『もしも私があの空に飛びたてたなら』 (黑羽焔)
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番外編
番外編1話『ある日の都内某所のカフェにて』
2020/2/28 誤字などを一部修正
2020/2/29 地の文等のの修正および追加
―――― 西暦2026年4月18日
「「「「「「それがレンとフカ次郎との出会いなんですね!」」」」」」
「そ、そうなのよ…」
「「あはは……」」
世間では土日の休みに入った頃。台東区御徒町の裏通りにあるカフェ【DiceyCafe】、その日は【本日貸切】という木札が掛けられ、店には10代の主に女子が集まっていた。
この店で現在開催されているのはVRMMOをプレイし、ゲーム内で知り合ったフレンドがリアルで集まって会話などを楽しむ。俗にいうオフ会である。ここの集まった一同はゲーム毎に異なるが全員プレイヤーの立場だ。
そのオフ会の参加者であるALOプレイヤーである
「SJ1でプロの自衛隊チーム相手に」
「瞬殺という凄技を見せたレンも」
「VRMMOを始めたころは初々しかったんですね」
「その無双も、SJ2でグレネード無双を見せた」
「フカお姉さまの」
「導きの賜物だったんですね」
「お、お姉さま!?」
ALOデビュー当初のレンとフカ次郎のを聞く小さな女子学生6人、こう見えてもお嬢様学校へと通う直葉たちと同じ女子高生なのである。6人の盛り上がりに直葉たちはたじたじとなるしかなかった。
「なんともまあ、女子が集まれば姦しいと言うか」
「くぅ~眼福眼福」
「……若いっていいわねぇ……」
「ですなぁ、アスナさんや」
「……あなたたちもそう歳変わらんでしょ」
『そうですよ。パパやママも十分若いですよ』
そんなやり取りをカウンター側の席にいた一同がそれぞれ呟く。
カウンターの上には端末が置かれており人工知能でありながらキリトとアスナの娘のような存在である『ユイ』が画面に映っている。
「スグには悪いけど当事者じゃなくて良かったと思えるよ」
「コミュ障のキリトじゃあ、あの子たちの相手は無理ね」
「シノンのおっしゃる通りで」
和人は頭が上がらない様子で項垂れカウンターに突っ伏した。
「あの子たちもシノのんと同じGGOプレイヤーなんだね」
詩乃と女子学生6人は『GunGale online(ガンゲイル・オンライン)』といわれるVRMMORPGをメインに活動しているプレイヤーで、詩乃は和人がある事情で参加した大会にて知り合い、女子学生6人はスコードロンというチームを組んで活動しているが今はここにいないプレイヤーに知り合って、本日初顔合わせのためにこのオフ会に参加した。
「そうね。実際に顔を合わせたのはレンとフカ次郎がコンビを組んで参加したSJ2の少し前だけど。教えてくれなきゃあのアバターと同じ子とは思えないわね」
『どういうことなのでしょうか?』
「こういうことよ」
詩乃は明日奈とユイにスマートフォンの画像を見せる。その画像には6人の女性と思わしきアバターが映っており、三つ編みの女子プロレスラーのようなゴツい体躯をもった大女・ファンタジー世界でいうドワーフのようないかつい出で立ち・緑のニットキャップを被った軍人風・強そうなお母さん・海外の女優のような見た目・狐のような切れ目の銀髪、等々一言で言えば『怖くて強そう』と思える特徴を6人はもっていた。
「シノのん、このアバターってもしかして?」
「明日奈のお察しの通り、あの子たちのよ」
『え、えぇー! このアバターがあの子たちなんですか!』
「こういうのよくあるんだよ」
『……現実世界は奥が深いんですね』
驚きの声をあげるユイ。和人からMMOではよくある事と教えられるも、電子の海に生きてきた彼女は未だに信じれない様子でアバターの画像とリアルの彼女たちの姿を何度も見て気になった事を和人に訊ねる。
「そういや、あのJK組と会うことになっていたレンちゃんとフカ次郎ちゃん。あの子たちも俺たちのオフ会に参加するの今回からだろ。少し遅くないか?」
「レンから時間ギリギリの到着になりそうって来てた。もう少しじゃないか?」
一方で、蚊帳の外になっていた遼太郎がカウンターでグラスを拭いているエギルがそうぼやいていた。
――――――――――
「と~ちゃく! この店のようだね"コヒー"」
オフ会のメンバー一同がレンとフカ次郎の話題へ移った頃、ダイシーカフェがある路地通りに2人の女性が現れた。1人目は茶のセミロングに、赤いフレームの眼鏡、身長は165センチと中々の体躯をもっている。本人は気分でちょくちょく髪型を変えるが、今はこのウェーブのかかったセミロングがお気に入りのようだ。
「そうだね"美優"。……美優が盛大に寝坊しなければもっと余裕もって着いたけど……」
2人目は黒のショートに、"美優"と呼んだ女性よりもさらに大きな身長183センチの巨躯。しかし、モデルのような理想的な体系で、本人はあまり着飾ざることはしないが、着飾ってしまえば男性なら思わず振り向いてしまいそうな容姿を持っているのを本人は知らない。
2人は親友の間柄であるが現在【DiceyCafe】にて行われているVRMMOのオフ会の参加者で、店内のメンバーが話していた"レン"と"フカ次郎"のリアルの姿である。
これまでALOというゲームを親友"フカ次郎"と一緒にプレイしている"レン"であったが、ゲームと経ての数奇な出会いと紆余曲折を経てGGOというゲームをプレイすることになり、同ゲームで開催されている大会にも参加することになった。
その第2回目大会にて"フカ次郎"と共に、曰くあるプレイヤーの生死を賭けるような戦いを繰り広げ、その発端となった対戦相手側のプレイヤー達からの申し出によりリアルで会う事となった。
しかし、日時と待ち合わせ場所だけ伝えられた"レン"は少し心配になり"フカ次郎"へと相談。彼女は「可愛いグレネーダーがついて行ってやる。東京までの足代を出してくれてもいいのよ」と先方に伝えたところ、あっさりとOKが出て往復チケットの引き換え番号がメールで送られてきたことによって、"フカ次郎"の上京が決定。昨日の夜東京へとやってきた。
お誘いしてくれた死闘を演じたGGOプレイヤーとの約束は日曜日だが、申し出のあった同日にALOにて一緒に遊んでいる子からもこんなメールが来た。
『4月18日の土曜日みんなで集まるんだけど、よければレンも来ませんか?』
内容はオフ会の誘いで、先方との約束は日曜日で被ることはありません。二人はどうしようかと考えましたが、
『こういう機会はそうそうないんだし、せっかくだし行っちゃおうか』
"フカ次郎"のちょっとばかり軽い?は置いといて、長らく画面の向こう側で遊ぶ子たちの事に少しばかり興味をもった"レン"も"フカ次郎"に押される形で参加する方向に決めました。そうしたら、
『……あ、あの子たちのおもてなしどうしよう』
『う~ん…、せっかくだし。あの子たちも誘うっちゃおう』
『えっと、さすがに迷惑じゃないかしら』
