ハイスクールD×f (巫女好きの満月)
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プロローグ

『あなた達は死にました』

 

 自分がどこにいるのかさえ分からなくなるような白い世界にいつの間にかいた少年たちは何処からか聞こえてくる声にそう言われた。

 

『あなた達は寿命で死んだのではなく、我々のせいで死にました』

 

 ふざけるなと少年が叫ぶ。元の世界に返してと少女が叫ぶ。

 だが、その叫びはすぐに収まることになる。

 

『あなた達にはこれから別の世界に転生してもらいます』

 

 二次創作などでよくある『神様転生』。その言葉を聞いた瞬間、叫んでいた少年は雄叫びをあげた。他の人たちもそれぞれの反応をする。

 だが、その中で一番多かったのは何処の世界に転生させるのか?だった。

 

『あなた達が転生する世界は『ハイスクールD×D』、あなた達の前世にはいなかった幻獣や悪魔などの人外が存在する世界です』

 

 声はそれに答え、さらに話を続ける。

 

『あなた達には2つの選択肢があります。転生する世界には『原作』と呼ばれるものが存在しています。その『原作に強制的に関わる道』、そして、『試練に挑戦して『原作』に関わらなくてもよくなる道』の2つ。

 あなた達にはこの2つのどちらかを選んでもらい、その後自らの力となる特典を選んでもらいます。

 ……ただし、試練に挑む道も、原作に関わる道も必ず命の危機になる時があります。その点をよーく考えてください』

 

 多くの者が『原作に関わる道』を選ぶ。だが、4人だけは『試練に挑み原作から逃れる道』を選択した。

 それに、他の人たちが反応する。ある者はその正義感?から「原作を良くしようとは思わないのか!」と言い、ある者は「臆病風に吹かれたか!」と嘲笑し、またある者は「俺のハーレムの障害が消えた!」と喜ぶ。

 

『試練の方に行く人は4人だけですか?転生してから変更することはできないのですが……』

 

 声がその場にいる者達に確認をする。その場にいる全員はその問いに首を縦に振ったりして首肯する。

 

『分かりました、それでは特典の説明をさせてもらいます。

 特典はあなた達が決めることができますが、その数は最大で3つです。

 そして、特典には次の大原則があります。

 1.それぞれの転生者の特典は被らない。もし、欲しい特典が2人以上被った場合は早く選択した方がその特典を得ることになります。

 2.原作のキャラクターなどに関係する特典は1人につき一つしかできません。これは、例を出すならば『主人公の力が欲しい』とか『主人公の幼馴染になりたい』とかですね。

 3.その特典を持っていたキャラクターが成長しなければ使えない者はすぐには使えません。例を出すとするならば『無限の剣製(アンリミテッドブレイドワークス)』は投影、解析は最初から出来、宝具の記憶などはありますが、最初から固有結界を展開することは出来ません。

 以上、三つの大原則があるのでそれぞれきちんと考えて特典を選んでください』

 

 その言葉が聞こえると同時に、それぞれ自身の特典を慎重に選んでいく。だが、その中で1人だけ他の人たちよりも速く特典を決めた。

 そして、それに続くように他の人たちも特典を決めていく。

 30分くらい経った頃だろうか?何回か駄目出しをされた人たちも特典を決め終えた。

 

『……全ての転生者の特典が決まりました。これから転生させます』

 

 その声とともに全ての転生者の目の前を光が覆った。



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無効を見つけ、地に落とせ

 

 

 

 転生者達がこの世界……『ハイスクールD×D』の世界に転生して前世の記憶を取り戻してから、10年が経った。

 ある者は原作キャラと関わるために行動し、ある者は来るべき『原作』に備えて『特典』を使いこなすために実践や訓練を繰り返し、また、ある転生者達は『原作』に強制的に関わることを免除するために五つある試練、その最初の試練に挑んでいた。

 

『試練名 "『無効』を見つけ地に落とせ"

 

 ・挑戦者一覧

  ・黒鉄零二 ・白金燐 ・因幡月読 ・神代なぎさ ・星川瑠璃

 

 ・挑戦者敗北条件

  ・無効ではないプレートを二つ地に落とす

  ・制限時間を超えてもプレートが一つも落とされていない場合

 

 ・挑戦者ペナルティ事項

  ・プレートのある部屋に入った挑戦者は30分以内に勝利条件を満たさねばならない

  ・挑戦者は中で戦闘を行ってはならない

  ・プレートのある部屋に入った挑戦者は外部と連絡することはできない

 

 ・挑戦者勝利条件

  ・1.無効であるプレート二つ地に落とす

  ・2.全てのプレートを読み解く

 

 以上を持って第1の試練を開始します』

 

 

 30個もの様々な人や怪物などが描かれているプレートが壁にかけられている部屋の中で、1人の少年が紙を見ながら地面に寝転んでいた。歳は12歳ほど、身長は同年代の平均ぐらいだ。

 その少年の近くには同じく試練に挑戦している少女達が頭を捻らせながら壁にかけられているプレートを見ている。

 怪物を倒す男のプレート、猪を狩る狩人のプレートなど、まるで神話に出てくるエピソードを物語っているプレートを見ては考えを捻らせ、違うかもなどという言葉がたまに少年の耳に入ってくる。

 

「……それで、貴方は何をしているんですか?」

 

 退屈そうにその様子を見ていた少年に声をかけてきたのは銀髪の巫女装束を着た少女だった。目が見えていないのかプレートを見に行くことはせず最初からずっと少年の隣で座っている。

 

「何って見たらわかるだろ?謎が分からないから考えているんだよ」

「嘘ですね」

 

 少年の言葉をバッサリと切る少女。少年は「へぇ」と興味深そうに少女を見る。

 

「貴方がここに来てからプレートを見た回数は1回、見ていた時間は凡そ5分。この部屋にあるプレートは全てバラバラに配置されていて5分で全てを見ることはできません。貴方が全てのプレートを一度に全て見ることができるのなら話は変わりますが……」

「それに近しいことはできるが……、生憎こんなに広く置かれているとそれは無理だな」

「ですね。なら、貴方が今こうしている理由は一つだけ……()()()()()()辿()()()()()()()からですね?」

 

 少女の言葉に少年は何も言い返さない。

 何故なら少女の言葉は当たっているからだ。

 

「制限時間は残り5分。他の人達はクリアしようと躍起になっていますが、貴方だけは何もしようとしていません。最初は諦めたかと思っていましたが、貴方がその紙……試練について書かれた紙をずっと見ていることからそれは無いと思いました」

「何でだ?」

「諦めた人は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その少女の言葉に少年はなるほどと思うと同時に()()良いなとも思った。

 少女の目が見えていないことを少年は直ぐに理解していたが、まさか出来るだけ()()()()()()()()行動まで見抜かれていたとは思ってもいなかった。

 

「よく分かったな」

「この部屋に置いてあった紙は試練について書かれていた紙のみ。外部から持ってきたという可能性は否定できませんが貴方はバッグなどを持ってきていない事からそれは無いでしょう」

「『特典』の効果で見えなかっただけかもしれないぜ?」

「それも否定できませんが、貴方はそういった特典は持っていないでしょう?」

「……へぇ?その根拠は?」

「乙女の勘……では駄目ですか?」

 

 クスリと笑いながら言った少女を見て少年は笑う。何らかの根拠があると思っていて聞いたのに、まさかその根拠が『乙女の勘』だと少年は思ってもいなかったのだ。

 

「さて、長々と話してしまったせいで制限時間が残り2分になってしまいましたね」

「そうだな。そろそろ待つのにも飽きたし、サクッと終わらせるか」

 

 

 少年が立ち上がってプレートの場所へと向かう。先程まで少年と喋っていた少女はこの試練の答えが知りたいのかトテトテと少年の後を追う。

 

「何で付いてくるんだよ」

(わたくし)、この試練の答えが気になってしまいましたので」

「……説明しながらやれと?」

「是非」

「はぁ、りょーかい」

 

 少年がため息をついてプレートの方へと足を進める。残り時間の少なさに焦っている少女たちが視界に入るが少年はまっすぐとその奥へと進んでいく。

 

「先ず、お前はこの試練の名前を聞いて何を思った?」

「そうですね、この試練の名前を聞いた時、何が『無効』なのか疑問に思いました」

 

 少女が思い出しながら言う。少年はそんな少女を見ながら喋り始める。

 

「そう、『無効』を見つけ地に落とせ……これだけだと何が無効なのかは分からない。だが、この部屋のプレートを見れば何が無効なのかすぐに分かる」

「そうなのですか?」

「ああ、ここにある30個ものプレート。一見すると何の繋がりもないように見えるがよーく見ると一つの共通点がある」

 

 少年が足を止める。

 少年が足を止めた場所は他の場所のようにプレートがバラバラに置かれている場所ではなく、12個のプレートが並べられている壁の目の前だ。

 

「その共通点は、全て『ギリシャ神話』だということだ。さっき通った場所にあったのは『オリオン』と『アルテミス』のエピソード、その次は『アキレウス』と『ケイローン』のエピソード……ほら、この四つは全て『ギリシャ神話』の英雄と神様だ。

 そして、ここにあるのは12個のプレート、しかもご丁寧に並べられててさらには描かれている男は同じ……。

 ギリシャ神話で12個の功績、さらには男。ここまでくれば誰だって分かる。

 ここにあるプレートは『ヘラクレス』の十二の功業のプレートだ」

「それは、(わたくし)にも分かります。ですが、これのどこに『無効』があるのですか?」

 

 少女が少年に質問をする。少年はそれにプレートを手で触りながら答える。

 

「ヘラクレスの十二の功業、実はこれ最初は10個だったんだが、その内の()()()()()()()()()()()()()()()

 おっ、こうすれば外れるのか。

 あの試練の紙に書かれていたのは2つの『無効』を地に落とす。つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。正解であるこいつから少しでも意識を逸らすための奴だろうな」

 

 少年がプレートを2つ取り出してそれを下に落とす。

 

「ヘラクレスの十二の功業『ネメアーの獅子』『レルネーのヒュドラ』『ケリュネイアの鹿』『エリュマントスの猪』『アウゲイアースの家畜小屋』『ステュムパーリデスの鳥』『クレータの牡牛』『ディオメーデースの人喰い馬』『アマゾーンの女王の腰帯』『ゲーリュオーンの牛』『ヘスペリデスの黄金の林檎』『地獄の番犬ケルベロス』のうち、功業が無効となったのは『レルネーのヒュドラ』と『アウゲイアースの家畜小屋』よって、9つの頭を持つ蛇に向かっていく男のプレートと2つの川の流れを変えようとしている男のプレートを地面に落とせばーーーー」

 

 甲高い音ともに落ちた2つのプレート、そしてそれと同時に制限時間を示していた時計は止まり、閉じていた扉が開いた。

 

「ーーーー試練クリアだ」

 

 笑みを浮かべて少年がそう宣言した。

 それと同時に、先程までプレートを見て必死に試練をクリアしようとしていた少女たちが少年達のところへとやってくる。

 

「さっきのはもしかして……」

「はい、この人がクリアしました」

 

 黒髪のツインテールの少女が少年の隣にいる銀髪のツインテールの少女に話しかける。銀髪のツインテールの少女はそれに返事をし、黒髪のツインテールの少女はそれに驚きながら少年を見る。

 

「え……っ!?月読ちゃんが解いたんじゃないの!?」

「違います。(わたくし)では途中までしか解けませんでしたから」

 

 わいわいと先ほどの話をしていく銀髪のツインテールの少女と黒髪のツインテールの少女。それを見ながら少年は足音をできるだけ立てないようにしながら外へ出ようとする。

 

「そういえば、名前を聞いていませんでしたね」

 

 ゾクっと少年の背中に冷たいものが走った。少年が慌てて後ろを見るとそこにはいつのまにか黒髪のツインテールの少女と話していた銀髪のツインテールの少女が少年の服の袖を掴んでいた。

 

「名無しの権兵衛」

「そんな名前がこの世にあるのですね」

「…………」

 

 皮肉げではなく、純粋な疑問の言葉に少年は一瞬唖然とするがすぐにため息を吐いて自分の名前を答えた。

 

「零二、黒鉄零二だ」

「黒鉄……零二さんですか。(わたくし)は因幡月読です。よろしくお願いします」

 

 丁寧にお辞儀をする因幡月読と名乗った銀髪のツインテールの少女。それに、少年ーーーー黒鉄零二は苦笑すると「まぁ、よろしく」と曖昧に言って外へ出ようとするが、その前に他の人物たちにも捕まってしまう。

 

「あっ、あの!私は!神代なぎさっていいます!よろしくお願いします!」

「私は星川瑠璃です」

「……しっ……白金……燐……です……よろしく……お願いします」

「……よろしく」

 

 素っ気なく返す零二、それに燐は自分が何かしたのかと思いビクッと肩を震わせる。零二はそれを見てやべっと思ったが、どうしたらいいか分からず月読の方を見る。

 月読はそれに何かを察したのか燐に向かって言った。

 

「怯えなくても大丈夫ですよ白金さん」

「……いっ、因幡……さん……」

 

 燐が月読の方を見る。月読はそんな燐に自信満々に言った、

 

「この人はただ人付き合いが苦手なだけですから」

 

 月読が言葉を放つと同時に零二が何か言いたそうにするが、事実なのでただバツが悪そうに目をそらす。

 

「…………ほよ?」

 

 それを言った本人はまさか、自分が冗談で言ったことが真実だったとは思わず、間抜けな声を漏らしてしまう。

 

「……それじゃあ、オレは帰るわ」

「……はい、どうぞ」

 

 何となく、居心地が悪くなった零二は逃げるように走って扉の方へと向かう。

 ……その手に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を持って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある森の中に一人の少年が立っていた。

 薄暗い森の中で、月明かりだけが少年の周囲を照らしていた。

 

「なぁ、そろそろ俺帰りたいんだけどー」

 

 少年が森の中にいるモノに声をかける。だが、辺りは何も変化しない。

 

「……はぁ、面倒だけどやるかー」

 

