もう1人の異世界転移者 (ガタオガタ)
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原住民と接触

「見捨てる。助ける価値も無いからな」

 

そう言ったのは、全身を人目見ただけで高価だと分かるもので包んでいる骸骨であった。その名はモモンガ。またの名を鈴木悟。本来、唯のゲームキャラクターの1つであったその姿は今現在、現実の肉体として存在している。何故、ゲーム内のキャラクター出会ったモモンガが、横に控えている執事と会話が出来ているのか、それは100年ほど昔に流行った所謂異世界転生という物だった。現在分かっている事はモモンガが所属し、長を務めているギルド、『アインズ・ウール・ゴウン』のメンバーである41が作成して全てのNPC達が自我を持ち、ゲームでは表す事の出来ない声、表情などを表現していること。プログラムでしかなかったNPC達は魂を持っていること。ゲーム内では存在したコンソール等が消滅し、自身のHP、MP等は自分自身の内側に意識を向けると確認出来ること。更に魔法などの技術も問題無く使用可能─モモンガは魔法詠唱者(マジック・キャスター)である─ということである。そしてこの世界は、モモンガがログインしていたゲーム、『ユグドラシル』とは全く違う世界ということである。何故、この世界が『ユグドラシル』では無いと判断したのかは、この横に控えている執事、セバス・チャンがナザリック地下大墳墓周辺を探索した際、本来では毒沼に囲まれている場所が草原へと変わっていたためである。

 

「畏まりました」

 

モモンガを向きながら、セバスは返答した。

 

そのセバスの表情をみたモモンガには、セバスの製作者であるたっち・みーを、セバスの背後に感じた。そして思い出す、かつて弱きものだった自分を救ってくれたたっち・みーが使った言葉

 

「困ってる人がいたら助けるのは当たり前」

 

そう思わず呟いたモモンガは、現在行っていた遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)─街や村など、鏡を通して遠くの情景を眺めるマジック・アイテム─に映っていた、騎士達に襲われている村の救出に向かう事を決意した。それに、この世界での戦闘力の検証も必要だろう。この行動は自身にとって、多大な利益をもたらすことも、モモンガによる村人の救出に大きく貢献した。

 

「これよりこの村の救出に向かう。アルベドに完全武装でこちらに昔様に伝えろ」

 

「はっ」

 

指示すべきことをしたモモンガは、右手を掲げ、魔法を発動した。

 

転移門《ゲート》

 

黒い闇の空間が魔法の発動に合わせて出現した。その闇は蠢いており、何もかにもが吸いこまれそうな深い色をしていた。その闇へ向かって躊躇い無く進むモモンガ。その闇を超えた先に広がっていたのは、先程まで遠隔視の鏡で見ていた、騎士に剣を振り被られている2人の幼い姉妹のいる場所だった。闇から出現した骸骨であるモモンガに、今にも襲いかかろうとしていた騎士は掲げていた剣を下ろし、ほかの騎士達も突如闇から出現したモモンガに対して、理解できないと、怪訝な表情をしている。そして襲われていた2人の姉妹は騎士達に向ける恐怖ではなく、モモンガに対して恐怖を向けていた。この場にいる全ての人間から視線を向けられながら、モモンガは1人の騎士に手を向けた。

 

心臓掌握(グラスプ・ハート)

 

掲げた手に現れる心臓と思われる物。それはモモンガはのんの躊躇いもなく握りつぶした。手を向けられていた騎士は、突如糸の切れたあやつり人形の様に膝なら崩れ落ちる。先程モモンガの手に出現していた心臓は、崩れ落ちた騎士の心臓だというのは、火を見るより明らかだろう。

モモンガは内心ほっとしていた。自身の得意とする第九位階魔法が効かなければ、逃げるしかないと思っていたのだが、なんの問題も無かった。

ただ、この魔法は即死魔法であり。モモンガは常時発動型特殊技術(パッシブスキル)により、即死確率上昇や先程の魔法のような死霊魔法強化の後押しを受けている。その為先の魔法では騎士達が素の状態でどれ程の強さなのかを計ることが出来ない。

そして次にモモンガが唱えたのは先の魔法よりも威力を格段に落とした魔法である第五位階魔法である龍 雷(ドラゴン・ライトニング)である。龍の如くのたうつ白き雷撃がモモンガの右手に現れる。その後、また別の騎士へと指を指した直後に、モモンガの右手で唸っていた雷撃は、騎士めがけて駆けていく。

逃げれるはずもないが、逃走しようとしていた騎士へと雷撃が直撃したその時、またしても白き輝きを放っていた。ただでさえ恐ろしい程の電力をもった龍が、金属の鎧で身を纏っていた騎士へと襲いかかったのだ。普通の人間ならば即死であろう。しかし、モモンガとしてはこの程度で死ぬとは思ってはいなかった。それでも、モモンガの期待を大きく裏切り、騎士は黒い煙を上げながら地面へと倒れていった。

 

「弱い……こんなに簡単に死ぬとは……」

 

敢えて威力を落としていたとはいえ、モモンガからすればこの五位階魔法とは弱すぎる魔法だ。ユグドラシルプレイヤーで、尚且つ一00レベルの者達からすれば、適正魔法は大抵が八位階魔法以上─魔法は第一位階から第十位階間であり、さらにはその上位に超位魔法が存在する─である。結論。この騎士達は、モモンガが警戒する程の力など有していなかった。

その事実にモモンガの中から緊張感が薄れていく感覚があった。確かにこの騎士達は驚くほどに弱かった。だからといって、この村を襲っている騎士全てが弱いと言う訳ではない。油断して敗北したなど、笑いものである。しかもこの世界で死に、蘇生魔法やアイテムがしっかりと機能するという保証は何処にもない。よって、モモンガは再度警戒心を高めつつも、魔法の他にも特殊技術(スキル)を試してみることにした。

 

 

中位アンデット作成─死の騎士(デス・ナイト)

 

 

特殊技術を発動すると、黒い靄のようなものが、騎士の死体から溢れだす。それは徐々に騎士の体を覆っていき、覆い尽くすと姿を変えていく。体長は2mを超え、右手にはフランベルジェ、左手には体の4分の3はある盾、タワーシールドを持っている。そして全身を覆っているのはくろいよろい。さらにその鎧は、血管でも通っているのか、赤黒い線が全身に広がっており、棘も無数に生えている。これだけでも異常な変化だが、最も注目すべきはその顔だろう。頭には悪魔の角を模したものを生やした兜を頭、顔の部分は何も覆ってはいない。その為、その異常な顔は剥き出しだ。肉はただれ落ち、肌の色は死者のそれだ。その名に相応しい、騎士のアンデットである。これはモモンガのお気に入りのアンデットでもある。レベルは40レベル程で、攻撃力はは低いが、防御力はピカイチ。余程の事が起きなければこの村で倒される事はない。ただ、モモンガは驚いていた。というか引いていた。ユグドラシルでは召喚スキルを発動させた時、その場に召喚モンスターは出現する。その為、先のように死体に乗り移ったりしない。そもそもユグドラシルに死体という概念は無い。全てがデータである為、HPが尽きればその場で消滅する。運が良ければドロップアイテムを残して。

この世界では死体があれば、その死体を媒介として召喚スキルが発動されるようだ。モモンガも村の姉妹もドン引きはしていたものの、モモンガはこの世界とユグドラシルの違いを発見した事には満足していた。

 

「デス・ナイトよ、この村を襲っている、そこの死体と同じ鎧を着た者達を殺せ」

 

モモンガは早速、デス・ナイトへと命令を下した。命令を受けた死の騎士は了解したとばかりに咆哮を上げ、守るべき対象である姉妹を置き去りに、村へと走り去っていった。

 

「え〜。守るべき対象の元を去ってどうするよ……そう命令したのは俺だけどさ」

 

またしてもユグドラシルとの違いを見せつけられたモモンガは力なく呟く。しかし、過ぎたものはしょうがない。タイミングよく完全武装であるアルベドも現れ、流石に姉妹を殺そうとした事には焦ったが、お陰で姉妹の姉が傷を負っている事を思い出したモモンガは姉へと語りかける。

 

「傷を負っている様だな。これを飲め」

 

モモンガはそう言い、懐から赤い液体の入ったガラス瓶を取り出す。ガラス瓶は一目見ただけで高価なものであると分かるほどの装飾が施されていた。この赤い液体の正体はポーションであり、HP、体力を回復することが出来る物だ。

 

 

 

─────────────

 

村人であり、騎士から襲われ、その背中を妹を守る為に騎士から傷を負わされていた姉、エンリ・エモットは今、さらなる窮地へと立たされていた。目の前にいるのは豪華なローブに身を包み、黄金の杖を携えている骸骨である。自分を襲っていた騎士達は呆気なくこのが骸骨、アンデットにより殺された。騎士達が襲われている時、微かな希望を感じた。確かにこの骸骨はアンデットではある、けれども、自分達は助かるのでは無いかと思っていたのだ。だが、その希望も今はない。何故ならこのアンデットは、自分へと血が入ったガラス瓶を差し出し、血を飲めと言っているのだ。覚悟を決めなければならないだろう。自分が飲まなければ、妹が飲まされるかもしれない。どれくらいの時間が経ったのだろう。それ程経っていないのかもしれない。それでも決心はついた。にもかかわらず

