魔法少女リリカルなのは―α― (もみもみじ)
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第一章:愚者―0―
OP:WITH PRAYER


という名の作詞です
イメージでは、水樹奈々さんに歌ってほしいかな

この詞は、本編とリンクするかもしれないとか……


君の 手をつないだ

真っ白く 温かな その手は

握り返してくれない

 

ふいに 訪れる

悲しいと言う 感情に

流されまいと 抗う

 

 

 

君が 何かは解らない

それでも僕は信じてる

 

美しい空の下で

僕は祈り続ける

 

 

 

僕たちの 試練(みち)は 絶望にあふれ

それでも僕は 君を信じている

 

たとえ苦しくても 君を守るから

君の示した 希望(みち)へ

一緒に 行こう

 

 

 

 

全てが終わること

僕は 考えたくない

そこに君はいない から

 

ふいに 訪れる

悲しい絶望に 僕は

打ちのめされてく

 

 

 

君の 示した道に

何が待ってるか 解らない

 

示した道の途中で

僕は祈り続ける

 

 

 

僕たちの未来(あした)は 解らないけど

それでも僕は 君を信じている

 

たとえ悲しくても 君を助けるよ

君が見せた 希望(あした)へ

一緒に 行こう

 

 

 

 

解っていた

この先に どんな未来が待っているか

 

それは覚悟していたはずなのに

涙があふれてくる

 

そんな僕に 君は

手を握り返してくれた

 

 

 

 

僕たちの夢(みち)は 苦難に満ちて

それでも僕は 君を信じている

 

たとえ痛くても たとえ辛くても

君を救って見せるよ

 

僕は 君と一緒に 進むんだ

未来へ



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第一話:少年

帰ってきた。自分の故郷に。
たった一つの故郷に。俺の、生きているべき場所に。
なのに。そこには何もなかった。俺のいるべき場所はなかった。
雨が降ってくる。無慈悲に。ただ、無情に。
滴が、頬を流れた。

……魔法少女リリカルなのは―α―、始まります……


 旅をしていた。昔から旅好きの父の影響でよく旅をしていたが、今回の旅は、恐らく人生で一番長い旅になる。当然だ。もう、帰る場所なんてない。故郷は破壊され、家族を失い、部族を失い、行くあてもないのだ。

 俺はどうやら運がないらしい。当然か。生まれが生まれだったからな。俺のいた部族は、独自の魔術文明を築いていた。ベルカ式などの術式がある中、イヴ式という特別な術式を使用していた。が、それゆえに他の組織に狙われることがしばしばあった。恐らく、そのようなことがあったのだろう。全滅していた。

 残ったのは、運悪く旅に出ていた俺だけ。酷い話だ。

 そして現在、俺は故郷を散策している。部族としての思い出となる物を探しているのだ。ついでに、金目の物も。

 

「しかし、何もないな」

《盗みを働いていますよ、母上、父上……》

 

 俺の相棒であるデバイス、ディウスがそう呟いた。それに関しては、華麗にスルーしておく。

 

 

 

 俺のデバイス、ディウスは球体上のキーホルダーだ。今は、腰につけている茶色いポーチにつけている。キーホルダーの球体上の中にあるウサミミ少女が本体らしい。小さくて見辛いが、ちゃんと動いているらしい。……小さすぎて、あんまり見えないが。

 ついでに、セットアップするとこいつは武器となる。まぁ、凡庸型のデバイスを違法改造した物なので、機能と性能は違うが、ナイフ状の武器になるのだ。と言っても、刃は俺の右腕の関節部分まであるし、ナイフとは言い辛いが。

 俺が初めて一人で旅に出たときに買った、思い出の品であり長年の相棒だ。違法改造してから口数も増えたりしたので、個人的には道具とは思っていない。あくまで相棒。間違ってたら正すし、ボケたらツッコむし、逆に向こうがボケたらツッコむ。そんな関係だ。

 他の魔術師連中は驚くかもな。まぁ、違法改造しているから滅多には見せないが。

 ついでに、違法改造の際に声なども変えてもらった。が、その改造したやつの趣味で、声が甲高いものになってしまった。ようは、アニメ声とやらだ。くそぅ……。しかし、ちゃんとした改造をしてくれていたので、直せとは言えなかった。

 

 

 

 

 と、自分のデバイスの特徴を頭の中で思い浮かべながら俺は金目のものを探す。

 しかし、我が故郷ながら、見事に何もない。いや確かに、金目の物はある。でもこれと言って、よい物なんて……

 

「……あった」

《ありましたね》

 

 それは巻物だった。とても古い。そのせいか、文字が書いていることは解るが理解できなかった。何か、いわくつきの品物であると判断できるが、本などには興味がない俺にとっては、数少ない故郷の思い出の品程度にしかならない。

 

《たぶん、ここは長老の家だと思います》

 

 だろうな。あの爺ちゃん、こういうのが好きだったもんな。しかし、あの爺ちゃんも死んだのか……。実感が湧かないな。

 実は、故郷に帰ってから三日も経ったが、未だにあまり人が死んだという実感が湧かないのだ。感覚のマヒ、だろうか。いや、そんなものでもないと思う。たぶん、まだ信じられないんだ。この状況を。

 そう思いながら、更なる探索をしていると、灰色の無地のカードらしき物を見つけた。まぁ、灰色というよりメタルカラー。銀色で、瓦礫の中でも月の光を受け光り輝いている。そして、裏にはイヴ式の魔法陣、*状の魔法陣が彫られていた。しかし、その下には0という文字も彫ってあった。

 

「カード……なんのだ?」

《調べてみますね……》

 

 だいぶ古そうだし、使えるかどうか解らないが持っていくことにした。故郷の物だしな。大事にとっておこう。

 

《検索、まだですけど》

「とりあえず持っていく。で、いいだろ?」

《軽率ですよ》

「大丈夫。死にはしない」

《ま、そこんところはあなたらしいのでいいですが……》

 

 デバイスとそんな会話をしながら探索していると、流石にこれ以上の探索はできないと判断し、夜空が見える中、瓦礫の中にあったベッドの中に入り込んだ。

 

《軽率ですよー》

「……寒い」

《このバカバカマスターは……。私が寒いんですからね》

「自分かい!!」

 

 そんなバカらしい会話をしながら、俺は明日のことを考えた。明日は、この故郷から立ち去る。最後に何か、この故郷の仲間たちを思い出すことが出来る、いい物でも見つかればいいんだけど……。

 そう思いながら、目を閉じた。……寒い。明日、死んでなければいいな……。

 

 

 翌日。体は冷たいが、死にはしなかったようだ。ふと、死因が凍傷、という悲しい思いつきに苦笑してしまう。まったく、笑えないな。みんなは、どんな方法か解らない死に方をしたというのに。