"レン"はGGOにて1回目の大会で死闘を演じ、2回目は目的のため協力関係となったプレイヤー達のことを思い出しました。実はリアルにて、"レン"が通う都内某女子大学の敷地内でそのプレイヤー達とばったり出会い、今では交流する間柄となった彼女たちを土曜日におもてなしをする予定でした。
その対案として出したフカ次郎の少し図々しいアイデアに、レンもこれは遠慮されるんだろうなあっと、ALOメンバーにメールで聞いてみたところ
『SJ1のラストで死闘演じた相手だよね。レンの知り合いだったんだね』
少しばかりリアルの事もかいつまんで話すこととなりましたが、
『会場予定のマスターさんに聞いたらいいって』
まさかのOKが出てしまい、
『お茶会がオフ会ですか。わぁ! 迷惑じゃなければ私たちも参加したいです』
とお誘いの相手からもまさかの快諾でトントン拍子と事が運んでしまったのである。
「ほいじゃ、あの子たちも先に着いているようだし入っちゃおうか。コヒー、初のオフ会だけど」
「わかってる。基本はキャラネームで呼び合うんだよね」
二人は一緒に店のドアを押し開いた。
――――――――――
店内に響くベル音に店内にいた一同の話は静まり、一同の視線が店の入り口であるドア方面に集まる。そこに黒髪の長身女性と茶髪の女性がいた。
「いらっしゃい! お客様、本日は貸切なんですが」
「あ……、ここでVRMMOの集まりがあって」
「私達はその参加者なんです」
この店のマスターであるエギルの浅黒い肌の長身に少し驚きつつも参加者であると伝えた黒髪の女性はテーブルにいた女子学生の姿に気づく。女子学生6人組もこちら側に気づき微笑み小さく手を振ってくれた。
「そうでしたか。それじゃ確認と自己紹介のためにキャラネームを……」
「あ、待ってエギル。残り2人だし、私たちが当ててみるから」
エギルという人物を制して里香が代表して立ち上がる。里香は二人を一瞥すると茶髪の女性に声をかけた。
「もしかして……あなたが"フカ次郎"?」
「イエース! 私が"フカ次郎"こと『篠原 美優』。北海道に通う大学生で~す」
「あぁ、やっぱり」
ポーズを決める美優。VRMMOの世界では"フカ次郎"と呼ばれる彼女に店内にいたみんなは「あー、やっぱりか」などと感想を漏らす。フカ次郎のALOでのアバターはリアルの姿に近く、髪型を金のロングのストレートにしたくらいで、その容姿からすぐに見抜かれたようだ。
「で、こっちの方は」
来訪した女性の一人が"フカ次郎"で、残る参加者は"レン"だけだが彼女のアバターは150cmも満たない小柄で華奢な体系の少女。
里香の目の前には長身の女性が立っている。
「で……残りの参加者は1人だけなんだけど。あなたは?」
「え…えっと」
一同の視線が黒髪の女性に注がれる。しどろもどろする黒髪の女性であったが、
「大丈夫。私がフォローするからさ、それにあの子たちもいるんでしょ」
美優に促され、「うん」と擦れたような声で答える黒髪の女性は里香に携帯端末を差し出した。
「"レン"!? だけどこれって」
携帯端末にはゲーム内で取ったと思われるスクリーンショットが2枚あった。そのスクショには共に150センチに満たない華奢な少女が映っており、1枚目はくすんだグリーンアッシュの髪色で弓矢を携えた妖精のような風貌、2枚目やや濃いボーイッシュカットの茶髪に長さが50センチほどの長方形の箱をえぐったような銃を携えた少年兵のような風貌でした。
「こっちはALOで、こっちのはGGOでのレンのアバターだよ」
里香の動揺に思わず立ち上がり、一緒に携帯端末の画像を見る直葉と珪子。スクショの撮り方的に遠くや隠れて撮ったものではなく、自撮りで撮ったような視点であると思われる。
長身の女性は一同に深々と頭を下げると、意を決して声をあげる。
「……初めまして。私、『小比類巻 香蓮』と言います。その…こんななりでイメージとかけ離れているかもですが、ALOとGGOというゲームで"レン"というアバターでプレイしているプレイヤーです。美優、フカ次郎とはVRゲームの師匠で私の親友です!
……って、あれ?」
緊張しながらも自己紹介をし頭を下げる香蓮。しかし、静まり返ったのに気づき、自己紹介を打ち止めた。困惑した表情で店内の一同を一瞥すると、
「「「え、え。えええぇぇぇぇぇーーーー!!!」」」
目が点となっていた直葉・珪子・里香であったが、数瞬の後に、我を取り戻すと驚きの声をあげ、
「あ、あの子が噂のレンちゃん!!!」
「落ち着け!」
「グボァ!」
遼太郎は明らかに取り乱したような様子だったのをエギルが物理的にシャットダウンし、
『パパ、ママ。これもMMOあるあるなのでしょうか?』
「えっと…それは」
「……あるあるだけど、ここまでのを見るのは俺も初めてだわ……」
ユイの純粋な疑問に和人と明日奈はただ苦笑いを浮かべるしかなく、
「やれやれね……」
「ですね」
そんな惨状の中、詩乃はやれやれという感じで見ていた。こうなるのをまるで知っていたかのように振舞えるのは、GGO内にて"SHINC"というスコードロンを組む子たちからレンのリアルの情報を障りだけ聞いていたのだ。
「あ、え? えっと…、やらかした?」
「やらかしたね。鮮烈なレンのリアルデビューって意味でさ」
ぼやくレンに決まったねとびしっと親指を立てるフカ次郎。香蓮の顔はみるみるうちに真っ赤になり、恥ずかしさのあまり顔を抑えた。
「……せっかく勇気を振り絞ったのに、恥ずかしいよぉ……」
ある意味、スピンオフと原作を繋げてしまった話でもある。女子学生ですが、お察しの通りSHINCのあの子たちです
以下、構成内容の変更
3話にてフカ次郎の過去話を入れる…とありましたが、いざ構成してみたところ章単位になるほどの長さになってしまったので本編のために分けようかと考えている次第です。
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本編
第1話『もしも私があの空に飛びたてたなら』
2018/6/30 文の被りなどの表現などを修正
2019/3/17 『誤字報告』での誤字修正完了
SAO事件 ――― 「完全ダイブ(フルダイブ)」というVR技術を活かしたマシン『ナーブギア』の性能を活かした世界初のVRMMORPG『ソードアート・オンライン』。完全なる仮想で構成された世界にてログアウト不能、ゲームでの死=現実での死に直結するデスゲームと化した事件。
2年かけてクリアという形で一通りの結末を向かえ、VRゲームは衰退するかと思われた。
しかし、運営パッケージ『ザ・シード』が登場・拡散され様々なVRゲームがリリースされた。SAO事件での危険性を忘れるかのように没頭するプレイヤーの数が増加の一途をたどっているらしい。
《五感で楽しめるゲームはプレイヤーを違う人生へと誘う ―――》
「……現実とは違う世界」
何気なく見たテレビでのVRMMOのニュースにぽつりと呟く私。そんな謳い文句に誘われ、私『小比類巻 香蓮(こひるいまき かれん)』は淡い期待も持ちつつ、そのような非現実的な世界に憧れと興味を持った。
思い立ったが吉日、実家から早めに切り上げ行動を起こした私はVRMMOゲームへログインする準備が終えていた。
