戦姫絶唱シンフォギアEVOL (969)
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戦姫絶唱シンフォギア
微笑む毒蛇


何となく書き始めました。


特定災害『ノイズ』

そう呼ばれるモノが現れ始めてから数年、少女達は聖遺物の欠片のエネルギーを用いて構成される鎧型武装、通称シンフォギアを纏い己の身を危険に晒しながらも人々の日常の為に、信念の為に戦場へと走っていた。

 

そんな戦姫のうちの一人、立花響は友人である小日向未来と共に行きつけの喫茶店へと来ていた。 彼女が守るべき日常を謳歌していた。

 

「マスターこんにちは!!」

「こんにちはマスター」

 

そんな挨拶が聞こえれば、マスターと呼ばれた男は柔和な笑みを向けて二人を出迎えた。

 

「いらっしゃい、お二人さん。 注文は珈琲かい?」

「い、いや〜マスターの珈琲はちょっと遠慮願いたいかなぁ…なんて」

「おいおい失礼だな、喫茶店のマスターの珈琲を遠慮するなんて……マッズゥゥ!? ペッペッ」

 

自ら淹れた珈琲の不味さに顔を顰めながら2人にはオレンジジュースにおまけとしてショートケーキを出したマスターは肩を竦めながら笑う。

 

「え、頼んでないですよっ!?」

「こいつは俺からのサービスだ。 何たって一番のお得意様だから立花に小日向は」

「で、でも悪いですよ…」

 

気にすんなよ、別にケーキの一個や二個で売り上げが極端に下がる事もないんだ。そう言いながら、2人の頭にポンと手を置くと奥に残った食器たちを洗いに戻った。

 

何気ない日常、人々の笑顔、これこそが立花響の日常であり護りたいもの。

いつまでもこんな日が続けばいいな、そう思っていた。

 

 

 

(ハザードレベル2.0…おーぉ、順当に上がってるなぁ? そろそろ、ちょっかいをかけるとするか)

 

 

 

日常が誰かの掌の上にあるとは、露も知らずに。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

そもそもだ、事の始まりは石動惣一に扮した俺ことエボルトがこの世界とはまた別、仮面ライダービルドの世界にて桐生戦兎との決戦の際に食らった一撃が原因だった。

ジーニアスフォームの一撃がエボルトリガーのシステムに何らかの力を働き掛け暴走し俺ごと周囲の空間をブラックホールで飲み込みやがって流石の俺も死んだと思っていた。

 

だが、運命の女神はどうやら俺に微笑んだ。

 

「ここは…地球か? にしては見える景色は北都や西都…東都ともだいぶ違う。エニグマの様な作用で別の世界へ飛ばされた…って仮説が一番か」

 

少し開けた丘の上で目覚めた俺が見たのは地球、それも日本のどこかである街並みが見える公園のベンチ。

手に握られていたのは石化したエボルドライバー、エボルトリガーのセットに…コブラフルボトル、トランスチームガン。 パンドラボックスが無いのには不満がある。加えて5.0まで低下したハザードレベルには目も当てられないが…この世界で1から滅亡までのゲームをするにはいい案配の初期ステータスと言ったところか。

 

しかし、滅亡させるのにも張り合いがなくては困る。 戦えるような敵が居なければ、また仮面ライダーの様な連中を作り上げなくては盛り上がりにかけるというものだ。

はてさて、どうしたものか…

考え事をアレコレしているうちに日は落ちる。 夜のとばりが走ってきたそんな時、奇っ怪なものが視界の隅に現れる。ゲル状の生物だろうか? 意思の疎通がとれなさそーなソレはゆっくりと数を増やして近寄ってくる。 かつて滅ぼした文明の何処かにこんな生物兵器を使ってくる文明があったような無かったような。 この際どうでもいいか、コイツは使えるかもしれんな。

トランスチームガンを構え呟く。

 

「物は試し…久しぶりだな、コレを使うのは」

 

Cobra...!

 

 

「蒸血」

 

 

Mist Match!

 

 

Co...Cobra! Cobra...!

 

 

FIRE!

 

 

トランスチームガンにコブラフルボトルを装填し、掛け声と共にトリガーを引いた事で変身した姿。ブラッドスタークは躊躇なくトリガーを引き軟体生物を吹っ飛ばしていく。どうやらある一定以上の威力ならば通用するようだ。

そしてあの手の生物は獲物を取り込んで消化したりするというのが俺調べ。 だったら遠距離からサッサと鎮圧してしまうのに限る。

身を捻り槍状になった連中が次々飛んでくるが狂いなく撃ち落としていく。 ホークガトリングのビルドを相手にするよりも容易く、今までの経験からこの程度の敵ではブラッドスターク…エボルトは止まるはずもなかった。

 

「期待ハズレか」

 

銃撃音が止めばスタークはベンチにどかりと腰を落としてつまらなさそうにスチームガンを手先でクルクルと回しながら天を仰ぐ。

残ったのは3体ほど、うち一体は逃げるように移動をし始めた。 あんなの一体逃がしたところで変わらんと、見送ろうと思っていたのだがソイツが触れていったものを見るとスタークの評価は掌返しの様に変わる。

人影が少ない高台の公園だからと言って流石に派手にやり過ぎたのが災いして見物人が現れていた。まぁ、あとで皆殺しにしようと思っていたのだがソイツの姿を見た瞬間、叫んでいた。

 

ノイズだ、と

 

そして逃げ切られずにノイズに触れてしまった人間はなんと、炭化し崩れ去ったじゃないか。 なかなか面白い生物だ…

 

「よし、記念すべき1本目はお前らにしてみよう。出来るかどうかは知らないが…やってみる価値はある」

 

空のボトルをノイズに向けると奴らはポリゴンの様に分解され成分がボトルの中に溜まっていった。

ノイズボトルの一丁上がりだ。

 

「さぁて、コイツを使って少し遊んでみるか…」

 

邪悪な笑みを浮かべ公園から去る。

 

「ハァックション…!!! その前に住む場所を見付けねぇとな」

 

 

そこからのアクションは存外早かったんだ。 この地域に住む富豪の爺さんを殺して成り済まし、街中の一等地に前の世界とそっくりに作った『nascita』の喫茶店。 勿論、地下室も作りコーヒーメーカーも上等なものを買い、機材も揃えた。 石動惣一に取り憑いていた所為と言うべきか名残りと言うべきか喫茶店を経営する事にはこだわりを持ってしまっている。 相変わらず淹れる珈琲は飲めたものじゃないがな。

 

フルボトルもノイズボトル以外に掃除機やロケット、それにラビット、タンクと何本か成分を集めることが出来た。

 

そしてだ、ノイズボトルを利用して生み出したノイズを使って山奥の小さな工場や町外れの採掘場を襲撃した時…面白いものが現れた。

歌を奏でながら戦う戦士…シンフォギアに出会った。

居るじゃないか、俺を楽しませてくれそうな奴らが…

その戦士の正体がツヴァイウィングというアイドルユニットを組んでいる『天羽 奏』『風鳴 翼』の2人である事まで調べ上げるには随分と時間をかけさせられた。

 

 

「お前達の歌が滅亡への序曲になるんだ。 せいぜい派手にしてくれよ」

 

 

 

ライブ会場の最上段、観客にツヴァイウィングの2人を見下ろし悪意は牙を剥いた。



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片翼を喰らう牙

エボルトはジーニアスの攻撃によって感情が芽生えてる為そこまでえぐい事はしない…と信じたいですね??


ツヴァイウィングの大型ライブ会場は一種の狂気と呼べる程に盛り上がり、尚も歌が続いていた。 なんともまぁ、凄いものだというのが俺の感想だ。 何て言ったってこういう手のイベント事に来るのは初めてだったからな? 中々に圧倒されてしまった。

しかし観てるだけでは俺が楽しくない。俺ならもっともっと盛り上げる。 あの時はゲームメイカーなんて言ったがこれからの俺はストーリーテラーとして生きていきたいもんだ。

 

「SHOW TIME と行こうじゃないか」

 

ボトルを取り出しトランスチームガンにセット。 引き金を引く

 

Noise…!

 

機械的な音声と共に打ち出された弾丸は花火じみた炸裂をすると無数のノイズが空中に誕生させウン万人といる観客の頭上へと降り注ぎ始めた。

阿鼻叫喚、己が助かる為に怒鳴り散らし同じ種であるハズの人間同士が押し退けあって逃げる様は実に滑稽で人間の本質を表したいい眺めだった。

 

大体3000人ほど死んだだろうか?

光景には変化無く飽きてきた当たりでやっとこさ主役のご登場だった。

 

「Croitzal ronzell Gungnir zizzl」

「Imyuteus amenohabakiri tron」

 

「お出ましかァ!!!」

 

待ちに待った戦士の登場に俺の声は嬉しさ故に上ずってしまう。

 

 

歌いながら戦場を舞う少女…天羽奏の姿は実に可憐でそして獣の様な凄まじい気迫でノイズ達を撃破していく。 おいおいこのペースだとこっちがノイズを生み出す速度が追い付かないな?

一方、風鳴翼の方は若干なれど手こずっている様だった。 だったら狙いは決まりだ…

 

ノイズを風鳴翼の方へとばら撒き二人を引き離す。

至る所に積もる炭の山を踏み散らして歩いて行き、ノイズボトルを一旦取り外しコブラを差し込む。

 

Cobra...!

 

「蒸血」

 

Mist Match!

Co...Cobra! Cobra...!

FIRE!

 

電子音、それに蒸気が発生すると血の色のボディにコブラを模したバイザーが現れる。 続いてライフルモードにしたスチームガンにロケットボトルを差し込んで天羽奏に目掛けて一撃を撃ち込む。

 

「なっ…!!?」

 

何かを感じ取ったのか咄嗟に飛び上がると群がっていたノイズ達が爆裂に巻き込まれ消滅していく。 こんな程度で伸びてもらっちゃァ困るからな上々な反応だ。

 

「Bonjour 天羽奏。 いやさシンフォギア装者とでも呼ぶか? まァ、どっちでもいいだろ。 どっちもお前の事を指し示すんだからな」

「人型の…ノイズ!? お前がこのノイズ達を率いてるのかっ!!!」

 

突如現れた人型の異形にぎょっと目を向くもすぐさま槍を構え腰を落とす奏は戦士としてのセンスはそこそこあるようだ。それにノイズに対して異様な執着心を感じられる。

 

天羽奏の内心は穏やかでは無い。今まで戦ってきた相手は知能があるか分からないノイズだった。しかし、今こうして目の前に現れたのは手がハサミであったりムチである中途半端な人型ではなく完全な人型。 それに加え流暢な言葉を喋るのだ。 ノイズないしはシンフォギアの様な特殊な装甲を纏った人間か…。

 

「おいおい、酷いことを言うもんだ。俺はノイズなんかじゃない…だからと言って人間って訳でもないがな。まぁ、後者に至っては Sì と言えるな? 俺の名はブラッドスタークだ。覚えておけよ?」

「自分が何をしているのか…分かっているのか? 人がたくさん死んでいるんだぞ」

 

この騒ぎは自ら起こしたと認めたスタークはおちゃらけた動きをし煽るようなセリフを吐き、朝の挨拶のようにサラリとこう言った。

 

「勿論、俺の暇つぶしだ」

 

スタークのセリフがよほど癇に障ったのかビリビリと殺意が伝わってくる、いいねェ。実にいい。

調べ上げたデータにはシンフォギアは歌を歌えば性能が上がるなんて誰得な機能があるらしいが今や彼女は歌を歌うことすら忘れ、槍を片手に振り回しながら飛び込んでくるが動きは仮面ライダーの連中に比べれば未だ幼さも残る未熟なものだ。

この年齢でここまで動けるのならば将来は有望そうだが…

 

突き、払いと流れる様な連撃をのらりくらりと躱しながらガラ空きの土手っ腹にボディブローを叩き込む…のだが、硬いなシンフォギア…ってのは

逆に痛めた手をプラプラと揺らしながらスタークは笑う。

 

(ハザードレベル2.5…いきなりビンゴときた)

 

「おい、もう終わりか?」

「ハッ、言ってろ。今にアンタを縛り上げてノイズについて吐いてもらうから覚悟しな」

 

より苛烈になった攻めを徐々にくらい始めるがスタークは嬉しそうに笑い声を上げ始めるとスチームブレードで槍を弾きそのまま上段から斜めに斬りつける。シンフォギアは火花を散らすが天羽奏自身の肌までは傷付けることが敵わない。

 

なるほど、この程度じゃぁ通らないか。

 

「奏…ッ!!」

「ちっ、もうノイズが尽きかけてるのか? 仕方ないまとめて相手をしてやる…よっ!」

 

飛び込んできた剣の戦士と体勢を立て直した槍の戦士を正面に相手取る形となった。

 

なに、多対一は慣れてるさ。まともに相手をしなければいいんだよ。 そんな軽口を叩きながら新たにボトルをスチームガンに取り付ける。

 

Dragon...!

 

龍を模したエネルギーの弾丸が銃口から飛び出し2人の戦士に襲いかかる。 世界を守る為に使った力が、次は世界を守ろうとする少女に襲いかかるなんて世の中分からないもんだろう? なぁ、万丈ォ…!!

 

暴れるドラゴンに四苦八苦しながらも凌ぎ倒そうとするがノイズとはまた違った手強さで中々上手くダメージが与えられずにいた。 すっかり手持ち無沙汰になってしまったスタークは思い付いたとばかりに未だ逃げ惑う多くの人が残る観客席に向かってスチームガンを構え引き金を立て続けに引いていく。 あちこちから火の手が上がりノイズに襲われた人間とは違って負傷し悲鳴をあげていく人々を見てせせら笑う。

 

「やめろ…やめろぉぉぉぉ!!!」

「叫んでなんとかなるのかねぇ?」

 

絶叫しながら振るった槍は先程まで苦戦を強いられていたドラゴンを一撃で爆散させ勢いのままにスタークと観客席の間に身を踊りこませ銃撃を弾き観客たちが逃げる時間稼ぎを始める。

感情の爆発によってハザードレベルが上がったか、はたまたあの、シンフォギアとかいうシステムのおかげか?

どちらにせよ面白い。

 

Gatling...!

 

差し替えたフルボトルの効果で銃撃の速度は格段に跳ね上がり徐々に天羽奏のアームドギアを欠けさせ、割れ、砕け散らせていく。 そして、その破片が守るべき人間の胸元に突き刺さり少女の身体は力なく崩れさった。

 

「やれやれ、この世界の人間は随分と甘いらしいな。 その子を助けたいんだろ? さっさとヤレよ。待っててやる」

「……何のつもりだ」

「俺は邪魔なくお前と殺り合いたいんだ。 早くしないと俺がそいつを殺すぞ」

 

全身ボロボロになりながら倒れた少女を助け起こし何やら話しかけている…殺り合いたい…ね。相変わらずサラッと嘘をつくもんだ俺も

 

立ち上がった天羽奏の瞳には覚悟があった。 あれは戦兎がなにかやらかす時、万丈がやらかした時に見た瞳と同じ。奥の手でも出すつもりか。

 

 

 

 

 

 

Gatradis babel ziggurat edenal

Emustolronzen fine el baral zizzl―

 

 

 

 

 

「…歌…いや……これは…!!!!?」

 

莫大なエネルギーが天羽奏を起点として収束し広範囲に及んでそれを放出しようとしている。こんなモノを喰らってはノイズは疎かハザードレベルが下がっている俺まで消滅しかねない。

俺の動きを察知したのか、俺に飛びつき正面から鯖折りをしてくる。

ホントに勘のよく利くガキは……

 

「へへ、逃がさないぜ。アタシと心中といこうじゃないか……コフッ…」

 

吐血をしながらも俺を離さず不敵な笑みを見せてくる。

 

「勘のいいガキは…ホントに扱い易い」

 

空のボトル2本を抱き着いてきた少女の首筋に押し付けると莫大なエネルギーは霧散し代わりに2本の新しいボトルの出来上がりだ。

 

「シンフォギアが……解けた…? まだ時間は…っ!?」

「奏逃げろぉ!!」

「はっ…?!」

 

突然の出来事、死を覚悟して放つつもりの攻撃が解かれた挙句シンフォギアシステムすら機能を失い生身へと戻った事に理解が追いつかずフリーズを起こした。

スタークにとっては生身の人間の鯖折りなんてただのハグに等しい。乱雑に頭を掴み持ち上げると柔肌に腕部から姿を見せた触手が突き刺さる。

 

「ゲームオーバーだ。 流石にあの歌…か? アレをモロに喰らえば俺の身は危うかったな。 ハザードレベルが下がっているとはいえ俺を相手によく戦ったと褒めてやるよ」

 

持ち上げた体を足元に落として嘲笑う。

注入された毒により天羽奏の身体は動かず、声を上げることすら許されぬほどの激痛に襲われ文字通り血反吐を吐きながらもがき苦しんでいた。

 

「奏…よくも、奏を…!!!」

 

こちらも怒りによって戦闘力が跳ね上がったかやっとこさドラゴンを撃破し剣を構えるが………少し遅かったな。

 

「風鳴翼だったか? その怒りを忘れるんじゃないぞ」

「どういう事だ…!!!」

「時間切れってこった」

 

ドームの四方八方から爆炎と轟音が鳴り響くと天高くあった筈の屋根が下へ下へと近づいてくる。

 

「貴様何を!!」

「なーに、ドームの柱にちまちまと爆弾を取り付けてこの時間に爆破するよう仕掛けただけだ。 目的も済ませたしな…次会うときはお前さんが楽しませてくれよ? Ciao」

 

瓦礫の雨が二人を遮り、互いにどうなったかは分からない。 あの嬢ちゃんなら無傷とは行かないが死ぬ事はないだろ。

 

「さっさと撤退しますか」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

特異災害対策機動部 第二課

 

報告書

 

今回の事件による被害は以下の通り。

死者、行方不明者の総数が、12874人

 

今回の事件は人為的に引き起こされたノイズの襲撃、及び歌とオーディエンスにより高まったフォニックゲインによって引き寄せられたノイズが多く発生したと思われる。

 

風鳴翼からの報告によればブラッドスタークと名乗る謎の人物がシンフォギア装者と接敵。

 

また、第3号聖遺物『ガングニール』の装者である天羽奏は突如としてシンフォギアの力を奪われ、敵対人物からの猛毒を打ち込まれた後に倒壊した建物に潰され圧死したことが確認された。



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覚醒の鼓動

3〜4日置きぐらいで投稿していきたいと思います。
気長に待ってください( ˘ω˘ )

そこそこの文字量→幕間的な短め→そこそ(ryってな感じになりそうです


ライブ会場の惨劇から2年経ったある日、一人の少女は今日も今日とて人助けに勤しんでいた。 別に誰かに強制された理由でもなく、ただ人助けをしたくてしている。そんな感じの毎日を送り友人の横で楽しく笑って1日を終えて、また朝が来たらおはようと笑い合える…そんな毎日だった。

 

「大丈夫…お姉ちゃんが付いてるから……ッ」

 

だがそれを全て壊すものに再び出会ってしまう。 2年前と同じノイズという災害に。

一人の女の子を背中に背負い必死に逃げるが次々と現れるノイズによって逃げ場が少しずつ無くなっていく。

じりじりと後に追いやられ遂に逃げ場所を失った時、ドクン…熱く血潮が流れる。

 

ドクン……ドクン………

 

鼓動は早まり、その熱は内から漏れ出し始め立花響の意識は真っ赤に塗り替えられる。

 

『生きるのを諦めるな……!!!』

 

声が聞こえた気がした。 今より前、ずっと前。 意識だけじゃないあの時は視界も自分の体も真っ赤に染まっていたそんな時にある人に言われたんだっけ…

 

そうだ、私が諦めちゃいけない…それに女の子も守らなくちゃ…!!

 

立花響を包んでいた光が収まるとその身には白と橙色を貴重としたアーマーに身を包むそれはあの日に響が見たツヴァイウィングの2人が身に纏っていたモノにそっくりで胸の奥底から歌が湧き出てくる。

 

『何故どうして? 広い世界の中で』

 

少女を担ぎ上げると屋上から隣のビルの屋上へと走り幅跳びの要領で飛ぶのだが勢い余ってとんでもない飛距離を出してしまい目標地点を軽々飛び越え、奥にあったビルへと向かっている。慌てて手を伸ばすのだが屋上のヘリを掴み損ない重力に引かれ始めた時、手を掴んでくれた人が居た。

 

「ぐぉ…お!! ま、待て嬢ちゃん…今引っ張りあげ…てっ!! ぬぅぅう!?」

 

若干悲鳴をあげながら響と少女を助け上げたその人は息を荒らげるも笑顔を向けてくれた。

 

「凄いなお嬢ちゃん。 なんかよくわからないけど、そんな力があったらあのノイズ達を倒せそうな気がするな?」

 

男の人はなーんて、そりゃ無理か!さっさと逃げよう? なんて言ってくれたけど…確かにツヴァイウィングの二人と同じモノなら…っ!

強化された身体能力にものを言わせて弾丸のように飛び出すと巨大なノイズに突き出した拳が当たりノイズは炭となって崩れ落ちた。

 

「た、倒せたッ!」

「やったなっ!! でもまだまだ居るから無理はするなよっ!!」

 

屋上から叫びながら右だ、左だとノイズが来る方向の指示を受けながら、もたつき、ぶきっちょながらも一体また一体とノイズを減らす。

しかし多勢に無勢か、その数が減っているのかよく分からないしむしろ増えて見える。

 

 

 

 

 

「Imyuteus amenohabakiri tron」

 

 

 

 

 

「この声…もしかして!?」

 

それは月下に現れた剣だった。

月を背に舞い上がった剣は千の刃を降り落とし次々とノイズ達を塵に変えていく。

響の目の前へ着地すると響を睨みつけながら当たりを見渡し気迫のある声色で叫んだ。

 

「ブラッドスターク!! 出て来い、私が貴様を切り結んでやる…奏の分も貴様を!!!」

 

しかし、ノイズ達が声を発する訳でもなく…ただただ雑多な音が聞こえるだけに終わり風鳴翼は怒りのままに剣を振るい残ったノイズ達を一掃し静けさが戻る…のかと思ったのだが次々と車がやって来て辺り一帯が封鎖されていく。

そしてあれよあれよという間に手錠をかけられた。

 

「なんでぇ!?」

「え、俺まで!?」

 

変身(?)が解けた立花響、そして途中で助けてくれた男はそのまま車に押し込められて私立リディアン音楽院に連れられてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「天羽奏の置き土産…と言ったところか」

「あったかいもの、どうぞ」

「あったかいもの、どうも……ん〜いい香りのコーヒーだ。どう? お姉さんウチの店で働かない? 週二からシフト組むよ?」

「私はここの職員ですから…」

 

正直何が何だか分からないし、奏さんが私に力を貸してくれた…そんな程度にしか理解は出来なかったのだが…

 

「私の力が誰かの為になるんですよね?」

「…あぁ、響くん。無理強いはしないがキミの力を貸してくれ」

「勿論ですっ!」

 

ところで…

 

「あの、さっきは助けてくれてありがとうございますっ! えっと…」

「石動惣一。 リディアンの近くにある喫茶店のマスターをやってるんだ。 気軽にマスターって呼んでくれよ」

 

モデルの様なスリムで長身、風鳴司令とはまた違ったカッコよさを持ち合わせておりあんまり男の人と関わった事の無い響は少し緊張しながら握手をした。

 

「しかし、石動さん。 何故あなたは彼処に?」

「俺もノイズに追われていましてね。 逃げ回っていたら急にヤツら方向転換しやがってラッキー! とか思ってたんだけど…」

「響くんが少女を背負い走っていたという訳か」

「正解。 大人としては…放っておいちゃ不味いでしょ?」

 

どうやら私達が危ないと思ってわざわざ危険な所に飛び込んできてくれたらしい。 自分が危ないのは分かっているのに助けに来てくれるなんて…

それにしてもシンフォギア…奏さんが残してくれた力はノイズに対抗出来るモノで現状それを使えるのは私と翼さんだけなのだから奏さんの代わりに私が頑張らないとっ!

 

そう意気込みを見せる立花響、その彼女を心配そうに見守るのは風鳴弦十郎、逆にどうして良いか分からずに翼は部屋から飛び出て言ってしまった。

 

「石動さん、今回の件。 シンフォギアについて等の機密を守るためにこちらの書類にサインを」

「はいはい、分かったよ。 さらさら〜っと…これでいいか?」

 

書類に目を通しサインを終えた石動惣一は第二課の職員に自宅へ送り届けられる事になったのだが、実に愉快そうに笑いながら響に別れを告げて行く。

 

(まさか、天羽奏が庇った娘がこんな事になるとはな…世の中ってもんは分からないもんだ。 ハザードレベル1.5とはいえ…奴はイイ)

 

nascitaの地下室、そこに置いているあるモノを手に取りながら今後の事について考えていた。

ヤツの計画も動く頃合い。ここは一丁肩を並べ力を貸してやるのも悪くは無いし、なにより俺が直接動くより同じ人間同士で争わせた方が何倍も面白い事になりそうだ。

 

 

「あぁ、俺だ。 ったく…俺は来週辺りに動くとしよう…なーに、手駒は揃っているしイレギュラーでも起きない限りは上手くいくだろう」

 

 

「裏があるんじゃないかって? これはビジネスだよ、ビジネス。 俺が欲しいのは余らせている施設、それにお前が解析した聖遺物『パンドラの箱』についての詳細なデータだ。こちらが提供するのは俺という戦力とボトルシステムの情報。 ウィン・ウィンの関係だろ?」

 

 

「そういう事だ、決行日は互いにとって良い1日になるようお月様にお願いでもしておくか。 それじゃあ Ciao」



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ネフシュタンの鎧

ビルドが終わるまでには1期分終わらせたいなぁ( ˘ω˘ )

タイトルから分かる通りあの子が出ます。


喫茶店 nascita

 

店内には少ないながらも客が居て、その客っていうのはリディアンの制服を身に纏う立花響と小日向未来の二人。

まぁ、ここからが話の冒頭って訳だ。

 

「今度のこと座流星群楽しみだね」

「うんうん、今回のスッゴイらしいからね!! あ、マスターも観た方がいいですよっ」

 

ケーキを頬張り口の周りに生クリームを大量に付けながら呑気な事を言う響に石動は笑いながらティッシュを渡してやる。

 

「流星群ねぇ…こんなオッサン一人で見たところで虚しいだけだよ」

「石動さんはご家族は…?」

「娘が一人居る。 まぁ、今は離れて暮らしてるけどな? キミ達より少し大きいくらいか、もう成人したし手のかからないイイ娘さ」

「へぇー、会ってみたいなー!」

 

そのうち会えると思うぞ、こっちに来るみたいだからな? そんな事を言いながら空になったコップにオレンジジュースを注いでやり、またしても小日向は頭を下げる彼女からして石動の姿はどこからどう見ても気前のいい喫茶店のマスターだろう。 日も暮れ始めカラスが鳴く時間帯になった平和だねぇ…

 

「あっ、もうこんな時間…マスターご馳走様でしたっ。 響、帰って課題やらないと」

「うへぇ、忘れてたぁ…」

「おっと、立花。 ちょっと」

 

鞄を持って帰ろうとする彼女を一人手招きし呼び戻すと顔を近づけ耳打ちする。

 

「色々大変だと思うが無理はすんなよ? お前はまだ子供なんだから」

「…ありがとうございます。 私はへいきへっちゃらですよっ」

 

またご馳走してくださいねー! と言いながら店を出ていく2人を笑顔で見送る。

 

「流星群ねぇ…なるほど」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

未来と約束した流星群。

 

そんな約束も狙い済ましたかのようなノイズの出現によって守れなくなってしまった。 未来に謝らなきゃ、ノイズさえいなければ…!! 鬱憤を晴らすように立花響は千切り、投げ捨て、叩きつけ。 その両手で、あらゆる方法で、ノイズ達を次々と撃破し逃げ惑うセルノイズを追撃する。

追いかけてくる獣の如き動きをする少女に対してセルノイズは自らに付いているブドウの様な実をばら撒き爆裂させていく。 崩れ行くトンネルの中を疾走し天井に空いた大穴から地上に出てしまった。

 

「しまった…!?」

 

一般市民に被害が出てしまうかもしれない、泡を食って地上に飛び出た際に見たものは巨大な剣がノイズを貫き霧散させている瞬間だった。 風鳴翼、響が憧れている人であり響の持つガングニールの前装者である天羽奏のパートナー。

 

「つ、翼さん…」

「貴女には覚悟はあるのか。無いのならばこれ以上ノイズの件には首を突っ込まないことだ」

剣を向けられ体が凍りついたみたいに動けなくなるがここ数日、彼女に認められるために、そして日常の為に頑張ってきたつもりだった。 自分なりに戦ってみたりもした。

 

「わ、私は……っ 」

 

拳を握りしめ言葉を続けようとした所で一人の女の子が歩いて来た。 確かに此処は公園だし流星群が良く見える場所だ。が、周囲には避難勧告が出ている事に加えて何よりその少女の格好は翼と響に似ていたのだ。

突然の登場に翼すら惚けた。

 

「邪魔したんだったらわりーな? さっさとそこに居るガングニールの女を回収して帰るからどいてくんねーかな」

 

白銀の鎧を纏った少女は響を指さし退屈そうにそう言うが、翼は剣を振るい言葉よりも先に斬り掛かる。

流れるような剣撃は鋭く、ノイズであるならば一刀両断され消滅しているところだ。

 

ノイズであるならば

 

「ちょせぇ!!」

 

腕部から伸びた鞭によって剣は弾かれ、空いた脇腹に勢いが乗ったもう一つの鞭が直撃し林の中へと翼のカラダが吹き飛ぶ。 木々に直撃する前にギリギリ響が飛び込んで受け止めダメージはそこまでなかったのだが翼自身は響の手を振り払いあくまでも1人で立ち向かおうとした。

 

「貴様が身につけているそれはシンフォギアではない……一体なんだ?」

 

【翼、落ち着いて聞くんだ。今、お前が交戦している相手は……ネフシュタンの鎧だ。二年前に行方知れずになった聖遺物の…!】

 

「レポートは読ませてもらったぜ? お前と天羽奏が起動したコイツはあたしが使ってやってるんだよ。 有り難く思え」

「貴様…私を目の前によくもいけしゃあしゃあと言えたものだな…!」

 

ギリッ…と歯を食いしばりながら隙を伺う翼に余裕の笑みを見せるネフシュタンの鎧。 そんな2人を見てか響は声を張り上げる。

 

「2人とも…折角…折角言葉が通じるんだから話そうよ!!」

「はぁ? バカかお前。 話が通じなさそうだからあたしはそいつを吹っ飛ばしたし、そいつも斬りかかってきたんだろうがっ」

「申し訳ない、その子は戦場(いくさば)を知らぬ子。故に話し合いという平和的な考えがある。だけど物騒な私達より数倍いいかもしれないわ」

「はっ、ノーテンキなお花畑ってわけか? だが違いねぇ!!」

 

響の意見を一蹴し、再び剣と鞭を交える。 先程の一撃は効いたが立てなくなるようなモノではないと翼は脚のブレードを含めた剣技で鞭を弾きながら着実に距離を詰め始め、逆に少女は近づけさせまいと上下、左右と挟み込むように両腕の鞭を巧みに操り剣の隙間を縫った連撃で翼のカラダに細かな傷をつけていく。

 

足払いの為に低空で迫った鞭をバックステップで避けた翼はそのまま天から千の刃を雨の如く降り注がせる。

 

『千ノ落涙』

 

光の剣が降り注ぎ土埃を上げ響がいる場所からは状況は一度見えなくなるがすぐ様土埃は晴れることになる。

少女は刃を防ぐため鞭を高速で回転させ全てを防ぎきってみせていた。

 

「甘ェ甘ェ! そんなもんであたしが倒せるかよ……って何処に行きやがった!?」

 

目の前に居たはずの翼が消え失せ、自分を照らしていた月明かりが雲に陰ったのか暗くなる。

 

「上かっ!?」

 

空に舞い上がったアームドギアは巨大な剣となり風鳴翼は脚を添える。

 

「遅いっ、奥義にて決めさせてもらうっ」

 

『天ノ逆鱗』

 

剣を蹴り、少女の堅牢な防御を破る為に加速したソレは仕留めるには十分過ぎる威力を持つ一撃だった。

白銀の少女も耐えるため歯を食いしばり身を固める。

 

 

Diamond...!