 

《まったくです。氷の中で私が見つかったら面白いでしょうが》

「寒そうだな、おい」

 

 でも、こういう時の運はいいよな。死ななくてよかった。うん、正直にそう思う。

 で、太陽が照っている間に行動しないとまたあの冷たさを感じてしまう。それは流石に嫌なので、すぐさま支度する。まぁ、別段何か特別な用意はしない。旅に出るもいつも徒歩だったため、燃料などを調達しなくてもいい。まぁ、流石に今後は果て無き旅をするのだ。バイクぐらいは欲しいところか。

 

《そうやって、マスターのお金は消えて行ったのでありました……完》

「勝手に完結すんな。てか、悲しいな、おい!!」

 

 そんな冗談を言ってくる相棒を、軽く小突く。こっちから見ればそんなに対して怖くはなさそうだが、実際はとても怖いらしい。まぁ、自分より大きいサイズの指が来ると考えたらそうなるか。

 そんなことを考えながら、最後の散策に出る。今日の正午にここから立ち去るつもりだ。日が暮れるまでには、次の街には着ける。

 とりあえず、目的地はミッドチルダだ。行ったことはないが、あそこは大きいからな。気に入れば、拠点にでもしてみるのも手かもしれない。

 

《しかし、ミッドチルダが目標とは……。マスターは、学園にでも入るつもりですか?》

「そうだな。入ってみるのも案外楽しいかもな」

 

 なんせ、学校なんか故郷にはなかったからだ。生まれてこの方15年、学歴なんぞ持ち合わせていない。基本の魔法は親から教えてもらい、あとは我流となっている。だから、他の街にある学校という施設に憧れている。

 内容もなんとなく知っている。社会的学習や、魔法学的学習だ。社会的なら旅でなんとなく身に着けたし、魔法学に関してはイヴ式があるし、自身もある。だから、行かなくてもいいんだろうけど、興味があるのだ。

 

「だから、とりあえずはミッドチルダへ行って、魔法学院に入る。……で、あとは解るよな?」

《はい。私とマスターの感情が同じと言うなら……》

 

 そう。俺とディウスの真の目的。それは――――

 

 

「《故郷を壊した者を殺すこと》」

 

 

 ……さすが相棒。考えも何もかも同じだな。しかし、デバイスが殺すなんて言うのはどうかと思う。うーん、違法改造しすぎたか。

 

《私をフリーダムに改造しろ、と言ったのはマスターですよ》

「ん。間違ってないから否定できない」

 

 我ながら反省。今度ぐらい、自分で改造できる技能(スキル)を取得したいな。

 

「さて、向こうの方に行くか」

 

 四日間滞在した中で、最後まで行かなかった場所。それは、部族が信仰していた原初の女神、イヴが眠っているとされている大樹……それは通称、アノートの大樹。この村の名前の由来となった大樹だった。

 

《そうですね。あなたが産み落とされた場所でもある、アノートの大樹へ》

 

 私は知らないですが、とさりげなく継ぎ足して、ディウスは苦笑した。まぁ、しょうがない。途中で知り合ったんだ。第一、それほど重要な情報ではない。

 そう思いながら、俺とディウスは最後にアノートの大樹へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう。ここから始まったんだ。俺と、相棒と、そして――――

 ――――あの子との物語が。




壊された故郷の中、俺はとある少女を見つける。
真っ白い、儚く無機質な裸の少女に、俺は……
その時、世界が揺れた

次回、魔法少女リリカルなのは―α―『白い少女』
始まりは始まり。終わりも始まる。


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第二話:白い少女

雨が降り続ける中、俺は生存者を探した。
でも、いない。どんなに探しても、いない。
解っていた。自分でも、はっきり、と。
もう、ここは俺の故郷じゃないんだって。
俺の居場所は、なくなった、って。
滴が、焼かれた大地に落ちた。

……魔法少女リリカルなのは―α―、始まります……



 晴れている。それは猛烈に。昨日までの曇りようが嘘のようにだ。確かに、昨日の夜空はとても綺麗だったから晴れるとは解っていたが、しかしここまで暑いとはな……。

 まぁ、俺にとっては関係ねぇが。

 

「おら、どした?」

「なんでも、ない」

 

 ふーん。まぁ、いいか。こいつは元からこんなやつだ。戦うにも、殺すにも無感情。だが、それがいい。俺の女にとっては最高だ。

 勿論、あの稀少技能(レアスキル)も含めてな。

 

「さて、行くか」

「どこ、へ?」

 

 相方がそう聞いてきた。解っているだろうにな。

 

「あの村だよ。俺たちが壊したな」

「あぁ、あれ」

 

 相変わらず無感情に返してきた。まぁ、いい。関係ねぇからな。

 さぁ、壊してやりますか。イヴちゃんよぉ。

 

 

 

 

 晴れていた。それは異常に。なんでこんな暑いのだろうか?

 

《ここら一帯の緑が消えていましたからね。何があったかは検討はつきませんが》

「なるほどな。ただ、やつがやった可能性はあるよな?」

 

 その言葉に、ディウスはうなずいた……気がした。となると、やつは広範囲での魔法攻撃をしたこととなる。魔力量が高いのか、それともデバイスが特殊なのか……見当はつかないが、まぁ、そんなのは関係ない。やるか、どうかだ。

 場合によっちゃ、俺の切り札を出せばいい話だ。

 

《着きました》

 

 ディウスがそう言ったのを聞き、下を見て拾えるものを探していた俺は首を上げた。そこには、

 

「おいおい。自然学的にどうかと思うぞ」

 

 あった。アノートの大樹が。そう、何の傷もなく、ただ悠然とそこに立っていたのだ。

 強烈な違和感。緑が消え去った大地に、悠然と立つ大樹は俺に違和感を与える。なぜ残っているのか、解らない。

 しかし、その答えはあっさりとディウスが答えた。

 

《結界、ですね。しかも、中々に上等な》

 

 そういえば、この大樹は長老の結界によって守られていた。先祖代々ずっと守られ崇められていたのだ。しかし、長老が死んだ今、結界が張られているのはおかしいが……。

 

《ただ、もう脆弱です。触れるだけで割れますよ》

 

 もしかしたら、長老が最後の意地を見せ、大樹を守ったのかもしれない。そうだと考えると、長老…………ダメだ。落ち着け。泣くな。また泣くな。泣いたらやり直しだ。

 何とか、数日前の自分を抑え、冷静に大樹の結界を破る。ディウスの言った通り、簡単に割れた。長老の意地がここまで簡単に破れると思うと、悲しくなってくるな。

 

「さて、どうするか」

 

 俺がそうつぶやき見渡した時、ふと、何かまた先程とは違った違和感を感じた。そう、それは木の幹に何か機械的な部分が見えたからだ。

 それは、ベロンと剥がれていた。外から見ると木の茶色をしているが、中を見ると鉄色をしていた。

 これは、

 

――――《っ!? 生体反応、あります!》――――

 

 ディウスが突然、俺に念話をしてきた。生体反応、ということは、やつか?