《コヒー、インストール終わった?》
「うん、ログインできるって」
通話しているのは北海道にいる親友『篠原美優(しのはら みゆ)』。彼女は複数のゲームをやり込んでいるヘビーゲーマーで、VRMMOを始めようとしていた私にアドバイスをくれただけでなく、ALO(アルヴヘイムオンライン)というファンタジーの世界観のRPGを勧めてきてくれた。……美優の熱意に唯々愛想笑いしかできなかったけど。
《よおし、翅の生えた妖精となって冒険だっ! ……あたしのアカウント名は覚えてるよね》
「…覚えてる」
《ログインしたら最初に立ってる場所で待っててね》
「うん……」
《検討を祈るぞ。……あっちの世界でまた会おう》
美優をそんな口約束をすると通話を切る。寝室のベットに座ると、パソコンに備え付けられた2つのリングが並んだ円冠状の器具、フルダイブを行うためのVRマシン『アミュスフィア』を目の前に持ち上げる。
(これを被ってやるんだ)
今更になってこんな小さなマシンで違う世界が見れるのかと疑問に感じるがパソコンに繋げたアミュスフィアを頭に装着すると、ベットに横になり目を閉じる。
「リンク・スタート!」
そして、仮想現実へと入り込むための
――――――――――
【現実と理想の狭間にて】
気が付けば、暗く何もない空間に立っていた。夢のようだなと思えたけど自分の意識ははっきりしている感じがする。
《アルヴヘイム・オンラインへようこそ。最初に、性別と名前を入力してください》
「わっ!」
思わず声をあげてしまった。目の前にSFの映画で出てくるような空中に浮かぶウィンドウや合成音声からALOというゲームの世界に入るための”
合成音声の案内に従って、アカウント及びキャラクターの作成を開始する。
(キャラクターネームは……本名はだめだよね。それならもじって”レン”。被らないように綴りも…”LLENN”かな。種族は美優と同じ)
IDとパスワードを入力し、続いてキャラクターネーム。種族は9種類もあるだけど美優と同じ”
(そういえば……仮想現実の私ってどんな人になるんだろう?)
キャラメイクの最後の確認画面にて決定を押そうとしたが、自分が操作することになるアバターがどういう者になるか考えてしまう。
(アバター関連の細かい設定は……ない?)
脳裏に浮かぶ一抹の不安。登録内容を見返していても、アバターへの細かい設定は出来なさそうだった。
(……ここで指定できないってことはランダムだよね。もし、今と同じ大きいだけのアバターだったら……)
現実世界での私が持っているコンプレックス……それは長身であることだ。小3からどんどん伸び続け、19歳でなんと"183㎝"もある。それは昔から大女と馬鹿にされたり、自分に合う服がなかったり、それはいい思い出はないと断言していいほどだ。そのせいでどんどん無口になり、家族や美優みたいに親しい人以外との関係は疎遠となってしまっていた。
北海道帯広から上京して女子大に通っているが、エスカレーター式という環境も災いして友達作りに失敗し、無口で引っ込み思案で自分のことを表に出さないせいで人間関係のほうは今もうまくいっていない。
(どうしよう……どうしよう)
コンプレックスによる劣等感、それに生ずるトラウマが思い起こされて、心拍数がはち切れんばかりに高まってしまう。このままではアミュスフィアに設定された強制終了機能が働いてしまう。
『きっとコヒーも気に入るよ』
(……美優)
考えが堂々巡りする中、私はVRMMOに興味を持ったことを美優に打ち明けたことを思い出す。
『ゲーム仲間が増えるなんて本当に嬉しいよ!』
数少ない友人でもあり、いつも私の事を気にかけてくれていた。共通の趣味の友達になったことを本当に心から喜んでた。一緒にやりたいと後押しもしてくれた。
私がVRMMOゲームをやろうと決めた理由がなんであるかもう一度考え直す。
(……リハビリになるかもって、もう決めたんだ。”違う世界”で変わるんだ!)
美優の言葉で改めて決めると少し落ち着きを取り戻した。
(でも一つだけ……もしも神様がいたら、小さくて可愛いアバターでお願いします!)
私は目を瞑りながらキャラクリエイトに必要な情報を入力し終えたウィンドウの決定キーを押した。
《シルフ領への転送開始します。ご武運を……》
――――――――――
【降り立ったのは……】
合成音声のアナウンスの後、足元が消えたような疑似的な感触が私を襲う。それは、一瞬の出来事だったようで、騒めきたつ声が聞こえてくる。
「……わぁぁ~!」
私は恐る恐る目を開けたが、そこに広がっていた光景に先ほどまで怖がっていた気分が一瞬で吹っ飛んでしまった。
まず目についたのは一際高く立っている塔、その周辺に無数に立っている小さな塔と繋がっており一種の空中回廊と化している。ジェイドグリーンに統一された街並みに、中世の頃と思わせるの衣装に身にまとった人……いや、尖った耳・獣耳や尻の生やしている者、中に翅を生やし空を飛んでいる者さえいた。現実世界では決して見ることのない御伽噺のような光景がそこに広がっていた。
(ここがゲームの世界っていうの!? 仮想世界なのに、まるで夢の中の世界みたい)
ゲームの世界とは言え、もうひとつの現実とも呼べる再現性。アミュスフィアを通して流れてくる情報は仮想世界をもう一つの現実だと認識させるに十分であった。
(……おかしいな。なんか…いつもより視線が低い?)
現実世界での私はその長身から見下ろす形が当たり前の視線である。しかし、今は逆に見上げている形となっている。
あたりを見回していると緑色の髪や金髪、美優から聞いたシルフ族と思わしき特徴のキャラが大多数。あとは赤や青などのその他がまばらといった感じだ。
(シルフって長身のキャラが中心? だったら、今の私は!?)
観察してみるとシルフ族を思わしきキャラは長身が多いことに気づいた私はその違和感を払拭するために近くにあった鏡で私のアバターを見てみることにした。
「嘘っ!? これが私……可愛い。この子、可愛いっ!」
自分のアバターを見て周りの目を憚らず叫んでしまう。鏡に映っていた姿は身長150㎝にも満たない緑を基調とした服を纏ったチビな少女。華奢な体系で丸顔。髪はグリーンアッシュにショートカット。他の一般的なシルフ族と同じで尖った耳となっていました。
「うわっ、ちっちゃい!」
「男の子かな? それとも、女の子?」
「可愛い~。あんなアバターもあるんだ」
(可愛いって言われた! ……えへへ~)
口々に呟いてくる人々。それを聞いた私の口元は明らかに緩みきっていた。
「へいっ! そこの彼女!」
「え? (…うわぁ…綺麗な人だ……?)」
そんな中、唐突に話しかけてくれた声に私は振り向いた。そこに立っていたのは身長は160cm前後でロングのストレートな金髪のシルフ族の女性がいた。おそらく美人であると答える人が占める容姿をもっていた。背中には身の丈と同じくらいの大きさの剣を背負っている。
「珍しいアバター引いたね。ニュービーかな?」
「……えっと…えっと」
唐突に話しかけられしどろもどろしてしまう私。はて、この口調は?