 

「か、下等生物がぁぁぁああ」

 

怒り狂う女騎士。そこから溢れ出した殺気を、ただの村人であるエモット姉妹に受け止めろというのはあまりに酷なことだろう。しかし、またもやエンリを救った─救ったのかは疑問だが─のは骸骨のアンデットだった。

 

「や、やめろ!アルベド!なにか勘違いしているようだが、これはポーションだ。飲めば背中の傷も治るだろう」

 

ポーションと言われたからには飲まない訳にはいかない。静かに、けれどもしっかりとポーションを受け取ったエンリは、蓋を開け、一思いに飲み干す。

アンデットとからすれば当然の結果なのか、ウンウンと頷くアンデット。しかし、ただの村人であるエンリからすれば信じれない程の現象。思わず呟いてしまう。

 

「う、嘘……」

 

アンデットはどうやら会話をするつもりらしい。その恐ろしい口から発している声は人間に近い声であり、幾らか緊張感も減っていく。

 

 

「痛みは無くなったな?」

 

「は、はい」

 

続けて質問を重ねるアンデット。

 

「お前達は魔法というものを知っているか?」

 

「え?」

 

「魔法を使う存在を知っているか、と聞いているのだ」

 

「使っているところを、み、見た事はありません……」

 

「ふむ」

 

最後にそう言うと、アンデットは顎へと手を添えて、思案している。しかし、それも極わずかな時間だ。直ぐにアンデットは次の質問をして来た。

 

「使っているところを見た事は無い、と言ったな?」

 

「は、はい」

 

緊張から上手く言葉を紡ぐ事が出来ないエンリ。

しかし、この場にそれを咎める存在もいなかった。

 

「魔法という存在はあるということだな?それに、知り合いに魔法使いがいるな?」

 

先程の会話の中から知り合いの魔法使いの事まで辿り着かれていた。

その事実に驚愕しながらも、エンリはしっかりとした口調へと直し、答える。

 

「は、はい。私の知り合いに魔法を使える人がいます」

 

「ふむ、ならば話は早い。私は魔法使いだ」

 

アンデットはそう言うと、魔法を唱え始めた。

 

 

 

 

─────────────

 

先程助けた姉妹から何故か怯えられて、疑問を感じていたが、無事にポーションを飲んでくれた事には安堵していた。

それに、魔法の存在がこの世界にもあるという事実は大きな収穫だ。

もし、魔法が存在しない世界ならば、自分たちナザリックの住人は、この世界では完全なる異端者となる。簡単には魔法を使う事が出来なくなるからだ。

ひとまずモモンガは、姉妹へと防御魔法を展開する事にした。

 

生命拒否の繭(アンティライフ・コクーン)

 

|矢守りの障壁《ウォール・オブ・プロテクションフロムアローズ》

 

姉妹の周りから半透明の蜘蛛の糸の様なものが現れ、半径2m程のドームを作り出す。続けて唱えた魔法では、目に見える変化は無いが、明らかに風の動きが変わった。本来ならここにもうひとつ、魔法から守る魔法を唱えるべきだろう。しかし、この世界の魔法がユグドラシルと同じ魔法とは限らない。もし違った場合はMPの無駄遣いということだ。もし仮に魔法で攻撃されたのなら、運がなかったと言うことだ。

 

「生命を通さない守りの魔法と、矢を防ぐ魔法だ。ガス類の攻撃や魔法が使われない限りは大丈夫だろう。」

 

それと、と続けモモンガは懐へと手を入れ、あるアイテムを姉妹へと投げ捨てる。投げ捨てられたアイテムは、角笛のような物だ。

 

「もしその身に危機が訪れたら、その角笛を吹くがよい。そのアイテムはゴブリンというモンスターを召喚し、使役するものだ」

 

そう告げると、モモンガは村へと足を進める。

そこに、姉の方から声がかかる。

 

「あ、あの……お名前はなんとおっしゃるんですか……?」

 

モモンガは直ぐに自分のプレイヤーネームを告げようとし、やめる。

モモンガというプレイヤーネームは、ギルド長としての名前だ。

では、今の自分の名前は?ナザリックの主人である自分の名前は……

 

モモンガは思う。

 

あの誇りある名前をたった1人が独占することを皆はどう思うだろうか。喜ぶだろうか。それとも眉を顰めるだろうか。

 ならばここまで来て、言って欲しい。その名前はお前1人の名では無いと。そのときは快くモモンガに戻ろう。

 それまではこの名において最高峰の存在を維持してみせる。スカスカになった遺物ならば、中身を詰めて再び伝説とする。

 この世界においても俺達のギルドを伝説のものとする。

 

「我が名を知るがいい……そう、我こそが、アインズ・ウール・ゴウンだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────────────────

 

そこでは狩る側と狩られる側が逆転していた。

 

「オオオォォアアアアアア!!!!」

 

ビリビリと大気が震える。

それを発した存在、デス・ナイトは一歩前進する。

 

それに合わせて向かい合っていた騎士達は一歩後退する。誰もが恐怖で震えている。周りからは震えで鎧の音がなっている。その音の発信源は1つではない。周りを囲む、18名全ての騎士からだ。

その後はお約束の蹂躙である。

 

どれだけの時間が経ったのだろうか。

18名もいた騎士達は半分にまで減っていた。

勿論ただただ殺されていた訳ではない。抵抗もした。反撃した。逃げようともした。それでも負けた。蹂躙された。圧倒的な力の前では、人間では抵抗できない事を思い知らされたのだ。

 

ロンデス・ディ・グランプは、絶望を見た。信仰している神には一生分の罵倒を浴びせた気がする。蹂躙は続き、騎士達は啜り泣き始めた。

 

「神よ……お助け下さい」

「ああ、神よ……」

 

もはや神に祈るしかない。

先程まで自分達のしていた行いを忘れて、死の恐怖に怯える。

それは勿論、ロンデスも例外ではない。

泣いているか泣いていないかの違いしかないのだ。

 

 

 

ロンデスの、その後の記憶は自分の体を見ている後継だった。

デス・ナイトに首を切り落とされ、死んだ。

ロンデス達騎士達が嫌っていた隊長とは名ばかりのカスも、滅多刺しにより死んだ。ロンデスはデス・ナイトに適わないと分かりながらも挑んだのは、連絡を取りあうための笛を鳴らす時間を稼ぐためだ。

ロンデスはしっかりと自分の務めを果たし、死んだ。

 

もし、ロンデスがほかの騎士へとその役目を押し付けていたら、生き残っていたかもしれない。なぜなら……

 

«ホーリー»

 

デス・ナイトに天から光が降り注ぐ。

それは余りにも神々しい光であった。

まだ無様にも生き残っていた騎士達の思考は同じだった。

─神からの救済だと─

 

それはこの場では正解と言えただろう。

しかし、将来的に見れば、神罰と捉える方が正しかった。

騎士達が気付けるはずもないのだが。

 

 

 

 

───────────────

 

村の方から聞こえた笛の音に、モモンガ─アインズは、顔を上げた。

 

村の騎士達の掃討をデス・ナイトへと任せたアインズは、他の騎士達で実験をしていた。

己の体に刺さったけんを抜き、投げ捨てる。

ユグドラシルでのスキルやパッシブスキルが問題なく発動していることも、わかった。まぁ多少変化している事もあるようだが、それは追々検証すればいいだろう。

 

アイテム・ボックスへと手を伸ばし、仮面とガントレットを取り出す。

それを即座に装備する。

今のアインズは肌を晒している部分が無い。

全ての装備で完全に肌を─骨しかないが─覆い隠すしているのだ。

自分の姿を確認していると、デス・ナイトとのリンクが途切れるの─召喚したモンスターとは見えない回路が通っている─を感じた。

 

「デス・ナイトが死んだ?」

 

元々アンデットである為、生きていると言うのが正しいのか怪しいが、先の騎士達のようなLvの敵にデス・ナイトが負ける道理がない。

ならばどういうことか。デス・ナイトを倒せるほどの騎士がいたのか、それとも、プレイヤーがいたのか。

アインズはすぐ様アルベドと自分に魔法─飛行(フライ)─を唱え、デス・ナイトが暴れていた広場へと向かった。

 

 

 

─────────────

 

 

アインズは目を疑った。

そこにいたのは黒い二対の翼を背に持ち、頭上には黒い天使の輪が浮かんでおり、肌は恐ろしい程に白い。顔は非常に整ってはいるが、若干目の鋭さが気になる程度だ。

見るからに天使、いや、堕天使だ。何故このような存在がこの場にいるのか。ユグドラシルにはこのような堕天使は存在しない。しかし、それはモンスターとしての場合はだ。なら、まさか、プレイヤー?

