コードギアス 反逆のルルーシュR3 ~Again story of overload Lelouch~ (悠久の刻)
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第1章: Memories softly in the chest
Recode:1 魔王の蘇る日


どうも、はじめまして。作者の悠久の刻(ゆうきゅうのとき)です。

今回の作品は、長い間構想を練り、執筆した一応準処女作です。至らない部分は多いですが、暖かい目でご覧下さい。

それでは(・ω・)ノシ




  皇暦2018年、世界に希望と絶望を振りまいた悪逆皇帝ルルーシュの最後。後にゼロレクイエムと名付けられたそれは、一時的にではあるが、確かに世界を平和へと導いた。

  超合衆国は、「新生」ブリタニア帝国を吸収し世界の殆どを占めるまで成長した。そして、超合衆国の「仕組み」はルルーシュの思惑通り平和な世界の第一歩として役割を果たしていた。

  しかし、それはあくまで超合衆国加盟国の話。未だ加盟しない国との紛争は、確実に増えていた。静かに見守る国も、その内に孕む狂気は日に日に大きくなっている。

 

 

  同時に、世界の内側では誰も想像出来ないほど大きな歯車が、狂い始めていた。

 

 

  ーユーロピア共和国連合(Euro Univers)ー

 

  EUの辺境にある、ごく普通の村。

  この村には少し似つかわしくない、農家にしては少し豪華な家。この家は、ブリタニア本国からユーロブリタニアを通して送られた辺境伯が住むオレンジ農園の家だ

  住んでいるのは、辺境伯のジェレミア・ゴットバルト。アーニャ・アールストレイムに、執事やメイドが計4人。それと、ライトグリーンの髪をした女「アリシー」の7人。

  そして、この家の地下には秘密があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  家の外見のイメージとは異なり、コンクリートで覆われた地下の部屋の中。彼は、そこで眠っていた。かつて、愛しき妹のために。自分のために死んでいった者のために。世界を一度手にした男、ルルーシュ・ランペルージ。本当の名を「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア」。頬は少し痩せこけ、顔もより一層白くなっているが、静かに上下に動く胸が彼がまだ生きていることを証明していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  その重く閉ざされていた瞼が、ゆっくりと開いた。

  「ここは・・・何処だ?」

 彼の、半分くらいが虚空へ向けられた質問に

  「ジェレミアの家の地下だ。」

 そう、若い女の声が答えた。

  「C.C.、居たのか。」

  そう言いながら、ルルーシュは体を起こし周りを見渡した。

  「眠りつづけるお前を、一人にはしておけんからな。必ず誰かが交代で居るようにしていた。たまたま私だっただけだ。」

  背中を向けたまま、C.C.は答えた。

  「・・・ではやはり、俺はシャルルのコードを継いだんだな。」

  「あぁ、全て、お前の思惑通りだ。」

  お互いに背を向けたまま、2人は会話を続けた。

  「そうか、全て上手くいったのか・・・。」

  ルルーシュは、その言葉を噛み締めるように、拳を握りながら呟いた。

  「それで、ゼロレクイエムから何日、俺は眠っていたんだ?」

  ふと、思い出したようにルルーシュが尋ねた。

  「・・・2年だ。」

  「2年だと!?」

  未だ振り返らず話を聞き、答えたC.C.に、今度は驚き振り返ったルルーシュが、また尋ねた。

  「あぁ、2年だ。2年間もお前は眠りつづけていた。胸元に、コードは出現していたから、いつかは起きると思っていたが、ここまで寝続けるとは思ってもいなかったぞ。」

  まだ背中を向けたまま、少し震える声でC.C.は答えた。

  「そうか・・・まだ聞きたいことはあるが、一先ず、この事を知っている人物はどのくらい居る?」

  「今のところは、スザクと咲世子、ロイドにセシル、ナナリーとジェレミアとアーニャだな。」

  ここへきても振り返らないで答えるC.C.に、ルルーシュは目を見開きながら

  「ナナリーとアーニャだと!?」

 今度は、声が半ば裏返りながら聞き返した。

  「あぁ、アーニャの事は知らなくても当然だな。」

  そう言えばそうだったと思い出すようにC.C.は返した。

  「彼女はナイトオブラウンズだろ? なぜ教えた!」

  「アーニャは味方だ。それにナイトオブラウンズは辞めている。」

  「辞めている?」

  「あぁ、詳しくは知らんが、ダモクレス戦の時にジェレミアに助けられたらしい。それから、ゼロレクイエムの後にひょっこり現れてジェレミアと一緒に居る。今は戸籍上はジェレミアの養子だ。」

  C.C.が答えても、ルルーシュは未だ半ば混乱した様子だった。

  「まぁ、ジェレミアが認めたなら、信用してもいいか・・・。」

  「お前が他人を信用するとは珍しいな。」

  少し語尾がハッキリしないルルーシュの一言に、言葉の震えが止まったC.C.は茶化しを入れた。

  「だが、ナナリーはどういう事だ?なぜナナリーは知っている?」

  今度は語尾をハッキリとして、ルルーシュが尋ねた。

  「覚えていないのか?」

  やっと振り返ったC.C.は、少々驚きながらルルーシュに聞き返した。

  「元々、計画ではナナリーに知られる予定ではなかった。スザクにも話すなと言ってある。」

  そう答えるルルーシュに、今度は少し不思議がりながらC.C.は

  「コードの力の中には、他人の記憶を見たり、他人に自分の記憶を見せることが出来る力がある。それを使ってナナリーに、ゼロレクイエムの全てを見せたんじゃないのか?」

  と尋ねた。そして暫くの間、二人を沈黙が包んだ。

 

  「・・・そうか、ナナリーは俺の記憶を見たのか。」

  「あぁ、どうやらお前の想定外のことらしいが、ナナリーは全てを知っている。ゼロレクイエムだけじゃない、お前の行ってきた全てのことを。そして、お前の願いを叶えるために頑張っている。」