 ただ、俺が魔力で検知しても、後方には見当たらない。しかし、逆に前方、アノートの大樹には魔力らしき反応があった。

 

――――「木の中にあるな」――――

――――《どうします? 詳しく調べます?》――――

――――「調べさせてもらおう」――――

 

 アノートの大樹がいかに素晴らしいものかも調べたい。そして、何よりもこの機械製だ。アノートの大樹は一万年前からあると聞くが……機械製なのは違和感がある。

 俺は木から剥がれかけている部分を強く引きちぎるように開けようとする。しかし、硬い。というか重い。

 

「しゃあなしだ。ディウス、set up.」

《OK. My master.》

 

 俺はディウスの本体であるキーホルダーを握りしめながらそう呟いた。それに応じて、ディウスもそう答えた。キーホルダーが光り輝き、姿を変えていく。球体とウサミミ少女は一旦消え、現れるのは特に何の変哲もない短刀。しかし、柄の部分に球体が現れ、そこにウサミミ少女も出現した。

 デバイスの展開は、これで終了である。通常はバリアジャケットも付加されるらしいが、違法改造の代償に失われたらしい。まぁ、攻撃なんぞ回避したら何とかなるんだがな。

 

「さて、斬るか」

 

 俺がセットアップした理由は、勿論この硬そうな木を斬ることだ。信仰していた物を斬るのは少し辛いが、やると決めたらやる。

 

「ふんっ!」

 

 意を決し、俺は逆手で持ったディウスで大樹を切り裂こうとする。しかし、勿論のことだが、硬い鉄と思われる物質でできている大樹を切り裂くことなんてできない。せいぜい、斬った後しか残らなかった。

 だが、俺はそれぐらいは把握している。てか、そこまで頭は悪くはない。俺は連続で斬りつけ、魔法陣のように*状に斬りつけていく。そう、ここで使用するのは魔術だ。単純な攻撃では無駄であるし、中がどうなっているかが判らないので、無闇に攻撃できない。なので、魔術でまず検知する。

 

「魔力の節約のために魔法陣を一々描くのは面倒くさいな」

《しかし、それを行動したのはマスターなんですし、やりきりましょうね》

 

 はいはい、解ってますよ。やると決めたらやる、いつも通りだ。

 魔力の節約の理由は、極力魔力の消費を抑えるためだ。これは俺の技能(スキル)にも関係してくる。

 俺のスキル……旅の途中で知り合ったとある魔術師いわく、稀少技能(レアスキル)らしいが、俺はどうもこのスキルをレアスキルとは思えない。性質はいいのだが、能力が半端なのだ。

 『魔力吸収』。触れたもの、デバイスを通じて触れたものから魔力を吸収する能力。しかし、その量は少ない。せいぜい、相手の魔力の百分の一ぐらいか。それもあり、俺はあまりこの能力を過信していない。

 だから、元々ある魔力を無駄に消費したくないのだ。旅人の鉄則、魔力は温存。使うなら使い、使わないなら使うな。俺は魔力は多い方らしいが、この鉄則に従っている。

 そう使えない技能のことを考えつつ、魔方陣を完成させた。

 

「では、見させてもらうか」

 

 完成した魔方陣を覗き込むように見る。これは直接魔法陣を介して内部を見ることができる透視だ。弱点として、直接描いた魔法陣でしか効果がないのだが、安全性確保のため、大いに役立っている。……正直に言うと、昔、これで女子トイレを覗こうとして特訓した技である。不純な動機でスミマセン。

 

《なっ!? 不潔です! 不純です!! 最悪ですっ!! あぁ、汚らわしい。触れないでください。しゃべらないでください。――――キャッ、小突かないでくださいぃっ!?》

 

 相方がうるさくなったので、軽く小突いてやった。いやー、我が相方ながらそれは酷いよ。うん、一瞬ムカついたからね。

 

《一瞬じゃないでしょっ!? ……って、どうなったんですか?》

「ん、あぁ……」

 

 正直、こういう風に話を持って行ったのには理由があった。この大樹の中に生体反応があったのは知っていたことだから、特に驚きはしなかったが……、

 

「中身がすげぇんだよ。ありゃ、実験室だ」

 

 そう。中には大量の道具があったのだ。手のひらサイズの物から俺の背丈より大きいやつまで。そして、その中央部には一つの水槽が見えた。その中には、どうやら人間が入っているようだ。性別……までは把握できないが。

 そしてそこから流れている魔力は……。

 

《どうしました?》

「ん。いや、な。ちと、やばいかもな」

 

 動揺が隠せない。心臓がバクバクする。おいおいおいおい。なんでこんな何もない村に、あんなとんでもないやつが、しかも大樹の中に眠ってるんだよ。おかしいぞ、おい。

 俺の計測が間違ってないなら、あれはS級の魔力を持ってるぞ。

 

「こじ開けるぞ」

《了解しました、マスター》

 

 普通なら、ここで興味を抑えて無駄な魔力を消費せずに行くのが良策なんだろうが、そう上手くはいかないのが俺である。こういう時は、好奇心に応じて前へ進もう。

 そういうわけで、その切り刻んだ魔法陣を縦に斬る。

 

「バーン・レイジ」

 

 魔法陣に安定に溜まっていた魔力を、この一撃によって破綻させる。すると、放たれた魔力が安定せずに暴発。攻撃性を帯び、扉を破壊した。

 この魔術、直接魔法陣に干渉しないとできないから、滅多に使わない。なんせ、目の前に発生した魔方陣でこれを利用すると自分にもダメージを受けるという弱点があるからだ。まぁ、自爆覚悟でやるなら話は別だが。

 

「さて、少し手荒にしたが、前に進むか」

《手荒どころではありませんよ。あぁ、仮にも称えられていた大樹が……》

 

 ……そういうと、罪悪感が出てしまうからやめてください、ディウスさん。

 第一、もうこの樹を称える人なんていないだろうけどな。悲しいけど。

 さて、大樹の扉もこじ開けたことだし、入らせてもらいますか。

 

 

 

 

 中身は透視した通り実験室のようになっていた。そして、真ん中には例の大きな試験管。

 中には……裸の少女。

 

《マァスゥタァーー?》

「流石にこれは不可抗力でしょ」

 