 少年の両手に一瞬だけ光が現れ、ソレは現れた。

 鞘に収められた、少年の背丈ほどはあるであろう長刀。鞘や、柄などには特に変わったところはない……だが、その刀から出ているモノは違う。

 漆黒のオーラ、それも明らかに明るいオーラではなく何処か禍々しさを持つ漆黒。

 ソレに当てられたのか少年の後ろの方からガサッと音がした。

 

「あれ?意外と近くにいたんだ?」

 

 少年がその場所を見る。そこには、少年の持っている長刀を見て恐怖で震えている異形がいた。

 

「……戦意喪失かぁ、ガッカリだよ」

 

 そんな異形の姿を見て心底失望したような声で少年が言った。だが、異形はそれでも動くことをしない。

 いや、正確にいうならば異形はそれを聞こえてはいるがパニックを起こしていて動けないと言った方が正しい。

 

「……つまんない奴」

 

 その言葉が、異形が最後に聞いた言葉だった。いつのまにか少年は異形の目の前まで移動してその鞘から抜いた長刀を異形に突き刺していた。

 心臓を貫かれ、頭を貫かれた異形は最後に何をされたのか理解することなく、ただその生涯を終えた。

 

「転生して10年経ったけど……、つまらないなぁ。ここら辺に手応えのある奴はいないし」

 

 少年が過去を思い出しながらブツブツと小声で言いながら場所を移動して行く。

 

「そうだ、いっそ辻斬りでもしようか。そうすればいつかは強い人に出会える気がするし」

 

 そう言って少年は近くにあった木に実っている木のみを取って口にした。



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 雪の降るクリスマスイヴの夜、1人の少年が公園にあるブランコに座っていた。いつから居たのか、その頭と肩に沢山の雪が乗っていることからかなりの時間居たのではないのかと推測できる。

 少年は真っ直ぐと公園の入り口の方を見て居て、誰かを待っているようだ。

 時間を見て、ポケットの中の物を確認して、また公園の入り口を見る。そんな事を少年は何回も何回も繰り返しながらまだ見ぬ待ち人に想いを馳せる。

 既に時間はかなり過ぎている。けれど待ち人は未だ来ない。

 それでも少年はただひたすら待ち続ける。そして、時計の長針が再び頂点を向いた時、ザクッと積もった雪が踏まれた音が聞こえた。

 少年がその音が聞こえた場所ーーーー公園の入り口を見ると、少年が待っていた少女がそこにはいた。

 少年は少女が遅れてきたことに少しだけ驚いていたが、それを顔に出さず少女にいつものように声をかけた。

 それに少女も少しだけ遅れて少年に言葉を返す。

 何時ものようにたわいもない話を少年と少女はしばらく続けていたが、少年は少女に何処か違和感を感じていた。

 何時もであればもっと明るい笑顔なのにと何時もとはどこか違った様子の少女に少年は少しだけ戸惑う。

 そして、話のネタもつき2人の間に会話がなくなる。

 何時もとはまるっきり違う何か、少年はそれに気づいていながらもその何かを明確な言葉にすることは出来ないでいた。

 少年がその何かについて、少女に聞こうとした時、少女が俯きながら少年に言った。

「ごめんなさい」……っと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピピピピピと電子音が鳴り響く。

 それを鬱陶しそうにしながら、布団の中から手が伸びて目覚ましを止めた。

 

「…………前世の事でも、夢で見るのかよ……」

 

 布団の中から1人の少年が出てくる。

 その少年の名は黒鉄零二。この世界に転生した転生者の一人で、『原作に強制的に関わる道』ではなく『試練に挑み原作から逃れる道』を選んだ一人でもある。

 

「…………」

 

 零二は布団から出るとしばらくボーッとしていたが、それも数分だけ。すぐに机の上に置いてあるチェーンに指輪を通しただけの即席ネックレスを見ると先程まで見ていた夢を思い出して切なそうな顔をする。

 だが、すぐに昔のことだと割り切り着替え始める。

 適当なズボンと服を着て、その上から黒いジャージを着ると零二は机の上に置いてあるネックレスを首にかけてから必要最低限の荷物を持つとそのまま部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼過ぎの学校の屋上で零二は自分で作った弁当を食べながら授業をサボっていた。

 その手には図書室から拝借してきた本があり片手で器用にページをめくりながら読んで行く。

 

「…………」

 

 だが、途中で飽きたのか本を近くに置いてあったカバンの中に戻してから寝転ぶ。

 雲一つない青空を見ながら零二はただ目を瞑って時間が過ぎるのを待つ。

 

 

 

 遠くから金属バットがボールを捉える音が聞こえてきて零二は目を覚ました。いつのまにか寝ていたらしく、太陽は沈み始めていた。

 寝惚けているのか零二は欠伸をしながら携帯を見る。そこには、17時30分と写っている。

 

「出遅れた!」

 

 時計を見て眠気が飛んだ零二は急いで屋上から出る。まだ特売の時間ではないが、それでも歴戦の猛者達に挑むには早めにその場所へと行きそれなりの準備をしなければならない。

 

「……今からだと着替えてる時間はない……か」

 

 屋上から出て廊下や階段を走る。だが、その途中で運悪く零二のいるクラスの担任が零二に向かってきていた。

 

「あーーーーっ!黒鉄くん何処にいたんですか!大切なプリントとかあるんですよ!それに授業にもちゃんとーーーー」

「悪いな、今小言聞いてる暇ないんだ!」

「えーーーーっ?……って!何で窓に足をーーーー」

「じゃあな!」

 

 そのまま零二は窓から飛び降りる。零二が今いる場所は3階、そこそこ高く窓から飛び降りたらタダではすまないだろう。

 最も、それはすぐ下が地面であるならの話だ。

 零二が今いる場所から降りた場合、それは無い。何故なら零二の下には渡り廊下の屋根があるからだ。

 屋根のおかげで幾ばくか衝撃は和らいでいるため、零二はそのまま走って学校を出て行く。

 その様子を見た零二の担任の先生はそのまま頭を痛そうに抑えながら携帯電話を取り出して何処かに連絡をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何とか……買えたな……っ」

 

 何とか特売の品を買えた零二は疲れながら家に帰るために歩く。

 そして、家まであと少しといったところで零二はその目をスッと細めた。

 

「子供はもうそろそろ家に帰らないといけない時間だろ?」

「それは、ブーメランですよ。黒鉄零二さん」

 

 零二の視線の先にいたのは、この前の試練の時に初めて会った銀髪の巫女装束の少女、因幡月読と黒髪ツインテールの制服を着た少女、神代なぎさの2人。

 この前会った時とは人数が違うなっと零二は考えるが、すぐにその考えを消して油断なく月読達を見る。

 

「それで、何のご用事で?オレは早く帰りたいんだけどーーーーっ!」

 

 飄々とした態度で零二が月読に言う。

 刹那、零二は自分の首が落とされるのを幻視してすぐさま後ろに飛び退いた。

 一瞬だが見えたそれに零二は驚くがその零二以上に驚いているのは零二の目の前にいるなぎさと月読だった。

 

「…………嘘」

 

 驚きで固まっていたなぎさと月読だが、すぐに再起動して先ほどのことを思い出す。

 零二が飛び退く前、月読は零二の首に帯にさしている刀を当てようとして少しだけ右手をさりげない動きで()()()()()()()()()()()()()

 そう、手を添えようとしただけでありまだその動きを月読はしていない。

 なのに、零二はその場から飛び退き月読の攻撃範囲から逃げ出した。

 

「……何のつもりだ?」

 

 零二が月読達に聞く。その視線は月読だけでなくその隣にいるなぎさと少し遠いところにいる燐と瑠璃まで捉えている。

 

「……少し、確認したいことがありましたから」

「確認したいことのためにーーーー人の首にソレを当てようとしたのか?」

 

 ジトっとした目で零二は月読の腰にある鞘に収まったままの刀を見る。だが、そうしなければならない事情も零二はだいたい察した。

 

「別にお前らに何かしようとか考えたことねーよ……って言えば満足か?」

「……っ!?何でーーーー」

「先に刀を抜こうとしたこと、戦闘準備万端できたこと、先にある程度の情報をお前らが調べていたこと……。

 まぁ、他にも沢山そう考えた根拠があるんだが敵になるかもしれない奴にそれを明かすわけないだろ」

 

 零二が荷物を置いて構える。それは、武術も何も習っていない我流の構えだが、そこに隙と呼べるところがほとんどない。

 

「…………」

 

 それを見た月読はすぐに帯から刀を鞘ごと取り出すと杖のようにする。それは、もうこれ以上何かをする気は無いという意思表示。

 なぎさ達はそれを見てすぐに普通の体勢に戻り、零二もまた構えを解いて荷物を手に取る。

 

「それで、何の用だよ」

 

 零二が不機嫌そうに言う。

 いきなり首に刀を当てられそうになったのだ。不満の一つや二つあるのは当然だ。

 月読は一瞬だが、言った方が良いのかどうかを少しだけ悩んでから口を開く。

 

「貴方は……この世界のことをどこまで把握していますか?」

「オレ達を転生させた奴が言っていたことまでだ」

「……つまり、この世界について全く把握していないと……」

「そうだ……」

 

 零二が月読の言葉に答える。それに月読達はこの後どうするかを考えようとするが、それよりも早く零二が口を開いた。

 

「そっちは随分と詳しそうだな?大凡、元から知っていたかそれとも……今世での家がそういうのに関わっているところか?」

「ーーーーっ!?どうして……」

「『それを知っていのか?』か?……生憎、知っていたんじゃなくてただの推測だ。まぁ推測の域を出ていなかったんだが、その反応じゃあ当たりみたいだな」

 

 してやったりとでも言いたげな顔で零二が月読達に言うと月読達はしまったとでも言いたげな顔をするがもう遅い。

 

「…………」

「…………」

 

 互いに何も話さない時間が続く。

 何を話せばいいのか分からない訳ではない。ただ、どう切り出せばいいのか分からなくなっただけなのだ。

 5分くらいだろうか?しばらく沈黙を保っていた零二と月読達だったが先にその沈黙を破ったのは月読だった。

 

「……(わたくし)達を転生させた『神』が説明したのは幻獣や悪魔などの人外がいるという事だけです。この世界には、悪魔や幻獣以外のものが存在します」

 

 ぽつりぽつりと月読が言葉を発していく。それを聞きながら零二は頭の中でそれらの情報を整頓しながら目の前の月読達についての考察も進めていく。

 

「この世界には悪魔以外にも天使や悪魔、妖怪とそして神と呼ばれる存在などがいます。

 勿論、この世界の神は(わたくし)達を転生させた神とは違います」

「だろうな」

「……そして、(わたくし)達はその中の神……正確には『日本神話勢力』に所属しています」

「……『日本神話勢力』ね、ってことは『北欧神話』とか『ギリシャ神話』の勢力もあるってことか」

「……はい、ありますが今はその話は良いです。

 今日貴方のところに来た理由は……まぁ、上の人から貴方に会いに行けと命令されたからです」

「それで、何でいきなり首筋に刀を当てられそうになるんだよ」

「それはーーーー」

 

 零二の質問に月読は言っていいものか悩むが、それも数秒だけ。一旦深呼吸をすると月読はその質問の答えを言った。

 

「ーーーーこれまで、会ってきた転生者たちの大半が出会ってすぐに攻撃してきたからです」

 

 その言葉に零二はため息を吐いた。

 何のためになどの疑問が零二の頭の中に現れるが、それはどうでも良いものだと頭の片隅に置く。

 

「……何て言うか、過激だな」

「はい」

 

 疲れたように答える月読に零二は少しだけ同情するが、すぐに自分が持っているものを思い出す。

 それと同時に月読も零二が何かを持っていたことを思い出し本題へと入る。

 

「……(わたくし)達が今日ここまで来たのは貴方に質問があるからです」

「質問?」

「はい。貴方は……この世界で何をするつもりですか?」

 

 月読が薄っすらと目を開ける。

 たったそれだけの動作。だが、零二の本能はその動作だけで危険信号を零二の脳へと伝える。

 本能が距離を取れと言うが、零二はそれを理性で押さえつける。

 ここで引いては駄目だと、目を逸らしてはいけないと理性が本能を無理矢理押さえつける。

 数秒ほど、静寂が周囲を支配する。油断なくこちらを見据えるなぎさ達を視界の隅に入れながら零二は月読の質問の答えを言った。

 

「別に……何もしねーよ」

「え……?」

「何もしねーよ。『原作』とやらにも関わらず、ただの日常を過ごしていたいだけだ。

 だから、オレは『試練』に挑むことを決断したんだ」

 

 零二の言葉に月読達は固まってしまった。

 これまで月読達が出会ったことのある転生者達はその誰もが「ハーレムを作る」「原作を変える」といったようなことしか言ってこなかった。

 綺麗事を並べていた転生者もいたが、結局のところそれをやってハーレムを作るのが目的だった。

 

「これまでお前らが会って来た転生者がどんな奴なのか知らないし興味もない。オレは今の日常を壊されなければ何だって良いんだ」

「それは、世界の危機だとしてもですか?」

「当たり前だろ?」

 

 月読の問いに零二はさも当然のように言った。

 世界の危機と日常、正義感の強い人間であれば恐らく世界の危機を優先するとでも言うだろうが零二はそんなものよりも日常の方を選ぶ。

 

「目的は達したろ?なら早く帰ってくれると助かるんだけどな」

「……そうですね。少なくとも最低限の目的は達成できたので(わたくし)達はこれで」

 

 そう言って月読達が零二とすれ違うようにして歩み始める。

 零二はそれを横目に見ながら月読達に声をかける。

 

「精々気をつけろよ、お前らの敵は……外だけじゃないんだろ?」

「「「「……っ!?」」」」

 

 零二の言葉に月読達は足を止めて零二の方を見るが、零二はすでに自分の家の中へと入って行ってしまった。



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"怪物"を見つけ出し討伐せよ1

 

 

 

 

 雨の日が続いていた梅雨のある日、零二はいつのまにかポストの中に入っていた手紙に書かれていた場所へと向かっていた。

 以前のように場所のみが書かれていて、他は何も書かれていないその紙を零二は見ながらこれから行われるであろう試練について考えていた。

 

