Secret Cherry Blossom (OCEAN☆S)
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Twitterで軽くアンケートをとって、今回梨子ちゃんの小説を書くことになりました!

平均1500~2000文字くらいを目安にゆる~く書いていこうかなと思っております。


強い日差しが、カーテンの隙間から差し込んでくる…そうか、もう朝なのか…。

 

たしか、今日は音ノ木坂学院の入学式だった…仕方ない、もう起きないとな。

 

さっさと朝食と身だしなみを終わらせて学校へ向かう。

 

「じゃあ、母さん行ってくるね。」

 

「えぇ、車に気をつけるのよ?」

 

「わかってるって。」

 

 

 

音ノ木坂学院…少し前まで女子高だったと聞く。

学校との距離も近いし、特待生試験で入学金免除になれたからこの学校を選んだ訳だが。

 

 

学校に着いたので、早速自分の名前の書いてある教室に探す…やっぱり元女子高ってだけあって女子と男子の数が全く比例していない。

 

 

やっぱり入学金免除って理由だけでこの学校を選んだのはまずかったかな…まぁでも、始まったことは仕方ないか。

 

 

「1─B」…ここが俺の新しい教室なのか。

 

 

「はーい、それじゃあ全員席についてくださーい」

 

結構早く学校についてしまったかと思ったけど、もう俺以外の生徒はほとんど席についていた。

 

やっぱり女子高だから教員も女なのか…。それにしても周りのほとんどが女の子だからか、なんかいい香りがする…きっと香水かなにかなんだろうな。

 

 

当然自分の席に座れば隣の人もいる、もちろん女の子だ。

 

横をチラッと見てみると、赤みがかった綺麗なロングヘアの女の子だった。

 

俺が視線を向けたからなのか相手も俺の顔を見てきた…。

 

 

「……」ジッ

 

その子は俺の目を見ながら全く視線をそらさないので、逆に俺が目をそらしてしまう。

 

「えっと…何か用?」

 

「あの、もしかして(ゆず)君?」

 

「え…どうして俺の名前を知ってるんだ?」

 

「やっぱり柚くんだ。覚えてない?私、小学生だった頃一緒だった…」

 

「ごめん、小学生だった頃の事よく覚えてないんだ。」

 

「え…そ、そうなんだ…。」

 

 

びゅうっと窓から風が吹き、隣の女の子が少し悲しそうに微笑む。

 

でも、乱れた髪の毛を耳にそっとかける仕草が何だかとてもお淑やかでなんだか素敵だ。

 

よく周りの女子の会話とかで、女の子っぽいねーとか乙女だとか、そんな簡単に褒めるような非では無さそう。

 

 

 

 

「で、君は?」

 

「え?あ、私は桜内梨子。よろしくね♪」

 

「桜内梨子ちゃん…か、やっぱり覚えてないかも。」

 

「え、ちょ、ちょっとっ!」

 

「?」

 

「その…いきなり「ちゃん」付けはやめて…恥ずかしいから…///」

 

「え、あぁ…ごめん桜内さん。」

 

「もぅ…普通に梨子でいいよ。」

 

 

ごほん!

 

「いつまでも喋ってる君!ずっと呼んでるわよ?」

 

 

教師が俺の方を少し睨んでいる…あぁそうか自己紹介か。

 

別に女子校に紛れ込んできた男子なんて誰も興味ないだろうに…ぱっぱと済ませてしまおうかな。

 

 

「え~風早柚(かざはやゆず)って言います。よろしくお願いします。」

 

 

ざわ…ざわ…

 

え?あの人男子だったの?

 

女の子みたい~

 

やっば…襲いたい。

 

 

あれ?思ってたのと反応が違う…まぁ、変に嫌われたりするよりはいいけど…なんか聞いちゃいけないセリフを聞いた気がするのは気のせいだよな?

 

 

 

~~~♢~~~

 

「ただいま~」

 

「おかえり~梨子。学校どうだった?」

 

「うん、普通に良さそうな雰囲気だったよ。」

 

「お友達はできそう?」

 

「ん~慣れたらきっと出来るかな?」

 

 

私はそう言って自分の部屋に入る…

 

やっぱり柚くんは覚えていなかったかぁ…

 

早速小学生だった頃のアルバムを確認してみる。

 

 

えっと…あったあったこの子だ。

 

 

もう小学校の頃の柚くんの顔が女の子にしか見えない…

 

あの時もっとたくさんお話ができたらなぁ…そしたらきっとこのアルバムにも沢山の写真や思い出が作れたかもしれないのに…。

 

ごめんね柚くん。

 

私はそっとアルバムを閉じた。

 

 

~~~♢~~~

 

「ただいま、母さん。」

 

「おかえりなさい柚。学校はどうだった?可愛いお友達はいた?」

 

「まぁ、そりゃあ元女子高なだけあったよ。」

 

「なに照れてんのよ~♪」

 

「別に照れてねえって…それよりも、母さんこれから出かけるの?」

 

「えぇ、夏休みが始まるまでは空いちゃうけどちゃんとした食事をするのよ?」

 

「あぁ、大丈夫だよ。」

 

「あと…目に何かあったらすぐに連絡するのよ?」

 

「…うん。わかってる。」

 

 

そう言って母さんは出かけた…。

 

 

別に…もう俺の目のことなんて気にしなくてもいいのに…。

 

 





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Roots

 

7年前、まだ私たちが小学三年生だった頃。

 

「り~こ!一緒に帰ろ?」

 

「うん!」

 

 

放課後、柚くんと一緒に帰宅している時だった。

 

 

「ねぇ、このあと一緒に遊べる?」

 

「あ、ごめんね。これからピアノのお稽古があるんだ~」

 

「そっかーじゃあしょうがないね。」

 

 

曲がり角で私と柚くんは反対の方向へ向かっていった。

 

「じゃあ、またね!」

 

柚くんが大きく手を振る…

 

「うん!またね柚くん。」

 

 

柚くんと別れて家に向かっている最中…

 

 

物凄いクラクション音が耳を襲った。

 

 

あの時私に、トラックが物凄いスピードで襲いかかってきた…私は音に驚いてもたれついてしまい…もうどうしようもなかった。

 

 

「りこっ!!」

 

 

ドンッ!!!

 

その時、柚くんが私の事を突き飛ばした…お陰で私は逃れられたけれど、柚くんはトラックに大きくはねられてしまった…

 

 

おい何だ今の音は!?

 

子供だ!!子供が倒れてるぞ!!!

 

ひき逃げだ!!警察と救急車を!!

 

 

音に気づいた大人達が集まってくる…。

 

 

「柚くん!?なんでここに…?」

 

おそるおそる柚くんのそばに近づく…すると、彼の右手には私のランドセルにつけていたピアノのキーホルダーを持っていた。

 

もしかして…私に届けようとして…。

 

 

 

~~~♢♢~~~

 

あの後、柚くんの容態を私にだけ担任から知らされた…。

 

 

あのひき逃げ事件で、彼は命を奇跡的に取り留めたけれど…最悪な事態を招いてしまった。

 

 

はねられた時と地面に叩きつけられた2つの衝撃で視覚障害と記憶障害を引き起こしてしまった。

 

 

そして、彼は残りの3年間、1度も学校へ姿を見せなくなった。

 

 

偶然が重なり合って最悪な事態を招いてしまった…でも、お母さんは自分を責める必要は無いって言ってくれた。

 

けれど、柚くんが事件に巻き込まれたのは私のせい…たとえそれが偶然であったとしても、彼が巻き込まれた原因を作ってしまったのは私なんだから。

 

 

~~~♢♢♢~~~

 

 

 

今日は少しだけ気温が低いな…まだ4月だし、寒い日はたまにはあってもおかしくないよね。

 

 

「梨子~。」

 

「あ、おはよう柚くん。」

 

「おはよう、今日はなんだか寒いね。」

 

「そうよね…この前まで暖かかったのに、これじゃあ体調を悪くしちゃいそう。」

 

 

そう言えば、柚くんの家ってどこにあるんだろ?登校時によく一緒になるからもしかしたら近くにあるのかな?

 

 

「ねぇ、梨子はどこの部活に入るか決めた?」

 

「部活?柚くんはどこかに入るの?」

 

「俺は、中学の時サッカー部に入ってたからもう一度入りたいなーって。梨子はどこか入らないの?」

 

「私ね、ピアノをやってるの。だから部活とかやっている時間は無いかな。」

 

「そっか~残念…でも凄いね!梨子はピアノ弾けるんだ!」

 

「え、えぇ───」

 

 

~~~

 

「やっぱり、りこは凄いね!」

 

「こ、こんなの普通だよ…」

「ううん、そんな事ないよ!もっと聞かせて!」

 

「う、うん!!」

 

~~~

 

 

「ねぇ今度なにか弾いてよ、音楽室とかでさ!」

 

「………」

 

「梨子…?」

 

「ぐすっ…」

 

「どうして…泣いてるの?」

 

「─っ!ごめんなさい、忘れ物しちゃったから取ってくるね!!」

 

 

私は逃げるようにこの場を去った…最悪だ。

 

柚くんは楽しそうに話しているのに、私は現実から逃れようと勝手な行動をしてしまった…。

 

 

「待ってよ!!」

 

柚くんが私の後を追う…。

 

「来ないで!!」

 

「ど、どうしてだよ?今日の梨子…なんだか変だよ。」

 

「別にそんな事……」

 

「はい…これ落としたよ?梨子のだよね?」

 

 

柚くんがピアノのキーホルダーを差し出す。

 

「そ、それは…」

 

なんだかあの時の状況と似ている…

 

 

あれ…?なんだかトラックが見える…?こんな狭い道にトラックなんて通れるはずないのに…

 

 

どんどん近づいてくる…

 

 

「梨子?おい梨子!?顔色が変だぞ!?」

 

「…やく…はやく…。」

 

「は…?」

 

「早く逃げて!!」

 

 

ドンッ!!

 

 

 

 

「いやあああああ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~♢♢~~~

 

 

……………夢?

 

辺りを見渡すといつもの自分の部屋…寝汗も沢山かいている。

 

 

余程うなされていたのかな…体の所々が痛い。

 

 

はぁ…朝から酷い夢ね。

 

 

 



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青春は桜の香り

「おはよ、梨子。」

 

「おはよう柚くん。」

 

朝の登校…あの時の夢みたいなことが起こらなきゃいいけど…いや、私が逃げなければあんな結末にはならなかったのに…

 

「梨子?」

 

「あ、ご、ごめん!どうしたの?」

 

「梨子は部活はどうするの?どこかに入るか決めたの?」

 

「私は…いいかな、ピアノのレッスンがあるし。」

 

「そっかーでも、ピアノ演奏できるんだ。今度なにが引いてよ!」

 

「ふふっいいよ♪」

 

ちょっと悲しくて辛いけど、現実に向き合わなくっちゃ。

 

「柚くんはなんの部活に入るの?」

 

「俺は、サッカー部に入ろっかなって。他も色々と当たってみようとは思っているけどね。」

 

「サッカーか…なんか柚くんっぽいね。」

 

「そうか?」

 

「うん、なんか爽やかな雰囲気の柚くんっぽいなーって。」

 

「さ、爽やかなのか…?俺。」

 

柚くんの恥ずかしそうな笑顔がやっぱり女の子っぽくって可愛い…

 

どうしてだろ…入学してからずっと柚くんのことばかり考えちゃう…なんでかな…。」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

~放課後~

 

 

「あれ?梨子もサッカーの体験するの?」

 

「ううん、私はちょっと柚くんのサッカーが見たいだけよ。」

 

「そっかー今日はピアノのレッスンとかはないの?」

 

「えぇ、だからちょっと気になっちゃって。」

 

 

サッカー部とは言っても、元は女子校…男子の俺は大会に出られる訳じゃない…でも、なにか辛い時があった時、俺にとって1番の気分転換になったのがサッカーなんだ。

 

 

 

 

 

体験が始まって、最後の練習。

 

「じゃあ最後にゲームをして終わろうと思います。君はこっちのチームに入ってね。」

 

青い色のゼッケンを渡される…。

 

「キャプテン、今日1人欠席がいるから青チームが1人足りないんですけど…」

 

「あっそうか…うーんでも、彼なら二人分のプレイくらい出来るんじゃないかな?」

 

「あ、じゃあ俺、助っ人呼んできましょうか?」

 

「え?えぇ…」

 

柚くんが私の方へ向かってくる…。

 

「梨子!一緒にしよ!」

 

「え!?いやいやいや!!無理よ…それに今日体操服とか持ってきてないし…。」

 

「大丈夫よ、うちの部の沢山あるから。」

 

「だってよ!一緒にやろうぜ!」

 

「そ、そんなぁ~」

 

 

 

ほぼ強制的に、私を交えて試合が始まった。

 

 

 

フォーメーション

 

柚 FW

 

梨子 FW

 

ツートップの3-3-2

 

 

 

「では、どちらかのチームが一点先取で試合終了って事で。」

 

 

ピーッ!

 

 

相手ボールから試合が始まった。

 

「いくよ!新入り!!」

 

ドリブルで俺に向かってくるのか……ならばお手並み拝見と行かせてもらうか!!

 

 

「……甘いね!!」

 

 

相手のFWが一瞬加速し、あっという間に抜き去った…。

 

 

(速い…あれが女子のドリブルのスピードか!?)

 

「もらった!!」

 

 

ペナルティエリア外からロングシュートを放つ…。

 

(させるか!!)

 

 

シュートコースに回り込み、相手のシュートをトラップする。

 

「そんな…さっきまで前線に居たのにもうここまで下がってくるなんて…!?」

 

 

「ここからが本当の勝負だ…!」

 

ドリブルを仕掛ける…。勿論相手も全力でプレスをかけてくる。

 

(負けるか…!!)

 

 

ターン、フェイントを繰り返し相手を1人ずつ抜き去っていく…。

 

「マズい!早く止めて!!」

 

(柚くん…凄い…!1人で全員を相手に戦ってる…!)

 

 

ゴールが見えた…シュートを撃つか…?

 

「これ以上自由にさせるか!」

 

シュートコースを塞がれた…!だったら…!!

 

 

「梨子!!」

 

「柚くん!?」

 

 

ちょうどサイドにいた梨子にパスを出す…。

 

 

「大丈夫!ボールとゴールをよく見るんだ!!」

 

「う、うん!!」

 

『やあぁぁぁ!!!』ビシュッ!

 

そのままノートラップでシュートを撃つ

 

相手のキーパーの手をかすめ、そのままサイドネットに突き刺さった。

 

「や、やった…!」

 

「梨子!」

 

「やったよ!柚くん!!」ダキ

 

 

梨子が喜びのあまり抱きしめ始める…やばい…なんかスポーツしてるのにすごくいい香りがするのはなんでだ…?

 

「り、梨子…///」

 

「あ、ご、ごめん…///」

 

 

梨子が顔を赤くして、俺から距離を取る…多分俺も顔が真っ赤だろう…。

 

 

…いい香りだったな。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「いや~ごめんね、いきなり試合に呼んじゃって。」

 

「ううん、でもすっごく楽しかったよ!」

 

「でしょ!?よかったら梨子も一緒に…」

 

「やりません。」

 

「だよねー」

 

そういや2人で一緒に帰るのって初めてだな…どこに家はあるんだろ?

 

「じゃあ…私ここだから。」

 

「え?」

 

「?」

 

「俺んち…ここなんだけど…」

 

「え!?もしかしてお隣さんだったの!?」

 

「俺もびっくりだよ…」

 

柚くんがこんなすぐ側に住んでいたなんて全然気づかなかった…でも、あんまり朝は合わないのに…どうしてだろ?

 

 

『あの、柚くん…もし良かったら毎朝…一緒に学校行かない?』

 

 

なんて…言えたらいいのに…。

 

でも、今言い逃したら次のチャンスはないかも…

 

でも……

 

 

「ねぇ、梨子。」

 

「ひゃ、ひゃい!?」

 

し、しまった…変な声が出ちゃった…。

 

 

「これから毎朝、一緒に学校行かない?」

 

「…!」

 

 

もう…ずるいなぁ。

 

 

 

 

 

 

 



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慌ただしい朝

朝…カーテンを開けて今日もいつもの学校の日か…今日は天気もあったかくてなんか二度寝したくなっちゃうなぁ…

 

 

バフっ…

 

もう一度ベットに横になる…

 

 

「(なんかもっと寝てたいなぁ…でも、遅刻しちゃうし…)」

 

 

頭の中で天使と悪魔が横切る…

 

 

(あれ…なんかこの2人…)

 

「ダメよ柚くん?一人暮らししてるのに遅刻なんてしてたらみっともなく思われちゃうよ?」

 

天使の梨子がそう囁く。

 

(そうだよなぁ…だったらやっぱり…)

 

「でも、柚くん…昨日も部活で疲れちゃったから眠たくなっちゃったんじゃないの?今日は朝練はない日なんだし、ちょっとくらい…」

 

(ん…?今度は悪魔の梨子か?)

 

「ダメよ!部活を理由に学校に遅刻するなんてみっともない!」

 

「誰にだって疲れはあるよ?1日くらい遅刻したって~」

 

 

ワーワーギャーギャー

 

 

ソンナニアマヤカシテイイワケナイデショ!

 

モゥオカタインダカラ~

 

 

「(なんだ…?なんか可愛い夢だな…小さな悪魔と天使の梨子が喧嘩してる…なんか、この二人を見ているだけでずっと……)」

 

 

