緋色の鳥のような何かを見つけてしまったんだが (そば粉うどん)
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第一話「緋色の鳥は寂しがり屋のようです。」

 とある時代のとある一軒家。

 そこにはなんの変哲もない家族がごく普通の生活をしていた。両親に子供が二人の典型的な四人家族である。

 子供は男と女が一人ずつ。しっかりと育ち現在小学五年生と三年生。名前は天谷(あまや)と神成(かんな)といい、両親の仕事も安定しており、家族は幸せだった。

 そんなある日のことである。

 

 

 

「あれ?なんだこの紙切れ。こんなの本棚に入っていたかな?」

 子供は自分の本棚に見慣れない紙切れが挟まってあるのを発見した。

 四つ織りにしてあるそれを開くと、そこには何かの詩のような一文が書いてあった。

「えーっと・・・なんだこれ?『あかしけ やなげ ひいろのとりよ くさはみ ねはみ けをのばせ』?」

 妙に語呂の良いその単文を、少年は読み上げてしまう。その瞬間、彼の視界は真っ赤に染まる。

「っ!?」

 見渡す限り赤い原野。まるで夕日を空の大釜で煮詰めたかのような緋色の草原。その中に彼は一人の女性がいることを見つけた。

 背丈は160cm程度だろうか、整った顔立ちに身長からは想像のできないナイスバディである。服装は赤のトップスにこれまた赤のフレアスカート、赤い靴と赤一色で見ていると目がいたくなってきそうだ。

 少しの間彼はその女性を見つめていた。まるで夕焼けのようなその赤い瞳を見つめていた。

(ん?赤い・・・瞳!?)

 いや違う、違うのだ。彼が彼女の赤い瞳を見つめていると言うことはつまり、彼女もまたこちらのことを見ていると言うことである。それはすなわち、あの女性に発見されたことを意味する。

「ほう、この我が世界に踏みいる人間とは久方ぶりだな。」

「?!」

(なあっ!?見、耳元で声が!)

 声が、まるで隣にいるかのように聞こえる。そのまま、彼女はこちらへと歩みを始めた。

 ゆっくりと、彼女はこちらへと近づいてくる。それを見ながらも少年は動かない。いや、恐怖で動けないのだ。

 あと一歩で触れられるのではと思うほど至近距離に彼女は近づき、そしてこういった。

「われは緋色の鳥。この世界の支配者とでも言うべきだろうか。さて、このまま貴様を食らってやっても良いのだが、久方ぶりの餌だ。まずは貴様の血を啜るとしよう。」

 そう言って緋色の鳥と名乗った女は首筋へと噛みつき、

「んくっ、んくっ、ジュルル・・・。」

 なんと、こちらの血を吸ってきたのだ。まるでおとぎ話の吸血鬼のように、である。しかし2、3秒たった辺りで突然吸われる感覚が止まり、

「・・・・・・・・・」

 そのままなぜか黙ってしまった。天谷が不思議に思い肩の方を見ると、

「・・・ふにゃあ。」

 目をぐるぐると回し酔ったようになっている緋色の鳥がいた。その姿に初見の頃の面影は微塵もなく、どちらかと言えばお酒に弱いのに無理して飲んだあとにそのまま潰れてしまったかのような、そんな感じだった。

「・・・ひとまず、寝かせるか。」

 

 

 

「・・・」

「・・・」

 気がついた緋色の鳥と向かい合う天谷。心なしか彼女の顔は赤くなっているように見える。

 無理もないだろう。餌として見下していた人間に恥ずかしいところを見られたあげく、相手の慈悲によって介抱までされたのだから。

「あ、あの・・・」

「・・・くっ、殺せ!」

(うわあ、最初とのギャップが半端ないな。)

 まるで囚われの姫騎士のようなテンプレ台詞を放つ緋色の鳥。その姿には最初の頃の威厳はない。

「え、えーっと、何で血を吸った後に身を回してたんです?」

「・・・ここで見聞きしたことを誰にも言わないな?」

 彼女は少し涙目になりながらこちらに問いかけてくる。

「いや、さすがに忘れると思いますけど、何でです?」

「・・・この世界で体感したことは全て記憶に残るんだ。私が全盛期の時にそうなるようにしたからな。」

 少年は、(・・・全盛期?)と疑問に思ったが、聞き流しつつとりあえず彼女に誰にも言わないと伝えた。

「・・・その、だな。最近は財団のせいで誰もこの原野にこないのだ。それで、その・・・恥ずかしいことに餓死寸前でな。久方ぶりの食事にありつけたと思ったらお前の血が栄養豊富すぎて、酔ったようになってしまって・・・。うう、思い出しただけでも恥ずかしい。」