  「・・・そうか。」

  ルルーシュが一言呟くと、もう一度、二人を沈黙が包んだ。

 

  「ルルーシュ、とりあえず質問はもういいか?ジェレミア達にも伝えなければ。アイツらも相当心配してくれていたからな。」

  「あ、あぁ、俺のノートPCの場所だけ教えてくれ。スザクが、持ってきてはあるだろう?」

  「それなら、そこの机の上だ。」

  そう言うと、C.C.は足早に地下室の扉を抜けていった。

 

  一先ずは、今の世界の状況を調べなければ。そう考えながら、ルルーシュは手早くノートPCを起動させた。

  「・・・さっきまでは、腕を動かす度に重く感じていたのにな。」

  そう呟くルルーシュの腕は、寝たきりになっていた時より少しばかり太くなり、筋肉質になっていた。顔色も元に戻り、頬も普通になっている。

  「コードの力についても、色々検証して確認しなければな。」

  最後にそう呟くと、ルルーシュはPCの画面に向き直った。

 

 

 

 

 

 

 

  地下室の扉を抜けたC.C.は、扉の前でしゃがみ込んでいた。

  「ルルーシュが・・・ルルーシュが、やっと・・目覚めた・・・。」

  彼女の目からは大粒の涙がこぼれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ドタドタと騒がしい音が上から響いてきた。何かを察したルルーシュは、部屋に置かれていたシャツとスラックスに着替え始める。

  「ルルーシュ様ァァァ!! よくぞお目覚めにィ!! 私は信じておりました! 信じていた甲斐がありました!!」

  耳に響く大声をあげながら、ジェレミアは地下室に飛び込んできた。

  「ジェレミアか、心配させてしまったな。早速なんだが、今の俺の戸籍はどうなっている?」

  「ご安心くださいませ、日本から「ルルーシュ・ランペルージ」の戸籍を移してあります。細かい点も、我々で見落としのないよう変更してありますので。」

  「そうか、ありがとう。では、次はスザクに連絡をしてくれ。現状の詳しい確認をしたい。」

  「yes、your MAJESTY!!」

  二人は手早くやり取りをし、ジェレミアは一礼をして地下室を出た。

 

 

  「やっと目覚めたんだ。」

  「やぁ、アーニャ。こうやって会うのは初めてかな?」

  「多分。」

  ジェレミアが出て行ったあとの地下室に、アーニャは入れ替わるように入ってきた。

  「あなたが眠り続けている間、大変だった。」

  「そうか、それは申し訳なかった。」

  ルルーシュは、苦笑いしながら返す。しかしアーニャは、その言葉など聞こえなかったかのように話を続けた。

  「最初、ジェレミアは落ち着いてたのに、1ヶ月たった辺りから『ルルーシュ様ァァァ!! いつお目覚めにィ!!』って騒ぎ始めて、そのうち毎晩泣くようになって、もう一回落ち着いてからも、この家に移ってから寝室に飾ったルルーシュの絵を見ては泣いてた。」

 と愚痴り始めた。

  「それは、申し訳なかったよ。でも、理解してやってくれ。彼は忠義に尽くす、いい男なんだ。」

  少し困りながら、ルルーシュはフォローを入れた。

  「わかってる。」

  アーニャは、きっぱりと答えた。そして、

  「C.C.はいい人ね。」

 思わぬ切り口からの一言に、少しルルーシュは驚いた。

  「そ、そうか。」

  「うん、ずっとルルーシュのそばに居たから。食事も、何か特別なことがない限りは地下室で食べてたし、何か用事で離れなくちゃいけない時は、必ず使用人の誰かをルルーシュそばに居させて「何かあったら連絡するように」って言ってた。時々泣いてたよ、っていうか今も上で泣いてる。」

  相槌も打てないほどつらつらと話すと、じゃあ、とだけ言い、アーニャは立ち去ってしまった。

  結局、何が言いたかったんだ?とルルーシュは内心で思いつつ、「時々泣いてたよ」と言うアーニャの言葉に反応していた。

 

 

  あのC.C.が泣いていた。

  「そうか。そうだよな。」

  ルルーシュは、過去にC.C.と交わした約束を思い出し、1人納得していた。

  今も泣いてるなら、顔を見に行ってやるか。そうルルーシュは考えながら、地下室の扉をくぐり、上の階へと繋がる階段を登り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  「ルルーシュ様!! 本国と通信が繋がりました!!」

 エントランスまで上がってきたルルーシュに、ジェレミアが駆けつけた。

  「そうか、すぐ向かう。」

  C.C.の顔を見に行くのは、また後にするか。と思いながら、ルルーシュはジェレミアの後をついて通信室へ向かった。

 

 

  「随分と眠っていたね、ルルーシュ。」

  「あぁ、これほどまでとは思っていなかった。」

  画面越しに、スザクとルルーシュは再会を喜んでいた。しばらく2人は現在のブリタニアや超合衆国、世界のことについて話をした。

  この会話で得た情報の中で、重要なことは2つ。超合衆国も、まだ完璧ではないことと、ブリタニア皇族がまだ生きていたこと。そして、ナナリーがソイツの皇族権を復権させてしまったこと。このことは、スザクも一抹の不安を抱いているようだった。とルルーシュは整理していた。

 