 

~~~♪♪♪~~~

 

 

大きなアラーム音が鳴っているのに気がついて、ようやく目が覚める…

 

「(今何時だろ…?)」

 

8時半…?

 

え…!?8時半!?

 

急いで、制服に着替える…。

 

マジかよ…予備用のアラーム音にも気づかないなんて…どんだけ爆睡してんだ俺は…!!

 

 

慌てて家を飛び出す。

 

 

「あ、柚くんも今来たの?よかったら一緒に……」

 

「こんな所でのんびりしてる暇はないぞ!!」ガシッ

 

「え?ちょ、ちょっと!」

 

 

柚くんにいきなり引っ張られながら登校する…。

 

「やばい…完全に遅刻だ!」

 

「え…遅刻?」

 

 

自分の腕時計を確認してみる…

 

…7時42分…もしかして。

 

 

「クスッ」

 

「な、なんでこんな時に笑うんだよ?」

 

「うぅん、なんでも♪」

 

きっと時計がズレちゃってることに気づいてないのね。

 

その事を柚くんに伝えられればこの問題は解決するんだろう。

 

でも…このまま一緒に手をつないで学校に行けるなら…

 

柚くんの小さな手が私の手を強く引っ張る。

 

ちょっと寝癖もついちゃったのかな?後ろ姿が可愛いらしくてなんか子供っぽい。

 

 

 

 

 

 

 

「つ、着いた…!梨子、早く入ろ!」

 

「うん♪」

 

 

3階に上がって2人で教室に入る…

 

「すみま……あれ!?」

 

 

教室には誰もいなかった。

 

 

「柚くん、教室の時計見てみて?」

 

「8時…5分…え!?」

 

「柚くんの時計、1時間くらいズレてるんじゃない?」

 

「俺のスマホはズレてない……きっと家の目覚まし時計が…。」

 

「一回見てからほかの時計は見なかったの?」

 

「あ、慌てちゃって…あ、あはは…。」

 

「ふふっ♪」

 

「…あ…はは…」

 

 

~~♢♢♢~~

 

「それで…朝食も何も食べてないのね。」

 

「はい…」

 

「購買が開くのは午後からだもんね…じゃあどうぞ。」

 

「え…?でも、これは梨子の昼食だろ?」

 

「うぅん、気にしないで?私はちゃんと朝食食べてきたから。お昼は購買で何か買うわ。」

 

「じゃあ、購買の時俺が梨子の分をちゃんと払うよ。」

 

「うん♪じゃあはいこれ。」

 

 

梨子がお弁当箱を渡す。

 

「おぉ~サンドイッチ入ってる~いただきます~!」

 

ツナマヨだったり、たまごサンドだったり、たくさんの種類が入ってる。

 

「これ全部梨子が作ったの?とっても美味しいよ!」

 

「ほんと?嬉しい♪」

 

空腹で走ったからよっぽどお腹がすいちゃったのかな?食べるスピードも早い。

 

「…はい、あーん♪」

 

私は最後のサンドイッチを柚くんに差し出す。

 

「え?」

 

柚くんが不思議そうな顔をして私を見る。

 

 

「あ、ごめんね…美味しそうに食べてくれるからつい…」

 

 

な、何やってるんだろ…私…柚くんとまだそんな関係でもないのに…。

 

「あー…」ドキドキ

 

 

はむっ

 

「っ!?」

 

「とっても美味しいよ梨子…///」

 

「う、うん…///」

 

 

ちょっと恥ずかしそうに柚くんは私のサンドイッチを食べてくれた。

 

 

 

「ありがとう梨子、おかげで助かったよ。」

 

「うん、また作ってきてあげるね。」

 

 

朝から…胸のドキドキが止まらない…こんな調子で1日持つのかな…私…?

 

朝…夢に出てきた天使…もしかしてあれは正夢?

もしかして梨子の正体は天使なのか?

 

 

お互い少し気まづいた気持ちになりながら1日を過ごすことになった。



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黄金週間

「ゴールデンウィーク?」

 

「うん、俺もゴールデンウィークは2、3日程空いてるから一緒にどこかへ出かけたくってさ。」

 

「う、うん。」

 

「よかったら一緒に出かけないか?」

 

 

普通の男子高校生なら同じ男の子とかと一緒に遊んだりするはずなのに。

 

どうして私なんだろ?私と一緒にいても全然楽しくなんかないのに…。

 

 

でも…柚くんはなんだか楽しそうにしてる。

 

 

きっと柚くんの事と1日一緒なら楽しく過ごせるかも。

 

 

 

 

「じゃあ…よろしくね!」

 

「あぁ、じゃあ明日な!」

 

 

 

 

~その日の夜~

 

 

待って…!?

 

二人きりで出かけるってことは…も、もも…もしかしてデート!?ってことになるのかな?

 

 

どうしよう…何を着て行けばいいんだろう…?

 

 

「(はわわ…明日どんな顔して柚くんに会えばいいのか分からないよ…)」

 

 

 

 .•*¨*•.¸¸♬  .•*¨*•.¸¸♬ 

 

 

約束の10時半…家の前で待っててくれたらいいって言ってたけど…インターホン…押した方がいいのかな?

 

でも、準備してる最中に鳴ったら迷惑かな…?

 

 

ガチャ…

 

 

「ごめんね、梨子。待たせちゃったかな?」

 

「う、うぅん!私も今、出たところ。」

 

「あ!」

 

「ど、どうしたの?」

 

「梨子の私服、初めて見たけどすっごく可愛いね。」

 

 

 

花柄のワンピに紺色のカーディガンを羽織っていて、可愛いらしさもありながら、清楚な雰囲気もでてる。

 

 

「えっ!?そ、そう…?柚くんも可愛いよ?」

 

 

え…?俺は可愛い方の部類に入るの?

 

「あ、ありがとう…女の子に可愛いって言われるとなんか新鮮かも。」

 

「うん!柚くんはかっこいいというより、可愛い感じかな。」

 

「そ、そうかな…」

 

 

柚くんが顔を赤くしながら目線をそらす。

 

 

「と、とりあえず行こうよ、せっかくの連休なんだから。」

 

「うん!」

 

 

 .•*¨*•.¸¸♬  .•*¨*•.¸¸♬ 

 

 

 

~渋谷~

 

(ショッピングモール内)

 

「あ、このポーチ可愛いかも。」

 

 

梨子が化粧ポーチを手に取る…きっとスッピンでも綺麗な顔をしているんだろうけど、今日は色素の薄いナチュラルなメイクをしている。

 

 

「どうしたの?柚くん?」

 

 

サラっ……

 

梨子が俺の方を振り向く度に長い髪がなびいて、優しい香りがする…まったく…貴方は女子力の塊ですか?

 

 

「い、いや…そのポーチ欲しいのかな?って思ってさ。」

 

「うん…でも、ポーチだけで2000円も使っちゃうのはちょっと勿体無いかなって。」

 

 

2000円か…たしかにちょっとお高い気はするけど…。

 

 

「じゃあ、そのポーチ俺が買うよ。」

 

「え!?い、いいよ!そんなの申し訳ないし…」

 

「今日誘ったのは俺なんだし、ちょっとくらいはお礼をさせて?」

 

「で、でも…」

 

「まぁまぁ、気にしないでって…な?」

 

「じゃあお言葉に甘えて…柚くんは優しいね♪」ニコッ

 

 

梨子が嬉しそうに微笑む…その笑顔に胸が苦しく締め付けられるのは何故だろう…?

 

 

「う、うん…ありがとう。」ドキドキ

 

 

やっぱり…俺は梨子の事が…。

 

 

「柚くん?」

 

「は、はい!?なんでしょう?」

 

「ふふっ♪どうしたの?そんなに慌てて…お昼食べに行かない?」

 

「あ、あぁ…そろそろそんな時間か。」

 

「今度は私に案内させて?私だって渋谷くらい出かけたりするもの。」

 

「じゃあ…お願いしようかな?ちなみに誰と?」

 

「…お母さんとか親戚とか。」

 

「ふふっ俺も♪」

 

「もうっ…言わせないでよ…恥ずかしいんだから。」

 

 

 

.•*¨*•.¸¸♬.•*¨*•.¸¸♬

 

 

渋谷の街の方から少し離れてちょっと自然に囲まれたところにお洒落な喫茶店があった。

 

 

「梨子のサンドイッチとても美味しそうだね。というか、梨子ってサンドイッチ大好きだよね。」

 

「うん、なんか小さい頃から好きだったみたい。柚くんのパンケーキも美味しそうね。」

 

「「…よかったら交換する?」」

 

2人揃えて同じ事を言う

 

「……///」

 

「……」

 

 

ここまで全く同じことを揃えて言うのも珍しいな…

 

 

「梨子…はいあーん。」

 

 

柚くんがパンケーキを切り分けて私に差し出す。

 

 

「う、うん…///」

 

 

ドキドキして食べることに上手く集中出来ない…けど、柚くんから貰ったパンケーキは甘くて、ふんわりとした食感が口の中に包まれる。

 

 

「美味しい?」

 

「う、うん!とても美味しいよ!」

 

 

ま、まって…さっきまで柚くんが食べてたフォークで…私は…

 

こ、これって…間接…

 

 

「梨子?」

 

「あ、ご、ごめん…はい、あーん」

 

 

今度は梨子が俺にサンドイッチを俺の口元に差し出す。

 

 

「(いま…かすかに柔らかい感覚が…もしかして梨子の指…かな?)」

 

「(マヨネーズ…指についちゃった…)」ペロッ

 

 

まさか…いや…そんなはずは…俺の勘違いだ。サンドイッチが柔らかいのは当然だ…でも、前に梨子の手を握った時はすごく柔らかかったし…。

 

何よりも梨子が自分の指を舐めた時…いやらしい色気を感じた…

 

もしかして素であんな感じなのかな…?

 

 

「ゆ~ずくん?美味しかった?」

 

「あ、あぁ…でも、俺は前に梨子が作ってきてくれたサンドイッチのほうが好きかな。」

 

「ほ、ほんとに?別に気を使わなくても…」

 

「ホントだって。」

 

 

 

.•*¨*•.¸¸♬.•*¨*•.¸¸♬.•*¨

 

 

楽しい時間っていうのは過ぎるのはいつもあっという間でなんか少しさみしい気もするけど…それほど充実したってことなんだよね。

 

 

~自宅前~

 

 

「今日…すっごく楽しかったよ。ありがとうな梨子。」

 

「そんな…こちらこそありがとう。このポーチ大切にするね♪」

 

 

すっかりと夕方になって空がオレンジ色に照らしだす…。

 

そうだ…こんな日にこそ、自分の思いを梨子に伝えないと。

 

 

「あのさ…」

 

「?」

 

「俺…その…えっと…」

 

 

何やってんだ…早く…早く…!

 

 

「どうしたの?」

 

 

梨子の顔を正面から見た途端…

 

ダメだ…頭が真っ白になってしまった。

 

 

「……やっぱり何でもないや!今日はありがとう。おやすみ!」

 

「う、うん。おやすみなさい…」

 

 

バタン!

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

どうしてだよ…伝えたかった…!

この想いを…なのに…!

なんで…こんな時に限って…。

 

 

 

本当に情けない…どうして言葉が見つからないんだよ…!!

 

 

 

 

. .•*¨*•.¸¸♬  .•*¨*•.¸¸♬ 

 

 

 

柚くんの想い…聞かせてよ。

 

…バカ。

 

柚くんのヘタレ……

 



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代償

スクフェスで配布されたセブンイレブンの梨子ちゃん可愛い過ぎませんか?


セブンでバイトしててよかったー!って思えるようなセリフをたくさん言ってくれるし、最近とてもご機嫌な日々が続いております。




天気は不安定ですが…


はぁ…

 

 

どうしたら…この気持ちを伝えられるんだろう…。

 

 

今日、お出かけに誘ってみてはっきりわかった…俺は間違いなく梨子に惚れてしまっている…。

 

 

入学式の時から可愛いくて綺麗な人だな…とは思っていたけど…あんなに心を惹かれるなんて思いもしなかったなぁ…。

 

 

 

でも、やっぱり大きな疑問がある、なんで梨子は入学式の時俺のことを知っていたんだろう…。

 

 

そして、彼女は小学生の頃の知り合いだと言っていた…。

 

 

どうしてだ…俺の記憶には小学生の頃の思い出が何も残っていない…小学生のアルバムどころか、写真も1枚も残っていない。

 

 

なのに…なんで、梨子は俺のことを知っているんだろう…

 

 

 

ベットに横たわりながら考えてみる…

 

 

あーもう意味わかんないや…でも、好き…って気持ちは伝えないときっと後悔する…。

 

とりあえずもう風呂はいってさっさと寝よう…

 

(あ…そういえば)

 

 

風呂に入る前に目の違和感に気づいた。

 

 

(コンタクト外さないと…あ、そういえばこうそろ交換の時期か…ゴールデンウィーク明けまでには交換しに行かなくちゃな…。)

 

 

 

♪。.:*・゜♪。.:*・゜♪。.:*・゜

 

 

 

~翌日~

 

 

(やっべぇ…もう昼間じゃん…忘れないうちに早く貰いに行かなくちゃ…。)

 

 

急いで着替えて準備をする。

 

 

(今日はメガネか…普段かけてないからあんまり慣れてないけど、さっさと買いに行っちゃおう。)

 

ガチャ…

 

「じゃあ、お母さん行ってくるね。」

 

「うん、行ってらっしゃい梨子。」

 

 

(ありゃ…このタイミングで…あんまりメガネ姿は見られたくなかったんだけどな。)

 

 

「柚くん?」

 

 

梨子がこっちを向いた。

 

 

「やあ、これからどこか行くの?」

 

「ただのおつかいよ?…あれ今日はメガネなんだね?」

 

「あぁ、生まれつき目が悪くてさ。」

 

「そ、そう…」

 

「ごめんね、ちょっと暗い話しちゃって。」

 

「う、ううん!大丈夫よ。」

 

 

柚くんは明るく話してくれる…けど

 

私は柚くんの目の真実を知っている…親御さんはどうして本当のことを伝えないんだろう。

 

私は前からずっと疑問を抱いていた。

 

 

「り~こ?」

 

「うわっ!?な、なに?」

 

急に柚くんが顔を覗き込むので変な声を上げてしまった。

 

「どうしてそんなに悲しい顔をするの?」

 

「え、だ、だって…辛くないの?」

 

「まぁね、メガネを取ったら視界は歪むし、海やプールに行く時は使い捨てコンタクトをしなくちゃいけないし…大変なことばかりだよ。」

 

「じゃあなんでそんなにポジティブにいられるの?」

 

「なんでだろうな…分からないや。けど、世界中には目が見えなくなってしまった人がたくさんいる。だけど俺の目は生きている…そう思えば、全然辛くなんかないんだ。」

 

 

柚くんがニコッと笑顔を見せる…。そうか…こんな風に笑っている彼を見たら、親御さんも…本当のことを言えるはずがないよね。

 

 

「ごめんね、長々と話しちゃって…じゃあ俺はこっちだから。」

 

「え、私も同じ方角…」

 

「「一緒に……」」

 

 

また、このパターンか…でも。

 

 

「途中まで一緒に行かないか?」ギュッ

 

「…はい♡」ギュッ

 

 

気づかないうちに、お互いに手を握っていた…。

 

 

 

 

 

to be continued…

 




久しぶりに前書きをたくさん書いた気がする…。


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苦手なもの





 

ゴールデンウィークが開けてはや一ヶ月…梅雨入りってこともあって天気がとても不安定な状態になっていた。

 

 

「今日…なんか天気悪いね。」

 

「本当だね…柚くんは今日も部活があるの?」

 

「あぁ、基本的にグランドが使えれば練習は中止にはならないかな。体育館は他の部活が使っちゃってるし…。」

 

「そっか…大変だね。」

 

「そうかな?梨子がピアノが好きなように、俺もサッカーが大好きだからそんなに辛くはないよ。」

 

「ふふっ柚くんらしいね♪」

 

 .•*¨*•.¸¸♬  .•*¨*•.¸¸♬  .•*¨*•.¸¸♬ 

 

 

~放課後~

 

「いやあ、ごめんね。今日休んじゃった子の日直を頼んじゃって。」

 

「いえいえ、気にしないでください。そんなに大変なことでもないので。」

 

 

私は職員室を出て、自分の荷物を取りに行った。

 

外は大雨…さっきまで曇っていただけなのに急に降り出した…。

確か今日はちゃんと傘を持ってきて…あれ?

 

確実に傘置き場のところに置いたはず……もしかして間違えられて持ってかれちゃった…!!?

 

 

コツ…コツ…

 

「(だ…誰っ!?)」

 

明らかに人の足音…まだこの時間だったら人がいてもおかしくない…でもなんだろう…明かりもついていない薄暗いこの廊下だからだろうか…普段は無い恐怖心が湧き上がってくる。

 

 

「(き、きっと気のせいよね。こんな夕方にお化けなんて出るわけ無いし…暗くならないうちに早く…)」

 

 

ピカッ!

 

「きゃあっ!?」

 

ゴロゴロ……

 

 

「(な、なんだ…雷か…急に光ったからびっくりしちゃった…。)」

 

「梨子?」

 

「いやああああああ!!!!」

 

 

廊下中に梨子の悲鳴が響き渡る。

 

 

「はぁ…はぁ…」

 

「ど、どうしたんだよ…そんなに大きな声を出して…。」

 

「ゆ、柚くんか…びっくりした…驚かさないでよ。」

 

「いや、びっくりしたのはこっちなんだけど。…っていうかなんで泣いてるんだよ?」

 

 

梨子が慌てて目を拭く。

 

 

「な、泣いてない…」

 

「いやでも今、目を拭いて…」

 

「泣いてない!」

 

「あ、そうか!さっきの雷でびっくりしちゃって……」

 

「泣いてないもん!!」

 

梨子が半泣きの状態で叫ぶ。

 

「ご、ごめん。そんなに怒んなくても…てゆうか、『もん』って…。」

 

「……」ムスッ

 

「あ、そ、そうだ!俺も今から帰るから一緒に帰らないか?その様子だと傘持ってないっぽいし。」

 

「…いいの?2人で入ったら狭くなっちゃうよ?」

 

 

梨子が恥ずかしそうな顔をして俺を見る。

 

 

「大丈夫、今日折りたたみ傘も持ってきてあったから……」

 

「いや。…一緒が良いです。」ギュッ

 

「え…?」

 

 

ピカッ!…ゴロゴロ…。

 

 

「やっぱり雷…怖い…から。」ブルブル

 

「う、うん…」

 

「あと、柚くん?」

 

「ん?」

 

 

梨子がタオルを取り出して、俺の頭をわしゃわしゃと撫でる。

 

 

「柚くんは、傘を二本持ってくる前にちゃんと、タオルを持ってこようね?」

 

「あ…はい。」

 

 

柚くんの髪…濡れてるからかな?ちょっとくせっ毛で犬っぽくみえる…。

 

え…待って…犬…?

 

「い、犬…」ブルブル

 

「え…?」

 

「いやぁ!来ないでェー!!」

 

「今度は何ー!??」

 

 

´•ﻌ•` ´•ﻌ•` ´•ﻌ•` ´•ﻌ•` 

 

 

「それで、俺が犬に見えて怖くなってしまったと。」

 

「…ごめんなさい、別に今は怖くないです…一瞬目の錯覚が…。」

 

あの後、梨子が悲鳴をあげたせいで教員に見つかり、軽く指導されてしまったが、とくに強く注意はされなかったのが幸いだった。

 

 

「…失望しちゃった?」

 

「え…?」

 

「自分の弱いところ…たくさん見せちゃって。」

 

「そんなことないよ、誰にだって怖いものや、苦手なものはある。……それに。」

 

「それに?」

 

「梨子が怯えている時、ちょっと可愛いかった。」

 

「あぁーもぅー!///」ポカポカ

 

 

梨子が照れ隠しに俺の身体を叩く。全く痛みを感じない…むしろなんか心地いいかも。

 

「あれは別に怖いわけじゃないのよ?ただ、気持ちが動揺しちゃって……」

 

 

ピカッ!…ゴロゴロ。

 

 

「きゃっ!!」ミミフサギ

 

タイミングよく雷が鳴る…ほんとに今日は丁度いいタイミングでたくさん鳴るな。

 

「動揺して…なんだって?」

 

「……」ウルウル

 

「わ…わかったってごめんって…」ナデナデ

 

 

いつもは年上のお姉さんみたいなキャラしてるのに…今は、可愛い可愛い女の子になっちゃってるよ…梨子。

 

 

もちろん普段から可愛いと思ってるけどね。

 

 




スク感現地参加したかった……(金欠)


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体操服と密室空間

~午後6時~

 

あと一週間で夏休みか~なんも予定が無いとあんまり楽しみじゃないな…何をして過ごそう?

 

 

ベットに横たわって天井を見上げながらぼーっとしているとLINEの通知が来た…。

 

もしかして、遊びの誘いでも来たのかな?

 

少しワクワクしながらスマホを覗くと梨子からだった。

 

『ちょっと時間ある?』

 

『あるよ、どうしたの?』

 

すぐに既読をつけてメッセージを送る。

 

『実は、学校に忘れ物しちゃって…良かったら一緒に取りに行ってくれないかな?』

 

『それは今すぐ必要なものなの?』

 

『うん…あれが無いと落ち着かなくて…』

 

『わかった、じゃあ俺も一緒に行くよ。』

 

 

もう一度制服に着替え直して、家を出る…

 

 

「あ、柚くん!」

 

ちょうど梨子も同じタイミングで出てきた。

 

 

「ごめんね、わざわざこんな時間に…」

 

「それは全然構わないけど、俺も必要なの?」

 

「それは…その…」

 

「?」

 

「と、とにかく早く行こう!もう暗くなりかけてるし、柚くんもまだ夕食はまだでしょ!?」

 

「?う、うん。」

 

察してよもう…鈍感なんだから。

 

 

一応秋葉原の最寄りの学校だ、最初は街が明るく照らしてくれている…けれど、学校に近づくほど、明かりが少しづつ弱くなって言って、あっという間に2人の周辺は闇に包まれた。

 

 

「ちょ、ちょっと待って…」

 

「どうした?」

 

「柚くんちょっと歩くのが速いよ…」

 

「え、でも…いつもと同じ速さだと思うけど…?」

 

「そう…なのかな?」

 

 

俺は梨子の手を握って自分の方へ引き寄せる。

 

少し足がもたついてる…やっぱり梨子の体は少し震えているみたいだ。

 

 

「え!?な、何をして…?」

 

「一緒に歩こう。そうすればきっと楽だよ。」

 

「ゆ、柚くん…///」

 

「…ごめんね、梨子が暗いところが苦手だってことに気づいてあげられなくて。」

 

「べ、別に…怖くなんて…」

 

「…ほんとかなぁ~?」

 

 

俺は自分のスマホのライトをしたから顔に当てる。

 

「いやあああ!!!もう!バカ!!」

 

「緊張、ほぐれた?」

 

「へ…?」

 

握っていた梨子の手を離す。

 

「もう、梨子の体は震えてないでしょ?」

 

「ほんとだ…」

 

「よし、じゃあ──」

 

「待って!」

 

 

梨子が大きな声を出して引き止める。

 

 

「やっぱり…手は握っててください…」

 

「…うん。」

 

 

♪。.:*・゜♪。.:*・゜♪。.:*・゜♪。.:*・゜

 

 

俺たちの教室は3階の奥から2番目、エレベーターは無いけど学校がそこまで大きくないので階段で充分だ。

 

 

「ねぇ…柚くん」

 

「どうした?」

 

「なんか…足音聞こえない?」

 

 

1度止まってみて後ろを振り返る…

 

 

特に誰もいない…人影も無く、ただ暗闇の廊下が見えるだけだった。

 

 

「ほんとに聞こえた?」

 

「うん…間違いなく。私たちが歩いている時に聞こえて、止まった瞬間に音が止まった感じ。」

 

「そっか…なんか不気味だね。」

 

 

自分の達の教室に入る…電気をつけると、バレてしまうのでスマホで明かりを照らしながら探す。

 

 

「引き出しには無い…じゃあ体操服の袋の中に入れたまま…かな?」

 

「梨子~あったか?」

 

「ちょっと待って…あ!あったよ!」

 

「そっか、すぐに見つかってよかったな。」

 

梨子が嬉しそうにキーホルダーのようなものを握る…探し物はきっとソレなんだろう。

 

「じゃあ、教員に見つかると面倒だから早く帰るか……ん?梨子?」

 

「え…どうして…」

 

 

さっきまで喜んでいたのに急に梨子の顔が曇る

 

 

「何が?」

 

「体操服…いつも畳んで入れているはずなのに…」

 

「それは…どういうこと?」

 

「誰かに漁られた…かも。」

 

 

コツ…コツ…

 

 

「…!?梨子、こっち!」

 

「え!?」

 

 

梨子を連れて掃除ロッカーの中に逃げ込む…幸い道具は少なかったので人が2人入るのにはちょうどぴったりだ。

 

 

「そこのお前!何をしている!」

 

C組の体育教師の声…廊下でしかっているって事は、梨子が言った通り俺たちを追跡している奴がいたって事…。

 

「違うんです、教室に忘れ物をしただけなんです。」

 

「本当か?」

 

「はい、そうです…」

 

「だったら、明日の朝に探しなさい。こんな時間に学校に入るのは不審者に扱われてもおかしくはない。」

 

「す、すみません…」

 

「それと…」

 

あの教師は無駄に声がでかいから会話の内容が理解しやすい…相手側の声はあんまり聞こえないけど…

 

話し方からして恐らく同じクラスの生徒…何回かこの時間帯に学校に忍び込み、梨子の私物で何かをしているのは間違いなさそうだ。

 

「ゆ、柚くん…///」

 

フニッ

 

「梨子…今は静かに。」

 

 

あの体育教師が教室の扉を開けた……まずいぞ、梨子の体操服はまだ机に出したままだ。

 

このままだと、確実に怪しまれる。

 

 

「気になったんだが、この体操服は誰のだ?机に出しっぱなしになっているが。」

 

「分かりません…まだ教室にも入っていないので。」

 

「私は、お前が教室から出てきたあとではないのかと疑っているのだが?あの机の上に乗っている体操服でなにかしていたんじゃないか?それにお前と同じクラスメイトだろう?分からないってことはないだろう…。」

 

「………」

 

 

早く…早くどこかへ行ってくれ…

 

「ゆ、柚くん…胸…///」

 

「な、なに…?聞こえない…。」フニッ

 

「んぅっ!」ビクッ

 

「梨子…!?」

 

やばい…バレたか…?

 

 

「…まあいい、とりあえず今後こんなことはないようにしろ。」

 

バレるかと思ったが、体育教師は生徒に注意して、どこかへ行ったようだ。

 

「梨子…もう出よう…」

 

「う、うん…」

 

体操服も一緒に持ち帰って教室を後にした。

 

 

 

♪。.:*・゜♪。.:*・゜♪。.:*・゜♪。.:*・゜

 

 

 

~自宅前~

 

「ごめんね、遅くまで付き合わせちゃって。」

 

「大丈夫だよ、それよりも体操服…」

 

「うん…とりあえずこの体操服は捨てて、明日で私物は全部持ち帰るようにするわ。」

 

「まあ…あと一週間で夏休みだし、また何かあったら相談して?」

 

「ありがとう♪じゃあおやすみ…」

 

「あぁ、おやすみなさい。」

 

 

柚くんと別れ、自分の部屋に戻る。

 

疲れたからか、帰ってすぐにベットに寄っかかっていた。

 

 

(私…なんであの時あんな声を…///)

 

壁によっかかりながら股を少し開く。

 

 

(いつか…柚くんの手がここに来たりしたら…)

 

下着越しでも分かるくらいにトロトロに濡れている…自分のいつもいじるところをなぞるように触れる…。

 

体操服を勝手に触られて大変な状況なのに、体がビクビク…と、どんどん熱くなってくる…

 

もし…あんなに狭い空間で…。はぁ…柚くんいい匂いだったなぁ…

 

スマホの写真フォルダから柚くんの写真を出す。

 

ごめんね柚くん…今日の私…最低だ。

 

「…あっ♡」

 

 



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Answer

 

今日も授業が終わり、夏休みまであと3日になった…

 

そして俺は今、学校から徒歩5分ほどの喫茶店にいる訳だが…

 

話は30分ほど前にさかのぼる……

 

 

 

「ねぇ柚くん、この前一緒に学校に来てくれたお礼に喫茶店に行かない?代金は私が出すから…」

 

「え、別にお金を出すなんて大丈夫だよ。俺はただの付き添いのようなもんだったから。」

 

「で、でも…」

 

「気にしないで、気にしないで、お礼だったらお金以外のもので全然いいよ。」

 

 

梨子がう~んと、迷った顔をする…

 

「じゃあ、今度クッキー焼いてきてあげるよ!それでどうかな…?」

 

「うん、じゃあそれで…」

 

「あ!そ、その…」

 

「?」

 

「喫茶店は一緒に行かない?最近暑いから涼しいところで……」

 

「うん、わかった。」

 

 

下駄箱から革靴を取り出して履き替える…

 

 

「あれ…?なんだろこれ?」

 

梨子が自分の下駄箱から1枚の紙を取り出す。

 

「もしかして…ラブレター?」

 

「…かも。」

 

「どうする?ていうか、なんて書いてあるんだ?」

 

「えっと…」

 

 

『大切なお話があります、図書室に来てください。』

 

 

「これ…結構遠回しに書いたラブレターだね。」

 

「うん…とりあえず、図書室に行って本人にあってみるわ。」

 

「…そっか。」

 

柚くんが私の目からそらす…。

 

「ねぇ、柚くんは…その…、私が手紙の子にOKって言ったら…どう思う?」

 

「……別に。」

 

「そう…」

 

 

♪。.:*・゜♪。.:*・゜♪。.:*・゜♪。.:*・゜♪

 

 

あれから30分以上経つのにまだ梨子は来ない…もしかして、本当にOKって言ってしまったのだろうか。

 

もしそうだとしたら…俺は…俺は……

 

 

 

そして…何時間たっても…梨子は俺の前に現れなかった。

 

 

 

流石に少し落ち込んだ…少しずつ距離を近づけてようやく今の距離を保つことが出来たのに…

 

 

なんだか一気に遠くなってしまった。

 

 

いつもより足が重いせいか家に着くのにだいぶ時間がかかった。

 

梨子の家…明かりがついてる…もう家には帰ってきたのかな?

 

とりあえず、梨子にLINEを送る…

 

『今日はどうしたの?』

 

とにかくこれで少し待ってみよう…

 

いつもならこの時間帯に食事を終えているはずなのに…今はもう何も作る気力がない…。

 

 

落ち込んでいるとスマホから着信音がなった相手は…梨子からだ。思った以上に早かった。

 

 

 

「もしもし?今日はどうしたの?全然連絡もくれなくて…」

 

「ごめん、柚くん…」

 

「何かあったのか?俺でよかったら相談でも……」

 

「もうあなたと…関わることは出来ないの。」

 

「え……」

 

「じゃあね。」

 

 

ツーツーツー……

 

 

どうして…

 

もう一度梨子に電話をかけたが、相手の電源が切れていて繋がらなくなってしまっていた。

 

 

じっとしていられなくなり、家を飛び出した。

すぐさま、隣の梨子の家のベルを鳴らす。

 

「は~い?あら、お隣さんの…ごめんね梨子はちょうど出かけちゃって…」

 

「すみません、どこへ行ったか分かりませんか?」

 

「確か…近くのコンビニに行くって言ってたけど…。」

 

 

俺は礼を言ってすぐに向かった…一体君に何があったって言うんだ…梨子…!

 

 

やみくもに走って梨子らしき人物を見つけた。

 

「梨子!」

 

俺がそう言うと彼女は振り向いた。

 

「…なに?」

 

重たい声で返事をする…学校にいた時とはまるで別人のようだ…

 

「一体何があったんだ…?少しでもいいから教えてくれ!」

 

「……」

 

「梨子…!」

 

「…もうあなたと目を合わせることも会話をすることも出来ないの。」

 

「そんな…なんで急に?図書室に呼んだ人に何か言われたのか?」

 

「……」

 

「…黙ってないで何か言ってくれよ!!」

 

「ごめん…」

 

 

 

 

 

 

『もう私に近づかないで。』

 

 

 

 

 

 

 



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不可逆

~図書室~

 

時間は1時40分…夏休み前の短縮期間なだけに、人は誰もいないけど…待ち合わせの時間はもう10分過ぎてる…

 

相手から呼び出しておいて遅刻してくるってちょっと心外かな…さっさと断って柚くんのところに行かなくちゃいけないのに…。

 

 

「あーごめんね、待った?」

 

後ろから声が聞こえる……どこのクラスの人だろう…?あれ?それになんかこの人の声聞いたことがあるような……

 

「えぇ、呼び出しておいて遅刻するなんてちょっとひどいと思うんですけど。」

 

「ふふっごめんごめん、そんなに怒んないで?」

 

「……なんの用?」

 

遅刻してきたくせにヘラヘラしてて、なんだかイライラする…それに慣れた彼氏感なんか出して来て……

 

純粋に腹が立つ…

 

 

「あのですね、私も暇じゃないの。さっさとなんの用か教えてもらえないかしら?」

 

「……これから隣の男の子と喫茶店に行くんだろ?それくらい知ってるさ。」

 

「……!?なんでそれを…?」

 

「ふふっ…ハハハハ…」

 

 

なに…?この人の笑い方…人を馬鹿にしているような…自分に酔っているような…なんだか不気味だ。

 

 

「答えて!あの時柚くんと私しかあの場にいなかったはずよ!」

 

「あははははっ…その反応だと全然気づいていないみたいだね?」

 

「…何が言いたいの?」

 

「これ…なんだと思う?」

 

 

彼がスマホを私に見せつける…

 

 

「ど、どうして…」

 

そこには…私が映っていた…しかも自分の部屋の中にいるところを…

 

「いつもこうやって…彼のことを思いながらしているんだね…♡普段真面目そうな顔しているのに、毎日毎日こんなにトロトロな顔でさ……」

 

 

バチン!

 

 

「……っ」

 

私は怒りを任せに彼の顔に平手打ちをした。

 

 

「最低…!盗聴だけじゃなくて盗撮までしてただなんて…!!」

 

 

そのまま図書室を後にしようとすると…

 

 

「待ちなよ?どうやら分かっていないみたいだね?今、君のプライベートは全て僕の手にある…」

 

 

 

 

『それを全て晒されてもいいのかい?』

 

 

その一言に私は足を止めた。

 

「もちろん君の大好きな彼にもね…」

 

「…!!」

 

「晒したければ晒せばいい…私はこの事を警察に通報する…そして…あなたの人生を終わりにしてやる!!」

 

「ふふっ…何を言い出すかと思ったら…」

 

 

彼はまた不敵に微笑んだ…

 

 

「僕がたった一人で君のことを見てきたと思う?僕のことを警察に喋ったら、僕の仲間が君の家族と彼に……」

 

「何をするか分からないよ?」

 

「それを踏まえた上で警察に通報するなら好きにすればいいさ!もう君に頼れる人も逃げる道もどこにもないんだから!!」

 

「………」

 

「ふふっ恐怖のあまり、声も出なくなっちゃったかな?」

 

「………もの」

 

「あ?」

 

「この……卑怯者!!」ガシッ

 

私は彼の握っているスマホを奪った。

 

「こんなもの…!こうしてやる!!」

 

スマホを地面に叩きつけようとする……

 

 

「…ふん」

 

 

ドゴッ!

 

「……かはっ」

 

「悪いお姫様には強めにシツケをしなくちゃあな。」

 

彼の蹴りが私の腹部に直撃した…

 

「…と言いたいところだけど、君を僕に従わせるにはこんな方法よりもよっぽど効果的な方法がある。」

 

「…ゲホッゲホッ!」

 

「もう彼に関わるのをやめて、僕の言いなりになりなよ?そうすればあの動画は消すし、君の盗撮もやめる…悪くないんじゃないか?」

 

「はぁ…はぁ…もし断ったら…?」

 

「この動画をネットに晒すし…彼にも晒す…そして、君の家族、友人、全ての人に君の動画全てを晒す。」

 

「……あなたって本当に最低ね。」

 

「最低で結構!これで僕は何人もの女の子を僕に従わせた!まぁ、大半の子は恐怖のあまりに最後に自殺しちゃったんだけどね…さぁどうする?」

 

「分かった…あなたの言う通りにする」

 

今はとりあえず言う通りになって、アイツがいい気になっている時に全てのデータを消去してみせる…。

 

 

深く考え込んでいた矢先、彼はニヤニヤした顔でTwitterを開き、動画を載せ、書き込みを始めた。

 

 

「やめて!言う通りにするって言ったわよ!やめて…やめて!!」

 

「……」ニヤニヤ

 

「っ…やめて……ください。」

 

「ふふっ…よろしい。じゃあまず最初は……」

 

 

 

そんな…こんな人の言いなりになるだなんて…嫌だ…誰か…助けてよ…。

 

 

「あの動画と同じこと僕にも見せてよ。」

 

「そんな…そんなの出来ない。」

 

「ふ~ん…そうなんだ。」ニヤッ

 

彼が動画のボリュームを最大にあげる。

 

 

『やっ♡んあっ♡』

 

 

だらしない声が図書室内に響き渡る…

 

「やめて!外に聞こえちゃう!!」

 

「君がいつまでもやらないからこの声だけで満足しようかな~って思っただけだよ~?」

 

「わかった…から…それを止めてください」

 

「可愛い顔して泣きそうになってもダメだよ?実行するまでこの動画は止めてあげないからね~♡」

 

「っ……!」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

その後……

 

 

そして私は、彼の前で絶頂するまで…やらされて今日は開放された。

 

気持ちのいいなんてモノじゃない…むしろ、最後までしてしまった自分が気持ち悪い…。

 

もう何も考えたくない…それに、大好きな柚くんにあんなことを言ってしまった…

 

 

 

もう二度と…彼の前に戻れない。

 

そして私は彼を泣かせてしまった…

 

あの言葉を言ったあと…彼は無言で泣き続けていた…

 

ごめんなさい…柚くん…大好きだったのに。

 

 

7月17日…この日…私の自由が奪われた。

 



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Hacking

~夏休みまであと2日~

 

 

どうすればいいの…?こんな調子じゃ生きた心地がしない…あの男は他にも仲間がいるって言っていた…。

 

でも、それは一体誰なのだろう…でも、こんなことをするような集まりだったらおそらく男子…。

 

このクラスに居るのだろうか…柚くんを除けばここには男子は四人……そもそも、あの男がどこのクラスの人かも分からない…。

 

柚くんは…今日は学校に来ていない…。あの時…あんなに泣いてたし…。

 

 

『…内さん?…桜内さん?』

 

「あ…はい?」

 

「先生さっきからずっと呼んでるのに…気づかなかったの?」

 

「ご、ごめんなさい…」

 

「…まぁ、いいわ。今開いているページを読んでもらえる?」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

~職員室~

 

「どうしたの桜内さん?普段真面目に授業を受けているのに…」

 

「ごめんなさい…先生…。」

 

「うぅん、謝らなくていいわ。なにか悩み事でもあるの?」

 

「え…いや…。」

 

「目、クマできてる。」

 

「それは…昨日寝られなくて。」

 

「辛かったら保健室でも休んでも大丈夫だからね?」

 

「はい…ありがとうございます。」

 

 

ダメだ…先生に相談したらきっと警察に連絡することになる…もしそうなったら、お母さんや柚くんに何が起こるか分からない…。

 

 

やっぱり自分の手で解決するしか…

 

 

「へぇ…偉いじゃん、先生にも言わずにちゃんと約束を守って…」

 

私が職員室を出るとその傍にあの男がいた。

 

「あなた…こんなことしてただで済むと思ってるの…!?あの動画…もう流さないって言ってたのに…!!」

 

「え~別にいいじゃん。ちゃんとモザイクかけたんだし~」

 

「そういう問題だと思って…!」

 

「あ、それと約束が違うんじゃない?」

 

 

 

 

 

『学校ではちゃんと…僕の彼女だよ?』

 

 

男がニヤッと笑う…

 

 

「っ…!」

 

「そんな顔しないでよ~せっかくの可愛いお顔が台無しだよ~?」

 

 

そう…彼には逆らえなかった…彼のニヤッとする笑いの奥にどこか怖くて…心の中で震えながら彼に従うしかなかった…。

 

 

「そういや、今お昼の時間だよね〜そうだ屋上行こうよ。今日は風も吹いてて気持ちいいよ~?」

 

「…そうね。」

 

 