 天谷は思った。この緋色の鳥と名乗る少女、結構ポンコツなのでは?と。

 実際その予想は当たっている。

 もともと人間と会話をすることなくただ獲物として食らうだけだった彼女に、人間らしい振るまいなどできるはずもないのである。

「ところでお前、名前はなんと言うのだ?」

 いきなり名前を聞かれて困惑する天谷。それでも答えようとするのはやはり彼がまだ純粋だからだろう。

「えっと、田所天谷です。」

「天谷と言うのか、覚えたぞ。」

 あまり覚えられると言うのも怖いことに感じるが、この人なら大丈夫だろうと天谷は考えた。

「それでだ、天谷に恥を忍んで頼みがあるのだ。」

「頼み?なんです?」

 またも突拍子もないことだが、とりあえず内容だけは聞いてみようとする天谷。

「・・・た、たまにでいいから、ここに来てくれないか?そして出来れば少し血を分けてほしい。」

 了承していいものか困る願い事である。特に、血を分けて自分に問題はないのかというところがわからない。それ以外は別に構わないため、そこが考えどころだった。

 少し考え込んでいると、緋色の鳥がこちらを見ながら涙目でこういってきた。

「だ、だめ・・・か?」ウルウル

(そ、そこで涙目に上目使いのコンボはヤバいって!)

「い、いや。いいよ。」

 男を揺るがすコンボに天谷、陥落。あっさりとOKを出してしまう。

「ほ、本当か!?」

 さっきまでの涙目は何処へやら、花の咲いたような笑顔を見せる緋色の鳥。その笑顔にはやはり最初の頃の威厳はない。威厳はどうやらシャイガイに終了させられたようだ。

「それでは、今日はこのぐらいで終わりにしよう。天谷にも天谷の時間があるだろうしな。」

「あ、待って。」

 この場をお開きにしようとする緋色の鳥に待ったをかける天谷。

「うん?どうしたんだ天谷。」

「いやさ、いつまでも緋色の鳥じゃ呼びにくいしさ、あだ名で呼んでいい?」

「・・・べ、別に構わんぞ。」

「よし、それじゃあ・・・」

 天谷は頭の中で思考を巡らす。

(緋色、鳥、ポンコツ・・・ひらめいた。)

「それじゃあ、今度から夕緋って呼ぶよ。夕焼けの夕に、緋色の緋。」

「夕緋、か。ああ、いい響きだ。気に入った!」

 ご満悦の緋色の鳥改め夕緋。彼女の天谷を見つめる視線に敵意はなく、彼を獲物としてではなく友達として考えているようだ。

「じゃあね、夕緋。」

「ああ。またな。天谷。」

 その声を聞いた天谷の意識は少しづつ薄れていく──。

 

 

 

 

 気がついたとき、彼は紙を持ったまま机の前で座り込んでいた。が、彼の記憶の中には先程までの不可思議な体験が残っていた。

「おーい!天谷、飯にするぞ!」

「早く降りてきてね!」

「にいさま、早く早く!」

 下で家族が呼んでいる。間違いなく、現実に戻ってこれている。

「うん、いまいく!」

 彼は紙を机の中にいれるとリビングへと向かう。その心の中に今起こった出来事をしまい込みつつ・・・。

 

 

 

 

 

 

 

次回 第二話「緋色の鳥は外の娯楽が知りたいようです。」




ご意見、ご感想、お待ちしています。


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第二話「緋色の鳥は外の娯楽が知りたいようです。」

前回のあらすじ 

 小5にしては落ち着いている上に結構なて⬆んさい小学生の田所天谷は、不幸にも他の世界で情報災害を起こした怪物のいる世界へと足を踏み入れてしまう。
 しかし、怪物は空腹によって弱りきっており、田所はあっさりと友好関係を結ぶことができてしまったのだった!
「なんなのだ?このあらすじは。」
 某特撮のあらすじの真似ですよ夕緋さん。
「というよりもこれじゃあ夕緋がただのポンコツにしか見えないのだが。」
 まあ事実だしね、仕方ないね。
「・・・作者よ、貴様を食らってやっても良いのだぞ?」
 止めてください(精神が)死んでしまいます。
「止めとけ夕緋。こいつを殺したらこの世界も終わるぞ。」
 メメタァ!
「ふん、ま、まあ天谷がそういうのなら今回は許してやろう。」
 よかった・・・。っとそれでは、
『さてさてどうなる第二話!』