 

 

巨大な一撃は彼女に届くこと無く突如目の前に現れた透明な盾に防がれてしまい翼は弾かれるように着地した。

 

「これは……まさか…」

「遅ェんだよ、ブラッドスターク。 何処で道草喰ってた」

「ネフシュタンちゃんがピンチになる所を遠くから見ていた…おいおい、そんなに怖い顔するなよ。助けてやっただろ?」

 

血を連想するような赤いボディに緑のバイザー、蛇を思わせる印象を持ち飄々とした態度をとる男の声、忘れる事がない。

立花響にとっては逃げようとした自分に向かって銃弾を撃ち込んできた人物。

風鳴翼にとっては天羽奏の仇。

 

「Guten Abend 。

天羽々斬にガングニール。 わかってるとは思うがこっちの目的はガングニールの回収だ。天羽々斬にゃ用がない」

 

シッシッ…と手で払うが風鳴翼の心中は穏やかではない…どころか凄まじい殺気を露わにしそれに当てられた立花響は腰を抜かし、白銀…ネフシュタンの鎧を纏った少女ですらほんの少しながら身を硬直させてしまう程だった。

 

「貴様は……貴様は、奏だけじゃ飽き足らず立花にまで手を掛けるというのか!? 何故、何故あの日…奏が死ななければならなかった!!」

「何だっていいだろう? ビジネスなんだ今回は。 俺自身もガングニールを手に入れたい所だが…」

「御託はいい、ブラッドスターク。 テメェがガングニールを回収しろ。 アイツはあたしがやる」

 

鞭を振り、先端に光球を創り出すと勢い良く放ち再び戦いの火蓋が切って落とされる。

ネフシュタンの鎧の少女は中距離からの連撃、光球を何発も打ち込み、空気を抉り、地面を穿つ猛攻で翼を一切近付けさせずに一方的な嬲りを始める。

斯く言う翼は怒りのあまりに動きに繊細さを欠き先程まで躱せていた攻撃までくらってしまう。

 

スタークの方はあちらと比べ戦いと言えるほどの内容ではない。 お遊び程度だ。 彼女なりに必死なのだろうが如何せん動きがトロすぎ避けるのも余裕だった。

右の突きを打てば外側に回り込み相手の勢いを利用して投げ飛ばし、下段の蹴り払いがくればその脚を全力で踏みつけ身動きをとれなくし、決死のタックルをしてくれば真横から回し蹴りを叩き込んで何度も土の味を味わわせてやる。

 

「動きがなっちゃいないな。 相手の動きを良く見ろよ? オマエは猪突猛進過ぎるんだ」

「…このっ!」

 

左フック気味に外から来たパンチを頭を引いて躱す…が、痛烈な一撃が緩んだ鳩尾に刺し込まれた。

 

「ぐぅ………!? 山突き…とは、中々粋な技知ってるじゃないか…」

 

上段に気を取られた瞬間に同時に迫っていた中段の突きが的確にスタークの鳩尾を抉った。 蹌踉めきながらも呼吸を整えスグに体勢を立て直す。

 

「山突き…?」

「知らないで打ったのか? だとしたらセンスは秘めてるようだな。 だが、力の入れ方が甘い。 パンチってーのは…こうやって撃つんだよ」

 

滑らかな動きから腰を落とし響の懐へ入り込むと脇の下に構えた拳が回転を加えられながら腹部を叩き、響の体は一度宙に浮いて、そのまま倒れ込む。

 

「ガハッ!?」

「っと、悪ぃ悪ぃ。 シロート相手につい力を入れすぎた。 大丈夫か嬢ちゃん」

 

腹に受けた衝撃により胃の中身を吐き出し呼吸が荒くなる。

 

「だがまぁ…ガングニールと天羽奏が泣いちまうなァ? こんなに弱っちぃ奴が自分の後釜と知ったら」

 

スタークはグリグリと腹を踏みつけ嘲笑い、響は悔しさに涙を流す。

私では奏さんが残してくれたこの力は誰かの為に使えないのか、やっぱり私はただの鈍臭い子なのかもしれない…

 

「はぁ…つまらない。 まっ回収が楽で助かるか……おい、ネフシュタンちゃん。 連れて行くぞ」

「ちっ、しゃーねぇな。 お前とのお遊びもしまいだってよ」

 

スタークに踏みつけられている立花響を見て片膝を着き息が上がっている風鳴翼はアームドギアをネフシュタンの鎧に向かって投擲を行うが鞭の一振りで叩き落とされてしまう。

 

「自暴自棄って奴か? 無駄無……」

「果たしてそれはどうかな?」

 

『影縫い』

 

アームドギアと同時に放った本命の一投はネフシュタンの鎧の影に突き刺さり彼女の動きを縛り上げていた。

 

「立花響、私は貴女を……いえ、そこで防人の生き様と覚悟を見ていなさい」

 

 

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

Emustolronzen fine el baral zizzl

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

Emustolronzen fine el zizzl

 

 

 

身動きの取れなくなった少女に対して覚悟を決め歌を紡ぐ少女は自嘲的な笑みを浮かべ、その身から爆破的なエネルギーを放出させ一帯が光に飲まれる。

 

呆然と光景を見つめている立花響は叫ぶ事も泣くことも出来ずにいる。

 

「絶唱…やっぱりとんでもないエネルギーだ。 だが、これ程でもアレの復活を目指すにはエネルギーが足りない…か。 面倒だな」

 

ブラッドスタークと言えば逆に他人事のように何かを呟きながら掌でボトルを転がしため息をついた。

光が止むと全身から流血しながらも立っている風鳴翼が見えるがその様は狂気すら覚える姿。 剣として鍛え抜いた精神が彼女自身の生命すら脅かしている言わば呪いだった。

モロに喰らったネフシュタンの鎧は砕け散り鎧よりも美しい白銀の髪を露わにしながら倒れている。

 

「ガングニールの回収に加えてネフシュタンちゃんの保護…コイツは報酬を弾んでもらわないと割に合わないか」

「残念ながら、響くんから離れて貰おうか」

「ぁん?」

 

振り向くよりも早くボキボキ…と、骨が折れる音が聞こえ、その後にズドンと大砲でも撃ったかのような重い音が響きスタークはくの字に身体をひしゃげさせノーバウンドで10m程吹っ飛ぶ。

 

「がっ…は!? オマエ…は!」

「この子達の司令、風鳴弦十郎たぁ俺の事だ!!」




戦闘描写苦手すぎ悲しみが深いな


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それぞれの思惑

前回までの戦姫絶唱シンフォギア!

「ネフシュタンの鎧を纏った雪音クリスが立花響と風鳴翼に襲いかかる! だが、風鳴翼も負けちゃいなかった決死の絶唱が雪音クリスを撃破した。 全く子供のお守りをさせられる俺の身にもなれってんだ」
「テメーだってオッサンの一撃でのされてんじゃねーかブラッドスターク!」

「「どうなる第5話っ」」


ブラッドスタークは甚大なダメージを受けフラつきながら立ち上がるも、まともに二本足で立てるようなレベルではなく近くの木に身を預け自らを吹っ飛ばした弦十郎を睨みつけている。

ノイズ達を特異災害と言っているがこちらからして見れば風鳴弦十郎こそ人間の限界を超えた特異、異常と言えるであろう。 生身のパンチ一つでブラッドスタークを撃破してみせるなど有り得るものではない。あの万丈でさえネビュラガスを身に注がれハザードレベルを上げに上げてやっと届いた域なのだ。

それを風鳴弦十郎は身一つでやってみせた。

 

「コイツは…たまらねーな……ガングニールの嬢ちゃんは今回諦めるとしよう」

「俺がこのまま、お前達を逃がすと思うか」

「オマエさんの相手はコイツらに任せる…ガーディアンだ」

 

片手をあげると周囲の林から風鳴弦十郎、立花響を包囲するように銃剣を装備したフルフェイスヘルメットを被った兵士がゾロゾロと現れ始める。数にして約20程度。弦十郎は近くに倒れていた響を担ぎ上げると地面がめり込むほど踏みしめそのまま跳躍、ガーディアン達を飛び越えて翼の真横に着地した。

 

「響くん、翼を頼んだ。 貴様らの相手は俺だ…!」

 

構えをとると姿が消える程の速さでガーディアンへと迫った弦十郎はたった一度の突きで土手っ腹に風穴を開けた。 バチバチとスパークしながらガーディアンは崩れ落ち機能を停止させ残ったガーディアン達は一斉に射撃を行うがバケモノ染みた身体能力に物を言わせ飛び交う弾丸を避け1体、また1体と潰していく。

 

「いくら試作品と言えどウチの製品をこうも簡単に潰してくれるとはな…そのガーディアンが人間じゃない確信はあったのか? 人間だったら軽く御陀仏だと思うが」

「人の気が感じられなかったからな」

「おー怖っ…いいさ、これからアンタ達とは殺り合う事が増えるだろうからな。 改めてヨロシク頼むよ Ciao」

 

白銀の少女と共に蒸気に包まれ姿を消してしまう。 舌打ちをつきながら未だに包囲網を解かないガーディアン達を一掃するべく、大地を全力で踏み込んだ。

 

「爆震…ッ!!」

 

足踏み一つで地面がめくれたという表現が正しいのだろう。周囲で構えていたガーディアンはことごとく宙に舞い上がり、地に叩きつけられた衝撃で機能不全を起こしていき動かなくなってしまった。

ノイズの影もガーディアンの姿も無くなり張り詰めていた糸が切れたのか響は破顔し涙を流しながら第二課の面々に保護され、翼は予断を許さない状態に陥っている。 不甲斐ない、大人の自分達こそ子を守るために前へ進まなければならないのに年端もいかないこの子達に何もかもを託してしまっている自らに腸が煮えくり返る。

 

「クソったれ…」

 

宙に流れる星々はいつの間にか無くなり、月明かりだけが煌々と現場を照らしていた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「いやはや、あの司令があんなに強いなんて俺は知らなかった。 教えてくれたってよかったじゃないかフィーネ」

「身を以て知った方がこの先の苦労は減ると思ったのよ」

 

街外れにある城みたいな豪邸の一室でスタークは勘弁してくれよ、と嘆きながら脚を投げ出し寛いでいた。 フィーネと呼ばれた女性もスタークの態度には気にせず、黙々と何か作業を行っている。 皆目見当もつかないが大方碌でもないモノだろう。

この手の人間…人間と言っていい生物なのかは分からないが俺と同じで自分の欲の為に動き、それ以外の犠牲は気にしないタイプなのだ。

 

「ネフシュタンちゃん頑張ってたのに可哀想なもんだねぇ…」

「うるせぇ、元はと言えばお前が遅れないで最初っから来てれば話はスグに済んでたんだ」

「いいのよ、クリス。 あのガングニールには成長してもらうっていう大事な目的が出来たから」

 

成長…? 回収から成長とはこれまた急に方向性が変わったもんだ。 スターク的には成長してくれた方が後々楽なのでその案には乗るがやはり何を考えているかわからない女だな。 ベルナージュよりも読みにくい。

 

「差し当ってはブラッドスターク。 貴方に頼みたい事があるわ」

「へーへー、奴さんが成長出来やすいようにクリスちゃんとちょっかいを出せってことか? 任せろよ、俺の手に掛かれば何レベルでも上げてやるさ」

「…ちっ、フィーネが言うんだからしゃーない。 それと気安くクリスって呼ぶなスターク」

「俺の事をエボルトって呼んでくれてもいいんだぞ?」

「なんだその名前…つーかよ、テメーの後ろにいるヤツは誰なんだ? 似たようなアーマー着やがって」

 

フィーネを庇うように間に割って入り立つクリスが指差したのはブラッドスタークの背後にずっと控えている黒いアーマー。 スタークが引き連れていたガーディアンとはまた違った出立ちをしていて不気味さを覚える。

 

「コイツか? 俺の組織の幹部…とでも言えばいいか。 名前はナイトローグ、俺と同じトランスチームシステムを使って変身をするがコイツは見た目の通りコウモリの力を使う」

「ナイトローグ…ふぅん? アンタより強そうな名前だな」

「おいおい、名前だけで判断するなよ。 コイツの実力は…クリスと同じくらいか少し上ぐらいだ」

「あたしがアンタより弱いって挑発か? そりゃよ…」

 

ペンダントを握りしめ一触即発な雰囲気を醸し出すがフィーネはそれを手で制しテーブルに置かれた数本のボトルを興味深そうに手に取る。

 

「これに成分を含ませて使うのね」

「あぁ、オマエさんたちが聖遺物の力を使う様に俺達はボトルに回収させた成分を使うのさ。今は順調に集まってる…数にして約40ってところか」

 

パンドラボックスの解放に必要な数は60本のボトル。そもそもこの世界のパンドラの箱は自分が欲しているパンドラボックスなのか自体分からないが用意しておくには越した事はない。それに加えて幾つか面白い成分も集まっているのだから別の方法で星を滅ぼしてやるのも面白いかもな。

ドラゴンフルボトルを選び取るとクリスに投げ渡す。

 

「んだよコレ。ドラゴン…? こんなの貰ってもあたしは使えねーぞ」

「御守りだ。 そいつは持ってるだけで戦闘力を時折はね上げるからな」

「御守りねぇ…」

 

手の上で転がすようにひとしきり眺めたクリスはポケットにねじ込むと肩を竦め、散歩と告げながら部屋を出ていった。

 

「あのぐらいが可愛げがある。 そう思わないかローグ」

「…オレには分からない事だ」

「つれねぇなぁ」

「ところで…貴方は一体誰なのかしら。 そろそろ素顔を見せてくれてもいいんじゃない?」

 

軽口を叩きながら帰ろうとするスタークにフィーネは大した興味も無さそうに、一応聞いとくだけ聞いとこうというレベルで聞いてきた。

 

「さぁてな? 答えるつもりも姿を見せるつもりも無い。 俺は然るべき時に姿を見せるさ…最もその時にアンタが生きてるかは分からないがな…フィーネ?」

「はっ、言ってなさい」

 

フィーネが振り向けば姿は無く、その掴み所の無さには苛立ちを覚えるが無駄な事と割り切り次の計画の調整に入る事にした。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

種は蒔いた。

芽吹くのはだいぶ先だろうが成長を見守るのも楽しみの一つということだ。

立花響、風鳴翼、雪音クリス。

加えて他に4人のシンフォギア装者…敵に回すのには申し分無い!! 今のハザードレベルのままでは困るから若干ヤツらにも肩入れをしなければならないがその程度は手間のうちに入らない。

 

「第一段階のフィナーレといこうか。 楽しみだなぁ…どんな反応、感情を見られるか」

 

nascitaの地下室に設置された棺桶のような機械から聴こえるのは悲鳴。

その悲鳴は止むことなく日が沈んでゆく。

 

「…っと、そうだそうだ。 そろそろ俺はイイヤツだって思わせないとな」

 

 




「さぁて、次回のシンフォギアは?」

「またあたしがやられんのかよ!? だけどタタじゃやらせねぇ…この雪音クリス。あと2回変身を残してんだっ!」


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暴走とベストマッチなアイツ

前回までの戦姫絶唱シンフォギア!!

「翼さんが命の危機! 私は師匠と特訓を行って戦闘力が上がった!」
「そして私も一命を取り留め、立花と言葉を交わしたのだった…」

「そんなシーンありましたっけ?」
「ご都合主義というやつらしい、気になる方は戦姫絶唱シンフォギアのアニメを視聴してくれ。 デュランダルの行も展開上今回は無いらしいからなっ」
「え、私の暴走もなしですか!?」


「「どうなる第6話!!!」」


「どんくせーのが…やってくれる!!」

「どんくさいなんて名前じゃないッ!」

 

林の中を駆け抜け市街地からクリスを遠ざけた響は叫ぶ

 

「私は立花響ッ!15才ッ!誕生日は九月の十三日で、血液型はO型ッ!身長はッこないだの測定では157cm!体重はッ…もう少し仲良くなったら教えてあげるッ 趣味は人助けで好きなものはごはん&ごはんッ!あとはッ…!」

 

すぅぅ…と大きく息を吸いこみ胸を張った響に対してクリスはたじろぎながら続きを待つように動かない。

 

「彼氏いない歴は年齢と同じィッッ!!!!!」

「何をとち狂ってやがんだテメーは!?」

「私たちはッノイズと違って言葉が通じるんだから、ちゃんと話し合いたいッ!」

「悠長なこと…言ってるんじゃァねェ!!!」

 

鞭を叩きつけ響を潰そうとするが一撃目、二撃目…三、四…ッ!! 何度潰そうとするも難なく攻撃を躱していく。 果てには拳で鞭を殴られ明後日の方向へ向かっていってしまう。

 

「こいつ…何か…変わった…?! 覚悟か…!!?」

 

躱しながら右に左にステップを踏み近付いてくる響にイラつきを抑えられない。

 

「話し合おうよ…っ!! 人間同士、分かり合えるよっ!!」

 

ブチリ… 堪忍袋の緒が切れた。

 

「分かり合えるものかよ人間がッ…!そんな風に出来ているものかッ…!気に入らねェ…気に入らねェ…気に入らねェ…気に入らねェェッ!!!!!わかっちゃいねえことをベラベラと知った風に口にするお前がぁッ!!!!」

 

鞭を振り払いながら先端に光球を作り出す。 翼を苦しめた一撃を今まさに響が移動しようとしている地点に打ち込む。

 

『NIRVANA GEDON』

 

着弾する瞬間に響は両手で光球を押さえ込み逆にクリスに向かって押し返そうと試みるがスグに考えを察したクリスは二つ目の光球を発生させると身動きの取れない響に放たれた。

仕留めた、確信を持って口角を上げ笑ったが光が凝縮されている。 あのどんくせーのは自分の力を無理矢理アームドギアにしようとしている事はすぐに分かった。

 

なんつーデタラメをしようとしやがるんだ!?

力は暴発し奴は吹き飛ぶが…ヤバイ、奴はヤバイ!!!

 

凄まじい速度で成長を遂げるガングニール……立花響に恐怖を覚えた。 同時にこんな奴がフィーネに期待されてる事に嫉妬をした。

 

「させるか……よォォォオオオオオ!!!!」

 

怒号とともに振るった鞭は形を変え龍となり立花響に牙を剥いた。

蒼く輝くドラゴンは身を焦がすような熱を発しながら響に襲いかかっていき、響は新たに解除された機能を用いて宙に舞い上がり回避していく。

 

ドゥン…ドゥン……!!!! 大気が揺れる音の原因は響のガングニールの機能、脚に付いたバンカーの衝撃音だ。 極限まで伸ばしたバンカーを引き戻す衝撃で彼女は跳躍し宙でドラゴンと戦っている。

 

「その身で受けて焦げ死んじまえガングニール……!!!」

 

2本から更に分裂した龍の鞭が上下左右、響を挟撃するように迫る。

 

「エネルギーはあるんだッ…!アームドギアに形成されないのならッ…その分のエネルギーを!ぶつければいいだけッ!!!!!!!!」

 

両腕のパーツの部分がスライドし煙を吹きながら唸りあげ、力の限り龍を殴りつける。 インパクトの瞬間スライドしたパーツが戻りパイルバンカーの要領で威力が上がったパンチがドラゴンの鞭を打ち砕く。

 

「んなっ!?」

「雷を……ッ!!」

 

空中に残った鞭の残滓を蹴り飛ばし宙を走りながらクリスへと向かい、背中のブースターが火を噴き上げる。

最速で、最短で、真っ直ぐに、一直線に

 

「握りつぶすようにィィィイイイイ!!!!!!!!」

 

急接近する響に対して対処が間に合わないネフシュタンの鎧の腹へハンマーパーツを全開まで引き上げた拳が突き刺さり…

 

ガションッ!!!!

 

スライドが戻るとネフシュタンの鎧はヒビ割れそのまま爆発四散するかの如く破片をばら撒きながら転がり飛んでいく。

 

「はぁ…はぁ…はぁ……!!!」

 

息を切らしながらもネフシュタンが吹き飛んだ方から視線を逸らさず警戒し続ける響。 そんな彼女の耳に聞き慣れた、だけど何処か違う歌が聴こえた。

 

 

「Killter Ichaival tron」

 

 

重低音の音楽が鳴り響き、一気に場を支配していく。 ここは既に女王のテリトリーへと塗り固められた。

 

「見せてやるよ…雪音クリスの、イチイバルの力を…あたしに歌わせた代償は高いぜ…!!!」

 

歌とともにクリスの手にはボウガンが2丁現れ、番えられた5本の矢を躊躇いもなく掃射し響は走って躱していくが地面に着弾した矢は爆裂し響の背を脅かす。

 

 

 

ギリギリ回避し終えた響に向かって追撃の矢を放ち爆炎で視界を封じた上で接近からの回し蹴りを脇腹に蹴り入れダメージを与えながら自らが最も有利な距離を再び作り上げる。 転がりながらも何とか体勢を立て直した響が目にしたものは巨大なガトリングガンを両脇に構えたクリス。

 

『Billion maiden』

 

 

砲口が火を噴き上げ弾丸の雨霰が林を薙ぎ倒し逃げ場を徐々に抉りとっていく中でも歌は止まずに次なる一撃、腰のアーマーが左右に展開し片方12発、両門合わせて24発のミサイルが響に向かって一斉に放たれる。

 

 

『MEGA DEATH PARTY』

 

 

絨毯爆撃の如く降り注いだミサイルは周辺を更地にしていき、クリスは尚も射撃を緩めることなく打ち続ける。

 

砲身から煙が上がる音と共に歌は止み息を荒らげながら炎の中を睨みつける。

自分と立花響が居た場所を隔てる壁が煙の中から現れる。

 

「盾…?」

「剣だ…ッ!」

 

地面に突き刺さった剣が全ての爆撃と銃撃を防ぎ響に届かぬように反り立つ。その頂点には予断を許さぬ筈の風鳴翼が髪を靡かせ立っていた。

 

「…はっ、病人が足でまといの子守でもしに来たのか?」

「足でまとい? あぁ、私の事か。 立花、分かってはいると思うが私は十全の力を振るえん。 貴女に行ってきた振る舞いを許せとは言わない…が、今この時のみでも構わないっ。 私に力を貸してくれ」

 

憎しみを込めた言葉ではなくただ一人の、風鳴翼としての言葉で響を頼りにした。 だとすれば響の答えは一つしかない。

 

「勿論ですっ。 今回だけなんて言わずこれから、ずっと!」

「仲良しごっこは…他所でやりなァ!!!」

 

ボウガンを構え直したクリスは舞い降りてきた翼に向かって撃ちまくる。 翼は宙に居ながらも自らを射抜こうとする矢を尽く切り落とし逆に天から千ノ落涙を降らせてみせ、瞬く間に攻守が逆転した。 上空を舞う剣に気を取られ意識を外した瞬間、槍はクリスのカラダをブチ抜く為に懐へと潜り込む。

 

ガシャンッ!!!! という機械音は腕のパーツがスライドした音。 気がついた時には既に拳は腹に当てがわれ、このままでは2度と立ち上がれなくなる事が簡単に予想できた。

 

「いっけぇぇえええええ!!!」

 

ガングニールの全身全霊の一撃が炸裂しクリスは為す術もなく吹っ飛ばされる。

何回もバウンドしながら転がり起き上がろうと必死にもがくが力が入らず吐きながら呼吸も安定しない。 シンフォギアも解除され完全な無防備状態だ。

 

「………」

 

倒れ込んだクリスの近くに誰かが歩いてくる気配。 ヤツらか…と目だけで音の方向を向けばナイトローグが立っていた。 フィーネがあたしを助ける為に使いを出してくれたのか…

 

しかし、考えに反してローグはクリスに銃口を向けていた。 駆け付けた風鳴翼と立花響も状況を理解出来ていない。

 

「新しい敵…だと?」

「ナイトローグだ、覚えておくといい。 クリス、フィーネからの伝言を受けてきた… もう貴様は用済みだそうだ」

「な…っ!?」

「クリスちゃん…ッ!!」

 

引き金を引くよりも速く響がローグを突き飛ばしギリギリクリスが撃たれるのを防いだのだが、彼女の信じていたモノに裏切られた怒りは限界を超えポケットにねじ込まれたドラゴンフルボトルが感情に呼応するかの如く蒼く燃え上がった。

ゆらり…と幽鬼ような異様な気を纏ったクリスは満身創痍なカラダを引き摺り起こし胸元のペンダントを握りしめ…

 

「どいつも…こいつも……あたしをっ!! あたしを舐めやがってぇぇえええええ!! 許さねぇ…アンタら全員生きて帰れると思うなよ………っ!!!!」

 

 

 

「…… Dragon Ichaival tron ……」

 

 

 

蒼炎が身を包み絶叫しながらも憤怒の炎にカラダを焼かれ続ける。 戸惑いを隠せない装者2人、興味深そうに見つめるナイトローグ。

 

絶叫が止むと炎は掻き消され中から現れたのはイチイバル本来の赤色が暗めになったことに加えて蒼いファイヤーパターンが隅々に入ったシンフォギア。

通常ならば301655722通りのロックが成されているシンフォギアなのだが今の雪音クリスには半分のロックもかかっていないのだろうか。シンフォギアが悲鳴を上げ炎に焼かれているように見えた。

 

【翼、現場はどうなっている!! イチイバルの出力が限界値を超えかけているぞ!?】

 

「分かりません、ただ気を抜ける相手ではない…という事です」

「あたしを前にお話たァ、余裕かまし過ぎだろっ!!!」

 

両腕に構えたのは先程まで使用していたガトリングガンとは違う大きな砲塔。 武装の質も格段に変わっているのか銃口に光が収束すると蒼白いレーザーが地を溶かしてゆく。

翼、響、ナイトローグ共に飛び上がり事なきを得るがそれは誘い。 24連のミサイルは翼に防がれてしまったが…ニヤリ、獰猛な笑みを見せると背のアーマーが羽根のように展開し小型のミサイルがぎっしりと積み込まれている。 片翼に24発、つまり防がれた時の倍。

 

「出血大バーゲンだ。 持ってけ泥棒ォ!」

 

 

『GIGA DEATH PARTY』

 

 

空一面を焼くほどの大火力は夜空を夕焼けの空と同じく色に染めあげ黒煙の中から二つの影が地面に向かって真っ逆さまに落ちていく。 シンフォギア装者の2人だ。

ナイトローグは羽根を広げ、より上へ上へと飛んでいた為に被害を免れていた。

 

「歌わずに…この威力……っ!?」

「クリスちゃん…っ」

「気安く呼ぶんじゃねェ!! フィーネもてめぇらも大嫌いだっ……消えて無くなれェエエ!!!」

 

間髪入れずに両腕の大口径レーザー砲が変形し大型のミサイルが片腕に2基ずつ配置されている。 爆裂に呑み込まれ地面に叩きつけられた2人が防ぐ術はない。

 

「ナイトローグ、テメェもコイツらの後にじっくり料理してやるよ…逃げるんじゃねーぞ」

 

空から現状を見守るローグに怒鳴りながら、まずは2人、仕留めにかかった。

 

 

『GIGANT DEATH FUGA』

 

 

「翼さん…ッ!!!」

「立花…任せたぞ…ッ!!!」

 

向かい来る4つのミサイルに2人は肩を合わせ横並び走り、翼はミサイルを両断し響は有り余るパワーぶん殴り2人の背後で爆散する。

 

「火力が足りねぇのか!? だったらもう1度聴かせてやるよ…あたしの歌ァ!!!!」

 

蒼に燃えるイチイバルの背中にはウェポンラックが出現しミサイルコンテナやガトリングガンなどが陳列し次々に乱射され最早狙いも付けずに暴れ回っているだけだった。 それでも防戦一方になってしまう程の大火力に攻め手を完全に失う。

 

地形が形を変え、焼け野原になっていく中でナイトローグは上空を旋回しつつ状況を撮影し分析をしていく。 ドラゴンフルボトルはやはり手に余るものだったか…が実に面白い実験になっている。このまま雪音クリスを使い潰しても構わないぐらいに有用なデータだ。

 

「このままじゃクリスちゃんが!」

「分かっている! だが今は自分の身を案ずることだっ…私とて彼女を見捨てるつもりは毛頭ない!」

 

 

「ドラゴンフルボトルに飲まれて本当の自分を見失ってる」

 

声がした。 聞き覚えのない声がゆっくりとクリスの背から聞こえてきた。 土煙と爆炎で姿は良く見えない。

 

「火事と暴れん坊を相手にするなら…これだっ!」

 

 

 

ハリネズミ! 消防車!

 

ベストマッチ! Are you ready?

 

 

「変身!」

 

 

レスキュー剣山!ファイヤーヘッジホッグ!

 

イエェイ!

 

 

 

「貴方は…?」

 

響の間の抜けた質問に白と赤のボディを持った謎の人物は指で角をひと撫でし、高らかに名乗った。

 

「ビルド。 仮面ライダービルドだっ!」




「あっという間に3回ものされてしまったクリスちゃん!」
「あたしの扱いが気に食わねぇ! ナイトローグにブラッドスターク許さねぇからな!」
「と言うことは仲間フラグ!?」
「ば、バカッ。それとこれはまた別だ!」

戦姫絶唱シンフォギアEVOL 次回もお楽しみにっ


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新たなる異形

前回までの戦姫絶唱シンフォギアッ!!

「暴走した雪音クリス。 それを止めに入ったのは何とも胡散臭いツートンカラーヤローだった!」
「胡散臭いは余計だって。 仮面ライダーって呼びなさいな」
「出たな…胡散臭い仮面!」
「ホントに信用ないなぁ…翼ちゃん、そんなのじゃ友達出来ないぞ?」
「と、友達ぐらい私とて居る! た、立花…とか…いや彼女は私を友達と思っているのだろうか? 先日まで彼女に斬りかかろうとしたり…彼女を戦いから遠ざける為とはいえ色々し過ぎたような…ブツブツ」

「はいはい、そうかい。 どうなる第7話!」



「ビルド。 仮面ライダービルドだ!」

「お前…」

「まぁ待ちなさいよナイトローグ。 まず俺がすべき事は彼女を止めることでしょーが」

 

空から声を上げるナイトローグを制し目の前にいる少女を指差しながら構える。ギギギギギ… シンフォギアは悲鳴を上げ、クリスの歌は叫びに変わっているというのに止まらない砲撃は既に彼女の管理下から完全に切り離されている。

 

「よっと!」

 

軽い掛け声と共に赤い半身から放水を開始し水圧で彼女動きを止めながら周囲を鎮火していく様は正に消防車だ。 水の勢いでクリスは後ろへ徐々に押されながらも踏ん張り暴れ出す。

 

「ぁぁぁああァアアアア!!!」

「ちょっと手荒になるけど許してねっと!」

 

藻掻くクリスに対してビルドは放水を止め突っ込んできた彼女に白いカラダの脚でイチイバルの装甲が厚い部分を蹴り飛ばす。同時に針が炸裂し彼女を地面に縫い付け、動きが止まったことを確認すると腰のベルトのボトルを引き抜き新たに2本のボトルを差し込むとベルトがけたたましく鳴り始める。

 

 

ラビット! タンク!

ベストマッチ! Are you ready?

 

「ビルドアップ!」

 

鋼のムーンサルト!ラビットタンク!

イエーイ!

 

 

「変わった…?」

「このまま決めさせてもらうっ!」

 

白と赤から赤と青のボディに切り替わったビルドはベルトのレバーをグルグルと回し跳び上がると放物線を描きながらクリスへと向かっていく。

 

 

ボルテックフィニッシュッッッ!!!!

 

 

どういう原理か勢いの乗った蹴りが直撃するとイチイバルは解除されドラゴンフルボトルが宙に舞った。 落ちてきたそれをしっかりと掴み月夜に照らす形で眺めたビルドは腰のホルダーにボトルを差し込むと手を振った。

 

「それじゃ、お二人さん。 彼女頼んだよっ」

「頼んだ…って…え?」

「待て、貴様が何者か教えてもらおう。 ナイトローグ…ブラッドスタークと関係があるのか」

 

その場を去ろうとする彼を呼び止めた翼はただ、何か異質な感じを身に受けていた。 この男は…嫌な気がする。

戦士としての直感か、それとも女の勘というやつか…戦場では時に直感も頼りになるモノだ。 そんなものにビルドと名乗った男はどうにも引っ掛かった。

 

「この街のラブアンドピースの為に戦ってる正義のヒーローさ。 さてと…ナイトローグ、次はお前だっ」

 

夜空に舞うコウモリはその瞳…バイザーを妖しく輝かせながら4人を空から見下ろし、両翼を閉じるとビルド目掛け錐揉み状に回転しながら突撃するがビルドはラビットボディの強靱なバネを利用し跳び上がり回避し着地したナイトローグに向かってスタンプを繰り出すとズンッッ!!! 、重い音が辺りに響くのだがめり込んだのは地面のみ。 紙一重の回避をしたナイトローグはスチームガンをビルドの腹部に押し当て零距離射撃を行い火花を上げながらビルドは大きく蹌踉めき膝を着いてしまった。

 

「こんなものでは無いだろう?」

「言ってくれるな…ナイトローグっ」

 

スチームガンを構え直し連射しながらビルドに接近するナイトローグの姿は翼から見るとどうも手を抜いている気がしてならない。

 

タンクボディの装甲を活かし、カラダを銃撃に晒しながら勇猛に突撃するビルドはラッシュの如き拳の嵐をナイトローグにぶち込む。 絶え間なく繰り出される攻撃に押され始めるナイトローグは身を引こうと翼を広げ飛び立つがビルドはボトルを差し替え大空へと舞い上がった。

 

 

 

天空の暴れん坊!! ホークガトリング!!!

 

 

 

橙と濃灰のツートンに切り替わったビルドはその手に握った機関銃型武器に弾を装填し弾幕を張りながら追撃、銃弾がナイトローグの羽根を痛めその高度を少しずつ落として行く。

 

「つ、強い…」

 

響はただポカーンとした表情を見せながら自らとは全く違う戦い方をそう言い表し、翼は冷静に両者の攻撃パターンを目に焼き付けていた。

 

 

ガトリング…2年前に奏が人を…立花を庇い追い詰められた際に聴こえたボトル名…ブラッドスターク…なのか?