彼の行動、言動、全てが恐ろしく感じる…どうすればそんなことを思いつくのか私には理解ができなかった。

 

 

考えながら歩いてると屋上に着く…

 

 

「あれ?梨子ちゃんは食べないの?」

 

「…食欲無い。」

 

「ふ~ん…じゃあこのパンあげるよ。」

 

「…いらないわ。」

 

「…食べなよ。」ガシッ

 

「…っ!?」

 

男が私の腕を掴む…。

 

「いや!はなして!!」

 

「僕たち…付き合ってるんでしょう?いつも彼と一緒にこうやって食べ合いっこしてるんでしょ?」

 

「…柚くんはこんなふうにしない…!あなたなんかよりずっと私の事を考え─!!」

 

「…へぇ?」ググッ

 

「痛っ!…痛い!!」

 

「やっぱり…柚くん…だっけ?そいつの話をするのはやめよう。不愉快になる。」

 

そして彼は手を離す…まだ手が痺れてる。

 

 

「ほらっ…お口開けて~?」

 

「……」

 

 

私は不本意に口を開ける…。

 

 

「いいねぇ…その小さなひとくち。とっても可愛いよ…?」

 

そして彼のパンを強制的に食べさせられた。

 

「……」

 

「あ~でも、梨子ちゃんが食べた跡の所から食べたら……」

 

 

『間接キス…になるね?』

 

 

私の食べた跡のとこらから彼はパンを頬張った。

 

 

「…そんな小さな間接キスくらいで…。」

 

「…へぇ。じゃあ梨子ちゃんはもっと大きなキスをしてくれたりするの…かな?」

 

「…っ!!」

 

ダメだ、こんな人のそばにいたら何をされるか分からない…!!

 

私は立ち上がって逃げようとした…。

 

だけどダメだった…座り込んだ状態からだと遅すぎた。

足を掴まれ、身動きが取れない状態になってしまった。

 

 

「梨子ちゃんは…柚くんとキスはしたのかな…?」ガシッ

 

「いや!来ないで!!」

 

「キスってさ…こうやって顔を近づけてね…」グイ

 

 

彼の顔が迫ってくる…嫌だ…こんな男が最初のキスになっちゃうだなんて……

 

……キーンコーンカーンコーン

 

「鐘…なっちゃったか…続きは放課後…約束のものを忘れないようにね?」ニヤッ

 

「はぁ…はぁ…」

 

 

 

私…何されるんだろう。

 

 

 

 

 

~♢♢♢♢♢~

 

 

そして…放課後。

 

私は彼の家に連れられた。

 

 

秋葉原から4キロほど離れた一軒家だった。

 

「さぁ、緊張しないで上がって上がって…。一人暮らしだから誰もいないし。」

 

汚い部屋…いろんなものが散らかってるし、机の上に置いたままの食器…こんなところで1人で暮らしているなんて相当な生活を送っている証拠。

 

 

「ほら…ここに座って…?」

 

彼がソファポンポンと叩く…

 

「……」スッ

 

渋々と私は座った…。

 

 

「…これで二人きりだね。」

 

「……」ビクッ

 

彼が私の太ももに手を添えた。

 

落ち着いて…ここで今までのような反応をしていたら彼の思うつぼ…

 

…けど…やっぱりもう限界…。

 

 

「…とっても柔らかいね…梨子の体は…。」

 

そのまま太ももを撫で回す…。

 

「もっと細いのかと思ってたけど、程よい肉付きがあって…いいね…最高だよ。」スリスリ

 

この男の手…汗をかいているの?ヌルヌルしてて気持ち悪い…。

 

 

「さて…と、例のもの…こっちに渡してもらおうかな?」

 

「……」

 

「どうした?まさか渡せませんなんて言わないよね~?」

 

「…出来ません。」

 

「ふ~ん…そう。」

 

 

ドンッ!!

 

思い切りソファに突き飛ばされ、彼は私に覆いかぶさるように身体を押さえつけてきた…。

 

 

「約束を守れないんだったら、僕から貰ってあげるから大丈夫さ。」グイッ

 

 

男は私のスカートの中に手を入れ、下着を脱がした…。

 

「返して!そんなもの触らないで!!」

 

「いいのかなぁ?約束守んないとあの動画のモザイク…外しちゃおうかな~?」

 

「~っ!!」

 

すると、男は私の下着を鼻に擦り付けてにおいを嗅ぎ始めた…。

 

 

「ふふっ…いいねぇ…梨子の雌の香りがするよ…やみつきになりそうだ…。」

 

「やめて…やめてよ…!!そんなことしてなんになるのよ…!!」

 

 

恥ずかしいだけじゃない…こんな好きでもない人に自分の1番嗅がれたくないにおいを嗅がれて、屈辱的な感覚が脳をよぎった…

 

 

「ふぅ…いい匂いだった…だって梨子ちゃんが1日履いてた下着だもんね~考えただけでで体がムラムラしてくるよ…。」

 

 

また彼はニヤッと笑う…もうこの男は普通じゃない…

 

 

 

「さて…と、このパンツはお土産に持ち帰るとして…じゃあ次は両手を出して?」

 

「………」

 

「いいから早く!」

 

私が両手を出すと、彼はガムテープでわたしのうでを後ろで組むように縛った。

 

「ふふっ…ふふふ…梨子ちゃん…今日は新しい記念日だね。」

 

ドンッ!

 

「きゃっ!?」

 

「すべすべなお肌をしていて…あんなにいい匂いがして…もう君は最高だよ…。」

 

 

 

 

『これを我慢するなんて絶対に無理だよ…。』

 

 

 

そして彼は私の脚を開かせる…

 

「ふふっスカート越しに良く見えるよ…綺麗な色だ…!」

 

「いやっ!!それだけはいやあああ!!!」ブンッ

 

バシッ!

 

たまらず足を思い切り振ると、上手く彼の顎に直撃した。

 

 

 

「はぁ…はぁ…いい加減にして…!本気で私を汚そうと言うの…?」スクッ

 

両手が使えないのでお腹の力を使って無理やり立ち上がる…。

 

 

「身の危険を感じた時の一撃は強烈…だね…。」フラフラ

 

結構怯んでる…!もしかしたらここで逆転できる…!?

 

 

 

そう思った途端、四人の男子が扉から現れ、私の身体を無理やり抑えた…。

 

「は、離し…て!!」

 

「これでもう…お前の足は使えない。」

 

「あとは俺たちが一人づつ順番に…」

 

まって…この男達…同じクラスの…!?しかも全員…!?

 

そんな…柚くん以外のクラスの男子はみんな…。

 

 

「あ、やっと気づいたの?俺たちさ、あの男が君と仲良くなってからずーっと不愉快だったんだよね…あんな女みたいなヤツに君が奪われるのがさ!」

 

バシッ!

 

その中の一人の男が私の頬にビンタする…。

 

「俺たちだって大好きだったのによ!なのに、話しかけても君は俺たちに目を向けようとしなかった…!!」

 

バシッ!

 

そしてまたもう1人ビンタする…

 

 

「…それはあなた達が勇気がなかったからでしょう?仲良くなっていく私達が怖くて、近づけなくなって!…そしてこんな最低なやり方で思いを伝えるなんて…!」

 

 

『あなた達は常識を知らない(けもの)のようなものよ!』

 

 

「なぁ…リーダー…もうやっちまってもいいんじゃねえの?」

 

「ふふっ…そうだね…でも待ってて…梨子ちゃんの処女は僕が貰う…。」

 

 

クラスの男子達が私を取り押さえ、そして、全ての張本人の彼がベルトを外しながら近づいてくる…。

 

 

「もうスカートを脱がすのもめんどくさいや……むしろ下着だけ脱がせた状態でハメられるなんて…」カチャ

 

『最高だよ…!』

 

 

男がズボンを下ろし私の脚を開かせようとする…。

 

 

 

「いや…お願いやめて…!」ジタバタ

 

「いいねぇ…そうやって一生懸命脚を閉じようとして抵抗している姿…とっても可愛らしくて興奮するよ…♡」

 

 

グイッ!

 

 

「だけどね…無駄なんだよ。そんな弱々しい力で抵抗するなんて…」

 

「やだっ…」

 

 

怖い…怖いよ…

 

柚くん…

 

 

「いや…助けて……」ボロボロ

 

「…恐怖のあまり泣き出しちゃったか…でも、大丈夫…痛いのは最初だけだから。」

 

 

 

 

 

 

『そうだな、初めては痛いから気をつけた方がいい。』

 

 

 

「…誰だ!?」

 

「…この声!?」

 

周りを見ても柚くんはいない…一体どこから…?

 

 

「ここだよ、お前が盗撮に使っていたお前のスマートフォンからだ。」

 

「なにっ!?」

 

 

彼はズボンを履き直し、スマホを手に取る。

 

 

「よく映ってるぜ…お前の気味の悪い顔がな。」

 

「なぜだ!?俺からは電話の応答は押していないはず…!」

 

「お前、SNSを利用して梨子のスマホを乗っ取った割には理解するのが遅いな。」

 

 

この男が…スマホを…乗っ取った!?

 

 

「今度は俺がお前のスマホを乗っ取ったんだよ。勿論、お前のアカウントから侵入してな…。おかげでお前のスマホの内カメラから360°よく見えるぜ。よく出来たアプリだ、拡大縮小もできる…。しかもマイクで乗っ取ったスマホに自分の音声も送れる。」

 

「それに…お前のアカウントを特定するのは簡単だったぜ。モザイクまみれだったけどな…あの声は間違いなく梨子の声だ…こんな動画をアップする時点で犯人はお前だと確信がついた!」

 

「そうか…乗っ取りの仕方…特定の仕方も見事だ…だが!俺達がどこにいるかなんて分かるはずがない!そのカメラでよく見ていろ!!君の彼女が無残に犯されていく姿を!!」

 

「あ…そう。」

 

 

バリンっ!と音を立てて窓ガラスが割れる…。

 

そして、柚くんがゆっくりと入ってくる。

 

 

「そ、そんな…どうしてお前がここに…?」

 

「言ったはずだ。俺はお前のスマホを乗っ取った…お前の携帯番号が分かれば、お前の位置情報が知ることが出来る。」

 

「なぜだ!?携帯番号だけでどうして位置情報が…」

 

「とぼけんな…携帯番号を入力すれば相手の現在位置を知ることが出来ることは知ってんだろ?そうやっていつも梨子の事を追跡してたんだろ?」

 

 

外からパトカーの音が聞こえる…

 

「今日一日の会話は全て録音させてもらった…そして、外には警察がこの家を囲んでいる…もうお前達に逃げる道はないぞ…!!」

 

「ちぃっ…!」

 

「野郎…!!」

 

男達が梨子から離れ、一斉に攻撃を仕掛ける…。

 

「……」

 

ドガッ!バキッ!

 

 

「あ…が…」バタッ

 

「う、うぅ…」バタッ

 

 

パンチ1発、蹴りを1発それぞれ一人づつ…

 

 

「痛いか?痛いだろうな…だけどお前達はたった一人の女の子に同じことをした…。それだけじゃなくプライベートを盗撮、そして、無理矢理服従させ、強制わいせつをした…」

 

 

『今のパンチや蹴りじゃ全く比較にならない。』

 

 

「く、くそ…。」

 

「…おい盗撮野郎、さっきまでギンギンだったくせに今は随分と縮んでるじゃねえか。」

 

ドゴッ!

 

盗撮の男の股に思い切り蹴りを入れる。

 

「がっ……あああああ!!!!!」

 

 

男の悲痛な叫びが部屋全体に響いた……

 

 

 

そして、この事件を引き起こした犯人たちは全員確保され、この事件は無事解決した。

 

~♢♢♢~

 

ビリビリビリ……

 

ガムテープで縛られた梨子の手を解く…こんなに固く結ばれて…きっと辛かっただろうな…。

 

 

「どうして…あんなに酷いことを言ったのに私の事を助けたの?」

 

「なんでだろうな…あの時梨子に会いたくないって言われた時は…ほんとうに死にたくなった……お、おい、泣くなよ…!」

 

「だ、だって…」

 

「もう泣かないで。それに、俺だって謝りたいことがあるんだ…。」

 

「…?」

 

「あの時、梨子が手紙をもらった時、物凄く悔しかった…なのに俺は冷たい返事を…」

 

「…柚くん。」

 

 

梨子がぎゅっと俺の体を抱きしめる…。

 

 

「柚くん…目、とじて?」

 

「え?うん…」

 

 

俺が目を閉じてすぐ…柔らかくてちょっぴり甘い香りが唇に伝わる…

 

 

「私は大好きよ…あなたのこと…柚くんはどうなの?」

 

「…俺も大好きだよ…梨子。」

 

 

もう一度2人で唇を合わせた。

 

 

 

 

 




盗撮の男→梨子のスマホを乗っ取り、梨子のスマホの内カメラで盗撮

その後、柚→盗撮の男のスマホを乗っ取り、盗撮に使用した非公式アプリを自分のスマホにインストールし、相手の現在位置を突き止めた。


ざっくり書くとこんな感じです。

自分のスマホで盗撮される事件は実際に存在し、犯罪に使われたケースでもあります。


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お泊まり会

 

 

 

あの事件が片付いて一週間が経った。

 

 

警察に事情聴取をされたり、学校に今回の事件のことを話したりしてなかなか忙しかったが、夏休みに入ってようやく落ち着くことが出来た…。

 

ふと時計を見ると、既に夜の7時半を回っていた…。

 

もうこんな時間だったのか…どうりで腹が減ってる訳か…冷蔵庫の買い置きは…。

 

あ、そう言えば最近買い物に行っていなかったんだ…仕方ないか、近くにコンビニあるしそこに買いに行けば…。

 

 

ピンポーン♪

 

 

誰だろう…こんな時間に。

 

「はーい、あれ?梨子?」

 

「こんばんは、こんな夜にごめんね?」

 

「うぅん、大丈夫だよ。どうしたの?」

 

「えっと…そのね…」

 

梨子がモジモジしながら話す…一体どうしたんだろう?

 

 

「その…やっぱりこの前のことが怖くて…1人だと落ち着かないっていうか…」

 

「…やっぱり怖かった?」

 

「あんな事…されちゃったらね…。」

 

 

やっぱりちょっと泣きそうな顔をしているのが分かる…それほどあの男に恐怖を植え付けられたってことなんだろう…。

 

あの日以来スマホを新品に変えて、電話番号、メールアドレス、全ての個人情報を新しく更新をしたらしい。

 

ウイルス対策のフィルタリングもかけたらしいけど、あのことが気になってスマホを全くいじらなくなったという…。

 

 

「…大丈夫さ。」

 

「え?」

 

 

梨子の震えている手を握る…。

 

「でも…柚くんは怖くなかったの?もし、あの男にまだ他の仲間がいるかもしれないのに…」

 

「…怖くないよ。」

 

「…どうして?」

 

「大好きな人が俺のすぐそばにいる…絶対に誰にも渡さないって思えばそんなヤツら全然怖くなんかないさ。」

 

「柚くん……ちょっとイタい。」

 

「えぇ~…今絶対決まった…!って思ったのに……」

 

「うそうそ…ありがとね♪」

 

ニコッと梨子が笑顔を見せてくれた。

 

 

「で、ホントの用事はなんなの?」

 

「え?」

 

「わざわざ家にまで来るってことは他にも用事があるんじゃないの?」

 

「う、うん…あのね…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど…父親は出張、母親は友達に会いに行って、今は1人なのか…。やっぱり…寂しい?」

 

「……」コクッ

 

梨子が無言で頷く。

 

「俺、一人暮らしなんだけど、よかったら上がる?夜飯が無いから今からコンビニ行こうかとも思っているんだけど。」

 

「うん…行きたい♪」

 

 

 

 .•*¨*•.¸¸♬  .•*¨*•.¸¸♬  .•*¨*•.¸¸♬ 

 

 

柚くんと一緒にコンビニへ行って、一緒にご飯も食べられて、今日はとても幸せ…それに…。

 

好きな人と二人きりで同じ部屋…なんだかドキドキする♡

 

 

「梨子はお風呂どうする?先に入る?」

 

「…一緒」

 

「へ?」

 

「一緒がいい…なんてだめ?」

 

「…う、うん。別にいいけど。」

 

 

言っちゃった…で、でも、柚くんとはもう恋人同士…だし、これくらいのことは…。

 

「梨子?」

 

「ひゃっ!ひゃいっ!?」

 

「お風呂…こっちの部屋だよ?」

 

「あ…ちょ、ちょっとまって。着替え…持ってこなくちゃ…。」

 

 

………

…………

……………

 

 

「さ、先に…入ってて…後ちゃんとタオルは巻いたままよ?」

 

「わかってるよ~」

 

柚くんがお風呂に入った後に私も服を脱いで、家から持ってきたタオルを体に巻く…。

 

 

「お、お邪魔しま~す…」ドキドキ

 

「いらっしゃい~…」

 

「……」

 

「……」

 

 

お互いに沈黙の間が続く…。

 

 

「…ジロジロ見ないでよ///」

 

「ご、ごめん…」

 

「か、体洗う時は…後ろ向いててね?」

 

「う、うん…。」

 

 

ど、どうしよう…自分からお風呂入ろうって誘ったのに…こんなに恥ずかしいなんて思わなかったよぉ…。

 

 

~♢♢~

 

 

チャプ…

 

 

お互いに体を洗い終わったので、もう一度湯船に浸かる…。

 

 

「梨子ってさ、肌…白くて綺麗だよね。」

 

「そ、そうかな…?」

 

 

いつもと違って下ろした髪の毛…タオルの上から見えるさこつ…少しのぼせて赤くなってる顔…。

 

普段は清楚な顔をしているのに、お風呂に入っただけでこんなにも色気が増すなんて…。

 

 

「柚くん…ずっと胸元ばっかり見てる。」

 

「ご、ごめん…バレてた?」

 

梨子が俺のそばに近づく…

 

 

「……」チュッ

 

「……!?」

 

梨子が首元に吸い付けるようにキスをする…。

 

 

「…顔赤いよ?」

 

「そっちだって…」

 

俺も首元にキスをする。

 

 

「あ…♡」

 

梨子の反応…恥ずかしそうにしてるのに、体が反応してて可愛い…。

 

 

「…ゆ、柚くん。やっぱり続きはお風呂上がってからにしよ?」

 

「う、うん…」

 

 

 

どうしよう…いつもの自分を見失っている気がする。

 

 

 

to be continued…



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お泊まり会 2


※エッチ注意報! エッチ注意報!


「はい、これ。」

 

 

お風呂上がりの梨子に冷えたミルクティーを渡す…

 

 

「ありがとう…いただきます♪」

 

 

俺も一緒に紅茶を飲む…

 

 

「あ、そうだ!この前の約束の……」

 

梨子から差し出さられた箱を開けると、中にはたくさんのクッキーが入っていた。

 

 

「おぉ~すごい沢山入ってる…もらってもいい?」

 

「うん♪沢山食べてね♡」

 

早速口に入れる…ほんのりとした甘さとバターの香りがした。

 

 

 

「こんなに美味しいお菓子が作れるなんて、梨子は凄いね!」

 

「そ、そうかな…///でも、喜んでくれてよかったよ♪」

 

 

そのまま2人でソファに寄っかかる…。

 

 

「……ねぇ柚くん。」

 

「…ん?」

 

梨子はそのまま何も言わずに俺の唇にキスをする。

 

 

「…甘い。」

 

「…そりゃクッキー食べたからね。」

 

「ねぇ柚くん…お風呂の続き…しよ?」

 

「…うん。」

 

♥.。.:*♡♥.。.:*♡♥.。.:*♡♥.。.:*♡

 

 

 

「…俺上手くできるかわかんない。」

 

「…私も初めてだから。」

 

互いに目をそらす…けれど、こんな調子じゃいつまで経っても始まらない…。

 

「…俺が上でいい?」

 

「うん…///」

 

 

梨子を仰向けに寝かせて俺が上から覆うような体制にする。

 

 

 

「こんな体制で柚くんを見るのって…なんだか緊張するね。」

 

「俺も…どんな顔したらいいかわかんないや。」

 

「…好きに触って大丈夫だよ。」

 

「うん…。」

 

 

とりあえず梨子の髪をなびかせるように触れる…

 

そして、そのまま耳に触れる…梨子が「んっ…」と喘ぐので自分の興奮度も徐々に高まっていった。

 

 

「(梨子…すごく耳が弱いんだ…)」

 

「んっ…やっ…」

 

「…胸…触ってもいい?」

 

 

 

 

梨子のパジャマをたくしあげる…薄ピンクでレース付きのブラを付けている…。

 

 

「梨子の下着…可愛いね。」

 

「…恥ずかしいからそんなにジロジロ見ないでよ///」

 

 

ブラの紐を外して梨子の胸が全てさらけ出した。

 

 

「(凄い…綺麗なピンク色。)」

 

「(柚くん…ずっと胸を見てる…やっぱり私の胸…小さいのかな?)」

 

 

梨子が顔を真っ赤にして目をそらした。

 

 

 

「ごめん…あまり大きくなくて…」

 

「そんなことないよ、とっても綺麗だから気にしないで。」

 

 

円を描くように胸を触り、徐々に乳首に迫っていくように触れていく…。

 

「…んっ…はぁ…」ビクッビクッ

 

 

梨子が声をもらさないように口を抑える。

 

 

「…我慢してるの?」

 

「…声がでちゃうのが恥ずかしくて…。」

 

「…可愛いからもっと聞かせてよ。」

 

口元に抑えている手をどかして、キスをする…。

 

そのまま梨子の乳首な触れていく…もう、ピンっと立ち上がっている…徐々に興奮度が上がっている証拠…

 

 

「あんっ…んんっ!」

 

そして、梨子のスカートを脱がして、下着の上からそっと触れていく。

 

 

「…ちょっと濡れてる。」

 

「…い、言わないで…恥ずかしいから。」

 

 

下着越しでも分かるくらいにトロっと愛液が染みているのが伝わる…。

 

 

「…柚くんも硬くなってる。」

 

「…うん。」

 

「…い、いつでも大丈夫だよ…。」

 

 

俺がズボンを下ろそうとした時、なんだか梨子の様子がおかしくなった。

 

 

梨子の体に触れた時…なんだか震えていた。

 

 

「…梨子。」

 

「ど、どうしたの?私は大丈夫よ…?」

 

「やっぱりやめよう。」

 

「え?」

 

「だって梨子…怖がってるもん。」

 

 

そう、さっきまでは普通だった。でも、下着を脱がした瞬間、梨子の体が震えだした…。

 

きっとあの事件の時の恐怖が体に染み付いてしまっているんだ。

 

 

「俺はそんなに怖がってる梨子とするなんて…俺にはできない。」

 

「いや…。」

 

「でも…梨子…」

 

「…私は柚くんに初めてを奪ってほしいの…怖くてもいい…でも、あんな事件みたいなことで他の人に初めてを絶対に渡したくないの。」

 

 

梨子を震えながら俺に抱きつく…。

 

 

「だから…おねがい。」

 

「…わかった。」

 

 

 

もう一度下着を脱がして、自分のを梨子の中に挿れた…

 

 

暖かくて、キュッと締め付けるようにフィットした…

 

 

腰を動かす度に、梨子が甘い声を漏らすので、その梨子の声と表情に俺はあっという間に心を奪われていってしまった。

 

 

 

♥.。.:*♡♥.。.:*♡♥.。.:*♡♥.。.:*♡

 

 

 

「…ちょっと疲れた。」

 

「うん…」グスッ

 

「ごめん…やっぱり痛かった?」

 

「ううん、すごく気持ちよかった…。」

 

「そっか…なら良かった。」

 

 

すると、また梨子が俺の口にキスをする…。

 

 

「私の初めて…受け取ってくれてありがとう♡」

 

「俺も…梨子が初めてで良かった…。」

 

 

今度は自分の方からもう一度キスをする…

 

 

こんなに体を動かしたあとでも、梨子の唇は甘い香りがするのは何故だろう…

 

 

 

寝る前に2人でもう一度お風呂をのんびりすることにした。



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桜内梨子生誕記念 カレンダー

遅れてしまって…!大変申し訳ございません…!!!


今回は番外編です!


~9月16日~

 

 

~梨子家~

 

三連休の最終日…俺と梨子は、連休明けに行われる実力テスト対策に一緒に勉強会を開いた…のだが。

 

 

 

「…Zzz」

 

「柚くん起きなさい…?」

 

「……」

 

「起きなさい!風早柚!!」

 

「…っはい!!!!」

 

 

そう…さっきからずっとこんな感じだ…。

 

「もぅ…さっきも注意したばっかりよ?今度寝たらおやつのクッキーは無しですからね?」

 

「ご、ごめん…でも…」

 

「柚くん?」

 

「は、はい!」

 

「テストで赤点とったら1週間部活でられなくなっちゃうんでしょ?だったら頑張らなくちゃ!私も柚くんに教えられるように頑張るから…ね?」

 

 

梨子が優しく微笑む…なんか背景がキラキラしているように見えてまるで天使だ…。

 

 

 

「でも…3日間、部活以外全部勉強に時間を使ってると……」

 

「……わかった、ちょっとお茶を入れようか。」

 

 

 

________________________________________________________

 

 

それにしても…梨子の部屋、絵に書いたような可愛い部屋だよな…普段から出ているあの女子力は私生活からなっているのかも…。

 

 

辺りを見渡すと、壁にカレンダーがかかってるのが目に入った。

 

 

9月19日になんか印がついてる…この日は別に梨子と約束をしているわけでも、祝日でもない……。

 

 

もしかしたら……

 

 

「なにしてるの?柚くん…?」

 

「うわっ!びっくりした…」

 

「何か面白いものでもあったの?」

 

「う、ううん!別になにも…」

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

~9月19日~

 

 

実力テストが終わり、ようやく帰宅の時間になった…。

 

 

「柚くん、テストは手応えはあった?」

 

「梨子から教えて貰ったところ、全部バッチリです!」

 

「ふふっ♪よかった~」

 

 

梨子が嬉しそうに笑顔を見せる…。

 

 

「なぁ、これからちょっと一緒に出かけない?」

 

「え?でも、今日は柚くん部活なんじゃ……」

 

「あー、今日は訳あって休みになったんだ。」

 

「ふーん…そうなんだ?」

 

 

 

~さかのぼって昼休みの時間~

 

 

「お願いします!部長!今日は練習を休ませてもらってもいいですか!?」

 

「どしたの急に…なんか用事でもあるの?」

 

「えっと…その…」

 

「正直に言ってみ?怒らないから。」

 

 

「怒らないから」…これは罠だ。大抵の人はそう言っておきながら100%と怒る…。

 

でも、俺は…

 

 

「大切な人の誕生日なんです!!」

 

 

正直に言ってやる…!これはもう賭けだ!もし、断れなかったら……

 

 

「いいよ、行ってらっしゃい。」

 

「え!?いいんですか!?」

 

「あぁ、もちろんさ。バシッと!決めてきな!!」

 

「あ、ありがとうございます!!」

 

 

俺はそう言って先輩の教室から出た…。

 

 

 

 

~現在~

 

 

梨子と一緒に街を回り、買い物をして、またいつもの喫茶店に立ち寄った。

 

 

 

「柚くんのフラペチーノ見たことないかも…」

 

「これ?期間限定のだけど…ちょっと飲む?」

 

「うん!」

 

梨子に飲み物を渡したの…これが初めてかも。

 

「美味しい♪柚くんも私の飲む?」

 

「あぁ。」

 

 

甘い…ほのかなイチゴの味…。甘すぎなくてサッパリしてて飲んでて心地いいかも。

 

 

 

「ねぇ、柚くん今日部活が無いって嘘をついたでしょ?」

 

「え!?」

 

「だって、外にいるよ?サッカー部の女の子達…」

 

「え……あ、ほんとだ。」

 

「教えて?どうして今日私を呼び出したの?」

 

「…もう察しているでしょ?」

 

 

カバンからひとつのケースを取り出す…。

 

 

「お誕生日おめでとう♪」

 

「よかった…印を大きく書いておいて。」

 

「え!?じゃああのカレンダーはわざと?」

 

「うん♡」

 

「あはは…でも、気づけてよかった…。」

 

「柚くんなら気づいてくれるって…信じてたよ?」

 

 

そっか…だから梨子は家に呼んで勉強会を…。

 

 

「箱…開けてもいい?」

 

「うん。」

 

 

梨子が箱を開ける…

 

 

「綺麗……ノンホールピアスだ…!」

 

「前に、お出かけしてた時に付けてたからさ。こういうのもしかして好きなのかなって。」

 

「ありがとう柚くん!大切にするね♡」

 

梨子が笑顔を見せてくれた…よかった…気に入ってくれて。

 

 

「ねぇ、このピアス柚くんが付けさせてくれない?」

 

「え?いいの?」

 

「うん、むしろ付けてもらいたいくらい♪」

 

「じゃあ…失礼します。」

 

 

梨子の耳にそっと触れる…。

 

「んっ…!」

 

「や、やらしい声を出さないでよ…。」

 

「だ、だって…くすぐったいんだもん…。」

 

「動かないでね…。」

 

 

キツくなりすぎないように耳に付ける…コットンパールの装飾が梨子の大人っぽさをより引きだしていた…、

 

 

 

「どう?似合ってる?」

 

「うん!すっごく可愛いよ!」

 

「ありがとう…とっても嬉しい…。」

 

 

 

梨子が俺の唇に優しくキスをしてくれた…。

 

 

 

 

「俺も…喜んでくれて嬉しいよ。」

 

 

 

自分からもキスをする…。

 

 

…この時は悪い気はしなかった。

 

 

むしろ、とても心地よかった…、

 

 

 

しかし、1ヶ月間。サッカー部でこの事が話題になってしまったのは言うまでもない…。

 

 

 

 

 

 

 

 

∗*∘ᎻᎯᏢᏢᎩ ᏴᎥᏒᎢᏲᎠᎯᎩ∗*∘



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迷子のそっくりさん

ん…もう朝…?

 

でもなんで…目が覚めてるはずなのに、視界が真っ暗なんだ…?

 

 

体を動かそうとしても思うように動かない…まるで誰かに拘束されているかのよう…?

 

 

それに…顔に当たってるものがなんだか柔らかい…。ふんわりしたマシュマロのような感触

 

 

「んぅ…ゆず…くん…」

 

 

梨子の匂い…じゃあ俺の顔に当たってるのは梨子のおっp…

 

 

「……ゆず…くん…部屋の中…でも…服は着てよね……」

 

 

…夢の中の俺は何をしてるんだよ。

 

てか、梨子ってすごい寝相が悪いのかな…?一応ベットはダブルサイズのはずなんだけど…

 

 

「んぅ……」ギュ…

 

梨子がさらに強く抱きしめる…自分の顔に胸がさらに押し付けられる…。

 

 

彼女の寝息…強く密着されて伝わる柔らかい胸の感触…。そんな彼女の色気のオーラに俺のブツは大きく立ち上がってしまっていた…。

 

まぁ、朝だし…仕方が無いことなんだろう…。

 

 

でも…昨夜の梨子の表情を思い出すだけで胸がドキドキする…あんな顔して声を出されて…。

 

あんなに沢山求められて…

 

これじゃあおっきくなってても仕方ないな。

 

 

とりあえず…この密着した状態を何とかしなきゃ。

 

 

視界はみえないが、梨子の体から離れようと手を動かす…

 

 

「(今…俺の手はどの辺に…?あ、ちょうど肩のあたりか…じゃあこのまま腕の方に…)」

 

 

ゆっくりと梨子の体から離れる…

 

 

「(これで…よしっと。)」

 

 

結構動いたのに、梨子はまだ寝ている…毎日こんな深い眠りについているのかな…俺はたまに寝られない時とかあるから羨ましいな。

 

 

「すぅ…すぅ…」

 

 

それにしても無防備だな……

 

 

いや、だめだ。いくら恋人同士とはいえ、寝ている間に性的なことは…

 

 

「んっ…ぅん…」

 

「……」ムラッ

 

 

こんなに無防備で、朝から俺のことを抱きしめる梨子が悪いんだ…。

 

「……///」ムニムニ

 

ほっぺた…柔らかい…。

 

「……キスしてもバレないかな?」

 

ゆっくりと梨子の顔に迫る…もうここまできたら……!??

 

 

「…んっ!?」

 

 

最初は寝てると思ってた…だけどそれは俺の勘違いだった…。

 

今度は梨子が俺の頬を触り、キスをした…。

 

いつから起きていたんだろう…もしかして最初から…?

 

 

 

「(…舌が…入ってきて…)」

 

「…ぷはっ」

 

とてもさっきまで寝てた人とは思えない速さだった…

 

 

「柚くん…キスしただけなのにに…」チョンチョン

 

「うっ…」

 

 

梨子が服の上から俺の股に手を当てる…

 

 

「…硬くしすぎじゃない?」クスッ

 

「そんなこと言っといて…」フニッ

 

今度は俺がやりかえすように、梨子の下着に手を触れる

 

 

「こんなに濡らして…梨子はそんなに体を触られるのが好きなの?」

 

「~っ///」

 

梨子が顔を真っ赤にする。

 

 

「…柚くんに触られるのが好きなだけ。柚くんは私に触られるのは嫌い?」

 

「……好き。」

 

「でも、朝からこんなことしちゃダメよ?メッ!」

 

「はい…ごめんなさい。」

 

 

あれ?でも、梨子もいきなりキスをしてきたよな…?

 

 

 

~☆☆☆~

 

 

「で、柚くんは午後から部活があるんじゃないの?」

 

「うん、梨子はその間どうするの?」

 

「私も午後からピアノだから…」

 

「そっかー…それで、両親が帰ってくるのはいつなんだっけ?」

 

「二人とも明後日に帰ってくるはずよ。」

 

「そっか…じゃあお泊まりできるのは今日までか…」

 

「うん…」

 

 

 

♢

 

 

柚くんと一旦別れ、電車に乗りいつものピアノのレッスンに向かう…お泊まりできるのは今日まで…なんか少し寂しいな。

 

家はお隣同士だし、いつでもお話はできるのに…。

 

ふと、そう考えていると、何かが私の太ももに触れた…。

 

結構人混みだし、こんなことは有り得るのだろうけど…なんか妙だ…。

 

 

「……」スリッ

 

 

…や、やっぱり…痴漢…?

 

 

「……」ムニッ

 

 

今…お尻…触ってきて…

 

 

…怖い…この前あんな目にあったばかりなのに…どうしてまた…。

 

 

私が弱気になった次の瞬間…

 

 

「ぎゃああああ!!!!???」

 

「…!?」

 

 

男の悲鳴が聴こえる…一体何が…?

 

 

「…こっち。」

 

隣から声が聞こえて、手を引っ張られる…。

 

ちょうどどこかの駅に止まり、私を電車の外に引っ張り出してくれた。

 

 

 

「ふぅ…よかった…大丈夫だった?」

 

「柚…くん?」

 

「へ?」

 

よく見たら違った…彼より少し髪が長い…同い年くらいの女の子…。

 

 

「ご、ごめんなさい…知り合いの人に似てて…」

 

「へぇ~そうなんだ~それよりも、怪我とかない?」

 

「え、は、はい…大丈夫です。」

 

「そっか、ならよかった♪君、女の子っぽくて可愛いんだからもっと気をつけた方がいいよ?」

「か、可愛い…なんて…///」

 

 

なんか…褒め方も柚くんにそっくり…。

 

 

「ごめんなさい、何かお礼させてもらえないかしら?」

 

「あー、いいよいいよ!それよりも東京駅に行きたいんだけど、どう行けばいいか分かる?」

 

「東京駅?」

 

「うん、部活の遠征できてるんだけど…部活のメンバーとはぐれちゃって…電話したら、東京駅に来なさいって言われたんだけど良くわからなくて…。」

 

 

きっと乗り換えが苦手な子なのかな…?だったら口で言うよりも、一緒に付き添ってあげた方がいいかも…。

 

 

「よかったら、私が案内しようか?」

 

「いいの!?時間とか大丈夫なの?」

 

「えぇ、いつもより早く家を出たから、時間は余裕はあるわ。」

 

「助かった~じゃあお願いします!ちなみに名前はなんて言うの?」

 

「桜内梨子。よろしくね♪」

 

『私は渡辺曜!よろしくであります!!』ビシッ

 

 

ビシッと彼女は敬礼をする。

 

 

「よろしくね渡辺さん♪」

 

「曜でいいよ!梨子ちゃん☆」

 

「ふふっそうね♪」

 

 

ふわっとした髪の毛…シルバーベージュっぽい髪色…やっぱり柚くんにそっくり…。

 

「ん?どうしたの?」

 

「ううん、なんでもない♪」

 

 

 

to be continued.....

 




…はい、曜ちゃんここで初登場です。


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夏編:海の街へ

遅くなってごめんなさい…。

何故かと言うと、テスト週間はあるわ、テスト前に体調崩すわ、そして、テスト終わったあとに体調崩すわ…本当に気力がありませんでした…。

今、何とか生き延びて、回復したのでまた再開しようと思います。


 

夏休みも始まったばかりだが、俺はほぼ毎日、部活の毎日を送っていた…。

 

だが、明日からの1週間…久しぶりに部活が休みになる。この時間を有意義に使おう。この一週間が終わったら後はお盆しか休みがないからな。

 

 

「ただいま~!」

 

 

自分一人の声が部屋全体に響く…そうだった、もう梨子は…

 

 

Prrrrrrrr......

 

 

あれ…梨子から着信?

 

「はいもしもし?」

 

「柚くん、いま時間ある?」

 

「あぁ、ちょうど家帰ってきたとこだし…なんかあった?」

 

「えっとね…この前お母さんから…その…ペアの旅行券もらって…い、一緒に…行きませんか?」

 

 

電話越しでもわかるくらいに緊張している様子がわかる。

 

 

「(…嫌だったかな?部活とか忙しそうだし…)」

 

「…いいよ!行こう!」

 

「ほ、ほんと!?」

 

「あぁ、今週は時間あるし…また、梨子と一緒に居たいからな。」

 

「…もぅ///」

 

 

 

 

そして三日後…。

 

 

昨日のうちに支度を全て済ませて、梨子を待つ…相変わらず今日もひどい暑さだ…。

 

重たい荷物を持っているせいで、余計に暑さが酷く感じる…

 

 

「お、お待たせ~」

 

「おぉ~待ってた……」

 

 

そう、いつもと違った…それは、普段は下ろしている長い髪だが、今日はサイドテールにまとめて、白とピンクのワンピース…

 

普段と違ってとてもスッキリして見えて、とても可愛い…いや、普段から可愛いけど…。

 

何よりも、今の自分が似合っているかな?って少し恥ずかしそうにする仕草に胸がドキドキする…。

 

 

「へ、変だったかな…?」

 

「うぅん、すっごい可愛い…どこに目をやればいいのか分からないくらいだよ…///」

 

「…ほんと?でも…」

 

 

梨子が俺の手をぎゅっと握る…。

 

 

「…今日はデートなんだから私の事、見て欲しいな…」

 

「…そうだな。じゃあ、行こっか。」

 

「うん♪」

 

 

 

...♪*゚...♪*゚...♪*゚

 

 

 

「本当にガイドブックに載ってた通りの海…すっごく綺麗だなぁ…」

 

「ここまでくるのに結構時間かかったけど、本当に綺麗な街だな。」

 

新幹線から降り、電車に乗り換え、かなり時間はかかったけれど、どれも新しい体験でとても楽しかった。

 

 

そう、ここは静岡県。…今まで暮らしてきた都会と違って静かでとても落ち着いた雰囲気だ。

 

 

でも、なんだか…初めて来た場所にしては懐かしい感じがするのは何故だろう…。

 

 

 

「柚くん、どうかした?」

 

「いや、なんでもないよ早く行こうぜ!」

 

 

 

そう、俺たちの目の前には、普段見ることの出来ない綺麗な海が広がっていた。

 

 

そして、すぐ側には俺たちの今日泊まる旅館が建っている…いい場所にこられたものだ。

 

 

 

~♪♪♪♪~

 

 

俺はもう着替え終わったんだが…梨子は、ちょっと遅い…何をしているんだろう…まぁ、女の子の支度は長いのは知ってるから少し気長に待つか…。

 

 

「お待たせ、柚くん」

 

「お~よく似合ってるよ、その水着も。」

 

ピンク色の花柄デザインに白いレースが着いていて、刺激的になり過ぎず、落ち着いた雰囲気が出ている…梨子にぴったりな水着だ。

 

「ありがとう♪それと、ちょっとお願いしたいことがあるんだけど…」

 

「?」

 

 

 

海の家からパラソルと、レジャーシートを借りて準備を始める。

 

 

「で、頼みって何?」

 

「あ、うん…日焼け止め…塗ってもらえないかな?」

 

「え!?お、俺が?」

 

「う、うん…背中の方が上手く塗れなくて…///」

 

「わ、分かった…」

 

 

梨子をうつ伏せに寝かせて、背中の紐をほどく…なんだかとてもいけないことをしている気分になる…

 

 

「んんっ…///くすぐったいよ…」

 

 

うつ伏せの状態からそんな表情で俺を見るな…!

 

 

 