夕緋とのファーストコンタクトから一夜明け、今日は日曜日。

「・・・よし、これくらいでいいだろう。」

 天谷は基本的に休日は部屋にこもるタイプなのだが、今日は夕緋のもとに行くと言う予定があるため少し準備をしていた。

 彼にとっては1日にあったことを彼女に報告することが日課のようになっているのである。そして、今回は

「よし、例のブツは持ったな。」

 彼はとある物をポケットにいれると四つ織りの紙を取りだし、あの言葉を口にした。

「あかしけ、やなげ、ひいろのとりよ、くさはみ、ねはみ、けをのばせ。」

 言い終わると共に、天谷は意識がスッと薄くなっていくのを感じた。

 そして、次の瞬間にはあの緋色の原野に立っていた。

「おお、天谷か。待っていたぞ。」

「おはよう、夕緋。」

 満面の笑みの夕緋と挨拶を交わしながら天谷はポケットに手を入れ、来る前にいれていたものがあることを確認すると、そのままそれを取り出す。

「?なんだそれは、新たな武器か何かか?」

「いやいや、そんなものじゃないよ。」

 と、天谷はそれを・・・いや、トランプを見ながら言う。

「これはね、外の遊び道具だよ。」

「遊び道具?娯楽と言うことか。」

 結構理解の早い夕緋。それを見ながら天谷はトランプをケースから取りだしシャッフルし、シート──これもポケットに入れておいた──を広げてその上においた。

「それじゃあ遊ぼうか。といってもまずはルール説明からだけど。」

「ああ。よろしく頼むぞ、天谷。」

 

 

  少年説明中~Now lording~

 

 

「・・・これで大体のルールは分かったかな?」

「ああ。大体は記憶した。」

 ルールとやり方を教わった夕緋は、少し笑みを浮かる。

「外の人間はこんなにも面白いことをやっているのか。人間への評価を改めなくてはならないかもな。」

 どうやら、トランプを気に入ったようだ。それもそのはず。彼女は今まで娯楽など味わったこともなく、そんなときに今一番気を寄せている存在から娯楽を教えてもらったのだ。気に入らないはずがないのである。

「それじゃ、まずは神経衰弱からやってみようか。」

 

          十分後

 

「嘘だろ・・・。初心者にぼろ負けとか、自信が壊れる・・・」 0勝10敗

「ま、まあそう気を落とすな。相手が悪かっただけだ。」 10勝0敗

 天谷、完敗。まあ無理もない。相手は完全記憶者であり、捲ったものが何処にあるか全て覚えていたのだから。

「対戦相手に言われてもなぁ・・・。仕方ない。次はスピードで勝負だ‼」

「あ、ああ。」(完全にやけくそだな。)

 

         また十分後

 

「いよっしゃあ!」 10勝0敗

「な、なんなのだあの早さは・・・。」 0勝10敗

 記憶能力はいいが、瞬発力では天谷に劣っている夕緋は、あえなくスピードでは完敗したのである。

「しかし、本当に楽しそうに遊ぶな。」

「当たり前だ。こんなに楽しいことがあったなんて、お前と会わなければ知らなかったことだからな。」

「なるほどな。っと、そろそろ時間かな。」

 どうやら、この世界での時間の経過は外の世界にも影響があるようで、既に時計の針は十二時を指そうとしていた。

「そうか・・・。なら、血をもらうとしよう。指を出してくれないか?」

「ああ。」

 そう言って差し出した指を夕緋はくわえ、

「はむっ、ジュルル・・・」

 指に少しの傷をつけ、そこから血を吸い始めた。

(なんというか・・・、エロくないか?)

 そんな考えをよそに、指を口からはなし、口をぬぐう夕緋。彼女はどうやら満足したらしい。

「ぷぁ・・・。ご馳走さま。ではそろそろ帰還させるとしよう。」

「あ、ちょっと待ってもらえる?」

「ん?なんだ?」

 天谷はもうひとつポケットからトランプを取り出すと、夕緋の手へと握らせた。

「それ、あげるよ。一人でもソリティアとかで遊べるしね。」

 天谷はここに来る前に、彼女が一人でも遊べるような物はなにかないかと考えていたのだ。

「あ、ありがとう・・・。」

 すこししどろもどろになりながら、彼女は笑顔でお礼をいった。

 その笑顔を見つめながら、天谷は自分の意識が薄れていくのを感じた──

 

 

 

 

 

 戻ってきた天谷は、次は何を持っていこうかと考えながらリビングへと向かうのだった。

 

 

 

