残ったのは、グングン上空に飛んでいく二人をポカンと見つめるボラ親子。

 

「…父上…あれって、お姫様抱っこって言うんですよね…?」

 

「……ウパ…どこでそんな言葉を…」

 

 

 

 

 

俺はランチを抱えて舞空術を使いカリン塔の頂上を目指す。

ここで修行していた頃はよくカリン塔を往復させられたものだ。

 

「おい、なんだありゃ」

 

少々懐かしい気持ちに浸りながら飛んでいると、ランチの言葉で我に返った。

彼女が指差す方向には、塔の途中で誰かが叫んでいる姿が見える。

何か背負っているようだが…あれは悟空か。

ならば、彼がヤジロベーだな。

 

「孫!このやろー!てめーーーっ!!いい気なもんだぜ!起きろ!!てっぺんだ!!」

 

「なんだ、悟空のヤツ眠ってるのか」

 

「悟空!!」

 

「!!?うぎゃーーーーーっ!!」

 

突然後ろから俺達に声をかけられた事で、ヤジロベーは驚いて塔から手を離してしまったようで……叫び声をあげて落ちていった。

慌ててそれを拾いに行く。

 

「て、天津飯!!」

 

「喋るな舌を噛むぞ!おい!俺の足に掴まれ!!」

 

両腕が塞がっているのでヤジロベーを足にしがみつかせる。

 

「て、て、てめーーら!!急になにしやがんだっ!!殺す気かっ!!」

 

「「すまん」」

 

こうして…なんとか俺達は、カリン塔の頂上にたどりついた。

 

 

 

「はぁっ…はぁっ…し…死ぬかと思った…」

 

「いや、ホントにすまんかった」

 

「生きてて良かったぜ悟空!!」

 

「あれ?なんで天津飯とランチがいんだ?」

 

「…お前ら、無茶苦茶するのう…」

 

ヤジロベーが息を切らし…俺がヤジロベーに謝る横で、ランチが悟空の無事を喜び、悟空が首をかしげているのをカリン様は呆れて見ていた。

 

「カリン様、ひさしぶりだなぁ」

 

「ご無沙汰しております」

 

「うむ」

 

「え?こ、こいつが…?」

 

「カリン様…?」

 

俺と悟空が、端からではデカい猫にしか見えないカリン様に挨拶するのを不思議そうに眺めるランチとヤジロベー。

その二人は置いておいて、早速本題に入る。

 

「カリン様。ピッコロ大魔王の事なのですが…」

 

「言わんでもよい。わかっておる」

 

「え!?な、なんで知ってんだよ!」

 

カリン様の言葉に驚く悟空。

 

「退屈じゃからな。よくここから下界の様子を見ておるんじゃ。悟空も天津飯も、良い試合じゃったぞ」

 

「み、見られておいでとは…」

 

「へっへ~」

 

得意気な悟空に、ヤジロベーから声がかかる。

 

「おい孫!お前が言ってたゴチソウはどうしたんだゴチソウは!」

 

「あ、忘れてた」

 

「てめぇ~~っ!!」

 

「それより悟空、先ずはそのくたばった身体を治さんとな…」

 

そう言ってカリン様が壺から何かを取りだし悟空に投げ渡す。

 

「あれ?これ…って、仙豆じゃねぇのか?」

 

「センズ!!?これが!?」

 

その後、悟空から仙豆をご馳走だと聞かされていたヤジロベーが怒って壺から仙豆を鷲掴みで食べ、腹が膨れてぶっ倒れたという事件があった。

だがまぁそんな事件は置いといて、俺と悟空とカリン様は打倒ピッコロ大魔王の話を再開させる。

 

その間に、カリン塔の下の階でランチはブルマ達と連絡を付けているみたいだった。

 

 

 

 

「…で、カリン様ってヤツとの話はまとまったのか?」

 

俺はランチにある話をすべく、悟空達から離れた場所に来ていた。

 

「うむ…悟空も俺も、ピッコロ大魔王を倒す為にカリン様に更なる修行をつけて貰いたかったんだが…既に俺達はカリン様の力を超えていて教えることはないと言われてしまった」

 

「なんだそりゃ!無駄足だったってことかよ!」

 

「いや、他に強くなる方法があるらしいんだが…その前に…話しておく事がある…」

 

「…なんだよ?」

 

「……武天老師さまが、亡くなったらしい。ピッコロ大魔王と戦って…」

 

「………そうか…」

 

…そう言ってランチは、ブルマ達に連絡するために下の階に降りていった。

 

 

 

「………」

 

「難儀な女じゃのう、天津飯」

 

「うおわっ!?か、カリン様!!?」

 

突然背後からカリン様が現れて、変な声を出してしまった。

 

「ほほ、お前にも人並みの煩悩があってひと安心じゃよ」

 

「なんの話をしてるんですか!!?」

 

「ほっほっほ……それでじゃが…」

 

先程とは打って変わって真面目な雰囲気になるカリン様。

 

「…天津飯。悟空は…超神水を飲むそうじゃ」

 

「!…超神水ですか…」

 

超神水とは、カリン様の保管する身体の中に秘められた潜在能力を引き出すことができるといわれる聖水の事だ。

ただし…その水は非常に強い毒性を持っており、強い生命力、精神力を持っていないと死んでしまうらしい。

その毒に打ち勝ってこそ、潜在能力を引き出す事ができるのだ。

…俺も、ここで修行していた頃1度だけ飲もうとしたことがあったが…少し舐めただけであまりの苦しさに吐き出してしまい、ついでにカリン様にバレて大目玉を食らった事がある。

あの時の俺は色々と焦っていたからなぁ…

しかし…やはり悟空は超神水を飲むか…

なら…俺はどうする…

 

「わしは正直…お前には超神水は飲ませられん」

 

「カリン様…」

 

「悟空には…まだ見ぬ潜在能力が隠されておるのが漠然とだが感じられた。だがお前は……ハッキリ言って、飲めば死ぬと思う。こういう時の運というか才能を、お前は持ってないじゃろ」

 

「色々酷くないですか?」

 

「まぁ待て、それでじゃ…お前には、行ってもらいたい場所があるんじゃ」

 

「行ってもらいたい場所…?」

 

「ああ…」

 

カリン様は天井を見上げた。

 

「神様の神殿に行ってきてほしいんじゃ」

 

 

 

 

カリン様の言葉に、思わず俺は呆けてしまっていた。

それほど衝撃的な単語が飛び出たのだ。

 

「か、神様の神殿ですか…確か、このカリン塔の上にあるという…」

 

「そうじゃ」

 