(あの紙に書かれていた通りならば怪物退治か……。だとすると今回は()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 転生者達はそれぞれ望んだものを特典として貰っている。多くの転生者はその特典を自分で選んだため、それについて少なからず理解はしているはずなのだ。

 だが、零二は一つの特典以外は声に選んでもらったため、その力を全く理解していない。そして、零二が選んだ特典は『前世の持ち物』だ。

 最も、その特典で持ってこれたのは最後につけていたアクセサリーのみだったのだが。

 

(それにーーーーあいつらと会いたくはなかったんだけどな……)

 

 零二がいうあいつらーーーー月読達と零二はあの日以来全く会っていない。たんに会いづらいのか……それとも別の理由があるからなのかは分からない。

 最も、零二にとってそれはどうでも良いことであり、月読達からの接触が無かったことに関しても特に何も思わなかった。いや、静かで平穏な日常が過ごせてラッキーと少しだけ思っていた。

 そんな事を思い出していると、零二は町外れにある廃工場、その奥にある試練を行う世界に行くためのゲートの前まで来ていた。

 

「さてと、死なないように頑張るとするか……」

 

 臆する事なく零二はゲートの中へと入って行く。一瞬だけ零二の視界が白くなるが、すぐに元どおりとなる。

 

「…………」

 

 零二が通ったゲートの先には、迷路のような遺跡があった。石で作られていて、ところどころが欠けている場所が存在している。

 零二はそんな場所を重点的に触りながらすぐ近くにあった看板を見た。

 

『試練名 "怪物"を見つけ出し討伐せよ

 ・挑戦者一覧

 ・黒鉄零二 ・白金燐 ・因幡月読 ・神代なぎさ ・星川瑠璃

 ・挑戦者敗北条件

 ・挑戦者全員の死亡

 ・挑戦者全員が勝利条件を満たせなくなった場合

 ・挑戦者勝利条件

 ・"怪物"を討伐する

 以上をもって第二の試練を開始します』

 

 看板に書かれていた文字を一通り覚えた零二は遺跡の中へと足を踏み入れた。

 遺跡の中に入った零二は近くの壁に先程拾っておいた石を使って近くの柱に印をつけながら、周りのものを観察していく。

 一通り観察し終えた零二はとりあえず奥へ奥へと進んでいく。灯が所々に一つしかない薄暗い迷路の中を歩きながら注意深く周りのものを見ていく。

 

「……何もいない?」

 

 零二がポツリと呟いた。零二の体感的にそろそろ10分は経つはずなのだが、今だに人の影も"怪物"の痕跡も見つからない。

 零二の感覚が正しければそろそろ遺跡の奥の方のはず、にも関わらず今だ何も無いこの状況に零二は不気味なものを感じる。

 

「あいつらが先に来た……可能性が高いな。だとするとーーーー」

 

 何処かで戦闘が行われているかもしれない。零二がそう考えた瞬間奥から甲高い声と何かが壊れる音が同時に聞こえて来た。

 いや、それだけでは無い。ピシッピシッと零二の頭上や横から嫌な音が零二の耳に届く。

 

「おいおい……、まさかーーーー」

 

 嫌な予感が零二の体を動かす。それと同時に次々と壁や天井が崩れ落ちて来た。

 

「嘘だろ……っ!」

 

 零二は走りながらここまでの道筋を思い出していく。数カ所だけ簡単には壊れないように他とは違う作りになっていた場所があったことを思い出した零二はその場所へと足を進める。

 だが、零二がその場所に向かうよりも速く崩落は止まった。

 

「止まった……みたいだけど……」

 

 零二は先程まで通った道を見る。先程の崩落でその道は塞がれてしまっていて先に行くことが出来なくなってしまっていた。

 

「……脆そうだな」

 

 薄っすらと陽の光が入って来ていた天井を見ながら零二はそう呟くと近くに落ちていたボロボロになった剣を持った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 零二が他の道を探している時、零二の考え通り先に来ていた月読たちは目の前にいる"怪物"の前に手も足もでず、後退をしていた。

 

「次が来ます!」

 

 月読がなぎさたちに攻撃が来ることを教えながら回避する。それを見習いなぎさ達も回避するが今度は近くに潜んでいた蛇達がなぎさ達へと攻撃をして来る。

 だが、その攻撃は全てなぎさと月読によって防がれ瑠璃と燐によって攻撃をして来た蛇達はその命を散らしていく。

 

「Uuuuuraaaaa!!」

 

 蛇達が殺されたことに怒ったのか"怪物"の速度が上がる。それにいち早く気づいたのは一番後ろにいて"怪物"の様子を観察していた瑠璃だった。

 

「動きが速くなりました」

「みたいですね……」

 

 瑠璃の報告を聞いて月読は急いで音を頼りに近くの道を探すが、残念ながらこの近くに横道はなく真っ直ぐ進まざるをえない。

 その事に月読は焦る。このままでは何処かで追いつかれ、全滅させられるかもしれない。いや、それだけではない。

 あの"怪物"の能力、それも月読が焦る理由の一つとなっていた。

 

「……つっ、月読ちゃん……、まっ、……前……っ!」

 

 燐の焦った声が月読の耳に届く。だが、その忠告は遅く月読は壁に頭をぶつけた。

 

「……痛い……です」

 

 月読がぶつけた場所をさすりながら後ろを向く。

 既に退路は無くなり、戦わざるをえない状況となっていた。

 

「Raaa……Aaaaaaa!!」

 

 叫び声が周りに響く。それと同時に尻尾の攻撃が月読達を襲うがそれらは全て瑠璃が展開した障壁が防ぐ。

 だが、それは一瞬だった。尻尾が当たったところまでは耐えていた障壁だったが、それと同時に飛び出して来た蛇達と"怪物"の口から放たれた閃光までは耐えられずその形を崩していく。

 障壁が歪み、ヒビが入っていく。

 

「……っ!」

 

 障壁を展開している瑠璃の顔が険しくなる。壊れていく障壁を持ち直そうと力を込めようとするが、それよりも速く障壁が音を立てて壊れてしまう。

 それと同時に障壁によって防がれていた尻尾と蛇が月読達を襲おうとするがーーーー。

 

「Gyaaaaaa!!」

 

 ーーーーいつのまにか振り抜かれていた月読の刀が蛇を切り裂き、尻尾の軌道をずらした。

 蛇が切られた事になのか、それとも自分の攻撃が切られたことに対してなのかは不明だが"怪物"が悲鳴をあげる。

 それを好機と捉えたなぎさと燐が攻撃を仕掛けるがそれよりも速く"怪物"がなぎさ達を()()

 

「「「「…………っ!?」」」」

 

 刹那、なぎさ達の身体が動かなくなった。

 これこそが月読が恐れていた"怪物"の能力。一度発動されてしまえば動くことができなくなる。

 

「A Aaaaaaaaaa!!」

 

 "怪物"が月読達に向けて尻尾を振るう。先程までであれば何かしらの対処が出来たであろう一撃。だが、今はそれが出来ない。

 遺跡の壁をも破壊する尻尾の一振り、そんなものを食らえばひとたまりもない。

 月読達は来るべき衝撃に備えて目を閉じたりしたかったが、それさえも許されない。

 向かってくる尻尾、その一撃が"怪物"の尻尾に一番近い場所にいた燐に当たるーーーー前に天井が崩落した。

 

「Gyaaaaaa!!」

 

 "怪物"が悲鳴をあげながら落ちてくる天井に潰されていく。それと同時に月読達の身体が動かせるようになる。

 月読を除く全員が自分達の運の良さに息を吐くが、月読だけは違い、崩落した天井の方に視線を向けていた。

 

「安心するのはまだはやいんじゃねーか?」

 

 天井から一人の少年が降りてくる。かなりの高さから降りる……というよりは落ちてきた少年は転がって衝撃をいなすと何事もなかったかのように立ち上がる。

 

「大丈夫ですか?」

「平気だ」

 

 少年は立ち上がるとパンパンと服についた汚れを払う。そして、周りをぐるっと見ると「なるほどな」と言って月読達に声をかけた。

 

「移動するぞ」

「……そうですね、まだ生きてるようですし何より、貴方には聞きたいこともありますからね」

 

 ジトっとした目を少年に向ける月読。だが少年はそれに動じず月読達の横を通り抜けておもむろに壁を蹴って壊した。

 

「……ほよ?」

 

 月読の口から間の抜けた声が出た。いや、月読だけではない。燐も、瑠璃も、なぎさも目の前の光景が現実なのか疑う。

 見るからに壊れなさそうな壁を少年はあろうかとか蹴り一つで壊してみせた。

 

「……黒鉄さん。どうやってその壁を壊したのですか?」

「は?」

「……この遺跡の壁はそう簡単には壊れないようになっていたはずですが……どうやって?」

 

 月読が疑問を少年ーーーー黒鉄零二にぶつける。零二はそれに、「あー……」と面倒臭そうに頭をかいてから月読の質問に答える。

 

「この壁……いや、この遺跡の壁見た目はいかにも壊れませんよみたいな感じを出してるけど……そのほとんどは脆くなって壊れやすくなってるんだよ」

 

「ほら」と言って零二が自らが壊した壁の破片を瑠璃に投げる。たしかに、表面は新品同然だがその裏はヒビがいくつも入っていて瑠璃が少し力を加えただけでパキッと割れてしまった。

 

「Guuuuu」

「……っと、他の質問は後だな。今はここから逃げるぞ!」

 

 零二が近くにいた月読の手を引いて壁の向こう側へと走り出す。燐達も零二の後を追って今いる場所から別の場所へと移動した。

 

 

 

 

「……凄い……」

 

 零二が月読達を連れてきた場所は先程の場所から走ってだいたい10分ぐらいした場所であった。

 その場所は誰かが手入れしたのかビニールで作られたベッドとソファが置いてあるそこそこ快適な空間とかしていた。

 

「そこまで凄くねーぞ。ビニール袋と草と服を使って作った簡易的なベッドとソファぐらいしか作れなかったからな」

 

 サラリとその快適空間を作った本人が悔しそうな顔をしながら言った。月読達はその人物に驚きながら……こんな物を作っている時間があるのならばさっさと助けて欲しかったと心の中で思った。

 

「……さてと、そろそろ本題に入るか」

 

 気まずくなったのか零二がそう切り出す。それに、月読達の雰囲気もガラリと変わる。

 

「そうですね。(わたくし)達はアレと戦いましたから大体のことは分かりましたが……貴方はどうですか?」

「離れたところから見てたからな……そこそこは分かったよ」

「そうですか。なら、(わたくし)から、一つ提案があります」

 

 月読が零二の方を向いていつもは閉じているその紅い瞳を開けて尋ねる。

 

「貴方の……『特典』はなんですか?」

「なんで、答えなきゃいけないんだ?」

「アレを倒すためには全員の戦力を知る必要があります。ですので、言ってください」

「…………」

 

 零二がため息を吐いていつも首に付けているチェーンにつながれた指輪を月読達に見せた。

 

「それは……?」

「お前らが知りたがってたオレの『特典』だよ。『自分が最後に身につけていた持ち物』これ以外オレは知らね」

 

 零二の言葉に月読達は固まる。『自分が最後に持っていた物』、これはまだソレがとても大切な物なんだと分かるから納得できる。

 だが、その後零二が言ったことを月読達は理解できなかった。いや、理解したくなかった。

 

「……それは、残り二つの特典の能力が分からないという意味ですか?それともそれが何なのか分からないということですか?」

「何もかもだよ。名前も、使い方も何もかもが分かんねーんだよ」

 

 零二の言葉に月読達は固まると同時に納得もする。

 月読達が今現在その所在を掴んでいる転生者の大半は戦闘系の特典を貰いその力を使いこなそうと努力していた。

 だが、これまでの零二にそんな素振りはなく月読達は何故なのだろうかと疑問に思っていたのだが先ほどの零二の言葉によってその疑問は解消された。

 

「……っ、動き出したようなので素早く情報を交換しましょう」

「あぁ、それには賛成だ。どっちから先にやる?」

「……(わたくし)達の方からした方が良いですよね?」

「……そっちからで頼む。オレはアイツを遠目からしか見てねーからな。実際に目で見て肌で感じたお前らの方からの方が良いだろ」

「分かりました。それでは、瑠璃さんよろしくお願いします」

「はい、よろしくお願いされました」

 

 月読が"怪物"の音を拾うのに集中するために入り口の近くへと移動する。

 そして、月読に変わるように前に出てきた瑠璃が先程までの戦闘で得た情報を零二に教えていく。

 

「先ず、あの"怪物"の名前は不明です。どんな名前なのか、あの試練の紙に書いていませんでしたから……。

 また、会話なども一切できません。言葉を話すこともなくただ叫び声をあげているだけですね。

 次に戦闘面では蛇を使った攻撃と髪の蛇からから出てくるビーム、そして動きを止める眼……だと思われる能力ですね」

「……動きを止める?」

「はい、条件などは不明ですがそれを使われると私たちは動くことはおろか指先一つ動かすこともできなくなります」

「…………」

 

 零二が天井に視線を向ける。たしかに、零二の知らない情報は有ったが、それでも情報が少なすぎる。

 

「……いや、それだけでも……推測はできる……か?」

 

 零二はそう呟くとすぐに先程までの会話と自分が見ていた"怪物"の姿と攻撃方法、そしてここまで来るのに通った道と月読達を見つけた時のことを思い出す。

 所々あった他の場所よりも脆い場所、蛇、動きを止める眼、そして、不自然に視線を逸らさない動作。

 一つ一つは小さなものだが、それらが全て揃った今ならばその全容を把握することは容易い。

 

「……何か、考えついたのですか?」

「……まぁ、ちょーっと賭けの部分もあるけどな」

 

 そう言って零二は近くにある石を手に持って笑いながら言った。

 

「一つ、作戦を思いついた。乗るか乗らないかはお前ら次第だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 蛇が遺跡の中をめぐり、その母体である"怪物"に自分が採集してきた情報を伝える。"怪物"は蛇からようやく月読達が動いたことを知らされ、その口角を上げた。

 

「AAaaaaaaa!!」

 