~~~♪♪♪~~~

 

 

「なぁ、梨子ビーチボールやらないか?」

 

「別にいいけど…私が相手じゃ全然勝負にならないんじゃない?」

 

「そんなことないよ、思ったより梨子は運動神経良い方だし…」

 

「思ったより…か…じゃあ、負けた方はお昼奢りっていうのはどう?」

 

「あぁ、いいよ。」

 

 

ルールは先にボールを3回落とした方が負け。単純なルールだ。

 

 

「んじゃ、始めますか。言っとけど、スパイクは無しだからな。ゲームが続かなくなっちゃうからな。」ポーン

 

「はーい…それ!」

 

バシュッ!と重々しい音を鳴らして梨子がビーチボールを叩きつけた…。

 

 

「…なぁ、梨子…話聞いてたか?」

 

「…?」

 

「今、思い切りスパイクしたよな?」

 

「え、これはスマッシュじゃないの?」

 

「…梨子…スパイクって何か知ってる?」

 

「え?こうやって両手で構えて下から受け止める……」

 

「それは、レシーブだ。」

 

「えぇ!?じゃあ、スパイクって何?」

 

 

あぁ…そうか、きっと梨子はビーチバレー…いや、バレボールのルールはよく知らないんだ。

 

 

「ご、ごめんなさい…テレビでしか見たことなくて…」

 

「ま、まぁ…気にしないで、単純に上から叩きつけるのは禁止ってだけだよ。」

 

「うん、分かったわ。」

 

 

 

 

結果は…まぁ、俺の圧勝になってしまったが。最初から奢ってもらうつもりは無かったので一緒に海の家で昼食を買いに行くことにした。

 

 

 

 

「柚くんは何にする?」

 

「そうだな~焼きそばとホットドックでいいかな。」

 

「じゃあ、私も同じのにしようかな?」

 

「…?別に好きなのを選んできてもいいんだよ?」

 

「う、うん…でも…あんまり柚くんの近くを離れたくない…から。」

 

 

梨子が俺のパーカーの袖を掴む…。

 

「迷惑…かな?」

 

「い、いや…そんなことないよ///」

 

 

そんな赤い顔で見つめられるとこっちまで恥ずかしくなる…。

 

 

「ありがとう…♪」

 

「う、うん…///」

 

「お客さん~買うならイチャついてないでさっさとしたらどうだい?」

 

 

 

~◇~

 

 

「ねぇ、柚くん食べあいっこしない?」

 

「でも、俺と買ったもの同じじゃ…?」

 

「私は…したいから…///」

 

言葉に押されて、梨子は自分の焼きそばを俺に差し出す…。

 

 

「あー…うん、焼きそばの味だな。」

 

「じゃあ…そのホットドック欲しいかな。」

 

 

今度は俺が梨子にホットドックを差し出す…。

 

 

「あ…はふ…はふ…」

 

…なんだか。ホットドックを頬張る姿がいやらしく見えるな…。

 

「…おいしい♪」

 

「(…えっろ。)」

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

お昼も一緒に食べ、その後ずっと日が暮れてくるまで2人で遊び続けた。

 

いつも部活の毎日を過ごしていたので、こんな日があるととてもいい気分転換になる…。

 

そりゃあ、好きな人と一緒に過ごしているんだ。あたりまえか。

 

この旅行が2泊3日で良かった…今日はもう終わってしまうが。まだ2日もある…きっと楽しい旅行になりそうだ。

 

 

「…周りの人ほとんどいなくなっちゃったね。」

 

「もう夕方だしなぁ…」

 

「うん、でも海がすごく綺麗…」

 

 

夕日が海をオレンジ色に照らしていた…。

 

 

「梨子。」

 

「どうしたの?柚くん?」

 

「旅行…誘ってくれてありがとな。」

 

「柚くん…」

 

 

梨子の瞳からポロッと涙がこぼれる…。

 

 

「な、なんで泣くんだよ…お礼を言っただけなのに…。」

 

「だって…最初…楽しんでくれるか心配で…。いつも遊びに誘ってくれるのは柚くんだったし…。」

 

「そんなこと思ってたのか…もっと気楽に誘ってくれていいんだよ?」

 

「うん…♡」

 

 

梨子をぎゅっと抱きしめ、頭を撫でる…。

 

 

「…じゃあ、そんな泣き虫な梨子にはプレゼントをあげよう。」

 

「…?」

 

「ちょっと目を閉じて?」

 

「う、うん…」

 

 

私は目を閉じると、柚くんに耳元に何かを当てられた…。

 

「…波の音?」

 

「目…開けてみて?」

 

「綺麗な貝…どこで見つけたの?」

 

「さっき遊んでる時だよ。梨子にあげようと思ってさ。」

 

「柚くん…ありがとう♡」

 

 

 

梨子が笑った時…ちょうど夕日が差し込むように彼女を照らした…まるでその笑顔は浜辺に立つ絵に書いたような美少女そのものだった。

 

 



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夏編: 記憶の片隅

海で半日中ずっと遊び続けた後…今日俺達が泊まりに行く旅館に着いた。

 

今日遊んだ海と全く距離はない。すぐ側にある。本当に便利なものだ…。

 

 

「荷物まとまったか?」

 

「うん、忘れ物はないよ。」

 

「よし、じゃあ体冷やさないうちに早く旅館に入ろう。もうだいぶ日差しも落ちてきたしな。」

 

 

~♪♪♪~

 

 

 

旅館の入口…「十千万」って書いてある…落ち着いたいい雰囲気が出てる…。

 

しかし…俺のそばにいる梨子は何故か落ち着きがない…何故だ?よく見ると、梨子…視線には犬小屋に入った大きな犬がじっと見つめているのだ。

 

「そういや…梨子は犬が苦手なんだっけな?」

 

「え、えぇ…柚くん…中に入るまでその手…離さないでね?」

 

「あぁ、わかってるって————」

 

 

 

~~~~~~

 

 

『ね、ねぇ…あのわんちゃん追い払ってよ~!』

 

『落ち着きなよ。わんちゃんなんて可愛いもんだろ?』

 

『で、でも~!』

 

『わかったって…その手離すなよ?』

 

 

~~~~~~

 

 

 

——っ!?なんだ…今の…?

 

ぼんやりと…何かが…頭の中で誰かの声が…

 

 

 

「しいたけは怖くないよ。」

 

 

後ろから幼い女の子の声が聞こえる…

 

 

「こんばんは~♪」

 

「こ、こんばんは…」

 

「あれぇ?二人ともこの辺りじゃあまり見ない顔だね~どこから来たの?」

 

 

その少女は嬉しそうに話しかけてきた。

 

 

「え、東京から…」

 

恥ずかしそうに梨子は答える。

 

 

「えぇ~!?東京から~?いいなぁ~♪」

 

「…そうか?俺はこの街も結構いい所だと思うけどな?」

 

「ほんと?そう言ってくれると凄く嬉しい♪」

 

 

すると、その少女は俺のそばによって顔をじーっと見つめてきた…。

 

「むー…」

 

「な、なに…?」

 

「ふむ…やっぱり似てる…曜ちゃんに。」

 

 

ヨウちゃん…?何を言ってるんだこの子は?

 

 

「特に…このまつ毛とか…」ズイッ

 

「ちょ、ちょ…近いって…///」

 

 

少女が俺の体に密着する程に近づくので、少女の胸が俺の体に触れた…。

 

こんな小さな体とは似つかないほどの大きさだ…体に触れた感覚だけですぐに分かる…

 

「…ご、ごめん。ちょっと離れてもらえるかな?」

 

「あ、えへへ…ごめんね~じゃあここで♪」

 

 

少女は俺から離れ、「またね」と言い、パタパタと旅館の中に入っていった…。あの子きっとここの旅館の娘なのだろう。

 

 

同い年くらいの子にはあんなふうに接しているのか…?だとしたら相当スキンシップが激しい子だな。

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、柚くん。」

 

「ん?」

 

「今、あの子にデレデレしてたでしょ。」

 

「え、そんなことないよ?」

 

「だって…顔真っ赤になってる…」ムスッ

 

 

確認のため、自分の頬を触ると少し熱くなっていた…。

 

 

「ほんとだ。」

 

「もうっ…!」

 

「そ、そんなに怒んないでよ…。」

 

「……」ツーン

 

「俺にとって一番大好きな人は梨子だよ?」

 

「…いきなり変な事言わないでよ。」

 

 

梨子はそう言って俺から視線を逸らす…。

 

だけど、梨子の顔を見ると……

 

 

「梨子…照れてるでしょ?」

 

「…照れてない!」

 

「嘘だ~赤くなってるじゃん。」

 

「う…だ、だって…」

 

 

『そんなこと言われて…恥ずかしくないわけないじゃん…///』

 

 

梨子が恥ずかしそうに見つめる…。

 

 

「…そ、そう…だね…///」

 

「ゆ、柚くんが照れてどうするのよ!」

 

「ご、ごめん…」

 

「言葉に責任もってよ…もぅ…///」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「お部屋はこちらになりま~す♪」

 

 

さっきの少女が俺たちの部屋を案内してくれた。

 

 

「わぁ…この感じ…すごく落ち着く気がする♪」

 

「そうだね…なんか気楽に過ごせそう。」

 

「気に入ってもらえたかな?」

 

「あぁ、もちろんだよ。」

 

「とっても素敵なお部屋ね。」

 

「えへへ♡よかった~」

 

 

少女は嬉しそうな笑顔を見せる。

 

 

「何かあったらすぐに声をかけてね!あ、それと私、『高海千歌』って言うんだ~!よろしくね♪」

 

「俺は風早柚。よろしく。」

 

「私は桜内梨子。高海さんは高校生?」

 

「千歌でいいよ~。うん、私は高校一年生だよ♪」

 

「そっか。じゃあ私達と同い年だね。」

 

 

この子…俺たちと同い年だったのか…少し幼く見えたから年下かと思ったけど…。

 

しかし…どうやったらそんなに大きく胸が実るんだ…?梨子はうちのクラスだと全然小さくなく、平均よりもずっと大きく見えるけど。

 

千歌はその梨子よりも、もう一回り大きく見える…暮らしてる環境が違うからなのか…?

 

 

「それにしても…」

 

千歌が梨子をじっと見つめる……

 

 

「梨子ちゃん…スタイルいいね~♪」

 

「うわっ!?ちょ、ちょっと…!」

 

 

千歌が梨子の太ももを撫でるように触り出す…。

 

 

「程よく背も高くて、足も長くて…髪もサラサラで…羨ましいなぁ~」

 

「うわっ!?ちょ、ちょっと千歌ちゃん!」

 

「雰囲気も気品あるし…女の子らしくていいなぁ~」

 

 

~♪♪♪~

 

 

「じゃあ、夕食の時間になったらまたお部屋に伺うね~!」

 

 

長々と30分程3人で話した後、一旦千歌が部屋から出た…。

 

 

「さて…と、ちょっと喋りすぎて喉が渇いたね。」

 

「そうね、さっき入口側に自動販売機があったからなにか買いに行こうか。」

 

 

二人で一緒に入口の方へ向かう…。

 

 

「俺は久しぶりにメロンソーダでも買おうかな~…ん?」

 

「どうしたの柚くん?」

 

「あそこで受付をしてる人…母さんじゃ…?」

 

「え?」

 

私も受付を確認する……あれ?おかしいな…私は幼い頃に柚くんの母親を見た事があるけど。

 

こんな感じな人じゃなかった気がする…この数年で一気に変わってしまったの?