そう言ってカリン様がカリン塔の天辺に向かう。

悟空から借りたのか、手には如意棒が握られていた。

…俺は以前、ここで修行していた時にカリン様から神様や神殿、そこにある道具などの話をいくつか聞いていた。

まぁ原作知識である程度は知っていたんだが…2年半も居たし、伝説の道具や神の伝承とかっていうのは話のネタに丁度良かったからな。

 

「し…しかし、なぜ俺なんです?神様に会うなら…悟空でも良いのでは?」

 

「…それも良いかもしれんのだが、悟空よりお前の方が神様と円滑に話が進みやすそうだし…なにより今の悟空はピッコロ大魔王との戦いの事しか頭にないみたいだしの…それに…」

 

「それに?」

 

「今回、わしは天下一武道会からお前達の事を見ておった。そしてその流れでピッコロ大魔王の復活を知り、武天老師が死に…神龍が殺されたのを見た。…このままでは、死んだ者を生き返らせる事ができん。…だから、二つの手を取ることにしたんじゃ」

 

「ひとつは、悟空が超神水を飲みその秘めた力を開放させ、ピッコロ大魔王と戦う道。…もうひとつは、お前が神の神殿でピッコロ大魔王を超える強さを身に付けて戦う道じゃ」

 

カリン様の思いがけない言葉に、俺は驚きと怒りを感じ叫んだ。

 

「し、しかし…それでは、悟空は捨て石だ!俺が強くなる間の時間稼ぎみたいなものじゃないですか!!」

 

「……確かに、そう取られても仕方のない事なんじゃが…理由があるんじゃ」

 

そう言ってカリン様は、俺の目を真っ直ぐ見つめて語った。

 

「今の悟空の力は、既に完成されていると言っても過言ではない。それこそ潜在能力を開放させんかぎり延びしろが無いほどにな……だが、天津飯。お前は違う。あの天下一武道会決勝を見ておったが、お前はあの時初めて自分の全力を出した。しかしそれは、上っ面だけじゃ。『お前』という鍋の中にある『全力』という名のスープの、浅く薄い部分を旨い旨いと飲んでおったんじゃ。底に、もっと濃く旨いスープが有ることを知らず…その掬い方を知らんかった」

 

「スープの掬い方とは、己の全力に合わせた身体作りやペース配分、力の入れ方の事じゃ。お前は、悟空がピッコロ大魔王と戦う前にそれらを使いこなせる様にならねばならん。そもそも今の自分の力すら満足に使いこなせない者が、超神水で潜在能力を開放させるなぞ無理な話じゃしのう」

 

…変な例えだが、理解はできる。

カリン様の『スープ理論』で言うと、悟空の潜在能力開放というのは鍋をもっとデカくて丈夫な物に取り替えるという事だろうか?

 

「それは…確かにそうかもしれませんが…悟空が超神水を飲んだとして、その潜在能力がいつ開放されるかわかりません。もしかしたら1年かかるかもしれないし、早ければ1時間もかからないかもしれない」

 

原作では次の日の朝くらいだったはずなので、実質6~7時間くらいだが。

 

「いや…1年はかからんじゃろう…おそらく、長くて1日…それ以上なら…失敗じゃろう」

 

「それなら尚更ですよ…そんな短期間で、俺が自分の力を使いこなせる様になると?」

 

「だからこそ、お前に神の神殿に行ってもらいたいんじゃ」

 

ここまでくれば流石の俺でもカリン様の言いたいことがわかった。

 

「ま、まさか…」

 

「そうじゃ。お前には以前話したが、神の宮殿には1日で1年分の時間が流れる『精神と時の部屋』というものがある。お前にはそこで修行をしてきてもらいたいんじゃ」

 

まさか…こんな原作の序盤で精神と時の部屋が出てこようとは!

確かに、それは良い考えかもしれない。

だが…

 

「しかし…それを神様が許して下さるのでしょうか?」

 

「…まぁ…ピッコロ大魔王に関する事じゃし…大丈夫じゃろ…多分…」

 

「そこは適当なんですか…そもそも、神様に神龍を復活させて貰えば…?」

 

「いや、どうじゃろう。あの人は神が直接手を貸すことをあまりしたがらんからのう…ピッコロ大魔王を倒した礼として復活させてくれる可能性があるくらいか…」

 

そもそもピッコロ大魔王自体が自分の失態なのに、色々と融通が効かない人(神)だ。

 

「とりあえずわかりました。俺が神殿に向かいましょう」

 

「うむ。それと、これを持っていけ天津飯」

 

そう言ったカリン様から小さな鈴を受け取る。

 

「それを見せれば神様が会ってくれるじゃろう…最悪会ってくれなかったとしても、お前の知識とハッタリでなんとかしてくれ。…心が読めんというのは便利じゃのう」

 

「それで良いんですか…?」

 

カリン様ってわりとお茶目だよな。

そんな事を思いながら俺は荷物をまとめ神様の神殿に向かう準備をする。

まぁ直ぐに帰ってくる予定なので、特に誰かに挨拶とかはしない。

 

「伸びろ如意棒!!」

 

俺は1度は使ってみたい台詞ランキング中位の言葉を叫び、神様の神殿へと向かった。

 




カリン様はドラゴンボール超の未来トランクスの世界で自分が死にそうなのに最後の仙豆でヤジロベーを助けたりと、わりと情が移るタイプなので2年半修行した主人公と3日で去った悟空とでは主人公の方を気にかけてます。まぁどっちか比べたらって位なもんですが。
そして…超神水は飲みません。天津飯はああいう一か八か系なら八が出るタイプの人間っぽいので。


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14.天津飯、いじめられる

皆様、評価やお気に入り、感想等ありがとうございます。
今回は正直無難な展開になったので「あれ超神水飲んだで良くね?」と思っても心の中にしまいこんで下さい…


とある荒野…そこで、1人の男がある特殊な技の特訓を行っていた。

 

男の名は『ヤムチャ』。

…かつては荒野の盗賊、ハイエナヤムチャとして相棒のプーアルと共に悪行の限りを尽くした男だった…

しかし、孫悟空やウーロン、そしてブルマと出会い彼の人生は一変した。

それまで裏街道を歩いていた男は、清く正しく明るい道を歩きだしたのだ。

 

そんな彼に影響を与えたなかに、武天老師という人物がいる。

亀仙人とも呼ばれるその人は、ヤムチャの師であった。

彼は、武天老師の元で同門のクリリンと共に時に辛く、時に厳しく、時に楽しく修行を重ねた。

彼女のブルマとは遠距離恋愛になってしまったが、それでも充実した日々であった。

 