「困らせちゃったかな? ごめん。実はさ、今日私のリアルでの友達がALOデビューでね。私と同じ種族を選ぶって聞いてたから探しているんだ」
『ALOデビュー』で『同じ種族』……初対面なのに気にもしないガサツすぎる口調、まさかね!?
「……美優?」
「へ?」
反応があった……このシルフ族の人って。
「コヒー…コヒーなの!?」
私の現実での呼び名で呼ぶ女性。間違いない、美優のアバターだ。こんなに早くに会えるとは思ってもなかったよ。
――――――――――
【空を自由に飛んでみよう】
「リアルネームはマナー違反だからね。ここでの私は『フカ次郎』って呼んでね」
「分かった。……私は『レン』って呼んで」
あれから騒ぎになりそうだったので憩いの広場のベンチに腰掛け、互いに紹介を済ませた。
「愛犬の名前だよね。って、なんで『フカ次郎』なの」
美優のアバター名にツッコミを入れる。美優…もといフカ次郎曰く、
子犬が飼いたかったけど不可能
↓
飼っていた文鳥が『篠原太郎』
↓
次男だから2つを組み合わせて『フカ次郎』
というのが命名の大本らしい。
「いい名前っしょ? ……嗚呼、フカ次郎や天国で安らかに」
フカ次郎のノリに呆れた笑いを浮かべる。
「それにしてもさ。追加料金払ってエディットしたのかな?」
「追加料金…エディット? 初期設定で全然出来なかったよ」
「……ということは利用してない。運がよかったね」
フカ次郎からアバターのエディット機能が課金ありだが可能だという事を聞いてしまう。どうやら、私は手心なしの完全ランダムで理想的なアバターを引いてしまったようだ。
「ごめん! コ…レンが身長のこと悩んでいるってすっかり忘れててさ。ちゃんと説明しておけばよかったよ」
「ううん、いいよ。こんなに可愛いアバター引けたから、キャラメイクで気が付いて心臓バクバクとしてたけどね」
「寛大な御心……感謝したく存じ上げる」
平謝りするフカ次郎を私は許した。自分の責任ではないし、実害はないからね。それを聞いたフカ次郎は安堵の表情を浮かべる。
「レンのALOデビューはこうして果たされたわけだけど教えることが多いな…まずは、空飛んでみよっか」
「空を?」
"よく出来た仮想現実"を五感を使って体験するにはALOのセールスポイントである飛行が一番らしい。そうフカ次郎が説明に付け加える。せっかく、この世界に入ることもできたし私はその提案に乗ることにした。
街の近くの中立域と言われる場所に繰り出した私はフカ次郎の指導の下、飛行訓練をすることにした。
「えっと、チュートリアルは…」
「あんなのやんなくてもいいよ。そんな事より実際にやってみよ」
フカ次郎に促されてチュートリアルなしの訓練となってしまった。最初は左手を握るような形にすると現れる専用のコントローラーによる練習を行う事にした。
「ふ…フカ次郎!」
「あはは…この世界での私等は妖精だ。だから、翅が付いてて当たり前なのだ。レンにも生えてるよ」
フカ次郎の背中に透き通る緑色の翅が生えていた。それに驚いた私だったが背中を見ると同じような翅があった。
ウィンドウの説明文を見ると、手前に引くと上昇、押し倒すと下降、左右で旋回、ボタン押し込みで加速、離すと減速らしい。
「ま、最初はこんなものだよね」
黙々と練習。徒競走ではビリな私だったけど、ふらつきながらもなんとか様になってきた。
「よし、次のステップだ」
現場主義のフカ次郎の手によって次のステップへと進む。随意飛行と呼ばれるコントローラーなしでの操作を教えてくれるらしい。
「これが出来れば空を飛ぶことがもっと楽しくなる」
「いきなりは難しいよ」
「試練を乗り越えてこそ、勇者は成長するのだ!」
「勇者じゃないし……」
「ま、同じシルフ族から聞いた感覚を養ういい方法がある。背中貸して」
くるりと体を半回転させ背中を貸す。フカ次郎が背中の肩甲骨の少し上に手を添えた。
「今触ってところから、仮想の骨と筋肉が伸びていると想定して」
「う~ん」
「イメージの問題。『動けええええええ!』と念じながら動かしてみるのだ」
どこのキャラクターだよと思いながら、フカ次郎の言う通りのイメージを意識し、4枚の羽を動かそうとする。少しづつだがぴくぴくと小刻みに震えてきた。
「もっと強く」
さらに強く羽が振動し始める。それが一定になったところで、
「よし、鳥になってこい!」
イイ笑顔をしたフカ次郎がいきなり背中をどんっ、と思い切り押し上げてきた。
「ふぇ?」
リアクションする間もなく、私の体はロケットのように飛び出す。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「おお~、新記録~!」
あっという間に遠のいていく私。当の元凶であるフカ次郎は私が吹っ飛んでいく光景を面白おかしくあざ笑っていた。
――――――――――
【浮遊城】
あれからフカ次郎に捕まえてもらい。なんとか止まれた私はほっぺを膨らませてポカポカと八つ当たりをした。危うくトラウマが増えるとこだった。
それでもフカ次郎のレクチャーと反復練習で様になってきた。
「あのドンくさいコヒーがねえ。フルダイブの世界でここまで動けるなんてね。貴様…持っているな」
「一言余計!」
「まあ、友人から聞いた荒療治がここまで効くなんてね。そのおかげで自由に飛べるようになっただろ?」
「まあ、そうだけど……」
フカ次郎の感覚を養ういい方法は、シルフ族の中でも上位の飛行技術を持っている子から聞いたらしい。その子は、シルフ族の中でもトッププレイヤーに位置するほどの実力者ということだ。同種族ということで面識があるらしい。
「飛んでみてどうよ。レンちゃん」
フカ次郎のおかげでこうして自由に飛ぶことが出来るようになったわけだけど、悪い気はしない。彼女の言う『飛ぶ事の楽しさ』をその身をもって体験している。現実世界で同じような事は恐らく無理であろう。内心、それをこんな身近で体験できるなんて心が躍っているのは確かだ。
「フカ次郎、見せたいものって何?」
「それは見てのお楽しみというやつ…お、見えてきた」
はぐらかすフカ次郎に追随して飛行する。今私たちは遥か上空にいる。目的地はエルフ族の首都スイルベーンから少し遠い位置にあるということで適当な装備を見繕って遠出をすることになった。装備代はフカ次郎の奢りらしい。どうやら、実力行使の侘びのような形らしい。
目的地に近づくと、不意に、ゴーン、ゴーンと重々しく響く音が遥か遠くから聞こえてくた。それは雲海をかけ分けてその全容を晒してきた。
「わぁ…フカ次郎。あれは!?」
驚きのあまり言葉をうまく口にできない。そびえ立った大きな構造物。円錐形の物体で、幾つもの薄い層を積み重ねて作られているそれにフカ次郎は口を開いた。
「――浮遊城アインクラッドだ」
「あのソードアート・オンラインの!?」
ソードアート・オンライン、ある意味伝説となったゲームの舞台がそこにあった。VRMMOをやるための下調べをした際に私は知った。
「ただ飛んだり、お喋りしたりするってのも一つの道だよ。だけど、せっかく御伽噺の世界に来たんだから冒険するっていうのも一つの道さ」
「そうなんだ……フカはあそこを」
「うん、他のプレイヤーと攻略したいと思ってる。目標はデカいほうがいいってね」
「ここに連れてきたのは」
「レンにこの世界の事…もっと知ってもらいたかったから。うれしかったんだ。こうやって、レンと同じ世界を共有できるなんてね」
フカ次郎は明確な目的を話してくれた。フカは仮想現実の世界なのに明確な目的を持っている。
(フカ次郎…そこまで私の事を)
私はこの世界に来る最初の段階で理想的なアバターを引いて、それだけで舞い上がっていた。だけど、それ以上の目的は考えてもすらなかった。
(私に何ができるんだろう? 一緒にやってほしい?