 

 

「どうした、ナイトローグ。 弱くなったんじゃないか?」

「ふん、時間稼ぎ…みたいなものだ!」

 

ビルドの挑発に、時間稼ぎと言い切りながらも高度を保てず地へと堕ちたナイトローグは土埃の中フラフラと立ち上がると小さな小瓶を取り出した。

 

「一先ず…勝負は預ける。 こちらの目標は達成したからな」

 

小瓶を割ると地面が輝き一瞬にしてナイトローグの姿が消え失せた。

 

「あちゃ…逃げられた…」

 

そう呟くとビルドはシンフォギアの3人に目もくれずバイクを出現させ走り去る。 敵か味方か…正体は謎に包まれたまま嵐のように去っていった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

nascitaの地下施設。 本来の世界ならば此処はビルド達の拠点でありおどろおどろしい雰囲気なんてない部屋だったのだが今はファウストの施設風に改造されていた。

石動は作り上げたボトルを積み上げパンドラタワー…なんて言いながら遊んでいるが。

 

「おぉ、ナイトローグ。 どうだ? アイツらは」

「観ていたくせに…一々聞かなくても分かってるだろ。 それにアレはなんだ? 聴いてもいなかったぞ」

「まぁまぁ、そう言うなって。 始めっから上空で観ていたお前の方が状況は把握しやすいだろう? それに最初は観てなかったからな。 アレに関しちゃ謝っとくよ、なんにも言わなくて悪かったな?」

「はぁ…ご覧の通り暴走だ。 ハザードレベルはそりゃ格段に跳ね上がってたが使いモンにならないな。 このままなら処分しちまっても構わないって感じさ」

 

記録したデータをスクリーンに映し出しナイトローグは粗雑な言葉で映し出された雪音クリスを評するが石動の評価は違った。 この暴走を超えた先にこそ彼女の強さが完成する。 立花響とはまた違った強者が出来ることにワクワクといった感情を覚え内が滾った。

 

「よし、ステージ2の準備と行こうか。 そろそろフィーネにはご退場してもらうとしよう」

「ん、いいのか? 例のパンドラの箱の情報とやらは」

「それについてはもう大丈夫だ。 なっ?」

 

奥の小部屋の扉が開かれると少女が現れる。 ナイトローグにとっては初めて出会う女の子だ。とてもじゃないが戦士には見えない体躯だった。

 

「見た目で判断するんじゃないぞ? 彼女は俺達の協力者なんだからな」

「ふん、侮られる事には慣れているさ。 ナイトローグだったか? 暫くはトランスチームシステムで我慢しろオレが調整を終えたら新たなドライバーをくれてやる」

 

変身を解いたナイトローグを値踏みするように一瞥すると再び部屋の奥へと戻ってしまう姿に呆気に取られながらもその背を見送るが深く言及することは無かった。

石動自身もそれ以上説明する気もないようでボトルタワーを作って遊び始めている。

 

「頭が痛くなるな…」

「風邪か? 頭痛薬なら上にあったはずだが」

「悪の組織の首領様が頭痛薬とか言わないでくれ…」

「ははっ、失敬失敬。でも俺は悪の組織なんて思って無いからな? 面白おかしく世界を滅ぼそうってチーム…そうだなサークルぐらいの考えだ」

「…はぁ…アンタの考えは分からないな」

 

ナイトローグは手をひらひらと振り奥の寝室へと歩みを進め消えていくとまた新たな人物が現れ軽快な口調を叩く。

 

「今回のプランは上手くいきそうですねぇ…Mr.石動? 僕としては貴方が余計な動きをしているのはよりエキサイティングなショーをする為…と理解しようとしてるんですが間違いでしょうか」

「いいや、ドクター。 全く持ってその通りだ…ま、俺としちゃ面白おかしく出来りゃ人類を救おうが、世界を分解しようが、神様になろうが何でも構わないんだがな」

「あぁ、なら良かった。 辿り着く結果として、僕は新世界の導き手。 貴方は世界の滅亡…それぞれの思惑あれどその計画を行うまでは一種の運命共同体ですからね。 ボトルシステムに錬金術…実に素晴らしい」

 

謳うように滑らかに言葉を連ねるドクターに石動も実に楽しそうに雑談を交えていた。 内容は至極危険極まりないモノなのだが…

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「ここ…は? 痛っゥ…」

 

見覚えのない白い天井が目に入ると同時に全身に負った火傷に苦悶を浮かべながらもカラダを起こすと手を引かれた…と言うよりガッツリ握られている。

 

「……コイツ…ガングニール……?」

「目が覚めたか雪音クリス。 立花は気にするな…目を覚ましたら貴様が逃げるから私がずっと看病しますっ! なんて息巻いていたが流石に疲れていたのだろう」

 

そうか、あたしは捕まったのか。 そう気づくと同時に、どうせこの痛みでは逃げられないと悟り大人しくする。

 

だが、不可解な事がある。 何故自分がここまで傷ついているのか? 自分の負傷はせいぜいガングニールに殴り飛ばされた数発ぐらいだと思っていたのだが。

 

「雪音クリス。 覚えていないのか?」

「はァ? 覚えてねーって何のことだよ…あたしはガングニールに殴り飛ばされてシンフォギアが解除されて…ナイトローグの野郎が来て………あたしはどうなったんだ?」

 

ポカンとしながらも必死に考え込むがどうもナイトローグが来てから後は頭の中がぐるぐると回り思い出せずにいる。 だけども逆に内心スッキリしている気もする。

それはドラゴンフルボトルがクリスの内なる憎悪を吐き出させたからか…それともビルドと名乗った奴の一撃の所為か。

 

 

「無理をするな。 思い出せないというのは思い出すまでもないと同義。それより…イチイバルの装者、雪音クリスに問おう。 この先どうするつもりだ」

「言ってくれる。 どうもこうもこの状態じゃ…あたしに出来ることなんてないだろ。 尋問でもなんでも受け…………テメェまさか、あたしにお前らと一緒に戦えなんて言うんじゃねーだろうな!?」

 

ダンっ!!と備え付けのテーブルを痛む体で全力で殴りながら怒鳴るとクリスの懐で響が目を擦りながら目覚めた。

 

「んんぅ………ふぇ…? クリスちゃん目、覚めたの!?」

「テメーはテメーで話を振り出しに戻すなバカッ」

「いきなりバカは酷いと思うよ!」

「ふ…ふふ…、中々良いコンビではないか? 少なくとも私には仲のいい姉妹に見えるのだが」

「はァ!?」

「翼さんもいれて三人姉妹ですね!」

「わ、私も入るのか?」

 

敵対していた3人とは思えぬ程のやいのやいのガヤガヤと騒がしい医務室に風鳴弦十郎と緒川慎次の2人がやって来るまで年相応の姦しい様子が繰り広げられるのだが…それはまた別の話。

 

「雪音クリスくん。 まず我々はキミに謝罪しなければならない…適合者であるキミの身を危険に晒してしまったこと申し訳ない」

「我々の力不足で身柄を確認出来ず長きに渡り過酷な生活を強いられた事、謝罪させていただきます」

 

深々と頭を下げる大人2人に厳しい視線をぶつけるがそのままクリスの口が開いて出たのは罵詈雑言ではなかった。

 

「フィーネの狙いはあたしにも分からない。 何をやろうとしているのか最後まで教えてはくれなかった…幾つか単語を聴いたぐらいだ」

 

ゆっくり、睨みつけた瞳を伏せ顔を逸らしながら言葉を吐く。

 

計画が加速したのは二年前のあの日、フィーネがブラッドスタークと出会った時からだった。ライブ会場の惨劇の日、奴がアリーナの地下に隠されている()()の聖遺物を発見し回収した際にフィーネと鉢合わせたらしく2人は1つずつ互いに聖遺物を預けその場を去った。

ネフシュタンの鎧はブラッドスタークが持ち去り、もう1つの聖遺物は特異災害本部の地下深くへフィーネが運び入れたこと。

 

「待て、ここの地下だと?」

「疑いたくねぇのは分かるが…察しがついてんだろ? フィーネが誰なのか」

 

沈痛な面持ちを向けるのは司令の風鳴弦十郎。 他の面々は何のことかわからずに首を傾げる。

 

「やはりそうなのか…」

「続けるぞ」

 

フィーネ、ブラッドスタークが口にしていた言葉。

カ・ディンギル、エボルト、フルボトル、そしてパンドラの箱。 フィーネの狙いは分からない。 しかしブラッドスタークはべらべらと聞いてもいないのに色々と話してくれていた。 俺は世界を滅ぼそうと思う…と。

 

「と、まぁ…あたしの知ってることはこれぐらいだ」

「カ・ディンギル…緒川っ」

「了解しました、あらゆる手を使って調べてみせます」

 

いち早く部屋を飛び出した緒川を見送りながらも翼、響の両者はフィーネの正体を弦十郎に告げるよう催促する。

重々しい空気の中、館内のアラートが鳴り響いた。

 

【司令、エリアB、C、Dにそれぞれノイズとは別の謎の異形が出現!!! 現在、自衛隊部隊が交戦中…武装が効かない訳ではないものの食い止めるのは困難かと思われます…!】

 

「こんな時に…!」

「後でしっかり聞かせて頂きます。 立花、いけるか」

「翼さんこそ、本調子じゃないんですから無理しないでください」

 

医務室を飛び出し両名が現場へ急行する。

 

「……オッサン、あたしはどうなる」

「クリスくん、キミの体は響くん達との戦闘でボロボロだ。 今はゆっくりここで休むことだ」

「そうじゃなくて…あたしを取っ捕まえないのかってことだよ」

「…こちらの責任もある為その判断は我々では出来ん」

 

すまなかった、と謝りながら弦十郎も状況確認の為に司令室へと向かった。 たった一人残されたクリスは記憶にないながらもあの2人が出会って間もない、しかも敵対していた自分に向かって必死に手を伸ばしてくれていた…そんな気がしてならなかった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「きゃぁぁぁああああ!!?」

 

爆風に乗せられ身体が飛ぶ。 コンクリートの地面に打ち付けられ全身が痛い。

小日向未来は己の運のなさに、何より大好きな響に会えなくなってしまいそうな、そんな予感がして涙を流す。

 

そもそも、最近、響が何かと用事が入り自分との予定をキャンセルする事が立て続き、響の気も知らないで勝手に腹を立ててしまったことが問題だった。

彼女にも用事は出来るし、それこそ響の憧れの先輩だった風鳴翼さんと仲良く話をしている所を見かけた時は祝福よりも嫉妬心が出てしまうぐらいに自分が彼女に依存していると実感した。

 

オバチャンのお好み焼きを食べながら悩み事を聞いてもらおうと寮から出て歩いていた時、ノイズではないソレに出会ってしまった。

逃げる為に必死に走ったがソレの頭部が光ると同時にビームが放たれ遂に倒れてしまう。

ズシンズシン、足音を鳴らしながら近寄ってくる恐怖にカラダが震え動けなくなってしまった。

 

「響……」

 

最後に呟く言葉は最愛の友人の名前…そんな時、歌が聴こえてきた。

力強く、背を押してくれるような…そんな歌。

 

 

近寄る恐怖をその拳で殴り飛ばし現れたヒーローは…

 

「響……?」

「み、みみ未来!? こ、これはその…なんと言いますか…」

 

謝りたかった友人だった。

 

「なんで…響がそんな事をしてるのか…私には分からない。 でも、きっと響の事だから誰かの為にやってるんだよね…」

「……うん、あのね未来っ」

「後で、聞かせてねっ!」

 

食い気味に響に先に言わせない為に声を張り上げた。 謝るのは私の方だと、また一緒に笑いたいっと

 

「……ギギギ」

「未来、下がってて。 スグやっつけるから!」

 

 

 

立ち上がり体勢を立て直そうとする異形に向かって蹴りを放ち再び倒れ込ませると跳び上がりガラ空きのお腹へ向かって勢いを乗せた拳を叩き込もうとする。 しかし、両肩に付いていたウィングが正面に展開されシールドとなるとパイルバンカーの一撃が弾かれてしまう。

 

 

クリスのネフシュタンの鎧すら破ってみせた一撃が不意に弾かれ動揺が走る。 弾かれ硬直をしてしまった響に異形の頭部が光り始めた。

 

「響、避けてッ!!」

「ッッッ!!!」

 

宙で止まったカラダを背中のブースターで無理矢理捻るとシンフォギアの端を掠めビームが空に向かって飛んでいく。

直撃していたらどうなっていたことか…肝を冷やしながら堅牢なシールドを破る為に何度も打撃を加えるが中々攻撃が通らない。

 

「1回でダメなら…2回!! 2回でダメなら3回ぶん殴る……ッッッ!!!」

 

シールドを正面に張っている間は敵もビームを撃てないと感じ取った響は攻撃の手を緩めず何度も何度も重い一撃を叩き込む。 手を休めたら後ろにいる未来が危ない。 踏ん張りどころだと。

 

 

 

バキッ、拳のアーマーが割れた。

同時にシールドも木っ端微塵に砕け散った。 異形も危機を感じ取ったかシールドが無くなった途端頭部を光らせる。 響もありったけの力を込め、脚部のアンカーを引き出し威力を上乗せした蹴りは見事に決まり完全に沈黙させることに成功した。

 

「はぁ…はぁ…ノイズ…じゃないみたい…何なんだろうこれ…」

「スマッシュ、我々がそう呼んでいる。 まさか今のハザードレベルでキャッスルスマッシュを撃破するとは…少々予想外だったが」

 

動かなくなったスマッシュと呼ばれたものをつついていると不意に声をかけられた、咄嗟に未来を背後に隠し向き直るとそこに立っていたのは先日クリスを撃とうとしていたナイトローグ。

彼は持っていたボトルをスマッシュに向けるとカラダの成分がボトルに吸い込まれていき中から素体となった人間が現れ呻きながら地面に転がっていた。 それは響にも未来にも馴染みの深い顔…

 

「お…ばちゃん…?」

 

いつも笑顔を向けてくれるお好み焼き屋のオバチャン、その人が今にも死んでしまいそうな顔色をしながら倒れている。

 

未来を助けようと戦った相手がオバチャンだった? 私はオバチャンを痛めつけていた…?

 

ぐるぐると思考が定まらずに回る中、未来の声が聞こえた。

 

「響!」

 

はっ、となった時にはナイトローグの拳が迫っていた。

ガシッ!!と拳を受け止めるとありったけの力を込め押し返す。 許さない、未来を危険な目に合わせただけじゃなくオバチャンまでもこんな目に合わせるなんて…!!

 

「絶対に許さないからっ!!!」

「…ハザードレベル3.0…順調だな…!」

 

大切な日常に迫った悪意に立花響は立ち向かう。




「ナイトローグのヤツ出番が増えて来たな」
「この後の一切出てこないからいいんじゃないか。オレは知らんがな」
「お前は3期までほぼ出番ないがな…?」
「んなっ!?」

戦姫絶唱シンフォギアEVOL 次回もお楽しみにっ!


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正義の味方…?

前回までの戦姫絶唱シンフォギア!!

「えっと…新たな敵、スマッシュの出現! 応戦に出るシンフォギア達!身近な人間をバケモノに変えるなんて…許さないんだから! と意気込む響に対してナイトローグは!?」
「身近な人間、その理論で行くとオマエも危なさそうだな小日向未来?」
「え、え…もしかして私も化け落ちフラグ…立ってます?」


「「どうなる第8話!!」」


(お気に入り、感想等々ありがとうございます。励みになります嬉しいです…)


「ハァァァァッッ!!!!!!」

 

気合の掛け声と共に剣撃を繰り広げる風鳴翼は終始、スマッシュを圧倒していた。 始めての手勢ではあるが先の雪音クリスなどと比べると稚拙な動きをしているので苦戦はしない。 気掛かりとしては背後に怯え動けなくなっている母子達だろうか。

スマッシュの高速の剣技を掻い潜りアームドギア、両脚のブレードが速度を上げスマッシュのボディを切り刻んでいきながら市民から距離を離していく。

 

 

かつての戦場は己が身、一つで戦っていた…だけどここ数日で全てが大きく変わった。 護るべきと考えていた奏の置き土産は自らの力で立ち上がり、彼女は彼女自身が誰かを守るために戦うと覚悟を決め今も別の場所で戦っている。 仲間とは頼もしいものだな…っ!

 

 

自然と心が昂り、剣は淀み無くスマッシュの装甲が薄い場所を斬り付ける。

腹部への一線が決まり大きくよろけたスマッシュに対してアームドギアを上段に大きく振りかぶった時、背後から悲鳴が聴こえ振り返ればノイズが市民の周囲に現れ始めていた。

 

斬りつけるのを中断し身を翻すと最速でノイズ達を斬り捨て、逃げ遅れた彼女達の退路を確保し誘導する。

 

彼女達が退避したのを確認したその時、ぞわり 悪寒が背に走り、振り向こうとするがそれよりも先に斬撃が翼のカラダを傷つけた。 スマッシュが肉薄し先程までの反撃とばかりに翼に手を出させず一方的な嬲りに変わる。 先の絶唱の後遺症と言うべきか身体的なダメージも有り反撃に転じる事が出来ずに歯を食いしばりダメージに耐えるが、このままではいつシンフォギアが解けるか分からない。

 

 

BANッ!!!!!!

 

 

弾ける音がした。 攻め立てていたスマッシュの頭に弾丸が直撃し猛攻も止まる。勝機を見出した翼はその場から跳び上がりアームドギアを巨大化させ技を放つ。

 

『天ノ逆鱗』

 

鋭く重い一撃がスマッシュに叩き込まれると力なく倒れ伏す。 的確な射撃による援護…飛来してきた方向へ目を向けるればビルの屋上に真っ赤なシンフォギアを纏った人影が見えた。

 

「まさか…抜け出してきたのか雪音!」

 

そんな言葉は聴こえるはずも無いのだが雪音本人は吐き捨てるように独り言を呟いた。

 

「動けなかったあたしを回収してくれた…お前への借りは返したぜ。 やり慣れねぇことをやるもんじゃねぇなホントに…はぁ」

 

ライフルに変形したイチイバルを担ぎ上げその場を去ろうとした時、最後のスマッシュが上空から突撃してきた。

 

翼が相手にしていた昆虫…クワガタの様な敵とは違う、空を飛ぶまさに鳥タイプの敵だった。 風を切り舞う敵を一度は回避するも全身の激痛から身動きが取れずに2発目を躱す事が出来ず質量の爆弾がクリスの身体に叩き込まれる。

 

「…あァ…っ!!!」

 

息を吐き、何とか痛みを忘れようとするもズキズキと痛み身体は思う程、言う事を聴いてくれない。 歯を食いしばりながらボーガンを構え狙いを定めるが素早い動きに翻弄され中々当てる事が出来ずにいた。

 

クリスの危機を察知したのか遠方から風鳴翼が向かってくるのが見えたのだが間に合わないだろう。 連射性の高いガトリングに切り替え上空に弾幕を張るもぶ厚い装甲をしたトリのボディが多少の弾丸なら弾いてしまっている。

 

ミサイルを撃つには距離が無い、ボウガンでは速度が足りない、ガトリングでは威力が足りない…八方塞がりか。

 

「万事休すかよ…クソッタレ……」

「大丈夫だ、何たって俺が来たから…っ!」

 

ボルテックフィニッシュッッッ!!!!!!

 

迫っていた鳥野郎は真横から蹴り飛ばされビルの上にバウンドしながら不時着をする。

動けなくなったクリスの前には赤と青のツートン男が背を見せながら立っていた。 キザなポーズを決め倒れたスマッシュを踏みつけながら空のボトルを向け成分をあっという間に吸い取りその場に残って倒れているのはスーツ姿の男…見覚えの無い男だった。

 

「テメェ…何者なんだ…ブラッドスタークの仲間か…?」

 

痛みに襲われる身体を起こし構えるが仮面の男は肩を竦め首を横に振るとベルトに挿さった二本のボトルを引き抜いてみせた。 ボディが輝くと共に消失し、中から現れたのはモデルのようなスタイルを持ち浅く被った帽子がトレードマークのような第一印象を持つ男。

 

「なーに、しがない喫茶店のマスターさ。 知らないか? 街の近くにあるnascitaって喫茶店で繁盛はしてないんだが…」

「石動惣一殿…!? ビルドの正体は貴方だったのか」

 

正体を明かすと同時にビルの屋上へとたどり着いた翼は驚愕を露わにし声を張った。

 

「よぉ、風鳴。 悪かったなこの前は何も言わないで去っちまってさ。 こっちにも事情があったんだ…このベルトの調整とか」

「……事情は分からないが詳しくは本部で聞かせてもらいましょう」

 

 

【 翼。 響くんがC地区でナイトローグと交戦を開始した。 クリスくんの回収、そこに居る石動惣一殿の身柄の保護はこちらでやる。 行ってくれるな? 】

 

 

インカムから聞こえてくる指示に翼は一つ返事で行動へと移す。 取り残された石動は楽しそうに成り行きを眺め、クリスは自らを助けてくれた相手を睨みつけていた。

 

「おいおい、命の恩人にそんな面を見せるんじゃないよ。 どうだ、珈琲でも飲むか?」

「お前からはどうにも嫌な匂いがするんだよ…」

「え、おじさん…臭いか?」

 

大袈裟に匂いを嗅ぐ仕草を見せ戯ける石動に対して警戒を解かないクリス。 両者の睨み合いは風鳴弦十郎が来るまで続く事になる。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「どうした、そんなものかガングニール。 怒りはいいが冷静を保たなければ動きが単調になり読まれるぞ」

「この…ッ!!!」

 

拳の乱打は易々と防がれ、カウンター気味に何発も叩き込まれているのだが響は気にせずにナイトローグに肉薄する。

 

「話にならないな…以前よりは多少戦えるようになっているが…!」

 

引き出されたアーマーが一気に戻りズドン!!!!!! 重い音を奏でながらパンチ共に繰り出されるが片手で受け止めたナイトローグをほんの少しばかり後退させただけに留まり突き出した拳はそのままナイトローグに掴まれ、引っ張られると体勢を崩し前のめりになった響の顎に膝が入り脳を揺らされそのまま地面に倒れる。 意識はなんとか保っているものの動けずに見上げる形でナイトローグを睨み付ける。

 

「そこでじっくり見てろ。 何も出来ず無力な自分に絶望するんだな」

 

noise…!! の電子音声が響くとスチームガンから生み出されたノイズ達が未来の逃げ場を塞ぎ、彼女は涙ながらに必死に親友の立花響の名を叫ぶ。 逃げられずにその場にへたり込んでしまった彼女の肩をナイトローグが掴み…

 

「 」

「…え?」

 

目を見開く未来の目に写ったのは赤い双眸を輝かせ、鋭い牙を見せながら唸りをあげる黒く染まった響の姿。

 

ナイトローグの腕を凄まじい握力で掴み未来から引き剥がすと空中に投げ、近場の電柱を駆け上がり奇襲を掛ける様は狂戦士そのもの。

宙に舞ったナイトローグは飛び上がった響に叩き落とされ地面にめり込むとその場を目掛け急降下の一撃。 爆音と共にナイトローグの身体が折れ曲がり地面に転がっていくが響は距離を置くことを良しとせず脚を掴み振り回しながら何度も地面や斜面に叩きつけ完膚無きまで破壊する為に追撃を続ける。

 

「ァァァア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!!!!」

 

咆哮が響き、ビリビリと大気を揺らしながら衝撃波でノイズ達を吹っ飛ばす。

バシュン!! バシュン!! とアームのスライド部分が機械音を上げながら駆動し一撃一撃の威力を底上げしながらナイトローグを殴打し続ける。

 

「グルァァァアアアアアアアアアア!!!!!!」

 

ナイトローグの顔面を掴み、そのままパイルバンカーの要領で衝撃が何発も加えられるとダラン…と力なくぶら下がる。

 

「やめて、響!! それ以上したら…その人が死んじゃうよ……ッ!!!」

 

未来の叫びが聞こえたのか、暴力の雨と破壊の音は止まり掴んでいた手を離すとドサりとナイトローグの身体は地面に落ち転がる。土煙の中、肩で息をしながら呼吸を整える響。

 

 

そしてアレだけの猛攻を喰らっていながらもゆらりと立ち上がるナイトローグは楽しそうに笑った。

 

「ハハ…ハハハァッ!! いい、イイぞっ…油断していたとはいえ、ここまで攻撃を叩き込まれるとは思いもよらなかった!!! ネビュラガスを入れてなきゃァ…こっちのカラダは使いモンにならなかったなァ!」

 

動きの止まった響に向かって飛び込み、応戦してきた彼女の拳を掌底で弾いてみせるとガラ空きになった腹部へ強い回転を加えた貫手を放つ。 シンフォギアを纏っていなければ腹部に穴が空き御陀仏だろう。 だが、響も負けてはいない…腹部に突き刺さる腕を絡めとりそのまま一気に捩じ上げる。

 

折られるギリギリで締め上げから逃れ距離を空けるとネビュラスチームガンを構え銃弾を撃ち込もうとしたが…それは小日向未来によって阻まれた。

 

「どけ…死にたいのか」

「もう…響を傷つけないで……」

 

親友を守る為に手を広げその背に獣を隠す。 涙を溜め、身体を震わせた少女の精一杯の抵抗だった。

 

「…ふん、今日はここまでにしといてやろう。 小日向未来、貴様に免じてな」

「わ、私に…?」

 

蒸気に包まれ姿を消すナイトローグは不穏な一言を残しその場を去る。 未来はヘタリ込み、脅威が去ったと感じ取った響も力無く未来に寄り掛かる形で倒れてしまった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

特異災害対策本部の一室、自分と司令である風鳴弦十郎が件の人である石動惣一に対する事情聴取を執り行っていた。

この場に居ない響、クリスの両者は医務室にて軟禁状態…翼が駆け付けた時点で響は意識を失っており生命に危険はないもののいつ目を覚ますが分からない状態。 クリスは全身打撲により安静といった所だった。

 

「さて、石動殿。 アナタが暴走した雪音クリスを止め、今回の新たな敵を撃破した仮面ライダービルド…という人物であるのは間違いありませんね?」

「間違いないな、黙っておくつもりは無かったんだ。 時が来たら伝えようと思ってたし俺は俺でスマッシュの対応に追われていてね。 時間があまりなかったんだ」

 

ゴトッ…とテーブルに置かれた謎の機械はビルドドライバーと言うらしい。 これと2本のボトルを用いて変身をし差し込んだボトルに応じた能力が使えるのだとか…

何より気になるのはブラッドスターク、ナイトローグがそのボトルを使って戦っている事だった。

 

「そもそも、俺は奴らのボトルシステム…ってのをある事情で知ったんだ。 それを利用出来ないかって考えて創り出したのがこのビルドドライバーってわけ」

「つ、創り出した…?」

「企業秘密…だけどな。 ノイズもそうだが奴らは新たなバケモノを生み出したんだ。 雪音が戦ってたあれ…風鳴も恐らくは戦ったよな?」

「えぇ…虫の様な…」

 

それだっ! と力強く頷くと立ち上がりポケットからまた別のボトルを取り出した石動は司令と私に見せるように目の前へ突き出し再び説明を続けた。

 

「そもそもボトルは何らかの成分を含んでいてそれを利用して力とするんだ。 風鳴が戦ったのは何らかの虫の力を得た…奴らはスマッシュと呼んでいる敵だ。雪音は鳥の力を持ったスマッシュだな」

「スマッシュ…それはやはり奴ら、ブラッドスターク達が作り上げた兵器なのか?」

「俺はそうだと踏んでいる。 これと言った証拠を見たわけじゃないが…奴らがやる以外に犯人もいないだろう。 これで俺の話せることは全て話した…ご質問はあるかい?」

 

石動は真剣な眼差しをして持てる情報を語ってくれた。

 

2課としてもシンフォギア装者以外にノイズ、スマッシュと戦ってくれる戦力が増えるのは現状有難い事だ。 ここ最近はフィーネに加えてブラッドスタークの暗躍も増えていて装者達を万全に休ませることも出来ず、むしろ無理をさせ今の状態に陥らせてしまっているのだから尚のこと。

 

「わかりました。 石動殿、アナタに手伝って頂きたい」

「勿論、俺にとっちゃ奴らの行動は許せたもんじゃないからな。 一緒に戦わせてもらうよ」

 

ガッチリと固い握手を交わし、軽い挨拶を終えた後に彼を経営する喫茶店まで送った。

仮面ライダービルド、新たな友軍が出来た事が何よりの収穫だったと信じたい…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(さてと、石動惣一は正義の味方という印象付けも出来た…いよいよステージ1は幕引きだなァ。 あとはフィーネがここに入り込むタイミングでもう1度侵入させて貰うとするか。 最後の一人を迎える為の道具を調達しないとな)




「起動するカ・ディンギル…絡まり合うフィーネとスタークの思惑!」
「そういえば最近、了子さん見ないですね?」
「むしろ最初から一度も見かけてない気が…」

「そして新たに加わるオレ達の仲間とは? その正体を明かすのはだいぶ先になるがな」


「「「戦姫絶唱シンフォギアEVOL 次回もお楽しみに」」」


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完全聖遺物

前回までの戦姫絶唱シンフォギア!!!!

「仮面ライダービルドの正体…それは喫茶店のマスター石動惣一だった! 喫茶店の片手間世間を守る正義のヒーロー! くぅ、痺れるだろ?」
「やっている事はクズの極みだけどな」
「そんな事言うなよナイトローグ。 オマエさんだって氷室幻徳がやってたナイトローグに比べたら強過ぎるぞ?」
「幻徳…? 誰だそりゃ」
「気にすんな、オレの戯言さ。 さぁて、いよいよ1期の終盤…せいぜいカ・ディンギルを活用させてもらおうか。フハハハハハハっ!!!!」


「あー…どうなる第9話?」


スマッシュの出現から数日経った。

雪音、立花の容態は落ち着き今では日常生活に戻れるまでになったが…大事をとってノイズ、スマッシュの対応は私とビルドで行う予定になっているのだがここ数日、どちらを取っても出現率が異様に低い。

 

いや、そもそも先日までの両者の出現率が異常なまでに多かったのだが…ここに来て急激に低下したのを見るに何らかの意図があるのだろう。 フィーネである櫻井了子女史も姿をくらまし、ブラッドスタークにナイトローグすら姿形を見せていない今の状況は非常に不味いのかもしれない。

 

「何か企みがあるのか…それとも別の…」

 

フィーネが口にしていたというカ・ディンギルは巨大な塔状の建造物という調べが付いた、緒川さんからの連絡はそこで途絶えた。 発信元を辿ることも出来ず捜索は難航…しかし、彼がもたらしてくれた情報から東京スカイタワーに先手を打って展望台上部にて私がスタンバイしている。

 

日も暮れ始め鴉が鳴く空をただ見つめ時が過ぎるのを待つ…この一ヶ月、様々な事が変わった。 奏が残した置き土産は…立花響という良い少女によって人々の為に使われている。 彼女を守る為に戦場に立たせない、それは友を失った私のエゴだったのかもしれない。

雪音クリスは…まだよく分からない。だが、彼女もまた加害者であり被害者なのだろう。

 

 

ザワッ…と風が吹く。

 

 

「来たか…っ」

「フィーネでは無いがな」

 

 

振り向きざまの一刀は首筋への一線。

容赦など必要ない、殺意の一撃は籠手によって妨げられるがガチガチと金属音を鳴らし徐々に押し込む。

 

「ハザードレベルが…上がっている…何をした天羽々斬…っ!」

「はて、何の事やら。 私は覚悟を、背を任せることが出来る者を得ただけだ…っ。 貴様には…ナイトローグには居るのか背を任せることが出来る仲間が!」

 

押し込まれた剣はナイトローグの装甲をヒビ入れる。 受け止めていた手を即座に引き初めて傷をつけられた手の甲をゆっくりと撫でると腰を落としブレードを構え両肩のパイプから蒸気を噴き上げた。

つまり、ここからが勝負の始まりという訳か…

 

「こい、ナイトローグ!!」

「後悔するなよ、天羽々斬…」

 

加速、ナイトローグの一歩はこちらの最高速度を遥かに超えている。

蒸気が彼の姿を包み消すがその邪気を隠しきれるわけではなく、その瞬足も決して捉えきれぬ速度ではない。 斜め払いの斬撃を受け止め幾度か剣を交え、ナイトローグが距離を置くと再び姿がブレる。 前後左右から襲いかかってくる剣撃を冷静に捌き攻撃の機会を探っていると見えてきたものがあった。

 

 

奴の動きの不自然さ、何処か身体の一部を庇っている様な無理をした動き… 左の脇腹か…?

確かめる為に奴が攻め込んできたタイミングで横薙ぎに剣が走るとそれを受け止め、今一度距離を置く。 間違いない、立花との戦闘で深手こそは負わなかったもののダメージは確実に入っていた。

 

 

ならばと、踏み込み上下段、剣と脚部ブレードの乱舞でナイトローグの注意を割く。 これだけの手数でも奴はブレード1本で去なし尚も反撃をしようとしてくるところを見ると実力では未だ届かぬ相手と痛感させられる。

 

幾度かの斬撃を加えたその時、ガラ空きになった左の脇腹に膝を叩き入れると奴は呻き声を上げやっと動きを一瞬止めた。見逃しはしない…見せた隙に回し蹴りを繰り出しナイトローグをスカイタワーから吹き飛ばした。

 

 

普通の敵ならばタワーから落ちるところであろうが敵はコウモリ、羽根を広げ空へ舞い上がる。 空は奴のテリトリー、だが戦場の選り好みを相手ではない…!

嘗て、奴の仲間に片翼をもがれたこの身…なれば、次は私が奴の両翼をもぎ取ろう…!!!

 

 

「…無茶をする…!!」

「無茶は承知の上…!! 私の後輩はこの程度では臆することない。なれば先輩たる私が無理無茶をしない理由にはならぬのだ…!!!」

「しかし、貴様は飛べない。 こちらが躱せば後は…落ちるだけだ!」

 

翼の一太刀を避け、重力に引かれ落ちていく彼女に向かってスチームガンが火を噴く。 落ちながらも銃弾を切り払い攻撃の隙間を縫って短刀の投擲。

空中であるこの場では影もなく、お得意の『影縫い』は出来まいと高を括るナイトローグは弾くこと無く、それを回避してみせたのだが彼女の口元が不敵な笑みを見せた。

ギュンッ!! とその脚に重さを感じ取った。 ワイヤーが絡まり、そしてそのワイヤーの元は風鳴翼のアーム部分。

そして動きが止まったナイトローグの広げた羽根に多くの剣が突き刺さりその高度を一気に落としていく。

 

『千ノ落涙』

 

「貴様も共に堕ちようではないかコウモリ…!!!」

「風鳴……翼ァァァァァァ!!!!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

〜同時刻〜

 

 

爆裂、土砂

リディアン音楽院の地下深く。 特異災害対策本部の主要通路は燃え盛り、至る所の隔壁が降りきっていた。 その中を黄金の鎧を纏ったフィーネは悠々と歩き最深部に存在する聖遺物を手にする為、次々に隔壁を破壊していく。

設計を行った櫻井了子自身が強襲を仕掛けているのだから対策本部側としても止められる筈が無い。

 

最深部、完全聖遺物デュランダルが納められている一部屋。 特殊なカードが必要なのだが…そこには既に一人の人影があった。

 

「何者だ貴様…!!! 何故、この部屋に居る…っ」

「いやはや、何故も何も俺はここに預けたものを引き取りに来ただけさ、フィーネ。 あぁ、珈琲の一杯でも飲んで行くか?」

「……貴様、そうかソレが貴様の正体がブラッドスタークッ!!!」

 

男は大仰に手を広げると高らかに笑い指を突きつけビンゴっ。 それだけ告げてその腕の中にあるものを見せつけてきた。

二年前、フィーネに手渡した完全聖遺物の一つ。それを今、ブラッドスタークが回収しに来た…まさか、私が攻め込むタイミングを計って…

 

「何処まで私の計画を狂わせるつもりだブラッドスタークゥ!! 貴様が余計な事を重ねた…クリスを失ったのも貴様の策略だったようだなぁ!」

「おいおい、まさか本当にクリスちゃんに情が湧いてたって言うのかいフィーネェ? 確かにいい歳こいた女がそんな趣味の悪い金ピカ鎧を纏ってるよりかクリスちゃんが身に付けていた時の方が見応えはあったけどよ」

 

戯ける男…スタークはヘラヘラしながらその手に持った完全聖遺物を宙へ放り投げると突然現れた一人の少女がそれをキャッチし踊る。

 

カランコロン♪ カランコロン♪

 

軽妙な音を鳴らしながら手に入れた完全聖遺物を持ち上げ眺めそれはそれは腹黒い、何か癇に障るような口調で話しかける。

 

「ほほー、こぉれが完全聖遺物。 エボルトさんが求めていたやつなんですねー☆」

「…フザケた奴だ。 ソレがオマエの仲間かスターク。 いや、エボルトと言ったか?」

「あぁ、そうだ。 俺の本当の名前、ブラッドスターク何かじゃ無い。 エボルトってんだ。冥土の土産として覚えておきなフィーネ」

「ではではーガリィはお先に帰って最後の一人を回収しに行ってきますねぇ☆ あ、そうそう晩御飯はエルフナインが作って待ってるからちゃーんと帰ってくるんですよぉ☆」

 

魔法陣に包まれ消えた少女にエボルトは頭を掻き苦笑しながらボトルと銃を構えた。

 

「了解、ガリィちゃん。 俺もサッサと帰りますかァ…!」

 

 

Cobra...!

 

「蒸血」

 

Mist Match!

Co...Cobra! Cobra...!

FIRE!