そんな日々が続くと思われたが…それは、突然現れたピッコロ大魔王によって奪われた。

まずクリリンが殺され…そして恩人である悟空が…師匠である武天老師も、自分を護りピッコロ大魔王と1人で戦い…唯一ピッコロ大魔王を封印する事のできる技、『魔封波』を使うも…失敗し力尽きてしまった。

師が、友が、そして……最後の頼みであった神龍までも殺され、残されたのは自分1人。

 

「…はぁ…はぁ…くそ…ま、また外れたか…こんな成功率では武天老師さまの二の舞だ…」

 

…だが、ヤムチャは諦めなかった。

師が最期に見せてくれた…『魔封波』を修得し、必ずや仇を討ち世界を救ってみせると。

たとえ…己の命を失ってしまうとしても…

 

「待ってろよピッコロ……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カリン塔の…さらに上空に位置する所に、神様の神殿は存在していた。

そこで、二人の男が戦っている。

 

「お前弱い。自分の力を使いこなせて無さすぎる。神様に会う資格ない。帰れ」

 

「はぁ…はぁ…お、俺が弱いのは知っている…その力を使いこなせるようになるために…ここに来たんだ」

 

俺は今、神様の神殿の入口前でアラビア風の衣装を着た謎の男、ミスター・ポポにいじめられていた。

こちらには時間が無いというのに…実力差も明白だというのに…テストと称して俺をボコボコにし、帰れ帰れと心をへし折りにくる。

これがいじめでなくてなんと言う。

 

「心読めなくても、お前がなにか失礼なこと考えてるのわかるぞ」

 

「…あんたは性格が悪いと考えていたんだ…」

 

なにはともかく、神様に話を聞いてもらわなければ話にならない。

…おそらく神様は今も俺とミスター・ポポの様子を窺っているはず…だったら、もうこのまま話をしよう。

俺は神殿に向かって大声で叫んだ。

 

「聞いて下さい神様!今、地上ではピッコロ大魔王が復活し暴れています!それも、ドラゴンボールを使い若返って!それをなんとかする為に手を貸していただきたいのです!」

 

「無理。神様にも事情がある」

 

「…そちらの事情は知っています!別に倒してほしいと言っている訳ではありません!ただ、俺は修行のためにこの神殿にある『精神と時の部屋』を使わせていただきたいだけなんです!」

 

「精神と時の部屋…だと?」

 

俺の叫びが通じたのか…宮殿の中から、杖を手にした緑色のどう見ても地球人には見えない爺さんが現れた。

 

「…あなたが、神様ですか?」

 

「いかにも…お前の名は?」

 

「天津飯と申します…」

 

 

…そこから先は、思いの外スムーズに話が進んだ。

そもそも、ピッコロ大魔王というのは神様が身体から追い出した悪の心が地上に降りて悪さをしているのだ。

神様自身、自分が事の発端だと理解しているので罪悪感からだろうか…2時間だけ精神と時の部屋の使用を許可してくれたのだった。

結局…俺の邪魔をした最大の敵は、ミスター・ポポだったか…

 

2時間だけと言っても、2時間は精神と時の部屋の中では1ヶ月にもなる。

俺はまだピッコロ大魔王に直接会っていないので、その実力は原作知識と合わせて大まかにしか予想できないが…1ヶ月でピッコロ大魔王に勝てる…とまではいかなくても、戦闘の邪魔にならずに悟空のサポートが出来るくらいにはならなくてはならない。

そうなれば2人で戦って勝てるだろうしな。

最強になりたいとは言っても、別に俺は戦闘大好きのサイヤ人でもないので1対1にこだわったりはしない。

敵との殺しあいなら尚更だ。

焦りは禁物…先ずは生き残らなくては。

 

 

 

その後、俺は神殿の奥にある精神と時の部屋の入口である扉の前に案内された。

 

「ありがとうございます。神様」

 

「いや、なに…許可はすると言っても、お前が精神と時の部屋の過酷な環境に耐えられるかどうかは別問題だしな…それと、1人だけの修行では効率も悪かろう…そこで…」

 

「ミスター・ポポもお前と一緒に精神と時の部屋に入る」

 

ずい、とミスター・ポポが前に出た。

 

「……ミスター・ポポとですか…」

 

「いやか?」

 

「い、いえ!滅相もありません!…ありがたい話ですし…」

 

確かにありがたい話なのだが……ミスター・ポポか……さっきまでの所業で、凄い苦手意識がついちゃったんだよなぁ…

だが、彼に鍛えて貰えるなら1ヶ月で今のピッコロ大魔王と戦えるようになるのは可能だろう。

 

「時間惜しい。さっさと入れ」

 

ミスター・ポポが扉を開け催促してくる。

 

「…誰のせいで時間がなくなったと…」

 

「なにか言ったか?」

 

「いえ、なにも」

 

こうして、俺の『1ヶ月精神と時の部屋生活』が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ…ああう……がああ…う…」

 

カリン塔の頂上…そこで孫悟空は、飲めば潜在能力を開放出来るという超神水を飲み…その副作用の猛毒によって生死の狭間をさ迷っていた。

 

「よ…夜が明けて来たぜ…も…もう6時間近く苦しんでるぞ…」

 

「な…なんという生命力じゃ…!」

 

「くそーっこんな時に天津飯のヤツはどこに行きやがったんだ!?」

 

カリン様は、天津飯の行き先を誰にも伝えていなかった。

それは、ちょっとした茶目っ気であり…誰にも言わずに神様の神殿へと向かった天津飯の意思を尊重した結果でもあり…ランチが恐かったからでもあった。

 

「あいつ…結局オレになにも言わずに消えやがって!…次に会った時は許さねぇ!」

 

「……て、天津飯のやつは…」

 

「うっ!!」

 

カリン様が流石に言った方が良いかな?と思って口を開きかけた時、悟空から想像を絶するパワーが発せられた。

 

「はっ!?…あ…あああ…」

 

「な、なんだよ?」

 

「ど…どうかしたのか…?」

 

「ぱ…パワーじゃ…い…今、悟空の隠されたとてつもないパワーが見えたような気がした…」

 

驚愕し震えるカリン様にヤジロベーとランチの二人が気を移していると、キョトンとした顔で悟空が目を覚ました。

 

「!! 大丈夫か悟空!」

 

「やったーっ!死ななかったぜ!すげえぞてめーーっ!!」

 

「見事じゃ…見事じゃぞ悟空よ…!」

 

ランチにヤジロベー、カリン様の反応で現状を思い出し…自分の両手を見つめ呟く悟空。

 

「ち…力だ…力が溢れている…!」

 

 

 

 

こうして夜がふけ…3人の戦士がピッコロ大魔王との戦いに備える。

……決戦の時は近い。

 

 

「…それにしても…悟空のヤツがあれほどの力を秘めておったとはな………これなら別に…天津飯は神様の神殿に行く必要はなかったかもしれん…」

 

カリン様の小さな呟きは、誰にも知られる事なく消えていった。

 

 




やめて!魔封波のトレーニングの繰り返しで電子ジャーが壊れたら、魔封波が使えなくてヤムチャの勝ち目が無くなっちゃう!
お願い死なないでヤムチャ!あんたが今ここで倒れたら、ブルマや皆との約束はどうなっちゃうの?悟空がまだ生き残ってる。ドラムの攻撃を耐えれば、ピッコロ大魔王に勝てるんだから!