  「そうだ、スザク。ナナリーは居るか?」

  ふと、思い立ったことをルルーシュは聞いた。実際、実感は無いが二年間も寝ていたんだ。ナナリーも心配しているはず。そう思い、ルルーシュは提案していた。

  「あぁ、居るよ。すぐに呼んでくる。」

  そう、スザクは言うと、1度スザクは画面の前から姿を消した。

  「ナナリー様も、随分と心配しておりました。本国との通信の際は必ず聞かれてきましたよ。「お兄様の様子はどうですか」と。」

  ジェレミアは通信の間に出来た間に、ルルーシュにそうナナリーの様子を伝えた。

  「そうか・・・。」

  やはり、かなり心配をさせてしまっているか。とルルーシュは少し胸を痛めた。改めて、周りにかなり心配をかけてしまったのだな。と感じていた。

  そんなことを考えていると

  「お兄様!! お兄様!! やっと目が覚めたのですね!!」

 忘れることの出来ない、藤色の瞳の少女が通信画面いっぱいに顔を寄せて現れた。

  「あぁ、心配をかけてしまったね。」

 ルルーシュは静かに、穏やかな声で答えた。

  「このまま、もう2度と目覚めないのではないかと怖かったです。でも、お兄様なら、みんなのためにもう1度、目を覚ましてくれると・・・。」

  そう言いながら、ナナリーは涙を流し始めた。

  「すまなかった、ナナリー。」

  そう言い、ルルーシュは1度、ナナリーが泣き止むまで待った。

 

  「はい、コードとギアスについては、お兄様の記憶とC.C.さんから直接教えていただきました。」

  「そうか、では説明する必要は無いな。話が早くて助かるよ。」

  「シュナイゼル兄様から最初に教えられた時は、本当にビックリしたでは済まされないほど驚きました。そんな力が、お兄様にあるだなんて。」

  「まぁ、無理もないさ。」

  暫くしてから、泣き止んだナナリーに「コード」と「ギアス」について尋ねて、その日の通信は終わりへと向かった。

  「ナナリー、すまない。まだ17なのに、ブリタニアの皇帝をさせることになってしまって。」

  「いいえ、大丈夫ですわ。大変だけれど、スザクさんやジノさん。カレンさんやセシルさんも。沢山の人が支えてくれてますもの。」

  そう言葉を交わした後、ナナリーとスザクに「また」と伝え。通信は終わった。

 

  「よろしいですか、ルルーシュ様。」

  「あぁ、一先ず、1つ荷が降りた気分だ。」

  ジェレミアに、そう言葉を残すとルルーシュは通信室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ジェレミアも引かせ、一人で広い廊下を歩きながらルルーシュは現状の打開策を考えていた。「超合衆国へ非参加の国」との事は予測しえた展開だ。しかし、問題は「復権した皇族」の事である。その名を「カリーヌ・ネ・ブリタニア」 かつての第5皇女だ。彼女が今後、どう動くかによって打たなければいけない手は何パターンもある。早急に目処を立て打たなければ、最悪の可能性も無きにしも非ず。そう、ルルーシュは思っていた。

 

  「此処か...」

 

  思考を張り巡らせながらも、目的の場所を見つけたルルーシュは立ち止まり入口の扉を迷いなく開けた。

  「C.C. 居るか?」

  「女の部屋に入る時はノックをしろと、マリアンヌから教わらなかったのか?」

  「軽口を叩く程度には立ち直ったみたいだな。」

  そう言いながらルルーシュは、ベットへ半身を起こし横になっているC.C.の隣へ座った。

  「随分、心配をかけたな。」

  「なんだ、珍しく素直だな。」

 そう言うC.C.の目や鼻が、少し赤みがかっているのを見てルルーシュは、彼女との、魔女との思い出を回想していた。出会いやマオの時のこと、式根島やCの世界でのこと、そしてシュナイゼルとの決戦からゼロレクイエムまでの日々のこと。

 

  「なぁ、ルルーシュ。」

 その魔女の声が、ルルーシュを過去から引き戻した。

  「お前こそ、体は大丈夫なのか?」

  少し面を食らったあと、ルルーシュは薄笑いを浮かべた

  「珍しいな、魔女が人の心配をするなんて。」

  「私だって、心配くらいはするさ。特にお前は2年も眠っていたんだ。なにか不調が起きていたっておかしくない。」

 C.C.はルルーシュと反対側に顔を向け、拗ねた口調でそう言った。

  「そうか。一先ず、不調という不調は見当たらないよ。コードの力、様々だな。」

  「何かあったらすぐに言え。いくらコードが発現しているからと言っても、私にも未知の部分が多いんだ。」

  「分かっているよ。これ以上、無駄な心配はかけられないしな。」

 そう言うと、ルルーシュはベットから立ち上がった。

 

  「なぁ、C.C.。そう言えばまだ、俺の部屋が教えられていないんだが、どこか知っているか? いくら何でも、ジェレミアが地下室を俺の部屋にするわけはないと思うんだが・・・。」

  「何を言っている、ルルーシュ。ここがお前の部屋だぞ?」

 

  暫く、二人の間を沈黙が覆った。

 

 

 

 

 

 




ED「Colors」 FLOW
※無許可なので怒られたらここだけ消します。


突然、すいません、作者です。
えぇ、実はこの作品、執筆開始から半年経過しての完成です...

今、丁度「皇道」が公開終了した頃ですよね? 半年前というと「興道」が公開終了した頃です。
ええ、はい、その頃に執筆開始でした。そして、構想開始はもっと、もっと前ですm(*_ _)m

実を言うと、僕がコードギアスを見始めたのは2年前の夏くらいなんです。まだまだファン歴が浅いんです( ̄▽ ̄;)
その時はまだ、奇跡のアニバーサリー前で「劇場三部作」はおろか、「復活」の情報さえありませんでした。そんな中、ゼロレクイエムという絶望に包まれ、必死で生存説を漁り。考えついたのが、この作品のスタートです。そこから「奇跡のアニバーサリー」での新情報や外伝、他の二次創作からのインスピレーションを受け、物語が膨らんでいきました。

先程も言った通り、まだまだファン歴は浅いですが、コードギアスへの熱い思いは皆さんと同じくらい強いと自信を持って言えます。小説の執筆も初心者で、至らない部分は多いですが、皆さんに良い作品が届けられるよう頑張るので、よろしくお願いします( *˙ω˙*)و

割と支離滅裂な後書きになってしまいましたねw
とりあえず、よろしくお願いします(2回目)