 

 

「母さん?」

 

「柚?」

 

俺がそう言うと、母さんは直ぐに振り向いた。

 

 

「どうしてここに居るの?」

 

「今、ちょうど出張でね。静岡に来てるからここに泊まりに来ただけよ。」

 

「…そっか。仕事頑張ってね。」

 

 

俺はそう言って後にしようとすると…。

 

 

「まって。」

 

「梨子?」

 

「柚くんのお母さん…ですよね?」

 

「…えぇ、そうよ?」

 

「少し話をさせてください。」

 

「えっと…それは俺はいない方がいいのか?」

 

「…うん、ちょっとだけ部屋で待ってて。」

 

「…わ、わかった…よ?」

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

 

「すみません、お忙しいのに…。」

 

「いや、気にしなくていいわ。それよりなんの用かしら?」

 

「…どうして柚くんに本当のことを教えてあげないんですか?」

 

私は思い切って話した。

 

「柚くんの記憶はそんなに簡単に塗り替えてしまってもいいものなんですか?…母親だったら彼のことを…」

 

「そう…彼のことを知ってるの?じゃああなたは桜内梨子ちゃん…随分おおきくなったわね?」

 

「正しいことを教えてあげるのが母親のはずです!なのにどうして彼に嘘を……」

 

「……あなたに…あなたに…!本当の母親になれなかった私の、何がわかるって言うのよ!!!」

 

 

柚くんの母親が怒声を挙げた。

 

 

「本当の…母親?」

 

「…悪いけど、あなたには関係ないわ。それじゃあね。」

 

そう言って、柚くんの母親は旅館へ戻って行った…。

 

 

本当の母親…あの人が言ってたことはどういうことなのだろう…柚くんは母親だって認識してる…仲もそんなに悪そうには見えなかった…なのに…。

 

 

ガタッ!

 

 

「誰っ!?」

 

私は物音のする方向につい、大きな声を上げてしまった。

 

 

「千歌ちゃん…?」

 

「ご、ごめん…さっき受付の時…梨子ちゃんの様子が変だったから…。」

 

「そ、そう…ごめんなさい、心配かけて…。」

 

「う、うぅん…こちらこそごめんなさい…。じゃあ私も、もう行くね。」

 

 

そう言って私は梨子ちゃんの傍から離れた…。

 

 

やっぱり…記憶がなくなってるんだ。

 

 

だから私のことも…

 

 

もう…戻らないのかな?

 

 



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夏編: Lose sight of

 

 

 

 

「おかえり梨子。随分長かったけどどうしたの?」

 

「う、うん。ちょっと意気投合しちゃってね…」

 

「そっか、何話してたの?俺の母さんに気が合うなんて結構珍しいね。」

 

 

どうしよう…ホントのことをここで話してあげるべきなのだろうか?でも、柚くんのお母さんは真実を伝えるのを明らかに嫌がっていた…。

 

それに、あの事故が原因で柚くんの目に障害を与えてしまったのだから…柚くんのお母さんの言う、生まれつきからの病気って教えられても変えられることでは無い…。

 

でも…本当にそれでいいのだろうか…いつも一緒に仲良く過ごせたあの幼少期の頃の記憶を簡単に無かったことにされてしまうのは…。

 

私は…嫌だ。

 

 

「梨子?」

 

「うぅん、なんでもない。お風呂入りに行こ?海水たくさん浴びた後だし。」

 

 

~~

 

 

ふぅ…とてもいい湯だった。こんなにいい温泉が旅行券のおかげでタダで入れるなんて、なんてお得な旅なんだろう…。

 

 

あとは…梨子を待つだけか。

 

 

「お風呂、どうだった?」

 

 

また横から千歌が話しかけてきた。ほんとによく喋りにくるなこの子…元々、人と話すのが好きなタイプなのか?

 

 

「よかったよ、お風呂。疲れもよく取れた気がするよ。」

 

「ほんと?なら良かった~♡朝風呂もやってるから良かったら朝も来てね!」

 

そう言って千歌はまたどこかへ行ってしまった。ほんとに忙しそうな子だ。

 

 

「お待たせ~あれ?また千歌ちゃんと話してたの?」

 

「あぁ、お風呂どうだった?って聞かれてさ。」

 

「ふ~ん…そうなんだ。」

 

 

なんか…千歌ちゃんも怪しい。いくら同い年の高校生が泊まりに来たからって…初めて、会ったばっかりなのにあんなに話しかけてくるのだろうか…。

 

さっきも私が柚くんのお母さんと話しているときも盗み聞きしてたし…。

 

何かが怪しい…けれど、完璧な根拠がない。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

~夕食後~

 

 

「柚くん明日はどこへ行きたい?」

 

「う~ん…さっきガイドブック読んだ時に水族館が沢山あるみたいだから、ちょっと行ってみたいかもな。」

 

「そうね、私もそこへ行ってみたいかも!」

 

「じゃあ、明日に備えて早く寝るか。」

 

「うん、そうね。」

 

 

部屋の明かりを落として布団に入る…

 

 

「ねぇ…柚くん?」

 

「ん?」

 

「その…今日は一緒に寝ないの?」

 

「あぁ…うん、だって夏だとやっぱり少し暑いし。」

 

「……」

 

 

 

梨子が俺の横に入ってくる。

 

 

「…布団取っちゃえば関係ないんじゃない?」

 

「ふふっ確かにそうかもな。」

 

「ねぇ…柚くん?」

 

「ん?どうしたの?」

 

 

梨子がおでこをコツンと、俺のデコに当ててきた…。

 

 

「ど、どうしたの?」

 

「…最近あんまり会えなかったからいっぱい甘えたくて。」

 

「…寂しかった?」

 

「うん…部活で忙しいのもわかるけど…もっと柚くんからも連絡欲しいよ…。」

 

「そっか…じゃあ今、たくさん甘えていいよ。」

 

「うん…」

 

 

梨子の身体を抱きしめながら頭を撫でる…。

 

 

「…可愛いな梨子は。」ムニュ

 

 

そのまま梨子の頬を揉む…。マシュマロのようにふわっと柔らかい質感だ…。

 

 

「ひゃ…」

 

ずっと触っていると自分でも何をするか分からなくなってくるので、一旦手を離す…。

 

 

「さぁ…もう寝よっか。」

 

「まって…柚くんだけこんなにイタズラしてるのに…なんかずるいよ。」

 

梨子が俺の身体を押し倒し、指と指を重ねるように手を握る…。

 

あぁ…そうか、これが恋人繋ぎって言うやつなのか。

 

 

そして…そのまま梨子が黙ったまま俺の顔を見つめ…そのままキスをする…。

 

 

「…なんかいつもよりドキドキする。いつもと逆の立場になってるからかな?」

 

「ふふっ…♪そうかもね。」

 

梨子が俺の首筋にそっとなぞるように触れる…恥ずかしくてとても緊張する…梨子はいつもこんな風に…

 

 

「もう1回…しよ?」

 

 

 

 

~~~♪♪~~~

 

~夜中~

 

 

んー…?

 

いつの間にか目が覚めていた…けれど、外の景色はまだ暗い…。

スマホを開いて確認するとまだ、夜中の4時だった…。

 

「(なんかトイレ行きたくなってきたな。)」

 

今日の梨子の寝相は…大丈夫そうだ、今日は大人しいな。

 

 

 

~~~

 

「(ふぅ…さて、早く部屋に戻るか……あれ?)」

 

 

俺がトイレから出ると、それと同時に誰かが俺の前を横切った…

 

 

「(今のは…)」

 

 

俺は無意識にその人の後について行った…。

 

 

 

「…千歌?」

 

旅館の外で、千歌は座り込んでいた。

 

「あ…おはよ、柚くん…あなたも目が覚めちゃったの?」

 

「あぁ、そんなところだ…普段寝ていないところで寝ると目が早く覚めちゃうのかな。」

 

 

すると、千歌は立ち上がって真剣な眼差しで俺を見る…。

 

 

「変わらないね、そういう所。」

 

「変わらない…?それは一体どういうこと?」

 

「ねぇ…本当に覚えていないの…?私の事。」

 

「……は?」

 

「本当に…記憶が無いの?」

 

「…ま、待ってよ。君はさっきから何を…?」

 

「しばらく見ない間に何があったのか分からないけど…そんな簡単に柚くんは私の事を忘れちゃうの…?」

 

 

千歌が俺の両腕を掴む…

 

 

「あんなに仲良く遊んだじゃん…なのに…」

 

「…君は一体何が言いたいんだ?」

 

 

俺がそう言うと千歌はうつむき、俺から目をそらす。

 

 

「なにそれ…そんなの…そんなのひどいよ!!」

 

「…さっきから何なんだよ!俺に意味のわからないことを押し付けて…君は一体何者なんだ…?君にとって俺はなんなんだよ!?」

 

「…もういいよ。君がそこまで忘れちゃっているなら…あの時の約束も何も覚えていないんだ。」

 

 

千歌が胸につけていた貝殻のネックレスを外して俺に見せる

 

 

 

「ずっと…あなたが帰ってくるのを待っていたのに…!」

 

 

彼女の瞳から涙がこぼれおちていた…。

 

 

彼女の言っている言葉の意味は俺には理解できない…。

 

 

けれど、何かを俺に…必死に伝えたかったみたいだ。

 

 

教えて…じゃあ教えてくれよ…君は一体俺にとっての何者なんだ?

 

 

もう一度そう聞こうとしたのに、彼女の姿はもうどこにもなかった。

 

 

 

 

 



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夏編: Divorce

~午前9時~

 

 

 

「ふぅ…着いた…お~い!千歌ちゃん~!!」

 

 

私はいつも通り千歌ちゃんの部屋に向かって大きな声で呼んだ。

 

 

「あ、やっと来た…おはよ~曜ちゃん!」

 

「おはよ、どうしたの?こんな朝早く呼び出して…千歌ちゃん…?」

 

「大変な事が起きちゃったんだ…。」

 

 

 

 

~~~♪♪♪~~~

 

 

「ねぇ…ほんとに尾行するの?そういうのあまり良くないんじゃ…?」

 

「だって気になるじゃん!」

 

「でも、本人だとしても私達のことは覚えていなかったんでしょ?そもそも…本人の可能性が……」

 

「絶対に本人だよ!よーちゃんはまだ、あの人を見ていないからそんなことが言えるんだよ!」

 

 

千歌ちゃんと言い合っていると、男女のカップルが視界に入った…。

 

慌てて2人で旅館の隅っこに隠れる…。

 

 

「梨子、忘れ物はない?」

 

「えぇ、大丈夫よ。」

 

 

そして、その2人は手を繋いで旅館を出ていった…。

 

 

 

「ふぅ…何とかバレずに済んだ…ね、見たでしょ!?あの男の子!」

 

「う、うん…」

 

 

横顔を見ただけですぐにわかった…あれは間違いない…彼だ。

 

そして、横には遠征で迷子になった私を案内してくれたあの女の子…確か…梨子ちゃんだったけ?

 

あのふたり…付き合ってたんだ。

 

 

「…よーちゃん?」

 

「あ…ご、ごめん…びっくりしちゃって…。」

 

「そ、そうだよね…じゃあ、あのふたりを追いかけるよ!」

 

「う、うん…でも、どうして追いかけるの?…あ!わかった!!千歌ちゃん今でもあの子のこと好きなんだ~♪」

 

「…う、うるさい!私はただ気になるだけ…///」

 

「まぁ、そうなるよね〜♪」

 

「…曜ちゃんは気にならないの?」

 

「え…?」

 

「曜ちゃんにとっても…とても大切な人だったんじゃないの?」

 

「うん……そうだね。」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

千歌ちゃんと二人で後をつけて、数時間がたった…二人とも幸せそうにしている…君がいなくなってからずっと寂しい気持ちでいっぱいだったのに…。

 

今は…なんだかすごく悔しい…自分らしくないな…千歌ちゃんにあんなこと言っておいて私も結局ヤキモチ妬いてんじゃん…。

 

 

 

「…旅館に戻ろ?千歌ちゃん。」

 

「え!?どうして!?」

 

「これ以上尾行したって意味が無いよ。2人で旅館で待ってよ?」

 

「で、でも…。」

 

「千歌ちゃんが見たいなら、私は先に帰ってるけど…」

 

「うー、わかったよ…私ももう戻る…。」

 

 

 

~~~~

 

 

~帰り道~

 

「今日は楽しかったね…柚くん?どうしたの?ぼーっとしてるけど…」

 

「なぁ…梨子。もし俺が過去に恋人がいたとしたら…なんて思う?」

 

「え…?別にそれはどうも思わないけど…何かあったの?」

 

「…実は夜中に目が覚めて、偶然千歌に会って…」

 

 

『何も変わってないね…って言われたんだ。』

 

 

「…!?」

 

「…梨子は俺の小学生の頃を知っているんでしょ?だったら過去の俺のこと…教えてくれないか?」

 

「それは……」

 

本当に全て話していいのだろうか…それとも、記憶や視力のこと以外のことを話してあげるべきなのか…。

 

そう話していると、いつの間にか旅館の前に着いていた。

 

 

「教えてあげてもいいんじゃない?」

 

 

旅館の前に千歌が立っていた…それもう1人、薄いグレー色の髪の女の子がいる…。

 

 

「…どういうこと?どうして曜ちゃんがここに?」

 

「久しぶり、梨子ちゃん。伝えてなかったっけ?私はここの静岡出身なんだよ?」

 

「そ…そうだったの…。」

 

「ま…まてよ、教えてあげてもいいって…君は俺のいったい何を知っているんだ?」

 

「知ってるよ、小さい頃の君のこと。」

 

 

びゅうっと大きな風が吹く…海風のしょっぱい香りがする…。

 

そして、その風が止んだ時…その少女はこういった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『だって私は君のお姉ちゃんなんだから。』



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夏編: 幼馴染

「俺の…姉…?」

 

「うん、私は渡辺曜。柚くんのお姉ちゃんだよ~」

 

「はぁ…?嘘をつくなよ。だって俺の名前は風早柚…渡辺じゃない。そもそも、君とは今日初めて会った…」

 

「だ~か~ら~君は記憶がなくなってるんだって。風早って苗字じゃなくてさ……」

 

「デタラメを次から次へと言うな。俺は君みたいな女の子は初めて見た。」

 

「ちょ…ちょっと曜ちゃん。それくらいにして……」

 

私は止めに入った…これ以上彼の記憶を揺さぶったら…きっと何かが崩れてしまう…そんな予感がした。

 

 

「ふ~ん…見たことない…か…でも、私達って何か似ていると思わない?」

 

 

曜ちゃんが柚くんのそばに近づいて顔を合わせる…。

 

 

「だって私はあなたの双子の姉……」

 

「黙れ。」

 

「…っ!?」

 

 

柚くんが曜ちゃんをじっと鋭い目付きで睨む…こんな表情をする柚くんは…。

 

あの時…私を助けてくれた時と全くおなじ…。

 

 

「…もし仮にお前が俺の姉だとしよう。じゃあ、なんで数年間も俺の事を放っておいた?」

 

「……」

 

「俺が記憶喪失だとするなら、何故その事を伝えに来なかった!?」

 

「…それは。」

 

「じゃあ、俺をここまで育ててくれた母さんは一体何者なんだよ?」

 

「……ここだと場所が悪いや。旅館の中でゆっくり話すから…来て?」

 

 

曜はそのまま旅館の中に入っていった。

 

 

「柚くん…」

 

「千歌?」

 

「お願い…曜ちゃんの事をそんなに強く責めないであげて…」

 

「…そうだな…ごめん。」

 

「柚くん…ごめんね、私がいつまでも本当のことを話さないからこんな事になっちゃって…。」

 

「いや…これは誰も悪くない、梨子が気にすることは無いよ。」

 

 

私は部屋に戻りながら、柚くんに私達の幼い頃のこと…目の真相、記憶の損失を全て話した。

 

 

「そっか…だから梨子の事…どこかで見たことがあるって思ったのか…。」

 

「うん…いつか言わなくちゃって思ってたんだけど…。」

 

「俺の目…病気じゃなくて事故によるものだったのか。」

 

 

柚くんがうつむく…

 

 

「で、でも…あの時柚くんが私の事を助けてくれなかったら…私はきっと…。」

 

「そうじゃない…なんで俺の母さんは本当のことを教えてくれなかったんだろう…梨子の事もきっと知っていたはずなのに…どうしてずっと黙って…。」

 

「…それは、ちゃんとした理由があるのよ。」

 

俺たちの部屋の前で母さんが待っていたかのように立っている…。

 

 

「母さん…」

 

「あなたは、まだ幼い頃の小さな体で大型のトラックに衝突した…その時の脳への衝撃は異常な物だった…。」

 

 

そうだ…確かあの時…私も柚くんも小学三年生…。

 

 

「周りにすぐに駆け寄ってくれた大人の人たちがいたからあなたは直ぐに救急車に運ばれて、一命を取りとめた。」

 

「だけど…あまりにも強い衝撃だったため…無理に過去のことを話したりすると、人格が大きく変わってしまう恐れもあった。」

 

「それって…どういうことですか…?」

 

「簡単に言えば人格障害よ。記憶もなくし、視力も障害を起こし、さらに人格障害まで引き起こしてしまったら————」

 

 

「柚くん!!」ガラッ

 

 

千歌が勢いよく扉を開けて、部屋に入ってくる…。

 

 

「曜ちゃんが…曜ちゃんが…!!」

 

「…あいつに何かあったのか?」

 

千歌の顔が真っ青だ…

 

 

「どこにもいないの!!電話も繋がらないし…旅館の中にも居ないし…曜ちゃんの靴も無くなってるの!」

 

「外出する…とか言っていなかったの?」

 

「う、ううん…トイレに行くって言った後、消えちゃったみたいに…。」

 

「…すぐにこの旅館の辺りを手分けして探そう。最悪この辺りにいない可能性もあるかもしれないが…。」

 

 

 

いくら夏だからといっても七時前だと日はかなり落ちてくる…東京の街と違ってここは明かりは少ないから危険だ。

 

 

あれ…?これは…?

 

砂浜を歩いていると1足の靴が見つかった…。

 

あまり汚れていない…でも、なんで1足だけ…?

 

 

~~~~~

 

 

 

「よーちゃん…」

 

「千歌ちゃん、そっちには居た?」

 

「ううん…ごめんね、せっかくの旅行なのに付き合わせちゃって…」

 

「大丈夫よ、気にしないで。私は別のところを探してみるから。」

 

「う、うん…!」

 

 

千歌ちゃんと離れたその瞬間に私のスマホが鳴った…。

 

 

(…柚くん?)

 

 

「もしもし?」

 

「梨子か?」

 

「柚くん!曜ちゃんは見つかった?」

 

「いや…それより、今1人か?」

 

「え、うん…そうよ?」

 

「だったら千歌と合流した方がいいかもしれない、さっき曜の靴が片方だけ落ちていたのを見つけた、もしかしたら……」

 

「…まさか。」

 

 

柚くんの一言で私は察した…曜ちゃんは誘拐された可能性がある。

 

 

私は急いで千歌ちゃんに電話をしたが千歌ちゃんとも連絡がつかなかった…。

 

嫌な予感がする…。

 

 

 

~~~~~~

 

 

暗闇…薄れていく意識の中で誰かの声が聞こえる…もしかして助けが来たのかな…?

 

 

「ふっ…まさかこんな簡単に女1匹捕まえちまうなんてな…あんたの考えた作戦は完璧だよ。しかもこれは中々いい体をした女子高生だ。」

 

「あぁ…あの旅館の1番小さい娘だろう。この2人をまとめて狙いたかったが…。」

 

 

千歌…ちゃん…?どう…して…?

 

 

「この最初に捉えたこの女は中々凶暴だからな…1匹ずつの方が確実だ。」

 

「髪の長い綺麗な女もいたけど、あっちはどうするつもりなんだ?」

 

「…あの女はこの組織に大きく損害を与えた奴だ。あの女のそばには面倒なハエがくっついている。」

 

「まぁ…あの男が相当甘いヤツだったって事だな。」

 

 

私が寝かされているベットの隣に、ガムテープで口塞ぎをされた千歌ちゃんが寝かされた…。

 

私と同じように手足を縛られていて身動きが取れなくなっている…。

 

 

「さて…」

 

男達が私達の口元のガムテープを剥がす…

 

 

「こいつらはどのくらいの価値があるかな…」

 

私は恐ろしくって言葉も出なかった…そう、だって今私の目の前に居る男は…。

 

梨子ちゃんを電車で痴漢しようとした男…!

 

 

「…久しぶり♪」

 

「…っ!」

 

男はそっと…私の髪に触れた。

 

 

「あの時からずっと目をつけていたんだ~君のこと…おかげさんで全部わかったよ…君の個人情報をさ♡」

 

「そんな…」

 

「曜ちゃん…」

 

「もちろん君の情報もわかっているからね…高海千歌ちゃん?」

 

「君たちの恥ずかしい映像もたっぷりと俺たちの手にあることをよ~く理解した方がいいよ?」

 

この人たち…ここまで……!

 

 

「ひどいよ…こんなことしてあなた達は何がしたいの!?」

 

「…決まってんじゃん。」

 

 

 

 

『辱めだよ』

 

 

 

そう言って彼は千歌ちゃんの太ももを撫でるように触ってきた……気持ちが悪い、さっきまで狂気な表情をしていた彼らが。

 

まるで人が変わったかのように…性欲に強く飲まれこんでいるような顔をしている。

 

 

 

「ひっ…いや!!やめてえぇ!!」

 

「いいね…その声…もっと足掻け…足掻けぇ!!!そしてもっと俺達を楽しませろおぉ!!!」

 

「あ~あ…あんなに騒いじゃってさ…でも、安心して?俺は曜ちゃんに乱暴なことするつもりは無いさ。」

 

「もっと…楽しく…そして…ゆっくりと堕ちていくのを見てみたいからさ…」

 

「……ない。」

 

「あぁ?」

 

「私はお前達みたいな卑怯者には絶対に屈しない!!」

 

「卑怯者…ね…」

 

 

私を触っていた男がゆら~っと立ち上がり、千歌ちゃんの方へ寄っていった。

 

 

「卑怯者…そう呼ばれるのは嬉しい褒め言葉のようさ!!」

 

 

男が大声を出し、千歌ちゃんの服を破り捨てた…。

 

 

「いや…いやだ…」

 

「ふふっ…この子が崩れていく姿をよく見ておけ!!」

 

「曜ちゃん!!たすけて…たすけて!!!」

 

「千歌ちゃん…」

 

 

私のせいだ…私がまいた種なのに…みんなに迷惑をかけて…そして、千歌ちゃんが私の前で辱めを受けている…。

 

なのに…私は…何も出来ないの…?

 

 

胸を触られ、首を舐められて…いつか自分と愛し合ってくれる人となら…ってずっと思ってたのに…。

 

こんなに気持ちの悪い男達に触れられると涙と吐き気が止まらないよ…、

 

 

「下着の隙間から挿れてやる…普通にぶち込むよりも何倍も興奮するからなぁ…!!」

 

「いやっ…んんっ…」

 

「いま…甘い声が出ちゃったね…分かるかな?今俺の大事なところと千歌ちゃんの大事なところが当たっているのが…」

 

「お願いします…それだけは…それだけはやめてください……」

 

「ここまで来たら引き返せないね————」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「引き返せないから…なんだよ?」

 

「——っ!?あつい!?あづっ!!!!背中が焼けてる!?」

 

 

暗闇でよく見えない…けど、もうひとり誰かいる…今の声…

 

柚…くん?

 

「お前達のだろう?このライターは…馬鹿だなぁ…こんな馬鹿みたいに騒いでいたら俺が部屋に入るのも気づかなくて当然だ…。」

 

「バカな…どうしてここが…」

 

「千歌が教えてくれたんだ。」

 

 

柚くんがちぎれた貝殻のネックレスを見せつける…。

 

 

「おかげさんでこの辺りに千歌がいるんだろうなって思ったよ。そして小さな小屋を見つけて来てみたらこの有様だ…。」

 

「てめぇ…よくも俺の服を…!!」

 

「服…?お前みたいな性欲野郎に服なんか必要ないと思ってな。」

 

「このやろう!!!」

 

「……」

 

 

一瞬だった…バキッと大きく鈍い音が部屋全体に響き渡った…。

 

 

「あぁぁぁ!!!??足が…俺の足があぁぁぁ!!!!」

 

「なんだよ…もう折れたのか?」

 

「お、おい!お前も早く戦え!!!」

 

「あ、あぁ…」

 

 

もう一人の男が柚くんに襲いかかろうとするが…。

 

 

 

「……なんだよ?何震えてんだよ?」

 

「ち、ちげぇ!!震えてなんかいねぇ!!」

 

「お前らってさ…汚いやり方で女の子を脅すくせに…いざって時にはすぐに足がすくむ…ほんとに情けねぇよな。」

 

「な…なに…?」

 

「なんかもう、相手にすんのもバカバカしくなってきたよ。」

 

「ふ…ふざけるな!!!」

 

 

ドゴォッ!!

 

 

「…図体は俺よりでかいくせに弱々しいやつだな。」

 

「かはっ…ふふ…馬鹿め…油断したな!!!」

 

 

柚くんが相手に腹パンした瞬間だった…赤い光が柚くんの瞳を照らした…その途端…柚くんがもたれるようにたおれた。

 

 

「…レーザー…ポインター…?」

 

やばい…強い光浴びすぎるなって医者からも言われていたのに…左目が…全く見えない。

 

 

「奴はどこだ?」

 

「柚くん、君の左側に居る!!」

 

 

曜の声が聞こえたが…遅かった左側から思い切り首に蹴りが飛んできた…

 

初めてだ…こんなに深く蹴りを入れられたのは…。

 

倒れ込んだのに相手の姿が見えない…

 

 

「おい、お前もう立てるだろう?」

 

「あ、あぁ…いってぇ…右足が少しヒビが入ってる感じがするぜ…」

 

「それくらいならまだマシだ…早く引き上げるぞ。」

 

「で、でも…女は…」

 

「そんな足じゃ無理だろう、今は自分たちが優先だ…さぁ早く…」

 

 

 

『早く…?どこへ行くつもりなの?』

 

 

 

「ちぃっ…今度は誰だ!?」

 

 

あれは…果南ちゃん…?