次回、「ヤムチャ死す」。デュエルスタンバイ!


すんません。1度このテンプレ使ってみたかっただけです。


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15.ヤムチャ、死す

タイトル詐欺。ヤムチャはまだ死なない。
そして、話が進まない。

皆様、評価や感想ありがとうございます。


「こちらヤムチャ…カメハウス、応答たのむ…」

 

『ヤ、ヤムチャ!?』

 

あれから…一晩中魔封波の特訓をしたヤムチャは、 今では10回放てば10回成功するほどに技の精度を上げていた。

追い詰められた人間は、時に思いがけないほど成長するものである。

 

『ヤムチャっ!!あんたどこにいるのよ!?こっちは…亀仙人が殺されたって聞いたから…てっきりあんたも…』

 

無線機の向こうで、恋人の無事に安堵したブルマのすすり泣く声が聞こえた。

 

「すまなかったブルマ…しかし、武天老師さまの事をどうやって知ったんだ?」

 

『ら…ランチさんが、天津飯と一緒にカリン様って人の所に行って……そう!聞いてよ!孫くんが無事だったのよ!!』

 

「なんだって!?悟空が!!?」

 

『カリン様の所に居たんですって!それで、今はピッコロ大魔王を倒す為に不思議な薬を飲んだとかで…』

 

 

様々な驚くべき情報が飛び出す中…事態は動いた。

ピッコロ大魔王が、この世界の国王の城を乗っ取り世界征服を宣言し…その手始めとして、西の都を消滅させに行くとテレビで放送したのだ。

 

『そんな!西の都にはまだ父さんも母さんもいるのよ!?』

 

ブルマが悲鳴をあげる。

ブルマの両親は、西の都に移り住んだヤムチャの恩人でもある。

彼ら二人は、突然ブルマが連れてきた盗賊なんてしていたヤムチャを、まるで自分の息子のように受け入れてくれたのだ。

 

……この時、ヤムチャは自分でも驚くくらいに落ち着いていた。

 

「…安心しろブルマ…オレが、ピッコロを止めてやる」

 

『な!?なに言ってんの!?とりあえず戻ってきて!父さんと母さんは……ドラゴンボールで生き返るわ!』

 

「…ブルマ。落ち着いて聞いてくれ……神龍は…ピッコロに殺された。…もう誰も、生き返る事はできない」

 

無線機の向こう側で、時間が一瞬止まった。

震える声でブルマの言葉が絞り出される。

 

『……しぇ…神龍が…こ…殺された……』

 

「…オレの目の前でな……武天老師さまもだ。その時、オレは武天老師さまの魔封波を見た。そして…今まで魔封波の特訓をしていたんだ。連絡が遅れたのはすまないが…なんとか使えるほどにはものにした」

 

『魔封波って…ピッコロ大魔王を封印したっていう……で、でもそれって…』

 

「ああ…この技を使った者は…死ぬ」

 

無線機向こうから息を呑む音が聞こえた。

 

『だ、駄目よヤムチャ!!』

 

「…このままでは…西の都が危ない。ブリーフ博士達にはオレも恩があるからな…それに、クリリンや武天老師さまの仇も取らねばならん…」

 

『で、でも!孫くんや天津飯もいるのよ!皆で戦えば…』

 

そう…最期に残された1人だと思われたヤムチャだったが、彼より実力が上の武道家が2人も残っていたのだ。

ピッコロ大魔王と戦うのは、彼らに任せる方が正解だろう。

…だが…もしそうすれば、ヤムチャという武道家はそこで死んでしまう。

それで無事に生き残ったとしても…死んでしまうのだ。

故に…ヤムチャが止まることはなかった。

 

「…時間が無いんだ!!オレはこのままキングキャッスルに向かう!」

 

『ヤムチャ!!』

 

「…すまん、ブルマ。プーアルにも伝えてくれ」

 

そこで通信は途切れた。

ヤムチャが自分で切ったのだろう。

 

 

 

 

カメハウスの無線機の前…ウーロンやウミガメが慌てるなか、ブルマは呆然として泣いていた。

このままでは…勝っても負けても、ヤムチャが死んでしまう。

 

「ブルマさん!このままじゃヤムチャ様が!!」

 

ブルマよりもヤムチャとの付き合いが長い…相棒とも呼べるプーアルも泣きながら叫んだ。

その声で、ブルマはハッと我に帰る。

 

「ランチさんに連絡しなきゃ…ウーロンは飛行機と武器の準備をして!」

 

「なっ!?まさかピッコロ大魔王の所に乗り込むつもりかよ!?」

 

「当然でしょ!このままじゃ世界の危機なのよ!」

 

『おう?どうした!?』

 

ブルマが喋りながらも通信を行っていた無線機から、ランチの声が響いた。

 

「ランチさん!!孫くんはどうなってるの!?」

 

『悟空か?悟空ならさっき目を覚まして…ピッコロ大魔王の妖気ってやつを感じて筋斗雲で飛んでっちまった』

 

「孫くんがピッコロの所に向かったのね!!」

 

わっと歓声をあげるカメハウス一行。

 

「悟空さんも一緒なら、なんとかなるかもしれないですね!」

 

「それじゃあ天津飯は!?」

 

ブルマの言葉に、無線機越しでもわかるほどランチの機嫌が悪くなった。

 

『天津飯のヤツ!勝手にどっかにいなくなって戻って来やがらねえ!あの野郎一体どこにいやがるんだ!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神様の神殿…その奥にある精神と時の部屋。

…そこで俺は生活していた。

修行ではない…本当にただ生活していただけだ。

 

はじめてこの部屋に入ったとき、俺は10倍の重力の前に床に這いつくばって耐えることしか出来ず、動くことすらままならなかった。

俺の全力の力をフルパワーで出して、はじめて動くことができたのだ。

だが、それで体力が持つはずもない。

そこからはこの10倍の重力に慣れつつ、日常生活を通して力の使い方を学んだ。

自分のパワーをどのように出すか、どこで力を抜き、どこで使うか等を身体に叩き込んでいったのだ。

 