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Recode2:自分と、世界と、

注意⚠:終盤にR-15相当の性表現(ルルC)あり。


 とても暖かく懐かしい夢を見た。ユーフェミア、シャーリー。今となっては会うことすら叶わない人達の夢を。

 

 

 部屋に差し込む朝日で、ルルーシュは目を覚ました。

 半身を起こして、強ばる体を伸ばす。

「遅かったな、ルルーシュ」

 聞きなれた声、在りし日の激動を共にした相棒の声。

 声のした方を振り返ると、テーブルにC.C.が居た。

「珍しいな。お前が早起きなんて」

「何を言っている? もう昼だぞ」

「なんだとっ!?」

 ルルーシュは跳ね起き、急いで身支度を整え始める。

 あまりに自分らしくない。2年も体を離れていたからか、気を抜いていただけか。どちらにせよ醜態を晒した。

「まぁ、嘘だがな。安心しろ」

「……な?」

 笑いをこらえるように、顔に力を入れながら俯くC.C.の方を振り向きルルーシュは固まった。

「どうした? 手が止まっているぞ? 早く着替えろ。私は腹が減った」

 そう言い残すと、C.C.は足早に扉に向かって歩き始めた。

「な、な、ちょっと待てC.C」

 そう言えば忘れていた、C.C.は最初からあんなふうに俺をからかっていたな。シャツのボタンを留めながら、ルルーシュは様々な記憶を蘇らせていた。最後の方、ゼロレクイエム前は一緒に過ごしていたものの2人とも静かだった。よく考えてみれば久しぶりだったのかもしれない。

 そう思うと、ルルーシュの顔には自然に笑みが零れた。

 

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

 朝食を取るためダイニングルームまで向かうと、入口でジェレミアが待っていた。

「おはようございます、ルルーシュ様。一晩かけて、なにかご不満な点などはございましたか?」

「特には無いよ。ありがとうジェレミア」

「いえ、臣下として主が不満無く過ごせるよう身辺を整えることは当然のことですので」

 そこで締めくくられるはずだった会話は、突然発せられた一言でガラリと雰囲気を変えてしまった。

 

「部屋が不満なんだろう? ルルーシュ」

 

 妙に機嫌の良い魔女の声は、ダイニングルーム全てに響いた。

 その一言は余計だ。ルルーシュは胸でそっと呟く。ジェレミアに問いつめられたらどうする。そのルルーシュの思考は直後に現実となった。

「本当ですか? ルルーシュ様!! 何故そんな重要なことを」

「いや、違うんだジェレミア。この事については一瞬驚いただけで不満なんてことは.」

「私と同じ部屋が"嫌"なんだろう?」

 嬉々とした、これ以上無い程の悪魔的笑みを浮かべて魔女は言った。

「真ですか、ルルーシュ様!! 今すぐ代わりの部屋をご用意致します!!」

 余計なことを。ルルーシュはそう胸の中で復唱しながら、動揺する臣下を落ち着かせるべく弁明を始めた。

「いや、いや大丈夫だジェレミア。さっきも言ったが、驚いたのは最初だけで一晩過ごしてみたら平気だったよ。むしろ、安心して夢まで見れた。充分だよ」

「しかし、多少でも不満があるのであれば……」

「本当に大丈夫だ、ジェレミア」

 少しばかり圧を強めたその言葉を聞いて、ジェレミアはまだ少し動揺しながらも納得しダイニングルームを後にした。

 

 

 

 ゆっくりとした朝食の時間も食後の紅茶を飲み始める頃、向かいから鼻歌が響き始めた。

「妙にご機嫌だなC.C」

 朝の一件を思い出しながら、ルルーシュは愚痴るように言った。

「そうか? そんなつもりは無いが、そうだな、確かに朝から嬉しいことづくしだな」

 おそらくその通りなのだろう、今日のC.C.からはご機嫌オーラが絶えず出ている。何がそんなに嬉しいんだ。などとルルーシュが考えていると、当の本人から呼びかけられた。

「なぁ、ところで今日の予定はなんだ?」

「そうだな、先ずは今の情勢を細かく知りたい。スザクに連絡して外交関係から調べてみる。それとカリーヌの件も気になる。彼女が生き延びた理由について、何か情報を手に入れるための手がかりがないか探してみようと思って……」

「なら、昼に街に出よう」

「……は?」

 途中で遮られた挙句、いきなり想定外の提案もとい命令を下され、ルルーシュは再び固まった。

「いいだろう。少しくらい日を浴びなければ体にも悪い」

「だが、俺は"元"悪逆皇帝だぞ。簡単に人前に姿を晒していいわけないだろ」

「大丈夫だ。大逆の徒でも、こんな辺境に2年も引きこもっているとは誰も思わない。少し顔が似てるくらいで済むさ」

 そうサラリと言い流すC.C.に、気の食わないルルーシュは反抗を続けた。

「名前も同名の"ルルーシュ"のままだ。いくらなんでも顔が瓜二つで同名はおかしいだろ」

「そうだな、なら"ルル"でどうだ。略称なら、多少でも違和感を減らせる。それよりも、女が誘っているんだ。女々しく反論なんかせず従え」

「……」

 これ以上、なんの反論をしても意味は無いと悟ったルルーシュは、不服ながらも黙って残り紅茶を啜った。

 

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

 