 

 

血の色をした全身装甲緑色のバイザー、細部に施された蒸気管の印象を持つ彩飾。 フィーネが良く知るブラッドスタークの姿が蒸気の中から現れた。

 

「さァ、第1ステージは御終いだ。 オマエさんもよく役目を全うしてくれたよフィーネ」

「私を舐めるなぁ…!!」

 

桃色の鞭を振りかぶり床、天井を抉りエボルトに襲いかかるが銃撃で弾き床を這うような滑りをして躱していく。

刃を模した鞭は叩きつければ地面に突き刺さり、引き戻せば地面を抉り取り、振り回せば空気を裂く。

 

利便性においてはそこそこと評価をしつつも決して一撃たりとも当たらないエボルトはスチームガンの引き金を何度も引くのだが真の力を引き出したネフシュタンの鎧が意図も簡単に銃弾を弾いてしまう。

エボルトとしてはフィーネをここで始末してもいいのだが何せブラッドスタークのままでは突破力が足りない。加えて自身が倒してしまえばシンフォギア共の経験値にもならないのでサッサとトンズラを決めるのが一番と判断した。

 

さてどう逃げようか、そう考えた矢先にエボルトの目に映った光景は完全聖遺物デュランダルを振りかぶったフィーネの姿。

 

「…おっと、こりゃァ不味い」

 

轟音と共に壁が溶け、通路が灼熱の世界へ変わり果てた。 一振りから放たれた光の帯は何とも凄まじい威力だろうか…

流石のエボルトもこれには冷汗を流し身構える。

 

「私は成せばならない…カ・ディンギルを起動させ、バラルの呪詛から人類を解き放つ!!!」

「バラルの呪詛…なんだそりゃ?」

「人類の意思疎通を妨げ、相互理解を阻む呪い。 私はあの方へ想いを告げる為…私は月を破壊する…!!!」

 

怒気を孕み、殺意を向けてくるフィーネに対してエボルトは笑った。

スチームガンもブレードも放り捨てて腹を抱え床に転げ大笑いした。

 

「何が可笑しい…!!!」

「いやいやいやいや…くくくっ、フハハハハハハっ!!!? まさか、オマエさんの…目的が…くはははは!!!」

 

苛立ちが募り、転がるエボルトに鞭を打つがそれを片手で受け止められやっと治まった笑いの主は立ち上がる。

 

「まさか、フィーネの原動力が『愛』だとはなァ? オレには分からない感情だ。 よしっ、やっぱりオマエさんを倒すのはシンフォギア共に任せてオレは見物と洒落込むか」

「私がこの場から貴様を逃がすと思うか?」

「お前が逃がさなくてもこちらさんがオレを逃がしてくれるさ」

 

エボルトの背後に拳を構え両者を睨み付けているのはこの基地の司令である人類最強、風鳴弦十郎その人。 ここでフィーネ、ブラッドスタークを仕留めればこの事件は…一連の騒動は治まると踏んで自ら出陣してきた、といった所だろうか。

 

「了子くん…やはりキミは」

「ふん、その名で呼ぶな。 私はフィーネでありそれ以外ではない!」

「おーぉ、乳繰り合うんなら他所でやれ…いや邪魔者のオレが帰るとするか。 Ciao」

 

蒸気に巻かれ姿を消すブラッドスタークに弦十郎は舌打ちをするが今最も相手すべきはこのフィーネだ。と、意識を切り替え相対する。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

スカイタワーの地上部。 市民達の避難は終わっており誰もいない広場に隕石の如く二つの影が落下した。

土埃を巻き上げながらゆらりと立ち上がったのは風鳴翼。いくらシンフォギアを身に纏っているとはいえあの高さから落下したのだから無傷とは言えず痛む身体に鞭を打ち、共に落ちたナイトローグを視野に入れようと周囲を見渡す。

 

バチバチと火花を上げながら倒れ込んでいるナイトローグ。その手に握られたスチームガンが破裂し壊れた。

 

全身装甲が解除され遂に正体が露わになる…かと思われたが其の出で立ちはライダースーツを着、顔はフルフェイスのヘルメットに覆われており何一つ手掛りの得ることが出来ない姿だった。

 

「ちっ…壊れたか」

「投降するのなら生命の保証は致しましょう。 手を上げ膝を付きなさい」

 

アームドギアをナイトローグの首筋に添え警告を放つ翼だが、ナイトローグは違った。 ヘルメットのバイザーの奥に赤く輝く瞳を見せながら、あろう事かアームドギアをその手で握り圧砕してみせた。

 

「なっ…!?」

 

驚愕の声を上げた瞬間、下腹部に衝撃が走る。 膝を付いた状態からの掌底が身体の芯を捉え翼を大きく吹き飛ばした。

 

「変身を解いたことは褒めてやる。 だがな、強くなる為に変身してたんじゃぁない…強過ぎるから抑えてたのさ。 こうなっちまったからにはお前を瞬殺出来るが…そんなことしたら父さんに怒られるからな。時間稼ぎも済んだし帰らせてもらう」

 

変身が解けたナイトローグは普段の重々しい口調とはまた違い、フランクな口調で物騒な事を吐いてくる。 それに奴は『父さん』と言った。 それを指し示すのはブラッドスタークか…はたまた更なる黒幕か…

 

小瓶を割り、中身が地面に飛び散ると陣の様な模様が奴を包み込んでその場から魔法のように消えた。

シンフォギアを解き、何とか息を整えようと身体を壁に預けながら空を見上げれば夕日は既になくなり真ん丸の月が空に大きく輝いている。

 

静寂が訪れた空間に本部からの通信だけが響いた。

 

 

 

フィーネの狙いは、月の破壊だ。と

 




「あぁ…フィーネ…何故そんなに嚙ませ犬っぽく…」
「なんだクリス。 やっぱり奴が気になるか?」
「ば、バカ! 本編じゃあんなに敵然としてたのにここじゃもう殺られそうな感じなんだぞ!?」
「そりゃそうだ、これはオレ、エボルトの物語だしなぁ?」

「それでいいのか戦姫絶唱シンフォギアEVOL!?」


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Discord & Hazard

前回までの戦姫絶唱シンフォギア!!!

「フィーネの狙いが分かり、私こと風鳴翼と立花響は現場へと向かった!」
「街にはたくさんのノイズが現れて大パニック。でも翼さんとの連携で次々とノイズを撃破し遂にリディアン音楽院に辿り着いたんだけど…そこで観たものは…」


「おいおい、オレが主人公なのに出番は無いのか?」


「「「どうなる第10話!?」」」


私立リディアン音楽院。

立花響と風鳴翼が駆けつけた時には校舎があった筈のソコに禍々しい塔が聳え立っていた。

 

カ・ディンギル

 

フィーネが櫻井了子という人物を隠れ蓑に密かに建造した人類をバラルの呪詛より解き放つ為の荷電粒子砲。

デュランダルを炉心としその高出力なエネルギーで月を穿つという末恐ろしい建造物。

 

そしてシンフォギアを纏った2人とフィーネ、カ・ディンギルを遮るようにノイズの大群とスマッシュ複数体が蠢いている現状は最終決戦という言葉が似つかわしい光景に至る。

 

「エボルトめ。何のつもりだ?スマッシュを差し向けてくるとは…まぁいい、せいぜい使わせてもらうっ」

 

鞭で地面を打つ音と共にノイズとスマッシュの波がシンフォギア装者へ押し寄せるが今更ノイズに遅れを取る2人ではない。

響が飛び込み拳を突き出すと全開まで引き上げたアームパーツが煙を上げながら一気に拳へと戻り大砲を打ったかのような轟音と共に衝撃波が放たれノイズはアリの子を散らすが如く吹き飛び、そのカラダは炭化して風に乗り消えていく。

 

ノイズの波が一つの拳によって割かれ、まるで十戒のように現れた道を風鳴翼は疾風怒涛、その身を走らせフィーネとの間に立ち塞がるスマッシュ目掛けていく。

 

ここで一つ、嬉しい誤算があった。

 

 

 

忍者! コミック! 

 

ベストマッチ!

 

Are you ready?

 

忍びのエンターテイナー! 

 

ニンニンコミック! 

 

イェーイ!

 

 

「勝利の法則は…決まった! なんてなっ」

 

黄色と紫のボディを持つビルドがスマッシュを横から突き飛ばし、フィーネと翼を遮る者が一つとして無くなった。

 

「感謝する、ビルド…!!!」

「気にするな翼…ゴホン…気にするな翼ちゃん。俺もやらなきゃいけない事をやりに来たまでだから…なっ」

 

声色が普段の石動殿よりも一瞬違った気がした。 違和感を覚えつつも雑念を切り捨てフィーネへと挑む。

 

千ノ落涙がフィーネの頭上に展開され、刃の雨が降り注ぐが鞭を回転させ難なく全てを弾いていく…分かりきっていた、だからこその攻撃。

頭上に注意を払っていた彼女の身体へ神速一線。

 

剣を振るってきた今日までの中で最速の一撃はネフシュタンの鎧にくい込み、彼女の肌を傷つけたのだが剣は引き抜けずそのままフィーネに剣を掴まれてしまう。

 

「驚いたよ…まさかここまで強くなってるなんて。 反応も許さない、いい斬撃だった。だが、これで終わりだ」

「…驚いた…か。 ならばこれから更に驚くぞ? 防人の意地で…なっ」

 

剣を手放した翼は、その手を握り拳がフィーネの頬に刺さる。 不意の一撃に上半身が揺らぎ、足払いを行うとフィーネは背から地に転がり天を、彼女にとって忌々しい月が美しく輝いている。

 

膝を付きながら立ち上がるフィーネに対して、左手を上段に構えて彼女の動きを見据える翼。

自ら、剣を手放す事をフィーネは予測する事が出来なかった。 風鳴翼の中で何かが変わったのか…

 

「何、至って簡単な事。 剣だけが武器ではない…己を防人の剣として鍛え上げてきたのだからこの身もまた、一振りの剣として使うだけ…それだけの事!」

 

螺旋を描き蛇のように執拗に迫る鞭は、翼の軽く構えられた左手で軌道を逸らされあらぬ方向へ飛んでいき、二撃目は叩き落とされ地面に突き刺さる。

焦りを浮かべながらも鞭を分裂させ、数を増やし攻めきろうと考えるが風鳴翼の動きに無駄はなく最低限の挙動で弾き、躱し、その距離を着実に詰めていく。

 

再び懐まで入り込まれたフィーネはネフシュタンの鎧と完全な融合を果たした肉体で耐え切ろうと考えるが、彼女は失念してしまっていた戦っているのは風鳴翼だけでは無いと。

 

「立花ァ!!」

「一緒に…ぃ!!」

 

正面と背面の挟撃。

 

ノイズを蹴散らした響はフィーネに悟られないよう背後へと周り機をただ待っていた。

正面からは翼が身を落とし、低空から全体重を勢いに乗せた肩からの突進…所謂、靠撃。

背面からは腰を落とし背中のブースターを全開にして勢いが乗ったガングニールの正拳突き。

 

前後からの一撃は並の人間ならば真っ二つ。 臓物をまき散らし骨を顕にしているであろうが、そこはネフシュタンの鎧と言うべきか。凄まじい再生速度が破壊を上回り外見上ではダメージがないように見える。しかし、その痛みはフィーネの精神を蝕んでいる。

 

「つけあがるなよ…小娘共ォ……!!!!」

 

フィーネの咆哮に呼応し、ネフシュタンの鎧が黄金の輝きを発すると地面がめくれ2人をその身から引き剥がし距離を置かせた。 精神的消耗からか息を切らせながらも、その顔は満面の笑み。

風向きが変わり、突風がフィーネの背から吹き荒れ翼と響を襲う。

 

アンカーを刺して耐える響。

剣をアンカー代わりに耐える翼。

 

両者の瞳に写った光景はカ・ディンギルの頂上に光が凝縮されているそんな瞬間だった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「さて…と。 ヒーロー気取りで出て来たはいいが、楽しくないな」

 

4コマ忍法刀を肩に担ぎ、迫り来るスマッシュ4体を片手間に斬り伏せる。

起き上がろうとした瞬間、生み出された分身がスマッシュを叩き潰し完膚無きまでに圧倒している光景だった。

 

「ちっ、弱すぎるか…素体が良くてもタダのスマッシュじゃあダメってことだな」

 

ウチ1体から成分を引き抜くと、スマッシュの姿は第2課の緒川 慎次へと姿を戻す。 騙し討ち気味に気絶させネビュラガスを注入してみたものの程度の低いスマッシュになってしまった。

残る3人はシンフォギアを本国から追ってきた『FIS』のエージェント。 以前、クリスを襲ったオウルスマッシュもエージェントの1人だった。こちらも同じくタダのスマッシュ。 立花響を怒髪天つかせる迄ブチ切れさせるには、彼女の御学友をロストスマッシュにでもするしかないだろう。

 

友人を助けられずにキレるか。

はたまた、友人を手にかけてしまい絶望し破壊神となるか。 計画は持ち越しだな。

 

「さて、あちらさんは上手くやってるか…上手く行けば第1フェーズは完全完了だ」

 

そう呟くと同時にカ・ディンギルはその機能を発揮する為、発射段階へとシフトした。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

赤い綺羅星が月を背に立ちはだかっていた。

 

 

半分は()()した自分を助けてくれた馬鹿に借りを返す為に。 半分は自らの犯した罪に対する贖罪の為に…なんて言い訳がましく言い聞かせるのは恥ずかしいからか。 パパとママの夢をあたしが叶えるなんて小っ恥ずかしくてとても言えない。

 

だから、その1歩として…今日ここに来た。

 

命を賭す時が来た。

 

「クリスちゃん!?」

「あぁ、バカが伸ばした手を気が付いたら掴んじまった大バカの雪音クリスだ…カ・ディンギルは任せろ。 お前達はフィーネを……悪いなフィーネ、やっぱりあたしは、あたしがやりたい様にするのが好きみたいだ」

 

カ・ディンギルの光が増幅し、いよいよ発射なのだろう。

 

月を砕かせるものか…!

 

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

Emustolronzen fine el baral zizzl

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

Emustolronzen fine el zizzl

 

 

歌と共にシンフォギアの総数301,655,722種類のリミッター・ロックが順々に解放され、その容姿を変形させ、スカート状リアアーマー内部に格納された多数のエネルギーリフレクタービットが射出され周囲に展開していく。

歌によって発せられたエネルギーはリフレクタービットに何度も反射され徐々に加速。

 

膨大なエネルギーがカ・ディンギルから放たれ光の波が襲いかかってくるが、あたしは逃げない…ここが踏ん張りどころなのだから…っ!

 

増幅したエネルギーを連結したライフルに注ぎ込み行った一点収束砲撃はカ・ディンギルが放つ荷電粒子砲に真っ向からぶつかり爆発的な余波を広げる。

反動により口から血を流しながらも耐えるが流石は完全聖遺物相手…ということか。 イチイバルの絶唱の威力を超えている。

 

「クソ…っ、押されてやがる…っ!!」

 

ジリジリと確実に迫ってくる光に恐怖がないわけじゃない。だけどここで下がれば月は壊れ平和なんて言っている暇もないのだ…だから食いしばらなければならなかった。

 

 

「雪音クリス!気張れよっ!」

 

 

その声は、あの胡散臭いビルドとかいう奴の声だった。 蒼い粒子…いや、ドラゴンがクリスの背面で大きな口を開けバクリと丸呑みする。

 

熱く脈打つ、ドクンドクンと心臓が破裂しそうな程に激しく動き、脳内に暴走の文字が過ぎるのだが…ドラゴンの記録とはまた別に誰か違う人間の記憶が入り込んできた。

 

 

その男は愚直なまでに馬鹿だった。

 

その男は誰かの為に立ち上がった。

 

その男は何度でも友の為に戦った。

 

 

あたしも、そんな風になれるだろうか。 馬鹿みたいに真っ直ぐに、歌で平和を作りたい…だったら暴走なんてしてる場合じゃねぇ…!!!!!

 

 

『Wake up burning! Get DRAGON Power!』

 

 

シンフォギアから鳴り響く電子音と共に蒼炎が身を包み込むのだが身体を焼かれる様な痛みは無く、シンフォギアのカラーも以前のファイヤーパターンから紅と蒼のツートンカラーに変わっていた。溢れ出るエネルギーに馬鹿は馬鹿らしく叫んでみることにしよう…

 

「この力…今のあたしは負ける気がしねぇ!!」

 

押され始めていた砲撃は遂に拮抗する…が、釣り合ってるぐらいじゃダメだ。 無尽蔵のエネルギーを吐く完全聖遺物とエネルギーの上限があるシンフォギアだったら結果は明白なのだから。

 

「だった…らァ!!!」

「「雪音ッ(クリスちゃん)!?」」

 

ライフルを投げ捨てた。

2人の絶叫が聞こえる。

まったく、お人好し共め…あたしを誰だと思ってやがる。

 

『 BEAT CLOSER 』

 

突き出した手に握られた一本の剣はイコライザーが剣身に付いている一風変わった剣。

 

迫り来る破壊の光を目の前に、誰にも聞こえない独り言をぶちまけてやった。

 

「もっと、あたしに歌わせやがれぇぇええええ!!!」

 

歌声が響く。

あぁ、やっぱりあたしは音楽が歌が…大好きなんだ。

パパとママが残してくれた歌が…!

ビートクローザーのイコライザーが歌に呼応し全開まで振り切れる。 最大出力となった剣のグリップエンドを三度引き伸ばし剣を構えながら、その身を光の中へ落としていく。

 

『MEGA SLASH』

 

紫電一閃。

破壊の光は剣に切り開かれソラへ二つに分かれて消えていく。

分かれた片方は月の側面を掠り砕くが直撃をたった1人の小娘に防がれたフィーネの心象はとてもじゃないが穏やかじゃないだろう。

 

何にせよ力を使い過ぎた、絶唱に加えてドラゴンの力は精神的にも中々堪えるものがあった。

 

宙でカラダが揺らいだ時、脇腹に鈍い痛みと暖かさを感じ瞳を動かすとフィーネの鞭が自分のカラダを貫通していた。

 

グラりと、意識が遠のき…その身は急速に地へ向かって落ちていくのであった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「雪音ッ!!!」

 

たった1人であの一撃を妨げた少女が凶刃に倒れ地へと落下した。

放ったのは言わずもがなフィーネだ。

 

「クリス…拾ってやった恩を仇で返すとはな。 だが、カ・ディンギルは未だ健在! たかだか一撃を防いだからどうした? 二撃目を撃てばいいだけ。 奴は無駄死にをしたな!!」

「無駄…死に…?」

「あぁ、そうさ無駄死にだとも!」

 

ザワりと、肌に凄まじい殺気を感じ取った。 フィーネが我々に向けていた敵意なんて可愛いと思えるぐらいの殺意。 それを発していたのは他でもない立花響…指先から徐々に黒く染まりその身を獣へと落とした彼女の姿があった。

 

「た、立花…! 落ち着け、雪音が死んだとは限らない。 気を保て暴そ……!??!」

 

「Gaaaaaaaaaaaaaッッッ!!!!!!」

 

最早、意識まで黒く染まってしまった彼女には声が届かず私諸共フィーネに攻撃をし始める。

腕の一振りの余波が地を抉り、空振った蹴りが大気を揺らす…シンフォギアがここまでの力を引き出せるのか。 それとも聖遺物と融合を果たした人間である彼女だけがこなせる技なのか。

 

地に捨てられていたアームドギアを拾い上げ、そのまま柄で立花の背へ叩き込もうとしたのだが片手で防がれ、逆に強烈なフックをくらい地面を転がり飛び崩れ去った校舎へと突っ込んだ。

 

このままでは立花の身体が壊れてしまう。 立ち上がろうとしたその時、片手で制された。

 

「少し休んでろ」

 

ビルド、彼が片手に持っていた赤い小型のデバイスをベルトに差し込み音声が鳴る。

 

 

『ハザードオン!』

 

『ラビット! タンク! スーパー!ベストマッチ!』 

『ドンテンカン! ドンテンカン!』 

『ガタガタゴットン! ズッタンズタン!』 

『Are you ready?』 

 

『アンコントロールスイッチ! ブラックハザード! ヤベーイ!』 

 

 

 

「ふぅぅぅぅ………さぁ、時間が無いさっさとやらせてもらう!」

 

黒一色のボディに変化したビルドは驚異的なジャンプ力を見せ一気に距離を詰めると真正面から暴走した立花と殴り合いを始める。 一撃一撃が凄まじい重い音を響かせ、その威力を物語っている。

 

「…暴走しながらハザードレベルを上げているのか、こいつ…!!」

 

その身から引き伸ばした黒い影がビルドを縛り上げ動きを止めようとするのだが、ビルドはそれすら引きちぎり立花の顔面を殴りつけ大きく吹っ飛ばした。

 

宙を舞う立花を追走し、落下地点に構え回し蹴りを放つのだが立花は両手でガッシリとその脚を掴み、脚を引き散らんがばかりに力を加えていきビルドの装甲も火花を上げるが、気にせず壁に何度も立花を叩き付け腕の力が弱まった瞬間に振りほどく。

 

二度、三度と異形に成りかけている立花の拳がビルドを狙うが腕を弾き、ガラ空きになった鳩尾にカウンターを決めようと拳を振るう。

 

 

翼は見逃さなかった立花の邪悪な笑みに

 

 

「ダメだ、ビルド!!」

 

 

振りかぶった拳を急停止し身体を仰け反らせると黒い影が立花の腹部から伸びビルドの腕を喰らおうと口を開いていた。

 

「フィーネ、あれは貴様の設計か!?」

「まさか、私が開発したFG式回天特機装束はブラックボックスの様な所が多い。 私自身、解明できてない事も多い…アレはその一種だ」

 

暴れに暴れる立花とそれを抑えようとするビルドを呆然と見つめる翼は息を整え立ち上がる。 カ・ディンギルを止める、出なければ月が壊されてしまう…

 

「ふっ、今更やる気を出しても遅い。 カ・ディンギルは既にチャージを終え二発目が放たれる…!!」

 

 

大仰に腕を広げ笑うフィーネ。

 

 

しかし、何時まで経ってもカ・ディンギルから破壊の光が放たれることはなかった。

 

 

 

 

 

【Guten Abend シンフォギア一同にフィーネ。 それと今まさに崩れた校舎から脱出をしようとしている第2課、立花響の御学友達。 オレはブラッドスターク…いや、エボルトと呼んでもらおうか】

 

校庭のスピーカーから聴こえるその声は忌々しく忘れるはずのない、あの声だった。




「あたしの大活躍回だったな? ま、とーぜんだけど」
「あぁ、そうだな。 クリス…オマエさんも万丈のようにバカになるなよ?」
「エボルト…って馬鹿になるのか!? あのドラゴンの力はバカになっちまう作用でもあるのか!?」
「世の中には不思議がいっぱいだな。フゥハハハハハハ!!!!!」
「どうなっちまうんだあたしぃ!???」

戦姫絶唱シンフォギアEVOL 次回もお楽しみに!


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フェーズ 1 終了

前回までの戦姫絶唱シンフォギア!!

「GUAAAAAAAA!!!!」
「暴走した立花響を止めるために仮面ライダービルドはハザードモードになり戦うが徐々に上がるハザードレベルに押され気味になっていく!」
「Gau??」
「そんな顔するなって。新しい戦士がお前の怒りを吸収してくれるからよ」
「Gruuuu!!!」

「どうなる第11話!!」「GUAAAAAAAA!!!」


【Guten Abend シンフォギア一同にフィーネ。 それと今まさに崩れた校舎から脱出をしようとしている第2課、立花響の御学友達。 オレはブラッドスターク…いや、エボルトと呼んでもらおうか】

 

「貴様…観戦を決め込むのでは無かったのか?」

 

ビルドと立花の戦闘により響く爆音の中、深くドスの効いたフィーネの声が宙に吸い込まれ消えていく。

何処から話を聞いているのかすら分からないがそんなことはお構い無しにエボルトは返答してくる。

 

【なぁに、オレは今カ・ディンギルの最深部…言わばコアだな。 そこから話しかけてるだけだ。 状況も把握してるビルドはハザードモードに…立花響もハザード…シンフォギアに因んで不協和音、ディスコードモードとでも呼ぶか。 それになり両者大暴れ…ビルドの方はタイムアップが近そうだな?】

 

「最深部…だと!?」

 

【あぁ、もっと言えば炉心であるデュランダルを取り外させて貰ったがな】

 

カ・ディンギルの要であるデュランダル。 それを引き抜かれたとあっては既にこの塔は機能しない死んだと同然の廃塔と成り下がる。

 

愕然としているフィーネを他所に一部の瓦礫が吹き飛び空から降り注いだ。 瓦礫の山から這い出てきたのは人類最強、風鳴弦十郎と立花の友人達。

おそらく、地下のシェルターからこの映像を観て来たのだろうが…今の弦十郎でも暴走…エボルトが名付けたモノを使うならばディスコードモードに陥った立花を止められるか怪しい所だった。

 

「響ぃぃぃいいいい!!」

「いけない、小日向っ!」

 

ビルドを投げ飛ばし、声のする方向へその身を走らせる立花を止める手立ては無い。 地面を抉り、風を切り、立花は小日向と学友達に向かって跳躍する。

 

「響………っ」

 

ビタっ……!!! と突き出した拳は小日向の鼻っ面手前でギリギリ止まり呻きながらも必死に片腕で己の拳を抑えている。

 

そうか、立花…貴女も暗闇の中で戦っているのだな。

 

「ビッキー、お願い目を覚まして…っ!」

「あんたはそんなヤワな子じゃないでしょ!? アニメだったらここで目を覚ますって決まってるんだからっ!!」

「お願いします、響さん…!!」

 

頭を抱え、膝をつく。

彼女のその胸は光り輝きゆっくりと白く、本来のシンフォギアの色へと戻り始める。 だが、影はそれを許さなかった。 赤い双眸がより暗く輝くと雄叫びを上げながら目の前に立つ少女達を敵と認識し襲いかかろうとした。

 

 

 

「…小日向未来に手は出させない」

 

 

 

少女達と立花の間に割って現れたのは紫色の戦士。

彼女の拳を受けても怯むことも退ることも無く、その胸一つでガングニールの拳を受けきっていた。

 

【やっとのご到着か。 紹介しよう、オレが設立した組織《ファウスト》最後の戦士、仮面ライダーローグだ】

 

「ローグ…」

 

【ローグ、立花響を止めろ。間違えても殺すんじゃぁないぞ?】

 

「…分かっている。風鳴翼だな? お前はフィーネを止めろ」

「待て、お前はいったい!?」

 

胸に突き刺さっている立花の拳を掴むと凄まじい腕力で彼女を小日向達から引き剥がし鋭い蹴りが彼女の腹を穿つ。

 

「Guaaaaaaaaaa!!!!!!!!!!」

「……何でも持っている。 だからこそ、失った時にその感情があるんだ。最初から独りだったらそんな感情は出て来ない」

 

飛びかかってくるケモノに対してローグは腰ベルトのレバーを捻った。

 

クラックアップフィニッシュ!!!!!

 

激しい音声と共にその両足はワニの顎の如く装甲が展開し飛び上がると向かってくる響を挟み込むその様は正にワニが獲物を捕食する瞬間だろう。数度噛みつくと体を捻り回転を加えて地面に吹っ飛ばした。

 

たった一撃、それだけで立花は身動きが取れなくなったところを見るにその威力は押して図れる。

 

地に伏した立花に近寄ると彼女を抱きしめた。 すると、立花の身体から黒い瘴気が噴き出てその身体は今度こそ白く元の姿へと戻り正気を取り戻す。

 

「……アナタは…?」

「ただのローグ。 これからは何度もお前の前に立ちはだかる敵だよ」

 

突き放し首根っこを掴むとポーン、と軽く立花を小日向達の輪の中へ放り込んだ。 泣きながら彼女に抱きつく少女達に必死に謝る立花。

 

「あちらは片付いたようだな。あとはフィーネ…お前だけだ」

「何奴も此奴も私の邪魔ばかり…今代の目的の達成は無理か…であれば貴様ら諸共滅ぼしてやる…!!!!!」

 

ネフシュタンの鎧が彼女の手に握られているソロモンの鍵を取り込み、それどころか周囲の瓦礫やカ・ディンギルにすら喰らい始めその身をバケモノへと成り上げる。

 

その姿は強大。

その身から放つのは絶対悪の波動。

 

黙示録の赤き竜の影が街を包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「よォ、良くやったな。中々上手い演技だったぞ? 特に苦戦してる様に魅せてるところなんざ結構なもんだ…ぺっぺっ、マズッ!!?」

 

ネフシュタンの鎧の侵食から逃げる為にカ・ディンギルを抜け出し、次いでとばかりにデュランダルをフィーネへぶん投げてきた石動惣一は侵食の届いていないビルの屋上から破壊が繰り返される光景を珈琲を啜りながら愉快そうに労っていた。

 

「苦戦してる様な演技…か。 あいつ、あの時は確実にこちらを押してたんだ。 つーか、不味いなら飲まなければいいのに」

「…それはホントか? だとしたら立花響のスペックを甘く見積もり過ぎてたな。 まぁ、お前の真の力はビルドドライバーじゃ発揮出来ないから仕方ない。 よくく働いてくれた……飲まないとやってらんないだろ?」

「はぁ…父さんの為に動いてるだけ。褒めなくていいさ…それよりも何故デュランダルを取りに行った? 加えて何で置いてきたんだ」

 

振り向くエボルトの手には石化したドライバー…エボルドライバーが握られていた。 以前見せてもらった時と違い若干欠けて見えたのだが大きな変化はない。

 

「完全聖遺物デュランダル…その力があればエボルドライバーの復活も可能かと思ったんだがご覧の通り。 ほんの少し石が禿げただけさ。 完全復活を目指すならやはりヤツらの歌が必要なようだ」

「歌…か。 じゃあ、残りの3人も?」

「勿論。後々、敵になってもらう予定だ。 俺達の敵は多いぞ! ふははは!!」

 

楽しそうに笑う父を横目に遠方に居るシンフォギア達を睨む。

その姿は通常よりも光り輝き武装も格段にパワーアップしている。

 

「あれは…」

「おーぉ、まーた強くなりやがったのかシンフォギア共?」

「フィーネも計算に入れてなかったシステムでしょうね。 爆発的に高まったフォニックゲインを元にリビルドを行ったシンフォギア。加えて莫大な数のロックを装者に負荷がない程度しか残さず解放した形態……と私的観測としてはそんな所でしょうか」

 

長ったらしい説明をしながらエボルトの横へ並び立ったのは協力者であるDr.ウェル。 どこか胡散臭いがその知識は確かということで手を組んでいるうちの1人。

 

「おぉ、ドクター。 なるほどな、状況に応じてシンフォギア共は更に強くなるって事か。 そいつはイイ、俺達を相手にするにはもってこいだ。 ところで、こんな所にわざわざ出向くとは…マリア達が順調じゃないのか? んん?」

「イヤですねぇ…順調も順調。 彼女達は『正義の為』に頑張ってくれてますよ」

「どれ、最終調整として俺達が手合わせしてやろうじゃないか。ローグのやつはキャロルが迎えに行ってるしな」

 

珈琲メーカーをしまい移動を始めようとした父に問い掛ける。

 

もう、フィーネはいいのか?

 

父は笑顔を見せこういった

 

「経験談だ。 聞いておけ…土壇場で覚醒したヒーローを前に悪は蔓延ることは出来ずに滅びる。 それが世の理さ」

「それだとファウストも同じ目にあいそうなんだが…」

「その時はその時だ。 最初から俺達に引っ掻き回されるフィーネ程度じゃこの辺りが限界だったってこと」

 

爆破音と光が街を照らす。

歌と絶叫が谺響する。

 

 

ただ一言、エボルトはフィーネを見やり呟いた。

 

 

「Ciao」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

報告書

 

ルナアタック

 

神代の言の葉である「統一言語」を求めたフィーネが「バラルの呪詛」にて人類の相互理解を蝕む監視装置「月」の破壊を目論むが、 三人のシンフォギア装者たちの活躍によって阻まれる。

 

ソロモンの鍵は回収。 デュランダルは自壊。

結果として月の一部が砕ける事になってしまったが装者達の活躍により甚大な被害は抑えられフィーネの野望も潰えた。

 

しかし、エボルト率いるファウストの存在は消えた訳ではなくこれからも装者達には厳しい戦いを強いる事になってしまうだろう。

 




「私の出番が終わり…? まともな戦闘シーンすらないぞ?」
「オレが主役の作品だしな? 第1期はこんなもんでいいだろう? それにオマエさんが作った技術が主役なんだからもういいじゃないか」
「くっ…次回予告だけでも乗っ取ってやる…!」

「「次回、戦姫絶唱シンフォギアG EVOL!!!」」

「それじゃあ、一先ず…Ciao」


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戦姫絶唱シンフォギアG
ガングニールの少女


前回までの戦姫絶唱シンフォギア!!!

「フィーネが散り、第二段階へと移った。まぁ、変わったことと言えば駒が増えた程度だが」
「何時になったら活躍出来るんだ父さん」
「オマエさんの真の力が出せるようになるのは…Gのフィナーレぐらいだ。そこまで我慢しろ」

「「どうなる第12話!!!」」


ソロモンの鍵。

その機能は、バビロニアの宝物庫の扉を開き、ノイズを任意発生させることと、 72種類のコマンドを組み合わせることによって、 複雑で精緻なコントロールを可能とすることである。

 

そしてそれを起動させてしまったのは雪音クリスの歌。

 

「ソロモンの鍵が奪われた…!?」

 

ルナアタックが起きた後、ソロモンの鍵を回収した特異災害対策本部はその特殊性から聖遺物の研究を行っている、Dr.ウェルに預け研究機関にて解析を行う筈だった。

途中、ノイズ達の襲撃に遭うも響とクリスのコンビネーションによりこれを撃退。無事、輸送を終えた後に翼の頼みもあってか響とクリスはライブ会場にて翼の出番を待っていたのだが…突然入った一報に困惑する。

 

やはりと言うべきか、研究機関を襲撃したのは赤、黒の2人組…恐らくエボルトとナイトローグの2人だ。

会場を抜け出し現場へ向かおうとしたのだが司令からは次の狙いはライブ会場ではないかとの推測が上がりそのまま待機というカタチになった。

 

 

「クソ…何の為にアタシ達が無事に届けたんだ…」

「クリスちゃん…大丈夫、私達なら何だってできるよ…!」

「……はぁ、お前はほんとノーテンキだな。……サンキュ」

 

何の根拠もない一言だが、今のクリスには響の純粋さが何よりも嬉しかった。

煌めくスポットライト、鳴り響く歓声…仲間である風鳴翼のステージが今始まる。

 

 

会場に響く重低音、その歌声は人々を魅了し強い勇気を与えている。加えてもう1人、翼と共に歌っている人物が居た。 名前はマリア・カデンツァヴナ・イヴ…新進気鋭のニューシンガー。

 

力強い歌声のユニゾンは会場のボルテージを跳ね上げる。

 

 

立花響はこの感覚を知っていた。

楽しいと気分が高揚した瞬間の感覚を…あの日、地獄と化す一瞬前の感覚と全く同じだ。

 

「…クリスちゃん…!!!」

「はっ? なん………!?」

 

何が何だからわからない。だけどこれから良くないことが起きる。

響が直感したその時、風鳴翼とマリア・カデンツァヴナ・イヴが立つステージに蠢く影が現れた。

 

ノイズ

 

あの日と同じく惨劇が繰り広げられかける。 観客は悲鳴を上げ始め逃げようとする状況の最中、響とクリスは己の胸元に手を当て歌を紡ぐために口を開くが…

 

 

「狼狽えるなっっっっっ!!!!!!」

 

 

雷が落ちたかと思う程の轟音が観客と装者を撃ち、歌を紡ごうと開いた口からは何も吐き出すことは出来なくなるほどの凄まじい圧を身に受けた。

声を張り上げたのはステージに立つマリア

 

「私たちはノイズを操る力を持ってして、この星の全ての国家に要求する!」

「世界を敵に回しての口上!? これはまるで・・・!」

 

大仰な素振りとセリフを語ってみせたマリアのそれは正しく…

 

「宣戦布告…だと?!」

 

クリスは歯噛みし今回のノイズ達を呼び出した犯人の目星をスグにつけた。 ノイズを召喚できる人物、加えてノイズを自在に操る聖遺物を盗み出した人物…エボルト。

 

「おいバカ、既にこの会場にエボルトが紛れている可能性高いぞ…」

「えっ…!?」

「奴が変身する前の姿が分からない以上これだけの人間から探すのは難しい…用心しろ」

「…うん、わかった」

 

ゆっくりと声を潜めながら頷く響とクリスを他所にステージの上では新たな動きがあった。 マリア・カデンツァヴナ・イヴの胸元に輝くペンダント。

アレは見間違えるわけがない物。 何故彼女が持っているか分からない…だけど確かに彼女は歌った。

 

 

「Granzizel bilfen gungnir zizzl」

 

聖詠が紡がれ、ペンダントが輝くとマリアのカラダを光が包み込む。

光が収まるとその中から現れたのは…

 

「「「黒い…ガングニール…!?」」」

 

天羽奏、立花響の白を基調としたカラーリングでは無くその姿は正反対の黒、そして身を包み込む様なマントを靡かせ全世界に向けて高らかに名乗り上げる。

 

「我ら武装組織フィーネは各国政府に対して要求する。差し当っては国土の割譲でも要求しようか…24時間、それ以内に要求が通らないのならば各国首脳機関がノイズによって風前となるだろう」

「正気か、マリア・カデンツァヴナ・イヴ!!」

「さぁ? 驕りかどうか判断してみたらどう風鳴翼…しかしこの状況では戦えないかしら?」

 

大勢の観客がノイズに怯え動けぬ状況下、風鳴翼がシンフォギアを纏って戦ってしまえばどれだけの被害が出るか、考えたくもない結果が見えている。 それを分かって彼女は待っていると悟った。

 

「仕方ない…会場のオーディエンス諸君にはお引き取り願いましょう。 それならば何も考える必要は無い」

 

マリアの腕の一振りでノイズ達は道を開けるように割れ、会場出口への一本道が出来上がる。 困惑する観客達だがすぐさまその場を駆け出し次々と逃げていく様子が全世界に公開されている。

 

(人質を解放して何がしたい…?)