そうして、最初の頃はミスター・ポポに介護を受けている老人のようだった俺も、今では普通に生活できるくらいには成長していた。

流石に走り回ったりするのは苦しいが。

 

「1ヶ月たったぞ」

 

ミスター・ポポの…いや、ミスター・ポポさんの言葉に、俺は思わず涙を流した。

ああ…ようやくこの地獄から出られるんだ…と。

ちなみに、ミスター・ポポさんへの苦手意識はここでの生活で完全に消え去った。

彼の辛辣な言葉は…ただ歯に衣着せぬ物言いというだけで悪意はなく、むしろこちらを気遣ってさえいた。

そして…彼がいなければ、俺はこの白く広く何もない精神と時の部屋の中で、気が狂っていたかもしれない。

…俺は今ではミスター・ポポを『尊敬する人ベスト3』に入れるほどに尊敬している。

俺は一生彼には足を向けて眠れないだろう…

 

 

 

「身体が軽い…」

 

1ヶ月の地獄を耐え抜き、ついに俺は精神と時の部屋から出た。

あの鉛のように重かった身体が、今は羽のようだ。

どこまでも飛んで行けそうな気分になる。

 

「天津飯…感慨深い気持ちになるのもわかるが、話を聞け」

 

「あ、はい」

 

神様に言われて姿勢を正し話を聞く。

 

「ピッコロのヤツが世界征服を宣言し、西の都への攻撃を発表した。お前の仲間達は、既にピッコロの元へ向かっておる」

 

「!!」

 

悟空と…ヤムチャだろうか?既に向かっていると言うことは、戦いが始まるのももうすぐだろう……今から飛び出したとして…舞空術で間に合うか?

ピッコロ大魔王の気を感じるが、ここからでは地球の裏側だ。

最悪でもピッコロ大魔王の大技が出る前に間に合わなくてはならないというのに。

 

「ならはやく向かわないと」

 

「待て、天津飯。お前の舞空術じゃ、間に合わない」

 

ミスター・ポポさんに止められた。

やはりそうか…なら、一体どうすれば…

その問いに神様が答える。

 

「下にいるカリンから、筋斗雲を貰っていけ。アレならば体力を使うことなく長距離移動が可能だし…お前よりはやい」

 

その手があったか!

 

「わかりました!カリン様の所に戻ります!」

 

そう言って俺は走り出す。

 

「ありがとうございましたーっ!」

 

まぁピッコロ大魔王との戦いが終われば、またすぐここに戻って来るだろうし…最後にお礼だけ言って、俺は神様の神殿から飛び降りた。

 

 

 

「頼むぞ…天津飯」

 

「あ、神様。ひとつ大事なこと忘れてた」

 

「む、なんだ?」

 

ミスター・ポポの言葉に顎に手をあてる神様。

 

「天津飯…あいつ、筋斗雲乗れるのか?」

 

 




ヤムチャが第2の主人公となってしまった…
この頃のヤムチャとブルマなら、こんな会話もおかしくないはず…

そして天津飯。
今の力では倍の重力とかならともかく、いきなり10倍の重力は流石に無理があった。

次こそはピッコロ大魔王と戦うはず…


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16.天津飯、落ちる

ついにはじまる、ヤムチャ対ピッコロ大魔王!!

今回は独自設定・独自解釈が多いです。


皆様、感想や評価ありがとうございます。


ピッコロ大魔王が飛行機で西の都に向かう寸前に、ヤムチャはキングキャッスルに到着した。

 

「ピッコロ!下に降りてきな!オレがとんでもない目に合わせてやるぜ!」

 

こうして…ついにヤムチャはピッコロ大魔王と対峙する。

ヤムチャの胴着姿や立ち振舞いから、武道家だと看破するピッコロ大魔王。

 

「すこしは腕に覚えがありそうだが…その中途半端にかじった武道のおかげで命を落とすことになるのだ」

 

「気の早いヤツだ…もう勝った気でいやがる」

 

「近頃のヤツは口の聞き方を知らんな。それが国王に言うセリフか?」

 

「…そんな国王様に面白いものを見せてやるぜ」

 

そう言ってヤムチャが乗ってきたジェットフライヤーの座席から『あるもの』を取り出し、ピッコロの待つ大地へと飛び降りた。

そしてその『あるもの』を地面へと置く。

 

その瞬間…先程まで余裕のあったピッコロ大魔王の顔が、驚愕と恐怖に支配された。

 

「そ、それは…ま、ま、まさか…」

 

「ご存知の通り…貴様を封印する為の電子ジャーだ!!」

 

「ば、ば、バカな…」

 

震えて後退るピッコロ大魔王。

 

「貴様が先日戦った老人は俺の師匠だ!そして貴様の部下に殺された仲間も……ここで皆の仇を取らせてもらう!!」

 

「あ…あ……」

 

二度と現れる事のないと思っていた魔封波の使い手の登場による驚きと長年電子ジャーの中に封印されたトラウマや恐怖から、棒立ちのまま動けずにいるピッコロ大魔王。

それは、魔封波を仕掛ける絶好のチャンスであった。

 

 

だが…ヤムチャもまた動けなかった。

なぜなら……

 

「(そ…そんな……電子ジャーに…穴が!!)」

 

目の前のピッコロ大魔王に集中しすぎたあまり、魔封波で封印する為の電子ジャーに小さなひび割れによる穴が出来ていた事に気付かなかったのだ。

 

「(お…恐らく、何度も繰り返した魔封波のトレーニングが原因だろうが…)」

 

幸いにして…ピッコロ大魔王には気付かれていないようだが、これでヤムチャは勝利への手を失ってしまった。

…だが、ヤムチャは考える。

 

「(待てよ…電子ジャーに貼ってあるお札と何か壺や瓶のような蓋を閉められる物があれば、魔封波は使える筈だ……電子ジャーよりはコントロールが難しいだろうが、やるしかない…)」

 

 

 

いっこうに魔封波を仕掛けてこないヤムチャに、ピッコロ大魔王も落ち着きを取り戻し疑問を抱いた。

 

「(こやつ…なぜ魔封波を仕掛けてこない?認めたくないがさきほどまでの私は隙だらけだった筈だ…なにか、魔封波を仕掛けるのに必要な条件があるのか…?)」

 

実際は電子ジャーが使えないだけなのだが、まさかこの大一番でそんな事があるものかと思い付きもしないピッコロ大魔王はひとつの考えに辿り着く。

 