他にと色々と候補はあったはずだ。それでも転移してこんなにも直ぐに、プレイヤーらしき存在を見つけたアインズは、少し冷静では無かった。それも、精神を抑制されることのない、弱度の興奮状態だ。

 

「あの騎士の使役者はお前か?」

 

堕天使はアインズへと視線を向けながら問う。

 

「如何にも。あれは私がスキルで生み出したデス・ナイトだ」

 

アインズは相手に警戒心も持たせる意味も含めて、力強く肯定する。

デス・ナイトを生み出せる、要するにスキル、中位アンデット作成を使えると警告すると同義。カンストプレイヤーからすれば足留めにしか使えないだろう。それでも足留めさえ出来れば逃げ帰るのには十分の時間が稼げる。

アインズは会話を展開しようと思った。しかし、堕天使の反応はあまりにも予想に反した反応だった。

 

「デス・ナイト?何だそれは」

 

ユグドラシルプレイヤーならデス・ナイトぐらい知っているだろう。にも関わらず、知らないと反応する。とりあえずこちらも相手の情報を探らなければならない。

 

「そんな事よりも、その騎士達をどうにかするのが先じゃないかね?それと、殺すぐらいならそいつ等は返しやってくれないかね?そいつらのじょう、飼い主に私達の事を伝えて貰わねば困るんだよ」

 

堕天使の周辺に転がっている騎士達を指さし言う。

騎士達は涙を浮かべながら、壊れていた。

 

「ふん。いいだろう」

 

意外にもあっさりと堕天使は騎士達を解放した。

しかし、騎士達の中には下半身を壊され、動けない者もいた。

アインズは動けるものだけ返してやればいいと思っていて、当然堕天使も動けない者は殺すか情報を抜き取るのに使うと思っていた。

その為、堕天使の行動には唖然とした。

 

「«フルケア»」

 

動けなかった騎士達は全員漏れなく、回復していた。

堕天使から魔力の力は感じだ。魔法を使ったというのは分かる。

しかし、なんだあの魔法は!聞いたこともない見たことも無い発動の仕方だった。

アインズの中で、堕天使に対する警戒Lvが何段階も上がる。

チラリと、横を見てみれば、どうやらアルベドも未知の存在に警戒しているらしい。ハルバードを何時でも扱えるように姿勢が戦闘態勢だ。

 

 

騎士達は一目散に逃げていく。

救いへの神へのお礼も無しに逃げていく。

所詮その場しのぎの信仰なんだ。無理もないだろう。

 

今この場にいるのは、アインズ、アルベド、謎の堕天使、そして処刑されるはずだった村人達だ。

この広場には、不穏な空気が流れていた。

堕天使とアインズの圧力の掛け合い。

どちらも無言で争っていた。

 

 

村人の村長らしき人物が2人へ問いかける。

この空気の中で行動できた村長は、ある意味人間を止めているかもしれない。

 

「あ、あの、貴方様達は?」

 

先に答えはのはアインズだ。

 

「この村が襲われているのを発見してね。助けに来たものだ」

 

「おお!」

 

村人からはざわめきが。しかし、まだ懐疑的な雰囲気もある。

それがなんなのか理解したアインズは続けて言う。

 

「とは言っても、勿論ただという訳では無い。生き残った村人に掛けただけの金貰いたいのだが?」

 

村人からはホッとした空気が溢れ出す、しかしそれも僅かな時間だ。

払える報酬が無いことを理解している村長はアインズへと無理だと告げた。それに対するアインズの答えは後で話し合おうだ。どうやら助けた姉妹─村長は直ぐにエンリとネムだと分かった─を連れてくるらしい。

アインズは村長へと顔を近づけ、お願いをした。

 

「あの堕天使を会話をして、つなぎ止めてくれないか?そこの女騎士は置いていく。もし何かあれば頼るがいい」

 

「わ、わかりました」

 

アインズは«伝言»は発動するとアルベドとリンクを繋げた。

 

(アルベド。私はあの姉妹を連れてくる。お前はこの村の者達をあの堕天使から守っていてくれ)

 

(アインズ様!この村にそこまでする価値があるのですか?)

 

(ある。この村はこの世界で初めて友好的に関係を結べるかも知れない場所なのだ。丁寧に扱え。それにあの堕天使からは色々と話を聞かなければなるまい)

 

(……かしこまりました)

 

アインズは即座に«伝言»を切る。

そしてアインズは村の外へと向かっていった。

 

村長に拒否するという選択肢は無い。

自分達も堕天使の正体は気になるのだ。

 

 

 

──────────────

 

村長が堕天使へと問いかける。

 

「あ、貴方様もこの村をお救い下さるのですか?」

 

少しの希望を持って言った言葉だ。

まぁ堕天使からの返答には絶望したが。

 

「違う」

 

とても短い返事だった。

それでも明確な拒否である。

またこの村が襲われるのかも知れない。そんな恐怖を抑えながらも村長は堕天使へと問いかけるしかない。

 

「で、ではどのような目的でしょうか?」

 

「お前達はゲートというものを知っているか?私はそれを探している」

 

堕天使からの返答は探し物らしい。

この村ぎ目的ではないと分かった村長はホッとしていた。

村長の横にいた女騎士が堕天使に問いかけた。

自分としてはもう聞くことが無かった村長は少し驚く。

 

「そのゲートとはどういうものかしら?まさか魔法の事では無いのでしょう?」

 

女騎士の質問にも堕天使はしっかりと答えている。

意外と律儀な堕天使なのだろうか?

 

「当たり前だ。ゲートとは転移門だ。勿論、ただの転移門では無い。モンスター、召喚獣と呼ばれる者が際限なく溢れ出す兵器だ。元々はこの世界には存在しなかったもので、どれ程の数がこの世界へと流れ込んだかも分からない。でもこの秘宝が反応している事から、この世界にゲートが存在している事だけは確かだ」

 

堕天使の懐から緑色の薄く輝く宝石を取り出した。綺麗な菱形で、角にあたる部分は丸みを帯びていた。

 

堕天使の返答にはさすがのアルベドも驚愕するしかない。

ゲートという名前ならばユグドラシルにも存在する。

正しく転移門であり、展開した場所に即座に移動出来るどこでもドアだ。

しかし、堕天使が言ったゲートとは、ユグドラシルには存在しない物であり、更にはこの世界には存在しなかったものであると言う。それは、自分達似ているのでは無いだろうか。自分だけでは判断出来ず、アルベドはアインズへと報告することに決めた。

 

黙りこくってしまったアルベド達を見て、堕天使はガッカリする。

ここもハズレっと。

 

する事も無くなり、ゲートも知らないというので堕天使は帰ろうとした。

しかし、運がいいのか悪いのか、先程の変な悔し泣きしたような仮面を被った男が帰ってきた。

そのタイミングで女騎士はさらに問う。

 

「貴方の探し物は分かったわ。それで貴方の名前は?」

 

先程までの空気はなんだったのだと問いたくなるほど、普通の質問だった。先程も思ったが、とても心地よい声だ。

 

ここはカッコつけて答えてやる。

 

「俺の名は……いろはすだ!」

 

 

 

ローブの男から伝わってきた残念な空気は、とても印象にのこりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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堕天使いろはす登場!



今回、話はあまり進みません。
でも、いろはすの事は多少詳しく知る事が出来ると思います。


 

「だーかーら!俺はその召喚門(ゲート)をこの世界で探してだして、塞がないと行けないの!ゲートの数に合わせてこの魔石、聖石っていうんだけど、それもこの世界に放り出されてるの!この聖石があればゲートを支配して、召喚獣を呼び出せるんだよ!」

 

「さっきもその話は聞いたが、それを信じれる証拠が無いじゃないか。その聖石なるものが本物というならこちらに調べさせろって言ってるだろう?」

 

「お前がそれ奪っていったら俺の聖石がなくなるだろう!そんでお前がゲート見つけて支配されたら困るんだよ!」

 

「大体なんでお前はそんな事知ってるんだ?」

 

「神からのお告げだよ!」

 

「はぁ馬鹿馬鹿しい。信じるに値しないな。アルベド。この堕天使を拘束しおけ」

 

「はっ!」

 

いろはすとローブの男、アインズ・ウール・ゴウンはさっきから調子で言い合いをしている。いろはすからしてみれば、このアインズ・ウール・ゴウンなる男こそ怪しいのだが、向こうからすればこちらが怪しいらしい。馬鹿を見るような目でこちらを見てくる。仮面被ってくるから分からないけどそんな気がする。

 

そんなアインズ・ウール・ゴウン─アインズの命令を受けて全身を黒い鎧に身を包み、手には黒いハルバードを持った女騎士がいろはすを拘束しようと近づく。

勿論いろはすは拘束されるつもりはない。

というか早く信じてもらわねばならないのだ。

この世界にどれだけの強者がいるのかは不明だが、この周辺ではまず間違いなく最強の存在。自分と同じほどの力を感じる男と、女騎士。

いろはすは女騎士から距離を取るべく、その場で後ろへと跳ぶ。

普通の生物なら不可能なほどの速度と距離を跳んだ。女騎士はそれに対しても微動だにしないが、アインズは驚いているようだ。僅かに動いたのでもしかしたら迎撃態勢に入ったのかもしれない。

女騎士は少し前に屈むと、恐ろしい程の速さでいろはすに接近する。ハルバードを突き出し、拘束しろという命令に従っているようには思えないほど殺気立っている。勿論いろはすもただ突っ立っている訳では無い。どのような技術かは、周りの人間達からは不明だが、何も持っていなかった右手には白い槍が出現し、アルベドのハルバードの直線上に構えて防御の姿勢を取っている。