 素早く"怪物"が動いて月読達の元へと進んで行く。

 そして、ソレを月読が気づかないはずがない。

 

「来ました」

 

 静かに、それでいてよく聞こえる声で月読が後ろにいる瑠璃と燐に言った。

 瑠璃はそれを聞くと目を閉じて前方に大きな壁を作るイメージで障壁を張り、燐は何処からか取り出した狙撃銃を構えた。

 

「G yaaaaaa!!」

 

 "怪物"の眼が月読達を捉えた。その瞬間、月読達は動くことができなくなり、"怪物"はそんな3人に向けてビームを放とうとするが……。

 

「ーーーー『魔術兵装(ゲート・オープン)』ーーーーッ!!」

 

 ーーーー言葉とともに振るわれたのは黒の剣。だが、それは"怪物"が寸でのところで"怪物"が気づいてかわしてしまう。

 それになぎさは少しだけ驚くが、それだけだ。

 何故なら、なぎさのこの攻撃は攻撃をすることが目的ではなくーーーー。

 

「ーーーー穿て!」

「はーーーーっ!」

 

 ーーーー月読と瑠璃の攻撃の為の布石なのだから。

 月読の斬撃が"怪物"の髪の毛を切り裂き、瑠璃の放った光の棘が身体を穿った。

 それに"怪物"が悲鳴をあげてのたうちまわる。その際尻尾で壁を叩き壊しながらもなぎさと月読に攻撃をしようとするがそれよりも速く燐が引き金を引く。

 狙撃銃から放たれた青白い弾はそのまま"怪物"の頭を撃ち抜こうとするがその前にその弾がその場で止まる。

 

「使いましたね……っ!」

 

 月読が一瞬で距離を詰める。そして、鞘に収めていた刀を一瞬で振り抜く。

 

「Gyaaaaaa!!」

 

 "怪物"が周囲一帯にビームを放ち始める。壁が、天井がビームに当たり所々からパラパラと欠片が落ちてくる。

 それを見た月読達はその場から離脱する。

 

「うまくいったね、月読ちゃん!」

「……そうですね。彼にはいったい何処まで分かっていたんでしょうか?」

「そうですね。少なくともあの"怪物"の正体……に近いところまでは読めているのではないのでしょうか?」

 

 その場から離脱しながら月読達はここまで読んでいた零二の作戦を思い出す。

 

 

『先ず、この作戦は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことを前提としたものだ』

『……つまり、その前提が違っていた場合』

『この作戦は失敗する。だが、逆に合っていた場合は此方が有利になる』

 

 どうする?と零二が月読達に視線を向ける。それに対して月読達は「お願いします」と言う。

 

『まぁ、作戦はーーーーって言えたら良いんだけど、今回に至っては単純に"複数の場所からかつそれぞれタイミングをズラして攻撃する"だけなんだよなぁ』

『……それだけですか?』

『そうだけど?』

 

 拍子抜けしたとでも言いたげな月読の視線を軽く受け流しながら零二は説明を続ける。

 

『オレはお前らの力も能力も何もかも理解してないんだ。細かいところまで作戦を組み立てられるかよ……。

 仮に組み立てられたとしても粗さが目立つ。なら、いっそのこと大雑把に作戦を言ってあとはそっちに任せた方が良いと勝手に判断したんだが……』

『……一理ありますね。なら、こちらが能力などの情報を教えれば細かいところまで作戦を組めますか?』

 

 瑠璃が言った言葉に零二は少しだけ考えるがすぐにそれを否定する。

 

『無理だ。どんな能力なのか聞くだけじゃなくて実際に見ないと分からないからな』

『なるほど……』

 

 零二の言葉に一応納得する瑠璃。

 だが、一つだけ疑問が出てきたためそれを零二に聞く。

 

『貴方はどうするつもりですか?』

『どうするって……オレはこの作戦を思いついた張本人だぜ?』

 

 手で弄んでいた石を誰もいない場所に投げて零二は言った。

 

『近くで見て、修正とか細かいことをするさ』

 

 

 

 そこまで思い出すと同時に"怪物"が月読達を追いかけてきた。

 それを見た瑠璃はすぐさま光の棘と光の剣を創り出して"怪物"に攻撃をするがそれよりも速く"怪物"は壁や天井を使ってその攻撃を回避する。

 

「先程よりも動きが速いですね」

「そのようですね」

 

 "怪物"の進む速度が変わったが、月読達は慌てることなく通路を走っていく。そして、横道があった時は迷わずそこを進みながら、次に備える。

 そして、奥にある部屋に月読達と"怪物"が入った時、瑠璃が動いた。

 右手を振るい、光の棘と炎の剣を創り出して怪物に射出した。

 

「G yaaaaaa!!」

 

 怪物が本能のままに体を動かしそれらを回避する。だが、回避した先で待ち構えているのは柄に手を当て抜刀する準備を終えている月読がいた。

 

「はーーーーっ!」

 

 目に見えない速さで放たれたソレは"怪物"の体を深々と切り裂き、腕を一本切り落とした。

 "怪物"の身体と右腕から血が吹き出る。怒りからなのか"怪物"は月読を率先して狙うが、それらの攻撃はしようと思った瞬間に燐の狙撃となぎさの剣によって阻まれてしまう。

 "怪物"の腕が上に弾かれ、顔は上を向く。それは、ここにきて訪れた大きな隙。これまでであれば左右の手と髪の蛇、そこら中にいた蛇によって阻まれてきたその隙を燐と月読は見逃さない。

 再び、構え、そして燐は引き金を引き、月読は再び抜刀する。

 これまでとは全く違う。確実に相手を討つために放たれた2人の一撃は確かに頭と心の臓があるであろう場所にあたる。

 

「ーーーー」

 

 "怪物"の身体が揺れる。それに瑠璃となぎさは倒したと思い少しだけ緊張を解く。燐と月読もさすがに頭を潰され心臓を刺されれば死ぬはずだと目の前の相手から目を離す。

 

「……?」

 

 目を離してから少しして月読達は違和感を感じた。

 前回の時は試練の勝利条件を満たした時何処かに元の世界に帰るための扉が現れたはずだ。

 だが、いくら待とうともソレは現れない。

 それは何故かーーーーそこまで考えて月読の背筋に冷たいものが走った。

 刹那、月読達の身体が宙を舞った。そして、同じ場所に全員が落ちる。

 一体何が起きたのか分からず月読達は自分達を飛ばした相手を探す。

 

「G G Gyaaaaaa!!」

 

 ソレを見て月読達は唖然とした。月読達を飛ばした相手はーーーー先程確かに燐と月読が倒したはずの"怪物"。心臓を刺され、頭を撃ち抜かれたはずの"怪物"は頭と胸から血を流しながらも確かに月読達を見ていた。

 何故、生きているのか?そんな疑問が月読達の動きを鈍くする。だが、この"怪物"の前でそれは命取りとなる。

 

「しまーーーーっ!?」

 

 慌てて動こうとするが、月読達の足下にいつのまにかいた蛇達が足を絡めとり月読達の動きを妨害する。

 いや、それだけではない。蛇は自身の鋭い鱗を使って月読達の足を傷つけ牙を肌に立てそこから麻痺毒を流し込んでいく。

 それにより、月読達は歩くことはおろか立っていることすらできずその場に崩れ落ちる。

 動くことは出来ない月読達を"怪物"はその目で視る。"怪物"の瞳が一瞬だけ光り月読達を止めようとする。

 

「ーーーーっ!」

 

 月読達は最悪の事態ーーーー動けなくなることに備えて目を閉じる。だが、いつまで経ってもあの時が止まった感覚は来ない。

 何故だろうかと疑問に思って月読を除く全員が目を開けて、固まった。

 

「ーーーーっ!」

 

 燐達が見たものは此方を見てビームを放とうとしている"怪物"とーーーーその"怪物"目の前に立ち月読達を"怪物の視界に入れないように"怪物"の目の前で立ちふさがる……いや、飛んで視界を塞いでいる零二の姿があった。

 普通であれば、地面に落ちているはずなのにまるでそこだけ時間が止まっているように零二の体は空中で固定されている。

 それを見た燐達はすぐに理解した。自分達があの目の効果を受けていないのは零二のおかげなのだと。

 だが、それと同時に思い出す。零二にはあの攻撃を防げる『特典』が無いことを……。

 

「……っ!」

 

 すぐにそれを思い出した月読は零二のもとに駆け寄ろうとするが毒によって立つことすらも出来なかった。

 それでも、何とかして月読達は零二のもとに行こうとするが、それよりも速く鮮血が舞った。

 今まで放たれてきたビームよりも細く鋭いビーム。それは確かに零二の胸を貫いた。

 

「……ぁ……っ」

 

 燐が、瑠璃が、なぎさが、月読が目の前の光景が信じられず声を漏らす。

 零二の体が地面に落ちる。零二の体から流れ出ている血はかなりのもので一目で重傷……いや、致命傷だと分かるほどだ。

 

「……ぁ、ぁぁ」

 

 何かを言おうとするが上手く言葉にできない月読達。目の前のことは現実で、"怪物"が放ったビームは零二の胸を貫いた。

 そして、零二を倒した"怪物"は今度は動けない月読達にその視線を向けた。その目はまるで次の獲物を狩ろうとする獣のような目だった。

 月読達の身体に冷たいものが走る。

 転生して……いや、前世も含めてはじめての死が近づく感覚。それに抗おうにも月読達の身体は毒により動かない。

 

「……ぃ……ゃ……っ!」

 

 燐が近づいてくる死に恐怖する。いや、燐だけでは無い。瑠璃も、なぎさも、月読も、全員が死に恐怖していた。

 "怪物"の目に光が集まっていく、例の能力とは違う確実に月読達を殺すための攻撃の準備だ。

 それを聴いた月読は迫り来るそれに目を閉じて備え、なぎさ達は強く目を瞑る。

 

「AAAaaaaaa!!」

 

 "怪物"が雄叫びをあげてビームを放つ。そのビームは真っ直ぐと月読達のもとへと向かってくる。

 

「プロテクション!」

 

 瑠璃の声が響く。すると、ビームと月読達の間に複数個の魔法陣が現れそれらがビームを防ぐ。

 だが、それは気休めにしかならない。毒によって上手く力が出ない瑠璃が即席で作り出した魔法陣の障壁はビームに耐えられず一枚、また一枚と破壊されていく。

 もう駄目だと瑠璃が心の中で諦める。既になぎさも、燐も迫ってくる死の恐怖の前に諦め、今だに足掻こうとする月読も立とうとしてその場に崩れ落ちる。

 そして、最後の障壁が破られた。

 

「えーーーーっ?」

 

 刹那、瑠璃の隣を何かが通り過ぎた。あまりにも速すぎたそれを瑠璃は見ることはできなかった。

 だが、それの姿はすぐに見ることができた。

 何故なら、それは瑠璃達の前に出ると瑠璃達を庇うように前に立ちふさがったからだ。

 

「……黒鉄……さん……」

 

 その人物の名を瑠璃が言う。零二はその声に反応することなく、瑠璃達を守るようにビームの前に立ちふさがった。

 しかし、立ちふさがったとは言えたかが普通の人間の身体一人分。"怪物"の放ったビームに耐えられるはずがない。

 だが、現実は違った。

 

「……嘘……っ!」

 

 なぎさが驚愕の声を上げる。いや、声をあげていなかっただけで瑠璃達も驚愕する。

 だが、この中で一番驚いているのはその原因である零二だった。

 

(……止まってる?)

 

 目の前で起こっていることに零二の頭が追いつかない。

 零二が自分で選んだ特典は『自分が最後に持っていた物』。それ以外の2つは自分でさえも理解していない。

 ならば、この現象を起こしている何かこそが零二の特典ではないのか?と零二は一瞬だけ考えるが、()()()()()と零二の中から湧き上がる何かが訴えてくる。

 いや、それだけではない。零二はこれを知っている。記憶にないだけで前世で、これと似たようなものを体験しているのを身体と心が覚えている。

 

(だけど、これだけじゃダメだ。でも、どうすればーーーー?)