「(魔封波とは、カウンター技なのではないか?先日戦った老人は何もせずただ技を掛けられた私を封印することが出来なかった……魔封波とは、相手の動きや攻撃に合わせて発動するべき技なのかもしれん…)」

 

実際は全然違うのだが、魔封波に対する恐怖とその技を使えるというヤムチャに対する過大評価からそう推理するピッコロ大魔王。

そうなると自分から攻撃を仕掛けるのは危険だと判断する。

 

「……ならばこの手がある」

 

「な!?」

 

隙を見て電子ジャーからお札を取ろうとしていたヤムチャの目に、恐ろしい光景が見せ付けられた。

ピッコロ大魔王の喉が膨らみ、口から巨大な卵が排出されたのだ。

どんっと地面に落ちた卵の中から、ヤムチャの目の前で1人の魔族の戦士が生まれた。

 

「…貴様なぞこの国王自ら手を下すまでもない。私の新しい部下を紹介しよう…ドラムだ」

 

「ケケケ」

 

「ば…化物め…!」

 

こうしてヤムチャ対ドラムの戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カリン様!!」

 

「おお!戻ったか天津飯!!」

 

俺は大急ぎで神様の神殿からカリン塔へと戻ってきた。

最初は如意棒を使おうと思ったのだが、悟空が持って行ったのか既に無くなっていたので舞空術だ。

思っていた以上のスピードが出せて、精神と時の部屋での地獄の1ヶ月の成果を実感させられる。

 

「カリン様、それで今の状況は…」

 

「てめー天津飯!!今までどこにいやがった!!」

 

突然ランチに突っ掛かられる……そういえばこの人の事を忘れていた。

 

「ま…待て!今はそれどころじゃないだろう!?か、カリン様!俺に筋斗雲をください!」

 

「なに?筋斗雲じゃと?」

 

 

俺はカリン様に神様の言っていた話をする。

 

「うむ…たしかに筋斗雲なら…」

 

「はぇ~神様がこの上にいんのかよ…」

 

唸るカリン様と上空を見上げるヤジロベー。

 

「なんだよ。んなとこ行ってたなら一言くらい声をかけてからにしろよ」

 

「いや、ホントにすまんかった 」

 

そしてなぜかランチに謝る俺。

そんな中、カリン様が巨大な筋斗雲を呼び寄せた。

 

「…まぁ試してみてからじゃな」

 

そう言って悟空のより大きめな筋斗雲がカリン塔の縁、俺の目の前に止まる。

 

「それでは、行ってきます!」

 

そう言って俺はその筋斗雲に飛び乗った。

 

ズポッ!!

 

だが、俺の身体は雲を突き抜けフライアウェイしてしまった。

 

「ぬあああああぁぁぁぁ…!!?」

 

叫び声と共に地上へと落ちていく俺こと天津飯。

 

「な、なんだぁ!?」

 

「天津飯!!」

 

「あー…やっぱりダメじゃったか…」

 

 

 

驚いて落ちていってしまったが…途中で舞空術で踏み止まり、カリン塔の天辺へと戻って来た。

 

「ま、まさか…乗れないとは…」

 

「そんな気はしてたんじゃ…」

 

「孫のヤツは普通に乗ってたけどなぁ…天津飯、お前って心が綺麗じゃないんだな」

 

「お前に言われたくないわ!!」

 

思わずヤジロベーに怒鳴ってしまう。

こっちは筋斗雲に乗れなかったの結構ショックだったんだよ!

 

「おいどうすんだ?オレのジェットフライヤーで行くか?」

 

「ううむ…その飛行機では間に合うか…」

 

カリン様の話によると、先ほどヤムチャがキングキャッスルに到着したらしい。

事態は刻一刻と動いている。

何とかして筋斗雲に乗らなくては…

 

「一応『黒筋斗雲』という誰でも乗れるものがあるんじゃが…あれはそこまでスピードが出んからな…それならお前たちのいうジェットフライヤーと変わらん。わしがこのカリン塔から離れたら筋斗雲は制御が利かなくなるし…」

 

「そ、そんな設定が…」

 

「孫が向かってるから大丈夫なんじゃねぇのか?」

 

「それは悟空1人で勝てたらの話じゃろう」

 

「………」

 

そこで、黙って何かを考えていたランチが意を決したようにカリン様に言った。

 

「なぁ、この筋斗雲ってやつは好きな形に変えられるのか?」

 

「ぬ?まぁ雲じゃしな。大まかになら変えられるが…」

 

「…なら、こーいう形にしてくれ」

 

そうして、ランチの言葉通りにカリン様が筋斗雲を整える。

出来上がったのは…小さな車くらいの大きさの筋斗雲で、中央に底が抜けないくらいの人が二人ほど座って入りそうな穴が空いていた。

 

「…これでどうするんじゃ?」

 

「これなら…この穴ん中に筋斗雲に乗れるヤツが入って、そいつを天津飯が掴めば移動出来るんじゃねーか?」

 

ランチの提案にカリン様の顔が明るくなる。

 

「それなら可能性があるかもしれん!」

 

「でもよぉ、乗れるヤツなんているのか?天津飯は無理だったしオレも無理らしい。お前はどっからどう見ても無理そうだしよぉ」

 

「筋斗雲を使う以上、カリン様はここから離れられないし…」

 

俺とヤジロベーの指摘に、ランチはドヤ顔で答えた。

 

「誰が乗れないだって?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そりゃ!!」

 

「無念!!」

 

ヤムチャとドラムの戦いは殆ど一方的で、遂にヤムチャがドラムに殺される……その時であった。

 

何者かがドラムを突き飛ばし、ヤムチャを救ったのだ。

 

「な!?」

 

ドラムを突き飛ばし、ピッコロ大魔王の前に立ったのは……超神水に耐え潜在能力を開放させた、孫悟空であった。

 

「き…きさま…!」

 

「悟空!!」

 

「やっぱヤムチャだったのか!」

 

再開を喜ぶ二人。

その後…一撃でドラムの頭を木っ端微塵にした悟空と、ピッコロ大魔王の戦いの火蓋が切って落とされた。

 




ランチさんヒロイン計画の為、黒筋斗雲には消えて貰った。まぁ原作にあるかわかりませんですし。
そして適当な理由をつけてカリン様にも動かないでもらう。

ヤムチャが電子ジャーの穴に気付かなかったのは、ピッコロ戦前にテンションが高まって周りが見えなくなっていたのと、原作の天津飯より魔封波の威力が少なかった為ひび割れと穴が小さかったからです。