親友の一押しがなければ、私がここまで来ることはなかったかもしれない。あの時、長身のアバターだったら、私はこのゲームを嫌いになっていたかもしれない。
(それが私が変わるためのきっかけになれば)
等と色々考えてみたが、もう少し我儘になってもいいかなと思えてしまった。
「フカ次郎、聞いてほしいことがあるんだけど」
「ん、どした我が親友よ」
「あのね…私、こうやってフカに色々教えてもらってここまで来れた。だから…もっとこの世界で楽しみたい! フカと一緒に!」
私は心で思ったことをフカに打ち明ける。フカはキョトンとした顔で私の事を見ていたが、
「先に告白されちまった~。……うん、一緒に冒険しようって誘うつもりだったけど、レン、私と一緒に冒険してくれないかな」
フカ次郎はにぱっと蔓延の笑みを浮かべていた。フカの誘いに私はこくりと頷いた。
『ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン』のアニメ版にはまり、もしもALOデビューに成功してしまったらという構想の元、Twitterでも色々意見呟いていたのを元にして描いてみました。
ちょっと最後は力尽きた感が大きい……。
〈人物設定〉
●レン(LLENN) / 小比類巻 香蓮(こひるいまき かれん)
AGGO主人公。本作品では長身の美女アバターを引いてしまった彼女が理想的な『当たり』を引いてしまったという前提での香蓮(=レン)視点での作風となっている。
ALOアバターは原作とは違い、GGOのアバターをシルフ族化したもの。イメージとしては髪色をくすんだ感じとしてグリーンアッシュに、ALOに習い尖った耳にした。その他はGGOのものと変わりはない。
●フカ次郎(Fukaziroh) / 篠原 美優(しのはら みゆ)
レンのリアルでの親友でもありALOなどのMMOに誘った張本人。ALO時のアバターが原作では『エルフの美女』・GGOの際に『ちょっと胸がないのが気になるんだけど』という決定的なセリフがあった。それを反映しGGO時のアバターを大人に、さらにリアルの容姿も若干加えた感じにしてある。
武器は両手剣(原作ではライフルで敵プレイヤーを撲殺した時のセリフから)。
●シルフ族のトッププレイヤー = リーファ
フェアリィ・ダンス編ヒロインであるあの子である。フカ次郎がいつからALOをやっているかがわからなかったが、フカ次郎自身ALOではそれなりに知名度を持っている事・同じシルフ族ということで顔見知り程度には親交があったのではという設定。
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第2話『R&F Start up The Faily Tales』
2019/3/17 『誤字報告』での誤字修正完了
side:レン
2025年8月も末に差し掛かるころ、VRMMOのひとつALOを始めてあっという間に1か月が経ちました。こう言うのもなんですが、趣味も少なければ、東京に友達もいないし、大学は今は夏休みだけどサークル活動などをしていない私にとって時間はむしろ有り余っている。その有り余った時間で私がVRゲームにのめり込むのはあっという間でした。
美優の言っていた"素晴らしくよく出来た仮想現実"。私はそこで"理想的な自分"を引き当てたことでその世界にのめり込むのにはそう時間がかからなかった。幸い"どっちが現実だっけ"と受け取る膨大な情報から自分を見失うこともなかったが、私は現実と仮想の区別をつけるためにメリハリをつけてVRゲームを楽しんでいる。
いつも物事をやる前に計画を練る私はVRゲームを日常に取り入れる際に決まりを設けた。平日はもとい休日であっても時間を決める事。勉学は疎かにしないように努める。先になるけど試験前は多分減らすか終わってからにするんだろうな。
「よぉし、こーい!」
美優のアバターである『フカ次郎』、私は『フカ』って呼んでるから以降はそのように表記する。
フカが向かってきた猪のようなモンスターに対して身の丈程ある大剣を上段に構える。このモーションに反応し持っていた大剣にオレンジ色に染まるとそのまま振り下ろす。フカの行った一連のモーションは『ソードスキル』と言い、ALOに大型アップデートが来た際に追加された機能で各武器に付与されたいわゆる必殺技だ。
ALOのシステムは当初、キャラの能力とそれを操るプレイヤーの反応速度に大きく依存する仕様だったが、大型アップデートされた際に旧SAOの良いところを取り入れたようで、『ソードスキル』などシステムが自動的に動きをアシストしてくれるのもあり私みたいな初心者にも易しい仕様となったそうだ。
「吹っ飛べーーー!!!」
オーラが纏われた大剣は突進してきたモンスターに勢いよく振り切る。大剣下位ソードスキル《アバランシュ》の一撃と猪モンスターの突進と真正面からぶつかり、衝突した際に大きな閃光のエフェクトが発生、フカのソードスキルが勝りモンスターを文字通りぶっ飛ばし地面を転がす。猪モンスターは何回転かしてようやく止まり、頭上に表記されたHPゲージがみるみるうちに減少していき、瀕死の状態を示す赤色を示す。
「レン、トドメ!」
フカの合図を受け後方にいた私は死に体のモンスターに向かって草むらから駆け出す。起き上がろうとするモンスターまであと1メートルのところで一瞬タメを作るようなイメージで右手に持った短剣を構える。
「やぁっ!」
フカと同じようにエフェクトを纏わせた短剣を猪モンスターへ目掛けて放つ。短剣下位ソードスキル《ファッドエッジ》による4連撃は猪モンスターを切り裂き、最後の一撃は首元に命中したようでクリティカル判定となり、残っていたHPは総てなくなり、モンスターは断末魔をあげ、その身体は砕け散った。
「やった……やったよ!」
「レン、ナイス!」
「いぇい!」という感じでフカとハイタッチ。フカは時間が合う限り初心者の私とパーティーを組んでスキル上げや資金稼ぎを手伝ってくれている。一種のコンビのような感じだ。
「ん、またパラメータ振れるや」
今日はフカに連れられて普通なら初心者お断りに近いエリアでレベリングを行っている。私一人だったらあっさり返り討ちだが、ハイレベルプレイヤーであるフカは「ソロで制圧できる」との事だ。フカがギリギリまで削って私がトドメを刺すというハイエナみたいな稼ぎだが、私基準で高レベルのモブ狩りを行っているせいか膨大な経験値が入るから効率はかなりよい。
ALOのゲームシステムは昔あった某竜退治のRPPGゲームのようなレベル制ではなくスキル制。例えば短剣のスキルレベルを上げたければ短剣を使用してモンスターを何匹も倒すなどで上げれるが、経験値が一定以上増すと基礎能力を割り振ることもできる。