 

 

「ほぅ…また女か…二人がかりでぶっ潰すぞ!」

 

「……ふっ」

 

 

鋭い音が部屋に響いた…。

 

「ぐは…あぁ…」

 

「悪いけど…幼なじみをこんな目に遭わせて…手加減なんかするつもりは無いからね。」

 

「…そんなこ、こんな女なんかに!!」

 

 

男が果南ちゃんの胸ぐら掴んだ…

 

 

「女だから…何?」

 

そのままレーザーポインターを取り上げる…。

 

「随分と面白いもので戦うじゃない…」グシャッ

 

「…そんな片手で…。」

 

「お、お願いします!警察だけは…警察だけは勘弁してください!!」

 

「警察?」

 

 

彼の言動に私は少し鼻で笑った…

 

 

「警察に行っておけばよかったと思えるくらいの…地獄を見せてあげるよ。」

 

 

私はもう一度拳を振り上げた。

 

 

「やめろ…!」

 

「…!?」

 

「もう…警察は呼んである…これ以上君が手を出したら君も罪に問われる危険性がある…。」

 

「だけど…コイツらは私の大切な…。」

 

「分かってる…だからその千歌と曜の為にも…これ以上は止めてくれ。」

 

「…わかった…私も少しやり過ぎた。」

 

 

~~~~~

 

 

「柚くん!!」

 

「梨子!悪い…警察を呼んでもらって。」

 

「そ、そんなことよりも大丈夫なの?そのケガ…目も…危ない状態になったって…」

 

「あぁ、今は普通に見えてる。心配ないよ。」

 

「よかった…」

 

 

曜、千歌、そしてもう一人の女性が俺のそばに近寄る…。

 

 

「ごめん…柚くん…私お姉ちゃんなのに何も出来なかった…これじゃあお姉ちゃん失格だよ…」

 

「別に曜のせいじゃない…そして、君が本当に俺の姉かどうかは信じてないけど…。」

 

『話…聞かせてよ、お姉ちゃん。』

 

「柚くん…お姉ちゃん嬉しいぞー!!」

 

 

ぎゅっと曜が俺の体を抱きしめてきた…胸の圧迫が物凄い…ここの地方の人達は一体どんな体をしているんだ…?

 

 

「へぇ~あの子が昔千歌が恋した柚くんか~」

 

「べ、別に今は好きじゃないし…」

 

「あ~別の子に取られて嫉妬してるの~?悲劇のヒロインだね~」

 

「う、うるさいなぁ……」

 

 

 

梨子が俺たちのところに近づく。

 

「曜ちゃん?柚くんは怪我人なんだからそれくらいにしなさい!」

 

「あれあれ~?梨子ちゃん嫉妬してる~?」

 

「むっ…こら~!!!」

 

「おい曜やめろ!!怒った梨子は俺が見た中で誰よりも怖いんだぞ!?」

 

「それはやばい…逃げるよ!」

 

「こら~!待ちなさ~い!!!」

 

 

 




恐らくこれが2018年最後の投稿になると思います。

では、良いお年を!


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夏編:思い出

今は夜の8時20分頃…ようやく落ち着いてきたので、部屋に集まって話の組み合わせが始まる…。

 

 

 

今わかっていることは、

 

俺は記憶を失っていること。

目が見えにくいのは病気ではなく事故によるもの。

そして、離れて暮らしていた姉と幼馴染がいたということ。

 

この3つだ…。

 

 

「…じゃあ話してもいい?」

 

曜が口を開いた。

 

 

「…まず、私達の両親はまだ私たちが幼い頃に離婚しているの。そして、父親は柚君を連れてお母さんは私を連れて…。そして、父親はその二年後に自殺…仕事を上手くいかないことに精神を崩し、自殺してしまった。」

 

「…そんな時に1人になったあなたをいち早く見つけてくれた人がいたわ。」

 

母さんが話に混ざる…。

 

 

「そこの…梨子ちゃんの母親があなたを保護したのよ?」

 

「え…?梨子の母親が…?」

 

「そして、あなたはすぐに私のところに預かることになったわ。」

 

「預かるって…じゃあ、母さんは俺の本当の母さんじゃないのか…?」

 

「えぇ、私はあなたの母親じゃない…。」

 

 

『自殺したあなたの父親の妹よ。』

 

 

母さんの一言で周りの空気が一気に凍りついた。

 

「そう…だからあなたに言ったのよ…本当の母親になれなかったって…強く当たってごめんね…。」

 

「いえ…私も何も知らずにこんなことを…」

 

「本当の母親になれなかった?何言ってんだよ母さん。」

 

「俺をここまで育ててくれたのは紛れもなく貴方だ…そんな人が母親じゃないだなんてこれっぽっちも思うはずがない…。

…だからそんな悲しいこと言わないでくれ。」

 

 

「柚……」

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~

 

 

話が終わり、俺と梨子は旅館の外で星を眺めていた。

 

「…今日はなんかすっきりした。今まで知らずにいた事が全部わかったような気がしてさ…」

 

「うん…私も。」

 

「梨子も?」

 

「うん!だって幼い頃の柚くんとの思い出は私にとっても大切な思い出の1部なんだから!失ってもいい思い出なんてないんだよ…!」

 

そう言うと、後ろから千歌と曜そして、果南が旅館から出てきた。

 

 

「…ほら千歌ちゃん?隠れてないでこっちおいでって!」

 

「…で、でも…。」

 

「しょーがないなぁ~じゃあ私が代わりに聞くから…」

 

「?」

 

「柚君と梨子ちゃんってやっぱり付き合ってるの?」

 

「…あぁ。」

 

「…そっか、そうだよね…。」

 

 

千歌が少し顔を暗くしてうつむく…そして、その場を去ろうとしたその時…。

 

 

 

「まって、千歌ちゃん。」

 

「梨子…ちゃん?」

 

 

梨子が千歌の手を握った…。

 

「柚くんに…伝えたいことがあるんでしょう?」

 

「…どうしてわかったの?」

 

「…なんとなく、そんな感じがしたから…で、どうなの?」

 

「千歌ちゃん、ここで伝えないと…きっと後悔するよ?」

 

「曜ちゃん…」

 

「迷ったらすぐ行動!これがいつもの千歌のはずだよ?」

 

「果南ちゃん…!」

 

千歌が小さく「よしっ」と声を上げ、俺のそばに近寄る…。

 

 

「これ…覚えてないかもしれないけど……」

 

千歌が少し背伸びをして、貝殻で出来てているネックレスを俺の首にかけた。

 

「柚くんが引っ越しちゃう前に私にくれたんだよ…?だから…また会えるまで…だからずっと大切に持っていたの…!そして…ずっと待って————!!」

 

 

…何気ないほんの一瞬だった…柚くんの手が私の背中を包むようにして…そっと私の体を抱きしめてくれた…。

 

 

「今は何も思い出せなくて本当にごめん。だけど…ずっと大切に…そして忘れずにいてくれて…ありがとう。」

 

「柚くん…」

 

小さい頃からそうだ…あなたの体は本当に暖かくて…辛い時も悲しい時も…その胸で優しく抱きしめてくれていた…。

 

あなたは本当に変わらないね…。

 

 

「いいの?梨子?」

 

果南さんが私に少しちょっかいを出すように話しかける。

 

「はい♪今日は特別…かな。」

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

夏休みも無事に終わり、またいつもの日常が戻ってきた…。

 

そして俺はいつも通り遅刻ギリギリになっていた。

 

 

『また遅刻?』

 

『ごめん…』

 

『どのくらいかかるの?』

 

『もう少しかかる…先に行ってもいいよ?』

 

梨子のLINEを返しながら急いで準備をする…。

 

そして、玄関を開けると、梨子が出迎えていた…

 

「どうして先に行ってなんて言うの?」

 

「え…いや…ごめん…なさい。」

 

「ふふっ冗談よ♪」

 

 

梨子が笑顔で俺の手を握る…

 

 

「いっしょに走ろう!」



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口は災いの元?

「いやっ…柚くん…こんなことダメだよ…」

 

「……梨子がいけないんだ。」

 

 

どうしてこんなことになってしまったんだろう…だって今日は体育があって…。

 

 

 

~~~

 

 

今までだったら体育の授業は男子と女子が分かれていたが、あの時の事件でうちのクラスの男子が大幅に減り、元々男子の人数も多くないこの学校なので、俺達のクラスは男女混合の授業になることになった。

 

 

「しまったな…どうしよ…。」

 

「柚くん?どうしたの?」

 

「体操服持ってくるの忘れちゃってさ…ほかのクラスに借りようとしてもほとんどが女子だから借りようにも借りにくいし…それに5時間目だから使い終わっちゃってるのがほとんどだと思うし…。」

 

 

柚くんみたいな男の子だったら、みんな心良く貸してくれると思うんだけどな…

 

 

「じゃあ、今日は私が体操服だけで過ごすからジャージは柚くんが使ってもいいよ?」

 

「ホントか?それは助かるよ…!」

 

 

俺は梨子からジャージだけを借りて教室をあとにした…とりあえず、更衣室に入り、ジャージを着てみる…。

 

 

うん…サイズ感は全く問題ないな…梨子と俺は身長はほとんど変わらないし…。

 

だけど名前がなぁ…左胸のところに桜内って書いてあるのが…なんかちょっと恥ずかしい…。

 

 

…梨子の匂いがする。

 

 

 

~~~~~

 

 

 

「…じゃああとは2人組で柔軟が終わったらバスケットを始めるので…」

 

 

先生が指示を出したので早速ペアを探しに…あ、そうか…今男子は奇数のだから1人余っちゃうのか…じゃあ早くペアを。

 

 

「誰かいないか…?」

 

 

…人数が少ないからしょうがないか。

 

ポツリと俺は一人になってしまった…

 

 

「柚くん?」

 

「あれ?梨子はペアは組んだのか?」

 

「うん、柚くんは…」

 

「ご覧の通りだよ。」

 

「あ…はは…」

 

「あれ?柚ちゃん1人なの?じゃあ私別のこと組むから梨子ちゃんと組みなよ~」

 

 

俺と同じサッカー部の女子がそう言って別の子と組に行ってしまった…。

 

「…せっかく気を使わせちゃったし…私と組む?」

 

「お願いします…。」

 

 

 

「…じゃあ、始めるね?」

 

俺が脚を開くと、後ろからゆっくりと梨子が身体を押し付けるように俺の身体を倒す…。

 

「痛くない?」

 

「うん、大丈夫だよ。」

 

「柚くんって結構体柔らかいよね~」

 

「あぁ、昔から結構柔軟は得意だったから…」

 

 

梨子の胸が俺の背中にピッタリとくっつき…柔らかな感触がつたわってくる…。

 

 

…とくん…とくん…と梨子の心臓の鼓動が少し聞こえる…

 

何気ない表情をしていても、梨子もやっぱり意識しちゃっているみたいだ。

 

 

「じゃあ、次交代ね。」

 

 

今度は梨子が脚を開き、俺が身体を押してあげる…。

 

 

「んっ…!」

 

「ご、ごめん!痛かった?」

 

「だ、大丈夫…久しぶりに柔軟したからびっくりしちゃっただけだよ。」

 

 

…俺が大丈夫じゃないんだよ。

 

こんな調子じゃ心臓がもたない。

 

 

「じゃあ、次は横な……ん?なぁ、梨子。」

 

「…どうしたの?」

 

「…ちょっと太ったんじゃない?」

 

「え…?」

 

梨子の横腹を少しつつくとなんかいつもよりも柔らかい感じがした…。

 

 

「まぁ、俺の勘違いかもしれないし、見た感じそんなに変わってないから気にしなくても…」

 

「……///」

 

「…梨子?」

 

「もうっ!バカっ!!なんで最近気にしてることをすぐに気づいちゃうの!?」

 

「え…!?」

 

珍しく梨子が大きな声を上げたので、周りが一瞬でしーんと静まった…。

 

 

「もう…ばかばかばか…!ばかぁ…///」ポカポカ

 

「い、痛いって…ごめんってば…!俺が悪かった……」

 

「……」ツーン

 

 

やっばいなぁ…梨子を怒らせてしまった…。

 

こうやっていつものキャラを忘れて怒った梨子が1番めんどくさいんだよなぁ…可愛いけど。

 

 

 

そして、バスケの試合…俺に言われて気にしちゃったのだろうか…いつもより梨子の動きがキレッキレだった。

 

 

~~~

 

 

「やったよ柚くん!こんなに沢山ゴールを決められたよ!?」

 

「うん、梨子はよくやったよ!」

 

よ、良かった~…梨子にボールをたくさん回して正解だった…。

おかげで機嫌も良くなったし…助かった…。

 

 

「…あれ?梨子…左の薬指…」

 

梨子の左手を見ると、薬指の爪が少し割れちゃっていた。

 

「あ…張り切りすぎちゃったかな?…絆創膏無いし保健室行ってみようかな。」

 

「そっか…じゃあ…」

 

「…一緒に」

 

「わかったわかった。」

 

 

~~~

 

 

「失礼しま~…あれ?誰もいないや。」

 

「ほんとだ…珍しいね誰もいないなんて…。」

 

 

とりあえず、絆創膏を拝借し、梨子の指に貼り付けた。

 

 

「…これで大丈夫かな。」

 

「ありがとう柚くん♪それにしてもよく気づいたよね?」

 

「まぁ…梨子のことはよく見ているからさ。」

 

「そ、そうね…ありがとう///」

 

「…///」

 

「…///」

 

 

沈黙が少し続いた…。

 

 

「…なんか二人きりの保健室って緊張するね…///」

 

「…梨子。」

 

 

いつの間にか俺は梨子の唇にキスをしていた…。

 

無自覚に少しやらしい声を上げたり…自分のジャージを俺に貸してくれたり…君は自覚が足りなすぎるよ…

 

…もう我慢の限界だった。

 

 

「——っぷはっ…ゆ、柚くん?」

 

「……ごめん。」

 

そのままソファに押し倒す…。

 

「ダメ…柚くん…学校でこんなことダメだよ…」

 

「…梨子が悪いんだ。」

 

梨子の体操服の中に手を入れそのままブラをずらす…。

 

綺麗な胸が俺の視界に無め尽くされた。

 

 

「いやっ…そんな所見ちゃダメ…!」

 

「…気にしないで、すっごく綺麗だから。」

 

そのまま胸に触れる…。

 

…この感触…久しぶりだ。

 

手に収まる綺麗な形…触れる度に梨子がやらしい声を出すので俺の手が止まることなく動いている…。

 

 

「やだっ…汗かいちゃってるから恥ずかしいよ…」

 

「…梨子、静かにしないと外に聞こえちゃうよ?」

 

そのまま…口を塞ぐように梨子にもう一度キスをした。

 

 

そして、梨子のズボンとパンツを下げた…。

 

「やっ…見ないで…」

 

 

涙目になって…顔を真っ赤にして梨子が目をそらす…。

 

今日は可愛らしいピンク色の下着だ…下着にも梨子のいやらしい液が染み付いている…。

 

 

「…こっち向いて?」

 

「だめ…恥ずかしくて柚くんの顔が見れないよ…///」

 

「…梨子」

 

「んっ…耳元で喋っちゃ…いや…」

 

 

そして、梨子のアソコに指を触れた…ぐっしょりと濡れている…。

 

 

「…もう挿れてもいいから…もう意地悪しないで…」

 

「わかった…」

 

 

最後に軽く脚を開かせた…。

 

 

 

「…いれるよ…梨子。」

 

「うん…♡」

 

 

 

 

 

~~~~~~

 

そしてもう既に6時間目の終わりのチャイムがなっていた…。

 

「…もう…まさか学校ですることになるなんて…」

 

「ご、ごめんなさい…」

 

「…もし先生が途中で帰って来ちゃったらどうするつもりだったの?」

 

「……」シュン

 

「別に怒ってないよ。強引だったけど…気持ちよかったから…///」

 

「…ごめん…前に怖い思いしてるのにこんなこと…。」

 

 

俺がそういうと梨子は少し笑った。

 

 

「…柚くんなら何されてもいいよ♡」

 

「梨子…」

 

 

今度は梨子からキスをしてくれた…。

 

「大好きよ…」

 

「俺も…」

 

 

ガラッ!

 

 

「柚ちゃん?梨子ちゃん?いつまでそこ…に…」

 

「あ…」

 

 

もう遅かった…同じサッカー部の子にバッチリ見られてしまった…。

 

 

「ご、ごめん…もう声が聞こえなくなったから既に終わっているのかと…」

 

「聞こえなくなったらって…え…?」

 

「ま、詳しくは部室に来れば分かるんじゃない~?それじゃあ私はこれで~」

 

「ま、まて…話はまだ…!!!」

 

 

9月いっぱい…梨子の誕生日の事…そして、この保健室の出来事がずっと話題にされて部活のメンバーにいじられまくったのは言うまでもなかった…。

 

 

でも、それまで他の人にはバレないように考慮してくれてたらしいのでぶっちゃけ恨んで等はいない。むしろ感謝している。

 

けれど…もう二度と学校でえっちな事はするもんじゃないな。

 

 



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お姉ちゃんと従姉妹

早朝…こんなにも朝早く起きたのには理由がある。

 

 

今日は1番早い新幹線に乗ってまた静岡に向かわなければならない…理由は一通のメッセージからだ。

 

 

送り主はそう…渡辺曜。

 

 

『やっほ~柚くん元気?夏休み終わって急に悪いんだけど、もう一度沼津へ来てくれないかな?会わせたい人がいるんだ~!』

 

 

PS.行きと帰りの交通費は後払いで☆

 

 

後払いね…まぁいいか、とりあえず早く家を出ないと…。

 

 

「さて行くか…」

 

玄関を開けると、丁度ばったりと梨子と遭遇した。

 

 

「あれ?梨子こんなに朝早くどうしたの?」

 

「えっと…これ…!」

 

梨子がオシャレなボックスを渡す…。

 

 

「朝…食べてないかと思って。昨日早朝から出かけるって言ってたから…。」

 

「お弁当?ありがとう!助かるよ。」

 

「あと…気をつけてね?この前みたいに変な人たちに巻き込まれたら…。」

 

「大丈夫…ちゃんと帰ってくるよ。」

 

 

俺は梨子の頭にポンっと軽く手を置いた。

 

 

「もうっ…」

 

「…じゃあ行ってくるね。」

 

「うん、いってらっしゃい♪」

 

 

 

 

新幹線に乗り、静岡駅に降り、さらにそこから沼津行きの電車に乗り換え、約3時間ほど…。

 

 

 

…やっと着いたか。

 

 

改札を出ると待ち伏せていたかのように、曜が手を振っている…。

 

曜の隣にもうひとり誰かいる…誰だ?

 

 

「おかえりなさ~い♪はるばるご苦労さまであります!」

 

「ただいま…来るのも楽じゃないのに急に連絡よこすんだから…んで、そこの隣にいる人は誰?曜の彼氏か?」

 

「あぁそうか…今の柚くんは初めて会うんだっけ?」

 

「こんにちは柚くんボクは渡辺月!よーろしく♪」

 

 

曜によく似た口調の人は帽子を取って挨拶する…。

 

帽子を取ったその人の姿は紛れもなく女性だった。

 

 

「あ、あぁ…よろしく。」

 

「月ちゃんはね、私の従姉妹で…柚くんが小さい頃からずっと面倒見てくれてたんだよ?」

 

「そ、そうだったのか…ごめん君のことを覚えていなくて…。」

 

「うぅん気にしなくて大丈夫だよ!…そんなことより」

 

 

そう言って彼女は俺の体を抱いた…。

 

「…会えてよかった。」

 

 

どうしてだろう…何もかも忘れてしまって今日初めて出会ったはずなのに…。

 

暖かい温もりを感じる…絶対にこの女性とはどこかで会ったことがある人だ…絶対に忘れてはいけないくらいに大事な人なのに俺は…。

 

 

「こんなに大きくなっててボクは感激だよ!」ギュゥ~

 

 

痛い…めちゃくちゃ力強いなこの人…やっぱり曜と同じ血を引いているだけある…。

 

 

「こ~ら月ちゃん柚くん困ってるでしょ?」

 

「えへへ~」

 

 

…そう言って彼女は俺のそばから離れた…。

 

 

 

「では、行くとしますか!月ちゃん柚くん!」

 

「…行くってどこへ行くんだよ?」

 

「曜ちゃんの家だよ!ボクも何度もお邪魔してるけどいいところだよ~♪」

 

 

曜の家…か…ってことは俺を産んだ本当の母親に出会えということ。。

 

 

「さぁ行くよ柚くん!」

 

そう言って曜が手を差し伸べる。

 

「え…いいよ別に繋がなくても」

 

「え~なんで~?」

 

俺が手を引っ込めると…

 

「柚くん?」

 

月がウィンクしてサインを送る仕草をした…

 

 

「…わかったよ。」

 

「やった~柚くん真ん中ね!」グイッ

 

「え?」

 

 

横でニコニコしながら月が手を差し伸べる…。

 

 

 

 

……世の中には両手に花という言葉がある。

 

だけどそれはあまりにも恥ずかしいことであるということをよく理解できた。

 

 

 

 

~~~~~~~

 

 

「じゃーんここだよ~♪」

 

 

結構立派な家だ…人を何人も呼んでパーティができそうなくらい大きい…。

 

 

曜がインターホンを鳴らすと扉が開き、中から曜によく似た綺麗な女性がでてきた…。

 

 

「曜おかえりなさい、月ちゃんもいらっしゃい~。」

 

この人が…俺を産んだ本人…。

 

 

「そして…柚…おかえりなさい!」

 

 

…そう言ってその女性は涙ぐむ。

 

…俺も辛かったかもしれないが1番辛いのはこの人だ…本来育てるはずだった俺を離婚した夫に連れていかれ…

 

その先で俺は記憶をなくし、父親は見捨てるように自殺をした。

 

…そして、小さな体で記憶に負担をかけてしまうと人格まで壊れてしまう恐れがあると警告をされたらしい。

 

 

あれから数年…ようやく大きく成長して…体が安定してきてようやく本物の母親として迎え入れることが出来たのだ…。

 

 

「ごめん…ずっと会えなくて。」

 

「何言ってるのよ…?謝るのは私の方…あなたをあの人に渡さないでいればこんなことにはならなかった…。」

 

 

母親が泣き崩れそうになったのでそっと自分の方に寄せて抱きしめた…。

 

 

「…昔のことなんて関係ない。あなたは立派な俺の母親だ。」

 

「柚…でも…あなたの小さな頃の思い出は…」

 

「記憶が戻らなくたって大丈夫…!もう一度ここにいる家族と楽しい思い出を作れれば…俺はそれだけで満足だよ。」

 

 

俺は涙をこらえながらそう言った。

 

 

「…ほんと、あなたは優しい子に育って良かった…。いいお母さんに出会えてよかったわね…。」

 

「あなただって俺にとってはとても大切な母親だよ…。」

 

 

~~~

 

 

 

母親との話も終わり、一旦曜の部屋に3人で集まる…。

 

 

部屋の辺りを色々見渡してみると、机の上にある1枚の写真が気になった。

 

 

「曜、この男の人は誰だ?」

 

「うん?その人は私のパパだよ♪」

 

「パパ?いつの間に再婚していたのか…母さんは。」

 

「うん!船長をやっていてね、すご~くカッコイイんだ~♪私の一番の憧れ☆」

 

「そうだよ~曜ちゃん隙あらばいっつもお父さんか千歌ちゃんの話ばかりでね~」

 

「つ…月ちゃ~ん…///」

 

「照れなくてもいいじゃん~♪そんなことよりも、あれはやらなくていいの?」

 

「…もちろんであります!」

 

 

曜がそう言うと、2人がニヤニヤしながら俺のそばによる…何を考えているつもりだ…?

 

そして、曜が部屋の鍵をかけ…クローゼットを開ける。

 

すると大量の制服が出てくる…

 

 

「柚くんってさ、可愛い顔してるから結構似合うと思うんだよね~♪」

 

「ささ、ここからはボク達に任せて~♪」

 

 

…どうしよ、2人の笑顔がなんかちょっと怖いな…。

 

「…でも、俺のサイズだとそれはその制服は入らないんじゃ…」

 

「大丈夫大丈夫、柚くん体細いし背もそんなに高くないからきっと似合うよ♪」

 

 

曜…貴様俺が気にしていることをそのまま言いやがって…!

 

 

「じゃあ始めまーす!」

 

 

 

 

…35分後

 

 

「うわぁ~!柚くんすっごい可愛いよ~!不思議の国のお姫様みたいだよ~♪」

 

「うん!お人形さんみたいですっごく可愛いよ!」

 

「…そいつあどうも。」

 

 

鏡を見るとふわっふわなドレスを着せられ、たくさんの装飾品を付けられ、髪もいじられた…

 

…いつもの自分はどこへ行ってしまったのだろう

 

 

「…凄い!こんな可愛い子をボク達しか見ていないだなんて勿体ないよ!」

 

「…という訳で、千歌ちゃーん入ってきていいよ~!」

 

「はーい!おぉ~!すごいねぇ~本当に可愛い女の子になっちゃってるよ!」

 

 

千歌…!?いつの間に呼んだんだ?

 

 

「果南ちゃんも入ってきていいよ~」

 

「はーい…おぉっ…!これは凄い本当に女の子じゃん!」

 

「…男なんだけど。」

 

「でしょ!?柚くん可愛いでしょ?」

 

 

さっきからカシャカシャ音が聞こえるんだが…誰だ?写真がを取っているのは…

 

「果南、その写真をどうするつもり?」

 

「ん~?梨子ちゃんにも送ってあげようかな~って!」

 

「はぁ…好きにしたら…?」

 

 

止めても無駄だろうから適当に流した。

 

 

『梨子ちゃん、この子だーれだ?』

 

『え…!?柚くん!?可愛い~』

 

『でしょ?てか、既読つくの早いね梨子ちゃん。』

 

『果南さん、とりあえずその写真違う角度からもあと5枚くらい貰えますか?』

 

『あ、はーい』

 

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

あの後、月と曜のふたりと一緒に海を見に行くことにした…夏休みに来た時のように綺麗に夕日に照らされていてとても綺麗だ…。

 

そして、千歌と果南の2人はすぐに家の手伝いに戻って行った。こんな事のために呼び出されたのと思うと…この人達の関係は本当に楽しそうだな…。

 

 

…俺も小さい頃はあんな感じでこの人達と一緒にいたのかな?

 

 

 

「どうしたの?柚くん…そんなに内浦の海が綺麗かな?」

 

「曜…俺思うんだ、さっきは母さんに記憶が戻らなくても大丈夫って言った…。でも…小さい頃の記憶だってかけがえのないもの…やっぱり思い出せなくて辛いんだ。」

 

「柚くん…」

 

「夏休みに千歌と初めて会って…どうして忘れちゃったの?って泣き崩れるように言われた時の事をよく思い浮かべるんだ…。あんなに泣きながら俺に思い出して欲しいもの…そう考えるだけで胸が痛くなる。」

 

「そっか…そうだよね。」

 

「曜は…千歌と幼馴染なんだろ?何か…知っているんじゃないのか?」

 

「…それを曜ちゃんの口から言わせて、きっと1番辛いのは千歌ちゃんなんじゃないかな?」

 

 

 

月が会話に挟む。

 

 

「きっと千歌ちゃんなら…いつか、勇気を振り絞って全てのこと話してくれる…だからその時まで待っていてあげて欲しいんだ。」

 

「…そうか…ごめん曜。」

 

「大丈夫だよ柚くん…それとね?」

 

 

曜がそう言って俺の身体を抱きしめる…。

 

 

「…あなたは大切な家族。記憶が戻らなくてもあなたは大切な人…だから辛い時や不安な時は…私達を頼って?私はあなたの…世界でたった一人のお姉ちゃんなんだから…。」

 

「…そうか…そうだよな。」

 

 

俺には大切な家族がいる…だけどその人達のことは思い出せずにいる…記憶が戻らなくて、まだ初めて会う人のように意識してしまう…。

 

でもこの人たちは俺を家族として迎え入れてくれている…無理かもしれないけれど、やっぱり今すぐにでも昔の頃の記憶を取り戻したい…。

 

でも、そうしたら今付き合っている梨子の事をどう思うようになっているのだろう…。

 

そう考えると不安な気持ちになる…。

 

 

 

 

…俺は今何をすべきなのだろう?