 

 ドクンッと零二の中で何かが脈打った。喚べと零二の身体の中から何かが訴えかけてくる。

 だが、零二はその術を知らない。どうすればそれを喚び出されるのかを零二は知らない。

 

(いや、違う。()()()()()()()()()()()()()

 

 そう、零二はその術を知っている。何故なら、それを実際に零二の目の前で実践してくれた人がいたのだからーーーー。

 

「ーーーー『魔術兵装(ゲート・オープン)』ーーーーッ!!」

 

 刹那、ビームを桜色の極光が消しとばした。一瞬だけそれについて来れなかった"怪物"だが、すぐに我に帰ると素早い動きでその射線上から離脱した。

 

「ーーーーやっと会えたね、マスター……」

 

 声が聞こえてきた。桜色の極光が現れた場所から聞こえてきた声に零二は何処か懐かしい気持ちになる。

 完全に極光が消え、その声の主が見えてくる。

 長いプラチナブランドを靡かせ、花形の綺麗な髪飾りをつけた不思議な衣装を着た少女。

 

「ーーーーサクラーーーー」

 

 零二がその少女の名を言う。零二自身、この少女の名前を知っているわけではない。だが、何故かその名前が口から出た。

 少女ーーーーサクラはそれに一瞬だけ驚くもすぐに笑みを浮かべた。

 

「うん、私の名前はサクラ。マスターが喚び出してくれた戦略破壊魔術兵器(マホウ)の美少女なんだよ」



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"怪物"を見つけ出し討伐せよ2

戦略破壊魔術兵器(マホウ)の……美少女……?」

 

 零二が疑問に思った場所を口にする。それは、サクラが言った戦略破壊魔術兵装(マホウ)と言う言葉に対してではなく……その後の言葉に対してだ。

 確かに零二の目から見てサクラは可愛らしい美少女だが、それを素直に認めることを零二はしない。

 

「むぅ、その目は信じてない目なんだよ……」

「いや、何となくだけど最初の方は信じてる……。信じてないのは最後の美少女の方だ」

「それはそれで酷いんだよ!」

 

 ブーブーと唇を尖らせていかにも私不機嫌ですとでも言いたげな顔をするサクラ。それを見て零二はため息を吐くとその場からすぐに動いた。

 

「まだ動けるのかよ」

「寸前で躱されてたみたいなんだよ」

 

 サクラと零二が先程までの空気を霧散させて、"怪物"の方を見る。

 "怪物"は零二を見て、その次に隣にいるサクラを見てから再び叫び声をあげ2人を動けなくさせようとするが……。

 

「それはもう見飽きたぜ!」

 

 その瞬間、"怪物"の視界に何かが入ってきた。それは、零二の投げた手提げ鞄とその中に入っていた非常食類。開いていたカバンから出たそれらは"怪物"の視界から零二とサクラを隠し、同時に零二とサクラの代わりにその動きを止めた。

 だが、"怪物"はすぐにその能力を解除して動く。

 

「やっぱ、そう簡単には行かなさそうか」

 

 それを見て零二はすぐに先程考えた作戦を破棄して別の作戦に移行するための準備をしようとするが、それよりも速く"怪物"が動いた。

 再び零二とサクラの動きを止めるためにその眼を使う。

 

「「…………っ!」」

 

 零二とサクラの身体がまるで石になったかのように動かなくなる。それを確認した"怪物"は周りの蛇も使った今までのよりも遥かに強大なビームを放つがーーーー。

 

「Gyaaaaaa!!……aaa?」

 

 その瞬間、零二の右手に現れた魔法陣によってそれは防がれた。いや、それだけではない。いつのまにか零二とサクラの動きを止めていた能力自体が解除されていた。

 

「今だ……撃て!サクラ!」

「了解なんだよ!」

 

 "怪物"が呆けたその隙を零二は見逃さない。そして、サクラも零二の考えを汲み取りいつでもそれを発射できるように準備を進めていた。

 

「『穢れなき桜光の聖剣(レーヴァテイン)』ーーーーッ!!」

 

 桜色の極光が呆けていた"怪物"に襲いかかる。"怪物"はそれを見ると我に帰りすぐに穢れなき桜光の聖剣(レーヴァテイン)を止めようと能力を使うがーーーー。

 

「させるかよ!!」

 

 ーーーーそれを零二が許すはずがない。穢れなき桜光の聖剣(レーヴァテイン)が放たれると同時に駆け出していた零二は穢れなき桜光の聖剣(レーヴァテイン)が止まっている場所まで行くと自分の能力(チカラ)を使う。

 

「ーーーー『復元する世界(ダ・カーポ)』ーーーーッ!!」

 

 刹那、"怪物"の能力が光とともに消え、止まっていた穢れなき桜光の聖剣(レーヴァテイン)が再び進み出す。

 もはや避けることも防ぐこともできないそれを見ながら"怪物"はそれに呑み込まれていく。

 だが、"怪物"はお前も道連れだと言わんばかりに動けない月読達の方にビームを放つ。

 以前と同じ状況であれば、動けない月読達はそのまま命を散らす。しかし、それはあくまで以前までの話。

 今ここにいる零二は以前の零二とはまるっきり違う。この状況を変える手段を持っている。

 

「ーーーー『復元する世界(ダ・カーポ)』ーーーーッ!!」

 

 零二が右手を翳し自身の能力を使う。先程までは知らなかったはずの能力だが、零二はそれらを本能的に察していた。

 そして、それは正しく零二が思い描いていたように零二の右手の先に月読達が召喚された。

 

「GGyaaaaaa?」

 

 何が目の前で起こったのか、"怪物"は理解できなかった。確かに、毒は効いていた、動けるはずなどない。

 ならばと"怪物"が次に視線を向けたのは地震に迫り来る極光の先にいる少女と少年。だが、少女はこれほどの攻撃を維持するために他に意識を向ける暇はないはずだ。ならばーーーー。

 そこまで、"怪物"が考えると同時に桜色の極光が"怪物"を呑み込んだ。

 

「……終わった……のですか?」

 

 ようやく毒が抜けたのかよろよろと立ち上がりながら月読が零二に聞いた。

 それに零二はしばらくの間何も答えなかったが、"怪物"の姿が無いことを確認すると「多分な」と答えた。

 それと同時に、何処かで扉が開いた音が聞こえてきた。零二達の手元に一枚の紙が現れそこには試練クリアと大きな文字で書かれていた。

 それを見たなぎさ達は大きく喜び、燐から紙の内容を聞いた月読も珍しく年相応に喜んだ。

 

「…………」

 

 だが零二は素直に喜ぶことはせず、ただ黙って"怪物"が消えた場所を見続けていた。

 零二の脳裏には"怪物"の攻撃の仕方や動きなどが鮮明に蘇り零二の中に疑問を浮かび上がらせていく。

 

「…………」

 

 零二の目の前から月読達が消えていく。試練のために作り出されたこの空間から強制的に排出されているのだろうと零二は思いながら、自分のすぐ近くにいたサクラに声をかける。

 

「……ありがとうな」

 

 零二の感謝の言葉を聞いたサクラは柔らかく微笑んで「どういたしましてなんだよ」と言う。

 それに零二もつられて笑みを浮かべるが、すぐにその笑みを引っ込めて空に視線を向ける。

 それは、零二だけではない。サクラもいつでも穢れなき桜光の聖剣(レーヴァテイン)を放てるようにしている。

 

『酷いなぁ、僕が一体何をしたって言うのさ?』

「さぁな。けど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 零二の言葉に空にいた少年はクスクスと笑いながら『君の勘を侮っていたかな?』と言う。

 そして、少年はそのまま零二達の目の前に降りてくる。

 

「「ーーーーっ!?」」

 

 刹那、零二とサクラは自分の死を幻視した。

 骨を断たれ、何もできぬままただその命を散らすその光景を幻視した零二はサクラを抱き抱えて少年から距離をとった。

 

『5回……。この数字が何か理解できるかな?』

「……オレ達を殺した回数か?」

『御名答。彼奴の意図したことでは無いのだろうけど、中々面白いのが()()()いるじゃないか』

「……っ!」

 

 少年の言葉に零二は手を握りしめる。

『今回は』、それはつまり過去にも今零二達が受けている試練のようなものがあったと言うこと。

 そして、零二の予想が正しければそれはーーーー。

 

「……そういうことかよ」

『気づいたみたいだね。でも、もう君達は逃れられない』

 

 嘲笑うように少年は零二に言った。

 だが、零二は少年のその言葉を鼻で笑う。

 

「逃げる?はっ、誰がするかよそんなこと!」

『やっぱり、君は今までの奴らと少し違うみたいだね。なら、頑張りなよ』

 

 少年の姿が霞んでいく。零二はそんな少年の姿を最後まで見届けるとサクラの方を見た。

 

「そろそろ帰るか」

「うん!」

 

 零二がサクラに手を差し出す。サクラは笑顔で零二と手を繋ぐとそのままその腕に抱きつく。

 そして、零二達の姿も少年のように段々と霞んでいく。

 

「……今日食べたい物とかあるか?」

「うーん……あっ!それならカレーライスが食べたいかもなんだよ!」

「カレーか、りょーかい」

 

 



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タイトルが思いつかない

「あー、暇だなぁ」

 

 朝10時52分の学校の屋上。そこで、零二は寝転んで空を見上げていた。前回の試練の日からかなりの月日が経ち、零二達は中学一年生(月読は零二達よりも一歳下だから小学六年生)になった。

 零二はこれまで通り月読達との接触は必要最低限にしているのだが、零二の戦略破壊魔術兵器(マホウ)であるサクラは月読達と積極的に関わっている。

 そのためか、以前よりも零二は月読達と関わることが増えてしまっている。

 

「サクラは……まぁ、今日も散歩してるだろうな。あいつらは……授業を受けてるしなぁ。

 ……まっ、あいつらが来るまで寝てれば良いか」

 

 授業中だが、零二にとって中学生の範囲は簡単すぎてつまらないためこうやって屋上などでサボっている。

 それも、一度や二度ではなくほぼ毎日毎時間。それでも何とかして授業に参加させようと教員が探しに来ることが有ったのだが、零二は普通は行かないであろうと教員が考えている場所などに隠れてやり過ごしているため、途中から諦められている。

 

「それにしても、アレが転生者かぁ」

 

 寝転がりながら零二はつい先日遭遇してしまった転生者のことを思い出す。

 零二を殺すと言い、金色の波紋から数多の武器を射出して攻撃してきたその少年は、零二が復元する世界(ダ・カーポ)を使って自分の近くに喚び出し思いっきり金的をしたら逃げていった。

 アレは流石に酷かったかな?と零二は心にもないことを思いながら他の事を考え続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何なんだよ……っ!何なんだよお前は!」

 

 昼の街の中で、1人の少年が汗だくになりながら黄金の波紋から武器を射出する。

 だが、それらは全て一人の少年の手によって無へとかえっていった。

 

『王の財宝、使い方次第では化けるんだろうね。でも、君では宝の持ち腐れだ』

 

 少年は顔に笑みを浮かべながら先ほどまで攻撃してきた少年に言った。

 金色の波紋を背にしながら少年は目の前で何も無い空中を何事もなく歩く少年に向かって叫んだ。

 

「何なんだよ……、何なんだよ!おまえはぁ!!」

 

 槍と剣が少年に向かって飛んでいく。だが、少年はただそれを見て笑みを浮かべるだけ。

 

『愚かだね。それは通用しないって分かっているだろう?』

「ーーーーっ!!なら、これはどうだよ!!」

 

 少年が波紋の中に手を入れる。そして、その中から取り出したのは人間が持つには過ぎた代物の乖離剣。

 それを見た少年は興味深そうにその剣を見る。

 少年はそんな油断しきっている標的に向けようとする。

 そしてーーーー少年がそれを放とうとした瞬間、それを向けられていた少年が動いた。

 

『それはーーーー君には過ぎた代物だよ』

 

 少年の手から乖離剣が霧のように消えていく。

 それに、少年は呆けてしまう。そして、その隙をもう一人の少年は決して逃さない。

 

『じゃあね、愚かな転生者君』

 

 ズブリと少年が金色の波紋を展開していた少年の胸を貫いた。

 その手にはいつのまにか紅い槍が握られていた。

 

『この槍について君は知ってるよね?そして、この後の君の結末も……』

 

 少年の身体から力が抜けていく。少年が少年の胸から槍を引き抜くと同時に少年はそのまま地面に倒れた。

 

『……つまらないなぁ。やっぱり、彼レベルの転生者はそんなにいないよね』

 

 少年が、目の前にある死体の処理をしながら以前出会った転生者の少年に想いを馳せる。

 獣並みの直感、洞察力、そして何よりーーーー何処か自分に似ている場所があるあの少年を。

 

『さてと、そろそろ彼奴らも次の試練を出す頃かな』

 

 忌々しそうに少年はそう呟く。

 少年にとって、『試練』は()()()()()()()()()()行為だ。

 長い年月をかけてこちら側へと引きずり込んだーーーー。

 

『おっと、これ以上考えているとマズそうだから止めよ。

 まぁ、お前達が高みの見物を決め込むのなら、僕は僕でお前達をおとすよ。だってーーーー』

 

 少年がクルクルとその場で回ってから空に浮かぶ太陽を見て笑顔で言った。

 

『僕はーーーーこの世界も他の世界も、その世界に住んでいる全てのものがーーーー大っ嫌いだから』

 

 歪んだ笑みを貼り付けながら少年が笑った。



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第三の試練

 紅葉の紅い葉がヒラヒラと舞い落ちる季節、零二とサクラは黒い霧に覆われた空間の中にいた。

 零二とサクラがこの暗いところに来たのはこういった場所が好きだからーーーーではなく試練に挑戦しにきたからだ。

 

「……今回の試練の場所は暗闇ーーーーってマジで近くにいるはずのサクラの姿も見えないんだけど……」

「まっ、マスター、近くにいるんだよね?」

「いるぞーってこんな暗闇じゃわかんねーよな」

 

 零二はこの暗闇の中でどうやって互いの位置を把握しようか考えるが途中から面倒になりサクラがいるであろう場所に手を出した。

 

「ほら、手握れよ。そうすれば場所が分かるだろ?」

「分かったんだよ!」

 

 サクラが零二の差し出した手を握る。それと同時に何処からか強い風を零二とサクラは感じ取った。

 強すぎる風に零二は思わず目を瞑り、サクラは慌ててスカートの裾を抑える。そして、風が止むと同時に零二とサクラは目を開けて絶句した。

 

「ーーーー」

「ーーーー」

 

 零二とサクラの前に広がっているのは桜吹雪。桜の花弁がまるで吹雪のように吹き荒れている場所だった。

 その光景にサクラと零二はつい見惚れてしまい、お互いに声も出さない。だが、何時迄もそうさせてくれるほど、試練は甘くない。

 

「ーーーーっ!」

 

 零二が何かに気づきサクラを押し倒した。サクラはいきなりの事で慌てるがそのすぐ後に先ほどまで頭があった場所に氷の矢が向かってきたのを見てすぐに落ち着き、意識を切り替える。

 

「遠距離か、サクラ場所は分かるか?」

「ううん。全くわからないんだよ」

 

 零二がサクラに相手の場所を聞くがサクラの答えは否だった。

 桜吹雪により視界が悪く、また風が強く音なども拾えない。

 

「相手はこっちの位置を知ってて、こっちは相手の位置がわからないのは……フェアじゃないよなぁ!」

 

 零二が氷の矢が飛んで来た方を思い出しながら、さらにそこから相手の動きを推測する。

 放たれた矢は二本、だがその軌道はまるで横に移動しながら放ったかのような軌道。さらに、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そこまでの情報があれば零二は凡その推測を立てられる。

 

「サクラ、デカイの頼むぞ!」

「了解なんだよ!」

 

 零二がサクラに声を掛け、サクラもそれで零二が何を求めているのかを理解して実行に移す。

 突き出されたサクラの両手に集うは桜色の光。零二はそれを見ながら相手の位置を推測していく。

 

「準備OKなんだよ!」

 