「ほうほう。敏捷性と器用さ特化か~」
「うわっ、いきなり覗き込まないでよ」
フカが私の頭越しにステータス画面を覗き込んできたため思わず声が出てしまった。VR世界での私は150センチも満たない小柄で、一方のフカはリアルの世界と変わらない背丈のため頭一つ大きい。
「サブが筋力なのはわかるけどさ、なんで運?」
「……運がいいと助かるかもって思って」
「運は基本死にステなんだよなあ……」
徒競走ではいつもビリだったし小柄な自分になったからこそ速く走りたい。そんな影響がもろに出たのか、メインは敏捷性、器用さがあれば何か作れるかなと時点で選んだ。サブは筋力と運……だったが、フカから運のステータスは基本的に戦闘では役に立ちづらいというのが常らしい。
「ま、レンらしさが出てるって言うのかな。あ、まだ伸びしろあるなら知力は若干振っといた方がいいよ。専門職じゃなくても魔法は初期回復でもいいからある程度持っていた方がいいし」
「魔法? フカって筋力特化だよね」
フカは筋力特化のビルドだ。やり込んでいるのか他のステータスも非常に高い。今の私のステータスだと敏捷値がようやく追いついたといった感じだ。
「そだよ。この相棒を思う存分振るうためにね。……って言っても、使っているのは簡単な強化魔法くらいかな」
(フカには悪いけど……私から見れば『ぶっさいく』な武器なんだよなぁ)
フカが背中に納刀した幅の広い刃の大きな剣を引き抜く。エルフなのにフカの目を輝かせて熱弁していたフカには悪いけどのセンスは独特だなと思う。ただ大きいだけの武器は私のコンプレックスもあって好きになれない。
そんな脳筋のフカでも魔法使ってるし、使えばもっと速く動けるかなと魔法を使った私を想像してみた。……うん、いいかもしれない。
「そう言うなら、少し振ってみようかな。……モンスターいなくなったね」
「だね。今日はこの辺にしよっか」
1日が16時間というALO世界では昼だが、現実世界の時間は深夜を指してたので解散の運びとなった。私と美優はスイルベーンへと、明日も機会が合うという事で待ち合わせ場所を決め、その日はログアウトした。
――――――――――
「装備を買い替えたい?」
翌日、フカと待ち合わせたスイルベーンの喫茶店にて私は装備を整えたいとの旨を打ち明けた。
「うん、お金も貯まってきたし」
「そういやレンってアタシが買った装備のままだったね」
新しい装備にどのくらい資金がかかるかわからなかったので、最初に買ってくれた装備を強化して使いまわし、フカとのコンビ狩りの他にインターネットの攻略サイトで情報を集めてソロ狩りを行って出来うる限り稼いでいたのだ。
その資金が目標に達していたし、ステータスや短剣のスキル値も上がってきたし、そろそろ一新すべきかなと思ったわけで、
「武器もさ。これ以外にもひとつスキル上げようと思ってるんだ」
「何々、昨日のアタシのアドバイスから魔法使うの?」
「いや、パラメータも大分振っちゃったし。それなら私の能力を活かせそうな武器を調べておいたんだ。……チュートリアル全部やる羽目になったけど」
「うへぇ~、アレ全部やったの……」
フカは苦虫を噛みつぶしたような表情で言う。私はコツコツやるのが性に合っているが、フカはオンザジョブトレーニングという現場主義な方針。大雑把であり堅苦しいのはどうも苦手のようなのは相変わらずである。
……随意飛行もそんな感じだったしね。
「攻撃魔法って離れたところから放つ感じだし、それで一方的にやられそうで」
「あぁ……アタシもそういう奴らは非常に面倒だわ。それで馬鹿正直にチュートリアルやって、合いそうな武器見つかったの」
私はこくりと頷く。が、フカはどこかぎこちなく見えたのに気が付いたようだ。どこから口ごもりつつも私は答えることにした。
「……しっくりときたのが弓だったんだ」
「ほうほう。レンのパラメータなら要求値も満たしてるけど、結構難しいよ」
「……狙撃はへたくそだったけど、動き回りながらだったらうまくはいった」
弓は弱攻撃と強攻撃の2種類の基本射撃があって、強攻撃は遠距離狙撃の専用のモードで……"心を落ち着かせて撃つ"というのが出来ずに成績はボロボロ。半面、ロックオンして動き回りながら撃てる弱攻撃の方が成績が良かったという両極端な結果だったよ……。
「そっか。レンがちゃんと考えた上でなんだね。なら、好きにしなよ。これはレンの物語なんだからね。アタシもできる限り手伝うからさ」
「フカ、ありがとう!」
快諾してくれたフカに席を立ち、目を輝かせて詰め寄る私。その光景に周りの人から好機や微笑ましく見られていたことに私たちは気づかなかった。
――――――――――
side:フカ次郎
香蓮がVRゲームを始めてから1か月、この世界にいい感じにのめり込んでくれたようだね。しっかしまあ、目標ができたのか随分と志が高くなったというか、もの凄く生き生きとしてる。香蓮とは付き合いが長いけど、こんなに楽しんでいるのを見れてアタシも嬉しい。
そんな訳でスイルベーンのアタシ行きつけの武具店に来たわけだけど、
「……似合わない。もっと小さいのない?」
"明らかに不機嫌です"と顔に書いてあるような表情を浮かべ、鏡の前で四苦八苦しているレンがいた。さっきからのこの調子で店内にある弓をとっかえひっかけで品定めしている。
店内に置いてある弓は『ロングボウ』が主流で大体120センチくらいの大きさだ。150センチも満たないレンが持つとどうしても子供が背伸びをして真似事をしている感じになってしまっている。
その格好にアタシはクスクスと笑ってしまっていた。
「フーーーカーーー!!!」
「ごめんごめん」
スキル値は問題ないようでレンが妥協すればよさそうなんだけど、本人が納得しないだろう。困ったことに、弓のガテゴリーに関してはアタシもそう詳しくはない。レンに合うのはあったかなあ。
となると、個人が作った武具か伝説級武器(レジェンダリーウェポン)? いや、伝説級武器(レジェンダリーウェポン)は今のレンじゃあ難易度がダンチだ。参ったなあ、個人で店をもっている職人の知り合いもいないぞ。
「いったい何の騒ぎなんだろう」
「およよ」
うねった頭で考えていると、騒ぎを聞きつけた野次馬の一人に見知った人を見つけた。緑がかった金髪が特徴でポニテに結っており、若草色の長刀を携えたシルフの少女が目の前の状況に理解が追い付かず目を丸くしていた。
「よっ、『リーファ』。おひさ~」
「フカ次郎じゃない」
「いやぁ…うちのツレが非常に申し訳ない!」
「うがーーー! これもダメ!」