 いろ  り 、 ま  た ──

 

 

 

次回 第三話「緋色の鳥は写真に興味があるようです」




前回のあらすじ追加。
そろそろタグにキャラ崩壊いるかな・・・。


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第三話「緋色の鳥は写真に興味があるようです」

前回のあらすじ

 緋色の鳥はちょろかった。

夕「・・・さて、殺すか。」
 いや、待って!本当の事だろ!
夕「本当でも言ってはいけないことがあると財団で習わなかったかDクラス?」
 つ、ついにブライト博士の残機呼ばわり!?
天「なんだよ、そのブライト博士って」
 それは後々わかると思いますよ。では、
「「どうなる第3話!」」


真っ赤な草原、夕焼けより赤い空。そのなかで一人の少女が草原に敷かれたランチョンマットの上に寝転びながらトランプで遊んでいた。

 彼女の名前は夕緋───否、本当の名前はSCP-444-JP『緋色の鳥』という。

 そう、緋色の鳥である。あの財団さえも基本理念を捨てざるをえなかった最強のミーム汚染オブジェクトである。しかし、今の彼女を財団のお偉いさんが見たらこういうだろう。

「なぜ我々はこんなオブジェクトをketer、いや、unclassedに指定していたのだろう。」

 それほどまでに彼女のかつての狂暴性は鳴りを潜めていた。何せ、寝転びながら鼻唄混じりでソリティアをしつつ誰かを待つかのように足をリズミカルにバタバタさせているのだ。少なくともketerではないだろう。

 と、いきなり彼女は手を止め、なにかに気づいたかのようにどこかを見つめた。

 視線の先には一人の少年。灰色がかった髪と真っ黒な目を持つ彼は、緋色の鳥に優しく微笑みかけた。

「来たよ、夕緋。」

「待っていたぞ、今日は何を持ってきたのだ?天谷。」

 彼こそ、緋色の鳥が待っていた人物である、田所天谷である。

 

 

 

「ささ、早く持ってきたものを見せるのだ!」

「慌てない慌てない。今出すから待っててね。」

 そういってポケットからなにかを取り出す天谷。出てきたものを見て、夕緋は首をかしげる。

「なんなのだそれは、それも外界のおもちゃなのか?」

「いや、これはカメラといってね。写真を撮ることができるんだ。」

「写真・・・?」

「ああ、写真って言うのはね・・・」

 次々と出てくる疑問にしっかりと答えていく天谷。さながら新しい実験器具の使い方を説明する先生のようである。

「・・・。わかったかな?」

「うむ。では、早速その写真とやらを撮ってみようじゃないか。」

「わかったよ。じゃあ、こっちを向いてくれるかな?」

「あいわかった。これでいいか?」

「うんうん。それじゃあ、撮るよ。はい、チーズ。」パシャ

 シャッターを切る音がなり、そのままカメラの下から白い写真のフィルムがでてくる。

「なにか出てきたぞ!」

「今撮った写真だね。といっても、少し待たないといけないから、その間何枚か撮ろうか。」

 それから何分間か、天谷は夕緋を被写体にシャッターを切り続けるのだった。

 

 

 

「ほら、出てきたよ。」

「おぉ・・・。私の姿がしっかりと写っているな。」

 感動した様子で写真を見つめる夕緋。それを見て、天谷はいくつかの写真を差し出す。

「それとこれ、記念にあげるよ。」

「い、いいのか?」

「もちろん。部屋に飾る用のはもうとってあるしね。」

 すでに、天谷のポケットは夕緋の写真で一杯である。

「し、しかし、もらいっぱなしと言うのも申し訳ないな・・・・・・。そうだ!天谷よ、私がいいと言うまで後ろを向いてくれないか?」

「おう、いいぞ。」

 そういって後ろを向く天谷。少したつと後ろから、

「いいぞ。前を向いてくれ。」

と夕緋の声がした。

 天谷が振り向くと、夕緋の手にあったのは赤い紐に繋がれた真っ赤な羽根の首飾りだった。

「特製のお守りだ。身に付けておくといい。」

「おお、すごい綺麗だな。ありがとう夕緋、大切にするよ。」

 そういって受け取った瞬間、天谷の意識はスーっと薄くなっていく───

 

 

 

 

 次の日から、天谷のまわりでは幸運なことが起こるようになったとか。

 

 

ひいろ とり  まだた ず───

 

次回 第四話「緋色の鳥はお風呂を体験するようです」




え、緋色の鳥の羽根とか汚染されるだろって?


は、羽根だけだし大丈夫(震え声)


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