 

真意を計り兼ねる翼にマリアは笑って見せる…がそこに割って入る闖入者が現れた。 最も来てほしくない奴が

 

「よォ、翼。 偶然だな? 今日はオマエさんのライブの日だったのかい。 これまた運命を感じちまうなァ…オレとオマエが初めて出会った日もライブの日だった。 懐かしいだろ?」

「ブラッドスターク…いや、エボルト……!!! またしても貴様か…ではマリアは」

 

エボルトを睨みつけ、その共犯者であろうマリアに視線を移すと彼女も驚愕しアームドギアである一槍を構えていた。

 

「エボルト!? 何故…何故アナタがここに居るのかしら…?」

「何故…とはご挨拶だなマリア。 オマエさんがやらかさないか心配で親心を出して来てやったんじゃないか」

「親心…良く言えたものね…! 調、切歌に手は出させないわよ」

「あのモルモット2人には特段興味ない。 オマエさんのガングニールも不要だ…もう既にガングニールを手に入れる手立てはあるのさ。 オマエさんが気にすることじゃない…クリス、響、オマエさん達も出て来い。居るのは分かってるんだよ」

 

かなり遠く、距離があるはずのステージから2人を見付けているとなると最初からエボルトはこちらの位置を把握していたという事だろうか。

 

舌打ちをしながらクリスは響と目配せしシンフォギアを起動しながらステージへと降り立つ。 ほぼ同時のタイミングで全世界に放映を行っていたカメラを緒川さんが全台停止し翼もようやくシンフォギアを身に纏った。

 

「わざわざあたし達を呼ぶたぁいい度胸だなエボルト! まさか今更3対1を狡いなんて吐かすんじゃねーぞ!!」

「おーぉ、お友達が出来て叩く口もデカくなったもんだクリス。 オマエさん達じゃオレどころかナイトローグにすら勝てないってのに…なァ!!」

 

トランスチームガンにガトリングボトルを滑らせ連射性能を跳ね上げる。 ノーリロードで吐き出される弾丸たちは装者3人に襲いかかるが、翼が最前に立ち、次々と弾丸を弾いていく。 確実に防ぐ翼の背後からクリスが飛び出すと、その手に握ったクロスボウから数発、矢をエボルトに向けて放つが攻撃を早々に切り上げ身を引いたエボルトに当たること無く矢は地面を爆破する。 ステージが砕け端材が舞う中、響が背中のブースターを吹かせエボルトに肉薄し腕のアームパーツが唸りを上げ重撃を放とうとしたタイミングで横槍が入った。

 

「本当は助けるなんてしたくないのだけれど…!!」

 

ガングニールが響を吹き飛ばし白と黒の相対する。 翼とクリスはエボルトに釘付けにされ響の様子を見るのが精一杯だ。

 

「アナタはなんでエボルトの味方をするんですか!? 助けたくない…って事はなにか事情があるんですよね!?」

「ガングニール…そうね、事情はあるわ。 でもそれは貴女達が行う目先の人を助けるだけの様なモノじゃない、大義の為よ」

 

靡くマントはマリアの周囲を高速で回転すると硬質な物に変わり響のガングニールを抉ろうと牙を剥く。 だが物怖じせずに飛び込む彼女は回転するマリアのマントをその両手で無理矢理、押さえ付けシンフォギアを欠けさせながらも徐々に速度を遅らせていく。

彼女の手がシンフォギアを纏っているとはいえ、その手が焼ける可能性だって低く無いのにそれを迷いなくやってのける。

 

「無茶苦茶してくれる…!!」

 

回転が完全に停止する前にマントを開きそのまま回し蹴りを腹へ突き刺す。 止めようと集中していた事で意識が疎かになっていた為、予想以上のダメージが響に残るが知ったことかと立ち上がる。

 

「がはっ…! …は、話し合おうよ、同じシンフォギアを使う人同士…助け合えますよ!!」

「そんな言葉、誰が信じられるの。 そんな言葉、偽善者が吐く言葉。」

 

 

【α式・百輪廻】

 

 

割って入ってきた声と共に天から大量に降り注ぐ丸ノコを紙一重で躱しきり距離を置くが続け様に飛んできたのは緑の斬撃。

 

 

「これは躱せるか…デェス!!」

 

 

【切・ 呪りeッTぉ】

 

背後からの不意の一撃だったそれは避けきる事が出来ずに響は吹き飛ばされ、そのまま倒れ込んでしまう。 見上げた先には黒いガングニールの他に2人のシンフォギアが立ちはだかっている。

 

「シンフォギア…だと!?」

「んだよ、アイツら!? あたしら以外にも居たのかオッサン!!」

 

【解析の結果、シュルシャガナとイガリマの聖遺物と出た。 無茶はするな3人とも撤退も視野に入れて行動しろ!!】

 

新たなシンフォギア達は不敵な笑みを見せながら響を見下ろすがエボルトに気が付いた時、マリアと同じ反応を示した。

 

「エボルト!? なんでここに居るんデス!?」

「……何、しにきたの。」

「嫌われたもんだなァ…オマエさんたちを鍛えてやったってのによ。 まぁ、いい質問の答えはこうだ。 オマエさん達6人を引き合せるために来た…ってところだな? なぁに、特に悪いことは考えてないさ…本日は早々に幕引きにしておこうじゃないか」

 

翼とクリスを軽く遇い飛び下がるとステージのど真ん中で笑いながらスチームガンのトリガーを引き絞ると今までに無いサイズのノイズが会場に解き放たれる。

 

「巨大分裂増殖型ノイズ…こいつを消すには絶唱以上の破壊を一撃で決めないと無限に増え続ける。 限定解除を成し遂げたお前達にはその手があるんだろう? オレに見せてくれよ」

 

マリア達3人を下がらせたエボルトはほくそ笑む。限定解除を行い大幅に機能が上がったシンフォギアの新たな力を見定めるために放った特別製のノイズを彼女達はどう攻略するか…

 

クリス、翼は弾丸に斬撃とスライム状のノイズに向かって放っていくがエボルトが言った通り、切り飛ばされ穿たれた箇所から続々とその質量を増していき肥大化していく。

 

「こ、いつらァ!!」

「やめろ雪音。 奴の言う通り攻撃をすればする程…コイツは増えていくみたいだ…」

「んなっ!? じゃあ、どうしろっつーんだ。 絶唱なんざ反動が…」

「絶唱……」

 

本来ならばエボルトにだけは見せたくなかった技がある、状況が状況なだけにやらざるおえない。 蠢く大型のノイズを前に響は2人に手を差し出した。

 

「翼さん…クリスちゃん…やりましょう!」

「まさかアレを? だが、立花…あれは未完成の…」

「このバカはやろうと言ったことを曲げる様な奴じゃないってのは分かってんだろ? それにコイツはマジでアレじゃねーと無理そうだ」

 

差し出された手をクリスは掴み、翼も苦笑しながらも手を握る。

風向きが奴等に変わった。

 

「いきます!! S2CAトライバースト!!!」

 

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

Emustolronzen fine el baral zizzl

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

Emustolronzen fine el zizzl

 

 

「絶唱か…いや…これは?」

 

本来の絶唱とは流れが違う。

 

「スパープソング!!!!!」

「コンビネーションアーツ!!!!!」

「セット!!ハーモニクス!!!!!!!!」

 

3人から吹き荒れる膨大なフォニックゲインは立花響を起点とし爆発的なエネルギーへと纏まり彼女が無理矢理束ねていた。そのエネルギーはフィーネが使用した完全聖遺物デュランダルを凌駕し、虹色に輝く波がノイズの分裂、増殖を遥かに上回る速度で蹴散らしていくとそのコアを剥き出しにしていく。

 

「3人の絶唱を立花響が纏めている…これが融合症例第一号の…あの娘のガングニールの力…? いえ、だとしてもあの娘に掛かる反動は通常の3倍よ…どうなっているの」

「無茶苦茶デス…!」

「…綺麗。」

 

慄くマリア達を他所にエボルトは高揚していた。

絶唱を束ねた力、この力がもう少し高まればエボルドライバーは復活する。 エボルドライバーが復活すれば今よりも更にゲームが面白くなるだろう。

 

「見えた! 立花ぁ!!」

「ぶちかませぇぇえええ!!」

「はい…!!!!!!!」

 

両腕のギアを1つのカタチに合体、変形させると虹色の暴風はノイズコアを上空へ巻き上げ、そこに目掛けて響は拳を握り飛び上がった。

 

「これが……私たちの! 絶唱だぁぁぁぁあああ!!!!」

 

天をも貫く一撃は空を覆う雲を吹き飛ばしノイズをチリも残さず消滅させる。

 

欠けた月が照らすアリーナに乾いた拍手が響く。 叩いているのは勿論エボルトなのだが…

 

「いやぁ、お見事と言うしかない。 然しものオレも今のを喰らったら細胞の一つも残らず消し飛んでいるだろうな。 良いものを見せてもらった」

「はっ、だったら駄賃の少しでも置いていけよエボルト…!」

 

凄まじい一撃を放った響はシンフォギアが解除され膝を付いている。 翼とクリスが背に響を隠してエボルトに対峙しているのだがエボルトは興味無さげに手をひらひら振ると背を向けた。

 

「言ったろ。オレはシンフォギア達を引き合せるために来たって。 用事は済んだから帰らせてもらうさ…次会う時はその技を完成させている事だな」

 

蒸気に巻かれ姿を消す4人に響はポツリと言葉を零した。

 

「私って…偽善者…なのかな」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「エボルト、どういうつもり?」

「んん…言ったと思うが? オレは楽しみたいんだ。その為には苦労も厭わず他人の為に働いてみせたりするんだ」

「他人の為…ですって!? だったら何故、マムに毒を盛ったの!」

 

激昂するマリアはエボルトを突き飛ばし凄まじい殺意を向けるが気にした様子もなくヘラヘラとしている。

調、切歌もペンダントを握りしめ怒りを抑えようとしていた。

 

「オマエさん達をコントロールする為…か。一番妥当な答えは。 人間、それもオマエさん達のような甘っちょろい連中なら自分の身内1人、人質に取られればこちらの言う通りにするだろ? だから、毒を盛ったのさ」

「貴方の組織は我々の出資者なのだから私達は最大限従うつもりだったわ。 そこにマムの犠牲は必要なものではない!」

「おいおい、オレはナスターシャを殺すとは言っていないだろう? 結果を残してくれれば奴を殺す事は無いさ」

 

結果を残せば…それはつまり思い通りに動かなければ容赦なく殺すと同義だ。

 

「外道め…」

「スマートに動かしたい紳士なだけだ。 それじゃあ、次の指示まではドクターに従えよ? Ciao」

 

消えるエボルトを無言で見送り歯噛みする。 マム…セレナ…私は無力だ。

 




「次回から私が主人公のマジカルミラクル魔法少女セレナを放送しますっ!」
「次回も普通の戦姫絶唱シンフォギアG EVOLだ。くれぐれも誤解無きように」
「この子は私の仲間の妖精さん! フィーネちゃんっ」
「待て、私まで巻き込むな!?」

「「次回 戦姫絶唱シンフォギアG EVOL お楽しみにっ」」


「フィーネちゃん、妖魔の反応っ! 行こう!」
「変な設定を足すなぁァァァ!!」


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それぞれの日常

前回までの戦姫絶唱シンフォギアG!

「ソロモンの鍵を奪われ直後、私のライブ会場が襲撃にあった! 案の定エボルトが出てきたのだがもっと驚くのは立花と同じガングニールを纏った少女が現れた事!」
「加えて2人の新たなシンフォギアを連れて来てさぁ、大変! なんだかヒーロー戦隊出てくる偽物みたいだな?」
「偽物なんて酷い。」
「デデデデース!」

「「「「どうなる第13話!?」」」」


石動惣一の朝は早い。

 

喫茶店『nascita』のマスターとして仕込みがあるからだ。

安くて美味いと評判のナシタモーニングセットは道行く会社員やリディアンの生徒達に大好評で毎朝飛ぶように売れる。 相も変わらず珈琲の味はとても飲めたものではないのだが。

 

「ふぁ……ふぅ……寝過ぎたな」

 

時刻は6時半。 とてもじゃないが早いとは言えないし朝練や出勤する人々もちらほら出て来始めている時刻でもある。 今更準備をしても間に合わないか、と若干諦めムードの石動が観たものはエプロン姿にマスクの娘が飯と珈琲の準備を終えた姿だった。

 

「おぉ、いい香りだな。 珈琲淹れるの上手くなったんじゃないか」

「あのな、とっくの前に父さんより珈琲淹れるのは上手いし何だったら店を経営してるのほぼこっちなんだけど?」

「そう言いなさんな…ほら、客が来る前に戻った戻った」

 

冷蔵庫…型のドアを開けシッシッと下へ追いやると早々にお客さんがやって来た。 誰も彼もが笑顔でモーニングセットを買っていき、その姿を見ると自然と頬が緩む…のだが俺が淹れた時に比べて凄まじく珈琲が好評なのが解せない。

何が悪いんだ、機材も豆も高級な物を使っているし何だったらナイトローグやローグと同じ淹れ方をしているのに何故同じ味にならない?

 

ブツブツと戦兎の様に呟きながら一度アイツの体を乗っ取った時の天才的な頭脳で珈琲の謎でも解いてみようかと思った時、冷蔵庫が内側から開いた。 幸い客は居なかったので慌てることもなかったのだが出てきたのはローグの嬢ちゃん。

 

「…お腹空いた」

「ほい、トーストとスクランブルエッグにベーコン…それと珈琲」

「…珈琲は要らない」

「俺が淹れたのじゃない」

「貰う」

 

このガキ…こっそり俺の珈琲と入れ替えといてやろうか。

毒づきながら飯をくれてやろうと冷蔵庫へ運んだ時、客が来た。 立花響と小日向未来が

 

「ちょ、ごは…」

「いいから引っ込め…!! Guten Morgen.立花、小日向」

 

大慌てでローグの嬢ちゃんを押し込み冷静を装う。 奴らにだけは見られるわけには居ないんだよなぁローグの場合…

 

「おはようございますマスター! 今話し声聞こえましたけど……あれ、人が居ない」

「気の所為じゃないか? 俺は冷蔵庫の中のもの整理してただけだしな。独り言でも言ってたか…やだやだ歳をとったら独り言が多くなっちまって…で、何にするんだお客様?」

「モーニングセット4つテイクアウトでっ! 」

「あいよ、朝練か何か……あぁ、あの人の所で修行…待てよ? だとしたら小日向が居るのは可笑しいし4つ?」

「はいっ、今日は翼さんやクリスちゃん達とお出かけするんですっ! それでここの御飯美味しいから2人にも食べてもらおうと思いましてっ」

「響が是非、って二人に言っていたので私達で買って持っていこうってなったんです」

「くぅ…嬉しいこと言ってくれるなぁ立花っ!! よし、2つのお代はいらない…代わりに2人の感想を教えに来てくれよ」

「そんな、ちゃんとお支払いします…」

 

2人がアタフタして困っている姿をニヤニヤと見ていると予想外の横槍が入った。 スタイルがよく丹精な顔立ちのモデルの様な男が2つ分の料金を割って出してきやがった。

 

「代わりに払おう。ボクがね」

「え、えっと……」

「遅れてしまうんじゃないか? 早く行かないとさ」

「あ、ありがとうございます!! その今度会えた時には私達がお返しさせていただくので!」

 

小日向と立花は包みを持って頻りに頭を下げながら店を後にした。 さて、厄介な客が来たなぁ…などと思いながらもカウンター席に腰を掛け珈琲を啜る男に向き直ることにした。

 

「シンフォギアの装者か。アレが」

「何のようだ。 別に俺が店をやってることには何の問題もないだろう? オマエさんの出番はまだ先の筈だ…それともドクターやキャロルを出し抜いて動くってんなら話は別だが…」

「まさか? 興味本位で来てみただけさ…コチラの計画はまだ準備段階もいいところアレの所在も探っている途中なんだよ」

 

ハットを目深に被り厭らしい笑みを浮かべやがって…あーあ、人で無しの相手はヤダヤダ。オレがまだマトモに思えてくるよ。

変人を店の隅に追いやり営業を続けるが昼に差し掛かった頃には客入りもとんと無くなっていた。 モーニングの人気はあるもののランチ時には皆別の店へ行ってしまうのもここ数年で分かってたことだが。

 

「さて帰るとしよう。そうだ、キミに頼まれていたものを回収してきた…なに面白いものが見れるのなら手間賃はいらないさ」

「へぇ、随分と仕事が早いじゃないか」

「聖遺物の成分を抜いてくるだけなら片手間だよ」

 

ミッドナイトブルーに星の様な白点が散りばめられた新たなボトルはただのフルボトルでは無く、エボルドライバー用のエボルフルボトルだ。

ま、俺用ではないんだがな。

 

「それじゃあ、ボクは彼女達と合流するとしよう」

 

店を出ていく優男にゲンナリとしながらも手に取ったボトルを遊ばせているとふと、気がついた。

あの男、お代払っていかなかったな…!

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

マリア・カデンツァヴナ・イヴの昼は質素なものだ。

 

元々FISから離脱し逃亡犯として追われていた初期はろくな資金も無くインスタントラーメンを良く食べていた。

最近は忌々しいことこの上ないがエボルト率いるファウストに資金提供をしてもらっている為、食料の調達も滞りなく行えるのだが贅沢が出来るわけでも無し。 それに自分が食べるぐらいなら年下の2人にいいモノを与えてやりたくもあった。

 

「はぁ…考えても仕方ないわね」

 

何日続けてのインスタントラーメンだろうか…マムの毒も即死や激痛を伴うものでは無く食事程度ならば取れるのだが幾分栄養分が足りない。

毒で衰弱し栄養失調で死ぬなんて事は一番避けたい結末だ。

粥を作りマムの所へ持って行くと珍しく調も切歌と居らずにマム一人が寝ていた。

 

「マム、お粥だけれど…持ってきたわ」

「…マリア。 私に構うことはありません…ドクターの指示通り動きなさい。 調と切歌の2人のことを任せます」

「ドクターの…って、マムの毒は私達が必ず何とかしてみせるわ。 だから諦めないでちょうだい」

 

弱った身体を起こし粥を口に運ぶ姿は以前のマムの様な覇気はなく歳をとったお婆さんみたく弱々しい印象を受ける。

あの日、突然現れたエボルトの手によって毒を打ち込まれてから日に日に衰えていくマムを見ていられず彼に従う事になってしまったのもそもそもは私が弱過ぎた所為だ。

 

「エボルトは…何を企んでいるか分かりません。 しかし、彼が進む道にアナタ達が踏み入ってしまえばそれは己の身と護るべき人々の命さえ刈り取ってしまう修羅の道となるでしょう…」

「だったら、私達はどうすれば…!」

「最早、最善の手は全てエボルトの手によって潰されました…。 だとしたら、残されたのは最悪の一手。 犠牲を払ってでもエボルトを消滅させ…フロンティアを浮上させるしかありません」

「無理よ…正規のシンフォギア装者達でも手こずっていたエボルトを私達のような時限式のインチキ装者がどうにかするなんて……」

「マリア…! 甘さは捨てなさい…奴を消さなければフロンティアで人々を救ったとしても……結末は世界の破滅です…ゴホッゴホッ…!!」

 

血を吐きながらもマリアのカラダを強く押すマムの手は痩せ細っていた。

 

「分かったわ。 私達なりに最善を尽くす…それでもダメだったらエボルト共々、私がケリをつける」

 

あの2人に任せる訳にはいかない。

今は従順に従って隙を見せたその時、奴を仕留める…

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「…とでも思っているんだろうな。 全く、オレも甘く見られたものだ…っと!」

 

エボルトの夜は遅い。

 

スチームブレードのバルブを捻り一振りすれば空中に氷刃が生み出され迫り来る2人組に牙を剥く。

大気を凍らせながら飛来する刃を自慢の鎌と丸鋸で砕くが爆散と同時に眼前で広まるミストに視界は奪われエボルトを見失う。

 

「見通しが甘い、二手三手先を読まなければインチキシンフォギアのオマエさん達なんざ、たちまち奴らにシメられるぞ」

 

正面に居たはずのエボルトの背後から強襲。 身に纒わり付く水気が嫌な予感を抱かせる。

 

「それと相性だな…っ」

 

ブレードから放たれた雷撃がその身に降り注ぎ絶叫してしまう。

強制解除されたシンフォギアがかなりのダメージを肩代わりしてくれたがそれでも痛いものは痛い。

 

「ぐっ…はぁ、はぁ!! 許さない…デス!!」

「ほう? 許さなければどうする、オレを倒さなければナスターシャの毒は消えないが倒せばオマエさん達を隠し立てする組織は居なくなりたちまちFISの連中に嗅ぎつけられ計画すらも立ち行かなくなるぞ」

「…私達は、人質なんて取られなくても…指示通り動く。」

 

フラつきながらも立ち上がる暁と月読を見ると目頭が熱くなってしまう。 健気な少女達だ…だからこそ、遊びたくもなるってものだ。

 

「例え動いたとしてもオマエさん達は手を抜くだろう。 出来るだけ他人を殺さずに大義を成そうと奔走するだろう。 だが、大義の為には犠牲も必要なんだ…オレだって人を意味もなく殺す行為は嫌いなんだよ」

「人を救う為に人を殺せと…そう言いたいんデスね」

 

何度目になるか、Linkerを握りしめ首筋に押し当てる二人の目は親の敵…いや、全人類の敵を見る様な瞳を向けてくる。

ここで2人を使い潰すつもりは毛頭ないが現段階で正規のシンフォギアよりも強くなってもらわなければ面白味もないので止めることはない。

 

 

「Zeios igalima raizen tron」

「Various shul shagana tron」

 

 

緑と桃の両刃は叩けば叩くほど鋭さを増していく。 どの装者よりも最も鋭くオレを楽しませるかもしれない…!

 

「やる気は充分…よし、続きといこーじゃないか!」

「どさくさに紛れて死んでしまっても文句は無しデス!! 調、行くデスよ!」

「うん、私と切ちゃんならやれる…。」

 

活きがいい2人の攻撃は徐々に良くなってきているがオレに届くほどではない。

身を引くくし上段に迫っていたイガリマの刃は宙を空振り隙だらけになる。すかさず低空からの蹴り上げを腹へ叩き込み空へと打ち上げると蹴りの反動で硬直したオレに向かって大量の鋸を飛ばしてくる。 が、予測通りの攻撃だった。 予め装填していたダイヤモンドボトルでシールドを張り全て弾き返すと地を滑り月読に一気に接近するとスチームガンを胸元へ押し当てた。

 

月読調が纏うシュルシャガナは面制圧に加えて中距離戦に置いては局面に合わせて丸鋸を様々な形に変化させるシンフォギアだ。が、現在のシンフォギアの装備に加えて彼女の戦闘スタイルから近距離戦に持ち込まれてしまえば手立てが一気に減る難点も持ち合わせている。

 

武装の切替が間に合わず懐へと潜られた月読は防ぐ事も出来ずに零距離射撃を喰らって転がる。

 

交代するように先程空へと打ち上げられた暁がアンカーを地面へ撃ち込みギロチン状に展開したイガリマを高速で放ってくるが避けれないものでは無……

 

「おっと、考えたな…!!」

 

背後へと飛び下がろうとしたのだが視界に映ったのは大型の丸鋸。

オレの後ろを取るためにわざと攻撃を喰らったのか…やるねェ!

 

前門のギロチン、後門の丸鋸

 

どうしたものかと考えたがどうやら訓練は切り上げのようだ。

横から飛び込んできた紫の戦士がギロチンを豪脚で噛み砕き暁を抱き抱えて目の前に降り立つ。

 

「時間だよエボルト。 この子らを虐めるのも大概にしときな」

「おっと…もうそんな時間か。残念だったなもう少しでオレに傷をつけられたぞ」

「くっ! 紫のが邪魔しなければこっちが勝ってたところデス!! よくも邪魔してくれたデスね!」

 

ローグにお姫様抱っこされている暁は実に滑稽だが幾分こちらにも時間が無いので放って置くとしよう。 さてさて、次なる一手はドクターウェルのネフィリムに託すとするか…

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「…行ったか。 私としてもエボルトは信用ならないし貴女達にあのまま倒してもらっても良かった。だけど、守ってもらわなければならない約束をしているの」

「約束、デス?」

「それは、エボルトに人質を取られている私達よりも大切な約束?」

 

シンフォギアを解いた2人にローグは静かに頷く。

 

「本物じゃない、こちらを知らなくても会えるなら何だってやるつもり」

「……ローグってもしかして女の人だったりするんデス?」

「……さぁてね」

 

ただ、と付け加え二人に背を向けながらローグは語る。

 

 

 

エボルトは底知れない邪悪だと。




「ついに最終回を迎えた桐生戦兎を待ち受けるのは万丈と2人、全ての騒動を思い出して収録するという苦行だった!」
「おい、戦兎。 誰に向かって話してるんだ?」
「そりゃ違う世界線で俺達を応援してくれたみんなに決まってるでしょ。 俺達2人の戦いはまだ続く、みんなこれからもよろしく」
「戦兎、あっちで変なバケモン暴れてるぞ!」
「やれやれいきなりか…さぁ、実験を再開しよう!」


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学・祭・準・備

どうも、969です。
元はもっと長く三日ほど前に投稿する予定だったのですが……先日の地震でPCが木っ端微塵に砕け散りました。
現場からは以上です…


「学校祭…デスか」

「どういうつもり。」

 

一枚のビラを手に2人は蛇を睨み付けている。それもその筈、普段は自分達を痛めつけ良く分からない指示を出されてはソレをやらされる自分達にエボルトは遊んでこいと言ってきた。

 

なにか裏があるに違いない。

 

2人してジト目で視線を送り続けているとエボルトは肩を竦めながら笑う。

 

「なぁに、息抜きに遊んでこいって言うのは本当さ。マリアならいざ知れず…オマエさん達の年頃なら遊びたい盛だろう? オレにも娘が居たから分かるんだよ。 お使いと言ってもいいか」

「この学校にシンフォギア装者がいる…?」

「ビンゴォ!! ってな訳で敵情視察だ。運が良けりゃ奴らのシンフォギアを奪ってこいってな?」

「…なるほど、任務なら仕方ないデスね!」

「マリアには内緒にしろよ。奴に心配を掛けたく無いだろ?」

 

どこからともなく2本のボトルを取り出しそれぞれ1本ずつ投げ渡す。

 

「これ、何?」

「エボルトが普段使っているヤツデスよね?私達に使えるんデス?」

「オマエさん達は報告書を読んでないのか。 コイツはフルボトルって言ってな、様々な成分が含まれている代物だ。 イチイバルの装者 雪音クリスはシンフォギアの力にドラゴンのパワーを加えた驚異的なフォームチェンジを成し遂げた。 奴に出来た事をオマエさん達も出来るんじゃないかと思ってよ」

 

それぞれの掌に転がるボトルは新しい物じゃなく、以前の世界で桐生戦兎が使っていたボトルと同じ成分の物。 と言ってもラビット、タンク、ドラゴンの様に奴らが主に用いてたモノでも無く、あくまで桐生戦兎が時折使っていた程度のボトルだ。

 

ドラゴンフルボトルの件でとある仮説を建てた。オレが万丈と戦兎に取り憑いた際にヤツらの遺伝子の一部が〈エボルト〉の中に残り、この世界で記憶から作成したボトルの中に2人の記憶が混じっている可能性がある。

本来、戦兎が作ったビートクローザーはドラゴンフルボトルの力ではないのに雪音クリスの手に握られたのはそういった万丈の記憶から│創作《ビルド》されたのではないか?

 

オレがこの世界でビルドドライバーやスクラッシュドライバーを作ることが出来たのも戦兎を乗っ取った際に記憶を覗いた事に起因する。

 

別にアイツらにどんな影響が起きようと構わないが、今はまだその段階じゃない。 早々に何らかの変化があってゲームが台無しになるのも嫌なもんだ。

 

「上手く使えるかは2人次第ってこった」

「…怪しいけど貰っておく。」

「調がそう言うなら私も受け取っておくデス」

 

ポケットに捩じ込み部屋から去る二人を見送ればエボルトはブラッドスタークの殻を脱ぎ捨て石動惣一へと変わる。

 

「お嬢さん達の相手も大変なもんだ…。 さて、俺もリディアンに向かうとするか。 陽気な喫茶店のマスターとして」

 

愛用のコーヒーセットに差し入れ用のランチバッグを手に取りスキップ混じりに飛行艇から抜け出した。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

時は遡り数日前

 

 

「ドラゴン…か。オマエは一体何なんだ?」

 

学校祭の準備が進むリディアン女学院の屋上で雪音クリスはフィーネとの決戦後に石動惣一から受け取ったドラゴンフルボトルを眺めていた。

カ・ディンギルの一撃をも防いだドラゴンの力。その中で幻視した戦士の姿は猛々しく熱いものだった。

 

「はぁ…考えても仕方ないか。あれから何度か使ってみているけど似たような現象は起きねーし」

 

限定解除が発動してからシンフォギアの一部機構が大幅にパワーアップしていた。 そして腕部にはボトルを入れるスロットまで現れ何時でもドラゴンフルボトルを使う事が可能になったのだが、これはフィーネが予測していた事ではないのだろう。

シンフォギアシステム…FG式回天特機装束の開発関係者に聞こうにもフィーネ以外の関わった連中のデータ自体抹消されているせいで2課のデータベースですら足取りが掴めない言わば詰みの状態だった。

 

「雪音さーん!」

「げぇ…!?」

 

ルナアタックの以後、おっさんのバックアップもあってか通う事になった学校には問題が多過ぎた。 特に一番の問題はクラスメイトの存在。 ここ数年まともな付き合いをした同年代なんて居なかったものだから雪音クリスにとって彼女達とはどう接すれば良いのか全く持って未知数の存在だ。 立花響(バカ)風鳴翼(SAKIMORI)の2人はまだ戦場を共にする仲間とも言えなくは無いが一般人である彼女達は自分にとって触れていいものではない気がした。

 

声の主たちが屋上の扉が開く前に柵を乗り越えて一段下、といっても普通ならば飛び降りないレベルの高さを跳んだ。

勢いで飛んでしまった。

 

「あ……うわぁ!!?」

 

物凄い勢いで重力に引かれ落ちていく身に恐怖を覚えながら一瞬で後悔する。あたしはバカみたいな無茶はしないはずだったのにどうしてこんなことを!!

 

「少しずつだがアイツに似てきたなぁ…ボトルの副作用を本腰入れて調べた方がいいか…どわぁ!?」

 

雪音クリスを受け止めた、いや正確には雪音クリスの下敷きになったのはnascitaのマスター、仮面ライダービルドの石動惣一だった。

 

「おま、何してんだよ!? いきなり人の下に入ってくんなよ!」

「こっちから言わせてもらうと、いきなり人が居る所に飛び降りてくるなよ!おじさん的にももう受け止められる身体じゃないんだから…いてて…」

「そ、それは悪かったというか…急ぎだったんだよ。つーか部外者がなんでこんな所にいる」

 

下敷きになった石動の上から避けると砂埃を叩き落としジト目で疑惑の視線をぶつける。 石動も石動で肩を竦め立ち上がるとハットを押さえながら白のボトルを見せ付けてくる。

 

何の成分も入っていないボトルだろうか? だとしたらコイツは何の為に来た?

 

「なぁに、お宅の司令官からボトルについて研究をしたいって御達しがあったもんでね。オマエさんのドラゴンも解析してるだろうがサンプルは多いに越したことないだろ? だから俺が空のボトルから新型のゼリーまで持ってきたってわけよ」

「ついに部外者のオッサンも基地に入れるたァ…それほど切羽詰まって来てるのか…?」

「聞いたぞ? 新しいシンフォギアが3人も現れたんだってな。俺のビルドドライバーが不調なばかりに手を貸せずにすまなかった」

 

頭を下げ真摯に謝る石動に不信感を抱くも実際問題、クリスはビルドに何度か救われているというのに、礼を言うべき相手に先に謝られては立つ瀬がない。

 

「べ、つにオッサンが悪いわけじゃねーよ。 あたし達もちゃんと対処できなかったのが問題だ…そうだ、ドラゴンの事について教えてくれないか?」

「ドラゴンボトルか? それについてってもな…その昔居た俺の『友人』が使ってたぐらいだぞ」

 

いきなり確信に迫った気がする。

 

「ゆ、友人だぁ!? んなもんをあたしに貸してるってのかよ!!」

「あぁ、その辺は気にするなよ。 あいつは世界の為に戦うような男だったしな…オマエさん達の力になれるなら本望だろうさ。と、俺はそろそろ行くとするよ。学祭の日はオマエさん達に差し入れ持ってくるからな」

 

Ciaoッ なんて気楽な挨拶を残して屋上から去る石動のオッサンは以前感じた胡散臭い嫌な感じもなく親しみやすそうなオーラを感じた。

 

 

 

「ここに雪音クリスが居るぞーーーーー!!!!!!」

 

 

「あのオッサン…!!!!!!」

 

この後、クラスメイトとの鬼ごっこが再開されたのは言うまでもない。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

風鳴翼もまた学祭の準備に勤しんでいた。 日頃の戦いやアーティストとしての活動でまともに学校に来ることも少なくなってしまった身としては学生最後の学祭は一生徒、一人の年頃の女子として楽しむ為に皆の手伝いをすると決めていた。

 

教室の窓からは校内を元気に走り回る雪音も見える。 だいぶ馴染んできたのか嫌そうな表情ではなく、コチラとしても多少安心することが出来た。

願わくば、敵対しているあの3人のシンフォギアとも分かり合えるのなら……

 

「…知らず知らず、立花に私も影響されているのだな」

 

折り紙で作った飾りをダンボールに詰め、然るべき場所へ運ぼうとすると一人の人物に目を奪われる。

大きめのサングラスをかけ、ハットを被った人物…何処か、石動殿に通じるファッションセンスをした人物はキョロキョロとしながら教室を覗いている。

 

「失礼、どなたかお探しでしょうか?」

「ん、あぁ…ウチのバカ父さんをな。 学校に出前に行ってくるとか言って、もう半日も立つんだよ。 あ、ちゃんと入校許可貰ってるから不審者じゃないよ」

 

細身なのか、それとも身体の線を隠しているのか…顔を隠しているため声を聞くまで女性と判断つかなかった。

驚きながらも彼女の話を聞いていると、やはりというか石動殿の娘さんらしい。

 

「あの人の珈琲は飲めたもんじゃないからな…いつもこっちが淹れてやってるからって店ほっぽり出して放浪してやがるんだ」

「あぁ…確かにマスターが炒れた珈琲はなんというか…独特の味わいが」

「素直に不味いって言ってやれ。その方が奴には響く」

 

どうにも娘さんは父に激辛なようだ。

 

「そうだ、名乗ってなかったな。 ミソラって呼んでくれ」

「私も名乗り遅れた。 私は「風鳴翼、だろ?」 む、知っていたとしても名乗らせるのが場の流れというものじゃないかしら」

「そういうの気にしないタイプでな? おっと、目的の人物発見だ…悪かったな風鳴翼。 そこそこ楽しかったよ」

 

そう言うと彼女は駆け出し、廊下の先にいる男に向かってそれはそれは綺麗な飛び蹴りをかましていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

時は戻り学祭当日

 

「さてと、ネフィリムちゃんにもお仕事をしてもらうとするか…フフフ…フハハハハ!!!」

 

【デビルスチーム!】

 

スチームブレードをネフィリムに直接突き立て発生したネビュラガスを胎内に充填していく。 ドクター達の計画とは大幅に違うだろうが…これもオレが楽しむ為だ。悪く思わないでくれよ?