 しかし……初めて見た。なんか……その……ごめんなさい。

 意識変更。冷静にこの状況を整理。そして結論を出す。

 

「よし、この子を出そう」

《えぇぇぇぇ!? どうしてそうなるんですか?》

「よく見ると、周りの機器が正常に起動していない。こんなところにほっておいたら、この子が死んじゃうかもしれないし」

《なるほど。というより、よく冷静に考えられましたね》

 

 そこは俺の旅人としての技量だと判断してほしい。状況判断能力と意識切り替えの技術ができないと、旅人なんてしてられない。いつ何時、襲われるか解らないからな。

 さて、どうやって助けるかだが……。

 

《魔力による実力行使は控えた方がいいですね。彼女が危険です》

「だな。とすると、どうするか……」

 

 そう考えていると、一箇所だけ機能していると推定できるスイッチのような物を見つけた。それはまるで、こいつを動かせというかのように光り輝いていた。

 ……押したい。

 

《はぁ?》

「すまん、相棒。俺は自分の気持ちに嘘はつけない。俺の中に眠る、漢が騒いでいるんだ」

 

 要は、興味津々なだけなんだが。まぁ、いいよね。

 というわけで、ポチッとな。

 

《知りませんよー。何が状況判断能力なんですか》

 

 相棒がなんか煩いが華麗にスルーで。

 スイッチを押して数秒後、輝いていた部分の光が増し、他のパーツにも光が乗り移っていった。

 そして、試験官のガラスが溶けるように消えた。

 

「……こんな技術、初めて見たぞ」

《魔力を使った物のようですけど……判断しかねますね。私も初めてです》

 

 と、互いに感想を漏らしながら、白い全裸の少女が前のめりになって倒れこんで来たので、それを抱き支える。

 

《ジトー》

「ディウス。声に出さなくてもいいから」

 

 とりあえず寝かせて、昨日散策した時に見つけた、綺麗な白いワンピースを着させる。

 しかし、改めて見ると、本当に白い少女だ。髪も白いのだが、肌も白い。そしてそこに白いワンピースを着させているせいか、白まみれだ。

 と、不埒なことなど一切ないことを考えていると、少女の目がパチっと開いた。

 

「…………」

「…………」

 

 目と目が合い、両者ともに沈黙する。ついでに、彼女の瞳の色は赤だった。アルビノ、だろうか?

 

「一つ、訊いて、いいですか?」

 

 たどたどとした言い方で、尚且つ無機質な言い方で、少女は俺にそう尋ねてきた。俺はそれに、あぁ、と短く返す。

 

「ここは、どこ?」

「アノート……と、呼ばれていた場所だ。今は、ない、けど」

 

 そう言うと、少女は不思議そうな顔をしてこちらを見てきた。

 

「何で、泣いて、いるの?」

「えっ……?」

 

 ふと、頬を触ると、一筋の滴が手に付着した。それは、たぶん、涙だった。

 

「え、え、あ……いや」

「大丈、夫?」

 

 少女が、無機質な言い方で、でも心配してくれているようで、俺の頬を撫でてくる。

 何で、今更、また、泣いているんだろう。もう、泣かないと、あの時、決めていたのに……。

 ただ、少女が生きていたといたということに、嬉しさを感じているのは確かだった。

 

 

 

 

「私の名前はイヴ。……覚えているのはそれぐらい」

「そうか……」

 

 気持ちが落ち着いたあと、彼女は自己紹介をしてくれた。イヴ。俺たち一族が使っていたイヴ式と同じ名前。まぁ、イヴなんて名前はよく使われていたが。

 

「俺の名前はナギア。ナギア・ファイルザだ。よろしく」

「よろしく……この子は?」

 

 彼女が指したのは、俺のデバイスだった。そう言えば、さっきから何も言わないな、こいつ。

 

「こいつの名前はディウス。俺のデバイスだ」

《よろしくお願いします、イヴ様》

「イヴでいいよ」

 

 珍しく他人に礼儀正しくしたディウスに、イヴはそう言った。

 ディウスが、警戒している? いや、警戒するほどのものなのか?

 

「とりあえず、イヴ。ここから出ようか。さすがに、外の空気を吸った方がいい」

 

 話が止まってしまったので、俺はそう切り出す。イヴは、うん、と俺の手につられて一緒に外へ出た。

 

 

――――《マスター》――――

 

 突然の念話。俺も咄嗟に念話モードになる。

 

――――「どうした? さっきから変だぞ、お前」――――

――――《先程から外が騒がしいのです。魔力が渦巻いていると言いますか、何と言うか……》――――

 

 ディウスが判断に困ったような感じで念話が途切れた。外?

 と、俺が相方の言葉に違和感を感じながら外へ出ると、そこには……

 

 

「見ぃつけたぜぇ、イヴちゃん、よぉー」

「ターゲット、フール・イヴ、確認……」

 

 

 そこには、赤い服と赤い髪が特徴的な男と、同じく赤い服と赤い髪が特徴的な女の子がいた。隣にいる、白い少女と同じ顔をした。

 

 

「……排除します」

 

 

 そう赤い少女が短く言った瞬間、世界が揺らいだ。




突然現れた謎の男と、赤い少女
そして、それに怯えるイヴ
赤い少女は、短く告げるのだった
彼女の運命を

次回、魔法少女リリカルなのは―α―『愚者の目覚め』
始まりが始まり。運命は狂う。


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第三話:愚者の目覚め

そこには少女がいた
村の中に少女がいた
樹の中に少女がいた
その現実がとても嬉しくて
心の中の、絶望が薄れていくような気がした
そして、滴が、落ちることなく消えた。

魔法少女リリカルなのは―α―、始まります


「……排除します」

 

 赤い服の少女がそう言った瞬間、世界が揺れた。ような錯覚をするほどの魔力を放った。もしくは、威圧感(プレッシャー)というべきものか。少なくとも、体全体が緊張感に包まれた。

 咄嗟に一歩下がろうとすると、イヴに当たってしまった。よく見ると、俺の右腕の袖を強く握っている。まるで、その少女に怯えるかのように……。

 いや、まぁ、俺も怖いんだけどな。

 

「おいおい。まだいいぜぇ、マジ。とりあえず、交渉だ交渉」

「交…渉……?」

 

 赤い男のその言葉に緊張感が少し緩むとともに、そんな情けない言葉をあげてしまった。

 だが、最低限の警戒は抜かない。男の手には、姿と同じく赤い銃があるからだ。

 

「そこにいる、女をこちらに渡してくれ。てめぇに危害は加えねぇ」

「っ!?」

 

 男の強気な言葉にイヴが強く震える。本気で怖がっているようだ。そりゃそうか。あんな銃を持ってられたら、そうなるよな。

 正直、俺も恐怖している。体が少し震えているのが、自分でもよく解る。

 だが、これだけは訊かないといけない。

 

「一つ聞かせてくれ。この残骸はなんだ?」

 

 遠回しに言った俺の言葉に、男はこう返してきた。

 

 

「ここか? ここは俺がぶっ潰した、ただの廃墟だよぉ……」

 

 

 その瞬間、俺は反射的にイヴの手を引っ張って、後ろへ下がった。突然の行動にイヴは一瞬驚いた表情をしたが、何とか着いてきてくれた。

 こいつだ。こいつだ。こいつだこいつだこいつだこいつだこいつだこいつだぁ!!