 超合衆国総会議 会議場外

 そこには、金髪長身の機嫌の良さそうな男と、赤髪の機嫌の悪そうな女がいた。

「なんでアンタが居るわけ?」

「居ちゃ悪いかい? せっかく久しぶりに顔を見に来たっていうのに」

 雑味の一切ない綺麗な笑顔で、そう言い切る元ナイトオブスリーのジノは、相変わらずつれない態度のカレンを口説き始めていた。

「……ウザい」

 そんなボヤきがカレンの口から漏れたのは必然だろう。

「待たせたな、紅月」

 そう言って近づいてきたのは、藤堂鏡志朗だった。

「いえ、私が少し早めに来てしまっただけなので」

 軽く礼をしながら、カレンはそう答え、続けて疑問を口に出した

「今日は千葉さんはいらっしゃらないのですか?」

「あぁ、少し体調が優れなくてな」

「そうですか」

 残念だ。というように俯くカレンに代わり、ジノから次の質問が飛び出した。

「そういえば、千葉さんとの婚約の件はどうなったんですか?」

「ちょっと、ジノ!」

 あまりに直球すぎる物言いに慌てるカレン。それを横目にジノは"尋問"のように言葉を続けた。

「まさか、蹴ったなんてことはありませんよね? あれだけ大切にしてくれる人の一大決心を……」

「いや、まさか、そんなことは無い……無いんだが」

 いまいち歯切れの悪い言葉尻に、カレンまで藤堂の言葉の続きを待っていた。

「些か、恥ずかしくてな。了承の意は返したが、そこから先に進まんのだ」

 今度は、藤堂が俯いた。古風な武人として祭り上げられ、己もそれを良しとし受け入れ、その像に適うようにと努力してきた彼である。色恋に関わることに奥手になることは必然なのだろうか。

 そんなことをカレンは考え、そこから思いつく最も適した言葉を返した。

「千葉さんの"覚悟"に答えてあげられる事を、唯すればいいんじゃないですか。今回の事、千葉さんも相当悩んだと思います。軍人として、部下としてではなく、藤堂さんの伴侶として生きていく事を選んだ、その"覚悟"に」

「うむ、わかってはいるのだがな」

「なんか、私なんかが偉そうにすいません」

 しおらしく俯いている藤堂を見て、カレンは慌ててそう答えた。

 

 そんな会話をしながら、カレンは平和になったのだと実感していた。最近、誰と話していても思ってしまう。戦場の状況や戦略ではなく、こんな何気ない日常の会話を出来ることに。

「すまないな、紅月。私は先に会議室に向かう」

 藤堂の一言に現実に戻され、慌てて返事をしたカレン。そんな彼女を、今度はジノが呼び止めた。

「あの人今いくつなんだ?」

「んー、40前後じゃないかな? 直接聞いたことなんてないからわからないけど」

「それは確かに"身を固めないと"だな」

「それはそうと、ほんとに何の用でアンタが居るの?」

 カレンは、さきほど有耶無耶にされた疑問を苛立ち半分でぶつけた。

「そんなの、俺も超合衆国総会議後の"大事な"日本国会議に呼ばれたからに決まってるだろ?」

「……えぇ?」

 カレンの口から漏れた戸惑いは、ジノの耳にも届かず虚空に溶けていった。

 

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

 

 EU南東の小さな村「アズベルト」

 小さいながらも、行商達の通行ルートになるこの村は日中それなりに人が多い。

 遠方から仕入れた品を巧みな話術で売り込む人、今しがた手に入れた品を何処に売り込むか考えている人、長旅の疲れを一時癒している人。様々な人で賑やかなこの街において、尚目立つライトグリーンの髪の女。その女は軽やかに鼻歌を歌いながら雑貨店に入ると、似たようなネックレスを2つ手に取り、後ろを着いてきていた紫の瞳をした青年の目の前に差し出した。

「左の方じゃないか。そっちの方がシンプルでなんにでも合いそうだ」

「そうか、ついでにピアスも見ていきたいんだ。付き合ってくれ」

「ピアスなら、さっきの店の方がいいんじゃないか? それに、アクセサリーなら屋敷に沢山あっただろう?」

「わかってないな、女には無意味な買い物が必要な時があるんだ」

 そう言いきり、来た道を戻ろうとするC.C.を眺めながら深く長い溜め息をルルーシュは吐いた。

 

 

 

 大通りから逸れた屋台通り。そこは生鮮物を扱う、どちらかと言えば村民の為の店が並んでいる場所。

「意外と呆気ないんだな。行商達で賑わうと聞いて期待していたんだが」

「まぁ、元は小さな村だからな。あくまで行商達の通過点、少しの休憩と珍しいネタ探しの場所でしかないって事だ」

 そうか、と呟くルルーシュを横目にC.C.は買ったばかりのネックレスを眺めていた。小さな菱形のアメジストが付いたネックレスは、C.C.の胸元で控えめな輝きを放っている。

「なぁ、ルルーシュ・・・」

 振り返りながらルルーシュを呼ぼうとしたC.C.の声は、同時に背後から響いた野太い商人の声に掻き消されてしまった。

「よう、アリシーちゃん、1人たぁ珍しいねぇ」

「あぁ、いや、1人じゃないですよ」

 そう言うと、C.C.はルルーシュの腕を引きながら店の前まで歩き始めた。

「村長に紹介しなきゃいけない人がいて。こちら、私の夫のルル・ランペルージです」

 唐突な発言に驚くルルーシュに続きを促す目線を送り、C.C.は1歩後ずさった。

「あぁ・・初めまして。ルル・ランペルージといいます。長期の出張で中華に行っていました。先日から、ゴットバルト辺境伯の屋敷に居候させていただいております」

 よろしく、と言いながら右手を差し出したルルーシュの手を握りながら、店主兼、村長は自己紹介を始めた

「俺ァ、エルド・ヴィレントって名前だ。この八百屋やりながら村長してる。あんま才能はねぇがな」

 ガハハ、と通りに響くような大きな笑いをあげ、強く強く手を握る村長を見ながらルルーシュは、苦手なタイプの人間だと心の中で独り言ちた。

「しっかし、アリシーちゃんに旦那さんがいたとはねぇ。この村結構、嬢ちゃんを狙ってる野郎ども居るんだぜ」

「あら、それは光栄ですね」

 違和感を覚える。余所行きの態度のC.C.を横目にルルーシュは周囲を見渡した。確かにそれなりに賑わっているが、小さな村という表現はあっている。子どもの姿はあまり見えないが、この様子だと、時間帯的にも隣の町まで学校に通っているのだろう。