アインズは鼻で笑った。

確かにデス・ナイトを倒すことが出来るのならば、そこそこの力はあるのだろう。しかし、アルベドの攻撃を防げるとはお前ない。アルベドは10LvNPCに相応しい力を持ち、更にはアインズとは違い、純粋な戦士職だ。確かに防御に特化した形ではあるが、同じLv程の力が無ければ、アルベドの攻撃を防ぐことはできないだろう。これにあのハルバードも神器級(ゴッズ)装備だ。

アインズは勝ちを確信した。アインズにしては珍しい程の短絡的な考えかもしれない。しかし、神のお告げなど変な事を言う堕天使なのだ。余程頭が残念なのだろう。

しかし、アインズの確信は外れた。

堕天使の構えた槍がアルベドのハルバードを防いだのである。

驚愕だ。

思わずアインズは魔法を唱えようと構える。

しかしまたしても驚愕するべき出来事が起きた。

人外の生物達が現れたのだ。

リザードマンの様な連中に、うさ耳を持ったダークエルフ?、それに如何にも兎な生物達に、あれは人間だろうか?アルベドに勝るとも劣らない美貌を持っている。更には皆完全に武装しているのだ。驚愕しない方がおかしいだろう。

 

 

 

 

「船長!大丈夫ですか!?」

 

「大丈夫だが、なんで降りてきた!待機だと言ったろ!」

 

「船長が攻撃されてるのに見て見ぬふりしろって言うんですか!そんな事は俺達にはできません!」

 

「ああーもう!仕方ない!いいか!こいつらとは話をしないといけないんだ!場合によっては協力関係を築かなければならない!絶対こちらから、攻撃は仕掛けるなよ!」

 

降りてたきたモンスター達は、どうやら堕天使の仲間らしい。

この雰囲気をアインズは知っていた。

そう、自分と、アルベ達はNPCとの雰囲気に似ているのだ。

絶対的忠誠を誓うNPCと似通った部分を、アインズは敵のモンスター達の中に見た。

 

周辺にいて成り行きも見守っていた村人達は震えるしかない。

騎士達に村を襲われ、村人の半数程は殺されただろうか。

死んだ村人たちの葬儀も終え、アインズ・ウール・ゴウン─ゴウン様はあの堕天使と話をすると言って村の広場へと向かった。

そのゴウン様が。

それ程の悲劇から救ってくれたゴウン様達が、人外なモンスター達と敵対しているのだ。数の理はあちら側が上。

でも、ゴウン様ならと、村人達は、アインズに縋るように、自分達の救世主を応援する。

 

村の広場は熱気に包まれていた。

いや、殺気なのかもしれない。

どれ程向かい合っていたのか、村人達には、分からない。

ゴウン様達と、堕天達はのさっきに当てられ、満足に思考することが出来ないのだ。

しかし、その殺気も突如霧散する。

堕天使達が武器を下ろしたのだ。

 

「アインズ・ウール・ゴウン。話を聞いてくれ。俺達はお前達を敵対するつもりは無いんだ。確かに俺の言っていることは知らないと意味が分からないだろう。でも、全て事実なんだ。この世界にゲートが現れた事も、それが悪用される可能性がある事も。俺達は協力関係を結びたい。勿論そちらの要求もできる限り飲むつもりだ。だから話を聞いてくれ」

 

懇願に近い願いを聞いた。

アインズは堕天使の言っていることが本当など理解した。

これ程までに真剣に頼まれては信じる他ないだろう。

アルベドもどうやらその結論に至ったらしく。ハルバードを下ろしていた。

 

「アルベド。先の命令は無しだ。私はこの者達と話をする。お前もこい」

 

「はっ!」

 

心地よい返事を返すアルベドに満足げに頷く。

堕天使もほっとしたように息を吐いていた。

 

さぁこれから先程よりも詳しく話を聞こうではないか。

 

そう思った矢先に、村の周辺に警戒態勢を引いていた村人が声を上げながら戻ってくる。

出鼻をくじかれたアインズは少しだけイラッとしたが、すぐに収まった。抑圧された訳では無い。その程度の怒りという事だ。

 

「そ、村長!き、騎士風の者達がこちらに向かってきます!」

 

村人はそう村長に報告する。

その声はとても大きく、そこまで声を張る必要があるのかと思ったが、すぐにその理由に思い当たる。

その考えが間違えではないと、村長がこちらに視線を向けてくるので確信した。要するに、助けて欲しいのだ。

 

「分かりました。村人の皆さんは村長の家へ。村長は私とご同行お願いします」

 

「俺達は?」

 

その声にまたもやイラッとする。声の主は堕天使だ。あ、名前はいろはすと言うらしい。その名前を聞いた時は何処かで聞いた事のある響きだと思った。

 

「知らん。その辺にでも隠れてろ」

 

「OK」

 

堕天使─いろはすはそう言うと、空へと飛び立った。そして扉の開く音がしたと思うと、空中で消えた。

いろはすの部下達だと思われる者達も、飛び上がり、いろはすと同様に、空中で消えた。

アインズはその出来事に驚愕するが、一先ず目先の問題片ずける事にした。

 

「では、行きましょうか。村長」

 

 

 

 

 

 

───────────────────

 

 

 

 

D M M O R P G<Dive Massively Multiplayer Online Role Playing Game>『ユグドラシル<Yggdrasil>』。

 2126年に日本のメーカーが満を持して発売した体感型MMOだ。

 

数多くのDMMORPGが存在するなか、ユグドラシルの凄い所は膨大データだ。そして自由度。

ユグドラシルではプレイヤーが扱うキャラクターは420種類も存在する。

そんなユグドラシルと、唯一コラボを果たしたゲームが存在した。その名もFINAL FANTASY WORLD(ファイナル ファンタジー ワールド)。百年程前に流行したRPGのシリーズだが、ある制作会社が現代でDMMORPGとして開発を果たした。

そんなゲームが何故、ユグドラシルとコラボを果たす事が出来たのか。それはこのFINAL FANTASY WORLD─FFWがユグドラシルに似せて作られていたからだ。本来、FFシリーズといえば、人間─ヒュム族とも言う─をプレイヤーが操り、ストーリーに沿って物語を進めていくゲームだ。しかし、このFFWの制作会社は、ユグドラシルの人気に焚き付けられユグドラシルの自由度を組み込んだ。プレイヤーが操るのは人間だけでは無く、魔物でもプレイする事が出来るのだ。それはFFシリーズの良さを殺す所業でもあった。まぁ、百年も前のゲームを知っている方が珍しい。その為、このゲームはあっさりと受け入れられた。流石にユグドラシル程の所属は存在しなかったが、それでも200種類もあれば十分だろう。

ユグドラシルではプレイヤー達は、一からマッピング等をしなければいけなかった。まぁそこが売りでもあるのだが。

そんなユグドラシルに対してFFWは、条件さえ揃えばマップを入手する事も可能だ。そしてそのマップは当然、売りに出せば高額で売れた。

FFWでは、人種VS魔族というコンセプトで作られている。更に、自分の選択した種類の上位種下種類への攻撃は無効とされている。そして人種を選択した場合は人種の領土、魔族を選択した場合は魔族の領土かけゲームが始まり、数多の区間が設けられ、お互いに領土の奪い合いするゲームとして作られた。

しかし、人種はとても数が少ない。その為、本来魔族へと分類される者達も、従来のFFシリーズに従い、人種と共存していた魔族は人種サイドという区分とした。

百年のFFシリーズの亜種として、FF12 レヴァナントウィングというゲームが発売された。登場キャラクターはFF12のキャラクターだか、オリジナルキャラクターも存在し、新要素として召喚門(ゲート)─正方形の板で、菱形の模様が多数描かれている─という物が組み込まれた。

このゲートとは、魔石も通じて召喚門から召喚獣と呼ばれる魔族を召喚し、使役するものだ。このゲートは敵味方をはっきりと区別する為に色分けがされていた。本来の色を宿した魔族が味方であり、通常より濃い色合いの魔族が敵となる。更にはゲートにも主人公サイドが支配しているのならば青色で、反対に敵が支配しているゲートは赤色だ。

このゲートの要素さえも、FFWに組み込まれていた。というより、このゲートに関しては陣取り合戦である領土支配の際の旗印であり、区分事に四つ存在するゲートを支配してしまえば、その領土は支配した事になるのだ。

ゲートを支配する際の魔石は、プレイヤー全員に配られる……かというとそうではない。魔石はクラン、またはギルドの長が運営から配布される。さらにこの魔石を奪う、又は破壊する事が出来たのならば、そのクラン及びギルドは崩壊する。崩壊したギルド等に所属していた者達は、ペナルティとして-5Lvを位、その後討伐したモンスター百体までは経験値は、ゼロとなる。一見するとかなり重いペナルティに感じるだろう。まぁ確かに重いのだが、これはFFWの仕様が原因である。FFWはユグドラシルと比べると比較的Lvが上がりやすい。そしてユグドラシルに対してLvは99LvがMAXである。

 