……まずはこのカオス空間をどうにかしますか。
「へぇ、フカ次郎の知り合いで、最近ALOデビューを果たしたんだ」
「……お騒がせしました……」
なんとか宥めて諫めることが出来た私はリーファに改めてレンの事を紹介した。
「リーファはシルフ内では五指に入るほどの実力者で、飛ぶことに魅せられていて、『スピードホリック』って呼ばれてるんだ」
「凄い人なんだ」
「ちなみに、随意飛行はこの人の教え方をそのままやったんだ」
「……元凶の元凶か」
「……あはは」
レンが随意飛行のトラウマが呼び出されてジト目でこちらを睨み、リーファが乾いた愛想笑いを浮かべた。おっと、また脱線するとこだった。
「へぇ、シルフでもここまで小さい子はカスタムじゃないと見たことはないなあ。レアなアバターなのかしらね」
レンのアバターが物珍しかったのか屈んでジッと眺めようとしたが、レンがさっと私の後ろに隠れた。
「うぅ~」
「レン、別にとって食べようっていう人じゃないって。まだ、対人慣れしてないもので」
「(なにこれかわいい)。いえいえ、私も行き成りで。フカ次郎はお友達の装備を揃えに来て、お気に召すのが見つからなくてああなったという事ね」
そゆこと。……ん、待てよ。リーファならあるいは。駄目もとで聞いてみるか。
「ねえ、リーファ。個人営業で知り合いの職人さんいない?」
「いる事にはいるけど、どうしたの?」
「多分さ、レンのお求めの品はもうドロップ品かオーダーメイドくらいしかないと思うんだよね」
「あ~一理あるかも」
リーファは少し考え込むような表情を浮かべたが、レンの方を見据え言った。
「レンちゃん次第だけど、1人だけ要望を叶えられそうな職人さんを知ってるよ」
「本当?」
「まあ……、その人が『気に入ってくれれば』だけどね」
意味深に語るリーファの言葉にレンは顔を見上げこちらを見つめてくる。
「言ったでしょ。レンの物語だって、選ぶのは君」
そう。選ぶのはレンだ。アタシはそっと後押しするとレンは、
「その職人さんを紹介してください」
とリーファに頭を下げた。
「うん。任せて」
リーファはレンの純粋な言葉に彼女の決意を受け取ったのか了承し、少女らしからぬたわわに実った胸をポンと叩く。
こうしてシルフの美少女3人組となった私たちはリーファの案内の下、職人が店を出している『イグドラシル・シティ』へと向かうこととなった。
想えばこの時だったな。レンはこの世界で掛け替えのない『相棒達』と出会うことになったのはね……
前話の設定からリーファが本格的に登場。SAO2次創作を読み漁ったり、考察していたら私内で評価がシノン並みに高くなったので少し優遇気味ですかね。……オーディナルやら現在放映中のアリシゼーションでは後半になるまで出番がないのが非常に悔やまれる。
ALOの世界でのレンとフカ次郎の物語でシルフ族設定なので、SAO本編組では最も出会い易いとの判断です。
次回があったら、『ガールズ・オプス』のメンバーの残り2人を出そうかな……w
〈人物設定〉
●リーファ
フェアリィ・ダンス編ヒロイン。オーディナル・スケールではリアル姿での出番……だったのに合宿のせいで出番が後半までなくなってしまった子。
余談ですが当小説では、ALOフカ次郎と親交ありとしております。
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第3話『女子が集まれば……姦しい?』
side:レン
空中都市『ユグドラシルシティ』、新生ALOになり実装され、世界の中心部である世界樹の上にある大都市。スイルベーンの武具店で出会ったエルフ族のプレイヤー、リーファさんの案内の元、私とフカは大通りにある武具店へと訪れた。
「『リズベット武具店』。ここがリーファさんの知り合いの職人さんのお店……」
「こんな一等地に店構えてるとなると。ちょっとしたセレブな気分だね、レン♪」
いかにも古めかしいか武具工房ですと紹介しているようなお店かと思っていたけど、私が住んでいる町の少し高そうで洒落た外見であった。……お金は足りるのでしょうか。
「セレブ御用達のお店じゃないんだけどね……行こっか」
私のぼやきにリーファさんが気を使ってくれたみたいだ。私は意を決すると、先頭を行くリーファさんに続いて武具店へと入った。ショーケースや壁には様々な武器が納められてて、その几帳面さから店の主のこだわりが見て取れます。
店内を見渡すと明るい色の茶髪、紺色を基調をした衣装が特徴の女の子がいました。猫耳と尻尾が特徴的な外見から『ケットシー族』のキャラクターでしょうか。
「きゅるる」
「ピナ、どうしたの?」
備えられた小テーブルでお昼寝をしていたペールブルーのトカゲ?、『ピナ』と呼ばれた生き物がお茶をしていた少女に呼びかけます。
「やっほー、シリカちゃん」
「リーファ、早かったですね……そちらの方たちは?」
「サクヤの方はすぐに終わってね。久しぶりにスイルベーンを回っていたら旧知の仲とそのお友達と会ってね」
「ドーモ、旧知の仲デス」
「こ…こんにちは」
リーファさんがケットシーの子を『シリカ』と呼びました。リーファさんのお友達でしょうか? ALOでは女性プレイヤーも多く見受けられますが、こうやって話すのはフカ以外ありません。今日は本当に出会いの多い日のようです。フカは節操もないがフレンドリーな挨拶で、反面私はについ口ごもって挨拶しました。
「あ……どうも、はじめまして」
シリカさんも礼儀正しく挨拶を返してくれました。ところで店主さんはどこでしょう? 店名の通りならシリカさんは店主ではなく、ここの店員であるかもしれませんが……。
「シリカー! 武器のメンテナンス終わったわよ! ……あら、いらっしゃいませ~」
店の奥からまた少女が出てきました。ベイビーピンク髪の鍛冶職なので種族は『レプラコーン』、武器のメンテナンスということはこの人が店主の『リズベット』さんでしょうか。リズベットさんがこちらに気づいたのか、営業モードといった感じの対応してくれました。商家の末妹である私から見ても完璧な接客ですが……、
「リーファさん、ここ武具店でいいんですよね」
「そうだけど」
「です」
「きゅるる~」
リズベットさんの装いは赤を基調とした衣装に軽鎧。ALOの世界ですが、私の中で鍛冶職人と言えばつなぎ等の作業着というイメージでしたので、思わず真顔で聞いてしまいました。
「……レン、もしかしてメイドカフェとかそっちのお店だと思った?」
「……いや、れっきとした武具店兼鍛冶場なんですけど」
フカとリズベットさんからツッコまれた。リーファさんとシリカさんもぷっと噴き出して笑っておりました。……もしかして、盛大にボケてしまった!