 

「おいおい。交渉破綻のようだぜ?」

「正直、に言ったから」

 

 男と女が何か言っているが、そんなのは関係ない。

 こいつだ。こいつがやったんだ。こいつが、故郷を、みんなを……。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああっ!!!!」

 

 俺は素早くディウスを構え、敵に接近する。近接戦闘。ディウスの特徴上、この戦闘を行う。

 

「ちっ、ガキの相手は怠いぜ」

 

 男はそう言いながら、銃口をこちらに向けてきた。そして、何の躊躇もなくトリガーを弾く。

 

「死にな」

 

 男の短い言葉と一緒に放たれた銃弾は、真っ直ぐ俺の方向へ向かってくる。銃撃速度は、さほど高くない。この程度なら、まだ、反応できる!

 

《Aegis Top》

 

 俺は咄嗟に、ディウスの言葉と同時に六角形のイヴ式の魔方陣を展開した。ミッドチルダ式で言うラウンドシールドだ。イヴ式では、これをアイギストップと言う。ついでに、内容はさほど変わらないそうだ。

 そのアイギストップで、攻撃を何とか受け止める。が、そのせいで俺は近づけず、一度後ろへ退くハメになった。

 

「生き残りかよ。メンドくせぇなぁ」

「即刻、排除」

「解ってるよ。こういうやつは――――」

 

 男は、そう言いながら、マジと呼んでいた女の頭を掴むように手を置く。

 男の目が、凶器に満ちたものになっていくような気がした。勿論、女も、そんな男を見て何も思っていないのか、無機質な視線をこちらに向けていた。

 

「全力で殺す!」

 

 その瞬間、男は女の頭を握りつぶした。イヴは咄嗟に目を閉じる。俺はイブを庇うように、彼女の周りを覆うようにする。その瞬間、後方から魔力の渦巻きが発生した。この魔力は……先程感じたやつと、似ている?

 俺は魔力による、恐怖を感じつつも彼女を庇いつづけた。そして、魔力の渦巻きが消える……。

 

《デバイスコピーセットアップ完了。アルカナオブワン、マジシャン》

「マジシャン・クロスメント……展開完了だぁ!」

 

 そこには、女の姿はなかった。そこには、男しかいなかった。だが、男は銃を持っていた。片方は先程まで使用していた銃だ。だが、もう片方は、先程とは違う。圧倒的な魔力。迫力。威圧。それを秘めた、最初に持っていた銃に酷似している銃を、男は持っていた。

 そして、先程聞こえた、あの女の声……。まるで、デバイスのように聞こえた。

 

「へっ、そんな拍子抜けた顔されちゃあ、説明してやるしかねぇな……と言いたいが」

《あまり、時間は、かけない方が、いいです》

「くっ……」

 

 こちらとしたら、時間をかけてほしいのだが、そうは上手くはいってくれない。このままじゃ、やられるか……。

 

「イクリプション……」

 

 男の周りから魔力の塊が展開される。そして、それが一点に集中し一つの魔力の塊を作り出す。集束砲撃魔法(ブレイカー)とは違う。あれは、集束型の……狙撃魔法!?

 

「ファイアァッ!!」

 

 集束型の狙撃魔法が先程とは違い、異常なほどの速さで飛んできた。瞬時にアイギストップを発動し防御に徹するが、威力と防御力の差がありすぎる。

 アイギストップと狙撃魔法が交差すると同時に、パキパキとアイギストップにひびが入る。このままでは、押しつぶされる。

 俺は咄嗟に、技能(スキル)を発動する。俺の、稀少技能(レアスキル)と言われている『魔力吸収』だ。

 

「ディウス! 吸収量及び消費量を報告!」

《消費量26%、吸収量7%》

「マジかよ」

 

 圧倒的差。差がありすぎる。ディウスの計算基準は俺の魔力だ。俺の魔力を100%とし、計算するのだ。だがこんなのじゃ、こちらが尽きる。

 その時、いつの間にか俺の背後まで来ていたイヴが、俺の背中を押してきた。どうやら、俺が負けないように手伝うように……。

 奥の手……使うか。

 

「ディウス、αだ!」

《了解しました》

 

 俺は、ディウスに奥の手のトリガーである、言葉を告げ、相方もそれに応じる。

 奥の手。これは、俺の稀少技能(レアスキル)を利用して放つ、応用技だ。これを考えついたのは、長老だったはずだ。俺の技能(スキル)に気づき、使用できるまでにしてくれたのだ。

 だが、成功確率はそう高くない。これの使用には、魔力の多くを使用するし、尚且つ、この攻撃は相手が長距離範囲(ロングレンジ)攻撃じゃなければ効果を成さない。この技は、魔力相手にしか意味がないからだ。

 その技の名前は――――

 

「――――火魔伊断(カマイタチ)っ!!」

 

 そうこの技の名前を言いながら、アイギストップと共にディウスで叩き斬るっ!

 魔力を吸収すると同時に、その吸収した魔力を放ち、吸収しきれない魔力を半相殺。そして、そこから自分の魔力を放ち、魔力を完全相殺し割る。これが、俺の切り札。火魔伊断(カマイタチ)だ。

 そして、その効果通りに敵の放ってきた狙撃魔法を分断することが出来た。だが、男にダメージはない。

 

「ふぅ~。てめぇ、おもしれぇな」

「そうかい」

「だが、もう無理だろ?」

 

 男の言うとおりだった。魔力を大量に放つことによって完全相殺するこの技は、俺の魔力のほとんどを奪っていった。俺の残り魔力残量は……38ぐらいか。次の攻撃を防ぎ切れるかどうか……。

 

「とどめにしてやんよ……」

 

 男がそう言い、足元に巨大な赤いミッドチルダ式の魔方陣を展開する。男は両手に持っている双銃の銃口を、俺の方向に向け、そこへ魔力を集中し始める。

 これは……集束砲撃魔法(ブレイカー)っ!?