そんなFFWであるが、プレイをしていたユーザー達はFFシリーズを知っているコアな存在か、他のゲームに飽きた者達が多かった。

そして、莫大な量の制作費を掛けて作ったにも関わらず、その人気はあまり伸びなかった。その為、FFWを作る際に参考─真似したゲーム、ユグドラシルがサービス終了の日にこのFFWもサービス終了となったのだ。

 

 

 

──────────────────

 

 

 

「今日で終わりかー」

 

そう呟いたのは、1人の堕天使だ。

今日はFFWのサービス終了日。

ユグドラシルのパクリとまで言われたゲームではあるが、この堕天使、いろはすとしてもとても楽しませて貰ったゲームだ。

寂しいなぉと、暗くなる気持ちを無理矢理払って、歩き出す。

 

現在いろはすがいるのは、いろはすが所持している飛行船だ。

そこそこの大きさで、その全長はちょっとした村ほどはある。

いろはすを歩きながら船内も見渡す。

鍛冶屋、食堂、操縦室、広場、防具武器屋、数多くの店を見渡す。

全部一人で作り上げたものだ。

数多くのギルドが存在するなか、いろはすはソロプレイヤーとして活動していた。このゲームの醍醐味である大規模な陣取り合戦にも数えるほどしか参加していない。いろはすがこのゲームでしていた事とは、この飛行船を作り上げる事。ただそれだけ。

いろはすは昔から空に憧れていた。

青い空、白い雲、その雲の先には星々が輝く。そんな空に憧れていた。

だからこそプレイ種族も堕天使だ。ここで天使にしなかったのは何となくだ。堕天使の方がかっこいいかなぁ程度の気持ちで決めた。空を飛べるなら何でも良かった。流石にいかにも魔族は嫌だったからしなかったが。

そんな空に憧れていたいろはすは、飛行機にも憧れていた。大きな鉄の

塊が空を飛ぶ。人類の技術を注ぎ込んだ結晶体だと思う。

だから、たとえゲームだとしても、空を飛ぶ事に憧れたいろはすは飛行船を作ったのだ。それは、このゲームでしか出来ないこと。ユグドラシルでも空は飛べるだろう。このFFWよりも自然が溢れているのだろう。でも、飛行船は作れない。ユグドラシルには数多くの魔法が存在するし、種族もFFWの倍以上存在する。でも、そこに科学技術は存在しない。妄想の世界だ。

 

 

てくてくと歩いているだけで、色々な事を思い出す。

飛行船の動力源である、飛行石も探して死にかけた事。

今も頭上で浮いている黒い天使の輪を見つけ、死にかけた事。

無駄にアイテムを買い込んで、倉庫へと預け、所持アイテムがゼロの状態でボスに挑み死にかけたこと。ちゃんと勝ったけど。

でも、あれ?俺死にかけてばっかりじゃね?その事実に悲しくなったが、それでも楽しかった。

ずっと一人でやってきたから、寂しくなってNPC作ったり、勝手に飛行船の中にゲート作ったりしたけど、楽しかった。

 

そんな風に過去を思い出していると、右手の時計からアラームがなる。

時計に目を落としてみれば、時刻は23:55。あと5分でこのゲームは終わる。視線を上げ、操縦室へと向かうことにした。

 

ここまで魔法と科学を合わせたゲームは無かっただろう。

そして、自分がこれからゲームに手を出すことも無い。

たとえただのデータだったとしても、自分はこのゲームで空を満喫した。堪能した。その事実だけで、なんの未練もなく終わりを迎えれる。

操縦室へと着いたいろはすは操縦席へと腰を下ろす。

操縦席から見える景色は、空だ。

この飛行船は離陸することが出来ない欠点があるが、常に空に浮かべる事ができた。自分が空を飛ぶことが出来る種族だからこそ、離陸出来ないという欠点を受け入れることが出来たのだ。

 

時刻は23:59。

あと一分もせずこのゲートは終わりを迎える。

約6年程の期間だったけれども、このゲームに感謝を!

そして運営、課金した金返せ。

いろはすは目を閉じ、ゲーム終了を待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────

 

「ん?」

 

おかしい。明らかに1分以上経っている。

いろはすは操縦室から外へと視線を向ける。

一面空だ。先程との違いは見受けられない。

延期になったのだろうか?そんな風に思い首を傾げる。

 

 

「ねぇねぇ!その剣どうしたの?」

 

「お前こそその盾どうしたんだよ!めちゃくちゃレアものだろ!?」

 

 

うんうん唸っていると、広場の方から声が聞こえる。

え?と思う。というか口に出した。

自分以外にこの飛行船にはプレイヤーはいない。というかいろはすの許可なく入る事はシステム上不可能だ。

会話の内容から剣と盾の話なのは分かる。けど誰が?益々謎が増すばかりだった。ただでさえゲームが終わらなくて謎なのに、今度は広場からの声とは。

そしていろはすは気づく。自分の視界にあったはずのあらゆるコマンドが無いことに。

FFWにはコンソールを開くという行為は存在しない。

プレイヤーの視界内にメニュー欄があり、そこを脳波で操作する。

しかし、そのメニュー欄が無いのだ。いろはすは焦る。え?と又もや声を出す。今までこの様なバグはなかった。というかFFWはバグ自体少なかった。色々と確かめる事が多い様だ。いろはすはそう思った。その時

 

「!?!?」

 

脳に電流が走った。

物理的なものでは無い。こう、閃きのようなあれだ。

するとどうだろう。メニュー欄が無くなった事に対する疑問が消えた。

元々こういう物だと、何故か思った。メニュー欄の開き方は、脳内で操作するだけだ。視覚的なメニュー欄など必要ない。脳で念じれば、脳内でメニュー欄が展開する。装備品、アイテム、大切なもの、使える魔法、ライセンスボード、スフィアボード、そして所持金と経験値。しかし、そこには存在したはずのログアウトの欄が消えていた。それに対しても疑問すら浮かばない。元々無かったのだと誰がが語りかけてくる。そんな幻覚に見舞われているようだった。怖い。只々そう思った。

とりあえずこの状況はまずい。そうおもったいろはすは先程話し声が聞こえた広場へと向かうことにした。今でも話し声は聞こえるが、先程の様な大声ではない。コショコショと聞こえてくる程度だ。

いろはすは心を無にする。何がいても、誰がいても直ぐに戦闘へと移れるように。先程脳内の装備欄から展開したした装備もある。

能面のような表情で、広場へと出たいろはす。

その目に映ったのは──

 

 

 

 

「あ、船長!今日のクリア戦艦の活動は無しですかい?」

 

店番兼防衛隊隊長、武器屋の店主。ノブナガ。

 

(ノブナガ!?なんで!?)

 

驚愕しているいろはすを無視して、会話は進んでいく。

 

「船長!1回くらいうちの食堂でご飯を食べるクポ。いつも船長以外にだけ作るのは嫌クポ……」

 

「なんだと!お前の仕事は飯作る事だけだろうか!仕事与えてやってるんだよこっちは!感謝せんか!」

 

そうだそうだと、広場のNPC達は捲し立てる。

いろはすの驚愕は限界点を突破した。フリーズ状態へ移行します……

冗談はさておき、いろはすは驚愕しつつも自らが作ったNPC達を眺める。

 

広場にいるNPC達は総勢12名。

全ていろはすが1人で、そう1人で作り上げたNPC達だ。

他にも召喚ゲートから召喚した魔族達もいるが、そういった魔族たちには種族名しかない。

 

立派な顎鬚を蓄え、長い口を持ち、身体の色は緑色色の人外。人種の味方として認識されているバンガ族であり、背中には黄金の剣を携えた武器屋の店主、ノブナガ。因みに防具は黒の全身鎧(フルプレート)である。

長い耳を持ち、肌は黒色であり、一見するとダークエルフのようだが、種族名はヴィエラ族である。肩からは弓を携えている。背中には矢筒を下げ、両手には赤色で、手の甲の部分から棘を生やしたガントレットを装備し、腰には左右に金色の盾をぶら下げている。防具屋の店主兼防衛隊副隊長、ジャスミン。

白い体毛覆われ、尻尾は細く長く、先端には綿毛のような毛玉があり、目は赤色。まるで兎のような見た目で、右手にはお玉を持ち、左手には皿を掲げているのは食堂管理者兼料理長兼防衛隊支援部隊隊長、モーグリ族であるレッド。ちなみに白魔法─回復や支援型の魔法─を得意としている。更に食堂のシェフはレッドを合わせて6人であり、他の者達の名前は、ピンク、グリーン、ブラック、イエロー、ブルーである。

そして今度は赤色の身体を持ち、口はノブナガと似て長く、目にはサングラスを嵌めている。耳はノブナガは長い垂れた耳なのに対し、イエヤスは短く逆立っていた。右手にはハンマーを携えているのは鍛冶長である、ノブナガと同じバンガ族のイエヤス。その周りに居るのは三名であり、その全てがバンガ族だ。その三名はイエヤスともノブナガとも違い、身体はとても小さい。普通バンガ族は人種の成人男性程の大きさにまでなる。しかしこの三名は、成人しても人種の子供程の大きさにしかならない、モーグリ族程の大きさだ。青色の肌の者がイヌ。黄色の肌の者がキジ。茶色の肌の者がサルだ。この三名は皆同じ装備で、胴には赤色の鎧を纏い、腰からは日本刀を携え、手にはハンマーを持っている。三名ともイエヤスの部下である、鍛治職人達だ。イエヤスを隊長としたこの四名は、防衛隊突撃隊である。