 

飛空艇のハッチを開け放ち、ネフィリムの籠を投下する。

 

「ショータイムといこうじゃないか」




「お嬢ちゃん大丈夫かい?」
「俺達が来たからにはもう安心だぜ!!」
「と言っても? 俺も万丈も変身出来ないんだけどな」
「やべ、忘れてた」

「フィーネちゃん! 不思議な人がやってきたわ」
「だからフィーネちゃんと呼ぶなっ! というか誰だオマエ達!!」
「そりゃ正義の味方でしょーよ」

次回 仮面ライダービルド! 大激突、マジカルミラクルセレナと妖魔軍!!

「タイトルあってんのかこれ」


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歯車

前回までの戦姫絶唱シンフォギア EVOL!!!!

「学祭準備に勤しむ装者達! しかし暗躍するエボルトはそんな物もぶち壊す」
「まだ何もやってないんだがなぁ?」
「どーせ、お前の事だからろくな事しないだろ」
「Exactly! ま、俺の計画はまだまだ序章だ。その一端をお披露目しよう」


学校祭開催時刻からしばらく経った頃

 

偵察という名目で遊びに来た私と切ちゃんは様々な店で焼きそばやら綿あめやらを買い漁り頬いっぱいに放りこみ、学園祭を満喫していた。

 

「おいひいれふね、しらべ!」

「切ちゃん、食べてから喋ろうね。 でも、こんなにお金をくれたエボルトには驚き」

「あんな奴の財布なんてカラにしてやればイイデス!」

 

今の私達は年相応と言うべきか、傍から見れば戦いに身を置いているなど考えもしないことだろう。 そんな一時を満喫しながらも校内で装者達を探す。目的は奴らの聖遺物を奪取しネフィリムに栄養として与える為だ。 周囲を見渡せば同年代の少女達が何も考えず楽しそうに過ごしているのが嫌でも目に入ってしまう。 私からも切ちゃんからも縁遠い平和な世界。

 

でも混沌はそんな平和を嘲笑いながら叩き潰す。

 

騒ぎが起こり始めた。爆発? ここから少し離れた所だろうか。 ノイズが出たのならばあのシンフォギア達がとっくに行っているはず。だとすれば…

 

リディアン内ではない事が唯一の救いだ、と内心ホッとしてる自分が居た事に驚きながらも私は切ちゃんと共に学園から飛び出していた。

 

煙の上がっている方向はルナアタック事変の現場、旧リディアンがあった場所と分かったのは暫くしてからだった。

そして、目の前で暴れているそれはノイズ何かでは無くドクターがフロンティアの起動に必要だと言ったネフィリムという化物。

おかしい、ここに居るはずがないアレが暴れているなんて!!

 

ネフィリムはただ、その場で暴れているだけだ。 瓦礫を砕き、吼え、また砕く…まるで子供が積み木を壊して遊ぶように暴れて泣きわめいている。

 

苦しんでいる?

 

そう感じた時、ネフィリムの視線がこちらへと向いた…不味い

 

「切ちゃん!!」

「背に腹はなんとやら…デス!!」

 

 

 

 

「Various shul shagana tron」

「Zeios igalima raizen tron」

 

 

 

 

光が身を包み、二人揃ってシンフォギアを展開する。 まさかネフィリムと自分達が対峙するとは思ってもいなくアレを倒してしまってもいいものかと思案する。 先程からマリアとドクターに通信を試みているものの、何らかの要因があるのか連絡が一切付かないのもきな臭い。

 

まるで怪獣のような出で立ちをしたネフィリムの動きは期待を裏切る俊敏さで30mはあった距離を一瞬で詰め剛腕を横薙ぎに振るってくる。

身体を反らして紙一重で交わし、そのまま両足のギアをフル稼働させて自分のスタンスである中距離を保とうとするが甘かった。 ネフィリムの腕はしなり鞭のように振るい出すと地面ごと捲られ宙に無防備にも身体を浮かせてしまう。

 

「調…ッ!!」

 

ブースターを噴かせ追撃がくる前に受け止めてくれた切ちゃんと共にネフィリムへと向き直ると次はピタリと動きを止めた。やっぱり様子がおかしい。

 

「…ウソ」

 

怪獣然としていたネフィリムの肉が蠢き、その背に羽を生やし腕や足に棘やら角やらが現れ始め、まるで虫の変体を見ている気分だ。

 

「うへぇ、気味が悪いデス…」

「気を付けて切ちゃん…たぶん来る。」

 

完全な変態が終わるとグリンっ、と首を回し大きな口を開けば牙を見せ、舞い上がってきたネフィリムに対して私達は丸鋸、大鎌で挟撃を仕掛けるために分散する。

ネフィリムは切ちゃんを執拗に追い掛け回し腕や首を伸ばして切ちゃんを捕らえようとするが全て上手く鎌で去なしていくが突如、ネフィリムが絶叫に近い咆哮を上げる。

 

「がァ!? こ、れは…っ」

「頭が…割れそ、う…!!」

 

私と切ちゃんが紡いでいた歌が止まってしまう。 いや、コイツは叫びで無理やり歌を止めたのだ。 シンフォギアとの戦いと理解してシステムの要である歌を。

 

がくんと速度を落とした切ちゃんの脚を掴み振り回すネフィリムに対して私は刃を高速回転させ迫り、勢いに身を任せて腕に丸鋸を突き立てた。

 

【非常Σ式・禁月輪】

 

ギャリギャリと肉を削ぎ落とす音を奏でる禁月輪は徐々に速度を落としていき完全に停止する。その肉は伸縮自在に見えた時とは違い剛質なネフィリムの身体に刃が食い込み離れるに離れられなくなってしまった。

 

「調、後ろデス!!!」

 

切ちゃんの絶叫に え? と、首を回し背後に視線を移すと首が伸び大きな顎を開いているネフィリムが見えた。

 

喰われる。

 

少ない攻防で彼我の実力差が心底わかった。 もうダメだと諦めかけた時、天から響く歌声と共に降り注いできた槍がネフィリムを吹き飛ばし、剣と矢が吹き飛んだネフィリムを乱れ撃った。

攻撃に怯んだ手の拘束が解かれ放り出された切ちゃんを抱きとめた私達が見たのは忌々しくも何処か眩しい彼女達。

 

「2人共大丈夫!?」

「どうして…」

「このバカは敵であろうと助けちまうんだよ観念しな…それよりなんだコイツ? ノイズじゃ無さそうだ」

「気を緩めるな雪音。 あの2人を振り回したのだ…我々3人で掛かったとしても五分がいい所だろう」

 

呆然と、敵である彼女達の姿を見つめる。

何故、どうして。と考えは止まらない。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「何故ネフィリムが暴れている!!?」

 

怒声を上げるドクターはモニターを叩きマリアにすぐ現場へ向かう様、指示を飛ばすがその姿は理性的なモノではなくパニック状態だ。

 

「私の台詞よ…! 調と切歌が襲われるなんて…ネフィリムの制御が出来ると言ったのはドクター貴方よ!」

「はっ、オマエらがどうなろうと知ったこっちゃないんですよ。 ネフィリムはフロンティアの要、あれだけは失うわけにはいきませン!!」

 

いやはや、ここまで取り乱すと笑えてくるな?

 

「まぁまぁ、落ち着けドクター。 モニターを良く見てみろよ? ネフィリムは押されるどころかシンフォギア2人を圧倒しているんだぞ? 予想外のパワーを発揮しているじゃないか」

「えぇ、出来損ない共なんぞに押されるわけがありません…ですが、ここまでプランから外れた事をしてしまえば目的から遠ざかるというもの」

「仕方ない、オレが回収してきてやるよ。調と切歌の嬢ちゃん達も連れてな。 これ以上こちらの戦力が消耗するのは避けたい」

「くっ…貴方にお願いするのは癪だけれどお願いするわ…あの2人を」

 

カ・ディンギル跡地上空付近まで迫れば後は降下するだけだ。 軽くマリアに手を振るとハッチを解放した俺は待機していたミソラ、ローグと共に飛び降りる。 なぁに、下には新しい玩具があるんだ…多少オレが楽しませてもらっても構わんだろ?

 

眼下に広がる光景は特機部二のシンフォギア共が三位一体となりネフィリムを若干押している戦況。暁切歌と月読調の両名はどうやらオレが渡してやったボトルを使ってないらしいが…まぁ、渡して直ぐに使いこなせるなんざ思ってもいないし雪音クリスと風鳴翼に比べれば些か、実力が足りないというのが現実というものだろう。

 

そうそう翼、クリスに関してはこの前の特機部二による会議の時点でそれぞれにコピーしたラビット、タンクボトルを渡しておいた。名目は戦略の拡張。

真の狙いは立花響の進化といったところだ。

現状のハザードレベルじゃ俺やミソラは疎か、ローグ、キャロル達にすら及ばない。だとすれば、5人のシンフォギア装者の育成が最優先だ。 マリアに至ってはどの装者よりもレベルが上の為に暫く放置とする。

 

「2人とも仕事はきっちりこなしてくれよォ?」

「…一番働かないのは貴様だろうエボルト」

「父さんが働かないのは今に始まった事じゃないさ…それより本当にいいのか? ネフィリムを殺って」

「あぁ、構わんよ。 必要なのは奴の心臓とシェンショウジンの力だけだ」

 

両名頷くと無言になり接敵する。

 

轟音と爆煙に一時、視界不良になるがネフィリムの立ち位置は分かっている。

 

自分で魔改造して投下して…自分で討伐していたら世話ねぇな。

 

煙が晴れると響、翼、クリスの3名は俺の姿を見て動きを止める。 ネフィリムの相手はミソラ達に頼み俺がやるのは3人の相手ってな?

 

「貴様の仕業かエボルト!」

「毎度毎度訳の分からねーバケモン寄越しやがって一つ覚えかよっ」

「おいおい、文句も大概にしてくれよ。オレらも仲間の調と切歌が襲われたから助けに来たんだ。 大事な仲間を助けるのは当たり前だろ?」

 

ブレードを構え、スチームガンのトリガーを引きながら突っ込む。 翼と響は個別で対応すりゃ敵でもないんだがタッグを組まれると戦力は倍増する。 飛び道具系は翼が斬り弾き、その隙に響の突貫。 それだけでも並大抵の敵なら容易く撃破できるだろう。

 

「だが、甘いんだよォ!!」

 

バルブを捻り電撃を纏ったスチームが響の動きを一瞬遅らせる。 それだけで十二分過ぎた。

ブレードを走らせると奴の腹に横一文字の斬撃を喰らわせるが流石はシンフォギアだ。 内臓をぶちまけること無く表面上傷がつく程度…まぁ、本体にある程度の衝撃はいっているだろうがな。

 

吐血しながらも両足のアンカーを地面に差し込み吹き飛ぶ事を耐えた響の拳がオレの胸へ伸びパイルバンカーの要領で重い一撃を叩き込んでくる… 中々効くようになってきたなァ…!!

 

少々、殺すつもりでいくとしようか。 そうスイッチを切り替えると腕から伸ばした触手で響の首を絞め上げ始め、自らがやられた様に胸へと一撃喰らわせるために腕を振りかぶる。

 

「…っやってくれるな、翼ァ?」

 

【影縫い】

 

風鳴翼が持つ技の中で最も異色な技だ。

身体の動きが封じられたと同時に触手を切り飛ばし響を救出すると即座に距離を取った。 これを意味するのはたった一つ。

 

「持ってけ…全部だぁ!!!」

 

【MEGA DETH QUARTET】

 

先に切り込んできた2人はギアの展開するまでの囮か…なるほど?

固定砲台と化したクリスから放たれた4つの大型ミサイル、24発の小型ミサイル、4門3連ガトリングの一斉掃射は背後で戦っているネフィリムとミソラ、ローグをも巻き込む程の広域殲滅戦術。

 

轟音、爆音、閃光。

視覚、聴覚を封じる攻撃は辺りを吹き飛ばし並大抵のノイズやスマッシュなら跡形も残らないほどの威力を見せた。

 

「いいぞ…いい成長だ。 やっぱり敵も強くなってもらわなきゃ面白くないってもんだよなぁ…クリス」

 

ブラッドスタークの外装がひび割れ、煙を上げながら壊れ、徐々にオレの『今』の姿が露わになると3人は手本のような驚愕の顔をしてやがった。

 

「なっ…ん…フィーネ…だと?」

 

中から現れたのはフィーネの姿のオレ…くくくっ、お遊びのつもりで真似たが予想以上に面白い反応してくれるじゃないか。

 

「…人の皮を被ることがそんなに楽しいかエボルト」

「なんだよ、思いの他さっぱりしてやがるな…だったらこの姿は、どうだ?」

 

スチームが顔を覆う。

お次に見せるのは緋色の髪を伸ばした女の姿。

 

「…き、さまァァァァァァァ!!!!!!」

 

天羽奏の姿は怒髪天を衝く…って所か…っ!!

響、クリスの制止も聞かずに剣を構え突っ込んでくる。 流石の俺も生身じゃアームドギアを防ぐ手立てもないので『ビルドドライバー』を装着しすかさずボトルをスロットに挿し込む。

 

 

F1!

 

 

キョウリュウ!

 

 

 

ベストマッチ!Are you ready?

 

 

「変…身…っ」

 

 

音速の帝王!F1ザウルス!

 

 

イエーイ!

 

 

 

戦兎があちらの世界で1度も見せた事が無いフォームチェンジ。

F1ハーフボディに内蔵された『タイプスピードタイヤ』をフル回転させ一時的な高速移動を行い、翼の背後へと回り込むと、お次はザウルスハーフボディの『ガブリブレイバー』がスーツのパワーアシストを限界まで引き上げシンフォギアすら砕く一撃を放つ。 背に突き刺さった拳は翼の身体をくの字に反らせ地面へと投げ捨てた。

 

なるほど、F1の加速を乗せたザウルスのパワー中々使い勝手が良いフォームじゃないか。

 

「それは…石動のおっさんの!?」

「あぁ、ついさっき奪い取ってきたんだよ。前々から鬱陶しくてなぁ…ま、これで奴も俺たちと戦う手立てを失ったわけだ」

 

地に転がる翼をザウルスレッグで踏み付けながら愉快に笑う。 これでビルドに変身していた石動惣一は無害な喫茶店のマスターへと成り下がった。 事情聴取やらボトルの研究やらでより特機部二へ出入りが楽になる… くく、さてとステージ2の準備も順調。 どうしてくれるかね

 

 




「ビルドに変身してしまったエボルトに追い詰められる特機部二のシンフォギア達!」
「そして、ナイトローグ、ローグのコンビにいつの間にか撃破されそうになっているネフィリム!」
「え、ネフィリムが殺られるんデスか!?」

次回 戦姫絶唱シンフォギア G EVOL! お楽しみに


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ネフィリムの心臓

前回までの戦姫絶唱シンフォギア!!!

「学祭に遊びに…偵察に行ってみたらあらビックリ! ネフィリムが暴れ始めたデス!」
「何とか抑えようと切ちゃんと二人で立ち向かうも助けに来たのは偽善者たち」
「そしてオレもやってきた時には嫌な顔をしやがった」
「「当たり前(デス)」」

「「「どうなる第16話!!!」」」


クリスの広域殲滅攻撃を持ち前のアーマーで無傷で過ごしたローグと、ローグにへばりつき「うひゃぁ!?」などと言っていたミソラはネフィリムで遊んでいた。

腕を弾き、躱し、踊るように舞っていたのだが飽きてきた。 迫り来る恐怖もスリルも無い相手にこれ以上時間を割く必要も無い。

 

「あーぁ、つまんない相手だなぁ…ローグ! さっさと殺ってアイツらのところ行こうじゃないか」

「……ネフィリムの撃破と装者2名の救助が与えられた役目。 それ以上やる必要が無い」

「面白くないねぇ…」

 

軽口を叩きながらもネフィリムを圧倒する2人はシュルシャガナの刃が通らなかった身体を易々と拳で貫き、破壊していく様は戦闘ではなく一方的な蹂躙に近い。

先程から通信でドクターウェルが何かを叫んでいるが鬱陶しいので通信を切った。

 

「ったく、聖遺物にネビュラガスを注ぎ込んでもこの程度だとしたら…他の奴らも大した期待は出来ない…なっ」

 

生身のミソラは剛腕を軽々と片手で抑え込み、引き摺ると蹴り飛ばした反動でネフィリムの腕が千切れ落ちる。

 

「…見れば見るほど人間離れしているね」

「そうかい? これでも人間のつもりだけどね」

 

転がった腕を踏みながらエボルトを観れば、少しばかり本気になっているのかビルドに変身していた。 装者達を甚振る姿は子供のようで大人気ないし、やっぱりネフィリムの相手をするよりも自分もアイツらで遊びたいのが本音だった。

 

「…はぁ、次で決めるよ」

「あいよっ、それじゃあ足止めヨロシク」

 

 

 

 

クラックアップフィニッシュ!!!!!!

 

 

 

 

スクラッシュドライバーのレンチを捻りけたたましくなる音声と共にローグの身体の各所からエネルギーの牙、クランチャーファングが展開されると地を蹴り駆け出す。

身の危険を感じてか、ネフィリムは残った片腕を突き出し接近を妨げようと抵抗するがそんな障害を軽くローグは拳で腕を貫き、そのまま足元へと潜り込むと両脚のクランチャーファングでネフィリムの脚を噛み砕いた。

 

「■■■■■■■■■■■■!!!!」

 

つんざく悲鳴を上げながら地面に倒れ込むネフィリムの胸にミソラが舞い降りる。

 

「足止めとは言ったけどさァ。 両脚をモゲとまで言ってないだろ」

 

正拳突きを放ち二の腕までネフィリムの腹へ差し込むとズルり…ミソラは意図も簡単に蠢くコアを引きずり出し、本体から切り離した。 崩れ去っていくそのカラダを見ることも無く2人は調と切歌の元へと向かいそのまま呆けた2人を抱き抱え宙から垂れ下がった梯子に掴まる姿はさながらスパイ映画だろうか。

 

「…エボルト、任務は完了だよ。 アンタもさっさと引き上げな」

「折角のお楽しみ中なんだがなぁ…」

 

ローズコプターにビルドアップしたエボルトは茨のムチを操り3人を翻弄しながらヘラヘラと笑っている。 力の差は依然として開いたままか。

 

「ネフィリムをぶっ殺したんだ。父さんが説明しなきゃドクターが発狂死しちまうだろ」

「…はぁ、仕方ない。そら、置き土産だ…っ!」

 

ムチと同時に繰り出した本来ビルドには無い筈のスティングヴァイパーが響の胸元に深々と刺さり込むと彼女は絶叫し膝から崩れのたうち回る。 コイツは天羽奏に打ち込んだ程度の可愛い毒じゃなく『普通の人間』を確実に崩壊させるレベルの毒だが…様子を見るに賭けは成功したと判断した。

 

「立花…!!!」

「てめぇ、何しやがった!?」

「教えてやる義理はないなぁ…次会う時はオレの力の一端見せてやることになるだろう。 楽しみにしていろ…Ciao」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「どういう訳か説明してもらいましょう、エボルトさん……!」

 

折角、暴走したネフィリムの心臓を持ち帰ってきてやったと言うのに何とも酷いドクターだことだ…ま、ネフィリムが暴走したのはオレの実験のせいだがバレていないはずだし? しらばっくれるに越したことはない。

 

「まぁまぁ、落ち着けよドクター…フロンティアの浮上に必要なシェンショウジンは既にこちらの手の内。 加えて起動に必要なのはネフィリムではなくネフィリムの心臓だ。 別にあの程度のバケモノを失って喚くことはないってことだ」

「だとしてもですねぇ…!」

「万が一の時はドクター。 お前さんがネフィリムの心臓を喰らって取り込めばいい…英雄ってのは人の道から外れた者がなる事も多い…そうだろう?」

「わ、私がネフィリムを…?」

 

手渡されたネフィリムのコアを見つめブツブツと呟き始め部屋の奥へと消えていってしまう。まぁ、英雄願望がある学者様なんてのは自らを顧みないことが多いのでドクターも人外になるのは目に見えているのだが。

 

「マリアは操縦席か。 ちょうどいい、調に切歌…オマエさん達は弱過ぎるなぁ? まさか、ハザードネフィリムの相手にすらならないとは思わなかったぞ」

「り、LiNKERの効力が…その…」

「同じ時限式でもマリアならば上手くやってただろうなぁ?」

 

目を逸らしながら苦々しく言葉を吐く暁切歌にオレはビルドのマスクを撫でながら笑う。

 

「そこでお前達にいい知らせがある。 苦労もせず適合係数を跳ねあげ、しかも身体能力を向上させるなんとも素晴らしいプランをオレは持っているんだが…どうだ?」

「「怪しい」」

「ごもっとも」

 

もちろん、この程度の提案で食いついてくるとは思ってもみないが多少の興味は引けただろうな。 あとはドクター次第…シェンショウジンはビルドドライバーで起動できるしなんとでもなる。

 

「気が向けば声をかけろよ。 ミソラぐらい強くなれるもんだからな」

「あの人みたいに……」

 

さてさて、フロンティアの方にもちと細工をしにいくとするか……ククク




「なんか短くね?」
「色々あったらしいよ色々!」
「雪音、立花…何の話だ? それより、先程変わった男が司令と会っていたな」
「「変わった男…???」」
「あぁ、自称天才…なんちゃらとか」

「次回 戦姫絶唱シンフォギア G EVOL!!! お楽しみに」


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フロンティア

前回までの戦姫絶唱シンフォギア!!!

「暴走したネフィリムをサクッと殺した2人はドクターウェルに叱られた」
「弱いのが悪い」
「だってよドクター。そんでフロンティア浮上のタイミングは決まっているんだろうな」
「えぇ、3日後よ。 上手くいったら…マムの毒を」
「わかってるわかってる……上手くいけば…な」

「「「どうなる第17話!」」」


「ちっ、先を読まれていただと?」

 

目まぐるしく変わる戦況にエボルトは珍しく悪態をつく。 フロンティアの浮上の為に移動した矢先、特機部二のシンフォギア3名による奇襲を掛けられた。 迎撃にはマリアとエボルト、ミソラが出ているがなんという事か、こちらが押され始めている。

 

「随分とボトルの扱いが上手くなりやがって…誰に教わった?」

「誰が教えるかよっ!!!」

 

タンクボトルをイチイバルに組み合わせたクリスは大火力でミソラを一切寄せ付けずにエボルトと他2人を爆撃で完全に分断している。

各方面から降り注ぐ弾丸ミサイルの雨霰の中をラビットボトルの力を得た天羽々斬が縦横無尽に駆け回りマリアをその場に釘付け。 そして響がエボルト相手にその拳を奮っている。 消滅毒を完全に抑え込んだか…融合症例第一号の出来は完璧だな。 暴走も近いだろうがこのまま成長を促せば………ふふ、フハハハハ!!!!

 

「いつもと…だいぶ違うじゃないか。えぇ?」

「内緒…っ! らァッ!!!」

 

パイルバンカーめいた一撃はゴリラモンドにビルドアップしたエボルト(ビルド)のダイヤモンド装甲を貫き人体にダメージを残していく。

 

こいつ、ハザードレベルも上がってやがるな…? 一体何をしたってんだ…!

 

上空に一度逃げるか? ダメだな、イチイバルに撃ち落とされる。 後ろに逃げればガングニールが追撃してくるし離脱もできない…となるとこれは。

耐えるしかないか。

 

「あんま、使いたくなかったんだがなぁ…」

 

 

『アンコントロールスイッチ!』

『ブラックハザード!』 

『ヤベーイ!』 

 

 

黒一色のボディが鈍く輝き、正面から突っ込んできたガングニールの拳を掴み取ると攻守は逆転した。

圧倒的な腕力で抑え込むとそのまま蹴り上げ2本ほど肋骨をへし折る。 まだシンフォギアは解除されないか…と呟けばそのまま強引に浮いた彼女の体を地面に叩きつけ引きずっていく。

スパークリング以上、ハザード未満ってところか…だが立花響、雪音クリスの伸び代はまだまだ先だろう…

 

「ま、だまだァ!!!」

 

両足のアンカーを地面に突き刺し動きを止めると地面を殴り割りこちらを引き剥がしてきた。

揺らりと立ち上がりその瞳から闘志が消えていない響の手にはボトルではない何かが握られていた。

 

アレは…!

 

ガングニールの腕部のパーツがスライドし格納部分が現れるとその手に握った容器を押し込みガチンッッッ!!!!と音ともに…その容器を潰す

 

 

 

『ロボットゼリー!』

 

 

『潰れる! 流れる! 溢れ出る!』

『ロボット over coat ガングニール!!』

 

『ブラァァァァァァ!』

 

 

 

 

野太い音声と共にゼリー容器を装填した腕から『ヴァリアブルゼリー』が噴出。響の全身にまとわりつき黄金のクロスアーマーを形成してく…その姿は以前の世界で敵対した仮面ライダーグリスに瓜二つの姿と化す。

 

俺が以前持っていったのはドラゴンゼリーだったはず…まさか解析してロボットゼリーを作ったってのか?

 

「おいおい、オマエさんそいつを何処で手に入れたんだ? ン?」

「内緒だってば…!!」

 

両肩に新たに現れたアーマーからゼリーを噴射し高速で迫ってくるとガングニールの突破力にスクラッシュゼリーの効果が加わった連撃がオレのカラダへ次々と叩き込まれてくる。 ハザードでも追いつけないとは…!!

 

「ぐぅ…新しい玩具を手に入れてはしゃいでるな!!」

 

オレのハザードレベルが5ちょいまで落ちてるとはいえ、これ程までの勢いで追い付かれるとは万丈を超える逸材かもしれないな…立花響。 それともあちらの世界ではなかったフォニックゲインがハザードレベルに密接に関わっているか…ちっ、洗い浚い吐かせてから始末するべきだったかフィーネは。

シンフォギアの装甲に加えて表面に展開されているアーマーのお陰かゴリラモンドハザードでさえ打ち抜けない仕様…何ともまぁ、ご丁寧に改良してくれている。ニンニンコミックにビルドアップし分身で立花響と風鳴翼を妨げマリアから距離を置かせる。

 

「マリア、退け! オマエさんは起動の準備をするんだ。起動さえしちまえば8割がた計画は遂行だろうっ」

「アナタに言われるのは癪なのだけれど…任せたわ!」

「待てっ、行かせはしないぞ!!」

 

時限式のシンフォギアもそろそろ限界、しかし援軍の方はどうやら調整が間に合ったようだ。

 

風鳴翼とマリアを分け隔てるように天から降り注いだのは巨大なギロチン。そしてその頂点には二つの影……バカと煙はなんとやらと言うが本当だな。

シンフォギア共の歌は止まり、その歌声は自らの首を賭けているとも知らずに紡がれる。

 

「真打、登場デス!」

「邪魔はさせない。」

 

ボトルの力とネビュラガスを()()まで注入した2人が戦場に降り立ったその姿は普段のシンフォギアとは大きく姿を変えている。

 

「パワーアップしたイガリマに敵はない…っデス!」

 

バンダナを巻き、髑髏があしらわれた巨大なフラッグを振り回した暁は風鳴翼に向かって疾駆。

そして…シュルシャガナはなんだありゃ?

電車にノコギリが付いてんのか…?

複数の車体が飛び回り特機部二のシンフォギア共を下手に動けなくしていくのでパワーアップはしているのだろう。

 

フラッグと天羽々斬が激突し劈くような音が海面を波打たせると一方的な力で押し始めた。 踏ん張っても押し込まれアームドギアには亀裂が入っていく。

 

「力が上がってる…!?」

「ぶっ飛んじまえ…デス!!」

 

両腕に込めた力でアームドギアを粉砕するとそのままガラ空きのボディに柄が叩き込まれ海へと軽々と飛ばされていく。

 

「翼さん!? …おねがい調ちゃんやめて!!」

「お断り…っ。」

 

シュルシャガナは電車ボトルの効力により回転数が上がった丸鋸はグリスアーマーを抉りながらも完全には押し込めていないようだ。 まぁ、そもそもパワー型のガングニール+グリスに対して手数重視のシュルシャガナでは無理な話だ。

だが1人ぐらい犠牲になった方が……くくくっ。

 

「マリア、こっちの首尾は上々。 オマエさんはどうだ?」

『えぇ、高度はOK。 リフレクターも展開済み…アナタが持ち込んだ装置も稼働してあとはシェンショウジンによるフロンティアの起動だけ』

「そいつはいいニュースだ! よぉし、そのまま起動しろ…こいつは面白い事になるぞ!!」

 

上空に姿を隠していた輸送機から光が放たれ海の底へ降り注ぐ……

さァ、ドクターウェル。オマエとネフィリム、オレの糧となってもらおうじゃないか。

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

「なんだアレ!? 気になるなぁ…っ、風鳴司令、俺達も早くフロンティアに行こうじゃありませんの!」

「まぁ待ちなよ、確かに気になるがシンフォギア達のバイタルチェックがボク達の仕事だろ? タダでさえ即席のスクラッシュゼリーをガングニールが使用してるんだ。 目を離すわけにはいかないよ」

 

1人はモニターに映った巨大な浮遊大陸に嬉嬉として興味を示し寝癖が立った頭を掻きむしり。 もう1人はそんな彼を見てややゲンナリしている。

 

「わーかってるって。 そもそもスクラッシュゼリーを渡したのは彼女が融合症例第一号だからだ。 彼女の異常な回復力は今後身体を壊すだろうさ…その前に取れるデータは取って限界の手前で侵食しているガングニールをなんとか除去する…それでいいんだろ巧」

「そう簡単に言うけどキミは…はぁ、毎度毎度付き合う身にもなってくれないかな戦兎」

 

彼らの名前は桐生戦兎、葛城巧。

フィーネの屋敷から手に入れたデータベース内で最も隠蔽されていたブラックボックス的な科学者。

 

RN式回天特機装束…つまりはシンフォギアの、開発に関わっていたとされる最重要人物達。

 

「にしてもウェル博士ねぇ…なーんかきな臭いと思ってたけど英雄願望をお持ちだったか」

「キミもなかったかい? 英雄願望」

「バッカ、俺のはラブアンドピースですよ。お分かり?」

 

軽口を叩きながらも手の動きには淀みが無く解析作業を藤尭朔也、友里あおいと共に凄まじい速度で行っている。

 

「…あらら、これはちょっと酷いな」

「桐生君、なにか分かったのか?」

「えーと良くないニュース。 ガングニールのお嬢ちゃん聴こえる?」

『はいっ! もう稼働限界ですか!?』

「そんな感じ。 でもそれはガングニールではなくシュルシャガナの方だ。 このまま放っておけば自壊して下手すれば装者の命も危険になる。イガリマもそう遠くないうちに同じ状態になる」

 

葛城巧がモニターに表示したのは適合係数が急速に下がっているシュルシャガナのバイタル。 しかし下がっているのにも変わらず、シンフォギアのセーフティが働かずに無理矢理何かでつなぎ止めてられていた。

 

『っ! どうすれば!?』

「何とか動きを拘束してこれ以上の戦闘は避けるんだ。 こちらに連れてきてさえくれれば…まっ、このてぇんさいが何とかしよーじゃありませんの」

「キミ、物理学者だよね?」

「てぇんさい物理学者は単なる物理学者とは違うだって」

『わ、わかりました! 調ちゃんを止めますっ』

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

ガングニールの歌声は戦場を支配していたザババの二重奏を一瞬で塗り替え自らを、仲間を鼓舞する。

 

「こっちはエボルトの口車にも乗ったんデス…負けられるかァ!!」

「私達は…戦っている場合じゃないんだ! 」

 

釘付けにされているクリスちゃんの援護は望めない。敵を剥き出しにこちらに襲い掛かってくる2人をたった1人で抑え込まないといけない…そんなの無茶だろう。だけど、それで目の前の2人の命を見捨てる理由にはならない。

 

「エボルト! 勝負はお預けだよ!」

「…ふっ、わかったわかった。 せいぜい止めてみろよあの2人を」

 

先程まで殴り合っていた『敵』は身を引き見物を決め込んでいる。 何を企んでいるか分からないけれど…今は有難い。

 

「ぐっ……ま、だ!」

 

中距離からこちらを攻撃し続けている調ちゃんが苦悶の表情を浮かべながら膝をついている。

ダメージは与えてないはずなのに…やっぱりキツいんだ!

 

「切歌ちゃん、このままじゃ2人とも死んじゃうんだよ!?」

「なっ…デタラメ言うなっ! 調は、調は絶対に死なせないデスから!!」

 

振り下ろされた一撃をその脳天で受け止める。いくらヴァリアブルゼリーが衝撃を吸収してくれるとはいえ全てを抑えてくれるわけじゃない。

グラりと体勢を崩すも大地を踏みしめ瞳を見開く。

 

「なっ!?」

「この…分からず屋ァァァァ!!!」

 

肩のアーマー、背のブースターを全開で吹かしての突貫。 切歌ちゃんの身体を掴むとそのまま地面へ叩きつけた。

 

「調ちゃんを護るなら…まずは切歌ちゃんが無事じゃなきゃダメでしょ!?」

「そ、それは…だってだってアタシの中にはフィーネが……」

 

歯を食いしばりながら涙を流す切歌ちゃんと膝から崩れ落ち意識を飛ばした。 調ちゃんも最早限界なのか膝をついている。

 

「…っ、切ちゃんをどうするの」

「安全なところ、治療ができる所に連れていく…調ちゃんも行こう」

「………マリアを、マリアを助けてあげて」

 

そう言い残して彼女もまた意識を失った。 緒川さんが2人の回収を行ってくれるらしい。

 

響はエボルトの目の前に立ちながら空へ浮かぶ大陸を見据えている。

 

「あれが…フロンティア…」

 

海面を盛り上げ姿を現したのは島というより大陸だろうか。 この海の底にそんな質量のものがあったなんて…

 

『響くん、翼は運が良かったと言うべきか吹き飛ばされた故に先行してフロンティアに上陸している。 申し訳ないが…』

「私とクリスちゃんで行けばいいんですね!!」

『あぁっ、頼むっ』

「簡単に言ってくれるぜオッサン!! コイツ、しつこいんだよ…っ」

 

クリスちゃんと正面切ってぶつかり合っているフルフェイスの人物は突然動きを止めて両手を挙げた。

 

「さっさと行けよシンフォギア共…マリアから通信が入った。ドクターウェルがアレを使って碌でもない事をするらしい」

「はぁ!? エボルトとお前もそれに加担してたんだろうが!」

「オイオイ、フロンティアの浮上はお前達……いや、人類を救う為の行為だったんだよ。 今後、宙からやって来る生命体からの侵略に対してのな」

 

侵略…?