 だが、それとは別の違和感をルルーシュは感じていた。

「この村、若い人が多いんですね?」

「あぁ、気づいたかい。この村は、数年前までの戦争で住む場所や家族を失った人たちを受け入れているんだ。物資が豊富ってわけじゃあ無いんだが、空き家は多いんでね」

 村長は、答えながら遠い目をした。

 

「そうだ、アリシーちゃん。侍女の人達はいつ買出しに来るかい? 珍しい野菜が入るかもしれないんだ。もし良かったら屋敷の分を確保しとくよ」

 先程までの憂いは無かったかのように、一瞬で顔を戻した店主は、打って変わって商人らしい顔になっていた。

「ありがとうございます。帰ったら侍女の方に直接連絡してもらいますね」

 毎度ぉ! と通りに響く声を三度上げる店主に、二人揃って軽く会釈して、C.C.とルルーシュは帰路につき始めた。

「そういえばC.C.さっき何を言おうとしたんだ?」

「あぁ、目的は果たせたから何でもない」

「? ・・・そうか、なるほどな」

 

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 超合衆国日本支部 ゼロ居室

 

「スザク君! スザク君!」

 部屋いっぱいに響く大声を上げながら設計図を広げる白衣の男を横目に、スザクは1つ大きな溜め息をこぼした。

「ロイドさん、ランスロットはこれ以上いじれませんよ。あの機体をもう一度動かせるところまで直すなら、新しく1から機体を作った方が・・・」

「わかってないなぁ、スザク君は。あの機体じゃなきゃ意味がないんだよ。ランスロットは僕の最高傑作だ。その最高傑作をさらに素晴らしい機体に"改良・改装"することに意味があるんだよ」

 そう言うと、ロイドは鼻歌まじりに歩き始めた。

「どこへ行くんですか?」

「関係各所に許可を取りに行くんだよ。こんな最高の機体を紙のまんまにするなんて無理だからね」

 はぁ、ともう一度溜め息をつきながら、スザクは背もたれに背中を預けた。

「ルルーシュ・・・」

 まだ、実感が無い。それもそうだろう。昨晩、数時間だけ画面越しに話をしただけなのだ。

 正直なことを言うと、スザクの心は複雑だった。ユフィや大勢の命を己の為に騙し犠牲にした彼をそれでも許したのは、Cの世界から出た後、お互いの覚悟を確かめこれからの話を始める前に、ルルーシュが自分の弱さを隠さず語った「自らの罪と謝罪」を聞いた事。そして「1度死ぬことで世界から憎しみの象徴"悪逆皇帝ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア"を消す」という償いを認めたからだ。頭ではわかっている。だが、それだけでは解決しなかった。

 "ユーフェミアの騎士"としての枢木スザク。彼は、未だ"ゼロ"としてのルルーシュを許してはいなかった。ゼロレクイエムの数カ月後、ルルーシュが目覚めないという報告を受けた時、このまま目覚めることなく眠り続けてくれと願った瞬間があったのは事実だ。

 しかし、"ルルーシュの親友"としての枢木スザクは、目覚めの報告を受けて涙を流した。このまま、ゼロの仮面を被り孤独に生きていかねばならないと覚悟を決めていても、それでも、あまりに寂しすぎた暗い心に、その知らせは光を差したのだ。そして、無理とはわかっていても昔のようにナナリーと3人で過ごす日を望ませてしまった。

 スザクは1人、自室で胸元を握りしめていた。心が二つに分かれそうだった。いや、もう既に分かれていた。

「僕はどうしたいんだ。俺は・・・」

 罪の告白。その時、ルルーシュは泣いていた。全てを抱え込み、思い通りにいかない理不尽な状況に耐え、仲間に捨てられ、憎くみ愛していた親をその手で消した。その体に受け止めきれない傷を受け続けた彼は、その瞬間、すれ違い続けた親友の前で壊れた。そして、スザクは謝る彼を受け止め許したはずだった。

「許したんだ。あと時。

 ルルーシュは全てを俺に。だから・・・」

 着信の音が鳴り響き、スザクは我に返った。かいていた汗を拭き、ビデオ通話の相手を確認した。

 [ルルーシュ・ランペルージ]

 画面をそのまま大型モニターに映し、受諾した。

 

「・・・。」

「・・・。」

「やぁ、ルルーシュ。体調はどうだい?」

「あぁ、一先ず問題は無い。むしろ好調だよ。それよりも確認したいことがあるんだ」

 

 僕は、どうしたいんだ.

 

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 隣の人の心音が聞こえそうなほど、静かな空気が流れていた。

 

 ここはEUの辺境、小さな村を3つほど管理しているだけの力無いEU軍支部。だが、何も気を抜いていた訳では無い。しかし、誰も状況が呑み込めなかった。あまりに一瞬だったのだ。

 監視はどうなっていたのか。被害はどれほどか。何人殺されたのか。確認する暇などなかった。

 

 ふと、誰かの息を吸う音が響いた。

 

 

「今よりここを、新生ブリタニア帝国EU第3支部とします。あなた方は我々の部下となり手足となって働いてください。拒否権はありません」

 

 

 その「誰か」の瞳が赤くなった。

 

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

 

 

「で、そのカリーヌとかいう皇女様は今どこにいるんだ?」

 C.C.は怠そうに頬杖をつきながら、在り来りな質問をルルーシュに飛ばしていた。

「ここEUのブリタニア大使館だそうだ。5名の従者と、大使館の勤務者が世話人扱いらしい。問題は、5名の従者の詳細が伝わっていないこと。そして、ブリタニア大使館での公務の一切が明らかになっていないことだ」

「それは、大問題だな」

 ピザを頬張りながら、またも在り来りな答えを言うC.C.を横目に、ルルーシュは膨大な量の情報と睨み合っていた。

 約1年前、ブリタニアに現れた「死んだはず」のカリーヌ。彼女がどうやってフレイアから逃げ延び、どうやって生き延び、どうして皇居に突然現れたのか。

「わからないな、真意が・・・。」

 そう独りごちたルルーシュ。彼を悩ませていた最大の問題"引っかかり"は、彼女に皇位復帰の意思が無かった事だった。

 