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17.天津飯、間に合う

お待たせしました。
今回は勢いだけ感がすごいです。(いつもか)


評価、感想、お気に入り登録等ありがとうございます。


中の都…キングキャッスルで繰り広げられる悟空とピッコロ大魔王の闘いは熾烈を極めた。

悟空が蹴りを入れればピッコロ大魔王も蹴り返し、ピッコロ大魔王が肘を入れれば悟空が殴り返す。

その凄まじい戦いを、既にドラムに電子ジャーを破壊されていたヤムチャはただ見守る事しか出来なかった。

 

 

「いいぞ!僅かに悟空がおしている!」

 

戦いは続き…ヤムチャの目にもその差がハッキリと出始めた。

悟空が少しずつピッコロ大魔王を追い詰める。

だが、このまま黙ってやられるピッコロ大魔王ではなかった。

 

「ゆ…ゆるさん…ゆるさんぞ…!」

 

怒りに震えるピッコロ大魔王。

 

「!?」

 

「ど…どうするつもりだ!?」

 

「おおおお…お…お…!!」

 

ピッコロ大魔王の気が集まり膨れ上がる。

 

「や、やべぇぞ…すげぇパワーを集中してる!」

 

パワーに気圧される悟空の隙をつき、ピッコロ大魔王は悟空の手から戦いの中で機動力を補っていた如意棒を弾き飛ばした。

 

「あっ!!しまった!!」

 

悟空の手を離れ転がっていく如意棒。

 

「棒はなくなったぞ!!」

 

「いかん!素早い動きが!!」

 

ヤムチャが叫ぶ。

 

「終わりだーーーっ!!」

 

ヴォッ!!

 

ピッコロ大魔王の放った爆力魔波の光が、キングキャッスルを包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は少し遡る。

 

 

「誰が乗れないだって?」

 

ランチがドヤ顔でそう言った。

だが、俺が乗れなかったのにランチが筋斗雲に乗れるはずがない。

……まて、何か重大なことを忘れてるような…

 

「ちょっと待ってな」

 

そう言って紙に何かを書き出すランチ。

一体なんなんだ?

 

「な、なんと…そんなことが…」

 

ランチを見つめていたカリン様が言葉を漏らした。

彼女の心を読んだのだろうか。

 

「…よし!」

 

何かを書き終えたランチが、俺の目の前まで来る。

 

「天津飯、これで貸し一つな」

 

「な、なに?」

 

突然の言葉に俺が困惑する中…ランチは自分の髪で自分の鼻をくすぐり大きなくしゃみをした。

……あっ!!

 

「はっくしゅっ!!」

 

金色だったランチの髪が、一瞬にして紺色に変わる。

 

「あ…あらら~?」

 

先ほどまで目付きが鋭くいかにも悪人面だった女性はその面影をなくし、優しい瞳の穏やかな女性が俺の前に現れた。

 

そう言えばそうだった。

ランチはくしゃみで人格が変わるんだ。

実際に会ってからは金髪の方しか見ていなかったのと、1ヶ月の精神と時の部屋での地獄の生活のせいですっかり忘れていた。

 

「げげ!?誰だお前!?どうなってんだ!?」

 

ヤジロベーが驚くのも無理はない…だが、説明はめんどくさいので無視だ。

カリン様は先ほど心を読んでいたので表面上は平気そうだが、それでも驚いているのがわかる。

 

「あ、あなたって天下一武道会に出ていた…」

 

「て、天津飯だ」

 

キョロキョロと辺りを見回していたランチが俺の姿に反応した。

どうやらランチ…こっちの時はランチさんでいいか。

ランチさんの方も天下一武道会で俺の試合を見てくれていたらしい。

 

見た感じだと金髪のランチと紺髪のランチさんは完全に別人格の様で、記憶の共有はしていないようだ。

 

なら…恐らく先ほどランチが書いていたのは、ランチさんに向けた手紙だったのだろう。

自分で自分に手紙というか指示書を出すとはめんどくさい生活してるんだな…

俺がそんな事を考えている間にランチさんはその手紙を読むと、俺の顔と手紙を何度も見直した。

……一体何が書かれているんだ…

 

「…私がこの雲に乗って天津飯さんと一緒にピッコロ大魔王という人の所に行けば良いんですね?」

 

「あぁ…そうしてくれると助かる」

 

危険だなんだと色々思うところはあるが、今は時間が惜しい。

途中まで乗せて貰いあとは舞空術で向かえば良いだろう。

 

「一応ある程度の距離まで行けたらあなたはカメハウスに戻ってもらって構わない。危険だし…ブルマさん達とも会いたいだろう」

 

「え…あ、そうですね。でも、まずは天津飯さんをお送りします」

 

思ったより力のこもった言葉でそう返される。

この状態の彼女とは面識は無いに等しいのだが…原作では何かあっただろうか?

 

その後、ランチさんはカリン様に簡単な筋斗雲の動かし方を習い雲に乗り込む。

俺は筋斗雲に身体が突き抜けたまま彼女の肩を掴んだ。

そして、彼女に負担が掛からないように舞空術を使う。

これは車に自転車を引っ張らせてスピードを出す様なもので…筋斗雲に引っ張られる事で軽い舞空術で超スピードを出せる。

…まぁ、詳しい話は置いといて早速キングキャッスルに向かおう。

 

「頼んだぞランチ、天津飯!」

 

「死ぬなよ!」

 

「はい!」

 

「そ、それじゃぁ行きます!」

 

「よろしくお願いします!」

 

カリン様とヤジロベーの激励を受け、俺とランチさんはカリン塔を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時は戻り…

 

筋斗雲の超スピードで移動した俺は、途中の攻撃の余波が届かないだろう安全な位置で筋斗雲から下りランチさんを置いて舞空術でキングキャッスルに乗り込んだ。

 

俺が上空から悟空やヤムチャの姿を発見した時、ピッコロ大魔王はパワーを集中して放つ寸前だった。

今こそ原作のピッコロ大魔王戦で、唯一天津飯が役に立った瞬間だ。

しかし…これが原作通り俺と悟空だけなら、最悪悟空だけを舞空術で救い出せたのだが…今回は近くにヤムチャがいる。

流石に今の俺でもこの一瞬で離れた二人を同時に舞空術で助けるのは不可能だ…どうする!?

 

 

「終わりだーーーっ!!」

 

ヴォッ!!

 

ピッコロ大魔王の放った爆力魔波の光が、キングキャッスルを包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

「気功砲ーーーーッ!!」

 

ザンッ!!