 

「くそっ!」

 

 俺は一刻も早く逃げるため、目の前の状況に身体を震わせていたイヴの手を握って、この場から離れる。あの攻撃は、切り裂くことはできない。たとえ、俺の魔力を総力を使っても。たとえ、フルドライブを使ってもだ。

 先程の攻撃を見て、警戒していなかったわけではない。基本、当たればよしの射撃魔法を集束させて使ってきたのだ。集束砲撃魔法(ブレイカー)を使ってきても、おかしくはない。だが、やはり油断はしていた。わざわざ射撃魔法を集束させてきたのだ。集束砲撃魔法(ブレイカー)は使えない、と考えてしまっていた。

 

「さぁてぇ……。充填は完了したぜぇ……」

 

 男の声が聞こえた。チャージ時間は、およそ80秒。なんだ、この速さは。くそっ、全然逃げ切れられていねぇ! こんなんじゃ……。

 俺は咄嗟に、魔力を全開にしたアイギストップを展開し、イブを庇うように構える。イヴは、俺の動きが止まったことに気づき、俺の後ろに隠れようとした。

 

「駄目だ、逃げろっ!」

 

 思考より先に言葉が出た。荒げたような声を上げてしまったのを聞いて、イヴはビクリと肩を震わせた。

 どうにかしてイヴを逃がそうと説得をしようとしたが、

 

「チェェックメイトォ……」

 

 男のその言葉に、俺は説得をやめ、彼女を守るようにするように構える。ここまで来たら、この身を犠牲にしてでも、止めきるしかない……。

 

「ディウス! フルドライブっ!!」

《り、了解しました!!》

 

 通常、インテリジェントデバイスではないディウスを違法改造してまででもインテリジェントデバイスにした理由は、この能力にある。フルドライブ。インテリジェントデバイスの最大出力モード。デバイスと共に自分の身体を犠牲にする代わりに、強大な力を一時的に使うことが出来る。

 イブを守るためには、この俺の魔力を集結させたアイギストップごと火魔伊断(カマイタチ)で相殺するっ!!

 

「全てを燃やせ 我が憎々たる炎よ 拒むことを許さず 意志さえも焦がせぇ! クロスメントォ・ブレイカァーっ!!」

 

 男の詠唱が終了し終えた瞬間、その銃口から、考えたくないほどの魔力が放たれた。威力が……高すぎる。受け止められるか……? いや、受け止めるしか、ないっ!!

 着弾。周りが赤に包まれる。風が吹き荒れる。目の前のアイギストップがひび割れる。何とかして、火魔伊断(カマイタチ)をしようとするが、あまりもの衝撃に、右腕が動かない。

 身体が、割れるように痛む。ディウスの刃にひびが入る。意識が薄れ始めてきた。目の前が、壊れる。パキパキと、イヴ式の魔方陣の一部が欠損する。

 もう、言葉は出なかった。白く、目の前がぼやけてきて、身体全体から力が抜けてくる。

 死ぬ、かな。本能がそう伝えてくる。差が違いすぎた。そうだ、故郷を破壊したやつなんだぞ。そんなやつに、俺みたいな雑魚が、挑んではいけなかったんだ。怒りもせず、あそこから逃げていればよかったんだ。

 もう、怒りという感情が湧いてこない。それどころか、感情がなくなっていくような気がする。

 無だ。虚無だ。

 そう、意識さえも消える……

 

 

 

 

 

――――「いきて」――――

 

 

 

 

 

 

「……あひゃ」

「あひゃひゃ」

「あひゃひゃはやひゃはやひゃはやひゃはやひゃはやひゃはやはひゃっ!!!!」

「死んじまったかぁ……。しょうがねぇかぁ」

《…………》

「おい、どうした?」

《いえ……》

「お仲間同士で、感傷に浸ってる感じかぁ? バカバカしい」

《…………》

「奴らは群れるからだりぃんだよ……。じゃ、次行くぞっ……てぇ、雨降ってきやがった」

「あんときもそうだったなぁ……。おかげで、奴らの灰が消えたのは良かったがなぁ」

 

 

 

 

 男の声が聞こえた。その言葉を聞き、俺は自分が死んでいないことに気づいた。が、周りは土埃だらけで、何も見えない。上から、水が落ちてくる。雨、だろうか?

 ふと、後ろにいたはずのイヴの気配が消えていることに気づく。まさか、と最悪の考えが頭によぎった瞬間、

 

――――《……デバイスエボリューションセットアップ、完了。フールカード、同化確認。フール・イヴ、同調化、確認》――――

 

 デバイスのような、少女の、イヴの声が念話で聞こえた。細々しい。だが、そこには強さに近いものがある。俺は彼女がどこにいるのか探そうとしたが、周りの土埃のせいで、探そうにも探せない。

 

――――《ナギアさん……私は、その……》――――

 

 イヴはデバイスみたいな声でどこからか話しかけてくる。

 

――――《デバイスを、強化する、存在……、のようです》――――

 

 イヴの細々しい声がさらに細くなる。彼女の言葉に、俺は身体に違和感を感じた。

 よく見ると、服が変わっていた。ここまで、茶色の薄汚れた服を着ていたのだが、今は灰色のロングコートになっている。バリアジャケットだろうか……。だが、俺のディウスにはそんな機能はない。

 ふと、手に持っていたディウスに目を向けた。が、そのままでは見えないので目の前まで持ってくる。だが、

 

「うぉ」

 

 思った以上に重かった。明らかにナイフ型のデバイスの重さではなかった。

 

――――《それは、ディウスさんの、情報に介入して、強制的に『進化』させた形態です……》――――

 

 イブがたどたどとだが説明してくれる。進化。デバイスにそんなものが存在するかは不明だが、形状が変わっているのは確かだった。

 だが、そこで疑問が生じる。

 

――――「ディウスは!?」――――

 

 そうだ。我が相棒、ディウスはどうなっているんだ?