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

 先日 ルルーシュとスザクの通信

 

「カリーヌが生きていた?」

「あぁ、そうだ」

 ルルーシュが驚くのも無理はなかった。彼自身がギアスをかけ、その代償に消された多くの皇族達。彼らの命を救えなかったルルーシュは責任を感じていた。

「それで、彼女は今どこで何をしている?」

「カリーヌは今、君と同じEUのブリタニア大使館で、ブリタニア大使としての公務に就いているよ。ただ...」

 

 

 そう言い淀むスザクを、ルルーシュは待った。何か問題が起きているのは間違いない。しかし、普通ならスザクは真っ先に対処をするだろう。それが、1年たった今でも解消されていないという事は何らかの大きな障害があるに違いない。

 

「簡単に言ってしまえば、公務の内容が秘匿されているんだ」

 

 しばらくの沈黙の後、スザクはそう答えた。

「そんな事が許されるのか?」

「異例中の異例だよ。普通なら有り得ない」

 

 結論はルルーシュの想像よりも幾分も酷かった。二人の間を再び沈黙が覆った。公務が秘匿され、それが良しとされている。スザクの言う通り普通であればありえない状況が起きている。

 

「.....ルルーシュ...カリーヌのことを含めて、今の世界の状況は君の望んだとおりになっているかい?」

 ふと、頭に浮かんだことを、スザクはそのままルルーシュにぶつけた。

「.........いいや。何も上手くいっていないとは思わないが、合衆国の事も、それ以外にも問題を多く抱えているな」

 まるで自分にも言い聞かせるように、ゆっくりとルルーシュは答えた。

 まだ、目が覚めて数時間。秀才のルルーシュと言えども世界を変えることの難しさを突きつけられ、納得し呑み込むには、まだ時間が必要だった。

 

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 超合衆国日本支部 ナナリー居室

 

 

「.....お兄様が目覚めた.....」

 

 独りきりの部屋で、ナナリーはそう呟いた。

 

 ゼロレクイエムの日、上から降ってきた兄の手を握り知った世界の真実。それは、少女が受け入れるにはあまりにも厳しいものであった。しかし、少女の兄は、その厳しい真実から逃げることなく真っ正面から立ち向かい、そして最後の選択として、生き返れるか分からない賭けの死を選んだ。

「.....お兄様が.....」

 もう、涙が枯れていてもおかしくないはずなのに、それでも目からは涙が溢れでていた。

 

 コンコン

 

 突然、部屋の扉がノックされた。流石は皇女か、その音に反応するように姿勢は直り、声は泣いていたことを思わせない、しっかりとした返答をしていた。

「中華の天子様から連絡が来ております」

 

 こちらでも少しずつ、運命の歯車は動き出していた。

 

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 EU ゴッドバルト辺境伯邸

 

 ルルーシュは日が落ちてもまだ、忙しなく作業をしていた。C.C.を早々に部屋から追い出し、食事は直接書斎に持ってこさせ、まるでこのまま引きこもるかのようにデスクから1歩を動かなかった。

「ルルーシュ様、そろそろご就寝なさった方がいいかと.」

 それまで、邪魔をしますまいと書斎に近づかなかったジェレミアだったが、流石に日が変わる前には主をデスクから剥がさねばと書斎に足を運んでいた。

「.......。」

 しかし、行動虚しく、主からの返答は無言の圧であった。だが、ここで負けるようでは悪逆皇帝の従者は務まらない。

「ルルーシュ様、本日の作業はタイムアップでございます」

「なら問題ない、あと数分で"本日"ではなくなる」

 ルルーシュは目を合わせることも無く言い放った。今のルルーシュはスイッチが入ってしまっている。目が覚めて2日。このどうしようもなく思い通りにならない世界を、本気で変えるのならば生半可な考えでは全てを無駄にする。

 この状態では、流石のジェレミアもこれ以上言葉で主を説得するのは無理だと判断した。

「大変失礼ですが、実力行使に移させて頂きます」

 そう言うと、ジェレミアは一飛びで扉からルルーシュの後ろへ飛び、椅子からルルーシュを抱え上げた。

「な、おい、ジェレミア!」

「ルルーシュ様、あなたは長い眠りから目が覚めたばかりの身、何よりも大事にしてくださいませ」

 その後、ジェレミアはルルーシュを強制的に書斎から出し、内側からロックをかけた。

 

「強引すぎないか.」

 ルルーシュはそう愚痴ると、仕方なく自室へと足を向けた。

 

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 自室へと向かいながら、ルルーシュは未だ頭を働かせていた。考えなければいけないことは山ほどある。結論を出すには、まだ情報が足りないものも多い。

「どうするかな.」

 そんなことを呟きながら自室へと辿り着き、C.C.が既に寝ているかもしれないと、ゆっくりと扉を開けた。

 

 

 

 

 

 暗い部屋の中には、月明かりを背に受け、まるで絵画の様に美しく佇む存在が居た。

 

 

 

 

 それは、紫艶のネグリジェに身を包んだC.C.だった。

「ーーーーッ! C.C.まだ、起きてたのか」

 一瞬、その美しさにルルーシュは呑まれた。しかし、その存在がC.C.だと気づいた時には、いつものルルーシュに戻ったていた。

「遅い! いつまで女を待たせるつもりだ!」

 身に纏う美しさとは似合わない怒りを、戻ってすぐのルルーシュにぶつけながらC.C.はベットへと腰かけた

「悪かった、先に寝ていると思ってたんだ」

 ルルーシュの返答に、C.C.は納得してしまった。たしかに普段の自分ならそうする。だか、今は"普段"とは違う。C.C.は今夜、勝負にでているのだ。そう、ルルーシュという難敵を誘っているのだ。