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わんぱくなお姉ちゃん

お久しぶりです!だいぶ空いてしまって申し訳ないです…。




「じゃあ、このお部屋自由に使ってていいからね~」

 

「あぁ、助かるよ曜。」

 

 

日帰りで帰る予定だったが、やっぱり気持ちが落ち着かず、泊まっていくことになった。

 

もちろん部活の先輩、梨子にもしっかりと伝えてあるので問題は無いだろう。

 

 

 

…その後

 

 

 

お風呂も入らせてもらって気分も良くなっているはずなのに、やっぱり何かが引っかかって落ち着かない。

 

 

幼い頃のことを考えれば考えるほど疑問が湧いてくる…そして、頭の奥でズキっと痛みが出てくる。

 

今は体が抵抗力があるからいいのかもしれない。だけど、医者の言う通り小さな頃にこの症状が出ていたら今俺はどうなっているのか想像もつかない。

 

 

…すべてを思い出した時。俺は一体どうなっているのだろう。

 

今ここにいる風早柚…幼い頃を知る曜や千歌の渡辺柚…

 

きっと全てが全く同じでは無いはずだ…少なくとも何かが違ってきているはずだ。

 

今の俺を捨てて、昔の頃の記憶を撮り戻して幼馴染達の知る自分に戻すべきか。

 

このまま何も思い出さないで今の自分を捨てずに生きていくか。

 

 

…俺にはひとつだけを選ぶなんて出来ない…出来るなら全てを背負って生きていきたい。

 

今の俺という人間。昔の俺という人間。

 

どっちも俺自身だ。

 

…だけど…記憶をなくす前の自分は心と性格は違うはず。

 

 

 

「柚くん~入るよ~」

 

「曜?何しに来たんだ?」

 

「えへへっ寝るまでまだ時間あるからトランプでもしよ♪」

 

 

2人でトランプとなるとゲームも限られてくる。

まぁ、ポーカーとかスピードとかそのくらいだろう。

 

「『しんけんすいじゃく』やろうよ!」

 

まさかの予想の斜め上…

 

 

 

 

 

 

 

~15分後~

 

 

「え~柚くん強いよ~…!」

 

「…さすがに2人でひとつのトランプだとかなり時間かかったな…」

 

「でも、トランプの半分以上を揃えた柚くんは凄いな~記憶力いいんだね~♪」

 

「…そうかもな。」

 

「あ…ご、ごめん…そんなつもりじゃ…」

 

「ううん、気にしないで。」

 

 

二人の間に沈黙が続いた…。

 

 

「なんか…眠たくなってきちゃったね。…一緒に寝よ?」

 

「ダメだって、梨子にバレたら怒られるから。」

 

「私はお姉ちゃんなんだよ?姉弟なんだから気にしなくても大丈夫だよ♪」

 

「で、でもなぁ…恥ずかしいし…」

 

「もぉ~じれったいなぁ~!」

 

 

ベットの上で曜が飛びつくように抱きしめてくる…

 

 

「お、おいおい…離せって…!まだ夏が終わったばっかなんだから暑いだろ!」

 

「い~や~だ~今日は一緒に寝るぅ~!!」ムギュ~

 

「いきなり飛びついてきやがって…お前は犬か!」

 

「わんちゃんだも~ん…曜ちゃんわんちゃんだよ~ワンワン♪」

 

「ハイハイそうだねー、離れよーな」

 

「い~や~!どうせいつも梨子ちゃんと毎日ピッタリくっついて寝てるんでしょ~?」

 

「はぁ!?なんでお前がそれを知ってるんだよ!?」

 

「あ、ホントにしてたんだ…。ヒュヒュー」

 

「曜…貴様ァ…!!!!」

 

 

 

~~~~~

 

 

「落ち着いた?柚くん?」

 

「こっちのセリフだ。」

 

あれから15分よく分からない競り合いが続いてた…これから寝ようって時に暴れ出すもんだから疲れてしまった…。おかげさんでゆっくり寝られそうだ。

 

 

「なんか…疲れちゃったね。」

 

「誰かさんのせいでな。」

 

「え~私は悪くないよ~素直にならない柚くんが行けないんだよ~だ。」

 

「ハイハイ悪う御座いました。」

 

「でも、安心したよ。柚くんが楽しそうで…」

 

「1番楽しそうなのは曜だけどな。」

 

「今、私が喋ってるから黙って。」

 

「あ、はいすみません。」

 

曜が横を向いて真剣な顔をして俺に話し始めた。

 

 

「ずっと会えなくて私は寂しかったんだ…今の君にはどんな風に私が見えているかは分からないけど、前のパパに柚くんが連れられて行く時…寂しくて会いたくて会いたくてしょうがなかった…。」

 

 

少し声が震えているように聞こえる…だけど曜は…いや、お姉ちゃんはそれでも笑顔で俺に話してくれてる。

 

記憶が戻ったとして、今の自分が変わってしまう前に…この人の顔…感触…ずっと忘れずにして行きたい。

 

 

「柚くん?」

 

「…もし、全てを思い出して曜達の知る俺に戻れたとしたら…梨子は俺の事をどう思っていると思う?」

 

「どうだろう…私は梨子ちゃんじゃないから分からないけど、きっと…梨子ちゃんならどんな柚くんでも心よく受け止めてくれるはずだよ。」

 

「…そうだな、そうだといいな。」

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

……?あぁ、そうか…曜と一緒に喋りながら寝てしまっていたんだ…。

 

…動けない、梨子の時もそうだったけど曜もあまり寝相は良くは無さそうだ…。

 

 

「すぅ…すぅ…」

 

…幸せそうに寝てるな…起こすのもちょっと可哀想だな。

 

…俺ももう一度寝ようか…ん?

 

 

カシャ…カシャ…

 

 

「…あ、起こしちゃった?」

 

「…月?一体それをどうするつもりなんだ?」

 

「うん?だって勿体ないじゃん。」

 

「へ?」

 

「こんなに仲良しな二人を見ているのをボクだけだなんて勿体ないよ!」

 

「おい待て!何をするんだ!!」

 

「う~ん…柚くんどうしたの…?って月ちゃん?」

 

「あ、曜ちゃん~ほらみて~二人ともすっごく幸せそう~」

 

 

月が曜に写真を見せる…

 

「あ…あぁ…///」

 

「仲良しだね☆」

 

「うわぁ~ん…!穴があったら入りたい~!!!」

 

 

 

~~~

 

Twitt○r

 

ボクのいとこの2人!

いくつになってもずっと仲良し☆

(フォト付き)

 

~~~

 

 

梨子は月のことをフォローしていなかったのでバレてはいないと思うが…いつか油断してバレそうで怖い。



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イメチェン?

お久しぶりです…!

お待たせしてしまって申し訳ありません…!


あれから一泊して帰ってきた…何だかとても長い一日のように感じた。俺にはまだ知らなかったもう1人の母親の顔。従兄妹の存在。

 

でも、まだまだ知らないことが沢山ある。千歌との幼い頃の約束。

俺の父親はどんな人物であったかも知らない。

 

 

そう考えながらスマホを開くと、梨子が駅まで迎えに来てくれているみたいだ。

 

 

改札に近づくと出口側の方に梨子が軽く手を振って待っていてくれていた。

 

 

「おかえり、柚くん。」

 

「あぁ、ただいま。」

 

 

なんだか久しぶりに会った感覚だ…。

 

 

「柚くん、疲れてない?何か荷物持とうか?」

 

「ん?大丈夫だよ。そんなに沢山荷物は持ってきてないし…あ、そうそう!梨子のお弁当めっちゃ美味しかったよ!」

 

「ふふっありがとう♪柚くんはいつもおいしいって言ってくれるから嬉しいよ♪」

 

 

自然にふたりで手を繋いだ。そのまま一緒に駅を出ると少し冷えた風が襲う…。

 

 

「少し気温が下がってきたね。」

 

「もう秋だもんな~季節の変わり目は寒暖差が大きくて困るよ…昨日はあんなに暑かったのに。」

 

「うん…確かに…。あ、そうだ柚くん。」

 

「ん?」

 

「明日放課後一緒にお買い物に行かない?秋服とかそろそろ欲しいし…」

 

「そうだな、じゃあ行こうか。」

 

「うん♪」

 

 

 

~~~~~♪♪♪♪~~~~~

 

 

…放課後…

 

「柚くんはいつもどこで服を買ったりするの?」

 

「んー、まぁ色々回るけどハイブランドとかだと結構な値段しちゃうから、大体コスパ良い所かな。梨子はどうなの?」

 

「私も同じ感じかな。安くて可愛いものばっかり買っているよ。」

 

 

そんな会話をしながら2人で電車に乗り、渋谷まで移動した。

 

 

 

 

ここに来るのも久々だ。初めて梨子と買い物に出かけた時も渋谷だった。

 

 

「う~ん…どれにしようかな…柚くんはどれがいいと思う?」

 

「んー、そうだな…これなんてどうだ?」

 

 

俺はあえて普段梨子が着ていないようなオーバーサイズの黒いパーカーを渡した。

 

「え…こ、これ?」

 

「うん、あとこれ。このショーパンも合わせて着てみて?」

 

「う、うん…」

 

 

半ば強制的に柚くんに試着室に連れて行かれた。

 

試着室に入って改めて柚くんの選んだこの服、普段私が着ない系統だけど…。

 

大きめのパーカーに色は黒。でも、所々に可愛いデザインが入っていて結構いいなって思う。

 

そしてこのショーパン…これにこのパーカーと合わせて着てみる。

 

 

 

シャーッ…

 

 

「お、出てきた。」

 

「ど、どうかな…?」

 

 

大きいサイズのパーカーが下のショーパンを隠すくらいの大きさなので、チラッとショーパンが見えるような見た目になった。

 

 

全国の高校生、いや男子諸君ならきっとわかるだろう。パーカーが大きくて下のズボン見えてなくてちょっとずらしたら…

 

あ、履いてるんですね。

 

 

みたいな感じ。きっとこんな感じな服装が好きな男子は全国に沢山いるはずだ。それに、梨子は私服は清楚系な物が多いのでちょっとゆるストリートを着させてみたかった…。

 

まぁ、俺の好みに寄せているって言うのもあるけど。

 

 

「ちょっと梨子、こっちきて座って?」

 

「う、うん。」

 

「あ、それとヘアゴム持ってる?できれば透明の。」

 

「あ、あるけど…?」

 

 

私は疑問に思ったまま柚くんにゴムを渡す。

 

 

そして、柚くんは無言のまま私の髪をいじり始めた…一体私をどんな風にしたいんだろう…。

 

 

…ちょっと期待して待ってみよう♪

 

 

 

 

 

 

~5分経過~

 

 

「はいっ!完成!鏡ちょっと見て見て。」

 

「は~い…。わぁ…!凄い…!!」

 

 

編み込み✖️ポニーテールの合わせが効いて。いつもと違う私が鏡の前に現れていた。

 

普段おろしているこの髪だけど、こんな感じにアレンジするだけでちょっと髪が短く見えるから、今着ているこの服にすごく似合っている…。

 

 

「柚くん、どこでこんなアレンジを覚えたの?」

 

「まえに、曜の家に泊まりに行った時に偶然ファッション雑誌が乗っていたから。髪とかいじられている時、暇だったからちょっと見て覚えたんだ。」

 

「一回読んだだけじゃこんなに綺麗に出来ないよ…柚くんは器用ね♡」

 

「そうかな…?で、どう?この服気に入った?」

 

「うん!いつもと違う感じにしたい時に凄くいいと思う♪これにするよ!」

 

「そっか…!それはよかった。あと、それとね…」

 

「?」

 

「パーカーを膝下まで伸ばしてみて?」

 

「え…こ、こう?」

 

 

梨子が少し恥ずかしそうにパーカーを伸ばす…ショーパンが見事に隠れて…うん、まぁ…あれだ。

 

男子の好きなやつだ。

 

 

「(柚くんってこんなのが好きなのかな?)」

 

 

「じゃあ、着替えて早く会計を済ませようぜ。」

 

「柚くん?」

 

「ん?」

 

 

梨子が耳打ちをするように小声でささやいた。

 

 

「柚くんの変態さん♪」

 

 

 

 

~~~~~♪♪♪~~~~~

 

 

 

~自宅前~

 

「そういえばその髪型のままだよね?もしかして気に入ってくれた?」

 

「うん!私ももっとアレンジを覚えた方がいいなーって思ったけど…この髪型は柚くんにこれから頼もうかなって♪」

 

「そっか、気に入ってもらえて俺も嬉しいよ。」

 

「…なんか、家の前でこんな会話…まだ付き合う前のことを思い出すなぁ…」

 

「確かにそうだな、もうこんなに時間が経ったのか…あともう少しで冬になるしな。」

 

 

昼間はまだ暖かったけど、夜になると急に冷え込んできた…。もう夏も終わりなんだな。

 

「そういえば、もうすぐピアノのコンクールだよね?調子はどう?」

 

「うん、今のところ順調よ。」

 

「そっか、じゃあもう冷えてきたし、また明日な。」

 

「あ、まって柚くん!」

 

「…?」

 

「瞳…閉じて?」

 

「…うん。」

 

何も見えない暗闇の中自分の唇に柔らかな感触が伝った…。

 

 

「じゃあ…おやすみ…///」

 

「あぁ…おやすみな///」

 

 

 

…全く…照れ屋なんだか大胆なんだか…。



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Regard du diable

ピアノのコンクールまであと二週間…。

 

 

 

「おはよう、梨子!」

 

「おはよう、柚くん。今日は珍しく時間通りだね?」

「たまには梨子を待たせないようにしないとなって思ってさ。これでも自覚あるんだよ?」

 

「自覚あるならこれからもちゃんと早起きしてね?」ニコッ

 

「あ…はい。」

 

 

とても綺麗な笑顔なのに、何だか心の奥から圧を感じる…。

 

 

「でも、なんか…いいね。」

 

「…?どういうこと?」

 

「いや…なんかさ、梨子もいろんな表情を見せてくれて何だか嬉しいなって。」

 

「そ…そうかな?そんなに私…無表情だった?」

 

「んー、なんだろう…いっぱい笑ってくれるようになったかな?って感じかな。」

 

 

そっか…入学した時に柚くんに会った時…まだ、記憶のことを口に出せなくって…。

 

 

「梨子?」

 

ぼんやりと思い出している私にそっと柚くんは声をかけ、私に手を差し伸べた。

 

「ほら、時間通り起きたんだから、ゆっくり歩いていこうよ。」

 

「え…手、手を繋ぐの…?」

 

「え?だっていつも繋いでるじゃん?」

 

「で、でも…それは学校の時以外だし…制服着ている時はちょっと恥ずかしいよ…///」

 

「別にいいじゃん、早く行こうぜ!」ギュッ

 

「あ、ちょ…ちょっと…もぅ…///」

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

「おはよう梨子ちゃん!今日も二人とも仲良しだね!」

 

 

教室に入るとさっそくほかの女子から話しかけられる。普段喋るのは緊張しちゃう方だけど、隣に柚くんがいると、何だか自然といろんな人と喋れる。

 

 

「そ、そうかな?」

 

「えーだって2人とも付き合ってるんでしょ?いつもふたりで何話してるの~?」

 

「こーら、自分に相手がいないからって2人のプライベートを探るんじゃないの!」

 

「え~だって~…てか、あんただって彼氏いないじゃん!」

 

「うぐっ…だ、だって…この学校元々女子高だから…」

 

「ほーら、また言い訳する~」

 

 

特に、柚くんのサッカー部の部員の人達とは特に仲良くなれた気がする。みんな元気でいい人ばかりだから一緒にいて安心する。

 

 

「そういえばもうすぐピアノのコンクールだよね?頑張ってね!」

 

「え…あ、うん、頑張るね!」

 

 

…もう何度目だろうこの言葉を沢山の人達に掛けられたのは。

学校、近所、親戚、たくさんの人から「頑張って」と声をかけられる。

 

別に、応援されることが嫌な訳じゃない、むしろ期待に応えてあげたい。そう思う。

 

だけど最近「頑張って」って声をかけられるたびに、胸の奥からドクンドクンと激しく鼓動を感じるようになった。

 

中学生時代の時もそうだった。とにかく本番に弱くて、いつも心臓の鼓動が激しくなる癖は直っていない。

 

 

でも…柚くんがそばにいてくれる時は、柚が周りにバレないように私の手を握ってくれている。

 

緊張しないと言ったら嘘かもしれない。でも、柚くんの手が私の緊張を和らげてくれる。

 

 

~~~~~

 

~屋上~

 

「さっきはありがとう…柚くん。」

 

「うん?大丈夫だよ。」

 

「私…やっぱり柚くんに甘えてばっかりだ。こんなの良くないって分かっているはずなのに…。」

 

「別に…そんなに気にすることないよ?」

 

「でも…」

 

「あーよしよし」

 

梨子が俯くので、自分の体に寄せて梨子の頭を撫でる。

 

「これじゃあ、普段と真逆だな。」

 

「…え?」

 

「俺だって、梨子にいっぱい甘えて頼ってるんだから、たまには梨子の力になってあげないとな。だから、自分を悪いように思わないで?」

 

「うん…ごめん。」

 

「だーから、すぐそんな風に謝らないで?」

 

「う、うん…ありがとう。」

 

 

柚くんはそう言ってくれるけど、いつまでも甘えてちゃダメだな私…もっと精神的にも強くならなくちゃ。

 

 

~~~~~

 

 

~放課後~

 

「じゃあ、職員室に日誌届けてくるから柚くんは教室でちょっとまっててね。」

 

「うん、行ってらっしゃい~」

 

 

職員室に日誌を届け、窓を見るといつの間にか外の景色が暗くなっていた。

 

そっかぁ…もうすぐ冬になるんだ…このまま過ごしていけば柚くんとクリスマスを一緒にいられるのかな…?

 

あ…いけないけない!今はコンクールで事に集中しないと!せっかく柚くんが協力してくれているんだから。しっかりと結果を残さないと!

 

 

 

「桜内梨子ちゃん…だよね?」

 

「…!?」

 

 

私が職員室から出てくるのを待っていたかのように、1人の女の子が話しかけてきた。

 

 

「そうですけど…何か用ですか?」

 

「いや、ちょっと聞きたいことがあってね~この動画に写っているのってまさか桜内さんじゃないよねーって思ってさ~」

 

その女の子のスマホに映し出された映像は…モザイクがかかって見にくいけれど…見覚えがある…。

 

「髪の長さとか、制服の色とかちょっと似ているからさ~まさかとは思うけど~いや、でも美人でよく噂の立つ桜内さんがそんなことするはずないよね~ってね?」

 

「う…うん、全然身に覚えがないけど…。」

 

「うんうん、だよね~直接確認が取れてよかった~じゃあ、またね~。」

 

 

そう言って、その女の子は私の側から去った。

 

あの映像…間違いない…夏休みに入る前に名前も知らない男子に脅されて酷い目にあった時と同じ動画…。

 

どうしてあの子が…?

 

 

 

~~~~~~~~

 

 

 

 

『ふふっ…あの子の焦り方…あなたの言った通りやっぱり本人だったわ。』

 

『え?…ふふっ…大丈夫よ。私はあなたと違ってそんな簡単にヘマはしないわ。』

 

『えぇ…あなたの仇。しっかり取るわ…そして…。』

 

 

 

 

 

 

 

『二度と立ち直れないほどに叩き潰してやるわ…』



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狂い始めた感情

あの映像…間違いなく私のだ。

 

夏休みに入る前に脅しに使われ…今でも思い出すのも嫌なくらいな出来事。

 

 

そして…この映像が一気に学校全体に拡散され、私の周りを通る人はビッチだの、ヤリ女だの、聞こえないように陰口を言うようになってきていた。

 

 

「ねぇ、聞いた?あの桜内さんがさぁ~」

 

 

「聞いた聞いた~なんかSNSに自分のをヤってる所を載せたんだとかね~」

 

 

 

…1人で部屋の中で行為をしたのは事実…だけど、あれは盗撮されたもの…いや、今更そんなことを訴えても余計に状況が悪化するだけ…。

 

 

「…梨子。」

 

 

柚くんが私に声をかけ、教室から廊下へ連れ出す…。

 

 

「…柚くん。」

 

 

「こんな教室の中にいても、居心地が悪いだけだ。」

 

 

柚くんが私の制服の袖を掴んで、歩き始めた。

 

…私をどこへ連れていってくれるのだろう。

 

 

「おいおい、今から2人で何すんだよー?お幸せな事だなー」

 

 

2人で学校を歩いているだけで、私と柚くんに悪口の嵐が降り注ぐ。

 

 

でも…柚くんはそれに対して何も目を合わせずに、堂々とその場から離れていく。

 

 

「…着いたよ。」

 

 

「…ここは?」

 

 

初めて入る部屋だ…沢山のロッカーが並べられている…

 

 

「そう、俺たちサッカー部の部室だ。女子の部屋だけど、部員のメンバーと先生に頼んで、事が収まるまで使ってもいいってさ。」

 

 

「…でも。」

 

 

「大丈夫気にするな、サッカー部のみんなも梨子の事を悪く思ってなんかない。梨子のことを悪く言う奴らはみんな梨子を全く知らない奴らだ。」

 

 

「…でも、それだと柚くんやサッカー部のみんなにも…」

 

 

「梨子?」

 

柚くんが私の手を握った。

 

 

 

「大丈夫、俺達は梨子の味方だ。」

 

 

「柚くん…」グスッ

 

…これは強く心がえぐられている…これは人に暴行を喰らうよりもよっぽど怖いことなのかもしれない。

 

「なぁ、梨子?」

 

 

「…?」

 

 

「三日間くらいさ学校休んで、一緒に気分転換しに行かないか?」

 

 

「え…?でも…そんなこと…お母さんが許してもらえるはずが…」

 

 

「…大丈夫、俺からも説得する。」

 

 

~~~~~~~~~~~

 

 

俺からの説得もあったのか、梨子の母親からは1週間の時間を貰う事ができた。

 

 

「…柚くん。本当にいいの?柚くんの出席も一緒に無くなっちゃうんだよ?」

 

 

「今更何を言ってんだよ。」

 

 

「でも…」

 

 

「俺は梨子の恋人なんだ。好きな人の手助けをするのは当然だろ?」

 

 

「う、うん…わかった。でも、これからどこへ行くの?」

 

 

「んー、正直どこへ行くのか決めてないんだよなー」

 

 

「え…?」

 

 

「とりあえず、うんと遠い場所へ一緒に行こう!どこへ行くかはそれからだ!」

 

 

「も、もう…柚くん…」

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

~学校~

 

 

「なんだ、今日は桜内さんは休みなんだ。」

 

 

「風早くんも来てないみたい、もしかして2人で…」

 

 

『ねぇ、ちょっと?』

 

 

 

 

「あなたは…サッカー部の部長さん?」

 

 

「えぇ、そんなことよりも…うちの大切な可愛い可愛い後輩ちゃんを見なかったかしら?わんちゃんみたいな男の子なんだけどね~」

 

 

「風早くんのこと?今日は来てないみたいですけど…」

 

 

「ふぅん…そう…でも、なんか足りない気がするのよね~なんだったかしら~彼の隣にいつもいる清楚な女の子は…」

 

 

 

私がそう言うとこのグループの3人は目を泳がせ、私から目を逸らし始めた。

 

 

 

 

『まさか…しょうもない噂を流して2人を傷つけたのはあなた達じゃないでしょうね?』

 

 

私そう言った…すると、また3人の顔色が変わり始めた…汗もかいている…。

 

 

 

「え…ち、違います!私達はただ…噂を聞いたというか…」

 

 

「…みんなそう言う。」

 

 

 

私が聞き回った人達はみんなそう言って誤魔化してきた…

 

 

 

 

『人のことを貶しておきながら、自分が問いつめられるとすぐに逃げたがる…卑怯ったらありゃしないわ。』

 

 

「…それは。」

 

 

「言い訳なんて聞きたくなーい♪

…とりあえずあの子が部活に来なくなるのはこっちとしても迷惑なの。その話をほかの人間にでも広めたりしたら次は無いことを…肝に銘じなさい?」

 

 

そして、私は教室から出ていった。

 

 

 

 

「ぶちょー流石に攻めすぎですよ~」

 

 

「いやだって~こういう時こそ、部長の…いや、生徒会長の威厳を使わないとね♪」ウィンクパチリ

 

 

「わーかわいいーすごくいいー」

 

 

「ちょっと、あんた馬鹿にしてんの?」

 

 

「まさか~♪そんなことないですよ?それよりも、柚くん達が心配ですね…」

 

 

「大丈夫よ、彼ならきっと上手くやれるわ。」

 

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

 

「…という訳で、あなたの彼女さんの件はもう少し時間がかかるかなー、少し落ち着いてきた感じはするけど。」

 

 

「そうですか、ありがとうございます…わざわざ電話して頂いて。」

 

 

「んーん、大丈夫よ。それより貴方達は一体どこへいるの?」

 

 

「今、大阪のカプセルホテルに泊まってて…」

 

 

「大阪!?そんな遠くまで行っちゃったの?」

 

 

「えぇ、とりあえず遠くへ行って一緒に気分転換出来ればと。」

 

 

「そ、そう…で、貴方の彼女さんは何をしているの?」

 

 

「…泣き疲れてぐっすり寝てしまいましたよ。」

 

 

隣でぐっすりと眠っている梨子の頭にそっと手を添える…どうして、梨子ばっかりこんな目に遭わなくちゃならないのか。

 

 

学校の男子達に強姦されそうになったり、動画で脅されたり…こんな目にばっかりあってたら…嫌になって人と関わるのが嫌になるに決まっている。

 

 

でも、そんな梨子はいつまでもこんな俺を信じてくれていてくれる…だから絶対に守ってやらないと…そう思って学校から一旦離れてここへ来た。

 

 

 

「風早くん…風早くん?」

 

 

「…あ、はいなんですか?」

 

 

「何ぼーっとしているの?、とりあえず決められた日にちには必ず帰ってきなさいよ?理事長に許可を取るのはすごく大変だったんだからね?」

 

 

「…うん、分かってる。それまでに梨子をなんとか…。」

 

 

 

そして俺は電話を切った…。

 

 

 

「…私を学校へ連れて行くの?」

 

 

「…梨子?いつから起きて…?」

 

 

「…いやよ。絶対にいやだ…!」

 

 

「でも…そしたらお前の将来…」

 

 

「私の将来なんて今はどうでもいい!ただ学校へ行くだけで…私があの時どんな目にあったのか分からずに…私に…私に…沢山の悪口を言い続けて…」

 

 

「梨子…!落ち着けって…俺はそんな無理やり連れて行かせるつもりは…」

 

 

「いや…!来ないで…それ以上近づかないで…!」

 

 

 

どうして…どうして…?私の味方だと思っていたはずの柚くんにこんなことを言っているの…私…?

 

 

 

『結局ただのスケベなんだろ?』

 

 

『ほんとほんと~やっぱり大人しい奴って貪欲なんだよね~』

 

 

 

何…これ…どこからか…知らない人の声が聞こえる…どうして…どうして…?違う…これは柚くんの声じゃない…!

 

 

違う…違う…!柚くんは…こんな…こんな酷いこと言わない!

 

 

…言うわけ…無いのに…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…こ…梨子!」

 

 

「…柚…くん?」

 

 

「大丈夫か?途中から気を失って…」

 

 

「私が…?どうして…?」

 

 

「大丈夫か?とりあえず、朝食買ってくるから待っててな?」

 

 

「う、うん…」

 

 

さっきのは…なんだったんだろう。

 

 

「梨子。俺は無理に学校行けなんて言わない…あくまで今は気分転換のためにここに来ているんだ。

そして、少しでも気を落ち着かせるためにここへ来ている。その事を忘れないでくれ。」

 

 

「うん…分かっている。」

 

 

「…じゃ、買いに行ってくるからちょっと待っててな?」

 

 

「…待って。」

 

 

「ん?」

 

 

「私も行く…貴方のそばから離れるのは嫌なの…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お願い…もう私をひとりにしないで…』

 



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震える指先

梨子と大阪へ来てから3日余りがすぎた…徐々に落ち着いてきて、夜中にうなされることも無くなってきているが…。

 

もし、また学校に戻って心に亀裂が入ってしまったらと思うと…。

 

 

「柚くん…私…どうしたらいいんだろう。」

 

「梨子…」

 

「学校へ行かなくちゃいけないことはわかっている…でも、あの校舎を見る度に頭の中でたくさんの悪口が浮かんでくるの…。」

 

 

梨子がソファの上に体育座りをする…。

 

 

「ピアノだって…練習しなくちゃ行けないのに…」

 

「ピアノ…か…。」

 

 

ピアノ…?そうか…。

 

 

体育座りしてしょげている梨子の肩をポンっと手を置く…。

 

「柚くん…?」

 

「ピアノ…弾きにいこう!」

 

「でも…今は東京には戻りたくない…」

 

「戻らなくていいんだよ!さぁ行くよ!」

 

 

柚くんに引っ張られてホテルの外へ出た…今度は…どこへ連れてってくれるのだろう?

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「曜ちゃーん!電話鳴ってるよー?」

 

「あ、ごめん月ちゃん。代わりに出て~?」

 

「も~しょうがないな~…もしもし…あ!柚くん!!」

 

「え!?柚くん!?」

 

 

ものすごい勢いで階段から曜ちゃんが駆け下りて、僕の手に持っている電話機を取った。

 

 

「どうしたの?どうしたの?お姉ちゃんの声が聞きたくなったの!?」

 

「…緊急事態なんだ、協力してくれないか?」

 

 

~~~~~~~~

 

 

「柚くん、今の電話相手って…」

 

「梨子、これから学校へ行くぞ。」

 

 

海と自然に囲まれた、今までとは正反対な学校だけどな。

 

 

 

…そして、新幹線で5時間ほど…俺達はまた再びここへ戻ってきた。

 

 

 

 

 

駅を降りると、千歌、月、曜の3人が出迎えてくれた。

 

 

「久しぶり!柚くん」

 

「おう、千歌も相変わらず元気そうだな。曜も月も元気だったか?」

 

「うん!もちろんだよ!」

 

「柚くん、曜ちゃんの隣にいる彼は…?」

 

「あぁそうか、梨子は知らなかったんだよな。彼女は渡辺月。俺と曜の従姉妹だ。」

 

「彼女…ってことは女の子!?ご、ごめんなさい!!」

 

「あはは~気にしないで。間違われちゃう事はよくあるから。よろしくね梨子ちゃん♪」

 

 

とりあえず場が和んだので、ここに来た目的を全員に話した。

 

駅からバスに乗って50分…バスの窓から青い綺麗な海が広がっている…日差しも綺麗に差し込んでいて、やっぱり東京とは違う世界にいる気分だ。

 

 

「着いたよ、ここが私達の学校。浦の星女学院だよ!」

 

 

…凄い…こんなに綺麗な自然に囲まれて…心地よい潮風が香る学校が存在するなんて…。

 

 

「…?梨子ちゃ~ん?」

 

千歌ちゃんが私のほっぺを軽くつまむ…

 

「いい学校ね…羨ましいな~」

 

 

それにしても、どうして学校へ来たのだろう?その理由を柚くんに聞こうと思ったけど、聞くタイミングを逃してしまった。

 

 

そして、10分ほど歩いて学校に着いた。

 

「え~と…音楽室空いてるかな…?」ガラッ

 

 

曜ちゃんが扉を開ける…今日は風が強いからか、潮風が私達を覆うように吹く…

 

ゆらゆらと揺れるカーテンの隙間から見える海がまた綺麗で本当にここは学校なの?