最後に、道具屋店主兼魔法隊隊長、アルカリだ。黒髪黒目、如何にも純日本人な顔立ちで、目元は少し垂れ目だ。鼻筋はすっと通り、肌は白い。控えめに言って、かなりの美人だ。もはさ人外の域。言い過ぎか。それに何故か赤い浴衣である。いろはすを合わせて様々な人外が存在するこのクリア戦艦唯一の人間である。浴衣の帯から革の袋を五つ回すように下げ、手には真っ白の杖を持ち、肩には花サボテンに目、口が付き、手足が生えた魔族が乗っていた。

 

人間から人外に魔族。沢山の存在がいるが、NPC達全ては、いろはすと違い、人種側の存在だ。しかし、堕天使には種族特性として、人種のモンスター達を使役することが出来る。勿論、作り出す場合でも例外ではない。この特性は堕天使だけに備わっている。ほかの人種にも様々なメリット、デメリットがある。因みに堕天使が人種側のモンスターを使役できるのは、自身は元は天使であり、それが悪に染まり堕天使化したので、人種側のモンスターを闇堕ちさせる力持っているから。らしい。

 

先程いろはすに話しかけたNPC達は、いろはすがなんの反応も示さない為か、いろはすを放置し、NPC達だけで会話をしている。

いろはすは考える。ゲーム時代、このようなことが1度でもあっただろうか。いや、ある訳ない。彼、彼女らNPC達はいろはすが作り出したデータだ。幾らいろはすがプログラミングに長けていようと、声まで際限、自由な行動を可能とするAIを組み込むとなると、それはもうゲーム内では不可能だ。

ならばこの状況はなんなのか。確かめる必要があるようだ。

いろはすは意を決してNPC達との会話を試みる。不安しかないが、先程自分に話しかけてきたのだ。なんの問題もないはず……だ。多分。

 

 

「よ、よう?げ、元気してたかな?」

 

コミュ障か!自分の言動を取り消したい。

それでもMPC達は会話をやめ、いろはすへと目を向ける。

人外達の視線が怖かった。人外だから怖いとかじゃない。なんだこいつ?みたいな目が、自分はこれからどうなるだろうと、不安にさせてくるのだ。しかし、そんな心配も杞憂だった。

 

呆れたように溜息を吐きながらノブナガが話してくる。

 

「船長、どうしんたんですかい?急に元気かって言われても、元気だとしか答えられませんよ」

 

うんうんと頷くNPC達。

そりゃそうだ。さっきまでワイワイ喋ってたNPC達に元気かー?とか何を見て喋ってんだって話だ。

 

「そ、そうか。まぁそうだよな」

 

いろはすは気になったことをストレートに聞く。

 

「お前達はなんで喋れてるんだ?俺はお前達に声までは吹き込め無かった筈だぞ?」

 

答えたのは又もやノブナガだ。

防衛隊隊長の座にいるから当然なのかもしれない。

 

「それがですね?船長。俺達にも分からんのですよ。ついさっきまではこう、なんていうんですかね?世界に縛られてるみたいな、なんか不思議な力でロボットみたいに船長が決めたセリフしか話せなかったんですよ」

 

そりゃそうだ。それがデータであるNPC達の宿命だ。データが自我を持つなど本来ありえないのだから。それに、世界に縛られている、か。多分ゲーム内でのシステムのことなのだろう。NPC達はノブナガの言葉頷いている。この考えはNPC達全て、いや、プレイヤー意外と全ての生物データがそう捉えていると考えていいのかもしれない。

 

「それがですよ?なんか急にその縛りの力が無くなったんですよ。別に前の状態でも不満は無かったんですが、みんなそれぞれ船長から武器とか防具とか色々貰ってるでしょ?それのまぁお互い自慢みたいな事してたんですよ」

 

成程。と思う。力が無くなったのは間違いなくゲーム終了が関係しているのだろう。それに、NPC達は、ゲーム時代の記憶もあるらしい。よかったー。変なお別れとかしなくて。してたらいまめちゃくちゃ気まずかったよ……それはいいとして、結局これはどういうことなのだろう?MPC達に組み込んだAIが独自に進化をしたのだろうか?いや、もし仮にそうだとして、自我を持つことは分かるが声はどうなる?ゲーム内ではネットに接続することは出来ない。NPC達は声を入手するにはゲーム内の町のNPC達やモンスターの声を取り入れるしかない。けれど、こいつらの声は全員、俺が想像していたような声だ。ノブナガは深みのある渋い声。ジャスミンは大人っぽい声なのに子供っぽい口調。レッド達は皆、ピンクは女性の子供の声だが、それ以外は皆男の子供の声だ。皆甲高い感じがするがそれが何故か心地よい。イエヤスはバンガ族の癖にめちゃくちゃイケボだ。百年前の声優の誰だろうか?す、すぎだ……忘れた。なんかそんな人の声に近い。他のイヌサルキジは名前のまんまだ。それにアルカリはやばい。ただでさえ1番力を入れて作って、自分のタイプのまんまの顔をしているのに、声までタイプと来た。いろはすの好きな美人顔。なのに垂れ目で幼さも演出している顔。そこに低い大人の声で、中性的な声だ。実にいい。思わず見惚れてしまう。さらに自分と同じ黒だ。色々と。

 

 

「成程な。今お前達はその現象に、何か疑問を感じていないのか?」

 

「そりゃ勿論疑問ありますぜ。でも、元々これが普通だった気がする気持ちもあるんですよ」

 

ふむふむといろはすは頷き、目線をノブナガからずらし、足元へ向ける。

ノブナガの言った言葉はいろはすも感じていた事だ。

堕天使であるいろはすには勿論翼があるが、先程からちゃんと自分の身体の1部として認識しているのだ。ゲーム時代では、飛行パターンを組み合わせたプログラム的飛行で、翼に感覚など無かったにも関わらずだ。

 

「何かこの世界に異変が生じているようだな」

 

いろはすはそうNPC達に目線はそのままで告げた。

結局はそうなるのだ。

いろはすがNPC達へと色々と質問したのはこの答えを確実なものとする為だ。少し、いやかなり、NPC達との会話は緊張したが。

 

ふと、先程まで続いていた会話が途切れた事に疑問を感じ、外していた目線をノブナガへ戻す。その顔は、多分驚愕に染まっている。口空いてるし。

 

「どうかしたのか?」

 

「なんでそんな風に思うんですかい?俺達には異変なんて何も感じませんよ」

 

 

ノブナガはそう言う。他のNPC達もうんうんと賛同する。

しかし答えは簡単だ。

 

 

「その理由はな……お前達だ!」

 

ビシッと指をノブナガ達へと示す。

 

「ええ!なんで俺たち!」

 

「本来、俺が作り出したお前達NPC達には世界の理が働き、俺の指定した通りにしか行動することが出来ない。あの世界を自由に堪能する事が出来たのは、俺のようなプレイヤーと呼ばれる存在だけだ」

 

「そ、それは知ってますけど。自分達は今喋れていることにも、自由に動ける事にも多少疑問はありますけどこれが当たり前だと認識してますぜ!」

 

何故か必死弁明するノブナガ。他のNPC達の表情も悲痛なものだ。

ああ、と納得する。NPC達は、自分達が原因だと思っているのだ。

 

「安心しな。別にお前達が原因じゃない。世界に異変が起きたからこそ、お前達は自由に動け、喋るんだ。それに関しては少し感謝。まぁとりあえず異変について調べたいんだけど、誰か異論はあるか?」

 

いろはすの問い、皆黙って首を振る。

答えを確認したいろはすはまず何をするべきか考える。

うんうん唸っていると、ジャスミンに呼ばれ、そちらを向く。

 

「いろはす船長。実はずっと感じてんですけど、このクリア戦艦が止まっている場所は濃いミストが漂っている場所にあるんですよね?」

 

「そうだ。ミストが濃い場所には、凶悪なモンスター達が集まる。普通そんな場所拠点になど出来ないが、この飛行船には科学迷彩が組み込まれているから見つからない。そしてモンスターが凶悪だからこそ敵から責められないっていう理由でここを拠点にしているぞ」

 

いろはすの答えを聞き、ジャスミンは1つ頷く。

そして意を決した様に告げた。

 

「さっきからそのミストをまったく感じないです」

 

「え!?それ本当?」

 

「本当です」

 

「マジ?」

 

「マジです」

 

ジャスミンの言葉にいろはすは驚愕する。

ジャスミン─ヴィエラ族はミストを感知することに長けている。

その為、旅をする際にヴィエラ族がいると危険地帯のは早期発見に繋がり、更にはゲートからは濃密なミストが放出されている為、領土拡大の際にはヴィエラ族に魔族サイドは苦悩させられていた。

 

 

「ジャスミンがミストを感じないってことは、ここはデルタ草原ではないということか……?」

 

いろはすはゲームに閉じ込められたのだと思った。それが意識だけなのか、魂ごとなのかは分からないが、正直どうでもよかった。天涯孤独。確かに大学まででて、頭いいと思う。顔も悪くないと自分では思っている。しかし、社会にでて数年たったある日に、母親が死に絶望した。

空に憧れたものその頃からだった。

だからこのゲームを始めたのだ。

でも、このゲームに閉じ込められたのではなく、このゲームが現実世界になったのなら?いや、それも違う。それならジャスミンがミストを感じられない事に説明がつかない。そう、自分達は、このクリア戦艦ごと、異世界へ転移したのではないか?