いや待て、その言葉はおかしい。だって現に人を沢山殺していたのは彼らじゃないか。

 

「フィーネやドクターウェル…そしてオレはとある研究にてその事実を知り…対抗するための手段、撃退する為の兵器シンフォギア、カ・ディンギルをフィーネが。 生き残る為の手立てフロンティアをドクターが…と、それぞれ対策を立ててきた」

「だったら何でノイズを使って人を殺したんだよテメェ!」

「間引きだよ。 フロンティアに乗り込める人間はせいぜいウン万がいい所だろう。 だがこの世界には70億という数の人間が居るんだぞ? 誰かがやらなきゃフロンティアに乗り込む前にいざこざで人類皆仲良し小好しで死んじまうだろうが」

「だからって…!!」

「言い争いも結構だがこのままだとドクターが何かしらやらかすぞ。オマエさん達はそれでもいいのか?」

 

クリスちゃんは歯噛みして私と共に特機部二の輸送機へと駆け出した。

 

 

悪意の笑みに気が付かず。




「さーて、次回の戦姫絶唱シンフォギア G EVOLは?」

「マリアよ、マムが人質に取られ調と切歌にも連絡が付かずにドクターの謀反。私の胃はどうなるのかしら」

「ドクターウェル散る」
「70億の…」
「この瞬間を待っていたァ!!」

「の3本でお送りするわね。既に不吉だわ…」


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最悪の序曲

前回までの戦姫絶唱シンフォギア!!!

「フロンティアが浮上してしまい、しかもドクターウェルが好き勝手にしてるって何やってんだアイツ!」
「調ちゃんと切歌は桐生さんが見てくれてるって!」
「というか、アタシ達の方の描写少なくねぇか?」

「そりゃ主人公はオレだからなァ? シンフォギア達が見てぇならアニメを見ろよ? さぁて」

「「「どうなる第18話!!!!」」」


「やれやれ…まぁ、これで上手いこと進めばいいがな。 やり合ってみてどうだったタンクボトルを使ったイチイバルは」

「やりにくいったらありゃしないよ。 ドラゴンボトルよりもイチイバルには相性ピッタリだし何よりコッチは裸一貫みたいなもんだしさ」

 

フロンティアへと向かった2人を見送れば腰を下ろし時を待つことにした。 アイツらならばネフィリムとドクターウェルを確実に止めるのは目に見えている。

ネフィリムを仕留めるにはかなり大規模な攻撃を放つだろうしな…

 

「それよりイガリマとシュルシャガナはどうすんだよ」

「マリア共々向こうに回ってもらうさ。 元よりそのつもりだった。 ネビュラガスを大量に注入したんだ慣れれば強敵に、変身を強制解除したら死ぬかもしれんがな…?」

 

マリアの手助けをしたいという願いを受けてオレは奴らを大幅強化した、その代償が死と知っていて尚もやると言ったヤツらの気持ちなんぞ知ったところではないが中々見込みはあると思う。

 

時間にしてどれ位か、完全に暇を持て余したオレとミソラに通信が入る。

 

『聴こえているかエボルト』

「あぁ、御機嫌よう嬢ちゃん。どうした?」

『聴こえていないようだな…』

「通信は聴こえてるっての…それともなんだ?不思議なことが起きているのか?」

「父さん、歌が…」

 

歌だと?

通信回線を切り替えればマリアがフロンティアの一室で歌っている姿が映る。

いや、マリアだけではない響も一緒に歌っている…何がどうなって和解したのかねあの2人は…地球人の考えることはよく分からない。

 

「しかし歌…なるほど世界中の歌を集め始めているのか。こいつはイイ! 予想以上の事をやってくれるな!」

『特機部二シンフォギア、ネフィリムと戦闘突入』

 

 

「どーすんだい?」

「まぁ、もう少し見てようじゃないか…そろそろ6人()全員揃うだろうしな」

 

宙に響くのは爆音ではなく歌声。

 

『シンフォギア6基、限定解除を確認だ。 あとは好きにしろエボルト』

「りょーかいだキャロル」

 

通信機を切れば修理したトランスチームガンを構え、今1度ブラッドスタークへと蒸血する。

 

「さァ、第二ステージ終幕と行こうじゃないか」

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━

 

時は少し戻りフロンティア内部にて

 

 

 

 

「ドクター! 馬鹿な真似は止めなさい!」

「バカ…? 我々の傀儡として動いていただけの貴女にだけは言われたくないですねぇマリアぁ!!」

 

フロンティアの制御をネフィリムの細胞を使って書き換えたドクターを止めるため、ペンダントを握りしめ口を開く…が

 

「あっハハハハ!!! 残念でしたマリアぁ!! こんな時のためにエボルトさんから空のボトルを頂いといたんですよォ!」

 

聖詠を唱えるよりも早く、ペンダントからガングニールの成分を抜き取られてしまいシンフォギアが起動しない。

 

「な…っ!?」

「どけぇ!! 構っている暇はないボクが英雄になる邪魔をするなっ!!」

 

変質した剛腕に弾かれマリアの身体は床にバウンドし動けなくなってしまう。

大義の為と宣い、犠牲を払いながらここまで来たというのにどうしてこうなってしまったのか…自分の甘さ故なのか…失意の中、涙を流しそうになるがそこへ一通の通信が入る。

 

『聞こえますか……マリア…っ』

「…マム…!?」

『エボルトが解毒してくれました…大方この件の尻拭いの為でしょうが… マリア、やれることをやりなさい。貴女には歌がある…世界中の通信を借り受けます。貴女が歌うのです』

 

私が…歌う?

まだ、私に出来ることがあると言うの?

 

轟音。

 

天井をブチ破りガングニールが、立花響がドクターウェルの目の前へと舞い降りた。

 

「マリアさん!!」

「ガン…グニール……?」

「ちぃぃ!! もう来たんですねお邪魔虫…っ! で、す、がァ!!!」

 

下賎な声をあげて嗤うドクターウェルの背後から蠢くように新たな異形が現れ始める。

アレはエボルトが開発したとかいうスマッシュ…?

 

「ちっちっちっ…ただのスマッシュじゃありませんよぉ? ネフィリムの細胞をちょこっと付け加えた強化スマッシュ。 数にして30しかいませんが…力を失ったマリアにガングニールたった1人で何ができますかねぇ!?」

「よく分からないけど…マリアさん! 私はマリアさんの歌、好きです。 翼さんと歌っていたあの時の姿は本当に楽しそうに歌ってましたから…!!」

 

立花響はそう言うと微笑みスマッシュの群れへと突っ込んでいった。

 

私の歌。

 

そうだ、セレナが居て、マムが居て、調と切歌が居て……大義の為なんて大仰な事だったのかもしれない。フィーネが私に宿っていると2人を騙していたことも謝らなければ。

生きて帰らなければ。

 

 

私の歌が償いの意味でも力になれるなら…!!

 

 

旋律が、フロンティア内へ響き渡る。

 

 

「今更、歌の力など!!」

「返してもらいます…っ、マリアさんのガングニール!!!」

 

マリアへと歩みだし剛腕を振るおうとしたドクターウェルを横合いから突き飛ばしその手に握っていた()()ガングニールボトルを奪い返し響もマリアの旋律に乗るように重なる。

 

2人の歌は交わり、その映像を観た世界中の人々もまた各々のメロディーを重ねていくのだった。

 

 

 

 

 

 

「…あのバカ、なぁにコンサート開いてやがるんだ…? ま、らしいっちゃらしいか!! アタシも歌わせてもらう!!」

 

フロンティアへの突入後、突っ走る響の背を守るため次々現れるノイズ達を弾丸の雨霰で一掃しているクリスは辺りに聴こえてくる歌声に頬を緩ませ笑う。

ノイズをこの世に放ってしまったのは己の業。

 

だったら、あの2人から離れて一生ノイズの相手するのも仕方が無いかもしれない。

 

無尽蔵に湧き出てくるノイズ相手に心が昂る。 贖罪だとしても誰かの為に戦うことはこんなにも力が漲るものと気づいてしまったから。

 

退けながら尚も迫り来るノイズの波をかき分けていくとその奥に歪みを見つけた。

 

「あれ…か!」

 

以前、フィーネとエボルトから聞いた事があった。 ノイズは何処から来るのかと

 

ソロモンの杖によって開かれた異次元、バビロニアの宝物庫からやって来ると。

そしてその空間の亀裂を今見つけた。

この中に入って戦い続けりゃ…少しは表に出てくるノイズも減るだろう…

 

「へっ、上等じゃん」

 

爆撃で周辺のノイズを吹き飛ばすと人一人入れそうな歪みへ歩を早めるが、巨大な剣がそれを妨げた。

 

「……っ! お前」

「一人で行かせるつもりは微塵もないぞ雪音」

「これはアタシのやるべき事だ。人の決めたことに口出しするんじゃねぇ!!」

「雪音は私達の仲間だ。 仲間を1人死地へと向かおうとするのを黙認するわけがない」

「前から思ってたけどよ…その先輩面気に食わねぇんだよ!!」

「そうか、気が合うな。 私もいつまで経っても名を呼ぼうとしない雪音に腹を立てていたようだ」

 

迷いなくボウガンへと変形したアームドギアから放たれる爆破矢が翼に牙を剥く。

宙へと舞い、爆発から逃れるがクリスとしては好都合。 逃げ場のない宙へと全弾を打っ放すつもりでウェポンラックからミサイル、弾丸を次々打ち込んでいく。

 

「甘い…っ!!」

 

両手と両足のブレードが煌めくと炎を纏い灼熱の翼がミサイルを爆破し、次々と誘爆。 翼に傷一つ付けることは叶わず、攻守交替とばかりに炎翼を羽ばたかせ高速の斬撃がクリスに襲い掛かる。

元々近接よりではないクリスは歯噛みしながら展開したアームドギアで剣を受け止め蹴りを叩き込むのだが翼は引くことなく剣をイチイバルのボディに押し当て一線。

 

バチバチと火花を散らしながらダメージを負うシンフォギアは解除とまでいかないが長時間の戦闘継続は不可に近い。

 

だとすれば、ドーピングに近いアレを使うか。

 

「お前に……先輩に何がわかるってんだ!!」

 

 

『Dragon Ichaival tron』

 

 

蒼炎が身を焦がし、紅いイチイバルのボディに蒼のファイアーパターンが走る。

蒼炎が地を焼き、翼の炎を打ち消すと火力が上がった砲撃によりフロンティアの大地は大幅に削られ海へと落ちて行く。

 

「私も、かつては一人で戦った。その先には何もないぞ!!」

 

 

『Imyuteus Rabbit habakiri tron』

 

 

イチイバルとは対照的に蒼いボディが赤と白のツートンに切り替わり、脚部に内蔵されたホップスプリンガーによって数秒間、全ての動作が高速化する。

ガトリングの弾丸を掻い潜り、視認は疎か斬られたことすらも気付かせぬ神速の斬撃が繰り出され遅れてクリスは受けたダメージに気が付く。

 

死角をつく様に現れたドラゴンに対してもラビットセンサーによって気が付いた翼が一振りで爆散させた。

かつて、エボルトに煮え湯を飲まされたドラゴンに遅れを取ることはもうない。

 

 

「だったら、アタシは…!?」

「私が居る。 立花が居る。 私達が雪音の両手を握ってやる」

 

膝を付いたクリスに手を差しのべ翼は笑う。 何度間違えたって大丈夫だと

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

「シンフォギアの展開を利用してバリアフィールドにぃ!? だが、そんなに長持ちしない!! 焼き尽くせぇネフィリィィィィィィィィムゥゥゥゥゥウウ!!!!!」

 

強烈な獄炎がシンフォギア達に向かって飛んでいく。

 

「セット! ハーモニクス!!」

 

両腕のパーツを組み合わせ光の奔流が皆を包み込む。

 

「フォニックゲインを力に変えて……ッ!!!」

 

獄炎は響の拳に砕かれ、その手は、6人の手が繋がれる。

調は響の手を握り、今一度人を信じようと。 切歌はクリスの手を握り、互いを信頼し頼り合おうと改めて心に決め。 翼とマリアはそんな彼女らを護ろうと、そして響は…

 

「私だけじゃない! 私達の歌が…」

 

ネフィリムから放たれる無数のレーザーが空気を裂き、降り注ぐ。

 

「たった6人ぽっちで…すっかりその気かぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

「6人なんかじゃない…! 私が束ねたこの歌は………」

 

 

 

 

70億の絶唱ぉぉぉおおおおおおお!!!!!

 

 

 

 

光となった彼女達の姿は変質し、極限までリミッターを解除した限定解除へと姿を変えた。

 

 

 

響き合うみんなの歌声がくれた……

 

 

「シンフォギアだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

一つの矢となりその軌跡は七色の尾を引いて世界へ広がる。

その一撃はネフィリムの胸へと…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この瞬間を待っていたァ!!」




「私の出番無いな…別に欲しいってわけじゃないけど」
「ァん? ローグ…って事はお前」
「誰アンタ」
「おいおい、俺を忘れた…ってその声、女か?」

「ん、変身解除したよ。 どう見ても女でしょ」
「おぉ、ホントだ。悪かったな知り合いと同じ姿になってたから勘違いしちまったよ。 またな嬢ちゃん」
「なんなんだ…アイツ」

次回 戦姫絶唱シンフォギア G EVOL お楽しみに


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神槍と毒蛇

前回まだの戦姫絶唱シンフォギア!!

「ネフィリムを撃破するため世界の歌を束ねた私達!」
「だけど案の定あの野郎が現れやがった!」
「何を考えている…エボルト…!!」

「さぁ、第2ステージの閉幕と行こうじゃないか」


「「「「どうなる、第19話!」」」」


「この瞬間を待っていたァ!!」

 

七色の尾を引く光の矢を妨げたのはブラッドボディに緑のバイザー、コブラの印象を与える全身装甲(フルスキン)を纏った人物…エボルトだった。

突き出すように全面へ出した石片でシンフォギア達の一撃を受け止め、身にまとわりつく嫌な笑いをあげている。

 

「なっ!?」

 

70億の絶唱を吸収するように光が石片に吸い込まれると、石片の内が輝き砕け散る。 中から現れたのはビルドが使用しているドライバーに酷似した物が現れる。

 

「それ…は」

「立花、避けろ!!!」

「え…っ」

 

スキにして一瞬。されどその一瞬を見逃すほどエボルトは甘く無い。

回し蹴りを喰らわせれば立花響の身体はフロンティアの大地から吹き飛ばされ重力に引かれるように地球へと落ちて行く。

 

「開け」

 

落ちて行く立花響を飲み込む如く、ソロモンの杖によってバビロニアの宝物庫が開かれる。

ネフィリムも彼女を追いその身をバビロニアの宝物庫へと落とした。

 

「コイツはもう要らないな。閉じろ」

 

何が起きたか、それを把握するよりも早くエボルトはソロモンの杖をバビロニアの宝物庫へと投げ込み唯一開かれたその入口閉鎖した。

 

「立花ぁぁぁぁぁ!」

「あのバカ…!! エボルト、テメェ!!」

「フハハハハハハハハハ!!! こうも上手くいくとはなぁ…感謝してるぞシンフォギア達。 オレは先に地上へ帰るとするか」

 

蒸気に巻かれその姿はフロンティアから消える。

 

『エボルト、捕捉中! 座標送ります!!』

「行くぞ、雪音! ヤツを打倒し立花を救わねば!」

「分かってる!! 先輩、飛ばすからしっかり掴まっておけよ!!」

 

限定解除に際して現れた大型化したギアを全力で噴かしクリスと翼は地上へと高速移動を開始した。

 

「マリア、私達も!」

『マリア、行きなさい。 彼女達と一緒ならば……貴女達はきっと大丈夫だわ』

「マム…でも、私達が行ったらマムはどうするつもり」

『私はこのまま月に行き、貴女達のフォニックゲインの力でもう1度バラルの呪詛を…』

「…マム」

『貴女達を救いあげたのは彼女達。 恩を仇で返すように育てたつもりはないわ』

「…わかったわ。 必ず迎えに来るから」

 

マリア、調、切歌も2人の背を追う為、その身を宙へと投げ出した。

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

「ここは…!?」

 

異質な空間。そして見渡す限りのノイズがひしめき合っている。

ここが何処かなんて考えている間もくれず、容赦なく襲い掛かってくるノイズ達をその拳圧で吹き飛ばしながらネフィリムの攻撃をすり抜ける。

 

みんなと合流する為には…コイツを倒さなきゃ!!

 

辺りに漂う瓦礫を踏み台にして脚のバンカーをフル稼働し縦横無尽に跳ね、ノイズを撃滅しながら巨大化したネフィリムのボディに重撃を叩き込む。

硬質化した身体はそんな一撃を軽々受け止め、めり込んだ拳を離さずに締め付けてきた。

 

「がっ!? ぅうう……らァッ!!!」

 

羽根を逆に羽ばたかせ一気に引き抜くと大きく開いた顎を下から蹴り上げ距離を置く。仕切り直そうと拳を構えたとき、背後からノイズが襲い掛かってきた。

 

如何に限定解除と言えど攻撃を受け続けたら身が持たない。 振り返り身を捻りながら飛び込んでくるノイズを叩き落とし、掴みぶん投げる。

ネフィリムの炎弾を交わし、ノイズを蹴散らしながらも消費していく大量に焦りが生まれていく。 思い返せばいつも近くで仲間に助けられていた。 今はたった1人、その状況も自分の負担になっている事に気が付かなかった。

 

両腕を鞭状に伸ばし左右から響を押しつぶす為に振るわれ、なんとか防ぐがシンフォギアは至る所から火花を上げ煙が噴き出してくる。

 

「ま、だまだぁ!!」

 

ブースターが唸り、突き出した拳にアームドギアが展開、腕部のパーツが組み合わさってスピア状になると風を斬り、ネフィリムのボディを完全に貫き大穴を開ける。

 

「やった…!?」

 

上下に分断されたネフィリム身体は崩れ落ちボトリ、と生々しい音を鳴らす。

周囲のノイズ達も動きを止め響から少しずつ距離を置き始めたのを好機とばかりに辺りを見渡せばソロモンの杖が転がり落ちている。

 

これを使えば…ゲートは開く?

 

ゆっくりとソロモンの杖へ歩み寄るが強烈な違和感を感じ飛び上がった。 刹那、ソロモンの杖は大きな口の中へと消え分断されたはずのネフィリムがそこに現れると身体からレーザーを照射し、直撃した響の身体は瓦礫の上に転がり落ちる。追撃とばかりにネフィリムの剛腕が響の身体を叩き潰す。

 

痛みで身体が動かせず、その瞳には開かれたネフィリムの顎が映る。

 

これは喰われる。

 

 

 

痛い。

 

怖い。

 

翼さん…クリスちゃん……未来………

 

 

 

 

 

目を瞑り身体に襲い掛かってくるであろう痛みに覚悟を決めた。 だが何時まで経ってもこないことに気がつき、ゆっくりと目を開けば赤と青のヒーローが彼女の前に立ち、ネフィリムの口を両手で押さえ込んでいた。

 

『正義のヒーロー参上…ってね』

 

「マスター……?」

 

『マスター? 何のことか分からないけど、俺はラブアンドピースを信条にする天才物理学者、桐生戦兎だ』

 

「桐生さん…? あの、桐生さん?」

 

『んー、キミの知っている桐生戦兎とは違う桐生戦兎だなきっと。 俺がなんでこうして居るかも分からない。けど、分からないことってワクワクするだろ? 大丈夫、キミがまた立ち上がれるようになるまで…俺が何とかしてやる!!』

 

ネフィリムを押し返すと鋭い蹴りを何度も繰り出し、ネフィリムの身体を凹ましていく。 負けじとネフィリムも身体を光らせレーザーを放つのだがラビットハーフボディの特徴であるセンサーと高速移動を駆使してこれを全て躱すとお次はタンクハーフボディの装甲でガングニール並の重い連撃を叩き込む。

 

 

立ち上がるまで、そう言われたのだが身体は震えて動かない。 仲間がいたから恐怖が薄れていたのか、それとも何処か楽観視していたのか。 観たじゃないか、『天羽奏』が生命を賭して自分を助けてくれた瞬間を。

覚悟を決めたつもりだった。 それでも彼女らともう会えないのは嫌だ。 どうすれば…どうすればいいの?

 

ネフィリムを押しているビルドの背後に巨大な影が現れる。それは2体目のネフィリム

 

「桐生さん危ない!!」

 

『危ない? って2体相手はご遠慮願いたいんだけど…』

 

突然現れた2体目の攻撃をくらいながら何とか耐え凌いでいる。

私が、私が立ち上がらなきゃ…!!

 

2体目のネフィリムがこちらに狙いを付ける。 迫ってくる。

 

震える脚を拳で殴りなんとか立とうとする。桐生さんも戦っている、翼さんもクリスちゃんもマリアさんも調ちゃんに切歌ちゃんだってきっと何処かで戦っている。怖がっている場合なんてない!

 

恐怖なんてどこかに吹き飛ばしてしまえば…!!

 

 

 

『そいつぁ、いけないな。 恐怖ってのは大事な心さ…死を恐れない心はそりゃ凄いかもしれないけど。 響、アンタが死んだらあたしの片翼は今度こそだめになっちゃう。 怖い時は怖いでいいんだ。 それに立ち向かう勇気が必要なだけ』

 

 

 

声…?

 

 

迫り来るネフィリムの脳天に一振りの槍が突き刺さり、この一撃にネフィリムは絶叫しのたうち回った。

その姿は夢か幻か、ビルドと同じく霞がかっているが私にはハッキリとその人物が誰かわかった。

 

 

『響、アンタは持っているはずだ。その勇気を、何たってあたしのガングニールを受け継いでるんだからさ!!』

 

 

「奏…さん………?」

 

『いくよ、あたし達が揃えば敵なんか居ないさ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

浜辺に腰を据え追ってくるであろう連中を待っていると意外にも早く来てくれた。 もう少し遅ければ特機部二を潰しにいく手間が増えたが良かった良かった。

 

「逃がさないぞエボルト!!」

「テメェをぶっ倒して、アイツを救いに行く!!」

「そう心配なさんな。立花響ならどのみちあの空間から脱出してくるだろうよ」

 

殺気立った2人に嗤いながらも確信を持ってそう告げる。

 

「ンだと!?」

「どういう事だ…!」

「どういうもこういうも立花響の実力、能力を加味して、贔屓目無しのオレの予想だ。アイツなら必ず戻ってくる」

 

そう告げながら宙から続いて現れるシンフォギア3名を観れば腰を上げわざとらしいモーションをしながら話す。

 

「おぉ、マリア。 やっと来たか…どうだ? 本当に信じられる仲間を得た感じは…中々イイもんだろう?」

「えぇ、そうね。 エボルト…アナタは何を企んでいるのかしら」

「ゲームだよ。 オレはゲームマスターだ…ま、ゲームマスターでありラスボスってな感じか? オマエさんたちというキャラを育て上げオレと戦う為の舞台を整えている途中だ」

「ゲームマスター…人を殺し嗤う事がゲームだって言うんデスか!?」

「人殺しは単なる趣味だよ。ここで第2ステージの終幕とするゲームをしよう。 内容は簡単、立花響がここに戻ってくるまでにオマエさんたちが戦闘不能にならない事が勝利条件だ」

 

簡単だろ? と告げながら完全に復活したエボルドライバーを構える。

 

「限定解除したアタシ達5人を同時に相手するって? 舐められたもんだな…!」

「…スグに倒して、ガングニールを助けに行く。」

「それじゃ、ゲームスタートだ!」

 

 

 

 

 

エボルドライバー!!

 

 

懐かしき起動音と共に2本のボトルを装填。

 

 

コブラ!!/ライダーシステム!!

 

エボリューション!!

 

 

『Are you ready?』

 

 

「変身」

 

 

レバーを回すと「交響曲第9番第4楽章・歓喜の歌」に酷似した音楽が壮大に響き渡る。

 

 

 

コブラ! コブラ! エボルコブラ!!

 

フッハッハッハッハッハ!

 

 

 

「エボル、フェーズ1。 準備運動には丁度いい…!」

 

装甲が展開され、ブラッドスタークの姿は大きく変える。

マスクは口を開け牙を剥くコブラ、赤い複眼は口を開いて舌を出したヘビを真横から見た姿を思わせる形状となり不気味に輝く。肩や胸の装甲にもコブラの意匠が存在する不気味な姿。

 

「新しい姿か…!」

「違うな、これが俺の本来の力に近い姿だ。 ま、全力の2%しか出せないがな…」

 

軽くベルトを撫で、臨戦態勢を取ったシンフォギア達を見て笑うとマリアの背後へワープ移動し、ただのパンチを打つ。

ただのパンチと言えど最大出力58tの重撃がマリアのシンフォギアを砕き、彼女の身体は水平線まで吹き飛んでいった。

 

「「マリア!?」」

 

突然の出来事に取り乱す連中。その中で翼だけはすぐ様、剣を構え縦一線の一撃を放ってきた。 だが、半歩動くだけで彼女の一撃は躱すことが出来る。

 

「いい気合だ。そういう感情が成長に繋がるんだ」

「たった一撃、躱しただけで勝ったつもりか?」

 

振り下ろした一撃に身を任せ、そのまま身体を伏せる翼の背後から無数の弾丸が襲いかかってきた。

軽く舌打ちをし上空へ跳び上がると待っていたと言わんばかりに調、切歌が電ノコと鎌を振り回しながら飛んでくる。 虚空から取り出したトランスチームガンで迫る切歌を迎撃し、片手で電ノコを受け止め地面へ向けて引き摺り落とすが調を受け止める為にマリアが滑り込み追撃をさせないよう、クリスが下から弾幕を張ってきやがった。

 

「おーおー、さっきまで敵対していたってのに随分と仲が良いじゃないか」

 

着地と同時に翼へ迫るとその腹へ膝を打ち入れ地に伏せさせる。

限定解除で大幅に戦力が上がっているがやはりまだ届かないか。

 

 

ゾクリと、感じたことの無い()()が走る。

 

この攻撃だけは避けなければいけないと本能が感じ取った。

 

 

「死んでも俺の責任じゃあないからな」

 

 

背後から迫り来る巨大な鎌を手で受け止め、強引にその使い手である暁切歌を引き寄せ、空いた手でレバーを数度回す。

星座早見盤を模したフィールドが足元に展開し、生み出したエネルギーが右脚に収束していく。

 

「切ちゃん!!」

 

 

『エボルテックフィニッシュ!!!』

 

 

 

 

 

 




「はぁ…翼たん…今日も可愛い」
「カシラ、翼ちゃんが可愛いの分かりますけど俺らの稼ぎを全部グッズにぶち込むの止めません?」
「あ、そういやこの前、翼ちゃんが喫茶店に入ってくの観たっすよ」
「ホントか勝!! いや、でもファンとして超えちゃいけねぇ一線てのがな…」
「そこのnascitaって喫茶店っすね」
「あー!! 喉乾いたな、お、喫茶店だ!! 行くぞオマエら!!」

「「「カシラ…」」」


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最強の一槍

前回までの戦姫絶唱シンフォギア!!

「ピンチの私の前に現れたのはなんとなんと奏さんと桐生さんだった!」
『いやー、まさか後輩と一緒に戦えるなんてね』
『不思議なこともあるもんだ』
「あ、あとでご飯でも食べに行きませんか!? 奏さんのお話聴きたいです!」
『お、いいねぇ!』
『いやいやいや、良くないでしょ…どうなる第20話!』


奏さんが槍を振るい、周囲のノイズを退けながらネフィリムとぶつかり合う。

あの日のように背中で私を庇いながら。

 

2年過ぎたと言うのに何も変わっていない。

 

いや、変わったはずだ。

だって私は…私の中には…奏さんの。

みんなの想いが詰まった……

 

 

 

「シンフォギアぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

煙を上げ、砕け、機能不全に落ちかけていたシンフォギアが発光し再構築(リビルド)されていく。限定解除は解けたものの黄色いマフラーを靡かせ、強靭的な精神力で持ち直した響は先達である天羽奏の横に立ち並ぶ。

 

『さっすがぁ!』

「奏さん、力…貸してください!」

 

拳を構え、ネフィリムへ向かって二人同時に駆け出す。

怖い、怖いけど!!

 

「へいきへっちゃら!」

 

奏さんが突き入れた槍の柄を思いっ切り殴ると深々とガングニールがネフィリムの腹へと刺さっていく。

絶叫し、カラダを赤熱させ周囲を焼き払い始めるが響と奏は気にする様子もなく怒涛の攻めでネフィリムを押し込んでいった。

自然と歌声に力が入り、奏はハモらせるように響に合わせる。 即興のコンビとは思えないコンビネーションでネフィリムの攻撃を捌き、確実にダメージを与えていく。

ネフィリムに突き立ったガングニールを即座に引き抜くと背後から迫っていたノイズ達を穂先から発生させた竜巻で吹き飛ばす姿は正にスキのない歴戦の戦士だろう。

 

『おーおっ、凄いお嬢さんたちだこと。 俺も負けてらんないなっ』

 

感嘆を上げるビルドもレバーを回し必殺の一撃を放つ構えをとると自らが相手していた二体目のネフィリムごと周囲のノイズ達をボルテックフィニッシュで蹴散らした。

 

『ふぃ…呆気なかったな………っておいおいおい』

 

目に映った光景は異常、悍ましいものだ。

爆散したネフィリムの肉片を響達の活躍によって瀕死気味のもう一体が貪り、そのカラダは元のサイズよりも遥かに大きくなり始める。

 

『あっちゃー遊び過ぎたか?』

「えぇ!? 奏さん遊んでたんですか!?」

『モノの喩えだよ。馬鹿正直だなぁ響は…』

 

ネフィリム…いや、ネフィリムノヴァが腕を振るうと辺り一帯の瓦礫は消し飛びノイズ達もまた消滅していく。 やはり、元の世界に戻るにはコイツを放ってはおけないだろう。

だが、たった3人で出来るだろうか? 絶唱でも何処まで削れるか分からない相手に…

 

『まぁまぁ、暗い顔しなさんなって。 てぇんさいな俺の計算によると? キミが奴を倒せる確率は100%だから』

「本当ですか!?」

『あぁ、信じなさいよ』

 

ビルドがそう言い響の方を叩くのだが内心は(こういう時、万丈のバカ直感が羨ましいもんだ…)などと思っているのだが響は知る由もない。

 

 

 

『しゃーねぇ…こうなりゃ響、あたしを使いなっ! それともう一つもちゃんと使うんだよ』

「え、どういう…」

『こーいうこった!』

 

奏は笑顔で響の手を取ると彼女の身体は光に包まれ緋色のボトルへと姿を変えた。 やっぱり、本物の奏さんじゃなくて…ボトルが見せた幻想?

いや、きっとアレは本物の奏さんの想いだ。

 

もう一つも…、きっと応えてくれる。

 

黒いガングニールボトル。 マリアさんのガングニールの成分が収められた1本……

両腕にボトルを差し込み腕のパーツを押し込む。

 

 

 

神槍・ガングニール!

撃槍・ガングニール!

烈槍・ガングニール!

 

 

 

 

シンフォギアのシステム音とは別の機械音が空間に響き渡りボトルの成分がカラダを包み込んでいく。

 

 

『Croitzal ronzell Gungnir zizzl』

『Balwisyall Nescell Gungnir tron』

『Granzizel bilfen Gungnir zizzl』

 

 

 

三つの聖詠が重なり合いガングニールのシンフォギアは輝きをより激しく放ち周囲一帯を白く染め上げた。

 

 

 

『Gungnir!! / Gungnir!! / Gungnir!!』

 

『スーパーベストマッチ!!!』

 

『神撃の烈槍!!! ガングニール・ガングニール・ガングニール!!!』

 

『チョースゲェイ!!!』

 

 

本来の白を基調とした装甲は白と黒を織り交ぜたツートンカラーとなり脚部や所々のパーツは燃え盛る様な緋色に、そしてその身から爆発的なフォニックゲインが生み出されバビロニアの宝物庫自体の空間を歪めていく。

 

溢れ出る歌に自然と笑みが零れる。

 

 

『「これなら(あたし)は負けない!!!」』

 

 

響き奏でられる歌はもう止められない。

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

「死んでも俺の責任じゃあないからな」

 

 

背後から迫り来る巨大な鎌を手で受け止め、強引にその使い手である暁切歌を引き寄せ、空いた手でレバーを数度回す。

星座早見盤を模したフィールドが足元に展開し、生み出したエネルギーが右脚に収束していく。

 

「切ちゃん!!」

 

 

『エボルテックフィニッシュ!!!』

 

 

締め上げ、一度軽く放り投げた暁切歌に向かって必殺の蹴り技を放つ。が、俺と暁切歌の間には薄紅のバリア、それに幾重にも折り重なった電ノコが蹴りを受け止める。

 

「切ちゃん、逃げてっ!!」

「無駄だ…っ」

 

蹴りを妨げたバリアや電ノコをモロモロ砕いていき勢いが衰えること無く月読調の腹へ突き刺さり吹き飛ばす。

 

 

『Ciao』

 

 

無慈悲な音声と共にシュルシャガナのシンフォギアは爆発に飲まれていった。

可哀想に…ネビュラガスを限界まで注入された状態でシンフォギアが解除されちまったら死ぬしかない。

 

「一人脱落…か。 あと4人で持ちこたえてみせろよ?」

「エボルト………エボルトォォォォォォ!!!!」

 

歌うことも忘れ切歌はイガリマを振り上げ飛び込んでくる。これだから直情的なやつは…

 

「何故、何故……調を…!?」

「おいおい、オレは元はお前を殺ろうとしてたんだ。 それに割って入ってきたのはアイツでヤられたのも奴の責任だろうに」

 

のらりくらりと連撃を躱しながら背後から迫るアガートラムの一撃を片手で押え込む。 気が付かないと思ったか。

 

「貴様ァァァァ!!!」

「シンフォギアが歌を忘れちゃダメだろうが…何でこうなった? あぁ、オレの所為か……フハハハハッ」

「雪音、月読を移動させるぞ!」

「こっちはエボルトで手一杯だよ先輩!」

「無駄だ、もうじき月読調の身体はネビュラガスによって消滅する」

 

消滅する筈なのだ。 だが何故、未だに奴の肉体は砂浜に転がったままなんだ…?