 しかし、その思いとは裏腹に普通に寝間着に着替え始めるルルーシュにC.C.はさらに怒りを増していた。

 

「なぁルルーシュ、何か私に言うことは無いのか?」

 その問いかけに、ルルーシュは振り返ることもせず答えてしまった。

「あぁ、ネグリジェか? 似合ってるよ、すごく。最近は紫が気に入ってるんだな」

「────ーッ!」

 C.C.は、振り返ることもしないルルーシュに虚しくなってしまった。思えば、朝の焦った姿や昼間の観光も、ルルーシュは仕方なく付き合っていた。そうなる理由は、良く考えればすぐ理解出来る。ルルーシュは自分の死を賭けてまで望んだ世界にするために、再び世界と向き合っているのだ。

 自分は長い間待っていた再開に、柄にもなく浮かれてしまっていたのだと、そう思った。

「そうだな。私のほうが場違いだ」

 

 

 ルルーシュは、先程までの怒りとは真逆に静かに呟くC.C.に違和感を感じ振り返った。振り返って、すぐにC.C.の真意に気がついた。

 俺は、なにをやってるんだ。そう、自分に罵声を浴びせた。昼間の誘いも、朝の何気ない会話も、C.C.にとっては特別だった。長い間、時には泣きながら待っていたと聞いていたはずなのに、真っ正面から向けられたC.C.の想いに、何故気づかなかったんだ。

 だが、気づいてからのルルーシュの行動は早く、そして素直でストレートだった。

 ベットを周り、C.C.の前に行くと膝をつき抱きしめた。

「遅くなった、すまない。俺も、お前のことを愛してる」

 ルルーシュは、今伝えられる想いを短く、でも確実に、そして少しカッコつけてC.C.に伝えた。

「気づくのが遅い」

 C.C.はそう言うと、ルルーシュの唇にキスをしようとして、躊躇った。今、彼を足止めしてしまっていいのか。

 

 そんなC.C.に、迷いなくルルーシュはキスをした。それは記憶を保管するためのキスでも、クラブハウスの別れのキスでもない。2人の愛を確かめ深めるためのキスだった。

 そして、ルルーシュはC.C.の肩を抱いたままベットに寝かせた。

 

 珍しく、リードを取られたC.C.は静かに

「いいのか。その.....疲れてたりとかしたら......」

「誘ってきたのは、そっちだろ。それに今更止まれない。いいんだろ? C.C」

 頷く以外の選択肢は、C.C.にはなかった。一度は諦めかけた幸せが、望んでいたものが、今目の前にあった。

 

 ゆっくりと、ワンピースタイプのネグリジェが上へと捲られていく。ルルーシュは確かめるように、もう一度C.C.にキスをした。

 

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 暗い部屋に差し込む月明かりを眺めながら、ルルーシュはベットに半身を起こし、物思いにふけっていた。隣では、C.C.がすやすやと静かな寝息をたてている。

 ふと、C.C.が"初めて"だった事をルルーシュは思い出していた。意外だと思ったが、今、冷静に考えてみれば納得出来る。コードを持ち不老不死となった彼女には、たとえ恋をしても、本気で向き合うことは出来なかったのだろう。なにしろ、普通の人間と彼女では生きる時間が違うのだ。恋心を打ち明けたとして、相手と一緒に居られるのはわずかな時間、さらに相手は歳をとり、自分は姿が変わらないのだ。

 ルルーシュは、隣で眠るC.C.を見た。俺には、想像などできないほど辛かっただろう。俺は初めから、C.C.という永遠とも言える時を共有できる存在がそばに居た。だが、C.C.はそうでは無い。果ての見えない長い時を、ずっと独りでさまよっていたのだ。

 ルルーシュは、寝ているC.C.の額に手を置き、少しだけ前髪を上げた。穏やかな寝顔を眺めながら、C.C.が自分に好意を寄せていたのがいつからなのだろうか? と考えていた。マオの時か、神根島の時か、アーカーシャの剣を壊した時か、ゼロレクイエムの前か。そうして、過去の記憶を辿りながら、改めて自分の激動を思い出した。

「我ながら、すごい人生だな」

 その一言が、現状でできる最大の自身への賞賛だった。そして、その一言で心がずっと軽くなるのを、ルルーシュは感じた。

「だが、まだ終わってはいない。むしろ、スタートラインだ」

 ルルーシュは、そう口に出し気を引き締めた。

 

 月は傾き始め、月明かりはC.C.を照らしていた時よりも上へ上へと移り始めている。ルルーシュは、そっと寝ているC.C.の唇にキスをし、起こしていた半身をベットへと潜らせた。

 




ED 「CONNECT」 ゆかな
※無許可なので、何かあったらここだけ削除します。


※物語の余韻に浸りたい方はスキップ推奨⚠︎

嘘だと思うが聞いてくれ、気づいたら1話投稿から2年半経っていたんだ!

はい、すいません、申し訳ないです、もう地面から頭が離せないです。今、画面の向こうで最上級の寝土下座してます。許してください。

という事で2年半ぶりの更新です。温めまくった分、詰め込みたいものはだいぶ詰め込めた気がします。もう、物語の流れ的に詰め込める分は全部。おかげで1万字を突破しました(笑)

この物語も、何となく構想ができたのが奇跡のアニバーサリー前で、小説にするかどうか迷ってたような時期に三部作が決定。1話を投稿する頃には三部作は終わり、完全新作映画が決定。そして2話が出る頃には復活のディスクが発売済みです。
次はいつでしょうか?ゼットのディスクが出る頃ですかね?(笑)
いえ、冗談です。なるべく早く仕上げます。そう、目標は半年以内に3話目投稿!

という事で、少しでも興味を持っていただけたら、お気に入り登録をしてお待ちください。次回の3話は、物語がかなり動きます。ルルーシュはそれにどう立ち向かうのか、スザクは、カレンは、どうなるのか。ご期待ください(自分にプレッシャーをかけていくスタイル)。


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