そんな結論へ至った時、またもやいろはすの脳からつま先までに電流が走る。

前の電流では違和感が無くなるだけだった。しかし、これは違うといろはすには断言できた。なぜから、莫大な量の知識が流れてくるからだ。

自分の情報からこのクリア戦艦所属のもの全ての知識。ゲートに魔族の知識。聖石の知識に戦艦の知識。全てが元から自分ものだった。今すべて思い出したのだ。そんな錯覚を起こさせる程の知識が一瞬でいろはすに植え付けられた。

そして、いろはすは神のお告げを聞いた。

 

“ゲートを塞ぐ転生者よ。この世界に存在するゲートを全て塞ぎ、世界を平和へと導くのだ。この世界の統治は他のものがするだろう。お前はそれを支えるのだ。それがお前の宿命だ”

 

いろはすは理解した。

自分のすべき事を。

ならば行動せねばなるまい。

いろはすは決意を胸に、行動を開始する。

 

「お前達!とりあえず周辺を探索!知識生命体がいた場合は即時俺に連絡!ゲートの使用は禁じる!それぞれの部隊にレッドを付け、バニシガで姿を隠して探索!いいな!」

 

「「了解!!」」

 

いろはすNPC達の力強い返事を聞くと、満足げに頷き、微笑み、力強く宣言する。

 

「お前達はこれから、いやこれからも俺と共に生きる。全てを俺に捧げろ!」

 

「「はっ!」」

 

 

 

こうして、いろはす達はクリア戦艦の者達は、周辺に滅びた村を発見。より広範囲に渡り探索を行った所、ノブナガ達が襲われてい村を発見した為、クリア戦艦でその村の頭上を取り、空から降り立ったのだ。

そして、冒頭に戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 



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今後の方針

あの後、アインズ・ウール・ゴウンなる人物達は見事に事件を解決した。

村を襲っていたのは、帝国という国の紋章が入った鎧を来ていたらしいがそれはスレイン法国と国の偽装工作だったらしい。そしてそこまでの手間をかけて行うのは、村に後から訪れた騎士達の隊長、ガゼフ・ストロノーフの暗殺が目的だ。

なんでも、このガゼフ・ストロノーフという男は、リ・エスティーゼ王国での最高戦力らしい。いや、人間の中でのトップクラスの男らしい。

そして、ガゼフ・ストロノーフのピンチに転移で現れたのがアインズ・ウール・ゴウン。

敵の攻撃は全て効かず、自身の攻撃は全て一撃。正に無双状態だった。

 

そして今現在、俺こといろはすは、自身のNPC達と共に、アインズの拠点へと招かれていた。

 

 

 

「さて、それでは先の話を詳しく聞かせてもらおうか」

 

アインズは玉座からそう告げる。あ、アインズ・ウール・ゴウンの正体は骨でした。

そしてアインズの横には絶世の美女が立っている。この美女は村で俺と対峙した女騎士らしい。名は、アルベドと言うそうだ。

 

「りょうかい。んーでも何処から話したらいいのかな……とりあえず異世界転移しました!」

 

俺は元気にそう言った。

アインズは微塵も動かない。

少し、巫山戯すぎたか。そう思った時、アインズは勢いよく玉座から立ち上がる。横ではアルベドの顔に驚愕と書いてある。

 

「それはほんとか!?」

 

凄い声量で問われ、思わず吃る。

 

「え、いや、はい」

 

「まさかこんな直ぐに会えるとは……」

 

アインズが何か言った気がしたが、あまりに小声で聞き取ることが出来なかった。

アインズはまた玉座へと腰を下ろすと、深いため息をつく。

骨の癖に、どうやってるんだろう。

 

「やっぱ信じられない?」

 

思わず苦笑いがこぼれる。

普通、ただでさえおかしな事を言ってる奴が、実は異世界から来ましたー。なんて言っても信じられる訳がない。アインズの中では俺の馬鹿ポイントが更には上がった気がした。

しかし、アインズの返答は俺の予想とは外れていた。

 

「いや、神からのお告げとか、ゲートとかよりは信じられる」

 

「普通信じられないと思うけど?漫画やラノベじゃないんだから」

 

アインズは軽く頷くと、口を開く。口ないけど。

 

「いや、今の発言で確信した。どうやら日本からの転生者らしいな」

 

その言葉に、今度はいろはすが驚愕する。

 

「え!?日本知ってんの!」

 

俺が驚いて聞くと、アインズは手を翻した。

そして横のアルベドへと顔を向ける。

 

「アルベド。少しこの者と2人で話がしたい。この者に危険はないと私は判断した。それに、私達が言うリアルという世界の話もしないといけない。この話お前達には聞かせる訳にはいかない。いいな?」

 

有無を言わせぬ物言いに、アルベドは眉を寄せながらも了承した。

 

「いろはす、着いてこい」

 

「あ、ちょっと待って。こいつらはどうしたらいい?」

 

そう言い、親指で背中越しに後ろを指す。

 

「む、そうだな……第六階層に行ってもらうか。アルベド、この者達を六階層へと連れていけ」

 

「はっ!」

 

アインズがそう告げると、アルベドはすぐ様行動に移している。

それをボーっと眺めていると、視線を感じた。

その視線のする方へと目を向けると、不安そうな目をしたNPC達と目が合う。

俺、思わず苦笑い。

 

「あのアルベドってやつについて行ってくれ。俺はこの骨と少し話したらすぐに迎えにいくから」

 

「分かりましたよ。船長」

 

やれやれと首を振りながらノブナガが言う。

その仕草にも思わず苦笑いが零れる。

ノブナガ達からしたら、この展開にはついていけないだろう。

しかもここは、敵陣営の中。周りには敵しかいないのだ。

不安がるのは当たり前だ。

 

「あ、敵対行動は控えてね。こっちから、コウゲキ、ゼッタイ、ダメ」

 

「はいはい。大人しく待ってますよ」

 

ノブナガは苦笑いだ。そして俺も自分の行動に苦笑いだ。

横ではアインズとアルベドも何やら話している。多分、俺達のような会話内容だろう。

 

 

「よし、今度こそ行くぞいろはす」

 

「了解です」

 

アインズは自身が羽織っているローブを翻して、玉座の間の扉へと歩を進める。その後には頭の後ろで手を組んだいろはす。そんな2人を、未だにNPC達は心配そうに、眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

アインズからとても立派な部屋へと案内された。

途中転移をしたが、転移をしなければならないほど、この墳墓?は広いらしい。

そして、ここはアインズの自室らしい。

部屋を見渡して見ても、豪華な家具しかない。というか俺では凄さが理解出来てない。高そー。くらいな気持ちだ。

 

「さて、話の続きをしようか」

 

いろはすは黙って頷く。

 

「先の、異世界転移の話だが、信じられたのにはちゃんと理由がある」

 

頷き、続きを促す。

 

「実は私達、このナザリック地下大墳墓に住んでいた元全て、というよりこのギルド所属のもの全てが異世界転移者なんだよ」

 

いろはすは驚愕する。

まさか自分達以外にも異世界転移者がいたとは。

単純にこの世界のめちゃくちゃな強者だと思ってた。

 

「それはそれは……いつ頃の転移?」

 

ここも問題だ。

もし仮に、アインズ達がこの世界へ来て、それなりの時間が立っているのなら、それだけ情報があるからだ。

とりあえず聞いてみたものの、実は全く期待していない。

これはアインズ達の力を疑っているとかそういうことではなく、村でのアインズ達の行動が、実験?みたいなことをしながらだったからだ。

攻撃をわざと受けたり、みたいな?

 

 

「つい先日だ。この世界の情報をについては、あの村で得たものしかない」

 

アインズは肩を竦め、告げた。

多分俺の考えている事も理解しての発言だろう。

 

「それで?いろはすはいつ頃転移したのだ?」

 

「俺もこの前来たばっか。ゲームのサービス終了と同時に来た感じだと思う」

 

そう言うと、アインズ指を鳴らし、そのままいろはすに指を向ける。半分ほど腰が浮いているが、驚愕からだろうか?