「ま、いいわ。……いらっしゃいませ! 『リズベット武具店』へ、ようこそ!」
武具店の店主であるリズベットさんがすぐに元気ハツラツな声と営業スマイルに切り替えてきます。ふと、商売を御こした両親と同じような営業精神を感じられました。
「へ~、リーファの旧ALO時代からの知り合いなんですか」
「そ。あ、アタシのネームは『フカ次郎』だよ。ほら、レンも」
「『レン』……です……よろしくお願いします」
店内へと案内された私たちは、リーファさんがリズベットさんとシリカさんに簡単に経緯などを説明してくれて、互いに素性を紹介しそのまま本題へと入ります。
「それでご用件のほうは?」
「悪いね。今回はレンだけなんだ。ほら、欲しいのは自分で言わなきゃ」
「うん……その。弓スキルを上げたくて、スイルベーンのお店で探していたけど、これっていった物が見つからなくて……それと、短剣も新調しようと」
「偶然目撃した私が紹介することにしたの」
「なるほど……言っておくけど、あたしのお店の武器は要求ステータス結構高いわよ」
「そこは大丈夫です。始めてから1か月ですけど」
「凄い! 1か月でここまで上げたんですね」
私のステータス画面を出すと、シリカさんが感慨の声をあげます。
「1か月、あたしが育て上げました」
「その筋はお世話になったよ」
「だけど、肝心の弓スキルがほぼ初期値ね」
「これから上げるつもりだったんですけど……弓が大きすぎるやつしかなくって」
「見た目の要望を出されたのは、見栄っ張りな客くらいだわ……」
腕を組みうーんと考え込むリズベットさん。私も見栄っ張りな客扱いなのでしょうか。
「……ま、適当に何個か見繕ってきましょうか。あ、シリカ。忘れないうちに渡しておくわね」
リズベットさんが指を振ってウィンドウを開くと、インベントリーにあるアイコンをタップします。すると、粒子が集まってアイテムが形作られます。アイテムは短剣で、それをシリカさんに手渡します。
「シリカはまめに持ってきてくれるから、楽で助かるわ」
「いつも、ありがとうございます」
シリカさんが短剣を引き抜きます。私の使っている物より明らかに強そうな武器です。
「何点か見繕ってくるからシリカとリーファは少しの間、お客様2人の相手をしてて」
「「は~い」」
リズベットさんが店の奥へと引っ込んでいきました。
「待っている間、お喋りでもしましょうか」
「賛成~」
「ちょっと、フカ」
リーファさんに促され、フカが手をあげて賛成の意を示します。私の武器の商談だけのつもりだったんだけど……。
(減るものじゃないし、遅かれ早かれ私以外のプレイヤーとも交流することになるからその練習だと思えばいいじゃん)
フカがそう耳打ちをしてきます。まあ、フカの言う事も一理ありますし、付き合うとしましょう。リーファさんとシリカさんがアイテムスロットからお茶とケーキを出すと、それを肴にまずは他愛のない会話、世間話から始まりました。
夏休みが入ってからALOでの美優との交流以外だと、電話での家族とのやり取り、直接会話だと同じマンションに住む一番上の姉夫婦とその子供くらいしか会話することのない私でしたが、リーファさんとシリカさんとは不思議と会話は弾みました。フカのフォローもあったけど、2人とも気さくに話しかけてくれて、どこか美優に近いような感じがしました。
会話が弾むにつれ馴れてきた私は、デビューしてフカと出会ってからこの1か月のVRゲームでの冒険譚を語りました。今はフカに引っ張られるような形ですが、互いに笑いあったり苦労した話など色々。
「なんだか、レンさんの苦労が少しわかる気がします」
「どういうことですか?」
「私もVRゲームを始めた当初はそんな感じでしたから」
シリカさんもそのかわいらしい容姿から、ギルドへの勧誘や結婚(VRゲームでそれが出来る事を知った私は驚いたのは言うまでもない)の申し込みを度々受けて、苦労したと語ってくれました。それ以上に、楽しかったり感動した出来事があったからこそ、VRという世界にのめり込んだそうです。
(シリカさんもなんか、私とは違うけど苦労してるんだなあ)
VRゲームを動かしているのはリアルの人間だから、会話やしぐさで人が滲み出ると美優が言っていたのを思い出しました。だけど、シリカさんからは演じているという感じはしませんでした。
「でさ、あのおかっぱ少年とはどうなったの?」
「レコンの事? いったい何を言ってるんだか」
「またまた~」
次の話題を探ろうとしていると、フカはリーファとの話を咲かせています。旧友の間柄で偶然再会を祝してなのか心なしか私と話すよりも弾んでいるような気がします。
「そういえばさ、フカはリーファさんとどういった関係なのかな」
「私も気になります」
話題をフカとリーファさんの関係について振ってみると、私と打ち解けることができたシリカさんも気になったのか話題にのってくれました。
「関係? あ~、そっか。レンにはまだ話したことがなかったね」
「なになに、何の話。あたしも混ぜて」
リズベットさんが店奥から戻ってきました。興味をもったのか話の輪に加わる気満々のようです。
「アタシとリーファが出会った昔話をしようとしたところだよ」
「へぇ~、面白そうだしお客様も興味津々のようだから商談はその後にしましょうか」
「商談はいいのかよ!」
「いいのよ。リーファが同族のお友達を連れてくるなんて珍しいわけだし」
……なんか話の筋が大分ずれているような気がしますが、これも女子会パワーという事にしよう。
「レンが昔のALOについてあまり知らないからその話もしなきゃだね」
フカからはVRゲームやALOについて教わりましたが、この世界に長らく身を置いている頃のフカの事を親友である私でさえも知りません。フカの見てきた世界を知る意味でのいい機会が巡ってきたようです。
これで『ガールズ・オプス』メンバーが集合(GGO編前)。ピトフーイよりも先なお茶会となりました。
次回は当作品でのALOフカ次郎の過去語りとなります。原作よりもフカ次郎の設定を改変するかもです。
〈人物設定〉
●シリカ
SAOヒロインの一人。当作品での女性プレイヤーの苦労(主にSAOのときだが)でレンとの話題の共有ができるかなという事での出演。
●リズベット
SAOヒロインの一人。今作での話題発起人兼ツッコミ役。後の話でレン専用装備の作成などでの出演。
●レコン(名前だけ)
すまぬ。多分これ以降の出番はない()
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