何かを見落としている気がする。

 

「余所見するなデス!!」

「おっと…っ」

 

体を反らして紙一重でイガリマを避け、カウンターを叩き込む。シンフォギアの解除とまではいかないが暫くは立ち上がれないだろう。 コイツも殺ってしまえば…マリアはどうなるだろうな。

 

しかし、まぁ…連携は板に付いてきてやがる。 ある程度装者と距離を置こうとすればイチイバルの弾幕が、接近戦は確実に2名以上で挟撃…戦法としては戦兎達よりも面倒臭い。これでハザードレベルが高けりゃオレとて楽には勝てないだろう。だが、今のヤツらは決定的な力不足だ… ここからどうやってこいつらを強化していくか……

そうだ、エルフナインを利用するか!

 

剣を構え、左右からの同時攻撃を放つアガートラムと天羽々斬を片手ずつで相手をしゆっくりと観察する。

純粋なパワーでは立花響のガングニールに劣るもののやはり場数を踏んでいるお陰か単純に相手をするなら天羽々斬の方がやりにくい。

対してアガートラムは硬さがある。新たなシンフォギアだがかつて、マリアの妹であるセレナが使っていたからか適合係数も相当高く十全な性能を発揮出来ているからだろう。 ローグ以上に硬い…最初の一撃で離脱しなかったのもそれが要因か。

攻防を繰り返していくうちに動きが緩慢になり始める。

 

「オラ、へばってきたか?」

「くっ、コイツ…疲れ知らずかっ」

「…避けろマリアっ!」

 

マリアと風鳴が飛び上がった。 なんだ…?

疑問と同時に襲い掛かってきたのは無数の衝撃。ここにきてエボルトに初めての直接ダメージが入る。その攻撃の正体は……

 

「月読調…だとォ!?」

「みんなはやらせない…っ。」

 

バカな。ヤツは確実に死ぬダメージを与えたはず…っ

 

「フィーネがエボルトを倒せって言ってた。」

「フィーネ…フィーネだと? そういう事か…ちっ、面倒な女だよお前は」

 

ベルナージュの様に一部が月読調の中に居たってことか…なるほど。それで奴が消滅を全て肩代わりした………見落としていた事としては些細な事だ。

 

ん?

 

「…これはっ」

「歌……?」

 

この声は…立花響かっ! ハハッ、やはりネフィリムを撃破しここへ戻ってくる…っ!!

 

「さっさと戻って来やがれバカっ!」

 

歌声の波紋は広がっていく。

雪音クリスが歌い、暁切歌に月読調も加わりマリアもそれに乗る。

 

「立花…誰と歌っているんだ?」

 

風鳴翼は聞こえるもう一つの旋律に、主旋律とはまた別の…『逆光のフリューゲル』に眉をひそめながらまた歌い上げる。

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

「アウフヴァッヘン波形確認! ガングニールです!!」

「響くんか! 良くぞと言うべきか…大人として不甲斐なさを憤るか……」

 

一人異次元へ放り込まれた彼女は自力で戻ってこようとしている。だと言うのに大人の我々が何の力にもなれないとは……っ

 

「これは……!? いや…」

「どうした藤尭!!」

「計器の故障じゃないっ。 司令、ガングニールの反応が!」

「ロストしたのか!?」

「いえっ、一つは響ちゃんの。恐らくもう一つはボトル化したマリア・カデンツァヴナ・イヴのものと推測出来るのですが…それとは別に2つ、全く同じ波形のガングニールが存在します!!」

「4つのガングニール…だと…!?」

 

響くんとマリアくん…可能性として奏から抜き取られたらしいガングニールがあるが……

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

「La……♪」

 

空を見上げ歌う少女は切ない旋律を奏でる。 歌声に力強さはない。

 

「早く帰ってきなよ」

 

呟きながら彼女は()()()()に歌い続ける。




「立花響ィ!! なぜキミが人間の身でシンフォギアを介したただけでボトル2本の不可に耐えられるか。 何故、失った腕が生えたのか。 何故、多くの人間を引き寄せるのくわァ!!!」
「それ以上言うな!!!」
「その答えはただ一つ……」
「ヤメロぉぉぉ!!!」
「立花響ィ!! 君が世界で2番目にネビュラガスを注入された娘だからだァァァァ!!! ヴェハハハハハハーアーハハハハハハハハ!!!」

「……え?」


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フェーズ2 終了

前回までの戦姫絶唱シンフォギア!!

「この本によれば…
”普通の高校生、立花響。
彼女はガングニールの装者として立ちはだかるノイズ、そして暗躍するエボルトと戦う戦姫となった。」
「え、誰!?」
「彼女はその身を知らずのうちに酷使したせいで今や戦える状態にあらず。 新たに増えた仲間達が代わりに前線へと立ち上がる。」
「不審者か!?」
「そして戦いの果てに待っていたのは獰猛な笑みを浮かべた緋色の……おっと、これは遥か先の話でしたね」
「いやいやいや、オマエさん俺や立花のあらすじを取らないでもらえるか?」
「なに、我が魔王の物語を紡ぐのはまた先の話になりそうだったのでこちらで暇つぶしをさせてもらっただけさ」

「「「どうなる第21話!」」」


歌は響き渡り、天にヒビが入っていく。揶揄や例えではなく本当に鏡が割れるような時のヒビがソラに現れる。

 

「ようやく来たか…」

 

どうやら、無事にマリアと奏のガングニールの力を手にしてネフィリムを撃破したようだな。 目の前には肩で息をしているシンフォギア装者達は歌を紡ぐことを止めずに尚も此方の隙を伺っては攻撃を仕掛けてくる。

彼女たちにとっては立花響がそれ程までに大切なのだ。

ソラが割れ、爆発的なフォニックゲインがバビロニアの宝物庫から溢れ出てくる。

 

「いっけぇぇぇぇぇええええ!!!」

 

絶叫と共に天から降り注ぐ一筋の槍を意気揚々と受け止めるのだが…

 

(コイツは……予想以上だァ!!)

 

立花響の拳を止めるどころか徐々に押され、遂にはエボルとなったオレの胸部へと突き刺さりノーバウンドで砂を巻き上げ吹き飛ばされてしまった。

2%の力とはいえ、こうも軽々とオレにダメージを与えるか…立花響!!

 

「ようやく帰ってきたかバカ!」

「よくぞ無事に戻ってきた立花…!」

 

地上へと辿り着いた立花響を囲むようにシンフォギア共が集まるが臨戦態勢は解かないままこちらを見据えていた。 全く…面白いぐらいに成長してくれる奴等だ。

 

「Congratulazioni シンフォギア。 第2ステージクリアだ…まぁ、途中に少々想定外な事が起きたが結果として立花響が戻ってくるまでお前達は耐えてみせた…実にいいことだ」

「あら、不利になったというのに随分と大物ぶるのね…?」

「ガングニールが来た以上、エボルトをここでやっつけるのも可能デス!」

「言っただろう? 第2ステージだと。オレが倒されるとしたら最終ステージって相場が決まっているんだよ。フェーズ1のオレをここまで押し込めるガングニールには驚いたが…」

 

白と黒のツートンに橙色をあしらったシンフォギアを身に纏う彼女の姿に素直な感想を告げ笑う。

 

「第3ステージはそうだな…攫われたお姫様を救う…なんてのはどうだ?」

「何を……まさか!?」

 

ぞわりと嫌な予感が巡る。それだけは違っていてほしいという考えだけが先行するが…

 

「フハハハ! なに、まだ何も起きちゃいないさ…まだな?」

「やはりエボルト、ここが最後だと思ってもらおうか!」

「完璧に吹き飛ばしてやらァ!」

 

仕留めにかかるとばかりに放たれた弾丸を追うように風鳴翼が駆け出している。 挑発したのはいいがオレはまだ動けそうにないな…一手読み違えたかこりゃ?

しかし、イチイバルが打ち出した弾丸を撃ち落とすように降り注ぐコイン。 そしてオレを狩るために振るわれた天羽々斬を一振の大剣が妨げ砕いてみせる。

 

「なっ━━?!」

「剣と定義されるものであれば、 硬度も強度も問わずに噛み砕く哲学兵装…私のソードブレイカーはいかがでしょうか?」

「随分と派手に動いたな。エボルト」

 

それぞれ緑と黄色を基調とする衣服を纏った人形がシンフォギア達の前へ立ち塞がった。

 

「ふん、これぐらい動かなければ面白味がないだろう?」

「計画に支障もない、ワタシも地味は嫌いだ」

「マスターでもないアナタの援護とは思いもよりませんでしたが」

 

キャロルの嬢ちゃんが気を回したのか? ま、奴の計画にはオレの協力なくして成就は叶わないから仕方がないか。なんせやつの居城であるチフォージュ・シャトーのコアは…。

 

「新手デスか!」

「数的有利は依然としてこちら…っ」

「言っただろう? 第2ステージはお前達の勝利だってな。 敗戦したオレは優秀な仲間達に連れられて大人しく逃げるだけだ。最近の若者は気が荒くて怖いもんだァ」

 

よろけながら立ち上がりファラとレイアに立ち並んだエボルトは立花響に視線を移し軽く笑うとそのまま言葉を続ける。

 

「立花響、ガングニールの装者、融合症例第一号」

「それがなに…! 私は私だよ!」

「ステージクリアの報酬としていいこと教えてやるよ。

何故、オマエがガングニールの適合者になれたのか。 何故、お前一人が暴走してしまうのか…何故、一人の身で3つものガングニールをその身に宿せたか!!」

「それは奏さんのガングニールが……私の気持ちに応えてくれたからじゃ…!」

「そんななまっちょろい感情論でシンフォギアの装者になれるのなら天羽奏はLiNKERなんざ使わなくてもなれただろうよォ?」

 

要領を得ない、何を言いたいのか分からない。そんな表情を浮かべる立花響に向かって言葉は止まらない。

 

「オマエがシンフォギアを扱える理由はたった一つ。 それは、オマエがこの()()で2番目にネビュラガスを注入された人間だからだよォ!!」

「ネビュラ…ガス……?」

 

……そういえばシュルシャガナとイガリマには説明してたが他のメンツには言ってなかったな。

 

「人体が取り込むと特殊な細胞分裂を引き起こす効果があって人間が摂取することで細胞変質が起こる特殊なガスでな。 イガリマ、シュルシャガナに注入したのは濃度を低くしたもんだが…立花響、オマエには最高濃度のネビュラガスの成分を徐々に取り込ませていったんだよ」

「どうやって…」

「立花のバイタルチェックでは何の異常も見られないぞ!」

「エボルトの言うことだ。デマカセ言いやがって…」

「まぁ、なんとでも捉えろ。 オマエは最早人間なんかじゃない…改造人間、悪く言えば化け物なんだよッ!!」

 

化け物という言葉に完全に表情を消し感情に左右されてからかシンフォギアが自然と消失する。

 

「さてシンフォギア、そう遠くない先で会おうじゃないか。お次はもう少しオレも強くなっているからなァ…精々、仮初の平和を味わっておけ。 Ciao」

 

小瓶を砕き、自動人形達と共に姿を消す。

そこに残るのは後味の悪い一時の勝利だけと知っていて。

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

「エボルト、それがお前が求めていたものか?」

「よう、キャロルの嬢ちゃん。 自動人形(オートスコアラー)の援護助かったぜ? 危うくオレがやられちまうところだった」

「よく言う、近くにローグもミソラも居ただろうに。 まぁ、いい…お前が居なくなれば此方の計画にも支障が出るからな。暫くは静かに働いてもらうぞ」

 

キャロル。

 

キャロル・マールス・ディーンハイム。

欧州の深淵より来たる四大元素を初めとする様々な力を扱うことが出来る錬金術師。 幼い姿ながら現状のハザードレベルで言うのならオレよりも遥に上回っている。 フェーズ1のオレでは四肢を引きちぎられて棄てられるのが関の山だろう。

 

「了解了解…ミカを起動させるためだけのメモリーボトルの改修に算段が着いている。 シンフォギア達にも釘は刺しておいたからな。暫くは小日向未来の護衛に気を使っているだろうしコチラに回せる戦力は無いだろうよ」

「なんだ、ブラフだったのか?」

「まさか。 小日向未来にはちゃんとした利用価値があるからなァ…しっかりと丁重に扱わせてもらうさ。 それまではオマエサンの手となり足とならせてもらう」

 

チフォージュ・シャトー内部の一部を間借りして現在のファウストは活動させてもらっているしな。と、なんとも居候地味たことをしているのだがそれに文句を言うのはミソラぐらいだ。

 

「エボルト…どういうつもり?」

「なんだローグ。聴いていたのか? 立ち聞きはダメだぞぉ?」

「あの子は巻き込まないって契約だったよね…?」

 

石動の姿に戻った俺の胸ぐらを掴みかかって来るが軽く手を掴み離す。

 

「心配するな。悪いようにはしないし俺は危害を加えないからな…加えるとするなら…シンフォギア達だろうよ」

「……約束は違えないで。 絶対に」

 

そう言いながら自室へと戻ったローグの背中を見送り苦笑する。熱い嬢ちゃんだこと…

さぁてと、アイツらを強化するには誰を使おうかね…アダム……は、まだ先だな余計な事しかしなさそうだし。よってサンジェルマン達もバツ…と。

エルフナインが居たな。よし、アイツを使うか!

 

「さぁさぁ、第3ステージ。スタートは近いぞ…ドライバーも作っておかなきゃならないな」




「アナザーディケイド如きに呼び出されるなんて不服だったが…何だありゃ? どう考えてもオレやゴルドドライブと並んでダークライダーって名乗った方がいい主人公は。 面白いねぇ、人間ってのは」
「いやぁ、後輩ライダーながらなかなか凄いやつだったでしょ? まっ、てぇんっさい物理学者にはちょっとイケメンの部分で劣ってるかもしれないけどライダーとしては正に最強の貫禄を見せたんじゃない?」
「戦兎、ありゃラブアンドピースじゃなくてサーチアンドデストロイって感じじゃないか?」
「ま、その辺は彼らに任せようじゃありませんの」

次回 戦姫絶唱シンフォギア GX EVOL お楽しみに


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戦姫絶唱シンフォギアGX
現状人物紹介!


現在までのシンフォギア!!

「ってあれ? 何だかいつもとなんか始まり方が違うような?」
「気の所為じゃねーか?」
「馬鹿な万丈にも現状が分かるように各キャラの説明回ってこった。 ちゃんと覚えて帰れよ」
「せめて筋肉をつけろエボルト! エボルト!? 戦兎、気をつけろ!」
「あーらら、今気がついたの? それでエボルト、俺達は何をすればいいんだよ」
「ん、特に出番はないぞ。 ただ暇そうな新世界無職だったから呼んでみただけだ」
「「無職って言うな!!」」

「それじゃあ簡単な人物紹介のお時間だ」


立花響! 好きな物はご飯とご飯!

ガングニールの装者にしてこの時空では依然として融合症例第一号。 フロンティア事変の後、S.O.N.Gの一員として人命救助活動などを行っているが徐々にその身体には限界が迫ってきており、このままでは生命に危険を及ぼしてしまう。

ネビュラガスの実験台第2号。 相性のいいボトルはロボット、ガングニール。

ハザードレベル4.7

 

 

 

風鳴翼。 トップアーティスト。

天羽々斬の装者。 幼少の時よりその身を「剣」と鍛えてきた戦闘のエキスパートであり、天羽奏のパートナーだった。フロンティア事変後、監視つきながらマリアと共にイギリスへアーティストととして進出している。ラビットボトルと相性が良かったがネフィリムとの決戦時、ラビットボトルが手元から消失していた。

ハザードレベル4.3

 

 

雪音クリス。 うたずきん!

イチイバルの装者。ルナアタック時はフィーネの元に居り、ブラッドスターク(エボルト)と共に響、翼の前に立ちはだかっていたがフィーネに見限られたというエボルトの嘘により離脱。 以後、特機部二のメンバーとして戦線に立つ。 相性のいいボトルはタンク、ドラゴン。タンクボトルはラビットボトルと同様に決戦時消失している。 尚、ドラゴンボトルに蓄積されている前回の使用者の夢を何度か見て影響されているからか若干バカになりつつある事に気がついていない。

ハザードレベル4.6

 

 

 

マリア・カデンツァヴナ・イヴ。 タヤマ。大義の為に。

デビューからたった2ヶ月で全米ヒットチャートの頂点に登り詰めた新進気鋭のアーティスト。世が世ならそれだけで良かったんじゃないか?と思う。 その正体は武力組織『フィーネ』の一員として黒いガングニールの装者。

黒いガングニールはドクターウェルによりボトルに成分を吸い取られておりアガートラムも機能不全となっておりシンフォギアを使用することは出来ない。現在は監視つきながらも風鳴翼と共に行動をしている。

相性のいいボトルは不明。 調査が必要。

 

 

 

 

暁切歌。 デスっ娘。

武力組織『フィーネ』の一員にしてイガリマの装者。 フロンティア事変によりマリア、月読調と共に一時拘束されていたが以降S.O.N.Gの隊員として戦線に復帰する。

マリアと月読調が大好き。リディアン音楽院高等科に編入、『先輩たち』と共に日常を楽しむようになる。

相性のいいボトルは海賊。イガリマとの相性が非常に良くベストマッチしイガリマは海賊ギアへと変化を遂げた。

 

 

 

 

月読調。 カップラーメン。

同じく武力組織『フィーネ』の一員にしてシュルシャガナの装者。 大人しそうな外見と裏腹に、目的達成のためならば手段を選ばないことも度々ある大胆な作戦遂行者。 

マリア、暁切歌と共にS.O.N.Gに加入し私生活においてもリディアン音楽院高等科に編入する。

相性のいいボトルは不明。電車ボトルはシュルシャガナに適合せず負担のみ増えてしまった。

 

 

 

 

小日向未来。 3ステージのヒロインとなる予定。

立花響の親友であり、彼女にとっての日常の象徴。 どんな時でも立花響を立花響として扱い笑顔で過ごす。

そして、__________の___________。

 

 

 

ローグ。 捻くれ嬢ちゃん。

一匹狼を気取るが『ファウスト』、『フィーネ』が協力下にある際は暁切歌と月読調の事を気にかけ、エボルトの危険性を解いていた。

その正体は_________。彼女の願いは__________の安全。

 

 

 

ミソラ。エボルトの娘?

最初ナイトローグに蒸血しており風鳴翼との一戦後トランスチームガンが破損。以後、フルフェイスのヘルメットを被って顔を常に隠している。 ハザードレベルは5.0。ボトルの恩恵なく肉体のみでネフィリムを推せる程の力を持ちフロンティア事変後からビルドドライバーを所持している。

 

 

 

キャロル・マールス・ディーンハイム。 錬金術師。

エボルトとの協力関係にある錬金術師。彼女が居城とするチフォージュ・シャトーの一角にファウストの研究室がある為、実質居候状態になっている。 第3ステージのボス。

 

 

 

エルフナイン。 可哀想な子。

一生懸命仕事をするキャロルのホムンクルスでありキャロルの躯体に選ばれず廃棄品となったコピーである。

チフォージュ・シャトーはキャロルとエルフナインの仕事の賜物であるが。これからエボルトに唆され脱走、キャロルにも計画の為に使われる。

 

 

 

アダム・ヴァイスハウプト。ロクでなしの最高峰。

ファウストの出資者、パヴァリア光明結社の統制組長でありキャロルや配下のサンジェルマン達をも寄せ付けぬほどの並外れた魔力を有する超高位の錬金術師でヒトデナシ。

人望は皆無だが伝手は多く、聖遺物の成分を封入したフルボトルを何本か生成している。 本来の美空が行っていた浄化作業もアダムの黄金錬成&力業で強制浄化している時もある。ヒトデナシ。

 

 

 

 

サンジェルマン、プレラーティ、カリオストロ。パヴァリア光明結社幹部。

錬金奥義の果てにその身体を完全なモノへと作り替え、悠久の命となったサンジェルマンは、「人は何者にも支配されるべきではない」という考えのもと「神の力」の創造を試みているのだが同僚に恵まれるものの上司には恵まれなかった。 アダムに渋々付き合いながら3人まとめて東奔西走している。 エボルトにはよく即時戦力としてスマッシュなどを借りている。

アダムとエボルト何方に味方するか、と問われれば3日ほど考えてアダムがマシだと結論を出す。 実は生存フラグが立っている。

 

 

 

 

エボルト。 みんなの主人公。

この世界のオレは何処ぞのラビットドラゴンにやられた訳じゃなく、もっと前段階でジーニアスフォームとなった桐生戦兎に撃破された事になっていた。

フィーネを利用しドクターウェルを唆し、キャロルとアダムに養われながら虎視眈々とゲームを進めているがミソラとローグの嬢ちゃんとの生活も存外悪くないとは思っている。手持ちのボトルは現在50本+EXTRA数本

次はどうしようかななどと考えているがそろそろ本物の石動惣一が帰ってきそうなので正体を明かすのも悪くないか。

 

 

 

と、まぁ…よくもここまでという感じだが俺は楽しみたいだけだからな。 いい具合に何奴も此奴も踊ってくれれば愉快なもんだ。

さぁさぁ、オマエらお立会い。ここから始まるは第3ステージ! どんな風になっちまうかは俺にも分からないぜ? フハハハハハハハ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桐生戦兎。 てぇんっさい物理学者。

元々は葛城巧という名の物理学者だったがエボルトの手により姿、名前を変え桐生戦兎として、また仮面ライダービルドとしてラブアンドピースの為に戦い、その末にエボルトを撃破した。 新世界を創造し今はまた別の世界で平和を満喫しているのだろう。

そして、この世界には櫻井了子の同僚として葛城巧、桐生戦兎、葛城忍と共に「櫻井理論」に基づき生み出された「FG式回天特機装束」、つまるところシンフォギアの開発に携わっておりS.O.N.Gの技術担当をすることとなった。

 

 

 

万丈龍我。 プロテインの貴公子。

バカ。

 

 

 

 

セレナ・カデンツァヴナ・イヴ&フィーネ

マジカルミラクル魔法少女セレナとその仲間の妖精さんフィーネ。 あらすじ界の平和を守るため日や妖魔と戦っている。出番はあまりない模様。




「エボルトに計画を勝手にバラされ脱走したエルフナイン!」
「オレ一人でチフォージュ・シャトーを完成させろというのか!?」
「チフォージュ・シャトー内の炊事、洗濯等の家事、施設の調整などの技術的な面を引き受けていたエルフナインが抜けたことにより組織は地獄絵図となっていた!」
「ガリィの服どこでしたっけ?」「知るか。それよりこのクソ不味いコーヒー淹れたのは何処のバカだ」「ふぁぁ…おはようだゾ、マスター!ってあれ?何でこんなに荒れているんダ?」「レイア、投げ銭するのはいいけれど散らかさないで貰えるかしら?」「サンジェルマン、掃除をしておくんだ。僕の部屋を」


次回、チフォージュ・シャトー陥落! ファウストの最期!!


「いや、陥落させないからな!? 父さんもローグも手伝えこのままじゃ本当に潰れちまうよっ!」
「まさか、エルフナイン1人居なくなっただけでここまでとは…」


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錬金術師と正体

前回までの戦姫絶唱シンフォギア!!

「エボルドライバーの復活によってより強力になってしまったエボルト。 奴を撃破するには新たな力が必要になる」
「だけどそんな都合よく行くのかね先輩…」
「この本によればもうそろそろ物語に異変が起き始めると記されている。 安心したまえ、私が盛大に祝いの言葉を述べるのだから」
「いやだから誰だよアンタは!」


「「「どうなる第22話!」」」


ドクターウェルが主犯とされたフロンティア事変から3ヶ月。

今までの事件が嘘のように起きなくなりノイズやスマッシュも姿すら見せることなくただただ平和な時間が過ぎていった。

フィーネのルナアタックにより機能不全に陥っていたバラルの呪詛もナスターシャ教授による捨て身の修復によって今一度、呪詛としての機能を取り戻しており、彼女の遺体を回収する為に向かったチームのシャトルを救助した特異災害対策機動部二課は正式に国連の直轄にて超常災害対策機動部タスクフォースとして再編成される事となった。

構成員としては特異災害対策機動部二課のメンバーにフロンティア事変にて敵対していた3人の装者が加わりS.O.N.Gとして人命救助の活動を行っている。

 

しかし、それでもその平和を心から楽しめない。 エボルトが仮初の平和と言ったからにはきっとなにか仕掛けてくるのは明白だろう。

 

「響、大丈夫?」

「うん、ちょっと考え事してただけだからっ! それより未来、近いうちにまたマスターのお店行こうよ!」

「そうだね、最近行ってなかったし」

 

身構えながらも未来と共に休日を精一杯楽しむ、それがいまの自分に出来ることと信じて日々を過ごす。 そして未来の身に何かが起きないように私は…

不意にS.O.N.Gから支給された通信端末が音を鳴らす。 緊急時しか鳴らない筈の端末がだ。

 

「ごめん、未来!」

「大丈夫だよ。早く行ってきて? 気を付けてね響!」

「うん!!」

 

送り出してくれた彼女に元気に返事を返し通信を繋げる。

 

「はい、響です!」

『響くん、休日にすまない。 実は我々に接触してきた人物が居るのだが装者全員を招集し対面させたい。 翼とマリアくんも急遽帰還してもらう手筈となっている。 響くんが居る付近に友里くんを向かわせた』

「了解です!」

 

接触してきた人物…いったい誰だろう?

全員を集めないといけない程の相手…? エボルトの関係者…なのだろうか。

友里さんと合流し彼女の運転で司令部へと向かう。 むむむ…と眉を顰めて考え事をしていたらクスクスと笑われてしまった。

 

「もう、笑うなんて酷いですよぉ…」

「ふふ、ごめんなさいっ。 響ちゃんと初めて会った時からそんなに長い時間が経ったわけじゃないのに随分と頼もしくなったなぁ…って思ったの」

「頼もしくだなんて…っ。 私はいつもダメダメで、みんなに助けてもらえてるからですよっ」

「そうかもしれないけど響ちゃんは響ちゃんが思っている以上に皆を引っ張って助けているわ。 だから、一人で考えるのはやめにしてみんなで考えましょ?」

「そうですね…わかりました!」

「今回の来客は司令部にとっても全く予想だにしていなかった事なの。でも、今回の件でエボルトやあの時現れた新たな敵について全貌が見えてきたの。 また厳しい戦いになるかもしれない…」

「っ、ということはエボルトの…?」

「えぇ、元関係者…らしいわ。とてもそうは見えないのだけれどね」

 

第3ステージが今、始まる。

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

「えっと、エルフナイン…です」

 

そう名乗ったのはとてもエボルトに協力してたとは思えない程の外見をした人物。

本人曰く、自分はエボルトの協力者というよりその協力者であるキャロルが錬金術の奥義を以って創り出したホムンクルスらしく、キャロルが己の記憶を転写・複製する為の身体を作り出す過程で創りだされたのだが廃棄となったホムンクルスだということだ。

ここまでの時点で既に響と切歌は目を回して話の半分も理解出来ていないようなのは明白だったが一々止まるわけにいかないのでエルフナインに続きを促す。

 

キャロルとその配下である自動人形にシンフォギアが渡り合う為にエルフナインはチフォージュ・シャトーからドヴェルグ=ダインの遺産、ダインスレイフの欠片を持ち出し計画を阻止してほしいと言ってきた。

果たして何処まで信じていいのだろうか? 彼女を信じてシンフォギアのシステムに異常をきたしたらどうする?

 

「信じてもらうしか…ボクには何も出来ません……」

「…と、言われてもだなぁ」

 

クリスが頭を掻きながらどうしたものかと周りに目配せをする。 キャロルの計画は恐ろしいものだろうし、ダインスレイフの欠片によってシンフォギアの強化が可能ならばエボルトに喰らい付けるかもしれないが…

 

「エルフナイン君。キミの情報は有難いが…」

 

風鳴弦十郎も額に手を当て考え込みながら口を開いたところで藤尭朔也が慌てた様子で部屋へと飛び込んできた。その様子は一目で大事と分かるほどの慌て方だ。

 

「どうした藤尭!」

「我々に協力していた石動惣一は…偽物です!!」

「「「「「「は?」」」」」」

 

石動惣一。石動惣一といえばシンフォギアにボトルシステムを櫻井了子と共に組み込み、仮面ライダービルドとして協力してくれた喫茶店のマスターだ。前のフロンティア事変でビルドドライバーをミソラという女性に奪われてからは入院していた筈の人物…その人が偽物?

 

響が相も変わらず頭上に?を浮かべていると藤尭は会議室のモニターを付け映像を映し出す。

 

 

『本日、火星探査へと赴いていた宇宙飛行士の石動惣一氏が地球へと帰還しました。 石動氏は心身ともに健康状態であり今後行われるセレモニーに火星から持ち帰った箱。パンドラボックスを披露するようです』

 

 

「なっ…!?」

 

絶句だった。名前も、モニターに映し出された顔も響や翼、クリスがよく知っている男性の顔だったのだから。

 

「どういう事だ?! 石動氏がこちらに協力する際には徹底的に調べあげた筈だろう…!」

「はい…しかし、今日になって本物の石動惣一のデータが表立って現れ始めました…そして以前調べ上げた石動惣一のデータが逆に消滅しています」

「つまり、偽物が本物のデータを隠匿していたと? ならば何故このタイミングで明かした…?」

「あ、あの!」

 

訳が分からないとばかりに混乱する中、エルフナインが声を上げ映像の石動惣一を指差し口を開いた。

 

「この人、エボルトさん…ですよね?」

「エボ……ルト………だと…?」

 

 

 

 

「ビンゴォ! いいタイミングでの答え合わせだったなS.O.N.G諸君? そう俺がお前さん達を引っ掻き回していたブラッドスタークであり、真の名はエボルトって訳だ」

 

狙い済ましたかのようなタイミングで会議室の入口現れたのは石動惣一。否、エボルトだった。

 

「何で…」

「何で? 俺が化けやすく且つ、痕跡を消しやすい奴だったから…いや狙いは他にも沢山あるがな。本物が戻ってくるまでにボトルもだいぶ増えた。お前たちの協力あってこそだ」

「私や…私や未来がお店に通ってた時のマスターも……アナタだったの…?」

「あれは趣味のようなものだからな。 別にちゃんとした店を営業していたんだぞ? 真っ当な商売をして黒字を出してたし朝の弁当メニューは売れ行き上々だったんだ」

 

肩を竦めながら手に持った缶コーヒーを煽る姿はこちらを嘲笑っているようにすら映る。

 

「んん、出来合いってのも美味いがやっぱり淹れ立てが一番だな。 さてとだ、本題を言えばお前さん達にエルフナインを遣わせたのは俺なんだよ」

「テメェ、やっぱり何か企んでやがんのか!?」

「エボルトらしいデス!」

「勘違いするなよ? お前さん達は今、2つの選択肢しかないんだ…エルフナインの提案を受け入れシンフォギアを強化しキャロルの野望を阻止するか……ろくに歯が立たずに奴らに殺されるかだ」

「それでアナタに何の得があるのかしら?」

「損得で言えば、お前さん達が強くなれば俺は楽しめる。 それにキャロルの計画自体にさして興味は無いから俺に損は無い」

「…信じられない。」

「だろうな」

 

ゆっくりと部屋の中へと入りテーブルに腰を据えたエボルトは鼻で笑いながら大量のフルボトルをテーブルへと並べた。数にしてざっと50と少し。中には玩具のようなスイッチや銀縁のメダルも混じっている。

 

「フルボトル52本。 俺が集めるべき本数は60本なんだが…コイツらをお前さん達に預けようじゃないか」

「…なんのつもりだ?」

「そう怖い顔をするな風鳴翼。 担保ってやつだよ。 エルフナインの強化計画が失敗してもこれだけのボトルがありゃ自動人形の一体ぐらいは倒せるだろうからな?」

「それでお前を信じると思うかエボルト?」

 

クリスの睨みに肩を竦めながら尚もエボルトは言葉を続ける。

 

「エルフナイン、お前の計画が順当にいけばどれ位のハザードレベルをコイツらは得られる?」

「え、えっと…先日のエボルトさんのフェーズ1に1人で対抗出来るほどかと」

「ほう……だそうだが?」

 

フェーズ1に対抗出来る。 それは先の事件の最後に3つのガングニールの力を重ね合わせ漸く届いた域であり、その反動も凄まじく響の身体は依然として聖遺物の欠片が身体を蝕み3日程寝込んでしまったレベルだ。

それをシンフォギアの改修で得ることが出来るとなれば大きな戦力アップだが…

 

「……このボトルの中に奏のものが無いようだが」

「アレは特別品に仕上げたもんでな。お前さん達には扱えない」

「貴様、よくもまあヌケヌケと…」

 

ギリッ…と歯軋りを立てながら睨み付けるも装者達は何も出来ないでいた。 聖詠を口にするよりも早くエボルトはこちらの命を意図も容易く狩りとる事が出来る。それをしないのもエボルトが今より更に楽しむためだ。この戦いを行いをゲームの称したエボルトが…

 

「私は…」

 

響が口を開きエルフナインを見つめる。

 

「私はエルフナインちゃんを信じますッ!」

「へぇ、そりゃどうしてだ? お前さんの目の前にはフィーネやドクターウェルと共に暗躍した悪い奴がいて、罠に嵌めてるのかもしれないんだぜ?」

 

缶コーヒーを呷りながらエボルトは石動惣一の姿で、まるで今でも協力者かのように聞いてくる。

 

「確かにマスターは…エボルトは私たちを騙そうとしてるかもしれない。けど、だからって困っているエルフナインちゃんを放っておけないから」

「……………」

 

ポカンとした表情を見せながら固まるエボルトをしっかりと見据える立花響につい笑ってしまう。

 

「フハハ…ハッハッハっ!!」

「おい、コイツの言葉の何がおかしいんだよ」

「いや…なに。風鳴翼や雪音クリス…それにマリア達とは違って、風鳴翼に憧れることしか出来なかった普通の女子高生だった立花が誰よりも正義のヒーローをしていてついな。 オマエさんは俺がよく知っている奴に似ている」

「いやいやいや、なんでエボルトに正義のヒーローの知り合いなんかいるんデスか」

「そりゃあ、俺はそいつに一度倒されたからな」

「倒された…ですって?」

「あぁ、もっと言えば俺が今よりも更に力を取り戻した全盛期の状態でだな」

 

倒されたはずのエボルトが何故?という感想よりも先に、『倒された』それが彼女達にとって何よりも重要だった。 未だ歯が立たないエボルトも無敵ではないと改めて分かったのだから。

 

「っと、そろそろ店を開く時間だな。 んじゃ俺をとっ捕まえたいんならnascitaにでも来るんだな。 Ciao」

 

我が物顔で会議室から出ていく姿を見送るしか出来ない自分に苛立ちながらも風鳴弦十郎は司令として装者達に指示を飛ばした。

 

「現時点を持ってシンフォギアの改修を行う。 しかし敵の出方もわからん以上、3度に分けて改修をしてもらう。エルフナインくんには負担をかけると思うが我々に協力してくれ」

「「「「はい!!」」」」

 

誰かを救うために少女達は戦う。




「次回予告界の平和を守るマジカルミラクル魔法少女セレナは新たな仲間のナルシストとバカと共に旅に出た。……何故私は普通に台本を読んでるんだ」
「おい、フィーネ筋肉をつけろよ!」
「俺はナルシストじゃなくて天才物理学者って呼んで欲しいんだけれど」
「えぇい、煩い! なんで貴様らはそうも自由なんだ…」
「友達出来て良かったねフィーネちゃん」
「勘弁してくれ…」


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