 先程からうんともすんとも言わないのだが……まさか、そんな……

 

――――《ふにゃ? なんですか、マスター》――――

――――「は? ディウス?」――――

 

 突然聞こえたディウスの声で思わず、上づいた声を出してしまう。

 そんな俺に、笑いをこらえるような声を出しながら、

 

《空気読んだんですよ。結果、いらぬ心配をかけてしまったですけど》

 

 と説明してくれた。

 あぁ、よかった。みんな無事のようだ。

 でも、どうする? あの男は近くにいる。ここでまた見つかったら、今度はどうにもできないかもしれない。それでは、折角拾った命が無駄だ。

 そんな、我ながら後ろめいたことを考えていると、イヴが怪訝そうな声を出して聞いてくる。

 

――――《戦わないの?》――――

――――「……あぁ」――――

――――《あんなに、怒っていたのに?》――――

 

 彼女の言葉が流暢になっていく。そうだ。俺は怒っていた。でも、そんな感情、あの攻撃を受けて、消えてしまった。もう、あいつと戦う意味なんて、ない……。

 

――――《私は、あなたのその怒りに、あなたに可能性を感じて、あなたに力を貸した……》――――

――――「…………」――――

――――《だから……思い出して。あなたの思い人を》――――

 

 俺の思い人。それは、俺を産んでくれた両親。

 

――――《思い出して。あなたの育てたものを》――――

 

 俺を育てたもの。それは、俺に魔術の基礎を教えてくれた長老。

 

――――《思い出して。あなたの故郷を》――――

 

 俺の故郷。そうだ。それは、俺が今踏んでいるこの大地。俺が産まれ、俺が育ち、そして俺が愛した村。そして、俺が涙してしまった村……。

 そんな大事なものを壊したのは誰だ? あの男じゃないか。あの赤い男。あいつじゃないのか?

 

――――「……イヴ、ディウス」――――

――――《…………》――――

――――《どうしました、マスター?》――――

――――「わりぃ。思い出したよ。怒りを。みんなのことを。涙をっ!!」――――

 

 あの時の涙を嘘にしちゃいけない。俺は、やらないといけない。あいつを、倒す!

 その瞬間、俺の周りから魔力が渦巻き始めた。同時に、魔力が溢れ出すような感覚を覚える。

 まだやれる。俺にはまだ、戦える。

 そう確信した瞬間、土埃は魔力の渦巻きに乗せられて吹き飛ばされた。

 

 

 

《アルカナオブゼロ、フール》

「フール・シュバルツ、進装っ!!」

 

 

 

 男の姿が見えた。赤い男は、驚いたような顔で俺を見ていた。それもそうか。あの状況下で、俺が生きていると思わなかっただろうしな。……正直、俺だって未だに疑っているくらいなんだから。

 それと、今の姿のこともあるだろう。先程と違って、灰色のロングコート状のバリアジャケットも着ているし、足には黒色の鉄のブーツを履いている。そして、ナイフであったディウスは黒色の大きな剣になっていた。刃まで真っ黒に染まっている。これじゃ、ベルカの騎士みたいだ。

 だがそこは村を破壊した者。冷静に、あの双銃の銃口を俺に構えた。

 

「けっ、生きてやがったか。しかも、イヴの力に目覚めてやがるっ!」

「イヴの力? よく解らないが――――」

 

 男は俺の言葉が言い終わらないうちに銃撃を放ってきた。集束砲撃魔法(ブレイカー)ではなく、集束射撃魔法のほうだ。

 だが、俺はそれをフール・シュバルツで切り裂く。火魔伊断(カマイタチ)の力がこうも簡単に使えるとは……。感嘆を覚える。

 

「ちぃっ! なら!!」

 

 男は素早く魔力を集束し、詠唱を終える。くるぞ、あの技が!

 

「死になっ!! クロスメントォ・ブレイカァーっ!!」

 

 男のその言葉と同時に魔力の巨大な流れが流れてくる。だが、今なら――――

 

「でぇぇぇあああぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 俺は、その集束砲撃魔法(ブレイカー)を切り裂こうとする。だが、さすがに押される。

 その時、攻撃を受け止めているディウスが言葉を発してくる。

 

《マスター。技能(スキル)を!》

「!? そうかっ!」

 

 ディウスの提案に乗り、俺は魔力を放つのではなく吸収に徹する。

 すると、突然魔方陣が勝手に展開し、その魔方陣の回転に合わせて魔力が吸収されていく。これは――――

 

虚無吸収(アブソーブ・ゼロ)

虚無吸収(アブソーブ・ゼロ)……」

 

 イヴがそう短く言った。これは、どういう原理なのだろうか?

 まるで、俺の技能(スキル)が進化したような……。

 

「だが、助かるっ!!」

 

 俺は、その力を使いながら集束砲撃魔法(ブレイカー)を防ぐ。魔力が渦となり、集束砲撃魔法(ブレイカー)は、すべて魔方陣に吸収された。

 後に残るのは、発生した土埃と魔力の残滓のみ……。

 

「なぁっ……!?」

 

 男が、防ぎ切った俺を見て、驚きの顔をしていた。まぁ、俺もそんな感じだから、気持ちはよく解る。

 さて、次の攻撃へ――――

 

《ま、マスター……》

「うん?」

 

 ディウスが、何か疲れたかのような声を出した。

 

《ま、魔力が貯まりすぎて、体が、はち切れそうなんですが》

「はぁ?」

 

 ディウスノいきなりの言葉に、俺は驚いた。いつもはデバイスには負荷をかけないようにしていて、疲れるとしてもそれは俺なのだが、この形態の場合、デバイスの方に負荷をかけてしまうのか……? 確かに、集束砲撃魔法(ブレイカー)を吸収したあと、黒い刃に白い光のような線が入っているのが見えるが……。これは、魔力?

 

《も、もう……限界》

「ちょ、ちょっ! 勝手に、動かすなぁっ!!」

《……クス》

 

 あ、今、イヴが笑いやがった! くそぉ、こっちは勝手に動くデバイスを止めるのに忙しいのに。

 

《そのまま、ディウスに任せて》

「はぁ?」

 

 イヴの言葉に、俺は一気に手を抜く。瞬間、デバイスの黒い刃が一気に上を向いた。まるで、天へと剣を掲げるように。

 

《は、は、発射ぁぁああっ!!》

 

 剣が天へと刃を向けた瞬間、ディウスのその悲痛な叫びみたいな声を上げながら、魔力が一気に放射された。光の一閃が、天を覆う雲を割る。そして、現れるのは放たれた魔力と同等の光。太陽だ。

 

《ナギア》

「あぁ、なんとなくだが解る。これで決めろってことだよな?」

《うん》

 

 その瞬間、足場に銀色で巨大なイヴ式の魔方陣が展開される。そして、刃には太陽の光が魔力へと変わり充填されていく。

 どういう原理でこうなっているのか、いまいち解らないが、これを利用しない手はない。

 

「詠唱は、イヴに任せるよ。名前は俺に任せて」

《うん、わかった》

 

 そうイヴに詠唱を任せると、まるで考えていたのかというぐらいに流暢に唱え始めた。と、同時に魔力が刃に覆いかぶさるように、光を放ちながら出現する。黒い刃を白い光が覆いつぶす。

 これで……倒すっ!!