 

とても素敵なリゾートのような気分を味わえる…。

 

 

 

「柚くん…ここで何をするの?」

 

「…梨子、ここでピアノを弾いてくれないか?」

 

「…!?」

 

みんなが驚いた顔をして俺に視線を送る。

 

「…柚くん、どうしてここでピアノを演奏させる必要があるの?」

 

曜が首をかしげる。

 

「…なんとなく。」

 

「え…?」

 

「なんとなく…ここなら梨子の気持ちも落ち着くだろうって思ってさ。」

 

「…意味がわからないよ、ここじゃなくてもピアノの練習くらいできるんじゃ…」

 

 

千歌も同じく、疑問に思ったように喋る。

 

 

「…理由は後で話すよ。梨子、とりあえず弾いてみてくれ。」

 

「…うん。」

 

 

私は訳も分からないままイスに座り、鍵盤に指をかける…

 

けれど…私の指は石にでもなってしまったかのように動かなかった。

 

いや、動かせなかった…ピアノとは何も関係ないのに…私に送られる視線が…あの時の視線のように感じてしまう…。

 

…どうして…こんなにいつまでもくよくよとしているんだろう私は…

 

…きっと弱いんだ。今までだってそうだ…怖いことから逃げて、目と記憶に障害を負った柚くんの未来にも怯えて…。

 

私はいつも逃げてきた…。

 

いつも逃げて遠回りしてきた私に…ピアノなんて弾けるわけないよ…。

 

 

私が席から立とうとすると柚くんが私の肩にそっと手を添えた…。

 

 

「…大丈夫、弾けるよ。」

 

「…柚くん。」

 

 

柚くんの手が触れた時…すっ…と肩の力が抜けた…。

 

鍵盤にかけていた指も…ゆっくりと動いた…。

 

私はそのまま、コンクールの曲を演奏した。

 

 

 

 

~~~~~

 

 

「…弾けたの?…私…自分の手で…?」

 

「あぁ、そうだよ。梨子が自分で弾いたんだ…」

 

 

梨子が満足な笑みを浮かべた後、俺に抱きつきながら大泣きした。

 

「…辛かったよな、でも…よく頑張ったね。」

 

 

そのまま梨子の頭を撫でる…

 

 

「あのさ…お二人共?」

 

月が間に入るように話しかける。

 

 

「…どういう状況かよくわからないから詳しく教えてくれないかな?」

 

「そうだよ!二人だけで進めちゃって、千歌達全然話についていけないじゃん!」

 

「あ…ごめん、じゃあ今から説明するよ。」

 

 

 

俺は梨子の盗撮された内容の事を上手く省いて、3人に説明した。

 

 

「…そんなことが…あったんだ。」

 

3人は心配そうに梨子に駆け寄る。

 

 

「梨子ちゃん…どうして相談してくれなかったの?」

 

千歌が悲しそうな顔をして問う。

 

 

「…言えなかったの。」

 

「…え?」

 

「…誰かに助けを求めたら…もっと悪い噂を流すって脅されて…その人が怖くて…怖くて…」

 

 

梨子が涙をこぼす。

 

 

「…でもさ、柚くんのスマホを使ってバレないように連絡とかできたんじゃないの?」

 

曜が梨子の涙をハンカチで拭きながら言った。

 

 

「梨子ちゃん、私達友達でしょ?辛いことがあったならいつでも頼ってよ♪いつでも力になるからさ!」

 

「曜ちゃん…千歌ちゃん…」

 

私はそのまま曜ちゃんと千歌ちゃんに抱きつきながら、また泣いた。

 

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

 

やっぱり…俺の思った通りだ。今までの梨子には何かが足りていなかった。

 

それは、本当に信頼出来る同性の友達。

 

俺から繋がってできた友達、例えばサッカー部の部員とは違って。

 

梨子の本当の性格を知り、本音で話せる友達。

 

これが足りていなかったんだ。

 

 

 

「でも、これからどうするの?梨子ちゃんが学校に戻った時にまた何かに巻き込まれちゃうんじゃ…」

 

 

月が不安そうにそう言った。

 

 

「大丈夫、そうさせないようにするのが俺の役目だから。」

 

 

 

その後、千歌達の旅館に泊まらせてもらうことになった。

 

 

「じゃあね、柚くん~お姉ちゃんがいないからって泣いちゃダメだからね~」

 

「余計なお世話だっつーの。」

 

曜が余計な事を口にするので、強い口調で返す。

 

 

「じゃあ、僕は曜ちゃんの家に泊まっていくから、帰る時はまた連絡してね。」

 

「あぁ、連絡するよ、またな。」

 

 

曜と月の後ろ姿を見るとやっぱりあの2人は血が繋がっているんだな…もしかしたら俺もあんな感じに普段は歩いているのかな?

 

 

 

 

~~~

 

 

 

 

こーら、お姉ちゃんの手を離しちゃダメって言ったでしょ?

 

だ…だって…

 

…は強い子でしょ?…そんなにすぐ泣かないの!

 

 

 

 

~~~

 

 

 

 

 

…!?

 

今の…何…?また何かの記憶が…頭の中を横切った気がする…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…俺……のことが…!!

 

うん!私…!も…!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「…どうしたの?柚くん?」

 

 

俺がぼーっとしていると、千歌が顔を覗き込むように俺を見ていた。

 

 

「早く旅館に入ろ?最近夜は冷えてきたから風邪引いちゃうよ?」

 

「…あぁ、そうだな。」

 

 

俺と梨子は千歌に予約の入っていない部屋に案内してもらった。

 

 

「…どうして、ここに連れてきてくれたの?」

 

部屋に着いた途端に梨子はそう言った。

 

「…柚くんのことだから、他にも理由があるんでしょ?ピアノを演奏するだけなら大阪でもどこかで借りればできたはず…。」

 

「…梨子はさ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『この街と、ここの友達は好き?』

 

「え…?う、うん。」

 

梨子は少し戸惑いながらもそう答えた。

 

 

「…学校での問題を片付けて、梨子のコンクールが終わったらさ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『一緒に…ここで生活をしないか?』

 



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そしてあの子は悪魔になる

私は二人の会話を聞いていた。

 

沼津で一緒に暮らす…って。じゃあ同じ学校に柚くんと梨子ちゃんが来るってことなのかな?

 

 

柚くんと梨子ちゃんが学校に来てくれるのは凄く嬉しい…けど…。

 

2人がくっついているところを近くで見るのは正直嫌だ。

 

 

「…どうして思い出してくれないんだろう。」

 

心に思った声が言葉として出てしまった。

 

…なんだかいつもの私じゃないや。

 

 

ベットに寝っ転がり、天井を見つめる…

 

 

聞いた話によると、梨子ちゃんは幼い頃に柚くんに車に轢かれそうになったところを身代わりになって助けて貰ったらしい。

 

そして高校生になって、再会して…柚くんは記憶喪失でも梨子ちゃんは忘れることなく、キチンと覚えていた。

 

そりゃあ二人がくっつくに決まってるよね…。

 

 

 

 

 

 

…私も危ない目に合えば柚くんが助けに来てくれるのかな?

 

この前みたいに…誰かに襲われて辱めなことをされそうになれば…柚くんは助けに来てくれるのかな?

 

…でも、知らない人にヤラシイことされるのは嫌だなぁ…

 

 

 

ちらっと机を見ると、ハサミが置いてあるのが目に入った。

 

 

…このハサミでどこかに傷をいれれば心配になってきてくれたりするのかな…?

 

 

私は起き上がって机の上に置いてあるハサミを握った。

 

 

「……何考えてるんだろ私。」

 

 

 

 

「おーい千歌~!ちょっとお隣さんに荷物届けてくんなーい?」

 

 

私が手首に刃先を当てたその時だった…

 

 

「わかったー!すぐ行く~!」

 

 

その瞬間私はすぐに我に返った…何やってんだろ私…

こんなの本当のバカじゃん…だからみとねえに言われちゃうんだよ…バカちかって…。

 

 

 

~~~~~~~

 

 

「はい、ありがとうね~」

 

 

隣のお家に荷物を届け終わった…何か家に帰りたくないなぁ…ちょっと海でも見に行ってみようかな…?

 

 

…キレイ。

 

悩み事があるときにここに来れば何かが思いつくって気がしたけど…

 

ダメだ…今回は何も思いつかないかも…。

 

 

「どうして…忘れちゃったんだろ。」

 

 

 

~~~

 

 

「お~いちか~!こっちきていっしょにあそぼうぜ~!」

 

「うん!いくいく~!」

 

 

 

……

 

 

「なんでおまえおとことばっかりあそんでんだよ~!」

 

「あ~こいつゆずのことスキなんだ~!」

 

「ち…ちがう…!ちか…そんなんじゃ…」

 

「やめろ!!おまえら!!!」

 

 

 

……

 

「むこうでもげんきでね?ゆずくん。」

 

「うん、ぜったいまた、あいにいくよ。」

 

「ほんと?ぜーったいだよ!?」

 

「うん!やくそくする!あ、そうだ!!これ…やくそくのしるしだよ!」

 

「わぁ…キレイ…ありがとう!!」

 

 

~~~~~

 

 

…私はあの時くれた貝殻のネックレスをギュッと握った。

 

 

約束してくれたのに…。

 

今の柚くんは…私の知っている柚くんじゃないよ…。

 

 

「千歌?」

 

 

月の光に照らされていてあまり顔は見えなかったけど、私の後ろに柚くんがいた。

 

 

「どうして泣いてるんだ?嫌なことでもあった?」

 

「…そんなんじゃないんだ。もう行くね。」

 

 

私は逃げるように、柚くんから離れる…。

 

 

 

 

 

 

 

「…あの時はありがとうな。」

 

 

 

 

…!?

 

私は柚くんの発言に足を止める…。

 

 

「…今…なんて?」

 

「…ついさっき、頭の中によぎった気がしてさ。いつも泣いていた俺を…優しく慰めてくれてありがとうな。」

 

「柚くん…そうだよ…!私…!」

 

「…なのにごめんな。」

 

「え…?」

 

「俺は…あの時…傷ついた心のままの千歌に…あんなに冷たい態度を取ってしまった…。」

 

 

私は柚くんが沼津に帰ってきた時を少し思い出した。

 

 

「…私もごめん…何も分かってない柚くんに…強く当たって…。」

 

「…」

 

「柚くん…?」

 

 

私が柚くんの顔を見つめると…彼は涙を流していた…。

 

 

「…ごめん…君は…俺にとって大切な人だったかもしれないのに…何もしてあげられなくて…」

 

「柚くん…そんなことないよ…」

 

私はハンカチで柚くんの涙を拭く…、

 

 

「大丈夫…私は待ってるから。柚くんが記憶を取り戻して、私が知っている柚くんに戻ってきてくれるまで…ずっと待ってる…。」

 

「千歌…」

 

「…これ、もってて。」

 

 

私は貝殻のネックレスを彼の首にかけた。

 

「…これはね、私にとって大切な宝物なの。それと、大切な思い出でもあるの…。だから…私のことを思い出してくれるまで…ずっと持っててね。それと…」

 

私は自分のかぶっていた麦わら帽子を取って柚くんの目が隠れるくらいにかぶせる。

 

そして…柚くんが何も見えないまま、私は柚くんにキスをした。

 

 

「…これも大切にしてね?」

 

 

 

梨子ちゃん…ごめんね、私はあなたとはいい友達になれないかもしれない。

 

 

…柚くんは渡さない。

 

いや…絶対に絶対に取り戻すから…!



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そしてこの子も悪魔になる

ピアノコンクールまであと1週間…

 

 

そして、柚くんと東京に帰ってきた。

 

学校を1週間もサボってしまった…お母さんに怒られると思ったけれど、むしろお母さんはよく戻ってきてくれたと、泣きながら抱きしめてきてくれた。

 

…何故なんだろう。普通なら怒られて当然のはずなのに…。

 

 

 

 

そして今日、学校から逃げてから初めての登校の日がやってきた。

 

 

「梨子、いつも通りで大丈夫だからな?」

 

「うん、大丈夫…だよ。」

 

 

ガラ…

 

 

そしてついに、扉を開けた。

 

俺達が教室に入ると教室の中が一気にザワ付き始めた…。

 

 

 

 

桜内さん…?風早君も…

 

2人で何してたんだろう…?

 

きっとどこかでイチャイチャしてたんでしょ?

 

 

 

 

…あまりいい雰囲気じゃないな。

 

 

そのまま2人で席につく…。

 

 

「へー、あんた達帰ってきたんだ。」

 

 

すると1人の女子生徒が俺たちに絡んでくる…。

 

 

「久しぶりね、桜内さん…。」

 

「あなたは…」

 

 

あいつが…梨子にあの動画を見せつけてきた奴か…。

 

 

 

 

「ふふっその感じだと私の名前すら忘れてしまったみたいね。まぁ、いいわ。貴方に名前を覚えてもらったって何にも思わないもの。」

 

「そうね、私も貴方のことは興味無いわ。」

 

 

梨子の冷たい一言に周りが騒然とする。

 

 

「…っ!そ、そう?でもそんな言葉使いしちゃっていいの?『桜内梨子』っていう可憐なイメージが台無しよ?」

 

「…だから?」

 

「な…!?」

 

「…別に貴方や皆にどう思われようと関係ないわ。ただ、貴方みたいに…『卑怯』で『下劣』な人間と関わりたくないだけ。」

 

「…っ!ふ…普段から彼氏としか喋らないで、基本1人でいる陰キャが生意気な事言ってんじゃないわよ!!!」

 

 

ガタッ…!と音を立てて梨子が椅子から立ち上がる…。

 

 

周りからやめなよーとか先生に言う?とか色々と聞こえてくる…まぁ、そりゃあそうだろうな、普段全く教室では喋らない梨子がこんなに怖いオーラを放っているんだから。

 

 

俺は止めようとしたが、梨子の目がめちゃくちゃ怖くて止められずにいた。

 

 

「…な、なによ…?」

 

「…話はそれだけ?言いたいことはもう言い終わったのかしら?」

 

「は、はぁ…!?」

 

「…絡んでくる割にはくだらないことしか喋れないのね…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…だっさ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのまま梨子は教室から出ていってしまった。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

梨子が向かった先は屋上だった。無論俺も後を追った。

 

 

「おい!梨子…!いくらなんでもさっきのはやりすぎ……」

 

「うわぁぁん…!柚くーん!!!」

 

「…え?」

 

 

何故か屋上で泣いている梨子がいた。

 

泣きながら抱きしめてきたので俺は慌てて受け止めた。

 

 

「怖かったよぉぉぉ……」

 

「俺は今の梨子が怖いよ。」

 

「…な、なんで…?」

 

「だって、あんなに本気の目でアイツらと向き合って、今は号泣してんだもん。」

 

「だって…だって…あんな風に喋ったこと無くて…こんな自分が怖くて…怖くて。」

 

 

あーなるほど…何となく理解できた気がする…。

 

 

「つまり?普段使わないような喋り方をした自分に怖がってるってこと?」

 

「…」コク

 

 

あー…うん…でも、1番怖かったのは俺なんだけどな。

 

 

「…でも」

 

「?」

 

「梨子は強く戦ったよ。あんな奴に怯まずにさ。むしろアイツの方がビビってたぜ?」

 

「…うん!」

 

 

 

♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪

 

 

 

「…一限始まっちゃったな。」

 

「…うん。」

 

「なんか外が寒くなってきたな。」

 

「10月だからよ。内浦に行ってたから気づかなかったけど。」

 

「どうする?教室に戻るか?」

 

「ううん…ちょっとゆずくん、ここに座って?」

 

「え…?うん。」

 

俺はコンクリートの壁のそばに座らされる、俺はそのまま壁によりかかった。

 

すると、梨子が急に俺のブレザーのボタンを外し始めた。

 

 

「…り、梨子…?」

 

「…よしっ!」

 

そして、俺の体に密着させて、ブレザーの中に入ってボタンを閉めた。

 

「これなら、寒くないでしょ?」

 

「…さ、寒くはないけどさ…///」

 

梨子は体が細いからすっぽり中に入ってくる…暖かい。それは別にいいのだが…

 

髪の匂いだったり、膝の上に座ってるから太ももが密着したりと、やたらとやばい状態になっているのは間違いない。

 

 

「どうしたの?ゆずくん…顔…赤いよ?」

 

「梨子だって…」

 

 

 

 

「ねぇ…ゆずくん。」

 

そして、梨子が俺の耳元にそっと囁いた。

 

 

 

『スカート…めくれちゃった。』

 

 

 

「…っ!?」

 

「…」クスッ

 

 

…え、まじで今日の梨子はどうしたの?怒ったり、泣いたり、大胆になったり…。

 

 

「…ゆずくんだったら見てもいいよ♡」

 

「…そ、そんな事…それにここは学校…」

 

「え〜…前に保健室で私を押し倒して欲望に負けた男の子は誰かなぁ?」

 

「…あ、あれは忘れてくれ…///」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…忘れるわけないよ」

 

 

 

私は身動きが取れないゆずくんにキスをした…。

 

 

「私をこんな人間にさせたのはゆずくんなんだよ?」

 

 

何かあった時はすぐ助けに来てくれて、なんでも相談に乗ってくれて、いつも優しくて、笑顔でいてくれる人…。

 

それがゆずくんなんだから…私に勇気をくれたのも…あなたなんだよ?

 

 

 

「…誰にも…言っちゃダメだよ?」

 

私はゆずくんとくっついたまま…自分のシャツのボタンを外した…。

 

 

 

 

 

 

 

千歌ちゃん…あなたの行動はお見通しよ。

 

あなたがこの前ゆずくんに何をしたのか…ずっと窓から見えてた。

いや、わざと見えるようにやったのかもしれないけど…。

 

あなたには申し訳ないけど、ゆずくんは渡せないわ。

 

 

 

 

確かにあなたと柚くんにしかない関係はあるのかもしれない…でも、それは私と柚くんにしかない関係だってあるのよ。

 

 

 

 

奪えるものなら奪ってみなさい?

 

 

 

あなたには絶対負けないから…!

 

 

 

 

 

 

 

 



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One Light

よぉ…2年ぶりだな…



マジでごめんなさいマジでごめんなさいマジでごめんなさい…


〜10月9日〜

 

…うん?あぁ、そうか…もう朝なのか。

 

カーテンの隙間から強い日差しが差し込む…。

 

寝ぼけたまま俺はジリリリ…と鳴り続ける目覚まし時計を止めて、時間を見る…。

 

 

9時…2分…。

 

やっべえ…完全に遅刻だ。

 

 

急いで身支度を済ませて、外へ出る。

 

(梨子怒ってんだろうなぁ…流石に会場へ向かっているとは思うけど。)

 

 

バタバタと走りながら改札を通り、コンサートホール方面の本線に向かう。

 

はぁ…はぁ…あと電車が来るまで5分ある…なんとか間に合いそうだな。

 

息を切らしながら階段を登る…。

 

 

「大切な彼女の大事な日なのに、遅刻なんてひどいわね」

 

…?

 

あ…。

 

階段を登った先にキャリーバッグを持った梨子の姿があった。

 

「…その髪型いいね。」

「遅刻したらごめんなさいでしょ?」

 

そう言うと、髪にシュシュをつけてハーフアップにした梨子が。すこし頬を膨らませる。

 

 

「ごめんね、あまりにも似合っていたからつい…。」

 

「どっかの誰かさんが、髪を結ってくれたからね。前に…」

 

前に…?あぁ、ショッピングモールの時のことか…。

 

「覚えててくれたんだ。ありがと。」

 

「別に…あれが気に入ってたわけじゃないんだから。」

 

「ほんとに?あんなにニコニコしながら鏡見てたのに?」

 

「も、もう…!からかわないの!」

 

 

そう話しているうちに電車が来る…。

 

 

 

「そういえば、この時間帯に電車に乗っても平気だったの?」

 

「大丈夫よ、この電車ならまだ集合時間に間に合うわ。次の電車だったらギリギリだったけどね。…って、昨日LINE送ったわよね?」

 

「え…?あ…」

 

「はぁ…もう…しっかりしてよね。」

 

「う…ご、ごめんよ。」

 

「わかってると思うけど、演奏中は寝てちゃダメよ?」

 

「大事な彼女の演奏中に、寝るわけないでしょ?」

 

「遅刻してきたくせに…でも、ありがと。」

 

「?」

 

梨子が顔を近づけてじっと見つめる…。

 

「実は緊張してたけど…柚くんと話せたから緊張もほぐれたわ。」

 

そのまま笑顔を見せる…。

 

「なんか…変わったね前に比べて。」

 

「何が?」

 

「たまに、俺に気を遣って無理して笑ってる時とか…あったからさ。」

 

「そ…そうかしら?」

 

「うん…この一週間で大きく変わったよ。…もう吹っ切れた?」

 

「えぇ、柚くんやみんなのおかげよ…本当にありがとね。」

 

 

〜〜〜

 

 

そして、会場に着き次々にたくさんの人達が、順に演奏をはじめた…。俺は、音楽に関してはあまり知識がなかったから、梨子の出番が待ち遠しかった。

 

 

(あと4人後か…)

 

 

俺は一度座席を離れ、梨子があらかじめ教えてくれた、楽屋室へ向かった。一応出演者の知り合いで、大勢でなければ大丈夫らしい。

 

(部屋番号は19番か。)

 

 

ガチャ…

 

「やぁ、おつかれ梨子。」

 

中に真っ白なドレスに着替えた梨子の姿があった。

 

「すっげえ…綺麗だ…。」

 

「ほ、ほんと?ありがと柚くん。」

 

「あぁ、お姫様みたいだよ。」

 

「も、もう…いつもからかうんだから…///」

 

 

『桜内梨子さ〜んそろそろ出番で〜す』

 

 

スタッフの方が扉を開けてそういった。

 

「じゃあ、俺は席で見てくるね。じゃあ…頑張って!」

 

「ま…まって、柚くん!」

 

「ん?」

 

「少しだけ、手…握ってもいいかな?」

 

「うん…もちろん。」

 

ぎゅっ…と梨子の柔らかい手の感触が伝わる…。

 

「大丈夫…もう震えてないよ。」

 

「あぁ…!じゃあいってらっしゃい!」

 

「うん!」

 

 

俺の手を離し、自信とやる気に満ち溢れた笑顔で、梨子はステージへ向かった…。

 

 

そして…順番が周り、梨子の出番がやってきた…。

 

(大丈夫、辛いことも苦しいこともあった…それでも、私は…柚くんやみんなにたくさん助けてもらった…。)

 

(でも今度は…私がこのピアノで…この音で…柚くんに…感謝と私の気持ちを伝えるんだ!)

 

 

 

梨子がお辞儀をし、ゆっくりと椅子に腰掛け…演奏をはじめた。

 

 

(この…曲…俺がいつも聴いてる…大好きな曲だ…。)

 

 

あの時ずっと怯えていたあの梨子とはまるで、別人のような演奏を披露する…。

 

その姿に俺は涙なしでは見られなかった…自然と涙が溢れてくる…。

 

よかった…梨子は打ち勝ったんだな…!辛い過去に…!

 

 

〜〜〜

 

 

梨子の演奏が終わり、おれはまた、梨子の楽屋室へ向かっていった。

 

 

「梨子!」

 

「柚くん…きゃっ!」

 

俺はそのまま梨子を抱きしめていた…。

 

「ピアノ…すっごい良かった…今でも涙が止まらないくらい…すっごい感動したよ…。」

 

「柚くん…やめてよ…そんな顔したらこっちまで涙が出てきちゃうよ…」

 

「それと…俺の好きな曲…まさか、あの曲を演奏してくれるなんて思っても見なかったよ…。前に弾いてた曲はコンクールの曲じゃなかったの?」

 

「ううん、コンクールの曲だったんだけどね…変えたんだ。」

 

「…どうして?」

 

「…それはね。」

 

梨子が俺の顔にそっと触れ、そのままキスをした…。

 

「柚くんに…感謝の気持ちを伝えたかったからだよ…。」

 

 

 

そして、全ての公演の終了後、結果が会場に提示された…。

 

 

 

 

 

 

『優秀賞』桜内梨子。

 

 

 

 

 

 

 

 




これからもどうかよろしくお願いします


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