 

「それだ!それで、そのゲームとはユグドラシルか?」

 

首を振り、答える。

 

「残念。ユグドラシルでは無いよ。その口ぶりからすると、アインズさんはユグドラシルからの転移って事?」

 

「まぁ私はそうなる。ユグドラシルではないゲームでこの世界へと転移したか……因みにゲーム名は?」

 

「ユグドラシルプレイヤーに言うのは嫌だけど、FINAL FANTASY World、通称FFWだよ」

 

苦笑いを浮かべながらそう告げた。

アインズも何度か頷いている。

 

「なるほどなるほど。あのユグドラシルのパクリと言われていたゲームだな」

 

「そうそれ。広大なマップとかユグドラシルのを改良しただけらしいし。中枢のプログラムが殆どユグドラシル依存のゲームっす」

 

「となると、やはりこの世界への転移者はユグドラシル関連の者が来るということか?いや、情報が少なすぎる。最悪私達が初めての転移者、いやそれならこの世界での魔法やアイテムがユグドラシルと同じなのはどう説明する?」

 

ブツブツと言ってるアインズを無視して、いろはすお茶を飲む。

ただのお茶である筈なのに、あまりの美味しさに感激してしまう。

 

 

「そういえば、魔法はどうなっている?それにあの配下の者たちはNPCか・後はゲートについても詳しく聞きたい」

 

アインズは早口にそう言う。

先ほども思ったが、口がないにも関わらずどうやって喋っているのだろう。

 

いろはすはアインズの問いに一つずつ答える。

 

「まぁ魔法に関しては問題ないみたいだ。アインズさんのあのアンデット倒したときに白魔法使えたし。後、あいつらはアインズさんの言う通りNPCだよ。なんかこの世界に来たときに自我を持ったみたい?いや、自我は前からあったみたいだけど、コミュニケーションが取れるようになった感じだね、自分の意思で」

 

「ふむ。こちらのNPCたちも似たようなものだ。魔法に関しては、この世界ではユグドラシルの魔法が使われていたよ」

 

ふむ、といろはすは頷く。

どうやらこちらの状況とアインズの状況は似たようなものらしい。

違いがあるとしたら、自分達FFWの住人は、この世界では同じ転移者であるアインズ達よりも余程異端なものだということか。

 

「それで?ゲートについては教えてくれないのか?」

 

アインズは顎で続きを促してきた。

このような行動や仕草はこの人の素なのだろうか?

だとしたらかなり傲慢な感じがするんだけど……

 

「ちゃんと説明しますよ」

 

肩を竦めながらいろはすは言う。

自身が聞いた神の声に関する情報を話す。

といってもそれ程多いものではないので、時間はそれ程かからない。

更にはFFWのゲートがどういうものなのかも説明した。

 

「そのような事がありえるのか?神の声など信じられないが……」

 

「正直俺も半信半疑さ。それでもゲートは塞がないと。じゃないとこの世界には存在しなかったモンスター達がこの世界を蹂躙してしまう」

 

今まで軽い調子で話していたいろはすが、初めて真面目な顔をし言った。

その表情から、アインズはいろはすの話が重要だと読み取ったようだ。

 

「なるほど分かった。ではいろはすは今後、この世界のゲートを閉じる旅

に出るという事で間違いないな?」

 

「まぁそうなるよね。どうやらゲートを防ぐ救世主として、俺はこの世界に選ばれたらしいから」

 

いろはすは笑いながら言う。

ところで、と続け

 

「アインズさんは素の状態でそんな感じなの?凄い失礼な事聞いてるとは思うけど気になってさ」

 

小首を傾げながらいろはす聞いた。

その問いに帰ってきたのは短いため息と、先程聞いていた声とはまた違った声だった。

 

「はぁ。そんな訳ないでしょう?これは所謂ロールプレイってやつですよ……」

 

その声は、とても疲れているような、草臥れた声だった。

いろはすはその答えに疑問を抱いた。

これがゲームだったら、その在り方は1つの遊びなのだろう。しかし、現実とかしたこの世界でその行為は、とても痛い人に感じる。失礼な話だが。

いろはすはその事を思い切って聞いてみる事にした。

 

「なんでそんな事してんの?そういう縛り?」

 

「縛りと言えば縛りなんですかね?自我を持ったNPC達に支配者として望まれているみたいなんで、こういう感じになるんです」

 

「なるほど。それは仕方ないですね。頑張ってください」

 

いろはすの言葉にアインズは怪訝そうに口を開く。

 

「いろはすさんのNPC達はこんな感じじゃないんですか?」

 

「俺ん所のNPC達は作る時に家族みたいな設定で作ったから、確かに少しは尊敬とかなんかそんな感じの感情を向けられているけど、支配者でいてーみたいな感じはないよ。多分設定通り、家族みたいな感じかな?」

 

またしてもため息をこぼし、アインズは一言言う。しかも項垂れている。

 

「はぁ。羨ましい」

 

実に感情の篭った言葉だった。

 

「まぁとりあえず、俺達は俺達の船で旅に出るけど、アインズさん達はどうするの?」

 

「私達の力が、この世界では強者に位置するのか、それとも弱者に位置するのか。あの村での出来事だけでは判断できません。それに、他のギルドメンバーがもしかしたらこの世界に来ているかもしれませんし、私達はこの世界の情報を集めつつ、ギルドメンバーを探します。それに、このアインズ・ウール・ゴウンという名前は、ギルドの名前なんです。この名前で世界に名を轟かす事が出来れば、ユグドラシルプレイヤーなら一発でわかると思うのでこの名前を名乗ってます。因みに本当のプレイヤーネームはモモンガです」

 

なるほどと思った。

モモンガとかいう名前は見た目に似合わず可愛い名前だと思い、心の中で少し笑ったが、ギルド名を名乗る事の有能性は実に納得のいく考えだ。

この世界の情報を集まるなら俺達の旅で得た情報を役に立つかもしれない。

 

「アインズさん、モモンガさんでいいのかな?良かったら俺達と協力関係になろうよ。俺達はこれから色々な地を巡ると思うんだけど、そしたら必然的に情報が集まると思うんだ。俺達はその情報を。モモンガさん達からは知識を。どうだろう?悪くない提案だと思うんだけど」

 

アインズ、いや、モモンガは顎に手をやり、考えているようだ。

先の会話からも滲み出ているモモンガの知性。恐らく現実(リアル)では高学歴だったに違いない。完全に身分制のような現実で、大学までいける人間は少ない。多分モモンガさんはその少数派の人間なのだろう。

 

考えが纏まったのか、モモンガが声を発した。

 

「分かりました。色々な場所情報を得られるのはとても大きいです。知識に関してですが、幸い私達のNPCには知力が優れている存在がいるので安心してください」

 

そう言い、モモンガは手を指し伸ばしてきた。

黙ってその手を見つめる。人間のような骨格だが、若干違う。先端は尖り、関節も人間のものより多くあるようにも思う。

 

手を伸ばしたままモモンガは言葉を紡ぐ。

 

「これから、お互いに頑張りましょう。いろはす達は世界を旅するので、危険が多いので気をつけてくださいね」

 

その声音からは温かみを感じた。

いかにも怪しい出会いから、ここまでのあいだ実に短い時間だったが、この人はとても優しい人物のようだ。人間をポンポン殺してたけど。それに関して何も思わないのは俺自身異端である証拠なのかもしれない。

 

ひとつ頷き、モモンガの手を握る。想像したとおり、ひんやりとしていて硬かった。

 

「モモンガさんこそ、NPC達の期待に潰されないように頑張ってね。これからよろしく」

 

にやりと笑いながらモモンガと握手を交わした。

 

その後は実に早い展開だった。

玉座の間でいろはす率いるクリア戦艦と、モモンガ率いるアインズ・ウール・ゴウンとの強者関係が発表され、ナザリックでの歓迎会が行われた。

歓迎会ではよりモモンガといろはすの仲は深まり、実に楽しげだった。ここまでスムーズに事が進んだのは、お互いに自覚していないだけで、1人転移したこの状況と同じ境遇の人物を発見したからだ。更にはNPC達の仲も、思ったより悪くないようだ。クリア戦艦のNPC達は人間種の味方ではあるが、皆人間達に特別な思いも無いため、というよりどちらかと言えば闇堕ちした天使である、いろはすの影響を受け、皆悪よりの存在だったが甲を制したようだ。

 

モモンガ達はリ・エスティーゼ王国周辺の調査。

いろはす達はバハルス帝国周辺の調査。

 

ナザリック陣営のNPC達は支配者であるモモンガの為に、クリア戦艦のNPC達は家族のために、モモンガはいるかもしれないギルドメンバーの為に、いろはすこの世界のために、それぞれの思いを誓い、歩を進めるのである。

 

 

 

 

 

 

歓迎会の最中、艦内に置いていた聖石が淡く光っていた事には、当然誰も気付くことは無かった。その輝きが、ゲートが作動した事による反応にも関わらず、誰もその事実に気付かずに物語は進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────

 

「この石があれば押し返せるぞ!」

 

1人の幼い少女は、突然自分の国に出現した四角い石版と、淡い青色に輝く石を手に入れていた。

その石を手にした時の気持ちは言葉では表わせれないほどの感激だった。

その石と石版には、この国の危機、敗戦を、覆すことが出来るのだから。

 

少女は卑しく笑う。己の勝利を確信し。

外では今までは恐怖を煽るような獣の声が、実に気分よく聞くことができた。

少女にはその声が、獣達の悲痛の叫びに聞こえた為だ。

 

 

 

 

この石1つで、あるひとつの国は戦線を押し返すことが出来たのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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