 

ピッコロ大魔王の放った爆力魔波は、上からの衝撃波で押し潰されその威力を地面へと流された。

ピッコロ大魔王の手前に四角い大穴があき、その中で押し込められた気が爆発する。

目の前で大爆発が起こるが、それはピッコロ大魔王の放つ爆力魔波本来の威力とは遠くかけ離れていた。

 

「な…なな…な…」

 

突然の攻撃で自身の最大の技が潰され、驚愕のあまり声もでないピッコロ大魔王。

爆発の余波で吹き飛ばされてはいたが無事であった悟空とヤムチャは、この結果を生み出した存在を上空で発見した。

 

「「天津飯!!」」

 

「…ぶ…無事か…二人とも…」

 

こうして…天津飯は、ついにピッコロ大魔王と対峙した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「き…貴様ら…」

 

怒りでわなわなと震えるピッコロ大魔王と向き合う三人の男。

1人は自分の恐れる魔封波を使える武道家…1人は自分と互角以上の格闘戦を繰り広げた小僧…そして新たに現れた自分の最大の技を潰した武道家…

ハッキリ言って、ピッコロ大魔王にとって今の状況は絶体絶命のピンチであった。

これが誰か二人だけなら、片方を人質に取って形勢逆転を狙えたのだが…相手は三人。

互いが互いをフォローしあって人質を取ろうにも簡単にはいくまい。

にらみ合いの時間が続くなか、ピッコロ大魔王はふと空に目線を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

正直言ってさっきの気功砲はまぐれとしか言いようがない。

気功砲自体を打つのが久しぶりなのに、あんなギリギリの状況で神様を殺さない為にピッコロ大魔王には直撃させないで放たれた気弾だけを狙い打つ。

流石にすべてのパワーをかき消す事は出来なかったが、あの結果は万々歳だ。

もう二度と出来る気がしないしな。

悟空もヤムチャも無事、キングキャッスルは吹き飛んだが原作のように中の都が全て焼け野はらになることもなかった。

…ひとつ問題があるとすれば、ここに来て早々体力を使い果たしてしまったことか。

今は何とか余裕が有るように振る舞っているが、激しい格闘戦になると途端にボロが出るだろう。

どういうわけかピッコロ大魔王はヤムチャにも注意を払っている。

今の3対1の状況なら、悟空を主軸に戦えば負けることはないだろう。

 

悟空とヤムチャに合図を送る。

いよいよ最後の攻撃を仕掛ける…その時、ピッコロ大魔王の瞳が俺たちの後方の空に泳いだ。

その顔に邪悪な笑みが広がる。

 

「悟空!!」

 

「だりゃぁーっ!!」

 

悪い予感におそわれ俺は悟空に向かって叫んだ。

その声と共に悟空がピッコロ大魔王に向かって飛び出す

だが、ピッコロ大魔王は気弾で土煙をあげ悟空の目をくらませ俺たちを無視して俺たちの後方の空へ向かって飛び上がった。

 

「な、なんだ!?」

 

ヤムチャの叫び声が響く中、俺は後ろを振り返る。

視界に写るのは上空にたたずむ黄色い雲と、そこに向かって猛スピードで突っ込むピッコロ大魔王の姿。

あの黄色い雲は…っ!!

 

「ランチさん!!」

 

俺は残る全ての力を出して空へと飛び上がる。

先ほどの爆発音が気になったのか…こちらの様子を見に来たのであろうランチさんと彼女の乗る筋斗雲。

それに向かうピッコロ大魔王…恐らく彼女を人質にするつもりだろう。

 

「はーっはっはっはっ!!」

 

俺は全速力でピッコロ大魔王を追いかけるが、スタートの差を埋められない。

ピッコロ大魔王の笑い声が驚いた表情のまま固まったランチさんに近づいていく。

クソッ!!このままじゃ間に合わない!!

 

 

「波ーーーっ!!」

 

突然、後ろからかめはめ波が飛び出して俺の横をすり抜けた。

かめはめ波は筋斗雲に手が届く寸前のピッコロ大魔王に向かう。

かめはめ波でピッコロ大魔王の動きを止めるつもりか?

だが、あの程度の威力のかめはめ波ではピッコロ大魔王にはなんの効果もない!!

俺がそう思ったその時、かめはめ波はピッコロ大魔王をするりと避けてランチさんの乗る筋斗雲を四散させた。

突如足場を失った事で重力に引かれて下に向かって落ちるランチさん。

それは、今にも掴む寸前だったピッコロ大魔王の手を空振らせた。

 

「今だ天津飯!!」

 

かめはめ波を撃ったのであろうヤムチャが叫ぶ。

 

「おのれぇ!!」

 

ピッコロ大魔王が唸り空中で方向転換するも、俺が先にランチさんを抱き掴む事が出来た。

 

「天津飯さん!」

 

「喋るなッ!!」

 

ランチさんが声をあげるがそれに答える暇はない。

人質を奪おうと迫り来るピッコロ大魔王。

俺はランチさんを抱き締めたままピッコロ大魔王に飛び出した時の勢いをのせてオーバーヘッドキックを叩き込んだ。

地面に向かって叩き落とされるピッコロ大魔王。

 

「ぐぬっ!!」

 

「悟空ーーーーっ!!」

 

俺は下にいるであろう悟空に向かって叫んだ。

 

「オラの全てを…この拳にかける!!」

 

気弾を放ち爆発音と共に弾丸のように空に上がる悟空。

空中で体制を立て直したピッコロ大魔王がそれを迎えうつ。

 

「弾き返してくれるわっ!!」

 

「つらぬけーーーーーっ!!」

 

「はーーーーーーーーっ!!!!!」

 

 

 

ズンッ

 

悟空の小さな身体が、ピッコロ大魔王に突き刺さり…その身体に大きな穴をあけた。

 

 

 

「や…やった!!」

 

見上げるヤムチャが呟く。

 

「勝った…か…勝ったぞーーーっ!!」

 

悟空が拳を握り涙を流しながら叫んだ。

俺も、ランチさんを抱えたまま彼らのもとへ向かう。

 

…上空で死の間際にピッコロ大魔王が卵を吐いたのを三つ目の瞳が捉えたが、見なかった事にした。

流石に生まれたばかりのマジュニアを狙うことはしない。

ピッコロさんは今後の大事な仲間(予定)だしな。

 

 

 

こうして…何とか俺たちは、ピッコロ大魔王に勝利することが出来たのだった。

 




長かった…やっと終わったピッコロ大魔王戦。

ヤムチャは魔封波の練習でかめはめ波の操縦が上手くなりました。

次はピッコロ大魔王編エピローグだけどまた時間かかりそうです…気長にお待ち下さいませ。


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