 零二の耳にサクラの声が届く。零二はそれと同時に相手がいると思われる場所を見た。その場所は奥にある大きな桜の木の頂上。サクラはすぐにその場所に敵がいるのだと零二が推測したのを察した。

 

「『穢れなき桜光の聖剣(レーヴァテイン)』ーーーーッ!!」

 

 桜色の極光が零二の推測した場所へと放たれる。

穢れなき桜光の聖剣(レーヴァテイン)』、それはサクラの切り札である『神話魔術』。

 必殺技とも言える最強の砲撃の前には生半可な攻撃や防御は無意味だ。

 そうーーーー。

 

「ーーーーっ!!」

 

 ーーーー()()()()()()()()……。

 

「ーーーー『復元する世界(ダ・カーポ)』ーーーーッ!!」

 

 零二が『復元する世界(ダ・カーポ)』を使って飛んできた黄金の斬撃を防ぐ。

 勘に従い『復元する世界(ダ・カーポ)』を使ったため少しだけ魔力消費が激しかったが、防ぎきることに成功はする。

 だがーーーー。

 

「マスター!」

「……っ!」

 

 サクラの声で再び黄金の斬撃が飛んできたことに気がついた零二は再び『復元する世界(ダ・カーポ)』を使って防ぐがーーーー僅かに防ぎきれず浅くだが右肩から左脇腹まで切られてしまった。

 零二の体から血が流れる。だが、零二はその傷を癒すことはせずサクラの手を取り走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらく走り続けた零二とサクラだったが、零二とサクラの体力が限界になり近くにあった桜の木の陰に隠れるように座り込んだ。

 

「……開幕……いきなり……先制……は……、これから……頭に入れとこ……」

「そう……だね……」

 

 息を整えながら零二はサクラと話しながら先ほどまであった『開幕してすぐの攻撃はない』という勝手な思い込みを頭の中から消す。

 

「それにしても……今回の試練もやっぱりこういう戦闘系か……」

「マスターの……言ってた通りに……なったんだよ……」

 

 何回か深呼吸などを繰り返し、息を整えた零二とサクラは先ほどの斬撃についての考察に移る。

 

「サクラ、お前から見てあの攻撃はどう思う?」

「私の『穢れなき桜光の聖剣(レーヴァテイン)』よりは威力が高いのは分かるんだよ。でも、それ以上のことは……」

「サクラでも分からなかったのか?」

「うん。何でか靄がかかったみたいにその情報だけが読めなかったんだよ」

 

 サクラの言葉に零二は苦い顔をする。

 零二の戦略破壊魔術兵器(マホウ)であるサクラには『穢れなき桜光の聖剣(レーヴァテイン)』以外にも『対魔術兵器戦略思考(ミーミスブルン)』という能力を持っている。

 その能力はサクラ曰く『相手の持っている戦略破壊魔術兵器(マホウ)と能力を解析するもの』だそうだが、転生した影響なのかその能力は戦略破壊魔術兵器(マホウ)だけでなく転生者の特典やこの世界に存在する普通ではない力を持つ者達に対しても使えるようになっていた。

 零二は表面上だけでもサクラの『穢れなき桜光の聖剣(レーヴァテイン)』を切り裂いた攻撃の正体を知りたかったが、それすらも叶わない今の現状に少しばかり焦り始めてしまうが、すぐにサクラの顔を見て焦っては駄目だと自分自身に言い聞かせる。

 

「……とりあえず、因幡達を探すぞ。後ついでに試練の内容の書かれた紙……ってサクラそれなんだ?」

「さっきそこに突然現れたんだよ。試練について書いてある紙みたいだよ」

 

 サクラが零二に紙を渡す。零二はその紙を受け取るとその文章を覚えるように見る。

 

『試練名 "偽物を救え"

 

 ・挑戦者一覧

 ・黒鉄零二 ・白金燐 ・因幡月読 ・神代なぎさ ・星川瑠璃

 

 ・挑戦者敗北条件

 ・挑戦者全員の死亡

 ・勝利条件1を達成せず偽物を討伐した場合

 ・挑戦者全員が勝利条件をみなせなくなった場合

 

 ・挑戦者勝利条件

 ・勝利条件1 偽物を救う

 

 以上を持って第三の試練を開始します』

 

 試練の紙に書いてある内容を全て読んだ零二はため息を吐いた。

 

「どうしたのマスター?」

「……何でもねーよ。ただーーーーオレなりに決断しようと思っただけだ」

 

 零二が決意を固めたような目をしているのに気がついたサクラはそれについて聞こうと口を開こうとしたとき、遠くから爆発音が聞こえてきた。

 サクラはそれに驚いて間抜けな声を漏らすが、零二はその音がした理由にすぐたどり着くとサクラの手を取った。

 

「走るぞ、サクラ!」

「了解なんだよ!」

 

 サクラが零二の手を取る。それと同時に零二はここ数週間でそれなりに洗練されたとはいえまだ荒さが目立つ身体強化を使って加速して、その場所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、爆発音がした場所では月読達が戦っていた。

 月読は刀を、なぎさは黒色の重そうな剣を、燐は狙撃銃を持って目の前にいる黒い鎧を見にまとった灰色の髪の少女と向き合っていた。

 その周囲には斬撃の後、燃えた後などの戦闘の跡がたくさんあった。

 

「…………」

 

 鎧の少女が手に持った剣を振るう。たったそれだけの動作。だが、それだけでも月読達にとっては十分な脅威となる。

 剣から放たれた黒い何かがなぎさの振るった剣とぶつかり合い火花を散らすがすぐになぎさが押され吹き飛ばされてしまった。

 だが、なぎさもただ吹き飛ばされただけではない。なぎさが吹き飛ばされながらも振るった剣は鎧の少女から剣を奪うことに成功していた。

 

「今だよ!」

「はいーーーーっ!」

 

 なぎさが声を出すと同時に月読が飛び出す。鎧の少女は月読が動き出すとバランスを整えて月読の攻撃に備えた。

 刹那ーーーー鎧の少女の視界から月読の姿が消え自身の身体にとてつもない衝撃が来た。

 刀が振るわれて攻撃されたのだと鎧の少女は理解した瞬間、畳み掛けるように氷の矢と銃弾が鎧の少女の頭めがけて飛んで来ていた。

 燐の銃撃とここにはいない瑠璃からの攻撃だ。先ほどの月読の攻撃に気を取られ隙を見せた鎧の少女への攻撃は普通であればそのまま当たる。

 

「◼️◼️」

 

 少女が何かを呟いた。それと同時に氷の矢と銃弾が何かに弾かれた。

 

「なーーーーっ!?」

「…………っ!?」

 

 月読と燐が驚きの声を上げる。だが、この中で唯一先ほどの動きが見えていたなぎさは鎧の少女が持つ剣を見て顔を青くした。

 何故なら、その少女が持っていた剣はーーーー今自分の手に持っている剣と全く同じものだからだ。

 

「逃げてぇぇぇ!!」

 

 なぎさが力一杯叫ぶ。月読達はそんななぎさに驚きながらもその声に従う。

 

 ーーーー刹那、鎧の少女が持っていた剣が弾けた。

 

 黒色の剣の中から出て来たのは黄金の剣。

 それを見た瞬間、月読達は自分達の死を感じた。

 

「ーーーーーーっ!!」

 

 月読達の前に立ったなぎさは自身の手に持っている剣に意識を集中させる。すると、なぎさの剣も鎧の少女の持つ剣と同じように黄金の剣へとなった。

 だが、なぎさの場合変化はそれだけではなかった。

 なぎさの髪を縛っていたリボンが解け結っていた髪の毛が降ろされ、なぎさの綺麗な黒髪はその色を白銀へと染まっていく。

 

「ーーーーーー」

 

 二人の剣士が全く同じ構えをする。

 防御というものを考えていない、先手を取ることを考えてはいない。そう、後の先つまりーーーーカウンターを取ることのみを重視した構えを。

 だが、今回に限っては後の先というものは存在しない。何故なら、互いに後の先を狙っていたとしてもなぎさ達が持っている剣の前にはいかなるものも通じないからだ。

 黄金の輝きを増していく、2つの剣。そして、全く同じタイミングでなぎさと鎧の少女はそれを放った。

 

「「『黄金色の聖約(ティルヴィング)』ーーーーッ!!」」

 

『ティルヴィング』、それは北欧神話に出てくる剣。

 3回願いを叶えるが、3回目は持ち主の身をを滅ぼすという呪いを持った剣。

 そして、これこそがなぎさの持つ特典でありーーーー戦略破壊魔術兵器(マホウ)の真の姿。

 3度にわたり所有者に勝利をもたらすが3度目は自身がその力に耐えきれず自壊する。

 そして、戦略破壊魔術兵器(マホウ)を持つ召喚せし者(マホウツカイ)にとって自身の戦略破壊魔術兵器(マホウ)が壊れるというのは自身の死を意味する。

 だが、そんなデメリットがあると分かっていてもなぎさはこれを使わざるを得なかった。

 何故なら、この剣が断つのは剣や体といったものだけにあらず、この剣はーーーー概念そのものを断つ剣なのだから。

 距離などのあらゆる概念を一瞬とはいえ切り裂く擬似『概念魔術兵装(ヴァナル・ガンド)』。

 その前にはどんな防御も攻撃も、距離も無意味となる。

 

「ーーーーッ!!」

 

 なぎさと鎧の少女の『黄金色の聖約(ティルヴィング)』が拮抗する。その衝撃は凄まじいもので近くの木を吹き飛ばし、そこから少し離れているはずの月読達も吹き飛ばされるのを堪えるのだけで精一杯なほどだ。

 だが、それも長くは続かなかった。

 徐々にだが、なぎさの『黄金色の聖約(ティルヴィング)』が押され始めたのだ。

 そして、このままなぎさの『黄金色の聖約(ティルヴィング)』が押し負けそうになった時、月読の耳がある声を拾った。

 

 ーーーー『復元する世界(ダ・カーポ)

 

 刹那、月読達は先ほどまでの衝撃から解放されなぎさは急に変わった景色に驚きつつも何が起こったのかを見た。

 そして、見えたのは2人の少年少女の背中。

 片方は最近自分たちとよく絡むようになった戦略破壊魔術兵器(マホウ)の少女ーーーーサクラ。

 そして、その隣に立ち迫っていた黄金色の斬撃を見たこともない魔法陣を展開して防いでいるサクラという戦略破壊魔術兵器(マホウ)を持つ試練に挑戦することを選んだ転生者ーーーー黒鉄零二。

 

「ーーーーっ!?」

 

 鎧の少女が驚愕しているのがなぎさにはわかった。それもそうだろう、何故ならなぎさでさえ防ぐことは絶対にできないと思っていた攻撃が目の前で防がれているのだから。

 

「ーーーーッ!!」

 

 零二が凄まじい衝撃に負けまいと歯をくいしばる。

 力を入れているからか零二の体のまだ癒えていない傷からポタポタと血が溢れ出る。

 だが、零二はそんなことに気をとられることなく静かに気を待つ。

 そしてーーーー黄金の斬撃が弱まってきたのを確かに零二は感じた。

 

「今だ!サクラァ!」

「……っ!?」

「了解なんだよ!」

 

 零二の言葉に鎧の少女は零二の近くにいるサクラの両手に集まっている桜光に気がつき月読達のいる前で初めて表情を崩した。

 何故なら、鎧の少女は知っているからだ。サクラのソレを、その威力を……。

 

「『穢れなき桜光の聖剣(レーヴァテイン)』ーーーーッ!!」

 

 サクラが極光を放つ。零二はそれと同時に防御をやめ横に転がるようにしてそれをかわした。

 だが、零二の防御を破ろうとして力を込めていた少女はそうではない。急に迎え撃っていた力がなくなったことによって重心が前に行き過ぎていた鎧の少女はバランスを崩してしまう。

 このままでは極光に少女は呑まれてしまう。そして、呑まれれば最後……少女は死ぬ。

 

 ーーーー◼️◼️。

 

 少女の頭の中に誰かが囁いてきた。

 

 ーーーー◼️◼️。

 

 それは、少女を縛る呪縛。呪い。

 

 ーーーー◼️せ。

 ーーーー殺せ。

 

「なーーーーっ!?」

 

 なぎさが有り得ないとでも言いたげな顔をした。

 いや、なぎさだけではない。その様子を見ていた燐と、その様子を耳で聞いていた月読、そして遠くからこの光景を見続けていた瑠璃も同じ気持ちだった。

 バランスが崩れ、もう何もできないはずだと思っていたのに、鎧の少女はその予想を超えてきた。

 足にいつの間にか現れた黒色の杭を地面に突き刺して無理矢理に体勢を整え手に持った剣に力を込める。すると、剣は再び黄金色の輝きを取り戻した。

 それを見たなぎさは絶望に染まった顔をし、サクラもそれに顔をしかめた。

 ほとんどの者がそれに反応している中で零二は目の前で自分達を殺そうとしている少女をまっすぐと見続けていた。

 

「そういうことか……」

 

 そして、何かに納得したようにそういうとサクラにまで合図を送る。

 それにサクラは気づくと小さくだが首を縦に振った。

 

「ーーーー『復元する世界(ダ・カーポ)』ーーーーッ!!」

 

 その瞬間、なぎさ達を浮遊感が襲った。だが、それは相手の攻撃を受けて吹き飛ばされたからではない。

 この突然どこかに移動させられる感覚をなぎさ達は知っている。

 黄金色の斬撃が先ほどまでなぎさ達がいた場所を抉り遥か彼方へと消えていく。

 その中に巻き込まれたと勝手になぎさ達が思っていた零二もその中で無傷で立っていた。

 

「……逃げたか」

 

 零二が土煙が晴れた場所を見ると鎧の少女の姿が消えていた。

 それを見た零二は一度息を吐いてからすぐ近くに降りた(落ちた)サクラ達へと目を向けた。

 

「おーい、大丈夫か?」

「うぅぅ、酷いんだよマスター」

「アレくらいしかさっきは手がなかっただろ。後、お前には事前に言ってあったからお前はそれを言う資格ないな」

「あっ、そっか……じゃないんだよ!それでもあのやり方はやっぱり酷いんだよ!」

 