 

《天を開け 我が進装の刃よ 日輪の光は我が力に 虚無を満たし 閃光の一撃となれ!!》

「一撃一閃っ!!」

 

「《クラウソラスゥゥッ・シュバライザァァァァァッッッッッ!!!!》」

 

 俺とイヴの声が重なる。と同時に、一気に剣を振り落した。その瞬間、魔力が光を増し一気に放出される。その一撃は光速で、肉眼では確認できないほどの速さに思えた。……実際はあまりにも眩しすぎて、目を咄嗟に閉じちゃったんだけど、当たったの、かな? 粉塵のせいで当たったのかよく解らないんだが。

 

《マスター》

 

 ディウスが、なんだかドン引きしているような声を上げた。いや、まぁ、俺も十分に引いてるんだけどね。地面が一直線に抉れてるし。イヴもあまりの威力で言葉を失っている様子だし。

 

「どう?」

《いや、どう? じゃないでしょう。威力が段違いですよ。魔力の数値も基準とオーバーしてますし》

 

 ディウスが驚嘆の声を上げている。確かに先程の攻撃の魔力はいろんな意味で段違いだ。先程の男の攻撃すらも、霞むぐらい。これを自分で出せたのが現実かどうか疑うぐらいだ。

 右手に持つフール・シュバルツを見る。先程、魔力をほとんどを放ったせいか、あの白い光の線は力を失ったように消えている。純白の愚者(フール・シュバルツ)は、今は静かに眠っていた。

 

 

 

 

 しばらく放心状態で立ちすくんでいた。気が付いた時には、自然に純白の愚者(フール・シュバルツ)は、元のディウスに戻り、イヴも隣に出現した。その表情は、複雑な表情をしていた。

 

「ん? どうした」

「私……」

 

 先程の状況がよく解っていないようだった。うん? でも、俺、何気に誘導されていた節があるんだけど。

 

「あの時、あの状態になった時、頭に、一気に、いろんな情報が流れてきて。何も解らないのに、身体が勝手に、動くような感じがして――――」

「――――それは、私たち、と同類の、証」

 

 その時、あの男と一緒にいた赤服の少女の声が聞こえた。しかも、ちゃんとした肉声でだ。

 未だ消えずに残る粉塵の中から、少女の影が見えた。彼女はズルズルと、何かを引っ張るような音を鳴らしながら現れた。あの、男だった。口からは血が流れた跡があり、服もほとんどが破れていたが、どうやら気を失っただけですんだようだ。

 

「この、男の始末は、任せる」

 

 赤服の少女は淡々と冷酷に告げる。赤服の少女の服装は、意外にも無傷だった。

 

「私は、負けた。この身体、も、もうすぐ消える。だから、伝える」

 

 彼女は声を掠らせながら、男の胸に手を添えた。そこから、スゥーッと赤色のカード状の物が現れる。……どこかで、見たことがある気がする。

 

「あなたに、託す、愚者(フール)よ。この力、魔術師(マジシャン)の力。魔術師(マジシャン)のイヴは消え去るが、あなたの中で生き続ける。愚者(フール)のイヴよ。受け取れ」

 

 そう言って、赤服の少女はイヴにそっとカードを手渡した。すると、そのカードはスッと彼女の手のひらから消えた。それを見たイヴは、ビクンッと身体を大きく震わせた。

 

「お、おい」

「始まりの少年よ」

 

 俺がイヴが心配で駆け寄ろうとすると、赤服の少女は今度は俺に話しかけてきた。

 

「あなたは、彼女を、今度こそ(・・・・)守れる力がありますか?」

 

 今度こそ……? その言葉が頭の中に引っかかったが、俺はそんな疑問よりも先にこう答える。

 

「守るよ。俺には何かよく解んないけど、この力はそういう力、だと思う。俺が、できることをするよ」

 

 そう答えると、少女は微かにほほ笑んだ。ような気がした。

 赤服の少女は、身体を大きく震わせているイヴの肩に、そっと手を添える。

 

「受け止めて。少しずつでいいから。あなたの、本当の意味を」

「あっ……あっ……」

 

 そう赤服の少女が言うと、イブの震えが少しずつ治まってきた。

 

「道を示して。あなたには、その資格がある」

「あっ……」

 

 そうまた少女が言うと、イヴはさらに震えが治まる。だが、少女の姿が、透けて、きた?

 

「進んで……そこに、始まりがある」

「……うん」

 

 そう少女が消え入りそうな声で言うと、イヴがそう頷いた。震えはもう消えていた。だが、赤服の少女の姿も消えかかっていた。

 そんな彼女の手を、イヴは優しく重ねる。

 

「進むよ。まだ、何も解らないけど。私は私の道を。だから、一緒に行こう」

 

 イヴのその言葉に、赤服の少女は大事な何かを手に入れたかのように、優しい微笑みを浮かべながら、消えた。まるで、イヴに吸い込まれるように。

 消えたあと、残響のように、彼女の声が響いた。

 

 

「愚者なるイヴよ、その道路に、優しき希望があらんことを……」

 

 

 その声は、先程までの彼女とは違う、希望に満ちた声をしていた。

 

 

 

 

 赤服の少女が消えたあと、しばらくしてから彼女は動き始めた。その目には、最初にあった怯えなどはなかった。ただ真っ直ぐに。何かの目標を見つけたようだった。

 

「えぇーっと、だな。俺はこれから、ミッドチルダっていう街に向かうんだけど……来る?」

 

 倒すべき敵は倒してしまった。殺すことは、結局はしなかったけど、手が出せないようにデバイスを奪っておいたから、もうあんな悲劇は繰り返すことはできないだろう。少し罪悪感を覚えたが、まぁ、いいだろう。こっちは、それ以上の者を奪われているのだから。

 それよりもだ。俺は、この問いに彼女はいい返事を返してくれる自信がなかった。彼女の目は、もう次に向かう道を示しているような感じだったし。

 

「そう、ですね。私が向かうべき道は、そのミッドチルダという街を、たぶん通ると思います」

 

 だけど、彼女はそう返してきた。正直、驚いた。というよりも、さっきまであの樹の中に入っていた彼女が、なぜミッドチルダの場所を知っているんだろう。謎だ。

 

《さて、ではミッドチルダを目指していきましょうか!》

「そうだな」

 

 ディウスにそう言われ、俺は応じるように答える。

 だがイヴは、どう返したらいいのか解らないようだった。ので、

 

「イヴ」

 

 と、手を差し伸べる。イヴは、その手を握り返し、

 

「うん」

 

 と返した。

 天が割れたような空は、今は澄み渡るような青い空で、まるで俺たちの旅路を祝福しているように見えた。




イヴと二人での旅で初めて村に入った
どうやら彼女にとっては新鮮そのもので、
嬉しそうに村を回っていく
だが、俺はそこで、運命の相手と会う

次回、魔法少女リリカルなのは―α―『管理局のヒト』
始まりが始まり。イヴがはしゃぐ。


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