 頬を膨らませて抗議するサクラを零二は軽くあしらうと月読達に試練について書かれた紙を見せた。

 

「お前らはこれ持ってるか?」

「いいえ、それらしきものをなぎさが取ろうとしたらいきなり襲撃を受けたので持っていません」

「……なるほどな」

 

 月読の言葉に零二が納得すると、一回首を捻ってから月読達の方をもう一度見た。

 いつものように巫女服を着た月読と珍しく同じ格好のなぎさ、前見た時と変わらない黒色のワンピースを着た燐、そして戦闘時の服となっているサクラ。

 そこまで見て零二は先ほどまで何か足りないなと思っていたものの正体にたどり着く。

 

「そういや、星川は何処だ?」

「……っ!そうでした、今瑠璃さんとは別行動を取っていてーーーー」

「ーーーー私ならここに居ますよ?」

 

 ガサッと月読の後ろから瑠璃が現れる。その姿は月読達と同じぐらいかそれ以上にボロボロになって居た。

 

「無事……ではなさそうだな?」

「ええ、貴方達から逃げ出したあと私の方に来て攻撃して来たので何とか逃げました」

「……その傷とかはその時のやつか?」

「はい……」

 

 その時のことでも思い出しているのか瑠璃が少しだけ顔を青くして「もうあんな攻撃はこりごりです」と言った。

 

「それで?どうするよ」

「どうするとは?」

「今回の試練は前の時のように相手を倒せばそれで終わるわけじゃない。今回の試練はあいつを救わなきゃならない」

「それはーーーー難しいですね。何から救えば良いのか、どう救えば良いのか分かりませんから」

「そうだよなぁ」

 

 零二が頭をかきながら月読に視線を向けて問う。

 

「星川はどうだ?」

「……遠くからなので、どうとも言えません」

「……本当にか?」

「はい」

 

 瑠璃が零二の質問に答える。すると零二は「そうだなぁ」と何かを考えて月読達に一つの提案をした。

 

「まっ、アイツを見つけるためにもここで二人組に分かれて捜索しよーぜ」

「各個撃破されるかもしれませんよ?」

「そこら辺は一応考えてオレは星川と探すことにする。オレの能力が有れば全員呼べるからな。

 因幡と神代、サクラと白金の二人組でバランスとか多分良いだろ」

「……いえ、もろに偏ってますが……」

「大丈夫だって、()()()()()()()()()()

「はい……?」

「あんだけ早いんだから見つからねーだろ流石に……。

 あっ、オレ達こっちから探すわ。じゃーまたな」

 

 零二が強引に話を切って瑠璃の手を取って進んで行く。それを見たなぎさ達とそれを耳で把握した月読はため息を吐くと先ほど零二が言って居たようにそれぞれ別々の方へと散って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「星川、そっちに居そうか?」

「いいえ、見つかりません」

「まっ、簡単には見つからないよなぁ」

 

 月読達と別れてから数分、零二達は先ほどの場所よりもそこそこ離れた場所まで来て居た。

 何処までも続く桜の木のせいで何処まで進んだのかは分からないが、道端に零二が草を置いているため元の場所に戻るのは多分大丈夫だろう。

 

「それにしても、星川は何で反対しなかったんだ?」

「はい?」

「さっきのオレのアイディアさ。だって、普通は因幡達みたいな反応をするだろ?だけど、あの中で唯一お前だけは何も反応しなかった……。何でだ?」

 

 零二が瑠璃に問いかける。それに瑠璃は眉一つ変えずに答える。

 

「貴方のことですから、何か考えがあると思っただけです」

「へー」

 

 瑠璃の答えに零二は納得いって居ないような返事をする。それに瑠璃はムッとして何かを口にしようとするがそれより先に零二が口を開いた。

 

「……()()()()()()()()()()()()()()?」

「はい?」

 

 零二の言葉に瑠璃は何のことかわからずに間抜けな声を出す。だが、零二はそんな瑠璃に構わないでさらに口を開く。

 

「そろそろ演技を止めろって言ってるんだよ。下手な芝居にそこそこ付き合ってやったんだ。そろそろ、その化けの皮を外せよ()()

 

 零二の言葉に瑠璃は何も言い返さない。ただ黙って零二の目を見るだけだ。

 数秒間、沈黙が周囲を支配する。瑠璃は何かを言おうとするが確信を持っている目をしている零二を見ると息を吐いて観念したかのように口を開く。

 

「……何で、分かったのですか?」

 

 瑠璃の口から出たのは何で分かったのかと言う言葉。それは、おそらく瑠璃ーーーーいや、瑠璃に扮装した鎧の少女なりの諦めの言葉なのだろう。

 

「傷とタイミング、後はお前がオレ達の名前を一度も口にしなかったのが理由だよ。

 あの傷を見たら普通はお前の説明で納得する。だけどな、あの傷はお前が星川に攻撃したので有れば不自然なんだよ。

 お前の体に付いている傷は切り傷が多い。だけどな、その右腕は切り傷じゃないだろ?」

 

 零二が右腕の部分を指差す。そこには、切り傷ではなく何かで焼けたような痕が薄っすらとだが存在して居た。

 

「それはおそらくサクラの『穢れなき桜光の聖剣(レーヴァテイン)』でついた傷だ。

 可笑しいよな?アイツが使って居たのは剣。オレ達の目の前から逃げ出した時もその手には剣があった。

 お前の説明だとお前に攻撃してきたのも剣になるはずだろ?なのにお前の右腕にはその傷があった」

 

 先ずこれがお前が怪しいと思った理由その1だと零二が人差し指を立てる。

 

「二つ目、タイミングが良すぎる。

 オレ達が星川の話題をすると同時に現れた。アレは速すぎだ。

 何処かで待って驚かせようとして居たのであれば納得だが、傷を負っているので有ればそれは不自然だ」

 

 これが理由二つ目なと今度は中指を立てる。そして、三つ目と薬指を零二が立てた。

 

「三つ目、お前達が会話している時、お前は一回も因幡達の名前も、苗字も言わなかった。

 さっきの会話の時、お前はオレのことを『貴方』と言った。

 だけどな、最近のアイツはオレのことを『黒鉄零二さん』とフルネームプラスさん付けして来るんだよ。

 だから、確信にしたんだよ。お前は偽物だってな」

「…………それは、盲点でした。これは、うっかり」

 

 ボロボロと崩れていく瑠璃の身体。その中から出てきたのは零二達が探していた鎧の少女の姿だった。

 だが、格好はあの黒い鎧では無く真っ黒なドレスを着ている。

 

「しかし、そこまで分かっていながら何故私と二人っきりになるのですか?あの場で、全員で私を殺せば良いのでは?」

「お生憎様、オレの……いや、オレ達の目的はお前を救うことなんでな。殺しはしない」

「救う?無理ですよ。だってーーーー」

 

 少女の目から理性の色が消え去る。右手にはいつのまにか黄金の剣が握られていた。

 それに零二が気づくと同時にその剣が振るわれた。

 

「ーーーー貴方達は私に殺されるのだから……」

 

 確かな手応えを少女は感じた。完全に防御は間に合っておらず零二の身体の深くまで付いた切り傷からは大量の血が地面に落ちて島を作っていく。

 確実に致命傷。いくら転生者であろうとこの傷であればそう時間はかからずに死ぬ。

 

「頭が良くても……戦場では関係ない」

「ーーーー残念だが……それじゃあ、オレは殺せねーよ……っ!」

 

 最も、それは黒鉄零二が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……。

 零二の体から傷が消えていく。その異常な光景を目の前で見た少女は勢いよく跳躍し零時から距離を取る。

 

「何で……死なないの……っ!?」

「それを教えるわけねーだろ」

 

 黒鉄零二が死ななかった理由、それは黒鉄零二が召喚せし者(マホウツカイ)だからだ。

 召喚せし者(マホウツカイ)は普通に傷つけたのでは死なず、毒なども聞かず、現代兵器でも死ぬことはない。

 召喚せし者(マホウツカイ)を殺すにはその召喚せし者(マホウツカイ)が持つ戦略破壊魔術兵器(マホウ)を破壊しなければならない。

 

「そう、だから貴方は私と二人っきりになったのね」

「まっ、理由はそれだけじゃないけどな」

「…………?ーーーーっ!!」

 

 零二の言葉に少女は一瞬だが何かを考える素振りを見せたがすぐに自分に迫ってきていた桜色の極光に気がつき急いで回避運動をする。

 だが、その際に手から剣が離れ極光に呑まれていった。

 

「サクラは近距離での戦闘はダメダメだが……こういう遠距離戦にはかなり強いんだよ」

 

 零二がサクラと別行動をとった理由は大きく分けて二つ。

 一つ目はこの少女から自身の命そのものであると言っても過言ではないサクラを離すため。

 もう一つは、サクラを遠くに移動させ少女の認識外からの砲撃によって少女の武器を奪うためだ。

 なぎさも使った『黄金色の聖約(ティルヴィング)』の前にはサクラの神話魔術である『穢れなき桜色の聖剣(レーヴァテイン)』ですらも切り裂かれてしまう。

 だが、少女の意識の範囲外からの攻撃であればーーーー少しだけでも気づかせることに遅らせるのに成功したのであれば話は違う。

 零二はなぎさと少女が『黄金色の聖約(ティルヴィング)』を放つ瞬間を近くで見ていた。

 

「お前のアレは神代のものよりも溜める時間が長いんだろ?」

「ーーーーっ!?」

「だから、こうした。多分今頃サクラの行動に疑問を持った白金が因幡達に連絡してるだろ」

「……なるほど、ここまで全部貴方の作戦通りというわけですか。

 でもーーーー」

 

 少女の目から理性の色が消え失せた。刹那、零二が少女から放たれる殺気に一瞬だが怯む。

 殺気と狂気が混ざり合ったようなもの、純粋な殺意だけならばまだ零二は怯むことはなかったが謎の狂気も混ざったそれは今世と前世を合わせても感じたことのなかった何かだった。

 

「ーーーー貴方では、私を絶対に救えない」

 

 そうはっきりと口にした少女。それとともに剣が振られるが零二はそれらを完全に見切ってかわす。

 

「目……いえ、どちらかと言えば勘?」

 

 だが、その零二のかわし方を見た少女は零二が攻撃をかわせたタネーーーー人並み外れた直感だと気づくとすぐに剣の振り方を変えた。

 一瞬で複数の布石を打ち、零二の行動によってどの攻撃を使うのかを使い分けるという荒業。だが、直感に頼っていた零二にとってそれは最悪な攻撃だった。

 全ての布石が後々の死に繋がり、零二の人並み外れた直感はそれを全て汲み取ってしまい徐々にだが攻撃を回避しきれなくなる。

 

「ち……っ!だけど、これならどうだ!」

「ーーーーっ!?」

 

 だが、零二もただ攻撃を受けていたわけではない。少女の動きのクセを見つけ出し徐々にだがそれに順応していく。

 それによって数分経つ頃には零二と少女はほぼ互角の戦いを繰り広げられるようになっていた。

 

「……っ!このぉ!!」

 

 このままではいずれ不利になることを察した少女は零二の攻撃を敢えて受けてカウンターの蹴りを放つ。

 それに零二は反応できず飛ばされてしまうが少女は確かに見た。

 その時の零二が笑っていたのを。

 

「…………っ!」

 

 少女の背中に冷たいものが走る。本能が警報を鳴らし少女は無我夢中でその場をかけた。すると、先ほどまで少女がいた場所を呑みこむように桜色の極光がその場を抉り取っていった。

 

「流石に2回目はねーか。けどなーーーーっ!」

 

 少女が避けた場所に突然現れる水色の魔法陣。そこから現れた氷の鎖は少女の身体を拘束していく。

 

「これーーーーはーーーーっ!?」

「助かるぜーーーー星川!!」

 

 零二がこの周辺にいない瑠璃に感謝しながら少女へと走り出す。

 それを見た少女は自身に残った全ての理性を一瞬で消しとばし拘束から何が何でも逃げ出そうとするが氷の鎖はビクともしなかった。

 零二はそれを見ると右手を前に出して自身の能力を使う。

 

「ーーーー『復元する世界(ダ・カーポ)』ーーーーッ!!」

 

復元する世界(ダ・カーポ)』それは零二が持つ事象を『巻き戻す』能力。

 攻撃力がほとんどなく戦闘には不向きだと思われる能力だが、今回の試練においてはクリアする鍵となりうる能力だと零二はこの少女と戦闘を行って直感的に理解したのだ。

 零二の右手が少女の身体に触れる。後はそのまま少女の中にあるなにかを『復元する世界(ダ・カーポ)』が元に戻すと零二は考えていたのだ。

 だがーーーー。

 

「くーーーーっ!」

 

 ーーーー黒い霧が少女から放たれ、鎖と零二を纏めて吹き飛ばした。

 いや、それだけではない。それと同時に少女の手に現れたのは黒色の剣。零二の記憶が正しければそれは『黄金色の聖約(ティルヴィング)』を放つためにはその真の姿を現さねばならない。

 そこまで思い出した零二は強引に体勢を整えるのをやめ、背中から地面に落ちる。

 だが、そこで零二にとって最大の誤算があった。

 少女の手に持っている剣が黒色の光を纏っていく。

 

「マジかよ……っ!」

 

 急いで零二は体勢を整えようとする。だが、既に放てる状態にあるあの剣は零二が体勢を整える前に振るわれる。

 既に、構えられ放つ寸前のそれを前に零二は何か手はないか模索するが、そんなものは既にない事は零二自身既に理解している。

 だから、今模索するのはあれを躱すのでも防ぐのでもなくーーーー最小限のダメージで抑える手段だ。

 零二が目を瞑る。それと同時に黒の剣は零二を断つべく放たれる。

 

「『黄金色の聖約(ティルヴィング)』ーーーーッ!!」

 

 放たれるは概念を断つ黒の斬撃。この攻撃の前には防御も距離も関係ない。

 放たれればほぼ、負ける事は無い無敵の斬撃が零二へと襲いかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遠くから轟音が聞こえ、走っていた燐はその足を止めた。

 

「さっ、……サクラちゃん……、今の……って……?」

「……急ごう燐ちゃん、マスターが時間を稼いでる間に瑠璃ちゃんを探さないと」

「……でっ……でも、…………ううん。そうだね」

 

 サクラの言葉に燐は何かを言おうとするがサクラの不安そうな横顔を見てしまった燐はその言葉を途中で止めてすぐに足を進める。

 零二が稼いでくれているこの時間の間にサクラ達は零二達の近くにいるであろう瑠璃と合流しなければならない。

 何故なら今回の試練は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 零二の能力『復元する世界(ダ・カーポ)』は対象を戻すことが可能という強力な能力だ。

 だが、そんな能力にはある弱点が存在する。

 それは、魔力消費が激しいことと時間制限だ。

 零二達召喚せし者(マホウツカイ)の使う魔力はこの世界に存在する『魔力』とは違うものを使う。そして、零二はその魔力を他の召喚せし者(マホウツカイ)ーーーー最も零二とサクラは自分達以外の召喚せし者(マホウツカイ)はなぎさ以外知らないのだがーーーーよりも数倍……いや、比べるのすら馬鹿らしいほどの魔力を持っている零二であってもその能力を使って戻せるのは『24時間以内』のみ。

 つまり、明らかに24時間を超えているあの少女の呪いを零二が解くことは出来ない。

 ならば、何故零二が一人であの少女と戦闘をしているかというとその理由は2つある。

 一つ目は星川瑠璃の探索だ。

 零二達が別れる前の時点で居場所が分からなかったのは星川瑠璃ただ一人。つまり、瑠璃は今だにこの世界のどこかで一人のまま。

 そして、それは今の状況では危険だ。あの少女の能力などは未知数、さらには月読となぎさを同時に相手取り奇襲にも対応してきたその実力はかなり高いだろう。

 そんな相手に後方から支援するタイプの瑠璃が一対一で勝てるかと言われるとーーーー不可能だ。

 だから、零二は自身を囮にしてサクラに瑠璃を探索することを頼んだのだ。

 そして、二つ目の理由は零二だけで戦えば()()()()()()()()()

 零二達召喚せし者(マホウツカイ)は原則として自身の戦略破壊魔術兵器(マホウ)を破壊されない限り死ぬことは無い。

 それならば、なぎさでもいいのではないのか?という疑問が現れるが零二はなぎさの放った斬撃の名前からあの力の弱点を正解に近いところまで推測していた。

 そして、その推測が正しければなぎさはあと2回しかアレを使えない。そして、その2回目の後になぎさに待ち受けるものは自身の死。だから零二は一人で戦うことを選択したのだ。

 

「マスター……」

 

 サクラが燐にバレないように音のした方を見る。大きな煙が今だ立っていて凄まじい威力を持っているのが遠目からでも分かってしまう。

 だが、サクラがバレないようにそこを見ていたことを燐は自身の能力を使って知っていた。そして、サクラが零二の事を心配していることも……。

 

「…………っ、……みっ、……見つけた……よ……っ!」

 

 燐が瑠璃を見つけたことをサクラに伝える。

 サクラが足を止め燐が先導してその場所へと向かった。

 キチンと見ていなければ見失ってしまいそうになる道を通ってサクラと燐は瑠璃がいると思われる場所へと足を進める。

 そして、ようやくゴールと思われる場所に着くとそこにはーーーー。

 

「ほよ?やっと来ましたか……」

「予想よりは遅いですが、特に問題はありませんね」

 

 瑠璃だけでなく別行動を取っていたはずの月読となぎさが座って待っていた。

 サクラはそれを見ると「マスターが言ってた通りなんだよ……」と呟き燐は何故ここにいるのかといった目を瑠璃となぎさに向ける。

 

「……あの瑠璃さんが偽物だとわかっていたからですよ。

 あの偽物さんは瑠璃さんのフリをしている時、心音が不自然でしたから(わたくし)は気付きましたが、あそこまで完璧な擬態であればなぎささんや燐さん、サクラさんは騙されるでしょう。(わたくし)でも、この耳が無ければ気づくことはできませんから……」

 

 月読が燐にそう説明する。その説明を聞きながらサクラは零二はどうしてそれに気づいたのか少しばかり疑問に思ったが、すぐに雰囲気が変わったことに気づくと先ほどまでの疑問を頭の隅に置いて月読達の方を向いた。

 

「……サクラさん、零二さんに何を言われたのかを教えてください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……流石に……これは……キツイ……な……っ!」

 

 月読達が話合いをしている頃、零二は『黄金色の聖約(ティルヴィング)』の攻撃によって出来た斬撃の後の中で寝転がっていた。

 いや、正確には寝転がっているのではなく身体が切り裂かれているので動けないと言ったほうが正しいのだが。

 ダメージを最小限にした結果、零二は本来であれば身体の大半が切り飛ばされるほどのダメージを右腕と右足を切り飛ばされるだけにとどめた。

 零二はすこしだけ体を起こすと自身に『復元する世界(ダ・カーポ)』を使って傷を直して立ち上がろうとする。

 だが、まるでそれを狙っていたかのように黒い影が零二に近づいてくる。

 

「ち……っ!いったいいくつ持ってんだよ!」

 

 零二はすぐにそれが自分が今まで見てきた少女の能力の誰にも当てはまらない能力だと気付いてそう言うが少女は何も言わずにその影を肘と膝を使って挟んでそれを止めるがその時にできた死角からきた攻撃を防ぎきれず零二の体にまた新しい切り傷ができる。

 

「な……めんな……っ!」

 

 零二が回し蹴りを放つが少女はその時には既にその場から遠く離れた場所から今度は何処からか取り出した弓に矢をつがえて放ってくる。

 それらを零二は躱しながらこれまでに相手が晒した能力などを数えて行く。

 

(神代と同じ剣と弓、星川に化けていたあの高度な変装能力、動く影、不可解な能力向上、黒い霧、その他にもざっと受けた限りだと10を超える。

 だが、所々で新しい能力があったり、何処かで見たような能力もある。だとしたらーーーー)

 

 そこまで零二は思考すると、ある一つの答えに達した。そして、それと同時に少女がいつのまにか手に持っていた鞘に収まっていた刀に手を添えて居るのが見えた。

 

(……確定だな)

 

 目に見えないほどの速さで刀が鞘から抜かれ振るわれる。だが、零二はそれを余裕を持って躱す。

 

「そろそろか……」

 

 零二はそう呟くと攻撃をしてこようとしていた少女の身体を強化した脚で蹴り飛ばして右手を横に出す。

 

「ーーーー『復元する世界(ダ・カーポ)』ーーーーッ!!」

 

 零二の右手に魔法陣が現れ、そこに現れたのは零二の半身と言えるサクラ、そしてーーーー月読達だ。

 いきなり召喚されたことに誰一人驚いていないことから零二はサクラがキチンと伝えたのだろうと推測するとサクラの近くまで警戒を解かずに移動する。

 

「何処まで話した?」

「マスターに言うなって言われてたところ以外は言ってあるんだよ」

「よし、なら大丈夫……とは言えないよなぁ」

 

 零二が飛んでくる矢を躱す。そして、その後ろから飛んでくる影と小太刀もかわして反撃までしようとする。

 それにとっさに気づいた少女はその場から急いで離れる。そして、それと同時に先程まで少女がいた場所に零二が掴んで投げた小太刀が飛んできた。

 

「サクラ……撃て!」

「了解なんだよ!」

 

 零二の言葉にサクラは返事をすると両手を前に出して『穢れなき桜光の聖剣(レーヴァテイン)』を放つ準備をする。

 そのとてつもない威力を何度も見ている少女はそれを何とか阻止しようとサクラへ攻撃しようとする。

 だが、それを易々と許す者はここにはいない。

 

「させるかよ!」

 

 零二が前に出てその攻撃を防ぎ月読が刀を抜き攻撃を仕掛けようとするがそれよりも早く少女は攻撃対象をサクラから月読と零二に変更して新たな剣を出す。

 

「それは……さっき見たぜ!!」

 

 だが、その剣は振るわれるよりも先に零二が剣の柄を蹴ったことにより消滅した。

 それを見た少女はまた剣を変える。そして、その剣を見た零二たち全員の顔が強張った。

 それは、漆黒の剣。なぎさが持っている真の姿を現していない……いわば鞘に収まった状態のままと言えるそれはしかしなぎさのそれとは違い得体の知れない威圧感を放っている。

 月読達はそれに怯むがそれを実際に体験している零二はそれを振るわれる前に対処しようとする。

 

「サクラ……っ!」

 

 零二が慌ててサクラの名前を呼ぶ。サクラはそれだけで、零二から伝えられていた牽制のために準備していただけだった『穢れなき桜光の聖剣(レーヴァテイン)』を放つ。

 

「『穢れなき桜光の聖剣(レーヴァテイン)』ーーーーッ!!」

 

 放たれたのは桜色の極光。零二はそれが放たれると同時に少女の近くにいた月読を担ぐと急いでその場を移動する。

 月読と、それを近くで見ていた月読達は少女を倒せると思っていたが零二とサクラは倒せないことを既に知っているのでその後の動きに対応できるように零二が動く。

 

「ーーーー『復元する世界(ダ・カーポ)』ーーーーッ!!」

 

 零二がすぐにサクラを召喚する。すると、先程までサクラがいた場所を『穢れなき桜光の聖剣(レーヴァテイン)』を切り裂きながら黒色の斬撃が抉っていった。

 

「……まさか……。あの鞘の状態で撃ったのですか?」

 

 月読が信じられないとでも言いたげな顔でそう呟く。いや、月読だけではない。少女と同じ剣を持つなぎさもあり得ないものを見たような顔をする。

 

「みたいだな。さっきからああいうイレギュラー的な攻撃があって本当に嫌になる」

 

 零二はそう月読に言いながら少女の動きを見ようと視線を向けて、「はぁっ!?」と驚愕の声をあげた。

 何故なら、先程必殺の剣を放った少女は今度はお前達だとでも言いたげに零二達漆黒のオーラを纏った剣を振ろうと構えていた。

 

「アレ連続でうてるのかよ!」

「なぎささんは撃てません……。恐らく、彼女だから撃てるのでしょう……っ」

「ち……っ、やりたくは無かったが……」

 

 零二が月読をなぎさと瑠璃の方めがけて投げる。一瞬、零二が何をしたのか分からなかった月読達だったがすぐに我に返り月読を受け止めることに成功した。

 そして、それを横目で見ていた零二は振り下ろそうとしている少女を真っ直ぐに見るとその右手を上に出した。

 

「ーーーー『復元する世界(ダ・カーポ)』ーーーーッ!!」

 

 零二の手の先に現れる魔法陣。そして、そこから現れたのは先程まで零二の視線の先にいた少女。

 少女はいきなり自分のいた場所が変わったことに一瞬だが、動揺しさらにここが空中であることを理解する。

 だが、少女はここが空中であることを理解すると同時にすぐに落ち着きその剣を振るおうとしてそれをやめた。

 

「ーーーーッ!!」

 

 少女が貯めていた力をそのまま地面にぶつけて強引にそのまま落下することを阻止する。そして、それを狙っていたかのように月読となぎさが攻撃を仕掛けるが少女はそれらを紙一重で躱すと今度は2人の体を蹴り飛ばす。

 

「……一か八かの賭け……か。若しくはーーーー」

 

 零二がなぎさを見る。それは、この試練をクリアするために必要な能力をなぎさが持っていると確信しているからだ。

 だが、それと同時にそれは自分達の敗北条件を達してしまうかもしれないリスクを含んでいることを零二は何となくだが理解している。

 だとするとーーーーっとそこまで零二は考えるとサクラに小声で話しかけた。

 

「サクラ、時間を稼いでくれ」

「分かったんだよ」

 

 サクラが月読達のもとに援護をしに行く。それを見た零二は一瞬だけサクラの後ろ姿を見ると、僅かな可能性にかけてこの試練の鍵となるかもしれない人物のもとへと歩き出した。

 零二が歩きだしてからだいたい五分ほどの場所にある人が隠れられそうな場所がたくさんあるところ。そこに来た零二は地面を見て足跡があることを確認するとその足跡を辿っていく。

 辿って行った先には少し他の場所よりも広いスペースがあった。そして、そこには零二が探していた人物がそこで狙撃銃を構えていた。

 

「……ここから狙えるのか?」

「……っ、……はっ、はい……」

 

 零二が声をかけた人物というのは燐。今のところ、零二が全く情報を持っていない人物でーーーー恐らく、この試練に対しての切り札ともなり得る力を持っているかもしれない人物でもある。

 

「白金、一つ聞いていいか?」

「……は……っ、はい……っ」

「お前の特典の中に今回の試練で使えそうなヤツは何個ある?」

「ーーーーっ」

 

 燐が零二の言葉に息を呑む。零二はその反応を見て自分の考えが正しかったことを確信する。

 燐はそんな嶺二の目を見てあわあわとするが、すぐに何回か深呼吸をするとゆっくりと話し始めた。

 

「……はっ、はい。……その、……一つ……だけ……」

「それは、今使えるのか?」

 

 零二が燐に質問する。燐はその質問に少しだけ目を伏せて答える。

 

「……その、……私……では、……使えません……」

 

 燐の言葉に零二は疑問を持つ。だが、その疑問はすぐに解消された。

 

「……私……では、……その、……魔力……?が足りなくて……使えません……」

「私では……ってことは他の人だと使えるのか?」

「……つ……使える……というよりは……使って……います……」

「…………は?」

 

 燐の言葉に零二は一瞬、理解ができずに呆けてしまうがすぐに燐の言葉を頭の中で思い出してある一つの仮説を立てる。

 

「……お前の能力ってもしかして、他の人の能力を使える能力なのか?」

「……はっ、……はい……っ。……条件が……あります……けど……」

 

 オドオドとしながら燐が零二に言う。零二はその言葉を聞きながら頭の中でどうするかを考え、すぐに一つの答えにたどり着くと燐に質問する。

 

「なぁ、星川と連絡取れるか?」

「……はっ、……はい……。……すぐに……と、……取れます……」

「なら、星川と話をさせてくれ。この試練をクリアするために星川の力が必要だ」



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